鷺沢文香「特別な一日にこそ、何でもないひとときを」
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◆TOYOUsnVr.
[saga]
2018/10/27(土) 12:01:35.64 ID:kQQBGx/C0
○
一歩外に出た瞬間に、ひゅうと吹いた冷たい風に身を縮ませます。
空は綺麗な秋晴れで、木々は僅かながら色付き始めているみたいで、ゆっくりと、それでいて確かに深まっていく秋に思いを馳せるのでした。
そんな折、目の前に見慣れた銀色のセダンが停まりました。
私の所属している芸能事務所の社用車です。
そして、それを駆り、私の自宅まで来てくださる方と言えば、一人しかいないでしょう。
早足で助手席のほうへ寄ると、ロックを解除してくださったので、ドアへ手をかけて乗り込みました。
「おはよ」
「はい。おはようございます」
「荷物は後ろ置いていいから。それと……」
プロデューサーさんは言って、後部座席から可愛らしい紙袋を取り出してそのまま私に渡してくださいました。
「これは?」
察しがつかないほど鈍いつもりはありませんが、少しの意地悪をすることにします。
やっぱり言葉にして伝えて欲しい、というささやかな女心もあるのです。
それに「ほら、その。アレだよ」ともごもごとしているプロデューサーさんはかなり愛らしいように思えますし。
ややあって、ぼりぼりとうなじ辺りを掻きながら「誕生日プレゼント、ってやつ」と照れ臭そうに笑うプロデューサーさんの姿を見て、私はついに吹き出してしまいました。
「え、もしかして俺、からかわれてた?」
くすくすと忍び笑いを抑えきれぬままに「すみません」と謝ると、プロデューサーさんは「もー!」と声を上げます。
普段は頼り甲斐のある素敵な方であるのに、こうしたときに見せる奥手な一面はなかなかに反則的であるなぁ、と思います。
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