鷺沢文香「特別な一日にこそ、何でもないひとときを」
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◆TOYOUsnVr.
[saga]
2018/10/27(土) 12:03:18.38 ID:kQQBGx/C0
○
「それと、これも申し訳ないんだけど、午後のお仕事はタクシーで移動してもらってもいいかな」
「ええ、はい。もとよりそのつもりでしたので」
「えー。最初からアテにされてなかった、ってことかぁ」
「……えっ、と、そうではなくて、ですね。そう何度もご迷惑をおかけするわけには、と私なりに」
あたふたとする私を見て、プロデューサーさんは笑い「ごめん、冗談。ありがとね。帰りは迎えに行くから」と言います。
「……はぁ」
「……怒った?」
「怒ってません」
「怒ってるじゃん」
「怒ってなどいません」
「ホント?」
「はい」
「じゃあ、怒ってない文香にお願いです」
「はい」
「お仕事終わり、時間ある?」
「……? 時間、ですか? はい、ありますが……」
「よかった。先約入ってたらどうしようかと。ご飯行こうよ」
「大変ありがたいお誘いなのですが、よろしいのですか?」
「何が?」
「プロデューサーさんは本日は休日出勤とお聞きしておりますので……」
「ああ、そういう。……なら、なおさらだよ。文香とご飯行くのが楽しみで今日は出てきてるようなもんなんだから」
「それは、その、ありがとうございます?」
「なんで疑問形なの」
「もうプレゼントまでいただいてしまったので、これ以上を望んでもいいものか、と思いまして」
「文香はそれだけで満足ってわけ?」
プロデューサーさんはいたずらっぽく笑って、車をゆっくりと停車させました。
気付けば、本日の現場であるスタジオに到着しているようでした。
私が返事にまごついていると、プロデューサーさんはもう一度、同じ問いを繰り返します。
「満足?」
このにやにや笑いに、何か仕返しをせねばならない気はしましたが、上手い返しは思い付きませんでした。
「いえ、まだ、です」
「なら決まり! それじゃあまた後でね」
ドアのロックが解除され、プロデューサーさんがひらひらと手を振ります。
私は「そうですね」と返し、車を降りるときに「また」と付け加え、頭を下げました。
仕返しは、夕食のときまであたためておくと致しましょう。
まだ一日は始まったばかりでありましたが、今年も素敵な誕生日になりそうだ、という確信がありました。
おわり
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