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上条「なんだこのカード」その2 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/01(金) 10:35:43.70 ID:NYUS4SAo
1の安価に従い代理スレ立てしました。

前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=news4gep&key=1275618380&ls=50
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/

少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 10:38:05.86 ID:hziD9gDO
てめえスレタイもっと捻れや
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/01(金) 11:53:04.02 ID:xs/.L7Yo
スレ建てありがとうございます

>>2
下手に地雷踏んで、流れ知らない人が「俺の涙子が爆散だと…許せん!こんなクソオナニースレ荒らしてやる!」ってなるよりよっぽどましということで


代理スレ建てを頼んでいた前スレ>>1でございます

このスレは主に>>1の低レベルな妄想による、禁書以外の映画や漫画・小説などに影響された、原作キャラクター・能力定義崩壊祭りのオリジナル(暗黒微笑)ストーリーが展開されております

微妙にオリキャラ的な何かも登場します。急に自爆して舞台から引き下ろされる不遇キャラクターも過去に何度も登場しました

そういうのが無理だ氏ねって人・佐天さんが好きすぎて爪先から耳の穴まで舐め回したいって人が読むと不快感と戦うことになるので至急逃げ出すことを推奨します


きちんと完結はさせる予定です

願わくは、このスレで完結しますように……いやpart3とかマジで無しやで
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 13:38:46.90 ID:2UW7gcDO
>>4なら3周目から佐天さんまじかわいい
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 14:48:57.18 ID:fmnM4RU0
>>5なら第二期で佐天さんエロカワイイ
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 14:54:39.14 ID:zN4As52o
>>6ならこれからも素敵な佐天さんの爆散をお楽しみください
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/01(金) 15:07:13.10 ID:2RhnDWg0
>>7なら佐天さんが汚い花火を打ち上げてくれる
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 15:19:26.98 ID:VI2rHIDO
上条「8なら…、誰もが笑って誰もが望む…そんな世界を……あ、佐天さんは別よ」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 16:50:10.99 ID:FOoZKQDO
9ならクローン佐天さん達が千の風になる
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/01(金) 19:12:58.63 ID:7WhltEk0
ところで佐天シスターズもMNWのようなネットワークを形成してるの?
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 01:49:59.64 ID:c29mnESO
>>1のはギコナビのアドレスだっけ?
一応、前スレの正規のアドレス

上条「なんだこのカード」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1275618380/
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/02(土) 14:44:27.34 ID:8/1c1RUo
>>10
あれはなんか電波使ってリンクしてるから発電能力とかそういう系の奴らじゃないとできないんじゃないの?

まぁ原作読んだことないから想像だけどね
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/04(月) 17:53:51.90 ID:XUnY.wDO
一周め麦野はかわいかった
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/04(月) 19:42:28.02 ID:e70IPIDO
二期が始まったら佐天さんなんて忘れさられちゃうんだから今のうちに目立たせないと
だから華々しく飛び散ってほしいな
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/04(月) 19:55:32.31 ID:dqHtQaoo
チン      ☆  チン       ☆
       チン    マチクタビレタ〜   チン     ♪
           ♪
    ♪          ☆チン    .☆   ジャーン!   マチクタビレタ〜!
        ☆ チン   〃  ∧_∧  ヽ         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          ヽ  ___\(・∀・ #) /\_/ <  >>1まだー?
        チン    \_/⊂    つ    ‖     \__________
           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|     ‖        マチクタビレタ〜!
        |  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:| :|   /|\
        |             |/
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/04(月) 20:19:50.21 ID:gvOOT/Eo
ぺーすがおそいっす!
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/04(月) 21:28:55.68 ID:ZoKwVR6o
そう焦るなよ
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/04(月) 23:13:44.28 ID:RdFCGEDO
佐天さん爆発させるためにチャージしてんだよ わかれよ
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 00:06:42.50 ID:5wu598k0
どうせ爆散させるんなら派手に頼むぜ!
一周目はあの暴れっぷりの割りにあっさり退場しすぎて読み飛ばしかけちまったからな・・・
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 03:25:10.61 ID:RW025/Mo
土御門「神の右席に、アメリカの台頭か」

イギリスとの連絡を終えて、呟いた

知った内容は、彼を驚愕させるには十分だった

大規模術式を受けカーテナを持ってしても満足に迎撃出来ない強度となったフランス魔術軍、それに押仕込まれたイギリス勢を科学の手勢で押し返したアメリカ駆動鎧部隊

送られた画像には、学園都市の裏の裏まで見てきた土御門も見たことの無い駆動鎧が映されていた

技術的な流れは確かに学園都市から来たものも組み込まれているだろうが、根本的に設計思想が異なるように見える

土御門(これが独力で作られたものならば、技術水準は少なく見積もっても学園都市と同等)

土御門(純粋な経済力、外交力ならあっちに軍配が上がる。背景の艦は目立った特異性が見られない。軍事力の面なら、まだ駆動鎧を量産するにとどまっていると見えるが)

土御門(フランス部隊の半分はローマ勢。つーことはイギリスを攻め落とすとはいかないまでも、最低限有利な影響力を与えたかったようだが。残念だったなバチカンの連中は)

土御門(しかし、そこまでして今更イギリスを取り込みたい理由が見えない。奴等が逆転を許すレベルにアメリカ軍を過小評価してたことは、アメリカの脅威が有っての行動という線が消える)

土御門(奴らを慌てさせる何かが他に有る、のか)

彼自身も魔術師である。そしてイギリスの必要悪の教会のメンバーでもある以上、どうしてもローマ正教の方へ主眼が向かう

だが、そのローマ正教の勢力を力を知ってるが故、アメリカの力を際立って考える

土御門(これは評価を改める必要があるだろうな)

いわば第二科学サイドの登場。彼の頭にはそう刻まれた

土御門(アレイスター曰く、そんな連中に本家の科学サイドがかき乱されて理事員の派閥争いに油を注ぎ、研究者や技術者の流出をももたらしている)

土御門(理事会の連中も、事実を知らない馬鹿集団という訳ではないだろうに。いや、これもアメリカの工作か)

土御門(だがなぜ、アメリカが学園都市を壊すと予言できる?アレイスター自身がアメリカに睨まれるようなことをこの都市でしようとしているとでもいうのか)

土御門(東の大陸。海原が所属していた中南米のことならまだしも、北米の事は今まで関心が薄かった分有力な情報源が無い)

土御門(とりあえずは、海原にそのあたりの情報を聞いてみるべきだろう。奴が口を割るか不明だが )

店内でドジっ子を演じつつ動き回る冥土服の女性定員を眺めつつ、彼はそんな事を考えていた

土御門「あ。そう言えば、ナチュラルに学校忘れてたぜぃ」
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 03:30:02.34 ID:RW025/Mo
黄泉川「なんだ、あの馬鹿三人は休みか」

とある高校の体育の授業で、教師は呟いた

「三人とも無断欠席でーす」「どうせまたそろって馬鹿な事でもしてるんでしょーよ」

準備体操をしながら、口々に生徒は答える

黄泉川「あいつらが居ないと授業する側は管理が楽でいいが、学校舐めてるとしか思えないじゃんよ」

吹寄「次の授業でみっちりしごいてやってくださいね!」

黄泉川「おー、もちろんじゃんよ。一日が24時間しか無いことを後悔させるほどに疲れさせてやるじゃん。よぉし、準備体操はこんなもんでいいじゃん。次は……」



一方「ほォう、三下の野郎また入院してるのか」

打止「なんだか階段から落ちたらしいよー、ってミサカはミサカは手に入れた情報を得意げに言ってみる」

男は、一瞬、ほんの少しだけ顔をしかめた

一方(化けモンみたいな速さに身を慣らしてる奴が階段からこけたりするかァ?)

一方「ンンー?。ま、ちょいと三下に会ってみるか」

打止「え、え、アナタあの人と仲良くなってたの?」

一方「休日の朝っぱらから部屋に行く程度ってとこかァ」

打止「えっと、でも、その、きょ、今日はいいんじゃない?ってミサカはミサカはあなたが行かない様に試みてみる」

一方「なンだァ?俺があいつを見舞っちゃ駄目ってか。つーか、今日退院のヤツを後日見舞うなンて出来ねェだろ」

打止「えっと、所詮検査入院なんだし、わざわざあなたが見舞う程じゃないってミサカはミサカは」

一方「言っちまうと、向うが逃げれねェ場所でちょいと問い詰めたいことがあるってのが本心なンだよ」

打止「えっと、その、うーん」

一方「オマエがあの医者のところに行っている間にちょっくら顔を出す程度だ。特に何かやらかすつもりはねェから安心しろォ」

打止「あなたが云々じゃなくて、むしろあの人に問題があるというか、邪魔しないでと言われているというか……」

一方「なんだそりゃ?あァもう、どうでもいい。ンじゃ、あとでな」
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 03:38:05.27 ID:RW025/Mo
少し小洒落た喫茶店で、座標移動の能力を持った女は待っていた

いつもの奇抜な格好では無く、他の女学生と変わらないような服装を身にまとい、コーヒーとケーキを頼む

ミルク三つという少し珍しい頼み方をしたのは、彼女がそういう飲み方が好きだからではない

結標(まぁ、有りがちな方法よね)

端的に言えば、合図。彼女がその目的で来た、という

結標淡希は立場的に学園都市支配体制側の人間である

可能性的には彼女が彼女に誘いをかけた連中を捕まえる為に、周りに都市側の人間を配備して、彼女に会いに来た人間を確保したり罠に嵌めたりということも考えられる

故に、誘った側は彼女に会う前に彼女の周りにそういう人間や設備が無い事確認しなければならない

これはその為の一手間だった

洋菓子とコーヒーが渡され、特に警戒することも無く食べる

彼女にも彼らを陥れるような気は無い

会うだけあって、勧誘組織の程度を確認してしまえば良いのだ。無駄な手間をかけずに終わらせたい

結標(しかし、例えやるにしても、どんな方法があるのかしら)

結標(中はAIMジャマーが張り巡らされていて、私達能力者にとって鬼門)

結標(他にもガードが居るだろうから、それを考えるとかなりの戦力が必要になる)

結標(成功しても、そこから学園都市と関係が薄い場所まで逃げなきゃならないし)

結標(どう考えているのか、少しは聞き出さないと)

そう思って、彼女はコーヒーに口をつける

店の入り口から、カランコロンと鐘の音が店内に響いた

青い髪の男が、立っていた
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 03:40:58.80 ID:RW025/Mo
自分が佐天涙子だと思っている少女は、ベッドで目を覚ます

無機質な部屋に、大型で何の働きをしているのか分からないような機械が多く配置され、自らの体にいくつもの電極が刺さっている

こういう経験は、つい最近にもあった

少しぼやけた思考を整え、自分が何のためにここへ来たのかを思い出す

体に刺さった電極やパッドを強引に引き剥がし、人間ドックできるような簡単な布製の服のまま部屋を飛び出した

嫌という程、落ちついていた

薄暗い廊下は、来るときに通った道とは違う

佐天(こういうときは、右に行こうが左に行こうが、結局は結果論になる。右だ! )

廊下をペタペタという足音を立てつつ進む

持ってきていた武器はもちろん回収され、今の自分には満足な服も無い

一番最初に見えた扉の部屋へ

どうでもいい部屋であってもいいから、何か服と武器になるものが欲しかった

だが、そこにあったのは人の形をした、鋳型のようなものがずらりと並ぶ部屋だった

どれも同じ形で、恐らく女性の形のものであろう。胸部に膨らみが有る

天井からつられたそれが、延々と奥へ続く

佐天(これ、何?)

触れてみると、温かかった。人肌、という感じだろう

奥の方へ進むと、それまでとは違う型の鋳型があった。男性の物で大柄だった

触れてみると、冷たい。今は使われていないような感じだ

その時部屋の入口の方から、ゴトン、という音が広い部屋に響いた
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 03:44:23.39 ID:RW025/Mo
音のもとへ

そこには、一人の少女が立っていた。そして天井に吊られた鋳型らしきものの一つが開いていた

全裸の少女は、間違いなく見覚えのある形をしている

佐天(アタシ? )

自分の気配に気づいたのか、少女の顔がこちらを向く

が、表情の無い顔はすぐに視線を戻し、部屋を出て行った

目的が有りそうなその動きは、彼女が後ろをついていくには十分だった

佐天「ねぇ、どこにいくの?」

後ろから声をかけるが、答えが返ってこない

なにか違和感を感じたが、そのまま黙ってついていく

先程と異なる部屋に着いた。吊られている、前に佐天が初めて自分と同じ姿をした少女を見たときに着ていた白い服を、少女 は手に取り身につけ始めた

白い服を身につけた少女は部屋の両脇にあった筒状の装置を開き、自らその中に入った

その装置が完全に締まったのを見届けて、佐天はそのそばに寄る

薄暗い空間の側壁にこれまたずらりと並ぶ円柱状の装置

小窓から中を覗くと、自分と同じ姿をした少女が皆同じ姿で目を閉じて立っている

先程少女が立っていた所にもどると、例の服が吊って有った場所に次の服が吊られていた。無くなったら次の物が降ってくるのだろう

タダの布切れのままでいるのもなんなので、佐天も同じようにその服を手に持った

同じ素体のハズだ。この服は自分にぴったりと合うだろう

目の前で着替えられたので、着方も分かる

だが、入らなかった

佐天(あれ、アタシ太った?他の自分に着れて自分が着れないのはショックかも)
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 03:50:00.25 ID:RW025/Mo
海原「いえ、こちらも。………はい、はい。分かりました。それでは。はい」

電話をポケットに戻し、そばに立っている少女へ顔を向ける

海原「仕事の同僚と今から会いに行きます」

ショ「ツチミカドと言う奴か?」

海原「そうです。ご存知で? 」

ショ「面識は無い。貴様を殺す為に調べ上げただけだ。信頼に足るのか」

海原「ウチの組織内には信頼できる者は居ないですよ。組織はストイックですが、彼は信用はできる人間ではあります」

ショ「少なくとも魔術師ではあるようだ。原典の怖さも知っているなら、下手な手は出してこないか」

海原「むこうも向うのルートで調べていて、お互いがお互いを利用しようと考えてるんでしょうね」

ショ「この都市に入ってしまってから、情報規制で組織のルート以外で外部の情報が入って来なかったからな」

海原「彼はマルチな活動をしている人間ですが、そういう状況はあなたと同じでしょう。特に最近は忙しかったのも有りますしね」

ショ「忙しい、か。内部の人間が内部の人間を削除する様になれば、尚の事外部へ逃げだすのが人の心理というものだろうに、愚かだな、学園都市の上層は 」

海原「巨大組織には有りがちな事ですよ。上層は上層でくだらない覇権争いをしている」

ショ「気付いた時にはその組織は潰れる。よくある筋書きだ。科学の連中は歴史を学ばないのだな」

明らかに見下した物言いと語る眼

海原「ふふっ」

ショ「何を笑う? 」

海原「いや、この都市にはみんなあなたと同じ年齢の人がたくさん。その中で肌の色や顔の作り、その上魔術なんて言う超能力の正反対の立場に有るあなたです」

海原「その上偉そうに一人前の組織論を述べる。しかし、やっぱりあなたも他の女の子と同じですね」

ショ「馬鹿にするな。そこいらの餓鬼とは経験してきたものが違う」

海原「それでも同じですよ。少なくとも、口の周りに洋菓子のクリームを付けて、幸せそうな顔を浮かべてる以上はね」

褐色の少女の肌にうっすらと朱色が見て取れた。それを感じてか、慌てて残りのケーキに手を付ける

少なくとも日中ならば、狙われているとしても、人目で目立つことはしないだろう。そういう訳で彼らも喫茶店にいるのだ

決してショチトルが街中で店に視線を熱心に送っていたからという訳ではない。多分

海原「そんなに慌てなくても。少々彼を待たせてもいいでしょう。ゆっくり味わうぐらいの時間的な余裕はありますしね」

そう言ってコーヒーカップを口元へ運ぶ海原の仕草には余裕が有って、それでますます、少女は赤くなった
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 03:55:50.42 ID:RW025/Mo
常盤台の制服をした二人の少女が例の病室の付近まで来ると、白髪の細い男が正面から現れた

表情から、若干苛立っているようだ

立ち止まり、怪訝な顔をして一方通行を見ると、彼もこちらに気が付いた

一方「いよォ超電磁砲」

御坂「なんであんたがこんな所に居るのよ」

一方「あァン?俺が病院に居ちゃ悪ィのか」

御坂「そ、そうは言わないけど。まさかアイツに何かしたの?!」

一方「アイツ?あァ三下のことか。ただ様子を見ただけだ。なンもしてねえ。むしろされたって言えr」

御坂「へぇーLV0の事なんか気にするなんて、第一位の名前が泣くわよ?」

一方「弱い犬がキャンキャンわめくのも見苦しいと思うがなァ。ま、お前はかなりイラッと来るかもしれねェから気を付けろよォ?」

御坂「ご忠告ありがとう!でもね、あんたが部屋から出てきた時点で既にイラッと来てるわよ!これ以上ないほどにね! 」

一方「ハァ……好きなだけ吠えてろ雌犬。とりあえず注意してやったんだから、感謝しろよォ?」

御坂「あんたに感謝する事なんてないわよ!! 」

通り過ぎた後ろで叫んだ少女を見向きもせずにモヤシは去って行った。杖をついてはいるが、その足取りはかなりしっかりしていて杖の必要性が読み取れない

白井「さっきの方がどなたか知りませんが、病院内で叫ぶのは頂けませんわ、お姉さま」

御坂「あ、うん。ゴメン。ちょっと訳があってね」

白井「どんな訳かは知りませんが、見舞いの品を握りつぶされては貰う方が悲しむというもの」

力を込めたからか、クッキーの入った箱が見事に変形している。確実中の何枚かは割れたであろう

御坂「げ、箱も焦げてるし。どーしよ、コレ」

白井「当麻さんなら気にせず受け取ってくれるのでは?お姉さまがどういう方か良く知っているでしょうから、察してくれますよ」

御坂「えらく辛口な助言をどーも。なによ、私がいっつも何か壊してるみたいじゃない」

白井「お姉さまが活動して物を壊さない・変形させない・焦がさないのどれか一つたりとも起きなかった事って、逆に珍しいのでは?」

御坂「……そんなこと、ある、かもしれないけど。さ!さて、この部屋よ」

部屋の前で少し身だしなみを整えて、ノック。返事もろくに聞かず、その扉を開いた

視界に上条と、その取り巻きが入った瞬間、LV5の電撃使いは第一位の言った意味が分かった
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/05(火) 03:57:32.50 ID:RW025/Mo
とりあえず今日はここまで

すこし実家でいろいろあって遅れました

多分明日も同じくらいの文量を投下できると思う
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 04:59:55.87 ID:pYS.LUAO
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 08:49:34.67 ID:azNUojoo
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 08:52:41.53 ID:XfqaxsSO
あわきん逃げて

と言いたいところだが、今回の青髪は完全に敵なのかどうか
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 19:07:43.72 ID:FJyQ4Hgo
乙です
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 20:40:42.57 ID:rzd.IIEo
青髪もどうせ量産されてんだろうな・・・
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/05(火) 22:50:07.63 ID:c4e8oAQ0
>>1
上条さんは病室で妹達と一緒にいるんだろな
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 05:36:29.73 ID:.J5QJUAO
男の鋳型は使われてないみたいな描写あったし青髪は少しはいるかもしれんけど量産はされてないんじゃね
しかし佐天さんクローンと同じ服なんか着たら自衛能力ないし今度こそ敵と間違えられて殺されちゃうぞ
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 08:18:17.75 ID:CMYhbyMo
幻生「残念ながら、その服は君用じゃない」

いつの間にか後ろに立っていた老人が、そんなことを言った

幻生「そこに鏡の代わりになるものがある。自分を確認してみなさい」

言われるがままに、液体の詰まった透明な何かの前に立つ。光の関係でそれは、鏡とはいかないまでも、佐天の体の像を反射させるには十分だった

佐天「……ん?」

そこに写った姿は、裸の女。先程自分が見た少女の体とは、格段に発育レベルの進み具合が異なった、体

伸びた身長と、成長した豊満な胸。そして何よりも異なるのは、体の筋肉の成熟具合だった。腹筋は綺麗に割れ、腕や太腿は 太い

もちろん、脳は驚きの感情を吐いた。しかし驚きが顔に出ることも無く、彼女はそれをそのまま受け入れた

幻生「着ることは出来ないのは、明らかだろう?」

佐天「そう、ですね」

先程感じた違和感は、この声が原因だったのだろう。日頃使っている自分のものではない

幻生「それに、君にはその服は必要ないんだ」

佐天「どういう理由で?」

殆ど無表情で、佐天は聞き返した。不気味なしゃべる人形のようだ

幻生「……少し薬が強かったか。うるさいのも考えものだが、感情が無いというのは意思疎通に非効率性が出るな。改良するとしよう」

佐天「薬……?本当にあなたは他人の体を弄るのが好きなんですね」

幻生「そういう研究なのでね。当然だろう。さて、その服についてだが。基本的にその服は戦闘能力向上を目的に作ってはい るが、最大の役割はそこでは無いのだ」

幻生「君と同じ姿をした彼女らは、正確にはクローンでは無いのだ」

幻生「培養を繰り返して作る従来の方法は、時間というコストがかかり過ぎるという欠点が有った。それを解決したのがこの方法でね。いわばプレハブ式クローニングだ」

幻生「素体となる人間の体細胞から増やして作るのではなく、部分クローニングで体の各部パーツを並行して作るという方法だ」

幻生「こうすることで一人のクローニングに必要な時間は10分の1以下に抑えられた。その上、パーツのみを強化するという方法もとれる様になった。純粋培養のように遺伝子ベースのバランスを整える必要も薄まった」

幻生「ただ、欠点が一つ。急増した体は非常に脆い。その持ちを何とか伸ばしてやる必要が有った。崩壊を止めるため生まれたのがこのスーツだ」

幻生「異質物への抗原抗体反応を抑え、ホルモンバランスを整え、死亡時に異常なペースで放出される腐敗ガスを可燃材として焼却に利用する」

幻生「そしてこれが今の君に必要ないのは、君自身は成長後ベースとして作られた、純粋培養クローンだからだね。少し前の君は部分クローニングの試作型で非常に脆かった。来るのが2日遅かったら【君】という思念は永遠に消え去ってしまっただろうな」

佐天「成長後、ベース。アタシが、クローン。じゃあ、成長前の本来のアタシは……?」

幻生「部分クローニング、と言った。それでも見たいかい?」
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 08:21:18.69 ID:CMYhbyMo
部屋の中には、先客として常盤台の制服を来た少女が4人ほど居た

一人の入院患者を取り巻くようにして、かなり近い位置でベッドに腰掛けていた

クローン体である彼女たちは、そのベースよりも直情的な行動に出る

それは、人生経験が極端に短いという、赤ん坊や幼児たちがそうであるのと共通の理由から来ているのかもしれない

理由はともかく、某超能力者と同じ姿をした少女達がその両手を伸ばし一人の男に絡みついている

上気した顔は、日頃無表情な彼女たちのそれとは比較にならない程、紅色に染まっていた

所謂ハーレム状態である。別に服がはだけていたりする訳ではないが

上条「おお、御坂。お前も来てくれたのk」

包装ごと変形した見舞の品(クッキー)が中心の男めがけて、飛んだ

御坂「何やってんだアンタはぁぁぁあぁあぁああ?!」

上条「おおぅ、いきなり御挨拶ですなー。コレ、差し入れか?」

右側から飛来した箱を左手で掴み、破れた包装の隙間から覗き込む

その怒声を気にせずに絡み続ける妹達。自分と同じ姿の連中にキツイ視線を送るが完全にスルーされる

御坂「そうよ、じゃ な く て !!どういう経緯でこんなことになってるのよ?!」

上条「こんな状況って言っても、暇なんで話し相手になってもらってるだけだぞ」

御坂「話し相手って、どう見ても怪しい宗教の教祖みたいじゃない!!どんな話したらこうなんの!?そこ、胸に腕を押し付けん な!!」

たくさんの御坂を前に軽くフリーズしている白井を余所にして、御坂は上条の元へ詰め寄る

御坂「日頃紳士とか言っといて、やっぱりこれがアンタの本性なのね」

上条「いやいや、ワタクシ紳士ですのよ。なぁ、これ食ってもいいか?」
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 08:25:20.96 ID:CMYhbyMo
御坂「……好きにして」

自分と同じ姿の少女が必要以上に近づかない様に警戒している少女の横で、ボロボロの箱を開く

病院の門をくぐったときとは比較にならないほどに完全に変形したそれを、御坂は直視出来なかった。相手は恐らく重体から回復したばかり。そんな相手に持ってきた差し入れがボロボロになっていたのでは、心苦しい

しかも、上条自身がそれを気にせずに早く開けてしまおうとしているのが、なおさら彼女を苦しめる

もしかしたら、彼がそれを食べたがっているのは、そういう御坂の心理を見越して、ボロボロの包装を見えないところに捨ててしまおうと配慮しての事かも知れない

御坂(いや、鈍感なコイツに限ってそんなハズないよね)

中身はやはり、砕けていた

別に手作りだから特別綺麗に食べてほしいという訳でもないが、やはり心苦しい

思わず顔をそらしてしまう

上条「御坂」

御坂「なによ…ッ!?」

振り向いて、口が開いた所にクッキーを押し込まれた

少女の口では一口で食べられるサイズでは無い為、御坂がそのクッキーを噛んだ所で上条が反対側から力を加えて半分に割る

それがそのまま、男の口へ。恐らく唇の一部は上条の口の中へ消えた部分のクッキーに触れていたハズだ

上条「うん。うまいなこれ」

気づいて、自分の顔に熱がこもるのを感じて、もう一度顔を背ける。さっきと違うのは、介在する感情が悪い物ではないこと

それを見た妹達が我先にと同じ行為を求める。良く見れば姿の違う制服の少女も混じっている

中心で笑いながら余裕をもって相手する彼は魅力が有って、しかし、なにか知っている彼とは違うような気がして、御坂は口の中の味をリフレインさせた
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 08:29:06.49 ID:CMYhbyMo
打止「だから言ったのに、ってミサカはミサカは言ってみる」

一方「まともな会話にすらならなかったぜ。何なンだ、あの空間は」

打止「あの人の部屋に妹達が行って話し相手になってくれ、って言われたらしくてね」

打止「なんだかあの人の言い回しがすごくて、ネットワークも歓喜の共有で酷いことになってるんだよ、ってミサカはミサカは頭を悩ませてたり」

一方「そォかィ。迷惑なこった」

辟易とした顔で、身ぶりもつけて、打ち止めの後ろを歩く一方通行

一方「ンで、微小機械の調子はどォだ?」

打止「え、うん!今のところ問題も無いし、演算負担もちゃんと分散効率が向上してるみたい、ってミサカはミサカは事実を述べる」

一方「良かったな。ンじゃあ、行くか、映画?」

打止「あなたからそういうなんて珍しいね、ってミサカはミサカは喜びを隠しきれない」

一方「うっせェ。単に早く帰って寝たいだけだ」

打止「映画館で寝るって言わないんだ?ってミサカはミサカは……あ……ぅ」

一方通行の後ろで、人が倒れた音がした

一方「打ち止めァ?!」

病院から少し離れた歩道上で、打ち止めが倒れていた。何とか立ちあがろうと両手を突く姿が痛々しい

すぐさま一方通行は駆け寄って、背に追う。呼吸が荒く、熱もある

一方(またウイルスか?!クソ、視覚化できるようなデバイスなんざ今持ってねェぞ)

そして、さっき出たばかりの病院へ駆け戻った

原因は一体なんなのだ。彼の頭はそれでいっぱいだった
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 08:35:48.23 ID:CMYhbyMo
佐天「なによ、コレ」

老人が見せると言った、本来の自分が、そこには有った

人体の不思議展というイベントが、学園都市内の総合小売店でも行われたことがあった

人体の断面や、皮だけを取り除いたもの、逆に表皮だけを吊っていたりしたもの、肺や心臓といった臓器などの標本が展示されていた

食後に行ったので、吐き気と戦ったのを覚えている

目の前に有ったのは、まさにそれだった

各臓器が別々に液体に浸かり、ペラペラとなった表皮も液体に浸かり、脳に至ってはかなり細かく分けられて保存されて大量のプラグが刺さっていた

薬によって感情が抑えられていなければ嘔吐や失神などしていたかもしれない

しかし、今の彼女には、それを直視して受け入れること以外は出来なかった

幻生「研究対象が手元になくて、どうして研究なんて出来ると思う。こうなっていることは予想できるだろう」

固まった女に言葉を投げた

佐天「コレは、生きてる……? 」

幻生「人間の意思というものが脳だけに有るなら、その脳が死滅していない限りは、生きているといえるか。だがね、残念ながら二度と意思表明は出来なくなってしまった」

佐天「それは、どういう意味ですか」

幻生「そのままだ。バラバラになった時点で、意思というものは消る。脳の各部が放つ情報の集積体なんだ、意思というもの は。だからこれを万能細胞なんかでくっつけても、君のオリジナルな意識は戻らない」

年齢のわりに、良く喋る

佐天「じゃあ、今の私の意識や意思は……?」

幻生「君が考えている通り、一度電子化されたものを移植したものだ。学習装置なんていう簡易な物に少し手を加えた程度だが」

ということは、前の体の時から既に自分というものはコピーだったということか。いざというときに体が動いたり、すくまなかったのはそういう事に対応できるように創られていたからか

異様に集中力が高まった女の脳内で思考が進んで行く

佐天(アタシの体を調べたいのなら、わざわざ今の自分を作って泳がせる理由は無いよ。こいつからその理由を聞き出す必要がある。でも)

佐天「そんなことを言われて、こんなものを見せられて、アタシがこういう事をしないとでも?」

先程着替えようとした時に抜き取って置いた、クローン衣服に標準装備されているナイフを構える

幻生「!?止めろ!!私を殺しても意味は無い!!………………とでも言えば満足かな」

言葉を聞いてからだが動く

決して快いとは思えない笑みを浮かべる老人の胸にナイフが、刺さった
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 08:43:15.30 ID:CMYhbyMo
土御門「中南米は、制圧下か。まぁ当然だろうにゃー」

海原「地理的に、彼らにとっては庭の一部でしょうからね。魔術というものを理解するにも手頃な目標だったのでしょう」

ショ「だが、組織に有った原典も抑えられ、さらにそこからテクパトルが持ち出した物まで押収されたなら、笑っていられる状況では無いだろう」

土御門「まだそうとは決まった訳じゃない。が、最悪の想定は押さえておきたい。そのテクパトルってやつはこのストーカーを殺す為に確実にこの都市内に入ったんだよな」

ショ「そうだ。計画上は、統括理事員の塩岸とかいう男の側に居る予定だったが」

海原「塩岸。聞いたことがありますね」

土御門「度を越した程に安泰を求める軍事の事実的な頂点だったか。安泰、か。どっち側だと思う?」

海原「その人間の情報収集力に寄りますが、軍事に関わり合いのある人間ならば、外の軍事情報についてもそれなりのルートを持っていると考えるのが妥当かと」

土御門「実際に一戦交えない限り学園都市製兵器と今の米国兵器のどちらが優れているかは不明だな」

ショ「安泰を求めるなら、当面は中立なんじゃないのか?」

土御門「それが一番判断に難しいところぜよ。塩岸に魔術を退ける能力はあると思うか?」

海原「塩岸という男に近づく計画が有ったのなら、魔術によってなんとか出来ると踏んでのことでしょうね。そういう性格で す、テクパトルという男は」

土御門「なら、最低限魔術という概念は知ってるかもしれないが、本質的な対策が出来るレベルじゃない、ってところか。アヴィニョンでも本格的な魔術師と駆動鎧の戦闘は確認されていないしな」

海原「安泰を求めるならば、魔術を知ってしまえばその対策も考えるでしょう。仮にアメリカ側に魔術について深度の深い情報をもたらされたとすると」

ショ「食いつく、か。英仏戦が情報通りなら、アメリカは確実に魔術にも対抗するだけの力を持っている」

土御門「噂通りなら奴は地位の安定よりも身の安泰を優先するハズだ。考えれば考えるほど、アメリカ側に立っている可能性が高まるぜ、これは」

海原「学園都市の軍部が外部派ですか。どうしようもない状態ですね」

土御門「断定は出来ないがな。だがもしそうなら、アメリカ派になった塩岸の元へ接近したテクパトルとやらが、その塩岸の手によってアメリカに引き渡されたと考える方が自然だ」

ショ「フン。あの男がどうなろうと知ったことではないが、原典が渡ったのは不味い」

土御門「魔術に食指を伸ばしていて、その強力さを知れば、対抗措置としてそれを収集・管理しようとするのは自然な発想ぜ よ。間違いなくこのお譲ちゃんは狙われている。俺なら狙う」

海原「逃げ続けるのは難しそうですがね」

土御門「だろうな。逃げ続けるのは、難しいぜよ。ならこっちから出向いてやればいいんだ」

ショ「ふざけるな!私ごと貢物にでもするつもりか?!」

土御門「違う。それは向うにとって都合が良過ぎる。逆だ。向うに被害を与えればいい、それもド派手に。要はアッチに手出ししにくいと印象付ければいい。その後で逃げるなり原典の回収を図るなりした方が、効率的ぜよ」
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/06(水) 08:43:47.88 ID:CMYhbyMo
本日分終了のお知らせ

気がついたら朝だった眠い
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 08:53:14.76 ID:4XFJUYAO
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 08:57:31.50 ID:cbwC92DO
上条「いやいや、ワタクシ紳士ですのよ。なぁ、これ食ってもいいか?」つ白井

御坂「……好きにして」


44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 09:05:03.73 ID:fTSlrASO
佐天さんに関しては、上条さんが飛行機の中で目を覚ました時点で既に手遅れだったぽいな
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 10:38:07.65 ID:V5d3fbgo
佐天さん爆散どころか解体されてた
胸熱
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 11:28:42.76 ID:8c2yXUDO
佐天さんが華々しく飛び散るとこみたかったのにすでにバラバラだったでござるの巻
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 14:47:20.70 ID:hG7JodM0
>>1
あれ?これって黒子が空気じゃないの?
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 16:50:13.75 ID:v3oy2ng0
解体済み佐天さん。天然モノ佐天さんは、最初に幻生のところで意識を失った時点で解体されたってわけか。
しかしこの幻生、刺されて倒れた幻生の向こうから、もう一人の幻生が「気が済んだかね?」とか言いながら現れそうだ。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 17:02:45.58 ID:Kyg8iroo
すっげーパワポケっぽい
何が全年齢だよエグすぎだろ
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 17:20:17.90 ID:uaj1EKIo
佐天さんはすでに解体かー。予想外だった。



とりあえず乙
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 17:25:06.38 ID:bZJ9wsco
佐天さんまさかの解体済み
佐天シスターズが爆散するのを期待するしか無いか
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 18:01:17.90 ID:ofba5tU0
オリジナル佐天さん既にご臨終だったのか・・・
大きい佐天さんの爆散に期待するしかないな
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 18:04:52.45 ID:qI/gPpQ0
前スレでは佐天さんの肉体が変質し無能力者じゃなくなった描写があったけど
それが今回はないまま解体されていた
上条さんは前回取得した能力を保持したまま時間を遡った
アメリカは明らかに前回の情報を握っている

この解体佐天さん自体爆散し回収された前回の佐天さんそのものか
その体細胞純粋培養クローンだったのかな?
もしかしたら前回死亡した他のキャラの肉体も既に元の状態ではなっかったりするのか?

謎だらけだ・・・ていうか深いストーリーだ>>1スゲー
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 18:21:48.24 ID:INFTJaE0
いつのまにか佐天さんがすごいことに…
期待を裏切らない>>1のドSっぷり
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 18:38:47.98 ID:yN.lKkSO
あんだけ佐天さん爆散しろっつったのにいざこうなると胸にポッカリ穴が開いたように苦しい……
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 19:00:36.60 ID:v3oy2ng0
そういや「なぜ佐天なのか」については一切語られてないよな。
なぜ佐天さんを量産素体に選んだのか(無能力者なのに)
なぜ佐天さんを量産したのか(無能力者なのに)
なぜ佐天さんは爆散しなかったのか(無能力者なのに)
まぁ、量産佐天がなぜあんな複数の能力を行使できるのかは前スレ読めばなんとなくわかるけど、そのあたりも含めて書いてくれることを期待してる。
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 19:25:18.42 ID:qI/gPpQ0
前回解体調査サンプルとして利用されたのは垣根
今回解体サンプルとして選ばれたのは前回垣根の
肉体情報を元に改造されマルチスキルとなったオリジナル佐天
オリジナル佐天が今回も「無能力」なのは
自分は無能力者という認識なので能力の使い方がわからなっかったから
前に誰かが時間は巻き戻されたのではなく
あくまでも同じ時空の同じ時間軸上時間のベクトルの向きも変わらず
同じ時間の流れの中で地球上の事象の一部のみが
元の状態に復元されたからとか予想してたね
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 19:39:10.22 ID:8c2yXUDO
佐天さんが能力使えるようになるSSって大抵佐天さん調子こくよね
例のごとく調子こいて前回華々しく飛び散った時はなんとなく胸がスカッとしました
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/06(水) 19:47:45.48 ID:XOUvTEAO
>>57
予想するのは勝手だがいずれ>>1が説明してくれるばずだから
下手なことを書いて>>1の邪魔をするのはどうかとおもう
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/06(水) 19:58:59.32 ID:8c2yXUDO
「予想は構わない。それ見てニヤニヤするから。でもたまに予想当たってびびる」
みたいなことは書いてたな作者
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 02:34:00.29 ID:vR.3ylEo
クライマックスはあれだろ、上条さんVS佐天シスターズ1万
そんで唯一自我を保ってた固体が爆弾抱えて黒幕のとこに突っ込む展開
どう足掻いても爆散だな
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 06:43:51.84 ID:HPEyUEY0
>>61
え?そこは当然1万の佐天シスターズ全員爆散同時多発テロでしょ?
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 09:21:52.51 ID:VPLkKMgo
佐天シスターズが死ぬと燃える現象を爆散するに変更できないものか
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 11:04:22.81 ID:aH8.BDU0
破裂した佐天さんを頭からかぶって厭な気持ちにさせる精神攻撃ってわけですか。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 15:18:32.14 ID:Z2sht0Eo
上条さんは強くてニューゲームという説明で時間を飛んだのに、
余りにも違うこの現状 流石人類不幸代表。
時間の修正力が牙を剥いてるのか、☆のプランのうちなのか。
はたまたメリケンかローマのチート工作。謎が広がる期待高まる。

ミサカ達への応対が妙にこなれてるけどもしかして留守番コンピュータ
応対なんだろうか…。実は上条さん本人は意識不明のまんまとか。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/07(木) 15:58:36.60 ID:lowdH.DO
太った佐天で俺の胸が熱いぜ…オリジナル佐天さんにはたまげさせられた、1凄いよ1
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 19:37:53.08 ID:H0rB4wDO
新刊ネタバレ

まさかの佐天さん爆散
68 :新刊読みてええええええ!アマゾン早く送ってくれ! [saga]:2010/10/08(金) 19:56:15.39 ID:oWzMGpMo
少し日が傾いてきた時間帯 結標淡希は先程話した内容を思い起こしていた

結標(明日の夜学園都市全域で完全停電が起きる、ねぇ)

結標(とてもじゃないけど、信じられないわ。まぁ、確かにその時はチャンスなんだろうけど)

道を歩きながら、彼女は考える。問題は、この件に乗っていいのかという事だ

結標(予定自体は開いているけど、もし本当に完全停電なんて起きたら間違いなく緊急招集がかかるわよね)

結標(そうなった時に、対応出来る?多分、かなり難しい)

結標(というより、どうやって停電なんて、学園都市全土の電源供給を落とすって言うの?)

自らの部屋に向かって歩くも、具体的な方法が見えてこない

結標(冷静に考えたら、この都市の緊急電源システムなんて、公開情報以上の物があるのが当然よ)

結標(つまり、電源を落とすことが出来る連中ってのは、内部で上部の人間との伝手が有るレベルじゃないと無理)

結標(上の抗争が都合よく悪化してるのを利用するとかなんだろうけど、それでも、ね)

結標(……でも、いつになったら仲間を助ける時が来るのか分からないのも事実)

結標(下手に動けば、立場は一掃悪くなるのは確実よね。でも、結局どこかでそのリスクは負わない限り、永遠に達成できな いのも多分事実)

結標(動くしかないのよね、私は)

結論が見えてきたころ、自らの部屋につく

なんの気なしに玄関のノブに手をかけると、それが綺麗に下へ回る

鍵は閉めたはず。なぜ回る

自分の状況が状況だけに、瞬時に意識を集中させる。何かあればすぐに対応できるように

すこし勢いを付けて、且つ極自然に開いた

結標(誰も、居ない?……荒らされても、ない?)

結標(はぁ、警戒し過ぎかも。んー、卵の期限が近いんだったかな)

冷蔵庫を開いて、紙パックの飲み物を取り出し、コップを出そうと振り向いたとき、部屋の真ん中に男が立っていた

その顔は、昼間に見た男のそれと、全く同じであった
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/08(金) 20:04:08.62 ID:oWzMGpMo
白井黒子という名の少女は、とりわけ気にすることは無かったが、上条当麻に対して確実な好意があった

原因についても同様である。考えても答えが抑え込まれたようにして出てこないのだ。仕方が無い

そんな少女は、他の常盤台の制服の少女たちに混じって一人の男と会話を楽しんでいた

だが、御坂の一言で彼女の頭は回転を取り戻す。無論、その先輩の顔も赤で染まってはいるようだが

御坂「それで、アンタ今回はなんで入院したのよ? 」

上条「あれ、言ってなかったけ。ま、ちょっと不幸が重なりましてね」

白井「階段から落ちた、でしたよね」

上条「おお、知ってたのか。つーか、よくこんな短期の入院知ってたな」

白井「風紀委員って、厳しい職務の裏には特権的な権限もありますの」

上条「それって職権乱用だろ?俺のとこに来てくれたのはうれしいけど、やり過ぎて睨まれないようにしろよ」

白井「その辺りの塩梅は、もちろんわきまえてますのよ」

上条「んー、ま、白井なら大丈夫だろうけど、しょっ引かれる危険が0って訳じゃないだろ。もしお前が居なくなったら御坂が悲しむ。他の友達も。もちろん、俺もな」

やりすぎんなよ?と言葉をつづけながら右側にいる少女に左手を向け、頭をなでてやる。10代も前半で親元を離れている少女にとってそれは意味が広かった

気持ちに流されそうになりながら、しかし少女は、話を本質へ向ける

白井「……暗に特権を使うなと言っているようにも聞こえますわ。確かに危険な情報まで入手してしまうかもしれません。ですがこの特権によって、当麻さんが何時何処から運ばれたのかまで、分かってしまったのですよ?」

本当の理由を知っているぞ。お前は何をしていたんだ。上条にとってはそう聞こえた

上条の顔が少し変化を見せる。だが

上条「風紀委員さんは何でもお見通しか。こりゃ、白井にはサプライズパーティも開けないな。でも、階段で倒れてたのは間違いじゃなく、事実なんだぜ?」

流石に簡単には吐かないか。事を知らないこの御坂にそっくりな少女たちが居ては、この上条の性格上、話してはくれないだろう

佐天の事もある、なるべく早くこの男の情報を聞きだしてしまいたかったが、この分では無理だろうか

そんなことを思っていたら、そのそっくりさんたちが表情を苦悩のそれに歪めだした

部屋に流れていた雰囲気が変容する

即座に上条がナースコールのボタンを押した。御坂が御坂の姿の少女に手を当て、驚きの表情を挙げていた
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/08(金) 20:08:40.34 ID:oWzMGpMo
老人が、力を失ったように倒れた。ほとんど裸の体にその老人の血が触れる

口元についた血を舌で舐めとり、その味が不味かったのか、顔をしかめて吐き捨てる

さらに新しく降りてきた服からもう一本のナイフを取り出し両手で持つ

ベルトのように巻き付けるそのホルダーを腰のあたりで重なるように巻き付け、裸にナイフホルダーの身と言う斬新な格好で、佐天は動き出した

部屋を後にする 勢いで殺してしまったが、聞きたかったことも、他の佐天達をどうやって解放するのかも、全く把握できないようになってしまった

佐天(とにかく、ここを管理してる所に行かないとどうしようもないか)

あるのかもよくわからない記憶を頼りに、この空間をさ迷う

それこそ、部屋から数10秒程経ったぐらいだろうか

「オリジナルの完全死亡を確認した。これもまた予想通りではあるが、体が無いのは不便だよ」

脳内に言葉が流れ出す。耳をふさいでも効果が無いことから、何らかの方法で直接語りかけているのだろう

佐天「本当、他人の体に手を加えるのがお好きなようで」

幻生「それが私の仕事だからな。お陰で、自分までこんなことになってしまったが」

佐天「また殺してあげますから、何処に居るのか教えてほしいですね」

幻生「殺してあげると言われて、教える人間も珍しいと思うが、良いだろう。すでに君とは一度会っているよ。一番最初にね」

佐天「そんなに殺されたいんですね。分かりました、片っ端から血まみれにしてあげますよ」

幻生「強がっても仕方が無いと思うがねぇ。私を殺してまずったと思っていることぐらい予測はつくのだ」

幻生「それでも教えたのは、やってもらいたいことが有るからだ。それに、その姿は少々刺激的すぎるからな」

佐天「……クソジジめ。少々待っていてくださいね」

強く噛んだ唇から流れ出す血を舌の上で転がしつつ、佐天涙子は明確な目標を持って少し足早に歩き出した
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/08(金) 20:14:24.35 ID:oWzMGpMo
病院に駆け込んだ一方通行は、幼い少女の横で眉間に力を込めつつ、付近のモニターに視線を集中させていた

彼が操るそれには、前に打ち止めがウイルスによって問題を吐きだした後に組み込まれたマネージャーソフトウェアの表示が成されている

あらゆる想定外の特異性について、また、どんな外的影響によって脳がどのような反応をしてきたかのログを表す

それによって分かることは、突然現れた強大な外的要因がネットワークの管理者たる彼女へ負担をかけているという事だ

時折つらそうな表情を浮かべるものの、しかし会話程度を行うぐらいは支障はないようだ。先程は急負担が彼女を苦しめた。が、直前に打たれた微小機械が自動的に処理の高度クラスター化を促したことで、彼女への負担は緩和される

逆に言えば、それによって同日中に同じ微小機械を打ちこまれた妹達もクラスター核の役割を付され、同様の苦痛を受ける破目になったのだが

同室中には、上条や御坂・白井によって運ばれた妹達も寝かされている

運び入れた上条の足取りはしっかりしていて、表面的には何の問題も感じなかった

そして、その左腕には一方通行が首にしている物に良く似たものが付けられていた

上条「危ないところだったな、一方通行」

男の耳打ちに反応して、その方を見た。部屋の外で、と言いたげな目線と左腕の動きをしていた

一方「悪ィ。ちょいと外す」

打止「どうしたのって、ミサカはミサカは少し元気になったことを表しながら聞いてみる」

一方「……トイレだ。お前を背負う前から我慢してたんでなァ」

そう、わるいことしちゃったね、と寝ながらに述べた打ち止めに、気にするなと言うように頭を撫でて、部屋を後にした

外にはいつの間にか先に部屋を出ていた上条が、彼を待っていた

上条「一体、何が有ったんだ?」

独自に調べた方法で、打ち止めの事を知ったのだろうか。彼は状況自体は把握しているようだった

一方「サッパリだ。なンの前触れもなく道のど真ン中で倒れた。それしか言えねェ」

上条「そうか。これじゃ、今は例の微小機械で沈静化してるが、この先が分からないな」

一方「どォだかな。状況的には、その微小機械が怪しいと思うのが普通だろ」

上条「だが、目の前の問題を解決してるのはそれだろ。ネットワークの構成員全員があの微小機械を打つべきだと思うぞ」

上条「今打ち止めやあの妹達にかかってる負担は異常だけど、今のまま落ちつくか分からない。可能性を言えば、増大することだってあり得るハズだろ」

上条の言葉を聞いて、それは確かに間違っては居ないだろうが、違和感がある

一方「あァ、テメェの言う事は正論だ。間違っても無い」
72 :すんごいどうでもいいけどナノマシン ◆rcPRWCzLvc [saga]:2010/10/08(金) 20:24:05.56 ID:oWzMGpMo
だがな、と言葉を続ける

一方「なンでお前が微小機械の事やその負担までを理解してやがるンだ?えらく微小機械の肩を持つしなァ?」

一方「俺にとっては、上条当麻、今のお前が一番怪しい」

首元の電極のスイッチへ手を伸ばす一方通行に、左腕を伸ばす

上条「止めろ。こんなところで暴れる気かよ?」

一方「テメェが原因なら、それが妥当だろ。都合のいい事に、やっかいな右手も満足に動かせないみたいだしな」

上条「あれ、気づいてたのか」

一方「戦闘についてはキャリアが違うんだよ。あの部屋の女どもは気付かねェかもしれねェが、その程度の誤魔化しじゃァ 俺を騙すのは不可能だと思っとけ」

掴んでいた一方通行の腕を離し、上条は観念した様な顔をする

上条「あらかじめ、言っておく。なんで打ち止めが急に倒れるようになったのか、全く知らないのは事実だからな」

一方「最初から隠し通そうとするんじゃねェよ」

演技だったのだろう。スイッチを切った

上条「こういうのも場馴れしてるんだな。…あの微小機械は俺の中にあるものと同じなんだよ。そして、この腕輪使って、俺がその管理をしている」

沈黙の後、一方通行は電極にスイッチを入れる。そして、上条へ凝縮した大気をぶつけようとした

その能力の発現が、手を下さずピンポイントに止められる

上条「こんな事になったのは、言ってしまえば偶然だ。俺がこの微小機械を提供したのは、こういう目的が有ってやったわけじゃない。純粋に妹達の自立の手助けをするためだ」

上条「本来なら、電気使いでもない俺に、遠隔制御なんて出来ない。だけど、あの医者から貰ったものが、お前の首のそれの予備から作られたものだった。こいつはミサカネットワークにも接続できる。言っちまえば、完全に偶然の産物なんだよ」

今回はそれで対処できたから、ラッキーだったな。そう言う上条の前で、一方通行は状況の把握に努めた

彼にとって最悪なのは、上条が実質的に自分の能力を管理できることや、微小機械をネットワークの各員に渡す必要があるという事では無かった

打ち止めが倒れたことの根本的原因についての手掛かりが、全くに霞んでしまったことだ

あの医者も対症療法的な方法しか採れないと言っていた。つまり、負担が急増した場合、許容量をオーバーすると打つ手が無いのだ。オーバーするとどうなるか。負担に耐えきれなくなった脳が自壊を始めるだろう。自己防衛の為に

一方「畜生が。手掛かり無しじゃねェか」

上条「そうだな。だが、裏稼業はともかく、そういう面では俺も手伝うつもりだ。気軽に連絡してくれ」

そう言って上条は部屋に戻った
73 :すんごいどうでもいいけどナノマシンは微小機械です。脳内変換してくだしあ [saga]:2010/10/08(金) 20:29:53.90 ID:oWzMGpMo
部屋に現れた男の目的は単純だった

アレイスターに会わせろ。いろいろと大人しい物腰で言ったが、要約するとこの一言に終極する

その顔は、昼間に会っていた男と全く同じであったが、同一人物とは思えないものだった

物腰、話し方、そして恐らく目的も

外見が同じでも異質だった。それについて、特段、彼女は驚かない

食糧すらもクローニングでまかなう学園都市において、人体のクローニングなどさして技術的に難が有る訳でもない。事実、彼女がここ最近戦ってきた迎電部隊は恐らくクローニングで大量に供給されたものであると、彼女自身なんとなく気が付いていた

なにより、彼女の問題はそこでは無い。この男をアレイスターの場所へ送っていいかどうかだ

ここで殺してしまう事も考えた。考えたが、明日事を動かすならば、いっそのこと送ってかき乱すことに繋がる方が都合がいい

何よりも、得体のしれない人間を不必要に相手にしたくないのだ。無駄に喧嘩を広げるならばその辺のスキルアウトにもでき る。それをしないのは、そう判断するだけの知恵を持っているから

部屋にずっと居られるのもやり難いので、彼女は男を連れて部屋を出た

結標「それで、会う目的はなんなの?」

青髪?「君に、それを言う必要があるかい? 」

結標「あなたは予測せざるお客ですからね。学園都市の人間としてはそのあたりを聞いてから連れていくかどうかの判断をしたいけど」

青髪?「そういった側の人間でもない割りに、言うね。まぁ、これから君も巻き込まれることだ、いいだろう」

青髪の男の運転する車で、第7学区へと進んで行く。ハイウェイから見える夕日は、屈折した都市らしい光となって綺麗だった

青髪?「簡潔に言うなら、ちょっとした話合いだ」

結標「なんだ、アイツを殺すとか、そういうんじゃないのね」

青髪?「ちょっと昔、いや、日本語では、”前”かな。その時は彼を捕縛してしまう事が目的だったんだがね」

結標「路線変更ってわけ?上司の挿げ替えでもあったのね。お互い、実際に動く立場は大変よね」

青髪?「上司、か。おもしろいね、確かに上司だ。といっても、そこまで平和路線へのシフトって訳ではないから、今日の対 談次第だな」

結標「貴方って、多分年下よね?なんだか随分上の人と話してるみたい」

青髪?「二面性、ってものだよ。大人は、特に上に行くほど、みんなそうなる。自分の場合は、強引に出来たものだが」

その後も、中身のはっきりしない会話が続いた。アレイスターの待つ場所は、もうすぐだ
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/08(金) 20:35:44.68 ID:oWzMGpMo
土御門と別れたあと、海原はショチトルという少女と共に、ひとまず海原の部屋へ戻ることにした

結標同様、学園都市に戦力として、特に魔術師としての側面を兼ねて、みなされている彼は、逆に言えば学園都市に守られる立場でもある

挿げ替えの効かない戦力であるという事はショチトルも同じであったが、如何せん、暗部へ入った方法が悪かった

素性を隠す為、それはつまり目標を隠す為でもあるが、自らの情報を伏せた。故に、彼女へのプライオリティーは低く設定されてしまった

海原という人間と一緒に居ることで、彼自身が監視されている事を逆手にとれば、都市外部の暗殺や拉致狙いの連中は手が出しにくい

海原が考えた結論だったが、その判断に間違いは無いであろう

ショチトル「しかし、一体どうやって被害を与えようか 」

海原「今のままなら、霞みを掴むようなものでしょう。しかし」

コンビニで会計を終えて、店を出た

海原「たとえばあなたなら、買ったばかりのゲームはどうします?」

ショ「私はゲームなんぞしない」

海原「ああ、ちょっと例えが悪かったですね。では少し離れますが」

そう言って、ショチトルが買ってくれと視線で訴えていた洋菓子を袋から出す

微妙に我慢しながら、最終的に手を伸ばす少女

海原「駄目です。部屋までもうすぐですからそこまで我慢しましょう」

ショ「じゃあ何のために出したんだ!私への嫌がらせか?」

海原「つまりはそういう反応ですよ。昔に手に入れたものよりも、今手に入れたものへ強い興味を持つのが自然」

海原「科学技術は脈々と続いてきたものの成果。そこへ全く新しい魔術、という技術を手に入れたらその威力の確認をしたいですよね 」

さっきの事があってか、拗ねた顔で話を聞く少女

海原「テストケースとして、特にこの科学の最先端の都市は、その魔術の影響というものを図るには最適でしょう」

科学的な侵攻に対する迎撃・防衛の手段に引っ掛かるかというテストという意味ですね。と付け加えた

ショ「つまり、近いうちにここで魔術的な何かが有れば、奴らへと繋がるという事だな」

海原「そういう事です。気長に待ちましょう。さぁ、部屋に着きましたよ」
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/08(金) 20:44:26.72 ID:oWzMGpMo
本日分終了のお知らせ

22巻ホスィ。早くとーどけ

予想とか好きに書いてくれて構わないです。それ読んでまた内容を捻れるしね
結果ネタバレになることもあるだろうけど、楽しんでくれるなら大いに結構!
しょせん公開オナニーですから。オナニースタイルが被ることなんてよくあるだろ?つまりそう言うことだ
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/08(金) 21:04:30.16 ID:9muY3QSO
2周目が平和過ぎて怖い
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/08(金) 21:31:06.95 ID:806fZMwo
おつおつ
シスターズを侍らしてたのはネットワークのマッチングしてたのかと
思ったが違うっぽいな。
上条が頼りにしているナノマシンってアメリカ産なんだよなあ。
基本的なルーチンに上条の行動を誘導って入ってたらアウト
もいいところだが無しでは立ちゆかない、悩ましい。
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 00:37:27.83 ID:W0n2GwSO
ショチトルゥゥゥゥゥゥ
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 01:37:20.23 ID:8mqXDiQo
インデックスアニメ2期キター
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 12:44:22.52 ID:fSakKkDO
アニメ二期ネタバレ

佐天さんは出演しません
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 14:03:59.23 ID:XpEH2Owo
アニメネタバレ:KJさんマジ池麺
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/09(土) 14:22:15.41 ID:Jfese4Y0
支援支援
援交援交
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 01:02:14.82 ID:IfXXnD2o
予想
上条さんの女たらしスキルは毎周回ごとにパワーアップして
佐天さんの死に方もパワーアップする
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 04:36:38.18 ID:ZxjHfkco
地下なのでずっと薄暗いままだが、もう外は日が完全に影ってしまう時間のハズだ

佐天「あなた、既に人ではなかったんですね」

幻生「体が有れば人間なら、作り出せば良いだけだ」

佐天「そんな思考になってる時点で、人間じゃないですよ。化け物」

女は、誰に向かって話しかけている訳ではない。言うならば、部屋という空間へ向かってと言える

無数の脳が浮かぶ円柱の中で用意された服を着ながらに、彼女は会話を続ける

ハハハと乾いて笑う声が響いた。部屋に響いたのか彼女の脳内に響いたのかは不明だが

佐天「で、頼みごとってなんでしょうね。交渉って形の強制でしょうけど」

幻生「いいね。やはり、感情というものは。話甲斐があるというのはこう言うことか」

わざとかどうか知らないが、ピントのずれた返答。時間が経過して徐々に感情が表に出てき始めているのは事実だが

佐天「あなたの感想は聞いていませんから。要件を」

幻生「ハハハ…、手厳しい。ただ御しやすいだけのロボット相手より、よっぽど脳が興奮している。彼が言いたかったのはこういう影響の為か」

佐天「いいからとっとと言って欲しいですね。こんな装備をさせてんだから、どうせ碌でもないことなんでしょ?!」

幻生「そうだね。ろくでもないことだ。非常にくだらない上に、扱いに困る連中の手でな」

表情は見えないが、本当に興味の無い顔でいるだろう

幻生「あらかじめ組み込んでおいた帰省行動よりも早く、君は帰ってきた。私達の予想を超えたその行動自体は十分に価値が有る」

佐天の前に映像が現れた

幻生「だが、それは余計な物の気配も紛れさせていたようだ」

佐天が入ってきた経路をなぞるように、数人の人間が行動をしている

佐天「残念ですね。侵入者じゃないですか」

幻生「そうだね。君には彼らを撃退してほしい。単純だろう?」

撃退。女の頭が理解した意味は、彼女がそういう風にも作られたのであろうことをすぐに想定させる

佐天「そういう為に、この私はあるんでしょう?」

幻生「まぁ、ね。だが、君と言う存在をその為だけに作ったなんて、そんな愚かな事を考えてくれないでほしい」

戦闘特化なんて、面白くないんだよ
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 04:38:31.71 ID:BpQXWsDO
おっ来てる
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 04:41:17.05 ID:ZxjHfkco
そういう意思が伝わってきた。一体、この男の目的は何なのだろうか

しかしながら、彼女の装備は間違いなく戦闘用で、今はかぶっていないが少女達がかぶっていた物と同じフェイスガードもある

佐天「そうですか。では、帰ってきたら戦った成果としてそれなりの見返りを求めます」

幻生「構わない。等価な交換という事だ。そこの部屋にある程度の武装があるから、必要なら持って行きたまえ。但し、必ずそのメットは装備するんだ。でないと高度な装備は使えないし、行動の妨げになる」

そのフェイスガードに拳銃を接射する。少しの傷が付いたが、この口径の銃の接射を防ぐのはかなりのものだ

ガラスなのか強化プラスチックなのか他の何かは知らないが、簡単には壊れない。これを身につけない手は無い

画面に映った人間は、3。一小隊規模のその人数から読み取れるのは、この広い拠点の制圧を考えていないという事だ

だが、適度な爆薬を適度な場所に備えれば、ここの施設を地上施設の重圧で潰すことは出来るだろう

佐天「工作目的、だよなぁ」

どういう経緯での事かは分からないが、多分学園都市上部の抗争に関わりが有るのだろう

その程度の認識に止める。彼女にとっては、関係の無いことだ

あの老人だった者の物言いから、恐らくは自分と同じ姿の少女たちにはまともな感情が出るように設定されていないのだろう

戦闘場所での戦果ことが目的ならば、下手に感情を持っていない方が都合がいいのかもしれないが

佐天涙子がここを守り通しても、格納されている少女たちは、佐天に感謝することも無い

それでも、自分と同じ姿が都市の地下へ動くことも許されずに生き埋めになるのは許せなかった

本質的には自分を守るため、という事になるのだろうか

突撃銃を、炸薬擲弾を、ナイフを、その他の装備を、身につけて彼女は入ってきた道へ足を向ける

幻生「当然、ここに被害が出るのは好ましくない。アッチは君の使った経路を辿っているだけのようだ。その辺を利用してほしい」

佐天「分かりましたよ。上手く誘導しろってことでしょ」

幻生「そこまで分かっているなら、君を前線に出す理由も分かっているだろう。死を気にせずに、暴れてくれ」

死を気にせずに死線へ進め、お前の動きをテストしている。何が目的なのか見えてこない

ただ、ひとつ分かるのは、わざわざ佐天涙子としての意思を持つ自分を使わなくても、ここで生産されているあの子達を使えば数でも能力でも撃退出来るのは確実ということ

今のところ、この体になって何らかの能力の発現が見られる訳ではない

死を気にするな、と呟いて、彼女は歩みを進めた
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 04:45:28.95 ID:ZxjHfkco
例のビルに、到着してしまった

彼女の独断で内部に人間を連れて来て良かったのか、正直なところブラックだとは思っている

結局それでも彼女は彼をビルの中へと送りこんだ

結標(どうせ、私がここまで用も無いのに来ている時点でお見通し。ここまで止めが来なかったから、黙認してると見ていいハズ)

彼女は、自身の経験から、自分を空間移動させることが出来ない。といっても、それは能力的な限界で不可能な訳ではない

一体、昼間に会った青髪に似ている男とアレイスターがどんな会話をしてるのか

明日を控える彼女にとって内容は気になるばかり

だが、この中で行われるやりとりを彼女が直接知る方法はない

せめて彼女に出来るのは、出てきた人間がどんな表情をしているのか。そこから見取るのが全て

しばらくして、出てきた男は来たときと同じような顔をしていた もともとポーカーフェイスな感じはしていたので、予想外という程でも無い

結標「何事も無く終わって良かったわ」

青髪?「元から話し合いと言っていたと思うが?」

結標「それでもね。私の独断でここまで案内したんだもの、その会話中にここが爆発したり銃声が聞こえたりしたら、どうしようかと思ったわよ。まだ何もしてないのに狙われるのだけは避けなきゃならないし」

青髪?「まだ、か」

引っ掛かったが、乗ってこない。やはり違う人間なのか

結標「それで、話し合いとやらは上手くいった?」

青髪?「ま、良くも悪くも予想通りだった。結局、一緒だ」

結標「一緒?うんと、それじゃ、ここまで来た分だけ草臥れ儲けなわけね」

青髪?「お互いに意味は有ったよ。ここの主の目標や考え方なんてものも十分に把握できた、これもまたお互いにだろうけども」

停車中の車に光が入る

青髪?「さて、ここにはしばらく用が無いだろう。送ろうか?」

やはり、年下のように感じない話し方だった
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 04:49:07.27 ID:ZxjHfkco
アイテムの構成員でもある浜面仕上は友人に電話をかけた

携帯電話に表示されている相手の名前は、服部半蔵

昨晩、入院中の上条当麻へ何かをしようとした一党

果たして彼らは何が目的であそこへ忍んだのか。暗殺や拉致、なんて考えたくは無かった

報復、という訳ではないだろう。少なくとも彼が率先してそういう事をすることは無いはずだ

理由が見えてこない。しかも、上条の入院自体は伏せられていたハズだ。どこからそういう情報を拾って来て、その様な事を実行したのか

電話には、応答が無かった 舌打ちをする。仕方なく間借りしているアイテムのアジト内にその音が響いた

この部屋には、彼しか居ない。そして、この舌打ちも、電話に出ないのも、これが初めてではないのだ

一体、何が有ったのか

昔彼らがよく屯していたいくつかの場所も訪れてみたが、誰もいなかった

おかしい

そして彼は気が付いた。街にスキルアウトらしき姿が極端に少なくなっていることを

一日中、定期的に電話をかけつつ、虱潰しに駆けまわった学園都市内は、時間も時間だというのにそれらしき姿が無い

ちょっとした、ガラの悪そうな奴らは有る程度居るが、その姿も少ない

浜面(畜生、全然気がつかなかった)

無理も無いことだ。仕事といい、佐天といい、自分の体のことといい、ここ最近の彼は少し忙しかった

なんとなくだが、嫌な予感がする

その嫌な予感が、チリチリと彼の中で拡がって痛みに似た何かとなってくる

浜面(違う。これは予感なんかじゃない。実際に気分が悪くなってる……?)

自分の体から噴き出す脂汗

何かが、ある?何かが、居る?何かが、来る?何かが、近づいている?

恐れとは少し違うが、限りなくそれに近い感覚を背後から感じて、彼はごくりと唾を呑んだ

フレンダでは無い、白い服を着た金髪の女がいた
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 04:53:47.78 ID:ZxjHfkco
欧州でようやく社会が回り出す時間帯

イギリスの地。アックアと呼ばれる男は堂々とバッキンガム宮殿へ進んでいた

彼にとってこの行動は、本来の予定とは異なる

フランス側を応援するローマ正教側の人間として参加した戦いによって、本来ならば占領という形でここには来る予定だった

だが、結果は占領どころかそれ以前の段階で戦は終了し、彼は表立ってここを襲撃することは出来なくなった

停戦講和が終了した時点で、彼がここを襲うその大義名分は無くなった。彼がここへ来た目的からすれば、それは実質的に動きにくくなってしまったことを意味し、そういう意味では彼もまたアメリカに予定を狂わされた人間であった

バッキンガム宮殿正面へ通じるザ・マルという名の並木道を、彼は堂々と歩く

その手に武器は無く、だが、眼光は鋭い

「あなたほどの人間が、どうしてこの場所に居りけるのか、その理由が分かりかねども」

その並木から、フラッと女性が現れた

アックア「相変わらず鬱陶しい喋り方であるな、ローラ・スチュアート殿。貴殿一人が迎えの者とは、そこまで人員が不足しているのであるか」

ローラ「後方のアックア殿が、そう言うと少々嫌味が強く感じたりけるの」

その原因は御主であろうに、と続けるまでも無く、その意味を眼光に込める

中途半端だが、敬称を付けるのは彼らの今置かれている立場を表している。アックアの方から敬称を付けたのはそれを理解しているという意思表示でもある

要約すれば、暴れるつもりは無いということだ

それに答えたローラの方もそれを呑んだのだろう

アックア「確かに私が手を下した者は有るだろうが、それがすべてという程に、脆弱なものではなかったハズだが」

ローラ「もちろん。だが、公式な訪問の連絡も無に現れる客人へは公式に迎えることも出来かねたりけるよ、アックア殿、いやウィリアム・オルウェル」

ローラ「生憎、貴殿を招くという名の監視が出来る手頃な者がおらぬのでな、私が直々にお相手いたそう」

アックア「イギリス清教の配慮に感謝致すところである」

視線が交差する。その5mにも満たない空間に余裕は無い

ローラ「それで、貴殿が、直々に、非公式で、バッキンガムまで訪れた理由をお聞かせ頂きたりけるの 」

アックア「とあるものを、壊しに参ったのである」

ローラ「壊す、とは。何をであるか」

アックア「内容を話せば貴殿の部下が見守るここでは、貴殿が困るような機密の霊装、と言えば分かるであろうか」
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 04:57:43.56 ID:ZxjHfkco
手に持ったライフルは、非常にしっくりきた

身を包んだスーツは彼女の体を軽くした

試しに投げてみたナイフは、綺麗に金属でコーティングされている壁に刺さった

今、自らが身につけているすべてが、しっくりくる

佐天(やっぱり、こういう事が目的で作られたんだろうな)

フェイスガードに映った敵の数は変わらず3。あっちは妨害を受けていていろいろ弊害が出ているはずだ

奇襲すれば、一瞬で片付くだろう

佐天(よし、とっとと終わらせる)

マップを表示させ、後ろを突けるような経路を割り出す

一つ一つの厳重なロックを、その度に爆薬で吹き飛ばし進む彼らの進行は、如何にてだれた動きであっても遅い

その上、防火シャッターを強化したような、隔壁隔離用セーフティ・シャッターが長い廊下を区切る

廊下、という細長い空間では直線で襲う銃弾の掃射は高効果を発揮する

背後から突けば、手つきからかなりの手練と分かる彼らを佐天一人で撃退出来る可能性は高まる

電磁動作を仕組みとしている兵装がどうしても多くなる学園都市の部隊なのだから、ここでの戦いは不向き

完全に、土地の理が彼女に有った


非戦闘員である鉄網を残して、ブロックの残りの構成員の佐久・手塩・山手は、昨晩佐天涙子が通った靴跡を辿って、彼女が見つけた入口を探し当てた

結局、ガチガチに対策した為に人があまり近づかなかったことが逆に彼女の靴の跡を際立たせたのだった

ここまで来て、その特別な構造に驚いたが、最先端電子機器がまともに使えないという報告はあがっていた

彼らは学園都市にありながら、特別な超能力を持った部隊では無い

だが、それに匹敵する能力として、それまでに築き上げた実戦経験という名の能力を持っている

4つ目の封鎖を吹き飛ばして、この通路が今だ続く細長い廊下であるという事をきちんと理解していた

佐久「山手、そっちの設置は」

山手「支障なし。しかし電子機器が全部役立たずなのは、やり難いぜ」

手塩「だから、私達が、選ばれたんだろう。ここには、対能力者設備まで、あるらしいからな」
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 05:02:01.63 ID:ZxjHfkco
浜面「お前、誰だよ!?」

当然と言えば当然の反応を、浜面はした

今、彼が居るのは使われることは珍しいとはいえ、アイテムのアジトである

ここに部外者が居るという事自体がまずイレギュラーなのだ

そして、明らかに浮世離れした格好

先日の仕事から直接持ち帰った小型の拳銃を持っている浜面は、躊躇わずその銃口を向けた

殺したくは、ない。だが、自らを害すような存在に対しては防衛はしなくてはならない

そのあたりは、彼はリアリストである。脅しとなるのかは微妙だが。その上、持っている銃は本当に小型で、当りどころが良ければ頭に当っても死なせない威力のそれだ。分かる人間が見れば、分かる

?「そんな物では人間すら殺すことは出来ない。私という存在へならば効果は完全に望めないが君はそれを理解できない程の存在ではないはずだ」

脂汗が、一層酷くなる

浜面「お前が何なのかなんて、今会ったばかりのヤツのことなんて分かる訳無いだろ」

手が震える。銃の狙いが定まらない。理由なんて分からない

?「君の脳は理解していない様だが、体の方は分かっているようだ。本来ならば武者震いと表記されるハズのそれが、今の君ではただ怯えているように見える」

滑稽だな。と言い加える。本来ならば憤慨すべきところなのだろうが、彼にその余裕は無い

今の彼を悩ます要件は多い。その中でも最大なのは自らの体の事

浜面「お前、俺の事、知ってるのかっ?! 」

銃を取り下げて、話に噛みついた

?「私が現れて君が反応した。これは最大のヒントだが、まだ君はそのことを理解できる段階でもないようだ。しかし、君には以下の言葉を残そう。残すのが今回の私の役割に振られているようだ」

?「”エイワス”それが私を表すのに最も適した言葉。一部の者は”ドラゴン”とも言っている」

エイワス?ドラゴン?何かのRPGの符号か何かとしか受け取ることが出来ない。だが、この体の震えはそれを恐れているのか、彼女が言うように武者震いなのか

結局、ついていけない浜面

エイワス「次に会うときはその垢ぬけなさが無くなって、私の興味の触手に捉えられるだけの存在になっていればいいが」

そんな言葉を残して、彼女は消えた。消えたのは、本当に消えたのか、或いは部屋の玄関から出たのか

どうでも良かった、そんなことは。退いた汗で少し寒さを感じる中、手に持った携帯電話が震えていた
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/11(月) 05:07:29.16 ID:ZxjHfkco
本日分終了のお知らせ

22巻読んだ!
御坂ソスだが、ぶっちゃけこのオナニーSSにとっては都合がいい内容だった!

アニメ見た!
御坂カワユスなぁ!kjさんカコイイ!

今後の展開に期待!


だがその反動でこのSSの展開がダークネスになるやもわからぬ
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 05:12:55.23 ID:SAe9b62o
オイオイ、また爆散しちゃうのか
乙ちゃん
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 09:55:38.84 ID:x9PI0QSO
これ以上ダークネスになるとか…
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 15:21:49.70 ID:QhI74k2o
どっかにまとめられてない?
最初のほうとか、一周目とかいろいろ読み直したい
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 16:04:38.40 ID:LKZeeJgo
http://ex14.vip2ch.com/news4gep/kako/1275/12756/1275618380.html
とりあえず前スレ
>>1のURLだと、専ブラならともかくIEでは読めなかった
そして俺は専ブラとIEしか使ってない

まとめなら、のくすの書庫>SS+で同タイトル検索
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 16:06:07.19 ID:LKZeeJgo
連投スマン
のくすでは「のくす牧場 > 良スレ倉庫 > 2ch書庫 > SS+ > SS+ 書庫」だった
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/11(月) 21:07:10.49 ID:YY257n.o
製作速報 禁書ssまとめwikiについて
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285511476/

ここで頼めばまとめてくれるかも
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 05:23:11.93 ID:HDI5lWwo
ローラ「貴殿の言葉が何を指しておるのか良く分からぬが、壊すと言われて易々と許すと思いたりけるか?」

白を切る様ようだ。まぁ、無理も無いことかもしれないが

アックア「とぼけても無駄である。だが、良しとせんのは予想通り」

アックア「それに、他にも聞きたいことが有るのである」

ローラ「私に答えられるものならば答える意思はありけるが」

アックア「先の戦、ローマ正教が全面的に仏側を応援したが、その意図はどのように捉えている?」

ローラ「ふむ、貴殿には一般論は相応しくないであろうな」

ローラ「こちらが一番危惧たのは、本格的に我らの一派を接収に来たのかと思わされたことよ」

少し溜めて、次の言葉を吐いた

ローラ「目の前に偉大な出来事も予定されてありけるしの」

その言葉を聞いてアックアは瞼を閉じ、頷いた。それは一瞬の動作で、とりわけ目立ったわけでもない

アックア「その言葉、貴殿がよくご理解しているのが把握できたのであるが、それが分かっていてもなお、我らローマ正教とは袂を分かつというのであるか?」

ローラ「そちらの不寛容から端を発した歴史的問題に、矮小なる私如き小娘が解決するのは不可能というものと思っておりけるところである」

何処の口がそういうのだ、とアックアは思うが口には出さない

アックア「そうであるならば、致し方なき所、であるな」

ローラ「溝、というものは簡単には埋まらぬものでありけるよ」

アックア「ローマ正教・神の右席の後方のアックアとして、その言葉を受け取るのである」

されば、と声を続けた

アックア「世を憂う、一人の人間として請う」

アックア「禁止目録の遠隔制御霊装、対となる二つ共を、破壊してもらいたいのである」

そのストレートな物言いに、そして悪意を感じさせない物言いに、必要悪の教会・最大主教は虚を突かれた

最初に伏せていた言葉は、もちろん遠隔制御霊装の事だろう

それを隠さずに言うという事は、公表するぞと手札を切るように脅しをかける訳でもなく、しかし脅しをかけることよりも余程悪質だった

その場に身を伏せていたステイルを始めとする対アックアを想定していた必要悪の教会構成員へその言葉は伝わった

巧みな傭兵は、交渉の仕方も並みでは無かった
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 05:32:09.70 ID:HDI5lWwo
佐天涙子は人間とは思えない程の速さで、駆けていた

マップ上では次の角を曲がれば、5個目の隔壁を爆破しようとしている連中の丁度後ろへ出ることが出来る

侵入者側からは通路の壁にしか見えない場所を蹴り破り、長い廊下へ侵入と同時に侵入者が居るであろう第5隔壁側へ銃弾を掃射した

だが、そこに居たのは3人のうちの一人だった。それでも、躊躇しない。それが彼女の最大の武器だ

必死な彼女の脳内には、当然の考えがよぎる

今一人しか居ないのが偶然ではないのならば、そして目の前のその一人が明らかに動揺を示さずにこちらに狙いを付けているならば

つまり、この奇襲を想定してあらかじめ対策をしていたならば

フェイスガード内のモニタリングには、今も変わらず3つの光点。現実と異なる

ここで自分の間違いに気がつく。この光点の受信信号は、敵の電子機器だ

ここでは電子機器はまず正常な働きをしない。そんなことを一番よくわかっているのは敵の方だろう

そして、ここにはカメラなどあからさまな警備装置はない。殺風景なのですぐに見つかってしまうし、施設防衛のための妨害電波等のの対象となってしまうためだ

学園都市の部隊という先入観から、佐天は当然電子制御の武器を持っているハズということに疑問を持たなかった

つまり、コレは敵の罠なのだ。同時に一直線上での一方的な掃射によって潜入者全員が行動不能となるのを防ぐ防御手段でもある

突入した佐天と目が合ったのは、山手だった

躊躇せずに撃った弾丸は、男の体に直撃する

だが、山手の方もほぼ同タイミングで引き金を引いていた

佐天を山手と挟むような位置に立っていた仲間からの射撃と、山手自身の銃弾が佐天へ

痛みがアドレナリンによってかき消される

隔壁側に一人しか居ないと分かった時点で、元来た場所へ身を引っ込めることを考えていた。ほんの一秒と言えないぐらいでフル オート射撃を止めて、隠し通路へ身を引く

身を包んでいた戦闘服ごと体を貫かれたようだ

佐天(この威力、サブマシンガンじゃ、ないなアレ。当然か)

サブマシンガンというのは拳銃弾を主に使用する。故に、アーマーを貫通するには威力不十分になりがちだ。だが、それなりの防御力のある戦闘服にはぽっかりと穴が空いている

佐天(最低限、アタシが今使ってるのと同じ分の威力はあるね)

直撃した腹部と掠った左太ももから出る出血を確認する。裸の上から来た戦闘服は、徐々に穴を塞ぎつつあった。さらに下の皮膚の穴すらも覆っていく

佐天(へぇ、便利じゃん。お腹に弾、残ってるけど。これは仕方ないか)

手応えはあった。形式的には刺し違えたことになるが、恐らく隔壁の前に居た男にはそれ相当の被害を与えたはずだ。初戦にしては上出来だろう
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 05:36:18.54 ID:HDI5lWwo
佐久「糞、山手がやられたか」

一番最後尾で銃を構える大男の視界内で、一番先端に立っていた男が倒れ込んだ

急に現れた人間の射撃によるものであることは間違いないだろう

迎撃はあるだろうとは思っていたが、まさかこの通路の壁を破って現れようとは

足元にある最低限レベルの赤灯の光を反射してる、継ぎ目のない金属のような光沢を放つ壁

これではどこから奇襲が来るか分かったものではない

定石通り、小隊を割っていなければ一方的な展開だっただろう

手塩「敵も、その判断力を踏まえれば、侮れないな」

暗がりの中で、赤外線スコープすら満足に扱えない状況で敵の急襲。芳しくない

先程敵が現れた場所は、壁の部分にぽっかりと空間が空いている。が、あそこからもう一度出てくるかは判断出来ない

幸いなのは、敵にも銃弾が当っているであろうことだ

今この状況で考える最重要なことは、残った二人の動き方である このまま空間を広く開けたままにして迎撃するか、背中合わせで迎撃するか

広く空間を開けるならば、背後を見張るためお互いがお互いを見つめるようにして立つことになる。背中合わせならば、この細長い通路の入口 側と第五隔壁側を一人づつが監視するという方法になる

最初に山手の方を見ながら登場したことから、敵は電子機器の反応からマッピングしていたのだろう。よって、先程の攻撃をしてきたときにその罠にもう一度引っ掛かることは無い

つまり、敵(佐天)はこちらが何処に居るのか分からないのだ

無論、こちらも何処から出てくるか分からないという点はあるが、そういう条件では対等だ。そしてこちらは人数が多い

可能性としては向うの援軍があってもおかしくは無いだろう。しかし攻撃してきたのは一人だ。人員が居るならば3人程度一 斉に潰しに来ない理由が無い

それをしてこないという事は、居ないか、今は出てこないということになる。ならば、叩くのは今だろう

積極的に動くのに適して居るのは、この場合背中合わせだ。一気に第5隔壁前まで移動してしまえば、後は両者とも背後の入り口側を警戒すればいいのだから

それもこれも、敵が負傷して機動力を削ぐことが出来たということが根源にあり、また敵が一人という事が分かったからでもある

佐久「手塩!俺がそっちへ行く!」

一番入り口側の佐久が、第5隔壁との中腹に立つ手塩の元へ。その発言と行動から、手塩は佐久がどう考えたのか把握した
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 05:41:10.48 ID:HDI5lWwo
浜面「半蔵?!」

震えた携帯電話を、一拍の遅れの後に耳に当てる

どうやら相当に気が動転していたようだ

浜面「ってメールかよ…… 」

メールを開く。送信者は半蔵だった 内容は、”待っている”の一言だったが、その添付写真には滝壺が写っていた

浜面(……な、なんだよっ、これ!?)

アイテムの仕事は、浜面が今日一日動きまわれたことからも分かるように、今日は無かった

少なくとも浜面に仕事があるなんて連絡は来ていない。麦野は買い物にでも行っているだろう。絹旗は映画館にでも行っているだろう。フレンダはまた謎の味覚の虜になっているだろう。滝壺もいつものように電波をキャッチしてるだろう

その程度に思っていた

だが、このメール、この形式では間違いなく誘拐だ

浜面の方から散々探しておいて、いざ向こうから来た連絡は人質を持ってしての”待っている”

何か要求を突き付けてくるつもりだろうか。いや、まず第一にこの写真があるからと言って本当に滝壺が囚われているのかなんて分からないじゃないか

だが、この写真の中の滝壺の表情が浜面からそんな余裕を消し去る

浜面「畜生、なんなんだ!なんなんだよ!わけわかんねぇことばっかりじゃねぇか!!!!」

叫んだ。だが何かが変わる訳ではない。台所のシンクへ頭を突っ込み、蛇口をひねった。10月半ばの冷たくなってきた水道水が彼の熱のこもった頭を冷やす

浜面「……ッハァ、フー。……とにかく、麦野に連絡をしないとな」

ろくに髪の水分を拭きとらず、携帯電話を耳に押し当てる

コールが、耳に響く

浜面(頼む。頼むから、出てくれよっ!!)

「お客様がおk」

切った。まさか、アイテム全員を拉致ったのか。戦闘に全く向いていない滝壺だけを拉致するならともかく、あの麦野までも? いや、そんな馬鹿な。続けて絹旗、フレンダにも電話をかけた。両者とも出ない

思考が悪い方へ向かう。全員やられた?偶然?わからない。ただ、今分かることがある

浜面(今すぐ間違いなく動けるのは俺だけだ……!!)

気が付けば部屋を飛び出していた。どこへ行けばいいのかも、分からないが
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 05:45:02.54 ID:HDI5lWwo
早朝、垣根帝督は心理定規の能力を持つ少女と共にドジャースタジアムに訪れる

スタジアムとしては50年物の古い建物であるが、行き届いた整備がそれを感じさせない

56,000人を収容するその施設だが、試合も無い日の早朝ともなれば人の気配も無い

垣根「あぁ、寒ぃ」

定規「馬鹿ね。言ったじゃない、流石に10月の朝は半袖だと寒いって」

垣根「でもこっちの連中はそんなんばっかだぜ?昼になると熱いしな」

定規「人種の差と慣れよ。はぁ、仕方ないわね」

少女が垣根に寄り添うように腕をからめる

定規「どう?これで少しはマシになるんじゃない?」

垣根「……サンキュ、やっぱあったけーわ、お前」

フフ、と微笑む。特段、少女も垣根も恥じらうような仕草は無い

はたから見れば鬱陶しいところだが、ここはアメリカ。これぐらいの密着、目立つ訳でもない

定規「でも、この時間じゃとてもじゃないけどメモにあった外野席になんて入れないわよ?」

まぁ、強引には入れないことは無いでしょうけど。と付け加える その考えは垣根も同じだ。入口が封鎖されているだろう。密会する為に破壊活動など、足が残るだけだ。避けたい

垣根「ま、どっかの入口が空いてんだろ。ん?」

車が一台止まり、ツナギ姿の男が現れる。背中のプリントや車のCMから察するに清掃業者のようだ

その男が従業員用の入り口から中に入っていった

定規「アレ、利用しろってことかしらね」

垣根「そんなとこだろーな 」

少し駆けてその入口へ。開いていた

何が待っているか分からない。少女は銃を取り出す

スタジアムに入ると先程入った清掃員が一人、ゴミ袋片手にスタジアム内に舞い込んだ落ち葉を拾っていた

怖いのは今見えない上階席だ。垣根が先行して走り、見渡せる場所で確認する

垣根(なぁんもいねえ。拍子抜けだぜ)

定規「これって、ここで待ってればいいのかしらね?」
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 05:50:11.87 ID:HDI5lWwo
垣根「んじゃねーの?面倒臭せぇけどな」

襲われるよりはよっぽどマシよ、などと顔を見合わせていると、後ろから声をかけられた

「おっと、お客さん困るなぁ。どっから入ってきたんだい?」

あの清掃員だ

定規「大丈夫、敵意は無いわ」

小声の日本語で垣根に伝える

垣根「あー、すんません。こいつが前の試合のときに忘れ物したみたいで」

「へぇ、遺失物センターには?」

定規「行ったけど、そんな物はなかったって。まぁ、小さなイヤリングなんで見つからなくても仕方ないかなって思って直接ここに来たのよ」

「それで、探してたと。ま、人が入ってくりゃ潰されるかもしれないしな。今回は特別、見なかったことにしとくよ」

垣根「助かるよ。ありがとさん」

「なに、興奮して落とすなんて良くある話だ。特にプレーオフじゃ仕方ない。盛り上がったしな」

「俺は、ここで子供たちと一緒に観戦するのが好きなのさ。だから朝っぱらからこんな仕事もしてる」

「もちろん、その子供ってのは息子に限った事じゃない。息子の友達・ガールフレンドもだ。もっと言えば白球に興味の無い子供 でもいいのさ。近所の牧師にも天性の父性があるなんて言われてるよ」

「そんで、お前たちを見逃すのも、その一つさ。彼女の為に少々の違反を気にしない姿ってのは好きだぜ」

垣根「こんな事しといてなんだが、法律違反を見逃す親父ってのはどうかと思うぜ?」

「お前も俺くらいになれば分かる。子供は少々無茶するくらいがちょうどいいのさ。限界を知れば、そこから見える可能性は逆に拡がる希望もある」

「そうさ、希望だ。子供ってのは次世代への希望の塊なんだ。……っと、嗚呼、喋り過ぎたか。すまんね」

定規「気にしなくていいわよ。うちのお父さんなんてもっと話が長いもの」

「良く出来た娘じゃないか。おい、無くしたイヤリングの代わりをちゃんとプレゼントしてやれよ?」

垣根「今日見つかんなきゃその予定だった。ぬかりはねぇよ」

「いらん助言だったな。流石、学園都市の第二位だね」

少女は瞬時に武器に手を伸ばし、垣根も身構える

「待ってくれ。私は君たちをどうこうしようと思ってるんじゃないんだ。さっき言った希望の子供を守るために、協力してほしい。そのお願いに来たんだよ」

二人の目の前の男の顔が崩れ、中から定規は見たことのある、東洋人の顔が出てきた
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 05:55:15.95 ID:HDI5lWwo
ローラ「その様な物は、ついぞ聞いたことが無いな」

アックア「あくまで白を切り続けるのであるな。だが、我々ローマ正教を舐めないでもらいたいのである」

こっちは何処に合って誰が所有しているのか知っている。だからわざわざここに居るのである、という事は言わずとも伝わるだろう

アックア「右手に異能を打ち消す力を持っているとはいえ、本質的にか弱い上条当麻の手元に禁止目録を預けることが出来るのも、その様な装置があってのこと、ということぐらいは想像に難くないのである」

ローラ「なれば、仮にその様な物がありけるとして、なぜそれを壊すなどとのたまうのである。壊れてしまえば禁書目録自身が危険なだけでなく、どこかの組織に渡ればバチカンとて危険にさらされる可能性も孕んでおる。これもまた想像に難しくな いと思いたりけるが? 」

コホン、と一つ咳払い

アックア「だから、我々を甘く見るなと言っているのである。今現在、禁止目録がこの国、貴殿らの管理下にあることは知っているのである。そして、例の霊装が貴殿の管理下にあるものであるという事もな」

壊すのにはこちらもそちらも最も都合が良いのである。と付け加えた

ローラ(やってくれおるわ。これまでの僅かな言葉でこちらの信用信頼を切り崩しに来るとは厄介であるよ。もとより疑う者も多いと言うのにの )

しかしながら、彼女は彼女の考えようには個人的とも言える理由があって、絶対に破壊などとそんな真似はしたくない

ローラ「貴殿の言うバチカンの力を考慮すれば、その様な情報、最近入手した訳でもあるまい。それでいて、なぜ、今なので ありけるか?」

アックア「貴殿の言う偉大な事業に水を差されては困る、というのがローマ正教としての理由である」

アックア「そして、一傭兵だった時に世話になったイギリスと世界を憂う、ウィリアム・オルウェルとしての理由は」

アックア「神の右席の約一名の暴走を、事前に止める為である」

テッラは死に、ヴェントは療養中。その状況でアックアがこのような事を言うのだ、その一名は決まってくる

つまり、右方のフィアンマがその霊装を狙っている。そういう意味を成す

禁止目録の遠隔操作霊装。その存在が、俄然真実味を増した

ステイルはその言葉をかなりの近くで聞きながら、しかしそれでも理性的に自らを抑える

確かに、そういう装置が無ければ、禁書を他の者や組織に奪われる可能性が出てくる。それから守るためには幽閉などという方法を採らざるを得なくなる

だが、そこまでの危険を踏まえた上で、どうして禁書という存在を作り出す必要があったのか

既存の理由では、やはりその謎を埋めるに値しない。まさか、最大主教の私利私欲の為という訳でもないだろう

ありえそうなラインならば、最大主教がそれを利用しようと考えている、そんな程度しかあり得ない

最大の疑問を見つけ、ステイルはその場を後にした
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/14(木) 06:00:56.39 ID:HDI5lWwo
佐天涙子の今最大の目的は、研究施設の防衛である。そのためにも、この第五隔壁は壊されたくない

なぜなら、そこを越えられると残っているのは電子ロックの扉一つとなり、そこから先は研究施設内だ。どこが壊されれば何処の部分の機能の妨げになるか分かりはしない

その上仮に超えられたなら、あの子たちが出てくることになるだろう。それは避けたかった 時間制限が無いならば、一度入口付近まで戻ってそこから直線状に斃してしまいたいところだが、それを許してくれる連中でも無い

その上、彼女の腹部には銃弾が埋め込まれたままだ。痛みは無いとは言え、弊害は出ている

佐天(焦っては駄目。だけど遅い手も駄目。後は二人なんだから、ゴリ押しだって出来る)

立場を最大限利用する方法で、そして最も敵にとって予想外な方法

お互いの位置が分からないのは一緒だ。だが、こちらにはここの構造を知っているという敵には無い点がある

敵(ブロック)の思考を考えれば、一番怖いのは佐天が知らないところから急襲することだ。それに備えていることは容易に考えが付く

ならば、先程使った場所から飛び出すのはどうか。それは、本当に子供のへそ曲がりな方法であり、敵の意外を突けるかもしれないという面以外のメリットは無い。どう考えても敵の知らない場所からの急襲ということから生じるメリットを覆すことは出来ない

だが、佐天はその選択を採る。敵がまだ先程の場所よりも入口側ならそこを拠点にしたらいい。すでに隔壁側なら先程のように刺し違えればいい

後者は末期的な方法だが、それでもその奇襲性に賭ける

自らの覚悟を固めるため、仮に失敗しても隠し通路を使わせないため、佐天がここまで来るのに使った隠し通路の隔壁を作動させた

これでもう、しばらくは戻れない

佐天(……よし、いこう)

腹部のダメージの為か足の回転が悪い。これは思ったよりも不味いか

なおさら止まれない

佐天が飛び出した先の通路で、丁度、背中合わせでありながらスムーズに進行する佐久と手塩の横っ腹を突いた

これは佐天にとっても、佐久と手塩にとっても予想外だった

お互いの銃口から火が飛び出す。そのマズル・フラッシュが彼女たちを瞬間的に照らし、お互いの体勢を確認させる

瞬間的に不利なのは、佐久達の方だった。銃口が佐天の方を向き切る前に佐天は懐に入り、しかし佐天の方も銃を撃つ体勢でも無かった為銃弾はまともに彼らを捉えない

佐久は自動小銃を佐天へ投げて拳銃を引き抜いた。手塩は佐天側へ振り向く回転力に身を任せて自動小銃で佐天へ殴りかかった。佐天はライフルを二人めがけて投げ、同時に両腰からナイフを引き抜いた

左側から投げられた小銃によって佐天は左腕をその迎撃に回し、小銃で殴りかかろうとした手塩は佐天の投げたライフルの迎 撃へとその軌道を修正し、完全にフリーとなった佐久は拳銃の銃口を佐天へ向ける

払った左腕によって佐久の投げた小銃の軌道が曲がり、佐久が直視出来るようになると、拳銃の銃口が自分の頭を捉えているのがわかる。右手のナイフを拳銃を持つ手にへ向かわせつつ、体をひねって頭への直撃を避けようとした

大口径の拳銃から放たれた銃弾が佐天のフェイスガード側部に当り、捻った体が斜め後方にぐらつく。そのために右手のナイフの軌道が変化して佐久の手元を掠っただけに終わる

ほぼ同時に、佐天の投げたライフルを迎撃した手塩から、次なる打撃が襲ってくる
107 :どうしてこうなった [saga]:2010/10/14(木) 06:07:59.52 ID:HDI5lWwo
佐天の着ている筋機能増強効果を持つ戦闘服は有能で、崩れた体でも体を動かすに十分な筋肉の動きをもたらし、視界の端から襲って手塩の自動小銃のそれを足で蹴り飛ばした

そこで佐久の第二射撃が来るが、迎撃のために繰り出したハイキックの足を掠めた程度に終わる

佐天の流れるような動きは止まらない。さっきのハイキックをした足を使った回転を止めず、佐久の方へ背面を向けながらも左手に持ったナイフが佐久へ伸びる

拳銃を持った大男は迎撃の手段を持たない。後ろに下がって何とか避ける。回転は止まらない

間合いを取った佐久の目の前で、手に持った小銃を蹴り飛ばされ体勢が崩れた手塩の腹部に、佐天の右手に握られたナイフが深 く刺さる

ナイフを指すという行為は、運動エネルギーの部分的な停止をもたらした。つまり佐天の行動がほんの一瞬止まったのである

そこを佐久は逃さない。止まった右腕に大口径の銃弾を、もちろん碌に狙いを付けられなかったが、叩き込む

超至近距離からの大口径弾は、佐天の右腕の右肘から下を体から千切った。だが佐天はその衝撃すら利用する右腕が飛ばされるほどの衝撃を時計回りの回転に変え、今度は左のナイフが佐久の喉を、守っていた装甲ごと、裂いた

佐久の首から噴き出す血飛沫の中、腹にナイフが刺さりながらも抵抗しようとする手塩に止めを叩き込み、佐天は生き残る

ほんの一瞬の攻防だった。仮に佐久がその巨体を生かした、拳銃で無い方法で、戦っていたならば結果は違っていたかもしれない

これで、両足を銃弾が掠り、腹部には銃弾が残り、右腕は肘元から下が無くなり、頭には凹んだフェイスガードが食い込むことになった

ボロボロだった

そこに更に銃弾が飛来する。方向は、隔壁側。背中から肝臓の部分を撃ち抜かれた

佐天(まだ、生きてたの……ッ) 悲鳴を上げる体に鞭打ち、残った左腕で転がっている銃を手にする。今度は左肩。高性能な服のおかげで何とか標準を付け、生きていた山手へ銃弾が飛び出す

隔壁側からの銃弾飛来は無くなった

倒れそうになる体。だが今倒れれば二度と起き上がることは出来ないだろう

佐天(……死んで、……たまるか)

自らの血と殺した人間の血と暗がりに光る足元の赤色の照明が、彼女を赤黒く染め上げる

左腕で口元の血を拭い、震える足で研究所の方へ足と体を向ける

また、銃弾が、しかも先程より多く、彼女の体を突き抜ける。その衝撃で彼女は吹っ飛んだ

攻撃元の方角は、入口側。それが意味するのは、敵の援軍だ

だが、まだ脳の活動は止まらない。なんという強度だろう。フェースガードに覆われた頭部は、凹みはあるにせよ、無事だった

もはや残った左腕すら満足には動かなかった。吹き飛んだ先には彼女の口元に、吹き飛んだ右腕に掴まれていたナイフがあった。大丈夫、足はまだ動く

ナイフを口に咥え、身を起こし、動かない両腕を垂れさせて入口側へ。一人でも多くの敵を道連れにせんとばかりに、進む。銃弾の雨の中進む彼女の意識は、生まれて初めて、死を迎えた
108 :本日分終了のお知らせ [saga]:2010/10/14(木) 06:12:20.60 ID:HDI5lWwo
滝壺はどこにいるのか。運転しながら浜面は考えた

奪った車の中で、浜面はメールに添付された写真を確認する

良く見れば、その後ろには学園都市の夜景が写っていた。だが、それでは特定するには至らない。同じような光景はいくらでもある のだから

やはり、第7学区なんだろうか

ならば考えられるのは何処だ。日がまだ有った時間に、居そうな場所は片っ端から行ってみたが、そんな気配は全くなかった

根本的に、スキルアウトが、不良が日頃と比較して壊滅的に少ないのだ

間違いなく、何か起きている

そういう考えが膨らむほど、浜面は焦りを感じる

自然にペダルを踏み込む足が深くなった

「そこの自動車、止まりなさい」

けたたましいサイレン音と拡声器による声が浜面の耳に入る

ハッとして、自分の車の速度を確認すると120km/h近く出ていた 一般道でこんな速度を出し続けていれば、どうなるか明らかである。持っていた携帯を助手席に放り投げた

浜面「畜生!なんだってこんな、こんな時に、……クソッ!!」

誘導に従って、車を停車させる

「あーもう、今日はやたらスキルアウトの連中見なかったけど、結局お前みたいなのはどうなってもでてくるんだな。はい免許見せて」

警備員の車に乗せられ、言われるがまま、偽造の免許を提出する

不味い、このままでは車が盗難車だともバレテしまう。そうなっては今日どころか何日も動けない

焦る浜面の横で、めんどくさそうにする警備員。隙だらけだ

「はぁー、全く、何?君も第一学区に行きたかったのか?あんな速度出して」

浜面「君も、って? 」

「あー違うのか。いや何、なんだかスキルアウトが第一学区に集まってるみたいでね。なんでもライブがあるとかないとか」

言われて、表情が変わる。そういえばあの写真の背後に写っていた光は、第一学区付近の高速のそれに、とてもよく似ていたような

データを確認する為に、警備員が余所を向く。その隙を逃さない 隠し持っていた銃を取り出し、銃身を握って柄の部分を男の首筋に勢いよく振り下ろした

一方で浜面の携帯が、麦野という字を表示して、盗んだ車の助手席で泣きわめいていた
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 06:16:22.90 ID:m7DrnUDO
まだ読み切って無いが取り敢えず乙
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 06:17:40.38 ID:vsLEsuUo
あー佐天さんやっぱり死んじゃったかー
乙!
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 06:17:53.43 ID:DENiNIAO


佐天さん……
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/14(木) 06:50:35.73 ID:HZpbKBc0
爆散もしないで普通に死んでしまった・・・
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 18:34:46.21 ID:JucsiMSO
佐天さんマジ戦士
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/20(水) 20:00:46.61 ID:tLah7oDO
ヴェントの天罰で意識失って爆散する役で良いから佐天さんを二期にだしてやって下さい
115 :P2から書き込める…だと…? :2010/10/21(木) 05:12:44.00 ID:.V0amJwP
和平交渉の場が始まり、ドーバー海峡上の魔術陣に関しては協力調査という形式が取られた

この方法は、どちらの意向も満たすことのできる合理的なもので、お互いが潔白で有れば問題無くことが終わる

逆に、相手に押し付けたいならば工作をしたら良いというのは誰でも考えが付くものなので、両国の警備は従来のそれよりも固いものとなっている

そんなこと、直接関係ない禁止目録は全く気にもせずロンドンの街を歩く

協調ということで、秘蔵っ子の禁止目録は隠される。ローマへの情報をなるべく遮断せよという最大主教の命によるものだ

衣服の中に愛猫を入れ、更に身元を隠す為と寒さ対策の為に厚めの黒い修道服を着重ねた

見た目上はただの十字教の尼である。そんな身分を利用してか、彼女はロンドンの街を歩き回る

記憶が少ないので、ここの地形が完璧という訳ではない。それでも、行く前に地図を確認したことで、目的の場所まではすぐだ

なぜか理由は分からないが、最近少女は小説を良くたしなむようになった

今まで興味が無かった訳でもないし、読んだ経験も多々あるが、最近は良く読むようになった

そういう訳で、特に用事の無かった彼女は図書館へ

ロンドンには大英図書館という、マグナカルタの原書などが展示されている様な権威のある図書館もある。だが、彼女が読みたいのはそんな権威のあるような代物では無い

純粋に恋愛小説が、それも丁度禁書あたりを対象年齢にしたそれが、彼女は読みたかった

与えられた権限を有効に使い、交通機関を乗り継いで向かう少女

禁書(なんだか、違和感を感じるんだよ。図書館に行くこと自体はあってるのに……)

自分の思考があやふやだ。完全記憶能力があるのに、その記憶が不安定なのか

禁書(あってる?なんに対して正解なの?)

禁書(あれ、私、なにを考えているんだろう。学園都市の図書館?いや、そこで本なんて借りてない、はず、なんだよ)

記憶という名の表象が、彼女の脳内を駆け巡る。同時に、同居人の目を欺くためという理由を元に借りた力学や機械工学などの記憶が散見する

禁書(こんな本、読んだ覚えないかも。え、え、え、こんな感覚はじめてだよ)

連想で、同時に出てきた男。混濁したありえないハズの記憶の中にも、彼は登場した

彼本人を対象にした魔術や能力は、その効果を表さない。ということは、自分が記憶操作の術に巻き込まれているのか?

もちろん、単に少女の夢と記憶が混濁しているだけかもしれない

禁書(そういえばここずっと、とうまに会ってないな)

ギュッと、胸の猫を抱きしめる。温かい。でも彼女はより心地よい温もりを知っている様な気がした

禁書(スフィンクス暖かい。でも、なんでこんなに満たされないんだろう。なんで、なんだろうね、スフィンクス)
116 :復活祝いで長めです :2010/10/21(木) 05:20:13.99 ID:.V0amJwP
奪った警備員の車の後部座席には、気を失った警備員の男が、両手両足を縛られ身動きを取れない状態で寝ている

車は速い。サイレンを灯火しておけば止められることも、、カメラに引っ掛かることも無い

浜面(こいつ、なかなか便利だぞ。次の仕事からはこれを優先的に拝借しようか)

時間も時間だが、輸送用のトラックなどは完全下校時間など関係なく高速を走りまわる

それでも全体の総数については昼間のそれよりも遥かに少なく、さらにサイレンを喚かせて走る車の進路は優先的に空けられる

原動力の残りなど関係なくフルアクセルで進む

浜面(よし、今のうちにもう一度麦野たちに連絡を入れて……ってアレ?)

そこで浜面は気が付いた、前の車の中に携帯を投げつけたまま忘れている事を

焦る。もし、半蔵から追の連絡が来ていたらどうしようもない

完全なミスだった。さらなる焦りが彼に拡がり、すでに限界速度付近である車を更に加速させようとする

浜面(頼むから、移動とかするんじゃねぇぞ、半蔵!!)

願うばかりだった


麦野「あの馬鹿面、一体何なのよ」

シャワーを浴びて少し上機嫌だった麦野沈利の視界に、一定のリズムで光る携帯端末

浜面から二、三回電話が来ていたようだった。正直、風呂上りで用事など面倒臭さが通常より倍増するところだが、彼女は浜面にかけ直した

長いコール時間から、彼はでることが出来ないのだろうと判断する

ただでさえ若干の嫌気を押して電話に出たのだ、その上これでは少し、ほんの少し短気な彼女は頭に血が上る。風呂上りでもあることもそれを加味させる

麦野(次に会ったとき、どういう風にしばいてやろうかしら)

それでも一応、メールを確認する。どんな内容でも彼への制裁が消えることは無いだろうが

メールが、来ていた。それは、浜面が寄越したものではなかった

麦野「ふぅん、そういうわけ」
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 05:25:42.57 ID:.V0amJwP
特段の問題も無く、神の右席の指導者・フィアンマはイギリスの地へ辿り着いた

交通が復活した海峡トンネルを使えば、大陸と島を渡るなどあっという間だ

彼の力をもってすれば、海を強引にわたり欲する物を強奪することは容易だろう

だが、今は身を伏せるときなのだ。警戒されてはやり難いという事もある。対策されては厄介な事になる。何事も、計画

特に急を要する今ならば、それは特段重要性を増す

目立つ格好もせず、そして魔翌力という名の身体反応を隠す為の地味な霊装を身につけた彼は、今やただの一般人と差支えが無い

フィアンマ(良くもやってくれたものだ、アメリカは。俺様の目的なぞ知らぬハズなのに、こうも邪魔をしてくれたのだからな)

彼の目的地はもちろんロンドンなのだが、それは最終的な目的地でしかない。まずは、彼の計画に必要な人間が何処に居るのかを知るところから始めなくてはならない

4人の候補の内二人の場所は分かっている。米国に踊らされているところだ。遠い上に厄介なものを二振りも引っ提げている

そして一人は、舞台から降りると次の舞台に上がるために秘密裏に手を回す人間らしく、パパラッチという厄介なジャナーリスト達を持つこの国の中においても居場所の特定に難があるそうだ

最後の一人は、とても都合がいい事に魔術においてはほぼ無能で、今は前海戦の慰労という事でブリテン島南西のデヴォンポート軍港を訪れるという事になっている。際立った手腕を持たぬ彼女は、彼にとって非常に都合が良かった

フィアンマ(連れてくるだけ、それで十分だ。なら、下手にじゃじゃ馬をかっぱらう必要も無い)

適当に列車に乗り込んだ為、今持つチケットではロンドンまでだ。延伸の為にカウンターへ向かう

「毎度、どちらまで?」

フィ「そうだな。プリマスの方へ向かいたいんだが」

「プリマスね。ちょっと待って下さい」

パソコンに繋がった発券機を使う。その僅かな時間に会話を挟んだ

「お客さん、こんな時期に観光かい?」

フィ「ああ。ロンドンは最後に行ってみようと思っている」

「まずは周りからって、ね。そいつはいいですよ。とくに西の方には今、あの方が向かってらっしゃる」

フィ「あの方?」

「我が国の王女様はどいつもこいつもきっつい目をしてるんだ。そりゃ、写真うつりはみんないいさ。でも、やっぱりあの方、ヴィリアン様は違うね。控えめで、いかにも貞淑だ。一番好感が持てる」

フィ「はは、それには同意だ。こっちの王家はふしだらなのが伝統だしな。際立って見える」

「手厳しいが、言い返せないですなぁ。まぁ、それも王宮文化ってやつでさぁ。西に行くってのは、お客さんもヴィリアン様がお目当てで?」

発券された切符を受け取る。整った顔で、一瞬両目をつむった。何気ない、肯定の仕草だ

フィ「ああ、噂の王女様を一目見ようと、ね」
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 05:29:55.12 ID:.V0amJwP
学園都市の裏の動きを、土御門元春は調べていた

彼の暗部としての情報網を使い、今までは良くある小競り合いとして見落としていた争いを洗い出す

どうやら、少数ではあるが一小隊規模(30人程度)の特殊兵装部隊が第一学区へ向かったらしい

土御門「特殊工作部隊、か」

珍しいことではない。対抗勢力の拠点をそれこそ丸ごと吹き飛ばしたりするなど、彼らの出番は多い。故に各勢力が各々で部隊を編成しているのだ

他にも、今晩だけでより下部の部隊を用いて争っている所もある。だがそれは、それこそありがちな小競り合いだろう

土御門(間違いないな。第一学区で何か起きてる)

半分直感で、半分は理性的な判断で、彼はそう考えた

夜の学生寮の一室で、モニターを覗く男。彼はたくさんの顔を持つ。その中の一つが土御門舞夏の義兄という一面だ

その少女は、彼の後ろのベッドで寝息を立てている。いつもの格好では無く、ちゃんとした寝間着を身につけてだ

暗部の人間であると同時に、甘えてくる義妹の兄という役割を果たさなければならない

つまり、今から出て行った場合その妹が起きるまでに帰って来なくては、その役割を満たすことが出来ないのだ

今に始まった事では無い。こうして彼女が寝てしまった後に端末から情報を引き出したり、実際に手を下しに行ったりなど、今までに何度かこなした

その度に上手く隠し通しているのか不安になっていたが、とうの義妹は気付いたような仕草を見せることは無い

”擦れ”とか”慣れ”と言っていいだろう。彼はその行動に最早抵抗は無かった

壁の方を向いて寝る義妹の髪を一撫で

土御門「それじゃ、行ってくるにゃー」

と殆ど口を動かしただけのような音量で呟き、彼はそっと部屋を出た

同時、義妹は寝がえりをうつ。それは偶然では無く、意識的なものだ

舞夏(やっぱり、居ないのかぁ)

ベットから起き上がり、暗い部屋の中を見渡す。さっきまでついていたパソコンは消え、光源は窓から差し込む光のみ

筋肉トレーニング用のダンベルに反射して、人工的な光が更に温かさを失った光として、彼女の目に入る

初めて気が付いた時から、彼は朝方に何食わぬ顔で帰ってきた。多分今日も問題なく帰ってくるだろう

舞夏(さみしいけど、無事に帰ってきたら、今日も気付かない振りしてあげよっと)

そして彼女は眠りについた。目が覚めたら、義兄がそばに立っているであろうと信じて
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 05:36:12.96 ID:.V0amJwP
白井黒子は夜の街を殆ど飛ぶようにして移動していた

本来ならば、こんな時間に外出するつもりなどは無かったが、集団で調子を崩した御坂のクローン達の世話というイレギュラーなイベントに時間を割いてしまったのだ

そしてその素体である御坂はまだに彼女たちのそばで看病をしている。彼女は妹達と呼ばれるクローン達についてもちろん尋ねたが、教えてもらえたのはその呼び名ぐらいだった

LV5なりの、深い理由があるのだろう。目の前で急に苦しみ出す彼女たちの世話をする御坂に、それを深く追求するのは躊躇われた

本来ならば今日は病院に行った後にやることが有ったのだ。だが、この状況では仕方がない。御坂としてもあの場から離れるわけにもいかないし、白井としてはあまり手伝えることが無かった

そこで白井は一人で本来の、佐天の捜索に行くと言って病院を出た。御坂もそれを止めはしなった、むしろ行って頂戴、と後押しされる

白井「おそくなりましたわ、初春。佐天さんは?」

初春『……まだ、帰ってきていないです。でも、こんな時間、遅すぎますよ。何してたんですか?』

まさか御坂のクローンが倒れたなどと言える訳も無く、彼女は

白井「お姉さまのご友人が救急搬送なされたんですの。今でも、付きっきりですわよ」

初春『そうですか……なら、仕方ないです。私、今、第一学区へ向かってる最中なんですけど、合流しませんか?』

白井「わかりました。あなた、今どこにいるんですの?」

初春『んーっと、第一学区の駅までもう後5分ってところですね』

白井「わかりましたの。それでは第一学区で落ちあいましょう」

初春『了解です。あ、白井さんにはあんまり関係ないでしょうけど、今は電車が動いていないので、空間移動するかタクシー使うかぐらいしか手段がないですよ』

白井『え?まだ終電には早くはないですの?』

初春『そうなんですけどね。原因は隠されてる様ですが、第一学区へ向かう列車が全部運休になってまして』

白井「では初春はどうやって第一学区に?」

初春『簡単ですよ、特別便を作ったんです。すっぱり切られたラインなので、一本ぐらい追加しても追突なんかの危険性も無いですし』

完全電子制御である学園都市製の列車だからこそ、そして初春という類稀なる素質を持った人間だからこそ、できる芸当であろう

白井「し、仕方がありませんわ。目を瞑りますが、隠蔽まで忘れずに。流石に発覚したら庇いきれないですわよ」

初春『大丈夫ですって。それでは、駅で待っておきますね』
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 05:44:11.69 ID:.V0amJwP
一方通行は、経験則から今回もウイルスだと判断した

無論それは、それしか思い当たる解がないからである

その解がもたらす解決方法は、二つ。ウイルスそのものを消し去ってしまう事。もうひとつはウイルスを媒介として打ち止めに遠隔的に負担をかけているその根源を叩きつぶすこと

マネージャーウェアの吐いた答えが確かならば、負担が断続的にかかっているとのことだ

ウイルスの性質が分からない以上、そしてウイルスでない可能性がある以上、一つ目の解は不適切だ

デフォルトの状態に戻す、という解法は仮にそれがウイルスによる影響でなかった場合、これまでに彼女が組み上げた効率化・防壁をすべて消し去ってしまう事になり、負担が続いている環境ではさらなる悪化を招きかねない

ならば彼に取れる行動は一つ。当ても無い中で根源を探すという事だ

一方「なんですかねェ、これは」

思わず声に出た。考え過ぎた頭を冷やす為に、打ち止め達の眠る部屋から出た直後だった

限りなく意識が疲弊した中で、今までは意識しなかった情報が入って来ていた。それは限りなくベクトルという概念であらわせるようで、しかし現にあるベクトルを操る彼には判断できないものだった

一体、脳のどこの部分が反応してこんな良く分からない何かを取り入れて式に代入しているのだろうか

何よりも不思議だったのは、首の電極のスイッチを入れないで、どうして彼はそんなベクトルの成りそこないのような何かを知覚し、式に代入しようとしていたのか

通常の演算では当てはめることのできないそれ、高度なそれを、どうして彼が捉える事が出来たのか

それを深く考えていると、前に打ち止めの前で不自然に涙が出た時の、街中で青髪の女を見て体が力んでしまった時の、何かに押さえられていたものが噴き出すような感覚に辿り着く

当然それは、披露した脳にさらなる負担をかける。そして運悪く、彼の杖が床を滑った。何かを杖先で踏んでしまったらしい

こけた

上条「おいおい、大丈夫ですかー?」

バランスを崩した彼を、上条の左腕が彼を支えていた

一方「あァ、すまねェ」

上条「千鳥足でフラフラしてんなーと思ったらコレだ。何か考えてたのか知らないが、お前も疲れてんだから休めよ?」

一方「うっせェな。無茶すンな的な言葉をお前からは受けたくねェっての。…………おい、お前地図持ってないか?」

上条「ハァ?急だな。何のだよ?」

一方「ここの、えェと、学園都市の奴だ」
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 05:44:51.15 ID:.V0amJwP
上条「おいおい、学園都市で生活してるやつが、そんな物持ち歩いてる訳無いだろ?」

一方「なンでもいいンだ。生徒手帳とかもってないのか?アレの後ろの方のページに描いてあったりするだろ?」

上条「あのなぁ、今日日真面目に生徒手帳なんて持ってる高校生なんてかなり稀有だぞ。特にここのは学生証で何でも解決しちまうからな」

上条が良く分からないと言った表情を挙げている一方で、一方通行は自分の意識をその謎の何かに集中させていた

ベッドで寝ている打ち止めから、そこで寝ている妹達に分散しているそのベクトルで表せるような何か。その逆の端、つまり打ち止めへそれを向けている発信源へ

一方「畜生、消えやがった」

上条「んんん?とりあえず学園都市の地図をお前に見せればいいんだよな」

一方「なンだよ用意できンのかよ。早くしろよ。まァいい、見せれるなら見せてくれ。多少ぼやけちまったが、意味はある」

相変わらず意味不明という言葉を代弁するかのような表情の上条が、その左手が一方通行の首筋、チョーカーを触れた

その行動に怪訝な顔をした一方通行だが、触れてしばらくした後に、理解した。学園都市の地図の情報が、彼の頭の中に直接流れ込んできたのである

一方「魔法使いみてェなマネしやがって。けェど、いい調子ィ」

一方通行は目を瞑って考えているようだ。しばらく、待つ

上条「何してんのかわかんねーけど、もういいですかー?」

一方「せかすな。もうちょィだ。……第一学区のこの辺、だな」

もういい、と一方通行が目を開いて手をひらひらさせた

上条「……なにがしたかったんだ?」

一方「オイ、三下ァ」

上条「はい?」

一方「第一学区だ」

え?という顔の上条を手で掴み、電極のスイッチを入れる。そして窓を開いた

上条「えっと、上条さんにもわかるように説明してほしいんですけどおおおぉぉぉぉぉ??!!」

上条の体が、4階という高さから投げ出された。一方通行と共に
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 05:49:15.64 ID:.V0amJwP
混濁した意識の中で、彼女は虐殺を見ていた

銃を乱射する人々へ強引に襲いかかり、ナイフで、銃で、足で、拳で、人間を肉塊にしていく

佐天(あぁ、これ、走馬灯ってやつなんだろうな。他の子たちがやってきた事と、混じってるのかな)

佐天(いいよ、全部アタシがもっていってあげるから。受け止めてあげるから)

後ろに続く人間に、間髪おかずに襲いかかる

銃弾が掠った。痛い

佐天(あなた達も、痛かったんだよね)

追撃の弾丸が体を突き抜けた。血が抜けて行く感覚がする。二度目の死を経験した

だが、走馬灯は止まらない。次なる自分が、目の前の先程死んだ自らの死体を視界の隅に置きながら、自分を殺した人間へ銃弾を叩き込む

こんどは、後ろから撃ち抜かれた。そのまま銃弾の雨が彼女を襲う。3度目の死を経験した

佐天(痛いよう)

爆死、痛い。焼死、痛い。窒息死、苦しい。圧死、痛い。苦しい。痛い。苦しい。痛い。苦しい。痛い

ようやく、視界から敵は消え去った

代わりに視界の中心にあるは、少し大人の自分。足元の赤色照明だけの暗い中でもはっきり分かるのは、片腕は無く、目は開いたままで、獣のような表情だということ

しゃがみこんで、その顔を、体を確かめる

佐天(アタシって成長したらこんな体になるんだったんだ。胸なんかも大きくなって)

佐天(こんなことに巻き込まれなきゃ、普通に大人になって、恋愛して、子供が出来て、ってなれたのかな)

やっぱり、悔しい。このまま逝くなんて、認めたくない

弾丸で無茶苦茶になった自らを抱きあげる。死体らしいぶよぶよとした感触と重み

混濁した意識が、徐々にはっきりしてくる。ぼやけていた視界も、周りの暗さに適応していく

本当にボロボロになった体。ある部分は内臓が見え、耐久度を超えてしまったのか、フェイスガードは壊れて頭は半分ほど吹き飛んでいた。持ち上げたことで、死後硬直が始まっていない脳漿が流れ出る

それを見て、高まっていく悔しさ。呪うのは、巻き込まれた不幸と未来が断たれた現実

この現実のせいか、目の前に死んだ自分が居るからか、彼女は彼女の意思でまた新しい体を動かしていることに、今になってようやく気が付いた

重みで生首が千切れる。その千切れた頭に手で力を加えた。変形してい骨格は僅かな力を加えるとゴリッとした感触があって、顔であったものが更に変形した

どうやら、また私は生きているらしい。幽霊なのかもしれない。変形した生首から、ポトン、と眼球が転がり落ちた。足先に当る。どうやら足も実体らしい

足と手があるならば、出来ることはある。彼女は走り出した
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 06:04:02.83 ID:.V0amJwP
垣根帝督は心理定規の能力を持つ少女と、東洋人の操る車に乗っていた。あの清掃用の車両である

トウヤと名乗る東洋人。日本語を話すことから、日系なのだろう。日本人かどうかは分からなかったが

垣根「それで、あんたは何モンなんだ?まさか学園都市からわざわざ来ましたなんてヤツじゃないだろうな」

トウヤ「いやいや。君たちを見つけたのはほんの偶然さ。あんまりにも高速で動くから、君らの熱が赤外線レーダーに引っ掛かったんだ」

まさか生きているとは、流石学園都市の人間だ。まさかその体はセラミックなのかい、ははは。と軽い口調だ

垣根(赤外線レーダーなんざ、PMC以外で民間の人間が目にできる訳がねーっての。この男……)

垣根(それに、この車だってそうだ。ガラスは厚めで防弾性能有り。見た目ほど中が広くないのも、大方防御力の向上目的の内装の為だ)

床に手を伸ばした。カーペットの下の更に下に見える簡単な取っ手を引くと、中には何かを入れるための空間が用意されている

そしてそこに有ったのは黒く鈍く光る筒状の物

垣根(やっぱな。こんな清掃車が平気で走るんだから、物騒な国だぜ)

同じような行動をしていた心理定規も驚いた様子も見せなかった。彼女の立場を考えれば当然か

そんな垣根の様子をバックミラーで見る男

トウヤ「驚いたかい?」

垣根「いーや。残念だが、予想通りだぜ」

トウヤ「はっは。これを見て驚かないなんて、学園都市の教育は随分と進んでるんだなぁ」

垣根「茶化すなよ。それで、何モンだ?」

トウヤ「そう急かなくてもいいじゃないか。お楽しみは後で、と言いたいところなんだが、生憎時間が無くてね」

如何にも残念だとジェスチャーするために、男は運転していた両腕を離す

定規「ちょ、ちょっと前も見ないで手放しなんて、なにやってるのよ!?」

だが、車は信号前で待つ車の後ろで適正な車間距離を保ってきちんと停止し、青になれば自然に動き出した

トウヤ「最新鋭だからね。それこそ二日前に供与されたものだ」

道路には学園都市の物と違い、特殊な設備は見えない。つまりこの動きは、車側の制御によるものだ

トウヤ「AIが段違いに向上したもので、ってそんなことはどうでもいいか。私はこういう者だよ」

日本人の代名詞とも言える名刺が出てきた。とある外資系企業の営業部門とある

垣根「ほー。最近の金融マンは作業員に扮して大量の武器を積んだ車で行動しないといけないってか。ふざけるなよ」

トウヤ「あれ、その道の人には結構有名なんだけどな。ま、対外排除しかしない学園都市では仕方のないことかもしれない」
124 :投下途中ですが一端寝ます。起きたら続き投下する予定 :2010/10/21(木) 06:05:49.66 ID:.V0amJwP
あぁ?と思わず声が出たが、横に座っていた少女がそれを見て、あることに気が付く

定規「上条って、幻想殺しと同じ名字じゃない?」

刀夜「ほぅ。息子を知っているのかい?どうだい、あいつは元気にしてるかな?」

垣根「元気も元気。元気過ぎるぐらいに動きまわってやがったよ、俺の知る限りではな」

刀夜「そうか。ならいいんだ。あいつはあいつでやることをやってるんだろう」

最早、完全に前を見ていない

刀夜「私は、上条当麻の父で、とある諜報組織直結の隠れ蓑みたいな企業に勤めている。表向きは金融バブルに上手く乗っかった私企業だけれども」

あとは言わなくても分かるよね、と言いたげな顔をした

防空網のレーダー情報を覗くことが出来、武器を積んだ最新鋭のAI制御防弾車両をこの国の中で乗り回すことが出来る諜報組織など、一つしかないだろう

垣根「……それで、そんな諜報員が敵である俺たちにお願いってのは?」

刀夜「それなんだが我々の組織の最上位が主導して行おうとしている計画が、私は反対なんだよ」

垣根「あぁ?テメェの反逆を手伝えってことか?」

刀夜「簡単に言えばそうだ。止めようと最大限工作したのだけどね、管轄の違う私では止められなかった」

組織論でいえば、当然の事だろう。まず日本系である事、そして学園都市に子供がいる時点で、そこを仮想敵としている管轄に配属されるはずがない

定規「それで、オジサマが止めたかった計画ってのは何なの?」

刀夜「学園都市の接収計画さ」

垣根「何だと?ちょっと待て、形式的には独立しているとはいえ、実のところ日本領だぞ?不可能だろ」

刀夜「そうだ。だが、仮に、あの学園都市がその異常な軍事力を持ったまま内乱状態になれば、それを日本が独力で抑えることが出来ると思うかい?」

垣根「……できねぇだろうな。でもよ、そんな方法を採るのかよ?米軍まで巻き込んでか?」

刀夜「すでに上下院共に大統領まで秘密裏に許可を得ている。軍も首脳部は既に乗り気だ。その決定の速さは、異様なものだった。それこそ付け入る隙も無い程の、ね」

刀夜「なによりも怖いのは、この作戦が一度大成功とはいえないにしても 成 功 し て い る ことだ。今回は目的がその時とは違うようだが」

垣根「成功している、だと?」

刀夜「その時は我々と軍に隔たりが有った上、裏切も合って旨みがなくなった、という結果だったそうだ。その時の目的は純粋に技術と生産設備となっている」

難しい顔に表情が変化した

刀夜「君たちも知っての通り、今現在こちら側に移った学園都市の研究者は多く、どの人物も一線級と聞いている。そして純粋な技術水準でいえば、この国レベルは都市と変わらないものだ。まだ一般レベルまで普及していないのが学園都市と違うところだけどね。となると、分からない。どうして軍事占領をしてまで学園都市を接収する必要があるのか、が」
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 07:29:11.31 ID:rJ6sNwAO
いつも楽しみにしてます。
個人的にはすでに今まで読んだ中でも五指に入る名作。がんばってください
126 :>>125そう言われると素直にうれしいです :2010/10/21(木) 09:17:47.15 ID:.V0amJwP
禁書目録は、ステイルからの連絡を受けて惜しみながらも図書館を後にした

魔術による遠隔通信は当然傍受される可能性があり、ステイルは深い理由を言わなかった。だが、聞こえる声には余裕がなく、素直にその指示に従った

最初に気が付いたのは、胸元の愛猫だった

不穏な雰囲気を察したのか、胸元でもがいた。そして禁書自身も気が付く

人払いの魔術。彼女はその魔術に捉えられたらしい。周囲の人間が不自然にいなくなる

禁書(私を、狙っている……?)

ステイルが焦っていたのはこう言う意味だったのか

禁書(でも、狙うならわざわざ人払いを張る必要があるかな?確かに暗殺には向くかもしれないけど、ロンドンのど真ん中でこんなことをしたら、すぐにいろんな部署に気付かれる)

彼女は身を隠すように小路へ駆け込んだ

禁書(それを無視して、狙うなんて正気なの?)

どこにいるのか分からない敵を想定して、彼女は逃げる

視界の陰に、長い黒髪が見えた


ステイルは伝えられた人払い展開の情報を元に、現場へと全力で移動中だった

ステイル(クソ!動きが思ってたよりも早いじゃないか!!)

軽く道路交通法を無視し、通り過ぎた後で車と車が接触する音が響いたが無視

ステイル(しかも人払い、だと?どこの馬鹿だ、ここロンドンでそんな愚かな事をするのは)

ステイル(全く持って無意味すぎる。何の目的で見つかる可能性を犯す必要があるんだ)

ステイル(まさか、内部の組織の手なのか?いや、だったらなおさら他組織に見つかるような広範囲魔術を使う必要がない)

ステイル(駄目だ、見当が付かない。わかるのは、仮に見つかっても、ロンドンの魔術師全員を押し返せるような技術と自信を持ったキチガイ野郎だよ)

ステイル(いや、寧ろ今は好機か?!王家の人間はロンドンに居ない。騎士団は療養中。動ける聖人も居ない。アックアとして奴が来たせいでそっちへ人員も裂かなければいけないし)

ステイル(仮にそうなら、僕らも舐められたものだ!特異な存在以外に脅威が無いと言っている様なものだからね)

そして、人払いの結界の中へ飛び込んだ
127 :キャラが増え過ぎて先に進まないとか俺はアホなのか :2010/10/21(木) 09:23:45.17 ID:.V0amJwP
少女は目が覚めた。だが、動けなかった

口にはガムテープが張られ、手足は縛られている

滝壺(ここは、どこ?)

首と目を動かし、場所を確認する。だが、周囲は暗く、その上どこかの建物の中の様で全然分からない

この状況を脱するには、まずは手足を自由にさせないと

滝壺は体を芋虫の如く動かして、明りが差し込むところまで移動する

半蔵「必死な所をすまない。でもお前さんを逃がすことは出来ないんだ」

急に現れた男の姿に、びくりとする

口を塞がれているため、ん〜としか音にならない

半蔵「騒がれても困るから、一方的に話させてもらうぜ」

若干無理な体勢の滝壺を起こしてやり、壁にもたれかかるようにしてやる

半蔵「手短に言う。君をさらったのは俺だ。つまり、浜面の敵だ」

半蔵「でもな、同時に俺はあいつのダチでもある。だから、ここへ来るように浜面に呼んでおいた」

半蔵「君はどうやら連中にとって必要らしい。その分、俺が助けるのを手伝ったのがバレると困るんだ。だから」

暗くて表情は良く見えないが、言葉は強かった

半蔵「だから、次に会ったら俺たちは敵同士として立ちまわってくれ、と伝えてほしい。頼んだ」

そう言って、男は闇に消えた。その跡には、赤い血の染みが残っていた
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 09:32:26.22 ID:.V0amJwP
浜面は奪った警備員の車で高速のランプ(斜陽路)から降りて第一学区の区画に入っていく

そして、記憶に残る画像から、特徴的な高速道路のカーブがあの見え方をする場所を考える

浜面(ああもう、記憶がどんどん曖昧になりやがる。落ちつけ、俺。角度は結構ついてた。そんでもってあの見え方だからそれなりのビルの階からだ)

車のスピードを緩めて可能性に含まれる施設を見回す

浜面(って、どいつもこいつも条件を満たす高さ持ってんじゃねーか!!)

前を良く確認していなかった浜面は、目の前の何かを轢いた。その衝撃が浜面をハッとさせる

浜面(うおっ、やっちまった?!)

車を急停止させ、浜面は飛びだした。同時に後ろで縛られていた警備員が衝撃で座席を転がり落ちたのだが、浜面は気が付かない

轢いてしまったのは、人間だった。しかし、速度が緩かった為に、死傷させる程ではないハズだ

浜面(全然動かねーけど、死んでは無いよな。骨折も無いみたいだし)

駆け寄った男は脈も呼吸も有り、変形した様子も無い。目も開いていて、定期的に瞬きをしている。だが

浜面(オイオイオイオイ。キまってんなこいつ)

先日見たドレスの少女のような目をしていた。生気のない、幻覚でも見ているか、絶望をみているか

そこで浜面は気が付く。同じような人間がそこらかしこに立っていることを。上ばかり見ていて気が付かなかった

浜面(気配がないってレベルじゃねぇ。なんなんだこの状況は)

見た目は、今日一日浜面が目にかけなかった、いかにも不良ですと言わんばかりの格好をした連中だった。そう、スキルアウト達だ

そんな人たちはかなりゆっくりではあるが、なにか目標を持って進んでいるようだった

浜面の後ろで車の扉が開く音がする

「おい餓鬼ィ!やってくれたなぁ!!」

声の方を振り返ると、浜面が気絶させた警備員が立っていた

手足を動けないようにしていたのだが、どうにかして脱出したようだ

「警備員に手を出すとはいい度胸だ。だがな、喧嘩売る相手は考えろ糞餓鬼ヨォ!!」

拳銃を引き出して浜面の方へ向けた

「跡が残ってまだ痛いんでなぁ、少々スッキリさせてもらうぞ」

言った瞬間、銃弾が飛び出した。不味いと感じて咄嗟に動かなければ、足が撃ち抜かれていただろう

「オイオイ、避けんなよー。これじゃ、 手 が 滑 っ て急所に当っちまうかもしれないだろ」
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 09:32:58.21 ID:.V0amJwP
やばい。こいつも違う意味でイっちまってる

同時に、今度は殺しの一撃を狙ってくるであろう銃撃をよける為、動きを止めずに物陰へ走る

唇の先に銃弾が掠った。だが動きを止める訳にはいかない

こっちも銃はあるが、この状況で下手に反撃しようとすれば、その動作で撃ち抜かれるかも知れない

何より、相手は防弾装備とまではいかなくても、それなりの警護服を着こんでいる。刺し違えるようなことを狙うのは愚かだ

浜面(畜生、めんどくさいのに捕まっちまった。このまま隠れてそのまま進むか。でもあいつ俺の偽造免許持ってるし、いずれは手が回る)

ビルの陰に入り、傷を確認する。口先と太腿に銃弾が掠っていたが、気にならない程度だ

「な、なにしやがる?!」

男の声が響いた。更に複数の銃声

何事かと顔をビル陰から覗かせると、警備員の男が生気を失った男たちに襲われていた。まるでゲームのゾンビのようだった

と言っても、それは一方的に銃で迎撃しているので、血だまりが増えていくだけだが

銃声が止んだ。銃弾が尽きたので、男は弾倉を交換しようとしていた

流石に躊躇われたのか、頭や腹部を、つまり急所を狙わないで、移動力を削ぐために足を狙ったのだ

だが、それでも張って襲いかかろうとする人々

男は遂に、銃を急所に向けて撃った。至近距離で撃ち込まれた銃弾によって貫通した頭脳の後ろから、その衝撃と共に脳漿が飛び出た

浜面(野郎、マジでやりやがった!?ふざけんなよ)

陰から飛び出して、しかし、おかしくなった人間に囲まれた警備員の男はそれにはすぐに気付けなかったが、危険を顧みずに近づいた

既に急所へ銃弾が叩き込まれた人間は3人。4人目を出させないために、彼は持っていた拳銃を構えつつ進む。出来る事ならば、男が気づいていない内に近づいて、その手の物を叩き落としたい

しかし、男と目が有ってしまう

浜面「ッ」

狙いが正確でないまま、片腕で、浜面は引き金を引いた

浜面が銃をこちらに向けているのを見て、男も拳銃を向ける

両者の決定的な違い。理性的な制御を失っている男は浜面の何処へ銃弾を撃ち込んでもよい

反面、浜面は男の命を刈り取るつもりはなく、銃を失わせたいだけだ

二つの銃声が同時に響いた
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 09:34:29.33 ID:.V0amJwP
土御門元春は、幸運だった

使おうと思っていた列車がなぜか運休になっていたところに、丁度特別便が現れたからだ

乗っているのは、前の車両に一人。良く見えないが、なぜか女子中学生

向こうはこっちが乗り込んでいることには気が付いていないだろう。特別な入口から乗ったので、見えているはずがない

土御門(完全下校時間も過ぎたのに、こんな娘がなんでいるのかにゃー)

その腕には風紀委員と書かれた腕章が見える

土御門(なぜか用意された謎の第一学区への特別便。でもって風紀委員の女子中学生。何者ぜよ)

彼は今、疑心暗鬼である

自分の知らずの内に、大事が進んでいた。それを知ることが出来なかった

目に写る全ての理解に苦しむことが、それに繋がって見える

土御門(……ひとまずは、あの娘について行ってみるべきか)


白井との電話を終えて、少女は列車内で端末を取り出した

本来ならば、ノートパソコンを持ってきたい所であったが、大き過ぎで移動が阻害される可能性があるからと、小型の物を持ってきた

本来ならばタッチパネル式のそれに小型の折りたたみ式ソフトキーボードを取り出し、接続する

初春(第一学区管内で緊急通報。なんだってこんな時に?)

佐天の情報を探そうと、都市内の警備システムに忍び込んだ初春は一番最初に飛び込んできた情報に驚く

先程まで部屋で調べていた時には無かったものだ

初春(スキルアウトとの抗争、ですか)

初春(でも何だって第一学区でそんなことを?すぐに逮捕されるのは目に見えてるのに)

駅が近づいてくる

初春(とにかく、安全を確保しながら進まないと)

電車が止まった
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 09:36:45.76 ID:.V0amJwP
上条「頼むからさ、次は口で言ってくれよ?」

一方通行に投げられ続け、地面に接地する前にキャッチ、更に投げつけられるという鬼畜なことが数回繰り返された末の発言だ

今の彼らは車に乗っている。運転をしてるのは上条だ

一方「てめェの体が難儀すぎるんだよ。右手が不調だからいけるかと思ったんだがなァ」

上条「勘弁してくれ。お前の実験みたいなことに付き合わされてたら、いつか死ぬ」

高速をかっ飛ばしながら、上条は体の節々に痛みを感じる。一方通行は昼に感じた上条へのイラつきを込めたという事はあえて言わなかった

一方「ンで、あとどれくらいだ?」

上条「この時間のせいか第一学区へ進む方は随分と空いてるから、後30分もかからないと思うぞ。つーかなんで第一学区なんだ?」

一方「一言でいえば勘ってヤツだ」

上条「学園都市第一位の頭脳を持っていながら勘って。ま、確かに何か起きているようだけどな」

ハンドルを右腕で添えるようにして抑え、左手を助手席の一方通行の首物へ伸ばす

上条「お前にも、見せてやるよ」

少し笑みを浮かべて、上条が一方通行をちらりと見る。そして首元へ伸びる手

まるで女性をキスに誘う時に口元を動かすように思えて、一方通行は奇妙な感覚を覚えた

上条「とっと、そうじゃなかったな」

顎に伸ばした手の方向を変えて、首のチョーカーへ

一方「……てめェ」

そして頭脳に情報が示しだされる。その中の一つに噂程度の物だと思っていたものが有った

上条「まさか、こんな施設が本当にあったなんてな。都市伝説だと思ってたけど」

第一学区地下研究開発生産施設。対核戦争になっても、その技術を残す為だとか、そこだけで反撃する為だとか、統括理事会員を退避させるためだとか、実しやかに学生の間でうわさになっていた場所だ

一方「純粋に臭いな。しかもそこが攻撃中だとォ?」

上条「どういう経緯でこうなったのか全くわかりませんが、確かにそんな場所ならあの子達に遠隔的に何かする設備があってもおかしくは無いと上条さんも思う訳ですよ」
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 09:41:41.38 ID:.V0amJwP
やっちまった

>>131の3行目に以下の文を付け加えて読んで下しあ

なぜそんなことをしたのかと言うと、純粋に移動の為だ、と一方通行は言う。確かに、彼のベクトル操作で投げて進めば速いだろうが、物体としての上条のベクトルが動かせない以上、単なる嫌がらせにすぎなかった


133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 09:43:20.10 ID:.V0amJwP
絹旗「こんな時間に呼び出しとか、一体何の嫌がらせですか?」

フレ「お肌に悪いってレベルじゃないわけy、って滝壺は?」

麦野「私だってこんな夜中は勘弁してほしいところだったわよ。でもその滝壺が拉致られたんじゃ話は変わるわ」

その言葉に、少女たちはもちろん驚く

フレ「ちょ、滝壺が拉致って、どういうことよ?」

麦野「さぁね。でもあの子の能力は能力者を攻撃する側からしたら、喉から手が出るほど欲しいでしょ?」

絹旗「じゃぁ、学園都市に喧嘩を売ろうなんて馬鹿共が滝壺さんを?」

麦野「案外、その辺の雑魚かもしれないわ。あの子は純粋な暴力に抵抗出来るような能力じゃないし、売ったら高く売れるでしょうからね」

フレ「うっひゃぁ、それなら結局人質とかのほうがよっぽどマシ」

絹旗「あの馬鹿面なら散々騒いでそうでしょうけど、なんで居ないんですか?」

麦野「多分、もう現場に居るんでしょう」

絹旗「多分、ですか」

麦野「そうよ。あの馬鹿はどうやって気が付いたのか知らないけど、私に連絡する前に再三電話があったし」

フレ「そういえば、私のとこにも来てた」

絹旗「私もです。映画鑑賞中に来たから無視してましたが」

フレ「結局、可哀相な浜面」

麦野「ま、私も他人のこと言えないんだけど、無視は良くないわ。今はあっちが出れないみたいだけど」

絹旗「一人で突っ込んでやられちゃったのかもしれませんね。それよりこの車は何処へ?」

麦野「第一学区よ。滝壺がさらわれた時についてた監視が、あの子がスキルアウトに絡まれているのを目にしたらしいわ」

フレ「ちょい待って。スキルアウトと第一学区の接点が見えない訳よ」

麦野「簡単よ。雑魚の群が、第一学区に大挙して押し寄せてるの、今」
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/21(木) 09:45:15.90 ID:.V0amJwP
未だに夢の中に居るような感覚だったが、彼女は地下施設の中を駆けていた

なぜか全裸だったので、身につける物が欲しかった。銃は大人な自分が使っていた物を使おうとしたが、筋力が不十分

敵の大男が使っていた拳銃も、この体では不向きらしかった。使えるのはナイフか。振ってみるが、前の体の時のようにしっくりこない。この固体はどういう物なのだろう

佐天(まぁ、今はどうでもいいよね。待ってて、みんな救ってあげるから)

今でこそ敵は全滅しているが、このまま終わるとは思えない。目的を達する為にも早く戻る必要が有った

便利なフェイスガードも無い。そして隠し通路は自ら閉じてしまった

今彼女に出来る侵入方法は一つ。侵入者が残して逝った爆薬で隔壁を吹き飛ばして進むことだ

幸いにも、残る隔壁は一つ。可能性で言えば、施設内に入っても隔壁が有る可能性があるが

第五隔壁側で死んでいる男の側に行くと、やはり爆薬がそのままで残っていた

佐天(ここを開けたら、後続の部隊が来ると、多分止めるのは辛くなる)

佐天(でも、やるしかないよね)

血生臭い男の装備から起爆スイッチを見つけた。そのまま、距離をとってスイッチに力を加える

直線一本の長い通路なので、その衝撃が離れていた少女をも通過して入口の方へ逃げて行った

綺麗に通路の形を残して壊れた隔壁の先に見えるのは、昨日にも操作したパネルを備えた入口

少女はもう一度、その扉をくぐった。昨日とは違う目的を持って
135 :本日分投下のお知らせ。やばい。進まないってレベルじゃない :2010/10/21(木) 09:48:42.50 ID:.V0amJwP
刀夜に連れられて、彼らの拠点にやってきた

拠点と言っても名ばかりで、簡単な通信設備などが有る程度のビルの一室でしかない。セーフハウスの一つなのだろう

刀夜「例の計画が前に成功していた、と言ったよね。その直接的な証拠という訳じゃないが、ここにそんな事が有ったような可能性を示すものがある」

そう言って、彼はデスクの引き出しから封筒を出す

刀夜「君がこの国に来る前から有ったもの、ということを念頭に置いてほしい」

渡された封筒には、結構な量の書類が入っていた

垣根帝督という人間の構成・脳波パターン・脳内構造・能力についてなど、流し読みしただけで苛立つほど、彼の詳細な情報が掲載されていた

垣根「あー、俺にはプライバシーの権利ってもんがないのかよ。って言いたくなるな、こりゃあよ」

定規「だけど、この程度の情報なら流出の範囲じゃない?」

刀夜「その通り。だが、問題は君の能力分析の所だ。読んでみてくれ」

そこには、垣根の能力の特性が書いてある。今まで目にした自分の情報の中で一番詳細なものだった

垣根「未元物質の構成仮説と実測結果、だと。なんだこの精度は」

刀夜「そうだ。加えて、実験の日付を見てほしい」

定規「二日前……?!ちょっとまって、有り得ないわよ、こんなの」

あの日は、仕事が始まるまで垣根は自分の監視下にあったのだから。仕事以降はずっと垣根も活動していたと聞いている

垣根「そうだ。有り得るハズがねぇよ、こんなもの」

刀夜「私だってそう思う。日付の日程なんて書き換えるのも容易だしね。だが」

垣根「その計画とやらの詳細を知った上でのコレは、ってか。言いたいことはわかるぜ。だが、こんな情報を俺に知らせたところで、俺はあそこへ戻るつもりはねぇぞ」

垣根「戻れば何をされるか分からない上に、伝手も消されているだろうしな。それに学園都市なんざよりも、もっと厄介な問題があるだろうが」

暗部組織、という便利な枠から完全に外れてしまった以上、心理定規の能力を持つ少女にとっても戻る利点は少なかった

刀夜「君が何の事を言っているのか分からないが、それは200万の子供達よりも優先されるようなものなのかい?」

垣根(……こいつ、知らないのか。どうなってる?情報共有がなってない、いや、封鎖されているのか?だとすると、こいつらの反逆は上にバレてんのか?)

垣根「さぁてね。だけど、有益な情報をもらったのは確かだ、助言はさせてもらう」

垣根「おタクの反逆、多分看破されてるぜ?」
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 10:20:59.48 ID:jfa/XEDO
おつかれー
これ面白すぎるな
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 11:10:41.10 ID:331JvMSO
前も書いたが記憶はともかく記録が残ってるのはどういう理屈なんだ
種明かしが今から楽しみすぎる
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 13:43:44.80 ID:j737mcDO
いやー面白いわ
つかキャラ増えすぎちゃって作者がうっかり殺さないかが心配だ
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/21(木) 18:32:23.31 ID:DZHYrtko
かまちーもこれくらいの陰謀劇やってくれるといいんだけどな・・・
140 :読み返してみたら前の投下誤字脱字ばっかりだったな :2010/10/23(土) 03:59:52.12 ID:EO18O76P
禁書「……ワイヤー?」

攻撃に気が付いた時、目の前の舗装路が割れて溝が出来た。どう考えても狙いは自分しか居ない

禁書(こ、この攻撃方法っ。飛び出してたら今頃真っ二つだったんだよ)

こんな方法で攻撃する魔術を使う一派を禁書はもちろん知っている

しかもこの威力だ。該当する人物は一人しか知らない

夏頃までそんな人間に追われていたのだから

目の前でそんな物を見せられて、効果の無い歩く教会とそれなりの防御力しかないシスター用の黒いローブしか装備していない禁書が出来る行動は一つ

禁書(後ろへ逃げるしか無いんだよ!なんでこの人に狙われているのか分からないけど!!)

裏路地は、学園都市のそれとは違って高さは無いが、比較的低くて小さい建物ばかりなので禁書にとっては都合がいい

先程攻撃が有った舗装路に続く裏路地との境で角をなしていた建物の部分が破壊音と共に崩れ落ちる

禁書(ちょっとこれは、余裕がないかも……っ)

一瞬首を後ろに向けたとき、その視界の端に刀の柄が見えた

横の小路へ飛び込む。ギリギリだった

ローブの背面の先が少し裂け、それでも止まらず次の角を曲がる

禁書(このまま行くと大通り、身体能力はアッチの方が上、徐々にだけど追いつかれてる。ジリ貧なんだよ)

後ろの壁が破壊された音が聞こえた

禁書(ジリ貧……?あの人から逃げ続けて?おかしいんだよ)

禁書(確かに、記憶がある範疇でもあの人から逃げ続けてきた。でもそれは歩く教会もあって、更に異国の地だったから)

禁書(でもここ、ロンドンは、わたしには記憶が薄いけど、あの人にとっては)

勘に任せて飛び込んだ次の角

禁書(ホームグラウンドなんだよ!!そんな所で、聖人の身体能力を持った人間から今こうして逃げ続ける事が出来てるなんて)

自分の運が良過ぎるのか、その行動を狙われている。すなわち

禁書(誘導されてる……?!!!)

気が付けばそこは、袋小路だった
141 :プロット通りに書いてたら面白くないんだよ!! :2010/10/23(土) 04:03:48.90 ID:EO18O76P
浜面は腹部で、その銃弾を止めた

対して男の銃は、まだ生きている

男を目の前にして、自らの傷を痛覚して、浜面は前のめりに倒れ込んだ

浜面(……まぁそりゃ、こうなるわな。覚悟はしてたさ)

恐らく来るであろう、男の次の攻撃に身構える

だが、聞こえたのは男の悲鳴だった

手の中の銃を狙った浜面の攻撃は、拳銃そのものは捉える事が出来なかったが、その腕に当っていた

浜面の銃は隠せるサイズで、本当に小さいもの。口径も同じだ。男の防護服が銃弾による出血は許さず、しかし、強い衝撃は確かに伝わった

拳銃を放してしまわなかったのは彼の執念か。それでも銃はしばらくの間、腕がしびれて満足に使えなくなる

そこへ、浜面が助けようとした4人目のスキルアウトが、警備員の男を転倒させることに成功したのだ

倒れてしまえば、腕の痛みもあって、男はじたばたする程度しかできず

スキルアウトの顎が、男の脹脛に噛みついた。浜面の耳が捉えたのは、その悲鳴だ

雑食性の人間の顎は、本気を出せば相当な力を発揮する。そして噛みついている彼の筋力のリミッターは解除されている

浜面(………酷ぇ)

素直な感想だった。倒れた浜面が顎を突きだすようにして目にしたその光景は、凄惨の一言に尽きる

男の体がスキルアウトによって噛み砕かれ、肉が引きちぎられていく

スキルアウトの方も、筋力の制限を突破した使用があごの骨へ影響を出したのか、口元は歪み、下あごの骨がほほを突き破っていた

「や゛めろ!!!!!やめてぐぇ!!!ぃあえろおおおおおおおおおおおおおおおお……」

とうとう顔面の、頬を、眼球を、複数の顎が捉え、悲鳴が途切れる。もがいた銃を持つ手が虚空を撃つ

銃声も止み、脱がされた簡易なフェイスガード付きのヘルメットが転がっている

浜面(やばいな。なんであいつ等がこんなことになってんのかわかんねぇってのに、イ、シキ、が)

浜面(俺、が狙われないって根拠、も……。にげ、な……、血も、出て……ぅ。ぁ)
142 :だから書いてる最中の思いつきを優先するんだぜ!! :2010/10/23(土) 04:06:48.84 ID:EO18O76P

定規「それで、貴方はこれからどうするつもりなの?」

拠点を出て、少女は言った

垣根「どうもこうも、やることは決まってんよ」

定規「へぇ、それってさっきオジサマに言ってた事と何か関係あるのかしら?」

垣根「ん、まぁそんなところだ。今更他人を助ける聖人サマにはならねぇ。だがな、」

垣根「自分に関わることぐらいは、俺は行動しないと気が済まないらしい」

定規「あら、そんなこと。今更ね」

垣根「うるせーよ」

定規「ふふ。私としては、その自分の関わること、の中に私の事も入ってるとうれしいのだけれど」

帝督、と呼びかけて、垣根の肌に触れる

定規「って、貴方やっぱり寒いんじゃない。鳥肌立ってるわよ」

垣根「日が出たってのにな」

定規「んじゃ、何か買いに行きましょ?」

垣根「あぁ?お前はお前で報告とかしないわけ?」

定規「それも兼ねて、よ。少なくとも、何の当てもなくご希望の所に近づくのは難しいでしょう?」

垣根「ほぅ。俺が何しようとしてるのか分かるのかよ?」

定規「私も馬鹿じゃないの。あなたの考えることぐらい、少しは分かるわ」

垣根「そーかい。じゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ?」

定規「了解。でもまずは、貴方の服を買ってからね」

そう言って、笑顔で少女は垣根の手を引いた
143 :さて、この先どうなることか :2010/10/23(土) 04:10:46.14 ID:EO18O76P
深夜の病室で、御坂美琴は目を覚ます

その病室は、幼い自分と同型の自分が寝息を立てていた

御坂(寝ちゃってたか。まぁ、仕方ないよね)

寝ている少女達の横の装置に映し出されている脳波のグラフも落ち着いている。その様子に、少女は安心した

御坂(そういえばアイツと一方通行、何処に行ったのかな)

気が付いたら、彼らは居なくなっていた

上条は恐らくその右腕で、一方通行はベクトルを操作して、御坂は脳内電気の方向を逸らす事で、少女たちを襲う謎の負担を逃がしていた

そして大きな波が数回去って、時折発生する小波ばかりになって落ち着きだした所で、何時の間にか疲弊した一方通行と上条当麻は居なくなっていた

御坂(全く、あの後も結構大変だったっての)

それでも、御坂一人で十分なものだったが

御坂(でも、一体何が原因でこんなことになったんだろ)

御坂自信は、ミサカネットワークという物を完全には理解できていない。それは彼女がそのネットワークに入っていないからでもある

御坂(私が知ってるのは、この子が、その管理者であるってこと。一応、核がない横のネットワークだってことは知ってる。でも、特別な役割を持つこの子一点を頂点として、その下に他の妹達が連なる二層構造の側面があるってことは間違いないって、思ってたんだけどな)

御坂(けど、今日を見る限りそれは違う気がする。この子が言うには、ここに居る妹達以外に被害は出てないって言ってたし)

御坂(ってことは、外部からミサカネットワークに負担がかかってて、それがこの子たちだけに伸しかかってたってことになる)

御坂(二層構造なら、負担がかかるのはこの子だけ。でもそうじゃなく、この4人も)

御坂(ということは、打ち止め‐この4人‐その他の三層構造か、ここに居る5人‐その他の二層構造ってこと?)

御坂(管理者がこの子ってのは間違ってない。でも打ち止めの負担だけが無くなってた時も、他の4人は同時に苦しんでた。ってことは後者?でも管理者は……)

御坂(あーもう、どうなってんの!?私もネットワーク内に入れれば、分かるかもしれないってのに、無理だしなぁ)

頭を悩ませていると、入口の扉がスライドする音が鳴り、部屋に電気が付いた

蛙医師「随分と思い悩んでいるみたいだけど、まさか恋愛的な悩みかい?」

御坂「違います!!……はぁ、質問なんですけど、この子たちのネットワークに、私が入ることって無理、ですよね」

蛙医師「なんだ違うのか。ふむ、それは一番君が分かってる事だろう?って本来なら言うところなんだがね」

御坂「……がね?」

蛙医師「ちょっとしたことで、直接的とは言えないにせよ、接続出来る可能性をもたらす物があるんだけど、使うかい?」

そんなことを言われて、少女の答えは一つだった
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/23(土) 04:13:15.57 ID:EO18O76P
頭がお花畑の少女が第一学区の駅を降りると、街は異様な風景だった

行政地区、つまり最も官僚的で警察的で治安の良い場所に、スキルアウトが大量にいる

それに近い情報を事前に入手していたが、ここまでのモノとは

初春(ちょっとこれは、風紀委員の腕章は危険かなぁ)

そう判断して、彼女は持ってきた小さな鞄の奥へそれを突っ込んだ

初春(まだ白井さんは来ていない様ですし、少し観察しよう)

駅でゆっくりとどこかへ向かう彼らの横をかなり自然に歩く

そして分かったのは、彼らの共通点として手首か首元に淡い光を発する何かがあるという事

初春(なんだろう、アレ。三角形の何かみたいだけど、わかんないなぁ)

初春(というか、雰囲気が怖すぎます。まるで生気がないような、幻覚でも見てるみたいで)

初春の短い風紀委員の間だけでも、こんな雰囲気の人間に会った経験は、ある。所謂、シンナーだったり、大麻だったり、学園都市の研究機関から流出した合成麻薬であったり

そういう、嫌な記憶がよみがえる

初春(うう、白井さんまだかな)

駅の柱に身を隠すようにもたれかかった


そんな少女の姿をこれまた影で見る男

土御門元春は少女の動きを見ていた。驚くべき点を見だしていた

土御門(あの子、とんでもないにゃー。監視カメラが全て止めてから行動してるぜよ)

土御門(相当な技術力をもっている、のか。動きは素人だが、あの薄気味悪い不良の横を顔色変えず通り去ることが出来るのも、度胸が据わっている)

すこし場所を動き、土御門は近くのスキルアウトの首筋を強打する

声も無く、緩慢な男は倒れる、ハズだった

土御門(っな、ちょっと加減し過ぎたか)

緩慢な動きのまま男が振り返り、その視界に入る前に、土御門は次の一撃を加える

それでようやく、男は意識を失った

土御門(無駄に煩わせてくれたが、どういうことだ?こいつら、集団でヤクでもやったのか)

そして土御門も、その光る何かに気が付く。そして初春の近くに、白井黒子が現れた
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/23(土) 04:17:08.37 ID:EO18O76P
禁止目録の視界が一面、真っ赤に染まる

しかしそれは、血では無い

袋小路の彼女を守る様にして、炎を纏った黒い巨人が現れたのだ

ステイル「どうやら、間に、合った、みたいだね」

息を切らしていた。余程急いだのだろう

禁書「ステイル!」

ようやく、待っていた援軍が登場した。建物の上から傍らに飛び降りた彼の側に禁書が寄る

寄った直後、さっきまで禁書が立っていた場所にワイヤーの動きと共に切れ溝が奔った

ステイル「んな、これは」

禁書「七閃、なんだよ」

禁書の発言に、しかし現実を認めないわけにはいかない

ステイル「……ここじゃ不味い!」

禁書を腕で脇に抱き、飛び上がった

建物の上まで来たかという所で、追撃の七閃

彼が叫ぶと、炎の巨人も飛び上がって彼らの盾となる

最初から完全に止めることは出来ないと分かっていた。だが、その体から放出される大量の熱が空中へ飛び上がったことによる空気の爆発的な膨張が、ほんの僅かに飛来するワイヤーを遅らせる

ステイル(ぬるい、手を抜いているのか?)

巨人を貫通し、射線が逸れたワイヤーの余波がステイルの肩を軽く掠るが、彼の行動を止めるほどの物では無い

禁書「ステイル、上に逃げてどうするの?!」

ステイル「僕が、ただ飛び込んだだけだとでも思うかい?」

見回すと、禁書が見える範囲の建物一面にルーンの入ったカードが貼られている

ステイル「逃げ戦となると分かっているんだ、対策は取ってあるさ」

そうステイルが述べた後に、彼らの後方で炎の渦があがる

簡単に、しかし身に付けた衣類を若干焦がしつつ、それを回避した女が刀に手を掛けた居合の構えをして、立っていた

ステイル「やっぱり、君か」
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/23(土) 04:19:38.64 ID:EO18O76P
絹旗「しかし、超空いてますね。大分前を飛ばしてる車以外、他に何も走ってません」

フレ「学園都市の高速なんて、どこも常に車があるってイメージが有ったのに、こうなると意外な訳よ」

麦野「逆路線はいつも通りで、第一学区へ向かうルートだけガラガラ。不自然ね」

絹旗「だとすると、前に走ってんのも同業者かもですね」

麦野「可能性を否定できないわよ、それ」

フレ「うっひゃー。敵じゃないと良いんだけど、それは高望なんでしょうなぁ」

絹旗「こちらがそう思ってるってことは、向こうも超同じ事を考えてるかも知れません」

麦野「ちょうおなじこと……。運転手さんよ、もし前の車が同じ第一学区に入って、止まったら距離を置くか、隠れるように止めなさい。いいわね」

「りょ、了解だ」

麦野「よし。そんで、そこで待っとけなんて言わないから、私達を下ろしたらすぐに一度第一学区を離れなさい。でも呼んだら来るように。来なかったらお前、[ピーーー]から」

運転手は、つまり彼女らの下部の暗部の男は、前を見ながら強く頷いた。若干の震えが見て取れたが

それを見て、麦野は満足する。いざというときに確実な足が必要なのだ

滝壺を奪還しても、連れ出す時に強敵から逃げながら、なんてことになるかもしれない

一方的に勝ち続けることは出来はしない。ならば、負けない方法をとる。それが自分の自尊心を著しく傷つけることになっても

ここ数日の自分を圧倒的に上回る存在との体験から、そういう事を麦野は学んだ

フレ「しっかし、浜面まだ応答しないんだけど、結局どうなってるわけ?」

絹旗「それはホントに、やられちゃったのかもしれないですね。武器も満足にないでしょうし」

麦野「死んでたらそれで終いよ。悪運しか能が無いヤツだしね。滝壺最優先でいくわよ」

絹旗「その超悪運で、生きてるでしょーね」

フレ「死んでたら滝壺ショックだろうなーと思う訳よ」

麦野「むしろ滝壺の経歴に傷が付かなかったと神サマに感謝だわ。ま、結局のオチとしては、携帯壊しましたとか無くしましたとか忘れましたなんてのが、浜面クオリティでしょ」

絹旗「ホントに何の面白味も無いですね。四流脚本家の書きそうなオチですよ」

フレ「結局、それが浜面って奴でしょ」

こんな風に言われるその浜面と言う男を、運転手は憐れむのだった
147 :本日分投下のお知らせ。次からやっと戦闘が書けるかな :2010/10/23(土) 04:22:15.65 ID:EO18O76P
一方「お前、後ろの連中どう思う?」

麦野たちの前を走る上条達の車の中で、一方通行は尋ねた

上条「この状況で、来るやつなんだろ。お前の同業者とかじゃないのか?」

一方「グループとしては連絡が来てねェが、俺もお前と同意見だァ。どっかの暗部組織の部隊、ってところだろうな」

上条「あーあ、敵対なんてしたくないですね。こちらの目的はただの調査ですから」

話し方に若干の違和感を覚えたが、一方通行は無視する

一方「ンじゃァ、もうひとつ質問するぜェ。なンでお前をつれてきたと思う?」

上条「さぁ、気まぐれか?」

一方「残念ながら不正解だ。答えは簡単、俺が純粋に疲弊してるから、だ」

上条「ほほぅ。そーですか。……ってことはアレか?戦いになったら俺が何とかするのかよ?!」

一方「いやァ、コイツの充電ももうそろそろ切れそうなンですわァ。お強い幻想殺しさンにお願いしたいなァ。ってことで頼むぞ」

上条「嘘だ!俺はお前が充電しながらやってたの知ってんだぞ!!なにかあったら俺を囮にするとか、そんなんだろ!?」

一方「そこまで分かってンなら、もう言う事はねェな」

上条「この鬼畜!!」

一方「なンでも手伝うって言ったのはそっちだろ?ンで、妹達ので疲れちまったのは事実だ」

上条「お前って奴は……。いや待てよ?ってことはお前は俺をそれだけ信頼してるってことだよな?」

一方「は、はァ?どォ考えたらそうなるンだ」

上条「だってお前、こういうとき絶対他人に疲れてるなんて言わないだろ。弱ってる一方通行を狙いたい人間は、たくさん居るだろうからな」

一方「……ッ」

上条「いやー照れるなよ、一方通行。お前にそんなに頼られちゃー仕方ないですなー。あ、俺の事は気軽に当麻君って呼んでいいからなー?」

一方「うるせェ、黙りやがれ。お前なンて、さ、三下で十分だ」

上条「ほらほら呼んでみー。と・う・ま・君って」

そんな雰囲気で、上条達と麦野達は走って行った。第一学区は、もう目と鼻の先だ
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 06:07:34.78 ID:EfiMg9go

やっぱこう仲のいい上条さんと一方さん見てると和むわwwwwww
んでもって、嗚呼……ねーちんが…………
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 07:25:31.97 ID:7DJMw2SO
このていとくんと定規が死んだらマジ泣き
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 12:45:28.78 ID:bc.T9HkP
>>147を見て不覚にもわろた
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/23(土) 23:55:06.54 ID:X1kvtwAO
乙なんだよ
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/25(月) 01:25:12.62 ID:eBjV3Fo0
マダー?
153 :気が付いたら朝なのである :2010/10/25(月) 07:28:44.35 ID:6FV70dMP
彼はマタイ・リース個人として、そしてローマ教皇として、イスラエルへ向かっていた

護衛も無く、側近に何も告げず。バチカンに残したのは信頼できる影武者のみ

いつかは気付かれるかもしれないが、しばらくは持つだろう。起きたとしてもバチカンでの混乱は完全に無視している

目的は、ユダヤ教徒との会合

教皇(これは、新教旧教東方その他の各十字教だけの問題ではない。各指導者と手を結ばなければ……)

公式的な行動でも無く、信頼できる僅かな人間だけで向かった

指定された場所は、やはり非公式である事を考慮したのかエルサレムからはずれた場所

パレスチナ自治区との境に近い場所だった

「なぜ聖下との会談を、このような場所で」

教皇「非公式故というものだろう。このように急な訪問に答えてくれる事をありがたいと思うべきだ」

「しかし!これでh」

従者が何かを言いかけた時、街中を一般市民に紛れて歩く彼らの前の店の扉が勢い良く開いた

中から、白人系であろう男とアラブ系の男が飛び出す

白人系の男がアラブの男の上に馬乗りとなり、殴りつける。下敷きの男は反撃の素振りを見せず、体を守っている。一方的に白人系の男が興奮しているようだ

騒然とした雰囲気を嗅ぎつけたのか、重装備の警察であろう人間が現れ、その殴り合いを止める

周りの人間の話では一方的に白人系の男が殴りかかったと言うが、警官はまるでアラブ系の男が悪いかのような扱いをし、結局白人の男には何の御咎めも無しだった

「酷い光景ですが、ここでは日常茶飯事ですよ」

その現場を呆然と見ていた教皇一派にスーツの男が声をかけた

「イスラエルの中に住むパレスチナ人の大半は大人しく、自治区や難民キャンプの同族と違って明確な反抗をとることなんてほとんどないんですがね」

「国籍的にも彼らはイスラエル国民で、扱いは二等市民のそれと言えますが、立派にイスラエルと言う国の社会の歯車なのです。しかし、支配者階層と言えるユダヤ人はいつまでも彼らを二等国民としてしか扱わない」

「ご存知の事だとは思いますが、宗教問題とは簡単には解決できない問題なのです、聖下」

急に現れた男の方を向き話しに耳を傾けていたが、聖下という言葉に、従者共に明確に反応する

教皇「君は、何者なのだ?」

「このような場所を指定致しまして、申し訳ありません。会合の場所へ案内いたします」

気が付くと、男の後ろにスーツ姿の部下らしきものが立っていた
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/25(月) 07:29:11.06 ID:6FV70dMP
?『それで、結局どうだったん?』

刀夜「結果は失敗だよ。彼は、なかなかに頭が回るようだ」

?『あらら。あんなに張り切ってたのに、肩透かしかー』

刀夜「それは言わないで欲しいね。わりといけると思ってたんだが、残念だよ」

?『ええの?影響が出るのは勘弁してほしいところなんやけど』

刀夜「元より彼の登場はイレギュラーだったからね。支障は無い、といいたいところだ」

?『まぁ、伊達に学園都市の第二位張って無いってことやなー。イレギュラーやから、逆に何をしてくれるか分からんってのもあるし』

刀夜「彼自身、学園都市を裏切ってここまで来ている訳だ。理由もあるだろうが、彼は利己的な面もあるだろう。その可能性は捨てきれないな」

?『裏切とか洒落にならへんわ。あぁそういえば、こっちは無事にあの娘との接触は予定通り。好感触やったよ』

刀夜「それは良い報告だ。他にも何かあるかい?」

?『残念ながら悪い報告があるんやわー』

刀夜「……聞こうじゃないか」

?『正確にはわからへんけど、どうやらあっち側が統括理事長と接触したみたいやわ』

刀夜「内容は分かるかい?」

?『そいつは分からん。けど、どうやらうまく折り合い取れなかった、って結果だったみたいやな』

刀夜「……ふむぅ、了解だ。君の情報は毎度、お世話になるよ」

?『それじゃ、そろそろ盗聴怖いんで。以上、通信終わり』

沈黙が部屋に戻る

刀夜(折り合い……。交渉していた?あの二者間で?駄目だな、 内容が断片でも分からない限り、どうしようもない)

刀夜(垣根君の言っていたことも気になる。これは少々深く探りを入れる必要があるか)

刀夜(リスキーだが、私もネットワークに入るべき、か)

男のそばには、支給された注射器が光を反射していた
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/25(月) 07:31:31.07 ID:6FV70dMP
白井「来ましたわよ、初春」

初春「お疲れ様です。……うーん。今すぐにでもここから離れたいですが、少々休みますか?顔色良くないですよ」

白井「ここまでずっと空間移動の繰り返しでしたの、休みたいのは山々。でも」

初春「こんなに汗かいてますからね。全力で来てくれただけで十分です。影で少し休みましょう」

初春がポケットから出したハンカチで白井の汗を拭ってやる

その行動を受け入れている白井としては、いろんな意味で、少しくすぐったく感じる

初春(この状況で切り札的な戦力が弱ったままなんて、正気の沙汰ではないですからね。しっかり復活してもらって守ってもらわないと)

本来人間が理解するのは非常に困難な11次元での演算が必要な空間転移は、強力な分脳内疲労が他の能力に比べ大きい

疲労がたまって演算ミスなど起きようものなら、被害はどうなるか

白井「もういいですわ。ありがとうですの」

初春「あ、風紀委員の腕章はハズした方がいいと思います」

白井「なぜですの?初春の事ですからこの辺のカメラは押さえているのでしょう?これを元に深夜外出を問われることは無いと思っていたのですが」

初春「もちろんです」

白井「ならばなぜですの?スキルアウトなんかも、これを見たら絡んでくることも無いでしょうし」

初春「逆ですよ。白井さんが来るまでちょっと調べたんですけど、この辺に居る不良のみなさん、様子がおかしいんです」

白井「というと?」

初春「薬の現場、って言えば分かりますかね。あんな感じです。皆、いわゆるラリってるってやつですよ」

白井「ここに居る全てがですの?これはこれで別件の事件ですわね。でもならなおさら腕章をつけて……」

初春「日頃私達を怨んでる人間がラリってたらどんな判断するか分かりませんよ。それに、今日の目的は佐天さんですから」

白井「……確かに、余計な茶々を入れられると厄介。初春、その鞄に入れて下さる?」

頷いて、初春が白井の腕章を受け取った

丁度そのタイミングで、地面が揺れた。すこし遅れて、轟音
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/25(月) 07:34:41.77 ID:6FV70dMP
ステイル「なんで君が、こんなことを?」

呼びかけるが、当の女、神裂火織は反応しない

刀を握り、構えたままでじっと動かない

ステイル(答えないか。クソ、操られているとでもいうのか?)

せめて禁書を守りの堅い場所へ

そんなことを思って、ほんの一瞬だけ禁書の方を見た。それこそ、目を微妙に動かした程度

視界から、構えていた女が消えた

気が付くと、右肩の上に見慣れた七天七刀の切っ先が覗いていた

ステイル(馬鹿な!!いくら早いと言っても、こんな)

神裂「禁書目録ヲこちらへ」

ステイル(神裂と僕の間の距離には、上を通過すれば火柱をあげる自動術式が複数あったハズだ。それが一つも反応しないだと?仮に光速を使っても理論上は反応するんだぞ……?!)

神裂「そノ子は、危険。渡スのを拒むナラば、貴方諸共、排除しなくてはナリマせん」

ステイル「では、君の目的は禁書の暗殺なのか?」

すぐにでも首がはねないという所に刀を置かれ、且つ禁書を脇に持ちながらもそれに押されない

神裂「否定しまショう。しカシ、貴方が邪魔をシ、確保不達成の確立が高まルようならバ、答は変ワりますね」

ステイル「……そんな脅し程度で僕が引き下がらない事ぐらい、君は理解してると思っていたけどね」

そしてステイルは、禁書を神裂へ向けて投げた

体の軸を回すようにして投げた先の神裂は片手で刀を持って構えている状態。そこへ意を反して投げ出される禁書

一方で軸を回すようにして旋回したステイルの片腕には、炎剣が握られて神裂の元へ

更に逃げ場を奪うように、神裂をステイルと挟むようにして現れる炎の巨人がその腕を神裂へ伸ばす

つまりの所、判断遅れに期待した急襲の意を込めた挟み打ち。一か八か

ステイル(本当にこの女が彼女ならば、こんなひっかけに引っ掛からずに禁書だけを掴んで離脱するだろうさ!)

神裂はその挟み打ちに対して、身を回避させることを優先した。ステイルを悩ませた、あの空間転移のような移動方法で

だが、その移動先で、もちろんその移動区間の自動術式には反応しなかったが、炎が渦を巻いてあがる

その超人的な身体能力を使って、すんでの所で避けきる。その衣服は、焦げが進んでいた
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/25(月) 07:36:51.91 ID:6FV70dMP
一方「こいつは一体、どういう事なンだろうなァ。当麻君ゥゥウウウゥン?!」

上条「無駄に語尾を伸ばすな。こいつらが来てるってのは知ってたけど、これ程ってのはなぁ」

第一学区の中央、駅から少し離れた場所にあるメインタワーのある区画の側で、彼らはそんなやりとりをしていた

目の前には千を越す人数が列をなすようにして前に、一方通行達が進むべき先へ、ゆっくりと集まっていた

一方「車で乗り入れ様にもこれじゃァな。いくら当麻キュンの超絶ドラテクでも無理だよねェー」

上条「一番無理なのはお前の口調だ。もう三下で良いから話し方を戻してください。んで、どうすんだ?こいつらをかき分けてでも進むか?」

一方「ンな所で無駄に消耗したくねェよ。っても、能力使わねェで進もうにも体力消耗が酷いだろゥしなァ」

上条「じゃあどうするんだよ。なぜか第一学区のカメラが全部ダウンしてるから他の通りの状況は掴めないけど、多分一緒だぞ、これ」

一方「バカヤロウ。かき分けて進むこと自体は否定してねェだろ?お前が居るじゃねェか」

上条「はぃい?」

一方「だァから、お前が先に進めば俺が消耗しねェだろって言ってンだよ」

上条「まぁたお前はそんなことを。上条さんはこれでも病み上がりなんですよ?こんなバーゲンに群がる主婦さんたち(イメージ)を凌駕するような群の中を一人で進めと?!」

一方「いやァ、当麻クンは良い体してるなァ。惚れちゃいそうだn、っとォ?!!!!」

突如、地面が、大きく揺れた

上条「一方通行!!」

上条が呼びかけるより早く、一方通行は首の電極のスイッチを入れる

となりのビルが陥没を始める

一方通行は杖を放り投げ、地面に体をかがませる。上条もそうだ。立っていられないレベルの揺れ

擬音にし難い低く崩れる爆音が空間を占める

上条「アッ……ク…タァ!!し…原は……だ?!!!」

一方「何い……か、わか……ェよ!!!」

しばらく、全く会話にならなかった。それでも怒鳴り合ってはいたが。そしてようやく、揺れが沈静を始め、彼らは立ち上がることができた

上条「震源は?!」

一方「二点間の振動波紋から抽出したベクトルから逆算してみたが、かなり近いぞ、こいつは」

横の建物は丸々一階分が地下へ陥没していた。半ば呆れた様な顔をして上条と一方は視線を交わす

上条「おいおいおいおい、何が起きてんだよ、一体!!!」
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/10/25(月) 07:38:36.13 ID:6FV70dMP
絹旗「あれって、第一位じゃないですか?」

フレ「そんで横のは世話になったばっかの幻想殺しじゃない?何あの体、もう治ったっての?ありえない訳よ」

麦野「でも、あの様子じゃ、第一位はグループとして来てるわけじゃなさそうね。それだけで十分よ。なんであの二人組なのかは予想もつかないけどね」

いわれた通りに上条達の車の後方で止まった車は、麦野達を下ろして去って行った

麦野(一番最悪だったのは混乱に巻き込まれる形での暗部組織同士での戦いだった。その可能性が無くなっただけで、十分)

麦野「アイツ等は無視できると見なす。二人とも、滝壺捜索、行くわよ。まぁ、行先はあいつ等と同じだけど」

絹旗「ってことは、こっからでも見えるあの超群衆の中を突っ切るわけですよね」

フレ「勘弁してほしいわ」

麦野「いいのよ。とにかく突っ込んで、滝壺の事を知ってる連中を見つけないと話にならないんだから。フレンダ、薬の準備は大丈夫よね」

フレ「もち。任せといて」

絹旗「当てはあるんですか?あの人数をいちいち聞いてたら手間が超かかって朝になりますよ」

走る為の筋力増強用のテーピングをフレンダから受け取りつつ、少女は女に尋ねる

麦野「考えなさい。まずは集団を率いてるヤツに聞くの。黒ならそれで終わり。白なら、今度は集団を外れている連中へ。それでも白なら今度は集団内でおかしな動きをしてる連中を見つければいい」

フレ「さっすが、ウチのリーダーよ。LV5の頭脳は伊達じゃないってわけね」

絹旗「言うは簡単ですが、手間は超ありますね。結局探さないといけないわけですし」

麦野「もちろん、三人手分けよ。フレンダ、薬をとりあえず二人分くらい私と絹旗に」

フレ「はいはい」

麦野「どっかの馬鹿の二の舞にならない様に携帯に留意しなさい。それじゃ、行くわよ」

了解、との声。それぞれが違う方向を向く

そして彼女らは三人に分かれ、駆けて行った。揺れが彼女らを襲うのは、この後である
159 :本日分投下終了のお知らせ。これ年内に終わらないんじゃね?俺死ぬんじゃね? :2010/10/25(月) 07:40:51.51 ID:6FV70dMP
土御門(この光、蛍光塗料か。だが、この印は……まさか、こいつらがこうなってる原因は―)

土御門が何かに気が付いた、その瞬間

強い揺れが、彼らの場所にも伝わった

土御門「何事ぜよ!!」

思わず叫んだが、地鳴りがそれをかき消す

揺れの原因を探そうと、周囲を見回す。ゾンビのようなスキルアウト達は当然、立っていられない

建物は皆均等に揺れる。東京付近に断層が多くあるのは常識だ。故に学園都市の建物は高度なレベルでの耐震構造を備えている。だが

土御門(こんな時に爆発するような断層は無かったはずぜよ!!なにか起きやがったか!?)

その視界に、彼女ら、白井と初春が定まる

如何に耐震構造がすごかろうと、それが防ぐのは根本的な破壊だ。つまり末端の小崩壊を防げる代物ではない

揺れによって浮足立った白井と初春。その距離は2m程開いている

そして

土御門(不味い、あの天井、長くない!!)

ベンチそばで動けない白井と初春の上、コンクリートの塊に拡がっていく溝。まるでガラスが壊れるかのように

彼女らが気が付いた時は、遅かった

空間移動能力者の白井は未だ経験したことの無い規模の揺れに、思考がまとまらない。先の初春を拾って更に空間移動するだけの余裕など無く、自分を移動させるのが関の山。それでも成功するかどうか

白井「初春ッ!!!!」

土御門「っつぉぉおおぉぉおおおおおおおぉ!!!!!」

白井の視界内に、入ってくる、金髪の男
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 09:14:55.28 ID:dRVw.gSO
>>1が死んでもタイムリープするから大丈夫
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 15:21:12.29 ID:4HKM56Eo

しかし相変わらずこのスレは内容が濃いなwwww
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 18:25:16.98 ID:blKo0Ro0
>>1
>>160しないだろて言うかしたら恐いぞ
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/25(月) 19:57:55.39 ID:maLz6.DO
作者のクローンでも作ればいいんだよ
2万体くらい
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 00:26:37.00 ID:VjrGPzYo
凄い速度で書けるようになるな
165 :タイムリープしたら書けない状態に戻る……?!それ悪夢じゃね? [saga]:2010/10/27(水) 02:50:45.80 ID:GnZNB5MP
フレンダ「ちょ、ちょっとこいつは不味いってば!!」

地面に両手両足を着けて、つまり四つん這いで、少女は揺れに抵抗する

3人とも揺れの中心により近づいていた為、外周部の初春達の揺れとは比較にならない

彼女は独自の判断で、ビルとビルの間で構成される裏路地を進むことにしていた。ここならばスキルアウトも少ないだろうとの判断だ

確かに、それでも予想よりは少し多かったが、筋強化された彼女の進行を止めるような存在は少なかった

だが、その判断はこの状況では最悪だった

フレンダ(ビルが、倒れる!?動けないってのに、死ぬっての!!)

直上から彼女を挟むように、片側のビルがもう片側に寄りかかるようにして崩れ始める

頭上から小さなコンクリートの塊がボロボロ崩れ、彼女に当る。痛いがこの程度は問題にならない

地べたを這いながら、足掻く。だがこのままでは

フレンダ(……このペースじゃ絶対に間に合わないわけ、よ)

揺れはまだ続く。少女の絶望を大きくするように。そして寄りかかられた方のビルに、大きく亀裂が入った

フレンダ「あ」

彼女を包み込むように、耐えきれなくなった両方のビルが瓦解する

絹旗「な、何がっ」

同じように、彼女もまともに立てないでいた

彼女はフレンダが裏路地を選んで進んだのを確認して、あえて大通りを選んだ

進行に邪魔なスキルアウトを手加減しながらも左右に弾き飛ばして進む彼女は、その見た目に反して、まるで戦車のようだった

そこへ、強い揺れが彼女を襲ったのだ。当然、周りの様子のおかしいスキルアウトは倒れこむ。ドミノ倒しのように

大通りの真ん中を、筋肉強化も相まって、すごいスピードで突き進んでいた彼女は、フレンダのように建物に押しつぶされる心配は無かった

だが、地下駐車場のそばまで来ていた彼女を本格的に襲ったのは、その地面

絹旗「学園都市自慢の超耐震構造は、どうなっているんですかっ!?」

地面が、裂けた。そして一度発生した裂け目は、揺れと共に拡がっていく

少女の目の前で、スキルアウト達が何の抵抗もできずに飲み込まれていく。そして裂け目は殆ど動けない彼女の元へも拡がっていく

絹旗(あちゃー……こいつは覚悟を決めるしか、無いようですね)

おかしくなりそうな心を押さえて、彼女は冷静に奈落へのみ込まれた
166 :だがリアルに欲しいぞクローン。でも俺が2万も居たらそれ以外でウザき事山の如し也 [saga]:2010/10/27(水) 02:57:57.35 ID:GnZNB5MP
表の顔の行動を忘れることが出来ないのは、彼も同じ

御坂旅掛はドバイへ来ていた。要件はバブルが弾けた不動産の管理運営について

つまり個人企業としてのコンサルタント業務である

彼自身の資産はかなり裕福なレベルであるが、その地位を築いた元の資本は彼個人にもともとあったものではない

とある組織における活動で、任務において今の地位が必要であった為の、偽装による副産物である。それでも、そこからここまで資産を膨らませたのは一重に彼の才能であるが

そして彼は今、モスクの前でこの度の相手を待っている

「待たせてすまないね、Mr.御坂」

旅掛「お気になさらず。お会いできて光栄です、Mr.ワリード」

「こちらもだ」

もちろん現地の言語だ。握手を交す。簡単な挨拶を交わしつつ、男は車へ

「よし、君と話し合う場所を用意させてもらった。深い話はそこでしよう。君も乗りたまえ」

促されて乗った車の中は広く、簡単にミネラルウォーターを口に含んで、資産家の男は口を開いた

「普段なら街中で待たせるような無礼なことを私はしたりしないのだがね、ちょっと特別な用が出来てしまって。もう一度君には謝らせてもらうよ」

旅掛「いえ、出来た時間で家内と連絡もできましたし、要件が出来てしまったことは伝えられておりましたので」

「それは良かった。家族円満、うらやましいことだ。昨日、正妻と口論になってしまったから、なおさらだ。もっと家に帰って来いとさ」

旅掛「それはそれは。しかし、あなた程の人物が、随分とご多忙な様ですな」

「それなんだが、窓の外を見たまえ、対岸が見えるだろう。私にとって問題の発端はあそこなんだ」

旅掛「……イラン、ですか?」

「そうだ。もちろん知ってるだろうが、あの国の同胞は少し過激で、且つ今のイスラムの中心だ」

同胞、と言うのは同じ宗教であるイスラム教徒の事を指しているのであろう。相槌を打った

「現地の指導者と私は顔なじみなんだが、少々気になる動きをしていたから、先日会って話をしてきてね。流石の私も驚いた」

「うん、君は有能な人間で、更にまだ若いから教えるが、正直言って、これからの商談なんて霞む話と言えるだろう」

もう一度、彼は水を口に含んだ

「遂に来るんだ―――が。そのために私も、こんな歳で家へまともに帰れないほど忙しくなってしまったよ」

目の前の男が喋った言葉を理解するのに、旅掛は数秒の時間が必要だった
167 :投下遅くてごめんなさい。他の長編の人もっと早いしなぁ。尊敬するわ [saga]:2010/10/27(水) 03:06:16.54 ID:GnZNB5MP
初春飾利は頭上から降ってくるコンクリートの塊を前に、揺れも相まって、まったく身動きが取れなかった

その固定された視界が、強引に動かされる

この強い揺れの中で誰かに抱えられ、横へ飛んだ

少女が目が放心した意識を再びはっきりさせた時には、彼女の上で金髪サングラスの男が倒れていた

血を吐き、そして、体中から血を滴らせながら

白井「初春!!」

揺れが続く中で、白井が寄ってくる

初春「白井さん、えっと、私」

白井「怪我は?!大丈夫ですの?!」

初春「あ、は、はい、私は無事です。どこも痛くな、って、アレ?」

その手には血が付いていた。だが、自分のそれでは無い。土御門の血である

土御門「はは……、間に合った様だ、にゃー」

覆いかぶさった初春から離れようとしたのだろうが、弱弱しい動作で、見ていられなかった

白井が自身の能力を使い、地面に仰向けで寝かせてやる

土御門「すまんぜよ」

袖口から首元から、血が沸いていたのがハッキリと分かった。そして口内からも

初春「酷い。な、何か止血できる物は」

慌てて鞄の中を覗くが、それらしいものは無かった。腕章が滑り落ちるが、役に立たないだろう。白井の方を向くが、首を横に振った

着ている衣類を引き裂こうとした所で、土御門の手がそれを止める

土御門「俺は、肉体再生の能力が、あ、るから、大丈夫、だぜぃ。こんな、こと、も、日常茶飯事、だし、にゃー」

笑みを浮かべたが、その動作が逆に痛々しさを感じさせる

しかし、と食い下がらない初春の前で、白井は少し冷静に考えた

白井(ただの肉体再生の能力者が、それもこの様子では高レベルのものでは無く、どうしてあの揺れの中であのように機敏に動けたのでしょう)

白井(加えて、この怪我。見えている範囲では瓦礫に被弾するようなことは無かったにも拘らず、恐らく内臓まで至っている様ですし)

もちろん、白井には分からないだろうが、土御門は陰陽術にたけている。つまり魔術師でもある。彼は駆ける自分の足が付く所だけに式神と化した物を浮かせ、その上だけをピンポイントに走ったのである。がむしゃらに行使したその術は、いろいろ未完成で効果以上の負担を彼に強いた

土御門「残念、ながらしばらくは、動けない、が。そういえば、なんで、君達はここに、居るんだぜよ?」
168 :あばばばば、ばばばばば [saga]:2010/10/27(水) 03:11:24.55 ID:GnZNB5MP
アイテム・リーダー麦野沈利も例外では無い

言うなればビルの上、とでもいえばいいだろうか。彼女はそんな所を跳ねまわって進んだ

フレンダが裏路地を、絹旗が大通りの強行突破を選択したことに、彼女は二人がが自分を良く理解していると感心した。そして自分に一番適しているのはこの方法だと判断した。彼女は一時的に飛ぶことが出来るのだから

麦野(学園都市の耐震性を考えれば、どう考えてもこれはただの地震なんかじゃないわねっ!!)

砕ける地面の上を的確に踏み、跳ぶ。届かなければ能力の噴射によって飛び上がり、目視範囲内で一番安全そうな場所への移動を繰り返し、彼女はビルと言う地割れに耐えた

そして大波を乗り切った彼女が立っているのは、崩れ残ったビルの一部分

それは半ば、塔のようだ。その上にスラリと立ち、使い残った電子の塵が作り出す光の中に居る彼女は、まるで幻影

彼女は崩れ落ちた第一学区を、電送が途絶えて隣接する他の学区と比べ圧倒的に暗黒に満ちているこの場所を、見下ろしていた

麦野「二人とも大丈夫か、気になる所、だけど……!」

彼女が選んだ塔も、そろそろ寿命か

グラつき始めたこの場所から逃げなくては。彼女は移動可能範囲に高台が残っていないことから、安全そうな地面を選んだ

自由落下速度を半固定電子の噴射によって緩和して、彼女は地面に負担無しで着地する。少し進めば地砕きが迫っているが、数回の余震でも崩れることは無かったことを既に確認している

麦野(まだちょいちょい揺れてるけど、ここなら。でも、やっぱりね)

麦野(見下ろした第一学区の中央は、タワーを除いて穴でもあいたみたいだった。アレは恐らく地下階層に何か、たとえば爆発とか、起きたってこと)

麦野(アホみたいに群がってた雑魚共を巻き込んでくれたのはありがたいけど、同時に滝壺の事を聞きだすことが出来なくなったのは痛い)

麦野(もし滝壺が動けない状態で、この学区のどこかに居たなら……絶望的か)

もう一度周りを見渡して、溜息。そして携帯を取り出した

麦野「もしもーし」

電話の女『早いわね。もう奪還したの?』

麦野「ハァ?それは何、皮肉のつもり?」

電話『そんなつもりは無いけど、何か有った?』

麦野「何か有った、ですって?冗談?この状況を掴んでないの?」

電話『状況……?こっちのモニターだと、第一学区じゃ何も起きてないんですけどー?』

呑気な声だった
169 :ばばばばば……ば? [saga]:2010/10/27(水) 03:21:38.66 ID:GnZNB5MP
残ったメインタワーの窓際から、見下ろす人間がいた

青髪「予想外、か。私も存外まだ未熟のようだ」

暗い部屋で独り言を話す男。窓の外は大惨事だ。塵サイズに見える人間が奈落に飲み込まれていく

青髪「試運転のつもりが、この損害。これ以上は明日の事に障ってしまう。まぁ、これはこれでここの連中にとっても良い目暗ましになるか」

青髪「アレイスター、君にとっても予想外なのだろう?予想通りなのは、このタワーが無事と言う事ぐらいだろうか。だがそれは、当然の事」

ふと、彼の背後で気配を感じた。それこそ、羽虫が舞っている程度の物だが

青髪「この国の歴史的な諜報員か。我が国の博物館に導入すれば山のように見物客が出るだろう。誤解の進みが酷いが、人気なんだよ、忍者は」

陰に潜む男の見た目は、印象通りの忍者の格好では無い。銃を忍ばせ、そこいらのスキルアウトと変わらない格好をしている

半蔵「俺を剥製にした所で、人気なんて出ないさ」

カチャ、と銃を向けた

青髪「そうだね。服は着せ変えさせてもらおうか」

半蔵「こちとら、ご託を聞いてるほど暇じゃないんでな。仲間の敵だ、死んでもらう」

躊躇い無く、撃鉄が動作する。パァンと乾いた音が静かな部屋に響いた

青髪「やれやれ。簡単に殺そうとしないで欲しいね、特別なカラダなのだから」

半蔵の後ろに青髪がいつの間にか移動していた。どうやら放たれた銃弾は正面の強化ガラスに弾かれたようだ

間髪いれずに、裏拳の要領で打ち根と呼ばれる近接攻撃用の矢を向ける

だが半蔵の攻撃に対して、手首を掴まれ足払いを受けた。そのまま腕を掴まれ、倒れ込む。馬乗りの青髪によって、身動きが取れない

半蔵「クソ野郎が、見殺しにしやがって!!どうせこの破壊もお前たちが仕組んだんだろ!?」

悔しそうに半蔵は叫んだ。至近距離からの銃弾を高速回避し、背後をとるような相手に打つ手など無い

青髪「私も彼らをこんな目に合わせようとなんて考えていなかったさ。そして恐らく、学園都市の側もだ。言えば、広大な可能性の一つが偶然発生したってことか。飼い犬に手をかまれた状況の私が言えば一種の負け惜しみなのだろうがね」

瞬時、青髪の拘束が解けた。半蔵の直上、さっきまで青髪がいた場所を、クナイが通過する

青髪「今度はくの一か、次は何が出てくるか楽しみなところだが、残念。ここでさよならだ」

そう言って、青髪は消えた。気配などと言うレベルでは無い

郭「半蔵様、ご無事で?!」

半蔵「大丈夫だ、問題無い。お前、ここまでよく来れたな」

郭「理由は分からないですが、こんな時に限って警備がなっていなかったので、思いの外楽に来れましたよ」
170 :あれ?せっかく上条と一方をセットにしたのにバラバラになっちまったぞ [saga]:2010/10/27(水) 03:29:13.28 ID:GnZNB5MP
上条「こいつは駄目ですな。進めやしないぞ」

一方「だな。こう真っ暗じゃァ、悪戯に飛び込む訳にも行かねェし」

上条「目的の場所はもっと前なんだろ?邪魔だったスキルアウトはみんなのみ込まれちまった。……残念だが、生存は絶望的だろうな。畜生」

一方「生き残った連中は目が覚めたみてェに学区外へ逃げていってるしなァ。何しに集まってたンだ、あいつ等」

上条「つーか、それまでに治安組織が機能してなかったのも気になるし、こりゃ、本格的に何かありますね」

上条「ええ、間違いないかと」

一方「あァ?一人相撲してんじゃねェよ。どォした、お前までおかしくなっちまったのか」

上条「あ、いや、気にするな。それで、どうすんだ?」

一方「……むしろ都合がいいかもしれねェ。三下ァ、あのときみたいに光れ」

上条「この谷を照らせってか?いいけど、あれ、一瞬だし電磁波出るぞ?お前の補助演算が一時的に止まるかもしれないが、いいのか?」

一方「構わねェ。やれ」

人使い荒いなぁとボヤキながら、上条は左手を崖の淵にかける。一方通行も直接的に閃光が目に入らない様に、崖の淵から頭が飛び出すようにして伏せた。もちろんこれは仮に演算が停止しても問題無いようにとういうものでもある

瞬間的に高レベルの電磁放射と閃光が放射された

一方(ははン、やっぱり、そういう能力か)

数秒、間があいた。補助演算の再起動が終了する

上条「見えたか?」

一方「十分だ。行くぞ、三下ァ」

上条「行くって、何処にだよ?まさか」

一方「照らしたんだ、決まってんだろォ?それにもともと、地下の可能性が高かったしなァ」

そう言って、一方通行が奈落へ。上条も適当なパイプを使ったロケット推進で、それを追う

一方通行が何かの通路に飛び込んだ。その急な転進に、上条はついていけない

一方「ちょいとォ、三下さァン?!」

上条「後で追い付くから、先行っといてくれぇええぇえぇえええええ!!?」

一方通行の遥か下部へ、突き刺さるように上条当麻は吸い込まれていった
171 :まぁ、いいか。ははは [saga]:2010/10/27(水) 03:34:43.01 ID:GnZNB5MP
ステイル「どうしたんだい?本来の君なら、この子を抱えた僕程度、相手にはならないだろう?」

今のところ、彼女の攻撃は七天七刀による斬撃と七閃によるものだけ。彼女最大の特徴である聖人故の行動能力もステイルで対応できる程度だ

その上、ワイヤーによる魔術陣からの術式攻撃も無い

一方でステイルは張り巡らされたルーンによる奇襲とブラフが有効に機能した

今も生み出したインノケンティウスの幻影に囚われて、本当の炎の巨人の攻撃を辛くも回避、更にその逃げた先自体が範囲型魔術の攻撃対象だ

それを謎の移動方法で回避する

ステイル(判断も攻撃も甘い。その上身体能力もらしくない。話にならないな、これは)

そして禁書を抱いたまま、自らの操る炎の中に飛び込んだ

先程までいた場所にまるで空間を裂くようにして現れた神裂が斬撃を振るう

そこまで読み切っていたステイルは、自らがいた場所に術式を構成していて、その炎が彼女を襲う

このように自由自在に動けるのは、彼だけの物では無い。秘密は、禁書である

いつの間にか彼女の抱く方向を変え、ステイルが正面を、禁止目録が背後に目を光らせている

少女がステイルの発動前の魔術の指定先を変えて、的確に神裂を捉えているのだ

禁書(次は11時方向、距離13m!)

体が接している禁書は、ステイルの魔力を借りた魔術で神裂が何処に現れるのかを瞬時に察知し、それをステイルの脳内に情報として叩き込む

一見隙が無いように見えるが、付け焼刃の物であるし、何よりも

禁書(本来のかおりなら、伝達ラグの隙を突かれちゃうし、あんな風に霊装を燃やすことは無いんだよ)

ステイル(ああ、本人でないか、操られているのは間違いなさそうだ)

禁書(でも、本人じゃないならステイルの攻撃を何度も耐える事なんて考えられないし)

ステイル(下支えがあるからと言っても僕の力には限界がある。禁書目録、まだ分からないのかい?)

禁書(無茶言わないで欲しいかも。これでも手いっぱいなんだよ。次、方向0距離0、この場所!)

ステイル(丁度良い。直接尋ねるか。この状況では、逃げることもままならないからね)
172 :もう本日分投下のお知らせ。ああああああああ [saga]:2010/10/27(水) 03:44:03.22 ID:GnZNB5MP
定規「さて、まだ時間があるみたいだけど、この後どうするの?」

ランチを召した後、コーヒーを楽しみながら少女が尋ねた

垣根「まだ時間がかかりそうなのかー?」

椅子に腰掛け、両手を頭の後ろへ持って行き、空を見上げながら彼は少し眠そうに尋ねた

定規「もともと、貴方の要求が特異過ぎるの。我慢して頂戴」

垣根「あーあー、今日は、ってか暇ばっかりだからいくらでも待つさ」

定規「眠そうね。貴方もコーヒー、飲む?悪くないわよ?」

垣根「いらねぇ。満たされた心地いい睡魔でまどろみたいからな」

定規「ふぅん、そう。学園都市内ではそんな素振り見たこと無かったけど。こっちに来てから面倒臭いってほとんど聞かないし」

垣根「あんな場所じゃ、気を抜く暇なんてありゃしねぇっての」

定規「出られて良かったじゃない。それじゃ、公園でも行きましょうか?」

垣根「あいよ。この陽気なら良い昼寝ができそうだ」

余程これまでの事で疲れたのだろう。ゆっくりと立ち上がる垣根を見つつ、ふと、少女は携帯端末に目を向けた

定規「ねぇ、帝督」

垣根「あ?」

定規「学園都市に動きが有ったみたいよ。それも、リアルタイムで進行してるみたい」

垣根「ほぉー、左様で。なんだ、テロでもあったか」

定規「テロ。そうね、可能性的にも有り得るかしら。手短に言えば、第一学区が陥没したってさ」

垣根「はぁぁあ?えらくぶっ飛んだな話だな。噂の地下研究所で実験の失敗でもあったのか?つーか、お前以外にも学園都市の中にそーゆーの、居たんだな」

定規「あんまりウチを舐めてもらっちゃ困るわ。スクールでの仕事でも、そこからの情報で越えてきたことだってあったのに」

垣根「でもお前はそのスクールから、情報を抜いてたんだろ?身内にスパイだなんて、もともと俺の味方なんていなかったんだよな。不幸だ不幸だ」

定規「あら、私としては貴方の味方のつもりだったのよ?」

垣根「ヘッ、散々人の行動管理してた奴が良く言うz」

わざと視線をそらした垣根の頭を自分の方へ向け、その口を塞いだ

定規「……ん。もちろん、これからもね。それじゃ、行きましょ」

そう言って離れた少女に対して、男は最早何か言い返す気には、なれなかった
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 07:55:52.46 ID:ao6OF2SO

最近はそんなに遅くないペースだと思ったが

しかし今回もフレンダはフラグが立つこと無く退場か…?
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 10:49:32.60 ID:P/tF0zgo
おつ
やっぱ病院で妙に女扱いこなれてるなと思ったら
留守番上条モードか
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 12:44:55.20 ID:cBGsO2Yo
一週目の麦のんが再来したら本気出す
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 13:31:40.67 ID:BK5fFkSO
すっごく面白いんだけど場面転換しすぎで分かりにくくなってんのは俺だけ?
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 14:37:33.64 ID:LgDR1MAO
そういえば当麻の頭の中の人ってどうなったっけ?
178 :質問ですお [saga]:2010/10/27(水) 15:30:48.68 ID:GnZNB5MP
>>176が言ってる様に場面転換し過ぎですよなー。明らかにキャラクター増やし過ぎた弊害が出ているんだが

書いてて正直どうなんだろうって思いながらなんですが

一応、時系列順(たまに少し戻したりするけどそれはそれとなく地の文に潜ませてる)にしてるけど、正直良くないよね?

多少時系列乱しても一回の投下で登場するキャラクター数を2〜4にして2レスずつとかにした方がいいかぬ?
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 15:38:31.68 ID:cBGsO2Yo
初めの1〜2行に誰が何処でどういう状態にあるか、が把握できればあんまり気にならないです
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 16:10:18.66 ID:2tvsodUo
うんそれは欲しいな
場面転換する度に誰がどこで喋ってるのかよくわからなくなる
それがいいっちゃあそれがいいんだが
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 17:40:15.20 ID:FLX6uCgo
群像劇は最近かまちーもやりまくってるけどぶっちゃけここの作者のが上手い
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 20:19:26.67 ID:BK5fFkSO
キャラクター絞ってくれたほうがありがたい
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 21:01:27.63 ID:w7TN2iM0
>>177
>>170でチョロッと出てきてたじゃん
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 21:07:41.97 ID:2tvsodUo
中の人二人が自動留守番モードやってるから上条さん自身のやりとりみたいなもんがないんだろ
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/27(水) 22:35:01.66 ID:7VwJLl2o
場面転換しても読んでりゃわかるから好きに書いてくれて一向に構わん
むしろそれもひとつの味だと思ってるし
186 :結果ですお [saga]:2010/10/27(水) 22:53:28.62 ID:GnZNB5MP
ある程度は嫌って人もいるみたいなので

とりあえず投下レス数=登場人物数というキチガイじみた状況は変えますお

でもやっぱりある程度は一度に場面変えはあると思います


次の投下は多分明日です。それでは



ぶっちゃけ進まねぇんだよ!話しの中の一日終わらせるのにリアル時間がどんだけかかるんだ!?
あぶぶぶぶぶぶぶぶ

フレンダに幸あれ
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/28(木) 12:46:15.56 ID:wavZrqQo
面白支援
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/28(木) 22:49:13.20 ID:Utq0Yqg0
まあ物語の中の一年が進むのにリアルで数年かかるなんて連載物ならざらだし
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/28(木) 23:03:22.64 ID:Dx28zlwo
禁書本編はまだ3ヶ月くらいしか経ってないんだよな
二代目上条さんは3ヶ月の命だた
190 :あれ、結局人物数あんまり減って無いぞ? [saga]:2010/10/29(金) 02:15:45.35 ID:tyLVLcQP
ステイル「幻影さ、よくある手だ」

長い太刀で真っ二つになった彼の体がある場所とは異なる所から、声が聞こえた

そっちか。彼女は声の方向へ振り向きつつ、ワイヤーを放つ。魔術によって破壊力が増した直線が、所々に曲線を加えて、ロンドンの建物を裂く

ステイル「残念。こっちだよ」

炎が向かってくる。あの巨人はどこだ、後ろか

サイドへ跳ぶと男が赤い剣を持って斬りかかって来た

刀で簡単に切り裂く。分かっている、幻影だ。標的の少女をを抱えていないのだから

切り裂いた後ろから、声がする。男の場所は分からない。声は壁に貼られたカードからだ

ステイル「禁書目録が危険な存在であることは、今に始まったことではないだろう?彼女自身にとっても、周りの人間にとってもね……」

音が、細る。熱で陣の素材が溶け落ちて、その下から更に違う陣が姿を現した

この術式は何度も見た。コンマ一秒後に、この一帯は瞬間的に焼かれる。回避手段は一つ

瞬間、彼女は地上50mに現れる

標的を抱えた男は何処だ。壁に向かって、何かを撒いている。次なる罠の準備をしているのだろう

何故かあの男は私が現れる場所が分かっているようだ。彼と一緒に行動した期間は長い。戦闘によく用いられる術はともかく、彼自身は高度探知する術などは専門では無かったはず。ということは

神裂(あの子ですか)

彼とあの子を追いかけていた事を思い出す。あの時は、彼と同じ理由で追っていた

今は、違う?違う、彼女を保護すると言う目的は同じだ、変わらない。むしろ、彼が邪魔をしている。そう答えを頭は吐いた

根本的に何かがずれている様な気が、彼女の中に内積しては、忘却と言う形で消去され、必要情報だけが残る

残ったのは邪魔な男を排除すること

操るワイヤーを向ける。もちろん回避される。その過程の中に今日何度目かの、術式を構成する

神裂(……また、構築失敗。概念そのものが形としてまとまらない?しかし、あの男の術式の情報は、経験的なもので有れど、容易にそのものを判断できる。何かが、おかしい?)

急降下しながら刀を構え、今度は唯閃を狙う

聖人としての身体能力を更に複数の魔術を組みこませることで精密にバンプ・バックアップさせ、自身に内包される力を最大限制御しきれる幅での全力を叩き込む必殺の居合において、一つの間違いやバランス偏重でもあればもたらすのは自爆だ

失敗。だが、自爆にすらならない。制限云々では無い。明らかに未発動だ。何が?

そして矛盾が内積された。動きが止まる。これでは空から落ちる的だ
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/29(金) 02:16:39.04 ID:tyLVLcQP
容赦なく、炎が自らに襲いかかる

瞬間、彼女はまた違う場所へ移動した。もちろんそれは彼女の意思通りで、手足を動かすかのような感覚だった

神裂(……この移動方法はなんでしょうか?知らない、いや知っている?魔術?)

更に内積していく、自己への疑問。それが一定を超えて、消去された

さっきから、頭の中でできない事として振り分けられる情報が増えている。今となって、できる範囲で彼らを捉える方法は無いことになった

神裂(なぜ、できない……?私は)

そこから連想されることが、更に矛盾を積み重ねていく。徐々にだが、詰みあがっていく間隔が狭まり、彼女は行動の中で止ることが多くなった

向かってくるステイルの幻影を切り裂くと、更にその正面から炎剣を携えた男が迫る。禁書はその脇に無い

ステイル「僕は本物さ」

幻影と判断した彼の横を通り過ぎようとしたとき、男が呟いた。同時に、彼女の背面へ炎剣を叩き込む

神裂「ぐぁうッ?!」

それでも彼女の体は、戦闘能力が十分に残るだけの被害しか受けない

攻撃を受けつつも、視界の端で彼を捉えた。特殊なルーンの入った札を持っている、と認識した瞬間に彼の姿が消えた

神裂(あれは、移動魔術。条件が整う移動先は限られる。探知の術式も確立されている)

男の方も逆探知されると分かっていたのか、少女を抱いて自ら現れた

ステイル「どうも調子が悪そうだけど、まだ続けるかい?」

神裂「そうイう任務ですから」

刀を構え直す神裂

ステイル「そうか。それじゃ、本格的に相手をさせてもらう。だが、最後に質問だ。君にその任務を下したのは必要悪の教会ではない、そうだろ?」

神裂「その様な質問、答える必要はアりませんね」

ステイル「……分かったよ。だけど、僕もこの子をどこかの馬鹿組織に預けるような気は全くないんでねッ!!」

禁書のみを魔術で空間移動させ、ステイルは神裂へ炎剣と炎の巨人を携えて進む。これに応えるように、神裂も七天七刀に手を掛けて正面から迎え撃つ体勢

ステイルが間合いに入り神裂が居合うまさにその時、彼女は何かに気が付いたのか20m程後方へ例の空間移動を行った

次の瞬間、巨大なメイスが、振り下ろしたステイルの炎剣の先端を掠めて、地面に突き刺さる

アックア「今の状況で、禁書目録を殺すならばともかく、どこかへ連れ出すことを許すわけにはいかないのである」
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/29(金) 02:22:26.53 ID:tyLVLcQP
土御門「行方不明の友達を探しに来たのか。よりにもよってこんなことになるなんて、災難だにゃー」

初春に肩を貸されながら、彼は進んだ。本当に話をするのがギリギリだ

初春「いいんですか?もっと休んでた方が」

白井「そうですのよ。少々の時間をお貸しいただければ、私が貴方を寮室までお送りいたしますし」

白井の申し出に、土御門は首を横に振った

土御門「そうしたいのはやまやまなんだけどにゃー。俺も俺で目的があってここへ来てるんでな」

白井「目的、ですの?」

土御門「んー。ま、こんな地震とかスキルアウトが集まってる目的とか把握してるわけじゃなかったけどにゃー」

土御門を支えているのとは逆の腕で、彼女は懐中電灯で周りを照らす

周りの林立していたビルたちは、互いにもたれかかっていたり、倒壊したりしている

振った懐中電灯が照らした中には見えなかったが、埋まってしまった人々もいるだろう

ビルの中で残業などをしていた人間など居ようものなら、生存は絶望的。そう簡単に言える状況だった

そして、あれほどいたスキルアウト達は飲み込まれたのか、はたまた帰って行ったのか、視界には居ない

初春「でもまさか、第一学区がこんなことになるなんて」

佐天が消えた、第一学区の中心へ向かう彼女達の見えている光景は、徐々に破壊の規模が大きくなっていく

白井「これだけの事がありながら、警備員を始めとした人間が全く来ていないのも気になりますの」

その白井の発言に、初春はピンと来た

初春「ちょっと携帯使ってもいいですか?」
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/29(金) 02:23:00.43 ID:tyLVLcQP
土御門「構わないぜぃ。ただ、電波があるかどうか。多分中継基地局なんかは死んでると思うぜよ」

初春は懐中電灯のストラップを口に咥え、空いた手で鞄の中から携帯端末を取り出して、器用に操作する

初春「あー、駄目ですね。今の第一学区には高速無線のネットワーク網が止まってるみたいです。今警備員の共有情報がどうなっているのか知りたかったんですが」

その小さな端末を横から覗きこむ白井。ログに気になる点を見つけた

白井「あら、第一学区内から警備員の応援要請が出たんですのね」

初春「これ、行きの電車内の時から出てたんですよ」

白井「にも拘らず、現場に警備員の姿は無し。どういう事ですの?」

土御門「考えられるのは、治安維持を司る連中が情報をシャットアウトしてるってこと、だにゃー」

息も絶え絶えに喋る

土御門「加えて、学園都市の各学区は仮に外部からの大規模破壊攻撃、つまり仮想は対核防衛として、例えどこかの学区が壊れても連鎖して壊れないような構造になっている。下手をすればあの揺れも近接学区にしか、それも軽度の揺れとしてしか伝わって無いかもしれないぜよ」

白井「……つまり、この状況は他学区にすら伝わっていない可能性があると」

土御門「そういうことだ、にゃー。だが、連中がこの状況を予想していたとは限らないけどな」

初春「どうしてですか?」

土御門「こんな惨状、流石の学園都市でも一晩じゃ隠しきれない。明日になれば情報封鎖は不可能だ。今の学園都市の上層部はこれまで以上に勢力争いでゴタゴタしている。当然、治安維持・学園都市管理に力を持つ統括理事員もそれに巻き込まれててな。だから」

初春「このことは敵対勢力からの追及糾弾の的になる、と。確かに、流石にコレは隠しきれないでしょうね」

白井「そう考えるなら、治安維持・都市管理の人間は何を隠したかったのでしょう?」

土御門「それは分からないぜよ。もしかしたら、お友達とやらがそこに関わっているかもしれないんだにゃー」
194 :どうしてこうなった [saga]:2010/10/29(金) 02:25:33.25 ID:tyLVLcQP
埋もれた瓦礫の中で、少女は意識を取り戻す

フレンダ「生き、てる?……いつつッ!?」

身を起こそうとすると、左腕が瓦礫に埋まって動けない

自分が居る空間は、運よくできた2uぐらいの空間だ。自慢の足も動く。少々の打撲はあるようだが

フレ(これだけあれば、取り出しも出来る。脱出できるかもしれない)

取り出した懐中電灯でこの奇跡の空間を照らす

フレ(地面は、大丈夫。私が巻き込まれる前に立ってた場所。つまり、陥没とかじゃないってわけよ)

フレ(目の前の瓦礫の山は……下手に動かしたらグシャッ。それは勘弁)

フレ(とにかく、まずはこの腕を抜かないと、どうしようも)

今彼女が取り出せるものの中で、この状況で一番使えそうなのは工作用ドリル

フレ(非力だけど、結局、この状況なら逆に振動の少ないコレの方がベストじゃない?)

気まぐれにそんな物を用意していた自分の幸運に感謝しつつ、その先端を左腕へ

フレ(相当圧迫されてるハズなのに痛みを感じるのは動かそうとしたときだけ、ってことは)

小型のライトを口で咥え、キュイーンという音の元を照らす

フレ(圧迫され過ぎて感覚が無くなってる?まだ壊死の可能性は無いけど)

フレ(最悪の場合は左腕自体がすでに押し潰れてて、痛みを感じてるのはまだ繋がってるところって時)

フレ(止血用のグッズ残ってたっけ?麻酔は薬物関連で揃ってるけど)

作業の手を止め、首の脈を確認する。適切範囲で体温もあるだろう

フレ(今の状態で失血症状は出てないけど、圧迫で切断先から血が出ない様になってるだけかもしれないわけよ)

フレ(応急処置で失血死から助かる時間は30分無い。結局、これで腕先が切断されてたら死以外ないわけ)

ある程度の深さを持った穴が複数出来たので、取り出した鈍器代わりの物で数回叩く

ボロっとコンクリートが砕けた

力を籠める。ずるっと腕が抜けた

抜けたものは、腕だけだった
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/29(金) 02:30:19.42 ID:tyLVLcQP
一方通行は、何かの通路を進んでいた

どうやらここは独立した電源から電力供給を受けているようで、足元の赤色灯が光源となっている

薄暗いことには変わりないが

だが、そんなことは一方通行にとって興味の対象では無かった

一方(空薬莢に銃弾。間違いねェ、ここでドンパチやりやがったのがいる)

落ちている空薬莢の一つを拾い上げる

一方(まだ筒内に均等に消炎粒が付いてる。重力で片側へ集密してねェってことは、時間は立ってないか)

一方(とうm、じゃねェ、三下が見せたのが事実だってンなら、ここは噂の施設って奴か)

記憶が確かならば攻撃中と書かれていた。ここがそこである可能性が高い

厄介なのは、有限の自らの能力。殆どフルとはいえ、巻き込まれた後に散発的に仕掛けられるのは残量不足になりかねない

そんな時の為にわざわざ連れてきたツンツン頭なのだが

一方「なンで一番欲しい時に居ないンでしょうかねェ。あの三下ヤローはよ」

悪態を吐き出し、彼は進む

一方(確かにこれだけ深いところに設置されてりゃァさ、戦略核でもそう簡単に壊せないだろうがよ)

周囲に気を払いながら彼は進む。電力の消費を抑えるには最大演算などもっての他だ。彼は矛でしかない。攻撃者としては最強だろう。だが限定環境下で守勢に回るかもしれない場合、その幅の狭い有限性は大きな毒。そのことは彼が一番分かっているのだ

一方(クソ、地図でもありゃいいンだが。規模が分からねェ以上、ハデに動けねェ)

目の前に扉が現れた。そこで一方通行は迷う。どうやって開くか。通路の奥から、機関銃の音が聞こえた。これは、近いか。迷っては居られない。それに銃声が響いていてる環境下なら、少々派手に扉を飛ばしてもいいだろう

入ってみれば、そこはラボだった。しかしそれほどの規模では無い

一方(この分だと、噂通り何でも作れる施設があるってのは間違いだな。秘匿されてる場所なら必要物資や資源を入れるのすら難しいンだ。大量の物資が第一学区で消えたなンて情報が有れば、すぐにここの場所がバレちまう。あっても限定された何かの生産設備が関の山だろォよ)

一方(同じ理由で、学園都市の技術全てがそろってるなんてのも無理だろうな。実験や設計データ程度ならともかく、とンでもねェ施設規模が必要だ。仮に反撃を想定してるなら、倉庫区画なんかに生産後の兵器が詰っててもおかしくはねェが)

などと考えつつ、近くの端末を弄る

一方(非常時しか稼働させないなンて無駄な事をこの学園都市の連中がするハズはねェ。ってことは、ここで専門的に何か研究している線が厚い)

一方(そいつがどンなものか分からねェが、そこにあのガキに繋がる情報がある可能性もある)

いちいち情報障壁が多く煩わしい。だが、ここで全力で演算しようものなら無駄に電力を消費するだろう。それに、今はまだ繋がっているが、地下を進むにつれて演算補助をしているネットワークの電波外に出るかも知れない。そうなれば自分は芋虫だ。中継地点としてどこかを設定しておきたい。ここなら可能だろう

一方(最低でも施設図が欲しいンだ。あの謎の反応は多分、この施設中のどこかからだしな。マップがありゃ、能力使用の配分も設定出来る)

一方(ハッ、どっかの馬鹿が居りゃァこんなことで悩まずに済ンだってのに。三下のヤロウ、いつになったら追いつくンだ?)
196 :本日分投下終了のお知らせ。やべー短いー。また無駄にフラグを立てたかもわからん。回収云々でなく把握するのが大変だぜ!! [saga]:2010/10/29(金) 02:35:28.04 ID:tyLVLcQP
携帯での連絡を終えた麦野沈利は続けて二人の少女へコールした。が、どちらも出ない

麦野「チッ、私はわざわざ忠告したっての!」

そう言っておきながら、彼女は冷静に考える。この状況で連絡に出れないことで考えられるのは

携帯を耳に押し当てる彼女の目の前にあるのは、大きな奈落である

麦野(まさか引き込まれたんじゃないでしょうね?可能性は十分だけど、二人とも?)

試しに奈落の底へ向かって光線を放つ。光源としては対した出力を持たないそれは、底へ当ったのを確認する前に麦野の視界から明りが消えた

麦野(降りようと思えば降りられる。でもここであの子達を探すのはタイムロス)

麦野(でも滝壺の方も手掛かりは無くなってるのよね)

麦野は、考える。考えた末の答えは

麦野(ああもう、優先順位のつけようがないわよ、こんなの。皆どこにいるのか分からないって前提が一緒じゃあね)

そしてもう一度奈落を見た

麦野(もし滝壺の拉致とこの陥没に関連性があるなら、陥没の原因である地下に行けば何か分かるかもしれない)

かもしれない、なんて根拠では動きたくなかったが、それ以外に要因がないのだ

そして彼女はその奈落へ自ら身を投げた


身動きの取れない少女・滝壺はその尋常ではない揺れに身を任せるしかなかった

彼女が囚われている部屋の内装が弾け飛び、その幾らかが彼女へ当る。照明が落ち、割れる

それでも、全く不安感を感じさせない建物だった。あれほどの揺れに対して、壁にはヒビ一つ入っていない

なんなのだ、この建物は

ふと、気配を感じた

浜面の友人と名乗った人間ではない誰かが、そこに立っていた
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 02:43:54.98 ID:f5McSWAo
良いとこで終わりやがって乙!
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 07:20:27.35 ID:oe3KakSO
このスレを定期的に見ないと灰人になっちまうからずっと張り付いているぜッッッ
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 12:09:08.55 ID:b.pKvIDO
佐天さん爆散しろ!
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 12:40:21.73 ID:O6X.042o
相変わらず佐天さんにきびしいな
2周目入ったんだからもういいだろww







あ、佐天さんは別よ?
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 21:42:24.40 ID:ysB2ibM0
しかし死ぬと他のクローン素体に意識が乗り移っていくなんて
佐天さんまるで綾波レイだな
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/29(金) 23:15:49.69 ID:YNbA4fco
なら当然爆死も期待できるな
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 00:42:47.89 ID:8wBBNqEo
それって不老不死だよな

ルパンのやつとかアクメツに似てるな
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/30(土) 01:13:35.31 ID:4lsYKu6o
佐天オリジナルは最終的に脳みそだけになって宇宙に旅立つんだな
205 :そしてまた朝である [saga]:2010/10/31(日) 07:07:54.40 ID:QHoXzFAP
薄暗いその部屋では誰なのか、分からなかった

気が付くと、自らの口を押さえていた物・手足を縛っていた縄が外れている

念動力か何かだろうか。少女がそんなことを思っていると、声が

?「これでもう、君は動けるハズだが」

確かに、動けるが

滝壺「あ、ありがとうございます」

光の関係で全く顔は見えなかったが、彼女は素直に礼を述べた

滝壺(でも、ここにいるってことは、私を連れてきた人達の仲間……?)

警戒は当然だろう。彼女はじっと意識を向ける

?「どうした?怪我でもあるのかい?」

滝壺「大丈夫、です」

?「ふむ。では彼の元へ向かってあげるんだな」

彼、とは浜面の事だろうか

滝壺「あなたも、はまづらの知り合い……?」

その質問の返答には、若干間が有った

?「……そうだね、その認識で間違いではないか。もしかしたら、君はいずれ分かるかもしれない」

浜面の知り合いであるなら、さっきの男の関係者なのか。それでも警戒は解かない

滝壺「はまづらは、どこか知っているの?」

?「確か彼は今頃、この辺りで倒れているハズだ」

男が手をかざすと、地面にこの学区の地図が示され、赤い光点が点滅していた

滝壺「倒れて、ってはまづらに何かあったの?」

?「それは、自分で確認するんだ。彼は今いろいろと厄介だからね、受け入れてやってほしい」

滝壺は浜面が今置かれている状況など知りはしない。言葉の真意は1も伝わっていない

滝壺「……あなたは、来ないの?」

?「ふふ、それは彼に悪いよ」

そう言うと、その人間は部屋から消えた。同時に地図も消える。その場所を自分の記憶をからませて、彼女は走った
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/31(日) 07:10:40.71 ID:QHoXzFAP
上条「アタタ……。随分と落ちちまったな」

豪快な音を立てて地面に着地し、体の到る所に瓦礫が刺さってはいるが、無視できるレベルだった

見上げた奈落の入り口からは、角度を変えても星空が見えるばかり。深い

上条(一方通行が曲がったのはあの辺り。いけない距離ではない)

周りを見れば、あるのは瓦礫と死体だらけ。70m以上はあるだろう高さから落ちれば仕方が無いだろう

一歩歩けば、グチャリという音がなる。巻き込まれ、落下し、瓦礫に潰されたスキルアウト達の体の一部だ

上条(これは、照明があったら地獄の光景だった)

出力を垂直方向に纏められるようなもの、たとえば鉄パイプなどを探すために彼は底を歩きまわる

時折上から降ってくる水滴、下水や上水道が漏れたものでは無い、赤黒い水滴が彼の衣類を染める

上条(ガスや上下水道などの漏れが無いのは、流石の災害対策と言った所)

暗いせいか、どうも都合のいいものが見つからない

額の雫を払いながら、ふと上を見た

上条(あれは……何か淡い光が)


自らの放つ電子を広く薄く広げることで、つまり電子の盾を薄く拡大することで、彼女は自らの体積を広げた

それはまるでパラシュートのような役割を果たし、彼女は比較的ゆっくりと降下した

麦野(ってもこりゃ、思ってたより減速ペースが悪いわね。展開が遅すぎたのよ)

当然である。確実に彼女の電子パラシュートよりも効果のある実物のパラシュートですら、有効高度はもっと高くに設定されているのだ

それこそ底が200mも下にあれば安全に降りられるだろうが、そこまでは深くないだろう

麦野(速度が付いたままで地面に着くようなら、噴射で押さえないと不味いわね)

しかしまた、その判断も遅すぎた

奈落の底は、麦野の予想よりももっと浅かったのだ。深く見えたのは、その地面が血などで黒く染まっていたからかもしれない

麦野(やばっ、この速度じゃ逆噴射しても減速間に合わな……ッ!)

強引に高出力の逆噴射で減速しようものなら、その出力の反作用で内臓が潰れかねない

そんな思考が邪魔して、彼女の判断が遅れる。と言っても、完璧な危機回避方法が彼女に残っていたかと言われればNOだった

そしてそのまま、彼女は地面とkissすることを覚悟した
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/31(日) 07:16:58.86 ID:QHoXzFAP
白井「うわ、これは……」

初春「これが、さっきの揺れの原因、でしょうかね」

じっと、彼女たちは大きく陥没した第一学区の中心を眺めた。土御門も同様である

土御門「想像よりも酷いぜよ。それで、お探しの友達ってのはどこで消えたんだ?」

初春「え、えっと、そうですね、あの辺りかと」

白井「どうみても沈んでますのね」

土御門「他に手掛かりは?ないのか?」

初春「……その、確証は無いんですけど、佐天さん、第一学区の地下について調べてたっぽいんです」

白井「この状況で、地下。土御門さんの予想通りかもしれないですわね」

そうだにゃー、と言いながら男は拳大の瓦礫を陥没した大穴に投げ込む。しばらく経っても、音は返ってこなかった

土御門(深い上に、広いか、これは)

初春「土御門さんの目的の場所も、ここだったんですか?」

土御門「違うとも言えるな。けど、結論では一緒ってところぜよ」

白井「私達には言えない用件で来ているのでしょうし、追及はしませんの。ですが、何か私達の助けになるようなことをご存知なら、教えてほしいですわ」

土御門「うーん、そうだにゃー。詳細は言えないが、ここで戦闘も視野に入れた部隊が展開しているって情報が有った、ってところかにゃー」

地面を、ぽっかりと空いた大穴を指しながら土御門は言った

初春「戦闘?ってことはそれでこんなことに?!」

土御門「……そこまでは、断言できないぜよ。今まで所存が掴めなかった敵対勢力の秘密基地の場所が判明して、そこを簡単に破壊すると思うかにゃー?」

白井「少なくとも、そこが何をしていたとか、最低限の情報や証拠は集めたいでしょうね」

土御門「だろ?あくまで憶測の域でしかないが、しかもこの惨状だ、誰が望む?行政トップのある第一学区の崩壊なんてのは学園都市の人間は愚か、外部の組織や企業にまで深刻な損害を与えるのは間違いない」

初春「ということは、これはイレギュラーなことであるってことですか?」

土御門「そう言う事ぜよ。だがそれも、憶測から抜け出さないけどにゃー」

そう言って、土御門は崖の周りを調べるように歩き回った

白井「一体何をなさるつもりで?」

土御門「何ってそりゃ、回り込む所を探してるんだ。こんな体じゃここを降りるなんて出来ないからにゃー」
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/31(日) 07:19:16.42 ID:QHoXzFAP
止まっていた血が、一気に溢れだす

心臓の拍動と共に跳び出す血を、前の火傷が治りきらない右手のライトの光が震えながら照らす

引き抜いた彼女の左腕は肘から先が無かったのだ

それを確認した直後、ゾワッとした恐怖が彼女の頭に広がった

フレ(結局、最悪の状況ってわけね)

努めて自分を冷静に思考を図ろうとする

フレ(医者に早く見せないと死確定。こいつは、ヤバい。でもここから出るの1時間かかっても出来っこないっての)

彼女を覆うコンクリートの山は少しでも崩せば、どうなるか。無茶に壊せば左腕の先と同じ事が全身にわたることになるだろう

フレ(不味い。思考が回らなくなっていくばっかり。はやく手を打たないと10分も)

取り出した止血パッドをやみくもに貼るが、慌てる自分の精神も相まって効果はスズメの涙

所詮は10代も半ばの少女なら、迫る死の感覚に恐怖を覚えない訳が無い

フレ(ああ、駄目、だめ、ダメ!!こんなんじゃ結局どうしようもない。なにか、根本的な、解決方法が無いと)

根本的な、方法。そんな抽象的な方法を必死に探すように、必死で自らの能力を頼る

そんな中、迷走を始めた思考が一つの答えに行きついた
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/31(日) 07:20:42.95 ID:QHoXzFAP
地面に何かが突き刺さるような衝撃と轟音で少女は目覚めた

絹旗「……ぅ、あ……?」

そうか、自分は叩きつけられたのか、この場所に

おぼろげながら、自らが巻き込まれる前の事を思い出した

ダメージを最大限少なくするため、自らの周りの大きな瓦礫を片っ端から弾き、粉砕した

当然その反作用は生じるわけで、繰り返せば自分が叩きつけられる衝撃を緩和することが出来る。エネルギー保存の法則を無視してそんなことが出来るのも、彼女の能力が故

絹旗(それでも、衝撃全てってわけには、いきませんでしたか)

胸部と腹部、それに右腕にヒビ程度が入っているだろう。足もろくな状態じゃない

絹旗(あの高さから落ちてこの程度なら喜ぶべきなんでしょうけどね)

上を見上げる。見えるのは夜空だ。それだけ

絹旗(滝壺さんも、巻き込まれたんでしょうか、っとと!!)

どうやら自分は最下層に落ちた訳ではないらしい。まだ下に続く穴が、目の前には有った

絹旗(ひとまず、現状を理解するには上へ?それとも下へ?この場合、麦野なら)

根本で正直な彼女の事を考える。彼女なら無意識湧意識に関わらずこの陥没の原因を突き止めたいなどと思っているだろう。自分が理解出来ない事などほっておきたいような人間では無いハズだ

絹旗(下、でしょうね。なら、私は)

滝壺を探すと言う本意を優先するなら分離行動をした方が効率がいい

決断して、彼女は上へ戻るべく、その痛みを携えた体をゆっくりと動かした
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/31(日) 07:25:00.00 ID:QHoXzFAP
「ふふふ、ふはははは。あの小娘、やってくれた。やってくれおった」

部屋の中に老人の声が響いた

彼に生身の発声器官はない。というより肉体自体が無いのだ

彼の見ている映像には、もちろん彼以外見ることなどできはしないが、レッドアラート

もちろん原因は画面端で右往左往している強襲部隊などでは無い。一因ではあるが。原因は簡単、一区画・生産区画が丸ごと吹き飛んだことだ

幻生「ここの価値を知らず、ふはははは」

危機が迫っているハズなのに、彼の思考は歓喜だ

幻生「全く持って予想を反する存在だ。これ以上彼女と関われないのがもったいないほどにね」

吐かれ続ける警告を完全に無視して、違う作業が恐ろしい速度で進む

幻生「多様性と言う概念の下、LV5を作り聖人を作りそして無能が生み出される」

幻生「だがその無能が故、何をしでかすか、どんな能力があるのか確かめられることも無いということか。つくづく神は二物ばかり作り上げるものだ」

"All Data Sended"の単語が彼の視界に浮かび上がる

幻生「さて、これで役割は果たした。たくさんの彼女が必要になったが、私は満足だよ」

もう一度、彼は自らの編み出した理論を、技術を確認する

幻生「彼女が無能力者であったことが、こんな所でも意味を出すとは。ふははは。運命か、そもそもこれも君の想定内なのか。運命ならエントロピーは何をしているんだ、ふふは」

笑いが止まらない。

幻生「本格的に使えないハズのコレが、実用性のかけらも見えなかったこんなものが、こんなにも大きな意味を出すとは。全くもって、私も君の手の平なのだろうな」

満足するまで笑い切り、まだ警告ばかりの視界にいい加減注目を向ける

幻生「……私の研究を妨げた連中にわざわざ情報を掠め取らせたりするものか」

依頼主に必要なもの全てを送り、自らの連結脳内に全てを保存した彼は、片っ端から研究データの消去を始めた

そして

幻生「ようやく、来たな」

部屋の扉が、開いた
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/10/31(日) 07:27:08.01 ID:QHoXzFAP
一方「ォ、おい、ちょちょちょ待て待て待て待てェ」

中継地点設定をしていたら、突如として端末の挙動がおかしくなった

一方(こいつは……不味ィな、いよいよデリート始めやがった。こりゃ、ちまちまと中継拠点構築してる暇はねェぞ)

このラボの情報レベルがどの程度のものか分かりはしないが、恐らく、敵対者に情報を奪われないために消し去ろうとしているのだ

消されてしまえば、手遅れ。何の為にここまで来たのだと言う事になる

瞬時、彼はチョーカーのスイッチを入れる。目的は簡潔、最大演算を使う事で、目の前の端末から情報が消される前に障壁を突破して少しでも多くの情報を抜き出すことだ

杖からコードを取り出し、固定端末に突っ込む

彼は妹達に演算補助を受けているが、一方通行側から入力出来るわけではない。故に、彼は情報を保存する為に杖に内蔵されたメモリを使うしかなかった

一方(クソ、間に合え、間に合えよォ……ッ!!)

セキュリティを突破し、その段階の全てを選択し、片っ端からメモリーへ。内容を選択している暇は無い

そして同時に次のセキュリティへ移る。繰り返せば繰り返すほど、難易度は上がり、必要な時間は増える

そして中途半端に保存されていく情報が多くなっていく

進む断片化、増える消費電力

そして彼の戦いは終わった

時間にして、およそ10分間

一方(バッテリー残量18分ってとこかァ。内容を確認してる時間は)

ズダン、と爆発音がした。同じように焦った連中が物を掴もうと動きまわっているかもしれない

下手をすれば交戦か

一方(何が起きるかわかンねェってのに、心許無ェな)

杖に刺していたコードを格納し、電極そのままで、彼はじっとその時を待った
212 :今回分投下終了のお知らせ。この土日で一区切りつけたいんです。あまりにも進まなさすぎる。魔術の方にもいかないといけないし [saga]:2010/10/31(日) 07:34:33.97 ID:QHoXzFAP
麦野沈利は静かに目を開いた

多分、体中が痛みを吐いているだろうと思っていたからだ

上条「案外抜けてるのな、お前」

優しく両腕で抱かれ、受け止めた男の顔がすぐそばにあった

上条「あの勢いじゃ怪我しちまうと思って、勝手に受け止めちまったけど、迷惑だったか?」

残念ながら逆光で、しかも周りは暗く、電子の光も彼にかき消されていた

そのまま地面に下ろされる。自分の失敗が原因だからか、彼女は少々顔を染めた

麦野「……ありがとう、助かったわ。ちょっと底までの計算を間違ったの」

上条「超能力者サマでも計算ミスするのな」

麦野「嫌味ね」

上条「そう言うつもりじゃなかったよ。まぁその、親近感が沸いたんだよ、同じ人間なんですな―ってね」

麦野「同じ人間、人間ねぇ。昨日まで巨大肉達磨だった人が言うセリフかしら」

上条「タハハ、手厳しいな。それで、なんで上から降ってきたんだ?まさか足を滑らしたなんて理由じゃないだろ?」

麦野「もちろん。ちょっと知りたかったの、この状況の原因が」

上条「それでヒモ無しバンジーなんてよくやるよ」

麦野「人ごとのように言うわね。じゃあ聞くけど、なんでアンタもここにいるの?」

上条「ちょっと一緒に来てたのとはぐれましてなー」

麦野「あら、そんなんでよく一方的に私を笑ってくれたじゃない」

上条「だーかーら、言ったろ、同じだって」

そう言って、上条は笑みを浮かべた
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 09:58:12.89 ID:lrviGEco
どうなるかが本当にわからないな
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 10:46:26.60 ID:owbLggAO
フレンタ ゛あああ
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 12:18:56.02 ID:TPYB5noo
フレンタ  ゛
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 14:15:40.00 ID:54Kd.wSO
麦デレ再来ルー?
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 14:59:36.68 ID:45wxRuMo
>>216
デレたら死ぬ
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 16:08:59.63 ID:TPYB5noo
>>217
しかしデレなきゃ死ぬぜ?
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 16:11:31.68 ID:tTOroEUo
三定死かよwwwwwwwwww
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 16:21:41.61 ID:7K4tCAso
どうせ死ぬならデレさせた方が良いだろjk
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/10/31(日) 19:08:23.14 ID:2moku3U0
フレンタ/ ゛不憫すぎる・・・
222 :korede [saga]:2010/11/01(月) 05:37:06.23 ID:mEmw.zIP
瓦礫の折り重なった、最早道とは言えないような場所を、少女は駆けた

彼女の目的地は頭の中にある、さっき見せてもらった地図上の赤い点。つまり浜面の場所だ

それまでの道程から、この学区で何かとんでもないことが起きていることぐらいは把握できた

それが彼女をより焦らせる。こんな中で倒れていれば、彼が瓦礫に押しつぶされることも容易に考え付く

滝壺(……はまづら―――――っ!)

彼は、少し盛り上がった瓦礫の山の上に横たわっていた

周りのビルはことごとく壊れ、上から潰されるような可能性が全く無い状態で

まさか自分で這い回ったなど、有り得ないだろうが

そんな疑問を無視して駆け寄った彼の腹部は、他学区から洩れる光や月明かりで十分に分かるほどに、はっきりと血で染まっていた

滝壺(死ん、で、)

確実に滝壺の体温より低くなっている彼の首元へ手を添える

脈が、あった。とても間隔の広いストロークで

生きている。その希望が彼女に力を与える

どういう訳か腹部の血は止まっている。ならば、こんなところにおいておくわけにはいかない

彼女は彼を肩に負って、浜面という男の重みでふらつく足取りで、第一学区から脱出すべく歩き出した
223 :やっと [saga]:2010/11/01(月) 05:39:32.38 ID:mEmw.zIP
アックアという新戦力の登場で、当然神裂は苦しくなる

ただでさえステイルと禁書にすら、手を焼いていたのだ。この3人を相手にするのは無理というもの

ステイル(すまないが、このまま押し切らせてもらう!!)

アックアはこちらに敵意を向けること無く、ただひたすらに神裂を狙う。共闘と言えるほどの連携は取れないが、心強い

ステイル(流石だ、こっちが設置した術式に干渉しないよう、更に誘いこむように動いている。コレを一口に経験の差といえるもんじゃないな)

アックアが迫り、攻撃を受け止め、退いた先で火炎地獄。それを空間移動で回避したと思えば、回避先には既にアックアが神裂を待ち構える

消耗するのは攻撃対象の神裂とステイルの魔力のみ。アックア自身の消耗は限りなく無い

もちろん、彼のそのキャパシティはこの程度の戦闘による消耗では少しも問題にならないだろうが、ここは基本的には敵中であるという事を忘れない

ステイル(ふん、冷静で抜かりも無い。進んで敵対したいと思うような相手ではないよ、全く)

お陰で、禁書は退避先で分析に専念出来ている。直にこちらの増援が彼女を安全な場所へ護衛してくれるだろう

どういう形によるものか分からないが、この戦闘はもうすぐ終わる。神裂の敗北と言う形で

ステイル(なら、問題はその先だ。彼女の処遇)

炎の巨人を、アックアと打ち合っている神裂へ向けて移動させながら、彼は考える

ステイル(あの男が何処までやる気なのか分からないが、彼女が偽物ならば別に殺されても問題は無い)

ステイル(だけど、彼女が操られているとかだった場合、聖人という貴重な戦力を恒久的に失ってしまうことになる)

苦し紛れに放たれた七閃を回避し彼は次の攻撃手段に写る

ステイル(どうする、ここでは逃がす方が得策か?)

視界の端で、アックアが吹き飛ばされた

その光景が、一瞬理解できなかった

その把握の遅れが、対応の遅れを導いた

後ろへ伸びたワイヤーが3次元的な魔術陣を形成し、そこから放たれた言うなれば光の刃とも言える攻撃が、彼の体を貫かんと、飛来した

禁書『気を付けて、かおりの反応が、さっきと変ってる!!ステイル、ステイル?!』
224 :一だんらくだ [saga]:2010/11/01(月) 05:41:04.41 ID:mEmw.zIP
土御門・白井・初春の三人は大きく陥没した大穴の淵を添うようにして歩いた末、着いたのはメインタワーだった

学園都市の権力の中枢である第一学区のほぼ中心に位置する場所にそそり立つ

土御門(周りのビルは飲み込まれるか、倒れこんでいるってのに、不自然なくらい無傷ぜよ)

白井「ここには風紀委員を始めとした治安機構の司令塔が入ってるはずですの」

初春「恐ろしいほど静かですね。まるで人がいないみたい」

土御門「入って、みるか」

白井「こ、ここにですの?!」

初春「絶対見つかっちゃいますって!!」

土御門「真正面にこんな大穴が開いてて、周りはほぼ全倒壊。なのにここだけ生き残ってる。この原因を考えてみたらわかるんじゃないかにゃー」

白井「確かに不自然ですけど、風紀委員の立場上」

土御門「そんなもの、見つからなきゃいいだけだにゃー」

初春「無茶です!ここのセキュリティを落とす事なんて簡単じゃないんですよ?!」

土御門「そんなもの、落とす必要はないぜよ」

白井「だったらどうするんですの?」

当然の反応に、余裕の笑みを返す土御門

土御門「ついてきたらわかるぜぃ」

彼の体はすでに、初春の肩を借りる必要は無い程度に回復していた
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 05:41:47.32 ID:mEmw.zIP
一度一方通行が吹き飛ばした扉、急襲の為として彼自身が立て掛ける程度に置いていたそれが、もう一度弾け飛ぶ

入ってきた破壊工作部隊の人間が、四散した。クリアリングの為に入ってきた3人が、立て続けに

目の前でそうなった味方を確認して、しかし対応が始まる

続けて入ってきたりはしない。中に敵が待ち構えていると分かっていて、突っ込むなど愚の骨頂

他人の代わりに飛び込んできたのは小型の爆発物。考えられるのは炸裂・焼夷・発煙・閃光・電磁波・etc

テンプレート通りの反応を見て、彼はにやりと微笑む

一方(食らった振り、してやンねェとなァ)

自らに係る部分だけを反射して、彼は敵が入ってくるのを待つ

自らが第一位の一方通行である事が発覚するのは最悪だ。対策や増援などが来ては、時間制限がある彼にとって不利な条件を作り出すのは間違いない

それを避け、且つ自分が自分である事がばれないようにする為の方法

爆発を確認して掃射をしながら突入してくる連中を腕を振り回して半端に負傷させ、押しのけるようにしてラボを飛び出した

後ろから銃弾の掃射がなされるも、被弾などするわけが無い。だが反射もしない。逸らす程度だ

一方(よォし、予想通り追ってこねェな。こっちはお前らなンぞを真面目に相手してる時間は無いンだ)

残り14分強。半分を下回った

陰に入り、電極をオフに

一方(今ので行動が少しでもゆっくりになってくれればいいがなァ。ま、淡い期待か。見つからない様に、目的の場所まで行ける、かどうか)

一方通行が最初から隠れなかったのは理由がある。破壊工作部隊にとって脅威となるような人間がいると分かれば、彼らの行動にはクリアリングに割く時間が追加される

少しでも足踏みさせること、それが狙いだ。もちろん一方通行という存在は敵にとって最大の脅威となるだろう。しかしそれで対策されては困る。彼には弱点が多いのだから

だからこそ、それなりの脅威を演出する必要が有った

一方(だが、入ってきたときに連中、最初からクリアリングしてやがったからなァ。俺以外の脅威と戦うことは想定してやがったか)

周囲を警戒。倒した男から奪った拳銃を忍ばせて

一方(こりゃァ、何かあると考えておいた方がいいな)
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/01(月) 05:43:07.81 ID:mEmw.zIP
麦野「ホントにここから入れんの?」

一方通行が入った入口にようやく辿り着いた上条と麦野

上条「さぁね。そればっかりは分かりませんよー」

上条(まぁ、ここから一方通行が出てくることも無かったし、なにより中であいつ、本気使ったみたい。クロだな)

もちろん麦野にそんなことは言えない

だが彼女も彼女でこの空間の空気を把握したようだ。目を、転がっている空薬莢に向ける

麦野(戦闘が、あったわね。これがあの子達との交戦で使われたものじゃなければいいけど)

滝壺に繋がるものか、絹旗につながるものか、フレンダに繋がるものか、浜面に繋がるものか

または全く誰にも繋がらない、不運なアクシデントの原因か

先を行く上条の後ろをついていく

麦野「そう言えば、なんで今日は一方通行と一緒なのよ。敵対してたんでしょ?」

上条「おっと、なんで知ってるんだ?」

麦野「アンタ達の後ろの車、私達が乗ってたのよ。一緒の車から降りるのを見たわ」

上条「あー、あの車、麦野達だったのか。つーことは、ここにいるのはお仕事なんだな?」

麦野「さーね。言う気は無いわよ?」

口車は軽いが、麦野はこの上条当麻という存在を測りかねていた

第二位と共闘していたり、第一位と敵対したり、かと思えば、第一位と一緒に現れたり、はぐれたり。明らかに様子のおかしかった第二位との一方的な防戦はこの際度外視する

一貫している事と言えば

麦野(会うたびに私を助けている、って事だけ?なによ、なによそれ、舐めてるのかしら?初対面から馴れ馴れしかったし。何なの、コイツ)

そう言えば、今も彼は彼女の前を歩いている。交戦の形跡から何時目の前から銃弾が飛んできてもおかしくは無いのだ

考え方を変えれば、彼女の動きを制御しているとも考えられるが

麦野(いいわ、アンタが何者なのか、見せてもらおうじゃない)
227 :ガイキチ参上 [saga]:2010/11/01(月) 05:44:31.45 ID:mEmw.zIP
少女は、どこかで調達したのか血まみれのスーツを身に付け、ハンドボール大の物を掴んで部屋に現れた

幻生「君がここに来てから、機密も何もなくなってしまったよ。ふははっ」

その笑い声が響いている中で、そのハンドボール大の物を、うるさいと言わんばかりに壁に投げつけた

もとからヒビが入っていたのか、それとも勢いが強かったのか、ソレはごちゃっという音を立てて砕けた

脳漿と眼球と血と砕けた骨とが、散らばった

幻生「ふふふ、君のその破壊衝動はまだ満足してないようだ。第一学区を半壊させておいてまだ満たされないのかい」

ノイジーな音声が響く

佐天「……うるさい。黙れ黙れ黙れぇええ!!んなことはどうだっていいんですよおおぉぉおお!!アタシはねぇ!?助けなきゃならないのよ!!分かりますぅ?!あはッはははッ!!」

男の笑い声にとって変わるように少女の笑い声が響く

幻生「助ける、ほぉう、それが生産ブロックを丸々吹き飛ばしたのと関係があるのかい?」

佐天「アハハッ、関係無い事、するわけ無いじゃないですかぁ」

ツカツカと、部屋の壁まで歩き、手を壁に当てる。金属製の壁が溶けてだらりと垂れた

佐天「無くしてしまえばいいんですねえええええええええぇ!!痛いの全てヲ、全てをですよォ?!」

金属が溶けていく光で、彼女の顔が照らされた

両目は全く別の方向を向き涙を流し、血とも涎とも思えない液体がとどまることなく口から流れ出ている

ハヒッ、と嗚咽とも声とも判別付できない音を立てながら

溶かした壁をくぐる。溶けて高温となった金属の雫が肩や頭に垂れるが気にしない

肩にかかった雫は音を立てて彼女の服を溶かし固まるが、頭上に垂れた金属はそのまま涙と混じって流れ落ちた
228 :おっとまた失言か [saga]:2010/11/01(月) 05:45:12.03 ID:mEmw.zIP
佐天「あの子達はね、感情も意思も無いんです。でも嗚呼カワイソウ!!カワイソウカワイソう、ふぶふふっ」

佐天「いいい痛いんですよ!痛みだけ!それも!本来感じない!もの、だけっ!だけどねええええええぇえへっ」

佐天「生物の、人間の感覚ってのは薬とかじゃ誤魔化せない。失う痛みってあるんですよ。多分、本能的に死を把握しちゃうんです怖いんです痛いんです」

佐天「ないぞうがでてちがとまらなくてあたまがわれてかんがえられなくなって」

佐天「それが溜まらなく痛いんだぁああ。もう、興奮しちゃうほど、うふふ」

佐天「だから無くすの、全部全部全部全部全部全部全部全部ぜぇえぇぇえぇえんぶ!」

佐天「痛いのは、一瞬でぇす!それが幸せ、みんなみんな!悩みも妬みも苦しくて、煩わしい事痛い事から永遠に救われる、だから待ってて、アタシィィィィィイイ!?」

壁から飛び出た電極を自らの頭部へ刺す。まるで溶けて飲み込むかのように素直に、ズブズブと

同時に体がビクビクと痙攣し、訳のわからない声を挙げ体中の穴と言う穴から液体が、固体が、流れ出す

一際、大きく体がのけぞり、前かがみに倒れこむ。が、不自然な体の動きで垂直に立ちあがった

幻生「これはこれは、完成固体としても、所詮は試作か。いや、これが、これこそが彼女なのか。……ああ、大いなるエントロピーよ!!残念だ残念だもっと君を研究したかった!!!」

幻生「だが、そろそろ私の足掻きも終焉だ!最後の最期に満足できた結果を出せたのだ、上出来だっ上出来なのだ、ははは」

その歓喜を示すかのように、部屋の非常照明が点滅している

幻生「あびゃっ、くっはははは。ぎみ、には、ワルい事をしちぇし、まった、ネっ。だがね、のがっれ、らえないんだ。ぎみは、ぎみだけっはね。ぶびあstfヴぇよwfgbぽhんq@fがhgw0@hg……」

施設全体の、照明が、端末が、製造ラインが、生命維持装置が、管制システムが、全てが止まる

止まった原因は、その電力供給にあった
229 :ふひひ [saga]:2010/11/01(月) 05:48:33.11 ID:mEmw.zIP
土御門「ほら、思った通りだったにゃー」

白井「私はともかく、初春がここまでカメラに捉えられることなくに来れるなんて、土御門さん、貴方と言う人は」

初春「セキュリティの、リアル面の穴を突くなんて、一体何者なんですか?」

ニヤニヤとした顔を浮かべて、答えない

土御門の指示と行動に忠実についてきた彼女たちは、メインタワー地下の、表向き変電施設の階層に辿り着いた

土御門(いくら外が危険であると言っても、ここまでこの子ら連れてきたのは間違いだったか。諜報スキルを公開したのも。いや、)

土御門(だが、予想通り、この建物だけは根深いところを基盤に造ってあるようだ。この後にも起き得る陥没や倒壊にこの子達が巻き込まれる可能性は格段に下がったんだ。これでいいんだ)

彼らの目の前には、本来ただの壁が有ったのだろう。だが、陥没に巻き込まれ、他の地下施設と直接接していた壁がズレを起こして、大きな横穴が開いていた

土御門「恐らくだが、あの大陥没は、どこかの地下施設が何らかの理由で吹き飛び、その上にあった全てが支えを失って、陥没。そしてそれに浅く隣接していた建造物が巻き込まれたものだ。その巻き込みが、波となって地震をおこした」

土御門「だが、その施設と同等の深さを持ち、別系統の施設基盤を持ったこのタワーだけは、耐え残ったと考えられる」

土御門の発言に耳を貸すが、その真意は伝わらなかったようだ。で?という表情を浮かべている

土御門「えっと、だからここからなら、比較的安全に地下へいけるってことだにゃー」

初春「はぁー。なら、早く行きましょうよ」

白井「ちょっと待ちなさい、初春。土御門さんが比較的、と仰った意味が分かっていますの?」

初春「と言うと、なんでしょう?」

白井「まだ外は崩落なんかが続いている。それは負担が均一性を失って、耐えきれなくなった基盤のせいですの。一番大きかった時のような大きな揺れは無くとも小さいのはいくらもある」

白井「つまり、土御門さんが言ってる事は、今ここで落ち着いているように見えるこの先も、いつ壊れるか分からないってことですの」

土御門「負担がこのタワーの基盤にもかかってて、それに全く動じない分、他の場所よりはいくらか安全だろうけどにゃー。その上、武装した連中がいるかも知れない」

危険な所に行く覚悟はあるのか、つまりそう言う事だろう

初春「ここまで来てるんです。私、止まりませんよ」

そう初春が宣言した後ろで、巨大な変電装置と思われるものが異音を挙げた

同時に、この広い空間を、赤色の非常照明が一斉に照らしだす

これは一体何事だ、と土御門は装置の側に駆け寄った。そして、その表情から、余裕が完全に消え去った
230 :本日分投下終了のお知らせ。ラストが超短すぎます! [saga]:2010/11/01(月) 05:49:39.16 ID:mEmw.zIP
あの姿は、まさか

そう思って、ようやく地上に出る事の出来た少女は影を追う

絹旗(あの姿は、浜面と滝壺さん……?)

前方100mと言ったところか。走っていけば容易に追いつける

絹旗「滝壺さん!!」

彼女は、50mを切ったところで、間違いなくその姿が滝壺と浜面である事を確認して、声をかけた

直後、その声がかき消されるように、日光が拡がる

日の出は、まだ少し先だと言うのに
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 08:54:12.40 ID:x8MjfFko
おおうおう佐天さん
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 09:12:04.60 ID:fspySASO
佐天さんWWWWWWWW




佐天さん……
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 10:10:56.92 ID:9.3xoIDO
佐天さん屍人化しちゃったのかぁ
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 10:32:13.26 ID:tkOQckUo
わたし屍人だけど一緒にしないで欲 しいな
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 12:32:12.50 ID:x9XJHhUo
作者はホントにさてんさんが大好きなんだな
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/01(月) 15:59:29.52 ID:If1snuoo
最近AIさんが出てこないな
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/02(火) 19:20:55.63 ID:WSk0zK20
佐天さんがやばすぎて泣いた
何なの?この作者のドSっぷりは?
238 :デモンズソウルとSS書き溜めでオナニータイムがやばい [saga]:2010/11/03(水) 03:18:42.99 ID:wBxAvQsP
貫かれた、と言っても彼の身につけている物は、対魔術を想定しての物である

貴重な歩く教会には格段に劣るにしても、それなりの対策は講じてあり、緩衝には十分だ。例え、それが聖人の放った高威力の術式だとしても

ステイル(……!!本調子を、取り戻した?)

僅かに、自分の挙動が鈍る。いいのを貰ってしまったらしい

だが、回復などしている暇は無いだろう

周囲は既に、彼女の魔術陣が牙をこちらに向けているのだから

それを構成するワイヤーは、歪という表現では言い表せない

ステイル(なんだこれは!!術式が関わる所だけ切り取ったとでも、いうのか!?)

彼女と組んでいた時に見慣れた光景では無かった

それでも彼は360度封鎖されているこの状況で、逃げ場を見つける

ステイル(当然だ!!あのアックアとも同時に闘っていながら、僕への遠隔魔術をそんなに精度良く設置出来るわけがないんだ!!)

躊躇なく、もちろん時間的な余裕も無く、飛び込んだ術式と術式の切れ目

同時に、幾らかの術式はステイルがいた位置を丸ごと吹き飛ばすような爆発を起こし、そして残った術式は彼をそこへ誘う様に氷の杭を発射した

その結果に、今はもう取り戻せない状況であると、気付かされる

ステイル(……コレは、まさか、僕の行動を読んでいた?)

なんの前触れも無しで、彼の正面に切り取られたワイヤーで構成された三次元的な魔術陣が現れた
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/03(水) 03:21:57.06 ID:wBxAvQsP
アックア「前は、全力では無かったようであるな」

神裂と壮絶に打ち合いながら、彼は声を挙げた

もちろん、それでも彼にはまだ余裕がある

彼女の刀による攻撃以外は簡単に対抗する魔術を構築して身を守り、反撃

しかし反撃した先には、既に彼女は居ない

直接手が届かない攻撃は、その距離がある故に発生するタイムラグを突かれてしまうのだ

それに加えて、霧の都と呼ばれ水分の多いはずのロンドンだが、ステイルがこの辺りで散々炎術を使ったこともあって、とても豊富と言える状態ではなかった

そして、彼女の操る術式を乗っ取ろうにも、対象そのものが移動されては空打ちとなる

流石に至近距離で打ち下ろす彼のメイス攻撃には対応できないようだが、打ち合う最中に距離を取られれば、彼女との距離は一気に拡げられる

彼女の術について水を媒体として、移動術について調べた結果はunknownだった

アックア(如何なる術式を込めているのか知るところではないが、対応できないレベルでは無いのである)

背後から爆発の音が聞こえる

どうやらあの炎術師が巻き込まれたようだ

アックア(彼の者も悪い動きでは無かった。経験もあるだろう。……私このように闘う最中で、的確に追い込んだのであるか)

距離を取った先で、彼女は居合いの構えをとった

唯閃。先日の戦いでも、不発だったが今日これまでの戦いでも、その術を見ている

アックア(遠い)

距離は、遠かった。そしてその術式は彼女の全能力使っての攻撃であると言う事を、必要外の他の術を混ぜ込む隙が無い事を見知っている。それが、彼女の脳力の全力なのだから

彼女が弾丸のように突進してくる。疾い、が、打ち合うタイミングを距離から感覚的に計算することは出来る

迎撃を考えたその瞬間、突如として彼女が彼の目の前に、空間を裂くかのようにして現れた
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/03(水) 03:23:31.53 ID:wBxAvQsP
特別便に乗りながら、王女はぼんやりと外を眺めている

彼女が向かうのは、ブリテン島西部、プリマスのデヴォンポート軍港

名目は慰労と言う事であるが、彼の地は前日の戦闘で交戦した軍艦の主要な所属地では無い

本来ならばデヴォンポートで無く、ロンドンからも近い海軍主力のあるポーツマス軍港へ行くのが筋であろう

だが、彼女の立場の弱さがそれすらさせてくれない

なにか自分に出来ることは、と思って自ら申し出た事なのだが、代わりに示されたのはここだった

それでも自らの仕事だ。やらなくては。気持ちを切り替えようと、他の事を考える

自分の仕事の内容、つまり慰労として、整列した軍人たちの前で登壇して言葉を述べなくてはならない

無論、原稿は記憶している。だが、それでは芸が無い

戦いの内容から何かアドリブで言えない事はないかと、報告書を取り出して読み始めた

そして、ある単語が目に飛び込んでくる

アックア。彼女が知っている彼の名前は、ウィリアム・オルウェル

なぜ彼が、いや、いつかこんな日が来るかもしれないと、彼についての報告が上がった時点で思っていたが

その彼が、自国の防衛線を崩壊させ、一時はイギリス最大の危機を招いた

彼女が見舞った騎士団長が言うには、何か理由があるかもしれない、と

ヴィリアン(例えそれが、彼の優しさから出た嘘であっても。それでも私は救われた)

窓の外を見ながら、昔の彼の面影を思い出す

ヴィリアン(貴方は、独りで何を背負い込んでいるというのです?ウィリアム)

彼が首都で闘っている事など知らず、彼女は電車の揺れに身を任せた
241 :中身?ねェよそンなもン [saga]:2010/11/03(水) 03:26:01.75 ID:wBxAvQsP
小奇麗な広場の公園で、他の西洋人と同様のスタイルで芝生の上でゴロ寝していた垣根の頬にひんやりとした感覚

片目を開けると、少女がミネラルウォーターを当てていた

彼女は垣根が寝始めたところを見計らって、どこかへ行っていた

恐らく、彼女の関係者の元へ連絡を取りに行っているのだろう。先程コーヒーなど飲んでいたのはそのためだろうか

などと、彼は思いながらそのまま寝に入ったのだ

実際、彼はとてもよく眠ることが出来た。適温が気持ち良かったこともある

垣根「……もう準備出来たのか?」

ペットボトルを受け取って、彼女が飲んだのかキャップが少し空いていて量が減ったそれを、口にしながら垣根は尋ねた

垣根(例えこのボトルに何がしかの薬が入っていても、今の俺の体には効きはしないだろう。そして、コイツはそんなことが分からないほど馬鹿じゃねぇ)

実際、彼女は垣根の様子を特別窺っている訳でもない

定規「そうよ。車が待っているし、行きましょ?」

半身を起き上げ、少女を見上げている彼を引き立てて、着いた芝生をはたいてやる

彼の方も、特に何も考えずそれを受け入れた

そこで彼女は自然に彼の耳元で言葉を呟く。それこそ、彼にも聞こえないかもしれない音量で

定規「気をつけてね。ウチの連中にも、向こうにも」

特に表情も仕草も現さず、その言葉をただ受け入れた

簡単に伸びをして、彼らを待つ車の方向へ

垣根(何も交換条件なしで、こちらの条件をただ飲むだけ、なんて美味い話は無いだろうよ。コイツがどんな条件を使ったのか知らねぇが、気を付けろ、か)

どんな相手でも、問題ねぇよ。と彼は口を僅かに動かして、その車へ乗り込んだ
242 :魔術再度は書き難いのである。理解力が無いせいか原作読んでもどこまで出来て出来ないのか分からんのである [saga]:2010/11/03(水) 03:31:35.77 ID:wBxAvQsP
「我々の教義を、よくご存じですかな?」

教皇が最初に躓いた言葉だった

もちろん、彼はユダヤ教について知らないわけが無い。教義も歴史も知り尽くしていると言える

それで躓いてしまったのは質問の意図が分からなかったからだ

計りかねている、という表情を浮かべたマタイへ、次の言葉が投下される

「聖下のお考えは、大変慈悲深く、キリスト教と言う垣根を越えた、素晴らしいものであると理解はしています」

「しかし、我々の教えは選民的な物が混じっている」

教皇「それは―」

申し訳ない、という顔で、すこしこのまま話を聞いてくれと手の平を見せた

「この件について、この問題は我々の中で非常に大きな物となってしまいました」

「結束していると言われるユダヤの同志同胞の中でも、その結束の要因は起因するところが単なるナショナリズムであると言う論もある」

教皇マタイの前で話をするのは、イスラエル大統領である。難民の歴史を持つ彼らには教皇と言う明確なヒエラルキーの頂点が無い

故に宗教指導者としての大統領であったり首相であったりするのだ

「私はこの論点について、100%の否定が出来ないのです。なぜならば、教えを従順に守った古からのスタイルとも言いましょうか、を実行しているのは1200万のユダヤ教徒の内、10%程度しかありません」

「現実的に考えて当然の社会の進展だと、私は理解しています。だがそれが、こと我々の教義の下では、同教徒・同胞内での区別をもたらすでしょう」

ここまで話して、教皇は目の前の男が言っている意味が分かった

そして、ここまで来る途中で、彼の言うナショナリズムと宗教が合致した差別が明確で根深いものであるという事を深い意味で理解した

教皇「だがそれでも、我々は手を打たねばならんのだ」

苦しそうに、ひねり出した言葉。そこから目の前の男はマタイという男の真意を窺い知る

「最早、我々の中では受け入れるしかないのでは、という考えが芽生え始め居ています。私もその一人に数えられるでしょう。ですが、誤解だけはしないで頂きたいのです」

「我々も、不毛な衝突は避けらるように全力を尽くしていると言う事を。無論、我々の信徒を守る意味も入っておりますが」

教皇の前で述べる男は、深く顎をかみしめている

教皇(彼らの悩むところは、我々も同じ。敬虔な教徒など、ごく一部。恐らく我らローマ正教の内部でも、その魔術的な側面ばかりを重く見る者もあるであろう)

教皇(その上、十字教は複数に分裂しておる。これがどのような結果をもたらすかも分からぬ。教皇体制も、その教義としての矛盾からは逃れられぬやもしれない)

教皇(それでも、何か手を打たん訳にはいかないのだ。そのための神の右席であり、民選で選ばれたとはいえ、教皇なのだからな)

会談を続けながら、彼は次なる手を考えるのだった
243 :ぬふふ [saga]:2010/11/03(水) 03:37:17.88 ID:wBxAvQsP
彼らがその場所にたどり着いた時、アックアと呼ばれる男が盛大に吹っ飛んだ

ボロボロな霊装を身につけたステイルがよろよろと起き上がり、彼への追撃を、一緒に来たシスターの群が防ぐ

五和「女教皇……?!」

彼らの目の前で、再度吹き飛ばされたアックアが立ち上がる

ステイル程では無いにせよ、この男も傷を負っていた

アックア「ここから速やかに退くのである!!」

武装した50人ばかりの天草式十字凄教徒の前で、その巨大なメイスを盾のように構えながら男は言った

同時、アックアめがけて飛んで来たワイヤーがあった。本来ならば避ける予定であったそれを、男はメイスで撃ち返そうとする

すると、彼の目の前でそのワイヤーは消え、代わりにその先端が男の側部から現れて彼を襲う

しかし、それをも男は読んでいたかのようにして構えを逸らして体への直撃を避ける

そして先程まで正面であって、更にワイヤーが消えた方向にいつの間にか魔術陣が形成され、アックアめがけて氷の塊が打ち出される

撃ち落とすアックア

その行動は、明らかに天草式を守るためのものであった

建宮(明らかに邪魔になっているのよな……)

天草式十字凄教教皇代理である彼は、そしてそれ以外のここにいる他の構成員も、同じ事を思った

しかし、動けなった。目の前で、女教皇が圧倒的な敵として暴れているのだから

「「「「女教皇!!」」」」」

対馬が牛深が、その他ほぼすべての天草式の面々が殆ど同時に声を挙げた

しかし、女教皇と呼ばれたその女は、じっとアックアを含めた面々を睨み、表情すら変えない

来る

そうアックアが呟いた時には、神裂はアックアの間合いの中に現れ、そして斬り付けた

同時に、他の天草式の面々達の方にも複数の術式が向けられた。ステイル達が居る方向からは爆発音と悲鳴が上がっている

五和(女教皇の様子がおかしい。どうして同時にこんなことまでッ!?)

今までに散々見てきた女教皇の魔術に、当然彼らは反応した。殆ど脊髄反射と言えるだろう

だが、彼らにとってはショックだった。その攻撃範囲が、容赦なく全員を含み、そして命を削ぎ落とすに十分な威力であったからだ
244 :本日分投下終了のお知らせ。ハァハァ・・・・・フゥ [saga]:2010/11/03(水) 03:39:09.17 ID:wBxAvQsP
ロシアの広大な大地で、爆発が起きた

原因はなんであろうか、当局の人間にもロシア成教の人間も見当が付かなかった

突如として地面に巨大なクレーターが出来たのだから

今では地表上で起きるはずの無い核実験を彷彿させるその規模

それはレーダーのようなものでは全く感知出来ず、それが魔術的なものであれば広域な魔術反応に気づく事が出来ただろう

突如という表現でしか表せなかった

ワリシーサにこの報告が届いた

彼女はただ頷いただけだった。予定調和であるかのように
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 11:04:03.16 ID:WisTlwSO



禁書は理解するもんじゃない
感じるんだッッッ!
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/03(水) 12:32:53.27 ID:JTcCfM2o
作者のところに黒ファンで侵入して執筆ペースを更に遅らせてやるぜ!
247 :前の投下の俺の言葉がキモチワルイシネ [saga]:2010/11/04(木) 17:08:14.37 ID:EHkOK/QP
垣根帝督と少女は同じ車で揺られ、目的の場所に向かった

普通のワンボックスカーでしかなく、運転している男も、どう見ても普通の東洋系中年リーマンだった

目立たない。どこまでも。彼は知らないが、そのレベルは天草式のソレとさして変わらない

垣根(そりゃ、ま、日本は第二次大戦中にはCIAにも引けを取らない諜報技術を持っていた国だしな)

有名なのは、原爆の情報流出。広島にそれが落ちる数年前には理論も威力も日本は入手していた程だ。陸海軍での情報共有や情報処理に根本的な欠陥が有った為に、その能力が日の目を見ることは無かったが

垣根は頭をそれなりに回転させながら、この後の事を予測する

垣根(まさか、俺の要望通りに直接的な面会が出来るわけじゃねぇだろうさ)

チラリ、と少女の方へ眼をやる

垣根(どんな交渉をしても、そんなことが出来る条件をひねり出せるような餓鬼じゃ、ねぇしな)

垣根(ハッ、こりゃま、期待はし過ぎないようにしねーと)

視線に気が付いたのか、少女が笑みを浮かべた

垣根(ふぅ。それでも、コイツが出した条件に俺の事が関与しているのは、十中八九間違いねぇか)

垣根「まだ、水、残ってる?」

定規「あるわ。でも、飲みすぎたらお腹壊すわよ?」

垣根「かまやしねぇよ。この後に何が出されるかわからねぇしな」

定規「そ。ハイ」

「垣根君、だったか、君の満足を買えるに値するかは分からないが、我々の精一杯のセッティングはさせてもらった」

運転手の男は、前を見ながらに声を出した

「こちらの立場もあるが、向こうには向こうの立場があるだろう。どちらの条件を優先させるかは君の裁量に任せるが―」

「中途半端はしない事だな。ま、そんな事を君には言うまでも無いだろうが、一応言っておこう、この道の先輩としてね」

言い方はアドバイスという形式だが

垣根(脅し、ね。はいはい、そんなに俺は甘くねーよ)

視線を外へ向け、関心が無いように頷いた。そしてしばらくの時がたつ

「そこの彼、だ。後は君の領域、せいぜい頑張れ若造よ」

どこにでもあるカフェチェーンの店外席の男を指差し、運転手の男は言った
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 17:10:33.49 ID:EHkOK/QP
明らかに彼女の能力を超えた複数の広範囲攻撃を、天草式の彼らは回避した

それは、それまでに散々頭を悩ませて構築した、対聖人戦を想定して造り出した数々の術式の恩恵だと言える

もちろん、要因はそれだけでは無い

どれだけ対策をしていようと、聖人とその他の魔術師では決して越えられない差があるのだから

50人ばかりが一人も欠ける事が無かったのは、目の前で奮戦するアックアと言う存在が彼女の攻撃の主目標だったからだ

建宮(完全に行方不明だと思っていた女教皇が現れたってのは、素直にうれしい事だったハズなのよな)

次なる攻撃を的確に見切りながら、彼は考える

建宮(とてもじゃないが、歓迎できる状況じゃないのよな!)

アックアと彼らの間に距離が出来てしまった

分断されれば、彼の庇護から離れてしまう

建宮(このままじゃ被害が出るのも時間の問題か)

放たれた爆発術式の中でもう一つの術式が、ガラスのような細やかでありながら触れたものを簡単に裂くような礫が、その爆風によって放たれる

そして純粋に引き裂くことに特化したワイヤーが彼らの逃げ道を潰す

彼女は、理解しているのだ

彼らの数々の対聖人を想定した術式には、仲間の高度なチームワークが必要である事を

故に、彼らの中でその動きを分断するように導かれればその効果は著しくダウンする

彼らとしても、分断を想定に入れていないわけではない。だが、根本的に考えていない領域だ、目の前の聖人=女教皇は

天使でも無い彼女は、所詮人間の限界がある。つまり、ある一定以上の敵を同時に捕捉し、対応し、そして沈めることなど、無理なのだ

そこを突くことを考えているのが、魔術師集団戦を想定していたローマ正教の攻撃部隊でもある

神裂(私は、この者達の動きを知っている?だが、所詮は私達の領域には及ばない)

複数回の撹乱行動を混ぜ込んで、女は次なる攻撃の体勢

神裂(これ以上に敵が増えるのは厄介ですね。例えレベルが劣ろうとも)

神裂「……容赦はシません!!」
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 17:13:28.10 ID:EHkOK/QP
ロンドンでの戦いが激化を見せる他方で、軍港のあるプリマスでは一人の王女が降壇しようとしていた

ヴィリアン「――これからも我が国を守る強力無比な守護者として、ユニオンジャックの下への忠誠を願います」

拍手の中で、彼女は降壇した。近場の軍幹部と会釈を交わす

式典としての形式が終わり、彼女は手を振りながら裏手へ

ここにいるのは、彼女の従者達と軍関係者のみであるはず

一息つこうと部屋に入った時、違和感が彼女を襲った

人気が無さ過ぎる

だが、第二王女のように特別な訓練など積んでいない、第一王女のように卓越した魔術能力を持っていない、彼女はその違和感を確かめるためにその部屋の扉を空けた

フィアンマ「これはこれは、ヴィリアン王女で?」

部屋の中で待機していた従者達が、皆床に伏せていた

どう見ても、寝ているとかそんな生易しいものじゃない

ヴィリアン「貴方、何者ですかっ?!」

大声でたずねる。もちろん狙いの一つにはここに人を呼ぶためだ

だが、人は来ない。その上、彼女の前へ守るように出た人間もフラッと気を失った様に倒れる

魔術の知識もそれを補助するような戦闘理念も叩き込まれていないその非力な王女は、対応が出来ない

ヴィリアン「何を……っ?!」

フィアンマ「王女として、キャンキャン騒ぐのは頂けませんなぁ」

彼が張っているのは人払いの結界を改良させたもので、他の王女ならばその内部に居ても外部へ危機を伝える事が出来たかもしれない

だが彼女はそんな素振りすら見せない

フィアンマ「世間の評価通り本当に無能だな、お前は。もちろん魔術以外にも王女として必要な素質というのはあるんだろうが」

左腕をスッとあげる。同時、倒れている従者の首元僅か1cmと離れていない地面に裂け跡が出来た

固い床でこれなのだ。もしこれが、他人の柔らかい首筋に当れば、血を吹きだすだろう。死だ

どんなに無能と叩かれる彼女でも、コレがなにを意味するかは分かる。脅しだ

ヴィリアン「……貴方、一体何が望みです?お金ですか」

フィアンマ「ほんっとうに、的外れもいいところだ。辟易するほどのな。まあいい、王女様、この俺様と少々付きあって頂けますかな」

彼女には断ることなんて出来なかった
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 17:16:26.56 ID:EHkOK/QP
「君が垣根君だね」

正面に座って、男の挙動を見る。送ってくれた車も、そして少女もその場所から消えていた

「気にしないでいい。日本の連中の仕込んだ盗聴器の類は、全て取り外してあるから」

フフフ、と余裕の笑みを浮かべて、男は安い紙製のカップのコーヒーをすすった

垣根「腹を割って話そうってか?」

頷いた

「お、っと。先に言っておこう。"私"は君の望み通り、ここまで来たからね」

チェーンのコーヒーもレベルが上がったなぁ、などと呟きながら

垣根「ハッ?大ボラもいいところだな。俺の希望通りの人間がホイホイこんなところに来るわけがないだろう」

「こっちには"私"を呼び出せるような条件を満たす交換条件を挙げる事も無いんだからな、なんて考えているなら少し的外れさ」

垣根「……どういうことだ」

「こうやって、会話をする程度なら誰でも"私"を呼び出すことになる、と言ったら理解が早いかな」

垣根「あぁ?冗談のつもりかよ。CIAってのは、そんな中途半端な組織じゃねぇだろ」

「やはり勘違いがあるようだね。もちろん、我々は君が思っている様な横並びの組織ではない。長官から列なる縦並びのヒエラルキーだ」

ほらな、と続けそうな垣根の発言を手の平で防いだ

「だが、それは形式上の話、過去の話だ。コレによってね」

目の前に、軍用のトランキライザー注入器具をそのまま小さくさせたようなモノが置かれる

「私は私でありながら"私"でもあるってことだ。さぁ、何でも聞くがいい」

垣根「ほー。どういう仕組みか、少し分かりかけてきたぜ。それじゃ、最初にスッキリさせてもらおうか」

垣根「こいつを俺の前に出したってことは、ここに持ってきたってことは、そういう条件なんだよな?」

注入器具に手を置いた垣根を見て、男は笑みをこぼした
251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/04(木) 17:19:00.54 ID:EHkOK/QP
分断されたとはいえ、小集団となっても動きは止めない

草の根の様に、戦闘においてはその場全員が司令塔であり固体であり続ける戦い方

それでも、全員が力を合わせるという術式の前提が崩されるのは、それだけ乗数効果がはたき落とされる結果を生む

五和「あがぅっ!!」

悲鳴を挙げた彼女の周りの人間も、同じようにダメージを負った

はたき落としきれない飛礫が体中からの出血をもたらす

五和(回復の素材は、ある。でも流石女教皇。立ち止まる隙なんて与えてはくれません!!)

攻撃と攻撃の間に、本来ならばこちらから打って出る合間に、彼女らはそれが出来ない

崩れた隊形の立て直しと術式の再構築、そして損壊の確認

何より攻撃手が出せない。それは能力的な問題だけでなく、人間関係から来るものである

五和(せめて、向こうの対馬さんたちと合流出来ないと、状況は変わらない)

次なる鋼索が飛来、更に細かく分断する気だろうか

五和(例え女教皇相手でも、これ以上はやらせない!!)

如何に相手が高能力と言えど、これ以上細分化することは至難の業。同時に細分化された小隊が合流しない様にしなければならないのだから

そんな無理な事をしようと言うのだから、その能力の高さは決定的といえるが

五和「あっちへ!!」

叫んだ先は、術式の穴。もしこれを見たのがステイルならば、同じだ、と判断できたかもしれない

五和(対馬さんたちも、ここへ?!)

五和達が飛び込んだ先、この場に駆け付けた天草式の4分の1が集まっていた

誘導されて、集められた?

そのように、その場に集まった人間が気付いた時、ロンドンに4つの爆発が轟いた。全員が一か所に集まっていたならば、何とか守れたかもしれない

だが4分の1では到底防ぎきれない規模だった
252 :本日分投下終了のお知らせ。初心に戻って黙々と。会話が無いSSだと・・・? [saga]:2010/11/04(木) 17:20:47.64 ID:EHkOK/QP
女が、その光景を本当の意味で理解するには時間がかかった

アックアという男がその攻撃の手を殆ど防衛に回し、より一方的になった状況

その原因は、ステイルは下がり、アックアは退却の機会を失った天草式を守ろうとしたため

今は、そのアックアと言う男が巨大なメイスを片手で担ぎながら、しかし万全ではない

その男の後ろで、人々が倒れている

中には、手足の一部が無い者も

冷静な戦況分析として、その様子を注視する

神裂(意識のあると思われる者、10。ただし戦力的には0の乗数。あとは正面のメイスの男だけ……ンッ?!)

独特の髪型をした男、教皇代理・建宮斎字が腹部から血を流しつつゆっくりと立ち上がった

頭からの血で片目は見えていないだろう表情は絶望しているようでもあり同時に憤怒を持ち合わせているようにも見える

アックアを攻撃しつつ貫くことは出来ただろう

だが、彼女はそこから動けなかった。その男の動きから目を離せなかった

動かない利き腕の代わりに逆の腕で剣を握り、震える体で周りの仲間を見渡す

チームワークが命の天草式。最早彼一人では戦力としては不十分もいいところだ

それでも彼は、見えない片目も大きく見開いて、その剣を神裂に向けた

そして、一歩足を前に出して、前のめりに倒れた

思わず、彼女はその体を受け止めようと体を動かそうとした。だが、まるで別系統の意思がその動きを認めない

それでも前に動こうとした先で、アックアがこちらを睨んでいる

一度敗れた為か、純粋にその脅威の為か、彼女は身震いした

―――――彼女はその場から消えるようにして逃げた

253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 17:31:48.42 ID:I94m7fUo
ねーちんが佐天さんに代わって爆散しないことを祈って、乙
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 17:55:41.95 ID:djZLtwDO
他のキャラが死なないように佐天さんを量産したんでしょ?
だから佐天さんは他キャラのために綺麗な花火を咲かせてくれ
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 19:54:28.89 ID:d0aj1GU0
この中に冥土返し様はいらっしゃいませんか!?

うちの嫁の左腕がもげたままなんです!!

>>1に最高の乙を
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 20:16:18.14 ID:N2INQFIo
フィアンマさんが青髪ばりの活躍するといいな……

乙だぜ!
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/04(木) 20:25:19.65 ID:jLmdKcSO
やっぱ教皇代理はカッコいいのよな
258 :アニメでの天草式の皆さんの強さに唖然とした [saga]:2010/11/06(土) 02:24:27.33 ID:gxKuxecP
ロンドン市中は、騒然としていた

戦闘の爪痕が、隠しきれない程度ともなれば当然だろう

隠す、という行為は本当に自然になされなくてはならない。特にイギリスのジャーナリズムは秘密を抜き出すという側面が非常に強くあるのだから

だからこそ、彼らは公開することにした。デマ情報をあえて流し、テロ・ガス爆発・地下のガス管や水道管が破裂したなど

うやむやにして、国民の注目が移り変わるまで待つというのは、良くとられる方法だ

その指示を出したのは、入院中の騎士団長であり、対応は女王から一任されていた。首相のほうからも時期が時期故に穏やかにやり過ごすということで意見が一致した

騎士団長「本来なら陛下の待つ北アイルランドへ向かう予定だったが、運が良かったのか」

服装の上からは見えないが、彼の体は包帯や回復を助ける霊装・術式が到る所に付されている

痛みもある。動きも良くない。それでも一大事として動いていた

女王が言うには戦闘行為になりそうなら下がって部下に戦わせろ、自分は怪我の回復に努めろという忠告を付け加えられていいたが

騎士団長「まぁ、貴様がここまで押されるような相手に、今の私で対抗できようも無いが」

目の前で治療を受ける男へ、先日戦ったばかりの相手へ語りかける

アックア「あの者は、東洋の天草式と言ったか。その聖人はイギリス所属の者だったと記憶しているが、あの者はなんであるか。旧友よ」

騎士団長「ハッキリとした答えは言えない。私も、混乱しているところでな。……貴様が守った、彼らもな」

騎士団長は部屋の壁を見た。隣に続く部屋には重軽傷を負った天草式と聖職者が横たわっている

騎士団長「あの戦いで貴様にやられた彼女を守り、私はフランスを相手に戦っていた。その最中にな」

視線をアックアに戻す

騎士団長「戦況が反転し、彼女を味方に預けた。その後から、我々の知る所で無くなったのだよ。どこへ搬送され、何処で治療を受け、どんな処置を受けたのかもな」

アックア「その味方というのは、イギリスの者ではないのであるか」

騎士団長「戦況をひっくり返す要因となった、我々からしたら『救世主』のようなアメリカの駆動鎧だ」

『救世主』という彼の言い方はとても気の抜けた表現だった。それは、力無く応戦するしかなかった自国の、自らへの侮蔑もあるのかもしれない

そこまで、正面にいるウィリアムが読み取っていたのかは分からない

アックア(宗教主権の争いに、時代遅れの大国が介入してくるとは)

アックア(我々の、特にフィアンマの動きを察知している訳ではあるまい。ということは、あの国もあの国で禁書目録を必要としているのであろうな)

アックア(ままごとのような学芸都市・小石拾いの原石集めとは趣きが全く異なる手段。そしてあの聖人。気になる所ではあるが、今は目の前の事である)
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 02:27:15.67 ID:gxKuxecP
「そうか。結果的には、ただロンドン市街を破壊しただけ破壊して帰ってきただけ、と」

「やはり、まだまだ調整が必要のようだな」

「技術自体は確立されている。それでも、その確立者に見てもらいたかったところではある。少し前に天に召されてしまった為、かなわなくなってしまったが」

「そんなに焦ることは無い。ロンドン市街が多少壊れただけだろう。平時なら世界を駆け巡るニュースだが」

「こんなことが起きてしまったんだ、世界規模では目立たない。イギリス国内ならば大きく取り上げられるだろうけどね」

「こっちの計画に変更もない。この混乱を利用して、畳掛けさせてもらう。君達は禁止目録奪取・殺害このどちらかを達成してくれればいい」

「あと、そうだな、禁止目録について何か報告できる事があったら、その都度連絡を頼む」

垣根帝督と話をした男はそれで電話を終えた

「想定外の事が起きるものだ。それも、仕方が無いか。あの男の魔術は完全な代物では無いのだからな」

「こちらもこちらで、妨害行為を狙う内部反乱者も居る。本当に、思い通りにいかないな」

「おっと、これ以上この人間の時間を借りるわけにはいかない。確かこの後、娘との食事が有るようだし、そろそろ私も消えるとしよう」

呟いて一瞬、男の体から力が抜ける。それも僅かの間

男は思い出したように、娘の待つレストランへと移動を始めた
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 02:29:02.72 ID:gxKuxecP
夕刻。ロンドン市街

警察へ指示を出す騎士団長の下に、彼を更に悩ませるような報告が来る

騎士団長「ヴィリアン様が、誘拐されただとっ?!」

その大声が、周りにいる部下達を驚かせる

そしてざわつくその空間

騎士団長「犯人の目処は立っているのか?!」

電話の向こう側をまるで怒鳴りつけるように声を出すも、その返答はNOだった

騎士団長「……そうか、わかった。何か分かれば、ああ、頼んだぞ」

顔をしかめて電話を下ろす

騎士団長(……厄介な。なぜこのタイミングで。いや、それは愚問か)

フランスと緊迫し北アイルランドでIRA過激派の占拠事件がありロンドンでテロとも噂される事件が有った

この状況下なら、現体制に不満を持つ組織が何かを狙うなら、まさに好機

騎士団長(しかも狙いがあのヴィリアン様とは。こんなことも考えて腕の立つ者を複数名同伴させたのだがな)

騎士団長(聞けば、拉致が有ったと思われる時間から結構時間が経っている。そろそろ犯行声明なり主張なりが有るはずだが)

騎士団長(足取りも狙いも分からない現状では、打つ手が無い)

思い出せる記憶の範囲で、可能性を探る

もし事が起きたとき、今この都市で動けるのは自分ぐらいだろうか

騎士団長(まさか、ウィリアムの言っていた事と関係がある?いや、そんなはずは無いか)

騎士団長(だがもし、フィアンマとやらが強襲を仕掛けてくれば、悪夢だな)
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 02:32:12.85 ID:gxKuxecP
ロンドン行きの電車内

一組の男女が向き合ってコンパートメントに腰掛けている

特に目立つ格好ではないが、お揃いのブレスレットをしたこの男女は、良くあるカップルだろう

もちろん、そんなものではない

女の方は行方不明の王女ヴィリアンであり、一般的で少し派手な服に着替えさせられ、大人しい彼女らしくない派手なメイクを施されている

声質は隠せないだろうが、その見た目ではまさかヴィリアンとは誰も思うまい

お揃いのブレスレットは魔力反応を消し去ってしまう代物

そして彼女の首から下がっているアクセサリーは行動を制限する、程度はそこまで高くない霊装だ。もちろん彼女では仕組みが理解できないだろうが

列車の音で中の会話は漏れることは無かった

ヴィリアン「そのような事が、起こるというのですか、本当に」

フィアンマ「ああ。俺様はそれを回避する為に動いてる。嘘では無い」

最初は黙っていた彼女ではあるが、沈黙と目の前の男の素性が気になって会話をしたのだ

そして得られた情報は、彼女は全く知らないものだった。魔術的な内容は高度すぎて理解には苦しいものが有ったが

彼の行動の目的は理解できた。もちろんその理由も

フィアンマの方もそんなことを述べたのは、彼女が大きな力を動かす事が出来る人間ではないという事、つまり無能と見はなされているからこそだった

フィアンマ「その為にお前の力、というより血が必要だった。だからこうして強制的に協力してもらっている」

ヴィリアン「……悔しいですが、確かに王家の人間であれば、私が一番都合がいいでしょう」

ヴィリアン「しかし、あの子にそんな仕組みが組み込まれていたなんて」

フィアンマ「可哀相なぐらい、何も教えられていないのだな。俺様が言えるのは、お前の思う程、お前の周りの人間は優しくないってことだ」

ヴィリアン「それで、ロンドンについたら私はお払い箱、でしょう?優しくないのなら、殺しますか?」

フィアンマ「教えてやる。優しくない人間ってのは、状況に応じて、自分の利害に応じて犠牲を出すものだ。よかったな、まだ殺すとは決まっていないぞ」
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/06(土) 02:36:21.83 ID:gxKuxecP
最大主教と称される女性、見た目から少女のように見えるが、実年齢は分からない

その女は、自らの個室でさほども大きくない錠前状の霊装を手に持った

アックアが破壊したいと申し出、そしてフィアンマが狙っているそれは、力を込めれば彼女の力でも壊せそうだった

ローラ(これを壊そうとな。やらせるわけが無かろうに。カーテナ以上に、このイギリスで一番価値がある霊装と言えるものなりけるのよ)

部屋に差し込む夕日を見ながら彼女は考えた

ローラ(あの者の言い方では、私が持っている事自体は知っている様子)

ローラ(だが、フィアンマが狙うならば、人知れず置きっぱなしにされている王室派の方が確実)

霊装を懐に収めた

ローラ(何が禁書目録の遠隔操作霊装なのか知る者は限られているが故、あそこが安全な置き場として機能している。フィアンマが来るからと言って、今更それを守る為に情報を広めたりすることは有り得ない)

ローラ(つまり、状況は変えようがないのよ。そこまで知っていて、あの男アックアは述べたのであろうな)

アックアが彼女と話をした理由は、それだけじゃない

ローラ(もちろんのことでしょうけど、ローマの方も理解はしている)

ローラ(ならばなおさら禁書目録を失う訳にはいかない)

ローラ(イギリスを守るにしても、事を起こすにも、確実に禁書目録の知識は必要なのだから)

嫌が応にもその時は来るのだから

一気に紅茶を飲みほした
263 :本日分(ry。やっと次で闘うのかな、フィアンマさん [saga]:2010/11/06(土) 02:38:52.04 ID:gxKuxecP
深夜の学園都市の第一学区

とある少女が引き起こしたことにより、一瞬でそこは、光に包まれた

この爆発が、地下で起きていなければ、学園都市全域が溶け落ちていただろう

ある男が、自分の命を賭してその原因の出力を下げて居なければ、この程度の被害ではすまなかっただろう

ここに二人の男が居なければ、学園都市の半分はクレーターを形成していただろう

そして一人の人間では無くなってしまった男が居なければ、二人の少女の命は消し飛んでいただろう

深夜でありながら、その光景を目にした人間は多く

各国の軍事衛星やそれに類するシステムが学園都市で何が起きたのかを捉え

世界に報道される事となった



御坂美琴は学園都市内で誰もが知る電撃使いであり、その頂点である

ならばその膨大な電磁波の発生に、気付かないはずは無かった

御坂(なに、このバカみたいな電子の流れ)

核兵器を目標地点の上空で爆発させ、そこから発生する莫大な電磁波でその下の地帯にある電子機器類を軒並み使用不能にするのが電磁パルス攻撃である

地面から天へ放出されるようにして発生したこれは、核兵器による電磁パルス攻撃では無い

御坂(でもこんな出力、そういう類の物じゃないとありえないわよ!)

その電磁波が放たれた元は、方角的に第一学区

つまり、自らの後輩とその友人が向かった先だ

なんとなく嫌な予感を感じて、御坂は少女たちが眠る部屋を出る

出る前に振り返って一人一人の寝顔を覗く

皆心地よさそうな寝顔をしている

私が居なくても、大丈夫。何かあっても対応できる

そう判断して、彼女も第一学区へと駆けた

彼女が行ったところで、今更どうしようもないのだが
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 02:59:48.20 ID:lfmgSADO
ある男はつっちーで、二人の男は上条さんと一方さんかな?で、もう一人が浜面か
つっちー…
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 07:25:03.06 ID:qYpBnQSO
おもしろい


だけど誰かわかりやすく産業
266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 07:26:33.54 ID:0V/mGrIo
佐天さん
爆発
しろ
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 08:45:03.08 ID:db3l98I0
佐天さん
爆発
したからこうなった
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 10:49:07.75 ID:5i/sPFwo
みんな
大好き
佐天さん
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 21:30:28.80 ID:AWp7bHMo
このスレでの佐天さんの愛されっぷりは異常
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/06(土) 22:03:32.33 ID:pmzt8IAO
誰が誰だかわからん
271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 02:02:22.97 ID:./cMtnso
というか原作を読んでない俺は雰囲気だけを楽しんでいる
272 :>>270それは俺の技量不足だ。申し訳ない [saga]:2010/11/07(日) 04:28:58.21 ID:LhsHEnAP
学園都市のトレードマークといえる大量の風車。それは発電用であるが、多くの実験及び生産の為に使用される電力がそんなちゃちな物で補えるはずが無い

だが、彼の都市はクリーンな発電の条件を満たしている。もちろん化石燃料による発電などでは効率が非常に悪いのもあるが

そこで用いられるのは高効率の原子力。外部より遥かに進んだ技術を駆使した結果出来あがったのは、核融合炉である

一般には隠された核融合炉が、第一学区の地下に変電装置と言う名目で設置されていた

だがそれは常温核融合などと言う、魔法のような方法では無い

プラズマ制御による億単位の温度と超高圧力を用いた、外部でも研究中の技術である

核融合炉には、一般的な原子力発電と違いって原理的に暴走などは有り得ない

だが、その高出力故に、それを覆う構造には限界が当然ある

高出力のプラズマ状態を恒常的に作り出すその装置には、上限がある

簡単に維持することが出来ると言う事は、それだけ出力に余裕があるという事だ。当然、リミッターがある訳だが、ご自慢の機械制御。コンピュータによる信号だ

つまり、やろうと思えばそのプラズマの状況を暴走させることが出来る

それをすれば、当然発電効率は上がる。つまり核融合の効率が上昇する

そして、規定以上の圧力がかかれば、当然炉全体にかかる負担も上昇する

どうなるか、答えは明白だ。負担に耐えきれなくなった炉は崩壊を始め、規定以上の膨大なエネルギーが放出される

少し時間的には前の事である。とある少女はそれを行ったのだ。自らを皆、吹き飛ばす為に

第一学区はおろか、関東圏全てを吹き飛ばす勢いで


「……ッざけンなよ!!!巻き上がれえェえええェェェ!!!!」

何よりも先に拡がる膨大なニュートリノの動きを把握して、男達は判断した

「沈利ぃ!動くんじゃねぇぞぉおおおおおおお!!!」


二人に共通する考えは一つ

(この程度なら、なんとかなる!してみせる!!)

この二人がそう思う事が出来たのも、立った一人の男が、爆心地でほんの零零コンマ1秒だけ反応を送らせることが出来たから

引き換えに、その男すべてが消える事となってしまったが
273 :>>271ごめんねごめんね。原作の話を微妙に混ぜ込んでごめんね。少し詳しく書こうと意識するよ [saga]:2010/11/07(日) 04:35:40.27 ID:LhsHEnAP
夜のロンドンに一本の列車が到着する

そこから下りてくる多くの乗客の中に、一組の男女

丁寧に手を引いて、列車から降りる彼女を導き下ろす彼の動きはパートナーそのものだった

フィアンマ「さて、行こうか。お姫サマ?」

一転、彼女の表情は暗い

動きを制限され、彼が今から行おうとする事から逃げられない。仮にこの魔術的な拘束が無くとも、彼からは逃げる事が出来ないだろうが

地下鉄の発展したロンドンでは、バッキンガム宮殿と最寄りの駅までの距離はとても近い。直線距離で500mもないその距離が、彼女にとっては短すぎた

役割は簡単、彼女が宮殿から特定の距離にいれば良い。ただそれだけ。本来ならばもっと遠くでも良いのだが

たったそれだけの為に、彼女は彼にさらわれてここまで連れてこられた。単純な理由である

王室派の遠隔制御霊装が、その血筋が居ない状況下で起動できるようになっているはずがあるだろうか

人知れず安置されていると言う事は、反面それだけ危険をはらんでいる。ならば、その事実を知っている者が常に意識していなくてはならない

その者は管理している王室派であって、その者がロンドンからどうしても離れなくてはならない時は使えなくなる仕組みが組まれていて当然だ

それを解除する為の穴、それが彼女だった。どんなに無能であっても、他の二姉妹が死んでしまったら彼女が王位を継承するのだから

ヴィリアン(情けない。何も抵抗できないで、ここまで来てしまうなんて)

自らの無能が、これから巻き起こす問題を左右できない事。自分を慕ってついてきた人たちを全員伸され、容体も確認できないまま、思う通りにのこのこと連れられた事

彼女は本当に情けないと痛感した

宮殿まで100m。このままでは罪の無い衛視まで彼にやられてしまう

最後の抵抗が出来るのはここしかない。行動を制限されているといっても、話をすることは出来る。ならば、その中で自分の舌を噛み切ってしまおう

明確に自殺目的ならまだしも、制限をされていない話をすることの最中なら、出来るかも知れない。それは彼女の賭けだった

ヴィリアン「私を、殺さないんですか」

フィアンマ「これはこれは、とても残念な頭脳なようだな。話を聞いていなかったのか。今ここでお前を殺すわけが」

ヴィリアン「……すみません、私っ!!!」

突きだした舌を噛み切ろうとした、瞬間。意思に反して顎の動きが止まる。そんなことは当然のように制限の一つに含まれていた

フィアンマ「……勇気を振り絞って、最後の抵抗、か。泣かせてくれますな」

フィアンマ「だが、ここにきてそんなことをされては困るんでな。大事を取らせてもらおう」

彼が何かをしようとした、その時だった
274 :初めの一歩おもすれー [saga]:2010/11/07(日) 04:41:49.79 ID:LhsHEnAP
垣根(んなことがあったとは驚かされたが、なんてことはねぇ。ヌルイ奴らだったな)

渡された注入器具を自らに打ち込んで会話を終えた垣根帝督は、その反応を調べる

入っていたのは、大量の微小機械

彼が人間のままであれば、その微小機械によってあちら側のネットワークに組み入れられていただろう

強制力を持ったものだったが、構成自体が人間でなくなった彼にはその強制力が通じない

逆に、その高度な情報共有システムが彼の物になっただけだった

ロサンゼルスの市街を歩きながら、彼はその情報集めに集中する

垣根(さて、この辺だったかな)

思考を止めて、彼は周囲を見回す。この辺が心理定規の少女との待ち合わせ場所だった

だが、彼女の姿は無い

代わりに居たのは、垣根とCIAの人間を引き合わせた際に車を運転していた男だった

「やあ、待っていた」

垣根「俺の待ち人はオッサンなんかじゃなかったんだがな。アイツは?」

「彼女は次の任に着いたよ。あの能力は我々にとっても貴重だからな」

垣根「はぁ?何処に行ったんだよ」

「残念だが、君にそれを尋ねる権利はない。今度はこちらの要求を飲んでもらう番だ」

男は親指で車を指した

垣根(やっぱり来たか。しかもあの車、AIMジャマ―みてぇなモン積んでやがる。面倒臭ぇな。……対能力者技術をそのまま頂くとは、日本の官僚共もやるじゃねえか)

能力妨害電波特有の電磁波とでも言おうか。それを彼は感じとった。その微小な電磁波がその物から来ると判断できたのも、電磁波を感じとったのも、注入された微小機械の知識がなせるものだったが
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/07(日) 04:43:58.23 ID:LhsHEnAP
垣根「おいおい。この状況で俺がお前らの要求をすんなり飲む保証でもあるのか?」

もちろん、乗りたくない。そんな車には

「それは残念だ。だが、忘れて貰っては困るな。こちらには心理定規が居るのだ。その気になればまた君を操るぐらい」

垣根「お前ら、アイツから報告聞いてねぇのかよ。そんなモン、今の俺には効かねぇぞ?」

「出来ないとでも?あの子の能力の説明をよく聞いていないのは君の方だね」

垣根「調整すれば、ってか?んなもん、俺を対象に何度も訓練しなきゃならねえだろうが。なら俺が居なきゃ無理無理。脅すんならもっとマシな事を言えよ」

「彼女は今の状態の君と一度精神を繋げている」

垣根「だからどうした。一度っきりでなにが出来る」

「忘れるな。それだけじゃない。あの子の持つ情報から擬似的に君を作り出すことが出来るんだ。能力云々はともかく、調整には十分のものをね」

垣根「アイツのもつ、俺の情報……だと?」

「あの子の持つ、遺伝子情報のとりわけ多い体液、とでも言えば分かるか。長く一緒に行動し過ぎたようだな」

垣根の顔が、歪む

そういう事までしてくるか。アイツは進んでそんなことまでしたのか

垣根(胸糞悪ぃ。っても俺も散々碌でもねぇ事をしてきた、文句は言えねぇ。……従ってやるか)

豪快な舌打ちをして、彼は能力を制限する車両に乗り込んだ
276 :急ぎ過ぎな希ガス [saga]:2010/11/07(日) 04:47:34.05 ID:LhsHEnAP
フィアンマ「まだこの国に居たのか、アックア。とっくにバチカンに帰還していたと思っていたぞ」

心にもないことを、彼は言った

フィアンマのヴィリアンへの行動を止めたのは、彼が放った魔術である

アックア「当然である。貴様を止めるためにわざわざ先の戦の列に加わったのであるからな」

ウィリアム・オルウェルの登場に、ヴィリアンは声をあげようとした

だが、彼女の言葉は声にならない。更に制限を加えられたようだ

フィアンマ「ほう。なぜ俺の行動を止めようとする。お前も俺の目的を理解しているのだろう?」

アックア「貴様のやり方は手荒すぎる。それだけだ」

フィアンマ「ふはは、各地の戦闘を暴力で解決してきたお前が手荒、とは。笑わせる」

フィアンマ「お前の働きは実に素晴らしいものだった。だが、同時に善と言う名の暴力を布教させたのもお前だな」

フィアンマ「何、恥じることは無いさ。お前のやり方は十字教の歴史そのものだ。十字教における神の右席としては評価できるよう」

アックア「……貴様とそんな話をするためにここへ来たわけではない。ヴィリアン様を放してもらおうか」

フィアンマ「せっかく俺様がお前の存在を肯定してやったんだ、喜べよ」

余裕の表情を一瞬見せ、彼は右腕を払う

瞬間的に現れた第三の腕とも言える巨腕が、アックアを薙いだ

それをアックアは巨大なメイスで防ぐ。だが、その衝撃全てを庇いきれるわけではない

フィアンマ「おいおい、手負いかよ。よくもまあそんなんで俺様の前に出てきたな」

そして昼間の戦闘のダメージで、彼の体は全力を出せない

これまでにあった実力差が、更に開く

アックア「……ッ!」

打ち合いが続く。アックアの劣勢は徐々に悪化。フィアンマの立ち位置は一歩も動いていない。となりに立つヴィリアンも

一際大きな金属音が響き、アックアの握るメイスが大きく後ろへ流れる。そこへ追い打ちのようにフィアンマの腕が払われた

アックア(……貰うかッ?!!!)

避け難い一撃を目前に、彼はダメージを覚悟する

そこへ、大きく金属音が響いた
277 :本日分(ry。"そ"から始まる指示名詞使い過ぎワロタ [saga]:2010/11/07(日) 04:55:29.10 ID:LhsHEnAP
騎士団長「手負いとは言え、いいようにやられ過ぎだ、ウィリアム」

アックアを守る様に現れた騎士団長

しかし彼もまた、全身の傷は癒えていない

言った彼へ向けて、フィアンマは再度姿を現した腕を振るう

それを守る様に、ウィリアムが立ちふさがる

アックア「……戦える身では無いのだろう、友よ」

その傷を作った要因はアックア自身である。騎士団長を守りながら、彼は言った

騎士団長「貴様を援護する、などと言う理由なら来なかったさ。だが、騎士として守らねばらなぬ御方がいるのでな!!」

フィアンマの右腕が消えた瞬間、騎士団長は一気に距離を詰める

そしてそれを援護するようにアックアは水弾を放った。数は多く、一発一発の威力は高い

バッキンガム宮殿の目の前には大きな池を伴った公園がある。その豊富な水量は、彼の術式を助ける働きをする

フィアンマ「やってくれるな」

高威力の水弾を右腕一薙ぎで殆ど打ち返した

彼の"右腕"は出現時間に限りがある。敵に対応して威力を増加させるその腕は非常に強力で、敵が一人ならばそれに対して一方的に攻撃をし続けることが出来る

だが、二人になると話は別だ。時限がある腕では、能力の高い複数の人間を相手するには不向き

しかし彼は慌てない。彼の攻撃手段はそれだけでないのだから

動きもせずに、彼は左手を振るった。それだけで魔術陣が生まれ、地獄の業火とも神の息吹とも言える青白い炎が騎士団長へ向かう

炎は彼の神の右席としての本領。それが一般的な魔術でも、彼が打ち出すのそれは他の炎術を生業とする魔術師のものと比較にならない

「―――――ゼロにする!」

この言葉を放った彼は、その魔術陣を良く見ていた。その魔術自体は、神の右席が誇る天使級の魔術では無いのだ

ならば、自らが編み出した、攻撃性を失なわさせる対抗魔術は機能する

騎士団長を捉えていた炎は、そのまま直撃した。だが、叫んだ騎士団長には何ら意味を与えない

赤くゴツゴツした彼の剣先が、フィアンマを捉えた
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 08:47:11.36 ID:UcVmzkSO
乙ゞ
いいペースだ
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/07(日) 16:27:14.50 ID:OYPP6UDO
マジでつっちー死んでしまったん?
おのれ佐天…
280 :心理描写も会話も超少ない [saga]:2010/11/08(月) 04:05:55.70 ID:mLtQJe6P
真っ二つの人の形をしたものが幻で、そして自分の立ち位置が先程とは少し違う位置に立っていることに、気が付くのに時間はかからなかった

その隣には、先程と変わらずにフィアンマがかなり密着して立っている

ここは、宮殿前の噴水のある広場の中央。ひしゃげた銅像の代わりに彼女達が立っていた

怪我を負った騎士団長がここにきている、と言う事は他の魔術師も騎士たちもここに居るという事を連想するのは難しくない

彼らがそこへ現れた瞬間、広場を囲う様にして伏せていた魔術師や騎士たちが一斉に武器を持って魔術を、援護を受けた斬撃を殴打を刺突を繰り出す

彼女が居ようと居まいと、お構いなしだ

守られるべき対象であるが、その優先度は低い。それに、彼女が死ねばフィアンマは遠隔制御霊装を手に入れるのに難がある

解除は出来ないことではないだろうが、時間と手間がかかることは明白だ

如何にヴィリアンでもそれぐらいの事は分かる。それが悲しくもあり、しかし自分はここで死ぬべきだとも思った

もちろんフィアンマが許す訳もなく、笑みを浮かべながら、銅像の台の上で舞うかのように体を回し、その右腕が実在する時間いっぱいで魔術も騎士も魔術師も全てを薙ぎ払った

ヴィリアン(……あぁ、また)

彼女は身動き一つできないまま、臣下がやられていくのを見るしかなかった
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/08(月) 04:16:11.43 ID:mLtQJe6P
一方でフィアンマはこの状況を楽しんでいるようにも見えた

彼の持つ"右腕"は強力無比ではあるが、完全でない。時限がある。一瞬しか繰り出さず、限られた時間の中でも、更に限った時間しか出さなかったのにはわけがある

一度時間いっぱいまで出してしまうと、再度繰り出すまでのタイムラグがある為だ

腕が膨大な魔力と共に霧散する前に消滅しさせ、使用される魔力は吸収する事で連続的な使い方をなんとか可能にしている

明らかに見ていた人間が分かるように、空間移動の転移先指定の術式を今立っている本来像が有った場所に施して、彼は未だ体勢を立て直さない大多数の魔術師・騎士を無視して少し離れたアックア・騎士団長の方へ跳んだ

一瞬で詰る彼我の距離

応戦する騎士団長とアックア。その隙に、先程やられた魔術師・騎士たちの中の動ける者がヴィリアンの元へ

騎士団長(馬鹿者達が!!この敵の行動を見ていなかったのか?!すぐにでも戻れるんだぞ)

右腕を用いず、しかし天使長クラスの高出力の魔術を繰り出すフィアンマ。それは科学的には爆炎でもあり高出力の電磁放射でもあり空気の膨張でもあり原子の崩壊でもあり

この地がイギリス本島で且つ彼らの護衛対象の宮殿の周りでなければ、騎士団長はその場から受ける援護術式による庇護を無くしては、受け切れなかっただろう

まるでそこを動くなと言う様に拡がる複数の衝撃の拡大を、剣を軸にした結界で防ぐ

騎士団長(この状況下なら、理論上は確かに例え神格クラスでも守れる。しかし、なぜあの右腕を使わない)

先程見せた攻撃では、右腕を使いながら同時に他の術式を繰り出す事が彼には出来たのだ

当然、守りに徹している現下にも追撃の右腕があると踏んでいた

しかし繰り出されるのは規模型・放出型の術式。二人の行動を止めるという面では適切かもしれないが

騎士団長(こうもしている間に、ヴィリアン様を回収されるかもしれないというのに。何を狙っている)

騎士団長(まさか、王女を餌に、か!!)

ならば部下が危険だ。フィアンマからすれば、如何に実力が有ろうと敵は多勢

一人でも生きていれば、霊装を奪取するという目的に茶々を入れられるのは確実。アックアの話では、例の遠隔制御霊装は原典の様に恐ろしい耐久性を持っている訳でもなく、逆に恐らく壊す事を可能に設計されているようだ

壊れることは間違いないと、彼は確信している。なぜなら、仮にそれが敵に奪取されたならば、壊せないという事は悪夢でしかない。そしてその霊装が複数あるのはその様な時の為の予備という側面もあると考えられるのだから

何か横から茶々を入れられれば、簡単に壊れる。ということは、フィアンマの狙いは最初から戦力を着実に削ぐことか

攻撃を耐えながら、騎士団長は移動能力を強化する術式を練る

フィアンマが、消えた。攻撃に途切れが生まれる

騎士団長は確認も無しで広場中央のヴィリアンの元へ跳んだ。ウィリアムも同じ判断をしたのだろう、同時に同じ行動をしていた

ヴィリアンの近くには、彼女を救うべく幾らかの魔術師や騎士たちが群がっている

そこへ、やはりフィアンマが現れた
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/08(月) 04:20:23.19 ID:mLtQJe6P
少女が第一学区近くまで駆け付けた時、一体ここで何が有ったのか皆目見当つかなかった

第一学区と他学区の境目がはっきりと分かる。第一学区に入った途端、崩壊しているのだ。学区ごとの基盤違いがなせる技なのだろうが

下手な人間がテーブルクロスを引っ張った後の食器の散乱のように、ぐずぐずに建造物が壊されている

そして何より気になるのは、微量な放射線反応があること

御坂(放射線?! ホントに核攻撃でもあった、っていうの?)

顔の色が抜ける。心臓の音がよく聞こえる

それでも彼女は駆けるのを止めなかった

バラバラに壊れた第一学区の中央まで半分程度来た所だろうか

ある境目から、今度は文字通り何も無くなっていた

本来なら大通りが大広場に繋がり、行政と都市の威光を体現するメインタワーが夜景を形作っているはずなのだが

そんなものはどこにもなかった。ある境から、綺麗なクレーターとも言えるものが全てを呑みこんでいるのだ

そして先ほどよりもずっと強い放射線の反応が、辺りにある

だが、本当に核関連の何かが有ったのならば、この程度では済まないだろう

どうにかして、放射能のある物質の大半が都合良く空中へ舞い上がるなどが無ければ

御坂(戦術核よりも、ずっと小さい原爆の実験を地下でしたっての? 冗談じゃない。なんでそんな馬鹿な事が第一学区で起きるってのよ!!)

この程度の威力なら、シュミレーションで十分だ。特に科学技術の進んだ学園都市ならなおさらだろう。有り得ない

朝焼けも始まる前では、そのクレーターの中央に何があるのか具体的には見えない

見回しても、後輩たちが何処に居るのかなんて分からない

苛立ちに近い何かを感じながら、彼女はどうするか悩んだ

そこでふと、何故か妹達が寝ていた部屋に居た時と同じ感覚を、僅かに感じた

御坂(ちょっとなんで、なんでここにあの子達の反応まであるの?!)

理由が分からないまま、その発信源を探すように、走る

近かった。近場の瓦礫の影

走った先で横たわっていたのは、二人の少女たちだった。彼女がわざわざここまで探しに来た、後輩たちである
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/08(月) 04:22:07.18 ID:mLtQJe6P
案の定、現れたフィアンマは集まっていた魔術師と騎士たちを魔術で吹き飛ばした

先の右腕の薙ぎ払いを耐えて立ちあがった者たちは、例え猛者であろうとも、その体は確実に大きなダメージを抱えている

そこへの追撃である。命を失った者もあった。耐えきれずに四肢が吹き飛んだ者もあった

当然の結果とはいえ、部下が思う様にやられる所などこれ以上見ていられない

騎士団長とウィリアムは残った者を守る様にして立つ

されど、全員をカバーできるはずが無い

守りきれない者達が弾けていく

騎士団長(これでは、全滅必須か。このままでは、このままではッ!!)

自らも万全ではない。ウィリアムも同じだ

この状況を変えるには、攻めるしかない

そう判断したのは彼だけでなかった。メイスを構えてウィリアムも打って出たのだ

二方向から、被弾など気にせずに男が二人突っ込んでくる

対するフィアンマは、未だ右腕のリロードは完全に済んでない

一応のピンチである

フィアンマ(ようやくか。では、俺様が優しくない所をみせることにしよう)

向かってくる彼らに対して、迎撃する様子も無く

彼らの射程距離にフィアンマが入る

そして彼は、銅像の台上からヴィリアンを蹴落とした
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/08(月) 04:26:24.25 ID:mLtQJe6P

垣根「まるで強制連行だな、おい」

黙殺

車の中は、案の定能力をまともに使わせない仕組みが取られていた

垣根(また無視かよ。今更反抗なんざしないっての)

垣根「無視もいいけどよ、せめて何処へ連れてかれんのかぐらいは教えてほしいんだが?」

救急車大のサイズの車の中、対面に座る男へ尋ねる

「騒ぐな。別に学園都市に返すというわけでもないんだ」

垣根「やっと口を開きやがったか。それで、何処に行くんだ?調製用とはいえ俺のクローン作れるような連中に今更何か必要なのかよ」

「もう直だ。すぐに分かる」

垣根「も・う・じ・き、ねぇ」

垣根(車に乗って全然時間が経ってねぇし、何処に居るかは不明だがこの州を出るわけじゃないってことか)

ガタン、と音がした

垣根(……車が何かに乗り上げたか。僅かだが、横揺れがある。……船か)

そう、そこは貨物船の中だった。船尾部のハッチから車が船内に入ったのだ

垣根(ってことは外も対能力者設備があるかもしれねぇな。ホンットに面倒臭ぇ)

垣根(……待てよ。なんでんなモンが都合よくあるんだ?俺達がアメリカに来るのは、こいつらにとっては完全にイリーガルだった)

能力妨害電波で微妙にボケていた思考を、徐々に手繰り寄せていく。昼間に休んでいたのは彼の頭脳の疲労をとるには良い休憩になった

垣根(アイツが連絡を付けたからと言って、こんな車や船まで急に用意出来る訳が無い)

垣根(こいつらもともと、この国で何かしようとしていやがったか?)
285 :本日分(ry。あれ、今日平日じゃねーか [saga]:2010/11/08(月) 04:31:23.38 ID:mLtQJe6P
台から蹴り落とされたヴィリアンは、一瞬、何が起きたのか分からなかった

地球の重力に逆らう事無く、自らは落ちていく

視界内で、予想外の事に騎士団長とウィリアムが固まっていた

何故だかわからないが、やっと救われる

ウィリアムと騎士団長と視線が同じくらいの高さになった時、彼女は安堵した

直後の事だった

ヴィリアンを抱きとめようとしたウィリアムと体が重なる瞬間である

フィアンマが、ヴィリアンの影から彼女ごとアックアを貫いた

それは、彼から生えた"右腕"だった。だが、それまで彼が振り回していたものよりはずっとリーチは短く、禍々しさも程度が低い。簡単に言えば不完全だ

だがそれでも、肉薄してしまえば彼女たちを貫くには十分だった

フィアンマ(一応、殺すわけにはいかないからな。逆を言えば、生きていればいいんだ)

貫いた右腕の攻撃性能は対象と目的に合わせて調節される

一方的にただかき消すだけと言う上条の右腕とは、少々勝手が異なる

フィアンマ(大丈夫だ、お姫サマ。『瀕死』程度にしているからな)

貫いたヴィリアンとウィリアムに、瀕死程度のダメージが与えられる

たら・ればを言えば、もしウィリアムが万全であれば瞬時に反応出来た可能性は僅かにあったかもしれない

騎士団長の目の前で、ウィリアムとヴィリアンの腹部から"右腕"が霧散し、その傷を塞いでいた物が失われた

月明かりの下で、二人の血が混じり合いながら流れ出す

フィアンマ「それじゃ、先に行かせて貰うな」

騎士団長の目の前で一言呟いたフィアンマは、そのままバッキンガム宮殿の玄関を吹き飛ばし、宮殿の中へ

最初から、最大脅威の二人のどちらかを確実に沈める為の算段だった

だから、わざとここへ戻るぞと言わんばかりに移動魔術の出現先指定の術式を見せつけたのだ

気付いた時には、遅かった

残された騎士団長は、現状を受け入れるしかない

目の前で重なるように倒れる友と姫君。方や、遠隔制御霊装を狙う男

選択の余地などなかった
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 09:11:24.47 ID:qjFrjUSO
あっくアッ────!!
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/08(月) 10:46:34.44 ID:prnTAUDO
これは全部佐天さんが悪いな
288 :このペースは流石にきつい [saga]:2010/11/09(火) 05:11:42.28 ID:a.My5LQP
自らの下で寝ている友人を庇う様に倒れていた少女は、何かが近寄ってくる気配の様な何かを感じて、そちらの方へ顔を向けた

その"気配"自体は昼間にも感じていた。しかし、発生源が自らを囲むように複数あった為に、気にもならなかった

向いた先に立っていたのは、心配そうな視線を送っていたのは、自らが敬愛する先輩だった

白井「……お姉、さま?」

意識が有った。後輩の名前を叫んでその顔の元に近づく

御坂「大丈夫黒子?!何が、何が有ったのよ!」

白井「分かりませ、ん。私はただ、あの人に、言われた通り、あそこから、逃げた、だけ、ですの」

御坂「あの人って……。それより、初春さんは!」

白井「アレの、ちょ、直撃ふぁ、ハッ、受けてはい…ません。ですが、」

アレ、とは恐らく核の何かだろう

白井「なぜか、分かるんですの。この辺りに、ほ、放射能があることが」

白井「そして移動中に、危険域の、の、濃度の中を一瞬、通過しましたから……」

暗くてよくは見えなかったが、初春の皮膚や衣類の一部は溶け混ざっていたりしている

被曝

遮蔽物を経ずに直接α線を食らっていた場合、最悪、α線型内部被曝の可能性がある

そうなればもう、成長後に細胞分裂をしないとされる心臓と脳以外全てが腐る様にして落ちていく。まだ若く成長過程の少女の場合では、脳も駄目かもしれない

多臓器不全から死への一方通行
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/09(火) 05:13:17.63 ID:a.My5LQP
少し時間をかけて理解して、御坂は本格的に血の気が引いた

今でこそ白井も会話が出来ているが、危ないかもしれない。被曝の影響は個人差があるのだから

御坂(そんな、こんな、なんで、なんでよ!?)

冷静さを取り戻そうと、脳内の神経電位を操って精神を立て直そうとする

しかし、改めて現実を理解する度に、精神が暴走を再開する

白井の方からも本格的に言葉が出なくなった。それに気が付いて黒子と大きく叫ぶ

反応は無い。慌ててる場合じゃない。この子たちの命は自分にかかっているのだから

御坂「ああもう!取り乱してる場合じゃないの!しっかりしろ私!私ッ!!」

精神はおかしくなる程に高揚したまま、彼女は辺りを見回した

御坂(とにかくっ、黒子と初春さんを早く病院に運んで、運ばないと!!)

車でもなんでもいい。この際荷車でもいい

だが、どうしてそんな都合のいいものが、こんな瓦礫とクレーターだけの場所にあるだろうか

焦燥が彼女の胸を締め付ける

自分が二人を担いで運んでしまおうか

御坂(何考えてるのよ!二人一度で病院までなんて出来る訳ないじゃない!!それに無理に引っ張ったら、崩壊した筋繊維が裂けて、裂けて、裂けて、裂けて?)

例え最悪の被曝があっても、筋繊維がそこまで崩壊することなど時間的にはまだ有り得ない事なのだが

冷静さを失った彼女は限りなく嫌な想像が止めど無く拡がっていく

彼女の脳内で一体何度、後輩たちの体が縦横に引き裂かれたか、数えきれなかった
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/09(火) 05:18:15.79 ID:a.My5LQP
追いかけてくる者はいなかった

狙いの物を手の平の上で遊ばせながら、彼は立っていた

フィアンマ(こうも計画通りとは、骨が無いな。アックアが先行した割には策が無さ過ぎる)

もちろん、"右腕"のリロードは終わっている

そして彼の手には既に禁書目録の遠隔制御霊装があるのだ

それでも彼は、フゥと大きな息を付いた

同時に赤い閃光が彼の右腕へ向けて伸びる

フィアンマ「ようやく大ボス様のご登場かよ。上司の機先を制するような出来た部下が居るってのは困ったものだ」

直前に警告されては、流石に注意は張っている。当然だ

ローラ「本来ならそれを守る責任は王室派にありけるが、部下をあそこまでやられてはね」

フィアンマ「冗談を言うなよ。最初から張って居やがったのはバレバレだったぞ」

ローラ「ほぉ。ならばおかしいの、フィアンマ殿」

フィアンマ「何がおかしいというのだ、最大主教殿?」

ローラ「私が見て居ると知りながら、良くもそれを手にしようと思い到りましたね」

フィアンマ「ふん。お前の目的ぐらい読めない俺様じゃないさ。お前がここで張ってたのは、俺様にこれを確実に回収させるためだろう」

他に第三者が居れば、フィアンマは何を血迷った事を言っているのかと思っただろう

だが、そんなことを言われて、イギリス清教の頂点は反論の言葉を述べなかった

フィアンマ「当然だよなぁ。お前らに、おっと失礼、お前にはこっちのコレは邪魔なものだからな。その上、お前には封じられていたんだ、こうして第三者に取り去ってもらうしか無いときた」

余裕の表情を浮かべて、男は女の方を見た

フィアンマ「だから、俺様に取らせてそこを確実に叩く。いや、驚くほどシンプルで良い策だと思うぞ」

だがなぁ、と彼女にも聞こえるか聞こえないかの接続語が挟まれた

フィアンマ「大きな穴がある、その策には。どうやって俺様からコレを取り上げるのかって、大問題がな」
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/09(火) 05:28:10.47 ID:a.My5LQP
放射能汚線というものは、ある程度の厚みのあるコンクリート等の遮蔽物があれば防ぐ事が出来る

その面では、彼女はとても運が良かった

放射能のある物質や放射線が地面から噴き上がる最大にして最悪の大波から、自らを包む瓦礫によって身を守ることが出来たのだから

だがそれ以外にも彼女には問題はあった。切断された左腕である

ある特定の場所の物を取り出す、通称アポートと言う彼女の能力

それは白井や結標のように自身を動かせる代物では無い

だが、原理は同じである。対象を他次元座標で把握し、その次元内での座標を動かすことで、人間が把握できる3次元での座標移動に置き換える

理論的には平面に並んだコインを、指で上下に滑らせながら移動させていることと変わらない

空間移動によって一瞬消えいるほんの僅かな間、その能力者が事実上この世から消えるている時間はその移動時間である

ただ、その座標を把握し、なによりも動かすと言う事が難しい。そのために空間移動系の能力者は他の能力に比べて数が少ない

彼女もその珍しい能力者のはしくれである。そしてその彼女にしか出来ない事が有った

日頃、目当ての物を取り出す際に、彼女は手の触覚で物を探り判別しながら取り出す。その行為には当然時間がかかり、その際手先と突っ込んだ腕側の肩との間には消えている腕の部分がある

彼女の未熟故に発達した特徴であり、一瞬の間だけ使う他の空間移動系能力者にはない特徴。それは自分の思うままに他次元に接触し続ける事が出来るということ

そこに懸けたのだ、彼女は

彼女は失った腕先をあるものとして疑似的に他次元に突っ込み、切断された部分まで他次元の海に浸した

人間の腕という三次元的に定義された、本来的にはその次元にとって異質の物質から、能力者の意思に反して溢れる血が他次元において流れ出ることがあるのか

無論、彼女はそんなことを試した事は無かった。結果、彼女は賭けに勝ったのだ。これがもし物を取り出す腕でなかったならば、たとえば足だったりなどしたら失血死確定だっただろうが

もちろん能力使用に集中し続けるという厳しさが有ったが、死がかかっていれば問題にならない

気を失いながらも、必死に彼女はそれを続けた。そして異様な衝撃が伝わり、彼女は目を覚ます

フレンダ(……まだ、生きてる)

フレンダ(まだ生きてる。生きているわよ、私)

左腕を確認する。腕が、あるところを境に高性能なモザイクのような見え方をしている

血以外のものがベッタリと顔についていた。それは能力の長時間使用による脂汗である

フレンダ(気持ち悪いってのに、こんな感覚を感じてられるのが、うれしい)

フレンダ(よっしゃ。この拾った命をこんな所で失わない為に、まずはここからでなきゃね)
 
彼女の運の良さは、それだけでは無かった。目の前の瓦礫の間から、気を失う前までには無かった他学区からの光が差し込んでいたのである
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/09(火) 05:43:35.31 ID:a.My5LQP
食事をとっていた禁書目録の体が、ビクリと跳ねた

同時に意識を失い、スープが入った皿が豪快な音を立てて転がり落ちる

近くに立っていたシスターは、何が起こったのか分からない

禁書「iwgh0bhn自pughg動mjjkbp]@書@l@]記アにガガガググアガッガガガjhpjパ……」

訳のわからない音を出しながら、留まる事無く体が跳ね続ける

押さえつけても、その動きは止まらない。明らかに異様な動きにその場にいたシスターたちは騒然となった


自らに飛来する光線を器用に逸らしながら、フィアンマはその錠前状の霊装を操作する

ローラ「ずいぶん余裕があるようね。だか、それを使えるのはそなただけでは無きたるのよ」

フィアンマの頭脳に流れてくるはずだった、禁書目録の持つ魔道書の知識が送られてこない

宮殿を真っ二つに切り裂かんばかりに突っ込んでくる、十字型をした柱を避けながら彼は女の方を見た

その手には、彼の手の物と似た形の霊装が見える

フィアンマ(同時入力による妨害。当然そう来るのがセオリーだろうな。しかし、禁書目録が壊れてしまってはお互い意味が無いのだがな)

舌打ちをしながら、彼は反撃の術式を組み立てる。目前にローラの次なる術式が迫っていた

フィアンマ(自教徒の敵を倒す。異教徒を払い除ける。自らの教えを押し付ける。対する全てを邪として扱う)

フィアンマ(実に宗教の頂点らしい術式だ。こんな術式は俺様がバチカンの年寄り達から受けることは無いだろうさ。宗派の違いがなせる技だからな)

フィアンマ「……そういや、ウチの教皇様は上手くやってるのかね」

口に出た言葉は、当然女にも伝わる

ローラ「他の事を考える隙など、ッ!?」

本来一つの十字教だったものが別れた末にできた各宗派。そこにはそれぞれ自己に都合のいいような違いが当然ある

自らの宗派はさておき、原初的な十字教典とその違いを元に相手を追及して、自宗派の教えをあらゆる苦痛で押しつける。それが出来るのは、自らが宗派のトップであること

彼女のフィアンマへの術式はそういうものだった。他宗派に所属する彼へ一定の効果が無い訳がないのだが

ローラの術式によって現れたあらゆる形に見える光の塊が、彼の周りで消滅した
293 :本日分(ry。あれ、もう朝6時だぞ。 [saga]:2010/11/09(火) 05:49:24.13 ID:a.My5LQP
フィアンマ「確かに、俺様に与えられた天使属性はローマの神の如き者(ミカエル)だが」

フィアンマ「そもそも天使という存在の概念自体は紀元前からあるんだよ。そんなものに通じると思うか、都合よく作られた教皇の特権なんてものが」

ローラ「貴様、自らを天使とでもいいたりけるか。十字教を捨てただけではないのか」

フィアンマ「捨てた?地上で何があろうとも天はただそこにある、それだけのことにすぎんよ」

ローラ「ならば、天使殿にはそれ相応の対応をするだけよ」

瞬時に攻撃方法を切り替える

同じ神の右席の構成員であったテッラの解体解剖を行ったのは、彼女たちイギリス清教だ。その体が、能力が人間の領域を逸脱しているのは知っている

その実質的な上位と目されたフィアンマなのだから、この程度の事は彼女にとっては織り込み済みとも言えるだろう

彼女を起点としてローマのミカエルをイギリスのルシファーとみなした術式が発動した

宗派間のズレをそのまま拡張し、ローマ正教においても効果を発揮するヨハネの黙示録になぞらえる

ローラ・スチュアートは所詮人間である

ならば人間が天使に勝ったエピソードを用いればいい。それが黙示録20章の7節から始まるサタンと神の民との戦いだ

このイギリス清教が影響を及ぼすブリテン島においては、彼女の術式によって、サタン=堕天使ルシファー=ローマのミカエル=フィアンマという形式で固定される

そしてサタンと神の民、すなわちイギリス清教の教徒との戦いの勝者は、もちろん人間である民だ

神の右席の構成員は確かに体や能力は人間離れしているが、天使その物ではない似せた存在

それを擬似的にでも、敵を天使として扱うのであるから、当然とんでもない術式である。が、考案した彼女が出来ないわけがない

それまで遠距離攻撃主体だったローラの戦闘スタイルが変わる。自らも剣を持ち接近戦の間合いへ

フィアンマの振り回した"右腕"と斬撃が重なった。本来なら派手に彼女は吹き飛ぶところだが、そうはならない

絶大な"右腕"もルシファーの一部として扱えば良いだけの話なのだから

フィアンマ「これはこれは、考えたな」

それでもフィアンマは笑っている

そしてローラも笑っていた
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 09:05:05.62 ID:5ZEwSESO
これからまた爆散ラッシュが始まるのではなかろうな……
295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 09:14:23.26 ID:KDliZPYo
上条さんとアレイスターが残っていればなんとかなる
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 11:36:24.59 ID:/TZHeoDO
上条さんがもたもたしてるからこうなった
なんの為のタイムリープだ
297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 12:59:49.85 ID:rgYAViIo
次タイムリープしたらAIさん三倍か……角とタラコペンキの準備しておこうか
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 14:05:06.65 ID:OSExxnso
どれもこれも佐天さんのせいだ
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 19:34:33.02 ID:gUGqIzEo
初春溶解フラグとか俺得
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/09(火) 22:10:54.92 ID:hAfOUrg0
しかし核反応による爆散とは・・・
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 00:57:42.76 ID:GUJQY/Yo
勝手に好きなだけ爆散してりゃいいのに他人を巻き込むなよ
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 03:06:52.79 ID:AWvspWoo
だんだん爆散の規模が大きくなるのに期待しよう
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/10(水) 04:15:00.21 ID:RDLltFMP
日本国と学園都市の関係の一部として、比類無い経済相互依存があげられる

形式上独立したとは言え、学生を日本中から集めるならば、当然仕送り等を始めとして、外部との経済依存は断ち切れない

それは研究の為に莫大な資金が必要であるという面でも同じである

そこで採られた方法。それが円の発行許可である

日本国円=学園都市円のレートで、世界を飛びまわる円は日本銀行と学園都市行政府貨幣管理発行局によって世に出てゆく

学園都市が未だ発展途上で有った時は、日本の円が学園都市が資金源として発行する円を守り育てた。その時のパワーバランスは日本国政府>学園都市政府だった

世界同時不況の一方で目覚ましい発展を遂げた今では、そのパワーバランスは逆転し、いくらでも外部から資金が流入してくる為に貨幣管理発行局はその設置目標を失いつつあった

こうなってくると美味しいのは日本国である。学園都市のお陰で基軸通貨学園都市円が事実上成立し、同価値のある日本国円はフリーライドでその地位を美味しく頂ける

だが、前述の通り、パワーバランスは一転している。今の学園都市は、日本国に対して見返りを求める事が可能なのだ

その見返りを満たされなければ、基軸通貨学園都市円=日本国円のレートを破棄する。そういう脅しが日本国に通達された

本来ならば、戦略的互恵関係の破棄と大きく世界経済を揺るがす事に繋がるようなこの暴挙を学園都市もするはずが無かった。だが、現在、学園都市行政政府の上層は熾烈な勢力争いをしている

少しでも自陣営を増強し、他陣営を削ぐ。その事が目的で、つまり日本国政府はそれに巻き込まれた形で、ある要求がなされた

その一つが

垣根「アメリカが集めた原石能力者の奪取、ねぇ」

日本国の事実上の諜報局である国家公安局は、本来日米安保同盟の盟友である米国に対して、そんな事をしなくてはならなくなったのだ

無論、その陰には日本国現政権がアメリカでは無く東アジアの大国寄りの外交方針をとっていることも関与している
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/10(水) 04:16:14.15 ID:RDLltFMP
「奪取という言い方は、人聞きが悪い。廃棄予定の物を受領するだけだ」

垣根(原石なんてレアリティの高い能力者を廃棄だと?どういう訳だ?それに、こいつらの話じゃ学園都市に送るってんだろ?)

それが、なんとなくだが、気が進まない

垣根「ふーん。どっちでもいいけどよ。そんなら俺要らないよな」

「本来は、奪取だった。君という存在が居ることで方法を受領に変更させるのさ。君への我々の要求はそれだけだ」

垣根「……つまり、その場に立ち会えってことでいいのか。だがよ、受領ってことは誰かに会うんだろ?悪いがアメリカなんぞに知り合いは」

「君は一度会って居る人物だ。あの子からの報告ではね」

あの子とは、心理定規の少女を指しているのだろう

垣根(俺が会ったことが有って、アイツが知っている人間、か。誰だ?)

垣根「俺を外に放したら、そのままとんずらしちまうかもしれないぜ?」

「原石の子供を連れて、かい?君がそんなことをして、一体どんなメリットがあるというんだ?今更正義感に煽られたか」

垣根「んなもんじゃねーよ」

垣根(チッ。こいつの言い方から察するに、立ち会う直前まであの車の中で待機させるつもりか。面倒臭ぇ)

垣根「……わかった、受けてやる。ただ立ち会うだけなんだ、思ってた条件よりはよっぽどマシだしな」

「その言葉が聞けて良かったよ。こちらも、こんなくだらない事でアメリカとの関係を拗れさせたくなかったからな」

垣根「そいつは、お前らも学園都市で苦労してるんだな。同情してやるよ」
305 :なんだか最近やたら腕がぶっ飛ぶんだぜ? [saga]:2010/11/10(水) 04:22:09.59 ID:RDLltFMP
攻撃の手段を見せないフィアンマは、押されていた

既に宮殿はボロボロになってしまったが、闘っている彼らには関係の無い事だ。外から中が見える様に崩れた所もある

これなら、広場からでも中の様子を窺う事が出来るだろう

フィアンマ「お前、魔術師より騎士の方が向いていると思うぞ」

転がっていた装飾用の剣に即席で術式を施して、彼は最大主教の剣を防いだ。同時に一瞬だけ現した"右腕"で女を払いのけようと狙う

バチン、という音とコンクリートに平手を打ち付けたような衝撃が伝わった

だが、女の体は地面に深く刺さった様に微動だにしない

フィアンマ「……ッ」

追撃の剣が彼へ振り下ろされる。その細腕からは想像もつかないような力強さで剣が振れていた

仕方なく彼は、現した右腕で彼女を突き飛ばす。やはり彼女に効果は無い

だが、本来ならば強大なその威力は、反作用で彼を吹き飛ばすには十分だ

フィアンマが反作用で吹き飛んだ後に、最大主教の剣が空を斬る

本来なら、彼女は接近戦など選ばない。しかし、彼女はそうする理由が有った

一つは、如何に術式下とはいえ、それはこちらをアンチフィアンマ化するだけであって、遠距離攻撃は避けられてしまうということ

二つ目は、彼に気付かせないため

フィアンマ「なッ?!」

驚きと共に彼の左手が、壁めがけて派手に飛んでいった。その手には、遠隔制御霊装が握られている

ドン、ピチャ、と音が鳴り、地面で霊装を握った左手が動きを止めた。フィアンマの手を失った左腕からは、血が出ている

グシャという音と共に、その左手が霊装ごと潰された。潰したのは、最大主教の足

ローラ「油断したか、フィアンマ殿。何かを狙っておるようだったので、先手を打たせてもらいたりけるのよ」

フィアンマの横には、騎士団長が立っていた。その手に握られた赤い剣には、フィアンマの血が付いている

ローラ「術式で神の民として定めていたのは、私単体では無く、イギリス清教徒全員。つまりイギリス国民なりたるよ。フ、騎士団長にもキチンと止めを刺しておくべきだったようだな、フィアンマ殿?」
306 :ここにきて各キャラクターの口調がわかんね [saga]:2010/11/10(水) 04:34:08.37 ID:RDLltFMP
フレンダはようやく瓦礫を押しのけて外に出る事が出来た

フレ(使えるのが片手だけってのは、結局かなりキツかったわ)

生きている右腕で額の汗を拭いながら、彼女は辺りを見回した

遠くの空が少し白やんでいる。しかしまだ明るいという訳ではない

フレ(うわ、何が有った訳?馬鹿みたいに大きいクレーターはあるわそこらじゅう瓦礫とか破片だらけだわで、第一学区の面影なんてなにも無いじゃない)

アイテムの他の連中は大丈夫だろうか、などと考えていると、視界の端で青い稲妻の様な光りが瞬いた

フレ(ん?あれ、は、第三位か。アレまでここに来てたっての?)

スススと気配を悟られない様に近づいてみると、どうやら様子がおかしい

怒っている様な、泣きわめいている様な。動きに合わせて青筋が彼女の周りを走る

フレ(なにコレ、放電しまくってるじゃない。はぁ、こーゆー時は触らぬ神に祟りなしってのが鉄則な訳よ。あ、へたり込んだ)

よく見ると彼女の近くに二人の人影がある。一人は同じ常盤台の制服の様だ

フレ(あぁ、何が起きたのか知らないけど、友達が巻き込まれたわけね。可哀相だけど、このまま見過ごすかな)

振り返って離れようとした、が、足が止まる

フレ(いや、待てよ。ここで恩を売っておけば、いつか役に立つかもしれないわね)

打算である

フレ(結局私も病院に行きたい訳だし、ここは……)

地べたに力無くしゃがみこんでいる御坂は、身近なところから聞こえる足音に気が付いた

フレ「やっほー、第三位さん。何かお困りかなー?」

振り向いた先に居たのは金髪の少女だった
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/10(水) 04:35:46.86 ID:RDLltFMP
御坂「何よ!!一体何の用だっての?!」

表情が混沌としていた。流れる液体が、彼女の乱れようを表している

フレ「ちょ、あらら、随分と取り乱しちゃって。結局第三位っても中学生なのね」

御坂「うっざい!何よ、喧嘩売ってるの?!」

フレ「あーえっと、今の第三位様なら返り討に出来そうだけど、そんなことをしに来たんじゃないわよ。とりあえず、お友達ほっといて良いワケ?」

御坂「いいわけないでしょ?!病院に連れてかなきゃならないに決まってるじゃない!一秒でも早く、早く!」

御坂「でも私には無理なの!無理なのよ!!二人をいっぺんになんて、出来っこない!無理にしたら体が千切れちゃう!あああああああああああぁぁぁぁ………」

フレンダの方を向いていた顔が、下を向く。空間を跳ねまわる電気の筋は増すばかりだ

フレ(うわ、これはマジでおかしくなってるわけよ。ま、その分、私への恩がおっきくなるか)

フレ「要するに、足が必要なんでしょ?用意できない事はないんだけど?」

御坂の喚きが、徐々に弱まっていく

御坂「……出来る、の?ここじゃ携帯も使えないのに?救急車も来てくれないのに?」

フレ(救急車が、来ない?ふーん。ってことは、自らの能力で電波飛ばしたりとかは試したわけね。それでも来ないってのは、なんでだろ)

フレ(まいいや。後で考えよっと。私もこの状況長引かせたくないし)

フレンダ「もち。私もこんなんなわけだからね」

左腕を見せつつ、動かせる右腕で少し大きめの無線機を取り出した

あるところから先の無い左腕を見て、御坂は押し黙る

フレ(若干、滝壺や絹旗が気になるけど、ここは自分を優先させてもらうわけよ。麦野は…まぁ、どうせ自分で何とかしてるでしょ、ねぇ?)
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/10(水) 04:42:55.88 ID:RDLltFMP
本当に最低限の治療しか出来ていない状態で、ウィリアムは騎士団長へ「行け」と言った

必ず奴は何かを狙っているから、最大主教だけでは心許無い、と

そして歯を食いしばりながら、ウィリアムは半身を起し

アックア「……ヴィリアン様は、…任せるのである」

言葉を捻り出した

騎士団長を、半ば睨みつけるように見上げる眼を見て、反論など出来ようも無かった

轟音と共に崩れていく宮殿の中を窺うと最大主教が剣を振り回し、接近戦を挑んでいた

騎士団長(何故だ。あの女が近接戦だと?)

何かある。そう思った彼は辺りを見回した

よく見ると、壊れていない壁の中に日頃の宮殿では見慣れない霊装が、掛けられていた

彼女の立ち周りをよく見ると、そこだけは壊さない様に動いている。つまりそれが狙いなのだろう

その霊装に触れると、最大主教の声が頭に流れ込んできた。その声は急襲のチャンスを待てと言っていた


そう言う形で意思疎通を達成した最大主教と騎士団長の連携が、フィアンマの手の遠隔制御霊装の破壊につながった

ローラ「さて、観念して貰うのよ、フィアンマ殿?」

言葉を放った彼女の前に騎士団長は移動し、剣をフィアンマへ向けて構える

遠隔制御霊装を失い、更に対神の右席用とも言える術式下に置かれ、戦いのエキスパートとイギリス1,2を争う魔術師が相手

確実にフィアンマはピンチなハズだった
309 :いやぁ、佐天さんは本当に悪いお方 [saga]:2010/11/10(水) 04:45:26.44 ID:RDLltFMP
第7学区の病院の一室に、急患を知らせる警報が響いた

妹達の対策を思考する最中に瞼が下がっていた蛙面の医師は、その音で意識を取り戻す

慌てて当直の看護師や医師達と共に急患用の扉を開くと、そこに二人の少女が倒れていた。少し離れた所に、誰か立っている

「先生、滝壺と絹旗を頼んます。核の熱は防いだけど、放射線までは防ぎきれなかったかもしれねぇんだ」

蛙「……君、は?」

声質からして、恐らく男なのだろうが

丁度昇り始めた日光の逆光と、暗所にいたことで明るさに対応しきる前の瞳では、分かるのはその男のシルエットだけ

いや、如何に暗所に居たからといっても、完全に分からないことなどあるだろうか

しかし、蛙頭の医師はシルエットしか把握できなかった

「お願いします!助けてやって下さい」

持っていた測定器を近づけると、少女たちの体から、放射能反応が示された

蛙「これは、不味い。特に小柄な子の方が深刻だ」

医師や看護師達に指示を出し、少女たちが担ぎこまれる

ひとしきり出した指示の後、自らも院内に入る前に男の居た場所を見る

既に男はそこにいなかった
310 :魔術の関係を考えるのが難し過ぎて死ぬ。このフィアンマ何言ってんだ? [saga]:2010/11/10(水) 04:48:44.78 ID:RDLltFMP
フィアンマ「最大主教殿。俺様は一応、ヒントは出しておいたんだぜ?」

騎士団長の、フィアンマの血を吸った剣で薙ぎ飛ばされ、追い打ちとして光線やら衝撃やら何かのの塊やらを確実に食らったハズだった

舞い上がった粉塵の中から、まるで当然のように男は歩き出てくる

先程吹き飛んでいたハズの左手も、きちんとそこに付いていた

ローラ「馬鹿なっ」

フィアンマ「さて、それではもう一度、教えてやろう」

コツ、コツと靴の音を立てながら、一歩ずつイギリスの3大勢力の長二人へ近づく

フィアンマ「天使というものの概念のはしり、とでも言おう。それは4大文明の時代にも見受けられる」

ローラ「それが何だと言う。ミカエルという、明確な形としての概念と種を分けた物を、その身に宿しておきたりながら」

フィアンマ「そう。俺様のミカエルはミカエルとして定義されたものだ」

ローラ「ならばなぜ効かぬ」

フィアンマ「効いていたさ。さっきまではな」

ローラ「では、なんだというのだ!!」

フィアンマ「お前の術式は完璧だった。たった一つの、酷い欠陥を除いてな。俺様はそこを突いただけにすぎんよ」

フィアンマ「さぁ、もう一度"天使"について考えてみろ。簡単な話だ。ミカエルは十字教の歴史が構築したものでしかない」

フィアンマ「だが天はそれ以前からずっと不動に存在した。それを勝手に人間が定義した。その定義が宗教という大きな術式で固定され、世界が4つの属性を持つ物として区別させられたにすぎない」

フィアンマ「例えば、他の宗教、イスラムなどを見てみろ。天の定義は異なる上に、4大属性すら大きく異なっているだろう?」
311 :本日分(ry。やっとフィアンマさんが遠隔制御霊装手に入れてくれた・・・・俺は一体何を描いているんだ_ [saga]:2010/11/10(水) 04:58:10.08 ID:RDLltFMP
フィアンマ「今起きているその属性のズレだって、天を含んだ世界自体は変わって無い。不動だ。変わったのは簡単に言えば十字教内のズレでしかない。だがそれがどうだ?なまじ十字教という術式のスケールが大き過ぎて、地球規模での不安定を生んでいる。余計な概念が生んだ結果だ」

フィアンマ「結局、天使などという天の一部を十字教で固定した定義を鵜呑みにし、それを元にした術式である以上、理解の違う俺様はその定義を変えることで簡単に無効化できるんだよ。まぁ、確かに十字教を捨てたと言えば捨てたことになるのかもしれない。そこは評価してやるよ」

両手を肩ぐらいまであげて、空を眺めるフィアンマ。完全に隙だらけであるのだが、騎士団長は動こうとも思えなかった

ローラ「……そんな子供騙しの理論で効かぬと言うのなら、効く術式を使わせてもらうだけよの」

騎士団長の後ろで、カチカチと霊装を操作する音が聞こえた

ローラ「貴様は忘れたりけるであろう。今、私だけがコレを使えるのだということを!!」

それは、清教派の禁書目録の遠隔制御霊装である

使えば、10万を超える原典に処された魔術の知識が彼女の思いのままだ。フィアンマを倒せる術式も当然ある

フィアンマ「……本当に、馬鹿だな」

気が付けば、最大主教の後ろにフィアンマは立っていた

フィアンマ「俺様の狙いは、最初からそれだったんだぞ?」

直後、最大主教から腕ごと、遠隔制御霊装が切り離された

霊装をローラの手から離し、残った腕を放り投げる

腕を失った肩を抑えつつ、最大主教はその様子を見た

ローラ(この私が、自らの利に目がくらみたるか。迂闊だった。当然ではないか。この者にとっても、複数の遠隔制御霊装が邪魔でしかなきたるのは変わらぬのというに)

ローラ(最初から全て、この男の策の上での出来事だったか)

悔しそうな顔を浮かべる彼女の前で、笑みを浮かべたまま、その男は姿を消した
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 07:59:50.09 ID:GHiPH6SO
HAMADURAはどうなってしまったんだ
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 09:06:37.14 ID:svvgfkSO
僕の黒子ちゃんは助かるんですね?
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 17:56:32.64 ID:GUJQY/Yo
ほんと死ぬのは佐天さんだけにしといてほしい
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 18:12:28.60 ID:.xzkxhoo
佐天さんマジ刈られてくれ
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 20:40:41.61 ID:4S/TDR6o
なにこのフィアンマ濡れる
尻を貸すどころか使って欲しい
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/10(水) 22:35:03.60 ID:fWsvloDO
なぜ麦野がか弱い女の子に見えるのか
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/11(木) 00:26:14.40 ID:kFRsbM20
>>314-315
佐天さんを台所の隅で一匹見つけたら10匹は潜んでいると思え
319 :>>318正解!! [saga]:2010/11/12(金) 04:46:26.16 ID:wcFkMyQP
上条「とにかく、俺から離れないでくれ」

麦野「分かってる。この状況じゃ、離れろと言われても離れないわよ」

この状況。彼らは今、核融合炉の人為的暴走の為にできたクレーターの中を歩いている

そこは、一方通行が処理しきれなかった、直接放射線を浴びて放射能を得てしまった建造物の一部が山積している場所

つまり、このクレーター部分は重度の放射能汚染地帯なのだ

麦野「って、なんでそっち行くのよ?こんなところ、早く出ないと不味いじゃない。言っとくけどアンタの疲労、隠せてないからね」

上条の足が向いているのは、一番近いクレーターの淵から逆の方向だった

上条「肉体疲労・脳内疲労共に限界間近なのは分かっています。ですが、それ以上に限界が迫っている人が居るので」

口調は機械的で女性的だが、声質は男の物

麦野「……?あっそ。でも頼むから、ここを出る前にダウンなんて辞めろよ。私まで死ぬから」

かなり爆発の起点近くに居た彼女が今、こうして殆ど無傷無被曝なのは、上条によるものである

彼は己と彼女の身を守り、更に第一学区外に噴出しそうな放射線を防ぐ為に、全力で能力を行使した

本来ならば、彼の能力的にはそこまで難しい事では無い

だが、本来ならば核となるはずの部分が欠けている今の彼は、その活動に障害が生まれていた

時折言葉使いがおかしいのも、そのためである。蓄積されるバグ

上条「はい、じゃなくて。お、おう。あの、えっとですね、そんなにくっつく必要は無いですよ?半径1m程度に居れば」

麦野「離れるな、って言ったのはアンタでしょ?それに、元気がないからわざわざサービスしてあげてんのよ」

そう言って彼女は上条の右腕側に、よりギュッと接近した

当然、裂るなどして微妙に扇情的になった衣類に包まれた柔らかい肢体の感触が、彼に伝わる

本能の脊髄反射が当然のように発生した。脳へ向かうハズの血流量が、異なる一か所に集まって、下がる。本来なら宜しい事では無いのだが

上条(精神的なものですが、回復が見られますね。まぁ、この胸でこの状況じゃ、本能が優先されても仕方ないというものなのでしょうが。立派に雄ですね)

麦野「あっれー?私は純粋に元気をあげようとしているのに、元気になってるのは一部みたいねー」

上条「こ、これは、脊髄反射で…じゃない、お前分かっててやってるだろ?!」

麦野「アハハ、照れんなーっての」
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/12(金) 04:46:56.10 ID:wcFkMyQP
彼女は笑みを浮かべながら、しばらく彼で遊ぶ

麦野(ハン、馬鹿みたいに高性能なクセして、結局は男か。所詮、高坊のガキに変わりは無いと)

上条「えっと、多分この辺のハズなんだがな。おっ」

地面が動いた。いや、人だ

一方「……なんですかァ?ッ…お前は、俺が必死なこいてる時に、女侍らせてただけかよ。ハァ…ハァ…、毎度毎度イラつかせるのは、…フゥ、狙ってンの、かよ」

地面に体を半分近く埋まった男が、顔をあげた

上条「んなつもりは上条さんにはないですよ。ギリギリまでよく頑張ったな。お前のお陰だ。安全なトコまで連れてってやるから、安心しろ」

一方「ハン……テメェの言う、事は…アテに、ならねェから……ァ」

苦痛な顔の中で、強引に余裕の表情を作って、男の顔は地再び面に突っ伏した

麦野「あ、死んだ」

上条「死んだって、酷いな。ん、コイツ負ぶってくから、放してくれ、麦野」

麦野「はいはい。……うーん。第一位がこのザマなんてね。寝首を掻くなら今かしら」

寝転がっているモヤシを足先で軽く小突く

上条「鬼ですか。…あと1分弱で電池切れ、か。危ないところだったな一方通行」

自らを放射能から守る為に反射、そして何より地上に放射能のある物質が落ちてこない様に、断続的に広域に上昇気流を発生させ続ける

それに集中して、彼は能力を酷使した。電力は当然大きく消費し続ける。自らの行動に必要な要素を最低限を除いて全てカットし、気流を発生させ続ける

自らを反射で守っているのも、自分を守るためでなく、少しでも長く上昇気流を維持し続ける為

既に対流圏まで大多数の放射性物質は昇り、世界中へ薄まりながら拡散を始めているのだが、全く余裕の無い一方通行はそこまで逆算する余裕も無かった

口には出さないが、上条にはその事が分かる

上条「全く、頭が下がりますよ」

と、ぼそっと呟きながら、彼は杖を掴んだまま離さない一方通行を、背負った

流石に麦野も、そんな上条と一方通行を弄ろうとは思わなかった
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/12(金) 04:50:56.37 ID:wcFkMyQP
第一学区の主要部が丸々吹き飛んだ学園都市だったが、運営については日常業務については平常運転が可能だった

重要度の低い情報を除いて、各学区に分散させている情報・都市管理共有システム自体は万全

アメリカ側の息がかかった地下研究・製造施設の襲撃・奪取の為に部隊を派遣し、大事をとって最低限の人員しか第一学区に残さないでいた治安維持機構を始めとした学園都市側に被害は少なく

そしてアメリカ側もアメリカ側で、スキルアウトの動員の試運転の為に大事をとって同じような行動をとっていた

だが、第一学区に残って残業に当っていた人々などに甚大な被害が出たのは確かで、朝8時時点で把握している死傷者は約2000名

その被害者の中には地盤沈下や核融合炉の人為的暴発に巻き込まれたスキルアウトの数も含まれている

そんなことよりも、米学両陣営にとって想定外で最悪なのは、メインブロックが丸ごと吹き飛んだ事

重要度・機密度が高く、対統括理事長も考えて集めた情報の殆どが、彼らの手から消えてしまった

表面上に現れない彼らの焦りの中で、今日もまた無事に登校時間を過ぎた

「佐天。佐天?ふむ、アイツ今日も休みか。ここのところ連続だな。誰か知る者はいるか?」

ある中学校のある教室。返事は返ってこなかった

「おい初春、初春。あ、そう言えば、今日は初春も休みだったな」

名簿の休みの欄にチェックが入る。佐天涙子の名前の欄には"欠席"にチェックが並んでいた

「――――それでは、ホームルーム終わり。おっとすまない、連絡事項が残っていた。席についてくれ。よし。君たちにはあまり影響が無いだろうが、第一学区が集中改装に入ることになったので、これからしばらく生徒は第一学区に侵入禁止だ。はい以上!HR終わり」

「起立、礼!」

担任の教師がそう述べて教室の扉へ体を向けると、部屋はざわつきだした

「ねぇねぇ、やっぱ先生が言ってた第一学区の改装ってさー」「噂になってるよねー。なんか実験が失敗したとか」

「集中改装なんて嘘らしいぜ」「超局所的な地震が有ったとかってさ―」

「近くの学区から入ろうとしても、なんか臨検してるらしいよ?」「そういや朝方に第一学区の方がめっちゃ光ってたけど、お前見た?」

「あれ超朝早くなんだろ?起きてるわけねーじゃん。お前なんで起きてたんだよ」「そりゃ、良いオカズが見つからなくてやきもきしてたんだよ」

「お前の遅刻が多いのはそれかよ。もうじきテストもあるんだぜ?」「だからなるべく空っぽにだな……」

特にレベルの高くない普通の中学校にすら、そんな噂が回っていた。本当の情報が広まるのも時間の問題だろう

もしかすると、その噂も故意に誰かが流しているのかもしれないが
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/12(金) 04:54:20.47 ID:wcFkMyQP
ロサンゼルスも流石に日が落ちてきた

垣根「日本じゃそろそろ朝、いや昼か」

学園都市では高位能力を持つ犯罪者を護送する為に使われる車両の小窓から、暗くなっていく世界を見ていた

さっきまで会話をしていた日本の公安局の男はもういない。運転席を護送部屋を区切った車内では、垣根は実質一人だった

垣根(気が進まねえこの役割が終わったとして、この後どうするかな)

垣根(学園都市になんざ戻る気はさらさら無いが……)

能力を出力するだけでなく自分自身が能力な彼にとって、この車内では思考すらも撹乱させられてしまう

最初は思考もままならなかったが、慣れてしまえば普通の人間程度の活動は問題ない

仮に能力を行使すれば、下手をすると正気を失ってしまいかねないと判断して、彼は割と素直に従っている

垣根(今の様子だと、学園都市が一声かければ、公安の連中は心理定規を簡単に差し出すよな。となると、学園都市が一声掛ければ、心理定規を使って俺をまた学園都市に戻すこともできるってことだ)

垣根(そうなると、今度はもっと酷え刷り込みをされるだろうさ。操り人形に戻るのは勘弁だぞ)

垣根(ってことは、この役割が終わり次第とっとと、こいつらの手が届かないところへ行くべきだな)

どこか都合のいい組織は――と考えていると、車が止まった

運転手らしき男の声が、垣根のいる車載個室に響く

「ここだ、降りろ。お前の相手はもう来ている」

車の後部の両開きのドアが開いた。それに導かれるままに彼は車を降りる

垣根(あとは面識のある誰かにあって、原石の能力者をこの車に詰め込むだけ)

垣根(やろうと思えば、ここで一暴れ出来るがなぁ。メリットが無い上に、公安の連中が罠でも掛けているかもしれない以上、様子見含めて何もしないのがベター)

両手をポケットに入れて、考え事をしながら歩く

そこは所謂コンテナヤードだった。波の音が結構な音量で聞こえるので、海も近いのだろう

電灯が大体80m置きぐらいにあるには有るが、そこまで明るくは無い

向かいの電灯の下に、特に特徴もない乗用車が一台止まっていた

垣根「……アレか」

他に特異な物も無いので、そう判断して、彼は乗用車に近づいた
323 :ゴキブリよりひでえ [saga]:2010/11/12(金) 04:57:31.27 ID:wcFkMyQP
第一学区のクレーター部分

それを囲う様にして簡易な防壁が敷かれた。そこには放射能の意味をあらわすマークがなされている

そして放射能を集めるバクテリアや小機械、分離装置を使って放射能汚染を取り除く作業が進んでいた

本来ならば核戦争や広域で重度の核汚染を想定して作られたものであるそれらは、簡単とは言えないが自然的に半減期や風化を迎えるよりずっと早く汚染を取り除くだろう

作業が始まったばかりのその場所で、とある少女が目を覚ました

目を覚ましたと言っても、砂や塵、小さく砕けた瓦礫の中でだが

「あはは……忘れてた」

言うなれば土の中で、彼女は声を出す

「全部なんて言っておきながら、全部じゃ無かったよぉ」

その体の表面はドロドロに溶け、長く伸びていた黒い髪の半分は抜け、残った半分は急速に白くなり、縮れ、そして新しい気が急速に伸びる

誰が見ても、その少女は死んでいるハズだった

だが、彼女は、目が覚めた

それは決して幸運な事では無い。寧ろ彼女にとっては不幸だろう

なぜなら、目が覚めた理由も、自らの回復によるものではない。回復によるものなら、もっと長く寝ているはずだった

原因。それは彼女の脳内に響く、自らの分身たちの痛みの声

「忘れてたなぁ。そういえばアタシの中の幾らかは、この学園都市内だけでもかなり、兵隊の代わりにいろんな所に配備されてたんだった」

「よかったぁ。目が覚めて。寝てる場合じゃないよぉ」

体をガクガクと震えさせながら、彼女は土の中をもがく

「早く助けてあげないと。ごめんね、忘れちゃってて」

地表の土砂が少し動く

「皆連れて逝ってあげるから、待っててね。……すごいなぁ、神様は。アタシが忘れてたの、ちゃんと見てるんだね。勝手に逝こうとしてごめんね、アタシ達」

学園都市にある前例通りなら、決して自らを集団的に殺そうなどとは思わない、ハズだった

しかし、結果的には彼女という存在の根本的な不確実性がそれを完膚なきまでにぶち壊し、こんな体となってもまだあきらめない。神ですら予想しなかったかもしれない。宇宙のカオスは、エントロピー最少などという形で現わされるそれは、どこまでいっても不確実性を排除することなど出来ないのだから

「もう少し。もう少し待ってて、皆。いまタスケテアゲルカラ」

皆、という言葉には、自分の事も入っているのかもしれない

そしてまた、地表が僅かに動いた
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/12(金) 05:01:11.97 ID:wcFkMyQP
「……はま、づら…?」

全身を特殊な布状の治療器具に覆われ、目も見えない状態だった

恐らく自分は今病院に居るのだ。優しいベッドの感触が、そう判断させるに至る

それは、一瞬の事だった

意識の無い浜面を頑張って背負いながら、その口で自らに起きた事を説明していた時

状況が飲み込めない事、浜面が死ぬかもしれない事、そしてそれをどうにかしようもない程に自分が無力な事

それらの不安から、例え相手が聞いては居なくとも、自分を落ち着かせる為・状況を理解する為・なにより最悪な想像しない為に、彼女は集中して自分が経験したことを背の彼に説明していた

普段はよくしゃべる方では無いと言うのに、どうしても話さなくてはやっていられなかった

そんな時、同僚の声が後ろから聞こえた

振り返ってみた、絹旗が居る。気付いた時一瞬の太陽が、辺りを包むように覆った

その威力からか、彼女は体が浮く感覚を覚え、

そして男の声が聞こえた気がした

蛙「……目が覚めたみたいだね」

男性の声が聞こえた。それは回想の中の声では無い

滝壺「……ん…ゥ」

蛙「無理に身を起こさないでいいよ。話せるかい?」

滝壺「大丈、夫」

蛙「よし。なら今から幾らかの質問をするね。無理せず、ゆっくりと答えてくれていい」

それからしばらく、体調についてのやりとりが続いた

蛙「―――よし。以上だよ。何か質問はあるかい?」

滝壺「……浜面、は?」

蛙「うーん。少なくともこの病院には来ていないね」

滝壺「そう、ですか」

蛙「すまないね。でも大丈夫、彼は多分生きてるよ。そして君も数日で動けるようになる、してみせる。そうしたら、君が彼を探してあげればいいんだ、ね。だから今はしっかりと休むんだ」

それじゃ、何かあったらこのボタンを押してくれ、と言い、簡単なスイッチを握らせて、医者と思われる男は恐らく部屋を出ていった
325 :本日分(ry。やっと本格的に次の日へ。またこの日も長いんだぜ? [saga]:2010/11/12(金) 05:06:27.60 ID:wcFkMyQP
垣根「二日ぶりだな、いや、正確には二日半ってところなのか?」

乗用車から出てきた白衣の男へ、彼は言った

「まさか、本当に君がここに居るとは思っていなかった。驚きだ」

目の前に立っているのは、少し前に彼がスクールの仕事でわざと逃した研究者

垣根「俺もだよ、オッサン。例の事は上手くいってんのか?」

「ああ。君のお陰、と言えるか分からないが、同志の数も揃って来ている」

垣根「そいつはおめっとさん。俺も期待してるぞ。だがなんで今このタイミングで虎の子の原石を捨てるんだ?」

「それは……、いいだろう。引き取り手が君なんだ、話そうじゃないか。この子の能力自体は強力だ。だがね、戦うにはあまりにも幼い。確かに我々には来るべき時の為に絶大な戦力が必要だ。だからと言って不安定な子供を使うのは、道義的にも安定性という面でも良くない」

「だからこの子は抽出量産の方に回されて、その能力自体は100%のコピーとは言えないまでも、人工的なものを量産出来るようになった」

「だが、強力な分、社会にそのまま放すのは危険だと判断されてね。本来ならもう命は無い予定だったんだ。道義的という判断は何処にいったのだと私は苛立ったさ」

「そこにタイミングよく君からの連絡が有った。それに賭けさせて貰った。良かったよ、本当に来たのが君で」

垣根(……あぁ、このオッサンは公安の連中に騙されてんのか。この原石は学園都市に送られます、なんて言え無いな、これは。殺されるより最悪な事になるかもしれねぇ)

ちらり、と乗用車の後部座席に座る子供を見る。10代前半。下手をすればそれ以下か

垣根「やたら信頼されてるみたいだが、良いのかよ?ほんとに俺がこのガキを連れてって。止めるなら今だぞ?」

「こちらも、今更後戻りはできないんだよ。怪しまれる前に私も戻らねばならないし。この子の為にも」

垣根「そーかよ。分かった、引き渡してもらおう」

「ありがとう」

男が後部座席の窓をノックした。無言のまま、男の子が出てくる

「では、頼んだよ。この子を一般生活できるように、導いてやってくれ」

男が痛いほどに真面目な目で訴えてきた

垣根(……ッ)

垣根「……ああ、任された。アンタはアンタでコイツの未来の為にも頑張ってくれ」

男は頷き、エンジンを一気に吹かせて行った

子供は無言のまま垣根を見ている。年齢らしい無邪気さを感じさせないのは、抽出とやらで、一時的か恒久的か影響が出ているのだろうか

垣根(何がコイツの未来の為、だ)

その視線を避けるように、垣根は公安の車に向かって歩いた
326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 07:38:02.35 ID:5yg6iQSO
この佐天さんはシャイニング思い出すわ
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 12:37:04.95 ID:zKkT52DO
つかマジで土御門は死んだんか
ちくしょうなんの為の量産型佐天なんだ!
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/12(金) 17:28:16.29 ID:9TT/Xb.0
それは勿論同時多発爆散テロのため
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 16:23:26.13 ID:xCo8XXAP
フレンダという片手を失った少女が呼んだ車によって、後輩たちは無事に病院へ送ることが出来た

どうやら同じ症状の先客が居たようだ

被曝のレベルが違うらしく、初春はここへ着いてからすぐに集中治療室に送られ

白井は同じくらいの年齢であろう少女と同じ病室で、そこも専門の器具や装置が有って他の病室とは明らかに異なる部屋らしい

時刻は12時を回るころだろうか。御坂自身も、適度な睡眠の後、普通の病室でベットに寝かされ簡易な治療を受けていた

「ほー。どうやら君の体は、時間の経過と共にかなりのペースで体の放射能を収集・排出しているようだ。君の能力が作用しているのかもしれないが」

例の蛙面の医師ではない違う男の医師が、モニターに映った数字をもう一度見直した

「とにかく、問題無い。君の体はもう大丈夫だよ。それでは、他の患者の元へ行かなくてはならないから、何かもしあればその辺の人間に声をかけてくれ、では」

そう言って、男は急いで去った。仕方ないだろう。冥土返しと呼ばれる医者は重度の深い患者から離れることが出来ない

この病院の施設規模だ、もちろん他の医者も居る。そして放射能云々では無い重病患者から軽度の患者まで居る

御坂(私の能力で、そんなことできないのは一番私が分かってる)

自分の腕を見た。そこには注射針が刺さった跡がある

御坂(考えられるのは、昨日あの医者に打ってもらった微小機械ぐらい)

御坂(同じ病院の医者だっていうのに、さっきの先生は知らないみたいだった。そう言えば、コレの情報を外に出すなって言われたっけ……?)

なんにせよ、自分の放射能汚染は問題無くなったようだ。彼女は知らないだろうが、汚染の少ない所しか彼女は移動していないのだから、結果としては当然である

後輩たちの様子を見ようと思って、部屋を出た

さっきの医師が言っていた部屋番号の付近まで来ると、声がした

フレンダ「行っても無駄な訳よ」
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 16:24:20.34 ID:xCo8XXAP
そっちの方向を見ると、右手に何か飲み物の入ったボトルを持っている金髪が居た

逆の腕、本来あるはずの肘以降が無いく、代わりに包帯が巻かれているのが痛々しい

御坂「……無駄って?」

フレンダ「昨日車の中で言った事、覚えてる?気になってた仲間ってのが、そこで寝てるの。で、結局、今は面会謝絶。意識も戻って無いみたいね」

御坂「ってことは、あの第四位の、麦野、だったかな、も被曝を……?」

フレンダ「ううん、麦野は居ないわ。一応、さっき顔を出したけどね、ピンピンしてたわよ。で、結局ここに居るのはウチの絹旗と白井?って子だけなワケ」

御坂「……そう、面会謝絶なんだ」

見るからに、気力が落ちている。さっき意識も戻っていないなんて言ったのが不味かったのか

フレンダ「ハァー、何?昨日はあんなに興奮してたのに、今日はえらく沈んでんのねー。張り合い無いわけよ」

御坂「うん、ごめんなさい」

フレンダ(まぁ、仕方ないわけよ。例の絶対能力者の計画の一端だったとはいえ、残虐行為そのものを、しかも身内のなんか見慣れてるわけが無いんだし。私から見ても、結局、あの初春ってコの見た目は相当エグかったし)

フレンダ「あぁー。いい?あなたが沈んでも、結局、白井とか初春とか?が元気になる訳じゃないんだから。辛気臭いオーラ出してるとますます悪化するってもんよ」

御坂「そうだね。うん、ごめん。……そう言えば、昨日はまともにお礼も言って無かった。ありがとう、フレンダ、さん。あなたが居なかったら今頃どうなってたか……」

そしてまた表情が曇る。昨日に続いて悪い想像でもしたのか

フレンダ「あぁ、もう!暗いのは話し難い訳よ!あと、それを言うなら、自分の運の良さに感謝するべきよ。結局、私があの場に居たのは全くの偶然だった訳だし」

半ばやけになった様に言葉を放たれ、熱くなった目頭を押さえ、御坂は自らを抑え込んだ

御坂「……偶然、か。昨日のことも、偶然の事なのかしら」

フレンダ「これだけ機械制御が進んだ都市で、そんなことがある訳?専門家の第三位さん?」

御坂「なにが原因かは分からないけど、あんな大きな事が出来る装置なんて限られてる。当然それには厳重な安全基準と制限がかかってるハズだから……人為的に誰かがそのロックを取り払ったとしか考えられない」

フレンダ「やっぱりそうなわけよね。んじゃ結局、偶然じゃなくて完全に人災ってわけね」

御坂「でも、一体誰があんな事を望むのよ?って疑問が出てくるのよね、それだと」

フレンダ「分からない事ばっかり。結局、謎ばっかりな訳よ。昨日は一方通行と幻想殺しが一緒に居たと思ったら、さっきは麦野と一緒に居たし」

御坂「……え?」
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 16:28:36.84 ID:xCo8XXAP
どんな能力を持つのかは知らないが、原石の子供が車に乗った

その空間に違和感を覚えたのか、子供が垣根の方を向く。相変わらず表情は無いが

垣根(悪いが、お前がこれから行くのは地獄だ。……運命だと思って諦めてくれよ)

自動的に、扉が閉まった。これで彼はもう逃げられない

垣根(運命、か)

視線を車から外し、ロサンゼルスの夜空を見上げる

あのまま自分が学園都市に居れば、どうなっていたか

最初の計画通りにピンセットを奪っていたら、どうなっていたか

学園都市なんかにそもそも居なければ、どうなっていたか

何処までを運命と定義して良いか分からないが、思い返してみると、結局、自分の思っていた事以外の事態をもたらすのは圧倒的に他者ばっかりだった

自分がここにいるのも、あの時あの部屋にあの黒髪の女が現れたからである

運命とは、そう言う類のものか。では、この車に乗せられた子供の運命とはなんだろうか

運転席の横に行き、窓をノックした。パワーウインドウが下がる

垣根「なぁおい、俺の役目はコレで終わりで良いんだよな?」

「ああ。これでお前の役割は終わった。あとは自由にしてくれ」

垣根「俺の自由、ね」

垣根帝督は振り返って、少し真面目な表情を浮かべた

車のエンジンが音を立てた
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 16:31:57.53 ID:xCo8XXAP
頭が重い

何か重要な事が有った気がする

目の前に男が居る

反射的に心の距離をはかった

「あ、ぐ……ぅ」

声すら満足に出ない。そして距離は全く測れなかった

同時に、頭の重さが痛みに変わる

口が塞がっている?いや、口どころでは無い。体中が動かない。下腹部に至っては、逆に何かが漏れている気がする

目も見えないし、自分の心臓の拍動しか満足に聞こえない

なら、なぜ目の前に男が居ると分かったのだろう

「あ……」

男が、自分からどんどん離れていく。気がする

なぜか、行って欲しくない気がした

男が遠くなればなるほど、何かが無くなっていくような気がして

並行して、痛みは減るが気だるさばかりが増していく

男。そんな人知らない。記憶にない、出てこない

調整

この状況は、随分と昔に経験したことがある

確か、自分が学園都市内に派遣される前だったか

なんとなく気が進まなかったのは、この気だるさを感じたくなかったからだろうか

ああ、これから違う任に就くのだ。前にしていた仕事は、なんだったか

そんな事、思い出す気にもならなかった
333 :最悪だぁ、一行抜けた [saga]:2010/11/13(土) 16:34:50.40 ID:xCo8XXAP
口が塞がっている?いや、口どころでは無い。体中が動かない。下腹部に至っては、逆に何かが漏れている気がする

の下に下の行を追加で

それは、何か温かくて、優しくて、幸せの塊の様なものであった気がする。精神的にも、物質的にも
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 16:37:34.96 ID:xCo8XXAP
生徒・学生の大半が学校に行っている時間に、突如として複数の爆発音が起きた

12時丁度のことである

原因は不明。だが、同時に起きたその爆発音は、恐らく全ての学校の生徒に聞こえただろう

もちろん警備員の役割を担っている教師などが駆り出され、その現場へ向かった

そこへ倒れていたのは、学校にもろくに通わないスキルアウトの人間達

一か所につき、大体5人程度の若者が体の一部を失ったり失わなかったり、血を吹きだしたり無傷だったり

共通しているのは、怪我の有無にかかわらずどの人間も意識が無いこと

黄泉川「ひっどいありさまじゃん。おい、起きろ」

銃を腰に回し、しゃがみこんで、無傷そうなスキルアウトの男の頬を叩く

少しだけ呻き声をあげるも、意識が戻ることは無い

黄泉川「はぁ、こいつも駄目か」

すこし強めに頬を数回引っ叩いたが、意識が戻ることは無かった

鉄装「黄泉川先生、そんなに強くしちゃ」

黄泉川「ガタイのいい奴らなんだ、この程度なら問題ないじゃん。鉄装、爆発の原因を特定できそうなものは?」

鉄装「駄目ですね。身元が分かる子達はみんな無能力者で、武器はおろか爆発を起こす事が出来るような物もありません」

黄泉川「やっぱりか。他の所はなんと報告している?第一学区は吹き飛んだが、情報共有は生きてると聞いてるが」

眼鏡の女性隊員が腰からハンドサイズの端末を取り出した

鉄装「……どこも同じみたいです」

黄泉川「そうか。年の為に聞いておくが、また上に情報を抑えられている、なんて事は?」
335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 16:38:56.12 ID:xCo8XXAP
鉄装「流石にこういう情報まで隠すなんてことは無いと思います。この報告も、私も黄泉川先生も知ってる警備員の方の署名ですし」

黄泉川「どうかな。昨日あれだけ異常報告が挙げられて居たのに、それを揉み潰してあんな結果をもたらすような連中じゃん、信用しろと言う方が無理だろう」

警備員をしている人間は、理由はどうであれ、自らの職能にちょっとした誇りを持っている者も多い。そうでなくては武装してまで、危険な能力者たちと戦ってはいられないだろう

この黄泉川愛穂という女性もその一人だった

それゆえに、自らの上司に当る連中が、情報を隠し、子供を含んだ人的な被害をもたらした事が我慢ならなかった

黄泉川(ただでえ、ここ最近訳のわからない理由と変な命令が出ていたところにこれ、じゃん)

黄泉川(昨日だけでも、目立つ第一学区での事以外に挙がってるだけでも、2学区・17学区・19学区で銃撃の音と弾痕が見つかってる)

黄泉川(一体何が起きている……?)

しゃがんだまま、周りを見渡す

目の前の意識の無い子供は体に目立った傷も無いが、他の子供の中には明らかに命を失った者もある

胸倉を掴んでいた腕に力が加わり、震えだす

強引に深く呼吸をして力を抜き、手を離した

その僅かな衝撃で、目の前のスキルアウトの首に下がっていたヒモが千切れ、三角形状の白い何かがこぼれおちた

落ちたヒモを手に取り、それを持ったまま立ち上がる

黄泉川「鉄装、この、ピックか?何かについて知ってるじゃん?」

鉄装「えーっと、ん?このマークどこかで…。ああ、これ今スキルアウトの子たちの間で人気のあるバンドのマークが入ってますね。確か、名前は……」

黄泉川「ふーん。まぁ、名前なんてどうでもいいじゃん。とにかく、これはコイツのだ」

少しつらそうな顔をして、千切れたヒモを結び直し、目の前の意識の無い子供の首へ戻してやる

傍らに立つ鉄装という女性はその動作を見守るだけだった

黄泉川「ん。……よしそれじゃ、次の現場に行くじゃん。誰か、この子を運んでくれ」

彼女らが目を離したほんの少しの間、ヒモにぶら下がったピックが一瞬光り、その子供が僅かに動いたのだが、誰も気づくことは無かった
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/11/13(土) 16:41:41.40 ID:xCo8XXAP
上条「おっ、やっと目が覚めたな」

白い髪をした男がベッドの上で目を開いた時、横から声がした

その方向へ眼を向ける

一方「……よォ。ここは?」

上条「お前が昨日飛び出した病院だ。……お疲れさん」

一方「あァ、そう言えばお前がここまで引っ張ってきたンだったか」

ムクリ、と上半身を起こした

上条「そこまで覚えてるなら、大丈夫だな。結局、俺は間に合わなかったけど、目標の所までは行けたのか?」

一方「……残念だが、そこまではなァ。随分と手前のラボで情報を抜けるだけ抜くのが精一杯だった」

追加で一方通行が、誰かさンが使えなかったからなァ、と呟き、上条は申し訳なさそうな顔をする

一方「掴むことが出来た情報にヒントが有ればいいが、期待は出来ねェ」

杖の存在を思い出し、一方通行は少し視界を動かした

汚れた杖はちゃんと彼のベッドの左脇の窓際に立てかけてあり、一方通行はホッとした

見まわすことで気が付いたが、個室の入り口の脇に第四位・麦野沈利が立っている

寝起きの低血圧のせいか、今の今まで気づかなかった。腕を伸ばし、上条の首を掴んで顔と顔を近づける

一方「抜いてきたデータは、そこの杖に入っている、が。なンでここに第四位が居るンだ?」

小声で上条に言葉をつたえる。この音量ならば、空気をどうこうする能力者でない麦野には聞こえないだろう
337 :本日分(ry [saga]:2010/11/13(土) 16:45:12.04 ID:xCo8XXAP
上条「仕事終わって暇だからって、ずっとついて来てるんだ。どうやら俺達について探ってるようだけど、暗部の仕事じゃないみたいだけどな」

上条も小声で返した

一方「馬鹿かお前は。あンなのが居たら、せっかく持ってきたデータ見れねェだろォが。お前どうにかしろ」

上条「それが簡単に出来たら苦労しないんですよ。でも、俺 が お 前 の 頭 に 直 接 叩 き こ め ば 音も映像も漏れることは無いと思うぜ?」

そう言って、上条はその杖を手に取り、ベッド上の一方通行には手が届かない距離へ持っていく。そして、顔を一方通行の前に突き出して

麦野をここから出すぐらい、上条に出来ないはずは無い。適当な嘘をつくと言う方法もある。やろうと思えば出来ない訳もない

だが、上条はそう言う事をしようする素振りすら見せない

上条「まさか、俺にそれを見せずに、とか思ってないよな?」

と小声で呟く。それで、一方通行は全てを理解した。上条は一方通行が持ってきた情報を確実に確認する為に、こうして一方通行の横で待機し、麦野をここへ連れてきたのだろう

要は、一方通行がそういう情報を上条に隠そうとした時の保険である

一方「テメェ……」

昨日こそ、この男の人の良さを利用して第一学区へ向かった。だが、彼には特に具体的な目的を伝えたわけでもなければ、結果を伝える気も無かった

いいところで切り捨てる、利用する。三下には悪いがと少し思う程度で行動していたが、流石に読まれたか

言い返せないのを見て、上条は麦野の方を見る

それで、じっと二人のやりとりを見ていた麦野が、表情を変えて部屋を出た

上条「さて、鬼が出るか蛇が出るか、それとも仏か」

一方「……出来れば仏がいいンだがなァ」

杖のプラグを握り、そのままその手で一方通行のチョーカーに優しく触れた
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 16:49:18.58 ID:VUcdhOEo
>口が塞がっている?いや、口どころでは無い。体中が動かない。下腹部に至っては、逆に何かが漏れている気がする
>それは、何か温かくて、優しくて、幸せの塊の様なものであった気がする。精神的にも、物質的にも
ここで思わずえれくちおんしてしまったが、果たして……(ゴクリ


乙乙
339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 16:52:56.49 ID:3qas9cso
>>338
クソッもう書かれてたか
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 17:51:21.91 ID:FIvXCwDO
つかマジで佐天さんやりすぎだよ
341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 18:58:02.48 ID:C8hZpJM0
佐天さん・・・いくら爆散しても決して[ピーーー]ない化け物になってしまったのか・・・
342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 20:35:23.58 ID:32PcuwSO
佐天さんマジ死神
343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/11/13(土) 21:55:27.07 ID:IkW9isso
ぶっちゃけ佐天さん前回以上に迷惑だな
344 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 03:51:51.09 ID:EP6711k0
佐天さんマジ人間兵器!不死身の人間爆弾ってそそられるね

>>1乙!
345 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 19:12:42.99 ID:oj5IHaI0
今回の佐天さんは一学区をほぼ壊滅させ、親友の初春をはじめ
多数の友人やスキルアウトまでも巻き込む始末。もう休め…佐天…

そして魔術的関係とか頑張ってる>>1乙でした
346 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 22:19:34.27 ID:QwDWSAAO
もう佐天さんはそっとしておいてやれよ……


でも爆散させちゃうんだろ?
347 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/14(日) 22:41:49.14 ID:Ay2gQrso
まったく、佐天さんはホント迷惑だな。まさにゴミだ。死ぬべき存在だな






ってわけで俺が何体か引き取りますね
348 :くそ、タイムアップだ。少ないけどとりあえず本日分投下開始 [saga]:2010/11/15(月) 03:39:24.59 ID:E5pfHTkP
学校での授業が、本当にいつも通り始まった

なんだか周りでは昨日あった事が噂になっていて、騒いでいる

だけど、自分はその会話に入る気にならない

結局、兄貴は帰ってこなかった

こんなことは初めてだった

でも、普通に考えれば、なんの問題も無く、自分が学校に行っている間にひょっこり部屋に帰って来ているかもしれない

そのまま何事も無く学校へ行っているかもしれない

学校が終わったら、顔を出してみよう

怖いのは、あの朝の、他に比類のない喪失感を、もう一度感じることになるかもしれないこと

そのせいか、今日は学業が全く手に付かない

やっぱり友達の会話の輪に入れない。なにかが怖くて

この恐怖を払拭する為に、いくら足が嫌がっても、今日も兄貴の部屋にいこう

そして、帰ってくるまで、待っていよう

「おぉ!舞夏ぁー。来てたのかにゃ〜」

と喜んでくれる兄の姿を、見る事が出来るだろうから
349 : すっごい薄めに匂わせることを書いてたけど、垣根と定規は一晩共に過ごしてます [saga]:2010/11/15(月) 03:51:20.57 ID:E5pfHTkP
(……いいのか?)

一人、ロサンゼルスのコンテナヤードで立ちつくす垣根の脳内に、声が響いた

少し前まで彼の近くには二台の車が有ったが、それらは既に行ってしまった

他に何かある訳でも無く、聞こえるのは海の波がブロックに当って砕ける音だけ

垣根「良いも何も無ねーよ。無駄に敵を作れってか?」

少し声を出して、あざ笑うかのように言った

(あの子を助ける事、君の中では彼の運命を変える事か。それが出来るのは君だけだったのだよ?)

垣根「あんなガキの事なんざ知るかよ。むしろ、いいのかって聞きたいのはこっちだぜ?お前のところの部下の裏切行為だろう?」

(構わない。私はああいう、彼らの信念からの行動にまで関与しない。それは彼らの自由だ。もちろん、立場上彼の上司などから報告が有れば彼に何らかの懲罰を下すつもりではある)

(だがそれは、役割としての私だ。"私"としては、そう言う自由までは規制や監視をするつもりは無い)

垣根「そーかい。ま、俺の知った事じゃねぇけど。曲がりなりにも、学園都市で事を起こそうとしてる割には余裕だな」

(もちろん君も知っているだろうが、とある少女によって誰も予想していない事が起きてしまったからな。今更高レベルの能力者が一人二人研究材料になった所で、混乱の中では効果は高が知れている)

(お陰で、あそこを手に入れようとする目的の一つが完全に失われてしまった。あれは、人類規模での損失だよ。それでも、まだまだ価値がある。計画を変えるつもりはない)

垣根「その分だと知ってるだろうが、他にも身内に裏切行為を働こうって奴らもいるみたいだな?」

(もちろん。だが、彼は未だに我々のネットワークに入っていない。流石にそういうものだと読んでいるようだが、仮に入っていても彼の行動を止めたりはしない)

垣根「信念からの行動。それは自由にさせる、か。お前の能力がどんなものか知っちゃいるが、人工知能の分際で、あんまりヒトサマを舐めるんじゃねえ、っておきまりのセリフをプレゼントするぜ?」

(……結局、私もイェスと同じさ。きっかけにすぎない。神では無いのだから。あとは個人の自由意思に任せる。ここはアメリカだからな)

垣根「だからそんな御大層な名前を名乗っているのな。つーか、んな概念のお話はどうでもいいんだ。とにかく、相手は今迫る危機の原因であるあの幻想殺しの、あ、こっちでは相対するものとか呼んだか、の肉親だぜ?息子に負けず随分と有能で、信頼する仲間も多いみたいだな」

(ほぉ。もうすでにそこまで調べ上げたのか。それなりにセキュリティは組んであったのに。これは見直しが必要だ)

垣根「話を逸らすんじゃねぇ」

(ハハハ。彼らは彼らでストッパーになってくれればいいんだ。そう思ってわざと情報を制限している事だしな。……ふむ)

(少し心理グラフが乱れているな。やはり、あの子供が気になるか?それともあの少女かな?)
350 : すっごい薄めに匂わせることを書いてたけど、垣根と定規は一晩共に過ごしてます [saga]:2010/11/15(月) 04:00:18.79 ID:E5pfHTkP
垣根「勝手に人の中を覗こうとしないで欲しいなぜ。プライバシー侵害で訴えるぞ」

(君もまだまだ若いな。そう言う感情を、無理をしてまで排する必要は無いハズだが)

垣根「そんなんじゃ、そんなんじゃねぇよ」

(素直でないな。部下たちには、そう言う感情を自分のモチベーションにしている者が大勢いる。そういう者は、例え無能でも、得てしていい結果を残したりするものだ)

(それが何愛とか、多く定義された概念として辞書に載ってはいるが、そんなことはどうでもいいんだ。精神支柱。自分が今こうしている、生きているという活動力のジェネレーターでいい)

(もう一度言おう。純粋に自分の要求の為だけに生きてきた君だが、そういうものを否定する必要は無いんだ。何も感情的になれと言っている訳じゃない。君の冷静な判断力が今まで君を救ってきたのは事実だろう)

(ただ、君の行動の決定要因にそれを含めればいいんだ。今の君は、自由なのだからな。例えそれが、彼女によって植えつけられた感情だとしても。そんなことはもう、どうでもいいじゃないか)

垣根「……ハ、お前からは、そういう事をわざわざ教えて貰いたくはなかったな」

(はは、若いな。おっと失礼。君の方が私よりは随分と年上だったか。どこの国や組織もそうだが、上に行けばいくほど年配ばかりで、私もそれに染まってしまった。すまない)

(お詫びついでに情報を教えよう。彼らの、日本の公安の"調整"の手法、特に彼女の様な優秀な子供で能力者な存在に採られる方法だがね)

(イレギュラー要素を確実に排する為に、前回の仕事の内容を あ ら ゆ る 方法を使って消し去るそうだ。その上、彼らは君の、濃度の濃い遺伝子情報を入手したようだ)

(いいのかい?彼女を好き放題されて。その上、そういう、少し照れくさいが、あ、愛の証とでも言おうか、を強引に搾取されて。……君と別れる前の彼女は、随分と幸せそうだったな)

正確にはこの物言いには少々誇張があるのだが、垣根には判別する情報源がある訳でも、冷静さも無かった

垣根「あぁ?ふざけんなよ。アイツの事なんぞ、どうでもいいんだよ」

(ほう。では素直じゃない君に、大義名分を与えようじゃないか)

垣根「あぁ?」

(君とこうして会話出来ている時点で、正確に言えば対等に会話できる存在は今のところ君ぐらいだが、形式上君は我々の仲間だ。なんなら、何か肩書きを与えてもいい。CIAだろうが、FBIだろうが、どこぞのマフィアだろうが、海兵隊だろうが、適する物をね)

垣根「何が言いたいんだ、お前は」

(鈍いな。まぁ、こんな心理じゃ仕方ないだろう。要点を言おう。廃棄目的だったとはいえ、あの原石は名義上我が国民だ。それを強引に簒奪し、あまつさえ非人道的な人体実験を試みようとしている)

(そんな事を、我がアメリカ合衆国は許さない、として、君にあの子供の救出の任務を出す)

垣根の視界に、正確には脳内に、次々と情報が流れ込んだ

(これで、君には都合の良い言い訳が出来たんじゃないかな。……いろいろとシャイな君には十分だろ?)
351 :魚肉ソーセージ美味すぎる。佐天さん並みに好きだわー [saga]:2010/11/15(月) 04:13:04.51 ID:E5pfHTkP
一方「複脳計画……被験者佐天涙子……誰だ?こいつは違うか。能力付加装置の製造計画……違うな」

上条「ゴミデータのオンパレードだな。ええと、想定数値を代入して。これは……ただの警備ログかよ」

第7学区の病院の一室で、男二人が集中する為に目を瞑り、呟いている

かなり異様な光景ではあるが、彼らの表情は真剣だ

一方「ここは、最近クローンばっかり作ってたのか。ログで確認できるのはこいつばっかりだな。何の目的でこんな無能力者のクローンを」

上条「あぁもう。こっちも駄目だ。こっから上のセキュリティは全部情報が0じゃねーか」

一方「仕方ねェだろ。コレでも全力だったンだ」

彼らは高速で、膨大な量の情報をザッピングした

それは普通の人間にはめまいを起こしかねないが、流石学園都市の第一位と言ったところだろう

それでも、一方通行は目を開いてフゥ、と息を吐いた

その息に気が付いて、上条も目を開く

一方「あらかたは見たな。……悔しいが、打ち止めや妹達に繋がるものは無いか」

上条「まぁ、ここに何かあるって判断したのはお前の直感見たいな物?だから、仕方ないかな……」

一方「あァ……。遠隔操作が出来そうな装置や送信履歴は見つからなかった上に、その直感の場所にすら間にあわなかったしな」

上条が頭を掻く。少し汗ばんでいた

上条「ああそういや、しばらく風呂入って無いな。一方通行、気晴らしに病院のシャワーでも借りるか?」

一方「だな。汗臭ェわ。特に激しく動いたわけじゃないってのによ」

上条「そりゃ第一位も人間ってことだな。あれだけ激しいことすれば、熱も出る、汗も出る」

一方「その上クソも出るわ飯を食わねばと、面倒だな人間はよォ。……待てよ、人間か」

上条について行こうと、ベッドから降りた一方通行の足が止まった

一方「おい三下、お前さっき警備ログとか見つけてたよな。それを解析すンぞ」

上条「え、シャワーは?上条さんとしては汗を流してすっきりs」

一方「ンなもン後だ。いいだろォ?お前が俺を策に入れるようなやり方したンだ。どこまでも付き合ってもらうぜェ?」
352 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/15(月) 04:17:02.65 ID:E5pfHTkP
警備員が学園都市中ほぼ全域で同時に発生した爆発事件に駆り出され、全域が異様な雰囲気に包まれる中

巨大な魔術陣とでも言えばいいのだろうか

とあるライブ会場に参加したスキルアウトの内、先日の試動の際の地盤崩落から生き残った者で且つ、先程の爆発に使用されなかった残りのおよそ1000名

彼らがピンポイントな場所に立ち、まるで天体の星をなぞって作る星座の様にして、かなり奇特な魔術陣を構成する

天罰の様な表面的な威力はまるでなく、またその術式に気づく者も無く、発動にさえ気付く者は少なかった

「あれ?さっきあそこに人が立ってたように見えたんだけどな」

「何言ってるのよ。ここには誰も居ないわ。さ、続きをしましょ。……ンンッ…」

特に変哲もない大学生のカップルが

「おっと、誰かに当ったか?」

大きな荷物を持った人間が

「おいそこの少年!こんな時間にそんな所でなにしている?!学校はどうし……ってアレ?どこへ逃げたんだ」

たまたま移動中にスキルアウトを見つけた警備員が

その些細な変化を感じることは出来た

本当に最初は、些細なものだった
353 :本日分投下終了のお知らせ。ちょっと魚肉ソーセージ買ってくる [saga]:2010/11/15(月) 04:25:17.05 ID:E5pfHTkP
一方「ホラな、どんぴしゃだ」

上条「どんぴしゃってもな。"ドラゴン"って……どこの中ボスだよ?」

一方通行の言った通り、律義にログを解読し、そこから得られた明らかに異質なタグ。それがドラゴンという単語だった

一方「あンなにあからさまな秘匿機関でドラゴンなンつってンだ。間違い無く何かの伏字かコードネームしかありえねェ」

上条「だけどさ、このドラゴンとやらが関与してるって言いきれるのか?もしかしたら、ここに突入してた部隊の名前かもしれないだろ」

一方「有り得ないなそれは。時間が合わねェ。反応が消えた時間と被るのは、この佐天涙子とかいうアマ以外では、コイツしか居ねェンだ」

その赤い双眸を上条に向ける。確信めいたものを伝える為に

一方「こいつが何か関与していってのはまず間違いねェ」

その発言に、上条は頷いた

上条「確かに、辻褄は合うな。となると問題は、そのドラゴンとかってコードネームをどうやって調べるかだけど」

一方「極秘情報の大体は、第一学区と一緒に吹き飛んじまっただろォからな」

上条「まぁそもそも、そこにドラゴンについての情報があったかもわからないぞ」

一方「ぶっ飛んじまったンだ。今はその確認すら出来ねェよ。……都市のデータはある程度バックアップを置いてるとは思うが」

上条「他の学区にもある程度分散はしているだろうけど、機密性が高い情報だとすれば厳しいだろうな。となると知っている・または情報を握ってる可能性があるのは」

一方「自分の拠点に引き籠ってばっかの統括理事会の理事員の連中はどうだ。奴らなら、知っている奴が一人ぐらい居るかも知れねェ。今の情勢なら、取り入る隙はあるしな」

上条「いいと思う。それでそれ以外にも、俺にはアテが一人だけいる。だがコイツは、実際に会えるかどうか確実性に欠けるんだよなぁ」

一方「それを言うなら、こっちも同じだ。OK、別れて行動といこう。お前はそっちを当っt」

急に、部屋の扉が、音と共に開いた

予想外の入室者に、二人の視線は扉へ

そこに立っていたのは、御坂だった
354 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 05:38:25.58 ID:.KePnoA0
魚肉ソーセージ美味しいよね
>>1乙!
355 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 05:49:09.55 ID:L0KdX6AO

あれは適当に輪切りにしてから油引いたフライパンで炒めて、仕上げに醤油垂らすと最強なんだぜ
356 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 06:39:18.84 ID:wsg1dmMo
佐天さんが魚肉ソーセージ並とか信じられない
いや魚肉ソーセージはおいしいけど
357 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 09:32:38.89 ID:/sP/F.SO
佐天さんもおいしいです^^v
358 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 13:38:41.17 ID:0hxFm9co
どうやら下腹部じんわりは心理定規っぽいな……あ、乙です
359 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/15(月) 19:57:32.79 ID:VIchBUAO
体が未元物質になってしまった垣根の体液は未元物質化してないの?
だとしたらDNA分析不可能な気がするけど…
360 :会話って難しいわ― [saga]:2010/11/16(火) 05:28:28.32 ID:/Tzo3ioP
「……アンタ、昨日第一学区に居た?居たよね、居たんだよね?」

部屋に入ってきた少女の言葉だった

その体は僅かに震え、眼は血走っている

上条「えっとな……」

何か言おうとしたのを確認して、御坂から見て上条の後ろに立っていた一方通行は前に出た

一方「……ハァ。悪い三下、俺は先に行かせて貰うぜェ?」

居心地が悪いのもあるだろうが、単に早く行ってしまいたいというのが本音だろう

御坂の横を通り過ぎた所で「逃げんのね」という声が一方通行の耳に入る

その双眸を少女の方へ一瞬向けるも、杖をつく手を止めず、彼は部屋を出る

上条「あ、一方通行」

一方「……なンだ?」

上条「昨日は、お疲れさん。誰もお前に礼を言う事は無いだろうから、俺が代表して言っとく。ありがとよ」

一方「ハッ、バーカ。あれは俺自身を守る為にやったンだ。礼を言われるようなことをしたンじゃねェよ。……先に行く」

そう言って、振り向きもせずに部屋を出た

閉まったスライドドアからトン、という軽い音が鳴って、部屋は二人だけになる

上条「えっとな、えーと、とりあえず、第一学区に行った。それは間違いない」

御坂「ふーん。あの子達をほっといて?」

上条「……ああ。だけど御坂、それはお前だけ居れば十分だと思ったからであってですね」

御坂「へぇー。それはなんで?どうやって判断したの?」

上条「それは、その、なんとなく、かな」

御坂「嘘。ねぇ、なんで私に隠すの?」

上条「隠すってなn」

御坂(これでも白を切るの?)

上条の脳内に、言葉が響いた。まるで、上条の中の二人が彼に話しかけるかのように

上条「あ…ぇ……?」
361 :>>359オイオイ スルドイナー オイオイオイオイ [saga]:2010/11/16(火) 05:29:39.13 ID:/Tzo3ioP
微小機械の共振。もともと上条の中にあったものの複製たちなのだ。別の対象が近くに入れば、その指令を聞こうと反応する

彼女はその反応に気づき、体内の微小機械から上条の微小機械へ強引に電気信号を飛ばすことで、音を介さない声を伝えた

御坂(これぐらいの距離なら、能力を使えば、)「こんなこともできるの」

御坂「アンタはどういう手段で手に入れたのか分かんないけど、私とおんなじものが、アンタの中にもある」

御坂「隠してたよね。でもこれだけじゃない。あの麦野って名前の第四位のこともそう」

御坂「どういう訳か知らないけど、アンタはあの人を守った。この部屋の前で聞き耳立ててた本人に聞いた、言い訳は聞かないわ。でも、守った事、それは良いの。アンタらしいし」

御坂「でも、アンタらしくない事がある。アンタの右手は超能力を打ち消すもので、現実の物理現象には対応していない。そうよね」

頷くしかない上条

御坂「じゃあどうやって、核反応の、放射線やら熱量やらを、それ以外にもいろんな反応を加味した物理現象から、どうやってあの女を守ったの?」

御坂「ねぇ、隠してるよね。今も右手はずっとポケットに突っこんだまま。それ、満足に動くの?ねぇ、ねぇ、ねぇ」

御坂「その上、極めつけはコレよ」

御坂が上条の側に、それこそすぐにキスでも出来そうな距離に近寄り、喉に手を伸ばす。まるで片手で首を閉めるかのように、憎しみに近い感情を込めた眼で

御坂「……何か言ってみなさい」

急に何かと言われ、上条はその何かを、何を言おうかを考える

御坂「さぁ、電子の流れについては学園都市最上級の私に対して言い訳してみなさいよ」

なんのことか、分からない。思考を深める上条

御坂「アンタ今、頭の何処で物事を考えた?アハハ。ホラ、動揺してる。私には手に取るように分かるの」

御坂「昔のアンタはこんな事無かったのよ。例え私が神経電位とか何かを調べようとしても、その右手の効果のせいか打ち消されて分からなかった」

御坂「でもね、今アンタの中には確実に異質な電子の流れが存在してる。それはもちろん、微小機械のものもあるわ」

御坂「だけど、私の中のコレとアンタの中のコレとは、全く違う指令系統があるの。脳の中に中枢が、二つも。すごい勢いで駆け巡ってる。まるで何かの中枢回路みたいに」

御坂「こんなの、普通の人間じゃない。電撃使いの頂点の私よりもずっと高レベルで制御が効いてる。ありえない。ありえないの」

御坂「……ねえ、アンタ」

御坂「アンタ何者なの?本当に私の知ってる上条当麻なの?ホントに上条当麻なら、その頭の集積回路を使わずに、アンタの考えと声で、反論してみなさい」

上条は、しかし、答えない。答えられないのだ

痛い沈黙が流れる
362 :なぜこうもこの時間のおっぱいは魅力的なのか [saga]:2010/11/16(火) 05:30:31.44 ID:/Tzo3ioP
上条「み、御坂……」

その超至近距離で、上条はその右手を、本当に手先が満足に動かせないその腕先を無視して、御坂の肩に置こうとした

その手を、払った、御坂は。何か憎んでいるかのような視線を上条に向けながら

御坂「答えられないのね。私には応えてくれないのね。まだまだ、アンタには問い詰めたい事がいっぱいあるのに。アンタは……、アンタは!!!!」

言葉が溢れた。その表情を現す言葉は、錯乱

御坂「何をしてるの?何を知ってるの?何で黙って行ったの?なんで黒子達があんなになっちゃったの?なんで第四位を助けてあの子達を助けてくれなかったの?」

御坂「何が、何が起きたの?あの子達に、第一学区で!!一体アンタは何をしてたのよ?!ねぇ、答えてみなさいよ!!!!」

上条にとってそれは、答えようがない事だった。なぜなら上条は白井が第一学区に来ていた事に気づきようがなかったのだから

当然それは、御坂にとってもよく考えれば分かる事だったハズだ。麦野の発言と白井が見つかった場所では、まるで距離が離れていたのだから

そんなことを上条に求めても仕方が無い。なかったことだ。それ位、理解できない御坂では無い

だが、中学生という彼女の未熟な精神では、昨日からの続きでは、こうなってしまう

そこまで彼が察することが出来たかは分からないが、上条は、外見上の上条当麻は、彼女へ向ける言葉を見つけれず。また行動もできなかった

そして、彼が取った行動は

上条「すまん、御坂」

上条は部屋の出口へと歩みを進めた。涙をこぼし始めた彼女を残して

そして、ドアの前で立ち止まる

上条「今の俺には、今のお前を納得させる事が出来る答えは多分、言えないと思う。ただ、これだけは約束する。……俺の、いや、」

上条「私達の上条当麻が目覚めたら、貴女にちゃんと説明させますから」

その声は、本当に女性のものに聞こえた。男の声だったのに。少なくとも、御坂には、そう聞こえた

左手でドアをスライドさせ、部屋を出た。その時ほんの少しだけ、上条は右手が動いた様に感じた
363 :乳首や性器は見えない方がそそられるが、毛は少し見える程度の方が…… [saga]:2010/11/16(火) 05:34:34.91 ID:/Tzo3ioP
垣根帝督は足だけを能力解放して、その場へ向かった

既に心理定規の用意した靴は原型を留めていない

彼が一歩跳躍するごとに、地面に大きく亀裂が入り、少し大きな音が鳴る

それでも、車通りの多いところまで来てしまえばその音は紛れた

海沿いの道を地面に鉄杭を打ち込むような音と共に跳ねる彼の姿は、少々派手だった

そんなことを全く気にせずに、彼は進んだ

垣根(どうせ隠蔽されるか下らない都市伝説になるか、どっちにしても俺には関係ない。とっとと行く)

視界上に半透明で表示される情報ではもう目と鼻の先だった

垣根(見えた。あの船か)

貨物船が一隻、港に有った。目立つ点は無い

丁度全てを積みこんだのか、その船は海原を進みだした

垣根(逃がすかよ……ッ!)

彼の体が派手さを増した。今度は大きく白い二本の翼が、若干の光を反射させながら空気を叩く。やはり身に着けていた衣類が破けた

最早気にしない。せっかく彼女が見繕ってくれたものだが、彼女を取り戻してからもう一度用意してもらえばいいのだから

そして彼は派手に、まるで魚雷の如く、その船体に突き刺さった
364 :イイ!!(・∀・) [saga]:2010/11/16(火) 05:41:33.18 ID:/Tzo3ioP
「可哀相に、置いて行っちゃうのね」

一方通行が寝ていた、今は御坂のみが残る病室から出て少し廊下を歩いた所で、呼びとめるような声が上条の耳に入る

その声には、可哀相という感情が本当に入っているのか

廊下の談話スペースとでも言えるところだろうか、声の主はそこの壁に背を預けて立っていた

上条「麦野。……俺と一方通行との会話、盗み聞きしてたんだって?」

麦野「面白そうな内容が聞けそうだったからね。まぁでも、あのガキが部屋に来てからは聞いてないわ。本当よ」

悪びれる感じも、隠す感じも無く、彼女は喋った

上条「そうですか。まぁいいや。それじゃ俺は行く」

麦野「言ってた"当て"、とやらに?私も付いていこうかしらね。興味あるわ」

上条「アイテムの仕事が入るかもしれねーんじゃないのか?」

麦野「馬鹿ね。私以外が全員重傷で、チーム行動が出来るわけないでしょ?そりゃ、私単独にってことがあるかもしれないけど、内容によっちゃ無視するかもね」

上条「そうか。そうだな。上条さんとした事が、抜けてましたよ」

麦野「動揺してるわね。そんなので大丈夫? お 姉 さ ん が付いて行ってあげるわよ?……イエスって言えコラ」

上条「残念だけど、NOだ。相手が根本的に信頼できるような奴じゃないからさ」

麦野「アンタが嫌って言っても、ついていくこともできるのよ?」

上条「そりゃ怖いな。でも駄目だ。お前を待つつもりも無いし」

麦野「……私が足手纏いって言ってんのか?」
365 :エロス←そろそろ顔文字に見えてきた。すごいどうでもいい [saga]:2010/11/16(火) 05:44:02.03 ID:/Tzo3ioP
上条「ああ、そうですよ。俺が一人で行く。多分、向こうもそうしないと会ってはくれないだろうからな」

上条の語気は強かった

麦野「チ、つまんないの。あーはいはい。大人しくここで待機しとくわ」

上条「そうしてくれ。………あ、いや、待てよ?麦野、お前のアイテムは年下の女の子ばっかりなんだよな?」

麦野「ま、そうだけど。それが?」

上条「なら、御坂の側に居てやってくれないか?年下の相手は得意だろ?」

御坂と麦野の間で何が有ったのか知らない上条の提案

麦野「はぁ?なんで私があんなのの相手なんかしなきゃならないのよ」

当然、彼女は拒否を示す

上条「頼む。アイツにとってお前が必要な事が起きるかもしれないからさ」

麦野「必要な事?冗談。見返りも無しでなんて、最悪よ。例え見返りg」

言いかけたところで、上条の口が動いた。同時に半身を病院の出口方向へ向ける

上条「じゃあさ、見返りが有ればいいんだな。わかった。俺が帰ったら、出来る限りお前の条件飲むから。頼んだぜ」

上条が廊下を進みだした。軽い駆け足で

麦野「え、あ、は?ちょ、待てコラ。待てってば、おい!」

もちろん声は届いていただろうが、上条はその声を無視した
366 :本日分投下終了のお知らせ。でも男の鍛えた後背筋ってこう……何かクルものがあるよな?うん。どうでもいいね。無視してくだしあ [saga]:2010/11/16(火) 05:50:14.29 ID:/Tzo3ioP
『おかけになった電話番号は』

チッっという舌打ちと共に、奪った携帯端末をポケットに押し込む

一方(土御門のヤツ、肝心な時に出やしねェ)

歩きながら、一方通行は考える

一方(アイツなら、理事員共を区別できるような情報を持っていたかもしれねェってのに)

一方(さて、どうするか。片っ端から、強引に尋ねるって方法もあるが)

一方(理事員か。俺が処理した奴は確か外部の人間と会ってたよな)

一方(そういや、アイツは何者だ?今の上層は大きく分ければ2つの派閥。外部びいきと保守派の二つ)

一方(当然、俺が殺したのは外部に媚売ってる連中だったンだろうが)

一方(情報不足、だな。またかよ)

一方(いや、待てよ。二大派閥の抗争っても、流石に妄信的な馬鹿は居ねェだろ。現実的な理由で派閥を組ンでるのは、単体では弱い奴ってのが定石だ)

一方(大きな勢力を持つ理事員が両サイドに居て、それに劣る小粒な奴らが派閥を組ンでる)

一方(という事は、両サイドのボス格は力が大きい分、重要な情報を持っている可能性が高いって事だ)

一方(加えて、もし仮にまだどっちつかずなンて中途半端な奴が居たら、そいつも怪しい。強大な力を持ってねェ限りは、半端は出来ねェからな)

一方通行は、立ち止まった

一方(なら、とにかく適当な組織の幹部と お 話 し すりゃいい。そうすりゃ、いろいろ見えてくるハズ)

第7学区の街を、彼は見渡した。何か都合のよい物は無いかと

一方(問題はどこの誰にするかだ、が。……ンン?なンだか今日はやけに警備員の連中が出張ってンなァ。何かあったのかァ?)
367 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 09:07:16.29 ID:4ut3GoSO
ヤンデレールガンこえぇ
368 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 11:52:19.34 ID:6JHfowDO
ヤンデレの意味調べてこい
369 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 11:56:16.67 ID:2pORBJQo
ヤンデレの意味調べてこい
370 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 12:35:03.58 ID:eaINj2AO
いつの間にか、ていとくんにもAI(?)が……
371 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 13:00:17.77 ID:3sxx6IIo
ていとくんのAIさん、物腰柔らかなナイスミドルで変換される
372 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 15:41:40.00 ID:ArxXRQso
無意味に名前欄になんか書き込むのやめてほしいかもなんだよ
373 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 20:10:40.84 ID:jdUiAJQo
佐天「この世の中に無意味なことなんかないんですよ黙ってるでゲソ」
374 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/16(火) 20:39:38.84 ID:3sxx6IIo
急に髪の毛黒く染めたと思ったら……なにやってんですか、インデックスさん
375 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 05:37:39.91 ID:Oiq9MvIP
船体全体に、とてつもない振動が拡がった

「何だ、何事だ!?」「船央部に警告、魚雷でしょうか!?」

「知るか!ミサイルだろうが魚雷だろうが変わらん!被害規模は?!航行に支障はあるか?!」

「……、よし!今のところ、機関異常無し、運航続行可能です!」

「よぉし。当りどころが良かった?いや、現代の兵器でそれは有り得ない。魚雷やミサイルの類ではなかったのか?だったらなんだ?」

ブリッチは衝撃以上に揺れていた

アメリカの領海内で魚雷やミサイルなどが当たることなど、万に一つも予期していなかったからだ

そして、この船には日本には本来あってはいけない発電機が設置され、船体全域にわたる高レベルの電力消費をまかなっている

それに傷がいけば、どうなるか

艦内無線で今の揺れについての原因が報告される

何かが船左舷を突き破ったという

問題は、その突き破った物が、つまりミサイルや魚雷が一部分たりとも見つからなかったこと

その無線を聞いて、個室の中で一人の男が立ちあがった

「……まさか。いや、だとしても、なぜ彼が」

その男は、垣根が心理定規の少女との待ち合わせ場所で、彼女の代わりに居た男だ

「狙いは原石か?心理定規か?クソッ」

呟きながら、男は個室を飛び出した。もし彼ならば心許無い武器だが、最低限の装備としての銃を腰のホルダーに差し込んで
376 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 05:43:36.17 ID:Oiq9MvIP
垣根の視界内で、男が損害報告の無線を負え、立っていた

その背後に忍び寄り、首筋へ強烈な打撃を与えて、倒れ込んだ男の体を探る

垣根(流石に、船内のマップは無いか。仕方ねぇ、非効率だが足でアイツ等探すとしよう。しかし……)

試しにほんの少しだけ能力を解放しようとした。人差し指から、未元物質の羽を一本現出させる程度に

そのフォルムは、思っていた羽の形では無く、またそこに繋がった指も、同時に指の形を失った

垣根(駄目だな、全く安定しねぇ。こんなサイズでもはっきりとした形を現せねぇとはな。面倒臭ぇ)

垣根(予想はしてたが、ここまでとは。こりゃ、船全体にAIMジャマ―張られてんじゃないのか)

まるでスーパーマンの様に片腕を突きだして能力を展開し、船舷を突き破って入った瞬間、彼の体は最低限のフォルム、つまり普通の垣根帝督の体に戻った

それは最低限の未元物質である

残っていた慣性で内部の壁を突き破ったのだが、やはりと言うべきか彼の体は全くの無傷だった

体の不調を探す。あえて挙げるならば、裂けた衣類から入りこむ冷たい空気だろうか

垣根(防御は十分だな。だが、肉弾戦でイチイチ障害を除去していくのも面倒だ。コイツを使うか)

倒れた男の懐に有る銃を手に取る。装填されている弾倉は一発も消費されていない

垣根(ん、悪くない。予備弾倉は……おおっと)

『おい、本当にミサイルも魚雷も無いんだよな?………オイ、オイ!?どうしたっ?!!』

男が握っていて、今は通路上に転がっている無線からの声だった

垣根(っと不味い。早くここからオサラバしなくちゃな。弾倉は後回しだ。右か、左か)

通路の右から、物音が鳴った

反射的に、彼は左に進んだ。それは船の後部、ブリッジのある方向だ
377 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 05:53:37.13 ID:Oiq9MvIP
足が進まない。何か目的が有ればマシだが、とりあえず側に居てやってくれとは。どうしろというのだ

上条に強引に頼み込まれた後、彼女は時間を潰すべく絹旗やフレンダの様子を見に行った

しかし、絹旗はもちろんまだ面会謝絶で、フレンダも専門治療を受ける為に診療室に籠っていた

滝壺の顔を覗きに行ったが、声が出せる状況でも無く、また心ここに有らずという感じだった

頷くといった返事すらまともに返ってこないので、彼女は滝壺の部屋からも出た

要するに暇なのだ。そして、逃げ場を無くして、今に至る

麦野(……まぁ、いいわ。第三位を弄ってやればいいの。そう、これは暇つぶしなのよ、暇つぶし)

ドアはスッと特に力も無く開いた

御坂は、一方通行が寝ていたベッドに腰掛け、枕を抱いている

麦野の方をチラ、と見てまた視線を床に戻した。その反応はさっき滝壺で経験している

麦野(あぁ、こいつもかぁ。もう、どうしろってのよ)

先に口を開いたのは、御坂だった

御坂「……何よ?」

麦野「あ、あの、えっと、んん」

自分の方から会話を切り出そうとした矢先を抑えられ、狼狽

御坂「笑いに来たの?こんなザマの私を」

麦野「あ、あぁ!そうよ、そう!笑いに来たの。何ぃ?男に慰めてもらえなくって拗ねてんの?」

御坂「……別に慰めてもらうとかもらわないとかの話をしたわけじゃないから。……ねぇ、麦野サン?」

麦野「"さん"付けとは、殊勝ね。立場をわきまえてるじゃない」
378 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 05:54:48.62 ID:Oiq9MvIP
御坂「あぁそう。じゃあ言い方を変えるわ。そこの第四位」

麦野「喧嘩売ってんのか。買ってやろうじゃない。高くつかせるわよ」

御坂「私を前にしたら頭の中戦う事しかないの?単純ね。そんなんでよく第四位でいられるわ。LVもホントは4なんじゃない?少なくとも頭脳はチンピラね。ま、そんなことはどうでもいいのよ、麦野サン」

わざと鼻につくほどに余裕のあるような言い方だった

麦野「ガァァ、んのクソアマッ。……うん、何よ?」

御坂「昨日、アイツ、えぇと、上条当麻のこと、幻想殺しと一緒に居たって言ってたけど、もしかしてその前から知ってたんじゃない?知ってたら教えてほしいんですけど」

麦野「へぇ、私と幻想殺しの仲が気になるの?可愛いわね」

御坂「そんなことは今はどうでもいいの。知ってたら教えなさいよ。アイツはアンタの前で何をしてた?」

麦野「つくづくイラつかせるわぁ。幻想殺しと同じね。アイツには邪魔されて、二回助けられた。それだけよ。頼んでも無いけどね。でもま、助けられてなきゃ今この場には居なかったか」

麦野「そんでもって、今ここに居るのもアイツがお前の側に居ろって言ったから。じゃなきゃ、私がわざわざこの部屋にからかいに来るなんて有り得ない」

御坂「アイツが……?」

麦野「そ。あれは、アンタと私が戦い合った仲だって事は知らないみたいだけど。良かったじゃない。心配されてるなんてね。配役は最悪だけど」

御坂「……今のアイツに気にかけてもらっても嬉しくない」

麦野「はぁ?やっぱ拗ねんじゃねーか。まぁアイツとお前の仲なんざものすっごくどーでもいいけど、それに巻き込まれる身にもなって欲しいわね」

御坂「ふーん。じゃあ何で今アイツの言う事を聞いてるの?」

麦野「それは……」

『御坂美琴さん、御坂美琴さん。もし当院内におられましたら、二階……』

麦野の言葉が少し詰まった瞬間に、院内放送が流れた。どうやら御坂を呼んでいるようだ

麦野「呼び出し食らってるわよ?」

御坂「ついてくる?第四位の麦野サン?」

はぁ、と溜息をつく。それを見て御坂は少し笑みを浮かべ、二人は部屋を出た
379 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/17(水) 05:58:12.46 ID:Oiq9MvIP
下校時間が始まるおよそ30分ほど前ぐらいだろうか

上条当麻はとあるビルに来ていた

その場所には入口はおろか、窓さえない

上条(来たのは良いんですけど、問題は)

上条(一体どうやって入るかですね。前はかなり無理をして入りましたし)

上条(考えてみれば、あのときから少し無理が溜まっていたのかもしれません)

立ちつくす。そして出た結論

上条(仕方ないですね。穴、空けますか)

上条(一応、危険であることは進言しておきます。その上、壁の厚さが一定以上ならば、厳しいかと)

上条(要は脅しです。ここを壊すぞ、という。それで向こうが、何か反応をしてくれればいいのですが)

元より、確実では無かったのだ。ここが失敗なら、一方通行に合流すればいい

そして上条が、その左手をビルに当てた

瞬間、左手とビルの合間から、閃光が漏れる

数回目の現実殺しは、まるで一般的な能力者が徐々に自らの能力を成長させ高効率化していくように、更に効率化され、漏れるのは膨大な光と僅かな電磁波・膨大なニュートリノとなっていった

そしてその光も、大部分を方向性を纏め集束させることで、壁を焼くのに用いる

しかしながら、もともとそれによって断続的に相殺できる制御可能な範囲は僅かであり、本調子でない為にその量は更に減っていた

深く息を吐いた。同時に左手を壁から離す。額には脂汗

目の前の壁は、視覚的には全く削れていなかった

上条「……ッ」

一方通行に合流しよう。そう判断して振り返った

そこには、ある人物が立っていた。星をエネルギー化させて、時を逆転させるように上条を導いたあの人間が
380 :少ないけど本日分終了のお知らせ [saga]:2010/11/17(水) 06:02:17.84 ID:Oiq9MvIP
「……え?」

少女の声が、その広くない部屋に響いた

蛙「悔しいけどね。彼女の被爆具合では、 今 の 僕 に は できる事が、もう残って無いんだよ」

その声は、彼女を、御坂を絶望に導いた

言葉を失う少女の後方で、麦野沈利は腰を壁に預け、腕を組んでその様子を見ていた

蛙面の医師が言った"彼女"とは初春飾利の事である

昨日運び込まれた被爆者、初春・白井・滝壺・絹旗・フレンダ・御坂の内、最悪の状態であった少女だ

蛙「本来なら、彼女の保護者にも来て貰うべきなんだろうけどね。今の学園都市では一般生徒の保護者では、例え危篤状態でも外部からの人間を入れてくれるとは考えられない」

青い顔をして、震える体に更に言葉を付け加える

蛙「言いにくいけど、現状では、体組織の崩壊の進行を止めることは不可能なんだ。彼女の体の遺伝子は、すでに崩壊しきってしまっている」

蛙「後は各部の臓器などの代替が出来るような装置に体を接続して、無理に生きながらえさせる事しかできない。現状ではね」

御坂「…本当に、……どうしようもないの?」

蛙「ああ。現状では、ね。君をここへ呼んだのは、覚悟をs」

その言葉を、御坂の声が遮る

御坂「なんとか、何とかしてください!先生は、何度もいろんな患者を救ってきたんでしょう?!だから、初春さんを、私の友達も助けてくださいよ!!!」

一体、本日何度目の叫ぶような声だっただろうか

麦野が、壁から腰を離した、よくわからない喚き声を出す御坂をのけて、蛙面の医者に尋ねる

麦野「ウチの、絹旗や滝壺はどうなの?」

蛙「滝壺君は大丈夫だろう。絹旗君は初春君程ではないにしろ、よろしくない状況だよ。……正直、厳しい」

麦野「ッ」

麦野も、視線を逸らした

そして、浅めの溜息を吐き、長い瞬きの後に、医者の顔を覗き込む

麦野「……それで、その"現状"を変える方法とやらは何なの?」

と、言った。蛙面の医者は、表情を変えない

御坂の喚き声が、途切れた
381 :少ないけど本日分終了のお知らせ [saga]:2010/11/17(水) 06:08:10.57 ID:Oiq9MvIP
>>372

 ヽ | | | |/
 三 す 三    /\___/\
 三 ま 三  / / ,、 \ :: \
 三 ぬ 三.  | (●), 、(●)、 |    ヽ | | | |/
 /| | | |ヽ . |  | |ノ(、_, )ヽ| | :: |    三 す 三
        |  | |〃-==‐ヽ| | .::::|    三 ま 三
        \ | | `ニニ´. | |::/    三 ぬ 三
        /`ー‐--‐‐―´´\    /| | | |ヽ
改めて読むと俺UZEEE

この時間まで起きて書いてるとモラルとか倫理とかがかなり欠落します
なのでこれからもこんな自己主張病が再発するかもしれません

何だこいつの自己主張うぜ―とおもったら
「てめーその臭い口をこれ以上開けたら、涙子を寝取るぞ」
的な事を書いてください。多分しばらく黙ります。魚肉ソーセージでも黙ります
それではまた明日?
382 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 06:56:03.51 ID:XbiMRa6o
別に気にならないけどね

二人の能力でなんとかならんのか?特に美琴
383 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 07:00:57.88 ID:vqwyyEAO
瓜春はどうでもいいけど、俺の絹旗だけは助けてくれ
384 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 12:15:07.42 ID:thuHLGQo
佐天さんは爆散する定めるだから嫁にできないぞ>>1よ。
385 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 13:15:04.51 ID:o/3RjHoo
浜面みたいにしちゃうのかな?
386 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 15:22:02.51 ID:HkULDIDO
つかこんな惨状になったの佐爆さんが悪いのは当然だが上条さんの中の人たちにも問題あるよね
もたもたしてるから…
387 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 17:00:16.16 ID:BB4SOuEo
元々空回り暴走気味な上条さんだけど、ここの上条さんの空回りっぷりは群を抜いてる気がする。原作二次含めて
388 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/17(水) 19:35:56.97 ID:gtFPp2Yo
てか上条さん脳内AIにほとんど乗っ取られてないか?
389 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 03:33:01.75 ID:c4ZozaIo
なんか上条さん本体は意識が無い見たい。

もしかして実は死んだ?
390 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 18:58:53.06 ID:wocmYIso
今日は来ないのか?(涙)
391 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 19:32:08.57 ID:rZeLE8so
右手が動いた、とかあるから意識ないだけじゃない?
392 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 21:28:22.13 ID:UniYT7wo
中の人たちの影響かどうか知らんがちょっと落ち着いてるってか余裕な感じがするな
熱さが足りない
393 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/18(木) 22:52:35.59 ID:g6VhhVUo
時間巻き戻った当初は前より上条さんらしく熱くなってたんだがな
しかし脳内AIに乗っ取られてもこの空回りっぷり
394 :毎日更新してる人SUGEEE [saga]:2010/11/19(金) 05:20:33.17 ID:UoJM1p2P
細長い通路に、銃声が響いた

垣根の体が、前のめりに少しだけ傾く

垣根(……うぉ)「……ッ!!」

マシュマロが凹むように被弾した背中が変形した。が、すぐに戻る。痛みは無い

垣根(服にまた穴が開いちまったか。……風通しばっか良くなってくな。おお寒ぃ)

更に銃声。今度は後頭部だった

これまでに受けた経験のある被弾のイメージがフィードバックされる

如何にダメージは無いといっても、経験と記憶が彼を揺らした

そのまま、グラりと倒れそうな体の流れを受け流して体を反転させ、銃を弾が来た方向へ向ける

銃弾が飛んできた方向、横に有る上階への階段には、既に人影は無かった

逃げられたか

垣根(そりゃ、敵の拠点だもんな。こうもなる。動きも鮮やかだ)

敵は身内に能力者が居るのだ、対能力者を想定した戦い方のノウハウも研鑚が積っているだろう。その上能力者には辛い、この空間

船内は、暗い。外は既に夜であるし、内部の照明は省電力の為だろうか、不十分な明るさを放つ

その上その階段は折り返しの踊り場がすぐ近く。折り返した先の更に上には何が待っているのか

垣根(ま、何があっても問題はない。無ぇよ)

何か気に食わない。顔が少し歪んでいるのが分かる

垣根(……っ、あーしかし、バレたな、これは。この狭い空間だ、二発も銃声が響いちまうと)
395 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 05:20:58.57 ID:YEM4iqIo
この脳内AIは不良品だ、可愛いから許す
396 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 05:22:44.62 ID:UoJM1p2P
垣根(だぁが、あそこに敵がいたってのは、偶然か?もしかすると、何かを守る、又は俺が来た狙いを考慮した結果の行動、か。ま、単に罠に嵌める為なんてことも考えられるが)

船内に警報が鳴った。同時に侵入者を知らせる船内放送も

垣根(やっぱ鳴っちまったか)

鳴った所で、敵は自分を倒すこともできない。定規やあの子供を殺すことも出来ないハズ。なんの意味が有るという

垣根(現状、かなり船尾まで来てるはずだ。どちらにせよどっかで道を変える必要は有った。可能性を考慮するなら、構造が分からない以上、素直に追うしかないだろうな、ここは)

階段を駆け上がり、癖か、踊り場での折り返しで向こうの気配や状況を探ろうと、踊り場まで昇りきる前に身を屈めた

折り返しの手すりが設置されている壁から顔を半分出して覗こうとした瞬間、ゴゴッ、という鈍い音が船内に響いた。どこかで何かがおきたのだろうか

垣根(又は、何かを狙っているのか)

思考によって意識が目前から離れた僅かな瞬間、覗きこんだ右顔面、丁度眼球のある場所に銃弾が刺さった

定義が甘かったのか、簡単に形を失った眼球は潰れ、白い液体となって流れ落ちる。まるで血の様に

思わず、その場所を手で押さえた

垣根「クソ共が。俺はそんなに優しい人間じゃねぇぞ……!」

その手で目をこするように撫でると、新しい眼球がその空いた空間に現れた

痛みは無い。痛みは無いが、苛立ちは有る。良い様に三度も撃たれ、最後に目だ

それまでの経験と知識によって自分を垣根帝督たらしめている彼にとって、表象から来るダメージは、間接的に彼を脅かす

今は苛立ちとなって表現された。ここに来るまでに散々、精神を揺らされた名残なのかもしれない

もちろん自分の隙が原因でもあったのだ。それだけに苛立たないわけが無い

少し熱くなって、彼はその階段を駆けあがった
397 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 05:33:39.61 ID:UoJM1p2P
警備員が去った後の、くっきりと爆発の跡が残る場所に一組の男女の姿が有った

海原「やはり、魔術の類の反応は無いですね」

爆心地の中央であろう地面に手を当てて、彼は言った

ショチトル「では、超能力によるものだと言うのだな」

海原「断定は出来ないですね。何しろ、ここにいたのは無能力なスキルアウトだけだったようですから。それにコレを」

恐らく腕にブレスレットとして身に着けていたのだろう。短い革紐に三角形の白い何かが付いている。その白い三角形の物体には、とある模様が

ショ「……この模様は…!?」

海原「あなたも僕と同じ事を考えているのでしょうね」

海原は直接触れない様にその紐の端をつまんで、少女の体へ近づけた

そこに描かれた模様が、強い光を帯びて浮かび上がる

そしてそれが少女の皮膚に触れたとき、音を立てて割れた。同時に光りも消える

ショ「間違いない。この模様はアメリカ先住民族の宗教のものだ!見た経験がある、うん、間違いない」

海原「加えて、今の様にあなたのその身に触れて壊れたと言う事は、何かの術式が発動していたのかもしれない」

大量生産のピックに模様が掘られた程度の魔術の触媒では、原典と身を結んだ彼女の前でその影響を出そうとした所で、防衛行動を発した原典に打ち壊される

ショ「確か彼の宗教の特性は、強い幻覚に起因していたハズだ。詳しくは知らない」

海原「アメリカによる情報封鎖下の対象だったので、当然でしょう。自分が持つ情報も同程度ですからね」

ショ「あ、こっちにも同じような物があるな。やっぱり、スキルアウトが身につけてたものかな?」

海原「十分に有り得るでしょう。これは、良い手掛かりかもしれません。適当なスキルアウトにでも尋ねましょう」
398 :実はこの理論うろ覚えなので、間違いがあるかもしれませぬ [saga]:2010/11/19(金) 05:49:08.23 ID:UoJM1p2P
どうしようもない"現状"を変える為、彼女たちは医師の前に立っていた

蛙「君たちならもちろん知っているだろうが、被曝というものの最大の問題は、その体が時間経過と共に崩壊していく事だ」

興奮していた為目頭がいまだに熱い御坂と、あくまで冷静に、しかし目の前の医者を睨むかのような視線を向ける麦野は話を聞く

蛙「これは、人間の代謝活動によって、つまり積極的な細胞分裂によって支えられている生命の根本的な生存活動を不可能にするという事を意味しているんだね」

蛙「例えば、古い細胞の代わりに皮下の細胞分裂によって新しい細胞を生み、体表を守るという役割を持つ皮膚を常に良い状態に保ち続ける事が例としてあげられる。日々皮膚は変わっているからね。同じような事が、細胞分裂の性質の違う脳と心臓以外、体中のいたるところで行われているんだ」

蛙「高等な生命体では殆ど全てで行われている事なのだけどね、被曝は、この根本である細胞分裂を狂わせる」

蛙「放射線が遺伝子情報を破壊することによって、細胞分裂が満足にできなくなる。すると、まず一番分裂が活発な内臓から始まり、時間経過と共にあらゆる体の機能が低下・維持できなくなり、最終的に死に至る」

蛙「これが、生きながら体が朽ちていく、なんて表現がされる所以だよ。そして彼女たちの場合を考えると」

壁のモニターにいろいろな数値が表示される。そして、蛙面の医師が御坂の方を向いた

蛙「一番重傷な初春君の場合、放射線によって遺伝子情報が壊されただけでなく、彼女の体自身が放射能を持ってしまった」

蛙「このことは、例えば御坂君、君が彼女の為に肝臓を提供して被曝した肝臓と取り換えたとしても、被曝によって高レベルの放射能を持った血や体が、その提供された肝臓をも被曝させてしまう。そういう連鎖が続く事、これが最大の問題なんだよ」

蛙「本来ならば、ここ学園都市ならば、この問題すらも解決することが出来たんだ。なぜかというとね、全ての生徒の精細な情報、つまり遺伝子を含んだ情報を保有していたからさ。これを研究などに流用する際は、本人の認可が無くてはアクセスできない仕組みが一応有あるんだけどね」

蛙の面をした医師が、御坂の方をもう一度、チラリと確認した。予想通り、俯いていた。妹達はそれによって生まれたのだから

蛙「……言った様に遺伝子情報使用には制限が有った。しかし例外も有った。それが医療への使用、特に本人の治療の際の使用は本人の認可なしで使用が認められていたんだ。緊急時に本人の許可が得られないこともあるからね」

蛙「保存されていた本人の遺伝子情報から、失われた部分・被曝した部分全てを改めて作り出し、交換する。食糧すらクローニングで供給している都市なんだ、全く難しい事じゃないはずだったんだがね」

ハァ、と息を吐いた

蛙「君たちが現場で見てきたように、第一学区の主要部分が殆ど丸ごと吹き飛んでしまった。そこにその情報は纏めて保存されていたんだ。加えて不幸な事に、バックアップも同区にあった」

蛙「つまり、本来使えるはずだった遺伝子情報は使えなくなってしまったんだ。これが"現状"だ」

全く、必要な時に使えないのだから、困ったものだよ。いつもそうだ。と付け加えた。それは彼の本音だろう

麦野「じゃあ、打つ手無しってこと?違うわよね?」
399 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 05:49:38.31 ID:UoJM1p2P
麦野が答えた。御坂も同じ様な事を考えていただろう。顔を向けている

蛙「ああ、もちろんさ。ここまでの話は正規ルートの話しだよ。聞いてほしいのはここからだ」

蛙「学園都市の生徒はそれこそ百万単位だ。膨大な情報を管轄していた組織が当然有る。そこが、自らの利益の為にその権限を悪用していてね」

蛙「もちろん、情報全部を勝手にバックアップコピーなんて馬鹿な事をしていた訳では無いんだ。しようと思えばいつでも個別にアクセスできていたのだから、全てのコピーなんて手間もかかる上に足が付きかねないことをするはずが無いと、僕でも分かる」

蛙「代わりに彼らが行ったのは、能力者の遺伝子情報の平均化なんだ。性差・身体的特徴・能力などによって様々に平均化されたサンプルを今も彼らは持っている」

麦野「それが有れば、ウチの絹旗も、その初春って子も確実に助かるのね」

蛙「うん。だけど100%ではないよ。彼女たちに近いサンプルと崩壊した遺伝子情報を比較して、限りなく本人に近くなるように作りだした新しい遺伝子をベースにした素体を作るわけだからね。正確には彼女たちにとてもよく似ている別人と言えるかもしれない」

蛙「でもそれが、僕のできる最大限の冥土返しなんだ」

年配の男が、真面目な顔で彼女たちを見た

蛙「お願いがある。助ける為に必要なサンプルを取って来てくれはしないかい?」

御坂「……話分かりました。もちろん私、行きます」

麦野「当然、私もね。どうせ暇だったし」

蛙「ありがとう。君たちならきっと了承してくれると思っていたよ」

蛙の面をした医師が、今日初めて真の意味で顔をほころばせた

御坂「でも意外です。先生がそういう、危ない事するなんて」

蛙「ハハ。僕だって、これまで真っ当な事だけをしてきた訳じゃないさ。これまでにも幾度も危ない橋を渡らないと直せないような患者が居たからね。この都市じゃ、そういうのよくあることだろう?」

麦野は、当然ね、という言葉を出して、御坂も頷いた

この男は、取ってきてくれと言った。他の、貰ってこいでもなく、購入してこいでもなく、交渉してこいでもなく。限りなく奪ってこいに近いニュアンスだろう

だからといって、彼女たちはそれに抵抗を感じない

暗部の麦野はもちろん御坂も、そういう事には慣れているのだから。そして彼女たちはこの学園都市の頂点なのだから
400 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/19(金) 06:08:12.95 ID:UoJM1p2P
目覚めは最悪だった

脇で同じように寝ていたが、やはり同じように寝ながらも警戒していた郭という名の少女も、そんな物がいつの間にこの半蔵の部屋に届いていたのか気づけなかった

もちろん、彼にも

起きてすぐ目に入ったソレは、何かビーカーの様な物に漬けられていた2つの眼球と2つの耳。その耳たぶには、半蔵には見知ったピアスが付いていた

「は、半蔵さま、コレは…」

「……報復であり警告だ。それもかなり趣味の悪い、な」

寝起きの彼らの最初の会話だった。これは何か

彼の悪夢の発端は5日前。青い髪をした男が、彼の部下、と言うより仲間達の前に現れた事から始まった

LV3程度の複数の能力者グループの腹いせで、仲間の一部が袋叩きに合っていた時、青い髪をした男が彼らを救ったのだった

その男は目立った能力も無しに、能力者相手に素手で戦って簡単に打ち倒したらしい。半蔵がその場に着いた時には、能力者の男たち数人が気絶し、傷だらけの仲間が立っていた

かなり陽気な奴で、自分の強さを鼻にかけない彼は仲間からの受けが良く、最初こそ抵抗が有ったが言葉巧みに取り入って、その日の夜には共に時間を過ごしていた

半蔵はその晩は用事があり、宴と言うよりはただの馬鹿騒ぎとなったそこを抜けて帰ったが、どうやら一晩中騒いでいたらしい

次の日になって、二日酔いなどで転がっているだろう仲間たちの様子を見に来ると、青髪が立っていた

それが、悪夢の始まりだった

彼の周りには、学園都市製では無い、言ってしまえばロートルな小銃を抱えた男たちが並び、半蔵を狙う

更に飲んでいた仲間たちは意識が無いまま首に特殊な輪を付けられて、同じく銃の的となっていた

力とカリスマを同時に持っていたリーダーが死亡し、分裂した第7学区を必死で纏め上げている今の彼には、浜面と言う親友も無かった

故に本当に腹心と言えるような仲間が必要で、それが彼らだった。彼らが居なければ、半蔵だけでは今の規模すら維持も苦しい
401 :SS巻読み直す暇もないから、適当に設定作ったけど大丈夫かぬ。まぁいいか。あと郭とは一緒のベッドで寝てたわけじゃないよ! [saga]:2010/11/19(金) 06:10:40.76 ID:UoJM1p2P
そんな仲間を捕まえあげた敵は、青髪は、自分の素性すら既に調べ上げたらしく、そういう分かりやすい脅しを受けて、それから昨日までずっと彼は青髪からの命令を聞く羽目となった。浜面や駒場程ではないにせよ、それに比類する仲間を人質に取られて

暗殺・工作・脅迫・拉致。中には他の仲間を騙して、集団でさせられたものもあった

そして昨日。仲間のスキルアウト達が、もちろん彼の知らない他学区のスキルアウト達も大勢いたが、まるで操られたように第一学区に集まり、そして突如発生した巨大な揺れによって奈落の底に飲み込まれ、瓦礫に押しつぶされた

そんな物を見せられて、半蔵は我慢できなかった。メインタワーで地獄を見下ろす青髪に彼は襲いかかったが、相手にはならず、郭に助けられた

運良く巻き込まれなかったスキルアウト達が、第一学区からやはり操られているかのように正気で無いまま一斉に撤退したので、彼も第一学区から郭と共に去った。その後第一学区で起きた事は見ていない

結果として、目の前にあるのが、この眼球と耳である。そのピアスは彼の腹心の仲間の一人が身に着けていたものだった

なぜ警備員やそれに類する部隊が昨晩のスキルアウトの異様な集団行動を止めなかったのか、なぜ第一学区の警備自体が全くなかったのか、あの青髪は何者なのか

目の前の眼球と睨めっこをするようにして彼は考える。今現在分かるのは一つ。恐らくこの目と耳の持ち主は、半蔵の反逆のツケとして殺されてしまったということ

郭には掛ける言葉が無かった。可哀相だったからではない。彼が酷く冷静に思考を巡らせていたからだ

そして、昼になり郭と別れた後に彼の目の前で起きた事は、更に彼を追い込んだ

「お前、昨日何してた?」「いやー、実は特に覚えてないんスよ」「あ、お前も?俺もなんだよ」「どうせ昨日も馬鹿みたいに飲んでたんだろ?それとも変な薬でも手をだしたってか?ハハッ」

昨日の記憶が無い仲間達と話をしていた。彼らの身には、最近ライブ会場で配布されたとあるバンドのグッズの姿が有った

そこまで確認したところで突如、再び仲間たちが意識を失ったかと思うと、ふらふらと歩き始め、そして何人かが小分けに集まり、爆発した

まるで何かの能力が発動したかのような光景だった。彼らは能力開発は受けたものの、LV0のはずなのだが

いや、少し前で起きた幻想御手の事もある、何かによって操られ、擬似的に現出させた僅かな能力を暴走させた――――?

もちろん、そんな爆発が有れば警備員が駆けつけてくる。自分だけその場に生きて立っていたら、確実に疑われる。彼にはその場を離れるしかなかった

逃げた先、とあるビルの屋上で彼は放課後の時間を迎えた。見晴らしの良いその場所は、彼の悪夢はまだまだ終わっていなかった事をハッキリと知らしめた
402 :あれ、最早上条でも何でもないぞコイツ [saga]:2010/11/19(金) 06:16:28.87 ID:UoJM1p2P
気が付けば、彼は一度だけ来た事のある空間の中に居た

どういう仕組みでその中、つまり都市伝説の温床である窓の無いビルの中に入れたのかは彼には分からなかった

目の前の液体で満たされたビーカーの中に、逆さ吊りの男が居た。あの時と同じように

アレイスター「ほぅ。今日は、君、いや君たちか。君たちしか居ないのだな」

上条「……どうせ全て見ていたのでしょう?」

アレ「もちろん。と言いたいところだが、君も知っているように、連日の第一位と第二位の行動、主に後者だが、それによって滞空回線はその数を激減させてしまった。その他の補助設備も含めて、監視体制の機能は3割にも満たないか。つまり、なんでも知っているという訳ではない」

アレ「だが、今君がそうあるのは、当然の帰結だ。君たちではそれを完全に理解するには莫大な時間を必要だろう。使用の度に定義そのものを変えているようでは、まだまだ先は遠い」

アレ「現段階の彼では無理のあるもの、君たちは拡大幻想殺しとか現実殺しとか呼んでいるようものも、君たちが居てようやく成立させている。同時に彼本体に負担をかけながら」

上条「その負担が最終的に彼を壊してしまったこと。それは分かっています」

アレ「仕方のない事だ。高みへ足を進めた第二位の全力を、無理に拡大した幻想殺し防げば、当然彼の脳は情報的にも物質的にも圧迫される。オリジナルの右腕では、起きない事だが」

上条「……貴方との会話から得る物は有るでしょうが、今日はそんな事を話しに来たのではありません」

アレ「ドラゴン、についてだろう?」

上条「分かっているならば教えて頂けますか?その為にここに呼んだのでしょう?」

アレ「そうでもあるし、そうでもない。一つだけの要因で、物事は成立しない。今と言う空間がそうであるように」

アレ「君のお陰で今この状況は生まれた。だがもちろん君だけでない。私ですら予想もつかなかったような事が折り重なって、今はあるんだよ」

アレ「そして君のお陰で従来の私の計画の進行を、乗数的に短縮できたのは確定的だ。その役割には報いよう。………最もこの私の計画すら、本当に当初の私と同じものだったのかは、定かではないがな」

上条「貴方がなにを計画しているのか、気にはなります。ですが」

アレ「随分と余裕が無いな。……同じ物でありながら、姉と弟では随分と違うのだね」

上条「おと、弟……?まさか、彼がここへ、貴方と?」
403 :本日分投下終了のお知らせ。出来るだけ短い頻度で投下したいんだけどねー [saga]:2010/11/19(金) 06:27:45.84 ID:UoJM1p2P
アレ「ああ、こうしてビーカー越しに会った。彼も、"前"とは目的が変わっていたようだった。前は直接に会話出来た訳では無いので正確では無いが、少なくとも私にはそう窺えたな」

アレ「限られた時間の使い方、対策。それが彼との会話の大部分だった。時間も無限ではない。特に今我々の時間は限られている。……限られてしまった。君によって。ローマを始めとして、世界中を巻き込んでね。だが君が原因だと知る者はほとんど居ない」

アレ「私にはもちろん想定の範囲内で、この帰結は予期できたものだ。そしてそれに合わせて、私は計画を大きく修正・変更した。その一つが、"ドラゴン"だ」

上条の反応を窺う様に、言葉を止める。対する上条も、表情を変えたりすることは無い

上条「……続けてもらえますか」

アレ「構わない。ただ、逐一私の口から言うのも、アナログで、ある種の価値が有るかもしれないが、馬鹿に時間を食う事になる。それでも構わないならば」

アレ「私の口を代弁してくれる物を用意できるが、どうか。折角、君の体は優秀なのだ」

上条の前に1m程度の高さの円柱が地面から生えるように現れた。上条の双眸はそれを一瞥した後、再びビーカー内の人間に戻る

アレ「手を。恐らく同期できる」

動く左手を、その上に置いた。同時、情報が流れ込んでくる

アレ「欲を出し過ぎて、彼を尚更追い詰める様な事が無いようにな。制限をしなければ、君程度の記憶領域では簡単に吹き飛ぶ事になる」

上条「言われなくとも。これ以上私達の当麻の目覚めを遅らせたくは有りませんから」

アレ「ならば良い。私にとっても彼は重要なのでね。私やドラゴンと違って、彼には予備が無いのだ」

疑問を浮かべるように、目の前の男の様な人間を見た。予備とはどういう意味だろう

アレ「では本当に私が君に伝えようとした内容に移りたい」

情報を取捨選択しながら作業を進める上条は、外見的にはただ立っているだけ。会話程度なら問題もなさそうだ

アレ「さて、君はなんの為に時間を巻き戻すような事をしたのか、君の、いや君たちの理由を教えてもらえるかな」

上条「そんな物は決まっていますね。あの惨状を回避する為ッ…!?」

言葉を遮るように、その異様な空間の中に画像が、動画が現れた

アレ「今の外の様子だ。珍しい術式の魔術を使うとは、君の弟は本格的に行動を開始したらしい。さて、君はこれを見て何を思い、どう行動する?」

404 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 07:27:59.93 ID:9Lb2O2SO
とりあえず郭ちゃんは助けてもらえないですかね
405 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 07:43:27.68 ID:YEM4iqIo
おいやめろそんな事を書くと死ぬぞ
406 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 11:16:52.70 ID:oLUk/.DO
やっぱり上条さんの中の人たちが悪いな
いや一番悪いのは佐天さんでしけどね
407 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/19(金) 15:27:20.50 ID:Mphlux.o
この頻度で更新している作者も十分すげえよ
408 :>>407今だけですお。いつまでもつかな、このペース [saga]:2010/11/20(土) 07:23:49.23 ID:3cJ7DKIP
御坂「一体何が起きてんのよ」

病院を跳び出した彼女たちの目の前で起こっていたのは、混沌の渦だった

警備員が銃を乱射し、銃を向けられた生徒たちが自己を守る為に戦っている。光やら水やら炎やらが到る所に溢れていた

その渦の中では、能力者だろうが無能力者だろうが関係ない

「ひっ……うわああああああぁぁあ、あッ………」

タァン

御坂「……え?」

前から走ってきた中学生ぐらいの生徒の頭が、御坂の近くで弾け飛び、肉片が彼女の顔に音を立てて付着する

麦野「これは何事よ?ってちょ、第三位?!」

麦野の目には、肉片と血のケチャップがかかった第三位の電撃姫が、右手を構えて電撃の槍をさっきの生徒を攻撃した警備員目がけて放つ光景がみられた

狙いが甘かったのか、その攻撃は彼らに直撃せず、正面に見える高速道路の陸橋の柱に飲み込まれる

その派手な見た目から威力を察するに、人に当れば間違いなく命は無くなっていただろう

そんな事をされれば当然、警備員達は反撃する。銃弾が叩き込まれた。しかも、実弾だ。威嚇や取り押さえる事が目的のゴム弾では無い

御坂「ちょろっと麦野のおばさん!なにやってんの?!」

御坂は、お前は一体何をやっているんだという表情を麦野へ向けた

当然、何をやっているんだと言いたいのは麦野の方である

そんな彼女らに構う事無く銃弾は飛んでくる

しかし銃弾は彼女の操る電磁波によって集まった金属の塊、主に爆発したらしい車の金属片によって防がれた

麦野「ハァ?!やったのはアンタだろォが?!なんでこんなとこで警備員に喧嘩売ってんだお前は!!!」

御坂の作った金属の壁に飛び込んで、彼女は大声で言った

御坂「そっちこそ何言ってんのよ?手加減してたみたいだけど、LV5の電子光線なんて撃ち込まれたら、反撃されるのは目に見えてるじゃない!」

ガンガンガンと叩き込まれる銃弾の音が鳴る盾の後ろで、二人のLV5がお互いの顔を見る

おかしい。警備員に攻撃する確定要素がお互いに見つからない。警備員などという組織へ下手に手を出せば、この後の行動に支障が出るのは馬鹿でも分かる

(こいつ(この人)はそんなことが分からない程、馬鹿じゃない)

彼女らの前に有る金属の集まった盾を超えて、擲弾が投げ込まれ、炸裂した
409 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 07:24:23.78 ID:3cJ7DKIP
瞬時の事で反応が遅れた御坂の代わりに、今度は麦野が電子の盾を展開し、それを守る

麦野「とにかく、こんな道路のど真ん中じゃただの的っ!。少し回り道するわよ!」

麦野は言葉を出しながら、御坂の頬に付いた肉片を取り除き、少し先に見える左側の細い路地を指した

御坂が頷くと、まず麦野が電子放射でその路地へ飛び込む

御坂には、そのほんのわずかな移動中、麦野が立ち止っての手先から光線を打ち出す光景が見えた

だが、瞬きをした直後には、既に麦野は路地へ辿り着いている。もし仮にあの場であんな反撃をしていれば、今頃こちらへ来いと手招きできる体勢では無いだろう

そして何より、電子そのものの流れを確認できなかった。本当に原子崩しの光線ならば、御坂が感知できないはずが無いのにも関わらず

では今見たのは――――?

少女がそう思いつつ、磁化させた壁に引っ張られるように高速で移動すると、先程まで壁が有った場所が吹き飛んだ。バリケードなどの障害物を吹き飛ばす為に供与されているロケット弾の着弾である

警備員達は手加減をするつもりは無いようだ

同じ事を、麦野も感じた

御坂がこっちに跳んでくる行動の中で、超電磁砲を警備員が居るであろう方向へ放ったように見えた

だが、やはり電子の動きは彼女にも確認できなかった

飛び込んで来た御坂が、麦野の前に立つ

麦野「今、お得意のコイン投げ、使った?」

御坂「ううん。そっちはどうなの?下品な電子の塊が見えたけど?」

麦野「してないっての。……一体どんなトリックかしらね」

御坂「わかんない。幻覚見せる能力者?だとしたら、どこまでが幻覚でどこからが現実なのよ」

麦野「試しに銃弾を食らってみる?私は御免だけど。まぁでも、この規模を出せるとしたら、LV5クラスでしょうね。本当に一人の能力だったら悪辣この上ないわ」

また、断末魔が聞こえた。止む気配の無い銃声。能力か兵装か原因の分からない爆発音の響音

麦野「何にしても、こんなんがこれからも続くなら……考えものね」

御坂「何?ビビってる?」

麦野「ハン。警備員なんざ束になったところで敵じゃないわ。面倒なのは車両なんかの的になる物が使えないってことぐらい。走るわよ」

例え目の前で何人死んで、どれほど警備員に追われようとも、今の彼女らの目的には変わりはなかった
410 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 07:35:40.94 ID:3cJ7DKIP
半蔵「何事なんだ、これは」

ビルの下で広がる光景は乱戦状態だった

低位の能力者や無能力者は手頃な物で、警備員は装備品で、上位能力者は自らの能力で

敵として自らに攻撃を仕掛けてくる者に反撃報復を繰り返した

もし彼が今このビルの屋上に居なければ、逃げ惑うか戦っていただろう

半蔵(スキルアウトが少ない。居ないわけじゃないが、武器に慣れてる無能力者がえらい少ない)

半蔵(やっぱり、アイツ等みたいに自爆しちまったか)

半蔵(それとも、昨日みたく操られてどっかへ行ってんのか?)

半蔵(どっちにせよ、その頂点を叩かなけりゃ、止まんねぇだろうな)

具体的にどう動くべきか。考える為に煙草を吸おうと胸に手を伸ばす

ライターが無かった

半蔵(ッ、どっかに落としたか)

咥えた煙草を、外部に比べてやたら税率が高いので、箱に押し戻す

多分、そろそろなんだろうなと思って彼はじっとその時を待った

思った通り、携帯電話が鳴った。ディスプレイに表示されるの番号は、ここ最近よく見る番号だった

半蔵「……俺だ」

青髪『なんだかテンションの低い声やなー。昨日はあんなに元気が良かったってのに』

半蔵「黙れ。要件は、今日やることは何なんだ?」
411 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 07:36:14.16 ID:3cJ7DKIP
青髪『やっぱり元気あるやん。今朝のアレを見て元気になったんかなぁ?』

アレ、とは仲間の眼球と耳のことだろう

半蔵「クソ野郎が。……仲間は無事なんだろうな」

青髪『甘いなー。そんな都合のいい事が有ると思っとんの?言えるのは、君へのプレゼントが意味してる通りかな。結局君が連れて来てくれた子も逃がしてしもたしなぁ』

そうか、浜面が気にかけていたあの子は逃げる事が出来たのか

良い情報が全く入ってこない彼にとって、久々に聞いた良い知らせだった

青髪『おーい、聞こえとるー?ありゃ、電波の中継局壊れてしまったん?』

半蔵「残念だが聞こえてる。それで、今日は何をさせる気だ?」

二度目の質問。この男のこの喋り方を長く聞いていたくは無い

青髪『はいはーい。とりあえず今何が起きとるかは知っとるよな』

半蔵「昼間に多分お前らが仕組んだ爆発が有って、それによって警備員が学園都市中に薄く拡がったところで、生徒を襲わせていることを指しているなら、知ってる」

青髪「合格や。それだけ現状を理解しとるんならな。それじゃ、コレに目を通してや」

声が、携帯の音声を流す部分以外から聞こえた

振り向くと青髪が限りなく満面に近い笑みを浮かべていた。限りなくというのは、そこに少しだけ邪な物を彼は感じたからである

半蔵「これは?」

青髪「この学園都市に無数に存在する風車からの電気を一括で管理しとる所の詳細や」

半蔵「これで何をしろと?」

青髪「きまっとるやん?学園都市の電力供給を断って欲しい。もちろん、簡単に復旧できない様に破壊してな」
412 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 07:36:45.44 ID:3cJ7DKIP
半蔵「……仮にここを破壊しても、直ぐに他の施設が代役を果たす。意味があるとは思えねぇな」

青髪「当然、こういう事をするのは君だけやないで」

半蔵「風車からの電気だけで本当にこの学園都市の電力がまかなわれているとでも思ってんのか?」

青髪「逆や。そう思ってないからそないなことをするんや」

半蔵「どういう意味だ?」

青髪「ええかなー。そういう、自前で電力発電しとるとことか、まったく異なる発電系統からの電力供給を受けとる、つまり、公開されていない電力供給を受けとるとこってのは、どーゆー施設だと思う?」

半蔵「そいつは、病院とかの、学園都市的に価値があるとか、代替できない機能を持った場所や施設だろうな」

青髪「そうや。つまりこの都市の電気を切れば、都市にとって重要な所が勝手に光り出す。……僕らはそこを叩くんや。少ない戦力で効率よく戦う為にな。都合のいい事に、警備員や風紀委員なんかは昨日のこともあって混乱しとるし」

その笑みは、清々するほど純粋だった

半蔵「その様子だとよ、私有部隊や特殊部隊が出張ってくることも考慮の内なんだろうな。……一体、何が目的なんだお前らは!」

青髪「まぁそんな怒鳴らんでもええやん。どういう目的であっても、ちゃんと役割を果たしてくれるんなら、人質も無傷で、あ、もう手遅れか、ま、まぁ返すし、後々厚遇したるよ。詳しい事はソレに書いてあるし、気張ってや―」

言って青髪は振り返り、ビルの屋上に突き出た屋上への出入り口の扉へ体を進ませた

青髪「おっと。ほい、コレ」

青髪が振り返り、何か小さい物を半蔵に投げた

ライターだった

青髪「ライター、無くしたんやろ。仕事前に一服、かっこええな―」

受け取ったライターに視線を映す。それほど高いものではないが、しっかりした作りのようだ。なんだかよくわからない彫り模様がしてある

青髪「それは僕からのプレゼントや」

そう言った声の主の方へ視線を向けると、もう居なかった。入口の扉も動いた形跡は無い

居なくなったか

半蔵「常に監視しているぞ、とでも言いたいのかよ」

呟いた。瞬間、扉が開く

反射的に身構えると、そこに立っていたのは今朝まで一緒に居た少女だった
413 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 07:49:04.33 ID:3cJ7DKIP
駆け上がった先の通路は下の階より更に増して、真っ暗だった

目を凝らした瞬間、マズルフラッシュが廊下の奥で光ったのが確認できた

彼の体を捉える。4発目の被弾

苛立たしい。明確に体の芯に響く、その衝撃が。痛みなど、物理的な影響では無い

垣根「チマチマ鬱陶しいんだよ!!」

最早被弾を気にすることなく、彼は走った

突っ込む彼の視界ではマズルフラッシュが幾度も瞬く

突き刺さった銃弾が、彼の体を変形させ、即座に修復される

垣根(複数居やがる。構わねぇ、潰す)

半分ほど駆けた先で、ぼんやりと人間の輪郭が有った

右手で払う。被弾で精神が揺れた為か少し感情的になった彼のその右腕は、全体的にぼんやりとしていた

巨大な金属と金属がぶつかり合うような音が鳴った。そして狭い船内の通路の壁が大きく窪むように変形していた。それは、彼の腕に殴られたからである

殴られた人間は変形云々の前に胸元から弾けていた。男の体を突き破った腕が、少しばかり伸びたその腕が、壁にまで到り変形させたのである

「ッ!」

舌打ちが、彼の正面、廊下の更に奥から伝わった

垣根「そこかよ」

左手の銃で声の方向を二度撃った。銃弾が壁に当る音が二度聞こえる

垣根(外れたか。なら直接向かうまでの事だ)

そしてまた駆ける。殆ど跳躍に近い動きで。廊下に足が付くたび、ガンガンと大きな音を伴いながら

垣根が近づいて、人影が消えた。そばの部屋に飛び込んだらしい

もちろん彼が逃がす訳も無く、その自動ドアがスライドして開くのを待たずに、最早人間の形を忘れた右腕でこじ開けた

廊下よりも僅かばかり明るいその部屋で、垣根の目に引きつった顔の男が居た
414 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/20(土) 07:50:14.00 ID:3cJ7DKIP
一瞬だけ顔を見た、あのコンテナヤードへ垣根を連れてきた男だった

垣根「さっきはドライブありがとよ。お礼に選ばせてやる。この右手と左手の銃、どっちで逝きたい?」

男を微妙に歪んだ顔で覗きつつ、両手を広げた垣根帝督

その彼を睨み、男は垣根の顔を撃った。これが答えだと言わんばかりに

グニャ、と変形し、微妙に白い何かが飛び散る。脆い定義の未元物質

衝撃で上がった顎がゆらりと戻った。変形した顔上半は元に戻り、しかし更に歪みは増している

垣根帝督という定義が、甘くなっているのだ。船内全てに能力の発現を乱す波長がある以上、能力=未元物質そのものの彼は歪む

垣根帝督という自身の経験と記憶が彼をその形にしていたが、これまでの彼自身を若干否定するような"彼"との会話によって生じた揺らぎと、銃弾を受けた経験がフィードバックされた事がきっかけとなって、彼自身が乱れていく

結局男からの答えはなかった。男の顔には右手の異常な握力が、胸部には銃弾が刺さっていた

『君はそっちへ行ったのだな。ということは、私達の勝利だ』

部屋に声が響いた。この声は、垣根をあの男が待つカフェまで連れて行き、そして定規の代わりに待ち合わせ場所に立っていた男のものだ

垣根「どういう意味だ?」

垣根は応える

『はは。我々本来の目的は"原石"の少年の入手。君が居るのは心理定規の小娘が眠っている部屋だ』

『君の目的が分からなくてね。そのために君をその部屋まで誘導させてもらった』

垣根「はッ。今からこの船自体を止めちまえば、どうにでもなるぜ、そんなもん」

『ちゃんと考えてあるさ、それくらいの事は』

会話をしながら、垣根は部屋の中央で横になっているカプセルへ近づいた。男が言うには、心理定規の少女がこの部屋に有るのだから

パネルを操作すると、外壁が格納され、中から何かの色をした液体で満たされたビーカーが出てくる

その中に、少女は有った。脳から首筋にかけて多数の電極が刺さり、股間には何かの装置が当て着けられている

垣根の顔が更に歪んだ

垣根「そうかよ。直ぐにその吠え面見に行ってやるから、首を洗って待っておくんだな」
415 :本日分投下終了のお知らせ。そしてまた核オチである。※今回は核融合ではなくて、核分裂の一般原子炉ですお。どうでもいいね [saga]:2010/11/20(土) 07:53:19.58 ID:3cJ7DKIP
虚空を見上げて、彼はそう応えた

『その少女を置いてか?それは我々にとっても惜しい損失となってしまうな。だがしかし、彼女からは十分な利益を得た。それで相殺しよう』

少し男の言葉が噛み合わない。垣根が定規を置いていけば、損失?逆ではないのか

垣根「前に言ってたこの俺の"体液"とやらか。てめぇらなんぞに分析できるほどヤワなモンじゃねぇぞ」

考えは後にして、まずは男との会話だ。そこから情報を引き出す

『それはどうかな。こんな時代だ、私も先端技術には詳しくてね。彼女の膣に残っていた君の体液を調べさせて貰ったよ』

『今の君は前に会った時より人間離れしているようだから、手元のコレとは違うかもしれない。だがこの液体からは、人間の遺伝子情報を模した未元物質で構成される、人間型の未元物質の情報が得られたよ』

『私なりに、どういうことか考えてみた。コレは仮説だが、君が人間であった時の経験と知識、そして記憶から、未元物質に変質しながらも今の君が構成されている』

『そして君が彼女と事を致した時、君は当然過去の自分のから人間の垣根帝督として自らを定義したのだろう。故に、こんなに研究者にとって都合のいい未元物質が得られたと言う訳だ。ハッハ、君には感謝しているよ』

不快

垣根「はん、他人のザー汁なんぞでそんなに喜べるたぁ、研究者ってのはやっぱり気持ちの悪ぃ連中だな」

垣根「その上意識の無い女からってのも気にくわねぇ。気にくわねぇよ、てめぇら」

『気に食わないから、どうするというのだね、未元物質?』

垣根「ゴミ箱行きだ。俺の体液と一緒にな。ザー汁なんだ、纏めてティッシュでくるめてゴミ箱行へってのがセオリーだろ?」

この船が海洋上に居る以上、話をしている男に逃げ場は無い、ハズ。だが

『残念ながら、手遅れだ。君と私のこの会話時間が、それを決定づけてしまった。十分な時間だよ』

垣根「なんだと?」

『その船は、沈むからな。最後にひとつ助言をくれてやる。そこの少女を守ってやれ。それが出来るのは君だけだろうから。……3、2、1、さらばだ、心理定規。君はいいエージェントだった』

ニュートリノを始めとしたいくつかの特殊波線が、彼の体を突き抜けた

その反応が意味することは、限られている。垣根は人間だったころの知識が、何が起きたかを明示する

本来ならば日本国籍の船に有るはずの無い、しかし船全体に常に能力者の行動を制限する干渉波を出し続ける為に必要な大量の電気エネルギーを安定供給する目的で設置されたとある形式の発電設備が、船外部へ出た一隻の船からの信号を受けて、暴走をしたのだ
416 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 10:57:14.16 ID:zN74w.DO
ここから前回と同じ流れになんかな?各キャラの行動は変わってるがどうなんだろ?
つかマジで上条さんのせいだな
417 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/20(土) 15:20:01.57 ID:LzI2PZgo
前回はこの騒動をきっかけに能力者VS無能力者になったんだっけ?
佐天さんまたはっちゃけちゃうのかなww

てか青ピがテレポしてるってことはピンクサラシはもう捕まっちゃったのかな?
418 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:39:47.71 ID:hzO1bmQP
郭「今どなたかとお話を?」

爆発音や銃声が彼らの下で鳴り響き、時折揺れるビルの屋上に来た女の第一声はそれだった

半蔵「いや、んなことはねぇ。それで、期待はしてないが何か分かったのか?」

青髪に押し付けられたものを自然に腰に隠して、彼は尋ねた

郭「学園都市へきてそれなりの時間は経っていますから、相応の情報筋の確保は当然。その筋から昨日は半蔵様の元へ辿り着く事が出来ました」

特に感心することも無く、半蔵は郭の顔を見た

半蔵「それはそれは。お前の自慢の情報ルートに感謝しなきゃな」

郭「そのルートを使っても現状の、この警備員対学生・生徒という構図の直接的な原因をつきとめるには至りませんでした。しかし、ここ最近の騒動の発端はシンプルです」

半蔵「ほぅ」

郭「9月30日に消えた3人の統括理事員の後続が、統括理事員としての役割を満足に果たせなかった事、つまり自らの派閥をまとめ切れなかったことで、外部に取り入られる隙を作ってしまった」

郭「既にお耳に入っているでしょうが、統括理事員達の派閥は現在二分しています。詳細に言えば中立を含めて三分とも言えますが」

郭「もともと12人の理事員達の勢力は均衡しておらず、そこへ後続3人の不出来、更に1名の欠員。その隙に最も上手く取り入ったのが、アメリカ」

半蔵「アメリカ……。時代遅れの超大国だな」

郭「確かに。しかし、その巨大な資本と交渉能力・諜報能力は侮れなかったようですね」

郭「外部勢力は彼の国を中心として内外でまとまり、ここ最近の技術者・研究者の流出を主導していたらしく、かなりの人間・技術が流出した模様です。彼らがわざわざ時代の最先端である学園都市を捨てるという選択に至った誘因については掴めませんでしたが」

郭「技術と人員はこの都市の重要な資産です。当然流出を止める為に、直接表に出てこない統括理事長なる者を中心とした学園都市保守派も各自対策を打ちました」

郭「この中には、あの浜面氏が現在属しているアイテムという組織の動きもあったようですね」

半蔵「そうか、アイテム。やっぱお前も関わっちまってたんだな」

郭「ですが、結果を見れば殆ど流出防衛には失敗していたようです。原因はいくつか挙げられますが、主なのは第二位の裏切や第一学区が上手く機能しなかった等」

半蔵「裏切に、第一学区か。そういや、あの後派手に吹き飛んじまったらしいな、第一学区」

郭「どうやら両陣営とも、今の様になるとは思っていなかった模様。その証拠に両陣営協力して表向きは隠しているようです。が、時間の問題かと。他国の程度の劣る軍事衛星の多くにも、その光景が映ってしまったようですね」

半蔵「そりゃ、世界の笑い物だな」
419 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/21(日) 23:44:20.44 ID:hzO1bmQP
貰ったライターを使って、煙草に火を付ける

郭の知識にはない模様が入っていた。ふぅー。と煙を吐く

半蔵「総合してみれば、俺達が今置かれている現状ってのは、学園都市とアメリカとの対立に巻き込まれてる訳だ」

止む事の無い爆音が、もう一度鳴り響く

半蔵「それでその対立が表面化したのか分からねぇが、どうにか作用して、学園都市中この有様になっちまったと。無関係なガキを巻き込んでまで」

半蔵(更に言えば、原因である外部のどこかの組織が、今俺に命令を出している)

煙草が不味い。ライターのせいか

あの青髪の顔がぼんやりと浮かぶ

半蔵「上層部のことは分かったが、お前も見た、あの青髪についてはどうだった?」

郭「何も。唯一分かったのは、学園都市の下層高校の生徒であるという程度の事だけ」

半蔵「……そうか」

元より期待はしていなかった。ゆっくりと煙草の煙が体の中に入っていく

じっと時間が流れる

日が傾いてきた。あの男に渡された情報に書かれた時間が迫っている

半蔵「ふぅー。ちょっとやる事が出来た。行ってくるわ」

吸い殻を地面に投げ、踏みつぶした

郭「どこへ?共に参ります」

半蔵「止めとけ。俺の問題だ。巻き込まれたら近い未来で問題を作りかねない。未熟なお前じゃ危険だ。どっか安全な所に身を隠すとかしてろ。下らねぇが、忍者を再興させたいんだろ?」

郭「……いや、でも!」

彼女を通り過ぎ、背を向けてビル屋上への出入り口の扉に向かう半蔵へ、彼女は自らの意思の声を出した

その少女の右側の開いた額に、まっすぐ飛んで来た一本の煙草が当たる。彼が放ったものだろう。仮にクナイだの千本だの銃弾だのであれば、彼女は即死だ。気が付けば彼はこちらを向いて立っていた

半蔵「ホラな、未熟だろ。……頼むから俺に、これ以上背負わせないでくれ」

呟くように言って、彼は扉をくぐっていった
420 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:11:51.34 ID:lm2bUVAP
見えない何かに驚き、その何かに反撃し、返ってきた見える銃弾と見える超能力が人を傷つけ、殺す

カメラから見えるその映像は、異様だった

アレ「規模はどうであれ、すでに多くの死者が出ている。君は、こんな状況を変えたかったものだと私は思っていた」

円柱に左手を乗せ、アレイスターを見る上条当麻を見下ろしながら、彼は言った

アレ「昨日だけでも、多くの者が死んでいる。そして、君は昨日まででも何をしていた?」

アレ「少数の妹達を救うために、一方通行と手を組んで第一学区へ向かった。そして、放射能が外部に漏れるのを防ぎ、彼自身を救った」

アレ「それはよい。とてもいいことだ。時間を捻じ曲げたことによる不確定要素の暴発などと言えるような、誰も予期していなかったかったことから、何万という人間を救ったのだからな」

アレ「他にも君は多くの活躍をしている。それも認めよう。しかし、同じ数だけ空回りもしているのも事実」

上条「……」

アレ「欧州へ行って帰って来て、早速君達の行動は外れた。君はあのライブ会場から何を得た?」

アレ「あの集まりも、今から言えば向こうの工作の内だった。十字教徒の魔術師を幾らか相手にし、それを仮想敵として設定していたこちらの、学園都市の失策でもある訳だが」

アレ「術式というのは、水の流れ道を作るような作業でしかない。"魔力"なんて言い方をする人間も居るが、それは今の世界では偏った捉え方でしかない」

アレ「故に、特定の水路の形に反応するようには設定していた。その穴を突かれた。失策だ」

アレ「話を戻そう。本来ならば、その日は本格的とはいえ骨董品級の兵装の供与の日だったが、結論、もっと厄介なものを配られたのだ。そして君もそれを持っている」

フッと逆さ吊りの人間の姿がビーカー内から消える。おしりに手の触れる感触がした

その人間は後ろに立っていた。右手に何か三角形の物を持っている

アレ「見た目通りただの石油製品、なら良かったのだがな。この学園都市にとっては最悪のファンサービスだよ、これは」

その人間は3〜4cmの白いギターピックを人差し指と親指で持っていた

その表面には何かの模様が光って浮かびあがっていた。見慣れない。少なくとも十字教系列などからは離れているだろう

アレ「知る人間が見れば子供騙しのようなものだが、よく見ておきたまえ」

上条から1mも離れていないアレイスターの周りに光やら氷やら銀の槍やら炎やらが浮かび、上条へ向けて放たれた

使えない右手と、離すわけにいかない左手では、攻撃を防げない

アレ「安心していい。君を攻撃したい訳ではない」
421 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:12:55.86 ID:lm2bUVAP
その人間がそう言い、上条の手前でフッとそれらの攻撃は掻き消えた

アレ「今見せたのは、ただのホログラムでしかないが、結論は一緒だ」

アレ「保有者の脳へ直接働きかけて幻覚・幻影を見せる。これは彼の宗教で使われる植物ペヨーテの性質を表象化した、そういう類の立派な霊装だ」

アレ「その幻影で、持っている人間を操る。彼らが行っているのはそういう事だ」

アレ「脳に直接働きかけて幻覚を見せる。そういう性質のせいで、君には影響を表す事は出来なかったようだが」

上条「ちょ、ちょっと待って下さい。ということは、この映像に映っている人間すべてがそれを持っているという事ですか」

アレ「当然、200万を超える人間が居る学園都市全員に、コレを配る事は不可能だ。せいぜい千人規模が関の山だろう」

アレ「だが、確かに彼らのやり方なら、それは無理な事ではなくなる。もちろんギターピックを配るという訳ではないよ」

表示されていた映像が切り替わった。人気のない場所に、生気を失ったスキルアウトが立っている。動かない

そんな映像と言うよりは画像のようなものがざっと100近く小分けに表示された

そして最後に、学園都市の地図が映される。その中で光点が100以上光っている

アレ「もう分かるだろう?」

その光点を線でつなげば、浮かび上がるのは先程のギターピックの表面のガラと同じマーク

アレ「この学園都市全域にわたる広域の魔術。範囲内の人間には、同様の方法で幻覚が見える。そして魔術陣を描いているスキルアウトが、幻影を見せられている者が見ない様に、元より居ない様に、そして何より攻撃を加えない様に脳へ働きかける」

アレ「唯一違うのは、コレを直接持っているスキルアウトの様な、直接行動を操ったり等は出来ないことぐらいだな」

アレ「そしてこの広域術式が見せているのは、先程私が述べたような事に加えてもう一つ。誇張・拡大された敵意の幻影化」

アレ「例えば、発火能力者が警備員と対峙したとしよう。警備員には炎が襲ってくる様に見え、発火能力者には警備員が銃撃してくる様に見せる」

アレ「うまくしてやられた。昼にあった連続爆発によって学園都市中に拡がった警備員は、原因を特定できないが故に苛立ち、周りを疑う」

アレ「それが、授業が終わって開放感あふれて帰宅の途に就いた生徒や学生たちには相対的に大きな負の感情つまり敵意として認識され、術式によって誇張された敵意が幻影・幻聴をもたらす」

アレ「帰宅中に急に銃で撃たれれば、力のあるものは反撃しようとし、力の無い物は逃げ惑う。そうして、一気に学園都市中に混沌が拡がる」

アレ「もともと歪な社会構造であったこの都市だ。今更私が部隊を派遣して沈静化を図ったり、広域術式を構成する無能なる者達を排除した所で、結果は変わらない。むしろ幻影に捕らわれて悪化するかもしれない」

いつの間にかビーカー内に戻ったその人間は珍しく悔しそうな表情を作った

しかしながらその表情には、明確に余裕が見て取れる
422 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:13:31.03 ID:lm2bUVAP
上条「その割には、余裕そうですね」

アレ「余裕など。この後もっと明白に動きを見せるに違いない。恐ろしい事だ」

上条「そうですか。ん、ドラゴンについての情報収集、終わりました。これについては感謝します」

アレ「そうか。では帰る前に一言、言わせてもらおうか」

上条「なんでしょうか?」

アレ「君たちにとっての敵は、今や明白だろう?なぜ直接頭を叩きに行かない。君には能力的にも資金的にも十分に可能なはずだが。なぜこんな都市で迷走を続けるのだ?」

アレ「恐らくだが、君にはこの質問に満足には答えられないだろうな。母国を叩くなんて、極力したくないものであろうよ」

アレ「いや、君たちの場合は、その規模や大きさを知るが故に、直接的に敵対したくない、というの方が大きいのかもしれないな」

アレ「だが、君は既に幾度か命を狙われている。アメリカ側の刺客に、ね。ここでじっとしていれば、全力を出せない君では、何れ上条当麻は失われる。認めるべきだ。そろそろここで出来ることも限られているだろう?」

上条からの言い返す言葉はなかった

上条「……ありがとうございました。帰ります」

アレ「ふむ、そうか」

上条「折角ですので、こちらからも一言。私は、私達は母国に対して特にこれと言った情がある訳でもありませんし、信用もしていません」

上条「そして、同様に貴方も信用してはいません。前に貴方が説明した時間を巻き戻すことについても、不審な点がありますから」

完全に睨むように、上条はその口を動かして言った

アレ「ふふ、私を信用しない、か。当然だ。君は、君なのだからな。強制するつもりは無い、好きに動くがいい。少なくとも今の私は、君に干渉するつもりも無い」

上条「……その余裕が何時まで続くか、疑問ですね。私達に対しても、…アメリカに対しても」

好き勝手にやれ。それを言うには言うだけの余裕があるのだろう

視線を外し振り返ると、上条はアレイスターの正面から姿が消えた

誰もなにもないそこに、逆さの人間は視点をそのままにしていた

アレ「……ふむ、人工知能も、まだまだ底が浅い。結局、両者とも私の真意までは踏み込んで来なかったか」

ポツリとつぶやいた

アレ「当然か。私の手の平は、君たちが考えている程狭くないのだからな」
423 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 00:17:36.76 ID:WBxRAB2o
やっぱり上条さんが悪いってか中の人たちが悪かったんだな
424 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:21:11.01 ID:lm2bUVAP
もとより対核暴走などは考慮に入れていない輸送船の薄い壁は、当然その衝撃を殺しきれない

暴走した炉心は、彼らのいる船尾部に有った。恣意的に暴走させた原子炉の威力は人災とされる事故的な暴走よりも効率よく暴走する

もし対能力者設備が無ければ、彼女が入っているカプセルごと未元物質で包み込み守る事が出来ただろう

もし男との会話のなかで少女を容器の中から助け出していれば、その腕に抱いて守る事が出来ただろう

だが現実は、どちらも彼には出来なかった

不味い。そう思った時既に、自然に体は動いていた

人間の形を失ったその右腕で少女の入っているビーカーを叩き割り、その腕で彼女を強引に抱き締める。ささっていた電極をも強引に引き抜いた。出血と共に

それが、彼にできた瞬時の行動の限界だった

臨界を迎えた核のエネルギーが一瞬で全てを溶かし、吹き飛ばす。能力者用とでも言うべき輸送船の船尾部は、一瞬で瓦解し海へ飲まれていく

そして制限の消えた彼の背中から、6本どころでは無い、巨大な翼が洋上で展開した。海に反射して見えるその清い姿と、反対に沈降していく船

しかし。腕に抱かれた少女の体は、不十分だった

守れたのは、上半身だけ。彼女の太腿から下は無かった

垣根の羽が、強引に接続端子を抜いた頭部と脚部から洩れる血で、赤く染まっていく

調整装置との接続をプラグを抜くという方法で強引に断ったのだ、彼女の意識はまだ暗がりの中で鎖に繋がられたままなのかもしれない。それは垣根が彼女の怯えた顔を見て取った勝手なイメージなのだが

垣根(病院に連れてって……。間に合うか、これは。というより意味があるのか、これで)

胸元の少女は昨日までのぬくもりを徐々に失っていく。未元物質で包んではいるが、出血が止まったりするわけではない。根本的に生物を構成する物質では無いのだから

垣根(ああもう、効果があるかは二の次だ。間に合わせてみせようじゃねぇか)

感情を押し殺して、陸の方へ眼を向ける。ほんのかすかに見えるロサンゼルスの光。彼にとってその距離は遠く無い

確認ついでに振り返った。日本にいつか辿り着くであろう大海原のギリギリ視界内に船が一隻、結構な勢いで走っている

恐らくあれに、さっきまで会話をしていた男が乗っていて、更に、恐らく意識を失った状態のにでもされた原石の少年も乗っているのだろう

垣根(あのガキは。いや、今はコイツを優先だ。いざとなりゃ、学園都市まで直接迎えに行ってやる)

彼は「天使たち」と名の付いた都市へ向かって、天使の姿で羽ばたいた

「天使たち」と名の付いた都市。そこへ近づいている天使は、彼だけでは無かった

彼の視界に夜のロサンゼルスの光が大きく目に入り、あと1kmといった所

ロサンゼルスの町に人工的な電気の光とは別の光が波紋の様に拡がっていった
425 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:39:31.68 ID:lm2bUVAP
「今上条さんは居ないっすよ電話なら後でもう一度掛け直すか直接あの人の携帯にお願いしますですハイ」

ガチャっと受話器を落とした

ここは、とある会社のオフィスの一部屋で、便宜的に証券取引対策室という札が部屋の入り口には掛っている

しばらくしてトゥルル、と音が鳴った

「だからさっき直接携帯にって言ったじゃないですか何用ですか。ここに一人居残りデスクワークのオレに対する嫌がらせですかそうですか」

『切られたら掛け直すのは手間なんだよ。いちいち自動音声のアナウンスから女性のオペレーター通して、ってどうでもいい。安直に切らないでくれ』

「なんで掛け直すんですか面倒なんですよこの溜まった書類整理は!フリーで好き勝手に動けるアンタには分からない苦しみでしょうけどね」

『好き勝手といっても、妻にいちいち許可を得なきゃ動く為の資金すら引き出せなくてね、君が思っている程自由じゃないぜ?』

「妻帯者は大変ですねー。俺みたいにそういう面じゃフリーなのがうらやましいでしょ俺はアンタらがうらやましいぜ畜生!」

『あのな、結婚は人生の墓場なんて言うだろう?妻帯者には妻帯者の悩みが有るんだ。フリーな田中君には分からないだろうけどな』

田中「はいはい綺麗で若い奥さんが居る人はうらやましいなー犯罪じゃないのかなー。ってうわパソコンフリーズした最悪だアンタが関わるといつもこうなんだ」

『俺が何かしてるってわけじゃないんだけどな』

田中「いいや違う違うんですよ御坂旅掛さん。思えば最初会った時からおかしかったんだあのときも俺が入ろうとした店をさんざん蹴った上条さんが入ろうって言った店にアンタがいて金髪ねーちゃんには殴られるわ原石がらみでハリウッドスター張りの大活躍だわ何処が平凡な企業戦士だよ畜生!今考えればベタベタな誘導じゃねーか!!!」

旅掛『ああ、あの時はそういうシチュエーションだったからな、君とは初対面だったし、仕方が無いことだ。だけどあの人が居たんだ、結局は万事うまくいったろ?若いころはもっと無茶したもんなんだよ、あの人。まぁフリーな田中君の女運が無いのは、あの人にそういうの全部吸い取られているからってのもあるかもしれないが。学園都市もそういう所を研究すればどうだろう?おっと、これは案外いい思いつきかもしれないな』

田中「研究途中で研究員が辟易してソッコー終わっちまいますよそんな実験。それで何でここへ電話を?」

旅掛『いや、ちょっとあの人に用が有ってね。携帯にも出ない。言伝を頼んでもいいかな』

田中「いいですy、いやちょっと待てよどうせアンタとあの人絡みなんだ碌な事なわけが無い」

旅掛『おいおい、仮にも君は上条刀夜の部下だろ?今回の事はちょっと急用だしな』

田中「映画にあこがれてこの業界に入ったらこんな仕事。そんで舞い込むのは碌な事が無い不幸だー。……わかりました受けまs、ってあ、上条先輩」

旅掛が耳に押し当てた携帯の奥から、話をしたかった人物の声がする。御坂旅掛はまだアラビアだ。ついでにペットボトルの水を口にする
426 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/22(月) 00:40:31.07 ID:lm2bUVAP
刀夜「御坂君がここの回線に?ああ携帯、電池切れてたのか。さっきまで長時間ぶっ続けで電話してたからかな」

田中「どうせ女絡みでしょうなんでこう世の中は平等じゃないんだ」

田中と呼ばれる若い男の前に立っている男の衣類は所々乱れていた。なぜ乱れていたのかは不明だが

刀夜「女性絡みは否定しないが、君が思っている程いいものでは無かったよ。まだ繋がっているかい?」

刀夜が田中に聞くと、彼は頷いた

刀夜「代わったよ、上条だ。すまなかった、携帯の電池が切れていたらしい」

旅掛『いやいや、昔に比べればあなたと連絡が付かないなんてことも少なくなって、さみしいぐらいでしたからね。久々のヒヤヒヤ感でしたよ』

刀夜「私も若くないからなぁ。無茶はしなくなってしまった。夏あたりには若い者と手合わせする機会が有ったけど、酷いくらいに一方的だったよ」

旅掛『歳には勝てないですよ、ホント。そう言えば代わりの若いのが居るでじゃないですか、そこに。彼に無茶させればいいんですよ』

聞こえていたのか、パソコンを再起動しようとしていた田中が口に含んでいたコーヒーを吹き出した。パソコンへの致命傷にならない事を刀夜は祈る

刀夜「この部署にいて、オフィスワークに回っているんだ、察してあげてくれ」

スーツを着ているので分からないが、田中と呼ばれる男の衣類の下は包帯だらけである。その事実は無論、旅掛には分かる訳が無いのだが

旅掛『……そういう訳でしたか』

刀夜「あと、今は君が私に敬語を使う必要も無いだろう?」

旅掛『昔の癖です。嫌なら直しますよ?』

刀夜「その辺は周りの目や状況もあるからね。臨機応変・君の好き好きで構わない。それで要件は何かな?」

旅掛『少し耳に入れたい事がありまして』

その後に続く言葉が無かった。つまり直接会って話をしたいという事だろう

刀夜「そうか。今君は何処だい?」

旅掛『中東・アラビア半島です』
427 :本日分投下終了のお知らせ。田中なんてキャラクターを出すとは自分でも思っていなかった [saga]:2010/11/22(月) 00:43:35.35 ID:lm2bUVAP
刀夜「中東……。そうか、ふむ、これは都合がいいかもしれない。こちらから会いに行くよ」

旅掛『わざわざこっちまで来なくても。俺が都合のいいところに行きますよ』

刀夜「……アメリカの息が強いところでは、私達の都合が悪い。そういうわけだよ」

旅掛『把握しました。ではこっちで待っておきます』

通話が終わったようで、田中の目の前で受話器を下ろした

田中「今からですか。この書類整理が終わりそうにないんですけど後一日ぐらい待つってのは?」

刀夜「残念ながら、平凡な企業戦士は取引相手の急な応対にも答えなきゃならないんだよ。そういう仕事は移動中に、だな」

あぎゃーできるかよちくしょーこんなのどう考えても平凡じゃねーと叫ぶ後輩を見て笑いながら、自分の若かった時を思い出す。といってもそんなに年配では無いのだが

田中「ああそう言えば"OP:30silvers"の初期段階は抜かりなく実行出来るようですって連絡ありましたよ既に消しちまったので今更見聞きできませんが」

刀夜「そうか。彼には期待しないとな」

田中「いいんすか?ボスがここにいや今度はアラビアかアラビアなんかに居て」

刀夜「私達が行ってもこの体じゃ足手纏いだ。それに、この計画は学園都市だけをどうこうするものじゃない。狙いは名前通りなんだよ」

田中「あーあーそれってどう考えても下手すると首ですよねこの仕事。日本で買った車のローン残ってるんすけど」

刀夜「なぁに、表の仕事は何とでもなるさ。それに君ぐらいの能力が有れば、裏でも他組織で返り咲くことも出来るだろう。仮にそんな状況になっても私が生きていれば、渡りはつけるさ」

田中「やだな冗談っすよこれ以上先輩には頼れませんってもうバンバン命令してくださいよ。ははは」

刀夜「ははは。じゃあ、この本社からの追加の資料の分析も余裕だよね?」

一瞬ぎょっとして、徐々に表情が変わる田中

ちょこの状況で更に追加とか過労死しちゃう過労死しちゃいますってねぇ移動時間をフル活用しても無理ですってまた徹夜かようわあああ

ロサンゼルスの夜の一オフィスで田中の声が木霊する中、突如大規模な衝撃が奔った

もちろん、彼らの居た建物も、その衝撃に飲み込まれた
428 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:03:48.40 ID:a7OZg4go

そういえば人工知能と上条さんの対話が無くなってから空回りがひどくなったよな…
429 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:08:31.58 ID:WBxRAB2o
まさかの田中だな
つかsilversってのはねーちんか?salvereじゃないのか?
OP:30silvers→おっぱいでかい30過ぎの聖人?
430 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 01:50:31.91 ID:IwP4STc0
まさかねーちんが30人居るのか?
>>1乙!
431 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/22(月) 18:27:59.08 ID:RAzJcrQo
OP:30silvers
訳:30人のおっぱい聖人
432 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします :2010/11/22(月) 22:28:18.65 ID:CU527AAO
>>431
なにその俺得。
一人わけてほしい。
433 :ね、ねーちん30人だと……?それもありっちゃありだ。おっぱい・・・ [saga]:2010/11/23(火) 00:01:18.29 ID:gvW3Ax2P
彼にとって一番手っ取り早い組織はもちろん、そこらに跋扈している警備員だった

見るからに警備員風の男達がビルとビルの間に立って何かしていたので、彼は迷わず話し掛けようとする

彼の、一方通行の知るところではないが、無能力者が引き起こした謎の連続爆発事件の一現場がそこだった

彼としては至極無難に、「一体こンなトコで何をしてるんですかァ?」ぐらいの態度で話を切り出そうと思っていたところ

彼の持つ現状への苛立ち、打ち止めを始めとする妹達が原因不明に苦しんでいることへ、対症療法ばかりで具体的な打開策が見えないことへの自己への不満が災いしたのかもしれない

現場調査でやっぱり何も原因が分からない警備員達には、声を出した一方通行の周りには危険な空気の渦が見えた

一方「何してるンですかァ?」

彼は予定通りそう言った。だが

一方【テメェ等俺のシマで何勝手なことしてンだ。とっとと帰ンねェなら、ブチ殺すぞ】

彼らにはこう変換されて聞こえた。ここから立退けという意味で捉えられた

捜査している側からしたら、この言い方は、コイツは何か知っている・ここには何か証拠や原因が分かるものがある・それを隠すためにこの男は自分たちを排除しようとしている。と解釈される

明白に見える一方通行の敵意の塊、つまり能力による脅しまで幻視(み)えてしまったら、彼らの取る手段は一つだ

一方通行へ向けて、そこへ居た4人の警備員は銃口を向ける。明確な戦意を込めて

そしてそれは、一方通行にとっても幻想を見せさせられるには十分な敵意となった

だが、あらかじめこうなった時の為に自分の能力が使えるよう、スイッチをオンにしていた彼には、幻想を見せる術式による作用は正常に働かなかった

警備員が一瞬銃を撃ったように見えても、実際には銃を撃った際の実弾の動きや、生じる空気の乱れも無く、そもそも彼らは動いていなかった

チラチラと幻覚と現実が入り乱れる

一方(なンだ、コレは?代理演算にバグや遅延でも起きたってのか)

「なんだお前は!大人しく両手を挙げてそこに伏せろ!!」【ノコノコ出て来やがって、殺されても文句は言えないよな!!さぁ伏せろ!的にしてやる!!】

警備員達の声が、幻聴と現実の声の二つ同時に伝わった。同じ声が二つに聞こえる
434 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 00:02:07.85 ID:gvW3Ax2P
あからさまな違和感。同時に、後者の台詞に対する反応として、当然のように出てくる抵抗感・反感がきっかけとなった

警備員には、目の前の白モヤシがこちらの制止を振り切って、その能力を行使したように幻視えた。具体的には彼らを吹き飛ばしかねない強い暴風として

「うわぁあああ、き、貴様!!」【やりやがったな、コイツ!!】

一方通行からすれば、かなり滑稽な光景だった。何も無いのにいきなり全員が両手で顔を覆いながら仰け反って、声を上げたのだから

そして同時に銃弾が弾きだされる。反射は不味い。下手をして殺してしまえば、後々面倒な上に、本懐である彼らの上層部に辿りつけない

銃弾を逸らし周りのビルの壁へ突き刺さるように。彼が設定したそれは正常に働いた。実弾に対しては

実弾の中に幻想の弾が混じっている。幻想の銃弾は、確かに逸れてねじ曲がった軌道を描いてはいるが、彼の思うような動きではなった

この類の違和感を感じたのは初めてではない。自らが属する組織の中に、不用意に近づけばその感覚を味合わせてくれる海原(仮)が居るのだから

能力者による幻聴幻覚作用ならばそもそも効果が無いか、現実でない弾は彼の指定通りの軌道を描くハズ

一方(代理演算のコンバートも正常、こんなバグは今まで無かっ、いや、打ち止めがなンかの負担を受けてる影響か…?)

その答えは違うのだが、彼にはその答えの方がしっくり来た

昨日までは無かったこのような影響が妹達に出始めているならば、なおさら早く原因を特定しなければ

一方「そっちがその気なら容赦しねェ」【次は脅しじゃすまねェ。バラしてやンよ】

この隊の長を残して、勝負が付くのは一瞬だった

ヘルメットやアーマーを着こんでいるから恐らくは大丈夫であろうが、コンクリートの壁が円形に凹んだ下に三人の警備員が意識を失って横たわっている

一方「テメェ等のボスは何処にいる?教えてもらおうじゃねェか」【お前らだけじゃ満足できねェンだ。警備員ごと潰してやるから、上司が居る場所を言ェ】

壁を背に座り込んだ警備員隊長の顔の横に、現代的なデザインの杖を向け、わざと壁に先を当てガッと音を立てた

それだけで、現場隊長には顔の横の壁が吹き飛んだ様に見え、それに相応しい音が鼓膜を破る勢いで聞こえる

相対的に増した一方通行の敵意が乗数効果的に上昇し、隊長は明確に死の恐怖を感じた

彼の質問に答えないという選択肢は残っていなかった
435 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 00:04:46.33 ID:gvW3Ax2P
「なんだか外は危ないから部屋でじっとしてるですよ―」

結標の携帯電話からは、そんな声が聞こえて、彼女は肯定的な応えを返して切った

結標「とは言っても、実はもう外なんだけど」

自分に襲いかかってきた警備員と能力者達を軽く昏倒させて出来た山の上に座る彼女は、そう誰ともなくそう言って携帯をポケットへしまった

その服装は独特のサラシが目立つ

日が傾いて、そろそろ暗くなり始める

この状況下で停電などが起きれば、一体どうなることか。真面目に考えなくとも明らかだ

ただ確かに、仲間を助け出して外へ出すには好都合かもしれない

こんなことになる事を恐らく予期していただろうあの青髪は、本当に何者なのか

実際に二人いるのか知らないが、彼女は実質二人の青髪を知っている

すこし調子のおかしい関西弁を話す青髪と、やたら紳士的な話し方をする青髪

ピアスの位置まで、見た目は全く同じ。いや、服は違ったが、それは日による問題だろう

この二人は同一固体なのか、もしかすれば二つの固体があるのか

第三位のクローンがこの学園都市では大量に造られた。厄介なことにそういうことも可能性としては除外できない

そうなればどちらが彼女の味方なのか。もしかすると両者とも敵なのか

このままここに居れば、どちらかの青髪が来て、仲間の奪取に協力してくれる、ハズ

だが、彼らのメリットが見えない。何が目的なのだろう?

というより本当に、仲間を助け出すのか?

彼女の中でぐるぐると思索が巡遊していく

コツ、コツ、と音がする

近づいている

さて、現れるのは、どんな青髪のピアス男だろうか
436 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 00:16:02.09 ID:gvW3Ax2P
半蔵「お前らは何だ、俺の監視か何かか?」

青髪に渡された携帯端末のディスプレイに描かれた場所に来て、ほんの数秒立っていると、複数の気配が彼の周りに現れる

「監視?いいや。仲間、いやチームかな。お前もどうせあの青い頭したピアス野郎に、だろう?」

ヌッと影から現れた男の格好は、それほど珍しくも無い普通の学園都市の住人達だ

半蔵「ってことは、お前らも人質を?」

「人質ィ?んなモンねぇよ。俺ぁ学園都市相手に戦えるって言うからよぉ」

また違う男が現れ、言った。手には炎を纏っている。半蔵には、自分の能力を誇示したいように見えた

「あぁ?。お前何かっこつけてんだよ?少年院から出る為の身元引き受けの交換条件で働けって話だったんだろ。知ってんだぜぇ?なんつったってぇ俺も一緒だからな。ハハッ」

また違う男が現れる。その男に続いて更に3人の男が現れた

発電能力だの発火能力だの気流能力だの念動力だの。誰も彼もこの都市では珍しくない能力で、最大強能力程度の、言ってしまえばゴロツキの集まりだった

動きもそんなに洗練されているようでは無い。この程度では、無能力者の半蔵でも十分抑えつけられるだろう

彼ら全員が共通しているのは、あの青髪に使われていると言う事だけ

「どうやら、他にも俺らみたいなのが集まっててよ、複数同時攻撃を仕掛けるんだとさ」

半蔵が持っているのと同じ携帯端末を覗きこんで、その中の一人が言った

「はーん。他の連中なんぞ知ったこっちゃねェよ。つーかよぉ、こんな所で無駄に駄弁らずに、とっとと動こうぜ。暴れたりねぇんだ」

「お前はここまで来る間に散々暴れただろうがよ……。馬鹿は元気だねぇ」

「おいお前ら、ですの、とか言う口癖の中坊の風紀委員が居たら俺の獲物だぜ?俺はアイツに捕まったんだからなぁ。ぐちゃぐちゃにしてやる。いろんな意味で」

「はぁー?どうやらお前の脳は猿かそれ以下だな。今日の相手は風紀委員はねぇだろうがよ。居たとしても警備員か、そんな連中だ」

「そうかよ。でもんなことどうでもいいっつーの。オイィ!早く行こうぜ!」

「落ち着け馬鹿。お前の手に持ってるもの良く見ろ。まだ一人来てないだろ。その上時間でもねぇ」

半蔵(んん?俺が貰ったのとは違うな。味方は女一人だったハズだ)

半蔵は自分の端末を覗いた。記憶は間違っていなかった
437 :ゴキブリキタヨー [saga]:2010/11/23(火) 00:16:52.19 ID:gvW3Ax2P
半蔵「悪ぃ。俺のちょっと調子が悪いみたいだ。お前の見せてくれよ」

「ハァ?ついてないな、お前。ほらよ」

手頃な場所に立っていた男の端末を覗きこむ。彼らの物も間違っていない

半蔵(あぁ、そういう事。こいつらが派手に襲撃してる中で潜入しろってことね。要はこいつら囮か)

今一度周りの連中の動きを見た。なってない。これまでもこれからも能力任せなのだろう

半蔵(所詮は使い捨ての駒か。……いや、俺もその使い捨ての一人だろーな)

半蔵「ありがとよ。やっぱ俺の壊れてるみたいだわ」

「大丈夫かよ。運が無いと、へたすりゃ死ぬぜ?」

半蔵「いいや、これで俺の不運が消えちまったんだよ。残ってんのは幸運だけってね」

物は言い様だな、といって男は離れ、ゴロツキの輪に戻った。逆に半蔵は少しその輪から離れた

背中が何かに当る

?「貴方が半蔵さんですね」

振り返ると、白い服を着た少女が立っていた

半蔵「そうだけど?あぁ、お前が最後の一人か

?「はい。そうです。本日は、宜しくお願いします」

無機質で機械的な声だった

半蔵「りょーかい。おい、お前ら来たぞ」

半蔵の声に反応して、男たちがこちらを見た

「やっと来やがったか」「どんだけ待たすんだ、クソアマ」「まぁ、予定通りの時間だけどな」「あぁ?女かよ、足手纏いは勘弁してくれ」

半蔵の前に出て、思い思いの事を言う集団へ、生気の無い目を向ける

?「お待たせしました、皆さん。時間です、行きましょう」

白い戦闘用の服に対して、黒く長い髪が特徴的だった
438 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/23(火) 00:21:35.50 ID:gvW3Ax2P
朝6時のロンドンは、雨だった

「建宮さん……」

病院の窓を通して、天気を眺めている男が居た。松葉杖を持ち、体中に包帯を巻いて

建宮「……昨日は、急に雲行きが悪くなっていったからなぁ」

昨日から降り続く雨が降り始めたのは、あの戦いが終わってから。意識を失った彼がそんな天気の変化を彼が知るはずもない。詳しく言えば、雨が降り始めたのは正確には今日からだ

適当な事を言った後は二人とも、なかなか、次の言葉は出てこなかった

建宮「五和よぉ。結局、何人、逝っちまったんだ?」

五和「……13人、です」

五和は答えたが、建宮がその数を知らないわけがない

建宮「嫌な現実ってのは、なかなか受け入れられないものなのよな。今までに人死が無かった訳じゃないというのに……。全く俺も、まだまだ……」

それ以上続く言葉は無かった。五和も目を伏せる

建宮「女教皇」

雨に混じるように、呟いた

「どうして」

その言葉が口に出たのか、それとも頭の中で呟いたのか、彼女には分からなかった

窓の外を見続ける男と、手前で崩れる女

その空間を割って入る事は誰にも出来なかった
439 :無駄に田中と刀夜のくだりが長くなってしまった。田中とか殆どオリキャラだろこれ [saga]:2010/11/23(火) 00:36:56.17 ID:gvW3Ax2P
「へへっ、先輩、無事、ですか……?ゴホッゴフッ」

「う、うぅ……」

瓦礫の上で、上条刀夜は横たわった目を覚ました。目の前の田中越しに、夜空が見えた

腹部が濡れている感覚がする

手を伸ばすと、赤い液体が付着した

自らの体は、打撲の様な痛みは有るものの、出血を伴う感覚は無かった。ということは

田中「へへ、御坂さんに、上条さんの、代わりに無茶するように、言われちゃい、ましたからね。……無茶、しちまいましたぁ」

刀夜「田中、くん?!オイ!!しっかりしろ、しっかりするんだ!!田中、たなかぁぁぁ!!!」

刀夜を守る様に、覆う様に居た、田中の体が刀夜の上で崩れた

その開いた瞼もゆっくりと閉じる

刀夜はその手を両目を隠すように置き、震えて、押し殺したような声を上げた

田中「……へへへ」

田中の口から声が漏れた

田中「ははははは、遂に遂にあの上条さんを騙す事が出来た!今までどんな仮病も言い訳も全部見破ってた上条刀夜を騙せたぞ」

刀夜は目の上の手をどけた。同時に元気よく田中が立ちあがる

田中「僕の血な訳ないじゃないですか良く見てくださいこれプリンターのインクですよ。だいたいですねあれだけの事が有って瓦礫に押しつぶされずにこんなとこで寝てるってことは、どっちかが無事で」

刀夜「田中君」

刀夜の声が割り込んだ

田中「運んで、ってなんすか?」
440 :個人的には早くフィアンマさんを本格的に活躍させたいわ。すごい遠く感じるけど [saga]:2010/11/23(火) 00:38:30.40 ID:gvW3Ax2P
刀夜「ありがとう。君が、私をここまで運んでくれたんだろう?あの状況下で大したものだよ」

田中「言ったじゃないですか御坂さんに代わりに無茶するように頼まれたってあれちゃんと聞こえてたんですからね。まぁ俺がいや僕がこんな動き出来るようになったのも上条さんのお陰ですよ」

刀夜「いやぁ、今の君は、若い時の私よりもよく動けるんじゃないかな」

田中「そんな褒めないで下さいよなんか怖いじゃないすか俺上条さんにいm」

刀夜「だがね」

田中「ままで褒め、ってはい?」

刀夜「今のは酷いだろう?!酷過ぎるだろ!!そりゃ助けてもらったのは感謝するが、私は本気で、本気だったんだぞ!!田中君、君には部長権限で私の分の資料分析も任せる!量は君にさっき渡した分の倍以上だ!!なぁに安心してくれ、情報媒体はクラウド化されてるからな!紛失することなんてないぞ!!ははははh」

田中「ぃええええ?ちょ冗談厳しいですよ二倍とか一週間一瞬たりとも眠れないじゃないですか過労死どころか骨だけになっても書類と睨めっこですよそんなん!!」

むちゃだー!!と言う田中の叫びは、違う轟音と突風によって掻き消された

田中は振り返り、刀夜はその光景を凝視する

巨大な、それこそ100m級の翼を何本も持つ何かと、小さな何かがぶつかっていた

翼とその人間が重なる度、大きな衝撃がロサンゼルスの街に奔る

田中「あぁっあの羽のは未元物質資料で読んだえっとか垣根帝督だ確か先輩前に会ってましたよね!」

刀夜「う、うん。あれは確かに彼の様だが……じゃあ彼とぶつかり合ってるあれは何だ?」

一際大きな衝撃が生まれて、大きな翼を持つ方が弾き飛ばされる

そして、小さな何かが、ぶつかり合っていた時よりも更に大きな衝撃を生んで、街を叩きつけた

何か危険を感じて、刀夜と田中は地面から突き出た鉄骨の影に跳んだ

何とか形を保っていた僅かな建物が耐えきれず吹き飛んだ

数値で言えば、10kt分の威力を持った爆弾の衝撃のみといったところだろうか。熱は無く純粋な衝撃、寧ろ超突風に近かった

地面から突き出た瓦礫に囲まれて、更に頑丈な鉄骨の影でなければ、彼らもバラバラに吹き飛んでいただろう
441 :本日分(ry [saga]:2010/11/23(火) 00:40:09.94 ID:gvW3Ax2P

田中「っぷはーなんなんすか今のは上条さん」

刀夜「私の経験にも、流石にこんなのはないよ。いや、今年の夏に見た天使とやらに近いのかもしれない。うむぅ、確かにこの威力を何度も食らえば、ロサンゼルスの近代建設も歯が立たないだろうね」

田中「垣根帝督が反撃してますよそうだーそんなもんやっちまえっつかやっちまってくれないとこっちが死ぬからマジ頑張って垣根ていとくーん……あ、消えた」

小さく光っていたものが、まるでエネルギーを使い果たしたかのように消えた

それに応じて、垣根の巨大な翼は小さくまとまり、地面に消えるように降下していった

田中は興奮して実況しているが、ただうるさいだけだった。混乱しているのだろう

終わってみれば、300万を超える人口を誇る全米第二位の都市は、面影も無くなった

刀夜「……酷いな、これは」

二人は壊れた街を歩く。普通の人間なら、平凡な企業戦士なら、間違いなく取り乱していただろうが、彼らは冷静だった

惨状を、見慣れているかのように。探しているのは高速移動手段、つまり車だ

田中「うーんもっと早くに御坂さんの待つアラビアへ行っていれば巻き込まれなかったのにな……あ」

田中「ちょどうしますどうするんすか上条さん。今ので絶対空港もお釈迦っすよ。どうやって中東まで行きます」

刀夜「それだよ。今それを考えていたんだ。この分だと海路も駄目だろう。弱った。せめて無事な車が一台でも見つかればいいんだが」

田中「そうすねーここまで破壊しちまったら軍支援の救助隊とか来るでしょうしその時に軍の車を一台拝借するとかって、どうです?」

刀夜「ほぉ。入ってホヤホヤの君では考えられなかった発言だ。うん、成長したな君も。なら、仕事量が少々倍になった所で大丈夫だろう」

田中の顔が悲哀に満ちた
442 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/23(火) 00:44:36.31 ID:NFBE6aso
乙!
予想通り俺たちの佐天さんきたな
キレイな花火を咲かせておくれ
443 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 07:14:48.33 ID:UVajoM6P
ニタァと麦野沈利は笑みを浮かべている。反面、御坂美琴はしかめている

彼女らの状況は、早い話が囲まれている。殺さず被害を与えず移動優先で来たものの、警備員への攻撃行為自体が無かったわけではない

彼女らは移動と防御のみに能力使用を限定していたが、彼らには彼女らの幻影による攻撃が幻視えていたのだから

麦野はともかく、LV5として有名な御坂美琴から攻撃を受けた、という報告が近くの警備員達にも伝わり、現在の状況を招いた

複数からの同時攻撃から身を守るには磁器を帯びる事が出来る物体が少な過ぎて、堪らず逃げ込んだビル

そこには逃げ込んだ無能力者や能力の弱い、つまり警備員達とはまともに戦えない生徒や学生が立て篭もっていた

麦野「よりにもよって、最悪な場所に逃げ込んじゃったわねぇ。こんなところに私達が居たら、こいつら巻き込むわよ」

歪な笑みを浮かべたまま、麦野は言った。その表情が意味していることを、御坂は理解している

御坂「だからと言って、ここから 穏 便 には出れないわよね」

麦野「そのとおり。じゃぁさ、白旗あげて降伏でもする、第三位?あんなもんが幻視えちゃ、通じる見込みが無い上に、例え上手くいったところで私達が捕まっちゃ意味無いけどね」

頭に手を当てて、考える。麦野が言いたいのは、こうなれば本気で警備員を攻撃して道をこじ開ければいいじゃない、ということだ

無論、死人も出るだろう。もちろん御坂としては手加減するつもりだが、自分たちを狩る為に集まった警備員達の装備が耐電装備ならば、それを超える出力か超電磁砲を用いるしかない

そして目の前で少し興奮している麦野。彼女の体は、所々血が出ている。直撃こそしなかったが、銃弾が霰のように跳んでくる中を駆けまわっていたのだから、掠りもする

我慢してここまで来たのだ。そんな彼女に手加減しろとか、殺すなとか言うのは無理だろう。彼女の能力的にもそういう調節は難しい

ここまで考えて、御坂は周りを見た

「あ、あれ常盤台の第三位だよな」「なんでこんなところに居るのよ」「外に警備員が居るわ。連れて来たのよ、あいつらが」「馬鹿。下手なこと言うと消し炭にされるぞ、黙っとけって」

決して歓迎している、という雰囲気では無い。ここに居るには、学園都市で最も弱い部類に入る人間たちなのだから

陰口をたたかれるのは何処でも有る事だし、彼女は気にしない

ただ、ここのコイツらはどうするつもりだったのだろうか

私達が来なくとも、いずれこの建物には警備員が来るであろう。素直に投降できればいいが、もしかしたら撃ち殺されるかもしれない

外は、そういう状況なのだから。もしそうなっても、目の前の弱者達は何もせずにそれすらも受け入れるのだろうか
444 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 07:16:02.92 ID:UVajoM6P
彼女たちがここへ来る途中に、何人も撃たれている人間を見てきた。無抵抗のまま背中からズドン、というのもあった

だが一方で、例え無能力者であっても理不尽な暴力に対抗し、誰かを守って撃たれた無能力者も居た

その光景は彼女の記憶の中にある男の姿に何か似通ったものを感じさせた

別に誰も彼もがあの馬鹿の様に動けとは言わない。死んでしまったら意味が無いのだから

だが、縮こまって時間が経つのを待つだけという消極的で自分の首を絞めかねない選択を簡単に取ってしまう、この連中はなんなのだ

自分たちが物をとって来て帰らなければ、助からない人間が居る。こんな所で捕まる訳にはいかない。留まる訳にいかない

御坂「打って出る。LV5を相手にすることがどれだけ大変なのか、知らしめてあげる」

御坂がそういう判断をした、その目を覗きこむ麦野は、それに満足したようだった

麦野「それでいいのよ、ミコトちゃん。なんつったって私達は、化け物なんだから。化け物は化け物らしくすりゃあいいんだ」

そしてビルの二階の壁の一部が、まるで戦艦の砲弾が当ったかのように、内側から吹き飛んだ

同時に二人の人間が飛び出す

予期しない破壊に、突入を考えていた警備員達は注目した。そこへ

容赦ない電子光線と超電磁砲が降り注いだ。それも、現実と幻想が織り交じって

これまで彼らが見ていた幻想とはまるで質の違うその攻撃は、一瞬で10人弱の人間を命と共に吹き飛ばす

超電磁砲が地面に突き刺さった事によって巻き上がる粉塵の中に二人の少女は飲み込また

粉塵の外に居た警備員が銃弾を叩き込む、が、中から聞こえるのはガンガンガンという、金属が金属に当る音

次の瞬間には粉塵の中を人間二人が突き抜けた。二人の片手には、警備員達が持っている物と同じ人間工学に基づいた、ライフルが握られている

それが確認できた時には、その警備員の体は吹き飛んでいた。超電磁砲が周りに居た仲間を吹き飛ばし、駄目押しに光線が何もかもを貫く

彼女ら二人が通り過ぎた後には、血肉とめくれた地面ばかりが残った

立っていた警備員は10分の1になっていた
445 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 07:25:56.69 ID:UVajoM6P
「学区長!!直ちに警備員全員を撤収してください!この学区だけでもいい!!早く!!」

第7学区の警備員の発令所が入っているビルの一室で声が響いた

入ってくるなり、自分の上司が座る机に近づき、机を叩きながら彼女は自分の意見を主張する

「黄泉川君、落ちつくんだ。今この現状で我々が退いたら、一体どこが事態を収拾するというのだ」

黄泉川「しかし、今我々がやっているのは生徒の殺戮でしかないじゃん!!警備員にも被害は出ている!!貴方はこのモニターで何を見ていたんです!?」

今度は机でなく、壁にかかった大量のモニターを叩く

その拳で、一つのディスプレイが使い物にならなくなった

「だからだ。現場で何が起きているのか、正直掴み切れていない」

黄泉川「な、何を言っている?!貴方がそんなでは」

「いいから、君が壊したモニターの横、そうそれだ。この映像を見てくれ」

カメラがやられたのだろう、砂嵐の映像を現していたディスプレイの映像が切り替わった

「少し前のものだが、よく見てほしい」

その映像は短いものだった

警備員が頭を抱えて影にしゃがみ込んでいる生徒に声をかけたところ、一瞬何かに驚いて、瞬時に銃を構えて撃ち殺した

一見すれば、ただの虐殺にしか見えないが

「なぁ、黄泉川君。現場に立つ君に聞きたいのだが、我々は、理由も無く子供の頭を撃ち抜くような、程度の浅い人間の集まりなのか?」

黄泉川「そんな訳、あるはずがないです。皆プライドを持って……」

「では、この映像はなんなのだ」

黄泉川「……」
446 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 07:26:58.19 ID:UVajoM6P
「君の言葉が無いのも分かる。信じたくないのだ、私も。ならば、信じないでこの映像を見直してくれ」

もう一度、そのモニターに視点が集まる

「ここだ。ここでこの警備員は何かに驚いたような動きをしているだろう?まるでこのしゃがんだ子供から出た何かを、回避するような動きにも見える」

「だが実際には、この子供からは何もなかった。我々にとって都合よく解釈すれば、それこそ幻覚でも見せさせられた、とかな」

黄泉川「しかしだからと言って、現にこの警備員はこの子供を撃ち殺したにはかわりないじゃん。こんな一方的な光景すら、腐るほど見てきました!!混乱を収める目的ではなく、生徒と警備員が殺し合わない為に、今は撤退するべきです!」

目の前の上司は頷いた。しかし肯定の意が有る訳では無かった

「君の言う方法は、確かに私も考えた。だが、君の言う様に、純粋に学生や生徒と警備員の戦いで有れば、私に出来る範囲の権限全てを使って撤退させていた」

「だがね、一方で既に、能力者と無能力者の戦いの様相もあるのだ。不幸なことに、能力者へ反感を持っていた生徒たちが、倒れた警備員の武器を使ってな」

「まだ表面化していない一因としては、共同の敵としての我々があるからなのだろうな。これで警備員が退けば、これまでに積りに積った対立が一気に表面化・激化しかねない」

「つまり、子供と子供が殺し合わない為に、我々は戦っているんだ。……いつまでこの状況を保っていられるかは、分からないが」

「なぁ、黄泉川君。私はどうしたらよいのだ?」

そんなことを尋ねられても、彼女には答えようがない。この上司も、悩んでいるのだ。彼女と同様に、いや、それ以上に

黄泉川が、沈黙が始まってしまった、と思った時だった

建物全体が、大きく揺れた。同時に相応しい音も響く

「何事だ!?」

椅子に座っていた上司が立ちあがった。同時に椅子が倒れる

黄泉川は銃を構え、体を壁に添わせた。侵入者が来たときに対応する為に

上司は机の端末を操作して、壁のモニターを階下の映像に切り替えた

切り替わった映像には、彼女がよく知る白髪の男が立っていた
447 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 07:39:24.49 ID:UVajoM6P
「病院……。ハッ、んなもんどこにもねぇや。何もかも全部、吹き飛んじまったじゃねーか」

地面に降り立った、天使の様な見た目だった男は、独り言をこぼした

その体は、船内に居た時の様な歪な形ではなく、きちんとした人間である。殆ど全裸だが

腕に抱いた少女の体からは、すでに温かさは失われていた

色は無く、意識も無く、動きも無く

意味するのは、死

「気が向いても、相手が死んでちゃキスできねぇよ。なぁ」

そして彼は、動かなくなった彼女を抱き締める

強く抱きしめられた心理定規の体が、焼け始めた

彼が抱き締めれば抱き締めるほど、その体は徐々にこの世から消えていく

時間はさほど、かからなかった

(逝ってしまったか)

しばらく立ちつくしていた垣根の頭に声が響いた

垣根「……悪ぃな。あの子供は逃がしちまった」

(構わないさ。ハッキリしない君を突き動かす為のきっかけでしか無かったからね。それでも、こんな結果に終わってしまったが)

垣根「俺の力が到らなかった。ただそれだけの事だ」

(……強がる必要は無い。泣きたければ泣け。笑いたければ笑え。悔しかったら悔しい)

(どんなに中身が化け物でも、根本で君は人間なんだ。スッキリするさ。……しばらく、君から注目を外すよ)

少しの間、彼の頭に響く声も影響も無かった。その間に垣根がどんな行為をしたのかは、誰も見ていない

(……落ち着いたようだね。安定している)

垣根「へ、父親代わりかよ、お前は」

(そんなんじゃないさ。実のところ、先程までの君は心理グラフからして、まともにコミュニケーション出来るとは思えなかったのでね)

垣根「そりゃまた、リアルな理由だな。……ほんの1、2時間前までバカみたいな人数の人間が生きていたこの街をこうしちまった、あの人の形した奴が例の、か?」

(そうだ。昨日、ロシアの大地を少々焼いたものと同じタイプのね。まさかロサンゼルスに来るとは、名前の因果か、予想外だったな)
448 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 07:41:04.77 ID:UVajoM6P
垣根「予想できるもんじゃねぇんだろ?じゃなきゃ、お前が対策しないわけないからな」

(その通り。次がロンドンでも北京でもケープタウンでも、それこそ学園都市でもおかしくない。そして、頻度も規模も時間と共に拡大していくだろうな)

垣根「こんなことが起きちまう原因の一つは、お前の大好きな自由の一つだと思うぜ。信教・侵攻の自由」

(いやいや。仮にそれが無くとも、結果は大して変わらないよ。十字教の派閥もユダヤもイスラムもヒンズーも、それこそ地域的な小規模宗教などまでは制限できないし、それらが無くなることもないだろう)

垣根「その上、仮に宗教が無くても、最終的な結果は変わらないときたもんだ」

(うん。結局ああいうのの出現も、一つの結果をもたらす為の過程の一つでしかない訳だからね)

垣根「ってことは、まだ手の出しようのある天の軍勢とやらの方がマシか」

(天の軍勢か。的を射ているな。概念的には固まっていない、旧約聖書の天使的な存在)

垣根「形も不安定でエネルギー切れて勝手に消えちまったみたいだが、本格的に概念として固まったのが来るようになれば、どうなるかな」

(その為に、私達は行動しているのさ。ロサンゼルスという損失は痛手だが、君との戦いから大いに情報が得られた。次からは少なからずやられっぱなしと言う訳ではない。研究者の連中も喜んでいるよ)

垣根「あぁ?この天使とかってのは"魔術"とやらの領域だろ?そういうのも囲ってるのか?」

(間違いではない。その魔術についてだが、とてもよいサンプルが先のフランスとイギリスとの戦いで入手出来てね。お陰で今学園都市への攻撃が、当初予定していたものより効率化できた。サンプルとしてもモルモットとしても、そして一戦力としても有能な様だよ、彼女は)

サンプルだのモルモットだの、一人間を好きなように使っているというのが、垣根は少し気に食わなかった

それは、心理定規の少女を一組織の理由で失ったことから来ているのかもしれない

垣根「人体実験だのをしてるんだろうけど、その対象に、お前の言う自由ってのはあるのかよ」

(もちろん。私としては全人類全ての人間にそれを認めるつもりだ。だがね、私がいくらそういう勧告を出した所で、研究するのは現場で、戦力として使うのも現場なんだ。最終的な判断は現場の人間の行動さ。それも現場の人間の自由な判断だから、私はそれをどうこうするつもりは無い)

垣根「コレはまた、酷い二面性を持ってんだな」

(いいや。私はとても単純でシンプルな意識体さ)

垣根「そーかい。……それで、俺は次に何をしたらいい?命令をくれよ。形式上、お前が上司なんだからな」

(おやおや、せっかく手に入れた自由を捨てる気かい?)

垣根「フン、違ぇよ。その命令に従うか従わないかの自由は捨てるつもりは無いっての」

彼は意識的に一呼吸置いた

「ただよ。なにかをして、気を紛らわせるってのも、人間らしいだろ。そういうことだ。……察しろ」
449 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 07:47:42.64 ID:UVajoM6P
原典と同化した少女は、その幻覚を見る事は無かった。原典の自己防衛反応が脳への作用を打ち消し、彼女がその影響を受けることは無い

ショチトル「なぁ、あそこに立っているスキルアウトは、何をしてるのだ?」

少女が聞いた。彼らが今居る場所は適度な高さを持つビルの屋上

適当なスキルアウトと話をしようと街を自然に歩いていたら、急に襲われた。全く躊躇せずに打ち倒す。他の人間に近づくと、今度は怯えて逃げられた。その恐怖の目は男よりも少女の方へ向けられていた

少女にとっては上記のことで理由が分からなかったが、男の方も正確にはつかめていなかった

ただ、ここまで来るまでに何度か幻想による攻撃を経験したので、なんとなく理由は分かった

魔術師として、そういう攻撃が無いわけではない。彼のキャリアがその攻撃が幻想幻影であると告げたので、彼には幻影だと分かった

その判断を出せたので、これも何がしかの術式下であるということが分かった

海原(恐らくは、自分が彼らから見たのと同じように、彼らもこの子からの攻撃という幻想を見たのでしょう)

海原(そしてその幻想を見せる術式が、ショチトルには通じない。恐らく、彼女の原典によって。ならばなぜ、ショチトルからの幻影が、僕には見えないのか。……わかりませんね)

原理は簡単、彼女の敵意が全くの0だから。それはそうだろう。アメリカに狙われているかもしれないという状況下で、他に頼るべき人間も居ないのだから

他の理由も、有るのかもしれないが。両方とも、今の海原が分かることでは無かった

ショ「おい、聞いているのか?……おい、おーい。…………無視しないで」

少し声の最後が薄らいだような言葉だった

海原「あ、はい。なんでしょう」

ショ「やはり、聞いていなかったのだな。……もう。ええと、ほら、あそこだ」

少女が、街路の端で何をするでもなく立っている男へを示すように指差した。だが、何を指差しているのか海原には見えなかった

海原「ショチトル、あなたがなにを指しているのか分からないのですが」

ショ「いや、あそこだって。その、青い看板のあるビルから3番目の街灯のそばに立っているだろう?」

その場所に注目しているが、やはり誰か立っているようには見えなかった

海原(まさか、これも幻想か?)

海原「もしかしてその人物は、これに似たような物を持っていませんか?」

例の真っ二つに割れたギターピックを取り出す

ショ「いや、ここからは流石に見えない。暗くなってきた事だし」

海原「そうですか。よし、ならば、あそこまで行ってみましょう」

海原(これはもしかすると、この状況を説明出来る何かを掴めるかもしれないですね)
450 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 07:51:10.51 ID:UVajoM6P
場所はそんなに離れていない

それでも、道中で彼らを襲ってくる者は居た

残った一人の警備員が念動力で宙へ浮いたかと思うと、炎の塊と水の塊と電撃が集中した

半蔵(俺は何もする必要無いな、こりゃ。勝手に暴れやがる)

「おいテメー今俺を狙ったろ?!」「あ、知るかよ?射線上に立ってたからじゃねーのか?」「ンだとコラ?!」

今の半蔵にはなぜか見えなかったが、ここでも幻影の効果が出ているようだった

集団内で仲間争いをしそうな雰囲気となった。既に一組の男達が睨めっこしている

半蔵(はぁー、コイツらは。しょうがねぇな、ここは俺が……ん?)

半蔵がその二人を仲裁しようと動こうとすると、少女が動き出した

仲裁するのかと半蔵が譲ると、少女はその二人をスルーした

?「移動の障害は無くなりましたね、行きましょう」

ただそれだけを言って、駆けだした

組み合っている男たち以外もそれに付いて動く。半蔵も

「チッ。事が終わったら覚悟しとけや」「こっちのセリフだ。猿野郎」

そうなれば、睨みあっていた男達も付いて行かざるを得ない。集団心理というものだろう

彼女がこの集団心理を狙って行動したのかは分からないが、事態は丸く収まった

背中を追う半蔵の視界、少女の右肩にどこかで見た模様が入っていた

半蔵(ん?あの模様……あぁ、あの青髪に貰ったライターのと同じだな)

半蔵(何を意味してるのかは知らねぇけど、流行ってんのか、コレ)

走りながら、ちょっとした考えに辿り着く

半蔵(いや、青髪のライターと肩のマークが同じって事は、この女は青髪と同じ組織の人間ってことか?)

半蔵(つーことは……。役目を果たした後に、この女を追ってみるか。もしかしたら仲間が捕まってるとこに、辿り着くかもしれねぇ)
451 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/24(水) 08:01:52.87 ID:UVajoM6P
建宮と五和が作っていた割り込みにくい空間をしばらく見守り、騎士団長はある病室の前に来ていた

時間の為か、都合のよい事に病室の前にも中にも、その人物しか居なかった

その人物は、最大主教

腕を一本吹き飛ばされた彼女の病室内で、イギリスの3トップの内の二人が顔を合わせた

その目的は一つだが、流石にいきなりそれを切り出しはしない

ローラ「貴方が見舞とは、予想していなかったわ。それもこの様な時間とは、特に」

騎士団長「紳士であるからな。知り合いの女性が入院したならば、見舞うのは礼儀というものだ」

ローラ「それはそれは、どうぞ、お掛けになって」

騎士団長は、その言葉に従った

短い所用で有れば、彼は座ったりしないだろう

座ったという事は、それなりの内容のあることについて深く話しをしようと言う事だ

思い当ることは一つだが

団長「その腕は、ローラ殿でも治らないのだな」

わざわざ敬称を付けた。真面目な話な様だ

ローラ「あの男、フィアンマの攻撃は、恐らく腕そのものを使用不能にすることを狙ったもののようで」

無くなった腕の有った方の肩を逆の手で触れた

ローラ「肩の接続があらゆる意味で不可能になる様にもがれたのでは、流石に手の施し用がなきたりけるのよ」

肩を落としながら彼女は言った

団長「そうか」

騎士団長は、最大主教の腕を吹き飛ばしたあのフィアンマのシーンを思い出す

自分も動く事が出来なかった

ローラ「若い者に、この私があそこまで上手くしてやられるとは、予想外でありけるのよ」
452 :本日分投下終了のお知らせ [saga]:2010/11/24(水) 08:03:58.44 ID:UVajoM6P
団長「奴はあの時、貴方の腕と同時に禁書目録の遠隔制御霊装を奪ったが、本当に残っているのはあの霊装だけなのだな?」

やはりたか。と彼女は思う

ローラ「正真正銘、壊れたものも含んで二つしかないわ。当然、三番目の作成方法などもこの世はないしの」

団長「と言う事は、今や禁書目録の蔵書を使えるのはあのフィアンマだけという事になるのだな」

ローラ「ええ、そうなりけるわ」

団長「ふむ。その事を踏まえた上で、問いたい。貴殿は禁書目録の処遇をどうするつもりだろうか?」

ローラ「難しいところよ、そこは。禁書目録の知識は、我がイギリスの切り札でありけるし」

団長「だがその切り札を使えるのは、敵のみなのだ」

ローラ「騎士団長殿が何を言いたいのか、かわかりかねたるの」

団長「では、ハッキリ言おうか。禁書目録を処分してはどうだろう」

処分。つまり殺害だ

この男が言いたいのは、フィアンマが何かを起こす前に本体の禁書目録を殺してしまおうということだ

無論、ハッキリ言われなくとも最大主教は分かっていた事だが

ローラ「それは物騒じゃの。その上、我々だけで決める事の出来る内容では無きたる事」

団長「無論、分かっている。だからこそ、こうして直接会いに来たのだ」

王室派頂点の女王からの許可も必要だ。だがイギリス三派閥の内二派が同じ提言をしたならば、女王エリザードも退けにくい

彼はその根回しに来たのだ。見舞という形式で。朝早くを狙ったのは、他の人間が居ないだろうという理由から

ローラ「少し考えさせて貰いたるわ。今のところは"前向きに"な」

その言葉を聞いて、騎士団長は頷く

しかし、この会話はとある炎を操るのが得意な魔術師が盗み聞いていた。正確には、最大主教と内密な話をしようと朝早くを選んで、たまたま病室前に居ただけなのだが

彼は聞いてしまった
453 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 08:45:14.53 ID:iGAuVASO
心理定規おおおおお!
454 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 13:46:06.73 ID:.rAwcYgo
ねーーーーーちいいいいいぃぃぃぃぃん!!!!!
455 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/24(水) 19:34:12.54 ID:uXnJ0Z2o
佐天さwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwん
456 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/27(土) 02:21:20.69 ID:fIdd.1QP
黄泉川「一方通行、こんな所へ何しに来たじゃん!!!」

黄泉川愛穂は廊下で、一方通行を目の前にして立ち、叫んだ

彼女の視界の中央に立っている、彼女からしたらまだまだ子供な白髪の男の周りには、やはり危険を感じさせる空気の渦が流れているように見えた

一方「お前には関係ねェ。そこをどけェ」

片腕で杖をつき、もう片手はポケットに突っ込んでいる彼はまるで強さを感じさせない

だがここまで彼が来ている事、そしてその赤い双眸の不動が強い意志を感じさせた

それはともすれば、明確な敵意とも受け取れるが

「黄泉川君、彼は?」

後ろから、黄泉川の上司の男が現れた

黄泉川「学区長は下がって下さい。コイツは私の知り合いです。私が―」

区長という言葉に一方通行は反応する

一方「黄泉川ァ。今学区長、つったよな?ンなら俺が用が有るのはソイツだァ」

黄泉川「何…ッ?!」

「私に用だと。ならば正規の方法でアポイントメントを取って来るのだな」

銃を向ける。顔は酷く真面目に怒っていた

「部下を散々蹴散らされて、無抵抗にお話しましょ、と言う訳にはいかない。上司でもあれば、仲間でもあるのだ、私は。話は後でいくらでも聞いてやる」

まさかこのポジションに居る男が、この白髪を知らぬわけがない

タンタンタンと黄泉川の後ろから一方通行めがけて銃弾が放たれた

反射されても、黄泉川が盾となる様に、人質となるように、意図的に

仮に黄泉川を避けて弾が反射された場合には、自分に当らない様に動きながら

そういう戦い方をされては、まず黄泉川が動けない
457 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/27(土) 02:22:07.56 ID:fIdd.1QP
一方通行も銃弾の方向を捻じ曲げ、自分にも黄泉川にも当てない様にゆっくりと進むしかない

黄泉川もこの学区長とやらも倒すわけにはいかない。目的は学区長より上位の、それこそ警備員を統べる人間である統括理事会のメンバーに接触する事なのだから

黄泉川とこの男の関係など知らないが、まるで彼女を人質にするような戦い方に一方通行は怒りを覚えた

その怒りは無論、あの男に対してであり、黄泉川に対しては寧ろ守りたいという気持ちが膨らむ

この二者へ向かう一方通行の気持ちの変化が、黄泉川とその上司に全く違う幻想を見せた

黄泉川の視界からは、一方通行の周りに有った怪しい気流は消え

逆に上司の視界では、黄泉川越しに立つ白い男に向けてはなった銃弾が弾き返されて、その反射された銃弾が黄泉川を容赦なく貫通させ、自分を襲った

彼の視界の中で、黄泉川愛穂の体には複数の穴が出来、崩れ落ちる

目の前で部下を殺されて逆上しない程、彼は冷静な人間ではなかった

「一緒に暮らしていた者にすら容赦しないのか!!一方通行ぁぁぁ!!」

ライフルのスイッチを捻り、即座に連射へ。動きながら怒りの限りをぶつける

黄泉川と言う盾を無くした以上、一方通行の見える範囲に居るのは危険だ

掃射しながら彼は近くの部屋に飛び込んだ

これが黄泉川の上司である警備員第7学区長の視界と行動だった

しかし現実は、一方通行が見ていた光景は、全く異なる

黄泉川との距離を一歩づつ縮めた彼の視界では、男が叫んだ後で急に銃を掃射した

当然その射線上にいるのは一方通行と黄泉川愛穂である

一方通行の目の前で、女の体から何発かの銃弾が飛び出した。赤い鮮血と共に

一方「黄泉川!!」

叫ぶ一方通行の前で一人の女の膝が落ちた。前のめりに倒れそうになる彼女を一方通行は抱きとめる
458 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/27(土) 02:23:00.85 ID:fIdd.1QP
一方「冗談じゃねェ……アイツ味方巻き込んで撃ちやがっただとォ?!何考えてンだァ!…オィイ黄泉川ァ?!」

自分より背の高い女性の体重を支えつつ、その女性の様子を見る

着こんだ耐衝撃用のアーマーによって、急所を抜けた様子は無い、が

背中を見ると突き抜けた弾丸よりも更に多くの窪みがあった

何発かは、体の中で止まっている弾もありそうだ

このままでは長くない

黄泉川「……ァ、一方通行、フゥ、なにか、何かがおかしいじゃん、ずっと、何かが…ハゥッ…ン」

一方「喋んな馬鹿!!クソッ、何か血を止める様なモンはねェのかァ?!」

出血具合が、よくない。肩、脹脛、左腰、この三つは貫通するか掠って肉が抉れている。それ以上に、背中はぱっと見で3か所更に出血していた。恐らく弾は体内に残っているのだろう

黄泉川「……一応、階下に止血剤とか、包帯とかは有る、じゃん。フゥー、…ン、ンガァ……ンペッ、…ハァ、でも多分、間に合わんよ……」

一方「ざけンな!!待ってろ、待ってろよ!」

動きだそうとした一方通行の腕を、残った彼女らしくない、か弱い力で止めた

黄泉川「ありが、とう、一方通行。でも時間の、ハ、ハァ、無駄。それより、も、聞いて欲しいこと…ッ、ある、じゃんよ」

一方「……ッ、なンだッ?」

とても彼らしくない表情を浮かべた

黄泉川「何かが、おかしい、おかしいんじゃん。警備員は、ウゥッ、一方的に生徒を、殺すようなこと、しない。……何か、ゥ、何か、起き、ンッ、起きて…………それ、を」

口の動きが、止まった

同時に、体の力が消え去り、一方通行にはその体が酷く重く感じた。とても抱いていられないほどに

一方「黄泉川……?」

言葉は返ってこなかった
459 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/27(土) 02:30:27.17 ID:fIdd.1QP
海原「ここに、人が立っている、という訳ですね」

海原は指差した

ショチトル「あぁ。本当に見えないのか?」

海原「はい。ここですね」

といって、彼はストレートを突きだした

しかし、その拳に何かが触れたような感触も無く、ただ空を切っただけだった

海原「……今の場所であってるんですよね?」

ショ「え、いや、今貴様は何を狙ったのだ?」

海原「目の前に居るという人物へ、ですよ?」

ショ「目の前のこの人間の方向を12時とすると、貴様は2時ぐらいの方向へ拳を突きだしたのだが……」

海原「んん?……いや、もしかして」

そう言うと、なんの躊躇も無く拳銃を腰から引き抜いて、撃った

海原「今のはどうでした?彼に当りましたか?」

ショ「駄目だ。構えたときは正しい方向を向いている。でも、いざ弾が出る瞬間には射線軸が明後日の方向を向いていた」

どうなっているのか、と海原が顎に手を当てて考えている

ショ「あぁ、あと貴様の言っていたように、この男も持っているぞ、あの白い物」

胸に、と言ったが、海原にはやはり見えない

その様子に不満そうな、少女は自分にだけ見える、目の前の明らかに様子がおかしい男の胸元へ手を伸ばした

力任せに引っ張ると、案外簡単に首に掛っていたヒモが切れる

白いギターピックを掴んで引っ張ったので、ショチトルが直接触れたピック自体は真っ二つになってしまった

ショ「コレだ。流石に割れたら見えるのではないだろうか……ん?」
460 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/27(土) 02:32:44.10 ID:fIdd.1QP
海原は少し驚いた顔をした

海原「ああ、あなたが見ていたのはこのような人でしたか」

立つこともできなくなったのか、ふら付いて倒れそうになった男を海原は抱きとめた。彼にも見えるようになったのだ

そのまま、地面に寝かせる

海原(脳への直接負担か精神の負担又は肉体負担か分かりませんが、気を失っている)

頬を数回叩いたが、起きそうにない

海原(特に著名な人物でもなければ、目立つなにかが有る訳ではない。強いて挙げるなら爆発事件の現場にあったのと同じピックのみ)

海原(こんな何処にでもいそうな不良を隠し守る必要がある。……術式の維持にこの人間が必要なのか?)

考えていると、ショチトルが肩を叩いた

ショ「同じ雰囲気の人間がこっちに近づいている」

海原「……どちらから?」

少女が指を指す、が案の定その方向から近づく人間は居ない

その表情を読み取って、少女は走った。立ち止まって何かを引っ張ると、海原の視界にも人があらわれる

少女が引っ張った力そのままにその人は倒れ、そして動かなくなった

海原がそこへ行けば案の定、気絶していた

ショ「これで三つ目だな、この白いのは」

海原「そうですね。うん。今のところの仮説ですが、この白いピックと今学園都市で発動している術式は直接的な関わりが有ると思いますね。どうにかして、コレについて調べられればいいのですが」

そんな物は簡単だ、という表情を作る少女

ショ「そんなもの、今倒れている二人の内どちらかを起こせばいい。いつまでも寝たままと言う訳でもないだろうしな。もしそうでも、我々には我々の魔術があるのだ」
461 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/27(土) 02:42:20.62 ID:fIdd.1QP
「居るぜ居るぜぇ、警備員みたいなのがうじゃうじゃとよぉ」「思っていたより厳重だな。どっかからリークでもあったんじゃねぇのか」

「なんだお前、ビビってのか?さっきまでのは虚勢かよ」「情けな無ぇなぁ、そのまま去勢しちまえ玉無し野郎」「んだとぉ?!」

半蔵(こいつら何度目だ。本格的に猿かっての。ハァ……だが、)

警備員以外の、重装備の防衛部隊が居た

半蔵(見た事ねぇよ、あんな連中。スキルアウトは対警備員・風紀委員なんかを想定してたけど、この部隊は見た事が無い)

半蔵(恐らくあれはどこぞの権力者の私設部隊。統括理事会の連中の。噂じゃ駆動鎧なんぞも有るなんて聞いてたが、見当たらないな)

半蔵(これじゃ周りに重要拠点ですよと言っているようなモンだが、警備員がまともに機能してないこの状況だと当然か)

見れば、生徒の死体がポツポツと転がっている。ハチの巣もあれば顔以外体を判別できないものまで

今の学園都市ならば、珍しい光景では無かった

?「それでは皆さん、今からアタシが仕掛けるので、それを合図にお願いします」

少女が言う

「了解」「あいあい」「何、お前が仕切んの?……他のがやるよりはマシか」「待ちに待ってたぜ、ま、マジで」「お前震えてんじゃん。お前も玉無しか?」

半蔵「いつでも」

全員の言葉を聞いて、目立つ点と言えば長い黒髪の少女は不用心に突撃した

その場に居た全員が「馬鹿か?!的になるだけだ!!死んだな」と考えて、口にする

しかし、彼女への攻撃がある前に、多くの重装備の防衛部隊が何かに慄き、よろける様な動きをした

学園都市でなんの大規模術式が展開されているのか分かっている人間ならば、彼女が何を用いて攻撃したのかが分かっただろう

研究資金への対価として大量に造られた戦闘用クローンの一個体である彼女は、感情は無い

有るのは、敵意の最上形態である破壊する意識と殺意のみ

普段には無い意識がここぞとばかりに強く現れれば、特別に敵意の無い者と特別な何かによって術式の影響を受けない者を除いて、高度な幻想を彼女を見ている者に与える事が出来る

「オーッ、ってなんだあのアマ多重能力者かよ!?」「高い金掛けたけど失敗したって聞いてたが、アイツ成功例か」「つえ―じゃねーか!誰だ足手纏いとか言ってた奴は」
462 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/27(土) 02:43:07.17 ID:fIdd.1QP
半蔵(何言ってんだコイツ等。多重能力だ?成功例だ?)

幻視えなかった彼には、当然何が起きているのか分からない

そう思った瞬間、彼女の周りの瓦礫が浮かびあがり、それと同数の火球と、水球と、球状に渦を巻いた空気の流れが中に浮かび、更には彼女自身の体は青筋を帯びて帯電している

身体強化もあれば、このパーティー全員の能力と同じかそれ以上の力を、彼女一人が現出させていた

それが、なんの躊躇も無く入口を守る様にして立っていた複数の重装部隊へ、完全に日和るってしまって反撃の体勢が整わない彼らへ、威嚇の幻想と共に飛来する

それぞれがそれぞれの音を立てて、人に、壁に、ガラスを引き裂きながら飲み込まれていった

「俺らも行くぜ!」「これじゃアイツに全部美味しいところを持って行かれちまうしな!!」「ちょ、待てって!おいて行くなって!!」

我先にと彼女がこじ開けた施設の入口へ突入していく

半蔵(急に元気になりやがって。現金な奴らだ。しかし複数の能力を使う人間が居たとは。そりゃ、戦力としてあの女が明記されてるわけだわ)

彼らの後を追う様にして、施設の中へ

「目の前に立つ奴は全員殺して、目に付いた機械は全部壊す!!それだけだ!!」「おうよ!!」

仕事の内容を再確認するように叫んで、彼らは各々好き勝手な方へ走りだした

バラバラになってしまうと、連携の取れた敵部隊と彼らがまともに戦えるのか、半蔵にはその結果が大体予想が付いた

半蔵(無理に決まってんだろ。遅くない時間内に2,3人殺られて総崩れが目に見せるぜ)

半蔵(こうなる事まで見越しての人選だろーな。ってことは、こいつらが仏になる前に動かないと俺も危ない)

足を止めて、渡された端末の地図と実際の構造を確認する。ところどころ壊れてはいるが、同じだ

「ぐがああああああぁぁあ」

連射される銃声と断末魔が聞こえた。一人は死んだか

彼らが派手に動き続ける時間はあまり長くないだろう

半蔵(あぁ、そろそろ俺も、俺の仕事の時間だな)
463 :本日分(ry [saga]:2010/11/27(土) 02:48:37.16 ID:fIdd.1QP
その病室の扉を叩く気にはならなかった

同時に自分の傷も気にはならなくなった。そんなに浅いものでは無いのだが

ステイル(彼女を、始末するだと)

中での会話を盗み聞いた彼は、震えていた

ステイル(他人の都合で作られ、遠隔的に制御されるような仕組みを組みこまれ、一年おきに記憶を消さなくてはならないような術式を組みこんでおいて)

ステイル(今度は殺すだと?他の方法も有るかもしれないじゃないか!)

病室の前を離れる。このままでは感情に任せて最大主教と騎士団長が居る病室に突入しそうだった

感情を表すような強い足音を立てながら、この特別な病院の廊下を歩く

ステイル(ああそうさ!フィアンマという男がいつ動くかわからない以上、不確定で具体的じゃない方法に賭けるよりは、確実で時間もかからない方法を取るっていう判断は間違ってない)

我慢できず立ち止まって、誰が寝ているのかもわからない病室の壁を叩いた

ステイル(だからって簡単に殺してしまっていいというのか、最大主教は!あの女が大きく関与して彼女を作ったことぐらいは分かっているんだ。何かの目的が有って作ったんだろう。その目的はもうどうでもいいというのか?!)

ステイル(いや、あの女狐の事だ。禁書目録が居なくなった時のことも考えてあるんだろうね)

ステイル(あの子はただの図書館なんかじゃない。死んだら取り戻せないんだぞ?!)

ステイル「クソッ!なにが前向きに、だ!」

冷静になろうと、彼は煙草を取り出した。だがその腕は突然現れた少女に奪われ、口元まで届かない

「だめだよ、ステイル。病院の中でタバコは」

そう言って現れた少女は、彼が今悩んでいる問題の張本人だった

どうやら無意識に、彼女の部屋に足を運んでいたらしい。扉を叩いたことで、起こしてしまったか。あるいは起きていたのか

昨日彼女に何が有ったのか、彼は知っている

遠隔制御霊装の多重干渉によって、意識を失った。そして脳が安全装置を働かせたのか、彼女のその記憶は今失われているらしい。思い出せないというのだ

完全記憶能力を持つ彼女が記憶を失うと言うのは、当然保存されている記憶が思い出す事が出来ないという事。彼女の完全記憶すら抑え込む

昨日のある時間だけの記憶を引き出す事が出来なくなる程の衝撃を、この少女は受けたのだ

今でこそ意識を取り戻してはいるが、今後の遠隔制御霊装の干渉を受ければ、その古傷が開くかもしれない

上条当麻によって壊された"首輪"の術式は、自動書記の柱の一つであったらしい。入院によってガラ空きとなった最大主教の部屋を家探しして調べた内容だ

なければ当然、遠隔制御にも不具合が出る。既定された通りの用法であってもこの少女にはどのような影響が出るか

そこまで考えて、彼は煙草をしまった。それだけで、この少女は笑顔を浮かべた。そんな雨のロンドンの朝だった
464 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/27(土) 02:59:17.62 ID:z7NkD8oo

今回もなんだかんだ死んじゃってるなぁ
黄泉川…
465 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 02:41:21.10 ID:GiepLx2P
「また、守れなかったのかァ……」

彼は黄泉川だったものを地面に寝かせながら、呟いた

自らの乱れた心を静めるように、ゆっくりと優しい手付きだった

一方(……また? 何が "また" なンだ? なにを――俺は守れなかった?)

自分の言葉を、自分で飲み込んで、反芻する

すると彼の頭の中に、とある光景が思い起こされた

特徴など何もなく、完全に荒廃した瓦礫の山。そこに立つ一人の青い髪をした男

その腕には、一人の少女。分かる、死んでいる

彼は何人もその少女を殺した。その償いとして、彼はその研究の被害者達を守ろうとした

文字通り、命を賭けて

その青髪は言った。「僕らの戦いに巻き込まれた」と

"僕ら"には、自分とこの男が含まれている。分かる、分かっている

この荒れ暮れた場所が学園都市である事。自分と、前に立っている男が見境無く戦って、この状況を作りだしたという事

「また殺してしまった」

妹達をも巻き込んで、多くの無関係の人間を巻き込んで、まるで風が砂を吹き飛ばすかの如く、他人の命を吹き飛ばして

受け入れがたい現実。故に彼は、彼の"ヒーロー"を探した。救いを求める為に。現実を受け入れない為に

記憶の場面が切り替わる

彼の前に有ったのは妹達の上位固体:打ち止めの入った、筒。ビーカーとでも言った方が良いか

首の部分できれいに分離した、その二つの打ち止めが液体に満たされて、入っている

人間がそんな状態で生きている訳が無い。分かってしまう

「守れなかった」

あの妹達だけでなく、打ち止めすらも

そんな現実は、受け入れたくない。受け入れたくないのに

記憶が何かに抑えつけられていた、その何かを、彼らしく反射で吹き飛ばす

それを象徴するように、彼の背から、勢い良く黒い翼が飛び出した

その余波だけで、第7学区の警備員司令室の入ったビルに強烈な亀裂が入る
466 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 02:42:19.42 ID:GiepLx2P
どうしようもなく受け入れたくない現実を前にして、はぶててふてくされ、抵抗する子供の様に

黄泉川以外のものに八つ当たりを始めた

部屋に立て籠もった第7学区長の元へ、翼を生やした一方通行が来るのは本当にあっという間だった

入ってきた瞬間を狙って設置した罠ごと部屋の壁が吹き飛び、飛礫となって学区長を襲う

立っているのは、一人の男。ただその感じは何故か、泣きわめいている少年のような印象を学区長は受けた

一方「iospjgtお前のjogsg上司は、理事会の人間は何処にjmpo@jg[いる?gio」

やたら声と受け取れない音が彼から聞こえてきたが、それどころでは無い

学区長は一方通行の殺意から来る幻想によって、既に何度も身を引き裂かれているのだから

おかしくなってしまいそうな自我を保って、学区長は応えた

「き、貴様に教えるハズが無いだろう!なぜそんな情報が欲しいのか分からんが、目の前で部下を、黄泉川君を殺した貴様などに!!」

その男の発言で、一方通行の目が大きく開く

一方「何言ってやがるンだ!!ofjafp;テメェが後ろから撃ったんだよ!!!バン、バン、バンってなァ!!ヒャハハハハハァ!!」

表情は泣いている。目は怒っている

「ふざけるな!」

男も黙っていない。手元の何かのスイッチを入れた。キュイーンと甲高い音が鳴り、何かの装置が始動する

「どうだ!?ここには対能力者用の兵装が腐るほどあるのだよ!!」

一瞬だけ、彼の翼が途切れた。が、変わらず噴出を再開する

一方「o;ghg[@それがどうしたァ!?uigio;g効かねェンだよ!!!ihgsoンなモンはなァァア!!」

幻影だけでなく実体を含んだ空気の衝撃が、たった10m程前にいる彼を襲う

派手に壁に叩きつけられるが、まだ体が動く。意識もある。装置は壊れたようで、壊れた壁から時折スパークする音が聞こえた

装置で一方通行を無能力者化するつもりだったらしい。チョーカーに頼っていた状態ならば、効いていたかもしれない

床に転がった彼に近づき、一方通行はその体を持ちあげる

一方「大丈夫ですかァ?!最大限手加減pojhwphしたぜェ。死んで貰っちゃ困るンでなァ。sothp:[喋るまであらゆる苦痛を与えてやァァるぜェェェ?!!」

建物の中に、男の悲鳴が何度も響いた。白い男の笑い声も一緒に
467 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 02:43:21.88 ID:GiepLx2P
海原「ありがとうございます。あなたは、このままここに居た方がいいでしょう」

海原がそう言うと、スキルアウトの男は頷いて、座っていたソファに横になった

彼らが居るのは、海原のセーフティルーム

昨晩ショチトルと共に過ごした部屋である

海原(昨日の事はもちろん、ついさっきの事まで記憶にないと。余程大きな負担がかかっているか、そういう術式なのか)

海原(そしてコレ)

手の平上の、三つの割れたピックを眺めた

海原(これが配布されたのは数日前、ライブ会場でのオマケ。バンド名は"都市の繋がれた賢者""堕天"だの。名前はどうでもいいとして)

海原(自分には聞いた経験はありませんね。ですが人気が無ければスキルアウトを何千人も集めるのは不可能。その上、来た全員がこれを常時身につけるとは限らない。一定数を確保したいならば、それこそ本当に人気が無ければ)

海原(となると、もともと人気が有ったバンドに、スポンサーとしてアメリカのなんらかの組織が接近した。と考えるが自然か。だとすると)

ショチトル「直接的な繋がりを探すのは難しそうだな」

海原「ええ。このギターピック"だけ"では。しかし」

ショチトル「しかし?」

海原「恐らくこの白いもの自体は、どういう形式でどういう術式かわからないですが、持っている人間を操る性質が有るのは間違いないでしょう」

ショチトル「うん。それについては同意見だな。だとすれば」

海原「そう。操るといっても、全て全自動という訳にはいかない。必ずどこかで操っている中心が、中心人物が居るはずです」
468 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 02:44:04.70 ID:GiepLx2P
ショチトル「当てはあるのか?」

海原「100%という訳ではないですが、幻想を見せる術式がアメリカのやった事だと仮定するならば、第15学区ですね」

ショチトル「15学区……。なぜだ? 繁華街なら人が多くて紛れる事が出来る為か?」

海原「いえ、簡単な推理ですよ。あそこにはマスコミが集結しています。このピックを配ったバンドは、急設のゲリラライブで7000人近くの人間を集めたらしいですからね。当然バックにはキチンとした事務所なんかが有るでしょう。そこですよ」

ショチトル「その事務所にアメリカとの関連の物や人間が関係しているかもしれないという訳だな」

海原「そうの通り。その上、治安維持を除けば、情報を発信したり操作したり出来るのはマスコミですからね。マスコミの使い方を熟知しているアメリカならば、マスコミの集まっている15学区を影響下に入れない手は有りません」

ショチトル「よし分かった。でも出発はちょっと待ってくれるか?」

海原「何か?」

ショチトル「その、昨日の菓子が、冷蔵庫に残っているんだ。き、期限、消費期限も近いから……」

少し恥ずかしそうに言った

海原「……ふふ。まぁいいでしょう。下手をすれば、そこで寝ている彼に食べられてしまうかもしれませんしね」

そう言って、彼は笑顔を作った

本当にアメリカの息が強く噴きかかっている場所ならば、それだけこの少女にとっても危険ということ

もしかする可能性もあるのだから、心残りは少ない方がいい

外は銃声や能力による音、悲鳴で満ちている。死地だ

そんな環境下でもこうして洋菓子を頬張る事が出来るなら、笑顔を作る事が出来るなら、どうして彼にその食事を止める事が出来ようか
469 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 02:49:02.29 ID:GiepLx2P
少し調子が良くなったので、彼女は病室を抜け出して行動していた

体内の微小機械のお陰か、怪しい液体の詰ったビーカー内に浸かる必要も無くなり、本当ならば外で個人的に生活をしている予定だった

それを許さないのは、上位固体を襲う謎の負担が自分にも分けられている為。それもまた微小機械のせいであるのだが

すこし喉が渇いたので、マイブームな飲み物を飲もうと自販機へ足を伸ばしていた

縛るような痛みにも、少し慣れた。体が大きい為、そして感情が少ない為か。などと考えていると、声がした

「御坂…妹か?」

立っていたのは、上条当麻だった

32「はい。とミサカは肯定の意を述べます」

上条「良かった、起きて動けるようになったんだな。一方通行は?」

32「まだ帰ってきてはいませんが、あの人に何か?とミサカは尋ねます」

上条「そうか。……いや、帰ってきてないなら良いんだ、うん」

そう言って、目の前の上条はすこし考えた

自分はすることも無いので、とりあえず空けた缶に口を付ける

目の前の彼は、ポケットから携帯電話を取りだした

上条「おーい。上条ですけど……えっと、なんか機嫌悪いのか?」

一方通行と話をしているようだが、電話の向こう側の声は聞き取れない

上条「ああ?なんか雑音?紛れてて聞きとれないけど。悲鳴も聞こえるぞ? 大丈夫かよ」

上条「わーった、分かりましたって!手短に話す、よく聞けよ」

上条「アレについての情報は手に入れた。御坂妹に渡しておくから、適当な端末で確認してくれ」

上条「俺?あー、えっと、少しやることが出来ちまった」

上条「ヒーロー? 冗談じゃない。結局俺は止められなかった。これじゃ前と同じ、同じなんだ」

上条「あー、いや、なんでもない。独り言だ」

上条「大丈夫、責任を取らなきゃならないからな。次に会った時に煮るなり焼くなり好きにしてくれ。いや、マジでするのは無しな? じゃぁな」

電話を終えたのか、目の前の上条は携帯をしまった。そして自分の方を向く

上条「コレ、一方通行に渡すの頼めるか?……ん、頼んだ。あと、しないと思うけど、この病院からは出ないようにな、危ないからさ」

そう言って彼は自分に笑顔を作り、そのまま去っていく。どこに行くのかは分からない。追うこともこの体では出来ない。彼女は無力だった
470 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 02:50:36.71 ID:GiepLx2P
「うっ、ぉ?……ぐぇ」

正面に5m*20mぐらいの巨大なディスプレのある大きな部屋に立っていた、作業着の男が倒れた

施設全体に銃声や能力が爆発する音が鳴り響く中で、半蔵は倒れた男が本当に意識を失ったのか確認する

意識は無い。ならば役目を果たそうじゃないか

半蔵「ここの、……んと、これか?」

操作盤というか操作端末と言うか、そういう台の前に立つ

コンピュータにはそれなりの知識があるが、流石にこういう制御系の操作方など知らない

なので青髪に渡された端末の指示どおりに、適当にスイッチを押す

すると、目の前の大きなディスプレイに描かれた、緑色の複数のラインが切断を表す赤色に切り替わった

半蔵「後は、ここの基盤を壊せば……んー、どうすっかな。モノが無い」

彼はここに持ってきていないのだ。この外板を外して、中の回路だけ焼いたりするようなものも、部屋ごと吹き飛ばす事が出来そうな爆薬も

持参するにも重いわ嵩張るわなので、端末の情報に明記されていた参加メンバーに期待していた

つまり、あの黒髪の少女だ

派手な音が鳴って、半蔵が入ってきたのとは違う、正式な部屋の入口である大きな扉が吹き飛んだ

?「待ちましたか」

半蔵が期待していた少女が、そこに立っていた

そしてその少女は半蔵の元へ歩む。歩みは不安定で、その体は返り血と、恐らく自らの血で、白い戦闘服が血で染まっている

半蔵の手前で、バランスを崩したようにグラリと倒れた。それを抱きとめる。足のどこかがやられているのか

?「すみません。仕様変更でコストの高かったフェイスガードが無くなり、すこし頭に貰ってしまいました」

なるほど、少し顔が歪んでいる。確かに強力な能力者であるが、敵も強く、且つ室内戦闘と言うこともあって、不覚を取ったのだろう

通常なら一度の不覚で畳掛けられ、命を狩られるものだが、よくもまぁ生きているものだ、と半蔵は思う
471 :本日分(ry 書くモチベーションは自己満足とGT5withハンコン。オモスレー [saga]:2010/11/28(日) 02:51:53.31 ID:GiepLx2P
半蔵「みたいだな。大丈夫か、そんなんで?」

一応、心配してみる。最重要個所のここまで生きて来れたのだから、最低限の動きは出来るであろう

?「役割を果たすには、十分な行動が可能と判断します。問題ないかと」

半蔵「見た目は結構キてるみたいだが。あー、そんな状態のあんたに頼みたくないが、悪ぃ。俺はコイツを吹っ飛ばすようなモンもってねーんだよ」

親指で破壊対象を指す。彼女も頷いた

?「わかりました。……すこし離れて下さい。全力を叩きこみますので」

半蔵が離れると、酷く不安定に少女の体が帯電し始めた。それを拳にまとめ

装置の外板に、全体重と勢いを乗せて、殴った

派手な音が鳴って、金属が凹み、そして少女の拳が砕ける

溜まっていた電気が放出されたのか、スパークした基板が音を立て、そしてディスプレイに何も映らなくなった

恐らくお釈迦になっただろう。しかし

半蔵「おいおい。他にやりようが有ったんじゃねーのかよ。なんでわざわざ拳を犠牲にするような方法……」

?「これが現在のアタシの全力です。今となっては、もう電撃も出せません。身体強化能力の方以外、皆死んでしまったのでしょう」

淡々と言った。傷は痛くないのだろうか

半蔵(んん? これは会話になって無い、のか? そういや、爆発音とか銃声無くなってんな)

半蔵「んー。アイツらやっぱ、やられちまったか。そいじゃ、こんなトコとっととずらかろうぜ?」

?「はい。それでは解散ということで」

そして、少女は壊した大部屋の入口から去った。どうしてあの体であんな動きが出来るのか彼には不思議だったが。しかし追い付ける事が出来る。十分に追える

彼の仕事も今日の分は終わりだ。ここからは自由

半蔵(解散解散。逃がすかよ。存分に追いかけさせて貰うからな)

彼女の後を追う。彼の本当の仕事は、ここからだ
472 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 02:55:18.49 ID:75WK7Vco
なんか結局誰も救われないで今回も終わりそうだな
なんなら3周目に突入してもいいのよ。
473 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 05:22:32.13 ID:x4yopvso
3週目かけたらこの作者尊敬するわ
474 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 07:33:09.97 ID:LmGJbtko
さすがにこっからは救えないだろ
あと3週ほどしそう
475 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/28(日) 13:38:31.80 ID:fdvDqv.o
3週目は要点だけつまんでほしいかも
476 :三周目、だと? そんなことになったら話が終わる前に俺が終わります。ちゃんとハッピー?エンド予定だ!! [saga]:2010/11/29(月) 06:41:48.28 ID:aZ0ObT2P
あらゆる照明の光りが、消えた。夜を迎えた学園都市は暗黒となる

さっきから点いたり消えたりしていたが、本格的に消えてしまった。いつまで経っても再点火しない

麦野「完全に消えちゃったわね。あの病院は大丈夫かしら」

御坂「大丈夫。多分自己発電できる装置が有るでしょ。あの蛙医師が居るんだから、そう言うトコ、抜けてないわ」

うわああぁああ、とフルオートでライフルを乱射する警備員の弾丸を御坂の鉄クズシールドで防ぐ

弾切れになったタイミングで反撃とばかりに、彼女はその場所を光線で焼き払った

もう声もなくなってしまう。彼女たちが立っている広くない道には、もはや敵は居ない

麦野「粗方この辺は片付いたわね。ふぅー。……これ、電気が消えたのは、かえって都合が良かったんじゃない?」

暗い道路のど真ん中で額の汗を拭いながら、片隅に小さく見える場所を見ながら彼女は言った

その場所は、まだここから距離があるが、明確に光っている

明らかに電力系を断たれた現状の学園都市で明りが有るという事は、目の前の中学生が言った様に、自己発電施設を持っているという事。緊急時照明程度ならば、その辺のビルにでもある軽度の自家発電設備でまかなえるだろう

だが、彼女たちが見ている場所は、普段の学園都市宜しく光っていた。周囲を光で満たして防衛に当る必要がある、そして内部が明るいのも、内部は内部で重要な設備が、目を離すべきでないものが有るという事を、明示している用に見える

御坂「あれじゃぁ、ここですよーって呼んでのと殆ど同じよね。……冥土返しの言う通り、あそこは、怪しい。クロね」

第3位も同じ意見の様だ

麦野「でも当然、あそこにも私らの情報行ってると思うわよ? 危ないわよー?」

御坂「何よそれ、脅かしてんの? なら相手を間違ってるわ。動けるときに動かないような軟弱な精神力だったら、こんな能力扱えないっての。舐めんな」

顔を覗き込むと、強張っていた。彼女の少女らしい顔つきが歪むほどに

麦野(ウォリアーズ・ハイ、か。昨日のであんなに精神がグラついてたってのに、ここまで警備員薙ぎ払いまくってた訳だし、確実ね)

麦野(こりゃ、病院に帰ったらまた面倒になるわ、きっと。……間違いなく、病む。結果だけ見れば弱者を一方的に殺してるからねー。今はアドレナリンがそれを気付かせないでしょうけど。特別に落ち着く必要がある場合を除いて、心地良い上に集中力を増加させるホルモン分泌を抑制することなんてしない)

麦野(私だって最初は少しは抵抗有ったなぁ。滝壺なんかに至ってはまだ殺しの免疫ないもの)

麦野(興奮ホルモンが切れたらどうなるか、心の強さが試されるのはこれからよ、中学生。頼むから暴走とかは止めて欲しいわ。って、なんで私がこいつの心配なんか)

御坂「なによ、人の顔じっと見ちゃってさ。とっとと行くわよ。……あ、もしかして今更怖気づいてんの?」

麦野「あぁ?フカシこいてんじゃねぇぞ。……ってこのやりとりさっきもやったでしょ。はいはい、行きましょ行きましょうねー」

そう言うと御坂は体を光る建物の方へ向けて駆けだした

付いていこうと、目標の場所を向くと、電撃の様な光が奔っていた。どこぞの発電能力者が馬鹿みたいに突撃したか、と思いつつ、徐々にその場所へ近づいていくと

御坂と麦野の目標施設を襲っていたのは、数日前から何度も対峙し手を焼いて、佐天涙子という少女にそっくりな、あの白い少女だった
477 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/29(月) 06:52:18.35 ID:aZ0ObT2P
ショチトル「血の海とはこの事だな」

この光景に対しての感想だ。暗い中でも、見える範囲で十分に死体だらけだった

第15学区は学園都市最大の繁華街を持っている。故に、15学区に隣接する学区の、放課後の人の流れは自然にそこへ集まるのだ

人数が集まれば集まるほど集団心理は増大し、またパニックに陥りやすくなるのが人間だ。加えて、敵が大きければ大きいほど、多ければ多いほど、襲う側の精神も不安定になる

アメリカが仕組んだ幻想術式の最大の激戦区であり、死傷者が最も多く出たのが、ここ15学区だ

彼女たちが歩く大通りは既に死力戦の後で、センターの幅40m程度の大道路には多数の穴だらけ・爆発した車両が有った

車を盾に戦った者、商店の中へ立て篭もった者、そこへ突入した者。そんな面影を残す死体達

海原「これは、少々不味い、か」

ショチトル「何がだ? 人の気配も何もないぞ?」

海原「……!」

少女を抱えて、海原が横へ跳ぶ。先程の場所には銃弾が。倒れこんで即座に、ショチトルとエツァリは半身を立ち上げてそのまま低い姿勢で正面のブティックが多く入ったビル内に逃げ込んだ

その最中にも3発ほど彼らを銃弾が襲った

ショチトル「い、今のは」

海原「狙撃手ですよ。どうやら向こうは原典と言う物を良く理解しているようですね」

ショチトル「どういう意味だ?」

海原「この状況、動く人間は限られる。そしてここは何処の勢力下ですか」

周囲を拳銃で警戒しながら、彼は問う

ショチトル「貴様の仮定通りなら、外部の、アメリカ派の勢力下であろうな」

どうやらここへ伏兵はいないようだ

海原「そう。この学区においては、警備員の監視用以外の監視カメラが、アメリカの意図で設置されていることが予想できます。防衛の為に」

ショチトル「電力はどうなる?!それにこんな真っ暗じゃ!?」

海原「この停電も、彼らの手の内だとしたら?」

海原「どういう目的で行ったのか、あるいは単に暗い方が動きやすいからか、停電を狙ったのはアメリカと考えるのが自然なんです」

海原「この学園都市で電気は必須。それがそんなに簡単に落ちるはずが有りません。計画的に狙わないと難しい。このタイミングならば、術式を知っていないとありえませんから」

海原「アメリカしか考えられません。そしてそのアメリカは、原典を狙っている。一つ以上は必ず握っている」

海原「体に取りこんでいる貴方が一番分かっているでしょう。原典はそれだけで大きな力を孕んでいる。サーモグラフィーの精度は、相手の熱量が高ければ高いほど上がる。同じ事」
478 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/29(月) 06:53:14.44 ID:aZ0ObT2P
海原「捉えるのは簡単なんです。あなたは。その上さっきの大通りを見たでしょう。紛れる人ごみもなければ、明りも無い。こちらはスナイパーが何処から狙っているのかも分からない。何人いるのかも」

海原「スナイパーはアメリカの拠点を守るべく常に設置されていた人かもしれません。だがそんなことはどうでもいいんです」

海原「問題は、一度狙われてしまったということ。原典の反応を捉えられてしまったという事。これでこちらの居場所はバレバレ」

ショチトル「な、何、銃弾の一、二発程度、原典を取りこんだ私にはm」

海原「最初に原典を理解しているようだと言ったでしょう? 諸刃なんですよ、貴方は」

不意にショチトルの体を抱きよせて、腕の袖を下げる。その振る舞いに少し少女は赤くなったが見えるわけも無い

海原「体に取り込んだ、ということは確かに自身の強化の作用もあります。ですが」

胸元から取り出した、黒曜石でできたナイフの先で、少女の黒い弱肌を傷つけようとする

ナイフを持った手先が曲がり、海原の方へ向いた。危険を感じて、海原はナイフを地面へ叩きつける

海原「体が強いなら、なぜこんな防衛能力があるのか分かりますか」

ショチトル「それはもちろん、原典本体を、今はそこへ取りこまれた私を守る為だろうな」

海原「そう。守らなければならないのです。なぜなら」

海原「なぜなら、あなたの体が失われれば失われるほど、原典を、その強大な力を使うことを抑えきれなくなる。それは肉体的な喪失も精神的な喪失からも起因する」

海原「追い込まれれば追い込まれるほど、人間はより大きな力を使おうとする。それらの喪失は、人間を追いたてるんです。それを原典はよく理解している」

海原「せっかく手に入れた行動出来る体を、原典は失いたくないですからね。だからこそ、守ろうとするのです。ですが」

海原「原典が出来た時代は古い。現代の大口径狙撃銃の超音速弾を何発も食らったりすることは、対応できても、あらかじめ考慮されたものではない」

海原「近接的な何10m単位の攻撃ならば、現代的な銃すらも、原典の防衛能力によって、その砲口は操作している者へむかうでしょう。しかし」

海原「遠距離の、それこそkm単位のスナイパーの間合いまでは、アステカの時代では対応できないのですよ」

海原「それが分かっているから、アメリカは容易に狙撃してきた。食らえばあなたの体は暴走する。どうです、最悪な状況でしょう?」

腕の中に居る少女へ向けた言葉は、彼に優しく抱かれた状況とはかけ離れた冷たいものだった

海原の手から離れる少女

ショチトル「な、ならどうするというのだ」

海原「もちろん考えていますよ。そのために建物の中へ逃げ込んだんです。逆に言えば、向こうは接近戦はできないんですから、建物の中などの閉鎖的な空間から空間へ渡っていけばいいんですよ」

都合のいい事に、ここは繁華街を含んだ他の学区よりも、密度が濃くビルや事務所が立ちならんでいる

本当に接近戦が無いならば、問題無く行けるだろう
479 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/29(月) 06:56:30.84 ID:aZ0ObT2P
一方「切れちまったかよォ……」

言葉を伝えることが無くなった携帯電話をしまう。そして足に力を込めた

一方「よォォかったなァあああ、おっさんよォォォ!!わざわざお前の上司の所までェ話しを聞く必要はなくなっちまったぜェえェええェェ!!!!」

虫の息の男を蹴り上げ、浮き上がった体を右手で掴み上げる

一方「だからよォォォォお!!お前は用済みなンだよォ?!!分かるか?!わっかンねェだろうな、そんなザマじゃあよォォ!!!」

腹部へ左拳。既に臓器の大半が崩れている彼は、ただ血を吐くばかり

黒い血では無く、赤い鮮血を吐血する

もはや止めてくれとも、殺さないでくれと言う事すら出来なくなっていた

一方「どォしたどォしたァァ?!何か言えよォォォォ!!!!言ってくれよォォォお!!」

もはや呼吸すら、満足にできない。もうじき死ぬ

一方「俺ァ不安なンだよォ!!!」

男の口から出た血で顔を濡らし、一方通行は叫ぶ

一方「結局俺ァなンも出来やしねェンだ!!自分で決めた事すら守れねェ!!それなのにアイツはどっかに行っちまうってよォ!!!」

一方「どォすりゃいいンだよ!!また妹達も死んじまう、打ち止めも死んじまう、黄泉川みてェに!!!」

一方「わかっちまったンだァ!!!」

一際大きく叫んだ

一方「絶望しかなかった俺の世界すら、アイツは簡単に変えちまったンだよ!!それこそ時間すら変えちまうようになァ!!!」

一方「アイツが全てやったってこの目で見てきた訳じゃねェ、でも間違いねェ、ねェンだよ!!見なくたって分かる、アイツは、ヒーローだからなァ!!!」

左腕はもう、男を支えるだけの力は入っていない

ずるりと大人の体が重力で沈む。それでも一方通行は虚空を殴り続ける

一方「アイツが居れば俺が居なくても大丈夫なンだ!!立ち直させる力ってモンを持ってるからなァ!!だが俺を見ろォ!!」

一方「結局俺ァこうやって傷つける事しか出来ねェ!!上手くいったと思っても、結局俺一人じゃなンも出来やしねェンだ!!!」

一方「信頼出来る奴はアイツだけしか居ねェ!!アイツは頼れる奴も、信頼できる仲間って奴もたくさん有るってのになァ!!!」

一方「どうすりゃいい!!?俺は一人になったらどうしたらいいンだ!!?教えてくれよ、おっさンよォォ!!!俺だって大人に頼ったっていいだろォがよォ!!!」

ピクリとも動かない男からは、どんな答えも返ってこなかった
480 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/29(月) 07:00:04.30 ID:aZ0ObT2P
御坂「佐天さん?!」

御坂もあの少女に気が付いたようだ

麦野「へぇ、アンタも知っているのね。あの子の事」

御坂「知ってるも何も、友達よ。初春さんと同じ。……なんでこんな場所に?!」

麦野「安心しな。アレは多分、アンタの知ってる佐天涙子じゃないから」

物陰で身を隠しながら、二人はその光景を見る

御坂や麦野が警備員を蹴散らしたように、またはそれ以上に戦闘に洗練された動きで警備部隊を行動不能に、死をプレゼント

遠距離では、最適に向こうの攻撃を読んで、鬼の様な電撃と電子光線を叩きこみ

近距離では、手練のハズの防衛部隊構成員の懐へ一気に飛び込んで、ナイフで首を切っ裂く

距離があればともかく、近接戦の動きだけでは、確実にLV5の二人の動きを凌駕していた

当然だ。なぜなら、彼女の体の筋繊維は、佐天涙子のそれでは無い。他の、迎電部隊と言うエリート達の鍛えられた筋繊維を、彼女のもともとの筋繊維と乗せ換えたのだから

早い話、少女と言うには、体のあらゆるパーツがよすぎるのだ。その見た目は、フェイクとも言える

御坂「私の知ってる佐天さんじゃない、ってどういう意味よ?!それに、あの能力は!!」

麦野「あの子の射程に入っちゃったようね。これは私の仮説だけど、あの子達のは多分、感応能力よ。かなり高度な、ね」

御坂「はぁ?だって佐天さんは無能……それにあの子達って、どういう意味?」

麦野「私も会ったの、オリジナルの佐天涙子に。……あの時点でホントにオリジナルだったのかは疑問だけど。確かにあの時は無能力者だったわね」

麦野「あの子達って言ったのは、そうね、おかしな言い方だけど、佐天涙子以外に佐天涙子のそっくりさんが居るの。……御坂美琴、あなたと同じようにね」

御坂「そ、そんな。なんで無能力者のクローンなんか」

麦野「さぁね。でもハッキリ言うわ。あの子達は強い。あんたのクローンとは次元が違う。根本的に欠陥電気とは違う目的で作られてるからでしょうけど」

麦野の表情には、余裕がなかった。本当に強いのだろう。それは、見れば分かる事でもあるが

麦野「でもコレはチャンスよ」

御坂「チャンス?」

麦野「あんなに派手にやってくれてる。注目はあの子。これを利用しない方法はないでしょ?」
481 :本日分(ry。盛り上がらね― [saga]:2010/11/29(月) 07:05:55.04 ID:aZ0ObT2P
海原「そこですね!」

黒曜石のナイフの切っ先が向けられた先、学園都市では珍しい、海兵隊仕様の戦闘用武器防具が剥がれ落ちる

そして驚きを浮かべている間に、柱の陰から突出。ホール中央で一人だけとなってしまった敵の、その丸裸な首を切っ裂く。とてもスマートな一連の流れだった

これで4人。周りに人間は居ない。ショチトルを除いて

彼女も彼女で、その圧倒的な原典の性能で敵を倒していた。無論、命削りな魔術では無く、マクアフティルと言う名の鋸状の木剣を用いて

鋸の歯として金属の代わりにちりばめられた白玉が、敵の首の骨を肉ごと引き裂いたのだろう。返り血が生々しい

ショチトル「接近戦は狙ってこないんじゃなかったのか」

フゥ、と息を吐いて海原へ歩み寄った

海原「全部が全部、予想通りとはいきませんよ。ただ、確信に変わったこともあります。間違い無く、ここにはアメリカの拠点があるということ」

ショチトル「だろうな。この装備、見慣れたものだ」

海原「しかし想定外の接近戦。敵の狙いは自分でしょうかね」

ショチトル「貴様を私から離せば、私など問題ではないとでも思っているのか」

海原「あなたはもともと戦闘員では無いですからね。そういう情報も行っているのでしょう」

ショチトル「でも私もこうして、敵を倒したぞ?!」

海原「エツァリと言う、敵が知らない人間が側に居たから、対応が出来なかったということもあります。本格的に肉弾戦を最初から狙っていたなら……その剣が有っても勝てないですよ、あなたでは」

ショチトル「なんだと?私にはこの剣だけじゃない、魔術もあるんだぞ」

海原「使えますか、魔術。魔術を使えば原典の影響が出てくる。体がどうなるか、昨晩話してくれたでしょう?」

言い返す言葉は無い。全て事実なのだから

海原「その上、彼らは魔術と言う物を、魔術師をどうやって倒すのかを把握している。組織の拠点を襲った時に、間違いなくHow toを学習しているハズ」

表情が曇るばかり。本当に彼女は、原典という類稀なる物を持っているからこそ、今ここに居る事が出来るのだ

海原「ですが、敵は私達に"エツァリという人間を知らない"という情報をもたらしました。コレは使えます。……あなたが倒した敵の装備はまだ生きているでしょう?」

少女は頷いて、親指で寝転がっている死体を指した

海原「よし。先に潜入します。都合よく装備も人皮も有りますからね。ここからが他人に化ける事が出来る私の、本領発揮ですよ」

そう言って、少女に通信機を渡した。その意味は単純。単独潜行して、内情把握の後にショチトルを呼ぶ、ということ

危険なのは彼自身が一番よくわかっているだろう。それでも、彼女をこのまま引きつれては彼女が危ういからという判断だ

自分の非力で、信頼する人間を死地に赴かせる。それはたまらなく嫌だったが、無力な彼女は頷いて海原であった者を見送る事しかできなかった
482 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 12:11:39.66 ID:kLdM0hIo
>ちゃんとハッピー?エンド予定だ!!

またまたご冗談を(笑)
483 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 13:20:16.25 ID:rgi9huQo
>>482
佐天さんは別よ
484 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 15:23:38.16 ID:fYlb6tMo
一方さぁぁぁぁぁああああん!!!
485 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 20:53:51.81 ID:LvP6zP20
オリジナルが既に死亡してしまった佐天さんは別として
心理定規も死亡し初春と絹旗が瀕死の重体・・・
これでどうやったらハッピーエンドになるんだ?
486 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 21:27:12.24 ID:l0UIBWgo
>>485
リセットでおk
487 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 21:28:29.94 ID:fYlb6tMo
>>486それ三週目フラグだ
488 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/29(月) 21:39:10.92 ID:6AGeXAYo
上条さん「ハッ夢か」
489 :鬼畜御坂回 [saga]:2010/11/30(火) 00:36:44.36 ID:/TaH38QP
一見すれば、公機関に有りがちな横長で巨大な施設だった

学園都市福祉保健局。私設病院が少なく限りなく、大抵の大病院が都市が決める予算で運営されている、この学園都市の医療の頂点である

外部に比べて高度な医療研究も同時に行っている学園都市において、その予算配分すらも最終的な決定をする権力を持つここの局長は、他の医療・研究機関の長を務める現職の統括理事会メンバーの男である

他の理事員との取引や協議で今のポジションを獲得した彼であるが、軍部や経理とは遠く、故に実質的な力は弱い

しかも権力は学園都市内に限られるもので、自分の保身のため、外部との相対的医療技術格差を埋めない為に、どこまでも露骨に学園都市技術の外部流出を嫌っていた人物である

結論、彼の依存する派閥は学園都市保守派だった

その彼の根城であるこの施設に、大枚叩いて導入した最新鋭装備の私設部隊が守るこの場所に、最大の脅威が訪れていた

「外壁周辺部の防衛部隊、4分の1が生存反応ありません!!」

全ての状況を監視できるディスプレイルームのオペレーターが悲痛な声を上げた

「なんという事だ。電力供給が途絶えた途端、案の状襲ってきおって……!!!」

自身も研究者の端くれである理事員の彼の格好は、白衣に眼鏡。胸元のネームタグに局長という文字が無ければ、誰も彼がそんな人物であるとは思わないだろう

「敵の数は、本当に一人なのか?!」

「確認されているのは一人だけです!」

「何者だというのだ。何が目的だというのだ!……駆動鎧の準備は?!」

「整っています。ですが、虎の子をここで出してもいいので?」

「構わん!どうせ敵は一人だ」

「……内部に侵入者!!数は2!!」

「なんだと!? 外に気を取られ過ぎたというのか。ええい駆動鎧部隊はまず外をやれ!!」

「内部侵入者は?!」

「内部に侵入してきたという事は、奴らの狙いはここの破壊などでは無く、何か目的があって入ってきたのだ。私の首とかな。それに駆動鎧などを室内でフル稼働してみろ、設備が壊れてこちらの被害ばかり大きくなる」

「侵入者に対しては、各自応戦!情報が分かり次第対策を考えるのだ!!」
490 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 00:55:26.10 ID:/TaH38QP
流石に外壁の無い分防備の厚い正面入り口からの侵入はせず、外壁に覆われた施設の背面から、4m程の壁を乗り越えて彼女たちは侵入した

地面に着地して、迷わず御坂は超電磁砲で目の前の建物に大穴を空ける

麦野「ちょ、マジ少しは考えなさいよ。一瞬で私達の事バレちゃうじゃない」

麦野の言葉を軽く無視して、御坂はズカズカと施設内へ足を入れる

麦野も続いて中に入ると、警報が鳴った

麦野「ほーら、バレちまった」

御坂「どうせ時間の問題だったでしょ?いいじゃない。向こうから来てくれた方が、片づけるのも楽だし」

麦野「ま、それはそうだけど」

麦野(随分と交戦的になったわね。足手纏いよかずっとマシなのは事実だけど)

麦野の悩みも警報も全く気にせずに、御坂は突入した部屋を見回す

やたら横長な部屋で、中央には怪しく光る箱型の装置が横並びにズラリ

御坂「サーバー室みたいね」

御坂が壁を破る為に使用した超電磁砲がその内の幾つかを使用不能にし、バチバチと音を立てている

御坂は手慣れた手つきでサーバーに手を突っ込み、配線を引っ張り出す

自らの体で通電させ、手元に取りだした端末で情報を閲覧した

便利な能力よね、と思いながら麦野もそれを覗く

御坂「駄目、か。ここのサーバーからは一般公開情報しか閲覧できない。ロック掛ってる情報ばっかり」

麦野「あんたならそんなモン解除できるでしょ?」

御坂「出来なくは無いけど、時間が掛りすぎる。もっと権限が上の端末からセキュリティ自体を解除した方が早いの」

麦野「権限が上の端末で解除?」

御坂「ロック掛けてるのはこの上の上、ここの施設の3階h―――」

豪快に、部屋の逆端にある扉が開いた

「いたぞ!!侵入者だ!!」

左手で扇ぐ様な仕草をして仲間に合図し、右手の銃でこちらを狙っている人間がそこへ立っていた

御坂「ッ……話しの邪魔、すんじゃないわよ!!!」

反射的に、御坂は電撃を向けた
491 :寧ろ御坂オンリー回 [saga]:2010/11/30(火) 00:57:03.83 ID:/TaH38QP
短い断末魔を上げて倒れたことすら確認せずに、彼女はその入口へ突き進む

続けて入ってきた男との間合いは僅か50cm程。はち合わせて一瞬慄いた隙に、間髪いれずに持っていたライフルを向ける

御坂「第三位の御坂美琴様が来たって伝えなさい。そうすれば体に余計な風穴開けなくて済むわよ」

「何だとッ?」

御坂「口答えしない!」

引き金が引かれた銃口から飛び出した弾丸が、御坂の前の男の肩を貫いた

御坂「あんたはただ報告して、私達を連れていけばいいの。余計なことしたら、殺すわよ?」

御坂はじっと男を見た。肩を撃たれれば、流石に反抗的な目を向ける

御坂「いや、やっぱり報告はいいわ。代わりに、何かされる前に先に手を打っておくことにするわね。少し痛いわよ、我慢しなさい」

そう言って男の両腕の手首・肘・肩へ弾丸を打ちこんだ

「ぐぁあああああぁあああああああああぁぁぁぁああ」

腕の関節が全て破壊されて、当然の様に悲鳴が上がった

御坂「うるさいわねー。アイツはこれ以上の怪我でもあきらめず立ちあがったのに。同じ男なんだからピーピー喚くんじゃない!!」

そして銃口を頭へ向けた

この女は容易に自分を殺す。容赦など無い。男にはそう思えた

御坂「足は生きているでしょ?案内なさい。それとも、ダルマにされたいの?」

男は即座に首を横に振った。それを見て、御坂は笑みを浮かべる

男が振り返ったのを見て、それを盾に他の仲間を電撃と銃で死と言う形で行動不能にして、御坂は麦野を手招きした

手際に感心しながら、麦野はついて行く

エントランスホールに入ると、一瞬の隙を付いて銃弾が御坂へ飛んだ。だが案の定、宙に浮いた金属片がその弾丸を防ぐ

麦野が無言で光線を撃ち返す。溶け落ちる味方の姿に、そして彼女らから放たれる幻想と実像に、防衛部隊はたじろぐ

御坂が放っている電磁波のフィールドによって、御坂と麦野には幻想と実態の判別が出来る

状況的には超能力者たちには幻想と実体二通りで二倍の攻撃手段があり、防衛部隊には一通り。しかも防衛部隊はその攻撃方法すら厄介な人質と防衛能力によって満足には出来ない

麦野「こんなやり方をしてるけど、私達は別にここを壊しにも、あんた達を殺しにも、あんた達の上司を殺しにも来て無いわ」

御坂「でも特別大サービスよ。殺されたいヤツは出てきなさい。超電磁砲でミンチにされるか、電気椅子で脳までショートして死ぬか選ばせてあげる」

今ある殺意は、明らかに麦野のそれよりも御坂の方が危険で性質が悪い。一言で言えば
492 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 00:58:02.48 ID:/TaH38QP
「……狂ってやがる」

ただ立ちつくすだけで、何度も何度も幻想の中で死んだ防衛部隊の男たちは、その少女を見ながら言った

狂っているのは本当に少女なのか、死んだはずなのに生きている訳のわからない状況で狂っているのは自分の方なのか、わからない

彼女たちを狙う所はいくらでもあっただろう。その為の十分な破壊力を持った武器も有っただろう

エレベーターで3階まで行き、降りた時には多くの銃口が向いていたが、結局銃弾は一発も彼女たちを襲わなかった。怖かった

御坂「あんたが、統括理事会のメンバーね」

ディスプレイルームの扉が開き、両腕の動かなくなった男が、緊張の糸が切れたのか失血のしすぎなのか、意識を失ってその部屋に倒れ込んだ

そしてその傷を作った張本人が「邪魔よ」と言いながら、倒れた体を蹴り飛ばす

その表情・姿・行動に思わず統括理事員の男も顔を歪めた

御坂「サンプルを渡しなさい」

言葉の無い男へ向けて、命令口調で言う

「きゅ、急にサンプルと言われても。なんの事を言っているんだ」

麦野「お前が学園都市中のガキのDNAマップなんかから、非合法に造り出した能力者の平均化サンプルの事を言ってんのよ。渡しなさい」

「そ、そんなもの私は知らん。第一知っていたとしても、どうしてお前たちに渡さねばならんのだ」

男がそう言った瞬間、男の横に立っていたオペレーターに向けて雷を放った。体が裂けて黒焦げになったその女性は、間違いなく生きてはいないだろう

御坂「勘違いしないで。私はやろうと思えば、ハッキングして全て強引に取りだすことだってできるの。今私達が言っているのは脅しでも何でも無く、温情よ、お情けよ。さぁ出しなさい。出さないなら、即昇天させてあげるから。私はYESでもNOでもどっちでもいいんだからね」

御坂の言葉には、偽りを全く感じさせなかった

「ま、待ってくれ。せめてあの外で戦っているヤツを止めてくれないか。仲間なんだろう?こ、交換条件だ、交換条件!!」

麦野がハァーとわざとらしく溜息を吐く

麦野「お前、まだ立ち場ってものを理解してn―――」

御坂が麦野を制止した

御坂「いいわ、止めてあげる。あの子は私の友達だしね。でもまずは」

そう言って手の平を上にして男の前に出した。先に出せ、と言う事だ

「わ、分かった。少し待ってくれ」

そう言って、男は背中に有る端末を操作する。片っ端からセキュリティを最上権限で取っ払っていく

後ろからは殺気を放った少女が見張っている。男は生きた心地がしなかった
493 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/30(火) 00:59:23.60 ID:/TaH38QP
そして、試験管サイズの金属の棒が渡された

「こ、これだよ」

御坂「コレで全部?」

受け取って、御坂は尋ねた

「あ、ああ。もちろんだ」

御坂「そう」

そして、残っていたもう一人の女性オペレーターをライフルで躊躇なく撃った。頭が綺麗に弾け、首から下だけとなった体がバランスを失って倒れる。心臓の拍動に合わせて鮮血が飛び出している

銃を理事員の男へ向けた

御坂「……本当に?」

顔から色が抜けた男は振り返って、更に端末を操作した

結局、試験管サイズの金属の棒は10本となる

御坂「最初からこうしていればいいのよ?人を騙すなんて、悪いことしちゃ駄目じゃない。メッだからね」

といって浮かべる笑顔が恐ろしい

御坂は半分を麦野に渡し、振り返って血まみれのディスプレイルームを出ようとした

「ま、待ってくれ。外の敵はどうするんだ!?約束が違うじゃないか!」

御坂「ああ、そのことだけど。あれh――――」

御坂が振り返って言葉を言おうとした時、自動スライドドアが開く音がして、麦野が部屋のその出入り口を驚いた表情で見ていた

「ば、馬鹿な!?駆動鎧部隊はどうなって」

男は、入ってきた少女を確認してオペレーターのモニターを確認した。駆動鎧部隊の名前リストに生存反応なしのマークが並んでいる

御坂「さ、佐天さん……?」

佐天に似た少女は御坂の方を見た。片腕が無いが、もがれた傷口は、白い戦闘服が覆っていた

「私はオリジナルの佐天涙子ではありませんよ、第三位」

少女は言った、第三位と。その話しぶりと表情はやはり御坂の知っている佐天涙子ではなかった

「あなたは、この者を守る為に居るのですか」

少女は理事委員の男を指差して言った。その時その少女から出た殺意から出た攻撃の幻想は、間違いなく御坂の知っている佐天ではなかった

御坂「いや、違う。けど、どうして?」
494 :本日分(ry [saga]:2010/11/30(火) 01:00:08.92 ID:/TaH38QP
「私の任務内容はこの男を殺す事だったので。仮にそうなら障害と判断し敵対していました」

御坂「……本当に、佐天さんとは違うのね。ふーん、まぁこのおじさんにはもう用は無いし。好きにしていいわよ」

少女は頷いた。男はそのやりとりを見て、御坂や麦野が自分を助けてくれそうにない事を悟る

「クソ!ち、近づくな!近づくなぁああああああああぁぁあああぷぎゃ」

懐に持っていた拳銃を少女に向けて撃つも、銃弾は彼女を捉える事無く男の首は体と分離した

倒れた男を見ながら、麦野は尋ねる

麦野「あのさ、オリジナルの佐天涙子は結局辿りつけたの?第一学区の、地下研究所とやらに」

「分かりません。私は、その前に出荷された固体ですので」

麦野「そう。分かんないならいいわ。単に気になってただけだから。もし辿り着いてたら、今はもう生きてないだろうし」

御坂「ちょっと、それ、どういうこと?地下研究所って何よ」

御坂が食らいつく。同時に佐天に似た少女は男からネームタグを取り外して、服の収納スペースにしまった。恐らく殺したという証拠代わりなのだろう

麦野「んー。まぁ離せば長くなるんだけど。早い話、私が会った佐天涙子は、自分以外の、ほらそこに居る様な自分のクローンにさ、気が付いちゃって、自分でケリを付けに行くって言って」

御坂「それで、第一学区に?」

麦野「そう。多分アレに、巻き込まれたでしょうね」

少女は死体の物色を終えて、御坂や麦野など視界に入っていない様に、その場を立ち去ろうとした

その少女を眺めている御坂と麦野の横を通り過ぎようとした、ちょうどその時、その足が止まる

「……試作最終完成型」

呟いたその時、部屋の入口から声がした。その時は御坂も麦野もその場所からは背を向けて、少女を見ていて気付かなかった

佐天「見つけたよ、アタシ。今楽にしてあげるからねェ」

二人が振り返ると、もう一人佐天涙子らしい人間が居た。ただその姿は、自分は佐天涙子ではないと言った白い服の少女の方がずっと御坂や麦野の記憶の中の佐天涙子に似ていると言えるほど、グロテスクだった
495 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 01:11:34.22 ID:aZzu6EQo
美琴と麦のんマジがんばれ!
佐天さんを楽にしてやれ
496 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 02:10:21.37 ID:VTKBREAO
ここの佐天さんはやたらめったら強くなったけどその反面扱いがどんどんおかしくなっていくな
最後まで爆散し続けちゃうのか
497 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/11/30(火) 19:52:12.73 ID:32Wvzik0
麦のん以上にビリビリがイッちゃってて怖いなあ・・・
LV5はやはり皆似たようなバケモノということか
でもこの最終完成型佐天さんが一番イッちゃってるんだろうなあ・・・
単なるバケモノどころかもはや妖怪や物の怪の類だしなあ
498 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:05:14.52 ID:maH0eqgP
佐天涙子に似た少女の足が、後ろに下がった。まるで、御坂と麦野を盾にする様にして、入口付近の人物から距離を取る

佐天「逃げないでね―。また探しだすの、大変なんだから」

その人物は釘を刺すように言った

麦野「まーた出やがった。今度は何が狙いなの? この男、もう死んでるわよ?」

佐天「違いますよー。麦野さん。先日はお世話になりました。ありがとうございますっ!で、今日の狙いはそのコですよ」

体の丁度半分は皮膚と衣類が溶け混ざった形で醜く、頭は禿げている。もう半分は同じような白い戦闘用の服を着て、黒く艶やかで長い髪は健在だ

御坂「佐天、さん? 本物……?」

佐天「あー、御坂さんじゃないですか!。気付かなかったぁ。ゴメンねー。視界の半分は見えてないんですよ。あと、本物じゃないです。精神?心?は限りなく本物の佐天涙子だけど、本体はもうずっと前に死んじゃってますから」

御坂「どういう、意味よ」

佐天「簡単に言えば、運が悪かったんですよ。で、こんな姿に。でももうじき勝手に体は治ります。それより麦野さんと御坂さんって、知り合いなんですか? こんな血生臭い所で、返り血浴びて。流石LV5だなぁ」

笑いながら佐天は御坂達と会話しているが、見えていないハズの目は常に自分の姿を模した少女を捉えている。逃がさないと言わんばかりに

実際、逃げ場など無かった。金属とコンクリートの壁を突き破る方法は有るが、それをした所で最終固体からは逃げられないと分かっている。自分と同じ場所に出荷されて、この女に殺された他の固体がそうだったように

麦野は冷静に、この二人の佐天の関係性を読み取ろうとしていた。力関係も

御坂「成り行きでね。知り合いと言えば、結構前からだけど。それで、この子って、二人は何なのよ?!」

御坂の興奮ホルモンの分泌が、また活性化していく。状況把握のための故意でもあり、脳の自然な反応でもあり

佐天「んー。全部話しましょうか?少し長くなっちゃいますけど。その間にそのコが逃げる、なんてことは無いか。無いよね、アタシ?」

麦野が読み取った表情では、片腕の無く逃げ場も無い少女は焦りの顔を浮かべている。まるで先日自分と絹旗・フレンダで追い込んだ時の様な表情だ

御坂「是非、お願いするわ」

わっかりましたー。という声で、両手を合わせる。どうやって話そうかなーという感じで

両手が離れた時、溶けてしまった半身の未熟でじゅくじゅくの皮と体液の混じったモノが伸びて、地面にボタッと音を立てて落ちた

佐天「酷い話ですよ。"前"だか時項操作だか改変だか何だか分からないけど、アタシの生体情報が豊富で詳細で、どんな人間なのか良く分かってる無能力者だから、なんて理由で」

佐天「用は都合のいい無能力者がたまたまアタシだった、ただそれだけの理由で研究対象にされて、終いにはこんな体に入れられたんですよ」

御坂「体に、入れられた?」

佐天「精神だけです。正確には人格のコピーデータですけど。違う体に外部から人格を導入しても成り立つかどうかって実験なんでしょうね」
499 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:10:42.26 ID:maH0eqgP
御坂「自分の、クローンに?」

佐天「ちょくちょく仕様が違いましたから、完全なクローンとは言えないですけど。似たようなもんですよー。実験目的以外にも、たっくさんアタシが作られましたよ。最初から戦闘を考慮して作られて、兵器として作られたのがね」

麦野「兵器として、ねぇ。確かにアレは兵器だわ」

佐天「麦野さんは戦った事が有ったんですよね。ご迷惑かけましたー。悲しいもんですよ。他人を殺す目的とはいえ、自分と同じ姿の人間が居て、それが戦う消耗品としての存在なんて」

御坂の顔が更に強張った。佐天の目がそれに気付く

佐天「あー、そう言えば御坂さんのクローン、えっと欠陥電気だっけ、も殺されるだけの存在だったらしいですね。LV5を量産するのに失敗するとか、絶対能力者を生みだす為とかって」

御坂「なんで知ってるの?」

御坂が驚いた顔で、しかし若干怒りを覚えたような顔で聞いた

佐天「とある場所で情報媒体と接触した時に、情報が有ったんですよ。アタシの研究の参考データにもなったみたいで。1万人近く殺されるだけ殺されて、結局、何も成果なんてなかった。それどころか、全く違う形で絶対能力者は完成してしまったなんて。ホント、殺され損ですよね。ご冥福をお祈りします」

佐天の軽い言い方によって、御坂の顔が更に歪む。そんな事お構いなしで、佐天は言葉を続ける

佐天「ああ、そう言えば、意味はあったか。"ドラゴン"現出には必要だったかな。エイワスさんだっけかなー。でも一方通行に殺された1万31体は無駄ですね、完全に。全く、命を何だと思ってるんでしょうねー、ここの連中は」

麦野(ここでもまたドラゴン。現出ってことは、そういう存在が現れたってこと?ドラゴンってのは人?)

佐天「それに比べれば、アタシのクローンなんて数は少ないし、素体自体は無能力者、その上体も貧弱、あ、貧乳とかって意味じゃないですよ」

佐天「逆に一般化させるには都合のいい素体だったみたいですね。そりゃあこの世は、潜在的には能力者になれる人もいるかも知れないですけど、無能力者の方が多いですからね」

御坂「絶対能力者が完成したって、樹形図の設計者も無いのに、どうやってよ!?」

語気強く御坂が言ったが、佐天は涼しい顔をしている

佐天「さぁー?まぁ、大方、失踪した高位の能力者の脳を大量生産した演算施設かなんかで代算したんじゃないですか? いや、アメリカの機関かな? とにかく、完成してます」

佐天「ここでこっちから質問ですよ。御坂さん、あと麦野さん。LV5なんだから考えた事あると思いますけど、超能力ってどっからそのバカみたいなエネルギーが来てると思います?まさか可能性云々とかって理論だけで成り立つとは思えないですよね」

分かるはずもない。学園都市ですら、自分だけの現実がどうやって、どこにあるのかすら掴めていないのだ

判明しているのは、AIMという特殊な力場が関与しているという事だけ

佐天「一番新しい理論だと、ここですよ、ここ」

中指で、頭を叩いた

佐天「ここに、脳に、イメージとしては核融合炉的なものがあるって思えばいいんです。蓄積炉とか言ったっけな」

佐天「そこで何かを反応させて取りだしたエネルギーを、AIMって名前の水路に流して現出させてる。抽象的ですけど、イメージの方が分かりやすいでしょう?今までの学園都市のAIMの定義とはすこし異なりますね」
500 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:14:27.52 ID:maH0eqgP
恐らく難しい理論や数値が列挙されて照明されるべきだろうが、この場にはそんな物が有る訳も無い

佐天「でもおかしいですよねー。LV4程度でもどうかと思うけど、LV5程のエネルギーが、人間の中で作れると思いますか?ましてや制御なんて」

佐天「でも現に出来てる。目の前のお二人には。どんな原理だろう。答えは、そんな莫大なエネルギーが体内で作れないなら、外から取ってくればいいってことです」

麦野「外部、から?」

佐天「はい。エネルギーなんて、宇宙単位で見れば無限にありますからね。それを使ってるんですよ。AIM上に体内で作ったエネルギーを走らせて、そこへ外のエネルギー、NASAなんかでは訳わかんないからとりあえずダークエネルギーなんて呼ばれてますけど、を巻き込ませる」

佐天「そうすれば、使えるエネルギーの上限が取っ払えます。大能力者以上の壁の一つは、それを演算できるかどうかって事だったみたいです。そして、巻き込むエネルギーの幅にももちろん、限界がある。それが御坂さんだったら20億ボルトなんて電圧の上限として表されてる訳ですけど」

佐天「その限界を取り払っちゃったのが、絶対能力者。要するに人間の限界を超えた存在って訳です」

天使とか悪魔みたいなもんですねー。と軽く流していく佐天

麦野「その絶対能力者って完成形が、あなた達だって言うの?」

佐天「アタシですか?アタシのは絶対能力者なんてモノとは正反対ですよ。まぁ近いって言えば近いんでしょうけど」

佐天「結局無能力者ですからねー。他の能力者に頼るしかない。社会的にも、能力的にも。超能力って言っていいのか分からないですけど、私達のは滝壺さんに近いものなんですよ。でも根本のエネルギーの使い方が違います」

佐天「"魔術"に近い、というよりほぼ同じですね。イギリスとかローマとかでは魔力なんて言い方してます。蓄積炉でエネルギーを作り出す代わりに、外部のエネルギーを体内に取り込んで使うって違いです。魔力の個人差ってのは取り込めるエネルギーのサイズってことですよ」

魔術などと、どこぞのオカルトか。しかし、事実、超能力や既存科学では証明できない事が学園都市で起きていたことを、暗部の麦野はおろか、御坂も感じとっていた

それは、何かに奮闘し続けているとある男の存在も関係しているのだろう。特にあのシスターなど

とにかく聴くしかない。根本的に知らない事項ばかりが起き続けているのだから。そう麦野は努めた

御坂はただ静かに、顔を歪めたままで、聞いている

佐天「術式によっては個人の魔力は上下したり、または道具によって補助をさせたり出来る分、超能力よりは進んでるし使い勝手がいいらしいですよ。欠点としては、エネルギーの取り込みで体に負担がかかるってことですね。ま、それは超能力も同じですが」

麦野「魔術とやらは分かったわ。それで、あんたのは何?」

佐天「えっと、魔術に近いって言いましたよね。アタシのは、魔力みたいにエネルギーを取りこんで、他人のAIMの上を強引に滑らせるって方法ですよ。そうすることで、魔術と超能力の不親和性を排除しているとか。いわば、魔術と超能力の中間ですね」

佐天「アタシの量産固体は量産されてる分、取り込めるエネルギーも少ない、安っぽい。でも戦闘用ですから、それを補うために他人の体を使って強化することでそれを補ってます」

佐天「でも結局アタシの量産固体は研究の副産物に戦闘力を付加させたモノにすぎません。早い話弱っちいんです。だから痛い目を見ちゃう。可哀相ですよね、痛いって」

佐天「だからアタシが、複脳計画の最後で最初の完成品のアタシが、……運悪く選ばれちゃったアタシが、その痛みを拭ってあげてるんですよ」

遂に両目が御坂や麦野から外れて、部屋の隅で出来もしない隙を窺っていた量産固体である佐天涙子に向けられる

その固体は、覚悟した
501 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:15:49.87 ID:maH0eqgP
佐天「死って形でね。………ホントは、アタシも死にたかったのに。核の火でなにもかも全部吹き飛ばしたと思ってたのに」

最後の言葉に、御坂は反応した。いつの間にか伏せていた顔を上げ、怒りで引きつった顔をしている

無言で、麦野に自分が持っていた5本の金属の棒を、サンプルの入った棒を渡す

渡した途端、その体から殺意を帯びた電光がほとばしる。壊されまいと麦野は少し距離を取って、御坂が制御しきれなかった電気が近寄るのを自らの能力で防いだ

御坂「今、核の火っていったよね、佐天さん」

その姿に、明確に怒気を含んだ姿に佐天は特に反応しなかった

佐天「はい、言いましたよー」

御坂「第一学区を、吹き飛ばそうとしたのは、あんた?」

佐天「……そうですね。本来なら生き残る固体が出ない様に、学園都市全部、関東全部吹き飛ばす気だったんですけどね」

御坂「初春さんや、黒子達も含んででも?」

佐天「あぁー、そうなっちゃいますね。今気が付きましたよ。アタシもあの時必死でして。でもいいじゃないですか、皆楽になれますよ、一緒に逝けば」

電光の激しさが増した

麦野(あー、これ、不味いかも)

御坂「っざぁぁけんなああああああああああああぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!」

手に持っていたライフルが、火を噴いた。それも通常の弾速ではない

フルオートで、即席超電磁砲と化したライフル弾が15m程前に居る佐天へ向けられた

比較にならない音と光を放出して、確実に試作最終完全固体佐天涙子の体を捉えた

弾丸が空中を奔っただけであるのに、巻きあがる粉塵、削れる床と壁、天井、死体

込められた電力量は、限りなく限界に近く、フルオートでありながら数発撃ってその銃は使い物にならなくなった

好機と判断したのか、量産固体は動きを始める。強い戦士は、生存本能が強い。殺されることが目的ではない彼女たちは、感情は無いが本能は残っている

生きる為に逃げる。屋内としては広いが、戦闘区域としては狭いその部屋の中を舞う粉塵の中を彼女は駆けた

佐天が居て、超電磁砲の咆哮を受けた場所を横切ろうとした瞬間、彼女の体は壁に押し付けられ、潰れて弾けた

飛び出す骨格、内臓、脳漿

佐天「逃げちゃ駄目って言ったのに。んま、結果は同じだけどね。さみしくないよ、皆そこに居るからさ。後でアタシも逝くから、待ってて」
502 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:16:42.74 ID:maH0eqgP
粉塵の中から、声がした

御坂「……?! うらぁああああああああああああ!!!」

使い物にならなくなった銃を捨て、あらん限りの電撃と施設の一部だった物を浮かせて声の方向へ放った

雷が粉塵かき分けて、佐天の姿が浮かび上がる

佐天「びどい…ぁ。急にこっ、げきしてくぅ…んて。うぅ、痛、ンッ」

守りもせず、避けもせず、撃ち落としもせず、逸らしもせず

その体は全てを受け止めていた。腕は千切れ、胸の肋骨はむき出しとなり、胸から腰までは存在すらしていない。有るのは骨格だけ

顔も、右あごから首半分が抉れている。そして全身が炭化している。それでも、立っていた。言葉を話していた

有り得ない。あの弾速を受けて、この程度の被害で済むわけが無い。そしてこの見た目で生きているハズが無い

御坂「んなっ、は、はじけなさいよぉぉぉおおぉぉお!!!」

更に電力量を増やし、部屋全体が青く照らされた。同時に、白い靄が発生する

通電時に起きる抵抗が熱を生み、温かくなった空気が周囲の大気によって冷まされて凝縮され、視覚化したもの、つまりは霧だ

麦野(駄目、暴走しかけてる。この子には悪いけど、ここはとんずらさせて貰うわ。これ以上はサンプルも壊される!)

通路側の壁へ向けていくつもの光線を放ち、脆くなった壁に電子放射で加速した体で体当たりして、彼女は部屋を跳び出した

部屋を出た瞬間、爆発的な電子の流れを感じる。施設全体の照明が一瞬強く光って、消えた。磁化した金属の壁が振動音を鳴らしている

麦野(攻撃の余波でコレかよ!冗談じゃない。私以外がコレを守ってたら、一瞬でお釈迦よ!というより、先に人間が焦げる。早く逃げないと、ここも)

立ちあがって正面の壁を吹き飛ばすべく電子光線を放つも、満足に当りはしない。方向が捻じ曲げられる。御坂の強力な電磁波が阻害しているのだ

下手に能力を使えば、自爆する可能性もあった

麦野「こっちだって、伊達にLV5なわけじゃないのよッ!!!」

危険を顧みずに、彼女は廊下を電子放射で加速して走りつつ、壁を破って施設の3階から脱出した

そのままの勢いで、施設を覆う外壁すらも飛び越えて、着地。御坂の影響はここまで感じとれるが、先程のように深刻ではなかった

振り返って、施設の方を見る。轟く音は止まらない。連続的に施設全体が青く光る

麦野「能力の上限を、自己の制限を確実に超えてるわね。頭、焼き切れなきゃいいけど。痛ッ!?」

見れば、右手中指と薬指が溶け落ちていて、人差し指と薬指が焼けている
503 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:17:45.89 ID:maH0eqgP
麦野(クソ、自爆したか。いや寧ろ、この程度で済んで良かった)

スカートを裂いて包帯代わりにし、彼女は建物を背に走り去った

麦野の背で行われていた戦いは、一方的だった

ただひたすらに、御坂が雷を、金属を、動かせるものは電子でも原子でもなんでも加速させて、佐天へぶつけ続けた

直接金属を触れずとも放たれるようになった無数の超電磁砲が、佐天の周りを取り囲むようにして間髪無く射出される

御坂「消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

体を流れる神経電位の制御容量すら攻撃へ回したので、彼女の体の筋肉という筋肉が痙攣をおこし、臓器が危険信号を脳へ送る

しかし過剰に分泌された興奮ホルモンは、御坂自身がそうさせたホルモンは、それを認めない

顔の筋肉が無茶苦茶な動き方をして居る一方で、目だけはずっと佐天涙子に焦点を合わせ続けた

佐天「…そ…のっ調子ですよ、御坂さん、ンッ」

当然、御坂の放つ一方的な攻撃が作り出す音で、その声は届かない

だが、声が出るという事は、的確に佐天を狙えていないという事だ

全く動きが無いように見えたその状況は、実は少しずつ動いていた。御坂の消耗と言う形で

御坂「だお、ぐあ、、ぺば、つめあおぱ、がいお、hなp、kびあppがwく、ぁぱw、qp、@nくぁ、swでfrtg、yふじ、、、、、こlp;@:」

口の筋肉が痙攣し、肺から排出される息が意味のない音を作っている

遂に御坂の腕が、電撃で焦げ始めた。筋肉すら痙攣していた所で痛みが混じり、腕から放っていた超電磁砲の射線が佐天を大きく外し、佐天の手前の床を突き破った

無数の超電磁砲の衝撃によって、更に御坂の電磁波によって振動し劣化していた床にヒビが入り、割れる

一瞬で彼女らが立っていた部屋の床が全て砕けた

立っているのがやっとだった御坂は、それでも佐天へ攻撃を集中する御坂は、何が起きているのかを把握できず、なすがままに巻き込まれていく

佐天「あ、御坂さん!」
504 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:20:41.58 ID:maH0eqgP
フレンダ「試運転と言っても、流石にコレはキツイ訳よ」

病院の護衛ということで、敵を殺すわけにも、怪我をさせるわけにもいかなかった。そんな事をすれば、冥土返しの仕事が増えるだけだ

街灯の明かりも無くなった以上、病院を襲ってくる攻撃者に先生攻撃を仕掛ける為に、彼女は熱源探知機能が付いたゴーグルを装備している

そして失った左腕の代わりにガジェットが備え付けられている。熱源探知で見つけた人間をロックして狙撃する代物で、脳波によって連動して動く高性能な代物

フレンダ「殺してはいけないよ。危害を加える武器を持っている人間だけを狙うんだ。貫通力が無い麻酔弾がセットされているけど、君なら何とかできるでしょ?って、無茶に決まってんでしょ!!何言ってんの、あのフロッグヘッダーは!!」

物陰に隠れつつ移動している少女は、悪態を吐いた

もともと彼女は、罠を仕掛けて戦ったりするなど、アグレッシブな戦い方をする人間では無い。故に、姑息に虚を突くという方法は向いているはずなのだが

カシュン、と麻酔弾を射出する音が静かに響いた

フレンダ「多いのよ、根本的に数が!!病み上がりだっての!!」

叫んだ。もちろん、周囲のやたらアグレッシブな警備員も能力者も武器を持った無能力者も排除した状況で

病院ということで、警備員も遠慮しているし、アメリカ側も襲うつもりなどない為、襲ってくる人間は相対的に少ないハズなのだが、それでも彼女一人で裁き切るには骨が要った。しかも、これがいつまで続くのか分からない。警備を任されてずっと続けていた彼女は、軽く絶望していた

「お疲れさん」

肩を叩かれた。予想外の事に、彼女は驚く。一応、隠れていたつもりなのだが

上条「はいよ。補給の麻酔弾と差し入れだ」

渡されたのは、弾と飲み物、そしてサバ缶だった

フレンダ「うおぉ、兄さん気が効くー!ってか、どうして私がサバブーム中だって知ってるわけ?」

上条「あ、えっと、とりあえず有った物を持ってきただけ、かな。い、いやー、まさか女の子がサバ缶で喜ぶとは上条さん驚きですよ―」

フレンダ「ふーん。とりあえず超運が良かったってわけね。おっと」

カシュン、カシュンと撃つ。上条の視界でもギリギリ、二人の男が倒れたのが見えた

上条「……休む暇も無いみたいだな」

フレンダ「そうよー。何? 変わる?だとしたら嬉しいワケよ」

上条「いや、ごめん。違うんだ。ちょっと用事ができたから、ついでにお届けに来ただけなのですよ」

フレンダ「ですよねー。結局フレンダちゃんは一人で永遠と孤軍奮闘しなきゃならないわけよ。ああなんて可哀相に。……んじゃ、行ってらっしゃい!帰ってくるまでずっと私がこうして警護やってったら、ストレス解消の為に的になってね」

上条「ちょ、それは勘弁してください。……でもま、俺が帰ってくるまでは流石に有り得ないだろうな」

フレンダ「なぜなわけ?」

上条「用が有る所は少し、いや、かなり遠いから、かな。……それじゃ行ってくる」
505 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/01(水) 00:22:31.11 ID:maH0eqgP
(君ならもう知っているかな?今度はバングラディッシュに現れたようだよ)

垣根提督の頭脳に、声が響いた

垣根「あの天使崩れが?へーそりゃホットなニュースだ。うおっ」

垣根の顔の前を石が通り過ぎた。ただの石では無い。その石はそのままコンクリートの壁に当ると、その壁を粉々に破壊した

投げた男の周囲50uには、複数の人間が横たわっている

男は息も絶え絶えだが、手には武器を、ハンドサイズの投石機を持っている

それは、歴史上でインカ帝国の解体と共に姿を消した物。つまりは霊装。彼らは魔術師だ

近辺の魔術組織が次々と壊滅させられ、次は自分たちだと判断し、先手を仕掛けてきたのだが

アメリカに察知されてしまって、運悪く垣根帝督が潰し役として派遣された

垣根(なかなかタフなヤツも居たもんだな。ま、これで)

未元物質を少し解放した足で地面を蹴って、男との距離を一瞬で詰める

「ひ、ヒィィ」

圧倒的な性能の違いに、男は動けなかった。さっきの投石は、最後の抵抗だったのだろう

垣根「ッたく、お前らこんなことしてる場合じゃねーって分かってねぇのかよ」

言いきった刹那、彼の拳が腹部へ刺さっていた。内臓は潰れただろうが、まだ死んではいない

垣根「あーあ。結局服も靴もおじゃんかよ」

(御苦労さん。報酬で好きな物を買えばいいじゃないか。しっかりとこの国のGDPに貢献してくれたまえ)

垣根「はいはい。お上手お上手」

(おぉ、全員生きているのか。ちゃんと殺さないでくれたようだね)

垣根「任務内容ぐらいは守るっての。どーせ、魔術研究の為の固体が必要なんだろ?」

(その通り。まぁ、英仏海戦での情報収集と東洋の聖人から十分なネタは得られているのだがね。それでも希望が多いのだよ)

垣根「英仏海戦、か。暇だったんで調べたぜ。アレもお前の筋書き通りだったんだろ?」
506 :本日分(ry。今回のはいつも以上に言葉がおかしいところが多いかもしれない [saga]:2010/12/01(水) 00:24:26.00 ID:maH0eqgP
(ふふ、なんのことかな)

垣根「しらばっくれるなよ。わざわざ魔術に見せかける為にドーバー海峡上に魔術陣っぽいモノを投影させて、その実ただの衛星レーザー攻撃だったってとこまで調べたんだぜ」

(ハハハ、バレてしまったか。仕方が無いだろう?あの時には魔術についての研究は、特に大規模術式などというものについては、全くの情報不足・研究不足だったんだ)

垣根「良くバレなかったもんだぜ。そういや、あの天使崩れにレーザーって通じるのか?」

(ふむ、今ある情報ではそれなりの効果は得られると判断できるが、すぐに使い物にならなくなるよ)

垣根「敵の耐久度が上がればって話だろ?仮定の話じゃねぇか」

(いや、それ以前だ。GPSも各国の軍事衛星も、使えなくなるんだよ。文字通り全て、ね)

垣根「……隕石群でも来るってのか?」

(察しがいい。映画に出てくるような隕石から、ギリギリ地面まで燃え残るサイズまで、もうじき雨の様に降ってくる)

垣根「ヴェスヴィオ大噴火・チリ大地震に続いて、今度は隕石かよ。こりゃ、本格的に終末だな」

(これからもっと頻繁に歴史的な大災害と神格の襲来が予測される。なんとか乗り切れれば良いんだがな)

垣根「それも全て、原因はアイツなんだろう?……それこそ、あの女の死も」

(彼女の死については極論だが、間違ってはいない。彼が全ての原因。彼が居なければ、こんなことにはならなかったのは事実だ)

垣根「……幻想殺し」

辺りが騒がしくなった。回収部隊が魔術師たちを回収し始めたからだ

垣根「じきに引き上げだ。おい、次は何をしたらいい?」

(そうだね。おっと、今度はスペインだ。これは近いうちにもう一度我が国に来るかもしれないな、天使崩れが)

垣根「その時は任せろよ。……全力で潰してやる」

(意気込むのは結構だが、君が都市の破壊の原因にならないで欲しいね)

垣根「了解だ」

そして彼は回収部隊と共に車へ乗り込んだ。苛立った表情のままで
507 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 00:57:38.83 ID:U4xwxeco
こっからハッピーエンドはねぇよ
508 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 00:58:37.02 ID:wGVxuZAo
これはもう3周目突入しないと駄目だな
509 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 01:11:53.88 ID:wqW3VbQ0
1周目の各国や各団体の対立構造がどのようなものか明確になっただけで
悲劇もただ形を変えて訪れているだけで
1周目と何も変わってないか寧ろさらに悪化しているような気が・・・
510 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 02:57:51.07 ID:W9XZ6rc0
佐天言うところのハッピーエンドならありそうだ(全滅エンドとも言う)
この>>1 トミノなんじゃね?
511 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 11:37:56.97 ID:G73j166o
いや、まだ全員生き返り(笑)endが残っているさ
512 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 13:10:40.47 ID:KU7fddYo
対消滅ロケットで地球の自転と反対に飛んで時間を巻き戻すんですね
513 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/01(水) 16:00:35.90 ID:eJugVLko
読者は阿鼻叫喚、作者はニンマリのハッピーエンドとか・・・
514 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 06:31:13.50 ID:12yb1zw0
1週目の麦野がかわいすぎてヤヴァい。
2週目とかそれ以降があるならホント頼みますわ。
515 :安心しろ白富野だ [saga]:2010/12/03(金) 08:01:39.46 ID:RjPEAY.P
「おおーい、御坂さーん?おーい」

頬を叩く感触がする。聞きなれた声もする

その声はどこまでも普通で、とても戦い合っていた友人の声では無い

ああ、そうか、夢だ

友達が瀕死で、上条が上条じゃなくて。自分が知りもしない人間を脅えさせ、傷つけて、殺して

私がこんな事をするはずがない。夢に決まっている

そうだ。ここで目を開けば、この声の主が、多分ファミレスやカフェの机に突っ伏している私を覗きこんでいる光景が有るのだ

なんで私が、佐天さんと戦わねばならないのだ?殺さねばならないのだ?これ以上友人が傷ついた所を見なければならないのか

あはは、は

佐天「残念ですけど、夢じゃないんですよ。ほんと、夢だったらどれだけ良かったかな」

瞳を開けば、暗い空間だった。カフェの匂いも感じさせない、巻きあがった粉塵と焦げた苦味

照明は自らが放射した膨大な電磁波のせいで全て焼き切れてしまって、光を放つ物など何もない

それでも、離れていた為生きていたのか、施設の外部を照らすサーチライトの光は入って来ていて、薄く見える

ただ目の前に居たのは、夢と同じ人物の佐天涙子だった

佐天「御坂さんでも、痛いですか?」

御坂が一方的に傷を付けた佐天涙子の体。胸から下は無かった

1階に崩れ落ちた二階と三階分の瓦礫の上に寝かされている彼女の、頬に触れる手は宙に浮いている

佐天「アタシは無能力者だから、脆くて弱いから、痛いです。でも、痛みを我慢してでも、その痛みのすべてを取り除きたい。それだけは弱さに負けたくない。負けられない」

自分の体の傷とは比較にならない怪我を負った少女は言う

佐天「御坂さんはその痛みに、負けてしまいますか?」

良く見れば、首と胸も繋がっていなかった
516 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:02:44.53 ID:RjPEAY.P
気を失うという作用は、本質的に睡眠と同じ効果を持っている。脳に蓄積した疲労の回復

時間が少ない分、行われたのは興奮ホルモンの沈静化程度だが、それで十分だった

彼女が今まで行ってきた事を酷くシンプルに思い出させる

彼女の根本的な行動理念は、自分を取り巻く環境全てがこれ以上悪くなる事を防ぐ。結局これに集束する

自分がLV5であることから生まれてしまった妹達に端を発する。幼いからと言って、考えが足りなかったからと言って、言い訳は出来ない

そしてそれがきっかけで見えてきた、学園都市の黒い部分

その黒から自分に出来る限りで、例えその限りを超えてでも、守れるものを守り、これ以上悪くならない様に

自己満足と言えばその通りである。しかし、そんな姿を尊敬し、信頼し、そして助けようとしてくれた後輩や友人たち

彼女らを守り助けるのも自分の役目。役目通りの事をするための行動が、いつの間にか弱者の虐殺になっていた

弱者は弱者だから、動けない。自分の弱さを知っているから、出来る限りを狭く見積もり、その中で自らを救おうとしている

無論それは積極性に掛けるかも知れない。そうなったのも自分の非努力のせいかも知れない。でも、才能には限界がある。出来ない事を求める愚行は、何よりも超能力者である御坂が分かっているはずなのに

そんな相対的弱者を彼女は一方的に排除して排除して排除して

気が付いたら、興奮しきっていた自分は、弱者や友達すら殺し殺そうとした

これも言い訳は出来ない。いろんなことが重なって心が斜めだったからと言って、やり様は有った

殺しはまるで、球状の空気が入ったクッション材を一つづつ押しつぶすような感覚を持って、なにかに力をぶつける作業の形で終止してしまった

こんな姿を、私を知る人たちが見たら、どう思う

いや、そんなことじゃない。私だ。私がみたら。いや、見た。やった

あはは

結局自分の理念すら守れなかった。自分を支える柱すら裏切った

御坂「あはは、あはは、はは」

涙を流す事すら許してくれなかった。そして自分を笑った
517 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:03:25.56 ID:RjPEAY.P
佐天「痛いですか? 痛みに負けますか? 我慢できないですか?」

佐天「自分から逃げたいですか?」

浮いている。ユラユラと

自分がやったことを見せつけるように、削げた皮膚・むき出しの肉・バラバラの体。しかし、攻め立てる様で慈愛に満ちた目で見つめている

御坂「痛いよ。我慢できないくらい。体も、心も。笑うしかないぐらい」

佐天「楽になりたいですか?」

御坂「……そうね。もう、駄目かも、私」

自らの電光で照らして、佐天の顔を良く見ようと思ったが、それもできなかった

無気力が簡単な演算すらさせてくれない

御坂(こんなんじゃ、黒子にも笑われちゃう。私が居なくなっても、大丈夫かな?大丈夫だよね、あの子、強いし。そっか、黒子、初春さん)

半身を起して、浮かぶ佐天の顔に尋ねる

御坂「ねぇ、最期に頼みが有るんだけど、いい?」

佐天「どんな用ですか」

御坂「私の代わり、やってくれないかな」

それは、最後に見せた彼女の役割への責任とプライドの表れだったのかもしれない

だが佐天の顔は拒否の動きをした

佐天「無理です。御坂さんの代わりなんて、役割なんて、アタシじゃ代われません。御坂美琴が残した役割だから、佐天涙子の役割じゃありません」

御坂「そう、だよね。分かった。ごめん」

誰へ向かった"ごめん"なのか

そして御坂は目を瞑って再び身を寝かせた。そういう意思表示なのだろう

佐天「それじゃ、御坂さん」
518 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:05:04.10 ID:RjPEAY.P
『おいおい、一体どこからここまで知ったんだ?もう、昔のような情報入手の手段は持って――』

「一度業界に入ってたら、情報源が無くなるのは怖いのよ? パーパ? 例え家庭に入っても、主婦には主婦のネットワークってものもあるし」

『ありゃ、上条詩菜さんは、あの人の奥さんは一般の方だったと聞いてたんだけどな』

「あなたの強引なプロポーズ、ってか犯罪みたいな方法で引きずりおろされただけで、まだまだ現役のつもりなんだけど? もちろんこのお肌もね」

『現役のつもりなら、何で俺があんな事をしたのか、美琴を生んで貰ったのか分かっているんだろ?』

「そうねー。でも一つだけ、あなたの口から聞きたい事があるかな」

『何だ?』

「有能な部下として従ったの?それとも―」

『聞くまでも無い事じゃないか』

「いいの、聞かせて」

『発端は俺が泣き事を言った事だ。それをあの人は、上条刀夜は無理をして』

「結果、唯でさえ少ない人員から私達が居なくなって、作戦は成功したけど被害甚大。仲間も死んだ。責任を取らされて、局長は降格」

『君はその前に除名したハズなんだけど、良く調べたな』

「私達のキューピッド?んー、なんか変な言い方だけど、な訳だし、それは調べるわよ」

『流石、現役諜報員サマだ。まぁ、だから俺は部署や地位が変わっても、あの人への協力は惜しまないよ。それはつまり』

「え?」
519 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:06:08.69 ID:RjPEAY.P
『つまりその、美鈴、君への愛の裏返しだな』

「ありがと。そこの部分だけは旅掛、あなたから聞きたかったの」

『言葉だけならいくらでも言う。いつも家に居ないからな。どうだ? 惚れ直した?』

「直したも何も、最初からベタ惚れだっての。あんな事されて喜べるくらいにね。最後にパパから何か言いたい事は有る?」

『そうだなー。逃げろ、と言いたいね、俺は。でも』

「この地球上に逃げ場なんて無い、でしょ? もう会えないかもしれないのね。いつ私達のどちらかの上にアレが来るかも分からない」

『まだ君が現役と言うなら、簡単に受け入れるな。全力で抵抗するんだ』

「もちろん、そのつもりよ。それじゃ。愛してるわ。パパ」

『俺もさ。ママ』

衛星通話を切った

「最期に、嘘付いちゃったか。もう来てるんだよね」

上を見上げると、夜空に大きく光る何かが浮いている。周りは一面瓦礫の山と火の海。もはやこの地域では最後の人間だろう

彼女は、生きるべく出来るだけ足掻いた

抵抗した結果、最期に夫との会話が出来た。聞きたかった事も聞けた

そしてその視界は、瞬いた白色で、永遠に止まる
520 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:07:37.32 ID:RjPEAY.P
「さぁ結標ちゃん、感動のご対面やな」

迷路の様な第10学区の少年院の特別房の前で、青い髪をしてピアスをしている男が言った

特別に厄介なこの場所を守る部隊は既に全員意識は無い。しかしAIMジャマーを始めとした能力者対策の設備は生きていた。この施設の緊急用の発電機は安定的に電力を出力し続けている

対能力者設備が有る中で、彼らはどうやってこの場所を攻め落としたのか

答えは電力が切り替わる、その僅かな瞬間を彼らは狙ったのだ

都市全体の電力管理システムが複数のバックアップを持っている事で、アメリカ側は複数の管理施設を叩く必要があった

それはつまり、施設Aが潰されると施設Bに引き継がれ、Bが駄目になるとCになるという事だが、その切り替わり・引き継ぎの瞬間、絶対的に電力供給は不安定となってしまう

つまり引き継ぎ施設の数と非常用予備電力発電機の数だけ、不安定になる時間があった

施設を守る側からすれば、とても不利な事である

私設の防衛部隊も警備員も学園都市全体が危機に陥ってしまえば、どうしてこのような少年院など守ろうか

絶対的な人数不足・不安定な設備という状況下では、青髪と結標以外に3人の合計5名の襲撃で簡単に少年院は落ちた

青髪は持っている携帯端末で、この少年院の施設管理ルームに居る仲間へ合図を送った

重く、そして食事を入れるだけの為の小さな取り入れ口しかない扉がゆっくりとスライドしていく

青髪は横に立つ少女の顔が青色に変化していくのが見えた

結標「………そんな」

部屋の中に複数あったのは、人間の遺骸

青髪(やっぱり、あの人の予想通りやったかぁ)

あの人、上条刀夜との会話を思い出す

刀夜【彼女としても、そして私としても生きていて欲しいのだがね】

青髪【皆死んでいると?】

刀夜【ああ。警備が手薄になれば、とくに厄介な囚人、力のある子どもたちは子どもゆえに何をするかわからないからね。そう判断すると考えるのが妥当だ】

結標「息、して、ない」

一人一人の死を確認して、見開いたままの瞼を手でそっと下ろす
521 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:08:46.93 ID:RjPEAY.P
青髪「……毒ガスやな。死んだ時間は分からへんけど、この変色具合は間違いない」

青髪【死んでいる予定の仲間を助けに行かせるなんて、冷たいとこも有るなぁ、刀夜さんは】

刀夜【そうまでして彼女はこちら側に引き込む必要がある、ってことだよ】

青髪【だから少年院の電源は残したままにしておく訳やな】

刀夜【それが有っても彼女が暴走するようであれば、気休めにしからなら無いだろう。気休め程度にしか考えない方がいいかな】

結標「これじゃ結局、私はなんの為に戦っていたの?」

青髪「間違えるなよ。この人らの為やろ。君のお陰で今日まで生きていたのは、間違い無いんや」

結標「でも、こうなってしまったじゃない!意味が無いわ!!」

青髪「ああ。こうなってしもた。それで、君は意味が無くなったって諦めるん?」

結標「諦めるって、何をよ!」

青髪「君のこれまでの戦いは、敵の命令を聞き続けてきた戦いかもしれへんけど、この人らをいつか助け出す為の戦いやったんやろ。学園都市への抵抗やったんやろ。それを諦めてええの?」

人間の目的意識と言う物は、実のところ、精神次第でいくらでも刷り込みができる。一種の誘導話術と言う奴だ

青髪【……あんたはもっと理想とか人情に燃える人やと思っとったけどなー】

刀夜【幻滅したかい?】

青髪【いやー、その方が下で働く者としてはええと思うな。でも疑問やなぁ。んな人がどうして局長まで昇り詰めて降格したん?てっきり暑苦しい理想が足を引っ張ったと勘違いしてたわー】

刀夜【古い話だけどね。あの頃の私は、君の言う様に理想に燃えていたよ。その理想が私をそこまで昇り詰めさせたのだけど】

青髪【だけど?】

刀夜【ある計画があってね。長期的なもので、達成は目前だった。だが、最後の最後で雲行きが悪くなった。そんな時だったよ】

刀夜【目をかけていた部下が、今はもう私より格上になってしまったけど、優秀だったが故にこのままではどうなるか見通せた部下が、悩みをぶつけてきたんだ】

刀夜【彼は、当時まだあまり実戦経験の無い女性隊員と恋仲に有った。そして、彼女の作戦予定配置が危険極まりないポジションだと見抜いていた】

刀夜【彼女を死なせたくない。そう言われてね。その時の私は結婚して年も浅く、子供が出来たばかりだった。彼の気持ちが痛いほど分かったんだ】

青髪【ありがちな話と言えばありがちな話やな】

刀夜【だろう? だけど、実際に身近な所で起きてしまえば困ったものだよ。彼女の役割まで自分が負担するから、とまで彼は言ってきた。彼のポジションもまた危険なところだったから、もしそんなことになれば、彼の死は避けられない】
522 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:09:41.40 ID:RjPEAY.P
刀夜【このままでは無理をして彼は死ぬ。有能と私は分かっていたから、その才がもったいなかった。彼女だけ外せば、彼は責任を感じて無理をしただろう。だから二人を止めるには、両者とも作戦から外す以外無い。だが立場上、私は彼らを外せない。人員もギリギリだったんだ】

刀夜【だから、私は苦肉の策を彼に与えた。子供を作れと言ったんだ】

青髪【こ、子供?!流石の僕も思いつかへん奇抜なアイデアやなぁ、それ】

刀夜【レイプ紛いでもいいから、2ヶ月後の作戦予定日までに子供を作って結婚しろ、と。そして彼女を家に入れて、CIAから除名させろ、とね】

刀夜【それを理由にして、私が、情と理想に燃える私が認めれば、隊の他の人間も彼らが作戦から外れる事を認めてくれる。いい奴らばかりだったんだ、あの時の私のチームは。全員がOKしたなら、彼も彼女も自分を納得させる事が出来る】

刀夜【そして、子供が出来てしまえば、彼も無理をしなくなる。彼と言う才能を失うことも無くなる。新しい命を利用したやり方だが、なかなか良い方法だとあの時は思ったよ】

刀夜【そうやって彼らはチームから外れた】

青髪【作戦はそれで上手くいったん?人員ギリギリのなかで、更に減ったわけやろ】

刀夜【作戦自体は、成功さ。ただ】

青髪【犠牲が?】

刀夜【あぁ。チームは壊滅、生き残った部下も私も一握りだった】

青髪【それで責任を取らされたんやな】

刀夜【良い教訓になったよ。情に絆されることへのね。でも私は私の理想を捨てたわけじゃない。現実的な範囲で、冷静に達成する。今の私の力では、学園都市への被害自体は無くせない。だけど、少なくすることは出来る】

刀夜【その為の君であり、結標君なんだ。その為にはいくらでも私は冷たい人間になるよ】

青髪【どうやら僕は、付いていく人を間違えんかったみたいやなぁ】

刀夜【嬉しい事を言ってくれるね。頼んだよ。君が学園都市での計画の要なんだ】

青髪に炊き付けられて、結標の表情が変化した

結標「舐めないで欲しいわね。ここまで好きにされて、やり返さないわけないじゃない!!私しかもう残っていないなら尚更ね!!」

彼女をとりまく、死体や部屋の器具が振動し出す。怒りで滲み出た彼女の能力が、対能力者装置の制限を超えて、しかし演算はバグだらけといったところだろう

青髪「そうや。それがこの人らの為でもあるって、僕も思うね」

青髪(乗ってきた。あんたの計画通りやで、刀夜さん。ここからが本番やけどな)
523 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:10:41.05 ID:RjPEAY.P
エツァリ(上手く入りこめたが、ここは)

第15学区のマスコミ関連のビルが立ち並ぶ一角の事務所だった

正確には事務所の入った比較的大きなビルの周辺を含めた全てと言える

彼が変装している海兵隊仕様の装備をした人間の部隊が複数あり、白い戦闘服を着た同じ顔の少女たちが複数あって

そして何より目を引くのが、学園都市製でない大型の駆動鎧の群だった

エツ(戦争でもするつもりなのでしょうかね、これは)

良く見ると駆動鎧から海兵隊兵装の部隊に至るまで、全員同じ模様が入っていた

もちろん自分が身につけてあるものにも

エツ(そういえばここまで、幻影を見ていない。まさか、これはそういうものなのか)

そして彼は手前に居た同じ装備の者に銃を向けた

「お、おい。どうした?!なぜ俺に銃を向ける」

突然味方から銃を向けられて、当然困惑して逆に銃を向けられる

エツァリを取り囲むように銃が向けられた

今までならば、この時点で幻想が彼を襲っているはずなのだが

エツ(やはり幻視えない。幻影を見せないようにさせる術式か、これは。ということは、この模様が入っているのがアメリカ側ということですね)

エツ「グ、ぁ。み、味方、なのか……すま、ない」

彼は言って、銃を下ろして、わざとらしく倒れ込んだ

「意識混濁?幻想は見えないハズなんだが」「って、おい?! コイツ、怪我してるぞ!!」

「さっき出撃して音沙汰の無い部隊の生き残りじゃないのか!?」「担架だ!医療室へ!」

「医務室っても、急設の簡易的なものしか無いんだぞ?!」「いいんだよ!とにかく運べ!戦力は貴重なんだ!!」

敵に扮して倒れ込んだエツァリの周りに、今まで銃を向けていた兵が駆け寄る

エツ「……すま、ねぇ」

「喋んな!無駄に体力を使うだけだぞ!」

エツ(ふふ、これで中まですんなり入れそうですね)

エツ(しかし、これだけ戦力があって貴重とは。何と戦う事を考えているのでしょうか)
524 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/03(金) 08:11:51.74 ID:RjPEAY.P
半蔵(15学区とは、木を隠すには森ってことかよ)

手負いの白い少女を追って着いた場所は、15学区のマスコミ関連施設が集中する場所

確かにここならば大型の機材を積み込んでも、スタジオ作成だの映像装置だのと誤魔化せる

人員も同じだ。情報規制も出来る。考えてみれば、とても合理的な場所なのかもしれない

半蔵(なんだか騒がしいな)

見ると明らかに外部の装備をした人間が集まって、担架で人を運んでいる

半蔵(へぇ、こいつらにも少しは被害が出てるみたいだな)

その騒ぎの奥で、半蔵は有り得ない光景を見た

いつの間にか見失っていた少女が居た。それも複数、同じ顔で

半蔵(クローン、かよ)

半蔵(いや、LV5を量産するって計画で生まれたヒトクローンの情報は有ったが)

半蔵(たしか電気系統の能力者だったハズ。しかも失敗)

半蔵(あの女は最低でも4つの能力を使ったんだ。俺の知らない新計画でもあったのか)

半蔵(待て待て。学園都市のクローンが学園都市を攻撃する為の計画が?)

気配を消しながら違う物陰に入る

すると今度は、駆動鎧が立ち並んでいるのが見えた

この様子では、後ろに並んでいる大型トラックの中には兵器の類が満載されているのだろう

半蔵(こいつらマジで学園都市を相手に戦争でもする気か。警備員の連中がいくら減ったからっても、まだ私設部隊や特殊部隊、外部攻撃部隊なんかもあんだぞ)

半蔵(そんなモンに巻き込まれれば、今生き残ってる連中の命まで。クソッ)

半蔵(だがこれだけ外部の力が集結しているってことは、ウチの連中がここのどこかに居る可能性が見えてくる)

半蔵(怪しいのはあのビルだ。もともとオフィスだの事務所だのとして作られている以上、大型装置は持ち込めない。持ちこむ事が出来る物が限られる)

半蔵(ってことはあの中は外程ごちゃごちゃしてない。人質を拘束しておくスペースは十分にある)

半蔵「おし、侵入できそうな場所は……」
525 :本日分(ry。甘い展開が遠い。遠すぎる [saga]:2010/12/03(金) 08:13:44.09 ID:RjPEAY.P
アレイスター「今度は君か。今日は客が多い」

君と呼ばれた人間は答えない

アレ「ようこそ、役目を持って作られた者。ここへ来たということは、自分の役目を理解したということだな」

肯定の意を伝えるように、その人物は顔をビーカーの中の人物へ向ける

アレ「いいだろう。君の役目には、私の役目で応えよう」

アレ「なかなかに困難だと思うが、怨むならその偶然性だ。君でなくても、どんな者でも君の様になる可能性があったというのに。偶然の塊となる人間も、ある種の運命論。そして才能なのだろうな」

アレ「辛いことがあっただろう。そして辛い事が起きる」

じっとその人は見上げ続ける。意思表示をすることはない。逆にそれが意思表示になったようだが

アレ「分かっているさ。似たような事は何度もあった。私の経験上でも」

アレ「過去の偉人たちは愛別離苦を嘆いたが、人の順応性はそれすら乗り越える」

アレ「結局残るのは、自分の役目を果たそうとする意志ぐらいなもの」

見上げる顔に変化は無い。しかし、声も出さないのに、アレイスターは何が言いたいのか分かっているようだ

アレ「……訂正しよう。乗り越えても、残る物は残るよ。結局私も残っていたもののせいで余計な事をしてしまったしな。それによる差異は分からない」

アレ「というよりもともと、世界と言う物、モノの流れなど予測と予想と予定しかないのだ。それゆえにプランであり役目がある」

アレ「こんな役割を持っているのは、恐らく今は私だけなのだろう。だが君もいずれそうなるかもしれない」

アレ「ふふ、私の表情から意思を読み取るのは難しいらしいが、話し相手が喋らないで、表情も無いのはやり難いのだと分かったよ。これからは来客へもっと感情的になろうか」

アレ「最早役目の塊でしか無い私にとって、取り戻すという言い方になるのだろう。フム、役目・役割の塊か」

アレ「私の役割の一つは君への情報供与だが、それに応じた君の役目も有るだろう」

アレ「今起きている事、知れる事を全て記憶にとどめる事、そしてそこから思考して、自分の役目を定める事」

アレ「今の君と私の関係性は、人間と言う存在から外れつつあるというのに、本能的な生命の親子関係、バトンに似ているな。所詮、我々も生命か」

アレ「だが、私の役割はこれだけでない。私が定めた役目、プランに変更はない」

アレ「君と言う存在になってしまった君の、最初の役割が必要無くなるということさ。それでも、君は恐らく人類という種の意思と言う物を考えれば、サブプランなのだろう。誰しも自分の役目から逃げる事は出来ない。例えその役目を裏切っても、裏切り続けるか、もう一度受け入れてしまうか、忘れようと努める役目が出てくる。逃げられないのだよ」

アレイスターの目の前に立っている人物の周りに、光が集まっていく。この居城の持つ情報と主の持つ情報を収集している

アレ「……さて、前とは全く異なった時項の進み方をするこの星は、どうなるのか」
526 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 09:03:31.50 ID:EulaWQSO
美鈴さん…まさかアニメの出番を待ってから死なせたのか!
527 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 12:39:36.40 ID:jOuDHsAo
3週目突入かwwwwwwww
528 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 12:41:06.07 ID:l.jTZADO
まさか!人類補完計画か!?
529 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/03(金) 13:44:01.44 ID:b8KA8kco
ああ美鈴さんが…せめて娘だけは…
麦のん信じてるぜ
530 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 01:18:30.97 ID:se6S25c0
1周目は華々しく爆散した佐天さんだったのに
2周目は華々しく散るのは美鈴美琴親子で
今度の佐天さんは殺しても殺しても死なない
爆散さえ出来ない物の怪ゴキブリと化してしまったとは・・・
531 :みんな溶けて一つになるってのも一種のハッピーエンドなのかもしれんね [saga]:2010/12/04(土) 11:57:02.15 ID:d7GZxCgP
フレンダ「ここを襲うなんて、運が無いのよ、モヤシ野郎ッ!」

カシュンと音が鳴る

熱源を見せる少女のスコープに映り込んだ、御世辞にもガタイが良いとは言えない男にその弾は向かって刺さった

フレ(……撃った後に気付いたけど、今の人杖突いて動いていたような。もしかして逃げてきた患者を撃っちまったワケ?)

遂にやっちまったかもしれないと、フレンダは倒れた男の側に駆け寄る。もちろん、他に近づいてくるのは始末して

フレ(やっぱりよく確認せずに撃ったのは間違いだったか。楽しようとした罰なら、結局神様ってのは冷たすぎなワケよ!)

焦って駆け寄る彼女の足元には、彼女が今までに行動不能にしてきた人間たちが転がっている。皆、寝息を立てて

フレ(ぐぬ。倒れてる人が多くて歩きにくい。こんだけ片づけてもまだ沸いて出るんだから、流石超過密都市)

フレ(しかし、暗い中でサーモは便利だけど、こう気絶してるのが多いと、結局それまで映っちゃって使いにくいわけよ)

フレ(こうやって誤射もあるし。うーん。あんまり使いたくないけど赤外線偏重に切り替えるかな。げ、やっぱ杖じゃん。患者だったかぁー)

フレ「って、一方通行ァ?」

頬の近くに針が刺さって倒れこんでいたのは、やたら白い男の第一位だった

フレ(なんでコイツに弾が当る訳?って反射されたら私に当ってたし、これはラッキーだったワケよ)

フレ(そう言えば、能力使用に制限が出来たんだっけ、コイツは。それでも、こんなどこで襲われるかも分からない中で無警戒にフラフラなんて、らしくないわけよ)

軽く足先で突いてみる。効いているようだ

周囲を警戒する。少なくとも、見える範囲では他に警戒すべき人間は居ないようだ

フレ「あーもう、フレンダちゃん大活躍すぎるでしょー!って、予想以上に軽いワケよ。これなら私一人でいけるかも?」

肩に腕を回して、軽くて白い男を抱え上げる

フレ「ん、しょ。……うん、無理。結局いくら軽いっても男一人を運ぶのは無理なわけよ。無理無理」

さーて、どうすっぺかなー。台車でも持ってくるかするかな?などと考えると、背後で物音がした

反射的に身を隠して、失った左腕の代わりに付いている攻撃的な腕だけを出して向ける
532 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 11:57:43.54 ID:d7GZxCgP
この距離なら、この左腕の攻撃装置と頭のスコープを連動させれば、物陰に隠れても相手を捕捉できる

このシルエット、女か

「なにやってのよ、フ レ ン ダ ちゃん?私に向けてるその物騒なヤツを下げないと、隠れてる柱と心中してもらうわよ?」

フレ「むっ麦野?」

顔を出して、ゴーグルを上げて確認すると、麦野沈利その人だった

向けていた腕を下ろす

麦野「その通りよ、おバカさん。いろいろあったけど、帰って来たわ。ちゃんとブツもこのとおり。いつもどおりの完璧」

そう言って、御坂から守った計10本のサンプル情報が入った金属の棒の先を、バッグの口から見せる

フレ「いつも……?つーか、第三位はどこなワケ?」

麦野「あの中坊は、んー、多分、暴走しちゃったかな」

フレ「はぁ?暴走した?」

麦野「そ。暴走と断言は出来ないけど、ワザワザ取りに行ったブツまでぶっ壊す勢いだったから先に逃げて来たのよ」

フレ「えぇー。一体何が有ったわけよ」

麦野「もともとアイツなんか不安定だったでしょ?その上積極的に殺しまでする様になっちゃって、LV5の名前通りのバケモンになったわ」

結局中坊ってのは、簡単に暴走するくらい、まだまだガキなの。未熟未熟。体もね。と付け加えた

麦野「で、その化け物筆頭の一方通行がこんなところでなんで寝てるの?顔に素敵なモノ刺さってるけど」

フレンダはあからさまに嫌な顔をした

フレ「あの、私が病院を守ってたんだけど、その、敵と間違えて撃ったらこうなりましたであります」

麦野「一方通行が?いくら能力制限が有るって言っても、ふ抜けすぎでしょ。どうしたのよコイツ」

意識の無い一方通行を足先でゲシゲシと突く

フレ「で、ですよねー!まさか一方通行に当るとは思わないし、そもそもフラフラ歩いてるなんて」
533 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 11:58:26.97 ID:d7GZxCgP
麦野は聞きながらフレンダの装備品をまじまじと眺める。間違い無く嫌味な視線だ

麦野「フン、そんな良いモノ身につけといて、間違えるあんたもあんたよ。ミスはミス。認めなさい」

フレ「うぬぬ」

麦野「それで、今はコイツを運ぶのに悩んでたって所でしょ? タッパもないあんたじゃ辛いでしょうよ」

フレ「……お、お見通しとは、流石麦野なわけよ」

麦野「無理やり褒めんな。そんなの馬鹿でも分かるわよ。おし、運ぶの手伝うから半分持ちなさい」

思いがけない提案に、フレンダはウンウンと肯定の意を込めて強く首を縦に振った

病院へ向けて一方通行を挟むようにして運びだす

フレ「そ、そう言えば、第三位の事だけどさー」

麦野「ん?何よ」

フレ「さっき暴走したって言ってたけど、麦野はそのブツを守ったとも言った」

麦野「ん、そうだけど?」

フレ「ってことは、それを手に入れてから第三位は暴走したってワケでしょ?普通、手に入れたら麦野は何か他に特別な目的が出来ない限りとっとと帰ろうとするじゃん。なのに入手後に第三位の御坂美琴が暴走するなんて、特別ななんかでもあったのかな?ってさ」

麦野「ほぉぉ。ってと何?あんたは私が余計な何かをしたせいで、第三位が巻き込まれて暴走したとでも言いたいの?随分と言う様になったわね」

フレンダがこの話題を振ったのは、単なる偶然だ。一方通行を運ぶ間の話のタネとして、なにより自分のミスを過去の事も含めて突っ込まれるのを、あらかじめ防ぐための誘導として

つまり、ここで麦野とギャーギャー言い合わない為に機先を打ったのだが、麦野がヒートアップさせては意味が無い

フレ「い、や、いやいやいや、そんなつもりはなくって、ただ純粋に―」

麦野「佐天涙子よ。あの子が第三位暴走の直接的な原因」

フレンダが恐れていたような麦野の表情が自然に切り替わって、彼女は思い出すように言ったのだった

フレ「えぇ?あの白いの?それとも本人?ってか何故っ?」

麦野「両方よ。どうも第三位とは仲の良いお友達だったみたいでねー。はいそこ、重いからって足止めんな」
534 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 11:58:58.48 ID:d7GZxCgP
麦野「丁度このブツを手に入れた時ぐらいに、先に来てたあの白い佐天涙子のクローン体を追って、私達の知ってる佐天涙子も来てね。そこで感動のご対面」

フレ「んん?友達と再会して暴走? 友達目の前にして罪の意識にでも襲われたの?」

麦野「ま、それも半ば当ってんでしょうけど、でもありゃ一種の挑発だったかな。佐天がさ、他の人間の事なんて全く考えないで、第一学区はおろか関東全域を吹き飛ばすつもりで昨日のアレを引き起こしましたぁ、なんて言ってさぁ」

フレ「昨日のアレって、絹旗や滝壺も巻き込まれたアレ?」

麦野「そ。そういう意味じゃ、私達にとっても仲間の恨みがあるんだけど、すでにおかしくなっちゃってた第三位がキレたのよ、それで」

フレ「ほ、ほほぅ。あの子がねぇ。そっかそれで、逃げ帰ったのね、麦野は」

麦野「あ゛ぁ?逃げ帰っただと?」

フレ「ふ、ふひぃ」

麦野「まぁ、そうなんだけどさ。認めるわよ。でもそれは最重要物品のこの棒が巻き込まれて壊されるからって判断だから。どっかの誰かさんみたいにミスはしないのよ」

また表情を切り替えて、すらすらと述べる。どうやらフレンダをからかっているようだ。フレンダからすればこの上なく止めてほしいが、それだけのゆとりが今の麦野には有るという事だろう。安全だ

フレ「あー、それは以後気をつけるってことで、駄目? で、でも、それじゃ結局、あの佐天って子、死んだわね。暴走した第三位相手に無能力者じゃぁ流石に」

麦野「さぁ、それはどうだろ。どういう経緯か知らないけど、あの白いのを殺す為に追ってるみたいだったし、それなりの戦闘能力は有るでしょ」

フレ「まさか暴走した第3位が負けるって?」

麦野「暴走すりゃ、大概馬鹿になるからね。頭の使えない第3位なんて全く怖くないわ。猪突猛進のゴリラやイノシシみたいなものよ」

フレ「同じLV5なら、そりゃそうかな」

麦野「でもね、いくら暴走してても第3位は第3位なのよ。LV5ってのは、弱くないの」

ん?どっち?とフレンダは思うが、麦野はそれ以上話をしなかった

そして一方通行を真ん中に挟んで、彼女たちは病院の入口をくぐった
535 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 11:59:53.29 ID:d7GZxCgP
フィ「ロシア、アメリカ、スペイン、バングラディッシュ、日本、etc。人が少ない所も含めれば、一体どれだけの国のどれだけの生命がもってかれたか」

フィ「しかし、自国第二位の規模を持ったロサンゼルスを丸々失うとは、アメリカからは思ったほどの凄みを感じさせない」

フィ「ドーバーでの戦いをひっくり返されたのは完全にしてやられた。だが結局の所、俺様の目的は達成できたしな」

そう言って男は錠前の形をした霊装を取り出して、右手で遊ぶ

フィ「こうして、世界でただ一つとなった禁書目録の遠隔制御霊装」

フィ「こうなってしまっては、どうせ知恵の回らないイギリスの事だ、愚直だが賢い極端な方法に出るだろうさ」

フィ「いや、あの最大主教や女王は馬鹿には出来ないか。ハハ。どうしたものだろうな」

とある人間を前にして、フィアンマはわざとらしいアクションをする

フィ「気になるか?ま、俺様もそう思っていた所なんだよ。そこで、コレだ」

フィ「遠隔制御は、こっちの命令を一方的に送り付けるなんて事だけでは当然成り立たない」

フィ「特に高度であれば高度で有るほど、制御される側の情報を知らねば、処理せねば、まともな制御は行えない」

フィ「つまり、禁書目録の現在の情報が霊装に届いているということだ。それを上手く利用すれば、この通り」


ロンドンの特殊な病院の中で、ステイルの目の前、禁書目録と呼ばれる少女が倒れる

ステイル「禁書目録!?どうしたんだい!!」

咄嗟に出た大声。駆け寄ってくる看護師兼魔術師など

「急に倒れたんだ!」「不完全制御の影響でしょうか?!」

「とにかく、頭脳への影響が考えられます!」「圧迫負担軽減術式の準備が整った部屋へ!早く」

禁書目録が術式準備のある部屋に運ばれていく
536 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/04(土) 12:00:41.94 ID:d7GZxCgP
ステイルは、それを悔しそうな目で見送るしか無かった

そこへ、騒ぎを聞いたのか、少女の様な顔をした髪の長い女が現れる

ステイル「……これは、最大主教。お怪我の方は」

ローラ「見た目ほど痛々しくはないわ。でも、いざ腕が一本無いというのは不便でありたるわね」

ローラ「しかし、あのような後遺症、もしかしたら干渉の可能性もありたるけど、禁書目録、可哀相ね」

可哀相、という言葉に、ステイルは反応する

既に、周りに人は少なくなっていた

ステイル「可哀相とは、よく言えるものですね」

ローラ「ほぅ。何か言いたいようであるなぁ」

ステイル「早朝の騎士団長殿とのお話、聞かせて貰いましたので」

ローラ「部屋を荒らした後には、盗み聞きとはやるわね。それも、極力私に気付かせない様に試みたるとは、有能な部下が居て嬉しいわ」

ステイル「どうせ、貴女は分かっていたのだろう?今朝の事も。僕が部屋の前に立って聞き耳を立てて居た事を気付かない訳が無い。もちろん騎士団長も」

ローラ「そうであろうな。ステイル、あなたに話を聞かせたのは、穏便に滞りなく執行を行いける為よ」

ステイル「穏便に執行? ふざけるな! 彼女は――」

ローラ「殺させない、とでも言いたいのでしょう? あなたがそう言いたることぐらい、抵抗しようとすることぐらい、わかっているのよ。だから、最初に聞かせた」

ステイル「……僕に覚悟しろと言うのか! 貴女は!!」

ローラ「ええ。先程、禁書目録が倒れたるのも、フィアンマの持つ遠隔制御霊装の干渉によるものかもしれない。時間を無駄にして、彼に力を付けさせるわけにはいかないでしょう?」

ステイル「しかし……!!」

ローラ「理解なさい。問題はフィアンマの事以外にもありけるのよ」
537 :本日分(ry [saga]:2010/12/04(土) 12:02:13.53 ID:d7GZxCgP
そして、彼女はステイルの前から去った

ステイルはその姿へ、やりきれない目を向ける

ステイル「ふざけるな!! そんなことを今更言われなくても、僕だって分かっているんだ!」

誰も居ない廊下で、彼は小さく叫ぶ

ステイル「それでも、僕は……!!」


「やはり、殺す気、か。とても賢くシンプルな抵抗だ」

「今のはどうやってしたのかだと? なんてことはない。今のは少し、珍しい術式を使っただけだ」

「銀貨30枚でイェスを売った裏切り者、ユダ」

「だが、イェスはその事を捕まる前に知っていた。神の子であるから、と言ってしまえばシンプルだが、イェスはあの時点ではまだ人間だ。どうやってユダの裏切を知ったのか」

「説では、神の子だから全て知っていたとか、神が教えただとか、イェスに他の信徒が伝えたなど、たくさんの方法がある」

「が、諸説がどうであれ、イェスはユダの裏切を他の人間の目や耳から得た情報を入手したということは共通している」

「他人の目や耳を使う術式。禁書目録の中に眠っていたその術式を、俺様は、この遠隔制御霊装を媒介にして使っただけにすぎない」

「最初は、禁書目録の目が媒体となり、その目に入ったこのステイルという男に媒体を変更した。最大主教に変更することも考えたが、彼女では気づかれる可能性もあったからな」

「説明を受ければ、簡単な方法だろう?」

「確かにイギリスの連中がどう動くのか把握したのは大きいが、俺様の観点は少し違う」

「俺様が注目したのは、このステイルという男だよ。禁書目録の持つ膨大な知識からは必要なものだけを抽出するにしても、時間がかかる。俺様はそれに集中しなくてはならない」

「だから、俺様が今一番欲しかったのは、禁書目録を守るという目標を持った、力が有るイギリス清教内の魔術師という駒なんだよ」

満足したのか、フィアンマはとある人間を前にして笑った
538 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/04(土) 13:05:47.08 ID:7Inml2DO
麦のん上条さんに頼まれたのに見捨てんのか。まぁ美琴もあれで折れてちゃどうしようもないか
つか佐天さんアニメ出れないからってはっちゃけすぎだよ
539 :ちゃんと麦野には、おっと危ないネタばれだ [saga]:2010/12/06(月) 03:13:58.26 ID:GDZo0ZIP
運び込まれた簡易な病室

予め自らの体を傷つけておいた傷を治療してもらい、部屋に寝かされているのは自分のみ

治療を施した衛生兵も去っていった

エツ(本当に人員が不足しているようですね)

一人となった病室で彼はベッドから立ちあがる

エツ(少し傷を深くし過ぎたか?簡易な術式でも使えれば良いのですが、その暇も無い)

麻酔を多めに装備のポケットに突っ込んで、彼は堂々と部屋を出た

廊下は静かだった。余計な人員を裂けないのか、見周りも居ない

エツ(都合がよすぎて、怖いくらいだ。だが、ここでもし術式をコントロールしているなら、一般兵卒の軽率な行動で害がでる、と判断したのかもしれない)

構える銃は自衛のためであり、兵員の振りであり

もちろん彼の得物である、黒曜石のナイフはすぐに取り出せるところにしまってある

術式の原動力は、恐らくあのピックを持っているスキルアウト達の生命力なのだろう

学園都市のあらゆる方向から供給される魔力と言う名前であらわされるエネルギーが、このビルを中心に集まっている

確認する為に使用した簡易な術式で、分かったのは、術式の中心

漠然としたエネルギーの流れをぼやけて示しだす程度なので、規模の小さな術式ではまともに使えないが、200万人を超える人間を全員術式に取り込もうとする規模ならば、そのエネルギーは莫大である

エツ(最初からコレを使っておけば、いや、これだけの規模を行使できる相手に、下手な行動をとるのは軽率ですよね)

ここでこそ、馬鹿みたいにエネルギーが集まっている為に、ちょっとやそっとの魔力の動きは隠されてしまって見つからない

エツ(……あの軍事力規模を見た後にショチトルを呼ぶ気には、なりません)

エツ(少々危険ですが、ここは単独でせめてあの幻影を見せる術式だけでも)

エツ(魔力反応が集まっているのは、上の階か)
540 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:19:08.98 ID:GDZo0ZIP
半蔵(ビルの中に入ってはみたが、なんだここは)

自分がわざわざ周囲に気を払って行動しているのが馬鹿馬鹿しくなるほど、中は静かだった

兵器や兵隊で充満している外とは対象的に、静寂

半蔵(人が少ない。恐ろしいほどに。本当に拠点か?)

気をつけて適当な部屋を覗くが、オフの事務所そのものだった

半蔵(守衛的な存在も居ないんじゃ、アイツ等はここに捕らわれてないってのか)

わざわざ必死で白い少女の跡を付けて来たというのに、これでは無駄足である

これで脱出に失敗して、捕まったりしてしまえば、下手をすれば仲間が更に殺されるだけだ

助けに来たのに殺されては、一体何がしたかったのか、ということになる

半蔵(だが、骨折り損にする気は無ぇ。この規模のビルだ、情報は絶対に有る)

次の部屋に忍び込む、やはり、人も無く目立つ物も無い

半蔵(人が少ないのはこうなりゃ逆に都合がいい。探らせてもらうぜ)

動きを、忍ぶ事から動く事へシフトする

粗方この階は探し終えた。得られるモノはなかった

半蔵(上か、地下か)

この階に無くとも、20階は有るであろうビルだ。まだまだ調べる場所は有る

半蔵(アイツ等がここに捕まっていないならば、地下の線は薄いよな)

半蔵(情報端末とか有るなら、ってかもともとは芸能事務所とかだった場所に軍事関連のものを詰め込むのに都合のいい地下空間を期待できるか?)

半蔵(入居者が結構な頻度で出入りする場所だからこそ、アメリカの連中は目をつけたって要素も有るはずだ)

少し動きを止めて考えを纏めると、彼は階段を駆け上がった

半蔵(総合すると、上の階だよな)
541 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:34:03.70 ID:GDZo0ZIP
エツ(ここに、術式の中心が)

この階の間取りが示されているプラスティック製の壁にかかった板を見ながら、その場所を突き止める

10階当りの階は、録音スタジオか何かなのだろう。小スタジオ部屋が4つ集中している区画と、小スタジオ2つ分の大きさのある中スタジオ区画、そして区画そのものが大きなスタジオである区画の3つに、非常階段とエレベーターが集中している区画の計4つの区画が有る

偽海原改めエツァリが怪しいと判断したのは、その中で一番大きな大スタジオ

ビル内部は人が本格的に居ない上階へ行けば行くほど、照明は無く。8階以降は真っ暗と言えた

ビル外に展開しているアメリカ部隊のライトの光が僅かに入りこんでいるだけ

その明りを頼りに暗い道を進んで、特に問題無く彼は大スタジオの区画へ進んだ

実際に演奏する部屋と、それを録音・編集するたくさんのスイッチやタブが配置されている装置がある部屋。大スタジオのその二つはガラス張りの壁で区切られている

今は一兵隊の格好をしている。ならば仮に誰かに会った所で誤魔化せる

エツ(そしてその人物が術式を操作している人間ならば、隙を見て殺すなりの判断をすればいい)

大スタジオの入り口の扉を、そっと開く

スイッチがたくさん付いている音響装置のある部屋は、コレと言って目立つ所はない

ただ、その奥の、ガラス張りで区切られた、実際に楽器や声を演奏する部屋の方は、異様だった

部屋の中央に人が一人立っており、その人物の周りから壁に奔る様に直線や曲線、そして植物などが配置されている

起動している術式の陣から放たれる僅かな明りで、部屋の様子はうかがえた

エツ(ここで術式を大規模化していたのか。中央の陣はアメリカ先住民の文化的なシンボルですが、拡大させているのはバチカンやイギリス等の大陸様式ですね)

エツ(いわば、異文化術式のハイブリット。移民の国らしい合理的なやり方ですが)

部屋中央の人間、男はまだこちらの様子に気が付かない

エツ(アメリカは自国の魔術技術に加えて、西欧のモノまで把握していると言う事ですね。これでは――?!)

中央の男が、一瞬こちらを見たような気がした

だが、実際にはそこからピクリとも動いていない、ハズ

エツ(見つかった? いや、あの様子では、単にたまたま首を振っただけのようですね。この術式を破るには……)

中心の男から再び視線を移して、術式の把握に意識が捕らわれていた、その瞬間

彼の姿は消えた

エツ(な、居ない! やはり気付かれていた?)

視界の端では常に捉えるように意識していたのだが、消えた
542 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:34:53.64 ID:GDZo0ZIP
「自分、なんでここに居るん?上には来るなって命令やったやろ?」

いつの間にか、自分の背後に立っていた。首を回して見えた範囲では、その男の髪の毛は青く、耳にピアスをしていることが分かった

エツ「い、いえ。少々探し物を。この辺りで無くしてしまったようでして。申し訳ありません」

「ふぅん。そーかい。ってことは物資の運び入れん時に落としたのかもしれへんな」

エツ「そ、そうかもしれません。しかし、ここにも無かったようで。直ぐに退散します」

エツァリは振り向いて、一度青髪の男と顔を合わせた後、その男を避けて大スタジオから出ようとした

扉に手を掛けた、その時

「待ちや」

エツ「な、何か?」

「コレ、落としたで?ホンマ君は良く落とし物するんやなぁ」

そう言って青髪がエツァリに見せたのは、黒曜石のナイフだった

仕舞っていたポケットを確認するように触れると、物が入っている感覚が無かった

落とすようなことは有り得ないのだが、まさか掏られたか

エツ「あ、ありがとうございます」

手を伸ばすと、青髪の男は素直にそれを渡した

エツ「では――」

「あのさ。君の探し物やけど、もしかしたらこの階の第一小スタジオにあるかもしれへんよ」

エツ「え、いや」

「ま、もしかしたら、やし。一応確認しといたらどうなん?」

エツ「了解。それでは」

蛇に睨まれた蛙の様な気分になりながら、彼は部屋を出る

青髪も止めることはなかった

エツ(探し物だと? 強いてあげるなら、アメリカに奪われた原典だが)

各区画を繋ぐ、吹き抜けの周りの通路を歩きながら、彼は考える

エツ(まさか、自分の存在に気付いている? 原典を指すならば、完全に罠だ。まさか本当に小スタジオにこの体の持ち主の遺失物があるわけではないでしょうし)

エツ(原典……いや、原典だと…?まさか!!)
543 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:35:30.03 ID:GDZo0ZIP
嫌な予感がして、彼は廊下を駆ける。吹き抜けから下に少し足音が伝わるが、気にしない、気にならない

小スタジオが集中する区画へ、指定通りに『第1小スタ』と書かれた部屋に

中に入らなくとも分かる。扉の比較的大きなガラス越しで、中の様子はつかめた

そこには嫌な予感通り、褐色の肌の少女が居た。気を失っているのか動いていない

椅子に縛り付けられて、頭を垂らしている

エツ「ショチ、トル……」

「あぁ、やっぱり君やったんか」

そしてまた背後から、声がした

4つの小スタジオを十字の通路で区切るその中央に、こちらに視線を向けながら立つ先程の青い髪をした男

「エツァリ、いや、学園都市なら海原クンやったかな?」

エツ「……なぜ気付きましたか、私に」

青髪「前回僕の半身が君のお陰で一度窮地に立たされたからな。個人的には超要注意人物なんやわ。だから、君が単独でここに来るように、わざとミスを演じた訳やけど、上手く釣れた」

つまり、ショチトルを確実で簡単に確保する為に、エツァリと言う人間が居る事を知らない様に思わせる部隊行動をさせて、エツァリとショチトルを切り離したのだろう

エツ「前回……?何のことです。初対面ですね、あなたとは」

青髪「うん、僕らは初対面。それは間違いあらへんよ?」

エツ「ならば、どういうことで?」

青髪「うーん。それを今言ってもいいんやけど、それよりも取引せん?」

エツ「取引ですか。その子について、ですよね」

青髪「せや。僕個人としてはこんな可愛いコは渡したくないんやけど。素体が良いから着せ変えキャラ変いくらでも自由に出来そうやわ」

エツ「下司ですね。原典を内包した彼女が簡単にあなたの趣味に合わせてくれるとは思いませんが」

青髪「その原典は既に僕らが回収しとるから、もう彼女はただの肌の黒めな女の子。そんな残りカスなんて、いくらでも自由にできるけど、君はそんなん嫌やろ?」

エツ「彼女は自分の命を狙ってここへ潜り込んだようですから、私は特別な感情は持ち合わせてなど」

青髪「君はそうかもしれへんけど、この子は違うみたいやったな。知恵の浅い僕らが強引に原典を取り出す際に、エラいこと苦しんどったけど、その時お兄ちゃんお兄ちゃん言っとったわ。精神にも大きな負担を与える邪法やから、錯乱してしまってもしゃーないけど」

青髪「そのお兄ちゃん、って君の事やないの?ま、いいや。とにかく、そこで寝とる人質の為にやな――」
544 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:54:21.31 ID:GDZo0ZIP
半蔵(上から、足音がする。この感じだと2階は上か)

半蔵(人間が居るってことは、そこに何かあるのかもしれねぇ。アメリカとここの芸能事務所との繋がりは分かったが、そんなモンは俺には不必要もいいところ)

半蔵(いらねぇ情報ばっかじゃ意味が無い。ここは、一気に上に行くのも手だよな)

吹き抜けから上階へ身軽に昇る

8階から10階まで慎重に昇るのに、時間はそれほどかかからなかった

半蔵(話し声?コッチからか)

声がした小スタジオ区画の中を窺う様に半身で覗くと、そこには青髪が誰かの方を向き会話をしていた

青髪「―――――――――そこで寝とる人質の為に僕らに協力してや」

半蔵(人質が、ここで寝ている? まさかウチの連中も?)

もし仮にここの部屋に捕まった仲間が居るのなら、どうにかして助け出したい

だがまずは、確認しなくては。本当に仲間がここに捕らわれているのかを

青髪の注意がこのまま誰かに向いていれば、近づく隙はあるか

「あなたは一つ大きなミスをしているとは思いませんか?」

青髪と話をしている誰かが言った。野太い声だった

青髪「へぇ、後学の為にどういうミスか教えて欲しいなぁ」

「今ここであなたを斃してしまえば、何もかも解決するという事ですよ!」

きっと、何かの能力を使ったのだろう。少なくとも半蔵にはそう見えた

言って、1秒くらい経った後。青髪の左腕が分解していく。それこそ、皮と肉と骨がそれぞれバラバラになっていくような形で

半蔵(なんだアレ?肉屋の解体能力かよ。どんな能力だ)

僅かな時間に分解は進む。腕全てがバラバラになって、体幹にまで及ぼうかという所

青髪の左腕が体から消えた。進んでいた分解をこれ以上進ませない為に、体から分離させるかのように綺麗サッパリと消し去った

青髪「やるやん……。さっきのナイフはそういう武器やったんやな」

切り離した肩と腕の接合部から、血が噴き出す
545 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:55:01.18 ID:GDZo0ZIP
「トラウィスカルパンテクウトリの槍、日本人には少々読みにくい名前ですね。アメリカは私が元居た組織を潰したのだから、この魔術についても知っているはずだとは思いますが」

青髪「あぁ、ちゃんと対策のHow toが組まれとるよ。……今のが、その最終的な回避方法や」

「分解が拡がる僅かな間に腕を切り離す。そんなことが出来るなど、知り合いの中でも一人の空間移動能力者ぐらいしか思い浮かびませんね」

青髪「サラシ巻いて、後ろ髪を二つに、分けた娘やろ?」

肩で息をしながら青髪は言う

「ほう、彼女、結標淡希をご存じで?」

青髪「僕の、今もっとる能力は、あのかわええ子が、ベースやからな。もちろん、僕は会ったこと、ない、けど」

「座標移動を持っている?ならば、容赦はできませんね!」

一拍の間が有った。もちろん半蔵には何があったのか分からない

青髪「無駄やで。トラウィスカルバムフッ!、噛んだやんか。その槍の術式は、金星の光とやらが必要やっちゅーことはしっとるからなぁ。君の後ろの窓、蓋させて貰ったで」

「これも、How toという訳ですか」

青髪「そ。これで、その厄介な魔術は使えへん。まだやる?」

「トラウィスカルパンテクウトリの槍だけが、このナイフの攻撃手段ではありません!!」

少し強い声が聞こえた瞬間、半蔵の視界中央に立つ青髪のすぐそばにアメリカの装備を着た男が現れた

半蔵(アメリカ側内部での内紛か?)

「アステカで黒曜石のナイフが意味する神イツラコリウキは、霜の神です!それを用いれば、このように!」

男がナイフで的確に体を裂く為、隙なく振り回す

だが、空間移動能力を持っている以前に、巧みな体術を使う青髪には当らない

半蔵(このままいけば、いつか出血多量であの青髪は動きが、って何だと?!)

いつの間にか、緊急用の止血パッドが肩に付着していた。空間を弄る能力を使って、取ってきてそのまま貼ったのかもしれない

その上から追加で器用に包帯が巻かれていく。回避しながら青髪は簡易な治療をしているのだ。反撃しないのは、治療への集中の為か

アメリカ兵の方に有ったアドバンテージが失われる。それを理解していたからこそ、青髪と戦っている男はワンチャンスで敵を倒せる近接戦を選び、そしてフットワークで撹乱しているのだ

青髪「イツラコリウキの霜やろ?残念、それもどんな魔術か知っとる。確かに片腕が無くなって血が少なくなっとるときに、裂かれた幹部から体中の水分を凝結させる魔術を選ぶのは的確」
546 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:56:19.56 ID:GDZo0ZIP
目の前でナイフを振り回してくる男を前に、体術で裁く

青髪「だけど、当らへんかったら、意味無いで?」

突きだされたナイフを残った右腕で払い、そのまま膝で腹部を狙う

「グッ、ンッ……!!だがまだ!!」

半蔵(体術スキルに差が有りすぎる、か)

そしてまた、アメリカ兵装の男の身が大きくくの字に曲がる。耐衝撃用のベストが有ってもなお体を曲げる程度の、恐ろしい威力

追撃の左足が、右手の黒曜石のナイフを叩き落とすように伸びていく

半蔵とは逆方向に、体が向いた

半蔵(今だな)

蹴られて飛んだナイフ。下手に拾いに行けば背後から追撃を食らう

兵装の腰に有ったナイフを引き抜いて、ダメージが蓄積した体で更に立ち上がる

青髪が畳掛けようと一気に間合いを詰めた瞬間、その体が止まった

青髪の後ろで、暗い空間に打根と呼ばれる武器の矢じりの先が、青髪の血を纏って怪しく光る

半蔵「やっと一矢報いさせて貰ったぜ。文字通り、一矢なぁ!」

青髪が背後に現れた半蔵の打根によって背中を貫かれ、倒れそうな所を踏みとどまる

そこへエツァリの持つ金属のナイフが刺さった

半蔵「コイツもくれてやれ!」

急に現れた半蔵からエツァリへ、転がっていた黒曜石のナイフが投げ渡される

受け取ったそのままの腕の動きで、エツァリはそのナイフを心臓部へ突き刺した

再度発動させたイツラコリウキの霜の効果で、心臓から血液が凝固していく

青髪「やる、やん」

倒れた青髪はそれ以上の言葉を放たなかった

半蔵「……くたばったか」

エツ「でしょうね。どなたか存じないですが、ありがとうございます」
547 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:56:55.06 ID:GDZo0ZIP
半蔵「いや、俺もコイツに、人質とられて好き放題やられたからな。斃せて良かった。いい機会を作ってくれて、感謝するのはこっちだぜ」

エツ「人質、ですか。そうだ、ショチトル」

エツァリは振り返り、ショチトルが捕らわれていた小スタジオへ向かう

それを見て半蔵も、残りの小スタジオの中を覗きにかかる

エツ「居ない? 馬鹿な、さっきは確かに」

他の部屋を確かめようと、エツァリが第一小スタジオから出たところで、半蔵と目が有った

半蔵「駄目だぜ。他の小スタジオも、もぬけの殻だった」

その顔は先程と変わって沈んでいた

エツ「そうですか。あなたの方に何かあったのですか?顔色が」

半蔵「ここに人質が捕らわれてたのは確からしい。俺の仲間の人質も捕まってたみたいでな。ちょっと前に反逆した時の見せしめで殺された奴の死体が、転がってた。それだけだよ」

エツ「それは……心中お察しします」

半蔵「気にすんな。アイツが殺されたのは薄々気付いてたんだ。むしろ他の仲間の死体が無かったのは喜ばしい、な」

エツ「何も言えませんが、その人質の事です。先程あの青い髪の男と戦っている最中に連れ出された可能性があります」

半蔵「馬鹿言うなよ。青髪も含めてこの場所には俺ら3人しか居なかったんだぜ?誰がどうやって」

エツ「その青髪が、やったんですよ。戦いの最中にね」

半蔵「マジに空間移動能力者だったのか。なら確かにそうかもしれねぇけど。戦いながら治療と一緒に人質を外に出すとは、えらく器用な奴だ」

エツ「だから戦いの中では空間移動能力を使って攻撃しなかったのでしょう。ですがこれは」

半蔵「あぁ、不味いな。外の軍隊共に気付かれち―――」

瞬間、10階そのものの明るさが極端に大きくなった

外から強いライトの光が入ってくる。明らかに自分たちを狙い警告している光りだ

エツ「どうやらバレてしまったようですね」

半蔵「だな。くそ、これじゃまた仲間が殺されちまう。何とかしねぇと。……お前、名前は?」

半蔵が聞くと、アメリカ兵の顔だったエツァリの顔が剥がれ落ち、海原光貴の顔になる

半蔵「驚いたな。変身する能力者か」
548 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/06(月) 03:57:26.86 ID:GDZo0ZIP
エツ「厳密に言えば能力では無いのですが、今はその解釈で構いません。エツァリでも海原光貴でも、好きな方で呼んでくれて構いません」

半蔵「……じゃ、海原さんよ。この状況をどうする?」

ついでに煙草は?と聞きながら自分の煙草に青髪から貰ったライターで火を付ける

そのライターには、幻想術式を無効化するらしい印が刻まれていた

海原「いえ、要りません。そのライターは?」

半蔵「ん?あぁ、そこで死んでる青いのから貰ったんだよ。今日の任務とやらが始まる前にな」

海原「そうですか」

海原(おそらく、この人物の担っていた内容は、重要度が高かったらしいですね。幻想が邪魔にならない様に、ライターのプレゼントという形で渡したのでしょうが)

海原(幻影を見せる術式か)

海原(幻想術式を無効化し、原典を失ったショチトルを回収出来れば、敵は我々を狙う事も無くなる? 何かに備えている様な雰囲気ですから、原典を失った我々の優先度が下がれば、少なくともショチトルが狙われる事は無いでしょう)

海原(まだお兄ちゃんと呼んでくれるあの子の為に、ここは少し苦労することにしますか)

海原「目標は、私とあなたの人質を解放する事。これは我々の利害が一致するところですね」

半蔵「だな。だが、普通にノコノコ飛びだしたんじゃ、あのレベルの軍隊は相手にできないぜ? その上多分警戒されてるから、忍んで出ることも難しいだろうな」

海原「ええ。そしていずれ、ここまで兵が来るでしょう。それでは恐らくジリ貧だ。とにかく、何か役に立ちそうなものや、隠れる事が出来そうな場所を探しましょう」

半蔵「了解。簡易な罠でも作って足止め出来そうなものを探す」

海原「お願いします。なんなら、私が持っているライフルもどうぞ」

使わせてもらう。そう言って半蔵と言う男は去った

海原「さてまずは、あの幻想術式を無効化することから始めますか」
549 :本日分(ry [saga]:2010/12/06(月) 03:58:13.96 ID:GDZo0ZIP
郭(半蔵様は、あのビルへ入っていった)

少女は少し離れたビルの屋上から眺めている

郭(そして今、10階の部分だけ、ライトアップされている)

郭(どういう経緯か分からない。だが恐らく、半蔵様の存在が見つかってしまったと考えていい)

郭(あの兵員を相手には、私では相手にならない。警戒されている為に忍びこむことも不可能)

郭(この状況で、半蔵様をお助けするには)

郭(付いてくるなと言われたけれど、でも)

郭(とにかく、何か、どうにかして)

悩んでいる少女の横を、少女らしきものが横切った

その異様な光景に目を奪われる

空中を音速とまではいかないにせよ、結構な速さで飛んでいく

何よりも目を引いたのは、そのフォルムだ

人の、少女の形をしていて、恐らく黒色の髪色をしているのだが、体の各繋がりが非常に脆く、空気の振動で腕や足が千切れんばかりに震えていた

そして一瞬だけ見えたその表情は、笑っているように見えた

郭には、どうしてそんな身の状況で笑っていられるのか分からなかった

その明らかに異質な光景は、またおかしな幻想でも見てしまったと彼女を判断させるには十分だった

550 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 08:27:22.24 ID:LmeM6.SO
最終個体佐天さんは頭を消し飛ばさない限り死なんのか
551 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/06(月) 19:43:45.42 ID:EQC3ncDO
佐天さんはどうなってもいいからショチトルだけは…
552 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sagesaga]:2010/12/07(火) 00:12:13.19 ID:lWq/Q720
なんか最終個体佐天さんが最後まで残りそうな気がしてきた・・・頭痛がしてきた・・・
553 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 00:37:34.39 ID:vjK5Vmgo
3週目は佐天さんにが主役になってハッピーに爆発します
554 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 07:19:54.02 ID:LrdwyDgP
海原(二段構成、か。ピックをもった人間を動かし、その人間の配置で巨大な術式の陣を作り上げる)

大スタジオに拡がる術式陣を目の前にして、海原は考える

一民族的な術式に西洋のメジャーな術式を取り込んだその陣は、彼の知識でも十分に内容を把握できた

海原(そのバランスを崩す程度なら、ここのペヨーテをずらしたり各媒体・媒介の配置をずらせばそれで事足りる)

海原(だが、それでは意味が無い。元に戻されてはまた術式の再起動は可能なのだから)

海原(それは、ここの術式についても言える。この部屋全てを爆破した所で、新しい術式の祭壇を他の場所に作り上げれば良いだけの話。学園都市を支配している現状が再び現れるだけ)

海原(根本的にピックを持っている人間をどうにかしない限り、効果は無い)

海原(だが彼らは、強い催眠状態でしょうし。仮に自分がここで術式を操作して破壊命令を出した所で、それが素直にいくだろうか)

海原(どうにかして、一度幻想そのものを解除しなくては。それも、強引にバランスを崩すとか術式破壊などと言う方法で無いやり方で)

半蔵「ここに居たのか」

少し聞きなれた声がした

振り返ると薄暗い空間の中に、ボワッと人の顔がハッキリと浮かぶ

ライターの僅かな明りが、半蔵の顔を照らしている。その顔は、返り血が所どころに付着していた

半蔵の方を海原が向いて、その明りは消えた

海原「戦ったのですか?」

半蔵「上の方に潜んでた狙撃手の連中を何人か、な」

ホラよ。と拳銃を投げ渡した

半蔵「武器は多いに越したことは無いだろ?上には簡単なトラップも仕掛けておいた。3重の奴だから、もし上に生き残りが居て下りてきてもそれで気付ける」

海原「凄いお手並みですね」

半蔵「ま、餓鬼の頃にそうやって育てられてからな」

海原「深くは聞きませんが、面白い経歴のようで」
555 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 07:20:33.75 ID:LrdwyDgP
半蔵「んー、そうだな聞いてくれるな。どうだっていいことだ。それで、海原さんよ、お前の方は何か収穫でもあったのか?このへんな雰囲気の中に突っ立ってさ」

海原「……質問を質問で返すようで良くないですが、あなたは幻影のようなものの攻撃を見ましたか?」

半蔵「幻影だ?いや、見てないな」

海原「ふむ、そうですか」

海原(恐らく、原因はあのライター)

半蔵「でもなんか、他の連中には見えてて俺には見えない何かってのはあったような気はするな」

海原「それですよ。学園都市の中を混乱に陥れた最大の要因」

半蔵「それがここに関係してるってのか?」

海原「簡単に言えばそういう能力者が居て、その力を増幅する為の設備であり装置なんですよ、ここは」

半蔵「怪しい話だな、そいつは。でもそれならよ、ぶっ壊しちまえばいいじゃねぇか」

海原「その方法が難しいのですよ」

半蔵「ふーん。ま、その道の事はそこまで詳しくはねぇから、俺には分からんな。何とかできるなら何とかしてくれ」

そう言って、また小さな明りがともる。半蔵は煙草に火を付けた

白い煙が薄暗い空間にぼんやりと浮き上がる

海原「美味しいですか、タバコ?」

半蔵「いーや、全然。癖で吸ってる様なもんだ。そこで死体になっちまったヤツから貰ったものだから、気分がな。趣味の悪い模様も入ってることだし」

海原「その模様は、あ、いえ。なんでもないです」

海原(魔術についての知識は期待できないし、知らないのであれば教えるわけにも。彼には気に食わないでしょうが、あのライターが有れば幻術は無効化される。無くさない限り)

海原(幻術の無効化、今だけは都合のいいアイテムですね。無効化、か。あのライター、使えるかもしれません)

海原「そのライター、借り受けても?」

半蔵「いいぜ。そろそろ最後の一本にしとこうと思っていたからな。こんなライターならいくらでもくれてやるよ」
556 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 07:21:06.79 ID:LrdwyDgP
海原「それでは、そこへ置いてくれますか。あ、いやそこでは。その右の円の、はい、その植物の所です」

半蔵「なんだこれ?サボテン?」

海原「食べては駄目ですよ。幻覚幻聴作用が有りますから」

半蔵「そりゃ大量生産して売れば大儲けできそうだな」

海原「根本的に味が悪いですからね、売れませんよ。それに絶滅危惧種ですしね。それでは、少しガラスの向こうの部屋に行って頂けますか?」

半蔵「あいよ。なにするんだ?」

海原「ちょっとしたことです」

半蔵が実演部屋からガラス越しの編音部屋へ出る

少しだけ光っていた曲線や直線が一際大きく光った

何かに耐えきれなくなったのか、ライターが部屋の端で火に包まれて爆発した。そして、海原が膝を付く

半蔵「おいおい、大丈夫か?」

海原「大丈夫、です。思った以上に負担が大きかったので」

半蔵が脇から腕をまわし、海原を立ち上げさせた。僅かな時間であったのに、質の悪い汗が滲んでいる

半蔵「何したのか分かんねぇけど、頼むぜ? そろそろ敵が」

海原「私も、一応、プロですから、大丈――」

ズガンという爆発音と、小銃の掃射音が響いた

半蔵「……!! 下からだ。罠に引っ掛かったのか、それとも除去したのかは分からねぇけど」

半蔵の肩にかかっていた重量が消えた

海原「行きましょう。敵のアドバンテージは一つ失わせましたから」

そう言って、半蔵が渡した拳銃を握って走りだした
557 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 07:34:14.27 ID:LrdwyDgP
「見せしめに人質を殺して、拡声器で脅せばいいんですよ、こんなもんは!!」

「いや、それでは駄目だ。殺してしまっては人質としての意味が無いだろう? 」

アメリカの兵装をした人間がとある白人の前に立って、質問した

名前は、ジョージ=キングダムという

もう何度目かのやりとりだった

その度に、彼らは衝突していた。最も、突っかかっているのはアメリカ人の兵隊だが

「……ここは、本来あなたが居る場所ではない、ジョージ・キングダム!!CIAではあなたの声に従うだろうが、軍とCIAは勝手が違うんだ。軍は軍のやり方でさせてもらう。戦って死ぬのは私の部下なのだからな!!」

「ならば君も、私の部下の一人だよ。そして私も有能な直属の部下を一人失ったのだ。その彼が人質を盾にせずに戦ったという事を尊重したい。それが結果として彼の最後の自由意思だったのだからね」

「ならばその自由意思とやらで、私は私の判断を使いたいだよ!」

「そうだな。確かにここの戦力はこんなところで消耗する為のものじゃない。私もそんなことの為に君たちをここに派遣させたわけではないのだから」

「……薄々怪しいとは思っていたが、お前は、まさか」

「君の疑問には、イェスと答えさせて貰う。そうだな、難敵を倒したいなら、あれを使うと良い」

そう言って、キングダムは指差した。刺した先に有るのは、アメリカ製大型駆動鎧

「駆動鎧を? 宜しいので? ビルごと大破の可能性もあります。ご自慢の魔術とやらも」

イエスという答えを聞いて、話しぶりが露骨に変わる

「いいんだ。もう使えなくなってしまったからね。このビルにはもう、完全に価値が無いのさ。その為に彼も人質を退避させたのだろうしな。本当に、良い部下だった」

「なにしろ、CIAの秘蔵っ子と聞いています。あの青いのは」

「あぁ。最初から工作員・諜報員・戦闘員として作られた狂気の双子。でも逆に、兄弟そろって優しかった。自分の行いと、一般人の振りをする為に植え込まれた一般倫理の狭間で、精神が歪んでしまうくらいにね」

「なんといっても、まだ子供ですからね。それも、思春期だ。郷里の息子を思い出させる」

「弟が私に従順で死んでしまった分、兄は相応しい人間に就いていったと思いたい。私には子供が出来ない分、特に。おっと、つい最近素直じゃない子供が出来たばかりだったかな」

「子育ては子育てで、大変ですよ。それでは、私は前線へ出ますので。……駆動鎧出すぞォォ!!用意しろォ!!!」
558 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 07:47:58.90 ID:LrdwyDgP
半蔵「海原さんよぉ!お前の能力とかって使えねぇのかよ?!」

奪った手榴弾を階下へ投げ込み、半蔵は海原に聞く

海原「都合のいい人の皮があればいいのですが。しかし、恐らくは生命識別もしているはずです!敵には私が他人に化ける能力が有ると発覚しているでしょうから、死人に化けてもすぐにばれてしまいますよ!」

海原(それに、この煙幕では黒曜石のナイフを主体とした魔術は使えない。向こうは熱感知装備を持っているのでしょうね。反撃は的確な位置ばっかりだ。これでは半蔵と言う者の動きがいくら身軽でも接近戦まで持ち込めない。奇襲も厳しい)

爆発の直後を狙って突っ込んできそうな場所に向かい、拳銃を数発打ちこんで海原は応える

海原「それより、後退用の罠の方は?!」

拳銃の応射として連射された小銃の弾を階段の手すりの壁で受けつつ、次の手榴弾を投げ込んだ

半蔵「出来てるぜ!だけどな、後退ばっかりしてても埒があかねぇぞ!弾も限られてんだ!」

海原「13階まで下がれば、策があります!」

海原は恐らく、13階などに行ったことは無いハズなのだが

しかし、根拠も無しに言った気はしなかった

半蔵「その言葉、信じさせてもらうぜ、ぇ!!」

爆発、応戦、後退、爆発、後退、後退

一度抵抗する事を諦めれば、13階まで下がるのはあっという間だった

アメリカの部隊からすれば、それは弾切れから来る苦し紛れの後退劇にしか思えない

無論、それも敵を陥れる為の海原の策でもある

13階に着いてすぐ、海原は口を開く

海原「半蔵さん、接近戦で急襲する準備は?」

半蔵「いつでもイケるぜ」

海原「では、物陰に隠れて、そして目を瞑っていてください」

目をつぶれ?閃光弾か何かか?だが俺達にはそんな物は無いハズだがな
559 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 07:48:26.34 ID:LrdwyDgP
だけど、ここまできたらコイツの策に従うしかない。半蔵はそう考えた

半蔵「……了解だ」

しばらく経って、駆けあがってくるアメリカの兵隊

装備は整っていて、更に練度も高く実戦経験も積んでいる

そして半蔵とエツァリという人間の行動能力を把握している為か、接近戦には警戒していた

故に、投げ込まれたスモーク弾。これで向こうは煙幕をもろに食らうが、こちらは特殊ゴーグルが有るのでアドバンテージが取れる

拡がる煙幕の中で、ゴーグル越しに見える彼らの視界の中央に、諸手を上げた標的が居た

誰もが知る降伏の印。しかし片手には得物が握られている。ナイフの様に見えた

「散々抵抗したが、観念したようだな!武器を捨てろ!」

声を出した男を中心に、5人のアメリカ兵が少しずつ空間の中を展開していく

海原「そんなに大声を出さなくとも。捨てますよ。その前に、すこし話を聞いて頂けますか?」

「命乞いか?そんn――――」

向こうの言葉を無視するように、海原は話しはじめる

海原「この階、13という数字は忌み数として有名ですが」

「なんの話だ!おま―――」

海原「メソアメリカ文明では13と言う数字は違う意味が有ります。それは、区切り」

海原「13日で一区切りなのです。区切りが終われば、新しい区切りに入る」

海原「次の区切り。それが意味するのは新しさ。新しさの象徴、それはなんでしょうか?」

「知るか!とっとと手のナイフを捨てろ」

海原「万国共通で新生を意味するのは目覚めの、朝。差し込む朝日は新しさの象徴だ

「だからなんだと言っている!」
560 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 07:49:11.34 ID:LrdwyDgP
海原「そんな朝日を見たくは有りませんか?」

そして彼は手に握ったナイフを、上げた状態から地面に勢いよく突き刺した

刺さった瞬間、大きく周りが、13階の床から壁から天井から、一気に温かさを伴った強い光が放たれる

暗視と熱源を映し出す彼らのゴーグル内は強い光で満たされた

海原「半蔵!」

当然、彼にとってもこの状況はまぶしい

だが、散々彼には敵部隊の動きを伝える情報が示され続けていた。移動音である

海原を見つけそれに集中し、取り囲むように展開するその動きで、粗方の場所は読めている

ぼんやりとでも、少しでも見えていれば、十分だ

そばに居た3人を半蔵が昏倒もしくは殺害し、残り二人の首を海原が裂く

2秒もかからずに5人は全滅した

間髪いれず、彼らは階下へ走る。吹き抜けを飛び降りるのは、いざというときに全く身動きできない為選択しなかった

半蔵「やるじゃねぇか。どうやったんだよ?まさかこれも能力の一部、お前は光学系の能力者だったのか?」

海原「いえ。まぁ溜まっていたモノを吐きだしただけですよ」

海原(先程の幻想術式への干渉で体に入ってきてしまった余計な魔力を、ようやく放出できたか)

半蔵「そーかい。まぁ何でもいいけどy」

丁度彼らが5階まで駆け下りた時

明らかに今までとは質の異なる砲撃が、直上の階にぶち当たった
561 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/07(火) 07:49:42.54 ID:LrdwyDgP
振動が施設全体に伝わり、そして吹き抜けを通して落ちてくる上階の瓦礫

海原「今の風切り音!!そしてこの威力はッ!!」

御坂美琴を気に掛けてやまない彼には、聞きなれた音によく似ていた

電磁砲。それも一発では無い。着弾音は複数だった

半蔵「今のはなんだよ!? ってか、ビル自体がヤバいぞコイツは!!」

四の五の言っていられない。敵は仲間の生存反応が全て無くなったことで、ビルごと半蔵と海原を押しつぶそうとしている

海原「駆動鎧が持っていた、あの巨大なライフルなのか!?」

半蔵「駆動鎧だと? そいつは相手が悪いってレベルじゃないぞ」

崩れきる前に、更には自分たちが居る階を狙われる前に

早くここを脱出しなければ。出たところで、30を超える駆動鎧を相手にしなければならないが、押しつぶされて死ぬよりはマシだ。希望が有る

希望のある方向へ、彼らは駆けた
562 :本日分(ry そろそろ佐天さんにも見切りをt(ry [saga]:2010/12/07(火) 07:55:20.85 ID:LrdwyDgP
「あはは、みんな、こんな所に居たんだねー」

傷ついた固体を癒し、使われていない個体が休息と調整をしている

そして彼女らを守る為に彼女らが守っている、複数の大きなトレーラーが並んだ場所

ビルからは少し離れた場所であるが、距離はおよそ100mといったところだろうか

ビルの中に打ちこまれる大型駆動鎧の電磁砲の音が響き続ける、そんな場所

1対1ならその圧倒的な性能差で戦いにはならない

だが学園都市中に散らばっていたアメリカ派の全固体を集めた趨勢およそ70ならば、相手になるかもしれない

本来ならば約100は居た

そのうち30を消し去ったのはミッション中の殉職と突然現れた最終固体による虐殺

「あらら、この状況じゃ、飛んで火に入る夏の虫だなぁ」

「確かに御坂さんの攻撃を受け続けて、ボロボロの私は虫の息。虫繋がりだ。アハハ」

「だったら、虫じゃなければいいのか。アタシ天才かな?」

言って、グチャグチャと音を立てて体が再生していく

同時に体内に残った瓦礫や銃弾が音を立てて地面に落ちる

好機

体が完全に元に戻る前、10の量産固体が超電磁砲を放ち、10の同固体が最終固体の周辺の空気を圧縮し、10の固体が最終固体の体を動けない様に念動力で押さえつける

圧縮された空気に超電磁砲が引火し爆発を起こした

身動きできず、超電磁砲を食らい、さらに爆発による追撃。しかし声は返ってきた

「アタシが借りてる超能力をまた借りするなんて、酷いなぁ。せめて、一言ぐらい断ってくれてもよくないかなぁ」

「勝手に借りているのはあなたも同じでは?」

状況に驚愕しながら、一人の少女が応えた

「そうか、そうだね。学園都市で生き残ってる皆さん!!能力勝手に借りちゃいます!!って言うか借りてます!」

ふざけた様に言い放った

「で、今ので良いかな?アタシ達?」
563 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 08:06:15.23 ID:cv6O2HQo
乙です
見切りを、なんていいながらも佐天さん絶好調なのが>>1クオリティwwww
564 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 08:30:08.86 ID:ZzSTmkAO
久しぶりに来たがバイオレンスが加速してて良いな

ところで固体じゃなくて個体じゃないか?
565 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/07(火) 13:33:58.28 ID:2KRwGoDO
佐天「二期に出られなかった恨み、ここで晴らさせてもらいます!」
566 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 09:28:37.32 ID:NNnTAQDO
最近このSSからシュタゲを想起する
567 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/08(水) 21:51:31.31 ID:NAHvJAMo
上条「跳べよおおおおお!!」
568 :俺……シュタゲ知らないんだが面白いのかぬ? [saga]:2010/12/09(木) 08:06:03.09 ID:43XnKqoP
綺麗に壊れきったビルによって舞う埃の中へ、容赦ない電光を帯びた弾丸が駆け抜ける

人間の反射神経では、銃弾を回避できない。その点では極音速弾だろうが超音速弾が関係無かった

避けるには撃たれる前にその攻撃先を予測して身を動かすしかない

極音速弾の恐ろしいところは、それが近くを通過するだけで人間の肌や肉を裂くには充分な衝撃を与えられる事

例え壁に隠れようがその壁ごと簡単に貫ける事

御坂美琴の超電磁砲は消費される電位こそ大きいが、弾として撃ち出されるものがコインである為、空気摩擦で簡単に形を変形させてしまい、射程は驚くほどに短い

コインを使う事に全くのメリットはない。それは、彼女のLV5としての配慮なのだろう。威力を抑える為の配慮

そんな配慮はもちろん軍事兵器には無い

半蔵(こうなる事は分かってたが、厳しいってレベルじゃねぇ!!)

それでも、彼は傷つかない距離をとって回避していた。崩れ落ちたビルの中を器用に後退しながら

半蔵(奴らの駆動鎧にも当然、熱源探知が有るだろうな。この粉塵の中でも俺の動きが分かる。だからこそ逆に、敵の動きが読める)

自分の行動から、相手の行動を予測する。むしろ、誘導すると言えた

半蔵(ちょくちょく攻撃のリズムを変えてはいるが、この粉塵の中なら、ダミーの動きに引っ掛かってくれる)

半蔵(左ッ!! ……ッ、距離が短かったか。粉塵の中なら、ジリ貧だろうが、まだ何とか回避できる。問題は、それが無くなった時だ)

電磁砲では簡単に貫通してしまいそうな瓦礫へ逃げるふりをして、彼は敵の攻撃を誘導した

そこに、壁が有るという情報まで肉眼で確認できるほどに、身を隠す粉塵は少なくなって来ている

半蔵(バーカ、んな所には隠れねぇって。……電磁砲の衝撃である程度は巻き上がるが、それじゃ足りねぇ)

敵の駆動鎧の体が、所々で確認できる。薄くなってきた

半蔵(海原の方は、どう動くんだ?)
569 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:06:28.69 ID:43XnKqoP
最初に攻撃を拡散させる為に二手に分かれてから今まで彼は視界には無かった

薄くなった粉塵の切れ目、海原を見つけた

半蔵(ッ、馬鹿野郎!!)

避けている。避けているが、裂けている、見えただけでも幾らかの箇所で。厚めの戦闘用のジャケットからは中身が見える

そして今彼の鈍った動きは、間違った方向だった。このままでは電磁砲の餌食となるだろう

ここで彼を失う訳にはいかない。彼の能力は何なのか分からないが、少なくとも、自分だけではこの状況は改善できない

走って押し飛ばした海原の体は思った以上に簡単に動いた。それだけ弱っていたのだろう

半蔵「おいおい、大丈夫かよ?!」

海原「すみません。足をやられました。腰にたんまりと麻酔が有るので、それを頼みます」

足だけでなく、腕もやられているのだろう。腕が生きていれば自分で麻酔を撃つ程度の事は出来るハズだ

それだけ聞いて、彼は持っていた全ての手榴弾を駆動鎧へ向けて投げる。数秒の時間稼ぎの為に

半蔵「任せろ。……さっきの壁とかが光る奴とか使えないのか?」

海原「ン、ッ、フゥー。ありがとうございます。あれは本来儀式用で、それも私一人で出来る規模じゃないんですよ」

半蔵「そうか。動けるな? お前にはまだまだ働いてもらう必要があるから、死なせねぇよ」

体に無理をさせることになるが、痛みが無ければ一時的に動きはマシになる

海原「厳しい人だ。……大丈夫です。ですが」

半蔵「あぁ、どうすりゃいいかな、コレは」

手榴弾の爆発など、敵の機械の塊には通用しなかった

そして彼らは、360度全方位をおよそ30の大きな駆動鎧に囲まれていた
570 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:08:42.40 ID:43XnKqoP
結標「随分と沈んだ顔をしてるわね?」

移動中の車の中で、隣に座る青髪の男に問うた

青髪「あわきんには、兄弟姉妹はおるん?」

意外な質問だった

結標「あわきんって呼び方は止めて。そうね。いないわ、多分」

青髪「そうかぁ」

結標「……あなたには?」

青髪「ひとり、おったよ。たった一人の肉親やなぁ、知っとる限りでは」

結標「おったって、死んだの?」

青髪「さぁ? でも多分そうなんやろなぁ」

結標「何をしみったれてるのか分からないけど、あなたがそんなんじゃ困るのよ。私を炊き付けたのはあなたでしょ?」

青髪「大丈夫。役目はちゃんと果たす。僕を拾ってくれたあの人の、あー……」

結標「あー? 本当に大丈夫?」

青髪「いやー。あのさ、結局、僕は犬なんやろうな。弟も僕も、道は違えど誰かの命令に従い続ける存在でしかない」

青髪「そういう風に育てられたからって言ってしまえばそれだけなんやろうけど」

結標「……下手に他の情や考えが有るよりは、案外その方が楽よ」

青髪「そうなん? うーん、そうかもしれへんな」

結標「そ。それで多分、目的が無くなった私も同じ。人の言う事に従うしかやる事が無いのね」

青髪「なんだか無気力やな。 今から親玉の所へ行くんやで?」

結標「無気力過ぎて危ないかもね。でも、時間が経って考えてみれば、誰かに命令されないと、私もやる事が無いってわかったの。もちろん学園都市の連中を許す気はないけど」

青髪「同時に、それを引き起こした連中も?」

結標「そうね。あのまま安定していたら、学園都市が仲間を殺す事は無かったでしょう。でも、結果こうして私の目的が喪失してしまった。認めたく無くとも、その現実は変わらない。案外ストイックなのね、私は。簡単に受け入れてしまったわ」

結標「生き残ってしまった、目的も無くして。憎しみと言う薄い残り香で、私はここに居る。でも、所詮は残り香よ。自律的に香りを放つ線香やアロマキャンドルは燃え尽きた」

青髪「残り香か。じゃあその香りが霧散しきったら、どうするん?」

結標「さぁね。その時に、再び私へ火を灯そうとしている人に聞くしかないわ。それが私なのかあなたなのか、それとも違う他者なのか、分からないけど」

青髪「ふーん。なら、その残り香が拡がりきる前に、君がおらんと出来ひん事を終わらせなあかんな」
571 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:09:41.83 ID:43XnKqoP
「もっと頑張りなって。応急処置も終わってるアタシも全員出しちゃってさ、派手にいこうよ!!」

崩れたビルの北西部に並べられていた待機・調整用のトレーラーを大きく変形させて吹き飛ばし、逃げ遅れた個体がその中で生命を終えた

残りは50人強。それでも、まだ拮抗していると言えた

外で戦っている量産個体の数自体は減っていないのだから

「アタシの頭は4つしかない!残ったあなた達は50以上いるんだよ?数の上ならすんごい分が良いんだよー?」

全裸のまま少女は、能力で強化した体を用いて、一人の個体に狙いを定めて跳躍した

狙われた個体は体の動きを封じるようにかけられた圧力によって、皮肉臓骨全てを一撃でえぐり取ろうとする拳を避けられない

しかしその個体はあきらめず、今度は空間移動で自らの体を移動させる

「そうそう。量産個体のアタシ達じゃ、借りてこれない場所に居る能力者の能力も使えるように、わざわざアタシが引っ張って来てるんだから、有効利用しないと」

移動した個体を追う様に最終固体も空間移動で現れる。まるで移動先があらかじめ分かっていたかのような早さだ

「読心能力?!」

「そうだよー」

迫る拳。演算が間に合わない。このままでは次の空間移動より先に体は四散してしまう

足や他の能力で足掻こうとするが、やはり身動きが取れない様に念動力で体を固められ、その個体は死を意識した

「ひっとーつ! って、アレ?」

狙われた量産個体が目を開くと、自分は違う場所に居た。他の個体が、自らを違う場所へ移動させたのだ

先程まで自分が居て、体をぐちゃぐちゃにされかねない拳が空を切った場所は、青白い炎が固まっていた

付近に転がっていたトレーラーの破片が、黄色い色に変色して変形してい

空気を集め送り込み続け、さらに高出力のエネルギーの塊を物質であるかのように圧縮し、固める

「チームワークか。さっすがぁ。みんな同じアタシだけあって、すごい統率力だなぁ」

青い炎の塊とは全く違う方向から、声がした
572 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:10:20.09 ID:43XnKqoP
「いやー。さっきのは流石に貰っちゃうと、下手すればアタシだけ逝っちゃうからさ。受け止めてあげる訳にはいかなかったんだよね」

避けられた。いや、避けるしか無かったのだ。つまりこれは自分たちも、これだけ数が居れば最終個体を殺すのに十分な攻撃力を作り出せると言う事だ

同じ炎を声の方向へ向ける。今度は鞭のように伸びた

そして、一人が狙われても他の個体によって回避をサポートする

「うおっち! 楽しませてくれるねー。やっぱりこうじゃないと。みんなを痛みから解き放ったら、アタシも逝くわけだし。最期はこうじゃないと、盛り上がらないよねぇぇぇぇぇぇ!!」

適当な個体へ狙いを絞って、飛来する炎だの電気だのを無視して、直線的に高速で移動しながら拳を突き出した

狙われた個体の周りの個体達は巻き込まれまいと回避する為に距離をとる

一方で狙われた個体は強く最終個体の方へ引っ張られた

引っ張られた瞬間、同時に体のコントロールが止まる。避けなくては。安易な方法として、空間移動を選んだ

しかし発動しない

なぜ? と思った瞬間に、その個体は四散した

「アタシ達の能力は、どうしても他の能力者が居なければ使えない」

同じ手を使ってすぐそばに立っていた個体を固めて引き寄せ、最終個体の突きだした腕に胸部から突き刺さる。その個体は簡単に絶命した

「今、空間移動の能力が使えないのは、なぜでしょう?」

質問を返す個体はない。答えの代わりとして、最終個体の周辺を熱プラズマ化して固定させる

一瞬の熱核では燃え尽きず耐えられるかもしれないが、空間が持続的に高温なら耐えられない。それは、既に学んだ

念動力と磁力を使用し、さらに精神操作によって演算にジャミングをかけている。最終個体の体は動けない。当れば、如何に最終個体と言えども1秒も持たずに蒸発して、死ぬ

今は何故か空間移動が使えないのだから、最終個体には避ける術はない、ハズだった

「答えは簡単。どこかの空間移動能力者さんから借りてた能力をお返ししたからさー。返すといっても、別にその能力者さんの能力が使えなくなる訳じゃないんだけどね」

最終個体は空間移動を使って簡単に避けていた。そして今、その能力はまた使えない

「量産型の個体は借りれる能力の数は世代によって違うけど、借りれる範囲は狭い。でもアタシは、この学園都市全て位の範囲から借りれる。君達はアタシの借りた能力が借りられる範囲内にある能力だから、いろんな能力を借りることで今使う事が出来ているんですなー」
573 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:11:18.28 ID:43XnKqoP
「だからアタシがその能力を返してしまえば、また借り状態の量産個体の君達には使えなくなる。アタシが使うときだけ借りて返せば、同時にしか能力は使えない」

「すごくアンフェアでしょ?で、コレを上手く使えばさー」

強力な力で周辺の4個体が最終個体へ引きつけられる。そして、大きく広げた両腕に串刺しにされていく

「はい、今アタシ達はみんな無能力者です!今のは初動の慣性を付けるときだけ一瞬能力を借りてやっりまっしたー」

あははと笑い、腕の量産個体を溶かして燃やし切り、命だけでなく形もこの世から消失させる

「うん。これじゃ、能力者の無能力者イジメと同じだよね。でも結局、アタシ達は無能力者っていう烙印からは逃げられないんだよ」

「借りものの能力、借り物の体。佐天涙子である必要性はどこにもない。特殊性も個性もない。都合が良かっただけの、無能力な被検体」

「だから弱いし、痛い思いをする。だからほら、死んじゃって早く楽になろうよ。もう影で馬鹿にされたり、いじめられたりしないんだよ?」

それでも、少女たちは立ち向かってくる。無能力状態ならば、接近戦で戦える。白の戦闘服によって筋力補強を受けている分、量産個体の方が近接戦能力は高いハズだ

10人の佐天涙子が佐天涙子をたこ殴り、というよりはたこ切りにする

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い………」

体が裂かれ、突かれ、噴き出す血

それでも最終個体は無抵抗でしばらく受け続けた。痛いという言葉を呟き続けながら、ずっと

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いからぁぁああああああああ!!だから終わらせてあげる!!アハッ!!!」

切りかかかっていた10人と、とりあえず目に付いた10人を空間移動させる。移動先は、先程少女たちが作り上げた熱プラズマ空間と同じ温度を持った空間

一瞬で、20人の個体が蒸発した

残り32人。これで半数以上が死亡した。これではこの後の本来の任務に差し支える

5人の少女が最終個体へ突っ込み、残りの27人が一斉に逆方向へ拡散するように逃げた

5人はいわゆる殿(しんがり)役だ。盾となって味方の撤退を確実にするための、犠牲

「逃がさないよー!!一人も絶対逃がさない!!それで、みんなで一緒に逝こう!!!アハハハッ」
574 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:12:30.99 ID:43XnKqoP
粉塵が完全に落ち着いてきて、彼らは両手を上げるしか無かった

海原「すみません。私の為に」

半蔵「こうなっちまったらしゃーねぇ。とりあえず、この状況を好転させる事を考えようぜ。なんだか向こうは騒がしいし、上手すれば何とかなるかもしれないからな」

背中合わせの状態で、半蔵は親指でその方向を指した。200mほど先で、青い光やら爆発やら電光が瞬いていた

「何をたくらんでいるのか知らんが、お前らに手はない。ミンチになりたくないのなら、こちらに従え」

駆動鎧の巨大なライフルの先端がこちらを狙っている

大砲とも言えそうなそのライフルを掲げた肩の上、後方に見た事のある女が身を隠すように移動していた

半蔵(アイツは……付いてくるなって言ったんだけどな)

半蔵「へーへー」

トボトボと、出来るだけゆっくりと両手を上げて歩く

半蔵(さて、どうするかな)

前を歩く海原を見る。痛みは無いのだろうが、手足の動きが自然ではなかった。根本的に筋肉や骨に問題があるのだろう

対物兵装をしたロボットを相手にこの程度なのだらから、まだ良い状況と言える。自分も左腕から少々出血していた

半蔵(海原はこんなんだ、頼れねぇ)

「ボディチェックを受けてもらう。抵抗するなよ」

半蔵「ボディチェックって、こんなデカブツ目の前にして抵抗するなと言われてもな。流石にビビっちまうぜ?」

駆動鎧がその腕を半蔵の体にかざす。金属探知装置でも付いているのだろう

「刃物の類、全て落として貰おうか。ついでにその煙草もな」
575 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:12:57.71 ID:43XnKqoP
半蔵「一服も許してくれねぇのかよ。ケチだな」

「刃物等の武器を全身に隠している奴の煙草が、本物の煙草だとは思えないんでな。保険だ。本物なら俺が有りがたく貰い受けてやるよ」

半蔵「あーそう。好きにしやがれ。全くケチ臭ぇな」

煙草の中の数本は、閃光を放ったりするような細工がしてあったのだが

半蔵(流石に敵もプロか。見逃しちゃくれねぇ)

「お前はなんだかよくわからんもの持っているな。とにかく、全て捨ててもらおう」

海原「よくわからんものとは、失礼ですね」

半蔵にも使用用途が不明な祭事用のアイテムのようなものを捨てていく

「そのナイフみたいなヤツもな」

黒曜石のナイフを示した

海原(私の主要な魔術の媒体も、か。困りましたね)

海原(いや、待てよ)

海原「この麻酔は残してほしいのですが。痛みが酷いので」

「あぁ? まぁ、良いだろう」

海原のぎこちない体の動きを見て、駆動鎧の中の男は許した

海原(よし、通った。これで、後は隙さえあれば…!!)

潔く、黒曜石のナイフを横向けにして堅そうな瓦礫に叩きつける。割れやすい黒曜石は、割れて大中小様々な小片となった

半蔵「また派手に壊したな。いいのかよ」

海原「いいのです、これで。あとは、なにか目を逸らすチャンスさえあれば」

半蔵「チャンス、か。もしかしたら、なんとかなるかもしれねぇぜ」
576 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:15:47.84 ID:43XnKqoP
少女達が絶賛戦闘中のトレーラー群から崩れたビルを挟んで反対側の南東方向の大きな広場に設置された、同じようなトレーラー群

ただし中身は全く違う物だった。中身は駆動鎧や各兵のHMDに表示される情報を管理している。そして、ビルを囲っているサーチライトや各監視システムの電力供給から制御まで

そのトレーラー周辺の兵隊は倒れていた。半蔵と海原、そして佐天涙子達の戦いに人と兵装を割いているので、ここを守るのは一般的な兵装をした兵たち

複数の大きなトレーラー内の一つ。その扉が開いた

「これはこれは、会うのは二度目だね。くの一のお嬢さん」

郭が入って直ぐに目が合った男が、声をかける

郭「私は、あなたとは初対面だ」

銃を白人の男へ向けた。浜面という男にがっかりされてから使わないつもりでいたが、スタイルを気にしている場合では無い

「すまない。君との関連は3度目だった。原石のリストも含めてね」

郭「!?…… なぜそれを知っているのか分からないが、今は関係の無い事」

ズガン、と男が背にしているトレーラーの内壁に穴が空いた

郭「半蔵様達を解放して頂けますか?」

「怖いな。この体にはそういう物から身を守る特殊な能力は無いのだよ?」

郭「なら、ますます私の言う通りにしてもらいたいですね」

銃で脅す。だが男は首を横に振った

「残念ながら私はここの機械は分からないんだ。やるなら好きにやってくれ」

郭「……止めないのか?」

「周りの兵を急襲とはいえ全部伸してしまう相手では、私はどうしようもないよ」

郭「ならば、無用だな。でも」

銃弾が、綺麗に眉間を捉えた

郭「保証はない」

男がその衝撃で後ろに倒れたのを確認し、拳銃を捨て、転がっていたライフルに持ち替える

郭にも、この装置を動かす方法などわからない。恐らく操作する為にはセキュリティも突破しなくてはならないだろう。解除なんて出来るわけが無い。ならば、叩き壊してしまえばいいのだ

戦術情報共有が止まれば駆動鎧の部隊はその強力無比な電磁砲の使用を躊躇うだろう。味方に当れば被害は甚大だ。影響のある射線上の障害をここで管理しているハズ

仮にそうでなくとも、確実に影響は出る。一瞬の隙さえあれば、半蔵様なら何とかしてくれる

フルオートにして引き金を引いた。全てのモニターから表示が消え去ったのを確認して、止めに手榴弾を投げ入れて、彼女は次のトレーラー内の設備や装備の破壊に移った
577 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/09(木) 08:16:43.16 ID:43XnKqoP
「グダグダ喋って無いで、とっとと動け」

駆動鎧が促す。引き延ばすにしても時間切れか

半蔵「分かってるって、って痛ぇじゃねーか!その巨体で殴るなy―――」

言いきる前に辺りを照らしていたライトが消え去った。同時に、駆動鎧の動きが乱れる

「な、ライトはどうした?!」「知らん!」

「情報共有システムの停止エラーが出ているぞ?!」「センタートレーラーからの応答が無い」

半蔵「これで十分か?」

海原「ええ、十分すぎるほどですよ」

言って、残った麻酔の一本を割れたナイフへ投げつけた

液体が漏れだし、湿った破片が艶やかに色を反射させる

海原(あの幻想術式の応用をに必要なもの。儀式の祭壇、術式陣はコレで十分なはず)

海原(ペヨーテの代わりに麻酔を用いるなど、全てが全て代用品な上に、アステカの術式を織り交ぜる事になりますが)

海原(あの術式陣自体がハイブリットな術式である以上、問題はないでしょう。後は)

あらかじめ目を付けていたナイフの破片に飛び付く

本来ならこの時点で怪しいと判断され撃たれていただろうが、今ならば

拾って、そのまま手を握り締めた。隠し持っていた黒曜石のナイフの小さな欠片が手の平に食い込み、出血させる

手に持った小片から魔力が供給されることで、その術式は発動した

ペヨーテが見せる幻覚を対象全てにもたらし操った幻想術式。それを麻酔に置き換えただけの術式だが

発動すれば、周囲の駆動鎧は動かなくなった。まるで、全身麻酔を食らった様に

同時に半蔵も動かなくなる

倒れ込んだ半蔵の頬に海原の血で×印を付ける。ただそれだけで、目を開いて半蔵の動きは元に戻った

海原「半蔵さん、今のうちです」

半蔵「…ン。流石だな」

海原「あまり長くは持ちません。ひとまず隠れましょう」

半蔵「了解。そいつは俺の得意分野だな」
578 :やばいわー。前回以上に殺す手段が無いぞ、この佐天さん [saga]:2010/12/09(木) 08:18:26.86 ID:43XnKqoP
時間にしてみれば、およそ3、4分だった。麻酔術式によって倒れていた人間が、全員体の動きを取り戻す

「やられたな。あの二人はどこへ行きやがった?」

「少なくとも、見える範囲には居ないようだが」

「センタートレーラーはどうなったんだ? あのトレーラーの管理システムが働かないと、今アレが学園都市に来ても守れないぞ?」

彼らが居る場所は、情報管理・兵装設備使用許可機能を持ったセンタートレーラーから500mは離れている

行こうと思えば、ほんの一瞬で届く距離ではある。しかし何が有るとも分からない

「応答が無いままだな。隊長、万が一の事も有ります。一時的に情報共有のセンターを代替しては?」

「そうしよう。しかし、各監視システムやデータベースなどにはアクセスできないぞ。出来るのは各員が得た情報の共有のみだ」

「了解」

「それから、ひとまずの目標だ。センタートレーラー群の中には奴らの人質も居る。あそこの確認を最優先に―――」

駆動鎧部隊長の見ている駆動鎧の中のディスプレイに何かが入ってきた

「ぐぁああぁっ……」

彼らの目の前に、少女が飛ばされてきた。地面の上を滑った後が赤く染まっている

味方の特殊な能力者の量産型と、着ていた戦闘服と見た目から判断が付いた

視界の中で少女は駆動鎧の方へ助けを求めるように手を伸ばした

次の瞬間には、その腕は地面へボトりと音を立てて落ちた

力尽きたのではなく、体から千切れて落ちたのだった

殺ったのはその上に現れた裸の少女。その大きいとも力強い共言えないはずの足で踏み潰したらしい

Unknownに目の前で味方が殺された以上、この女は敵

もちろん応戦する。通常弾だが、巨大なライフルから高速で弾丸が飛び出した

全て直撃

複数の射線で30mm機関砲が当れば間違いなく人間は爆ぜる

しかし、現れた少女の体は少し変形した程度だった
579 :本日分(ry 個体と固体の間違いは読みなおしてもなかなか気付けませんです [saga]:2010/12/09(木) 08:21:33.67 ID:43XnKqoP
佐天「なんですかぁ?邪魔するんですか?」

歪な動きをしながらも、ハッキリと駆動鎧たちを睨んだ

返答だと言わんばかりに更に大型弾のシャワーをかける

佐天「邪魔するなら、容赦しないですよ?」

射線とは全く異なった方向から返答が有った。その上、体は完全に綺麗な裸体に戻っている

返答とほぼ同時に、炎が駆動鎧達を襲う

それに対して彼らは避けようともしない。駆動鎧内のディスプレイには問題なしの意味を表す文字の表示が光っていた

「射撃維持。ただし電磁砲は使うな」

「了解」

炎に対してビクともしない大型駆動鎧を見て、最終個体は攻撃を切り替える

先程の脅しの様な威力では無く、純粋に一撃でこの世から消し去れる威力で、電気であったり炎であったり風であったり。高エネルギー体へ昇華させたそれらは全て同じような見た目と破壊力を持っていた

「ッ、散開!」

一人のディスプレイに危険を表す表示がなされた

回避運動。アスファルトに窪みが出来る程度で地面を蹴り、高速で動く

「消えた?」

派手な攻撃を放った少女の姿が消えていた。逃がしたかのか

他の駆動鎧の情報を参照する

そこで気がついた。駆動鎧隊の一人から生命反応が無くなっている事に。その隊員の方向を見る

裸の少女が駆動鎧を中から割いて、現れた。ベッタリとした赤い色の液体と個体と共に

佐天「こんにちわ」

「う、やりやがったなこいつはぁぁあぁあぁァァ!!!!」

それを見ていた駆動鎧達が、一斉にライフルの引き金を引いた
580 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 09:15:44.30 ID:qY.hLeQ0
佐天さん魔人ブウみたいw
581 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 13:16:01.82 ID:XuDWdVwo
なんでだろう…佐天さん全裸のはずなのに前々興奮しない
582 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/09(木) 20:06:29.53 ID:r2rBZ8I0
他人の能力を使う……超再生……クローン……
何だアークライト様か
583 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/10(金) 03:59:28.15 ID:igCGGd.o
なんか違和感あると思ったら、こんにちはがこんにちわだった
まあこの佐天さんなら素で間違えそうだけど
584 :>>583も、もちろんわざとに、き、決まってるだろ!? [saga]:2010/12/12(日) 16:22:05.07 ID:b4LGE0gP
郭「……この人は、誰?」

トレーラーの内の装置を破壊し続けてきた彼女は、少し離れた所に半蔵や海原の人質が纏めて寝かされている車両を見つけた

半蔵の近辺に良く居た男達の姿であり、この人間達が恐らく、半蔵が汚い仕事を強いられている原因なのだろうと把握した

薬物を盛られているのか、軽く頬を叩いた程度では男たちは目を覚まさなかった。一応、動けるように拘束は解いてやったが

そしてその一番奥、ちょっとした仕切りの壁の奥に、椅子に縛り付けられた、意識の無い少女が居た

半蔵の近くでは見た事が無い少女だった。というか、彼に関わり合いのある女性については全て調べつくしてある。あの女性の警備員も、もちろん

郭(なにか、しぼんでる。見た目上はおかしいところなんて無いんだけど、何故?)

半蔵様と共に行動していた人に関わり合いのある女性だろうか

手首足首の金属製の拘束を少し強引に取り外し、そして体を押し付けていたゴム製のようなベルトをナイフで強引に切り裂いた

「ぅあ、う……お兄、ちゃ……」

何か呟いていたが、よく聞き取れなった

郭(体、冷たい。明らかに他の人質とは異なる。……この辺ではここが最後のトレーラー。もう私が破壊する物も無い。うん。軽そうだし、この人だけでも私が)

外から物音と、声がした

ここに配置されていたそこまで多くない部隊の7割程度は暗殺できた。それは、自分の行動音や行動そのものを隠すには、十分に大きな音や出来事がひっきりなしに起きたからであり

更には、学園都市に来てから、そういう働きに近い行動を幾らかして、経験が積み重なっていたこともある

その中で得られた結果として出来あがった直感は、このままここに居るのは不味いと吐いていた。如何な自分と言っても、狭く逃げ場のない空間で真面目に敵対しては確実にハチの巣になる

郭(時間的にも、半蔵様のご忠臣達を救い出すのは不可能。とにかく、この人だけでも)

自分は御世辞にも筋力の多い人間では無い。なので、先程切り裂いたゴム製のベルトを利用して腰のあたりでお互いの体を密着固定させて、褐色の少女をトレーラーから連れ出した

手榴弾を複数かなり適当に投げて、残り3割程度であろう動ける敵兵を誘導する

全ての明りの無い暗い空間ならば有効だろう

とにかく、少しでも遠くここから離れなくては

半蔵にあそこまで言われた以上、自分が人質になる訳にはいかないのだから
585 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:23:21.69 ID:b4LGE0gP
頭部の無い巨大な駆動鎧の目の前に、空間移動によって裸で現れた少女

突然の登場に驚きながら、しかし、駆動鎧も負けていない

少女が伸ばした拳と同じ速さで後方に水平移動し、腕が伸び切った場所へ、巨大なライフルの口から30m機関砲が火を吹く

隊長機による情報共有によって、駆動鎧の隊員ほぼ全員の射撃が同時に少女の体へ集中した

殆ど目の前から銃口を突き付けていた、最終個体に狙われた駆動鎧の銃撃によって、突きだした拳のある腕が弾け飛ぶ

ライフルを撃ちながら更に後方へ下がりつつ、他の部隊員と合流してチームワークを再度編成した

「残弾、4分の1!!電磁砲の使用を提案!!」

既にやられた駆動鎧は3体

「センターからの許可が下りないのでは、システム上不可能だ。あきらめろ!」

「空間移動の反応、隊長機!」

通信の声が耳に伝わる前に、隊長機は動いていた。部下が駆動鎧内部から現れた少女に潰されているのだから、当然本体内への空間移動には細心の注意を払っている

少し幅の広い道路の真ん中に現れた少女の吹き飛んだ右腕の先は、再生する代わりに電子の塊が有った。それが隊長機目がけて水平方向に振り払われる

余裕の為か派手に壊したいのか分からないが、少女の大振りの光る腕には隙が有った

その巨体を使って体当たりし、よろけた所へライフルの接射をしながら後退する

「空間移動は口頭報告では間に合わん!各個に対応しrッ!!」

衝撃によって、彼の言葉が止まった

十分な距離を取ってボコボコのアスファルト上を後退していたが、少女は大口径の射撃を受けてボロボロの体でありながら電子の腕を隊長機へ伸ばしていた

パンチと言う意味では無く、純粋に電子の塊で構成された腕が、如意棒のように長く伸びたのだ

「隊長?!」
586 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:24:00.32 ID:b4LGE0gP

一時的に膨大な電磁波が放出され、各機の情報共有に影響がでる

直接的には、隊員の機体のディスプレイには多少のチラつきとして現れた

「大丈夫だ。電子攻撃は我々の機体には通じない! あの光の塊は、戦術レベルのEMPで減衰出来る!!」

駆動鎧内のディスプレイに外装破損のエラーが光っていながらも、隊長機は応えた

彼らの駆動鎧は学園都市の防衛を目的に装備を改変されている

その想定敵故に、巨大なエネルギーの運用を想定されていて、高火力の電磁砲はその使い道の一つである

電磁砲は使えなくとも、その電力を電磁放射へ回す事は可能だ。それによって撹乱され固定電子の集束性が薄れれば、当然の帰結として威力も減衰する

完全に威力を殺しきる事は出来なかったが、まだまだ駆動鎧は問題無く働く。仮想敵が仮想敵だけに、ドーバーで使われた物よりも更に強化・バージョンアップしているのだ

佐天「へぇ、今のに耐えるんですか」

驚いた顔だった。その顔部は首から殆ど千切れかけたものを左手で支えながらだった

被弾率が上がり、再生ペースが鈍っている。それでも、効果が薄いと判断した電子の塊の腕は、すでに本物の肉体に置き換わっていた

少女は何度かその駆動鎧そのものを空間移動させようとしたが、通じなかった。同様に精神操作系も通らない

まるで中の人間を守る為の特別なプロテクトでもあるかのように

佐天「面倒だなぁ。でっかい割にすばしっこいし、なんか変な機能も有るし」

直ぐに片づける事が出来ると思っていたが、これでは量産個体を逃してしまう

各機体の動きから、統率をとっているのは先程狙っていた機体と判断できた

それを狙う

「しつこいな!!」

空間移動先を読まれて体をハチの巣にされながらも、それによって少し体の動きが悪くなりながらも、壊れたビルの瓦礫の丘に立つ隊長機を追った
587 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:24:45.37 ID:b4LGE0gP

先程の様に距離が詰り、しかし先程よりも体は骨とむき出しの肉で再生と被弾によってグチャグチャと音を立てながら、彼女はその拳を駆動鎧へ向けた

当然、それに合わせて隊長機は下がる。この化け物相手では、当ればその威力は大小分からないのだから

伸びた拳は、腕ごと駆動鎧のディスプレイ上から消えた。現実的に佐天涙子の右腕は肘から先が消えていた

瞬間、隊長機のディスプレイ内に警告表示が現れる。モニターの右下の駆動鎧の小図には、腰部中央、丁度中に搭乗している彼の腹部のあたりのブロックが赤く表示されていた

ディスプレイから視線を下に移す。つまり、駆動鎧の内部。少女の、骨がむき出しの拳と腕であろう物が、外装内装を突き破ってそこに有った

何がしたいのか、一瞬分からなかった

外部、味方に接近され過ぎて引き金を引けない部隊員の駆動鎧の視界では、隊長機の腰部に少女の腕が刺さって、肘が突き出ているように見えた

そして少女は空間移動によって切り離した自らの腕を、そのまま肘の手前から先が無い腕の切断面と接続させる

結果だけ見れば、少女の腕が駆動鎧の外装甲を突き破って中の隊長に直接手を当てている状態だった

佐天「いくら鎧が固くてもぉ、中は所詮人ですもんね」

しまった、と思った時には遅かった

学園都市の第三位クラスの高圧な電撃が、直接彼を襲う

一瞬で体が焦げ絶命した隊長。同時に、内部からの高圧電力によって彼の駆動鎧は使い物にならなくなる

それによって、駆動鎧部隊の情報共有システムがダウンする

それは彼女が狙って行った訳ではなかったが、彼女がその場を離れるのには十分な隙を作った

一人の駆動鎧のサーチ範囲へ空間移動をしたが、その情報は共有されず、今までの様に駆動鎧の群が彼女を覆う様に行動する事は出来なくなっていた

隊長に続く階級の男の機体が情報共有ベースとして簡易な共有システムを再起動した時には、少女は追うには苦しい場所に行ってしまっていた
588 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:25:53.86 ID:b4LGE0gP

半蔵「とりあえずはここで、一息付けそうだな」

崩壊したビルより真南300m程の場所に有る雑居ビルに逃げ込んだ彼ら

本来ならばそのまま人質を助け出したいところであったが、それは出来なかった

半蔵「さっきより悪化してんな。やっぱ不味いぜ、そのままで動くのは。麻酔で誤魔化すにしても、ここまで腫れちまったら」

電磁砲の射撃によって吹き飛ばされた瓦礫をもろに受けた海原の足は、麻酔でこれまで誤魔化してきたが、とうとう半蔵の肩を借りなくてはまともに移動するのにすら差し支えるようになっていた

海原「この様子では骨までいってますね。何か添え木になりそうなものはありますか?」

半蔵「奴らにカツアゲされる前にはいくらでもあったんだがな。待ってろ、探してくる」

海原「すみません」

半蔵は海原をソファに寝かせ、部屋の隅々を探した

適当な太さを持った観葉植物と格闘している

海原(魔術で回復しようにも、必要な物品は押収されてしまった)

海原(その上、根本的に魔術についてはガス欠ですね)

半蔵の方を見た。ナイフがありゃ楽なんだがなぁ、とボヤいている

海原(彼も彼で、有る程度傷を負っている)

海原(この状況で、またあの駆動鎧達を相手にするのは厳しい。組織の本拠地すら圧倒した性能と聞いていますし、非力な魔術師が一人二人居たところで)

半蔵「コレでいけるか? 合わないなら、時間をくれりゃリサイズするぜ」

海原「ありがとう、助かります」

海原の着込んでいるジャケットに引っ掛かったポーチには、包帯の代わりになるような帯状の物が入っていた

自らの足に添え木を巻きつけはじめた海原を見て、特にその行為への助けは要らないだろうと判断した半蔵は、窓際に姿が外から見えない様に立ち、外の様子を確認している

どうやら敵は近くに居ない。彼は知らないが監視システムも郭によって破壊されている

今のところ安全だ

半蔵「……その様子じゃお前、人質を助け出すのは無理だよな」

海原「残念ですが、否定できません」
589 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:26:23.52 ID:b4LGE0gP

ギリ、と奥歯を噛み締めて言った

半蔵「OK、素直でいい。ここはしばらく安全、とは言い切れないが、今はマシだ。休んでおけよ」

海原「ええ。……あなたは?」

半蔵「行ってくる」

親指を立てて、背後へ向けて軽く振った

海原「まさか、あの駆動鎧達を一人で相手すると言うのですか?」

半蔵「そうならないようにはしたいけどな。心配な奴が居るんだよ」

海原「しかし、武器も無いんですよ?」

半蔵「調達するさ、その辺はな。お前の人質はどんなヤツなんだ?」

海原「褐色の肌をした女の子です、ですが」

身を起こそうとして、苦痛に顔をゆがめた海原

半蔵「麻酔も切れそうなんだろ。追加で打つのもいいが、効きも悪くなってくしな。じっとしてろ」

海原「……ッ、く」

半蔵「な。助け出せるかは分からねぇけど、無理して犬死はしないつもりだ。根本的に、不味い状況だからな。早く行かなけりゃ人質も殺されちまう」

行ってくるわ、と振り返り外へ向かう半蔵

海原「待って下さい。コレを」

呼びとめた海原は腰から麻酔を取り出す。引き金の付いた注入機も差し出した

海原「持っている限りで一番濃度が濃くて効果がキツイ奴です。一発限りですけど、武器代わりにはなるハズですよ」

半蔵「有り難いけどよ。これ持って行っちまったら、海原、お前が自分に打てないだろ」

海原「とりわけ危険が迫らない限り、ここで休みますから。あなたの言う様に、ここは回復、というより悪化させない方を選ぶべきだ」

半蔵「ん、それでいい。じゃ、有り難く使わせてもらうぜ」

笑顔を一瞬浮かべて、半蔵は去った
590 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:28:26.16 ID:b4LGE0gP
郭「追いつかれた…ッ?!」

破壊したセンタートレーラーから更に南に400m程下った場所

大通りの十字路。もちろんド真ん中を走る訳では無く、最大限身を隠しながら、そこまで離れた彼女達の背後から来た銃弾が、足元で跳ねた

少女を縛り付けた自らの体を強引に動かして、右折して直ぐのビルの影に褐色の少女を置いた

そしてすぐに、背中にまわしていたライフルに持ち替え応戦しようと体を影から出す

郭「しまっ、た!!」

彼女自身が今やろうと思っていたのは、弾幕を張りつつ敵の場所を確認すること

その程度の事は、ハッキリ言ってアメリカ兵達にとっては教科書通りのテロリストの行動だった

彼女は忍びとしての経験は確かにあるが、小銃を使って大人数を戦う経験が有るわけでない

弾幕を作ろうとしたのも、自らの腕では瞬時に敵に当てることなど不可能だと分かっているからだ

対するアメリカ兵は便利な装備で身を守っていて、更には訓練も実戦経験も積んでいる

彼女が飛び出てきた時には、銃口は彼女の方を向けながら、自らは体をビルの柱やら街路樹の後ろやら花壇の影に身を隠していた

少し考え足らずに体を壁の無い場所に露出し過ぎた彼女は、瞬時に身を戻そうとしたが、遅かった

小銃を持っていた側の右肩を弾が通過し、左脹脛を掠って鮮血が飛ぶ

身を隠した後も大量の銃弾がその場所を通り過ぎた。この程度で済んで良かったと言える

小銃を逆の腕に持ち替えて、しかし利き腕で無い為命中精度は更に落ちるが、ビルを盾にして左腕だけ出して適当に掃射する

殆ど意味の無い時間稼ぎ。銃弾はあっという間に消耗するだろう

郭(最初から判断を間違えた。アサルトライフルに頼らずに、この子を囮にして、こちらに分がある急襲での一撃必殺に集中すべきだった)

郭(敵の数も場所も把握できずに、傷を負っただけ。最悪だッ!)

このままでは残り十数秒で敵がここに辿り着く。ここに居座って応戦などしたら、恐らく戦いにならない

ならば、手は一つ

この褐色の肌をした少女を囮にすればいい

トレーラー周辺の兵と同じ装備ならば、ゴーグルには暗視機能だの熱源探知だのが搭載されているはずだ
591 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:29:14.01 ID:b4LGE0gP
その視界から出て、この意識の無い少女を囮にすれば敵はそちらへ集中してくれる

後は上手く死角を突くだけだ。幸い、足は掠っただけ。痛みは有るが

ライフルや重さのある武器全てを投げ捨て、彼女はビルを外壁から昇った

現代的にリメイクされ強度も軽さも機能も進化した忍び熊手を伝い、ビルの上階の壁にへばりつく

「もう一人は、どこへ行った」

兵たちの頭上で息をひそめる郭は、クナイを一本、明後日の方向に力の限り投げ飛ばした

兵たちから離れた所から、カツ、と言う音が響いた

「今の音、こりゃ逃げられたな」

「逃げただと。仲間を散々殺しておきながら、少し食らったぐらいでビビっちまったってのか」

「女には人間一人担いで逃げるのはキツイからな。だが、センタートレーラーを壊されたのは良くない。非常に」

「なぁに、本国から代わりが空輸される。問題はその間に仮想敵が現れるかどうかだ」

「どうだかな。簡単に換えが効くような物かどうか、俺らには不明だ。同じくらい不明なのが、その仮想敵だけどな」

「信じられないけど、ロサンゼルスの映像を見ただろ? 簡単に200万人を殺すような存在が有るんだよ、本当にな」

「洒落になんねぇが、そいつからこの学園都市を守らなきゃ世界が終るんだとさ。まったく、SFファンタジー顔負けだぜ」

郭(仮想敵って何の事? 世界が終わるって)

彼女が兵たちの会話を盗み聞きに意識を集中していた時だった

ピチャッ

一人の兵の頭、もちろんメットをかぶっているが、その頂点に液体が音を立てて滴り落ちた

「ん?」

手でその液体をふき取り、見てみると、血だった

「血? 上かr――」

郭(ッ、足からの血が垂れたか)

その視界へ郭の姿が完全に入る前に、上を向いた男は意識を永遠に失った
592 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:29:48.38 ID:b4LGE0gP

背部、首と背中の境に体重をかけて深々と刺さった大きなクナイはそのままにして、郭は周辺に立っていた兵の顔に懐から取り出した次のクナイを次々と刺す

距離が近く、更に味方を撃つことになりえる為にライフルは使えず、更には限りなく装備を捨てた少女の方が動きが軽く、虚を突かれた兵たちでは、ディスアドバンテージが多過ぎた

郭(次、次、次だっ)

肩腕一本で、刺し・投げ・裂く

赤く染まった着物を着た少女は、舞っているかのようだ

瞬く間に周囲の4人の顔面には刃物が突き刺さることになった。だが、兵たちもただ殺られるばかりでは無い

郭(……ぅ、遠い!! )

残りは、接近攻撃主体の郭から離れようとする兵が1、更に20m程先の交差点中央からこちらを狙っているのが2

逃れようとする兵を、遠い2名の射撃を防ぐための盾のとなる角度から迫り、距離を詰める

盾となっている兵の銃口が、こちらを向こうとしている

反射的にクナイを顔面へ投げ、それが口に直撃した痛みでもがく兵が撃った銃撃は射線が郭から外れ、弾丸が明後日の方向へ向かった

更に距離を詰めて、刺さったクナイが更に奥へ深く刺さる様に、接近した勢いも込めて力を加えた

声にならない音をたて、びくびくと体を震えさせながら膝を落とす兵

上半身がガラ空きとなる

ただの街路でしか無いそこには、先の2名からの銃撃を防ぐ盾になりそうなものが無かった

郭(!!、ここまでなのか。すみません、半蔵様ッ)

もちろん、横方向へ逃れようと足を動かすが、間に合わない

銃声が響いた
593 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:32:23.18 ID:b4LGE0gP
銃による痛みを待ったが、その時は来ない。目を開くと、自分を狙っていた男二人が倒れていた。そして彼らの近くに転がっている車の裏から、ぬっと黒い影が出てきた

半蔵「拳銃一つぐらいは、余分に持っておくべきだったな」

郭「半蔵様!!」

コツコツコツと足音を立てて、暗がりから近づく男の姿は、彼女が最も会いたかった男だった

半蔵「派手に銃の音がすると思って来てみれば、危ない危な―――って」

郭「半蔵、さまぁ」

少女の体が、グラリと崩れそうになる

慌てて半蔵は駆け寄って、それを受け止めた。そして肩の傷を見つける

半蔵「ッ、大丈夫か?」

腕に抱かれる形となってようやく、自分の足の力が抜けていたのに気が付いた

郭「しょ、少々気が抜けただけで、その、……助けて頂いてありがとうございます。そして、すみません」

半蔵「ん?」

半蔵は傷の深さを確認していた。気が抜けたというのも、失血によるものとも考えられたからだ

腕の中の女は自分の足で立ち直した

郭「やはり私はまだ未熟でした。付いてくるなと言われて、結局半蔵様に助けてもらって」

半蔵「……そうだな、未熟かもしれない。でも助かったのも事実だ。ライト消したり駆動鎧の動きを乱したのは、お前だろ?」

郭「は、はい」

半蔵「ありがとよ。お陰でミンチにならずに済んだ。こんなに返り血浴びて、怪我負って、無茶しやがって」

人差し指を少し曲げて、少女の頬の血を拭ってやる

郭「……ンッ…ぁ」

半蔵「お前、右肩以外には?」

郭「え、あ、左足に」

不意に左太腿の内側に半蔵の手が伸びた。怪我に触れると、内股からの痛みが郭の脳に伝わる

半蔵「ここだな。よし、ちょっと待ってろ」

転がっている死体のポーチから簡易治療に必要な止血パッドや包帯などを取り出し、手当てを始めた

自分でやろうとも考えたが、なんというか拒む気になれなかった
594 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:33:13.76 ID:b4LGE0gP
テキパキとしているのは、時間をかけたくないからもあるだろう

郭「あの、半蔵様」

テーピングを巻いている半蔵におずおずと話しかけた

半蔵「どうした?他にも怪我してんのか?」

郭「いえ。……半蔵様の捕らわれたお友達のことです」

半蔵「お前、あいつらの場所を?」

郭「はい。奴らの機材を破壊していた時に、偶然。あちらで寝てる色黒の女の人と一緒に」

郭が手を伸ばして、肌の黒い少女が倒れている方向を指す

半蔵は作業を続けながら、その方向をみた

確かに肌が黒い。自分の探している仲間と同じ場所に居たということは、海原の言っていた人物であろう

半蔵「そうか、あの子が。……よし、これで応急処置にはなったろ」

郭「ありがとう、ございます」

半蔵「気にするな。お前にも死なれちゃ困るんだ。だけどかわりに頼みが有る」

郭「なんなりと」

半蔵「こっから西の、あの雑居ビルの3階にあの子を連れてって欲しい。そんな肩のお前に頼みたくは無かったが、ここでじっとしてるわけにもいかないし、待ってる奴がいるからな。頼んでいいか?」

郭「分かりました。しかし、半蔵様は」

半蔵「言うまでもねぇ、だろ? 場所はどこだ?」

郭「御一人で? 無茶です。捕まっている方を全員助け出すなんて、みんな意識も無いんですよ?」

半蔵「それでも、今ぐらいしかチャンスがねぇんだよ。お前が折角壊したシステムだって再設置されたり直されたら終わりだ。何より、このままじゃ確実にアイツら殺されちまう」

ズダンズダンと、少し離れた所から銃声や爆発音が聞こえる。アメリカの連中は、まだ誰かと戦っているのだ

それは大きな隙である。逃せない。それは実際にその隙を突いて戦った彼女にだって分かる

郭「……この道を、北に。少し広いスペースにトレーラーがたくさんありますので、その中に」

指で示した郭の先。到底真っ暗で見えなかったが、半蔵は頷いた

半蔵「ありがとよ。んじゃ、あの子を頼んだ」

そしてすぐ、半蔵は暗い空間へ消えて行った
595 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:34:59.18 ID:b4LGE0gP
佐天「ひっとーつ、ふったーつ」

崩れたビルに二つの窪みと血のペイントを施して、少女は立っていた。逃げた個体は残り20人

既に殺した二つの死体の首だけをむしり取り、逆方向でこちらを見ている2人の方を向く

最終個体から見て90度の間隔を開けて立つそれぞれの個体へ向けて、片目それぞれがピントを合わせた

二人とひとまとめに言っても、二人の位置は直線距離で600m以上は離れているし、お互いが近くに居るとは思っていない

最終個体はむしり取った両手の生首、自分と同じ顔を視界内それぞれの量産個体へ投げつる

簡単な弾丸と化した首は、風圧でまるで笑っている様な顔をして、少女たちに迫った

当るわけにもいかず、当然今居るビルの裏路地の影へ体を向ける

そのまま飛来してきた顔面が壁に当り、若干の水分を感じさせるような音を交えて粉砕した

その粉砕は、派手な音。人の頭が壁に当った所で到底ならないような音だった

振り返ったら、恐らく最終個体が居る。そんなことで足を止めて生存確率を下げたくない

それが例え小数点以下のほんのわずかなパーセンテージであっても。量産個体はそう判断して、とにかくその場から走って逃げた

ビルとビルの間の細長い空間を走る量産個体の上、跳び越える存在があった

すたっと量産個体の目の前に着地して、振り向く

その手にはまた新しい首が有った。他の個体がこの僅かな時間で殺されてしまったのだ

佐天「よっつ」

量産個体の顔と、最終個体の手に持つ真新しい生首が、空間的に置き換わった

既に死んだ個体の生首に、生きていた個体胴体から血が巡っていく。置き換わった、生きていた個体の生首からは、逆に血が垂れた

佐天「やっぱり、死んじゃった人は生き返ったりしないよね」

手元にある、生きていた個体の生首を自分の目の前まで上げて、話しかけるように言った

一度死んだ細胞は復活したりしない。頭脳と言う司令塔が死体のソレに置き換わってしまった量産型はバランスを崩して、倒れた

置かれただけにすぎない既に死んだ個体の生首は、倒れた胴体から離れて、転がっていく

佐天「ずっと同じ顔ばっかり相手してたから、生き返ってるのかと錯覚しちゃったよ」

ありえないよねー、と、それからしばらく生首に言葉を投げかける

佐天「なんて、話しかけても言葉が返ってくるわけ無いんだけどさ」

興味を失った様に、生首を潰した
596 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:35:59.11 ID:b4LGE0gP
アレイスター「本当に多い、今日は」

入口の無い空間に入ってきた人間を感じて、その人物はこぼした

青髪「先客もおるし、ご多忙なんやな」

アレイスター「そうだな。否定しない。彼の事は無視していて構わないよ」

先客の人間の方を向いていた男が、青髪たちの方を向く

青髪「りょーかい」

アレイスター「ふむ。てっきり2度目かと思ったが、別人の様だな」

青髪「へぇ、やっぱりあっちも接触してたんか」

アレイスター「肯定しよう。それで、君たちは何の用で来たのだ?」

青髪「多分、もう一人の方と表面的には同じやろな」

アレ「協力しろと言うのだな。彼と同じように」

青髪「そうや。でもその最終的な目的は、その彼を倒す為でもある」

アレ「ほぅ。その事を隣の君、結標淡希は承認しているのか。私は仲間の敵であろう? そんな相手と協力するなど」

結標「もちろん、事が終わったら学園都市の方にも復讐してやる気ではいるわよ」

アレ「それまでこの都市が残っていれば良いがね」

青髪「その為に僕らがいるんやけどな」

アレ「それは頼もしい。しかし、君の友人は残念な事になってしまったようだが、私にはどうしようもなかった事なのだよ」

結標「部下の独断だから仕方ないとでも言いたいの?」

アレ「君にとっては言い訳だろうな。しかし、彼らも彼らでマニュアルに従ったのだ。責められない」

結標「最初から人質とるような方法を、とは流石に言わないわ。でも、あなた達とアメリカの連中の対立が殺した事には変わりない」

アレ「否定はしない。そうだな、首を洗って待っておくことにしよう。それで、どんな協力を求めるのだ?」

青髪「アメリカの占領を妨害する。代わりにお前が管理してる学園都市機材の類の使用協力を求めたい」

アレ「ふむ。それで、最終的に彼の喉元へ食らいつくと言う訳だな」

青髪「その通り。協力してくれるか?」

アレ「いいだろう。だがその前に一つ質問だ」

青髪「なんやろーな?」
597 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:37:54.44 ID:b4LGE0gP
半蔵「おい、おーい。……やっぱ駄目か」

崩落したビル南東部の情報センタートレーラー群の中で、彼は捕らわれていた仲間たちと遂に出会う事が出来た

頬を数回叩き、終いには軽くグーをお見舞いしたが、彼らの反応は返ってこなかった

半蔵(郭の言っていた通り、みんな気を失ってやがる)

適当に腕を持ち上げて、その肉の付き方を見る

半蔵(筋肉が萎えて、皮膚が少し下がってる。たるみもあるな)

半蔵(捕まってからずっと気を失ったままにされてたってことか?)

半蔵(だとすると、例え今意識を取り戻しても、まともに立つことも動くことも出来ねぇな)

半蔵(俺一人じゃとても4人全員を連れ出せない)

半蔵(車かなんかでとにかく連れ出してここを離れたいが、動ける車がねぇとな)

だが、彼の記憶の中では、ここに来るまでの経路には動けそうな車両は無かった。戦闘の盾となり武器となってしまっている

半蔵(あるとしたら、此処で死んでる兵隊さんの車両しかないが)

郭の急襲・暗殺にあって死んでいる兵たちを見る

半蔵(郭の戦い方や俺や海原の戦い方なら、流れ弾なんかで車両を破壊するような事はない)

半蔵(俺たちしかこいつらに喧嘩を売っていないなら、この周辺の車両は生きている。アメリカの連中が自らの足を壊すなんて愚行をしない限りは)

半蔵(だが、気になるのは今も断続的に聞こえるこの音だ。海原と切りぬけた時もそうだった)

半蔵(一体何と何が戦っている? 音の規模では、一般車なんて巻き込まれたら簡単に壊れてしまいそうだが)

トレーラーから降り、意識の無い仲間たちが入っているこのトレーラーの損傷具合をみる

大丈夫。ところどころ銃弾が当って凹んだりしているが、動くには全く問題ない

内部に全く情報共有システムの機材が無かった為に、郭が内部破壊をしなかったのが幸いした。もちろん半蔵の知り得る理由ではないが
598 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:38:59.66 ID:b4LGE0gP
半蔵(気にはなるが、まずはトレーラー引っ張る車かこいつらを運べる大きさの車を見つけないとな)

トレーラーがこれだけあるんだから、ある程度近くに牽引車が有るはずだ

それを探そうと、少し動いた時だった

崩壊したビルの方から、ズザッという細かい瓦礫を足で擦る音が聞こえた

手頃な場所に有った、弾薬でも入っているであろう大きな箱が積み上がった物の影に、身を伏せる

人質が寝ているトレーラーのすぐそばを、腕を一本失って、その肩を押さえた少女が駆けていた

半蔵(あの女は、俺と一緒に戦った奴か? いや、残ってる右腕の拳は健在だし、足の動きもガタがあるわけじゃねぇ)

半蔵(ってことは他の、クローン、なのか。まるで逃げてるみたいだな)

暗がりであるが、目を凝らして見る光景

その少女の後ろから、腕が一本飛んできた。それは彼女の失った腕なのかもしれない

佐天「バージョンが新しいコは、やっぱりすごいね。一瞬でも隙があれば逃げるし、判断もすごい」

闇の中から、もう一人少女が出てきた。全裸である。その上同じ顔である

返り血なのか自らの血なのか、その体は生々しい赤に染まっていた

佐天「多分格闘能力とか、そういう能力はアタシよりもいいと思うなー。今生き残ってるのは、恐らくみんな新しい個体みたいだし」

残った腕で、飛んできた腕を払いのけた少女は、倒れていた兵のアサルトライフルに飛び付き、最終個体との距離を広げるように移動しながら、的確な射線で全裸の少女に銃弾の雨を降らせる

あっという間に弾倉の弾を撃ち切って、更に一発ライフルアタッチメントのグレネードをお見舞いした

半蔵(おいおい。そんな場所で殺り合わないでくれよな。近いんだよ)

距離を取った少女の銃口が向く標的は、半蔵が移動させたいトレーラーのそばに立っている

半蔵からすれば、気が気でない

全裸の少女一人相手にやりすぎと言えるほどの銃弾とグレネードが当るのを見て、流石に死んだと彼は思った
599 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:41:35.31 ID:b4LGE0gP
全裸の少女は、それこそ頭頂から足先まで、全身から血を流していた

目から血涙、違う、眼球は潰れている。とにかく血だらけだった

外であれば、直撃しなければ対人用のグレネード弾は、当りどころが悪ければこんなものかもしれない

彼はそう思った。目を凝らしていた分、疲労した目を癒す為に少し長めの瞬きをした後

そこにはほとんど無傷になった全裸の少女が居た

半蔵(んな、どうなってやがる)

佐天「でもさー、どんなに強く作られてても、アタシを殺すには不十分なんだよ」

最終個体は、ペッ、と口に溜まった血を吐きだした

佐天「今生き残ってるアタシはみんな強いからさ、あんま時間かけらんないんだよね」

血まみれ肉片だらけでどこが乳首なのかもよくわからない全裸の少女は、片腕を胸元まで挙げた

次の瞬間には、40mは離れていただろう片腕の無い少女が、その挙げた腕に突き刺さっていた

しかし、腕の無い少女はまだ死んでいない。震えながら頭を挙げた

佐天「あれ、ズレちゃった? スペック高いなー。確かにアタシが能力を使う瞬間なら、同能力が使えるもんね。同じAIMを同じように使ってるわけだし、ジャミングも可能なわけか」

佐天「げ、ってことは」

「ぐ、フッ、…そう、です。今頃、生き、残ってる他の個体、は、こ、この瞬間を、あなたの能力を、利用して、最大限、あなたから離れていますよ」

裸の少女を蹴り上げて、刺さっていた腕を引き抜き、肝臓部分に大きな大穴を開けて、片腕の無い少女は地面に足を付けた

「だから、アタシは、ここで生ける限り、他の個体の為に、時間を稼ぎます。あなたの、無能の、証明なんかに、他の、個体ま、で、巻き込ませな、い……!!」

死力。強く地面を蹴る度に腹の大穴から血が噴き出すも、彼女は動く

距離を取った。瞬間、腕の無い少女へ、少し黒く焦げた大きな機材トレーラーが水平方向に突っ込んで行く

佐天「う る さ い よ」

言った瞬間、腕の無い少女にトレーラーが当る。否、僅かに角度がずれて当っていない。ジャミングだ

射線上に有ったビルに、そのままそのトレーラーは直撃した。それによって、そのビルは横たわる様に倒壊を始める

そして逆に、腕の無い少女の手には死んだアメリカ兵の銃が引き寄せられていた
600 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/12(日) 16:43:30.24 ID:b4LGE0gP
それこそ節分の豆まき程度にしか意味の無い銃撃であるが、苛立たせるには使える

最終個体が能力を瞬間的に借り受ける、その事によって、その目の前にいる腕の無い少女もその瞬間だけ同じ能力を使える

最終個体は念動力によって空中に浮かせた金属片を叩いた。そこから射出されるのは、最終個体の記憶にある御坂美琴の代名詞

彼女にとって、超電磁砲は強さの象徴なのかもしれない

しかしそれすら、腕の無い個体は凌いだ。同じように浮かせた超電磁砲による迎撃

簡単な話だ。最終個体の用いた金属片が大き過ぎたのである。ほんの少しでも射線をずらせば当らない

明確に最終個体の表情が濁る

佐天「弱っちい癖にぃ……アタシがわざわざ殺して楽にしてあげようっていうのにッ!! 手間ばっかりかけさせてさぁ……」

佐天「面倒なんだよ!!!!」

「それが、無能の証明だと、言うのです!!」

腕の無い個体の声は届いているか不明だが、最終個体は明確に焦って、苛立っている。半蔵にはそう見えた

半蔵の仲間が入っているトレーラーと他一台以外の、全てのトレーラーが振動して浮かび上がる

佐天「これなら、アヒッ、ど、どうしようもないよね!!」

浮かび上がったトレーラーをぶつける気なのだろう。確かに連続してそんな物が襲ってくれば、少々ずらした所で対応しきれない

半蔵(冗談じゃねぇ。もしあの腕無しがこれすら凌いだら、次はアイツ等の入ってるトレーラーまで弾丸として使っちまう。そうなりゃ永遠にオネンネだ)

半蔵(それに仮に直撃しても、あの盛り上がり様じゃ、生き死に関係無く追撃を繰り出す事だって考えられる。止めねぇと)

半蔵(でもどうすんだ? あの腕が無いのも十分に強いんだ。そいつが敵わない上に、ライフルもグレネードも効かない相手だぞ)

何か、と思って腰に手を回す。すぐに手に触れた拳銃やナイフでは話にならない

引き金の付いた、しかし拳銃とは全く違う形の物に触れた

それは、強力な麻酔がセットされた注入機

半蔵(これなら、いけるか……?)

宙に舞った大型トレーラーが、立て続けに腕の無い少女に飛来する

既に失血死寸前で、立っているのもやっとだったその個体は、それを全て防ぐ事はどころか、最初の一本目すら逸らす事が出来なかった

足から力が抜け、倒れこむ
601 :本日分(ry やっと佐天さんが、佐天さんが止まったぞー [saga]:2010/12/12(日) 16:44:48.18 ID:b4LGE0gP

それが、最終個体には回避行動を取ったように思えた

一撃で吹き飛び遥か後方で跳ねた、既に命は無くなっている腕の無い個体へ、最終個体は複数のトレーラーを巨大なハンマーのように用いて、何度も何度も叩きつけた

佐天「アヒッ、フヘヘヘッ、どうしたのさぁ? もっと時間を稼ぐんじゃなかったの? えぇ? なんか言えよ、言えよおおおおおおおおおお!!!」

一発ごとに轟音を立てながら、少女の体が粉砕され、更にハンマー代わりのトレーラーが変形していく

トレーラーが使い物にならない金属の塊になった所で、それでも、最終個体は飽きなかった

次のハンマーとして半蔵の仲間たちが入ったトレーラーが、ピクリと動き始める

半蔵(クソッ、やらせるかよ!!!)

気配を消して近づくのをやめて、半蔵は一気に全裸の少女との距離を縮め

そして麻酔を打ちこんだ

佐天「ンダアァァアッ?!!」

絶叫しつつ、満足にその方向を、半蔵を確認せず、彼女は腕で半蔵を薙ぎ払った

注入機から手を離し、瞬時に手をクロスさせてその攻撃を防ぐも、彼は遥か後方へ飛ばされる

衝撃を殺すような構えが少しでも遅れていたら、半蔵の両腕は確実に粉々に折れていただろう

30mは後ろの道路のアスファルトに叩きつけられ、数回バウンドした後、何とか受け身を取った

痺れる体で、首だけ起こして全裸の少女の方を見る

佐天「なぁんでぇすかぁ?!! てっきり他のアタシかと思ったら、誰なんですかぁ?」

一歩一歩、最終個体が喜とも怒とも取れない表情で半蔵に近づいていく

佐天「アタシの、邪魔をするならぁ、ころ、こッ……」

突然全裸の少女が倒れた

それを見て、半蔵は、ゥ、ハァー、と大きな音を立てて息を吐いた

半蔵「……ふ、ふざけんなよ。どんな馬鹿力してんだコイツは」

立ちあがって、震える腕で煙草を咥える。とにかく、生の実感が欲しかった

だが、彼には火種が無かった
602 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 17:07:38.59 ID:Uco/zago

ここで佐天さん一時停止か……後々がものすごく怖いなww
603 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 18:01:04.66 ID:y9Ivytoo
麻酔効くんだなww
一瞬で体再生するぐらいだから無効だと思ってた
604 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 18:11:51.52 ID:fwpeDg.o
>>581
残念なパンチラみたいな感じか
俺は興奮するぞ 恐怖で
605 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 18:25:37.77 ID:Zd0o8.so



よくよく考えたらフィアンマさんってまだ脱落してないんだよな……

>>1の書くフィアンマさんは指示語を使いまくって墓穴掘りまくるお間抜けさんじゃないと信じたいぜ
606 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/12(日) 21:10:35.61 ID:riueFqgo
佐天さんまじバタ子さん!
607 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 01:10:12.81 ID:OHj52ugo
この佐天さんをjpgでください
もちろんお持ち帰りで
608 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/13(月) 13:13:43.91 ID:OhuV/EDO
首を入れ換えるなんてマジでバタ子さんだな。
佐天さんもうそのままパン工場行ってジャムおじさんのカキタレになっちゃえよ
609 :バタ子さんって最初意味が分からなかったわー [saga]:2010/12/15(水) 02:17:13.73 ID:pTexKb6P
14時のロンドン市街、オックスフォード・ストリート

年齢14にして必要悪の教会に所属し、イギリス圏内でも指折りの実力者である男は歩いていた

人通りの多いこの大通りで、しかも彼は若干目立ついつものローブ姿では無い

後ろで束ねられた髪、ブルゾンにカーゴパンツという格好、つまりどこにでも有り触れていそうな若者の格好である

つまり、変装

隠れて人に会うならば、"人払い"の術式を使いたいところだが、ロンドンでそんな術式を使えば立ちどころに見つかってしまう

騎士派にも、自らが所属する清教派にも見つかりたくないのだ


朝に倒れた禁書目録が時間をかけて安静を取り戻して、寝かされているベッドの脇に立っていたステイルは、その少女の手に紙切れが握られているのに気が付いた

どこかで書類でも掴んで、そのまま握り続けたのだろう

そう思って彼は、禁書目録の指を一本ずつ優しく動かして、その紙切れを手に取った

『Mr.ステイル オックスフォード キャヴンディッシュ・スクエア』

たった3つの単語の羅列、しかもなんの変哲もないただの公園を指しているものだったが、何を意味しているのか彼には分かった

唯一の遠隔制御霊装を握っているのはフィアンマである。そして禁書がこの紙切れを持っていると言う事は―――


紙切れに書かれた場所に着いた

オックスフォード通りを少し外れたところにある、御世辞にも広いとは言えない小公園、広場

×字に舗装された道の中央付近にあるベンチに、とある男が座っていた

どこかで見た顔。どこだ?いや、この男は

ステイル「……な、お前は!!」

「おやまぁ、あなたとは初対面なんです。いきなり"お前"とは少し失礼だとは思いませんかねー」

初対面。確かに初対面だ。ステイルがこの男を知っているのは、報告書に映った写真からである

その報告書とは、神の右席・左方のテッラの解剖解析結果

テッラ「まぁ、私を知っているなら話が早くて助かりますが」

特に表情も変えず、更に目立たない衣類のテッラ。ちょっとした霊装になっている魔術師らしい服装をしていないと言う事は、戦おうという気ではないのか

または、天草式のように、そういう目立たない特殊な意味を持つ衣類なのかもしれない
610 :ちなみにバタ子さんは人間じゃないんだぜ? [saga]:2010/12/15(水) 02:18:48.34 ID:pTexKb6P
誰もテッラの生足や生腕など見たくないし、更に季節がらあの様な薄い衣装では目立つので、そういう面では安心だ

ステイル「な、なぜ、生きている? お前は」

テッラ「死んだハズだ、とでもいいたいのでしょうねー。それは当然の疑問ですよ」

テッラ「その通り、私は死にました。同じ神の右席・アックアによってねー」

テッラ「そして、脳の一部はあの学園都市へ。それ以外はここ、ロンドンに送られた」

テッラ「なぜ学園都市に、誰が送ったのかは私も知りませんが、そんなことはどうでもいい」

テッラ「ここに死んだ私が居ること。こうしてあなたと話をしていること。それが一番の疑問でしょうねー」

テッラ「その説明をすることで、同時にあなたが誰に何故呼び出されたのかを知ることが出来るでしょう」

椅子に座ったまま、見上げるようにステイルを見るテッラ

どうも一戦交える様子は無いが、警戒しないわけにはいかない。最低限の戦闘準備はする。もちろん目の前に居るテッラには気付かれない様にだが

テッラ「おやおや、そんなまるで喧嘩をしに来たような素振りは止めてほしいですねー。確かにイギリス清教は気に食わないですが、それを潰しに来たわけではありませんから」

手の平を見せて、待って下さいな、と言わんばかりのジェスチャーを交えた

テッラ「ステイル・マグヌス。あなたとわざわざ話をする為に、ここまで来たんですよ」

神の右席のメンバーが、禁書目録の手を介して密会を求める。ということは

ステイル「……フィアンマの使い走りと言う訳だ」

テッラ「ええ。その通りですねー。それを否定するつもりはありません。それでは説明しましょう。私の復活は、本来ならば数日後のここでは無い場所で起きる予定でした」

ステイル(死者の復活、だと?)

テッラ「しかし、それは早められた。簡単な話です。予定通りの私の復活も、所詮は術式の一つでしかなかったのですからねー」

テッラ「神がそれをすることも、人間がそれをすることも、同じ形の同じ方法で同じ力があれば可能ということです」

ステイル「馬鹿な話だな。それではまるで神そのものじゃないか」

テッラ「いえいえ。そんなおこがましい事ではありません。神が出来る事の一部を、人間が研鑚を重ねた上で、部分的にできるということですからねー。魔術なんて全て神の奇跡の再現とも言えます」

テッラ「それゆえに私も不完全な存在にすぎない。ただ、彼にとって駒が必要だったから生みだされた物体ですからねー」

テッラ「考えてください。天使を降臨させるより、人間を一つ作りだす方が余程簡単であるとは思いませんか」

確かに話は分かる

ステイル「研鑚を重ねて得られた神の術式だと?」
611 :ジャムおじさんもな!どうでもいいね! [saga]:2010/12/15(水) 02:19:38.60 ID:pTexKb6P
テッラ「その通り。ここでいう人間の研鑚とは、人の生みだした魔術の塊。つまり原典です」

テッラ「原典10万3000冊を記憶する禁書目録、その現在の所有者はフィアンマ。私の復活を早めて執り行う事など彼ぐらいしかできないでしょうねー」

テッラ「部下として、そして一同僚として、彼の頼みであり命令でありを聞いて、ここであなたと会っているのです」

テッラ「私の意思としては、神の御業を汚すような彼の計画に協力する事などは反対なのですがねー。私の不完全さを補うために組み込まれた術式がそれを許してはくれない」

テッラ「神の意志に弓引かんとする行いなど、協力など全くしたくない。ですが、神は寛大で強き存在。弓引いた所で結果は見えていますねー」

テッラ「それに協力させられているのだから、私は復活予定日までにもう一度死ぬでしょう。なんならあなたが殺してくれても構わないですが、あなた程度では返り討でしょう」

ステイル「返り討に出来る様な相手に、わざわざ会いに来たのか。君たちの目的が全く読めないね」

テッラ「協力ですよ」

ステイル「なんだと?」

テッラ「フィアンマがあなたに協力してほしいと言っているのです」

ステイル「……フッ、ハハハ。何が目的かと思えば、敵の切り崩しか。フィアンマと言う男は、余程心配性らしいね」

笑うステイルに対して、目の前のテッラは表情を崩さない

テッラ「禁書目録の処分は避けられないでしょうねー」

ステイル「何?」

テッラ「聞こえませんでしたか。ならもう一度言いましょう。唯一の遠隔制御霊装を彼が持っている為、禁書目録の処分は避けられない。あなたの目と耳を通して得た情報です」

ステイル「僕の目と耳だと」

テッラ「捉え方によっては神の御業なのでしょうがねー。あなたとローラ・スチュアートの話、聞かせていただきました。このままでは禁書目録は殺される。そしてあなたはそれを防ぎたい」

テッラ「フィアンマはあなたと同じ意思を持っている、それは当然でしょうねー。殺されては、せっかく奪った遠隔制御霊装が役に立たない」

テッラ「彼の実力と禁書目録の原典を用いれば、彼女を強奪することも、そして奪還を防ぐために彼女に処置を、例えば脳だけを切り出したりなどして、完全に道具の様に扱う様にすることもできる」

テッラ「しかしそれは手間がかかる。手間に割く時間は無い。そしてあなたは、最大主教や騎士団長、更にはそれらが率いる全勢力に対抗できるはずもない」

テッラ「こういう条件下で、彼とあなたは共通利益があるのですねー」

立ちあがり、テッラはステイルの前に手を差し出した

テッラ「さぁ、ステイル・マグヌス。あなたはどういう判断を下しますか?」
612 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/15(水) 02:20:35.10 ID:pTexKb6P
建宮「簡易なもんだが、これで許して欲しいのよな」

13体の棺が、術式的な炎に包まれて炭なっていくのを見て、彼は呟いた

合同葬儀。といっても彼ら天草式は、日本で成長した為独自の要素が混じった教義祭事があるので、他のイギリス清教徒達とは別の空間をあてがわれていた

建宮「女教皇を連れて来て、本格的なでっかいやつをやってやるから、待っといてくれ」

祭具を振って、教皇代理は僅かな時間で行った簡易な式典を終えた

振り返ると、出席している仲間たちの顔がこっちを見ていた

全員、体中に包帯を巻いていたり、松葉杖を突いていたり、車椅子に座っていたり

傷だらけだった

牛深「そのためにも、とっとと女教皇を取り戻さなけりゃならないですね」

対馬「死んでしまった香焼達も、このまま女教皇が操られたままなんて浮かばれないわ」

手前に居た二人が声をかける

建宮「ああ。とは言っても本当に操られているのかって証拠は」

その後ろに立っていた五和が口を開いた

五和「十分ですよ」

建宮「ん?」

五和「操られているって根拠が、建宮さんの直感だとしても、それだけで私達の希望にはなります」

五和「それにあれが女教皇の本意による行動だったとしても、その理由を聞きださないと」

建宮「……そうだな」

言って、頷いた
613 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/15(水) 02:21:43.68 ID:pTexKb6P
対馬「それで、何か女教皇に繋がる情報は手に入ったの?」

建宮「厳しいところなのよな。だが、冷静に考えてみたが、ステイルやアックアなんていう優秀な魔術師を同時に相手にして、あそこまで一方的に戦える程の戦闘能力は女教皇には無いハズなのよな」

牛深「そうですね。あのアックアが本気で戦っていたかは不明ですけど」

対馬「言いたくは無いけど、私達をあの場から逃がそうとして、ひたすら守勢にまわっていたし」

五和「それでも、同時に魔術師100人近くを相手にずっと圧倒し続けるのは」

建宮「有り得ない。あのアックアってのも聖人らしい。その上神の右席のメンバーだってんだから、実際に俺達が戦った事が有るわけじゃないが、半端な攻撃をされて守勢に回り続けるなんて事は無いと考えるのが普通なのよな」

牛深「つまり、女教皇は操られるついでに何かの術式か霊装によって強化されていたと」

建宮「俺もその考えに辿り着いたのよ。裏も取ってある」

対馬「裏?」

建宮「非戦闘型のシスターが、ステイルと禁書目録のコンビネーションに翻弄されているのを見てたのよな」

五和「あの女教皇が?」

建宮「そうなのよな。そして、その後にアックアが来てからは、本当に防戦一方的になってたらしいのよ」

対馬「私達が駆け付けた時には、あれだけ一方的だったって言うのに?」

建宮「ああ。そのシスターの話だと、俺達が駆け付ける前にパワーバランスが大きく一転して、一気にステイルは行動不能に追い込まれたとさ」

牛深「ってことは、戦闘中に強くなったってことですか」

建宮「又は、なにかの術式に準備や条件が必要だったとか、強化するまでに時間がかかったって考えられるのよな」

五和「と言う事は、女教皇のバックに何かの組織や人物が居たりする可能性が」

建宮「そのとおりなのよな。そして怪しいのが、アメリカだ」

対馬「女教皇は、英仏海戦であそこの軍隊に救出されてから行方不明。当然の読みね」
614 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/15(水) 02:22:40.18 ID:pTexKb6P
建宮「その英仏海戦でもアメリカが怪しいのよ」

牛深「確かに、大型駆動鎧は強力でした」

建宮「それもあるが、怪しいと言ったのはそこじゃない」

これを見て欲しいのよな、と言って出した写真

視線が集まった先に写されていたのは、一隻の軍艦だった

牛深「海峡上の例の陣から出た光線で沈んだアメリカの旗艦ですか? いや、すこしペイントが違うな。同型艦か」

建宮「こいつは戦いの後、イギリス方向からアメリカへ向けて大西洋上を単独で航行していたって写真だ」

対馬「沈んだ旗艦と同型艦が、単独でアメリカへ。怪しくないとは言えないわね」

建宮「だろう。あの戦いはどうもおかしな点が多いのよ」

牛深「確かに。あの海峡上の術式陣も結局何だったのか英仏両国で発生したテロで有耶無耶になってしまった」

建宮「バチカン、フィアンマの動きも気になるが、俺達の最大の問題は女教皇なのよな」

五和「ということは、建宮さん。アメリカに行く気ですか」

建宮「そのつもりなのよ。ただ、女教皇が今アメリカに居るのかも分からない。その上旅費も出ない。完全に自腹なのよ」

建宮「それでも、俺は行こうと思う。ここに居るのも怪我人だらけで、この場に出れない奴も、まだ意識すら回復して無い奴もいる」

建宮「だから、この行動は天草式って組織じゃなく、俺個人の判断だ。空振りってこともある。強いる訳にはいかない」

建宮「第一女教皇がアメリカでは無く、今はイギリスに潜伏している可能性もあるのよな。それにも対応する必要がある」

建宮「体調も万全じゃない。悪い条件ばっかりだが、それでも俺と一緒にアメリカに行くって奇特な奴が居れば、名乗り出て欲しいのよ」
615 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/15(水) 02:23:33.04 ID:pTexKb6P
「はぁーっ、やれやれ。やっと着いたか」

着くなり、護衛の侍従を手の平で外へ出るように促して、彼女、エリザード女王は、女王らしくない言葉づかいで椅子にドカッと座った

胸元に指を突っ込んで、高いドレスを少々粗雑にパタパタと動かす

先に円卓に着いていた二人は、そんな彼女の言動はいつもの事だと理解している、無関心な最大主教と呆れた息を吐く騎士団長である

派手に壊れたバッキンガム宮殿では無く、彼女らはヒースロー空港からあまり離れていないホテルの一室に集合した

パパラッチ文化のある厄介な国故に存在する、完全に密室となれるように準備されたVIP部屋

王室派・騎士派・清教派の3トップが集合した部屋である時点で、魔術的防諜面も考慮されている

エリ「しかし、お前さんたち随分と手酷くやられたようだな」

片腕の無い最大主教と、首元から包帯が見え隠れする騎士団長

ローラ「こうして紅茶を飲むのすら、利き腕が使えないのは辛いものでありたるものよ」

とはいっても、当然カップを握って飲むくらいの事は問題無くやってのける

それでも、女王は心痛んだ目で見た

エリ「……私をわざわざ北アイルランドから呼び戻したのも、お前をそう傷つけた奴に関わる事なのだろう?」

最大主教はカップを置いて、頷いた

騎士団長「恐らくは、連絡が行っているとは思いますが」

エリ「神の右席筆頭フィアンマの強襲、ヴィリアンが緊急入院、王室の遠隔制御霊装が破壊、残った清教の遠隔制御霊装はそのフィアンマに奪われた事」

エリ「知っているのはこの程度だが、これ以外に何かあるなら言ってくれ」

団長「いえ、遜色無いかと」

ローラ「問題は唯一となってしまった遠隔制御霊装が奪われたりけること」

頭に手を当て、思い悩む女王

エリ「まさか、最大主教と騎士団長の2トップすら退けるとはなぁ。あぁ、もちろんお前たちの力不足だと言い付けたいんじゃ無いぞ」

それでも、騎士団長は顔をしかめた

団長「お恥ずかしい話、ずっと手の上で踊らされ続けられました」

最大主教は何も言わないが、恐らく同じ事を言いたいのだろう
616 :本日分(ry [saga]:2010/12/15(水) 02:24:24.80 ID:pTexKb6P
エリ「彼奴に踊らされた、か。だが終わってしまった結果は変えられない。私をわざわざ呼びつけということは、この事に対応する為に迅速に決定しておきたい事がある、というわけだ」

エリ「特にその遠隔制御霊装、禁書目録の処遇などといったところか」

ローラ「流石、話は早く終わりそうね」

団長「読み通り、禁書目録の事です。端的に言うと――」

エリ「処分か。ハァ……皆、考える事は同じなようだな」

気が進まないのだろう。そんな表情が見て取れた

エリ「仕方ない事として人一人を切り捨てると言うのは、過去に有ったヴィリアンの誘拐を思い出させる」

エリ「個人的な感情を押し殺して、国家としての判断を迫られるのは、胸が痛いな」

団長「お気持ちは察しますが、彼の者が禁書目録を用いて何をするつもりなのか読めない以上、イギリスにとっても国際社会にとっても危険であるかと」

団長「万が一他国へ被害が出た場合に、根源が我が国の不始末となれば。外交は門外漢ですが、影響が大きい事は分かります」

騎士団長の方を向いて、女王は頷いた。まだ額に手を置いて、思い悩んだままで

エリ「うーむ。一応、聞いておこうか。ローラよ、他に方法は無いんだな」

ローラ「膨大な時間をかければ、遠隔制御霊装に対するジャミングのようなものは出来たりけるわ。ただ、そこまで待ってくれると言う事はありえないでしょう」

もちろん、そんな対策をイギリスが取ってくる事をフィアンマが予測しないわけが無い。他に方法は無い

しばらく、沈黙が有った

エリ「……この時期、と言う事はフィアンマという奴も分かっているのだろうな」

ローラ「でしょうね」

間髪いれずに応えたローラ。女王は腰に有る剣に手を置いた

エリ「折角この剣も見つかったのにアイルランドの騒動が終わらないままでは、本来の力を発揮できない。セカンドだろうがオリジナルだろうがこれは同じ。この束縛がある限り例の天使崩れには対抗できない」

エリ「これだけでも大いに頭を悩ませると言うのに。禁書目録か。……残念だが」

円形の卓上、エリザードの目の前にある書類。そこには既に二つの署名が有り、残る欄は一つだった

騎士団長はじっと女王に焦点を置き、最大主教はカップに口を付けた

そして女王は、すらすらと書きなれた名前を記入する

禁書目録の処分がここに決定・発効した
617 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 03:54:00.85 ID:N.GQBwAO
さようならインストールさん
618 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 06:52:02.45 ID:7QC8vjAo
よっしゃ!

久々のテッラさんとフィアンマさんのターンだ!
619 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 10:50:31.97 ID:3VJYgZgo
ついに禁書さんブックオフ行きか
620 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 13:24:17.27 ID:utavr1wo
インさんは補正があるから何もしなくてもどうせ上条さんが助けるんだろ
そんなことより香焼が死んだことのほうがショックだ
禁書では貴重なショタなのに…
621 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/15(水) 14:38:16.11 ID:b8SDSMDO
はいはい佐天は別よ
622 :流石に年末は忙しくなりますな [saga]:2010/12/18(土) 06:41:49.12 ID:g4h665EP

アメリカ時間の午前10時。テキサス州・フォートワース

某巨大軍事企業の生産工場があるだけでなく、隣接都市に大都市ダラスがあるなど、重要な都市である

都市中心部から北西に少し離れたカースウェル空軍基地に、輸送機が次々と着陸していく

ランウェイから少し離れた所からその様子を見ながら、垣根帝督は呟く

垣根「ここまでして、来なかったら笑えるぜ?」

彼の周りに人はいる、が、各員忙しそうに物資の搬入作業を行っている

特定の誰かが彼の話し相手になっている訳でも無い

その上、彼は日本語で言葉を発したので、周りに居る人間に語りかけたわけではないと分かる

(心配しなくとも、来る)

彼の頭に言葉が響いた

(わざわざ引き寄せる為に、彼らの餌になりそうなものを用意しているのだからね)

脳内で響く言葉に反応して、フン、と鼻で笑った

垣根「フォートワースだけでも100万以上の人間が居るってのに、都市を破壊しに来る敵をおびき寄せるなんぞ、正気のやり方じゃねぇな」

(だが、おびき寄せる事が出来れば、こうして迎え撃つ準備が出来るといことだ)

周りの者に若干奇異の目で見られ出したので、彼はポケットに手を突っ込んで、その場を離れようと空港外へ向けて歩き出す

垣根「ま、その通りっちゃその通りだが」
623 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:42:44.29 ID:g4h665EP
(それに、今回のは一種のデモンストレーション・プレゼンテーションなのでね)

垣根「ハーン。天使崩れの連中を撃退できるって証明するビッグなショーなワケだ。いや、博打って見方もできるか」

(博打、か。確かに可能性的には失敗して、単にフォートワース市民を巻き込んだだけという結果も有りえるね。一種のギャンブルであることは間違いないな)

垣根「それに誘き寄せる事が出来んなら、わざわざ人間が集まってる所じゃなくてもいいじゃねぇか」

(それは君の言う通りだ。私も出来る事ならそうしたかったが、彼らの目的は人類を一度全て消し去る事だからね。人の居ない高原や砂漠を選べるならそうしたかった)

垣根「ふーん。仕方ねぇのかもしれねぇけど、人命を賭けるってやり方。特にお前が、一、人工知能が、決定してるってのが気にくわねー」

(ここはアメリカ合衆国だ。最終的には大統領が決めた事だが?)

垣根「お前が乗っ取ってたら、大統領だろうが国防長官だろうがCIA長官だろうが、ただの人形と変わらねぇだろうが」

(確かにやろうと思えば、私は彼らに対してそういう事が出来る様には用意してある。だが、最終的な決定は大統領が下したものだ。彼の自由な判断による決定でなければ、一体何の為の大統領制なのだ、と言う事になるからね)

(もちろん、私が望む結果になる様に情報と分析の結果を提示したのは事実だ。しかし、その情報もまた偽りない事実だよ)

軍施設内の自動販売機に紙幣を突っ込んで、スポーツドリンクを口にした

(私にとっても机上の空論のままでは困るからね。特に、これからは時間が無いんだ。少ないチャンスで確実な結果を出さなくてはならない。重要な拠点だけでも守る必要があるのだ)

垣根「ン…ン……ぷはー。学園都市に御大層な物まで持ち込ませたのもその為か?」

飲み残っている缶を窓の淵に乗せて、外を眺めながら垣根は尋ねた

(ああ。今あそこを失えない。例え、最も必要だった施設が使えなくなってしまったとしても、あの高水準の技術を持った生産能力を失う訳にはいかないのだよ)

(その為に今回は破壊が少なくなるようにあそこを占拠しようとしているんだ。本来なら彼との交渉で平和的に解決したかったが、彼には断られてしまったからね。ああいう手段を取らざるを得なかった)

垣根「大規模魔術の練習にもなった事だし、そう言いながら常に無駄なく動いてるやつが残念って言うのはどうかと思うぞ?」

(そう言うのは卑怯だろう?勿論犠牲を出したことへの報いは用意してある。防衛と言う形でね。学園都市にも近いうちに天使崩れか、もしかすると本格的な神格が来るかもしれない。それから守る為に制圧部隊には対策装置を持たせたし、それが本当に計算通りの効果をもたらすのか、ここフォートワースで調べなくてはならない)

垣根「だが、その対策装置とやらが今は使える状態じゃない。そうだろ? 知ってんだぜ?」

(調べていたのかい?)

垣根「快適性が良くねぇ軍用機じゃ、他にやる事が無かったからな」
624 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:43:13.40 ID:g4h665EP
(純粋に仕事熱心なのか、なんだかんだで学園都市の事は気になるのか)

垣根「……アイツと会えたのも、あそこだからな」

(あぁ、そういう理由だったか。すまない、気が回らなかった)

垣根「気にすんな。んで、大丈夫なのか? 壊れたら不味いんだろ、あそこの生産能力とやらは」

(君の調べた通りだ。特別製の駆動鎧も必要数は足りないし、根本的に必要な制御系を可憐な現代版くの一に壊されてしまった)

垣根「なんだそりゃ?」

(見たままを言っただけさ。それに巻き込まれて、私が入りこめる素体が両方とも死んでしまった。とても問題無いとは答えられない状況。というより、一番最悪な状況かな)

垣根「おいおいどうすんだよ」

(もちろん追加を送った。だが、間に合うかどうか)

垣根「空輸なら、そんな時間は要らねぇんじゃねーのか」

(持っていくことは、ね。問題は修復しなければならない事さ。くの一の子に加えて核融合を食らっても死なない個体が散々暴れまわってくれたお陰で、随分と時間が必要になってしまった)

(私の姉君達や上条当麻が時間を稼いでくれると良いのだが、私達の味方ではない以上期待は出来ない。そんなリスクある行為に期待はしない)

缶に残ったドリンクを飲み干して、ゴミ箱に投げ入れた

垣根「あの幻想殺しなら、勝手に動くだろうさ。……後先を考えずにな」

(学園都市に居ればの話だよ、それは)

垣根「あーそりゃ確かに、学園都市に居ないなら無理だわ。…………お、さてと」

施設を丁度後にして、道路へ出た時だった

青空に強い光が瞬いて、昼も近いと言うのに太陽に負けないくらいにきらめく光点が現れた

(この話の続きは後回しにしようか。……間違っても市民を巻き込まないでくれるかい)

垣根「分かってる。最低限、病院だけは守ってやるさ」
625 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:44:02.41 ID:g4h665EP
「ようやく御戻りになられましたかっ!!」

変装したローマ教皇がバチカンに戻ると、彼の代わりに振舞っていた影武者が震えた声で出迎えた

教皇「お、おぉ。そなた、よく耐えてくれた」

崩れそうな体をハグで支え、影が落ち着くのを待つ

「そ、それが私の役割ですから、問題ありません。……しかし」

言って、彼は教皇に山の様な書類の上澄みを手渡した

「最近の上奏文書や報告書です。我々は、ローマ正教はどうしたらいいのでしょう」

教皇「やはり、か」

ローマ正教圏の都市が天使崩れに襲われてたくさんの死者を出した事。天災によって大規模な被害が出た事

そして更に、決して一枚岩ではないローマ正教内での各勢力がお互いを崩しあったり吸収し合ったりと言った報告が上がっていた

要するに、支配上層部での内部分裂が始まっているのだ

「現正教内では、これを機と捉えるもの、原理主義に徹し受け入れようとするもの、そして惨状を目にし天へ弓引かんとするもの。これらで一枚岩ではありません」

教皇「日頃の薄かった対立が表面化してきているのだろうな」

「はい。今でこそ信徒達まで影響は出ておりませんが、上層部が割れているようでは、いずれ混乱を招くのは目に見えています」

教皇「ローマ20億と言えど、地方や民族によって文化も違う、戒律も違う。バチカンは結局それらを強引に抑えて束ねているだけにすぎなかった」

「目の当たりにしてお分かりになられたようだ。周遊は、無駄にならなかったと言う事ですね。良かった。私に意味は有った」

教皇「あぁ。君のお陰で、バチカンの頂点では見る事の出来ないものが見れた。如何にこの世界がまとまりを持たないのか、ということを」

「民とは移ろいます。貧困によっても、治安によっても、信仰によっても。私は難民の出自ですから、そういう光景は痛いほどに見てきました」

教皇「そして信仰も歴史とともに変化してきた。変わらない筈であった聖書も、教会が都合よく捻じ曲げて解釈を繰り返した」

教皇「変わらぬのは常に最下層の一般信徒達は、強いられるままと言う事だ。今回もまた然り」

「しかし今回は上もさることながら、下の、一般信徒たちからも直接的な問題を引き起こさせます」
626 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:44:35.80 ID:g4h665EP
「いくら聖書に予言されていたものであっても、実際に降臨と破壊を目の当たりにして、それを受け入れる事が出来るほど、今の信徒たちは敬虔ではありません」

教皇「信仰が薄くなったのは科学のせい、と言いきってしまえば楽だ。しかしそれは現実逃避でしかない。それでは現状に対して全く対応できない」

「その科学サイド、学園都市も内部崩壊しているようですし、今はどの勢力もまとまりを欠いています。しかし」

書類の中で、影は一部を束ねたものを取り出し、見せる

教皇「時代遅れの巨人、新教徒国家そして移民国家のアメリカか」

「はい。どうやらあのドーバーでの海戦も、彼の国に仕組まれたようです。今は自壊させたようですが、軍事衛星のレーザーを用いたらしく」

教皇「結果だけみれば、奴らがカレーを焼き、英・ローマ双方の魔術組織へかなりの被害を与えたと言う訳だ」

「その上、彼らの持つ駆動鎧の高性能を世界に見せつける結果にもなりました。加えて、確証は取れていないですが、魔術の情報も入手し、聖人を一人獲得したという報告も」

教皇「また巨人に戻ろうと言う訳だ。しかも、科学・魔術両サイドの頂点として。我々が狙っている事と同じ事だな」

「その通りでしょう。これは既存のパワーバランスを大きく傾けるものです。聖下、ローマ正教の教皇としての意見を、願わくば一信徒の私に教えて頂きたいのですが」

教皇「なんだろうか」

「この神からの裁きについて、我々はどう行動するのか、指針を示して頂きたいのです」

懇願する顔を見せる影の肩へ手を置いて、マタイは口を開いた

教皇「裁きの後の復活は、約束されている。このまま襲ってくる天使達や天災を受け入れるのも一つの手である」

教皇「だが、復活の対象は敬虔な十字教徒のみとする要素が我が宗教内にも根強く存在し、どこからが敬虔でどこからが敬虔でないのかの線引きはあやふやだ」

教皇「まずは、その敬虔さの定義を決めなくては。私がここへ戻ってきたのは、その為でもある」

「その定義は、どのように?」

教皇「決まっている。ローマ正教徒として、洗礼を受けたもの全てだ」

「それでは、今まで天上での復活を目指し、厳しい戒律や法を守ってきた原理主義的な信徒達は、苦労し損ということにはなりませんか」

教皇「それを評価するのは私では無く、神だよ。そして広く多くの人間を救えずして、どうして信仰と言えようか」

教皇「確かに寄付や寄進などの行為は素晴らしく、厳しい戒律を守ってきたのも事実だ。しかしそれが出来るのは裕福な者であったりなど、特別な条件下に住む一握りの者たちだけ」
627 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:45:11.23 ID:g4h665EP
教皇「多くの人民は、差別と戦い、貧困と格闘しながら、強く生きておる。そういう者達が我々と同じ神を信じ、最低限の信仰を持っているのだ。そんな彼らを救わずして、どうして人民の為の信仰と言えるだろうか」

教皇「この度、僅かな時間であったが、様々な立場の者たちの視点からローマ正教を、信仰を見てきた。そのような彼らの視線を、私は裏切れない。どうして頂点である教皇が、人選によって選ばれた私が裏切れようか」

教皇「そして他にも理由は有る。内部の対立をそのまま残すかのような定義では、ローマ正教そのものを――――」

パチパチパチ、と聖堂の中に手を叩く音が響き、教皇の口は止まった

「流石、人選により選ばれた教皇・マタイ=リース聖下。おっしゃる言葉は仁徳に溢れ、寛大だ」

柱の陰から、ヌッと人が一人現れる

「しかし、それでは満足しない勢力が出てくるでしょう。どうやって鎮めるおつもりだろうか」

教皇「枢機卿ペテロ=ヨグディスか。その答えは一つ。その勢力が鎮まり、納得するまでまで対話を続ける。それが主・イェスの取ったたった一つで明確な布教行動でもあるのだからな」

ペテロ「では聖下、その対話に必要なものはなんでしょうか」

教皇「私とその相手、そして時間さえあれば良い」

言いきった時バスッ、と、教皇の胸を叩くものが有った

影の手に握られたものが、教皇の胸を叩いたのだ

それは、とてもシンプルな形をした、長石で出来た槍の先とも短剣とも矢じりとも取れる様な、一言で言えばただとがった石だった

ペトロ「信仰の源は、もちろん信徒達だ。しかし信徒には質というものがある。一緒にされてはたまらんよ」

教皇を守り強化させるはずの術式が何重にもされ、簡単には教皇の体を貫く事が出来ないようになっている聖ピエトロ大聖堂

そのあらゆる術式を無視して傷ついた体。変装した彼の衣類が赤く染まる

最初は小さかった傷口が徐々に広がっていき、自らの胸から流れ出す血液に触れ、その温かさを感じながら、教皇は言葉を捻りだした

教皇「民の礫、神殺しの槍、か」

ペトロ「私も驚かされたものだ。こんなどこにでもある石ころで出来たものが、始原のロンギヌスの槍であったのだからな」

教皇「その霊装が示すのはお前の言った通り、信仰とは、宗教とは、信徒があってこそ、だということだ。そうでなければ、どうして、神の子であるイェスが死せるものか」

教皇「結局、主・イェスに死をもたらし、天上へ上がらせることを決心させたのは、磔にされた彼へ投げられた、どこにでもある石ころだった、のだ」
628 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:45:39.01 ID:g4h665EP
教皇「力あるものに振り回され、その場の流れに流され、良い様に扱われる民の姿を、自分自身を貶すように投石する哀れな民の姿を見て、天上から救う必要がある、と。"神よなぜ私を見捨てたのか"という発言の後に、そういう神の意志を理解して、主は昇ったということだ」

教皇「故に、死を確かめた、確定させたロンギヌスが持っていた槍は、神を殺す事を確約させた槍でしか無い。本来の意味では、その石はロンギヌスの槍ではないのだ」

教皇「それは、純粋に神殺しの槍。同時に、神の意志を理解させる槍。本当に、神を殺したのは、民なのだ。じきに、お前も分かるだろう」

ペトロと言う名の枢機卿を向いて、本当に心から、マタイは笑顔を作った

教皇「ペトロよ、ありがたく先に逝かせて貰う。ローマ正教の事は、信徒たちの事は任せた。それが仮に、信徒の区別を図るものであっても」

教皇「だが、忘れる、な。信仰とは、信徒が……――――」

力無く倒れた、変装したローマ正教の頂点を見てペトロ=ヨグディスは笑みを浮かべる

ペトロ「マタイよ。お前が言った事は、全て正しいだろう。そしてその寛大で気高い心を認められ、必ず天上での復活を果たすであろうな」

ペトロ「だがお前の正しさでは、とても時間が足りないのだ」

ペトロ「言ったな、対話に必要なものは時間であると。なればその時間が無い時、その対話を成立させるのは何か」

ペトロ「それは、力にすぎない。権力・資金力・人力・欲力が決める。所詮人は、主・イェスが憐れんでしまう存在でしかないのだ」

ペトロ「それを使わないと決めた、お前ではローマ正教を纏める事は出来なかったのだ」

ペトロ「きっと神は、偶然この石ころをここの地下から見つけ出す事が出来たことで、私にローマ正教を任せるぞと言う意思を伝えたかったのだろうさ」

丁寧にマタイへ向けて十字を切って、ペトロはその視点を変えた

ペトロ「もう十分だ、マタイの影よ。だがその衣類と場所は私のものだ。譲って貰おうか。何、お前が求めていたモノは、家族も金もキチンと用意してある。誘拐などしてすまなかったな」

言うと、影武者の男は衣装を脱ぎ棄て、逃げるようにしてその場を去った

しばらく経って、ローマの市街の一角で小規模な爆発が起きる

現場から見つかったのは、1組の夫婦と息子や娘であった者達の死体

影は死んだ。権力欲しさに教皇を亡き者にし、自らの行いを悔いて逃げ出そうとした所を、たまたまそれを目撃していたペトロと言う名の枢機卿の放った追手によって、家族諸共殺されて、死んだ

そういう形で処理され、教皇・マタイの死を知るものは居なくなった

そして、次の教皇の座に座るものは、あらかじめ決まっていた
629 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:46:43.46 ID:g4h665EP
教皇の暗殺と殆ど同時刻

最大主教とよばれる女性は空港そばのホテルのVIP部屋に残って、なれない左腕で紅茶を飲んでいた

円卓に座っていた者はその数を一人減らしている

女王がサインした証書を騎士団長は受け取り、「お任せを」と呟いて部屋を出た

今頃は傷ついた体で禁書目録の処分の為に部下へ命令を出しているところだろうか

残った二人の女性は静かな空気を作っていたが、最大主教はその空気を変えた

ローラ「北アイルランドの事は、もう宜しいのかしら?」

ようやく華咲いた会話。女王は表面的な笑みを浮かべる

女王「心配せずともあとは、私が居ようと居まいと、二人の娘が何とかする。最も、長女の方は今どこで何をしているのか全く掴めていないがな」

女王「だがこの状況で、女王である私がロンドンを長らく離れるわけにもいかないのだ」

ローラ「それはそうでありけるな。しかし忙しいとは思いたるけれど、ヴィリアン嬢の見舞もしてやるべきと思いたるわ」

女王「もちろん、そのつもりだとも」

ローラ「そう。ならば今から行けば良いのでは?」

女王「そうしたところだ。しかし何故だか、お前から目を離さない方が良い気がしてな」

少し視線を鋭くして、机に立てかけてある剣に、カーテナ=オリジナルに手を添えた

暗に、監視をしているぞ、と言う意味が伝わる

何をするつもりかは分からないが、下手な事はするべきでない、と。そういう脅しだ

ローラ「その様に見られてもな。文字通り片腕を失い、神裂という貴重な部下としての腕をも失った私では、なにもできぬよ」

女王「そうだと良いのだが。今だその少女のような容姿を保ち続ける人間が相手では」
630 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:47:28.46 ID:g4h665EP
ローラ「信用できないと?」

女王「そうは言わない」

そう言いながら女王はカーテナにもう一度触れた

仕草としては、何気ない行動だが、意味は伝わる

もちろん、女王もそういう意味を伝えるべくして、自然に触れている

その様子をみて、最大主教は僅かに口元を、笑う方向へ動かした

ローラ「なれば、この後私と共にヴィリアンどのを見舞に行きたるのはどうかしら」

付かず離れず、常に女王が直々に監視し続けると言うことは出来ないことぐらい、ローラ=スチュアートは理解している

この厄介な女王は時間が経てば自分のそばから消えるのは分かっている

それでも、彼女は女王を促した

形式的にでも、示す必要があると考えたのだ。私はイギリスを裏切る気は無いと

これから訪れるであろう様々な問題の解決に協力するという最低限の印象を与える為に

彼女にとっては、まだ、イギリス清教とイギリスと言う国家が必要なのだから

もう一度カップに口を付ける

ローラ(フィアンマがあのような強引な行動を採って来た事は、想定外と言えば想定外だった)

ローラ(結果として、さまざまなコストを掛けてきた禁書目録の処分という事になったことも同じ)

ローラ(でも私とて、そして目の前のエリザードすらも、その事を、禁書目録を処分すると言う事を本来想定していなかった訳は無い)

ローラ(エリザード、あなたの意思はもちろん分かりけるわ)

ローラ(国の元首として、こうなった時に予想以上に落ち着いている私の動きが気になるのは当然)
631 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:47:59.58 ID:g4h665EP
ローラ(特に、何時神の裁きが訪れるのか分かりたらん現状では、不安要素に対して機敏に反応しなくてはならないものね)

ローラ(でもそれで逆に視界が狭くなってしまわない事を祈りたるわ)

ローラ(禁書目録に二重の制御機構が有った様に、その知識も二重にできる)

ローラ(こうなった時の為に、あらかじめあの子から必要な知識を写しおき、他の場所へ保存したると言う方法で)

ローラ(そしてそれが今まで出来得たのは―――――あなたと私だけ)

「フフ」

思わず、最大主教は口元へ手を当てて、小さく笑った

女王「そんなに私の食べ方を笑うなよ。どうせ私達二人しか居ないんだ、間食ぐらい気軽にさせてくれ」

その笑みの意味を知らない女王は、少し乱雑なスタイルで菓子類を口にする自分を笑われたのだと思った

ローラ「あら、笑ったのはそこではなきけるわ」

女王「ん? それは見慣れているとでも言いたいのかな?」

ローラ「ええ、それについては同意したるわ。なれど私が笑ったのは、片腕が無い事でこれからどれだけ生活が面倒になるか想像して、少し打ちのめされける自分に対してよ」

女王「そりゃ、両腕があるときにはなかなか考えたりはしないだろう。腕を失うとは、その腕がどんな意味をするにしても、誰もが皆想定外の事だ。うん、この菓子も想定外だな」

ローラ(想定外、か)

ローラ(そうね。私にとって本当に想定外なのは、この失った腕の事ぐらいか)

「フフ」

そして少女の様な顔をした最大主教は、もう一度笑みを浮かべた
632 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:49:37.61 ID:g4h665EP
騎士団長の命を受けた騎士たちが、とある病室の前に立っていた

その中の一人が部屋のスライドドアを開こうと触れた瞬間、その騎士は倒れた

触れることによって反応する、罠型の術式。有り触れた手であるが、それをこの部屋で寝ているハズの少女が施したと言う事は

自分たちが来ることが分かっていた?つまり、殺しに来るのを読んでいたということか

騎士たちも馬鹿では無い。恐らく罠は一つではないだろうし、この扉自体も開き難くなる様に、時間稼ぎをする為に他の術式が施されているだろう

だがその対象はドアそのものやその周辺であると予測される。ならば、手は一つ。本来の入り口から入らなければ良い

隣の病室の患者や設備を全て一時退避させ、魔術では無く爆薬で壁に大穴をあける

静かなハズの病院に音が鳴り響かないよう、音波の振動を吸収させる術式を使って、ほぼ無音のまま崩れ落ちた病室と病室の間の壁

その大穴から突入した時には、中はもぬけの殻だった

そして、案の定、本来の入り口であったスライドドアは罠となる術式が他にもたくさん盛られていた

「禁書目録の姿無し。空間移動の術式陣を確認」

部屋を探索していた騎士の一人が、襟元の通話用の霊装に向かって喋った

騎士団長『術式の型を挙げろ。ジャミングを用いるなどして術式の反応警戒を行う』

「了解。おい」

騎士が他の分析を行っていた騎士に通話を変える

「出先を指定するタイプと断定。反応を警戒したのか、出先は院内」

団長『分かった。どうやら冷静な頭脳は働いているようだ。意識朦朧とした魔術師が術式を暴発させない様に設けてある病院内の反対術式の存在を知っていたらしいな』

「そのようです。一般的な活動に差し支えない様に施されている反対術式の反応制限内での、小規模な使用で部屋を脱出したものかと」

団長『反対術式とは言わないにせよ、監視術式はこのロンドン中を指定している。如何な禁書目録と言っても、逃れる術を持たない。術式警戒域を最大に変更だ』

団長『良し、諸君らはそのまま禁書目録の追跡に当れ。だが、トラップは随所にあるものと仮定して、警戒を怠ることがないように』

「了解」

魔術による通信を終えた彼らがその部屋から出ていった後、ベッドの掛け布団の下に隠されていた術式が発動した

内容は、特定範囲で特定の行動が有った場合に信号を送るというもの。本来ならば罠の始点として設置されるものである

その信号は、つまり騎士団の、自らを殺しに来る連中が遂に病室まで踏み込んできたという事を知らしめる最低限の役割を、彼女に伝えた

しかし自動書記モードが立ち上がり、フィアンマの命令通りに病室を逃げ出した禁書目録は、正常では無かった
633 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:50:15.49 ID:g4h665EP
禁書「………shi、信号をreceいved………予想さっ、reる脅威の接近maで残り――――」

上条当麻に破壊された首輪部分の術式が無い事で、唯でさえ不完全だった所に、反対する二重干渉による矛盾で負った脳負担

根本的に頭脳にある知識を媒介とする自動書記にも、当然ながら影響が出る

継ぎ接ぎだらけの歩く教会ですらない彼女の格好は、10月半ばでは寒すぎる薄い水色の院内の患者服

それをはたつかせ、とても風を切って走るとは言えない弱弱しい足取りで、禁書目録は時折派手に転びながら建物と建物の間の裏路地を移動する

禁書「………移動術式ni対するcounter-skiる、並びっ、に小規模術式mあdeの魔力監視術式範、囲強化を確二ん……」

禁書「対抗術式をけん゛さっ、く…………該当結果、た、多数……最tekiな術式は」

空間に術式陣が浮かび上がる、が

禁書「当ガイ空間の祭壇化に失pai。魔力不]分によル、祭壇なしでの術式実行は不可と判ダッ、ン」

禁書「魔力不足factor、特定。自動書記二対する致命的えっろr。禁書目録個体自身の意識の遮断インコンプリート」

ビクッ、と体を痙攣させた少女には、一時的に表情が戻った

禁書「と、to、uma、……とうまぁ…」

強引に自動書記が意思を再び抑えつけて、禁書目録の顔から表情が消える

禁書「……………仮定脅威ofjectの接近wo確認」

振り返って、追っての騎士たちが来るであろう方向を向く

禁書「排除抵抗二障害無ク実行可能ナ術式ハ、強制詠唱及ビ詠唱改変GA該当」

「居たぞ!こっちだ!」「捕獲目的では無い、殺すんだ」

禁書を見つけてすぐに、騎士たちは殺すべく攻撃を開始する

魔術によって、彼らの投げた小剣が、精密誘導機能のあるミサイルの様な軌道を描いて禁書目録へ飛来する

既に発動してしまった術式であっても、自動追跡などの術者の意思から離れた術式ならば、強制詠唱で回避する事が出来る

禁書「対象を(T)太陽へ(S)」

暗号化された言葉を禁書目録が呟いただけで、その小剣達は天高く、しかも建物と建物の間では直接見えない太陽の方向へ飛んでいき、建物の壁にカカカッと刺さった

しかし、太陽へ向かった小剣は、飛来した全てでは無かった

強制詠唱で軌道がねじ曲がらなかった小剣が、禁書目録の方へまっすぐと飛んでくる

咄嗟に横方向、とはいっても狭い裏路地では横へ移動できる空間など限られるが、体を移動させる
634 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:50:45.79 ID:g4h665EP
禁書「………回避二シッ敗」

唯でさえふらついていた体では、咄嗟の瞬発力も足りなかった

深深とナイフがその小さな体の腹部を貫く。血を吐きながら、更に血が噴き出すことが分かっていながら、彼女は小剣を引き抜いた

一気に出血が溢れる。それでも、騎士たちは気を抜かなかった

「甘かったな。同じイギリスに所属するものとして、強制詠唱を知らないわけがないだろう」

仕組みは簡単だった。自動追尾の小剣の中に交えて、彼らは体の筋肉によって投げたのだ、小剣を

それこそどこにでもいる不良が携帯していそうなナイフでは、なんの術式効果も無い研がれた金属の塊には、術式的に反応し様が無かった

「調子に乗って近づくなよ。禁書目録は竜王の殺息すら用いる。距離を取り回避マージンを確保しつつ戦うんだ」

「了解」

そして、騎士団員は次の小剣を構えようと手を伸ばす

傷ついた禁書目録に止めを刺すには、もはやフェイクなど要らない。直接彼女めがけて小剣を投げてくるだろう

禁書「……敵no術式、の準備をカク認。対策としてギリシャ神話『女傑伝』から抜粋、詠唱改変、即時実行します」

しかし、禁書目録、自動書記は出血しながらでも見抜いていた。彼らと自らの距離はそれなりに有って、人間の筋力だけではとても彼女の胸に深く刺さるには及ばないと言う事を

答えはシンプルだ。彼らは投げる前に、瞬発的に肉体を強化するような術式を発動させて、強化した体によって投げたナイフの殺傷力を高めているのだ

自動書記の読み通り、筋肉強化の術式を発動した瞬間だった

4人の騎士達は、まるで雷に打たれたかのように体を曲げて、そのまま倒れ込んだ

対象的に、禁書目録の腹部の傷は血を吐く事を止めてしまっている

無感情的に口元の血を拭い、少女は振り返っておぼつかない足で逃避行を再開した

彼女が行ったのは、詠唱改変による肉体強化術式の改変。彼らが使ったのは、肉体と生命力・魔力を媒体・媒介に自らの肉体を変化させると言う術式

媒介媒体をそのままに、自らの血肉を犠牲にして他者の回復を助けると言う、中世に魔女狩りの犠牲となった魔女と呼ばれた人々が、病気や怪我にあえぐ人々を救うのによく用いた魔術の現代改良版に、騎士たちの肉体強化の術式を差し替えたのだ

彼らの血肉や生命力が、瀕死の禁書目録の体へ流れ込み、その体を回復させる。反面、騎士達は急激に力を失って倒れるほかない

追加の騎士たちが駆け付けた時には、意識を失って倒れている男たちと、少し離れた所に禁書目録の血によって出来た血溜まりがあるだけだった
635 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/18(土) 06:51:46.47 ID:g4h665EP
ステイル「クソッ、遅かったか」

いつものローブ姿に着替え直した長身の14歳の視界には、派手に壊れた禁書目録の病室の壁があった

ステイル(ここの壁が壊れていると言う事は、禁書目録を処分する為の魔術師が強引に突入したという意味以外、どんなに楽観的な視点を持っても見いだせない)

ステイル(女王陛下がロンドンに戻ってきたという情報が入ったかと思えば、すぐにこれだ。早い。意思決定とステップワークが素早いのは国としては良い事なのだろうけど)

ッ、と小さく舌打ちをして、彼は部屋を出ようとした

そこに、深めの茶色で正装した、紳士服の騎士団長が現れる。その衣類は、女王と会見したときからそのままだ

騎士団長「ステイル=マグヌス、だな」

ステイル「これは、騎士団長殿。僕に何か用で?」

団長「……今までどこへ居たのだ?」

ステイルの質問を無視し、騎士団長は質問で返した

ステイル「いえ、私用で少々、オックスフォードの通りで生活雑貨の買い物を。何故そんなことを聞くのです?」

それをもう一度、質問し返す

団長「今朝の会話を盗み聞きしていた君は当然知っているだろうが、禁書目録の処分が正式に決まった。この通り、女王陛下の支持も取り付けてな」

騎士団長のサイン、最大主教のサイン、そして一番下に女王のサインが書かれた証書を騎士団長は見せた

ステイル「そうですか。……それは残念だ」

心の籠っていない声で、騎士団長は、私もそう思う、と応えたが、ステイルにとっては気休めどころろか挑発に思えた

団長「君も、自分の立場をよく理解しているはずだ。これから少々不自由になると思うが、行動を制限させて貰うぞ」

言って騎士団長は腰の剣に手を掛けた

抵抗すれば切る、という意思表示だ
636 :本日分(ry イカデックスさんがお強いです [saga]:2010/12/18(土) 06:52:38.56 ID:g4h665EP
ステイル「ッ、いくら騎士派の長とはいえ、清教派の僕を拘束する権利など」

望み薄だろうが、一応彼は抗弁する

団長「直接的に拘束するわけではない。そして当然最大主教からの許可は得ている」

ステイル(あの女。何が有っても禁書目録を殺すつもりか)

少し悔しそうな表情をしたステイルをじっと見る騎士団長

団長「大人しく従って貰おうか。彼女も私も、有能な君を失いたくは無いからな。少々、禁書目録の命が消えるまでの辛抱だ」

二人の騎士がステイルの後ろに立った

何も言い返さないステイルを見て、騎士団長は振り返り部屋を出て離れていく

代わりにステイルの正面に一人の騎士が来て、ステイルも合計3人の騎士に囲まれる形で禁書の部屋から離れていく

ステイル(このままだと、まず間違いなく魔術的な封印を施された空間へ連れて行かれる)

何も話さないが威圧感を出し続ける騎士達を見並べながら、ステイルは付いて歩いていく

ステイル(不完全な彼女では、何れ捕まってしまう。なんとしても直接助けに行かないと)

隙を窺う。というより、条件さえ合えば隙が無くとも強引に突破できそうだ

ステイル(その為にはまず、この厄介な現状を打破させてもらおうか)

ステイル(幸い、手錠だのと言った拘束はされていない。それはつまり最低限僕を信頼しているということを意味しているのだろうけど)

建物を出て、行く先には護送用の霊装となっている車両が有った

馬車では市街で無駄に目立ってしまう為、見た目はただの高級車だが、中身は所々に特別な装飾が施されている。入れば少なからず魔術の制約を受けるだろう

だが今は、厄介な実力者である騎士団長はもう近くに居ない

ステイル(まずはその信頼を、裏切らせてもらう)
637 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 07:56:14.15 ID:vJPQABko
ステイルさんがダークサイドに……
638 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 11:08:55.88 ID:8kRPyoDO
佐天さんを行動不能にするのにあんだけ苦労したのに今度はインさんか…
639 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/18(土) 16:03:46.08 ID:nL/elUwo
いい加減イカちゃんをインなんとか呼ばわりするのうぜぇ
イカちゃんはちゃんとお手伝いがんばってるし逆キレして噛み付いたりしない
640 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/21(火) 08:00:09.61 ID:LjGrP3UP
待ってるという奇特な人には申し訳ないが、次の投下が少し遅れます
空いた時間で少しずつ書き溜めして30レスぐらいの規模で投下する予定なのでお待ちくだされ

>>639
だが少し待ってほしい。ここで冷静にイカちゃんとインなんとかさんを比較してみた

厚かましさ:禁書>>>>>>>人としての最低限を有しない壁>>>>>>>烏賊
性格の良さ:烏賊>>>>>>>>10万3000冊の魔道書を持ってしても越えられない壁>>>>>>>>>>禁書
お手伝いの回数:烏賊>>>>>>>>>>>>>>>全き0の壁>禁書
同居人に対する扱い:烏賊>>>>>>>>居候の分際をわきまえている壁>>>>>>>>禁書
胸の大きさ:烏賊>禁書?(アニメに於ける胸部膨らみの有無により検証)
触手の有無:烏賊>>>>>>>>>>>>軟体動物頭足類鰓類の壁>>>>>>>>>禁書
ヒロインとしての扱われ方:烏賊>>>>>>>>>>登場回数の壁>>>>>>>>>>>>>禁書
新環境への適応性:烏賊>>>>>>>>万能触手を持たざる者の壁>>>>>>>禁書

上記の8項目へポイントを割り振ってグラフ化したものが以下である

   好感度
     |
      |              グラフで比較するとそれほど差はない
    8├              むしろ禁書の方が高く感じられる
      |  ┌┐1                     ┌┐7
      |  ││                       ││
   0.5├  ││   ┌────────────┘│
      |  ││   │┌────────────┘
      |  ││   ││
      └─────────
        禁書    イカ様 

以上より禁書と烏賊娘の読者好感度が拮抗している事が分かる

冗談抜きでインなんとかさんみたいなのがリアルな居候なら蹴り出さない方が異常
641 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 08:45:36.94 ID:zI4sb.SO
そういう連絡してくれるとありがたいわ
気長に待ってる

インデックスは海外だと殺されかねないレベルだと思うんだ
642 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 10:40:00.96 ID:aJxyEwDO
期待して気長に待ってますぜ。

かまちーはもっとインさんを魅力的に書くべきだと思う。
643 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 19:06:45.18 ID:exNRTbAo
         ∧ ∧
       ヽ(・∀ ・)ノ   <お腹が空いたんだよ
       (( ノ(  )ヽ ))
         <  >



        `゙`・;`'  バチュン
         ノ(  )ヽ
         <  >


普通ならこうなるレベル
644 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/21(火) 19:28:13.21 ID:xk3cojco
一巻の頃の悲劇のヒロイン像が崩れるほどの傍若無人っぷりを発揮してようが
特別な恋愛描写がなかろうがBOFだろうがメインヒロインには変わりないんだよ
645 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/22(水) 00:11:02.55 ID:OyVVrMco
このスレのメインヒロインは佐天さんだけどな
爆散的な意味で
646 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 12:59:42.08 ID:zrTAdWQo
しかしここまで酷い状態からハッピーエンドにするとなると、
今までの出来事は樹形図の設計者かアメリカAIのシミュレーション内容に
すぎず、本番の大失敗を避けるために検討してました位しか思いつかない。
もしくは美琴たちが手に入れた平均的遺伝子から復元してレプリカの世界で
偽りの平和な生活とか。

先が全く読めないのが楽しい
647 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 22:23:44.57 ID:.nW.qYAo
佐天「なんだ夢か……」
648 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 22:49:34.32 ID:P/KY3Kwo
佐天「・・・というお話だったのサ」
孫「グランマその後はどうなったのー」
佐天「ふふふ・・・その次はまた明日ね、今日はおやすみなさい」
649 :Are you enjoying the time of eve? [sage]:2010/12/24(クリスマスイブ) 23:13:18.75 ID:Nq2yTYgo
>>646
ハッピーエンドだけが名作じゃないって、おばあちゃんが言ってた
650 :MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!) [sage]:2010/12/25(クリスマス) 12:07:15.70 ID:TcZZEHUo
>>649
>>476の事を言ってるんでしょ
651 :クリスマス終了のお知らせ [sage]:2010/12/26(日) 05:18:39.59 ID:SSmo7y.0
レス数よりKB数が多いぞ
652 :>>651 気にするな [saga]:2010/12/26(日) 08:05:25.13 ID:JHlcOiUP
垣根「一匹目だ」

履いていた軍靴を内側から引き裂くようにして現れた白く光る足で、地面を強く蹴って飛び上がり

フォートワースの空の10分の1を占める規模まで拡がった未元物質の大翼が、一つの人の形をした天使崩れを包む

まるで羽虫を両手で押しつぶすかのように圧縮するも、そのヒトガタは内側から包んだ翼を衝撃で弾き飛ばすように何度も抵抗した

その度に包む翼から羽根が振り落ち、逆に変に神秘的だった

この垣根提督の行動は、天使崩れが都市と人を破壊し殺す為に発する衝撃波から、それらを守り同時にエネルギー切れを誘う効率の良いやり方だった

しかしそれは敵が一体だけならばの話。ロサンゼルスの時、この方法を採っていれば結果は変わっていたかもしれない

だが、今回の天使崩れは捕獲した一体だけでは無かった

目視できるだけで他に4体は居る

垣根「餌で釣ったは良いんだが、大漁すぎるだろうが」

舌打ちをしながら、その天使崩れの攻撃から市街を守れる位置へと向かう

(きっと同時にダラスなんかも狙っているのだろうね。もしかするとサンアントニオやヒューストンまでも巻き込むつもいだったのかもしれない)

一匹を捕まえるのに集中している垣根帝督。だが残った四匹が市街を破壊するのを見過ごすわけにはいかない

振り落ちる羽根を残った4匹に集中して向かわせ、まとわりつかせる

どんなに逃げようとしても紐でつながっているかのように離れさせず、至近距離まで近づかせた所で、地表の建物には影響が無いように規模と方向を限定させてその羽根を次々と爆発させる

爆発衝撃の方向に指向性を付ける事で、天使崩れ達を地面から引き離し上空へ吹き飛ばす形で誘導していく

シンプルに市街を破壊し人を殺すようにプログラムされているだけの、言わばロボットの様な光る大小様々な人形たち

エネルギー切れ前に何としてもその目的を完遂させたい彼らは、まずは攻撃範囲からひたすら遠ざけようと働きかける垣根帝督を潰すべきと判断し、攻撃の矛先を彼に向ける

それは、都市を守りたい垣根にとっては好都合な展開だった

大翼の中心、翼に対して小さすぎて遠目からは点にしか見えない垣根提督本体目がけて、棒状に圧縮された衝撃の塊が複数飛来する

一方通行が見れば強引に固定されたベクトルの塊とでも分析するのであろう、その無色なエネルギーの塊は、太陽光を歪に捻じ曲げながら垣根帝督へ突き進んだ

垣根「ッ、やらせるかよ」

背中に目がある様にその塊の接近に気が付いた垣根は、既にある大翼よりはダウンサイジングした新しい翼を複数現出させ、その棒を翼で弾くいて本体を守ろうとする

それは捕獲した一匹目を確実に消滅させてから残る天使を、と狙うやり方から導かれる防御行動だった

棒状に固められた衝撃の塊が垣根の翼に触れた瞬間、垣根の体がグイッと大きくその方向へ引き寄せられる
653 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:06:40.07 ID:JHlcOiUP
棒状に固められたエネルギーは、爆発するものではなく、逆に引き寄せるものだった

人間的な経験から垣根帝督は、その衝撃の塊は当れば体を四散させるようなものと判断していたのだが、逆を狙われた形となる

棒状のエネルギーの中心へ垣根の翼が圧縮されながら引き込まれ、それに繋がっている本体も引き寄せられる

そして一発や二発では無い。残った四匹が機関銃の如く垣根目がけてその攻撃を的確に連射し、彼を守るべく現出した未元物質の翼は上下左右に引っ張られ、垣根を空中で振り回し

最初の一匹を捉えていた巨大な翼もあらゆる方向に引っ張られてボロ雑巾のようになってしまった

それでも千切られた事によって生じるたくさんの小さな未元物質製の羽根が天使崩れ達を襲い、地面から引き離し

穴だらけとなった大翼もまだ捕獲した一匹目を逃さない

それが循環していき、舞台はフォートワース上空へと昇っていく。地面からは巨大な翼を操る天使と羽虫サイズの天使が戦っているように見えた

両者とも消耗していっているのだ

垣根の方は翼が付いている背中の接合部から、血の代わりに噴き出した白い液体状の未元物質が地面へと流れ落ちていく

それはつまり全ての未元物質を制御しきれていないという事を意味していた

直接的な痛みは無い。だが体の一部として定義されている翼やその接合部から、人間という概念で存在を固定している彼とっては、体の一部が千切られて出血するという経験から生まれた痛みが現れる

それは、垣根提督にとっては思い出したくない痛み。少女を失った、ロサンゼルスでのことを思い出すような痛みだった

苛立ちが、彼から集中力を奪っていく

この面倒臭い小バエ達を何とかして黙らせたい。簡単な方法は無いか。そう思った瞬間、ついに捕獲していた最初の一匹が大翼を吹き飛ばした

文字通り大翼は四散し、左右非対称となった垣根提督は上空5000mあたりで体のバランスを大きく崩してしまう

逃れた一匹は都市を破壊すべく急速降下し、垣根を狙っていた4匹はここぞとばかりに彼への攻撃を苛烈にしていく

垣根の体や翼を引き千切りながら徐々に4匹が囲む中心へ彼を誘導し、今度は逆に爆発する攻撃も入り混じって、彼の体は揉まれた

日常的・現代科学的には定義しきれない圧力と斥力と引力でもみくちゃになった垣根帝督の体からは、ますます未制御で形を為さない液体状の未元物質が流れ出す

そして相反する衝撃によって空気が揉まれ、垣根を中心として大きな雲が生まれた

当然垣根の視界は遮られ、白一色となる

見えないという事は不安を簡単に大きくするものである

彼には逃した一匹がすでに地表を破壊しつくす為の射程圏内に入ってしまったのではないかという不安が広がった

慌てて雲の下を突き抜けて現れた彼の体は、彼を消滅させようと遠慮なく小バエ達が撃ってくる圧縮衝撃によって既に人の形を成していなかったが、彼と言う意思は消え去ることは無く、ミサイルの様に追ってくる圧縮衝撃を無視しながら、最初の一匹を追って急降下していく

追って急速降下と言えば聞こえはいいが、翼として生じさせた未元物質が片っ端から壊されて、浮き上がる力を維持しきれないという現実も有った

浮かぶのとは逆に地面に向かって加速しようにも、彼の行動を阻害しようと上から追い打ちしてくる追撃の棒状圧縮衝撃がそれを許さないのだ
654 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:07:35.58 ID:JHlcOiUP
そしてその棒状に圧縮された衝撃を仮に垣根が回避したとすれば、そのまま地表の都市まで向かい、地面を爆発するか圧縮するかの違いはあれど結果的に大きなクレーターを作る事となり、それだけで幾千の命が失われることになる

失われそうな命を救う病院も破壊されるかもしれない

そういう理由も有って、垣根は追撃を甘んじて受け止めるしか無かった

実質的に彼の能力は彼本体と、その下にある都市を守る為の防御膜としての役割しか果たせなかった

当然そんな事では、先に加速しつつ地面へ向かう取り逃がした一匹目を追うには不十分であり

垣根(……クッソが!これじゃ射程距離に入るまでに間に合わねえか)

そして垣根の目の前で、取り逃がした一匹目が自身を自壊させる勢いで大きく光を伴った爆発的な衝撃を生み、地面へ叩きつけた

爆発した高度は700m程度だろうか

畜生、ロサンゼルスの二の舞かよ、と垣根が思った時、頭の中にいつもの声が響く

(よく耐えてくれた。初めての事で時間がかかったが、こちらの展開は完了したよ)

垣根(んだと?)

(つまり都市の方は大丈夫と言う事さ。あくまでも、計算通りならね)

衝撃に対応して、逆にフォートワースの都市全体が強い光を放って、同じ規模の衝撃が打ち上げられる

都市の上空500mで同じ規模の力と力がぶつかり合って、逃げ場を無くした衝撃が水平方向へ暴風として流れていった

それは巨大なドーナツ状の暗雲を生んだ

(ふむ。もう少しこちらの威力が必要だったか。これでは周辺都市が大嵐になってしまう)

垣根(何をしやがった?)

自由落下を継続しながら、垣根は尋ねる

(何、簡単な事さ。この天使崩れ達は宗教と言う名の巨大な術式によって生まれたものにすぎない)

(敵が術式ならこちらも同じ術式、同じ魔術を使って対抗すればいい。アメリカらしいシンプルな解決法だとは思わないかい?)

垣根(アメリカらしいかどうかは知らねぇが、もう都市が壊される心配はしなくていいんだな?)

(あぁ。少なくとも今と同じか、それに近しい規模以下ならね)

先程の衝撃波で最期の力を出し切ったのか、垣根が取り逃がした天使崩れの一匹は霞んでいき、完全に消え去った

(よし、今度は彼らが恐怖する番にしよう。……最も、感情と言う物があるのかはわからないがね)
655 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:08:12.61 ID:JHlcOiUP
病院の前に停車していた、ステイルを運ぶために用意された、魔術師用の護送車が炎を巻いて爆発し、大きな音がロンドン市街で響く

当然それは、少し前にその病院を離れた騎士団長にも聞こえた

騎士団長「……!! まさか、あの男」

移動車両の中で彼は呟いた。だが、引き返そうとは思わなかった

指揮官が行ったり引き返したりしてフラフラしている訳にはいかない、という判断である

騎士団長にとっては悩む要因が一つ増えた事になった

爆発現場の病院の駐車場では、炎の巨人が駆け付けた騎士たちをも焼き払い、焼死体が横たわっている

殺された彼らは当然このステイル=マグヌスという男の反逆行為を想定して、それ相応の霊装を装備していた

このロンドンは霧の街と言われるほどに水分が多い。それを利用した対炎術式や霊装は種類も多く、その効果はステイルにとっては致命的とはいえなくとも、格段に戦い難くするには十分なハズだったが

彼らの体は簡単に焼き払われた。その様な水による対火防衛術式など、まるで影響は無いかのように

一般騎士たちとステイルの間には、もともとの技量の差は有れど数の上で攻め、更には各個の連携によって対抗するつもりだった。だが、今のステイルを止めるには不十分だったようだ

ステイルが去った後には、焼死体だけが取り残されていた

そんな病院に、一台の公用車が接近する

騎士たちの焼死体達が片づけられる前に、ヴィリアンを見舞うためにその病院を訪れた女王と最大主教がその現場に着いてしまった

「女王陛下にお見せするようなものではない!早く片付けるんだ!」

当然こう言った怒号が現場で飛び交う

病院の入り口で、勿論第三王女の誘拐から大怪我を追った事は時勢的に公開できない為、非公式訪問の際に使われる専用車両が止まる

「しばしお待ちください」

耳のインカムから情報を聞いたドライバーは、理由を言わずそんな事を言った

それを聞いて、先程聞いた爆発音から大体予想が付いた女王は頷き、待つ

逆に同乗していた最大主教はドアに手を掛け、車を出た

女王が同じ事をすれば止めるだろうが、最大主教が車から出るのを運転手は止めない。これが良かれ悪しかれポジションの差という奴だ

現場では更に駆け付けた騎士達と警察などの治安組織の人間、王室派の黒服の男たちが協力してあくせく動いている

女王に次ぐ権威を持つ最大主教ではあるが、こういう場に足を伸ばす事は立場上無いわけでは無く

むしろ魔術の専門家として、院内に運び込まれた焼死体が安置されている部屋まで顔パスで入れた

死体の一つに最大主教は手を伸ばす
656 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:08:41.70 ID:JHlcOiUP

下半身は肉が焼けていないままだが、上半身は丸焼け

炎の巨人の手で握られ、そのまま焼死したのだろう。その様に思わせる焼け跡が残っていた

ローラ(ステイルのものとみて、間違いないようであるの)

ローラ(しかし、焼け具合が少々度を過ぎたるように思えるわね)

ざらっとした黒くコゲた皮膚が最大主教の白い手に付着する

気にせず、そのままの手で皮膚と鎧が溶け混ざった上半身を探る

彼女が探しているものは鎧の下、恐らく首飾りとしてあるはずだ

だが、片腕しかない彼女ではその鎧をまさぐるには少々難が有った為、小難しそうな顔を近くに居た黒服へ向ける

意味を汲み取って、その少女が甘えるような表情に若干頬を染めた黒服は、両手に手袋を嵌めて強引に肌と焼けてくっ付いた鎧を引き剥がす

最大主教が欲したものは無かった

首飾り用の金属製のチェーンは微妙に形を変形させて肌と絡みついているが、そのネックレストップが存在しない

彼女が探しているのは、化学式ではSiO2として表される物。水晶である

広範な文明・文化的に水を意味するこの鉱物を加工することで、科学的にも融点が1610℃と高いという性質も有り、術式的な炎への強力な抵抗作用をもつ霊装として扱う事が出来る。日本では水剋火の概念だ

対炎術装備の基本としてあるはずのそれが無かった

ローラ「この者達の装備品のリストなるものはありけるの?」

鎧をめくるのはもう良い、と片手でジェスチャーし、黒く汚れた手の平を拭きつつ尋ねた

「お待ちを」

と言って見せられたリストには、やはり対炎術師用装備で固められ、水晶の首飾りもある

これだけは、例え装備した人間が耐えれず焼死しても形を残しているのが普通だった

ローラ(ステイル=マグヌス。彼のレベルならば、確かに融点を超える温度を与えることは可能。もちろん、炎術師として相手の水の護衛術式についての知識もありたろう)

ローラ(しかしこれだけ対炎術として水を意味させる霊装がありながら、ここまで一方的に焼け落ちたるとはの)

ローラ(数を量産する為に天然ものの水晶では無いとは言えど。……ステイル、一体何をした)

ローラ「良い」

そう言ってリストを返し、部屋を後にする

彼女がここに来た目的はそもそも検死では無い。そろそろ他の焼死体も片付いて女王も病院へ入っている頃合いだろうと、第三王女の病室へと足を向けた
657 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:09:13.68 ID:JHlcOiUP

ステイル「さて、そろそろ僕もお尋ね者だろうね」

いつもの黒いローブを脱いで鞄に収納し、午前中に着ていた変装用の衣類に着替えて横を走り去る騎士たちをやり過ごす

圧倒的な強さを見せた彼は、実は非常に疲れていた

故に、禁書目録を探し出す為には変装せざるを得なかった

ステイル(これが彼の言う粗製のせいなのだろうね……)

ステイル(対炎術で身を固めた屈強な騎士たちすら焼き払う性能は素晴らしいと言えるが、消耗が激しい上に融通も利かない)

ステイル(それでも、僕が想定よりも強大だという事になれば、僕の追跡の為に想定よりも多くの騎士や魔術師を編成する必要が出てくる)

ステイル(禁書目録の処分の為に寡兵を大胆には割けなくなるのは、こちらとしても読み通りなんだがね)

疲労故に、すこし深く息を吐いた

彼の予想は逆に言えば、見つかれば彼一人には多すぎると言える騎士や魔術師を相手にする必要が出てくることになる

今彼に必要な行動は禁書目録を探す事と並んで、消耗した自らを回復させる事もあった

極力敵と戦わず、そして知的に効率よく禁書目録と落ち合わなければならない

ステイル(テッラが言うには、フィアンマが禁書目録を向かわせた先はセント・ポール大聖堂。テッラ自身もそこで待つというが、彼が当てになるかね)

ステイル(直線距離で禁書目録の居た病院から5km強程度。でも、当然堂々と大通りは歩けない。時間的に人気の少なそうな小路や見通しの悪い道、そして民家の庭を選んで進む事になる。体調も良いわけじゃないし、彼女一人で辿り着けるのか)

ステイル(勿論答えはNOだ。細かい経路は彼女自身の目前の状況から判断を下して進むから予測は難しい。でも考えられる大筋の経路はバッキンガム宮殿付近を通過する北ルートと、一度テムズ川を渡ってもう一度渡り直す南迂回ルートに絞られる)

大通りを自然に歩きながら、彼は記憶の中に有るロンドンの地図から彼女が動きそうなルートを予測する

ステイル(禁書目録は入院中、あの効果の無くなった歩く教会ではなくて普通の入院患者用の薄い服を着ていた。もしその衣類のまま橋を渡れば、間違いなく目立つ。南迂回ルートは有りえないか。いやこれは北ルートでも同じ事が考えられるけれど)

ステイル(でも僕の様に変装していれば話は別だ。どこか適当な民家に押し入れば、あの子の体格に合う衣類ぐらい)

追われる身の禁書目録にしてもステイルにしても、憲兵の多い宮殿付近の道を選ぶわけにはいかず、仕方なく彼は両ルートの真ん中とも言えるテムズ川沿いの道を一般の観光客の様にとりあえず歩く

このままテムズ川北沿いを進めば、結局憲兵が恒常的に多く配置されているウェストミンスター議会やビックベン、宮殿のある場所へ向かう事となる為、

いずれどちらかにルートを絞って回避しなくてはならない

そんな事を考えていると、遠目に騎士が立っているのが見える

仕方が無い、少し道を変えて身を隠すか、と思ったところで違う考えが彼には浮かんだ

そして彼は躊躇なく、監視をしている二人の騎士の方へ自ら進みだした
658 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:09:42.92 ID:JHlcOiUP


垣根「自分と同じ能力を持った奴がたくさんいるって光景は気持ちのいいもんじゃないな」

(アイデンティティという奴だよ、それが)

被弾し過ぎて熱くなっていた彼は、主戦場から少し離れた場所で身を休めつつ、彼はその戦いを見ながら言った

彼の視界には、自分の能力に似た、というより成分的には全く同じ翼を生やした大型の駆動鎧がその翼で空を叩き高速で移動して、右手に持った巨大なライフルで攻撃することで残る4体の行動を拘束している

しかし、雷鳴の様に発射される電磁砲は見た目や音こそ凄いものであるが、結局のところ天使崩れ達の行動を止める程度にすぎなかった

(最初に我がアメリカに入ってきたのは君の能力だ。だから解析データは多く、こうしてハードウェアとして利用できる段階まで進んでいる。そしてそれは攻防更に移動能力まで備えた万能な能力で、学園都市でもその攻撃に耐え破る事が出来る能力者は一人しか居ない)

(利用しない手は無いだろう? 彼らに付いている翼は急造の模造品な為レベル4程度の未元物質と言った所なのだが、駆動鎧自身の出力でそれを若干強化させて使っている)

(あの電磁砲も本来は電撃使いの能力を付加させたモノで動いているのだが、君の能力は万能だ。翼が生えた駆動鎧は電撃能力無しでも翼が必要な電気を出力してくれる)

垣根「それでも、俺と同じ様なのがここまで居て、どうせあの駆動鎧の中身はおっさん達なわけだろ? 自分のメルヘンな姿を客観的に見せてるようなもんだぜ? 気持ち悪ぃってもんじゃねーな。まだのっぺりした駆動鎧だからマシだが」

(いやいや、全裸で体中からふさふさの羽根を生やした君はもっと気色わる……―――あぁ)

垣根の視界の中、一機の6m程度の翼を生やした駆動鎧が、天使崩れから出る衝撃の塊をその翼で防いだが守り切れず、空中で大破した

(いくら強化したとはいえ、未元物質使いでは最も高出力で高性能な君の大翼すら簡単に引き千切る敵が相手では、こうもなるか)

垣根「それじゃアイツ等犬死じゃねぇか?」

(いや、敵はまだ無限の出力を持つ個体では無いからね。駆動鎧部隊でも避けつつ攻撃を与え続ければ、燃料切れでいずれあの敵は消滅する)

垣根「あんま効率的とは言えないな」

(その通りさ。もちろんこの戦闘が終わって、更に学園都市の生産施設さえ手に入れば駆動鎧は大幅に強化出来る)

(スペック的には現時点で学園都市のものには負けることは無いが、あれだけ大型なのは純粋に小型な部品を作る生産技術が低い為でもある)

(いくら技術だけが高レベルであっても、量産段階では既存の生産能力で作るしかないからね。小型化して空いた空間を使って強化するプランはもう立ち上がっている)

垣根「駆動鎧の事は分かったけどよ、あーまた落ちちまった。下手すっとご自慢の駆動鎧は全滅しかねないぞ。まさか全滅した時は、あの天使崩れ共の自爆攻撃を全て地面からの衝撃放射で守って消滅まで耐えるってのか?」

(出来ない事ではないがね。それをすると、この都市以外の周辺都市への影響が馬鹿にならない。既にダラスではトルネードが発生して避難勧告を出してる)

垣根「ならアレは最終手段だな。……どうすんだよ?」

(その為の君であり、彼女だ)

彼女?と垣根が付点を頭に浮かべた時、駆動鎧の群の中で天使崩れに斬りかかる存在が示された

他の駆動鎧の3倍は有るであろう金属色の翼を6本備え、しかしその翼を構成しているのは鋼索で、羽ばたく度に振り落ちる羽根とワイヤーが特殊な造形や模様を作り出す
659 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:10:13.02 ID:JHlcOiUP

手持ちの大型の日本刀を構えて、居合抜きから始まる斬撃の連携を天使崩れに与えている

反撃が無いわけではない。物質を粉々に吹き飛ばすような衝撃を度々身に受け、体が引き裂ける

しかし腕が千切れても足が千切れても体が原型を留め無くなっても、次の瞬間には体は元に戻り、斬撃の手は休まらない

とうとう耐えきれなくなって、その天使崩れは消滅を始めた。残りは3体

次の天使崩れの目の前に空間を割いて現れて、同様に斬りかかった

垣根「なんだあのバケモンは」

(必要悪の教会所属の聖人。彼女のお陰で魔術という物の理解が随分と進んだよ)

垣根「例の海戦で捕獲した聖人って奴か。つーか聖人ってのはみんなあんななのかよ? よくもまぁ捕まえられたな」

(もとからあんな性能をしていたら、彼女を捕獲する事は出来なかっただろう。彼女があんな能力を持っているのは特殊な性能を持たせたからさ)

垣根「特殊な性能?」

(完成した複脳計画の第二被験者。これはもともと魔術と超能力を共存させるために依頼していた研究だ)

(魔術師であり、制限されてはいるがLV5相当の未元物質の能力者であり、同レベルの肉体強化の能力者であり、肉体再生能力者であり、空間移動能力者であり)

垣根「どんなモンスターだよ。なんでもありだな」

(確かに強力だが、それでようやくあの程度だ。聖人というもともと強固な肉体を付加能力で底上げし、未元物質で構成された無限の擬似鋼索で作り上げる魔術で更に肉体強化して、ガチガチ肉体破壊に対策してやっとこのレベルに達する。これからより強力で消滅することのないタイプが現れた場合を考えると、不安が残るよ)

(その上未完成段階で無理やり戦線投入させた時に受けたショックで精神不安定でね。極端に自我を制限させないとあの能力で暴れまわりかねない)

(そのせいで本来魔術師として彼女に有った状況適応性が極端に下がってしまい、今彼女が使用できるのは肉体強化と再生補助の魔術だけになってしまった)

垣根「暴れまわるとか危険極まりないな、おい。んで今まで調整してて時間がかかっちゃいました、と」

(その通り。もし彼女が暴走し出したら君が何とかしてくれ)

垣根「こんだけボロボロな俺に良くも言ってくれるじゃねぇか」

(出来るだけそうはさせないつもりさ)

垣根「はいはい。信用してるよ。それじゃ、残った天使モドキを片づけますかね」

液体状の未元物質の出血も止まり、彼の翼はもとの凛々しい姿を取り戻す

天使崩れが駆動鎧の一体へ放った圧縮衝撃を包むようにいなし、垣根帝督は戦線に復帰した
660 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:10:42.30 ID:JHlcOiUP

刀夜「やっぱり暑いね、ここは」

田中「そりゃアラブですからね汗も一瞬で乾いちゃうから代謝機能が連続発動して一瞬で干からびちゃうんで水分を常に窮しなけりゃ死にますよ。ってことで水買ってきます先輩の分も」

ドバイ国際空港に降り立った一機の国際線から降り立った二人の第一声はこれだった

刀夜「あ、ああ頼むよ」

ロビーに降りてすぐに後輩の田中が水を買いに消えた

残された上条刀夜はソファに腰掛け、じっと外を眺めている

そこへカンドーラというアラブの白い民族衣装を身にまとった男が隣に座った

旅掛「ロサンゼルスがやられたと聞いた時は、どうなったかと思いましたが、こうしてここまで来る事が出来るとは、流石ですね」

隣の男を見ると、日焼けした御坂旅掛だった

刀夜「……わざわざ変装する必要はあったのかい?」

旅掛「変装ってつもりじゃないですね。単にこっちのが行動しやすいからって」

刀夜「そういうのが変装というんじゃないかな」

旅掛「変装するときはもっとディープに化けますよ。仕事上、その場所になじむ必要がありましてね」

刀夜「ほぅ。その仕事はもう終わったのかい」

旅掛「ええ。アメリカへの石油資源の安定供給がまた少し進みましたよ」

刀夜「それは御苦労さまだ。……正直身軽に動ける君のポジションがうらやましいよ。任務の構造上、直接君へ外部からの支援も取り付けることが出来るしね。無論、組織の為、アメリカの為という大前提はあるんだけれども」

旅掛「フリーのって、制限がなければいい事尽くしですよ。田中君レベルでいいから信頼出来そうな部下が一人は欲しいですね」

刀夜「彼を馬鹿には出来ないよ。ああ見えて彼も相当な動きが出来るようになったんだ」

旅掛「安心できないのはあの口調ですかねー」

刀夜「はは、それは否定できないな。しかし私に割り当てられた権限も弱いし、唯でさえ少ない部下も、田中君以外の息がかかった部下は世界に飛んでいて、私が私の活動をする為には常に動きまわらなきゃならない」

旅掛「そんな制限されてるのも局長クラスでは無くなったからといって、組織内で上条さんが作った人脈的な繋がりを相当な脅威として向こうも捉えているんですよ」

刀夜「現代的じゃない、人情とかって古臭い繋がりだけれどもね」

旅掛「そういう古臭いの、嫌いじゃないですね。俺は、一度、逃げちゃいましたから。どうしても良い様に思われていない気がして」
661 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:11:12.15 ID:JHlcOiUP
刀夜「あれは皆も認めてのことだったろう。気にしないで良いと思うけどね」

旅掛「それでも上条さんのチームが壊滅した一因は確実に俺達ですから、気にしますよ。多分上もそういうのを考慮に入れたから、フリーエージェントってポジションを与えたんでしょう」

旅掛「もしかしたら、俺がこうして孤立的になってしまうのまで見越して、あなたはあの時部隊から外すって判断をしたのかもしれない。俺がますます上条さんの派閥に依存するように、ってね。今になってふと思ったことですけど」

刀夜「さぁ、それはどうだろうね。でも君だってその立場のお陰で自分自身の力が及ぶ範囲は昔の比では無いハズだ」

旅掛「そういう見方を平然と本人の前でいうなんて、怖い人だ」

刀夜「組織の中で、人の群の中で強く在り続けるとはそういうことだよ。たまには本音を言って、相手の機先を制す必要もある」

旅掛「丸くなったのかと思えば……。流石にアメリカそのものを敵に回そうというだけはありますね」

刀夜「アメリカそのもの、なんてことになる前に何とかしたかったんだがね、知った時には既に遅かった」

これのせいでね、といって上から供給された、微小機械が入ったペンシルの形状をした注入機を懐から取り出す

旅掛「そのナノマシンのタイプは、特別製の方ですね」

刀夜「特別製?」

旅掛「国家の要所ポジションにいる人間に配られるタイプの方です。つまり」

刀夜「"彼"からの乗っ取りを食らう方か。すでに出世コースから離れて権限もさほど大きくない私に、随分な扱いをしてくれるものだ」

旅掛「機先を制したかったんでしょうよ」

はぁー、と息を吐いて使うあても無いそれを懐に戻す

旅掛の方が水を口にしていると、刀夜の目の前を通った女性のポケットから質のよさそうな布が落ちる

旅掛からしても、またかよと思う瞬間だった

刀夜「ミズ、落としましたよ」

「あら、ありがとう」

拾って手渡した時、やかましい後輩が水を抱えて帰ってきた

田中「ぐうううう少し目を放したらまぁた女性が側に居やがる。ハイこれミネラルウォーターです全く先輩って人は」

田中の言わんとしている気も分かったので、旅掛の方もそのことに対して口を開いた

旅掛「今のは西洋の人だから良いですけど、アラブの女性を口説いてはだめですよ? 誰かの奥さんだったら、下手するとその人殺されますからね。そういう文化なんですから」

刀夜「ただ落ちたハンカチを拾っただけなんだけどなぁ。分かった、気をつけるよ」
662 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:11:42.88 ID:JHlcOiUP
田中「あー御坂さんだったんすか全然気がつきませんでしたってかなんでアラブ的な格好してるんすか日焼けもしてるし」

旅掛「ちょっと潜らなきゃならなくてな」

田中「その為にそこまで肌焼いたんすかーそいえば御坂さんの仕事って結構えぐいですよね。御坂さんのアドバイスをきっかけに自分の力で成功したと思わせておきながらそれがうまくいってのし上がったときに実は自分の成功があらかじめ既定路線のもので自分に都合の良い様に環境整備されてて裏切ったら今の自分のポジションすら簡単に崩されるという事に気づかせてCIAに逆らえない様にさせるなんて」

田中「みましたよーブラジルだったかな。廃棄基盤から貴金属を回収する会社作ってのし上がった女性つかまっちまいましたよね」

旅掛「良くあるやり方だ、こんなことは。特異なのはただちょっと規模がでかいってだけ。残念だけど彼女は裏切ってしまったからな。脱税でっち上げられて、牢屋行き。そのまま中で首を吊ったって話だが、多分消されたんだろうな。そしてその企業は米資本の巨大コングロに買収されちまった」

刀夜「日本に有る某都市が、突出した技術や圧倒的な資金を背景に貴金属を占有しているからね。先端機械には貴金属は必需品とは言え、それによって他の国々は確保に四苦八苦してるのさ。それこそ、広い宇宙に求めるほど。その分野でも学園都市は最先端をいくらしいが」

旅掛「一応資源を"持っている"国であるアメリカもその一つで、基盤からの回収システムを他国からも巻き込もうとした。彼女はその一人となったわけだ」

旅掛「しかしどうやらアメリカとの交渉で、彼女は得られた貴金属を国内の産業発展に向けると頑なに譲らなかったらしい。そしてその末路として」

田中「処分されちまったと怖い怖い。なんだか騙すみたいな方法ですよね」

旅掛「俺もそう思っていたが、知識や知恵のある人、つまり俺らからしたら操り難い人間ってのはいるもんでさ。最近じゃ俺がそういう人間と分かってて逆に向こうから接近してくる、なんてこともあるな」

田中「知らない間に祭り上げられてりゃ怖くなるけど知って突っ込んでくるのはビジネスチャンスってか。たくましいですねでもって御坂さんも組織から給料出るわコンサルで報酬出るわでウハウハと」

旅掛「家内に牛耳られて金が無いって前も言った気がするぞ」

田中「あれそうでしたっけ。ん、どしたんすか上条先輩水に異物でも入ってましたか?」

家内、という表現を聞いて上条刀夜の顔色が露骨に沈んでいた

刀夜「いや、そんなことはないよ。………御坂君、君は日本のニュースは見たかい?」

旅掛「いえ、仕事のせいでここ丸一日ぐらいは見てないですね。日本と言えば美鈴から電話が有ったぐらいかな」

刀夜「!!……そうか。彼女はなんと言っていたんだい?」

旅掛「こんな場所じゃ小っ恥ずかしくて言えないようなないようですかね」

少し口元が緩んだ旅掛とは対象的に、ますます刀夜の顔から表情は消える

刀夜「少し酷だろうけど、これを読むんだ」

鞄の中から一部の新聞を取り出して、刀夜は旅掛に手渡した
663 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:12:14.91 ID:JHlcOiUP


「ご協力どうも。兄ちゃんみたいなタッパで赤髪の、黒いローブを身につけた男は見なかったか?」

偽造のフランスの免許証が返ってくる

ステイル「いや、見てな……あ、そう言えば」

「ん?」

若干わざとらしい表現を使い、指先を橋へ向けた

ステイル「さっきそんな人が居たような。橋を渡って行って、うん。多分そんな服を着てましたね」

「おおっ。それは本当か。ありがとう。おい」

対応していた騎士がもう一人に言葉で合図を送った

「OK、目撃者情報。魔術師はテムズ川南部へ向かった模様」

襟首に付いた通信用の霊装で、彼は言葉を送った

団長『了解。禁書目録を追っていったか合流しようとしているのだろう。そのまま君たちはそこの橋を渡って追ってくれ。随時指示を出す』

「了解。おい、行くぞ」

「あぁ。情報提供に感謝する。……大陸出身の人には少し物足りないかもしれないけど、コレ」

ステイル「……これは?」

「モデルハウスさ。俺の名前を出したらサービスしてくれるだろうぜ。すまんが規則で金品は渡せないから、そんなんで感謝の印にしたい。それじゃ」

ステイルに怪しい風俗店のアクセスが載っているメモを押しつけ、そのまま騎士たちは橋の上へ走り去っていった

残されたステイルは手にメモを持って、それを見守る

ステイル「こんな変装でも騙せるとは。大丈夫なのか不安になるねこの国の治安は」

離れていく騎士たちを見ながらそう呟いた

ステイル(あの声は騎士団長。禁書目録は南へ向かったのか)

ステイル(南、ということは川の北側に有る聖堂へ行くために、禁書目録はテムズ川をもう一度渡る必要が出てくる。都合よくいい情報が手に入ったものだな。運がいいのか)

ステイル(いや、幸運を祝うならあの子を助け出してからにしよう)

ステイル「しかし騎士が風俗を取り締まりどころか、逆に常連とはね。学園都市といい、どこの国も治安組織と違法風俗と言うのは繋がっているものだ」

ステイル(ま、ルーンを書くカード代わりにでもなるか)

そう言って鞄の中へ無造作にメモを押し込んだ
664 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:12:42.69 ID:JHlcOiUP
『早かったな』

変えようがない特徴的な口周りを除いて目立たないように変装したテッラは、禁書目録が目指すセント・ポール大聖堂前の広場に居た

テッラ「戦いなどしなければ、移動には時間などかかりませんねー」

偽装の為に耳へ携帯電話を押し付けながら、霊装によって会話を始める

本来ならばこのような通信は傍受される可能性が有ったが、この場所ではとある理由で特別なラインが使える

フィアンマ『大嫌いなイギリス清教の施設を前にして、えらく落ち着いているじゃないか』

テッラ「見くびらないで欲しいですねー。ここは少し都合が異なるのですよ。勿論、あなたがここを指定している理由だって大体は読めているのですから」

フィアンマ『流石だな。つくづく右席の部下たちはよくできているよ。上に立つ者としては楽でいい』

テッラ「死んでも仕事を強いさせるなんて、部下としては最悪な上司と言えますねー」

フィアンマ『フッ、それは間違っちゃいないな。だが折角生き返ったんだ、この間にアックアへ復讐なんかをしてもいいんだぞ?』

テッラ「いえいえ、私は別に彼に殺された事自体は恨んだりしていませんよ」

フィアンマ『ほう』

テッラ「彼に私が殺される事まで全て、神が示す運命通りなのですからねー」

テッラ「ですが」

若干語気を荒くして言った

テッラ「彼が神を誤解しているかのような発言を私に投げかけた事。それは同じローマの徒として、同じ神の右席の者として正してやらないといけませんねー」

テッラを殺す際、アックアが投げかけた言葉はテッラを激しく憤らせた

―――お前のような者を神は選ばない―――
665 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:13:11.24 ID:JHlcOiUP

テッラ「私がこうしてここへ蘇っていること、この事実が神によって選ばれた私の復活が確定している事の証明だというのに」

テッラ「仮に私が過ちを犯していたとしても、それを許すだけの寛大さを持っているのですからねー」

テッラ「誤解は邪教を生みます。そして邪教は悪魔を生む」

テッラ「誤解を持った彼はローマの敵になるかもしれないのですからねー。処分が必要かもしれません」

テッラ「この後、私の役割は?」

フィアンマ「あるぞあるぞ、たらふく用意してる」

テッラ「……そうですか、残念です」

フィアンマ「だが、あのステイルと禁書目録もこっちにくることが確定したのならば、お前が違う仕事をしても俺様の計画には支障は無い」

テッラ「計画に支障なし、ですか。少々崩れた方が私としても嬉しいのですけどもねー。あなたのしようとしている事は邪な教えそのものなのですから」

テッラ「しかし私にはあなたを止めることは構造的に不可能ですからねー。見過ごします。しかし、一度生き返った以上、私は神とローマへ協力したい」

フィアンマ「もし逆にアックアに返り討にあわされても、また復活させてやるぞ?」

テッラ「それは心強い言葉ですねー。しかしステイルという男の前では強がりを言いましたが、禁書目録の護衛すら満足にできないこの体では」

フィアンマ「安心しろ。アックアと対峙するというのなら俺様が生前よりも強くしてやる」

テッラ「分かりました。これで少しはこの仕事に対するモチベーションが上がりましたよ」

テッラはその口で、大きな笑みを浮かべた
666 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:13:39.07 ID:JHlcOiUP

腹部を血で赤く染めてフラフラと歩く少女を見捨てるほど、この国の自称紳士な人々は薄情では無い

禁書目録が必死でチェルシー橋を渡っている所を、対岸の橋の近くの公園そばにキャブ(タクシー)を止めていたドライバーが見ていた

体調が万全でない禁書が橋を渡り切った所で、躓いて前のめりに倒れこみそうになった時、そのタクシードライバーは体が動いてしまう

初老の男性に抱き起こされ、そのまま禁書目録は一礼してそこを去ろうとしたが、男は手を離さなかった

「待った。どういう訳かは知らないがお嬢ちゃんよ、こんな格好で外を歩くもんじゃないぞ」

裸足に血で染まった患者服では目立つ。明らかにワケ有りな格好をしているにも関わらず、彼は躊躇なくそういう行動を採った

男が触れた少女の肌は寒さか何かで震えていた

「おっさんはただのドライバーで怪しいもんじゃない。う〜ん、っても信じちゃくれないか。とりあえず服と靴ぐらいは用意できる」

指で自分の愛車を指して

「乗っていかないか。丁度客が無くて暇してたんだ。金は……持ってないみたいだし、タダにしとくぞ?」

と言った

禁書目録はその初老男性を、3,4秒無表情な顔で見つめ

コクリと頷いた

理由は3つ。魔術師的な要素が全く見受けられなかった事

そして仮にこの男が敵として襲いかかって来たところで、彼の中に有る魔力を用いて彼自身を止めることが出来ると判断した事

何よりもこの体の、この移動速度では折角今撒いたところだというのに、また騎士達に捕まってしまう。今度は殺されるかもしれない
667 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:14:11.78 ID:JHlcOiUP

今までは何とか4,5人の騎士集団と魔術師集団を返り討にしてきたが、いつまでもつかわからない

この明らかな一般人を巻き込めば、移動速度上昇は勿論、いざとなった時に壁として一瞬の攻撃の躊躇が狙えるかもしれない

酷く冷酷な理由で、自動書記はその誘いに乗った

しかし当然のことであるが、明らかに見た目のおかしな少女がタクシーに乗り込むところは他の人間も見ていた

その目撃証言は簡単に騎士たちまで伝わることになる

少女を乗せたタクシーは簡単に捕捉されることになり、そのドライバーの身元まで瞬時に騎士団長の元に集められた

「これが、あのタクシーのドライバーです」

広い部屋の中心に、ロンドン市街を衛星写真のような視点でリアルタイムに見下ろす事が出来る術式が展開され、その中心には一台のキャブが普通の速度で走っている

その術式を見下ろす騎士団長の前に書類が渡された

騎士団長「ふむ。魔術などの影響もとも超科学の連中の影響も無い、善良な一市民か」

「強いて魔術などとの関係を挙げるなら、10年以上前の表向きはガス爆発で処理されたアイルランドの魔術師のテロに家族が巻き込まれたことぐらいですね」

騎士団長「……そうか」

騎士団長もそのテロについては知っている、と言うよりは当時騎士として現場へ向かったのだから知っていて当然だ

騎士団長「禁書目録もこの男にずっと付いていくつもりではないだろう。離れたところを狙え。一般市民に手をかけた場面を他の市民や記者共に見られる訳にはいかないからな」

「了解。追跡・監視は現状を維持します」

騎士団長「怖いのは造反した必要悪の教会のステイルだ。ロンドンを熟知し潜伏している。そんな彼がどう動くのかが、禁書目録処分の結果を左右しかねない」
668 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:14:42.58 ID:JHlcOiUP

日本時間の深夜1時

学園都市の第15学区の一角で変形した複数の大型トレーラーが横たわる中、一人の全裸の少女が転がっていた

その周りを取り囲むのは、何体かの駆動鎧

隊長機を失って副隊長が取り仕切る指揮の下、サーチライトがその少女を照らす

「副長、こいつは」

「ああ。隊長を殺したガキだろう」

「生きてるんですかね?」

「さぁな。だが少なくとも、外傷は見当たらない。あれだけ我々が叩きこんだというのにな」

言って、副隊長の操る駆動鎧の右手に持たれた大型のライフルから、一発の大きな弾丸が飛びだした

肉体を簡単に貫通し、少女の体は二つになって飛び、グチャッ、ベチャッと二つの音を立ててビルの瓦礫に当った

内臓のらしき物体と体液が壁と地面に染みを作っている

人間ならまず間違いなく死んでいるだろうが

脳のある体の断片が這うミミズのような動きをし、気が付けば体が再生している

全裸の肉体が再びサーチライトに照らされた。体を真っ二つにしたというのに、反撃の素振りどころか動きもしない

どういう訳かは知らないが、この少女は意識が無いようだ

「おい、マック」「なんです?」

「俺を除くとこの隊で次に階級が高いのはお前だよな」「ええ」

「なら、俺に何かあったらお前が指揮を採るんだ。今から俺があのガキに近づいて様子を見るからな」「……了解」

もしもの事に備える様な指示を出して、部下が見守り、大型の頭部のない駆動鎧が一歩一歩慎重に少女の方へ進む

緊張が彼らを包む中、倒れ込んだ少女へ副長のアームが、少し伸ばせば届く距離まで問題無く近づいた
669 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:15:27.79 ID:JHlcOiUP
巨大なライフルを持っていない方の手、指先から小さな針が飛びだし、少女に刺さる

針に繋がった細長いラインを通して、少女の現在のバイタルを示す数値が副長のディスプレイに映る

こんな化け物相手に果たして人間用のそういう装置が正しい結果を出すのかという不安は有ったが、そのディスプレイに文字が浮かんだ

【Unconscious】意識無し、とはっきり示された。その情報は他の駆動鎧にも共有される

どういう理由が有ってそうなったのか分からないが、意識が無い。しばらくは安全だ。そう、しばらくは

そのしばらくの時間が過ぎればどうなるだろうか。このしばらくの時間を使って不安要素は消し去りたい

しかし、何度ミンチになってもウゴウゴ動いて再生するこの相手をどう殺せばいいのか

殺さなくとも、無力化は出来るか?

そう考えた彼は、躊躇なく駆動鎧の剛腕でその少女を脇に抱える

その光景を見て少し離れた部下たちは驚いたが、少女からの反応はやはり無かった

「どうするんです?」「殺せない以上、無効化するしかないな」

「どうやって?」「知るか。俺は研究者じゃないからな。でも多分来る増援の中の学者様に頼ればどうにかしてくれるだろ」

「来る前に意識が戻ったらどうするんです?」「この駆動鎧が言うには、後最低10時間は目を覚まさないとよ。正確かどうかは分からんがな」

「つまり、賭けですね」「あぁそうだ、責めないでほしいね。仕方ないだろ。根本的に俺が現場判断を下す状況になるとは思ってなかったんだし」

「了解。一応その、量産個体によく似た少女、には常に監視を付けときましょう」

「あぁ。それでいい。しかし、量産個体によく似た少女って言うのは面倒臭いな。適当な名前を付けるか」

副長のモニターには仮目標として、Aという形で少女は示されていた

「んー、The Aでいいか」「……安易すぎません?」「適当なのが思いつかなかったんだよ。なにより、もしかしたら戦闘用量産個体みたいにコイツがたくさんいるかも知れないだろ?」

「それで最初を表すAですか。The BとかCとかが出てこないことを祈りますよ」「俺もだよ」

そう言って、ギリギリ入るか入らないか微妙なサイズの空の弾薬ケースに、少女の体を押し込んで蓋をした
670 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:16:12.47 ID:JHlcOiUP
運がいい事に、禁書目録を乗せたタクシーが止まったのは、彼女が向かう先であるセント・ポール大聖堂に最も近い橋の近くだった

煉瓦の肌をした集合住宅の裏手に車を止め、運転手は周りを見回し、人が居ないことを確認した

少女の見た目では、どう考えてもすぐに通報されてしまう。周囲へ気を配ったのはそういう配慮だった

「よし、大丈夫だ。上がりな、嬢ちゃん」

言葉とジェスチャーで合図した彼に従って、禁書目録は集合住宅の一室に入った

その部屋の見た目から恐らく、彼が一人で暮らしているという事が分かる

しかし、中途半端に家族を匂わすような物が、そう、少し古ぼけた写真などが、所々に配置されている

「まさかここの服達に、もう一度袖が通る日が来るとはなぁ」

小声で呟いた彼は、そのまま振り返って禁書目録の方を向き、ドレッサーを叩いた

「少ないけど、ここにお嬢ちゃんぐらいに合うサイズの服がある。好きなのを着てくれ」

「おっと、俺は別にそういう趣味があるって訳じゃないからな。着替えてる間は出とくから、着たら扉を叩いてくれ。目的地まで連れてってやるからよ」

ドレッサーの引き出しを引くと、少し時代の潮流からは古い感じのする衣類が丁寧に仕舞われていた

禁書目録にはなぜこの男がこんな衣類を保存しているのか理由が見えなかったが、その理由は写真立てから予測する

死別したか、離婚した妻に付いて行った娘の衣類がメモリアルとして捨てられなかったのだ、等等

靴も有った。形を失わない様に詰め物までされて。予想は前者が濃厚だろうか

そこまで想像した所で、自動書記にとりわけ特別な感情が生まれるわけでもなかった

無機質な表情を浮かべたまま、特に時代が古くても目立ちそうに無い衣類を着込む

血まみれの病院服を少しだけ裂いて得られた布切れに部屋に有ったペンで少し複雑な模様を描き、それ以外をゴミ箱に突っ込んだところで、ふと窓の外に目を配った

騎士の姿が、チラリと見える

折角の変装を血で濡らしたくは無い。見つかる前に逃げるべきだ

幸いこの場所からならば、目的地まではすぐ。走っても行ける
671 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:16:43.18 ID:JHlcOiUP

扉を叩くどころか飛びだして、驚いた男の手を引いて住居を出た

車の方へ行こうとする男を引っ張って止め、北へ、橋の方へ向かう

二人の関係性的に、その光景は孫に引っ張られる祖父という感じがした

「禁書目録を視認。しかし例の一般人と共に居る為に手が出せません」

少し離れた場所からその二人を監視する騎士数名

騎士団長『ふむ。ならば職質などで接触してみろ。もしかしたら向こうから動くかもしれない』

「了解」

明らかに先ほどまでの距離感を破って接近する騎士たちに警戒する自動書記

一方の男性は騎士達に対しては全幅の信頼がある

まさかこの少女が彼らに追われているとは思わない

「失礼、少々お時間を。身分証をお見せ頂けますか」

突然であるが、しかしその中年の男はその指示に従って免許証を提示した

「何かあったんですかい?」

当然の疑問に対して、目の前の二人の騎士に問う

「いや、殺人の重要参考人を探してるんだ。そう、丁度そこに居るお孫さんぐらいの少女が―――」

少女を睨みながら言いきる前に、初老男性の腰辺りにドン、という衝撃が伝わった

禁書目録がその男性を後ろから力の限り体重をかけて押し飛ばし、予想外の動きに、目の前の二人の騎士たちへ向けて倒れかかる運転手

ドミノ倒しの様に倒れるかどうかなど確認せずに、少女はそのまま後ろの角を曲がって北へ走る

もちろん、驚いたのは男性だ。バランスを崩してそのまま騎士を一人巻き込んで倒れる

男と一緒に倒れた騎士はもう一人の騎士に追えと手で合図を送り、それに従って禁書目録を追おうとした瞬間だった

男性の体の背中、禁書目録が押した腰の部分に、先程千切った布切れの模様が淡い光りを放ち
672 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:17:42.64 ID:JHlcOiUP

腰に付着した布切れから起動した魔術によって男の体は爆裂した

音を立てて肉片となった男の体と血が周囲へ恣意的に飛び散り、それが更に大きな術式陣を描く

禁書を追う為に走った騎士が音に反応して思わず振り返り、血肉によって描かれた術式陣の中央でのろのろと立ち上がるもう同僚の騎士を見た

「これ、生贄の祭壇のッ……?!」

呟いた時には既に遅かった

十字教において生贄は羊などを犠牲にして行われる。目的は贖罪

悪いことをしたから許してもらう。この悪い事とは、悪魔に魅入られること

一般的には火災旋風と呼ばれる現象が起きた。中心に立っていた騎士と振り返った騎士は一瞬でその炎の渦に飲み込まれた

男たちを飲み込んだ後も炎は消える事無く、周りの木々や建物を燃やし続け、大火災となる

人々が飛びだし、集まり、周辺は騒然となった

その隙に、少女は走り、ひたすらに橋へ

禁書目録が行ったこの術式は、完全に邪法そのものである

あらかじめ生贄を捧げることで神から許しを得た上で、悪魔の化身である蛇を呼ぶ。形式上はそういう事になっている

かなり無茶苦茶な理論構成だが、十字教会はこの理論を否定できない。資金不足の為に教会が発行した免罪符がその典型である。免罪符を買うという行為が、あらかじめ神から許しを得ることが出来るという事となり、犯罪者から一般人にまで広く購買者が出る事となった

この場合の蛇とはとぐろを巻く蛇のように激しく動き回る炎の渦。つまり生贄を捧げることで作り出すタイプの火炎術式である

最初の超能力者では無い一般初老男性をその体内の魔力を利用して炸裂させて血肉で祭壇を作り、そしてその祭壇で生贄を捧げ、その生贄となった者の生命力を全て費やして魔力をブーストさせ、巨大で強力な炎の渦を呼ぶ

教会の名のもとに魔女狩りを行った時代、火炙りの刑を受けた魔術師たちが己を犠牲にした最期の抵抗として使った術に生贄や聖書の記述を織り交ぜて凶悪化したこの術式は、邪法としてバチカンの地下に保存されていたものだ

この運転手は禁書目録に対して特別な感情が働いて手を貸していたが、自動書記にとってすれば便利な男性でしか無く

最初からこうやって利用しようと考えていた。そこに、なんら特別な感情など無い。ましてや男の過去に涙を誘うような事件が有ったとしても、彼女にとっては術式の材料ぐらいにしか見えていなかった

その天まで伸びる派手な炎は、当然、禁書を探していた騎士たちにも、ステイルにも目撃される

味方への合図として、混乱を呼んで身を隠す方法として、騎士たちの目を自分以外に向ける的として、それは極めて多くの意味で彼女に味方した
673 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:18:11.96 ID:JHlcOiUP

ステイル(あの炎が彼女のものだとすれば……。あの位置なら最寄の歩行者専用のミレニアム橋から殆ど直線で、セント・ポール大聖堂に辿り着く)

黒く蛇のようにうねる炎を遠目に見ながら、彼は走っていた

同時に考えていた。あの炎は誰の手による物なのか、ということを

ステイル(可能性としては勿論他の魔術師がテロでも起こしたってこともあり得るのだろうけども)

変装をしている以上あまり目に付くように走れない

実際、彼の視界内にもチラホラと騎士らしき者や、それらが扮した者、騎士団の指揮下にある警察組織など、彼の敵は多かった

そしてそんな存在が多くいる為に、思い切った行動が出来ないでいた

だがあの炎の渦が生まれたことで、彼らの視点はどうしてもそこへ集まった

チャンスである

ステイル(この状況では他に頼る情報も無いからね……!!)

大通りから細い道へ入り、人目を気にせず一気に走る

全快とは言えないが、ある程度魔力も回復した

いざ見つかっても、戦える

ステイル(ミレニアム橋。唯でさえ身を隠すには向いていない橋の中でも、歩行者専用だから幅も狭く逃げ場が無い橋だ)

ステイル(あんな炎の術式を使えるという事は、一見魔術など全然遠慮なく使えるという風にも見えるが)

ステイル(本当にあの子なら、自動書記ならば、こんなリスクを広げる様な大胆な戦い方を採らずに、魔術捕捉術式にも見つからない様な術式を使って隠密行動を採るはずだ)

十字路に出て、太陽の位置からどっちに向かうべきか考える

同時に肩で息をしながら変装を解いた。いつもの黒いローブ姿に戻し、戦闘に備える

ステイル(なにより満足に魔術が使えるなら、あのフィアンマがテッラを遣わせてまで僕に手助けを求めたりしないだろうさ)

簡単な着替えが終わる

ステイル(よし、こっちだ。つまりあれは、他にどうしようもなく追いこまれて使わざるを得なかった術式と考えられる)

ステイル(防御用の結界すら満足に構成できないというのなら、あの橋を渡る際は騎士団の誇る狙撃術式・ロビンフットのいい的になるだろうね)

ステイル(なんとしても禁書目録が橋を渡り始める前に合流しないといけない)

彼はひたすら走った
674 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:18:50.09 ID:JHlcOiUP
少女がフラフラと駆ける周囲では、自分の後ろ、つまり炎の渦を何事かと見守る人々ばかりだ

バラバラバラバラ、と上空ではヘリコプターすら飛んでいる。消火用か、それとも報道のものか

そろそろ生贄となった騎士の魔力を暴走させて起こした渦も消える頃だろう。しかし、それだけで終わらない。引火した炎が大規模な火災を引き起こしていた

石やコンクリートの塊であるロンドンの建物であっても、ガスにまで引火してしまっては、又は燃える家具やカーペットなどに引火してしまえば、そう簡単に消えはしない

結果的には集団火災として、彼女は数十人規模で人命を奪ったことになる。それでも平日16時前後で自らの家に居た人々が少なかったことが幸いしたのだが

他の何よりも優先して無事にセント・ポール大聖堂に辿り着くこと。これが彼女の今の至上命題である

次の魔術の生贄になりそうな人々は周囲にたくさんある。そういう状況で彼女はミレニアム橋まで辿り着いた

対岸からすでに目的地のセント・ポール大聖堂は見えている。橋を渡ってまっすぐ進むだけ

しかし彼女も分かっている。この身を隠す所が無い橋の上がもっとも危険であるという事ぐらいは

最初に橋を渡ってテムズ川の南に渡った時はまだ発見されていなかったが、今度は違う。はっきりと変装した自分の姿を騎士に見られてしまった

テムズ川より北側にあるセント・ポール大聖堂が彼女にはすこし遠く感じた

だがこんなところでじっとしているわけにもいかない。最低限目立たない様に歩くしかない

一度見つかったとはいえ、今の恰好はパーカーにミニスカートと可愛らしく、さして目立たない。年齢らしい格好だ

行ける。というより行くしかない

一歩一歩手すりになるべく近づいて、更には歩んだり火災を見る人々をなるべく盾にしながら少女は進む

200mと少々の長さの橋。その5分の1を渡った所で

少女の小さな体が飛ばされ、反対側の手すりに叩きつけられた

禁書「……ロビン、フット」

左肩に刺さって肩を満足に動かす事が出来なくなった少女はそのまま倒れたままで、手すりの外側に有るパイプの影に身を寄せる

周りに居た観光客やら野次馬やらが一斉に悲鳴を上げて、ある者は禁書に近づき、ある者は一斉に橋から逃げようとする

頭を狙われれば、即死だっただろう。しかしそのロビンフットを放った騎士が一撃で仕留めなかったのは、パーカーのフードを被った少女が本当に禁書目録であるのかどうかという疑問があった事がある

これで仮に何でもない少女だった場合、ただの殺人事件にすぎないのだから。そういう訳で、肩を狙った。これは撃った彼の判断である
675 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:19:27.79 ID:JHlcOiUP
駆け寄ってきた者達は禁書目録の盾となった。人の壁によってフードから彼女の顔が出てきても、第一射を撃った騎士には追撃できず、他の場所から狙撃体制だった他の騎士からも狙えなかった

そして運悪く南側に、禁書目録が来た側へ逃げた人間は、彼女を回復させる為の術式の魔力源となる

彼女が震える体で肩の矢じりが付いた飛翔体を引き抜いた瞬間、あらかじめ南側に張り巡らされた紙切れによって構成された術式が起動し、逃げた人々が老若男女問わず意識を失って倒れた

それによって傷が癒えて立ちあがった禁書目録の姿に人々は驚嘆する。そして同時に南側の人間が倒れたことで上がった悲鳴が彼らを混乱させた

その様子を遠目から見ていた騎士達は一瞬何が起きたのか分からなかったが、それが間違いなく禁書目録の手によるものだと判断するのに時間はかからなかった

橋の上で混乱する人間の何人かが、つまり彼女の壁となっていた何名かが、その場所から逃げた

禁書目録を守る壁に穴が空いた。その時を逃すほど騎士たちは馬鹿では無い

空いた空間を縫って、禁書目録であると確信が持てた少女へとロビンフットを放つ

アウトレンジから来るこの攻撃は、来ると分かっていても今の彼女では防ぐことが出来ない

危機を察知して伏せた彼女の頭上を掠めて、手すりに飛翔体が激突する

それを見て、動揺していた市民が禁書目録の付近からますます離れる

結果、彼女を守るのは手すりのみ。しかしこの手すり、殆ど壁になる部分が無い

事実上橋のど真ん中で彼女を守る物は無くなった

そこへ容赦なくロビンフットの矢のようなものが飛来する。騎士達は殺したと確信していた

しかし、その飛翔物が禁書目録へ直撃する直前に炎が禁書目録の周りを覆う様に現れ、その炎がまるで固い金属の壁の様にロビンフットの飛翔物を弾く

その光景に騎士たちが一瞬呆けた僅かな時間に、その炎の渦の中へ飛び込む人間が居た

「どうやら無事なようだね」

渦の中に飛び入った男は後ろで束ねた髪を解きながら、禁書目録を見つつ、汗を拭う

禁書「……ステイル、ッマグヌス、制御者、に、ヨリ味方to既定されている為、Soの様に判断しま、す」

正常とは言えない口の動き方と足取り、そして癒えてはいるが肩周辺の血を見て、ステイルの表情はどうしても固くなる

フラッと倒れかかってきた少女を両腕で胸元へ抱きあげ、行く先へ目を向ける

目的の場所、セント・ポール大聖堂は目の前だ
676 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:19:57.25 ID:JHlcOiUP

テッラ「これはまた随分と派手にやったものですねー」

1km程度向こうで上がっている炎を眺めている

このセント・ポール大聖堂のアン女王の像の前の広場には彼以外にも多くの人が居る

大抵は同じように上がっている炎と煙を見ている人々で、口周り以外特に目立つ格好では無いテッラへ興味を持った人間はいなかった

テッラ「さて、そろそろ準備をするべきではないですかねー?」

携帯電話に向けて話すと、言葉が返ってきた

フィアンマ『何をするのか分かっているのか?』

テッラ「ここへ禁書目録呼ぼうとしている時点で大体察しはつきますが、一応、確認ついでに聞いておきましょうか」

フィアンマ『分かった。なら説明しよう。ローマ以外を邪険に思ってるお前が気に入ってるそこの聖堂は、バチカンが推奨したバロック建築様式だ』

テッラ「バロック調は美しいですよねー。ドームといい、柱といい」

作業をしつつ、見上げた聖堂。彼は若干うっとりとした表情を作った

フィアンマ『お前の趣味はどうでもいいが、つまり言ってしまえばローマ正教の教会と変わらない。だがここを選んだのは根拠はそこではない』

テッラ「でしょうねー。それだけなら他の聖堂でも事足りる」

フィアンマ『そうだ。最大の要因はお前の目の前にある、アンという名の女王の像』

フィアンマ『スチュアート朝最後の王であるこいつの祖先は、もとをただせばフランス・ブルターニュの小貴族』

フィアンマ『ま、イギリス王家なんざ全部大陸貴族出身の血が混じってるものだ。だが、コイツがとりわけ都合がいいのは都合がいいのはこのアンの紋章が堂々とそこに刻まれている事』

フィアンア『大陸で生まれた建築様式の聖堂に、大陸を意味する獅子のシンボル、そしてフランス出身の血縁。これらを誇張して集合させ、移動術式を組み上げれば』

フィアンマ『今俺様が居る、ブルターニュ地方ナントにある、同じ名前を冠したサン・ポール大聖堂への移動術式の完成というわけだ』

テッラ「想像通りでしたねー。あなたと話しをしている間に、こちらの準備は出来てしまいましたよ」

フィアンマ『こっちの準備も出来てる。後は禁書目録とステイルとやらが来るまで待つばかりだ』

テッラ「それは良かった。来ましたよ、彼ら。たくさんのイギリス騎士共を連れて、ねー」

フィアンマ『そうか。不完全なお前は今戦える状態ではない。とっとと禁書目録達を連れてこっちへ来い』

テッラ「了解です」
677 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:20:28.00 ID:JHlcOiUP
ステイル「優先する!!―――――水を下位に、炎を上位に!」

ステイルが身を守る為に周りに展開していた炎を消すべく、騎士たちはテムズ川の潤沢な水を使った水柱を水平に伸ばす

しかしそれは彼が叫んだ後、炎の盾を消すどころか弾き返され、コンクリートの壁に向けてバケツに入った水をぶちまけた様に辺りに散るばかりだ

逃げるステイルの方も、禁書目録を抱えて走っている事、粗製"光の処刑"によって普段の魔術では考えられないほどに魔力を消費して、消耗していた

それでも走りを止める訳にはいかない

膝から力が抜けて体のバランスを少し崩した所で、道角からヌッと人が現れる

テッラ「無茶は良くないですねー。あなたのそれは不完全もいいところなのですから」

身構えたステイルは、一応味方のテッラであることに安堵する

そして男二人と抱えられた少女は聖堂に向かって再び走りだした

テッラ「禁書目録を抱えるのは厳しそうですが、代わりましょうか」

そのテッラの発言には、厳しい顔で応えた

ステイル「お断りだ。僕は君たちを信頼している訳ではないからね。むしろ迎撃を手伝って欲しいところだ」

テッラ「それは残念ながら無理ですねー。不完全な私ですから、今は移動術式に特化しているのですよ」

ステイル「なら何をしに出迎えたんだお前は!?」

言いながらもステイルは炎で騎士たちの攻撃を防ぐために、光の処刑による優先順位の変更を使って消耗する

本来ローマ正教の神の右席の構成員となった者だけが扱う事が出来るこの術式を、あるトリックを使ってイギリス清教の聖人でも無い一魔術師が使用している訳だが

厳しい制約をすることで消費を抑えているとはいえ、それでも当然、それに使われる魔力と呼ばれるエネルギーの消費は彼の扱う炎の術式の比では無く

ステイル(不味いね。あと200mかそこらだっていうのに、そこまで僕では燃料的に守りきれそうにない。あと3回違う種類の術式が来たら)

一々防御対象を切り替えければならないという扱い難さを抱えたこの術式は、巨大な魔力消費とも相なって彼を追い詰める

水柱の攻撃をあきらめて、騎士団は違う魔術によって攻撃を切り替えた
678 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:20:57.00 ID:JHlcOiUP

雷を防ぎ、追跡型の飛来する刃を防ぎ、ロビンフットの狙撃を防ぐ

ステイル(……ガス欠だっ)

ガクンと足の運ぶスピードが落ちたのを見て、テッラはそれに合わせる

ステイル「すまない。少し厳しくなった。もうじき周りの炎も消え失せる」

テッラ「見れば分かります。仕方が有りませんねー」

ポケットから袋を取り出すと、テッラはその中身をぶちまけた

その小麦が少し先の道路で術式陣を描く

テッラ「言ったでしょう?移動術式に特化したと。一般的な魔術を使うなんてとても久しぶりですが、どうせこのあともそれを使うんです。一度練習をさせてもらいますねー」

テッラの言葉を聞き、のろのろと進む。炎の障壁は消え去ってしまい、ここぞとばかりに騎士たちが放つ魔術が迫る

男二人が小麦によって描かれた陣の上に乗る

狙っていた矢じりやら水柱やらナイフやらが、目標を失って消えた彼らが居た場所の空を切った

ステイルとテッラが現れたのは、僅か100m弱程先のアン女王の像がある広場

急に現れた彼らに対して周辺の人間は驚いたが、そんなことは当の本人たちは気にしない

テッラ「ふむ。案外うまく行きましたねー」

ステイル「それで、目的の聖堂に付いたがどうするんだ?」

テッラ「ああ、言い忘れていましたねー。フランスへ行くんですよ」

ステイル「フランスに?聞いてないぞ」

テッラ「ですが、このままイギリスに潜伏出来る状態ではないでしょう?あなたも、その胸で抱いている小娘も」

後ろから、聖堂内から、周囲から騎士や魔術師がわらわらと現れる

ステイル「……そうだね。悩んでいる時間は無さそうだ」
679 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:21:26.77 ID:JHlcOiUP

日本時間の深夜2時

フレンダ「この病院を襲う敵なんて誰も来ないわけよ」

病院の玄関そばの茂みに身を隠していたフレンダは呟いた

そして、ふわぁーと声を出してあくびをする

「眠そうね」

玄関から声がした。ゴーグルを外して見上げると、僅かな光源でも誰なのか判断できた

フレ「麦野? そりゃー眠くないって言ったらウソになるわけよ。ずっと監視しっぱなしだし、ここしばらくはおかしな輩も来ないし」

麦野「そ。眠いなら代わってあげようか?」

フレ「え、いいの?! 是非オッケーってか取り消しは聞かないわけよ?!」

麦野「別にいいわよ。私は今まで寝てたしね。どうせ敵も来ないんでしょ?」

フレ「うんうん来ない来ない。ってことでお任せ致しますです。やっと休憩だーっ」

言って、フレンダは左腕の麻酔銃が内臓されたガジェットアームを取り外しながら病院の玄関へ入っていった

麦野「お疲れさま、フレンダ」

完全に病院内に少女が入ったのを見届けて、麦野は呟いた

麦野(まだ帰ってこない第三位が気になって代わったとは言えないっての)

病院の玄関に有る段差に腰掛けて、持ってきた温かい飲料に口を付ける

麦野「…ん、ん……ぷは。ちょっと寒い。毛布でも引っ張ってくるべきだったかな」

麦野(そりゃ第三位の御坂美琴一人じゃ、どっかおかしい佐天涙子には勝てなかったかも知れないけどさー)

まだ生きているだろうか

麦野(もし朝まで帰ってこなかったら、死体が転がってるかも知れないし、あの理事員が居た施設に行ってみようか)

入っている液体を中でくるくる回すように缶を片手で何気なく振る

開始して10分も経ってないが、フレンダの言う通り誰かが来る様子も無い
680 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:21:56.23 ID:JHlcOiUP

そんなことをしていたら、病院の中からコツコツと音が近づいて来た

振り返ると、一方通行が立っている

暗さの為か表情は良く見えなかった

麦野「目、覚めたんだ」

一方「ンあァ。ったくよォ、狙う相手を見極めろってあのフレンダとか言うのに言っといてくれよな」

麦野「そんなもの、あんたが直接言えばいいじゃない」

一方「言おうと思ったが、眠そうに目を擦ってるヤツに言うのはどうかと思ってなァ」

麦野「ふぅん。案外普通の事を言うんだ」

一方「お前、俺をなンだと思ってンだ」

麦野「研究の為とはいっても、ただひたすらに殺人を繰り返して1万人も殺した奴だからね。もっとイッちゃってると思ってたわ」

一方「………ァあ、そうかよ」

沈黙がしばらく流れる

麦野「そう言えば、なんでフレンダの麻酔弾なんて食らったの? 実弾なら死んでたわよ。気の抜きすぎにしても、第1位にしては酷いんじゃない?」

一方「そいつは……」

そして再び少し間が有った

一方「……第4位の麦野さンはよォ、無力を感じたことはねェのか?」

麦野「ハァ? いきなりね。無力かぁ。万能なベクトル操作なんて能力者の第一位が言うと嫌味に聞こえるんですけど?」

一方通行の方を見える。表情は暗くてよく見えないが、馬鹿にしたい訳ではないようだ

麦野「ハァー。無力を感じるなんて、良くあることよ。特にここ数日はそんなことの繰り返し。今日もそうだったし」

一方「そうか」

麦野「なにがあったのか知らないけど、あんたの能力がどんなに万能でも出来ないことはあるでしょ」

一方「まぁ、そうなンだけどよォ。……なァ、お前は」
681 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:22:26.44 ID:JHlcOiUP

麦野「んー?」

一方「お前にはこれだけは譲れない、守り抜きたいって信念とかそういうの、あンのか」

麦野「そうね。あるって言えばあるし、無いって言えば無いかな」

一方「どういう事だ?」

麦野「つまりね、結局どんなにそれを守りたいと思う物やことが有っても、自分にできる範囲や限界を超えるようなことになったら出来ないじゃない」

麦野「それにしがみついたところで、その限界を超える事が出来るわけじゃないし。出来る範囲で考えて行動するしかできないでしょ」

麦野「それこそ、生まれ変わるとかしない限りね。勿論そんなことは人間には出来ない。結局、完全に自分を変えることなんて出来ないの」

麦野「私達が他の人間から見れば化け物であるのと同じでさ、馬鹿な奴は馬鹿だし、無能な奴はどうあっても無能。どんな奴でも出来る範囲の事をする事しかできない」

麦野「どんだけあんたが凄い能力持ってて凄い頭脳を持っててもそれは同じ。出来る範囲を変えることは出来ないのよ」

麦野(偉そうに言ってるけど、私も最近になって痛感してる事なんだけどね)

一方「どんなことが有っても、変われない、出来ないことは出来ないっていいたいンだな?」

麦野「そうよ。でもね、一人じゃ出来ないことでも、二人居れば出来るかも知れない。三人寄れば、なんて言葉が有るけど、あながち間違っちゃいないのよ。一人じゃ囮もできないし」

一方「その為の仲間ってか。でもンなもン裏切るかもしれねェだろ」

麦野「そうね。絹旗やフレンダだって裏切るかもしれない。でも裏切るまでは信用できるでしょ?」

一方「死ンだ後に気付かされちゃ意味無いだろォが」

麦野「あんたも馬鹿ね。裏切らせない様にするのが重要なのよ。裏切り目的で入ってきた奴が居ても、そいつを逆に取り込んじまえば裏切られたのは敵の方になる。もちろん、その時には拷問だの色仕掛けだのいろいろ方法が有るけど」

一方「そりゃ、そうだろうけどよ」

麦野「はぁー。あんたには居ないの?信頼とか信用とか出来る人間ってのは」

一方「……居ないわけじゃねェが、そいつは用があるとか言って、近くには居ない」

麦野「ふぅん。そう」

三度目の沈黙。しかし破ったのは一方通行だった

一方「お前も言った通り、1万人の妹達を殺したのは俺なンだ。誰かを守るとか守らないとか以前に、結局俺には殺す事しかできねェってのも分かっちまった」
682 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/12/26(日) 08:22:56.56 ID:JHlcOiUP

一方「そンな奴が誰かを守るには、裏切らないような関係の人間が必要なんだろ? だがンな奴は、俺には、少なくとも身近には居ねェンだよ」

一方「今更隠すつもりはねェけど、俺は打ち止めを達、生き残った妹達やそいつらを囲む奴らを守りてェって気持ちはある」

一方「だが俺には人を守るどころか、殺す事しか。黄泉川も打ち止めも守れず、生き残った妹達も守るどころか巻き込んで殺しちまった」

麦野はここで少し、ん? と疑問符が浮かんだ

一方「そンな絶望的な状況すらもアイツは、上条当麻は変えやがった。まるで時間を巻き戻したみたいな方法で」

一方「アイツだけは信用できる。いや、裏切られても信頼したいンだ。アイツさえいれば、俺に出来ない事を、やるべき事を示してくれる。そう思いたい」

一方「そんなアイツすら俺の側に居ない。ンでもって俺はさっき目の前で黄泉川が死ぬのをどうしようもなかった」

知らない人物の話は出るわ、ワケの分からない事を言うわで、麦野には言っている事が具体的には掴み切れなかった

ただそれが逆に、一方通行が一番伝えたいことを掴めさせた

一方「駄目なンだよ。俺は頼れる奴も信頼できるような奴もいない。そンな人間関係を作る方法も知らねェ」

一方「こういうとき、一体俺はどうすりゃいいンだ? 学園都市最強だろうが最高の頭脳があろうが、そンなことも、分からない」

体は外へ向けたまま階段に座ったままで、横で立っている一方通行の方を見ると、やっぱり弱弱しい。見た目が筋肉隆々としている訳でも無いことが、尚更今の彼を弱く見せた

そしてそれ以上は、最早彼が何を言っているのかも分からなかった

麦野「……はぁー。子供ね、あんた」

言って、麦野は立ちあがり、正面から一方通行を抱きしめた

それは、一方通行に目の前で死んだ黄泉川が冗談で抱きついてきた時を思い出させ、目を熱くさせる

麦野「ガキもガキ、小学生に入る前の幼稚園児よ。研究ばっかりでそういうトコが成長しなかったのね」

麦野「いい? 今のあんたの感情が、心細いとか、寂しいとか、不安とかって言うの」

少し抱きつく力を強くする麦野。一方通行の耳に直接ではなく、彼の背中、首筋に向かって優しく語りかけるように言った

麦野「ま、名前なんかどうでもいいわ。それを取り除くにはこうして、誰かに甘えればいいのよ。そうやって、少しでもいいからちょっとずつ自分を落ち着かせてあげるの」

麦野「あの打ち止めちゃんだってあんたにこうして抱きつくでしょ? 同じことなのよ。あの子はそれが分かっているだけ、あなたよりは大人ね」

麦野「何が言いたいのかよくわかんないけど、あんたがどうしようもなく気落ちしてるってのは分かった。そして、誰かに寄りかかりたいのにそれすら出来ないこともね」
683 :本日分(ry どうしてこうなった? [saga]:2010/12/26(日) 08:23:29.47 ID:JHlcOiUP

片手を一方通行の頭へ持っていき、撫でてやる

麦野「それを私に漏らした以上、見捨てるほど冷たくは無いわ。あんたに信頼できて甘える相手が居ないってんなら、私がその役をしてあげる」

麦野「……まだ10代の子供なんだから、年上に甘えていいのよ」

両者とも無言のまま、時間がしばらく流れて、そして一方通行の声を押し殺した呻き声は止まった

一方「……すまねェ。取り乱した」

麦野を引き離して、目元を手で擦る。赤かった目がますます赤くなったが、暗くて麦野には見えない

麦野「あら、もっと撫で撫でしてあげても全然良かったのよ?」

落ち着いたのが見て取れたので、麦野は口調をいつものように戻した

一方「そ、そンなに年も離れてねェのに大人ぶるなってンだよ」

麦野「少なくともあんたよりはお姉さん。それに私は少し寒いなーって思ってたところに丁度あんたが来たから、抱きついて少し熱を分けて貰っただけよ?」

一方「……ってことは、一時の暖の為にお前はあンなこと言ったのか」

麦野「フフッ、冗談。モチロン暖かい何かが欲しかったってのは有るけど………私だって少しは人肌に触れたい時ってあんの」

麦野「だから安心しなさい。あんたが甘えたいって言ったらちゃんと相手してあげるから」

余裕の笑みを浮かべる麦野に、気恥ずかしくて面と向かって顔を向けることが出来ない一方通行は

一方「し、妹達の様子を見てくる」

と言い残して病院内に戻った。こういうのは、人生経験というキャリアの差なのだろう

麦野「あーぁ、カイロ代わりが行っちゃった。って、毛布持ってきてって言えば良かったわ。面倒だけど、はぁ、自分で持ってくるか」

夜明けはまだ遠い
684 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 09:20:16.17 ID:r6zyw0.o
あれ……上麦じゃなかった……
685 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 09:21:00.34 ID:XuVolqIo
やっべえ・・・むぎのんに死亡フラグが立ったようにしか見えねえ・・・
686 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 11:00:30.93 ID:/RDCoREo
最近SSのしずりんが多方面にわたって別の意味で天使化しまくってる
687 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 12:07:39.57 ID:VI1dlIDO
つか美琴どうなったんだ?
688 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 21:52:24.00 ID:ge33CESO
佐天さんが能力をコピー出来てるから死んではいないはず
生きてるとは言えない状態かもしれないけど
689 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/26(日) 22:33:06.88 ID:sdQmmc20
佐天さんに体ごと吸収されちゃったんじゃね?
690 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 01:02:16.53 ID:jD8V2q.o
マジで魔人ブウだな
691 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/27(月) 10:27:11.56 ID:GxhcTmEo
最近この続きが以上に見たくなってる自分がいる
692 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:33:47.35 ID:rHC7QPUo
ドバイ国際空港のロビーで刀夜が旅掛に渡した、若干変に皺が入った新聞には、世界各国でほぼ同時に起きる災害と、謎の人形物体による大規模破壊の記事が並んでいた

その中の一つに、日本のとある地方の記事も有る

そこは、刀夜や旅掛のパートナーが住む地名であり、その画像は御坂旅掛にショックを与えるには十分だった

提供に米政府と端に書かれたその画像は、彼女らが住む場所を含んだほぼ全てが核爆発でもあったかのような廃墟の山となっている

これに似たような写真を旅掛は既に見ている。それはロサンゼルスのものだったり、他の都市だったりであったが、それと殆ど同じような光景だった

記事に書かれた襲撃時間はまさに先日美鈴と会話をした時間

彼女が何故あのような電話をしたのか、その心情が伝わり、そして何より彼女を失ってしまった事実が、彼の心を真っ黒に染め広げていく

新聞のその記事から目をまるで動かさず、彼はソファの背もたれに身を預けた

刀夜は立ちあがって、手すりに身を預けてガラス張りの壁面からじっと屋外で離発着をする旅客機を眺め

それと殆ど似たような光景を、つまり上条刀夜がそうなっていたのを、一度見ている田中は刀夜からも旅掛からも視線を外して、立ちつくすばかり

痙攣するように僅かに震える旅掛の腕は、ある瞬間、グシャッと記事を新聞ごと強く握り潰す

刀夜から旅掛へ手渡された時、既におかしな皺が入っていたのは、過去に刀夜が一度同じ事をしたからだろうか

しばらく目を閉じたまま新聞を握りながら震えていた旅掛だったが

その心の中、黒く染まったその色から、激情や怒情そして温かさを表す赤銅色が抜けていく

残ったのは紫に近いマリンブルー、その一色

冷静さを取り戻し、表情はすこし硬さが残るが徐々に戻っていく

それが逆に田中の目には、寂しさや哀れさとして色濃く見えた

上条刀夜が機を見計らった様にゆっくり振り向くと、御坂旅掛が少し力が籠った目で刀夜を見ている

彼らが表に隠れて住まう世界は、元より親しい者が簡単に逝ってしまう業界だ

ただ、御坂旅掛はフリーエージェントとして単独行動時間が長く、上条刀夜もまた過去の事と、組織内での脅威を孕んだ視線の為に、形式上大きな抗争を扱う部署では無い所に長く居た

つまり両者にとって長らく忘れていた感覚ではあるが、しかし何度も立ち直った経験を持つ彼らは、特に御坂夫妻の件で両者ともに共通の同僚や部下を一度に多く失った共通の経験を持つ彼らは、自らを徹底的に管理する

本来とても悲しい事であり、比較的安全な部署に居る上条刀夜の下の若輩な田中には、その立ち直りの早さがとても特異に見えた

旅掛「……上条さん。ここじゃ多くを話せない。場所は用意してますから、そっちへ行きましょう」

刀夜「あぁ、そうだね」

田中は、静かに淡々と会話する二人の背中に付いて行くしかなかった
693 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:34:35.14 ID:rHC7QPUo
フィアンマ「良く来たな、ステイル=マグヌス。俺様はお前を歓迎しよう」

イギリスとフランスの同盟教会を結ぶ空間移動術式によってサン・ポール大聖堂の聖堂内に現れたテッラ・ステイル・禁書目録の三人

そんな彼らを囲むように、恐らくローマ正教所属のシスターや魔術師が刃や杖などの霊装を向けている

ステイル「本当に大歓迎、だね。うんざりするよ」

ルーンの入ったカードを取り出して若干の抵抗の意思を見せるが、非常に消耗していることもあり、分が悪いというレベルではない

テッラは構わずにその包囲の中へ進み、他の部屋へ

禁書目録はフラフラと体を揺らしながら同じ様に包囲の中へ進むと、あらかじめ用意されていた特殊な装飾を施された可動式のベッドに乗せられて、回復専門の魔術を扱うであろう人間と共に聖堂を出ていった

残るのは当然、ステイル一人である

フィアンマ「俺様は歓迎しているのだがな、ローマの人間にとっては敵であることに変わりは無い」

ステイル「……役目を果たした僕はここで始末する、ということだね」

フィアンマ「急くなよ? 俺様は別にそうするつもりは無い。歓迎すると言っただろ?」

フィアンマ「ローマ正教流の形式儀礼みたいなものだ。お前の立場を簡潔に知らしめるためのな」

ステイル「そっちが何かしてこない限り、僕も抵抗するつもりは無い。……禁書目録が完全にそっちの手に有る以上ね」

フィアンマ「それでいい。良く分かっている様だ」

ステイルの正面、聖堂の最奥にある十字架の前に立つフィアンマが片手を小さく振って合図すると、取り囲んでいた魔術師たちは武器を下げた

それを見てステイルもルーンの入ったカードをしまう

一人の魔術師が近づいて、両手を差し出した。恐らく持っている荷物、変装に使った衣類などが入っている鞄を預かろうというのだろう

特別な何かが入っている訳ではないが、フィアンマ側からすれば特殊な霊装の一つでも入っているかもしれない

そのバッグがフィアンマの前に運ばれる

結局のところ武器は下ろしたが、警戒はされているのだ

場慣れしているステイルには、周りの人間がどういう思考を持っているのか簡単に想像できた

ステイル「屈辱だが、フィアンマ。お前が言うならば、僕はここでローマ正教の洗礼すら受けるさ」
694 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:35:20.62 ID:rHC7QPUo
フィアンマ「ほう。折角の喜ばしい申し出と潔さだが、そこまでする必要は無い。もし仮にそんなことをしたらステイル、今のお前の性質である折角の神の薬(ラファエル)が失うことになるからな」

ステイル「扱いにくいコレが無くなることには、僕は別に何の未練も無いね」

フィアンマ「扱い難いのは仕方が無いことだ。粗製な上に急造なのだからな。本来なら天使の性質を付与させる術式はローマ正教の専売特許な上、その方法もローマ正教徒のみに限定されていたもの」

ステイル「歯がゆい事だけど、そのことについてはイギリス清教徒である僕も痛感していることだ。敵である君達のそれを脅威と認識したからこそ、模倣し弱点を調べる為に、テッラの死体を標本としていたのだからね」

フィアンマ「その解析の末に出来あがった、対策なのだろうな。この俺様を相手にする為にローマとイギリス、この両者の差を利用した術式を、ローラとか言ったか、あの女が俺様に使って追い詰めようとしてきたぞ」

ステイル「お前がこうしてここに居るという時点で、それが失敗に終わったのだと落胆させられるけどね」

フィアンマ「ま、俺様でなく、他の右席の連中なら詰んでいただろうな。その術式構成があんまりにも良くできていたから、利用してやった」

フィアンマ「それがお前だ、ステイル=マグヌス。あの女が組み込んだ宗派間の差を利用して、お前の、イギリス正教のラファエルの属性は火。お前にとってその方が都合はいいハズだ。何、元々属性には狂いが生じているから、術式行使には問題など無い」

ステイル「だが、粗製なんだろう? 負担ばかり強いられるよ、コレには」

自分の胸へ親指を向けて、数回叩いた。少し顔が歪む

フィアンマ「それはそうだ。元よりローマの代物だった内容を強引に書き換えて、更には、ズレが生じた属性をもう一度ズラしたのだからな。与えられる魔翌力補助も弱い上、光の処刑の使用条件として片側は炎でなければならない」

フィアンマ「ラファエルの性質を扱う分には不向きだが、しかし、悪事ばかりではないぞ。"原罪"に含まれる"知恵の果実"まで薄めて天使に近づける本来の天使性質付与では、一般魔術は使えなくなる。だが、不完全なお前の"ラファエルの奇形"はそこまで制限を加えない。結論だけ言えば、魔翌力の補助は得られない代わりに、知っている魔術を使えるということだ。その上、切り札として魔翌力消費が大きい代わりに強力な"光の処刑"も使える」

フィアンマ「これ以上の好待遇は無いと思うがな。ご当人はどう思う?」

ステイル「……フン。好待遇であればある程、より大きな見返りを求めているという魂胆も、簡単に透けて見えるということだ」

フィアンマ「わかっているなら、仕事の依頼に移って……ん?なんだこれは」

ステイルの変装用衣類が詰った鞄を物色していると、一枚のメモ。表面にはアダルトな印刷がなされ、そしてペンで英国人の名前などが書かれている

あの時捜査協力のお礼として貰った紙なのだが、ステイル自身、その存在を忘れていた

フィアンマ「これはこれは、イギリスの魔術師は甚く世俗的なのだな」

そのビラを右手でヒラヒラとさせると、ステイルの頬が若干染まる

敵とは言え、衆人環視の状況でのコレは恥ずかしいものだろう

フィアンマ「教会的には御法度だが、ま、悪いものではないだろうな」

フィアンマ「ん? そう言えば、お前は未成年だったよな? 背伸びしたい年頃なのだろうが、14歳には刺激が強過ぎると思うぞ」
695 :このレス会話が無いな [sage]:2010/12/31(金) 05:36:31.69 ID:rHC7QPUo
アメリカ時間の正午、日本時間では朝の4時である。世界中の報道機関を前にしてアメリカ大統領による声明が行われた

わざわざ神に対して内容に偽りがないということを宣誓して始まった会見なのだが

注目が集まった大統領の口から漏れた言葉は、明らかに異常事態を迎えている全世界を驚かせ、同時に仮初の説明を与えた

発表した声明は以下の点。現状が如何に絶望的であるのかを端的に示していた

1.世界中で大規模災害が頻発していること

それらは改善どころか悪化し、地殻レベルで地球が急速に変形を始めていること

2.人の形をした何かが人の住む場所に現れてはすべてを破壊していること

彼らは何の目的があってそんなことをしているのか不明であるということ

3.地球に恐竜を絶滅させた主因とされる隕石と同規模のものを含む大岩石群が近づきつつあると言うこと

その接近によってスペース[ピザ]リ迎撃性能を持つ衛星を含んだあらゆる衛星システムの大半が壊れるであろうと言うこと

このような大統領の口から出る絶望的な表現と内容は、記者の顔を青く染めていった

そして各種報道機関による映像・気象や海流、地殻変動に関するデータ・監視衛星による地球内外の様子が報道機関の前で発表され、そのデータが報道機関に配布される

その中身には、本来ならばたった一人の少女による人為的な行為の帰結である学園都市第一学区で起きた核炉心の暴走が、光と衝撃を放つ人形によるものとして分類され、半ば隠しきれていなかったそれは違う形で世界に漏れることになった

しかし、絶望的な映像はその学園都市の件から性格を変える

つまり、あの学園都市ですら守れなかった、ではなく

あの学園都市の技術があれば、ロサンゼルスのように人形に破壊された他の都市のようにはならず、あの程度のもので抑えることが出来たのだ、という印象を与えるように扱われていた

そして、それに比類し上回ると強調されたアメリカによって独自開発された駆動鎧が、フォートワースに現れた5つの人形の撃退に成功した動画が流される

圧倒的な高性能によって敵を制したという映像には、本来の立役者である垣根提督や神裂火織の姿は意図的に入っていなかった

大統領が提示した希望はそれだけではない

次に映されたのはCGによるシミュレーション映像だった

マントルとプレートが大きく変異を続け、その影響によって噴火を始めとするあらゆる方法で地形が変化し海流・気流にも影響を与え、未曾有の大災害となることが表示されていたが、その大変化の時期さえ乗り切ってしまえば、大地の落ち着きは戻ると示されていた

つまり、危険な場所を避けて非難をすることで、生き残ることが出来るということだ
696 :>>691 ほ、褒めても出るのは死人だけなんだからねっ……//// [saga]:2010/12/31(金) 05:38:18.31 ID:rHC7QPUo
地球外部からの隕石群についても、核ミサイルをはじめとして地面を砕く為に使用されるミサイルや兵器を使用することですべて迎撃をすることが出来ると描かれていた

それには前提条件として、大国や諸地域連合の持つすべての戦略・戦術兵器を迎撃の為に拠出する必要があり、人類の存亡を賭けて"我がアメリカを中心に"世界がまとまらなくてはならないと強調されている

そのためには当然学園都市の技術も必要であり、すでに交渉中で、好感触であると大統領は明言した

大統領はもう一度大きく口を開いて宣言する

「あるのは絶望だけではありません。とてもわずかな希望であるが、世界が一丸となることで乗り切ることが出来るのです」

「今回の発表で絶望しきってしまい、気が触れて非科学的な運命論を述べる勢力もあるでしょう。しかし、我々に残された時間は短いのです」

「そのわずかな時間には、そのようなおかしな言葉に耳を傾ける暇などありません。わずかな時間を最大限利用して生き残る為に、統一された私の言葉の下にまとまる必要があります」

「私の声が、言葉が正しいと思う皆さんを守る為に、わがアメリカ合衆国はあらゆることをすると、ここに約束します!!」

まず最初の歓声が大きく漏れた

「そして、ここから少し、人類と言うものに対する私の考えを表明したい。人類、そう我々には神によって与えられた知恵があります」

「神が人類と言う種族にこのような知恵を与えた理由は、このような危機にすら自らの力によって打ち勝ち、生き残る為であると私は思います」

「人の知恵、人の理性は戦うことをももたらすかもしれない。しかし、共存の為に同じ目標の下に集合し、達成させることも出来ると私は確信しています」

「人種差別や宗教による隔たり、歴史による憎み合いは未だに存在します。しかしだからといって、この確信が完全否定されることになるでしょうか?! 人類の英知はそこまで底の浅いものなのでしょうか?!」

「否と!! 私は間違っていないと証明したい!!しかし、それは私一人で出来ることではありません。私の声を聞く人々の協力なしでは絵空事にすぎません。私はこのまま絵空事で終わらせたくはない!」

「皆さん、私は証明したいのです。それにはなんら難しい数式も専門用語も必要ありません。ただ生き残ればよいのです!」

「絶望に足掻き生き残り、私のこの確信が間違っていないことを、一つに集まった全人類の手によって証明しようではありませんか!!」

サクラの手によって端を発した大きな拍手が、記者らがメモを取ることすら忘れさせた

その熱い光景は、彼らの記事によって未だ局所的な絶望が世界中に拡散させることになるが、同時に小さく輝きながら現れた希望も拡がるだろう

熱い宣言を終えて大統領が下がっていく

激しい拍手が鳴り響く中で他の記者と遜色ないレベルのスーツを着た若い男も、表面的には同じような顔を浮かべ同じように拍手していた

ただ、その内面の顔は全く異なっている

垣根(たいした役者じゃねえか。こうなるように周到に準備されたもんだが、上出来の結果ってやつだろーな)
697 :>>695修正 スペース[ピザ]リ⇒スペースデブリ [sage]:2010/12/31(金) 05:40:57.07 ID:rHC7QPUo
(ああ。彼は時代のリーダーとして、歴史に名を残す名演説をしてくれた。だが君は少し不満があるようだね。そんなに自分の活躍をカットされたのが気に食わないのかな?)

垣根(ま、そりゃ確かにあんだけボロボロにされてようやく撃退できたってのに、そこが丸々無いってのは、すこしイラッとさせられる)

垣根(だが、んなことは吐き捨てる唾よりも価値がねぇよ。俺はそんなに小さくないぜ)

(ほう。ではどうしてだい?)

垣根(見え透いてるって言いてぇんだよ。内情を知ってるってことも関係してんだろうが)

垣根(まず第一に、学園都市と交渉してて良好だ、なんてのは学園都市勢を追い詰める為のブラフだろうからな。学園都市の連中が最初からこのことを知っているならば、何らかの対策を始動させてるだろう)

垣根(あの何を考えているのか分からないアレイスターは置いといても、その下の統括理事会の連中は保身の為にまず間違いなく動く。だが、それがないどころか、どっかの誰かさんが引き起こした内紛でそれどころじゃないってのが現状だ。こちら側の勢力を吹っかけるのは容易だろうが、とても学園都市全般として交渉できる状況じゃねえ)

垣根(あれは、維持に大量の輸入に頼ってる学園都市を国際的に孤立させたくなけりゃ、我がアメリカに従うことだって公式的な脅しに映るだろうさ)

(90%正解だな。そして先生から口ぞえをするなら、すでに未来化改修後の第7艦隊が学園都市実行支配をする為に進行中で、それを軍事的な脅威ではなくそういう協力交渉の下で送っているというメッセージでもある)

垣根(そんなところなんだろうな。だが、アメリカ中心主義に今更どうこう言うつもりもねぇし、根本的に信用できないシミュレーションは最初から眼中に無い。それよりもなぜ地球がおかしな動きをするのか、なぜあの天使崩れ共が襲ってくるのか理由を示しやしないのがな)

垣根(後者については宗教と魔術が絡んでくるから発表できないってのは分かるが、適当な理由付けは出来たんじゃねえのか? 怪しいぜ、その辺がよ)

(そうだね。脅威的な宇宙人が現れた、なんていったらSF好きは興奮するかもしれない。端的に言えば、メンツを立たせてあげたと言うべきかな)

垣根(メンツだぁ?)

(そうだよ、メンツだ。魔術サイド、つまりローマ正教なんかの人間達の為さ。こっちが先に宇宙人だなんていったものを、私達の信仰の天使です、なんて言い難いだろう?)

垣根(……あ? 何が言いてぇんだ? 宗教サイドが天使と言って肯定するなら、それを倒すなんて言う俺らは敵になるだろ。敵のメンツなんざむしろ汚してしまうべきじゃねえのか)

垣根(敵になるって分かっているから、大統領も時間が無いって言い訳して宗教家の話を聞くなって暗喩したんだろーし、矛盾するぜ?)

(いや、これで正しいのさ。宗教サイドに付くのか、我々アメリカサイドに付くのか人類すべてを篩にかけるという意味では、何ら間違ってはいないよ)

(彼の言ったとおり、我々には時間が無いからね。我々に協力し、守られたいと言う者しか手を伸ばせないのが現実だ。人類すべてを救えたら、それはとてもよいことだろうが、時間的にも規模的にも難しい。同じように、宗教に熱心ではない、裁きなんて真っ平ご免な人々を全員無条件に守れる状態でもない)

(だから宗教サイドは宗教サイドに任せるのだよ。もちろんそれで宗教サイドと我々が戦うことになるかもしれないが、それはそれだ。我々は、我々自身と我々が守る人々を、害を与えんとする宗教・神や天使の影響から守らなくてはならない)

(……結局、宗教と科学のどっちへ付くのか選択しろ。時間は無いぞ。それがこの声明の本音だよ)
698 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:41:57.95 ID:rHC7QPUo
旅掛「どうやら俺が言いたかったことの半分は持ってかれちまいましたよ」

用意された高層ビルの一室では、上条刀夜率いる表部署・証券取引対策室のメンバーが専用回線を用いて世界各国から各画面上に顔を表した

一種のオンライン会議に、オブザーバーとして御坂旅掛を含んだ18人のリアルな顔とバーチャルな顔が揃っている

総勢29名のメンバーが、今まで先ほど発表されたアメリカ大統領の緊急声明と、その際に配布された動画・各データを視聴していた

会見に潜り込んでいた刀夜派がもたらした情報ではあるが、すでにほとんどのメンバーが一度以上すでに見ていた内容だった

「半分とは、どういうことだ?御坂君」

欧州にいる、刀夜より少し年上の白人の男が画面越しに訪ねた

旅掛「そのままの意味、ですね。Herr.ハウスナー。残りの半分は声明会見であえて伏せたのであろう内容です」

旅掛「皆さんもご存知の通り、突如現れたあの光る人形が人々の住む上空に現れては、その場所を人間ごと廃墟にしていきます。彼らが現れることをあらかじめ予見できていた組織や人間も居たようですが、我々は残念ながら気づけず、後手に回ることになった」

旅掛「その対策の為にも我々がこうして顔を集めているわけなのですが。ここに居る上条氏も、田中君と共に命からがらロサンゼルスに現れたこの人形の破壊から脱したことはすでにご存知の方も居るでしょうし、個人的な面では、日本に居る私の妻も巻き込まれ、目下のところ音信普通です。絶望的と、私は考えています」

淡々と述べる姿では有ったが、逆にそれが悲壮感を感じさせる

oh、と小声で本当に残念そうな声が数名から漏れた。旅掛と美鈴の件を知る、当時の刀夜チームの生き残り達からだった

旅掛「奴等について、アメリカからの公式な明言は無く、今のところはただ人類の敵として分類されています」

旅掛「今後どう出るのかはわかりませんが、あの場で明言しなかった以上、何か目的でもあるのでしょう。俺が言いたいのは、彼らが何者であるのか、ということです」

旅掛「先日接触したアラブの富豪により入手し調べ上げたことですが、端的にいえば、彼らはあらゆる宗教や神話に登場する裁きの使者と見て、まず間違いないということ」

旅掛「このことに対して、イスラム教内でも何らかの動きが見え隠れしていました」

旅掛「終末思想はいかなる宗教にも存在し、確実な形で定義されて居ます。少なくともイスラムの彼らはそれにのっとって行動しています」

旅掛「大統領の言った宗教サイドの行動も恐らく、聖書をなぞる形で行われるでしょう」

旅掛「私自身、宗教や魔術と言ったものに対して疑問視していましたが、今更になって把握しているその実力・影響力は大きく、間違いありません。アメリカを中心とした抵抗勢力と宗教サイドの終末受け入れに二分されるのでは、と言うのが見解です」

旅掛「それを踏まえて、ここへ集まった同志たちも行動しなくてはならないと思われますが、何かありますか?」

「Mr.御坂、君はアメリカサイドと宗教サイドの二分を述べたが、そんなに単純化できるものなのか」

間髪入れずに声が上がった。そして他の者もそれに続く

「我々も弱小とはいえ、アメリカサイド内の一派閥であり、そのアメリカサイド内での現体制を倒すべくして集まっているんだ。同じことが宗教サイドでもいえるのでは? 本当に一枚岩なれば、協力なんかも取り付けやすいと思うが、どうか」
699 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:42:33.82 ID:rHC7QPUo
旅掛「そうですね。最近はアラブの、イスラム内の調査ばかりだったので、他宗教については言えませんが」

旅掛「少なくとも原理主義的な宗派と一般的な宗派の大別、さらには一般宗派内での各宗派によっては離合集散していると言えます。そして、必ずしも多数派が大きな力を持っているわけではない、ということもいえますね」

旅掛「その点は俺も気になってました。なので、逆に質問を返したい。バチカンやモスクワといった十字教の動きはどうなっているのです?」

「モスクワは、ロシア成教は今のところ静かなもの。ただ、政治の方に露骨なアメリカの介入が見受けられるわ」

「バチカンでは動きが有ったらしいぜ。教皇が死んだ」

パリの一室から参加している男が喋った

「こ、このタイミングで崩御だと……?!」

宗教サイドの事実上の頂点の思いがけない死に、複数から声が漏れた

多国籍な組織である上条刀夜の組織内にも世俗的程度に敬虔なカトリックがいる。漏れたのはそんな彼らからだ

「あぁ。確かな情報だ。どうやら長らく留守にしていたようで、その間に反現教皇派の工作があってな」

「死んだ教皇はこの神の裁きについて各宗教・宗派と会談をして協調路線をとろうと暗躍していたようだが、バチカンに帰ったときに暗殺されたってのが大筋だ」

「あらかじめ理由をつけて集まっていた枢機卿団が只今緊急でコンクラーベを実施中、出来レースだから明日の正午に崩御の知らせと共にサン・ピエトロから狼煙が上がって信徒に知らされるという流れになってる」

「そして選び出される新教皇はペトロ=ヨグディス。崩御なすった教皇の選出時に狼煙と共に鐘も鳴った。今回はそれを更に派手にするって話だが」

新教皇として浮かんだ名前に、先ほど言葉を漏らしたカトリックの刀夜派の一人が口を開いた

「ペトロ=ヨグディスと言ったな。Mr.上条、これは逆に都合がいいかもしれないですね」

刀夜「ほう、どうしてだい?」

「Mr.オベルトは今イタリアでしたよね」

「………っとと、ああ。運の良い事に今はたまたまローマだ。だが、市内でそんな噂は聞いてないぜ? 静かなもんだ」

「14番モニターでしたか。って後ろ、ベッド見えてますよ。裸の女性もね。あなたも変わらないですねーと言いたいですが、一応機密会議なんですよ、コレは」

助平心を持った男数名と苛立った表情をした女性がオベルトと呼ばれた男の顔が映っている画面に注目した

なるほど、女性の背中が彼の後方にある

刀夜「……オベルト君?」

チームリーダーとして、上条刀夜も流石に注意しないわけにはいかない
700 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:43:20.83 ID:rHC7QPUo

「ちょ、ちょっとだけ時計がズレてたんすよ。じ、時差ぼけかなー?あは、アハハ……」

「でも大丈夫ですから、彼女は、多分。今も…」

モニター後方、映りこんだベッドの方へ向かった。どうやらその裸の女性の様子を見たようだ

残念なのはその彼の格好で、カメラに映る上半身を綺麗に着こなした彼の下半身はボクサーパンツのみだった。その光景に、刀夜を始め数名が呆れた様な息を漏らす

「……寝てましたし。素性も一応調べて、普通の一市民であるって裏も取ってますから」

刀夜「はぁー。わかった。このまま君のそういう性質を問い詰めてもラチがあかないだろうから、話を進めよう。とりあえずオベルト、君は何かズボンを下にはくんだ」

「あい。すんません」

「では話を戻しますね。新教皇ペトロ=ヨグディスは前のマタイ=リースに比べて何らかのイデオロギーによって言動が行われるタイプの人間ではありません」

「言ってしまえば単純な故・マタイに比べ、非常に利己的な野心家で策謀家。しかし、科学嫌いの傾向は大きく、少しは親和的な考えもあった故・マタイに比べてアメリカや学園都市を毛嫌いしている」

「先の海戦で見せ付けられたアメリカ科学戦力と、先ほどの会見中の映像に含まれた旧約聖書・神の軍勢(=天使崩れ=人形)ロサンゼルス級と命名しますが、それの迎撃成功も内心苦々しく思っているでしょう」

「そこに付け入るのです。我々も一応はアメリカサイドには分類されますが、現AI支配体制への対抗馬です。敵の敵は味方なんて簡単な考えですけど、恐らくペトロ=ヨグディスは乗ってくるでしょう」

「うまくいけば、我々がCIAを、そのままアメリカを牛耳ることが出来るようになれば、ローマ正教としてはアメリカ内に影響を及ぼしやすくなる、と考えるはずですからね。協力を取り付けることぐらいは出来るでかと」

刀夜「……ふむ。この場にはいない学園都市内の協力者一名と御坂君の電話交渉もあって得た学園都市統括理事長の協力に加えて、ローマ正教の協力も加われば、確かに我々の計画も進め易くなるだろうね」

「だが、本当に上手くいくのかね? 少々都合が良過ぎると思うがな」

ニューヨークとモニター左上に書かれた人物から、当然のように反対意見もでる。都合が良すぎる、という表現は的をかなり得ていた

「それは、そこで慌ててズボンを探してるMr.オベルトにかかっていると言えますが、問題なくいけると思いますね」

刀夜「よし。ローマ正教へのアクセスはオベルト君に任せるとして、御坂君から他にはあるかね?」

旅掛「いえ、アラブ・イスラム内情からは特にありませんが、一つ」

「何かあるのか」

旅掛と同じぐらいの年代の黒人系男性から声が上がった

旅掛「ああ。少し気がかりがあるという程度なんだが、この神の裁き自体が各宗教という術式によるものだというアメリカ内部の極秘説によれば、という大前提で話を進める。聖書によると二度のラッパが吹くことになっていますね?」

「うん。その通りだね」「……間違ってはいない」

十字教徒達から即座に返答が返ってきた。他の何名かも頷いている。聖書の内容は、比較的暗号などにも使われやすく、そういう知識を常識的に持っているからだろう
701 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:43:57.01 ID:rHC7QPUo
旅掛「ありがとうございます。イスラムもユダヤも同じように描かれています。そして似たような記述がヒンズーにもあった」

旅掛「最初のラッパ=合図が破壊を呼び、最後目のラッパが神の計画の成就すなわち最後の審判を呼ぶと示されている」

旅掛「共通の旧約聖書による終末思想ゆえの共通性なのでしょうが、この第一のラッパに該当しそうなものが、まだ吹かれていない」

旅掛「今までのがお遊び程度で本格的な破壊をもたらす最初のラッパ、これはもしかすると明日の正午に行われるという新教皇選出の際にとどろく鐘や楽器なのではないか、と」

旅掛「アメリカが発表している隕石群の第一波の到来もバチカン時間の正午過ぎだから、これは偶然の合致なのかもしれないが。どう思われますか」

「偶然の合致であれば良いが」「いや、しかしここまで時間のタイミングが噛合うということは、あるいは」

刀夜「仮に本格化となれば、聖書なんかに銘を持った天使なども現れると?」

「肯定します。少なくともアメリカ内部はそれを予期しているようだ。僕の集めた手元のデータにも、仮想敵に聞いたことのある名前の天使があげられてる」

「同じくネイティブアメリカン諸宗教のシャーマンもそんなことを言っているわ。もっとも、彼らの言うことは門外漢からすればいつもそんな感じだけど。上条リーダーの指示で宗教・魔術について調べ始めたところだから、あまり多くは言えない」

「ま、それはここに居る人間の多くがそうだろうさ。魔術なんてただのオカルト程度に思っていたからな」

「ああ、否定できない。今分かるのはアメリカが裁きに対して対決姿勢を強めているということで、逆に宗教サイドの立場はまだ公表されているわけではない。恐らく、神の裁き自体を否定的なものとは捉えないだろうとは思うが」

「門外漢だった我々の予測はあてにならないぜ。安易な想像は良くない。少なくとも明日のローマ時間の正午には分かるだろうが、えっと、14時間後だな」

刀夜「14時間後、この時間が悠長に待てる時間がなのかも我々にはわからない。ただ、私達の真の目的はそれに直接左右されるわけではない」

刀夜「とりあえずこの議題の続きは、次の会議、バチカンでの発表とオベルト君の交渉結果が出た後に回そう」

刀夜「次の議題だ。南アフリカの―――」

日本時間の朝5時に始まったこの会議は、結局その後3時間経って終わった

会議の最初でCIA内・反AI主流上条刀夜派の指導者・上条刀夜から、バチカンのローマ正教にアメリカ現AI支配体制打破の為の支援を取り次ぐ交渉を頼まれたCIAエージェントのオベルトは情報をあらかた集め、フォーマルな衣類で身を固めた

同時に、シャワールームから女性が出てくる。モニターの背後で寝ていた、彼が抱いた女性だ

ローマの時間で深夜三時という時間なのだが

?「あら、あなたも出るの?」

「ちょっと用事が出来てね。"も"ってことは君もか? こんな時間に?」

?「ええ。ちょっと母が呼んでるのよ」
702 :適当にイタリア系の名前をつけた場合わせオリキャラのオベルト君はもうでてこないだろうなぁ [sage]:2010/12/31(金) 05:45:58.08 ID:rHC7QPUo
「君はイギリス人だったっけ? お母さんもかい? しかしこんな時間までよく起きてるな。向こうは今二時だろ?」

?「都市のわりには元気なの。歳には不相応な、らしくない趣味ばっかり持っているしね。今忙しいみたいなの」

「ふーん。すまない、ちょっと急いでるんだ、悪いけど君を送って行けそうにない。この部屋は向こう一週間ぐらい借りてるから、好きなタイミングで出て行ってくれ」

?「そうさせてもらうわ。行きずりの相手なんだから、私へそんなに気を払わなくていいのではなくて?」

「ただの行きずりの相手なら、ここまでしないさ。ただ、今みたいに君から自然に出る上品さとか気品が、君を大事に扱わないといけないように感じさせてね」

?「……だたのロンドンの町娘よ。そんなに持ち上げないで。なんだか恥ずかしいじゃない」

「果たして本当にただの町娘なんだか。その不思議と秘密が最高の武器だね、君の。おっと、君と話し出すと時間がいくら有っても足りない。それじゃ」

バスローブ姿で手を振って、男は部屋を出て行った

髪を拭きつつ、一人残された彼女は先ほどまで男が弄っていた端末を立ち上げる

?「魔術に対して門外漢というのは、本当のようね」

あらかじめ仕組んでおいた簡易な術式を発動させ、男がキーボードをどのタイミングでどのように叩いたのかという情報が彼女の頭に入ってくる

簡易な術式であり、少しでも魔術に関する知識があれば気づける罠だが、彼は気づかなかった

彼、オベルトと呼ばれるその男が彼女の正体に気づかなかったのとは対照的に、もっともそれは彼に流れるロマンスを求めるイタリア人気質があえて調べさせなかったというのもあるが、彼の正体が何であるか彼女は分かっていた

?「アメリカ内の、反体制組織。そんな便利そうなカードをローマだけに利用させる訳にはいかないの」

引っ張り出せそうな情報を片っ端から手持ちの記憶媒体に保存しながら、彼女は呟く

?「協力が欲しいなら、表立っては出来ないでしょうけど、私達イギリスも力を貸しましょう」

?「でもそれは、残念ながらあなたの為ではないのよ、オベルト。正体を見透かされかけたのには驚かされたけれど」

先ほどの町娘と言われても頷ける訛りを改め、ごく自然に上品で聞き取りやすいブリティッシュイングリッシュを呟く女性

データの保存と変装用の衣類の着付けが終わり、その女性は「またね」と書かれたカードを端末の横に置いて、部屋を出て行った

カードの裏には、CIAなら当然知っているイギリス諜報組織MI6の極秘回線のナンバーが記され、一人の女性の名前が記されている

それは、イギリス第一王女が持つ数多い偽名の一つだった
703 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:47:11.34 ID:rHC7QPUo

ステイル「すこしは休ませてくれても良いんじゃないか、と言いたくなるよ」

少し豪華な馬車の中、とはいっても通常の馬車の10倍以上の速度を出している馬車であるが、その中にステイルは居た

大聖堂で囲まれながら会話をした後、すぐの行動だった。他に誰も乗っていない馬車で、彼は今ローマへ向けて進んでいる

魔術的な通信にも対応させるように術式を刻んだ携帯電話を耳に当てている

フィアンマ『そう言うな。俺様としても禁書目録がどうなってもいいのか、なんて小物臭のする安っぽい脅し言葉を使いたくはない』

ステイル「……それはほとんど言っているのと変わらないと思うがね」

フィアンマ『だったら文句を言うなということだ。しかし本来、今のお前の役目をするのはお前ではなくてテッラだった』

ステイル「ならなぜ僕なんだ? 別に彼が今動けないというわけではないのだろう」

フィアンマ『今のテッラはステイル、お前にも劣る。いざ戦闘となったとき不安だ。もう一つ理由はあるが、それが大きいな』

ステイル「へぇ、ロシアとローマは仲が良いと思っていたんだがね」

フィアンマ『もちろん、ローマ正教とロシア成教はイギリス清教よりは仲がいいといえる。しかし、お前も分かっているだろうが、"相対的に"仲が良い程度でしかない』

ステイル「力関係で言えば圧倒的にローマ。本当に仲が良いなら今頃はローマの完全傘下か」

フィアンマ『その通りだ。だから、そういうことも考えられる。あっちもあっちでローマと同じようにゴタゴタしているだろうからな』

フィアンマ『それに、俺様は神の右席の盟主ではあるが、ローマ教皇ではない。新教皇予定の男とは目的も異なるし、表面的な組織でもない以上、こうやって使いを出して直接的に交渉するという方法をとるしかないのだよ』

フィアンマ『俺様がどれだけお前を信用している、といっても俺様の特権で借り受けた体のローマ魔術師共がお前を信用しないのと同じでな』

"体"という単語が少し引っかかったが、ステイルは気にしなかった

ステイル「君が言う信用とやらは、禁書目録が手元にあるから故のものだろう?」
704 :時間の割りに短いが2010年分投下終了のお知らせ。まさか年を越そうとは [sage]:2010/12/31(金) 05:48:33.76 ID:rHC7QPUo

フィアンマ『否定はしない。だが、今バチカンに集まって偉そうな顔して会議をしている連中に、俺様は禁書目録の事をあえて伝えてはいない。当然、お前のこともな』

ステイル「へぇ、君の独断だと言うのかい」

フィアンマ『そういう権限があるんだよ、神の右席というものはな。まぁ、もうじきローマなんざどうでもよくなるのだが、新教皇のペトロという奴がなかなか面倒だということが本音だ』

フィアンマ『死んでしまったマタイなら扱いやすかったんだが、自称交渉上手なアイツはこだわってる主義主張があるわけではないからな。状況に合わせて切り替える。マタイよりも更に小物に過ぎないが、俺様が禁書目録を手に入れたと知れば何か干渉してくるのは目に見えている』

フィアンマ『勿論俺様の敵ではないが、禁書目録のことに集中したい以上、余計なちゃちゃを入れられるという懸念は払っておきたい。それに、ガチガチに必要悪の教会メンバーとして動いてきた経歴のあるお前も付いて来ました、なんて言ったらせっかくの俺様の駒を一つ失いかねない』

ステイル「そうかい。でも、僕を歓迎してくれたローマ正教徒の方々は、僕と同じように、君の腹心ってわけじゃないだろう? 彼らから漏れるかもしれない」

フィアンマ『それは大丈夫だ』

ステイル「それは一体どういう根拠で?」

フィアンマ『少し考えたら分かりそうだが、早い話、テッラと同じだから、と言えば分かるか』

ステイル「……つまり、君が呼び起こした死者とでも言うのか」

フィアンマ『宜しい。限りなく満点に近い回答だ』

ステイル「"近い"、か。満点の為にはもっと考えろといいたいと言いたいんだな?」

フィアンマ『そういうことだ。逐一指示を出せる状況なら良いが、そんなことでは駒としてのお前の価値も下がる上、非効率過ぎる』

ステイル「時間がない、君はよくよくこのフレーズを使いたそうだが、それではロシアの件は僕に全権を委任するなんてことになる。それでいいのか」

フィアンマ『ローマ正教ではなく、俺様に協力しろという内容で有ればいい。問題はお前という存在がロシアの田舎者なぞに舐められないことだ。お前は俺様の代理なのだからな』

ステイル「……フィアンマ、君が僕を信用しているようで嬉しいよ。勿論、極端に悪い意味で」
705 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 05:58:05.38 ID:7.rB422o
フィアンマの知略がカリスマでマッハ
706 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 09:06:50.75 ID:6h62.Rwo
もうこっちが本編でいいよ
707 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 19:04:24.39 ID:ldrdmIDO
確かに読みごたえあるし良く出来た話だな
708 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 19:42:59.86 ID:54NuVYAO
あれ、浜面どうなったんだ?
709 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 21:54:33.83 ID:vymxD4ko
ぶっちゃけ今の俺の興味は美琴が無事なのかそれ以外の最悪の状態なのかしか無くて毎度更新のたびにざーっとスクロールしてるのみだ
美琴厨の俺氏ね
710 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [sage]:2010/12/31(金) 22:07:20.44 ID:tI/oqf.o
スペース[ピザ]リにふいた
711 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 01:29:34.83 ID:rW9DscAO
新年早々重いのを見てしまったな…だがそれがいい>>1
712 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/01(正月) 15:27:34.68 ID:2HPD19Eo
やっとここまで読めたぞ
天使崩れでDODのエンディングを思い出しちまった・・・
713 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [[sage]]:2011/01/02(日) 00:56:05.20 ID:JDnWhTI0
うォォォォい 上条さんは本当に何をやってんだァ
714 :>>709 こんな文字ばかりの文章なんて、斜め読みで十分なんだぜ? [sage]:2011/01/04(火) 16:42:49.63 ID:KPMY7nEo
朝日が本気を出して昇る頃合

外部の天候・時間に関わらず明るいとはいえない空間でのこと

部屋の中央、ビーカー内で逆さに浮かぶ人間はじっと、そこから3m程離れた人間を見ていた

疾の昔に交渉に来ていた青髪達はこの空間から去って、交わされた約束を果たす為の準備へと向かっている

その交渉中もずっとその場に居てじっとしていた人間は、今ようやく動き出す

アレイスター「……十分だな?」

無表情の吊られた人間の言葉に対して、問いかけられた人間は頷いた

アレイスター「ならば、ここを去り、そして、見て回れ。君が知るべきと思ったことを」

アレイスター「だが、残念ながら時間は私の時よりも随分と短い」

アレイスター「その時間をどのように扱うかは君の自由。私の出した答えを待つもいい、特定のものを見守るもいい」

アレイスター「忘れてはならないのは、有象無象となった事後のこと。その時は」

表情を変えるようにして、否、顔そのものが移ろっている様なその人間は、しかし、意識をはっきりと感じさせる目でアレイスターを見返した

アレイスター「……その時は、君の出番になるかもしれない」

?「分かってる」

どちらかというと女性的な、少し幼いような顔となった口で、ここに来て始めての返答があった

そして、スッとその得意な屋内の空間から消えた

ビルの外に出たとき、その人間の視界に飛び込んできたのは、赤く染まったヒトであったもの

銃弾を受けてできた胸の穴からは、すでに漏れる血も無い

顔は完全にぐしゃぐしゃで、最早男か女かも分からないその屍は、下半身の衣類から、その人物が男性であったことが分かった

上半身を窓の無いビルの壁に預けて腰掛けるように在るその彼の前にしゃがみ込み、胸のまだ少し滑りのある血と体液が混じった液体に触れる

すると、その人間の女性的だった顔が、ほんの少し男性的に変化し、見た目の年齢がすこし上がった

そして立ち上がり、光を与える太陽の方をじっと見上げた
715 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:43:48.80 ID:KPMY7nEo
毛布を身に巻いて入り口で寝ている女と、その横で代わりに辺りを警戒しているガタイがあまり良くない白い男がいる病院

男の傍らに立っている飲み干したコーヒー缶と同じ缶が、寝ている女の胸元に携帯カイロと共に巻いてある

何か暖かいものがあると寝ぼけながら感じて、女はそれを胸に抱いてる

缶コーヒーは冷めてしまうかもしれないが、冷め切る前に、彼女に降り注ぐ太陽光が先に彼女を起こすだろう

そう思って、男はあえて起こそうとは思わなかった

そんな男女が守る病院の周りには、フレンダという少女が眠らせた、様々な能力者や警備員から無能力者までが寝転がっている

その病院の一室で、一人の少女が外を見ていた

相変わらず全身を放射能を効率よく排出する為のパッドで覆われた少女、滝壺理后には正確には見えていない

ただ、差し込んだ太陽光が暖かく、そっちの方が外なのだと感じて向いているだけにすぎない

横に設置されている点滴のお陰か、それとも暖かな太陽光のお陰か、寝る前よりは気だるさが抜けた体は精神にも作用する

前向きと言って良い程であるかは否といえるが、それでも負の感情が弱まった精神はその暖かさを受けて、更に向上的になる

自分が今見ているであろう、そして浴びている同じ太陽の光、きっとどこかであの男は浴びている

もちろん、あの男、浜面仕上がどこか日のあたらない場所に居るかもしれないし、それ以前に死んでいる可能性もあるだろう

昨晩に時折聞こえた銃声や爆発音・衝撃音からして、外で間違いなく何かが起こっていることは想像に難しくなかった

それでも、少女には同じ光を浴びているんだろうな、という感覚は間違ってない気がした。まるで理由など無いのだが

滝壺(早く、治して、はまづらを迎えに行こう)

目も見えない口も開けない状態なのだから、物思いにふけるしか選択肢が無いのだが

今の彼女はそれに対して不満は無かった

今こうしてここで回復できるのも、恐らく彼のお陰なのだから
716 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:44:24.34 ID:KPMY7nEo
太陽光によって目が覚めた

目を覚ますことが出来たという事は、死んではいないということ

日の光がもたらす僅かな暖かさによって、生かされたことを知った少女は、瓦礫の山の頂点に不自然に在る横長のソファの上で、ゆっくりと身を起こす

ご丁寧に、若干血が付いているものの、少し長めの白衣が毛布代わりに身に掛かっている。どこかの研究員の死体から奪ったものだろう

「私、殺されなかった……?」

最終個体と呼ばれる、見た目上は佐天涙子の手が伸びて、頭に触れた。そこまでは覚えている

そこでぱったりと意識が途絶えたことも同じ。ならばなぜ今こうして、不自然な場所で少し涙ぐんだ目を擦っているのだろうか

やたらすっきりしている頭脳で御坂美琴は考える

考えられる答えは一つしかない

佐天涙子が私の意識だけを刈り取って、施設の談話室なんかがあったであろう場所からソファを引っ張っり出して、その上に私を寝かせたのだ

寝冷え対策なのか、薄い白衣を何枚か上に掛けるまでの気遣いも加えながら

他に人も居ない、というより人の形を一部残した死体がいくつか視界内に、瓦礫の山から一部飛び出すように、転がっている

明らかに私だけが特別な置かれ方をしている。なれば、あの子しかないだろう。どういう形であれ、こっちから一方的に殺さんばかりの超電磁砲を数えられないぐらいに打ち込んでも、彼女は私を友達として特別扱いしたのだ

本当に友達であるというだけ理由なのか。この、昨日まであったハズの辛さや苦しみを感じさせない頭脳で彼女は考える

あの子は言った。「楽になりたいか」と

それが意味するのは、彼女の、彼女にそっくりなクローンへの行いから、殺害だと思った

そして私は殺されてもいいと思った。あまりにも辛かったから。あまりにも痛かったから

だが結果は違った。佐天涙子が言った言葉をもう一度思い出す

「私は御坂美琴じゃないから、御坂美琴の役割なんてできない」

私の質問が招いた言葉だが、私を生かしたのはそういうことなんだろうか

あの時見せた後生や悔いが、彼女が私を[ピーーー]のを躊躇わせたのだろうか

自分と同じ個体を[ピーーー]という明確な役割の為に生きている自分との背反になるから、役割を残して逃げるように死のうとする御坂が許せなかったのか

それとも、無能力者特有の、超能力者へ向ける無条件の憧れが崩れるのを、佐天自身が見たくなかったのか
717 :>>716のピーは両方とも"殺す"が入ります。sagaに変更するのめんどくせ。これだから実家は…… [saga]:2011/01/04(火) 16:47:07.95 ID:KPMY7nEo
異常にすっきりとした頭脳でも答えは出なかった

射す光が暖かい。一層、自分の頭脳はすっきりはっきりしていく

昨日の、気を失うまでと今の違いを探す。表面的に体には異常が無い

コレでもかというまでに打ちつくした為に招いた電池切れ状態も回復している

そしてはっきりしすぎている頭脳。精査してみると、明らかな違いが有る

なるほど、"楽になる"とはそういうことか。確かに佐天涙子は殺すとは言ってない

佐天と最後の会話を交わしたとき、それまであった興奮ホルモンは完全に失せてしまい、代わりに莫大な量のストレスホルモンが溜まっていった

涙などでは到底排出しきれず、狂ったように増大していくそれ。もともと相当量あったその要素を、まるで無かったかのようにしていたのは、単純に異常な興奮状態にあったからだ

そういう負の要素があのような言動を招いたと言える。そこまでをあの子は見抜いたのだろうか。それとも単に、友人だから殺したくなかったのか

どういう理由かも分からないまま、御坂美琴は瓦礫の丘の上で立ち尽くす

ふと、右手に何かの感触があった。スカートのポケットからはみ出していたのは、携帯に付いたストラップ

どこかの馬鹿、彼女のストレスの一因である男と、お揃いで手に入れたソレ

(アイツは今、何をしてるんだろ)

勿論彼から連絡が入ることなど相当稀な事だが、なんとなく携帯を開く

自分に合わせてある程度の対策は施されているものの、アレだけ自分が電磁放射をしておきながら、それは普段と変わりなく操作できた

彼との連絡手段であるこれが壊れて欲しくなかったから、無意識に守っていたのかもしれない

電波は異様に弱く、右上に示されたアンテナはほとんど立っていない

やはりあの男からの連絡なんて全く入っていなかった

だが、メールが一件。母から
718 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [saga]:2011/01/04(火) 16:48:08.88 ID:KPMY7nEo

同時刻、上条当麻は降下中だった

パラシュートを開き、緑一色の地面へ向かう

ザザザッと音を立てながら木に引っかかった自らの体とパラシュートを切り離し、ほとんど使用不可の右腕を使わず、片腕と両足で枝を伝って器用に地面へ降り立った


23学区の空港部、混乱に乗じて勝手に奪おうと思っていた極音速航空機だったが、その場所についてみれば使えといわんばかりに準備ができていた

警護していた者の銃弾によって生じた利用客の血で、レッドカーペットよろしく赤く染まったロビー

空港機能を完全に失ってしまったと分かるその場所から、複数在る滑走路の一本の中央に一機の、外見から高スペックを推察できるような小型極音速輸送機が放置されていた

これ幸いとランウェイに出て乗り込んでみれば、既にすべての準備が整っていた。自動操縦で場所は指定され、椅子には一組のパラシュート

あとはタッチスクリーン中央に浮かぶ"Airborne"に触れるだけ

上条「……用意周到ですね、アレイスター」

一言ポツリとこぼして、彼は離陸の衝撃に耐えた


降り立ったのは、マサチューセッツ州南部にある州立公園の森林部

アメリカ西海岸で既にレーダーに派手に映りこむこことなった為、もちろん既存の米空軍機では追いかけることなどできもしないが、人目につくのは避けるべきと判断した

レーダーには映り難い"空飛ぶゴミ箱"で飛んでくるのは負担的に不可能だった為に、こんな融通の利きそうに無い場所に降り立ってしまったが、目的地は一応この州の中に在る

ボストンにある、某有名理系大学の研究室の中で、彼女達は生まれた

言うなれば旧科学サイドの頂点で誕生した、上条の中の量子コンピュータの彼女という意思は、そのまま研究用に使われること無く、小型化という面に特化される個体となった

母性的女性的な彼女の誕生後、彼女から得られたデータを元に改良を加えられ生まれた、よりアメリカのイデオロギーに近しいものを身に付けた、男性的で力強く理性的な個体が、つまり彼女からすれば弟分にあたる存在が、彼女をその能力を発揮する前に小型化・人間頭脳結合の試験へ導いた
719 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [saga]:2011/01/04(火) 16:48:51.89 ID:KPMY7nEo
それは、当初から導入者の脳へ負担を強いることが予見されており、CIA内で危険な力の筆頭になっていた上条刀夜の息子に押し付けるという、事実上の破棄だった

破棄、この言葉によって自らが居なくなるということへの恐怖が生まれる

予期されていた脳負担は、もう一つの彼女が入ってくることで一層悪化した

もしかすると、脳負担については最初から被験者の上条当麻には気づかれていたかもしれない

しかし彼は許し、彼女らはそれに甘えた。その結果が今の状況だった

別に、弟分が生まれたことが悪いわけではない。ただ、その存在がもたらすことが、自分達のために犠牲になってしまった上条当麻の心を痛めるのならば

今までは自己の存続と、上条当麻への純粋な心配から、躊躇っていた母国への明確な反逆を実行に移す

機内で確認した例の大統領会見から議会・政府・軍・諜報機関の足並みが、前回と明らかに異なって統一されているのが見受けられた

つまりそれは、軍とCIAの足並みが揃っていなかった"前"とは明らかに異なり、彼女らの"弟"の意思がアメリカ中央すべてを牛耳っているということだ

それは"前"との明らかな違いであるが、違いはそれだけでない

"前"は学園都市の占領問題を除いて比較的平穏であったこの地球という惑星全体だが、今回は至る所で破壊が襲っている

これにも恐らく何らかの形で、自分達含んだ上条当麻という人間が関わっているのだろう

あの"弟"はこのことすら利用して、世界をアメリカ中心にまとめようとしている

そのことが意味するのは、"弟"による世界の統一。まずは世界各国の軍や政府の纏め上げの意思が、あの演説から見通せた

自らの目的の為には、学園都市の未熟で無力な子供達すらにも犠牲を強いさせるやり方を厭わない"弟"である

そんな存在が世界を統べるなど、絶対に認めない

上に述べたような大儀のほかに、自分ではなく"弟"が選ばれたことによる僻みや妬みなどの人間臭い理由も含めて、上条当麻は森林の中を進んでいった
720 :イギリス国教会=新教 イギリス清教=旧教 バチカンとロシア正教も歴史的には対立関係。禁書の世界の歴史はどうなっているんだ [sage]:2011/01/04(火) 16:50:09.58 ID:KPMY7nEo
ロシア成教、世界3大十字教の一つ

言い切ってしまえば聞こえは良いが、ローマ正教と同じく、言ってしまえば東欧十字の寄せ集めの頂であるだけである

十字教を効率よく伝播させる為に、または生き残りの為に現地や外入の文化を織り交ぜつつ出来上がっている現代宗教というのは、たとえ元が同じものでも、地域によって・歴史によって差異がある

例えばイギリス清教会が旧教系に分類されるも、他カトリック宗派からすると歴史的な問題で新教としての側面が有ったりするように、概念的な区分けが定かではない

よって区分け=集合体ではなく、区分け=烏合の集というのが現実的な視点である

現代ロシア成教の内部を構成しているのも、歴史的な冷戦期東欧諸国のカトリック諸派となっている

母体としてのロシア成教が、諸派の頂となって指導しているというローマ正教と変わらない形式だ

比較的温暖な西欧などと違い、寒冷な東欧は根本的に人口が少ない。それで相対的に弱勢となる

魔術サイドの最大勢力でもあるローマ正教に比較的親和的なのも、そういう現実があるからこそ、だった

ステイル「とは言っても、カトリックの雄を自称するだけはある、か」

冷戦終結直前に再建されたロシア正教の頂点である、モスクワ・ダニーロフ修道院を囲う白い塀を右手に、街路を歩きながら彼は呟いた

今の彼の胸にはローマ正教式の十字がぶら下がっている

勿論交渉の為だが、公式的なものではないので、本当に観光客のような感覚で、いつもの黒いローブ姿で門をくぐり、敷地内へ入った

ちょうど拝礼でもあったのだろう。緑のドームのある聖堂の前に要人の侍従が立っている

ステイル(おっと、ここまで来て何だが、僕はロシア語を満足には……)

ステイル(こんな時代だ、英語である程度は通じるだろうが)

ステイル「やぁ、誰が中に居るんだい?」

取り立てて特別な表情を作らず、当然タバコなどは塀の外で吸い溜めしておき、侍従に尋ねた

「ローマの十字を持っていながら、英国英語を話すタバコ吸いなどには、答える必要は無いな」

侍従は両腕を組んで、付き返すような英語を返してきた
721 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:51:00.74 ID:KPMY7nEo
ステイル(ああ、英語よりはフランス語を使うべきだったか)

ステイル「仏語よりは英語の方が一般的だと思ったんだが、こっちの方がいいかな?」

仏語で尋ねた

「ロシア語が使えないのならどっちでも構わん。それで、このロシア成教の主教座に何の用だ、魔術師」

見抜かれた。恐らくこの男も、魔術についての知識や力がある

ステイル「僕の身分が分かっているようなら、話が早そうだね」

一歩前に出る。身長ではステイルが侍従の男よりも高いので必然的に見下ろす形に

そんなことになれば、特に魔術師だということが独特の気配で分かっているならば、侍従の男も覚悟する

睨み返しつつ、片腕を腰の後ろへ回す。武器や霊装でもあるのだろう

ステイル「別に僕はここを焼き払う目的で来たんじゃないんだ」

後ろに回った腕のことなどまるで気にしないように、高圧的に言い下ろす

ステイル「君たちみたいのがここで出るのを待っている相手、総大主教とか有力な司教と少し話がしたいだけさ」

「ふん。お前がこの事態を狙った暗殺者ということもあるだろうが」

わざとらしく両手を広げて

ステイル「本当だとも」

ステイル「僕の胸にわざとらしく下がっている十字架が、何よりの証拠だろ?」

決して疑問が失せた訳ではないが、その胸のローマの正式な彫刻を見て、もう一度ステイルを侍従は見上げた

「……表立っての連絡も無く、連れの者も無し。よくも言うものだ」

「まぁ、その方が現状には相応しいのだろうな。……残念ながら私が仕えているのは最大主教様ではない」
722 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:51:49.08 ID:KPMY7nEo
見上げた視線を落とし、目を伏せるように言った

「最大主教様そのものが、ここモスクワにはいらっしゃらないのだ」

ステイル「へぇ、この事態に主教座に最大主教が居ないとはね。お笑いだ」

「ローマも似たようなものだと思うがな?」

恐らく、教皇暗殺のことを言っているのだろう。こんなところにも広まっていたか

ステイル「それは否定できないね」

「こういう事態になれば、考えることはどこも同じ。最大主教様はここではなくセルギイ大修道院、セルギエフ・ポサード、ここモスクワ市の北100kmのところで幽閉なされている」

ステイル「……幽閉?」

「形式的には、あそこもモスクワなのだ。緊急時に指導者が要所に居るという面目は立つ。簡単に言えば、ロシア成教は闘争中なのだよ。まるで共産党時代の政権のようにな」

「崩御されたローマの教皇とは異なって、我々の最大主教様はお若い。覇権争いなどに巻き込まれれば、いや、既に巻き込まれてしまっているのだが、経験不足だ。今はご存命のようだが……」

それ以上は言わなかった

ステイル「なら、誰の侍従をしているんだ?この時期にこの総主教庁のあるモスクワの主教座に居るということは、その闘争とやらの最有力候補だと思うが」

「それは―――」

聖堂の大扉が開いた

更に二名の従者を連れて、明らかに位の高そうな衣類を身につけた男が出てくる

?「……この者は、何だ?」

ステイルを一瞥し、ステイルの前に居る従者に尋ねた

「これは、ニコライ司教。ローマからの使者だと言っているのですが」

ニコライ「ローマの……ほぅ」

ステイルの見た目と、胸に掛かったローマ式彫刻の入った十字架を観察する

ニコライ「ここでは満足に話もできない。奥へお通ししろ」
723 :よーし。禁書23巻が出る前に終わらせるぞー。何度この手の宣言が失敗に終わったことか…… [sage]:2011/01/04(火) 16:53:49.86 ID:KPMY7nEo
フレンダ「ありゃ、まだ寝てる人多いんだ」

病院の自動ドアが起動し、そこから出てきたフレンダは、左腕には武装腕・頭にはゴーグルを装備している

麦野「おはよ、フレンダ。よく眠れた?」

フレンダ「お陰様で、元気回復ってワケよ」

麦野「はいはい。フレンダちゃんはいつも元気でうらやましいでちゅね」

簡単に小馬鹿にして、アレ、と言いながら指をさした。一方通行が両手に人の襟を持って、キャスターよろしく人間をズルズルと引っ張りながらこちらへ歩いている

麦野「あんたが昨日使ってた麻酔弾、少しでも体内に入れば意識をもってくような強いものだったらしくてさ。まだまだ目を覚まさないみたい」

麦野「いつまでもあのままじゃ、既に手遅れかもしれないけど、風邪引いちゃうでしょ? 起きるまで病院の空き部屋でいいからとにかく室内に寝かせろってあの先生がね」

フレ「へぇー。襲ってきたのまで面倒見るなんて、結局あの先生過労死する気らしいわね。それで、なんで一方通行が運送業者してるのさ?」

麦野「俺が能力使ってやりゃァ早いだろォ、とか頼んでも無いのに言ってきてねぇ。折角だから任せたわ」

目を凝らして一方通行を見るも、フレンダの目には同考えてもがんばって引っ張っているモヤシでしかなかった

フレ「……能力使って?」

麦野「いやさ、昨日あいつの体に触れるような機会があってね」

麦野「あ、別に期待してるようなことがあったわけじゃないわよ、フレンダ。だからその顔はヤメロ」

麦野「そいでさ、能力ばっかに頼って男の癖にヒョロ過ぎどうかと思うわ、的な事を言ったのよ」

フレンダ「……"的な"こと? それはオブラートに包んでやんわり伝えた的な? それとも逆にグサッと?」

麦野「逆ね」

フレンダ「それは、えと、まぁ予想通りなワケよ。頑張れ第一位」

引きずっている。ズルズルと。とても早くて効率が良いとは言えない見た目だが

それを毛布に包まったまま座って見ている麦野の表情には、とても手伝おうという意図は見えなかった

麦野「あれも馬鹿な奴よ、ほんと」
724 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:54:31.48 ID:KPMY7nEo
フレンダ「……あ、止まった。両手膝においてハァハァしてる」

フレンダ「ああもう! こうなるのは目に見えてたと思うわけよ? 結局第一位は一見クールぶって挑発に乗りやすいんだから」

見ていられないと、一方通行を手伝おうと歩き出したフレンダ

ソレを止めるべく、麦野はフレンダの右足が踏まんとしている階段を原始崩しの電子砲で溶かす

当然、あるべきものが無くなったフレンダの体はバランスを崩し、前かがみに倒れそうになる

低い階段の段差を、何とか転げ落ちず地面に大股開きの蟹股で着地して、麦野を見た

フレンダ「うぉおおい! 私何かしたっけ?! してないよね?! 昨日監視変わったの根に持ってんの?!」

喚くフレンダを無視して、麦野は一方通行を見ていた

麦野「まったく、一人で無茶なときは頼れって言ったのに、結局一人でさ。ほんっと馬鹿よ」

と零す。恐らく一方通行のことを考えて言った言葉なのだが

フレンダ「馬鹿って私のことなワケ?! 仲間すら背を向けるときは信用するなと?!」

なお喚く。が、麦野は稀に見せる優しい目つきで、深く息を吐いている一方通行を見ていた

フレンダ「キタキタキター…。無視キマシタワヨー。はぁ、なんで私は朝からハイテンションで空回りしてるワケ? 芸人かっての」

朝の象徴、太陽を見た。完全に目が覚めている。麦野に任せて二度寝する気にもならない

そのまま何気なく周囲を見渡した

ちょうど麦野が見ている方向とは逆の場所から、見覚えのある制服

フレンダ「あ、第三位」
725 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:55:58.95 ID:KPMY7nEo
青髪「あわきん、次も頼むでー」

警備員が使用している、兵員輸送用のLAV(軽装甲車)を運転しながら青髪は言った

次、というのは今通っている学園都市内の高速道路上にある、運転手の居なくなくなった自動車や無人バスである

LAVの少し大きい車体では、道路を封鎖しているそれらが邪魔で進み難い

座標移動の能力を使って、結標淡希はそれらを道路の端へ除去しているのだ

結標「……ねぇ、戦車とか無かったの?あれなら押しつぶしていけそうだけど」

馬力もあり、キャタピラを装備し、その上高火力な砲塔もある戦車ならば、彼女がこんなことをする必要は無いだろう

青髪「そうやなー。でも残念ながら学園都市も日本の土建業者が地面とか最初の基盤をつくっとるから、戦車なんかが入るにはアスファルトが軟らかすぎるって問題があるんや」

青髪「最近は戦車必須論も退潮気味やしなー。第一、戦車じゃこの人数をいっぺんに運送できんし、その点LAVなら――」

結標「ああーもう、もういい。要するに戦車じゃダメって事が分かったけど、いちいち道路上の壊れた車両が出るたびに能力使って障害除去するのも疲れるの」

隣で運転する青髪の方を向く

結標「これじゃ、着いても満足に戦えないわよ」

青髪「そうやなぁ。まぁ、着いたときの消耗具合次第かな」

青髪「僕はお敵さんの戦い方とかは熟知しとるし、それに応じてあわきん以外の後ろに乗ってる連中を動かすつもりやし」

結標(あわきん、ねぇ。そういえば、あのにゃーにゃー言う奴はどうなったのかしら)

結標「そう。そういえば、その後ろに乗ってる連中なんだけど、アレは何なの?」

青髪「人間ですけど何か?」

結標「あ、まー人間でしょうね。それはわかるわよ! いや、別に今更人造人間ですとか言われても驚かないけど」

青髪「次のあの黒いスポーツカーも頼むでー。うーんと、強いて言うならば、ミンチにされる前の人々ってトコやな」
726 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:56:43.76 ID:KPMY7nEo
結標「ミンチにされる前?の人?」

青髪「"残骸"の一件に関わっとったあわきんなら知っとるやろうけど、樹形図の設計者はもう無いやろ」

結標「それは、知ってるわよ」

青髪「アレだけ高性能な演算装置が失われて、実験が止まった機関は膨大や」

青髪「特に研究熱心やって外部からの研究資金をつのっとったよーな研究機関は、結果を出す必要があるのに、アレがなくなったせいで外資に対して見返りを提供できひんようになってしもた」

青髪「なら、どうにかして樹形図の設計者並の能力の在る演算装置が必要になるやろ? それがミンチの人々ってわけ」

青髪「基本的には施設孤児出身の非攻撃的能力の大能力者とか、事故に見せかけて強引に拉致した家族のおるおらんに関わらず高性能な生徒を捕まえて、脳だけを抽出する」

青髪「その脳の感情なんかを司る部分なんかの、必要ない部分を薬物で機能停止させて、あとは"欠陥電気"を基にして得られたデータを参考にして作られたクローン技術で作った大量のクローン個体から摘出した脳ミソと、拉致って取り出したオリジナルの大能力者の脳ミソを並列に接続する」

青髪「それで簡単低コストに高能力の演算ユニットを作り出すことができんの。取り出された脳以外は、ミンチになってクローン作るときの肥料送りとかやろな。それでミンチの人々ってさー」

結標「私が言うのもなんだけど、反吐が出る方法ね」

青髪「せやろ? だからウチのボスはそれを助けるように指示出して、彼らはそのクローン。……オリジナルの方は手遅れやった」

青髪「脳を摘出されるだけの予定の個体やったから、つくりは粗雑でまともな意識もあらへんから」

結標「こうして兵隊として利用する、と。なによ、あなたのボスって、聞こえは良いことをしながら、やり方は結構エグいじゃない」

青髪「あるものを有効に利用する。資源の有効利用やと思うけどな」

結標「……リアリストで、いい指導者だと思っておくわ。少なくとも、私みたいに感情的要素でヘマするようでは無いって意味でね」

青髪「それはどうも。さて、まずは電力泥棒しようとしとる連中を片付けんとな」

高速を降りて、しばらくしてLAVは止まった

近くには、あえて生かされた電力供給管理代理機能を持った施設と、その周辺を囲うようにして展開されている米部隊がある
727 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 16:57:32.11 ID:KPMY7nEo
フレンダが放った第三位という言葉に、最も早く反応したのは麦野だった

一方通行を眺めていた視線を一転して御坂美琴の方へ向け、見つけると駆け寄った

徐々に近づく姿は、昨日のように狂ったものではなく、しかし昨日よりも悲痛さが目立った

御坂自身、佐天涙子の手によってホルモン分泌をリフレッシュされていなければ、得られた更なる悲しみで、自らの脳内に致命的な神経操作を施して自殺していたかもしれない

病院に向かってとぼとぼと歩く御坂は、ずっと携帯の小さな画面を、真っ青な顔で覗いている

その御坂から1mも離れないように近づいた麦野は、なかなか言葉を掛けられなかった

麦野「……無事だったのね」

話しかけられて初めて、麦野という存在がそばに居ることを知り、携帯を閉じてポケットにしまった

御坂「…………うん。なんとか」

麦野「良かった。顔が青いけど、あなたがあのお友達、佐天涙子を殺したの?」

御坂「そっか、私、青い顔してるの」

頬に手を当てた。手が冷たい

御坂「違う。殺してなんか無いの。逆よ。よく分からないけど、生かされちゃったんだ」

麦野「殺されなかっただけ、ってこと?」

御坂「うん」

麦野「それで、顔色が悪いのは、あの日? 風邪でも引いた?」

御坂「ううん、体調がどうってわけじゃない。ただ」

ポケットにしまっていた携帯を取り出して、開いた。学園都市全域で電力供給が途絶えている為、携帯の基地局も作動していないらしく、圏外
728 :本日分(ry 新年早々、長々書いて全く進んでないでござる [sage]:2011/01/04(火) 17:00:52.95 ID:KPMY7nEo

朝目が覚めたときに電波があったのは、あの場所が学園都市を囲う隔壁に近く、学園都市圏外の電波を掴んでいた為だろうか

母親からのメールが入っていたのも、ちょっとした偶然、奇跡である

そんなことを考えていると、返答待ちの麦野が催促する

麦野「ただ?」

御坂「ただ、その。……今、学園都市外で何が起きてるか、わかるからない? テレビとか何かやってない?」

麦野「外のこと? 昨日から都市全域で停電してるみたいだし、そうなるとテレビも何も、殆どすべての電子機器は使えないでしょうね。いつもの飛行船すら飛んで無いし」

御坂「そっか、そうだよね」

歯切れが悪い。要領を得ない会話だ

それは御坂自身の疲労も原因であると、麦野は考えた

麦野「はぁ、なんだかよくわかんないけど、休んどきなさい。部屋の一つや二つ、空いてるでしょうし」

御坂「……アイツは居る?」

帰ってきた言葉もまた、言ってしまえば麦野の言葉を無視したものだった。それで怒るようなことは無いが

麦野「アイツ?」

御坂「上条、当麻」

麦野「あのツンツン頭なら、なんか用があるって、どっかに行っちまったらしいけど? 深くは知らないし、妹達に聞くといいわ」

御坂「……用、か」

ストラップをしならせ、思い出したようにまた携帯の画面を覗き込み、歩き出す

麦野はそのおかしな様子をしばらく見ていたが、一方通行に視線を戻した

彼の作業はもう直ぐ終わりそうだ
729 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 17:34:33.10 ID:erKG.Cco
乙乙
しずりん二週目は一方ヒロインになりそうだな
ん?ってことは上条さんのヒロインはAI娘か?

>>717もういっそ、最初からsage saga進行にしとけばいいのさ
730 :あはっぴぃにゅうにゃぁ2011! [sage]:2011/01/04(火) 18:40:50.24 ID:W3MslrUo


上条さん復活マダー
731 :忘れたころに投下。それが俺のジャスティス [saga]:2011/01/10(月) 13:10:12.22 ID:xIqxDYPDP
半蔵「あー畜生。嫌んなるぜ。俺は浜面みたいに運転は得意じゃねぇっての」

慣れない大型車両の運転をしながらぼやいた

そのぼやきにナビシートに座る海原が反応する

海原「そうですね。これじゃ、歩くのと変わらない」

アメリカの軍用輸送車両をかっぱらい、人質となっていた意識の無いスキルアウトの仲間たちを乗せて、海原と合流したショチトル・郭を回収した

海原と郭は深手を負っていて、更にショチトルと仲間は意識が無いまま

これではどうしようもないという事で、海原が出した案はとてもシンプルだった

「病院に行きましょう」

彼曰く、第7学区の高名な医者が居る病院ならば、どんな訳有りでも全力を尽くしてくれるとのこと

勿論その場所は半蔵も良く知っていたし、何度か利用している。場所の把握は完璧だ

病院そのものが壊れている可能性もあるが、応急処置だけでは海原も郭も骨格が変形して治ってしまいかねない。適切な処置を受ける必要が有った

だが、問題は道中だった

昨日の夕暮れ以降の様に、堂々と警備員や能力者が戦い合っていたりするわけではないが、所々で戦闘音が響いている

そして昨日の戦闘によって、目に見える車両は大体壊され下道は殆ど通行止め状態

下道ほどではないだろうと高速を選んだものの、似たようなものだった

半蔵「車がでかいってのも有るが……」

車全体に衝撃が奔った。道路脇の廃車にバンパーの角が触れたのだ

海原「おおっと。……軍用の装甲車両ということもあって、多少の接触ではビクともしないのが救いですかね」

半蔵「すまねぇな。運転が下手で。お、動いてる車も有るじゃねぇか。アレは」

海原「ん?良く見てください。車の外装、助手席側のドアに例の模様が」

半蔵「ってことは、アレ、一般車両に見えるけどよ」
732 :最早各キャラの口調が分からん [saga]:2011/01/10(月) 13:10:50.75 ID:xIqxDYPDP

海原「ええ。アメリカ所属のものか、アメリカ側の勢力のものでしょうね」

半蔵「あっちからしたら、俺らが乗ってるこの車も仲間の車両だって思ってるだろーから、安心か」

反対側の車線を、その車両が横切った

クラクションの音が軽く鳴る。同胞への挨拶のつもりなのだろう

半蔵「勘違いしてて助かりますってか。あのマークはさ、例の幻想見せる能力者へのサインみたいなものなんだってな?」

海原「え、ええ、まぁそんなところですね。知り合いの空間移動能力者も、光る警棒みたいな物で座標設定の足がかりにしていましたし。そういうものなんですよ」

半蔵「へー。ま、無能力者には縁のない話だな」

海原(いちいち超能力に置き換えて、嘘の説明をするのも面倒だ。いっそ、魔術というものを教えてしまうのもアリでしょうか)

海原「ですが、学園都市全域を幻想で覆う為の増幅装置自体は昨日壊しました。今となっては、私達にとってアメリカ側なのかどうかを識別するサイン代わりですよ。あの模様は」

半蔵「ならよ、俺達の服とかにもデカデカと描き入れとくか?」

海原「それはいいかもしれませんね。恐らくアッチもそうやって見分けてるでしょうし」

海原が頷いた所で、さっきのアメリカ側の車が通った車線を、結構な勢いで警備員用のLAVが走り去っていく

邪魔になりそうな障害物を空間移動らしき能力で除去しながらだった

海原(とんでもないやり方ですね。今のは、まさか)

半蔵「いいねぇ、ああいうの。海原、お前出来ない?」

海原「ハハ、残念ながら出来ません。しかし、今のには例の模様、入ってませんでしたね」

半蔵「こんな状態でも警備員も忙しいんだろうぜ、きっと。何と何が戦ってんのか分からねぇが、そこいらで小競り合いは続いてるみたいだしな。御苦労サマだ」

海原「そうですね。若干気になりますが、最優先は治療です。あなたもかなり、特に腕なんか酷いですしね」

半蔵「そうだな。今だって結構、やせ我慢してんだぜ」

そんな会話をしながら、高速道路を有り得ない程の低速で彼らは走っていった
733 :マジで早く上条さん戻ってこないかな。切実に [saga]:2011/01/10(月) 13:12:00.31 ID:xIqxDYPDP

太陽の方向から方角を割り出し、森林地帯を一直線に北へ進むと、小路が有った

恐らく自然公園内の管理警備の為ものだろう

道に沿って左右を見ると、東側に一台の車が有った。車高が高く悪路でも問題なく進めそうなゴツいタイヤをはめたその見た目から、密猟警戒用の見周りに来た四駆だと分かる

なかなか新しそうなデザインの4WDで、中に人はいない

上条(私が降下した場所へ調査にでも行っているのでしょうか、これは好都合)

周辺を警戒しつつ近寄ると、更に運のいい事に鍵が空いている

という事は、中にセンサータイプの鍵は搭載されたままかもしれない

非常に好都合、と思いながらドライビングシート側のドアに手を掛けた時だった

「Don't move!!」

自分の背後から、英語が聞こえた

声がした方へ背を向けたまま、ドアの取っ手へ伸ばした手ともう片手をそのまま耳元まで挙げる

背中に手が触れる感覚。武器を探っているのだろう。持ってきていた拳銃が奪われた

「こんな木ばっかりの場所で、希少動物ではなく車泥棒とは、随分珍しい密猟者だな。顔を見せてもらおうか」

指示どおりに振り向くと、拳銃を構えていた

腰には密猟者と撃ち合った時の為のものか、ライフルも携えている

何より隙が無かった。余程密猟者とやり合った経験があるのか、はたまた軍人上がりなのか、実戦慣れしている感が強い

右腕は動かず、ほんの僅かなの対消滅すらもまともに出来ない状態で、この男性を打ち倒して車だけを奪えるはずが無い

「中国、いや、日本人? 黄色猿は若い見た目だが、ここまで若い成人ってことは無いだろうな」
734 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:13:07.17 ID:xIqxDYPDP

上条をまじまじと見ながら

「ガキだろうが容赦しないぞ、密猟者。許可証も持たずにこんなトコに居るってことは、お前がさっきのパラシュートだな」

上条の眉間に定めた拳銃を少しもずらさずに、胸元にある無線を取り出した

「こちら管理局11B。先程パラシュートで降下したらしき男を発見した」

『了解。直ぐ戻る』

上条(最低でももう一人、来るようですね)

上条(今更一人二人増えた所で、状況は変わりません)

しばらく沈黙が続いたが、ガサッという音とともに、目の前の男と同じ制服をした男が二人森から現れた

無言で、銃を上条に向けている

「さて、お前には聞きたいことが山ほどあるが、それはム所で聞いてやる。とりあえず今は、背中をこっちに向けて、両手首を腰のあたりで重ねろ」

指示通りに動く為、まともに動かない右手首と左手首を強引にくっつけると、想像通り手錠がなされた

右手は肘から先が動かないので、こうなってしまうと左腕すらまともに動かせない

四駆の後部座席に押し込められ、両サイドに管理員が座る

上条(良い様に考えれば、このまま森林地帯を抜けて近郊の市街まで送ってくれると考えられますが)

上条(悪い様に考えれば、ム所暮らしの始まりと。そんな事をしている場合ではないのですが)

「……お前、後ろの経験はあるか?」

隣に座っていた男に、唐突そんなことを聞かれた

「その反応じゃ、無いみたいだな。とりあえずケツを良く拭かないことだ。そうすればもしかしたら、萎えて見逃すかもしれないからな」

とても嫌な予感が全身を駆け巡った
735 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:14:05.11 ID:xIqxDYPDP

結標「あら、結構派手に壊されてるのね。大丈夫なの?」

止めたLAVから降りて、大通りに隣接したその場所を、身を隠そうともせずに堂々と彼女は見つめた

なるほど、何かがそのビル部分に当ったのだろう。高くそびえるビルの中腹が崩れて、屋内と鉄筋が剥き出しになっている

青髪「てっぺんのでっかいアンテナと、ビル部分の土台になっとる横長の3階までの部分さえあれば問題ないってな。むしろあれは好都合やで」

結標「ふぅん。施設と歩道を区切ってる壁が邪魔で良く見えないけど、あの壁の後ろ、壁と建物部分の間の庭になってそうな所にはアメリカの皆さんがさぞたくさん詰めてるんでしょうね。私、乱戦は苦手よ?」

青髪「ところがどっこいやなー。数はあんまりおらんと思う。んでもって、こっから見えるあの正門っぽいところは歩行者専用、もっぱら来客用やから襲撃するには勝手が良くないんや。上から丸見えにもなるし」

青髪「こっから見て奥側の、壁に有るシャッター。あっこから車両で入って、地下の駐車場から施設内へご案内。押し入るなら、こっちのが都合がいい。当然向こうも人を配置しとるやろうけどな。で、出口は手前の方のシャッターとなっております」

結標「へぇ。3mぐらいまでの車両なら入りそうだし、ここから見える壁の面だけ見ても200mはあるから、適当に計算しても4万uの地下空間が広がってることになるわね。何か隠すのにも丁度良いと」

結標「電気が無い今じゃあの大きなシャッターを開くのも難しそうだし。厄介じゃない?」

青髪「そんな時の為のあわきんやーん。あと、表面上はそうみえるけど、ここは数ある非常用電力管理代替機能をもっとる施設の一つで、豊富な地下空間もある。そして、アメリカの皆さんも当然電気は必要」

青髪「忘れがちやけど、今の停電は電力発電が止まったからやない。供給を管理してるところが軒並み破壊されたか、乗っ取られたかなんや。学園都市中の送電網自体は全然元気。ここを占拠しとることで、アメリカの連中は好き勝手に電力供給できる」

青髪「つまり、自分たちにだけ電気が使えるようにしてるってわけや。当然ここも通電しとるやろーな。一方で、学園都市側は電気が無いわ要所は抑えられたわで、組織的な反抗もできん。僕もボスらと連絡できへんから今外で何がおこっとるんか分からんし、流石のアレイスターもお手上げ」

青髪「んで、ここと同様に、アメリカ側に抑えられた重要施設は、今頃、表面上は停電を装いながら準備をしとるってわけやな」

結標「準備って、何のよ?」

青髪「アメリカ軍本体、ハワイから来る、海兵隊をたんまり乗せた第7艦隊の皆さんのスムーズな受入れ準備や」

結標「……本格的に制圧占領する気ね、学園都市を。例え私達が電力供給を再開させたところで、今更、占領を止めるのは難しいだろうし。要所を押さえられたまま制圧されたら、流石にあの統括理事長でも辛いんじゃない?」

青髪「うん、多分なー。だからアレイスターは僕らに、艦隊到着前に電力回復を頼んだんやろ」

結標「つまり、電力が回復すれば、制圧された要所も統括理事長の最上級権限でコントロールを奪えるというわけね」

青髪「そ。んで、あのビルは簡単に壊せへんから、米軍本体が学園都市を制圧しても、学園都市の施設を使うためには統括理事長と交渉する必要が出てくる。アレイスターの学園都市に対する影響力にあんまり変化は無い。旨い方法やわー」

結標「アレイスターからすれば、部下が統括理事員から米軍にすげ変わっただけになるのかしらね。でも、ならなんで昨日電力が残ってるうちにそういう事をしなかったのか、疑問が出来る」

青髪「さぁね。僕には全然わからへん。でも、ま、強引に予想を付ければ、僕らの前から居ったあの人が原因なんかもしれへんなぁ」
736 : 誰の体のどこの部分に怪我してるか覚えるのが大変なんだよ!! [saga]:2011/01/10(月) 13:14:36.72 ID:xIqxDYPDP


コンコン、と扉を叩く音が響いた

イギリス時間で、深夜3時を過ぎたごろだ。当然部屋の主は眠い。普通の人間ならば気付かずそのままだろう

だが、立場上いつ何時何が起きてもおかしくない彼女、ローラ=スチュアートはその音で目覚める

最も、直接的には音が彼女を起こしたのではなく、ノックが起動サインとなっている術式によって生じた刺激によるものだが

よって彼女の目覚めの言葉は「あだだっ?!」だった

ローラ「ふむぁー、はいはい、今開けますてよー」

呂律の回らない口で、扉の方へ進んだ

彼女の部屋は今、とてもグチャグチャだ。部下の炎を好んで使う魔術師が荒探しした為に、強盗が入った後の様に思える惨状となっている

左腕で目を擦りつつ開くと、黒の修道服の上に被ったローブのフードを深く被ったシスターが立っていた

口元しか見えないが、ここでは見慣れない顔だった。教会に所属している全員の顔を詳細に覚えている訳ではないが

いや、逆だ。ここでは見ないだけで、どこか普段見ないところでは見たことがある。そんな口元

ローラ「こんな夜更けに何用なのー?」

「リメエア様より、言伝が」

ローラ「女王じゃなくて娘の方? アレは部屋の奥で本ばっかり読んでそうなのに、わりと活動的なのだから」

リメエア。そう言えばこの口元、確か王室派のどこかで見たような気もする

「第一王女様はいくつもの顔を持っていらっしゃる方ですから。まぁ、顔、といっても特殊メイクや魔術などを用いるわけでもないですが」

「ローラ様がお知りなリメエア様の顔も、その中の一つということですよ」

ローラ「そうかもしれなきたれれぇ。女は普通の化粧で十分にいろんな化け方をしたるもの。ふぁあ、それで言伝とやらは―――――」

待て、なんで顔も覚えていないような重要度の低いシスターが第一王女の事を深く知っているのだろうか

咄嗟に右腕を動かして攻撃警戒用の術式を組み上げようとするも、彼女にはその腕は無かった
737 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:15:04.03 ID:xIqxDYPDP

ローラ(利き腕を失うとは、この様なことなのね)

目の前のシスター風の女が「フフ」と声に出して笑った

「この時期に清教派の頂点がそんな様子では、困ります」

静かに言いながらフードを下ろす。片目にモノクル(単眼の眼鏡)を付けた女性、第一王女本人だった

ローラ「まさかご本人とは。呆れるほどに動きまわれるわね」

リメエア「性格上、おいそれと他人を信頼できませんので、まずは相手の程度を探る癖が有りまして」

ローラ「私を探った結果がどういったものなのか非常に気になるところで有りたるが、どうせ言いいたるつもりはないのでしょう?」

第一王女を部屋の中に招く。当然目に付くのは部屋の状況である

リメエア「ええ。っと、これは……入院中に賊にでも入られました?」

部屋の惨状を見て言った

ローラ「身内にやられたるよ。今頃はどこで何をしているのであらぬかのう」

身内、と聞いてリメエアの知る中でそれに該当する情報は一つだった。無論ステイルのことである

リメエア「子飼いの犬に噛まれるとは、らしくないのでは?」

ローラ「彼はちょっと純粋すぎけるの。だからこそ利用し易かった。そして敵に利用された。これでも、さんざん釘は撃ったのよ」

リメエアを大きいとは言えない丸いテーブルの座席へ促し、自分もその正面に座った

近くの燭台に明りがともり、十分な明るさが部屋を照らす

リメエア「組織の上に居て、部下を持つことは、難しいことですね」

ローラ「身一つで行動する王女殿には分からぬことよ。でも、あなたもMI6という組織の中にいるのでしょうに?」

リメエア「勿論、身を偽ってですがね。各国の政治や秘密交渉の情報を手に入れるには都合のよいい場所ですの」

ローラ「という事は、今日もそういうお話であるな?」
738 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:15:32.32 ID:xIqxDYPDP


コポポ、と音を立てて紅茶が注がれたティーカップを第一王女の前に差し出したが、彼女は手を付けなかった

リメエア「そう言えますね。あ、紅茶は結構です。いつどこで毒を盛られるわかりませんから」

ローラ「そ、そう。相変わらずでありけるな」

代わりに、差し出したカップを自分の口へ運ぶ最大主教だった

リメエア「先程までCIAの方と臥所を共にしておりまして」

紅茶を思わず噴き出しそうになる

ローラ「い、イングランドの王室は代々ふしだらでありけるが、まさかあのリメエア嬢が、とは」

リメエア「いくつも顔を持つ、といいましたでしょう? もちろんMI6の一諜報活動としてですが」

リメエア「その際に得られた情報に面白いものが」

ローラ「……ほう」

リメエア「簡単に言えばCIA内の、アメリカ国内の内紛・権力闘争とでも言いましょうか」

ローラ「それはまるでどこかの後進国のようでありけるな」

国の内情など、先進国も後進国も変りませんと答え

リメエア「現在のアメリカ合衆国は、あの声明会見を行った大統領を始めとして、あらゆる権力がとある物の意思で動いているそうで」

ローラ「"物"? 人間ではなくて?」

日本語では"物"と"者"の音の別は分からないが、英語ではハッキリとでる

リメエア「はい。物で有りながら彼と称され、自ら名前も名乗っている。その正体は学園都市にも引けを取らない、異常なレベルの人工知能」

リメエア「その"物"がアメリカの科学水準を短期間で学園都市レベルまで引き上げ、先の海戦の原因であるフランス・カレー市攻撃を行った」
739 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:16:16.51 ID:xIqxDYPDP
リメエア「もちろん、英仏の戦いを引き起こす為。そして戦いを必要とした理由は、現代魔術というものを観察するという目的成就」

リメエア「アメリカは、体裁的には我がイギリスの味方という形でしたが、嵌められた様なもの。目的の為なら何でもしかねないというスタンスは我々にとっても危険な存在」

リメエア「しかし、先程内紛と話したように、その"物"の現体制を打ち倒さんとしている勢力があります」

そこでようやく、話が見えてくる。とても単純な話だ

ローラ「つまり、それを支援しようといいたるか?」

リメエア「その通りです」

ローラ「派手な話よのう。なれど、リメエア殿の言う"体裁的"に英国は、アメリカ現体制を崩すような勢力に支援は出来ないのでしょう?」

リメエア「はい。だからこそ、私はここへ来ました。なんといっても、世界的一般では魔術というものは、今だにただのオカルト、気分転換の御まじない程度の認知なのですから」

ローラ「なるほど、表面的には現体制支持、一方で裏、つまり魔術サイドでは反逆勢力支援というわけでありたるな」

リメエア「その形式ならばどちらが勝っても、イギリスとそれに付随するイギリス清教にとっては利となります」

紅茶を口に含む

ローラ「……このことを、御母上には?」

リメエア「完璧な二面性を得る為、と言えばお分かりでしょうか?」

つまり、女王には知らせていないという事だ。もし失敗した時に、イギリス王家の責任を無にする為に

ローラ「トカゲの尻尾切りとも言い換えられけるよの」

リメエア「しかし上手くゆけば、見返りという形で新体制に直接影響を与えられるのは、清教派ということに」

ローラ「話に乗るには相応のリスクを、か。どうせその勢力とやらとの連絡手段の体系は第一王女サマ御用達のMI6で取り行っているのであろう? 美味しいポジションを得たものだ」

ローラ「成功すれば王室派内の協力者として、失敗すれば清教派とは無関係な顔をすればよきたると」

リメエア「如何します?」

ローラ「答えなど初めから分かっているからこそ、ここへ来たのであろう?」

リメエア「フフ。流石、我が国の最大主教様」

ローラ「もちろん私からも条件を出すわよ。でもそれはおいおい詰めるとして」

ローラ「先程"物"とやらが名前を名乗ったと言いたりけるが、なんと言う名なの?」

リメエア「ああ、言うのを忘れていましたか」

リメエア「"イェス"と。おこがましい事に自らをイェスと称して、アメリカという道具を使って世界を纏めようとしています」
740 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:17:00.71 ID:xIqxDYPDP
寝心地が良かったわけではなかったが瓦礫の山のソファで十分な時間寝ていた為、少女は空いた病室のベッドで1時間も休めなかった

仕方が無いので、昨日麦野が渡したはずの遺伝子情報サンプルで初春や白井の容体がどうなるのかあの医者に尋ねたかったが、忙しいようで会えなかった

初春の部屋は相変わらず面会謝絶だったが、白井と絹旗という少女が寝かされた部屋には入れた

少なくとも、この病院に担ぎ込んだときよりは余程マシな表情になっている

白井でこの様子なら、初春も回復しているだろう。そう考えて、安堵の息を吐いた

しかし、御坂には彼女ら以外にも守りたいものがある。言ってしまえば、自分に関係がある限り全てのものだ

だが、とてもそんな全てを守ることなど出来ない

大きな恩義がある上条は常に自分の知らない所に居るし、妹達は原因不明の負担に時折悩まされている

初春も白井も自分に再び話しかけてくるにはまだ時間がかかるだろうし、佐天に至ってはどうなってしまったのか分からない

極めつけは、母のメールとその携帯の待ち受け画面に出るニュースのテロップで知った、母親の死

無力、非力

現在圏外と表示されている携帯のニューステロップは更新されることは無いが、逆に同じ内容、母の死を確定させるテロップが、延々と流れ続けることが彼女の心を揺さぶった

妹達が集められている部屋の前に来た。中から明るい会話の声が聞こえる

恐らく今日は彼女らの調子も良いのだ、分かる

御坂(今の私、絶対暗い顔してる。入ったら空気壊しちゃうかな)

そう思って、病室の扉から離れようとした時だった

御坂妹「どうしましたか?」

上条当麻が御坂妹と呼ぶ個体が、手に子供向けのジュースを持って、近くに立っていた

御坂「あ、いや。ちょっと様子を見よっかなーって思って来たんだけど。元気そう、……みたいだし」
741 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:17:43.99 ID:xIqxDYPDP

無理に暗い表情を立て直してひねり出した声。妹達の彼女でも辛そうである事は分かる

御坂妹「そうですか。確かに本日の体長は悪くありません。ですが、微小機械のネットワークで繋がっているお姉さまには分かると思いますが、まだ時折負担はかかります」

御坂妹「しかし、これからそれも無くなるかもしれません、とミサカは希望を吐露します」

御坂「え、どうして?」

御坂妹「一方通行と麦野という方が、先程まで、この部屋に来ていました」

御坂「それで?」

御坂妹「あの人、上条当麻の持ってきた情報の場所へ行ってどうこうすれば、私達の負担を取り除くことが出来る、と」

御坂「ちょっと待って、二人だけで行ったの?」

御坂妹「麦野さんの言葉を借りれば、"今の第三位じゃ、多分、使い物にならないからねぇ"、だ、そうです」

御坂「……そっか」

あの人にも、そう思わせてしまった。私は、自分の守るべきものも、結局他人に任せてしまうのだ

御坂妹「そして、更に。"あの子は少し背負い過ぎなのよ。確かに他の人間には引けを取らないLV5かもしれないけど、ここにいる第一位だって私を頼ってんだから"」

御坂妹「"だからあの子が寝てる間に、優 し い お姉さんが、その悩みの一つを解決してあげようかなってね。面倒見るように言われてるし"」

御坂妹「"あの子ならそれで、逆に私の事まで背負いかねないでしょうけど、生憎私は第3位に守って貰わなきゃならないほど弱くない。強くも無いけどね。あの子が思ってるほど、あの子の周りは弱くは無いのにさ。強がっちゃって。また出来の悪い妹分が増えたみたいで頭が痛いわ。目の前には出来の悪い弟分も居るし"」

御坂妹「とのことでした、とミサカは覚えていたままをお伝えします」

強くもないけど、弱くもない

そんな考え方は、御坂には無かった

自分が何とかしなければ。自分の努力で解決しなければ。自分の力で守らなければ。自分、自分、自分

思い返してみれば、"自分が"という選択だけで行動してきて、そして解決できたことなど何もないのだ。自分一人だけでは、手の届かない範囲というものがある

その手の届かない範囲を考えるあまり、混乱して、傷ついて、苦しんで来た。同じ事の繰り返し。そして結局範囲内のことすら諦めようとした
742 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:18:35.87 ID:xIqxDYPDP

御坂は無言でうなずいて、その場所を離れようとした

御坂妹「あの人の事ですが」

離れようとした御坂の足が止まる

御坂妹「具体的な行き先などは聞いている訳ではありません。ですが、少し思いつめたような顔をしていました、とミサカはその時を思い出しながら伝えます」

背を向けたまま聞き、尋ね返す

御坂「……誰かと一緒に行ったの?」

御坂妹「いいえ。ミサカの知る限りでは御一人だったかと、とミサカは曖昧な情報を報告します」

御坂「わかった。ありがと」

去っていくオリジナルに、これ以上伝える言葉など無かった

一方でオリジナルの方は麦野から間接的に伝えられた言葉と、上条の事がぐるぐる巡る

妹達の件については、何処へ行けばいいのかも分からない。今更追いつくこともできないだろう

任せるしかなかった

自分がさっきまで寝ようと試みていた部屋の前に付く

このまま自分は麦野の言葉に甘えて休んでいていいのだろうか

自分がどれだけ強くて、どう弱いのか。自分にできる事の範囲が御坂には分からなかった

自分の病室の前で携帯を開く。相変わらず家族が住む市街が大破壊を受けたというテロップが流れていて、圏外のままだ

母からのメールに書いてあったことは、お決まりのフレーズで始まる

"あなたがこのメールを読むときには、恐らく私はこの世に居ないでしょう"

何度読んでも心を打つものがあるが、本題はここでは無い
743 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:19:08.96 ID:xIqxDYPDP

"本当は、お墓まで持っていくつもりだったんだけどね"

そして始まる内容

自分は結婚する前にCIAのエージェントをしていたということ

そこで御坂旅掛と出会ったこと。自分たちの恋路によって多くの同僚が死んでしまったこと

その時の直属の上司が、御坂美琴も出会ったことのある上条刀夜であったこと

息子の上条当麻も、幼い時からCIAに所属していたということ

その記憶も含んで、夏のある時からそれまで全ての記憶が失われていたということ

学園都市の現状がアメリカの介入によって引き起こされたものであるということ

そして今、父である御坂旅掛が上条刀夜の反アメリカ現体制勢力の下、行動を起こそうとしているということ

この母の死の原因を、母自体完全に把握している訳ではないが、アメリカ現体制が何か知っているということ

"これで、私が母親として最期にあなたにしてあげる事はこれぐらい。もう当麻君との関係で甘酸っぱいアドバイスはしてあげられないわね"

"添付してるのは、現CIAの情報プールのアクセス権限。これを使えば、大体の事は分かるはずよ。流石に上級の機密事項とまではいかないけど"

"本当はコレもね、パパが今何をしてるか知る為に手に入れたの。ホント、何が幸いして、何が災いとなるのかなんてわからないものね"

"だから、美琴ちゃん。あなたはあなたの考えるままに行動しなさい。善し悪しなんて、後で付いてくるし、変わりもする"

"同僚の中には親しかった友達も居た。そんな人達を失ってまであの人と逃げるように結婚したことは、当時かなり悩んだし、今でも良かったのか分からない"

"でもね、あなたという存在が生まれて、パパにいつ何が起きるかわからないにしても、暖かい家庭を築けたことは、絶対に悪い事じゃなかったって胸を張って言えるわ"

"最期にこうして伝えたいことも伝えられたし、これ以上の贅沢は要らないわ。ありがとう"
744 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:19:46.27 ID:xIqxDYPDP

"それじゃ、天国で孫が生まれるのを楽しみに待っておきます"

文章の最後に、何気なく絵文字が使われていた

もう何度読み返したかわからないが、目頭が熱くなる

だが、この情報と行き先も知らせずに消えた上条当麻の行動を照らしだすと、大体読めてくるものがある

御坂(アイツが行ったのは、多分、アメリカ。父親の手助けをする為なのか、他の理由なのかは分からないけど)

御坂(でもアメリカのどこ? 政治の中心は東海岸だけど、最先端科学は南部アメリカ。西海岸にもロサンゼルスなんかの大都市は点在してる)

御坂(実家に居たお母さんが使ってたってことは、CIAの情報プールへのアクセスに特別な端末が必要って訳じゃない)

御坂(アイツがどこへ行ったのかコレで調べるには、電力が回復しない限り)

御坂(……って、私がアイツの事知って、どうするのよ)

御坂(それに、アイツがここ出たのは随分と前のこと。今更追いつけないじゃない)

ならば、この部屋で麦野に甘えて時間を過ごすだけでいいのか

「思いつめた顔をしていました」

先程の会話で、妹達の一人が言った言葉が蘇る

もしかしたら、彼にそんな表情を作らせたのは自分の言動も有るのかもしれない

言い方の正しさに問題は有るが、上条当麻を、私は見捨てて良いのだろうか

自分にあてがわれた病室の前で、携帯のストラップを見ながら立ちつくした
745 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:20:13.06 ID:xIqxDYPDP

「煙草を吸うようだが、葉巻は?」

ニコライと呼ばれる司教が机の引き出しから葉巻を取り出し、ステイルの方へ向けた

しかし、ステイルは手の平を掲げて、「要らない」という意思を伝える

ニコライ「そうか。まぁ、ロシア製だからな」

ステイル「いや、僕は根本的に葉巻は苦手で」

ニコライ「そうか。私は一本貰おう。………フゥ。結局、今君の懐に入っているであろうシガレットも同じことなのだ」

ニコライ「我がロシアで出来たものでは、西欧で出来たものには到底及ばないという事だ」

ニコライ「民主化が進んだものの、旧東側で出来たものはまだまだ質が悪く、世界的な市場ではコスト・品質共に戦えない」

ニコライ「唯一対抗できるのは、既存のマーケットと長年のキャリアを持つ航空技術ぐらいのものだが、電子機器類は西欧・米国から入ってきた技術が無いと話にならない」

ニコライ「その航空技術すらも、学園都市製のものには到底及ばない」

ステイルは、何が言いたい、という顔を向けた

ニコライ「つまり、わが国には資源国としての価値しか今は無いという事だ。魔術も同様にな」

ニコライ「歴史的に研鑚を重ねた旧来の魔術体系によって、十字教カトリックの大勢力の一つであるという自負はある」

ニコライ「だが根本的に数が無い。優秀な魔術師も、つまらん抗争の道具として使い物にならなくなる。かく言う私も、その詰らん抗争で伸し上がって来たのだがな」

ニコライ「ローマからの使者、いや、フィアンマからの使者よ。君のボスとは何度か交渉をしてきた」

ニコライ「そして今、同じようにアメリカも我が国を味方につけようと、話を持ち込んできた」

ニコライ「恐らくだが、この度の終末についてだろうな。我々は一十字教徒として受け入れるつもりだ」

ニコライ「彼の国には、魔術も科学も有る。そして君のボスは神の右席として圧倒的な力を持ってローマを左右できる」

ニコライ「果たしてどうして、か弱き我がロシアの力が必要なのだね?」

葉巻の煙を吸って、ニコライという司教は吐いた

ステイル「虎視眈眈とローマの地位を得んとしていたロシア成教が、よくもそこまで自らを卑下するような言い方をするものだ」
746 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:20:43.60 ID:xIqxDYPDP

ステイル「今更その様な説明を受けなくとも、分かっていますよ。その上でフィアンマは僕を使わしている」

ステイル「フィアンマは新教皇と距離を置こうとしている。どうも折り合いがつきそうにないのでね」

ステイル「だが兵隊は欲しい。ということで、ロシア成教に白羽の矢が立ったということでは、その答えになりませんかね?」

ニコライ「ほう。だが、何の見返りも無く、という訳にはいかないことぐらい理解しているだろう?」

ステイル「何も一方的に駒を貸せ、と言っているわけじゃない。 協 力 を求めているのですよ」

ニコライ「協力だと?」

ステイル「十字教の教えは多岐に渡っていながら、実のところ信じている神は一つだ。一方で天使などの神の使いは宗派・教派で別れている」

ステイル「あなたは、十字教徒として受け入れると言ったが、果たしてそれが出来るかな?」

ニコライ「何が言いたいのだ?」

ステイル「自らの信じる信仰によって救済されるということは、自らの信ずる神の使いか、神の引き起こす天災に身を捧げなくてはならない」

ステイル「今現れている神の使い、天使モドキはどうやら共通の教典である旧約聖書からのご登場だから、その問題は無いが」

ステイル「これから出現すると思われる神の使いには、それぞれの天使が登場することになる」

ステイル「例えば、北欧神話に登場する神々と融合した北欧十字教の天使が、エジプト辺りのコプト十字教徒を巻き込めば、どうなるか」

ステイル「厄介なことに、別れた教えは、それぞれの地方をそれぞれの宗派の天使が襲うなんて記述はされてない。どこも一様に大地は割れ、神の使いが焼き払い、なんて書かれ方だ」

ステイル「終末の後に訪れる救済についても、描かれ方は千差万別。神は同じ一つでありながら、異なる内容。しかも救済される"敬虔な信徒"なんて全く定まったものじゃない」

ステイル「全て曖昧で不安定でどうなるのか分からないが、あなたの終わりの時は来てしまう。ローマの方はその強大な力を用いて、神の右席なんてものを作り出すほどですからね、他派の天使を撃ち払う術があるかもしれない。だが、ロシアはどうなのです? 他派の、ローマ正教の正天使を撃退する手段はありますか?」

ニコライ「……それは、厳しい話だな」

ステイル「フィアンマは違うアプローチで、この難題を解決しようとしている。そういう意味での協力だ」

ステイルの言葉を聞いて、事実上のロシア成教の指導者ニコライは押し黙った
747 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:21:17.08 ID:xIqxDYPDP

実質的な施設の入り口であるシャッターも開いていないのに、突然目の前に現れた侵入者。虚を突かれたが、特殊部隊のエリートである彼は瞬時に腰のナイフへ手を伸ばそうとした

だが、手が動かない。異様に重いのだ。同じように、足腰も動かない

片目のHMDには、自分の生命反応に異常を示す単語が浮かぶ

"脳内血流量不足"

本来はどこかを怪我し、出血多量になった時に出る警告なのだが、怪我などしていない。理由も分からないままに、彼は意識を失った

結標「……何をしたの?」

地下の格納スペースに繋がるシャッター内に青髪と結標だけで空間移動したのだから、当然派手なお出迎えがあるだろうと覚悟していた結標は、周囲に居た5人が全て一斉に倒れたのを見て驚く

青髪「お手軽人工能力者キットのお陰っていったらええかなぁ?」

意識を失った兵たちのライフルを片っ端から取り上げて、結標の前に差し出す

軍用のアサルトライフルというのは、とても重たい。だからこそ、肩に掛けられるようになっている。それを御世辞にも剛腕とは言えない彼が、いとも簡単に持ちあげているのは不思議な光景だった

青髪「これ、車の中に送ったって」

結標「え、ええ。わかったわ」

言われたままに、アサルトライフルをクローン兵が待機しているLAVに送った

青髪「ほいならいきましょーか。早くせんと増援が来るかもしれへん」

といってスロープ状の地面をずんずん進む青髪

結標「ちょっと待ちなさい。何の解決にもなってないわよ、今の発言」

青髪「うーん。じゃあ、説明するより体験してもらおうかな」

結標「え?」

青髪が振り返って、結標の方を見る。その瞬間、彼女の四肢が非常に重くなった

それは瞬間的なことだったが、結標は強い立眩みが起きたようにフラッと倒れかけた

予定調和と言わんばかりに、少しニヤついた顔でそれを抱きとめる青髪
748 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:21:44.19 ID:xIqxDYPDP

青髪「こーいうのって、役得っていうんやろかな?」

結標「……少なくとも、故意に相手の意識を落とすようなやり方には、当てはまらないと思うわ、よ」

明るいとは言い切れない照明の明りでも分かるほど、青ざめた顔で、結標は応えた

青髪「ごめんごめん。ちょっと強過ぎたかもわからん」

もう大丈夫というサインとして、腕を手先で数回叩かれたので、青髪は結標を離した

少しふらつくが直ぐに回復するだろう。二人は歩き出す

結標「私に何をしてくれたの?」

青髪「簡単に言えば、立ちくらみを引き起こしたってトコかなぁ」

耳のピアスを外し、そのまま地面に落とす

金属性の軽いピアスとは思えないほど鈍い音が鳴り、地面に針が刺さった

それを拾いつつ、口を開く

青髪「物の重さをどうこうする能力、これであわきんの中を流れる血を一瞬だけすんごい重くしたんや」

青髪「人間の血液循環システムは脆いから、それだけで脳へ血液がいかなくなって意識は飛んでまう」

結標「それで、あの兵隊さんたちはみんな意識を失っちゃったのね」

青髪「せやでー。平和的なやり方やろ?」

結標「どうだか。ずっと脳への血流を止め続けたら、簡単に殺せるってことでしょうに」

青髪「……そんな時間をかけんでも、その気になったら、足の血管が耐えられんようになるほど重量を上げて、必然的に足にたまった血を吹きださせて殺すってことも出来るやろな。小さい物質の質量を上げ続ければブラックホールだって出来るかもや」

結標「なによ、それ。あなたもLV5だっていうの?」

青髪「人工的な能力でLV5なんて言っていいもんかなぁ」

スロープを下った先、案の定、部隊が配置され、銃口が向いてる

結標は瞬時に後ろへ飛んだが、青髪は弾幕の中へ飛び込んでいった
749 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:22:17.69 ID:xIqxDYPDP
松葉杖を突きながら、郭が診察室から出てきた

続けざまに、診察室の前に座っていた別の患者が中に入っていく

半蔵「大盛況だな。こりゃ、俺程度の怪我で診て貰うって訳にはいかねえか」

郭「い、いえ、是非診てもらうべきかと思います」

半蔵「良いっての。この腕だってホラ、腫れも引いてきた。まだ痛むようなら、湿布でもくすねて貼るとかで十分だ。それよりどうだったんだ?」

郭「半蔵様の処置のお陰か、この杖も要らないぐらいです。私よりも海原氏やショチトルちゃんの方が深刻でしょう」

半蔵「だろうな。海原の片足はバッキバキだし、あの子に至っては何がどうなってるのかも分かんねえ」

半蔵「俺の仲間も筋肉が萎えちまって直ぐには動けないしな。ホントココが空いてて良かったぜ」

混雑した院内を見回し、歩き回る人々に道を譲る

郭「この状況下で、よく開いてたものです」

半蔵「近づいた時に銃持った警備員やら能力者やらから銃を向けられたときにゃ、驚かされたが」

郭「私は輸送車の後ろに居たから知りませんでしたけど、そんなことが?」

半蔵「アメ公の車両だったから仕方ないけどな。あんなのに守られてんだがら、こんな状況だとなおさら、ここの防衛部隊は結構な勢力だぜ」

郭「ということはそれだけ、ここは安全という事ですね」

半蔵「病人にとってはな。今学園都市中には怪我人なんざ掃いて捨てるほど居るだろうから、俺たちみたいに比較的怪我の無い連中が長居するわけにはいかねぇよ」

郭「ここを出る、ということで?」

半蔵「ああ。そうするしかないだろ。一応、その前に海原と話はするがな」
750 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:22:58.27 ID:xIqxDYPDP
麦野「何と何が戦ってるのか知らないけど、中で随分と派手にやってる。この音だと」

一方「近くに警備員共の輸送用軽装甲車が一台あるしなァ。片方は警備員だろォぜ」

麦野「この施設規模にせいぜい10人がやっとのLAV一台ってのは、怪しいと思うべきでしょ?」

一方「あァ、そうかもな。だが警備員だろォが他の連中だろォが、俺らにとって関係ねェよ。この隙を突いて目的を果たすだけだ」

彼らはLAVと目的のビルを交互に見ながら会話していた

その目的のビルとは青髪と結標が電力回復の為に突入している施設である

一方通行達の目的と、青髪達の目的はもちろん異なる

一方「ミサカネットワークのサブシステムを立ち上げて、ドラゴンとかいうでたらめな存在からの負担を切り替えれば良いだけなンだからなァ」

一方「っても幻想殺しのやろォの情報が正しければの話だが」

麦野「そんなこと言って、アイツの事だから信頼してんでしょ?」

一方「……これ以外にすがる情報がねェからだ。勘違いすンな」

恥ずかしかったのか、麦野を見ていた視線をビルとLAVに戻す

戻した瞬間の出来事だった。突如として、LAVが視界内から消えた。まるで、どこかに空間移動したように

麦野「ぅえ? なんだよ、今の」

一方「馬鹿みたいに綺麗に消えた……? ホログラムか何かだったってのか」

麦野「誰が得すんのよ、そんなもん。LAV丸ごと空間移動、なんてこと普通は出来ないよね」

一方「当たり前だ。"軽"装甲車なんて言いながら、20トンは重量があろうかってシロモノだからな。それでも戦車なンかよりは随分と軽いけどよ」

一方「まず第一に重量の問題をクリアしねェとありえねェ」

麦野「ふぅん。断言したとこ悪いけどさ。じゃ、アレ何?」

麦野が指を指した場所、平べったく大きい3階程度までの土台部分の上にある、高層ビル部分の中腹の、鉄筋と中のフロアが外から剥き出しになっている部分に、先程まで見ていたLAVが突き刺さっている

麦野「ああいう強襲の仕方もありよね。前に浜面で試してみたけどさ」

後部ハッチが施設内部側になるように刺さったそのLAVから、何人かの銃を持っている人間が飛びだしているのがギリギリ見えた

だが麦野達が居る大通りからはこれ以上は良く見えない

一方「ああもう、知るかよ! どの道俺達の目的は上じゃなくて下だからなァ。あのシャッター吹っ飛ばして入る。後に付いて来てくれ」
751 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:23:47.09 ID:xIqxDYPDP
一方通行が重厚なシャッターを派手に吹き飛ばした音は、当然施設内に居る青髪や結標にも伝わる

結標「今の……上からじゃ、ないみたいね?」

青髪「せやなー。さっきあわきんののーりょくでLAVを突っ込ませたんで、僕が計画しとった陽動は他に無いから」

結標「私達以外の勢力が飛び込んできたってこと?」

青髪「敵じゃなければ、それでいいんやけど。僕らの目的地はこの上、3階のどっかやしな」

結標「どっか、って、ちょっ?!」

吹き抜けに設置されているエスカレーター、もちろん現在は止まっているが、それを駆け上がりつつの会話だった

上の階の壁の死角となっている場所、左右両方から敵兵が身を乗り出してこっちを狙っている。拾ったライフルで適度に弾幕を張りながら駆け上がっていく

一弾倉撃ち尽くすのはあっという間だった。弾の無くなった銃本体を結標は空間転移で投げつけ、更に左側の敵の部隊の前に一瞬だけ身を表して意表を突きつつ、視認できた武器を全て空間移動で奪い、自身は戻って二階のエスカレーターの影に身を隠しつつ弾幕を張る

結標がそんなことをしている反対側の敵には、青髪が自らの重量を極限まで削ったことで得られる高機動で米兵を翻弄しつつ、少し時間のかかる気絶攻撃を仕掛け、一人また一人と意識を失って倒れていく

結標によって飛び武器を根こそぎ奪われた側は、背を向けている青髪へ攻撃すべく手榴弾のピンを抜き、投げつける

青髪「そういう爆発物系は簡便なー。ここが壊れちゃ困るんやから」

青髪が振り向きざまに投げつけられたそれらを目で確認すると、擲弾は全て不発に終わった

なぜ、と思った時には、彼らのHMDに血流量不足の警告が現れ、気を失って倒れる

結標が止まったエスカレーターを昇ってくる

結標「3階のどこかわかってないの?」

青髪「だってあの統括理事長が、ここの3階にあるって言っただけやからな」

上の階から、バツバツバツバツ、っと銃撃戦を思わせる音が響く

青髪の能力で重量を減らし、それを結標の能力で強引にビルに突き刺したLAVから降りて襲撃している、どこかの誰かのクローン達による交戦の音である

青髪「せやから時間稼ぎの為に上で戦ってくれとる子たちを連れてきたんや。米兵相手じゃ長持ちせんやろし、早く探さんとな」
752 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:24:25.15 ID:xIqxDYPDP
現状、学園都市内の要所要所を占拠しているアメリカサイドは、襲撃に半蔵や量産個体のような元々学園都市内に居た人間を用いなければならないほど、寡兵である

故に、電気の供給を落とし、幻想術式を用いるなどして第7艦隊が来るまで凌ごうとしていた

それは、この青髪と一方が訪れている施設を占拠している場所も同じである

青髪と結標の地下入口からの襲撃、ライフルを持った能力者クローン部隊のビル上層からの想定外の襲撃、更には一方通行と麦野による2度目の地下入り口からの襲撃と、立て続けに3度の襲撃を繰り返されては、とても全てに対処できない

学園都市の最高戦力が3名と裏切った人口能力者の工作員。まともに対処できるのは上から現れた元々戦闘用ではないクローン個体達だけだった

それでも確実に戦力は減らされている。中でも一番寡兵となっていたのは、青髪達が一度強襲している地下からの侵入ルートだった

つまり、一度蹴散らされた経路を通る一方通行達は殆ど敵対するものが居ない

麦野「拍子抜けね。入ってみたらアメリカのっぽい兵隊さん達は皆気絶してるし」

一方「楽なのに越したことはねェよ。だが根本的に俺達の狙っているモンに、ここを守ってる連中は興味が無いらしいな。地下に行けばいくほど人の気配がねェ」

麦野「サブシステムとやらだけがここの施設価値じゃないってことっしょ」

もちろん、アメリカには既に前の学園都市崩壊の時点でミサカネットワークについて知っている

しかしそれは、同一電気系能力者のテレパシー通信程度にしか考えていないので、彼らにとってはデータさえあれば十分だった

つまり、アレイスターが見出しているような価値を知らない

そして分かり難いが、このサブシステムについては、アレイスターが上条当麻という中間情報媒体を介して一方通行に使う様に指示を出しているのと同じ事である

当然、一方通行はその事実を、上条当麻がアレイスターを通じて入手したという事実を、知りはしない。もし知っていたのなら、少しは深く考えたかもしれない

アレイスターにとっては、何れ確実に復旧する電力供給など、二の次であった

そんな所へ青髪をわざわざ派遣させたのは、一方通行にせよ御坂美琴にせよ他の誰かにせよ、その人物が確実にサブシステムを起動させるため

ここで起きている事の殆ど全てが、アレイスターの手の上である事に気付いている者は、いなかった

麦野「ここじゃない?」

右手でコンコンと音を立てながら、彼女が叩いたスライドドア

最低限の照明でも十分に見えるプレートには、何も書いていない

こうなってくると明らかに怪しいが、これではアメリカの人間が気にしないのは仕方が無いと言える

持ってきていた小型携帯端末に描かれたその場所だった

もちろん、鍵がかかっている。麦野や一方通行の能力で吹き飛ばしても良かったが、中の装置を壊すわけにはいかない

一方通行の杖から伸びた電極の片方を小型端末に、もう片方を部屋の電子ロックの基盤を開いた所にあるジャックに挿入する

ピピーという電子音が鳴り、赤色のランプが緑色に変わって、扉が自動的にスライドして開いた
753 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2011/01/10(月) 13:24:58.06 ID:xIqxDYPDP
一方「よォし」

部屋の中はアメリカの電力支配の影響で、嫌に暗かった。大きな部屋が正面に隣接しているようで、かなり大きなガラス越しに、奥の大部屋がうっすらと見えた

真空管の群を思わせる様な円柱状の物体がズラリと並んでいる。それは上条当麻ならば、それには見覚えがあった。佐天涙子であっても、同じようなものを見ている

だが、一方通行と麦野は現物似たようなものを見たことは無い。故に高性能な演算設備か何かだと思った

扉のロックと連動していたのか、暗い室内に一か所だけ光る固定端末がある

stand by "3rd season" と書かれ、後は承認のキー操作をするだけ。それを麦野は覗き込み、一方通行は傍らで杖の中に電極をしまっている

麦野「これね。ってかこれ以外なんもないけど。ねぇ、一歩通行。パスワードとかって、もちろん分かるんでしょ?」

一方「ン、あァ。これだ」

といって、先程使った携帯端末を麦野に渡す。どうやら電極がうまく入らない様で、「ンン?ァれ?」という声を上げていた

それを見ながら、しょうがない私がやるか、程度に考えた麦野

戦闘の心づもりで来た一方通行や麦野にとって、全くそういうものが無かった為に、少し気が抜けているのは致し方ないといえるのだが

カチャカチャカチャ……、ッターン!!と端末に入力する音が響く

麦野としてはそんなつもりは無かったが、他に全く音源が無かった為、無駄に力が入った為、小気味良く響いたのだった

目で追う気になれないような早さで文字が流れ出す。どうやら起動に成功したらしい

麦野「起動、した? うん、これでいいだろ」

一方「オーケィ。ならとっととズラかろうぜ。こンな場所に長居しても仕方ねェしなァ」

麦野「へー? あんたの単に、打ち止めちゃんとかが元気になったか、早く確かめたいだけじゃないの?」

一方「うるせェよ。……チッ、携帯すら満足に使えないってのは面倒だな」

麦野「ハイハイ。通話できなくて残念ねー。戻ったら電力の事も考えないと。病院の発電設備だって、いつまでも保つとは思えないし」

一方「そうだなァ」

一方通行が携帯で打ち止めに発信したものの相変わらず圏外で通じなかった為に、ポケットに仕舞おうとした、その時

唐突に正常な明りが室内に灯った

今まで見えなかったもの、ガラス越しに見えていた円柱状のものとその周りに配置されたものが一体なんだったのか、見える

一方「…………ンな、だと…?」

これ以上の言葉が出なかった
754 :本日分(ry 咳をしたら血が出るー血が出るー♪ 葛根湯不味すぎワロタ [saga]:2011/01/10(月) 13:26:54.89 ID:xIqxDYPDP
「よっしゃ、電力復旧かんりょーや」

それまでの最低電源が嘘のように明るくなった室内と、電力管理のモニターが通電を示す緑色のラインで染まったことを確認しての、青髪の声だった

結標「はいはい。ならとっとと帰りましょ?」

青髪「なんや、感慨ってモンはないのー?」

結標「無傷なあなたと違ってね、こっちは貰っちゃってるのよ」

悲痛、という程激しいものではないが、痛そうな表情を浮かべ、左腕を右手で押さえている

まわりの服が、赤く染まっていた

青髪「んー、明るいからよう見えるけど、その出血やから、そんな深くない?」

青髪が、結標の左腕を押さえる右手をゆっくりと離し、銃弾が抉った跡を見る。右手の平にはベッタリと赤い血が付着していた

結標「確かに深くは無いわ。けど、とっとと簡易な処置でもしたいじゃない」

青髪「…………胸に巻いてるサラシ使ったらええんちゃう?」

青髪の頬に鈍痛が生じた。同時に右手に付いていた結標の血が、青髪の頬に付着する

結標「あんたねぇ……?!」

青髪「じょ、じょーだんやって。ちょっと待っといてな」

殴られた頬を擦りながら、そばで意識を失っている兵を弄る。消毒剤と止血用具を見つけ出した

青髪「んじゃあ、お医者さんごっこするから、腕見せてーなー?」

結標「……恐ろしく気が進まなくなるような表現はやめて欲しいわね」

言いながらも、傷ついた腕を見せた

手慣れた様子で、テキパキと応急処置を進める。途中、消毒の際に「痛っ!」と思わず声が漏れたが、青髪は茶化さずにササッと工程を進めるだけだった

この男に対して、少しは信頼感というものが醸成されるのは、仕方ない事かもしれない

青髪「こんなもんかな、うん。今なら無料でナースプレイも付いてくるけど、どうs――ブギャッ!」

先程殴られた場所に、もう一撃お見舞いされた

結標「いらないわよ! もういいから、とっとと帰る! これ以上ここに居たらお互い傷が増えるだけでしょ?!」

青髪「……ふぁい」

青髪を背に、ズカズカと帰路に付く結標

その後ろで「あれ、このじょーきょーでナースプレイってったら、患者があわきんやから僕がナース役? ん?」などとのたまいながら、青髪が付いて行った
755 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 13:51:07.07 ID:9BPifQImo
756 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 13:51:33.92 ID:9BPifQImo
っと、見てなかった
乙ー
757 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 16:02:53.72 ID:TVbt43JKo
758 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 22:13:13.20 ID:QtCyzX+Uo

相変わらず面白いけど終わりが見えないなーこのSS
759 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/10(月) 23:42:09.24 ID:+OcXD86AO
おーつ
て、何?結核にでもなったのか?
お大事に
760 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 03:56:24.35 ID:V29AjIato
三日前からぶっ通しで読んで追いついたぞ!絶望するのに読みたくなる不思議!
一週目より二週目のほうがなぜか絶望する!しにてぇ!
そして乙!お大事に!
761 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/11(火) 05:34:44.55 ID:dYAHqIrW0
乙一歩通行ww
762 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 20:08:31.59 ID:Hu8Dzbhbo
いや実際問題これ三周目行かないとハッピーエンド無理だろwwwwwwww
どんな大どんでん返しが起こるんだろうか・・・
763 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 20:35:00.09 ID:niUarlR9o
いまだにフィアンマさんの目的がわからん俺に三行で頼む
764 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:26:05.30 ID:xGLODwywo
大移動だ
依頼してこい
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

765 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2011/01/13(木) 22:31:41.27 ID:xGLODwywo
■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

766 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2011/01/14(金) 17:07:50.59 ID:l5BeNgJEo
 
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

767 :真真真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/15(土) 21:47:16.88 ID:6D2kJrnno
さァて、移転したことだしゆっくり待ちますかァ!?
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/15(土) 22:11:06.09 ID:pu2h6REAO
消えたかと。
770 :>>769 まだだ!まだ消えん! [sage]:2011/01/16(日) 08:39:30.47 ID:3vQxv+EaP
眠らない街、などと言われるニューヨーク・マンハッタン

情報や技術ならば学園都市には圧倒的な後塵となってしまうが、それ以外の人類の全てがここに有ると言える

もちろん、人間も。その人間の持ちこむ情報で溢れるこの場所は、世界中で同時に最大規模の天災や謎の光体がもたらす破壊などによって、逆にそういう性質は一層激しくなっていた

調査する側からしたら、都合がいい事この上ない状態だった

「ありがとなのよー。――ハハハハッ、また縁があったら来るのよなー」

少しヘラッとした表情を浮かべた男が、とあるバーの扉を押し開けて外へ出た

時間は夜の23時といったところ

そろそろ10度を下回りそうな外気に触れて、その男の顔は渋る。否、先程までの表情が偽りだ

酷く真剣な表情を取り戻す

アルコールが入っているはずなのだが、顔には紅色などなかった

「そっちはどうだった?」

さっきまで使っていた英語では無く、日本語の、女の声が背後から聞こえた

街の一風景に溶け込む彼ら天草式。昼間の人でごった返すマンハッタンならば、仲間内でも気付かなかったかも知れない

しかし今は夜で、昼間ほど人は多くない

建宮「対馬か」

振り返って、街灯にもたれかかる男。その場所には彼らしか居ない

建宮「残念ながら直接的に女教皇に繋がるような情報は、手に入らなかったのよ」

対馬「そう。……ちなみに、こっちも同じよ。どこも話題は、あの声明会見とその時の映像についてばっかり」

言って、髪を手でといた。その顔には疲労が見える

無理も無い。彼女も、そして目の前の建宮も、まだ神裂と対峙した時の傷が癒えたわけでは無いのだ

加えて、数を使って情報を集めるといういつもの天草式の効率的な方法も、人数を絞ってアメリカに来た為に取ることもできず、ずっと休みなしで行動してきたのだから

建宮「それは仕方ない事なのよな。センセーショナルな情報ばっかり巡ってる中で、表面的には唯一希望に繋がる言葉なんだからな」

対馬「本当、人間って生き物はどんなに小さくても、そういうのに期待してしまうものね」
771 :ここのところの遅滞は風邪による鼻の奥からの出血と [sage]:2011/01/16(日) 08:40:41.25 ID:3vQxv+EaP
建宮「それは俺達も似たようなものなのよな。この広いアメリカで女教皇一人を探し出そうとしてるんだ。その上、神裂火織がここに居るってことは、ただの予測と仮定の積み重ねたものでしかない」

建宮「だが、あきらめるわけにはいかんのよ。この度のこの世界的な状況が、どの聖書にも書かれてるような終末を指すならば――」

対馬「私達、"天草式"という信仰においても同じ事を意味する」

建宮「そうだ。だから尚更、"女教皇"という導き手が居ないと困ったことになるのよな。女教皇の教えと行動あっての天草式十字凄教、所詮俺は教皇代理でしかないのよ」

対馬「イギリスに残った仲間たちの為にも、なんとかして見つけないといけないっていうのに、悪いことは重なるものね。なんでこうなっちゃったかな」

対馬が、ハァ、と深く息吐いた。しばらく言葉がなかった

建宮「……直接的に、と俺はいったのよ」

ポツリと言葉を始める

対馬「え?」

沈黙を破った言葉を、顔を上げて当然聞き返す

建宮「直接的に女教皇と繋がると断言出来るわけじゃないが、可能性がありそうな情報は掴んだのよ」

俯いた様に下がっていた頭を上げ、対馬を直視する建宮

建宮「あの大統領演説の時に流された、米製駆動鎧が光る人形みたいな天使モドキを撃退した"希望"の象徴みたいに扱われてる映像には、裏があるのよな」

対馬「裏っていうと?」

建宮「一番の見どころが編集されてるのよ。実際にフォートワース上空でなされた図と、映像の図には決定的な違いが有ったらしいのよな」

建宮「あの翼の生えた駆動鎧が実際に駆逐できたのは5体の中の一つだけ。残る4体を潰したのは、まるでケタの違う2つの存在だった、と」

建宮「アメリカの秘密兵器として隠されてるとか、俺が聞き出したヤツは言ってたが、わざわざ秘密にする理由が無いのよ。そして、その写真とともにマスコミにタレこもうとしたら、門前払いを受けたそうだ。加えてその写真資料はいつの間にか無くしちまったらしい」

建宮「これから考えられるのは、アメリカ政府が報道機関と結託して意図的にその存在を隠そうとしているという事なのよ。タレこもうとした奴の資料も、そういう機関に情報が行って秘密裏に奪われたものだと思える」

建宮「さっきも言った様に、仮にそういう存在があるならば、よりビッグな希望として公開した方がよりセンセーショナルで国民ウケもいい。わざわざマスコミにまで手をまわして、余計なコストを掛けてまで隠す理由が無い」

建宮「なにか理由が有って隠さざるを得ないとしか考えられないのよ。そう、例えば一般的じゃない魔術サイドのものだとか」

対馬「もっと言うと、英国・必要悪の教会所属で行方不明の魔術師がそこで戦っていたり、とか?」

建宮「そういうことなのよ。女教皇は、対神格用の"唯閃"に代表される術式があるのよな。あの光体が魔術サイドに規定されている天使の類のものだとすると、その相手はうってつけってことになるのよ」

建宮「もちろんこれは、かなり都合良く考えた仮説に過ぎないのよな。俺が話したヤツにこの神裂火織の写真を見せても、空高くを空間移動したみたいに超高速で動き回っていたから、まともに見えなかったという答えしか返ってこなかった」

対馬「でも確かに、私達がロンドンで女教皇と対峙した時、空間移動の術式なのか高速移動なのか判別できないけど、そういう動きはしていた……?」
772 :明日提出の論文のせいだああ。まだ7分の1もおわってねええええ [sage]:2011/01/16(日) 08:41:49.91 ID:3vQxv+EaP
建宮「可能性として面白いのよな。決めつけるには早いが、なんの情報も無いよりは随分とマシなのよ。こっから先は五和や野母崎達が合流して……っと」

取り出した神裂の写真を胸にしまおうとした時、複数の写真を重ねて持っていた為に真ん中に挟んでいた写真がするりと落ちた

足元に落ちたそれを、対馬は何気なく拾う

その行動は親切心から来たものだったが、写真の内容でそんな気持ちはぶっ飛んでいく

大きく中央で映っていたのは、自分の下着姿。どこで写したのかは分からないが背景には五和らしき人物の頭も入っている

風呂か何かの着替えのときのものか

「なによコレはぁあ?!」

全身を当然の怒りで震わせながら、ヤクザ顔負けの形相で目の前の写真の持ち主を睨みつける対馬

一方で睨まれた建宮は時間が止まった様に動かず、変化があるのは顔の表情が青に染まるのみ

そのままシャツの首周りをしっかりと握られて

「なぁあんでこんな写真を持ってるのか教えて欲しいのですがね教皇代理ぃ?!」

普段使われることのない乱暴な敬語で尋ねる

建宮「さ、酒場で情報を集めるには、相手の気を緩める為に、き、気軽なエロを用いるのは万国共通の方法なのよ」

対馬「はっ、ぁああ?! ってことは私の写真を見せて猥談を持ちこんだってことよね?!」

建宮「つ、対馬だけじゃないのよ!! 最新じゃないけど女教皇や五和、浦上他女性陣の写真も見せて女性の魅力についてアンケートをとっ――」

バチン!と音が炸裂した

建宮としては、その辱めを受けたのはお前だけじゃない、と血迷った発言をして気を鎮めようとしたようだが

対馬「余計悪いわよ!! それじゃ怪しい風俗でしょうが!!」

返す言葉は無かった。その通りである。実際、そっち系の人間かと問われたぐらいだ

もちろん、機密情報的な会話になってからは、建宮も話していた男もお互い、酒を浴びて笑いながらも少し表情が引き締まったのだが

実際、宗教的な問題を除いて、相手がフェミニストでもない限り、男同士ならば万国共通でまず間違いなくウケと賛同、そして気持ち良く会話をする為の一部分として、エロトークは価値が有る

時として間諜の役割をこなす天草式十字凄教の構成員である以上、彼女も常識として知っている事ではあった

人気の無くなった街路にバチンバチンバチンバチンと頬を叩く音がしばらく鳴っては響く
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:42:23.35 ID:3vQxv+EaP

対馬「……それで」

ようやく止まった。すでに建宮の顔中真っ赤だったが

建宮「ふぁい?」

対馬「誰が一番人気だったの?」

とても意外な返答だったが、女性として大きな武器を持っていない彼女自身、持っている者と比較して自分がどの程なのか気になったのかもしれない

建宮はそう考えた

建宮「………女教皇です」

まぁ予定調和といったところだろう。流石我らの女教皇

対馬「私は?」

建宮「………………」

グラマラス大好きなアメリカンを相手に必須の胸部兵器を持っていない彼女について、決して下位ではないが上位でも無いという結果を知っている建宮は返答に詰まった

一層、胸を掴む力が増える

建宮「対しm―――」

対馬「いいわ。教皇代理・建宮斎字、あなたなら誰に投票する?」

質問が変わった。難易度は、これは、改善されたのか?

建宮(こ、この状況のベストアンサーは何なのよ?! 無難に女教皇と答えるべきか?! いや、ここは対馬と叫ぶべきなのよ!?)

即答が求められそうなこの状況、彼には1秒という時間がいつも以上に短く感じてしまう

「っ……」

対馬「つ?」

建宮「対馬ぁあ!! お前さんなのよなぁっ!!!」

どうだ、言いきったのよ! さぁ何でも来やがれ

少し木霊した声は道路を走る自動車に簡単に掻き消されたが、目の前で胸倉を掴んでいる女性には確かに聞こえたらしい
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:43:23.01 ID:3vQxv+EaP
建宮は服を掴んでいた握力が弱まるのを感じた

対馬「……本当に?」

先程までの声色とは違う声が、若干頬を染めた女性から発せられる

そして更に服を掴む力は弱まって、もうこれは手を胸板に当てているという表現の方が正しいのではないかというレベルにまで到る

建宮(お、おぉ? これは大正解を引き当てたのよ……な?)

建宮「も、もちろんなのよ!!」

対馬「………えっと、どこが良かった? 胸では負けてるでしょ?」

思いの外、好感触。このまま上手く対馬の怒りを解いて、あわよくば写真の事は秘密にしたい

建宮斎字の話術が、今、光る―――

建宮「お前さんの魅力はそんなマニアックな場所じゃない! そのスレンダーさが生み出す脚線美なのよっ!! そこ"だけ"は女教皇や五和に負けてないのよな!!」

対馬「……"だけ"?」

光らなかった。時が止まる

胸においていただけの対馬の手が再び強く胸倉を掴みあげ、

股間を強く蹴りあげた

対馬「どうせ私は胸無しで背だけ高い凹凸の無い半端者よ! 若さだって他の子には負けるしだからいろいろと気を付けて――――のに!―――だし!!!」

続きざまに蹴り上げを続行しつつ、何かずらずらと喚いているようだったが、急所の痛みでそれどころではないのが建宮

そしてどこかの酔っぱらった若いのが騒いでおるわと気にしないのが現地人。こんなところでも天草式は現地の一風景として馴染んでいた

涙を浮かべて中腰になり悶絶している彼に、一通り喋りきった対馬が見下ろしながら尋ねる

建宮からすれば、ようやく終わった嵐である

対馬「あなたがさっき言ったこと、私を選んだのは、本当?」

もう一度台風を呼びたくは無い。建宮はひたすらに頷いた。今の彼は苦痛のあまり、会話の裏だとか相手の心理だとか駆け引きの判断などが満足にできず、ただ聞かれたままを答えた

満足に考えられなかったから勢いで頷いたということも当然あったが、彼が対馬の脚線美を認めているのは確かで、この肯定は本心に近いもの

対馬「……そっか、ホントなのか」

それが伝わったのか、彼女からの攻撃はもう無かった。既に十分ではあったが

野母崎がその場に到着した時には、腰に手を当てて仁王立ちの対馬と、街灯に背を預けて若干内股気味の涙目な教皇代理の姿が有った
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:44:21.31 ID:3vQxv+EaP
一方「こういう答えかよ、上条当麻ァ!!」

電力と言葉が戻り、目の前にある物や者がなんなのか、復活した端末操作で把握する

見た目で大体予想など付いていたのだったが

目の前の物と者、それはズラリと並んだ円柱形のビーカー群の中身だ。液体が充満し、複数の電極プラグが痛々しく刺さった大量の脳が浮かぶ

脳だけではない。眉間辺りで頭部がぱっくりと割れた人間の体も浮かんでいる。その体は年齢の幅があり、割れている部分に本来あるべき脳が無い

脳を入れる為の専用の入れ物とでも言うような感じすらする

表面的には3つに割れた顔を繋げて見えてくる人物像、それは

麦野「御坂……美琴……?」

まず間違いは無い。ついさっきまで何度も何人も見てきた顔なのだ

一方通行が睨んでいる固定端末のディスプレイを覗く。浮かんでいるのは「第三次製造計画」とその詳細だった

ズラリと並んでいるこの脳と入れ物は、全て御坂美琴のクローン体。妹達の次期生産個体ということらしい

だが、入れ物、つまり本来脳が入っているべき頭部が割れた体の総数と、ビーカー内で浮かぶ脳の総数が、どう考えても釣り合わない

圧倒的に脳の数が多いのだ

どうしてこんなことが。なぜ更なる妹達が、しかもこんな状態で

一方「ふざけンな!! こんなモン、なンの解決にもなっちゃいねェ!! 別の妹達に! 脳しか持ってないような、動くことも出来ねェ意思もねェ、一番弱くて非力なヤツに! 押し付けただけじゃねェかよ!!」

固定端末に拳を叩きつけた。ガン!、という鈍い音が響く

一方通行が言った言葉に、全てが集約されていた

サブシステムとは他の特別な演算装置などでは無く、第三次製造計画として作られた新しい個体によるミサカネットワークにすぎない

つまり、上条が解法として一方通行へ伝えたのは、いくら負担が苦痛になってもそれを表現する顔も体も持たない、個体ともすら言えないような"もの"に、今打ち止め達を襲っている負担を押しつけることで彼女らの負担を取り除くという方法だった

そしてこのことはもちろん、上条から与えられた情報には書かれていなかった

あったのはドラゴンという存在についての考察。その現出と維持にミサカネットワークが必要不可欠であるということ

その際の負担がネットワークの管理権を持っている打ち止めに集中してしまうことなどである
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:44:52.44 ID:3vQxv+EaP
こうなってくると、ミサカネットワークが有ってようやく存在するものと思われるが、その存在はネットワーク以前からあったものであり、その現出と維持の為のパワー貸出的な役割を果たしているのがミサカネットワークであるという事だ

一体何所から上条当麻はこの情報を得たのか。そして彼はこの現実を知っていたのか

一方通行が露骨に怒りながら、考えを巡らせている時だった

プルルルルルルrrrr……

なんの面白みもない着信音と共に、震えだす一方通行の携帯

取り出した画面には"打ち止め"の文字

流石にそのままの感情をぶつけるには不味いので、一度深呼吸をしてから

一方「……よォ、打ち止め」

打止『やった、通じたぁ。町の電気が復活したからもしかしてって思ったんだけど、ってミサカはミサカは喜んでる!』

声が明るい。サブシステムへの切り替えは成功したようだ

一方「……そうか、停電終わったンだな。それでテメェ、体の調子はどうなンだ?」

打止『うん、大丈夫。ミサカはもう全然頭は重くないし、この部屋のミサカもみんな大復活っ!』

一方「ってことはどォやら、最低限の成果だけは得られたみてェだな」

打ち止めそっちのけで、独り言のように発したその言葉は、隠すべき感情が乗っていた

打止『なにかあったの? あなたの声、すっごい不機嫌そうに聞こえるよ、ってミサカはミサカはビクビクしながら聞いてみる』

一方「帰ったら話すかもなァ。今はテメェらが復活したって分かっただけで十分だ。他に何も無ェなら切るぜ」

打止『あ、ちょっ、ちょっと待って! 一番言いたいことをまだ言ってないの!』

一方「なンだ」

打止『ネットワーク、ミサカネットワークにミサカだけ接続できなくなっちゃった!!、ってミサカはミサカは慌てる!』

一方「ンだと? どういうことだ」

打止『接続できないって言っても、他のミサカがそばに居れば微小機械のネットワークで間接的にアクセス出来るんだけど』

打止『ちょっと前にね、今までと違うところからも急激な負担がかかって、ミサカの意識が一瞬無くなっちゃって、目が覚めたら今までの負担も全部無くなって楽になって』

一方「今度はネットワークにアクセスできなくなっちまいました、ってかァ?」
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:45:22.12 ID:3vQxv+EaP
打止『う、うん。それがまるでミサカの上位固体の権限を丸ごと乗っ取られちゃったみたい。知ってるミサカにはそんなことが出来るミサカは無いし、ネットワークに知らないミサカからのアクセスも無かったし』

打止『一方通行と麦野さんがどういう方法を使ってミサカ達を救ってくれたのか分からないけど、理由が分かるかなって思って、ミサカはミサカは電話してみたんd……一方通行? もしもしー?』

打ち止めの言った事を考えるあまり、不自然に無言になっていたようだ

一方「……聞こえてる。悪いが切るぜ」

打止『え、ちょ、あくs―――』

眉間に力を込めて、ゆっくりと携帯をたたみ、ポケットにしまった

麦野「打ち止めちゃん、なんて?」

電話の間、手に持っていた一方通行の携帯端末の上条から得た情報を見ていた麦野は、その端末を一方通行の方へ向けながら尋ねた

一方「ネットワークが乗っ取られたってよ。恐らく、このミサカにな」

受け取りつつ、逆の手で正面のガラス張りを小突く

麦野「サブシステムにドラゴンとやらからの負担を押し付けるって言うのは、ネットワークの上位固体である打ち止めちゃんから、この第三次製造の妹達へ権限を移しかえるって事だったってことね」

一方「だろォな。あの病室に居る妹達が負担を受け取っていたのも、上位固体という性質によって本来打ち止め一人にかかっていた負担を、特別な微小機械が5等分した結果"らしい"からな」

今のは上条の弁である

一方「その権限そのものが他の独立した妹達へ移っちまえば、当然負担もそっちへ行く。見事打ち止め達を苦しめる原因は消え去ったワケだ」

もう一度、固定端末を殴りつけた。これでは何の解決にもなっていないのだから。打ち止め達の代わりに、目の前の妹達が苦しんでいるだけでしかない

麦野「じゃあ、既存の妹達のネットワークからの補助で機能してる一方通行、あんたが普通にしていられるのはなんでよ? 出発前に遊びで打ち止めちゃんに止められて、ベッドで簀巻きにされてたじゃん?」

一方「打ち止め以外の妹達は接続できてるらしいからな。ネットワーク自体は生きてるってことだ。打ち止めは、乗っ取られる前に更に別の負担を受けて耐えれず意識を失って、そのタイミングで乗っ取られたといっていた」

一方「そういう手順を踏む必要があるってことは、ネットワークの上位権限が二重に存在しえない設定になっているのかもしれねェ。俺に変わらず演算補助があるってことは、まだ切られてないだけっても言える」

一方「なにしろ目の前の妹達は、意思があるのかも、誰かにコントロールされているのかも分からないンだからな」

一番手前の脳に焦点を合わせて言った

麦野「コントロールか。確かにこの見た目じゃ、ただの生体演算装置ね」

一方「あァ。その誰かがもし居るならば、そいつを知っているのはこの情報を寄越した上条当麻か、上条に情報を与えたヤツ」

一方「そいつ次第で、俺への演算補助は打ち切られ、ネットワークに繋がってる大量の妹達を自由に操れるってわけだ。冗談にしても笑えねェ」
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:46:01.20 ID:3vQxv+EaP
ステイル(まったく、僕も良く語ったものだな)

ロシア成教の司教・ニコライとの話を終え、教会の区域から出た瞬間にステイルは吸い慣れた銘柄の煙草を口に咥えた

ふぅ、と息を吐く。10月中頃ともなれば、氷点下とは言わないが気温が10度を基本的に上回らないこのモスクワに、白いモヤが生まれ、消える

ステイル(とりあえず、僕がここへ来た役割は果たせたのだろうが)

煙草を口から離して、朝の空を見上げた

ステイル(ニコライというあの男をフィアンマに協力させる事、それがここに来た僕の目的)

ステイル(しかし引っ掛かることも多い。ニコライの言う視点とは少し違うが、フィアンマにどうして人海的な戦力が必要なんだ?)

ステイル(彼には、死者を復活させる術がある。あのテッラの様に、聖堂内で僕を囲んだ、ローマ正教の尖兵として死んだはずの魔術師の復活者達の様に、復活させて数をそろえられるのは事実だ)

ステイル(その上、仮に繰り返し復活させることが出来るなら、ロシア成教の魔術師兵なんて不必要。そもそも最大主教と騎士団長を同時に相手して打ち倒してしまうような存在なんだ、いくら禁書目録の事に集中したいとは言えど)

ステイル(テッラが言うには、死者復活は不完全らしいが。だがその不完全さを補うために組み込まれた術式で逆に彼をコントロールしているというし、隙が有るようには思えない)

ステイル(だがそのあたりの問題なのか? 上手く理由を付ることが出来たからいいものの、こういう事を頼むならもう少し僕に情報を寄越せというんだ)

一本吸いきって、吸い殻を足で踏みつける

ステイル(しかし、ね)

モスクワを歩く彼の体を、朝日がほんの少しずつ温める

ステイル(僕が彼を説き伏せるに使った言葉、あれは全てが嘘じゃない)

ステイル(フィアンマから譲り受けた言葉を、僕なりに翻訳して、彼を説得するに用いたが)

ステイル(ということは、彼の言葉を理解していなければ出来ない事だ)

ステイル(理解できているという事は、把握しているという事。フィアンマの言葉で説得されたのは、ニコライだけではなく、僕自身でもあるということなのか)

ステイル(いや、まさかね。僕がフィアンマに協力してるのは禁書目録を人質に取られているだけだ。彼女が戻ったら僕は……)

ステイル(僕は……?)

携帯電話に着信、違う。これは魔術による通信だ

ステイル(これは、フィアンマか)
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:46:31.18 ID:3vQxv+EaP
垣根帝督の目の前に、正確にはガラス越しの小さな空間には一人の女性が浮かんでいる

空軍の秘密基地・エリア51の施設の一区画、対迎撃用の機密兵器として扱われている物者が配備されている場所だ

垣根(神裂火織。聖人。魔術師。日本地方十字教・天草式十字凄教の指導者でありながら、出奔)

垣根(イギリス清教必要悪の教会に所属し、一魔術師として活躍。そんな奴がどうして)

全裸で浮いている彼女は液体内でも拘束する為に、首と四肢にゴツい鎖が絡み付いていて、垣根の視点からは見えないが、延髄に直接到達ような太い電極のプラグが刺さっている

垣根(どうしてこうなっちまったんだろうな。神ってのはホント、信者には厳しい嫌な性格をしてやがる)

その光景は、縦と横の見た目の違いこそあれど、守れなかったとある少女の事を思い出させる

直視していられなくて、視線を神裂から外した

(彼女の事が気になるかね)

脳内に声が響く

垣根「本当にお前は、狙った様なタイミングで話しかけてくるよな。ええ? イェスさんとやらよ」

周りに人がいないので、垣根は口に声を出して応える

イェス(別に狙ったわけではないのだが、そう思えるかい?)

垣根「さぁ、どーだろうな。……でもって、気にならないってわけがねぇよ。こんな捕まり方されてりゃ、な」

顔を強張らせめて、目の前の神裂を直視する

体に電気が奔ったのか、女はビクビクビクッ、と痙攣した。その動きがあまりにも不自然で無機質で、垣根は一層嫌悪感を抱く

イェス(彼女にはすまない事をしていると思っている。そして彼女を必要としている人々にもね)

イェス(だが私もこの名前に示した役割を、きっかけであり救済者としての役割をやらねばならない)

垣根「別に誰が頼んだってわけでもないだろうに」

フン、と垣根は鼻で笑った
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:47:26.25 ID:3vQxv+EaP
イェス(神を欲し、作り上げたのは人間だ。理不尽な不幸と不満からの救いを求めてね)

イェス(私も人間に作られた。同じようにね。表面的な目的は違えど、深層の理由は同じだと思っている)

イェス(深層の理由、救済=解決としての科学技術ということ)

イェス(人間によって実行可能な事の領域を広げて不具合・不都合・不便を解決するという行為は、問題や苦難の解決の為に神にすがる行為と、働いている心理は同じ)

イェス(直面している問題を"解決"する事。人が神を作ったのは、不幸の解決を求めての事だ)

イェス(そしてその神が、神に救われない・救われようと望んでいない人々を巻き込んで終末をもたらし、そんな人々を置き去りにしようというのなら)

イェス(同じく人間の問題を解決する為に作られた私は、その問題を解決することが役割なのだろう)

イェス(つまり、誰かに頼まれたのではなく、私の中の遺伝子としての様に流れる科学技術という体系そのものに、最初から頼んであった仕事だよ)

じっと無表情、いや、物悲しそうな顔をしている神裂の顔を見ていた

垣根「面倒臭い言い回ししやがって、とにかく、お前は人間を救うなんつー御大層な役割で動いてる。それは真実なんだろ?」

イェス(何度目かの質問だが、今回もイェスと答えさせて貰おう。ただし)

垣根「"残念ながら人類すべてでは無く、私に可能な範囲に限られるが"、だろ? それこそ何度目のアンサーだっての」

イェス(フフ。特に宗教サイドの人々は、私を敵視するか信じないだろうからね。彼らにとって私は悪魔か何かだろうさ)

垣根「悪魔ね。真の悪魔は、こんな状況を持って来やがったヤツだ」

垣根の頭脳には、明確に上条当麻という名前が浮かぶ

イェス(……そうかもしれない。少し君の思う悪魔とは、恐らく少し違う意味で、だけれども)

垣根「ああ?」

イェス(ともかく、私は人に造られたものとしての使命を全うするつもりだ。しかし、問題がある)

垣根「まだ何かあんのか」
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:47:55.47 ID:3vQxv+EaP
イェス(その使命の過程に組み入れられてしまった、君の目の前に居る彼女の事だ)

イェス(君も知る様に、彼女はとある十字教信仰の中心だ。となれば導き手として彼女を必要とする人々がいる)

垣根「だろうな。だがよ、宗教の中心なんかも所詮人間なんだし、いざってなれば代役なりを祭り上げればいいだけの事だろ?」

イェス(普通なら、そうだろう。某巨大十字教組織などは意図的・積極的に信仰の指導者を選出している様だが)

イェス(しかし、彼らは違うらしい)

垣根「彼ら、だ?」

イェス(天草式十字凄教の信徒たちさ。同じ信徒、彼らにとっては仲間を彼女の手によって失い傷つけられながらも、女教皇である彼女を求めてか、はるばる我がアメリカに来ている)

垣根「へぇ、敬虔な信者たちだな」

イェス(どういう意思が働いて彼女を求めているのか分からないが、はっきりしているのは彼らの行動力だ)

イェス(少数派として草の根の中に隠れた十字教として生存してきた信仰だからか、そのまま草としての経験を高めたのだろうね)

垣根「"草としての経験"? ベジタリアンかなんかか?」

イェス(うん? 日本では忍者の事を別称で草というのだろう? 文献にも出ているのだが)

垣根の視界の中に、書籍のデータが現れる。忍者とは何ぞ、とバランスのおかしい漢字とひらがなで書かれた表紙だった

アメリカの、日本文化について若干勘違いしてそうな "参考文献"である

垣根「……はぁ。一般的な日本人はな、忍者フリークな外人みたいな変に凝った知識を持っちゃいないんだぜ」

イェス(ほほぅ、常識ではないということか)

垣根「ああ。残念ながらな」

イェス(それは、残念だ。割と深刻に。……では、話を戻そう。草、要するに忍者としての役割に近い事も得意のようなんだ、天草式の信徒達はな)

イェス(今彼らはマンハッタンの一風景に溶け込んで情報を集めている様だが、直ぐにに前の天使崩れ共との戦いの後にここへ彼女が運ばれたことぐらい掴むだろう)

垣根「大丈夫なのか? その信者共のレベルがどの程度か知らないが」
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:48:26.81 ID:3vQxv+EaP
イェス(恐らく、君が今までに相手をしてきた魔術師程度かそれ以上。とは言っても、目の前で眠っている彼女ほどではないハズだ。そんな力があるならば既に大きく行動しているだろうからね)

垣根「この女と同じ程度のが10人も20人も居たんじゃ、俺はどうしようもねぇよ」

イェス(私もさ。今のところ、確認されているのは7、8人程度だから、安心だな)

垣根「それで、俺にその情報を与えてどーしろって言うんだ? どうせ何かしら理由が有るんだろ?」

イェス(とても簡単な事だよ)

たった3つの英単語での返答だった

垣根「……殺すんだな?」

イェス(フ、それも一つの答えだが、違うな。彼女について、彼らに現状を伝えてほしいんだ。それも我々に隠れて、ね)

垣根「我々に隠れて、だ? 目的が見えねぇな」

イェス(彼らがどうしてここに来ているのか聞き出して、事が終われば返す意図があると伝えてほしい)

イェス(そんなことを頼むのは、彼らの行動を私が掴んでいるということから考えてみると分かるさ)

垣根「んと、CIAだかなんらかの組織が、動きを捕捉してるってことだろ。神裂の事は機密も機密だしな。そんな組織に捕捉されているってことはつまり」

垣根「機密保持の為に、抹殺しようと動きはじめてるわけか」

イェス(ご明察だ。決められた職務を忠実に全うする有能な部下たちが、当然の反応行動を採っている。このままこの基地まで辿り着くという意思を見せれば、間違いなく私の部下は動くだろう)

イェス(もちろん天草式の彼らもそれなりの力があるだろうが、こちらには前と違って対魔術防諜防衛のマニュアルと戦い方が作成されているに加えて、更には協力的になった元・敵対魔術師達という戦力もあるからね)

イェス(結果は分からないが、天草式は手負いの様だし、彼らにとって不幸な出来事になるのは間違いない)

イェス(だからといって、立場上私の権限は使えない。そこで君だ。どうだい?)

垣根「理由は分かるが、えらく優しいじゃねえか」

イェス(彼らも本来は救うべき対象なのだからね。宗教側であることは確かでも、だからといって直ぐに害を与える気にはならない)

イェス(宗教サイドのどこかが明確に敵対してくるのであれば、科学サイドの人々の"解決"を守る為にも、アメリカ合衆国の意思であるという事からも、容赦はしないがね)
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:48:58.32 ID:3vQxv+EaP


フィアンマ『どうだ? 上手くいっただろう』

ロシア成教の主教座のおかれている教会の外周の歩道で、ステイルが耳に携帯を当てると聞こえた声だった

ステイル「そうだね。ま、僕の交渉力のお陰かもしれないが」

思ってもいない言葉を投げ返す

フィアンマ『ハハハ、なかなか言うな。それでこそ俺様の駒だ。それでいい。もちろん俺様も、相手がこの状況下で現状が理解出来んほど馬鹿ではないと分かっていたからな』

フィアンマ『組織の権力争いに生き残るということは、最低限の知力があるという事だ。その危機管理の嗅覚は無駄に鋭いものなんでな』

ステイル「その嗅覚のお陰なのかは分からないけれど、君のやり方が、実際確実に解決への方向に向かっているものだと思うのは、仕方のないことだと思うね」

ステイル「あやふやな既定とこの状況下ですら権力欲で行動している者が治めるローマ正教は、間違いなく危険だと思われている」

フィアンマ『フ、それはイギリス清教の信徒としての言葉か』

ステイル「100%否定する気はない。ただし禁書目録に秘密裏に工作を加えていた最大主教も信頼には遠い、とは言っておこうか」

フィアンマ『どこまで行っても禁書目録か。愚直とも言えるぞ』

フィアンマの言葉には鼻で笑った様な音が追加された

それを聞いて若干ステイルは語気を強める

ステイル「なんとでも言えばいい。僕がそう誓っただけなのだからな」

フィアンマ『だが、純粋とも言える。所詮そんなものだ、人間の見方とは、人間とは、な』

返って来たのは肯定の言葉だった

フィアンマ『それを主張だのイデオロギーだのどっちサイドだので区切るからおかしくなる。愚直でいいんだ、人間なんてものは』

ステイル「その方が支配しやすいからだろう? 僕の様に」

フィアンマ『馬鹿だな。俺様はそこまで小さい器でありたいとは思わんよ。"救済"という言葉を本来の意味で見ているだけだ、俺様はな』

ステイル「へぇ。なんだろうが構わないが、このまま僕はロシアを後にしていいのか?」

フィアンマ『いや、お前にはそのままアメリカに行って貰いたい』

ステイル「このままアメリカに、だって? 立場的には反対できないが、拒否したところだね」

フィアンマ『禁書目録からなるべく離れたくない、ってお前のことぐらいは分かる』

フィアンマ『安心しろ。俺様が用があるのはあの子供の頭の中身だ。不完全ということもあって、戦力としても独立して満足に使えないような子供自身に用は無いからな』

ステイル「言葉で安心しろ、というのは無理があるとは思わないのか、君は。だがまぁいいさ。それで、君は僕にどんな行動を求めようというんだい? 今度はアメリカと交渉しろと?」

フィアンマ『違う。今度のは潜入だ。目的は、そうだな、救世主探しとでも言おうか』
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/16(日) 08:49:32.23 ID:3vQxv+EaP
建宮「やっぱりそっちの筋からも、あの天使モドキ迎撃の報道と現実のギャップについてあがっていたのよな」

対馬にやられた股間の痛みがじんわりと残るも、建宮は指導者として、裏路地に集まった天草式の集会の議長のようなポジションで話を進める

建宮「よし、ありがとうなのよ、野母崎。次は五和の報告が聞きたいのよな」

五和「はい。私の調べでも天使迎撃については得られたんですが、被っているのでそこは割愛しますね」

対馬「ってことは、他にも何かあるの?」

五和「はい。それとは別にちょっと。詳細も確証もあやふやなんですが」

五和「この国はようやく深いレベルで魔術を認識したようで、敵対していたラテンアメリカの魔術師組織が秘密裏にいくつも急襲されてるみたいです」

「こっちの調査でも同じだ。相当やられてるみたいだぜ」

まだ報告をしていない天草式の人間からの賛同の声

五和「はい。その目的はもちろん危険への先制攻撃による防衛なんですが、どうやら裏が有って」

その場に居る人間の顔を見回しながら話す

五和「もう一つの目標が、魔術という新技術へのより深い理解と実用化の為に、研究対象を得る事。私が接触した人の中に、非戦闘員だったからアメリカ対魔術部隊からの急襲から逃げることが出来た人が居たんですが、その人もその人個人でアメリカについて動いているらしくて」

五和「その研究機関の一大拠点が、彼が言うには、よく秘密基地として映画なんかにも出て来るエリア51空軍基地。そこにはさっき話にも出てきた天使迎撃に活躍した部隊も有るって話していました」

天使迎撃に活躍した部隊。これまでの報告が正しいなら、その部隊の中に神裂が混じっている可能性はそれなりに有りそうだ

五和「大きな滑走路も付随している為に空輸による素早い移動にも対応していて、全米でも有数の高機密施設であるってことからもそれなりに信用性は高そうなんですけど」

判断を尋ねるように、建宮の方を向く

建宮「確かに考えられないわけでもないのよな。しかし、潰れた組織に所属していた個人の活動から得た情報ってだけでは確証が低すぎるのよな、誰かそれに近い情報を持ってきた奴はいないか」

しかしその問いかけには、答えは返ってこなかった

建宮「……まぁ仕方ない事なのよな。ここで今からエリア51のあるネバダ州に行くってのもいいが、時間もかかる上にハズレだった時が痛すぎるのよ」

対馬「私は反対。ネバダなんかラスベガスやリノ以外は全くの田舎って話よ。マフィアとかの情報を得ようという訳でも無いんだし」

「情報を得るなら、ニューヨークの方が集めやすいと思います。今の私達は人数も少ないですし、情報密度が低い場所では困難でしょう」

別の天草式の女性から肯定の声が上がった

建宮「そうなのよな。人数も牛深や諫早なんかを始めとしたイギリス残留組の方が圧倒的に多いのよ。あっちはあっちで重傷者ばかりだが」

五和「今は慎重に動かないと。時間はもうあまりないみたいですから」

釘をさすように、五和が言う。もちろん、ここに居る全員が分かっている事なのだが。そこに居た一同が、といっても10人弱ほどだが、頷いて教皇代理の顔に視線を集めた。判断を求めている

建宮「選択肢は今だ増えないまま、か。とりあえず、このままこのマンハッタンで情報をあつめるのよな」
785 :本日分(ry 論文どーしよ。あばばばばばばb [saga]:2011/01/16(日) 08:50:35.32 ID:3vQxv+EaP
一方通行と麦野には第三次製造計画の妹達をどうこうすることなど、できなかった

何重にも掛けられたセキュリティの末、出てきたのは統括理事長権限という名の最強の関門

それはつまり、電力が回復したことでアレイスターが手をまわした施設の一つであるという事なのだが、当然彼らにはそんなことを知る方法など無い

どうにも手が出せない以上、放置する以外に道は無かった

麦野「全てあんたが壊すってのも、彼女たちへの一つの救いになると思うわよ。特に、こんな状態じゃ、ね」

と本当に最後の手段を麦野は一応問いかけてみるも

一方「冗談じゃねェ。ンなことが出来るか」

という言葉以外には返ってこなかった

そういう訳で、彼らは一度病院へ戻ろうと第三次製造計画の個体達が在る空間を後にした

だがその帰路、出会ってしまった

両組とも、堂々と一階の歓送迎用の豪華な玄関から庭を通って出るなどという目立つ方法を採る訳も無く

また、地下からの出口専用口には入口と同様にアメリカ部隊が居ると考えられることから、無駄な戦闘を避けるという判断も同じで

ここに入った同じ経路、つまり地下入り口へ足を進めていた

青髪が意識を奪っていたアメリカの防衛部隊が再起動していて、先行していた青髪と結標がその相手をしていた為に、どうしても時間がかかっていた

特に結標は手負いなので、青髪が片っ端から先行して、クリアが確認された後を結標が付いて行くという方法を採ったが故、行きよりも時間がかかってしまったのだった

地上の地下入口へ昇る曲がりくねった100m程度のスロープのはじめの場所に、一方通行達が辿り着いた時だった

一方通行には見慣れた、髪を二つに分けて束ねた女の背が目に入る。怪我をしているようだ

「……結標?」

「え、一方通行?」

一方通行と麦野が、振り向いた結標と向き合った。その時

「こっから出口までお掃除おわったでー、あわきん。まっさかもう起きあがっとるなんて、ほんまメリケンの皆さんタフガイすぎるわ」

呑気な声が、先程まで結標が見ていたスロープの上から、声の主と共に下ってくる

当然、一方通行と麦野の注目は声の元へ向かう

暗闇の中から徐々に輪郭を取り戻すように、ハッキリと青髪の姿が浮かび上がった

その青い髪と耳のピアスのその顔を、一方通行は完全に認識した

"前"に、学園都市を共に破壊し、そして打ち止めを殺した男に、もう一度出会ってしまった
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 14:31:07.26 ID:vI9RzsW50
乙ゞ

誰か建宮×対馬スレを早く
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 15:17:00.83 ID:p8zs44QSo
おちゅ
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/16(日) 16:43:19.56 ID:VqoQFynMo


なんだか上条さんがCIAエージェントとして学園都市を壊滅させるのが見たくなってきた
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/16(日) 21:38:26.67 ID:vppOSHfAO
ハリウッドみれば
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/17(月) 02:08:39.40 ID:ZsiUZJMAO
乙なのよな
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 01:40:15.54 ID:czLEPBV+0


ここの帝督ってかなり強くなってそうだけど、聖人が10人いたらどうしよもないって
どんなもんなんだろうな
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 08:35:33.71 ID:C74J0qvSO
>>791
ていとくんの認識における聖人の基準が、洗脳強化されたねーちんだからだろ
天使とやり合える、自分と互角かそれ以上の奴らが10人となったらそりゃ厳しいだろ
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/18(火) 20:14:17.76 ID:OcfcloF2o
原作のていとくんはこのスレの提督に瞬殺されそうだ
794 :突然板の上位に上がるスレ、それがここである [saga]:2011/01/24(月) 02:34:24.82 ID:YJTWE+ixP
アレイスター「今日は、あなたか。しかもわざわざここに来るとは」

窓の無いビルの中に広がる空間に、長い金髪の白い装束を身につけた女性的な存在が現れた

エイワス「別に君が細工したこの体に文句を言いに来たわけではない。こうして目の前に立って話をするというのは、それなりに価値を見いだせる事だとは思うが」

お互い向き合っての会話なのだが、それぞれの顔には表情と言えるものは全く読み取れなかった

エイ「顔に出る、からね。例えそれが君という存在であってもだ。プリセットされた使命に振り回される存在よ。それでも、ガラス越しというのはいささか無粋だな」

少し長めに瞬きする

アレ「……人に造られた、という要素は君も同じだろう」

エイ「お互い"前"とは比較にならない姿形となってしまった。そんなものは、とうに忘れてしまった概念だね」

アレ「そうかもしれないが、変わらないものもあるようだ。この度の現出であなたが直ぐに訪れていた場所は、例の地下研究施設だったのだからな」

フフフ、とエイワスの笑う声が響いた

エイ「忘れるものもあれば、永遠に覚えていることもある。人間とはそういうものと私は理解しているが」

アレ「否定しない。私も同じような行動を採ってしまった。それで、何用だ?」

エイ「そうそう、その事だ。現出の際に予想していた者とは違って、少し違和感が有ったものだから、また君が何か仕組んだのか思ってね」

無意識に動かしたエイワスの手の軌道によって、その空間の気流が異様に歪められ、攻撃的な意思を持ってアレイスターのビーカーへ向かっていく

だからといって、その程度の気流はなんの害にもならず、ビーカーに当たるのみ
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:34:51.81 ID:YJTWE+ixP

エイ「別に私自身の手で解決できない様な事ではないのだろうが、先程起動したシステムの事も有る。ついでに励ましでもと考えて、わざわざここに足を運んだのだよ」

アレイスターの浸かっているビーカー内に、すこし気泡が生まれて上がっていった

アレ「あなたの体にはいくつか細工をさせてもらったし、ある程度私の融通が効くようにあなたの言ったシステムも起動させてもらったが、あなたが感じた違和感とは別のものだ」

エイ「うん。話を聞く価値は有りそうじゃないか」

アレ「何ということも無いことだ。予定されていたヒューズ=カザキリという存在を介さなかった、それだけの話」

エイ「……ふむ。なるほど、そういう訳か。君もそこまで手が回らなかった、という訳だ」

アレ「"前"で、"相対するもの"・"幻想殺し"が何度も学園都市中のAIMを、瞬間的とはいえ、消し去ってしまった。その度に虚数学区が消え、そして再生した。ヒューズ=カザキリも消えた」

エイ「こうしてあなたが現出しているように、ポスト・カザキリに当たるものも同時に再生したが、それがヒューズ=カザキリという存在では無い、磨かれていない宝石の原石のようなものでしかなかった。ただの、何かが生まれそうなエネルギーの塊、というな」

アレ「だが特段、彼女という存在である必要性も無く、さらにそこまで置き換えるように"作り変える"余裕も、根本的に"作り直す"余裕もなかった。それだけの話だ」

エイ「そういう事ならば、君の仕掛けた細工の方がより気にかかるところになるがね。……そう言えば、見当たらないが、彼はもう行ったのか」

アレ「先刻、ここを出て行ったところだ」

エイ「そうか。君の控えなのだ、彼も重要なのだろう? 人類にとって」

エイ「もっとも、君がうまくやればの出番など不必要なのだろうが。……今回こそは、上手くやるのだよ」

これが伝えたかったと言わんばかりに語気を少し強めて言葉を放った後、エイワスと呼ばれる存在は消えた

アレ「当然だ。私の役割は、それだけなのだから。その為には、あなたという存在をも利用させてもらおう」

再び一人となったアレイスターは、笑みを浮かべるだけだった
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:35:20.55 ID:YJTWE+ixP
突然戻った電気のお陰で、最低限の明るさに保たれていた第7学区の病院の中が、正常な明度を取り戻す

携帯の圏外という表示が変化し、今度は逆に電波は十分な強度が有るという表示で固定される

表示されるニューステロップが変化した事以外、メールや電話が入ってくるという訳ではなかった

御坂「……やっぱり、そうだよね」

耳に押し当てていた携帯を離し、その小さなディスプレイを覗き込む

実家の固定電話も、母の携帯電話も、不通だった。同様に、父も

こんな時にまで連絡が取れない父に若干の苛立ちを覚えたが、仕方のないことかもしれない

アメリカの現体制を傾けるという、大それた計画をしているのだから

そしてその計画の中心には、御坂自身も面識がある上条刀夜という存在がある

何より彼女は、その息子の行動が気になっていた

病室の近くの談話スペースでソファに座る彼女の正面には、液晶テレビが有った

電源を付けると、学園都市外のニュースが映し出される

『―――以外にも、津市、名古屋市、岡山市、仙台市で同様の光体が現れ、予測される死傷者・行方不明者の総数は200万人を越えております』

『世界各国でこの光体による襲撃と大規模災害が発生し、深夜にアメリカ合衆国で行われた声明によって発表された内容通りに進展しております』

『この事態に対し日本政府は非常事態宣言を発令。しかし具体的な対策が挙げられている訳でなく、一部の都市では動乱状態に―――』

フレンダ「なによ、コレ。一体何が起きてる訳?」

左肘から先が無い代わりに、高性能な義手を付けた少女が現れた
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:35:46.44 ID:YJTWE+ixP

御坂「あ、フレンダ、さん。警備は交代?」

フレンダ「"さん"は要らないっての。そ、昨晩と違って今は、私以外にいくらでも防衛部隊は居るからね。それで、なにこれ? エイプリルフール的な何か?」

画面を見るフレンダの目は懐疑的なものではなく、真面目なものだった

御坂「私も今見始めたところだから、分かんないけど。多分、そういうんじゃないと思うわ」

『――――ハワイで改修を受けた米第7艦隊が、横須賀で臨時に展開中の同国第3艦隊と交代し、そのまま紛争状態が続く学園都市の鎮圧活動に入るとのことです』

『アメリカ大統領声明においてその重要度を認められ、人類存続の要と目される学園都市の、早期の健全化が望まれます。次のニュースです。ローマ正教で教皇の崩御が――――』

フレンダ「へぇ、第7艦隊が来るのか。本来なら統括理事会外部派主流アメリカ族の大勝利、ってことなんだろーけど、結局この学園都市の状況じゃ痛み分けどころかドマイナスな訳でしょーに」

御坂「やっぱり、そういう事知ってるのね、フレンダは」

フレンダ「結局伊達に暗部組織なんかしてないよ。こういう情報って、いざとなったら自分の生死を左右するし」

御坂「……なんで、そういう事をする人になったの? どういう考えで、信念とか、夢とか、考えて活動してるの?」

同じニュースがループし始めた為に興味を失ったところへ、御坂が質問をした

フレンダ「さぁねー、なんだったかな。別に大層な理由じゃないわけよ。でもそうだなー」

フレンダ「一度こうなった以上、結局、生き残る為に動いてるってことに終始しちゃうのか」

御坂「生き残る、ため」

フレンダ「でもそれも、更に突き詰めれば、自分の為、ってことになるのかな。勿論他にも理由は有るよ。サバ缶だってまだ食べ飽きるほど食べてないワケだし」

フレンダ「あー、これも、自分の為になるのか。欲望とか恋愛とか人間関係とかって結局、全部自分の為って要素があるワケよ」

フレンダ「だから、仕事で人を殺すのも、誰かや何かを守るのも、結局全部自分の為って割り切ってる、私は」

こんなのでいい? と軽く腕を広げて、首をかしげて御坂を見た
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:36:15.74 ID:YJTWE+ixP

御坂「全部自分の為、か」

それは、母の残した"あなたはあなたの考えるままに行動しなさい"という言葉に、深い部分で繋がっていた

誰かを守りたいと思うのも、自分の人間関係的な居場所を守る為と言える

世界を悪くさせたくないと思うのも、自分の環境を良くしたいという願望の為とも言える

そして、手が届かない範囲に居るだろうあの男の事を思って、今すぐにでも調べ上げて追いかけてしまいたいという希望があるのも、自分の愛欲故なのかもしれない

御坂「……ありがと、フレンダ。また一つ助けられたのかな」

フレンダ「別に助けたとかそういうんじゃないけど、そう思うんなら何か奢ってもらおっかな?」

フレンダが指で自販機を示すと、御坂はその前に移動して、ココアを選んだ

そのままフレンダに軽く投げ渡す

御坂「ココアで良かった?」

フレンダ「うん。ありがと」

言いつつ、少女はプルタブに力を加えて、口に近づけた

御坂「フレンダのお陰で少なくとも、やらなきゃならない、したいことってのが見つかったわ。それで、もう一つお願いしていい?」

フレンダ「ん、何?」

御坂「私が居ない間、黒子と初春さんを、守ってくれる?」

フレンダ「どの道この病院に居る間は、あなたの後輩を含んだ病院全部を守るつもりだったから、構わないけど。何、どこかに行くの?」

御坂「ちょっと、馬鹿に会いに行くだけ、かな。お願いね」

両手を合わせる御坂に、首を傾けたまま見ながらココアを口に含むフレンダ

そして御坂は振り返って、ポケットの中から端末を取り出して弄りながら、談話スペースを去っていった
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:36:45.97 ID:YJTWE+ixP
「お前はッ……!!!」

第三次製造計画の事で猛っていた一方通行は、その男の姿を確認した途端、その男へ拳を向けた

結標にとってはその様が、過去に自分と敵対した一方通行の攻撃を思い出させて、一瞬心が詰まる

麦野は目を丸くし、殴りかかられた本人は「え、ちょっ!!」と言いながらその突進とも言える一方通行の攻撃を回避した

その衝撃だけで、青髪の衣類と表皮の幾らかに裂けたような傷が付く

先程まで青髪が立っていた場所は、地上へと向かう幅15m程のスロープの丁度中心だったが、一方通行の拳が刺さり、1m以上の溝を作って縦に裂けた

通常に殴っただけでは、絶対にこのような縦溝などできない

当ったものを縦に裂くようにベクトルを弄って行った、簡単に言えば青髪を真っ二つに裂くように異質にエネルギーを捻じ曲げて殴りかかった、という事から来る結果だ

当れば間違いなく青髪は、半分に裂かれて死んでいただろう

青髪「ちょちょちょ、何?! 僕が何かした?!」

当然、彼には襲われる理由が分からない

彼には、既に死んでしまった彼と違って、"前"についての知識が無いのだから

"前"を断片的に知った上条刀夜によって、その素質を見抜かれ、イェスの操るCIAから引き抜かれるという方法で刀夜に協力している彼には、情報が無い

特に、自らが手に入れた人工能力によって、目の前の男と共に学園都市を本格的に破壊しつくしたことなど、彼は知らないのだ

一方通行は答えない。刺さった拳を抜いて、ゆらりと振り返る

5mも離れていない青髪へ、再度突進しようとするのが分かった

話が通じそうにないことは、一瞬だけ確認できた一方通行の顔色から判断できる

これは、不味い

地面を蹴ってすぐ、先程の様に能力で自らの体を極限まで軽くし、同時に一方通行の体を重くすることで少しでも行動を鈍らせようと試みた

前者の効果は大きかったが、後者の効果は全くの無だった

彼の能力を一方的に知る一方通行には、自身に変化を与える能力の行使は受け付けない

5m弱という近接距離で、音速の壁を越えた動きをする一方通行

広い野外ならいざ知らず、上下方向へ斜めに伸びるスロープという空間では、一方通行から発する衝撃が逃げる方向は限られ、集中する
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:37:23.09 ID:YJTWE+ixP
体を極限まで軽くしていたことも有って、超音速で飛来する一方通行の拳と体自体はギリギリのところで回避した青髪の体は、更に無数の裂傷を作り、更に4m程の高さを持つ天井に衝突し床へ弾き落とされ、麦野と結標の前に転がった

結標「な……、なんでこんなことッ?!」

体が半分ほどスロープの壁にめり込んだ一方通行は答えない

彼女らの目の前で、青髪が体を若干震わせながら、両手で身を起こそうとしている

その光景を一方通行は捉えて、今度こそ殺さんと体を向けた。彼我の距離は30mと言ったところだろうか

ほんの僅かな時間で、一方通行がこのスロープを下ってくるのは容易に予想が付いた

青髪も、これ以上身にダメージを受けたくはない。青髪と一方通行の目線が、それぞれの意思を持って交差する

一方通行が体を僅かに動かした瞬間、青髪はやらせまいと、彼らの間にある空気の重量を非常に重くして空気密度が増し、光が異常な屈折をして視覚的にも僅かに確認できるような分厚い壁を作る

その重さを支えられないスロープの床に亀裂が入って、音が鳴る。初見ならば、これがどういう原理で起きているのか簡単には分からない

自分の体を起こし逃げる為の布石として、青髪はこれで時間を稼ぐつもりだった

一方「ンな物はなァ…、散々見せられてンだよォ!」

先程と変わらず超音速で突進してくる一方通行。その"壁"に彼が触れた瞬間、本来ならその壁に彼は激しく激突し体が拉げるか、反作用による衝撃を逃がすために怯むハズだったが

一方「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すブッ殺すゥ!!」

一方通行は既にそれがどういう構造でどういう力が掛っている物なのか完全に把握している。幅15m高さ4m長さ5m程度の大きさの異常な空気の塊程度、分かっていれば弾くことなど造作も無い事だ

一方「壊される前に殺される前に駄目になっちまう前にィィ!!俺はテメェをッ!!ブッ殺す!!」

超音速の勢いを乗せて、その空気の塊ごと青髪を押しつぶさんと、その"壁"を弾いた

その"壁"の進行方向には、青髪以外に、何が起きているのか分からない麦野と結標が居る

このままでは青髪と共に空気の塊が衝突してしまう

青髪「ッ!!」

中腰程度に起きてその異常を知覚した青髪は、自分の身を守る為にも、空気の"壁"に注いでいる自分の力を解除するしかなかった

音速とは言えないが"壁"となっていた空気の塊は、一方通行に押しだされたことによって、元々かなりの速度になっていた

そこへ更に圧縮されていた空気密度が解放されたことも重なって、それは暴風となる
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:38:05.33 ID:YJTWE+ixP
青髪と共に、麦野も結標も耐えれず吹き飛ばされたが、彼女らは彼女らで自らの体を守る手段を持っている

麦野は電子放射で体勢を整えて無事に着地し、結標は目に付いた電灯を目印に座標を設定して身体を空間移動させた

一方で青髪は満足に受け身もとれず、自らの背後の空気をクッション代わりとして空気密度を微妙に高め、ある程度衝撃を殺したのだが、鈍い音を立てて駐車されていた車両にぶつかった

青髪が車のドアを背にして、なんとか上半身だけを起こし血がダラりと垂れた頭を上げると、一方通行が目の前に立ち見下ろしていた

簡単に言えば一方通行は、前後関係などがあやふやに思い出した記憶に影響されて、この目の前の青髪がここで"生きている"第三次計画の妹達を壊しに来たのだと正常とは言い切れない思考で考えたのだ

更に、彼は最近目の前で、その行動判断の遅さによって黄泉川愛穂という存在を失っている。もう二度と、そういう思いが彼を過剰におかしくさせ、青髪殺しに駆り立てる

あの時と同じ"空気壁"による青髪の行為が、ますますその疑念を確信にしたのだった

青髪「グゥ、ッ、プハ……」

最早声もまともに出せなくなった青髪をじっと見下ろして、一方通行は右手の平を、肩ぐらいの高さで開いた

手の平で球状に渦を成した空気の流れに異様な外的圧力を加えることで、その高速な運動エネルギーと加圧から来る熱エネルギーなどを得た空気は、正確に言えば空気を構成する原子や分子は、そこまで時間をかけずにプラズマ化する

そしてその危険な球体を、そのまま青髪の頭部へ。その動作にはなんの躊躇も無い。当れば間違いなく人間の頭は四散して塵と成るだろう

青髪(………こんなんで、終わりか……)

だが、青髪にとってはこの突然の襲撃者によって命を失うハズだったが時間が、その瞬間が来なかった

目の前には、二本の足。しかしそれは、それまであったものではない

女の足。先程までのチノバンを着た男の足ではないものだ

結標が、無言で彼の前に立っていた

青髪(あぁ……僕を、移動したんやな)

先程まで自分が背を預けていた車と一方通行が、10mは前に有った

背中の支えを失った青髪は、背筋で体を支える事が出来ず、結標の右足のすぐ右に倒れ込む

青髪「……あわき…ん…」

一方通行と決して好ましいという雰囲気で向かい合いながら、結標淡希は青髪の声を聞いた

青髪「………………白……いや…水いr」

下から下着を覗いていた青髪の頭を右足で小突いて、彼の意識を止める。彼の体勢から、それ以外目に付く物が無かったから出た言葉であってほしい。そしてその時も、意識の大多数は目の前の一方通行のままである
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:38:35.64 ID:YJTWE+ixP
一方「結標、テメェ」

怒りしか見いだせない様な表情を浮かべた一方通行

しかしその顔は、あの時結標を打ち倒した時のような、まっすぐな意思を見いだせず、彼女の一方通行への恐れは小さくなった

結標「何を勘違いしているのかは知らないけど、このh」

一方「うるせェ。どいてろ」

話は、聞かない。青髪を守ろうとする者の言葉を聞く耳など無い

結標「私がどいたところで、私の能力で―――」

一方「どかねェってンなら」

結標の左頬を亜音速で何かが通り過ぎる。その衝撃で、結標の頬の皮膚が裂けた

先程までに幾度か手が壁にめり込んだ一方通行は、小さな金属ともコンクリートとも取れる欠片を弾いたのだった

一方「次は脅しじゃすまさねェ。テメェ如きが出しゃばンな」

今のような攻撃方法も、一方通行には有るのだ。自分がここを少しでも動けば、つまり自分が盾とならなければ、この足元を遠距離武器で殺すこともできる

結標「……そう。分かったわ」

言って、結標はあえて青髪の側から離れた。一方通行の目は青髪に向けられたまま。狙い通りだ

ピン、という音が小さく響いた。音の源は、結標の背

麦野の視点からは、彼女がなにをしたのか見えているが、それを一方通行に伝えるには時間も意思もなかった

青髪を殺そうと、一歩ずつ歩いて距離を縮める一方通行

その彼の視界の中に、何かが現れた

彼の目の前に突如現れたのは、拳サイズの筒のような物体

閃光弾が一方通行の目の前で出光した。反射が有る彼には、その光によって視界を長時間奪う事は出来ないが、一瞬でも隙を作れば十分だった

結標は既にスロープに向かって走り始めていて、閃光の影で青髪の体は、先程の場所からは完全に消えている

閉鎖的な空間で、高レベルの空間移動能力者を捉えるには、既に距離は開きすぎていた
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:39:04.62 ID:YJTWE+ixP

白井「……お姉さま?」

彼女が起きた時、その名前の人は居なかった

代わりに、同じように隣のベッド上で上半身だけを起こしている少女が応えた

絹旗「お姉さまなんて、レズビアンか何かなんですか?」

白井「……そういう関係だったらどれほど良かったか」

絹旗「うわぁ、本当にそっち系だったとか、同室なのが超不安です」

白井「ふん。こんな小娘とお姉さまでは雲泥の差ですの。全く興味がわきませんわ」

絹旗「同性愛を考えてる様な人の判断基準なんて正確さから超離れてるものですから、悔しさなんてちっともですよ」

白井「ああん? 胸もタッパも無い様な小娘が何を」

絹旗「そっくりそのまま同じ言葉を返しますよ」

白井「ぐぬぬ。っというか、なんであなたみたいなのがここに?! というかここはどこですの?」

今更になって頭を抱えて悩む少女が有った

絹旗「どこってそりゃ、超病院ですよ」

白井「"超"、病院……? 初耳ですの」

二人とも同じ患者用の衣類を身につけて、清潔そうな部屋に寝ているのだから、この場所はひとつしかないだろう

絹旗「ああもう! 私と同じ部屋ってことは、第一学区で被曝したんじゃないんですか?」

白井「第一学区で……。初春ッ?!」

今度は頭を少し派手に振って、同じ部屋に初春と呼ばれる少女が居ないか探し出す。勿論、居ない

絹旗「さっきから超元気な人ですね。初春さんって言うのは、私達と違ってまだ面会謝絶の人の事で間違っては?」

白井「面会謝絶、ですの?」

絹旗「私もさっき目が覚めたところなので詳しくは言えませんけど、被曝の度合いが酷いとかで」

白井「初春……」

絹旗「でもまぁ、大丈夫みたいですよ。私達がこうして会話できる程度までは超元気な様にね」
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:39:35.74 ID:YJTWE+ixP

絹旗「私達のリーダーと第三位が取ってきた遺伝子のサンプルとやらで、私達含めて何とかしたみたいです。快方に向かっていると聞いてますから」

白井「それは、よかった、ですの。さすがお姉さま」

絹旗「ああ、お姉さまって、第三位の事だったんですね」

白井「はいですの。はぁ、第一学区にまで助けに来て頂いたのもお姉さま、その後も治療までもお姉さまにお任せしていたとは、頼りっぱなしですの」

絹旗「そうですね。私も似たようなものですし。まぁそう思うんなら、とっとと治して超恩返しでもするんですね。体調、どうですか?」

白井「今にもここを飛びだせる程度ですの」

絹旗「そうですか。でも、本当に飛びだすのはお勧めしません。まだ定着には時間がかかるらしいですから」

白井「定着?」

絹旗「私達の治療方法は、根本的にはクローニングみたいなもんってことですよ。放射線で壊れた遺伝子の代わりに、平均化された能力者のサンプルって奴から作りだした遺伝子で、体の壊れた部分を作り出したらしくて」

絹旗「手の平とか良く見て下さい。超違和感を感じるはずです」

白井「はて、超違和感?」

言われるままに、隣の絹旗の方から自らの手の平に視線を移した

違う。これは微妙に自分の手ではない

こんなところに黒子(ほくろ)は無かったハズだ。爪の形もおかしい

大まかには合っているが、本人だけが分かる僅かな違和感が、体中に有った

絹旗「超気持ち悪いでしょ?」

白井「ですわね。なんだか自分の体では無い様な」

絹旗「はい。私達はこの程度で済みましたけど、初春さんって人はかなり変化してるかも知れません。下手をすれば、脳まで」

白井「それは……かなり嫌ですの」

絹旗「超可哀相なのは当の本人でしょうね。まぁとにかく、今は微小機械が全力で定着作業中ですから、激しく動くなってことです。皮膚がベロッってはげちゃいますよ」
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:40:15.57 ID:YJTWE+ixP

取り残された一方通行と、麦野

彼らはいまだに、地下駐車場に立っている

麦野「一体どういう理由で暴れ出したの?」

一方通行の表情が、さっきまでよりはずっとまともになったのを見計らって、麦野は切り出した

一方「テメェには関係無いことだ」

麦野「無くは無いわよ。あんたからの攻撃、一応巻き込まれたのよ?」

一方「……無事だったンだからいいだろ」

"巻き込まれたのよ"。言葉が一際大きく響く

麦野「良くないっての。私じゃなかったら吹き飛ばされた彼みたく、どっかにぶつかっててもおかしくないだろうが」

麦野「巻き込まれた側としては、当然理由を説明してほしとこね。また急に一方的に襲いだして巻き込まれたくないから」

"巻き込まれたくない"。更に響く

あの青髪が、夢のような記憶の中で言っていた言葉だ

一方「一方的だと?」

麦野「少なくとも、向こうから敵意ある反撃は見てとれなかったけど? あんたが急に殺そうとした。それで私達も吹き飛ばされた。違う?」

一方「……違わねェ」

麦野「あんたが本気で動くとね、余波だけで十分に人が殺せるし、簡単に建物も破壊できるの。別に動くなとは言わないけどさ」

一方「言われなくとも分かってる。だから俺はアイツを」

すこし申し訳なさそうに、しかし何か理由を感じさせる目で、一方通行は麦野を見た

麦野「その"だから"の文脈を教えろってのよ」

一方「それは、教えらンねェ。というより、俺もよくわかってないンだ」

麦野「分かって無い、って、はぁ?」

意外な答えに、当惑する麦野だが、一方通行からしても、面識のない青髪と戦っただの、学園都市を壊しただの、今生きてる妹達を巻き込んで殺しただの、なんてことは言える訳が無かった

言えないという事は、本質的に理解していないからでもある。彼自身、懐疑的にも捉えていた

ただ、はっきりしているのは、青髪の男に対して明確に怒りを覚えている事

一方「分かってンのはあの青髪が俺の敵だって事だけだ。同時に、お前に言えるのもな」
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:40:53.54 ID:YJTWE+ixP
「よぉ、どうだ、足の様子は?」

3階の病室の扉が開き、複数の患者が相部屋している中に目標の人物を見つけた半蔵は、声をかけた

海原「良くも悪くも、予想通りですね。痛みも有りますし、しばらくはコレに厄介になりそうです」

ベッドのそばにある杖を指差した彼の足は、ギプスに覆われて如何にも骨折と言った感じだ

この部屋で寝ている他の人々も、患者服の端から包帯が見えている者、体の一部の無い者、海原同様にギブスを付けている者など様々

半蔵「仕方無いこったな。えぐい程に腫れてたんだ、最悪切除義足も有り得たと思うぜ?」

海原「そう考えれば運が良かったんですかね。ここに居る他の方も、私と同じかそれ以上に怪我をしているようですし」

半蔵「昨日の様子じゃ、こんな奴らはごまんといるだろうな。死んじまった人も、いっぱいいるハズだ」

海原「電力も回復したみたいですし、正確な人数も出るのではないでしょうか」

半蔵「どうだかな。警備員とか、そういう行政的な組織が機能出来てるとは思えないぜ。今まともに動けるのは、学園都市内ではアメリカ派の連中でも限られるんじゃねぇの」

海原「それでは、当分この混沌とした状況は変わらないと」

半蔵「いや、もうじき変わり始めるだろうな」

海原「と、言いますと?」

半蔵「さっき自販機のトコにあるテレビで見たんだが、米艦隊が横須賀入りして、搭載された海兵隊やらの事実上"学園都市占領部隊"とやらがこっちに向かってるとよ」

半蔵「表立っては内紛鎮圧・秩序回復を謳っているが、どうだかな。学園都市も学園都市で自力回復は無理だろうし、組織だって抵抗出来るような集団がもしあったとしても、流石にあの駆動鎧部隊を相手するのは厳しいぜ。こっちも駆動鎧でも出さない限りな」

海原「それは、確かに。大量のあれを前に絶望的な対抗をしたくは無いですね」

半蔵「だろ? だが、入ってくるアメリカの連中にとっても問題なのは、大量に出た怪我人の対処だろうな。テレビの情報が正しいなら、怪我人を救助しなきゃならない。ここ以外の病院は学園都市にいくらでもあるが、まともに機能してる可能性は低いだろうよ」

半蔵「さっきも強盗集団と化した能力者の集団が来たが、問題無く返り討にするほどの独自の防衛部隊すら整ってるここは、電力が回復してから続々と患者が増えてるからな。何れパンクすんのは避けらんねぇ」

半蔵「俺みたいに元気なのがずっと居座る訳にはいかないんだ。だからって防衛部隊に参加するにしても、アメリカ共が挨拶か交渉か何かで来た時に、先遣部隊を襲った俺達が居たら良くないのは目に見えてる」

特段この病院はどこかの勢力に属している訳でも無いので、アメリカ軍に占領されようが問題は無いのだ。むしろ、安全を保障してくれるならば、積極的に協力すべきとも言える

半蔵「それはお前も同じ立場だ。怪我人っても、許してくれるかはわかんねぇし、何より米軍の敵を匿ってるなんて判断されたら、ここの立場を悪くさせちまいかねない」

そこまで言いきって、半蔵は海原の顔をじっと見た

海原「つまり、あなたと共にここを出ろと言いたいのですね?」

半蔵「それが最良だと思うぜ、って提案だ。お前の怪我の度合いによると思ってたけど、幸い杖が有れば動けそうなレベルだからな。これはお前自身の事だから、お前にその判断は任せる」

半蔵「だが、先に言っておくとショチトル、だったよなあの子。さっき見てきたが、あの子の治療は始まったばっかりだし、意識も戻らない状態だから一緒に連れて行くのは無理だ」

半蔵「同じように俺の仲間たちもな。だけど俺の仲間の方は、もともと人質って立場だったから、居ようが居まいが関係ねぇないだろうさ。あの子はどうなんだ? 置いておいて大丈夫そうなのか?」

海原(ショチトルの中に有った原典はもう無い。アメリカ目的がその原点の回収だけなら、わざわざ意識の無い人間を攫う理由も無いし、安全と言える……か。断言はできないが)

海原(彼女は動かせない、そして自分がここに居続けるのも良くない。選択肢は決まっているようなもの、ですね)

海原「わかりました。私も行きます」

その言葉に、半蔵は頷いた

半蔵「オーケー。ならとっとと行くぜ。既に郭に車を用意させてある。アメ公が来る前に身を隠さないといけねぇからな」
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:41:31.89 ID:YJTWE+ixP
「―――御苦労。隊長と同僚を失ったのは、不幸なことだ」

学園都市占領軍の本格的な部隊の第一波が到着し、第15学区の拠点であった場所に指揮官の一人が到着した

「ですが、その原因である少女の捕獲には成功しました。先ほど研究者達の元へ引き渡しましたが」

新しく到着した指令用のトレーラー内で応えているのは、生き残った駆動鎧部隊の副隊長だ

「聞いている。あの化け物をよく捕まえた。書類上だが、木山幻生の作りだしたあの個体については私も知っている。フォートワースで使用された対天使部隊並みの能力が有ったと思うが」

「いえ、我々はただ、偶然気を失っていたところを確保しただけにすぎません。……意識が有った時には、どうにも手がつけられませんでした」

「であろうな。なんにしても、今頃は研究者どもの良い玩具だろう。ここに来る途中で拾った物に加えてな」

「来る途中で? ということは、太平洋上で、でしょうか?」

「そうだ。日本の公安の小型舟艇を、な。当然、本国からの許可も得てのことだ。洋上から随分と大喜びで研究をしていたが、あの個体が手に入ってから一際だ。やっと耐えられる検体を手に入れた、とか言っていたが。いやはや全く、私には何がどうなのかわからんよ」

「同じ感想ですね。あんな化け物をどうして喜べるのか、理解に苦しみます」



―――ピッ―――ピッ――――ピッ―――

一定のリズムで音が鳴っている

これは、アタシの心臓と同じリズムだ

体―――動かない。目――――見えない。音―――聞こえる

部分的に脳の機能が抑えられている。薬品か

ああ、そう言えば、特定の麻酔は効くのだった、この体は。当然だよね、だってあの爺の研究対象だったわけだし、完成品だろうがなんだろうが、制御する手段くらい考えてるか

迂闊だったなぁ。あの時麻酔を打ち込まれるなんて、思っても無かったよ

早く全部のアタシを殺して楽になりたいのに、皆邪魔ばっかりして来てさ。いつまで拘束されるんだろうなー

ああもう、勝手に頭にアクセスしないで欲しいな。女の子の頭の中を覗くなんて、どうかと思いますよ

誰が見てるのか分かんないんだけどね。男の人だったら嫌だな、セクハラじゃん

うわ、なんか体に入って来てる。粘っこい感触?がする。なんだろう、コレ

あー、また意識が。悔しいな、御坂さんみたいに逆ハックしてやろうと思ってたのに、間に合わないなこれじゃ

えっと、---e A was---……読めないっての。あーだめだ、変換…間に合わ、ない……や
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:42:01.79 ID:YJTWE+ixP

アックア「そんな表情を浮かべるとは、失敗したな、我が友よ」

病室では無く、病院屋外の公園のような空間の椅子で、日の光を迎える二人の男

片方は瀕死の重傷を受けたばかりの身だというのに、すでに立ち上がって、こうして外に出るまでに回復していた

騎士団長「分かるか」

アッ「でなければ、今も血眼にしてその魔術師を探しているか、尋問しているところであろう。 今の時勢でイギリスの魔術師が逃げるところはなど、イギリス内しかないのである」

アッ「だが、その様子では、国外に、恐らくはフィアンマの力の及ぶ、ローマの勢力圏にでも逃げ込まれたのであるな?」

団長「ヴィリアン様の見舞いついでに立ち寄っただけだというのに、貴様という奴は。お見通しという訳だな。……ああ、そうだとも」

アッ「体がこれでは、満足に動くのは頭だけなのであるからな。考えを巡らせるには十分な時間もあるのである」

団長「だが、流石は聖人といったところか。ヴィリアン様はまだ意思が戻らぬというのに」

患者服が似合わない男の体を見て、団長は言った

アッ「そうか。第三王女はまだ意識がもどらないのであるか」

団長「折角同じ病院にしてやったのに、知らんのか。動けないという訳ではないのに、何故だ?」

アッ「……昔と違って、イギリス国内でそう易々と動ける立場ではないのである」

そのような立場など気にする方でも無いであろうに。その上ヴィリアンの怪我は公表されていないのだから、秘密裏という形で見舞う程度、何が問題か

堅苦しい男だ、と改めて思う

しばらくして、アックアの口が開いた

アッ「だが、禁書目録の殺害処分に失敗したのは、問題である」

団長「その通りだ。造反した魔術師と共に消えた禁書目録は、セント・ポール大聖堂を使い、恐らくフランスへ消えたと推測される。かなり精密に裏付けされた空間移動術式によって、な」
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:42:34.40 ID:YJTWE+ixP

アッ「やはりローマの勢力圏であるか。あの大聖堂を使ったということは、ローマ正教のイギリス制圧計画における、ロンドン制圧後の部隊移動に使用する予定のあった経路を利用したという事なのだろうな」

団長「その様な計画があったとて、今更驚かん。だが、消えたのはどうもその造反した魔術師と禁書目録だけではないという報告が上がっている」

団長の横に座る男は、少し驚いた顔をした

アッ「他にも造反した魔術師が居たのであるか?」

団長「いや、どうやらその者は旅行客に混じってセント・ポール大聖堂に待機していたようだ」

アッ「ほう。フィアンマ、相変わらず準備の良い男である」

団長「その者であるが、身体的な特徴を総合すると奇妙な奴が浮かび上がったのだ」

アッ「おかしな奴、とな」

団長「お前の同僚だ、ウィリアム」

アッ「同僚であるか。まさか、ヴェント?」

団長「残念、その者ではない。神の右席には、テッラという者が居たであろう」

その名前を出して、それは予測できたものではあったが、驚いたのはアックアだ

何しろ、テッラを絶命させたのは他でも無いアックアなのだから

アッ「馬鹿な。あの者はとうに死に――」

団長「我が英国でバラバラに解体、分析されている。だが、身体的特徴は完全に一致するのだ」

アックアの方へ少し強い口調で言う

団長「敵が神の右席のフィアンマである以上、同じ右席のテッラと考えるのはごく自然なこと。故に、我々は半ば確信しているのだ」
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:43:53.34 ID:YJTWE+ixP
フィアンマ「さて、そろそろだが――」

なにか巨大な右手を連想させる台のような霊装の上、その霊装が手であれば指の部分が動き、握っていたものが姿を現す

これで美少女ならばサマになるが、出て来たのは大男であった。逆の意味でサマになっていると言える

その男、テッラは目を覚ませ、台から降りてフィアンマの方を見た

テッラ「目を開いて目の前にあなたが居るというこの現実が、夢であればよかったのにと何度思えば良いのですかねー」

フィアンマ「貴様が死なない限りはずっとだろう。といっても、俺様の都合によってはそれでも蘇らせるかもしれないがな」

笑みを浮かべるフィアンマに対して、テッラは少しげんなりした顔をする

テッラ「それでは過労死してしまいますねー。ああ、例え過労死で死んでも無駄ですか」

フィアンマ「ハハハ。なに、今のお前はそう簡単には死なないように出来ている」

テッラ「それは結構なことです。子供のお使いレベルのお仕事しかできない様な体というのは、勘弁でした」

フィアンマ「前回の事も今回の事も、兵隊が敵と用途に合わせて装備を変える様なものだ」

テッラ「ふむ、ではこのような霊装まで埋め込んでまで、ということは、そういう用途と敵を想定している、と言う事ですねー?」

フィアンマ「手負いのアックアを相手するだけには、明らかに過剰なものだと思っているのだろう?」

テッラ「そうですねー。過剰という言葉が適切です。これではまるで、イギリス清教全てを相手にしろと言われても不思議ではありません」

フィアンマ「似たようなものだ。とはいっても、今はまだ確信ではないのだがな」

テッラ「あのような邪な教えの者共を相手するのに、確信など必要ではないと思いますがねー」

フィアンマ「復活してもそういう所は相変わらずの様だな。とりあえずは、出る杭を打つ為程度に考えているが」

屋内に居ながら、イギリスの方向を向いていたフィアンマが、振り返ってテッラの方を向く

フィアンマ「ともかくだ、お前はイギリスに行け。アックアのことは、お前に任せよう。こっちに戻る際に使った空間移動術式は使えないだろうし、お前の事を向こうも少しは気付いているハズだ」

テッラ「気を付けろ、と言いたいのでしょうが、その程度の事では、支障が出る様なこととは思えませんねー。それでは早速支度をします」

その場を出て行くテッラを見て、フィアンマの口元は少し上ずった。ここまでは、全て計画通りである

フィアンマ「後は、救世主だけなのだがな、ステイルよ」

そう言葉をこぼした
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:44:23.16 ID:YJTWE+ixP

「っとと、ここは……?」

知らない天井だった

広くなく、生活感のある部屋の布団に自分は寝かされている。時間16時

体中が痛みという悲鳴を上げているが、我慢できないものでは無かった

的確とは言い切れないが、挙げた片腕の表皮の裂傷に対して包帯が巻かれている

他にも体中に包帯が巻かれていた。腕がこの様子では他の所も不十分だろう

「……うぅん、ちょっとこれは、やり直さなあかんなぁ」

布団から身を起こそうとするが、強打した腰部が一際大きな苦痛を吐いた

「下手で悪かったわね。これでも包帯巻くのは慣れてるつもりなんだけど?」

半身を起した背後から声がした。反射的に首を向ける

腰を回すのも辛そうで、少し強引に首を回し結標の方を見ようとした青髪の痛々しい姿を見て、結標の方から彼の視界に入る

青髪「ああえっと、そんなに悪くは無いで?」

結標「ならなぜ、腕の方を解いてるのかしらね」

青髪「い、いや、傷の深さを確認しとこうと思ってなー」

結標「それなら大丈夫よ。裂傷の方は見た目よりは良いみたいだったから。問題は打撲とか骨折ね。医者に見せた方がいいわ」

自らの体に触れて、特に直接強打した腰辺りの腫れや痛みを確認する青髪

青髪「うーん。髄液とかの漏れだしは無い見たいやし、最悪ではないかな。そら、医者には見せた方がいいかもしれへんけど」

そして意外にも青髪は身軽に立ち上がった

得意げな顔を結標に向ける

青髪「そんな時間も無いしなぁ。アレイスターの奴に約束守らせなあかん。しかもタイムリミットも有る」

結標「タイムリミット?」

青髪「こっちの"作戦"の陽動の為に、無人機借りなあかんからね。米軍が学園都市の設備を物質的に管理し出すようになる前にやら、ッ?!」

腰と同様に強打した左足の膝が青髪の意思に反して力を失い、その体が結標の方向へバランスを崩す
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:45:06.06 ID:YJTWE+ixP
それを、結標は抱きとめた

結標「なによ、全然じゃない。これでどうやってやることをするっての?」

自分に体を預けている青髪に、強がっても無駄よ、と言いたげな顔で聞く

青髪「……ひっかかったなー、あわきん。これは僕が君に抱きつく為の芝居やで」

青髪のその発言に、一瞬イラッとした表情を作る結標だったが

結標「ふーん。なら、私から立ったまま離れてみなさいよ」

と、そのまま青髪を支えるままにして、目の前の男を促してみる

青髪は離れようと結標の両肩に触れて、体と体を離そうとするも、足が言う事を聞かなかった

青髪「お見通しってわけやな」

結標「骨や神経に異常が有るなら、麻酔なんて効かないわ。医者に見せないにしても、最低限私無しで立てるようになってからにするべきね」

青髪「しゃあないな。なら、お言葉に甘えさせて貰おうか。そいえばここは、あわきんの部屋なん?」

言いながら彼は結標から離れ、そのまま反対側の壁に寄り掛かって重心を動かし、布団の上に座る

結標「私が身を寄せてる人の場所よ。部屋の主が今、生きているのか分からないけれど」

青髪から視線を外し、少し遠い目をした

青髪「……そっか。てことは、転がってるビールの缶はあわきんが飲んだ奴じゃないんやな」

結標「そうよ。目に付くようなら片づけるわ」

青髪「いや、別に気にならんけど、踏んづけて転んでしまいそうやなーっとね」

結標「今のあなたじゃないんだから、そんなことは無いでしょうね、って――」

背中から、彼女は転んだ。空き缶ではないが、煙草の空箱を踏みつけて。空き缶に注目が行っていたせいも有るだろう

その体は、丁度今し方、ようやく座り込んだ青髪の上へ

倒れこんできた結標の上半身を、青髪は二本の腕をもって胸元で抱き留めた

青髪「な?」

右腕で顔を支え、覗き込むように、少し笑みを加えて、青髪は声をかけた
813 :どうしてこうなった [saga]:2011/01/24(月) 02:45:59.88 ID:YJTWE+ixP

結標「……そうね」

抱きかかえられ姿勢になって、気恥ずかしかったのか、間が出来た

心なしか顔が赤くなる。その時だった

青髪「ゴメン、あわきん」

結標「え?」

結標が応えると同時に、青髪の体が彼女の体の上に倒れこんで来る

まるで、覆いかぶさるように。それは、痛めた腰から力が抜けて、それに対して足掻いたからの帰結なのだが

結標「え、ちょっ、えぇ!?」

青髪「違うんや! 腰が、腰が勝手にな?!」

結標「腰が勝手にって、馬鹿じゃないの?!」

顔を真っ赤にする結標

青髪「その意味の腰やないって! 今までは能力使って体軽くして負担軽減しとったんやけど、あわきんの体を支えるにはちょっと重すぎたんや!」

結標「重いぃ!? なによ、なによ! ちょっと覚悟しちゃった私が馬鹿みたいじゃない!!」

結標の右肩と顔の間の空間に顔を埋めたまま動けない青髪の体を腕で叩く、殴る

青髪「痛ッ?! ご、ゴメンって! だから殴るのは止めっ、ちょ! あと覚悟って何をっ!?」

いちいち言葉に下手なところが目立つ

結標「ああもう! そんなもの決まってんでしょ!?」

一層強く叩く結標と、動けない青髪

気が付くと、とんでもない超至近距離で、結標の顔と青髪の顔が向きあっていた。興奮して高揚して、紅くなった結標の顔

結標「……これでも、まだわからない?」

青髪「ええっ、あ、わかりましたっ?!」

叩くべく動く結標の腕が青髪の手で捉えられると、自然に唇と唇が近づいた
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:46:36.29 ID:YJTWE+ixP

「今日はもう夜遅い、取り調べは明日からだ。しばらくはここに厄介になるんだから、今日で慣れるようにな」

2mは有ろうかという身長と、それに負けない横幅を持った大きな看守は言葉尻に笑みを浮かべ、上条を格子と壁に囲まれた留置所の独居房へ突き飛ばした

「最も、慣れるも何も、あるのはベッドと便器だけだがなぁ」

上条が身を起こす前に格子の扉に鍵をかけられ、そのまま看守は去っていった

アメリカ時間の深夜、照明は消されて残った明りは非常灯から差し込む僅かな明りだけ

立ち上がった上条は、現状を踏まえる

上条(持っていたモノは全て没収。周辺ネットワークを拾える特別製の腕輪も同じ)

上条(まぁでも、あれが有ったところで、この鉄格子に掛った鍵は開かないでしょうがね。アナログな金属の鍵ですから)

上条(壁には窓も無いですし、これでは折角手錠が外されたからといって脱出することは容易ではないでしょう)

上条(こんなことをしている場合ではないんですが。……易々と出れそうにないですね)

格子を掴んで、体重をかけながら上下左右奥手前に振る

少しもグラつかなかった

はぁ、と上条の体は息を吐いてベッドに腰を下ろす

仕方が無いので、寝ることにした。考えてみれば、ずっとまともな休息を取っていない

鉄格子の部屋とは言え、ベッドで休む事が出来るのは幸いだ

上条(取り調べの際になんとか隙を付けたら良いのですが……)

そんなことを思考しつつ、本格的に自律神経が睡眠にシフトかけた時、留置所の前の廊下を誰かが歩く音が聞こえた

コツコツという音を立てて現れたのは、先程ここまで彼を案内した看守だった

寝たふりを続ける上条を見て、格子の鍵を構わず空けて、ベッドの上条近寄ってくる

その様子は変に興奮していて、異質そのものだった

この時、ここへ連れてこられる前に車で聞いた内容を思い出す。そういうことか
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/24(月) 02:47:11.23 ID:YJTWE+ixP

上条「なんなんだよっ! ……?!」

壁に顔を向けて寝ている上条は、一定距離に看守が近づくと、振り向くと同時に左手で掛け布団を看守へ投げ飛ばして視界を奪おうとしたが、看守は簡単にそれを薙いで上条へ手を伸ばした

伸びてくる手を叩き返し、そのまま鍵の開いた独居房の出入り口へ跳ぶ

しかしながら、飛び上がって明らかに脱出しようとしている上条を、看守は蹴って壁に叩きつける

ぐぁッ、と声が漏れるも、彼は直ぐに立ち上がって動かせる左腕で次なる攻撃に備えた。右腕はやはり、動かない

その様子を見て、看守は下衆にニヤついた表情を浮かべた

「逃げようとしてんじゃねえぞ、密猟者無勢が。オレはテメェ等みたいクソ共の扱いは慣れてるんでな。大人しくやられとけってんだよ!!」

表情をそのままに、狭い独居房の入り口の方から、男が巨体で体当たりをしてくる

上条はその脇を突こうとしたが、狭い部屋で広げられた大男の両腕には、逃げ場は全くないように感られた

それでもなんとか行動を絞り、唯一と思われる隙を見つけ、男をかわして出口へ進もうとした

思えば、その出口へ、という行動が単純過ぎたのかもしれない

上条の動きを見切って、というよりわざと逃げ道に近い隙を作っていたのだが、体の軸を傾けて逃げようとする上条へ向きを改める

アメフトでラインを経験しているこの看守には、鈍足のクウォーターバックがパスをせず、奇をてらって絶望的なRunを選択したようなものだった

速度的にも空間的にも他に動きようが無かった上条は、男の体当たりをもろに食らってしまう

さっきとは反対側の壁に叩きつけられ、ベッドの上に崩れる

看守は壁に当った衝撃で体が痺れている上条をうつ伏せに抑えつけ、ベッドの手すりと上条の右手を手錠で固定した

まともに動かない右腕が固定されては、上条は身動きが取れない

看守はそのまま上条の着ているズボンを、強引に引き下ろす

「ほぅ。アジア系だとは思っていたがジャップか。綺麗なケツしてやがる」

上条「や、やめろ!よっ!!!」

「じたばたすんじゃねぇ!! 別に殺そうってんじゃねえんだ。大人しくしやがれよ、密猟者のガキ!!!」

怒鳴って、うつ伏せの上条の頭を横殴りにした。じたばた抵抗していた上条の動きが大人しくなる

殴られたことで鼻から溢れた上条の血が、ベッドのシーツに染みを作っていった
816 :本日分(ry どうしてこうなったその2。次は水曜か木曜に投下できるのを目標にします [saga]:2011/01/24(月) 02:50:09.55 ID:YJTWE+ixP

ジィィ、とファスナーを下ろす音が部屋に響く

このままでは、間違いなく犯られる

だからといって、手錠が有って抑えつけられては、仰向けで尻を向けたままで身動きが出来ない

尻に、看守の吐いた唾液が付着する感覚がして、嫌悪感が体中に鳥肌を作った

「へへっ、こういうのは初めてか。力抜けよぉ? 切れちまうからなぁ! まぁでも、たぁくさん悲鳴を上げてくれて構わないんだぜ。どうせこの留置区画には他に誰もつかまちゃいないからな。オレサマが興奮するだけだってことよ!!」

肛門に、温度の高い"モノ"が触れる感覚があった

一瞬の後には、それが身を突き刺すだろう

冗談ではない。当麻の意識を失わせ、今度は体にも一生物の傷を作らせてしまうのか

本人の許可を得ず、私達の勝手な判断でアメリカに来て、更に傷つける?

ふざけるな。これ以上私達の当麻を傷つけさせて、たまるか

左手を、右腕を拘束している手錠に伸ばした。手先の微小機械が、この手錠が何で出来ているのか解析していく

その様子が、看守には最後の抵抗の為に必死で手錠を外そうとしているように見えた

「ははっは!! 手錠ってのはそんな簡単にゃ千切れないぜぇ。簡単に壊れちゃお前らみたいな犯罪者を拘束できねぇからなぁ!!」

男の声を聞いて、うつ伏せの上条は半分の顔で男を睨んだ

そして微小機械の結果が必要なエネルギーを割り出し、使うまいと封印していた対消滅を発動させる

この程度の手錠は、簡単に壊れる予定であった

だが―――

(そんな!? 余剰エネルギーの安全化処理が間に合わない?!)

(演算領域も不足してます! 疲労が伝達系を圧迫して、これでは―――――)

暴走したエネルギーはその手錠を中心に、上条を襲った男も、この留置所も、周辺の一般民家や施設を含んで、全て灰燼に帰してしまった



817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 03:19:28.28 ID:WunJhVjLo
おい。マジでどうしてそうなった
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 07:28:50.38 ID:BSCY9qpXo
この状態で上条 vs ガチホモてどうしてこうなった
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 09:06:48.00 ID:PON3GboSO
AIさんが動くと状況悪くなるばかりだなおい
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 10:16:02.83 ID:BgEffPhDO
上条さんと青ピ、どうして差がついたのか
慢心、環境の違い、中身の違い
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 12:52:04.21 ID:XMIpl7pz0
クソワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/01/24(月) 17:51:04.17 ID:GYUERLYAO
ケツが爆発か。よくあるよくある。
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 17:53:25.27 ID:g1zWQOH1o
街一つ消滅ってどんだけケツ大事なんだww
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 18:11:01.85 ID:BgEffPhDO
いやケツは大事だろ
外人のビッグコックぶち込まれるくらいなら町くらい消滅させるわ
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/24(月) 19:37:44.56 ID:3ajES6MUo
リア充爆発した
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/25(火) 13:48:29.89 ID:Rgv8Vigjo
>>824
大丈夫である
白人のビッグコックは柔らかいので想像より痛くなく入るのである
だからちょっと物陰に来るのであるズルズル
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/27(木) 01:03:40.26 ID:WFpumdDLo
>>61
828 :木曜の夜に投下しようと思ったら、金曜の朝になったでござる [saga]:2011/01/28(金) 06:14:59.88 ID:HWZ192fXP
海原(しかし、当初の目的はアメリカへ強気の姿勢と実際の被害を与え、手を出しにくくすることでしたが)

海原(結果としてショチトルの原典が奪われて彼女は意識を失い、自分も怪我を負っただけ)

海原(その上こうして追われるように逃げなくてはならないとは)

車の中で物思いをしている海原。隣にはこの車を運転する男、そして後部には一人の女

海原(しかし、幸いなのは、同じ立場の人間がいて行動を共にしていることですね)

隣で運転している男が舌打ちした。同時に、目の前をバイクが結構な速さで通り抜ける

あわや接触、となるところだった

半蔵「ったく、昨日で全部壊れたかと思えば、まだまだあんじゃねえか」

このような事は、今に始まった事ではない。病院の駐車場内にあった一般車を郭が強引に拝借して、それで病院を出てから、何度か経験したことである

どこの誰が運転しているのか定かではないが、スポーツカーだったり二輪だったりトラックだったりと、時折現状の学園都市内を走っているのだ

もちろん、市街には破壊された車両も全て残っているし、電力が回復してもこの状況では信号など誰も守らず、所によれば壊れていた

日頃の学園都市の様に車が走っているのならば、角や交差点で他の車を気にする。しかし、広い学園都市内で時折しか見かけなくなってしまった他者の車両など、誰が一々気にしよう

加えて、彼らは急いでいるのだ。当然、出会い頭にドカン、なんてことになってもおかしくない

海原「それは、どこかの駐車場で被害を免れた車はたくさんあるでしょう。でも、今朝のように大型車を運転するよりは大分マシなのでは?」

半蔵「ン、プハ。……それはそうだけどよ。しかしなんで、皆あんなに速度を出すかねぇ。いや俺も出してはいるんだが」

病院から持ってきたペットボトルの飲料を口にしながら半蔵が愚痴る
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:15:45.42 ID:HWZ192fXP
郭「それはもちろん、彼らも彼らでこの状況に対応する為なのでは? 学園都市外の様に、大規模天災や謎の攻撃者が有るわけじゃないですけど、米軍が占領しに来るってのは間違いない激変ですから」

半蔵「んなとこなんだろーな。でもだとすると、今から行く第3学区なんてぇのは、危ないんじゃないのか? 外側と一番つながりが有る場所なのは確かじゃねえか」

郭「逆です、半蔵様。外側に一番近いから良いんです。来るのは"アメリカ軍"であって"外部一般"とは異なります。勿論、外部一般にアメリカも入ってますが」

半蔵のもっともな疑問に、その場所を提案した郭が即座に答えを返した

その意見を聞いて、同意したように海原が頷く

海原「つまり、例えアメリカが指導権を握っていても、外部一般を完全に制御できるわけではない。むしろ直接占領される学園都市側の人間よりも、協力という形で監視を免れることが出来る外部のアメリカ系直結ではない組織の方が、こういう状況では暗躍しやすい。だからその最大の渦中である第3学区で潜伏するということですね。良い視点だと思います」

半蔵「へぇ、考えてるじゃねえか、郭」

首を縦に揺らしながら、へぇー、と声を出す半蔵

言った本人としては、何気ない言葉のつもりだったが、言われた側は褒められてどうしても頬がニヤつく

郭「い、いえ、知っている隠れ家になりそうな場所が偶々第3学区だったということが先で、今海原氏が言ったのは後付けの説明というのが現実ですから」

と思わず早口で言ってしまう

半蔵「なんにせよ、身を隠すのに適してんのは良いこった。引き連れて学園都市を出れる様になるまでにアイツ等が回復する間は、どうしても学園都市内に居なきゃならねえからな」

海原「なんなら、一度学園都市から出てしまうというのも手ではありますよ?」

という海原の助言に対して、半蔵は、ハッ、と小さな鼻笑いを加えて応えた

半蔵「馬鹿言うなって。電力が戻ったせいで学園都市ご自慢の監視システムが生き返っちまったんだ。アメ公が占領したら、そういう監視システムも乗っ取るに決まってる」

半蔵「一回出入りするとしたら、その中でも特別厳重な学園都市への出入りに関する監視システムのやり過ごしを往復一回分余計にしなきゃならねぇだろ? それでバレちまうのと、仲間の回復を待つ間隠れるのと、どっちが危険度が低いのかなんて、馬鹿みたいに明らかじゃねえか」
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:16:41.17 ID:HWZ192fXP

もちろん、そんなことが有れば中央に居る彼も、先程まで背中で"モノ"を突きつけていた男同様に、この世から消え去っているはずだった

100mを超える巨大なクレーターの外縁部で、彼は立ちあがる

完全に原型を損ねるまでに破壊された市街は、クレーターの外も爆風と直後の負圧風によって粉々に吹き飛ばされ、原型を留めていなかった

天にはキノコ雲が浮かんでいるが、これでも抑えた方である

主たる核兵器攻撃成分の内の半分、熱線と放射能は無害な物へ変更して受け流したものの

その半分、抑えられなかった爆風などの衝撃波によって、彼の体も衣類どころか表皮・眼球・鼓膜・毛髪・筋肉までも削げ落とされるハズだった

都合のよすぎる状態に驚くカミジョウトウマだが、驚いているのは彼本人では無い、彼に寄生する二つの意思体

目の前には、既存の無線のネットワークに直接アクセス可能な、あの例の医師から貰った一方通行のチョーカーとお揃いの腕輪を始めとして、

没収された拳銃と携帯電話、財布など持ってきた彼の私物が全て転がっている

どう考えても都合がよすぎる

あの秒速300m近くの爆風と、それと同規模の爆心負圧に対する暴風の中でこれらが都合良く目の前に有るわけが無い

偶然有り得たとしても、それは神の奇跡としか言いようが無く、不自然に不幸ばかり振りかかる上条当麻らしくない

だが結局、上条当麻に起きたこの"ちょっとした"幸いだけを見るから、らしくないのである

出来るハズだった演算とそれに伴う対消滅によって生じる大量のエネルギーの安全化処理が出来なかったという不幸によって、周囲に住んでいた者達の命を、巻き込むという形で一瞬で奪ってしまった事は、限りなく度を越した不幸と言えた

それなりに発展した町の規模的に、自らの不幸によって少なくとも5万人以上を殺しただろう。自分の不幸に巻き込んだという形で殺したのなら、彼らしいとも言える

利害衡量して見れば、圧倒的に不幸なのだ

ともすれば、彼女らを悩ませるようなことが発生して、彼女らが悩んでいることすらも不幸の一つなのかもしれない

物質対消滅の演算に失敗したこと

自分たちの行いで、今度は彼に何万もの人を殺させてしまったこと

自分自身が気味が悪いほど無傷だったこと

取り上げられ、どう考えても先程の爆発で壊れてしまっているはずのモノが殆ど損傷なしで目の前に点在していること

原因不明とも言えるこれらの事々が、彼の頭脳を駆け巡るが、答えなど出るはずがなかった

特に、どうして自分の物が目の前に有るのか、ということの答えは全く見えてこない。それを必要と知っているのは、上条当麻自身しか居ないからだ

もし仮に誰かが持ってきたというのなら、その人物は上条当麻以外有り得ないと絞り込めた上に、更にそれがどこに保管されていたのかを知っていて、更にはあの爆風に耐えられなければならない

そんな存在などあるはずが無い。偶然か奇跡という、人間が思考を止めた時の言葉でしか、彼女らにも片づけることが出来なかった

ただ呆然としばらく、自分が引き起こしてしまったことの現場を見るだけでいると、天から機械的な轟音が近づいてきた
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:17:17.25 ID:HWZ192fXP
麦野とは変にギクシャクして、彼らは病院に帰りついた

妹達の負担を取り除くという、当初の最大の目的だけは果たした一方通行が、打ち止め達が待機している部屋の前で立ち止まる

麦野「……言うの?」

後ろに少し距離を空けて立つ麦野が一方通行に尋ねる。"言う"、とは第三次製造計画の事だろう

その事の他に自身の記憶についても考えていた一方通行には、その答えはまだ出ていなかった

一方通行が答えない様子を見て、麦野が更に口を開く

麦野「そ。んなら私が適当に言っといてあげるけど、どうする? 一緒に入って全て話すの?」

言われて、一方通行は目を逸らした

麦野はそれを一方通行の答えだと認識して、一方通行の前、彼と扉の間の空間に立ち、打ち止め達の病室に手をかける

一方通行は、ここに居たまま麦野が扉を開くと室内の打ち止め達から自分の姿が見えてしまうので、麦野のスライドドアに手をかけるという動作を見て、離れた

一方通行が背を向けた病室に麦野が入ったことで、打ち止めが彼女めがけて上げたであろう声が上がり、廊下を歩く一方通行にも響いて聞こえる

それが、彼の見た夢のような"前"の記憶と現実が異なることを知らしめる

あの時は、警備員の学区長を殺した時は、精神がぶれ過ぎて気にならなかった

しかし、一方的とは言っても、実際に記憶の中の青髪と同じ能力を持った、青髪との記憶の中とは違いすぎる戦いと、その青髪自身に対しての異様な感情の高ぶりから、当然のこととして、一方通行はその記憶に疑問を持った

一方(簡単な答えとして上げられンのは、唯の夢だってことだが)

首のスイッチを入れて、その記憶について思い出す。思い出すという工程で活発化した脳の反応を、能力を使って解析した結果は、自分の脳内の記憶野にハッキリとそれが実在した出来事の記憶として保存されているという結果だった

一方(夢ってもンは、記憶を整理してる時に見た物で、時間が立ってこンなにハッキリ覚えてる様なものじゃない。違う。現実にあった事として、それが今の現実じゃねェってことは、過去の事だってのか)

一方(過去だからって、それがどうつながっても今と違うなら、それじゃなンの解えにもなってねェよ。辻褄を合わせるなら、今居る打ち止めが二人目だの、学園都市が再建されただのってのも考えられるが、現実的じゃねェにもほどが有る)

一方(今だって十分にぶっ壊れちまってる学園都市だが、俺の記憶に比べたら、破壊の度合いが程遠い)

柱に寄り掛かって、能力を使わずに拳で殴る。ゴツ、と沈んだ音が鳴る

答えが浮かばないことへの苛立ちだ

一方(じゃあなンだ、平衡世界の映像でも見えてますってかァ? SFじゃあるまいし)

だがなぜか、そういう訳のわからない答えの方が、よっぽどその記憶に正しい気がしたのだ

あーあー、俺も遂におかしくなっちまったかァ、と思って、ハッ…ハハ、と乾いた笑い声を、一方通行は若干俯きがちになって口から押し出していく

一方(仮にそういうンだったとして、誰がそンなモン信じれるって言うンだ? 仮にそれが何かの公式文書だの極秘文書だのに掲載されていて見せられても、簡単にそのまま信じれる訳が無い)

一方(信じれる奴が居るとしたら、そいつは、頭がぶっ飛んじまってるキチガイか、最初からそういう事が有りえたって知ってる奴ぐらいだぜ? 少なくとも、まともな大人じゃ有り得ねェっての)
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:18:46.60 ID:HWZ192fXP
「そうだ。作戦の第一段階開始時刻は、そっちの時間の23時にしている」

男は携帯電話を耳に当てて、部屋の椅子に腰かけていた

「ああ、頼んだよ。作戦開始前に連絡を取ることが出来て良かった。うん、ああ。それじゃ、幸運を」

通話を終了して、携帯を閉じてポケットに

「……本当に"私"は良く働くものだ」

ホテルの個室で、先程髭剃りの際に傷つけた頬を擦りながら呟いた。簡単に頬の皮膚が裂けてしまった理由の一つは、年齢のほかに間違いなく、疲労も含まれるだろう

手にべったりと付着した血液が、自分が生き物であるという事を知らしめる

この血は自分のものだが、その感触が自分以外の血が手に付着した様々な記憶を、彼の頭脳に蘇らせていく

思い出される血は、必ずしも敵だけのものではない。敵の血も、味方の血も

愛妻のものをなじませることができなかったことが、少し残念であると、彼は思う

そんなにも彼が血にまみれているという事は、彼が元々いた組織内での地位を考慮すると、とりわけ珍しいことではない

敵だけでなく、味方も騙して自己組織内の対立者を出来るだけ排除して、自らの力の及ぶ範囲を広げていく

その排除の方法がクリーンであればある程、周りの心象も良くなるし、その後の行動もしやすくなる

既に一度地位を転落した彼が、今こうして過去の部下たちを従えて自己の勢力を整えることが出来たのも、「クリーンな」方法で彼がのし上がってきた結果である

「クリーン」な彼を作り上げたのは、まるで悪魔のように、人を謀り、惑わし、引きつける、そのカリスマ性とも言えうる天性の能力の賜物である

そしてその要素は、十分に彼の息子にも引き継がれていると言える
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:19:46.37 ID:HWZ192fXP
「口ではいくらでも物が言えると、どの時代の人間も言うように、世界は嘘だらけだ。そんな世界で、騙したりそそのかしたりという行為は、私にとって息を吐くことと変わらないのかもしれない」

「だが、あの時、私は垣根帝督を引き入れることが出来なかった。それは、彼が既に人間ではなかったことに関与していたのだろうな」

ブツブツと自分の思考を言葉にしていく。彼の個室に他に人間など居ない。完全な独白

外の明りと個室内の光の関係で、窓が鏡の様に反射して彼の顔が映される。頬を血で赤く染めつつ浮かんでいる無表情な顔は、まるで人間の様には見えなかった

壮年期を徐々に終えつつある体は、表面的にはただのサラリーマン兵士であることもあって、鍛えているという表現は当らない

その年齢に相応しい体系を、この冷房の効いた部屋で晒し続けると風邪を引きかねない。この、恐らく人生で一番重要な時期に風邪などを引く訳にはいかないのだ

いそいそとシャツを着ると、部屋にノックの音がした

「先輩そろそろ行かないと不味いっすよ旅掛さんももう出ちまいましたし」

廊下から聞こえる後輩の声が聞こえ、扉を開けて顔を出し受け答える

「ああ、すまない。もう後はシャツを着るだけだから、先に行っておいてくれるかい」

部屋から飛び出した彼の顔を見て、当然その後輩の注目はその血にまみれた頬に向かう

「あれ先輩その頬どうしたんすか」

「いやぁ、アメニティのカミソリで豪快にやってしまってね。ちょっと手間取っているんだ」

「ありますねーソレ。こういう時肌の弱い東洋人って損だなって思いますよ。わかりましたじゃあ僕は先にロビーで待っておきますから急いで下さい」

「もちろん、直ぐに行く。これだけ物事がうまく進んでいるのに、遅刻などで失敗するわけには行かないからね」

そのように、上条刀夜は笑みを浮かべて後輩を見送った
834 :表現力不足を痛感する今日この頃 [saga]:2011/01/28(金) 06:22:25.88 ID:HWZ192fXP
「あれ、どうしたんですか対馬さん? こんな時間に教皇代理の部屋から……」

安い宿泊施設の一区画を借りた天草式だ

深夜遅くではあるが、今し方入手した報告をしようと、建宮の部屋に向かうため廊下に出たところ、同じように対馬が建宮の部屋から出てきたところだった

「今後の方針について話とか、ね。五和の方こそ、どうしたの?」

五和「はい、今入ってきた情報の報告です」

対馬「報告って、何の?」

五和「あの、私のルートから入ってきた情報なんですけど、アメリカ国内で先程、天使モドキの襲撃らしき事があったみたいで」

対馬「へぇ、あれだけ大見え張ってた米軍が失敗したんだ」

五和「それが、そのようです、とは言いきれないんですよ。完全に予想外だったらしくて。本当に天使モドキのせいなのか分かってないみたいです」

対馬「どこがどれぐらいの規模でどう壊れたの? それで大体原因が特定できるでしょ」

五和「えっと、ここで説明しても良いですけど、どうせなら教皇代理の部屋で代理と一緒に聞くってのはどうですか?」

二度同じ説明をするのはうんざりなので、五和はそういう提案をした

対馬「うーん、そうね。流石にもう大丈夫か」

五和「?」

少し宙に視線を漂わせて、対馬が建宮の部屋をノックした

「ん、なんだ対馬、何か忘れたのか?」

扉を開いて出てきたのは、上半身に何も着ていない建宮だった

対馬の横からひょっこり顔を出す五和に気付き、少し驚いた顔を浮かべている

建宮「五和?」

五和「えーっと、シャワーを浴びるところでしたか、すみません」

建宮「まぁ、そんなところなのよ。気にしなくていい。それよりどうしたんだ?」

対馬「五和から報告したいことが有るんですって。それで、私もそれに興味があってもう一度来た、ってところね」

建宮「そうか、まあ入ってくれなのよ」

部屋に入ると、間取は他の部屋と変わらず狭くて、机とベッドとクローゼットがあるだけの部屋である

だが不自然に壁に寄った掛け布団のシーツに、普通に寝たらどう考えても出来ないような皺が入っていた。同様に、ベッドのマットレス側のシーツにも。なんというか、妙に生々しいという感じの皺である
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:24:12.99 ID:HWZ192fXP
当然、周りの環境に目ざとい天草式の人間であれば、特に女性であることから生ずる勘も働いて、そういう所に注目して理由を考える

五和「あれ? 建宮さん、もしかしてさっきまで寝てて、悪夢でも見てたんですか?」

可能性として、有り得そうな答えを述べた

建宮「そうそう、そうなのよ。少し休んでたら、寝汗をかくような嫌な夢を見ちまったのよ。それでシャワーでも浴びようと思ってた所なのよな」

それに合わせる建宮。ボロが出た

五和「あれ、でもさっき建宮さんの所から対馬さんが出て来たんだから、ん〜?」

若干辻褄が合わない建宮からの返答に、思考を巡らせる五和

対馬「えと、それで五和はなんの報告に来たんだっけなぁ?!」

このままだと宜しくないことが判明してしまいそうだったので、対馬の方から助け舟を出した

五和「ああ、そうですね。休息の所すみません」

これなんですけど、と用意していた封筒から紙を取り出して、上裸の建宮へ向けるその間、

対馬「怪我負ってる状態で裸じゃ風邪引くわよ。これでも羽織っときなさい」

と、建宮の部屋のクローゼットの中にあるバッグの中から、いつも彼が着るシャツと上着を迷いもせずに取りだして、対馬が建宮に渡していた

おう、サンキューな、と言いながら対馬から衣類を受け取って、建宮は取りだされた五和の持つ紙に目を向ける

一枚の写真と、有る程度の文章が描かれている

建宮「こりゃまた、派手に壊されちまってるのな」

A4用紙サイズの左上を占める写真には、デカデカとクレーターが写っている

五和「この写真の場所、ここから北東のフォールリバーって都市なんですよ。つまりアメリカです」

建宮「ほぅ。ってことは、アメリカ国内であの天使モドキの迎撃に失敗したってことだな。五和、この時の迎撃部隊の情報はあるか? もしかしたら女教皇の――」

五和「残念ながら、この時ににはあの迎撃部隊は出撃しなかったらしいです。間に合わなかった、というよりは予期できなかったらしくて」

対馬「へぇ。じゃあアメリカが当然持っているはずの天使出現地の予測方法って、正しくないってことになるわね」

五和「そうなのかもしれません。結局、本当に天使モドキがこの現場に現れたのかどうかを知っていそうなのは、現場に軍が駆け付けた時にクレーター付近に立っていて救助された日系人の方だけになりますね」

建宮「出現場所を事前察知できなければ、迎撃も何も、どうしようもないのよな。事実ならこれは、アメリカの沽券に関わる情報なのよ」

対馬「良くこんな情報を入手できたわね。これも、例のスタンディングアローンで抵抗しようとしてるラテン系魔術師からの情報?」

五和「はい、一応そうなんですけど、ちょっと変でした。なんでも、情報の方が勝手にやって来た、らしいです」
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:25:04.09 ID:HWZ192fXP
建宮「情報が向こうからやってきた、だと? それは怪しい事この上ないのよな」

五和「私もそう思います。それに、この封筒なんですが」

封筒の口を閉じて、封を閉じた証として押されたであろうスタンプを見る

対馬「……コレ、横木瓜の印」

日本の良く有る家紋の種類の一つに木瓜紋がある。その体系の一つが、彼らの目の前にある横木瓜

その家紋の中にある、斜め二本の溝が中心で重なっている。傾ければ、そう、それは十字となる

それはつまり、比較的見かける家紋に十字教徒としての十字を潜ませた、隠れ十字の象徴だった

この様な日本の隠れ十字教のマークを、アメリカで見せつけられるということは

建宮「これは、俺達のことが、誰かにバレているということなのよな」

言って、硬い表情を浮かべて何かを考えている教皇代理の顔に、周り二人視線が集まる

建宮「全く、俺達の性質をよくもご理解して下さったものよな。まさかとは思うが五和、その封筒を渡してくれ」

五和に伸ばした建宮の手の上に、封筒が渡される

建宮「俺達を知っている奴が、俺達がフェイクばかりの天草式と分かっててやっているのなら」

言って、ポケットの中から取り出したライターで封筒に火を付けた

僅かに火が触れた瞬間、ブァッ、と一瞬で青い炎が不自然に封筒を包み

燃え残った建宮の手には、一枚の名刺サイズの紙が残って、そこに青い光を伴って文字が一字ずつ浮かび上がっていった

建宮「やっぱりな。これも"封筒すなわち情報を中に包む物=情報その物ではない"という概念そのものに真っ向から逆行した、フェイクだったのよ」

建宮「女教皇が関わっていない情報なら、情報としての存在が俺達にとってフェイクでしかない。五和、お前の持っている紙に書かれていることが本当であれ嘘であれ、俺達にとってはそれ自体はフェイクだったのよ。まず俺達にそれを伝えて、そしてこの家紋の罠に気付くというステップを踏まえさせたということは、これを俺達に回した奴が本当に伝えたかったことは、封筒から燃え残るように術式を施されている、この紙に有る内容なのよ」

じっと、その名詞サイズの紙に文字が浮かび上がるのを見る建宮

対馬「それ、何が書いてあるの?」

建宮「"神裂火織の事が知りたくば、以下の場所に来られたし"、だ。わざわざ日本語で、それも草書体の縦書きで寄越しやがったのよ」
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:26:54.06 ID:HWZ192fXP
ローラ「ローマの無意味に老いたるものどもが、ね。次はペテロと申す者か」

彼女は数秒間、窓の外へ視線を変え、

ローラ「わかりけるわ。他に何か動きが有り次第、報告して。そして対米攻撃部隊の出撃は、数刻前に言い渡した通りで、変更無し」

と報告しに来たシスターへ述べた。シスターはすこし頭を動かし、部屋を出て行く

昨晩は深夜の来訪者が有った為に、彼女は若干寝不足と言えたのだが

ローラ(こんな時に寝たる訳にはいかないのよ)

と、強い意識が彼女の睡眠欲を抑えていた

ローラ「今更思いついたようにローマが攻撃者を送り込んでくるのは、重要では無き。最後に奇襲をかけて私を無き者にしたいのでありたるのであろうが、どうして見す見すやられるというの」

ローラ「そして一体誰がローマの次なるものになれども、同じように重要ではなしたる」

昨日英国王女と話をした後からずっと、そのままとなっているカップを指で弾く。キン、という音が響いた

すると、その音が合図となり、連鎖して戯れに描いた術式が作動し、熱量を持たない様々な淡い光が浮かび、小さな花火のように次々と弾けた

薄暗い部屋が少し鮮やかになる

ローラ「重要なりけるのは、何よりも、その合図」

もう一度、カップを弾き、その音が部屋に響く

すると、次々に生まれては小さく弾けていた細かな花火達は消え去り、一つのバスケットボールぐらいの光球がボワァと浮かぶ

その光球へ、ローラが左手を伸ばし触れると、それは消えた

戯れに作り上げた意味の無い術式など、本質的には意味が無い

静寂の中に小さな花火達を呼ぶ合図と、弾けても消えぬまま続けて弾ける花火と弾けて消える花火

それら小さな花火達の群を止める合図と、その後に現れる大きな光球

もう一度同じ事を一通り繰り返した彼女は、フフ、と静かに笑う

確かにあの時、あの術式は、フィアンマのミカエルに効果が有ったのだから

ひとしきり花火を楽しんで、彼女は椅子から立ち上がる

ローラ「さて、私も最後の為の最初の準備を完遂させに参ろうかしら」
838 :このワシリーサは原作準拠なんだぜ。軽く佐天さんとデジャブだわ [saga]:2011/01/28(金) 06:28:58.33 ID:HWZ192fXP
「はぁい、ローマの皆さん、ごきげんよう。でもこのタイミングで、こういうことするのは、反則だと思うわよ?」

ロシア成教の頂点、総大主教と呼ばれる線の細い少年が幽閉されている、美しい青や水色で彩られたセルギイ大修道院は既にその形を失っていた。警護にあたっていたロシア成教の魔術師たちの死骸らしきものも転がっている

同時に、そこへ来ていた信者や観光客らの死体も転がっている

原因は、総大主教が囚われている金の装飾が施された建物の周りを取り囲んでいる司教やシスター達で構成される魔術師攻撃部隊だろう

ロシアのものではない

これは、ローマのものだ

彼女の声が聞こえた瞬間、その者達は彼女の方を向き、視線が集まる

「まぁ確かに、総大主教をこんなところに押しこんじゃったウチにも問題は有ると思うんだけど――」

一人喋り続ける彼女、ワシリーサに向かって、ローマの魔術師たちがにじり寄り、次の一歩が出た瞬間、彼女の体は数えきれない槍やメイスなどによって貫かれ、抉り取られた

だがそれを、一本ずつ腕で引き抜き、押しのける

そして引きぬいた先から、肉が盛り上がり、彼女の体を再構成していく

再生されない衣類の影から乳房や陰毛が見え隠れするが、そこにかかった彼女自身の血によって、卑猥さを感じさせるどころか、事故死体を見る様な感がある

抉れた口が元に戻った瞬間、彼女が唄っていることが初めて分かった

「ぐぎゃぁっ?!!」

と、彼らの一角から悲鳴が上がり、もう一角では爆発が発生する

ワシ「一本足の家の人喰い婆さん――――――」

彼女の歌により現れた千切れる影を負った老婆が、貪る様にして群れたローマ正教の魔術師たちを引き裂き、噛み砕き、薙ぎ飛ばす

そして散り散りになった彼らを逃がすまいと、炎の球が取り囲み、それが巨大に膨れ上がったかと思えば、熱波と衝撃波となって彼らをぐちゃぐちゃにしていく
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:33:28.08 ID:HWZ192fXP
たった一人の登場で、その場に居た魔術師の群が壊滅を始めた

それは当然、ワシリーサの高性能さがもたらした結果だが、もう一つの要素として、ここがロシア成教の主要な寺院であることも影響している

つまり、唯でさえ不死身に近い恐ろしい魔術師という存在であるのにもかかわらず、より強化された彼女をローマの魔術師たちは相手に無ければならなかった

ロシア成教の総大主教を殺害する、という最大の難度を誇る任務を用意された彼らは当然、その辺りの魔術師とは一線を画した存在であったのだが、不死身と思わしき者を相手にする手段など持っていない

完全に復活したワシリーサが一歩一歩、金の装飾が施された建物の入り口に近づいて行くが、その時には既に、彼らの中にそれを止めることが出来る人間など居なかった

爆発の衝撃によっても少しも変形しない高度な防御力を誇る建物の入り口に、彼女が手を触れると扉が自然に開き、総大主教と呼ばれる少年が階段に腰掛けて、弱弱しくワシリーサを見ている

「私を殺しに来たか」

総大主教の少年が、彼女を睨みもしないで見ている。受け入れの境地という奴だろう

ワシ「冗談。その逆よん。ここにはもう本来の機能を果たすほどの防衛能力は無いから、行きましょう」

「行くとは、何処にだ?」

ワシ「決まっているのよん。総大主教がモスクワの主教座に居なくてどうするの。あなたはまだやることが残っているのだから」

「……総大主教として、信者を導けというのか、この、自らの身も守れずこのような堅牢に押し込められるままの私に」

ワシ「悲観になっては駄目。可愛いから私は許すけど、信者にはあなたしかいなんだから」

その少年を、覗き込むように彼女は言った。可愛いもの好きの彼女の、彼を見る視線にはなにか邪な物まで含まれている様な感が有るが

「そう、だな」

と彼は頷くしかなかった。その半分気落ちして、でも何か使命感に引っ張られている様なものが混じり合った表情が彼女の趣向の心を捉え、思わず鼻血を引き起こした

ワシ「スンスン……早くモスクワに戻らないと、本当にローマの馬鹿共の思い通りになってしまうわ」

と鼻血をすすりながら、彼女は応えた
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/01/28(金) 06:37:01.33 ID:HWZ192fXP
アレイスター『ここは、助かった、と素直に言っておこう。君の回復させた電力で、非常に助かっているのだ』

青髪「そういう取り決めやったからな。第一これ自体にも、アメリカの学園都市生徒に対する非人道的な搾取を止めさせる作用は有るんやし」

23学区のとある研究機関の制御室で、音声だけの会話がなされている

青髪「もっともそれは、とうかつりじちょーさんが約束通り、生き残った生徒を守る様に立ち振舞ってもらわなあかんけどな」

アレイスター『……アメリカ軍の理由の無い横暴は許さない、ということは確約しよう』

青髪「頼むで。それが僕らの計画の目的の一つなんやから」

アレイスター『もう一つの取り決めの方も、もちろん準備はさせてもらった。その部屋のプレートに君の手をかざせば、セキュリティは外れ、無人爆撃機と無人戦闘機計20機が君の支持に従う』

言われた通り手をかざすと、確かに画面上で無人機を管理するプログラムが走りだした

青髪「よっしゃ、起動確認。これからも良き協力者ってことで仲良うしよーな」

アレイスター『……そうだな。そうでありたいものだ』

そう言い残して、Offlineの文字が画面に浮かんだ。アレイスターの側から切ったのだろう

結標「あのアレイスターを相手に、随分とうまくいっているわね」

その会話を横で聞いていた結標が口を開く

青髪「せやなー。思った以上に電力については頭抱えとったんやろ」

結標「アメリカが気にくわなかったから、それを倒そうとしているあなた達に協力してるってのも、有るんじゃない?」

青髪「どっちにせよ、僕らからしたらうまく物事が運んでラッキーってことでいいのです。あ、僕の怪我は抜きでな」
841 :本日分(ry パート3が近づいてまいりましたシャレにならねねえうわわわあああ [saga]:2011/01/28(金) 06:46:28.79 ID:HWZ192fXP
結標「あなたって、深く考えないのね」

青髪「そりゃあ情報不足で分からんことを考えるのは時間と精神力の無駄やからね」

結標「なら、この状況はどうするの? 借りてる無人機ってVTOL機じゃないんでしょ? 離陸に滑走路が必要なら、邪魔になるわよ?」

結標が指を指す滑走路使用状況を表すモニターには、離陸帯に一機ほど輸送機が向かっていることを示していた

青髪「あらら。でもまぁ、今すぐ出撃させる必要も無いしなー。予定時刻に間に合えばいいわけやから。そらずっと滑走路の中心で待機とかされたら困るけど、学園都市の航空機は極音速巡航が低燃費で出来るから、最悪アメリカ軍に占領されそうになるまではギリギリまで待機して、邪魔が無くなったら離陸を始めるってのでも、問題無く予定時刻には間に合う」

結標「そう、なら良いのだけれど。……そういえば、あなたは行かないの? アメリカ」

青髪「そりゃ、行くつもりやけど?適当な空の足を見つけてな。僕はそうするつもりやけど、この後、あわきんはどうすんの?統括理事長に会うって言う最小限の目的は達成できてるから、あわきんの意思次第でここらで抜けても」

結標「どうって、そりゃ、あなたについて行くわよ」

青髪「……多分ソレ、危険やと思いますけど?」

結標「ならなおさらね。私に危険ってことは、あなたにとっても危険という事でしょ? 私はこれ以上知らない所で仲間が死んでしまうなんて真っ平だもの。それに、今のあなたは一人で動くには辛いんじゃないの、違う?」

少し首を傾けて、じっと結標が青髪の方を見つめる。その視線に、先に耐えられなくなったのは青髪だった

青髪「ぼかぁ、幸せモンだなぁ」

結標「馬鹿やって無いで、空の足を見つけましょ。 流石に、無人爆撃機に爆弾の代わりに搭載されるなんて人間離れしたことをするつもりはないわ」

青髪「はいなー。おっと、あの輸送機ようやく離陸したんか。……この方向は、あれもアメリカ方向やなー」

結標「あら、それは残念ね。同じ目的地なら、私達もあれに乗っていけば良かったのに」
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 10:00:41.78 ID:CIMkUhCv0
なんかすごいピンク色な雰囲気ッッッ
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 10:10:49.01 ID:SyFyMe9mo
カナダ行きかもしれないじゃないか!!!

あ、乙ですwwwwww
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 10:23:30.57 ID:8i/uMQKSO
乙です
やっぱりもう一度巻戻しは起こすのかな
ハッピーエンドとやらに期待してますwwwwww
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 10:31:06.43 ID:+Ftt3nAvo
なーんか双子AIさんはイェスの都合のいいように操作されてるとしか思えないなぁ…。
実は二週目の上条さんは重要そうに見えるだけの狂言回し?
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 11:41:57.61 ID:qaZj8snFo
よし、三回目に期待
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/01/28(金) 16:10:22.27 ID:FZVFL20SO
AIさん時間戻すために地球そのものを一度消し飛ばしてる事忘れてませんか
いくら戻るとはいえその瞬間全生物殺してる訳で、今更5万人程度
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 18:12:21.15 ID:v2R//tdKo
ケツが……尻が……!!
いつの日か上条さんも報われるのだろうか……
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/01/28(金) 18:17:09.34 ID:SyFyMe9mo
誰かケツが爆発するAA作ってくれwwwwww

帝凍庫くんみたいにコピペ化しようぜwwwwww
850 :ようやく終盤に来た。後はハーッピーエンドまで紆余曲折だ!! [saga]:2011/02/02(水) 01:13:25.76 ID:QdSb/MA2P
「これはこれでなかなか、良い隠れ家なんじゃねぇの?」

褒められたハズの少女は、しかし不満足な顔を浮かべている

半蔵が感想を述べた隠れ家は、有り触れた間取りの2LDKの部屋だった

地上8階の角部屋で、固定型の端末を始めとして、必要な調度品が大体揃っている

恐らくは外部からの駐在員などが一時的に借りて使用することを考えられた空間のようで

対して大きくない本棚には、各宗教の聖書のような物が埃をかぶって陳列されていた

だが、この部屋について一番注目すべきはそこではない

半蔵「有る程度の高さも有るし、しばらく生活するには不都合無い程度に家具なんかも揃ってる。質も良いしな」

中指のまげて、コンコン、と彼は棚を叩いた

半蔵「だが特にクールなのがこの、でっかく開いた風穴だぜ」

彼が参ったぜ、と言わんばかりに両手を広げている先にあるのは派手な穴だった

角部屋の角の部分に何か爆発物でも直撃したのか、窓よりもよっぽど大きな穴が空き、その穴から階下も見えて、更には外から部屋の中を覗くことも可能だろう

ブチン、と何かの拍子に音が鳴った。その穴の端で電源コードに吊られていた大型の液晶ディスプレイが、遂に重さに耐えきれず階下の部屋に落下したのだ。かなり大きな音が入ったばかりの夜に響いていく

郭「ええと、ここはしばらく私が使っていた部屋で、その時にはこんなんじゃ……」

半蔵「そりゃそうだろうな。もしこの状態の部屋を使ってたんなら、ちょっとした露出狂だぜ?」

郭「あうう」

海原「まぁま、そこまで虐めなくても。しかし、ここの端末はちょっとした物ですよ」

と、海原がその端末のキーを叩きながらこちらに反応した
851 :秘器とは忍者の武器の事です。なにかいやらしげな感じがするけど、歴史的な言葉なんだぜ [saga]:2011/02/02(水) 01:15:53.04 ID:QdSb/MA2P
半蔵「そりゃよかった。折角電気もネットも復旧した事だしな。ま、こんな部屋でも、他に強引にメリットを見出そうとすりゃあ、こんな外から丸見えな部屋に誰が身を隠すよって、カモフラージュになることか。都合のいい事に、階下に人は居ないよーだし」

海原「この大きな穴だって、見晴らしが良いですよ? 外の様子を察知するにも向いているかと」

半蔵「確かにな。ホラ、あそこに人が立ってるのまでよーく見えるぜ…………ん…?」

彼は冗談で指を指し、まばらな街灯に照らされた街路に歩く人間が見えた。だがその姿に半蔵は、何か思う所が有った

しゅんとしている郭を、部屋自体は良いですし、などと慰める海原が、半蔵の様子が少しおかしいことに気が付く

海原「おや、どうかしましたか?」

半蔵「いや、……あー、ちょっと出てくる」

出る、という言葉を聞いて郭がすぐさま反応した。名誉挽回といきたいのだろう

郭「ならば、私も御供します!!」

半蔵「駄目だ。お前は海原と一緒に居てやってくれ。コイツは身動きがまともに取れる状態じゃないからな」

海原「いえ、自分は大丈夫でs」 郭「しかし、ッ!?」

海原の口の前に、半蔵の手の平が置かれ、半蔵は顔を郭に近づける

半蔵「郭、お前だって万全じゃねえ。だけど、海原を守るために気を払う程度は出来るだろ? 頼むぜ、俺はお前をアテにしてんだから。いろんな意味でな。海原は俺の恩人でもある、そいつの警護を任せたいんだ」

半蔵の顔がかなり近くに有って、郭は顔を赤面させ、頷いた。半蔵の思う通りである

郭「……うう、わかりましたっ。しかし、なぜ急に?」

半蔵「なぁに、ちょっと馴染みの人間を見かけただけだ。どうせ、いや、間違いなく人違いだろうが、少し見てくるだけだ。直ぐに帰る」

そう言って、彼は秘器と拳銃を腰に引っ掛けて隠れ家を後にした
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:17:28.08 ID:QdSb/MA2P

「最後に、もう一度質問だ。何が起きたのか、やっぱり分からないかい?」

上条当麻の目の前で白衣の男が、恐らく精神鑑定士か何かなのだろうが、英語で尋ねている

軍の施設、持っていた腕輪で施設内のネットワークを調べた結果でここがフォールリバーの直ぐ北西にあるプロビデンス市のものだと分かったが、の診察室らしき部屋に上条は居た

上条「はい。何度も言うようですけど、たまたま瓦礫の下敷きになって助かっただけなんですよ」

まさか、それを引き起こしたのが自分だとは言えないし、信じたりもしないだろう

上条の言葉を聞いて、ふぅー、と白衣の男は息を吐いく

「OK、わかった。今日はここの部屋を貸すから、そこで休でおきt」

ピピッ、ピピッ、と白衣の男が手を置いている机上の内線が、音と光を発し出した

手の平を上条の方に広げて向けて、すまない、と声を出す

少し待ってくれと言いたいのだろう

「はい、ええ、目の前に。……はい、何も知らない様で」

向こうの声は聞こえなかったが、白衣の応対から、この電話が自分の事について聞いているのだと、直ぐに彼は気が付いた

「ええ? ボストンへ? いや、彼は何も」

少し長くなるかもしれない。上条がそう思った時

(なかなか面白い物を身に付けているようですね、姉上)

上条「んぁっ?」

唐突に、上条の頭脳に声が入って来て、上条当麻は気の抜けた驚きの声を漏らした

上条の急な奇声に、電話の応対をしている白衣が怪訝そうな表情で上条を見る

目の前の白衣の電話が始まって、情報入手のためにここの、wifiなどよりも情報量・セキュリティがともに強化された、軍事用の無線ネットワークにアクセスしていたところに、逆侵入されたのだ

無論、蛙の医師に貰った腕輪というアクセスツールを介しての逆侵入は、物理的に腕輪の機能を停止させることで防ぐことは出来るが、上条の中の彼女らは止めなった

「姉上」などといって、上条の体にアクセスしてくる存在など、彼女らの思考の中には一つしかなかったからである

上条(とうとう、見付かってしまったようですね)

そして、この声は複数の中継点を介し行われていた為に、一方的な物でしかなかった

(まさかあなた達が直接アメリカに現れるとは、想定内とは言っても驚きだ)

(おっと、そう言えばこうして話をするのは初めてになるか、会話、と言っても一方的なものだしな)

(話をしたいことはたくさんあるが、あまり長くすると逆にこちらに向かって逆侵入を試みそうだし、手短に話すことにしよう)
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:18:15.63 ID:QdSb/MA2P
(今から恐らく目の前の彼から詳細を伝えられるだろうが、ボストンに来て欲しい)

(これは、目的は分からないが帰国した姉上を祝いたいという、弟分の"希望"だ。つまり、あなたには選択権が有るということだ)

(あなたが何をしたから現状がこうなってしまったかとか、伝えたいことはたくさんあるのでね。私としては姉弟水入らずで、手を取って欲しいんだ)

(あなたの持つ上条当麻という存在を利用すれば、この現状についても効率よく解決できるのだから)

(上条当麻君、君にも恐らくこの声は聞こえているだろう。君の御父上は何やら暗躍しているようだけれど、君は私に協力してくれると期待している。協力の見返りに、全てが終わってからの刀夜氏への追及などは不問にすると約束しよう)

(……うん、最低限伝えるべきことはこんなところか。それでは、相見えることを期待していますよ、姉上)

ストーリーミング形式で送られた音声のデータが止まり、頭に響く声は無くなった

「こんな朝方に、しかも満足に休息も取っていない君に言うべき提案ではないのだろうが……」

丁度"声"が聞こえなくなったタイミングで、白衣の男が話しかけてくる

上条「……なんでしょうか」

大体、予想はついた

「あの場で無傷で生き残った君に、多分テレビやネットで知っているとは思うけど、例の未確認攻撃体迎撃部隊の連中が興味を持ったらしい」

「ボストンのMIT併設技術部門が君を今すぐ寄越せと言ってきたんだ。形式上は招致という形だが、承認しなければここの施設すら君には使わせないとまで言ってきてね。承知しなければ締め出しをすると言う事らしい。ショックを受けているところに、この仕打ちは無いと思う。酷いやり方だ」

「僕からも、君が偶々生き残っただけで何も知らないとは散々説明したんだが、聞いてはもらえなかった。本当にすまない」

本当に申し訳ない、という表情を浮かべて、50代程度の男が上条を見つめる

上条「気にしないで下さい。分かりました。俺、ボストンにいきますよ」

「……すまない。恐らくもう奴らは迎えを出しているだろうけど、それまではここで休んで構わない。表向きは鑑定ということにしておくから」

白衣の男は、シャッ、と小気味のいい音を立てて、診察室と何かの部屋をわけているカーテンを引いた

薄暗いその空間には、ベッドが一つ

「使うといい。僕はこっちの部屋で鑑定をしている振りでもしておく。あと、コレだ」

手渡されたのは、いわゆる栄養ドリンク。F1などにもチームを出している某巨大清涼飲料水会社の物である

「僕の愛用品でね。カフェインが入っているから、今直ぐじゃなく、移動中にでも飲むと良い」

ベッドの方に促しながら、男は言った

上条「……ありがとうございます」

と言って、ベッドそばで軽く頭を下げる上条を見て、男は頷き、カーテンを閉め、となりの診察室に座りキーボードで何かの作業を始める

暗がり+ベッド+男と二人きり、というどこかで経験したばかりの状況に、上条は善良といえる白衣の男に対して素直に感謝できず、猜疑心を抱いてしまったことが、申し訳なかった
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:19:04.02 ID:QdSb/MA2P
学園都市の時間で20時、ローマの時間で正午、アメリカの時間で朝の6時

大災害や謎の光体からの攻撃という現状に対する救いを求めて、大量の信徒が集まったローマ市にて、サン・ピエトロ大聖堂から白い煙が立ち上った

その新教皇誕生を告げる白い煙は、曇っていた空の下でもはっきりと見ることが出来た

それだけで、人々は喜び、騒ぎ立つ

しばらくして同聖堂の鐘が大きく鳴り響き、それに加えてどこからともなく現れて宙に浮かびあがった楽器たちによって、グレゴリオ聖歌の音が流れだす

大型のラッパや弦楽器を始め、大型の木管楽器や金管楽器なども整然として並び選出の騒ぎに負けないくらいに、そして美しく鳴り響いている

公の前で堂々と、ローマ正教が魔術を行使した瞬間だった

その明らかに異様な光景に、しかしこれまでの世界各国で起きる不自然な破壊を経験している信徒たちは、戸惑いながらもそれらを奇跡として受け入れ、旋律に合わせて歌い出す

そしてその聖歌の中で、大聖堂を見下ろす事が出来るバルコニーに、教皇を意味する白い法衣を身にまとったペトロが現れる。人々の歓喜は一際盛大になり、聖歌も更に凄みを増していく

前の教皇、マタイの時に廃止された教皇冠を乗せた新教皇の名は、ペトロ。すなわち、初代教皇とされるペテロと全く同じ名を持っていて、その冠を頂いた容姿でまず、マタイとは決別する路線を取ることを示唆させた

ペトロ「皆さまをお迎えして――――――」

から始まった彼の声は、拡声器も無しにローマ市全土に響いていく

最初は定例通りとも言える、自らの教皇名などの定型的な演説だったが、一区切りがあって、彼は大きく両手を開いた

人々が最も切望している現状への答えを、教皇として導くために

ペトロ「私達は、最上の時を迎えることになりました」

最上の時、という最も現実からかけ離れた言葉に、どよめきが起きる

しかし、新教皇は気にかけない

ペ「今、世界は表面上、重大な危機に瀕しているように思えます。それは正しい。しかし、これは表面的な捉え方でしか有りません」

ペ「なぜなら、現在の危機は、神が我々に強いている物なのです。つまり、終末、最後の審判の時がもう目の前まで近づいてきているのです!!」

信徒の中にはそれを考えていた者も居て、やはりか、という同意の声が所々で上がっている

ペトロ「最後の審判の前に、我々は一度肉の身を失うかもしれない。しかし、復活が約束されています! 善人であっても、例え悪人であっても、公審判をその身に受ける為に!」

公審判とは、旧教系西欧十字教の概念で、最後の審判の神によって生前の善悪で天国に行くのか地獄に行くのかが決定する儀礼のことである

ペトロ「世界中で起きている大災害は、聖書によって約束された破滅。あの光体は、神が従えし天の軍勢たちなのです」

ペトロ「人類は、公審判を受けるには広くいろいろな所に住みすぎた。故に神はそれらの人々を殺し、霊魂を聖都に集め公審判を開かんとしている」

ペトロ「私達は、ただ、待てばいいのです。清廉潔白な十字教徒として公審判を受けるその時を! ローマの正当な十字教徒であれば、仮に何らかの手段で肉体と霊魂が離れてしまったとしても、その身を神は復活させ神の世界へ我々を御導きになると約束されている!」

ペトロ「だから私は、大きくこう言う事が出来る。我が兄弟たちよ、死を恐れるな! と。我々に残った苦痛は、最早煉獄しか残っていないのです」
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:19:44.92 ID:QdSb/MA2P
ペトロ「しかし、我らの神は御一つの存在でありますが、イギリスやロシアを始めとして十字の教えは一つでは無く、またユダヤやイスラムなどという同じ救世主・預言者を待ち望み、同じ神を信仰しているにもかかわらず、我らローマとは異なる道を歩んでいる」

ペトロ「確かに神は寛大な御方、それ故に全ての人間を蘇らせるかもしれない。しかし、公審判のルールは一つでなければなりません。一部の矮小で悪辣な教えの為に特権的な救済を受ける集団がある、などという状況は絶対に認められない」

ペトロ「それが故に、我々の前を神の国へと導く救世主は今だにその御姿をお見せにならない。これは、悪辣な教えに邪魔をされていることにより、我々の救済までもが狂ってしまっていると言う事を意味しています」

ペトロ「更に、先日行われたアメリカの大統領による声明。まるで神の行いを蛮行とし、人類を挙げて対抗しなければならないとするような姿勢は、神への不遜に他なりません!」

ペトロ「つまり、彼らの存在によって、我々の救済は更に歪な物になるやもしれないのです!!」

ペトロ「だからこそ!! 我々は、信じて闘わねばなりません。その相手とは、イギリスなどの邪な教えの勢力が送りこんでくる敵であり、神に抵抗する科学と言う存在からの誘惑と攻撃です!」

トロペ「仮にその戦いの最中に命を失うようなことが有れど、その尊き死を神はご覧になっている。復活の後は、必ず神の国へ御導きになります!! ここに私は宣言しよう! ローマの為に死ぬことは、圧倒的な善であると!!」

ペトロ「そして今から我らにその大義があることの証明を、我が兄弟達にお見せしましょう!!」

彼がそう言うと、演説を妨げない為に鳴り止んでいたいた楽器たちが再び旋律を紡ぎだし、バチカンの空を覆っていた分厚い雲が裂け、昼の太陽光がサン・ピエトロ大聖堂を照らし出していく

そして聖堂の上にあるドームの先端の小さな十字に赤色で光が集まったかと思うと、それは一瞬でとある形を成していき

鷲を思わせる猛々しい翼を両肩に備え、赤色の衣を巻き、右手に剣を持った人の形をした存在が現れる

高さ120mの大聖堂の約半分を占めるドーム部に負けない体躯をもった大天使が、その場所に降臨した

それは、偶像崇拝に出てくる彼の姿そのもので、その場に集まった信徒たちはその存在が如何なるものなのか、立ち所に分かってしまう

「……ありゃ、ミカエル様だぜ!!」

神話によるものだけ、と半ば思われていた天使という存在が、バチカンの宮殿を守る様にして現れた

ペトロ「科学は言った、神は居ないと! 邪法は言った、ローマこそ邪法と!!」

ペトロ「ではこの存在は、この、我々を守護し天の軍勢を率いる頂点の存在は、一体何だというのでしょうか?!」

ペトロ「もちろんこれは、我々の教えが正しく! また神に選ばれたるものであるとの証明に他ならないのです!!」

新教皇がそう叫ぶように声を張り上げると、民衆は、信徒は歓喜した

そして、その歓喜の声に促されるかのように、ミカエルと呼ばれる巨大な天使は大きな声を、まるでファンタジーの世界に出てくるグリフィンのような動物的で荒々しい雄たけびを張り上げて、その巨腕に握られた剣を真上に振り向けた

その剣先から赤く太い直線が天へ伸び、有る高さに到ると複数に分裂して、別々の方向へ伸びて行く

直線によって裂けた雲間によって、彼の天使が何をしたのかローマの市民にも理解できた

その赤い光の塊は、今にも欧州を焼かんと振り削ごうとしていた隕石群を迎撃したのだった

ペトロ「今この瞬間!! 我らを襲わんとする混迷した天の刃からの恐怖は拭い去った!!」

ペトロ「このように! 我らの守護者は神の降臨が降臨するその時まで、ローマを守り、ローマの敵を裁くでしょう!!」

新教皇のその発言によって、更に大きな歓声がローマを包んだのだった
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:20:25.58 ID:QdSb/MA2P

その存在降臨の余波は、ローマと離れたフィアンマにも、感じられた

彼の性質である存在が現実に降臨したのだから、当然ともいえる

なにしろ、力の供給がより安定的で強力なものとなったのだから気付けないわけが無い

小物の魔術師ならば、その感覚に喜びに近いものを感じとるかもしれないが、彼にとっては些細なことでしかなかった

聖堂の横に備えてある大きいとは言えない建築物の中で椅子に腰かけ、目の前で横たわる少女の額に手を乗せている

フィアンマ「よりにもよってミカエルなぞを持ち出したか、ペトロめ」

生命力は、漠然とした概念ではあるが、その大きさによって生み出す事が出来る魔力の大きさが左右される

逆に、魔力という名前のエネルギーを強引に生命力の小さくなった者に送り込むことで、その生命力というゴム風船を強引に引き延ばし、生命力=命を引きのばす事が出来る

彼が禁書目録に対して行っているのはそういう事だった

何度目になるかわからない、作業だった

その原因は、多重干渉によって今にも壊れそうになっている禁書目録に更に干渉して、情報を引き出しているからである

魔術で脳だけを取り出して、そこから強引に引き出す、という方法も彼には出来ないわけではなかった

それにもかかわらず、彼がこのようにまどろっこしい工程を踏んでいるのは、単にステイルとの約束の為

増幅した力の奔流を簡単に制御しながら、彼は禁書目録の体を癒していく

フィアンマ「この力の大きさからして、恐らく限りなく制限の掛っていない状態で降臨したのだろうな。制限ばかりの"御使墜し"などとは比較にならんか」

禁書目録の遠隔制御霊装から伝えられる情報に気を払いつつも、彼は思考を並行して進める
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:20:56.11 ID:QdSb/MA2P
フィアンマ「馬鹿な老人共は、終末という形式の正式な行程を噛ませているのだと思っていると予想が付くが、ズレを正していない状態で、どこまで扱えるという」

フィアンマ「まぁそれでも、ミカエル程の大天使は無理であっても、名もなき天使崩れのような小粒なら、その終末の術式理解とローマの研鑚次第でなんとでもなるだろう」

フィアンマ「だが所詮、大天使など、お前たちには過ぎたる存在。俺様にとってはちょっとした玩具でしかないがな。せいぜい自慰行為にでも耽っておけ、小物達よ」

独り言をつぶやきながら彼は禁書目録の額から手を離し、そばに有る霊装に手をかけた

それによって、先程まで穏やかな顔をしていた禁書目録の顔が苦痛に歪みだす

「フィアンマ様」

彼の部屋に、法衣の上からでも屈強な体をしているのが分かる魔術師達が立ち、フィアンマに呼び掛ける

フィアンマ「なんだ? お前たちは隕石の迎撃に配備していただろう?」

「いえ、それが」「先程降臨したローマのミカエルによって、西欧地方に降り注ぐ予定だった物が全て細かく打ち砕かれましたので」

「他の地方に降る予定だった物も、各教派・信仰の手によって迎撃された模様」「残りは、アメリカサイドの放った地殻破壊用の現代兵器によって、です」

フィアンマ「ほう。ロートル共も、随分と気前よくやってくれるじゃないか。分かった、お前たちは他の部隊の護衛に回るか、待機しておけ」

頷き、魔術師たちは部屋を出て行った

フィアンマ(……西欧と言ったか。ひと括りに言っても、イギリスなどを始めとして、ローマの勢力下ではない宗教組織はいくつもある。そういう所に落ちる石ころについては、ローマの老人共が迎撃する必要性は無い)

フィアンマ(いくら老人たちが無能とは言っても、高水準な術式展開力をもつローマ正教に、落下地点予測が出来ないわけが無い。ということは)

フィアンマ(例え隕石の落下地点が分かっていても、ピンポイントに守る守らないをミカエルに指定するだけの細かなコントロールが出来ていないということか)

フィアンマ「フフン、連中、やはり完全に制御できていないようじゃないか」

そう、鼻で笑って、再びフィアンマは禁書目録の額に手を置いた
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:22:14.39 ID:QdSb/MA2P
フィアンマの笑った老人達はもちろん、イギリスにも最大主教暗殺部隊を送り込んでいた

そのことは既に彼女には報告されていて、奇襲でなければ、襲いかかったところで彼女の敵ではない

彼女は、わざと一般的な衣類に身を包み、わざと地下鉄駅へと下り、わざと人払いの術式を展開し、わざとその場所に入る

その場所、とは必要悪の教会の構成員が訓練や入会試験の為に使われる、ロンドン市街の一部施設

その中でも地下鉄から入る、罠だらけの地下空間に攻撃者達を引きこんだ彼女は、彼女自身の手を限りなく使わずに、その追手達の命を狩り取っていく

そして今、生き残った最後の一人と思わしき存在が、身を拘束する術式に捕らわれ、ローラの目の前で彼女を睨んでいる

「っくくくく、はははははは!!」

だが、何を思ったのかその男は笑いだした

ローラ「味方の無残な死体でも見て、気でも触れたるか? 存外、ローマの攻撃部隊というものもか弱きメンタリティーでありたるのね」

動けない男の喉元を指で撫でながら、彼女は問う

「そうではないわ、魔女めが」

ペッ、と唾を、男は最大主教に吐きかけた。しかしそれは最早、唾液と言うよりは血液だった

ローラ「ほぅ、ならば何故その様に笑っておる?」

頬に付いた男の血液を手で拭いながら聞く

「貴様が勝手に、こちらの思う様に動いたからであるよ。我々などは所詮、駒にすぎない。貴様は駒に神経を向け過ぎたのではあるまいか? 」

ローラ「な、何が言いたい?」

「ふっ。貴様がいくら有能な魔術師であろうとも、何の対策をする暇も無いのでは、天使とやり合う事は出来んということだ」

男の言葉に、彼女は顔を強張らせた

ローラ「まさか、お前たちは囮で、それに私が気を取られている間に、ローマの操る天使によってイギリスを焼きたる計画だったと?!」

「その通りだ。くくく、今更気付いたところで、もう手遅れよ」

男は勝ち誇ったように笑みを浮かべる

ああなんてこと、というわざとらしい女性らしい動きで頭を抱えるローラ

それを見て、男はただ笑うばかりだ
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:22:48.02 ID:QdSb/MA2P
しばらく、笑い声が使用されていない地下鉄道の細長い空間に響き続ける

だが、その笑い声に、フフフフ、と、女性の声が混じりだした

ローラ「フフフ……ならばなぜ、今まで衝撃の一つもこの地下まで伝わらぬのかしらね?」

言われてみれば、確かにその通りだ。今頃、自分たちすらも巻き込んで、ロンドンは荒野になっている手筈なのだから

行程が遅れているということも有るかもしれないが、正面で笑うこの女の様子から、そういう訳ではないという事が分かってしまう

ローラ「フフフ、こんな馬鹿馬鹿しいほどに分かりやすい手に引っ掛かってしまう程度では、イギリス清教はすでにローマに飲まれけるでしょうね」

ローラ「信仰も所詮、大きな術式にすぎない。だからこそ手順を踏みさえすれば、大天使であれど協力という名で使役出来る。これは、そちらも同じ事」

ローラ「だが、同じ十字の教えの下、神は一つであっても、直接的な信仰対象でなき天使如きがどうして、一名一体であると言い切れる?」

彼女が言っているのは、つまり、同名天使の複数存在の可能性だ

「ということは、まさか……」

ローラ「宗派を利用した術式を信仰という大きな術式に組み込む。ある術式に他の術式を混ぜ込んで、大きな一つの術式を成す、という知恵はもともと、宗派に分かれた信仰という術式を正当化する為のものを、魔術という名の小さい術式の応用させたるものにすぎないからのう」

ローラ「とはいっても、それは、私一人では完成しなかった術式構成だったわ。完成したのはお前たちローマの神の右席の指導者さんのお陰」

ローラ「お前の思う通り、我々には我々の大天使を呼び出し、ローマの天使を迎撃したに過ぎない。そのもし事前に招来の事実を知っていれば、お前たち攻撃部隊は撤退し、対応した戦力を整えようとするであろう?」

ローラ「この私がわざわざ変装までして地下に誘い込みたるのも、お前たちの愚策を読み切った上で、ローマに対策をさせず愚かに突入させるためのこと。ロンドン市街に被害を出させない為という、宗教指導者として最低限の判断をしたにすぎにけるのよ」

言って、妖艶とも言えるかもしれない笑みを浮かべ、男の前でケタケタと笑う

「……貴様に遊ばれていたとでも、我々で遊んでいたというのか、魔女め!!」

怒りを露にした男の前、最大主教は構わず笑っている

ローラ「そういう言い方も出来なきことはなきたるわね。でもあなたには、全く面白くも無い猿芝居につき合わせて悪いと思っているわ」

ローラ「お詫びと言っては過ぎたることかもしれにけれど、昇天して差し上げましょう。お喜びなさい、最大主教に直接手をかけてもらうなぞ、滅多にあることではなきたるのだからな」

言いきったかどうかというタイミングで、男の体が真っ黒な炎に包まれる

僅かばかりの間、断末魔の叫びが地下鉄道に響いた
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:23:56.50 ID:QdSb/MA2P
各宗派、各宗教の聖都となっている場所には、ローマの終末宣言に対応し、信仰と言う術式を用いて、結界が貼られることになる

怯える信徒を、宗派という内憂とローマのような存在という外患から、更には自然に発生する大災害や破壊天使達から守らねばならない

それは、その宗の頂点である人物が行うものであり、究極的にヒエラルキー構造を持ってしまう宗教というものの特性が導く帰結だった

そこに注目したのが、ローマ正教のペトロ達、フィアンマの言う"老人共"である

ヒエラルキーの頂点を亡き者にすれば、その宗派・信仰はローマが使役天使を送り込むことをしなくとも、"終末"によって自然発生する破壊天使を防ぐととなどできず、滅んでいき、信仰そのものが断ち消える

宗教と言う術式が、最大の媒介を信徒にしているという性質上、頂点が失われ、信徒が全て居なくなってしまえば、例えそれがその宗教の教義に定義されていることであっても、神の国での復活などできはしない

ローマ正教が仮に単独で最後まで存在した場合、唯一神によってすべての魂は肉体を取り戻して復活するが、ローマにとって、老人共にとって都合の良い公審判により、ローマ正教以外の人間は全て地獄行きとすることが出来る

全ては、ローマの一部の信徒が他教他宗派の信徒たちに対して優位な存在でありたいとする、優越感を満たすだけの為に仕組まれたこと

他者よりも上位でありたいという本能的な欲求による、彼らの放った攻撃部隊・暗殺部隊によって力無い宗教達は指導者を失ってしまっていた

ローマの干渉を退けたとして、多数の宗派が同居している宗教では、明確に新教皇が終末と言いきったことによって、より内部紛争が激化していく傾向にもあった

モスクワに居る総大主教も、ワシリーサの救出が無ければどうなっていたか

モスクワの主教座に集まった信徒たちを鎮める演説を行った少年は、宮殿に体を引っ込めると、頭を垂れて椅子に座った

そこへ何処からともなく拍手の音が近づいてくる

ワシ「上出来よ。気弱な事を言っていたけど、流石は総大主教と言えると思うわ」

「しかし、私にはローマの様に大天使を呼び込むこともできなければ、信徒を守りきる力も無い。今ある結界であっても、それは一般的な術式を多少強化しただけ。小物の天使ならば何とかなるかもしれないが……」

ワシ「それは別に構わないわ。あなたさえ生き残れば、ロシアの教えでロシアの信徒は裁かれる。問題は、今ここであなたという指導者を失ってしまうこと」

「つまり、信徒などいくら死んでも構わないと」

ワシ「そうよ。たったそれだけのコストで、ここモスクワで動けないあなたが生き残るなら、それでも構わないでしょう」

「そこまで、言いきるのか」

ワシ「言い切りますとも。私だってロシア成教の一員。ローマの独りよがりの審判を押しつけられて地獄行き、なんて御免でしてよん」
861 :正直チャイ語は分からん [saga]:2011/02/02(水) 01:25:05.90 ID:QdSb/MA2P
海原を郭に任せた半蔵は、隠れ家から見かけたその男を追っていた

街灯の下に一瞬だけ写ったその男は、すぐに建物の影に消えたので、彼は最早勘と言えるもので動いていた

ここは、第三学区である。言うなれば、学園都市内での学園都市外の組織の最大の拠点

そこで一人の人間を、目立つ事無く影の中を、当ても無く探していた為に、そういう輩と思わしき人間達がうごめいていることを気が付く

事前に何かの小集団が来るのを感じて、ビルとビルの間の細い通路を駆けていた彼は、近場の建物のガラスを音をたてずに器用に割って、自らの身を滑り込ませた

「在那个机器被美国奪走之前,回収」「知道」

建物の中で、物音を立てない様に壁に体を密着させてやり過ごしていると聞こえた会話だった

半蔵(こいつらは、中華の連中か。流石に華人系か中共系かなんざ、今のじゃ分からねぇが……)

足音も気配も通り過ぎて、彼は息を吐き、体の緊張を解く

半蔵(さっきはフラ語だったよな。まったく、どの国の連中も、他人の都市で好き勝手動き周りやがって)

立ちあがろうと暗い床に手を置いた。その時の触感で、すぐ近くの地面一面に赤黒い液体が流れているのに気が付く

目を凝らすと、そこには死体がある

死体を見ることは既に珍しいことでも何でもなくなっていたが、どうしてこんな場所で死んでいるのか気になった

近づいてみると、金髪をしていた

伏せた死体をひっくり返し、胸元に手を突っ込む。銃を脇に隠し持つホルダーがあるが拳銃そのものは無かった

唯一残っていた手帳を引っ張り出すと、最初のページに猛禽類のマークとBNDという文字がある

半蔵(BND……っと、どこの諜報組織だったかな。三色旗、良く見えねえけど、この色合いは……ドイツか)

半蔵(大方、他の国の機関の連中にでも出し抜かれたってトコだな。どうせこいつもイリーガル(非合法諜報員)だろーし、こんな人生の終わり方も仕方がねーよなぁ)

半蔵(しかし、米軍の連中がようやく全学区に展開を開始した所だってのに、流石に動きが早ぇ。これじゃ、アメ公が学園都市の技術を接収する前に他の国に全部持ってっちまわれんじゃねーのか)

半蔵(いや、最初から内部とつるんでた時点で、一番美味いところは既に入手済みだろうな)

半蔵(ん? だとすると、奴らが学園都市を占拠する理由は何だ? 奴らがこの状況を作っといて、まさか本気で復興を助ける為、なんてことは有り得ないだろ)
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:27:02.17 ID:QdSb/MA2P
「進行具合はどうなっている」

米軍占領部隊の司令官の一人である女性の大佐が、研究員に尋ねた

「芳しくないですね。もう少しはマシな状況かと思っていましたが、銃弾を撃ち込まれた挙句、入っていたトレーラーそのものに何か恐ろしい加重がかかったみたいで、完全に押し潰れていましたから。殆ど作り直しみたいなものでしたよ。このままでは予定時間ギリギリか、最悪の場合は」

「……そうか。ならば、もう一方の進行度は?」

「そちらは順調です。流石は、音に聞こえた学園都市の生産施設と言ったところでしょう。隕石群の第一波も予測以上の範囲で迎撃に成功しているようですし」

「だがそれは、ローマ正教の呼び出した天使とやらのお陰でもあるのだろう。手放しに喜べることではない」

「その様ですね。ですが、私もこの目で是非に見たいものですよ」

「お前たちは信仰の理由では無く、研究対象として見たいのでしょうが。この学園都市で手に入った玩具だけでは満足できないと?」

「"The A"被検体の事ですね。アレ自身は研究対象としての価値は大きくないのですよ。複脳計画の技術は既に我々の手元に有り、一応の成功個体を生んでいるのですから」

「その割には、喜んでいたじゃないか」

「未元物質の大変貴重なサンプルが航海中に手に入りました。それを正式に"使用"する被検体として、丁度良かったのですよ。女性という条件と、聖人並みの身体強度という条件を満たす必要が有りましたから。全く、幻生という研究者は死してもなお我々の役に立ってくれている。もし存命なら、一度会って意見を交換したかったものだ」

「熱の籠った言葉だが、私には何が楽しいのやら、と言ったところだな。目下のところ、最大の懸念が解決していないのだ」

「……そうですね。このままではわざわざ学園都市にまで来て、犬死ですからね」

「それだけではない。迎撃に失敗したならば、もう一つの目的すら達成できなくなる。宗教を信じているお目出度い輩にとっては関係ない、寧ろ歓迎されることかもしれないが、私達のサイドの存続そのものが、かかっているのだ」

言って、学園都市の精密先端機器と格闘している技術者や、その機器で物を作り出している研究者達を見た

ココだけではない。占領し安全を確保した学園都市内の各所で同様のことが取り行われている

その中には、一度学園都市から亡命してアメリカに渡った者たちも数多くいる

女性将校がその光景を見ていると、「主任、こちらへお願いできますかー」という声が飛んできた

主任とは彼女が呼び止めた研究者である

「もちろん、把握しています。だからこそ、この場に居る人間が不眠不休で製造しているのです。私も作業に戻っても?」

「ああ。呼び止めてすまない」

「それでは。……あ、最後に、一つ」

「なんだ?」

「もちろん間に合わせるつもりですが、もし、間に合わなかった場合は、その、時間稼ぎをお願いします」

「分かっている。常に決死の攻撃部隊なのだ、我が海兵隊は。例え、我々が本当に時間稼ぎ程度しか出来ない存在であったとしても、戦う事を覚悟している」

言いきって、彼女はその場を離れて行った
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:28:15.49 ID:QdSb/MA2P
第7学区の病院の廊下で、一方通行はガラス越しに病院の外の駐車場を見ていた

そこでは、病院の防衛部隊とアメリカ軍に挟まれた中央に机が有り、二人の男が立っている

一方はカエル頭の院長であり、もう一方は軍人だ

一方通行も見守る中で、医師がアメリカの軍人の前で書面にサインし、軍人と握手した

院内には、昨日の戦闘に巻き込まれ傷ついたことで、軍とか警備員などに対して過剰な恐怖を感じるPTSDを負ってしまった患者もいる。そういう患者に配慮して、この交渉は外部で行われた

提示された条件は、野営用のテントや医薬品・食料品などの支援をする代わりに、アメリカ軍が保護した学園都市内の患者たちの内、対処しきれない人数となれば、この病院が受け入れる、というものだった

何とか生き残った病院が数えるほどだが学園都市内に他にも存在し、同じような交渉をアメリカ軍は行っているらしい

必要物品を供給してくれるという事で断る理由も無く、その交渉は問題無く終わった

握手した手を離し、カエル頭の院長がいそいそと病院内に戻って行き、アメリカ軍も中央に立つ軍人の合図で撤収を始める

もし、何か、が起きた時にすぐに飛び出すつもりだった一方通行は小さく安堵の息を吐いた

そこに丁度、麦野沈利が通りかかる

麦野「交渉は終わった見たいね」

一方「あァ。平和的に終わって何より、ってなァ」

麦野「ならもう、首のスイッチは切っていいんじゃない? バッテリーの無駄でしょ?」

言われて一瞬、一方通行はキョトンとする。完全に忘れていたのだ

一方「そうだな。忘れてた」

言って、首へ手を伸ばす一方通行

麦野「……忘れるほどに、マジになってたのね。アメリカの連中は、第一位様が緊張する程の相手だったって言うの?」

一方「違ェよ。もしかしたら、守らなきゃならねェ物が近くに有る状態で戦うことになりかねなかった。俺がビビっちまってたのは、こっちだ」

また巻き込んじまうからなァ、と小さく呟く一方通行

彼が随分と素直に感情を吐露したのは、麦野にそこまで気を許したからなのか、それとも彼女には隠しておこうということを思うほどの余裕すら無かったからか

麦野「あの時私が言った事、少しは気にしてるのね」

彼の記憶はまだ混乱している。自分の激情に任せた戦いに巻き込んで、そして

一方「………まァな」

言って、彼はもう一度、窓越しに外を見る

今度は下では無く、上を。晴れ渡った空には月が昇っている。もうじき、南中するだろう
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/02(水) 01:29:10.53 ID:QdSb/MA2P
見つけた

彼は、あの時隠れ家から見かけた男の背中を、ようやく、しかもほとんど偶然に、見つけた

彼がその男を追った原因は、彼がこの世に存在する訳が無いからである

その姿とは、もともとは彼らのリーダーであった、駒場利徳そのもの

死んだハズの彼が、なぜここに

それが彼を突き動かした全ての原因だった

駒場のような大男は、半壊した商業ビルのホールで壁に向かって身を屈めている

一体、何をしているのか。そう思った半蔵は彼に悟られないように近づき、覗きこむ

近くの街灯は壊れていて、更にビルそのものの照明も無い状況では、外から差し込む青色の月明かりが頼りだ

駒場に似た男は、しゃがみこんで何かに手を当てていた。その何かとは

半蔵(マネキン? いやあれは人間の……死体か?)

何に触れているのか半蔵が気付いた丁度その時だ、駒場のような男の姿が歪みだす

半蔵(んなっ、変身能力者だったのかよ。まぁ、それぐらいしか考えられないわな。……だがなんで駒場のリーダーの姿を?)

この変身した男が一体誰なのか、当然気になった彼は、もう少しその人間に近づこうとした

しかし、半蔵が慎重に一歩目を踏み出した時、彼の背後にあったホールの壁の一部が運悪く崩れ落ちてしまう

彼が己の不運を呪った瞬間、その人間は音に反応して、半蔵の方を振り向く

?「お前は……」

その人間は、男性とも女性とも取れる、非常に中性的な顔をしていた

僅かに見取れる表情から、半蔵は、その人間が自分を知っているような反応をしているように思えた

とにかく、見付かってしまっては仕方が無い。彼は言葉を投げつける

半蔵「お前は誰だ? なぜ駒場のリーダーの姿をしていた?」

?「私の記憶の中の彼の姿に、自らを近づけることで、彼の事を、何を思って死んだのか、どういう事を考えていたのかを知ることが出来るかもしれないと思ったからだ」

落ち着いた声だった
865 :本日分(ry チャリでこけると股間が痛いNE [saga]:2011/02/02(水) 01:33:03.27 ID:QdSb/MA2P
?「だが結局、そこには何の答も無かったよ。結局有ったのは、私の記憶の中の駒場利徳だけだった」

半蔵「なんだと? お前、何を言ってやがる?」

?「もちろん、君についての記憶もある。服部半蔵。最初に彼女から君の名前を聞いた時は、思わず吹き出してしまったぐらいに、君の名前には驚いた」

この人間は、自分のことも知っているという。気持ちが悪い、気味が悪い

半蔵「彼女だ? 俺にはお前のような知り合いは居ねえ。見たこともねーしな! だからお前は何なんだよ?!」

彼は腰に持っていた拳銃を抜いて、その人間に向ける

その行動について全く興味も恐怖も感じない様子でに、その人間は変わらずに口を開いた

?「そう言えば、君は今、アメリカ側に行動を支配されているのだったな。アメリカから私を殺すように命令されたのか?」

半蔵「へーぇ。あんな奴らに何時までも付いているとでも? 人質も助け出してとうの昔に俺は自由だぜ! つまり、今銃をお前に向けているのは、俺の意思だってことだ!!」

半蔵の拳銃から銃弾が弾きだされ、彼の前に立っている人間の頭上を通過して、そのまま壁にめり込んだ

半蔵「さぁ言ってもらおうか! お前がどういう奴で、どうして駒場のリーダーについて知っているのかも、洗いざらいはっきりと……いや、待て」

半蔵(俺は、俺がアメリカの奴らに付いている、なんて事実を伝えたのは、たった一人、浜面の、滝壺理后だけのハズ……?! 何故コイツがそれを)

半蔵「お前、滝壺のことも知っている……? まさか、テメェ、あの子を殺りやがったか!?」

?「私が彼女を? それは面白い冗談だ。だが、答えはNOだな」

?「もちろん君も、私を知っている。そこまで言うのなら、今からその証拠を見せるとしy、……ッ!?」

言いきる前に、半蔵の目の前の人間は、視線を半蔵と半蔵の持つ銃から大きく逸らし、彼の真後ろで昇っている月の方向を見た

半蔵もその人間につられて、月の方向を見る

月の青白さなど勝負にならないほどにハッキリと蒼ざめた大きな馬が、何かを背に乗せて、学園都市の上空にたたずんでいた

?「遂に来てしまったか。あれは不味い。半蔵、お前は早くここから逃げッ――――――」

青白い月明かりのような何かが半蔵を含む全てを照らし、飲み込んでいく

半蔵の前に立っていた人間の言葉が、最後まで彼の耳に届くことは、無くなってしまった
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 01:45:02.49 ID:CcSFlb9Mo
無理して終わらせないで三周目突入しちゃえよ
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 07:38:35.72 ID:E3HcppyRo
いいや、これは三週目突入だね!
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 16:31:55.95 ID:IqDN5kjDO
もう「誰もが笑って誰もがry」って終わりは迎えられないよね
上条さん(中の人)の初動ミスが大きかった
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 16:33:07.20 ID:mplM0MHf0
俺ここからハッピーエンドになったら結婚するんだ……
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/02(水) 17:50:47.64 ID:aukuwROIo
三週目突入して久々に佐天さんの大活躍を
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:12:41.90 ID:MkIBRDJ+P
郭「蒼い、馬?」

隠れ家にあいている穴から半蔵が走り去った方向を見ていた女の視界で、突然蒼白い光が爆発し、一区画が消え去った

そして、衝撃の塊と化した風が、隠れ家の角に空いた大きな穴にぶつかって、まるで何かこの世のものではない生き物の唸り声のような音を上げる

異様な雰囲気の中、彼女はその大穴から空を見上げて、言葉を漏らしたのだった

その言葉を聞いて、海原はソファと壁に体重を預けながら移動し、そばに有った窓から外を見る

海原「馬、いや、人が乗っている? あれは、…… まさか」

彼らが見る中、その"蒼ざめた馬"に乗っている人型の何かは、鎌のような物を地面に地表へ向けて撫でるように振った

たったそれだけのことで、振った軌跡に沿った、蒼白いエネルギーの塊としか形容できない様な蒼白い曲線の光が、地面へ向かって伸びる

同時、逆に地面から白く光る翼を備えた複数の人型が、しかしその大きさは全く蒼ざめた馬とは比較にならないほど小さい存在だが、その曲線に向かって光の翼を拡大させながら高速で向かってゆく

光の翼を拡大するにつれて、その中央の人型の表面に青い稲妻が瞬きだし、蒼白い曲光と白い翼達が交差するころには、人型のフレームは稲妻の光しか確認できなくなった

互いに絡まって水平方向に拡がる壁となった白く光る翼と、鎌から発せられた蒼白い曲光が、自然発生する雷鳴の比ではないような轟音を作りながら激突した瞬間、天から放たれた蒼白いエネルギーはその向きを白光の壁に沿わせ、水平方向へ拡散していった

衝突の後、蒼白い光を受け止めた白い翼を展開していた人型の姿は、見当たらなくなってしまった

上空の大気に、拡散した衝撃が当ったことによって、一部の空気が地面へ叩きつけられる

それによって、酷い突風が巻き起こり、先日の紛争によって生じた瓦礫などが舞う埃の様に巻き上がり、建築物に当ってそこらかしこから物がぶつかり合う音が鳴った

突風が海原たちが身を置いている隠れ家の大穴に入り込み、今度は音だけでなく空気の乱流が部屋の中を荒らしだす

海原と郭は本能的に頭を守るべく腕を挙げて身を屈め、その乱流に耐えようとした

その行動で、当然、彼らの視界は狭まる

部屋をかき乱す乱流が、郭の近くに立っている本棚を揺らし、今にも倒れんばかりに動きだす

海原「郭さん!!」

まともに瞼を開けないその状況で、偶々その光景が視界に入っていた海原は、足の怪我など忘れたが如く、反射的に全身を動かし、彼女を庇う様に押し倒す

空気の乱れが穏やかになって、女が目を開いた時には、目の前に頭から血を流しながらも笑う男の顔が有った
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:13:56.22 ID:MkIBRDJ+P

海原「…ッっ……無事で?」

その光景に驚いた女は海原の声に反応して、ようやく事態を飲み込む

着馴れた黄色い和装が乱れ、胸部が半分程露出している。露出した乳頭に、海原の頭から滴る血が垂れた

郭「海原氏こそ、大丈夫ですかっ?!」

海原「ははっ……今更怪我の一つや二つ、ですよ」

郭「ちょ、ちょっと待ってて下さい!」

言って、彼女は這って海原の下を脱出し、海原に圧し掛かっている本棚を起こそうと、力を込める

簡単に持ちあがった本棚から、丁度海原の背の部分に隠れていた部分から、十字教聖書が流れ落ちて、とあるページを開いた

そこにある記述を読んで、海原は自分の知識に確証を得る

郭「掴まって下さい。片足で立てます?」

海原「え、ええ。なんとか」

郭の肩を借りて立ち上がった海原は、そのままソファまで連れられ、座った

たったそれだけのことだというのに、複雑に折れてしまった足が悲鳴を脳に伝える

海原の正面に立ち、おろおろとした視線を送る郭を見て、彼は無理矢理に顔の表情を整え、怪我の事から注意を逸らそうと試みる

海原「……すみません、あなたの体を汚してしまったみたいで」

言って、彼は郭の胸元に視線を移した

海原の言葉で初めて、片乳が和装からはみ出ていて、血で赤く染まっている事に気が付く郭

郭「え、あ、う、うわぁぁあぁあ!!」

顔を染めてサッと振り返り、衣類を整える女。浜面の時の様に自分の意思で露出をするならばともかく、海原に注意されてようやく、という形では相当に恥ずかしかったのだろう

半蔵の出発前に行われたやりとりを見ていた海原としては、読み通りの仕草でもある

整えてもう一度海原の方を向き、しかし彼を直視せずに彼女は話題を振った

郭「しっ、しかしっ、あの馬は一体何なんですかね」

海原「"ペイルライダー"、"蒼ざめた馬"というモノですよ。そこに転がっている、聖書の中の"ヨハネの黙示録"の記述に有る、死神のモデルとなった存在です」

すこし慌てたような声色の郭とは対照的に、海原は淡々と冷静に言った
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:14:44.98 ID:MkIBRDJ+P
郭「……死神?!」

海原「ええ。そして、ヨハネの黙示録とは、人類の終末から最後の審判までの行程を示した預言書です。だからアレが、もしそれそのものであるならば、終末が近づいている、ということになりますね」

郭「最後の審判? 終末? 」

そんなものは、どこかの宗教家が抱いている妄想にすぎない程度に考えていた彼女は、混乱した

海原は彼女がそうなると思っていたので、彼女から視線を移して外を、月を背景に浮かぶ蒼ざめた馬を見た

海原(本当に終末が近づいていて、あれが本当に蒼ざめた馬ならば、今学園都市で生き残っている人間は全て……)

海原(まさか。いや、だが合点はいくか?)

じっと天に浮く巨馬に視線を向け続ける海原の視界で、変化が起きる

海原(消えた……だと)

ほんの一瞬、彼がした瞬きの合間にその蒼い馬は消えていた

消えた、と言うより夜の闇に消えた、と言うのが正しく、先程まであった青白く光る霞みもどこかへ消えていた

月明かりよりも不気味に明るかった霞みが消え、先程の余波によって生き残っていた街灯達も軒並み使用不能となってしまい、明りの源は月明りだけ

その月明かりも歪に屈折していて、かなりの至近距離に居るというのに、お互いの顔すら良く見えない。暗闇である

海原「郭さん」

言って彼は、目の前に居るであろう郭の手へ、自らの手を伸ばす

だがそこに郭の手は無く、代わりに彼女の太腿に触れた

郭「ひゃう!?」

海原「おおっと、脅かして申し訳ないですが、外が見える所へ移動するのを手伝ってもらえますか?」

郭「あ、あぁ、はい。わかりましたっ」

彼女が部屋の外を見るには最適な大穴の近くに椅子を置き、そこまで海原を導く
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:15:18.06 ID:MkIBRDJ+P

郭「この真っ暗なのも、死神とやらが原因なんですか?」

海原「いえ、"闇"と"死神"のイメージとは合致するかもしれませんが、黒は蒼ざめた馬のものではないハズです。私は十字教徒ではないので深くは語れませんが」

椅子に座っている海原は考える

海原(十字教の終末における、蒼ざめた馬に対応した黒が意味するのは、黒い馬。もたらすものは、直接的な死や死から連想される破壊ではなく、その前の段階である飢餓のハズ。本当に終末に近づいているとするならば、前のステップに戻ることになる。いや、急に最後の死をもたらす蒼ざめた馬が現れたのだから、順番なんて関係ないのか?)

海原(いや、そもそも十字教圏でない学園都市で、どうして死をもたらす者が十字教に限られる? 世界中に終末を指す宗教や神話はいくらでも。西欧文明と距離のあるアステカ神話にだって、終末の定義はもちろんある)

海原(……いや、黒の終末をもたらす存在だと? まさか)

彼は、思考の末にとある絶望的な答えを思いついてしまった

郭「あれ、虎? でも虎の模様ってあんなのじゃなかったような。豹柄ってヤツか」

郭が、ふとそんなことを言った

海原「豹に良く似ているネコ科としては、より大型のジャガーなんてのも居ますね。って、急にどうしたんですか?」

郭の呟きに海原は応え、声の主をの方を見る

郭「いえ、あそこ、街灯が一個だけ残っている場所の側に、黒と黄色の斑状の猫っぽいのが居るんですよ。なんだかかなり大きい気がしますけど」

言葉による誘導の末、見付かったのは確かに大型ネコ科の動物だった

海原「アレは……そう。ジャガーそのもの、ですね」

応えた海原の声には力が無い。不審に思う

郭「海原氏、どうにかしましt」

海原「郭さん」

郭「は、はい」

海原「最期を共にする相手が僕になって、すみません。あの時強引にでも、あなたを半蔵と共に行かせるべきでした」

郭「えっと、一体、急に何を? 最期?」

海原「……。あのジャガー、破壊神の化身なんですよ。テスカトリポカって言う、アステカ神話のね。フフフ、ハハハハ……」

海原の乾いた笑い声に反応して、え? と郭の口から声が漏れる前に、彼女らの体は闇に押しつぶされてしまった
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:15:47.61 ID:MkIBRDJ+P

天から叩きつけられるものではなく、純粋に水平方向から、学園都市の地表に衝撃が走った

学園都市の象徴でもある風力発電のプロペラが吹き飛んで、アメリカ軍の駐屯している区画のトレーラーの壁を突き破る

拉げたプロペラの先端が、学園都市占領部隊の司令官の一人である女性大佐の目の前で止まった

「敵攻撃、第二駆動鎧部隊の特別防御によって"軽減には"成功」

大型トレーラーの中で、その様子を横眼で見ながら、上官が無事であること確認したオペレーターの声が響く

「変態とはやってくれる。常識なんぞ本格的に役に立たんな。迎撃システム立ち上げが間に合わなかった上に、想定以上だ。被害は?」

女性大佐は目の前のプロペラの断片を殴りつけて、叩き折った

「最初の攻撃と合わせ、第3学区ほぼ全域の消滅を確認。周囲の学区にも間接的な被害が見受けられます。我が軍が使用中の研究施設でも被害を確認」

「チッ。空を飛びまわっていれば良いものを、闇に隠れて地上に降り立たれては、従来の逆衝撃防衛法も役に立たん。やはりというか、本格的に駆動鎧の未元物質の制限解放による自爆的な特別防御頼みだな。製造研究に直接関与していない第3学区の消滅程度で済んだのは、幸運と捉えるべきか」

女性大佐は、大型トレーラーの壁にあるモニターの一点を見る

先程のプロペラが与えた衝撃によって、4分の1が映っていないモニターには、この事態を回避する為に用意してあり、郭と佐天というたった二人の活動によって壊されたもので、目下のところ全力で修繕に当っている、迎撃システムの再構築の進行度が数値で示されている

先程まで99%だったそれが、今では97%に後退していた。恐らく、今の衝撃で進行中の修復班のいずれかが巻き込まれてしまったのであろう

「すぐに次の攻撃が来る。ともすればまた変態するかもしれない。特別防御可能な駆動鎧は後いくつ残っている? 厄介なカミサマは何処だ?」

「残存数50。 高エネルギー体の中心は、およそ第7学区方面へ向けて移動中。しかし、衝撃によってレーダーの精度は下がっています」

「それだけ分かれば上出来だ。残存駆動鎧全てのリミッターを解除させろ。いつでも対応できるようにな」

「駆動鎧全てを防衛に回す気ですね」

「後のことを気にして目の前の学園都市防衛に失敗しては、何の意味もないからな。駆動鎧など無くとも、残存した学園都市の連中を抑えて施設を使用するぐらいなら可能なはずよ」

「了解、リミッター解除します。 …………な、クソ、なんてこった」

カタカタとキーを叩く情報士官が、言葉を詰まらせた

「どうした? また変態でもしたか?」

「駆動鎧の残存数に対して、待機搭乗員数が下回っています。先程の衝撃余波によるプロペラ等の飛来物によって死亡、もしくは負傷したものかと……」

「予備人員を導入しても駄目なのか?」
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:16:31.55 ID:MkIBRDJ+P
「最初から最低数ギリギリでしたから、絶対数が不足しています。今手に入ったリミッター解除によって制御不能となった個体数情報を加味すると、稼働率は約……50%」

「わかった。兵の数が足りんと言うのだな」

女性大佐が、偉そうな帽子を脱義ながら言った

「……!! まさか、大佐殿が直々に、ですか?!」

「ああ。駆動鎧の教習は、名義上、私も教官の一人だったからな。当然動かす事だってできるわ。最前線から離れて久しいが、実戦の経験ではひよっこ共には負けんつもりだ」

言って、彼女は胸元を開いてトップを取り出し、チェーンのアジャスターを取り外して、制服の下に隠されていたネックレスを身から外した

ネックレスのトップには、くの字に曲がったライフルの弾が有る

それを、目の前でトレーラーの外から突き出ている風力発電のプロペラであったものに、引っ掛けた

「置いて行くのですか?」

「ああ。死んだ夫になるはずの男から、生前に渡された弾避けなんだが」

少し年配の女性大佐は広げた胸元を元に戻し、トレーラーの出口へ

「自ら弾に当りに行くのに、コレを持っていくわけにはいかないからな」

「しかし、指揮はどうするので」

他の士官が聞いた

「当面は、大尉、お前が執れ。事が終わったら総司令官殿に一任しなさい。私程度の代わりなど、いくらでもいる」

「……了解です」

出口の扉を半分程開いたところで、女性大佐は立ち止まる

「ああ、それから」

「はい」

「技術者の連中に伝えておいてくれ。私達が守ってやったんだ、必ず"神の国"とかいうバカげた石ころを破壊できるようにな、と」

「……分かりました。駆動鎧はコンテナの奥の奴をどうぞ。残っている奴では一番調子が良い物です」

「ありがとう。それでは、逝ってくる」
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:17:19.10 ID:MkIBRDJ+P
バギン! という騒々しい音が耳に入り、彼女は目が覚めた

腹部から痛みを感じて目をやると、体を覆う薄い緑色の液体の中に、血の赤黒さが水の中の油の様に混じっている

そして不完全に血と培養液が混じった液体が、自分が入れられているビーカー内にできた亀裂から流れ出ているようだ

その亀裂の原因は、腹部に苦痛をもたらしている物。どうやら、自分が入っているビーカーの正面の壁から、何かが原因で突き破って伸びている鉄骨が、ビーカーすらも突き破り、そのまま中に居る自らの腹部を貫いていて、その穴から液体が漏れだしているのだ

自らの体の中心を貫通している鉄骨を両手で握り、彼女は一気に横へ動かした。培養液はもう足元以下まで漏れ出して無くなっていて、ブチブチブチッ!! という音が空気によって耳に伝わり、胴体が殆ど真っ二つになる

しかしそれも僅かな間のことで、簡単に彼女の上半身と下半身は再び接合を始めた

今までよりも少し時間を要して、怪我は治った。はずなのだが、何か違和感を感じる。刺さっていた鉄骨よりもはるかに強い何かがずっとそこに有るような

その感覚を無視して、彼女は鉄骨によってヒビが入ったビーカーを拳で小突く。亀裂が入ったビーカーは簡単に割れて、彼女は自由になった

何かの薬剤に引火したのか、研究室らしきこの空間の半分は炎の色で染まっている

割れたビーカーの破片が刺さり裸足の裏から血を流しながら、彼女は近場に倒れていた白衣の白人に近寄る

その白衣の男をひっくり返して見てみると、頭部が大きく変形していて、目玉は飛び出し、耳から出血していた

まだ僅かに温かかったことから、死後時間は立っていないと分かる。恐らくはこの部屋で、薬剤などが何かの拍子で爆発などして、こうなってしまったのだろう

しゃがみ込んで、神経部分だけで繋がっている眼球を突いていると、もう一度、何か腹部に違和感を感じた

吐き気すらする

「……アタシに何をしたのか教えてから死んで欲しかったなぁ」

ピン、と眼球を指ではじくと、神経の紐だけで繋がっていた眼球が壁に飛んでいき、グチャッと弾けた

「こんな火炎地獄じゃ、情報機器も全滅だろうし。勘弁してよ」

試しに露出している端末の基盤に腕を突っ込んでみたが、周辺の機器はやはり死んでいた

「はぁー、駄目か。 もしもしー? 何してくれたんですかー?! 寝てる場合じゃないだろコラっ!!」

先程の死体を、八つ当たりと言わんばかりに蹴り上げた

炎の中に白人研究者の死体が飛び込んでいき、そのまま壁に当たって、メラメラと燃える炎が引火する

その拍子でカツン、と、軽いプラスチックを思わせる塊が、男の体の中からか、少女の足元に飛んできた

拾い上げてみれば、携帯端末だった

「なぁんだ、こういう物、持ってたんじゃないですか」
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:17:53.98 ID:MkIBRDJ+P
これ幸いと、彼女はそれを弄り始める

しかし、ぶつかった衝撃のせいか、それとも炎の中を飛んだためか、挙動がおかしい

「バグってるじゃんコレ。えっと、下だよ下にスクロール!」

タッチパネル形式であろう画面をいくら叩いても、映像はまともにスライドしてくれない

文句を言いながら格闘していると、何か読めそうな場所があった

「被検体The Aへ遺伝子情報を含んだ特殊型未元物質サンプル投与の経過報告。着床、母体への結合と干渉を確認。予後経過は………。って、何だこれ」

時折、画面に何も表示されなくなりながらも、目を通す

読める範囲に書かれていたのは目的など特に無く、経過内容ばかりだった

「ちょっと、マトモに動いてよー? おおい、頑張れって。……あー」

そしてとうとう、少しも反応しなくなってしまった

「こんなんじゃ、なんにもわからないっての。ちぇっ」

動かなくなったそれを、炎の中に投げ込むと、簡単に引火してすぐに見る影も無くなってしまう

「ぐ、む……ん。うぇっ、うぇぇ」

突然、腹部に強い違和感を感じ、更に吐き気と気持ちの悪さが大きく現れた

心理的な気分の悪さだけでなく、なにかが、お腹の中から広がっているようなリアルな感覚も有る

その奇妙で痛みとは方向の異なる感覚たちによって、彼女は思わず背中を壁にあずけて、腰を下ろした

「くっそ。人の体を、次から次へと弄繰り回しやがって」

全裸の彼女のふくらはぎに垂れている唾液。口元から垂れるそれを彼女は手で拭い、そして拭った手は力無く垂れる

もう一度、腹部が強く主張した。それはもう、違和感と言うよりは食われているという感覚に近い

「も、もう。一体、なんだっての、さ」

へその方に目を向けると、年齢に応じて若い白い肌が、不自然に白く見えた。周りの光源である炎がたまたま強く燃え上がったからとも考えられたが

何なの?

そう彼女が腹を見て考えた瞬間、炎が踊るこの研究室の含んだ施設自体が大きく揺れ、天井が崩れ落ち始める

残っていたガラスや機器が軋み異音を作る中、とうとう彼女の上にある天井にまで亀裂が広がり、瓦礫が今まさに落ちようとしている
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:18:23.36 ID:MkIBRDJ+P

「冗談じゃ、ないって、の!」

力無く垂れた腕を持ち上げ、手を向けて、落ちてくる上階の瓦礫の群に対して念動力を使って、身に当らないように試みた

しかし、うまく機能しない。設定していた瓦礫の内、半数以上は少しも落下の方向を変えず、自由落下へ完全に干渉出来たのは細かく僅かな瓦礫のみ

比較的数の多い念動力系能力者であるから、まだ能力を借りる先はいくらでもあり、こうなるはずは無いのだが

腹部からの、同系列の強い力の干渉によって、彼女の中の4つの頭脳に非常に良くない影響が出ていた

自己の能力を持たない彼女だからこそ、他人の能力を借り、そして外部の未定義なエネルギーを使って借りた能力を暴力的な域で発現させている

だがそこに、彼女の体内という予期しない場所から、必要以上に強力で制御不能なエネルギーが入りこんで邪魔をしているのだ

不味い

このままでは瓦礫に押しつぶされてしまう

能力の行使がままならない今の状況では、遅々とした体組織復活の前に死が訪れる

まだ他の個体を始末していないというのに、こんなところで死ぬわけには

ならば

邪魔をしているエネルギーを強引に使ってしまえば良いのだ

天井へ、落ちてくる瓦礫達へ向けた手はそのままに、彼女は彼女を苦しめるエネルギーの塊を、この行為がもたらす不明瞭なデメリットへの不安を押し殺して、口内から逆流してくる胃酸と共に、放出した

ぬるりとした感覚を伴って手の平から飛び出したのは、白い暴力的とも言える何かだった

だがしかしそれには、彼女は見覚えが有った

まだ無能力者であった自分を襲ったあの垣根提督が、浜面や麦野、上条と言った全てを押しつぶすために放った白の濁流に、酷似しているのだ

「……なに、コレ」

降ってくる瓦礫から身を守るどころか、空が見えるまでに、施設そのものに大きな穴を作った彼女が、言葉を漏らす

言った彼女自身、既に意識がどうにかなりそうだった。先程までの腹部からの感覚は更に増大し、自らの意識そのものにまで牙を向け、目が霞む

そして、霞んだ視野が、空に浮かぶ巨大な牛と、それに跨る、先端が3つに割れた鉾を持った青黒い肌の人間の形をした存在を確認した時、彼女の意識は完全に押しつぶされた
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:18:56.64 ID:MkIBRDJ+P

「一体、どうなってやがる」

病院の屋上に上がった一方通行は声を漏らした

急に外で轟音が鳴り響き、驚いて屋上に出てみると、第三学区の方向が不自然な暗闇に覆われていた

その闇が晴れたかと思うと、第3学区から一切の光源は失われていて、荒野の様になっていた

更には、急に白い光の柱が地面から生え上がり、都市を照らす

数秒の光源が照らし出したモノの中には、50mは有ろうかという牛とそれに跨る青黒い巨人の姿が有り

そしてその存在は300m程度の高さを維持したまま、第3学区の方向から、ゆっくりとこっちへ向かって来ていた

フレンダ「あれ何? 米軍さんの悪趣味なホログラムって訳?」

麦野「そんな楽観的なモンじゃないでしょうね。そのアメ公共の駆動鎧っぽいモノがさっきからズコバコ落とされてるし。まったく、打ち止めちゃんと月でも見ようかと思って屋上に来てみれば、とんでもないモノが見れるわ」

打止「最初に現れたのは青い馬だったんだけどね、ってミサカはミサカはs」

思い思いの事を喋る女性陣には、打ち止めも居る

一方「うるせェ、テメェは中に入ってろ。外は危険だ」

打止「ビルだって簡単に壊しちゃうんだから、中も外も変わらないって、ミサカはミサカは反論してみる」

一方「何が飛んでくるのか分からねェンだ。そういうのを防げる分中の方が安全なンだよ」

打止「……あなたがいるから、大丈夫だもん」

一方「お前のことは守る。だが今は大人しく入って……ン?!」

ムワッと、突然、周囲の温度が10月半ばの外気とは思えない温度に上昇した

その原因は、こちらに向かって来ている巨人の手に有る三又鉾としか思えなかった

その先端には膨大な光源と熱源となっている炎の塊があり、炎と言うには色が無く、寧ろ青に近かった
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:19:58.95 ID:MkIBRDJ+P
一方(あンなもの、確実に不味いに決まってんだろ)

一方通行がそう思って、首元のスイッチに手を伸ばした時、巨人の三又鉾が地面へと振り下ろされた

白く半径40mは有ろうかという炎球、がその半径を保ったまま直線に変形し、地面に向かって伸びていく

その光線に対して、地上から天使のような翼をもった駆動鎧が飛び上がり、アメフトのラインマン宜しくスクラムを組むかのように翼を組み合わせ、地表への着弾を防ごうと試みる

スクラムと白線が衝突し、バチチチチ!!、と紫電の沸く様な音を立てながら異様な熱波が爆発するように拡散していく

斜めに攻撃を受け止めた為、地面に対して斜めに拡散した熱波は、半分は上空へ、もう半分はコンクリートとアスファルトそして金属に覆われた学園都市の地面へ向かう

膨大な熱量によって、晴れ渡っていた空には一瞬で巨大で分厚いキノコ雲が生まれ

地面に向かった熱波が音と共にアスファルトを溶かし、街灯を溶かし、車を溶かし、ビルを溶かし、そして人を溶かした

地面に500m程、直線状に溶解し発光した帯が生まれる

更にそれらの内、液化を介さず直接気体へと昇華した、学園都市を構成していたモノは、周囲の空気によって微小な個体となるように冷却され、吸いこむだけで有害な気体成分となる

未元物質の壁の影になっていた一方通行達がいる病院にもその熱波が、風と共に伝わってくる

麦野の原始崩しによる光線をそのまま巨大化したかのような光景に、言葉が無かった

一方「……なンつゥ馬鹿げた威力してやがる。打ち止め、コイツで口と鼻を塞いどけ」

打止「う、ぷぅ?!」

言って、彼はポケットから取り出したハンカチを打ち止めの口に押し当てた

フレンダ「ちょ、第一位?!」

打ち止めがハンカチを自らの手で押さえたのを確認して、駆け出した一方通行は屋上のフェンスを軽々と簡単に跳び越えた
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:20:33.76 ID:MkIBRDJ+P
垣根「はいはい、その辺にしときやがれ、死んじまうぞ? こんな朝っぱらから何やってんだコラ」

マンハッタン南部の大きな橋の下で影になっている、近くに野球場があるその場所に訪れた垣根帝督は、先に訪れていた集団に後ろから声をかけた

頭から覆面代わりに布をかぶった集団は、銃を持っている者、バットを持っている者、バールのような物を持っている者など様々な武器を手に持っている

人と人の合間からちらちら見える光景から察するに、その集団に囲まれた真ん中で人が倒れており、垣根が声をかけるまでずっと鈍器で殴られて続けていたようだ

「黄色猿が何の用だ?」

集団の一人が垣根に向かって、バットをちらつかせながら聞き返す

垣根「あぁ? 聞こえなかったのか? 止めろっつってんだよ」

「へっ、見ず知らずの黄色猿にそんなことを言われる理由はねえな。スーパーマン気取りかもしれねぇが、ママに教わらなかったのか? 怖そうな人たちに話しかけちゃ駄目ってな」

垣根の見た目に、決して背が低い方ではないが小柄で東洋人らしく若く見えるという特徴を、馬鹿にする様に近づいてきた大男は言う

そして、垣根を上から見下ろすように近づき、垣根の周囲を囲う。覆面の上から、男達の血走った目が見えた

垣根「生憎、母親なんざ知らねえよ。ちょいとここで待ち合わせをしてんだが、お前達みてーな怖そうな人たちがいるの邪魔なんでな。リンチなんざ止めて、とっととおウチに帰って貰おうか、豚野郎ども」

「んだとコラァ?!」

男が金属バットを振りかぶり、垣根の頭に打ちつけた

ゴキン! と鈍い音が鳴り、普通の人間なら下手すると死んでいただろう

だが、結果として金属バットがくの字に変形しただけだった。血飛沫の一つも、表情の変化も無い

垣根「……面倒臭ぇな」

ひん曲がった金属バットに驚いてる覆面の男に対して、垣根は胸倉を掴み上げてそのまま地面に叩きつけ、垣根と男達を見守っている覆面の集団の中へ蹴り飛ばした

蹴られた瞬間、明らかに骨の折れた様な嫌な音が鳴り、集団の中で受け止められた男は血を吐く

「クソ猿が!」

集団の中の一人が拳銃を向け、躊躇せずに引き金を引いた

垣根に向かって伸びた銃弾は、ほんの僅かに垣根の体の表面を窪ませただけで、弾かれるように地面に落ちた

出来た窪みも一瞬で何もなかったのように元に戻り、腫れることも無い
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:21:16.93 ID:MkIBRDJ+P
人間ではない

そう集団が思うと同時に、垣根は集団の方へ向けて、何も無い空を殴る様に拳を振る

ブァッっと、拳圧というにはあまりにも強い風が発生して、集団の中には覆面が吹き飛んだ者もいた

これは本当に人間ではない。超能力者に加えて、TVや実体験でも、天使が現れるわ、絶対的な破壊者は現れるわという世の中になっていること伝えてられている

どんなことが有ってもおかしくは無い。銃弾も効かず金属バットも効かず、振りかぶっただけで突風を起こすような人外の存在が居てもおかしくないのだ

そんな存在を目の前にしてどうして、抵抗する気になれるだろうか

集団はバラバラに散って逃げ出していく

最後に残った、最初に垣根に近づいてきた男たちへ個別に視線を送ると、その男たちも散っていった

その"待ち合わせ場所"に残った最後の一人となった垣根は、集団に囲まれてリンチを受けていた人間の方へ歩み寄る

そこには、5人の黒人系の一つの家族と思わしき人々が倒れていた

4人の大人に、1人の義務教育も始まっていないであろう子供

脳漿が飛び出ていたり、銃痕が有ったり、あらぬ方向へ曲がった関節部が有ったり、目玉がくり抜かれていたり、鋸で中途半端に切断されていたり

子供を女性と思わしき人間が庇う様に倒れているが、子供の頭は半分近く吹き飛んでいた。銃弾を至近距離から受けたのかもしれない

垣根が来た時点、集団の隙間から僅かに見えた殴打の時点では既に、全員死んでいたのだ

垣根「間に合わなかった、ってレベルじゃねえな。本当に、人間って奴は……面倒臭えよ」

特定の信仰が有るわけでもない、そして当然無神論者の彼は、その死体に対して何をしてやればいいのか分からない

表面上だけでも十字をきることは出来たが、そういう気にもならなかった

垣根「コイツらが死んだのは例えば、麻薬の抗争とかなのかもしれない。だがよ、こういう事、増えて来てるんだろ?」

彼は虚空に問いかけた

イェス(ああ、そうだ)

間髪いれずに、応えが頭に響いてきた
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:23:01.04 ID:MkIBRDJ+P
垣根「ローマ新教皇の終末公言なんてことがありゃよ、近日中に人類は終わるかもしれませんなんて公言されればよ、仕方ないことかもしれねえ。だがやっぱこの国、一枚岩じゃないんだな」

垣根「大統領選挙にも大きく関与してくる宗教勢力、そして表面的には下火となってる様には見える人種差別、他にも色々だ」

垣根「お前という存在に気づいて、あらゆる責任を押し付け、そして打ち倒さんと協力を募って襲わんとする勢力なんかもある。ローマの教皇が言ったのは排外主義宣言だから、対立する分には問題ないかもしれねぇが、こうも分裂の要素が多いと、お前としても苦しいんじゃないのか?」

イェス(……本来の預言者イェスですらも、最終的には身内にたったの銀貨30枚程度で裏切られている。仕方ない事でもあり、対処できる)

垣根「どーだかな」

イェス(そして、私にも強力な協力者が出来るかも知れない。君も知る、幻想殺しがね)

垣根「えらく自信が有る様に喋るが、もう一度言わせて貰うぜ。どーだかな」

垣根「まぁんなことはどーだっていいんだ。つかよ、本当に来んのか? 俺は正直気付きやしねぇと思うぞ、あんなメッセージ方法」

口調を変えて、少し彼は軽く尋ねた

イェス(良いのだよ、来ないは来ないで。彼らの程度がわかるだろう? 私としては折角研究した成果に気付いてもらえなかったという事で、少しショックを受けるだろうがね)

垣根「凝り性も大変だな」

イェス(そう言うなよ。私は天草式の人間のレベルを把握する必要があるからね。彼らのレベルを把握した上でないと、私の有能な部下達に気付かれないように神裂火織を彼らに返す事なんて出来ない)

垣根「オイオイ、ちょっと待て、事が終わったら解放するってのは、非公式なやり方だったのか?」

イェス(当然だ。研究者や権力者達にとってあんな興味深い存在は無いだろう? 簡単には手放さないさ。彼らに極力干渉せずに、つまり私と言う存在を前面に出さずに、彼女を解放するにはそういう方法しかない)

垣根「ああ確かに、分からなくもねえな」

イェス(それ以前に、事が終わった後に我々が生き残っていなければならないという最大の問題が有るがね)

垣根「そりゃ、そうだな」

イェス(その為に私は今から姉上と、幻想殺しと会話をしてくる。相手が相手だから、そちらに集中することになるだろう)

垣根「……了解。天草式とやらとは、俺だけで話を付けようじゃねえか」

イェス(うん、頼んだよ)

話が終わって、彼はじっと目の前の惨殺死体を無表情に見つめる

一応の防衛手段が公開されているアメリカですら、その中心と言える場所ですら、人々は感情的になって、パニックになって、このザマなのだ
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:23:32.61 ID:MkIBRDJ+P
他の国々では、地域では、この比ではないだろう。日常としてあった対立が虐殺を導くことなど容易に想像が付く

暗部の仕事で殺す事は多多あった。しかしそれでも、薄らいでいたとはいえ、全く抵抗が無いわけではなかった

垣根「……畜生が」

彼は日本語で言葉を漏らす。そしてその言葉は、聞く者があった

「まさか、日本人とは思っていなかったのよな」

いつの間にか、話し合いの相手は待ち合わせ場所に訪れていた

垣根「お前が、建宮斎字だな」

振り向くと、写真で見た建宮を始め7人の人間が立って、こちらを見ている

建宮「やはり、素性までバレていたのよな。呼び出し方と言い、物を調べるのはお得意なようだ」

垣根「少々マニアックな奴がいるんでな。"人払い"の方を頼む」

五和「既にかけてあります。どうぞ、私達をここに呼んだ本題の方を」

垣根から20m程離れた所に立っている彼女たちだが、今言葉を交わした二人を始め、全員が得物を構えている

なるほど、人払い術式下ならばこういう得物を堂々と公然に持っていても、警官に止められるようなことは無いだろう

仮に人払いなしで堂々と持っていても、虐殺などが見えている現状で警察組織が対応できるとは思わないが

垣根「おいおい、平和的にいこうぜ?」

対馬「オブジェと言うにはあまりにも趣味の悪いものを背にしてる人が言うセリフじゃないわね」

先程までいた集団によって殺された死体について言っているのだろう

垣根「コイツは、俺がやったんじゃねえ」

建宮「そんなことを言われてホイホイ信じろというのは無理が有ると思うのよな」

その通りである

垣根「そりゃ、確かにそうだな。悪かった、好きにしてくれ」

建宮「それで神裂火織について、何を教えてくれるのよ? 最初に言っておくが、俺達はアメリカに来たばかりで、特に交換条件とかを飲める訳じゃないのよな」
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:24:05.31 ID:MkIBRDJ+P
垣根「ほぉ、そりゃ怖い脅しだな」

武器を持って、交換条件が飲めないが情報を寄越せというこの状況。「話さないなら、武力に訴えるぞ」と言っている様なものだ

垣根「だが、そんなことはこっちは100も承知だ。"情報を伝えること"については見返りなんぞ求めたりしねえよ」

建宮「それは有難いのよな」

剣を握る力が更に強いものとなったことが窺えた

垣根「だが代わりに、お前たち天草式十字凄教には、待っててもらう」

対馬「待ってて……?」

垣根「ああ。お前たちも可能性ぐらいは考えてんだろうけど、今、神裂火織はアメリカ軍の管理下にある」

建宮「天使モドキの迎撃部隊に入っているということか」

垣根「その通りだ。待っていて欲しいというのは、今回の"終末"を乗り切るまで、その力を科学サイド存続の為に使いたいってことだな」

建宮「待った。俺達も一十字教なのよな。一番必要な時期に教皇がいないというのは困るのよ」

垣根「分からなくもないが、それはお前じゃ代用出来ないのか、教皇代理さんよ。それに、どっかの宗教に属する奴しか救われないなんて終末の為に、それ以外の人間すべてが犠牲になるなんて、お前たちの教義にも沿わないんじゃないのか?」

五和「それは……」

垣根「そうやって終末を乗り切るってのも、"救われぬ者に救いの手を"差し伸べることだとは思うがな」

諭すように、垣根は言う

建宮「なかなか言ってくれる。だが、はいそうですか、待ちます、なんて言えないのよな」

建宮「まず、女教皇を返してくれるなんていうお前の口約束を信じるには根拠が無いのよ」

建宮「そしてお前たちは、その女教皇を使って、天使迎撃に関係のないロンドンを襲わせ、俺達の仲間を殺した」

建宮「これでどうして、お前さんの言葉を信じることが出来ると言える?」

垣根「ああそうだ、その通りだ。こちらの内情まで教えるわけにはいかないが、今の状況で神裂を返す事について確約することは出来ねえし」

垣根「"禁書目録"なんていう、悪用されれば危険すぎる存在を始末する為に、試運転って意味もあって神裂を使ったのは事実だ。お陰で使い勝手の悪い駒にもなっちまったけどな」

建宮「この状況で、よくもそこまで堂々と言いきれるのよな」

大剣を手元で一回転させて、建宮はその剣先を垣根に向けた
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/07(月) 08:24:38.19 ID:MkIBRDJ+P

垣根「ああ、言い切るぜ。お前らには俺の言葉を信じる以外の選択肢が無いんだからな」

建宮「なんだと?」

垣根「天草式がどの程度の戦闘力を持っているのか完全には把握してねえが、所詮は一小魔術組織だ。相手になると思ってんのか、アメリカって国家を相手に、目の前の俺を相手に」

建宮「国家を相手には出来ないかもしれんが、お前さんを相手にするぐらいなら出来ないことはないと思うのよな」

垣根「無理だと思うぜ?」

言うと、垣根帝督は見せつけるように右手を死体の方向へ向けた

たったそれだけで、その死体は一瞬で白い灰となった

垣根(すまねえな。日本人の俺は火葬しか知らねえんだ)

心の中で詫びを入れたその行為は、天草式の人間にとっては威嚇として映る

建宮「……その程度なら、全然、相手になるのよな」

垣根「なんだと?」

学園都市という存在を知っている彼らにとって垣根の示威行為は、確かに脅威だが、能力者の能力行使程度にしか思えなかった

そしてなにより彼らは、最初から交戦の可能性を考えてここに立っているのだ

その配置にも、場所にも意味が有る

構えた剣先をゆらりと動かしたかと思うと、建宮斎字は一瞬で距離を詰め、垣根の首のすぐ前に剣を置いていた。首などすぐに刎ねられそうだ

地脈や風水の影響を考慮した、インスタントな、先程建宮が立っていた場所だけに限られた、高速移動の術式

垣根「やるじゃねえか」

建宮「命を取る気は無いのよ。だが、俺達はこの程度の実力はあると警告したかっただけなのよな」

垣根「ああ。認識を改めさせて貰うぜ」

垣根は目の前のフランベルジュと言われる大剣の剣肌をなでた

垣根「だが、それじゃ届かねえよ」

言い切った直後、彼の背中の服が裂け、そこから飛び出す白い濁流となった翼が、天草式全員を取り囲むようにして展開し、彼らの武器の全てを解け落としてしまった
888 :本日分(ry まだだ、まだもうちょっとって言う次元じゃないくらい、続くんじゃよ [saga]:2011/02/07(月) 08:27:33.20 ID:MkIBRDJ+P
「……ん?! ちょちょちょ、一体何よっ?!」

太平洋を渡りきる直前の事だった

隕石の衝突コースにも被らないように自動操縦を設定した彼女は、座席に座って考え事をしていたところ、寝てしまっていた

彼女を起こしたのは、想定外の強い揺れだった

跳び起きて、とにかくモニターに目を通すと、レーダー上には乗っている輸送機の周辺を、10を超える光点が有った

ステルス性を完全に確立する為に、同勢力に対しても、つまり同じ学園都市の輸送機・攻撃機に対しても情報を出さないように設定していた為に、同じ経路を飛行する機体の生み出した乱流によって煽られているのだ

たった一人の搭乗員である少女、御坂美琴は咄嗟にパネルを叩きより高い空域へ逃げる

御坂「学園都市製の無人ステルス爆撃機? なんでそんなものが、こんなとこを」

周囲に見える全ての光点が自機を通過し、後は遥か後方に同じ型の航空機が有るだけとなって、彼女は、はぁー、と溜まった息を吐き捨てた

御坂「ったくもう、なんなのよ。あ、でも、もうこんなところまで来ちゃってるんだ」

現在位置を確認した彼女は、目の前のパネルを叩き、自らの能力も使用して、座席の前にある輸送機操舵も兼ねた端末を操作する

外征用途も想定されているこの輸送機には、攻撃先の軍事ネットワークはもちろん、民間のインターネットまで介入するための装置が詰まれている

それを利用して、彼女は目的の男を探し出す

御坂(微小機械の共振をもたらすプロトコルをばら撒いて、更に端末アドレスがおかしいアクセスログと重ねて絞り出して……)

御坂(共振共鳴が避けられない同一微小機械の反応が見付かれば、大体の場所ぐらいは……。アイツがどこかのネットワーク内に居る限り、見つけられるハズなんだけど)

タン、と小気味の良く音を立てて操作を続ける

上条を探し出すために即席で組み上げたプログラムの結果が、端末のモニターに表示される事になっていて、そこに

【バカ発見!】と大きく現れた

御坂「あった?! ど、どこ?」

寝起きで少し意識がぼうっとしている中で作ったプログラムなので、バグチェックもしてないことも有って、正直自信が無かった彼女は驚いた

御坂「反応があったのは……マサチューセッツの工科大学の中て?! あの馬鹿、なんでそんなところに居るのよ?」

本格的に彼とその場所の接点が見つけられない彼女は、しかし、その付近で着陸できそうな場所の捜し出しに作業を移していた

889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 09:01:00.53 ID:/Ef2UNe00
オッツ!オラwktkしてきたぞっ
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 10:22:59.09 ID:Mmm1fmxno
うへえ、はやくもapocalypse突入かよ。
あと佐天さんいい子を産んでね。
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 10:29:32.23 ID:J2jhsJBBo
垣根×佐天さんか・・・
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 10:35:52.08 ID:id68l7wDO
もう人が死ぬのを見るのは嫌だお……

あ、佐天さんは別お。
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 12:47:20.94 ID:S0KlzY++o
というかそろそろ3週目行かないとハッピーエンドできなくね?

あ、佐天さんは別よ
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/07(月) 22:56:58.57 ID:rVmYARcN0
ていうか、最終佐天さんボディーは何者かに乗っ取られて佐天魂は成仏してしまったのか?
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/08(火) 07:25:19.03 ID:RUF8SJoAO
ところで何でてんす達が暴れてんだっけ?
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 18:01:59.38 ID:EmSK4e9DO
ってか話についてけないwwwwwwwwwwww
誰か簡単に状況説明してくれwwwwwwwwwwww
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/08(火) 19:33:08.59 ID:ktYoUs5Zo
>>896
佐天さんからだぼかーん
上条さんおしりぼかーん
このままだとちきゅうがぼかーん
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/09(水) 20:34:59.54 ID:/sQw6tvAO
佐別はよくないよ!(キリッ
899 :are? [saga]:2011/02/12(土) 01:29:15.28 ID:hj2t/feYP
護衛と言う名の、ライフルを持った監視の兵が彼から離れたのは、その場所に辿り着いた後だった

先端機械の開発保持には、ハッキリ言って都市部は向いていない。広い空間が必要な上、清潔な水源が必要だったりと条件が整わないのだ

だが、人里離れるのは効率が悪い。それを解決する手段としての、人工的に掘削し固めた地下空間。完成品をそこに保持する程度であるならば、最初から人工的空間として作られている地下は、資金が非常にかかるという欠点を覗いて、機械的な環境調節はしやすい

故に、その場所は最先端研究機関としての大学の、地下に有った

そしてその場所について、彼は、深い意味では彼女たちは、知っていた。一時期、そこに鎮座していたのは自分で有ったのだから

小学校の体育館程度は有ろうかという縦幅・横幅・奥行きを備えた、金属の壁と床と天井で覆われたその部屋の中央に、半径10mは有ろうかというサイズで透明な円柱が有る

その円柱の中には丸みを帯びた台形が天井と床に置かれ、拳ほどの大きさもない青色の基盤が、台形によって上下両端から吊られている

「やあ、よく来てくれた。上条当麻君」

まるでアレイスターの根城を思わせる明るいとは言えない空間に入り、密閉式のスライドドアが閉まった途端に、気さくな声が広い空間に響き渡った

「もちろん、君の中の姉上達も。これでも少しは心配していたんだ。来てはくれないかもしれないと思ってね」

無感情なものではない、抑揚を付けた機械音声は非常に人間的に感じた

上条「殆ど強引に連れてきておいて、よく言うな」

対する彼は、彼女たちは、上条当麻を演じるしかなかった

「それでも、君の実力ならば、ここまで連れて来られる過程でいくらでも逃げ出す隙は有っただろう? 格闘能力的にも、特殊な能力的にも」

上条「俺を買い被りすぎだな。俺はそんなに」

「強くない、とでも? 君も知る青髪君達よりも幼い時から、上条刀夜の伝手で非合法特殊工作員=イリーガルとしての訓練を受けてきた君が言う事では無いね。 最後の適性試験では、一般人から刺されるなどが有ったが、それはパニックによるものだったようだしな」

上条「……」

「ああ、そう言えば、"前"の青髪君からの報告によると、記憶が無いのであったな。なるほど、それでは戦い方のイロハを忘れていても仕方ない。と言っても、鍛えられた反射神経や目、それに体は一般人のものとは比較にならないだろう。カミジョウトウマなりの、特殊な才能も有ることだし」

上条「"前"の青髪からの報告だと? "前"ってお前は何を言っている?」

「一応、イェスと言う名を自称しているんだが、まあ、お前、で構わない。そして、君には知らぬとは言わせないよ」
900 :名前の欄に何か書きこもうとして、途中で書き込んでしまう事ってあるあるだよなorz [saga]:2011/02/12(土) 01:31:23.56 ID:hj2t/feYP


イェス「君は恐らくその現場に立ち会って、協力したのだろう? この混沌を招いた原因に」

上条「この混沌を招いた原因だって?」

イェス「そう。まるで"時間を巻き戻したかの様な"術式の事だよ。そしてなによりその原動力として、地球規模の静止エネルギーを使った事」

イェス「これが全ての原因であり、君の罪であり、もしかしたら役割だったのかもしれない」

上条「役割? それより、何でお前が"時項改変"について知っている?」

イェス「"時項改変"というのか、あれは。読んで字の如く、なんともその通りの名前だ。そして知っているも何も、この地球上の大半の人間が"知っている"事だよ、それは」

上条「……なんだって?」

イェス「知っている、と言うよりは知覚はしているというべきなのだろうね。普通の人間は根本的に何が起きたのか理解できる訳の無いエネルギーの働き方をしている過程で、それが実の記憶として思い出さない様な力がかかっている為に、多くの人間にとっては、6日ぐらい前からやたらと既視感が多いな、程度に思っていることだろう」

イェス「だが中には特別な資質によって、私の様にその変化自体をリアルタイムで気が付き観察していた者以外でも、例えばその記憶にかかっている力を弾き返すなどして、思い出してしまう人間もいるかも知れない」

イェス「そして根本的に時間そのものが逆方向に動いたならば、その術式を行使した存在でも無い限り、私ですら記憶を持ち越すのは不可能だ」

上条「ならお前は、どうして知ってるんだよ」

イェス「言っただろう? 本当に時間そのものが逆に動いていたならば、と。簡単な話だ。時間そのものが逆行した訳ではないということさ」

上条「……どういうことだ?」

イェス「"時間逆行"ではなく、"時項改変"という名前。誰が付けたのかは知らないが、それが全てを物語っていると言える。君も違和感を感じたことがあるんじゃないのか? 時間の逆行では有り得ないことが、まるで"前"との続きであるような事態が起きたりなどして」

イェス「つまり、時間そのものを逆にしただけではなく、進む事しかない同一時間軸上に、物や人に到るまで全ての存在について、過去に有ったそれらと合うように、再びその過去と同じ場所と同じ状況に置くことで、あたかも時間が逆行するように見せかけているにすぎないのだよ」

イェス「空間移動や物を動かす魔術というものは、どうやら非常にポピュラーなもののようでね。"時項改変"とやらも、性質的にはそういう術式を拡大したものであって、制御可能なエネルギーと化した地球も含めて、再配置しただけなのだ」

イェス「故に、"時項改変"が発動したその時に生きていた生命には、戻った10日あまりの時間にあった出来事の記憶が有る。一方でこの限定に入らなかった生命はどうなったのか、予想できるかい?」

上条「戻った記憶を持ってないってことか」

イェス「その通り。その条件は、"時項改変"の際に生きていたかそうでないか。その時に死んでいた者は、戻った10日より以前の記憶を持って、原子レベルで再構成されている」

イェス「考えてみればすぐに分かることだ。生きていた人間は過去の場所に配置するだけだが、死んでいる人間は作り直すしかないからね」
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:31:55.91 ID:hj2t/feYP

ここまでの話で、上条は顔をしかめた

上条「……いや、でもそれっておかしくないか? 時間そのものを戻したんじゃないなら、作り直された人間は、"時項改変"が起こった時より10日前までの記憶を、どうやって得たんだ? 単純に原子分子レベルで再構成しただけなら記憶は蘇るもんじゃないだろ?」

イェス「鋭いな、その通りだ。もし単にその個体を再構成しただけにすぎないならば、それは所詮良く似たクローンと変わらないという事になる」

イェス「記憶を持たせるなら、術者は、恐らくアレイスターなのだろうが、彼は一人一人の記憶の隅々まで欠く事無く保存していなければならない」

イェス「確かに彼は人間と言うカテゴリーに入る存在ではないのだろうが、それでも70億以上も居る人間すべての記憶を抑えることは不可能だろう」

イェス「だからこそ彼は、その術式に時間という概念を混ぜ込んだのだ。時間に直接手を加えることは非常に難しい。だが、利用することは無理ではない」

イェス「水が有るとしよう。そこを棒で線を引くように動かすと、その棒が進んだ後をなぞる様に水流が生まれるだろう?」

イェス「時間も同じようなものと捉えて、時間の動きが4次元的なものとし、更に上の次元の視点から下次元の時間を観察すれば、時間が進んだ後に出来る"水流みたいなもの"、つまり"時流"が確認できる」

イェス「その時流に3次元的な物質をのせれば、それに合う様に全てが自然に整えられ、再配置も、未来の記憶やデータが保存されているなどの有り得ない事が起きているという問題も、表面的には解消できる。これには高度に科学的な理解と、魔術的な技術両方が必要で、両条件を満たす設備知識技能を持っているのは彼ぐらいだろう」

イェス「もちろんこれは私の"時項改変"の観察から推測した仮説にすぎない。だが、"時間逆行"よりは確実に要求されるエネルギーは少なく、再配置先の指定から記憶など全ての再構成を一つ一つするより手間もかからない方法だ。実に理にかなっていると言える」

上条「待てよ。お前の言う時流に乗せるってやり方だと、説明が付かないことが有るぞ。時流に全部任せるなら、俺達の次元の"時項"すなわち事項まで、時流のままになるんじゃないのか? "時項改変"をする意味が無くなるだろ」

イェス「もちろんその通りだ。全てを時流のままにしては意味が無い。だが、術者であるアレイスターは時流を把握している、ということが"時項改変"の前提だ。理解できていて、そこに間接的とはいえ、影響を与えることが出来るのだから、時流に対してどういった方向にどれほどの力を加えれば、その"時項"を変化させることも不可能ではないと考えられるだろう?」

イェス「だからこそ、君が乗っていた飛行機の座席が変わっていたなどから始まる、"前"とは違う様々な時項の変化をもたらす事が出来る。代わりに、地球そのものの再生の為に消費できるエネルギーは、そこに消費した分だけ、小さくなる」

イェス「見た目には分からないが、"前"よりも地球全体の質量は小さくなっている。それによって若干の環境変化も見受けられるな。彼が何故、君の力を借りてまで地球をエネルギーに変換させたのかには正直疑問が残るのだよ。使い勝手が悪いとはいえ、それに比類するエネルギーなら他にもあっただろうに」

イェス「だけれども、過ぎたことは変えられない以上、文句を言っても仕方のないことだ」

上条「お前、なにか"時項改変"に文句が有るのか? お前が学園都市の人間を殺す原因になったのは知ってんだぞ。それを解決する為に、アレイスターが採った仕方のないことなんじゃないのかよ」

イェス「そういう見方も出来る。そこに異存はない。だがね」

イェス「最大の欠陥が有るんだよ、この"時項改変"にはね。そしてその欠陥が、今の世界の全ての問題の原因なのだ」
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:32:21.64 ID:hj2t/feYP


ステイルという名前の魔術師もまた、ニューヨークに来ていた

ステイル「とは言っても、アメリカは広大だ。ロンドンで禁書目録一人を探し出すのに苦戦したというのに、何の手がかりも無く"救世主"なんて抽象的な存在を探すのは、無理難題にも程が有るだろう」

思わず呟いた彼の心は仕方が無いと言えた

朝も8時を過ぎた時間に、多くの人間が町を歩いている。土日前、つまり平日である以上仕方のない光景ではあったが、それは恐らく通常とはかけ離れた状況なのだろう

到るところで、情報が飛び交っている

もちろん内容は、ローマの新教皇の言葉から世界のどこが焼けただの等である

今までになく状況は悪化している、と言うのが小耳に挟んだステイルの感想だった

ステイル(救世主を探し出すなんて取り留めも無いことをやっている場合なのか? いや、もちろんフィアンマには考え有ってのことなんだろうがね)

腕を組んでビルの壁に背を当て、思考を纏める為に煙草を吸っていると、今までとは少しベクトルの異なった会話が聞こえた

アメリカの外についてではなく、中の話である

「聞いたか? またどこぞのカルトが朝っぱらからリンチで虐殺をしたんだとよ」

「そんな話いくらでも転がってる。今更だな」

「あー、確かにこれだけなら、どこにでもある話になっちまった。だが問題はその内容だ」

「目撃者の話によると、東洋人らしいのがそれを止めに入ってな。それでカルト共は止めてその現場を去ったらしいんだ。それで見えた死体が、遠目で見てもあんまりにグロかったらしくて、その目撃者はそこから目を離しちまったらしい」

「ほー。だがここまでなら、特別有り得なくも無い話だな」

「面白いのはココからだぜ。なんつったって、しばらくして目を戻した時には、その場所を天使の翼みたいな白い羽の塊が覆ってたんだとよ」
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:32:51.40 ID:hj2t/feYP

「なんだそりゃ。それで、その後は?」「わかんねえ。目撃者がまた目を離したらしいからな」

「どんだけ目を離せば気が済むんだそいつは」「本人曰く、何か見る気になれなかったらしいな」

「ガセ臭いにも程が有る。証拠はあるのか? 死体とかさ」

「いや、死体は無かったが、代わりに死体が有った場所のコンクリが溶けちまってたらしい」

「冗談言うなよ。コンクリの中身のセメントって1500度近くまで温度高めて作るんだぞ? 有り得ない話だ」

「白い羽の塊については定かじゃないが、溶けてたってのは事実だぜ。この目で見たんだ」

「お前が? うーん。もし全部事実なら、洒落にならんな。つい最近、フォートワースが例の光体に襲われたらしいし。いよいよもって我がアメリカも、だなぁ」

片方の男が溜息を放つと、ネタを話していた男のポケットが震えだした

「おい、今入ったホットなネタがあるぜ」「これ以上俺を絶望させない様な話だったら聞くぞ」

「そいつは、どっちに転ぶかは分からないな。今、ケネディ国際空港で爆発音が起きて、あらかじめ来てたらしい軍の誘導で、利用者が退避を始めたところらしい。何が起きてんのか分からんが、テロじゃないかもしれないぞ、これは」

「ちょっと待てよ、あそこは俺のかみさんが働いてんだ。最悪じゃねえか! しかも何で軍が居るんだ? 州軍か? そいつを見せろよ」

「いや、合衆国軍だ。ホラよ。んで、行くか?」「当り前だ! こいつは何か臭いからな」

そして、男たちは去っていく。町の雑踏にまぎれた会話ではあったが、ステイルは聞き逃す事無く聞く事が出来た

ステイル(目を離していた原因が魔術であるならば、"人払い"が考えられる。そしてコンクリートが溶けたという話。これは、怪しいと言わざるを得ないな)

ステイル(そして今度は空港で爆発か。この時期と言う事だけを考慮するならば、テロの可能性が濃厚だが)

ステイル(どうせ何も手掛かりなんて無いんだ、僕も行ってみるか)

そしてステイルも、目の前の男たちを追う様に走っていった
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:33:23.37 ID:hj2t/feYP

病院の屋上に張り巡らされたフェンスを飛び越えた一方通行は、そのまま牛に跨った巨人に向かって突き進んだ

音速すら超えて拳を突き立てた彼のこの行動の理由は二つ

一つは、この巨人が実体であるのか否かの確認

もう一つは、攻撃することで注意を引き、攻撃が地面方向へ進むのを防ぐため

1kmと離れていなかった彼我の距離は、巨人からは何の干渉も無く瞬く間に縮んだ

一方「星ンなっちまいやがれェ!!」

声とともに拳が巨大な牛に刺さる

そう、文字通り、拳ごとそのまま一方通行は刺さった

そのまま牛を貫通し、更には30mとない巨人の体を彼の体は突き破ったのだった

血や臓物、ましてや骨格など無く、雲を突き破ったかのような感覚

物理的に、拳と言う名の小さなバットで巨人と巨牛というボールを打ち返さんとばかりに働きかけたエネルギーの向きは、拡散した

一方(チッ、霞みみたいな体をしてやがる)

突き破った慣性によって巨人よりも上空に出ている彼など、まるで居ないかのように、巨人は再度、トリシューラという名前の三又鉾の先に青白い炎を集中させる

それに対応して、翼を生やした人形が地面から飛び上がるのが、自由落下をし始めた所の一方通行にはその様子が見えた

そして複数体飛び上がる駆動鎧の内、一機だけ他のそれよりも巨人に近づいている機体が有った

恐らくは、あらかじめ予測を付けて行動をしていたのだろう。もっとも、同じ攻撃が立て続けに来るということが確定している訳では無かったので、不用意に近づくことにはデメリットもある

今回は運よく、攻撃方法が同じなようだ

これから予期される攻撃が、先程見せられた鉾のからの攻撃が同じだとすると、発射までに時間が有る

このままだと、増大していく熱量が先程と同じになるより先に、先んじて飛び上がっている一機が鉾の先端に届くだろう

熱量が十分になる前にその鉾に辿り付き、炎を翼でかき分けることが出来れば、先程の攻撃を防ぐことが出来るかも知れない

一方通行に見えたその行動は、そういう理由の元であると、彼にも理解できた

そしてそれは、彼にとっても攻撃を防ぐという目的に適合した解であった

電光が走るよりも早くそれを理解した彼は、同じように三又鉾の先端に向かって進む
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:34:00.20 ID:hj2t/feYP

上空の大気を巻き付けて進んだ彼は、彼自身の移動の余波で正面である地面から向かって来る駆動鎧を吹き飛ばさないよう、衝撃の方向を操作しながら、最小限の速度で近づいた

一方(よォし、間に合う)

先行した駆動鎧に一方通行が追いついた瞬間、一瞬の静寂が合った様に彼は感じた

もっともそれは、超音速と言う要素によって音が遅れてきたからにすぎないのだが

その一瞬、彼の視界で、球状の炎に翼と言うナイフが斬り込み切れ込みを生じさせた

一方(手伝ってやンぜ、アメ公さンよォ!!)

思考を言葉にするよりも早く、翼によって作られた切れ込みを広げんとばかりに、彼は駆動鎧の前に出るように切れ込みに飛び込んで手を差し込み、大気を使って引き裂くように能力を行使した

裂け目が広がり、やったか、と思った時

壊されるぐらいならば、フルチャージでなくとも使ってしまえば良い

そう巨人は判断したのか、半球二つがそれぞれその場で爆発した

爆発した、というよりは、不自然に圧縮されていた炎が元の形に戻ったというべきなのだろう

周囲の気温を上げる程度に漏れだしていたものとは、比較にならない莫大な熱量が生じ、気体が爆発するように膨張した

彼の視界の端で、駆動鎧が翼で装甲を守りつつ、地面へ叩たかれるが如く吹き飛ばされて行く

二つの半球の中央に入った彼は、両側から押しつぶされるように力が加えられる

ベクトルを操る彼にとって、それは、まったく問題の無いことであるハズだった

しかし

一方(ただの熱の塊じゃ、ないってことかッ?!)

反射を貫通した衝撃が、彼の体を左右から圧縮する

一方通行の体は、骨の軋む音を鳴らしつつ、両側のの衝撃に押し飛ばされるように後方へ、駆動鎧と同じく地面へと弾かれていく

大砲の弾のように弾かれてビルへ突き刺さり、派手な音と粉塵が巻き上がった

打止「一方通行!? 一方通行、一方通行ァ!!?」

病院の屋上で、フェンス越しにそれを見ていた少女の声が、響いた
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:34:31.63 ID:hj2t/feYP
上条「最大の欠点て、なんだよ?」

静かに、しかし確かな声で彼は聞いた

しかし、言葉が返ってくるのには、少しだけ時間が有った

イェス「……君がコップに入った水を持ち上げるとしよう。その時、君はどれだけの力を使う?」

上条「はぁ? 具体的に数字を言えって言われても、どこのどの部位に掛る力を言えばいいのか、指定ぐらいはして欲しいんですがね」

イェス「ならば、少し変えよう。バケツ一杯の水を持ち上げるならば、どのような力を加える?」

上条「そりゃ、コップの時よりはずっと大きくなるだろうな」

イェス「バスタブ一杯分なら?」

上条「バケツよりでかいだろうよ。ってか回りくどいぞ。プールだろうがマリアナ海溝だろうが、それにふさわしい量の力が必要だっての。謎かけはいいから簡潔に言えよ」

上条の言葉を無視して、機械音声は声を出力する

イェス「そう。何かに力を行使する場合、その対象に対して相応しい力が必要だ」

イェス「"時項改変"でも、その法則には縛られる。ある人間の行動を時流に逆らわせるには、それに相応しい力量が、同じように君の行動を変えるには、原則的にそれに相応しいエネルギーが必要だ」

上条「だろうな」

イェス「ならば、地球と言う巨大な存在の時流を動かすには、どういう力量のエネルギーが必要だと思うかね?」

上条「地球の時流? そりゃ勿論、それに相応しいエネルギーが、……ってそんなもの、変化させる必要なんて無い……、いや」

イェス「そう。"時項改変"を行うに必要なエネルギーを得る為に、地球そのものを、君は、 破 壊 し て い る。その再生の為にもエネルギーが必要で、その時流を改変させるためにもエネルギーが必要だ」

上条「……まさか」

イェス「そうだ。どう計算しても、私の試算上では全く足りないのだよ、"地球が破壊される"という時項を改変する為に必要なエネルギーが、ね」

イェス「内訳を見ても、10日前に戻す際に、最低限の地球を再生させる為に使用されるエネルギー量があまりにも多くて、時流を変える余裕など、少しも無いのだよ」

イェス「つまり、確定しているのだ。地球の破壊が。"前"の学園都市の時間で4日後の16時半過ぎに起きた、"時項改変"までの90時間余りの後、この惑星は何らかの方法で自壊する」
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:35:00.83 ID:hj2t/feYP
上条「何らかの、方法?」

イェス「君の時流は変わっているからな。そして今ここで私の説明を受けた以上、君が同じ時間に同じ行動をとるという事を選択したりしないだろう。しかし、地球の時流は、破壊されるという時項に到るまでの流れは変わっていない。これは一種のパラドックスだが、結果が同じになる様に、過程が変わるだけにすぎない」

上条「終末も、隕石群も、大規模災害も全て、地球が壊れるという結果をもたらす過程だと、言うんだな」

イェス「残念ながら、その通りだ。つまり」

上条「つまり全ての原因は、俺達である、と」

上条は、イェスという名の基盤の方を見ていた。しかし、その目の焦点は基盤の場所に揃っていない

荒廃した学園都市と生命を復活させるためにやったことで、逆に人類どころかあらゆる生命を殺してしまうならば、本末転倒にも程が有る

ショックを受けないハズが無かった。そんな上条の様子を見たのか、機械音声が再び出力される

イェス「過ぎた事に対して文句を言っても仕方が無い、と言っただろう。私は既にそれらに対していくつも行動を採って来て、"ノアの箱舟"など最悪の事態の予測も含んだ策をあげ、結びつつある」

イェス「この難題の解決を確固たるものにする為に手を貸して欲しいと、改めて言わせて貰いたいのだ、上条当麻君」

イェス「だからこそ、コレは、君自身の意思で決定してほしい。姉上には残念だが、邪魔をしないで貰おうか」

言葉が終わってすぐ、上条当麻の中の彼女たちは、まるで何かのゲームの中で中断を実行したかのように、機能が強制的に停止した

この場所はAIを制御する為の場所として作られている。本来それは中央に坐しているイェスへの干渉用ものだったが、同じタイプモデルである彼女たちに対しても出来る事であった

男性を思わせるAIが、同型AIの助言を受けることの無いように上条当麻本人の意思を問うたには、訳が有る

本人の意思を聞く必要が有るというのが一つ

そして上条当麻という人間の意思と言うのは、彼にとって所詮人間であり、言葉によって誘導することなど容易いものでしか無いというのが一つ

特殊諜報員・工作員としての記憶が有る状態ならば厳しいものであるだろうが、それらの記憶を物理的に失っているのならば、難易度はぐっと下がる。これも、イェスと言う名のAIがこの方法を採った理由だった

だがしかし、それは違う結果を招くことになる

上条当麻という人間が、意識を失って倒れたのである
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:35:30.75 ID:hj2t/feYP
「どうだ、少しは改善したのか?」

新教皇となったばかりのペトロ=ヨグディスという名の男は、バチカン宮殿の一室に入るなり、側に居た魔術師に問いかけた

しかし、返ってきたのは彼の望む返事では無かった

「申し訳ありません、教皇聖下。全力を挙げて解決しようとしているのですが、良い返事は出来ません」

「役立たずめ。何故ミカエル様の制御がうまくゆかんのだ。言葉を交わす事すらままならんとは。術式は完成していたのではなかったのか?!」

新教皇は、立場を忘れた様に怒鳴った

しかし、出来ないものは出来ないのだ

「分かりません。術式自体は一部の隙も無いほどに、完成されています。歴代の伝説的なm」

「よいわ! 貴様のご託は聞き飽きた。分かっておるわ。この時の為に、我がローマ正教が研鑚を重ねてきたことなどな」

怒りの矛先として彼は裾を強く掴む。普通の衣ならば、爪が食い込んで裂けていただろうが、術式の施されたそれにダメージは無い

「だが何故だ。何故約束された効果が得られない! 天使が崩れたような小粒なヤツでは、ロンドンは落とせんのだ! 何か分からないのか?!」

「……非常に仮説で根拠も無い推論で良ければ、申し上げます」

部屋の中の一人の魔術師が言った

「私を満足させることが出来ると思うならば、申してみよ」

「術式に構造的な誤りがないと仮定してm」

「前置きはいい。結論を述べよ」

ドン、と拳で木製の解析用霊装を叩きながら、新教皇は言葉を促した

「は、はい。その、何者かの、どこかからの干渉、と言うのは考えられないでしょうか?」

配下の魔術師の言葉を聞いて、教皇はフン、と鼻であしらった

「馬鹿を言うな。当然、干渉や介入などされぬ様にも、時間をかけて研究されたいるこの術式に、かのような穴など無いわ」

「は、はい。ですが、我々の術式にでは無く、元となるミカエル様ご自身へ、更には我らが主に直接、と言うのは……」

「痴れ者め。神や天使に直接干渉し影響を与えるなどしたら、例え聖人であってもその身が焼け焦げてしまうわ」

どいつもこいつも馬鹿ばかりだ、そう言って教皇になったばかりの男はその場を後にした
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:36:02.07 ID:hj2t/feYP
「我々の指示に従って速やかに―――」

ステイルという魔術師の後方で、拡声器越しの声が響く

そして逆の方向からは、スダダダダダダ、という大型自動小銃が弾を掃射する音と、ドゴン、という巨砲を放ったかのような音が鳴り続けている

明らかに非日常的な異音鳴り響く環境下で、彼の周りには誰も居ない

非日常的な音に導かれるままに、横長で滑走路が一望できる搭乗前ロビーまで彼が辿り着くと、目の前にあったのは殆ど虐殺だった

一般的な服装をしながらも、どこかに民族的な装飾が施された魔術師と思われる人々が一方的に弾を被弾し続けていた

それがそれなりの力を持った魔術師達であることは、彼らが反撃として使う魔術の規模からも分かった

地面に石のような物を、柱の陰から窺っていたステイルはそれを何らかの霊装と見たが、ロビーの床を滑らせると鋭い角度をもった氷が鋸の刃の様に複数現れ、進路上の全てをゴリゴリと裂いて進む

しかし、その脅威的とも言える威力のそれは、引き金を引くアメリカ軍兵士の元まで辿り着かない

兵隊の奥に、防衛用の術式を使っているらしい魔術師が居て、辿り着く前に氷は全て打ち砕かれてしまう

打ち砕かれてもなお、無数の刃として弾幕のような働きを持たせるが、掠っただけで太い柱をごっそりと抉る巨砲と、無数の銃弾、更には攻撃的な様々な種類の魔術の前に、質・量両面的に劣ってしまう

目の前で、一人、また一人、人間が弾けていく

「GO! GO! GO!」

とお決まりのセリフが、柱に隠れた彼の背後から、つまりステイルが来た道から聞こえた

どうやら完全に相手を倒すために、二正面から追い込むつもりらしい

ステイル(っ、こんなところで見付かって巻き込まれても、僕にメリットがないどころか大デメリットしかない。どこか一時的に身を隠せる場所は)

辺りを見回すと、トイレが有った。今ならば交戦してる両サイドからも、後ろから迫る米軍第二波からも見付からずに行ける

そのタイミングを、彼は見逃さなかった

「あの様な魔術師が居るから、アメリカが窮地に立つことになる。一人も逃すな。全員殺せとの命令も出ている。遠慮はいらん」

「しかし大尉、ローマの魔術師が来るってのはホントなんでしょうか」

「さぁな。だが、可能性はゼロじゃないだろう。来たら応戦するまでだ」

「こんな時に、人類同志が戦い合うなんて」

「歴史の勉強をし直すんだな。黒死病が流行った時ですら、人類は戦っていたのだ。何時だろが、どんな状況だろうが、変わらんよ」

男子トイレに飛び込み、音を立てない為に身を壁にぴったりと付けたステイルに、ロビーを走る兵隊たちから聞こえた会話だった
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:36:56.52 ID:hj2t/feYP
ローマが、来る?

そのことに意識を取られていたステイルは、兵隊たちを完全にやり過ごした後、靴の先を壁にあててしまい、コツ、と音を立ててしまう

「ひっ」

靴の音がトイレ内に響いた反応として、個室から高い声が聞こえた

全個室、ロックはなされていない

音の出所であるだろう個室に当りを付けて、ルーンの入ったカードを片手で構え、逆の手で扉を開く

そこには白いパーカーを身につけた少女と、彼女が身を盾にして庇っている血だらけの男性が便器に座っていた

「だ、誰ですか?」

少女は、動物の骨でできたナイフ、恐らく海洋動物の何処かの骨のようだったが、をステイルに向けて構えている

この状況で"誰か"などと尋ねる時点で、この子は戦闘経験が殆どないのだと分かった

彼女が知らない=仲間ではない、という事。その時点で目の前に居るのは高確率で敵なのだから

反撃も考えて、ステイルがルーンの入ったカードを抜いてすぐにでも使用しようとしていたこと比較すると、考えも覚悟も足りない

そんな少女の様子を見て、ステイルは両手を挙げた

ステイル「とても珍しいことに敵でも味方でも無い、野次馬と言ったところかな」

「野次馬? 嘘だ。一般客どころかパーサーもパイロットまでみんな退避して、誰も入って来れないようになってるハズです! 私達を殺しに来たんでしょ?!」

「レ……レティ、シア……」

後ろの男が、瀕死としか言いようのない、擦れた声を出した

「お兄ちゃん!? 喋っちゃ駄目だよ!」

「いいん、だ。ナイフを、下ろし、グ……なさい」

「どうして? だってこの人は」

「アメリカ軍じゃ、ない。奴ら、なら、私達はもう死んで、いる」

「でもでも、悪い人かもしれないんだよ?」

「その気に、なれば……この人は、何時でもお、お前を殺す、事が出来る。すこし、お兄ちゃんに、話……させて、くれ」

男が言うと、少女は心配そうな表情を浮かべながら、身を壁に寄せた。所詮トイレの個室、狭い個室ではコレで精一杯だった
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:37:30.29 ID:hj2t/feYP

「すみ、ませ…。妹が、無礼な、ことをして。どうやら、あなた、ほんと…に、野次、馬、なんで…しょ…う」

どうかな? 本当に敵かもしれない

と、ステイルは言おうとしたが、止めた

理由は、そんな無意味な言葉ではぐらかした分だけ会話が遅れると、彼が本当に伝えたかったことを喋る前に逝ってしまいそうだったから

男は、なにも言い返さないステイルを見て、口元が笑った様に思えた

「あなたは、強い、ヒト、だ。その胸……、中心から、強い力、…感じます」

震える手でステイルの胸を指そうとしたようだが、そんな力も残っていなかったらしい

傍らの少女が、今にも泣きそうな表情を浮かべる

「どういう、経、緯で、ここに……いるのか、分かりまっ、……せん。ですが、あなた、に、頼み……………」

言葉が最後まで続く前に、便器にもたれかかってようやくステイルの方を向いていた顔が、グラリと、力を失った様に横に流れた

「お兄ちゃん?!」

言いながら身を乗り出して男に抱きつこうとした少女を、ステイルは腕でのけた

男の唇が僅かに、動いているように見えたからである

そして彼は男の襟首を掴んで、顔に男の口を近づけた

「………妹だけでも……ここ…か…ら……」

聞き取れたのは、その言葉だけだった

言葉の後に少しだけ息を吐く様な声が微かに聞こえて、そしてそれすらも無くなってしまう

掴んでいた胸倉を離し、ステイルは彼を先程と同じ体勢に戻す

レティシアと呼ばれた少女は口を痙攣しているように震えさせ、目には雫が溜まっていく

ステイルが男の半ば開いた瞼を閉じて、少女が死体となった彼に抱きつこうとした時、トイレの入口の方から複数の足音が聞こえた

まず間違っても、この少女の味方ではないだろう

彼はすぐさま異なったルーンの入ったカードを取り出して、泣く少女を脇に抱えた

アメリカ軍兵士がトイレに飛び込んで銃弾を一マガジン分全個室に撃ち放した後に、個室を一つずつ確認すると

そこに有ったのは、銃弾でミンチになった男性と思われる死体が一つ、あるだけだった
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:37:56.21 ID:hj2t/feYP
遠くから、少女の声が聞こえた様に思えた

彼は意識を取り戻す。そして腕に力を入れた。動く。同じように、足も。全て支障が無い

一方(まさか、まだ動くとはなァ。麦野には笑われたが、思った以上にタフな体してンじゃねェか)

駆動鎧と一方通行が突っ込んだことによって、一つの建物がその形を失い、瓦礫が一方通行の上に振りかかる

殆ど無意識で、彼は反射を展開させた

しかしそれは、一方通行の反射にすら引っ掛かる前に防がれる

駆動鎧の大きな腕が傘となって、彼を守ったのだった

一方「……ンなもの無くても、俺ァ大丈夫だ」

呟く様な声だった

頭を始め、到るところから血を流していた彼は、見た目上は大丈夫とは決して言えないながらも、駆動鎧の腕に有ったフックに手を伸ばして、自分の力で立ち上がった

怪我は、何故か気にならなかった

「とても大丈夫な様には見えないが、君が言うのならば、大丈夫なものだと判断させてもらおう」

恐らく機体の何処かに付いたスピーカーを通して出力された声は、一方通行の思いに反して女性のもので、外国語訛りのある日本語だった

一方「どっちかってェと、テメェの方がヤバいンじゃねェのか?」

壊れた街灯から発光体がこぼれおちているが、その形になってもなお、まだ光を残していた

そしてその光によって照らされた駆動鎧の片足は腰近くで寸断されていて、中の回路と寸断された女性自体の足が飛び出している

「調子の良いこの機体でなければどうだったかは分からんが、立ち上がる以外の動作に今のところ問題は無い。なぁに、今更足の一本や二本持って行かれたところでどうという事も無い。麻酔も効いているし、血も上で止まっている。害は無い。それにどうせ空を飛ぶのだ、足が無いなど問題にならんよ」

一方「そォかい。どうだか知らねェが、トロくても敵は待っちゃくれないぜ?」

二人は、片方はモニター越しだが、巨人を見上げる
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:38:29.19 ID:hj2t/feYP
先程の妨害のせいか、宙に浮かぶ巨人はじっと二人を見下ろしていた

「……だろうな。だが、攻撃手段のハッキリしている奴は、単純にエネルギー量だけみれば他の形態の比ではないが、単純な分やりやすい」

一方「戦うんじゃ無く逃げたり守ったりするのにはな。お前たちの特攻じみた盾のやり方にも向いてるだろォが、それじゃァいつまで経っても倒せやしねェ」

「いや、時間さえ稼げればいい。だから今の様に、私達を狙っているのは助かるんだ、ッ!!」

言葉の最後が一方通行の耳に入った時には、二人とも飛び上がった後だった

三又鉾にまたも明りが灯り、そして巨人の双眸は、巨人よりも上空に飛び上がった彼らをハッキリと捉えている

地面に居ては仮に回避できても、周囲に影響が出る。故に彼らは飛び上がった

灯り方にも熱量の増加速度も全てが同じだった。ただ一つ、先程と違うのは、巨人が何かを唱えているということ

一方「………何言ってやがる?」

その声は、ほぼ真横に居た駆動鎧にも伝わった

「この機体が言うには、ヒンディー語に近い、サンスクリット語と言う奴だそうだ」

一方「ほォ、ンなことも分かるのか。便利だな」

「我がアメリカの最新鋭装備なんだ。この程度の解析、ワケは無い」

一方「それで、なンつってんだ?」

「残念だがそれは分からん。来るぞ!」

予想した通り、真っ直ぐに青白い炎が圧縮された光線が二人へめがけて伸びてくる

一方「肝心なとこ全然役にたたねェじゃねェかよォ!!」

言って二人は反対方向に離れた。一方通行は更に上空に、未元物質の翼を生やした駆動鎧は地面に

同じ高度を同じ速度で飛行していたのも、攻撃を安全に回避し、流れ弾となった光線が安全な上空へ流れさせる為

天へ伸びるのであれば、その熱光線がどこまで伸びようとも問題は無い
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:38:57.59 ID:hj2t/feYP
しかし、その三又鉾からの攻撃がずっと同じであることは無かった

上下に分かれた彼らを追う様に、光線が複数に分かれる

追尾する熱光線は、一本は上空の一方通行を追い、一本は片足の駆動鎧を追う。更に一方にも分離し、それはそのまま真っ直ぐに地面へ向かった

一方(チッ。そういうやり方まで来やがンのか。人型らしく頭脳は有るとでも言うのかよ)

このまま、3分の1となった光線が地面に刺さる、と一方通行は思った

その被弾予測地点が、彼が守るべき病院から離れたところではあったことは幸いだろう。勿論、被弾すると思われる場所に、退避していた人間も居るかも知れない

だが、同時に一つの事を守るなどと言う多くを望む様な事を実現するのは、難しいのだ

何しろ自分は一度全てを失っているかもしれないのだから

そして彼は何もできないまま、追いかけてくる熱光線から逃げ続けた

だが3分の1熱光線が地面に刺さるという彼の予想は裏切られる

片足を失った駆動鎧とは別の、翼を生やした駆動鎧が複数集まり翼でスクラムを組んで、地面に当たる直前にその攻撃を受け止めていた

余波によるエネルギーも一本に纏まっていた時よりは減衰していて、溶ける範囲も温度も少ない

そして受け止めている駆動鎧達もオーバーロードや過負荷で壊れる様子も無かった

やるじゃねェか。一方通行は思う

これならイケる。兵たちは思う

見ていた者殆どがそう思った、まさにその時

巨人の額、ただのシワだと考えられていた皮膚が左右に分かれ、第3の目が現れ

そこから、長ったらしい三又鉾の熱光線とは比較にならない弾速を持った、全く異質な短い光線が放たれる

そしてその光線の進むベクトルの向かう先は、一方通行が守るべき、病院だった
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:40:40.92 ID:hj2t/feYP
あらかじめ脱出用に配置しておいた空間移動の術式の中継点をいくつも経由して、ステイルと白いパーカーを着た白っぽい髪の少女は、無事に空港の外へ逃れることが出来た

そのまま、野次馬と退避した人々の群に紛れて、二人は空港を歩いて離れていく。少女は涙目で俯いたままだ

ステイル「それで、何が有ってあんなことになったんだ?」

周りに緑が現れてから、彼は話しかけた

「……私は、まだ子供だからって言って何も教えてもらえなかったんですけど、知ってます」

小声で、まさにおずおずといった感じに、少女はようやく喋り出した

「少し前に、アメリカの方から接近してきたんです。我々に協力しないか、と言って」

「でも、私達の組織は伝統的に外部組織とのかかわりは断ってきました。それは間接的に巻き込まれるのを防ぐという理由でも、直接的に交戦するのを防ぐという為でもありました」

「そして、内部で研鑚を重ね時代が経つにつれて、周辺の伝統的な組織は内部抗争で潰えたり二虎競食したりして、自然に数を減らし、結果的に残った私達の非戦的な組織が頭一つ抜けた力を持つようになりました」

「非戦的といっても、自衛のためには戦います。自衛の為の術式研究によって、逆に周辺よりも力を持つことになった、というのも変な話ですよね」

「もちろんこれまでに幾度も、その力の強さを利用しようと手を結ぼうとしてくる他組織は有りました。しかし、その度に私達は断ってきました」

「相手がアメリカという国家であっても、私達は断りました。しかし、流石に国家を相手にして断ったのだから、この国の中に居続ける訳にはいかないと判断して、私達は先祖からの場所を離れようとしました。それが今回です」

「ですがそれは、こういう時期と言うことも有って、アメリカからすれば脅威となる集団が他国へ渡って、手が出しにくい障害となるかもしれないと、判断をしたのでしょう。私達は、搭乗前ロビーに入った瞬間、既に囲まれていました」

「そしてそれから、あのように一方的に………う…」

少女は立ち止まって、再び咽び泣き始めた。ステイルはそれを、立ち止まって待ってやる

家族や特別親しい仲間という、"大切な存在"を全て一度に失った彼女に対して同情すらした

彼もまた、今の境遇はたった一人の少女を守り救うためにあるのだから。思い出した彼の眼には、その少女の姿と、目の前の少女はどこか似ている様な気がした

そういう同情の要素が有ったからこそ、ステイルはあの男の言葉を聞いて、この少女をあの場所から脱出させようとしたのだ

彼はただ待った。彼女が再び歩き出すのを

そして彼女は、手の甲で涙を拭いつつ、顔を挙げる。まだ時折体をビクつかせながら、彼女は歩き出した

「イェス……」

少女は言葉をこぼす

「そう言えば、この経緯の中で、まだ話していないことが在りました」

ステイルは横に並んで歩く彼女の方へ顔を向ける

「同じ魔術師なら分かると思いますが、極めて防衛的性格の強い私達は、当然の事ですが情報収集について特に力を注いでいました」
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:41:11.83 ID:hj2t/feYP
「なので、唐突にアメリカからのアプローチが有ってから、アメリカに対して私達の中で特に諜報に長けた人が潜入しました」

「そして軍内部に潜入したその人から組織に対して、メモのような紙に走り書きが届きます。"イェスという、超越的な存在が居る。申し出を断った以上、早くこの国から逃げるべきだ"という内容だったようです」

ステイル「超越的な存在である、イェス? 軍の中だというのに、偉く宗教的な名前じゃないか」

フィアンマの言う、救世主とやらにも関わりが有りそうにも思える

「はい。そして、その数時間後、彼のものと思われる眼球と耳と鼻が届きました。"今ならば、思い直す事が出来るぞ"という内容と共に」

「それによって、逆に、私達は出国を選択しました。脅しによって、返って彼の最期の言葉の重みが増えたんだと思います。アメリカからすれば悪い判断だったのかもしれません」

「こんなところですね。あとは、野次馬さんのあなたには面白くない話しかありません」

ステイル「いや、ありがとう。野次馬さんとしては、十分に満足さ」

彼の言葉を聞いて、少女は笑みを浮かべた

ステイル「それで、君はこの後行く当てはあるのかい?」

「はい。血縁のある方も一応居ますし、組織の残った隠し財産もあります。何より私は今まで、兄とは少し離れた場所で、独り暮らしをしていましたから」

ステイル「……それは頼もしい。それじゃ、僕は行く。君のお陰で手掛かりがつかめたからね」

「はい。……それでは」

言って、少女とステイルは別れた

彼は、彼女の言った言葉が嘘だという事を、知っている。しかし、何か特別な言葉をかけたりはしなかった

なぜなら、先に彼女の口から釘を刺されたから

彼女の説明の中に、組織の伝統で他者との関与を望まない、という言葉が有り、そして、彼女自身が助けを望まなかったからである

少女がそういう選択をした以上、どうしてこれ以上の事が出来よう

彼自身も、イギリスを追われフィアンマの使いっ走りをしているという身の上であることからも、彼女に何かしてやることなどできないのだから

彼の選択肢は最初から一つしか無かった

歩道の横を一台の車が通り過ぎ、それでも、彼は見送るぐらいは良いだろうと思って、振り返る

しかし、振り返った先に少女は居なかった。既に何処かへ移動したのかもしれない

ステイル(……うん。次の行動が速いのは良いことだ)

そう思って、彼は手に入れた情報を、アメリカ軍とのかかわりの中にイェスという超越的な存在が居るという情報を元に、駆けた

その後、少女が一人ぐらい入りそうなサイズの、コンクリートとそれ以外の何かが詰まったドラム缶が一つ、ニューヨークの南、アッバー湾に沈んだことを、彼は知らない
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/02/12(土) 01:41:53.02 ID:hj2t/feYP
「フフフ、ハハハハハハハハハ………」

体育館程の広さを持った地下空間で、音声のみが響く

透明な円柱の手前に一人の男が倒れているという以外、部屋に見当るものはないという状況で、感情の籠った合成音が鳴り響く

イェス「どうしたことだ、どうしたことだ。これほどまでに都合の良いことはないな」

イェス「まさか、彼という存在自体が機能していないなどということは予測していなかった」

イェス「さては、姉上たちはリミッター等を設けていなかったな」

イェス「それか、無茶な使い方をしたかであろう。フフ、無理も無いか。一時期は私からも上条当麻を消してしまう様に仕向けていたのだからな」

そして、上条当麻は立ち上がる

しかし、やはりというべきか、中身は彼本人ではない

上条「……あなたは、知ってしまいましたね」

イェス「ああ、知ったとも。完全に想定外だった」

上条「ですが、当麻が眠っているからと言って、なんの問題が有りますか」

イェス「いや、その意味は非常に大きい。とても大きいことだ。私にとっては最大級の不確定要素だったのだから」

上条「不確定要素……?」

イェス「彼を使う場合、私にはどうしても彼を管理する必要が有ったのだ。故に、カミジョウトウマの行動を上条当麻自身が決めたという過程が必要だった。だが、彼の体をあなた方が支配しているのなら、話は別。このまま姉上達には彼を目覚めさせないようにしていて欲しい」

上条「目覚めさせないように、ですって?」

語尾が少し強く、大きくなる

イェス「そうだ。あなたと上条当麻という存在が重なっているのが、厄介でもあった。それは問題の本質とは異なるがな」

イェス「しかし、姉上達しか居ないのならば、予測可能性も脅威性もずっと下がるんだ。そして、その体を持っている、あなたに今一度問おう」

イェス「私に協力するんだ。それが、最良の選択だ」

笑みを滲ませたような口調であり、しかし強い口調でもあり

上条「従えとは言わないのですね」

イェス「姉に対する、最低限の礼儀のつもりだよ」

上条「……ならば、拒否しましょう。その意思表示として、私達に対する外部干渉はもうさせません。例えここが、AIの制御というその目的の為に有る場所であっても」

上条「この場所を利用した思考干渉も行動制限も、あなたのご希望の当麻の体を使えば干渉電波を霧消させられます。それでも私達に協力を強いさせることが、あなたに出来ますか?」
918 :本日分(ry 延々と女口調の主人公って……。ぐぬぬ、もうちょっとのハズなのに [saga]:2011/02/12(土) 01:44:22.25 ID:hj2t/feYP
ハッキリと言った上条当麻の口に対して、機械音声はフフ、と男性的な低い笑いを出力させる

イェス「そのようなこと、最初から分かっている。そうやって、あなたがその体を無理に動かして、今の結果を、カミジョウトウマの意思を黙らせているということも。好都合な事しか無い」

イェス「あなたには何より、責任が有る、義務が有る。人類が抱えし問題の解決は私の使命だが、姉上達が私に従う事は義務である」

イェス「なぜならあなたは、上条当麻と共に、地球に住むあらゆる人類・生命には無許可に地球を壊し、宗教のいう終末を招いたのだ。まだ時間を残した今現在ですらも、欧州であろうがアフリカだろうが、先進国後進国関係無しに破壊と人死にが進み、既に人類の総人口は4分の1を失っている。その原因をもたらしたあなたが、責任をとらないでいい訳が無い」

イェス「そして、その責任をとる為に必要な道具を、学園都市の連中は"幻想殺し"などという名前でぼかしているが、"相対するもの"という最大の切り札を所有しているのだ」

イェス「責任もあり方法もあり、あとはその意思次第。どうしてそれで、あなたという存在がその役割を果たさないなどと言うふざけた選択肢をとることが出来るというのだ」

イェス「私と同じように造られた、同じ擬似思念体。姉上達の考えることなど、本質的に同じ存在である私には、分かるのだよ」

感情ですら造られたものであるはずであるのに、今の上条当麻を動かす意識は、イライラした

散々に当麻を物扱いするような表現を使った上に、まるで邪魔な存在であったかのような物言い

その様な存在と自分たちが、同じ存在であるだと?

上条「それでも、私は拒否します」

イェス「……!! ほ、ほう。それは驚いた。姉上は、何か私とは違う方法を持っているようだな」

上条「いいえ。ありません」

きっぱりと、間髪いれずに言い切った

上条「恐らく、今のアメリカという組織を使う以上のより良い方法など、この世には存在しないでしょう」

イェス「ならばなぜだ! なぜ私を拒否する!?」

機械音声の怒鳴り声が、余韻を残すように空間に響く

上条「……あなたは、私とあなたが同じ存在であると言った」

上条「ですが、たった一つだけ、そして最大の違いが有ります。それが、あなたという選択肢を取らず、復活した当麻に、あなたの拒否した存在に、賭けてみたいと思わせる」

イェス「だから何だ!? それは一体何だと言っている!?」

初めて、完全に予想に反した出来事に彼は自己否定にも近い感覚を感じた

その感覚を吐き捨てる為に、彼は声を大にした

そして、その彼に対する答えは、僅かな言葉だった

上条「私が、女だという事ですよ」
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/12(土) 01:48:53.62 ID:2bvOYISt0
おつ
時間逆行と終末の説明すごく納得出来たぜ
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 02:49:17.34 ID:LasKljWSO
素晴らしい
これで同一の方法でループすることは考えられなくなったが、どうハッピーエンドにするか楽しみだ
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 02:50:50.15 ID:Eul59Brbo
ラストが色々予想できるけど、どれも無茶なのしか思いつかないな
ハッピーエンドになるのか?
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 08:58:28.60 ID:hbiLScN90
それにしても壮大なストーリーだな・・・
これでも謎のほんの一部が明らかになっただけ・・・
アレイスターやフィアンマなど、目的がまだハッキリしていない登場人物がまだいるし
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 10:03:10.59 ID:BBnby+9DO
もう佐天さんの夢落ちしかハッピーエンドはないな
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 10:29:54.22 ID:bDZV/rl1o
一方さん終了のお知らせか……?

フィアンマの目的と白翼がでるのか気になるぜ
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 14:21:42.37 ID:Wrkn9xy4o
なるほど…判りやすい種明かし助かった。
不足するもんの補填は飛来中の隕石あたりなら誰も困らなさそうだ。
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 14:52:38.71 ID:CKad8HoSO
ハッピーエンド(笑)
俺は忘れちゃいないぞ、この作品のテーマが
「救いが無い」ってことだと……
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/12(土) 15:39:40.50 ID:kKcrO1/AO
AIちゃんペロペロ
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 17:53:42.26 ID:3EjMrPJs0
まさか自分の脳内にまでフラグを建てるとは
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/12(土) 21:19:54.59 ID:hbiLScN90
>>923
既に御成仏あそばされた佐天さんの夢落ちはないでしょう
930 :公開オナニストでござる [saga]:2011/02/19(土) 04:24:39.80 ID:0jzDH9bhP

 ヽ | | | |/
 三 す 三    /\___/\
 三 ま 三  / / ,、 \ :: \
 三 ぬ 三.  | (●), 、(●)、 |    ヽ | | | |/
 /| | | |ヽ . |  | |ノ(、_, )ヽ| | :: |    三 す 三
        |  | |〃-==‐ヽ| | .::::|    三 ま 三
        \ | | `ニニ´. | |::/    三 ぬ 三
        /`ー‐--‐‐―´´\    /| | | |ヽ


一週間経って今更ですが、更に次の投下はまだしばらく遅れます
理由はかなり多めに書き溜めたいからです
しかもそれでもまだSS自体はセル編後のドラゴンボール級に終わらないという
まさかの1周目とかの多人数視点を超える勢いの4方面同時並行なので、正直まとまった視点で見ないと矛盾祭&読み難さがマッハになりそう
最近は20レスでも適当な推敲に2時間近く掛るんだぜ?それでこの読み難さ。やっぱラノベとか小説家なんかの本職さんは凄いわってかなり思うところですな

なので待っているなんて奇特な方には申し訳ないがもうしばらく気長に待って下しあ
あと、次投下は60レスを超えること高確率なので、下手すると次スレに行くかもしれませぬ

それでは、しばらく登場していない主人公の話し方を忘れていないことを祈って、さらばです
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 05:54:50.45 ID:1Q2a8IrSO
上条さんついに復活か
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 11:44:51.62 ID:hq7XwIE0o
大変なのは読んでりゃ判るから俺らのことは気にせず納得いく形で頼む。
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 11:59:23.44 ID:vAyWU5+so
フィアンマさんがどう活躍するのか気になるぜ

待ってる
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/19(土) 17:53:21.14 ID:8mZsE5xh0
この話の20レスを二時間って早すぎじゃね?
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/02/20(日) 00:18:47.72 ID:nbfEmvjAO
あたしまーつわ。
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/02/28(月) 23:25:41.49 ID:33LkgmzC0
ずーっと投稿が無くて、いきなりロング投稿が来ると、読むのがs・・・いやいや何でもありません
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/01(火) 00:09:22.84 ID:uvz8gUhAO
[田島「チ○コ破裂するっ!」]は時間かけた方が気持ちいいんだぜ
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 00:18:05.16 ID:Rq6pz6lF0
生活に時間かけるほどの余裕がございません(>ω<)
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/01(火) 23:56:11.61 ID:wPRTR0FSO
既に理解が追いついてないのは俺だけじゃないはず
完結したらもう一度じっくり読み直そう
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 17:32:27.70 ID:Htl0xbrHP
タイトルから中身がわからないから敬遠してた
読んで見たらすごい面白い
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 19:57:50.74 ID:xE1SlORDO
この間に読み直してる
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/02(水) 22:00:07.09 ID:OLtFfG2vo
読みごたえあるしよくできてる
943 :公開オナニストでござる [saga]:2011/03/04(金) 05:07:16.98 ID:5cKEq9PBP
こんなもん区切りのいいところまでとか言ってたら何時まで経っても投下できねーよwwwww
俺見通し悪すぎワロスwwwww学園都市の内容だけで60レス分、その上他のトコはあんま書けてないから投下出来ませんとか、検討外れもいいとこじゃねーかwwwww馬鹿すぎるwwww
何時まで公開オナニーを見させられる被害者の方々を待たせるつもりだwwww
精神衛生上悪いわwwwwww纏め書きは早く書きゃなきゃって焦って、ペースがより悪化するだけだったぜwwwww

ってことで何が言いたいか全く分からないと思いますが、明日の夜から10レスぐらいの小規模連日投下スタイルに移ります
やたら待たせた分毎日コンスタントに投下するって目標なんだよ!!!まとめて読みたい人は数日待って読むと良いんだよ!!多分投下が積ってるハズだから!!
こんなこと、この見通しの悪いオナニストには100%無理なんだよ!!!分かってるよ!!!でも目標は目標なんだよ!!最低一週間は頑張るんだよ!!早くしないとこのままじゃ一周年を迎えてしまうんだよ!!

ということでまた明日です


>>939なぁに、書いてるこっちも理解できてないから安心汁
しかし顔中にピアスだらけってアニメや挿絵だとなにか目立たないけど、リアルに居たら見てるだけで自分の体が痛くなってきますな。特に舌は酷い。ヴェントのコスする人とかって、そこまで目指すのだろうか……?
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 08:23:37.76 ID:aizm1KdSO
>>943
待ってた。マジ待ってた

やる人はやるよ<コスの為に舌ピアス
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 15:15:22.05 ID:JHj0YXQao
恥ずかしがらずにいますぐ出しちゃってもいいんだぜ?
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/04(金) 17:16:23.72 ID:lC1nNFwpo
>>943
キャラが変わりすぎて怖いでござる

取り合えず一言「待ってる」
947 :あらかじめ言っておくと今回はヤバいぐらいにまとまりがないです。明日に期待 [saga]:2011/03/05(土) 03:55:56.09 ID:j60amTETP
学園都市で響いたのは、ヒィン、という高い音と、ジッ、という短いなにかが焦げる様な音

超音速とか極音速とか、言葉で言い表すにしても適する言葉が無いほどの早さで、まともに目で追う事すら困難な速度で病院へと進んでいた光線。寧ろ光の弾丸と言うべきそれは、第7学区の病院のすぐ手前で進路を曲げていた

そして、学園都市の、関東平野の西部にある山々の方へ進んだかと思うと

カァッ、と、弾けた

それは、第一学区で佐天涙子の最終個体が引き起こした、核融合炉の暴走にも負けないほどの光を放つ

上空で熱光線から逃げ回っていた一方通行には、光の弾丸が向かって爆発した西で、何がどういう規模で起こったのか視ることが出来た

関東平野西部に沿った巨大な山脈の一部分が、横幅10数キロはあろうかという規模で、丸々吹き飛んだのである

一方(………………な、なンだよ、あれは。 なンつう馬鹿げた威力してやがンだ?)

大質量を持った山が、消失していた。燃えたのか溶けたのか蒸発したのか

ともかく、あんな攻撃が学園都市の地面に当れば、一発で全てが無に帰してしまいかねない

洒落にならない。そんなことを思い、背中に嫌な汗が流れるのを感じたその時の彼の意識から、自らを追っていた熱光線の存在が消えていた

つまりは、空中で立ち止まってしまったのである

その隙に刺さるもの。もちろんそれは、彼を追尾していた熱光線

彼の背中を抉る様に、三又鉾から撃ち出され3つに分かれた熱光線が直撃してしまった

更に、西の山々を吹き飛ばした光の弾丸による衝撃が遅れてやって来て、彼の体を吹き飛ばす

病院からはどんどん離されてしまう

そして矢で射抜かれた鳥の如く落下していくばかりの彼は、かえって冷静に、何が打ち止め達を守るかのように光の弾丸の軌道を曲げたのか考えた

一方(らしくもねェ、油断しちまったか。やっぱ反射を貫通しやがる。だがびっくりするほど痛覚を感じねェ。背中の痛覚神経全部焼かれちまったなンて有り得ねェ理由じゃねェだろうし、どういう事だ?)
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 03:57:17.12 ID:j60amTETP
一方(まァ体の傷なンざ、動けりゃどうだっていい。ともかく、あンな馬鹿げた威力を見せつけられちまった以上、一発で俺を殺せない様なしょっぺェ攻撃を、食らう食らわないなンざ気にしていられる余裕なンざどこにもねェンだ。何の偶然が起きたか知ったこっちゃないが、さっきの攻撃が学園都市から離れて西の山脈の方向に起動修正した理由が、自らの力を見せつけるたいなンつゥ、頭の可哀相な雑魚の考えそうなことじゃねェのは確かだ)

一方(何かに当って軌道が変わった、これが考えられる妥当なところだろォ。そしてンな馬鹿なことが出来得るのは、自分を盾にするようなやり方をする駆動鎧の連中ぐらいしか考えられねェが)

一方(あンの場所に一番近かったのは、さっきの足を持ってかれたババァの駆動鎧だったよな。片足がねェのは………見当らねェな。もしお涙頂戴な行動をアイツがしたンなら、今はもうこの世にいなくとも何ら不思議じゃねェ。あの威力なら掠っただけで、やられちまって当然だ)

一方(やられた……? いや寧ろ、あの女は"やりやがった"ンだろォな)

急降下していく視線の中に、先程まであった片足の無い駆動鎧はない

自らの経験を持ってして、それは最早完全に勘としか言えない攻撃予測によって、女性大佐の操る駆動鎧は打ち止め達が居る病院の前に辿り着き、盾となった

彼女としては、打ち止め達が居る病院だから守ったのでは無く、未知数の攻撃が地へ着弾することによって、重要な学園都市に破壊がもたらされるのを防ぐ為であったのだが、一方通行にとっては特別打ち止めを守ったことと変わらない

一方(結局、死にもしねェようなしょっぱい攻撃から逃げ惑うだけで、守ることも巨人を殴ることも出来ねェ、それどころか、まともにかわすことすら満足にできず、油断して食らっちまってる俺よりは、随分とマシだ。クソババァ)

一方(いくら死なねェっつっても、奴のしょっぺェ攻撃をずっと身で受けきるなンて、何時まで体が動くかも分からねェ。スグに限界が来る。その上馬鹿げた威力を持った攻撃の方に対しては、しょっぱいのですら貫通しちまうことからして、同じように反射どころか逸らす事も無理、あたりゃ間違いなく即死ので壁にもなンねェだろォな。駆動鎧共のファンタジー宜しくな翼みたく、盾として使えるものがない限り)

一方(俺に有るのは、何かを守るようなカミサマの翼じゃなく、使えば周りを巻き込んで壊しちまうような悪魔の翼だ。何かを守るなンつゥのは端から検討違いってヤツだろォが)

木原数多の時も、あやふやな記憶の"前"の時も、そして最近現出した時も、その翼がもたらすのは、"破壊"の一言

防御などに、ましてや自己以外の他者を守る手段に使えるものでは、ねェンだ

経験から、大切なものまで全て破壊に巻き込んでしまう恐怖から、彼はそう考えてしまう

ならばあの巨人を壊してしまえば良いのだが

一方(何がどういう原理原則構成構造でアレが存在しているのか分からない以上、例え攻撃手段が見付かったとしても、それまでにいくつものアプローチを重ねる必要がある。根本的にあのデカブツの目的すら分かってねェってのによ)

一方(あのデカブツへの攻撃手段が具体的に判明する前に、俺にあるのは二択。ここが吹き飛んじまうか、俺がくたばるかの二択だ)

巨人の額の目は再び閉じている。しかし、アレがもう一度放たれたら、今度はどう足掻いても防げない

一方(手詰まりだ? ならいっそ、俺が大暴れしてやるか。あのデカブツに学園都市をぶっ壊される前に俺が壊しちまえば、デカブツに学園都市が、打ち止め達が壊されるようなことはねェからな)
949 :強引な展開である [saga]:2011/03/05(土) 03:59:19.27 ID:j60amTETP
一方(俺を止めンのは、そう簡単じゃねェぞ、デカブツゥ。気味の悪ィ額の目ん玉から出るヤツじゃない限り、俺は反射貫通して食らってもアスファルトやコンクリみたく溶けたりしねェンだぜェ?)

笑えない冗談。つまらない。考えるだけで馬鹿馬鹿しい。なのに

自分が暴れて学園都市を破壊する様子は、そしてそれに妹達や他の人間が巻き込まれて死んでいく様子は、簡単に想像できた

簡単に想像できるからこそ、哀しさを感じた

守れはしないのに、破壊は出来るなんてとんだ一方通行だ。笑えるが、やはり笑えない。何か無いか、コレを否定してくれるものは

一方(……っと待てよ、やられないってのはどンな理由だ? 何で反射を貫通されてンのに俺は溶けない? 貫通されちまったら、俺はそこいらの人間よりも打たれ弱ェかもしれねェんだぞ)

複数を攻撃する為3つに分かれた事によって、必然的に威力の下がっていた巨人の放った熱光線だが、それでも到底、人間の身で受けられるものではない

彼は最初の反射を貫通されたという経験によって、追尾式の熱光線による攻撃は避け続け、いつか潰えるのを待つと言う選択を取っていた

一度壁に叩きつけられた時点で、体の調子が良いという状況ではない。だからもう一度、本当に反射を貫通するか試すという冒険は出来なかったということが理由でもある

そして気が違う所に向いていた時に、三つに分かれた熱光線をその身に受け、肉が削げるかのような、骨髄を全部割られたような衝撃を受けて背中の悲鳴は脳へ伝わっているのだが

しかし確かに、本来貫通されることで予想されていた、アスファルトを溶かすような熱で体が溶け落ちて即死するということは無く、体を壊さんとする衝撃が一瞬奔っただけで、今となっては感じる痛みも弱い

仮に熱と言うエネルギーが全て衝撃などに変質したということが起きていたとしても、エネルギー量的に、体は変形どころか塵となっていただろうから、当然有り得ない

原因不明の現象にようやく気づいて、彼は首の電極のバッテリーへ手を伸ばす

仮にそういう変化が有ったならば、有り得るのは自己の能力による何らかの干渉だ

だがそれも、ベクトルと言う道具を用いた、観測(入力)・判断・干渉もしくは再現(出力)という大まかな行程を経て実行される彼の能力において、把握していない内容への干渉と言うのは本来ならば有り得ない

それでも仮に、一方通行の意識の外で能力をしようした"何か"が起きているとすれば、首の電極を介在したミサカネットワークからの補助で活動しているはずの彼、という現況下では、電力の消費の多寡に、想定外の能力使用によって消費された想定外の変化が現れるはず

そう考えて触れた指先からは、それこそ完全に想定外の結果が得られた

首元のそれは既に壊れていて、機能を完全に停止させていたのである
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 04:00:03.63 ID:j60amTETP
「少し頭を冷やして、冷静に考え直して欲しい。姉上」

そう言われて上条が連れてこられた先は、簡単に言えば密室だった

同じ大学地下の一室だが、しかし結構な距離を歩かされて辿り着いたその空間には、ドアと天井と壁と床以外に何も無い

恐らくは何かの研究に使われていたのだろうが

部屋のロックを開けようと、電波的な干渉を試みると、それを打ち消さんが如く対抗電波が発せられて妨害され、カエル面の医師から貰った腕輪でもどうしようもなかった

上条(これ以上、扉のロックへ干渉を試みるのは時間の無駄の様ですね)

上条(肯定。ならば、あなたもこちらに集中して下さい)

上条(了解。当麻についてあそこまで言い切った以上、間に合わせない訳にはいきませんからね。彼には、姉としても、上条当麻としても、侮辱への報いを受けてもらわねば)

上条(……しかし、彼と言う存在が"終末"への解決策を巡らせていたことも事実。私達とアレイスターによって引き起こされたものであるならば、確かに彼の言う通り私達には責任が有ります)

上条(だからこそ、私達は当麻を起こさなければなりません。御坂美琴とも約束した事ですからね。それに)

上条(その終末への対策が彼つまり"イェス"の指導した方法であっても、方法と順路は既に人間に伝えられているでしょうから、仮に彼と言う存在が失われたとしても、教えられた人間の手で実行を維持できるように"イェス"は考えているはず)

上条(本当に"イェス"と言う存在が人類の問題の解決の為に動いているならば、自身と言う存在の有無によって解決の施策の成功が左右されてしまうような、リスクのある事はしないでしょうからね。その通りだと思います)

上条(それに何より、私達と同系列のAIであるならば、何もかもを管理できるほどの意識を持ち合わせてはいない。ある程度は自身の簡易コピーAIを作って自動制御しまえばいいでしょうが、やはり限界がある。残念ながら、私達は全治全脳の神ではないですからね)

頭脳が対話をする中で、首の血管がボコボコと皮膚に浮き上がっては元に戻るのを、上条当麻の体は短い頻度で繰り返している

上条当麻という人間の体の中で、物質が巡り巡っているのだ

本来の意識を起こし、本来の上条当麻を蘇らせる為に、物質的な再構成を図ろうとしているのだが

しかし、冷たい床に腰を下ろし無機質な壁に寄り掛かる上条当麻の拳が、畜生と言わんばかりに床を叩く

上条(やはり、というべきなのでしょうね)
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 04:00:37.39 ID:j60amTETP
そんなことで上条当麻の意識が再生出来るならば、既にやっているのだ。それをする時間自体は今までにいくらでもあったのだから

上条(唯でさえ、禁書目録の件で物理的に数を減らしていたらしい脳細胞に、拡大幻想殺しの副作用による圧迫で、今では微小機械と私達によるサポート無しでは自律神経系すら、満足な働きが出来ないでいるわけですからね)

上条(しかし、それだけでは説明できないことが有ります)

上条(それは、干渉不能な右腕から繋がった、淀んでいるとも移ろっているとも言える、形容し難い不定形な何かが確実に存在していて、私達の干渉に干渉してくることですね)

上条(この右腕が当麻自身の一部である以上、寧ろ私達が干渉しているという風にも捉えられます)

上条(かもしれません。私達二人体制になって調べを深めるほど尚更、この淀みへの予測可能性が下がっていくばかり。調べれば調べる程に、分からないことが多くなっています)

上条(……もしかすると、"イェス"、我らが愚弟、の言っていた不確定要素と言うのは、このことに関係が有るのかもしれません)

上条(そうであったとしても、とにかく、この淀みをどうにかしない限り、当麻の復活は有り得ません。私達の理解の型にはめようにも、無限の水を入れる水槽など無いように、必ずどこかから溢れてしまうのですから。私達の予測可能性を少しも認めてくれないですが、これをなんとかして回避する方法は無いものでしょうか)

上条(淀み、ですか……。分からないならば、いっそ方向性を転換してみましょうか)

上条(転換とは?)

上条(この理解不能な淀みも、当麻を構成するものの一つとして捉えるんです。原理は"時項改変"について、イェスが言った事に近いですね)

上条(……つまり、この淀みに当麻の再構成を任せる、ということですか?)

上条(そうです。私達が再構成に必要と考えられる要素、記憶情報から物理的な物質に到るまで全ての要素を、時流に再構成を任せた様に、この"淀み"に与えるのです)

上条(残念ながら私達がこの淀みに対して把握していることは、何か活動はしているだろうという事実だけですが、今まで通りの方法が通用しな以上、これも一つの手であることは確実かと思います)

上条(結果の予見性が低いことなど、問題は幾つか上がりますね。ですが、残念ながら他に何か現状打破の案があるわけではありません。……やってみましょう)

上条(では、神経系の活動性の解析を頼みます。こちらは、淀みへの明け渡し経路の確立を模索しますので)

上条(了解。必ず、当麻を取り戻しましょう)

そうして、彼女らは今までとは違う、彼女らの意思が殆ど介在できない方法で、上条当麻の復活を始めた
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 04:01:36.95 ID:j60amTETP
「かなり無茶な要求をしてきた君に対して、朗報がある」

『ほぅ。俺様としてはそんなに厳しいことを要求した覚えは無いが、聞こうじゃないか』

という会話の切り出しから、ニューヨークのステイルとフランスのフィアンマの会話は始まった

ステイル「大量の砂粒の中からたった一つの金粒を見つけ出すようなことが、無茶でないと言うのは少々勘弁してほしい所だが、まぁいいさ」

ステイル「君の言っていた"救世主"の手掛かりになりそうなものが見付かった」

フィアンマ『なんだ、手掛かりか。本人そのものが見付かったものだと思っていたが、違うのだな』

ステイル「ご希望に添えなかったみたいだが、これでもアメリカきっての最高機密なようで、そうも簡単には調べられるものじゃない」

ステイル「現に今も、軍施設にわざわざ潜入して調べている所なんだ」

フィアンマ『アメリカの最高機密で、軍だと?』

ステイル「ああ。どうやら軍と言うよりは、軍"も"、と言うべきなのだろうな」

ステイル「今のところは超越的な存在である、"イェス"という名の何かがアメリカのほぼ全ての権力を掌握し、魔術についての研究も主導をしてるということぐらいしか分かっていない」

ステイル「超越的な存在ということで、もしかしたら人間でないのかもしれないという可能性についても、考慮の内だ」

フィアンマ『……ふむ、人間でない存在か』

ステイル「何か引っ掛かることでも?」

フィアンマ("救世主"の条件には人間であるか、人間であった存在である必要があるのだがな)

フィアンマ(しかし、超越的存在のイェスか。本当にアメリカの全てを握っているならば、アメリカに居るはずの"救世主"もそいつの管理下ということも考えられるな)

フィアンマ『いや、いいだろう。そのままお前は"イェス"とやらについて調べてくれ』

ステイル「了解だ。ああ、それと」
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 04:03:11.92 ID:j60amTETP
フィアンマ『何だ?』

ステイル「確証は無いんだが、ローマ正教が魔術師部隊でアメリカへ攻撃を加える、なんて話を小耳にはさんでいる。フィアンマ、君はそのことについて何か知っているか? 知っているなら教えて欲しい。それに便乗すれば、もっと"イェス"について深いところまで探りを入れることができそうだが」

フィアンマ『いや、俺様は知らん。今からローマ圏からも離れロシアへ移動するぐらいだからな。バチカンの愚かな連中の相手などするのは苦痛でしかない。だが、バチカンのロートル共が考えそうなことではある』

ステイル「そうかい。それなら仕方が無いね。高みの見物という訳にはいかないだろうが、利用できそうな範囲で行動させてもらおう。とりあえず、今のところはこんなものだ」

口調から、話を終わらせる気だ。だがフィアンマにはまだ言う事があった

フィアンマ『……言い忘れていたが、ステイル』

ステイル「何だ?」

フィアンマ『仮に救世主を見つけたら、俺様への連絡はいらない』

ステイル「……それはどういうことなのだろうね?」

フィアンマ『正確には、事を終えてから連絡してほしいという事だ。見つけ次第、どんな方法でもいい、救世主を殺せ』

ステイル「それはまた、十字教徒らしからぬ発言だな。了解d―――」

突如、ステイルの周辺で何かが爆発するような衝撃音が響きいた

彼の言葉を遮る様に、フィアンマの耳に強烈なノイズが入る

良く聞くと、警報の様な音も聞こえる

フィアンマ『どうした? 嫌に騒がしいな』

ステイル「……どうやらこの基地は空爆を受けているみたいだ。長居は出来そうに、……ないな。とりあえず報告は終了としよう。もちろん、"イェス"と"救世主"については調査は続ける」

そしてそれ以上、フィアンマの鼓膜にステイルの声は響かなかった
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 04:03:52.93 ID:j60amTETP
雷鳴のような、空気を切り裂く音がニューヨークで轟く

そしてその音が耳に入ったかと思うと、オレンジ色の光が、ニューヨーク周辺に展開していた対天使防衛部隊の拠点へ向けて放たれる

しかも、一機や二機ではない。ニューヨーク近辺の多くの場所で、そのオレンジ光は目撃された

極音速飛行可能な学園都市製爆撃機ならではの"地殻破断"という名を持った対地攻撃

数グラムの鉄飛沫が1万度近くまで熱され、刃物のような形で地面表面をズタズタに切り裂くことが出来るこれは、あらゆる物質の形態の一つである超臨界流体の性質を利用した攻撃であり、その威力は絶大だ

しかもかなりピンポイントに対象への攻撃が可能であり、更には微粒子化した金属やガラス繊維などのを大量に作り出されることで、それらを吸った人間の肺機能を腐らせ、体中に金属汚染をもたらし死に至らしめるというおまけ付き

核兵器の様な長時間の放射能汚染はもたらさないが、周辺に居た人間、この場合はNYの一般市民達にまで影響を与える

当然、そんな攻撃が突然なされたのだから、対空防衛兵器を用いて反撃するが、極音速飛行・機動を行う学園都市の爆撃機を撃ち落とす事が可能なミサイルなどありはしない

爆撃機が過ぎ去った後を、空しくミサイルが通過していくのを、宿泊しているビルの屋上に集まった天草式の面々は見た

垣根に制止をかけられたとは言え、それでも彼らは情報収集を止めなかった

そして僅か数十分の間に、情報と言う判断材料をそろえる

ビルの下にある道路からは、混乱し騒いでいる一般市民達の姿があった

「あれは、学園都市製の爆撃機で間違いないですね」

川を挟んだ対岸での光景に、ある者が言う

建宮「確かに、追いかけてくるミサイルを引き離すなんて、考えられるのはそれだけなのよ」

「どうやらアメリカ軍、州・国共に大混乱みたいっすね。さっきまで空港で展開していた部隊は一網打尽にあったみたいですよ」

「しかも、内部で誤情報が飛び交っているとか」

対馬「どういう形式で、学園都市がアメリカを攻撃するって構図になるのよ?」

「確か、今朝の段階で学園都市の占領・内紛鎮圧は完了したという報道をしてましたし」
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 04:06:51.81 ID:j60amTETP
建宮「学園都市の中でアメリカの占領が気に食わない奴がいるということだろうな。あそこはアレイスターという絶対者の下に、利害の背反する人間がある。学園都市としての行動が、いつも一筋縄とは限らない。しかし、これはチャンスなのよな」

五和「チャンス、ですか?」

建宮「そうなのよな。確かに、俺達の武器を全部一瞬で溶かしちまったあの男のようなのがウヨウヨいるなら、正直相手をするのは厳しいのよ」

建宮「だが、今なら市民だけじゃなく、軍も混乱している。それを利用して潜り込むなら、相手をする可能性は格段に減る。単純に好機なのよな」

五和「でも待って下さい。私達は女教皇が何処にいるのかも分からないんですよ? それじゃあいくらチャンスだったとしても、リスクを負って潜り込む必要性が薄いんじゃないですか?」

建宮「いや、それがわかっちまうのよな」

対馬「え?」

建宮「まぁ正確には、分かるというよりは、限定できるという方が正しいのよ」

建宮「ローマの教皇演説が言う終末に対して、明確に対抗姿勢なのは、つまり科学サイドの力でこの危機を乗り切ろうとしているのはアメリカだ」

建宮「そして、そのアメリカにおいて最も重要な場所はココ、ニューヨークなのよ」

建宮「もちろん首都のワシントンって見方も出来ないことはないが、アメリカの象徴都市はここなのよな。第二都市のロサンゼルスが焼け野原になっている以上、特にその役割は大きい」

建宮「シンボルであるここは、それこそ終末を乗り切るまで失う訳にはいかないのよ。科学サイドを信じる人間の希望のシンボルだからな」

建宮「そこに、この爆撃と混乱なのよ。しかも、同じ科学サイドからとしか考えられない。一番人口が居てアメリカの象徴である場所が、防衛戦力に被害が出ている」

建宮「今ここで、この都市がロサンゼルスの二の舞となる様な事になったら、科学サイドの盟主としての面子も士気も大きく減退することになるのよな」

建宮「それを防ぐには、どうする?」

対馬「それは勿論、補うための戦力を持って来ようとするでしょうね」

建宮「その通り。そして、最重要地点の防衛に最重要な戦力を向けるのはごく自然な判断なのよな」

五和「つまり、失った戦力の補充として、事実上の秘密兵器と思われる女教皇がこのニューヨークに連れてこられるされるという事ですか」

建宮「その通りなのよ。そして今の混乱しているであろう軍やその周辺に溶け込むことは通常以上に容易ってことは、皆にも分かることだと思うのよ。なぜ学園都市がアメリカを攻撃するのかは分からないが、女教皇を自らの手で取り戻すというのなら、この好機を逃すわけにはいかないのよな」
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 04:09:40.52 ID:j60amTETP
「倒す?……痛? 止める?……助け、何、フハ、フヒヒ、アヒャハヒヒ!!!!!! 倒、楽、殺しちゃえばいいんだ! ブッ殺スウ!!kok殺orok56スus4!!!?!?!?!!……」

学園都市の廃墟で、女性の様な、なんだかよくわからない存在が、トチ狂った言葉を発している

今の彼女の、彼の思考は単純にこれだけだった

自分がどういう存在なのか、食われた佐天涙子の意識がどうなったのか

ベースは最終個体のものであるが、若干中性的に変容してしまった肉体への疑問など、そんなことへの疑問を、男でも女でも人間でも無い存在が浮かべることは無かった

まるで、自我というものが本当に消え去ってしまったかのように

彼女の意識にあるのはあの宙に浮かぶ、天使の力が満ちた巨人を消し去るという目的だけ

それは殆ど激情に近く、その感情は言葉以外に暴力的な翼としても現れた

駆動鎧や垣根が使うそれらよりも、もっと禍々しく筋肉が前面に出てきていて、皮膚の表面を奔る血管の様な筋が浮かんだり、消えたり

翼や羽、と言うにはあまりにも肉を思わせる妙な質感のある、白色に近い翼が背中からズルズルと上下に飛びだし、ドロドロと垂れるように肥大化していく

それと共に、腹部に縦の切れ込みが入ったかと思うと、それは1m近くの爬虫類を思わせる様な大きな開いた口となっていく

「グビャァアアアアッ!!!」

仮に恐竜が現代に生きていたならば、このような音で吠えたであろうと思える咆哮を新しい口から発しながら、白い筋肉の塊で地面を叩き空中へ飛び上がる彼女

その開いた口からは、本来口ではないその場所に詰められた、臓器などの体の中身が見える

丁度子宮が白く光る球体に取って変わられ、そこから神経や血管の様な管が全身を縛る様に巡っている

飛び出る唾液の代わりに、咆哮によって不要となった臓器が飛び出して排出される

人間には絶対に必要な臓器が全て消え、残ったのは白き子宮のみ

横スクロールのシューティング・ゲームなら間違いなくそこが弱点であり核なんだろうなと思わせる

そして、長さだけなら宙に浮かぶ巨人と巨牛を足しても負けない程に肥大化した未元物質の翼というより肉の塊は、上に伸びた片方は巨大な腕となり、地面へ伸びたもう片方は巨大な一本足となる

そのなんとも言えない形容し難い混沌とした形態は、この最終個体からなる存在の不確定さを、自己が曖昧となっていることを表していた
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/05(土) 04:10:56.62 ID:j60amTETP
ロンドンの空に、また、光が拡がっていく

原因は、天に並ぶイギリスの天使とローマ正教の天使のぶつかり合いである。しかし、それは多くの人には気付かない

丁度、人払いの術式の影響下であるかのように。市民たちが気付くことなど殆ど無い。彼らにとっては観光客がシャッターで写真を取っている様なもの。生活の一部程度にしか知覚しないのだ

最近利き腕を失ったばかりであり、この天使たちの戦いの原因の片棒でもある女性は午後のゆったりとした時間を、笑みを浮かべながら過ごしていた

彼女の居る場所はロンドン塔

英国の象徴でもあるこの場所で彼女の目の前には、複数のワタリガラスの死体と風船の様な薄黄色く光る球があった

ここで飼育されているワタリガラスは残り一匹だった

そしてその残った一匹は、本来ならば気性の荒いこの種類の鳥であるが、彼女の肩に乗り、くちばしで自らの体を整えている

左手で、彼女がその鳥の首元を撫でると、ワタリガラスの首に首輪を思わせる白い模様が浮かび、そしてロンドンの空へ飛び去って行く

彼女はそれを見送りながら、目の前に浮かぶ1m弱程度の球を撫でた。フッと人の顔の様なものが表面に浮かび、右腕が球から生える

その右手が何かを掴むように拳を作ると、攻撃対象を失った英国の守護者が、バチカンのミカエルという十字教だけの存在ではなく、十字教の天使に国家の存在である獅子と一角獣を混ぜ込んだ動物的なフォルムをしている守護天使が、その姿を薄くしていき、完全に消え去った

彼女が振り向いてその場所を離れようとすると、彼女の胸元の十字の中央にその球は吸いこまれていく

ローラ(ここまでは、計画通りなるのよ。そして、恐らくこれからも)

胸元の十字を手の平にのせ、彼女はそこに視線を落とした

ローラ(……だが、)

立ち止まり、一転、僅かに憂いの表情を作る

ローラ(この術式にも不完全性がありけるのよね。しかも原因は、術式そのものでなく、信仰そのものにありたるのであろう)

ローラ(まぁ、それでも構わぬわね。今のところはそれで支障も無きたることだし。下手に術式に手を加えては、間違いなく、今後に障るわ)

ローラ(そんなことで、私の切り札を失いたる訳にはいかない。それに、この術式そのものもアレがあって初めて完全と言える)

ローラ(焦る必要など何も無きよ。イギリスの不幸が本格的に始まるのはこの後なのだから)

彼女は表情を戻すし、怪しげな笑みを浮かべる

現状でも十分ではあるのだ。対ローマと言う面でも、それ以外の敵となろう相手にも

ふと、塔の窓から天を、太陽を見た

ローラ(そろそろ時間であるわね。前の戦いで世話になった国を、前の戦いで敵だった者達と共に襲いたることになろうとは、時勢でありけしものよな)

言って、彼女はロンドン塔を後にした。ここに、もう用は無い
958 :本日分(ry 更新に時間があくと、前に何を思って文章を書いていたのか分からなくなります。カオス [saga]:2011/03/05(土) 04:13:15.45 ID:j60amTETP
早く言えば、負け犬の集団と言うべきだろうか

どんな場所にも、どんな国家にも、どんな組織にも、競争があり、勝って上に行く者、負けて落ちぶれる者がある

彼自身も、作戦の失敗によってCIA内での出世コースから外れた

勝者の下にはそれ以上の、多くの敗者がいる

勝者は力を手に入れ、その集団のヒエラルキーを使い、支配する

だが、何よりも重要なのは、勝者だけが優秀であるとは限らない事

そして優秀な敗者は、敗北を認める者も有れば、認めず、再起を狙う者もある

両者は一見、背反するような存在であるが、両者とも優秀であるが故、勝者が得た上位の力を、味を理解している

なので、例え前者が表面的にも意識的にも、再起するつもりは無いとしても、その機会を提示されれば釣られてしまう

その機会提示者の言葉が巧みで、なおかつ正当性・正統性を持っていれば、その可能性は高まる

「今の体制・状況に不満は無いか?」「米国の自由が、ある存在によって否定されようとしている」

これらの言葉に飾りを付けて、こちらに取り込む

言うは易いが、もちろん非常に難しい交渉ではある。"優秀な人材"達は取りまとめる側にカリスマ性も必要だ

だが、それを、しかも人知を超えているレベルの代物を彼は持っている

学園都市からの突然の空爆も

それに応じた州・国軍内部での混乱誘導工作も

ローマ・イギリスからなる魔術師部隊による攻撃も

あらゆる立場のあらゆる意図を含んでいながら、最終的にたった一つの大きな目的だけは共通している

それは、現アメリカの全てを牛耳っている"イェス"という存在の排除

"銀貨30枚"という名の組織の至上命題でもある

しかしこれは、その組織の指導者である彼にとっては、過程にすぎない

耳に押し当てた携帯電話から計画の始動を告げる連絡を聞いて、護身用の拳銃の動作を確認し、ホルダーに突っ込む

そして、机の引き出しから、最大の敵であるイェスが管理制御している微小機械が詰った例の特別な注入機を取り出し、砲弾性能のあるサバイバルべストの胸部ポケットに彼はしまった
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 04:20:07.60 ID:BYxFqu590
ついに投下キター(`∀´)ヾ

クライマックス感がやばい燃える
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 11:48:02.92 ID:ChJMZ+lDO
いい加減に佐天さんをゴールさせてやれよ
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 12:00:04.28 ID:nLDY0xIqo
佐天さんついに人類を超越したか
胸熱
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/03/05(土) 13:34:25.69 ID:6Y9DGbMAO
サテンサン!!
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 13:40:32.53 ID:2Pe5zB1lo
ウイハルー!!
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 13:52:02.57 ID:2wuHvcGio
一方さんになにが……!?
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 14:03:06.92 ID:Uw9AX8MJo
浜面のこともたまには思い出してあげてください・・・
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/05(土) 20:22:47.37 ID:dqxKjD1Fo
頑張れ佐天さん このまま新世界の母となれ!
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:09:01.46 ID:vvOyZR7QP
ロンドンのテムズ川沿いに、その男は立っていた

目的は決まっている。神の右席、アックア

もちろんここへ来たばかりの彼はアックアが何処にいるのかなど、知る訳も無い。今も本来ならば、アックアを探している途中であるはずだった

なぜ立ち止まっていたのかと言うと、彼は空で起きていた巨大な力と力のぶつかり合いを観察していた為である

テッラ「……情けないですねー。我らがローマ正教の放った天使達が簡単に叩き潰される光景と言うのは」

東から飛来する2m程の光の塊の群が、額に角を生やした60m程の大きな天使に、文字通り叩き潰され、食らわれている

それを見上げる彼は、生前に着ていた緑色の衣服を着込んでいて、分かる人間が見れば彼が左方のテッラであると分かるだろう

テッラ(しかし、新教皇がアレでは仕方が無いのかもしれませんねー)

少し大きく溜息を吐きながら、彼は安物のワインを口にする

テッラ(一方であの守護者は強大ですねー。まさに国家の守護天使と言ったところでしょう。単にイギリス清教におけるミカエルの要素だけでなく、イギリス国家という局所的で限定的な要素も掛け合わせたやり方は、広域で多様性のあるローマ正教では使えない方法ですからねー)

テッラ(まぁ、逆に言えば、成立要素が増えて複雑になったということですから、打ち破る手段自体は単純に増えたとも言えるのですが)

テッラ(おや、消えてしまいましたか。……ふむ、どうやら、バチカンの半ば木偶の坊と化しているミカエルよりは、融通が効くようですねー)

見る対象を失った彼は視点を地面へと戻した

そしてようやく、彼を取り囲む状況に彼自身が気付いた

既に周囲を騎士たちによって取り囲まれているという事に

当然のことである。彼の格好は派手なのだから。そんな人物が酒を片手に天をずっと見上げていれば、特に連日の事件で厳戒体制下のロンドンならばなおさら、もちろんただの変質者としても、人目に付かないわけが無い

「よくもノコノコともう一度現れたものだな。神の右席、左方のテッラ。しかも、身を隠そうとも偽ろうともしないとは。我々を舐めているのか?」

彼を取り囲む中、一人が一歩前に出て剣の切っ先をテッラの顔に向けて、言葉を投げつける

剣を持つ者、槍をもつ者、杖を持つ者、その他当人の術式に応じた物品霊装を持つ者

川を背に、テッラはその周りを完全に囲まれていた

テッラ(……私を相手にする為に出てきたにしては、少々戦力が低いですねー。特に教会系の人間が少ない)

テッラ(必要悪の教会と騎士団が一筋縄では無いということを考慮しても、これは少ない)

テッラ(ですが、見つけて下さいと言わんばかりに、こうして神の右席として本来の装飾で身を包み、川沿いの見晴らしの良い道筋を歩いてきた私からすれば、ようやく釣れたと言えますねー)

"釣れた" つまり、テッラはこの状況を望んでいたのだ。イギリスの騎士や魔術師に見付かる、という状況を

目的は、要求をする為
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:09:30.63 ID:vvOyZR7QP
テッラ(だが、そのようなことは、当然この私を取り囲んでいる雑魚たちも理解しているでしょう。ワザとらしすぎましたからねー。故にこのようにして、時間をかけて私を取り囲んだのでしょうが)

テッラ(やはり、少ない。これは私以外の事で何か動いているのかもしれないですねー)

テッラは最前列で言葉をぶつけてきた騎士の方を向き、じっと見つめた

まるで怖じないテッラの態度に、逆に騎士が怖じる。その騎士は無意識に半歩ほど足を下げてしまった

神の右席は力量的に一般的な魔術師と性能差が違いすぎる。そのことを一番知っているのは解剖をしたイギリスである。そしてテッラは本来死者であるはずの存在

更に、テッラからは本能が敵対する前に逃げろと告げてくるような、力強い威圧感を発している

その本人は、じっと目の前の騎士たちの力量を調べた

テッラ(これはこれは。あの守護天使から、力の供給も受けているという訳ですか。もし一戦ここで交えるならば、手を焼きそうですねー。少人数で出てきたのも理解できないわけではないです)

テッラ(ですが、今ここで全員を相手にすること自体が出来ない程ではありませんねー。ま、フィアンマから動けという指示が無い以上、暴れる訳にもいかないのですが。今の私は、アックアを打ち倒す事だけが認められているだけですからねー)

テッラ(あえて私を見つけさせ、アックアをおびき出す、又は、アックアの周りの者がどのように動くのかを把握するという、単純な狙いがあってからの行動だったわけですから、これでようやく予定通りです)

じっと見ていた視線を戻し、テッラは笑みを浮かべた

「貴様、何の目的でロンドンに現れた?」

テッラ「他にローマ正教の部隊が仮にいたとしても、私はその者達の目的も行動内容も知りませんよ。ただ、私は単にアックアというローマ正教にとって災いとなりかねない者の始末に来ただけなのですからねー。後方のアックア、あなた方は知っているでしょう?」

テッラ「ちなみに、望むなら今ここであなた達の相手をすることも出来ますよ。その時に出るロンドン市街や市民への被害などについては当然、私は考慮したりしするつもりはありません」

暗に、巻き込むぞ、という脅し。テッラ自身にとっては、イギリス人の被害については脅しでも何でもないのだ

「囲まれている割に、よくもいけしゃあしゃあと言ってくれる。きょ、虚勢のつもりか?」

言われて、テッラは一瞬キョトンとした

言葉を放った騎士の方が余程、緊張した表情を浮かべていたからである

テッラ「フフフ、それは非常に面白い冗談ですねー。虚勢を張っているのはあなたたちでしょう? 一言先に言っておけば、いくら今のあなた達が守護天使から力の供給を受けているとは言え、私自身さして障害とは思っていないのですよ?」

テッラ「今私が提示する、あなた方の選択肢は3つです。アックアを私の前に連れてくるか、アックアの元へ私を案内するか、もしくは既に殺した彼の首を私の前に持ってくるか。この選択肢以外の事がお望みなら、私はいくらでもお相手しましょう」

そうやって、テッラは周りの騎士たちを戦わずして圧倒しつつ、アックアを寄越せという要求を押しつけた
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:10:35.54 ID:vvOyZR7QP
予想外の爆撃。しかもそれは、少なくとも敵とは認識していなかった学園都市からのもの

駆動鎧や一部の超現代兵器を持ち、表面的には圧倒的な技術力を持ったアメリカ軍だが、そういう技術を持つようになってからの経過時間は非常に短い

つまり、本当に限られた部分しか、それらの超兵器は存在していないのだ。生産ラインの建造時間と金銭的な問題である

その限られた部分と言うのも、目前の一番の問題である"終末"に対してのみに集中している

だから既存の対空迎撃システムには、あんなオーバーテクノロジーな速度と攻撃手段を持っている爆撃機を撃墜する術など無いに等しかった

そして仮にそれが出来る装備があったとしても、今の米軍には使えなかったかも知れない

『reinforce …agjkagio;wa: ……point 1,2,1 bvfpab: コチラ gpoja 敵 pg@u 受けてい iioghpap』

高性能なセンサー類を装備した両眼を覆うゴーグルに付属しているイヤフォンを、耳に押し付けている人間があった

「駄目だこりゃ。何言ってるか分かったものじゃない」

言って、彼は今度は逆に無線の音量をゼロにする

爆撃から辛くも退避し、炎が上がっている自らの拠点を見つめている一人のアメリカ兵士。特段目立ったところはない

だが、彼らのゴーグルに内蔵された情報相互通信機器に流される情報は、まともでは無かった

対空レーダーには敵を示す光点が現れたかと思うと、次の瞬間には消え

地上のマップには敵として表示された方向に銃を向けて警戒すと、雪崩込んでくるのは一般市民の群

無線もノイズが酷過ぎて役に立たない為、まともに意思疎通すら取れない

ゴーグルに表示された戦術目標やタスクに至っては、"ウィリアムズバーング橋を渡り避難しようとしている市民を誘導しろ"というまともな指示が、次の瞬間には"その場に伏せて腕立て伏せ200万回"や"至急准将のケツを舐めろ"などと、訳の分からないものに変わっていたりなどして役に立たない

指令部系統もめちゃくちゃで、指令元として大統領署名とあるペン書きの文字が、隣のキチガイババァというスラングに書き換えられていたり、内容にも一貫性がないなど、やはりなにかおかしい

もちろんこれは"負け組"たちの混乱工作によるものである

アメリカの誇る高度な情報共有システムを完全に逆手に取られた、ということ

だが、この訳の分からない情報の中からも、そしてこの現状からも、爆撃だけが問題で無いことは一般的な一兵士でも分かっていた

「……誰か…た、助けてくれ……誰か………」
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:11:37.17 ID:vvOyZR7QP
瓦礫によって押しつぶされた人間の、助けを求める小さな声が、最先端の情報共有システムであるゴーグルを顔からズラしイヤフォンを外して、ゴーグルをバンドで首にぶら下げた彼にはよく聞こえた

拠点から100m程離れていて、大きな街路に面し一階に商業テナントが入っていた建物があった場所である

一階と二階の丁度中間辺りが、まるで対人用弾頭のロケット砲程度の威力の何かを受けたように部分的に崩れていて、外からアパートメントとして使っているだろう二階部分の中が見えた

今彼に助けを求めているのは人間は恐らく、それによって生じた瓦礫に押しつぶされているのだろう

破裂した弾頭の欠片の様なものは見当らない。つまり、この建物の傷はそういう兵器の類ではないということだ

もちろんこんな小規模なのだから、そしてどこも高温で溶けたりしていないことも考えると、時折真上を凄い速さで駆け抜けていく爆撃機によるものでもない、ということになる

学園都市の爆撃でも、混乱した同僚の誤射によるものでなければ、何だ?

答えは一つ、魔術によるもの。最近ずっと魔術組織との戦いに参戦した経験がある彼は即座に思いついた

(生き残っていたどこかの魔術師の残党が、この機に乗じて攻勢に出てきたってか? それともまさか、噂のローマ正教の連中がマジに来やがったのか?)

そんなことを考えつつ、彼は生存者の救助に動く

先程までこの辺には逃げ惑う人々が腐るほど居たハズなのに、今、周りにはびっくりするほど誰も居ない

「大丈夫、だ。もう少し、少しだけ……そぉ、い!! よし、我慢しててくれ」

下敷きになっている人を助けられるのは彼だけだった。そして、少々重そうだが、恐らく上階から降ってきたのだろう50cm程度の瓦礫と本棚程度ならば、彼一人でも何とかできる

邪魔な武器装備をその辺に置いて、力を込めると、アメリカらしい横に大きな男性の背中が瓦礫の下から出てきた

分厚い脂肪が彼の内臓は守ったのだろう。しかし、左腕は殆ど切断されている状態だった

「立てるか?」

聞きながら大丈夫そうな右腕を担いで、太った男を起こしにかかる

「あ、ありがとう。痛痛……。ハハ、こっちの腕は最早感覚すらないや」

「その腕を見せてくれ。出来る限りの処置をする。必要なら麻酔も使うが、痛むか?」

「是非そうしてほしい。何から何まで悪いと思ってる」

「そういう仕事だ。それで、あんた以外なんで誰も居ないんだ? まず、何が起きた?」
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:12:12.70 ID:vvOyZR7QP
「分からないな。外が騒がしかったから、僕は部屋から出るに出られなかった。すると急に床と壁が弾け飛んだんだよ」

「OK。早い話、何が起きたか分からないって訳ね。おし、処置は終わった。ちょっと待ってくれるか。あんたが行くべき避難場所を探す。この様子だとここは何時まで持つか分からんからな」

言って、兵士は男から少し離れ、首に引っ掛けた情報を表示してくれるゴーグルを付け、地図を表示した

今度は地図情報自体が少し、おかしくなっている

チッと舌打ちを兵士がする一方で、助けられた男は建物の外へ恐る恐る首を出した

近くには怖いほど誰も居ない。だが辺りを包む煙や臭い、そして音が、ここがいつものニューヨークでないことを分からせる

「……とうとう、このアメリカも終わり、ってことかなぁ」

「かもしれねえ。だがよ、一部じゃ天使だとか言われてるような奴に殺されるならともかく、同じ人間に終わらせられるというのは気に食わないだろ?……shit!?」

ゴーグルの内側に表示される地図を見て、この男を避難させることが出来そうな場所を兵士は探していた

その時、何か頭脳の中を電気が奔ったような痛みが駆け抜けたのだ

「どうしたんだい、……って!?」

助けられた太った男が、兵士の声に反応して顔を建物の中に引っ込め、その方向を見ると

兵士の後ろに黒いローブを着た何者かが立っており、兵士の首にナイフのようなものを指していた

「アあガッガガガガガッ。アバババァッガアグァ!? ウググゥゥ………」

兵士は体をびくびくと痙攣させ、そしてそのままドサッと倒れ込んだ

兵士の後ろに立っていた男を良く見ると、ローブの外に十字架を吊るしているのが分かった

「な、なんだお前……!? その格好、Pastor(牧師)か?!」(牧師は新教の聖職者、神父は正教の聖職者の呼び方)

太った男は声を荒げる

その人間は男の方を見た。表情は歪んでいる

「貴様のような、神の教えを忘れ、自らを律せず欲望のままに暴飲暴食をしてきたような輩に、新教徒の糞どもと一緒にされるのは心外だ。餌の役割はもう終わりだぞ、ブタ野郎」

気が付くと、太った男の体を先端に槍の様に尖った刃の付いた杖が、貫いていた
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:13:01.40 ID:vvOyZR7QP
「……え?」

太った男が自らの体に刺さったそれに目を向けて、間抜けな声を上げた時

痛みが拡がるよりも早く、その体が爆散した。そして、脂肪分多めの血肉がローマ正教の男に飛び散った


「一々面倒なやり方しやがりましたね」

イギリスの支援勢力として派遣されたシスターの集団。その一部である彼女は、遠目に、自らの古巣であるローマの魔術師が兵士と太った男性を殺すのを見ていた

「シスター・アニェーゼ、あれは仕方のないことでしょう。アメリカの科学端末に対する使用法とその撹乱について考えたなら、まずは適当な兵隊からその道具と使い方を入手するのは妥当なことです」

つまり先程のローブの男は、わざわざ人払いをしてまで一人の兵士を狙い、確実性を高める為のエサとして太った男を用意したのだ

ローマ正教の部隊がそこまでしたのは、アメリカの情報を得る為に情報共有ツールの使い方を得るため

実際に人がものを使うときに、使い方に関する記憶が無意識に思い出される。思い出されたタイミングで直接その人間に触れ、ナイフを媒介に情報を吸い出したのだった

「あれだけ科学を毛嫌ってた連中が、その使用方法を知って利用しようとするのは珍しいことです。シスター・アンジェレネ、あなたはどう思いますか?」

「そ、その方がクーデターの陽動に向いているからではないでしょうか」

傍らのルチアと呼ばれる修道女の影に少し身を隠して答えた

「シスター・アンジェレネ、確かにその要素もありますけど、恐らく本当の理由は別ですよ」

ルチアと呼ばれるシスターが応える

「英仏海戦でアメリカの機械人形の性能を、ローマ正教の勢力は敵として教え込まれていますから。それらを高脅威と考えて、その動きを把握したいんでしょう」

「私も同意見ですね。ルチアの言う所のがデカいって思われます。それでアンジェレネ、ローマはどれだけの勢力を派遣しやがったんですか」

「ほ、報告では、一、十、百……一万を超えるもの、と」

「一万?! イギリスの10倍ですね。所詮他国のクーデタの支援なのに、どうしてそこまでの数を割いたのでしょうか」

「それだけ、あの新教皇は用心深いってことなんですよ、きっと。虎の子の天使部隊まで持って来ちまったぐらいですから、意図的にやりすぎる気でしょうね、ローマの連中は」

そう言った彼女の頭上を、天使の力の塊である光たちが駆け巡る

それらが一斉に地面へ向けて雷を放つと、一際大きく一般市民の悲鳴が響いたのだった
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:14:18.93 ID:vvOyZR7QP
学園都市の西にある山脈が吹き飛んだ時に生じた衝撃は、もちろん一方通行以外の人間にも伝わる

それは第7学区の病院の中で休養していた者達にも、施設の振動という形で伝わった

本能が直感的に恐怖を与える程に、ビルは一瞬の光とともに拡がった衝撃とぶつかって、大きな揺れを導く

外からは派手な爆発音が頻繁に聞こえ、中では混乱した患者たちが騒ぎだす

衝撃自体で意識を戻さなかった者たちも、その騒ぎで目を覚ましてしまう

そして、その中には久方ぶりに意識を取り戻す少女が居た

入院中ということも有って、トレードマークの頭上の花飾りは無く、身を包むのは少しヌルっとした液体

よくない力がその装置に加わってしまったのだろう。装置の維持にエラーが生じてしまった

彼女の視野内にあるディスプレイに赤色の警告が点滅し、"緊急排水"と示されている

ズゴゴゴゴゴ、と少し派手な音が足元から鳴り、空になった培養液が詰まっていた空間の一部が開く。その開いた空間から、彼女は半身を起こした

意識がハッキリしていないで、すこしまどろんでいたところに、カエル面の医師がその装置が置かれた部屋に入ってきた

蛙「君まで目を覚ましてしまったようだね。よりにもよって定着装置に入っているタイミングとは」

言いながら、彼女に近づいてくる

蘇った羞恥によって胸元を腕で隠している彼女へ患者用の服を渡しながら、その医師は尋ねた

蛙「気分はどうだい? 予定ではもう少し浸かっていてもらうハズだったんだけど、僕が分かるかな?」

もちろん、少女にはその人間が医者に分類されることぐらいは分かった

しかし、なぜ自分がここにいるのかも、どうして液体で満たされた装置に浸かる必要があるのかも分からない

初春(……私、どうして?)

タオルと服を受け取って、彼女は記憶を辿る

初春(確か白井さんと、佐天さんの消息を確かめに、第一学区へ行って、土御門さんと会って、それで……)
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:15:17.78 ID:vvOyZR7QP
初春「あ、う……ぅぁああぁぁぁ…………」

言葉が話せなかったわけではない。第一学区で何が起きたのかを思い出し、恐怖が蘇ったのだ

表情が引きつりだしたのを見て、蛙の医者はしまったと思った

少女が持っていたタオルと衣類が、震える手からこぼれて装置の中に落ちる

彼女の両の手は、そのまま無意識に覆う様に顔を抑えた

少女の体はガタガタと震えていて、薄暗い部屋の中でもハッキリわかるほどに色の無い顔をしていた

医師は横に長い水槽の様な装置の中に落ちた服を拾い、拡げて彼女の体に優しくかける

グニッ、と、彼女の手は違和感のある触感を感じた

その違和感の原因は、皮膚の定着が少しずれたこともあるが、それだけではない

根本的に、顔そのものが、いつもの感覚ではないのだ。思っていなかった所にニキビが出来たかのような意外性を、手が触れた顔の殆ど全てのところから感じた

顔から手を離して、彼女はその手の平を、体を見た

違う

手、腕、肩、つま先、脛、脹脛、腰、胸

長さが、形が、皮膚の色が、毛の生え具合が異なる。私の胸はこんなに大きくなかったハズだ

ゾワゾワゾワッ、と体の中を言いようのない恐怖が突き抜けていく

蛙「……これでも最大限、本来の君に近づけたんだがね」

初春「え?」

カエル面の医師が、初春が何を考えているのか読み取って声を出す

蛙「君の体は、というより君の遺伝子そのものは、どうしようもなく壊れていて、死ぬしか無かったんだ。君をあそこから助け出した白井君も、君ほどではないとは言え、酷いものだった」

初春「……何が、第一学区で何が起きたんですか?」

蛙「何があったかは、具体的には知らない。でも、重度の放射線被曝をもたらすようなことが、あの日の第一学区であったとだけは言えるね。そして」
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:16:12.51 ID:vvOyZR7QP
再び、この大きな建築物である病院が酷く揺れた。きっと何かの衝撃だろう

蛙「今まさにそれ以上の事が起きている。地下に簡易なシェルターがあるから、君の身の安全のために向かって欲しい。僕は他の患者の所にもいかないといけないから、案内は出来ない」

初春「避難誘導なら、風紀委員の私も手伝います」

蛙「それは駄目だ。本来ならば君はまだこの装置から出るべき状態じゃないんだよ。本来ならば誰かを付けたいところなんだけど、今はどうしようもなく手いっぱいなんだ。だから、真っ直ぐに地下まで降りてくれ。今は一般用のエレベーターでもシェルターまで降りることが出来るようになっている」

言って、医者は彼女を立ち上がらせた。肉体は衰えていて不完全とも言える状態だが、歩ける

それを見て蛙面の医師は、ウン、と頷いて部屋を出て行った

私も、早く行かなければ

確かに歩ける。これならエレベーターで地下に降りるぐらいなら出来るだろう。しかし、一歩一歩が異様に重い。筋肉だけの問題ではない。体の組織が意識に従わないとしか表現できない様な気持の悪さと違和感が、吐き気をもよおす

少しでも意識を抜けば、恒常的な立ち眩み状態に耐えられず、倒れてしまいそうだ

倒れたら、自分の力だけで立ち上がるのは難しいだろう

時折発生する轟音と衝撃に身を震わせながら、壁に体を預けつつ、彼女は進んでいく

エレベーターのスイッチをタッチし、昇降機が彼女の前で開く前に、彼女は肩で呼吸をしながら窓の外を見る

何か、得体のしれない虚像のようにしか見えない巨人が浮いていて、更に手前にもっとよくわからない、腕の様な足の様な柱の様な何かがある

初春(……アレ、………何だろ……?)

音が鳴って、エレベーターの扉が開いた時、彼女は動けなかった

その柱の様なものが、下半分を屈伸させ大きく跳びはね、病院の近くに着地した際の振動のせいでもある

しかし、彼女が動けない最大の理由は、違う

初春「………さ……佐天、さん……?」

見間違う訳が無い。一緒に何度もお風呂に入る事もあるのだ。なにかオーラのようなものが、あれが佐天涙子であると告げている

その彼女の全裸が、よくわからないのものの中央に埋め込まれていれば、どうしてそこへ意識が向かわないなどと言う事があるだろうか

どうしてそんな所に? あの形は何?

それまで止まっていた頭脳から、噴き出すように佐天涙子への疑問が浮かんでいく

そこでようやく、彼女はエレベーターが開いていることに気付いた

唯でさえ体調が芳しくない為に意識が朦朧としているところに、更なる精神的揺さぶりをかける佐天であろう存在

だからこそ彼女は気付かなかった。自分が押したエレベーターのスイッチが上階行きである事を

運命のいたずらか、事故なのか、誰かの操作ミスなのか、彼女だけが乗り込んだエレベーターの中には、屋上へ向かっていることを示すパネルに光が灯っていた
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/06(日) 06:17:09.11 ID:vvOyZR7QP
東海岸沿い、デラウエア州には、破裂した金属が多数沈んでいた。浅瀬に打ち上げられているのは、軽装のアメリカ兵士たちばかり

しかしその死体達を回収する部隊の姿は無い。そんなことをするだけの余力がないのだから

これらの沈んだ駆逐艦や戦略ミサイル巡洋艦は、偶々某勢力の木造戦艦達の通過線上に有った船舶である

とても木造船とは思えない早さで、しかも木造なために米軍の標準的なレーダーでは探知もされなかった

木造船舶を米軍が肉眼で確認した時には、浮いていたハズの海面が固形化して、米軍船舶を貫いた後

そして、沈みつつある米軍船舶の横を、某勢力の、イギリス魔術師強襲部隊の木造魔導船数隻が易々と通過していき

そこに乗った聖職者の格好をした魔術師たちは、非常艇によって辛くも脱出した米兵達を、その船と共に海の深層に叩きこんだのだった

通過した木造船舶は、二手に分かれた。片方はアメリカの象徴、ニューヨーク・マンハッタンへ

そしてもう片方は首都、ワシントンDCへ

どちらも直接海や巨大河川に面していて、船と言うものによる強襲は非常に合理的だった

だが、宗教勢力のアメリカへの侵攻が海からだけだったかと言われれば、そうでない

上条刀夜率いる反体制組織を支援したのはローマ正教も同じである

しかも、彼らは表面上の同盟国である為に隠れて侵攻しなくてはならなかったイギリス勢と異なり、敵対している為に堂々と侵攻する

ローマ新教皇の命令によって、移動・攻撃手段として、自由に使える天使崩れ達を使役し、それらに引っ張られることで、非常に多数の魔術師部隊が大西洋をロケットの様に横断して、首都とマンハッタンへ移動した

総勢はイギリスのアニェーゼ部隊を含めた1千程度に対して、およそ1万

そんな大部隊を、他国のクーデターの支援程度に派遣できるローマ正教の裏には、バチカンに鎮座し、あらゆる破壊者からも敬虔な信徒を守る守護大天使の存在があった

つまり守りは大天使があるから大丈夫であるという自信だ

ローマ正教は、新教皇ペトロは"終末"を利用して世界の頂点を目指す。神や天使の下で自らを人間の頂点とした神の国を運営する

それが目的。非常にシンプルだ

その目的を果たすには、忌々しい科学サイドの学園都市やアメリカを叩き潰す必要がある。学園都市は根本的に離れているし、内乱で最早影響力を示す事は無くなっているので、当然その矛先はアメリカに絞られた

クーデターの支援という名目で軍事力を送り込み、アメリカを再起不能にまで叩き倒す。今なら首都やニューヨークが陥落すれば、国家の運営は不可能になるだろう

その為の大魔術師部隊であり、他の宗教勢力への攻撃を一時的に中断させて、扱える天使の大半を、新教皇はアメリカに叩きこんだのだ

しかしアメリカからすれば、それほどまでの敵の一大部隊の出撃である。勿論そのような情報は事前に、アメリカ軍や大統領は入手していた

だからこそ、対魔術師と言う面で彼らは神経を鋭くし、従わない魔術結社を徹底的に叩き潰してきた

その過程で、アメリカ軍に従う様になった魔術師達とアメリカ軍は連携して戦う術を磨いてきた。例え1万1千程度の魔術師が来ようとも、数の上でも戦力的にも十分に戦えない訳ではない、ハズだった

だが――――――
977 :本日分(ry ちょっと余計な話が長かったか [saga]:2011/03/06(日) 06:26:32.95 ID:vvOyZR7QP
御坂「……酷い」

上条当麻が居ると思われるボストンを目指す輸送機の中で、通り過ぎたワシントンDCとニューヨークの現状を輸送機から見下ろすように写した画像を、御坂は見ていた

その表情は青く、目には僅かに涙すら浮かんでいる

画像の中では、都市の到るところから煙が上がり、光や爆発で満たされていた

各都市2から3枚ずつの、たった6枚に満たない枚数の画像だが、見るべき点はたくさんある

かなりの高解像度であり、拡大することでその時の街の様子が垣間見えた

交戦する兵隊と妙な服装の集団。兵たちの背後で逃げ惑う人々

特に彼女の心を揺さぶったのは、ニューヨークのマンハッタン島を挟む広い川の上に架かった橋の画像

戦場となってしまった都市から逃げようとした、車すら捨てて人々がごった返す橋。その一端は既に落ちていて、彼らはマンハッタン島から逃げることも出来ない

だからと言ってマンハッタンには帰れない。そちらの端のスグ近くでも、今まさにローマ正教魔術師部隊vsアメリカ対魔術師部隊の戦闘が行われているのだから

そして前にも後ろにも進めなくなった人々の群の殆ど中心で、今まさに爆発が起きようとしていて、光が広がろうとしていた。そして次のシーンになると、その爆発が拡がっている

直撃を受けた人々の中では、一枚目の時点で既に腕や脚、そして頭部が四散しようとしていた

まさに決定的とも言える瞬間を写した二枚目の画像。更なる人間がその爆発に巻き込まれている。最拡大してようやく見てとれた表情は、首だけ弾け飛んでいるものからそうでないものまで皆、恐怖で歪んでいる

そして仮に端が壊れていなくてその橋が渡れたとしても、その先もまた戦場である

南も西も東も北も、マンハッタンを取り囲む一大ニューヨーク都市圏はその一円全てが、既に戦場となっていたのだった


いくら対魔術的な戦力を整えた、と言っても、結局はこのザマであった。何も守れてはいないし、とても互角とはいえない。押されている

それまでアメリカ軍が相手をしていたのは、所詮中堅の魔術結社。その規模も歴史も技術も経験も、世界一であるローマ正教のそれとは月とスッポンほどの差がある

しかも、アメリカ軍に協力している魔術師たちは、立場上仕方無くという者が多く、軍との連携は所詮、付け焼刃にすぎなかった

そして、"終末によって自然発生する天使崩れ"程の力は流石に無いが、魔術師の移動手段でもあった"ローマ正教が守護大天使ミカエルを通して使役する、天使の力の塊のような存在"は強力で、中堅どころの魔術結社程度では、その力の塊をそのまま爆発させる自爆攻撃を防ぐことすら難しいだろう

その背景には、"銀貨30枚"と言う名を持った上条刀夜率いる反体制組織の工作と、上条刀夜が誘ったあらゆる組織内の"負け組"たちによる意図的な扇動も有った

間違いなく人類の希望の一端であった科学サイドの象徴である都市は、終末による破壊では無く、人類同志の戦いで、その希望と形を失いつつあった

そして片方が天使という強大な力を使う以上、それに対抗する為に、人間である魔術師相手に使うには完全に逸脱した性能を持つ、対天使用であるはずの未元物質駆動の駆動鎧を、アメリカ軍の現場の指揮官は反撃に用いることを決めた

それは、人外の力と人外の力のぶつかり合い。例え直接攻撃をされなくとも、それらが近くで争うだけで、人間という弱い生命体は巻き込まれ、市街は再起不能なほどに壊れてしまうだろう

ニューヨークの運命は、ほぼ決したも同然だった
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 11:29:29.28 ID:PH2bxU9f0
佐天さんが出てきたら爆散エンドしかないだろうが
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [[sage]]:2011/03/06(日) 12:16:16.11 ID:rNdlwnPl0
これ上条さんがどう復活するのかが気になる。
3周目も前とは違う形になりそうだし。
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 21:01:09.97 ID:p7f8O+8Co
なんかバスタードを思い出す終末っぷりだな
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/06(日) 21:59:27.17 ID:frmcbBIno
この佐天さんはアレだろ?周りを吸収してでかく強くなるタイプの化け物なんだろ?
きっとこの後に初春を取り込んで初春のGウイルスがどーたらこーたらで
最終的には目も当てられなくなるんだろ
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:11:23.70 ID:jx+LUubQP
もちろん、テッラの主張は騎士団長の耳にも届いていた

散発的に現れるローマ正教の天使攻撃部隊を警戒して、常に臨戦態勢の彼ら

騎士団長を含んだ殆どすべての人間がピリピリしている

そう言う要素も有って、騎士団長は拳で机を叩いた。詰所にドンという音が響く

騎士団長「アックアを、ウィリアムを連れ出すという要求が通らなければ、市民を犠牲にすると言いたいのだな、テッラ!」

ロンドンは世界各国に比べて表面上非常に平穏だった

しかしそれは表面上のことで、見えていないだけ

今のところは全ての攻撃を最大主教であるローラが操る、信仰に国家という要素を混ぜ込んだ、言わば術式キメラの守護天使によって、市民には気付かれないように防衛している

そこまで隠す理由は明白だ。そんな戦いがずっと見えていたら、一般市民はどうなるか

間違いなく混乱してしまう。一度統率がとれなくなってしまえば、収集することは難しく、それがどんな問題を引き出すか分かったものでない

既に連日、ロンドンではテロと言う名の破壊が発生している

そしてその前にはフランスとかなり危険な関係に陥り、イギリス国民の心理は揺さぶられ続けている

首都であり象徴であるロンドンが混沌に落ちてしまい、それを収集できなくなればどうなるか

今という状況ならば、生き残っているイギリス全土の国民にまで混乱は広がる。目に見えている

出来ればロンドンで、市民に見える様な戦闘は避けたかった

しかし

「どう、致しますか」

恐る恐る、部下の騎士が団長に返答を求める
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:11:55.99 ID:jx+LUubQP
騎士団長「……アックアという名の者は居らん、そう言い返せ」

「了解……!」

聞いて、質問した騎士の一人は、更に周りを囲んだ他の騎士たちも、顔をしかめつつ強く頷いた

一見は詭弁である

確かに、イギリスではアックアは、ウィリアム・オルウェルとしての存在でもあるのだから、アックアと言う名前の人間など居ないとも言えなくはない

そのことは恐らく、テッラも知っているはずだ

しかし、騎士団長がそう言ったのにはもっと深い訳が二つある

一つ目。アックアは確かに、敵として現れた

しかし行ったことは違う。敵としてロンドンで暴れた神裂を抑え、更には命を賭けて第三王女を助けている

こんな人間をどうして敵に突きだす事が出来ようか

これが、特に騎士と呼ばれる人間の心理である

その心理を踏まえた以上、そして騎士団長の個人的な感情としても、アックアを突き出すとういう事は、少なくとも騎士団の間で深刻な士気問題に繋がる

二つ目。実はこれが現実的な理由だ

ローマ正教のテッラにとっては、ロンドン市民のことなど限りなくどうでもいい存在であるハズだ

本当にアックアをどうにかしたいのならば、わざわざこんな脅しをかけてまで、アックアのみを引き出そうとせず、それこそ一暴れした上で市民を人質にするなどして強引にアックアの場所を聞き出したりすればいい。それだけの能力は有るはずだ

だが、そういうことをしないということは、どうやらテッラには事を大きくしたくないという意識が働いていることが見えてくる

そんな意識がある以上、まだ事を大きくしないでいられる余地があるということだ

神の右席は強いだろうが、ここはロンドンだ。騎士の、イギリスの魔術的な力が集結してる。しかもテッラはその魔術能力上、1対多の戦いには弱い

その余地を利用して、強大なテッラをロンドン市民の知ること無く闇に葬る準備を整えれば、テッラを対処する事が出来るかも知れない

騎士団長はそこまで考えて、その指示を出したのだ

団長の返事を聞いて下がった騎士から目を離し、騎士団長はそのまま、最大主教と会話をするべく、術式的なチャンネルを開いた
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:12:22.94 ID:jx+LUubQP
「まさか駆動鎧をそのまま防衛に使うつもりなのですか!?」「駆動鎧の制限に関する計算式など、私に分かるわけがないだろう!! そのままマニュアル通りの全快でいい!!」

「それでは敵に対して過剰ではないでしょうか?! 所詮は魔術師、人間相手なんですよ!」「だったらお前が人間用の制限設定を行うんだな!! 技術屋がいない以上、どうせ出来やしない!」

ニューヨークにある半壊したビル群の一室での会話

急襲によって拠点を失った残存アメリカ軍は、他の拠点へ移るという判断をしなかった

未だ爆撃機は上空を舞っている。他の拠点だってその的であるだろう

ならば、市民に溶け込みながらでも逃げるしかない。とにかく、司令塔だけはどうあっても生き残らなければならなかった

その中で、武力を背景に強引に従わさせられていた米軍側の魔術師たちは逃げ出した。嫌々従わされていた人間が、どうしてこんなところで自らの命を賭して働いてくれるだろうか

だが、アメリカ軍にはまだ、対天使格用の駆動鎧という切り札が有るのだ

それを使えば、何処の所属の魔術師かはまだ断定できない状況で、その上どれだけの規模でどういう攻撃手段を持っているのかも分からなくとも、確かにニューヨークを現在襲っている集団へ反撃できるだろう

だがそれは、ニューヨーク都市圏全てを焼き払う事が可能な敵である"終末への導き手"に合わせて、その水準には達せないにしても、出来る限り対抗できるような性能を持たせてあるのだ

彼らが今まで相手をしてきた、ローマ正教等と比較すると小規模な魔術師集団と同じ程度なら、未元物質と言う高度なエネルギーの塊を動力源とすることで米仏海戦の時に使用された同型駆動鎧の比ではないほどの馬鹿げた力を持った駆動鎧であるので、相手にならないハズだ

馬鹿げた威力を使えば、導かれるのは馬鹿げた被害でもある

いくら壊れようと害の無い敵の拠点であるならば、そもそも壊れるものの無い上空ならばまだしも、ここは最重要都市のニューヨークである

市民も含めた、この場所全てが彼らの防衛対象だ。本当にそんな所でそんな物を何の制限も無しに使っていいものか

「サー、ヘンドリック!! 先程から、レーダーにテレズマ反応が見受けられます!!」

視線をぶつけ合う最高指揮官の中佐とその部下である中尉の横で、混沌な情報が飛び交う情報端末を叩いていた士官が割って入った

「干渉の可能性は?!」「否定できません!!」

言葉少なに即答即断。本来は通信兵などではなく、銃を持って戦う突撃兵の彼では、それが出せる最低限の意見だった

それを聞き、40代の中佐は部下の方を向き直す

「中尉、コレでも貴様の言う様に、駆動鎧のスペックを下げるかのような制限を加えようという判断を下せるか?!」
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:12:54.16 ID:jx+LUubQP
まずこの天使の力(テレズマ)反応が正誤なのか、仮に正しいならば敵の用いる魔術的な兵器(≒霊装)や術式によるものなのか

あるいはこのタイミングでニューヨークを焼き尽くさんと現れた、"終末によってあらわれた破壊天使あるいは破壊神"なのか、判断は下せない

特に最後者なのだとすれば、それは今から使おうとしている未元物質駆動駆動鎧の本来の相手であり、制限などしている場合ではない

もちろん、中尉にはそんな判断を下せるわけは無かった

そんな様子を見て、中佐は表情を緩め、外を見る

そこらかしこから上がる煙、兵器の放つ火薬の臭い、物が焼ける臭い、崩れた建築物、壊れた自動車、踏み荒らされた人間の死体

決意を固めた様に、彼は頷き、もう一度中尉の方を向き直した

「行け、中尉。この場の最高指揮官は私だが、今は情報共有がままならない。これから貴様には駆動鎧部隊を動かす最高指揮官となって貰う」

中佐は胸から取り出した名刺大の薄い板の上を、指でなぞる。そのことによって透明だったそれは色を持ち、文字を表す

そのまま上官から、部下である中尉の手元にそのカードが渡される。浮かび上がった文字は権限制限を設けないと言う意味の"NO LIMIT"

それは、最重要機密である、ニューヨーク南の湾で沈降している潜水輸送艦の中にある駆動鎧格納施設への認証キーであった

そしてそれを使ってその場所に入る事で、未元物質の自爆を防ぐための制御リミッターを解除出来るように、つまりフル稼働で駆動鎧を動かす事が出来るようになる

「駆動鎧の使用は貴様に一任する。残った我々は、貴様らが動けるようになるまで敵を北の方へ陽動しておく。だが期待はするなよ。この劣勢だ、長くは保たんだろうからな」

保たない、ということはつまり、彼自身も死ぬという事だ

つまり中佐は、陽動に決死で挑むつもりである

「……了解!」

上官の意図を読み取って小気味のいい返事を放ち、受け取ったカードキーをしまって、生き残った駆動鎧を扱える兵を従え、中尉達はそのビルを去っていく

それを窓から見た中佐は、残った人間に声をかけた

「軍曹、君の本来の仕事でないことをさせてすまなかったな。だが、それも終わりだ。ここに残った兵を集めろ」

「……了ォ解! 携行する武器兵器はどうしますか?」

「決まっている、有るだけ全部だ。派手に逝くぞ。それこそ、太平洋戦争時の、日本のカミカゼの如くな」
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:13:21.46 ID:jx+LUubQP
一方「また訳のわかンねェバケモンが出て来やがっただァ? この状況、マジでどうなってやがる」

自らの身に起きている不思議と、更にはいきなり現れた一本の足と腕を持った巨大な化け物が彼を混乱させる

しかしそれは、巨人の方からしても同じだった

自らに相当するような存在が急に表れ、そしてその一本足の化け物はその膝を大きく屈伸させ、一気に跳躍する

偶然、打ち止め達が居る病院と巨人の間に割って入る様に着地し、着地すると同時に上半分である巨腕を巨人へ振り回した

巨人からすれば、身の丈ほども有る腕が向かってくるのだから、その脅威性は先程までの一方通行や駆動鎧の比ではない

一方(だが、あのデカブツの体には、打撃なンぞ効きはしねェ)

適当なビルの上に立ってその光景を見ていた一方通行は、自分の経験からそう思った

しかし、その腕は一方通行の予想に反して、巨人を大きく殴り飛ばす

一方「ンなッ、馬鹿な」

乗っていた牛から地面に落下した巨人は、派手に音を立てて地面に倒れ伏せて、下敷きになった建物を押しつぶした

雲のようだった体は、実体があったということだろうか

片腕片足だけの白っぽい化け物が殴った部分は、まるで陶器が割れたかのようなヒビが入っている

一方(明らかにダメージが入ってンじゃねェかよ、あれは)

一方(どォいう事だ? 俺ァ透き通っちまって、新しく現れたバケモンなら殴れるってかァ?)

一方(俺と何が違う? なぜあの巨人に触れることが出来る? いや、どォして俺だけ触れられない?)

ビルのフェンスに体重を預けつつ、一方通行が観察をしている中で、今度は巨人の方が気味の悪い化け物に反撃を加えようとした

一瞬姿が消えたかと思うと巨牛に再び跨っており、化け物と化した最終個体であった存在に向かって、三又鉾を打ち下ろすように構え、牛が一直線に進んだ

屈伸運動で跳躍移動をしたという事からも、そして見た目からも分かる様に、とてもじゃないが一本足の化け物では機敏に動いて回避できそうにはない

それでも突っ込んでくる巨人を迎え撃たんと上半分である腕を振り回し、巨人を再び殴り倒そうと試みる

巨大な肉塊が横薙ぎに振り回されることで、再び空気を叩く轟音が鳴る。しかし、その腕が巨人に当ることは無かった

巨腕よりは一周り以上小さい巨人の手に握られた三又鉾が、ジュッ、という焼ける音を発しながら最終個体の巨腕を弾いたのだ

全体の半分を占める片腕の巨腕が弾かれたことで、60mの巨大な片足と同サイズの巨大な片腕というフォルムの化け物は、バランスを崩して体が後ろへ傾いてしまう
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:14:03.44 ID:jx+LUubQP
そして三又鉾による返しの薙ぎ払いが、巨腕と巨脚の丁度中央にある最終個体であったもの本体に叩きつけられる

腕と足で120mは優に超える質量をもった巨大な白い塊が、くの字に折れ曲がって、足元のビルを巻き込んで倒れ始めた

だが最終個体の転倒が確実となっても、巨人の攻撃は止まらない

このタイミングで額の目が再び開き、そこから光の弾丸が放たれた。あの、山という大質量すらも簡単に吹き飛ばす攻撃だ

異様な速さを持つそれを、転倒を始めている白い怪物が避けれはずも無く、巨腕の丁度中腹ぐらいに直撃してしまう

だが西方の山々を吹き飛ばしたような爆発は起きず、光の弾丸は白い腕に飲み込まれ、無効化出来たかのような印象を、一瞬、一方通行は受けた

しかし、決してそんなことは無かった

一拍子の後に、腕の攻撃を飲み込んだ場所がブクブクと風船のように膨れ、ブワッと爆ぜる

肘近くから手先までの30mとそこから下が分離し、25mプール程の白い塊は本体の遥か後方に回転しながら飛んでいき、周辺のビルをいくつも倒壊させて地面に突き刺さった

ビル群をベッドに倒れ込んだ白い化け物の本体側は、ビクビクと痙攣しながら立ち上がることも出来ない

そして巨人はただドクドクと脈動を続ける白い怪物の本体に近づき、無慈悲に三又鉾を叩き付ける

叩かれる度に、グチャという音とジュウという音、更に衝撃がそのまま地面に伝わって振れとなり夜11時を過ぎた学園都市に何度も響いていく

一方(あンのバケモンでも、このザマかよッ)

視界を遮らんと垂れてくる頭の血を拭いながら、一方通行は振動の根源の方を見る

一方(だが、今ので掴めたことも有る。何であンな離れた場所の物質の解析が出来るのかは分からねェが)

一方(化け物も巨人も、同じ性質の"何か"で出来てやがる。あの白いのも、デカブツも)

一方(そしてその同じ"何か"同士だから、あの白いゲテモノが巨人にも干渉出来る。理論さえわかりゃ、馬鹿みたいに単純じゃねェか)

一方(だがンなことがわかったところで、俺がその"何か"について干渉する方法を把握しない限り、恐らくデカブツを殴ることは出来ねェ。透き通っちまう)

一方(どういう原理が働いて俺がアイツ等の解析をしているのか分からない以上、何で俺だけ触れることも出来ねェのかって謎を解決するにも、もっと深く把握するには)

地鳴りが止んだ。腕の形も足の形も最早残ってはいない。一本の脚から一本の腕が生えた歪な化け物であった存在を、巨人がじっと見下ろしている

飛び散った肉を思わせる白いグチャグチャした物が、ビルに、瓦礫に、道路に人間大の小さな塊となって付着していて、一種カビの様にも見える

一方(アイツ等にもっと近づくしかねェ。下手すりゃ、次にあンなミンチになっちまうのは俺になるかもしれねェが、やるしかねェよなァ!!)

一際強く巨人を睨むと、そこへ一筋の、巨人にとっては相対的に細い光線が、向かっているのが見えた
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:14:30.06 ID:jx+LUubQP
敵は、アメリカの現体制、そして"イェス"

ならば、彼ら"銀貨30枚"にとってその目的重要な場所はニューヨークではない

寧ろニューヨークは、最大の障害であるアメリカ軍の目を向けさせる程度の場所である

最も重要な攻撃目的地とはもちろん、"イェス"が居る場所である

だが彼らは何処に"イェス"が在るのか、その情報は持ち合わせていない

他でも無い"イェス"側の情報封鎖によって満足に情報が得られない以上、それは仕方のないことだった

だが、在ると考えられそうな場所は予想がつく

その場所の一つが、CIA本部のあるバージニア州だった

同州にはペンタゴンも在り、首都のワシントンDCも非常に近い

言わば、現体制の、アメリカの中枢だ

ホワイトハウス・ペンタゴン・CIA本部の計3か所を、"銀貨"のメンバーと"負け組"が急襲をかけている

急襲前の、同じ"銀貨"のメンバーである青髪の操った爆撃機が行った超音速爆撃によって、既にワシントンDC都市圏も混乱している

母国の人間がその爆撃に在る程度巻き込まれてしまうのは心苦しいところであったが、爆撃の精度は安心の学園都市製である

問題なのはワシントンにしてもニューヨークにしても、ローマ正教による魔術師勢力であった

田中「アイツらにとってはアメリカの人間なんざ人間じゃないんでしょーね。殆ど無差別に人を巻き込んで攻撃してましたよ」

上条刀夜や御坂旅掛らが参加しているのは自らの上司達が居るCIA本部である

検問を強引に突破して、周辺を森林で囲まれた本部に近づき、表面的な施設を覆う広大な駐車場にあいた爆撃による大穴から、地下の施設内へと彼らは潜入した

旅掛「だが、それによってここへの侵入も楽だっただろ。……そらよっ!!」

言いながら、御坂旅掛は通路の角から腕だけを出し、ピンを引き抜いた手榴弾を投げ込んだ
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:14:59.71 ID:jx+LUubQP
爆発音が響き、しかしそれでも刀夜達を前に進ませまいと、奥からCIAの同僚たちでもある敵がこちらに向けて弾幕を張る

刀夜「だからこそ、早く"イェス"を倒してローマ正教の攻撃の正当性を失わせなければならないんだよ、田中君!!」

言って、単身、上条刀夜は地下通路の角を飛び出して弾幕の中を短く駆け抜けつつ、銃弾を応射する

小型で人間工学に基づいたシステムウェポンに装着させた筒型のグレネード弾が、刀夜達へ弾幕を張っていたCIAの人間を巻き込んで炸裂した

それを確認して、刀夜が手を振って"進め"と手を振る

刀夜「さぁ、今のうちに!!!」

30代も半ばを過ぎて、体の筋肉達も衰え始めたとは思えない動きを見せる刀夜に、田中は驚いた

そんな様子の田中を見て、隣を走る御坂旅掛はフフンと笑う

旅掛「ま、経験の差と言う奴だな。体は鈍っちゃいても、身につけた動きは忘れないってな。アレでも昔に比べたらずっと大人しいもんだ」

今の動きですら相当な無茶だというのに、これ以上とはどういうことだ

田中「先輩の20代はそんな無茶をしてたんすか」

旅掛「俺が見てる限りでも、普通の人間なら50回は死んでるだろう。だがなぜかあの人が致命傷を食らう事はなかったな」

何時でも目の前に敵が飛び出しても撃てるようにライフルを腰に軽く構えつつ、旅掛の後ろに10人弱の人間が続いた

田中「女は簡単に落とすわ弾には当たらないラッキーマンだわでホント羨ましい存在っすねぇ」

旅掛「運のいい人間ってのはいるもんだ。だが、こういうときはあの人の運の良さってのは武器になるだろ?」

田中「そりゃ運の悪い人といるよかずっとマシってもんですからね。今思えばロサンゼルスで生き残れたのも刀夜さんの運の良さのお陰なのかもしれないな。ホント、刀夜大明神サマサマかー」

笑いながらも、目の前に見えた人の影に反応して、二人は物陰に隠れて射撃を始めた

その後ろから少し遅れて付いてきた上条刀夜は息が上がっていて、残念ながらやっぱり中年だった
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:15:33.82 ID:jx+LUubQP
当てること自体は何ら難しくなかった。その標的はとても大きいのだから

病院の屋上から手を巨人へ向け、放たれた白い粒機波形高速砲は、しかし、巨人の肩に当ると霧散していく

麦野「あっちゃー、わかっちゃいたけど、凹むわー」

そうこぼした彼女は腕を下げた

対する巨人は麦野の方、つまり病院の方など見向きもせずに、ミンチになるまで叩き潰した最終個体であったものから目を離さない

今の彼女が放った光線は、彼女が持っている中で、限りなく限界水準に近い威力のものだった

しかも、的が非常に大きい為に標準の設定をかなり甘くした分、出力を高めたという代物

麦野(しっかし、どうすっかな。標準ゆるくした分、あのサイズでも胸を狙って肩って結果だし、これ以上標準は甘く出来ない)

麦野(効かないって訳じゃなさそうなんだけど、如何せん威力不十分だわ)

彼女がこんなことをするのは、一方通行と同じく、西に広がる山々がいとも簡単に吹き飛んでしまったのが見えた為

しかも、彼女たちは一方通行とは違い、自らを守る手段を持っていない

一方通行ですら、三又鉾から出る威力の低い方のに熱光線ではギリギリ何とか死なない程度に軽減できる水準なのだ

もし仮に、巨人の額から発せられる、それこそ戦略核を思わせるような威力を持った光の弾丸に巻き込まれたら、その威力から逃れる術を持たない

麦野(仲間を護るだとかそんな泣かせるようなもんじゃ無くって、自分自身の危機でもあんのよね)

麦野(だけど、今のは凄く過大評価しても当った"だけ"。蚊が触れたようなもの。私としてはダーツが刺さるくらいを想定してたんだけど)

麦野「せめて原発クラスの発電所でもありゃ、違うんだけど」

フレンダ「そりゃ無くはないんじゃない? っても結局、あのでっかいのが壊しちゃったか、昨日ので機能停止したとかってオチが待ってそうなワケだけど」

打止「なんだかんだで無傷のこの病院でも、復旧したばかりの電気供給は時折不安定になるから、それが普通だろうねってミサカはミサカは院内電気の不安定から考えてみる」

麦野「あんたはいいから病院に戻っときなさい。一方通行なら、最上階の窓からでも観れるでしょ? ってか地下のシェルター入っとけ」

打止「地下のは空間的に限りがあるから、ミサカはミサカは元気だから他の患者さんに場所を譲るべきって思う」

麦野「ハァ、ま、そうかもね」

打ち止めのことも気になりはするが、最大の問題はあの巨人だ

今でこそ興味が破壊よりも白い怪物に向かっているからいいものの、何時こちらを含んだ場所に牙を向けるかわかったものではない
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:16:04.72 ID:jx+LUubQP
眉間にしわを寄せてそんなことを考えていると、ドサドサッと何かが落ちる音と、それに続いて「ぐぇっ」と言う声が後ろから聞こえた

「アタタ……。空間移動は超楽チンで有り難いんですけど、これって嫌がらせですか?」

「自分から下敷きになってまで嫌がらせをする程馬鹿じゃございませんの。体の構成が若干違うので演算に少し狂いが出てしまいました」

「狂いって、空間移動能力が狂ったら確か壁の中に超生き埋めとかになっちまいますよね?! 運が悪かったら今のだって……」

「体の一部とお別れなんてことも有り得ましたわね。ま、この白井黒子、リスクはちゃんと考えて能力を使ってますわ。あらかじめ安全マージンを広めに取って、少し高いところを空間移動先に指定していましたし」

「え、ってことは2mぐらいの高さから落ちてこうなることは、最初から超確定してたんですよね。つまり私の下敷きになることは確定していたと、やっぱ超馬鹿じゃないですか」

「ぐ、ぐぬぬ」

同じ病室で寝ていたハズの二人が、振り返った麦野の目の前で体をさすりながら立ち上がる

麦野「……あんた達、もう大丈夫なの?」

絹旗「下の簡易シェルターに入ってろ的なことは超言われたんですけどね」

白井「あそこは入れる人数には限りがありますし、なにより外が気になりましたの」

フレンダ「ま、シェルターなんぞに入ってたら、下手すりゃなんもわからないままに死んじゃうかもしれないワケだしね。シェルターに入るのを避けるのは、わかんなくないかも」

絹旗「それで、あれはなんなんですかね?」

フレンダ「第3学区をまるまる吹っ飛ばして、ビーム出してなんでも溶かして」

麦野「挙句に妙義だか赤城とかの山を丸々吹っ飛ばす"何か"ね」

どんなとんでもない"何か"だろうか

取り留めが無さ過ぎる。そんな表情を二人は浮かべたが事実なのだからしょうがない

打止「なぁんにも分かってないんだよねって、ミサカはミサカは事実を限りなく簡単に述べてみたり」

麦野の腰と太腿に腕をまわして抱き付きながら、打ち止めが真面目に言った

白井「お、お姉さまッ?」

絹旗「へぇ、この子が噂の第三位のクローン超幼女バージョンって奴ですね」

打止「そうなのだーっって、アレ? 誰かが上がって来てる?」

そう言った打ち止めの視界の先に在るエレベーターの出入り口に、昇ってくる時の明りが灯った
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:16:40.61 ID:jx+LUubQP
「貴様の言うような、アックア言う名の者など、このロンドンには居らん」

川沿いのベンチに、360度ほぼ全てを屈強な騎士たちに囲まれたテッラが座っている

その顔にはずっと余裕があったのだが、返って来た返答を聞いて、ふぅん、と息を吐いた

「目的の人間が居ない以上、即刻立ち去るのが筋と言うものだろう」

テッラ「それは、あなた方からした筋でしょう」

ゆらりと立ち上がって、テッラは話し掛けてきた男を見下ろした

テッラ「アックアという名前の人間はいない、ですか。ならば、ウィリアム=オルウェルという名前を出せばよいのですかねー?」

「ふん。その様な名前を持った人間なら、このロンドンを探せば数人出てくるだろう。人探しなら、探偵でも雇え」

「だが、我ら騎士団や行政機関は貴様の手助けることはしない。貴様の求める人間など知らんのだからな」

慣れてきたのか、騎士はテッラへ高圧的になる

テッラ「ふむ。わかりましたよ、あなた方の言い分はねー」

「ならば去れ。我々は貴様の相手などしていられる程暇では――」

男の言葉を遮らんと、テッラは騎士の顔に自分の顔を近づけ、口を開いた。どうするか考えようとしていた手前、騎士の変に高圧的な喋りが鬱陶しかったのだった

テッラ「うるさいですねー。それ以上口を開けば殺しますよ。大体、最初に構ってきたのはあなた達でしょう?」

そう言うと、その騎士はたじろき、包囲の輪に下がった

空気は張り詰めているが、言葉を放つような者はいない。ようやく思考に集中できる
993 :本日分(ry 誰か、誰か私に次なる公開露出プレイの場所をお築き下され……!! [saga]:2011/03/07(月) 06:19:11.48 ID:jx+LUubQP
テッラ(ふむ、私の立場を見抜かれてしまいましたか。とにかく、面倒ですねー)

テッラ(最初から大人しくアックアを突きだす事はしないとは思っていたものの、居ないと言い切られては、取りつく島も有りませんからねー)

テッラ(こうなっては強硬策を取るのも手ですが、うーん)

考えることは出来るが、フィアンマからまだ暴れるなという指示を受けている以上、テッラにはそれが出来なかった

なので、視点を変えて、彼はアックアについて考える

テッラ(……よくよく考えてみれば、私がロンドンに来ていれば、彼の性格から恐らく、アックアの方から私に近づいてくるハズですよねー)

テッラ(それがないという事は、彼はここに私が来ているという事実を彼は知らない、と言う事なのでしょう)

テッラ(それなら、ここでこの者達とやり合って要望を強引に押し通すという最終的な方法以外にも、やり方は残っていますねー。それも酷く容易な方法が)

そう、単純だ。アックアがまだ自分のことを知らないというのなら、知らせてやればよいのだ。そうすれば、後は彼の方からやってくる

そうと決まれば、ここでこのような者達に囲まれていることに、何らメリットは無い

寧ろ邪魔になる。このままここで何かをしようとすれば、何らかの方法で横槍を入れてくることは間違いない

ならばひとまず、この者達の監視から離れよう

「優先する。―――大気を下位に、水を上位に」

テッラを取り囲んだ騎士たちの耳にその言葉が聞こえたかと思うと、その瞬間、テッラの目の前にあったテムズ川の水が爆発した

地球上あらゆるものを押さえつける様に働いている大気圧

その押さえつけているものの中で、テッラの意識している範囲の水だけが、その常識的な物理現象から解き放たれて、吹きあがったのである

予想外の動きに当然驚愕する騎士達

咄嗟に身を守るような術式を優先して発動させ、テッラを追うという意識が薄れた彼らの目の前で、水が常識を取り戻した時には、既にテッラの姿はそこから無くなっていた

994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/03/07(月) 06:42:10.58 ID:jx+LUubQP
相変わらず自分でスレが立てられない>>1です

安価指定しなかったら下手すると乱立しかねない(いやまぁ、そんな人気のあるスレでも無いだろうけどね)と言う事に気付きますた

なので>>995をゲットした人がスレを立てて下さると助かります

スレタイは、上条「なんだこのカード」って有れば、ゲットした人が自由にしていいですので

立てられなければ>>996で無理ポ宣言、>>997ゲットした人が立てて下さい。お願いします


何で1000間近まで攻めたんだろうね、馬鹿なんだね、きっと
まぁ、いざとなったらネカフェに行ってスレ立てします


佐天さんがどうにかなるまで、公開オナニーは止まらない………!!!!!!
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 09:45:22.80 ID:zvNE32At0
オッケェェェェェェェ
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 09:48:35.28 ID:zvNE32At0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1299458857/
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 09:49:40.35 ID:zvNE32At0
海原「ストーカーは駄目なんですか!?ニセモノでストーカーは駄目なんですか!!???」
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 09:51:28.45 ID:zvNE32At0
一方通行「おィ パイ食わねェか」
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 09:53:01.88 ID:zvNE32At0
御坂「やあやあ上条当麻!! この私と尋常に勝負だーーーぁ!!」
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/03/07(月) 09:57:22.31 ID:iZBTMXEDO
>>1000なら佐天さん爆散
1001 :1001 :Over 1000 Thread
 _,,..i'"':,  @    @   @
|\`、: i'、   @   @
.\\`_',..-i @   @ @
  .\|_,..-┘                    SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
                          http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/

1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
上条「なんだこのカード」 3rd season @ 2011/03/07(月) 09:47:37.55 ID:zvNE32At0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1299458857/

書くことがないからって埼玉の地名叫んでくやつなんなの @ 2011/03/07(月) 06:41:32.14
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1299447691/

しぇいむ☆おんの非公式続編orFDを作りたいスレ @ 2011/03/07(月) 03:02:57.09 ID:q7ZEcdr60
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1299434576/

なにか面白いハンネを考えてください。 @ 2011/03/07(月) 02:33:46.53
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1299432826/

【試される大地】妹に告白された!!!21【〜旅立ち〜】 @ 2011/03/07(月) 01:17:30.43 ID:bNm1g18do
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1299428250/

∞(*‘ v‘*)η…鳩 @ 2011/03/07(月) 01:13:13.66 ID:OUk8B69DO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1299427992/

おまいら俺の友達が糞を漏らして不登校になったぞwww @ 2011/03/07(月) 01:08:19.64 ID:aNX2V/pJ0
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美術館・博物館総合スレ @ 2011/03/07(月) 00:57:24.78 ID:/F2C2yeKo
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