【今の自分が立ち上がるのは】能力者スレ【過去の自分の為】
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4: ◆/iCzTYjx0Y[saga]
2020/05/03(日) 01:51:45.67 ID:7TY5WzI70

【街外れにあるその劇場は、既に廃墟と化していた。】
【誰も寄り付かず、誰も見向きもしない。誰の記憶にも残らず、誰の羨望も集められない。】
【嘗ては栄華を誇りし外装も、多くの人間の拍手喝采で満たされていた内装も、今は見る影もなくただ、荒れ果てていた。】

【早朝も深夜も、時間を問わずに上映され続けた名画の数々は今や、朽ちたポスターに描かれるのみ。】
【プログラム売り場はネズミすら寄り付かず、ポップコーン・ボックスは中も覗けないほど曇り。そういう、場所。】
【誰も来ない。誰も見ない。誰も覚えていない。そんな―――"もう必要がなくなってしまった場所"。それが、この劇場だった。】



【しかし、"まだそこにある"。】

【それだけはこの劇場において、今だ唯一誇れるところ、だった。】
【どんなに古ぼけて、どんなに朽ち果てていても、其れでも。"劇場だったこの場所"は―――存在し続けている。】
【まるでこう呟いているかのように―――"私は確かに、劇場であった"、"かつて劇場として、歌われ、踊られ、愛されていたのだ"、―――……と。】

【今どうあれ。此処は確かに劇場で。確かに人で満ち。そして多くの人に確かに、感動を"満たして"いた。】
【その誇りだけは絶対に、絶対に譲らないし消させない、失くしたりしない―――誰が忘れても、この劇場が忘れるものか、と。】
【誰もいない街外れに向かって、そう訴えているかの様に。その劇場はただ、ひっそりと佇んでいた。月明りだけをスポットライトにして、ひっそりと。】


―――まあ。"そんな場所"だからこそ。余計なモンを寄り付かせちまったり、するんだよな。

【ザッ、ザッ。靴音が響く。レザー・ブーツ特有の、革の擦れる音だ。闇夜を裂いて、それは現れた。】
【もう、誰もいない劇場。だが、"これからもずっと"、そうだとは限らない。今宵は一人、珍しく客入りがあったようだ。】
【一昔前に流行った黒のレザー・ジャケットは、ダブルスでバイク用の物だろう。真黒な格好のその男は、チケットも無しに劇場へ足を踏み入れた。】


静まり返っちゃいるが……分ってるんだぜ。
"見てる"んだろう? ……そうだ、"お前ら"だよ。陰でコソコソ這い蹲って、何もせずジッとしてる、お前らだ。
 ここで大人しくしてる分には構わねえんだが……どうせお前らの事だ。遊び場もなくて困ってて、そのうちストレスで爆発する―――だろう?

なに、どうせ廃劇場だ。チケットはいらねえ。演目もクソもねえ。
踊ろうぜ、ベイビー。またいつかみたいに―――弾薬と剣技と、魔法と科学と、陰謀と正義の。

―――そういう、"クソッタレ"の為のダンスを、よ。


【男の背後には黒い影。劇場の隅で隠れていたのであろう、ヒトではない別の存在―――"怪物"たち。】
【男同様に真黒で、濡れそぼり、或いは渇ききって、血肉を争いを愉悦を求めて踊り狂う、邪悪だが愛しい存在達。】
【蜘蛛のようでもあり、狼のようでもあり、また蝙蝠のようでもある、そんな、怪物達。自らが存在に言及する男を、放ってはおかない。】

【久しぶりの獲物だと、牙をむき出しにして襲い掛かった。涎が垂れ、獣臭が鼻腔を突く。たまらなく"臭う"。】
【しかしそんな者達と、或いはそんな男だからこそ紡げる物語があるのだ。敗者達だからこそ、描ける景色が、奏でられる音が。】
【矢張り確かに、存在する。そんな、"隅に生きるしかない"者達の為に―――矢張りこの劇場は存在する。消えずに残り、再び演目が始まるのだ。】

【男はにやり、と嗤い。ただ拳を構えた。"嘗てを嘘にしない為に"。まだ、その音色を閉ざしてしまわぬように―――。】


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