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傷つけたからこそ知ることが出来た三葉 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:25:25.88 ID:EZ8yomYV0
多分キャラ崩壊












高校の卒業式の日の帰り道。
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:26:55.28 ID:EZ8yomYV0
これでもうなにかしらの理由がない限りここにはこないんだなぁと
自分らしくもない感情にひたっていると、
ムギが私を呼び止めた。
「2人で話したいことがあるの」なんて、ムギに真面目な顔で言われたら。
ちょっと期待してしまったことは墓場までもっていこうと思ってる。

用件はいたって簡単なものだった。

「話ってなんだ?ムギ」

「あのね・・・・梓ちゃんのことなんだけど・・・・」

「あずさのこと・・・・?」

「うん」

ちょっと神妙な顔をしてムギは私を見る。

卒業を飾るにふさわしく、例年よりも早く咲いてくれた桜の花びらは
ヒラヒラと舞って落ちては地面を汚していた。

きっと本人も知らないうちについたんだろう。
ムギの頭のてっぺんよりも少し横に桜の花びらがついていた。
気が付いたのだから私がとったほうがいいんだろうけど、
別にそれは私じゃなくてもいいような気もした。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:29:07.27 ID:EZ8yomYV0
ちょっと沈黙が続いた。
なにをそんなに口ごもる。
梓がいったいどうしたんだ。

もうけいおん部には私らの後続として憂ちゃんと純ちゃんが入ることは聞いていた。
梓が心配なことに変わりはないけど、それでも「続く」という保障はできたのだから
その不安と心配のいくらかは軽減したはずだ。

なんだよ、と私がせかすと、ようやくムギが口を開いた。

「梓ちゃん、泣かしたりしないでね?」

あぁ・・・なんだよ。
そんなことを言うために私を呼び出したのか、とちょっと内心あきれつつ
でも、そんなことを私に言うムギの気持ちも少なからず理解できた。

ムギから直接聞いたわけでもないし、梓からなにかを聞いたわけでもない。
私ごときにさとられるようなヘマなんてムギはしない。いや、しなかったはずだ。
もしかしたら、誰も気付かなかったんじゃないだろうか。
だけどそれでも、私がなんとなくうすうす感じとってしまったのは
きっと、私が相も変わらず―――ゆがんでいるからだろうな。

そして、
そんなムギがした3年間、いや梓と出会ってからの2年間でした唯一のヘマがこれか・・・・。

「当たり前だろ。むしろ私のほうがあずさに泣かされかねないよ、ムギ。
 あいつ、怒りの沸点ホントに低いんだもん」

「それなら、本当にいいんだけどね」

そういつものように穏やかな口調で言いながらムギは肩に落ちた花びらを払った。
頭についたのはまだ気付いていないらしい。
てか、私が泣くのはいいのかよ。



ムギは梓が好きだった。
ムギは否定するかもしれないけど、少なくとも私はそう思っていた。



どっちへ転んでも私の幸せはいつも、誰かの不幸せの上にある。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:33:04.82 ID:EZ8yomYV0
「ムギ、頭にもついてるぞ」

「えっ」

私に言われて頭の上を気にするムギ。
その手は全然見当違いの場所を手探っている。

「違う、そっちじゃない」

右手の人差し指と親指の中でうすっぺらい感触を、掴んだ。

「こっちだよ」


取り除いたのとほぼ同時だったろうか。
ムギはありがとう、と言って笑って私の両肩を掴み、私にキスをした。


1秒足らずの、口と口が触れただけのものだったけど、不意打ちすぎた。
きっと端から見ていれば、さぞかしキレイなキスシーンだっただろう。

「っ!?いっ、いきなりなにすんだよ、ムギっ!!」

口に残ったムギの柔らかさを拭おうとして、手を口元まで持っていって躊躇した。
流石に本人の前では、と思いとどまる。

「話に聞いていた通り、顔すぐ赤くなるのね」

えへへ、と唯みたいに笑いながらムギは言った。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:34:47.20 ID:EZ8yomYV0
「んなっ!?誰からそんなこと聞いたんだよっ!!」

自分で言っていて自分にツッコミをしたくなる。
他の誰かでもなんでもない。そんなこと言うのはあずさしかいない。

それには答えずにやっぱり笑いながらムギは私に言う。

「約束、ちゃんと守ってね?」

「・・・・ムギにこんな風にやられたら、守るしかないよ」

「絶対よ、りっちゃん」

「あぁ・・・・わかってるよ」

「あと、このことは誰にも言っちゃいやよ?」

「・・・・言えるわけないだろ」

自分の頬が熱を持っているのがわかる。

「ふふ、りっちゃん、キスしちゃっただけで顔赤くなっちゃうもんね」

その言葉を聞いて「やられたっ」っと思った。

きっとこの話を誰かにしようと内容を思い出そうとするたびに、
私は今しがたのことも思い出す。

文字通り、ムギは私の口を封じた。
今この場所で話したことも、話をした内容も、約束も、
すべて1秒足らずのキスで。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:37:46.21 ID:EZ8yomYV0
「そろそろ戻ろうか。あまり唯ちゃんと澪ちゃんを待たせても悪いから」

「あぁ・・・・先に帰っとけっていったけど、多分待ってるだろうしな・・・・」

なにもなかったようにムギがそう言って来た道を歩き出した。

「ムギっ」と、私が呼び止める。


振り向いたムギの顔はどう形容したらいいのだろう。
私に対して怒ってるのか、それともそれほど梓のことが心配なのか。
そんな顔をそのときムギはしていた。


「・・・・、約束、守るからな」

うん、とだけ返してまた歩き出す。
これ以上時間がかかったら2人に何かあったのか勘ぐられるような気がする。

私は少し早足で歩いて、ムギに並んだ。

横目で見たムギはもういつもと変わらなく思えた。
ドギマギしているのは私だけなのか。
結局、「ヘマ」だと思ったものすらムギの手の内だったのかもしれない。
未来のムギの手段に、金以外にキス以上のものがないように願うばかりだ。

舞い散る桜が、チラチラと視界の邪魔をする。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:41:27.58 ID:EZ8yomYV0
色々あったけど、無事卒業できてよかった。
けいおん部が私のせいで壊れなくて本当によかった。
澪とまた、話が出来るようになれてよかった。

今思ったこと、ムギになら言ってもいいだろうか。

そうムギの横で思いながら、それでもやっぱりムギにさえ言えなくて
そのまま桜の花びらを踏みつけて、校門に向かった。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:48:31.45 ID:EZ8yomYV0
○ ○ ○ ○ ○ 







ガタン、ゴトンと電車は揺れて。
窓にいつの間にか頭をもたれていた私の頭も
ワンテンポ遅くそのリズムとともに窓にぶつかってガツン、ガツンと音がする。

その痛みで目が覚めた。どうやら電車に乗ってすぐに眠ってしまったらしい。
乗り過ごしてしまったかと一瞬にして不安が体中を駆け巡ってすごい勢いで立ち上がったけど
どうやら目的の駅まではもう2駅分あるらしくて、
そのことがわかるとドッとまた私は身体を座席にあずけた。


今日は久しぶりの飲み会である。

ムギは仕事が忙しくてこられないらしい。
梓も仕事で、来ることができない。

今日の幹事は唯。
参加者は私と、そして澪。
純ちゃんと憂ちゃんぬきの、わたしらの代のけいおん部の飲み会。

窓の外を眺めながら、梓に帰りに買ってこいと言われたアイスのことを思い出す。
勝手に食べたからって、あそこまで怒らなくてもいいと思うんだけどな、うん。
それと「飲み過ぎないように」という小言も思い出す。
もっと言うと「遅刻しないようにね」とグチグチ言われたことも思い出す。
そして「仕事っていうか、今日徹夜の泊まりこみだから帰ってもいないよ」とカキオキされたメモも思い出す。

「今さっきの夢のムギは・・・高校生のときのムギか・・・・?」

意識をはっきりさせるために、耳につけっぱなしにしたイヤホンに意識を集中させた。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 09:50:15.50 ID:EZ8yomYV0
一方的に聴こえてくるのはブリティッシュロックを敬愛しているバンドの、
ちょっと風ざわりな言葉、だけどそれでも、変わらない愛を歌っている言葉。
私にこんな趣味はないから、梓が勝手に入れたんだろう。

「変わらないのを望むなら、最後に転調つかうなよな・・・・」

一人ごちをつぶやきながら、それでも聴くのをやめないのは、
それが梓が好きなバンドの曲だからだ。

遅刻をするなと言われてても、
お約束のように遅刻ギリギリの時間の電車に飛び込んだ私を梓はまたしかりそうだ。

窓の外にやった目に見慣れた風景が飛び込んでくる。
端からみればちっとも変わっていないこの街も、自分の足でその中を歩いてみると
少しずつ変わっていっていることに気がついて驚いて、そして少しだけ悲しくなったりする。
だからってそんな街並みに自分を重ねられるほど、そこまで歳を重ねたつもりはないけど。

約束は、守れてるかな?ムギ。

駅に着いたらすぐに走りだせるように、靴の紐を結びなおすことにした。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 10:16:05.64 ID:MtoyesgUo
律「踏みつけたからこそ摘むことが出来た四葉」
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1301712465/
               ↓
澪「手と手をつないで」
ttp://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1303580649/
               ↓
傷つけたからこそ知ることが出来た三葉
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304209525/

この流れでおk?
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 12:04:12.45 ID:EZ8yomYV0
>>10 なんだかありがとうございます。
   その流れであってます。貼ってくれて気付いたけどスレタイ間違えた。

スレタイ訂正 律「傷つけたからこそ知ることが出来た三葉」







○ ○ ○ ○ ○



はじめてあずさとしたときのことはよく覚えてる。
日付までばっちり。曜日は忘れたけど。
あれは、梓の卒業式の2日後。

2人で梓の卒業祝いにご飯を食べに行った。

「この日のためにバイトしたから贅沢していいぞ!」と威張って言うと
梓は、ただ「そっか」といって二へっと笑った。

「おいしい」と言いながら口をもぐもぐ動かすあずさを見て私は
これでようやく、もう気にしなくていいんだな、と思った。

1つ年下の彼女。けいおん部の先輩後輩。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 12:05:46.35 ID:EZ8yomYV0
そういうのが、「梓の高校卒業」ってので自分の中で一回チャラになった気がしたんだ。
大学は同じだし、まだまだ学生だけど、高校をでた以上身分は社会人の仲間いり。
敬語は半年ちょっと前からとっぱらって今では当たり前のものになった。
1歳差に妙な背徳感を感じていたことも梓にはナイショでごみ箱につっこむ。
人間、年齢じゃねーよ。年齢じゃ。

同じ目線。これからは、同じ目線で。
私はただ、1年だけ先の地点で梓を待ってただけ。
だから、追いついてきてくれたことに私は感謝をしたいんだ。

律、と私の名前を呼ぶ梓のことを私はうれしく思う。



ご飯を食べた後、あずさの家に行った。
親は不在。相変わらず忙しいらしい。
いいことなんだろうけど梓がたまにさみしそうだ。
そういうのを埋めるのも私の役割なんだろうけど。

梓の部屋は荷物があまりなかった。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 12:09:38.10 ID:EZ8yomYV0
「うっはー、超スッキリしてんじゃん!!」

「まぁ、やることなくて荷造りしちゃってたからね」

ふーん、といいながらベッドの淵に座った。

「なにか飲み物とってくる」

そういって梓は下に下りていった。


部屋の空っぽさにまぎれて込んで、
それでもベッドサイドのスタンドに居座り続けているムスタングを手にとる。

付き合ってからちょくちょく梓がなぜかギターを教えてくれた。


「いや、だから私はそういう細かいこと苦手なんだってば・・・」

「リズム感鍛えるのにちょうどいいんじゃない?」

「ぐっ・・・・ギターを弾くことでリズム感って鍛えられるのか・・・・?」

「ほら、ホームズだって運動神経鍛えるために拳銃やってたし」

「は?なにそれ。てか、ホームズってなんだよ」

「はい、これもって。こう!」

「おわっ!?いきなり渡すなよ。落とすだろーが。大切なものだろ?このギター」

「落としたら律の頭の上に私の拳が落ちるよ」

「それはやめとこうな」

「それに」

「それに?」

「律だから大切なギターもさわらせるんだからね」

「・・・・」

「・・・・どうやって持つんだって・・・・?」

「こうだよ」

「顔赤いね?」

「うるさいよっ!」


・・・・・少しはギターの構え方もいたについてきただろうか。
いや、1年ちょっとじゃまだまだだな。
唯には遠く及ばない。

アンプとつながっていないムスタングで私が弾くのは、いたって普通のコード進行。
歌詞はきっと、私の中の劣等感。

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 12:12:35.71 ID:EZ8yomYV0
ここまでで。だらだら書くので不定期進行です。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/01(日) 22:12:06.16 ID:EZ8yomYV0
ドアの向こうでとんとんとんと階段を上る音がして、いったん静かになってから
ドアが開いて、梓がお茶とお菓子をもってきた。

「お、ポテチ?」

「うん、ポテチ。下にあったから。お母さんが買ってきてたのかな」

「え?食べていいの?」

「たぶん・・・・」

「さっき食べてきたから、おなかすいてないけどな」

そういいながら指はD→C♯mと動く。
この指の移動が私にはまだむずかしい。

「まぁ、いいじゃん。一応ってことで・・・・」

ベッドの近くに置いてある小さめのテーブルに持ってきたものを置いて
梓は私の横に腰掛けた。
近い。

「だいぶ手、動くようになったね」

「そうかな」

「最初のときと比べたら、ね」

「あぁ・・・・そりゃ最初のときと比べたらな。Fとか押さえようとするだけで一杯一杯だったし」

「そうだったね」

そう言って梓はクスクス笑った。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:17:46.17 ID:EZ8yomYV0
私は曲を弾き終えた後の唯みたくジャカジャカジャカとピックを速く動かした。

ジャンっ!

ピタッとやめた。
ピックをヘッドにピックをさして、そのままスタンドにむったんをお返しする。
また時間をもてあまさずにすんだ。いつもありがとう、むったん。
そして今度からよろしく。

「もう弾かないの?」

「うん。うまいやつの前で弾いたってむなしくなるだけだからな」

「でも、私、りつの弾くぎこちないU&I好きなんだけどな」

「ぎこちない言うなよ。ほめるかけなすかどっちかにして・・・・」

「じゃあ、へたくそ」

「はいはい。よくわかってるから言わなくていいよ」

そっと梓が距離をつめてくる。

「でも、好きだよ」

「いや、わけて言われても、返答に困るんだけどね」

「りつ」

左ももの上にあずさの左手が置かれて、そのままキスをされる。

2月に入ってからというもの、あずさからキスされることが多くなった。
手をこっそり繋ぐようになったのもだいたい去年の同時期で。
もしかしてばれてるんじゃないだろうか、
このキスはあずさの私に対する1年遅い遠まわしな当てつけなんじゃとちょっと怖くなる。


もし本当にばれていたら、
梓はどんな態度を私にとるんだろう。
別れることになっていたんだろうか。
それを知らないフリし続けるんだろうか。
それとも、こんなふうにキスをするんだろうか。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:22:31.77 ID:EZ8yomYV0
「とって」

素直にカチューシャをとる。すぐに垂れてきた前髪が視界の邪魔をする。
梓にもとれ、といつもみたいに言いたいところだけど、
今日、あずさは最初から髪を結ってはいなかった。

「かっこいいし、かわいいね」

「なにそれ・・・・喜んでいいのかどうかわからないんだけど」

「好きってことだよ」

「 、そうですか」

すっごくドキドキして視線をどこに持っていけばいいのかわからなかった。
あずさ以外に視線を固定しようにも、この部屋に物が少なすぎた。

「こっちむいて」

向くと、またキスをされた。
今度は1回で終わらなかった。
唇をついばむように、短く、何度も、何度も。

キスはもう何回もしてきたけど、やっぱりシチュエーションって大事なわけで。
通学路や誰もいなくなった部室とか、それなりに緊張はしたわけだけど、
やっぱり、ベッドのある部屋で彼女と2人きりってのはどんな場面にも平気で打ち勝つ。
ついでに、この家には2人以外に誰もいない。
心臓、飛び出すんじゃないだろうか。

やっと離れた。あ、よだれたれた。
よだれを拭きながら隣でなにやらめずらしく顔を真っ赤にしている彼女に尋ねる。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:26:48.42 ID:EZ8yomYV0
「あのー、あずささん?」

「・・・・ん?」

「これって・・・・その、今日いいってこと・・・・ですかね?」

「・・・・うんって言ってほしい?」

「うーん」

いざとなるとためらってしまうのは一体どうしてなんだろう。

「へたれ」

「う、うっさいわっ!」

またあずさは私を見てクスクス笑う。
そして、なんでもないように言う。

「お風呂入ってくるね」

そしてスタスタとドアまで歩き、本当に行ってしまった。

1人きり、いや、またむったんと2人きりにされた。
でも、今度はむったんと遊ぼうと思えない。

だーっ、と叫びながらそのままベッドにねっころがった。
この部屋の天井を眺めるのはこれで何回めだろうか。
それなのに、なんだかいつもと違って見えるのは
私がよっぽど緊張しているからだろうか。

左手を目の前でグーパーグーパーする。
最近走らなくなったね、というムギの声を思い出す。
へこんだ指先の弦の跡と、それに伴う指の腹のぷにぷには、私の新しい勲章。

私の人生で、いつだって「はじめて」は澪とだった。
このままここに居れば、ずっと前に別れた平行線がもっと遠くなる気がした。
それでも私はそのままで居続けなきゃいけない。
自分でそう決めたから。

「・・・・このまま、寝たふりしようかな・・・・」

「・・・・なぁ、みお」

この部屋に似つかわしくない2文字をむったんだけが聞いた。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:32:33.24 ID:EZ8yomYV0
戻ってきた梓と交代に私はシャワーをかりた。

わしゃわしゃ泡立つシャンプーの匂いがまさしく部屋をでるときにすれ違った梓のそれで。
ただそれだけで、さっきのためらいはどこに行ったのか。
もう、どうにも興奮してしまった。
1人で「おぉおおお〜〜〜とか言ってた。


自分のTシャツやらなんやらが他人の家にあるというのはなんとも。
あずさの母さんは、梓のサイズではない服を見てどう思ってるんだろうね。
ちゃんと隠してくれてることを願うよ、あずさ。

部屋に戻ると、髪を乾かした後だろう梓がむったんを弾いていた。
私の姿を見て「あ」と言い、むったんをスタンドに戻す。

「今の曲、聞いたことないんだけど・・・・」

「あぁ・・・・、こないだでた新譜だから」

そういって、テーブルの隅っこにおいてあるCDを指差す。
左手で頭を拭きながら、右手でそのCDを取った。

「あー・・・・前に好きって言ってたバンドか」

「うん。2年ぶりにアルバム出たから買っちゃった」

「あずさが日本のバンド好きってなんかめずらしいよね」

「そうかな?」

「うん。だっていつも参考に聴けって渡してくるやつって大体洋楽だし」

「あぁ・・・・そうかも・・・・」

「てか、耳コピ?」

「耳コピだけど」

それがなにか?という顔を私に向けてくる。
その顔がむしょうに可愛く見えて、CDをあった場所において傍によっていって抱きしめた。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:37:58.17 ID:EZ8yomYV0
背中に手を回すと、回し返してくれた。
受け入れてくれる、安心感。
鼻のそばの髪からさっきのシャンプーの匂いがする。

そのままベッドに押し倒すと、下から

「髪乾かさないの?」と聞こえてくる。

「そのうち乾くよ」

「髪痛んじゃうよ?」

髪の心配かよっ!!と思うけど、それはきっとあずさの照れ隠しの一種。

「髪乾かしてる間にきっと、今の勇気全部吹っ飛んでへたれるけどそれでもいい?」

「じゃあ、残念だけど髪痛んで」

肩にかけていたタオルを両手で引っ張られる。
りつ、と言われながら、キスをしてくれた。

きっと大丈夫。澪じゃないからって、なにも怖いことはない。
あずさ、と言いながら私もキスをした。




最中に梓は泣いていた。
気付いたときにはもう泣いていたから、いつから泣いていたのかはわからない。
私は梓の顔とは違う場所を見ていた。

「今の痛かったか?」と聞くと、そうじゃないよ、と泣き声で優しく返された。

「大丈夫か・・・・?」

「うん、・・・・大丈夫だから、続けて・・・・」

「わかった・・・・」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:42:24.21 ID:EZ8yomYV0
指で入れるとき、梓が苦痛に顔をゆがめた。
実際、破れるというか広げるという感じだったけど、
あの感触はあれだな。いや、全然たとえられないけど。
まさしく「T字路のど真ん中にある蓋のあるマンホール」だ。
・・・・体験したのに知ったかぶりみたいになってるってどういうことなんだろうかね。

肩でゼイゼイ息をしながら

「次は私がしてあげようか・・・・」と梓が言った。

「いや、私は今度でいいや・・・・疲れてるだろ?」

「ん・・・・でも・・・・」

「また今度よろしく」

そう言って、梓にキスをする。

何回も何回もキスをする。
近づいてるのに、それでも遠ざけてる。
それを気付かれないように何回も何回も名前を呼んでキスをした。
りつ、りつ、と梓も何回も私の名前を呼んだ。

それから2人で抱き合いながら眠った。
緊張したのか、疲れたのか、梓はすぐに眠ってしまって。
私も、やっぱ緊張でそうとう疲れた。梓の横で、ゆっくり目を閉じた。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:46:32.65 ID:EZ8yomYV0


夢を見た。
長い髪の女の子がしゃがんで泣いている夢だ。
私はその子の背中を後ろから眺めていた。
距離にしてほんの1メートルあたりのところで。

どうして泣いているんだろう。
この子は一体、誰だろう。

泣き声はおさまるどころか、だんだん大きくなっていく。
声をかけようかどうか悩んでいると、その子が泣きながら振り向いた。

その顔を見た瞬間、私は驚きで息を飲む。
女の子が、私に何か話しかけようと、口を開いた。



その時目が覚めた。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:50:47.13 ID:EZ8yomYV0
妙にリアルな夢で、心臓がバクバクしていた。
でも、それよりももっと驚いた。
後ろのほうから、すすり泣く声がした。
一瞬、これは夢の続きかなのか、もしかして幽霊!?むったんがしゃべった!?とわけがわからなくなったけど、
Tシャツの後ろ側をギュっとつかまれている感触がして、これは夢じゃないと知る。

心なしか、背中が冷たい。
声を殺していたんだろう、
それでも、わずかな隙間からもれた声が部屋中に響いていた。

起きていることを気付かれないように、ゆっくりと息をする。
こいつが泣いていたから変な夢を見たんだな・・・・
というか、いつから私は梓に背を向ける格好で寝てるんだ。
寝る前は目の前に梓の顔があったのに、今、目の前に見えるのは梓の部屋の真っ白い壁だ。

梓はなにかをボソボソと言いながら泣いていた。
何を言っているのか、聞き取れなくて耳をすます。
ひっく、ひっくという音の中で、聞こえた音の断片をつなぎ合わせていく。
それが文章になったとき、私はどうしようもなく泣きたくなって息がつまった。



「みおせんぱい、ごめんなさい」



そういいながら、あずさは1人で泣いていた。

手を差し伸べることもできないで、梓に背をむけたまま
私は寝たフリをした。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/01(日) 22:51:26.48 ID:EZ8yomYV0
よし。今日の分はこれで終わり。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/02(月) 20:48:51.69 ID:VxgqmSmWo

切ないなぁ
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/05(木) 05:38:02.29 ID:ASCslwcQo
このシリーズの雰囲気が好きだ
続き待ってるよ
27 :1です [sage]:2011/05/07(土) 00:20:55.41 ID:msP+h9lc0
なかなか更新しなくてごめんなさい。

ちょっとGWなもんで私的企画「澪ちゃんごめんね3部作」というものをしてまして。
武者修行中です。
あと1つで終わるので、それが終わったらここの更新に手をつけます。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 02:24:26.60 ID:+UZ2IdUSO
>>27
その企画ってどこかでSSか何か書いてるんですか?
もしそうなら見てみたいです
29 :1です [sage]:2011/05/07(土) 09:29:40.87 ID:P2bfdxCDO
>>28
SSですね。

一応3つ中2つは投下済みです。

澪「始発列車」
澪「私とムギと夏の海、夏の終わりのアニベース」

もしよかったら読んでみてください。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 10:18:04.34 ID:wqVS8GTno
>>29
澪「始発列車」 見てたよ!あの感じすごい好きだ
またリアルタイムで見つけられればいいけど、3つ目も楽しみだ
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 12:01:03.47 ID:0zDHVvado
両方とも面白かったよ
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/07(土) 21:39:03.83 ID:+UZ2IdUSO
>>29
まとめサイトで探してみます
このスレのSSの続きも楽しみに待ってます
33 :1です [sage]:2011/05/07(土) 22:58:05.22 ID:P2bfdxCDO
>>30 リアルタイムで見てくれていた方ですか。
始発列車はすぐ叩かれて荒らされるだろうと思ってたので、
支援が本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

>>31 両方ですか。いやいや、ダメ出してくれてもいいですよ!
始発列車読みにくいし中身ないよバーカとか。

>>32
わざわざありがとうございます。
四葉もそうだったんですが、三葉も書いてると澪のことが大好きになります。
期待にはそえないと思いますが、頑張ります。


あと、ちょっと訂正というか、
自分の言葉が足りなかったな、と思ってますが
澪「手と手をつないで」は四葉の半年後って設定というか
四葉のおまけで書いた律と梓がキャッチボールしている話の半年後の設定っす。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 23:46:43.06 ID:/YiF/qzr0

○ ○ ○ ○ ○


唯が予約した居酒屋は駅から走って5分くらいのところにあった。
近いようで、遠い。

電車が駅へ着き、ドアが開くと同時に駆け出す。
駅の構内はやたらと人が多かった。
別に少しぐらい遅れたって、あの2人は許してくれるだろうに。
どうして私は走っているんだろうか、と走りながら思った。


別に今に不満があるとか、梓に対して不満があるとか、
もっと先を目指してるとか、そういうことじゃなくて。
ただ単に思うんだ。
これからどうなるんだろうって。
これからどうなっちゃうんだろうって。
どうしてこうなったんだろうって。

そうすっとちょっと自分から意識をそらしたくなるんだ。
ほんの少しだけ。
自分のこと以外のことを考えたくなんの。
で、考えはじめるわけだよ。

最初に浮かんでくるのは梓のこと。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 23:47:14.78 ID:/YiF/qzr0


さかのぼれば、高校時代のツインテールの梓とか。
唯に抱きつかれてまんざらでもない表情をしていた梓とか。
一人にしてしまったときの淋しそうな顔とか、声とか・・・ほんと、色々。

正直、好きな部分ばかりじゃないし、他人だから趣味は当たり前のように違う。

私がドラムを叩くように。
梓がギターを弾くように。
私がキャベツを好きなように。
梓がたい焼きを好きなように。


そうだ。たい焼き。
なんであんな甘ったるい魚を好んで食べるのか不思議だけど、
たい焼きを食べているときの梓は見ものである。
とても幸せそうに食らう。
たまにアンが少ないからあの店ではもう買わない、とふてくされる。

ふてくされつつ、たい焼きには罪はないと言って食べる。
私がそれを見るのが実はとても好きだけど、
やっぱりそれは梓がたい焼きが好きじゃなきゃ見ることができなかった梓の側面だから。

うまくまとまらないけど、そういう風に細々と、
なんやかんやでだいじょうぶ、私は梓が好きなんだと確認をしてたりする。

その次に、今日聞いた音楽のこととか、仕事のこととか。
明日の晩は私が食事を作らなきゃいけないからなにを作ろうかとか
とかさ、考えてさ。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/10(火) 23:56:48.66 ID:/YiF/qzr0
最後に少しだけ思い出すんだよ。
澪のこと。
ちょっとだけさみしそうな顔してさ、でも、優しく笑いかけてくれるんだ。
私の中の想像上の澪はさ、いつも。

・・・・うん、想像上の澪はな。
ほんと、なんつーか、想像ってのはすんげー簡単に現実にひっくり返されるよな。
びっくりしちゃう。りっちゃん、びっくりしちゃうよ。

いつだっただろうか。
たまたま仕事帰りに街を1人でフラフラしていたときだった。
梓と今日のむ酒でも買って帰ろうか、とか、本当に、気楽に歩き回っていたんだ。

ふと、通りの向こうに目がいった。
なんでだかはわからない。
そういうのを他人はいろいろと、
自分の都合のいいようにつじつまをあわせたがるんだろうけど
本当に偶然だったんだ。
その街にいるなんて知らなかった。探すつもりもなかった。


澪がいた。
見間違えるわけなんてなかった。
あれは、間違いなく澪だった。

声をかけようか、迷ったけどやめた。
男が隣を歩いていた。私の知らないやつだった。
幸せそうに笑っていた。

そっか、とそれを見て思う。
なんでだか、ものすごく逃げ出したい気分だった。
でも、一体どこに。

どうしてあのときあんなにも、裏切られた気分になったんだろうか。
どうして澪とあの男を見たときから、こんなにも澪のことが気になるんだろうか。

私には、澪を責める資格も権利もない。まして・・・。

まぁ、いいや、と思う。
こうやってまた考えることを放棄する。
それはとっても楽なことで、だけど妙にそれが私を焦らせていく。

とにかく、今はただ、走ることに集中することにした。
37 :1です [sage]:2011/05/12(木) 22:21:27.78 ID:DMIHdf8J0
ちょっと書き進めててこの話にこの文の書き方はダメだとわかったので
このスレはHTML化依頼を出そうと思います。

次はちゃんと全部書き溜めが完了した後に投下するつもりです。
その際、スレタイを変えるつもりなので
ここまで見てくださっていた方がもしいましたら
もう頭から消し去ってください。

では。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/05/13(金) 00:53:49.70 ID:/9HhrPewo
ちょ……
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/13(金) 02:04:36.50 ID:PlCQLOjwo
えええ
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