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闇霊使いダルク「恋人か……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/30(日) 02:34:58.76 ID:1o/NXgko
スレタイの意味が通じて
且つ好き勝手なオリジナル設定に対し寛容的な人 向けSSを
超まったり進行で投下するスレ
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ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part13 @ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1715263679/

今際の際際で踊りましょう @ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1715262444/

誰かの体温と同じになりたかったんです @ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715258363/

A Day in the Life of Mika 1 @ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715180413/

真神煉獄刹 @ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715130904/

愛が一層メロウ @ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715108060/

ハルヒ「最近わたしのss見かけなくなったわね」 @ 2024/05/07(火) 15:04:17.64 ID:FJQjQ6ct0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1715061856/

孤独のエレナ Season3 @ 2024/05/06(月) 23:06:58.73 ID:mOA71iC60
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1715004418/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/05/30(日) 02:35:39.90 ID:C.5zaQk0
遊戯王ですね。わかります。
3 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:36:01.30 ID:1o/NXgko

 満月のまぶしい夜だった。
 巨岩が転がり果てているひっそりと寝静まった断崖地帯に、何者かの人影がふわりと浮かぶ。
 続いてコウモリのように飛び回る小さな影がその後を追っていった。

 やがて岩陰から現れたそれらの正体を、月明かりが音もなく暴いた。
 怪鳥の頭蓋を模した頭部をもたげる大仰な杖。
 ゆったりした半ズボンに灰のコート。

 小さな影からは時折チラつく眼光。
 その動きから不規則に羽ばたいている様子が分かる。

 闇の精霊を使役する魔法使いの少年ダルクと、コウモリ型の使い魔D・ナポレオンである。
 砂利を踏む足音低く、彼らは渓谷から林の方へ徒行していた。

「外の空気も悪くないな」

 ダルクが独り立ちを決し、外界に出て最初に口から漏らした言葉だった。
 彼はもともと闇の世界の住人で、いままで長期間外に出たことはなかった。
 此度は師の提言に従い、修行の一環として、外の世界での一人暮らしを実践する身となっていた。

「そうか。お前も落ち着かないのか」

 顔に大きな一つ目だけを持つコウモリが、ひときわ羽ばたいて喜色を示した。
 ディーと名づけられたその使い魔とは長い付き合い。
 ときどき小うるさく感じることもあるが、下級モンスターにしては非常に利口で忠実なパートナーだ。

「浮かれるのはまだ早いぞ。この先に師匠が手配してくれた一軒家があるはずだ」

 まずはそこへ行って荷下ろしだ。それからこの辺を探索しよう――。

 言うダルクも、内心では胸を躍らせていた。
 夢にまで見た期待の新天地。
 これから始まるまだ見ぬ生活。
 どんな出会いが待っていることだろう。
 
 二つのシルエットは、急くように暗闇の奥へと溶けていった。
 彼らを見送るかのように天上の星々が二、三、優しく瞬いた。
4 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:37:06.38 ID:1o/NXgko
「――おぉ。なかなかいい家じゃないか」

 と評したダルクの家は、相当の年季を思わせる木造り小屋だった。
 林の中に隠れるように建てられたその一軒屋は、おとぎ話に出てきそうな怪しげな外装を呈しており、それがすでに好印象だ。

「悪くない、悪くないぞ」

 前もって教わった通り、杖の先をドアノブ付近の紋章にあてがう。
 いかめしい扉は軽い音を立て、簡単に開いた。

「おおっ」

 一枚戸を隔てたすぐそこには生活空間が流れ、衣食住に必要な家具は全て完備されてあった。
 前の住人がここを発つ前に丹念な片づけをしてくれたらしく、室内は綺麗に整理整頓されている。

「ははっ」

 ダルクは背負っていた荷を放り、目に付いた窓際のベッドにどさりと腰を下ろした。
 その視点から室内をぐるりと見渡す。
 さすがに越してきたばかりなので、何もないインテリアの寂寥感は否めない。
 だがなに、本棚はすぐ埋まるし、炊事関連は苦手だからきっとゴチャゴチャするだろうし――
 一週間も経てば自分色の模様になっているはずさ。
 
 幼少より憧れていた独り暮らし。
 なんといっても自由、これに尽きる。
 取り払われたしがらみ、新たな始まりの予感、この高翌揚はとても抑えきれるものじゃない。
 使い魔のディーも主の気持ちを体現するかのようにパタパタ旋回した。

「今日からここがオレの根城だ!」 
5 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:37:56.27 ID:1o/NXgko

 荷下ろしは存外すぐに終わった。 
 着替え、魔道書数冊、申し訳程度の食料に少しばかりの金銭――元より持ち込んだ物資はそう多くない。
 基本的には自給自足に基づいて日々を過ごすことになる。

 一息ついたところで、ダルクは使い魔を呼んだ。

「さてと。それじゃここらを探索しに行くか」

 待ってましたと言わんばかりに一つ目コウモリが羽ばたいた。
 ダルクは闇に属する精霊使い。本領とする活動時間は夜間だった。
 というより彼の場合、外界の昼間の光に対しまだ十分な耐性が備わってないこともある。

 探索というのは、もちろん未踏の周辺地理を把握する必要もあってのことだが――

「よし……よし……よーし準備できた」

 むしろ子供染みた冒険心が最たる動機だったりした。
 住居を変えたことで舞い上がった今の気分にこれ以上うってつけの仕事はない。

「外では何があるか分からん。くれぐれも大人しくしておけよ」

 使い魔はすぐにダルクの肩に止まり、小さく縮こまった。賢い。かわいい。
 ダルクは杖をもちかえ外套をひるがえすと、根城となって間もない小屋を後にした。
 
6 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:38:44.51 ID:1o/NXgko

 すでに満月も傾いていた。
 もう夜更けもいいところだが、森羅万象の天然の中で完全に沈黙がおりることはない。
 耳を澄ますと虫たちの合唱は無論のこと、夜行性の獣モンスターの鳴き声も遠く響いている。
 いくら闇の力を業とする精霊使いでも、不慣れな外界での夜は決して油断ならない。

「……もう一度溶け直した方がよさそうだな」

 さっき家の中の照明を浴びたことで、ここに向かうまでかかっていた術の効力が消えてしまったようだ。

 外に出たダルクは、いち早く杖を振るった。
 途端にダルクの輪郭が希薄になり、存在感までもみるみる霞んでいく。
 周囲の闇に同化する初歩的な闇霊術だ。もちろん暗闇でしか使えない。
 これで少なくとも自分と同等以下レベルの相手には、自身の姿が簡単に認識できなくなった。
 効果は、ダルクの意識が闇に傾いている限りずっと続く。

「まずは水場を探そう。確か地図によれば山麓辺りに泉があったはずだ――」

 いかな修験者といえども、水なしで生き延びる人型モンスターなどザラにはいない。
 日照りにそなえた水場の確保は、予め決めていた独り暮らし計画の必達条件。
 
 目指す泉に向かい、林の中を突き進んでいく。
 草をふみしめ、枝葉をふみ折る感触がなんて心地よい。
 闇の世界ではとことん泥と土ばかりだった。

 緊張と興奮のふんだんに入り混じった、心躍る探索ならぬ探検。
 ダルクは外界での夜を十二分に満喫していた。
7 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:39:23.48 ID:1o/NXgko

 小一時間ほど歩いただろうか。
 寝静まった木々が次第にまばらになっていき、ある地点で唐突に視界がひらけた。

(……あった)

 泉だ。
 中央に満月を漂わせた、思わず息をのむほど絶景の泉が広がっている。
 夜間特有の神秘的な水のゆらめきが、見ている側の心の奥底まで溶け込んでいくようだ。

 埋め立てれば屋敷ぐらい建てられそうなほど、泉はなかなか広かった。
 これだけの面積を有し、水量も淵まで湛えている泉なら、そう簡単に枯れることもないだろう。

(水質も調べてみよう……)

 ダルクは茂みを伝うようにしてほとりに近寄った。
 肩に乗っている使い魔は、主人の言いつけ通り動かずにいたが、今にも飛び出したいのをこらえているのが解る。
 見た限りは大人しくて利口でも、その内は好奇心に飢えた子供なのだ。
 ダルクが「よし、好きに飛んでいいぞ」と言いかけた瞬間だった。

(! ま、待て!) 

 何かいる――!

 ダルクは慌てて息を押し殺し、使い魔ともども自身の気配を薄めた。
 ゆっくりとその場に座り込み、茂み越しに泉の端を凝視する。

 果たして見間違えではなかった。
 この場からそう離れていない水辺で、何者かの黒い影が動いている――。
8 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:42:09.90 ID:1o/NXgko
 背筋に一気に緊張が走る。
 ダルクは臨戦態勢を整え、黒い影の動向を見守った。
 ときどきチャポンチャポンと水音を立てていることから、なにか水作業の真っ最中らしい。
 
(夜行性のモンスターか……?)

 ――そのとき。
 今まで雲に隠れて薄らいでいた満月が、ゆるやかに天上に晒された。
 同時に妨げのない月光が一気に泉一面を照らし出す。
 心の準備も間に合わないまま、不明だったシルエットがその正体を浮かばせた。

(……お……)

 青い長髪。
 緩やかな稜線。
 なまめかしく滴る雫。

(……んなの子……)

 水浴び。
 はだか。
 綺麗。
 
(……こ、これは……)

 余りにも予想を超えた光景だった。
 ダルクの鼓動はみるみるうちに高まっていった。
9 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:43:43.92 ID:1o/NXgko
 自分と同じくらいの年と思しき女の子が、泉で水浴びをしていた。
 ハダカだ。直立した恰好で、一糸まとわぬ白肌を惜しげもなく晒している。
 体型は絶妙な均整美を誇っており、髪の天辺から水に沈んでいるフトモモに至るまで、まるで動く芸術。
 その細い指で水面を撫ぜ、そのまま掬った水を自分の身体に染み込ませるように塗る。
 動作の一つ一つがとてつもなく優美で、現実から隔てた幻想情景が頭の中を馳せていく。

(うおぉ……)

 ダルクは女の子の顔を見た。
 思わずハッとする。
 抜群の器量だった。
 か、かわいい。
 なんだこのパーフェクトガールは。

 憂いたように伏せられた目は、心なしか愉しそうに見える。
 静謐な品位を保ちながら、動的な印象を受ける凛とした眼。
 その性格が垣間見える気取らない風貌が、さらなる胸の高鳴りを呼んだ。

(……はっ。い、いかん)

 ダルクは闇の世界で何度か、今回のようにたまたま女性モンスターの裸体を目にしたことがあった。
 が、そういう場合は例外なく即座にバレたあげく、後遺症ものの制裁が待っていた。
 そのときの傷がじくりとよみがえる。
 ここまでまじまじと眺められた経験は今まで一度もなかったが、見つかっては弁解のできない一大事。

(一大事だ)

 ダルクはその場から立ち去ろうとゆっくり腰を上げた。
 できるならもっと拝んでいたかったが、移住早々もめごとを起こしてもつまらない。
 そもそも水場の位置を把握するという本来の目的は達成したはずだ。
10 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:50:48.93 ID:1o/NXgko

(いくぞ)
 
 使い魔に囁き、ダルクは音を立てないよう注意深く身を引いた。
 引いたには引いたが、やはりすんなりとは立ち去れない。
 女の子の裸体がどうにも気がかりでしょうがないのだ。
 雄として生を受けた以上、これは抗えぬ本能だろう。

(せ、せっかくだから最後に一目――)

 最後に一目と、泉へ目を向ける。
 これが災いした。

(……?)
 
 いつの間にか少女は胸元まで水につかっていた。
 ダルクには、巨大な水滴を模した装飾を包む神秘的なリング――杖の先端を飾るリングが向けられていた。
 女の子は片手で杖を持ち、もう片手で身を守るように肩を抱いていた。

 ダルクはようやく、彼女がこちらに向けて杖を構えていることを知った。
 目が合った。
 敵意ある双眸。
 
(ま、まずいっ!)

 不意に使い魔のディーが翼を耳元に叩きつけた。
 こんなときにいきなり何なんだ。
 しかし次の瞬間、それが主人の危険を知らせる警告だと知った。

(!!)

 まるで無防備だった後頭部に、重い衝撃が走った。

(な……)

 頭の中を鈍痛が響き回り、意識を混濁へいざなう。
 何が起きて自分は倒れるのか。
 それさえ察知する隙も与えられず、ダルクはうつ伏せに昏倒した――。
11 :1 [sage]:2010/05/30(日) 02:54:29.31 ID:1o/NXgko
書き溜め終わり
以後1、2レスペースのまったり更新をご了承下さい
とりあえず全員登場させるまでは書き上げるつもりです
ではまた
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/05/30(日) 02:57:38.54 ID:C.5zaQk0
乙、今出たのはエリアかな?
13 :1 [sage]:2010/05/30(日) 03:31:57.98 ID:JV0o9.SO
>>12
即行2get素敵です。読んでくれてありがとうございます
そうですエリアです。おいおい書いていきます
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/05/30(日) 10:07:23.27 ID:UyWn1DEo
ダルクの腕の壊れた手錠はちゃんと物語に絡んでくるんだろうか
15 :1 [sage]:2010/05/30(日) 17:35:40.69 ID:1o/NXgko
 ――――
 ――
 ……

 彼女の後ろ姿が見える。
 水色の長い髪。
 よく見ると側頭部の両サイドをゴムで結ってあり、型にハマったように似合っていた。

 細身を覆う上着は緑色。
 ロングヘアの途切れている下半身には――まぶしい生足?
 
「ミニスカート!? っつ……」

 頭が痛い。
 風邪を引いたときのような鈍い痛みではなく、怪我したときのようなズキズキ。
 片手で頭をなでると、いつの間にか包帯のようなものが巻かれてあった。
 なんだこれは。何がどうなった。

「起きて早々『ミニスカート』って」

 女の子の声がした。
 水たまりに雫が落ちて、波紋がにぎやかに広がる。
 そんなことイメージさせられるような、透明感と明瞭さを備えた美声。

「やっぱりノゾキ君は、そんなところばっか目がいくんだね」

 泉で裸体を拝んだあの少女が、こちらへ歩み寄ってくる。
 片手で何気なくスカートを抑えて警戒しながら。

「……ここはっ!?」

 上体を起こし、初めてベッドに寝かされていたことを知る。
 ずきりと後頭部が痛んだ。
16 :1 [sage]:2010/05/30(日) 17:37:12.85 ID:1o/NXgko
「ここは私の家だよ。傷、大丈夫?」

 言いながら、彼女はダルクの頭に手をやった。
 至近距離。
 め、目の前に胸が……スカートが……。

「な、なんでオレはケガをしているんだ」

 照れ隠しに顔を背けながら、ぶっきらぼうに言う。
 
「ノゾキの報いだよっ」

 彼女はダルクの頬を人差し指で小突くと、元いた炊事場に戻っていった。

「べ、別に覗くつもりは」
「覗いてた。絶対。やらしーんだ」
「うう……」

 返す言葉もない。
 あのとき確かに眼が合ってしまった。
 いくら取り繕っても、向こう側から目撃された事実は歪められない。
 オレは移住そうそう性犯罪のレッテルを貼られることになったのだ……。

「……まぁ」

 落胆しているダルクをチラ見する少女。

「私も絶対見つからないと思ってたし、君も余計にケガしちゃったし、ね」

 えっ? と顔を上げるダルクに、彼女は後ろ向きのまま言った。

「まぁ、今回の事は水に流してあげる」
17 :1 [sage]:2010/05/30(日) 17:39:57.48 ID:1o/NXgko

 ダルクは飛び上がらんばかりに叫んだ。

「ホントか!?」
「えっ、う、うん。びっくりした」
「ありがとう、助かる! オレはこの辺に越してきたばかりなんだ」
 
 然るべき場所で裁かれる展開を予感していただけに、願ってもないこと。
 また引っ越し早々、周囲にノゾキの風評が広がっては印象最悪だ。

「へぇ、そうなんだ! どこから来たの? あ、名前まだ聞いてなかったね」

 彼女はダルクが異邦人であると知るや、興味津々の顔を向けた。
 ダルクはちょっと得意になった気分で、あまり考えもなしにポンと名乗った。

「オレか。オレは闇霊使いのダルクだ」
「闇?」

 一瞬、少女が硬直する。
 同時にピリリと場が張り詰めた気がした。
 
「どうかしたか?」
「……あ。う、ううん、ごめん。あ、えと、ダルク君ね、ノゾキ魔の」
「そんな呼び方やめてくれ!」

 彼女は、自身を水霊使いのエリアと名乗った。
 奇しくも、ダルクと同じく精霊を力の源とする魔法使い族だった。
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/05/31(月) 22:23:24.23 ID:5Fd49pY0
時間帯あってないけど >>1 乙、他のキャラが出んのを心待ちにしてるぜ!
19 :1 [age]:2010/06/01(火) 00:29:15.64 ID:f4IuYroo
>>14
言われてやっと気付いた手錠! 絡めようと思います。
主人公なのに資料チェックが杜撰で申し訳ないです
わざわざありがとうございました

>>18
気まぐれ更新だから 特に投下の時間帯は決まってないです
書きたがり癖が祟って他のキャラが出るのは結構あとになりそう。ごめんなさい
レスありがとうございます 励みになります
20 :1 [sage]:2010/06/01(火) 00:29:53.03 ID:f4IuYroo
 精霊使い。
 魔法使い族という範疇には含まれるが、厳密には魔法使いとは少し異なる。

 魔法使いの多くは、自らの魔翌力を変換することで超現象を起こす。
 対して精霊使いは、森羅万象に宿っている「いのちの源」に語りかける。
 その自然の力を借り、自身の中で練り直すことで術とするのだ。
 水霊使いであれば水から、闇霊使いであれば闇の中からエネルギーを共有する。
 
 しかし抽出できそうな自然の根源が極端に少なければ、威力は激減するどころか、霊術が成立するかどうかも危うい。
 そして無論、自分の得意とする属性の自然がいつも周りにあるわけでもない。
 呼びかける自然がなければ、自力で術を行使するのは至難の業である。

 そこで「杖」と「使い魔」の存在がものをいう。
 「杖」は、精霊使いがほとんど持たない魔翌力を補うためのもの。
 ダルクの杖もエリアの杖も、大仰な見かけ通り強力なものばかりだ。
 術者の魔翌力を驚異的に増幅、または与えてくれるため、駆け出しでも魔法使いのように自在に術を試みることができる。
 少量しか自然の力を取りこめなかったとしても、杖の力で大きく膨らませることが可能なのだ。

 「使い魔」は、周囲に対応する自然が極端に少ない、もしくはない場合の媒介物に当たる。
 ダルクのコウモリ型の使い魔ディー(正式名称:D・ナポレオン)は、存在するだけで闇の代替物となる。
 そのためディーさえ連れていれば、たとえ日陰のまったくない日中の砂漠でも、やろうと思えばいつでも闇霊術を行使できるのだ。

 使い魔となるモンスターとは正式な契約が必要なうえに、その面倒もみなければならないが、単体でも日頃から十分役に立つ。
 またコミュニケーションを取って信頼を高め合えば、その絆は形となって精霊使いの強力な武器にもなる。
21 :1 [sage]:2010/06/01(火) 00:31:10.28 ID:f4IuYroo
「……そうだディーは!?」

 思い当たるが早いか、ダルクは自分の使い魔の名を呼んだ。
 炊事場からエリアが声だけ出してそれに答える。

「ディー? 君の使い魔?」
「そう、そうだ、どこに行ったんだ」
「あの、可愛いコウモリのモンスター?」
「そう! そうだ! 『可愛い』コウモリのモンスターだ!」

 いない。エリアの家の中にはいない。
 いつだって呼べばすぐに飛んでくるのに。

「あー……」

 エリアは何となくバツが悪そうな調子で答えた。

「いま、休ませてる。ちょっとケガしちゃったんだ」
「な……なっ」
「ちょっとその、ギコ君とケンカしちゃって。あ、ギコ君っていうのは私の使い魔ね」

 エリアは炊事場での作業をいったん中断させると、ティーカップを二つ抱えてベッドのそばに戻ってきた。

「はい、これ。身体があったまるから」
「そ、そんなことよりディーはどうなったんだ!」
「まぁ、落ち着いて。順番に話すから。いろいろ大変だったんだよ」

 エリアはベッドの縁によいしょと腰掛けると、もう一つのカップを手に取り口を付けた。
 それから「ほぅ」と一息つき――昨晩起きた出来事を淡々と語り始めた。
22 :1 [sage]:2010/06/01(火) 00:33:56.21 ID:f4IuYroo
 エリアの話によると――
 昨晩は満月が綺麗な良い天気だったので、霊力を高めることも兼ね、家の近くの泉で水浴びをしていた。
 泉には結界が張られてあり、何かあればすぐにエリアが察知できるような仕掛けが備えられていた。

「ノゾキも例外じゃないんだけどね。どうやって結界に引っかからずに隠れてたの?」
「う、うるさいな。霊術で暗闇と同化してただけだ」
「ふぅん……それって途中で効果が切れたの? いきなり気配を感じたんだけど」
「そ、それは……その……オレの集中力が切れただけで……」
「あ……そ、そう。そっか。覗いてたんだもんね」
「わ、悪かったよ」
「べ、別に」

 ――そしてエリアは、気配を感じた茂みに杖を向けた。
 ただの威嚇動作で、本気で攻撃する意思はなかった。
 ところがしっかり敵意は放っていたので、周辺で待機していたエリアの使い魔のギコバイト(ギコ君だよ)が敏感に異変を感じ取ってしまった。
 あの時ダルクの後頭部を襲ったのは、エリアの使い魔の猛タックルだったらしい。

「なるほどな……」
「ギコ君たらすっかり興奮して、そのあと君の頭にかじりついてたんだよ」
「あぁ道理でズキズキ痛むわけだ」
「私もうびっくりして、急いで止めようとしたら」

 コウモリが猛然と飛び出してきた。
 言うまでもなくダルクの使い魔のディーだ。
 ディーは主人の危機と知るや、ギコバイトに向かって何かを放った。直後――
23 :1 [sage]:2010/06/01(火) 00:43:02.66 ID:f4IuYroo
「――ダークボムか。D・ナポレオンの得意技だ」
「うん、そう、爆弾! いきなり爆発しちゃったんだ」
「それでディーは? ギコとやらは?」
「うん、最初のは両方とも無事だったんだけど……そのまま戦い始めて」

 ギコバイトはディーを捕らえようと飛び跳ねる!
 ディーもすばしこくちょこまか飛び回りダークボムを投下!
 夜の閑けさ満ちる泉のほとりが、一気に騒々しい戦場に変貌したのだった。

「だからすぐに私の霊術で止めたの」
「と、止めたって?」
「仕方なかったから……夜に騒ぎなんか起こしたくなかったし」
「こ、攻撃したのか」
「うん……」

 エリアはやむを得ず水霊術を行使。
 術は不意を打つように二体に直撃し、かくして使い魔たちは地に倒れた。
 あとはエリアが一人で全員を自宅まで回収し、治療をほどこし――現在に至る。

「そ、そんなことが……」
「うん。君も含めて、みんな無事でよかった」

 エリアは話を終えると、「冷めるよ?」と満杯のカップを差し出した。
 ダルクはおずおずとそれを受け取り、エリアの見守る中、それをすすった。
 昔飲んだことがあったような、ハーブの味――

(温かい――)

 身体があったまるというのは嘘ではなかった。
 胸の奥底の髄まで、心地よいぬくもりが染み渡っていった。
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga sage]:2010/06/01(火) 06:15:46.37 ID:t09YuGg0
朝見たら続き来てた。>>1 乙。
まあ、なんていうか他のキャラを早く出そうとして展開が雑になるのは嫌だから
自分のペースでお願いします。ちゃんと見てますよ。
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/01(火) 16:49:31.67 ID:f4IuYroo
>>24
ありがとうございます。そう言って頂けて大助かりです
その一言一句は漏れなく励みになっています
今日の更新は無理ぽいですが、全く不定期に投下しますので悪しからずお付き合いください……
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/06/02(水) 01:44:09.99 ID:0GT7vYA0
まさかの俺得ss

最近光り使いも出ましたねー

27 :1 [sage]:2010/06/02(水) 18:03:29.15 ID:voI3GIoo
>>26
誰得SSで終わらないでよかった
ライナのことですね。もちろんストーリーに組み込みます
このさい霊術と憑依装着カードも出ればいいのに。大人形態はいらないから……
28 :1 [sage]:2010/06/02(水) 18:04:09.05 ID:voI3GIoo

「まだちょっと休んでてね。もうすぐスープできるから」

 エリアは空になったカップを受け取ると、足取り軽く炊事場に戻っていった。
 スープ。その単語を聞いた途端、これまで身の内で潜んでいた空腹がダルクを襲った。
 そういえば外界に到着して、まだ一度も食事らしい食事も摂ってない。

「なぁ。いま何時くらいなんだ?」
「もうお昼だよ」
「お昼!? ってて……」

 もはや夜が過ぎていたことは、この部屋で目覚めた時から窓辺の光で分かっていた。
 しかしせいぜい明朝ぐらいだろうとタカをくくっていた。すでに昼とは参った。
 夜のうちにやりたかった作業がたくさんあったのに、全く初日からつまづいてしまったな……。

「そ、そうだ、ディーは!? アイツは明るいところ駄目なんだ!」
「大丈夫、ちゃんと暗がりで寝かせてあるよ。コウモリだもん、そのくらいの配慮はしてるよ」
「そ、そうか、よかった……ありがとな」
「どういたしまして」

 嬉しそうな響きの返礼が炊事場から聞こえた。
 ここにきて初めてダルクは思い至る。
 何から何まで面倒をみてくれるこの少女。
 言うまでもなく、自分とエリアはこれまでまったく面識のないアカの他人だ。
 しかもケガの報いを受けたとはいえ、言い逃れできないノゾキの現行犯ときた。

 そんな輩にベッドを貸し出し、治療を施し、使い魔の世話までみてくれて。
 ここまで親切にしてもらうのは、いくらなんでも帳尻が合わないのではないか……。

 やがてエリアがスープの乗った膳を運んできた。
29 :1 [sage]:2010/06/02(水) 18:05:56.33 ID:voI3GIoo
「おまたせ」
 
 ベッドの脇に小テーブルが寄せられ、その上にコトンと配膳されるスープ。
 薄黄色のスープは微かに香ばしい匂いを立て、できたての湯気を上げていた。
 思わず唾を飲み込んだダルクだったが、先刻の思考がつながり「いや」と首を振った。

「き、君にここまでしてもらう義理はない」
「ん?」

 エリアはお構いなしに「どうぞ」とスープ皿を軽く押し出した。

「だ、だから。今はその、お金も何も持ってないし」
「ああ」

 エリアはにっこり笑った。
 屈託のない天使の笑み。

「そんなこと心配しなくていーよ? 私が好きでやってることだから」
「でもオレはその……ノゾキで……」
「も、もう、しつこいなぁ。そればっかり」
「す、すまない」

 エリアはかすかに頬を染め、きまり悪そうに髪をいじりだした。
 一瞬エリアの裸体が脳裏に浮かび、ダルクも曖昧な顔で目線を背ける。
 あのノゾキの一件は両者にとって触れたくない話題だ。

「……別にいーの。ケガさせちゃった責任くらい取るから」
「ケガさせたって、オレは君の使い魔から噛みつかれたんだけど」
「使い魔の不始末は主人の責任だよ。モンスターを使役する者の常識でしょ」
「そうだけど」

 使い魔の責任を取るなどダルクにはあまり経験のないこと。
 ディーは滅多に粗相しないお利口さん。
30 :1 [sage]:2010/06/02(水) 18:07:11.60 ID:voI3GIoo
 ・ ・ ・


 ――ダルクはスプーンを置いた。
 完食。薬味が独特ながら、絶品のスープだった。

「ごちそうさま。最高にうまかったよ」
「どういたしまして」
「この恩はきっと返すよ」
「別にいいって」

 膳を下げ、逃げるように炊事場に戻っていくエリア。
 垣間見えた照れ笑い。つられてダルクも口端が緩む。
 外界に出て一番にこの娘と知り合えてよかった。

 可愛い。料理も上手い。なにより、優しい。
 まだ確かめてないが、エリアの恋人となった男がいたなら、きっと果報者に違いなかった。

 しばらくして当人が戻ってくる。
 先ほどとは打って変わって何やら神妙な顔つき。
 おずおずとベッドに腰掛け、気難しそうに言葉を選んでいるよう。
 声をかける間際、エリアの方から「あの、さ」と切り出した。

「君、こっちに来て日が浅いんでしょ?」
「浅いも何も、まだ一日も経ってない」
「あ、そうなんだ。だったら――気をつけた方がいいよ」

 エリアは心なしか少し哀しそうに眼を伏せた。

「気をつける……?」
「うん。こっちに住んでいる人達――とくに街の方に多いんだけど――『闇』属性の生き物をいたく嫌ってるから」
「えっ?」

 意外な話に耳を傾けるダルク。
 闇の世界ではまったくそんなこと聞かなかった。
31 :1 [sage]:2010/06/02(水) 18:08:42.30 ID:voI3GIoo
「な、なんでまた……」
「実際、こっち側に来た闇のモンスターたちは、たいてい悪さして皆に迷惑をかけるんだ」
「え……」
「ひどい時には金品を奪ったり無意味に傷つけたりして……そんなことがいつも続いたから。だから」

「皆、闇属性を無条件に許さない。何の罪もない子であったとしても」

 エリアは俯く。
 ダルクは何も言い返せない。
 闇の本質上、闇モンスターの心が負に染まるのはごく自然なこと。
 己の欲望のままに行動するから、闇同士の関わりでさえ諍いが絶えないのだ。
 確かにあんな連中が外に出たと考えたら、外界の住民には同情せざるを得ない。

 嫌われているという話を闇の世界で聞かなかったのも道理だ。
 当たり前のこと過ぎて、わざわざ口に出すまでもなかったということか。
 しかし師匠なら教えてくれても良かったのに……あえて伏せておいたのだろうか。

「だから、ダルク君も気をつけてね」
「あ、ああ。分かった。忠告ありがとう」
「うん」

 ダルクはエリアの青髪を横目で見る。
 その話を聞いて、なおさら疑問が深まった。

「じゃあでも、なんで見ず知らずの、しかも嫌われてるっていう闇属性のオレにこんな」
「えっ?」
「それもその……迷惑をかけたばかりの闇属性なんて……」
「それはだって」
 
 エリアはきょとんとした顔で、そしてすぐに笑い零れて言った。
32 :1 [sage]:2010/06/02(水) 18:18:20.57 ID:voI3GIoo

「ダルク君は悪い人じゃないもん」

 今度はダルクが目を丸くする番だった。

「どうしてそう言い切れるんだ」
「使い魔見てたら分かるんだ。ディー君、全然悪い子じゃなかったし」
「そんなもんか」
「そんなもんだよ」
「ふうん……」
「……」

 エリアはまだ何か言いたげだったが――
 ――そのとき、窓の方から突然騒がしい物音、鳴き声が聞こえてきた。
 この声は……爬虫類?

「あ、ギコ君が起きたみたい」

 エリアは立ち上がるが早いか、立て掛けてあった杖を取り、戸の方へ向かっていった。

「もうちょっと寝てなよ。そろそろ眠くなったでしょ?」
「ん……」

 たしかに微妙にまぶたが重い。
 身体が布団に引っ張られる。

「大丈夫、あのスープの薬効だから。つぎに目が覚めたらたぶん痛みも引いてるよ」

 「それじゃ」と言い残し、エリアは慌ただしく部屋を後にした。
 最後に後ろ向きのミニスカートがひらめいた瞬間だけ、薄目の映像に残った。

(あー……いい夢見れそう……)

 次第に混濁が入り混じり――そのままダルクの意識は闇に堕ちていった。
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/02(水) 18:42:40.71 ID:WaKBvKIo
ギコ君(,,゚Д゚)
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 02:34:35.30 ID:QJs52HI0
ダル君(-_-)zzz
35 :1 [sage]:2010/06/06(日) 22:59:12.86 ID:Zv1.MASO
読んで頂いてありがとうございます
ごめんなさい書く気はあります、もちっと待って下さい
火曜日には更新します……
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/06(日) 23:04:48.46 ID:sxjVqis0
了解。無理せず自分のペースでお願い。待ってる。
37 :1 [sage]:2010/06/08(火) 23:33:39.20 ID:FUJqtM6o

 ――

 格子の目立つ一室の隅で、ただうずくまっている自分。

 手錠。
 紫に滲んだ手首。
 決して自力で外すことはできないと悟るまで増えていった傷跡。

 向かい合わせの掌底を引き放そうとしても、手錠はかたくなに束縛を強調する。
 小馬鹿にするように聞き飽きた金属音をあげるばかり。

 暗い。
 もの言わぬ闇の圧力が押し寄せてくる。
 目を開けても閉じても、情け容赦なく闇がにじり寄ってくる。

 力が出ない。
 逃げられない。
 手錠が外れない。
 ワニのモンスター。

 ワニ? ワニ?? 
 ――って痛っ、痛い!

「うわあっ!」

 ベッドから跳ね起きて足を振り回す。
 見れば何かが右足にかじりついている真っ最中!
 
 慌てて足を振り回し、その緑色のモンスターを蹴飛ばす。
 それはダルクの足に巻かれていた包帯の一部を食い破ったまま、宙に吹っ飛んでいった。
 奴は床に激突することなく、中空で機敏に体勢を修正し、見事な着地を決めた。
 
38 :1 [sage]:2010/06/08(火) 23:34:11.22 ID:FUJqtM6o
「い、痛いな……なんだコイツはいきなり……」

 うう、足首あたりに歯形が……。
 ダルクは軽くさすりながら、寝込みに奇襲を仕掛けてきた卑怯なモンスターをにらみつけた。

 恐竜の子供ようなモンスターだった。
 大きく裂けた口から覗く牙。ヒザとヒジから突き出た一本トゲ。小柄ながら筋肉質な体躯。
 見るからに凶暴そうな風体だ。

 すぐにエリアの言っていた使い魔(確かギコ君)だと悟る。
 エリアの話から受けた印象とほとんど一致したし、なにより今――

「エ、エリア?」

 椅子に座り、テーブルに突っ伏しているエリアを守るように立ちはだかっていたからだ。

 窓の外は夕暮れだった。
 そして眠りにつく前には無かった、手ぬぐい入りの洗面器がベッドのそばにある。
 まさか彼女は寝る時間も惜しみ、付きっきりで自分の世話をしてくれたのだろうか。

 エリアを眺めていると突然、ギゴバイトがうなりを上げて襲いかかってきた!

「う、うわっ!」

 なぜこのモンスターが自分を攻撃するのか見当もつかないし、考える余裕もない。
 子供とはいえ、あの鋭い爪と牙、それに肘肩のトゲをまともに受けたらただの怪我では済まない――。
39 :1 [sage]:2010/06/08(火) 23:36:01.70 ID:FUJqtM6o
 ダルクはとっさに、手についた毛布をバサリとふりかけた。
 ギゴバイトは簡単に包まったが、そのまま毛布玉の中でじたばた暴れ続ける。

「ぎょ、行儀が悪いなギコ君、主人と違って」

 丁寧に壁に掛けてあった自分の杖を手に取るが早いが、その先端を大混乱の毛布にあてた。
 ダルクの身体から黒い靄が浮き上がり、杖の先端が禍々しい気焔をあげる。

「もう一度おやすみだ……っ」
 
 ダルクが合図のように杖を握り締めると、杖の先に充満した闇エネルギーがあっという間に毛布の中へ染み渡っていった。
 それと同時に毛布玉に変化が生じる。
 荒々しい動きが徐々に鈍くなっていく――。

 毛布の中は闇。その深さを一時的に強くした。
 加減にもよるが、対象に全く危害を与えることなく闇に堕とすことができる。
 その用途の多くは、まどろみへの誘い。

「効いたか」

 やがて毛布はすっかり大人しくなった。
 霊術成功、ギゴバイトは無事に睡眠状態へ陥ったようだ。

 ダルクは、この使い魔が毛布の中でさえ暴れているとき、何となく自分が襲われた理由が分かったような気がした。
 ギコ君は使い魔のモンスターとはいえ、まだ分別のない子供。
 主人がダルクに親身になっているのをみて、まるで母親が他の誰かに盗られたような錯覚があったのだろう。

 いや、裸体を目撃したときのあの凶悪なタックル。
 あれはある種、執念じみた害意を感じた。
 つまりこの使い魔はあるいは、エリアを母親以上に……?

(……オレでも……エリアみたいな恋人がいて、その裸を別の男に見られたりしたら、本気で怒るかもな)

 ダルクは「でもこれから主人に迷惑かかるようなことは控えろよ」と毛布玉を軽く叩いた。
 叩いた部位がちょうどトゲのあるところだったらしく、チクリと手の平に痛みが走る。
 ギコ君の無意識の返答のように思えた。
 
「で――そのご主人様だけど」

 ダルクは顔を上げた。 
 机上に腕枕を敷き、穏やかに寝入った水霊使いの姿がそこにあった。
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/09(水) 00:03:58.26 ID:G36l8Hw0
>>1乙! いつも楽しく読んでるぜ。頑張って!
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/09(水) 01:35:25.73 ID:qXLNQgUo
終わりかー
ところでここってage進行?sage進行?
42 :1 [sage]:2010/06/09(水) 02:09:54.36 ID:E4cC.YSO
>>40
少なくてごめんなさい
ありがとうございます。本当に素直に励みになります

>>41
のらりくらりでごめんなさい
一応sage進行で投下してますが、レス付ける際はどちらでも全然構いませんよ
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/09(水) 23:36:36.86 ID:46marmUo
期待
44 :1 [sage]:2010/06/10(木) 00:11:21.27 ID:WgrV/bQo

(……よく寝てる)

 今しがたすぐそばで一騒動あったというのに、エリアは全く反応する素振りもなく、すやすや寝入っている。
 服装は最後に見たときと同じ、きみどり色の縦線セーターに紺色のミニスカート。基本的にこれが室内着らしい。

「……」

 ダルクは気恥ずかしさを隠せない。
 セーターはなぜか首回りが広めに露出するような作りになっており、鎖骨ラインが色っぽくむき出しになっている。
 ミニスカートは相変わらずダルクの視界に目立ち、内股に伸びるふとももと布との境界がきわどくズレている。
 誓ってそんな気はないが、回り込んで屈んでスカートの中をのぞけば容易にパンツが見えそうな加減だった。

「む、無防備だな……」

 いや正確には無防備になった、か。
 護衛も兼ねてそばにおいていた使い魔を、ついさっき無力化させたのだから――

「……」

 透き通るような優しい青髪が、呼吸に合わせて微動する。
 ダルクは口の中に出てきた唾を飲み込んだ。
 可愛い女の子が目の前にいて、無防備な姿を惜しげもなく晒している――。

「ば、ばか」

 慌てて首を振る。
 半日がかりで相当世話になった恩人相手にどうかしている。
 ここはこれ以上迷惑をかけないためにも、すっぱりきっぱり自分の家に帰ろう。
45 :1 [sage]:2010/06/10(木) 00:12:25.15 ID:WgrV/bQo
 帰る前にきちんとお礼を言いたかったけど、眠っているところを邪魔してはまずいな。
 一筆書き置きしておこう。

「ちょ、ちょっと紙とペン借りるな」

 よく整理整頓された部屋だったので、筆記道具はすぐに見つかった。
 帰宅の旨と適当な謝辞、そして返礼の約束をしたためて……エリアの眠っているテーブルに添えておく。

「これでよし」

 そこでふと、窓の外の日が沈みかけているのに気がついた。
 じきに夕方も過ぎて夜になる。
 昨晩外界に出た限りでは、夜の冷え込みは馬鹿にできない時分だった。

 室内に暖房はなく、どことなくひんやりした空気が流れている気がする。
 もしかしたら、こんなところで寝ているエリアを放置したら――。

(風邪引くかもな)

 イスに座ってうつぶせに寝る姿勢もあまりよくない。
 また、騒動が起きても全く気付かないほど熟睡している点から、自力で起きるのはずっと後になりそうだ。

(ベッドに移した方がいいかな……。…………)

 女の子をすぐそこのベッドまで運ぶ。
 それだけなら別に大したことないよな。

 何気ない風を装い、軽い気持ちでエリアを見下ろす。

 何も知らない可愛い寝顔。
 泉で生身を目に焼き付けた、華奢な身体。
 スカートから伸びている、あわよくば誘っていると誤認しそうな白の生足。

「……」

 ダルクは石のように固まり、立ち尽くした。
 心臓の音だけが早鐘のように高鳴っていった。
46 :1 [sage]:2010/06/10(木) 00:13:51.39 ID:WgrV/bQo

 ダルクは葛藤する。
 女の子に直に触れるというのは猛烈に抵抗がある。

 ギコ君から毛布を剥ぎとって、それを掛けるだけにしておこうか。
 いや上半身だけでは肝心カナメの下半身まで完全にカバーできないだろう。

 余計なことはせずに帰ろうか。「それが無難だそうしよう」と一瞬思う。
 が、よくよく考え直してみると、ベッドを奪って恩人に風邪を引かせて、自分は勝手に帰るという構図も後味が悪い。

 ベッドに運ぶって、いくらなんでも起こしてしまうんじゃないか。
 そう、それが一番心配だった。
 すでに眠っている相手にまどろみの霊術を施しても意味がない。

 その時、不意に鼻元にむず痒さを感じた。
 ダルクはたまらず「クチッ」と上着で口元を抑える。

「……いけないよな」

 なかなかのタイミングでのくしゃみ。
 果たしてそれが寒さからくるものだったかは定かではないが、ダルクを決心させるには十分だった。

「さっさと終わらそう」

 何も気にしないように、何も意識しないように。
 ダルクは静かにエリアの上体を起こす。
 大丈夫大丈夫。起きる様子は全くない。
47 :1 [sage]:2010/06/10(木) 00:15:30.16 ID:WgrV/bQo
(そういえばディーは? 我が愛しの使い魔はどこに行った? 外で待ってたりするのか?)

 別の思考回路をフル稼働させ、エリアを肩口に担ぐ。
 想像以上に軽い。
 布を通した肉感の柔らかさ。
 顔のすぐ横に顔。耳元を撫ぜる甘い寝息。
 セーター越しに背中に伝わる、意外に弾力に富んだ、む、む、……

「い、急げ急げ!」

 首筋にふりかかる寝息が、女の子の良いにおいがダルクを挑発してくる。
 気にしない。気にしたら終わりだ。

 別に健全な男子であれば、年頃の女の子を意識してしまうのは不可思議なことにあらず――
 しかも可愛いし優しいしスタイルも良いとくればもはや意識しないことが不自然であり――
 つまり意識してしまいそうな意識が自分の意識にあることを意識できるのは自然な事で――
 最終的に自分はごく一般的にして普遍的な異性に対する意識性を持っているという帰結が――

 密着した女の子に対し、ダルクは脳内で訳のわからないことを並べたてるしか対処法はなかった。

 そんなこんなでベッドまでひきずるようにエリアを運び――ゆっくり、ゆっくりと仰向けに寝かせる。
 ここに来てまた難関にぶち当たる。
 まずい、この寝かせ方だと下半身がベッドからはみ出る。

「の、乗せるだけだから!」

 半ばヤケになって生足を抱きかかえ、静かにベッドの上に乗せる。
 その視点からでは、注視すればスカートの中が丸見え。
 ダルクは必死に理性を保ち、目線を反らせる。

「よ、よし」

 手を放しかけながら、ふとエリアの顔を見た。
 眠そうな薄目が、しかしダルクの顔をじっと捉えていた。
48 :1 [sage]:2010/06/10(木) 00:17:16.84 ID:WgrV/bQo

「ダルク……君……?」

 ダルクは凍りつく。
 抱えていた残りを思わず手放す。
 太股がぽすんとシーツに沈んだ。
 その拍子でパッチリ目が覚めるエリア。

「ダ、ダルク君? な、何やって……」

 状況を把握したエリアの頬がみるみる朱色に染まっていく。
 当惑した様子で後ずさり、枕にしがみつくエリア。
 ダルクは一気に焦燥感に追い込まれた。

「ち、違う! オ、オレはただベッドに寝かせようとしただけでっ!」
「ベ、ベッドに寝かせるって……」
「あああっ、違う違う! その、そういう意味じゃなくてその!」
「あ、ギ、ギコ君!?」
「あっいやっこれはその、いきなり襲ってきたから仕方なく寝かせて!」

 ダルクはひたすら混乱する。
 エリアの視線が、脅えるような、もしくは疑惑に満ち満ちたものにしか見えない。
 自然と足が下がってしまう。逃げたい。逃げ出したい。

「か、風邪ひくと思ったからベッドに移しただけで!」

 無理だ。
 ダルクはいくら弁解したところで、これは無理だと悟った。
49 :1 [sage]:2010/06/10(木) 00:19:19.71 ID:WgrV/bQo
「ご、ごめん、もうその、帰る! い、色々ありがとう!!」

 自分のコートと杖を引っつかみ、一直線に部屋の戸口まで駆け出す。
 エリアの呼び止めるような声が聞こえた気がしたが、振り返る勇気なんて微塵もなかった。
 ダルクは鬼気迫るがごとく玄関らしきドアを探し当て、そこからためらいなく夕闇の中へと飛び出した。

(やらかした――やらかしてしまった――)

 なんであんな誤解の解きようがないことを。
 最初から毛布だけ掛けておけばよかったのに。

 走る。
 ひたすら走る。
 追われているかのように走る。

 林道に入ると、天を覆う枝葉のせいで急に視界が薄暗くなった。
 闇属性のダルクはかえって目が利き始める。

 走りながらふと、視界の端に何か黒いものがチラついているのに気付く。
 いつのまにか使い魔のディーがパタパタ付いてきていた。
 と同時に、木の根に足を取られる。

「いっ」
 
 絵に描いたようにスッ転び、ベシャリと落ち葉を吹き飛ばす。
 幸い外傷は負わなかったが、足をしたたか打ち付けた。
 痛い。心も身体も痛い。

「く、くそぉ……」

 ディーが心配そうにダルクの肩に止まる。
 痛むヒザをさすりながら、荒い呼吸で「大丈夫だ」とディーをなでてやった。

「……うぅ……」

 ちっとも大丈夫なわけなかった。
 心の中に、デタラメに重い巨岩がどっしり沈み込んだ気分だった。
 
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/10(木) 22:33:31.86 ID:3KXXIQE0
乙 相変わらず面白い。もう他のキャラが出るかな? ワクワクしながら待ってるぜい。
51 :1 [sage]:2010/06/11(金) 13:51:04.67 ID:mxlagMco
>>50
本当に面白いと感じてくれたならこの上ないです
わざわざレスしてくださってありがとうございます
52 :1 :2010/06/11(金) 16:31:05.97 ID:mxlagMco
 宵の口に入った。
 絵の具が少しずつ濃くなるかのように、周囲は次第に闇色へと染められていく。
 すなわちダルクの活動時間の到来だった。

 というのにダルクは肩を落としたまま、なんとも重たげな足取りで林道を踏み進んでいた。
 いつもなら夜間は元気に飛びまわる使い魔のコウモリも、いまは主人を慰めるように肩口にとまっている。

「はぁ……」

 十歩ごとに溜め息。
 様々な思考の行きつく先の溜め息。

 どうせ取り返しがつかないのに、あの時ああしておけばという後悔。
 恩人に誤解させるような行為の不埒さ。
 やはり闇の住人だったと物語っていたような、あの瞬間のエリアの眼。
 完全に誤解を解こうとせず途中で逃げ出したことで、更に強めてしまったであろうエリアの疑惑。
 
 エリアの自分の名を呼ぶ声。
 エリアの温かいスープ。
 エリアのきわどいミニスカート。
 エリアを背負った時の感しょ

「だーっ違う違うっ」

 頭をブンブン振り、ディーが驚いて飛び退いた。
 
(くそ……オレって奴は……)

 だって、初めて外の世界で知り合った、自分と同い年くらいの女の子。
 しかも可愛いくて優しい女の子。

 短い間だったが、彼女と触れ合った鮮烈な記憶はそう簡単にはこすりとれない。
 意識したときの回想ばかりが先行して、それがダルクを底無しの自己嫌悪へ落とす。

 使い魔が飛来し、再び主人の肩にとまる。
 嗚呼、分かってくれるか、ディー。

「そうだな……とにかく後のことは家で考えような……」

 体重を預けた杖をつきながらのろのろ進む姿は、さながら精も根も尽きた老人のようだった。
53 :1 [sage]:2010/06/11(金) 16:32:40.23 ID:mxlagMco
  ――

 開けた泉から原生林の深部にあるダルクの家までは、そこそこ距離がある。
 その間、ダルクは無意識ながら夜の森林浴を体感していた。

 無機質な闇の世界に比べ、外の空気は格段に美味しい。
 時折ひんやりした風が、ダルクの素肌を気にかけるようになでていく。
 
 鼻腔を詰める木の匂い。
 踏みしめる土、枝、落ち葉の、確かな存在を感じさせる反動。

 高所を覆う枝葉の心地よいさわめき――。
 夜の雰囲気にほどよく調和する虫たちの斉唱――。

 顔を上げ、改めて自然に耳を傾ける。
 何もないはずの漆黒の中、ウソみたいに色濃く広がっていた神秘の世界。

「自然って素晴らしいな……」

 先刻ボロボロになったダルクの心は、家に帰りつくころにはずいぶん癒されていた。
 もちろん先刻の一件を忘れたわけではなく、完璧に立ち直るにはまだ遠い。
 が、少なくとも一呼吸おけるほどにはリラックスできた。
 自然はかくも素晴らしい。

 ようやく自分の家に着く。
 ああ、不意に吹きかかる風が気持ちいい――。
 ダルクは玄関の小さな階段3段を、できるだけゆっくり上り――

「!?」

 すぐさま臨戦態勢に入った。
 遅れてディーが羽ばたき、警告を知らせる。

「わ、分かってる」

 まったく気が付かなかった。
 夜の空気に当てられていたせいでもあるが、まさかそんな場所に居るとも思わなかった。

 すぐ斜め上、屋根。
 明らかな生き物の気配。
 屋根の上に誰かいる!!
54 :1 [sage]:2010/06/11(金) 16:38:06.27 ID:mxlagMco

「誰だっ」

 叫ぶというより、強く囁くといった感じで呼びかけた。
 じわじわとパニックになりそうな自分を抑えつけるように。

 似たような状況を昨日体験した。
 泉で水浴びをしていたエリアと遭遇した場面だ。
 その時はエリアの方が自分の正体をつかめずにいたが、今度は逆。
 立場的にいえばこちらが不利だ。

 こういう時、なにより冷静さを失ってはいけない。
 最善と思われる対処を迅速にこなす。
 事によればそれが自分の生存率を上げることに繋がる。

 なぜ屋根の上に?
 影の目的は?
 自分に危害を及ぼすものか?
 家に損害を与えるつもりか?

 そうした判断は――まず、この影の素性を明かしてからの話だ。
 ダルクは数瞬で行動する。

(いくら闇に紛れようとも無駄だ)

 ダルクは杖を構えたまま、自らを闇に預けた。
 ダルクの輪郭がうっすらぼけ、黒紫のエネルギーが五体を覆う。
 暗闇と少しだけ身体を共有することで、夜目をさらに効かせたのだ。

(さぁ、正体を見せてみろ……)

 じりりと足を開き、杖を握る手に力を込める。
 肩に止まったディーも身構え、ダルクの合図でいつでも飛びだせる格好だ。

(……人影?)
 
 まっさきにダルクの視界に飛び込んだものは。

 これミニスカートじゃ。
 しかも角度的にこれ。




「……んー……」

 緊迫した場にまるでそぐわない、なんとも眠たそうな喉声が耳に入った。
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/11(金) 23:23:42.89 ID:/EX0M9oo
見てるよー
オジサンいつでも見てるからねー
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/12(土) 04:16:20.58 ID:Zi3DHig0
見てますよー
オジサンいつまでも見てますよー
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/12(土) 13:28:05.76 ID:CzWUvp.0
乙です! めっちゃ面白いです
無理せず更新してってください^^
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/12(土) 18:07:18.02 ID:B0q5Hgwo
霊使い以外のおにゃのこもでるんだろか
59 :1 [sage]:2010/06/12(土) 21:05:08.52 ID:Z7J9VoA0
>>55 >>56
ヒィィッ(; ゚Д゚)ありがとうございます
誰かが見てくださるだけで書き甲斐があります

>>57
そうですか。面白いですか。嬉しいです。嬉しいです!
お心遣い身に染みます。こんなちまちま更新なんで無理する余地もないです
わざわざ励みになる言葉を書き込んで下さってありがとうございます

>>58
とりあえず余力があれば小出しに登場させようとは思います
今は霊使いで手一杯なのですみません
60 :1 [sage]:2010/06/12(土) 21:05:57.49 ID:Z7J9VoA0
 一人分の人影がのろのろと起き上がった。
 ということは今まで横になってたということか? 屋根の上で??
 しかもミニスカート穿いてるってことは――

「お、女……」

 ダルクは半分うんざりした響きで呟いた。
 ついさっきミニスカートの女の子に関して心をえぐられる思いをしたというのに。

 乱れ気味のポニーテールらしきものがふわりと動くのが見えた。
 
「だれ……?」

 ダルクは一瞬ドキリとする。
 まるでそよ風がそっと撫でるような、ささやかで甘やかな声――。
 とはいえ、寝起きと確信できる惚け具合だったが。

「ここの家主さん……?」
 
 ふさふさポニーテールが横に垂れる。首をかしげてるのか。

「……そ、そうだ。この家の主だ!」

 ダルクはハッとして答えた。
 相手のペースに飲まれてはいけない。
 今のところこちらに危害を加えるような様子はないが、油断してはならない。
 世の中何が起こるか分からないと、幾度も師匠に戒められたではないか。
 
「お前は何者だ! オレの家で何をしていた!」

 ダルクは内心で「これでいいんだよな」と自問しつつ無理に強気をみせつけた。
61 :1 [sage]:2010/06/12(土) 21:13:03.51 ID:Z7J9VoA0
「んー? んー……………………………………ふぁあ……」
「おいっ」
 
 渾身の威勢があくび一つでかわされるとは!
 とことん調子が狂うダルクをよそに、ポニーテールの少女は気だるそうに身を起こす。

「んー……おかしーなー……」

 少女が立ち上がる。
 こ、この視点はまずい!
 ミニスカートが際どい! 際どすぎる! じゃなくてっ!

「よっと」

 突如、風のうなりとともに、強めのつむじ風がダルクとディーを襲った。

「うわっ!」

 たまらずコートで使い魔ごと身を伏せるダルク。
 木造の家はガタガタ音を立て、玄関周辺の備品が吹き飛びそうになる。
 なんだなんだ。なんでこんな急にこんな風――

「ここには誰もいないと思ってたんだけどなー……」

 コートの隙間から屋根の上を見る。いない。
 いた。
 いつの間にか少女は目の前にいて、羽根のようにふわりと着地するところだった。

「おっう」

 ダルクは唐突な接近に思わず二、三歩よろけ、後方のドアに背をついた。
62 :1 [sage]:2010/06/12(土) 21:24:24.31 ID:Z7J9VoA0
 淡い緑のポニーテールが揺れた。
 声の印象とは異なり、意外にも端正で透くような顔がそこにあった。
 二重まぶたの眠そうな双眸が、人形のようにダルクの顔を見上げている。
 こ、この娘は……この娘もエリアとはまた違った意味で……じゃ、なくて!

「お、お前は……」

 白みがかった灰色コートにミニスカート。
 両手で提げた横向きの杖は、どことなく自分やエリアのものに似通っている。
 さらに膨らんだコートの隙間からは、生き物の羽根のようなものが飛び出していた。
 直感でそれが使い魔だと分かる。
 あとの推察は一直線。

「お前は『風霊使い』? か?」

 少女の眠そうな瞳が少しだけ開いた。

「あれ……? どこかで会ったっけ?」
「い、いや」

 まじまじと自分を見つめる視線が恥ずかしい。
 ダルクが目を反らしても、少女は赤ん坊みたく不思議そうにダルクを眺めていた。

 なんだ一体この娘は。
 闇を明かし外見を割ったハズなのに、まるでまだ正体がつかめていない気分――。

「ふぅん。私、有名なんだ?」

 出し抜けにそんなこと言われても。

「い、いや、そういうわけじゃ」
「そう? じゃあ……そう、よく分かったね。私のコト」

 口調が少し遅いせいもあり、どうもテンポがズレる。
 能天気というかマイペースというか……こういう手合いはどうにもやり辛い。
63 :1(ストック終わり) [sage]:2010/06/12(土) 21:26:47.14 ID:Z7J9VoA0
 ディーがさっきから大人しいところをみると、どうやら本当に彼女に害意はなさそうだが――。
 そういえばコートの隙間のアレ、眠っているんだろうか。
 さっきからピクリとも動かないが、まさか死んでるんじゃないだろうな。

「……でだ。お前はオレの家の屋根で何をしてた?」
「んー…………」

 薄目になり、しばし沈黙を下ろす少女。
 言うのがはばかれるほどやましいことでもあるのか。
 と思っていたら、あくびが出そうで出なかっただけだった。

「寝てた」
「…………えっ? それだけ?」
「そう」

 この少女は、まったく面識もなにもない他人の家の屋根の上で寝ていたという。
 寝てた「だけ」という。
 こんな訳の分からない話があるか!

 少女は再び薄目になった。
 今度こそあくびかと思っていたら、「クチュン」と可愛らしいくしゃみ。

「さむい」
「……うん」
「中、入っていい?」
「えっ? 家の?」
「うん」

 どうもよく分からないままだが、こんな薄着(主に下半身が)の女の子を真夜中の屋外に放置するのも気が引ける。
 エリアの件もあってすこぶる抵抗もあったが、結局流される形で家に上げることになった。

 彼女は自分を風霊使いの『ウィン』と名乗った。
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/12(土) 22:18:28.37 ID:7veTaEEo
乙←サンダードラゴン
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/13(日) 00:56:12.14 ID:DsDX7fw0
エリアウィンときたらヒータかライナか
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/13(日) 05:51:04.79 ID:LP/wolE0
>>65 てめえアウスを忘れるとはいい度胸だ
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/13(日) 06:57:29.22 ID:1vMR21U0
霊使い好きです。応援しています
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/13(日) 09:18:05.05 ID:4B2c9aI0
>>66
イチゴのショートのイチゴは最後だろ?俺は食べる順番を言ったんだ
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/13(日) 17:02:48.93 ID:fl0qtO2o
あーなんか先にやられたかー、って感じだwwww
楽しいです。
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/13(日) 19:31:18.44 ID:OMMZwUI0
>>68 それは悪かった、俺はイチゴは真ん中あたりで食べる派だから思い至らなかったよ。
あと言うの忘れてたけど>>1乙、変な争い起こしてすまなかった。
71 :1 [sage]:2010/06/14(月) 17:29:02.37 ID:kHbM8s2o
>>64
ありがとうございます
乙乙乙←これからこれを「あっしゅく」と読みます

>>65-66 >>68 >>70
いえ 楽しい流れをありがとうございました
スレに支障をきたさない程度にどんどんやってください

>>67
わざわざありがとうございます
「応援しています」と一言付け加えられるだけで言われる方はかなり違います

>>69
書けばいいじゃない! 自分は拙文しか書けないので……
「楽しいです」は嬉しいです。ありがとうございます


72 :1 [sage]:2010/06/14(月) 17:32:25.77 ID:kHbM8s2o
 完全に日も暮れ、辺り一帯は完全に夜と呼べる暗さになっていた。
 使い魔ディーは見張りも兼ね、屋外で逆さづりになって寝ている。

 ダルクの家の居間。
 前の住人には来客が多かったのか、テーブルには5脚ものイスがついていた。
 ダルクは一番奥の席に座り、ウィンは手前の中途半端なところに座った。
 対面ではないのでダルクが姿勢の向きを変えてやった。早くも調子を外された気がした。

「――で、ウィン」
「ん」
「君の家はどこだ」
「霞の谷(ミスト・バレー)」
「それはどこにある」
「んー。遠いーよー」
「遠いのか」
「うん」

 ダルクはテーブルの上に組んだ手を乗せ、厳しく詰問する姿勢でウィンの方を向いている。
 対してウィンは片手で頬杖を付いて眠そうな顔をしており、やる気が微塵も感じられない。
 ダルクは怒るやら呆れるというより、つられて脱力しそうな気分になった。
 だが屋外とはいえ不法侵入された以上、話だけはきっちり聞き通さなければ。
 ダルクは溜息まじりに会話をリードする。

「――帰る家があるのに、なんであんな所で寝てたんだ」
「んー……だって遠いんだもん。うち」
「宿を借りるだの、友人の家にでも泊まるだの、野宿しないで済む方法はあるじゃないか」
「んー。そうだけど」
「オレはここに移り住んだばかりだから行ったことないけど、ここから最寄りの町にはあるんだろ? 宿屋が」
「あー。そうだったんだ」
「なにが」
「移り住んだばかりって。だからここにキミがいたんだねー」
「そうだ。昨日越してきたばかりだ」
「ふぅん……そうだったんだー……」
「……」
「……」
「…………」
「………………ふぁあ」
「こら。話を終わらせるな」

 ずるりとウィンの頬杖が一瞬外れた。
 いかん、会話を途切れさせるとそのまま眠ってしまいそうだ。
73 :1 [sage]:2010/06/14(月) 17:34:08.50 ID:kHbM8s2o

「ええとなんだっけ、そうその、宿屋は? 行ったことないのか?」
「あるけど……お金かかっちゃう」
「じゃあ友人は? いる? この近辺に」
「いるよ。いるにはいるけど……」
「けど?」
「いつまでも・あまえているのも・なんだかわるい。うぃん」
「字余り過ぎだ」
「んー……このところ忙しそうだったから……」

 友人宅に常駐している身というわけだったか。
 その友人に悪いと思ったから出たというより、追い出されたと考えた方が自然だ。
 何だかこのまま流されると、この家まで寄生されそう。それはまずい。

「だいたいなんでこの家なんだよ」
「ふぇ?」
「野宿ならその辺でいいだろ。なんでわざわざ人ん家の屋根の上で」
「だって外で寝ると危ないもん」
「屋根の上も同じだろう」
「んーん。家は別。魔よけの結界が張ってある」
「え? そ、そうなの?」
「知らないの? この辺にある家って、ふつうそうなってるよ」
「……それは知らなかった」
「この家、誰もいないみたいだったから、お泊りスポットの一つにしてた」
「こら」

 ダルクは合点がいく。
 無人の家は、誰かが野宿するには打ってつけの隠れ蓑という訳か。
 ウィンがこの家に訪れたのは、別に偶然でも運命でも何でもなかったんだ。
 い、いや運命とかいうのは別に関係ないが――。
74 :1(ストック終) [sage]:2010/06/14(月) 17:37:14.52 ID:kHbM8s2o
「……あっのどかわいた」

 ウィンが思い出したようにぽつりと言った。

「渇くほど喋ってないだろ」
「なにかのみものある?」
「ず、ずーずーしいな。それが人に物を頼む時の態度か」

 するとウィンは半目をパチパチしばたたかせた。
 何をするのかと思ったら、イスを引いてこちらに向き直った。
 テーブルの上に綺麗な指がペタリとつかれる。
 そのままゆっくりとこうべを垂れながら、

「なにかのみものをください。おねがいします」

 と今までとは考えられないほどの礼儀正しさを見せた。
 ふさふさポニーテールの先っぽがキュート。
 意表を突かれたダルクは困惑する。

「い、いいよそこまでしなくて。別に飲み物くらいは……」
「ついでに一晩泊めてください」
「おいしれっと追加要求するな」
「だめ?」

 ウィンの顔が上がり、眠そうな無表情が「ん?」と首を傾ける。
 くっ……なんて奴だ!
 こうやってした手に出たり可愛いアピールすることで、今まで自分の住みかを取り込んできたのか!
 非道! 小悪魔! 魔性の女狐!
 エリアとの一件で、女の子と二人屋根の下で寝るには抵抗あるっていうのに!
 一晩泊めろだと? 笑わせるな、こっちは心身ともに疲れてるんだ!

「……一晩だけだからな……」

 ダルクはぼそりと言った。
 ウィンは眠そうな目を少し開いて、口の端を少しだけ釣りあげた。

「ありがとう」

 ほんの微笑した顔なのに、彼女の場合は満面の笑みにみえた。
 反射的にどきりと胸が高鳴るダルクだった。
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/14(月) 19:14:21.29 ID:1o8w.7c0
更新ktkr!
ウィンがいいキャラすぎるwwwwww
ってか魔性の女狐ってwwwwww 
ダルク早くもハーレムフラグwwwwww
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 08:21:43.15 ID:cpvaYS2o
っかー!
ダルクェ……
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/15(火) 09:00:11.01 ID:O1DWwyso
>>72
×霞の谷(ミスト・バレー)
○竜の渓谷
霞の谷はもうないのよ…( ;ω; )
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/06/15(火) 20:00:24.63 ID:LUymNQ60
>>1乙 このスレも人が増えてきたな……
いいことだ。
これを機にもっと遊戯王のSSを書く人が増えてくれれば更にいいことだ、霊使いに限らず。
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/06/16(水) 23:09:10.43 ID:bZBwZ7.0
乙乙乙 相変わらず面白いww
これからも頑張って下さいな

つか、ダルクがうらやましすぎる…!
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/19(土) 01:43:42.04 ID:t.Tq0NY0
まだかなまだかな
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/06/19(土) 21:14:23.66 ID:tYrWSq60
まだかなまだかなまだかなまだかな
82 :1 [sage]:2010/06/20(日) 15:51:55.87 ID:AbvfNRQo
アンカ全レスは頻繁に続くとまどろっこしいので、更新直前にまとめてするスタンスでいきます
今回は都合上、返信遅れてしまいすみません

>>75
ありがとうございます
ハーレムフラグはすでに霊使いが一人だけ男な時点で!

>>76
ダルクェ……!!

>>77
最近のOCG変遷にはついていけない! いえ、よくチェックしてませんでした、すみません……
エラッタが下ったわけでもないので、ウィン設定はこのままミストバレー出身でいきます
わざわざありがとうございました。こういう指摘は大変ありがたいです

>>78
ありがとうございます
個人的に遊戯王はそうマイナーでもないと思うんですが……SS増えていけばいいですね

>>79
ありがとうございます
サンダードラゴン三体(乙乙乙)も付けてくださって光栄です
これからどんどん羨ましくしていこう(?)と思います

>>80
いま来たよ!
更新遅れて申し訳ございませんでした
目安としては二、三日に一回更新というペースで書いていこうと思います

>>81
いま来たよ! 更新遅れて申し訳ございませんでした
いま来たよ! 更新遅れて申し訳ございませんでした
83 :1 [sage]:2010/06/20(日) 15:54:29.25 ID:AbvfNRQo

 引っ越しの際に持ち込んだ荷物はすべて、大型のショルダーバッグ(雑のう)に入れてある。
 ダルクはその中をゴソゴソ漁り、やがて灰色の小さな水筒を発掘した。
 居間に戻り、食器棚の中からガラスコップをひとつ手に取る。

「まだ引っ越したばかりだから、こんなのしかないけど」

 ダルクは指遊びしていたウィンの前にコップを置くと、水筒の中身をドボドボ注いだ。
 透き通った真っ青な液体が、コップの半分ほどを満たしたところで水筒を引く。
 ウィンがキョトンとしてそれを眺める。

「これ……」
「あ、この水筒まだ一回も使ってないから大丈夫、本当に大丈夫だから」
「そうじゃなくてこれ、なに?」
「え? ……ただのブルー・ポーションだけど」
「ブルー? はじめてみた」
「そうなの?」
「うん。レッド・ポーションなら飲んだことある」
「へぇレッド。オレはまだそっちは飲んだことないな」

 闇の世界では割とメジャーだった飲み物が、外の世界ではあまり流行ってないようだ。
 こういった見地からも双方の世界を比較するのは面白い。

 ウィンは両手でコップをつかみ少しだけ匂いを確かめると、「いただきます」とコップに口をつけた。
 初めてブルー・ポーションを飲む者はたいてい渋い顔をするのだが、ウィンの場合。

「おいし」

 一気飲み。
 薬味が強いせいでなかなかクセのある味なのだが、ウィンはためらいなく飲み干してしまった。

「もしかしてレッド・ポーションとやらに似た味なのか?」
「んーん。結構ちがう」
「よく飲めたな」
「おいしーよ。からだによさそうな味」
「そりゃ身体にはいいけど――」

 自分が初めて飲んだときのリアクションとはだいぶ違う。
 もしかしたらウィンは味音痴なのかもしれない。
 変わった子だからなんとなく味音痴そう。
84 :1 [sage]:2010/06/20(日) 15:58:33.72 ID:AbvfNRQo
 ウィンは「ごちそうさま」をしてまもなく、「あー」と思い出したように言った。

「ごめん、いま、あんまりお金ない」
「え?」
「しゅくはくりょうとポーション代」
「ああ」

 ダルクはウィンの意外な申し出に感心する。
 マイペースながら、ちゃんと宿を借りる立場を自覚する程度の常識はあるようだ。 
 ダルクはあらかじめ決めておいたことをすぐさま伝える。

「そんなことは気にしなくていい」
「え? でも……」
「その代わりタダなのは今回だけだからな」

 ただのブルーポーションが美味しいスープの代わりにはならないけど、エリアに受けた親切を施している気分は味わえた。
 ダルクはちょっと得意になる。困っている誰かを無償で助けるというのも悪くはない。

「ありがとう」

 微かに笑いかけるウィン。
 眠そうな目。
 と思った五秒後に、彼女は大きなあくびをみせた。

「ごめん。そろそろ寝ていいかな」

 ダルクとしてはまだもう少し異文化の違いについて話したかった気もするが、ウィンが目をこする様子をみてすぐに諦めた。
 これはだめだ、寝ぼけて適当なこと話されてもしょうがない。

「ああ、ベッドはそっちにあるから」
「え?」
「あ……ああ、まぁ、引っ越したばかりだから、まだ一度も使ってない、大丈夫」
「そうじゃなくて。わるいよ」
「え、悪いって?」
「わたしここで寝るよ」
「ここで?」

 テーブルにうつ伏せて寝るって? し、しかしそれは――

 刹那ダルクの脳裏に、エリアがテーブルで寝ている姿がフラッシュバックした。
 直感的にまずいと感じる。

「い、いいって、ベッドで寝ろよ」
「え? でも――」
「オレはまだ寝ないからいい。夜行性なんだよ」
「ふぅん……。じゃーオコトバにあまえようかな……」

 ずるずると席を立ち、示されたベッドの方へのろのろ向かうウィン。
 ほっとするダルク。
 今回はエリアのときとかなり勝手が違うが、少なくともあの時のような気まずさを招く展開だけは避けなければ。
85 :1 [sage]:2010/06/20(日) 15:59:50.05 ID:AbvfNRQo
 と思ったそばから、シュルルとヒモほどき衣服こする艶めかしい音。
 見ればおもむろにコートを脱ぎ出しているウィン!

「お、おい!」
「なに?」
「お、なにってお前、いきなり脱ぐな!」
「えっ。うわぎぬぐだけ」
「う、上着……?」

 冷静になって一瞬で考え直す。
 そう、その通り、そりゃ普通、コートを身に付けたままベッドには入らない。

 こんな些細なことで動転するのは、そういう意識の表れ。
 赤面ダルクのごまかすようなせき払い。

「プッチ」

 だしぬけにウィンが何か言った。
 コートの中から、ツバサのようなものがひらめく。
 ダルクは思わず「おわっ」と驚きの声を上げた。
 
 いつの間にか、ベッドの四隅に伸びる角柱の一本に、黄色いモンスターがまとわりついていた。
 手足はない。胴が太くて短いヘビに獣耳と両翼をつけただけといった感じ。
 一目でドラゴン族であることは分かったが、それにしてはずいぶん遠慮したサイズだ。
 全体的に黄色のカラーリングだが、クリクリした瞳だけはエメラルドのような緑色。

「この子、わたしの使い魔のプッチ」
「プッチ? なんて種類のモンスターなんだ?」
「ええっと……プチリュウ?」
「それは聞き返すなよ」

 プッチが主人のように唐突にアクビをする。
 予想以上に裂けるでかい口。しかしキバはない。
 迫力はあるがあまり強そうには――

「わたし寝るけど、もしわたしに変なコトしたら、プッチがつつくから」
「だ、誰もそんなこと――え? つつく?」
 
 噛みつくとか竜巻を起こすとかじゃなくて?
 見張り役にしてはちょっと頼りなくないか?

 初対面のオトコの家にホイホイあがりこんで寝泊りしようとするぐらいだから、相当の護身を準備していると思っていたが――。
 まぁ見かけじゃその実は判断できないし、仮にも霊使いの使い魔だから全幅の信頼を置けるなにかがあるんだろう。

 プチリュウは地なのか故意なのか、ひたすら無表情を貫いていた。
 そうしているとまぬけにも聡明にもみえる。あるいは目を開けたまま寝ているようにも。
86 :1 [sage]:2010/06/20(日) 16:02:36.95 ID:AbvfNRQo
 コートを払ったウィンのインナーは、薄手の白いブラウスだった。
 エリアのように首元の露出が多く、襟口の縁取りが黒いレースでつながって艶っぽい。
 着やせするタイプなのか、意外と胸の膨らみも想像の何割増しか大きい。
 見比べた感じだと、エリアよりも若干大きくみえ――

 ダルクは自分の頬をはつった。目が覚める。
 自己嫌悪タイム突入。

「どうしたの」
「なんでもない」

 ――ブーツを脱いでベッドに這い上がり、コートをベッドの柱に引っかけ、寝る準備は万端。
 最後にウィンは、後ろにポニーテールを結んでいる髪留め(ヒモリボン?)を外した。

 ほどかれた緑髪が、綺麗にサラサラとなびいた。
 セミロングの彼女は、先ほど会話していた人物とはまるで別人のようにみえた。

(か……可愛い……?)

 ふとすぐそばのプチリュウの視線に気づき、慌てて目を反らす。
 プチリュウはアクビしたあとピクリとも動かず、その双眸は何を考えてるのか極めて計りかねる。
 な、なるほど、これはこれで護身に適しているといえなくもない――。

「えへへ」

 ベッドに仰向けになるウィン。
 枕に頭をのせ、掛け布団を両手で肩元までひっぱりあげる。

「ベッドで寝るの、二日ぶり」
「そうなのか」
「それまで外で寝てたから」
「よく野宿なんてできるな」
「できるよ。あ、おふろはちゃんと入ってるから」
「そ、そんなことは別に気にしちゃいない」

 ウィンの眠そうな目がダルクをみつめる。
 決まりが悪くなって目を背けるダルク。
 その視線の先にはプッチの無機質な視線。無駄にやりづらい。

「あ」
「今度はなんだ」
「そういえば、まだ、名前聞いてない」
「そうだったか」
「うん」

 てっきり名乗ったものと思っていた。
 それにしてもまさに一晩過ごそうとするタイミングになって、初めて宿主の名を知るウィンのいい加減さにも脱帽だ。
 ダルクは自分の名を単に「ダルク」とだけ名乗った。
 なんとなく、闇霊使いであることは伏せておきたい気分だった。
87 :1 [sage]:2010/06/20(日) 16:03:31.51 ID:AbvfNRQo

「じゃあ、ダル君だね」
「? 違う違う、ダルクンじゃなくてダルク」
「やっぱりダル君だ」

 やっぱりよく分からない子だ。
 ダル君か。まぁ呼びやすくはあるだろうな。

「じゃあオレは出かけてくるから、大人しく寝とけよ」

 ダルクは背を向け、その場を去ろうとする。
 特に用事があったわけでもないが、プッチ君の凝視がどうにも気に障って仕方がない。

「ねぇ、ダル君。最後に」

 呼びとめる声に振り向く。
 眠そうな無表情、その奥に――いたずらっぽい笑み。
 
「わたし、さっき屋根の上にいたけど」
「ああ」
「ぱんつみた?」
「ぱんつ……?」

 その意味を数瞬後に理解し、ダルクは絶句する。
 直後、慌てて。必死に。全身全霊で。
 猛烈にミニスカートの奥には何も見えなかった旨を主張した。
 
「ふぅん……どっちもいーや」
「だから見てないって!!」
「ダル君」

 枕から顔だけこちらに向けたウィン。
 思わず言葉を飲み込むダルク。
 例の微笑。満面の笑み。


「おやすみ、ダル君」



 ――この晩、ダルクの胸の高鳴りは、長く長く尾を引いた。
 いくら深呼吸を繰り返しても、そう簡単には収まらなかった。
88 :1 [sage]:2010/06/20(日) 16:12:21.94 ID:AbvfNRQo
お付き合いいただきありがとうございます
今日はここまでです

ここで一つだけ皆さんに相談があります
あまり本編自体に関与することは控えたいのですが、自分で悩んで決め切れなかったので

ウィンの次はヒータを出そうと思うのですが、彼女の一人称はどうしたら良いでしょうか?
原作準拠(DSソフト)だと「ボク」で、「火霊使いヒータ」のカードにみるヒータも「ボク」「オレ」が自然と思うのですが、
火霊術「紅」なんかでみられる服装だと「アタシ」「私」の方がしっくりくると思います

結構印象も変わると思うので、気が向いた方だけ是非意見を聞かせてください
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 16:35:01.73 ID:8MWLSHAo
乙←サイバードラゴン

ヒータはすごい冷静なボクっこのイメージが強い。逆にアウスは強気勝気で男勝りで私が私がって委員長イメージがある。
それにしても次にやっとヒータか…
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 19:59:50.66 ID:h9wQ3yQo
いつもは「アタシ」なんだけど、興奮したりすると「オレ」になるキャラだと俺得
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/20(日) 21:37:10.93 ID:O7k.hXg0
いつもは「ボク」を使うけど、ちょっとだけ乙女モードになった場合は照れながら「私」を使うという電波を受信した。
そして1さん、毎度素晴らしい文章をありがとおおおおおおお!!
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/06/21(月) 06:03:25.93 ID:D3Wy0U.0
乙←ウィンのポニーテール
ヒータの一人称は「オレ」の勝気なイメージだなー。
僕ッ娘はむしろアウス。

まあ、あんまり気にせず好きな一人称にしてください。
自分のにならなくても楽しみなのは変わらないので。
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/21(月) 07:13:52.08 ID:Q.cwFwQo
毎回ニヤニヤさせてくれるな
ヒータは「アタシ」か「オレ」……かな
男勝りよりは姐御肌のほうがいいかも
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/23(水) 22:43:17.65 ID:Q8SnFIs0
ヒータは一人称「オレ」の姐御肌なイメージ
アウスは僕っ娘
95 :1 [sage]:2010/06/24(木) 09:16:26.42 ID:Sp0xu2SO
御意見ありがとうございます、思ったよりばらつきがあって個々の解釈の広さを感じました
あくまで参考にする程度なので、本編では恣意的に設定させていただきます

そして更新の方なんですが、今のリアル都合では2、3日に一回更新は厳しかったです
勝手なこと書いてすみません、今しばらくお待ち下さい
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/06/25(金) 03:02:57.93 ID:9Iw2S8w0
無理せず自分のペースで進めてくれていいですよん!
のんびりでも「完結」してくれるのが一番うれしいですし。
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/01(木) 15:26:03.37 ID:05FfTDMo
気がついたら一週間ですぞー
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/02(金) 03:23:54.09 ID:6STDa1w0
まだかなまだかなまだか(ry
99 :1 [sage]:2010/07/02(金) 04:00:38.81 ID:EazMI6so
生きてます。すみません。待って下さい
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/02(金) 08:57:52.80 ID:ODdl1Uw0
スランプかい? こまめに生存報告してくれれば気長に待つよ。
ただ、あんまり間を開けると執筆意欲が薄れてくるから気をつけてな。応援してるよ。
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/09(金) 03:22:08.88 ID:hjYD.yUo
グレファーたんハァハァ
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/10(土) 14:44:57.64 ID:pwRaMtwo
もう2週間か……
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/11(日) 22:22:53.48 ID:L1ZFS/Q0
続きを待ち続ける俺
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 00:02:13.66 ID:qSS/Yfgo
俺もいるぜ!
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 00:26:21.30 ID:0M4b3uY0
俺だっているぜ!!
106 :1 [sage]:2010/07/12(月) 00:51:23.06 ID:k/jVEt.o
俺にしたっているぜ!


リアルでいろいろありました。ごめんなさい
107 :1 [sage]:2010/07/12(月) 00:52:11.04 ID:k/jVEt.o

「ディー」

 家を出たダルクは、使い魔の一つ目コウモリを呼んだ。
 すぐさま軽い羽ばたきと共に、夜闇からD・ナポレオンが現れる。

 すでに日は落ち、夜の時間が流れ始めていた。
 すなわち闇の霊術を業とするダルクの活動時間。

「行こう」

 玄関を出て、いつもどおり戸締りをしようとしたところで――ピタリと動きを止める。
 すぐに向き直し、家のカギをかけないまま三段足場を降りていった。

 本来なら、魔鳥の頭蓋を象ったアタマでっかちの杖をかざし、結界を用いた強固な施錠をかけて出かける。 
 今晩は家の中に宿泊客がいる。
 まだ越したばかりなので施錠の原理は分からないが、少なくとも杖を用いなければロックの開閉は不可能だ。
 したがって外から家の出入り口を施錠すれば、中にいる者は監禁されてしまう。

 宿泊客の女の子――ウィンを監禁。
 ポニーテールでミニスカートの風霊使いを監禁……

「してどうするバカ!」

 使い魔がビクリと驚き、困惑したように飛び回る。
 ダルクはむずがゆい胸をおさえ、紅潮した顔で咳払いした。

 カギをかけないまま家に背を向け、林の方へ突き進む。
 ウィンにはちゃんと出かける旨を伝える書き置きを残してある。
 ダルクが戻るまでに起きても、書いてあることを理解してくれれば勝手に帰ってくれるだろう。

 ちなみにあとから着いてこられると困るので行き先は書かなかった。
 これは間違いないと思う。
108 :1 [sage]:2010/07/12(月) 01:01:26.95 ID:k/jVEt.o

 ウィンがこの家を出たら出たで、カギを下ろしていない我が家は空き巣の格好の標的になる。
 そんなリスクを負うくらいであれば最初から出かけなければ良かったが、ダルクには無理だった。

『ダル君』

 眠り際のウィンの甘い言葉がいつまでも耳にこびりつき、ダルクの純真を突き刺してくるのだ。
 常に眠そうな無表情が微笑したがために鮮烈なアクセントを伴ったウィンのあの横顔が、網膜に焼きついて離れないのだ。

 ダルクは独り立ちを決するまで、同じくらいの歳の異性とは一対一で話したことがない。
 従って異性、それもあんなに可愛い女の子のアクションに対しては、あまりにも免疫が無かった。
 ゆえにエリアの件は、本気で一人暮らしを挫折しかねないほどのショックがあった。

 だがウィンの場合は事情が違う。
 基本的にあちらから言い寄ってきて、こちらの応じ方にも割と喜んでくれたようだった。
 いうなればイイ感じの雰囲気が展開されていた(気がする)。

「い、いや」
 ウィンがこの家を出たら出たで、カギを下ろしていない我が家は空き巣の格好の標的になる。
 そんなリスクを負うくらいであれば最初から出かけなければ良かったが、ダルクには無理だった。

『ダル君』

 眠り際のウィンの甘い言葉がいつまでも耳にこびりつき、ダルクの純真を突き刺してくるのだ。
 常に眠そうな無表情が微笑したがために鮮烈なアクセントを伴ったウィンのあの横顔が、網膜に焼きついて離れないのだ。

 ダルクは独り立ちを決するまで、同じくらいの歳の異性とは一対一で話したことがない。
 従って異性、それもあんなに可愛い女の子のアクションに対しては、あまりにも免疫が無かった。
 ゆえにエリアの件は、本気で一人暮らしを挫折しかねないほどのショックがあった。

 だがウィンの場合は事情が違う。
 基本的にあちらから言い寄ってきて、こちらの応じ方にも割と喜んでくれたようだった。
 いうなればイイ感じの雰囲気が展開されていた(気がする)。

「い、いや」

 だまされてはいけない。
 別にダルクに対してだけ特別扱いというわけではないだろう。
 みたところウィンは居候慣れした根無し草だ。
 借り宿の主人の前では誰であろうと、いつもああやって甘やかに取り入ろうとするのだ。

 誰であろうとあの可愛い声と顔を以て甘えるのだ!
 あの女まさに魔女!!

「……行こう」

 しょせん勝手な思い込みなのは分かってる。
 が、ダルクはなんとなく残念な気持ちになり、なんとなく使い魔をそばへ呼んだ。
 肩に乗った感触が心強かった。
109 :1 [sage]:2010/07/12(月) 01:07:03.45 ID:k/jVEt.o
 さて、昨日は最寄りの水場の位置を把握したが(といっても例の件で行きづらいことこの上ないが)、今日は何をしようか。
 
 当初の予定では、まず引っ越しの荷下ろし作業を完遂させ、部屋内の整理整頓・模様替えなんかを終わらせるつもりだった。
 この移住先で完全に根を下ろすにふさわしい、住みやすい生活環境を完成させたかった。

 だが今日ばかりは無理だ、ウィンが居間で寝ている。
 いや無理なことはないが、どうにも気まずいことこの上なし。
 急に起き出して「ダル君、手伝おうか?」なんて言われたらかなわない。
 とにかく今日は家の中での作業はナシ! 決定事項である。

 では代わりに何をしようか。
 最初は何も考えていなかったダルクだったが、ウィンとの会話の中でヒントを得た。

『よく野宿なんてできるな』
『できるよ。あ、おふろはちゃんと入ってるから』

 そう、風呂。
 ウィンのいう風呂がどこを指しているのか、すぐにピンときた。
 バーニングブラッド。
 ここからやや離れた火山地帯に、誰もが無償で利用できる温泉があるのだ。
 かつて師匠と外界に出たとき一緒に連れていってもらったことがある。

 バーニングブラッドの位置はしっかり憶えていた。
 闇の世界の入り口は岸壁地帯の洞窟にあるが、そこからすぐのところだ。
 『異世界間の境界口が近いから、外界への実地実習に相応しい』という当時の経緯が記憶に残っている。
 
(せっかくだから、ひとっ風呂浴びてくるか)

 別にウィンの言葉を聞いて自分の身体が気になったわけではない。
 というのも、これは魔法使い族の特権のようなもので、その種族のほとんどは初歩的な術でいつでも五体を清めることができるのだ。
 エリアがそうしていたように沐浴などで魔翌力を研ぎ澄ますことはあっても、別に生活の必須行為ということでもない。
 だからダルクがウィンの入浴状況を「気にしちゃいない」と言ったのもあながちウソではなかった。

 まぁ当然ながら清めの術を習得するまでは入浴の習慣が根付いているわけで、その名残りを通じて気にかける女性魔法使いも多いようだが。
110 :1 [sage]:2010/07/12(月) 01:10:11.01 ID:k/jVEt.o
 ――

 天頂にのぼった満月は、少しばかり欠けている。
 その月形が熱気でわずかに揺らめいた。

「……やっとここまで着いたか」

 ダルクとその使い魔は、温泉を有する火山地帯――バーニングブラッドのふもとに到着していた。 
 近々感じていた火山特有の微振動も、はっきり足裏に響くようになった。
 歩いてみるとなかなか遠い距離だったが、湯にさえ浸かればこれまでの疲労もすぐに癒えることだろう。

 ここに至るまでの林道で何度か人外のモンスターに遭遇したが、闇に溶け込んだダルクに気付くほどの手合いではなかった。
 もっとも、いきなり無差別に襲い掛かかってくるほど血の気の多いモンスター達が、この近辺を徘徊しているとも考えたくなかったが。

 外の世界では何が起こるか分からない。
 周囲には常に細心の注意を。肝に銘じていることだ。ダルクに死角はない。

「ディー、風呂までもうちょっとだ」

 使い魔を従え、夜の山道を登り始める。
 飾り気もなにもあったもんじゃない、目に映る全てが殺風景な火岩帯だ。
 そこのボロの立て札には、矢印とともにかすれた字で「この先 温泉」とあった。

 昔の記憶をたどれば、まだ結構山を登らなければならない。
 が、その努力に報いるだけのものが待っていることも分かっていた。

「はぁ……はぁ……」

 自前の杖で地面を突きながら、一歩一歩土を踏みならしていく。
 その顔はすでに汗だく。
 コートも早くから脱ぎ放ち、腰に巻きつけている。
 黒シャツ姿で汗を流しているダルクの姿は、さながらかけだし大工のよう。

 まさかウィンは、あの身体でこのキツい傾斜地を往復したというのか。
 いや、おそらく彼女は風霊を御してラクラク飛んで行ったのだ。
 嗚呼うらやましい。いまなら風霊使いに転向してもいい。

「はっ……はっ……」

 ウィンも外にいたときくしゃみをしていたように、この時節、夜はとことん冷える。
 はずだが、いまはそんな世俗の常識を突き破った場所にいる。
 ダルクの足元地中深くには、グツグツに煮えたぎったマグマがうごめいているのだ。
 必然地表の気温も、まるで熱帯夜のようにじっとり蒸してくる。

「もう……すぐだ……頑張れディー……」

 ちなみに使い魔のディーは先ほどからダルクの肩に乗りっぱなしで、別に頑張ってはいない。
111 :1 [sage]:2010/07/12(月) 01:14:27.83 ID:k/jVEt.o
「おう、少年、頑張れよ!」

 突然すれ違いざまに声をかけられ、驚いて顔を上げるダルク。
 人型モンスターの屈強な背中が、ダルクの眼前から離れていくところだった。
 
 あぁそうか、闇紛れの術が切れていたのか。
 ダルクは息を切らしながら額を拭い直す。
 これだけコンディションが乱れていれば、術の効果も持続するわけがない。

 それにしても久しぶりに人に声をかけられた。
 外界に来てからエリア・ウィンに続いて三人目だ。
 風呂上りだろうか。こんな時間でも来客は自分だけではないようだ。
 疲弊している中とっさのことだったからつい返答できなかったが、悪かっただろうか。
 
 いま一度振り返ると、思わず竦むような急勾配の下り坂が闇の中に伸びていた。
 我ながらここまで登ってきた自分を大いに称えたい。
 そして、その坂の視界が捉えられるギリギリの位置に、先ほど声をかけてくれた男の後ろ姿が小さく見えた。

 あの盛り上がった肩の筋肉。
 身体そのもので威圧する迫力。
 戦士族のたくましさは、外界でも褪せることはないようだ。

 ダルク自身、結局剣ではなく杖の道を取ったが、今まで戦士に憧れたことなら何度かある。
 自分もおとぎ話の勇者のように大剣を振り回せたらと夢見て、実際にその機会を得たこともある。
 筋肉痛は一週間続いた。とてもじゃないが、魔法使いの腕力では遠く及ばぬ境地だった。

 だが今は――今の自分は!
 せめて入浴場までたどりつく程度の戦士ではありたい!

「……ハァ……ハァ……ヒィ……フゥ……ホァー……」

 果たしてこの坂道はこんなに長かっただろうか!?
 右足一歩、左足一歩がしんどい。
 汗がポトポト垂れ落ちて、それが足元の砂利に一瞬にして溶けこむ光景も見飽きた。

 杖に寄りかかり、体力を削る思いで行き先を確認する。
 あまり遠くない地点で何かが白く霞んでいた。
 湯気だ!

「あ……あと半合ぐらいか……よーし……」

 戦士ダルクは、鉛と化した両足を再び前へと引きずり始めた。
112 :1(ストック終) [sage]:2010/07/12(月) 01:18:17.36 ID:k/jVEt.o
「おー頑張れよー」
「グルルル」
「ウホッウホッ」

 道中、様々なモンスターとすれ違った。
 中には一瞥しただけで通り過ぎるものもあったが、大抵のモンスターは友好的に声を投げかけてくれた。

 前にここに来たとき師から聞いた話を思い出す。
 この火山に点在する温泉は、ヘルフレイムエンペラーの加護がある限り永久公共財産なのだとか。

 つまりこの地のゆかりに基づき、温泉はみんなのもの。決して独占したり奪い合ってはならないということ。
 ひいて、他人の迷惑になる行為全般、盗みや性犯罪なども原則禁止。
 そういった暗黙のルールが存在するため、血の気が多いと言われる炎属性の独壇場ながら、バーニングブラッドでは驚くべき秩序が保たれている。

 ここでは属性・種族などいっさい関係なく、誰しもが気軽に温泉を利用できる。
 全てのモンスターのるつぼ・バーニングブラッド。
 理想の調和満ちるなんとも素晴らしい区域ではないか。

「場所が場所じゃなければな……」

 ダルクの体力はすでに黄信号から赤信号へ変色しようとしていた。

 全身汗まみれのダルクがゆく。
 足が杖と同じ太さの棒になりきり、もはや三本脚でA級登山を繰り広げるダルクがゆく!

 パサパサに乾燥した黒い頭髪。 
 熱気を出し入れし続けたパクパクの口。
 汗塩を吸いつくしたシャツの重み。

「ハァ……ハァ……うぅ……ぐぅッ!」

 長旅を経た数々の痕跡の果てに――



「つ、着いたっ!」

 ダルク、ついに入浴地帯に到着。
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 01:24:15.89 ID:0M4b3uY0
乙! おかえり!
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 02:13:21.67 ID:8FsxHW20
更新きたああああああ!
乙で〜す!火山地帯・・・ヒータですね。わかります。
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 16:37:04.77 ID:cThdxCY0
待ってましたあああああああああ!!
そして乙ww 次も頑張ってください
ヒータの登場シーンが気になるww
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/12(月) 23:45:49.25 ID:Ujr7NK6o
乙←神炎皇ウリア
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/16(金) 23:26:20.88 ID:8ofkIGA0
次の投下はいつかな?まぁいつでも準備は万端だけどね!
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/17(土) 00:56:23.25 ID:b9jvNUso
そういえば新しいエリア?が出たけどどうなる?
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/07/17(土) 04:50:34.02 ID:So5zTkA0
>>118 これの事か?
http://p.pita.st/?ldavrjpz
120 :1 [sage]:2010/07/18(日) 03:39:09.06 ID:q4.mp.SO
生きてます。すみません。待って下さい

>>118 >>119
うわすごいどうしよう
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/18(日) 07:29:55.60 ID:YgYgujYo
全然待つよ
あと全体図が出たわけではないがエリアに関連してウィンのリメイクらしき姿が映ってるモンスターも確認
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/25(日) 20:19:32.09 ID:Szf/tpEo
あっという間に一週間♪
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/26(月) 02:33:23.42 ID:G8tAQoUo
せかすなってw
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/28(水) 17:58:54.95 ID:3K0zE3Uo
>>123
一応この板には
「書く気があるなら一週間ごとに生存報告する」
みたいなルールがあった気がする
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/07/28(水) 19:43:01.45 ID:C0cvdRwo
「作者の生存報告が1ヶ月無いと落とされる」じゃなかったっけ?
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/07/31(土) 23:44:05.60 ID:4OvPQfk0
新しいウィンも出た
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/08/03(火) 22:51:51.25 ID:BR6mvqc0
マダカナマダカナ
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/05(木) 01:39:46.29 ID:fJZZDO6o
http://drillzip.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/src/gue15677.jpg


ダルクの恋人って言ったらライナのイメージだけどダルクには渡したくないな
真面目に模写してたら魔の手が入った
そして光闇の憑依装着まだかよ
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/05(木) 02:26:30.60 ID:3LxNO0Q0
>>128
乙 普通にうまいな

だがライナがダルクの恋人というのは戴けないな
確かに光と闇は対比も白と黒で美しいし、実際にカードゲームでの強さも申し分ないがダルクの恋人はウィンだろう


















ダムルグ的な意味で(これが言いたかっただけです、スレチすいません)
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/05(木) 13:24:35.01 ID:UKWwV0o0
やたら幅が長いレスが来てたんで一瞬期待してしまった
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/06(金) 02:09:56.39 ID:paBy...0
そろそろ三週間か……
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/07(土) 13:35:23.29 ID:JWnVK0.0
いきなりリメイクしたんで戸惑ってるんだろう
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/10(火) 00:47:24.98 ID:ik/4iio0
・・・・・・・・
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/10(火) 02:01:19.51 ID:Ke0KqMAO
ま〜だ〜か〜な〜(・ω・;)
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/10(火) 09:33:43.31 ID:PsXidsAO
ギコ君かわいい
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/10(火) 21:15:09.28 ID:UjyVcIco
最後に文章投下されてから約一ヶ月たつな
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/12(木) 00:15:05.78 ID:lt7Oohk0
生存報告すらないな。本気で心配になってくるんだが
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 00:51:50.44 ID:bNgWYMU0
あと1週間もしないうちに落とされるのか・・・・
今のうちにいつでも読めるようにメモ帳に内容保存しておこうかな
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 00:56:13.48 ID:/a20gIAO
って言うかめんどくさくなっちゃったんじゃねえの
140 :1 [sage]:2010/08/12(木) 01:12:43.68 ID:yPoNXgSO
生きてます。書く気もあります
故あって自宅のパソコンが使えない状況です
いつまでも待たせてすみません
今月中には必ず更新します。どうかいましばらく……
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 01:19:14.95 ID:AnqxscAO
キャラの性格がイラスト通りで安心した
支援
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 14:48:53.23 ID:8lTaFNIo
書く気もありませんに見えてあせった
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 20:36:19.06 ID:SEi.Ls20
こまめに生存報告してくれれば気長に待つよ
がんばって
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/12(木) 22:12:07.45 ID:bNgWYMU0
とりあえず生きてて良かった
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/15(日) 10:48:46.67 ID:dnrdpYAO
早くヒータたんみたいお
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/19(木) 07:08:23.70 ID:RoBYxzE0
おれもだお >>1はまだかお
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/23(月) 14:03:32.76 ID:IdNlsWE0
 
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/24(火) 20:56:05.48 ID:lRPna7Q0
続き大期待
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/26(木) 16:59:22.67 ID:PfjvsJk0
クランやピケルを妹キャラとして登場させるのもありか?
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 18:57:07.29 ID:B3jzePg0
>>149
それだけは絶対にない、「霊使い」SSというそもそもの前提が崩れてしまう
カレーにシチューのルーを入れるようなもんだ
お互いに喰い合って酷いことになる
ソースはオレ、昔書いてたSSが一気に駄作になった
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/27(金) 01:56:38.38 ID:L.gSnmoo
そして伝説へ・・・
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/29(日) 04:22:42.64 ID:snk7GSE0
もう八月終わるぞ……
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 06:30:36.87 ID:mKyxl.AO
ということはもうすぐくるということだ
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/29(日) 17:52:14.07 ID:PuY39MA0
>>150駄作でもいいから紹介してくり
155 :150 [sage]:2010/08/30(月) 04:16:06.34 ID:YiDWrqw0
>>154
正直言って黒歴史なんだ
だから紹介は勘弁してくれ……

それにこの話題はスレチになるしやめようぜ

あと、出しゃばって変な流れ作って悪かった、スマン>>1
それから矛盾してるようだがこのスレは>>1のスレ、>>1がそういう展開を書くというなら俺は何も言わない
ただ、軽はずみに展開を決めると痛い目にあうということを経験者の立場から知らせたかっただけなんだ、ごめんな

最後に、もう八月も終わりだが自身の発言を気に病むことはない
こまめに生存報告してくれればいつまでも俺は待つよ、きっと皆も同じ気持ちだと思う
長文スマン
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/30(月) 04:57:27.68 ID:KjWIDlwo
ぅうう"ああぁあ"ブリザードプリンセスゥ様ぁぁ"ぁ"!!それはっ、それはお尻にはい"りまぜん"ん"ん!!!
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/31(火) 08:27:13.46 ID:UL8hxXko
>>156
な、なにが起きたんだ……
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/31(火) 08:34:10.92 ID:mDINL.Qo
コンマイは霊使い中心のアニメをさっさと作るべき
159 :1 [sage]:2010/08/31(火) 15:32:48.15 ID:RhKM0Mso
バイトきついです 自分のパソコン欲しいです
毎日気にかけて今月中には絶対更新するつもりでしたが無理でした
いましばらくお待ちください 嘘ついてすみません
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/08/31(火) 17:21:14.92 ID:ivckGBI0
ま、頑張って
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/31(火) 21:27:09.44 ID:RF.JO2AO
>>159
そんな 焦る必要ないって。
こっちは 気長に待ってるさ(-.-)zzZ
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/01(水) 23:42:21.38 ID:Zz4ioUs0
>>155なんかごめん
もう何も言うまい
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/05(日) 16:44:04.24 ID:i0o77xUo
>>156
俺にも尻貸せよ
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/06(月) 21:31:33.74 ID:7FumwwE0
ひとつだけ言っておく
いつまでも待ってるぞ!
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 01:28:39.68 ID:5PVhcp.0
応援してるぞ!
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/08(水) 19:23:10.84 ID:oaJLQZ.0
ライナ早く見たいな〜
167 :1 [sage]:2010/09/10(金) 16:55:49.22 ID:fnPPJpYo
応援ありがとうございます 救われてます
少ないですが数ヶ月ぶりに投下させていただきます……
168 :1 [sage]:2010/09/10(金) 16:57:13.46 ID:fnPPJpYo
 月のぼる夜半もたけなわ。
 湯気に白んだ登山道に、黒髪の少年が一人。

 上半身は汗だくシャツ一枚。腰には乱雑に巻きつけた上着のコート。
 さながらかけだし大工を彷彿させる姿で老人のように杖をつきながら、一歩一歩ノロノロと進む――。
 そんな霊術使いが、とある活火山の中腹に到達したところだった。
 長きにわたる慣れない登山を経て、ようやく目的地の入浴地帯へ足を踏み入れたのだった。

「おいディー着いたぞ……起きろ……」

 ダルクは、もはや自分の右肩と一体化していた使い魔を揺り動かした。
 黒一色の一つ目コウモリは、うだるような蒸し暑さに飛び回る気力も萎え果てていたようだ。
 しかしもともと好奇心旺盛なディーは、目的地への到着を知るや勢いをつけて主人の肩から飛び立った。

 夜闇の中で活発になる習性はコウモリには違いないが、ディーはダルクが召喚した創造生物なので厳密にはコウモリではない。
 だから今まで一度も湯に浸からせたことはなくても、入浴も大丈夫なのだ。きっとたぶん。
  
「待て待て、そうはしゃぐな」

 言うダルクも、内なる興奮を隠しきれない。
 登山道に突如ひらけた解放感ある平地。
 一帯はひときわ薄白い湯けむりに霞んでいた。
 岩垣を寄せたり、一枚岩を砕いたりして設けられた露天風呂の数々。
 温泉がコポコポ沸きだす音、温水がザーザー流れる音――活火山ならではの地鳴りも、ここに至っては心地よく感じる。
 
「圧巻だな……」

 また夜も遅いというのに、予想以上に他の利用者も多かった。
 人型、獣型、異形のモンスター、みな分け隔てなく入浴を楽しんでいた。
 楽しげな笑い声、鳴き声や唄声、水しぶきの音が絶え間なく響きわたっている。
 
 自分も早くあの渦中に飛び込みたい。
 登山だけでなく、ここ数日で蓄積した見えない疲れごと、この汗水とともに洗い流したい。

「ええっとまずは……確か……」

 以前この地に師匠と訪れたときは、実際にハダカになって湯船に浸かったわけではなかった。
 外の世界がどのようなものか実物を示されつつ解説してもらっただけで、肝心の入浴は軽く髪を流しただけだった。
 なので実際に入浴するのもこれが初体験。ダルクが今回とくに舞い上がる理由の一つだ。

「えーと……どうするんだったかな……」

 それはそうと、ここでの風呂の入り方もきちんと教わったはずだが。
 まず脱衣を何とかするには――

 周囲の人型モンスターは全員男。
 惜しげもなく屈強な裸体を見せつけるようにうろついている。
 気が滅入っている場合ではない、彼らの衣服と所持品はどこに。
 湯船間を移動する彼らを注意して見ると、みな一様に何かを――。

「……そうだ思い出したぞっ。ディー、ちょっと人を探してきてくれ」
169 :1 [sage]:2010/09/10(金) 16:59:08.97 ID:fnPPJpYo
 ディーのおかげで壺魔人はすぐに見つかった。
 彼は露天風呂地帯の中心部に掘削された、浅い洞穴の中にいた。
 
 薄暗い穴の中は、床から天井棚にかけてあらゆる壺がギッシリ敷き詰められていた。
 入ってすぐ正面にカウンターがあり、まるで壺専門の道具屋といったところ。
 
 物音に気付いた店主が振り向く。

『オっと珍しいお客さんだネ』

 ターバンを巻いた一つ目の顔。
 にやけた顔模様の大きな壺から、両腕と首だけ飛び出ている炎族モンスター。
 一見して禍々しいナリだが、その高めの声調には気さくな印象を受けた。

「こ、ここには初めて入浴するのだが」

 師匠の話によると、この温泉の利用者はみんな彼から借りた壺の中に衣類所持品を管理しているらしい。
 その壺は頑丈でそうそう割れず、フタをすれば水一滴通さない。
 何より重宝される理由は、耐水・耐熱性に優れること。ここの環境に最も適した洗濯カゴなのだ。
 なんでもこの壺魔人は、誰彼かまわず壺を貸してくれるらしいのだが――。

『フーン、ボクちゃん名前ワ?』
「ダルク」
『ココのルールは知ってル? ケンカしないだの、悪さしないだのノ』
「それは知っている」
『ジャ問題ないネー。ルールはちゃんと守ってネー』
「ああ、もちろん」
『ジャちょっと待っててネ。ソノ持ち物入れるサイズの壺持ってくるカラ』
「頼む」

 話がサクサク進んで助かる。
 一見さんということで少し緊張していたが、特に構える必要もなかったようだ。

『ハイヨ』

 カウンターにドシンと置かれた黒っぽい壺。
 表面に浮き出たにこやかな顔模様は、さしずめ壺魔人のトレードマークといったところか。不細工なのがまたイイ。

 そ、それにしても重いのだろうか。
 取っ手を握ろうとしたそのとき、まるで予期せぬ壺魔人の声が落ちてきた。

『ヒト壺500DPネ』
「えっ? 500?」

 DP。デュエルポイント。お金。この世界のどこでも使える通貨。
 硬貨と紙幣と二種類あるが、特別な素材と複雑な魔法を用いて量産されるため、偽造はきわめて困難――。て。

「か、金を取るのか!?」

 胸元がヒュッと透いた。予想外の事態。
 入浴そのものは無料、しかし壺の代金は別? そ、それはまずい――。
170 :1 [sage]:2010/09/10(金) 17:01:34.89 ID:fnPPJpYo
 ダルクの少ない所持金から500DPが失われるのは相当の痛手だった。
 壺無しで入浴するか? でも間違いなく荷物がかさばるし、濡れて困るものも多いし――。

『ナイなら今日は残念でしたってことデー』
「くっ……うう……」

 師匠の話の印象から、てっきり無料で借り受けられるものと思い込んでいた。
 まさか金を取るなんて……これは公共財産であるバーニングブラッドの理念に反するのでは? しないか。困った。

『ックックック』
「!?」

 次の瞬間、壺魔人のおどけるような仕草とともに大声量の種明かし。

『ターダーダーヨッ! タダ!!』
「な、なに」

 壺魔人は、自身が入っている壺の表面模様のように高笑いした。

『イヤー初めての人脅かすの楽しくてネ、500DPはジョーダン、ごめんネ』
「……な、なんだびっくりしたぞ!」

 酷い冗談だ、やっぱり見たままの禍々しい性格!
 まぁ、ずっとこんな稼業(ボランティア?)に勤しんでいればヒマにもなるだろうが、まったく人が悪い。
 初めて訪れる者への洗礼なのだろうが、この手の冗談はやられる側はたまらない。とかく外の世界は怖いところだ。

 しかし無料で壺を借りられることには安堵。なんといってもダルクは金欠なのだ。
 危うくウィンから宿泊料をせびりかねないところだった。

171 :1(ストック終) [sage]:2010/09/10(金) 17:04:57.13 ID:fnPPJpYo

「と、とにかく壺は借りるぞ」
『ナくさないでネ、ホントに取るヨ、500DP』
「ああ、分かってる。ではまた」

 余計疲労が溜まった気がする。さっさと湯に浸かろう。

『サイゴに君さ、霊術使いとかいうヤツだよネ?』

 洞穴を出ようとするダルクを壺魔人が呼び止めた。
 霊術という言葉に思わず振り返るダルク。

「そうだが……なぜ分かった?」
『ア、やっぱリ? ドウにも似た格好の常連さんがいるもんでネ』
「似た?」
『イルヨ? ココにさっき来たのヨ、火霊使いのヒト』
「なに」
『ヒトリでお風呂入っても退屈でショ。ヨかったら話しかけてみれバ?』
「それは……」

 火霊使いか!
 興味引かれる話。是非会ってみたい。

 ――しかしすぐに抵抗を覚える。
 こちら側にいる霊術使いは、エリアといいウィンといい、女の子ばかりだった。
 ということは火霊使いも例に漏れず――

『アア、大丈夫、男だヨ! オトコノコだヨ!』
「なに、本当か」
『ウン、外見も口調も男のコ!』
「よかった、それなら……」

 一気に不安が晴れる。男同士なら間違いなく話も合うだろう。
 ここに来てから免疫のない女の子ばかり相手にして、いささか肩身が狭くなっていたところだ。
 そうだ、同性の友人が一人くらい居てもいいじゃないか。
 もしかしたら互いを高めあうライバルになれるかもしれない。 

 ライバル――外の世界に出るまで、ダルクが憧れていたものの一つだった。

『ウン、場所、教えてアゲル、いつも同じ温泉のお風呂入ってるカラ』
「それはありがたい、助かる」
『ウン、アノコに会ったらヨロシクネ』

 ここまで気回ししてくれるとはなんて親切な主人なんだ。
 冗談を言われたときは少々腹が立ったが、それも帳消しだな。
 
「ディー、行くぞっ。お前にも友人ができるかもしれない」

 ダルクは場所を教えてもらうと、礼もそこそこ足早に洞穴を出ていった。
 あとは、今にも弾け出しそうな大笑いをこらえる壺魔人が残るだけだった。
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 18:12:13.00 ID:JrD.7BEo
ふ、ふっかつきたーーーーーーー!!
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/10(金) 19:04:14.19 ID:JB5mlDco
早々にフラグ立てたよwwwwwwww
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/10(金) 22:37:37.56 ID:5GIsgro0
乙!
夏も終わって忙しくなってるだろうし、あんまり焦らず体調に気をつけて頑張ってな!
気長に待ってるから!
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/10(金) 23:12:00.66 ID:RfjLsp.o
キテターーー!!
いよいよヒータの登場に僕のブレイズキャノンもクレイジーファイアー寸前です
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 07:24:20.85 ID:D2C3pAAO
壺魔神さん乙です。
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 11:27:58.47 ID:DIg7qlU0
更新きてたああああああ!
ダルク・・・早々に殴られるフラグをたてやがってwwwwww
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 12:08:26.79 ID:/K2X4Awo
更新キテター

ウィンに金借りるとか笑えるwwwwww
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/11(土) 19:33:27.65 ID:ZPc9PUw0
ヒータが男と間違えられてるしw
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:40:55.19 ID:NkJU9HAo
人から伝え聞いた言葉が真実であるとは限らない
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 20:36:06.26 ID:DZUuPq2o
壺魔人イイ性格してるなwwww
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/14(火) 10:11:34.92 ID:99zrJNwo
ウン、外見も口調も男のコ!
ウン、アノコに会ったらヨロシクネ

あたりに悪意を感じるwwwwwwww
183 :1 [sage saga]:2010/09/15(水) 17:04:05.69 ID:T3JLIYMo
短い投下でも感想いっぱいあって嬉しいです
少ないですが更新します
184 :1 [sage saga]:2010/09/15(水) 17:04:36.31 ID:T3JLIYMo

 真夜中の露天風呂。
 湯けむりにまみれて月光は淡く、天上は白灰色に霞んではいるが、やはり闇夜のとばりはどこまでも深い。
 天然の山奥となれば何か光源がなければ真っ暗で何も見えないものだが、湯気が目視できる以上はちゃんと仕掛けがある。

 バーニングブラッドに転がる岩々の多くには、固結したマグマが網目のように赤々と露出している。
 それが鈍い光を放って周囲一面に広がっているため、天然の照明代わりとなっているのだ。
 ダルクは夜目が利くのでこれが無くとも平気だが、他のモンスターたちにとっては大助かりだろう。
 それに闇をじんわり照らし出す幽玄さは、火山環境の雰囲気によく似合い、重厚な自然美を構成していた。
 これも夜間のバーニングブラッドの魅力なのかもしれない。

 ――ところで、この赤橙色の裂け目はやはり熱いのだろうか。
 まぁ、冷え固まっているとはいえ発光しているのだ、熱くないはずはない。

 気になるなら触って確かめてみようか?
 いやいや、やけどのリスクを負うほど好奇心が達者な奴もいないだろう。

「……あぢっ!」

 ダルクはとっさに人差し指を握り抑えた。
 ほらみろやっぱり熱かったじゃないか。
 あっなんだディーその目は馬鹿にしてるのか許さんぞ。 

 
 ダルクは入浴地帯から少し外れた岩陰にいた。
 人目の届かぬところでレッツ脱衣。

 本来なら脱衣所代わりの洞穴もあったかもしれないが、あの屈強な戦士たちに混じって服を脱ぐというのはとことん気が引けた。
 年の差もあるだろうし、何よりこんなMOYASHIボディを見られたくなかった。
 また今いるこの場所が、壺魔人が教えてくれた温泉に続いているというのもあった。
 例の火霊使い、早く会いに行かないと風呂からあがってしまうかもしれない。
 
「うわーシャツもズボンも汗まみれだ……」

 洗濯・着替えのことを難儀しつつ、脱いだものを片端から壺に突っ込む。

 その折で、壺の底にタオルが二枚あるのに気づく。
 ははあ、一枚は入浴時用、もう一枚は入浴後に体をふきとる用か。
 壺魔人風味の絵柄だけ気になるが、タオルとして使うには問題なさそう。

 ここまで用意してもらって無料とはなんと良心的、利用客が絶えない訳だ。
 ついでに今更だが、借りた壺はウソみたいに軽かった。
 そのくせ触れた際の手ごたえから、ヤケに頑丈であることが分かる。
 加えて、最後の荷物を詰めても壺の中はまだスペースがあった。
 思ったより中の容量は大きいようだ。ディーはもちろん、プッチ君、ギコ君まで簡単に入りそう。

 最後にダルクは壺にフタをする。
 フタの取り外しも容易で、そのくせしっかり固定されるので気密性バツグン。
 針金を伸ばした取っ手も握りやすく、持ち運びも楽々。
 ううむ本当に色々とお得な壺だ。お金が貯まったら買いたいぐらいだ。
185 :1 [sage saga]:2010/09/15(水) 17:05:37.71 ID:T3JLIYMo
 ダルクの格好。
 一足のブーツ(入浴前に脱ぐ)、両腕・両足首に幾重にも巻かれた包帯、両手首に千切れた手錠。
 片手に魔鳥の頭蓋を模した愛用の杖、他方にすべての荷物を詰め込んだ壺魔人マークの壺。

 あとは全裸で、タオル一枚腰に巻いた状態だった。
 奇妙な風体なのは重々承知、こんなんで街を出歩いたら変質者確定だ。
 そうでなくても人型モンスターではダントツで戦士族が多いこの環境では、魔法使い族の少年など浮いてしまうこと必至だ。
 ああせめて彼らには及ばずとも、少しは見栄えのいい体つきを持っていれば。

「はぁ……」

 正味な話、ダルクの肌身の体格は普通の痩せっ子のもので、特にコンプレックスを抱くほどでもなかった。
 だが日光を浴びないせいでひたすら白く、また脂肪太りが皆無のスラリとした身体を、師匠に茶化されたことがある。
 そのとき深いショックを受けたダルクは、以降は誰かに素肌を見せることに抵抗を持つようになった。

「オレはれっきとした男だ! ディー、行くぞ! オレは男!!」

 だが今回は事情が違う。
 いつまでも劣等感に縮こまっているわけにはいかない。

 疑問符を浮かべる使い魔をよそに、ダルクはいきり立って足を踏み出した。
 これから会いにいく火霊使いもまた、自分と同じ魔法使い族。
 壺魔人が「オトコノコ」と呼んでいたことから、年も自分とそう違わないだろう。

 「火」の本質と気性、また男性ということから、彼はおそらく自分よりは筋肉質であることが考えられる。 
 しかし将来ライバルになるかもしれない相手に、体格の差ぐらいで気おくれしてはいられない。
 最初の印象は大切だ、弱みを一切みせることなく堂々と挨拶してやろう――。

「……ん?」

 瞬間、ほんのわずか足場が崩れ落ちる感触。
 なにげなく足元に目を落とす。
 急傾斜の断崖の奈落に、パラパラと砂利が落ちていくところだった。
 ダルクは心臓が飛び跳ねる思いで後ずさった。

「あ、あ、あぶ……」

 すぐに岩壁に当たる背中。
 ここにきて初めて道の狭さを知る。いや、そもそもここは道なのか?
 周囲に漂う湯気のせいでまったく気付かなかった。いつの間にこんなガケっぷちに――。

「み、道を間違えたか?」

 そんなはずはない。
 壺魔人に教えてもらった通りの目印は確認したし、これから行く先にも湯気が立ち上っている。
 しかしそうなると妙だ。火霊使いはわざわざこんな険しいルートを進んだことになる。

「ディー、念のため確認しに行ってくれ」

 使い魔はすぐさま了解の意をみせると、元気に岩壁の奥へ飛び立っていった。
186 :1 [sage saga]:2010/09/15(水) 17:08:35.98 ID:T3JLIYMo
 残されたダルクは、杖の先で注意深く足場を探った。
 先に進むにつれ、どんどん道幅が狭くなっている。
 人型モンスターが普通に通ろうとするなら、大柄な体格ではまず無理。
 火霊使いが自分と同じく小柄らしいことを知り、いくばくか安堵するダルク。

 切り立った斜面の底には、岩々の小さな裂け目――天然の赤い照明が遠くちらついていた。
 が、背景にはその明かりをも飲み込むかのような常闇の深淵が、途方もない存在感で広がっている。
 もし滑落したらタダでは済まないだろう。ダルクのような例外を除いては。

「……あぁ、でもタオル一枚じゃまずいな……」

 そのとき、探りを終えた使い魔がパタパタと舞い戻ってきた。
 思いのほか早い帰還だ。まぁ飛ぶ分に関してはそう遠くないのだろう。

「どうだった?」

 ディーの仕草によると、やはり火霊使いはこの先にいるらしい。
 幸いまだ入浴中だそうだ。
 小話できる時間はあるかもしれない。

「よし、いると分かれば急ぐのみ」

 ダルクは杖で足元を確かめつつ、増して急ぎ気味にガケ道を進んでいった。

 それにしても先刻も疑問に思ったが、彼は何だってこんな険しい道を進む必要があるのだろう。
 壺魔人の洞穴を出たところにだって、山ほど温泉が点在してるというのに。

 真っ先に思いついた理由は、自分と同じく自らの体格にコンプレックスを抱いているから。
 誰かに見られたくないがために、あえて人気の少ない場所を選んで入浴。ごく自然な着想。

 ――でもないな。
 壺魔人は彼のことを『常連』と言っていた。
 何度もこの山道を往復していて、逞しい体つきが得られないはずはない。
 
 単に裸体を見られるのが恥ずかしいだけ?
 まだ若年だから戦士族に混じるのは気が引ける? 
 どれも今まで知りえてきた炎属性モンスターの気性にそぐわないが――。

 じゃあ他に考えられる理由は。
 この先に特別な秘湯でもあるのか? 使い魔の都合?
 ま、まさか日頃から崖っぷちを渡ることで鍛錬の一環としているのか?
 それが一番しっくりくるぞ……。

「……少し自信なくなってきたな……」

 心身ともに熟達した火霊使いを想像し、これまでの意気込みに陰りが差す。
 そんな心象を表現するかのように、道幅はいよいよ狭くなっていった。
187 :1(ストック終) [sage saga]:2010/09/15(水) 17:14:02.96 ID:T3JLIYMo
 ――壺魔人がいる温泉地帯のおよそ裏方面。
 表とはうって変わって閑けさが広がっており、温泉の数も指折るほどしかない。
 そんな取り残されたような露天温泉の一隅に、唯一の先客がいた。
 
 特にこだわりのなさそうな髪型で、灼熱のような赤を帯びた頭髪。
 見るからに負けん気の強そうな凛々しい面構え。
 その凛々しい面構えで、自分の胸元へと目を向けていた『彼女』は、

「ふー」

 不意に視線を中空へ反らすと、短い溜め息を漏らした。
 
「高望みはしねーんだけどな」

 彼女は、身体発育の乏しい女性にありがちな一抹の悩みを抱えていた。
 口に出した通り、決して高望みはしない。
 しかし女として生まれた以上、せめて平均水準くらいは。せめて。

 やっぱり身体を鍛えた代償だろうか。
 しかしいつまで経っても腕は細いし腹筋もつかず、外見は幼いオンナノコのまま。
 だったらせめて見栄えのいい大人な女らしくありたいところだが――

「はー」

 目を落とし、目を反らす。結局これ。中途半端。
 そりゃあまぁ、何よりも強さを追求する自分にとっては全く杞憂な話。
 でも自分だって年頃の女だ、相応のルックスだって求めていいじゃないか。
 というわけでカッコいい女を強調するために、最近露出の多い服装にイメージチェンジしてみた。

 ところが集まったのは魅力を称える注目というより、下衆共のいやらしい視線。
 どいつもこいつも腐れてるもんだから、どいつもこいつも焼却してやった。
 今日だってどこのウマの骨かもわかんねー癖に、悪びれもなく肩に触りやがって「お 茶 し な い か」だぁ?
 おかげで特訓に使う分の魔力まで使い果たしてしまったじゃねーか!
 あー思い出しただけでも腹が立つ! 次会ったら灰も残らねーほど燃やして燃やしつくしてやるあのタコっ!
 
「お、おっといけねー」

 また湯気を増やしてしまった。あんまり熱くなり過ぎると、また蒸発させかねない。
 熱くなったついでか、頭も少しフラついてきた。そういえば湯に浸かり始めてもう結構経つ。

「そろそろ上がるか……」

 彼女は座り込んだ姿勢から、つやっぽい水音とともにゆっくり立ち上がった。
 そのまま、着替えを詰めている壺・愛用の杖を置いてある水際の方へと体を向ける。
 ――という刹那だった。

「あ?」

 どこのウマの骨かも分からない男と目が合ってしまった。
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 17:15:38.23 ID:Bn1b7Voo
お約束キタワァ!
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/15(水) 19:22:20.05 ID:vhV1nPUo
キテター
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 21:05:41.32 ID:vkuy/SQo
ダルク君のご冥福をお祈りしますwwww
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/15(水) 23:01:06.14 ID:e/04I2Y0
ダルクがどんなぶっ飛ばされ方をするのか楽しみだww
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 07:44:49.71 ID:vx/lT.AO
ヒータたんキター!!!
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 08:29:58.94 ID:ZZReEvc0
乙!
何か前と比べて文体が変わった気もするが……
そう思うのは俺だけか?
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/16(木) 21:52:07.93 ID:a0cRwmc0
ひっさし振りに来たら更新キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/17(金) 10:27:18.56 ID:IR6ACFY0
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 17:24:42.94 ID:/M48okUo
水:全裸を見られる
風:パンツを見られる
火:シモを見る

まずいぞ、このままじゃヒータの圧勝じゃないか
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/18(土) 15:56:30.15 ID:AcmhieA0
タオル巻いてるんじゃないのか?
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/19(日) 21:25:12.78 ID:akWeJzc0
ダルクが完全にラノベ主人公みたいなフラグ主人公にwwwwwwww
次回も楽しみだぜ!
199 :名無し [sage]:2010/09/21(火) 21:26:05.09 ID:XFuxLoDO
続きが楽しみすぐるwwwwwwwwww
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/21(火) 22:09:29.50 ID:cnsBYBQ0
地味に師匠が誰なのか気になってる俺がいる
ダムドとか?
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/21(火) 22:21:02.45 ID:5MFkgGgo
ソーサラーもしくはアーカナイト濃厚
大穴で黒森とか月読
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 01:30:37.73 ID:ljyt6mc0
予想はよそうぜ
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/22(水) 11:41:27.41 ID:SJT3uTo0
・・・・・・・・・
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/24(金) 09:05:02.66 ID:jS8VCj20
それぞれの霊使いに合う声優は誰だろう
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/24(金) 17:52:19.56 ID:oWyqk82o
下手な声優設定は、過疎る原因だからやめれ
と、最近の声優はわからない俺が言ってみる
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 09:34:52.05 ID:/0gCbPwo
過疎るっつーか
荒れる
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 10:48:46.41 ID:Ro9PmsE0
続き期待
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/27(月) 17:46:06.29 ID:xFIAex.0
そういえばダークモンスターってなんで闇に堕ちたのかな
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/27(月) 20:27:19.33 ID:ydXeMWA0
ユベルの影響かもしれない
210 :変人 :2010/09/28(火) 19:12:29.23 ID:eRlD09A0
相手がヒータとなるとッ⁉…死なぬように頑張れ、ダルクよ…
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 22:47:40.66 ID:n7idwqko
闇の誘惑に負けた
212 : [ttt]:2010/09/28(火) 22:50:02.44 ID:Oi0jGns0
ウィンかわええ〜〜
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 02:10:22.73 ID:pIpFzISO
これって割とマイナーな題材と思うんだけど、意外と見てる人多いのかな
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/29(水) 11:49:40.49 ID:B8foTSQo
janeタブには入れてる
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/29(水) 16:47:50.83 ID:mmjevqA0
少なくとも一日一回のチェックは入れてる
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/30(木) 09:46:49.08 ID:R5qcIXQ0
ダークヴァルキリアとかダゼラとか天使まで闇に堕ちてるからそうとう強力なんじゃね?
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/30(木) 11:13:16.26 ID:R5qcIXQ0
早く早く
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 12:11:10.30 ID:wqAjucAO
個人的には、アウスの出番が待ち遠しい
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/30(木) 15:23:25.55 ID:R5qcIXQ0
楽しみだよーーーーーーー!!
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 18:20:31.09 ID:6d2YiH.0
大天使の力を手に入れても闇の誘惑に勝てなかったゼラの戦士さんまじ哀れ
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/30(木) 20:35:53.21 ID:k4bGKcI0
マイナーな題材だからこそ、見られるところが少ない。
故にこのSSは本当にありがたい!数日おきにチェックしてます。
222 :変人 :2010/09/30(木) 23:34:16.55 ID:2w.Tcxg0
どうも、毎日毎晩このスレチェックしてる変な人でぇす。
今思ったんですが、ヒータがダルク巻き込んで壷魔人ボコるような事になりかねない…
勝手な想像してサーセンした。
応援(度を越す程度)しているのでがんばってくらはい。
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/01(金) 10:38:22.84 ID:E6Ohqes0
このスレも変な奴が湧きだしたな……
人気SSになった証拠か
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/01(金) 20:13:47.50 ID:muDrk2M0
ダルク最強希望
225 :1 [sage saga]:2010/10/02(土) 15:29:55.13 ID:f7bOuCY0
いつも応援ありがとうございます
忙しいリアルのさなか毎回全てのレスに救われております
今回は久々に前回からのレスに応えようと思います

>>188
はい、このSSの75%はお約束でできています

>>189 >>192 >>194
キタ━━━━━━━━ヨ!!

>>190-191 >>210
もういっそヒータにぶっとばされるエンドで完結していいでしょうか? 冗談ですが

>>193
今までは「ダルク視点」と「ダルクの背後にカメラ視点」で書いていたので違和感があったかもしれません
今回は試験的にいくつかの場面をヒータ視点での心情描写で展開しています。読みにくかったらすみません

>>195
その一文字をもらえないSS作家さんのどれだけ多いことか。自分は恵まれています

>>196
>>197の通りで。ちなみに圧勝の意味はよく分かります大丈夫です

>>198-199 >>207 >>219
ありがとうございます、こういう次回に期待してくださるレスは嬉しいです。執筆モチベも上がります

>>200-201
予想自体は構わないのですが、元から構想していたものに偶然的中した際、
予想レスをみて決めたと思われるのが双方に取って面白くないとは思いますね

>>202-203
Cool.
226 :1 [sage saga]:2010/10/02(土) 15:31:13.47 ID:f7bOuCY0
>>204-206
大御所しか知らないにわかですが、正直、自分の文章が与えた皆さんのイメージには興味あります
が、やはり好まない人がいるなら控えるべきでしょうね。ちょっぴり残念ですが

>>208-209 >>211 >>216 >>220
さぁ試してみてください つ闇エネルギー

>>212
少なくとも貴方にとってはかわいく書けてたようで一安心です

>>214-215
お気に入り更新ですね分かります。このスレも加えていただいてありがとうございます

>>217-218
結局は言い訳を連ねることしかできません。毎度更新遅くてごめんなさい
一応残りの霊使いの展開も妄想済みですが、いかんせん筆のスピードが追いつかな過ぎて……

>>221
個人のサイトなどで意外と取り上げられている題材に思えますが……
本編をご贔屓くださって感謝御礼です、ありがとうございます

>>222
ありがとうございます、わざわざきちんと激励文送って下さってありがとうございます
サーセンなんてとんでもない、想像は本気の予想にならない程度にご自由に〜

>>223
まだそこまで変な人は現れていないと思います
人気SSの定番「つまらん」のアンチはまだいいですが
誰から見ても明らかに度が過ぎた応援(いわゆる困ったさんや他を非難するほどの信者)がきたらどうしようかと思ってます

>>224
もう既にOCG設定での立ち位置が最強なので!(ハーレム的な意味で)



ちなみに前にも書きましたが、アンカ全レスは頻繁に続くとまどろっこしいので
更新直前にまとめてするスタンスでいきます
では長々と駄文を連ねましたが今回分を投下します。毎度遅い更新、ご容赦ください
227 :1 [sage saga]:2010/10/02(土) 15:33:26.33 ID:f7bOuCY0
 ダルクがやっとの思いで危険な裏道を抜けてからつかの間、視界の左。
 とつぜん湯水が零れ落ちる音とともに、誰かが立ち上がるシルエットが捉えられた。

「あ?」

 いぶかしがる声。
 ほんの十歩先の怪訝な顔。
 水玉がとめどなくしたたっている、一糸まとわぬ……全裸。

 杖も持っていないし使い魔もいなかったが、赤髪の印象から一目で当の火霊使いだと分かった。
 湯けむりでよく分かりづらいが……どうやら思っていたよりも…………

 ずっと痩せてる?
  
「あ……え……えっ?」

 先に硬直を解いたのは火霊使いだった。
 『彼』はなぜか狼狽したような反応を見せると――

「な、なっ!?」

 次の瞬間、一気に湯船に沈んだ。静かな露天の空間に場違いの水音が響き渡る。
 ダルクは相手の急なアクションに思わず一、二歩退き、つまずきかけた。
 使い魔ディーも驚いてパタパタ飛び上がって旋回し、場の雰囲気は一時騒然となった。

「お、おいディー! 大人しくしろっ」

 と命じればすぐ大人しく肩にとまってくれるのがダルクの使い魔の魅力。 
 とにかく目を戻したときには、『彼』はあたま半分沈むまで小さくなっていた。
 どういう意図かこちらとは全く逆の方に顔を向けている。プカリと水面から浮き出た赤髪……。

(こいつが……火霊使い……)

 『彼』の風体は半ばイメージ通りだったが、なにか腑に落ちないものがあった。
 体格はやはり小柄。それどころか目に焼きついた先刻の映像ではやたらと華奢だった気がする。
 それに目が合った限りでは、顔つきはどちらかといえばイカツイというよりもキレイな印象を受けた。
 頭髪はくどくない程度の明色系の赤で、ヘアスタイルはボリュームのある活発そうなカット――。
 確かに壺魔人の言うように男らしいといえばなるほどそういう見解もできようが……しかしこの違和感は……。

(この反応だな)

 ダルクは一直線に考える。おそらく自分の最初の推察は当たっていたのだ。
 自らの体格にコンプレックスを抱いているがゆえ、誰にも肢体の輪郭を見られたくないのだ。
 たとえ相手が、同じくらいひょっちい身体である自分だったとしても!

 自分と似た者同士?
 いやこの恥ずかしがりようからして、メンタル面ではこちらに分があるくらいだ。
 もしかしてなにも構えるまでもなく、実は予想以上に打ち解けやすい相手じゃないのか……?

 ダルクはふっと口元を緩ませると、悠々とブーツを脱ぎ始めた。
228 :1 [sage saga]:2010/10/02(土) 15:37:53.81 ID:f7bOuCY0

 赤い頭髪の正面側、その水面下はパニック状態にあった。
 
(みみみみ見られた……見られた! あ、あ、あたしののの)

 『彼女』の普段の精悍な顔つきは、今やすっかり戸惑いにまみれていた。
 たったほんの一瞬でそれは呆気なく、長い間ずっと守り抜いてきた秘中の秘があっさり暴かれてしまった。
 普段さらさない部分の素肌も――毎日毎日悩みを注いできた発育途上のムネも――し、し、し……下も!!
 そ、それもあんな……あんな弱そうなヒョロヒョロ野郎にっ……!

(あああああの野郎あの野郎アノヤローッ!)

 彼女は悔しいやら泣きたいやら腹が立つやら、見るものがいれば思わず憐れむほど取り乱していた。
 しかし今、一にも先にも心に湧き上がっている感情は羞恥だった。
 もうなんというか恥ずかしくて死にそう、死にたい死にたい恥ずかしい恥ずかしいっ……。

(うああああ)

 ――実のところ彼女は色事に関する免疫力はまるで皆無で、またこの手の逆境に非常に弱かった。
 普段の彼女であれば何よりも怒りが先行してただちに相手を焼却している。
 そうすることで無意識にウブな自分をひた隠ししてきたのだが――今回ばかりは余りにもショックが大きすぎた。
 恥ずかしさばかりが溢れほとばしり、この後どうすればいいのやら全く思考がまとまらない。

「ディー、ちょっと湯桶取ってくれ」

 ブポッ。思わず口元から泡が漏れる。
 ハ、ハダカをハッキリクッキリ覗きやがったフラチな野郎が、空気も読めずこの場に留まっている!?
 ま、まさか入ってくる気か!? 自分と同じこの温泉に!?

「ああ、湯桶ってのはこれだ。まず湯船に浸かる前に、軽く身体を流すんだ」
(ああああ入ってくる気だ! や、やめ……やめろおっ!)

 声が出ない。出せない。なりふり構わず悶えたくなるような恥じらいは今や最高潮だった。
 そんな中、ヤツがゆっくり湯の中に入ってくる気配を背後に感じた。

(く、くそ、あたしの湯船に入ってくるな! く……くるなあっ!)

 ど、どういうつもりなんだ!
 温泉は他にも大量にあるのに、わざわざこんな場所選んできて――
 し、しかもあたしのカラダ見といて、なんであえて入ってくるんだ!
 あ、あたしが恥ずかしくて攻撃できないとでも思っているのか!? な、舐めてやが――

「気持ちいいなー……」

 突如放たれた自分に呼びかけたようなセリフに思わず首を回転、うしろに目線を向ける。
 芯の強そうな黒い瞳。
 一瞬吸い込まれそうな錯覚。
 彼女は跳ねるように視線を逸らした、いや背けた。
 
(……ま……また目が合って……くっ、くそ、なんだアイツ……なんだってんだ……) 
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 15:39:31.30 ID:RZbYX5Uo
[[MAT2-YKccGqds-PK]]-00027
{{アクア@マテリアル・パズルシリーズ}}
{{千鳥@信長の忍び}}
{{牧野弥生@暴想処女}}
{{百刈芽衣@たかまれ!タカマル}}
{{綾瀬千早@ちはやふる}}
{{アレクサンドライト@嵐ノ花 叢ノ歌}}
{{綿谷新@ちはやふる}}
{{サンジュ@棺担ぎのクロ。〜懐中旅話〜}}
{{ウィルバー@賢い犬リリエンタール}}
{{カレン・ロウ@ヨルムンガンド}}
{{山神ルーシー貴美子明江愛里史織倫弥由保知帆子彩乃冨美佳千歳早苗美紀子壱花由紀乃麗奈恵利亜衣多美子千景エミリア樹理亜志津江絵里那千紗夢佳夏希蘭々理恵子刹里智香子あずみ(略)@サーバント×サービス}}
{{上原@勤しめ! 仁岡先生}}
{{魔神ぐり子@楽屋裏}}
{{濱中アイ@女子大生家庭教師濱中アイ}}
{{スピン(まわる)@無敵鉄姫スピンちゃん/太臓もて王サーガ}}
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 15:40:54.81 ID:RZbYX5Uo
ごめごば
231 :1 [sage saga]:2010/10/02(土) 15:41:43.70 ID:f7bOuCY0

 ダルクは自身初体験となるバーニングブラッドの入浴を、存分に堪能していた。
 湯に脇口まで浸かり、腕を開いて天を仰ぎ、目を閉じ、大きな大きな一息をついてリラックス。

(ああ〜……これは気持ちいいな……)

 熱々の湯が染み込むように身体を巡っていく――
 疲れという名の毒が、ゆったり優しく抜け落ちていく――
 大自然を循環している火山のエネルギーが、自分にも分けられるのを感じる――

 想像を遥かに上回っていた。
 温泉がこれほど心地よいものだったとは。
 ここまで来た甲斐があったなんてもんじゃない、世界の景色が変わった気がする。

 ダルクは再び大きく息を吸い……それを時間をかけて吐いていった。
 吐息の先をたまたま湯桶がプカプカ流れていく。
 湯を3分の1ほど湛えたプチサイズの湯船。
 その中に小さな入浴者――翼を伸ばした一つ目コウモリが、縁に寄りかかるように居座っている。
 我が愛しの使い魔もまたうっすら目を閉じ、初めての入浴の快楽にすっかり夢うつつのようだった。
 
「気持ちいいなー……」

 ディーに呼びかけるつもりで呟いた言葉は、先客の耳にも届いてしまったようだ。
 声に反応した『彼』はこちらをチラ見し、目が合うなり慌てて顔を背けてしまった。

(そうとう恥ずかしがり屋なんだな……)

 ダルクは『彼』に対して半分面白がり、半分困っていた。
 あたかも人見知りの激しい女の子のような反応を眺めるのはなんとも愉快。
 しかしこれでは話が進まない。
 自分は何のためにわざわざ崖道を超えてここまでやってきたのか。
 壺魔人が紹介してくれた初めての『男』の霊使いと知り合うためではなかったか。
 
 時間が経てば経つほど気まずい空気は濃くなり、頭だってのぼせてしまう。
 そう思うが早いか、ダルクは押し出されたように声をかけた。

「な、なぁ。オレはダルクというのだが」
「!!」 
「お前もオレと同じ霊使いと聞いて……」
「……」
「その……壺魔人の紹介……で……」
「…………」
 
 返事がない。ただの入浴者のようだ……。
 い、いやまさか徹底して無視とは。
 ただ排他的なだけ? それとも極度のアガリ性? 返事くらいしてくれてもいいだろうに。
 
 途方に暮れたダルクは仕方なく、ディーの入った湯桶を自分のもとへと引っ張りこんだ。
 
232 :1(ビックリしたー) [sage saga]:2010/10/02(土) 15:43:44.63 ID:f7bOuCY0

 はっきりと自分に向かって声をかけられ、すでにパニックだった頭の中は更にかき混ぜられた。
 ダルク? 紹介? つ、つまりこれって……

(な……なな……ナンパされたのか?)

 の、覗きを決めたあとのこんな状況で!?
 どこまでコイツ……なっ、なに考えて!?
 場所が場所じゃなけりゃこんなヤツ一瞬で灰にしてやってるのに!!

「ぁ」

 その一瞬、視界に猛烈なかすみがかかった。
 頭が。頭がぼーっとする。くらくらする。
 まずい、長湯しすぎた。早く上がらなきゃ……。

(で、でも)

 今は絶対に出られない。
 着替えを詰めた壺はヤツ……ダルクだったか。
 あの野郎に行く手を遮られている。とことん最悪だ。
 
 はっきり言うしかない。
 このヘンタイ根暗もやし野郎、邪魔だからとっとと消えろと言うしかない。言うしか――

(だ、だめだ)

 声が出ない。なんだか息苦しい。本格的にのぼせてきたのか。
 くそ、邪魔だタコ、早く出ていけ! 早く早く早く!!

(そ、そうだ!)

 温泉で回復したばかりで、魔力は有り余っている。
 思いつくが早いか、彼女は全身に火の霊力を張りめぐらせた。
 途端、湯水の温度が急上昇していく。

(この……蒸し焼きにやりたくなかったらとっとと出ていけ!)

 じわじわと煮え始める温泉。
 必然、自身の頭部にも余計に血がのぼっていく。
 くそっ、根競べだ……早く……早く出ていけ……早く!!

「――って、おいっ、大丈夫か!?」

 おぼろげな視界の中、焦ったような声が耳に飛び込んでくる。 
 あああなんで逆に近寄ってくんだよバカ!
233 :1(ストック終) [sage saga]:2010/10/02(土) 15:47:45.02 ID:f7bOuCY0

 なんだか急に温泉が熱くなった気がする。
 地下のマグマが流動する影響だろうか?

 ……あ、熱っ、熱い! いつの間にか熱湯!!
 なんでこんな急に? 温泉ってこんな危ないところだったっけ!?

「な、なぁ、何か急に熱く――って、おいっ、大丈夫か!?」

 『彼』の様子がおかしい!
 頭がフラフラ揺れて――霊力が漏れている!
 ダルクは急ぎ赤髪のもとへ駆け寄った、いや泳ぎ寄った。

「あっ熱っ! な……なんなんだこれは」

 彼の方に近づくにつれ、湯の温度が増しているような気がする。
 彼は火霊使いだが、もしかしなくてもこれは彼の仕業なのか?
 なにか異変が起こったせいで火の霊力が漏洩し、この温泉を煮えたぎらせているのか?
 とにかく急がなければ、このままでは二人とも危ない! 熱い!!

「うぐっ……おい……大丈夫か……」

 ダルクは全身の皮膚が悲鳴を上げるのも我慢し、すでに沸騰をきざし始めた煮え湯へと腕を伸ばした。
 彼の肩口と思われる位置に、手を業火に突っ込む思いでまさぐる。熱、熱いぃ!!

「おいっ!」

 ついに探り当て、触れたその瞬間、

「触るな!!」
「なっ」

 甲高い叫びとともに突っぱねられた。拍子に熱湯が飛び散る。
 不安そうに空中を巡回していたディーにそれが当たり、可哀そうにディーは猛スピードでのたうちまわった。
 
 ひ、人が親切に助けようとしたのにその態度はないんじゃないか!
 ダルクは熱さに耐えかね距離を取ったあと、ノドまで出かかったその台詞を吐こうとした。
 
 その刹那、彼が初めてまともに顔を向けた。
 視線が交差する。紅蓮を思わせる炯々とした瞳。凛とした顔立ち。
 そしてなにか戸惑ったような、真っ赤な表情。
 
 ダルクは思わず息を飲み込んだ。
 確かにいま、胸が高鳴ってしまった。
 バカな、こいつはだって男で――
 
「とっとと出ていけ、このヘンタイ根暗もやし野郎!!」
 
 直後に放たれた罵声は、その場一帯に大きく響き渡った。
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/02(土) 16:36:54.51 ID:U.4u0FQ0
乙!
最近投下間隔が早くて嬉しいなー
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 16:38:32.20 ID:ln7FdSUo
乙!
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 21:15:47.68 ID:7sma5.wo
きてたか・・・
237 :変人 :2010/10/03(日) 00:57:40.68 ID:sQ/wFwc0
おおおお、お疲れさまですッ!
ダルクは誤解を解けるのか?!楽しみです!
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/03(日) 08:47:22.97 ID:kgBbEoAO
乙〜
ダルクくん、悪意も下心もなく助けに行くとはいい奴だな。
ヒータには大迷惑だったみたいだかww
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/03(日) 09:14:33.53 ID:ElBm8ro0
更新おつ!
・・・うん!!良いフラグだwwwwww
次回も楽しみに待ってます。
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/03(日) 09:32:45.40 ID:fvknQXY0
更新ありがとうございます
どんどんフラグ立ててください。
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/03(日) 16:12:27.28 ID:BBrJ.Nc0
ダルク修羅場wwwwww
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/03(日) 20:07:52.97 ID:xOhGIcA0
全裸を見ても女だと気付かないとは
ヒータにしてみりゃ失礼な話だなww
243 : [ttt]:2010/10/03(日) 21:31:50.89 ID:oxNSkS.0
ヒータが
ぺたんこでよかった〜〜〜〜
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/04(月) 07:57:47.82 ID:z9HAwKgo
乙乙乙←サイバーエンドドラゴン
やっぱヒータいいなー
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/04(月) 12:28:01.41 ID:mwLHzc20
作者でもないのにコテうぜえ
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 19:52:55.80 ID:HV2/scDO
>>245くそコテはNGブチ込めばいいよ
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/07(木) 19:36:34.70 ID:nqCTLsE0
デュエルモンスターズ界は一夫多妻は大丈夫なのか?
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 20:38:54.65 ID:Ny63OsAO
そもそも、婚姻に関する法律などあるのかと
…なければいいってものでもないか?
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 01:21:15.00 ID:m1lFoMAO
ウィンとエリアは俺の嫁だからいいんじゃないの?
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 16:02:47.97 ID:BfycI0Qo
おれ は ねんがん の リキュア と ガスタ を てにいれたぞ!
251 :変人 :2010/10/09(土) 16:39:03.54 ID:GaaOkaI0
250殿、リチュアだったような・・・?気がしますよ。
な ん だ か 日を 増す ごとに どんどん ウィンが 好きに なっていく・・。
霊使いは皆のアイドル!(なんてレベルとっくに超えてると思う)
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/09(土) 20:15:47.98 ID:burnCro0
249よ、少なくともこのスレの住人はみな同じ事を考えている
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 20:17:14.75 ID:YHzNsAUo
>>249
エリアは渡さん
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/10(日) 09:01:15.77 ID:WeZjfd60
みんなで愛でよう
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/11(月) 11:07:13.51 ID:UmWSzEDO
次の投下はいつ頃になるんかな
256 : [ttt]:2010/10/11(月) 13:35:37.35 ID:UIzTLJg0
251変人 さんに同意
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/20(水) 21:21:16.68 ID:V45voWE0
復活きたな
258 :真紅眼の龍使い :2010/10/20(水) 21:43:30.58 ID:UxBzHCs0
やった・・・・!!!(涙出そう
こんばんは、変人改め真紅眼の龍使いです。名前変えました。理由は友人にこっちが合ってると言われたからです。
来れなくなった時、なんかあったんじゃないかと心配でした。
復活して良かったですよ、本当に。
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 23:04:53.10 ID:1sXIEcM0
落ちてしまったのかと思って心配した
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 00:08:10.52 ID:3ynbEaI0
製作は毎月中旬になると繋がらなくなるのですよ。
理由は知りませんが・・・因みにその期間はランダムの模様
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 00:22:31.70 ID:ZvHMqbYo
マジレスするとサーバーの料金の滞納ですね
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/10/21(木) 01:02:18.79 ID:vhnUqgQ0
>>258
せっかくNGに突っ込んだのにまたクソコテが……
投下も来てないのにageてんのといい、少しはマナーを守れよ……
263 :真紅眼の龍使い :2010/10/21(木) 14:04:24.81 ID:DLFzpfE0
すいませんでした。邪魔な様ですのでもう来ません。申し訳ありませんでした。
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 00:31:48.44 ID:6AsYfu.0
1週間書き込みなし
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 11:25:00.79 ID:OBsvWp6o
だって>>1が来ない事にはなんも…
受験生だし頑張らんといけん時期ですしなぁ
266 :1 [sage saga]:2010/10/30(土) 03:56:00.07 ID:xxjsguUo
すみません、続ける意思はあります
今のリアルでの山を超えたら更新頻度上げられますのでいましばらくお待ちを
>>265
受験生ではないですよー
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/11/04(木) 15:42:33.27 ID:DW6wd8A0
しーん
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage saga]:2010/11/08(月) 00:50:14.30 ID:3sVidis0
かーい
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 10:27:01.33 ID:YBO6wYDO
続きが楽しみで毎日スレみてる。
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 08:13:14.46 ID:4EfACIA0
>1
最初から読んで来ました。
応援していますので頑張って下さい。
271 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/21(日) 00:53:05.80 ID:8iCDhBg0
静寂
272 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/21(日) 02:14:43.72 ID:jmHER3c0
カーム
273 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/25(木) 02:36:39.08 ID:MYIwbIDO
まだかな(´・ω・`)
274 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/26(金) 18:25:57.44 ID:HoFYBdI0
もう少しで音沙汰なし1ヶ月経つぞ
そしたらこのスレ落とされるんじゃなかったっけ
275 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/27(土) 22:16:14.20 ID:U8ZZwds0
こんな半端なところで終わるのは嫌だな...
276 :1 [sage saga]:2010/11/28(日) 02:52:33.10 ID:dk2kOAko
継続報告なんていいからとっとと書けって感じですが依然続ける意思はあります
さすがに時間空きすぎですがいましばらくリアルの方を優先させてください
ほんとすいません
277 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage saga]:2010/11/28(日) 06:23:00.53 ID:ELHTrPQ0
大丈夫、気長に待ってるよ

あと一カ月ぐらいじゃスレ落ちしないからね
過疎ってるスレならともかくこのスレは読者も多いし
278 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/03(金) 18:22:12.19 ID:zBJv32DO
>>276
楽しみに待ってるからね
279 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/17(金) 00:46:44.82 ID:VtrCvEDO
(´・ω・`)
280 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/19(日) 01:08:09.49 ID:29Vm/9U0
あいうえお
281 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/20(月) 05:10:29.88 ID:igQljEI0
静かなもんだ
282 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/20(月) 23:45:32.55 ID:ZP55a7I0
静けさや岩に染み入る蝉の声
283 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/24(金) 02:11:56.57 ID:fv1LNego
残りの霊使いのリメイクに期待
284 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/25(クリスマス) 23:55:42.74 ID:dKkoM6Qo
もう年内にはこないのかな
285 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/26(日) 17:32:25.40 ID:j7I8e0U0
何度もくどくてすまんが落とされるぞ
286 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 19:29:58.96 ID:akCkRZA0
>>285
作者の最後の書き込みが一カ月前にあるのに落とされる訳がない

三カ月以上作者の書き込みがないのに落ちてないスレとかこの板には普通にあるし
287 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/26(日) 22:17:38.61 ID:j7I8e0U0
そうなのか
前に誰かが1ヶ月間生存報告ないと落とされるみたいなこと言ってたから勘違いしてたすまん
288 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 22:22:37.23 ID:iOkgsQAO
たしか条件は勢いが一定の数字以下だったような気がする
289 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/26(日) 22:48:48.35 ID:srZUcfY0
アウスって女なの
「荒ぶるアウス」しか見たことないから男だと思ってた
290 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/12/27(月) 01:00:23.12 ID:HFB1xEDO
>>289
胸見ろよ
291 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/01(正月) 01:17:18.16 ID:y//XErI0
年明けたな
292 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! :2011/01/01(正月) 03:51:22.57 ID:alVx58U0
あけおめー
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/06(木) 19:44:43.36 ID:BinApA.0
かそい
294 :1 [sage saga]:2011/01/08(土) 02:46:48.97 ID:m4YeYXQo
遅ればせながら明けましておめでとうございます
3ヶ月ぶりに少しだけ更新します
これから地道に更新頻度増やすべく善処します


以下>>233の続き
295 :1 [sage saga]:2011/01/08(土) 02:48:00.21 ID:m4YeYXQo
 ダルクは、今言われたばかりの罵声をあたまの中で反芻した。
「とっととでていけ、このヘンタイねくらモヤシやろー」

 言葉の内容はさておき、まずやけに声が高かったのが印象的だった。
 まだ声変わりしてないのだろうかという発想は後から流れた。
 なぜなら『彼』の放った声質は、今までの雰囲気や体型を組み合わせるに真っ先に『女の子』らしさを感じたからだった。
 
 熱湯のおかげでダルクの顔は赤くなっていたが、心の中はみるみる真っ青に染め上がっていた。
 まさか自分はとんでもない思い違いをしていたのではないか。
 この火霊使いのことを紹介してくれた壺魔人は、最初に「壺は有料」なんていうとんでもない冗談をかましてきた。
 もし『彼』の特徴を示す「外見も口調も男の子」というのが、「外見・口調『は』男の子」という意味だとしたら。
 ――火霊使いのどこか柔弱な仕草とシルエットを目の前に、疑念は確信へと傾きかける。

「あう……くっそ……」
 
 『彼女』のうめき声ではっと我に帰るダルク。そうだ、熱い。
 彼女の霊力のおかげで、いまこの湯船はゆで釜のごとく煮えたぎっているのだ。 
 ふと見ればその顔色は先刻より悪化している。このままでは一大事になりかねない。
 
「お、おい、落ち着け! 霊力を調節しろ!」
「うる……せぇっ……」

 彼女は背を向け、よろよろになりながら中腰に立ち上がった。
 するとダルクの目に、スラリとしたラインが飛び込んだ。
 水に濡れたつややかな赤髪がなまめかしく垂れ下がる。その下に見え隠れする、白い背筋。
 いったん女と感じると、もはやそうとしか目に映らない。
 ダルクは慌てて目を逸らし、しかし彼女の具合が心配で目をやり、いやいやとまた目を逸らし――

「オ、オレはどうすればいい?」

 湯の温度が熱いせいで、冷静な思考も怪しくそう問いかけた。
 いや本来ならどうにかして彼女を助けなければならない場面だが、ついさっき目も覚める勢いで拒まれたばかりだ。
 ここは大人しく彼女の判断に従った方が。
 
「とっとと出ていけってんだ!!」

 直後、彼女は振り向きざまにダルクの鼻先へと人差し指を突きつけた。
 と思うが早いかその指先から一瞬、紅蓮の火球が勢いよく燃え上がった!

「だああ熱ちちっ!」

 唐突にコゲた臭いが鼻にむせる。ま、前髪がっ!
 ダルクは大慌てで熱湯をかぶり、「わ、わかったわかった!」と第二波が来る前に湯船から退散した。
 バシャバシャ慌ただしい水音を立てて一気に風呂の縁まで上がる。
 いままで中空を浮遊して様子をみていた使い魔ディーも、慌ててパタパタと主人の後に続いていった。
 
 これまで熱湯に浸かっていたおかげで、風呂の外の空気はすこぶる涼しい。
 しかしそれが及ぶまでもなく、ダルクの心持ちはすっかり冷えあがっていた。
296 :1 [sage saga]:2011/01/08(土) 02:48:30.48 ID:m4YeYXQo
「……うう……」

 ――火霊使いの少女は入浴状態のまま、湯船を縁どる岩の一つに覆いかぶさっていた。
 下賎な輩が完全にいなくなったのを見届けても、頭がガンガンして満足に立ち上がることも叶わない。

「あのヤローのせいで……こんな……こんな……」

 呼吸を整えながら悪態をつく彼女だが、実際のところ自業自得である。
 自分が勝手に暴走して温泉を煮えたぎらせ、自分で勝手にのぼせただけの間の抜けた話。

 しかし彼女にとって全ての元凶はあの黒髪男だった。
 いきなり現れて自分の裸体を直視し、あろうことか同じ温泉に入ってきたあの不埒な下衆野郎。
 思い出すにつれ、彼女の心中までも憤りが沸々と煮えたぎってくる。

 あの野郎、名前はなんと言ったか。確か……ダルク……だったか。
 そう、自分で勝手に自己紹介始めやがってモヤシのくせにナンパ男が。
 いままで同じようになれなれしく自分に声かけてきた連中がどんな目に遭ってきたか――
 奴にももれなく思い知らさなければ気がすまない。
 
「フゥー……フゥー……」

 霊力の放出はとうに収めていたため、温泉は徐々にもとの湯加減を取り戻していった。
 また半身を露出して程よい風当たりも受けていたため、ずいぶん身体の熱も引いてきた。
 相変わらず酔いが回ったような鈍痛は引きずったままだが、コンディションはずいぶん楽になっている。

「よし……」

 風呂水を囲む岩々に手をつきながら、周辺を警戒しつつ内縁に沿って移動する。
 しかし気を張り巡らせても何者の気配もない。当然だ。
 この時間帯、この場所まで来るような客は気まぐれな有翼モンスターしかいない。
 ここに点在する温泉は表側の浴場地帯のそれとまったく変わらない。
 わざわざ切り立ったガケの細道を超えてまで、ここの湯に浸かりに来る利点がないのだ。
 だから絶好の入浴スポットだったのに。

「あの野郎がこんなところまで来るから……」

 本当に誰もいないかどうか4、5回確認して、ようやく風呂からその身を開放した。
 水場から肢体を引き上げる際のわずかな飛沫。その生々しい音。
 幾重にも流れる湯の筋が、彼女の白い身体をつややかに彩る。
 
「許せねー」

 少女の入浴という耽美な雰囲気を一気にぶち壊す険悪な声。
 先刻彼女を満たしていた羞恥心は、いまや完全に怒りに取って代わっていた。

 魔人の壺と自前の杖はすでに足元だった。
 しかし彼女は着替えより先に杖を引っつかんだ。力強くそれを握り締める。
 
「待ってろ……すぐに思い知らせてやるっ!」
297 :1 [sage saga]:2011/01/08(土) 02:49:23.98 ID:m4YeYXQo
 ――ダルクは慎重に杖をつきながらガケの細道をまたいでいた。
 いや慎重というより意気消沈した足取りで、の方が正しいだろう。
 使い魔も空気を読んでいるのか、みだりに飛び回ったりせずに大人しく主人の肩に止まっている。

 大量の汗を吸ったはずのダルクの衣服は、まるで洗濯したばかりのように清潔になっていた。
 壺の文様の魔力による自動洗浄効果! これこそ魔人の壺の真骨頂だった。万能陶器、恐るべし。
 しかし風呂を上がって弾ける勢いで着替えた当時、そんなことに気を回す余裕もなかった。
 一刻も早くこの場を離れなければ、息するヒマも惜しんで逃げなければ。
 事態はきわめて深刻だった。

「ああ……なんてことだ……」

 あの火霊使いがよもやの――女の子だったとは。
 いや、正確には途中から悟ってはいた。
 あの凛としていながらも、妙に柔らかさを残した顔立ち。
 苛烈な印象を与えつつも、妙に幼さを残した高めの声。
 そして火霊使いという肩書きとは裏腹に、妙に細身で白を基調とした体躯――
 てことは。
 最初に真正面から向かい合ったとき、湯煙に隠れていた彼女の身体は一糸さえ纏っておらず――。
 
「うああああ」
 
 なんてことだ。なんてことだ。
 自分は何も知らずに。
 何も知らずに彼女の身体を見て、風呂に入り、あげく自己紹介まで!

 悶える。身をよじる。足取りがふらつく。ガケから落ちそうになって慌てて岩壁に寄りかかる。
 使い魔の一つ目コウモリ、ディーが慰めるように頭に乗る。しかし慰めにもならずむしろ余計重い。
 
「と、とにかく……謝らなければ……」 
 
 そう、一番に自分が望むこと。すべきこと。今度は行動に移さねばならない。
 たとえ望み薄でも、面と向かい合っての謝罪で、あの計り知れない非礼を容赦してもらおう……。
 
 ダルクにはエリアの件があった。
 眠っていた彼女をベッドに運んだ際、最悪のタイミングで彼女が目覚めてしまったときのやりとり。
 あのとき自分はただ逃げてしまった。その誤解はまだ解かれずにいる。
 この胸に沈んだモヤモヤは、決して時間が解決してくれたりはしない。
 いくら自分の中だけで申し訳ない気持ちを積もらせても、何の役にも立ちはしないのだ。

 要するにけじめが必要だった。
 エリアの件でそれを知った。二度も同じ轍を踏むわけにはいかない。
 間を空けず謝ろう。いますぐ謝ろう。
 バーニングブラッドなどそうそう訪れる場所でもない。この機を逃せば当分、後腐れも残ったままだ。

「うん……やっぱり戻ろう……」

 使い魔は「えっ」と驚いたように一つ目をしばたたかせる。
 火の粉が及んだディーには悪いが、主人も辛いのだ。分かってくれ。
 ダルクはゆっくりときびすを返し、重い足取りで謝罪の言葉を考え始めた――。
298 :1(ストック終) [sage saga]:2011/01/08(土) 02:50:23.59 ID:m4YeYXQo
「はぁ……」

 あの火霊使いの女の子は、炎属性ふさわしく非常に気性が激しかった。
 『とっとと出ていけってんだ!!』
 感情任せの猛りと同時に、前髪を焦がされた。

 そんな子に今からノゾキ(?)の侘びに頭を下げに行くのだ。
 ダルクの足取りが牛歩となるのも無理はなかった。
 下手をすれば、並のヤケド以上は覚悟しなければならないだろう。

「気が滅入るな……」

 しかし一方で、心の深い深い奥底では――もう一度あの子に会えるという期待も募っていた。
 あの怜悧な目線。紅蓮の髪からこぼれ落ちる水滴。思い出すほどに鮮明になっていく華奢な身体――。

「だ、だから違うっ」

 赤面させて首を振るダルク。
 頭に乗っていたせいで唐突に振り回されるディー。
 そんなこんなで、彼女がいた秘湯までの道のりを、半分ほど折り返したときだった。
 ろくな前触れもなしに、事件は起こった。

 いま手をついている岩壁の上から、何か音がする。と察知した瞬間。

「わっ」

 という間に、使い魔のディーが攫われてしまった。
 ダルクは、『それ』が起こした風圧を感じただけ。
 有無を言わさない、一瞬の出来事。

「なっ!? おっ、おいっ!」

 目の前の細道を、『それ』が駆けていく。
 火の玉。
 闇に慣れない者にとっては、高速の火の玉がディーを連れ去ったように見えただろう。

 しかし夜目の利くダルクの眼には、『しっぽに炎を宿した四つ足のケモノ』の姿が映った。
 それがディーを咥えていったようにしか見えなかった。
 
「まっ待て!」

 追いかける。ディーの助けを求める羽ばたきが小さく聞こえる。
 よ、よかったまだ食べられてはいないようだ。いやだったらなおさら急がねば!

 遠目に疾走するケモノは突然、岩壁の方へ横っ飛びに跳ね、直進する細道から姿を消した。
 小走りに追うダルクは目を疑った。この崖道は一本道だったはず……。
 ようやくその地点まで追いついてみると、なんと岩肌に大きな裂け目が刻まれており、さらにその先へと道が続いていた。
 
 火霊使いの女の子がいた場所から逸れてしまうが、ディーの身が懸かっている今はそれどころではない。
 ためらいなくその裂け目へ飛び込む。新たに広がる視界に、火の玉が一瞬だけちらついた。
 ダルクは、なんだか自分があのケモノに誘いこまれているような気がした。
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 03:34:55.55 ID:eaYIp.Q0
更新ktkr!そして乙!!毎日チェックしていた甲斐がありました……
ヒータ怖すぎww そしてディーどんまい;;
次回も楽しみにしていますよ〜

300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/08(土) 06:34:59.92 ID:SjcUYh.o
ヒータちゅっちゅ派の俺にこの三カ月は長かったぜよ乙
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/08(土) 08:32:55.18 ID:CWcfmU.0

これでこのスレもしばらくは落ちんな
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/09(日) 18:41:24.17 ID:Dj85cNDDO
更新キタコレ!
おもしろくなってきたなww
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/14(金) 21:18:13.70 ID:szOHYXIao
このスレも移動しないの?
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

304 :1 [sage]:2011/01/15(土) 01:55:01.05 ID:kezLynoCo
わざわざありがとうございます、たったいま事態を把握し移転申請をしてきました
新年になっても更新頻度は相変わらずですが、あちらでもお付き合いしていただければ幸いです。では!
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

305 :真真真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
306 :名無し :2011/02/02(水) 08:40:06.45 ID:AYKMqjTDO
続き読みたい
307 :1 [sage]:2011/02/03(木) 03:24:08.61 ID:csBnBCcfo
お久しぶりです
いまリアルで働きづめで次回投下は2月後半になりそうです
長らくお待たせすることになります 申し訳ないです どうか今しばらく…
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 08:35:55.57 ID:Sw+vq2DAO
最後まで書いてくれるなら幾らでも待つぜ
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/03(木) 11:28:24.98 ID:gv+qC7Ef0
完結することも重要だけど
リアルをお大事にね

遅筆でも全然構わん
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/16(水) 14:03:34.25 ID:tM2pogDc0
紫炎
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/18(金) 13:59:06.10 ID:sS45fdOD0
大将軍
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/23(水) 02:44:22.98 ID:U2VuVbDx0
ダルクを主人公にしたギャルゲがしたい
ラブ+作ったKONAMIならやってくれるはず
313 :名無し :2011/02/26(土) 19:49:34.87 ID:a/yXT5aDO
>>312
ヒータはもらっていきますね
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 20:29:21.47 ID:88dylzFa0
>>313
ならきつね火は俺がもらう
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 21:07:27.36 ID:RZQCGNqBo
これ見るまでダルクはジト目の女の子だと思ってた。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/26(土) 23:14:02.85 ID:88dylzFa0
>>315
公式で男子
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/27(日) 19:11:41.34 ID:8pDjl/8p0
エリアとエリアル、ウィンとウィンダって別人なの?
後、マインドオーガスの人型の部分ってエリアル?
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/27(日) 22:48:44.31 ID:0pQ1A5iqo
>>317
へその緒でつながってるんだよ
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/28(月) 18:32:41.24 ID:SGlf2oxL0
>>318
いや、どう見ても生えてるだろアレ
とにかく、あの三人は同一人物なんだろうか?


もしくは、俺の好きなキャラが三人なのか一人なのか
後者なら悲劇のストーリーとかありそう
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 21:54:32.38 ID:yarakdXAO
同一人物なのかは現時点で不明なんだし、好きに妄想すりゃ良いと思うよ。
321 :1 [sage]:2011/03/01(火) 16:16:34.81 ID:2vVW7kZvo
マイパソも触れない日々が続いてます
でもわずかながらもポツポツ書いてますのでもうちょいお待ちください
先延ばしの連続で本当にすみません
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 16:55:48.97 ID:nhUu/YSu0
マーツーワ
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 18:55:30.20 ID:OJJAVfuAO
>>320
別に不明じゃないよ
DT世界と霊使いその他が住む世界は違うから
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 07:19:42.73 ID:3E2XXTKDO
>>321
書いてさえくれればいくらでも待つ
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 08:05:40.26 ID:fWGPZLUm0
>>323
そうなのか!?
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 12:58:43.89 ID:Sim0AwQAO
>>323
世界が違かろうと、遊戯王的には異次元行ったり出来るわけで、結局のところ別人かどうかはわからんだろ……。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/03(木) 21:12:57.10 ID:9sIbhJPAO
>>326
少しは遊戯王のゲーム作品やろうぜ
ちょっと恥ずかしいよ
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 15:07:52.51 ID:Yjdh3u6AO
>>327
俺が言いたい意味わかってないみたいだから言うけど、OCGには次元の裂け目とか時の機械タイムマシーンとか色々あるんだぜ?
別人とか同一人物とか如何様にもこじつけられるだろ。

決め付けで1が書く幅を狭めて欲しくないんだよ
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 10:41:34.60 ID:XU3qjHCvo
しかしやっぱり人間は期限がないと
なかなか行動できないもんだなー。
まだ四霊使いすら出揃ってないとは……

文句じゃなくて素直に思ったことだからね?
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/07(月) 15:40:03.89 ID:z4Jo1t5e0
ならばヒントを与えよう
公式でエリアの一人称は『わたし』、エリアルは『僕』

つまりそういう事だ
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 19:56:29.19 ID:hj5bCDKAO
>>330
だからね、俺は別人であることを否定してるわけじゃなく、別人じゃない可能性もあるってことを言ってるんだよ?

お前が言ったヒントは参考にはなるが確定にはならん。過去未来において一人称が変わることは100%ありえないわけではないからな。それこそこじつけでどうとでもなるレベル。


もちろんゲームやマスターガイドとかで、別人だとしっかり明記されてるなら話は別よ? 素直に自分の無知を認めるからそう言ってくれ。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/08(火) 12:17:35.30 ID:4C+hs34X0
気持ちは分かるがマジレスで空気乱すのイクナイよ
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 19:33:37.50 ID:5vAl8FOW0
お前らちょっと待て
エリアとエリアルが別人だったら、二倍美味しいことにならないか?
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/09(水) 20:51:34.03 ID:VjNtRfb/o
…つまり、エリアルはエリアの姉とかそういうことか
アリだな
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/09(水) 23:36:15.99 ID:1GPP9deR0
はい解決
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 00:09:57.01 ID:nKkFGTpk0
妹に手を出させない代わりに、自らリチュア達に屈した姉………
ありだな
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 00:33:43.99 ID:BtwvK0QAO
恥ずかしい人が増えた……
1さん負けないで
338 :1 [sage]:2011/03/10(木) 11:09:23.18 ID:08FeiWlho
ありがとうございます。恥ずかしい人なんて既に自分がそうですから!

ついでにいえば何せこのSSを書いた時点でライナすら出ておらず
筆者も新カードについてはあまり詳しくないので
エリアルやウィンダについては相当の余裕が出てきてからの話になります……

ところでかなり更新が遅れているのが申し訳なく、読者の方々にひとつ提案なんですが
従来のように数レスをまとめて投下する方法をやめ、1、2レスずつの更新でちまちま進めるのはどうでしょうか
歯切れ悪いブツギリ更新になること必至ですが、それでしたら一応すぐにでも再開できます
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 16:38:42.00 ID:E59W9sqAO
読ませてくれれば何でもおkと言いたいけど、やっぱりまとまりのある方がいいかな
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 17:37:27.46 ID:IHXyV3gu0
かまわん、再開したまえ
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 18:05:21.68 ID:2BQvVaMT0
乙! ってか、別々で出てくるのか
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/10(木) 19:21:25.55 ID:WI9k79oAO
続きが読めるなら何でも構わない。
都合のいい方でお願いします
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 16:12:32.64 ID:CMH9njxs0
いつでも待ってるぜ!
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/11(金) 18:21:15.74 ID:RTbRX7d50
完結してくれるのであればどれだけでも待つぜ

>>1のやりやすいほうで頼む
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
345 :1 [sage saga]:2011/03/12(土) 02:44:48.38 ID:PpzKn7JJo
皆さん地震大丈夫ですか! 行方不明者の無事と亡くなった方へのご冥福を祈るばかりです

レスありがとうございます
皆さんの意見は参考に、今後は自分のペースで執筆させていただきます
ただ地震のこともあって、こちらもいろいろ整理がつくまで時間がかかりそうです。しばしお待ちを
地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/13(日) 00:25:48.45 ID:v9hlARmX0
>>1生きてたか
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/13(日) 00:27:11.31 ID:KLyoMKkJ0
>>1のペースでいいからな
とにかく無事でよかった
348 :1(北海道じゃないのにこう表示されるプロバイダに加入してます→) [sage saga]:2011/03/17(木) 16:06:38.13 ID:fMe3wtcAo
皆さん御達者でしょうか。そうでない人はもちろん、元気な人も無理をなさらないように……
では投下します。今回はかなり間をあけたため、いったんまとめを挟みたいと思います
349 :1 [sage saga]:2011/03/17(木) 16:07:50.08 ID:fMe3wtcAo
これまでのまとめ
(〜編という言い方は全て出会いの話で、その霊使いとの関わりが終わった訳ではありません)

【エリア編】
>>3-10 >>15-17
>>20-23(魔翌力=魔力)(ギコバイト=ギゴバイト)
>>28-32 >>37-39 >>44-49 >>52-54

【ウィン編】
>>60-63 >>72-74 >>83-87
>>107-112 ※>>108に同じ文章繰り返しのミスあり

【ヒータ編】
>>168-171 >>184-187 >>227-228
>>231-233 >>295-298 〜
350 :1(本編) [sage saga]:2011/03/17(木) 16:09:34.87 ID:fMe3wtcAo
 長い夜がついに明け方へと一歩踏み出し、夜空にかすかな白みがかかり始める。
 ここは天然の温泉、異種族たちがにぎわう活火山・バーニングブラッド。
 もくもくと立ち上ぼる湯煙から離れたところでは、鮮やかな月の光が惜しみなく地上へ降り注いでいた。

 その光が届かない、岩々に囲まれた小路。
 しかし溶岩の線が岩壁に浮き出ているおかげでほんのり明るい。何とも幻想的な自然美だ。
 
 ――そこを軽やかな音を立て、脱兎のごとく炎のケモノが駆け抜けた。
 その口には暴れ回る小さなコウモリをくわえて。ダルクの無二の使い魔・ディーである。

 続いてケモノを追う人影が一つ。固い土砂を鈍重に踏む音が周囲にこだまする。
 先のケモノに自身の使い魔を奪われた少年、ダルクだった。早くも玉汗を垂らしながら息を切らしている。
 魔法使い族である彼はもともと身体能力には乏しく、疾走するケモノなどとても追いつけるはずがなかった。
 
 しかしながら、あの尻尾に火の玉を宿したケモノは、いつも見失ってしまうギリギリのところでダルクの視界にいた。
 あのスピードならダルクを撒くことなどたやすいはずなのに、いちいち足を止めてこちらを確認しているのだろうか。

(やはり誘っている)

 しかしこちらとしてはありがたい。
 たとえ罠が待ち構えていようとも見失ってしまえばそれまで、慣れない地での自力解決は一気に難しくなる。

 だが救出は困難だとしても、ディーは長年自分と生活を共にしてきた相棒だ。
 何より賢く従順で主人の言いつけはよく守る。
 まさに今のような緊急時や主人と離れた場合の行動も念入りに指示してあり、こういう事態の対策は万全だ。
 それにケモノの立場から考えてみても、本命は自分を誘い出すこと。
 ディーがただ誘い水として利用されただけなら、まだ助かる見込みは十分ある。

 だがそれは自分が走らなくていい理由にはならない。
 自分の使い魔がさらわれて走らないマスターがどこにいる。
 一時の楽観のせいで一生ものの後悔を引きずるなんてごめんだ。
 ダルクは額に垂れてくる玉汗を袖でぬぐい直すと、ペースを増してケモノの影を追った。


「――!」
 
 と。不自然な急勾配をのぼりきったそのとき、いきなり下方向に視界が開けた。
 やけにだだっぴろい広場。
 しかし今までの岩石地帯とはあからさまに雰囲気が違う。

 そしてすぐさまその中心部、赤い光に目がいく。
 間違いない、ディーをさらったケモノだ!
 
『お、おい、大丈夫か!』
 
 な、なんだ? ケモノがいる辺りから人の声がする。
 距離が遠すぎてよく見えないが、炎のケモノのそばに誰かが寄り添っている……?

 いや、とにかくディーは無事なんだろうか。全てはディーの安否を確かめてからだ。
 ダルクは荒い呼吸を整えながら、小走りに広場の中央へ向かった。

351 :1 [sage saga]:2011/03/17(木) 16:13:19.68 ID:fMe3wtcAo
 ダルクは足元の段差を急ぎ降りながら、ちらちらと周囲を観察していた。

 意図的につくられた、石造りの区域。
 石柱、石床、石の階段、中心の広間を幾重にも大きく囲んでいるのは、石造りの長イスだろうか。
 まるで中心部の広間で行われる催し物かなにかを、大勢の観客が取り巻くかのような構造だ。
 装飾的に突き出ている大きな石柱は、どれも折れたり崩れ落ちたりしている。
 ほとんどの階段には亀裂が走り、石のベンチも砕け、雑草一本すら生えずにあちこちで砂埃が舞っている。
 どこもかしこも、一目ではひどい荒れ果てようだった。

 しかし――
 神秘的な月光がカーテンのように差し込んでいるのが美しい。
 熱気満ちる火山の活気はまるで感じず、冷涼な空気すら流れている錯覚を思わせる。
 ダルクが闇の世界で行ったことのある、遺跡や神殿に通じるもの。
 すでに役割を終えた土地。深い眠りについた歴史。先人たちの物言わぬ記憶。
 
 屋外にむき出しになってはいるが、これは間違いなくれっきとした施設だ。
 巨大な楕円形の石造りの広場。
 ダルクはこのような場所を文献で読んだことがある。
 今もなお、生の意味をあくなき戦いに求めて世に点在している、『剣闘獣(グラディアルビースト)』と呼ばれるモンスターたち。
 かつて彼らの祖先が互いの腕力を競い、命を賭した死闘が演じられたという由緒ある地。
 確か呼び名は――

「コロッセウム」
「ンなっ!?」
 
 そんな予感はしていた。ダルクの声に驚き振り返ったのは、あの赤髪の火霊使い。
 ガケ道を越えた秘湯にて、図らずもその裸体を拝んでしまった女の子――。
 
「そこのケモノ……使い魔だったのか」

 ケモノ――姿かたちや色合い、どれをとってもただの野狐だが、尻尾の炎はとりつけられたものではない。やはり炎属性のモンスターか。
 しきりにケホケホとむせ返っているのを、主人である彼女がさすり回していたところだったようだ。
 おそらく口にくわえ込んだディーが、その至近距離で必殺技『ダークボム』を放ったのだろう。

 ダルクはひとまず安堵の息をつく。ディーは脱出に成功したのだ。
 ダークボムを放てたということは、まず食べられてはいない証拠。
 闇エネルギーはそれ以外の属性にとってはほとんど有害、身体に取り込もうとするモンスターなどまずいないのだ。
 今頃ディーは、こんな状況の際の指示『自分に危害を及ぼしたものから離れること』に従って遠くに逃げのびているはず……。

「おいっ! お前!」

 しゃがみこんでいた彼女からいきなり杖先を向けられ、慌てて身構えるダルク。
 そうだ。いま自分は非常に面倒くさい状況に直面していたのだった。
 自分は目の前の女の子に、さっきの入浴の件で侘びをいれにきた。
 しかしこの火霊使いはケモノの使い魔をけしかけて、自分の使い魔ディーをさらっていったのだった。
 先に侘びをいれるべきか、それともディーを襲ったことを咎めるべきか……。
352 :1 [sage saga]:2011/03/17(木) 16:17:02.58 ID:fMe3wtcAo
 ケモノの使い魔に気遣いの言葉を声をかけていた彼女だったが、やがて振り返りざまに勢いよく立ち上がった。

「お前の使い魔のせいで、見ろ、あたしのコンがこんな目に!」

 怒声とともにダルクを睨め付ける。
 杖で示されたコン(安直だ)と呼ばれた使い魔は、いまだに苦しそうな咳をコンコン繰り返している。
 気の毒ではあるが先に襲って来たのはそっちだ、ディーの抵抗は正当防衛!

 しかし抗議の口を開きかけたその瞬間、目の前を風音とともに大きな炎が舞い上がった。
 この場の空気中に一瞬、高熱が走る。ダルクは驚きの声をあげて飛びずさった。熱いっ。

 柄が非常に細い、一見貧弱そうな松明に似たその杖は、しかし勢いのある火炎を放つようだ。
 杖の意匠はそのまま魔力の出力に比例することがほとんど。あんなに簡素なつくりの杖でこの威力。
 彼女の豊富な潜在魔力が垣間見え、ダルクは息を呑んだ。

「そ、それに……よくもあたしの……あたしの……」

 ぎくり。
 ダルクの脳内に先刻のシルエットがフラッシュバックされる。
 あれは不慮の事故だった。そもそも、今はちゃんと服を着ているから何も気後れすることないじゃないか。
 
 ここで初めてダルクは、この火霊使いの服装に着目した。
 その格好はなんとなく炎属性に相応しく非常にさばけており、動きやすそうにみえた。
 というより……無理をしている印象を受けるぐらい、やけに色っぽかった。

 丈の長い黒のブーツ。その淵から伸びているハイソックス。
 白肌の眩しい太ももを挟んで、これまでの精霊使いの例にもれなく短いスカートが伸びている。
 エリアやウィンのように外側に開いた形状ではなく、ももにぴっちり張り付くようなタイトスカートだ。

 腰周りには巨大なベルトを斜めに締めている。
 ベルトの下からは大きくシャツがはみ出しているほどで、これがなんとか着衣を成立させているようだ。
 そのシャツは上半身の素肌にそのまま引っ掛けているらしく、一見して下着代わりであることが分かる。
 しかも正面は一切ボタンを留めずにV字に大きく開かれているため、悪びれることなく白い肌を覗かせている。

 胸部はバンドのようなブラジャーのような黒い胸当てで覆われていた。
 しかしながら胸当てにしてはやたら薄いように見える。……薄い…………い、いやいや。
 
 上着は、少し茶色がかった白いローブを羽織っていた。
 かろうじて魔法使い族らしい衣装の一端だったが、これもなんとなく引っ掛けている程度で着衣の意志がみられない。
 そもそもこのローブの正面が結びとめられていたなら、こんなに胴体を露出することもないはずだ。

「……おい……何をじろじろと……」

 下から上へと彼女の姿を眺めていたため、最後に到達するのは彼女の顔。高潮したしかめっ面。まずい。

「見てやがんだ!」

 雰囲気と杖のかざし方で威嚇ではないと察するや、ダルクはもつれる足で真横に飛んだ。
 直後ダルクがいた地点の足元を、ただごとではない低い音とともに紅蓮の火球が衝突。
 燃やすものがないはずの炎は数秒とどまり、それが収まったときには地面にぞっとするような黒コゲが作られた。
353 :1 [sage]:2011/03/17(木) 16:18:03.54 ID:fMe3wtcAo
すみません、バイトいってきます
帰ったらまた同じ量を投下します。では
354 :1 [sage saga]:2011/03/18(金) 02:25:55.39 ID:2p7vy702o
「ぼ、暴力は反対だ!」

 抗議と呼ぶにはあまりにも頼りない声のダルク。
 しかし自分のその言葉で、打開の一手が閃く。

「そ、そうだ、知らないのか? バーニングブラッドでは暴力や私闘は禁じられてるんだぞ」
「あぁ?」
「だ、だから……ヘルフライムエンペラーの意志に逆らうような行為は……」
「何をごちゃごちゃ言ってやがんだ!」
「要するにケンカはルール違反っていう……うわっ!!」

 いきなりの二発目!
 先ほどより少し反応が遅れたが、辛うじて後ろに飛びのき倒れるダルク。
 杖を取り落としてしまい、壺魔人の壺はゴロゴロと二三度転がった。
 たったいま飛んできた炎球は、ローブの端を焦がしている。心胆が抜かれるような感触。あ、あ――

「危ないだろ!!」

 尻餅をついた格好が情けない。
 それにしても無抵抗の相手に不意打ちをかますなんてどうかしている!
 しかし彼女は高潮させた顔のまま、寸分も杖先を反らさない。

「おい、次は当てるぞ。さっさと杖を構えろってんだ」
「だ、だからバーニングブラッドでの私闘は……」
「ココでならいいんだろーが!」

 彼女は杖を握っている手を大きく払い、ローブをひるがえした。
 同時に、折れた石柱や無数の石作りの椅子――コロッセウムにあるもの全てから――視線を受けた気がした。
 張り詰める空気。恩恵を受けることのないフィールドのパワーが、しかしダルクの内々を高ぶらせる。

 ダルクはふと、いま手をついている石畳に目をやった。
 他の箇所とくらべ、割と新しいヒビ。少なくとも何ヶ月も間が置かれたような痕跡ではない。
 
 それが決定打となってようやくダルクは悟る。
 屈強な戦士。爪牙を有する四肢のモンスター。あるいは自分のような闇に属する異端のものたち。
 何者の来訪をも拒まないバーニングブラッドで、やはり争いが起こらないはずがないのだ。

 そこでコロッセウム――バーニングブラッド内にあるこの古戦場を、やむを得ない暴力解決の場とした。
 いややむを得ないというよりは、この環境気質からむしろ一興として楽しむ意味合いの方が強いだろう。
 火事とケンカはバーニングブラッドの華? 確かに面白みはあるが、当事者になるのは願い下げだ。
 
「じ、事情は分かった。けれどオレはお前と争いに来たんじゃないんだ」
「あぁ?」
「その……二つの用があってきたんだ」
 
 ダルクは相手を刺激しないようゆっくりと身体を起こし、腰まわりの砂を丁寧に払い落とした。
 同時に杖も拾う。応戦の意志ではない。例えどんな展開に陥ってもこの杖だけは手放せない。
 だがやはりというか、彼女の杖を持つ握力はいっそう強くなったようだ。
 うう、やりづらい……。
355 :1 [sage saga]:2011/03/18(金) 02:27:10.62 ID:2p7vy702o
「まず一つ目は、オレの使い魔を返してくれ。そこの狐、コンだっけ? が、攫っていったんだ」
「あ? あ、あぁ、あれか……」

 彼女は急に焦ったように自分の使い魔へと目を向けた。
 すでに大人しくなっていたコンは困ったようにおろおろするそぶりを見せ、急にわざとらしく咳を再開した。
 それを見届けた彼女は、「んんっん」と高いトーンの咳払いを重ねる。

「も、もちろん無事だ。いま隠してある。その点はあれだ、大丈夫だから心配するな」

 ……この火霊使い、実はあんまり頭の回転が速い方ではない……のでは……。
 素直に逃がしてしまったと答えず見栄を張るところが、なんというか幼いというか……。

「そ、それでもう一つの用ってなんだよ」

 そして露骨な話題逸らし。ダルクに押し寄せるムズかゆい気持ち。
 さきほどまで張り詰めていた緊張がすっかり緩んでしまった。

「二つ目は……」

 言葉に詰まるダルク。そうだ、弛緩してはいられない、ここからが本題なのだ。
 ダルクは腹をくくり、彼女の目を見て言った。

「謝りにきたんだ」
「……なにを」
「その、お前の……」
「……」
「お前の…………」

 ハダカを見たことを。とはとてもすんなりとは続けられない。
 しまった、言葉の選び方を誤った。ここは最初に詫びの言葉を持ってくるべきだったか。
 しかし余りにも間を置いてしまったため、彼女は彼女で大体の察しがついてしまった。

「……バカッ!!」

 ダルクはいきなり吐き捨てた火霊使いの顔を見た。
 まずい。怒っている。顔面が信じられないほど真っ赤だ。これはまずい。

「もういい知ったこっちゃねーよ知るかああ!!」

 その直後、杖がメチャクチャに振り下ろされる。
 同時に放たれる炎の球が3つ、4つも!
 しかし狙いまでは定まらず、全てあさっての方向へ飛んでいった。

 とっさに杖を身構えたダルクだったが、すべての球が逸れたのを見届け、意を決した。

(も、もう話し合いで解決は無理だ)

 彼女の敵意むきだしの双眸。身構える使い魔。今からではとても逃げられそうにない。
 歴史を抱きながらなお褪せることのない、コロッセウムの濃密な空気が満ちていく。

(――戦うしかない!)
356 :1(ストック終) [sage saga]:2011/03/18(金) 02:28:49.20 ID:2p7vy702o
 戦うと決めてからすぐさま今の機を逃さず、ダルクはまず杖に霊力を注いだ。
 その途端、杖を中心に霧とも煙ともつかない『黒』が、にじむように吹き出し始めた。
 
「なんだ……?」
 
 思わずこぼれたような訝しげな声で、彼女が警戒しているのが分かる。
 その調子で不安がってくれるとありがたい。闇の本質は、容易な判別ができないことにある。
 
 ダルクは押し黙ったまま、構えた格好で杖を握りしめるばかり。
 『黒』はみるみるうちにダルクを覆い、まもなく頭のてっぺんからつま先までを完全に包み込んだ。

「何だってんだよ!」
 
 ヒステリー気味に乱暴に振りかざされる杖。火霊術行使の動作。
 重い音とともに流れるように飛んでいったのは、今まで飛ばした火球より何割増しか膨らんだファイヤー・ボール。
 スピードが遅い代わりに火力と精度は高くなっており、今度は正確にダルクの身体があった位置を捉える!
 
 対してしかし、『黒』からは何も。何も反応がない。
 向かってくるファイヤー・ボールなど眼中にないかのように、『黒』はじわじわとそこに在った。
 彼女の疑惑は一瞬で深まり、一抹の焦りが生じる。

(あ、あのヤロー直で受ける気か?)
 
 しかし、一度自分の身体を離れた術はもう止まらない。
 ファイヤー・ボールはためらいなく、『黒』の中へ飛び込んだ。
 息を呑む彼女。不審がって数歩後退している使い魔。
 だが――
 
「…………。…………。――――」
 
 いくら待てども、何もない。
 熱に耐えかねた悲鳴も、地面に何かが衝突するような音も、コゲたような臭いも。
 何事もなかったかのように『黒』はただそこに存在している。
 
「な、なんだ……? なんなんだよ!」
 
 立て続けにファイヤー・ボールを放つ彼女。
 生物に当たれば確実に大ヤケドを引き起こす、危険な赤のかたまりが次々に飛んでいく。
 しかし。その全ては、物音なく『黒』に飲み込まれていった。術がどうなったのか全く把握できない。
 
「あ、あの野郎……」
 
 彼女はようやく周囲の変化に気づく。
 いつの間にか『黒』は三方に伸びていた。それぞれコロッセウム内の石柱を辿っている。
 奴はもうココにはいない。しかしコロッセウムから離脱していれば必ずコンが察する。
 ということはつまり――奴はあの三本の石柱のどれかに隠れたのだ。
 
(……勝負だ……)

 ダルクの暗黙の宣戦布告が、コロッセウム中に響き渡ったような気がした。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/03/18(金) 09:13:19.74 ID:mZ1UBqeAO

ヒータは直情バ可愛いなww
嫁にしたい
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/18(金) 12:54:52.74 ID:LUpkVXQDO
GJ やっぱり面白いわww
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/03/18(金) 13:30:11.41 ID:HTHOLYA+0

360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) :2011/03/19(土) 03:12:15.89 ID:/GoxkX5G0
乙!!
やっぱり面白い
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/22(火) 04:18:08.06 ID:/YzKT1my0
乙!
362 :1 [sage saga]:2011/03/25(金) 19:12:15.81 ID:OAAFfc9zo
ありがとうございます
単純なので面白いとか言われるとモチベ跳ね上がります
少ないですが続き投下
363 :1 [sage saga]:2011/03/25(金) 19:14:05.99 ID:OAAFfc9zo
「コイツ……闇の使い手だったのか……」
 
 やっとそこに思い至った火霊使いの少女は、忌々しそうにつぶやいた。
 ときどき低い地鳴りが響くくらいの静かな夜だったので、その言葉は身をひそめていたダルクの耳まで届く。

(い、今まで気づかなかったのか)

 思わず肩の力が抜けるダルク。
 属性までは伏せていたにしろ、入浴の一件で自分は同じ霊使いだと名乗ってある。
 だいいち、ここまで禍々しい杖を持ってコウモリの使い魔を連れている、ときてもピンとこないとは……。
 外の世界では闇の魔法使い族などは珍しいのだろうか? だとすれば若干やりやすいかもしれない。

 しかし断じて油断はできない。ダルクは彼女のことを知らない。
 今しがた見たもの以外でどんな術や技を持っているのか、何を仕掛けてくるのか、そしてどれほどの実力なのか。
 未知の相手と一戦交えるとなれば、一瞬たりとも集中力を切らすわけにはいかない。

 ダルクは師から様々な教えを受けたが、特にことによっては生死がかかる『決闘』に関しての特訓は十二分に叩き込まれていた。
 戦いに関しては、これまで肉体鍛錬、精神修養、戦術や属性の勉学にいたるまで、ダルク自身も意欲的精力的に取り組んでいた。
 加えて闇の世界では、下級の悪魔・アンデッド族相手にいくらかの実戦経験も積んでいる。
 今のダルクは、その師から『外の世界に旅立たせてもよい』と認められるくらいには強かった。

 そうやって修練を通したダルクには、闇霊使いとしての戦い方があった。
 それはたとえば――
 
「おいっ! 隠れてないで出てきやがれ!」
 
 と言われても出ていかないこと。
 まぁ出ていけば隠れた意味がなくなるので当然だが、ようするに逃げも隠れもいとわないスタイル。
 小細工まやかし心理戦上等の、直接に力をぶつけ合わない戦い方だ。
 というよりダルクが扱う闇霊術には直接攻撃に向いているものが少ないので、必然的にそうなってしまう。

「この……ヒキョーモノ! 戦うならセーセードードーだろうが!!」
 
 ひ、卑怯者? ダルクは傷心する。
 闇の世界ではだましあいなど常套手段ゆえ、自分にそのような言葉が向けられたことはあまりなかった。
 正々堂々戦えるなら始めから隠れたりはしない。
 たまたま自分の選んだ道が切った張ったに向いてなかっただけだ。
 戦士族にあこがれを抱いたことのあるダルクは、悔しげに奥歯を噛みしめた。

「もう! もうなんなんだよ!!」

 焦燥と苛立ちが混ざった火霊使いは、ダルクが生みだした『黒』に向かって手当たり次第にファイヤー・ボールをぶつけた。
 次々に『黒』に飲み込まれる炎球だが、もちろん一弾たりとて手ごたえはない。
 術者に命中しているなら、展開されている『黒』になんらかの影響があるはずだ。
 彼女の歯がゆさは募り、無駄と知りつつも「ちくしょー!」と毒づきながら最後のダメ押しをお見舞いする。

 きつね火の使い魔・コンはいつでも飛び出せるよう身構えていたが、やがてなだめるように主人を見上げた。
 熱くなっている彼女はそれには目もくれず憤慨中。
 困りきったきつね火の顔がなんとも気の毒だった。
364 :1 [sage saga]:2011/03/25(金) 19:14:47.89 ID:OAAFfc9zo
(この無駄打ち……まさか作戦なのか?)

 次第にダルクの方も焦り始める。
 頭を使った戦い方が染み付いているダルクは、彼女が単にヒステリーを起こしているとは考えない。
 どころか前に増して、注意深く様子を見守る。真の狙いは何か。身の回りに変化は。術は何発放たれたか。
 両者の余りにもかけ離れた対極性が、奇妙な平衡を保っていた。

 したがって状況は小康状態だった。
 まずコロッセウムの広場の中心部に火霊使い、及びその使い魔。
 その正面にダルクが生み出した気体状の『黒』いものが、縦横高さで3m分ほど色濃く広がっている。

 さらに火霊使いからは見えにくい位置で、三方向にわたり黒いものが伸びている。
 どれもそこそこの太さで伸びているため、術者がいずれかを使って移動していたとしても把握ができない。
 ひとっ走り分ほど伸びた先は、距離が近くない三点。すなわちコロッセウムの端に点在する石柱。
 すこぶるきれいな左の柱、客席の石のアーチにつながっている正面の柱、短く折れて断面がむきだしの右の柱。
 どれもその根元の部分に『黒』がまとわりついており、奴がいずれかに隠れていたとしても全く違和感がない。

「くそ……仕方ねーな……」

 もちろん彼女は、正面の『黒』から伸びたその三本の存在には気づいていた。
 あの石柱のいずれかに奴が隠れている可能性は十分考えられる。
 ただ、ひどく乗り気ではない。
 相手の張り巡らせたシカケに乗るというこの形、自分の性に合わないどころじゃない。
 なんだってこんな七面倒な択を迫られなければならない、戦いというのは力と力のぶつかり合いだろ。

「おい、これで最後だ! イキジゴクに遭いたくなかったらとっとと出てきやがれ!!」

 コロッセウム中に響き渡る声。
 夜のぬるい風が砂埃を舞わせ、無言で頭髪をなでていく。加えて活火山の低い地鳴り。
 それ以外にあるのは無為に息巻いている自分と、コンだけ。……コン!
 彼女がようやく自分の使い魔と目を合わせる。
 待ってましたと言わんばかりに姿勢を正すきつね火。
 彼女は意気揚々とコンのそばに屈みこみ、期待げに小声で語りかけた。
 
「コン、あいつがどこにいるか分かるか?」 
 
 力なく首をふるきつね火。予想外の返答に「ええっ」と肩を落とす彼女。
 コンはダルクの使い魔・ディーが放ったダークボムの影響で、すっかり嗅覚が狂わされてしまっていた。
 しかし身体ダメージは軽微だったため、体力はすでにすっかり回復しきっている。
 それを示すためにくるりとその場で一回転。尾についている火の玉が幻想的な軌跡を描いた。

「そっか、いけるか! じゃあ……コンはあれを調べてきてくれ。もし奴がいたら噛み付いて足止めしてくれ」

 彼女は声をひそめたまま、『黒』が伸びているうちの一本、左側の柱を指差す。
 きつね火は了解の意をみせ、四足で大きく伸びをする。

「あたしは右の折れた奴を攻撃してみる。両方にいなかったら……あれを挟み撃ちだ」

 そのまま正面の柱を指差す。よし、我ながらうまい作戦ができあがったぞ。
 まず左右に同時攻撃、いなければ真ん中を挟撃。これでカンペキだ!
365 :1(ココマデ) [sage saga]:2011/03/25(金) 19:16:32.67 ID:OAAFfc9zo
「いくぞ!」

 合図とともに飛び跳ねた一人と一匹。
 きつね火は左の柱へ、少女は右の柱へ、黒いモヤに並ぶように疾走する。
 きつね火のケモノならではのスピードもさることながら、火霊使いの方も並み外れた脚力。
 二本の赤き熱線は、宵闇を吹き飛ばすかのように鮮やかに尾を引いた。

「よし……」

 ローブをはためかせ、前かがみで空を切る火霊使い。
 速い。観客席の情景が次々と後ろに流れていく。
 そしてなんと彼女は目的地点に到達する前に、足は走らせたままで杖を振り上げた。

「いけっ!」
 
 そのまま杖を振り下ろす。身体能力に特化した彼女ならではの芸当。
 上級の魔法使い族でも、走行中に術の行使ができるものはほとんどいない(そもそも走ったりしないが)。

 杖先から放たれたものは炎。
 しかし今までのような豪快なファイヤー・ボールではなく、メラメラと燃え上がった小さな火種のカタマリ。
 それが緩やかに飛んでいき石柱に命中すると、炎がぐるりと柱の円周を囲み、真上へと火の手をあげた。
 火霊術―『火あぶりの刑』。
 有効範囲はせまく火力もひかえ目だが、炎はすぐには消えずその場に長く留まる。
 こういった状況でのいぶりだしには打ってつけの術で、この折れた柱を選んだ時から決め打っていたものだった。
 
 火あぶりの刑により、みるみるうちに黒いモヤがかき消されていく。
 が、柱の陰から慌てて何かが飛び出す様子はない。ひとえに火あぶりによる焼け石ができあがっていくだけだ。
 走りっぱなしの彼女は小さく舌打ちする。いや、でもまだだ。

 もうすぐ自身も柱に到着する。
 という間際、彼女は走りこんだ勢いを使い、突然大きく跳躍した。
 ローブが暴れるようにはためき、灼熱色の頭髪が宙に遊ぶ。
 驚くべき跳躍力。長い滞空時間の中、彼女は握りこんだ杖を自分の足にあてがった。
 杖先が橙色に光り、同時にそのブーツが小さな爆音と共に紅蓮に染め上がる。
 灼熱の凶器と化したブーツは中空で大きく振り上げられ――
 
「おおおおっ!」

 折れた柱に向かい、回し蹴り気味に蹴り落とされた。
 滑空の勢いそのままに石柱にめり込むブーツ。同時に爆発。
 尋常ならざる轟音、高熱の持った衝撃。
 折れた柱はついに余命尽きたかのように粉々に砕け散り、硝煙と共に形を失った。
 火霊術―『ビッグバン・シュート』。
 豊富な魔力と熟練した体術をかけ合わせることで初めて為せる、彼女のお気に入りの必殺技の一つ。
 その威力たるや決まれば並の守備をたやすく突き破り、爆発を伴った打撃が相手の生身を貫通する。

「くそ。やっぱりハズレだったか」

 彼女はその場に敵がいなかったことを知り憎らしげにつぶやいた。
 汗の一つも垂れない彼女は、たった一呼吸整えると即座に中央の柱へと足を向けた。
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/25(金) 20:46:07.18 ID:pArpdVxko
おー乙
技名がいちいち魔法カード名なのがいい
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/25(金) 22:17:18.60 ID:9HbOpjt50
乙 今回おもしろかった!
ヒータはバカわいい 
あと、投稿の時にageてくれると嬉しい
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/25(金) 22:18:53.61 ID:PtwAu+ozo

ヒータは罠は嵌って踏み潰す的な脳筋カワイイ
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/03/26(土) 00:03:12.68 ID:XIqmk3lfo

wwktk
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/03/26(土) 07:00:22.46 ID:aogGcosU0
ageると変な奴が湧いたりするから別にageなくてもいいな
更新来たかどうかなんてこまめにチェックしてれば分かるし
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) :2011/03/26(土) 14:14:45.99 ID:3tKNsMUb0
乙!
やっぱり面白いなこのスレ
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/03/27(日) 14:55:23.75 ID:j0s0SrGJ0
乙!
やはりヒータは可愛かった
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/29(火) 05:13:52.50 ID:r18qmbDd0
支援
374 :1 [age]:2011/04/04(月) 01:57:53.53 ID:GmNp59Rao
応援してくださってありがとうございます
今更ながら、地の文で「ヒータ」という名前を常用するタイミングを完全に逃してしまったのが痛いです

あと、他の地の文形式のSS見てて思ったのですが、このスレは読みづらくないですか? 
それに限らず何でもいいので少しでも不満があったら言ってください。できる範囲で対処します
(ただし投下ペースだけは勘弁してください)

では今回の3レス分投下します
375 :1 [sage saga]:2011/04/04(月) 01:58:41.55 ID:GmNp59Rao
 深い暗闇を掲げていた夜空にほんのり青みがかかる。すでに夜明けはそこまできていた。

 傾いた月夜が照らすコロッセウムでは、人知れず霊術使い同士の私闘が繰り広げられていた。
 強力な一撃『ビッグバン・シュート』の余韻がまだ残っている足で、炎の使い手は駆け抜ける。
 風呂場の一件での雪辱を果たすため、あの黒髪もやしヤローを心ゆくまで焼き尽くさんと杖を握り締める。

「あんにゃろー……」

 ヤツが隠れたとおぼしき三本の柱のうち、右の柱はもぬけの空だった。このスカゴブリンに馬鹿にされたような気分!
 残るは客席の石製アーチにつながっている中央の柱と、コンが向かっているはずの左の柱だ。

 今向かっている中央の柱にヤツがいたなら、自分より足の速いコンがすでに到着しているはず。
 コンの咬みつきでヤツの行動を封じているところへ、会心の火霊術をたたきこんで一件落着だ。

 が、ヤツは自分と同じように霊術を使う。
 しかも六属性のうち、突出して得体の知れない「闇」の使い手ときた。
 今まで「炎」「地」の相手とばかり戦ってきたが、「闇」との手合わせはほとんど記憶にない。
 
 そうだ、コンは大丈夫か。
 つい今までの相手と同じノリでコンに指図してしまったが、今回はなんか勝手が違うかもしれない。 
 あまり――というかまったく考えてなかったが、場合によってはコンがやられる可能性もあるか?
 しまった、ヤツの狙いが最初からコンと自分を離ればなれにすることだったとしたら。

「急がねーと!」

 思い立つより早く、彼女はスピードを跳ね上げた。
 大技を繰り出したばかりにも関わらず、石畳の上を脱兎のごとく駆けていく。
 腰を下げ、前傾姿勢で体重を前にあずけながら足を動かす。師より教わった走り方で、これが速い。
 並の魔法使い族ではありえない快走だが、それは彼女が常日頃からいそしんでいた体力づくりの賜物だった。

 ブレない一直線で先へ先へと駆け抜ける火霊使い。みるみるうちに目的の柱に近づいていく。
 ようやく額に垂れはじめた汗は、走り疲れの脂汗か、それとも使い魔の身を案じた冷や汗か。
 その一筋がこぼれるより早く――彼女は折れた柱を破壊してから、ものの十数秒で中央の柱に到達した。

「いるのかっ」

 今回はコンが巻き添えになるかもしれないので、柱に攻撃はしかけない。
 柱にまとわりついている黒いモヤに触れない程度の距離で急ブレーキ。

 彼女は杖を向けたまま、せわしげにぐるりと柱の周りを回った。
 いるならいるですぐさま攻撃、いないならいないで最後の柱へコンの援護に向かわなければならない。
 
 直後。
 柱の陰からいきなり何かが飛び出した!
 反射的に杖を振り上げ、それを振り下ろしかかる彼女。
 柱から飛び出した何かは、あまり大きくないキバをのぞかせ、彼女の足に喰らいつきにかかる。
 
「……ありゃ?」

 硬直。
 両者が互いを確認して、その格好のままピタリと止まる。
 振り下ろしかけた杖をすんでのところで止めている火霊使いと、前のめりになった体勢で大口が開けっぱなしのきつね火。
376 :1 [sage saga]:2011/04/04(月) 02:00:19.13 ID:GmNp59Rao
「コン?」

 主の言葉に反応した使い魔は、申し訳なさそうに耳と尾を垂らしておすわりした。
 予想外の事態に彼女は困惑する。人差し指をこめかみにあて、小首をかしげて少考タイム。
 
「えーと、てことは?」

 三又に分かれた黒いモヤ。伸びた先は三本の柱。
 走っている最中も、最初にわきだした位置から柱までの黒いモヤはしっかり見張っていた。
 今夜ははっきり月が出ているから、ヤツがモヤから出てきたならすぐに分かる。
 
 しかもこの伸びたモヤ、途中で効力が切れたのかさっきよりもずいぶん薄まっている。
 モヤの向こう側の景色がみえるほどだったが、三本のいずれにもそれらしい人影はない。
 自分の死角はコンが担っており、コンは自分以上に眼が利く。見逃しは考えられない。

 その上で、三本の柱はすべて当たった。
 コンが至近距離で敵を見つけられないはずはないし、自分も折れた柱を粉々にした。
 そうして最後の柱でコンと自分がお見合い。どういうことか。どこへ消えた。
 まさか――逃げた?

「おいっ! まさか逃げたんじゃねーだろーな!?」

 その発想にたどりつくと、彼女は見えない相手に向かって叫び始めた。

「おい、コロッセウムでのトンズラはどういうことか分かってんだろーな!
 一度ココで受けた勝負から逃げるってのは、デントーを踏みにじる行為なんだぞ!
 逃げるならちゃんと出てきて負けを認めやがれってんだ!」

 大声でまくしたてても腹の虫は治まらない。
 出てきたら問答無用で黒コゲにしてやる。
 彼女が杖に霊力をこめたそのときだった。

 ――かつん。

 とっさに振り向く。
 石。小石が上から降ってきた。上。

「上か!?」

 観客席の巨大なアーチと繋がっている柱。
 先がぐるりと曲がって客席に続いているので、これを登ることができれば簡単に脱出できる。

 そうか、これがヤツの狙いだったんだ。
 わざわざ三ヶ所に黒いモヤを広げたのも、つまり上へ登るための時間稼ぎ。
 自分たちが効率よく挟みうちにするために、この柱を最後の後回しにすることを見越して!

「おい、始めから逃げるハラだったのかよ! 降りてきやがれ!」

 怒声をあげるも返事はない。
 それどころか、そんな態度を小ばかにするかのように、アーチの上から再び小石が二つ三つ落ちてきた。

「このヤロー!!」

 もう許さない。
 何が何でもヤツを丸焼きにしてやると決心した瞬間だった。
377 :1 [sage saga]:2011/04/04(月) 02:02:27.43 ID:GmNp59Rao
「ヤロー逃がすか!」

 とは言うものの、広間と観客席をへだてる石壁は分厚く高い。戸建て二階分はある。
 コロッセウム内の激闘の影響を受けないようにと当然の構造で、いかな彼女といえどとても飛び移れる高さではない。 
 広間と観客席をつなぐ階段は、石壁の円周各所に点在している。
 が、不運なことにこの位置は階段同士の中間地点、左右どちらも遠く、そこまで走るには間に合わない。
 
 ならば柱を登るしかない。
 ヤツと同じ手段をとるのも気が引けるが、追いつくにはもうこれしかない。
 なに、地に足がつきさえすればこちらのもの。かけっこでは負ける気がしない。

「よっ!」

 そうと決めたらまっすぐ行動に移すのが彼女。
 すぐさま柱にジャンプ。しがみつく。足をかける。

「お、お? こ、これ」

 しがみつけない。足がかからない。
 この柱、まさしくつかみどころがない!
 たまらず柱を蹴り、変な体勢で着地を決める。
 あ、あいつどうやってこんなスベスベの柱を登ったんだ?

「くそ、こうなったら……」

 そのときだった。

「動くな」

 凍りついた。首筋に冷たい感触。
 座り込んだ彼女の背後に、まったくのいつの間にか、誰かがいた。

「杖を当てている。この意味が、同じ精霊使いなら分かるはずだ」

 彼女は目を見張り、息を呑んだ。
 ――こうなってはもう、下手な手出しはできない。
 魔力をこめた杖から放たれる術の速さは、自分が一番よく分かっている。
 そして……こんな状況になった場合は、いつもコンが助けに来てくれることも!
 
「ちなみに使い魔なら寝かせたぞ」
「なっ」
 
 無意識に振り向く。動くなと言われて動いてしまったが、幸い何もされなかった。
 真っ先に目に飛び込んだのは、紛うことなくヤツ。
 今夜こんなことになった全ての元凶――闇霊使いのダルク。どこかに消えたはずの黒髪ヤロー。
 大仰な杖が目の前に突きつけられ、とてつもないプレッシャーが迫っている。
 続いて視界の端に、なるほどのんきにすやすや寝転んでいるきつね火。コン、お前なにやってるの……。
 
「勝負はオレの勝ちだ」

 その言葉に、思わずキッと睨み上げる。
 こんなワケの分からない決着がついてたまるかと、はらわたが煮えくり返る。
 悔しくてたまらない。まだあたしは全力を出していないんだ。悔しい、悔しい、悔しい!

 ――でも、どういうからくりか、ヤツはちゃんとコロッセウム内にいた。
 その上で自分から決定的な背後を取った。また使い魔も封じられ、逆転の目もない。
 この事実だけは受け入れざるを得なかった。決闘者として、認めざるを得なかった。
 彼女はうつむきながら「くそっ」と前置きし、歯の奥からしぼり出すような声で告げた。

「…………あ、あたしの……負け……だっ……」
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/04(月) 02:06:12.67 ID:NX/nIGNYo
わーいきてれるー
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/04/04(月) 06:20:09.00 ID:COPuJqL+0
待ってたぜ
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 07:49:59.12 ID:v/SivQ8J0
おい、>>1馬鹿なこと言うな
此処の面白さは地の文ありの小説形式なんだぞ

というか、自分のペース・スタイルで頑張ってくれ
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/04(月) 09:58:16.45 ID:hwAvrWfAO

地の文アリでなんの問題もないのでこのままでお願いします。
ヒータバ可愛いよヒータ
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/04/04(月) 11:34:08.47 ID:FzDnwQwX0
やべえ皆可愛すぎて昇天しそう
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/07(木) 23:00:13.09 ID:e1AhXSQc0
ヒータも可愛いんだがあえて
コン可愛いよコン
384 :1 [age]:2011/04/09(土) 01:59:27.69 ID:/bmAxi7Vo
応援していただき、また気遣っていただき、また可愛いと言っていただきありがとうございます
どんなレスでも確実に力もらってます

前回話題にしたことは、
当スレは数ある地の文形式のSSの中で、特に読みづらくはないだろうか?
ということを聞きたかったのですが、今のところ問題がないようなのでこの書き方でいきますね

あとこれだけ
自分の返信は常に投下前のタイミングに統一していますが、返信はすぐにしたほうがいいですか?
最近質問攻めですみません。関係ないですが、近頃先々の展開ばかり浮かんできてモチベがいい感じなんです
(筆がまったく追いついてないですが)

では今日も3レス分投下します
しばらく文字だらけで冗長に感じるかもしれませんが、遠慮なく読み飛ばしてもおkです
385 :1 [sage saga]:2011/04/09(土) 02:00:19.84 ID:/bmAxi7Vo

 闇霊術―『漆黒のトバリ』。
 ダルクが生み出した『黒』の正体は、いままさに刻一刻過ぎ去っていくこの「夜」より抽出し、さらに濃縮を加えた『闇』。
 闇霊術を行使するダルクにとっては生命線ともいえる、基本的な下準備の術である。

 密度の高い『闇』を高速で生み出し、闇属性以外のほとんどの敵の視界をさえぎる。
 さらに杖で方向を指定することにより、持続力はないが闇のカタマリを広範囲に飛ばすことも可能だ。
 また夜の屋外という環境下では、抽出源である闇の調達には苦労しないので、術者の負担も少なく使いやすい。
 そのうえ漆黒のトバリが出きってしまえば、その闇の中では縦横無尽に闇霊術が使えるので、ある程度の牽制にもなる。

 けれども当然の欠点として、生み出した『闇』自体にはなんの攻撃力もない。
 『闇』を生み出している最中はズバリ隙だらけで、このとき襲われたらひとたまりもないのだ。
 また闇の外に対してはあくまで視界封じでしかないので、飛び道具などには一方的にやられてしまう。

 それでもダルクは開幕でいきなりこの術を使った。
 飛び道具を放つ敵が臨戦態勢を取っている目前で、堂々と無防備をさらしたのだ。
 
 というより安全な場所に隠れて使うヒマなどなかったので、もはやこの術が使える狙い目はここぐらいしかなかった。
 つまり最速攻の一点。戦いが開始されたのかどうか、「え、始まっているの?」とでもいうような絶妙なタイミング。
 経験上この虚を突けば、出遅れた相手はまず警戒して受けの態勢をとる。
 その様子見が時間を稼がせてしまっている、と気づくのは後からだ。

 そうしてなんとか『漆黒のトバリ』を決め、姿をくらますことに成功したダルク。
 もちろん自身は闇の中では目が利くので、ここからは外部を確認しながら自分のペースで行動できる。
 逆にあちらからはこちらが見えないはずで、ちょっとしたマジックミラーみたいなものだ。

(よし、うまくいったぞ)

 目の前にまだ警戒している火霊使いが見える。使い魔も主の指示待ちのようでまだ動かない。
 おかげで十分に闇を広げることができた。これだけ展開できたら、出ばなから主導権はこちらのもの。
 さらに今まで見知った彼女の性格から、次に彼女が取ってきそうな行動も容易に想定できる。
 
(まずは身の安全)

 漆黒に包まれたダルクは、まずゆっくり三歩ほど後退した。
 そしてその場に屈みこみ、なんとそのままひんやりした石畳の上に這いつくばった。
 のみならず、杖のほかに床に転がっていたもう一つのアイテムをずるずる手元に寄せる。
 風呂で散々お世話になった、あの壺魔人の壺だ。
 それを腹ばいになった頭の前に置き、敵から見て全身が隠れるような状態にする。

 これで万一ファイヤー・ボールが自分のところに飛んできても、とりあえずは凌げるはず。
 現にさっき彼女がめちゃくちゃにファイヤー・ボールを飛ばしたとき、一発だけ壺に命中したのを見た。
 壺はビクともせず、わずかな焦げを作っただけだった。つくづくとんでもない壺だ。

 しかしないよりマシとはいえ、この壺バリアはあくまで対炎球の間に合わせにしかすぎない。
 他の火霊術での攻撃のことを考えたら、我が身の保証はまだまだ不完全。
 単に闇にこもるだけでは、主導権を失うどころか戦局自体が悪化してしまう。あまり時間はかけられない。

(さぁ……ここからが頭の使いどころだ)
 
 漆黒の中、うつぶせのダルクは眼を閉じ、一度きりの大きな深呼吸をした。
 頭の中に混じりけのない闇が浸透するイメージ。
 できる限り頭の中を空っぽにして、得られる情報を整理し、状況に応じて臨機応変な判断を下す。
 ダルクの戦い方はここから始まる。
386 :1 [sage saga]:2011/04/09(土) 02:01:15.68 ID:/bmAxi7Vo
(とりあえず手を打たなくては)

 『漆黒のトバリ』は前述したように単体では何の防御策にもならない。
 魔法はもちろん物理攻撃もなにもかも筒抜けだ(特に光には滅法弱い)。

 そして、目くらまししたところで何も安心はできない。
 初見の相手は訝しがって近づいてはこないが、その暗闇の中に術者がいること自体は分かる。
 したがって飛び道具を連発したり変則的な手段に走るのが常で、そうなったらこちらも防戦に転じなければならない。
 下手をするとそのままワンサイドになって終わってしまいかねないので、とにかくダルクは早急に次の一手を打つ必要がある。

(やはりあの柱、使えそうだな)

 ダルクはコソコソと身体をひねり、遠くに見えるコロッセウムの装飾柱を視界に捉えた。
 このフィールドに来て、戦いの気配を感じたときからすでに思い描いていた作戦。
 『漆黒のトバリ』をあれに向かって飛ばし、あたかもそれをたどって柱に隠れたようなフェイクを仕組む。
 柱同士の間隔が近くてはダメだ。またここからの距離もあまり違わない方がいい。
 よし、あれとあれとあの柱にしよう。
 
(いけっ)
 
 ダルクは半身のような体勢から、杖にこめた霊力を勢いよく放出した。
 一発目。人一人が隠れるぐらいの太さで飛んでいき、見事目的の柱に付着。
 これだけの距離をこの太さで飛ばせられるのは、やはり夜闇の確保に不自由しないことと、ダルク自身が好調だったこと。
 バーニングブラッドの露天風呂は心身の疲れを吹き飛ばしてくれるどころか、失った魔力までも全快にしてくれた。
 
(よし、調子がいいぞ)

 続けて二発目、三発目と黒い道を作る。
 音はほとんど立てておらず、すべてダルクの背後に放ったため、相手も気づきにくいはずだ。
 
「何だってんだよ!」

 案の定、相手も『漆黒のトバリ』の正体が分からず途方に暮れて――

 次の瞬間!
 横になっている身体の上半分を、やぶからぼうに高温がなでていった。
 危険を察知したときには、すでにファイヤー・ボールは頭上を通り過ぎたあとだった。
 危ない、いやこれでいい、相手の目は確実に誤魔化せている。それよりも油断しないことだ。
 今のは狙い通り逸れていったが、あれの威力は決してバカにならない。二発ももらえばもう終わりだ。
 もう少しで「あちっ」などと漏らすところだった口を押さえ、ダルクはいっそう壺の陰に身をよせる。
 
 念のためもっと『漆黒のトバリ』を広げておこうか?
 いや、コンディションがいいとはいえ、さすがにこれ以上の霊力消費はあとが怖い。
 またこの術は闇を広げる量に比例して密度が薄くなり、持続時間も減っていく。
 この広いコロッセウムで過度な保険をかけるのはかえって危険だ。
 
「あ、あの野郎……」
 
 そうこうしているうちに、怒りで震えている火霊使いの声が耳に入った。
 どうやらさきほど放った三又の黒い道に気がついたようだ。
 同時にダルクは、少しだけ口の端をつり上げる。
 いま彼女は、「この野郎」ではなく「あの野郎」と言った。
 それはすなわち、敵がすでにこの場にいないと無意識に決めつけている表れだ。
 ダミーの黒道はうまく機能している。直接的な進展はないが、形勢はリードしているとみていいだろう。
387 :1 [sage saga]:2011/04/09(土) 02:02:41.28 ID:/bmAxi7Vo
 そのあと彼女は「隠れてないで出てきやがれ」「戦うなら正々堂々だろうが」
 などと大声でわめいた挙げ句、「もうなんなんだよ!」と叫びながらメチャクチャにファイヤー・ボールを飛ばしてきた。

(うおっ! き、きたっ)

 実はダルクは、この戦いでこの乱打が一番キツかった。
 いかに目標が定まらない攻撃とはいえ、ダルクにとっては一発一発が大ダメージの炎の球。
 果たして壺魔人の壺ひとつでしのぎきれるか? 放物線をえがいたりして自分に落ちてこないか?
 真上を次々と飛び過ぎ、たまにすぐ脇に着弾するファイヤー・ボールの猛攻には、さすがに生きた心地がしなかった。
 
 さらに『漆黒のトバリ』は光には弱い。
 ファイヤー・ボールが一発通り過ぎるたびに、この闇のベールに穴が空いてしまう。
 それをふさぐために、ダルクはひそかに全力で『漆黒のトバリ』を放出し続けていた。
 術者の周囲なのでわりと余裕で補修は間に合うが、おかげで身動きが取れない。いま乗り込まれたら一巻の終わりだった。
 
 やがて、どうにか一発ももらわずに静かになった。
 攻撃がやんだかと思い少しだけ壺から頭を出すダルク。
 瞬間、「ちくしょー!」と共に飛んできたダメ押しの一発!
 避けるヒマもなかったが、幸いファイヤー・ボールは例によってすぐ真上を飛び抜けていった。
 あ。あ。危なかった。頭のてっぺんが焦げてる。もう少しで断頭台の惨劇になるところだった……。
 
 それにしてもこの無駄打ち……まさか作戦なのか?
 何か狙いがあるとしたらまずい、まったく読めない。
 周囲には、床にできあがった焦げ目の数以外の変化は、特になし。

 放たれたファイヤー・ボールの数は、開幕前からカウントして全部ひっくるめるとおよそ15発。
 無尽蔵か。ちっとも疲れる様子がないところを見ると、まだまだ余裕がありそうだ。
 ひそかに霊力の浪費が一つの狙いだったが、この分では戦いに影響を及ぼすまでにはいかないだろう。

「くそ……仕方ねーな……」

 イライラしながらも、ため息が交じったような声が聞こえた。 
 言葉の響きでようやく諦めてくれたと確信する。確信はすれど、

「おい、これで最後だ! 生き地獄に遭いたくなかったらとっとと出てきやがれ!!」

 などと大声で続けられれば動転する。ダルクは慌てて壺の陰に身を縮め、息を殺した。
 大丈夫だ、相手は自分がすでに遠くの柱に隠れたものと思い込んでいる。今は相手が先に動くのを待つべき。
 自分は万が一のファイヤーボールに備え、身の回りの闇だけ濃くしていればいい――。

 と。彼女が何かに話しかけているのが耳に入る。
 ようやく使い魔のきつね火をけしかける気になったらしい。
 正直、最初からその使い魔でこの位置を確かめにこられたらやりづらいなとは思っていた。
 しかしそれはしなかったことを鑑みるに、さすがに未知の暗闇に自分の相棒を突っ込ませるのにも抵抗があったのだろう。

 ……いや、今のやりとりをみた限りでは、自分が熱くなりすぎて単に使い魔が目に入っていなかっただけなのでは?
 一つのことに夢中になったとき、周囲が見えなくなる、か。
 つけいる隙になりうるか? この戦いの中で試してみる価値はあるかもしれない。

 ダルクは目の前に注意しつつ、ゆっくりと夜空を見上げた。
 ――よし、いける。
 あとの段取りは、もはや七割がた決まったようなものだった。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage saga]:2011/04/09(土) 02:14:29.38 ID:7LJFhpFS0
寝落ちした?
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 05:58:23.73 ID:tGm0Y5hvo
ダルク策士可愛い
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 10:37:33.95 ID:tMnn6FDq0
ダルクまじイケメン。
返信は一括でいいと思う。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/09(土) 13:56:44.21 ID:l2cKtfnAO

ヒータの性格もあって、策が上手いこときまった感じか。
返信は、投下後とかでいいと思う
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/09(土) 19:57:36.77 ID:3eaYNMlK0
乙!
実は結構ギリギリだったのか……そして壺バリアに吹いたwwww

追記
断頭台の惨劇ってパンドラ戦のカードだよな
OCG化したっけ?
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/04/09(土) 21:36:53.08 ID:Pt6tXdQAO
乙!

>>392
OCG化してる

断頭台の惨劇
通常罠
相手フィールド上モンスターが表側攻撃表示から表側守備表示になった時に発動する事ができる。
相手フィールド上の守備表示モンスターを全て破壊する。

原作だと通常魔法でノーコスト単体除去ってカードだったけど
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 01:29:29.28 ID:xZwt4U/4o
>>393
アースクエイクなりと組み合わせると全体除去と化す
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/10(日) 19:49:28.31 ID:6CQTMY0w0
>>392
何の話かと思ったら、文中の表現にあって吹いたwwww

>>393-394
乙!
396 :1 [age saga]:2011/04/14(木) 16:10:51.74 ID:oa6Sz5kro
いつもご支援いただいてありがとうございます
雑談の話なんかも個人的には嬉しいです(パンドラ結構好きです)

なんかヒータ編がこんなだらだら長くなってすいません
端折るのが嫌だったので書き続けたらこのザマです
他の霊使いの話や終盤っぽい展開も次々と浮かんできているのに……
恐縮ですがこの遅筆ペース、どうかお付き合いください

>>390-391
ご意見ありがとうございます。返信はこれまでと同様に一括にしますね
あと「んなレスする暇あるなら書けよ」が怖くて投下後の返信はわざと控えてます
(必要だと判断した場合のみレスすることにしてます。悪しからず)
397 :1 [sage saga]:2011/04/14(木) 16:11:32.83 ID:oa6Sz5kro
「コン、あいつがどこにいるか分かるか?」「……ええっ」

 火霊使いの独り言のような台詞は、そっと耳を傾ければ丸聞こえだった。
 どうやら読み通り、あのきつね火はディーのダークボムのおかげで嗅覚が鈍っているらしい。
 そうでなければ主の指示なしとはいえ、眼前に潜んでいる敵に対して一応のアクションくらい起こすだろう。
 もっとも決め打ちで大丈夫だと判断しなければ堂々と『漆黒のトバリ』など使わなかったが、腹を決めて正解だったようだ。

「じゃあ……コンはあれを調べてきてくれ」

 おいおい無用心すぎるだろうと呆れ返るダルク。
 声量を変えないもんだから、たったいま打ち立てたらしい作戦模様も筒抜けだ。

 三本の柱のうち、まず両サイドから攻め、敵がいなければ真ん中を挟撃するプランか。
 力くらべを望むにしては、単純ながら理に叶った効率のいい手段といえるだろう。
 言動に抜かりが多いからこそ引き立つ機転。もしこれが自然な着想であるなら場数がうかがえる。

 また、敵が潜んでいるかもしれない一柱を任せる点からも、使い魔には相当の信頼を置いているとみた。
 確かに自分がディーをさらわれた時も、あのきつね火のあまりの素早さに何もできなかった。
 加えてあの従順ぶり。おそらく主の危機には、とっさに身を挺すぐらいの忠勇はあるだろう。
 それではたとえ彼女に対し絶好機を得ても、使い魔の妨害によって仕損じる可能性が高い。
 すなわち自分が火霊使いに勝利するためには、まずは使い魔コン君の動きを封じる必要がある。
 
「いくぞ!」
 
 するどく威勢のいい声が響く。
 ようやく本格的に動き出したなと思うと同時に、何かが遠めの両脇をすり抜けた。
 それがまさに火霊使いとその使い魔だと気づいたのは、振り返って一秒経ったあと。

(な……は、はやい!)
 
 想像以上のスピード! きつね火はともかく、なんで魔法使い族の主人の方まであんなダッシュを!
 そんな様子にはみえなかったが、肉体強化の術でも使ったのだろうか?
 素であれならなんて身体能力、逃走することになったら自分の足では撒ける気がしないぞ……。
 とにかくこちらも急がなくてはならない、ボヤボヤしていたらせっかくの布石がパァになってしまう。
 
(行動開始だ)
 
 いま一度相手との距離を確認し、ダルクは腹ばいからすばやく立ち上がった。
 手短に衣服についた砂埃を払い、間を置かずして自前の杖を天に向かって掲げる。
 そのまま『漆黒のトバリ』――濃縮した闇を、空に向かって放った。いや放ち続けた。
 霊力を弱めた闇を放ち続けた状態で、その杖先を空に向けて振り回す。

 くるんくるんと二重丸を二回。ジグザグを一回。最後に円のような形を一回……。
 C――o――m――e――
 
(来てくれ!) 
 
 夜空に浮かんだ乱雑なアルファベット。地上に平行し、しかも重なっているため、傍目ではまず解読不可能だ。
 そのうえ漆黒のトバリを下敷きに描かれた文字なので、真上から俯瞰しても暗闇とほとんど判別ができない。
 できるのは、闇から生成された闇を見分けられ、長年ともに過ごしてきたパートナーくらいのもの。
 
 すぐさま、上空から様子を窺っていたコウモリの使い魔・ディーが滑空してきた。
 相手が使い魔を従えて戦うなら、こちらも遠慮なくディーを使うとする。これでフェアだ。
398 :1 [sage saga]:2011/04/14(木) 16:12:18.08 ID:oa6Sz5kro
 夜分が引いていく空より颯爽と参じた、一つ目コウモリ・ディー。
 無闇に音を立てず、一直線に主の元へ向かってくる。

 この使い魔は、自らに危険が迫った際に主人に課せられていたことを忠実に守っていた。
 時と場合により派生型や特殊な指示もあるが、基本的には以下の三点。

 『なにより自らの身を守れ』『自分に危害を加えたものから離れよ』
 そして、『主人を探し出し、いつでも合流できる状態を作れ』
 
 最後の指示が一味違い、すぐには合流しないことが大切。
 まさに今のような交戦中の場合、のこのこ現れて一緒になるのは危険を招くからだ。
 それに『いつでも合流できる』とは、いわば敵に気づかれない状態での待機状態。
 主人の合図次第で、応援・奇襲・場合によっては離脱もできる。
 綿密な打ち合わせによって裏づけされた、ダルクとディーのコンビネーションは並ではない。
 
(ディー、よく無事でいてくれた)
 
 『漆黒のトバリ』の空間に突入した黒い影は、すぐにダルクの肩にとまった。
 特に疲れている様子もなく、ダルクと同様、温泉効果と夜間真っ最中のおかげで元気そうだ。
 
(さっそくですまないが今、炎の使い手と戦っている。お前はあの柱に向かってくれ)
 
 ダルクは三方向に飛ばした漆黒のトバリのうち、中央の柱を示した。
 あの柱は先端が観客席のアーチとつながっている。
 火霊使いときつね火は、しばらくしてどの柱にも敵がいないことを知るだろう。
 そのタイミングであの柱の上から気を引けば、『観客席に逃げ込んだ』という思考で頭がいっぱいになる。
 さらに彼女は周囲が見えなくなる可能性もあり、そうなれば使い魔を抑えるには絶好のチャンスだろう。
 
(それであのアーチの上から、小石なり破片なり落として相手の気を引いてくれ。
 タイミングは柱の下に相手がそろって、オレが到着したときだ。もちろん見つからないようにな。
 気を引いた後はオレの方を観察しつつその場で待機だ。あとでまた合図を送る。
 何か危険を感じ取ったら、ダークボムを一発落として全力でその場を離れろ)
 
 ささやくような声で概要をまくしたてるダルク。
 うなずく代わりに半目をパチパチしばたかせているディー。
 ディーは言葉が通じるだけでなく、理解力も早いから多分大丈夫だろう。大丈夫だよな?
 
(よしいけっ!)
 
 ダルクは勇気付けるようにその頭をチョンとつついてやり、ディーを勢いよく夜空に解き放った。
 漆黒から飛びぬけたディーは、天空めがけてパタパタ飛び立っていく。
 柱の上までの最短航路を飛ぶのではなく、相手に気づかれないよう、一旦高度を稼ぐためだ。

(オレも行かなければ)
 
 布石は打った。これからが本番だ。
 ダルクは左手に壺、右手に杖をにぎり、三方向に伸びた闇の道のうち、中央の道の前に立つ。
 
 すぐに突き進む前に、あらかじめ自分に霊術を施しておく。
 ダルクが杖に霊力を注ぐと、漆黒ではない別の魔力がコンコンとこぼれ始めた。
 放出された魔力はみるみるうちにダルクの身体を闇に溶け込ませ、その輪郭を薄めていく。

 闇霊術―『うごめく影』。
 外の世界に出てからも何度か使った、ダルクお得意の闇紛れの術。
 『漆黒のトバリ』との相性は抜群で、この二つを併用すれば並のモンスターの前ならほぼ完全に姿を消すことができる。
 しかし『うごめく影』を使用している間は他の霊術は使えず、『漆黒のトバリ』の放出も断たなければならない。
 『漆黒のトバリ』は時間が経てば消えてしまうので、最高の隠れ身でいられる時間も限られている。
 
 飛ばした漆黒の道ももう長くはもたないが、『うごめく影』をかけておけば注意力散漫な彼女ならごまかせるはず。
 何にせよあまりぐずぐずしてはいられない。
 ダルクは霊術が全身に浸透したのを待つと、ためらいなく闇の道へ足を踏み出し始めた。
399 :1 [sage saga]:2011/04/14(木) 16:14:11.47 ID:oa6Sz5kro
 『漆黒のトバリ』の中を早歩きで直進するダルク。
 やはり飛ばした術は長持ちせず、暗闇の濃度は確実に薄らいできている。
 だがこのペースであれば、暗闇が晴れる頃には自分は中央の柱に到達しているだろう。
 
 気をつけるのは足音。
 『うごめく影』は姿かたちと気配は消せるが、音まではカバーしてくれない。
 駆け出すと感付かれる、かといって慎重になりすぎたら間に合わない。

 そこで師より教わったスニーキング(忍び足)。
 足の裏全体で床をペタペタ踏むのではなく、カカトから靴裏の縁をなぞるように地を踏みしめる。
 訓練すれば、ほとんど音を立てずして競歩なみのスピードで移動することができる。
 
(よし、いい感じだ)
 
 足元に注意しつつ顔を上げ、左右の斜め方向に視線を送る。
 柱に駆けていった火霊使いときつね火の様子は――。
 
 そのとき突然だった。一瞬、チカリと光って。
 爆発。
 静かだったコロッセウムで、耳が醒めるような荒々しい爆音が鳴り響いた。
 火山とは無関係の振動が地に響き、なまあたたかい余熱が爆風と共に流れてくる。
 
(な……)
 
 右の折れた柱だ。火霊使いの向かったあの柱。
 遠目に粉塵が舞っている。その中には間違いなく火霊使いのシルエット。
 柱は――粉々だ。残骸はもはや切り株ほども残っていない。
 彼女はいちいち敵を確認したりせず、隠れ場所ごと吹き飛ばしてしまったのだ。
 
(い。今のを一人でやったのか)

 目を丸くするダルク。流石にぞっとせずにはいられない。
 まさか一霊使いがあんな大技を使えるとは思わなかった。
 もしあんなのをこちらに放たれたら――。
 
 いや落ち着くんだ。
 さっき爆発直前に光ったとき、チラリとみえた彼女の姿。
 あれは跳躍し、そのまま飛びかかったようなポーズだった。
 つまりあの技は打撃技。近距離でしか使えない火霊術とみた。
 さっき見事に決まったように見えたのは、攻撃対象が動かない柱だったからだ。
 こうして闇の中で姿をくらませている限り、自分があのグレイモヤを直撃することはまずない。
 
 ――しかし考え方は改めなければならない。
 これまでは相手が自分を見失っている分、形勢は大幅に自分が有利だと思い込んでいた。
 けれどもその実態は薄氷を渡っていたに過ぎなかったのだ。
 いつでもひっくり返される状態で、かつ一度しくじったら終わりだ。

 彼女を多少なりとも見くびっていたことを猛省しなければならない。
 あの一撃必殺の存在が、ここまでプレッシャーを与えてくるとは……。
 
 ダルクはそれでも、絶対に歩みだけは止めなかった。
 そのとき驚きはしても、爆発の前後ですらダルクのペースは乱れなかった。
 まだ自分の作戦に支障は来たすような事態には陥ってはいない。
 すでにディーを向かわせた以上、筋書きを成立させるのが最善だ。

 ダルクは臆するどころか、むしろ何かに挑戦するような面持ちへと変わる。
 渇いた口を結びなおし、わずかに汗ばんできたてのひらを握り直す。

 いま自分は同じ霊使い――ライバルと戦っている。
 彼女と出会う前の、宿敵との邂逅にあこがれたあの心境が還ってきている。
 コロッセウムの影響か否か、体の節々から戦意がほとばしるようだった。
400 :1(ストック終) [sage saga]:2011/04/14(木) 16:15:36.34 ID:oa6Sz5kro
 月の姿がみえない。ついに沈んだのか雲に隠れたのか。
 とにかくダルクがバーニング・ブラッドを訪れてから相当の時間が経過していた。
 コロッセウムの一本の柱に、思惑は違えど二匹の使い魔と二人の霊使い――この場の全員が集結する。

 まず最初に柱に到着したのはきつね火・コン。
 主人に指示されたとおり左の綺麗な柱を調べてみたが、いくら集中力を研ぎ澄ませても何かがいる気配はなし。
 内心ホッとし、急ぎ中央の柱に向かったのだった。
 遅れたら主人に怒られてしまうという焦燥感もあったりなかったり。
  
 コンと僅差で到着したのが、さきほど大技を繰り出したばかりの火霊使いの少女。
 四つ足のケモノに負けるとも劣らない速さで駆けつけるも、息の乱れは一つもない。
「いるのかっ」「……ありゃ?」「コン?」「えーと、てことは?」
 ハタから聞く分には一人コントにしか聞こえない言動が繰り広げられ、一時にぎやかな雰囲気が醸される。
 
 次に柱にたどり着いたのはダルクの使い魔・ディー。
 敵に気づかれないようぐるりと旋回しながら滑空し、観客席側から迂回しての着地。
 足元にはすでに敵がうろついているが何も問題はない。
 アーチの上で手ごろな小石を確保。準備万端。あとは主人の到来を待つだけ。
 
 最後に、早歩きの速度をゆるめたダルクがまもなく柱にたどり着こうとしていた。
 火霊使いときつね火は、幸いこちらにまったく気がついていない様子。
 ダルクはコクンと唾を飲み干す。ついにこの作戦最大の難所に直面した。

(ここが正念場だ……)

 迷彩の要である『うごめく影』を解いて、別の闇霊術をきつね火に使う。
 闇霊術―『催眠術』。
 エリアの使い魔ギコ君にも使った、低級モンスターを眠らせる術。
 あの火霊使いにも直接使えないことはないが、ピンピンしている彼女にはまず効かないとみていい。
 万全の状態相手に有効なのは、明らかに格下のモンスターだけだ。
 ――そもそも、そんな簡単に女の子を眠らせられたら、ちょっと、まぁ、いろいろと問題だろう。
 ……でもあの勝ち気な女の子が静かに寝入ったら、一体どんな寝顔になるのか……。

(いやいや今そんな場合じゃないだろっ)

 また、ダルクの使う催眠術には他にも条件がある。
 この術は闇を濃くすることで睡魔へいざなう仕組みなので、相手が暗闇の中にいることが前提なのだ。
 今の状況でてっとりばやくきつね火を眠らせるには、『漆黒のトバリ』を放出して暗闇に包み込むのが一番だろう。
 だがこれが難しい。きつね火が周囲の異変に対し、大人しくしてくれるとは思えない。
 元々これでうまくいくと踏んだから決行したのだが、ディーの小石投下でどれだけ注意を引けるかがカギだ――。
 
 そのときだった。
 
「おいっ! まさか逃げたんじゃねーだろーな!?」
 
 ダルクは突如響き渡った怒鳴り声にはっとした。
 彼女が観客席に向かって大声を上げている。
 柱まであと小股で十歩程度といった距離。
 使い魔も主の声にビクビクしている。

(ここだ)
 
 ダルクは自分でも驚くほど落ち着いていた。
 大声にひるむ素振りも見せず、スピードは落とすものの、堂々と柱への接近を再開した。

 きつね火の尻尾にともった火の玉が焦点。
 ダルクは右手の杖を握りしめ、標的へ一歩一歩迫っていた。
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 19:15:43.75 ID:5+lMkc8io
DT12再録だってやったねひーちゃん!
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/14(木) 19:28:10.52 ID:bNNRKPtKo

キャーダルくんイケメーン
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 19:44:11.04 ID:prH2QRs1o

404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/14(木) 20:07:31.43 ID:IfXm9y8U0
乙!
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/14(木) 23:26:19.58 ID:gjXfJXKSO
「」イチオツ
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/04/15(金) 23:23:09.91 ID:xxcFMBkq0
ダル君流石だよダル君。
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/17(日) 09:37:51.90 ID:QTNGvn+M0

グレイモヤワロタ
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/04/18(月) 20:33:01.02 ID:oksKeZwK0
ダルクまじカッケェ
409 :1 [age]:2011/04/19(火) 15:32:53.89 ID:SS7qLjRxo
乙をリリースしてくださってありがとうございます
そのコストはSSによってアドバンスさせていただきます
では続きを投下します
410 :1 [sage saga]:2011/04/19(火) 15:33:43.80 ID:SS7qLjRxo

 ビッグバン・シュートの爆発からいくばくか経ち、夜のコロッセウムは再び静寂を取り戻そうとしていた。
 が、またしても同じ騒音の元凶――敵を見失って憤慨している少女によって、それは切り裂かれた。
 切歯扼腕もはなはだしい口上が、コロッセウムの一角に響きわたる。

「おい、コロッセウムでのトンズラはどういうことか分かってんだろーな!
 一度ココで受けた勝負から逃げるってのは、デントーを踏みにじる行為なんだぞ!
 逃げるならちゃんと出てきて負けを認めやがれってんだ!」

 集中力を研ぎ澄ませているダルクにも、一応その言葉は耳に届いていた。
 コロッセウムの伝統。そんなものがあるのなら、なおさらこの勝負から逃げるわけにはいかない。
 この戦いはいわば外の世界に出てからのデビュー戦、しかも相手は同格の霊使い。

 ダルクは闇の世界で鍛え上げた自分の実力を、結果で知りたかった。
 勝ちたい。
 その一点の思いが、ダルクの足を突き動かしていた。
 
(ついた)
 
 やがてダルクは、標的のほんのすぐそこまで辿りついた。
 『漆黒のトバリ』の範囲内でギリギリ近づける距離。
 きつね火の尻尾の炎が目の前で揺れている。

 きつね火は怒り心頭の主人が気が気でならないらしく、その場に縮こまってくれている。
 こちらには背中を向けたまま、まるで気づいていない。
 
 ダルクは慎重に壺魔人の壺を足元に置き、ゆっくりと杖を振り上げた。
 これから自身の『うごめく影』を解き、きつね火を『漆黒のトバリ』で覆って『催眠術』をかける。
 忙しいうえにミスは許されず、高い技量を求められる動作だ。

(やるぞ)

 ダルクの杖は振り上げられ、いつでも術を飛ばせる体勢だ。
 だがすぐには『うごめく影』を解かない。じわじわと紐解くように姿を現す。
 いきなり気配を現してしまったら使い魔はおろか、火霊使いにまで感づかれてしまう可能性がある。
 少なくともエリアを覗いてしまった時はそうだった。今は集中力が途切れるようなものはないから大丈夫だ。

 だが大丈夫ではなかった。
 その直後、きつね火が不審げに首を逸らしたのだった。
 何かを探るように、右へ……左へ……と、ダルクの眼前で周囲をうかがっている。

 ま、まずい、感づかれた!
 一瞬でもエリアのボディラインを思い浮かべるのではなかった!

 ダルクは『うごめく影』の解除を半ばで中断し、身体を石のように固めた。
 下手に動くのは自滅行為、かといってここで『うごめく影』を塗りなおせば余計に不自然。
 板ばさみにさいなまれたダルクだったが――
 
(だ、大丈夫だ) 
 
 ここを凌ぎきればチャンスが巡ってくることも分かっていた。

(頼んだぞ、ディー!)
411 :1 [sage saga]:2011/04/19(火) 15:34:22.34 ID:SS7qLjRxo
 果たして、主人の心中を読み取ったかのようなタイミングだった。

 ――かつん。
 その小さな物音に、火霊使いときつね火の注意が釘付けになる。

「上か!?」

 刹那、ダルクの杖から放たれた『漆黒のトバリ』がきつね火の身体を包み込んだ。
 
「おい、始めから逃げるハラだったのかよ! 降りてきやがれ!」

 きつね火の意識は完全にアーチの上へ向いていたため、足元からくる暗闇への反応が遅れてしまった。
 その視界が闇に覆われるのと同時に、練りをほどこした『催眠術』が仕掛けられる。
 
 ダルクのコンディションは良好で、主人にこき使われてばかりだったきつね火は少なからず疲労していた。
 きつね火が異変を感じたときには、半ば強制的にまぶたは閉ざされ、全身に力が入らなくなっていた。
 草木も寝静まる時間に、深い闇の中で、深い眠りに落ちるのはごく自然なこと。深い闇へ。深い眠りへ――。

(よし、うまくいったぞ!)

 使い魔が静かに倒れ伏すのを確認し、険しい表情の中に安堵の色をみせるダルク。
 これで戦局は制したも同然だ。ただし――

(!? これは……!?)

 きつね火の尻尾の炎が、勢いよく燃え上がったのは予想外だった。
 きつね火は意識を手放す間際、せめて主人に危険を知らせようと最後の合図を送ったのだった。
 尻尾の炎は小さな風音とともに燃え盛り、周囲をほんのり明るく照らしていく。
 そのおかげで『漆黒のトバリ』は晴れ、ダルクの姿も半分暴露されてしまった。

 これは非常にまずい。
 いま上を向いている火霊使いが少しでもこちらを視界に入れたらアウトだ。
 いったん退いて闇に閉じこもるか? それとも今すぐ勝負を決めにいくべきか?
 ダルクが躊躇したそのとき。

「このヤロー!」

 アーチの上から再び小石が落ちてきた。
 執念深く注意を引きつけるかのように、二つ三つまとめて。

(いいぞ、ディー!)
 
 いまので十分な時間が稼げた。
 ダルクはただちに『漆黒のトバリ』を展開させ、きつね火もろとも暗闇で周囲を覆った。
 きつね火の最後の踏ん張りむなしく、その炎は長持ちすることなくたちまちしぼんでしまった。
 
 このとき彼女が周囲の変化に気づいていれば逆転されていたが、頭に血が上りきっている彼女にとっては無理な話。
 ダルクはそれを見越して余裕を感じていた。あとは隙をみて背後を取り、サレンダーを強いれば勝ちだ。
 ――ところがその隙がなかなか取れない。

「ヤロー逃がすか! ……よっ!」

 彼女はじっとしてはくれず、それどころか思いもよらない行動に出た。
 なんといきなり柱に飛びついたのだった。
 ほんの三歩先の間近にいたダルクは大仰天、心臓が飛び出す思いだった。
 
「お、お? こ、これ」
 
 すぐに柱から飛び落ちる彼女。
 なるほど、オレが柱に登ったと思い込んだんだなとダルクは悟る。
 あいにくそんな柱登れるような筋力があったなら、竹光の一本でも腰に差している。
 
 そしてこの瞬間に勝負は決した。
 彼女の不自然な着地体勢を、ダルクが見逃すはずがなかった。
412 :1 [sage saga]:2011/04/19(火) 15:35:05.62 ID:SS7qLjRxo
「くそ、こうなったら……」
「動くな」

 ダルクはへたりこんでいる赤髪のうなじあたりを、そっと杖で触れた。

「杖を当てている。この意味が、同じ精霊使いなら分かるはずだ」

 自分で言うものの別に深い意味はなく、半分は脅し文句に頼ってかけているチェックだ。
 さすがにこの状態で使える闇霊術は用意してあるが、彼女が俊敏にバネを弾ませたら対応できる自信はない。
 そういう点ではこれもある種の賭けだったが、ダルクには不思議と憂いはなかった。
 この場に流れているもの――コロッセウムの空気が、戦いの収束を告げている。

 それにしても彼女が最後にやろうとしたことが少々気にかかる。
 「こうなったら」何をするつもりだったか、まさか観客席ごとこの一帯を炎上させる気だったのだろうか。
 その類だとしたらつくづくとんでもない霊使いだ、言動と戦闘能力の組み合わせが危険極まりない。

 でも。
 背後から見下ろした彼女の背中は思った以上に小さくて、こうしてみると一人のか弱い女の子に過ぎない。
 この子は何があってここまで強くなったのだろう。何が彼女をここまで強くさせたのだろう……。
 
 ダルクはふと上方に気配を感じた。
 首を上げると使い魔のディーがこちらの様子をうかがっている。
 ダルクは微笑を向けると、空いている手の人差し指を立て、その先をくるんくるんと二三回まわした。
 ディーは了解のまばたきをし、静かにこの場から飛び立っていった。
 
 今回、使い魔なしでの勝利などありえなかっただろう。ディーはよく頑張った。
 この相手も、戦闘中もっとコン君と息を合わせていれば――そういえば、とダルクは彼女に添える言葉を思いつく。

「ちなみに使い魔なら寝かせたぞ」
「なっ」
 
 突然こちらを振り返るものだから、ダルクは思わず固まってしまった。
 そして一瞬驚いたあとも、そっとしておく。
 脅した意味がなくなるが、その不安げな顔に向かって術をかけるなどできなかった。

 同時に安心する。なんだかんだいって使い魔思いの主人だ。
 この粗暴な霊使いでさえも使い魔との絆を大切にしていることを知り、なんだか感極まってしまう。
 ……それにしても整った顔立ちだ。
 静かにしていれば可愛い女の子なのに――い、いや、別にそーゆー意味じゃなくて。
 
「しょ、勝負はオレの勝ちだ」
 
 誤魔化すように一応の明言をするダルク。
 その言葉に反応し、下からキッとにらみ上げる彼女。
 なんてプレッシャーだ。だがここで物怖じすれば格好もつかない。
 ダルクは無理にポーカーフェイスを決め込み、ただ黙ったまま彼女を見返す。
 
 その状態がしばらく続いた。
 実際には十秒と経っていなかったが、圧力を受けるダルクには悠久の時間のように思えた。
 一方彼女にとっては、敗北という屈辱をすぐには受け入れきれない苦痛の時間だった。
 
「くそっ」

 ――やがて彼女は顔を伏せた。
 そして、渋々なんて言葉ではとても言い表せない、しぼり出すような口調でそれを告げる。

「…………あ、あたしの……負け……だっ……」

 それを聞き終えたダルクは、安堵のあまり思わず息をもらした。
 間接的ではあるが、常にギリギリを強いられた戦いだった。
 過激な言動に突飛な発想。そして強力な霊力と持ち技の数々。とても真っ向で戦える相手じゃなかった。
 
 ……だが。まだこれで一件落着ではない。
 ダルクには結果がどうであろうと、あらかじめ決めていたことがあった。
413 :1(ストック終) [sage saga]:2011/04/19(火) 15:41:40.19 ID:SS7qLjRxo

「すまなかった!!」

 突然の大声に、火霊使いは驚いてダルクを見上げた。いや、見下ろした。 
 なんとダルクは、彼女より低い位置まで屈みこんで頭を垂れていたのだった。
 彼女には何が起こったのか見当もつかない。

「決して覗こうとしたわけじゃなかった! 温泉での件は謝る! すまなかった!!」
 
 彼女はぼんやりとその黒髪を眺めていたが、やがて事情を理解し、またたく間に赤面していく。

「あ……お……お前……」
「頼む、どんな報いも受けるが、謝罪だけは聞いてくれ! すまなかった!!」
「こ、このっ」
「申し訳ない面目ないごめんなさいっ!」
「うるさいっ!」

 もともと自分が受けた辱めの復讐のために、自分から仕掛けた勝負。
 しかしその勝負に敗れ、しかも相手はそのことでここまで頭を下げている。
 これでは手を上げられない。イライラする。何だこの歯がゆさは。
 
(くそっ! コイツのせいでコイツのせいで! なんなんだコイツはっ!)

 彼女はこれまで長い間戦いの中で育ってきた。しかしこんなパターンは今までになかった。
 今まで自分を負かした相手のほとんどは、余裕、横柄、不遜、醜悪な態度をみせつけてきた。
 なのになんだコイツは。なんで勝ったのにそんな振る舞いができる。
 勝ったあとなら風呂での件を許してもらえるとでも思っているのか。そんな打算で。

(あたしは――)

 彼女はギリリと一番奥の歯をかみしめる。
 
(あたしは勝ったときも負けたときも、こんな風にはなれない――)
 
「ど、どうかこの通りだ!」
「うるさい!」
「痛っ!」
 
 顔を赤らめつつも、彼女のチョップがダルクの頭に炸裂した。
 ダルクは鈍痛に目を回しながらも、その手刀に高熱を感じなかったことを意外に思う。
 
「風呂での件は忘れろ! 誰かに話したら絶対[ピー]す!!」
 
 彼女は自分の使い魔を揺さぶり起こし、身支度を整え始めた。
 とにかく一刻もこの場を離れたかった。

「お前……ダルクとか言ったな。いつかきっと決着をつける、その時まで覚えてろ!」
 
 跳ね起きたきつね火をはべらせ、背を向けて今にも駆け出しそうな格好の火霊使い。
 顔を上げたダルクは慌てて声を投げかけた。まだ肝心なことを知れていない。

「ま、待て、お前の名前は!?」
 
 もう彼女は振り返らなかった。
 すべてを振り切るように駆け出していく。

「火霊使いのヒータ!!」
 
 その声はコロッセウム中に響き渡るようだった。
 ダルクは小さくなっていくその後ろ姿を眺め、「ヒータ」とつぶやく。
 
 ふと空を見上げた。もう、明け方だった。
 いつのまにか雲は晴れ、澄み渡った群青色が広がっていた。
 どこまでも、果てしなく。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2011/04/19(火) 16:24:23.09 ID:GjPhPVpb0
ん?>>1はもうターンエンドか?
なら乙のターン!!
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/19(火) 17:54:03.37 ID:MJcecym0o
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 18:50:04.89 ID:dqMxGHA9o
あれSSVIPってワードブロックかかってたっけ?


ものは試しとくか、 こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 18:51:05.31 ID:dqMxGHA9o
ああ、かかってたわ

おつおつ
あとはライナwktk
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 20:25:00.69 ID:2og6dJ9So

ヒータかわいいなww
>>417
あっちで、アウスが呼んでたぞ
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/19(火) 20:29:11.98 ID:dqMxGHA9o
ちょっとアウスにお説教された挙句、本の角で殴られてくるくる
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/20(水) 16:12:10.12 ID:tOgBz/3bo
つーかこれそもそも男と勘違いしたから
裸見ちゃったんだよな? で、男と勘違いしたのは壺魔人のせいで……

あれ?ダルクが勘違いした理由話したら壺魔人焼かれね?
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/20(水) 16:56:15.11 ID:tcwV02s7o
既に焼かれてあるものをさらに焼くのか
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/04/20(水) 18:22:11.70 ID:ihWpwqtB0
久遠の魔術師かわいい
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/04/20(水) 19:09:27.66 ID:M3ZkrMAc0
ヒータが可愛すぎて生きるのが辛い
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/04/20(水) 21:47:48.01 ID:38GBKTGD0
アウスは委員長系か?
それとも「〜っすねえ」系か?
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/04/20(水) 21:48:24.75 ID:38GBKTGD0
アウスは委員長系か?
それとも「〜っすねえ」系か?
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/20(水) 21:52:27.46 ID:ObbK7DOfo
>>424
お前にとってはすごい大事なのかもしれないが、そういうキャラ付けも含めて楽しみに待ってろよ
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/20(水) 22:54:32.56 ID:sD3WNjeF0
>>422
久遠?トラハか?
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/21(木) 00:42:15.48 ID:HXXmnBCDO
>>421
誰がうまいこと(ry
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/21(木) 08:22:32.94 ID:DnyaKqX2o
>>427
http://ec2.images-amazon.com/images/I/41ibFVBrlYL._SL500_AA300_.jpg
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/04/21(木) 22:51:18.17 ID:2z3MmNJW0
〉〉429
最初見た時ライナかと
思ったがいざ見てみると
別人な気もするんだよな...
俺にとっては
431 :1 [age]:2011/04/24(日) 15:32:12.31 ID:FZwCGDgSo
ご支援いただきありがとうございます
久遠の魔術師ミラですか。どんどんカード増えてきますね
自分の筆も同じくらい早ければいいのですが

では投下します。今回は2レスだけです。近日すぐ続きを投下します
432 :1 [sage saga]:2011/04/24(日) 15:32:55.34 ID:FZwCGDgSo


「イやーいやほんとゴメンネ! ソれで、どうだっタ?」

 ダルクが壺を返却したときの、壺魔人のニヤニヤ顔といったら恨めしかった。
 この男(?)のタチの悪すぎる冗談のせいで、とんだ災難に遭ってしまった。
 今回の騒動の元凶。そんな軽く謝られても、強張った顔はたやすく崩せない。

「確かに壺は返した。便利な壺だった。感謝する」
「ソーんな怒らなくていいでショ? オ陰でステキな出会いになったんじゃないノ?」
「主人、次に来るまでには冗談の加減を覚えてほしい。危うく殺されるところだった」
「ナニ、ハダカでも見たノ?」

 一瞬言葉に詰まるダルク。
 その反応をみて、いきなりずいっと身を乗り出す壺魔人。

「エ、ホントニ? ネ、どんなだっタ?」
「な、何がだ。なんでそんなことを訊く」
「ココらであのコのハダカを見れたヒトなんて、ほとんどいないんだヨ?」
「そっそれがどうした」
「アノコああ見えてすごく人気あるからサ、ホカのお客さんにたまに訊かれるのヨ」
「だからなんだ」
「オ金、出すヨ? ジョウホウリョー。ダカラさ、詳しい話きかせてヨ!」

 それを聞いたダルクは一瞬、息を吸い――ギリギリで喉もとの言葉を押し殺す。
 吸った空気をそのままため息に変え、同時に肩の力も抜く。
 ダルクはくたびれ果てていた。ここで無駄な体力を使うのも馬鹿らしい。

「帰らせてもらう。今日はもう疲れたんだ」
「ネッ、ちょっとだけでも聞かせてヨ! イロつけちゃうヨ!!」
「さらばだ主人。壺と温泉は最高だった、また借りに来るときがくるだろう」
「アッ、ちょっと待ってヨ!!」
「ああそうだ、一つだけ」

 帰りかけたダルクはもはや振り返らずに、人差し指だけ立てた。
 
「顔にエンナンの相が出ている。炎属性とはいえ、ある程度覚悟しておいた方がいい」
「エンナン? エ、ナンダッテ? ッププ!」
「そうだ炎難だ。じゃあまたな」

 このあと風のウワサでは、年中無休のはずの壺魔人の店は、半月ほど謎の臨時休業を遂げたらしい。
 ご愁傷様、これで悪ふざけも改めたことだろう。


 ダルクは壺魔人の洞穴を出ると、まっすぐ帰路についた。
 外敵避けに『うごめく影』をかけ、使い魔ディーとともにバーニング・ブラッドを下山。

 帰り道は下り坂しかなかったため、行くときに比べて遥かに楽だった。
 が、熱闘を一戦交えたダルクはほとんど口を開くことなく、絶えず憔悴した面持ちだった。
 疲労が蓄積している。これではなんのために温泉に入ったのか分からない。

 ヒータと出会うため? あんなことがあった彼女は、もうここには来ないのだろうか。
 できたらもう一度会って、今度はちゃんと話をしてみたい。
 あの風呂の件は、二人だけの秘密にして――

「うわっ!」

 直後ダルクは小石にけつまづき前へつんのめった。
 ディーのものいわぬ視線が、なんだか気恥ずかしかった。
433 :1 [sage saga]:2011/04/24(日) 15:33:42.02 ID:FZwCGDgSo
 空はすでに明け方で、まもなく日の出だった。
 夜行性モンスターの活動時間は終わろうとしており、ダルクも一刻も早く眠りにつきたかった。
 また太陽の光がさすようになると、闇属性であるダルクは一気に力が弱まってしまう。
 そうなるとさらに『うごめく影』の効果も消え、非常に危険な状態になる。

 ダルクは足早に下山し、なんとか自分の家がある森に到着した。
 森の中は天上が木々に覆われ、日光はあまりさしこまない。
 ここまでくればもう安全だった。
 同時に、この時点でダルクはすっかり気が抜けていた。

「やっと帰った……」
 
 やがて家に到着。
 ディーを屋外に放ち、自分の汚れた衣服をパッパと払う。
 そうして杖を使って家のカギを開きかけ――施錠がなされていないことに気づく。

(そういえば家を出るとき、わざとかけなかったんだな……)
 
 ダルクはあまり考えもなしに家の中に入り、ドアの内側からカギをかける。
 強固な結界つきの施錠で、基本的にダルクがこの杖を使わなければドアの開閉はできない。

 家の中は暗い。
 だが照明をつける必要はない、いますぐ寝るのだから。
 杖を壁にかけ、ローブを脱ぎ捨てる。
 
 ダルクは大きなあくびをしながら、ゆっくりベッドに向かった。
 今日は本当にいろんなことがあった。
 
 今日というのは、エリアの家で目覚めたところからだ。
 そこで椅子で眠っていたエリアをベッドに運ぼうとして、誤解を招いて逃げ出した。
 家に帰り着いてウィンに出会い、色々あってそのまま一晩泊めることになった。

 男女二人屋根の下は抵抗があったから、一人で温泉に行くことを思いついた。
 異種族たちのるつぼ「バーニング・ブラッド」では、壺魔人の冗談が始まりだった。
 男と思い込んだヒータに会いに行き、猛烈な誤解を招いてコロッセウムで戦う羽目になった。
 辛くも勝利し謝罪に成功(?)したものの、温泉で回復した心身にまた疲れが溜まってしまった。
 
 こうして現在に至るわけだが、これが外の世界に出てなんとまだ二日目の出来事だ。
 その間に三人もの女の子とのやりとりがあった。
 水霊使いのエリア、風霊使いのウィン、火霊使いのヒータ。
 しかも全員、破格の魅力をそなえた容姿の持ち主で――ってそれは今関係なくて。

 この世界では、自分以外の精霊使いは全員女性なのだろうか?
 いや、ただの偶然だろう。精霊使いは男女どちらでも差異はない。今までの出会いは偶然の産物。
 残る六大属性のうち、まだ出会ってないのは地霊使いと光霊使いか。
 この二人まで女性だったら肩身がせまくなるどころではない。
 自分は女の子との付き合いがすこぶる奥手なのだ。もはや終わりの始まり。
 
 まぁ……いまはとりあえず眠ろう。思考するのも疲れてきた。
 明日はどうしようか。起きてから考えよう……。


 ダルクはベッドの布団をめくりあげ、その身をもぐりこませた。
 その瞬間まで、ダルクは今日はもうどんな受難もありえないと確信していた。

 なんだか布団が温かい。妙にやわらかい感触。おまけにいい匂い。
 これらを一瞬で感じたのと同時に。

「ふきゃ」

 ダルクの耳に突き刺さったのは、ウィンの間抜けな声だった。
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/04/24(日) 16:33:27.16 ID:ZpgzFqbAO
ひとまず乙
脳筋娘の次は再び天然娘のターンか。
胸が熱くなるな
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 18:25:56.76 ID:WQXjxds90
乙!再びウィンのターンか
できれば寝てる様子をkwsk
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/24(日) 18:58:09.77 ID:Q9LDI/rSO
>>1乙!!

とりあえずダル君のラッキースケベ率は異常
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/04/24(日) 23:55:59.49 ID:kZc2XaX30
>>1

>>436
ハーレム物?ならそりゃ高くても
おかしくないと思うな...
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/24(日) 23:58:29.50 ID:YogOvO2jo

ダル君ったら本当に闇霊術−「欲」なんだから…
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/04/25(月) 01:45:12.29 ID:SKFWIIlUo
闇属性が主人公っぽいといわれる遊戯王で、闇属性の霊使いだけが男の子なんだから……まぁそういうことだ
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/25(月) 05:53:53.29 ID:lCm4mMWPo
ダルクは振り回される系可愛い
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/25(月) 22:02:34.34 ID:6jYcRKWso
>>433
終わりの始まりwwwwwwww
本当にさりげなくカード名混ぜるなwwwwwwww
442 :1 [sage saga]:2011/04/26(火) 12:04:54.53 ID:54OfFojlo
ご支援いただきありがとうございます。皆さんのレス一つ一つが毎度楽しみです
>>441 さりげなくマイトレンドです)

すみません、近日投下と書いてしまいましたが、リアルにて忙しい時期に入ってしまいました
まだ少し時間がかかりそうです。筆はちびちび進めていますのでしばしお待ちください
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/26(火) 12:29:57.63 ID:oVHzSvFAO
ヴァイロンやっぱり悪役だったか……
遊戯王の光属性は光属性って言うだけで避けられるレベルだな
ライナは大丈夫だろうか……
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/04/27(水) 11:06:09.95 ID:5wZJoSYKo
ライナがどう登場するか期待だな……
しかしウィンまだいたのかww
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/04/28(木) 00:55:34.12 ID:3tVi68vvo
あれ、そういえば闇世界ではダル君って女性に会わなかったのかな?
なんか闇にしちゃあ凄く純情だが……
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/04/28(木) 07:11:51.28 ID:ELbz+HyDO
闇で可愛い娘が思い浮かばない
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/28(木) 08:08:18.71 ID:9SesZXoDO
>>446
闇の誘惑で堕天したダークヴァルキリア
なんとなく先生っぽいプリーステスオームさん
初代とGXでのアイドルブラックマジシャンガール
初々しい純情ショタっこダルク
邪神を魅了する男の娘ダルク
闇系のNTRが得意な鬼畜ダルク

俺の永遠のアイドル混沌帝龍−終焉の使者−

さぁ、選べ
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/04/28(木) 10:59:31.05 ID:sLg8ZS1AO
見習い魔女……
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/28(木) 12:04:04.60 ID:6RrZ9Q3io
>>445
男の師匠と二人っきりで生活してたんじゃね?

ところでクラン放置かお前ら
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/28(木) 20:19:45.16 ID:j0T+fNTS0
>>449

仮にも王女なんだし、一人暮らし初めてのダルクとは接点ないだろうな
というかダルク×3ってオイwwwwww
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 00:19:11.41 ID:zZ757hpDO
>>447
じゃあダルきゅんのアナ(ryにドリルロイドしてアンアン言わせますね
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 00:31:39.30 ID:kfurYQWU0
まだ2日目だったのかww
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/29(金) 19:19:38.37 ID:CDWCVdOSO
>>451
何を言っているんだ?
貴様のケツに俺のスーパービークロイドージャンボドリルを喰らわすぞ
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/04/29(金) 20:01:20.90 ID:Mru0YYaEo
>>453
ごめんグランモールしか見えない
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/04/29(金) 23:28:53.18 ID:Uv0/6zxH0
俺はダルクが霊使いどころか全カードで1番好きだ!!
昨日このスレを見つけた時は魂が震えた
ダルクはもうちょっと厨二カッコイイイメージだったけどこういうのもアリだな

まあ何はともあれ
>>1
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/04/30(土) 00:49:26.23 ID:tI6ZBoeao
エロパロスレとか女性モンスタースレを見ているからダルクはヘタレだったりイケメンだったりまぁいろいろなイメージあるわな
457 :1 [age]:2011/04/30(土) 17:36:59.61 ID:qsCpNoado
感想・ご支援・雑談レスを付けていただきありがとうございます
いつも本当に励みになっています
なのに相変わらずの遅筆で申し訳ない(GWも忙しくなりそうです)
では投下。今回は4レス分です
458 :1 [sage saga]:2011/04/30(土) 17:37:42.23 ID:qsCpNoado

 ダルクはそれはもう盛大にぶったまげた。
 短い絶叫とともに毛布を跳ね上げ、ベッドから転がり落ちて床へ激突。
 受け身そこなった痛みも無視し、尻餅をついた格好で壁にぶつかるまで後ずさり。

「ウィ。ウィン」

 無意識に口をついた彼女の名前か、それとも思わず口走った謎の言葉か、もはやそれさえも定かではなかった。
 ただ今の今まで、女の子一人をこの家に泊めていたことを完全に忘れ去っていた。

 そう、まだ明け方だった。夜行性ではない者がまだ眠っていたとしてもおかしくはない。
 家のドアが開いていた時点で普通に考えたら分かるはずなのに、どれだけ気が緩んでいたんだろう。

(う……うかつだった。なんてことを……)

 荒い呼吸も胸の鼓動も簡単には鎮まりそうにない。
 いないと思い込んでいたベッドに誰かがいたというドッキリ。
 のみならず、それが自分と同じ年頃の可愛い女の子とくればパニックにならずにはいられない。
 
 いまどこかウィンの身体の部位に触れなかったか。
 温かいような柔らかいような感触の正体はなんだったのか。
 なにか「ふきゃ」とか聞こえたが、今の拍子でカンペキに起こしてしまい、また誤解されたのではないだろうか。
 
「んぅん」

 毛布を半分はぎとられたウィンがもぞもぞと動き出した。
 腰砕けのダルクはおっかなびっくり息を呑んで様子を見守る。
 
「むくり」

 言いながらウィンはゆっくり上半身だけ起こした。
 ポニーテールを解いた緑髪のあちこちがピンピン跳ねており、衣服も左肩がずり落ちている。
 ダルクはまた別の意味で息を呑んだ。全体的に乱れた寝起き姿が妙に色っぽい。
 鎖骨のラインのはだけ具合に、コートを脱いだおかげではっきりインナーに浮き出ている胸のふくらみが――

「い、いやちがっ」
「ん」
「あ……」

 ウィンはゆっくりとダルクの方を向いた。
 ダルクは、生贄の祭壇に選ばれた迷える子羊のように身体を震わせた。
 もう女の子相手に誤解を招くのはこりごりだ。頼むからどうか無難な展開に――。

 彼女は絶対的に眠そうな眼をうっすら開けて……閉じて……またうっすら開けて……。
 
「もうちょっとねる」
 
 ポタンと枕に落ちた。
 ものの数秒で、小さな寝息が部屋の中を満たし始める。

 なんとも無難な展開だった。
 ダルクはほっと一息つき、同時に弱々しく顔を綻ばせた。
 「もうちょっとねる」。そんなセリフにここまで救われたのは生まれて初めてだ。

 ウィンがマイペースな子で本当に助かった。
 これがもしエリアだったら使い魔も駆けつけて一騒動で、ヒータだったら一瞬で消し炭にされていただろう。 
 
459 :1 [sage saga]:2011/04/30(土) 17:38:50.97 ID:qsCpNoado
 ダルクは引けた腰に少しずつ力を入れ、そろそろと立ち上がった。
 ウィンがベッドを占めている以上、イスに座って寝るぐらいしかないか。

 ちらりとウィンの方を向く。
 すぐにある意味見なけりゃ良かったと後悔する。
 自分のせいか否か毛布がめくれており、左半身が中途半端にはみだしていた。
 ふとももの絶妙なラインが露出し、ピョコンと外向きに飛び出したソックスが可愛らしい。
 
 真っ先にエリアのことがフラッシュバックする。
 どう考えてもトラブルの種だ。放っておくか?
 しかしウィンがこの家に入る前に言った言葉が思い起こされる。
 「さむい」。そっか。寒いか。寒いよな。
 風邪を引かせては家主として面目ないと考え直し、結局毛布をかぶせ直すことにする。
 
 ウィンだから大丈夫。そう自分に言い聞かせ、ベッドに近づいた。
 そうして毛布をちょいとつかみ、パッと覆う。何事もない。
 一瞬でも悩んだのがバカみたいだ。ついでに四隅にピンと毛布を整えてやる。

 その折に、ふと彼女の顔に目を向けた。
 人形のような可愛らしい寝顔。すやすやとゆるやかに微動している。
 普段の表情が変化に乏しく眠そうなので、この顔で眼を開けたらいつものウィンだ。

 先のやりとりも思い出し、ダルクはついニヤけてしまう。まるで一回り年下の子供のよう。
 この無垢な寝顔を見ていると、決してヨコシマな気持ちなどにはなれない。
 なんだか守ってあげたいような、世話を焼きたいような。妹というのができたらこんな感じなのだろうか。
 
 そのとき突然。
 つんつん。
 と何かがダルクの腕をつついたもんだから、ダルクは危うく大声で侘びをいれるところだった。

「あ……お……お前か……」

 こちらを覗き込む、エメラルドのような緑の瞳。
 今までいたのかいなかったのか、ウィンの使い魔プチリュウ(確かプッチ君)がこちらを眺めていた。
 ベッドの四点の木柱のうち、ダルク側から一番離れた柱にまとわりついている。
 そこからどんな筋肉を使っているのか不明だが、ずいいと身体を伸ばしてダルクのそばまで頭を運んでいた。

 さきほどのつんつんは、このプチリュウの口先だったらしい。
 あまりにも主人を眺めていたものだから、変な気を起こさないようにと注意を促しにきたのだろう。
 それにしてもまさか本当につつくだけとは。痛いどころか、適度な重みがかえって気持ちいい。
 それ、もう一度つついてみろ。つんつん。あぁ和む。

(ウィンの使い魔らしいな)

 ダルクはプッチ君に「おやすみ」を告げると、大きなあくびをしてテーブルに向かった。
 そのまま席につき、両腕で敷いた枕に頭を沈ませる。
 一日を通して度重なった疲労に、もうまぶたが耐え切れなかった。

 うん、今日は我ながら最後までよく頑張った。
 学んだし、楽しんだ。なにより無事に一日を過ごせた。これ以上の満足はない。
 次の夜まで……おやすみ……。
460 :1 [sage saga]:2011/04/30(土) 17:39:28.69 ID:qsCpNoado



 ……――。
 ――ルクン――。
 ――ねぇ――ル君てば――

「ダル君」
「……んぁ……」

 肩口をつんつんと指でつつかれる感触。
 半分意識を取り戻したダルクは、自分を呼ぶ声に寝ぼけた顔を上げる。
 
「ダル君、起こしてごめんね」
「あぁ……別に……。!!」

 がたんと音を立て、ダルクは飛び上がる勢いで退いた。
 ち、近いっ、ウィンの顔が!

「どしたの?」

 起き抜けで至近距離に女の子の顔があったんじゃ誰だって心臓が音速ダックだろう。
 ウィンはすぐ隣のイスに腰かけ、ダルクと同じように机で寝るような格好でこちらをみつめていた。
 いつの間にか髪型をポニーテールに結っており、霊使い共通の大きなコートも羽織っている。
 
「い、いや、なんでも……ってまだ昼じゃないか」

 窓の外を見て脱力する。
 同時に、身体の疲れがまだ抜け切っていないことに気づく。
 目元も重く全身に力が入らない、しかも変な体勢で寝たもんだから身体の節々が痛い。

「うん。もうおひる」 

 夜行性のダルクにとって昼間はまだ睡眠時間だ。
 ダルクは目頭をつまんで椅子にもたれ、それをウィンが姿勢を変えずに眺める。
 ダルクの視界の端、机の下で足をぷらぷらさせているのが見える。
 ぷらんぷらん。ぷらんぷらん……。
 
「そっか……まだ昼か……」
「うん。おひるごはん、ある?」
「ない……」
「ざんねん」
「あぁそうだな……じゃあ買ってくるか」

 ダルクは言ったあとで、「うん、それいいな」と自分で付け加えた。

 今日は町に出てみよう。食料の買い出しだ。
 町は、外の世界に出てから真っ先に行ってみたかったところだ。
 聞くところによると、たくさんの人間型のモンスターで溢れかえっているという。
 そして毎日、さまざまな物品と幾多の金銭が飛び交っているとか。
 魔法を扱う店だって、図書館だってあるそうだ。
 師匠の話を思い起こすほど憧れは募る。
 行ってみたい。よし、今日行ってみよう!
461 :1 [sage saga]:2011/04/30(土) 17:41:04.42 ID:qsCpNoado
 
「夜になってからな……」

 だがまずはしっかり睡眠を取ってからの話。
 身体中がだるくてたまらず、とても一時の憧れだけでは行動に起こせない。

 ダルクは再び机にうつぶせた。
 それをウィンが再びつつく。つんつん。
 
「ダル君。起きて」
「『もうちょっとねる』」
「ねてていいから、家のかぎだけあけて」
「あ」 
 
 ダルクは跳ね起きた。すっかり忘れていた。家のカギをかけたまんまだった。
 この家の出入り口は、ダルクの杖がないとカギの開け閉めができない。
 玄関の結界を解かなければ窓だって開かないので、ウィンは今までずっと軟禁状態だった訳だ。
 
「す、すまない。すぐに開ける」 
「ごめんね」
「い、いや。こちらが悪かった」
 
 すぐにダルクは杖を取り、ドアの施錠を解いた。
 外から閉めても中から閉めてもカギが必要なのは、いささか不便じゃないか。
 まぁ霊使いたるもの、いつでも杖は持ち歩くべしという教訓が養われるということか。
 
 その後、開け放ったドア越しにお見送り。
 気がつけばウィンは使い魔のプチリュウをはべらせている。
 コートの中に潜り込んでいたのだろうか。そ、そんなにスペースはないはずだけれども。

 別れ際、ウィンはこちらに向き直り姿勢を正した。
 なにをするかと思ったら案の定というか深々と頭を下げた。

「お世話になりました。この借りはかならずおかえしします」
「どういたしまして。いや別に気にしなくていい、良かったらまた寄ってきてくれ」
「ありがとう。じゃ、またね。あ、それと」

 ウィンのふと付け加えた助言が、やけに印象的だった。

「町では気をつけてね」

 ウィンがダルクに背を向け杖を掲げると、突然強いつむじ風がダルクの家を襲った。
 「うわっ」と顔を覆っているうちに、ウィンは衣服をバタつかせながら上空へ昇っていった。
 徐々に風が収まっていく頃にダルクが顔をあげると、すでに彼女は木々の向こうで小さくなっていた。

「本当に空を飛ぶのか……すごいな……」

 さすがは風の使い手。素直に感心する。
 翼も生えていない生き物が空へ飛翔するという瞬間は、生まれて初めて見た。
 風を自在に操る、か。よくもあんなスカートを抑えなければならないほどの強い風を……
 いっいや、それはたまたま見上げた視線の先にウィンの下半身があっただけの話で別に他意はない。

「……やれやれ」

 風霊使いウィンか。終始マイペースな子だったな。
 流れで「また寄ってくれ」なんて言ってしまったが変だったかな。……また会えるといいな。
 とりあえず今はまだ眠い。戻ってもう一眠り。後のことは起きてからだ。

 さっきから地面に照り返してくる日差しが眩しくてかなわない。
 ダルクはあくびもそこそこに、戸口をぱたんと閉めきった。
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) :2011/04/30(土) 18:41:53.16 ID:0OkZS87AO
>>1乙!!

ウィンがかわいくてしょうがない
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 19:12:03.63 ID:+R8WRolSO
>>1乙!!!
でも心臓が音速ダックはちょっちキツいかもしんない
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/30(土) 19:34:56.64 ID:EnPNmFdj0
>>1乙!!!!

ウィンは可愛いし、カードネタも多いし、言う事無しに最高です
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/05/01(日) 12:25:22.63 ID:7pnfW87q0
>>1乙!
子羊選んでどうするwww
てかトークン選べたっけ?祭壇て
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/05/01(日) 21:10:25.56 ID:u50uAj4C0
乙です!

ウィンかわいい!

プッチもかわいい! つんつんして欲しい!
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/05/01(日) 21:38:23.40 ID:Z0rJj2IAO
そういや今日、カード整理してたらVol.2のD・ナポレオンがでてきた
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/01(日) 21:46:49.53 ID:s6CVWpY9o

なんか不穏な空気が漂うな
やっぱ闇属性は主人公体質でラッキースケベしまくるからみんなに妬まれてるんだろうか
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/05/02(月) 15:32:16.81 ID:mKhBCGEp0
>>468俺のデッキが闇属性デッキなの知ってて言っているな
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/04(水) 21:27:37.73 ID:VU2ztQkK0
まあ遊戯王は基本的に闇属性贔屓だからな
ダムドといい誘惑といい
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/05/05(木) 18:39:20.05 ID:5vzoix650
水属性がパッケージ飾るまで
どれだけかかってんだチクショウ...
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/05/05(木) 19:54:36.58 ID:QCO6LrsDo
リバイスドラゴンンも(笑)な性能だしな……
せめて『「No.」と名の付くモンスターは「No.」と名の付くモンスターとの戦闘以外では戦闘破壊されない』ぐらいは残しててもよかったのに
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/05(木) 22:25:42.25 ID:2TnxS7mn0
いまガスタのつむじ風のイラスト見てきたんだが
不覚にもおっきしたわ
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/05(木) 22:47:15.44 ID:JttT38Gy0
ウィンかわいいからドラグニティに風霊術入れてる

あと>>1はいつ戻ってくんだろう
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/05/05(木) 23:16:29.43 ID:5vzoix650
>>472
その弱いというか単純な効果がいいんじゃねーかー
あとその耐性は流石にチートだぜ
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/05(木) 23:17:11.01 ID:+92Ll73k0
気長に待とうぜ
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 01:41:24.60 ID:sQZS2+3q0
俺は板だとかなり新参で、現在進行のスレは禁書のやつの続編とこれしか見てない(前のは見終わった)んだけど、投下のペースってこれらいが普通なの?
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/07(土) 01:52:28.81 ID:5NJCUmmo0
>>477
普通だよ
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/08(日) 09:26:49.95 ID:KWOzRzm2o
>>1が生きてるのが分かるだけでもかなりマシかな
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/09(月) 00:37:03.56 ID:4+TVpxYDO
最近エタる作品多いの?
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/09(月) 03:29:36.66 ID:m/UXNHM60
>>480
地震の影響もあるし>>1の生存報告がまだないSSスレも多いんじゃない?
俺がチェックしてたSSスレも4つくらい震災以降更新止まってる
482 :1 [sage saga]:2011/05/09(月) 14:57:22.60 ID:k5ls0YZNo
確かにそういった身の上の方もいる中で、書きたいSSが書けるだけでも有り難い話ですね
にも関わらず、5月に入ってから一度も更新ができず申し訳ありません
今月の15日までには必ずアウスを出しますのでご了承ください
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/09(月) 15:56:00.77 ID:IsBFbTab0
くっ・・・ライナはまだか・・・
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/05/10(火) 05:16:58.90 ID:/P6R4BxO0
>>1には、できればいったん投下し終わる時に、次いつごろくるのか教えてもらえるとありがたい

あと基本sageたほうがいいよね?>>1もsageてるし
485 :1 [age]:2011/05/13(金) 16:11:22.31 ID:7lFnSfMFo
>>484
作品はじっくり書きたい上に割と忙しい身なので、次回投下日などを指定できる自信がありません
こればかりはご容赦ください(今回のように○日までに投下する、というのは守れそうですが)

また自分は投下する場合はageていますし、他の人から苦情などこない限りは
基本的にage進行でもsage進行でも構いませんよ

では続きを投下をします
(今回の投下で本編100レスいきました! ありがとうございます)
486 :1 [sage saga]:2011/05/13(金) 16:12:29.50 ID:7lFnSfMFo
 月が昇った。
 ダルクは立った。
 

 昨昼はウィンを寝かせていたベッドにはついに入れなかった。
 自分の家のベッドなのだから何も気後れすることはないが、ダルクは基本的に異性に対して免疫がない。
 女の子が眠っていた空間に自分の身体を重ね合わす、なんてことを考えてしまったらもうダルクには無理だった。

 それに実際問題、ウィンの残り香が満ちているであろう布団で安眠できるわけがない。
 悶々とわきあがる色めかしい思考と、硬い理性からなる首振り。激しい葛藤。
 結局悩んだ末、テーブルのイスを並べて簡易ベッドを作り、コートを毛布にバッグを枕に眠った。

 これが快眠だった。
 おそらくは温泉に浸かったおかげで、目覚めたときには体力も魔力もすっきり全快していた。
 コンディションがすこぶる好調だったので、早々に支度を整え、意気揚々と家を発ったのだった。


 ダルクの家がある林を東に抜け、さらに道なりに直進すると民家がちらほら見え始める。
 夜中なので外を出入りする人影もなく、虫の鳴き声が一帯を支配するほどの寝静まった人里だ。

 しかし暗がりの中でときおり目にする、馬鹿みたいに目立った窓明かりが、確かな人の気配を感じさせた。
 同時にそれはダルクを緊張、高揚させる。
 外の世界の見知らぬ人々が、今まさにあの家の中にいるのだ。
 窓のほとんどはカーテンで仕切られ、(もとよりその気はないが)家の内部までは覗き見できない。
 いったいどんな住人が暮らしているのだろう。ヒトだろうか。獣人だろうか。はたまたゴブリンだろうか――。

 周囲にはいわゆる田舎風景が広がっていた。
 たくさんの穂波が踊るように揺れ、清らかな小川が絶え間なくせせらいでいる。
 夜半の暗さは変わらないものの、自分が育った闇の世界では決して見られない新鮮な風景。
 町まではその実1、2時間もの長距離徒歩だったが、杖をつく一歩一歩が楽しいおかげで疲れらしい疲れも溜まらなかった。
 

 郊外をつっきると、露骨に家が密集し始めてくる。
 また涼やかな風に乗って、自然のものではない新しいにおいが鼻をついてきた。
 虫たちの盛大な斉唱に代わり、上塗りされた静寂と小さな喧騒が耳に入ってくるようになる。
 やがて地面にぽつぽつ、次第にぎっしりとレンガが敷き詰めらるようになり、これまでとは完全に足音も変わる。

 ここまできたところで、ようやくダルクは足を止めた。
 気がつけば町に着いているようだった。
 門などもなく、郊外と町との境界があいまいなおかげで、知らず知らずのうちに街角に入っていたらしい。

「これが町か……」

 ダルクは改めて周囲を見渡した。改めて建物の多さに驚く。
 地面はレンガ造りの畳。左右には、行く先々まで立ち並んでいる木造建築の家々。
 さらにその家の一つ一つは華やかに装飾され、植木や花壇までちらほら見受けられた。昼間の賑わいが目に浮かぶよう。
 
 闇の世界の町と比べて格段に歩きやすく、不気味な物音も異臭もない。 
 規模も一見する限りでは非常に大きく、かつ清潔で気品を感じられた。
 これら目に移る景観のすべてが、ダルクを感嘆させたのは間違いなかった。間違いないのだが。

「……これが町か」
 
 ダルクはいくばくかの落胆を隠せなかった。
 外の世界の住人が日中に活動することは知っていたが、それでも相応の活気を期待していた。
 例え夜中でも人通りがないことはないだろう、夜の住人ならではの賑わいはあるだろう、と。
 
 ――ここまで静まり返っているとは思わなかった。これが普通なのだろうか。
 見たところ店はすべて閉まっているようだが、果たして自分は買い物ができるのだろうか。
 ダルクは不安を抱えつつも、文字通り暗中模索を始めた。
487 :1 [sage saga]:2011/05/13(金) 16:13:55.56 ID:7lFnSfMFo
(ディー)
 
 ダルクは道の端を歩きながら、自身のコートの右脇をのぞいた。
 間近で使い魔のコウモリと目が合う。薄目パチクリのD・ナポレオン。
 ウィンのまねをして試しに使い魔を忍ばせてみたら、案外これがいい感じに収まって、以降これが今夜の標準となった。
 
 ディーには悪いが、自分の家を出発して民家がちらほら見え始めたあたりから、ずっとコートに隠れてもらっている。
 コウモリなんて連れ歩いているところを見られたら、自分が闇の使い手であることが周囲の人々に感づかれてしまうからだ。
 ダルクは、エリアやウィンの忠告がどうにも気になっていた。
 闇は嫌われている。町では特に。町では気をつけて――。
 
(すまないな。まだしばらく大人しくしていてくれ)

 ダルクはコートの中に向かって小声でささやいた。

 そのときだった。
 おそらく『町では気をつけるべき』の意味が異なるだろうが、ダルクは自らの不注意を思い知ることになる。
 心の準備も反撃準備もないまま、その超常現象は唐突に始まった。

「おっ、っと」

 まずダルクの杖先が、偶然そこだけぽっかり空いていたレンガとレンガの隙間に挟まってしまった。
 バランスを崩したダルクは前傾姿勢で大きくつんのめる。
 そしてちょうどそこは曲がり角だった。
 さらに人通りが見られなかったはずの街路に、恐るべきタイミングでその曲がり角を迂回した人物がいた。

「!?」
(危な――)

 互いが気づいたときにはすでに接触する瞬間。
 いきなりの至近距離。もうどうすることもできない。
 ダルクはつんのめった勢いのまま、その人物の胸元へと顔を埋め込ませてしまった。

(危な――い、いやっ、これは――!!)

 布越しながら、やわらかい。やわらかい! やわらかい!?
 胸に顔をうずめてしまって、それがムニムニやわらかい。
 ――こ……これはまさか……。

「っ!」

 感触を味わったのは一瞬だった。
 時が再開されたかのように密着は解かれ、互いの体はすれ違うように交差する。
 ダルクは不安定な身体を杖と足を使って持ち直し、そのやわらかい胸の持ち主は道脇へよろけた。
 
「す、すまないっ」

 言いながらそのシルエットに目を向ける。
 二枚のガラス。眼鏡。黒縁の眼鏡が、真っ先に目に飛びついた。
 続いて理知的な顔つきと、落ち着いた茶色のショートカット。

 そして。
 体つきを見ると同時に、嫌な予感が的中していたことを知る。
 太ももを露にした短いスパッツ。落ち着いた衣服にも関わらず、立体的に強調された豊胸。きょ、巨乳。
 
「あ……その……」

 ダルクは打ちのめされた気分になる。もう何度こんな目に遭えばいいのだろう。
 ぶつかった相手は、もれなく同い年くらいの女の子だった。
488 :1 [sage saga]:2011/05/13(金) 16:14:55.05 ID:7lFnSfMFo
 彼女は想像以上に強張った顔をしていた。
 身をすくめ、胸の辺りを片腕で守るようにして露骨に退いている。
 もう片方の手に握っているのは……杖? のように見えるが……。

 とにかくこちらに対する警戒具合が半端ではない。
 敵意をあらわにするというより、明らかに怖がっている。

(こ、これはまずい)

 恐ろしい冷や汗がダルクの背筋をにじませる。
 時は人通りのない真夜中。場所は闇を忌み嫌うという町。
 そして自分は闇の世界で育った生粋たる闇属性。
 極めつけに故意ではないとはいえ、先ほどはたらいた行為は――性的嫌がらせ。
 
 今回はエリアやヒータに不埒をやらかした時とは違い、周囲には大勢の人々が眠っている。
 この眼鏡の子に騒がれたらただでは済まない、一巻の終わりだ。

「すまないっ。わざとじゃないんだっ」

 騒がれる前に先手をうつ。ダルクは反射的に頭を垂れていた。
 事態が悪化してしまう前に、こちらに微塵も害意がなかったことをなんとか理解してもらう。
 パニックになったダルクにはもうそれぐらいしか思いつかなかった。
 
「偶然杖がつまづいただけなんだ、どうか容赦して――」
「静かに。夜中です」
 
 人差し指を立てながら、初めて女の子が口を開いた。
 耳に触れたばかりでは、見かけ相応のアルトの声。
 しかし非常に落ち着きがあり、知性の裏づけを感じさせるような重厚な声質でもあった。
 
「気をつけてください」

 彼女は相手が無害と分かると、静かに杖を持ち直した。
 あとは何事もなかったかのようにコートをひるがえし、そっけなく歩き去っていった。

 呆然と立ち尽くし、彼女の後ろ姿を見送るダルク。
 助かったのか。助かったようだ。とりあえず大事にならなくてよかった。
 安堵のため息とともに胸をなでおろす。
 コートに仕込んだディーの感触。いつでも飛び出せる状態だったらしい。いや大人しくしていてくれ。
 
(……あの子も魔法使い族なんだろうか)
 
 使い魔こそいなかったが、あのコートや杖のデザインはまるで……。
 またインナーの縦縞セーターといい、露出度の高い下半身といい、今まで出会った女の子に共通する部分もあるが……。
 ついでに言えばムネは今までで一番ボリュームがあったような……いっいやそれは別に関係ないけども。
 
(……まさかな……)
 
 きっと偶然だ。
 これだけ大きな町だ、似たような風体の町娘が一人や二人いたとしても珍しくないだろう。
  
(よし、気持ちを切りかえて先に進むか)
 
 時間だってそこまで余裕はない、朝が来る前には帰っておかなければ。
 ダルクは食糧を購入すべく、街中の探索を再開した。
 
489 :1(To be continued) [sage saga]:2011/05/13(金) 16:17:37.86 ID:7lFnSfMFo
 ――ダルクが女の子とぶつかってから約一時間が経過した。
 
(なんてことだ。開いている店が見つからない!)

 町のいたるところに商店らしき看板は見受けられるが、どこもかしこも閉店・CLOSEだらけ。
 明かりがついている建物といえば、一部の酒場や民家ぐらいか。
 
 だいたい広すぎる。行く先行く先で分かれ道や小路が伸びている。
 おまけに町内図らしき立て札もない。いやあるかもしれないが見つけられない。
 これでは今日中に目的を果たす前に日が昇ってしまう。
 
(やはりさっきヒトに道を尋ねるべきだったか)
 
 ダルクは町を巡っている間、何人かのヒト達とすれ違った。
 とりたてて特徴のない壮年の男。導師の身なりをしたエルフ。大人しそうな女性の中年ゴブリン。
 どうやらここもバーニング・ブラッド同様、人種に偏りはないらしい。この点は好印象だった。

 ダルクは「まるきり人通りがない訳ではないのか」と安心する。
 その一方で先の接触事故が尾を引いて、とても彼ら通行人に話しかける気にはなれなかった。
 それにすれ違う人々のほとんどが何やらせわしげに、焦るように歩いており、それがダルクの萎縮に拍車をかけた。
 夜道を歩くことをそれほど恐れているのだろうか。闇の世界では昼も夜もほとんど関係なかったが……。
 
(仕方ない……どこか明かりがついている建物を訪ねよう)

 道に迷ったときは決まってコウモリの使い魔・ディーを飛ばして地理を把握していたが、今回それはまずい。
 自分が闇属性であることが割れる手がかりは、できる限りさらしたくない。
 だからといっていつまでも手探りで知らない道をほっつき歩いても、いたずらに時間が過ぎるばかりだ。
 今夜自分が会話する相手は食品店の店主だけと決めていたが、こうなってはもうやむを得ないだろう。

(知らない民家を訪ねるよりは、酒場の方が自然だろうな)

 ダルクは念のため町の入り口付近まで戻ると、その近辺で明かりのついている酒場を探した。
 一度来た道を歩きつつ、注意深く周囲を見渡す。もちろん杖をつく位置にも気を配っている。
 しかし歩けど歩けど酒場らしきものは見つからない。
 
(うーん。ここまで戻ったのは失敗だったか)
 
 この分だともうすぐ町を出てしまいそうだ。ためらいがちに足を止める。
 行ったり来たりで時間の浪費が痛いが、ここはもう一度奥へ進むしか……。
 と。そのときだった。

「覚えてやがれっ!」

 夜の静かな雰囲気の中、突然怒声とともにドアが開け放たれるような音が聞こえた。
 道の脇。階段からだ。地下に伸びている。
 すぐに階段をかけあがる乱暴な足音が聞こえたかと思えば、赤服を着た金髪の男がダルクの前に飛び出した。

(なっなんだ?)

 男はダルクには目もくれず、肩をいからせて足早に歩き去っていった。
 何が起こったというのだろう。
 ダルクは階段の方を見た。「WELCOME」と示された看板がある。

 ダルクはそれに描かれたイラストを見ると、にわかに興味をそそられた。
 酒場のコップのマーク。加えて、ダルクにとって非常に慣れ親しんだもの。
 駒だ。ブラックマジシャンのコマ。正方形のチェックのボード。
 さらに目を向けると、ウェルカムのロゴの下に店名が書かれてあった。【Chess Ber】。

(チェスが――デュエルモンスターズ・チェスが指せるのか)

 しかも先ほど男が出てきたところを見ると、どうもいま営業中らしい。
 酒場で、しかも自分の特技であるチェスを扱っている店。願ったり叶ったりだ。
 考える余地もなく、ダルクは飛びつくように地下への階段を下りていった。 

490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 16:51:50.00 ID:UVMSkzjRo
安心と信頼のラッキーエロめ
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/05/13(金) 16:58:37.40 ID:Iqu8npPSo
カプモンか
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/13(金) 19:10:27.16 ID:P0943Nnq0

アウスのターンか……これで出番終わりとは思えないが
>>491
初期遊戯王のゲームだっけ?
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 21:52:49.81 ID:SRMmyTEN0
月が昇った。
ダルクは立った。
俺は勃った。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 22:41:15.07 ID:jTJyh4pd0
>>1乙!
このダルクはラッキースケベすぎるwwwwww
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 22:45:22.00 ID:Thi0IFKJo

アウスが委員長っぽくて個人的に好みww
あと、ラッキースケベなダルクくんはもげろ
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/15(日) 10:29:21.19 ID:nveseGjr0
今回の投下で本編100レスwwwwww
500近くまでいってるのにwwww
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/05/15(日) 14:28:59.36 ID:/5j3jugPo
まぁ台本形式でもないし、仕方ないんじゃない?
ゆっくりまったりストーリーを楽しみたいからこの速度で不満はないわ
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/15(日) 18:06:11.77 ID:sJUzrfP00
>>496
雑談が多めだからな
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/15(日) 18:41:08.13 ID:PZFOO6mgo
よくあること
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/16(月) 00:55:10.52 ID:OryPB5bDO
キリ番げと
うp主>500レスおめでとう
501 :1(嬉しいので出しゃばります) [sage]:2011/05/16(月) 01:42:41.11 ID:NBKddCgno
>>500
あなたも含めて皆さんの応援の賜物です、ありがとうございます

さらに日付を見れば、GEPでスレ立てしてからもうすぐ一周年だったりします
にも関わらず話は序章でまだヒロインも全員出てないという、どんだけ遅筆なんだという

今更ながら地の文付きの台本形式でもよかったかなぁ、と他スレを覗きながら思ったりします
ネタは思いつくのに書くヒマがない……でも一度決めたスタイルは最終回まで貫きたいですね

当スレは今後も>>1にある通り超まったり進行で書いていきますので、
(気が向いたときで全く構わないので)どうぞこれからもよろしくお願いします
次回更新は21日までに投下したいと思います。それでは
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/17(火) 00:35:54.03 ID:CK1l/N0J0
俺はほとんどセリフだけのほうが見やすくていいと思うよ
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/17(火) 01:18:06.44 ID:zQHh2W0DO
地の文の大切さをわかっちゃいねえな?
てゆうか今のスタイルが好きだから続けて欲しい
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/17(火) 12:36:54.31 ID:Z+vweVm70
地の文の方が正直分かりやすいしこのままがいい
俺も今のスタイルが好きだし
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/17(火) 19:55:37.99 ID:J7yuMSzZ0
>>503-504
禿同

主すっごく面白いから頑張って
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/17(火) 21:49:53.18 ID:VRVWCEACo
主主言うと荒れる原因になるからやめとけ
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/05/17(火) 22:54:52.02 ID:SxQbGEvx0
唐突だけど
皆、霊使いをデッキに入れたりしてる?
俺は水属性ビートにエリア入れてるけど。
バーニカルと憑依装着したり17出したり
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/18(水) 01:57:05.75 ID:JjJaHhuf0
憑依装着は通常モンスターとしても攻撃翌力が1850と高めだし
結構な頻度でデッキに(特にウィンを)入れてる
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 02:05:22.78 ID:OunsKDBZ0
>>507
霊使いも憑依装着も入れてないけど、ドラグニティに風霊術入ってるよ
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/18(水) 08:15:37.46 ID:yyMSGAgQo
そういや【巻物6霊使いコントロール】を組もうとして放置していたのを思い出した
511 :1 [age]:2011/05/21(土) 01:53:15.93 ID:lK3+rVGho
いつもご支援いただき、ありがとうございます
地の文は書くのは大変ですが、書き上げた達成感はひとしお
恐縮ながら最後までこの形で続けさせていただきます
また、読みづらかったりツッコミどころがあれば遠慮なく言ってくださいね
512 :1 [sage saga]:2011/05/21(土) 01:54:00.25 ID:lK3+rVGho

 割と長めの階段を下りきると、すぐ左手にボロボロドアがあった。
 しかし見た目のさびれた作りとは裏腹に、かすかに中から漏れている賑わいは一通りではない。

(盛況みたいだな……)

 ダルクは少しためらいがちにドアノブを握り、数拍を置いた。
 中に入れば多くのヒトに姿を見られてしまい、それは場合によっては我が身の危険となりうる。
 自身が闇属性であることは何とかひた隠しにするつもりだが、いざとなったらそれなりの対応が必要だろう。
 
 自分は何者なのか。この禍々しい杖は何か。なぜ手錠をつけているのか。ディーの眠り具合はどうか。
 自分がここに入る目的は。手持ちの金銭(デュエルポイント)事情は。どれだけの時間ここにいるか。
 備えあれば憂いなし。落ち着いて物を考えられるうちに、思いつく限りの想定に筋道をつける。

「……よし」

 やがて心の準備を終えたダルクは一呼吸をはさみ――静かにドアを引いた。
 その途端、中の賑わいが割り増しでダルクの耳に飛び込んできた。

 コインがこすりあう音。酒瓶とテーブルがぶつかる音。
 そしてダルクにとっては馴染みのある、チェスの駒がボード上に打たれる音。
 もちろん人の話し声などもあったが、店内の空間を占めているのは圧倒的に雑音の方だった。

 しかしながら想像をはるかに超える大勢の対局者たち。みな熱中しているのだ。
 誰も彼も身体ごとのめり込むように、チェスという脳内格闘技に神経を注いでいる。
 手元には酒。アルコールのほろ酔いがゲーム熱を呼び込み、更に店全体を温めているようだ。

 ダルクがドアを後ろ手で閉めると、店の奥から女の人が声をかけた。

「いらっしゃい……あらぁかわいいお客さん」
 
 カウンターに現れたのはダルクより一回りは年上の、肌の白い女性だった。どうも店の人らしい。
 前で分けた長い金髪からとがった耳がのびているのを見て、彼女がエルフだと悟る。
 ノースリーブの露出度の高い服を着ており、その色っぽい振る舞いは酒場の雰囲気によく似合っていた。
 ……というか鎖骨どころかムネの谷間までむきだし……。

「ボク、道に迷ったの?」
「い。いや」
「そう? こういうところに来るのは初めて?」
「そ、そういう訳でもない」
「あらそう。じゃ、ちょっといま忙しいから待っててね」
「あ、いやお構いなく」
「適当に好きな席に着いててね。お客さんとチェス指しててもいいわよ」

 彼女は「ゴメンねぇ」と微笑みかけ、なめらかな動きで「姉さんこっちボトルとグラス〜」とカウンターの奥へ引っ込んでしまった。
 客数はざっと数えて二十人は下らないが、それら相手に給仕と配膳をこなすのは確かに多忙の極みだろう。
 もとよりそのつもりだったが、できる限り店側に迷惑をかけないように動くとしよう。
 
 ダルクは周囲に目を配りながら店の奥へ進んだ。
 店に入った瞬間は方々から視線を受けたが、いまやもうダルクを見る者はいない。
 店の大半はチェス、チェス、チェスで、たかが一見の来客など記憶にすら残らないといった様子だった。
 
 店内構造はいたってシンプルで、大部屋の一室を長いカウンターと奥行きのあるホールが二分する形だった。
 窮屈だった入り口から考えるとホールは相当広く、座席を数えてみるとカウンターを含めて五十席はあった。
 天井からいくつも垂れ下がっている照明ランプは薄暗く、ゆらゆら揺れる影が酒場ならではの空気を一層かもし出していた。
 
 しかしダルクが今まで見知ってきた酒場のように、決して不潔でも退廃的でもない。
 掃除や整理整頓がよく行き届いており、店内を彩るインテリアの格調高さは非の打ちどころがない。
 チェスという知的ゲームに敬意を払っていることの表れだろうか、全体を通して濃厚な気品を感じられた。

(すごいな……世の中にはこんなところがあるのか……)

 自分の特技であるチェスが、ここまで愛されている場所がある。
 ダルクの感動はひとしおだった。
513 :1 [sage saga]:2011/05/21(土) 01:55:21.84 ID:lK3+rVGho
 ダルクの行く手を、酒瓶とワイングラスを器用に抱えたエルフが足早に横切っていった。
 最初に軽く案内をしてくれたエルフとそっくりの顔立ちをしていたが、髪は赤茶色で肌は浅黒い。
 金髪の店員エルフが誰かに「姉さん」と呼びかけていたことから、おそらく彼女がその姉なのだろう。

 カウンターの一番奥には、目が覚めるような青い服(たしかタキシードとかいう服)を身にまとった中年の男がいた。
 モノクル(片眼鏡)をつけ、チョビヒゲを生やしている。おまけに蝶ネクタイ。
 その出で立ちはどうみても紳士そのものだった。なんと圧倒的な存在感。
 彼は徹底したポーカーフェイスで静かにカクテルを作っていた。
 ダルクの直感が、この紳士こそがこの店のマスターだと告げる。間違いないだろう、チェスも強そうだ。

 どうも店の者は、そのマスターとエルフの姉妹の三人だけのようだった。全員忙しそうに仕事をさばいている。
 あの様子では当分ダルクの方までは手が回りそうにない。これほど盛況なのだ、仕方ないだろう。

 ダルクは店の入り口からゆっくりと歩き出した。
 そう、とにかく客は多かった。
 イスとテーブルが効率よく配列された広いホールには、酒とチェスをたしなむ様々な人種で満たされていた。
 飲んだくれやゴロツキのような輩はほとんど見当たらず、常識をわきまえている一般人が過半数だ。

 中にはアイルの小剣士やアマゾネスの賢者、荒野の女剣士にサンド・ギャンブラーといった本物の闘いもこなせそうな面々も混じっている。
 一日の疲れの癒しか、日々のたしなみか――彼らのチェスを指す姿は、心なしか特に様になっているようにみえた。

「……あっ」

 その瞬間、ダルクは目をしばたたかせた。あの子は。
 あの服装、短めの茶髪、紫水晶が飛び出た杖、にじみ出る知的なオーラ。

 間違いない。
 先ほど夜道で思わぬ衝突を決めてしまった、あの眼鏡の女の子だ。

(なんでこんなところに……)

 彼女は入り口側の隅のテーブルに着座し、一人で盤上を眺めていた。
 一人だ。使い魔らしきモンスターはもちろん、連れ添いがいる様子もない。

 ダルクの胸中にもやもやが湧き出る。
 あんなことをやらかした手前、とてもおめおめ顔を合わせる気にはなれない。
 
 けれども彼女がこの町に住んでいるのなら、情報を得る絶好の機会ともいえる。
 なにせ客の年齢層が高い中での、自分と同じくらいの年頃の相手。
 赤の他人への話しかけやすさなら、おそらくこの中で一番だろう。

 何より先のやりとりも含め、思慮深く、見識に富んでいそうな点が好都合だ。
 彼女ならばたとえ自分が闇に属する者だと明かしても、一概に大騒ぎにはならない。そんな気がする。
 
 ――しかしながらダルクが最も彼女に近づきたかった理由は別にあった。
 それは先の一件をきちんと謝りたかったからに他ならない。

 ダルクは昨晩のバーニング・ブラッドで、ヒータにきっちり謝罪したときのことを思い出していた。
 あの後、エリアの時のように憂鬱な気分が引きずることはなかった。
 真摯な謝意を伝えきれたことで、自分の中でけじめがつけられたからだ。

 にべもなく言えば結局は自己満足だが、謝意を表すること自体は悪いことではないはず。
 今回も故意ではなかったにしろ、きちんと謝るべきだ。
 そうして――わがままが通るなら、少しだけ、話し相手になってもらおう。
 
(よしっ)
 
 覚悟は決まった。
 ダルクは一歩一歩を踏みしめるように、彼女の卓へと近づいていった。
514 :1 [sage saga]:2011/05/21(土) 01:58:24.53 ID:lK3+rVGho
 ダルクがほんの三歩先まで近づいても、彼女は微動だにしなかった。
 いや、あるいはあえてこちらに気づかないフリをしているだけかもしれない。
 それは定かではないがともかく、彼女は相変わらず姿勢を変えずにボードの上を眺めていた。

 声をかけようと思ったダルクだったが、先に盤上の方に興味を引かれた。
 局面は終盤だ。面白い形をしている。彼女側からの手番であれば詰みがありそうだ。

 ダルクの澄んだ目が盤上に注がれる。
 読みの思考。高速の駒移動が脳内で展開されていく。
 同時にこの懐かしい感触に心が震えてくる。ダルクは自然と口元を緩めていた。

「g10・ルイーズ」
 
 彼女ははっと顔を上げた。
 そしてダルクを顔を見るなり、絶句の表情を見せる。
 ダルクは瞬時にその意を理解し、すぐさま身を引いて首と平手を振った。
 
「ち、違う違う! 追いかけたわけじゃないんだ。これは、偶然で……」
 
 彼女のいぶかしげな視線は切れない。
 テーブルの死角で、早くも杖へと手を伸ばしていることにも気づく。
 当たり前ながら相当の警戒をしており、想定内のことながら非常にやりづらい。

「オレは今日初めてこの町に来たんだが、食糧を売っている店が見当たらなくて」

 眼鏡のレンズに映った自分の姿の、なんと頼りないうろたえぶりだろう。
 
「それで、たまたま開いている店を見つけて、情報を集めようと入ったら、さっきぶつかった子がいるなと思って……。
 そ、そうだ、さっきはすまなかった。あれは本当に事故だったんだ。不快に感じたなら申し訳ない、許してほしい」
 
 頭を垂れても、すぐにはダルクのわだかまりは解けない。
 謝罪を形にすること自体は誰でもできる、それが100%演技だとしても自分以外は分かりっこない。
 ダルクは本気で申し訳ないと思ってはいたが、それが相手に伝わるかどうかなど知る由もない……。
 
「……私は、地霊使いのアウス。この町に住んでいる者です」

 雑音の中、静かに、しかし凛とした声が通った。
 ダルクは「地霊使い」という言葉にぴくりと反応したが、内々で物思いするより早くアウスは二の句を継いだ。

「あなたは何者ですか?」
 
 眼鏡のレンズ越しに、品定めするかのような瞳がダルクを射抜いた。
 予期された問いかけ。ダルクはすばやく周囲に目を配る。 
 幸い誰もこのテーブルのやりとりを見ていない。

 いや!
 ……カウンターの方から圧力を感じる。あのマスターだ。
 さすがは店の主、店内のことは全て把握しようとしているらしい。
 こういう場合、下手に意識するよりは自然に振舞った方がいい。
 それにこの雑音の最中、小声の会話までは聞き取れないだろう。
 以上の判断から、ダルクはアウスの質問に答えた。ただし――

「名前はダルク。西の方から来た」

 極力素性を明かさないよう、ぼかした返答で。
 これで凌げたら御の字と思っていたが、やはりアウスはそれで流さなかった。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 02:00:19.54 ID:btJsWqYoo
ジュミナイ・エルフさんと見た
516 :1 [sage saga]:2011/05/21(土) 02:01:25.57 ID:lK3+rVGho
「初頭効果という言葉をご存知ですか」
 
 藪から棒に出された単語に、ダルクは「えっ」とたじろぐ。
 
「ヒトの第一印象を決定づける指標です。私とあなたの邂逅は決して良い形とは呼べませんでした。
 御察しの通り、私はあなたに対して強い不信感を抱いています。
 したがって対等の立場を得たいと思うなら、あなたは名乗り方に最低限の礼儀を兼ねるべきと思われます。
 にも関わらず、今の答え方はとても私が満足できるものではありませんでした。
 それらを踏まえた上で、いま一度だけ問わせていただきます。『あなたは何者ですか』?」
 
 ダルクは少し唖然とする。やはり彼女は見かけ倒しではない。
 すらすらと並べ立てられた口上は明瞭で、かつ言い方にも説得力があった。
 知識に勝り、聡明さを誇る。加えて今まで出会った人物の中でも屈指の能弁家だ。
 ダルクは迷う。ここで自分が闇属性だと明かすことが鬼と出るか蛇と出るか。
 
「……どうしました? なにか素性を明かせない理由が」 
「オレは」
 
 ダルクは決心を固めた。
 どうせ他にアテはなく、ある程度は覚悟していたことだった。
 ダルクは半ば彼女に賭ける気持ちで、よどみなく言いきった。
 
「オレは闇霊使いのダルク。闇の世界出身だ。いまは西の林に一人暮らしをしている」

 途端、アウスの目つきが変わる。
 驚愕と……困惑と……興味深さを灯したレンズが、ダルクをみつめる。

「……そうですか。ではダルク。どうぞ席を」

 アウスが向かい側のイスに手を広げる。
 相席を認めたということは、少なくとも拒絶する意思はないようだ。
 ダルクがおずおずと着席すると、アウスは拳を口元に当てて軽く咳払いをした。

「あなたさえよろしければ、私がこの町を案内しても結構です」
「ほっ本当か」
「これは先のあなたの謝罪に、相応の誠意が汲み取れたから。
 また危険を承知であえて闇属性であることを明かしてくれたから――気まぐれな親切心を起こしたまでです」
「ありがとう! 助か」
「ただし」

 アウスの口元が微笑を浮かべる。
 その手にはチェスの駒。

「私に勝てたら、というアンティルールではどうでしょう」
「えっ?」
「この局面での『g10のルイーズ』。正解でした。自信があるのでしょう?」

 ダルクは――アウスにも増して、口の端を吊り上げた。
 そのとおり自信がある。闇の世界では、チェスの腕前は百戦錬磨を誇っていた。
 望むところだ。そう答えようとしたとき、アウスの思わぬ言葉が飛んできた。

「その代わり私に負けたら、その杖を置いていってもらいましょう」
「なっ……杖を!?」
「この町では、そのような闇の杖は貴重な資料になります。ぜひ細部まで研究したいものです」
「こ、これは大事なものだ。他の物ではダメか?」
「別に構いませんが……いささか興ざめですね。腕に自信がないことを認めるわけですから」
「……」

 ダルクは決して冷静さを欠いていた訳ではない。具体的な勝算があったわけでもない。
 ただ……あの師匠も褒めちぎってくれたチェスの腕前には、芯のようなプライドがあった。
 ダルクは自分のうろたえぶりを猛省した。勝てばいい話だ。絶対に負けはしない。

「……自信はある。いいだろう、この杖を賭けよう」
「いいのですか? 大事なものなのでしょう?」
「言っただろう? 自信がある」
「ふふっ。そうこなくては」

 かくして話は整った。
 テーブル越しに向かい合う闇霊使いと地霊使い。
 賑わい豊かな酒場の一隅にて、盤上の決闘がまたひとつ幕を開ける――。
517 :1(To be continued) [sage]:2011/05/21(土) 02:09:20.68 ID:lK3+rVGho
次回投下は27日までを目処に
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 02:46:52.42 ID:ALvLGShx0
乙! 相変わらず面白い。
ところで、>>1は投稿時にageないのかな?
せっかくの名スレが埋もれて行きそうでなんかこわい・・・
更新があるかどうかもわかりやすいと思うのだけど・・・
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/05/21(土) 04:15:00.88 ID:qYdzUMfI0
>>518
いや、1レス目にちゃんとageられてるぞ
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/21(土) 08:41:16.90 ID:btJsWqYoo
>>518
そんな貴方に専ブラオススメ

ageりゃいいってもんじゃねーしなー
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/22(日) 00:34:46.67 ID:r+SEn2j20
つーか全部sageてくれた方がいい
変な奴が湧かなくなるし
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/05/22(日) 09:49:11.76 ID:qxIxR+/Mo
>>1

やっと追いついたよ
霊使いSSは久し振りに見たからかなり嬉しいな
エリアへの謝罪編マダー?
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 23:23:19.77 ID:erQrumP20
ライナもまだ出てないし当分先じゃないか?

ダルクの言う師匠というのが誰か気になる
黒の魔法神官か黒衣の大賢者辺りか
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/22(日) 23:24:53.56 ID:jPf2liJ+o
ブラマジ…
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/25(水) 21:16:26.32 ID:4yBWfPv1o
このスレのおかげで一年くらい遊戯王離れてたが
最近また燃えだした
まさか、KONAMIの回し者かっ!?
526 :1 [age]:2011/05/27(金) 16:20:59.44 ID:DA0A8mtNo
いつもご支援いただきありがとうございます。読者の方も増えてくださって嬉しい限りです
ageとsageに関しては少し考えてみましたが、結論として普段はsage進行で、投下するときだけageることにしました
他の方のレスはageでもsageでも構いませんので悪しからずご了承を
では遅くなってすみませんでした、今回分を投下しますね
527 :1 [sage saga]:2011/05/27(金) 16:21:52.71 ID:DA0A8mtNo
 デュエルモンスターズ・チェス。
 人形のようなコマ数種類と、黒と黄土色のチェッカーで出来た12×12マスのボードを使う。
 二人のプレイヤーが交互に着手しあう点は本来のチェスと同じだが、その他のルールなどは大きく異なる。
 
 まず手番はターン制で、1ターンは「メインフェイズ1」「バトルフェイズ」「メインフェイズ2」の経過によってカウントされる。
 二回に渡るメインフェイズでは「コマの移動」「魔法」「特殊行動」のいずれかが使え、バトルフェイズでは相手のコマを「攻撃」することができる。
 メインフェイズでは必ず何らかの行動をしなければならないが、ターンの始めに「攻撃」をした場合に限りメインフェイズ1は強制的にパスされる。
 相手のコマを盤上から取り除くには、進路方向にあるコマをどかすのではなく、自分のコマで「攻撃」をして「破壊」する必要がある。
 攻撃できる範囲はコマによって違い、自分のコマを攻撃することはできない。また一部のコマは二回攻撃しなければ破壊されない。

 そしてこのゲームには、互いのプレイヤーにそれぞれ「アテム」もしくは「ユウギ」と呼ばれるキングに相当するコマが一つある。
 ゲームの勝敗はライフ制で、一定数このコマに攻撃を与えることで決着する。
 ライフはルールによって決められ、オールドルールは2、スタンダードルールで4、エキスパートルールでは8と設定される。


「ここではスタンダードが主流ですが、異存ありませんか?」
「ああ、どのルールでもいい」
 
 駒を並べ終えると、アウスはボードの脇に置かれていた二つの砂時計を手に取った。
 中に入っているキラキラの砂は血のように赤く、砂時計の天辺には月をかたどった細工が乗せられている。
 また真ん中の細い部分から天使のような白翼が広がっており、これが一番ダルクの目を引いた。
 
「それは?」
「ご存知ないのですか?」
「見たことがないな。ここに来たとき皆が使っていたから気になっていたんだ」
「これは制限時間を計るための『命の砂時計』です。もちろんレプリカですが」
「使い方は?」
「ボードの両脇に小さな魔方陣があります。この上に乗せると自動的に盤上にリンクします」
「なるほどな。ゲーム内の着手によって、二つの砂時計がこぼれたり止まったりするというわけか」
「……あなたは今まで、どうやってこのゲームの時間を計ってきたのですか」
「終焉のカウントダウンだ」
「えっ」
 
 砂時計の制限時間は10分と設定された。中の砂が全てなくなると負けだ。
 ただし残り時間が30秒を切ると、自動的に30秒分の砂が追加されるようになる。
 つまり完全に10分切れ負けではないから、意図的に時間切れを狙うような行為は難しい。
 
「――では始めましょうか。初期配置でユウギを並べているあなたが先攻です」
「? いやアテムの方だろう?」
「いいえ、少なくともここではユウギ側が先と決まっていますが」
「……ふーん、そうなのか。『ここでは』……か」
 
 ダルクが今まで準じてきたルールでは、闇ユウギとも呼ばれるアテムを並べていた方が常識的に先手だった。
 しかしどうやらそれは闇の世界でのルールの話で、こちらの外の世界では表ユウギが先攻らしい。
 こんなところで二世界の相違があらわれたのは計算外だった。いきなり出端をくじかれた気分。

 ダルクはできれば後攻を取って、相手の出方を窺いたかった。
 そのために駒を並べる際にユウギを取ったのだが――どうやら相手も同じ思惑だったらしい。

(これは長期戦になりそうだな)

 盤上はもちろん、心理的な駆け引きにおいても。
 ダルクは座りなおすようにイスを引いた。
 顔を前に近づけたせいで、一瞬アウスがびくりと反応したのにびくりとしてしまった。
528 :1 [sage saga]:2011/05/27(金) 16:22:47.48 ID:DA0A8mtNo
 室内の薄暗い照明が、盤上のコマに幻想的な影を落としている。
 その雰囲気と一体になったかのごとく、卓についた二人の姿はぼんやりと浮かんでいるようにみえた。

「……ではゲームの準備が整ったところで、アンティの確認をしましょう。
 あなたが勝ったなら、あなたの身の保全および町に関する情報提供を約束しましょう。
 私が勝ったならその杖を貰い受けます、こじつけの類は認めません。以上で問題ありませんね」
「ああ、それでいい」
「では……始めましょうか」
 
 ついに開幕。ダルクの先攻からスタート。
 ダルクはまず、改めてボード上のコマを眺めた。
 戦士や魔法使い、翼竜や岩石のモンスター――意匠の凝った人形がそろい踏みだ。
 自分が今まで使ってきたコマと違って明るいカラーリングが施されており、ツヤもあって盤上によく映えている。
 
(……まさかこちらにきて三日目でチェスが楽しめるなんてな)

 ダルクはチェスが大好きだった。
 闇の世界での娯楽の大半は、師匠との一局だった。
 霊術使いの半身ともいえる大切な杖が賭かったこの一局でさえ、ダルクは湧き上がる楽しさを抑え切れなかった。
 
「……どうしました?」
「いや」

 アウスに促されるように、ダルクはすばやく右手を伸ばした。
 手元のコマ『エルフの剣士』をつまみ、それを前方のマスへ打ち放つ。
 これでターン終了。先攻1ターン目は、一度のメインフェイズしか与えられない。

 着手が終わると、視界の左側で生じた急な動きに目がいった。
 チェスクロックに当たる『命の砂時計』がこぼれ出したのだ。
 以降は、交互に両脇の砂時計が削られていくことになる。
 
 続いてアウスのターン。
 小気味よく手元の『ルイーズ』、そして『エルフの剣士』を前進させる。
 終盤に向けて時間を温存するために、その動作は早い。
 また親指・人差し指・中指でつまむそのこなれた手つきには、相当の貫禄と年期を感じさせた。

(不足はない!)

 ダルクも張り合うかのようにとんとん駒を進めていく。
 こうして互いの応手は進み、序盤の駒組みは着々と展開されていった。

 ゲーム開始から10ターンほど経過。
 両者の差し手は早く、時間もあまり削られていない。
 にも関わらず、このゲームではまだ一度も「攻撃」がなされていなかった。
 前線の駒たちは、その剣先が触れ合うギリギリまで進むものの、そこから先の一歩は踏み出さない。
 踏み込めばただちに開戦、熾烈な読み合いが開始される。
 二人ともすぐにはそれを望まず、しばらく我慢比べが続く。

 しかし局面が進むにつれ、双方の駒組みに明らかな違いが現れる。
 アウスは徹底した守備。『岩石の巨兵』や『ホーリー・エルフ』でキング(アテム)を囲う。
 カウンターの準備もほぼ仕上がっており、安易な攻め込みには厳しい逆襲、そしてその穴からの猛反撃も睨ませている。
 対してダルクは――

(……この形は……?)

 アウスは内心で首を傾げた。今まで見たことがない陣形だった。
 セオリーにない、悪く言えば素人が指したかのようなバラバラの配置。
 大駒の『ブラック・マジシャン』が味方のコマで塞がって完全に腐っており、機動力の高い『砦を守る翼竜』も意味不明な位置にいる。

(そんな隙だらけの構えで)

 アウス陣営の守りはほぼ完成した。
 対してダルクの布陣は一貫性がなく、数ヶ所に穴が点在している。なのにそれを修復しようともしない。
 アウスはその弱点を放っておくはずもなく、次のターンで『ルイーズ』を進撃。ついに仕掛けていった。

(きたな)

 奥の歯を舌でなぞるダルク。
 ここからが本番だった。
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 16:24:37.42 ID:aaRtZ9w00
東映版闇遊戯「ゲームの時間だ」
530 :1(To be continued.) [sage saga]:2011/05/27(金) 16:25:26.65 ID:DA0A8mtNo
 ダルクは『エルフの剣士』を力強くつまむと、向きを変えて敵の『ルイーズ』の真横へと放った。 
 向きを変える行為は、隣接する敵への攻撃を示す。
 初めてのバトルフェイズ。『エルフの剣士』で『ルイーズ』を攻撃。『ルイーズ』を破壊。
 
 アウスは『ルイーズ』を取り上げると、ボードの外の『墓地』と呼ばれるゾーンに置いた。
 破壊された駒は互いの墓地にたまっていくが、条件が整えば『魔法』で蘇生することもできる。
 『魔法』を使用するには魔力カウンターの消費が必要であったりと、また別に細かいルールがある。
 
 ダルクはメインフェイズ2で『砦を守る翼竜』を大きく移動させ、ターンを終了した。
 攻撃をしたことにより、完全に戦いの火蓋は落とされた。
 これから連鎖的に互いの攻撃が続き、深い読みとセンスが問われる中盤戦へと移行する。
 ――そのときだった。

「はぁい、お待たせ〜」

 勝負熱がたぎる最中、出し抜けにエルフのお姉さんが卓の方に寄ってきた。
 最初に案内してくれた金髪白肌のヒトだ。双子姉妹の妹の方。
 優先された仕事が片付き、ようやくダルクの方まで順番が回ってきたらしい。

「ど、どうも」
「あらーアウスちゃんとやってるの? もちろんノーアンティよね?」
「いいえ、アンティはあります。手は緩めません」
「そうなの? ボク、かわいそうにねぇ。彼女、ここで一番強いのよ?」
「えっ?」
「今日は負けちゃうかもしれないけど、席料とグラス一杯サービスしちゃうから、また遊びにきてね♪」
「まだ私が勝つとは限りませんよ」
「んもう、アナタそんなこと言っていつも負かしちゃうでしょ。で、アウスちゃんは何か飲みたいものある?」
「レッド・ポーションのバニラを」
「はぁい。すぐ持ってくるからねぇ」

 エルフのお姉さんはお色気たっぷりの動きでテーブルを離れていった。
 ダルクは顔の近くにお姉さんの素肌があったものだから、恥ずかしくて目線をそらしっぱなしだった。
 それを察したアウスはなんとなく面白くない。

「対局中ですよ、集中してください」
「あ、ああ」
「あのヒトは私はここでは一番強いと言いましたが、何も気にする必要はありません」
「いや気にするさ。というより俄然張り切ってきた」
「張り切る?」
「あぁ。全力でぶつかれる相手なんてあまりいないからな」

 それを聞いたアウスはダルクの顔とボードを目線で往復し、彼は何を言っているのだろうと思った。
 会話の中でも着手は進んでおり、そして盤上ではすでに明らかな優劣がついていた。
 盤面中央はアウスの駒が制圧し、ダルク側のキング(ユウギ)の周りは手薄。
 あともう一押しすれば一方的な展開となり、決着も近くなる。そんな形勢。

「見た目ほど簡単にはいかないぞ」

 アウスは思わず目を上げた。心を読まれたような錯覚。いや、格好をつけたタイミングが合っただけ。
 それに仮にそうだとしても、もはやこの局勢はどうしようもないだろう。
 自分が今すぐダルク側を持てと言われても、とてもやれる気がしない。

「オレのターンだ」
 
 ダルクはわずかに笑いながら少しだけ目を見開き、気合の手つきでコマをつまんだ。
 メインフェイズ1で、『ブラック・マジシャン』を敵陣深く突入。
 バトルフェイズで、投入したばかりの『ブラック・マジシャン』で『ホーリー・エルフ』を破壊。
 さらにメインフェイズ2で『暗黒騎士ガイア』を敵陣深く突入。
 ターンエンド。

 アウスはわずかに口を開け……それはしばらく塞がらなかった。
 なんという暴挙。滅茶苦茶だった。
 場に一つずつしかない攻守最強の大ゴマ2体を、いきなり目の前に差し出しに来た。
 こんなもの取ってしまえば勝負はついたも同然……。……。

「……これは……」
 
 取れない。取らなければこちらが危ういのに、どちらを取ってもその後の展開が悪くなる。
 気づけばそういう陣形にさせられていた。最初から狙われていたのだ。
 こんな手は気づけなかった。いや、果たして見つけられる打ち手など他にいるのだろうか。

 たった1ターンで、さっきまでとはまるで違う世界になってしまった。
 今の二手には完全に痺れた。最善の受け手が分からない。

「……」

 アウスは押し黙ったまま、テーブルに手をついてゆっくり立ち上がった。
 唾をこくんと飲みこみ、盤面を見下ろす形で深い読みに入る。この対局で初めての長考。
 高まりゆく緊張感。彼女のこめかみから、一筋の汗がじわりと垂れていった――。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 16:29:53.07 ID:zrhwymWZo
砦を守るよの斜線軸上のコマをすべて破壊していた頃が懐かしい
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/05/27(金) 20:58:27.54 ID:3d5NgVM60
原作だとカプモンだっけ?このゲーム。
原作のあの回好きだった
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/27(金) 22:55:48.34 ID:R94Z5J8O0
おお!アウスを嵌めるとはダルクまじ策士(チェスはよくわからんが)
後、時系列的に言えば 霊使い達が世に出る→早くともGX辺り だろうけど
ゲームの駒に使われるほど有名だったのか王様…………
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/27(金) 23:50:26.05 ID:EQdna/ZG0
>>1おつです。
決着とその後の展開が楽しみだ。
それにしてもダルクは純情だなぁwwww
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/05/28(土) 23:51:59.32 ID:E/qvEvDAO
ここにきて幾つもカード名が出てきたな
青タキシードの中年紳士は誰だろうか。闇側ならデスサタン辺りなんだろうけど
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/05/29(日) 03:50:09.15 ID:lVyH/6tAO
>>128
何が渡したくないだよ
だったらこっちもダルクを渡したくないわ
口には気をつけろ、萌え豚風情が
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 07:44:05.81 ID:qsJgI7ato
>>536
お前おおよそ1年前のレスに向かって何いってんだ
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 10:12:37.77 ID:x2XSPF/10
>>1

まあ、キャラ叩きはやめたほうがいいのは確か
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/29(日) 18:57:47.35 ID:S92h7A3zo
コピペみたいな現象を見てワロタ
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/29(日) 22:13:06.30 ID:AdECyfv70
明日でこのスレ建ってから丁度一周年だな
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/05/30(月) 00:43:38.84 ID:mmLEzdCq0
一周年オメ!
542 :1 [sage]:2011/05/30(月) 13:36:23.56 ID:Hn1fOtGdo
ありがとう!
実は当初はこれほど話が進められないとは思わなくて、正直これまで何度も挫折しそうになりましたが
途切れ途切れながらも何とか続けてこられたのは皆さんのレスあってこそです
完結はまだ遠いですが自分なりに頑張ります!

次回投下は6月以降になりそうです、相変わらずですみません
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/04(土) 21:45:25.90 ID:YsNMrvk20
>>536
昔のレス掘り出して何やってんだお前
それに内容も別にキレるレベルじゃないだろ
544 :59P [sage]:2011/06/07(火) 09:54:01.44 ID:ZhdwWwV+0
ダルクが霊使い五人と子供をつくったら

エリアは水属性、ウィンは風属性、ヒータは炎属性、アウスは地属性、ライナは光、闇属性の双子

こんな感じか?
545 :!ninja [sage]:2011/06/07(火) 11:00:49.38 ID:GO2ffqxdo
久遠の魔術師ミラさんも出してください!
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/07(火) 11:44:04.46 ID:0GLTnFDe0
>>544
俺としては各霊使いの属性+闇の複数属性を妄想
エリアとのだったら水属性+闇属性みたいな
547 :1 [age]:2011/06/08(水) 15:43:24.94 ID:llwMLC1Eo
いつも読んでくださってありがとうございます
遅くなってすみません、今回分を投下します
548 :1 [sage saga]:2011/06/08(水) 15:47:05.99 ID:llwMLC1E0

「……」

 アウスは立ち上がったまま数分間、凍りついたようにボードを眺めていた。
 立ち上がった視点で盤を眺める行為は、視野を広げることで大局観を上げる意味がある。
 これがなかなか使えるテクニックで、ダルクも難しい場面では稀にやったりする。

 そのダルクも同じように盤面を注視していたが、すでに後のヨミは整っていた。 
 アウスがブラマジ(ブラックマジシャン)を取るなら、(暗黒騎士)ガイアの睨みを利かせたまま、他の駒で敵の攻めを崩落させる。
 ガイアを取るなら、ブラマジでキングの守りに致命傷を与えて離脱する。

 もちろんアウス側もそんな思惑は分かりきっているだろうが、もはやこのターンでは二つの駒のいずれかを取るぐらいしかない。
 ダルクはそのどちらの展開でも勝ちに行ける手格好で、勝勢とは言いきれずとも優勢であることは揺るぎかった。

「……」

 やがてダルクは肩の力を緩めた。いくばくか余裕をもって相手の着手を待つ。
 対局に集中していないわけではないが、局面が進まなければ先々のヨミが難しい。
 チェスプレイヤーのダルクは、その場その場での局面で臨機応変に立ち回るオールラウンダーなのだ。

「…………」

 それにしても長い。まったく場が動かない。
 周囲では相変わらず幾多の対局が火花を散らしているというのに、まるでここだけ時間が止まっているかのようだ。

 脇の砂時計にちらりと目をやる。とうに5分が経過していた。
 最初に与えられた持ち時間のうちの半分以上、ということは必然これが最長考慮時間だ。
 
(……本当に考え込んでいるのか?)

 痺れを切らし始めたダルクは、ひっそりアウスの方へ視線を向けた。
 首を動かさない状態での目線移動は、どう頑張っても彼女の胸の辺りが限界だった。
 表情のほどは窺えないが、呼吸の微動とともに確かな存在感を受ける。目下熟考中か。

 ……胸。
 いけないと思いつつも目が引きつけられてしまう、たわわに実った胸。
 間近で見てみると、緑の縦しまセーターのミゾ辺りに広い影をつくっているのが分かる。
 落ち着いた服装や地味な色合いに隠れているが……これは想像以上に大きい。彼女はどうも着やせする体質のようだ。

 コクンと唾を飲むダルク。
 ダルクだって年頃の健全な男子。女の子に抵抗こそあれ、けっして興味がないわけではない。
 先刻は不可抗力とはいえ、目の前にあるこのムネに顔面からディープ・ダイブしてしまった。
 厚い衣服を通して鮮烈に伝わった、ふわふわのやわらかい弾力が想い起こされる。 
 そう、ふわふわだった。触れたものを母性豊かにやさしく押し返す、ふわふわのマシュマロン――。
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 15:50:41.50 ID:/FSkKKXv0
ダークシムルグちゃん
ダルク+ウィン

光と闇の竜ちゃん&混沌球体ちゃん
ダルク+ライナ
550 :1 [sage saga]:2011/06/08(水) 15:50:54.18 ID:llwMLC1Eo
「失礼しました」

 突如上から降りかかるアウスの声。
 ダルクは心臓が飛び上がる思いで急遽ごまかすように身じろぎ、全力で言い訳を考え始めた。
 幸いにも次にアウスが口にした言葉は、「いまどこを見ていたのですか」ではなく、「これでターン終了です」だった。
 彼女は駒の移動を終えると、静かに着席した。もう立ち上がる気配はないように思える。

 ダルクはハッと盤上に意識を戻し、すばやくアウスの応手を確認した。
 同時にこのターンにバトルフェイズがなかったことに気づく。ということは。

(まさか)

 ダルクのブラックマジシャン、そして暗黒騎士ガイアは、依然堂々とアウスの陣地にのさばっていた。
 さきほど突入させた大駒二丁が両方とも取られていない。まさか、それでやれるのか。

 今度はダルクが意表をつかれた形だった。
 アウスは敵の駒、それも一騎当千の強力な駒を二つも自陣に踏み込ませたまま、ダルクにターンを明け渡したのだった。

 その代わり自分が攻めに使っていた大駒を、自分のキングである『アテム』の元まで引き上げている。
 そんなことをしたら中央のアウスの陣形は大きく崩れてしまうが、もちろんそれを承知の上で守りを固めにきたようだ。

 さすがに時間をかけただけのことはある。一見気弱な防衛策にみえるが、これが逆。
 並ならぬヨミと度胸がなければ、踏み込まれた駒を看過するなど普通はできない。
 このゲームにおいて自陣に侵入した敵を放置するときは、互いが互いのキングに迫り寄る「攻め合い」のときぐらいしかない。
 一回の手番のうちに移動→攻撃ができるので、単騎で陣地を破った駒などは即座に駆逐されてしまうのだ。

 だがアウスはその流れを汲まなかった。
 執拗なまでに守備に徹し、盤を通して「どうぞ攻められるものなら攻めてください」とダルクに言ってのけたのだった。
 
「面白い」

 ダルクは素直な本心を口にした。
 エルフのお姉さんによると、アウスはこの店で最強の腕前らしい。
 それも絶対数が少ない『受け』のスタイルでの実力者だ。
 鉄壁を敷いて相手の攻めをとことん受けきり、攻め手を切れさせたところで猛反撃して勝ちを拾いにいく棋風だ。
 彼女は今までは教本どおりのオーソドックスな戦い方だったが、ここにきて本領を発揮してきたということだ。

 面白い、俄然面白い。
 『詰み』を探すパズルはダルクの得意とするところで、それを実戦で提示されたら燃えずにはいられない。
 果たして自分の実力でその牙城を打ち破れるかどうか! 間違いなくここが勝負の佳境だ。

 ダルクはあまり時間をかけずに駒をつまむと、早く戦いの行く末を知りたいと言わんばかりに力強く打ちはなった。

551 :1 [sage saga]:2011/06/08(水) 15:54:17.47 ID:llwMLC1Eo
 アウス陣営で熾烈な乱戦が繰り広げられた。
 ダルクは『エルフの剣士』や『砦を守る翼竜』を矢継ぎ早に突入させ、真正面からというよりは搦め手から、多角的な動きで攻撃をしかけていく。
 対してアウスは『岩石の巨兵』や『ホーリー・エルフ』でうんざりするほど頑丈に本拠地を守り、アテムへのダイレクトアタックを一発たりとも許さない。

 攻めるダルク。守るアウス。
 やがて長考したこともあって、先にアウスの砂時計がこぼれきった。
 残り時間のストックを失ったアウスは、これからは一手30秒以内での着手を強いられる。

 その後まもなく早打ちだったダルクの方も次第にペースが落ちていき、気がつけば時間に追われる展開となっていた。
 難解な局面。一手一手が綱渡りで、フル回転で先々を読んでも小刻みに持ち時間を使わざるをえない。

 そんな中しかし二人ともただの一度もミスをせず、ターンごとにほぼ最善の一手を繋いでいった。

「はぁい、レッポのバニラよ」

 やがてエルフのお姉さんが飲み物を配膳してきた。
 アウスの隣に、しゃれたグラスに満たされたおいしそうな薄赤のドリンクがコトンと置かれる。
 ダルクは後から知ったがこのバーは前料金制で、席料にすでにワンドリンクが含まれているとのことだった。

「ボクにはこれ、レッド・ポーションのノーマル。サービスだから許してね」

 ダルクの手元にもグラスが置かれる。
 ウィンが言っていた、外の世界でメジャーだという飲み物だ。
 闇の世界でメジャーなブルー・ポーションとの味の違いは、さていかがなものか。

 しかし今はゲームの一番いいところだった。
 盤上の世界に入り込んでいた二人はお姉さんに会釈こそしたものの、今それどころではないといった空気をにじませていた。
 仕事柄そういう場面に慣れていたお姉さんは、「ふふっ。お邪魔したわね」と呟いてテーブルを離れていった。
 
「……」

 駒がすべる音、打たれる音。
 傍目で見るより、数十倍もの熱い戦いが着々と進行していく。
 二人とも一言も発することなく、限られた時間制限の中で上級レベルの攻防を交わしていた。

 局勢はほんのわずかにダルクが有利だが、アウスも一切隙をみせないのでいくらでも巻き返す余地がある。
 互いに一手気の緩んだ手を打ってしまえばそれで勝敗が決してしまう。もはやゲームはそんな段階だった。

 脇に置かれたグラスはまったく手をつけられることなく、天井の明かりを鈍く照り返していた。
 グラスの表面の水滴がふくらむ。
 かたまりとなって落ちる。
 テーブルを湿らせる。
 それがじんわり広がっていく――。  


 
「――!!」
 
 突然だった。
 アウスがいきなり荒々しく自分の杖を立て、それに耳を当てた。
 何事かと顔を上げるダルク。何事だ。分からない。ただならぬ空気しか。
 
「……間違いありませんね?」

 今までのゲームで積み上げてきた緊張感をあっけなく破る一声。
 それだけ事が深刻ということ。のしかかるように別の緊張感が生まれる。

 アウスの言葉はダルクに呼びかけた訳ではなさそうだった。
 その様子では、杖を使って誰かと通信している? 誰と?

 アウスは直後、瞬発的に顔を上げた。
 その眼はダルクではなく、もっと後方に向けられている。
 つられてダルクも首を逸らす。アウスの視線の先にいるのは……この店のマスター?
552 :1 [sage saga]:2011/06/08(水) 15:59:28.34 ID:llwMLC1Eo
 マスターはなぜかこちらを見ていて、サッと短く頷いたところだった。

「皆さん、お金を仕舞ってください! ガサが入ります! 急いでお金を仕舞ってください!!」

 マスターのダンディズムなバリトンは、広い店内に端から端まで響き渡った。
 突然の警告を受けた客たちは、慌ててごちゃごちゃとDP(デュエルポイント)紙幣とコインを片付け始めた。
 焦燥する者、事態が飲み込めない者、中にはグラスを落としたものもいて、店の中は騒然となった。

「誰がタレこみやがった!」
「あいつだ、仕立て屋に騙されたとか言ってた赤服のヤツ!」
「ヤロー負けた腹いせにチクリやがったんだ! 今度見たらぶっ飛ばしてやる!!」

 店内に飛び交った叫び声を聞き、ダルクは最初にこの店に入ったときのことを思い出す。
 あのとき、金髪の男が「覚えてやがれっ!」と悪態をついてこの店から出ていった。確か赤い服だった。
 だがそれがこの騒ぎとどう関係しているのか、まだダルクにははっきりしない。
 
「勝負は中断です。残念ながら」
 
 ダルクが向き直ると、やや険しそうに眉をひそめたアウスの憂い顔があった。
 
「これは何だ? 『ガサが入る』って?」
「詳しい説明は後で。まずはその杖を隠してください」

 やはり緊急事態のようだ。ダルクはすぐさま杖をコートの内側に隠した。
 柄の部分がはみ出してしまうが、頭さえ隠してしまえばすぐには杖だと分からないだろう。
 ちなみに異変に気づいたのか、懐のディーも目を覚ましたようだ。静かなスタンバイが心強い。

「これからこのバーに治安維持隊が入ってきます」 

 アウスの口調は若干速く、わずかな焦燥が感じられた。

「あなたは一切しゃべらず、じっとしていてください。
 治安維持隊とマスターとのやりとりが一段落ついたら、私の合図で一緒に店を出ましょう」
「……オレが『闇』であることがまずいのか?」
「ええ。ただでさえそうですが、特に今は『上』の組織の成員が派遣されている時期なんです」
「上?」
「天使族です。定期的にこの町の秩序を把握し、また保つため、『上』の組織が天使を派遣して町に滞在させるのです」
「天使族ってそれはまずい、『闇』と真っ向から対立する種族じゃないか」
「連行されれば理不尽な『裁き』を受けることになります。くれぐれも目立たないように」
「もちろんだ」
 
 ダルクは自分の席から、未だざわつきの収まらないホールを見渡した。
 案の定地下なのでどこにも窓はなく、出入り口は自分が入ってきた一ヶ所だけ。
 もしかしたらカウンターの奥に外へ続く階段があるかもしれないが、ここからでは遠すぎる。
 やはり万が一のことが起こったとしても逃げられそうにない……今日は何の因果か不運が重なっているようだ。

「……成り行きしだいでは、うやむやに別れることになるかもしれませんね」
「そうだな」

 できればチェスの決着をつけたかったが、この続きは次回に持ち越しだ。
 それどころか、ことによればもう会えないかもしれない。世の中は一期一会。
 そう思うと、湧き上がった本音が自然に口をついた。

「……それなら先に礼を言っておくよ。アウス、今日はありがとう。楽しかった」
「えっ? わ、私は――」
553 :1(To be continued.) [sage saga]:2011/06/08(水) 16:07:57.07 ID:llwMLC1Eo


 そのとき、「来たぞ!」の声とともに乱暴にドアが開け放たれた。

「全員動くな!」

 最初に先頭に立って喝をあげたのは、武具に身を包んだ太り気味の兵士だった。
 続いて量産型のような兵卒たちがずかずか押し入り、ホールの入り口はあっという間に物々しい人だかりで埋め尽くされた。
 一人たりとも天使にはみえず、彼らは元々この町にいる治安維持隊のようだ。

「ここに不法賭博の通報が入った! これからお前たち一人一人――」
「まぁ待て」

 強引な番兵の怒声は、店の外から響いた穏やかな声によって遮られた。 
 直後兵士たちは慌てたように端々へと駆け回り、それが収まったときには人垣の真ん中に広い通路が開けられていた。

 店内は一気に静まり返り、階段を下りていく複数の靴音だけが場を支配した。
 言い知れぬ緊迫感。誰もが畏怖するかのように押し黙り、事態の趨勢を見守っていた。
 先の声の主こそ、間違いなく例の天使族だろう。ダルクは身を縮めるようにして入り口の方を睨んだ。

 やがて――ついに彼らは店の中に姿を現した。
 ダルクは身構えていたにも関わらず、目を見開いて息を呑まざるを得なかった。

 白銀に光り輝く鎧マントに身を包んだ、銀髪の好青年。
 屈強な腹筋を露に、白銀の鎧パーツを身に備えた青髪の大男。
 目の覚めるような純白のローブとマントを身に纏った、黒髪の女性。
 そして最後に――その中で一人だけ浮いているような、色あせたコートを身に引っかけた銀髪の女の子。

 彼らを見て、ダルクの本能が危険信号を発した。
 一刻も早くこの場を離れたい衝動に駆られる。
 それは彼らが純正の天使である証拠――。
 
「野暮な風習は好きじゃない。今夜は我々の裁量に任せたまえ」
「は、はっ!」

 銀髪青年の撫でるような声を受け、ガチガチに萎縮する番兵。
 周囲の兵士も直立不動でかしこまっており、彼らとの身分の差は歴然だった。

 先頭に立っていた銀髪青年は、そのまま一人つかつかと前に歩み出ると、ホール内をぐるりと見渡して言った。
 
「さて……私はこの度、臨時的にこの町の治安維持を務めることになった『ライトロード』のパラディン。ジェインという者だが」

 言いながら、彼はカウンターのマスターの方へ目を向けた。
 マスターは何事もないかのように布巾でグラスを拭き続け……それをゆっくり棚の方へ置いた。
 それからやっとジェインの方へ顔を向け、ゆっくりした足取りでカウンター内を移動した。
 大声を出して客に警告を呼びかけたときからは考えられない落ち着きぶり。
 相手にペースを握られないようにするためだ。ダルクは感心すると同時に頼もしく思った。

「……私が当店『チェス・バー』の責任者、ホワイト・シーフですが。これは一体何の騒ぎでしょうかな」

 客が、兵士が、店全体が一体となって、二人の会話に耳をすませた。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/08(水) 17:09:37.34 ID:nIvZrZhEo


ライトロードカッコイイよね
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 00:36:01.69 ID:RwjAnC2a0
一人だけ浮いているような、色あせたコートを身に引っかけた銀髪の女の子。

ライナか?
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/09(木) 00:48:23.36 ID:yVraezGbo
よくわかんないけどどうせディアン・ケトだろ
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 12:50:26.38 ID:xd/3S0xDO
やべぇww続きがwwktkすぎるww
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 02:33:03.26 ID:sIlBSb8u0
ライナきたあああああ
>>556 ディアン・ケトであってたまるかwwwwww
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/10(金) 14:22:30.79 ID:ODZqOcvt0
ジェインって戦士族じゃあ……
つーかライナも魔法使い族だし

天使族じゃなくて光属性じゃん
560 :1 [sage saga]:2011/06/10(金) 14:57:39.36 ID:NtV1B4gKo
>>559
ライナはわざとですがライトロードは全員天使族だと勝手に思い込んでました
以降は話に合わせられるよう修正します
設定チェックは欠かさずやっていたつもりですが今回で杜撰さが出ましたね
本当に申し訳ありませんでした。またご指摘して頂きありがとうございました
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/10(金) 16:28:04.06 ID:oYGuBbP2o
ライロは種族がまちまちなので意外と群雄が刺さる
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/10(金) 19:42:17.43 ID:EEuSIMLzo
どうみてもキノコなのに戦士族のやつが居たじゃん
アイツと同じようなアレなんだよ
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 23:09:20.55 ID:pWjjBC3f0
どう見てもハンバーガーなのに戦士族のあれと一緒だな
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 00:01:37.78 ID:yUoDnLnao
人喰い虫が戦士族みたいなもんだよ
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/11(土) 08:17:09.15 ID:pw6Ve3OAO
正直ジェニスが男性なことに驚きを隠せない
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 14:00:53.47 ID:1V3tg3UT0
船なのに戦士族なのも居るよな
戦士族曖昧すぎワロタ
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/11(土) 14:07:47.74 ID:ae/1N1A7o
自立型の装甲車も戦士だもんな
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/12(日) 13:41:01.96 ID:4gvklmPB0
>>562-567
おまえらw

氷結界のバウンサーも海龍だしな
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/06/13(月) 23:52:48.06 ID:zbIWOD/M0
遊戯王にはよくあること

でもジョーズマンの獣戦士族には泣きそうになった
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/17(金) 00:36:51.79 ID:9cCI1y4t0
>>565
ジェニス?ジェインじゃないのか?
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/17(金) 16:40:56.09 ID:WoP/XBoIO
セルケトが天使族だぜ、もう何も信じられない
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/06/17(金) 22:45:12.47 ID:hSjkdf/C0
>>561-571

『DNA改造手術』で全て解決
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/06/18(土) 01:31:12.51 ID:RE5fuK3AO
>>572
サイコ・ショッカーをサイキックに出来ないという欠点がある
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/18(土) 17:28:28.16 ID:SE++I4EAO
>>572
エンジェル・魔女「やめて〜!」
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/18(土) 20:06:39.96 ID:mAsypQ1ko
いつまでも待ち続けるぞ!
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/06/20(月) 02:02:15.81 ID:QlBimd470
>>573
スキドレ先だしで解決
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/06/21(火) 21:24:15.20 ID:OWapz11q0
>>573
あれだ、ほぼ全身機械化のサイキック→機械族扱い
生身or生身を残したサイボーグ→サイキック族扱い

……無理があるかな?
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/06/21(火) 23:27:33.04 ID:x54+JvU30
>>577
前者はサイキックのままでいいかな…

どーでもいいんだがシャークさんのデッキ作ろうとして
逆巻くさんに目を付けたときに思ったんだが
大人形態については皆どんな気持ちなのかちょっと知りたいです(><;)
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/22(水) 00:42:25.92 ID:JqGUoA3AO
ガガギゴが無事だとわかっただけでも逆巻くはありがたい
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/22(水) 09:16:42.83 ID:pPgM90Sjo
無事というか、あのガガギゴは過去の姿って言われてないか……
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/06/22(水) 09:23:54.92 ID:kli9hmMVo
時間が逆巻いて過去のガガギゴになったんですね
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/22(水) 17:31:30.40 ID:2trfN+og0
霊体じゃなかったのか
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/30(木) 22:25:06.29 ID:2+mFQJ1A0
2ch巻き添え食らったけどこっちでレスできるかテスト
ちなみに1ではない
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/02(土) 20:05:08.73 ID:NLuLJ29Lo
まだかなー
いつまでも待つぜ!
585 :1 [sage]:2011/07/03(日) 04:12:35.05 ID:TOF1R0dho
ありがとうございます。全然更新できず申し訳ないです
正直いうと最近では心身ともに疲れて、筆を進めるモチベにも影響している状況です
また今月は先月以上に忙しいスケジュールです(一回二回更新できるかどうか)
そんなこんなですが、ただ、何年かかろうと完結だけは遂げます。どうか今しばらくお待ちください
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/03(日) 09:51:31.69 ID:sxbIyz4po
リアルを優先してくれよ
倒れて完結しないとか1番こまるからな!
587 :名無し [sage]:2011/07/03(日) 16:18:56.87 ID:Xo1HcsYDO
いつまでも待ってるぜ!
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/06(水) 14:07:00.96 ID:5nKxjOcm0
頑張れよー
応援してるぜ
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/07/07(木) 06:57:41.92 ID:uwjRfSc80
頑張れー
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/07(木) 11:57:58.83 ID:L9CXSPtV0
>>564
めっちゃどうでもいいし遅レスだけど人喰い虫は昆虫族な
戦士族になってたのは誤植
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/07(木) 15:11:58.92 ID:XAh8yg0Co
>>590
だからそれをネタにしてたんじゃないの?
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/14(木) 16:18:06.28 ID:QZMwC0IN0
>>591
そうか
ネタなのかマジなのかわからなかった
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 16:21:43.96 ID:S90KJwXDO
俺達の期待を返せよ畜生
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 05:58:04.89 ID:KjaNyNcbo
お前たちの期待は私が奪っていく
さらばだ歴戦のデュエリストよ
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/15(金) 17:24:28.73 ID:5+9FjVUAO
人々にまやかしの希望を見せるとは……許せん!
貴様のような悪魔は、この死の沈黙の天使であるドマが修正してやる……!
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 17:33:57.18 ID:4uhPvKWDO
うるさいんでブラックホール使いま(ryうわ自分まで巻き込ま(ry
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/07/26(火) 20:54:55.62 ID:3RO7eSmR0
保守
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/27(水) 07:12:23.47 ID:YH/6bhUro
いや、ここは保守必要無いんじゃね?
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 23:55:01.36 ID:+spwkn9+o
そろそろ夏休み……とかで書けるようにならないのかしら
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/07/29(金) 18:21:01.28 ID:39e4boJX0
>>599
去年と同じ生活サイクルならそれは期待できそうにない

この>>1が一番書いてくれるのは春ごろ
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/08/05(金) 19:44:13.30 ID:Q0Q+u5gU0
気長に待とう
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/09(火) 09:03:35.38 ID:WkWaQn7Ho
最後に話書いてから二ヶ月か……
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/09(火) 22:22:23.97 ID:Sp+z5eKh0
辛抱
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/09(火) 23:06:59.20 ID:viHwidO90
帰って....
きてなかった(´・ω・)
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 00:10:36.66 ID:rOYxXdJBo
まぁ2ヶ月書けないとか物書きスレにはよくあること
606 :名無し :2011/08/11(木) 07:27:25.87 ID:AQaYaWdDO
たまには生存報告してくれてもいいんじゃよ(チラッ
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 13:59:49.70 ID:NXy95QMQ0
いつになったら…
608 :名無し :2011/08/12(金) 14:52:09.84 ID:uAYPVlpo0
>>1は必ずもどってくる
609 :1 [sage saga]:2011/08/13(土) 14:09:08.82 ID:tC1lvNFFo
スレはちょくちょくチェックしていますが、必要なこと以外ではなるべく出てこないようにしています
毎度待たせてしまいすみません、また待って頂いてありがとうございます
あまり書けないかもしれませんが、とりあえずあと一週間以内には更新したいと思います、あしからず
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/13(土) 16:17:30.83 ID:m5MfV55Jo
キテターーーーーーーー!!!
適当に顔を出さないとスレ消えるからその辺頼んだよ
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/13(土) 20:08:37.81 ID:HgKP0PGB0
帰ってきた!
期待して裸待機してる
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/16(火) 20:07:34.95 ID:p+2z1PAeo
追いついた
なにこれ面白い
続き待つよ、いつまでも
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/19(金) 18:46:58.98 ID:d2AcIkrS0
おお
期待
614 :1 [sage saga]:2011/08/20(土) 01:42:06.50 ID:wYW2nQaXo
明日朝早いのでとりあえず1レス
続きは近日投下
615 :>>553〜 [sage saga]:2011/08/20(土) 01:43:10.96 ID:wYW2nQaXo

 闇霊使いの少年ダルクと、地霊使いの少女アウスは、ホール隅の同じテーブルから共にカウンターを見守っていた。
 ただでさえ地味な位置にいたにも関わらず、ことさらに息を殺して気配を潜めている。
 乱入してきた治安維持隊たちに、まかり間違って素性を改められるようなことになればおしまいだった。

 陰気分のこもる酒場内のホールを、まばゆく照らし出すかのようなオーラを帯びた四人の男女。
 実際、彼らの身に着けている白銀の装備は、反射光以外の光を放っているようにもみえる。
 天から遣わされた光の使徒、ライトロード。
 闇に生きるダルクの眼には、彼らがあまりに眩しく、とても直視できたものではなかった。

 
 酒場のマスターと対峙した銀髪の騎士・ジェインは、まずはもったいをつけて頭を下げた。

「ご主人、まずは突然の非礼を詫びよう」

 顔を上げたジェインは穏やかな笑みを浮かべていたが、ダルクにはその口調が高圧的に聞こえてならなかった。
 眩しさをこらえ、ジェインの顔を一瞬だけ目で捉える。
 やはりだ。遠くからでも分かる。
 あれは絶対の優越を確信している目。
 自分以外の存在を軽んじ、見下している目……。

「なに、こちらこそお勤めご苦労様です。それで用件は? 手短に願いたいものですな」

 対してマスターは、賭場でつちかったポーカーフェイスだろうか、貼り付けたような無表情を微動だにしない。
 あんな顔で堂々と受け答えされたらたじろいでしまいそうなものだが、ジェインはさらりと「手短に済ますとも」と受け流した。

「つい先刻、我々のところに通報があったのだ。なんでもこの酒場で、違法の賭博行為が横行しているとか」
「さて。その賭博行為とやらが行われていた証拠は?」
「それが困ったことに、我々のところへ怒鳴りこんできた証人ただ一人だけなのだよ」
「それはまた。真偽も分からないたった一人の証人で一騒動ですな」
「我々も治安維持の名のもとに駐在している立場でね。例え徒労に終わろうとも、悪事が叫ばれたら看過するわけにはいかないのさ」
「殊勝なことです。もっとも今回は徒労に終わりそうですが」
「しらばっくれるな!」

 突然、太い怒鳴り声が横槍をいれた。
 最初に騒々しくここへ足を踏み入れた、あの強引な番兵だった。

「この店が賭博をやっていることは前々から分かっているのだ! いままではお情けであえて見逃してきたが、それも今日限りで」

 直後、大男の豪腕が伸び、番兵の言葉をさえぎった。
 屈強な手のひらが兜ごと脳天をとらえ、頭をわしづかみにされた番兵は「うっ」と身体をこわばらせた。

「ガロス」

 ジェインがたしなめるように呼びかけると、ガロスと呼ばれた大男は突きはなすように番兵を解放した。
 続けてジェインは見向きもせず、背景の雑兵に抱えられた番兵に言った。

「我々に任せろと言ったはずだ。次に余計な口を挟んだときは、相応の裁きを覚悟したまえ」
「は、はっ! 申し訳ありませんでした!!」

 ダルクはその流れでいくらか安心する。
 あのジェインという男は好きにはなれないが、先の番兵のように強硬姿勢で取り締まりにかかる様子はなさそうだ。
 あとはマスターがうまくいなしてくれれば、この場は穏便に済むだろう。

 ――それにしても。
 ダルクは真横に視線をずらす。

 四人の中で一人だけ身なりの違う、あの銀髪の女の子。
 後方でキョロキョロと興味津々に周りを見渡しているが、彼女も治安維持の一員なのだろうか?
 身に着けているローブといい杖といい、まるで自分たち霊使いに通じるものがあるが――。
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/20(土) 07:00:00.48 ID:6R1l8U8ho
キテターーーーーーーーーー!!!!!
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/20(土) 18:59:04.93 ID:oMOQGxlt0
kitaaaaaaaaaaaaaaaa
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/21(日) 05:51:35.47 ID:8jJDlG7/0
きたああああああああ
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/21(日) 09:19:27.84 ID:3aJjLqHvo
ライナぁぁぁぁぁぁぁ!!
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/08/21(日) 13:00:10.36 ID:eb3q57n20
ライナ新人か?
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 18:48:30.26 ID:X+z1MIZn0
ひーふーみーよー…
これで霊使い全部そろったかな?
C
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/22(月) 22:59:23.13 ID:dH45Ub/IO
続き楽しみー
まだかなー
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/22(月) 23:03:37.96 ID:dH45Ub/IO
ライナ可愛いよライナ
どんな風に可愛く印象付けるか
とても期待!
624 :名無し [sage]:2011/08/23(火) 00:27:05.26 ID:WSiKPVoDO
おい、あんまハードルあげるな
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/23(火) 00:49:33.69 ID:murPlEjZo
しかし、まだアウスのターンだと思ってたのになぁ
ここはまだライナは顔見せだけじゃないの?
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/23(火) 07:47:17.11 ID:r1n7G1SIO
〉〉624
すまぬ
楽しみでしょうがないのだ・・・
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/23(火) 07:47:17.11 ID:r1n7G1SIO
〉〉624
すまぬ
楽しみでしょうがないのだ・・・
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/23(火) 07:50:12.50 ID:r1n7G1SIO
ミスって二つ書いちゃった
すまぬ・・・
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/23(火) 13:55:42.39 ID:58EMr3oI0
期待するのはいいかもだがせめてsageような
630 :1(>>615〜) [sage saga]:2011/08/24(水) 16:10:22.35 ID:BRARFUX8o

「それで。治安維持のジェイン氏」

 マスターの平坦な、しかしむしろ威圧すら感じさせる低い声が、静まり返った酒場に流れていく。

「私どもの立場としては、とんだ濡れ衣で営業妨害を被っている次第なのですが」
「ふむ、それは我々の立場とて似たようなものだ。店ぐるみで不法賭博の事実をひた隠しされている、と」

 ジェインもまったくたじろぐことなく、尊大な態度を緩めない。
 
「しかし平行線にはなりませんな」
「証拠か」
「左様です。見つからない以上は、即刻お引き取り願いたいものですな。お客さんも勝負を中断させられ迷惑している」
「ふむ」
 
 ジェインは酒場内をぐるりと一望した。
 客たちはみな固唾を呑んで様子を見守っていたが、多くの者はジェインと視線を合わせることを避けた。
 ダルクも瞬発的に目線を変える。視界に飛び込むアウスの杖――。
 
「確かに。こういった状況では、現場を押さえるしか手立てがない」
「ごらんの通り、賭博の事実があったという痕跡はありませんが」
「当然、今はな」

 そこでジェインは突然、背後の方へ目を向けた。
 視線の先にいた強引な番兵は、たちまちかしこまって直立不動を伸び上がらせた。

「番兵の君」
「はっ!」
「我々の中で最初にこの店に入ったのは、確か君だったね」
「はっ、その通りです!」
「簡潔に、事実を答えたまえ。――君が入ったとき、この店の様子はどうだったかね」
「はっ、そ、そのときは……い、今と変わらぬ様子ではありましたが……」
「ほう。……天に誓って、間違いないね?」
「はっ! し、しかしこの店は過去に数度の通報履歴が」
「『今』。どうなのかが焦点なのだ。余計なことは報告しなくていい」
「はっ、はっ! 失礼しました!」

 ジェインは身体を向きなおすと、再び「ふむ」とふわふわ頷き――ホールの中へゆっくりと足を踏み入れた。
 金属の靴音が、一歩一歩じらすようにホール内に響き渡る。
 彼が歩み進むごとに、ホールの奥は銀色の明るみに晒され、そばに位置する客たちは縮み上がった。
 まるで、少しでも気を抜いたら賭博がバレてしまうのではないか、といった具合にその身を凍りつかせている。

 ジェインは各々のテーブルの上を撫で回すように眺め――あるテーブルで、ぱたりと足を止めた。
 何をするかと思えば、おもむろに屈みこみ、テーブルの下に落ちていたそれを拾い上げた。
 500DP硬貨。共通硬貨となる前の金貨を模した、やや大きめのコイン。
 ジェインは酒場にいる誰もが目視できる程度に、それをつまみ掲げた。

「これは……誰が落としたコインかな?」
「あっ」

 真っ先に血の気が引いたのは、そのテーブルについていた「アイルの小剣士」だった。
 相席の痩せたゴブリンの表情も、ヘマをした相手を非難するより先んじ、ただただ恐怖を募らせている。

 広いホール一帯に、裂けんばかりの緊張がぴりぴりと走り抜けていった。
 
631 :1 [sage saga]:2011/08/24(水) 16:11:22.40 ID:BRARFUX8o

 ジェインは不適な笑みを浮かべながら、「あっ」とこぼした声の主を見下ろした。

「君のものかい?」
「あ……う……」
 
 叶うならシラを切りたいアイルの小剣士だったが、よりによって500DP硬貨。
 さすがに共通硬貨の中で一番価値のあるコインを前に、首を横には振れなかった。
 
「オ、オイラのです……」
「そうか」
 
 ジェインは心なしか満足げに笑みを広げた。
 わざとらしく、緩慢とした動きでコインがテーブルの上に置かれる。
 
「大事なものだろう。気をつけたまえよ」
「は、はい……ありがとうございます……」 
 
 酒場内の空気は依然にも増して緊迫した。
 客の誰もがどうなることかと、不安げに先行きを案じていた。
 そんな最中、ジェインは一転、「さて!」と強めの声をあげた。
 
「撤収だ」
 
 その意味が周囲に理解されるより早く、ジェインは治安維持の兵達に言った。
 
「今回の件に関しては、賭博の証拠は見つからなかった。ならば撤収だ」
「……は……」
「聞こえなかったのかな? それとも二度三度言わせる気かな?」
「はっ!」
「ははっ!」
 
 やにわにドタバタと騒がしくなり、治安維持の兵たちは先を争うように酒場を後にしていった。
 それに伴い、ホール内の客たちはほっとしたような安堵の空気に包まれた。
 とにかく誰も咎められず、店も何の処分も受けずに済んだ。万々歳だ。

 完全に弛緩するホール内。再開されるデュエルモンスターズ・チェス。各テーブルに戻っていく勝負熱。
 しかしダルクとアウスは、まだこの場に留まっているジェインの方へ注意を向けていた。

「ああそうだ。番兵の君」
「はっ」
「この店を通報した例の男は、まだ留置しているね」
「はっ」
「彼は酒気を帯びていた。酔いに任せ虚偽の通報をした罪において、相応の処分を下すように」
「はっ! 了解しました!」

 最後の治安維持兵である、強引な番兵が出て行くのを見届けるジェイン。
 なぜかライトロードの四人はここに留まったままだ。

「マスター」
「まだ何か」
「どんな小細工かは分からないが、我々の来訪を察知できる術があったようだね」
「心外な言いがかりですな」
「いや。ただ我々もその気になれば、『過去に起きた真実』を改めることもできる、ということを伝えたかったまでさ」
「さて。そのような大層な手段、一介のバーの賭博容疑などに、おいそれと使えるものですかな」
「ライトロードの権限をもってすれば、あるいはね」
「留意しておきましょう」

 ホール内が騒がしさを取り戻したおかげで、その対話はダルクには聞き取りづらかった。
 しかし先刻となんら変わらない振る舞いから、双方の空気は未だ穏やかではないことだけは感じ取れた。

632 :1(To be continued.) [sage saga]:2011/08/24(水) 16:12:49.68 ID:BRARFUX8o

「さてマスター」

 ダルクは遠目に驚いた。 
 なんとあのライトロードのパラディンは、立ち去るどころかカウンター席に着座したのだった。

「何か飲みたい。メニューを」
「ご冗談を」
「冗談ではないさ。通報の件は片付いた。今の私はただの客だ。もっとも」

 ジェインは意地の悪い笑みを浮かべたまま、ちらりとホールへと目配せした。

「いつでも治安維持隊としての私に戻ることはできるが」
「ちょっとジェイン」

 そこで初めて、今まで黙っていた黒髪のライトロードが口を開いた。

「ここまで付き合うこともないでしょう。引き上げましょう」
「まぁそう言うなライラ。せっかく下界に下りてきたんだ、地酒の一つも楽しむさ」
「まったく酔狂ね。私は帰るわよ」
「どうぞご自由に。帰りは気を付けてな」

 ダルクは女性のライトロードが店を出て行くのを見て、なんとなく安心した。
 どうやら彼らの、本格的な治安維持の任は終わっているようだ。

「ガロス、君はどうだい? 酒は好きだろう」
「ああ。俺は付き合うぜ」
「では――ライナさんもどうですか? もちろん私が奢らせていただきますが」

 がたん。
 席を立つ音。
 ダルクの視界に、突然テーブルから立ち上がる姿があった。
 落としたコインをジェインに拾われた、あのアイルの小剣士だ。

「オ、オイラ帰る」

 アイルの小剣士は自分の荷物を取り上げると、ライトロード達を避けるようにそそくさと出口へ向かっていった。
 表立って指摘はされなかったものの、やはりギャンブルをしていた一番の候補者だという自覚は強かったらしい。
 ライトロードたちが居残ることを知り、その重圧に耐えられなかったのだろう。帰りたがるのも納得だった。

「……俺も帰る」
「あたしも」

 何人かが次々と席を立つ。
 ライトロードの監視下となれば、必然、彼らが乗り込んでくる以前に賭けていたアンティを成立させるのは難しい。
 勝負熱が冷めて白けるのも無理はない話だった。

「……今です」

 ダルクはすぐそばのささやきを聞いた。
 着席していたアウスが腰を浮かしている。ダルクも頷き、席を立った。
 帰り際に目を付けられ、闇の住人であることを悟られては一大事だった。
 しかし今なら不自然ではない。この場から目立たず脱出できる絶好のタイミングと言えよう。

 ダルクとアウスは二人そろって歩き、出口に向かう客たちに溶け込んでいった。
 これでとりあえずは無事に難を逃れた。

 ――かにみえた。
 ライトロードの成員かは定かではない、あの一人だけ浮いた銀髪の女の子。
 成り行きでそばの位置にいた、彼女とのすれ違いざまだった。

 金属がぶつかりあう、小さな音。
 手錠と手錠がこすれた音。

「あ……」

 声を出したのは女の子の方だった。
 ダルクが思わず「えっ?」と零したときには、すでにその左手首はとらえられていた。

633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/08/24(水) 18:50:30.38 ID:PFzOVB+i0
うおおー来てた!
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/24(水) 19:17:30.67 ID:GUZRkQJB0
キターーーーーーーーーーーーーー
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/24(水) 19:35:18.36 ID:eJ+Ziqwso
手錠フラグキタ━(゜∀゜)━!
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 00:01:02.06 ID:kTdRSzUp0
いよいよライナとの絡みか・・・
胸が熱くなるなwwwwww
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 00:10:47.79 ID:gk+kUEwho
手錠プレイか
胸が熱くあんるなwwwwwwwwwwwwww
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 01:03:04.75 ID:A0fW2+2b0
これはwktk
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 02:36:43.03 ID:uZtYR8YIO
続き感謝!
そして手錠きたー!
次も気長にまってます
頑張ってください!
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/08/25(木) 02:48:08.32 ID:hYTIZZYH0
>「あ……」

わざとではない、と……このライナはドジッ子キャラと見た!
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 06:48:12.47 ID:7AL2m8yH0
>>638
>>639
お前らテンション上がるのはわかるけど落ち着いてsageようぜ
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/08/25(木) 10:50:00.43 ID:AIFZbAbU0
続き期待!
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 18:53:59.30 ID:uZtYR8YIO
いっとくけど
ライナは俺の嫁だから
異論は認めない
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/25(木) 19:20:43.28 ID:McD9wduoo
じゃあ、アウスは俺の嫁な
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 20:43:27.69 ID:7AL2m8yH0
じゃあ俺は壺魔人はもらっていきますね
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 20:47:47.14 ID:uZtYR8YIO
壺魔人とかww
負けたわww
ちなみにウィンとエリアも俺の嫁
同意の上だ(キリッ
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/25(木) 22:08:28.23 ID:lp6UdeBio
ageる奴に嫁を語る資格はない
ウィンちゃんはもらっていきますね^^
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 22:23:55.36 ID:uZtYR8YIO
なん・・・だと・・・?
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 22:32:18.20 ID:uZtYR8YIO
そういえばリアルの話ですけど、
カオスソルジャー開闢の使者禁止解除したけど、どんなデッキとの組み合わせがいいですかね?
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/08/25(木) 22:39:52.89 ID:hYTIZZYH0
混沌帝龍と対を成す公式チートか……
破壊する相手モンスターの攻撃翌力次第じゃ、オネストと併用する事で1キル狙えるしな……

後、ウィンはどちらかといえば義妹的なポジだと思う
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/08/25(木) 22:59:04.94 ID:AIFZbAbU0
遊戯王の世界は一夫多妻はOKかな?
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/25(木) 23:12:18.40 ID:uZtYR8YIO
ネオストかあ・・・
でも1ターンキルつまらないから
やめておこうw
653 :名無し :2011/08/26(金) 20:34:18.38 ID:XO6ur8oAO
650に同意
654 :名無し :2011/08/26(金) 20:34:56.68 ID:XO6ur8oAO
650に同意
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/26(金) 21:49:37.11 ID:+kV9EHfIO
1さん大丈夫かな
頑張りすぎで倒れてないかなw
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/08/28(日) 06:23:31.71 ID:MfJvcJY1o
わかったからsageよう、な?
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 23:34:06.64 ID:jtLj67Kj0
age、sageについては1さんは好きにしていいって言ってるけどね
まぁsageるのが暗黙のルールか
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 08:54:28.55 ID:6icW7ECG0
またageに引っかかった俺が居る
ageたら作者さん帰ってきたと思う人が居るからメール欄に sage な
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/08/29(月) 14:29:41.26 ID:h5IdD9Gk0
ダルクの師匠は誰だと思う?
俺はブラックマジシャンと予想
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/29(月) 14:52:02.58 ID:dL+LCF4IO
ダルクの師匠・・・
カオスソルジャー?
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 14:53:41.29 ID:sl7HkpP10
>>659
展開予想はしない方がいい
>>225参照
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/08/29(月) 15:51:39.25 ID:47alAg1E0
予想は出来れば止めてほしいと柔らかく訴えてるな
663 :名無し :2011/09/04(日) 21:27:28.34 ID:2Ad5b1HAO
マダ〜
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/04(日) 22:12:29.26 ID:FB480rMyo
ageんなカス
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 22:50:53.46 ID:5JadTjz+o
このスレではカスとかタヒねとかはやめましょう
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/05(月) 02:25:28.07 ID:+x3dKJ4IO
1さん忙しそうだね
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 06:57:58.21 ID:pjzeA2+y0
>>663
>>666
メール欄にsageな
これ書かないとageになるから
作者帰ってきたと思っちゃうから
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/07(水) 03:34:04.44 ID:BnV1AfPIO
1さんって何歳なんでしょうかw
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 13:47:09.59 ID:BcKHLwuIO
知らんがな、黙って待ってろ
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 15:56:48.19 ID:pLftJt1o0
どうしてそう喧嘩腰なのかね
あなたに聞いてるわけでもないだろうし
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 15:57:51.33 ID:pLftJt1o0
どうしてそう喧嘩腰なのかね
あなたに聞いてるわけでもないだろうし
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 16:21:17.71 ID:0U8hfB4IO
うわあ……しかも連投か。必死だな。
673 :1 [sage saga]:2011/09/08(木) 19:16:51.00 ID:HX1fSWNpo
年齢は内緒です!
あとできたら空気を悪くするようなレスは控えてくだせえ。どうかお願いします
加えて毎度遅筆ですみません、今日から三日以内に続きを投下します。しばしお待ちください……
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/08(木) 20:35:31.90 ID:RF18ciC+o
キターーーーーーーーーーー!!!!
675 :名無し [sage]:2011/09/09(金) 01:24:06.27 ID:h3NIcExDO
wwktk
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 03:22:54.95 ID:KRqPXcSIO
1さんすいません
空気悪いコメしてしまって
以後注意します。

お疲れ様です。
期待です。
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 03:24:26.12 ID:KRqPXcSIO
訂正.空気悪くするようなレスしてしまってすいません。
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 17:13:14.12 ID:odOs4g8go
草津
679 :>>632〜 [sage saga]:2011/09/11(日) 16:03:20.63 ID:3XneW+eEo

 ダルクにとっては完全に不意を突かれた形だった。
 日頃から手首に巻いている包帯越しに、いま何者かが握りしめる感触がある。
 「えっ?」と零しながら自分の左手に目をやると、黒い手袋がしっかりと自分の左手首をつかんでいた。

 アウスではない、アウスは目の前にいる。つかまれたのは背後からだ。
 この場所、この状況で誰かに捕らえられる理由は。
 肝がつぶれる思いで素早く顔をあげると、そこには。

 わずかに青みがかかった、銀色の瞳。
 どこか憂いを帯びた表情の女の子が、しっかりダルクを見上げていた。
 あの子だ。ライトロードの中で浮いていた、自分たち霊使いに似た格好をしていたあの。
 
 髪型は左右に幅のあるふんわりしたおかっぱで、頭の天辺からピョコンと一本毛が飛び出している。
 銀髪だった。というのも、その白い髪が仄かな光をまとっているせいで、そう表現せざるを得なかった。
 ああ、やはりこの子は光属性なのだと悟る反面、「待てよ」とも思う。
 それならばなぜ闇属性である自分は、この女の子を直視できるのだろう。

 あのライトロードのジェインを見るときは、遠目からでも痛いくらいの光が自分のまなこを刺激した。
 けれどもいま目の前にいる女の子は、あろうことか視線を合わせているにも関わらず、全くなんともない。

 いやそれどころか、この顔を見ていると――心の奥底で、別の何かが湧き上がっていく。
 温かい何か。なぜそんな感情が湧くのかは分からない、けれども。
 なにか……ほっとしたような……救われたような……。

(いや、待て)

 相手は光の使徒・ライトロード。
 例えそうでなくても、その連れに手を取られたとなれば、闇属性である我が身の危険は変わらない。
 慌てて我に帰ったダルクは、すみやかに彼女との視線を逸らすことで意思表示した。
 
「ごっ、ごめんなさいっ」
  
 まるで、やわらかい光が優しく耳の中に入ってくるような、純朴なソプラノ。
 それでいてぎこちない謝罪の語にも関わらず、明るく、快活さが伝わってくるようなエネルギーを感じさせた。

 侘びと同時に、ゆっくりと手が放される。
 とにかく彼女にどんな思惑があったのかは知らないが、やはりただの勘違いだったようだ。
 
「ダルク。どうしたのですか」
 
 足止めをくらっていたせいで、不審がったアウスが小さく引き返してくる。
 その囁きにダルクは何でもないという素振りをみせ、すぐに足を踏み出した。
 
「ライナさん、どうしたのですか?」 
 
 そのときダルクの背後の、そのまた後ろの方から声が投げかけられた。
 例のライトロードの声だ。似たセリフでもこっちはまずい。
 ダルクは振り向きもせず、足を速める。
 アウスも状況を察したらしく、一言も発さず出口へと急いだ。

「そこの少年、止まりたまえ」
 
 聞こえないふりだ。
 ダルクは一瞬たじろいだアウスの背中を押した。


「止まりたまえ」

 
 ダルクは足を止めた。
 止まらざるを得なかった。
 敵意をむき出しにした視線が、背中に突き刺さるようだった。
 
 いつの間にかカウンター席を立っていたジェイン。
 彼は、背面左腰に差している愛剣へと手をかけていた。
 
680 :1(To be continued.)(続きは近日投下予定) [age saga]:2011/09/11(日) 16:10:52.79 ID:3XneW+eEo
 背後からライトロード・ジェインが近づいてくる足音が、ダルクの耳に響く。

(まずい)

 なんてものではない、恐れていた事態の大本命に直面してしまった。
 どうすればいい。最善手は。

 もうなりふり構わず逃げ出すのは無理だ。
 もし、さっきの呼びかけを無視してあと一歩踏み出していたら、間違いなく攻撃されていた。
 それに完全に的をかけられた以上、たとえ店から脱出できてもあとを逃げ切れる自信はない。
 
 ならば戦うか? ここで?
 それこそ無謀だ。場所が狭いし、相手は天敵の光属性。
 ダルクはまだ「光」と真っ向から戦えるだけの魔力は持ち合わせていない。
 加えて、青髪の屈強なライトロードが一人、銀髪の少女が一人。
 少なくともジェインに加勢しそうな相手が2人はいる。
 店を出たライトロードも、もしかしたら外で待ち構えているのかもしれない。
 
 何より気が進まないのは、この店の客、マスターとエルフの姉妹さん、そしてアウスに迷惑をかけてしまうことだ。
 ただでさえ忌み嫌われているらしい闇属性の汚名を、絶対にこれ以上重ねたくはなかった。

 ダルクは、懐の杖の握りをゆるめた。
 使い魔のディーにも待機を合図する。

(闇属性であることを伏せたまま、互いに一切の血を流さず、町の人々に一切の迷惑をかけずに終わらせる)

 この場をしのぐ理想形だ。難しいが、やるしかない。
 ダルクの方針が固まったところで、ジェインの足音が止まった。

「少年、こちらを向きたまえ」

 ダルクは振り向いたが、顔はうつむけたままだった。
 目を合わせたくないこともあったが、光が眩しくてとても目を向けていられないのも事実だった。
 視界の端から幾多の視線を感じる。やはりホールの観衆から注目を浴びているようだ。

 眼前で対峙したジェインからは、相当の圧力を感じた。
 自分と見た目の年齢がそう違わないだろうに、圧倒的な貫禄や偉容を誇っている。
 そして――強い。間違いなく。伊達や出自でその地位にいるわけでもなさそうだった。
 
「ふむ……」
 
 ジェインは顎をなでながら、品定めするかのようにダルクを眺め回した。
 その後で、傍らの少女に尋ねた。

「ライナさん、この少年がどうかしたのですか?」
「えっ?」
「先ほど、彼の手をつかんでいませんでしたか?」
「え。ええっと」

 ダルクは少女に視線を投げる。
 ライナ? この少女の名前はライナというのだろうか。
 ライナ。一度だけその名を聞いた覚えがある。確かあれは……。

「さすがライナさんだ。この少年からは『闇』のにおいがする」

 一瞬で心臓を鷲づかみにされたような感触がダルクを突き抜けた。
 見抜かれた。
 そういう職についている以上、鼻は鋭いのは納得だが、ばれるのが早すぎる――。
 
 そのときぴくりとそばの気配が動いた。地霊使いのアウスだ。
 本来ならダルクなど構わず帰ってもお咎めはないのに、あえて付き合ってくれている。
 ありがたい。ありがとう。窮地に少しだけ心強さを得た気分だった。

「ちっ、違うよっ」
 
 そのとき、さらに予想外のところから助け舟が出された。ライナだ。
 
「この人はなんでもないよっ。うんっ、ボクの勘違いだったみたい!」
「しかし……ライナさんがそう仰っても、我々は彼を改める義務があります」
「どっ、どうしてっ?」
「彼に『闇』の疑いがあるからです」
「だっ、だからこの人はっ」 
「ライナさん、確認するだけです。彼が『闇』でないと分かれば、すぐに解放しますよ」

 その言葉を聞いてライナは、困惑に顔をゆがませ引き下がった。
 さすがに状況を打破するまでに都合のよい助け舟ではなかったようだ。
 やはり自分で何とかするしかない――。
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 16:31:08.36 ID:7mkPqsOY0
キタ--------------------
ライナまさかのボクっ娘か
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/11(日) 17:04:40.70 ID:ABMC6IEEo
キテターーーーーーーーーーーー!!!!!!!
僕っ娘もキターーーーーーーーーーー
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/09/11(日) 21:49:41.53 ID:isw/kf0X0
ボクっ娘最高ーーーーーーー
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 00:40:35.27 ID:qs5FFT4IO
うp乙です
次回も期待
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 01:19:31.93 ID:lz/7Dkk5o
>>684
くせえ
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/09/12(月) 15:04:22.68 ID:kn7CmCID0
ライナが、ボクっ娘……だと……!?

良いじゃないか
687 :1 [sage saga]:2011/09/13(火) 16:22:20.39 ID:PFEIZQyvo

「さて少年。まずは名前を聞こうか」

 きた。
 しかしダルクが口を開くより早く、ジェインの前に進み出た姿があった。

「彼は私の連れ添いです。『闇』などとは関係ありません」
「君は?」
「私は地霊使いのアウス。この町の図書館で、司書を務めています」

 ダルクは目を丸くした。
 アウスが、自分がかねがね行ってみたかった町の図書館の関係者だったこともそうだが――
 今は何より、格上の治安維持隊であるライトロード相手に、毅然とした態度で自分を擁護してくれるとは思わなかった。
 出会ってまだ間もないのに、なぜここまで面倒をみてくれるのだろう。
 アンティに賭けた自分の闇の杖が、ライトロードに反発するだけの価値があるということなのだろうか――?

「明け方も遠からず、私達は急いでいます。どうか寛大なお見逃しを」

 アウスは急いだ口調で、しかし礼節は欠かさず頭を下げた。
 うまい。ダルクは内心舌を巻いた。
 急いでいるという設定なら、この場を大目に見てもらっても不自然ではない。

「それは悪かった。急いでいる、というならば――尚更どいてもらえるかな」

 しかしジェインは穏やかながらも執着をみせた。

「すぐに済まそう。本人の口から身元を明かしてもらうだけだ。後の判断は私が下す」
「ですが」
「急いでいるのだろう? それとも何か別の他意でもあるのかな?」

 そこまで言われては、これ以上食い下がるのも無理がある。
 やむを得ずアウスも口を結び、ゆっくりと退いた。

(ありがとう、アウス。時間を稼いでくれたおかげで口実が整った)

 アウスの気遣いは決して無駄にはしない。
 ダルクは顔をあげ、初めてジェインと目を合わせた。

 ダルクの黒い瞳に、容赦なく鋭い光がさしこむ。『闇』が抱える弊害。痛いほどの眩しさ。
 しかしそんな素振りは微塵もみせず、視線は逸らさない。
 ここから先は口八丁で切り抜けるしかない。弱みを見せたら負けだ。
 
「なんだ。ちゃんと目を合わせられるじゃないか」
 
 視線が交差する中、ジェインが笑みをこぼした。
 だがダルクには、その目までは笑っていないように見えた。
 
「では急いでいるようだから手短に。君は何者だ? 名前は?」
「……オレは」

 ダルクは渇いた口を開いた。
 それと信じ込ませるために、堂々と、いくばくかの誇らしさを含めて名乗る。
 
「魔法使い族、地霊使いのクルダ」
688 :1 [sage saga ちびちび更新ですみません]:2011/09/13(火) 16:23:30.67 ID:PFEIZQyvo
 
「クルダ……」
 
 一瞬、ジェインの隣にいたライナのつぶやきが耳に入ったが、ダルクはそれに構わず続けた。
 
「いまあなたは『闇』のにおいがすると言ったが、それは恐らくこれのことだろう」
「なに?」

 そばで傍観していたアウスは度肝を抜かれた。
 ダルクが懐から堂々と取り出しのは、みるからに禍々しいオーラをまとったあの闇の杖。

「オレは『闇』への防衛術を研究中だ。その一環として、これを持ち歩いていただけだ」
「……確かにその杖には、並ならぬ『闇』が染みついているようだが」
「手に入れるのには苦労したんだ。これは貴重な研究材料、没収は勘弁してほしい」
「没収? まさかそれを逃れるために、私を避けていたのかい?」
「ああ、その通りだ。厄介事はごめんだったからな」
「研究者か……それにしても、『闇への防衛術』? そんなものは初めて聞いたな」
「それはそうだろう。もともと闇に強い光属性一派には、必要のないものだからな」

 しゃべりながらも、ダルクは周囲の反応に気を配っていた。
 ジェインは笑みを薄めており、まだまだ警戒しているようにみえる。
 隣にいるアウスや、遠くにいる野次馬の客たちは石のようにじっとして見守っている。
 ライナは――なぜか興味津々で話に聞き入っているようだ。

「いつもあなた方ライトロードがこの町にいるわけじゃない。
 しかし『闇』はいつ紛れ込んでいるのか分からない。
 ならば少しでも闇を知り、防衛手段を研究しておくのも悪くはないだろう」

 焦点の外で、ライナが「うんうん」と頷くのが目に入った。
 好印象を受けているらしいのはありがたいが、この子の思考回路はイマイチ読めない。

「……君は先ほど、自分のことを地霊使いと言ったね」

 ジェインの顔からは完全に笑みが消えていた。

「精霊術・霊使いというものは知っているが、その地霊術とやらでどうやって『闇』に対抗するつもりなんだね?」
「対抗じゃない、防衛だ。といっても地霊術の結界で『闇』を見つけ出して、それを周囲に喚起するぐらいだ」
「『闇』を見つけ出す? 一般町民にそれができれば、わざわざ我々は出張ったりしないよ」
「確かに実践するにはまだ研究不足。だから闇に扮してまで闇を知る必要があったんだ」
「ふむ……一応きくが、その殊勝な研究者がなぜこのバーにいた?」
「もちろん息抜きもあるが、『闇』の立場になってバーに紛れ込む、という状況も考察できるかと思った」
「ふむ……筋は通っているか……」

 ジェインは目を細め、いま一度ダルクをつま先から目元まで眺め返した。
 その間まで、ダルクの視線はジェインを捉えたままだった。
 少しは慣れてきたが、依然として眩しい光が目に刺さり続けている。

「君の住まいは?」
「出身は西の方にある町。今はこのアウスの家を間借りさせてもらっている」
「家族は?」
「……父は亡くなった。今は実家に母と妹がいる」
「生まれてからずっと家族暮らしだったのか?」
「ああ、それが?」

 ジェインは再び「ふむ」と呟き、しばし考え込む。
 その空気で手ごたえを感じるダルク。どうやら上手く切り抜けられたか……?
 
「いや。遅くまですまなかったね」

 ダルクがほっとしたその瞬間。

「最後にちょっといいかな?」

 突然、半ば乱暴に、ダルクの左手首が引っ張られた。
 ダルクは思わず「いたっ」と漏らしたが、ジェインはお構いなしにつかみあげた手首を眺め回す。
 真剣に注視しているものは――手錠……?
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 21:55:37.30 ID:QPIzoJxRo
うおおおおきたあああ支援
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 23:16:57.04 ID:7SFY8b5IO
展開うまいなー
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/14(水) 01:53:44.90 ID:Zj/JKMoL0
ほう・・・
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/14(水) 16:21:50.76 ID:RyO6gOMIO
ダルクの「イタッ」って反応


ふぅ・・・
693 :1 [sage saga]:2011/09/15(木) 15:21:55.19 ID:yzwl6tpxo
支援・感想頂きありがとうございます!
毎度更新頻度悪くて申し訳ないです

最近、某SSが終わってしまってしょんぼり(作者さんお疲れ様です!)
自分のSSもあれくらい面白くなりたいものです
今からでも台本形式に移行しちゃおうかなぁ。どう思いますかメタイオン様
694 :>>688〜 [sage saga]:2011/09/15(木) 15:22:48.62 ID:yzwl6tpxo

「な、なんだっていうんだ」
 
 ダルクはその手荒さに反発するように、ジェインの手を無理に振りほどいた。
 思いのほか、拘束は簡単に外れる。
 なぜかは全く分からないが、ダルクの手錠をその目で確認したかっただけのようだ。

「……その枷は?」
「かせ? ああ……別に前科の名残って訳じゃない。ただの『闇』の研究資料だ」
「……両手首に、ついているのか?」
「? ああ、まあ」
「いつから付けている」
「つ、つい最近だ。『闇』に扮する研究は、この間始めたばかりだからな」

 妙に手錠にこだわる。
 確かに、実をいえばこの手錠はただのアクセサリーではなく、強固な結界が内臓された闇のアイテムだった。
 しかしジェインの様子は、もはやダルクが『闇』かどうかよりも、手錠の存在そのものを追及している始末だ。
 
 ダルクにはさっぱり訳が分からない。
 特定の手錠をつけた、凶悪な罪人でも探しているのだろうか?
 それともライトロードぐるみ、もしくはジェイン個人で必死に探している手錠がある?

 ジェインはしばし黙り込み、キョロキョロと視線を這わせた。
 と思えば、何かを一人で呟く。
 ダルクには辛うじて、「――違うか」という音だけ耳に拾った。
 挙動不審のジェインは、最後に再びダルクの両目を捉えた。

「……ならばいい。私の勘違いだったようだ」
「?」
「不問だ。行きたまえ、地霊使いのクルダよ。急いでいるのだろう」

 ジェインは急にすべての興味を失ったかのように、その身を翻した。
 マントをはためかせ、始終を面白そうに傍観していた仲間(確か名前はガロス)の隣席へと戻っていく。
 ――ライナの手を引きながら。

「ちょっ、ちょっとジェインさんっ?」
「ライナさん、二度とああいう輩には関わってはいけませんよ」
「どうしてっ?」
「それより一杯いかがでしょう。地上の酒も悪くはありません」

 などという会話が遠ざかっていく。
 ダルクは理想的な形で窮地を脱したというのに、未だにぼうっとその場に立ち尽くしていた。
 釈然としないというか、何かがひどく消化不良というか、頭と胸のもやもやがはっきりしないというか――。
 
「急ぎましょう」

 ローブの引っ張りを感じて、はっと我に帰るダルク。
 アウスの片足はすでに出口の方に向いていた。
 そうだ、また面倒に巻き込まれる前に、急いでこの場を離れなければ。
 
 ダルクは軽く頷くと、最後に店のマスターと、エルフの姉妹に向かって会釈をした。
 皆忙しそうに作業に没頭していたが、エルフの妹さんだけは気づいて、微笑みながら小さく手をあげてくれた。

 だがそのとき、カウンター席にいたライナにまで目が合ってしまった。
 まずい、まだマークされていたのだろうか?
 ダルクは慌てて背を向け、逃げるように店を後にした。

695 :1 [sage saga]:2011/09/15(木) 15:23:55.13 ID:yzwl6tpxo

 ダルクとアウスは酒場から出て階段を上り、通りに出た。
 ダルクはぎょっとする。そこにはもう一人のライトロードがいた。
 
 間違いない、最初に酒場から出た黒髪のライトロードだ。
 彼女はレンガの壁に背もたれて、退屈そうに杖をいじっている。
 こんなところで何をやっているのだろう。
 何にせよ、下の酒場で強硬手段を取らなくてよかった。
 まさか本当に外でライトロードが待ち構えているとは思わなかったから。

「……」
「……」

 彼女は二人の霊使いの姿を一瞥したが、何も言わずに杖いじりを続けた。
 ほっとはするものの、これで注意の的となったかもしれない。

 この酒場は町の入り口付近にあり、町を出るなら右手へ、奥に進むなら左手に向かわなければならない。
 つまりダルクとアウスがそれぞれの住まいに帰るなら、いきなり別れることになる。
 ライトロードの目の前でそうするのは抵抗がある。
 さきほどジェインには「アウスの家を間借りさせてもらっている」とウソをついたばかりだ。

「ついてきて下さい」

 と素早くアウスが囁かなければ、きっとライトロードの眼前で立ち往生していた。
 ダルクはありがたいとばかりに、流れるようにアウスの後を追って左手に進んだ。

 そのとき、黒髪のライトロードから小さな嘆息が聞こえた。
 思わず振り返りかけたが、結局何事もなかった。
 なにか彼女なりに悩みでも抱え込んでいたのだろうか。


 その後ダルクは、ひたすらアウスの背中についていった。
 入り組んだ町並みを右へ左へ折れ曲がり、ざっと十五分は歩き通す。
 ダルクは道のりを必死で覚えようとしたが、一度背後を振り返って無理だと悟った。
 前と後ろで景観が違いすぎる。これは一人では帰れない。
 ダルクとしては、なるべく誰かに道を尋ねまわるのは避けたい立場だった。
 
「ア、アウス――」
「着きました」
「!」

 飛びぬけて大きな建物だった。
 幅はダルクの家を五つ繋げても足りず、高さはバカみたいに分厚い階層が三階分ある。
 全体の印象として派手さはなく、代わりに滲みでるような格調高さが満たされていた。
 街路のものとは違う、高級そうな石貼りが地面に伸びている。
 続いて荘厳な扉と、意匠の凝った飾りつけが来るものを迎える。

「これが図書館……」

 それもただの図書館ではなく、建物それ自体から魔力を感じる。
 決して乱れることのない、山のように堂々とした重厚な魔力――『地』の魔力が息づいている。
 今が夜であるせいか、まるで巨大なモンスターが穏やかな眠りについているかのようだった。

「この町で最大の図書館、通称『魔法図書館』です」

 唖然とするダルクに、アウスは心なしか満足げだった。
 
「こちらです」

 門を通り過ぎる背中を慌てて追うダルク。
 二人はそのまま図書館の外周をぐるりと回り、裏手口の方へと進んだ。

696 :1(To be contenued.) [age saga]:2011/09/15(木) 15:25:07.25 ID:yzwl6tpxo

 裏口の小さなドアから、アウスの杖をカギ代わりとし、魔法図書館の中へと入る。
 中といっても、ダルクが想像していたような広大なアトリウムが広がっているわけではなかった。
 階段と廊下ばかりが目に入る、思ったよりずっと手狭な空間。
 アウスによると、図書館に併設された従業員用の宿舎らしい。

「そ、そんなところに部外者を連れこんで大丈夫なのか?」
「もちろんダメです。もしバレたら減給・停職ぐらいは覚悟しなければなりませんね」
「おい、それは」
「大丈夫です。バレるというのは、おおっぴらにという意味です。 
 ここの人たちはみんな隠れて好き勝手やってますからね。
 一人や二人に見られても寛容的に見逃してくれますよ」

 見た目の厳格さとは裏腹に、中で働く職員たちは割かしアバウトのようだ。
 
「ダルク。ここまで来て、なんですが」

 階段の踊り場で、アウスが言いづらそうに歩幅を緩める。

「あなたにはその、今日は屋根裏部屋で寝てもらうことになります」
「えっ?」
「その。私の部屋まではちょっと……」
「あ、ああっ」

 ダルクは一瞬で理解し、急ぎ言葉をつないだ。

「いや、そこまでしなくてもいい! あのライトロードたちが帰る頃合を見計らって、すぐに出て行く!」
「しかし、もう明け方ですが」
「いいんだ。――アウスの目的は分かっているつもりだからな」
「えっ?」

 ダルクは、なぜアウスが自分にここまで親切にしてくれるのか理由を考えていた。
 そして、そうとしか考えられないことに思い当たっていた。

「悪いが、この杖は宿代としても渡すわけにはいかない。大事なものなんだ。だから」
「違いますっ」

 言葉を遮ったアウスの目は、気のせいか鬼気迫るものがあった。

「私はそんなつもりで貴方を連れてきたのではありません!」
「えっ?」
「あ……い、いえ、失礼しました。誤解を、招きそうな発言でしたね」
「い、いや……」
「どうぞ、こちらです」

 いつの間にか二人は、階段を上りきっていた。
 屋根裏部屋へ続く、斜めに傾いた扉がアウスの杖によって開けられる。
 小さな軋みと共に、細かな木くずがパラパラと落ちてきた。

 中は存外広かった。窓がついており、ベッドもある。
 天井が急な傾斜になっているだけで、あとは普通の部屋のようにみえた。
 いや、むしろ質のいい暗闇がある分、ダルクの好みの部屋だ。
 
「少しここでくつろいでいて下さい。私は一旦部屋に戻ります」

 アウスはそう言い残し、ダルクを置いて階段へと引き返していった。

 出入り口の扉がパタンと閉められると、静寂が訪れた。
 一人残されたダルクは、ためらいがちに奥へ進み――おもむろにベッドに腰かけた。
 姿勢がなじんだところで、大きく息を吐く。


「とりあえず……なんとかなったな……」

697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/09/15(木) 15:56:35.95 ID:ikb7SJvJ0
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/15(木) 16:14:36.26 ID:1RYby2bmo

ここのライトロードは絶対メタイオンとかセフィロンと敵対してそうだな
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/15(木) 19:45:22.40 ID:jilOpoPgo
ダルク可愛いよダルク
アウスも可愛いよアウス
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/15(木) 21:08:25.38 ID:2J0jIsYIO
大量うp
ありです!
そして乙です
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/15(木) 21:52:09.78 ID:ZizyOkpAO
乙です
これで霊使い全員登場しましたね
これからの展開が楽しみです
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/09/15(木) 22:13:11.85 ID:2OkqZL0Ro
アウスたんが可愛すぎて俺の期待がマッハ
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/09/16(金) 09:12:59.48 ID:SwKVZ3xR0
>>1のいってるスレ復活してたよ
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/09/16(金) 13:44:22.69 ID:QCg9j0c50

魔法図書館ってモンスターカードだっけ?
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 13:57:00.56 ID:7iMCMA5IO
クルダに不覚にも吹いてしまった
ダルクにネーミングセンス全くないなw
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/16(金) 15:17:48.75 ID:Y/2e8FSAO
>>705
エクスクルーダー「吹っ飛ばすぞ」
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/09/16(金) 18:57:30.36 ID:K7WTeaRh0
これでダルクと仲良くする女の子を見て焼きもちを焼く娘を見てニヤニヤできるわけですねwwww
708 :名無し [sage]:2011/09/21(水) 03:24:11.42 ID:H0u1k5aDO
王立魔法図書館で1キルされた(´・ω・`)
709 :名無し [sage]:2011/09/21(水) 18:27:29.38 ID:kQa5FYpAO
図書館って光じゃないか?
710 :名無し [sage]:2011/09/21(水) 18:27:56.51 ID:kQa5FYpAO
図書館って光じゃないか?
711 :名無し [sage]:2011/09/21(水) 18:28:22.40 ID:kQa5FYpAO
図書館って光じゃないか?
712 :名無し [sage]:2011/09/21(水) 18:32:07.03 ID:kQa5FYpAO
図書館って光じゃないか?
713 :ヴァニティ [sage]:2011/09/21(水) 19:03:20.73 ID:SV7yN5iU0
>>709-712に対して虚無を呼ぶ呪文発動します、何かありますかパチパチ
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/21(水) 19:07:50.35 ID:gund/gl3o
チェーンエグゾでパチパチ
715 :名無し [sage]:2011/09/21(水) 22:07:53.03 ID:kQa5FYpAO
スマソ
エラーしても
書き込めるなんて
初めて知った
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 00:51:29.17 ID:XLrNlONM0
大事なことなので4回言いました
717 :1 [sage]:2011/09/27(火) 16:03:40.07 ID:StcvTfZco
いつもご支援いただきありがとうございます
最近、人生単位で執筆モチベが上がる機会があったので、これからできるだけ更新頻度上げようと思います

あとこれから投下時、名前の部分に「○/○」という表記でSSが何レスあるか簡単に分かるようにします
今後とも気が向きましたら是非お付き合いを

>>703
復活しましたねぇ毎回見てます
しかし交互にSS見てるとキャライメージの食い違いが不安ではあります(自分が一番混乱しそう)

>>709
この世界では魔法図書館は複数あります
本物の『王立魔法図書館』は魔法都市エンディミオンにあり、それが光属性です
という設定を後付けしようと思います。属性間違えるなどなんたる迂闊。ご指摘ありがとうございました
718 :【1/2】 [sage saga]:2011/09/27(火) 16:05:14.11 ID:StcvTfZco

 アウスは、まだ夜闇のこもる静かな廊下を歩いていた。
 客人を置いた屋根裏部屋から、一度自分の部屋へ戻っていくところだった。

 存外目立つ自らの足音を聞くともなく聞き、ぼんやりと物思いに耽ってゆく。
 思考の基点は、件の少年について。

(闇霊使い……ダルク……)

 アウスは、彼が興味深くてならなかった。
 アウスが今まで目にしてきた『闇』の中で、ダルクは群を抜いて『闇』らしさを感じさせなかった。
 
 この町は異常なまでに『闇』に対する偏見が満ちている。
 住民のほとんどが、過去に『闇』が犯した所業を蒸し返し非難するばかりで、そこで思考停止している。
 『闇』は害悪、危険、排除すべきものと一方的に見解を染めており、ろくに『闇』のことを知ろうともしない。
 
 アウスは疑問を感じずにはいられない。危険であるなら、尚更知るべきではないだろうか。
 引いては固定概念の枠を越えて追究する姿勢こそが、事態を解決する糸口になるのではないだろうか。

 『闇』は全てが悪になのだろうか?
 『闇』から学べることはないのだろうか?
 『闇』と自分たちは、本当に分かり合えないのだろうか?
 
 ダルクとの出会いは、偶然降ってわいたチャンスだった。
 もともと知的好奇心が旺盛だったアウスは、ダルクから――『闇の世界』出身者の口から、真実を聞きたかった。
 
 気を引くために持ちかけたチェスの勝負。
 アンティとして賭けた彼の杖は、本気で欲しかったわけではない。
 「杖の代わりに」という名目であれば、対話の駆け引き上、大幅なアドバンテージを得られると思ったから。
 同じ霊術使いとして、自前の杖がどれだけ大切かなど、言われるまでもなく分かっていた。

 要するにほんの少し脅しをかけるような格好でペースを握り、好きなだけ欲しい情報を引き出すつもりだった。
 あとは遊び半分でチェスに付き合ってやり、大差をつけて勝利すれば計画はカンペキだった。
 
 まさか彼が自分と拮抗するなど思っても見なかった。
 序盤の陣形は見たことがないし、しびれるような奇手を放つタイミングは絶妙だった。
 中断したときの局面は覚えているが、その続きをシミュレートしても勝敗までは読みきれない。
 いつか白黒をつけられる日が来るのだろうか。

(……)

 そういえば彼はライトロードに対して偽名を使うとき、自分と同じ『地霊使い』を名乗っていた。
 その繋がりであれば、今後この町に来た彼と、合理的に付き合うことができるかも――。
 
(ちっ違っ。付き合うというのはそういうことではなくてっ)
 
 ダルクが同じ年頃の異性であることが、急激に意識されていく。
 今までは一研究者として、何の抵抗もなく彼に接してきたが――
 見知らぬ男の子を自分の住まいに誘いこむなど、実はとんでもなく大胆なまねをしたのでは。
 
「……こほん」
 
 咳払いひとつで思考回路をリセットする。
 物事を深く考えすぎる悪癖は自覚しており、また対処法も心得ていた。
 
(私としたことが馬鹿なことを……)
 
 ようやくたどり着いた自分の部屋の扉を空け、中に吸い込まれていくアウス。
 その耳がほんのり赤くなっていたことは、当人には知る由もなかった。
719 :【2/2】 [age saga]:2011/09/27(火) 16:07:08.89 ID:StcvTfZco

「姐(アネ)さんお帰りやす!」

 部屋に戻るなり、茶色のモンスターが調子っぱずれのドラ声でアウスを出迎えた。
 悪魔の角と翼を持つビーバー、『デーモン・ビーバー』。
 アウスが主従契約を交わした、地属性の使い魔である。
 
 そのひょうきんな三白眼を見るなり、アウスはどっと疲れたようにため息を吐いた。

「……アーチフィンド。まだ起きていたのですか」
「姐さん! いい加減おれっちの名前を変える気はないんすか! もう海外版はうんざりだ!」
「また訳の分からないことを」

 このデーモン・ビーバーのことを『アーチフィンド・モルモット・オブ・ニファリアスネス』と呼ぶのはアウスだけだった。
 アウスが自分の使い魔に相応しい名前を考えて名づけたのだが、凝り過ぎて収集がつかなくなった結果である。
 名前にモルモットが入っているのは、「モルモットの方が良かった」という少女趣味の名残り。当人にはいい迷惑である。

「今日のお前の役目は終わりました。とっとと休むがいいでしょう」
「ひどいよ姐さん! おれっちのおかげでライロの奴らが来たのが分かったのに!」
「その働きだけは素直に認めましょう。だから大人しく自分のベッドで寝ていなさい」
「姐さぁん!」
 
 アウスがチェスバーに入るときには、外回りを必ずこの使い魔に見張らせていた。
 ビーバーが監視する位置にあらかじめ設置された地霊術の魔方陣を通し、アウスの杖と通信することが出来る。
 治安維持隊などの接近を確認したら、すぐさま主人に知らせるという簡単な仕組みだが、今回はこのおかげでチェスバーに居た者は全員助かった。

 取り締まりは緩めとはいえ、金銭物品を賭けたアンティ勝負は一応は違法。アウスは常々保険をかけていたのだった。
 ちなみにチェスバーのマスターはこのことを知っており、店を守ってくれる礼として多くの情報をアウスに提供している。

「あれ? 姐さんどこに行くんですかい?」
 
 上着は壁にかけたものの、自分の杖は離さずに机の引き出しを漁るアウス。
 不審を感じたビーバーは、ドタドタと主人の下へ駆け寄った。

「ん? 姐さん、なんだか闇のにおいがしやすぜ……?」
「えっ?」
「んんっ? そればかりか、さっきまで誰か男と一緒にいたような」

 水晶を集めた重い杖。その先端がビーバーの頭に振り落とされた。
 悲鳴を上げてのた打ち回るビーバーに、アウスが微妙に衣服を気にしながら言う。

「婦女のにおいを嗅ぎまわるなど無礼千万野卑野蛮。今度やったら一日食事抜きです」
「そ、そんなぁ押収だぁ! 強制接収だぁ!」
「いいですか。この部屋でじっとしていなさい」

 部屋を出る間際、アウスの眼鏡が鋭い光を放った。
 
「絶対についてこないで。お前の振る舞いを見られるのは主人として最大級の恥です」
「あっ、やっぱり誰かに会いに行くんすね! いったい誰にギャアア!」
「アーチフィンド。分かりましたね?」
「はっはひっ!」

 すごみを利かせて部屋の扉を閉め――小さなため息を吐く。
 すでに長い付き合いなので今更嘆いてもしょうがないが、どうせならもっと慎みのある使い魔がよかった。
 おかげで初対面の相手には毎回、自分のイメージがぶち壊されないよう気を配らなければならない。

(……そういえば、彼はどんな使い魔を?)
 
 ふたたび屋根裏部屋に向かうアウスの足取りは、知らず知らずのうちに軽くなっていた。

720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/27(火) 16:20:06.13 ID:B9gLgZglo
杖が重い→振り回すために胸筋発達→きょぬう
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 17:03:24.45 ID:Cq2Lwb0g0
>>720
胸筋がきょぬーにつながるといつから錯覚していた?
図書館生活でたまった脂肪が全部胸にいったんだろ
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/27(火) 18:41:19.16 ID:16qNGzzZo
限界を越えると一気にテンパるタイプと見た
お前ら偶発的に転んで押し倒し体制になってしまえ
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/09/27(火) 19:48:48.60 ID:jyuwVP6U0
妄想癖だと……!?


ディモールト・ベネ!
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/09/27(火) 20:40:53.74 ID:h/ixLccX0
女性霊使い同士が出会って修羅場みたいな展開をお願いします。
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/09/27(火) 20:46:38.66 ID:q+WeYYQDo
知的スパッツで超好みな俺のアウスたんがメインっぽいだと……

応援してます。これからも更新続けてね!
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 21:49:03.69 ID:wm8dRjRSO
そういえば、光と闇の竜とか混沌球体の扱いはどうなるんだろ…
727 :ナナシ [sage]:2011/09/28(水) 17:42:16.30 ID:gSDa0jWDO
アウス可愛すぎるww
続き楽しみにしてます



アウスが一番巨乳だよなww
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 05:14:46.76 ID:LtD2SXvIO
ダルクや・・・
爆発しようや・・・
729 :1 [sage saga]:2011/10/11(火) 16:19:46.06 ID:Yiee1teyo
更新頻度上げると言った矢先に2週間ぶりの更新になってしまい申し訳ないです
投下します
730 :>>719〜【1/4】 [sage saga]:2011/10/11(火) 16:21:50.57 ID:Yiee1teyo


 ダルクの使い魔の一つ目コウモリは、それは上機嫌にパタパタと飛び回っていた。
 コウモリ――『D・ナポレオン』と呼ばれる闇モンスターのディーは、今日はずっとダルクの窮屈な服の陰に閉じ込められていた。
 それに加え、屋根裏部屋というコウモリ好みの暗所に解放されたおかげで、その喜び様は見ている側まで清々しくなるほどだった。

「屋根裏部屋か」

 ベッドに腰かけたまま、部屋をぐるりと見渡す。
 まだ夜明けの暗がりが空間を支配していたが、ダルクには中の様子が手に取るように分かる。
 思わず埃っぽさを感じさせるような古い木造だが、日頃から使っているのか思いのほか掃除が行き届いている。

 ベッドから少し離れた向こう側の壁に、勉強机のような大きなテーブルと、安定感がありそうなイスが一式。
 脇には、大小さまざまの蔵書が整然と納められている本棚。
 また近辺にあちこち積まれている箱には、杖や武器、その他もろもろの小道具が詰め込まれているようだ。
 書斎付きベッドルームというよりは、隠し部屋の研究室といった印象だ。
 
 こういった部屋をすんなり使用できる権利があるところから、アウスは見た目通りに勉強熱心らしい。
 そういう友人が一人いれば、もしものときは心強いかもしれない。彼女に至ってはチェスも強いし――

(い、いやいや馬鹿な)
 
 この町の忌避の象徴たる『闇』であるダルク。
 アウスに迷惑をかける以外の何者にもなれはしない。
 それにアウスは理知的で、クールさを帯びた美人で……む、胸も大きくて……。
 きっと人気者に違いなかった。ちょっと知り合ったくらいで友人になろうなど、虫が良すぎる気がした。
 
「……」

 ダルクは腰かけた格好から、仰向けにベッドに倒れこんだ。
 天井は、巨大な屋根の一部を裏からみた斜面となっており、壁との境界には板戸の小さな窓があった。
 その窓から見える空は、すでに明色の青。

(……もうこんな時間になっていたのか……)

 厚い雲は見当たらない。じきに日が昇る。
 そうなったらもう、家までの長距離を徒歩で帰るのは無理である。
 下級の闇属性であるダルクは、日照下での長期活動は不可能に近かった。

 ――それに少しまぶたも重くなってきた。
 ここに至るまでに溜まった疲労が、じわじわと全身に染みて広がっていく。
 ふと気を抜けば、ベッドのふわふわに背中から溶け込んでしまいそう――。


 そのとき突然、出入り口の押し戸が開かれた。
 ダルクは慌ててベッドから身を起こし、天井を飛び回っていたディーは一瞬で物陰へと隠れた。

「お待たせしました」
「い、いや。……!」

 自室からこちらへ戻ってきたアウスは上着を脱いでおり、スリムな身体つきが露になっていた。
 すぐ下に着ていたノースリーブのセーターが、今まで曖昧だった彼女の胸部を露骨なまでに浮かばせている。

(お、大)

 アウスは部屋に垂れ下がっていたランプに明かりを点した。幻想的な光が優しく場を照らし出す。
 彼女は「失礼します」とすぐ目の前の木箱に座ると、杖の他に持ち込んできた大きめの布袋をごそごそと漁り始めた。
 
 そこで初めて彼女が、今の今まで丈の短いスパッツを穿いていたことに気付く。
 ミニスカートでもタイトスカートでもない、太もも半ばまで肌にぴっちり張り付いた、漆黒のスパッツ。
 衣服でありながら、艶やかな肉感をむきだしに立体化させ、自然なラインで生足をつなぐ志向の下衣・スパッツ――。
 
(い、意外に大胆な格好するんだな……)

 こんな時間に、まさに一つ屋根の下で男女二人きり。
 スタイル抜群のアウスは、こんなに露出度の高い服装で、ダルクと向かい合って――
 
731 :【2/4】 [sage saga]:2011/10/11(火) 16:23:33.36 ID:Yiee1teyo
「これがこの町の地図です。どうぞ」
 
 何をするかと思えば、数枚の紙をダルクに差し出した。
 ダルクは何となくほっとしつつも、別に沸いた疑問に戸惑う。
 
「……地図? なんでオレに?」
「必要ありませんか? あなたは食糧を求めて、この見知らぬ町にやってきたのでしょう?」
「それはそうだけども、チェスのアンティでは……」
「確かに、私に勝ったらこの町の案内や情報提供、身の保全を約束する、という取り決めでした」
「勝負は中断した。その取り決めは無効なんじゃないのか?」
「そうです。なので、情報交換という形ではどうですか?」
「?」

 アウスは照れるでもなく笑うでもなく、しかしそれらを想起させるような表情をダルクに向けた。

「私は、あなたがいたという闇の世界に興味があります。是非、詳しい話を聞かせてくれませんか?」
「え? この町では『闇』は嫌われているんじゃないのか?」
「ええ、確かに迎合的な偏見、無根拠な嫌悪で満ちています。しかし、個人間で思想は違います。
 ことにこの図書館に親しむ研究者たちは、付和雷同などまずあり得ません。
 何事も追究を経て、疑念を解き明かした上で、個々の自論を得るのです。そして、『闇』の実態は未だ解明されていない」
「そうだ」 

 ダルクの中で、一気にアウスへの好感が高まった瞬間だった。
 ダルクは、『闇』自体は『悪』ではないこと知っていた。
 彼女はそれを理解しようとしている。思わず身を乗り出すダルク。少し驚いて身を引くアウス。

「その通りだ。そういう考え方が自然なはずだ」
「はい。だから正しい情報に乏しい『闇』を知るために、あなたには出身地での話を詳しく聞かせて欲しいのです」
「だがそんなことを研究してお咎めは受けないのか?」
「もちろん原則的に表には出さない研究となりますが、この図書館内では今に始まったテーマでもありません。
 何よりここの研究者の中には、『光』の種族・『闇』の種族ともに混じっていますし」
「そ、そうなのか?」
「ええ。学を得ようとする者に差別はありませんよ」


 ――ちょうどそのとき、外のどこかからニワトリの鳴き声が聞こえた。
 外の世界では朝を告げる目印だったことを思い出すと同時に、ダルクはあくびの沸き立ちを噛み殺した。

「……アウス。すまないが、闇の世界の話は今度でもいいか」
「ええ、別に三日後でも、七日後でも。ここで一泊した後、一度帰っても問題ありません」
「……ありがとう。しかし、やはり初対面でいきなり一泊させてもらうのは……」
「ここには変わり者が多いんです。どうぞ気になさらず」

 アウスは静かに立ち上がると、テーブルの方へ向かった。
 イスに着席後、机上の分厚い本や羽根ペン、インクを手元によせる。
 何やら学の字がつきそうなことでも始めるつもりらしい。

「今日は勤務もないので、万一に備えて私がここで見張っています。安心して眠ってください」
「い、いやそんな、そこまでしなくとも」
「あなたの監視、という意味合いもあります。まあ、あなたは悪事をはたらくようなヒトではない、と見立ててはいますが」
「監視……」

 ここでダルクは、改めてアウスの立場での自分を考えてみる。
 初対面の流れ者。町で煙たがられれている『闇』の出身。――不可抗力だったとはいえ、性的接触の加害者。
 今に至るまで、胸の底にためこんでいた疑問が口をつく。

「アウスは……どうしてそこまでオレを信用できるんだ? 何の根拠があって……」
「それは」

 一拍を置くアウス。
 視線の先は、手元の本へと落としたまま。

「チェスです。あの対局は、私のあなたに対する評価に影響を及ぼしました」
「えっ、チェス?」
「はい。決着は付けられませんでしたが、人となりを知るには途中経過で十分です」
「人となりって、オレも一局打てば盤上の性格診断くらいできるが、ここまでの信用を置けるかどうかは、また別の」
「眠いのではないですか、ダルク。そろそろ明日に備えましょう」
「えっ、明日?」
「はい。明日というより今日ですが、私は本日空いているので……町の案内でも……」
732 :【3/4】 [sage saga]:2011/10/11(火) 16:25:01.87 ID:Yiee1teyo

 その直後だった。

『姐さん、姐さん!』 

 突如として、出入り口の外から何者かの声が響いた。
 同時に、ノックというよりは、何かを引っかくような音がカリカリ鳴り始める。

 ダルクは誰かが来たと知って驚いたが、もっと意表を突かれたのはアウスの動きだった。
 彼女は今まで見たことがないような凄まじいスピードで机から飛び出すと、猛然と出入り口の扉へ飛びついた。

「すみませんが少し待っててくれませんか」
「えっ、あっ、ああ」
『あーねーさーん!』

 アウスは杖を手に取ると、すばやく施錠の結界を解き、出入り口を開けた。
 一瞬でその隙間に身体を潜り込ませると、まるで悪霊死霊の侵入を防ぐような勢いでバタンと扉を閉めた。

「な……何が起きたんだ」

 後に残されたダルクは、あっという間の展開に呆然とするしかなかった。



 扉の外に出たアウスを待ち受けていたのは、言うまでもなくアウスの使い魔だった。
 ずんぐり体型の小さなビーバーに、ユニコーンのような一本角と、悪魔のような一対の翼をつけたモンスター。
 彼は主と対面すると、大いにはしゃいだ。

「姐さん!」
「静かに、アーチフィンド。まだ眠っている者もいるのですよ」
「ごめんなせぇ!」

 ため息をつく余裕はない。
 とにかくアウスは、すぐそこの屋根裏部屋が気が気でならなかった。

「用件を手短に」
「ええっと、さっき上のヒトが部屋に来まして。今日は当番だった婆さんの容態が悪いそうで」
「大婆様が?」
「それで、夕方あたりから代わりに入ってくれないかということで……」

 今日の予定では、夕方あたりに起きたダルクと町めぐりをするはずだった。
 アウスはきっぱりと即答した。

「他のヒトに回してもらいましょう。今日は先約があります」
「で、でもですね。あの担当いわく、この伝言を伝えれば快諾するだろう、って」
「伝言?」
「はい。『応援はするがほどほどに』、と」
「えっ?」

 それを聞いてみるみるうちに顔を赤らめるアウス。
 ばれているのはまだしも、とんだ誤解をしている。
 周囲に広まるのは非常にまずい――想像を絶する脅迫ネタを与えてしまった!

「……分かりました。指示通りにしましょう」
「何があったんですかい? 応援するって何を?」
「アーチフィンド」
「はい?」
「断食三日間と幽閉七日間、選ばせてあげましょう」
「なんで!? 勘弁してくだせえっ!!」
733 :【4/4】 [sage saga]:2011/10/11(火) 16:27:13.82 ID:Yiee1teyo

 使い魔を自室に追いやったアウスは、少しばかり肩を落として屋根裏部屋に戻った。
 途方に暮れていたダルクに、今しがたの事情をかいつまんで話す。

「――というわけで、私は夕方付き合うことはできません」
「あ、ああ、大丈夫だ。そこまで面倒みてもらうのは申し訳ないくらいだったし」
「いえ私はそんなことは」
「地図さえもらえば十分。ここまで付き合ってくれてありがとうな」

 アウスとしては、本当はもう一度チェスバーに行きたかった。
 昨日の勝負を仕切りなおして再戦し、ダルクとの決着に白黒つけたかった。
 町を案内するというのは、どちらかというと建前で……いや、でもないかもしれなくて……。

「アウス?」

 アウスは「こほん」と咳払いし、床に転がっていた布袋を手に取った。
 中から何かを探り当てると、それをダルクに手渡す。

「どうぞ。あなたにはきっと必要なものだと思います」
「これは?」

 ペンダントだった。
 珠をつなげたヒモの先に細いフレームがついており、美しい漆黒の宝石がはめられている。
 その妖しい輝きを見て、ダルクは瞬時に悟った。

「これは闇のアイテムじゃないか」
「『黒いペンダント』です。あなたに差し上げます」
「い、いや、これ、ここでは貴重なんじゃないか? さすがに貰うのは――」
「いいんです。もうそのアイテムの研究は済みましたから。ちょっと付けてみてください」

 ダルクは少々ためらいながらも、ヒモの両端のフックを首の後ろで繋いだ。
 途端、今はすでに朝なのにも関わらず、身体が闇の中におかれたときの感触を覚えた。
 しかしながら、その闇エネルギーが体外に漏れている感じはしない。
 
「これは……」
「効果があるようですね。ならば頭からフードでも被れば、炎天下でもいくらか活動可能でしょう」
「こ、こんなすごいアイテムを貰うわけには!」
「どうせ闇属性のモンスターにしか効果はないんです。
 それにそのアイテムだって、まともな使い方をされた方が作り手も喜ぶというものでしょう」
「本当にもらっていいのか? ありがとう、助かる!」
「……その代わり……」
「?」

 アウスはゆっくり背を向け、部屋の明かりを消した。
 そのまま出入り口の方へ向かう。
 これから自室で寝て、夕方以降の司書の仕事に備えなければならない。
 
「また――」
「……? あ、ああ、また会おう!」
「……はいっ」

 扉を閉める間際、アウスの眼鏡がベッドの上の少年をとらえた。
 予想以上にピンポイントで視線が交わり、アウスは慌ててふいと目を逸らした。

「ではおやすみなさい、ダルク」
「ああ、おやすみ」

 後味よく扉が閉められる。
 小さな足音が遠ざかるのを聞き、ダルクは猛烈に睡魔に襲われた。
 『黒いペンダント』は体内の光耐性を増幅させるも、疲労そのものに影響は与えないらしい。

 ダルクはブーツを脱ぐと、本格的にベッドに横になった。
 途端に身体が脱力していく。思ったより限界がきていたようだ。

「ディー……おやすみ……」

 視界を占める屋根裏の形もろくに目に残らず、ダルクの意識は深い眠りに沈みこんでいった――。



734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/11(火) 18:34:01.79 ID:plRXqZ1Yo
アウス超かわいいよアウス
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/11(火) 21:52:49.60 ID:bfjlC/v6o
乙。なんだか部屋の家具とかの描写が分かりやすくていいな。
しかし図書館ってことはライブラリアンとかいたりするのだろうか
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/11(火) 22:47:06.80 ID:7rA+5ZeIO
>>735
コザッキーが住み込みで研究を
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 00:01:29.77 ID:cD7iS+MIO
図書館と聞くと、
魔法使いしかいないイメージがするw
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/10/12(水) 00:43:04.34 ID:laWi2l2J0
>>737
よう、俺
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/12(水) 07:33:02.84 ID:Km4C6RzAO
ブークーとか屋根裏のもののけとかが生息しているかもしれんな
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 10:08:41.58 ID:Sflme7sPo
ホークビショップを思い出した
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/15(土) 11:36:16.60 ID:RzqRUEK70
やっぱ本棚がガキョガキョ動いてるのかな?
 …イメージ湧かん
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 15:56:58.22 ID:5yvZoV1Jo
ホークビショップがゴットバードアタックを唱えて屋根を突き破ってどこかへ飛び去る図
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage saga]:2011/10/17(月) 05:00:05.48 ID:ny/xNzGF0
今更だがアウスの使い魔の呼び方がハマりすぎてて吹く
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/20(木) 19:04:49.91 ID:63fc3l9SO
霊使いってどの子も頭を撫でたくなるから、凄い困る。
なんていうのかな、庇護欲を刺激されるんだよね
745 :名無し [sage]:2011/10/20(木) 19:14:50.65 ID:URpes08AO
》744
同意
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/20(木) 20:24:33.58 ID:qbVKXsO/o
ほうほう、ヒータが顔を真っ赤にして「な、なにすんだよ・・・なにすんだよ・・・(涙目)」とか
ウィンが「○○の手、あったかいね・・・」ってやつか。悪くないね
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 04:04:55.01 ID:NjoYvtNSO
ブレザー服着た霊使いが通う学校
箒持った巫女さん衣装の霊使いが働く神社
霊使いが働くメイド喫茶(ダルクは執事)
ミニスカナースの霊使いのいる病院(ダルクは医者)

何処に行きたい?
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 04:53:36.84 ID:xlQaJ8JIO
>>747
学校だろjk
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/10/22(土) 14:32:44.06 ID:zGvwXnGwo
その選択肢なら学校か神社だな
ただ学校のほうが見たい
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 19:32:48.26 ID:CZ3auFedo
セーラー服なら、学校が見たかった
という訳で神社で
751 :名無し :2011/10/23(日) 09:18:49.14 ID:8o3SQ8MAO
ブレザーとメイド
ヒータとアウスはスパッツ履いてるイメージ
だがウィンが一番
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/10/23(日) 13:09:29.32 ID:H3z2jlCH0
巫女さん繋がりでウィンが見たいな
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 17:27:35.31 ID:HF6CXjyQ0
>>1の中ではプロットや結末がある程度できてるんだろうか
754 :1 [sage saga]:2011/10/26(水) 08:55:06.11 ID:78XNZCf/o
半月経ってしまったので生存報告しておきます
相変わらずペースが全然上がらなくて申し訳ありません
11月に入るまでには必ず一回更新しますので、今しばらくお待ちください

>>747
学校です。ハリー・ポッター的な魔法学校を舞台に誰かごにょごにょ

>>753
少なくともこの後の展開と、各キャラの設定とストーリーの結末は想定済みです
しかしながらそこに至るまでの致命的な遅筆っぷりが(もといSS執筆の優先順位が)……申し訳ないです
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage saga]:2011/10/26(水) 19:56:40.83 ID:6HQ8l98T0
もうこのペースに慣れちゃった

おかげで他のスレの更新速度が凄く速く感じるから助かってる
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 20:39:23.79 ID:lfICzl8lo
定期的に生存報告してくれるだけありがたいしね
数年来放置のスレとか余裕であるし
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/26(水) 21:11:58.42 ID:K+qvKao+0
取りあえず更新乙
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 23:17:46.11 ID:V5RSFC2IO
更新が遅くてもちゃんと結末出来てるなら余裕で安心して待てる
なんか偉そうでスマソ
759 :名無し :2011/10/31(月) 23:30:33.75 ID:lChvmeWAO
後30分で11月
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 23:57:57.37 ID:7DBlWfZw0
時の魔術師の効果──
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 10:56:37.25 ID:/W2aVeASO
作者が約束通り更新しなかったので、執念深き老魔術師は俺の嫁な

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
762 :1 [sage saga]:2011/11/01(火) 14:36:15.34 ID:1C4L026jo
すみませんしかいえなくてすみません
もう少し待ってください こんなはずでは

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763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 18:10:00.24 ID:qtPhAMGq0
まだ主要キャラ全員分の紹介パートすら終わってないわけだが果たして10年以内に完結できるのか

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764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/01(火) 18:28:55.84 ID:/GrnIkrKo
ヒストリエより先に終わるだろうから大丈夫

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765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 22:45:42.72 ID:/W2aVeASO
後一週間以内に作者が更新できなかったら、罰として【青眼の究極竜】と【マンモスの墓場】を融合する。
一週間以内に更新したら褒美として【ホーリーエルフ】の隠された効果で【青眼の白竜】の攻撃翌力を800ポイントアップする

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766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/02(水) 04:50:12.26 ID:F4PMW5F60
変なプレッシャー与えるなよ、お前ら…。

焦らずに自分のペースで書いてくれれば良いですよ。
変に焦って書いちゃうと、出来もイマイチになってしまいますし。
楽しみに待ってます。

とりあえず、作者さんが書けるまで、みんなでこのスレを保守しましょうよ。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/02(水) 10:00:26.57 ID:TBE6cawOo
>>754で必ず11月入るまでにって言っちゃってるからね
できなくなるおそれがあるんだったら、元からそんな予定示さなきゃいいのさ

あとSS速報は保守必要ないと何度言わせる気だ
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 10:17:19.61 ID:H9A18N00o
まあ1のペースでやってくれればいいとは思うけど、1が自らした約束を破るのは期待してただけあって少しがっかりしたな。
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/02(水) 12:37:05.89 ID:MuOi5To5o
そんな事より誰か学園ラブコメディー霊使いはやく
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/02(水) 12:37:07.10 ID:Gru6VFx5o
そんな事より誰か学園ラブコメディー霊使いはやく
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/02(水) 12:40:57.65 ID:Gru6VFx5o
そんな事より誰か学園ラブコメディー霊使いはやく
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/02(水) 12:41:53.18 ID:Gru6VFx5o
死にたい
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 20:24:15.19 ID:WtC0QHqSO
>>772
わ………ワンターンスリーキゥ!

魔法少女的な活躍するエロ有りな霊使い物なら考えたことある(爆)
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 20:29:10.14 ID:KGf2CBbF0
どういう構想なのか分からないけどどうせ完結は無理だからもう強引に夢落ちとかで終わらせて楽になれば?
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/02(水) 21:22:38.13 ID:TBE6cawOo
なんかいろいろ言われてるが気にするなよ?
>>1はこの程度でへこたれる豆腐メンタルじゃないと信じてる
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/02(水) 21:24:37.77 ID:Vu+gLXoV0
俺は逆だな。
遅くなってもいいから、>>1の書きたいように書いてほしい。

まあ、判断するのは>>1だしな。
無理やり終わらせて楽になるか、完結させて満足を得るか・・・>>1のスレなんだから>>1が納得のいくように決めればいい
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 23:36:03.95 ID:1yGELx140
これよりも優先順位の高い作品があるようだし、そっちに集中するためにも無理矢理完結させた方がいい(放置で未完だけは勘弁)
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 23:57:51.03 ID:LUjFxgU9o
お前ら作者が何も言ってないのに勝手に話を進めるなよ 
無言の圧力になるぞ
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 01:08:30.91 ID:0j9xC4ab0
というかなんで急に変な事いう人がいっぱい
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 07:52:15.41 ID:Yzoj7ioSO
なんか、この時期は臭い人がよく現れる時期らしいよ。
後、俺みたいに他の場所で紹介されたりして来た新参もいるんじゃない?

まあ、「読者の我が儘なんて聞いてたら作品の質は逆に悪くなる」って某ジャンプ漫画でも言ってたし、特に気にすることはないよ。
781 :1 [sage saga]:2011/11/03(木) 15:51:48.28 ID:RNsB/8vFo
今回は「11月までに必ず更新する」という公言を守れなかった自分の落ち度です
これからは安易な日時指定は控えることとします。申し訳ありませんでした

そしてこれだけの書き込み、ありがとうございました
SSの方ですが、やはり書くことが好きなので、今しばらく続けさせていただきます
気が向く限りは、どうぞお付き合いお願いします
782 :【1/4】 [sage saga]:2011/11/03(木) 15:53:44.92 ID:RNsB/8vFo
 空は快晴。時刻は夕方。
 斜陽が町並みを照らし出し、一様に長い影を引き伸ばす。
 
 町のにぎわいは、夜中とはケタ違いだった。
 中でも、露店が道の両脇を敷き詰めている大通り――市場(バザー)の盛況ぶりは凄まじかった。
 買出しの主婦や勤めを終えた人々、あるいは異郷の人種などが大勢入り乱れ、巨大な雑踏を形成していた。
 
 カゴに盛られた色とりどりの野菜・フルーツ・香辛料。
 多分にガラクタも混じった金具の日用品の山。
 そこはかとなく戦いの臭いが漂う、武具や魔道書の専門店。
 
 至るところで華やかな呼び込みが響き渡り、時には陽気な奏楽も流れてくる。
 余った在庫を叩き売るらしい叫び声、子供がはしゃぐ声、動物の鳴き声。
 目を瞑っていてもまるで飽きを感じさせない。

 訪れる者によっては、まるでこの世のものとは思えない別世界だった。
 訪れる者――例えば、いままで闇の世界で育ってきた、表世界にデビューしたばかりの少年。



「おっと気をつけな」
 
 フードを頭から被ったその少年は、不意の衝突によろめいた。
 しかし「す、すまない」と詫びを返した時には、すでに粗暴な男は人ごみに紛れてしまっていた。
 
(な、なるほど。下手にじっとするよりかは、適度に歩いたほうが安全かもしれないな)
 
 フードの中の黒目がきょろきょろ動き、目元のとなりを汗が流れていった。



 闇霊使いの少年・ダルクは、図書館宿舎の屋根裏部屋で目覚めたあと、まっすぐ市場に向かった。
 買い出しという、この町に来た本来の目的をまっとうするために。
 アウスにもらった『黒いペンダント』を胸元にさげ、地図を片手に持ち、杖と使い魔を懐に隠した上で――
 普段の町でもっとも賑わう場所へ、もっともにぎわう時間帯に訪れたのだった。
 
 ダルクは唖然とするしかなかった。
 右を見ても左を見ても、指で数え切れないほどの人々。
 バーニング・ブラッドの時とは比較にならない人の多さ、姿かたちの多様さ。
 
 景観も良い。
 通りのあちこちに、邪魔にならないように花壇や街路樹が植えこまれており、喧騒の中に潤いを与えてくれる。
 わずかな隙間さえ惜しむかのように立ち並んでいる家々は、一軒も不恰好なものがなく、各々の建築美を全面に主張している。
 さらに今は日影が広がる夕刻なので、影に埋もれた場所とそうでない場所がくっきり見栄えよく分かたれている。
 ダルクは生まれて一度もこんな光景を目にした覚えがなかった。

「すごいな……」
 
 懐にもぐりこませている、使い魔のコウモリにも見せてやりたいぐらいだった。
 もちろん光に弱いモンスターを日中に解き放つわけにはいかない。
 ダルク自身も、アウスにもらった闇のアイテムがなければ、こうして昼の買い物に出かけることは叶わなかった。
 彼女には並ならぬ感謝をしなければならない。
 
「……!」
 
 その時、ダルクからあまり離れていない位置で、白銀の衣装を身にまとった男女が通り過ぎていった。
 ライトロードだ!
 昨晩の記憶に新しい、目に突き刺さるような光を撒き散らしていたため、瞬時に確信する。
 
 ジェインは自分達の立場を『治安維持隊』と称していたので、おそらく巡回しに来ているのだ。
 酒場で見た面々とは違うが、当然彼らも『闇』を取り締まる権限と能力があるだろう。
 
 ダルクは片手でフードを深く被りなおした。
 この町では『闇』属性のモンスターは排他的な傾向にある。バレたらたちどころにお縄だ。
 アウスの厚意を無駄にしないためにも、昨日の今日で捕まるわけにはいかない。
 
 ダルクは身を縮めるようにして、ライトロードとは反対方向へ足を進めた。
 
783 :【2/4】 [sage saga]:2011/11/03(木) 15:55:11.10 ID:RNsB/8vFo
(さて……とりあえず何から買おうかな)
 
 気を取り直し、ずらりと並ぶ店頭の方へ目を向ける。
 なにせ一人暮らしを始めたばかりだ。
 食料の他にも、後からいろんな生活用品が必要になってくるだろう。
 バーニング・ブラッドの時とは違い、この町へは自分の全財産を持ち込んでいる。
 距離の都合上、町までは頻繁に来れそうにないので、できれば今回で必要なものは一通り揃えておきたい。
 
(ふーん……それにしても色んなものが売ってあるんだな……)
 
 今歩いている通りは、どちらかといえば青果や小料理を取り扱っているところが多い。
 香ばしい匂いを漂わせるパンや、見たことのないお菓子、小物のお土産なんかもよく目につく。
 あまりに物珍しくて、見ているだけで心が浮き上がってくる。はるばるここまで足を運んだ目的を忘れてしまいそうだ。

 そうしていい匂いに唾を飲み込み、呼び込みに苦笑しつつ首を振り、群集に流されながら露店を物色していくうちに――
 急に店が途切れてしまった。一角の端まで来てしまったのだ。
 あとは建物と建物の間に、路地裏へと続くせまい小道が伸びているだけ。
 
(ここには何もないのか?)
 
 ダルクは何気なく、ひょこっと顔を出して中を覗いてみた。
 特に店らしいものはなかった。
 ただ、木箱の上に、恍惚の顔でまたたびキャットがおやすみ中であった。
 
 
 その直後だった。
 
 ダルクは突然、背後から何かに押し出された。
 
「うわっ!」
「わっわっ!」
 
 その何かはダルクと共ににぎやかな声を上げ、ダルクもろとも路地裏の壁へと倒れこんだ。
 ダルクは間一髪で体勢を整え、身体を反転させて背中から壁へぶつかった。
 時間差で、その何者かはダルクの胸元へ派手に飛びこんだ。
 避けるヒマもなく、ダルクは勢いそのままにクッションとなる。
 
「うぶっ!」
「いたっ!」

 唇に何かがぶつかり、軽く口付けてしまったような感触。
 何がぶつかったか? それは銀髪にうもれた白い肌……おでこ。
 
「ご、ごめんなさいっ!」
 
 その明るいソプラノと、予想外に華奢な体躯を確認し、ダルクは面食らった。
 まただ。また、女の子。
 慌てて突き放すように距離を取るダルク。
 
 その拍子に、彼女がダルクと同じ様に被っていたフードが、はらりと外れた。
 おかっぱの銀髪からピョコンとクセッ毛が飛び出る。最近見たような既視感。
 そうして露になった顔を同時に見合わせ、互いに「あ」と呟く。
 
「キミ、もしかして昨日のっ!」
「ま、まさか……」
 
 ダルクはその顔に覚えがあった。
 いや、正確には印象付けられていたといった方が正しいかもしれない。
 何せ昨晩はこの女の子に、ずっと謎めいたマークをされていたのだから。
 
「クルダ! 地霊使いのクルダでしょっ?」
 
 その少女は、幼い子供のように屈託のない笑顔を向けた。
 間違いなかった。
 彼女は昨日、ライトロードたちと一緒に行動していた銀髪の女の子――ライナだった。
 
784 :【3/4】 [sage saga]:2011/11/03(木) 16:05:38.35 ID:RNsB/8vFo
 さっきまでそこにいたまたたびキャットは、すでに消え失せていた。
 
 ダルクは急転直下で窮地に陥った気分だった。
 昨晩チェス・バーで執拗に視線が向けられていたのは、気のせいではなかった。
 やはり自分が闇に生きる者であることを、このライナだけはしっかり見抜いていたのだ。
 今にして思えば、最初に手首をつかんで引き止め、ピンチを呼び込んだのも彼女だった。
 
 逃げ出すか。戦うか。
 このままおめおめとライトロードに突き出される訳にはいかない。
 ダルクはすばやく懐の杖へと手を伸ばした。

 ほぼ同時に、ライナも手を伸ばした。
 ただし懐ではなく、ダルクの目の前に。
 
「ボクはライナ! 光霊使いのライナだよっ!」

 ダルクは呆気に取られ、握手を求めるその手を見つめた。
 一か八かの場面でいきなり自己紹介されては、まったく流れがつかめない。
 
(……オレを捕まえに来たんじゃないのか?)
 
 ダルクは警戒しつつも、何となく流れで握手に応じる。
 ライナは、黒い手袋の方の手……手錠をつけていない右手を差し出していた。
 握ると、ダルクよりも少し小さい手で、手袋を通してほんのり温もりが伝わった。
 
「オレは地霊使いの……」
「知ってるよっ。よろしくっ、クルダ!」
「あ、ああ。よろしく……」
 
 ダルクとしては、ライトロード――治安維持側に属するライナとは関わりたくなかった。
 ただでさえ身を忍んでの買い物なのに、どう転んでもこれ以上のリスクを負う意味はない。
 
「じゃ、じゃあ今買い物に来ていて忙しいから、また後で」
「ちょっと待ってっ」
「うわっ」
 
 ダルクの腕を取ったライナは、思わぬことを小声でささやいた。
 
「ね、ボクも一緒に行かせて。いま、追われてるんだ」
「えっ? 誰に?」
「ライトロードの人たちに」
「ど、どういうことだ? ライナはライトロードじゃないのか?」
「ボクは違うよ。今回の治安維持派遣で、無理を言って一緒に降りてきたんだよ」
「降りてきた?」
「うん。ボクたちが住んでいるところは、雲の上にあるのっ」
「雲の上!?」

 ライナは橙に染まりつつある大空を指差し、「天空の聖域っていうんだよっ」と付け加えた。
 ダルクは師からそういう場所があることは聞いていたが、にわかには信じられなかった。
 しかし「天の使い」と書いて天使と呼ばれる種族がいる以上、あるいは実在するのだろうか。
 
「……それで、ライナはなんで追われてるんだ?」

 何もない夕空を見上げても仕方ないので、ダルクは状況の進展を急ぐ。
 するとライナは、悪戯っぽくもじもじしながら笑った。
 なんとなくダルクは、どんな笑顔も似合う女の子だなと思った。

「いやぁ、それはその。ちょっとね」
「?」
「オシノビなんだ」
「おしのび?」
「うん。地上の世界がどんなのか、一人で見てみたくって」
「勝手に抜け出してきたってことか?」
「まぁ、そんなトコロ」
 
 ダルクの勘では真実だと告げている。
 そもそもこの子は、人を騙すことに長けたタイプにはみえない。

(お忍び、か)

 ダルクは、まるで宮殿を飛び出したおてんばなお姫様のようなイメージを浮かべた。
 いや、あのライトロードに無理を通せるあたり、ひょっとすると本当に相応の身分なのかもしれない。
 
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/03(木) 16:06:49.31 ID:wqdOkjkgo
ミラお姉さんはいつ出てくるんだろうか
786 :【4/4】 [sage saga]:2011/11/03(木) 16:07:52.93 ID:RNsB/8vFo
 ライナがこの路地裏で偶然ダルクと衝突したのも、まったくの偶然。
 自身を探しにきたライトロードを撒くために、慌てて隠れようとしたためだったらしい。
 
「……事情は分かった。二人でいた方が、追っ手の目をくらませやすいってことか」
「そうそうっ。ね、おねがいっ」
「でも……悪いがオレはまだここの買い物に慣れていないし、自分のことだけで手一杯なんだ」
「あれっ、クルダってここに来たばかりなの?」
「ああ。まぁ、というわけでエスコート役なら他を当たってくれ」
 
 やはりダルクは気乗りしなかった。
 何かの弾みで闇属性であることがバレてしまったら、当然ただでは済まないだろう。
 余計なリスクに気を取られているうちに、日が暮れて店が閉まってしまうかもしれない……。

 ところが、「じゃあな」と立ち去ろうとした刹那、またしてもしつこく腕をつかまれてしまった。
 
「ボク、一緒についてくだけだよっ。邪魔はしないからっ!」
「な、なんでオレなんだ?」
「信用できるからっ」
 
 ライナは今までと変わらない、あどけない笑顔で言った。
 
「だって、闇に対抗する研究をしてるんでしょっ? 悪い人のはずがないよっ!」
 
 ダルクはじくりと胸の奥が痛んだ。
 やはりこの女の子も、光属性である以上は自分と敵対する立場にある。
 この出会いはまやかし。例えどれだけ親しくなろうとも、いつかは――。
 
「ねっ、ほらいこっ」

 そんな想いは露知らず、ライナは楽しそうにいきなりダルクの背中を押した。
 すっかり油断していたダルクは、あっという間にぐいぐい表通りまで押し出されてしまう。
 
「うわっ、と、ちょっと、おい待てっ」

 二人して突然通りに出たものだから、案の定通行人にぶつかりそうになる。
 しかも運悪く、その相手は体格のいい虎面の獣戦士だった。
 
「あっくそ、殺されたいがー!?」
「わっ、ご、ごめんなさい!」
 
 ライナは慌ててダルクの片腕に寄り添った。
 獣戦士は肩をいからせて凄むと、得物を担ぎなおして去っていった。

 ぴったり密着したままの二人。
 ダルクは、少年のような口調のせいでいままで少し錯覚していたが――
 腕に押し付けられたその感触のお陰で、改めてライナが女の子であることを思い知らされた。
 
「お、おい……」
「えへへ」
 
 ライナは片手で頭にフードを被せながら、照れくさそうにダルクに笑いかけた。
 笑顔。
 無邪気な。天真爛漫の。どこか子供っぽい。こちらも釣られて笑いたくなるような。
 
「いこっ」
 
 ダルクは一瞬、胸が締めつけられたような気がした。
 それが彼女の笑顔に魅了されたせいか、後ろめたい罪悪感のせいなのかは分からなかった。
 
「……し、仕方ないな」
 
 何にせよ、もうこうなってはライナを無下に振りほどくわけにもいかなかった。
 こうして、フードで顔を隠した奇妙な男女の買い物は始まった。
 
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 17:19:36.01 ID:Zf37lXq+o
アウスかわいそす
デーt…お買い物イベント取られちゃった
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/03(木) 17:24:18.08 ID:IeiafxYso

できれば>>1の書いてる他のSSも教えてくれると嬉しい
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(中部地方) [sage saga]:2011/11/03(木) 23:06:52.45 ID:Iawnz9240
タイガーアックス苦しすぎワロタ
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/03(木) 23:37:00.26 ID:I28X5NJso
おぉ、ライナイベントきた、ついにダル君のフラグ立った!!
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 02:06:36.11 ID:YOiCbbASO
ライナかわええな、畜生
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/06(日) 18:04:40.27 ID:m8sfsZ6r0
エリア再来マダー?
とりあえずライナ成分で癒しておこう
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(中国地方) [sage]:2011/11/07(月) 21:08:22.78 ID:p9rKxv5T0
乙!
これで5霊使いの導入イベントはコンプか
794 :1 [sage saga]:2011/11/08(火) 16:01:08.72 ID:NCCnMA9Zo
>>788
今は他に連載しているSSはありません
基本的に単に遅筆なだけです。すみません
795 :【1/3】 [sage saga]:2011/11/08(火) 16:04:28.39 ID:NCCnMA9Zo
 まだつま先もつけていない夕陽が、活況を呈しているバザーを橙色に滲ませる。
 その最中、灰系の地味なコートを大きく身にまとった二人組がいた。
 顔はともに深いフードに隠されており、いかにも物々しげな得体の知れない魔導師を思わせる。
 
 だがその身なりに相応しくなく、一方が他方の片腕にしがみついているという、違和感にまみれた構図。
 さらに二人の会話が聞こえる距離まで近づくと、見かけとはまるでかけ離れた心証が与えられた。
 
「見てクルダっ! あれ面白いねっ!」
「ああ」
「あっ、いい匂いっ! なんだろっ? お菓子かなっ?」
「さあ」
「いたっ。あっ、ごめんなさいっ! ……へへ、またぶつかっちゃった」
「なあ」
 
 ダルクは声をひそめ、ほとほと観念したようにライナに言った。
 
「頼むからもう少し落ち着いてくれ」
「だってボク、地上に降りてきたの初めてなんだもんっ!」
「気持ちは分かるけど、仮にも追われてる身なんだろ? はしゃぐのはマズイだろう」
「大丈夫大丈夫、見つかったら謝ればいいしっ!」

 しかしダルクの方はそういう訳にはいかない。
 ライトロードに捕まって正体がバレでもしたら、全ては水泡に帰すどころか、身の危険まで関わる。
 今の二人は同じ相手を避けているとはいえ、そのリスクに雲泥の差があるのだ。
 
「とにかく、面倒はごめんだから大人しくしててくれ」
「は〜いっ」
「大体その、くっつく必要もないだろう。放してくれ」
「あっ、もしかして嫌だった?」
「い、いや、そうじゃなくて、周りに誤解されてしまうだろう」
 
 ダルクのもう一つの懸念は、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないことだった。
 立て続けに女の子と知り合ってきたお陰で、確かに最初の頃よりかは異性への耐性はついていた。
 が、同じ年頃の女の子に、ここまで積極的にスキンシップを押し付けられたのは記憶になかった。

 ダルクの片腕に、コート越しにも関わらず、ライナの柔肌の弾力が微かに伝わってくる。
 加えて香水のいい匂いが鼻腔を刺激し続ければ、とても意識せずにはいられない。
 というのに、ライナは――
 
「ボクは別にされてもいいよ? 誤解」
 
 ますますダルクの片腕にぴったりと寄り添った。
 困惑一面にあわて果てるダルク。
 
「お、おいっこらっ」
「だってクルダと一緒ならさっ」

 ライナは、心から頼りにしている風に笑いかけた。

「いつ『闇』に襲われても大丈夫でしょっ?」
 
 それを耳にして、ダルクは足を止めた。
 幸い人通りの混まない広場付近だったので、誰にも迷惑はかけなかった。

 かけているとしたら、ダルクがライナに対してだった。
 正しくは、迷惑をかける事態を先送りしているといったところだ。
 その結末が『闇』属性の露見にしろ、正体を隠し通すための絶縁にしろ……。
 
「? どうしたのっ? ねぇクルダってばっ」
796 :【2/3】 [sage saga]:2011/11/08(火) 16:07:03.24 ID:NCCnMA9Zo

「ライナ」
 
 ダルクは、ライナへの罪悪感を少しだけ和らげるために言った。
 
「その、『クルダ』と呼ぶのはやめてくれないか」
「えっ? どうしてっ?」
「その名前で呼ばれるのは、あまり好きじゃないんだ」
「そうなのっ?」
「ああ」
 
 もっともネーミングセンスのなさという意味でも本当に好きではなかった。
 何せ自分の名前を逆さにしただけだ。我ながらもうちょっとマシな名前は思いつけなかったのか。
 ダルクは取り繕うように、理由を付け足した。
 
「それに二人しかいないし、『ねえ』とか『ちょっと』でも間に合うだろ」
「……えっ?」

 そのときダルクは、小さな金属音を聞いた。手錠の鎖がこすれる音。
 ほぼ同時に、しがみつくライナの腕が片方離れるのを感じる。
 目を向けると、ライナはその手で自分の頭を抱えていた。

「ど、どうしたんだ?」
「……」
「頭痛か? 気分が悪いのか?」

 ダルクはたちまち焦り始めた。
 まさか自分の中の『闇』エネルギーが、無意識のうちにライナに悪影響を与えていたのでは。
 だとすれば、どう対処すればいいのか。
 人を呼ぶべきか? リスクを飲み込んでライトロードに引き渡したほうがいいのか?
 とにかく一刻も早くライナから離れるべきなのだろうが、女の子一人ここに放っておくわけにも……。
 
「……何でもない」
 
 しかしライナは、思いのほかすぐに顔を上げた。
 
「平気っ。大丈夫だよっ」
「本当か?」
「うんっ、ちょっとめまいがしただけっ」
 
 ライナは再び、ダルクの片腕へ勢いよく飛びついた。
 不意打ちをくらったダルクは体勢を崩し、危うくスッ転びそうになる。
 
「ほらっ、はやく買いもの買いものっ」
「ま、待て、分かった、分かったから引っ張るな!」
 
 声を立てるものの、ダルクは内心ホッとしていた。
 危惧していた展開にならずに済み、何よりだった。
 それにしても急に眩暈を起こすなど、やはり本当に地上育ちではない節もあるのだろうか?
 
 
 
「それで、何を買いに来たのっ?」
「ええっと……食べ物は最後に買った方が良さそうだし、まずは生活用品かな」
「生活用品って?」
「ぱっと思いつくのは、炊事で使うもの。食器、手ぬぐい、調理器具……」
「あっ、それならボク、あっちで見かけたかもっ!」
 
 ダルクが念のため地図で確認すると、日用雑貨を扱った通りはライナの示した方向とは真逆だった。
 またライナは、道すがら巡回しているライトロードに気づいてないことも多かった。
 極めつけに、片時もダルクから離れようとしない。
 動きづらい以前に、相変わらず密着部分が気が気でならなかった。

(とんでもない同伴者を連れてしまったな……)
 
 とはいえダルクは、無邪気にはしゃぐライナの顔を覗き見するたび、満更でもない気分を味わっていた。
 
797 :【3/3】 [sage saga]:2011/11/08(火) 16:16:18.18 ID:NCCnMA9Zo
 ダルク達は雑貨の通りをぐるりと見回り、まずは手頃な陶器屋を選んだ。
 ここで食器や容器になりそうなものを見繕う。
 
「いらっしゃい、ウチの商品はどれも上等だよ!」
 
 幸い店主は壺の中に入っておらず、悪趣味なジョークも飛ばしそうになかった。
 
「どれがいいかな……」
「あっ見てっ、この壺きれいっ」
「おっ、お嬢ちゃん目が利くねぇ! そいつぁ値打ちもんだよ!」
「100万DP!? た、高いな……」
「そいつぁ東洋の名工・虎鉄の友人のいとこの義兄弟の知り合いが作った極上の逸品だからな!」
「すごぉいっ!」
「名工から遠すぎるだろ」
 
 ダルクは、値札がついているだけの安価な商品たちの方をのぞき込んだ。
 メインは焼き物らしいが、木製や金属製の商品も扱っているようだ。
 運のいいことに、お目当ての食器なども一式置いてある。
 
「うん、これにしよう。それからこれと――」
「あ、危ない嬢ちゃん!!」
「えっ?」
 
 ダルクは店主の叫び声を聞いた刹那、背筋が凍りついた。
 振り向く前には、100%ライナが何かやらかしたのだと確信していた。
 そしてダルクの経済事情では、100万DPなんて大金はとても払えなかった。
 
「ライ――」
 
 ダルクと店主は息を呑みこんだ。
 果たしてライナは、案の定店の壺を取り落とし、まさに地面に衝突させてしまうところだった。
 が。
 なんと彼女はブーツのつま先を上に曲げ、足首にできたスポットで壺を柔らかくキャッチしたのだった。
 壺は地面に激突することなく、見事吸い付いたように足首に収まる。
 
「とっとっ」
 
 片足での器用な身のこなし……いや、神がかった芸当。
 ダルクが唖然としている間に、ライナはなんなく壺を拾い上げて陳列棚に戻した。

「危なかったぁっ」
「じょ、嬢ちゃん、気をつけてくれよっ」
「ごめんなさいっ」
 
 店主が大きな安堵のため息をつく中、ダルクはまだライナの足に目を落としていた。
 慌てず騒がず、さも当然のようにやってのけた今の技。
 瞬発力と判断力と精神力と……あと何が必要だっただろう。

 今まで正直、ライナを侮っていた。
 誰かが一から面倒を見なければならない、天真爛漫な子どものような認識だった。

 しかし思えば彼女は、精霊使いを名乗っていた。
 霊術を扱えるということは、すなわち最低限の戦闘能力は備えているということ。
 ひょっとすると、ライトロードの一行に混じってもおかしくない程度には――。
 
「ねえ」
 
 ライナの声に、はっと我に帰るダルク。
 フードの中の青みがかった銀の瞳が、間近できょとんとしていた。
 
「どうしたのっ?」
「あっ、あぁいや。ご主人、これをくれ。それからこれも――」
「まいどっ!」
 
 買い物を済ませ、店を離れる。
 歩きながら自前のショルダーバッグにそれを詰め終えると、またライナが飛びついてきた。
 
「ねえ次はっ、次はっ?」
「そう慌てるなって」
 
 フードから飛び出しているライナのクセッ毛を、ダルクは緊張した面持ちで見つめた。
 心なしか、正体がバレたときのリスクは予想以上に大きいように思えた。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 16:17:05.97 ID:i/3c3gaYo
わお、タイムリー乙
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(石川県) [sage]:2011/11/08(火) 20:36:53.21 ID:Zfmmh+Tc0
>>1
この店主は強欲ゴブリンと一緒に描かれてるあの人かな?
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 22:22:24.75 ID:tn8V+bFSO
更新乙。
ダルクの冷や汗が上手く伝わってくるなぁ。
801 :名無し [sage]:2011/11/10(木) 01:03:57.85 ID:GVVpWxKDO
ライナ可愛いなww
802 :【1/2】 [sage saga]:2011/11/10(木) 16:07:20.28 ID:NLbES4SMo
 ダルク達は次に包丁・果物ナイフを購入すべく、武具を扱った店に立ち寄った。
 店主はいかにも頼もしそうな、筋肉隆々の濃い男だった。
 
「いらっしゃい! 盾をお探しかね?」
「いや、ちょっと包丁と果物ナイフを……」
「そうか。では盾はどうかね!?」
「い、いや、必要ないです……」
「残念だ。……しかし……守備力が上がるが!?」
 
 やけに盾を薦めたがる店主だった。
 頼もしいガタイの良さと野太い声もあいまって、筋肉とともに妙な迫力をむき出しにしている。
 
「ボクたち、魔法使い族だもんねっ。盾なんて扱えないよねっ」
「なんと。今の環境では、どんな種族でも盾を扱うことを知らないのか?」
「そうなのっ?」
「そうだともっ! 守備力がなくては、ろくにフィールドに留まることも叶わないからな!」
「へえっ、ボク知らなかったなっ」
「こらこら」
 
 ダルクがついていなければ、今頃ライナは市場中のカモにされていただろう。
 そもそもこれまでの言動を見る限り、ライナはどうも世間一般の常識が欠けているようだ。
 よもや本当に箱入り育ちだったのだろうか。
 それとも、天空の聖域とやらに住まうものは皆同じなのだろうか。

「すごいなぁっ、かっこいいなぁっ」
「……また店のものに手を出すんじゃないぞ」
「はぁいっ」

 まぁそれはさておきと、ダルクは(店主の熱い視線を無視して)店の奥に足を踏み入れた。
 武器は小さなものから順にきれいに陳列されていたので、お目当ての小型の刃物はすぐに見つかった。
 折りたたみ式ナイフ、ペーパーナイフ、果物ナイフ、キッチンナイフと続き――
 サバイバルナイフ、ダガー、ククリときて、次からはショートソード以上のサイズが並んでいる。
 
(うん、念のために護身用を持っててもいいかもしれない)
 
 ダルクは目的の品に加え、適当なナイフを手に取った。
 その拍子にふと、視界の端に目が引かれる。
 顔を向けると、『サラマンドラ(炎の剣)』や『竜殺しの剣』といった大物が厳かに納められていた。

 童心をくすぐる猛々しいフォルムと、安定した味わい深い色調。
 繊細さと重厚さを並立させている、刀身の圧倒的な質感。
 気品を漂わせながらも、紙一重に見え隠れしている覇気。
 ついで、値札が如実に示している具体的な価値。

 ダルクとて、幾度となく戦士に憧れを抱いた少年。
 いま本格的な実物を前にして、幼き日の想い、興奮がじわじわと蘇ってくる。
 ああ全く、大剣というものは、ただ静かにそこに在るだけで、なぜここまで心を魅きつけるのだろうか。
 
「……少年」
 
 すぐ耳元に店主の吐息がかかり、ダルクの心臓は跳ね上がった。
 いつの間にか店主はダルクの背後に回っており、そしてダルクの肩に優しく手を置いた。
 
「武器は、相手を傷つけるためにある。傷つける以上は、傷つけられる覚悟をしなければならない」
「えっ? えっ?」
「だが防具はどうだ。我が身は守っても、別に守られる覚悟、などというものは必要ない」
「あ、あの。ちょっ、放して」
「今ならサービスしよう。バッグラー、篭手、皮の胸当て……君にお似合いのものはいくらでもある」
「か、買います! 買うからこの手を放してくれ!」
 
 
 
 ようやく店を出た頃、ダルクは予想外の支出に頭を痛めていた。
 何とか目的のものは買えたが、最後のあれさえなければビタ一文余計な出費はなかったのに……。
 
「いっぱい買ったねっ」
「そんなつもりはなかった……」
 
 ダルクには店主が、あの肩を掴む握力が、地味に強くなっていくのが恐ろしくてたまらなかった。
 いきなり力任せに握り締められるのではない。
 囁くような口調とともに、じわじわ、じわじわと緩やかに圧力をかけてくるのだ。
 
「あの怖さは尋常じゃない……」
「ねっ、次は? 次はっ?」
 
 一気に重くなったダルクの身体に、どこまでも楽しそうにライナが追いうちをかける。
 ダルクは今日まだ起きたばかりなのにも関わらず、早くも疲労を感じ始めていた。
803 :【2/2】 [sage saga]:2011/11/10(木) 16:13:47.79 ID:NLbES4SMo
 
 その後ダルクは、こまかな雑貨や小物を着々と買いそろえていった。
 そうして巡り巡って、最初に二人が出会った食品通りまで戻ってきた。
 すでに夕陽は半分以上も沈んでいた。
 
「ついに本命か。パン、果物、野菜、飲みもの、調味料――いろいろ買わなくちゃな」
「やっぱりここ、いい匂いっ」
「頼むから大人しくしててくれよ」
「はぁいっ」


 ダルクはまず、果物を買った。
 リンゴ、オレンジ、キウイフルーツなど、闇の世界にもある品種がカゴ盛り目白押し。
 しかしその瑞々しさや色合いの良さは比べものにならず、外の世界ならではの特長が前面に表れている。
 
「このリンゴを5個と……そのオレンジを3個と、あとそれもくれ」
「まいどっ」
「ボクもこのフルーツ大好きだよっ。美味しいもんねっ!」
「いや、オレはまだ食べたことがないんだ」
「えっ、これ食べたことないのっ? どこにでもあるのにっ?」
「あ、いや、ほら、ここの町のはって意味だよ」
「ふぅん?」

 
 次にダルクは、野菜や穀物を買った。
 レタス、キャベツといった青物がずらりと並ぶ様は、ダルクの常識ではありえない光景だった。
 闇の世界で野菜といえば、もっぱら穀物や根菜類やキラー・トマトだった。
 
「ジャガイモとニンジンと……じゃあそれも試しに、一玉買ってみようかな」
「まいどぁりい!」
「ボク、野菜も好きだよっ! トマトなんか大好物っ!」
「ト、トマトか。食べられるけど、気は進まないな」
「好き嫌いはダメだよっ? なんでも美味しく頂かなきゃっ!」
 
 しかし闇の世界には顔のついたトマトがいて、道端でいきなり噛みついてくるのだ。
 倒しても別のモンスターを呼び込んだりと、相手にすると面倒な野菜である。

 
 その次に立ち寄ったのは、調味料を扱う店。
 塩、砂糖、お酢に、多種多様な香辛料。
 料理がからっきしだったダルクは、どれをどれだけ買えばいいのか分からない。
 とりあえずライナに相談してみたが、
 
「お料理できる人ってすごいよねっ」

 あまり参考になりそうになかった。
 ダルクは仕方なく、師匠と二人暮らしだった頃を思い出し、何となくの感触でそれぞれ買い足していった。
 もっともダルクの師も、不慣れながらやっと身につけたぐらいの腕だったが。
 
 
 買い物も終わりが近い。
 調味料を扱う店から数軒またいだ先、ダルク達が求めたものは飲み物。
 といっても、ダルクの家からは飲み水が調達できるので、どちらかといえば嗜好品としての飲料だ。
 
 その店では、お茶、ジュース、ポーションなどが、小さな甕や小瓶に入って大量販売されていた。
 携帯に便利そうだったので、ダルクは特に美味しそうなジュース、ポーションを多めに購入した。
 
「ほら」
「えっ?」
「一本あげるよ」
「ほんとにっ?」

 そのときのライナの笑顔は、今日一番ダルクの心を揺さぶった。

「ありがとうっ!」
 
 探りあい、騙しあいに長けたダルクだからこそ分かる。
 これは他意の欠片もない、心の底から感謝している笑顔。
 それが逆に住む世界の隔たりを浮かばせ、ダルクに一抹の傷心を与えた。
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/10(木) 17:22:32.17 ID:1dtGa5/G0
キラー・トマト食べられるのか…
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 20:09:07.20 ID:3wqQ3MDIO
海外版……
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/10(木) 23:14:18.16 ID:F76gF6uAO
やっと追いついた
ライナかわええのう
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/10(木) 23:14:19.85 ID:EDoIM3r6o
あれってトマトをのどに詰まらせて死んだ人間の成れの果てらしいな
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/11(金) 00:32:37.64 ID:xLL2SPXbo
ここ最近は更新ラッシュすぎて嬉しさ一万倍
ライナに真相がばれるのはいつの日なのか……
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(石川県) [sage]:2011/11/11(金) 02:18:58.91 ID:s9EtwFKi0
ビッグ・シールド・ガードナーさん自重してください
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 05:01:04.06 ID:gO0uFQGIO
ヤリザ殿はまだでござるか
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/11(金) 07:52:36.10 ID:agLJ/5QIO
ミスティック・トメィトは食べられますか?
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/11(金) 07:55:16.53 ID:agLJ/5QIO
ミスティック・トメィトは食べられますか?
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東海・関東) [sage]:2011/11/11(金) 09:05:34.55 ID:YBczXvcAO
>>811
食ったらアルマゲドン・ナイト(終末の騎士)が来ますが
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/11(金) 12:24:20.73 ID:QJY58AEAO
そういえばダルクとライナだけコートにナイフ入れてないな
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/11(金) 22:46:17.62 ID:sqrYGPFIO
>>814
ヒータんとアウスは薬?みたいなのいれてますよね!
ウィンはうさぎ、ウィンダもウサギいれてますね。
エリアは髪の毛かと思いきや青い尻尾?みたいなのがついていますね、エリアルにもついてますね。
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 16:10:02.95 ID:IMPHq7a10
>>815
もふもふはヒータとダルク以外みんな付けてる
817 :【1/3】 [sage saga]:2011/11/12(土) 16:26:17.20 ID:Sfrte8hBo

 ダルク自前のショルダーバッグは勿論、何かを買ったときにもらった布袋もかなり膨らんでいた。
 相当に重い。これ以上増やすのは帰り道が不安だが、まだ買ってない食材がある。

「次は肉だ」
「おにくっ? ボクのところはあんまり食べないなぁ」
「雲の上で食べられる肉なんてあるのか?」
「あるよっ。鳥のおにくっ!」
「なんか夢がないな」

 ダルク達が訪れた肉屋は、当然ながら獣の肉、魚肉も取り扱っていた。
 生臭い空気。上から吊るされた肉塊の数々。見るからにおどろおどろしい店の雰囲気。
 だがダルクは肉の旨さを知っていた。どこか怖気づくライナを引っ張り、店先に立つダルク。

 店の主人は、やたら等身の小さい、短足ふとっちょの男だった。
 頭部はすっぽり鉄仮面に覆われており、その表情は唯一穴を開けている両目からしか窺えない。
 そのマスクの奥から、「いらっしゃいまゼ!」とくぐもった黄色い声が響いた。
 
「ご主人、ここの肉の日持ちはどのくらいだ?」
 
 ダルクはそれだけが不安で、できるだけ生肉を後回しにしてきた。
 闇の世界の腐った生肉は食べられないだけでなく、最悪アンデッド化することもある。
 
「ふた月み月はもつゼ!」
「そっ、そんなに? 生肉なのに?」
「ヒョウケッカイの仕事ナンダゼ! ガチガチに凍らせてくれるんダゼ!」
 
 確かに店の精肉は、どれも霜まみれに凍りついていた。
 「氷結界」という言葉は、名前くらい聞いたことがある。氷を扱うエリート群だ。
 有名な彼らの手によるものであれば、二三ヶ月もつというのも信憑性があるかもしれない。
 
「お買い得セットもあるゼ! 今なら安くしておくゼ!」

 セットと称された袋には、幾種類のお肉がたんまり入っていた。
 値段は決して安くはなかったが、それぞれ単品で買ったときを概算して比べるとはるかにお得。
 それに「今はとりあえず買い揃える」スタンスのダルクにとっては、これほど丁度良いものもなかった。
 
「まいだリッ!」
「ねぇ行こっ、次いこっ」
「おっおい引っ張るな。どうした急に」
「別にどうもしてないけどっ」
「あ。もしかして怖かったのか? 今の店が」
「そ、そんなんじゃ……もうっ。次いこっ! ほらっ!」
「ぐえ」
 
 
 いつの間にか夕陽は、辛うじて頭の一部分を残すばかりとなっていた。
 ダルクが予定していた買い物も、これが最後。
 締めくくりに選んだ店は、しつこいくらいに周りに香ばしい匂いを漂わせていた憎い食品店。
 すなわちパン屋。

 パン屋は市場のあちこちにあったが、なぜかこの時間帯では早くも店じまいしている所が多かった。
 まだ夕方は終わっていないのに、どこに行っても、パン屋だけくり抜かれたように閉まっている。
 
「な、なぜだ。なぜパン屋だけ…」
「あっ。あそこ、まだ開いてるみたいだよっ」
 
 二人は右往左往しながらも、ようやくまだ営業しているパン屋にたどりついた。
 ところが――。
 
「売り切れ!?」
「一個も余ってないのっ?」
「すまないね。ついさっき完売してしまったよ」
 
 温厚そうな青服青帽のコックが、申し訳なさそうに言った。
 
 肝心の売り物がどこにもない。
 パンが並べられていたであろうプレートには、細かいパンくずが恨めしく散らばっているばかり。
 どの値札にも「SOLD OUT」が上から貼られており、値段も相場も分からない。
 これでは、あれだけ周囲を挑発していた香ばしさの正体が、まるきり分からないまま終わってしまう!
 
「ナ、ナンてことだ……」
「えっ、なにか言ったっ?」
 
818 :【2/3】 [sage saga]:2011/11/12(土) 16:27:06.36 ID:Sfrte8hBo
 ダルクの失策だった。
 パンのような柔らかい食べ物は潰れてしまうといけないので、荷物の一番上にしまいたかった。
 ということでパンは買い物の一番最後に予定していたのだが、今回はそれがアダになった。
 
 なんでも店主の話によると、手作りパンというものは手間のかかる仕込みが必要だそうで、
 一日に販売できる個数がそう多くないのが普通だという。
 さらに焼きたてのパンは人気が高く、バザーが始まる時間にはすでに人だかりができるそうだ。
 それだけの集客を誇り、夕方には閉店ラッシュを引き起こすパン屋。
 のパン。ダルクはぜひとも堪能してみたかった。
 
「残念だ……せっかくの機会だったのに……」
「ボクも食べてみたかったなぁ……」
 
 二人の落ち込みようをみて、店主は「ふむ」と腕を組んだ。
 
「明日またくればいいよ。一応取り置きもやってるから」
「明日か……難しいな……」
「ボクも、こんなチャンスあんまりないかも……」
 
 店主は「それなら、」と軽い口調でつけ加えた。
 
「材料が少し残ってるから、今から作ってあげるよ」
「えっ?」
「本当にっ?」
「残り物でいいならね。料金は半額でいいよ」
「ありがとうっ!」
 
 店頭に「CLOSE」を張り出した店主は、店の奥に戻っていった。
 ほどなくして香ばしい匂いが漂い、さらになぜか肉を焼く音、なにかを刻む音が聞こえてきた。
 二人して何を作っているのだろうとお腹を空かせていると、ほどなくしてそれがダルク達の前に置かれた。
 
「お待たせ」
「こ、これは……」
「うわぁっ、おいしそうっ!」
 
 肉とレタス、トマトを円形のパンに挟んだホカホカの料理――
 
「ウチの目玉商品、『ハンバーガー』だよ。食べたことあるかい?」
「ない」
「ないっ」
「まぁ残り物だから具は控えめだけど、美味しいよ。はいどうぞ」
「料金は?」
「半額だから、2個で通常価格だね」
 
 言われた額を出そうと、ダルクは財布の中を漁った。
 とたん、固まってしまう。足りない。
 残りの全財産をもってして、ギリギリ2個分の額に届かない!
 予定外の出費のことも含め、いつの間にか使い込んでしまっていたようだ。
 
 ダルクは仕方ないか、と小さく笑う。
 
「ご主人、せっかくだが1個分でいい。実はオレはいま食欲がないんだ」
「そうなのかい?」
「えっ、食べないのっ? さっきお腹空いてるって言ったのにっ?」
「いやぁ、もうこの匂いだけでお腹いっぱいになって。大丈夫、ライナの分は買うからさ」
 
 ハンバーガーが食べられないのは残念だが、ここで男の恥をかくよりは百倍ましというもの。
 ダルクはカウンターの受け皿に、細かい小銭ばかりの料金を並べた。

「毎度ありが……」

 店主がそれに手を伸ばそうとした、その時だった。
 
「一人で食べてもおいしくないよっ!」
 
 10000DP札が、小銭の上に軽く叩きつけられた。
 ダルクは度肝を抜かれた。万札。最高額を誇る紙幣。

「毎度ありがとうっ。ええと、お釣りは……」
「……ライナ。お前は……」
 
 ハンバーガーを両手に取ったライナは、にっこり微笑んでダルクに一つを差し出した。
 
「一緒に食べよっ。ねっ」
819 :【3/3】 [age saga]:2011/11/12(土) 16:27:43.86 ID:Sfrte8hBo
 市場を離れた町の広場に、フードに頭を隠した二人組がいた。
 町の子供たちが楽しそうに遊んでいる風景に紛れ、並んでベンチに座っている。
 
 大量の荷物を脇に置き、二人してハンバーガーを食べている霊術使い。
 その様はちぐはぐで浮いており、しかもこんなに広い場所なので、いつ追っ手に見つかるとも知れない状態。
 
「おいしいねっ、このハンバーガー!」
「ああ」
 
 ライナは宣伝に起用できそうなくらい、心底美味しそうにハンバーガーを頬張っていた。
 ダルクももちろん、空かせたお腹にできたてハンバーガーという、究極の味わいに感動していた。
 バンズから始まる香ばしい口当たり……少し固めのレタスのしゃっきり歯ごたえ……
 瑞々しいハーモニーを呼び込む新鮮なトマト……そして口いっぱいに蕩ける弾けるような肉汁……
 
 だがライナと違い、ダルクは思考がハンバーガーに定まらずにいた。
 ライトロードに対する周囲への警戒もそうだが、なにより――。
 
「ライナ」
「ふぇっ?」
 
 口元がケチャップにまみれたライナが、きょとんと顔をあげる。
 それを指摘すると、ライナは慌てて片手で口を覆った。
 
「なぁにっ?」
「……ライナはいま、どれだけお金を持っているんだ?」
「えっ? ええっと」
 
 ダルクが止める間もなく、ライナは懐から札束を取り出す。
 
「えーっとこれだけ」
「ば、ばか、こんなところで見せびらかすな!」
「えっとねぇ。ごぉ、ろく、なな……」
「だから隠せって!」
 
 この無用心っぷり。
 加えて、本物だったら手が切れそうなほどの厚い札束。
 念のため、ダルクは「本当にお前のお金なのか?」と確かめる。
 
「うんっ、ほんとにボクのポケットマネーだよっ!」
「し、信じられないな。一介の霊使いなんだろう?」
「そんなの関係ないよぉっ」
 
 低級の魔法使い族にもかかわらず、相当の身分を感じさせるライナ。
 ダルクは手に持ったハンバーガーを口に当てると、目を逸らし、声をひそめて言った。
 
「ライナ。お前は一体、何者なんだ?」
「……」
 
 これまでダルクの問いかけには全て即答してきたライナが、ここにきて初めて返答をつまらせた。
 ダルクが思わずライナの顔を見ると――ライナは目を合わせないまま、笑っていた。
 
「ふふっ」
 
 ライナは食べ終わったハンバーガーの包みを丸めると、勢いをつけてベンチから立ち上がった。
 
「ひみつっ」
「お、おいっ」
「ねっ、まだ時間あるし、もう一回りしよっ」
「うわっ、ちょっ、待てっ」

 荷物を勝手に手に取り、ベンチを離れていくライナ。
 ダルクはまだ食べ終わってないハンバーガーを、無理に口に詰め込まざるを得なかった。
 
 
 
 広場の片隅。
 そんな二人の霊術使いを、始終眺めていた影があった。
 その影は静かに笑ったかのように蠢くと、音もなく夕陽の影に溶け込んでいった。
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/12(土) 16:30:54.04 ID:lKDf0wiro

更新ペースが早くてとても嬉しい
あとライナカワイイ
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中国地方) [sage]:2011/11/12(土) 16:31:59.49 ID:yZb6iLFp0

ライナの頭痛が気になるな……記憶操作?
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/12(土) 16:52:44.26 ID:Hgy0Rzljo
肉屋はチョッパーかwwwwww
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/12(土) 19:29:32.66 ID:11V/vyW6o
おつー
更新ペース早いのはありがたいが、11月までに云々〜の件に関して
引け目を感じて無理にペース上げたりしてないかい?

いや、ただ早いだけならいいんだけどくれぐれも無理せずに。
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 20:16:04.92 ID:IMPHq7a10
ハングリーバーガーの具が実は牛魔人、グリグル、B・プラントなのは秘密
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/12(土) 20:41:42.70 ID:HZ6YBmsj0
ライナかわいい乙!
ナイトエンドソーサラーたんも是非出してほしいです
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/12(土) 23:25:29.51 ID:AGeI0R4IO
>>821
頭痛は恐らくチョッパーが売っていたのは人の…
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中国地方) :2011/11/13(日) 04:51:21.53 ID:IH5sI8xO0
>>826
いや、頭痛は>>796で起こってたから肉屋は関係ない
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中国地方) [sage]:2011/11/13(日) 04:51:52.54 ID:IH5sI8xO0
下げ忘れすまん
829 :1 [sage saga]:2011/11/15(火) 16:20:32.90 ID:JACVr1Iio
いつもご支援いただき有難うございます
最近好ペースで書けてていい感じです

>>823
その件の分もなきにしもあらずですが、現状ほとんど無理はしていないので大丈夫に尽きます
お気遣い頂きありがとうございます!
830 :【1/3】 [sage saga]:2011/11/15(火) 16:21:21.65 ID:JACVr1Iio

 二人はハンバーガーを食べた広場から市場には戻らず、別方向の街路を進んでいた。
 ライナは最後に一回りすると言ったが、当然ながらアテなどなかったようだ。
 とりあえず足の向くまま気の向くまま、適当に町の見物がしたかっただけ。
 異郷育ちには見るもの触るもの全てが珍しいのだろう。
 もっともそれはダルクも同じで、例えライナがいなくとも町巡りはやぶさかではない。
 
 ライナは相変わらず、ダルクの腕あたりをつかむように付きまとっていた。
 いくら言っても笑ってごまかし、結局放してくれないので、ダルクはいい加減慣れてしまっていた。
 
(なぜこの娘は、自分にここまで懐くのだろう?)
 
 ダルクは思う。
 ライナのスキンシップは度が過ぎている。
 ダルクは彼女に「闇に対抗する研究者」と名乗ったが、それを証明するものは何一つない。
 なのに――いや仮に証明できたとしても――ここまで無防備をさらけ出せるものなのだろうか?
 
 なにせ彼女とはほとんど初対面のようなもので、ほんの数時間前まで赤の他人も同然だった。
 それが今や、長らく離れていた恋人とやっと再会したかのごとく、ぴったりと寄り添っている。
 ダルクが今まで出会った女の子たちには、こんな節はなかった。
 (もっとも一人だけ、何を考えてるか分からない娘がいたが。)
 
 ダルクが推測するに、ライナは極度に人懐っこい性格のようだった。
 ライトロードの隠れ蓑のためなら、安全とさえ判断できれば、例え相手が昨日今日の知り合いでも構わない。
 要するに別にダルクに限った言動ではなく、誰彼構わずすぐに抱きつける気質なのだ。
 
 根拠はないが、もしそうだったとしても、残念な気持ちになることはない。
 いやそれどころか、逆に感謝しなければならないだろう。
 こうして明るく可愛い女の子と同伴して買い物ができるという、
 人生で二度はないような貴重な体験を楽しませてもらっているのだから――。
 
 
 
「ねっ、ねっ、そういえばさっ」
 
 ふと、当のライナがダルクに語りかけてきた。
 今歩いている通りは比較的人通りも少なく、歩きながらでの会話もしやすい。
 
「なんだ?」
「地霊使い、なんだよねっ?」
「ああ」
「使い魔とか、いるんでしょっ? どんなのっ?」
「どんなのって……」

 「なんなら今見せてやろうか」と、懐で眠っているD・ナポレオンを出すわけにはいかない。
 今が夜なら何とか言い訳もできるだろうが、夕方の今はさすがにディーが闇属性であることがバレてしまう。
 
「別に、普通の地属性モンスターだよ」
「かわいいっ? 見せて見せてっ!」
「い、今はすぐには呼べないんだ」

 この流れはまずいと悟ったダルクは、素早く質問を投げ返した。

「そういうライナの使い魔はどうなんだ? 今は連れてないみたいだけど」
「えっ? ええっと……ハッピーは……」
 
 ライナはどことなく気まずそうに口ごもる。
 ダルクは彼女の使い魔の名が『ハッピー』と知り、明るい主人にぴったりの名前だなと思った。
 
「ハッピーは……ライトロードのヒト達のところにいる……」
「そうか……」

 ライナの気持ちが察せられる。
 いわばライトロード達に、使い魔を人質に取られているようなもの。
 ライナは使い魔のために、何があろうと必ずいつかは戻らなければならない。
 おそらくは、鳥かごのような束縛された空間に……。
 
「!」
 
 そのとき二人は同時に、前方に眩むような光を感じ取った。
 噂をすればだ。
 そこには記憶に新しい、ライトロードのパラディンが足早に歩いていた。
 その後ろに昨晩一緒に酒場にいた、女性のライトロードもくっついている。

「ジェインさんとライラさんだっ」
831 :【2/3】 [sage saga]:2011/11/15(火) 16:21:57.73 ID:JACVr1Iio
 
 ライトロードの二人はまだこちらに気づいていないが、このままだと急接近してしまう。
 しかしいきなり踵を返すのも目を引いてしまうかもしれないと、ダルクが逡巡した瞬間。
 
「こっち!」
 
 突然ライナがダルクの手を取り、無謀にも全力で脇道へと走り出した。
 
「うわっ! お、おいっ!」
 
 ダルクはいきなり引っ張られ、ずっこけそうになった。
 体勢を整える流れで、自然に一緒に走る形になってしまう。
 こうと決めたら迷わず突っ走る、それが光霊使いライナ。ダルクは頭を抱えたい気分だった。
 
 ダルクはせめてライトロード達に気付かれなかったことを祈りつつ、重い荷物で音を立てながら駆けていった。
 先頭を突っ切るライナは、カドに差しかかるたびに右へ左へジグザグに折れ曲がっていく。
 ちゃんと道筋は覚えているのだろうかとダルクは不安に思ったが、すぐに不安がるだけ無駄だと悟った。
 
 
「はぁっ……はぁっ……ここ、どこだろっ……?」
 
 やっと適当な場所で立ち止まったとき、ライナは案の定、辺りをきょろきょろし始めた。
 よくも悪くも積極的なのが彼女の売りらしい。
 
 ダルクは喘息患者のように、露骨にぜいぜい息切れを起こしていた。
 無理もない、重い荷を負ったまま、手ぶらのライナと同じ速度で走らされていたのだから。
 
「つ、疲れた……」
 
 ダルクは両膝に手をつき、ひたすら肩を上下に揺らしていた。
 汗がぽたぽたと地面にしたたり落ちていく。
 地面……土だ。舗装された石畳ではない。
 ダルクは顔を上げ、改めて周囲を見渡した。
 
 路地裏の広場、とでも呼ぶべき場所だった。
 それも、闇の世界で見慣れたような寂れた場所。
 狭い道が入り組んでおり、壁にはボロボロの落書き、建物の隅には放置されたゴミ溜まり。
 喧騒から遠ざかった、退廃的な空間……スラム街。
 
 人通りはなくはないが、あまり長居したくない場所だ。
 特にライナのような、能天気なおのぼりさんには危険を伴う可能性もある。
 ダルクはまだ整っていない呼吸もそこそこに、ライナの手を引き寄せた。
 
「えっ? な、何っ?」
「広場まで戻ろう。ここには長く居ないほうがいい」
「そうなのっ? どうしてっ?」
「治安が良さそうに見えないからだ。それに、さっきのが追ってきている」
「えっ!? ジェインさんたちがっ!?」
「いや、そっちじゃなくて」
 
 
 直後、ダルク達にかけよる複数の姿があった。
 反射的に、懐の杖に手を伸ばすダルク。
 同時にライナの前に一歩踏み出す。
 何が起きようと、絶対にライナが傷つくようなことがあってはならない――。
 
「荷物が多いねえ、兄ちゃん」
「武器は? 武器は?」
 
 しかし相手は背が低い……子供だった。二人組。
 一人は、短いシルクハットにサングラス、トレンチコートといったハードボイルドな少年。
 もう一人は、大きなボロ布にすっかり全身を隠した、正体不明の何か。
 さきほどの声からして、辛うじて少年であることが分かる。
 
「ちょいとそのバッグの中身、見せてくれよぉ」
「武器。武器が欲しい」
 
 二人はあれよという間に、ダルクの荷物にまとわりつき始める。
 
「ば、ばか、やめろっ。ちょっとライナ、手伝ってくれ!」
「ふふっ、かわいいねぇっ」
「ち、違う! こいつらはそんなんじゃない!」
「なぁいいだろぉ、少しくらい見せてくれよぉ」
「武器。武器をよこせ」
832 :【3/3】 [age saga]:2011/11/15(火) 16:23:25.49 ID:JACVr1Iio
「このっ……やめろっ!」
 
 ダルクは少し乱暴気味に荷物を振りほどいた。
 その勢いに吹き飛ばされる子供たち。

「痛えなぁ」
「武器!」
「そこのお前」
 
 ダルクはサングラスをかけている方の少年に、人差し指を向けた。
 指を差す。その少年に、少年の顔に、顔をしたたり落ちる汗に。
 
「ついさっき、走ってきたな?」
「なっ!? ななな何のことやぁら」
「気付いていないとでも思ったか? さっき広場でオレたちを観察していただろう」
「ギクリんこ!」
「そんな未熟なレベルじゃ密偵は務まらない、甘く見るな」
 
 大方、ライナが大金を見せびらかしていた場面を見られたのだろう。
 広場からずっと尾行していたようだったが、ライトロードが最優先だったのであえて泳がせていた。
 ライナのおかげでこういった輩の土俵に来てしまったが、相手が未熟だったのが不幸中の幸いだった。
 
 そして。
 この子供たちの真の狙いも、お見通しだった。
 なぜ、大金を所持しているライナではなく、真っ先にダルクの荷物へ向かっていったのか。
 答えは直後にあった。
 
「こういう訳だろ!」
「うっ!?」
 
 いつの間にか、ライナのすぐ脇に男がいた。
 薄い青髪で、半裸の半ズボンといったラフな格好。
 ダルクが一瞬で伸ばした手は、その男の手首をつかんでいた。
 男の手に握られていたのは、ライナの大金が詰まっているポーチ。
 
「えっ? あれっ!? いつの間にっ……」
「子供とグルだったんだ。この二人が囮になって気を引いてる間に、本命をかすめとる」

 ライナが今の今まで気付かなかったのも無理はない。
 男の方は本職だったようだ。
 気配を殺して背後から近づき、獲物は強引に引ったくらずに、一瞬でスリ去っていく。
 だが長年を闇の世界で暮らしてきたダルクの目は、到底ごまかせなかった。
 
「あわわわわレガシーの旦那ぁ」
「武器、武器ぃ」
「ちいっ!」
 
 刹那、男の片手がキラリと光った。
 空を切った刃が、ダルクめがけて一閃する。
 ダルクはとっさに空いている方の腕で首から上を守り、その一撃をまともに受けた。

「ぐっ!」
 
 これは威嚇のようなもので、ダルクは手を放しさえすれば無傷で済むことを知っていた。
 男の目的はあくまでポーチで、危害を加えることは本意ではない。
 だがダルクはそれを知っているが故に、つかんだ男の手首を離せなかった。
 そのポーチには、ライナの大切なお金が入っている。
 これを盗られてしまったら、もうライナは一人でハンバーガーを買うこともできない。
 
「えっ……?」
 
 ライナはまるで状況の把握が追いついていなかったが、たった今、一つのことだけを理解した。
 血が流れた。
 斬られた。今まで一緒に買い物をしてきた男の子が、刃物で斬られた――。
 
 気がつけばライナは、周囲に轟くような悲鳴をあげていた。
 
「く、くそっ!」
「あっ、旦那待って!」
「武器がぁ」
 
 男は状況の不利を感じ取るや否や、即座にポーチを地面に落とした。
 それを受けて、ダルクもようやく男の手首を放す。
 男は乱暴な仕草でダルク振り払うと、悪態をつきながら子供とともに逃げ出していった。
 
「はは……盗られなくて、よかった……」

 ダルクは男たちの間の抜けた後ろ姿を見届けると、静かに笑った。
 そしてそのまま力が抜けたように、音を立てて片ひざから崩れ落ちていった。
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 16:43:13.84 ID:kTYerlG9o
乙乙

未熟な密偵とレガシーハンターとはまた懐かしいチョイスだなあ
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/15(火) 18:57:54.92 ID:0WJTy7BOo

時々出てくるモブが、適当なキャラじゃなくてちゃんと遊戯王のカード化されてるキャラなのがすごいと思う
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/15(火) 22:42:26.90 ID:mkk17eq2o
【速報】オーダーオブカオスで《憑依装着-ダルク》登場
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 22:43:07.17 ID:dx13tPmgo
http://i279.photobucket.com/albums/kk155/tang2a36/0002-1.jpg
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/15(火) 23:03:37.89 ID:XXdrKBbq0
>>836
きたあああああああああああああああ
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(島根県) [sage]:2011/11/15(火) 23:13:35.91 ID:ZN2dUy/yo
ダルク憑依記念
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海) [sage]:2011/11/15(火) 23:33:16.11 ID:Wf7lsVzAO
憑依ダルクは☆3〜4の光属性魔法使い族のサーチか……
ライナを持って来て公認カップルですね、わかります。
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(石川県) [sage]:2011/11/16(水) 01:16:48.06 ID:MT+sdNpH0
"大きなボロ布にすっかり全身を隠した、正体不明の何か"
これが誰だか分からない...
いろんなカードを昔から見てきたんだと思っていたんだが...
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/16(水) 01:19:55.41 ID:gZaW7CAEo
暗黒の侵略者とか異次元の生還者とかいろいろあるよ
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 01:55:14.87 ID:iRwJIkJv0
ダルクおめええええええ
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/16(水) 06:30:25.35 ID:X6yV3moC0
ダルクはライナと協力か〜
でもハーレムがいい。
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/16(水) 07:08:24.52 ID:Jx3u9XhIO
ダルクが登場してライナがでて憑依装着ダルクが出たってことは…次のパックで!
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/16(水) 07:13:16.20 ID:lSoka12xo
>>840
武器武器言ってるから武器庫荒らしかと思ったが
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/16(水) 22:35:21.90 ID:zRESPy3a0
そういえばライナたんの腕にも枷あるのな
そこらへんの関連カード出ると神
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/16(水) 23:10:10.70 ID:iMsDQ4aIO
皆さん憑依ダルクの絵をよく見て欲しい。右側が光っている。この絵と憑依ダルクの効果からして、憑依装着ライナは次のパックで登場し、憑依ダルクと絵が繋がる。
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中国地方) [sage]:2011/11/16(水) 23:13:16.50 ID:6pn0XXtp0
>>847
公式セットだよな、どう考えても
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/16(水) 23:21:57.78 ID:iMsDQ4aIO
僕今中学生でそこそこ絵がうまいんです。で友達なんかにたのまれて、アニメに登場して欲しい自分のモンスターを考えよう!みたいなのあったでしょう?で憑依装着ーダルクを描いて送ったんです。なのでアニメに出ることを期待。
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/16(水) 23:22:55.01 ID:0hoPdzG8o
さっきからageんな
期待を返せ
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 00:49:38.92 ID:RVhBlAYco
モバホンめ酸の雨で破壊してくれる
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 17:47:31.63 ID:s29SuNXIO
パック買って来たよー。
45パック買ってダルク三枚だった。
結構悲しい。
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 21:59:09.44 ID:J+VGmnwIO
憑依ダルクTUEEEEEEEEE!
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/18(金) 22:13:51.52 ID:H1hxKj4So
4パック買ったら忍者エクシーズのレリーフが二枚も当たったでござる
拙者に忍者を作れと申すか
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 23:02:11.93 ID:J+VGmnwIO
ソウナノデース!>>854ボーイ!アナタハ忍者をツクルウンメイナノデース!
856 :1 [sage saga]:2011/11/19(土) 16:10:58.59 ID:LHJF1CSBo
>>845
はい武器庫荒らしです
表現が雑になってしまってごめんなさい



ついにダルクの憑依装着きましたね
やっぱりダルクを主人公に選んでてよかった安心するカッコよさです

しかしこのスレはオリジナルSSながら、基本的に公式準拠で書いてるので
実はOCGで、あの絵師の人の新カードが出る度にビクビクしてます

善処はしますが、なんせ進行速度がこんな感じなので
今後万が一、露骨な食い違いが起きてもご容赦ください

と一応明記しておきます
(ちなみにいま一番怖いのは手錠関連です;)
857 :>>832〜 【1/3】 [sage saga]:2011/11/19(土) 16:12:12.48 ID:LHJF1CSBo

 
 市場にあるような露店よりも、洋服屋、酒場、遊技場などといった戸建ての商店が目立つ通り。
 通行人はヒトや半獣、ゴブリンと多様だったが、中には周囲の目を引くような顔ぶれもある。
 
 とりわけライトロードと呼ばれる天空の使者に関しては、「目を引く」という意味合いがタダではなかった。
 というのは彼ら自身が、誰しもの視界に飛び込んでしまうような目映い光を放っているためだった。
 
 ――そう狭くはない通りのど真ん中を、二枚のマントが翻った。
 まだ夕陽の差す街路を、燦然たる白光が上塗りするかのように激しく照らしていく。
 
「……どこに行っても歩きやすいものね」
 
 純白のローブをまとっているライトロード――ライラは、ティアラをのせた黒髪をうなじから払った。
 ライトロード内でのクラスはマジシャンで、その片手には常に杖が握られている。
 
「所詮は地上にへばりついている輩だ。我々を畏れるのも無理はない」
 
 他方の、白銀の甲冑に身を包んだライトロード――ジェインは、大層な重装備をものともせず足早に歩を進めていく。
 パラディンのクラスを有するとともに、今回天空から地上へ派遣されたライトロード達の総括責任者も務めている。
 
 二人が通りがかるたびに、町の者たちは粗相を恐れて道を空けた。
 ライトロードが臨時的な治安維持隊となっていることはすでに知れ渡っており、
 また彼らに反発すれば、たちまち理不尽な『裁き』を受けるといった噂も広まっていた。
 
「でもこう目立つんじゃ、ヒト探しも一苦労ね」
「まったく、跳ね返りの姫君にも困ったものだ。町巡りがしたければ、私が付き添うというのに」
「あの子の使い魔はこちらの手元にいるんでしょう? どうせ戻ってくるなら放っといてもいいんじゃない?」
「ライラ、君は彼女に万一のことがあっても平気だというのか?」
「誰もそんなこと言ってないわ」
 
 ライラはまた小さな溜め息をついた。
 ジェインはすべてにおいて平均以上の能力を持つ、ライトロード一派を牽引するに相応しい人材だった。
 しかしライラにとって彼の最大の欠点は、もはや滑稽なまでに、あの光霊使いの少女に入れ込んでいることだった。
 
 確かに天空の聖域では、光霊使いライナを知らないものはいなかった。
 誰に対しても裏表なく接し、笑顔を振りまき、温もりを与える。
 そうしてただでさえ評判が高かったのに、あの生業を始めてからはいっそう知名度が上がってしまった。
 
 また天空の学び舎ではトップクラスの成績で、信仰にも敬虔。
 見た目に反して戦闘能力も高く、最近ではライトロードの入団テストを一発でパスしたことが記憶に新しい。
 もっとも、入団は本人の希望で辞退したが――ライラは自分の立ち位置から、心底焦ったものだった。
 
 風の噂では、ジェインはそう遠くない日に、あの娘に求婚しようとしているとか。
 ジェインも天空ではライトロード筆頭ということで名が通っており、二人の仲の行く末は何かと話題になっていた。
 
「……」
 
 ライラはジェインの横顔を盗み見する。
 その顔は険しく、恋焦がれる相手に対しての真剣味が嫌というほどうかがえる。
 ライラは今まで一度も、ジェインにそんな顔をされたことはなかった。
 
 
 
「――! 今のは」
 
 ふと、そのジェインが足を止めた。
 すぐさま進路方向を変え、脇目もふらず路地裏の方へ突っ走っていく。
 物思いに耽っていたライラも正気を取り戻し、五歩遅れて慌ててジェインに続いた。
 
「ちょっとジェイン、どうしたのっ?」
「彼女だ! 彼女の悲鳴が聞こえた!」
「えっ……?」
「こちらからだ! 間違いないっ!」
 
 ジェインは重い甲冑をものともせず脱兎のごとく走り、軽装のライラとの差をどんどん広げていった。
 ライラも必死で走りながら、次々とわきあがる戸惑いにすっかり翻弄されていた。
 ライラには、ジェインのいう「悲鳴」というものがまるで聞こえなかった。
858 :【2/3】 [sage saga]:2011/11/19(土) 16:13:25.76 ID:LHJF1CSBo


 スラム街の一角。
 そこには片ひざをついて屈みこむダルクと、顔色を真っ青にしたライナがいた。
 
「どうしようっ、どうしようっ……」
 
 ライナは悲鳴をあげた後、傷ついたダルクの傍でひたすらパニックになっていた。
 泥棒から自分のポーチを守ってくれた男の子が、いま頭を垂れて肩の辺りを抑えている。
 
「えとっ……か、回復の光霊術……あっ、先に傷口みないとっ……」

 ライナは震える手で杖を取り出し、両手で霊力をこめようとする。
 しかしダルクのうなだれる姿、地面に零れた血痕ばかりに目がいき、なかなか集中できない。

「……大丈夫だ」
 
 ダルクは片手をあげてライナの行為を抑制し、それからゆっくりと頭を上げた。
 脂汗こそ流れているが、その顔色に至って変化はない。
 
「防具を買っただろう」
 
 ダルクは一枚コートの中身を少しだけ晒した。
 そこには皮の胸当てが仕込まれており、真新しい傷跡が斜めに引かれていた。
 あの武具屋の主人に無理矢理買わされたものだが、今回ばかりはこれが功を奏した。
 
「斬られたのは肩口だけだ。それもかなり浅い。へっちゃらだ」
 
 ダルクはすっくと立ち上がると、何事もなかったかのようにコートの埃をはたいた。
 傷の具合を確かめるために少し大仰にひざをついてしまったが、本当に大したことはない。
 
「本当にっ? ねっ、本当なのっ?」
「大丈夫だって。斬られる瞬間は首から上を守った。胴体は胸当てでフォローしている。完璧だ」
「でっ、でもっ、血がっ……」
「ちょっと大げさに飛んだだけだ。こんなのかすり傷だよ」
 
 もちろん刃物が勢いよく撫でていったのだから、パックリ斬れてはいる。
 しかしダルクにとっては、これくらいの傷は慣れっこだった。
 闇の世界の訓練ではもっとざっくり斬れたこともあるし、ヘマをして骨折したことも数知れない。
 
「さ、もう行こう。さっきの悲鳴をライトロードに聞かれたかもしれない」
 
 ダルクはむしろ傷などより、そのことが一番心配だった。
 悲鳴は、聞いたものに危険や不安を思わせる。
 ライトロードがお目当てのライナの叫びを聞いたとなれば、真っ先に駆けつけてくるはずだ。
 男女二人きりの状況的にも、現場を見られると非常にまずい。
 
 いや、そろそろこの辺で別れるべきだろうか?
 買い物の目的は達成した。荷物はほとんど無事。
 ライナの言う「もう一回りする」というのも、これだけの出来事があれば十分だろう。

 ダルクは空を見た。もう日も落ちかかっている。
 
(頃合かもしれないな……)
859 :【3/3】 [age saga]:2011/11/19(土) 16:16:52.72 ID:LHJF1CSBo
 
「あっ……待ってっ」
 
 少し落ち着きを取り戻したライナは、片手でダルクの袖を引いた。
 もう片方の手には、今までどこに仕舞っていたのか、やたら大きな杖が握られていた。
 ダルクが今まで目にした中では最も豪勢なデザインで、先端に付けられた鏡が静かに光を放っていた。
 
「肩、見せてっ。ボク、回復の霊術も使えるからっ」
「大丈夫だって。本当に大したケガじゃないんだ」
「せっかくお金を守ってくれたんだし、お礼くらいさせてよっ」
 
 ダルクが返事を決めあぐねているうちに、ライナはすばやくダルクの肩を向き直らせた。
 お礼を断るのも格好がつかないだろう、などと考えてるうちにライナの霊術が始まってしまう。
 
「ねっ、見ててっ、あっという間に傷が塞がっちゃうからっ。ボク得意なんだっ」
「そ、そうなのか?」
 
 すぐそばにライナの得意そうな笑顔。
 ダルクは目のやり場に困り、視線を自分の傷口に向ける。
 傷口に近づけられる杖。光を放つ杖。光属性の杖……。
 
「ま、待て!」
 
 ダルクが声に出したときには、すでに光霊術――『チェーン・ヒーリング』は行使されていた。
 温かな光のエネルギーが、ダルクの傷口から体内へじわりと染みこんでいく。

 次の瞬間――
 
「――う」



 
 ライナの悲鳴とは比にならない、命を搾り出すような絶叫が周囲に轟いた。
 ダルクはなりふり構わずその場に倒れこみ、存在を溶かされるような激痛に悶え、のた打ち回った。
 胸当ての内側で眠っていたディーも影響を受け、服の陰で狂ったように暴れ出した。
 
「えっ……どうして……?」
 
 ライナはダルクの急変ぶりに何が起こったのか分からず、周囲に響き渡る叫び声に呆然としていた。

「だってボク……この術でたくさんの人を……」
「何事だ!?」
 
 そのとき、最初のライナの悲鳴を聞きつけたライトロード・ジェインが現場に到着した。
 遅れて息を切らせたライトロード・ライラが駆けつける。
 
「ライナさん! この少年は……」
「ジェインさんっ……助けて……」
 
 ライナは半泣きになりながら、ジェインの甲冑によりすがった。
 
「……あの人を……クルダを助けてっ……」
 
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/19(土) 17:43:04.19 ID:thtRz8jto

ディアンケト「回復と聞いて」
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 17:58:29.92 ID:0xYxCsEqo
これが属性反発か…
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 22:09:58.67 ID:Jv6j5ZYIO
スーパーz持って来たっす
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/20(日) 12:25:34.14 ID:RzQqj8DK0
じゃあゴブリンの秘薬を、
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 14:16:17.57 ID:JBrPrqYIO
ギフトカードを
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 15:16:53.47 ID:wgPyBrVR0
モウヤンのカレーを
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 15:19:01.25 ID:aFrN7ogWo
この流れにシモッチ発動しますねパチパチ
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/20(日) 15:32:53.87 ID:4BKePuq8o
じゃあ、魔宮の賄賂発動で
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(石川県) [sage]:2011/11/20(日) 17:01:48.12 ID:ny/3tm920
賄賂で引いたのはワタポン...!
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/20(日) 18:42:36.95 ID:RzQqj8DK0
仲良いなおまいら
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 20:52:24.79 ID:JBrPrqYIO
結束しますね
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 20:54:12.34 ID:ENNx5INdo
リバースカードオープン!
速攻魔法サイクロンを発動する!
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 22:05:22.49 ID:+BfB/BaIO
じゃあマジックジャマーで
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/20(日) 23:17:13.21 ID:+BfB/BaIO
霊使いズの性格の事なんだけど…
まずエリアは予想通りでも思ってたより積極的、でもイイ!
ウィンは予想とは全く違った。
予想よりカナリイイ!
ヒータはツンデレ?なのかな…まだツンしか見てないけど、
アウスはカナリイイとにかくイイ!
ライナもアウスと同じかな、
ダルクは…正直掘りたい
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 23:17:58.06 ID:+BfB/BaIO
sage忘れすまない
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 23:57:58.39 ID:D+72Etg/o
ttp://beebee2see.appspot.com/i/azuYjeCOBQw.jpg
ttp://beebee2see.appspot.com/i/azuYocOVBQw.jpg
876 :1 [sage saga]:2011/11/21(月) 00:20:08.08 ID:n+Y9pH4Go
スレ監視しているのがバレてしまうのが恥ずかしいですが、今回のような場合は臨時的に……

>>875は恐怖系のドッキリ画像です
(この画像を一時間以内に他の掲示板に貼らないと云々〜)
URLを開かないようにお願いします
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/21(月) 00:44:09.06 ID:60EOKEFoo
大丈夫だ!
二枚目には笑ったがww
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/21(月) 00:46:12.53 ID:/jBmuF+n0
憑依装着ダルクって一応ライラさんもサーチ出来るんだよなあ…
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/21(月) 05:14:17.25 ID:HQ90fvquo
NTR・・・!?
880 :>>859〜【1/3】 [sage saga]:2011/11/22(火) 16:21:48.97 ID:vBjcwSeqo

 ダルクはとっさの思いつきで、首にかけていた『闇のペンダント』を傷口に当てて押さえつけていた。
 思った通りペンダントの闇エネルギーが光の霊力と相殺され、わずかながら激痛が緩和されていく。
 ダルクの叫び声は次第に呻き声へと変わり、やがて歯を食いしばることで騒ぎは収まった。
 しかし――
 
(ラ、ライトロードか……)
 
 ダルクは肩口を鷲づかみし、壁に寄りかかるような姿勢で苦しげに顔を上げた。
 二つの眩しい光。あの甲冑には見覚えがある。昨晩バーで、ダルクの身を改めたパラディンだ。
 
(まずい……)
 
 ダルクは状況の悪さに、そして頭を振り回すような疼きに奥歯をかみしめた。
 荒い呼吸も絶え絶えに、ライトロード達からじりじりと距離を離そうとする。
 しかし身体が思うように動かない。
 あまりの痛みに足がもつれ、直立も維持できない。
 
 光霊術を受けてこのような状態になったと知られれば、もはや正体の暴露は免れない。
 どこか鈍感なライナはともかく、経験に長けていそうなライトロード達はごまかしきれないだろう。
 無理にでも逃走を図らなければならないのに――身体が重過ぎる。
 
「……なるほど、すると彼は光霊術をかけてああなったのですね」
 
 ライトロードのジェインはライナの話を聞きながらも、よろよろのダルクに注意深く目を光らせていた。
 その片手は腰にさげた剣の柄を握っており、ダルクの動き次第ではいつでも抜き放てる格好である。
 
「ボ、ボク、いつもの『チェーン・ヒーリング』をかけただけなのにっ、こんなっ、こんなっ……」
「えっ? ということは……」

 ライトロードのマジシャン・ライラは、遅れての到着ゆえにまるきり状況が把握できていなかったが、
 とにかく目の前の少年の惨状が光霊術によって引き起こされたものと知るなり、不安げに顔をしかめた。

「ご安心を。この世にライナさんの回復霊術で癒されないものなどありませんよ」
 
 ジェインは言うなり、つかつかとダルクに近寄った。
 そして尚も距離を取ろうとするダルクのフードをつかみあげ、乱暴気味に引っ張りあげた。
 
「『闇』の徒を除いては!」
 
 そのまま道の中央、ライナの眼前にダルクを放り出す。
 まともな受け身もできず、ダルクは横向きにどさりと倒れこんだ。
 
「うぐっ」
「ちょっ、ちょっとジェインさんそんな乱暴に」
「ライナさん、よく聞いてください。この少年は間違いなく、『闇』です」
「えっ? ……えっ? 『闇』って……なに言ってるのっ?」

 まるで頭になかった言葉に動転したライナは、隣にいた女性のライトロードに救いを求めた。
 すがるような視線を送られたマジシャン・ライラは、しかし力なく首を振る。
 
「光と闇は、最も相反する組み合わせよ。両者の技や魔法は、お互いに悪影響しか与えないの」
「そっ、そんなっ……でっ、でもクルダは地霊使いだって……」
「すべては方便だったのです。思えば酒場で会った時、彼は何ひとつ地属性の証拠を持っていなかった」

 ジェインは冷めた目で、いまだ苦しそうに傷口を抱えるダルクを見下ろした。
 
「危ないところでした。おそらく、何も知らないライナさんを日が落ちるまで連れ回し、
 自分の時間である夜が訪れたとき……存分に、悪巧みをはたらく腹だったのでしょう」
 
 おもむろに剣の鞘から、金属がこする音とともに刀身が導き出される。
 
「我々をたばかり、我が姫君をかどかわし、考えるもおぞましい悪事を働こうとした罪……」
 
 ダルクの頭上に、冷たく輝く刃の切っ先がゆるやかに向けられた。
 
「極刑に値する」
881 :【2/3】 [sage saga]:2011/11/22(火) 16:22:29.84 ID:vBjcwSeqo
「違うっ、違うよっ!」
 
 ライナはたまらず、ダルクをかばうように二人の間に割って入った。
 
「逆なのっ、この人はボクを守ってくれたんだよっ!」
「守る?」
「ボクが悪い人たちにお金を盗られそうになったのを、傷ついてまで守ってくれたのっ!」
「ああ、そういうことでしたら話は簡単です。この少年とその窃盗犯はグルだった。
 ライナさんの信用を得るためなら、どんな芝居も打ちますよ。いかにも『闇』が考えそうなことだ」
「そんなはずないっ、ねえクルダっ、クルダも何か言ってよっ!」

 ライナはダルクを揺さぶろうとしたが、まだ痛みに苦しむその様子をみて手を引っ込める。
 手付かずでおろおろするライナ。様子を見守るライラ。無表情でいったん剣をそらすジェイン。
 そして、倒れたまま片手でフードを被りなおし、よろよろと上体を起こすダルク。
 
「……そうだな」
 
 ダルクは自嘲気味に笑った。
 
「その呼び方はやめてくれ。オレの名前は『クルダ』じゃない」
「あっ……えっ?」
「今までだまして済まなかった。オレは『闇』属性だ」
「!」
「でも」
 
 『闇のペンダント』を傷口に当てていたおかげで、ずいぶん痛みも引いていた。
 ダルクは弱々しく足を踏みしめ、ゆっくりと立ち上がった。
 目の前のライナを、やさしく脇へ押しのける。
 
「ライナに悪事をはたらく、なんて気は最初から全くなかった。誓ってだ」
「闇の分際で、何に誓うというのだ。邪神か? 地縛神か?」
 
 ジェインが少しイラついた口調で問いただす。
 さりげなくダルクがライナを呼び捨てにしたことが、しゃくに触っていた。
 
「誓うのは……オレ自身の存在にだ。この身に流れる血、矜持、すべてに」
「ハッ、話にならない。一介の『闇』風情の誓いに意味などあるものか」

 ダルクはジェインの顔を見据えた。攻撃的な光に目が眩む。
 しかしダルクは面と向かって言わずにはいられなかった。

「では、何かに『誓う』と添えたところで、真実が変わるのか?
 ただ一つの真実そのものは、捻じ曲がったり歪んだりはしないだろう。
 自分の抱く真実を『誓う』なら、何も後ろ盾は必要ない。自分ただひとりで十分だ」
 
 直後剣が振られ、ぴたりとダルクの眼前に止まった。
 ジェインはほぼ無表情だったが、ダルクはその顔にこれまでにない怒りを感じた。
 
「今のは我らの神を冒涜する発言だ」
「そういう形になってしまったのなら謝る。だが、訂正はしない」
「ならばライトロード・パラディンの名において、お前を断罪しなければならない」
「オレは何も罪を被るようなことはしていない!」
「つまらない遺言になったな!」
「やめてっ!!」
 
 ジェインの剣が空を舞うと同時に、大手を上げたライナがダルクの前に躍り出た。
 懐の杖を握りしめていたダルクは、ジェインとともに動きを止める。
 
「ジェインさん、お願い、やめてっ!」
「ライナさん、どいてください」
「いやっ! 絶対どかないっ!」
「私はただ、光の使命を全うしようとしているだけです」
「使命って何っ? この人を傷つけることが使命なのっ?」
「ライナさん……彼は『闇』なのです。あなたも危険な目に遭うところだったのですよ」
「でもっ、ボクだって『闇』なんて大嫌いだけど、ボクは、この人といて、楽しかったっ!
 後で何かされるとしても……今のこの人は、まだボクを守ってくれた恩人なのっ」
 
 ダルクは目の前のライナの背中を見て、彼女の名を呟いた。
 胸の奥がじわじわと熱くなっていくのを感じる。
 
「お願いジェインさんっ、どうか今回だけは見逃してあげてっ」
「しかし」
「ボク、この埋め合わせはきっとするから……お願いっ!」
「そうよジェイン、その子にはたぶん害意はなかったと思うわ」
 
 その時、今までなりを潜めていたライラが口を挟んだ。
 
882 :【3/3】 [sage saga]:2011/11/22(火) 16:23:59.65 ID:vBjcwSeqo
 その場の注目を浴びたライラは、パンパンに膨らんだ大きな袋を軽く持ち上げてみせた。
 ダルクが今まで持ち運んでいた荷物だった。
 どうやら彼女は、いざこざの間に勝手にダルクの荷物を漁っていたらしい。
 
「これ、その子の荷物だけど、中身はほとんど食料ばかりで、怪しいアイテムはなかったわ」
「……ふん。隅々まで調べたのか?」
「ええ。なんなら今ここでご開帳しましょうか?」
「結構だ。それにアイテムの有無が、彼が悪事を犯さなかったという証拠にはならない」
「まぁ別に私はどっちだっていいけど」
「ライラ、仮にも君はライトロードだろう。我々の使命を忘れたのか」
「もちろん何も引っかかるものがなかったら、『闇』である以上私もその子を裁くわ」
「ちょっとライラさんまでっ」
「でも、そう」

 ライラは杖先でライナを指し示す。
 
「その子の言い分もあるから……後味の悪い裁断は、乗り気じゃないのよ」

 一連の流れで、ダルクは違和感を覚えていた。
 このライラというライトロードは、基本的には『闇』を裁く姿勢でいながら、自分を助けようとしている。
 口で言っていること自体の理屈は通っているが、荷物を改めたのなら辻褄が合わない。
 
 ダルクの荷物には、武具屋で買ったナイフが入っているのだ。
 包丁や果物ナイフに加え、護身用にと買ったナイフ。
 ダルクの考えすぎかもしれないが、ライナの誘拐疑惑がかけられている中での怪しいアイテムというなら、
 刃渡りがそう短くないナイフは十分憂慮すべき代物なのに――。
 
「ジェインさんっ! この人は町に買い物しに来ただけなのっ!
 何も悪いことなんて企んでないのっ。ただ、ボクが勝手についてきただけでっ」
「……」
「ねっ、ジェインさんお願いっ! 今回だけは……」
「……」
 
 ジェインは表情を変えぬまま身動き一つせず、黙してじっとライナの目を見つめた。
 一度目をつぶり、今度はダルクの方へぎろりと目を向ける。
 ダルクの方も目は逸らさない。口を開かず、ただ睨み返す。

 実質三十秒も経たないほどの膠着だったが、両者の葛藤は悠久の時間を思わせた。
 ――やがて。
 
「ふん」
 
 ジェインの方から時間が動いた。
 苛立たしげに剣を納め、つま先を裏路地の出口へと向ける。
 
「ライナさんに感謝しろ。特例中の特例だ」
「……!」
「ジェインさんっ!」
「ただし」
 
 ジェインは吐き捨てるように言う。
 
「今すぐ町を出ていくことだ。そして今後この町に入ることは許さない。
 次に見かけたときは、地の底まで追ってでも貴様を裁く」
 
 ジェインは靴音高く、路地裏を出ていく。
 慌てて「あ、ちょっとジェイン!」とライラが後を追う。
 一瞬取り残されたかのように思えた霊使いの二人だったが、すぐにジェインの声が飛んできた。
 
「ライナさん。埋め合わせの一環です。すぐに我々のところへ戻ってもらいます」
「えっ?」
「早く。私の気が変わらないうちに」
 
 ライナは憂いを帯びた顔をダルクに向ける。
 ダルクは口元を緩め、「早く行くんだ」と小さく手を上げた。
 ライナは哀しげにうつむき、かすれた声で言う。
 
「また、会える?」
 
 ダルクはそれには答えず、ただ、精一杯の笑みを送った。
 ライナはその微笑に、胸の底を抉られるような切なさを覚えた。
 今ここで別れたらきっと後悔してしまう。そんな気がしてならない。
 
「じゃあな!」
「あっ待っ――」
 
 つかの間にダルクは荷物を拾い上げ、全力で反対方向へ駆け出した。
 荷物の重みも肩の痛みも忘れ、あらん限りの力を振り絞って疾走する。
 ライナが追ってこれないように、右へ左へ折れ曲がり、町の外まで、一直線に……。
 
 以上が、ダルクが初めての町で体験した全てだった。
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 16:41:32.39 ID:+pxnUY0IO
ちょっとジェインを因果切断するわ……
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 16:53:07.61 ID:Kxh6lePIO
乙!
ジェインを奈落に突き落としますね
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/22(火) 17:09:37.17 ID:wm9YpRzWo
キメラテック・オーバー・ドラゴンでジェインにニジュウレンダァ!!
ダメステにハーフシャット使いますね^^
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/22(火) 17:47:21.89 ID:FXnl/NB5o

ジェインに代償ホープレイ三連打を食らわせてやるぞ
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/22(火) 17:52:33.87 ID:AOu/iTDAO

ジェインはいい汚れ役になったな…
これから先評価が覆ることはあるのだろうか
というか居るよな大した意見も持たず口より先に手がでる奴
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/22(火) 18:51:36.55 ID:tvYK0a6Jo
最近更新速度上がってうれしいわぁ
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/22(火) 20:02:22.71 ID:nx61rQi20
これで全霊使いとのなれそめは終了か。
これからの展開が楽しみ。
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 20:11:55.23 ID:h1T13I/IO
トリシューラ「やあ、ジェイン君」
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 20:17:42.38 ID:QNy0ZTUGo

ちょっとサクリファイスにジェイン装備させてくる
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/22(火) 20:48:04.27 ID:tlikgu8x0
乙です。
ちょっとジェインに拷問車輪使います。
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/22(火) 21:15:01.29 ID:YAzwmruk0
Sin星屑「なあ」
真シエン「ジェインよ」
アスラピスク「闇属性が」
カタストル「どうとか」
ダムド「言ってたけど」
混沌帝龍「もう一回」
DDB「言ってみろよ」
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 21:17:16.42 ID:QNy0ZTUGo
てか、この世界だと開闢とかはどんな扱いになるんだろうなぁ
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 22:54:32.83 ID:J4MatR/IO
FGD「おいその言葉全部俺に言ってみろ」
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/22(火) 23:04:06.94 ID:tlikgu8x0
ジェインは何と言うか聖人ぶった傲慢チキですね。是非ダルクにボコられて欲しいです。
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/23(水) 00:02:30.58 ID:aOf/IbUO0
ジェインさーん?コザッキー先生からDNA改造手術の依頼が来てますよー?その後にキメラテック・フォートレス先生が面会を…、
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中部地方) [sage]:2011/11/23(水) 00:05:05.06 ID:Rk2hbEVk0
憑依装着すれば一応僅差で勝てるな
自分から攻撃した場合に限るが

それはそうと更新乙
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 00:15:34.46 ID:PHDDlq6h0
おまいらwww統率されすぎwww
ディサイシブ「ジェイン、お前は俺が裁く。あ?オネスト?甘えてんじゃねえよ」
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 01:35:22.67 ID:jfcrIR5L0
混沌の黒魔術師「ジェインさんチーッスwwwwww
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 02:37:03.06 ID:ca5/1CxD0
こうなるとアウスたちも危ないな
面倒なやつらだ
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 04:32:29.17 ID:Jvav3kjIO
ガンドラ「ライロ共除外したろか」
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 07:19:38.00 ID:1ecXQ6YIO
真紅眼の人達「やぁψ(`∇´)ψ青年きみを殺しにきたよ!」
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 07:46:46.60 ID:LjM9BXtOo
レス増えてるから期待して来てみればなにこの気持ち悪い流れ
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/23(水) 12:40:08.20 ID:As9Iz25so
そんだけ潜在的に住人がいたってことだろ
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 17:00:34.38 ID:Qvodrfwc0
>>904
こういう板は初めてか? 力抜けよ
作者更新の場合はageるもんだけど、今はsage進行だぜ
統率のとれたレスが多いのはいい流れ
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 17:25:55.02 ID:k+hxB6QSO
>>906
頼むからスレのことを思うなら波風立てないでくれ……
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 17:59:25.27 ID:eGS2ERvW0
>>903
飛竜「俺は風属性だけどね」
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/23(水) 20:47:20.26 ID:N8+NHFI50
香ばしいですね
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/24(木) 10:02:38.05 ID:RpXUQi5AO
A・O・Jは闇属性だけど正義の見方!
ジェインにはコアデストロイとアンノウンクラッシャーを派遣するよ
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/24(木) 15:46:42.56 ID:2ykZV5Ws0
>>910
カタストル「」
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 07:08:01.02 ID:jY/7HDOSO
ジェインさんが人気なのか、それともジェインさんが蔑ろにしたダルクきゅんが人気なのか。
とりあえず、皆がジェインさんに夢中になってる間傷ついたダルクきゅんのコントロールを、ビッグアイで頂こいていく。
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/25(金) 09:54:41.25 ID:H5cjOyC0o
手札からジェインを捨てて天罰発動で
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/25(金) 17:32:26.29 ID:HV0BxKx10
手札からジェインを捨ててサンダー・ブレイク発動で
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/25(金) 17:33:41.98 ID:HV0BxKx10
手札からジェインを捨ててマジック・ジャマー発動で
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/25(金) 18:02:41.52 ID:qFHH5TEAO
このタイミングでageられるとは思わなんだ
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/25(金) 18:04:02.78 ID:I34vJaNB0
手札からジェインを捨てて鳳翼の爆風で
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/25(金) 18:15:20.65 ID:hyoeGfX0o
そろそろマジでいい加減にしろ
くだらねぇ会話でレス消費すんな
この話の感想ならまだしも全然関係ないこと言ってる奴は回線切って氏ね
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/25(金) 19:45:56.69 ID:qFHH5TEAO
この手のレスは遊戯王系列じゃどうあっても発生するものだし、むしろ人気があって住民も楽しんでる証拠
読者が一過的に盛り上がっただけなら自然と収まりつくから、この程度の逸脱だったら汚いマジレスを頑張って喉に留めておくと幸せになれるよ。スレはまた立てればいい
1スレ投下しきった作者は素晴らしい、これからも応援してる
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(和歌山県) [sage]:2011/11/25(金) 19:58:55.12 ID:10rOSiV30
スレも終盤なのに30レス近くもダラダラダラダラ続けてるのは流石にどうかと思うよ
921 :1 [sage]:2011/11/25(金) 20:42:35.15 ID:E/AE/g2Bo
筆者としては、レスが付いてると嬉しい。これは間違いないです(0レスの辛さを知っていますから)
ただ別の多くの読者が見て、不快に感じるような流れは控えていただければな、とは思います
全ての基準は、常識からちょっとだけ飛び出した範囲内、ぐらいが望ましいですね

ではこのスレ最後の投下いきます
922 :>>882〜【1/2】 [sage saga]:2011/11/25(金) 20:43:37.80 ID:E/AE/g2Bo

 ――――
 
 ダルクはようやく自分の家にたどり着いた。
 
 町からの長い距離を、重い荷を負っての徒歩だったので、ところどころ休憩を挟んでの帰宅だった。
 したがって時刻はすでに真夜中を折り返していた。
 ダルクにとっては、あまり活動時間は残されていない。
 
 家に戻ってきたダルクは、まず使い魔のディーを外に放った。
 家回りの張り番を任せる前提で、ストレスが溜まらないように行動を自由にさせる。
 しかし宙をパタパタ飛んでいくディーの動きはいつもより鈍く、やはり疲労が溜まっているようだった。
 
「ゆっくり休むんだぞ」
 
 
 
 ダルクは家の中に入って一呼吸おくと、わんさかある荷物に手をつけ始めた。
 バカみたいに膨らんでいる袋の中身を上から順に取り出し、家の中の然るべき場所へ置いていく。
 
 台所には取っ手のついた床板があり、蓋を開くとそう狭くない食料庫がある。
 ダルクはそこに今日買った食料をまとめてつっこみ、適当に整理した。
 ついでに台所には、調理器具もしまっておく。
 ――自分もエリアのように、美味しいスープが作れるだろうか。
 
 居間に少し大きめのガラスの棚があるので、これを食器棚とし、コップや皿を入れる。
 棚の中の板を隔てた空間に、ポーションなどの小瓶の飲みものをまとめて並べておく。
 ――これでいつウィンがやって来ても、すぐに飲みものを出せる。
 
 護身用のナイフと防具は、杖やコートと同じように比較的玄関に近いところに置く。
 たちどころに物々しくなってしまったが、その分戦士っぽくて悪くない。
 ――しかしヒータを相手に肉弾戦をこなすには頼りないな。
 
 インクや羽根ペンは、本棚付近の勉強机に置く。
 さらに白紙を添えて机についてみると、一気に研究者の気分になった。
 ――もっともアウスにとっては、もはや生活に染みついている感覚かもしれない。
 
 やっと全ての片づけが終わり、ダルクは大きな息をつきながらベッドに倒れこんだ。
 ずきりと肩口に痛みが走る。刃に切り裂かれ、光の術をまともに受けたところだ。
 今回は『闇のペンダント』のおかげで助かったが、より強力な光の魔法を受けたら対処しきれる自信はない。
 ――ライナには、もう会わない方がいいだろう。お互いのためにも。
 
 
 
 ダルクはベッドの上で、仰向けにごろんと転がった。
 この四、五日で、外の世界がどういうところか随分と分かってきた気がする。

 自分がこれまで生きてきた闇と世界と比べると、なによりも平和だ。
 気立てのいい人が多く、無意味な争いが頻繁に起こる様子もない。
 あの血気盛んな猛者が集まるバーニング・ブラッドでさえも、見事な調和が保たれていた。
 この安心感に満ちた環境は、今までのダルクの常識ではあまり考えられないものだった。
 
 だがその分、安穏としすぎている。
 特に町を行き交う人々のほとんどは、「自分が痛い目に遭うはずがない」とばかりに油断しきっていた。
 まるで羊トークンの群れだ。牙を持てとは言わないが、せめて守備には徹するべきだろう。
 
 確かに町のスラム街に物盗りはいたが、闇の世界だとあのレベルでは子供だましにもならない。
 個々の腕力の問題ではない、本気で物を盗ろうとする心構えを指しているのだ。
 闇の世界の住人たちは本能の赴くままにそれを成すから、そもそも心構えなどは――
 
「――ああ、そうか」
 
 だからライトロードのような集団があるのか。
 『闇』のモンスターたちの多くは今ダルクが考えたように、こちらの世界の住人と元々の思考が異なる。
 それら罪科の芽を片っ端から排除、淘汰していけば、残るものは羊の群れ、平穏な秩序というわけだ。
 
 しかしやり方が極端すぎる。
 『闇』属性の中にも、理性に満ちた識者、徳をわきまえる理解者、争いを好まない平和主義者がいる。
 その全てを黒に決めつけて裁こうとするのは納得がいかないし、また驕りが過ぎるというものだ。
 外の世界にも、その思想を好まない者はいるだろうに――。
 
923 :【2/2】 [sage saga]:2011/11/25(金) 20:44:24.89 ID:E/AE/g2Bo
 ふとダルクは、エリアとウィンの警告を思い出した。
 「町では気をつけろ」と言われたが、確かに『闇』だったおかげで散々な目に遭ってしまった。
 『闇』の異端扱いは十分感じ取れたし、光の恐ろしさも文字通り身に染みて感じた。
 今晩無事に五体満足でこの家に帰れたのは幸運だったろう。
 
「……」
 
 仰向けのダルクは、ごろりと横向きに転がった。
 エリアとウィンのくだりで思考が逸れていく。霊使いのことだ。
 
 ダルクはここ数日で、奇跡的に全ての属性の精霊使いに会ってしまった。
 そして信じられないことに、軒並み自分と同い年くらいの女の子だった。
 男はまさかの自分たった一人。六人もいるのに、紅一点ならぬ黒一点だ。
 
 誰か男の一人でもいれば、これほど肩身が狭い思いをせずに仲良くつきあえただろうに――。
 別に、女の子相手と仲良くするのが無理というわけではない。
 ただ異性同士の場合、同時に別の意味も浮き上がってしまうのだ。
 関係は『友人』に留まらず、もう一段階上の結びつきにまで発展するおそれがある。
 友情とは別の、胸の奥底から呼応する固い絆で結ばれた関係――。


「恋人か……」


 師から恋をしろと言われたことがあるが、自分には到底無縁の話だと思っていた。
 ところが外の世界に出て、いきなり五人もの女の子と知り合うことになろうとは思わなかった。
 水霊使いのエリア。
 風霊使いのウィン。
 火霊使いのヒータ。
 地霊使いのアウス。
 光霊使いのライナ。
 それぞれが魅力的な容姿と個性を備えている。

 もしこの中の誰かが、自分の恋人になるとすれば――。
 
「いや」
 
 ダルクは失笑を抑えきれなかった。
 一瞬でも「自分と釣り合う女の子がいる」と勘違いした自分が滑稽だった。
 そもそも恋人がいないと決めてかかっているのもバカらしい。
 すでに相応しい相手がいるか、近いうちにすぐに見つかるだろう。
 彼女たちの大切な将来に、『闇』の入る余地はない。
 
 ニヒルな孤独者を気取っているわけではなかった。
 ただ現実を客観的にみて、当然の流れを結論づけただけ。
 
 でも――
 ダルクは思う。
 恋人は有り得ないとしても、友達ぐらいにはなってくれるだろうか。
 今はまだ知り合い程度だが、仮にも同じ精霊使いなのだし、勘違いしない程度にはみんなと仲良くなってみたい。
 
 友達。
 ダルクは寝そべったまま、再び笑った。
 今度は自らに対する嘲笑ではなく、浮き浮きするような、恥ずかしいような照れ笑い。

 これから先、どんな日々が自分を待っているのだろう。
 外の世界は広い。毎日が新たな発見の連続。明日も楽しみだ――。
 
 
 
 
 
 ダルクはベッドの上で眠り込んでいた。

 この先起こること。
 待ち受けるもの。
 結末。

 そんな言葉が無粋に思えるほど、ダルクの寝顔は深い眠りに溶け込んでいた。
 
 

924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/25(金) 20:52:02.17 ID:WeNyTAubo
>>919
何言っても無駄だと思う…、どう見ても慣れ合いでスレ消費し続けてるのに
>>906みたいに統率のとれたスレ(キリッ とか言っている方々だからね
925 :1 [age saga]:2011/11/25(金) 20:52:08.72 ID:E/AE/g2Bo


以上で各霊使いとの出会い編(?)は終わりです。
非常にストーリーのキリがいいので、次回更新は次のスレ立てと同時にやろうと思います
このスレの残りは感想・雑談にでも。頃合をみてHTML化依頼出しときますね
(もしスレ消化を好きに使うのがダメだったら即依頼出します)

皆さんのご支援のおかげで無事1スレ(といっても内容は152レスしかないですが)
を完走させることができました。本当にありがとうございました!
次スレも更新頻度ちょっと高めで頑張りますので、気が向いたらお付き合いください
926 :【まとめ】 [age saga]:2011/11/25(金) 20:55:31.39 ID:E/AE/g2Bo
【エリア編】
>>3-10 >>15-17
>>20-23(魔翌力=魔力)(ギコバイト=ギゴバイト)
>>28-32 >>37-39 >>44-49 >>52-54

【ウィン編】
>>60-63 >>72-74 >>83-87
>>107-112 ※>>108に同じ文章繰り返しのミスあり

【ヒータ編】
>>168-171 >>184-187 >>227-228
>>231-233 >>295-298 >>350-352 >>354-356
>>363-365 >>375-377 >>385-387 >>397-400
>>410-413 >>432

【ウィンのターン!】
>>433 >>458-461

【アウス編】
>>486-489 >>512-514 >>516
>>527-528 >>530 >>548 >>550-553
>>615 >>630-632 >>679-680 >>687-688
>>694-696 >>718-719 >>730-733

【ライナ編】
>>782-784 >>786 >>795-797
>>802-803 >>817-819 >>830-832
>>857-859 >>880-882


>>922-923


※〜編という言い方は全て出会いの話で、その霊使いとの関わりが終わった訳ではありません
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/25(金) 20:59:29.18 ID:H/81ktiD0
乙です。

やっぱり差別はダメですね。嫌な気持ちしか残らない。
ダルクの心情が良く語られていていました。
全員と深い絆で結ばれることを願います。
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 21:03:09.25 ID:hv6lCUKn0
完走お疲れ様でした。
質問なんですがウィンには直接『闇』だという事を話してない気がするのですが
最後の台詞はなんとなく気付いていたのでしょうか? それとも秘密でしょうか?
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/25(金) 21:03:30.42 ID:Y5alsUiTo

次スレ建てるまで雑談は控えよう
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/25(金) 21:20:12.47 ID:jFZUl8REo
タイトルに戻ったwwwwwwww おつー
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 21:21:20.65 ID:jY/7HDOSO
>>1乙っした。
次スレも付き合いたいです。ガンバレ!!
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/25(金) 21:25:58.29 ID:IL2FboRl0
次スレはいつ頃になるのかな
なんにせよ乙
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 21:47:51.87 ID:iJri1agao

次スレも心待ちにしてます
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/25(金) 22:07:42.36 ID:qFHH5TEAO

次スレも楽しみにしてるんだよ

良くも悪くもカードネタでレスが伸びるは遊戯王スレの特徴だし、読者が多ければ「統率のとれた」スレが増えるのはある意味必然
スレ終盤にも関わらず悪ノリが過ぎた感があるのは分かる
だがお気に入りSSで書き手失踪とかが珍しくなく逆に書き手としては作品へのレスが皆無でモチベーション下がり断筆とかがあるSS板において「統率のとれたレス=同志がいる=活気がある=いい流れ」ってのも少なからず正しいから過敏に叩くのも水を差すようで宜しくない

どっちの立場も作品楽しむのが目的なんだから、寛容な心を持ってポジティブに楽しめれば幸せになれるよ!
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 23:02:50.17 ID:RVRC+8ODO
どうでもいいからいつまでも長文引っ張んなよ

投下乙
もう一年半か
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中部地方) [sage]:2011/11/25(金) 23:22:32.41 ID:LsokUmH00

もう次スレかー
更新速度がゆったりしてた分なんか感慨深いものがあるな
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 23:42:18.91 ID:kza+PpeIO
かっこいいなダルク
ヒータとは戦闘しかしてないのに恋人候補とは
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 10:27:28.77 ID:WPFV3P3DO
お疲れ
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/26(土) 12:48:17.03 ID:2N6wQrf70
サンダードラゴン召喚っ【乙】

>>937
きっとツンデレに見えたんだよ
940 :1 [sage saga]:2011/11/26(土) 13:58:38.45 ID:QCOxoOtVo
くどくなりますが重ね重ね皆さん本当にありがとうございます
今はいろいろ準備中ですので少し時間がかかりますが、12月上旬にはスレ立てしておく予定です

>>928
その描写はうっかりミスではないです
一応「気付いていた」とだけ答えておきます
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/26(土) 18:36:22.86 ID:XNbXEyrIO
双頭のサンダードラゴン召喚っ!乙乙
ツンデレでひんぬーはすごい。俺の理想
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 20:06:01.16 ID:FEjII5xM0
乙!スレタイ回収&本編開始だな!
それぞれの霊使いの師匠はでてくるかなー?
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 20:06:32.56 ID:FEjII5xM0
乙!スレタイ回収&本編開始だな!
それぞれの霊使いの師匠はでてくるかなー?
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/27(日) 13:28:08.57 ID:5LmWYZRD0
次スレはよ
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 18:25:12.39 ID:0lJO0Z5IO
>>940も見てないアホの子はミチオンでLP半分になーれ
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 19:30:13.71 ID:52cjHqJ70
ドグマガイ「ライフ・アブソリュート!」
947 :妄想により鼻血が多々でる中学生 :2011/11/30(水) 01:32:07.76 ID:l2WJuk5x0
やべえ、ぱねえ
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/01(木) 21:30:41.75 ID:ZB/Mg1+Z0
>>940も見てないアホの子はサンダイオンで−LP4000になーれ
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/12/02(金) 00:38:33.55 ID:Rt8MS0eC0
>>940も見てないアホの子はキメラティック・オーバー・ドラゴンで「グォレンダァ!」
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 04:51:40.22 ID:l/xEF84IO
許してやれwww
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/02(金) 16:46:11.66 ID:aB7OIhLA0
>>949攻撃宣言時レインボー・ライフ発動で
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/12/03(土) 19:34:09.03 ID:WXc3+ydE0
トラスタで
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 22:36:57.39 ID:pimGnsGK0
ジェインさん、ライラさん、ついでにお父さんストラク再録おめでとう
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/12/03(土) 23:48:37.13 ID:BFmzQQ9AO
ジェインとライラだけレギオン再録とか皮肉すぎるだろww
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 10:49:17.36 ID:raYNJgBA0
ここにOCG情報書きに来るだけの奴なんなの
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 13:50:51.67 ID:s0aQJXxt0
別に度が過ぎなければいいんじゃないの
一応遊戯王スレなんだし
957 :妄想により鼻血が多々でる中学生 :2011/12/05(月) 20:53:05.01 ID:27UrAIdZ0
今思ったけど「ライトロード」って専用のフィールド魔法があたような気が・・・・・
ラウラ・ボーデヴィッヒ「貴様はこんな所で油売っていたのか!持ち場に戻れ!!!」
グヴォア!!!!!!!!!!!!!
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 00:15:49.84 ID:W4FqTMUYo
くっさ
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします? :2011/12/07(水) 22:02:32.86 ID:5J6kK9650
乙! 次も期待しとるよ〜
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りするお^^ :2011/12/07(水) 22:05:14.93 ID:5J6kK9650
ホルアクティは鬼畜だったwwww
961 :霊使いデッキを使用しているデュエリスト :2011/12/08(木) 15:50:13.92 ID:JJHuCFlDO
新参者です。
突然ですが、みなさんにお知らせです。
Gelbooruと言う画像サイトに、霊使い全員が学生服を着て並んでいる画像がありますよ。
よかったら、見てください。
(ちなみに、僕はPSPで画像を保存して表紙にしてあります)
962 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 15:52:34.05 ID:cP46GrC4o
ひどすぎワロタwwwwwwww
963 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 15:57:18.66 ID:6rbe94sAO
アゲンなカス
964 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 16:29:54.96 ID:0Md59hr8o
釣りにしてもやばすぎる
表紙って
965 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 22:07:46.30 ID:iggxHIG6o
一気読みした
ジェインみたいな奴、いるんだよなぁ
966 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 00:15:33.75 ID:1lEoYZwIO
>>961
本当ならもうちょい詳しく説明して
967 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 20:44:15.94 ID:V6qdppZn0
新スレできたらリンク張ってほしい
968 :名無し [sage]:2011/12/10(土) 13:41:10.01 ID:HzHbBT2DO
次スレはまだなのか・・・
969 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 16:16:22.43 ID:ZRSjA7WIO
黙って待て
970 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 19:57:00.95 ID:J+YC2HMSO
上旬って何日までだっけ?
もう中旬に差し掛かっているのでは
971 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 22:33:04.52 ID:R1IGrORVo
予定だからな。まぁこんな気はしてたさ。年内来るかも怪しい
スレ立ては任意効果だから下手すりゃこのままタイミングを逃してエタるかもな
972 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 22:53:22.04 ID:hGsJLyfIO
頼む!捨てないでくれ!>>1がいなければ私はっ!
973 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 11:27:21.70 ID:hqz31KPIO
次スレが立たない絶望……
続きが書かれない絶望……
スレさえ失う絶望……
974 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 15:29:01.55 ID:FgiDVS4R0
まあキリのいいところまでは書かれたしここで終わりでもいいんじゃね
975 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 15:34:32.87 ID:tuiNAhlVo
去年もこんな感じだったから後二ヶ月もしたら書かれるんじゃね
976 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 17:06:52.74 ID:MMNMltjb0
たぶんだろうけど>>1はスレ建てたらある程度は投下しなきゃいけないと思ってんじゃね
んで書き溜めできてないからまだ建てないと
977 :霊使いデッキを使用しているデュエリスト :2011/12/12(月) 18:02:36.55 ID:XdHeOCHDO
>>966

学生服を着ている霊使いの画像サイトのアドレスです。

http://jig110.mobile.ogk.yahoo.co.jp/fweb/1110tygJyaQXii54/cD?_jig_=http%3A%2F%2Fwww.gelbooru.com%2Findex.php%3Fpage%3Dpost%26s%3Dview%26id%3D1335957&guid=on&_jig_xargs_=R&_jig_pj_=1
978 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 19:32:54.25 ID:usqmcKZAO
絵サイトからの転載じゃねーか
979 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 19:32:54.56 ID:FEp7EO900
>>977
サンクス
この制服、どっかで見たことあるような……
980 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 20:33:14.78 ID:hqz31KPIO
>>977
もう来なくていいぞ
981 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 21:16:43.97 ID:aBCBHT/IO
>>977
pixivにあったよ
982 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/13(火) 16:18:35.62 ID:6WSLdOzoo
次スレ誘導
闇霊使いダルク「恋人か……」 U
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1323759844/
983 : ◆7wX5w4kzRc [age saga]:2011/12/13(火) 16:20:18.30 ID:6WSLdOzoo
追記:次スレを立てるに当たって

まずは遅れて申し訳ありませんでした。言い訳はしません、待たせて本当にごめんなさい。
以後は安易な更新の時期設定は控えるようにします……

では本題です
この場を借りて、次スレのテンプレ等をスマートにするために、新スレに追加した要素などを補足させて頂きます

・今まであえて作らなかったのですが、今回から筆者用のトリップを作成しました
 やっぱり騙りとか怖いですしオスシ。自分は常に固定はせず、必要に応じてつける形を取りたいと思います

・「SS-Wiki」←結構前から、ちゃっかり自分でこのSSのページを作っています
 ストーリーの進行にともない、気付かれない程度にちょくちょく更新していこうと思います

・【前スレまでのあらすじ】←必要な方に(主に自分だったり)。
 ちなみに語り調子のやりたい放題で書こうかなと思ったのですが、SSのイメージが誤解されそうなので普通にしました

・以上のように、新規の方もとっつきやすいように間口を広げました
 断じて現状に不満はありませんが、誰でも気軽に読めるSS目指して頑張りたいと思います
 
・荒れる原因の芽は、自分が気に入らないと思うレスに応じることから。大人のスルーを心がけましょう
 あまりに酷いようでしたら、自分がトリ付きで注意を促したいと思います
 
・いきなり作者様()よろしく偉そうになって申し訳ありません
 最初の頃より読者の方が増えたので、最低限はと思われる世話を焼いた次第です
 今後とも、気が向きましたら是非お付き合いください
984 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 17:40:59.59 ID:AfrtVs7SO
乙。
なんとか続くようで安心した。

荒れたりするのは、ある意味では、面白い作品書いてる証拠でもある。
当然見てて気分のいいものでもないだろうが、あんまり思い詰めずに伸び伸びと書いてくれ。
985 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 09:23:03.11 ID:SWtP7A1V0
このスレは埋めた方がいい?
986 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 19:12:19.59 ID:Gn65FvdR0
埋まったらこのスレ消えたりするの?
987 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 19:25:02.91 ID:3JjYYisAO
埋めるなら遊戯王しりとりでもするか

ウィン
988 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 23:29:19.12 ID:klUxsOxko
ンドゥール
989 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 23:36:50.15 ID:FKu97j+Zo
ルーレットボマー
990 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 08:54:29.25 ID:35hdeJEy0
マーダーサーカスゾンビ
991 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 15:25:16.97 ID:cvuA/pd+o
ビーン・ソルジャー
992 :妄想により鼻血が多々でる中学生 :2011/12/17(土) 19:11:10.16 ID:cfdYMk9M0
ビーン・ソルジャー? 最後はあ?
それともや?


あと仮定して、アームド・ドラゴンレベルエイト
993 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 19:25:28.16 ID:ZECQcmF9o
トーチ・ゴーレム
994 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 19:28:15.68 ID:g3oZVPGDO
無限の手札
995 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 19:31:13.61 ID:mZCoEloDo
大成仏
996 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 20:02:20.32 ID:ESLc9sOSO
ツインテール
997 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 21:29:14.04 ID:/uHxJhuy0
ルート・ウォーター
998 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 21:33:10.63 ID:9ZBMvOw0o
タなのかアなのか

アと仮定してアームズエイド
999 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 01:16:14.39 ID:eKpDcYzDO
ドラゴンゾンビ
1000 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 06:27:06.45 ID:1skSBycIO
ヴィクティム・サンクチュアリ!
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インフィニティ() @ 2011/12/18(日) 05:09:42.38 ID:MqJymPdj0
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低身長とお遊戯 @ 2011/12/18(日) 04:42:34.16 ID:AWenE92DO
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確実に実らない恋を実らせたい @ 2011/12/18(日) 01:09:42.71 ID:ewacfVwF0
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一緒にギャルゲ@ぱられる(仮)ver.2 @ 2011/12/18(日) 01:07:26.81 ID:ppE/CJ/30
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ポケモン総合BWネゴ大会スレ @ 2011/12/18(日) 00:27:53.25 ID:hOkot09t0
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【W雑】初心者も歓迎するAA雑談【避難所】 @ 2011/12/18(日) 00:18:21.03 ID:pUglbhT5o
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暇な奴ら雑談しようぜ8 @ 2011/12/18(日) 00:14:27.99 ID:mMvaDdvGo
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毎日食べたいほねっこ @ 2011/12/17(土) 23:19:52.85 ID:AM0wriPPo
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