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ネミッサ「いつかアンタを泣かす」 ほむら「そう、期待しているわ」 -
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1 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:43:36.53 ID:yAr9XARu0
「魔法少女まどか☆マギカ」×「デビルサマナー ソウルハッカーズ」
のクロスSSです。
自分がmixiの日記上でアップした小説を書き直しアップいたしました。皆様に何かしら残っていただければ幸いです。
・地の文が長いので苦手な方はご容赦を。
・台本形式ではなく、普通の小説を意識しています。
・mixiのときより読みやすくなるよう工夫しました。
・書き溜めてあります。即興ではありません。
・全体でメモ帳にして454KBほどです。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1357299816
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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■ 萌竜会 ■ @ 2025/07/15(火) 00:39:16.20 ID:qbAcbrETo
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(安価&コンマ)コードギアス・・・ @ 2025/07/13(日) 22:27:49.60 ID:9f2ER2kw0
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今日の疑問手 @ 2025/07/13(日) 19:07:12.02 ID:ZqmtXqZ3o
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旅にでんちう @ 2025/07/13(日) 13:03:56.58 ID:cdEpW45FO
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2 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:46:32.75 ID:yAr9XARu0
これは、祈り
ささやかな願いを叶えるため
無間地獄を走る少女への
ちっぽけな
祈り
序章
【あけみほむら】
消えたくない。
消えることが使命ではあったけれど、それを受け入れたわけだけれど、頭の片隅にあったわがままがずっと残っていた。
発端は恐怖と罪悪感。今にして思えば、恐怖が先にあって、罪悪感を言い訳にしていたように思う。
仕方ないじゃない。消えたくないよ、誰だってさ。
だから、今銃口を向けられて平謝りしてるのた当たり前なんだよ。多分。
「まず、貴女の名前から聞きましょうか」
「あ、アタシはネミッサ…です」
「そう。なら次の質問。貴女は何者?」
「えー、と。信じてもらえるかわからないけど、悪魔、です」
黒髪の少女はその意味不明な回答に苛立ったのか銃口を近づけて威嚇する。銀髪の少女はそれに驚き慌てた。なぜ銃をこんな少女が持っているのか。それを使いこなし、相手に威圧感を与えることができるのか。ネミッサにはそれが理解できなかったが、そんなことは今は口にする疑問ではなかった。今この場をどう切り抜けようか、ネミッサにはそれが一番解決しなければならないことだったから。
3 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:48:19.43 ID:yAr9XARu0
ことは数分前まで遡る。
病室の個室で目覚めた黒髪の少女は、一人身支度を整えていた。
ストレートの長い黒髪はさらさらと美しく背中を流れる。その整った顔を含め異性どころか同性すら振り向かせるほどだが、残念ながら張り付いた陰鬱な表情がそれを損なっている。
年齢は、中学生だろうか。その美貌と細い指先に似合わない物々しい銃器を慣れた手つきで手入れをしていた。まるで、どこかの傭兵が戦場に向かうような手慣れた仕草で、作業を進めていた。持ち物といい、その端々の身のこなしといい、尋常な中学生のそれとは大きくかけ離れてた。
続いて、作業をしてたテーブルの上に装飾された宝石のようなものを並べる。似たような装飾のものが幾つかあり、その数を数えているようだった。
「これが一番多い。当たり前だけど」
並べた宝石をしまうため手を伸ばしたが、ふとその手が止まる。
病室にはありふれたテレビがある。当然、昨今の地上波のデジタル化に伴い、個室のテレビもネットワークに繋がっている。少女は独り言をしゃべるテレビを無視しながら作業をしてたが、あることに気づいた。
テレビをつけた覚えが無いことに。
不審に思い、テレビを消すためリモコンを探そうと立ち上がった瞬間、それは起きた。
突然の閃光はテレビ画面から。突然の出来事に少女は反射的に手入れを終えた銃を取り構える。セーフティーを外すなめらかな動きは場数を踏んだ戦士のものだった。さすがにすぐに引き金を引くことはない。
閃光とともに現れたのは光の球体。少女は油断なく銃口をそれに狙いを定める。ふわふわと頼りなげに浮かぶそれは突然でたらめに病室を飛び回る。あまりに不規則な動きに少女は身をかがめてそれを避ける。
4 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:49:05.04 ID:yAr9XARu0
「きゃっ!?」
身のこなしや表情と違う、年頃の可愛らしい悲鳴を上げつつ床に身をかがめる。その視線の先にはテーブルに並べた宝石―グリーフ・シード―がある。そのなかの一つに球体はぶつかった。その衝撃で他のグリーフ・シードは飛び散り床に散乱する。幸い砕けるようなことはなかったが、球体がぶつかったグリーフ・シードはそのまま球体に包まれて天井近くまで持ち上がり静止すると、ゆっくりと床に降りてきた。少女に見る間に光る球体は徐々にその形を変え、女性のシルエットに変わる。背丈は少女よりやや高く、髪はショートボブの銀髪。体にフィットした、黒いレザーのような服装が長く細い肢体を包んでいた。
「あーっ! アタシはぁー、帰ってきたー」
大きく伸びをする姿は猫を思わせた。そんな自由な猫のように黒髪の少女に気づかぬまま自分の姿が写る窓ガラスに見とれていた。
「あー、あー♪ 声だせるのはいいねー。あれ、ヒトミちゃんのときより髪短くない……? ま、いっか」
「動かないで頂戴、ゆっくり振り向きなさい」
ガラスに反射する自分の姿に気を取られ、黒髪の少女の行動に全く気が付かなかったらしい。銀髪に押し付けられた銃口。美貌の少女をガラス越しに確認すると、指示された通りゆっくり振り返った。
5 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:50:42.89 ID:yAr9XARu0
「大事なものを勝手に使ってごめんなさい!」
ネミッサは平謝りするしかなかった。いくらなんでも人の物を勝手に使ってはいけないことくらいは学んでいる。だがまさか銃口を向けられるほど大事なものだとは思っていなかったが、その判断は少し間違っていた。
「だから貴女は何者なのか、説明なさい」
油断なく睨みつけながらの尋問に、ネミッサは必死に説明した。正直、スキがまるでない。
「本当に悪魔なんだって! ちょっとネットワークに隠れてたの。ここに来たのは偶然
も偶然。勝手にあれを使ったことは謝るから許して」
「……魔女、ではなさそうね」
魔女という単語に反応したくなったが、ネミッサは堪えた。『黒き魔女』などと呼ばれたこともあったが、うっかり似たようなものだと言えば敵愾心を煽るだけだし、厳密には違うだろうと余計なことは言わないことにした。なんでこんなことで悩まないといけないんだろうか。自分の頭の悪さに辟易する。
何とかこの場を切り抜けようと、頭をフル回転させる。こんな少女がなぜ拳銃を持っているのだろう。戦う理由があるのだろう。その、魔女というものと。
「よくわかんないけど、その魔女ってやつじゃないと思う。それとアンタ、戦ってるの?」
「私が知っている限り、魔女とは意思疎通ができない。貴女はそうではなさそうね」
「なら、魔女じゃないんだよね。それを下げてもらえない? さすがに怖いよ」
一定の距離を取る。ネミッサが単純に飛び掛かりにくいよう間にテーブルを移動させる。警戒レベルを下げたわけではないようだ。
ひりつくような緊張感にネミッサは耐え切れず、差し障りないことをたずねた。
「ね、名前、聞いていい?」
「それで、貴女の目的は」
「(取り付く島もないわね)……死にかけてたところを逃げてきたの。そんなものない」
「信じると思う?」
「ですよねー。はあ、どーしよう」
しばしの気詰まりする沈黙ののち、少女は立ち上がる。ネミッサは気づかなかったが時計を見て時間を気にしての行動だ。埒があかない苛立ちがありありと表情に表れてた
6 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:53:01.22 ID:yAr9XARu0
「アンタに害を及ぼすつもりはないわ。むしろお詫びしたいくらいなんだけど」
「……面会時間が終わるわ。長居されると詮索される。そろそろ出ていって」
「……ホント聞く気無い。わかったわよ。けど、アンタ相当な訳ありでしょ」
端正な顔にシワが寄る。浮かんだのは微かな怒りと、当惑
「大体あれでしょ、さっきの宝石みたいなの、『魂』だよね」
鈍いネミッサでも感じるほどの殺意が、この華奢な少女が放っているのが信じられなかった。ひりつくような明確な憎悪と嫌悪が病室を包む。だが同時にそれは、少女がネミッサに関心を持ったとも取れる。好きの反対は無関心という。では怒りであれ好意であれ、無関心でない限り会話の余地があるということだ。少女は『なぜネミッサがそれを知ってるのか』に関心を持ったのだ。
「だって魂大好きな悪魔だもん、みりゃわかるわよ。ただ、だいぶ変質させられているみたいだけどね。私らだって、あんな禍々しいことしない」
「人間を食い物にするのなら同じことよ」
「そういうやつもいるよ。アタシも今そうしたし。……人間の仲間がいるから、自分がやったこと許されることじゃないと思ってるよ。でもさ、それしてはアタシの謝り方軽すぎたよね、ごめん」
少女は目を大きく見開いた。歯を食いしばり、表情が崩れそうなのをこらえていた。同時にここが交渉の余地がある、誠に勝手な話だが、ネミッサはそう感じた。もう怒らせてやれと投げやりに言葉を続ける。
「さっきの、アンタの知り合いの魂でしょ」
今度こそハッキリした感情が、少女から放たれる。だがネミッサも退かない。いまここで諦めたら、願いは果たせないと、信じて疑わない。視線を逸らさず、じっと見つめ返す。
こんな表情でなければ男女構わず憧れたであろう美貌は、見るも無残に歪んでいる。怒り、憎悪、そして、悲しみ。だがそれは徐々に収まり、鉄面皮に陰気な目つけて見つめ返す。その切替は見事と言えた。
「そんなもの、どうだっていいわ」
ここが分水嶺だっただろうか
「そんなものを、大事にとっとくはずないでしょ」
沈黙。
「アタシは魂を食ったけど、思いまで食い散らかしたわけじゃない」
沈黙、そして少女は唇を噛み締める。血がわずかににじむ。
「多分思いは同じ。アンタの力に、ならせてもらえない?」
少女の頭なのかは怒りと、それを押さえつける損得勘定が渦巻いていた。『いままで』こんなことは経験がなかった。こんな闖入者の存在など経験したことがない。そしてそんな人物に秘密を暴かれることも。
だが一方で、自分の状況を打破できるものかどうかの計算もあった。だが、今までの繰り返しの中で、予定外のことが全くなかったわけではない。それらを観察し、利用できるなら利用し、できないなら排除してきた。どうせ、失敗しても最悪自分はやり直せるわけなのだから。
「いいわ。貴女が何者であれ……利用させてもらう。せいぜい役に立つことね」
ようやく銃口が下がった。ネミッサは溜めていた息をようやく吐いた。
7 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:55:27.13 ID:yAr9XARu0
(テレビ画面から出てきて、それを悪魔以外にどう表現すればいいんだ)
ネミッサは心のなかで愚痴る。
「信じないのは無理もないけど、信じてくれないと話進まないんだよね。いっそ目の前
で電撃カマせばいいのかな?」
「そんな手頃な奇跡は間に合ってるわ。協力は考えておく。面会時間はもうとっくに過ぎてるから、今日のところはここまでにして頂戴。明日、貴女が役に立つか確かめる。いいわね」
「ふぅん?」
「魔女と戦う力がないと協定は無理ね。諦めて頂戴」
ここで具体的に落ち合う場所や約束をしない時点で、彼女はネミッサにまるで期待していないことがわかるが、ネミッサは気付いてもいない。お気楽と言えた。
ネミッサにはこの声が虚ろに聞こえてならない。全てを諦め切った声。本来ならその煮え切らない態度は好ましいものでないどころか、嫌悪の対象でもある。だが、そこに不思議と腹が立たないのは、ネミッサには外見とは全く別のものが見えているからだろう。
髪は三つ編み、顔を隠すようにかけた眼鏡とそれを覆い隠す前髪。背中を丸め、両手を前で組み、おどおどしている少女。病気がちな体を憂うため自信がなく、顔を伺うような上目遣い。今いる凛々しい美少女とはかけ離れた弱々しい姿が、ネミッサにはちらちら見える。
「あのさ、協力持ちかけといてなんだけど、何その言い様。気に入らないわね」
「奇遇ね、私もそう思うわ。協力したくないのであれば別にかまわないわよ」
「わ、わかったわよ。協力させてください……」
「よくわかってるじゃない。それと、私は『暁美ほむら』よ」
「そう、よ・ろ・し・く・ね。ホムラちゃん」
ほむらは一瞬苛立った顔をしたが、しっしっとばかりに手を振り追い払った。
(どうしてすぐに出ていかなかったんだろう。本当に私に協力したかった?)
頭を振り、その思いを振り切る。もう誰も頼らない。そう決めたのだから。
ただ今までの繰り返しの中で、こんなイレギュラーが発生したことはない。もちろん何もわからないが、わからないなりに利用してやろう。そう思った。
もちろん罠の可能性もある。だがそれでも構わない。自分の目的を果たすだけだ。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2013/01/04(金) 20:56:46.74 ID:n9ABM1yCo
新章は近々始めますが、それにあたって作者からお願いがあります。
といっても、単に「作品の連載中、読んでる人は随時コメントをして欲しい」という、それだけです。
連載が終わってから纏めて、とかではなくて、“連載中に”コメントが欲しいのです。
ここでもmixiのコミュニティでも再三言ってることですが、私はSSの作者として、
「SSとは読者とのインタラクションの中で作っていくものである」というポリシーを持っています。
つまり、読者からの声がなく、作者が淡々と書いて投下しているだけという状況では、全く意味がないということです。
それなら「書かない方がマシ」といっても大袈裟ではありません。
特にこの都道府県SSは、本来3年前に終わっている作品を、需要があると言われて新たに書き続けているものです。
投下しても1件2件しかコメントが付かないのでは、その「需要」があるのか否かさえ曖昧になります。
全ての読者にレスを求めるのは酷な事だと思いますが、出来る限り「ROM専」というのはやめて下さい。
少なくとも、一夜投下する度に10〜20件くらいのレスは付いてほしいです。
この数字は、私の考える、SSが正常に連載の体裁を保てる最低限度のレス数です。
連載を続けるにあたり、そのことだけは、皆さんにお願いします。
9 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:56:56.34 ID:yAr9XARu0
『ホムラちゃん』と再会したのは翌日の、だいぶ日が高くなってからだった。真っ黒な髪にエンジェルリングが映える。やや暗めではあるが凛とした表情。スラリとした手足とスタイルは見間違えようがない。暇なネミッサにとっては格好のおもちゃであり、自分の望みを叶えるためのきっかけであった。警戒させないよう、わざと視界に入るように近寄り声をかける。
「こんにちは、ホムラちゃん」
ほむらのほうも目があった瞬間はさすがに驚いたようだが、日中街中で拳銃を向けるような真似はしない。陰鬱な表情を見せるとさっさと立ち去ろうとした。もちろんこれは合流するつもりがほとんどなかったからなのだが、ネミッサはしっかりと探し当ててしまった。
驚いた顔は人間味にあふれていたが、それがすぐに陰気な顔に戻る。ネミッサは勿体無いと思った。
「いやいやいやいや、無視しないでよ」
「待ちぶせ?」
「んなことしないって、どんだけ殺伐とした生活してんのよ」
「…インキュベーターの差金?」
唐突に変わった名前が出て小首を傾げる。英語で孵卵器だっただろうかと考える。
「ニワトリみたいなやつに知り合いは居ないなぁ」
「じゃあ、キュゥべえといったら通じる?」
また不思議な名前だ。逆方向に小首を傾げる。きっと漫画なら頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいることだろう。
「アンタの知り合いなんか知らないって」
すっとぼけることにして、話題を切り替えることにした
「ああ、そういえばさ、魔女ってさ」
「見せたほうが早いかもしれないわね。魔女と戦えないのなら、協定はナシ。いいわね」
「昨日もそんな事言ってたわね」
「魔女とは、結界に潜んで人間を誘い込み食らう、人類の敵よ」
「ふぅん? 悪魔とそう変わんないみたいだけどねー」
10 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 20:57:32.47 ID:yAr9XARu0
ほむらの話とネミッサの知識を混ぜると、『魔女』と『悪魔』の特徴がはっきりする。
悪魔は個体差があるが、基本的には人間のそれを凌駕する知恵をもち、自我がある。そのため、ある程度人間との交渉が可能である。人の魂を捕食することがあるが、高位の悪魔になると「信仰」という方法で力を蓄える事も可能で、一般にこちらは「神」と呼ばれる存在とされる。
魔女は個体差が異常に大きく、知識や人格などが確認できない。気ままに生き、気ままに人間を捕食する。「魔女の口づけ」という刻印を人間に付け操り、自分の結界内にその哀れな犠牲者を誘い込む。魔女は使い魔を産み、それがまた人間を襲う。使い魔は4〜5人ほど犠牲者を捕食すると自分を生んだ魔女と同じ姿、能力を持つように成長する。
人の魂を捕食する点としては同じだが、一番大きく異なる点は生まれ、だろうか。
悪魔は概ね魔界などと言われる人間界とは異なる世界で生まれる。そのため、人間界に来て留まるには非常に大きなエネルギーを必要とする。『召喚』であれば召喚をする人間がエネルギーを用意するため、比較的楽に人間界に来ることが出来る。だが高位の悪魔になればなるほど膨大なエネルギーを必要とするため、ほとんど来ることがない、あるいはできない。
一方で、魔女は「人間界で生まれる」ため、召喚自体必要としない。必要なのは自分の存在維持のために人間を捕食する程度だ。或いは自らの昏い望みのため、人間界を荒らすことが目的のようだが、個体としての目的もマチマチで総体としても目的があるわけではない。
「私達はそのインキュベーターと契約し、奇跡のような願いと引換に『魔法少女』となって魔女を戦い倒すの」
「なんで女の子限定なのかしらね。インキュベーターの趣味?」
「魔女と戦った後でもその茶化す元気があればいいわね」
「そういう言い回ししかできないのアンタ?」
「お気に召さないかしら」
「なんかむかつくなぁ……、協定は守るけどさ……」
悪魔は基本的に約束を反故にすることができない。魂のあり方にかかわるため、契約を反故にすることができないのだ。だから悪魔と契約するのは極めてまれだし、できても短期契約であることが多い。
「……いつかアンタを泣かす。覚えてなさいよ」
「そう、期待してるわ」
そういうとほむらは髪をかき上げる。きらきらと黒髪が踊る。ネミッサが嫌になるほど綺麗だった。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/04(金) 21:05:32.99 ID:g7BVZnyIO
続けて、どうぞ。3DS版をやったから
脳内でフルボイスだw
スプーキーズの登場に期待。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/04(金) 21:20:48.21 ID:NkPC+dFfo
ハッカーズはメガテン側で始めてやったな
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/04(金) 21:51:49.18 ID:XmpW6g2mo
サマナーに違和感を覚えたのは自分だけじゃないはず
続けて、どうぞ
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/04(金) 22:12:39.32 ID:o9PMx2ovo
乙でした。
続きを楽しみにお待ちしています。
このネミッサはセクシーっぽいけど、どこまで行ったのかな?
蝿の王? キョウジ? それとも戦艦斬り達成済かな?
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/04(金) 22:37:25.07 ID:NNqXxQGio
>>1
を見て例のコピペを思い浮かべたのは俺だけではなかったようだ
16 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 23:00:48.63 ID:yAr9XARu0
ほむらが歩く後ろを、頭半分は高いネミッサがついていく。どんどんと人通りの少ない方にすすんでいるようだ。無口で前方を歩く黒髪を、ネミッサはぼんやりと見つめながらついていった。正統派すぎるその髪質が光沢を放っている。戦塵にまみれている様子がないのが、なんとも羨ましい。
(あれ? 完全にストレートってわけじゃないのね)
先を歩くほむらの腰まで伸びた後ろ髪が左右に分かれていた事に気づいた。何かこの無愛想な少女の隠れた茶目っ気のように感じられる。正面から見ると凛とした歩きなのだが、後ろの左右にはねた後ろ髪がピョコピョコ揺れてなんとも可愛らしい。
「はー、なんか知ってるように歩くねー。私は一回くらいじゃ覚えられないなぁ」
聞こえているのかいないのか、ほむらは無言。手にはグリーフ・シードとは違う宝石を握っている。
その足がなにもないところでピタリと止まる。陰鬱な顔で振り返るほむらに気づかず、ネミッサがぶつかりそうになり、つんのめる。
「ここが結界の入り口。本来なら魔法少女しかあけられない」
「ふーん、『なんかある』のはわかるけど、開け方まではねー」
「開けるだけなら私がやるわ。中には使い魔しかいないし、それと戦って頂戴」
「それが試験ってやつね。いいわよ、やっちゃうから」
ほむらに協力をさせるには、『使える』と思ってもらわなければならない。少なくとも、この戦いに苦戦するようであれば、ほむらはネミッサを見限るだろう。それは避けたい。出来れば自分の戦い方と実力を知ってもらうような戦い方のほうがいいだろう。
「ちゃっちゃとやっつけて、ホムラちゃんのお眼鏡に叶うようにしないとねぇ」
「いいからとっとと行きなさい、怖気づいてない?」
「まさか? こう見えて、エグリゴリの悪魔と喧嘩したこともあるのよ」
ほむらには通じない武勇伝。ほむらはそんな無駄口を叩くネミッサの腰を足の裏で押し出すことにした。見事な艶かしい脚線美の蹴りには、茶目っ気というかある種のユーモアがにじみ出ていた。蹴られた当のネミッサはたまったものではないが。
「痛ったー。ああもう、なんなのよ」
17 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 23:01:45.43 ID:yAr9XARu0
ほむらが歩く後ろを、頭半分は高いネミッサがついていく。どんどんと人通りの少ない方にすすんでいるようだ。無口で前方を歩く黒髪を、ネミッサはぼんやりと見つめながらついていった。正統派すぎるその髪質が光沢を放っている。戦塵にまみれている様子がないのが、なんとも羨ましい。
(あれ? 完全にストレートってわけじゃないのね)
先を歩くほむらの腰まで伸びた後ろ髪が左右に分かれていた事に気づいた。何かこの無愛想な少女の隠れた茶目っ気のように感じられる。正面から見ると凛とした歩きなのだが、後ろの左右にはねた後ろ髪がピョコピョコ揺れてなんとも可愛らしい。
「はー、なんか知ってるように歩くねー。私は一回くらいじゃ覚えられないなぁ」
聞こえているのかいないのか、ほむらは無言。手にはグリーフ・シードとは違う宝石を握っている。
その足がなにもないところでピタリと止まる。陰鬱な顔で振り返るほむらに気づかず、ネミッサがぶつかりそうになり、つんのめる。
「ここが結界の入り口。本来なら魔法少女しかあけられない」
「ふーん、『なんかある』のはわかるけど、開け方まではねー」
「開けるだけなら私がやるわ。中には使い魔しかいないし、それと戦って頂戴」
「それが試験ってやつね。いいわよ、やっちゃうから」
ほむらに協力をさせるには、『使える』と思ってもらわなければならない。少なくとも、この戦いに苦戦するようであれば、ほむらはネミッサを見限るだろう。それは避けたい。出来れば自分の戦い方と実力を知ってもらうような戦い方のほうがいいだろう。
「ちゃっちゃとやっつけて、ホムラちゃんのお眼鏡に叶うようにしないとねぇ」
「いいからとっとと行きなさい、怖気づいてない?」
「まさか? こう見えて、エグリゴリの悪魔と喧嘩したこともあるのよ」
ほむらには通じない武勇伝。ほむらはそんな無駄口を叩くネミッサの腰を足の裏で押し出すことにした。見事な艶かしい脚線美の蹴りには、茶目っ気というかある種のユーモアがにじみ出ていた。蹴られた当のネミッサはたまったものではないが。
「痛ったー。ああもう、なんなのよ」
つんのめりながらの抗議の声は結界内の不気味な装飾によって途切れる。悪魔の「異界」とは大きく異なる、ファンシーがどぎつい色彩とデザインは出来の悪いキュブリズム。
起き上がったネミッサの背中を、ほむらが両手で押しながら歩き出す。どうやら結界の中心を目指して移動しているようだが、まるでお化け屋敷を怖がる少女の動きにも思えて、苦笑いが出てくる
「押さないでよ、ちゃんと戦うからさー。ほら、こんなふうに」
無造作に片手を振りぬくと、一個の雷球がほとばしる。静かな中異様に大きな音がして、ひげの何かに直撃し叩き落す。予期せぬタイミングと音量にほむらが少しだけビクっとした。それを感じネミッサはにやにや笑う。
ほむらの手を背もたれがわりにし続けるのをネミッサは楽しんだ。だが、座る寸前の椅子を引くいたずらと同レベルで、手を引っ込められてはたまらない。ここは素直に真っ直ぐ立つ。真面目に戦う必要もあるのだから。
わらわらと近寄る使い魔たち。ネミッサは冷静に数と位置を確認する。ハサミを持った使い魔が5体。密集陣形(陣形をとる自我があるのかは不明だが)で自信満々に迫ってくる。シャキン、シャキンと小気味いい金属音を鳴らしながら迫る使い魔に、怯まず構える。口々に何かを歌いつつ突進してくるのが聞こえる。
(これ、広範囲ので一発じゃん)
「マザア・グウスにゃ興味ないわよ、消えなさい」
両手を広げ、掌に雷球をためる。最後尾の使い魔が範囲内に入ると同時に広域の電撃を解き放つ。やはり落雷に似た大きな音が響き、範囲内のおひげ使い魔を撃ち落とす。あまりの音にほむらが耳を塞いでいるのが、ちょっと可愛い。近すぎるのだろう、たぶん。
ほむらは舌を巻いた。ネミッサが普通の人間と違うのはわかるが、魔法少女にもならず、平服のまま高威力の電撃を放ったことに驚いていた。単純な戦闘でも利用できるし、魔法少女ではないのだから警戒されずに動かすことができる。真意はわからないが利用できる。ほむらはそう判断した。利用できなくなったり少しでも疑いがあれば捨てればいい。ほむらは非情にも方針を決めた。
(いい拾い物ね)
「あ、なんか焼け残ったわね」
真っ黒焦げになった個体の中に、もぞもぞ動くものがあったようだ。靴で踏んづけると、闇の塊となって崩れて消えた。
あまりにもあっけない、ネミッサの使い魔戦デビューの一部始終だった。
「どお、ホムラちゃん?」
ほむらは耳がしばらく聞こえないようでしきりに耳を叩いている。魔力で回復させるほどでもないのだろうが、ネミッサの言葉を聞きそびれた形になった。
18 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 23:02:40.72 ID:yAr9XARu0
不安定な結界を抜け、二人は先程と同じ所に戻ってきた。結界内をいくら歩きまわっても出口は同じというあたり、異界化に似ている。
ほむらは落雷の轟音でおかしくなった耳は治ったのだろう。いつもと変わらぬ風情で髪をかきあげる。その仕草すら様になっているのがネミッサにはなんとも憎らしい。本当にこの子は中学生なのだろうか。
「ま、こんなもんね。でも魔女ってのはもっと強いんでしょ?」
「ええ、そうね。耐久力以外にも固有の攻撃方法や能力があったりするわ」
「そのへんは悪魔も変わんないから、見極めが大事そうね」
用は果たした、とばかりに踵を返すほむらの態度からして、一応試験には合格したようではある。ほむら自身はそのまま魔女退治に行くつもりなのかネミッサに構わず再び路地を歩き出す。
「ちょっと待って、どこいくのよ」
「試験は終わったわ。協定は結んであげる。今日はここまでよ」
「それはいいんだけどさ、今後どーすんのよ」
「連絡をこちらから…」
はたと、ほむらの言葉が途切れる。要は連絡をとる方法がないと気づいたわけだ。協定を結ぶつもりがあまりなかったのでそこまで頭が回らなかったのが真相だが。止む無くメモを取り出すと携帯電話の番号と住所を書き込む。
「これ、渡しておくわ。プリペイドでもなんでも、携帯電話を手に入れて頂戴。持ってる?」
「ない。オカネならあるし、まぁなんとかする」
ハッキングでもなんでもして、と付け加える。受け取ったメモに目を通すと、律儀にそのまま返す。
「…覚えられたの? 忘れても知らないわよ」
「うん、11桁くらいの数字なら余裕。住所も覚えた」
訝しがるほむらにスラスラと暗記した番号と住所を伝える。一言一句間違えなく淀みなく言えるあたり、完全に暗記できているように思えた。魔法少女たるほむらにとっては先ほどの電撃より、そちらのほうが悪魔っぽいと感じた。ありふれた奇跡より、暗記スピードに驚く方にも多々問題がありそうであるが。
「でさ、なんでアンタそんな態度なの? そんなんじゃ友達できないよ」
「構わない。私には友達は一人だけ」
「ああ言えばこう言う……。いつかアンタを泣かしてやるわ。覚悟しといて」
「そう、できるものならどうぞ」
19 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 23:03:25.69 ID:yAr9XARu0
そんな余裕のある態度に、ますますネミッサは苛立つ。だがここが我慢のしどころとかろうじて抑える。
(あんの澄ました顔を涙でぐちゃぐちゃにしてやる!)
ほむらと別れたネミッサは、武器の用意を考えることにした。先ほど戦って分かったが、魔法だけで戦うよりは、接近戦でも戦える様な武器がやはり欲しい。せめて近づく攻撃や相手を払い、メインの魔法を叩き込めるように牽制が出来るようにしたい。このちっちゃくなった体では以前使った防具なんて合わないし、それを直すには時間がかかるだろう。取り敢えず悪魔の力が宿った銃や弾丸、ナイフあたりを用意する。そして余った武器をほむらに提供してもいい。携帯電話も用意しないといけない。ほむらから指示が来たらそれにも応じなくてはならない。多少時間があればネットワークに連れて行ってダメ押しでもしよう。マルスムのときみたいに、ネットワークを通じてあちこち引っ張り回してもいいかもしれない。これから忙しくなる。ネミッサは嬉しくなった。
今度こそ、助ける。その決意を胸の秘めて。
「で、これは何?」
後日のこと。ほむらが不在の部屋にどうやったのか忍び込み、部屋に銃器や武器、爆弾などを広げている。帰宅したほむらはネミッサに冷たい目線を投げかける。その視線に気づいていないのか、舞い上がっているように説明に没頭する。ネットワークを通じ、以前接触があった人物に預けていた武器を回収し持ってきたようだ。
「この銃は結構上位の悪魔が魔晶変化したからかなり強力よ。こっちの爆弾は高いけど威力は折り紙つき、お勧めだよ。あと、鞭は使える? これは普通のよりよっぽど強力。キラキラ色も綺麗だしね。この弾丸は相手を眠らせるし、こっちは着弾すると燃え上がる。銃を使うアンタにはいいかもよ」
ほむらが制服姿のまま頭を抱えているのをお構いなしに続ける。当の本人は良かれと思っているのだろうが、余り大きな声で爆弾だの弾丸だの言わないでほしいものだが、そこには一つも気づいていないようだ。幸い、ほむらは一人暮らしであるため、家族に迷惑がかかるようなことはないのだが。
「ああ、あとさ、このスカジャンも魔力があるから、防御はいいわよ。見た目カッコ悪いけどねー。…あ」
やっと気づいてくれたのだろうと、ほむらが抗議の言葉をあげようとした。まったく、空気を読めないのは誰に似たのだろうか。
「こ、これは…、ははは…、使う?」
強力な悪魔が魔晶変化し、凄まじい魔力がこもったブラジャーを指で摘み見せる。見た目が見た目だが、そこに込められた魔力は凄まじいものがあり、我慢すれば使えないこともない、はずだが。
「…ネミッサ、正座なさい。何か、含むものがある装備ね、それ」
引きつった表情のほむらを見て気づいた。ネミッサは、地雷を踏んだのだと。
「いいじゃんアンタスタイルいいんだしさー。モデル並みのくせしてー」
「うるさい、近所迷惑だから黙りなさい」
20 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/04(金) 23:13:36.25 ID:yAr9XARu0
筆者です。
>>16
、17がちょっとおかしいですね。コピペミスです。すみません。
お見苦しい点、失礼いたしました。
あと、ジョークでしょうけれど
>>8
みたいなことは強要しませんので
反応があろうとなかろうと淡々と投下します。お気になさらないでくださいね。
ここまでで序章が終わりです。
文章の訂正等終わったら、次を投下いたします。
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/05(土) 01:05:54.42 ID:qrF4KEYmo
ソウルハッカーズとまどマギのクロスとはなんて俺得
横に長すぎて見難いから、適当なところで改行してくれるとうれしいかなーって
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/05(土) 01:10:25.67 ID:1VPD8z+r0
乙
ちっぱいほむっぱいprpr
23 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:32:40.26 ID:wOPwqajX0
筆者です。
外出先から戻ったので再開いたします。
質問をいただいて恐縮ですが、内容にかかわることなので
お答えは控えさせてください。
「いやぁ〜疲れました」のコピペを貼られるかと不安でしたが
別のが貼られててキョトンとしてしまいました。
それでは、またしばしお付き合いください。
24 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:33:45.52 ID:wOPwqajX0
二章
【ともえまみ】
こっぴどくほむらに叱られたネミッサは、早速指示を出された。魔法少女としてベテランの巴マミとの接触である。この街を縄張りとする彼女はその正義感ゆえ、他の魔法少女への猜疑心が強い。そのため、魔法少女ではないネミッサに接触をさせようとした。
「んと、中学生でベテラン?」
マミが何年魔法少女を続けているか不明だが、二次性徴期の少女を指してベテランとは、どれほど生存率低いのであろうか。ネミッサは薄ら寒い思いがした。同時に微かな怒りが頭をもたげる。なぜ、少女だけが魔女と戦う羽目になるのか。戦いに精通した成人ではダメなのだろうか。
「魔法少女の素質がないと魔女を視ることができないからよ」
「素質ね……。アタシにもあるってことか」
「さぁ? 自称悪魔なら魔女くらい視られそうだけど」
「アタシも15年くらい悪魔やってるけど、あんなのみたのは初めてよ」
ほむらは怪訝そうににネミッサを見る。だが、すぐにその表情は消えた。ほむらは魔女と言うものの本質がよくわかっている。それゆえ、悪魔とは無関係のものである、という推論にすぐに達した。
「そりゃそうでしょうね」
「なんか知ってる顔ね。説明してもらえる?」
「今は関係ないわ」
こうなるとほむらは話をしないということを、ネミッサは学習したのでもう細かくを聞かないことにした。とにかくマミと仲良くなる。そして、相変わらず詳細は説明しないが、身の危険が迫るマミの身を守ること。これがネミッサの目的である。恩を売っておけば、共闘の話もしやすいだろう。というのがほむらの計算である。また、余計な不信感を与えないようにと、ほむらとの関係は伏せるとのことだ。
「そういうのナシにしても、助けてあげたいけどね。ほんとに危ないってわかってるなら」
ほむらは答えない。何か噛み締めているような表情で黙るだけだ。事情を説明できないもどかしさにしてはおかしい。
「貴女にそれがかかっているの。しっかりやってもらうわ」
ネミッサが思うこと、それはほむらが何を見ているのか、ということだ。どこか遠くを見るような諦めきった顔がネミッサには苦しい。時にそれが、人を苛立たせ対立させる要因になるだろうと漠然と感じているからだ。
また、それを良しとしている態度が気になる。要は上から目線という見方をされ、余計にこじれる原因となるだろう。
諦めたようにネミッサはため息をつく。ここは我慢だ、自分の目的のためにも。それに、たとえほむらの真意がどこにあったとしても、ネミッサは救うと決めたのだ。その道を今度こそ違えるわけにはいかない。
「わかった、やるわよ」
「当然よ」
長い髪をかき上げる。いつもやっているけれども、クセなのだろうか。さらさらと流れる髪が少しも引っかからずぱらぱらと零れ落ちる
(もー、えっらそーに。…ったく)
「ホント、いつかアンタ泣かしてやりたいわ」
「できないことは言わないほうがいいわ」
25 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:34:25.69 ID:wOPwqajX0
マミはほむらが転入する同じ中学校の先輩ということなので、平日昼間はほとんど自由時間だ。魔法少女同士であれば無駄に敵愾心を煽る可能性があるとのことだが、同じ学校でバレたりしないのだろうか。
相手に信頼してもらうには嘘は良くないのではないか、というネミッサの意見をほむらは渋々取り入れ、こちらからは話さないが嘘はつかない、というようにした。
ともあれ、昼間暇なネミッサは、暇つぶしも兼ねて地理を把握するためにも街を歩く。ここ最近急に開発が進んだ街はどこも小奇麗で新しい店が多かった。服装にもほむらにダメ出しをされたので、無難な服を探すのも目的だ。幸い、顔立ちや髪の色でちょっと変わった外国人扱いされていたため、店員に見繕って貰う方法で選んだ。もっとも、ネミッサのセンスがぶっ飛びすぎて、対応した店員は大変苦労したことだろう。
結局、銀髪に似合う黒系統の服にまとめたネミッサは、街へ繰り出した。だがその表情は暗い。
(グリーフ・シードの奪い合い、かぁ)
ほむらから聞いた限りではあるが魔女の個体数に限りがあり、それから手に入るグリーフ・シードが魔法少女にとって生命線である以上、縄張り争いも珍しくないらしい。マミの猜疑心の理由の一つだ。ローティーンの生き方として、それはあまりにも惨たらしくはないか。人間並みの常識を得つつあるネミッサにとって、人間の少女の生き方として受け入れられるものではなかった。
「年頃の女の子が縄張り争いとか敵愾心とか…、アタシが知ってるアニメの魔法少女とは違うなぁ」
こう、もう少し愛と勇気が勝つストーリーだったような気がする。現実はそうはうまくいかないということか。
いや、そんなことはない。たとえ魔法少女が異形の存在であっても、人の中に生きている以上人との絆は、人との輪は、そんなに弱いものではないはずだ。
(あなたはアタシが悪魔でも一緒に生きてくれた。あなたが特別とは思いたくない。人間はもっといいもののはずだから)
ぼくがあくまでも
ともだちになってくれますか
わたしがあくまでも
すきになってくれますか
わたしがまほうしょうじょでも
わのなかにいてもいいですか
いつかまじょになってしまうとしても
26 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:36:01.93 ID:wOPwqajX0
暗澹とした気分では面白くない。散策くらいは楽しくやりたい。ネミッサはウィンドウショッピングと割り切り開き直りなった。そのせいで、学校が終わる時間を過ぎたことなどまるで気づかず、街の空気を楽しんだ。幸い補導されるようなことはなかったが、身体検査をされると、魔晶変化した短銃が見つかってしまうので、ちょっと安心していた。
気づいたときには遅かったが、まさか校門の前でマミを待ち伏せするはできない。不自然すぎる。可能であれば下校中を狙い、そこで偶然を装い話しかけるのが良いだろう。幸い、マミの部屋は何度も行っているのでそこから逆に学校に向かうようにすれば、途中で行き合うだろう。それでダメなら魔女狩りのパトロール中に街に出ているからそこを探せばいい。どうせほむらの言っていた転入日はまだだ。最悪明日でもいいのだから。
などと、気楽に考えているとあっさり見かけた。運がいい、とにまりとすると、一人下校中のマミに接触した。くせっ毛なのかロールの巻いた髪と、柔和なタレ目が特徴的だ。それと、中学生とは思えない凹凸のはっきりしたスタイル。男より、むしろ女性から注目されるその胸は特筆すべきなのだろう。
なによりその母性的な雰囲気に見ていてネミッサが和んでしまう。母親なんてものを持たないにも関わらず感じてしまうのだから、相当なものなのだろう。
「あの、ごめんなさい。聞きたいことあるのだけど、いいかしら?」
「はい。何でしょうか」
「この辺りに、美味しいスイーツのお店知らない? 知っていたら、教えて?」
できる限りの笑顔でマミに近づく。ケーキ好きなのは知っている。多分あっさり教えてくれるだろう。ただ範囲を広げることで会話が繋がるのではないか、と期待してのことだ。
案の定、マミはあれこれ質問してくる。乗ってきた、というところだろう。だいたい人は自分の興味がある事の話をすると止まらない。興味が無い人にとってはうんざりする話であろうが、ネミッサにとってはそうでもなかったようで、ニコニコしながら話に応じた。甘いモノは悪魔だって好きだ。
結局、金額と折り合いをつける形でシュークリームの店を紹介してもらった。ほむらの指示がなくても、このままマミと話をしたい衝動にかられる。だが、さすがにこれ以上足を止めるほどでもない。一緒にお土産として買うところで落ち着き、同行をお願いした。
移動中、友達づきあいの話の流れになったとき、驚く様な告白が出た。マミには心を許せる友達がいない、という急なカミングアウトだ。
「へ? そうなの? すっごい社交的っぽいけどねー」
「はい、そうなんです。でもちょっと事情があって一人暮らしなので、なかなか友だちと遊ぶとかできなくて」
けれども、困っていたネミッサはほっとけないという。優しい表情だ。
「あー、やめやめ、敬語なんて使わないで、壁感じちゃう。ネミッサも愛称だし、呼び捨てでいいよ」
「うん…じゃぁ、そうするね。ネミッサでいいのね」
「いいよいいよー。アタシもマミちゃんって呼ぶからさ」
ネミッサは全く意図していなかったが、マミの弱点をついた形になった。マミは魔法少女である。でなければほむらが戦力として注目し接触を指示したりしない。友人いないことにマミ自身に問題があったわけではない。自分と秘密をわかちあう友人の不在ゆえだった。数年前、事故により否応なく魔法少女となった彼女は、戦いの師匠もないままただひたすら魔女と戦う生活を強いられた。時に失敗し、時に大怪我をし、時に撤退する。それでもほとんど一人で戦い続けた。秘密を分かち合える友人も、スレ違いの末失った。同じ魔法少女であってもそれである。秘密を共有できない一般の人との精神的な乖離はどれほどだったろうか。だからだろう、彼女は一旦受け入れたものは命を賭して守る力強さがある。まるで鬼子母神のそれである。
また、ほとんどの魔法少女と違い、マミは正義の味方を自認している。グリーフ・シードの争奪戦を繰り広げる魔法少女が多い中、グリーフ・シードを落とさない使い魔まで撃破し魔力の無駄遣いをしていた。それでも彼女にとって使い魔も人間の命を奪うのだから、正義の味方にとっては倒すべき敵だった。
ネミッサが見えなくなるまで胸の前で手を振るマミ。その優しい微笑みの裏にある影に、一抹の寂しさを感じずには居られなかった。
27 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:36:36.88 ID:wOPwqajX0
「アンタも幸せになんなきゃだめだよ。マミちゃん」
次にあった時は携帯電話の番号とアドレスを交換しよう。心に誓った。ほむらの思惑なんか知るもんか。仲良くしてやる。
もう、失わない。
その日、ほむら宅にてシュークリームを出しながら報告を行う。
「接触は悪くなかったわよ。マミちゃんのカミングアウトも聞けたし、収穫は多かったんじゃないかな」
「ふぅん、なかなかね。で、白い珍獣は見なかった?」
ネミッサの差し出したシュークリームを一緒に食べながらほむらは尋ねる。難儀な人生を歩むほむらも、甘いモノはキライではないようだ。むしろ好きなのだろうか。最初は断られると思っていたのだが、すすめるまでもなく手にとったあたり、やはり一般の女子中学生程度には好きなのだろう。
「インキュベーターってやつ? うーん、見なかったなぁ。見られるとヤバイの?」
「奴が魔法少女の契約をして回るのよ、いわゆる元凶ね。甘言で契約を迫るはずだけど、取り返しのつかないことになる」
「まー、悪魔と契約するようなものね。よほど慣れてないと魂食われるあたり似てるわ」
「……どこまで知っているかわからないけれど、それを巴マミやほかの魔法少女に気取られないようにして」
「わかってるわよ。自分が怪物になるなんて知ったらどうなるかわかんないもんね」
(いったいどこまで把握しているの!?)
ネミッサの無造作な言いように顔色を変える。
「大丈夫。アタシだってそんなこと言いたくないよ。マミちゃんが可愛そうだよ」
「気を付けてほしいものね」
ネミッサの顔から明るさが消える。仏頂面のままシュークリームにかぶりついた。
生地から漏れたクリームが指につく。不作法に指を舐めながら会話を続ける当たり、ネミッサの育ちの良さがでている。ほむらが一瞬嫌そうな顔をしたが、ネミッサはあえて無視した。このあたり、お互いが反りが合わない部分である。
ネミッサにとって、願いや願望は自分の力でなすものであって、原理もわからないものにすがるつもりはさらさらなかった。一回の譲歩で無限の要求をつきつけるのが悪魔のやり口だが、人が集まる国家間においても似たようなことが起こる以上、交渉とか契約というものにはそういった側面があるのかもしれない。
「そんなことよりさ、そろそろ転入日でしょ。その日に動きがあるんだよね」
「そうね、そのためにも巴マミと仲良くなっておいて」
「アンタに言われなくても仲良くするよ。あの子いい子だもん、アンタと違って」
「……協定を破棄してもいいのだけれど」
「最悪破棄されたって、勝手にアンタのこと手助けする気だけどね」
「いったい貴女は何がしたいのよ……」
「言ったって信じてくれないよ。アタシもそのうち説明するから、それまで待ってて」
意向返しといったところか、憮然としたほむらの顔がちょっと見ものだった
「いつか泣かすから、覚悟しなさい」
「はいはい、出来るものならね」
ほむらは、同じ言葉をあっさり流す。こう何度も聞かされても迷惑でしかない。
(私は泣かないって決めたんだ)
28 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:37:51.58 ID:wOPwqajX0
明朝、日が登り始めるとネミッサは活動を開始した。低血圧なのか、朝ごはんをもそもそと食べるほむらをほっといて出かける準備をする。ちなみに、ネミッサもほむらの部屋に一泊した。とは言えソファに寝っ転がっただけだが。
「転入って、明日でしょ。また今日もマミちゃんと会ってくるからね」
「……ウン」
ぼーっとするほむらの髪を撫でる。反発がないほど意識がはっきりしないのだろう。彼女はまた『いつもどおり』武器を調達する予定らしい。彼女の魔法は限定的で、実弾や重火器を持って戦う必要がある。ヘタをすると国家レベルの問題を引き起こすような方法をとるらしい。見た目によらず、大胆な少女だ。
幸い、ネミッサのお陰でほむらの武器は充実しているため、手持ちには余裕があるとのことだった。
(黙っていれば可愛いんですけどねー)
低血圧な表情で栄養補助食品と野菜ジュースで朝を済ますというのはお年ごろの女性として如何なものなのだろうか。そんな変わった少女を尻目にネミッサは部屋を出た。
今日の目的はマミだが、午前中ならば時間はある。以前天海市で知り合った知人に会いに行く予定だ。また例によってネットワーク経由で行く。時間的な移動のロスはないのが利点である。
「ん? ああ、あんたか。あの一件以来だなぁ。それと……大分見た目変わったな?」
「アタシ悪魔だもん。外見くらい変えられるわよ。けど、おっさんから連絡いってるでしょ。またお願いね」
「ツレのほうはめっきりこなくなったけどよ。イイお得意だったから覚えてるぜ」
「アンタ居なかったら10回は死んでるもん。助かったわよ」
「嬉しいこと云うね。最近在庫ないから取り寄せになっけどよ。急がせるから欲しいののリストよこしな」
「なんか、有難い限りねー。防具は着れないから、武器と弾丸ね、はいこれ」
「代金はきっちりとるけどよ」
「少しは割り引いてよね、ケチ」
「特急料金取らないだけマシだろ」
「あら、おねえちゃま、お久しぶりね」
「うん、ってアンタわかるの?」
「わかるわ、お友達だもの。みんなもそう思ってる」
「あ、あん時はごめんね。みんな、心持ってるんだもんね」
「いいの、わかってくれたから。また、友だちになってくれるんだもの」
「うん、でね、今日はね、またお買い物がしたいの」
「わかってる。『お友達』のためでしょう?」
「……なんで知ってんのよアンタ」
「お友達だもの」
「そういうもんなの?」
「長い黒髪の素敵なお友達ね、そのうち連れてきてもらえるかしら」
「だからなんで知ってんのよ!?」
「お友達だもの」
29 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:38:21.43 ID:wOPwqajX0
だいぶ買い物に時間がかかったが、荷物を(家主には大変迷惑なことに)ほむら宅に置いても、丁度放課後に間に合ったようだ。ほむらの悲鳴が聞こえてきそうだが、ネミッサは無視することに決めた。下校中の学生の中、マミを認めるとまっすぐに近寄った。数人の同級生と歩いているようだが、誘いを断るように手を振るさまが見えた。魔法少女の生活が彼女の学生らしい生活を損なっている様に思う。勿体ない。
「こんにちは、マミちゃん」
「あ、ネミッサ。こんにちは」
タレ目が更に垂れる。ほんわかした笑顔がなんとも魅力的で、ネミッサも自然に微笑む。ほむらとのやり取りでささくれた心が洗われるようだ。
昨日のシュークリームのレビューをし、にこやかに会話をする。わりとマミのレビューが辛かったのは、舌が肥えているからだろう。お菓子で釣るのは難しそうだ、ネミッサは頭の中でその方法を放棄した。そもそもお菓子に詳しくないのだから無理だが。
「今日も、何かお土産にお菓子を買うの?」
「出来ればでいいよー。毎日じゃメーワクだしね」
「ううん、いいのよ。私も楽しいし」
「でもさっきお誘い断ってなかった? 予定でもあるの?」
「あら、見てたのね でも帰りに寄るくらいなら平気だから、心配しないで」
にこやかに返す会話が心地いい。魔法少女のでなければ世話好きのこの子はきっと慕われるだろう。不憫だな、とネミッサは思わずには居られない。なんとなく行き先を決めずに、二人歩き出す。上品な歩き方、話し方からして、マミのご両親はきっとマミにとてもよい躾をしてきたことが見て取れる。
「マミ、マミ、きこえるかい? 使い魔だ」
会話のなか、マミの表情が険しくなる。ネミッサには何が起きたかわからない。戸惑うネミッサに申し訳なさそうにすると、両手を合わせ謝罪の仕草をする。
「ごめんなさいネミッサ。ちょっと用事ができたわ」
「あ、え? なになに」
返事もまたずマミが走りだす。あの柔和な顔が厳しくなり、小走りになってネミッサから離れる。いきなりなことに面食らいながらもネミッサは後を追う。ほむらから聞いていなければそのままわかれていただろう。とっさにマミの身の危険を思い出したため、追随する形になった。
(だめだよ、死んだりしたら)
マミを追いかける。だが、本気になったマミの走力はネミッサの予想を超えていた。魔力を使い肉体を強化している走りだが、ネミッサとて並の体ではない。ぎりぎりのところで見失うことなくついていけた。
「マミちゃん、どうしたの!?」
「ネミッサ!? 危ないから離れて!」
「マミ、もう時間がない、巻き込まれる」
路地裏にいるはずだったが、周囲の景色が変わる。真っ暗な、それでいてファンシーな地獄絵図。使い魔の結界に巻き込まれた形になった。
それと同時に、マミの服装が変わる。先ほどまでの中学の制服から魔法少女の衣装に。ベレー帽にコルセット、ミニスカートが眩しい。袖やスカートの裾が膨らみ、動きに合わせてふわふわ踊る。魔法少女の衣装は、ほむらのもそうだったが、こんなに可愛いものなのだろうか。ネミッサはちょっとうらやましかった。
「ネミッサ、私から離れないで。いいわね」
早口でネミッサを制する。柔和なマミから、凛と声を張る戦士に早変わりする。力強く心優しい戦士は友達を守るために無限の力を発揮するだろう。
「うん、わかった。でもムリしないでね」
(本当に、ムリしないでね……)
30 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:39:50.23 ID:wOPwqajX0
ネミッサが体験する使い魔の結界は二度目だ。結界の模様からしてこの間と同じ使い魔と判断した。
(手を出すのは簡単だけど、さて、どーしようか)
「付いてきて。絶対に離れないでね」
「うん、でさ、この動物は何?」
「僕はキュウべえだよ。君にも僕が見えるんだね」
真っ白な猫のような体に、長い垂れた耳。背中に不思議な模様があり、顔は赤いつぶらな瞳と、ネコ科のような口もと。なんとも可愛らし風貌だが、ほむらから聞いている特徴と一致する。こいつが黒幕だと。
「うん、見えるよ。可愛い…というか、ちょっとキモい。喋ってるのに口動かないって、ヘン」
「…あの、私のお友達なのだけど」
「あ、ごめん! ちょっとびっくりしたの、ごめんなさい」
「ふふ、いいのよ。キュウべえも許してあげてね」
「いいよ、僕は気にしないから」
そんな会話をしながら、二人と一匹は歩き出す。やや緊張感がないのは相手が魔女そのものではないためだ。マミも言葉を交わしながら、周囲を警戒する。
その中、おひげハサミの使い魔が現れる。だが、それは誰のそばに近づくこともなく、マミがいつの間にか取り出したマスケットの鮮やかな一発で沈む。魔法で創りだしたマスケット。一発一発使い捨てのため、一見効率が悪いように見えるが、ネミッサには何となく分かる。長い銃身は命中率を高めるため。使い捨てなのは簡単な作りにすることで作成を容易に素早くするため。といったところか。帽子やスカート、袖から銃を創りだすのはイメージを容易にする演出だろう。なかなか考えられた形だ。さすがはベテラン、といったところだろうか。
マスケット一発につき一体という効率の良い戦いを続ける。
「あと一、二体だと思う。びっくりしたでしょ。あとで事情説明するからね」
「ううん、大丈夫。ごめんね、巻き込まないように何も言わず走ったんでしょ」
「ええ、そうなの。まさかついてくるとは思わなかったけど」
「心配だったからね。逆にメーワクかけちゃったけどさ」
「ふふっ、ありがとう。いいのよ。友達を守るのも、魔法少女の使命だもの」
(ああ、この子は本当にいい子なんだなぁ……いい子過ぎて、切なくなる)
こんないい子が、魔法少女の真実を知ってしまったらどうなるのだろうか
マミの一撃が最後の一体を撃ち倒すと、満面の笑みで振り返った。ネミッサが危ないなんてこともなかったが、心配そうな顔で覗きこむ。ケガがないことを確認している。その柔和な顔に、ネミッサは泣きたくなった。こんないい子がこんな苛烈で残酷な運命に巻き込まれなくてはならないのか。彼女はどんな祈りで魔法少女になったのか。そして、彼女に命の危険が迫っているらしい事が、怖かった。
「怖かったよね。もう平気。安心して」
ネミッサの泣きそうな顔をマミは誤解したのか、もっと優しい表情と声でネミッサに接する。
(やめて、そんな優しい顔をしないで、こんな地獄の底で。マミちゃんは気づいていないの? あなたの地獄に)
「ち、違うの……、あんな戦いとか怖いことしてるのに、まっさきにアタシの心配してるマミちゃん見てると、なんか泣けてきて……」
「平気よ。友達のことを守るためだもの。それに、あなたはわかってくれたじゃない。本当の意味で、お友達になってくれたんだと思うの。ありがとう、ネミッサ」
「それだけじゃだめだよ」
突然のネミッサの反応に驚くマミ。
「アタシも協力したい! アタシにも何かできること、ない?」
ほむらの意思とはかかわりなく、ネミッサは吠える。マミが思わずたじろぐほどの剣幕だということに、本人は気付きもしない。
それを待っていたようにQBは言葉を紡ぐ。どうやらテレパシーでネミッサに声を伝えているようだ。
「それなら……僕と契約して、魔法少女になってよ」
31 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:40:24.29 ID:wOPwqajX0
ネミッサには合点がいった。こいつが悪名高き「QB」のやり方だった。ただ、気になるのは今回ネミッサにこの白い珍獣が見える……即ち魔法少女になれるといった点だ。
「おかしいなぁ、前は見えたりしなかったのに」
ネミッサのつぶやきに小首を傾げるQB。だが、契約を急くことを良しとしないのか、マミが間に入る。最初の大事な説明がなされていない。順を追って説明すべきだと諭した。
「君の願いを叶える代わりに魔法少女になって、魔女と戦って欲しいんだ。さっきのは魔女の使い魔でね」
「こぉら、慌てる男の子はきらわれちゃうわよ」
「僕に性別はないよ」
「いいの、キュゥべえは男の子よ」
高ぶった気持ちがあったのに、出鼻をくじかれた形になったネミッサが心の中で愚痴る。ほむらが嫌がるのも何となく分かる気がした。たしか、こいつらには感情らしいものがないと聞いている。だが、嘘をつけないという特性も聞いている。それを把握した上でこいつと対応する必要がある。
(ああ、あなたは得意だったっけなぁ…真似できるかな…無理かな。アタシバカだもんなぁ)
「あのさ、魔法少女の説明は落ち着いた所でお願いしてイイ? それに、それ以外の協力もできると思うのよ」
「そうだね、僕としても無理強いもせかすこともしない。説明を聞いた上で決めるといい。」
しかし、ネミッサにはひとつの懸念がある。それは自分が素質があるとはいえ悪魔だということだ。悪魔も素質を持つものが現れるのだろうか。契約したはいいが、魔法少女になれずにおかしなことにならないだろうか。また、キュゥべえの真意が真意なだけに、安易に契約するのは避けるべきだ。少なくとも、『彼』はそんな安易な契約はしないだろう。
ただし、マミに『魔法少女の真実』すべてを知られるのは細心の注意を払うべきだ。それを知られると大変なことになる。今は契約を先延ばしにし、マミのいない場所でQBへ問いただす。方針を決めると少し気が楽になった。
「マミちゃんに色々話が聞きたい。アタシの願いってのはすぐ思いつかないし。取り敢えずマミちゃんの力になりたいの。言い方変だけど、後方支援って感じかな?」
戦い続けるために、戦う人数以上の後方支援が必要だということはネミッサも天海市で学んだ。
「どんな願いだって叶えられるんだ。じっくり考えて欲しいな」
「もう、キュゥべえ。ネミッサの好意を受けられるんだから、まずそこで感謝しましょう?」
「ほっっんと、マミちゃんって優しいね。そういう子だから手伝いたくなるんだよね」
「ふふっ、ありがとう。でも、無理しなくていいから。お友達ができただけでも嬉しいんだから」
またネミッサは泣きたくなった。この子は守りたい。
今度こそ。
32 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:41:37.70 ID:wOPwqajX0
そして、運命が流転する。
翌日のほむらの転入。マミと鹿目まどかと美樹さやかの接触。詳しくは聞かなかったが、あまり良い接触にはならなかったようだ。いつもと変わらぬ無表情のほむらが暗く見えるのは、見間違えではなかった。押し殺したような声でネミッサを追い出した。ネミッサは泣いているものだと思ったが、どうやら歯を食いしばり悔しさをこらえているようだった。その状態でも涙一つ流さない姿に肩を抱いてあげたくなるほどだった。だが、それをほむらは求めない。欲しがらない。ただひとつ、自分の望むもののため自分すら偽っているのだから。
おさげ髪の眼鏡をかけた少女は泣いていた。ただはらはらと涙を流すほむらの幻が、ネミッサには見えた。
「涙に逃げないホムラちゃんの代わりにアンタが泣いてるのね。どれだけ強いの。何がそこまでさせるの?」
「魔法少女体験ツアー?」
鸚鵡返しに返事をする。我ながらアホみたいだと、ネミッサは自嘲した。連絡を受け呼び出されると二人の少女に引き会わされた。マミに後輩だと紹介された二人の少女の前で。二人には「長期滞在で観光してる変な外国人」的説明しをしてもらった。というか、マミにもそれに類する話をしていたので特に食い違うことはなかった。銀髪が珍しいのか二人には遠慮無くいじられた。まあ、いつものことだ。
あのあと、マミとQBから説明を受け、魔法少女について詳しく知った。ほむらから詳しく聞いていない部分を聞いた形だ。ネミッサ自身に魔法少女になるに関心が薄かったため、あまり問いださなかったせいだろう。三人には話せない本質的な『魔法少女の真実』について聞かされただけだ。
魔法少女は魔力をもって魔女と戦うものだということ。ソウルジェムという宝石がその魔力の源だということ。その宝石が魔力を使うごとに濁ること。その濁りを取るために魔女からグリーフ・シードを手に入れないといけないこと。そして、肝心なことを説明されなかったことも。二人も、同じ内容の説明をされていた。
二人は…いや、三人とも気づいているだろうか。魔女のグリーフ・シードとソウルジェム、『似通った性質のもの』だからこそ穢れが移せるということを。そしてそれがどういう意味をもつかを。
「ええ、魔女や使い魔と戦うことがどういうことか知っておいたほうがいいと思うの。だから、ね」
「危なくない? アタシ、正直荒事は自信あるよ。けど、この子たちはフツーの子でしょ。大丈夫?」
「ええ、私が責任をもって守るわ。もちろん、ネミッサのこともね」
自分のカミングアウトのタイミングをすっかり逃したのが痛い。マミはまだネミッサを守るべき友人と捉え、守るつもりでいる。ツインテールの少女の鹿目まどかは心配そうな顔で、ネミッサと同じ髪型の元気な少女の美樹さやかは憧れに目を輝かせて話を聞いている。どうやらほむらが接触した際に、魔法少女の戦いを見てさやかのほうは感激してしまった。一方のまどかも憧れに近いものがあるが、どこか乗り気ではないのが見て取れた。ほむらの警告が効いているのだろう。昨日今日知り合った転校生の警告がなぜ効果があるのか、それが奇妙だった。
「でも、ほむらちゃんは反対してたよ、いいのかな」
「アタシも正直危ないと思う。攻めと守りを一人でやるのは忙しくなるよ。忙しくなるとどちらかが疎かになる」
「そうね、でも私もベテランだもの。鹿目さんも、美樹さんも、ネミッサも守り切る」
強い決意。それは事実を述べた以上に、宣誓の如きものだった。守り切るという誓いを立てたわけだ。その誓いをネミッサは美しいと思う。だが、それを貫かれるわけにはいかない。気高いマミの発言であるからこそ、向き合い戦わくてはならない。マミの誇り高い誓いと戦う。
「そんな宣言意味ないわ」
一瞬、マミの瞳が揺れる。驚きと、困惑、そして……。
「私が信じられないっていうのね」
33 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:43:12.97 ID:wOPwqajX0
二人の間でおろおろするさやかとまどか。ネミッサの双眸が吊り上ったからだ。まるで喧嘩腰である。優しげなマミに対してする態度ではない。それだけ彼女がマミに対して真剣に向き合っているということだが、少女の二人にわかるわけがない
「全員が危なくなった時、マミちゃんなら私達を守ると思うのは疑ってないよ。でも、そのとき自分を守らないよねマミちゃんは。そうしたら、二人を誰が守るの?」
全員の言葉が詰まる。全員が全員、その予感がしたからだ。そうしかねない、そうなりかねない、マミの正義感は恐らくそうするだろうと。マミ自身がそう思うくらいだ。それは平時では美徳であるが、戦いの時は正しいとはいえない。特に、魔法少女を魔女の結界内で失うことは即ち全滅に繋がる。だから時に、自分の身を守り三人のうち誰かを見捨てる必要がでてくる。ネミッサはそう言っているのだ。誰を助けて、誰を見捨てるか。相棒はそれをきちんとわきまえていたように思う。時に冷酷にさえ見える行動は、全滅を防ぎ、目的を達成するための必要な選択なのだから。
「ごめんね、嫌なこと言って。でも、マミちゃん絶対無理しちゃうから、怖いんだ。優しいから、とっさの時に自分を顧みなくなりそうで、怖いんだ。足手まといには、なりたくないよ」
マミは気づいた。先のネミッサの泣きそうな顔の真意に。ネミッサはマミを心底心配している。それは、まどかとさやかからは感じ取れないものだ。二人が憧れを持っているが、そのためにマミを心配する思いは薄い。それをマミは読み取った。
「そうだ! ほむらちゃんにも協力してもらおうよ!?」
「だが、彼女は得体が知れない。マミのグリーフ・シードや縄張りを狙ってる可能性がある」
警告を発するQBに、ネミッサは心のなかで毒づく。何を云うんだ。手管を知ってるせいか腹の中で苛立った。可能性を言ったらキリがない。その中で、高い可能性のものと、危険が一番大きいものに対応すべきだ。少なくとも彼はそういう戦い方をしていた。すべての可能性に注意を払っていては、リソースがいくらあっても足りない。
(こいつは目的を持ってミスリードを狙っている)
確信に変わった。絶対にここは引けない。負ける訳にはいかない。ほむらのためにも、マミのためにも、魔法少女候補生のためにも。
「私も転校生はちょっと信用出来ない。同じ魔法少女なら、マミさんのほうがよっぽど信用出来る」
この子も厄介だ。自分の正義感に真っ直ぐすぎる。ある種の思い込みが強い。恐らくマミの華麗な戦いとQBに感化されている。そして、QBのミスリードに気づかず乗っている。危ない。個人としては大変魅力的ではあるが、それが時に思いもよらぬ方向に引っ張られる。それがネミッサには怖い。
「可能性でいったら、アタシはどうするの? その”暁美ちゃん”の手下かもしれないよ?」
敢えて逆のことを言う。こんなことを言うと逆に疑われる可能性もあるが、まだここにいる誰も、ネミッサとほむらの接触は知らないはずだ。ただでさえほむらが接触して昨日の今日である。調べられる可能性は薄い。
「疑い出したらキリがないわ。私はネミッサは信じる。暁美さんは信じられない。それだけよ」
「……アタシが『悪魔』だ、って言っても?」
タイミングも悪かったのだろう。一瞬の間ののち、皆の笑いが出る。ユーモアと取られ、三人にクスクス笑われた。ネミッサは意を決して告白したのにもかかわらず、だ。今更ながら、人を説得すること、信じられない事実を信じてもらうことの難しさを痛感した。それをほむらは何度も行い何度もしくじって来たのだろう。冷めたような、厭世的になってもしかたのないことと言えた。
「悪魔でもなんでもいいわ。でも、私が信じるネミッサが『止めて』というなら、止めた方がいいかもね」
「マミさん!」
二人が全く逆の思惑で声を上げる。まどかはホッとした顔で、さやかは驚いた顔で。
ネミッサはかろうじて勝てた。ほっと、胸をなでおろした。
(信じてくれてありがとう、マミちゃん。今度は、もっと仲良くなれるよね)
QBはいつの間にか姿を消していた。
34 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:45:03.94 ID:wOPwqajX0
「ごめんね、折角のツアーおじゃんにして」
マミの部屋からの帰り道、ネミッサは二人に謝罪した。
「んー、最初は気に入らなかったけどさ、いいよべつに」
さやかはもう切り替えていたようだ。ネミッサの心配がマミに向かっていることを彼女なりに察していた。
「私も気にしてないよ」
まどかのほうは元々乗り気ではなかったらしい。ほむらの釘が気になる、という程度ではあるが、魔法少女になることに不安があるようだった。
イベントをダメにされたことをあまり気にしていないようで、申し訳なく思っていたネミッサは安堵した。また、ほむらの指示の前に二人に接触できたことは僥倖だった。折角なので仲良くしておこう。ほむらのためにもなるだろうという打算もないわけではないが、ネミッサ個人が二人を可愛いと思っていた。まどかはマスコットみたいで可愛い。逆にさやかはボーイッシュで可愛い。
(きっと魔法少女になるには可愛くないとだめなんだ、きっと)
自分の素質を棚に上げてそんなことを思う。
「正直さ−、自分の人生と引換に叶える願いってなかなか思いつかないよ。マミさんを
手伝えないのは、シャクだけど」
「アタシもそう、マミちゃんに誘われては居るんだけどね」
そんななか、言葉少なにいるまどかは、ずっと思案顔だ。最初は二人ともまどかが願い事について考えているものと思っていた。けれども、二人の話題が願い事になっても会話に参加しない。
「マドカちゃん? どったの?」
「…………」
「まどかぁ?」
さやかの声にやっと反応する。心ここにあらず、をそのまま地で行ったような反応に二人は困惑した。
「ご、ごめんね、考え事してて……」
「まどからしくないぞー、どーしたのさ」
「うん、ほむらちゃんが契約をさせないようにしてたのって、なんでかなって」
「キュゥべえが言ってたじゃん。グリーフ・シード独り占めしたいためだって」
「うん、でも…本当にそれだけなのかな? ほむらちゃんがそんなにわるものに見えないから」
ネミッサが虚実交えてほむらを擁護することはできる。だが嘘は暴かれた時脆い。そもそもほむらの最終目的が判然としないのだから、擁護しようがない。だが、彼女が悪意を持って彼女たちに接していないのはこれまでの行動で理解できている。
「キュゥべえは嘘をつかない。だけどホントのこと全てを言うわけじゃない。そういう詐欺師もいるよ」
ネミッサはあえてキツい言い方を使った。本当は悪魔と言いたかったが、伝わりづらいのでやめた。
「マミさんたちがが私たちを騙そうとしてるっていうの!?」
正義感のさやかは語気が荒くなる。その真っ直ぐな心根は美しく、時に危ない。
35 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:46:05.41 ID:wOPwqajX0
「まってさやかちゃん。ネミッサちゃんは……」
「マミさんも騙されてるとしたら?」
ネミッサの視点に、さやかは言葉に詰まる。まどかも自分の心を言葉できず、混乱している。
「暁美ちゃんが悪者の確率が1%でも可能性はあるって言える。それは嘘じゃない。嘘じゃないってだけで、ホントのこと全てじゃない」
二人がネミッサの思考についていけるわけもなく、困惑している。修羅場をくぐり、彼の交渉を見つめ続けたネミッサだからこその言葉であり、思考である。生半可な中学生が及ぶ思考ではなかった。
「ネミッサ、アンタ一体何者?」
「だから言ってるじゃん……、悪魔だって。悪魔も『嘘をつかない』って方法で人を騙すことがあるんだ」
「ホントにぃ?」
「そうよ、経験者は語るってやつね」
「そうじゃなくてー、アンタほんとに悪魔なの?」
今度はネミッサが困惑する番だ。勢いでカミングアウトしたが、まさか真に受けるとは思っていなかった。確かに信じてもらえるなら、それはそれで助かるのではあるが……。なので、どうしていいかちっとも名案が浮かばなかった。実際に魔法でも使えばいいのだろうか。
「信じられる?」
「魔法少女ってのがあるなら悪魔もおかしくないかなぁ、くらいには思うよ」
「私は、ネミッサちゃんが嘘ついてるようには思えない、から……かな」
(嬉しいことを言ってくれるなぁ、マドカちゃんは)
「証拠を見せるよ。取り敢えず……」
バチバチと掌に電気の玉を作る。お髭の使い魔を一撃で倒したものよりずっと弱い。でなければ携帯電話あたりがお釈迦になるだろう。魔法少女になっていないのはQBの発言で裏がとれている。その状態でこんな手品を行うことで、少なくとも一般の戦うすべを持たない少女とは違うことがアピールできるはずだ。ちょっと得意げに見せつける。
「どう、フツーの人にこんなことできないよねー。あ、触ると危ないよ」
「う、うん、こんなことあるんだね……」
「悪魔かどうかは別にして、こういう力はあるんだよ。アタシはこれでマミちゃんを助ける」
「な、なんで?」
「アタシと初めて友達になってくれたのは人間の相棒なの。そいつはアタシと一緒に生きてくれた。だからアタシも人間と一緒に生きたい。人間の友達がほしい。だから」
どこか遠くを見つめるネミッサに、二人は掛ける言葉を探したが見つからなかった。なんとなくだが、その言葉が事実であることを嗅ぎとったからでもある。
ちなみに、ネミッサが持て余した電気の玉を適当なところに放り投げたら、非常に大きな音がしたため三人は慌ててその場を立ち去った。
36 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:47:01.92 ID:wOPwqajX0
ネットワーク潜入体験ツアー、天海市観光。
魔法少女候補生二人を連れて、ネミッサのツアーが始まる。つい先ほどあったにしてはずいぶん信頼されたものだが、ネミッサは上機嫌となっていて、そのあたりに気づいていない。ネミッサにしても二人が気に入ってしまったのでお構いなしだ。
二人がこうしてネミッサの発言を受けいれているのは、非日常が多すぎて混乱しているからだ。魔法少女、魔女、キュゥべえ、そして悪魔。一度にいろいろありすぎて処理がうまくいっていない。それでもネミッサ自身を受け入れたのは、マミへの心配が本気だと理解できたから。
契約の件ではまどかは消極的。さやかは比較的意欲を見せるが、それでもまだ揺れている。マミの手伝いをしたいというさやかの気持ち、それをネミッサが契約をしないまま直接手伝うようであれば無理な契約には至らないはずだ。それでなくても、平和に平凡に生きる人が無理に殺し合いに参加することはない。そういう荒事はそこに元々いる人か、そこに止む無く戦わざるをえない人以外するものではない。幸い、二人はまだ引き返せる。引き返させてみせる。
移動にはまどかの家のテレビを使った。地デジ対応であればパソコンである必要もない。むしろ現在ではあちこちにあるので移動には楽だ。
二人に外履きを持たせ、居間のテレビの前に起つ。不安げな二人の手を取り、にこやかに微笑む。安心させるためだ。
「だーいじょうぶ。二人にもアタシにも危険はないから」
「へへ、でもどきどきしてる。どうなるんだろう?」
「まどかは変なところで度胸あるからねー。私も平気だよ」
「んじゃしゅっぱーつ」
三人の体が光りに包まれ、光そのものになると、球体に形を変える。一度ふわりと天井まで上がると大きく円を描くようにテレビ画面に飛び込んだ。
情報のトラフィックが流星のように光り流れる電脳世界に三人はいた。傍目から見れば全身が光り輝いて見えるだろう。さやかは青、まどかは桜色。
「なんだかへんな気分だね」
「こう、体が軽いというか、重さがないというか」
「ほとんど魂だけの状態だからね。気持ちが不安定になると維持しにくいから、気をつけて」
「うへ、そんなこといまさら言わないでよ」
「へーきへーき、最悪手を離さなければ問題無いって」
そんな気楽な会話を続けながら、一つの窓に近づく。
「外、でるよ。気を楽にねー」
ネットワークから出た三人は、その足でホテルに向かう。全く別の街に転移したことに驚きを隠せないまどかとさやかはキョロキョロし続けている。
『情報環境モデル都市』として15年ほど前に開発が行われた天海市。都市全体をネットワークで結び、各家庭にパソコンを常備することで、行政を含めたあらゆるサービスがネットワーク上でやり取りが出来ることを目的とした開発だ。多くの人の関心を集め、国や自治体、大企業を巻き込み進められた開発だったが、これには裏があった。ネットワークを介しアクセスした人々の魂を集める目的で、エグリゴリの大悪魔が主体となって活動を行なっていたのだ。これに成功すれば日本中、世界中の魂を一箇所に集めることができるシステムが出来上がる。その根幹にあったのがマニトゥと呼ばれる。ネイティブ・アメリカン土着の精霊、異界の魂であった。
だが、ネイティブ・アメリカンの戦士レッドマンが死後も魂となって、マニトゥを見守っていた。無差別に魂を集めるマニトゥの危険性をいち早く察した彼は、ある行動をとった。本来死の概念を持たないマニトゥから分離し人間の間を生きることで「生と死」を学ぶネミッサを生み出した。
それがマニトゥに「死」を伝え、マニトゥは滅びその計画は壊滅した。そのときネミッサとともに戦ったのが若きサマナーと、スプーキーズというハッカー集団だった。そしてその戦いは、大きな犠牲を払いつつもネミッサたちの勝利に終わった。
結果、計画していた大幹部たちの撃破され、マニトゥは消滅し計画は壊滅。それに伴い、主導をしていた企業も倒産した。そのため、天海市は人口が大きく減り、ゴーストタウンの様相を呈するようになった。ただ、それが今では人口が戻りつつあるようで、それなりの活気は戻っていた。
多少端折つつも、二人に説明を行った。自治体を巻き込んだ陰謀に二人はすっかり驚いて信じられないようだが、ネミッサがそんな途方も無い嘘をつく理由がない。
「なんか、魔女より悪魔のほうがあぶないんじゃないかな」
「組織立って動くから、規模はどうしても大きくなるね。でも、ちゃんとそういうのに対抗する組織ってのもあるから」
「なんか、身近に悪魔がいるほうが怖いよ」
「へーきへーき、んなことより交通事故に気をつけて。そっちのほうがよっぽど確率高いよ」
そんな論法で話を締めくくった。確率統計の話でまとめても中学生にしても納得できるはずがなかった。怖いものは怖いのだ。
37 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:49:55.40 ID:wOPwqajX0
その港に停泊しているのは「ホテル業魔殿」と銘打たれた豪華客船だった。
ネミッサはともかく、中学生の二人は完全に気遅れている。初めて見るものにすっかり驚いていた。そんな二人の背中を押しつつ、気後れ一つせずネミッサがホテルに導く。見上げるほどの船体。その豪華客船全てがホテルとなっているという、まどかやさやかには想像もつかない世界である。お嬢様として名高い友人の志筑仁美、彼女の世界に近い。
「こんちはー、メアリ、いる?」
豪華なロビーにあっけにとられる二人をほったらかして、気さくにフロントに話しかける。そこにいたメイドは無表情で応じる。
「ヒト……ネミッサ様、こんにちは。まだヴィクトル様に御用ですか」
「ああ、うん。アタシの相棒が預けたものを返して欲しくて、ね」
「かしこまりました。お二人のどちらかが希望されたら速やかに返却するよう申し付かっております」
「ありがとうね。あ、それとできればあそこの二人にお茶とかお願いしていい?」
「かしこまりました。ご友人ですか?」
「うん、アンタの他に、新しい大事な友人ができたよ」
「私もですか、ありがとうございます。では、早速準備いたします」
豪華な受付に気軽に対応するネミッサにあっけにとられているようだ。生半可な社会人とて利用する機会が少ない豪華客船である。普通の中学生がおいそれと来るようなところではない。当然の反応だった。
話を終わらせ、ロビーのソファーに三人腰掛けると、しばらくしてからメアリが紅茶を出してきた。
「只今お持ちいたします。その間、こちらをご賞味ください」
「あ、ありがとう、ございます……」
「なーにかしこまってんのよ。メアリ、慌てないでいいからね?」
「畏まりました。では、ごゆっくり」
丁寧なおじぎをすると綺麗な姿勢のまま下がる。
「すっごいところに知り合い居るねー、びっくりしちゃった」
「悪魔だから、なのかな?」
「んー、悪魔と人脈はちょっと関係ないけど、一応信じてもらえた?」
「ネットワークに入れた時点で信じざるをえないよ」
38 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:50:33.22 ID:wOPwqajX0
ちょっと得意げなネミッサに苦笑いの二人。豪華なティーカップの価値がわからないのか、ネミッサはぞんざいに扱っている。一方で中学生二人はカップを割らないようガチガチに緊張してしまっていた。
とその背後に、重そうな荷物を持つメアリが近づく。まどかは近づいてから気づいたが、メアリの肌が透き通るほど白く、その虹彩が赤いように見えた。いわゆるアルビノというものだろうか。アルビノという単語そのものを知らずにまどかはそんなことを思った。
「なんか、すんごい美人だよね、メアリさん」
「さやかちゃん、失礼だよ」
「ありがとうございます、えっと……」
「ああ、こっちの子がサヤカちゃん、んでこっちがマドカちゃん」
「さやか様、まどか様、はじめまして。メイドのメアリと申します。以後お見知りおきください」
「あー、んな堅い挨拶なんかいいからさ、持ってきてくれた?」
「こちらでございます。ヴィクトル様はこちらに興味を持たれておりませんでしたので、不在ではありましたがそのままお持ちしてよいとのことです」
「ん、ありがと。メンドーかけて悪いね」
「いいえ、大切な友人のお願いですから」
「嬉しいこと云うわね、ありがと」
「どういたしまして。私は所用がありますのでお茶にお付き合いできませんが、ごゆっくりどうぞ」
ジェラルミンのような頑丈なケースに入れられたそれを受け取る。その物々しさがネミッサに似つかわしくない。
お茶はかなり良い物で出し方も申し分ないはずなのだが、まどかは緊張で味を覚えていないという。勿体無い。飲み終って豪華なロビーから退出するとネミッサは二人に向き合う。
「ま、こんなもん、他にもいろいろあるけれど、二人にはちょっと濃すぎてねー」
「ここでも十分すごいよネミッサちゃん」
「ま、帰ろうよ。私は疑わないよ。雷も扱うんだし、なんか武器もあったでしょ」
「うん、この辺りのお店でね、手に入るのよ。普通の人は買えないけどそこでね」
「……マミさんのこと、お願いね?」
不安そうなさやかの顔と声。真摯にネミッサに向き合う。心底心配していることが見て取れる。真っ直ぐな瞳は、ネミッサには眩しい。彼女も魔法少女の素質があるということだが、ネミッサにはその日本刀のようなさやかの心に不安を持たずにいられなかった。
「大丈夫、任せて。アタシにも力があるんだ。この両手に入るモノは守るよ!」
ぎゅっと、2人の肩を抱きしめる。この中にマミもほむらも入れたい、そう思いながら。
(リーダー、見ててね。今度は失敗しないからさ)
39 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:52:48.49 ID:wOPwqajX0
二人を無事に送った後、託された思いを持ってネミッサはほむら宅へ移動する。今日の報告をするためだ。自然に動く足のまま、ふらふら漫然と歩く。歩いた道筋すら忘れるほど気ままに。まどか、さやかと仲良くなれたことで非常に機嫌が良くなっている。だから、ほむらの気持ちを考えずその勢いで訪ねてしまった。
ちゃんとチャイムを鳴らすまでは良かった。だが、ほむらが出迎えた時、挨拶もそこそこに話しかけたのがまずかった。
「ホムラちゃん、今日はマドカちゃんとサヤカちゃんと接触できたよ。なかなかうまく行っ……」
表情がいつも異常に硬い。そして目に苛立ちが映る。その色に、ネミッサは言葉が続けられなかった。
ネミッサはハッキリ聞いていなかったが、ほむらは想い人との接触に失敗していた。そこに、あろうことかその想い人と接触がうまく行ったことを伝えたところで、ほむらが冷静に対応出来るわけがない。たとえクールに見えても、ほむらはまだ中学生。心のコントロールが必ずしもうまくいくとは限らない。
「ご、ごめん」
「何を謝っているの?」
「い、いや、わかんないけど、ごめん」
「今度は巴マミの危機が迫っている。それに対応して頂戴」
ネミッサとしてもほむらの気持ちがわからないでもない。しかし、そこはネミッサも大人とはいえない。申し訳ない気持ちもあったが、だんだん上から目線のほむらに苛立ちを感じてきた。
「で、アンタは来ないの?」
「いくわ、当たり前でしょう」
「安心したわ。マミちゃんのことどうでもいいかと思ってたから」
ネミッサの嫌味にほむらが勘付く。頬が軽く引きつるが努めてクールに対応する。
「どうでもいいなら、助けて欲しいなんて云うわけがない」
語気が少し荒くなる。ほむらの真意や思い、マミとの関係をネミッサはあまり知らない。故にネミッサはマミやさやかへの淡白な対応が気に入らない。ほむらの冷めた斜に構えた態度に図らずも爆発した形になった。
「私が信用ならないなら、同行しなくても構わない。美樹さやかに付いていって頂戴」
「マミちゃんじゃないの?」
「……魔女とは病院で戦うことになる。最初に発見するのは美樹さやかよ」
「詳しいのね」
「統計よ」
「ハズレないといいけどね」
「棘があるわね」
「気のせいよ」
この小さなスレ違いが、マミ救出作戦の詰めを甘くすることになるのだが、二人は気づかない。
40 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:54:31.14 ID:wOPwqajX0
翌日、下校する二人を捕まえに、ネミッサは行動を開始した。にこやかに挨拶を交わす。
今日はさやかの幼馴染へお見舞いにいくという。ネミッサもそれに同行を申し出た。表向きはただの付き添いだが、実際には護衛だ。病院に魔女が現れることがわかっている以上、それをさやかが発見する以上、そばを離れる訳にはいかない。
さすがに病室に行くのは面識のある二人だけ、とおもいきや、お見舞い自体はさやかだけだった。まどかはさやかの幼馴染への恋心を理解しており、気を利かせたつもりだった。個室の前、廊下のベンチで二人腰掛けながら雑談を交わす。
「上条くんはね、バイオリンが凄く上手なんだけど、その左手を怪我しちゃったの」
バイオリンの名手が左手を失う意味を考え、まどかは語る言葉を躊躇う。
消毒液の臭いが苦手なネミッサはちょっと落ち着かない風だが、まどかの話に興味を持った。一瞬、ヴァイオリンを弾く魔人が頭をよぎったネミッサは落ち着かないふりをして頭を振る。閑話休題。
「ひょっとして、よ。サヤカちゃんの魔法少女のお願い、ってそれ?」
「う、うん……ハッキリそうだと言ったわけじゃないけど……」
さすがのネミッサの持論もそれには困った。願いは自分で成すものだが、他人の体についてはそれを自分で成す訳にはいかない。ましてや現代医学でも治らないとなれば、やはり奇跡に縋りたくもなるものだ。
「ね? ネミッサちゃんでも無理?」
「ん……多分無理ね。一応医療の神様っていうのはいないわけじゃないけど……、サヤカちゃんの命と引き換えになるなら紹介はできないよ。それに、ツテもないしね」
まどかの小さなため息に、心が痛む。悪魔とはいえなんて自分は無力なのだろう。そして、それをさやかはもっと感じているだろう。あの真っ直ぐな心は、何かのきっかけがあればどこかに転がっていくだろう。ネミッサには恐怖だった。
そんな会話のさなか、当のさやかが帰ってきた。心なしか、表情が暗い。そして、そういえば……。
「あれ、さやかちゃん、いいの?」
時間が早いのではないか、という意味だ。まどかは時折付き合ってお見舞いにいくことがある。それに比べたら、ということなのだが。
「うん、なんか会えなかった」
照れ笑いでごまかすが、会えないにしては時間が長すぎ、会えたにしては短すぎる。何かトラブルがあったことはネミッサにも想像がついたが、切り出す事はできなかった。
病院からでて、駐輪場のわきを通る帰り道。皆一様に言葉少なだった。そんな中さやかが自分の視線の端にあるものに気づいた。壁に突き刺さるように、宝石に似た装飾品が光る。
「あ、あれなに?」
「グリーフ・シードだ」
急に現れたQBが声を上げる。不穏な空気にネミッサとまどかがさやかに近寄る。この珍獣はいつの間にここにいたのだろう。さやかのそばにいた? それともまどかか、ネミッサか?
(孵卵器……シード。種……卵……孵す……。……まさか、こいつが!)
嫌な想像が頭をよぎる。マミの死地に魔女の卵と孵卵器が同時にある意味に、背筋が凍り付く。そして鎌首をもたげる怒り。だがそれをここでこいつにぶつけるのは得策ではない。今はマミの救出にリソースを全て投入するべきだし、ネミッサもそうしたかった。こいつの始末はあとだ。
「今にも孵化する。ここから離れた方がいい」
「処分できないの?」
「僕にも無理だ。孵化は止められない」
病院という場所柄、人の負の感情が集まる。グリーフ・シードというものは周囲のそれを集める特性があり、それが孵化寸前まで溜まっているらしい。そして、病院でそんなことが起きれば、魔女は医療従事者や患者、その家族に牙をむくだろう。慌てて電話をかけるまどか。だが呼び出し音だけでマミに連絡ができない。
「マミさんに教えないと!」
焦るまどか。一方のさやかはそれよりも若干冷静に行動を起こす。だが、その行動が評価できることとは限らない。
「私、ここでグリーフ・シードを見張る」
これには二人も唖然とする。それは結界内に一人で残ると云う意味だ。こうなるとこの子はテコでも動かない。それに気づいたネミッサは、同時にほむらの指示の真意に気づいた。ほむらはこのことを言っていたのだと。となればネミッサの次の行動は一つだ。意を決しネミッサも宣言する。
「アタシも見張る。いいよね、サヤカちゃん」
「うん、ネミッサがいるなら平気」
「まどかはマミさんに連絡し続けて!」
結界内では携帯は恐らく使えない。まどかのみが結界の範囲外にでて、マミへの連絡を行う。それはまどかだけ安全なところに逃げることと解釈したためか、まどかが躊躇う。
「お願い、マドカちゃん。マミちゃんが来たら、急いでここに連れてきて。アタシが絶対、サヤカちゃんを守るから!」
逡巡ののち、まどかは決心をして病院外に走り出す。そこに残ったのはさやかと、ネミッサ、そしてQB。
「さやか。最悪の場合、僕も契約の準備がある。魔法少女となって戦ってくれ」
ネミッサは本気でQBを感電死させようかと思った。この期に及んでこいつは契約のことしか無いのか。しかも自身の命と引き替えに。最悪のセールストークに吐き気すら覚える。最も邪悪なものは、善良な無知に付け込むことだという。こいつはさやかへ重要な説明を隠すことで無知を作り、そこに付け込んでいる。
いつかこいつを排除しなければならない。ネミッサは方針を決めた。
41 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:54:58.29 ID:wOPwqajX0
見張るとは言え、やることはない。ネミッサにしてもさやかの護衛というだけで積極的に何かするわけではない。孵化したところで電撃をかますことも考えたが、マミに一般人を巻き込む云々などと言った以上到着を待ってからのほうがいい。そう判断した。
「ま、暫くは様子見ね。落ち着こうか」
「さすが悪魔ね、大胆というかなんというか」
「人間が魔女の卵見張るとかそっちも大したもんだよ」
冗談を言い合い、屈託なく笑う。ネミッサも不思議だが、さやかとは波長が合うようだ。興味という点ではまどかのほうが大きいのだが、一緒にいて楽しいと感じるのはさやかのほうだった。友達としては申し分のない人柄だ。これで、もう少し考えてくれれば最高なのだが……。それもまた魅力か。
ネミッサがさやかの凛とした横顔を見る。コロコロ変わる表情が非常に魅力的で、異性同性問わず友人が多いという。だが勝気な性格と短い髪型が災いしてか、男子生徒からは男として見られることが多いらしい。その豊かな胸はそれを拒むほどで、そのギャップもまた彼女の魅力なのだろう。
「さっきどしたのさ。なんかあったん?」
「うわ、そーゆこと聞くんだ。さやかちゃんのブレイクハートをえぐるつもりなのか〜」
「あ、え、マジ? ごめん」
ネミッサが本気で凹んだのをみて、さやかがやりすぎたと苦笑いをする。隣に座るネミッサの背中をポンポンと叩く。ジョークだとわかるまで暫くかかったが、ネミッサの初心な反応がさやかには嬉しかった。本気で心配していること、案じていることが伝わったからだ。そういう意味ではまどかに似ている。彼女もさやかの冗談を本気にしてしまうきらいがあり、行きすぎて泣かせてしまうこともあった。
「いやさ、サヤカちゃんが、その、幼馴染が気になってるっていうしさ」
「うえ! なんで知ってんの?」
「いやさ、アタシもいい加減悪魔だけど、ほとんど毎日お見舞いに来て幼馴染ってだけじゃないってわかるよ」
まどかから聞いたことは伏せることにした。さすがにデリカシーがなさすぎる。あとでまどかがさやかからセクハラじみた報復を受けるかもしれない。胸を揉まれるくらいの報復は覚悟してもらう。
「ううう、恋愛経験少なそうなのに……。っていうかあんたのほうはどうなのさ!」
「うぇ!? あ、アタシ? アタシは……」
「天海市で一緒に戦ったっていう、ア・イ・ボ・ウ、のこと」
「あ、アイツは、本当にただの相棒で、その、アンタみたいな話は……」
「しどろもどろになるのが怪しい〜。さぁ、吐け〜、はくのだ〜」
今度はネミッサがさやかにセクハラを受ける番だ。魔女の結界化が迫るなか胸を揉みしだくのはあまりにも緊張感がなさすぎるが、ネミッサも反撃と称して同じようなことをしている。同レベルだ。お互いが相手の背後を取ろうとドックファイトを繰り広げる。女性同士だからキャットファイトでもなかろうが、QBをそっちのけで二人が盛り上がる。
ひとしきりセクハラ合戦が終わると、ネミッサが切り出す。
「はー、はー……、解った。認める。多分アタシもアイツが気になってる」
「やーっと素直になったか。うむうむ」
「あー、もー茶化すなっ。それと、思いを伝えられなかったのも認める。後悔も認めるっっ」
さやかが次の言葉を察し静かになる。QBがグリーフ・シードの異変に気づきそちらに視線を向けることにも気づかずに。
「もんのすんごい後悔してる。そんな運命だからって、言わなかったのを後悔してる。生き残ったことも、後悔してる」
まどかもさやかも、ネミッサの生い立ちも事情を説明されている。死ぬ定めも、当然知っている。
「私に、後悔して欲しくない?」
「うん、どんな形でもね。当たって砕けるくらいの勢いでいきなよ。そのほうがアンタらしいわ」
何事か口を開こうとした瞬間、周囲の景色が変わる。
魔女の結界が広がった。そして、それは魔女の孵化が近いことを示していた。
42 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:56:04.80 ID:wOPwqajX0
そこはお菓子だらけの結界だった。お髭の結界しか知らないネミッサは周囲をキョロキョロ見回す。ポップなお菓子まみれの地獄絵図。天井からぶら下がる逆さ吊りの人間のようなオブジェには首がない。
「あいっかわらず悪趣味ねぇ」
インチキジャグラーだってもう少し洒落が効いていたようだが、この陰気な雰囲気が魔女の内面なのだろうか。それは同時に……
「大丈夫だ。まだ完全に孵化したわけじゃない。だけれど気をつけて。ここはもう魔女の結界の中心なんだ」
「あらアンタいたの?」
「ずいぶん毒があるね」
「あ、いや、サヤカちゃんの胸の感触で頭がいっぱいで、すっかり忘れてた」
「うわ、引くから、それ、引くから」
「しかし、君は本当に悪魔なんだね」
「信じてもらわなくてもいいんだけど、アンタには」
「いや、信じるよ。けど、今まで実例がなくてね。興味深いんだ」
悪魔と接触したインキュベーターはいないわけではないらしい。だが、それが今まで意味がなかったのは魔法少女になる素質がないためだった。考えてみれば当然の話しで、悪魔の寿命からみて人間の年齢で第二次成長期などという『生まれたて』な悪魔などそうそういるわけもない。そもそも接触する確率も低く、それが生まれたての可能性も低いとなればますますインキュベーターの視野に入りづらくなる。それがさらに素質を持つかどうかとなればもうお手上げだ。QBはそう言っている。
”美樹さん、聞こえてる? 鹿目さんから聞いたわ。無事ね?”
マミからのテレパシーがさやかに届く。結界内は携帯が通じないため、QBが中継するテレパシーが頼りだ。魔法少女同士であればQBの中継は必ずしも必要ないが、候補生の場合には必要らしい。
”マミさん! 聞こえます。私たちはまだ無事です”
”無理をしないでね。鹿目さんと合流するわ”
”平気です。ネミッサもいますし”
”急いで行くわね”
さやかのテレパシーを察し、ネミッサが切り出す。
「来るみたいね」
「うん、連絡付いたよ」
さやかの言葉少なになってくるのは緊張の現れか。生き死にがかかっているのだ。緊張して当たり前だ。だがネミッサがその肩を掴む。意外に強い力だ。それが意味するところは。
(安心して、絶対に守るから)
さやかはしっかり頷いた。その肩の手を添えて応える。
43 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 15:56:44.44 ID:wOPwqajX0
魔女の孵化とほとんど同じタイミングでマミは中心部に到着した。天井のお菓子の箱から溢れるように落ちてくる魔女。それは結界内にいる四人を殆ど見ずに結界内のお菓子を夢中で食べている。外見といいそれだけ見れば害意のなさそうではあるが、魔女は魔女である。マミにとって、魔法少女にとっては狩るべき対象だ。まさに、魔女狩り。
マミの心は軽い。マミの戦いは、一切見返りのないものだった。グリーフ・シードが時折手に入るくらいで、襲われている人々を魔女や使い魔から救い出しても、感謝の言葉一つない。魔女に魅入られた人は助けられても、魔女に操られていた時の記憶が無い。また、助けたのちに警察沙汰になればマミは説明するすべを持たない。黙って立ち去らざるを得ない。
彼女が魔法少女になったのは、交通事故に合い、死にかけたからだ。両親は即死、歪んだ車体に挟まれ彼女だけ重体。意識が朦朧とする中現れたQBとまさに『悪魔の契約』したのだ。『生きたい』と。結果幼い彼女は一命をとりとめ、遠い親戚を後見人としつつ、中学を卒業するまで、と見滝原に留まった。魔法少女として生きるために。
孤独だった。
その孤独の中で、理解者はQBだけだった。遺産を奪おうとする大人たちから世間に疎い少女を陰日向から守ったQBをマミは家族のように、そして救いの主のように思っている。QBだけが、魔法少女の生き方を理解し、その手助けをしてくれていた。
そこに、ネミッサが現れた。まどかも、さやかもいる。三人ともマミの戦いを理解し、手助けをしようとしてくれている。
嬉しかった。特に、ネミッサはマミの境遇を理解した。涙もでないほど、悲しい顔で。あの表情は忘れられない。
嬉しかった。QBを追い出してまで一人自宅で号泣した。QBはマミの気遣いをするが、ネミッサのような表情で慮ることはなかった。ネミッサは始めて出会ったにも関わらず、だ。
またまどかは、ここに来る間にマミに約束した。魔法少女になってマミとともに戦うことを。それがマミには嬉しかった。
「もう、何も怖くない」
理解してくれる人がいる。頼ってくれる人がいる。支えようとしてくれる人がいる。
こころがかるくなった。
中心に来るまでに使い魔はいなかったため、マミの気力魔力共に充実している。無事なさやかとネミッサがマミに近づく。
「さぁ、一仕事終えて、お茶にしましょう」
いつもの明るい声。軽くなった心が、三人を安心させようといつも以上に明るい声を出させた。その明るさに自信を感じ安堵する二人に対し、ネミッサは恐怖を覚えた。ユーイチが頭をよぎる。
マスケットで殴打する。小型の魔女の頭部を踏むつけながら銃を撃つ。なすがままの魔女はそれをすべて直撃していた。リボンで拘束し、空中に固定するとそこにめがけ大技を仕掛ける。
瞬時に複数のマスケットを出し、それをリボンで包む。本来マミの固有武器はリボンだが、それでは攻撃力が足りないため、マスケットを編み出した。さらにそれをリボンで包み、魔力を上乗せすることで桁外れの威力を実現した。それにマミは名前をつけた。
「ティロ・フィナーレ」
轟音と共に吐き出される魔法の弾丸はまっすぐに魔女を直撃した。発動そのものに必殺技を云う必要はない。だが、そのための動作などで精神を高ぶらせ、威力や精度を上げることができる。轟音を上げて魔女に突き刺さる魔弾。
「やった!」
さやかが快哉を叫ぶ。だが、ネミッサは冷静に魔女から目を離さない。ほむらがいうほどの魔女だ。何かがある。だが、その何かがわからない。それはほむらとの連絡不足によるものだった。僅かな仲違いがマミを死地に追いやる。
直撃を受けた魔女から初めて目を離すマミ。背後にいた三人に顔を向ける。いつもの微笑みが、三人に向けられる。
「鹿目さん。終わったわ」
「はい、でもほむらちゃんが可哀想です。もう、ほどいてあげませんか?」
「ええ、もういいわね。暁美さんには謝らないといけないわね」
マミはふっと、体の緊張を解く。その横で、まだ戦いの目をしているネミッサに声をかける。未だネミッサを守るべきものと捉えてるマミは、彼女を戦わないものと思っていた。
「緊張しなくていいのよ。もう、終わったのだから」
マミのいつもの声色で、穏やかにネミッサを労る。だが、ネミッサの表情を観た瞬間に戦慄が走る。その目がマミと同じ一箇の戦士のものだと気づいた。その戦士が緊張を解いていない。その意味を知った瞬間、マミは再び心を戦いに向ける。だが、そのタイムラグは致命的だった。
「だめっ! くるっ!」
ぬいぐるみのような魔女の体から、その質量を無視するような巨大なモノが滑るように出てくる。巨大な牙を持つ黒いオタマジャクシのようなピエロ頭。そのコミカルな死神は、まっすぐマミ目掛けてその顎を開ける。
鮮血。濡れた音。
まどか、あるいは、さやかの悲鳴。
44 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 16:05:15.75 ID:wOPwqajX0
ほむらは焦っていた。今までマミと仲違いしたことは多かったが、結界内で拘束されることはなかった。そこまで警戒されていたという事実に愕然とした。だが、それでもマミを失う訳にはいかない。今回相まみえる魔女『シャルロッテ』は『何度も』マミを葬ってきた強敵だ。巨体に似合わないスピードでリボンに寄る拘束やマスケットの射線をはずすため、遠距離攻撃を主体とするマミには相性が悪い。望ましいのは接近しての攻撃なのだが……。
なぜマミを助けようとするのか、ほむらは心のどこかで考えてた。それを最初は戦力になるからだと自分で理由をつけていた。だが、本当にそれだけなのだろうか。自分を非常に警戒する相手と共同戦線を張れるのか不明だ。仮にそんな状態で戦っても、連携が取れずに各個撃破されるのが落ちだ。それならば単独で戦ったほうがい、と判断するのがほむらの思考である。
何よりも彼女はマミを恐れていた。信用できないからではない。彼女は一度殺されかけたのだ。マミに。
(なのに、なぜ? マミを助けたいと思うの?)
自分を拘束し、銃を向け、敵意を叩きつけ、挑発し、想い人との間に立ちふさがり、自分を導き、優しい微笑みをくれた。
感傷を振り払い結界中心に急ぐ。
そこでほむらが観たものは、立ちすくむまどかとさやか。そして、血まみれで伏すネミッサとマミ。
「巴マミ! ネミッサ!」
「ほむらちゃん!」
魔法を使うのも忘れ、血だまりに駆け寄る。近づく魔女に拳銃を撃ち距離を取る。着弾し爆発を起こす弾丸。ネミッサに融通してもらった銃と弾丸は今までのもの以上の威力で魔女を仰け反らせた。それで辛うじて時間を作ると、二人に駆け寄る。
(また、助けられなかった)
後悔があった。ネミッサとの僅かなスレ違いでマミの死神への対応をネミッサに伝えなかったのだ。自分への怒りと、魔女への怒りをないまぜになっていた。近くで膝をつく。悔しかった。協力者がいたにもかかわらず、自分の愚かさ故にマミを、ネミッサをも失ってしまった。
ほむらは崩れ落ちそうな顔をこらえ、僅かな可能性に賭けて治療魔法を施そうとした。魔法少女たちはその素質や願いにより得意な魔法に傾向がある。つまりほむらは治療の魔法が不得手なのだ。だがやるしかない。その決死の表情をまどかとさやかに見られたことに気づかないほどに必死になっていた。
「マミさん! ネミッサ! 生きていたら返事をして!」
だが、そのときリボンが動き、ネミッサの腕を縛る。千切れそうになっているネミッサの腕を固定するようにリボンが巻き付いていたのだ。丁度包帯のように。
マミは生きていた。大顎に気づいたネミッサがマミを引きずり倒し、反撃を試みたのだ。だが、魔女の動きが予想以上に早く、ネミッサの伸ばした腕が魔女の口の中に入る形になった。だがネミッサは些かの躊躇いもなくその口に腕を投げ出すと口内で最大限の電撃を放った。完全に閉じられなかったため、辛うじて噛み千切られることはなかったが、巨大な牙がネミッサの肩近くを貫いた。
ネミッサは意識が混濁しているのか、反応が薄い。腕の根本に切断しそうなほどの大怪我を負って無事でいられるはずがない。引きずり倒されたまま、マミは血まみれのネミッサの治療を行なっていた。
「暁美さん! 後ろ!」
再度襲い掛かる魔女に振り返りつつ反撃する。着弾と爆発で再び追い払う。
「無事、なの?」
自分に覆いかぶさるネミッサのしたからマミが這い出る。血だらけの姿だが大きな怪我はない。治療に長けたマミの魔法で辛うじて止血ができているネミッサの顔色が悪い。辛うじて意識があるのかほむらを見て、口を動かす。
「ほむ……、ごめ……、マミちゃんが……」
「喋らないで、あとは私が」
「マミちゃん……私はいいから、二人のことを……考えて」
ネミッサの云う二人はまどかとさやかのことだ。
『全員が危なくなった時、マミちゃんなら私達を守ると思うのは疑ってないよ。でも、そのとき自分を守らないよねマミちゃんは。そうしたら、二人を誰が守るの?』
「そうね……、わかったわ」
熱い血にまみれたまま、マミは立ち上がる。先ほどの浮ついた心が消え、凍てつくほど冷静な意識がマミを支配していた。
いつもの柔和な顔ではない。悲壮感すら漂う険しい表情は下がっている目尻を吊り上げる。戦う者の目だ。長年戦い続けたほむらが怯むほどの眼光が光っていた。血に染まった衣装が修羅を思わせる。
「暁美さん! 力を貸しなさい」
「は、はいっ」
ほむらが反射的に返事をしてしまう。魔法少女二人が魔女に相対し攻撃態勢を取る。状況が変わったことにわずかながら警戒をしているのか、先ほどのように無造作に突っ込むことはなく、様子をうかがっていた。
ほむらは、マミがネミッサを見捨てるようにマスケットを取り出したことに疑問を抱いた。一瞬魔女から目を外し、マミを見る。
「魔女から目を離さないで!」
「彼女はどうするの!?」
咎める声色のほむら。
「私たちは……あの二人を守らないといけないのよっ」
マミは口外にネミッサを見捨てると言った。ほむらはその勝手な言い草に怒りを覚えたが、まどかとさやかの姿が視界に入った時に、それを理解した。
「早く倒せば、助けられる」
突進をはじめた魔女に目を向けるとほむらはマミの手を取る。その状態で魔法を使う。ほむらの固有魔法が発動した。二人の周りに結界が生じ、その外側は暗い。結界の内側だけ、ほむらの認識したものだけが時が動く世界。
45 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 16:06:50.63 ID:wOPwqajX0
「これは?」
「これが私の固有魔法。手品を隠しつづけるよりは、ね」
ほむらの魔法は時間停止だ。正しくは『止まった時間のなか動ける魔法』ということだ。仮に、時間が停止しただけであれば体を動かすだけで空気が壁となり自らの身体を粉々にするだろう。また任意で、自分が触れているものを動かすこともできる。この場合はマミの体だ。
「あまり長く止めていられないし、手を離せば貴女も時間が止まってしまう。でも、これならどんな大技も出来る」
マミは瞬時に理解すると、出せうる数のマスケットをすべて作り出す。それをリボンでつなぎ合わせ魔力を極限まで注ぎ込む。その間、幾つかのリボンを魔女にまとわせ拘束する。その間、ほむらが『手品』のタネを明かした意味を知った。これは凄まじい魔法ではあるが、タネがわかれば対処できないこともない。すぐ思いつくのは、先手必勝、あるいは罠の設置。相手をつかめば、止まった時間の中でも動けるというのであればいくらでも対処できる。そんな危険なものをマミに明かした意味は、大きい。
「彼女は何者? 魔法少女ではないのよね」
隠しても仕方がない、とほむらは口を開く。より疑われるかもしれないが、嘘よりは何倍もいい。
「悪魔だと言っていることだけしか。……私も詳しくはわからないけれど、戦う力と意思を持っている。私と協定を結んでいるの」
「なんのために?」
「わからない。ただ、魔法少女を知って、私を助けるため、と言っていた」
「あなたのことよ」
「私は、貴女を助けたかった。けれど、警戒されてしまったから、ネミッサにお願いしていたの」
「そう……、もう準備はいいわ。本体のほう、頼める?」
「ええ、動かすわね」
時間が再び動き出したときには、魔女は拘束されて身動きが取れなくなっていた。突然のことに対応できず混乱する魔女の前に巨大な砲身が鎮座する。青白い怒りに燃えるマミが、その愛らしい風貌からは想像もできない憤怒の視線を魔女に向ける。
「ティロ・フィナーレ」
ぼそりと抑揚のない呟きと共に轟音と魔力弾が迸り魔女を簡単に貫く。マミから離れたほむらは、崩れ落ちる魔女の中から小さな本体を見定めると、時間停止を再度行った。マガジンに残った弾丸をありったけ本体に撃ちこむと、時間を動かす。
魔女は一度に十発近い爆発する弾丸を受け、滅び去った。
46 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 16:07:23.01 ID:wOPwqajX0
高い、澄んだ音とともに、グリーフ・シードが落下する。今度こそ崩壊する魔女を確認すると、二人はネミッサに駆け寄る。おろおろするまどかとさやか。ほむらはネミッサの意識を確認すべく声をかけ、マミも血止めにリボンを再び作る。
「ネミッサ! 聞こえているなら返事なさい!」
血の気を失いつつあったネミッサは、うるさそうに声を出す。
「聞こえてるわよ。今、自分でも治してるから……、心配させてゴメン」
リボン越しに傷口に手を添えている。添えた手から魔法を送り込み治療をしているようだった。憎まれ口がまじるもののその声に力がない。出血で集中できていないのか、治療の魔法が弱々しい。マミはネミッサが魔法を使うことに驚くものの、すぐに切り替える。見事と言えた。
「治療はマミが代わるわ。貴女は気を落ち着かせて頂戴」
マミがほむらを見る。ほむらは疑問を察し、首を小さくふる。
「私は固有魔法に特化しすぎている。治療は苦手なのよ」
自らの無力を告白するのは辛い。だが、ほむらにはそれを飲み干してでもネミッサを助けたかった。それはマミに伝わった。マミは力強く頷くとリボン越しに傷口に触れる。傷口を抑えていたネミッサの血まみれの手は、ほむらが握りしめる。
ネミッサは、手を握るほむらに安心したのか、体から緊張が解ける。すっと目を閉じて治療に身を任せる。治療を代わったマミが今度はリボン越しに魔法を送り込む。
どこにいたのかQBが、先ほどの魔女が落としたグリーフ・シードを持ってきた。マミもほむらもそれをすっかり忘れていたのだが、QBが気を利かせてくれたようだ。
「マミ、治療するならこれを使うといい」
「いえ、これは暁美さんに」
小さく驚くほむら。マミとしてはお詫びの意味があったのだろう。だが、ほむらはそれを辞退した。ほむらは治療が得意ではない。マミに魔力を使わせている以上、受け取るわけにはいかないと言ったのである。今度はマミとさやかが驚く。二人はほむらを誤解していることに気づいた。だから、マミもほむらの意思を尊重し譲歩案を出す。
「それなら、二人で使いましょう。先に私、そのあと暁美さんね」
「……それなら、いいわ」
「私、暁美さんを誤解していたようね。グリーフ・シードを狙うなら、狩場を狙うなら、魔女に背を向けてまであんなことはしないものね」
予期せず、ほむらを試す形になってしまったことと、拘束してしまったことがマミに罪悪感をもたせていた。それ故、グリーフ・シードは譲るつもりだった。さらにそれを固辞したことが、マミには驚きであり、ダメ押しとなった。
「わ、私も、ごめん! 転校生のこと……すっごい疑ってた。マミさん狙ってるのかって思ってた」
「ほむらちゃん、ごめんなさい」
「いいのよ。私は気にしていないわ」
「ばか、アンタの言い方が悪いんでしょ、誤解させてさ。アンタこそ謝んなさい」
「い、いいから貴女は黙ってなさい。怪我が治らないわよ」
「もう、大丈夫なんだよね、ネミッサは」
頷くマミに、さやかの表情が和らぐ。まどかは腰が抜けたように膝から折れてしゃがみこむ
「よかった……よかったよう……」
「マドカちゃん、心配かけてごめんね。サヤカちゃん、怪我、ないよね?
「バカァ! 自分の心配しなさいよっっ! さやかちゃんは怒っているのですよ!!」
バシバシと、怪我に関係無さそうなネミッサの太ももを叩く。平手打ちのいい音が響く。傷には影響がなくてもきっとパンツの下は真っ赤だろう。それくらいはネミッサは甘んじるつもりだったが、結構痛い。
「それより皆、そろそろ移動しないかい? 結界が解けたのだし、周囲が騒がしくなる前にここを離れないと面倒な事になる」
「それなら、私の部屋にいきましょう。もうネミッサを動かしても大丈夫だろうし」
マミがネミッサを抱き起こして抱える。所謂お姫様抱っこというやつだ。恥ずかしさのあまり抗議しようとするも血液を失い、その体力がない。大人しく抱かされながらマミの部屋に連れて行かれる羽目になった。真っ赤に染まった魔法少女の衣装のままにっこり微笑むマミは鬼子母神さながらの強さと穏やかさを兼ね備えていた。
マミの死神はネミッサに取り付き、大人しく立ち去った。
47 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 16:09:29.04 ID:wOPwqajX0
四人の少女たちをマミは招き入れる。マミは体力が減っているネミッサをベッドに寝かせたのち、おもてなしをしようと紅茶とケーキの準備をする。明るいその姿勢にほむらは呆れた。先ほど死にかけたとは思えない朗らかさだ。どうやら、マミにとって来客というのは非常に珍しく嬉しいものらしい。悪い言い方をすれば「ぼっち」といわれるタイプだ。マミの名誉のために断っておくが、実際には本人のコミュニケーション力の問題より、魔法少女の事情のほうが大きい。むしろ世話焼きのお姉さん気質であるため、まどかとさやかは良い先輩として憧れていた。もちろん、ほむらも。
「さぁ、召し上がれ」
先ほどまでの険しい表情などどこへやら。いつもの、いやいつも以上の愛らしい笑顔が眩しい。だが、そのせいかまどかやさやかはネミッサの惨状を引きずらずに済んだ。危険な状況を脱したのもあり、ひょっとしたらそれを狙ったのかもしれない。
「マミちゃん、ちょっと落ち着きなよ。なに舞い上がってるのよ」
ベッドに臥せ、顔色こそ良くないものの軽口を叩くネミッサ。ちょうどそのそばに座っていたさやかがその額を叩く。ぺちん、といい音がする。
「あんたは寝てなさい。もう、すっごい心配したんだからね!」
「うん、私も……、なんだか……落ち着いたら……」
まどかはマミの朗らかさに安堵したせいか涙目になってきている。やはりこの二人はよい子だ。出会って数日もないネミッサを受け入れ、心配してくれている。
「マドカちゃんはよく頑張ったよ……、一人だけ結界の外に行くのは辛かったよね?」
まどかの気質はネミッサにもよく分かる。ベッドに臥せた無理な姿勢で、無事な左手であやすようにまどかの頭をなでる。一瞬ほむらと目が合い、慌てたように引っ込める。なんだか非常に怒っていたような気もする。ちょっとだけ怖い。
「ホムラちゃん、先走ってゴメン。アンタに迷惑かけちゃったね」
「ほんとさ! 私にもまどかにも謝れ!」
「うう、悪かったわよ……、とっさのことなんだもん……、マミちゃんにエラソーなこと言ったのにね」
「ネミッサ。気にしないで。あなたがいなかったら、どうなっていたかわからないわ」
「んなことないよ。ホムラちゃんだっていたんだし。アタシ齧られ損ね」
マミがほむらをリボンで結束していたなどと露にも思わないネミッサは朗らかにいう。一瞬マミの表情がこわばったが、ほむらは素知らぬ顔だ。
顔色の悪いながらも落ち着いてきたためか、軽口がでる。しかしこのままでは今夜は熱が出るかもしれない。人間の体を模して構築したのが裏目に出た形だが、それは仕方ないことと開き直ることにした。そうでなければ人間の友達などできるはずもない。少なくともネミッサはそう思い込んでいる。
「今日はここで休みなさい。ご飯も作ってあげるし、あーん、とかしてあげるから」
「それはさすがにハズカシイんだけど……。あ、でもホムラちゃんのところだと……ねえ」
「な、なによ。看病くらいしてあげるわよ」
「三食栄養補助食品と野菜ジュースで過ごす家で、どう栄養取れっていうのよ」
「ほむらちゃん、いつもお昼早いなーと思ったけど、それホント?」
「暁美さんの体の細い理由が解った気がするわ。ちゃんと食べないと倒れるわよ」
「い、いいでしょう別に。ネミッサの看病をするならおかゆくらい作れるわよ」
48 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 16:10:04.13 ID:wOPwqajX0
ネミッサへの集中砲火がほむらに移る。先ほどまで険悪な関係とは思えないムードのなか、いつもは生真面目でクールなほむらが珍しく狼狽する。常日頃軽食ですませることが目撃されているほむらに、料理下手疑惑が湧き上がった瞬間だった。
「炊飯器もってたっけ?」
「さすがにレトルトのは禁止だかんね」
「お米ちゃんと買ってるのかな」
「炊飯器無くてもお鍋で作れるからね?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。私だってひとり暮らししてるのよ? どうしてそんな事言われるの?」
「……日頃の行動でそうおもわれてるんじゃないのよ」
「貴女が余計なことを言うからこちらにとばっちりがきたんじゃない」
そんななかQBが口を挟む。頃合いを見計らっていたようにも思えるが。
「さっきまで生きるの死ぬのやってたのに、きみたちは明るいね」
「そうじゃなきゃ命のやり取りなんかやってられないっての。ウジウジイジイジしてても仕方ないじゃない」
それが強さなのではあるが、感情を持たないQBには理解し難い。頭を振りわけがわからないといった風情。女性が三人集まれば姦しいというが、五人集まったマミの部屋は騒々しさに包まれている。しばしいじられ続けたほむらが時計に目をやり切り出す。
「……そろそろ私は帰るわ」
「ティヒヒ、ほむらちゃんがいじけちゃった」
「そ、そうじゃないわまどか。もう遅いのよ、二人とも送るから帰りなさい」
「嗚呼、最初の転校生のクールな威圧感はどこへやら……」
しどろもどろになったせいだろう、候補生二人はほむらに親近感をもったらしい。文武両道才色兼備、クールな謎の美少女(さやか談)転校生が弄られ、すっかり精彩を欠いている姿に顔がにやける思いだった。つっけんどんであるが送るという気遣いにマミはもう心を許している。固有魔法のタネあかしとグリーフ・シードの放棄。そしてネミッサやマミへの態度で警戒をすっかり解いている。これが演技であればもはや騙されても仕方ないというくらいだ。
戸惑いつつも先に動き出すほむらを、慌てて追いかける形のさやかとまどかはにこやかに笑いながらマミに挨拶をする。
「それじゃマミさん、おやすみなさい」
「おやすみなさい。また遊びに来てね」
「はい、絶対来ます! ネミッサー、マミさんに迷惑かけるなよ」
「うっさし。とっとと帰れ−」
49 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 16:11:08.42 ID:wOPwqajX0
「ベテランのマミですら危機に陥って、あのようなショックを受けることがある。それが魔法少女の実情」
道すがら、ほむらはまどかとさやかに言う。魔法少女にならないでほしいこと、それを約束してほしいことを。
「危険なことは私に任せてほしいの。ならないって約束してもらえるかしら」
「うん、私約束するよ。魔法少女には憧れてたけど……あんなことあって。怖いもん」
「そう、それがいいわ。貴女はどう?」
「わ、私も怖い……。生まれて初めてあんないっぱいの血をみた……」
すっかりネミッサの大けがで二人は怯えていた。
「でも、戦えるのがほむらだけになるんでしょ。大丈夫なの?」
「問題ないわ」
髪をかき上げる仕草をする。それは自信に満ちていた。最後までさやかはしないと約束する言葉を言わなかった。
打って変わって静かになるマミの部屋。残った食器を片付けながらマミはニコニコしている。もう落ち込んだ二人はいないのにもかかわらずだ。ネミッサはなんとなく思いつき、マミに声をかける。
「マミちゃん?」
「さぁ、ネミッサ、夕食作るわね。やっぱりおかゆがいい? それとも、なにかリクエスト有るかしら?」
「あのう……マミちゃん?」
「うどんとか、消化のいいものなら、なんでもいいわよ。挑戦しちゃう」
「マミちゃん!」
ネミッサの大きめの声で、動画の停止ボタンのようにマミの動きが止まる。手招きをすると意外なほどあっさりと、そして静かに近寄る。ちょこん、とネミッサの枕元に座り込む。笑顔は絶やさぬまま。今にも「なあに?」と言い出しそうな純粋な笑顔。ネミッサにはわかった。先輩の威厳で辛うじて保っていた体面と微笑み。
「もういいのよ? ムリしないで。カラ元気のほうが心配になるよ」
ふわふわのマミの髪。硬質の髪のネミッサにとっては撫でるだけで落ち着くような気分になる。さらさら、さらさらと指に髪が落ちる。その間、マミは微笑みのまま、何も喋らない。喋れない。自分でも恐らく気づいていないのであろうが、笑顔の双眸からは音もなく涙があふれこぼれ落ちる。次いでようやく自分の心に気づいたのか表情が崩れる。歯を食いしばってこらえていたが、もはや嗚咽は止められない。
「うっ、うううう、うぅ〜〜……ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
無事な左手で、号泣するマミを抱きかかえる。緊張が解けたのか全身が恐怖で震えているのがわかる。メンタルの弱さを責めるなかれ。一度瀕死の事故にあったマミは、死への恐怖にアナフィラキシーショックのように過剰反応してしまう。故にQBへの攻撃も恐怖していたし、その攻撃を行ったほむらに敵意と警戒心をむき出しにしていた。ほむらには残念ながらその当たりの察しが足りなかったため、マミの警戒の度を強めてしまっていた。
「怖かったよね、二度も死にかけたんだもん。ごめんね、ちゃんと守ってあげたかったのにさ」
抱きしめられながら、頭を横にふるマミ。ネミッサの誤解からくる労りはマミの心を打つ。だが実際にマミにとっての最大の恐怖はネミッサだった。ネミッサを失う恐怖。それは心の理解者と友人を失うことだった。自分に忍び寄る死も怖くないわけはないのだが、それ以上にネミッサを失うことが怖い。それを取り繕うように明るく振舞った。結果、さやかやまどかは元気を取り戻し、ほむらの警戒心も和らいだ。
「違います……ネミッサが、ネミッサを失うのが……、怖くて……。大事なお友達が、死んじゃうのかと思ったの……、守れなくて、ごめんなさい……うええええええええん……」
じわり、ネミッサも釣られて涙が浮かぶ。照れくささと嬉しさ、マミの優しさが沁みた。
今度こそ、助けられてよかった。二人とも抱き合い、暫く涙に暮れていた。
ひとしきり泣き続けただろうか。ほむらからの抗議のメールがネミッサの携帯に届く。その着信音で二人我に返る。自分達の姿勢に照れ笑いで誤魔化した。内容は、ほむらの部屋に放置した火器全般の処理について。その中写真も添付されていた。
「な、なにこれ? 可愛いわね」
鉄のヘルメットにウサギの耳がついた、冗談みたいな防具。これも立派な魔晶化された防具なのだが外見に著しい問題があり、正直ネミッサも処理に困っているものだ。特に気にせずネミッサはメールで返信した。
『変身して被れ。ついでにブラもつけてみて。今度携帯で撮るからよろしく』
「暁美さんが怒りそうね」
「マミちゃんに行く矛先がこっちくるならへーき」
まさか怪我人にあれこれ攻撃はできまい。候補生を巻き込んだマミに対する敵愾心がネミッサに向いてことが収まるのならば願ったりだ。マミはまじまじとネミッサに送られた画像を見つめている。何事かとネミッサが尋ねると、一言こう答えた。
「私も着てみたいなぁ」
ほむらが聞いたら喜んでマミの部屋にジャマな防具を持ってくるだろう。そしてそれを嬉々として身に付けるマミが頭をよぎり苦笑する。案外似合うかもしれない。
「うさみみマミちゃんね」
「ふふ、そうね」
ぴょこぴょこうさみみをなびかせながらもティロ・フィナーレを撃つマミが想像できた。意外にかわいい。
「アタシも一緒にかぶろうかな。お揃いで」
「楽しそうね」
やっと、マミに自然な笑みが溢れる。
50 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/05(土) 16:14:23.08 ID:wOPwqajX0
筆者です。
二章終了です。
1レスが多くなりすぎていますね。
見づらいようでしたら、また工夫します。
改行しすぎるとスカスカになるので嫌なのですが
可能な限り見やすさを優先したいと思います。
次の章はまた明日以降を予定しています。
しばしお待ちください。
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/05(土) 20:34:43.65 ID:dmOHSoPOo
乙! 続き楽しみにしてる
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2013/01/05(土) 21:40:01.58 ID:ahgDjMws0
乙です。メガテンシリーズ好きなのでとても楽しみにしてます。
真・女神転生Wが楽しみでしょうがない。
53 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:30:47.18 ID:WjAemYY10
筆者です。
三章をこれから投下します。
長いので章すべてを上げられるかわかりませんが、しばしお付き合いください。
楽しみにしていらっしゃる方がいて嬉しいです。
『いつのネミッサか』についてすでにお察しかと思いますが
質問にお答えできず申し訳ありませんでした。
本編で語られる部分が多いので、失礼とは思いつつもスルーさせていただきました。
「ソウルハッカーズ」をプレイしていると、にやっとしていただけるよう
工夫を凝らしましたので、それで埋め合わせていただけますでしょうか。
それでは、ご賞味ください。
54 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:31:40.49 ID:WjAemYY10
三章
【みきさやか さくらきょうこ】
その夜、ネミッサはおかゆを平らげるとマミのベッドを占拠したまま眠りについた。マミはそのそばに来客用の布団を敷いて休む。今夜は寝ずに看病するつもりのようだ。
いくらネミッサに看病が必要ではあっても、死の恐怖によって疲労したマミには辛い。だが逆に、看病に集中することでマミが余計なことを考えなくて済むのであれば、そのほうが都合が良いのかもしれない。
誰かのために力を使うことに、マミは些かの躊躇いもない。ましてや相手は大事な友達である。俄然ヤル気だ。ネミッサの発熱に対する手当も、彼女にとっては死の恐怖と戦うために有効な手段になっている。
発熱にあえぐネミッサの額に濡らしたタオルを載せる。汗を拭う。無事な手を握りしめる。体温調節に布団をかけたりはいだりする。一度の仮眠を除き、ほとんど不眠のままマミはネミッサを看ていた。
途中、熱に浮かされたネミッサが漏らしたうわ言は、マミには聞き取れなかった。わかったことは、何か過去にしてはならないことをしてしまい、それを悔いていることだけだった。
(貴女もつらいことがあったのね。負けないで、私がついているから!)
マミもネミッサも峠は超えた。翌日、疲れは見えるものの無事に通学するマミの姿に、まどかもさやかも安堵した。ほむらは念のためとマミのソウルジェムを確認したが、思った以上に綺麗だったようでホッとしたような顔だった。
その日の放課後ネミッサの見舞いに訪れたのはさやかとまどかだけ。マミの下校に合わせたとのこと。いつかネミッサがマミに教わった店のシュークリームをお土産に持ってきた二人に、ネミッサは感激して迎え入れた。ほむらが来ないことがネミッサの小さな不満だったが、へそ曲がりな彼女の性格を思って深くは追求しなかった。
回復魔法を使用のおかげで体力の低下を除き後遺症もない。見た目右手を吊るす必要もなさそうだが、心配するマミに逆らえずしぶしぶ聞き入れた。左手で無作法に食べるネミッサの元気さが三人を安堵させている。
ネミッサの心配はマミの方だ。峠は超えたが今まで通り戦いに参加できるかは不明である。ネミッサとしてはしばらく休息してもらいたいが、マミが聞き入れてくれるかどうか。彼女は歴戦の戦士だ。決して自分のことを見誤るようなことはしない。戦いに赴けるかどうかは本人がよく分かるはずだ。ネミッサはその戦士の素養を信じることにした。
55 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:32:29.39 ID:WjAemYY10
翌日、体調も良くなったネミッサを見に来たのはほむらだ。家主のマミの帰宅に合わせて訪問したようだが、どこかよそよそしい。そして奇妙なことに、先日と同じシュークリームを持参してきた。マミはそれに気づき言いたげだったが、ネミッサが指一本立ててニマニマしながら遮った。前日にまどかたちが同じ物を持ってきたと知ったら彼女はどう思うだろうか。あまりからかうとまたヘソを曲げるのでマミと一緒に楽しむだけにしておいた。
「昨日は来なかったけど、なんか用事?」
「ええ。マミもいないとなると、魔女退治をしないといけないしね」
「……負担をかけてごめんなさい。ネミッサも起き上がれるのだけど、まだ、ちょっとね」
「別に構わないわ、暫く休んでいても」
「またそういう言い方する〜。そーゆーときは『ありがとう、でもムリしないでね』って言えば好感度アップなのに」
「好感度とかは関係ないわ」
これだからネミッサはほむらが嫌いだ。
(ムカつく。ホントにいつか泣かしてやる)
「それならネミッサも、『心配だからアタシの怪我が治るまでムリしないで』って言えばいいのに」
マミがからかう。マミはなにか誤解している。心外そうな顔をしているとクスクスマミが笑う。憮然とした表情で紅茶をすする。相変わらずシュークリームをこぼし、指に付いたクリームをぺろぺろ舐める。マミが苦笑してその手を手拭きで拭う。甲斐甲斐しいまでの介護にネミッサは困りつつも受け入れていた。
56 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:33:34.81 ID:WjAemYY10
食器を下げにマミがキッチンに離れる。そのタイミングでほむらが切り出す。
「話がある」
「マミちゃんにはNGね。手短に聞く」
「今後、高い確率で美樹さやかが魔法少女になるわ」
驚くように息を呑む。だが大声は出さない。
「阻止すればいいの?」
「美樹さやかに影響されて、まどかも魔法少女になる確率が上がる。それは阻止したい」
ほむらは気付いているだろうか。ネミッサがほむらの『確率』という言い回しを易々と受け入れていることに。
「またアンタは……、サヤカちゃんも気にかけなよ」
一瞬の逡巡ののち、ほむらは頼りなげに声を出す。らしくないその態度にネミッサも困惑する。
「彼女を止める資格が、私にはない」
ネミッサには合点が行く。おそらくさやかの祈りはバイオリニストの左手のためなのだろう。想い人への祈りで(あえて想い人のためとはいわないが)魔法少女になったほむらは、自分と重なるところがある。想い人から感謝も報いも理解も拒否し、拒絶すら甘んじる。そんなさやかの向かう道を、どうして同じ道を歩む自分が拒めるだろうか。
「だから辛辣に当たるのね」
(この子もいつかつぶれてしまう。『サヤカちゃんと同じように』。なんとかしないと)
「……貴女に私のことは言ったことがないはずだけど」
「細かいとこわかんないけど、マドカちゃんのためでしょ。それくらいは知ってる」
そのクールな表情に浮かぶのは、困惑。なぜ知っているのか、という思いだ。察するならともかく、なぜか。
「いつか説明するわ。必ずね」
「あら、内緒話?」
マミがお茶を入れ替えて戻ってくる。ほんわかした表情に聞き耳を立てていたようには見えない。
「んー、こないだのうさみみのアレよ。皆で被ろうかって話したの」
「いや、だから私はやらないって」
「あら残念。三人でお揃いかと思ったのに」
「だいたいなんであんなものがなんで三つも四つもあるのよ……」
「一応五個あるわよ。ブラのほうも三つくらいあるし」
「止めてよ……」
57 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:34:18.12 ID:WjAemYY10
再び話があると、魔女退治にでるほむらはネミッサを連れて外に出た。やや夕暮れが近づく。さすがにネミッサが戦闘に参加できるとは思えないが、少し歩き体調を見たいと半ばマミを説得し外出許可をもらった。
「ホント、甲斐甲斐しいわね。助けてよかった。友達になれて、よかった」
朗らかに笑うネミッサ。吊るした腕はまだ本調子ではないが、すぐに元通りになるだろう。マミの願いは命をつなぎとめること。腕をつなぐ治療の魔法はお手の物なのだろう。
「聞きたいことがある」
「ん、なに?」
いつにも増して真剣なほむらの顔に、ネミッサはからかう言葉を失う。真正面から斬りつけるような目に圧倒される。何かある、尋常でないことが。それが何か解らず狼狽する。
「貴女、本当に何者?」
「何よ急に。アタシは女悪魔のネミッサ。それは説明したし、証明もしたでしょ。魔法駆使する人間が魔法少女以外にそんないるわけないじゃない」
「いいえ、それだけじゃないわ。貴女、どうやって巴マミと接触したの?」
「それも説明したよね。下校途中のマミちゃんに半ばナンパっぽく声かけたって。アンタの知り合いだってこと黙ってたの、結構怒られたわ」
「ええ、そうね。でも私……」
一旦言葉を止める。必殺の言葉を放つためだ。
「マミの自宅は教えていないわ」
心臓の鼓動が早くなる。
「何言ってんのよ、教えてもらったのはマミちゃんによ?」
「そうね。……ならなぜ、『巴マミに会う前に』彼女の自宅を知っていたの?」
早鐘のように心臓が騒ぎ出す。まずい、ほむらに疑われている。
「アタシだってハッキングくらいできるんだけど?」
「昨今の個人情報保護によって、ネットワークに情報を置くような真似はほとんどしていないわ。少なくとも私達の学校はね」
ほむらは完全にネミッサを疑っているようだ。ある程度ウラを取るため一日開けたのか? 職員室にでも忍び込んで調べたのだろうか。大胆な子だ。
「それに、貴女は私と使い魔退治の時言っていたわ。『道順を一度くらいじゃ覚えられない』とね」
冷や汗がでる。顔に出すのは何とか封じたが、もはや取り繕うことはできない。
「その、道順を覚えるのが苦手な貴女が、なぜハッキングしただけで『巴マミの下校ルート』を覚えているの?」
マミの下校ルートを遡って接触したことを話したことが完全に裏目に出た。浮かれて余計なことを言ったのは確かだが、そんな些細な、実は重要なことを覚えていたなんて。
ネミッサは失敗を悟った。
「要は、アタシを信用できなくなったわけね」
「何が目的? やはりインキュベーターの差金?」
詰問が厳しくなる。この吹き出す殺気を中学生が出していいものか。ネミッサは負い目もあり完全に気圧されてしまった。返す言葉も無く、ネミッサが立ちすくむ。
「協定を解消することはないし、巴マミとまどか、美樹さやかを救ってくれたことは感謝するわ。美樹さやかのことは放っておいても貴女なら手を出すでしょう」
だからさきほど情報を伝えたのか。アレならマミに多少聞かれても問題はない。そういう心配をしていると言えばいいのだから。最悪隠し事にしたのもマミのためといえばいい。
『さやかが魔法少女になると知ったら、マミは無理をするに決まってる。まだ契約していないのだからあえて貴女には隠した』
とか取り繕うこともできるし、マミも今なら多少疑いがあっても進んでほむらの言うことを信じるだろう。
「巴マミたちは貴女を信用するだろうけれど、私は信用できない。言いたいことはそれだけよ」
そう言い残すと、ほむらは振り向かず立ち去った。キビキビした足取りが虚しくアスファルトに響く。
58 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:35:37.94 ID:WjAemYY10
これでよかったのだろうか。ほむらは再び考える。
ほむらの本当の固有魔法は時間停止ではなく、時間の巻き戻し。病室でネミッサと会ったあの時間から一ヶ月後に時間を巻き戻してあの時間に戻る。その繰り返す一ヶ月を途方も無い回数続けているのがほむらの魔法少女としての人生だった。願いはただひとつ『鹿目まどかを救う』ことだけ。
病気がちで引っ込み思案。根暗な眼鏡のお下げ髪。心臓病の治療のためやってきた見滝原で一人暮らし。
ただでさえ入退院を繰り返し友達のいない彼女が、そんな状態で転校生として馴染めるであろうか。残念ながらそれは無理だった。
鹿目まどかがいなければ。
そのとき既に魔法少女となっていた鹿目まどかと巴マミは、魔女に魅入られたほむらを救い友人となった。特にまどかは魔法少女の素質のある彼女を救ってこういった
「クラスの皆にはナイショだよっっ」
まだ魔法少女の真実を知らないまどかの笑顔。それがどれだけ気弱なほむらにとって救いになっただろう。初めての友達にほむらはようやく一歩を踏み出せた。
だが、夜は来る。引っ込み思案で魔法少女になることをためらっていた彼女の前に、強力な魔女が迫る。
ワルプルギスの夜。
魔法少女の歴史上、最大にして最強の魔女。それが現れるところでは自然災害クラスの破壊が起こるとされる。魔法少女以外に感知できないそれに対し、まどかとマミは街とほむらを守るために立ち向かい死亡した。
契約前のほむらはその悲しみを防ぐ一心でQBと契約した。
「まどかとの出会いをやり直したい。まどかに守られるではなく、まどかを守る自分になりたい」
ほむらの絶望的な無間地獄の始まりだった。
その殆ど同じループの中で魔法少女の真実を知った。ネミッサと初めて出会ったのは今回が初めてだった。……そもそもループにこんな事が起きた事自体初めてだ。
(なぜ? なんの目的で?)
それがインキュベーターの差金でないと確定はできない。だがそもそも誰にも頼らずすべて自分でこなすと決めたのだ。今更ネミッサを切り捨てようが何も差し障りはない。最悪、ネミッサが障害になれば時間を巻き戻しさえすればいい。そうすればまたネミッサがいなくなるループが始まる。
(でも、本当に、なんのために? 貴女は何を知っているの?)
腕を失ってまでマミを守ろうとしたことに、感謝しているのは確かだ。だが逆に、会って数日の人間に自分の腕を差し出せるだろうか。 ほむらはその点で逆に疑いをもったに等しい。先のやり取りなどは後付けだ。だがネミッサの意思は挫くことができた。
そういえば誰かの差金にしては、知っている知識がちぐはぐだ。魔法少女の真実にたどり着いているのに魔女や使い魔やQBすら初めて出会ったという。特にQBの件は確認さえした。グリーフ・シードの本質を見ぬいたくせに、その使い方を知らない。マミの自宅やお菓子の好みは知っているのに、彼女が魔法少女になった経緯は知らない。ほむらが魔法少女であり戦い方や武器まで知ってさえいるのに、時間停止は知らないという。
疑惑というには不自然な情報が多かったが、これも終わりだ。そう、自分に言い聞かせた。少なくとも悪魔とはいえネミッサは普通の人間と構造や弱さは変わらない。
(こうやって距離を置かせれば怪我をさせないで……す……む?)
そこまで思考が及び、困惑した。
(なんで? なんで助けて『くれる』の? 私は何も言わないのに! なんで!)
ほむらは心の中で吠えた。答えのない問いを。
59 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:37:07.70 ID:WjAemYY10
ネミッサはその場に立ちすくむ。ほむらの信頼を失ったと解釈した。これからどうすればいい。どうすれば自分の願いを叶えることができるのか。ネミッサはそれを自問自答し続けた。だが、答えはすぐに見つからない。マミがほむらを疑ったように、ほむらもネミッサを疑っている。ただ違うことは、一度信頼したものが裏切られたのだ。修復はほとんど不可能だろう。
途方に暮れた。その場で力なくしゃがみ込む。残った左手で頭を抱える。
帰りの遅くなったことを心配したマミが迎えに来るまで、ネミッサはそこで放心していた。
真っ白。ネミッサの心のなかだ。ほむらの信を失ったことが、こんなにつらいとは思わなかった。きっとほむらは、皆の信頼を失った時、これと同じかそれ以上の喪失感を感じたんだろう。ぼんやりとそんなことを考えるだけで、次の行動が考えられない。
「ああああああああああ」
「ネミッサ、ちょっと大丈夫なの?」
「多分……大丈夫、大丈夫……多分」
「全然大丈夫じゃなさそうよ……」
来客用の、前日までマミが寝ていた布団に突っ伏し脱力している。自堕落な格好をマミが好まないがネミッサの様子を見る限り説教もできない。何しろ何が起きたのか説明もない。こんな状態で説得も説教もあったものではない。
「暁美さんと喧嘩でもしたの?」
ぴたりと動きが止まり、油が足りない機械のようにぎこちなく首を動かしてマミを見る。こういう反応を見る限り、それが当たっているようだが。いつも表情が多いネミッサらしくない、困惑の表情で見つめている。
(どう話せばいいのよ)
ネミッサの事情を話して、果たして理解してもらえるか不明だ。いや、ほとんど無理だ。順序をすっ飛ばして説明したところでどうにもなる性質の話ではないのだ。仮に話をするとなると、ほむらの目的を話さねばならなくなる。その目的には魔法少女の秘密がついて回る。その秘密を今のマミに話してしまうのは非常に危険だし、あらぬ方向にすべてが転がってしまうおそれがある。それを考慮してほむらは軟着陸を試みるため、信頼を勝ち取る努力をしようとしているのだ。それをネミッサがぶち壊すことはできない。
そして、ほむらの軟着陸には時間が足りない。それがほむらの焦りにも繋がっている。その手助けをネミッサが使用と腐心しているのではあるが。それをマミに話をしていいものか、判別がつかない。それを相談するほむらと溝ができたのだから。
60 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:37:56.91 ID:WjAemYY10
「ねえ、貴女が苦しんでいるのはわかるの。なぜ、私を助けたのか。なぜ、魔法少女を増やしたくないのか。なぜ、貴女が進んで魔法少女の運命に飛び込んだのか。ちゃんと、苦しむほどの意味があるんでしょう?」
マミの優しさが沁みる。説明できないもどかしさゆえその優しさが苦しい。
自分のことなら話せるかもしれない。そう思ってしまったのはその苦しさ故か。
「あるよ、アタシにもホムラちゃんにも。アタシのなんて、ホムラちゃんのに比べたら大したこと無いけどね」
「事情を知っているってことね」
布団に突っ伏しながら、頷く。
「でもそれはホムラちゃんが話すべきことだし、そのために努力してるの」
「貴女のことなら、話せるんじゃないの?」
それからネミッサは考え考え説明した。
「アタシは自分の手で、リーダーを殺したわ。悪魔に取り憑かれて私達に襲いかかってきたからね」
「天海市の事件のことは聞いたけど、仕方ないことじゃない。……それじゃすまないことではあるけれど」
「アタシは助けたい人を助けられなかった。多分ホムラちゃんにとって、マドカちゃんは助けたい人なのよ」
ネミッサは、ほむらに自分を重ね合わせているのだろう。マミはそう理解した。それは間違ってはいない。
「でもなんで魔法少女にしたくないのかしら」
「それを話すための準備をホムラちゃんは頑張ってるの。もう少し待って」
「信用しているのね」
「ううん」
首をハッキリ横にふる。
「信頼よ」
マミはネミッサの言葉に、微かに嫉妬した。ネミッサがそこまで信頼するほむらに。理解者を取られたような気になった。
「……いいなぁ」
「ん? とにかくさ、アタシは自分ができなかったことをやってるホムラちゃんを助けたいの。それが出来なくなるのが辛いの」
再び布団に顔を埋め、表情を隠しながら話すネミッサ。
マミは嫉妬こそしたが、ネミッサへの親愛の情は些かも減らない。むしろ余計強くなった。今の状態を助けたいとも思っている。しかしそれがほむらへのちっぽけな嫉妬が引っかかり言葉を続けにくい。たとえ嫉妬がなくても、マミには打開策があるわけではないが。
(ああ、私、今すごい嫌な女になってる)
「ネミッサ、しばらくここに居候しない? 最初は怪我が治るまで、って思ったけど……暁美さんとの整理がつくまででいいから」
ネミッサがほむらの家で雑魚寝をしていたことは知っている。それを今回の『喧嘩』で居場所を失ったことへの配慮だ。
「いいの!? ありがとう」
ネミッサの屈託ない礼に、ちくちく良心が痛む。だが打開策も思いつかない限り、なんとかネミッサを支えたかった。それが逆にほむらとネミッサの距離を産んでしまうとしても。
(ごめんなさい、ネミッサ、暁美さん……。ああ、私は本当に、嫌な女)
生まれて初めて、自分を罵った。
61 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:39:25.91 ID:WjAemYY10
さらに翌朝、一悶着あった。
「ちょっと、待ちなさい。一緒に行くわよ。仲直りしなさい。一緒に謝ってあげるから」
「イヤよ、それじゃアタシが悪いみたいじゃない」
「じゃあ暁美さんが悪いってこと?」
「そ、そうじゃないけどさ、ってアンタはアタシのお母さんか!」
「ちゃんと歩み寄りなさい。聞き分けの無い子ねえ」
「いくらマミちゃんの話でもこれは無理! 勘弁して」
(あ、もう……。テレビの中に逃げ込んじゃった。……私も学校に行きましょう)
大きくため息一つついて、ネミッサが逃げ込んだテレビを見つめた。ほんの少しだけ、仲直りが先延ばしになったことを喜んでいる自分がいて、マミはへこんだ。
「これはこれは、久しぶりですね。若きサマナーは、別行動ですかな」
「……アンタはさすがに見破るわねぇ」
「それは当然です。ここをどこだと思っておりますか? そしてそこにいる私どもをなんだとお思いでしょうか」
「バカにしたわけじゃないわ。説明の手間が省けて助かるもの」
「……さて、その貴女が、こちらにどのような御用で?」
「これを分析して欲しいの。これが何なのか。可能であればうまく活用したいんだけど」
「ほほう、これは……現物を見るのは初めてですね。非常に興味深い」
「なら、使い道も?」
「当然です。ですが、実物を手に入れたことはありません。お預かりしても?」
「モチロンよ。壊さなければいいわ。ただし……」
「ええ、取り扱いには細心の注意をはらいましょう。何かわかればご連絡しますよ」
「あらあら、ずいぶん見ないうちに……」
「そういうアンタはまるで変わってないわね」
「ふふ、でも、一目見て解ったわ。目と心根はあの頃のままね。あのサマナーとはどうしたの?」
「みんなそう云うわね。んなのいいからさ。頼みというか相談事なんだけどね」
「電話で言ってたわね。確かに検討に値するとは思うわ。……もっとも、受け入れるかどうかは個々人だから」
「難しそう?」
「いいえ、ちゃんとした制度にすればいいのよ。あとは、受け入れとか……考えることは色々あるからすぐにとはいえないけれど、前向きな返事期待していて」
「お願いするわね。近いうちに最低一人は連れてくる。元々、その子みたいなのを想定しての相談なのよ」
「いい子だといいわね」
「すごくいい子よ。優しいし、可愛いし、強いわ。……それとね」
「何かしら」
「別の相談もあるの。一人の女の子のことよ」
62 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:40:41.12 ID:WjAemYY10
放課後になり、ネミッサは中学の校門そばにいた。ほむらと顔を合わせるのは心苦しいが、さやかやまどかと会う必要がある。だが、すぐに思い返したのは、向こうが勝手に警戒しているだけだ。信じてもらえないのは仕方ないが、自分の目的はほむらでなくてもマミたちを通じて達成することは可能だ。そう割り切ることにして腹を決めた。そうするとなんとも穏やかに待ち伏せが出来る。
(サヤカちゃんやマドカちゃんの心象は悪くなりそうだけどね)
ため息をすると、三人が現れる。当然といえば当然だが、ほむらもいる。だがここで怯んでいるわけにも行かない。三人に声をかける。
「やっほ。一昨日はありがとう」
「あ、ネミッサちゃん。腕はもういいの?」
ぐるんと右腕を回し、無事をアピールする。まどかは笑顔で応じるが、他の二人は渋い顔だ。ほむらはわかるが、さやかがあまりうかない顔をしているのが気になっていた。いつも思うのだが、ほむらが無表情とか誰が言ったんだ。マイナス方向の表情に関してはすこぶる豊かなのはどうなのだろうか。
「ホムラちゃん、昨日はありがとう。美味しいシュークリームだったわ」
ぴくっと、ほむらの片眉が跳ね上がる。
「あ、ホムラちゃんもお見舞いに行ったの? 私達もねシュークリーム買っていったんだよ〜」
精一杯ニヤニヤしてやったため、ますますほむらの顔色が悪くなる。真意を知らないまどかは純粋に微笑んでいる。ネミッサに何かを言いたげなほむらだったが、想い人の無邪気な笑顔に言うに言えなくなっている。とはいえ、こんな事をして果たして仲直りになるのだろうか。多分、無理だと思う。
「ま、まどか、私はパトロールに行くわ」
「アタシも行こうか?」
「貴女は病み上がりなのだからじっとしてなさい。マミにはちゃんとグリーフ・シードを届けるから、そう伝えることね」
ほむらもさすがにまどかの前でネミッサとの不仲をおおっぴらには出来ない。こういう言い回しで断るしか無いのだが、額面通りの言葉で受け止めたまどかは、満面の笑みをしている。ほむらにはまぶしすぎて直視できない。
(ネミッサちゃんを気遣うほむらちゃん、優しくてかっこいい!)
だが、さやかはほむらを評価する一方、一縷の不安を感じていた。
今、この見滝原は魔法少女が二人いる。一方のマミは先の戦闘で心労をきたし、暫くは戦えない。魔法少女以外ではネミッサがいるが、怪我が原因で満足に戦えない。ほむらはたった一人、見滝原を守らなくてはならない。さやかにとって苦手なほむらではあったが、一人戦場にいかせるのは辛かった。
また疑った手前、ほむらに負担をさせるのは心苦しい。さらにはネミッサである。彼女は魔法少女でないにも関わらず戦いに身を投じ、右腕を犠牲にしてまでマミを守った。
さやかの心は、魔法少女に傾いた。
63 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:41:21.72 ID:WjAemYY10
皆が仲良いことが嬉しいのか上機嫌のまどかと、それとは対照的なさやかの表情。いつもと真逆の状態で下校する。気になってまどかにネミッサが問う。
「マドカちゃん、サヤカちゃん何かあったの?」
「え? あ……、うん、昨日上条くんのお見舞いの後から……ちょっとへんなんだ」
思い直し、浮かれている自分を恥じているようだ。そういうことに気づきにくい純真さと、気づいた時に恐縮する優しさがまどかの良さでもあり、可愛さでもある。
実際には、さやかは上条と口論というか、一方的な八つ当たりを受けたようだ。あとから聞いた話ではこの日検査の結果がでて、医師に「諦めろ」と言われ自暴自棄になったとのこと。
だが、これには少々疑問が残る。いくらなんでもそのような言い回しを医者がしたとは考えにくい。恐らく、落ち込んだ上条がそう解釈し、さやかに辛く当たったのか真相ではないだろうか。ともあれ、さやかの心に上条が深い傷をつけたことには違いない。
「あはは、私なら大丈夫だよ。ごめんねネミッサ。せっかく治って会いに来てくれたのにねー」
マミのときもそうだが、空元気は見ていて辛い。ふつふつとネミッサは怒りが湧いてくる。辛い時期支えているさやかに甘えているようで、苛立たしい。さやかには悪いが彼女は男を見る目がないのではないか、そう思ってしまう。少なくともこの魅力的な女性が頻繁に見舞いに来るのに気づかないほうがどうかしている。鈍感を通り越して、わざとやっているのではないかと思うくらいだ。
そんなヤツに一度きりの奇跡を、自分の人生を使うなんて。ネミッサはそう思う。だが一方でそこまで一途になれるさやかに一種の羨望を感じざるを得ない。一般に「重い女」とされてしまうのだろうが、さやかはサバサバした少女だ。きっといいパートナーになれるはずだ。そんなさやかにそんな鈍感男は勿体無い。
「いいってば、お見舞いのお礼になんか食べに行く? ゴチするよ?」
せめて今は明るく振る舞って、さやかを元気づけたい。こんな清々しい子が報われないなんて、酷過ぎる。
「おっ、覚悟したまえー、さやかちゃんは腹ペコなのです!」
「あはは、私もいっぱい食べちゃおうかな」
「ま、マドカちゃんまで何いってんのよ! ……お手柔らかにね?」
言った手前ネミッサはたじろいだ。
「だーめ」
二人が唱和した。少し元気が出てきたのをみて、ネミッサは安堵した。
64 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:42:33.47 ID:WjAemYY10
「でさ、私魔法少女になろうかと思ってるんだ」
ファミレスでの軽食中、思いつめたような言い方でさやかが切り出した。願いはやはりバイオリニストの手だという。ネミッサは頭を抱えた。そんな宣言のために元気になって欲しかったわけじゃない。いっそ魔法少女の真実を洗いざらいぶちまけてやろうかと思ったが、ほむらに止められていては言い出せない。また自分もそんなことは言いたくない。あれは重すぎる。
「……決心は堅いのね」
「うん、ネミッサやほむらには申し訳ないけどね。なってほしくないんでしょ?」
「あったりまえじゃん。あんな危険なことしないに越したこと無いよ」
まどかは二人の間でおどおどする。別段二人は喧嘩をしているつもりではないのだが、間に立つまどかには気の毒だがネミッサにもそれを慮る余裕はない。
「じゃぁさ、なんでネミッサは戦うの?」
(そうきたか)
ネミッサにも戦う理由がある。それを果たさない限り、自分は明日に進めない。それは自らの命を賭けるに足りる理由である。それは同時に、罪でもあるのだが。
「あんたに戦う理由があるなら、私にだってある」
一つは幼馴染の手を治したいから。さやかは必死に隠そうとしているが、幼馴染への恋心は止められない。そして、その彼の夢、命ですらある左手を治し、世界中の人にそのバイオリンを聞かせたい。無理やり聴かせるのではなく、演奏をするチャンスを上げたいという切ないまでの祈りだ。
もう一つは正義の味方に憧れているから。ほむらが、マミが、ネミッサが命がけて魔女と戦う姿にさやかの正義感が大いに刺激されたらしい。確かに人間を捕食する魔女たちによって人々の生活は人知れず脅かされている。それを見て見ぬふりは出来ないという。
「そんなのアンタが責任に感じることじゃないでしょ」
例えば、犯罪があると知って一般市民が犯罪者と直接戦うだろうか。極稀にそういった人はいるかもしれない。その極稀がさやかであるのだが、魔女はさやかのせいではない。彼女一人が抱え込む性質のものではないはずだ。
「そんな危険なこと、アンタがやることじゃないよ。アタシだって治ったら復帰するからさ」
「そういうんじゃ、ないんだよ」
マミはともかくとして、ほむらにもネミッサにも叶えたい願いがあるからこそ、戦いに身を投じている。さやかは自分の願いがそれに負けないくらい強いとほかならぬ自分に知らしめたいのだ。これは完全にネミッサの理解の外にあった。ゆえに掛ける言葉を失った。危険であればあるほど、自分の叶えたい願いが強いことの証であるわけだ。戦いが危険だからやめろといったところで聞くわけがない。
馬鹿馬鹿しい、としか思えない。だが同時にさやからしい、とも思ってしまう。つまりネミッサは説得を諦めたのだ。いくらほむらに言われたとはいえ、魔法少女の真実を話さずこれを阻止することは彼女には出来ない。できることは一つ。
「うん、心配してくれているのに、ごめんね。でも、私はネミッサも助けたいんだ」
「アンタねぇ、そんな事言われたら反対できないでしょ……。でも忘れないで」
立ち上がり、いつかのように向かい合うさやかの肩を掴む。意外に強いのはあの時と同じだ。それが意味するところは。
「アンタがアタシを守るなら、アタシもアンタを絶対に守る。忘れないで、アンタもマドカちゃんも、『アタシの腕の中』にいるんだからね」
「痛いよ、ネミッサ……」
さやかの目が潤む。それは決して痛みだけのせいではない。
65 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:43:06.12 ID:WjAemYY10
話が終わったところで、まどかがやっと大きく息を吐く。穏やかな話し合いではあったが、緊張感からまるで口を挟めなかった。それに気づいて、ネミッサはフォローする。
「マドカちゃんは、しないんだよね?」
「うん……みんなには悪いけど、私は……」
「いーんだよ、まどかはしなくたって。ほむらはやるな、って言ってんだし。私も言われてたけどね」
まどかが感じるもの、それは後ろめたさ。皆が命を削っているさなか、守られているだけの自分が嫌なのだろう。優しい子だ。だからこそ、QBも目をつけるんだろう。優しさに付け入り、絶望させるために。
「みんなが頑張っているのに、私だけ戦わないのは、嫌だなって」
「でもさ、ひょっとしたらアンタが一番苦しい戦いをすることになるかもよ」
二人が驚いたように顔を上げる。
「アンタが戦うのは『契約をしたい自分』だ。『ホムラちゃんとの約束を守りたい自分』とどっちが強いかだよね」
長く苦しい戦いだと思う。誰も頼ることは出来ない。また、まどかの中で最も強い『優しさ』が敵になる可能性もある。
「アンタの『みんなを助けたい優しさ』が勝つか、『ホムラちゃんとの約束』が勝つか……」
いつ終わるかわからない戦い。
「ホムラちゃんのことが少しでも好きなら……安易な『優しさ』に負けないで欲しいな」
顎を引くように小さく頷いた。
66 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:44:13.70 ID:WjAemYY10
おごりでだいぶ散財したネミッサは二人を見送った後、マミ宅に戻った。
「ただいまー」
「おかえりなさい。遅かったわね」
じとっと睨むマミ。たじろぐネミッサ。
「暁美さんとは仲直りしたのかしら」
「え、まだ、で、ゴザイマス」
マミが本気で怒った時が怖いことは、あの一件で明らかだ。自分のために怒ってくれたのはわかるが、いつもの必殺技をボソリといった表情は頼も恐ろしかった。
そういえば彼女はベテラン戦士だ。しかも、魔力で生み出すリボンをマテリアルとして駆使することで攻守に凄まじい性能を発揮する。QBもびっくりの多彩さらしく、大げさに言えば天才と言えるほどの魔法少女だ。そんなマミが怒らせるのは得策ではない。そういえば、紅茶を魔力で生み出すこともあるらしい。そんな魔力の余剰があるのか、飲める飲み物を出すのは本人の魔力としては微々たるものなのか。
とにかく、そんな彼女を怒らせていいことなど、何に一つない。
「はぁ、あなたはもうちょっと勇気があると思ったわ」
「いえ、ソレガデスネ……」
「明日はちゃんと謝るのよ? ご飯はできているから、一緒に食べましょう」
「あ、食べてきちゃった……」
晩御飯の間、マミはネミッサと口を利かなかった。
なんとかマミに詫びを入れてネミッサはさやかの契約のことを話した。最初はムスッとしていたが、契約の内容の事になると、複雑な表情で話を聞くようになった。
マミに憧れている、そして、今戦えないマミの代わりに戦いたい。その思いに胸が熱くなるが、反面自分の不甲斐なさに辛い。そうなると説得は難しい。材料がない。そして、巻き込んだ自分の浅はかさが憎らしい。だが、同時に嬉しいという思いもないわけではない。本気で説得をするかどうか悩んでしまう。
ネミッサはお詫びとばかりに食器を洗いながら会話していた。これくらいしか出来ないが、マミは許してくれた。
「結局願いは、その彼のこと?」
「うん、そうみたい。ただ、やっぱりアタシも反対なんだけどさ。説得はダメだったよ」
だが、ネミッサとマミの意識の違いは、やはり魔法少女の真実を知っているかどうかだろう。マミは手放しではないが自分が師事することで生き残れると思っている。ネミッサはその先を知っているため、暗澹とした気分になっている。
67 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:45:31.96 ID:WjAemYY10
「久しぶりだな。不在の時に来ていたようだが。すまんな」
「いいって。受け取るもんは受け取ったし、つかいないの知ってたし」
「ほう……。さて、今日はなんの用かな。研究で忙しいとはいえ、追い出すほど野暮ではない」
「メアリに言づけした件よ。噂くらいは聞いてるとかさ」
「勿論知っておる。今回はそれが相手か。興味深い」
「んじゃあさ……」
「皆まで言うな。当然知っておる。ただ、私の研究に関わりが薄いのでな。開発には時間はかかるぞ」
「三週間くらいで頼めるかな」
「『祭り』にはなんとか間に合わせよう」
「はー、アンタらはどこまで知ってるのよ。察しがいいというかなんというか」
「それ故、協力を求めたのではないかね。安心するがいい。久しぶりに私の本気を見せようではないか」
「はー、何その頼り甲斐」
怪我も完治し、リハビリを兼ねて街中を歩くネミッサ。しかし心はここにあらず。どうしても契約をするさやかのことで頭が一杯になる。生返事をしてしまったため、たい焼きを二つも購入してしまったくらいだ。受け取って気づいたが返すのも億劫でやめた。これを食べきって晩御飯を食べなかったりしようものなら、またマミから何か言われそうだが仕方ない。
声をかけられたのはそんなときだった。
「ちょっと、そこのあんた。ちょっといいかい」
振り返るとそこにいたのは棒状のお菓子を咥えた少女。ワイルドという印象。だが粗にして野だが卑ではない、という言葉がしっくり来る。妙な気品をたたえていた。マナーは知っているが無視している、偽悪的な香りがする少女。ちらりとみえる八重歯が可愛い。
68 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:46:11.70 ID:WjAemYY10
「んー、なに?」
「あんた、巴マミを知ってるよな。どこいる?」
「ん? 今は学校だよ、あの子中学生よ?」
しれっとそれだけ返事するとその少女を上から下まで見る。ちらりと見えるおへそ、健康的な色気の足を見せるホットパンツ、長いだけでの髪を無造作にポニーテールに縛る。そんなマミとはアレコレ正反対な少女がなぜマミを知っているのか。また、ネミッサとマミが知り合いだということを知ってるのか。ネミッサは気づいていたが無視した。
「あんたさ、なんであたしがマミのこと知ってるって聞かないんだよ」
呆れ返るように言う。
「アタシとマミちゃんが知り合いってこと、知ってるんでしょ。今更何をいってんのよ」
少女が鼻白む。顔色が変わり、すっとネミッサから距離を取る。ネミッサとしては警戒させるつもりはまるで無かったのだが。
「マミちゃんとアタシが一緒に歩いてるのを見かけた、マミちゃんの知り合いって所だと思ったけど」
持て余したたい焼きを差し出すネミッサ。少女は意図が解らず戸惑う。受け取れ、とばかり鼻先に近づける。
「間違えて二つ買っちゃったのよ。捨てるのもったいないし食べない?」
「返品すりゃいい」
「んなしたって結局捨てられちゃうよ。焼きたてほやほやじゃないけどどうぞ」
「大体あたしはあんたを知らないんだぞ」
「マミちゃんの知り合いなんでしょ。ほら、冷めないうちに」
大人しく少女がたい焼きを受け取ると、ネミッサも嬉しそうに残った一つを食べる。一緒に食べると美味しい。さっきの刺々しい空気がたい焼き一個で和むなら安いものだ。嬉しそうに頬張る姿が可愛い。ネミッサに負けず劣らずのマナーで食べ終わると、指に残った餡を舐めとる。マミなら手を拭くだろうなと思ったら、自分の服で拭い出した。これにはネミッサも苦笑い。
その笑いに気づいたのか、口を尖らせる。だが、そんなに悪い子ではないことを知っているネミッサは友達になりたかった。
少女はちらちら指先を見ているが、ネミッサの指には指輪一つない。以前はそれなりの装飾をしていたが、元々何かを身につける事自体苦手なネミッサは、必要がなければ何もつけるつもりはなかった。それに気づいてからは意図的に見せるようにしていた。
「……あんた、マミの知り合いか」
「そだよ。そういうアンタも知り合いなんだね。……アタシのことどこで知ったのさ」
今度は少女が苦笑している。銀髪で、不思議な服装をした少女が日中街中歩き回っているのだ。同じように昼間遊びまわる不良少女が気づかないはずがない。そうしたらそれに不釣り合いなマミが仲良くしていたのを目撃したらしい。
それで、マミに用があったため、ネミッサに声をかけたとの話だった。不釣合いという部分には異論はないネミッサは納得した。
「ん、アタシネミッサ」
「あたしは佐倉杏子だ。杏子でいいぜ」
「よろしくキョーコちゃん。放課後になれば学校終わるし、それまでどっかで遊ばない? アタシもマミちゃんに会うし」
初対面に臆面も何もないネミッサに杏子は気をよくしたらしい。八重歯を見せて笑っている姿が可愛らしい。
「マミちゃんの友達ならアタシも友達。仲良くしよ?」
正直、ネミッサは杏子の下心が気にならないわけではないが、それは置いておくことにした。どうせ近いうちにほむらが誘うのだし、ネミッサからあれこれすることはないだろう。
この子も根はいい子なのだが……そんな子こそ、やはり魔法少女の運命に狙われるのか。
(道づれで自爆か……やるせないよね)
69 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:47:44.83 ID:WjAemYY10
放課後まで杏子とゲーセンで時間を潰した二人は、不思議なまでに意気投合した。ダンスゲームを華麗にプレイする杏子に遅れをとるネミッサは若干ムキになって挑む。そんな彼女を杏子は軽くあしらう。ビデオゲームよりも体を動かすほうがお互い好みのようで、仲良く喧嘩しながら遊びまくっていた。
時間になり学校前で待ち合わせる。ネミッサは最近ここで待ち伏せることが多くなったように思う。二人ゲームセンターの景品のお菓子を食べていると、学校からマミがでてきた。
「あ、きたきた。おーい、マミちゃ〜ん」
杏子より先に気づいたネミッサが近寄る。ネミッサは調子が戻ったことを報告しようとにこやかに接する。マミも同じように微笑んでいる。マミからすればネミッサはお友達で、大事な恩人だった。そのため、マミは終始ネミッサの顔しか見ておらず、ネミッサの後ろにいる古い相棒に気づかない。その顔に浮かんだ表情にも。
「今晩はちゃんとご飯食べてくれるの?」
「う、うん、ちゃんと食べるよ。……ついでに、あの子の分もね」
そういって首を後ろに向ける。そこには複雑な表情の杏子がいた。さすがのマミも驚きを隠せない。
「よぉ、すっかり腑抜けちまったった聞いたから来たぜ」
佐倉杏子。彼女もまた魔法少女である。隣町風見原を縄張りとするベテランで、一時マミに師事し行動を共にしていた。だが、信条の不一致から袂を分かち別行動をしてた。
以来マミは一人で戦っていた。ネミッサからの協力の申し出に感激するのも無理もない。その杏子が目の前にいる。感激のあまり駆け寄ろうとしたが、ネミッサが腕で制した。その動きにマミが戸惑う。ネミッサは無意識だったが、杏子の殺気というか敵意に反応した。
「なんだ、気づいてたのかよ」
ネミッサは二人の確執については知らない。マミの知り合いとして近づくものとばかり思っていた。だが、その不穏な言い回しや雰囲気に違和感を覚え、マミを制したに過ぎない。だがそれは功を奏した。マミもたたらを踏み、杏子の出鼻をくじいた。
ぎらぎらとした敵意に似た視線。恐らく杏子は誤解をしているが、それをネミッサが正す義理はない。とはいえ衆人環視のこの場で魔法少女の話をする訳にはいかない。ネミッサは場所を変えるよう提案した。
「じゃああんたが噂のイレギュラーかい?」
「違うよ」
(即答かよ)
やはり誤解していたようだと、ネミッサは即座に否定する。恐らくQBからの入れ知恵だろう。攻撃的な彼女を絡めることで人間関係をかき回すのが目的と想像できた。やはりアレは一度潰すしか無い。意味は薄いけれど。
「どういうこと?」
マミの戸惑い。察しが悪いわけではない。ネミッサが庇い方や杏子の態度から考え出されるものを否定したい意味で聞いている。間違いであって欲しい、と。ネミッサにはその気持が痛いほどわかる。出会ってからというもの、マミの心はかき乱され続けている。気の毒でならない。
マミが恐れていた、縄張り争いが現実になった形だ。マミが戦闘できない今の見滝原は魔法少女にとって魅力的な狩場だ。元々、最低限ほかの魔法少女の縄張りは荒らさないのがルールとされているが、そこのヌシであるマミが戦えないとあればそれには当たらない。杏子はそう解釈した。
そして、それを煽ったのは確実にQBだろう。なぜならば、ヤツ以外、マミが戦えないことを知ってるのは魔法少女だけ。また杏子にそれを漏らすメリットが魔法少女にはない。自分が直に奪うほうが楽だからだ。或いは共倒れを狙った第三者の可能性もあるが、その場合ほむらの存在を考慮しないと最悪三対一になるおそれがある。まずありえないだろう。
「縄張り……でしょ」
「察しがいいな、甘ちゃんの仲間には甘ちゃん、ってか」
「戦えないマミちゃんを狙うなんて、酷いわね。弟子じゃないの?」
鼻で笑われた。既に袂を分かった二人がそう簡単に手を取り合うとは思えないが、ネミッサとしては杏子の良い部分に期待したかった。
「カンケーないやつは引っ込んでな」
「そうはいかないわ。アタシはマミちゃんを守るって決めてるんだ。怪我一つさせるわけには行かないよ」
「痛い目見ないとわかんないかなぁ? 一般人?」
獰猛な表情を見せる杏子に怯む気配のないネミッサは、言葉とは裏腹に柳のような態度で受け止めている。
しかし、マミはそれをネミッサの危機と感じたらしい。あのマミが戻ってくる。
70 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:48:17.27 ID:WjAemYY10
「……いい加減にして……」
ボソリという声に、ネミッサの背筋が凍り付く。頼もしくもあり、恐ろしくもあるマミが戻ってきた形だ。ネミッサを押しのけ杏子の前に立つ。よく、守る姿を母猫に例えることがあるが、マミのそれは子連れの母熊に似た威圧感を見せていた。魔法少女に変身してもない、両手をだらんと下げているのにもかかわらず、吹き出す威圧感は杏子を圧す。だが、杏子もひるまない。
「へっ、簡単に行くとは思ってないけどよ、あんたの弟子だった頃よりあたしも強くなってんだ」
宣戦布告の形をして、杏子は立ち去った。
「ネミッサ!」
杏子が立ち去り二人が体の緊張を解いた瞬間、マミの怒号が飛んだ。怒りの表情のまま目には一杯の涙を貯めている。先ほど立ちふさがったネミッサの行動に怒っていた。自分をかばって大怪我をしたあのときの状況が思い出されたのだろう。
「また貴女は無茶をして! あの子は魔法少女なのよ! 喧嘩になっていたら貴女どうなっていたか!」
まくし立てるほど気が高ぶっていたため、ネミッサがたじろぐほどだった。もはや、マミは戦いへの恐怖を乗り越えた。だが、ネミッサが傷つき失う恐怖はまだ残っている。またマミは自分にも怒っていた。杏子も共に戦ってくれるという甘い考えをしていたため、あたらネミッサを危険な目に合わせたことを。
「うん、ごめんねマミちゃん。でも、ホムラちゃんだけじゃない。アタシはアンタも守りたいんだ」
マミのまくし立てる説教が止まる。
「ううん、マドカちゃんも、サヤカちゃんも。キョーコちゃんだってそう。だからアタシが割って入れば戦うことがないって思ったの。ごめんね」
振り上げた拳を納めるのに数瞬かかった。だが、ネミッサの気持ちを聞いては納めない訳にはいかない。
「馬鹿な事言わないの。私にも貴女を守らせて。そうじゃないと、私、戦えなくなっちゃう。正義の味方なのに」
「うん、ごめんね。でも、お互いにお互いを守ったらきっと最強じゃない? それじゃダメ?」
ネミッサが伺うようにマミの顔を見る。先ほどの怒りもどこへやら。上目遣いのネミッサにすっかり毒気を抜かれたマミは微笑んでいた。
「ふふ……欲張りねえ。相棒さんともそんな関係だったのかな」
「そうだよ、だからアタシは戦いに勝てたんだ。あいつと一緒にね」
「妬けちゃうな……」
「……こないだからアンタ変よ?」
マミは顔を赤くして否定する。だが、確かにこの間からほむらやら相棒さんやら、ネミッサの友人関係に嫉妬しているような気がする。
(困ったなぁ、私、こんな嫉妬深かったかなぁ)
71 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:49:49.07 ID:WjAemYY10
マミとネミッサは帰り道、さやかの話をし続けた。学校で話をした限りではもう契約を決めたようだ。マミも説得を試みたようだが、残念ながら上手く行かなかった。そんな思いからマミは元気が無い。時間的にはそろそろ契約してしまっていると思い、二人とも暗澹とした気分でしか無かった。
「マミちゃんでも無理か」
確かに、『危険なほど自分の意志の強さの証になる』のなら危険度からの説得は無理。叶えたい願いが現代医学で叶えられないのだからその面の説得も無理。加えて、彼女の正義感には街のほかにまどかのことまで入っている。誰がしたところで難しい。
「せめて、私が指導して、戦えるようにしないと」
しかし懸念はある。先の佐倉杏子のことだ。彼女がマミの縄張りを狙っている以上、衝突する可能性が大きい。だが、マミは戦う意志を固めているし、ほむらもいる。その状態でさやかだけ狙うことは可能だろうか。また、向こうは気づいていないがネミッサも戦うことはできる。さやかを一人にしない限り、杏子に勝ち目は薄い。もっとも、こちらも無傷というのは難しいだろうが。
「そういえばマドカちゃんはどうしたの? あの子が狙われたらやばくない?」
「いえ、さすがに一般人を狙うような子ではない……わ」
信じたい気持ちと、皆を守るための思いで揺れる。マミにとっては辛い相手だ。それを見越してQBは彼女を呼び込んだのだろうか。腐ってる、ネミッサは歯噛みした。
そんなさなか、マミにテレパシーが送られた。相手はまどかだ。
”マミさん! マミさん! 助けてください! 仁美ちゃんが! 魔女の口づけを”
”鹿目さん? 落ち着いて”
”今私のお友達が、魔女に操られて、私も腕を掴まれてます”
”どこにいるの?”
”町外れの…廃工場です…”
まずかった。自分達は丁度街の反対側にいる。それに気づいた瞬間、マミは走り出していた。魔力を使った疾走だがネミッサも喰らいつくように追いすがる。だが、暫く走るうちにネミッサが遅れてきた。肉体を強化してあるとはいえ、魔法少女の強化には敵わない。マミはわずかに後ろを気にする。
「先に行って! アタシは後から!」
「わかったわ!」
より強化を強めたのだろう、更に速度を上げてマミが走る。一方のネミッサは足を緩めながら携帯を取り出しほむらを呼び出す。暫く呼び出すうちに繋がる
「まどかね?」
「廃工場! マミちゃんが行ってるけど遅れる。アンタも行ってあげて」
返事をせずほむらから通話が途切れる。ほむらがまどかを見捨てることはあり得ないからこれで向かってくれるだろう。自分も廃工場の場所なら知っている。ネミッサも急ぐ。
ネミッサが到着すると、割れた窓ガラスから投げられたのか洗剤とバケツが落ちていた。多分混ぜると有毒ガスが発生する類のものだろう。自殺を連想するそれを一瞥すると、もはや静かになっている工場内に立ち入った。
腰が抜けているまどかと、魔女の被害者たちに混ざり志筑仁美が倒れていた。その側には魔法少女の衣装にさやかが立っていた。肩と背中を出した騎士風の衣装に、首で止めたマントで肩や背中を隠す。なかなか露出が多い。騎士といいサーベルといい、さやかの正義感が現れているようだ。
「無事だったの?」
魔法少女になって初めての戦いで魔女を撃破したらしい。たまたま相手が弱いものであることを差し引いてもかなりの才能を持っているようだ。得意満面のさやかがネミッサに自慢げに声をかける。
「へっへー、ネミッサみてた? 私の華麗なデビュー戦!」
「アンタ、浮かれすぎてない……。やだよ、そんなんで大怪我したら」
ただ、初めて戦ったのが魔女で、それを難なく倒しているのはなかなかない。マミにしてもデビュー戦は使い魔で、散々な結果だった。それを思えばさやかの結果は上出来どころの騒ぎではない。マミの見立てでは魔力もかなり高いという。鍛えればきっと優秀な魔法少女として街を守ってくれるだろう。
それは言い換えれば協力な魔女になることの証でもあるのだが。
まどかは震えていた。ほむらが到着するまで、立てないほどだった。さやかが契約してしまったことをほむらは心底落ち込んでいたが、すぐに切り替えることにした。腰を抜かしたまどかは、ほむらではなくさやかの手を取って帰宅した。その背中を見つめるほむらは、複雑な表情で見送った。
72 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:50:28.80 ID:WjAemYY10
その翌日からは、魔法少女になるためのさやかの指導が始まる。世話好きなマミは嬉しそうに説明していた。嬉しいという晴れの表現が望ましいとはいえないが、少なくともマミはさやかを死なせないため、正義の味方にする努力を望んでいた。戦い方は遠距離近距離と違うが、魔力の使い方や心構え、魔女への対応などを指導する。
ネミッサは指導から外れている。魔法のシステムやら戦い方が違いすぎる。そもそもソウルジェムがないのだから仕方ない。
「気に入らないの?」
「あやさないでよ?」
部屋であぐらをかき、ふてくされるネミッサ。いつものように紅茶を出すマミ。ネミッサには紅茶の良し悪しは解らないため、マミの紅茶を飲んでもあれこれ言ったりはしない。だが知らず知らずのうちに外で紅茶を飲まなくなったのは確かだ。それだけマミの紅茶に『毒されている』のが見て取れる。無作法に飲んでもマミは微笑んで受け入れる。ティーカップの持ち手すら持たないと滑らせてしまうのだがお構いなしだ。
「ふてくされないの」
「だから違うってば」
ネミッサが気になっているのはさやかの契約のことではないし、教育を外れたことではない。今後どうなるかということだ。魔法少女の魔女化、佐倉杏子の動向、ほむらが挑む大きな魔女の存在。さやかに振りかかるそれを彼女ははね退けることができるか、どうすれば助けることが出来るか、そればかり考えていた。
自分が魔力を持った悪魔だとしても運命をはね退けるだけの巨大な力があるわけではない。ほむらはその細腕でまどかに振りかかる運命を打ち払おうと努力しているのだ。ほむらの力になるには、さやかでそれをやり遂げなければならない。そして、また信頼を勝ち取るのだ。
悩み苦しむネミッサを助けたくて、マミは背中から立膝で抱きしめる。ふわりと包み込むような優しい動き。
「ねえ、暁美さんもそうだけれど、私を頼ってはくれないの?」
ネミッサは無言。
「貴女や暁美さんは優しい子。そして不器用な子。人に頼ることが苦手な子」
以前、無言。ぶすっとした表情で茶を啜る。
「美樹さんのことは私に任せて、貴女は貴女の望むことをして?」
口元を真一文字に結んだまま。
「お願い……、私を頼って……、貴女の力に、ならせて」
マミの声がひび割れる。
73 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:52:19.30 ID:WjAemYY10
さやかの教育を外れたネミッサは、終日天海市にいた。さやかのことはマミに任せるしか無い。可能であればさやかを杏子から守りたかったが、頼って欲しいというマミの願いに応じることにした。自分には自分にできることがある。そう信じて。幾つも訪問先をめぐり情報や武器を回収するとその晩遅く帰宅した。
頼んでいくらも日数も立っていないのにかなりの収穫があった。特に、研究や情報は非常に多くの話や資料が集められた。あのサマナーの相棒というだけでこれだけの人が自分に力を貸してくれる。
(私は頼っていいんだ。マミちゃんだけじゃない。みんなに、ホムラちゃんに)
資料をマミの部屋に置くと、ほむらを探しに夜の街を走りだした。ほむらを探しに、謝り、力になるために。
「キュゥべえ、いる?」
「なんだい? 君が呼ぶのは珍しいね」
白い珍獣が姿を現す。この黒幕ではあるが、恐らく悪意がない。事務的に或いは機械的にそれらしく振る舞う人格を持っているにすぎない。この生態に一番近いものとしてネミッサは『蟻』を想像した。群体として全体主義のような動きをするものとしてそれがそっくりのように思えたのだ。無限増殖するあたりも似ている。
「みんなどこにいるか知らない?」
「案内するよ。みんな同じ所にいるんだ。急いだほうがいい」
「厄介事?」
「佐倉杏子が来ているよ」
(やっぱりか、自分で招きこんだくせに)
夜の街を走り抜ける。QBの後ろを追いかけるが、コンパスの差なのか歩幅が合わなくなっている。止む無く隣に並ぶと小脇に抱える。次いで頭に乗せるとしがみつかせた。案内するように怒鳴ると大人しく方向を指示させる。だが回り道を指示されてはたまらないので、徒歩で行ける最短距離と釘を差すのも忘れない。
目標の歩道橋に差し掛かると、ネミッサから降りて手すりを駆け上がる。遅れる形で階段を駆け上がり、全員が揃っている場にネミッサもたどり着いた。だが、様子がおかしい。幅の広い歩道橋は戦うスペースがあるうえ人通りが少ないので魔法少女の格好でも目立たない。
遠目に、まどかが何かを道路に投げつけたのが見えた。しばらくして合流するが、気がつくとほむらの姿がない。
制服姿のままの、さやかがゆっくりと倒れた。
魔法少女の衣装の杏子が首を掴み脈を確認し、驚きと苛立った怒りの声を上げる。
「コイツ、死んでるじゃねーか!」
騒然とする一同に、いつの間にか歩道橋の手すりに座っているQBが呆れ返るように言う。
「まどか、友人を投げるのは感心しないよ」
ソウルジェムは、魂。そして魔法少女になることは肉体から魂を取り出しソウルジェムの形に封じ込めること。そうすることで肉体の損傷が大きくても魔力などで修復しさえすれば復活することが出来る。ソウルジェムへの痛覚を遮断することで大きな痛みを感じること無く戦うことも可能だというのだ。だが、ソウルジェムが肉体を操作する範囲は百メートルほど。ただ淡々と、事務的に説明するQBに全員が戦慄した。唯一ほむらを除いて。
「便利だろう?」
74 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:52:46.76 ID:WjAemYY10
契約の詳細を知らせずゾンビにさせられたことを激昂する杏子、呆然とするマミ。その横で、ほむらが回収したソウルジェムにより息を吹き返したさやか。
そして、真っ青な顔で立ち尽くすまどか。
ネミッサの心は嵐だ。事実を知っているほむらや、強靭な精神力でねじ伏せる杏子はいい。なりたてのさやかやマミはどういった反応を示すか全く予想がつかない。特に、QBを家族のように思っていたマミの心理状態が恐ろしい。長年に渡って騙されていたことを知り混乱しているかもしれない。
元々、信条の合わないさやかと杏子の殺し合いの場としてここに集まったはずではあるが、全員があまりの衝撃により戦うことができなくなってしまった。まどかはさやかを抱きかかえ、心もとない足取りで帰る。一方マミはその場にしゃがみ込み立ち上がれない。
「マミちゃん、大丈夫?」
どうしてこう、この子はここまで苦しめられなければならないのか。事故に合い、両親が死んだ中一人だけ生きることを願ったことが罪深いことなのだろうか。真っ青になったに焦点すら合わない瞳。真っ赤な怒りが蛇のように擡げる。マミに肩をかしながら、ネミッサはほむらに向き合う。
「ホムラちゃん、知ってた?」
「ええ」
マミはぼんやりとその話を聞いていた。マミはこの事実についてのことと理解したが、二人は違う。これは二人だけの密会。
「そう、なら……、もうこんなのは沢山。アタシを信じられないかもしれない。アタシも戦わせて」
「私は貴女を信用することが出来ないわ」
「アンタのためなんて言わない。アタシはマミちゃんのために抗いたいの。それがアンタのためになるだけならいいでしょ」
ぶるぶると、マミが震えてネミッサの服を掴む。その様子を暫くほむらは見ていた。
「まだ信じられないならアタシと契約して。あの時のグリーフ・シードと引き換えにアンタに忠誠を誓う。どう?」
ほむらは契約という単語に一瞬不快感を示したが、それは違うものとすぐに理解したようだ。
「アタシはアタシの魂にかけて、アンタに忠誠を誓う。悪魔との契約はそういうもんよ。対価もすでにもらってるし、アンタに実害はないはずよ」
ネミッサは悪魔を使役する契約のことを言っていた。もう四の五の言っていられない。マミを守りほむらを助けるために、自らを投げ出す決心をしたのだ。
「利用するだけ利用するといいわ。アタシもアンタを利用してマミちゃんを助けたいの」
「……いいわ。せいぜい利用させてもらう」
「それでいいよ。利用して」
筆者の意見ではあるが、最も契約として信用できるものは、お互いの利益がハッキリ分かることだと思う。いわゆる詐欺などに対しては「それをして相手は何を得るのか」をちゃんと把握しないといけない。把握した上であれば騙される確率は減るだろう。
彼女たちがもう少し世間スレしていれば、魔法少女の契約をする際にQBがそれで何を得るかを疑問に感じるだろう。だが魔法少女の華やかな部分、人知れず魔女と戦う使命感、自分の願いを叶える奇跡、それらに気を取られることを責めるのは中学生には酷だろう。ましてやマミにいたっては選択の余地すら無かった。哀れとしか思えない。
「アンタはマドカちゃんを魔法少女の運命から救うこと。アタシの目的はマドカちゃんを救うことでアタシの罪悪感を払拭すること。そして、アタシの腕の中の魔法少女を救うこと、当然、アンタもだからね!」
ほむらを睨みつけながら、ネミッサは誓った。
75 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:54:06.69 ID:WjAemYY10
震えるマミの体を抱き、部屋まで運んでいく。真実の重みとQBの裏切り。その心の痛手はネミッサの理解できるものではなかった。出会ってからずっとマミを泣かせているように思えて、ネミッサは息が苦しい。突き飛ばされるかとも思ったが、その手はしっかりとネミッサの服を握りしめ離す様子はなかった。
「ごめんなさい……ネミッサ」
「いいのよ、アタシも一日空けてゴメン」
弱々しく首を振る。この期に及んで、マミはネミッサを気遣う。それがネミッサには苦しい。
(自分のこと考えなさいよ、馬鹿)
泣けてくる。マミの心遣いに、自分の不甲斐なさに。心労からかすっかり肌の潤いを失った姿に心が締め付けられる。やりきれない思い。
いつかとは逆にマミを横抱きにすると、ベッドに寝かしつける。そしてあの時とは逆にネミッサがマミの手を握る。
「ありがとう」
「いつかのお返しだね」
努めて笑う。あのときのマミがしてくれたことをネミッサがお返しする番だ。
「アタシが一緒にいてあげる。アタシはそばにいるよ」
「……裏切らない、よね」
「あったりまえじゃん! 自分が苦しいって時だったのに、アンタ誰の看病したのよ? アタシ忘れないよ」
「……あり……が……とう」
マミはそれだけ言うと、静かに泣きだした。マミが持っているグリーフ・シードを使い、ソウルジェムの穢れを取る。この処理やマミの様子はほむらに相談するしか無いだろう。そのときに合わせて、さやかのことを相談する。杏子がどう出るかが不明だったが、必要ならネミッサが護衛に当たることも言おう、そう方針を決めた。
夜が明けるまで、ネミッサはマミの手を離さなかった。
数日後、ネミッサはさやかが行方不明になったことを知った。
76 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:54:45.99 ID:WjAemYY10
マミはショックと闘いつつも、さやかの指導を行っていた。
ネミッサは天海市とマミの部屋、あるいはほむらの部屋を往復し、来るべき災禍の準備を進めていた。魔法少女でない自分が来ることを快く思っていない人物がいたため、パトロールに行くよりはと積極的に準備を行なっていた。
ようやく立ち直ったマミとともに、まどかとほむらに出会う。まとまった資料を元にほむらと相談を行うためだ。丁度パトロールの時間に合わせたのだが、意外な人物がいた。杏子である。なんでもこの間のいざこざから、グリーフ・シードをさやかから譲り受けることで決着したのだが、新人のさやかは手持ちがない。そのため、訓練と称し杏子の目の前で魔女を倒し、そのグリーフ・シードを渡した。
だが、そのためにさやかは杏子ですら背筋の凍る戦法をとった。
「あいつ、痛覚遮断して戦ってたぞ」
痛みを遮断し、さやか自身が持つ回復能力を常時使用することで自らのみを顧みない戦い方をしたらしい。全身血まみれになりながら狂気にも似た笑い顔は忘れられねえ、と杏子は身震いしながら言う。
「なんて戦い方してんのよ」
「止めさせるべきね、魔力の消費もそうだし、何より心が心配よ」
ネミッサもマミと同意見だ。そんな状態で行方不明となってはいつ彼女が壊れるかわかったものではない。せめて目の届くところに置かないといけない。だが、ネミッサには懸念があった。
「ねえ、マドカちゃん…『なにかあったよね』」
そんな捨て身な戦い方をするきっかけがあったはず。詰問する言い回しに明らかに怯えるまどか。ネミッサは怯えには気づいたが、悠長なことは言っていられなかった。それに、ネミッサに怯えるだけならここまでとは思えない。ひょっとしたら、先の狂気の戦法を直に見てしまったのではなかろうか。
「学校で、なんかあったんじゃない?」
まどかが恐る恐る話したことは、ネミッサの逆鱗に触れるに充分の内容だった。
さやかの願いにより、動かなくなった左手が元通りになった上条恭介はその後退院した。だがそのとき、一番つらい時期を支えたさやかに退院日を知らせなかったようだった。まどかは庇うように『諦めていたものが治り舞い上がっていたのでは』とフォローしたが、ネミッサの表情が変わったことに怯えていた。ついで、志筑仁美の宣戦布告。
「いっ、一日だけ待つから、上条くんに告白してって。そうしたら仁美ちゃんが告白するからって」
「はぁ!?」
ネミッサの大声にまどかが怯える。怒りの色が含まれているために、余計に怖がってしまう。ほむらはじろっと睨むが激昂してるネミッサには届かない。
「仁美ちゃんもね、ずーっと上条くんのことが好きだったの。だけどさやかちゃんの気持ちを知ってて我慢していたみたいなの」
だが、その苦しみから、心に変調をきたし魔女につけこまれたらしい。それをさやかが魔女を屠ることで救った。皮肉が効いていた。魔女から救われ学校に復帰した仁美は退院した上条を見て、我慢の限界を迎えたのかもしれない。
だが、さやかは告白が出来なかった。魔法少女、即ちゾンビになったこと、自分がいつ戦いで命を落とすかわからないことがそれを躊躇わせた。そして、あのとき志筑仁美を助けなければよかったと正義の味方としてあるまじきことを一瞬でも思ってしまったこと。それらがごちゃごちゃになり、失踪してしまったようだった。
「それだけじゃないでしょ」
「ああ、あいつ、まどかになんか当たってたな」
「それ、ホント?」
詰め寄るネミッサに怖気づくまどか。申し訳ないとは思うが、ネミッサもさやかの情報が知りたい。ここはまどかに色々詰問せざるを得ない。怯えるネミッサを制するようにほむらが肩を抑えるが、容赦なく振り払う。
「う、うん……私が、魔法少女じゃないのに、勝手なこと言って、責めちゃったの。さやかちゃんのためにならないって」
それに苛立ったさやかはまどかに辛く当たり、自暴自棄になって走りさってしまった。恐らくそれが最後の引き金になってしまったようだ。恐らく、さやかは親友のまどかに当たった自分を恥じたのではないだろうか。それきりさやかは家出をしてしまった。
「探す」
「ったりめえだ。あの半人前、メンドーかけやがって」
ネミッサは知らないが、杏子はことあるごとにさやかに声をかけていたらしい。のちのちの話では『どうしても気になって仕方ない』とのことだ。だが、マミを信望するさやかは、杏子の生き様が気に入らない。
杏子は使い魔を放置する。そして人間を『食わせ』大きく『魔女』になったところを狩るという。グリーフ・シードを得るためだ。その行動は、使い魔も倒すマミやさやかの信条と食い違っていた。マミと袂を分かつようになったのもそれが一因だった。
「私も探すわ。学校のある間は、二人にお願いするね」
「任せて」
ネミッサは思いたち、ふと呟く。
「行き先に心当たりのありそうなやつがいるでしょ。会わせて」
言葉の真意に気づきほむらが息を呑む。まどかは怯えたまま。ネミッサの云う二人に気づき頷く。
ほむらは判断がつきかねた。ネミッサがいう二人が上条と仁美であることは想像に難くない。だがそれだけだろうか。先程からの苛立ちや怒りがほむらの心に不安を残す。だが、二人から話を聞くだけと言い張るネミッサに会うなとはいいづらい。代わりにまどかや自分が聞き出してもいいと提案したが、ネミッサは『会わせろ』の一点張りだ。せめて何かをしでかさないよう、ほむらはその場に居合わせることを決めた。
77 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:56:35.27 ID:WjAemYY10
放課後、校門前からやや離れた物陰でにネミッサは立つ。マミをまつ銀髪のネミッサは名物のようなものだった。だがその表情にいつもの朗らかさがないため、周囲に威圧感を撒き散らしていた。ほむらたちより先に下校したマミはその表情に不安を覚えた。何かするのではないかと思うと、気が気ではなかった
ほむらとまどかに連れられ、松葉杖の上条とそれを支える仁美が現れる。仲睦まじい姿に告白が実ったことを察したネミッサは、迷うこと無く真っ直ぐ二人に近づく。慌ててマミがそれを追う。
「カミジョー、ヒトミちゃん。単刀直入に聞くわ。サヤカちゃんの行き先に心当たりない?」
ほむらが一瞬表情を変えるが構わず話をする。
(二人の名前を知っている? まどかが教えたの?)
「あ、あなたは誰ですか?」
上条の反応は当然だろうが、ネミッサはそれすら無視して二の句を続けようとした。
「あ、この子はねネミッサちゃん。外国から来てるんだって。さやかちゃんを探すのを手伝ってくれるんだって」
ひどく慌てながらまどかが説明する。早口になっているのはネミッサの様子がおかしいからだろう。何か言っていないといけないような気がしていた。その肩をほむらが支える。それだけでまどかはほっとしたような顔をした。
「は、初めまして……」
「そんなのいいから、心当たりは?」
ネミッサはにべもない。口調もそうだが、まっすぐ二人を見据える視線が厳しい。
ほむらはネミッサを合わせたことを後悔した。これからネミッサはとんでもないことをするかもしれない、そんな予感があった。だが、ほむらの不幸は彼女の根があのおどおどしたほむらだということだ。ループを繰り返すうち発生する問題に対して対処するすべはあり、それを冷静に対処するのでクールで優等生的に思われるかもしれない。だが、こういったループにまるで無いネミッサの行動には対処が遅れる。
「……わ、わかりません……」
二人は叱責を受けているような気持ちになり萎縮する。
「そう、ならしかたないわね」
その言葉で終わったと感じたのか、ふっとまどかが呼吸を漏らす。何もなかった、よかったと、言わんばかりに。
「なら次の質問。なんで探し行かないの? 親友と、幼馴染なんでしょ。薄情ね」
「ネミッサ! 言葉がすぎるわよ」
上条の足と仁美の家の事情をさやかから聞いているマミが咎める。だが、それすら無視して言葉を続ける。
「ひょっとして、アンタらが原因なんじゃない? サヤカちゃんがいなくなったのって」
仁美が息を呑む。射殺されそうな視線のネミッサに完全に怯えていた。だが、支える上条の腕が逃げ出すことを許さなかった。
「アンタが一番苦しい時、アホみたいに明るい笑顔で支えた幼馴染がいなくなったってのに、アンタなんで探さないの?」
マミが言葉を失う。ネミッサにマミが看病したように、ネミッサもまたマミを見守ってくれた。そのおかげでQBの裏切りから立ち直れたようなものだ。そんな恩義を忘れないネミッサに取って、上条の態度は許せないのだろう。だからマミは何も言えなくなった。
78 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 21:57:25.47 ID:WjAemYY10
「アンタは、『カミジョーへの告白を一日待つ』とか言って、サヤカちゃん追い詰めたらしいわね。どう? 親友追い詰めて幼馴染も奪った気分は」
「止めて! 仁美ちゃんも苦しかったんだよ! だから、あんなことになって」
「苦しかったらなにしてもいいのか! 相手の事情も気にせず追い詰めていいのか! それがいいならアタシが何やったっていいはずだっっ!」
まどかも言葉がない。言い返すほどの経験がないこともあるが、さやかと仁美、双方の事情を知っているだけにどちらかに偏ることが出来ない。
「あ、あなたに何がお分かりですか! わ、私がどれだけ苦しんだか! 悩んだか! 私だって……」
苛立ったネミッサは雷球を作り出し、地面に投げつける。激しい音が響く。『だまれ』。そう言っているかのように。
「だから一日『告白をまってあげた』んでしょ。譲歩したフリして一方的に期限切って、一方的にルール押し付けてたんだ、かなり有利だったろうね」
「そ、そんなこと!」
「時間をもらったサヤカちゃんは追い込まれたでしょうね。勇気を出して『譲歩してくれた』アンタの気持ちを初めて知って、整理する時間すら無かったんだから」
「ネミッサ! いい加減になさい!」
無視。
「待ってくれ、僕はさやかにそんなことされてない。さやかが、僕を……?」
「だろーね。事情があってね……アンタを諦めたんだもの。本気で気づかないとか、わざとやってんのかと思ったわ」
一呼吸置く。
「アンタ事故った左手治ったんだってね。おめでとう。その件でアンタに毒打ち込みたいのよ、受け取って」
「止めなさい!」
無視。
「『奇跡も魔法もあるんだよ』かな。逆? 医者が見放した腕が動く前、そんなこと言ってなかった?」
上条には心あたりがある。さやかが探してくれたレアなCDを動かない左手で叩き割ったときの、さやかが真剣な顔で言っていた言葉だ。あれは完全な八つ当たりだった。それでもなお、さやかは上条に優しく接していた。幼馴染という部分に甘えていたのは、上条の方だった。
「アンタの左手はサヤカちゃんが治したんだよ。その引換に、アンタたちと違う世界に……」
ネミッサが吹き飛ぶ。ほむらが拳でネミッサの顔を殴りつけた。華奢なほむらではあったが魔力で強化した力は上条に近い長身のネミッサを黙らせるには強すぎた。だが、たたらを踏んだだけで堪える。ほむらの失敗は、無理やりネミッサを黙らせたことで、図らずもネミッサの言い分を肯定した形になったことだった。
殴られたはずがほむらを一切に見ずに、上条と仁美を見据える。
「これで逆に信じてくれたかしらね。アイツはアンタたちとは違う世界に行ったのよ。アンタの腕と引換に、いつ死んでもいいような世界にね」
二人は全く頭がついていっていない。ただわかることはネミッサの叱責が一理あり、一縷の後ろめたさを持っていたためか返す言葉もない。これはネミッサの唯一の復讐でもあった。どちらが正しいとかではない、ネミッサはそこまでさやかを追い詰めた二人を許せなかった。
「バイオリン引くたびに思い出すといいわ。アタシから言いたいのはそれだけ」
踵を返し振り返らず立ち去るネミッサ。その後ろでうなだれる上条と仁美。なだめるまどかを横目に、ほむらはネミッサを睨み続けていた。それをただ一人マミだけがネミッサを追いかけた。
79 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 22:00:56.78 ID:WjAemYY10
ネミッサを追いかけ、マミが近寄る。先のネミッサの暴走により、さやかが戻った時の二人の態度がどうなるであろうか。さやかをなじるか、逆によそよそしくなるか。見当がつかない。
また、まどかがすっかり悲しんでしまい、ほむらが怒るであろうことは想像に難くない。まさに彼女が行ったことはただの暴走であり、暴挙だ。
だが、同時にネミッサの気持ちもわからなくはない。ネミッサはマミに看病してもらった恩を忘れてはいない。それはそもそもマミを庇っての怪我であるのだから、ネミッサが恩義に感じることではない。にも関わらずネミッサは恩として返した。彼女の情に厚い心の現れだ。そんな彼女が、幼馴染の支えをまるで気づかない、あるいはそのフリをしていることが許せなかった。
何気ない会話でいうことは、ネミッサはしきりにマミやほむら、さやかにまどかを褒めるのだ。可愛いから始まり、優しい、楽しい、守りたいなどなど。それを面と向かって言われるマミは赤面してしまう。堪ったものではない。
だからマミは思う。ネミッサは悪い子ではない。その証拠に、あんなに泣いているではないか。
「ひどい顔ね」
「う、うるさいなぁ」
乱暴に顔を拭い、自分の行動を悔いている。だがそれを言い訳にしない。全て自分が悪いと。なるべくマミに顔を見られないようにすると、ぶっきらぼうにいう。
「サヤカちゃんを探す」
「ちゃんとあとで謝るのよ? 暁美さんにも謝れたんだから、平気よね」
「うるさいなぁ、アンタはアタシの母親か」
「そうね、ふふ、中学生だけど、あなたのママになってもいいかもね」
「馬鹿、知らない」
そう行って駈け出したネミッサを見送ると、母親のつもりになって、ネミッサの後始末に行く。
(まず、あの二人に謝らないとね。暁美さんも怒っていたけど、大丈夫かしら)
身を引き締めた。
80 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 22:01:32.32 ID:WjAemYY10
突然のことに打ちひしがれる二人に、戻ってきたマミが声をかける。
「ごめんなさい、二人とも。ネミッサが酷いことを言ったわね。私から謝ります」
「いいえ、そんなことありませんわ。ネミッサさん?のいうことも一理ありますから」
ほむらは判断がつかない。ネミッサの言い分も分からないではない。自分は苦手だが、さやかに寄った味方であればああいう意見もある。だが情けないことに、恋愛経験がないばかりか人間関係の経験すら少ない自分には判断が付かない。先の暴走でまどかが怯えてしまったことは苛立たしいが、それ以外に腹が立たないのはそのせいだろうか。マミが労るように二人のクラスメイトに話しかける。穏やかに優しく話しかけるその姿に羨望すら感じる。
(ああ、私はやっぱりあのときのままなんだな)
マミがいなければあの二人を労ることも出来ないし、怯えたまどかも落ち着きを取り戻さなかったろう。自分にはとても出来ることではない。
ネミッサのお陰で、この光景がある。ネミッサのせいでもあるわけだが。
「あの、暁美さん。さやかに何があったか、知ってるんだよね」
さやかが愛した、端正な顔がほむらに近づく。精悍とは言えない顔立ちの眼には力がある。バイオリンの天才として努力を研鑽をしてきた彼は、凡百の学生とは違うアクシデントに負けない心があった。
「わ、わたくしは……」
「美樹さやかはあなた達の知らない世界に足を踏み入れた。私と同じように。そして、不幸が重なって今とても苦しんでいる」
「大丈夫、私もネミッサも必ず美樹さんを無事に連れて帰ります。あなた達は……そのとき美樹さんを受け入れてあげて?」
(そしてそのときは、ネミッサを許してあげてね……)
それはマミのちっぽけな祈り。
81 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 22:02:06.10 ID:WjAemYY10
夜を走り抜ける杏子。杏子にはさやかの行き先の心当たりがあった。それは魔女の結界。それが使い魔であろうとなんだろうと戦い倒すことは彼女の正義だった。だから手当たり次第に結界に入っていると予想した。そこなら出会える、捕まえられる。
杏子が魔法少女になったのは、父親のためだった。父親は宗教団体に所属しており、教団の教義を自らの教会で説法していた。新聞記事を見ては心を痛める優しい誠実な父親は、時に教義とは関係ない説法をするようになる。杏子にとってはそれはそんなに人として間違っていることには思えなかった。だがそれにより教団本部から疎んじられ、やがて破門。徐々に生活も困窮していった。
『みんなが父親の話を聞いてくれるように』彼女はその願いで魔法少女になった。それにより父親の支援者も信者も増え、家族にも笑顔が戻った。杏子は裏から、父親は表から世界を良くする、そう信じて杏子は戦いに身を投じたのだ。その頃マミと出会い、マミを師匠として魔法少女として辛くても報われる二重生活を続けていた
父親にその事がバレるまでは。
キリスト教系だったのだろうそれにとっては、彼女の魔法は悪魔の所業と写った。我が娘を魔女と罵り絶望し、無理心中を図った。支援者や信者が増えたのは自分の力ではなく、悪魔の力によるものだったと知った彼の絶望はそれだけ深かったといえる。聞くまでが杏子の願いで、その判断は聞いた人それぞれであったはずだったが、今の杏子にとってはもはや無意味な話だ。
心中から生き残った杏子は、犯罪を繰り返しながら生きながらえ、魔女を狩り続けた。父親の望むものと全く反対の生活をしつつ。この頃、ともに行動していたマミとも袂を分かった。魔法は全て自分のために使いべきという信条のもと衝突したためだ。マミは自分のために魔法少女となり人のため魔法を使い、杏子は他人のために魔法少女になり自分のために魔法を使う。こんな皮肉の効いた話もないだろう。
杏子はさやかに自分の姿を見た。思いを告げられない男に魔法を使ったさやかが他人ごとには思えなかった。だから衝突もしたし、諭そうともした。だがマミを信奉するさやかにとって杏子の考えは許せるものではなく、幾度と無くぶつかり合った。ネミッサに歩道橋の上で目撃される前には本気の殺し合いをしたほどだった。ほむらが割って入らなければ、どちらにせよ死体が転がっていたはずだ。
ややもあって、ネミッサが合流する。時間で待ち合わせした場所に移動した。二人とも長時間走り回っていたはずだが息が上がっている様子はない。だが、表情から焦燥感が見て取れる。二人とも言葉がないのは、見つからなかったということだろう。だが、しばらくしてネミッサが口を開く。
「アンタ体大丈夫?」
「そっちこそいいのかよ、倒れても知らねえぞ」
「ま、それもあんだけどさ、サヤカちゃんだって四六時中戦えるわけじゃないでしょ」
「ねぐらとかか、どっかあるかもな。最後その辺探して……」
「思い当たる所、あるの?」
杏子はいわゆるホームレス状態だった。魔法の力を使い、空いているホテルの一室に不法侵入することはあったが、概ね野宿であったり、荒れ果てた元教会での寝泊まりだ。仮に大金を持っていても、中学生に泊まれる施設などあるわけがない。通報されて逃げ出すのがオチだ。
「体が心配ね」
「仮にも魔法少女だからな、その気になれば風邪も病気も無縁だし、変な男に襲われても……」
「ああ〜嫌な想像させないで。ロリコン親父にサヤカちゃん襲われてたら泣くわ」
「茶化してんじゃねえよ一般人」
一般人じゃない、と反論しても仕方ない。筋力などでは魔法少女に敵わないのでは一般人扱いも仕方ないだろう。
さやかの無事を祈り、その日は解散となった。
翌日から捜索を再開したが、奇妙なことが起きた。捜索の合間、見知らぬ人間に声をかけられるようになった。一瞬補導されるものと身構えたがどうも様子が違う。聞いてみると、志筑仁美の関係者だという。昨日の暴挙が堪えたのだろう仁美が父親を説得、その財力と人脈を利用しているのだという。ネミッサの連絡先をほむらたちから聞いているらしく、何かわかれば報告すると約束してくれた。また、時折届くメールは上条からだった。最初は差出人不明だったため不審に思っていた。だが開けてみればさやかが行きそうな場所を思いつく限りリスト化して提供してくれていた。杏子は結界を、ネミッサや関係者はそれ以外の場所を探し走り回る。
だがそれでも見つからない。放課後ほむらやまどか、マミも参加してくれた。先の杏子のアイディアで結界を潰しつつ、鉢合わせることを期待した。
だがそれでも見つからなかった。無為に数日が経った。
82 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 22:02:59.27 ID:WjAemYY10
ネミッサは翌朝すぐに二人に謝罪した。あのとき以上に真剣な眼で二人を見据えるとまっすぐに頭を下げた。
「ごめんなさい、アタシ言い過ぎた」
背後にマミの気配を感じたが、どうにもなるものではない。許してくれるまで顔を挙げないつもりでいた。
「顔を上げて下さい、ネミッサさん。貴女はさやかさんのことを、あそこまで大事に思
ってくださってるんですねぇ」
驚いたように顔を上げる。仁美の顔は笑っていた。
「私は、さやかさんの親友ではなくなってしまいました」
寂しそうに呟く。さやかを追い詰めた時、仁美は親友としての資格を失ったと思い込んでしまった。
「それなら僕もそうだ、幼馴染……であることに胡座をかいていたんだ。僕をずっと支えてくれていたのに」
やはり寂しそうな響きがまじる声。
二人が出した結論は、さやかが戻るまで保留するということ。さすがのネミッサも驚いてしまう。とはいえそこまでさせたのはネミッサの暴挙が原因だ。責任は彼女にある。両肩にさやかの体がのしかかったような重みを感じた。
二人は好きあってるんじゃないか。その言葉が喉まででかかったのは事実だ。だが、それをいう資格こそネミッサにはない。三人がどの様な結論を出そうとも、それはすべてネミッサにのしかかる。
「答えて下さい。さやかさんは、私達が知らない世界に足を踏みれてしまったのですね」
それは問いかけではなく、確認。ネミッサは顎を引くようにして肯定するしか無かった。
「信じてもらえるかわからないけど、サヤカちゃんは魔法少女になった。カミジョーの腕を治すという奇跡と引換に、怪物と戦い続けるいつ死んでもおかしくない世界に行った」
あのときほむらが無理やり黙らせたことでそれは信憑性を増してしまったわけだ。当然詳しく話せないが、二人は納得してくれたようだ。
「暁美さんも、巴先輩も、そうなんですのね。そして、貴女も」
「アタシは少し違うけど、似たようなものよ。そんなことより、一緒に探してくれてありがとう。メールも活用してるわ」
「もし、僕らに出来ることがあれば知らせて欲しい。勝手なことだけど、僕はまだ幼馴染を失いたくない」
「わたくしもそうです。まださやかさんが親友と呼んでくださるなら、なんだっていたしますわ」
「その言葉、力強いわ。その時が来たら、よろしくね」
三人の見えないところで、マミが安堵の溜息をついた。
(全く、世話のやける子だこと)
83 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 22:03:33.46 ID:WjAemYY10
正直に言えば、杏子やマミにさほど危機感はない。家出少女の杏子の例もあるため、どこか楽観視していたのは否めない。だがネミッサは違った。そのままにしておけば何が起こるかを知ってたため、捜索に費やすせるよう徐々に睡眠時間を減らしていった。
それはまどかも同じだった。さやかにきつい言葉を浴びせられたとはいえ、放っておけるような性格ではない。門限ギリギリまで探し回っていた。靴は磨り減り、息も絶え絶えになって、ベンチに腰掛けた。
その隣にQBがいる。何がしか話をしているようだ。
「さやかちゃんが言ってたけれど、私には凄い素質があるって…。本当?」
「凄いというのは控えめな言い方だよ。君が望めばどんな願いだって叶う。万能の神にすらなれるんじゃないかな」
甘言を囁く。QBは、さやかをダシにしてまどかに契約を迫ることを目的としていた。
それをほむらが隠れて見ていた。さやかの捜索をせずにまどかを見張っていた。契約を阻止するために。
「それじゃ、私がさやかちゃんを元に戻して、ってお願いしたら、叶うの?」
「そんな小さな願いでいいのかというくらいだよ。……契約するかい?」
本心から言えばまどかの心は契約に大きくぐらついたことは確かだ。だが頷くことが出来ない。親友の窮地であり、自分に出来ることがありながら出来ない。
ネミッサがマミを救った夜、ほむらに送られながら話した約束が引っかかっていたのだ。さやかはその約束を破ってしまった。そしてネミッサの言葉。
『ホムラちゃんのことが少しでも好きなら……安易な『優しさ』に負けないで欲しいな』
なぜだか知らないが、まどかはほむらが好きだった。あの日夢で見た少女が実際に現れてから、非現実的なことが起りっぱなしだ。危険と隣り合わせの中での吊り橋効果なのかとも思ったが、それとはまた違うことがはっきりしていた。約束をしてからずっと、ほむらの整った横顔に憧れていた。
黙って微笑めば異性どころか同性すら射抜く美貌の持ち主であるが、まどかが感じていたのは、もっとか弱い気弱なほむらの姿。ほむらがその弱々しい外見で精一杯頑張って一人泣きながらまどかを守っていると、全く根拠もなく直感してた。
「ううん、私はしないよ。ほむらちゃんが、きっとさやかちゃんを助けてくれる。私を守ってくれたように」
「いいのかい? 間に合わないかもしれないよ」
「マミさんもネミッサちゃんもいるもん。私、信じてる」
確証があることを信じるとは言わない。不確かであるからこそ、信じることが尊いのではないだろうか。確かに間に合わない可能性もある。だがネミッサが、杏子が、マミが、そしてほむらが救ってくれると信じていた。
「でも、君も探しているね。不安じゃないのかい」
「ふふ、キュゥべえにはわかんないかな。不安だから探してるのもそうだけど、私がさやかちゃんを見つけてあげたいの。そしてね、ちゃんと言うんだ。『さやかちゃんが言ったこと気にしてないよ、へいきだよ。ごめんね』って」
わけがわからない、というふうに頭を降るとQBはベンチから降りた。
「気が変わったら、声をかけて欲しいな。僕はいつでも契約できるからね」
いつでもQBを狙撃できるよう準備していたほむらは銃口を下げた。彼女の背中でおさげのほむらが嬉し涙を流していたことは、本人も含め誰も知らない。
まどか本人も気づいてはいないのだが、今回、ほむらがまどかを身を呈して守った事実はそう多くない。にも関わらず守られたという好意のみがまどかを後押ししてた。ほむらの度重なるループの行動が結実したと思うのは、都合が良すぎるだろうか。
84 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 22:04:03.27 ID:WjAemYY10
さやかを魔法少女として支えていたものが徐々に崩れようとしていた。
恭介への告白が出来なかったとき愛が崩れ、仁美を見殺しにしようと考えたとき正義感が崩れ、心配するまどかに辛く当たったとき友情が崩れた。その彼女に残されたものは街を人を守るという義務感だけだった。本人が崩れたと思い込んでいるだけではあったが、彼女の心を蝕むには充分な痛みだった。
そして、目の前でガラの悪いホストが貢ぐ女性をなじるような発言を聞いたとき、そしてそのホストを魔力を使い攻撃したときその義務感も崩れた。
終電間近の駅のホーム、誰もいないベンチに力なく座るさやか。それを発見したのは杏子だった。魔力を使った痕跡を感じ、駅構内に探しに入ったのだった。感情に任せて失踪したにしては穏やかな様子に安堵した杏子は、ホッとした表情で近づいた。
「もう、どうでもよくなっちゃたからね」
安堵したはずの杏子の背筋が寒くなるほどの表情。幸福と不幸は等量だという考え。恭介の幸せを願った分、街を守ることを願った分、それと同じ不幸が振りまかれるという。絶句し、返す言葉も見つからない杏子は慄いた表情で立ちすくむだけだ。
「魔法少女ってそういうシステムだったんだ」
恭介を手放し、仁美を手放し、まどかを手放し、正義感を手放したさやかには何も残っていなかった。本当に守りたいものをすべて無くした彼女の心は、絶望に塗り固められていた。他のだれでもない、自分自身に絶望していた。そして、自分の堕ちる先がどうなっているか、すでに察しているようだった。
「あたしって、ほんとバカ」
涙がこぼれ落ちた。
ソウルジェムが砕け散る。
杏子の絶叫がホームに木霊した。
(そういえば、ネミッサ嘘つきにしちゃったなぁ……でもいいや、どうでも)
「この国では成長途中の女のことを少女と呼ぶんだろ?……だったら、やがて魔女にな
る君たちのことは魔法少女と呼ぶべきだよね」
淡々といつもの調子でQBは呟く。善意も、悪意も、抑揚すら無いつぶやきを聞くものは誰もいない。
85 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/06(日) 22:09:24.76 ID:WjAemYY10
筆者です。
映画版同様、キリのいいところですので、ここで本日は区切ります。
大雑把にここらでテキスト分量の三分の一といったところです。
掲示板に張り付けることを想定せず書き込みましたので
一レスに文章が多く、読みづらくなってしまいました。申し訳ありません。
恐れ入りますが、今回はこのままでお付き合いください。
質問等ネタバレしない程度でしたらお答えいたします。
また、明日の夜、アップいたします。
お付き合いください。
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/06(日) 22:40:42.95 ID:K9cYRHgB0
結局さやかは助けられなかったか…
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/07(月) 01:20:02.19 ID:m3xtEeuzo
>>85
相棒出番無いん?
88 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:16:16.03 ID:i9eeC+ki0
筆者です。
今夜三章の後編をお送りいたします。
質問をいくつかいただいておりますが『誰々は出るの!?』というのは
本編にかかわるので答えづらいですね。
一応、ソウルハッカーズに登場した人物を出す予定です、
とだけお答えいたします。
スプーキーズとか相棒とか、彼ら皆さんに愛されてますね。
しかし、ほかの方の作品と比べるとどうも自分のは地味だなぁ。
まどほむ、さやあんとかを書けない私にはうらやましい限りです。
……マミネミってジャンル需要あるのでしょうか?
ねえよなぁ。
ともあれ、またしばしお付き合いください。
89 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:17:18.53 ID:i9eeC+ki0
杏子は結界の中にいた。腕の中には身動ぎひとつしないさやかを抱きしめ、騎士風の鎧を身につけた魔女と対峙していた。だが、杏子の方は戦いに望む精神状態ではない。
『魔法少女が魔女になる』という驚愕の事実に囚われて動けずにいた。
それを救出したのはほむらだった。戦えない杏子の腕を取ると時間停止を駆使し離脱を行う。杏子はそれでほむらの手品を理解した。そして同時にほむらの強さの根源を知り、飲まれたように唯々諾々と従った。
結界から出て、行き着く先はちょうどまどかの座るベンチのそば。ほむらは何かを狙ってそこに移動したのであろうが、杏子は混乱して、そこまで気が回っていない。
さやかの『遺体』をまどかに見せるつもりのようだ。まどかの契約の意思を完全に挫くつもりだったが、先のまどかとQBをの会話から、それは得策ではないと思ったのだろう。何も言わずただ立ち尽くしていた。
「さ、さやか……ちゃん……そ、そんな……そんなのって……」
「てめえ、あれはなんだ! さやかに何しやがった!」
努めて冷淡に言葉を紡ぐようにした。自分でも何かが溢れることを恐れたからだ。
「もう、わかっているでしょう? 気づいているはずよ」
そう、杏子は気づいていた。
魔法少女のソウルジェムが濁り切ると砕けて魔女になる。
「これが魔法少女の真実、そして末路」
冷静なほむらから連絡を受けてネミッサとマミが到着するまで、まどかはただただ泣きじゃくっていた。
マミの心は何度傷つかなくてはならないのか、何度苦しまなくてはならないのか。手塩にかけて可愛がった後輩の変わり果てた姿を見て、膝から崩れ落ちた。それだけではない。魔法少女の真実がそこにあった。ほむらが通った過去では、マミはここで錯乱した。ほむらを拘束し杏子のソウルジェムを破壊、その時すでに魔法少女になっていたまどかに射殺された。
だが、今のマミにはネミッサがいた。ネミッサの腕を砕けんばかりに握りしめ、驚愕の事実と戦っていた。
マミは正義の味方を標榜していた。そのため魔女や使い魔を率先して倒し、見返りのない戦いを続けていた。その魔女が元は魔法少女であることは、受け入れがたいことだ。
人殺し。マミは端的に自分の行動をそう捉えてしまった。そして、自分もいずれ魔法少女に殺される怪物になる。ほむらが見た過去では、その現実に押しつぶされて崩壊した。
だが、今は違う。すがる相手がいる、支えてくれるお友達がいる。守りたい娘がいる。
「大丈夫よ、ネミッサ。娘にカッコ悪い所見せられないものね」
「顔面蒼白で言っても説得力ない。もっと自分を大事にしなさいよ、バカ」
ネミッサにしがみつきながら立ち上がる。不屈の精神とは、折れないことではなく、折れても尚立ち上がることだという。マミの心は傷付く度に立ち上がり、強固なものになっていった。
「意外と、見栄を張るのも有効なのよ。特に、大事な娘の前ならね」
「バーカ」
ほむらは驚きを辛うじて隠した。それと同時に、ネミッサにマミを会わせてよかったと胸をなでおろした。錯乱したマミに銃口を向けられて以来、潜在的にマミに恐怖心があったほむらは、無意識的にマミを避けていた。幸いにしてネミッサはマミと親しくなり、心の支えになってくれた。ほむらの意図とはかかわりなく。
「へっ、マミがこれくらいで折れちゃこまるんだよ」
「ごめんなさい、心配掛けて」
「しっ、心配なんかしてねーよ。それより、さやかをどうするかだ」
「助けるに決まってる。アタシは守るって決めたんだ」
「一般人に何が出来る」
「佐倉さん、魔法少女ではないけど、彼女は戦える力があるわ」
「力がなくたって戦ってみせる。力より意思よ」
「……足引っ張んなよ」
どうやら杏子は納得したようだ。しぶしぶであろうがなかろうが、許可が降りたのなら遠慮することはない。
90 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:18:24.70 ID:i9eeC+ki0
立ち直ったマミは、泣きじゃくり続けるまどかの肩を抱く。なんでこうも自分が辛い時に彼女は人を慮ることができるのだろうか。気高い優しさ。ネミッサは、マミの友人になれたことを誇らしく思う。そして、その友人に出来ることをしたかった。涙を拭うまどかのためにも、さやかのためにも。
そのためにも、ほむらに向き合う。
「アンタも協力しなさい」
「お断りよ」
ほむらは踵を返して立ち去ろうとする。その後ろ姿を不安げに見守るまどか。その腕の中には物言わぬさやか。
「お願い! ほむらちゃんも手伝って!」
「お断りよ。こちらの忠告を無視して、助けも振り切るような人を助けてもまた同じ事を起こすわ」
「ご尤もで」
ネミッサのふざけた言い回しにほむらも苛立つ。だがそんな挑発にのるような事はしない。手管はわかっている、そう言わんばかりだ。だが、そのほむらの意図を見透かした上で、ネミッサはもう一手用意していた。
「ネミッサが手伝うのを止めたりはしないわ。けれど、私は無理」
「なら仕方ない。ホムラちゃんなしでやろっか。マミちゃん、キョーコちゃん、…マドカちゃん」
ネミッサが横目にほむらを見やる。
「鹿目さんも!? 危険だわ!」
マミの驚きにほむらがビクッと反応する。しかし考えれば分かる話で、まどかの性格を考えれば、手伝うなどと言い出すのは想像に難くない。それに、杏子もさやかの一番の親友の申し出を断るわけはない。むしろまどかの呼びかけを期待していたのだ。快諾するのは目に見えていた。
珍しくほむらの表情が目に見えて歪む。まどかを見殺しにする葛藤と、さやかへの苛立ちの間で困惑しているようだ。
ネミッサも様子をうかがっている。まどかをダシにほむらを巻き込むのが目的だが、ここで契約という単語を使ってしまうのは好ましくない。ただでさえへそ曲がりのほむらを頑なにするおそれがある。むしろ契約をさせないという方向で攻めたい。だが、そこまで云う必要はなかったようだ。
「私のいないところで契約されても、まどかに何か合っても困る。いいわ。同行する」
「ありがとうほむらちゃん」
「でも私は手伝わないわよ」
「それでもいいじゃん、マドカちゃんたちの護衛とか脱出を助けてもらう形でさ」
その夜。さやかを抱えたまま杏子は立ち去る。まどかもマミやほむらに付き添われ帰宅の途についた。唯一ネミッサだけがこっそり無断で違う方向にすすむ。かねてより準備してあったものを受け取りに行くためだ。これがさやかのためにどれだけ有効かはわからないが、少なくともほむらは今までのループではやったことのない方法のはずだ。試す価値はある。
91 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:18:54.52 ID:i9eeC+ki0
ネミッサは業魔殿に行く。
「メアリ、遅くにゴメン」
受付で書類を整理していたのだろう、メアリが顔を上げる。その顔に明確な表情は浮かんではいない。なまじ表情が多くて迷惑そうな顔をされても困るのだが。
「こんばんは。本日はどのようなご用件ですか」
「……前々からお願いしておいた件よ。おっさんいる?」
「おるよ。下で話そう。メアリ、支度を」
奥の部屋にいたのだろう、業魔殿のオーナーである年齢不詳の男、ヴィクトルが顔を出す。洒落っ気があるのか船のキャプテン風の服装をしているが、悪魔を用いた「生命の研究」に関しては第一人者だ。フィールドワーク的にサマナーたちの要求に応える研究『悪魔合体』という背徳の技術を提供している。彼にネミッサは依頼をしていた。
「畏まりました」
「正直に言おう。魔女を魔法少女や人間に戻した、あるいは戻った前例は存在せぬ」
ネミッサも予想通りの返答だったため、驚きはない。だが、それで終わる男ではない。そう思っていた。だから次の言葉を待つ。
「だから、これから提示できるものは可能性に過ぎぬ。それを心しておくがいい。……メアリ」
背後にいたメアリがネミッサに手渡したのは、スマートフォンだ。携帯電話を手に入れる際にあれこれ見た覚えがあるネミッサだが、それと同型機のものを見た覚えがない。独自に開発したものだろうか。
「それにアプリが入っている。それを使い悪魔を召喚することが出来るようにしてある。死者と生者、縁結びの神だ」
「それを上手く使え、ってことね」
ヴィクトルは魔女を死者と解釈した。命の不可逆性をそう捉えたのだろう。だが、縁結び?
「男と女のもつれで堕ちたのだろう? こちらの手持ちで適任といえばそれだと思ったのだよ」
「感謝するわ。充分かどうかわからないけれど」
「まぁまて、まだある」
再びメアリがネミッサに渡す。香炉と酒瓶だが、ネミッサにも見覚えがある。ある種予想はしていた。だが、決して安くないそれを、いくつも持ってきたことに驚いた。それを手渡すと、メアリは下がる。
「使い方はそれぞれわかるな」
「ありがとう、感謝するわ。これでなんとかしてみる。報酬とか用意できないけど」
「構わぬ。あえて言うなら、成功した暁には詳細な情報をもらえると助かる。後学のためにな」
その後、召喚の契約や使用方法について、遅くまで話し合いが続いた。
92 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:19:53.68 ID:i9eeC+ki0
日付が変わってから見滝原に戻ったネミッサは、音を立てないように静かにマミのマンションに行く。幸い、合鍵を預っていたので静かにドアを開ける。……まぁ、そこに、マミが起きて待っていたわけだが。
傍から見てわかるほど怒っていた。どうもマミはネミッサを過保護に見る傾向にあるのだが、今夜の勝手な夜遊びを待っているとは思わなかった。
「そこに座って」
「あ、ただいま」
「す・わっ・て」
「……はい……」
いつもと違い、ネミッサも素直に正座する。
「さて、どこに行ってたのかしら?」
尋問が始まる。ネミッサはマミが好きだったが、こればかりは苦手だった。
自分とは違って翌朝学校があるマミを心配したネミッサは、全部事情を話し平謝りした。考えてみれば自分のことではなく相手を思って謝罪するようになるとは思わなかった。その甲斐もあり比較的短いお説教で済んだのだが、最期の一言が効いた。
「忘れないで、貴女がいなければ、私は生きてはいないのよ」
事実なだけに、マミの言葉には重みがあった。ネミッサはさやかの他に、マミをも背負う形になった。
さすがに全員学校を休んだ。当たり前といえば当たり前だが、ネミッサのマミへの気遣いが無駄になった形だ。
ネミッサの呼びかけで、マミの部屋に一同が会する。必死の表情のネミッサ。不安げなマミ。不満気な杏子とほむら。心配そうにいるまどか、仁美、そして上条。特に杏子は一般人が混じっていること、一般人に見えるネミッサが場を仕切っていることに苛立ちを感じていた。
「みんな、集まってくれて有難う。これから、サヤカちゃんを……」
「その前に、ネミッサ。貴女は一体何者か説明して頂戴。いい加減はぐらかすのは止めて」
「それはあたしも聞きたいね。あんたいったい何者なんだ?」
苛立ちが漏れる形だ。ネミッサを睨みつけるほむらと杏子。突然の喧嘩腰に狼狽えるまどか。それを見てネミッサは腹をくくった。自分の生い立ちを知らない杏子や仁美と上条のために、ほむらに足止めをしようと爆弾を投げ込むことにした。
「わかったわ、説明する。まずホムラちゃんに先に一言ね」
襟を正すように背筋を伸ばす。これを言って、果たしてほむらがどうなるか。ネミッサには予想がつかない。『今まで無かったこと』なのだ。ほむらはこんな苦しい告白を一体何度行ったのだろう。そして、何度結果に裏切られただろう。心優しい少女が変貌してしまうほどのことが何度もあったに違いない。それを思うと、ネミッサの心が締め付けられる。だがこの期に及んだら云うしか無い。ほむらの視線には杏子にはない殺意が含まれていた。ここで手を間違えたら、撃たれる。
一呼吸の中にそこまで考え、はっきりと云う。
93 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:20:42.75 ID:i9eeC+ki0
「時間を巻き戻すことができるのが、アンタだけだと思う? アタシもできるんだよ。条件付きでね」
ほむらの表情にはっきりと驚きが浮かぶ。ほむらの頭の中にネミッサが自分と同じ時間遡行者という考えがなかったわけではない。だが、自分の能力の特異性から、その確率が低いと踏んでいた。故に、自分と同じ情報を持つネミッサを一時は敵と認定したのだ。だが、ネミッサにも誰にも未だ時間遡行のことは話していない。それだけでもほむらには充分衝撃だった。
「少し整理する時間をあげる。他の子にはアタシの生い立ちをね。信じてもらえるか、わからないけど」
生い立ちを知らない三人に簡単だが天海市での事件を伝える。マニトゥのこと、エグリゴリの元天使のこと、相棒とスプーキーズのこと、リーダーのこと……。そして自分とマニトゥが死ぬ定めから逃げ出した臆病者だということ。今自分の中にマニトゥを内包して生き恥をさらしていることも。
今度は三人が困惑する番だ。だが、マミもまどかもほむらへの爆弾に言葉をなくしている。
「暁美さんと貴女が、時間を、巻き戻す?」
「ええ、時間遡行の能力があるのよ。それで、何回も何回も同じ一ヶ月を繰り返してるの」
これはネミッサがほむらから直に聞いた話だ。当然、この今のほむらではないが。
「なんでだ? あ、いやあれか。『ワルプルギスの夜』か」
杏子が自らのつぶやきに納得する。ワルプルギスの夜を倒すために同じ一ヶ月を繰り返すと理解したのだ。ネミッサが知らないことではあるが、ほむらは杏子に共闘を申し込んでいた。そこで溢れる言葉の端々、特に『統計』という言い回しに覚えた違和感。その原因に思い当たった形だ。
「だがよ、あんたもほむらも……、時間を巻き戻すとか言われても、信じられると思うのか」
「だからホムラちゃんは言わなかった。証拠も証明も出来ないから。それに、なぜ? と皆が思うでしょう?」
そうだ、仮に信じたとしても、『なぜ?』という言葉がつきまとう。時間遡行を話すと同時に理由の説明も必要だ。
「魔法少女の真実……だから鹿目さんや美樹さんを魔法少女、ひいては魔女にしたくなかったのね」
マミが察し呟く。その呟きがひび割れていたのは、無知な自分が魔法少女の運命に二人を巻き込んだからだ。ほむらばかりかネミッサまで防ごうとしたそれを遮った自分の罪悪感に飲まれていた。ぐっとスカートを強く握りしめ後悔の念と戦っていた。その手をネミッサが優しく握る。顔を上げるマミに、ネミッサが微笑む。
ネミッサがほむらの時間の巻き戻しを理解したのはさやかのグリーフ・シードの存在があったからだ。さやかの魂が複数個あるという事実と、自らが時間を巻き戻せる事実の前では、ほむらの時間遡行のことを信じるのは難しくなかった。
問題は事情を知らない二人のことあったが、仁美と上条にもある程度魔法少女と魔女の話をしてあった。それでなくてはさやかの救出作戦を立案など出来ない。二人は理解できぬまま納得してくれたようだった。
「では、さやかは僕のために、魔女に、怪物になってしまったんですね」
「私は……、私が……、さやかさんを追い詰めて……私が怪物に……」
二人の苦悩が漏れる。だがここでうつむいてはいられない。苦しいながらも顔を上げる。
94 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:21:32.04 ID:i9eeC+ki0
「あ、あの、ネミッサちゃん……、なんで、ほむらちゃんと一緒に戦うの?」
その中でまどかが搾り出すように尋ねる。ほむらが最も聞きたいのはそこだったはずだ。衝撃の中で早く立ち直れた理由は不明だが、困惑した顔でじっとネミッサを見つめる。酷い言い回しをすれば彼女は無関係のはずだ。
「リーダーを助けるどころか、自分の手で殺した話はしたっけ。……それが嫌で、何度も繰り返したのよ。天海市での出来事をね」
リーダーを殺す運命を覆すべく、相棒とネミッサは何度も時を巻き戻しをした。相棒と出会い、悪魔と戦い、魔王と戦い、リーダーを救う方法を探すために。だが、それは何度繰り返しても出来なかった。運命は何をしてもそこに結びつく。元は敵の策略によるスプーキーズの分裂が主な原因であるが、それを阻止することが出来ない。何を言ってもどう説得してもスプーキーズは空中分解し、リーダーの単独行動を引き起こし、誘拐と魔王サタナエルの憑依を許してしまう。
「……アタシと相棒はそれに疲れたのよ。どんなにやっても、それは覆らない。ふふふ、ホムラちゃんより根性なしね」
ネミッサの自嘲した笑い。そして遠くを見る目。その顔だけ見ると、酷く老成したようにも見える。
ネミッサはほむらに自分たちの姿を見た。一方で小さな体で、小さな魔力で、自分達が諦めた道を歩き続けるほむらに一種の羨望と、妬みを覚えた。
「ホムラちゃんには夢を叶えて欲しい。アタシたちのできなかったことを。でも、同時にアタシたちが諦めたことを続ける姿が羨ましかった、妬ましかったんだ。……理由に、なるかな?」
そう言ってジェラルミンケースを出す。まどかは見たことがあるが、業魔殿より持ちだしたものだ。中を開けると、卍型をした金属がいくつも入っている。
「これが『スワチカ』、時をかける魔性の道具よ。これを使った人以外の時間が巻き戻るの。魔王ベルゼバブの持ち物だもの、本物」
「それは、わかったけれど……なぜ、私は……貴女の記憶がないの?」
ほむらは未だ混乱している。自分以外に時間遡行者がいることと、今自分の問いかけの答えに予想がついていたからだ。恐怖と不安がほむらを惑わしていた。そう、わかっている。自分の心が折れそうな回答がそこにあることを。
「わかるでしょ。時間を巻き戻す前にアンタが…、ね。そういうことが、無数のループの中であったのよ。アンタが繰り返すループにアタシが巻き込まれて、出られなくなったのは必然かもしれないわね」
崩壊しそうな精神を、必死に支えている。それでも折れないほむらは、やはりネミッサに強く美しく見えた。
「そ、そう。貴女は私の恩人なのね」
「そうとも言えないよ。あれがアンタにとって、地獄から出るチャンスだったかもしれないんだもの…」
95 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:22:41.87 ID:i9eeC+ki0
ネミッサが初めて見滝原に来たのは暦の上では二ヶ月ほど前。流離うように見滝原を目的もなく歩きまわった。そして……あの災害に出会った。その当時は初めて憑依した十八歳の女性の姿をモデルにしていたため、今ほど街を歩くことに問題はなく昼夜を問わず遊び回っていた。
二ヶ月後、それは現れた。巨大な魔力を放つ大きな嵐に興味を持ち近寄ると、黒髪の美少女がいた。
それがほむらだった。
真っ黒な髪と美貌、魔法少女の白と紫、黒の衣装はそれだけで神話から抜けだしたような美しさだった。それがネミッサには知覚できないなにかと戦っていた。拳銃を、重火器を、果ては戦車や戦闘機を繰り出しては嵐の中心に攻撃を加える少女。だがそのいずれも嵐に致命打を与えるには至らなかった。ネミッサが見るに、物理的な運動エネルギーに対し耐性があったように思えた。……つまりほむらには倒すことが困難だということだ。
みるみるうちに傷付くほむら。周りには誰もいない。まどかですら。だが彼女は諦めなかった、怯まなかった。ただただ静かに心を燃やし、嵐に立ち向かった。
それをネミッサは美しいと思った。
だがネミッサには何も出来ない。援護するため嵐の中心に万魔を焼きつくす炎を叩きこんでも素通りするだけだ。あまりの惨状にネミッサはほむらの腕を取り退却を促した。
「止めよう! 逃げよう! アンタ死んじゃうよ!」
「貴女には関係ない」
にべもなく腕を振り払うと、傷ついた体を引きずり嵐に立ち向かう。ネミッサは辛うじて回復魔法をかけ続ける援護をするしかなかった。
それでもなお最期は訪れる。
両足が、両腕が吹き飛び、腹部も大きくえぐれられたほむらにかけよるネミッサの眼前で、影のようなものにほむらのもげた左腕が弄ばれていた。その掌に埋め込まれた宝石が砕かれる瞬間に、ほむらは絶命した。
『まどかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
そう叫ぶ顔のまま。肘から先を失った腕を伸ばしながら。
「だからアタシは時間を巻き戻した。ホムラちゃんが何と戦ってたのか。なんで戦ってたのか知りたくて。……ごめんね、勝手だよね……アタシの好奇心とわがままで、ホムラちゃんを、皆をまた、こんな地獄につれもどしちゃったの」
「い、いいえ。私の目的は、まどかを救うこと。繰り返しから抜け出すことではないわ……。そういう意味では、やはり貴女は恩人なのかもしれないわ」
その一言に救われたネミッサは、溜めていた息を吐く。
その後業魔殿に駆け込みスワチカを譲り受けると、一ヶ月ちょっとを巻き戻しす。ネミッサは必死になってほむらを探した。幸運にも通学中のほむらを見つけ出し、魔法少女のことを知らぬまま知り合いになった。その過程でマミと、まどかと、さやかと、そして杏子と知り合った。
「だから僕らの顔も、名前も知ってたんだね……」
ことりことりとパズルのピースが合う。杏子の疑いも徐々に氷解していく形だ。
「それならわかるわ。貴女のちぐはぐな知識のわけが。貴女が知らないことは魔法少女のことがほとんど。資格がないのだから、知識は偏るはず」
「そんな状態で、私のことをかばってくれたのね……」
「でも、魔女化のことを最初から知っていたわね、なぜ?」
「ソウルジェムとグリーフ・シードがそっくりだったんだもん、そんなの察しが付くよ」
さすがに悪魔である。また浄化のプロセスについてもそうだ。似通ったものであるからこそ穢れが移せる。それゆえ元は同一のものであるという結論にたどり着いた。だがその結論はそのまま魔法少女の魔女化という残酷な真実だった。それをほむらに看破したため、ほむらはそれの口外を禁じた。賢明といえた。
96 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:23:53.91 ID:i9eeC+ki0
ネミッサは続ける。知り合い、仲良くなるも魔法少女のことを知らない、知らされないネミッサは徐々に欠けていく友人たちの顛末を知らずに過ごした。マミが失踪し、杏子が姿を消し、さやかの葬儀が執り行われた。
そして、そして、ほむらは孤立した。
ネミッサは嵐に立ち向かうほむらを何度も止めようとした。だが事情も知らないネミッサの言葉をほむらが受け入れるはずがない。また仮に受け入れたとしても、彼女がまどかを諦めることはなかった。故に『何度も』ほむらの死を見届けた。
そのたびに時を巻き戻し、友達となり、失った。
『何度も』マミを救えなかった。
『何度も』杏子を失ってしまった。
『今回も』さやかを救えないかもしれない。
このループの直前には、ついに実力行使に出た。ほむらを守るため見えもしない魔女との戦いに臨んだ。だがそれはやはり失敗に終わり、ほむらは死亡。ネミッサもまた重傷を負い、肉体を維持できなくなっていた。ボロボロのままスワチカを使い、巻き戻しを行った。そして、足りなくなった力を補うためほむらの持っていたグリーフ・シードの一つを使ってしまったのだという。
「だから今回は最初から実力行使に出たの。なんでかしらないけどアタシにも魔女が見えるようになったから、都合よかったわ」
「なんで、そこまでする? できる? おかしいだろそんなの。あんたには何にも関係がないことじゃねーか」
いまだ疑う杏子の声にとうとうネミッサが爆発する。
「……アンタたちは知らないかもしれない! けどさ! アンタらは皆アタシの友達なんだよ! それがわけもわからずバタバタバタバタ死んでさ! 引き下がれるわけないでしょ!! もうあの時みたいに諦めるのはっ……もう、もうイヤだっっ!」
床を拳で殴りつけた。悲痛ともいえるネミッサの叫び。まさに悲鳴だった。肉食獣のような唸り声をだし、ぶるぶると怒りに打ち震えていた。友達だと思っていた杏子からの言葉に無念さを漂わせていた。時間を巻き戻したのは自分だ。彼女の記憶がないことは当然としても、その疑惑の目が悔しかった。
(そうか、ほむらはこいつだ)
杏子はようやく気付いた。
ネミッサと同じように、いやそれ以上にほむらは同じ時間を何度も繰り返している。ほむらも当初は全員を救おうとしていたはずだ。でなければさやかが魔法少女になることを止めたりしないし、魔女の結界から自分を救いだしたりはしない。だが、今自分がネミッサにかけたような、ある種当然で、ある種無神経な問いかけが、他ならぬ救いたい友人たちから発せられたとしたら、どうだろう。ほむらを頑なにさせたのは、自分たちのせいなのだと、杏子は気付いた。
「だからお願い! 友達を助けたいの。もう、友達が、仲間が死ぬのはいやだ。諦めるのもいやだ! お願い、協力して」
ネミッサの本心の発露。魔女化の箝口令を解かれたため、堰を切ったようにあふれ出た思い。
「いいぜ、あたしも協力する。さやかを助けたいのはあたしも同じなんだから、な」
「当然ね……後輩の美樹さんと鹿目さんを巻き込んだのは私だもの。責任があるわ」
「私もお手伝い……、違いますね。私もさやかさんを助けたい、やらせてください」
「何が出来るかわからない。けれど、僕に人生を捧げたさやかを助けさせて欲しい」
「わ、私も、何かしたい。さやかちゃんを……助けたい、謝りたい。役立ちたいよ」
ほむらは喋ることができなかった。
決行は明日と決まった。それまでに杏子とマミは朝から結界を探し連絡するという。上条と仁美、そしてまどかはいつも通りに登校し、放課後集まり救出作戦を行う。ネミッサは用意があると、再び天海市へ。失敗はできないため、自分ができうる限りの支度をするらしい。それと同時に、以前から行なっている打ち合わせがあるという。
「打ち合わせ?」
「うん、ちょっとね。ほら、前に言ってた世話になった組織にね、知り合いがいるの。その人とね」
「……危ないことではないんでしょうね」
「大丈夫よ、マミちゃんが心配するようなことじゃないわ……、きっと、みんなのためになることだから」
ネミッサに優しく微笑まれると、マミは何も言えない。あのときの、自分を慮る笑顔には。
マミは思う。ネミッサの底知れぬ力強さがどこから来るのかと。自分をいたわり、ほむらを思い、まどかを守り、さやかを救おうとする意志の強さをもつネミッサを益々好きになっていった。
「ネミッサ、絶対に美樹さんを助けましょう」
「あったりまえよ。今度は、失敗しないわ」
97 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:25:37.24 ID:i9eeC+ki0
ほむらは正直ネミッサに感謝していた。ネミッサの話により、ほむらが一番伝えたくないこと……「まどかとの約束」を言わずじまいになったことだった。それを知れば心優しいまどかのことだ、自分を責めることだろう。それだけは避けたかった。自分のしていることは自分のため。まどかが知り苦しむことはない。悲しませることもない。
そして、ネミッサの行動の真意を知った。自分を友達と思い、純粋に手助けをしようとしてくれていた。自分に憧れるなどと、赤面をしてしまう発言もあったが……、ほんの少しだけ。
(嬉しかった、ありがとう、ネミッサ)
もう少しだけ、もう少しだけ、人を頼ってみようかと思う。
マミと杏子が結界を見つけたのは僥倖といっていい。ほとんど同じようなところにあるとは思わなかったが、首尾よく見つけられた。場所を関係者にメールし、待ちを決め込んだ。
そこに苦虫を潰したような顔のほむらがまどかと二人を連れてきた。
「そいつらも?」
上条と仁美をにらみ、杏子が尋ねる。幾分声に非難の響きがまじる。
「さやかちゃんの幼馴染とお友達だよ」
「わかってるけどよ……」
さやかにした仕打ちをある程度察してる杏子は面白くない。部外者がいることも面白く無い、と。同じような思いをほむらも感じているのだろうが、まどかが頑なに連れていくと聞かないため諦めるように連れてきたとのことだ。
「私が守ります。だから連れて行ってあげて」
マミの助け舟を出す。
「いいえ、私はここで待ちます。彼を連れて行って下さい。……待つのが私への罰です」
仁美は見届け人の立場を取るつもりのようだ、あるいは首尾よくさやかが戻った際のケアを用意するつもりでいる。
「ならいいけどよ、そこの坊やも安全は保証できねえよ」
「構わない。むしろさやかに貰った人生だ。さやかに返すのが筋だろう」
杏子は見なおした。眼光鋭い表情に頼もしさを感じたからだ。上条の心意気を買った形である。それに守るのはマミの仕事で、杏子は呼びかけつつ攻撃を反らすつもりだ。それに後詰はほむらもいる。二人くらいなら任せられる。
98 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:26:44.29 ID:i9eeC+ki0
しばらくして、いくつも荷物を抱えたネミッサが現れた。今日も日中あちこち回っていたようで、少し疲労の影が見える。
話がついているような空気を察し、準備を行う。
「ネミッサ、上条恭介と志筑仁美が来るとは聞いていなかったわ」
「そう? マドカちゃんたちの護衛をお願いする、とは言ったはずだけど」
騙されたと感じたほむらは憤懣やるかたないという雰囲気だが、今さら何を言っても仕方ない。諦めて口をつぐむ。
それを知ってか知らずか、ネミッサは上条に近づく。ハンドクリームのようなものを取り出す。あまりに近すぎて上条自身も仁美も困惑する。
「何意識してんの。じっとしてて。まぶたに塗るからさ」
ネミッサが使っているのは桃の絞り汁を加工したものだ。桃は神話で伊邪那美命を助けたことで、意富加牟豆美命(おおかむつみのみこと)という神名を賜っている。邪気を払い、ものを正しくみることができるという。その効果をパッケージ化することに成功した組織から譲られたものだ。
「これで上手くいけばアンタも魔女を視認出来るかもしれない。アンタの奇跡が何と引き換えに起きたか、知るといいよ」
「そういうわざと毒づいて、嫌われ役をやるのが好きなのかな。僕は逃げないよ。さやかからはね」
看破されていても、この言い回しは変わらない。塗り終わったところで、上条の背中を叩く。バイオリンのケースが大きな音を立てた。
次いで、まどかにキャスター付きのケースを渡し、中身を確認させる。
「このスマホは私の合図で。こっちのお香は説得開始時にね。それとこの小瓶は……魔法少女とアタシが持つわ」
小瓶をほむら、マミ、杏子に手渡す。
「なんだこれ」
「お酒」
「何の冗談かしら」
「神酒よ。安くないわよ。だから体力回復の効果は抜群」
冗談めいたことを真顔で言われ、三人は反応に困った。
99 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:27:49.96 ID:i9eeC+ki0
結界内に入り込むと、最深部までは何も抵抗がなかった。それが何を意味するかは不明だが、一般人がいるこの状態ではありがたかった。回廊にはさやかの記憶がテレビのように映っている。さやかの視点での上映会に、皆一様に苦しげな表情をしていた。
魔法少女たちは変身している。ネミッサはいつもの服装とは違った。魔晶変化した杖を持ち、何らかの魔力を宿した衣服を着ている。この戦いに対する入れ込み方が段違いだった。
最深部はコンサート会場に似ていた。中央のステージに鎮座するのは下半身が魚の鎧を身につけた騎士。さやかの魔女だ。
さやかを横抱きにしたままの杏子は怒りにも似た顔で睨みつける。手はず通りさやかを横たえると、マミに合図する。それを受けてマミはリボンを展開し、半球形の檻を形成する。その中にはまどかと上条。まどかがなれない手つきで香炉に火をつけると、立ち上がってスマホを握ったまままっすぐ魔女を視る。
「さ、状況開始ね」
「お前が仕切るなよ」
ノースリーブで裾だけが長い魔法少女衣装を翻し、槍をかざす杏子は猛っていた。
さやかの名前を叫ぶまどかと上条。だが、自身が生み出した使い魔らしいそれが奏でるバイオリンに聞き入っているのか変化は見られない。それに気づいた上条の表情が崩れる。だがすぐに持ち直し叫ぶ。
「さやか! 僕は君に甘えすぎていた! 君の優しさに溺れていた! 僕を許してくれるなら、戻ってくれ!」
「さやかちゃん! 私、酷いこと言ったよね。怒ってるよね。あんなコト言われてあたりまえだと思う! だから、私を許してくれるなら、自分を責めたりしないで!」
依然、魔女は無視している。苛立ったのか杏子がバイオリニストの使い魔を槍で一閃する。真っ二つに引き裂かれ結界の外壁に叩きつけられ、沈黙する。
演奏が止められて怒った魔女が振り返る。形容しようもない異形の貌がこちらを向く。手に持った巨大な剣を振り上げ襲いかかってきた。
「へっ、やっとこっちに気づきやがったか! オラ、全部あんたを受け止めてやっからよ。きなっ!」
大剣をいなし、返す刀で切り返す。だが切断するつもりがないため、表面を浅く切ったに過ぎない。
杏子に展望があったわけではない。親友のまどかの呼びかけをすれば、魔女を倒した時にひょっこりソウルジェムがでてくるのではないか、という淡い期待があるだけだ。無謀とも言っていい。その反面ほむらは冷めた眼で戦局を見つめていた。幾つものループの中で、魔女から魔法少女に戻ることが不可能と知っているのだ。酷い話ではあるが、ゆえにほむらは杏子の戦いを見つめながらも、まどかの安全しか頭に無かった。つまり、逃げることだけ。
しかも、ほむらが見る限り、さやかの魔女は強かった。幾度も繰り返す中で、杏子は善戦していたはずが緒戦から劣勢だった。マミが要所要所で狙撃したり、ネミッサが魔法で攻撃しない限り、最初の数合で杏子は負けていたかもしれない。しかも元のさやかの素質のせいか、外傷がすぐさま再生してしまう。倒すつもりなら全員で畳み掛ける戦法を取るべきだが、今回はそれが目的ではない。どうしても攻撃が緩くなる。散発的な攻撃は徒に魔女を怒らせるだけだ。
マミはネミッサにも結界に入って欲しかった。魔法少女と違い、彼女の体は損傷に弱い。重要器官が一度でも破壊されれば致命傷になる。治療が間に合わなければ危険だ。だが一方でネミッサの意思を尊重したいと思う。ならばマミの取る方法はひとつだ。ネミッサを無傷で守る。大事なお友達を。
二度目の落雷の反撃と大剣がネミッサに振り下ろされる。ぎりぎりの所でかわすネミッサを援護すべく、ティロ・フィナーレを大剣に打ち込み破壊する。
「ありがとう!」
「無茶よ!」
「知ってる!」
破壊された大剣を睨み、ネミッサは考え続けていた。二人の呼びかけが通じていない。魂なり心なりに響いていないのだろう。どうすれば二人の声が届くか。無理やり相手に聴かせる方法を考え続ける。リボンの檻を見やる。叫ぶ続けるまどかと上条、そして、さやか。さやかはあんなに近くにいるのに、二人の声が届かないなんて。
100 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:28:43.74 ID:i9eeC+ki0
それは、ただの思いつき。根拠のない、ひらめき。だが、やってみるべきかもしれない。
(そうよ、アタシだって、スプーキーズだ)
「ソウル・ハック、してやる!」
檻から離れ、全力疾走で魔女に近づく。大きな剣の二刀流は破壊力は凄まじい。だが魔女本体が横滑り程度しか動かないこともあり、その長さが逆に懐に入りやすい。それを利用して近づく。
魔女が魔法少女からネミッサに標的を替えたため、前衛の魔法少女二人は自分の治療に専念できた。ネミッサから貰った神酒を一舐めする。飲酒の経験がない二人ではあったが味は酒だと感じたようだ。ネミッサの言うとおり、体力の回復ができる。その上、わずかだがソウルジェムの濁りも減ったようだった。『酒は憂いの玉箒』という言葉があるが、それを地で行く効果だった。
懐に飛び込んだネミッサはカドゥケウスを魔女に突き刺し固定する。その状態でマニトゥが行ったような魂のハッキングを試みた。ネミッサもまたマニトゥの眷属である。感覚で同じようなことができる。目を閉じ、杖に集中する。スポアを自らの魂から伸ばし魔女に接触させる。
だが、拒絶された。
自分の体ごと剣でネミッサを貫く様な攻撃に邪魔され、二度目が行えない。魔女として魔力や霊力に何らかの耐性があるのか、魂が変質しすぎているためかは不明だが、とにかく工夫をしなければならない。
魔女が剣の柄でネミッサを殴りつける。すんでのところで躱すのが精一杯で二度目のハッキングが出来ない。すぐさま諦める。これは確認に近い。一番危険な剣の下をくぐり抜け、檻に戻る。恐らくこれで出来なければ、救出の確率はなくなる。失敗する訳にはいかない。
懐からネミッサを取り逃すと、魔女は標的を魔法少女に切り替えた。
大剣をいなし続けるマミと杏子。その重い一撃をリボンの檻から守るのが精一杯だ。特にネミッサの攻撃が減り、二人の負担が大きくなっている。文句の一つも言いたくなる激しさが二人に振りかかる。
それを心の中で謝りながらも、ネミッサは己の使命を果たす。
「ね、サヤカちゃんの体使う! いきなり動き出しても驚かないで!」
檻の中の二人に大声で呼びかける。背後の魔女を気にしながらも、ネミッサはテレビに入る時のように体を光に変える。まどかは知っているが、上条はその変異に驚く。その小さな球体で檻の間をすり抜けると、遠野瞳のときのようにさやかの体に飛び込む。
青白いさやかの頬に血の気が戻る。髪の色がネミッサと同じ銀髪に変化すると、ゆっくりと眼を覚ました。眠っている時間が長かったせいか、足元がおぼつかない。それでも何とか立ち上がり、魔女を睨む。さやかの声をネミッサの口調で叫ぶ。
「マミちゃん、アタシを出して。そしたらすぐ檻を閉じて!」
マミは突然のことに驚くが、それでも取り繕うと一瞬だけ檻を開く。『さやか』が急ぎそこを走り抜けるとその直後檻が閉じる。その手際はさすがマミといったところか。
だがそれがいけなかった。檻の開閉に気を取られ、魔女から目を離してしまった。その背中を狙い大剣が振り下ろされる。杏子がマミを守るべく大剣を弾く。
「何やってんだよ!」
「ありがとう、佐倉さん」
「気ぃ抜くんじゃねえ」
改めて魔女と退治する。時間稼ぎも限界に近い。疲労の色が濃い。
101 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:29:23.79 ID:i9eeC+ki0
さやかに憑依したネミッサには考えがあった。ソウルジェムがゾンビになった魔法少女の肉体を動かすという点について、気になること。ソウルジェムを作る際に魂を抜かれるというのがQBの説明だったが、魔法少女の肉体にわずかに魂が残っているのではないか、ということだ。その魂を受信機替わりに使うことで肉体を動かしているのではないか、それがわずかでも残っていれば、さやかを魔女から元に戻せるのではないか、という淡い期待だ。
そしてそれは当たった。反魂香を焚いたことも功を奏した。その名の通り魂を肉体に呼び戻す香だが、それによりわずかに残っていたさやかの魂を刺激することができた。ネミッサはさやかの残った僅かな魂を大事そうに抱きしめ、再び魔女に走りこむ。
「さやかが起きた? 何が起きてんだ?」
杏子がさやかに走り寄る。魔法少女にもなってない状態のさやかを心配してのことだった。
「ゴメン、今はアタシ! 魔女をハッキングするの! 近寄りたいから手伝って!」
意味不明なことを云うさやかに混乱するも、走り抜けてしまったため、言われるまま攻撃に移る。
「なんだかわかんねーけどしくじるんじゃねーぞ!」
遅れて杏子が走り、その援護にマミが回る。
魔女が狙いをさやかにつけ、新たな武器である巨大な車輪を生み出した。無軌道に走り回るそれをかいくぐることは今のさやかの体には難しい。自らを省みず杏子が割って入り二度三度車輪を押し返した。マミも車輪に攻撃を加え軌道をそらそうとする。だが、マスケットの弾では攻撃が軽く思った以上にそらせなかった。車輪の一つが杏子にあたり体勢を崩す。さらにそこに大剣が襲いかかり杏子の腹部を貫く。そこはかつて杏子がさやかを刺した部分と似ていた。
「杏子ちゃん!」
まどかの悲鳴が上がる。
杏子は強引に腹から剣を抜くと、血を吐いて倒れた。マミが急ぎ走り寄る。リボンで引き寄せ傷口を縛る。
(いやだ、また私なにもできないの? みんながあんなに頑張ってるのに)
その思いが、まどかに決断をさせた。半ば衝動的に、スマホのアプリを起動させる。無我夢中だった。渡された理由も考えず、その悪魔がみなを助けてくれるなら、自分はどうなってもいい。ほむらが恐れ悲しみ、そして愛した献身が溢れだした瞬間だった。
「かみさま! みんなを助けて! お願いします!」
アプリをスタートさせる。その瞬間、まどかの視界は一瞬にして切り替わった。
まどかの頭の中に声が響く。優しい、穏やかな、女性の声。
”鹿目まどか、あなたの願いを叶える代わりに、あなたの魂を少しいただきます。それが契約です。よろしいですか”
”私にあげられるものならなんでも上げます! だから、だからみんなを!”
”すべては必要ありません。僅かでも充分。契約成立です。あなたの愛に、報いましょう”
まどかの全身から光があふれる。周囲をあまねく照らし、暖かな力が心を満たす。まどかが目を開いたとき変化が起きた。
彼女が思い描いた魔法少女の服装に変化すると、神々しいまでの光がまどかを包む。
「か、鹿目さん?」
「私は白山比淘蜷_。鹿目まどかとの契約に従い、皆を助けましょう。貴方はその楽器で、彼女の心を呼び覚まして下さい」
いつものまどかの言葉と違う穏やかな大人びた声に驚きながらも、上条は準備をする。
102 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:30:32.27 ID:i9eeC+ki0
「鹿目、さん?だよね……、でも声も届かないのに音が届くのかい」
「黒き魔女を信頼して下さい。彼女が必ず、なんとかしてくれますから」
雰囲気が様変わりしたまどかは檻のギリギリまで移動すると、掌をかざす。リボンで出来た檻がまどかがくぐれるほど解ける。本来ならばマミが操作しなければびくともしないはずだが。
ほむらが瞠目する。いつの間にかまどかが魔法少女の衣装になっている。だがそばにQBはいない。以前からなっていれば指輪と左手中指の紋様が印になるはずだが、それもなかった。何が起こっているか解らず困惑している。だが檻から出た以上危険が増している。後詰から移動し、まどかを守る位置につく。
「暁美ほむら、ですね。鹿目まどかの体をお借りしております。彼女を危険に晒すこと、お詫びします」
”ほむらちゃんごめん。私我慢できなかった。今かみさまにお願いして、さやかちゃんを助けて貰うところなの”
「か、かみさま?」
益々困惑するほむらだが、まどかの意思を尊重せねばならない。また、今無理に彼女を逃がそうとしても「かみさま」が拒むだろう。黙って見守るしか無かった。
一方のネミッサは魔女に取り付いた。そのとき丁度バイオリンの曲が聞こえてきた。曲名はチャイコフスキーのバイオリン協奏曲だったが、ネミッサにわかるわけがない。唯一わかることは、何とかしてこの曲を魔女に届けるべきだということだ。そしてまどかが檻から自力で出てきたことからも、悪魔すなわち女神が召喚されたことも理解した。本来ならネミッサの指示で召喚し顕現をしてもらうはずだが、なぜかまどかに憑依した形でいる。それがわからない。
だが事態が動いていることがわかるだけでも充分だ。つまり、ハッキングを急ぐべきだと。
まどかが杏子に近づき手をかざす。剣に貫かれた傷が瞬時に完治した。魔法少女の姿のまどかに驚く杏子。だがまどかはにこり微笑むとこういった。
「大丈夫、魔法少女?ではありません。私は白山比淘蜷_。鹿目まどかとの契約に従い、この場にいる皆を守ります」
後ろ向きのまどかに巨大な剣が襲いかかる。だがまどかは振り向きもせず、見えない壁を張り巡らせたように弾き返す。
声も出せず体を硬直させる杏子に再び微笑む。
「巴マミにも伝えて下さい。体の治癒が終わったら、援護をして欲しいと。ネミッサを信じて欲しいと」
静々とまっすぐ魔女に近づく。魔女が振り下ろす大剣や車輪を物ともせず弾き返し続ける。それが丁度ネミッサからの注意が逸れた形になり、ネミッサが自由になった。
ネミッサが再度ハッキングを試みる。杖=カドゥケウスを魔女に突き立てる。これをケーブルとして魔女に入り込む。目を閉じ精神を集中する。スポアを出し、さやかの受信体を経由して送り込む。ソウルジェムと肉体の関係と同じ情報のやり取りが可能だったのだろう、難なく侵入ができた。いくつも侵入させ、魔女の体に残ったエネルギーを奪い、妨害や排除に備える。まずは聴覚をさやかの体と連結させる。そうするばバイオリンの音も声も届くはずだ。
まどかの異常に気づき走り寄るマミと杏子が合流した。杏子は半信半疑のままマミに起きたことを伝える。魔女の結界で戦っているだけでも疲弊するのにこうも予期しないことが続き混乱していた。
「神様?」
「ああ、なんか日本の神様っぽい名前だったけど覚えてねー。ネミッサを信じろってよ」
「ネミッサを? 信じろ?」
(あったりまえよ!)
それならばやることは一つしかない。大きく頷くとマミは走りだす。檻ではなく、魔女の方へ。ネミッサもそうだがまどかへの負担を減らすことが目的だ。わずかの迷いもない走りに釣られるように杏子も走りだす。檻にはほむらがついているはずで、時間停止と爆薬を使えば剣戟くらいは逸らせるだろう。
103 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:32:15.28 ID:i9eeC+ki0
まどかに攻撃を仕掛ける魔女はそれだけ脅威に感じているのだろう。ネミッサもマミも、杏子や檻ですらフリーになっている。無軌道に動く車輪をマミと杏子が破壊する。これでほとんど檻も問題ない。まどかを襲う剣もマスケットや槍で破壊した。再生するまでの間、まどかに寄る。
「鹿目さん?」
「巴マミ、佐倉杏子、御礼申し上げます。ありがとう」
「え、本当に神様?」
「だからそういってんだろ、ほら、ネミッサのヤツを守るんだろ」
マミの背中を叩き、杏子は攻撃に移る。ネミッサに攻撃が行かない様、派手に攻撃する必要がある。槍を分解し、鉄鎖鞭として伸ばすと魔女の胴体めがけ連続攻撃を掛ける。次いでマミは帽子やスカートから大量のマスケットを作り出し、魔女の関節めがけ的確に狙撃を加える。大きくのけぞり地に手をつく。立て直した魔女は案の定、まどかからマミたちに視線(らしきもの)が移る。
ネミッサは魔女とリンクした。まず聴覚を自分のそれと繋ぐ。これで外部の音が魔女の魂そのものに届くはずだ。次いでその場にいるすべての魂にスポアを飛ばす。
曲はいつしかグノーのアヴェ・マリアに変わっていた。二人にとって思い出深い曲を思いつくまま奏でているようだ。
魔女の動きが鈍る。ネミッサの耳を経由して魔女に届いているのだ。振り上げた大剣が静かに降ろされる。異常に気づいた杏子やマミが武器を下げた時、まどかがネミッサにゆっくりと近づく。
杖を掴む手に自らの手を添える。ネミッサと目を合わせ頷くとまどかはにっこりと微笑んだ。
「よくやってくれました」
上条の演奏は忘我の域にあった。さやかの魔女も、惨劇も、目に移りつつ目に入っていない。ただただ自分の立っている場所も忘れ奏で続ける。上条の頬に、涙が滴る。
攻撃が止んだことに気づくと、ほむらも武器を下げる。今までに見たこともない光景にただただ驚いていた。これまで戦った魔女は、外部からの攻撃以外の刺激に対し反応を示したことは殆ど無い。今回のように曲に聞き入るようにしていることなどなかった。何が起きているのかを心で自問自答した瞬間、答えが帰ってきた。
”魔女にアタシの聴覚を繋いだ。アタシの音が魔女にも聞こえるようにしたんだ”
テレパシーのように頭に響く声に驚きながら周囲を見渡すと、ほむらの左肩にピンク色のコウモリにも似た虫らしきものが浮かんでいた。ほむらは知らないがこれはネミッサのキャリアだ。本来ならばマニトゥがこれを生み出し、人間の魂を回収しマニトゥに持ち帰る役割を果たす。だが今回はネミッサとほむらたちを繋ぐレシーバーの役割を果たしている。
”これで多分サヤカちゃんに声が届くはず。みんなも繋いだから、呼びかけてあげて”
”わ、私は……関係、ないっ……”
”いいかげんにしろっっ! いつまでアンタは自分も騙すんだ!”
ビクッと、ほむらが怯む。ネミッサの言葉が図星を付いたからだ。だが、唇を噛み締め答えることはない。答えることは出来ない。なぜならば、認めた瞬間、自分を許せなくなるからだ。元々、彼女は心優しい少女である。だからこそ、自分のこれまでのループでの行動が許せない。だから騙す。
美樹さやかがどうでもいいなんて大嘘だ。巴マミを救えなくていいなんて思ってない。佐倉杏子の顔を立てて共闘を申し込んだわけじゃない。
みんなみんなみんな助けたく救いたくてでも力が足りなくて信じてもらえなくて見捨てて見殺しにしてむしろ殺して悔やんで苦しんだから気づかないふりして自分を騙してクールなふりをしてまどかだけと言い聞かせてきたけど結局撃ち殺して魔女にもさせてしまってやっぱり苦しめて見捨てて見殺しにして繰り返してきてそれでも助けられなくて自らを騙してないと歩き続けることもできなくて歩き続けて来た私がすくわれていいはずがない
”アタシがアンタを救ってみせる! アンタの腕で足りないならアタシが手伝う。そうすればマドカちゃんくらい腕の中に入るよ”
”馬鹿言わないの。私もやるわ。三人なら、美樹さんも入るわよ”
”おいおい、あたしもやらせろ。共闘関係はまだ終わってねーぞ”
”貴女の両手には鹿目まどかの運命は大きすぎて入らないのかも知れません。ですが皆が手をつなげばその中に入れられますよ”
「わ、私は……私はっ!」
溢れそうになる感情をほむらは飲み込んだ。だめだ、今溢れたら、目的が達成できない。出来なくなる。
見捨てた、見殺しにしてきた人からの好意に、ほむらは戸惑っていた。
104 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:34:15.46 ID:i9eeC+ki0
「準備できたよ、ダイブする。『マドカちゃん』と行くから、みんなはカミジョーを守って」
「任せなさい」
「まぁ動いてねえから、暫く平気だろ。怪我治してくれ」
途中車輪を受けた時にか、杏子の指があらぬ方向に曲がっている。槍を持つため痛覚を遮断出来ずに脂汗をかいていた。マミが慌てて治療を施す。魔女を油断なく見つめながらも杏子を労るように手を握る。
真っ暗な空間に浮かぶネミッサとまどか。そして、その目の前にキャリア達が大量に集まる。魔女の中を動きまわりさやかの魂をかき集めてきた。キャリアたちは人間の魂にしか興味が無い。それを利用し、砂粒から宝石を探しだすように、濾過するようにさやかのかけらを一箇所にまとめようとしていた。その中央に鳥の翼と天使の輪っかをもつイルカがいる。ネミッサの生み出したキャリアのまとめ役といえるだろうか。それがキュキュと鳴き声を発しネミッサに応答する。
「おつかれスナッピー。これで集められたのは全部? ……そ、ほかは溶け込んじゃったのね」
「足りるのでしょうか?」
「こっちにサヤカちゃんの一番大きな欠片があるから、あとはお願いしていい?」
「ええ、任せて。あの鹿目まどかの力を使わせてもらうから」
まどかにの魂には因果が絡み付いていて、魔法少女となった際には凄まじい魔力を発揮するらしい。それは悪魔にとっても大きく違うものではなく、契約として捧げられた僅かな魂だけでも白山比淘蜷_は本霊に匹敵する顕現が出来るほどだった。
まどかはネミッサからさやかを受け取ると、スナッピーが集めた魂とともに両手に包み込む。自らの力の大半をつぎ込む。両手に包んだ魂にボソボソと話しかけているようだが、ネミッサには聞き取ることが出来ないほど小さな声だった。握るでもなく広げるでもなく大事なものを包み込むように添える両手から光が漏れる。ゆっくりと手を広げると、足元に光を降ろす。と同時にまどかの服装が先ほどの私服に戻っていた。神の力が大半失われ、先の魔法少女の衣装を維持できなくなったからだ。
足元の光はいつしか横たわるさやかに変わっていた。眠っているわけではない。目を開き、脱力している。
「サヤカちゃん。聞こえる?」
焦点の合わない目で、さやかが頷く。聴こえているのは上条のバイオリン。今まで聞いた中でも一番綺麗だと、さやかは思った。
105 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:34:42.70 ID:i9eeC+ki0
「なんで?」
ネミッサにはさやかの質問の意味がわからない。わからないままなので流すことにした。
「二人とも手伝ってくれるって。ヒトミちゃんも外で待ってるよ」
「ほっといてくれたらいいのに」
さやかにはバイオリンの音が一番つらい。上条のことを嫌でも思い出してしまう。次につらいのは仁美の名前だ。彼女との一件で自分を傷つけるほど責めた。そもそも誰にも会いたくなくて家出したようなものなのに、今更どの顔で会えばいいのだろう。上条を捨て、仁美を捨て、まどかを捨て、マミを捨てた自分には何も残っていない。魔女になるのも当然だと、諦めの境地で思う。それをどうやったのかネミッサは自分の魂を引き出した。だがこれで仮に戻っても、再び魔女になるのは自分でもわかる。さやかはさやかに絶望したのだから。
「カミジョーはまだアンタを失いたくないってさ」
「幼馴染だしね」
「ヒトミちゃんはアンタをまだ親友になりたいってさ」
「私は仁美を見殺しにするなんて考えたんだよ、むり」
「マドカちゃんは謝りたいってさ」
「もう怒ってないって伝えて。私に構わなくていいからさ」
「マミちゃんも戻ってきて欲しいってさ」
「ダメだよ。私はマミさんみたいになれないから」
「マミちゃんが、折れないって思ってる?」
マミはネミッサが見る限り三度折れている。死にかけて、QBに裏切られて、さやかを魔女にしてしまって。それでもマミは立ち直り立ち上がった。
「あんたがいたからでしょ」
「そうかもね。アンタが一番辛い時、アタシは側にいなかった……アタシのせいだね」
首を左右に振る。
「でも、今のアンタには、皆いるよ」
”さやか、聞こえてるか? あたしだ。ヘコんでんじゃねーぞ。あたしにも負けないんだろ?”
”美樹さん、私に憧れてくれてありがとう。無様なところを見せたと思うけれど、それでも先輩後輩でいてくれる?”
”さやか、ごめん。僕は君に甘えていたんだ。ちゃんと話がしたい……戻ってきてくれないか?”
これでさやかが涙ぐめば、それで戻ってこれたかもしれない。だが、さやかの心には波は立たなかった。彼女の心の中は絶望というより諦めが大きい。人は絶望で立ちすくむのではなく、諦めによって立ちすくむのだという。さやかの心はそれだった。むしろ、皆の心遣いにすら波風が立たない己の心に嫌気が差していた。
「いいんだよ、私はいなくなったほうが」
『なら、その体私にちょうだい』
ネミッサの背後から声がする。くぐもった声だがそれは明らかに……。
『ね、さやかちゃん?』
さやかそっくりな……いや、全く姿形が同じ『さやか』が現れた。魔法少女の衣装で。
106 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:35:52.44 ID:i9eeC+ki0
「アンタ何者? どっからきたの?」
『いやぁ、ネミッサヒドイなぁ。私のグリーフ・シードを使ってからずっと一緒にいたってのに』
見た目、全くさやかと変わらない『さやか』がそこにいた。表情の作りも何も変わらない。悪魔が化けているとは思えないほど似通っていた。
「ん? グリーフ・シード? ひょっとしてアンタ」
『そうだよ、ネミッサが飛び込んだグリーフ・シードって、私だったんだ。魔女になって、転校生に倒されたのさ』
ネミッサがほむらのグリーフ・シードを使い体を作ったが、そのときのグリーフ・シードが元『さやか』の魔女が落としたものだというのだ。ほむらが撃破した際に回収したが、友人の魂をどうしても使う気になれず、ずっと盾に入れて持ち歩いていたという。また、ループする際に何度も対峙することがあり、そのたびに撃破してきた。だがやはり使うことに躊躇いがあり、ストックしていった結果、ほむらの手持ちで一番多いグリーフ・シードになった。それゆえ、確率的にネミッサがグリーフ・シードを強奪した際に、彼女のそれを使うことになった。
『あんたがさ、こっちの美樹さやかに接触したじゃん? そのせいでさ、私も人間の状態でここにこれたのさ』
それで説明は充分とばかりに嬉しそうに笑っている。
何がおかしいのかわからないとさやかは苛立っている。自分自身の姿を見せられて落ち着いていられるものがいるはずがない。無駄にそっくりな自分のモノマネを見せられているようで非常に不愉快だった。
「体をよこせ、ってなにさ」
『だって、あんた人間に戻るつもりないんでしょ。だったら私が戻るよ。事情はネミッサ通じて知ってるしさ』
「いや、アンタね……」
『ネミッサだって私のほうがいいじゃん。魔女にならずに皆とちゃんと戦うし、ワルプルギスの夜だっけ? それとも戦うよ』
それだけいうと『さやか』は一旦言葉を切る。にやにやとさやかを見下ろしながら、次の言葉を効果的にするようにゆっくりと言い放つ。
『恭介にも告白するよ。今仁美も気後れしてるし、恭介も恩義に感じてるから、きっとOKしてくれるよ』
地べたに寝転がっていたさやかが立ち上がり吠える。燃え上がるような表情で『さやか』を睨みつけた。
「ふざけんな!」
『だっていいじゃない、戻らないんでしょ。私は恭介まだ好きだもん。やり直せるならやり直したいよ』
さらに言葉を続ける。挑発するような言い回しでもある。
『杏子も仲良くしてくれるし、マミさんもまた指導してくれる。まどかも謝ったらまた親友になれるもんね』
『さやか』は腕を頭の後ろで組み、散歩をするようにネミッサとさやかの周りを回る。鼻歌すら聞こえてきそうなくらい気楽なその態度にますますさやかが怒り猛る。
「誰があんたなんかに!」
『だっていいじゃん、あんたはそのまんま魔女になって、マミさんに撃ち殺されればいいじゃん』
激昂し『さやか』に掴みかかるさやかを、あっさりとねじ伏せる。ここが精神世界の中であっても、魔法少女と生身の人間のアドバンテージの差は同じようなものなのだろう。さやかの首を掴み、片手で吊るし上げる。呼吸が出来ず暴れだすが、地に足がつかずもがくだけだった。空中で蹴りをしたところで効果もなく、ただ暴れるだけでしかなかった。
『いいねぇ、元に戻れるってのに。ゼータク言っちゃってさぁ』
首を絞める手に力が入る。
ネミッサは手を出しかねていた。何が起こっているのか。『さやか』が何を目的なのか、まったくわからなかった。手を出そうとするネミッサを『まどか』が止める。手を掴み目を合わせると首を左右にふる。様子を見よう、ということだ。首を絞められて様子を見るもないが、ネミッサも何をしていいかわからない。
107 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:36:51.90 ID:i9eeC+ki0
『さやか』は手を離しさやかを地に落とす。咳き込むさやかを見下しながら、背後の二人に振り返る。
『さぁ、いいっしょ。私が行くよ。ネミッサには貸しがあるんだよ? 断らないよね』
「……っざけんな……」
ゆらり、さやかが立ち上がる。大きく息を吸い、まっすぐ『さやか』に正対する。拳を強く握り、怒りを溜めている。
「わ、わ……私の居場所を、あんたなんかにぃ……」
『だから、私もあんたなんだってば』
「あんたは……あんたは……私なんかじゃ、ない!!」
『違うね。私はあんたで、あんたは私だ。……だからさ、一緒に行かない?』
すっ、と手を差し出す。戸惑うさやかに『さやか』は続ける。唐突に変わった口調。
『まだあんたは怒る心があるんだよ? 皆を取られたくないんだよね。私だってそうだよ。でも、でもさ、もう私のものじゃないんだよ。あんただけのもんなんだ。羨ましいよ』
『さやか』が音もなく泣き出す。
『私の魂と思いも連れてって……。私と同じ間違いをしないで』
傍目からはさやかとまどかが魔女の中に入ったようにも見えた。じっと動かない魔女を油断なく見つめる三人と、演奏を続ける上条。場違いな名曲が魔女の結界内に響き渡る。
「大丈夫よね」
「なんとかなんだろ、かみさまなんだからよ」
そのなかでほむらだけが、唇を噛み締めて成り行きを見守っている。自分を欺くほどの絶望がネミッサの言葉だけで拭えるはずがない。
「ねえ、暁美さん、ネミッサにも言ったのだけど、もう少し頼ってもいいのよ」
マミが側で語りかける。端正な顔が歪むのがマミには気の毒でならなかった。それにマミはネミッサがいたからこそ三度立ち直ることが出来た。もはやマミにはネミッサが無くてはならない存在になっていた。代わりに、ネミッサの苦しみを和らげようと母になることを申し出たのはただの思いつきではない。互いに支えあう助け合うためだ。
余談ではあるが、ほとんどの言語で「母」を表す単語にはMが含まれる。マミには二つもMが含まれるがただの偶然だろうか。ひょっとしたら彼女には生まれつき母性が備わっているのかもしれない。
「いいえ、結構よ」
「必要なときはいつでも言ってね」
「おい、見ろ!」
杏子が指差す先に、ネミッサとまどかが現れる。魔女の内部からのダイブから帰還したのだろう。だが魔女はまだ健在だった。失敗だったのかと、皆の心に不安がよぎる。三人が急ぎ駆け寄る。ほむらがまどかを抱え、ネミッサをマミが受け止める。杏子が周囲を見渡す。さやかの姿がないからだ。朦朧とする意識の二人を気遣う余裕もなく、ネミッサを揺さぶる。
「おい、ネミッサ! さやかはどうした!」
杏子の心は怒りに満ちている。あれだけ場をかき回し、何も成功しなかったとなると当然ともいえる。それをマミが制止する。どういう経緯か不明だが、ネミッサがかなり衰弱していた。ここ数日夜も遅ければ日中もどこかで準備しているネミッサは疲労が相当蓄積している。それをマミは知っていたからだ。
その怒号のなか『まどか』が口を開く。
「落ち着いて下さい。まだ、終わっておりません」
「終わって、ない?」
「戦っています」
自分自身と。
ネミッサは自分用の小瓶を取り出し神酒をあおる。瓶の三割ほどを飲み呼吸を整える。魔女の中に侵入すること自体はさほど疲弊するものではないが、マニトゥを真似て慣れないスポアやキャリアを出したのが負担になっていた。それでもマミから立ち上がると、魔女に向き合う。
「サヤカちゃん! 負けるなぁ! 勝って、帰ってこぉい!」
108 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:38:51.79 ID:i9eeC+ki0
事情を察した杏子。確かに見やると魔女が小刻みに揺れている。戦っているようにも震えているように見える。長いポニーテールをまとめているリボンをとくと、その中からアンクを取り出す。手に持ち、いつしか忘れた祈りの姿勢を取ると静かに跪く。下ろした髪とその姿勢が、敬虔な修道女のようにも見える。
マミもそれに習い、祈りを捧げる。彼女には特定の信仰はない。だが、さやかのために祈ることは出来る。自分が不甲斐ないがゆえに窮地にたったさやかのために。
「貴女も」
「……私は……」
「いいのですよ。貴女はもっと欲張っても。美樹さやかも……救いたいと」
まどかの顔で言われているためか、ほむらは強く言い返すことが出来ない。ネミッサに看破された事実に揺らいでいた。まだほむらが眼鏡をかけていた頃まどかと一緒に手を引いてくれたクラスメイトであり、ともに見滝原を守ろうと戦った仲間である。助けたくないわけがない。けれども、彼女の小さな手には大きすぎて入りきらなかったため、諦めたフリをしていたのだ。それはマミにしろ杏子にしろ見捨てたくて見捨てたわけではない。自分があまりにも非力すぎてこぼれ落ちた魂だった。
溢れそうなものをこらえ、魔女を見上げる。そして呟く。
「さやか、お願い、帰って、きて」
内部からの衝撃で身震いを続ける魔女。四人がそれぞれの姿勢で願うなか、一際大きく身動ぎすると異変が起きた。
魔女の胸部に切れ込みが入る。それが大きくなったと見るや、鎧が内側から弾け飛ぶ。斬撃でできた切れ込みを内側から蹴り飛ばしたようにも見えた。
ドロドロの何かが胸から溢れ出るその中に、青と白を基調とした騎士が姿を現す。大きく素早く飛び上がると檻の側にいる魔法少女の側に着地する。両手にあるサーベルは半ばから折れており、マントもあちこち引き裂かれている。
「美樹さん!」
体中に怪我をしてると思ったのだろうマミが慌てて駆け寄る。肩を抱かれたさやかはゆっくりと立ち上がり、マミの支えを抑え皆に向き合う。
「ご、ごめん、みんな」
皆、言葉にならない。ぼろぼろであってもさやかは帰ってきた。だがネミッサは不安がある。彼女はさやかなのか『さやか』なのか、判断がつかないのだ。
「大丈夫だよ。ネミッサ。『さやか』はあたしの中にいる。一緒に、いるんだ」
背後で身悶えする魔女に振り向き向き合うさやかの髪に、音楽記号の『フォルテシモ』を模した髪飾りが煌めく。ネミッサは気づかなかったがこれは契約した当時にはついていなかったものだった。後にして思えば、これが『さやか』だったのだろうか。
「見てて、馬鹿だった私を、私が、やっつける」
109 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:39:37.79 ID:i9eeC+ki0
皆の返事もまたず、穴だらけのマントで体を隠したまま神速の動きで魔女に肉薄する。見上げる身の丈の魔女。音が途切れた魔女はさやかを迎撃するべく剣と車輪を繰り出す。さやかが飛ぶ。中空で魔法陣による足場を作り方向転換を繰り返す。攻撃を避けつつ魔女の顔のあたりまで飛び上がる。
折れたサーベルを射出し、その柄を投げ捨てると再び二刀を作り出す。直撃した折れた刃は見た目以上の威力があったのか、魔女の顔を貫通した。その隙を突いて、凄まじい速度で斬撃を繰り出す。途中何度も車輪に襲われたが、そのたびに足場の魔法陣を作り出し、空中で器用に回避し続ける。
「カミジョー、見て。サヤカちゃんが、帰ってきたよ!」
休みなく続けられた演奏は彼の指を相当痛めていた。コンサートでも曲と曲の間にインターバルくらいあるが、それすら無視してし続けた彼は、ネミッサの声がなければ指が裂けるまで演奏し続けただろう。演奏を止め見上げるその先に、魔女と戦うさやかの雄姿が見えた。
不謹慎ながら、その姿が上条にはとても美しく見えた。
マントの間から伸ばす腕から繰り出すサーベルが魔女の腕を体を顔を切りつける。だが、攻撃に気を取られたところを車輪に狙われる。鈍い音がして高い位置から地面に叩きつけられる。土埃と破片が彼女を隠す。
ネミッサが顔色を変え駆け寄る。遅れてマミと杏子が続く。土煙のなか立ち上がるさやかは掌をかざし皆を制する。いつの間にか、彼女の周りには無数のサーベルが浮かぶ。それが間断なく魔女に襲いかかる。一拍遅れてさやかが追撃する。剣山のように突き刺さり魔女の体勢を大きく崩す、そこを自らのサーベルごとさやかは斬りつける。一合、二合と斬りつけるたびに鎧が剥がれ落ち醜悪な魔女の体を晒す。
さやかが空中で姿勢を変える。斜めに飛び込む様な姿勢から魔法陣で飛び込む。大きく袈裟懸けに斬りつける。まだ止まらない。そのまま垂直に飛び上がると魔女の顔を斜めに切断する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
斜めに残った顔ごと、サーベルが魔女を真っ二つに斬り下げる。もはや一方的に遮二無二に斬りつけられた魔女は、再生すら出来ないほどに切り刻まれた。
崩壊する魔女の前、肩で息をしながら這いつくばるさやかに、全員が駆け寄る。澄んだ高い音が魔女の最期を告げた。
真っ先に駆け寄ったのはネミッサだ。跳びかかるようにさやかに抱きつく。それを檻から開放された上条が続く。足はまだリハビリ中であるにもかかわらず。ただただ必死だった。抱きつかれたさやかは、後頭部を床にぶつけ、大きな音をさせた。
「いったー! 何すんのよ!」
答えの代わりに返ってきたのは大粒の涙と抱擁。そして、絶叫にも似た泣き声。
「よかったぁぁぁ! もうダメかと思ったぁぁぁぁ! またダメかと思ったよぉ!」
「わわわ! ネミッサ? なになに? ちょっと、離してよ!」
「イヤだ! もう離すもんか! もうどっか行かせないから!! 逃さないから!!」
痛いくらいに抱きしめるネミッサにさやかも困惑する。大粒の涙が後から後から溢れる。皆が到着するまでになんとかしたかったが、ネミッサは頑なに離れようとしない。その姿勢にさやかも涙がにじむ。
ネミッサの肩越しに上条が見えたため、さやかは再びネミッサを引き剥がそうとしたがまるで離れる気配がない。止む無くそのままで見つめ返す。
「あ、あははは、こんなところきちゃって。……全部バレた?」
「さやか! なんでだっ!」
いつもは穏やかな上条が怒鳴る。CDを叩き割った時以上の怒号に驚くさやか。質問の意図を読み違え、返事を返す。
「だって、恭介の腕を……」
「そうじゃない! なんで、こんないい人達を頼らないんだ!」
びくっとさやかが怯える。だが上条はすぐに言葉を変えた。
「いや、ごめん。僕が言える立場じゃない。さやか、ごめん。僕を今まで支えてくれたのに……、こんなになるまで思いつめていたなんて思わなかった。……こんな僕を、許してくれ……」
そうやって、上条は泣き崩れた。許しを請うように頭を垂れ、這いつくばる姿勢でただ嗚咽を上げた。ただ謝罪の言葉を上げてしゃくり上げた。
その姿は、結界が解けるまで続いた。
110 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:41:14.73 ID:i9eeC+ki0
乱暴にネミッサを引き剥がすと、さやかは上条に向き合う。じっと顔を見つめ、さやかは何かをこらえているようにも見えたが、徐々にそれが口からこぼれ落ちる。
「恭介さぁ、退院するときに連絡くれないんだもん……ヒドイよぉ」
「ごめん……、舞い上がっていたんだと思う。それに、同じ音楽団の人達もたくさん来て、携帯を触る暇もなかったんだ」
「だからってぇ……ひどいよう……」
「ごめん、そのせいで、こんな怪物になったんだってね。ごめん、許されないと思うけど……許して欲しい」
「……グスっ、もう、いいよ。仁美と……仲良くね?」
「そのことなんだけれど……」
上条はネミッサに叱責を受けたこと、そのおかげでさやかの窮地を知ったこと、さやかの苦しみを知ったため、二人で話し合い戻るまで結論を保留することを告げた。
ネミッサに暴露されたため、上条の気持ちが鈍ったというのもある。また仁美は良い人ではあることは疑いがないが、それと恋愛とは必ずしも一致しない。それゆえ、上条は一時の高揚感だけで交際を始めたのではないかと疑い出した。あり得ないような奇跡が起きて退院。そこで仁美のような美人に交際を申し込まれればだれだって舞い上がる。
正直なことを言えば、今上条は恋愛など出来ないと思っている。さやかの願いは左手を治すことではなく、バイオリニストとしての復帰。治った手でさやかを仁美を抱きしめることではない。さやかの願いと対価を知った以上、それに報いるためには寝る間も惜しんでの練習しか無い。一日でも早く復帰する。それがさやかへの一番の償いだと考えていた。むしろそんな態度で二人のうちどちらかと交際するのは失礼だと、上条は感じていた。
「だから、今はまだ二人とも、いや誰とも付き合えないよ。でも、復帰できたら、一番最初にさやかに聞いて欲しい。それが今の結論では、ダメかな」
「ううん、いいよぉ……私の夢だもん……待ってるね……」
さやかの涙は止まらない。
結界の外で待つ仁美とも、涙で濡れながら抱擁をする。
魔法少女のままの姿で仁美と向き合う。不安に押しつぶされそうになっていた仁美に出会った時、緩んでいた涙腺が再び崩壊した。どちらともなく歩み寄り、抱き合って泣きじゃくった。謝罪と感謝と、労り。幼い頃から仲の良かった二人の間には、余人には計り知れない絆があった。だからあんなことがあっても、二人は親友になれた。あのときより、とても強い絆で。
涙の抱擁にマミも杏子も安堵していた。まどかを抱き寄せているほむらには信じられない光景だ。魔女から魔法少女に戻ったことなど、これまでのループの中でただの一度もない。悪魔の力に驚くこともあるが、それ以上にそれをもたらしたネミッサに驚いていた。
「ほら、これが、貴女が望んだ光景ですよ」
「そうね。まどかは、どうしているの?」
「主導権は私ですが、この光景を見ておりますよ。そろそろ私の役目も終わります。ご迷惑をお掛けしましたね」
ほむらはそれ以上答えない。言葉をなくし佇んでいた。
まどかが瞳を閉じ、次に開くときには、まどかは意識を取り戻した。
「……あ、ほむらちゃん……。かみさまの話、聞いた?」
「ええ、大変だったわね。体は、大丈夫?」
「心配してくれてすごく嬉しいんだけど……、嬉しいんだけど、ちょっと」
耳まで赤くなるまどか。ほむらに立つのも覚束ない体を抱きしめられているからなのだが、ほむらのほうは使命感が強く全く意識していなかった。だが、一方のまどかは、ほむらから感じる体温や鼻孔をくすぐる香りにすっかり赤面してしまった。だから、誤魔化すようにさやかをに声をかけようと身じろぎをする。
「さやかちゃん……」
ほむらは自然な動きで手を放す。なぜかやや残念そうにしながらも、さやかに歩み寄る。だが仁美との抱擁に気後れしているのか、たたらを踏む。その背中をほむらは優しく押し、穏やかな視線を送る。後押しを貰ったまどかは頷き、二人に歩み寄った。それに気づき、二人は抱擁を解いた。仁美は涙ながらに微笑むと一歩下がる。
「さやかちゃん……」
「あ、ま、まどか……」
まどかへの罵声が思い出されて表情が暗くなる。あのとき言った愚かな言葉が自らをえぐる。突き放されたにもかかわらず、彼女はさやかを助けるため魔女の結界に足を踏み入れたのだ。その感謝の念はどれほど大きいもんだったろう。それはそのまま、罪悪感の大きさにもなるのだが。
「さやかちゃんが、いっ、言ったこと気にしてないよ、へいきだよ。……ごめんね……。おかえり、なさい」
あふれだす涙をそのままに、精一杯の笑顔でさやかに抱きつく。そのやわらかな抱擁にさやかは自分が許されたことを知った。謝罪すら出来ないほどの嗚咽があたりに響き渡る。これからさやかはどれだけ泣かなければならないだろう。どれだけ謝罪をしなければならないだろう。恭介に仁美、マミに杏子、まどかにほむら。そして、ネミッサ。
111 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:43:09.75 ID:i9eeC+ki0
「ありがとな、あんた」
「こっちこそありがとう。お陰でサヤカちゃんも助けられたし」
「そうじゃねえよ」
杏子は自分とさやかを重ねていた。自分以外のために祈り魔法少女になった杏子はそれが原因で家族を失った。さやかも同じ道をたどると思ったからこそ、何度も突っかかり、諭し、探し続けたのだった。だがそれは最悪の結果に終わった。
はずだった。
それをネミッサは救った。時間を繰り返し、事前に準備をしていたからではあったろうが、救ったことには違いない。それは何か自分も救われたように、杏子には思われたのだ。
「でもなんで人間に戻ってねえんだ? 無理だったのか」
「ああ、そうみたい。アイツ神様のクセにねぇ」
それは恐らく、『さやか』のせいであろうと思われるが、ネミッサは黙っておくことにした。自分の中にもまだ『さやか』の思いは残っている。さやかも『さやか』も願いは魔法少女が前提だったのだろう。どんな願いであるかはわからないが、きっとほむらの為になることと思う。
そんな物思いに耽るネミッサを杏子が不思議そうに覗きこむ。だがそれにすぐ飽きるとマミに向き合う。マミはホッとしたような切なそうな表情をしていた。自分が巻き込んだという罪悪感を払拭出来たのだろう。
「なぁ、マミもワルプルギスの夜と戦うか?」
「当たり前。私はこの街を守る、魔法少女なんだから」
だろうな、とつぶやきニヤッと笑う。ほむらと共闘関係を組むだけだったが、そこにマミが加われば盤石になる。ほむらがどう出るかわからないが、ネミッサが上手くやるだろう。これだけの戦力があればどんな魔女にも遅れは取らない、杏子の計算ではそうなっている。ネミッサの戦力は魔法少女でないので未知数だが、多少は役に立つだろう。
「いいぜ、あたしもやってやるよ」
(あたしも少しくらい、正義の味方やってもいいよな、父さん。教会壊されたくないもんな)
落ち着きを取り戻したさやかは、仁美とともに自宅へ帰った。一週間にも及ぶ家出失踪の説明をせねばならないはずだが、そのフォローを仁美が行ったようだ。捜索願すら出され大騒ぎにはなっていた。だが地元の名士である志筑家のとりなしで事なきを得たようだった。
翌日からの学校にも無事通学するようで、クラスメイトから浮くような心配もあったが、上条と仁美はいつもと同じように接していた。そのため、色恋沙汰での無断欠席という噂を払拭することができた。事情を知るまどかは、さぞ安心しただろう。
下校時間になって、ほむらは呼び止められた。今日はさやかとネミッサを含めたワルプルギスの夜の打ち合わせの予定だったが、そこに声をかけられた。
「ほむらさん、少しお時間をいただけませんか」
珍しい、ほむらは思った。正直言えば仁美とはさやかやまどかの友人としてはいるが、あまり接点はない。せいぜい魔法少女のことで今回比較的会話をすることが多い程度で、どのループでもあまり仲良くはなかった。その彼女がほむらに話しかけるということは、一つしか無い。
「私に、貴女の戦いを手伝わせて下さい」
意外な申し出にほむらが面食らう。まさか魔法少女になろうというのかと、警戒してしまう。だが、仁美は左右に首を振る。
「いいえ、私には素質がないのでしょう? ですから、私にしかできない戦いをいたします。そのために、相談をしたいのです」
そのそばにいた上条も、松葉杖をつきながらほむらに尋ねる。
「僕も詳しい話を聞きたい。僕にできることをさせてほしい」
「な、なぜ? あなたたちには…かかわりないわ」
「私たちは、さやかさんを一度『殺している』のです」
ほむらの心を抉る言葉。
「幸い、無事だからよかったものの、そんなことをした僕らは……」
「もう、前の関係に戻れませんわ。ですが、もし戻れるのならば……」
「僕らは戻りたい。そのためには、きっと君たちとともに戦う必要がある」
「お願いです。私たちチャンスをください」
「……僕らを戦わせてください」
112 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:44:03.94 ID:i9eeC+ki0
ほむらの自宅にこれだけ大勢が押し寄せたのは初めてではないだろうか。まどかにさやか、マミに杏子、上条に仁美、そしてネミッサ。そのネミッサはやや船を漕いでいる。それをマミは支え寝落ちするのを防いでいるが、話を聞いてもらえるかどうか。
「ほむら、あの、話始める前にさ、いいかな?」
ほむらは静かに頷く。さやかが復活してから初めての集まりだ。それは予想済み。
「みんな、その……、迷惑をかけてごめんなさい。それと、命がけで助けてくれて、ありがとうございます!」
きちんと四角に座り、頭を下げた。真っ直ぐな性格なだけにこういったところは清々しい。だが、頭を下げたままずっと上げない。
「美樹さん、もう頭を上げていいわよ。お帰りなさい」
マミは穏やかに声をかける。優しい声は裏表なく、慈愛に満ちていた。
「そうだよ! 皆もうわかってるもん。謝ることじゃないよ」
声が少し濡れているのはまどかだ。まどかは戻ってきたことと同じくらい、許してくれたことが嬉しかった。
「むしろ謝るのは無神経な僕の方だよ。さやか、ごめん」
「さやかさん、許してくださってありがとうございます。無事に戻ってきてほっとしていますわ」
上条と仁美は本心からそう言っている。また元の関係に戻れたのは三人の努力があったからで、誰かの努力が欠けたらこんなふうに思えなかっただろう。
そんなさやかのお礼が聞こえたのか聞こえてないのか、ネミッサは虚ろな表情で体を揺らしている。それをマミが小突くが一向に目が覚める気配がない。
「そして、ネミッサ。あんたが一番頑張ってくれたって聞いた。ホント、ありがとう」
「僕からもお礼をいわせて欲しい、ネミッサさん」
「私も御礼申し上げます。貴女のお陰で、大事なものをなくさずにすみました」
三人が心からのお礼を言って頭を下げる。だが、それをよりにもよって、当の本人が聞いていないのだから失礼極まりない。遠慮がちに小突くマミの苦労の甲斐なく、三人のお礼が終わってしまった。
ほむらが手近にあった世界史の教科書の背でネミッサの脳天を打つ。だが、ほむらが思った以上に重い打撃音がして、ネミッサが悶絶している。ほむらがまずいと思ったのは一瞬で、これくらいでないと目が覚めないだろうと開き直った。
「容赦無いな」
「寝ているこいつが悪いのよ」
「すごい音がしたけど、大丈夫なのかな」
「大丈夫、目が覚めたわ」
めまいのする頭を振り、ネミッサが起きる。いつか仕返ししてやると、心に決めながら。ネミッサにかけた迷惑の大きさから不安がっていた三人はそんな呑気なネミッサに顔を見合わせ笑いあった。正直ネミッサはまるで迷惑だなんて思っていなかったので、ちょうど良かった。
113 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:44:32.11 ID:i9eeC+ki0
ワルプルギスの夜対策の打ち合わせはほとんどほむらの独壇場だった。何度も戦いを挑み、攻撃や行動などの特徴を把握し文書に残している以上、彼女以上のワルプルギスの夜の専門家は過去にもいない。その彼女の発言は全員の自信を打ち砕くのに十分な内容だった。
「近代兵器を叩きこんでも、タンクローリーをぶつけても、プラスチック爆弾を使っても、私では歯が立たなかったわ」
「んー、アタシも見てたけどさ。アイツ、物理的な攻撃に耐性でもあるんじゃない?」
悪魔の中には物理攻撃、即ち運動エネルギーを無効化したり、吸収し自らの力にしたり、あまつさえ反射してしまうものすらいる。この魔女にもそれに類する性質があるのではないかとネミッサは講釈した。だが、軍艦の主砲を直撃させた際には吹き飛ばされていた。せいぜい耐性を持っている程度だろう。だが実弾兵器中心のほむらにとって極めて不利な相手であることには違いがない。
「と、なると攻撃の要はマミか」
魔力そのものを打ち出すマミのマスケットは、攻撃力もさることながら正確性や射程距離、発射までの速さ。どれをとっても優秀で恐らく彼女がダメージソースになる。他には杏子やさやかが魔力で作る武器に寄る攻撃が有効だが、ほむらの攻撃はハッキリ言って数にはいらない。全く無駄ではなかろうが、決め手にはならない。恐らくほむらがループせざるを得なかったのはこれが原因だ。実際には実弾にも魔力を込めて威力を高めてはいたのだが、地の魔力の低さから目に見えた効果が得られなかった。
「けれども今回は違う。アンタたちがいてくれるし、士気も高い。やれるわ」
「それはいいけどよ、なんだってこいつらもいるんだ?」
「……戦うからに決まってるじゃない」
「はぁ?」
さやかと杏子、マミも驚きの声を上げる。声を上げないもののまどかも驚く。落ち着いているのは前もって聞いていたほむらくらいなものだ。
「当然、『人』としてだからね。勘違いしないよーに」
戦い方の概要説明が終わり、後日連携訓練ののち役割分担を行うことまで決めて、その日は解散となった。
ほむらの部屋からの帰り道、マミにネミッサは問い詰められていた。
「いつも、貴女どこにいっているの?」
言っていいものか、ネミッサも戸惑う。別段彼女たちに迷惑がかかることをやっているわけではないが、誤解されるおそれがあるし、期待させて肩透かしを食わせるのもお断りしたい。何とかはぐらかしたいところだ。最も、一番の理由は驚かせたいという、悪趣味な企みがあるからだが。
「天海市だよ。サヤカちゃんの件で世話になった人に、経緯を報告しろって言われててさ」
他に、ほむらの武器の購入や、神酒のような戦闘を補佐するものの調達。古い友人との接触にワルプルギスの夜対策の根回しなどなど。眠りが必要な体が恨めしいが、なんとかやり切るしか無い。そこに今回の会議で連携訓練の必要も出てきた。
「危ないことをしてるわけじゃないのよね」
「大丈夫。私もさ、マミちゃんや、古い友人に頼っていいんだって気づいたんだ。今やってるのはそういうこと」
「わかったけれど、ちゃんと寝なさいね。さっき眠そうだったじゃない」
「気をつけるよ。決戦前に倒れるわけにいかないし」
マミは部屋の鍵を空けて、ネミッサを招き入れる。そろそろほむらとも和解している。だから無理にマミの部屋に行く事もないのだが、惰性でなんとなく付いてきてしまっていた。
ほむらとネミッサの距離をあけてしまうことをマミは危惧していた。そのあたり、二人はどう思っているのだろう。
「暁美さんとはその後どうなの?」
少し考えてからネミッサは返す。
「良くも悪くも変わってないよ」
「仲直りしなさい」
お茶を入れながらそんなことを言う。マミもネミッサにはそばに居て欲しいのだが、ほむらとの不仲が気になる。当の本人たちはそこまで相手を悪く思っていない。マミの目線からだと、仲が悪く見えてしまうというだけだ。
「私が、引き止めてるから?」
ネミッサは問題の中心がやっと解った。ほむらがどう、というわけはない。マミが不安に感じてることが問題なのだ。マミはこのままでもなんとかなる。だが、心優しいマミは二人の仲を心配しているのだ。ここは顔を立てて、仲直りのアピールをすべきだ。それが後の連携にも関わるのなら尚更。
「一人で大丈夫?」
「心配なのはそっちよ。私は心配いらないわ。貴女に貰ったもの、いっぱいあるもの」
にこっと微笑む。うまく言えないが、ネミッサはその笑顔にしびれてしまった。この笑顔ができるなら大丈夫だと感じたのだ。ならばここはマミの言うとおりにしよう、そう思う。
「アタシがいない分、キョーコちゃんに来てもらう? アンタさびしんぼうだし、あっち家なき子だし」
「あら、ママの心配してくれるの?」
「もう、それ止めてよ」
ネミッサはにっこり笑えた。
114 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:47:45.68 ID:i9eeC+ki0
――幕間―ー
【えいがかんにて】
私は映画館にいました。
誰もいないとても広い映画館に、私一人だけ座っていました。
赤い座席はふかふかでとても座り心地がよくて、暑くも寒くもない快適でした。
暗くなる前の映画館は、これから始まる映画のことを考えるととてもどきどきしますよね。
でも、そこはそんなどきどきもなくて、すごくリラックスできていました。
いつの間にか、スクリーンの前に、男の人が立っていました。
スーツ姿のかっこいいおじさんで、柔和な顔をしていました。
「はは、おじさんか。君からするとそうなってしまうんだね」
ごめんなさい。私のパパよりずっと若いのに、失礼なことを言っちゃいました。
照れくさそうにおじさんは頭をかいていました。
「まぁ、おじさんでかまわないよ」
名前を聞いてもいいですか。
「僕は桜井雅宏」
私は……
「大丈夫、知っているよ」
おじ……、お兄さんは優しく笑ってくれました。
でも、私も知らない人が、私に御用ですか?
ニコニコと笑っているけど、初めて会うお兄さんと一緒。
それに今まで見たこともない場所にいるのに緊張も不安もありません。
とてもふしぎです。
「今君は夢を見ているからだよ」
夢にしては椅子はふかふかで、お兄さんの声ははっきり聞こえます。
「君が不安に感じているとちゃんとお話ができないからね」
たしかに、私が不安に感じていると、ちゃんとお話を聞くことができませんでした。
………にはとても悪いことをしてしまったように思います。
「君には僕の話を聞いて欲しいんだ。そして、彼女のことを救ってあげて欲しい」
私に何が出来ることなんでしょうか。
自分にできるんでしょうか……。
「君しか出来ないことなんだよ」
でも、私にできる事ならお手伝いしたい、役に立ちたいんです。
「とても怖い思いをすることになるよ」
でも、やらせて下さい。
「辛くなったらすぐに止めるからね」
でも、やらせて下さい!
115 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:48:22.45 ID:i9eeC+ki0
私は三人の女の子になった夢を見ました。
魔法少女になった女の子の夢です。
私なんかと違って、とっても自信に満ちていて、とってもかっこよく見えました。
その人は先輩の魔法少女とともに、眼鏡をかけた、とても可愛らしい女の子を助けてあげていました。
けれど、とても大きな魔女との戦いで、先輩は死んでしまいました。
その人は、助けた女の子を守るため、街を守るため、大きな魔女に戦いを挑みました。
あなたをたすけられたのがわたしのじまんだとほほえんで。
そして、死んでしまいました。
二人目も魔法少女の人です。
一回目に出会った眼鏡の女の子は魔法少女になっていました。
一緒に、先輩の魔法少女に戦い方を教わり、一緒に強くなって行きました。
その人は、眼鏡の女の子が大好きでした。
けれど、やっぱり大きな魔女と戦って、先輩は死んでしまいました。
その人は、眼鏡の女の子と一緒に大きな魔女に戦いを挑みました。
何とか倒したけれど、その人は眼鏡の子の前で、とても大きな魔女になってしまいました。
三人目も魔法少女です。
一回目に出会った眼鏡をかけた魔法少女と一緒に魔女と戦っています。
けれど、眼鏡の子は、キュゥべえに皆騙されていると言っていたので、他の魔法少女と仲が悪くなっていました。
そしてそれがうそじゃなかったことがわかります。
………が目の前で魔女になってしまったのです。
混乱した先輩魔法少女は、眼鏡の子を縛り上げ、もう一人のお友達の魔法少女を銃で撃ってしまいました。
その人は眼鏡の子を守るため、無我夢中で先輩を撃ってしまいました。
自分のしたこと、今起きた酷いことに耐え切れず泣きだしてしまいました。
その人は、眼鏡の子と一緒に、やっぱり大きな魔法少女と戦いに挑みました。
やっとのことで倒しましたが、二人は魔女になる寸前でした。
その人は、眼鏡の子のソウルジェムをきれいにするとこういいました。
『キュゥべえに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな?』
そして、もう一つ、とっても酷いことをお願いしました。
眼鏡の女の子は、大粒の涙を流しながら、その人の濁り切る寸前のソウルジェムを銃で撃ちました。
とっても大好きな子に、なんて酷いことをお願いしたんだろうと、思いました。
私は泣いていました。
見た夢に押しつぶされそうで、悲しい物語に、胸が張り裂けそうでした。
「ごめん。辛いよね。今見た夢は……」
大丈夫です、わかっています。
「そうか、君は強いな」
全部わかりました。
「今は辛いだろうけれど、立ち直って欲しい」
私は辛うじて頷くだけです。
私は全部知りました。
116 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:48:49.78 ID:i9eeC+ki0
私がほむらちゃんに、とても酷い呪いかけたことを。
私の罪を。
だからほむらちゃんは、私に何も言わなかったんです。
ネミッサちゃんも、それを知って、きっと隠してくれたんです。
私じゃない「鹿目まどか」の言葉に、私が責任を感じないように。
私の罪を、知らせないように。
私がかけた呪いのせいで、ほむらちゃんは何百回も同じ一か月を繰り返していたのです。
たった一人で。
117 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:50:00.67 ID:i9eeC+ki0
――幕間――
私はまだ映画館にいます。
私はまだ泣いています。
自分がしたことが、どれだけほむらちゃんを苦しめて傷つけたか。
あの、眼鏡をかけたおさげの女の子がほんとうのほむらちゃんなんです。
病弱で、物静かで、泣き虫で、とっても可愛いくて、細い体でずっと頑張ってくれたほむらちゃん。
それが、今のあのかっこいいほむらちゃんになってしまった。
それはそれでとっても素敵なんだけれど、あんなに冷たくなってしまったのは私のせいです。
私がかけた呪いのせいです。
「けれども、それは『君』のせいじゃない」
それでも、私のせいです。
「そう思うんだね。だからこそ、僕は君にお願いをしに来た」
はい、最初も、そう言ってましたよね。
「そう、さっき見たのは『ビジョン・クエスト』というものなんだ。魂の記憶を追体験することだね」
言葉の意味はわかりにくいけれど、実際に体験したのでわかります。
もう一度体験するんですね。
「そうだよ。今度は、僕の記憶……。それを体験して、ネミッサを救って欲しい」
言葉だけじゃダメなんですか?
「言葉は思いをぼやかしてしまうんだ。僕の気持ちを追体験して、僕の本心を感じ取ってほしい」
やります。私が人の役に立つことを、したいんです。
私は、涙を拭います。
118 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:50:29.93 ID:i9eeC+ki0
そうして私は四回目の夢を見ます。
桜井さんが住んでいた町では、信号機を違法に操作して交通事故を引き起こす事件が起きていました。
原因はハッカーだそうです。
そのハッカーを見つけ出すため、桜井さんはネットワークで情報を探し、追い詰めました。
でもそれは罠だったんです。
桜井さんのように正しい心とハッキングの技術を持った人を集めて捕まえようとしたのです。
そのときから、ネミッサちゃんが戦ってきた相手は準備をしていたんです。
その罠から命からがら逃げることができたのが、桜井さんと、何人かのハッカーでした。
その人達が集まってできたのが『スプーキーズ』なんです。
でも、桜井さんは、自分が正義の味方だと思ってなかったんです。
本当は、ライバルだった人にかなわないと思っていて、それを誤魔化すためにやっていたんです。
皆から慕われる反面、心はずっと血を流し続けていました。
ネミッサちゃんたちが頑張って、その計画を阻止しようとしました。
でもその中で、スプーキーズの皆は騙されて、ばらばらになってしまいます。
その隙に、桜井さんは誘拐されて、悪魔に体を乗っ取られてしまいます。
『早く、僕を殺してくれ! 僕が、君たちを殺してしまう前に!』
桜井さんはそう祈り叫び続けました。
ネミッサちゃんは相棒さんの代わりに、悪魔ごと桜井さんの体を剣で貫きました。
相棒さんに、やらせたくないからでした。
すごい決断だったと思います、私にとっさに出来るでしょうか。
ネミッサちゃんと相棒さんは、大怪我をした桜井さんを見下ろしています。
でも桜井さんは、恨んではいませんでした。
自分が二人を殺さなくてよかったと。
自分が持った劣等感からこれで開放されると。
そう伝えて、目の前が暗くなって行きました。
119 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 21:51:58.83 ID:i9eeC+ki0
私は、やっぱり泣いてしまいました。
桜井さんの心を追体験したからです。
「僕の心を受け取ってくれて、ありがとう」
桜井さんは、そうやって笑ってくれました。
「君は、人の痛みを自分のことのように感じて悲しむことが出来る。ご両親が出来た人だったんだね」
私の自慢のパパとママです。
「それは人として、一番大事な素質だと思う。できる事ならそれをなくさずに大人になって欲しい」
はい、ありがとうございます。
私は、涙でくしゃくしゃだったけど、精一杯の笑顔でこたえました。
「だから、君にお願いしたんだ。僕の痛みを自分のことのように感じてくれるから」
だから、私が、桜井さんに選ばれたんですね。
「ネミッサを救ってあげて欲しい。僕の心を彼女に伝えて欲しい」
わかりました。きっと、やり遂げます。
「ありがとう、つらい目に合わせてごめん」
そんなことないです。
人を助けることって、口で言うほど簡単なことじゃないって、気付きました。
いっぱいつらい思いをして、ずっと強くならないといけないんです。
人の役に立ちたい、ってかんたんに考えていた私はばかでした。
ほむらちゃんも、マミさんも、さやかちゃんも、必死で頑張っていたんです。
ただの憧れで魔法少女になんて、なってはいけないんです。
でも、三人の『私』の人生を追体験したおかげで、私はちょっぴり強くなれました。
「君は、とても強い。とても優しい。どうか、ネミッサを、救ってあげてくれ」
ネミッサちゃんだけじゃありません。
ほむらちゃんも助けます。
私の中には、ほむらちゃんを守った私と、一緒に戦って私と、呪いをかけた私がいます。
今は罪悪感でいっぱいです。
でも、桜井さんの心を知って、罪悪感だけ持っててもいいことじゃないってわかりました。
ほむらちゃんは許してくれるでしょうか。
でも桜井さんは、ネミッサちゃんと相棒さんを許していました。
それだけでも、伝えてあげようと思います。
まっててね、ネミッサちゃん。
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/07(月) 22:09:27.99 ID:6ByvNQUBo
乙
ベルゼブブさん…
121 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/07(月) 22:14:35.15 ID:i9eeC+ki0
筆者です。
我ながらご都合主義とは思いますが、これにて三章〜幕間終了です。
お味はお気に召しましたか。
ネタ晴らしのシナリオでしたが、皆さんの期待に添えたか心配です。
ここの皆さんがどう物語を作るのかわからないのですが
今回この物語はプロットを書いて作成しています。
ですが、場面場面はキャラが勝手に動き出しています。その情景が頭に浮かんでくるので、
それを必死に文章に落とし込んでいるという、我ながらわけのわからん作り方をしています。
きっとまどマギのキャラがそれだけ魅力的で力があるからだと思います。
ネミッサの『暴走』もそれでして、キャラが勝手に動きまくった結果あのような事態を引き起こしました。
私にも予想外でしたが、皆さんにはどうでしたでしょうか。
いい方向に仁美たちも勝手に動き出して、筆者としては嬉しい誤算でした。
次章は四章の【しがつのおわりのおまつり】編です。
命がけ、魂がけの大サーカス。
開演は明日の同じ時間を予定しております。
どうぞ、お楽しみに。
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/07(月) 23:04:58.70 ID:m3xtEeuzo
一回だけリーダー生存させた事あるんだよなぁ……
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/07(月) 23:39:15.30 ID:n9kZhYMSo
乙でした。
今二週目だけど絶対リーダー生存エンド目指す。
124 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:15:28.91 ID:LLan/tqg0
筆者です。
今夜もアップいたします。
ただ、最初に謝ります。たぶん今夜はサーカス開演までいかないかもしれません。
少なくとも開場はいたしますので、開演ブザーが鳴るまで、お席でお待ちください。
シルク・ドゥ・ソレイユのコルテオのように、客席に芸人が表れて
皆さんを盛り上げてくれるので、それでお許しください。
……うん、自分で書いててクサいですね。
自分語りで恐縮ですが……、
私はセガサターン版でソウルハッカーズをやりました。
……お察しの通りスプーキーを助けたくて3週しましたよ。ええ。
そのときの思い出が今回に生かされております。
SS版じゃ助けられないって聞いて落ち込んださ!!
そんな私もいい歳です。
同じ気持ちの人、少なくないと思います。
それでは、四章、お付き合いください。
125 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:16:14.51 ID:LLan/tqg0
四章
【しがつのおわりのおまつり】
「うわ、ホントにちっさい! ハァ〜、ホントに悪魔だったんだね〜」
「小さいっていうな! もう、アンタらはうるさいのは変わらないわね」
「そういうなって、こいつはこいつでかなり腕上げたんだぜ。実践続けてるから、俺よりも上かもしれないぜ」
「これを手に入れたときは驚いたけどさ。あの人たちに接触受けたときはもっと驚いたよ。ネミッサの知り合いなんだよね」
「まぁね。計画書だけじゃなくて、具体的な設計図みたいなものも?」
「ネットワーク上に置いておくなんて杜撰なことやってるよ。楽勝だね」
「さすがね。じゃぁそれを……」
「もう送ってある。あとは向こうの仕事さ」
「こっちはこっちでやることがあるんだろ? 任せなって」
「ありがとう。危ない橋渡らせてごめんね」
「いいってことさ」
「俺たち、仲間だろ。『スプーキーズ』のさ」
それから、ワルプルギスの夜対策に向けて、魔法少女達による連携訓練が行われた。
杏子が槍で、さやかがサーベルで前衛を務め、マミの攻撃の隙を作る。個々の動きのフォローには時間停止を使うほむらがつくことで大怪我から身を守るのが基本だった。そこにネミッサが加わる形なのだが、問題があった。
ネミッサの身体能力が魔法少女のそれに追いつかないことだ。
確かに人間の基準では高い能力ではあるが、跳躍をしてビルを飛び越えるといった力は持ち合わせていない。また体の構造が基本的に人間のそれである。致命傷を負っても治せばいいというものでもない。近接戦ではどうしても皆に遅れを取った。
だが、それを補って余りある魔力の量と相手を見抜く眼は皆に認められた。魔法少女からみたらほとんど無尽蔵と呼べる魔力に広範囲に及ぶ魔法。それだけで使い魔を掃討するには充分な戦力だった。
比べるならば薔薇の魔女の使い魔を倒す際にマミがマスケットを大量召喚したが、それを最大範囲の電撃魔法一発で処理できる。さらに魔女化のリスクなく魔力を使えるのだからまさに露払いにうってつけだった。
「アタシに雑魚は任せてほしい。皆の魔力は魔女にとっておくのがよさそうね」
「あんたが討ち漏らさなければなー」
「うん、気をつけるー」
杏子の軽口も心地良い。自分は主役でなくてもいいのだ。マミのマスケットが文字通り必殺技になればいい。方針としてはいかにしてマミのマスケット=ティロ・フィナーレを撃てる環境を作るか。それに尽きる。
126 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:17:04.08 ID:LLan/tqg0
ほむらが提示する戦い方としてはこうだ。
まず、ほむらが先手を取る。ワルプルギスの夜が現れる地点は統計によりある程度絞られる。そこでプラスチック爆弾を駆使し建造物を倒壊、動きを封じたところで戦艦の主砲を当て人的被害の少ない地点に押しやる。ここまでは今までのループで可能だとわかっている範囲だ。
「可能な限り街の中心、具体的には避難場所からは遠ざけたい」
「同感ね。人的被害を減らすためにも、ね」
「あー、それもあるけどさ、その地点って『ここ』じゃだめ?」
ネミッサが指さしたのは地図の工場地帯のガスタンクが密集する一帯だ。ほむら一人の時はそこにプラスチック爆弾を使用し誘爆させていたが、今回はネミッサを含め他の戦闘参加者がいる。ほむらも把握していない化学物質の流出を考えると躊躇われるところだ。そのため今回の提案ではそこから外していた。
「いいんじゃねえか。倒さなけりゃ遅かれ早かれそこも壊されるだろ。同じなら使っちまって構わないだろ」
「それもそうね、……私の手持ちで撃破できなければそこが主戦場になる、いい?」
全員が頷く。あるいはそこにネミッサがかき集めた爆弾を設置し誘爆の威力を高める。これがほむらの取る『先手』だ。
そこからネミッサが周囲にたむろする使い魔を処理し、足止めを目的とした近接戦闘の二人の道を作る。それで足を止め、マミの主砲を効果的に打ち込む。ほむらは手持ちの火器と時間停止で前衛とマミの間に入る。ネミッサはマミの護衛として雑魚の殲滅に当たる。
「ネミッサは回復魔法も使えるんだよな。できればほむらと同じ位置にいて欲しい気もするな」
「私だけじゃ回復足りないかな」
「いいえ、美樹さんが佐倉さんの回復に当たる時、前衛二人が一塊になってしまうでしょう? それが一番危ないと思うの。」
「アタシのは範囲も距離も多少広いけど、四肢欠損ほどのは治せないよ。それはさすがに接触しないと使えないし」
「巴マミのだって無理よ。それができるのは美樹さやかだけ」
「前衛一人が下がったらほむらかネミッサが前に出る。ってことか」
「そう考えるとネミッサはずいぶん汎用的だよね。足りないのは攻撃力だけ?」
攻撃力ではマミに劣り、回復力ではさやかに劣り、速度では杏子に劣り、汎用性ではほむらに劣る。だが、それらすべての評価が最下位ではない。魔力もほぼ無尽蔵で、サマナーの相棒として闘いぬいたためか戦局を見る目もある。
「問題は足かなぁ。なんか考えとくよ」
「あんたはそこがいいよな。こないだの神酒だってまた一本ずつ手に入れるんだろ」
「ぶっちゃけ、これがかかるんだけどね」
指で輪を作り苦笑いする。だが、お金で平和が手に入るなら安いものだろう。ネミッサは開き直る。
皆が熱心に話し合いをする間、まどかは参加できなかった。だがその熱意を見て、自分にもできることをしようとお茶を入れたりお菓子を用意したりして甲斐甲斐しく給仕をした。自分に出来ることを少しでもやって皆を助けたかったし、いつかネミッサと話をする機会を作るためでもあった。
127 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:18:37.97 ID:LLan/tqg0
翌日も学校があるため、夜も早めに解散となった。こんな時期に通学もないものだが、むしろ学校が皆の精神安定に一役買っているようだ。杏子は遅く起き、その時間をグリーフ・シード集めに費やす。ネミッサは打ち合わせと称し天海市に向かう。
「で、なんで貴女はここにいるのかしら」
「マミちゃんに追ん出された」
ほむらはまさか、とは思っていた。だがネミッサの言いようからすると、マミが不安に感じているようだ。その払拭のために戻る必要があったわけだ。
「佐倉杏子が巴マミの家に居候するわけね」
「うん、暫くでいいから、そっちにいくね」
「看病なんかできないけどね」
(根に持つなぁ……んの根暗美人め)
「賄いなんか要求しないわよ。出来合いで良ければアンタが学校行ってる間に買っとく」
マミには申し訳ないが、ネミッサがほむらの家にいられる時間は多くない。恐らくこの一週間はネミッサは強行軍になるだろう。寝てる暇もあるかどうか。皆が登校中は天海市で打ち合わせ。放課後連携訓練の準備と打ち合わせ。夜には魔女退治を兼ねた実践訓練と反省会。移動時間がゼロであるため辛うじて休めるが、やりきれるかどうか。
「マドカちゃんがいるときは遠慮するから、仲良くするといいわ」
「……そんなこと、あるわけないでしょう」
「あれ、そう? 結構マドカちゃん、アンタにお熱だと思ったけど」
「友情を持ってくれているというなら、肯定するわ」
「でも、アンタを慕っているのは事実よ」
ネミッサは勘違いしてる。ほむらはそう思い、こっそりため息を付いた。
「おいおいおい、ヒト……違う、ネミッサか」
「久しぶりね。元気してた?」
「ああ、しょうもない新聞記者やってるよ。もっとも、好き勝手やろうとして部署内じゃ鼻つまみだけどな」
「相変わらず頑固ね、パパさんとも仲直りしたんでしょ」
「それはいいじゃねーか。用事の話しようぜ」
「二人から図面と計画書貰ったでしょ。アレを使って欲しいの」
「貰ってる。それとな、こっちからも報告がある」
「なによ」
「あれを手に入れる前後、お前さんみたいなナリ二人が接触してきた」
「え、ヤバくない?」
「それは大丈夫だ。むしろ平和的な話し合いだったよ。お陰で貰った資料の裏が取れた形さ」
「名前とか聞いた?」
「一番最初に名乗ったよ、一人の名前は……」
128 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:19:28.15 ID:LLan/tqg0
「ほむらちゃん、はい、お弁当」
昼休み。まどかたちはそろって屋上でランチを取っていた。ほむらはいつもの軽食で済ますつもりだったがまどかに捕まり強引に連れて行かれた。その先で待っていたのはさやかと仁美、はては上条までいる有様だ。そんなところでゼリー状の軽食を食べるわけにも行かないのでいつも一人ですませていたのだが……。
「てん……ほむらはまどかの愛妻弁当か」
「嗚呼、これが禁断の……美しいですわぁ」
ちょっと鼻息が荒い仁美にたじろぐ上条。そんな趣味というかクセがあったのかと驚いていた。
「ああ、恭介は初めて見るのか『コレ』……」
まさか自分がまどかとの同性愛カップルに仕立て上げられているとは露知らず、きょとんとするほむらは歳相応の可愛らしい顔をしていた。いつもの鹿爪らしい顔の険が消えている。まどかはまどかでちょっと頬を赤らめている。だが、この料理はほむらのためと言い聞かせ、決心して実行したのだ。
「ティヒヒ…、ほ、ほらほむらちゃんはいつもゼリーとかしか食べてないから、体が心配で」
「そうそう、しっかり食べるのも戦いの準備のうちじゃん。攻守の要なんだからしっかり食べてよね」
「いえ、元々小食だから気にしなくていいのに……」
今までの繰り返しの中でこんなことは初めてで戸惑ってしまう。アクシデントに弱い自分を笑いながらも、まどかお手製のお弁当を貰う。ここで箸が一膳しか無かったらどうなっていただろうか。そういえばおかずが自分の好きなものしか入っていない。何気ない日常会話から話したことをきちんとまどかが覚えていたのだろうか。それを言ったかどうか、ちょっと覚えがない。
「これ、冷静に見たら、僕は両手に花どころじゃないよね」
「おおう、美女四人に囲まれて幸せかー幸せなのかー!」
「三人じゃなくてかい?」
「なにおう!? まどかが美人じゃないってのかー!」
「自分じゃないとは微塵も思わないんだね、さやかは」
ワルプルギスの夜の話し合いもそこそこに五人のランチは盛り上がった。この日委員会の関係で来られなかったマミが翌日加わったため、クラスメイトの怨嗟を一身に受けた上条は、クラスメイトの中沢から吊し上げをくらい、嫌な汗をかくハメになってしまった。
129 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:21:25.01 ID:LLan/tqg0
「お疲れ様。大変ね」
「もーヘトヘトよ。アタシの得意分野じゃないってのにさー」
「少しお茶にしましょうか。メアリ、お願いね」
「畏まりました。ネミッサ様、少し休まれては?」
「ありがとう……、今月中はこの調子なのよ」
「疲れてる所悪いけれど、土曜日のこと大丈夫かしら」
「ええ、心当たりを連れて行くわ。けれど、あんまりお固い話は止めてね?」
「ご心配なく。本人から話を聞いて状況や環境を確認したいだけだから……それに」
「それに?」
「夜が明けてからが大事なのよ。けどそこは任せて頂戴」
「うん、ありがとう……」
連携訓練ののち、ふとさやかがネミッサに近づく。
「あのさ、改めて、ありがとう」
「何よ急に」
ちゃんとお礼をしてなかったから、とさやかは言う。あまりお礼を言われ慣れてないネミッサにとってはどうもむず痒い。
「ほむらちゃんの望みをかなえただけから……別にいいのに……」
「それでもだよ。それとさ……」
照れくさくてそっぽ向くその背中を思い切りひっぱたく。大きな音がして背中に真っ赤な手の跡が残るような強かな打撃だ。あまりに急な痛みにしゃがみ込んでしまったネミッサをもう一度はたく。
「なんでバラすのよッッ!」
怒り心頭というほどではないが、すっかり口をへの字に曲げて怒っていた。確かに大事な告白を勝手にしてしまった以上、ネミッサには一分の理もない。言い返すこともできずへこたれている。
「もうさ、折角私が引き下がったってのに! あの二人別れちゃったじゃないの!」
「別れたわけじゃ」
「言い訳無用」
「はい」
「でも、ありがとう」
さやかのお礼は、ネミッサが怒ってくれたことに対してだ。
必死になって探していたことをまどかから聞いていた。あまりに唐変木な上条と、怒るに怒れなかった仁美の行動に、ネミッサは代わりに怒ってくれたことに感謝していた。さやかの立場で怒るネミッサが少しだけ羨ましかった。
「……お礼言われることじゃないよ」
「でも、ありがとう。今度はあんたの番だよ」
ぎく、っとネミッサが表情を変える。ここがさやかの狙えるネミッサの弱点だ。
「あんまりぼやぼやしてると、私が逆にやっちゃうからね」
「えええええ! それはやめて、それだけは!」
相手がどうなってるかわからない。それこそ既にパートナーや子供までいるかもしれないのに。そんな状態で思いを伝えられた相棒はどんな気分だろうか。ネミッサには予想すら付かない。かなり困る。さやかが相棒と連絡が取れるわけがないのだが、そんなことにも気づかないほど動転していた。
「仕返ししてやるからね!」
ネミッサは土下座するしか無かった。
130 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:22:33.33 ID:LLan/tqg0
「無線はここが最期だな」
「へええ、ハードのほうも手慣れたもんだね」
「おう、やってるな」
「順調だ。ここで取り付けは終わり。あとは遠隔で実際に動くか試すだけだ」
「そっちはどうなの? 上手く行った?」
「はは、結構キツ目に脅しといたからな『これを知って使わなかったら記事にする』ってな」
「ひっでえ!」
「やるかな?」
「それがな、どうも俺たち以外に動いてるところもあるみたいだ。結構力のある人物と、もう一つ」
「どっかまだあるのか」
「そうらしい。誰だかわからんが、こっちに都合がいいなら共同戦線といくさ」
「例の子とは連絡ついたんだろ」
「ああ、当日落ち合う。トレーラーは徹夜で運ぶぞ」
「はは、完徹なんて三十超えたら厳しいんだけどな」
「示してやろうよ。天海市の事件を解決したスプーキーズの力をさ」
「はい……はい。それじゃ、お願いします」
「恭介、まだ寝ないのかい」
「あ、うん。もう少しだけ。後はメールだけ送ったらもう寝るよ」
「バイオリンの練習とその連絡とで、ほとんど休めてないじゃないか」
「……でも、これが役に立つ時がきっと来る」
「なにかあるのか」
「父さん、音楽ってなんのためにあるんだろうね。最高の音楽ってなんだろうね」
「どうしたんだ?」
「僕らは、音楽がすごい力を持っているって知ってる。それを証明したいんだ」
131 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:23:56.47 ID:LLan/tqg0
マミ宅で行う打ち合わせ会の前。お菓子がほしいとゴネた杏子にネミッサが付き合ってコンビニまで付いてきた。
食べきれるかわからないほどのチョコレートのお菓子を買い込み、二人はコンビニを後にする。スナック菓子を分けてもらいながら歩く。
「そういや、二人だけってあんまなかったな」
「何よ神妙になっちゃって」
「さやかを救ってくれて有難うな」
「またそれ? アタシも助けたかったし、アンタも協力したじゃん」
「そうじゃねーんだ。さやかはあたしだったんだよ」
杏子は言う。さやかは自分と似ていると。あれは、自分の末路だと。いつかは魔女になる。それは魔法少女の祈りを他人のために使ったから。他人からの見返りを期待したさやかは、自分の行く末を暗示していた様に思えた。
だから、ネミッサの行動の結果は、さやかばかりか、杏子を助けたように思えた。
希望と絶望のバランスは先引きゼロ。
杏子の持論であり、キュゥべえが仕掛ける魔法少女の仕組みだ。ネミッサにはピンと来ない。やはり魔法少女でないからであろうか。自分の望みは自分の力で叶える。だが、ネミッサも人のことは言えない。魔王たちを打ち倒し、リーダーを救いたいという願いを叶えようとしたのだ。誰かを踏みにじって自分の望みを叶えようとするのは同じようなことではないだろうか。
「難しいことはわからないよ」
「いいんだよ。あたしの心を救ってくれて、ありがとう」
「神様の下僕が、悪魔に頭さげちゃだめでしょ」
「そうでもねえよ。日本にゃ悪い神様がいるんだ。それを裏返しただけだろ」
日本には、神と名前が付いていても、人に災いをなすものもいる。疫病神や貧乏神、祟り神などがそれだろう。とどのつまり、悪さをする神様と善いことをする悪魔もいるのだと、杏子はいうのだ。
「それによ、人間に感謝するのは悪いことじゃねえ、当たり前のこった」
ネミッサは固まる。返事ができない。ふいと杏子から顔をそらす。
急に喋らなくなることに不審がるが、真意がわかると杏子はニヤッと笑う。泣いてる顔を見てやろうと覗き込もうとする。ネミッサは隠そうと体を回し逃げるが、その周りをくるくる回る杏子は、とても嬉しそうだった。
132 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:25:38.09 ID:LLan/tqg0
打ち合わせの会場についた二人は、お菓子の量に呆れられていた。このあとマミの提案による六人のお泊り会がある。親睦を深めるためというが、実際にはネミッサの要望による。翌日、全員を連れていきたいところがあったからだ。
魔女狩りで時間がなかったため、ピザのデリバリーを多めに頼み夕食代わりにしていた。ジュースを片手に歓談しながらの食事は賑やかだった。さやかと杏子がピザを取り合い、ほむらにまどかがジュースをつぎ、マミとネミッサがお皿を回す。そんな穏やかな光景が、そこにあった。
ピザも無くなり食事も一段落ついたところで、会議に移る流れになった。程よい満腹感に睡魔も来そうではあるが、緊張感がそれを許さない。マミとネミッサが片付けたテーブルをまどかが拭き、ほむらが資料を広げる。毎日の打ち合わせでほとんど大筋は決まっているため、あとはネミッサの足を考えた配置や不測の事態が生じた際の対処などを打ち合わせる。
「アタシの足の件は大丈夫。アンタらに追いつきそうなのがいるから、なんとかする」
「私達も乗れる? ちょっと乗ってみたーい」
「多分平気だよ。場合によってはマミちゃん乗っけて移動砲台みたいにしようか?」
魔力の消費も多少は抑えられるし、守りも簡単になる。射程外に逃げた場合に有効に働く作戦と、全員が納得した。一人さやかだけが小首を傾げる。
会話が途切れ、言葉がなくなる。もう数日すると決戦の当日だ。怖くないわけがない。ましてやほむら以外は初めての巨大な魔女だ。幸い、ほむらの資料によりその巨体や攻撃力や射程範囲などがつぶさに伝わったのだが、それが逆に不安を助長したようでもあった。
「やあ、準備は順調かな」
場違いな声で現れたのはQBだ。皆が先まで努めて明るくしていたのが途切れた瞬間を狙ったとしたら、かなりいやな手合いだ。
「よくもまぁ抜け抜けと……」
あからさまに威嚇する杏子。まどかを庇うように座り直すさやか。
「ずいぶん嫌われたものだね。それはそうと、勝つ見込みはあるのかな? あの超弩級の魔女に」
「あるに決まってんじゃん。ウザいなぁ」
「そうかな? 見込みがなくても戦わざるをえないよね、君たちは」
QBの目的は明らかだ。こちらの戦意をくじき、勝率を下げる。そしてまどかの契約を促す。まどかは優しい少女だ。自分のために戦う仲間の窮地を黙って見ていられるわけがない。その心の隙を狙っているのだ。まどかを魔法少女にしてしまえば事は済む。ワルプルギスの夜と戦えばその魔力をほとんど失い魔女になる。仮にならなくても見滝原での魔法少女の勧誘を止めてしまえばいい。グリーフ・シードを得られないまどかはやはり魔女になる。その作戦は間違っていない。
つい、この間までは。
「言いたいことはそれだけかテメエ」
「いや、暁美ほむら。君にお礼を言いに来たんだ。君は時間遡行者だったね」
「……それがどうかした?」
「君のお陰で、鹿目まどかに因果が絡んだ。膨大な素質を持ったんだ」
魔法少女の素質はその存在に絡んだ因果の量で決まるという。
それは国を揺るがす知恵と美貌を持った治水の女王であったり、王朝崩壊の原因となった傾国の美女であったり、その言葉で国を納めた巫女の女王あったり、オルレアンの奇跡を起こした平民の女であったりしたわけだ。それに比べ、ただの平凡なまどかに膨大な素質があるのはその経験則からしておかしかった。では、その原因は何か。大きな違いは……。
「時間遡行者の君が、執着する。それにより彼女に別の時間軸の因果が絡みついたんだ。君が巻き戻すたびに彼女に因果が大きくなる。君のお陰で、宇宙は救われるんだ」
魔法少女が魔女になる瞬間、希望から絶望に堕ちる感情の落差で凄まじいエネルギーが得られる。それを回収し宇宙の熱量死を防ぐのがQBの目的だ。
133 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:27:27.17 ID:LLan/tqg0
ほむらの表情が固まる。自分が求めたことが、事態の悪化を招いていたことにショックを受けていた。自分が時間を繰り返すことでまどかを余計苦しめていると知った。その痛みはどれほどのものだろうか。
「うるせえ! とっととどっかいけ!」
顔面蒼白のほむらを見ていられず、杏子は苛立った声とともに槍を作り出し突き刺そうとする。だが、それを避けるでもなく額に受けるとそのまま絶命した。一瞬、マミが悲鳴に近い短い声を上げたが、もはやそれ以上の波風は立たない。
だが、そののち、平然と姿を表したのはもう一体のQB。
「やれやれ、もう気づいていると思ったけど、僕らが一体だけで行動してると思ってたのかな」
自分の死体を食い、後処理をしながら平然と会話するQB。全員がその言動に嫌悪感しか感じていないことに、気づいてすらいない。あるいは気づいた上で無視しているのかもしれないが。
彼らに人間の善悪の判断は通じない。彼らに感情はなく、善悪の判断もない。あるのは
「あるのは、絶対の服従……アンタ、ファントムと同じってことね」
「君たちには善戦を期待しているよ。せいぜい上手く悲鳴を鹿目まどかに届けて欲しい」
それだけ平坦な言い回しで言うと、唖然とする皆を尻目に立ち去った。
ショックから立ち直れないほむら。倒れ込みそうな体を辛うじて腕で支える。誰も彼女に近寄れない。魔女化しないのがおかしいくらいの絶望を受けているはずだ。それを支えることは誰にもできない。
ただ一人を除いて。
彼女は立ち上がる。迷いなく淀みなく歩くとほむらを抱きしめる。きつく、強く、優しく、暖かく。
「あ、ま、まどか?」
「だいじょうぶだよほむらちゃん。みんな大事なこと忘れてる。私が契約しなければ、いいんだよ?」
「で、でも……」
「信用出来ない? しょうがないよね。今までずっとそうだったんだもんね」
ほむらが顔を上げる。何を言っているのか理解できない顔だ。今までは逆だった。不安気で理解できていないのはまどかの方だった。けれども今は全く逆になっている。
「私の中にね、三人の『私』がいるの。ほむらちゃんを助けた私。ほむらちゃんと一緒に戦った私。そして、そして……」
大粒の涙が溢れる。我慢できなかった。抱きしめた肩がこんなに小さいとは思わなかった。いや、それは嘘だ。まどかはほむらの線の細さを知っていた。知っていて気づかないふりをしていた。
「ほむらちゃんに、呪いをかけた私」
その言葉にびくっと痙攣するほむら。その表情はまどかがみた眼鏡をかけたあのほむらと同じだった。
(あんなに可愛いほむらちゃんが、こんなに綺麗にかっこ良くなって。でもそれは私が苦しめたからだよね)
「なんでそれを! まさか」
「違うよ……。ネミッサちゃんじゃない。でも知ってるの」
涙は止まらない。ほむらの顔を胸に抱きしめてまどかは泣きじゃくった。周りの皆は、何が起こっているのかまるでわからず息を呑むだけだ。
「ごめんなさい。私を銃で撃たせて。ごめんなさい、呪いをかけて。ごめんなさい、忠告を信じてあげなくて」
ほむらは気づいた。誰にもネミッサにさえ伝えていないことを、まどかが知っていることを。それは、ほむら以外には本人しか知り得ない言葉。
「私、魔女になんかなりたくない。だから、信じて、私が魔法少女にならないってことを」
それだけなんとかいい終わると、まどかはやっと声を上げて泣きだした。
「キュゥべえに騙される前に、私を救ってくれて、ありがとう」
134 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:28:44.50 ID:LLan/tqg0
どれだけ泣きはらしたか分からない。ほむらがまどかの背中を優しく擦るまで、ずっと涙は止まらなかった。
「だから、教えたくなかったのに。貴女が苦しむことなんてない。私がわがままでやってることなんだから」
「なら、私もわがままで苦しむ。わがままで泣く。わがままでほむらちゃんを救うの。絶対に魔法少女にならないって」
ほむらはまどかの目を見た。あのとき、自分を守ろうとしてワルプルギスの夜に一人立ち向かった決意の眼だ。
涙を拭って、精一杯笑う。見た全員が安心してしまうような、優しく力強い笑顔で。
けれども、まだ疑問が残る。なぜ、それを知っているのか。どうしてそれを知り得たのか。
「ティヒヒ、それがね、夢で見たの。夢で、教えてくれた人がいたの」
さやかは最初、まどかから聞いたほむらのことだと思った。だがそれならそうと言うはずだ。どういうことなのかまるでわからない。さやかでそれなのだ、他の全員にわかるはずがない。
まどかは真っ赤な目でネミッサを見る。また、涙が溢れそうになるが頑張って耐えていた。
「あのね、桜井さんが教えてくれたの」
幼馴染のさやかですら聞いたことがない苗字だ。まどかの知り合い全部を知っているわけではないが、その苗字の知り合いがいたようには思えなかった。そのうえ、まどかとネミッサが知っている桜井とは誰のことなのか。共通の知り合いなど、この一ヶ月にいたのだろうか。
さやかの思考中、ネミッサは沈黙していた。
ネミッサは自分の知り合いにその人物が居たか考え続けていた。
「あのね、ネミッサちゃん。桜井さんはね、門倉さんに負けてたのがずっと悔しかったの。だけど、そこから逃げちゃって、ずっと悔やんでいたの」
『門倉』。その名前が心の奥から甦る。ネミッサの表情が変わった。
「私も得意なものが何もないからだけど、得意なものがあってそれが他の人に負けちゃうってもっと辛いことなんだね。でも桜井さんは恨んでないよ。あれでやっと救われたんだから」
「ア、アンタ、自分が何言ってるかわかってるの!」
激昂し立ち上がるネミッサ。心の奥底にしまいこんだ思いを暴かれて混乱している。今にもまどかに殴りかかりそうなのをさやかと杏子が必死に抑える。
「わかるよ。だって、桜井さんの人生を、追体験したんだもの。ネミッサちゃんを救ってって」
力を失ったネミッサの体は、二人の支えが必要なほど、崩れ落ちた。
135 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:30:00.46 ID:LLan/tqg0
「ビジョン・クエストを、アンタがなんで?」
「桜井さんは、私を選んだんだって」
へたり込んだネミッサは、辛うじて顔を上げる。まどかの言葉が真実だと気付いた。なぜなら、ネミッサはリーダーの本名を誰にも伝えていない。そもそもネミッサ自身が『スプーキー』や『リーダー』と呼んでいたため、本名を忘れかけていたくらいだ。
「ウソじゃないみたいだね。アタシ、アンタらにリーダーの本名言ってないもん。その三人の『マドカちゃん』も同じ?」
こくっと頷く。
ネミッサは憶測しかできないが、キャリアを繋いだ影響だと考えた。事実、ネミッサの中に眠っているマニトゥは確かに存在している。それが外部との接触で目覚め、それに呼応しマニトゥを見守るレッドマンが桜井に姿を変えて彼女に接触したのかもしれない。或いは見守るものの役目が、桜井に変わったのかもしれない。ネミッサを見守るために。
「私がほむらちゃんにもつ罪悪感、ネミッサちゃんがリーダーにもつ罪悪感。同じなんだよ。私と一緒」
もうここまで来るとマミたちはついていけない。だが、口を挟める雰囲気ではない。じっと見つめ続けていた。
「ほむらちゃんが願ったみたいに、桜井さんもネミッサちゃんにこれ以上罪悪感を持ってほしくないって思ってる」
ネミッサは目を閉じた。準備を慌ただしく行い、余裕をなくしている自分を見つめなおしているようだった。自分の出発点を忘れ、自分を見失っていた。けれども、今行なっていることは決して罪悪感だけの産物ではない。
ほむらを、まどかを、街を、人を救いたい。それはリーダーやマニトゥを救いたい思いと同じはずだ。罪悪感にだけ急き立てられたものではない。『人』が人を救いたいという当たり前にある感情のはずだ。
長い間閉じていた目。ネミッサの心労を思い、マミが手を伸ばした。その手が肩に触れる寸前、ネミッサは目を開いた。今まで罪に急き立てられて自分を見失っていた、それに気づいたのだ。
リーダーが、まどかがそれを教えてくれた。肩に触れたマミの手が暖かい。支えてくれた手。その手を優しく包む。嬉しかった。
「アタシも勝手にやるよ。アンタみたいに。罪の意識からじゃなくて、自分の意志で」
「うん、それでいいんだって。桜井さんも言ってる」
「ありがとう、目が覚めた思いよ」
まどかはほっとして笑う。全員から事情説明を求められ、口下手なまどかはしどろもどろになりながら質問に答えていた。ほむらとネミッサは顔を見合わせ、苦笑いをしていた。
136 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:31:14.23 ID:LLan/tqg0
憑き物が落ちたような表情の二人は打ち合わせもそこそこに雑談を楽しんでいた。決戦は怖いが、もはや必要以上に恐れることはない。
「そういえばさ、さっき気になったんだけど。マミさん、口調変わりました?」
「え? そうかしら?」
さやかの違和感。それはマミの口調が微妙に変わっているような気がする、ということだ。
「なんというか、よくわからないんだけど、そんな気がするんです」
「自分じゃわからないわね。そうなのかしら」
指を顎に当てて考えるが思い当たる節はない。その仕草はいつものマミのそれであるのだが、お姉さん気質のままにこやかに笑っているし、言葉遣いもいつもどおりのようなのだが。さやかには何か違うように思われたのだ。
「へんなことにこだわるね。別にいいじゃん。……マミちゃん、お茶もらえる?」
「いいよ。……あ、足りないな。注ぎ足してくるね」
ティーポットを持ち上げた時に気づき、席を立つ。
「私もくださーい。温かいの欲しいです」
「ええ、わかったわ。皆の分も煎れてくるわね」
立ち歩く姿がとても綺麗で、育ちの良さが見て取れる。そんなマミの後ろ姿を見送って、さやかが呟く。
「なーんか違うような気がするんだよなぁ」
「うぜーなぁ。いいじゃんか、そんなこと」
さやかに突っかかる杏子とやり返すさやか。我関せずを決め込みつつ二人のティーカップをソーサごと避難させるほむら。その辺のさりげない動きがなんとも彼女らしい。さやかお得意のくすぐりの刑が始まり、テーブルを揺るがすようになるとネミッサもまどかもほむらにならい避難行動に出る。特に止めるつもりがないのはもう慣れっこだからだろうか。
あれ以来、二人は大の仲良しになっていた。似たもの同士通じ合うものがあるのだろう。ネミッサにも言ったが、杏子は自分をさやかに重ねてみている部分がある。それは残念ながらマミとの間には成り立たなかったものだ。
「ネミッサ、二人止めちゃって。こぼしちゃうから」
キッチンから顔だけだしてマミの依頼が飛ぶ。心得たとばかりにソーサを置くと、手頃なノートでふたりをひっぱたく。そのノートにマミの黒歴史が書いてあることは秘密だ。
「そろそろオシマイ。おいしい紅茶お預けよ」
「ありがとネミッサ。そろそろ明日の話しちゃったら?」
二人の間にむりくり割り込み仲を引き裂こうとしているネミッサ。マミの気遣いに心得たとばかりに頷くと、切り出した。
ここにいる皆を天海市に連れていくのだという。例の業魔殿のレストランでランチを楽しみつつ、会わせたい人がいるというのだ。そして、そのために毎日天海市とここを往復していたと。味は三ツ星に匹敵する、保証付き。
「えー、なんか堅苦しそう……」
「だからランチなのよ。夕食だとマミちゃん以外テーブルマナーしらなそうだから」
「あんたは知ってんのかよ」
「当然知らない」
「いばんなっ」
「私だって知らないよ?」
「ランチだし、どうせ個室だから平気だって」
こっそりまどかとほむらは話をしているが、ほむらが首を左右に振り、まどかがしょんぼりしたところからすると、二人もアウトらしい。無駄に全員ハードルを上げているようだが、中学生を呼ぶのだから主催者はそのあたりは心得ている。
「むしろそこで会う人を気にしようよアンタら」
「誰と会うのさ?」
「今更言うか。アタシが前に世話になった組織の人よ。魔法少女の実態を話ししたのよ。そしたらお互い役に立つようなことをしたいって思ってるらしいの」
「……なんか企んでねえか」
「大丈夫よ。向こうも利益考えてるから無償でってわけには行かないけど、アンタらにも利益になることよ」
お互いWin−Winの関係になる、そうネミッサは締めくくった。
137 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:32:14.17 ID:LLan/tqg0
穏やかな雑談を続けていた。ここ数日ですっかり強くなったまどかがほむらにベッタリでほむらが辟易していた。とは言え、ほむらも実際悪くは思っていないので邪険にも出来ない。さやかやネミッサにちょっかいを出されてはむくれていた。
「ネミッサ、お風呂入っちゃう?」
「んー、アタシ後でいいよ」
「お風呂嫌いとかか?」
「そうじゃないんだけどねぇ」
「なら一緒に入ろうか」
「嫌」
またぞろ、さやかのイタズラ心が首を擡げる。わきわきと両手を動かし、ネミッサに迫る。
「ちょ、アンタまさか」
「ネミッサは私とオフロに入るのだー!」
いつもの嫁宣言のノリで躍りかかるさやか。無理くり上着を脱がそうと襲いかかる。調子に乗って杏子も襲う。後退りしたネミッサの背後から羽交い絞めにした。さやかはいやらしい動きでネミッサのファスナーを下ろしにかかる。そういえば一時は見滝原で購入した服だったはずだが、いつのまにか今まで着ていた長袖のレザー生地の服に戻っていた。
「ちょっ、マミちゃん、マドカちゃん、助けて!」
「私が助けないこと、よくわかってるわね」
「埃飛ぶから、諦めてはいっちゃってよ」
まどかはコメント無く、にこにこ笑っている。さやかの行動がいつものことだと思っていたし、ネミッサの疲れを労るためにもいいと思っていた。
全面のファスナーを降ろされて肩紐のない見せブラがみえると、ここぞとばかりに羽交い絞めにしていた杏子が服を引き上げる。
「わ、バカ! やめろって! こらぁ!」
やや病的に青白い肩が顕になる。その右肩に、マミを庇ってついた傷の痕が生々しく残っていた。魔女の牙の形に二つ円を描くような痕が目立つ。
気まずい空気が流れる。表情を固くしたマミやほむら。まどかとさやかは口をつぐむ。
「あー、もう……、調子乗って」
怒るでもなくなじるでもなく、肩口を隠すネミッサ。
「ご、ごめんネミッサ」
さすがに謝るさやかの頭を優しく撫でる。ついでマミとほむらの方を見て笑う。
「いいのよ。気にしないで。いつかはバレるのにねぇ。空気悪くしてゴメン」
事情が掴みかねている杏子は雰囲気を察し黙っていた。だが傷跡を見せられて気づかないわけがない。あれはマミをかばった時にできたものだと。
「キョーコちゃんも気にしないで。これ、勲章のつもりなの。消したくないの」
マミを守りきった証。たとえこれからどうなっても、ネミッサはマミを守れた誇りをもって胸を張れる。その部屋が誰もいない暗い部屋だったとしても。しかし、これを見られた時ほむらなりマミなりがどんな顔をするかわかっていたはず。だからネミッサ自身にも負い目や責任はある。二人を強く詰るわけにはいかない。
なんともないとウィンクをすると一人風呂場に行く。
「大体狭くて一人しか入れないでしょー。んじゃ一番風呂いっちゃうね」
カラカラと笑うと、廊下に出ていった。
そういえば、とマミは気づく。あれだけ自由奔放なネミッサが、服を脱ぐ時はちゃんと脱衣所を使っていたこと。ちゃんと着替えを持って風呂あがりでも肌を見せなかったこと。脱ぎ捨てる杏子と違うとは思っていたがマミにとってはそれは普通だったので気にしたことはなかった。
「ごめん、マミさん、ほむら」
「謝るのは私じゃなくて、ネミッサよね。でも、許してくれてるようよ」
「あたしもちゃんと謝んないとな……」
「ほむらちゃん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。あの時私も喧嘩していたから、ちゃんと謝らないとね」
「ティヒヒ、ネミッサちゃんなら許してくれるから、一緒に謝ろう?」
「ええ、皆でね」
138 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:35:06.06 ID:LLan/tqg0
ほむらの盾の裏に布団をしまい込み宿泊の準備を行なっている間、順々にお風呂に入る一同。杏子はほむらの準備を手伝うため最後になる。まどかが入る間に二人は出発し、残りの三人で布団を敷くスペースを確保する。マミはそんなお泊りの準備が楽しいらしく、嬉々として家具を動かしていた。元々一人分でも広すぎる部屋だ。六人でも多少詰めれば並んで寝られる。来客用の布団が一式あるのでそれを敷く。あとはほむらの部屋の布団が二人分。多少きついながらも皆が横になれるようだ。
「狭ければアタシソファーでもいいけど」
「体痛くしちゃうよ」
「こっちもう少し詰められますよ」
「これだけあれば十分じゃない?」
お風呂はまだ水の音がする。まどかはまだ入浴中のようだ。その音にまじり携帯の音が鳴る。さやかが自分の携帯だと気づくと慌てて取り、廊下で話し始めた。どうやらご両親かららしい。先の家出失踪騒ぎがあったのに外泊を許した背景には、朝晩のちゃんとした連絡の約束があったようだ。へこへこと謝りながらドアを締めるさやか。図らずとも部屋は二人だけになった。
「ふふ、サヤカちゃんも大変だなぁ」
「ネミッサも大変じゃない。眠れてる?」
体を気遣い、マミは心配そうに顔を覗き込む。ソファーに寝そべるネミッサの顔のすぐ側に座る。まどろみかけてるネミッサを案じるように。その顔は母親のようであり、友達を心配する友人のようでもあった。
「大丈夫、もうひと踏ん張りだから」
「ごめんね」
肩のことだろうか。うつらうつらしながらも、ネミッサは微笑む。許すも許さないもない。マミは自分が辛い時に看病をしてくれたのだ。それがネミッサにとってどれだけ嬉しかったか。だがそれはマミも同じだ。死にかけ裏切られ心折れそうになった時、常にネミッサは側にいた。それがどれだけマミにとって支えになったか。
「ネミッサ……ありがとう」
「うん、私も、ありがとう」
互いのことを思い、微笑む。ネミッサは目を閉じる。
「私にとって貴女がどれだけ救いになったか、わかる?」
ネミッサの銀髪を梳る。硬い髪質だが細いそれは照明を乱反射しキラキラと輝いていた。髪を撫でながら、マミは心底困っていた。
(どうしよう大事な時期なのに。また私、嫌な女になってるなぁ)
確証はないが、ネミッサがここまで頑張っているのはほむらのためだ。それも、恐らくワルプルギスの夜を超えた先のことを考えている。皆がまだ戦いのことを考えているときにも関わらず、だ。
その心が自分に向けられないのがマミには悔しくてならない。ネミッサの特別になりたい。この大事な決戦を前に酷く嫌なことを考えてしまう。ネミッサの一番の友だちになりたい、と。でも、そこにはほむらもいるし、相棒もいる。
まどかとほむら、さやかと杏子が仲良くなっているのをみて、羨ましいと思ってしまったからかもしれない。
「ごめんね、ネミッサ。ふふ、私、どうかしちゃってるの」
マミに同性愛の趣味はない。だが、先輩ぶるあまり、後輩たちに一定の距離をおいてしまっているのは事実だ。それが自分への励みでもあり、同時に寂しさを生んでいた。
そこにネミッサは容赦なく切り込んできた。当たり前のようにタメ口で近づき、その身を投げ出してまでマミを救った。更にはマミの折れた心も支えた。
対等、いやそれ以上だった。マミは初めて甘えていい相手に出会えたのだ。
だがそのネミッサはマミだけを見ているわけではない。巡り続ける時間の中でほむらを救う戦いを続けている。寂しかった。
ネミッサは眠っていた。マミはそれに感謝した。漏れたつぶやきを聞かれずにすんだから。
「甘えて、いいかな。……軽蔑、されちゃう?」
さやかに指摘された時、内心仰天した。確かに、ネミッサと話をするとき、自分が同級生か年上に話をするような喋り方をしていることに気づいたからだ。皆の前ではお姉さんぶりたい自分と、ネミッサに甘えたい自分が葛藤を生み出していた。
「しないよ」
マミは心底驚いた。思わず飛び上がったほどだ。
「アタシはマミちゃんだけ見てるわけには行かないけど……全部終わったら、遊ぼ? 二人でさ」
マミが思わずネミッサに抱きついた。それに応え、ネミッサも肩に手を回す。
まどかとさやかが戻ってきた時に、あまりに衝撃的な場面に固まってしまった。それはほむらと杏子が戻るまで続き、その二人もまた固まってしまった。
139 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:36:29.06 ID:LLan/tqg0
「ま、マミさん……、ネミッサとそこまで進んでたんですねー」
「あー、なんかあたしお邪魔かなぁ…、おい、ほむら、明日からそっち行っていいか」
「そうね……。貴女も巴マミの恋路は邪魔したくないでしょうし、構わないわ」
「はぁ、マミちゃん、バレちゃったわねえ」
「ネネネネネネミッサ! ちゃんと否定して! ねえ!」
「ウェヒヒ、マミさんがすっごい動揺してる。初めて見たかも」
マミとネミッサの逢引き現場を目の当たりにした四人にからかわれつつ、夜は更けていった。時に騒ぎ、時に穏やかに過ごす時間がほむらにとって求めていたもののひとつだと、彼女自身気づいているだろうか? 皆が気づく頃にはわずかに微笑むほむらがそこにいて、あまりに自然ですぐには気づかなかった。
日頃の疲労がたまっていたネミッサが真っ先に落ち、一人また一人と睡魔に負けて沈んでいくなか、ほむらにくっつくまどかを目を細めてみているマミ。まるで母親のように見守っていた。
翌日、遅い朝食を取ると、六人が忙しなく身支度をする。さすがに一人暮らしの部屋では手狭すぎ、洗面台が大渋滞を起こした。髪型のセットに時間のかかるマミとまどかが一生懸命使う間、他の人たちは歯を磨くこともままならない。
そんななか、朝が非常に弱いほむらは上半身を布団から起こした体勢のまましばらくいた。不安に思ったまどかが何度かさすっても動かなかったため、これ幸いと皆がほむらの頭を撫でるが、一向に動く気配がなかった。
「いやさ、あのホテルで食事なんて初めてなのはわかるんだけどさ」
「そんな格好に気合い入れてどーすんだよ」
髪型や来ていく服に時間をかけるマミやまどかに苦笑してしまうのは、ずぼらな格好で済ませるネミッサや杏子。それが気に入らないのかマミは甲斐甲斐しくネミッサの髪を櫛る。当然周囲の皆はニヤニヤしているのだが。
全員の準備が終わるころには十時を回っていた。移動時間がゼロのため、マミの紅茶で時間を合わせる。飲み終わったころ移動することになった。面白いことに、ほむらがあれだけぼけっとしていたのに、すっかり出かける準備ができていたのはさすが、なのだろうか。まどかはほむらの髪をいじることができて大変嬉しそうだった。
当然移動にはネット回線を使うのだが、初めての三人は不安がっていた。一方で体験済みのさやかとまどかは落ち着いていた。不安がる杏子がなんとも可愛らしいが、時間もないので半ば強引に実体化ダイブを行う。
「うお? うお? うおお?」
「な? なになに? ふわふわするわ」
「はー、これは凄いわね……」
三者三様の驚き方をする初体験者たちを尻目に、さやかとまどかは安心しきっている。それぞれが魔法少女の衣装に準じた色の光体になっているが、魂の色がそういったものなのだろうか。
ネット回線からでた六人は、まっすぐホテル業魔殿に向かう。丁度時間通りにつく計算だ。物珍しさにキョロキョロする三人を見たまどかとさやかは、先に来たというアドバンテージで落ち着いていた。もっとも、いつもは落ち着き払っている三人が慌てふためくのをみて、逆に落ち着いてしまったというのが真相だが。
140 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:37:20.90 ID:LLan/tqg0
ランチは皆の予想や不安に反し、ビュッフェスタイルだった。さすがに中学生にテーブルマナーは難しいと主催者は判断したらしい。そのほうが気楽だ。
このスタイルが初めてで狼狽えるほむらと、目を輝かせる杏子が皆の笑いを誘った。マミは食事そっちのけでケーキのコーナーに並ぼうとして、ネミッサに引き止められた。
慣れない手つきで食べ物を取るほむらと、それを嬉しそうに手伝うまどかがいつもと逆で新鮮だった。
少食のほむらが胸焼けするほどの量をとった杏子は満面の笑みで食べまくっていた。
ちなみに、ビュッフェとバイキングのおおまかな違いがあるらしく、前者は料理を取るのは一度で後者は食べ放題というスタイルらしい。もっとも、杏子にはどちらも関係がなかった。何しろ何度も取りに行くのだから。
「杏子、なにその皿の盛り方……。山になってる」
「いーだろ。おい、ほむら、食ってるか」
「貴女の食べっぷりで食傷気味よ」
「食べ物残すんじゃねえぞ、殺すかんな」
「アンタが残ったの食べてあげればいいじゃん」
「おお、あんたいいこと言うな。ほむら、よこせ」
「まだ食べる気なの杏子ちゃん!?」
「レアなまどかツッコミが入りましたー」
「マミちゃんは真っ先にケーキ行ったけど、帰ってこないね」
「……マミさん、向こうでパティシエと話してた。すっごい楽しそう」
「ネミッサが引き止めてたのがまるで無駄ね……」
「マミが戻ってきたらあたしもケーキ行くか」
「まだ食べる気なの杏子ちゃん!?」
「レアなまどかツッコミがまた入りましたー」
「同じ事しかいってないけれどね」
「同じ事しかいえなくなっちゃってるんだろーね」
「ただいまー。ほらケーキ綺麗よー」
「真っ先にデザート取り行ってどーするのよ」
「お、それウマそうだな。あたしも行くぜ」
「まだ食べる気なんだね杏子ちゃん……」
「レアなまどか弱気ツッコミが来ました」
「あらあら、暁美さんと鹿目さんは元気ないわね」
「アンタらいーかげんにしとけ!」
全員がげっそりするまで健啖家の杏子は料理を堪能した。『残したら殺す』という最低な脅迫の元、食の細いほむらとまどかはダウン気味になった。ダウンしたままさやかとマミに介抱され椅子に腰かけている。
ネミッサは皆を待ち合わせの個室に移動させると、人を呼ぶということで席を外した。食後の紅茶も上質ではあったが、あの時と同じように味を覚える余裕すらなかった。
141 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:38:23.88 ID:LLan/tqg0
一同が席に座っている中、ドアが開く。ネミッサが連れてきたのはスーツ姿のものすごい美女だった。ミステリアスな雰囲気と風貌で場の空気を一転させてしまったほどだ。いわゆる、『大人の女』だ。
「初めまして皆さん。食事はいかがでしたか」
一瞬、男性とも思えるほどのハスキーな声が、それが逆に凄艶な色気を醸している。そこに威圧的なものがなく友好的な声色しかないものの、一同が飲まれるほどの存在感だ。
「マダム、端から紹介するわ」
とほむらを示す。合わせてほむらは立ち上がり一礼する。
「この子が暁美ホムラちゃん。魔法少女よ。美人でしょ。不器用なところもあるけれど、優しくていい子よ。アタシ嫌いだけど」
「……喧嘩なら買うわよ」
次に示すのはまどか。ジト目で睨むほむらは見なかったことにした。
「この子は鹿目マドカちゃん。魔法少女じゃないんだけどね。とっても可愛いでしょ。最近はホムラちゃんが大好きなの」
「ネミッサちゃん何を言っているのかな!」
真っ赤になって叫ぶまどかを無視しさやかを示す。立つようにジェスチャー。
「こちらは美樹サヤカちゃん。魔法少女でマドカちゃんの親友なの。真っ直ぐでいい子なんだけど、最近フラれちゃったの」
「あんたがそれを言うか! あんたが!」
歯を見せて唸るさやかをスルーし、次に指すのは杏子だ。
「こっちは佐倉キョーコちゃん。魔法少女のベテランよ。ちょーっとネジ曲がってるけど、根はいい子なのよ」
「よしお前表出ろ」
笑顔で青筋を立てる杏子のセリフを聞き流す。最後にマミの番だが……。
「ふふ、ずいぶん楽しそうね。最後の子は『巴マミちゃん』ね」
「あ、え……」
紹介されるものと立ち上がったマミは肩透かしを食った。同時にちょっと狼狽えている。立ち上がる中途半端な姿勢のまま止まってしまう。
「ネミッサが頻りに貴女のことを話すものだからすぐ気づきました。よほど貴女のことが好きなのでしょうね。いつも嬉しそうに自慢しているのですよ。一番のお友達だと」
耳まで真っ赤になるマミとネミッサ。先ほどの仕返しとばかりにほむらたちは拍手する。
「なぁ、やっぱりマミんとこ居られないから、そっち居候するわ」
「ええ、杏子もさすがに二人の愛の巣は邪魔できないわよね」
「いやぁ、さっすがネミッサ。進んでるなぁ」
「え、えっと、お幸せに、ネミッサちゃん」
マミはいいとばっちりだが、反撃を受けてネミッサは撃沈した。
142 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:39:13.69 ID:LLan/tqg0
「え、えっとね。こちらは『葛の葉』のお目付け役なのよ」
「皆からは『マダム銀子』と呼ばれています。銀子、と呼んで下さい。……皆さんのことはネミッサからよく聞いています。こんな子だけれど、仲良くしてあげてくださいね」
銀子はそういうとにっこり微笑んだ。
「ま、マダム? 肝心の話をしない?」
苦笑しつつ話を促すネミッサだが、真っ赤になってるマミともども皆にいじられている。何とか話を変えてもらおうと必死になっているが、当のマダムはにこにこして話をしない。いじり終わるのを待っているようにも見えてしまう。居心地の悪さを感じて落ち着かない。
「ふふ、話も何も、本来は皆さんの人となりを確かめるだけで十分なのよ。皆いい子じゃないの。貴女の言った通り。全員とお会いできてよかったわ」
憤懣やるかたないネミッサ。まだニヤニヤしている四人が恨めしい。復讐で全員の携帯を電撃でお釈迦にしてやろうかと思ったその時だった。うまい具合に紅茶を煎れてきたメアリがドアを開け、場の空気を少し変える。
「我々『葛の葉』ではあなた方魔法少女と協力関係を結ぶことを期待しているのです」
紅茶を堪能してしばらくしてから、マダムは切り出した。
「そちらの必要な物をこちらから提供する代わりに、力を貸して欲しい。そういった関係ですね」
にこやかに微笑んでいるマダムの真意をはかりかね、魔法少女達は言葉を失う。だが、ネミッサの提案に寄るものが悪いもののはずがない。
「私たちの組織のスタッフ『サマナー』の活動と戦闘の補助。あるいは魔法による諜報活動などの補助を行なってもらいます」
ある程度予期していたのだろう。あまり皆の表情は変わらない。
「そのかわり、生活や就学の支援、衣食住の保証。家族がいない方には保護者や後見人を立てます。暁美さんのようなケースには武器の支給なども考えています」
「要はあたしたちを兵隊にしたいってことか」
「お互い利益のあること、と思っております」
「信用されると思っているの?」
ネミッサは渋い顔だ。QBの件もあり、こういった契約に慎重というか怯えているのもあるのだろう。一度騙されたという痛みがあるため、皆一様に懐疑的だ。
「今すぐに決定を促すわけではありません。私どもとしては条件を変え、皆さんに協力して頂けるように検討し直しますよ」
まだ皆の表情は固い。ネミッサはその顔を見て、渋い顔をしている。その中、たった一人まっすぐマダムを見る人物がいた。
「私は、あなたを…、ネミッサが信じるあなたを、信じます」
そう言い切ったのはマミだ。隣にいるネミッサを見て微笑むとまっすぐマダムを見やる。緊張してる目だが、怯まないという意思も見える。マダムは好感をもった。ネミッサを信じようとする姿勢を評価したわけだ。
「ありがとうマミさん。でも、今はまだ即決する案件ではないのです。こういった相互支援を考えている、それだけわかっていただければいいのです。ただ、ネミッサを信じてくれたこと、感謝します」
そういってマダムは頭を下げた。
「なー、あれさ。あんた信じないわけじゃないんだけど」
「いいよ。別に。今の今決めろって話じゃないし。まだ足りないものあるし」
まだマダムもネミッサも言えないが、魔法少女への援助の中に足りないものがある。公表が出来ないため、話にパンチが足りなかったのは否めない。それをはっきり言い切れれば、恐らく魔法少女を組織だって編成することすら出来るはずだ。
「ただね……、実際戦うにはああいうバックアップが必要なのよ」
それは真理である。相棒とともに戦ってきたネミッサにはその必要性がよくわかる。悪魔を撃つ弾丸一発とてタダではない。それを調達する専門の人員が必要になるのだ。それを皆は感じ取ってくれたかどうか、ネミッサには自信がない。目を伏せてうつむいた
「ねえ、それって、私達の戦いを知ってくれる人がいるということ、なのよね」
ネミッサは顔を上げる。そこにはマミの穏やかな笑顔があった。その言葉に全員が驚き息を呑む。人知れず感謝もされず戦ってきたマミにとって、自分の戦いを知り援助してくれる人の存在がどれだけ救いになるか、よくわかっていたのだ。
ネミッサがあの時言った『後方支援』の意味を改めて実感したのだ。
マミが真意をしっかり理解してくれたことにネミッサは思わず涙ぐんだ。
143 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:40:47.26 ID:LLan/tqg0
マダムとの話し合いのあと、そのマダムにほむらだけが呼ばれた。
「貴女は近代兵器を使うのでしたね。我々が持っている携帯火器で一番威力があるものをお渡しします」
「盾のこともネミッサは話しているのね」
「ごめんなさい。ネミッサを責めないでくださいね。そして、これもお渡しします」
一抱えもありそうな物々しい銃を見てほむらが軽く引く。それ以外にも非常に高価な爆弾も大量に渡してきた。どれもこれも組織で扱っている強力な武器だ。先の銃は威力も高いが弾丸の装填も必要ない。値段もかなりするシロモノだ。
「私たちは貴女の話に乗ったわけではないのだけれど」
「心配性ですね。ネミッサは我々の仲間なのです。そして、ネミッサの助けをするために貴女を支援しています」
「お礼をいうべきなのかしら」
「それは、戦いが終わってからで構いません」
ほむらは魔法少女に変身し、盾の裏に武器を収納する。これは質量や体積を無視してモノを格納できるため、昨日のような布団からタンクローリーや軍艦まで収納できる。さやかに言わせると『ほむえもん』といあだ名になるそうだが、まぁそういうことだ。
「それと、これも」
マダムは銃弾を手渡す。見たこともない色と紋様にほむらが不思議がる。魔法で武器を作れないほむらにとっては携帯火器は(甚だ不本意ながら)趣味と実益を兼ねるようなものになりつつある。そのほむらが見たこともないそれは恐らく悪魔絡みのモノなのであろう。
「これは特殊な作り方をしております。魔女に対して有効に働くはずです」
「拳銃の弾程度ではワルプルギスの夜には意味が無いでしょうけれどね」
「全く無意味とは限りませんが……、使うには貴女の覚悟が必要と思います」
ほむらが銃弾から目を離しマダムを見る。その視線にほむらの事情に踏み込んだことに対する嫌悪がにじみ出ていた。
「ごめんなさい。でも、これはネミッサからのお願いでもあるのです」
「全く、しょうがないわね。勿論、その説明をして頂けるのよね」
「ええ、当然。これはね……」
ほむらやネミッサがモノを受け取る間、ロビーで寛ぐ一行はメアリが用意した茶を喫しつつ、雑談をしていた。概ねネミッサの人脈や行動が雑談のタネである。
「ネミッサ、ものすっごい準備してるんだなぁ」
「学校行ってる間なにしてるんだろうって思ったけど、こういうことだったんだね」
「こないだも眠そうだったけどよ、寝てねえんじゃねえだろうな」
「あんまり寝てないみたいなのよ。倒れちゃわないか心配だわ」
そんなマミの心配に、三人がヒソヒソしだす。その様にマミがまた狼狽える。さやかと杏子はわざとらしく口でひゅーひゅーとはやしたてる。ちなみに、ネミッサを追い詰めていた罪悪感はまどかのおかげで払拭されている。皆が心配することもないはずだった。
「う、も、もう! あんまり言うと、ケーキ出さないわよ」
「聞きました杏子さん。きっと私たちの分をネミッサに多くだすのですよ」
「まぁ、それは素敵ですね。羨ましい」
「ちょっとちょっと! お願いだからもうやめて……」
本気でしょげるマミを中心に笑顔の花が咲く。
144 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:41:35.96 ID:LLan/tqg0
「仁美、話がある」
「はい、なんでしょうか」
「見滝原の市長が受け入れてくれた」
「ああ、それは。ありがとうございます」
「私の娘とはいえ、子供の意見を受け入れてくれるとは思っていなかったのだが。なにか思い当たることはあるかな」
「いえ…? 何かあったのでしょうか」
「はっきりは言わなかったが、私たち以外からも陳情があったようだ。お前の知り合いかと思ってな」
「思い当たりません。多分違いますわ。これは私の戦いですもの」
「……いつからそんないい顔をするようになったのかな。上条のご子息との恋のせいかな」
「お、お父様! そんなことを。でも、間違ってはいないと思いますわ。……きっとライバルのせいでしょうね」
「未だに信じられないのだよ。確かに異常気象の兆しはあるらしいが」
「普通は夢物語でしょうね。でも……」
「わかっている。何もなければ何もないでいいのだから。私は自分の娘を信じる」
「ありがとうございます」
「これから物資の手配も行おう」
「お手伝いいたします、いえ。自ら私もやりたいのです」
「ならば協力してもらおうか。この街を守るために」
「恭介、皆賛同してくれたよ。準備をしてくれると約束してくれた」
「本当に!? ありがとうお父さん」
「これはお前の手柄だよ。確かにその時、私たちの力が必要になるかもしれない」
「うん、絶対に必要だし、僕らは力になれる」
「まだ連絡がいってない団体もある。私の方から連絡しよう」
「ありがとう父さん」
「だからお前は少し休みなさい。……最高のバイオリンを聞かせたい相手がいるんだろう」
「と、父さん!」
「いい子なんだから、ちゃんと応えてあげるんだよ。『最高のミュージック』のためにもね」
「そ、そうだね。僕の『最高のオーディエンス』だものね」
145 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:42:28.48 ID:LLan/tqg0
それから数日はまた魔女退治の訓練と学校との二重生活が続く。大きな怪我もなく、さやかの実力も上がり、成果も表れつつある。
ほむらはマダムから譲られた武器の試射をするため、結界に入って間もなく例の物々しい銃を撃ってみた。
「……これは、ネミッサに文句言っても仕方ないのよね……」
広範囲に渡り魔力で出来た弾丸を無数に発射する仕様だったが、視界にある使い魔や結界内の建造物を一瞬で殲滅した威力に全員が唖然とした。さやかやまどかにいたっては涙目になっている。
「ごめん、なんかごめん」
「ネミッサのせいではないわ。けれど、前衛の杏子を巻き込みかねないから扱いづらいわね」
「ちょい待て! 私だって前衛なんだけれど? あんなの撃たれたら回復する間もなく消しとんじゃうから!」
「暁美さん、さすがにその冗談は……」
「使い所を間違えなければいいんだよ。ほら、爆弾だって同じだろ?」
「フォローありがとうキョーコちゃん」
「私の背中を容赦なく狙いそうで怖い……」
さすがにそのあとほむらがそれを使うような真似はしなかった。通常通りの火器を使い皆のフォローを行った。いくらなんでも冗談でそんなことはしない、……はずだ。
「あの日に間に合わせられたらいちばんよかったのだけれどね」
「うーん、仕方ないでしょ」
「申し訳ない。こればかりは我々の力不足でした」
「もう、いいじゃないの。私が預けた一つしか無いんじゃ研究も進まなかったでしょ」
「いえ、それがですね。『使用済み』をいくつも持ち込んだ人物がいまして」
「へっ?」
「貴女の使いと言っておりました。我々も不審に思いましたが、結局単純に研究が進んだけでなんの障害もなく」
「特徴や防犯カメラから察するに、彼女たちではないのよ。罠とも思ったけどね」
「魔法少女よね。思い当たる人はいないな。ちょっと気味が悪いわ」
「用心するに越したことはないわね」
「ともあれ、お預かりしたものと『試作品』を4つお渡しします。このケースなら安全に持ち運べますよ」
「持ち込んだ二人組については調べておくわ。特定できたら知らせるわね」
146 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 21:43:03.73 ID:LLan/tqg0
「やぁまどか、この間はどこに行っていたんだい?」
順調に準備が進む、穏やかな夜を迎えていたまどかのもとに、QBが現れる。これから眠るというところで現れたそれに、無意識ながら嫌悪の顔がでるまどか。
「何しに来たの?」
「そう邪険にしないで欲しいな。あのあと君たちを丸一日見かけなかったから気になってね」
「教えないよ。本当に知らないならいいじゃない」
正直自分がそんな邪険な言い回しを出来るとは思わなかった。あの大好きなほむらを直接攻撃したことにまどかは怒りすら覚えていたのだ。桜井の手助けがなければどうなっていたかわからない。
「まぁ、それなら仕方ない。この間言い忘れたことを言おうと思ってね」
そんな言い回しもわざとらしい。抑揚のない言い方も白々しく聴こえている。正直もう眠る時間なので相手にするつもりもない。ほむらのため明日も朝早くからお弁当を作ってあげたいのだ。
「聴こえているんだろう。まぁいいや。こないだほむらの時間の巻き戻しが君に因果を絡めたと言ったけれど、あれだけじゃないんだ。もう一つ彼女が執着しているものにも因果が絡み付いて、魔力が強くなっている可能性があるんだ」
はっとするまどか。さすがに内容に驚き、QBを見つめてしまう。
「気づいたようだね。あのワルプルギスの夜にも彼女は執着している。彼女が巻き戻すたびにワルプルギスの夜も強くなっているはずなんだ。君に執着しているようにね」
口が乾く、動機が激しくなる。
「そ、それじゃ……」
「そうだね。それが事実ならば、彼女たちがワルプルギスの夜に勝つのは低いだろうね」
「そ、そんな……」
「僕は嘘をつかないよ。可能性にすぎないが十分にありうる。そしてワルプルギスの夜に勝てるのは、同じだけの因果を絡みつけた君だけ、だろうね。それじゃ伝えたよ。じゃあね」
それだけ言うとあっさり姿を消した。ほむらの士気を挫く作戦から、まどかの不安を煽る方向に変更したようだ。しかもまどかには今まで自分が三度戦ったワルプルギスの夜の記憶がある。それが自分と同じだけ強くなってしまったら……ほむらの戦い方では勝てない。皆がいるからとも思うが皆が無事である保証もない。
今の話を皆に話するのは躊躇われた。勝てないから逃げろというのか。助言をしたところでどうなるのか、判断がつかない。怖かった。皆がいなくなるのが怖い。
「大丈夫だよねほむらちゃん」
祈らずにはいられなかった。
そして夜が訪れた。
147 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 22:04:44.49 ID:LLan/tqg0
筆者です。
サーカスでいうところの『地走り』や『道具方』が活躍いたしました。
からくりサーカスの受け売りですけどね。
皆さんの希望のキャラは、違和感なく登場できたでしょうか。
何を思ったか、ネミッサとマミちゃんがカップリングしてしまいましたが
エロスな期待はしないでください。そんなスキルはありませぬ。
例のキャラが勝手に動く状態のため、あれよあれよという間に二人が仲良くなってしまいました。
そのため、若干杏子が影が薄くなってる気がします。ごめんねあんこちゃん。
今までいくつかまどマギのSSをまとめで読みましたが
皆さん心情描写がうまくてうらやましい限りです。
自分は隆慶一朗先生の作品を、本が壊れるまで読んだためか
あの人の行動を描写する手法の方がしっくりくるようです。
今後似たような文章を見つけたら、『ああ、あいつだ』と、
苦笑いしてやってください。
さて、明日こそ、開演ブザーが鳴り響きます。
ほむらたち魔法少女の一世一代の大舞台、ぜひ、ご覧ください。
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/08(火) 22:32:34.19 ID:6D0LZTPd0
魔女化から元に戻る展開があっさりしすぎだろ
クロス側の力でまどマギ側の問題を解決するのって茶番もいいところだぞ?
少なくとも魔女になった時点で元の魂は燃えかすになってる様なもんだぞ
死人を蘇らせる様なもんだ。ご都合主義にも限度がありますよ?ちゃんとそこらへん考えてるのか?
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/08(火) 23:20:43.86 ID:9ts1m3qy0
そもそもメガテン世界は神話の連中がいたりオカルトが世界の裏側でごろごろしてるから魔女から人間に戻せるのも不可能ではないができると思うが。あと死人をよみがえらせるのも上位の悪魔の力を借りればできそうだ。
あとプレアデスが目指してたこともメガテンの力があればできそうだ、まじでメガテンはいろいろとぶっとんでるな。
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/08(火) 23:25:04.15 ID:MykpssVFo
>>147
エロスキルがないならこの機会につければ良いじゃない、幕間にマミッサイチャラブ濃厚はよ
151 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/08(火) 23:58:49.20 ID:LLan/tqg0
筆者です。
>>148
ご批判痛み入ります。確かにご都合主義が過ぎたなと、反省しております。
自分の力のなさゆえの強引なストーリー展開の批判として、受け止めさせていただきます。
だいたい死人が生き返るならスプーキー生き返らせろよ、ってところですものね。
ですが、言い訳をさせていただければ、
他の時間軸の『さやか』とまどかの因果の力があってこその蘇生と思っております。
白山比淘蜷_(しらやまひめたいしん)は菊理媛神(きくりひめ)と同一視され
イザナミとイザナギの夫婦喧嘩を仲裁した神様です。またケガレを払う神としても扱われております。
その神と、まどかの絶大な力の欠片で復活できた…と、いうのは苦しいでしょうか。
>>149
まどマギのファンからすると、メガテンのカオスぶりが目に余ったのではないかと思います。
誰も指摘しませんが、ネミッサが「メアリー・スー」と化してますし。
ただ、死んでいた期間を考えると、疲労困憊>休息>戦線復帰 という流れでもよかったかも知れません。
あるいはほかのSSのように記憶喪失など障害(いわゆるペナルティ)もありえました。
そういう意味では勉強させてもらったな好意的に解釈しております。
>>150
作中でマミちゃんは同性愛の趣味ないって書いて逃げていたのに……。
ネミッサには同性愛とかそういう倫理観っぽいものがこれっぽっちもなさそうなので
気まぐれに襲い掛かるような可能性もあります。けれど、
それこそマミちゃんのファンから怒られそうです。
>>148
さんみたいに。
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/09(水) 05:21:12.03 ID:XZHBV2ryo
作者は
>>148
気にしなくて良いよ
いろんなクロススレに同じこと書いてる荒らしだし
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/09(水) 06:22:05.94 ID:b1eS8yH2o
>>151
逃げれると思った?残念!
幕間でなくても良い、番外的ななにかでも良い、それでもどうか、お願いだから、貴方のエロスを私に見せて
154 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2013/01/09(水) 18:51:08.50 ID:CpsHHcoD0
ぶっちゃけメガテンシリーズの登場人物たちって、ルシファークラスの大悪魔や果ては唯一神までぬっ殺すどころか契約してこき使うような豪の者ばかりですし。
他から見りゃご都合主義に見えることでもワリと簡単にやってのけてしまえるから困るw
むしろご都合主義だろうとハッピーエンドなら万々歳よ。理不尽は覆してなんぼさ。
ワルプル戦は3クロニクスの閣下戦みたいな半分無理ゲーみたいな感じになるのかなぁ…
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/09(水) 19:23:31.71 ID:rrilOjATo
>>101
の白山比淘蜷_って、誰かと思ったらキクリヒメのことか
P4Gではメディラマにお世話になりましたわ
156 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/09(水) 21:16:14.89 ID:Efo00a1f0
筆者です。
本編ではないのでsageで書き込みます。
>>152
お気づかいありがとうございます。
これ以上はあまり触れないようにいたします。
ご都合主義ぶっちぎりですが、お付き合いくださいまし。
>>153
うう、なんでそんなリビドーになまら正直なんですか……。
直接的なエロスでなくてもいいなら……頑張ります。
マミちゃん、ごめんよ。なして君はキュゥべえといい、
人外と絡むのよ。
>>154
アトラスの作品でも、デビルサマナーシリーズは主役は人間で
悪魔は道具的な扱いなのでまどマギにからめやすいと思ったのです。
人修羅なんぞだそうものならワルプルギスを食い散らかしそうなので
だせませんでした。
お察しの通り悪魔は力が強すぎるので、ある制約をしてあります。
あくまで魔女と戦うのは魔法少女と、ネミッサです。
>>155
これは自分のメガテンへの解釈なのですが。
キクリヒメが分霊、白山比淘蜷_が本霊といった位置づけです。
ちなみに本霊とは、神様そのもの。分霊はその本霊がさまざまな目的で
自分の魂を分離し人間世界に送り込むための存在のことと思ってます。
デビルサマナーではその分霊と契約し使役する、と理解しています。
そのため、同じ名前の神様が大量に存在し、本霊の入れ込み具合により、
作品ごとのレベルや性質や外見が違う
……のではないか、と思っております。
そういうバックボーンを説明しなかったのは
ちょっと不親切で失敗したな、と思ってます。
分霊のキクリヒメが、まどかの因果の魂を少しだけ喰って
本霊である白山比淘蜷_に匹敵する力を行使できるようになった。
という体で話を進めました。
白山比淘蜷_という名前にしたのは、アトラス信者には
にやっとしてもらいたかったのです。
狙いは、当たったでしょうか。
157 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:29:20.70 ID:Efo00a1f0
筆者です。
お待たせいたしました。
間もなく演目「ワルプルギスの夜」が始まります。
自然災害に匹敵する魔女に、魔法少女は、ネミッサは、
いかに立ち向かいその魂を燃やすのか。
そして彼女らを取り巻く人々は何を願うのか。
そして、誰が、彼女らとともに戦うのか。
間もなく、開演です。
158 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:30:16.67 ID:Efo00a1f0
「二人のサマナーが職務放棄を致しました」
「誰? って彼らしかいないわよね……、困った子たちね。やっぱりあの依頼者を知って?」
「はい。またたく間にガルーダを召喚して飛び乗ると、ものすごい勢いで飛び出しました」
「相変わらず惚れ惚れする決断力ね。日中町中で悪魔を呼び出して、懲罰ものだけど。仕方ないわね」
「間に合うでしょうか?」
「愚問ね、彼なら間に合わせる。そういう男だもの。貴方も見習うことね」
「懲罰は見習いたくありませんけどね」
その日、朝7時を以って見滝原全域に避難指示が出される。前日夜半から発生した異常気象による情報により、スーパーセルが発生することが観測されたためだ。防災無線などが避難を呼びかける中、住民は最小限の荷物を持って避難場所への移動を行った。
まどかの家族も避難するため荷物をまとめていた。
「ほら、まどか。準備して」
「う、うん」
「不安かい。大丈夫さ。皆も避難してるよ。それに、なんか今回は別の避難場所もあるみたいなんだ。回覧板で回ってた地図もあるし、そこなら安全だよ」
専業主夫の父親が促す。まだ空は暗いが雨は降っていない。その曇天の下、彼女の友人たちは嵐に戦いを挑むのだろう。
まどかは後悔していた。
ワルプルギスの夜が自分と同じように強くなっていことを伝えるべきではなかったかと。だがそれを伝えられたほむらはどうなってしまうかと思うと、言い出せなかった。土壇場になって自分の意気地の無さが恨めしい。自分は強くなったはずではなかったのか。
(ごめんなさい……ごめんなさいほむらちゃん)
159 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:30:54.58 ID:Efo00a1f0
夜が来る。嵐が来る。真夜中の嵐のサーカス一座。ワルプルギスの夜。
統計通り上空から巨大な歯車にぶら下がった奇怪な魔女が現れる。風が徐々に強くなっていく。
川のそばに魔法少女と女悪魔が佇む。全員すでに変身をしており、ネミッサにいたっては天海市で使った防具を体に合わせ直して衣服の下に身に着けていた。更に、腰には左に四つ、右に二つの金属製の筒を下げている。胸にはチェーンを付けた『さやか』のグリーフシードを下げている。ネミッサが喰って以来孵化をしないらしく、お守りとして大事にしていた。
皆には神酒や小型の爆弾などを配っており、戦力の底上げをしていた。また、本人の希望に合わせて魔晶化した武器を渡してある。それに慣れるための厳しい実践訓練もしてある。出来る準備は全て行なっていた。
また、さやか救出の際に使用したキャリアの通信機能、念話を今回も使っている。ここからは距離があるがまどかや仁美、上条にも繋いである。距離が近づけば接続し、候補生ともQBの中継を必要としない念話が可能だ。更にこれはネミッサの中継をも必要としない。キャリア単体が念話を繋ぐため、たとえネミッサが気を失っても魔法少女同士の念話は可能だ。
D
「武者震いってーの? してきたぜ。ありゃぁでかいなぁ」
ネミッサが支給した小型爆弾を弄び、杏子が豪胆にも言い放つ。だが槍を握る手は震えている。
C
「あ、あたしちょっと緊張してきた……でも、今日まで頑張ったんだ。負けないっ」
渡された剣を握りしめ、さやかがためた息を吐く。一週間最も厳しく指導をされた彼女の眼光は力強い。
B
「そうね、私達の後ろには街と、鹿目さんが居るんだもの、負けられない」
いつもと変わらぬ佇まいの中に決意を秘め、マミは微笑む。傍らにはネミッサが準備した八本足の異形の悍馬が佇む。
A
「出来る準備は粗方やったんだ。あとはぶつかって、ぶっ飛ばすだけだよ」
銀毛を靡かせる雄々しい巨大な虎にまたがり、ネミッサが意欲を示す。この虎といい悍馬といい、ネミッサが用意した悪魔であり、足である。サマナーから貸与された忠誠心も強く強力な悪魔たちだ。
@
「みんな、無駄話はここまでよ。来るわ」
嵐を睨みつけたまま、極めて冷静にほむらが呟く。何度もほむらの前に立ちふさがる悪夢に再び立ち向かう。
あらしのサーカス かいえん
160 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:31:50.53 ID:Efo00a1f0
「アハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハ」
耳障りな笑い声を上げ、舞台装置の魔女が顕現する。巨大な歯車の下に逆さまにぶら下がった人形の魔女。巨体から想定される質量を感じさせないまま、浮遊する。
その巨大な体と魔力に皆が飲まれる中、ほむらが動く。さすがに何度も戦いを挑んだ彼女だ。足元にバズーカ砲を配置する。盾から一本ずつ出すのではなく、どうやら配置する場所に瞬時に出せるようだ。それを時間停止したまま一本ずつ撃ちこむ。時間停止の範囲外にでた榴弾はそこで停止する。次々に撃ち込むほむら。すべて撃ち終わると魔法を解除する。
次々に夜に着弾し爆発を起こす。その動きと音に、飲まれていた少女たちが動き出す。ネミッサは魔女を誘導する地点に先回りすべく、虎の首を軽く叩く。慌ててまたがる杏子を物ともせず疾走する虎は俊敏だった。それにつられるようにマミもさやかとともに悍馬に騎乗し移動を開始する。元々の場所にいなかったのは夜の誘導の成否により主戦場が変わるためであり、ネミッサの用意した乗り物たちが彼女たちの魔力を損なわず高速移動できるからだ。
ほむらは皆が移動したのを視界の端に捉えながら、発破のスイッチを押す。夜の背丈を上回る高さの鉄塔が倒れこみ、その動きを封じる。更にもう一本倒れた鉄塔を伝い、タンクローリーが走る。その屋根の上にのるほむら。
魔力により曲芸のような走りを見せたまま、夜の顔面目掛けてぶち込む。と同時に件の銃を取り出し、直撃する直前に時間停止して打ち込む。広範囲に放たれる魔力の弾丸が夜の全身にあたり、追い打ちをかけるようにタンクローリーが激突し炎上する。
一瞬早く落下して避けたほむらは海に落ちる直前に軍艦を取り出しその上に着地する。甲板から魔力を送り込み操作がでいるため、そのまま主砲を撃ち出す。砲弾が夜に直撃し対岸の工場地帯に押しこむ。ガスタンクに激突した夜は一際大きな爆発に放りこまれた。
その一連の連続攻撃に皆の肝が冷える。あれだけの爆発に巻き込まれたら普通の魔女であれば消滅している。だがその炎を背景に夜はそそり立つ。ここまではほむらの考える『先手』だ。
「アハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハ」
次はネミッサの番だ。工場地帯の鉄塔を虎と共に飛び上がり、上空から極大範囲の電撃魔法を降らせる。一回、二回、三回と空中で連続して叩きこむ。夜を自らが生み出した使い魔ごと巻き込んだ。巻き込まれた使い魔は一瞬で蒸発した。
打ち合わせ通りの回数、虎の背で雷の雨をやり過ごした杏子が『三番手』だ。かなりの高さから飛び降りると、猛スピードで接近した。槍を多節棍に変え巨大化させ高度を下げた夜に絡みつかせる。完全に拘束する必要はない。マミの狙撃が終わるまで絡みつければいい。槍の穂の部分を地面に突き刺し拘束する。
『四番手』のマミは既に準備ができている。半ダースもの巨大なマスケットを用意し、それをリボンで自分と繋ぐ。その射線上には使い魔も何もない。悍馬に跨りながら放つその魔弾は一つ残らず夜に吸い込まれる。爆発と閃光。杏子の多節棍がちぎれんばかりに悲鳴を上げる。
最後はさやかだ。『五番手』として馬から飛び降りると、空中で足場を作りつつ夜に飛びかかる。振り下ろすサーベルを瞬時に巨大化させると、持ち前の速度で斬りつける。多節棍を引きちぎり吹き飛ぶ夜は、無人の工場に叩きつけられる。
目から上がない貴婦人は、まだ笑っている。
「まだ終わりではないわ」
一連の攻撃で時間があったほむらが到着し参戦する。盾の中から無数の爆弾を取り出すと連鎖的に爆発させる。これはネミッサが用意したもので、通常のそれとは違い魔力を伴う爆発を起こす。そのため、単純な爆薬より効果がある。
爆炎が収まるまでの間、皆は一様に夜を見据えていた。これで撃破できればよいが、恐らくは無理だろう。ここからは乱戦となる。皆の訓練と能力を信じ、マミの砲撃を効果的に叩きこむ戦いが求められる。
「これで片付けばイイんだけどねー」
「そう簡単には行かないわ」
「ですよね〜」
「美樹さん、茶化さないの。集中して」
「へっ、素質がイイからって油断してると、一発で終わるぜ」
「わ、わかってるよ」
爆炎が収まる。皆の目が戦士のそれに変わる。
杏子、さやかが動くと残りの全員が動き出した。
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/09(水) 21:32:45.66 ID:b1eS8yH2o
>>156
わーいわーい
とにかく本編待ってる
162 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:34:20.59 ID:Efo00a1f0
地下の避難所では住民が肩を寄せ合い恐怖に怯えていた。徐々に大きくなる風の音。一際大きな音がするたびに地上のものが崩れる音が不安をかきたてる。
そして、ガスタンクの大爆発が地面を揺るがす。天井の即席の照明が激しく揺れるほどだった。不安に負け泣き出す子供達。まどかは小さな弟を抱きしめながら、不安と戦っていた。幸いここは都市の洪水対策の地下水路の一角だ。大雨で川が増水しても海に向けて排水する水路が作られている。やや黴臭いその中に即席の避難所が作られており、毛布や段ボール、飲料水などが少ないながらも備蓄されていた。
「どっかで爆発でもあったのかね。まぁ、ここなら大丈夫さ」
女傑のような豪胆さで母親の詢子が笑う。それに合わせて夫の知久も優しい声で言う。
「ここはとても丈夫みたいだからね。家庭菜園が心配だなぁ」
こちらも底抜けに明るいことをいい、まどかを安心させようとする。先程からまどかの表情が強ばっていたため、努めて明るく振舞っていたのだ。
「そういや、ほむらちゃんやさやかちゃんはここに避難していないのかな?」
その名前にぎくっと体を震わせる。
「場所がちがうんじゃないかな?」
「ちゃんと避難してるといいけどね。とくにほむらちゃんは一人暮らしなんだろう。大丈夫かな」
「うちのまどかよりしっかりしてるそうだから、心配ないさ」
『心配ない』……その言葉に唇を噛み締めるまどか。
(心配ないわけ無いよ。怖いよ……皆、無事に帰ってきて)
夜から次の使い魔が溢れ出す。ネミッサが露払いのため接近する。虎の首を一度叩くのを合図に、虎が広範囲に冷却の風を発生させる。それにやや遅らせる形で万魔の炎を広範囲に打ち込む。氷結と万魔の炎のコンビネーションで使い魔の大半は凍りつき、或いは燃え尽きる。どうやら広範囲の魔力を伴うものであれば、たとえ視認できなくても影響は与えられるようだ。
「アリガト、白虎。その調子!」
「任セロ!」
残った使い魔をさやかと杏子がそれぞれ撃破する。一体一体が強力な使い魔ではあったが、さきのネミッサの魔法の余波のためか二人の魔法少女に薄紙を破られるかのように引き裂かれる。
再び射線上に何もいなくなると、マミの砲撃が解き放たれる。二度目のそれはまだ威力も健在で、再び夜に直撃した。大きく仰け反らせると工場の外壁にめり込む。
哄笑を続ける夜は、次の手を繰り出す。使い魔にまじり、数人の『影』を呼び出す。真っ黒で顔形すら判別できないがその服装のシルエットから、魔法少女の成れの果てではなかろうかと推測される。取り込まれたのか、何らかのコピーなのか不明だが、使い魔のように簡単には行かないことは見て取れた。
連携を取られると厄介だとばかりに、ネミッサが仕掛ける。こちらも彼女の担当だ。両手に極大の雷球を創りだすと五、六体の魔法少女の影に肉薄する。だが、向こうも棒立ちになるわけではない。各々が武器を構えネミッサの迎撃を行う。
しかし、そこに離れた位置からほむらによるライフルの釣瓶撃ちが降り注ぐ。ほむらの芸の細かい援護により意識がそれた影の一団に、ネミッサ得意の雷が降る。イオンの異臭が鼻を突く。この一撃では倒せないものの、今は足止めとしてこれで充分なはずだ。追い打ちをかけるように白虎が冷気の嵐を放つ。
さやか、杏子は連携を続け、夜に的を絞らせない。杏子はさやかの動きをよく見ているようで、上手くタイミングをずらし攻撃を加えている。二人が同時に動きを止めてしまったら各個撃破される。それをちゃんと理解していた。
的を絞れない夜に、マミが再び巨砲を準備する。彼女がこれを何回も撃てるのも、ネミッサやほむらが細かく援護を行うからだ。足を止めてしまうと危険すぎて何度も使えないが、援護や乗馬たるスレイプニルのお陰で遠慮無く使える。三度目の大出力の砲撃が夜に注ぎ込まれる。多少のグラつきはあるようだが、まだ夜は怯んでいない。
さらに杏子が巨大化させた多節棍の槍を叩きこむ。また、さやかは無数のサーベルを召喚し雨の様に降らせる。それでもなお、夜は明けない。夜が徐々に前衛二人の心を蝕む。
「さやかっ! どうだっ!」
「だめっ、ネミッサが動けないみたい」
「あたしらでなんとかしないとな。足止めんな? 止めたら終わりだ」
「うんっ!」
「さやかの治癒があたしの生命線だ。やられるなよ」
頭をくしゃくしゃになでられ頼られたさやかは奮い立った。杏子も大恩人だ。絶対に守る。
163 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:35:32.55 ID:Efo00a1f0
だが、ほむらは内心臍を噛んでいた。これだけ恵まれた状況で効率的に動いていたにも関わらず、夜には大きな損傷は見られない。幸い、まだほむらの手持ちの重火器や切り札は殆ど残っており、ネミッサの持ってきた魔力のこもった武器は残っている。まだ諦めるには早すぎるし、諦める訳にはいかない。
『アタシはアンタの真似なんか逆立ちしたって出来ない。でも止めないだけなら……アタシにもできる』
そうネミッサはほむらにこぼしたことがある。それは、ネミッサの敗北宣言であり、リスタートの宣言でもあった。
(そうよ、止めてたまるもんか。諦めてなるものか。私は、まどかを守る私になるんだ!)
連携は続く、だが、徐々に戦線に綻びが見え始めた。
影たちの反撃により、次の雷が放てずにいるネミッサ。そのため、ネミッサが定期的に排除すべき使い魔が自由に動きさやかと杏子の足を止め、マミの砲撃を阻害する。そこに使い魔ごと撃ち貫く魔力弾が夜から降り注ぎ、反撃がままならない。かろうじてほむらの時間停止により致命的な場面こそないが、夜に直接攻撃ができる場面がなくなってきた。
そして、ネミッサが孤立する。彼女だけ六対一の形になっているのがじわじわと追い詰めている。広範囲攻撃をもつネミッサが適任ではある役目だったが、ただの使い魔ならいざしらず、影魔法少女六体が相手では分が悪かった。ネミッサが夜から離され、他の魔法少女三人が夜のそばで戦う。夜の致命的な魔力弾から三人を助けるため、ほむらもネミッサに近づけない。
そして、危機が訪れる。
まとわりつく影魔法少女のうちの一人をカドゥケウスで貫き倒す。それを引きぬこうとするが、刺された影がそれを抑え自由を奪う。その僅かな隙に小柄な影が体ごとぶつかる。その手にもった大振りなナイフごと。
鮮血、腹部に広がる熱い痛み。ほむらに憧れて人に近い体をとったことが仇になった。
声にならない悲鳴を上げ、白虎の背から落下する。カドゥケウスを放棄し、ナイフの影の首を掴み電撃を流し込み屠る。残り四体と距離を取るが、その足は覚束ない。たたらを踏み倒れこむところに別の影が火の玉を作り爆発させる。
吹き飛び人形のように無造作に落下するネミッサ。意識が混濁する。
(ヤバ…、意識が…、くそぉ…、ホムラちゃん…)
地面に頭から落ちたのに、痛みがない。死の香りが直ぐ側に迫る。しのうた。
唯一マミがネミッサの動きに気を配っていた。幸い、夜から一番遠い位置にいたため、それを確認することが出来た。影に囲まれるネミッサを窮地と見た。無意識に指示をスレイプニルに出す。それに律儀に反応すると、八本足が爆音を響かせて駆け抜ける。
『全員が危なくなった時、マミちゃんなら私達を守ると思うのは疑ってないよ。でも、そのとき自分を守らないよねマミちゃんは。そうしたら、二人を誰が守るの?』
あの時はネミッサを後に回しても魔女の撃破を行った。それに準じれば彼女に構っている暇はない。だがマミは彼女を失うことに耐えられなかった。その思いが戦線離脱をさせた。ネミッサの名を叫びながら、周囲の影を狙撃し吹き飛ばす。
リボンを伸ばし曲乗りで倒れこんだネミッサを拾い上げると、そのまま距離を取る。抱えた左手が真っ赤に染まる。
(あの時と同じだ。なんにも変わってない。正義の味方とか言って、大事なお友達一人助けられない。馬鹿な私)
悔しかった。リボンを止血の包帯替わりに巻きつけるのも同じだ。だがマスケットを打ちつつ治療はできない。だがあの時と唯一違うことは、魔女の撃破よりネミッサの身を優先したことだ。
スレイプニルは跳躍し、建物の上に着地する。それを追随する形で白虎が降り立つ。
「白虎さん! スレイプニルさん! 時間を稼いで下さい!」
「我ラガ壁ニナルガ、ソウハ保タン! イソゲ!」
白虎にしろスレイプニルにしろ、使い魔を視認できない。例の桃の汁も人間専用で悪魔には上手く作用しなかった。だから彼らはあくまで魔法少女を乗せて戦うことが前提だった。
マミは急ぎ応急処置を行う。目に見えない敵にその体を晒す悪魔二体に囲まれているが、それがいつまで持つか。
164 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:39:03.20 ID:Efo00a1f0
ほむらは視界から消えたネミッサとマミを探した。ネミッサに念話で呼びかけたが反応がない。次いでマミに連絡を取ると、ネミッサが被弾したことが伝えられた。マミの戦線離脱に怒りを覚えつつもそれを責めることはない。無いならないでなんとかするのがほむらの判断である。
”治療が終わったら戻って頂戴。貴女がこの作戦の肝なんだから”
その念話に返事はない。ほむらは不安を押し殺し、杏子とさやかの援護に回ることを優先した。
治療に専念していたマミは影の攻撃を受けて吹き飛ぶ。壁になっていた悪魔二体が息も絶え絶えに横たわっていた。未だ意識のないネミッサに影が近寄りその腕を振り上げる。
「ダメッ! ネミッサぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『あーもう、なにやってんのよっっ!』
マミはネミッサのそばに誰かが立つのを見た。それは円を描くようにサーベルを振りぬき影たちを吹き飛ばす。うち一体は刃に断たれ霧散した。その人影は影たちを瞬く間に斬り伏せると、ネミッサの腹部に手を当て治療の魔法を行う。フラフラと立ち上がるマミと悪魔たち。治療をする人影が害意ないと知ると、周囲を警戒しつつネミッサに声をかける。治療の魔法の効果がマミのそれとは段違いだったのだろう。ネミッサは咳き込むと血を吐き出した。それで辛うじて意識を取り戻すと虚ろな目で人影を見やる。
『美少女天使だと思った? ざんねん! 『さやか』ちゃんでしたー』
霊体のように半透明の魔法少女はにこやかに微笑んだ。
『私も……手伝う!! 私も戦うよ!』
「なんでなんで! サヤカちゃんの方に行ったんじゃないの!?」
『あはは、今持ってるの何さ。私のグリーフ・シードだよ。多分だけどさ、私のせいでネミッサも魔法少女の素質があったんじゃない?』
「そっか、アンタのおかげだったんだ……これがアンタの願いだったんだね」
『私の残りの魂全部使って……一緒に、行こう?』
さやかが『さやか』と一つになり魔女から復帰したとき、彼女は魔法少女だった。それは二人の願いが同じだったからだ。
さやかはほむらを救うこと。『さやか』はネミッサを救うこと。
涙声になりながらネミッサは応じる。傷がすっかりふさがるのを確認すると『さやか』が微笑み、光りに包まれる。その光がネミッサに触れると今度はネミッサが光りに包まれ一体化する。光が収まると、服装が変わっていた。
外見はさやかと同じ魔法少女の装い。だが、本来青の部分は黒に近いグレー。露出度の高い服装ではあったがネミッサは嬉しそうにあちこち眺める。手には螺旋の蛇が絡みついた、猛禽の羽飾りを持つ杖。カドゥケウスにきわめて似ているが、絡み合う蛇はさやかとネミッサの色。青と灰。さやかのマントと違い、右肩をあらわにした着こなし。そしてマミをかばった勲章を飾るようにソウルジェムが二つ埋め込まれていた。本人は気づかないが、後ろ髪が以前のかつての遠野瞳くらい長くなっている。さやかが蒼の女騎士であるならば、ネミッサは灰の女騎士のようだった。
杖を持ったまま、流れる涙を隠すために顔を覆う。
「ネミッサ、良かった。大丈夫なのね?」
「うん、見てた? 『さやか』ちゃんがね、『さやか』ちゃんがね……アタシをね……」
涙を隠すこともなく。一部始終を見ていたマミは微笑む。
「大丈夫、わかるわよ。ふふ、これで貴女も魔法少女ね?」
「ごめんね。助けれくれて有難う。怪我、治してあげる」
杖を掲げると、周囲の悪魔を含めて治療の魔法をかける。元を大きく上回る回復量を見せ、マミと悪魔の傷を癒す。立ち上がり二人のそばに擦り寄る。その首を二人は愛おしそうに撫でる。
「ありがと、アンタらも。……もう少し頑張って貰うからね」
自分の中にいる『さやか』を感じ、自分の力が上がっているように思える。
『美少女天使だと思った?』
「アタシにはアンタが勝利の女神に見えるよ。行こう! 『さやか』ちゃん! マミちゃん!」
契約を成さない、『イレギュラー』どころか『アノマリー』な魔法少女が戦場に降り立つ。
騎乗した二人は、意志の力を滾らせて夜に向けて疾走した。
165 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:39:40.34 ID:Efo00a1f0
「ホムラちゃぁぁぁぁぁん!」
中空からネミッサが絶叫する。使い魔に押されるさやかをかばうほむらは、意図に気づき二人で時間停止で離脱。強力な電撃を使い魔に叩きこみ着地する。杖で使い魔を貫きとどめを刺す。
「ごめん! 戻った!」
魔法少女の衣装で二人に近づく。驚きと怒りを隠さないほむらが目を吊り上げ怒鳴る。
「なぜ契約を!」
「アタシしてない! これは、『さやか』ちゃんのが力を貸してくれてるの!」
「え、あ、私? ……服、おんなじだ……」
「あの『さやか』ちゃんが力をくれた。これで無敵!」
短い説明に困惑するも、受け入れるのがほむらだ。現に目の前でネミッサが魔法少女になっている以上、何もいうことはない。
「わかったわ。詳しい話は後で聞くから、教えて頂戴」
「もっちろん! さぁぶっ飛ばすよ! ホムラちゃんも手伝って!」
『さやか』がネミッサに応じ力を出す。ほむらはしぶしぶといった体を装いネミッサの手を取ると、時間を停止させる。
「手を離さないで。止まった時間に取り残されるわ」
手を取り合ったまま夜の真正面に移動する。そこでネミッサは魔法少女の魔力を上乗せした万魔の蒼白い炎を連続で発動させ、計九発を夜にぶつける角度で放つ。時間停止の影響範囲から出た炎はそこで止まる。そこでほむらが手を離し独自に動く。
時間が動き出す。ネミッサの炎はすべてが夜に注がれぶち当たる。さすがに強化された炎が同時に九発である。夜が大きく傾いだ。
ついで、重火器どころか、残った近代兵器を揃えると遠慮なく打ち込む。ネミッサには皆目検討がつかないが軍事兵器のようなもののようだ。それを更に魔力で強化しているにも関わらず、夜に致命傷は与えられない。しかし、無傷ではない。徐々に五人の攻撃が功を奏している。
自由になったさやかがマミを邪魔する使い魔に肉薄する。ほとんどマミに気を取られていたためか、さやかのサーベルを避ける間もなく両断される。魔法少女の衣装がところどころ破れてはいるものの、マミに大きなダメージは見られない。これくらいであればマミ自身で治療が可能と判断し、マミは指示を出す。
「私は平気。美樹さんは佐倉さんを!」
「はい!」
爽やかな良い返事にマミは顔を綻ばせる。いい後輩を持ったと、嬉しくなった。
「これで本体を叩けます。ありがとう!」
「はいっっ!」
屈託なく笑うとマントを翻し杏子のもとへ走るさやか。その清々しい走りをみて、マミは未だ使い魔に苦戦する杏子の無事を確信した。再び巨砲を練りあげて構える。
「さぁ、仕切りなおしよ! もう一回大きいのを上げるわ」
166 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:41:05.99 ID:Efo00a1f0
ネミッサが魔法少女化は目覚ましい効果を現した。
さすがにソウルジェムの魔力を使えば濁ってしまう。だがネミッサの魔法を強化する程度の濁りは無視できる範囲だ。つまり、威力の上がった魔法を無尽蔵な魔力で使えるようになった。
緒戦で行えた連携が復活したばかりかネミッサの威力が向上したため、さすがの夜の表面に綻びが見える。だが、一番巨大な最上部の歯車は健在だ。まだ、余力があると見ていいだろう。
さやかに助けられた杏子だったが、ほとんど無傷だ。ベテランの面目躍如といったところか。万魔の炎とマミの魔弾。その合間に、息を合わせたように斬りこむ二人。逆さまの首目掛けての一撃離脱の戦法だ。
(押している! 今までまどか抜きでここまで追い詰めたことはなかった。いける!)
ほむらの心に光明が見えた。だがここで浮かれること無く、夜の巨大な魔力弾を避けるため時間停止を小刻みに使用し、皆を守る。一度マミを狙われたが、スレイプニルが高速移動し回避した。ほむらが間に合わないほどの速度に舌を巻いた。
四発目の魔弾が夜を貫き、外装を大きく破損する。飛び散る破片を避けつつ、前衛はその割れ目に刃を突き立てる。さやかがサーベルを射出すると、腰に下げた魔晶化した剣『レーヴァテイン』を引き抜く。刃から炎を滾らせるそれを振りかざし割れ目に突き立てると、そこを広げるように斬り下げる。逆に杏子は槍を巨大化させ割れ目を斬り上げ更に大きくさせる。
「離れて!」
時間停止を行い、その亀裂にほむらは入るだけの爆薬を詰め込んだ。二人が十分な距離をとったと見るや即座に爆破し内部からダメージを与える。夜から反撃の魔力弾をすれすれで避けたため、体勢を崩すがそこを杏子が上手くフォローする。
「おいおい、浮かれて気を抜くなよ。押してるぜ!」
八重歯を見せて笑う杏子が、ほむらには魅力的に写った。
(ああ、やはり、私は皆と友だちになりたかったんだ)
だが、それは叶わぬ夢。夜を超えたら、彼女は時間停止の魔法を失う。魔法の武器も作れないため、時間停止で銃器を補充できなければ魔女と戦えない。戦えない魔法少女の行き着く先は魔女か死だ。ネミッサがいれば銃器の補充は出来るだろうがタダではない。一介の中学生がそんなものを購入し続けられるわけがない。弾の補充の必要ないあの異形の銃なら使い減りしないだろうが、メンテナンスの問題もあるだろう。
そんな逡巡に杏子は気づかず、ほむらの背中を叩く。戦友として戦いを讃え合うことを願っている杏子。その溌剌とした笑顔はほむらにはあまりにも甘美な毒に思えた。
167 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:42:11.63 ID:Efo00a1f0
マミが撃ちこむ七発目の轟砲が夜を更に打ち付ける。反撃の魔力弾をスレイプニルに支持し華麗に避ける。それを腰の動き一つでやっているのだから恐れ入る。両手に巨大なマスケットを掲げるマミはそれだけでも戦女神の様相だった。
一撃離脱の戦法で、飛燕のように戦場を駆け抜けるさやか。燃え盛る剣は斬りつけると同時に高熱で追撃する。俊敏に身を翻すたびに純白のマントが踊り、見ているものを引きつけ高ぶらせる。
燃えるような、杏子の真紅の衣装がさやかに負けず劣らずの速度で突撃する。まるで踊るような巧みな体捌きを、ポニーテールと魔法少女の裾の長い衣装が彩る。時折槍を多節棍に変形させ拘束し援護に回ることが出来るほど、戦場を見極めていた。
落雷と、万魔の炎、そして広域の回復魔法。味方の援護と直接攻撃を見事に使い分けるネミッサはが動くたびに前衛が跳ねまわり、マミの砲撃が轟く。高性能な爆弾を投擲しそれを自らの落雷で誘爆することでダメージを稼ぐ。
これだけ効率良く動く四人は勝利を脳裏に思い描いた。
魔法少女と悪魔と科学が結びつき、最悪の魔女を追い詰めていた。
はずだった。
手負いの夜が動きを止める。そののち、今まで大して動いていなかった本体上部の歯車が回転しだす。工業の外壁を巻き込みながらその動きが早くなる。と、同時に夜が『起き上がる』。今までぶら下がっているだけの人形が歯車を下にするように半回転すると、座らない首が傾いたまま揺れ動く。何が起こっているかわからない状態では手が出せない。皆がそれとなく集まると傷の治療や魔力の回復を行いながら息を整える。
「な、何? 何が始まるの?」
「ほむら! これは何だ?」
「し、知らない、初めて見るわこんなの……。何をしようというの?」
「ラスボスの第二形態ってところかなー。追い詰められてこっからが本気モードってところかもよ」
ふたたび始まる哄笑。高速回転する歯車を中心に、颶風が始まる。ただの風ではない。魔力を伴うそれは竜巻のように荒れ狂った。
次の瞬間、魔法少女達は吹き飛ばされていた。
何が起こったか理解する間もなく風の壁が全員に襲いかかる。工場の建造物を根こそぎ吹き飛ばし荒れ狂う風が収まると、夜の周囲には瓦礫の山だけが残った。瓦礫に埋もれ気を失う魔法少女達を尻目に、悠然と夜は浮かび上がる。
ワルプルギスの夜が正位置になると、地表の文明すべてをひっくり返すまで踊り続けるという。それが現実になったのだ。荒れ狂う風の壁を身に纏い浮かび上がる。絶望をまき散らすために。
いち早く復帰した白虎はネミッサを起こす。埋もれた体を引きずり出すと、治療を促す。ネミッサは他の魔法少女の救助を命じ、自らも救助に向かう。
スレイプニルにかばわれたマミはほとんど無傷だ。そのかわりに悍馬は体中にコンクリート片を受けて息も絶え絶えだった。
「あ、有難う、スレイプニルさん」
悍馬は一声嘶くと、その身を横たえた。マミの治療がどこまで通用するかわからないが、今は目の前の命を救う。
杏子とさやかは白虎に背負われ、ほむらはネミッサが肩を貸し運んできた。各々治療を得意とするものが治療する間、現状の確認をする。
「あれは初めてみる……」
ほむらの顔色が悪い。また、夜の行き先が市街地であることに気づき、恐怖していた。
「あの風の壁じゃ、生半可な攻撃は通らないんじゃいか。ヤベぇぞ」
「何落ち着いてるのさ! 早く行こうよ! 街があぶないんでしょ」
「待ってネミッサ。皆ソウルジェムが限界に近いの」
自分の『さやか』のソウルジェムはまだ余裕があるが、皆は全力攻撃のために消耗が激しい。杏子が蓄えたグリーフ・シードを順次使い、穢れを取る。ネミッサも神酒を飲み、呼吸を整える。その間、ネミッサに起ったことを杏子にも説明をした。杏子は一時驚いたもののすぐに笑ってこういった。
「頼りにしてるぜ」
もう杏子はネミッサを一般人呼ばわりすることはない。一人の戦士として認めた瞬間でもあった。
皆の体調も呼吸も整えた。各々が馬に虎にまたがると、夜を追跡すべく走り出した。
168 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:42:57.82 ID:Efo00a1f0
ワルプルギスの夜が反転するときの衝撃で、遠く離れた避難場所にも振動が伝わる。更に夜がその嵐を身にまといつつ街に近づくため、工場地に近い住宅地が徐々に破壊される。強くなる風の音となぎ倒される建造物の音に、避難住民が怯え出す。急造の照明が頼りなく明滅し振動に揺れ動く。不安が住民たちの間に連鎖的に広がる。ざわつき出す人々が大きな声を出し、苛立ちをぶつけるようになるのは目に見えていた。
そこに、一人の少年が立ち上がる。
『神童』『天才』と持て囃された彼は、登校するために着ていた制服のままバイオリンを片手に入口近くに移動した。
更に声は大きくなる。群集心理に寄るものなのか、騒ぐ人数が増えつつあった。そんな光景が、恐らくあちこちの避難所で発生していることだろう。何しろ見滝原の防災計画を上回る災害だ。そこかしこで不安や不満が高まっていた。
少年はバイオリンを奏でる。曲はシューベルトの『アヴェ・マリア』。グノーのそれは年末によく聞かれるが、それとはやや違う音色。だが聞けば『アヴェ・マリア』と気づく。それが皆の注意を大きく引いた。澄んだ、優しい旋律が避難所にこだまする。彼の師匠でもある父親もそれに合わせる。見滝原を代表する二人の奏者の演奏が暗いコンクリートの打ちっぱなしの壁に反響した。かなり広い建屋の中隅々まで響き渡る名演奏が皆の心を洗い流す。
一曲弾き終わる頃には水を打ったように静かになっていた。
一人、また一人と奏でる『最高のミュージック』が木霊する。それを受けることが出来るのは、最高の演奏をした奏者に限られる。オーディエンスがいなければ成り立たない。場が静まるのを待って、少年はよく通る声で話しかける。
「皆さん、僕は上条恭介です。ご存じの方はいるでしょうが、僕はほんの一週間前まで、事故で左手が動かせませんでした。ですがそんな僕を……、おっ幼馴染が……支えてくれました。未熟とはいえ、ここまで演奏することが出来るようになったのは……、その支えのおかげです」
涙があふれる。だが、この言葉に表してはいけない。皆に安心感を届けるには、そんなことは許されない。彼は笑っていなければいけない。
「今度は、僕が、皆さんを支える番です。まだ足元が覚束ない僕には、毛布一つ運ぶことも出来ません。ですが、この拙い演奏で、皆さんを支えることが僕に出来る唯一のことです」
拍手が終わった避難所は、外の暴風の音すら届かないほど静かだった。それだけ上条の音に声に、皆が引きこまれていたからだろう。
「今、街は凄まじい嵐に見まわれ、皆さんの不安も大きいことと思います。ですが、今ここで不安な人がいるなら、僕が演奏します。僕が支えます。心お静かに、助けあって行動、してください」
そこまで言うと、深々とお辞儀をした。そして湧き上がる歓声と拍手。先ほどまでがなりたてていた人々すら微笑んでいる。それはこの避難所だけではない。上条の呼びかけにより、あちこちの避難所で楽器が奏でられている。皆の不安と恐怖を少しでも打ち消すために、彼らは音楽の力を知っている。信じている。
「入門曲ですみません。次の曲はヴィヴァルディの『四季』から……」
(さやか、僕も頑張る。皆を支えるよ。戦う君に、胸を張って会えるようにね)
上条は自分のコンサートに来た少女のことを思い出した。自分と同い年の少女は、上条の演奏に頬を上気させ満面の笑みで大きな拍手を送っていた。同い年の友人にクラシックの機微は伝わらず、寂しい思いをしたこともあった。だが、彼女はそのたぐい稀なる感受性で、上条の演奏に感動していたのだ。今思えば、あれが自分の音楽の原点であり、今目指す到達点であったように思う。
(さやか。グノーのアヴェ・マリアは、君のためのとっておく。早く聞いて欲しい。僕の『最高のオーディエンス』に)
169 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:43:55.55 ID:Efo00a1f0
烈風の中駆け抜ける魔法少女たち。なぎ倒される建物を避けるスレイプニルと白虎はまさに後塵を拝する形になっていた。気ままに動く夜の哄笑をただただ聞くだけしか無い。無力だった。それが避難所にまっすぐ行かないだけマシではあるが、街は無事では済まない。守りたいはずの街が蹂躙されていった。
遠巻きに見守るしか無い。風の壁に遮られ、彼女たちの攻撃は届かない。唇を噛み締め見上げるしかなかった。
仁美は強風の中、佇んでいた。一部停電も発生してる暗い街にただ一人。そこに大小様々なトラックが通り抜ける。彼女が父親とともに指示を出した支援物資の搬入だった。それらは強風の中、あちこちにある避難所に向けて毛布から食料、飲料に医薬品を載せて走り抜けていた。彼らとてこの嵐では安全とはいえない。だが仁美とその父親の必死の説得もあり、『命知らず』の仁者たちが名乗りを上げ、嵐の中走り続けているのだ。
しかし、彼女が待つのはそれではない。それは大事なものではあるが、彼女が待っているのは、また別のものだ。
彼女に横付けする形で特殊なトレーラーが到着する。荷台には『SPOOKies』と書かれたステッカーが貼られている。15年前に現役だったそれは未だ彼らのアジトであった。そのトレーラーから現れたのは、ネミッサの仲間『スプーキーズ』のメンバー。シックスとユーイチ、そして今は記者のランチだ。
「お待たせ、お嬢さん」
「いえ、大丈夫ですわ。そちらこそ天海市からここまで大変でしたでしょう?」
「それこそ大丈夫さ。俺たちは……」
「スプーキーズ、ですものね」
「そーいうーこと」
「羨ましいですわ。離れていても、時間がたってもそんな友人がいらっしゃるなんて」
トレーラーに乗り込みながら仁美はにこやかに話す。これから行うことに不安や恐怖を感じているようには思えないのだが、どんな肝っ玉をしてるのか、シックスには量りかねた。
「それなら、スプーキーズにはいる?」
「まぁ、よろしいのですか。ぜひお願いいたします」
「おいこらユーイチ! 勝手なこと言ってんじゃねえよ!」
「……いい加減シックスはハンドルネームで呼んで欲しいんだけど」
「ああ? お前なんか『ああああ』でいいんだよ」
「前のネタ引っ張り過ぎだよ」
「うるせえてめえらだまっとけ」
そのやり取りを聞いて、仁美はクスクス笑う。こんな状態で笑えるなんて、自分でも信じられなかった。きっと恋のライバルが素晴らしい人だからだろうと、今になって思う。
ライバルを、親友を、誇りに思う。
『葛の葉』から志願して参加した若いサマナーは地下の避難所に住民を誘導させていた。彼もまた魔女を視認するための工夫を使用しており、使い魔が現れた際にはそれを避けるようにするのが目的だった。
だが、風が強くなるに連れ、ワルプルギスの夜から漏れた使い魔たちが散見されるようになると、人知れず悪魔を呼び出し住民たちを守るべく殿に付けさせていた。当然普通の人々に悪魔も使い魔も視認されないため、パニックにはならなかった。銀の鎧を身につけた天使は、住民を守るため浮遊している。魔女が視認できない悪魔たちは、怪我を負った人を保護し身を挺して守る命を受けていた。
なんとか使い魔がいない方向に誘導させてきたが、住民たちの一団に使い魔が目をつけた。おもちゃを見つけたような動きで襲いかかろうとする使い魔を見て、戦う決心をする。
「おじさん、どうしたの?」
「あ、大丈夫だ。きみは皆と一緒に地下まで行くんだ」
「おじさん、うしろのへんなのみえてる?」
「なに?」
「ゆま、みえるよ。かっこいいてんしと、へんなおばけが」
若いサマナーは瞬時に気づいた。この少女が『候補生』であることに。ならば彼女が目になれば安全かもしれない。だが、それが吉と出るか凶と出るか……。
「よし、ゆまちゃん。天使様は君たちの味方だ。けれどそのへんなお化けは君たちを襲うかもしれない。君が誘導してへんなおばけがいないほうに皆を連れて行ってくれないか?」
「うん、わかった!」
「おじさんと同じ腕章……腕のこれをつけている人が近くにいれば助けてくれるから、それまで頑張ってくれ、いいね」
「うん、おじさんは?」
「へんなおばけを追い払ってくる」
そう言うと、決死の覚悟で踵を返し、最後尾に走り抜けていった。
170 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:45:12.81 ID:Efo00a1f0
「さーて、サーカスに合わせるなら、『そろそろ打ち込め』ってところかな」
シックスが機材に電源を入れ、ユーイチが調節する。仁美には全く分からないが、彼らが依頼をこなしてくれていることはわかる。そしてそれが、自分にとっての勝負であることも理解していた。先程は空元気をしていたが正直心臓が破裂するのではないかというくらい鼓動している。だが、さやかに勝つにはこれくらいやらないといけないと思う。上条に「頑張ったね志筑さん」と言われるには、これくらい必要なはずだ。
魔法少女たちは必死に追いすがるしかない。夜が破壊する建造物の瓦礫をよけながらもその後を追い続ける。途中揺れる馬の背でマミがマスケットを撃つが、それも風の壁に阻まれ効果を期待できない。
「まるで台風か竜巻ね」
マミが銃をつがえながら呟く。小型の竜巻が魔女を中心に暴れまわっているように見えたのだ。
「台風なら、真上って入れねーか?」
ほとんどただの思いつきのまま杏子が呟く。高高度からとびこみ、竜巻の中にはいることを提案しているのだ。
「台風の目のこと? それなら行けるかもしれないけれど」
さやかがそれを受け肯定的に答える。中学生の知識でも、台風の目の中は比較的穏やかだと知っている。
「やめといたほうがいい。真上に魔力弾打ち込まれたら避けられない」
ほむらは冷静に止める。狭い竜巻の内側は夜からの攻撃を避けるスペースがない、と言ってるのだ。
「でも! このまま何もしないわけには!」
さやかが噛み付く。
「あとは歯車の軸とかだけど」
ネミッサが呟く。正直、あれだけの巨体を『撃破』する手立てが思いつかない。
絶望が少女たちを蝕む。
「見滝原の皆さんに申し上げます。わたくしは志筑家の一人娘、志筑仁美と申します」
嵐のなかそんな防災無線が飛び込んできた。シックスが仕掛けた電波ジャックの賜物である。腕は些かの衰えもない。それどころかこの年齢で、ますます冴え渡る。
「今見滝原は未曾有の大災害に見舞われております。新しい町の防災設備の想定を上回る風雨に皆さん不安を感じてらっしゃることでしょう」
ユーイチがハッキングし、ランチが突きつけた排水用地下水路の見取り図により、体育館などとは比べ物にならない堅牢な避難場所ではあったが、住民は恐怖と不安に苛まれていた。
「ですが、今この瞬間にも一人でも多くの人を救おうと戦っている人がおります。皆さんを守る人たちは大勢いるのです。どうかパニックにならぬよう、心お静かにお待ちください」
171 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:46:51.34 ID:Efo00a1f0
若いサマナーは強風のなか、使い魔と対峙していた。視認さえ出来れば彼の武器でも撃破することが出来る。魔力のこもった武器であれば更に効果的なことも判明している。
だが、それは相手が普通の使い魔であれば、だ。ワルプルギスの夜という規格外の魔女の使い魔は若いサマナーが想定したよりも強く硬く、素早かった。見る見るうちに外傷が増え、疲労が目立った。彼だけではない、葛の葉より志願したサマナーは大勢いるが、そのほとんどが彼のように苦戦をしていた。
大きな一撃を喰らい数メートル吹き飛ばされるサマナー。彼の悪魔は住民の護衛に回されていて、戦闘的な支援は期待できない。孤立無援のまま、使い魔の致命の一撃を待つしかなかった。
「けして充分とは言えませんが物資をご用意いたしました。体力の少ない方を優先して皆様でご使用ください」
喋りながら喉が渇く。何度も唾を飲む音をマイクに拾われないようにするのに苦労した。こんな海賊放送みたいなことをしてただで済むかわからない。だが、まだ地下に避難していない人や物資が足りなくて困っている人にはこの放送が有効なはずだ。そう信じて、言葉をつなげる。
その彼の視界に、二人の影。漆黒と純白の衣装の少女が立ちふさがる。慣れた手つきで漆黒の少女が鉤爪を振るい使い魔を切り刻む。一方で純白の少女がサマナーに近づく。魔法での治療を行いながら語りかける。
「無茶をしていますね。大丈夫ですか」
「お、俺の方はいい。向こうに避難住民がいるんだ。そちらを頼む」
少女二人が魔法少女だとおぼろげに理解したうえで、懇願する。自分より年若い女性に頼むことではないが、今はそんなことを言っていられない。
「大丈夫です。先の彼女たちは無事に避難場所に着きました。……ゆまちゃんが言っていましたよ。『ありがとう』と」
その言葉に安堵すると、体の緊張を解く。
「ありがとう、助かったよ」
「我々はこれで」
「気をつけて」
「そちらも、ご武運を」
お互いがにっこり微笑む。踵を返した少女たちは使い魔の群れに飛び込んだ。
若きサマナーは自分の仲魔と合流するために避難所にかけ出した。まだやるべきことがあると知っているから。
「まだ避難所にたどり着けていない方もいらっしゃいます。皆で協力し合い、この嵐をのりきるために力を貸してください。どうかよろしくお願い致します」
そこまで語ると、大きく息をつく。足が今になって震えてくる。失神しそうな緊張のなか立ちくらみを起こす。倒れかけた体を、シックスが支える。
「名演説、聞かせてもらったぜ。おい、ユーイチ!」
「任せて。今の全部録音した。少しノイズとったらリピートで流すよ。仁美ちゃんは休んでて」
「いえ、私もお手伝いさせて下さい。何か出来ることがあるはずです」
運転席にいるランチですら唖然とする。中学生の女の子が言える言葉ではない。その芯の強さに嬉しくなった。
「おし、んじゃ今は休んでてくれ。避難が遅れてる人をこのトレーラーで探すから、見つけたら収容しよう」
そのとき、見ず知らずのスプーキーズより、顔のしれた仁美のほうが説得しやすいだろう。そこまでシックスが把握しているか不明だが、仁美は納得した。
(さやかさん、皆さん、私にはこれくらいしかできません。ですが私も一緒に戦います。私も上条さんにいいところをみせたいですからね)
遠く戦うライバルを思う。
172 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:48:23.46 ID:Efo00a1f0
「聞こえた? 聞いた?」
ネミッサの問いに対し、さやかは答えない。目が熱くなって、言葉が出せない。
「志筑さんの『戦い』ってこの事だったのね」
「ちぇ、かっこいいことしてんじゃん」
「アタシたちのこと言ってたね」
「ぼかしてたけどね」
折れかけた心が奮い立つ。
止めないだけなら、まだ出来る。
それを聞いて顔を上げたのは魔法少女だけではない。避難所で聞いていたまどかもまた同じだった。
(ほむらちゃんたちだけじゃない、仁美ちゃんも戦ってるんだ。ううん、上条くんも戦ってるんだよね)
まどかのいる避難所にも上条と同じ楽団のスタッフが、避難住民を癒す演奏が流されてる。上条が何かをしていることも知っていた。それを知って、自分は何もしていなかったことに気づいた。それがまどかを苛む。何かをしなくてはいけないはずだが、それが思いつかない。
(私はここで何をしているんだろう。皆に守られて、震えてるだけ?)
胸の中にドロドロしたマグマみたいなものが溜まっていた。大声を出して吐き出したい。だがやり方がわからない。鼓動が大きくなって弟を抱きしめている手が震える。居ても立ってもいられない。手を離すと立ち上がる。
「パパ、おトイレ行ってくるね」
「うん、場所はわかるね。早く帰ってくるんだよ」
弟のタツヤを父親に預けると走りだした。その背中に何かを感じた絢子は、表情を変えた。
トイレに向かう廊下で、立ち止まる。暗い廊下に真っ白な尾をくねらせた獣がいた。全くの無表情のまま、ここにまどかがくるのを待っていたかのように座っている。
「やぁ、皆の戦いが気になるかい」
「皆、がんばっているんだよね」
胸が苦しい。熱い血液が漏れそうでしゃべるのも苦しい。今すぐ胸をかきむしって吐き出したいくらいだ。
「芳しくないね。ワルプルギスの夜が本気を出して、皆をなぎ倒してる」
「ま、負けちゃったの?」
「いや、ワルプルギスの夜は風で追い払った形だ。彼女らを無視して見滝原市街地の中心に向かっている。彼女たちは全力で追いかけているけど、打つ手が無い状態だね」
尾をゆらゆら揺らせて、淡々と語る。その方が効果的だとか、そういう意図すら見えないほどの声色だ。
173 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:49:35.29 ID:Efo00a1f0
「君に契約しろとは言わないよ。ただ、彼女たちの魔力では、ワルプルギスの夜の魔力の壁を突破できない。だが、君なら可能だろうね。その目で確かめるかい?」
頷いて、QBのあとを追う。足が震え、動くのもままならないがそれでも踏み出せたのは夢のおかげだ。三人の『鹿目まどか』が彼女の背中を押す。
「おい、どこいくんだ」
背後から掛けられる声にまどかが驚く。そこには、まどかの母親がいた。娘の不穏な態度を察し、追いかけてきたようだ。
「この嵐の中どこにいくんだ?」
いつもの凛とした声以上に、言葉に力があった。
「友達を助けに行くの!」
「消防とか、大人に任せな。子供が行って何が出来る!」
「そんなことない!」
まどかが初めて母親に反抗した。自信と決意に満ちた目で見返す。穏やかな父親似の控えめないつものまどかではない。
「皆が私を待ってるの! 私じゃないとダメなの! ほむらちゃんは私を」
頬を張られる音がまどかの言葉を遮る。
「こんな危ないときに子供を外に行かせる親がどこにいるっ!」
それが怒りではなく、心配から来た言動だということにまどかは気づいた。張られた頬が熱い。だが、その親心に浸っている訳にはいかない。その暖かな親心と戦わなくてはならない。ネミッサがマミに戦いを挑んだように。
(ネミッサちゃん、こんな辛いことをしたんだね。私、何もわかってなかった。……強いんだね。私、よわむしだった)
熱いそこを敢えて触らず母親を見返す。
「仁美ちゃんも、上条くんも戦ってるの! 私だけ、ここでじっとしてられないの!」
「だからって何が出来るんだ」
「私にしか出来ないことがあるの。お願い、行かせて!」
その目は、かつてほむらを射抜いた目だ。ほむらを怯えさせ、安堵させた、あの目。キャリアウーマンとしてかなりの場数を踏んだ詢子ですら怯む目。それに飲まれた。
(いつからこの子はこんないい目をするようになったんだろうね)
「……わかった。けど、約束しな。帰ってくるって!」
「うん、絶対帰ってくる!」
大きくお辞儀すると、大嵐の中にまどかは走り出した。一度も振り返ることもなく、走るわが子を見て母親は呟く。
「はー、『ほむらちゃん』か……。あの子があんなに自信を持てるようになったのは」
張った手を握り締め、祈るように胸に寄せる。
嵐はますます強くなっていった。
174 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:50:29.97 ID:Efo00a1f0
マスケットどころか、ティロ・フィナーレすら弾き返す風の壁に、もはや為す術がなかった。ネミッサの電撃や万魔の炎すら掻き消す。単純な魔力の大きさが違いすぎたのだ。
その魔女が市街地に到達したことが、さらに魔法少女たちの不安を増大する。
「ああもう! あのただの風に!」
「諦めないで、攻撃するだけでも少し動きが遅れる」
魔女は攻撃を受けると、そちらに体を向ける習性があるようだ。だが、実害がないとわかるとまた踵を返す。それを繰り返すことで、辛うじて進行速度を遅らせる。それが今彼女たちに出来る数少ないことだった。
だが、ネミッサは心が挫けそうになっていた。皆の前で辛うじて逃げずにすんでいるだけ。自分が他の誰よりも多彩な戦闘経験がある。その分、敵の分析が早い。つまり、諦めが早い。
壊れかけた心が、ふと、空を見上げさせた。
その上空に、超高速で飛来するものを見た。
「あ、ああああああああああ! ああああああっ!」
高高度で、高速移動するそれを視認出来るはずがない。ましてやその背に乗る人影など。だが、ネミッサは確かに見た。
「あなたが来てくれたの!?」
悲鳴を上げた。それは彼女の折れかけた心を立ち直らせるのに十分な衝撃だった。
魔女のそばのビルに激突する勢いで着地したのは、鳥人の姿のインドの神。その鮮やかな色彩の羽を広げる。無茶な移動のためか息も絶え絶えになっていた。一人のサマナーが、銃を取り出すとトリガーを引く。そこからは銃弾がでることはなく、銃身に当たる部分が二つに分かれてパネルとディスプレイが現れる。そのディスプレイに鳥人の神、ガルーダを収容する。
「準備はいいか」
「当然」
「嵐を操るやつを呼ぶ」
「じゃぁそれに匹敵するやつじゃないとダメだな」
「ふっ」
「昔、あなたとは戦った」
「ああ、強かったな」
「どっちが! 死ぬかと思ったよ! 試しの場なのに」
怒鳴りつけつつも、一方も同じ銃を取り出す。それが同じ性能のものであるようで、同じアクションで同じ変形をする。
ディスプレイには魔法陣のようなものが表示される。
そこに現れるテキストは……
175 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:51:04.45 ID:Efo00a1f0
『破壊神召喚』
『魔神召喚』
『SUMMON……OK』
『GO!』
176 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:52:55.56 ID:Efo00a1f0
二人のサマナーが揃って銃の形をした何かをかざす。
それは銃型コンピュータで、悪魔を召喚するプロセスをプログラム上で行うことができる。最近開発されたものはスマートフォンタイプが主流だが、まだ大量生産が行えない時期に作成されたそれは、一部の天才的な人物の趣味が多分に反映されていた。だが、その性能や持ち主の実績から『名機』とされ、一部のサマナーには憧れのものとなっていた。
その二人が召喚したのは、インド三柱神に二柱。インド神話でも信者に最も人気がある二柱だ。
一体は青い肌に虎の毛皮を腰に巻いた、四ツ腕三ツ眼の神。世界の終りに破壊を行い、新たな世界を想像するという大神の分け御霊だ。たとえそれが分霊であっても、スレイプニルや白虎をはるかに上回るケタ違いの魔力を有する。別名はルドラといい、暴風雨の化身とされている。
もう一体もインドでは大変人気のある神だ。特に民衆に人気があり、人々や神々を脅かす悪鬼を様々な化身を持って戦い打ち倒す神だ。こちらも四ツ腕の精悍な男性の姿をしてる。先の神と双璧をなすほどの人気と力を持つ神だ。彼でなければ対抗出来ないだろう。
二柱の神にはワルプルギスの夜を視認できない。だが、その風の壁は識別できるらしく、サマナーに指示されるまでもなく睨みつけていた
『今度の相手はあれですか。そしてそれに対するのがあの少女たちですね』
『街が滅茶苦茶ですね。おや、あれはネミッサではないですか。久しぶりですね』
「無駄口はいい。あの嵐を撹乱してやってくれ」
「こっちはそれの補佐をな」
『本体を直接攻撃すれば早くないですか』
「倒すのは俺達の役目じゃない」
「あの子達さ」
『我らの目的は』
『小さな英雄の誕生を見守ること、ですからね』
ネミッサが硬直する。うっかり白虎の背から落下するところを杏子に支えられる。杏子の叱咤が飛ぶ中、ネミッサがなにか言う前に一際高いビルから何かが飛び降りる。
先の神々だ。丁度夜を挟むように立ちふさがる。夜も、創世を行うレベルの存在が目の前に現れ動きが止まる。
魔法少女たちは見たこともない異形の存在に目を奪われる。だが、目を奪われるのはその異形ゆえだけではない。体の隅々にまで力が漲っていたからであり、異形の中に、美しさを感じたからでもあった。
「あれは……?」
「破壊神シヴァ……魔神ヴィシュヌ。どっちもインドの最高神みたいなやつ。多分味方よ」
日本でアニメや漫画に詳しいと、それをモチーフにしたものは取り扱われるので、多少は名は知られているかもしれない。それそのものをはっきり説明していなくても、それが殆どの場合ケタ違いの力を持つものと描写されるはずだ。以前ネミッサが戦った魔王ベルゼバブにしてもそうだ。名前だけは聞いたことがある、という程度には認知されているのではないだろうか。
そんな規格外の存在を、たとえ分霊とはいえ召喚できるサマナーは限られる。そしてその限られた中に、ネミッサの相棒が含まれていた。
シヴァと呼ばれる暴風雨の化身は、三叉戟を振りかざす。夜を上回る風を巻き起こし打ち消そうとする。一方のヴィシュヌとされる神は、それによる余波で街を破壊されないよう遮断する結界をはる。さしたる苦労もなく、それだけ巨大な力の場を生み出す二柱に、魔法少女たちは唖然とする。
丸裸になった夜に、マミが最大出力の砲撃を加える。魔弾が夜の背中にぶち上がりのけぞる。
「みんな! チャンスよ!」
短く吠えるマミに我に返る。さやかが、杏子が走りだす。ほむらもその二人のフォローのためやや遅れて動く。マミは射線の確保のため角度を変え、それにネミッサが護衛につく。
177 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:54:43.99 ID:Efo00a1f0
今すぐ彼に会いたい。彼がきっとそこにいる。私の戦いに来てくれた。会いたい。だがそれを堪える。自分のやるべきことをやってからでないと会えない。きっと軽蔑される。戦いが終わって、青空の下笑って会いに行こう。そのためにはワルプルギスの夜が邪魔だ。
「アンタ、邪魔なんだよッッ!」
さやかはネミッサのそれに気づいた。満面の笑みでネミッサを見ると、次いで怒りの形相で夜を睨み吠える。あの援軍を呼んだのは、ネミッサの想い人、相棒であることを全くの直感で察したのだ。そして、いますぐにでも会いたいと思う気持ちを抑え、夜を倒そうとする意思をもっていることまで気づいた。わずか一ヶ月足らずの付き合いだが、ネミッサのことはわかる。何しろ、ついこの間までずっと一緒にいたのだから。
「人の恋路を邪魔するやつは!」
杏子がさやかの言いたいことに気づき、ノリだけで二の句を続ける。
「槍に刺されて!」
「剣に斬られて!」
二人が見合わせ唱和する。
「地獄に、おっちろぉ!」
物騒なことを叫びながら同時攻撃を行い歯車の車軸を斬りつける。一撃離脱を行い、離れたところをほむらが迫る。前衛に対し繰り出した使い魔が三人に躍りかかるところを狙って、豪銃を構える。
「ワルプルギス! 『そこ』をどきなさいッッ!」
使い魔を一掃する豪銃を夜の全身に浴びせる。爆音とともに使い魔は粉々に消し飛び、残った魔弾が夜に食い込む。
さやかは先の仁美の演説が堪えたらしい。ほむらの銃を空中で躱すと、魔法陣で足場を作り再度斬りかかる。すれ違いざまに斬りつける動き。更に魔法陣を産み、まるでピンボールのように縦横無尽に動きまわりすれ違いざまに切り刻む。
そのさやかに触発されたのか、忌み嫌い忘れ封印していた固有魔法を使う。実体のある分身を二十体近く生み出した杏子は、雄々しいまでに獰猛な笑い顔で襲いかかる。裂帛の咆哮が揃って湧き上がり、一気呵成に斬りかかる。
杏子の願いにより家族は引き裂かれた。その痛みのため、彼女は固有の幻術魔法を無意識のうちに封じてしまった。それは戒めのためでもあり、トラウマを忘れようとする自己防衛のためだった。自らの行為と存在の否定。だが、彼女はさやかを魔女から救い出したことで自らを肯定することが出来た。それがネミッサへの感謝と、幻影魔法の復活となって現れた
遠目から見つめるマミは、その事情を本人から聞いていた。そのトラウマを乗り越え顕現した魔法に驚きと喜びを感じていた。
ほむらと出会いネミッサと知り合って、皆が救われていく。それが嬉しくてたまらない。今元気に跳ねまわるさやかを救い、傷を乗り越えた杏子の心を救った。
(一番救われたのは、私、かな)
今日一番巨大な砲身を作り出し、号令とともに砲撃する。連携訓練を繰り返したため前を攻撃する三人が離れた瞬間がはっきりわかる。今まで風の壁で出来なかった分、溜まった鬱憤が高威力となって吐き出された。
救ったのはネミッサかもしれない。だが、彼女の行動原理はほむらだ。言い換えればほむらの願いであったはずなのだ。だがそれをするには、彼女は時を重ねすぎた。それゆえ心の乖離と本人の口下手さにより齟齬が起こり、マミ達と心の壁を作っていた。それをネミッサは自由奔放さで打ち破った。
マミはほむらの願いを理解し受け止めた。
隣で白虎に跨り魔法を打ち続けるネミッサを目の端で捉える。魔法少女の姿では髪が長くなっていた。それを無造作に後ろに垂らしているため、動きに合わせて踊る。綺麗だった。一番のお友達がほむらのために戦う素晴らしい人間だと思い、誇らしくもあり嬉しくもあった。
178 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:56:22.56 ID:Efo00a1f0
もうトレーラーには十人の住民を乗せている。足が悪く移動が困難な者とその家族、親とはぐれた子供。それらを一手に引き受け、避難所に向けて走り抜ける。子供達は仁美の腕の中で揺れと災害の恐怖に震えていた。だが仁美は精一杯の笑顔で彼らを抱きしめ、安心させようと語りかけていた。
「ははは、こりゃ……聖母さまってのはこういうもんかな」
「中学生には思えないよなぁ」
「そうでしょうか。皆様もネミッサさんとご一緒の時は、あまり歳は変わらないと伺ってますが」
「いやぁ、さすがに今の君より歳上だったよ」
強風に大きなトレーラーを煽られそうになりながらも、避難所に向かう。住民は仁美に頭を下げ、スプーキーズの皆の手を握りつつ途切れないほどの礼を言う。仁美は小さく手を振ると、再びトレーラーに乗った。また逃げ遅れた住人を探すためだ。避難所にいる住民や市役所の人々は尊敬と羨望の眼差しで、その姿を見送った。
のちに、彼女たちの行いは、避難住民の間で長く噂となって伝えられた。
避難所のリサイタルはまだ続く。リハビリをしたとはいえまだ一週間も経っていない。そんな状態では本調子とはいえない。だが上条は止めない。止めることは出来ない。なぜなら、そこには奏者として最大の誉れがあるからだ。何曲も引き続け指は悲鳴を上げていたが彼は止めない。
(僕の指は僕のものじゃない。さやかのものだ。さやかの戦いのためならいくらでも捧げてやる)
でもその思いは露程も出さない。時に軽快でときに柔らかく奏でる曲は住民を癒し続ける。もはやその避難所では声を荒げる人はいない。大嵐で不安はあっても、不満や暴動は起きない。
本当の『神童』が生れた瞬間でもあった。
白と黒の二人の魔法少女は使い魔を多数撃破した。その間、何人もの『葛の葉』のサマナーと出会った。時に助け、時に共闘し、住民を使い魔から守っていた。手練というわけではないが、二人の固有の魔法は連携を行うことで無傷で殲滅し続けていた。
だが、その彼女たちも使い魔に囲まれる。ワルプルギスの夜が接近により、生み出される数が撃破される数を上回ったためだ。それが徐々に二人を追い詰める。前衛を務める黒い魔法少女がバランスを崩したところを別の使い魔に狙われる。
その瞬間、周囲の使い魔すべてがカードになる。ペラペラだが固めの紙に封じ込められ動きが止まる。唖然とする二人が体勢を整えたとき、凄まじいまでの爆炎がカードになった使い魔を残らず焼きつくす。魔法少女ですら肺を焼かれそうにな炎。周囲の酸素を奪い呼吸困難を引き起こす。収まるまでに長い時間を要した。
一人の男が、煙に視界を奪われ咳き込む二人の頭に手を載せる。そしてよく聞こえる大きさで声をかけた。
「うちの若いのが世話になった。これは礼だ。無理はするなよ。……あばよ」
これだけ効率的にダメージを与え、魔力の回復も計算通りに行えている。ワルプルギスの夜はほとんど傷だらけだ。にも関わらず、魔女はけたたましい笑い声を止めない。そして、何事もないように反撃を行う。使い魔の数も殆ど減らない。五人の攻撃出来ない位置に生れた使い魔は彼女たちを無視してあちこち移動する。さすがに夜本体は二柱の神に遮られ移動することはないが、まるで砲台のように魔力弾を撃ち続ける。
前衛は使い魔に小さなダメージを受けつづけ、回復もままならない。ほむらやネミッサが近づき何度もスイッチするがその間隔が短くなってきた。魔力より、集中力が途切れかけている。そうなれば致命的な攻撃を受けてしまう。遠距離で戦うマミは、砲撃より念話での位置取りの指示に意識をシフトした。
焦りは禁物とはいえ、ネミッサ以外は魔力に制限がある。また焦燥がソウルジェムを濁らせる。魔法少女たちには長期戦は危険だった。
予測を超える夜の耐久力と持久力が、またしても壁になっている。自分達の攻撃が無駄ではないか。その不安がソウルジェムが濁らせる。その思い忘れるためにも必死になって攻撃を行う。その焦りが隙を生み、そのたびにほむらの時間停止が行われ負担が大きくなっていく。
蓄えたグリーフ・シードも徐々に減ってきている。そんな事情も焦りとなりソウルジェムを濁らせる。悪循環だった。
そんな中、大風の中、ほむらは気づいた。そこに駆け寄る少女の姿に。
「まどかっっ!?」
思わず戦線を離れ駆け寄ってしまう。自分達の戦いが長引き過ぎてしまったのかと悔やんだ。だが、その足元にQBがいた事に気づき怒りを覚える。
「ほむらちゃん、ごめんなさい」
「どうしてここに?」
「僕が教えたんだ。ほむらの執着が、ワルプルギスの夜にも力を与えている、とね」
「キュゥべえっ!」
それは、強力な爆弾だった。ほむらを再度地獄に突き落とす言葉だ。その言葉の受け止め理解するのに数瞬かかった。それがワルプルギスの夜の強大な魔力の源だったとしたら、ひょっとしたら夜を倒せるのは……。
「ずいぶんうまく立ち回っているみたいだけど、それでもワルプルギスの夜は止まらないみたいだね」
いけしゃあしゃあと語るQBに殺意を覚えるが、そんなことに力を割くほどほむらは馬鹿ではない。まどかの肩を掴みほむらは努めて優しく語りかける。
「大丈夫よ。皆健在で頑張っている。とくにさやかが張り切っているわ」
「ごめんなさい。この間キュゥべえに言われてたのに、私、言い出せなかったの……」
「いいのよ。それを知ったところで、私たちは諦めないし、逃げない」
涙ながらに頷くまどか。ほむらの気遣いが嬉しくもあり、申し訳なくもあり、ぐちゃぐちゃになってしまう。皆を助けるために契約するべきではないかと思ってしまう。だが、ネミッサもほむらもするべきではないと言う。板挟みの状態で混乱しここに来てしまった。
「ごめんなさい、ありがとう……」
「さ、ここは危険よ。戻りなさい。私たちはきっと、貴女のもとに帰るわ。貴女は私たちの帰るところなのよ」
179 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 21:58:10.36 ID:Efo00a1f0
「これは、ただの弾丸ではないのです」
「見ればわかるわ」
「辛辣ですね。私たちの協力者が、魔女の言語を解析し作り上げた魔弾です」
「どう、やって?」
「ソロモン王の魔神のなかに、地上のあらゆる言語を理解するものがいます」
「その悪魔が魔女の言語も理解できるってこと?」
「できますよ。その悪魔の力を以って魔女に対し、命令を撃ちこむ。それがこの弾丸でできます」
「その悪魔が通訳してくれれば、魔女とお茶会でもできそうね」
「大変楽しそうな話ですが、辛うじて我々が開発出来たのは二つの命令」
「ふたつ……」
「ですがこれを使うのは貴女の目的の役に立つかどうか」
「聞かせてもらいましょうか」
「『結界から二度と出るな』『この地に二度と現れるな』」
「そ、それは!」
「『撃破』が無理なら『撃退』はいかがでしょう」
「その必要はないわ。必ず、ワルプルギスの夜は『撃破』してみせる」
「では、これは保険とでも思って下さい」
「……」
「戦いは、一つの策に全力で当たることも必要ですが……」
「……」
「二つ、ないし三つの策を淡々とこなすことも必要なのです」
「……」
「これは、ネミッサの願いでもあります。聞き届けてくれませんか?」
杏子の分身がすべて消滅する。夜が回避できない広範囲の魔力の波を起こし、分身を破壊したのだ。そのダメージはそのまま杏子に集まり、血を吐いて倒れる。それをみて駆け寄るさやか。一拍遅れてネミッサが援護に向かう。
”サヤカちゃん! アタシに任せて! アンタは足を止めちゃダメ!”
”ううう、わ、わかった。ネミッサ、お願い!”
念話で悔しさをにじませて、さやかは踵を返す。白虎が最大速度で杏子に駆け寄るとネミッサがその背中に引き上げる。だが、ほむらが不在でネミッサが離れたためマミとさやかが孤立する。多対一になることを恐れ、マミが前線のさやかと合流する。そのためにその場にいたほとんどの使い魔が殺到する。
劣勢だった。
180 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/09(水) 22:09:32.36 ID:Efo00a1f0
筆者です。
演目『ワルプルギスの夜』をお送りいたしました。
我ながら、ご都合主義ですねぇ……。
ですが、自分の工夫のありとあらゆるものを詰め込みました。
手に汗握るスペクタクルをお楽しみください。
他のSSだと、台本形式でどうしてもこういった戦闘シーンが
弱くなるように思います。地の文の強みを前面にだしたつもりです。
夜の攻撃があまりわかりませんでしたので多分に妄想が
含まれております。
その辺、まぁ、「ちげーよ」とか言わず筆者の無知を笑ってください。
明日も、同じ時間に投稿を予定しています。
テキストで残り114KBほどです。
次回もまた、お付き合いください。
181 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/10(木) 21:26:28.95 ID:BI7uWFfh0
筆者です。
どこかの掲示板でこの作品が叩かれておりますね。
ここで苦情を言った方でしょうか。
正直、知ったことではございませんが。
なぜならば、あの書き込みのおかげでいいアイディアが浮かびましたので
次回作に生かそうかと張り切っているからです。
次回作もまどマギのクロスSSを予定しています。
むしろ感謝しております。
次回作も同じ酉を使う予定ですので
気が向いた方はお付き合いください。
>>161
うう、そんなに喜んでもらって恐縮ですが、
プレッシャーです。
とりあえず本編が終わった後、決戦前夜とかで
考えております。
ご期待に沿えるよう努力いたします。
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/10(木) 21:28:22.08 ID:jKz/wLWFo
ワレハ 外道 期待乙 コンゴトモヨロシク
183 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:31:55.95 ID:BI7uWFfh0
筆者です。
さて、演目「ワルプルギスの夜」の夜も更けました。
フィナーレに向かって突き進んでいきます。
どのような結末を迎えるのか。
ただただご覧ください。
本音を申しますと、ここを最初に書いて、
ここにたどり着くように書き続けた半年でした。
一番見てほしいシーンが詰まっているわけです。
それだけに、受け入れていただけるか非常に不安です。
楽しんでいただければ、幸いです。
それでは、どうぞ。
184 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:33:50.71 ID:BI7uWFfh0
ほむらは逡巡している。まどかを一人には出来ない。だが、夜の攻撃は四人を蝕む。夜を倒すべきか、まどかを逃がすべきか。図らずともマミと同じ選択を迫られていた。
また、ほむらは自分のこれまでの行いを悔いていた。
執着すればまどかの魔法少女としての素質が強くなる。それと同時にワルプルギスの夜も強くなる。ならばワルプルギスの夜を倒せるのは魔法少女となったまどかしかいないのではないか。そしてその状況を生み出してしまったのはほかならぬ自分の行いのせいである。後悔と、罪の意識。
そこに、杏子を治療するため地に降りたネミッサが合流する。夜に対するのが二人だけになっているため、焦りが見える。ネミッサは白虎に、マミとさやかの援護を命じて送り出した。
「マドカちゃん、なんでここに!?」
「ネミッサちゃんも、魔法少女になっちゃったの?」
「いや、そうじゃないようだ。僕は契約していない……ほむらがイレギュラーなら、君の場合はアノマリーだね」
彼女がなぜここにいるか、ネミッサはわからない。足元の珍獣が理由とわかると蹴飛ばしたくなってきたが、そんなことよりと杏子の治療を行う。回復魔法より上の、蘇生魔法だ。もっとも文字通り実際に死亡したものを蘇られるものではなく、欠損した部位を復元することを目的としている魔法である。今回は回復量の多さに着目し杏子の治療に当たる。
回復をし、呼吸が平常に戻った杏子の髪を優しく撫ぜるネミッサ。さすがに疲労の色が濃い。手持ちの神酒を飲み一息つく。だがゆっくりしている暇はない。さやかとマミが聖獣二体を共にして戦線を維持しているが、そう長くは保たない。
「キョーコちゃんをお願いね?」
何をお願いするのかわからないが、まどかにウィンクするとネミッサは戦線に戻ろうと踵を返す。
執着がまどかだけではなく、夜にもあったことは否定しない。むしろそのとおりだとほむらは思う。ワルプルギスの夜を倒さなければまどかは魔法少女になり、魔女になる。たとえまどかをどこかに拉致監禁しても、ワルプルギスの夜が出す被害に心を痛めた彼女はそのために願いを使うだろう。そのため、ワルプルギスの夜をまどか抜きで撃破することを願っていたのだ。
それが執着というならばそうだろう。また、彼女もまた正義感を持つ『善人』である。大きな災いを無視するなど出来ない。
だが、それがそもそも間違っていたのではないか。さやかが魔女を倒すことを自らに責任を課し、その重みに潰れてしまったことが、自分にそのまま重なる。マダムの授けた策はネミッサの願い。
『サヤカちゃんのようにならないでほしい』
もっとも、ネミッサはマダムの策の内容までは知らない。ただ、マダムにほむらのことを託しただけだ。だから、これは自分で選ばなくてはならない。まどかを取るか、ワルプルギスの夜を取るかを。
ほむらは、鼻で笑った。
(そんなの、決まっているじゃない。何を悩んでいたのかしら。馬鹿らしい)
いちどは踵を返したネミッサだったが、その場で思案しているほむらが気になり声をかけようとした。
だが次の瞬間、まどかとネミッサの目の前からほむらは姿を消した。
まどかを一人にしたほむらの行動に驚いたネミッサは、前線にでることをためらってしまった。
185 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:36:00.55 ID:BI7uWFfh0
白虎が合流し二人の援護に回ろうとした。だがさやかを載せようにも彼女の敏捷さを殺しかねない。だが使い魔を視認できない白虎はさやかを載せないと戦えない。ほとんどお荷物だ。これはさすがにネミッサの判断ミスではあったが、白虎自身逆らわなかったし、逆らいたくなかった。たとえ役に立たなくても二人を守ろうとするのは『元の契約主』の命令でもあったからだ。白虎が出来ることは、負傷した魔法少女を庇い壁になることだけである。その決意を秘め、魔法少女の戦いを見守った。
その集中力が、別のものを感知した。時間停止を駆使し戦場を横断するほむらの姿だ。小刻みに時間を止めるため、時折停止されていない状態で走ることがある。それに白虎は気づいた。ほむらの奇異な単独行動に疑問を抱いたため、二人をそこに残し追いかけた。ネミッサが本来の契約主であればこれは契約違反であり、自身の魂を損なう行為である。だが、『元の契約主』はこう命令をした。
一つ、ネミッサと魔法少女たちをその身を捨ててでも守ること
一つ、先の命令に反しない限り、ネミッサと魔法少女の命令に従うこと
一つ、先の二つの命令に反しない限り、街と住民を守ること
これはアイザック・アシモフの『ロボット大原則』を参考にしたのだろう。非情とも思えるこの命令は、『元の契約主』の切なる祈りにほかならない。
まだ、相棒は、ネミッサを想っていた。
ほむらは懐から拳銃を取り出した。その弾倉にはマダムから託された魔弾が交互に仕込まれている。これが効果を表すか分からない。当たるかもわからない。そもそも接近できるかもわからない。だが、それをしなくてはならない。ほかならぬ自分のため、自分のわがままのために。
(やっぱり、私は、貴女が大事。貴女が大好き。……貴女のためなら、執着だって、捨ててみせる)
「……まどか……」
そうこぼれた思い。
(構わない。今この場で、命落としても)
ビルの外壁をその身体能力で飛び上がる。ワルプルギスの夜を見下ろせる高さまで上がると、時間を止め夜に飛び込む。中空で魔女の顔の亀裂に二発、胸の破損部分に向かって二発。人間でいえばコロラド撃ちと言われる殺傷力の高い撃ち方。ほむらの結界外に出ると弾丸はそこで停止する。そのまま自由落下に任せ歯車に向かい四発撃ちこむ。この四発も停止する。これで全弾。ワルプルギスのスカートのような外装に体がぶつかる。そのまま滑り落ちるように地面に着地すると同時に時間を動かす。同時に八発放つ音が響き渡る。
そのほむらに気づいた夜は、間髪入れず魔力弾を撃ちこむ。着地の衝撃で体勢を崩していたほむらに避けるすべはない。また時間停止も先ほどまで使っていたのですぐには使えない。そもそも魔力も限界近いのだ。
(これで、私の執着も解けたかしらね……。避けられれば避けたいけど……無理ね。でもまだ皆がいるわ……きっとなんとかしてくれる)
186 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:37:09.64 ID:BI7uWFfh0
だが放たれた魔力弾は、ほむらではなく、ほむらの側面から迫った白い虎を貫いた。その俊敏な動きでほむらの襟元を噛み回避しようとした。だが直撃を受けた白虎はその下半身をすべて消失するダメージを受けた。噛み付いた牙の間から血がにじみ、ほむらの服を汚す。
「な! なんてことを!」
(私は覚悟していたのに!)
かばった白虎を引きずるように夜から離れる。自分だけならばいい。だが自分をかばって傷を負った白虎を放っては置けない。
その重さに思うように動けないほむらたちに、追撃が迫る。
近接戦闘を繰り広げていたさやかがその事態に気づきほむらを掴む。彼女はほむらより魔力が高く、筋力が強化されている。持ち前の素早さも相まって半身を失った白虎と小柄なほむらを抱えて走りだす。
「オレハ保タン……。オレヲ捨テテイケ!」
「そんなことだめだ! 私なら回復できる」
「余計ナコト二……マ、魔力ヲ使ウナ! 我ガ……召喚士ノ……シ、使命ヲ全ウ出来タノダ。本モ……」
それだけいうと血を吐き白虎は事切れた。さやかは物陰まで移動し、白虎の亡骸を置く。先のスレイプニルもマミを庇い重傷を追っていたが、それが元の召喚士の指示だったのだろうと、ぼんやりと考えた。
「ほ、ほむら……、あんたがなんであんな無茶したか知らない。けど、今は悲しんでる場合じゃないんじゃない?」
「え、ええ。大丈夫。今魔力が危険なだけ。グリーフ・シードで浄化したらすぐ戻るわ。ほら、貴女も」
さやかと自分のソウルジェムを浄化すると、影響が出ないように盾の中にしまう。この中では孵化することがない。そのため彼女がほとんどのグリーフ・シードを管理していた。だが、それも残り二つしか無い。
「ごめんね、白虎。あと、ほむらを助けてくれてありがとう」
襟元を濡らす白虎の血液が生々しい。ほむらはその跡に手を添え祈る。
酷い話ではあるがほむらは後悔してはいなかった。そもそもワルプルギスの夜もまどかの運命も自分の両手にはあまりにも大きすぎたのだ。それのどちらかを捨てろと言われたら、迷わずワルプルギスの夜を捨てる。夜の撃破を先送りにする。伝説ではワルプルギスの夜は百年単位で出現するらしい。まどかが生涯を全うするまでに再び出会う確率は低い。そののちワルプルギスの夜がどこかで暴れようとも、それはほむらの手に余るものだ。今まではほむらの正義感がそれを許さなかったし、まどかを苦しめた存在を許せなかった。それが執着だった。かばってくれた白虎には申し訳ないという思いがあったが、それを飲み干す。それはすべてが終わってから償うと誓った。
「いきましょう、美樹さやか。助けてくれてありがとう」
「ちょ、ほむらがお礼とか、明日は雨だねぇ」
「天変地異なら目の前で起こってるじゃない」
「はは、違いない。さ、もうひと踏ん張り行こう。白虎のためにもさ」
さやかがほむらの顔を見た時、ドキッとした。なんとも晴れやかな顔をしている。うっすらと笑っているようにも見える。ただでさえ同性すら篭絡する美少女ぶりである。その顔に張り付いた陰鬱な表情がその美貌を大きく損なってしまっている。では、その陰鬱さが取れたら、どうなるであろうか。
「ほ、ほむら、なんかいい顔してんじゃん」
「ちょっと吹っ切れた、のかな」
言葉遣いが少し変わっていることに、さやかは気づいただろうか。……やはり気づいていないようだ。レーヴァテインを振りかざすと、夜目掛けて疾走した。それに合わせてほむらも走る。
187 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:40:56.83 ID:BI7uWFfh0
「行けっっ、ネミッサっっ!」
上空からする知った声に驚くも、二人を見て頷く。ネミッサはまどかを一度見て許しを請うた。まどかが頷き許可を与える。決意し前線に赴くためネミッサは魔法少女の筋力で夜目掛けて駆け出す。その背中を見送る形でまどかは杏子の側に佇む。任された以上、杏子の側にいなくてはならない。まだ危険な位置ではあるが、そこを動かないつもりだ。QBはまどかが多少危険な方が契約に都合がいいのか、何も言わず佇んでいる。
その側に二人のサマナーが現れる。ビルの屋上から悪魔に運んでもらい降りてきたようだ。まどかを認めるとその隣に立つ。
「あ、あの……。二人がサマナーさんですか」
「そうだよ。君が『鹿目まどか』さんだね」
「悪いね。対して手伝えなくて」
「いえ……、あの強いかみさまを連れてきてくれてありがとうございました」
シヴァとヴィシュヌの存在を見て驚かないことに訝しがる。だが、ネミッサの知り合いならそういうものだろうと、深く考えないことにした。
「ここは危険だが、避難所には戻らないのかい?」
「……はい、杏子ちゃんを頼まれました。それに皆私のところに戻ってきてくれるっていいました。見えるところにいないと困っちゃいます」
まどかの剛毅な言い方に驚くが、その脚は震えている。いや、スカートを抑える手もブルブル震えている。使い魔と嵐の真ん中で、生身の人間が怖くないわけがない。だが、怖さを受け入れた上でここに残るまどかに、二人は好感をもった。
「鹿目さん。ここにいますか?」
「はい、怖いけど、ここで待ちます」
「僕の方はいつでも契約出来る。いつでも言うといいよ」
まどかがそれにびくっと反応するが、二人のサマナーはその珍獣を完全に無視した。
「それならば、僕らがここで君を守ろう。ここで戦いを見届けるといい」
「おい。俺もか?」
「そうでしょ、先輩?」
白いスーツのサマナーは、しぶしぶ銃型コンピュータを取り出し、まどかの護衛のためにこれまた強力な悪魔を召喚した。
杏子を除く四人が夜に戦いを挑む。前衛が欠けたため、そこにネミッサが入る。杖とレーヴァテインが煌めき夜を斬りつける。ほむらの豪銃が使い魔を打ち倒し、マミの魔弾が夜を貫く。魔力も残り少ない。ここで畳み掛けるべく全員の全力攻撃が始まる。杏子がいないことが心配ではあるが、まだ、全員諦めてはいない。
隙を見て、ほむらはマミのソウルジェムを浄化する。残り一個。そういった意味では、ワルプルギスの夜の攻撃は散漫なところがある。一撃の威力は高く直撃すれば危険ではあるが、連続攻撃や避けたところを狙うといったことをしない。それは異常なまでの耐久力と攻撃力に依存した戦法ではあるが、その巨体も相まって無敵の存在になっていた。
だが、それに異変が起きた。
ほむらのせいだ。
ソウルジェムを浄化したマミの砲撃に夜の外装が大きく破損する。さやかの剣により歯車の一部が損壊する。ほむらの銃撃により外装に穴が開く。
ほむらの執着が消えたため、明らかに弱体化していた。
「行ける! 倒せるよ!」
さやかが吠えて最高速度で突っ込む。車軸部分を切り倒そうとフルスイングで斬りかかる。
その瞬間。ワルプルギスの夜を中心にかつて無いほど巨大な竜巻が巻き起こる。夜の最期の一手だろうか。天をつくほどの巨大な風と魔力と、瓦礫の竜巻。それが一瞬にして魔法少女たちを巻き込む。魔法少女たちは全身に瓦礫と魔力の打撃を受け、天高く放り上げられると、受け身も取れず地面にたたきつけられた。全員、地に伏したままピクリとも動かない。
ただ一人を除いて。
竜巻に巻かれた瞬間、マミがネミッサの体に卵のようなリボンの檻を作ったのだ。それが辛うじて瓦礫から身を守り、落下の衝撃を和らげた。血を吐きながらも立ち上がるネミッサの視界には、微動だにしない魔法少女たちの痛ましい姿があった。
(また、マミちゃんは・……本当に……。なんで、自分を大事にしないのよ!)
マミがネミッサを守った理由は定かではない。本当に咄嗟にかばったとしか思えなかった。
だが、それを今は考えている暇はない。
全滅、敗北、絶望。そんな言葉が頭をよぎった。
ネミッサは、まだ試していないとっておきにすべてを注ぎ込もうと、決意した。マミの自らを省みない行為に怒りを覚えたが、それすらすべて注ぎ込むつもりだ。
一方で杏子がまだいることを知っている。彼女が目を覚ませばきっと皆を助けてくれるはずだ。
”キョーコちゃん? 聞こえる? お願い! 目を覚まして!”
だが返事はない。だが、もう待っていられなかった。
ヒビだらけのワルプルギスの夜に、たった一人。立ち向かう。
188 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:42:50.31 ID:BI7uWFfh0
「アンタさ、元々魔法少女なんだってね」
甲高い笑い声を上げて回り続ける舞台装置は、勝ち誇るようにネミッサに正対する。大掛かりな歯車はどんでん返しを模しているのだろうか、頻りに回転速度を変えて挑発する。
「何に絶望したのかしらね。友達? 恋人? 家族? それとも、自分?」
やることは全てやった。援軍は住民を安全なところに避難させてくれたはずだし、相棒は街のため手持ち最大の仲魔を喚んでくれた。ネミッサは知らないが、ほむらは結界に逃げ込もうものなら二度と出てこれないよう『毒』も打ち込んだ。
「アンタは強いよ、流石『ワルプルギスの夜』だよね。でもさ…」
額から血が流れて、口元まで流れる。それを腕で乱暴に拭う。呼吸を整えるのもままならない。
だが一歩もその場を引くことはない、そのつもりがない。
「ホムラちゃんは、地獄を繰り返しても、絶望しなかったんだっ。たった一人で、誰にも理解されないのに……アンタにはならなかった!」
夜は自信満々に距離を詰める。自分を止めるものはもう無いと、知っているかのように。
回転数を上げ、ヒビだらけになりながらもネミッサに、倒れた魔法少女たちにつめよる。
高笑いはますます大きくなる。耳障りな声。
「…絶望に『逃げた』アンタより、ホムラちゃんはずっと強いんだ! だからアンタにホムラちゃんは倒せないっ! 殺させない!」
杖を地面に突き立てる。魔力を貯めて、大きな魔法に備える。同時に小さな結界を張り、自分の守りとする。自らの魔法の余波を防ぐものだが、大きな魔法になると、この結界も強固なものになる。魔法の最後の準備に入る。
「ホムラちゃんはスゴイんだ、カッコいいんだ! アタシの憧れなんだ! アタシが逃げた道を歩く夢なんだ!
それを、尻尾巻いて『逃げた』アンタがぁ…」
手には腰から引き抜いたカプセル状の金属が握られている。両端を握り締めると、引きちぎる勢いで開く。ゆっくりゆっくり空けられる端から、霧が吹き上がる。烈風にすら流されない不可思議な霧は夜の巨体の前に立ちふさがるように立ち込める。
「…アンタが、これ以上…、ホムラちゃんの祈りを『嘲笑う』なぁっ!」
189 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:43:33.69 ID:BI7uWFfh0
___『Magic_戦の魔王』___
190 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:44:10.01 ID:BI7uWFfh0
ワルプルギスの夜に匹敵する巨体。四目六臂、牛の頭を持つ禍々しい姿が、霧とともに
現れる。手にはすべて武器を持ち、戦の匂いに高揚し、荒々しく打ち鳴らす。雄々しく
響く咆哮が笑い声を打ち消すがごとく響き渡ると、振りかぶるすべての武器が夜に叩き
込まれる。
「好きな人と一緒にいることがそんなに悪いことか! いけないことか!」
ネミッサにはもう後がない。魔力そのものもそうだが、打つ手がなくなっていた。ヒビ
がはいりつつある相手に力押しで押し切るしかない。これで倒せなければ、ネミッサに
はできることはない。
「そんなちっぽけな祈りがわるいことかっ!」
戦の魔王の武器が夜に浴びせられるたびにその体ごとアスファルトがひび割れる。斧が
両腕を砕き、本体に直接打撃が届く。その背後に、夜の逃げこむ結界の入り口が広がる
。ほむらの執着が薄れ、魔女の魔力が大きく減っている。それに準じ防衛本能が働き、
結界の入り口を作る。だが、最強の魔女の矜恃が自らの本能を拒み前進する。笑い声は
まだ響き続ける。
「うるさい! うるさい! うるさい! 嘲笑うな! 嘲笑うな! 嘲笑うなァァ!!
」
ネミッサの啖呵は誰の耳にも届かなかったが、テレパシーも伴っていた。魔法少女にな
ってはいたが、使う機会がなかったため吠える言葉がそのまま予期せずテレパシーとな
り他の魔法少女に伝播した。それにより、奇跡がはじまったと言っていい。
191 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:46:38.53 ID:BI7uWFfh0
>>190
再貼り付け
ワルプルギスの夜に匹敵する巨体。四目六臂、牛の頭を持つ禍々しい姿が、霧とともに現れる。手にはすべて武器を持ち、戦の匂いに高揚し、荒々しく打ち鳴らす。雄々しく響く咆哮が笑い声を打ち消すがごとく響き渡ると、振りかぶるすべての武器が夜に叩き込まれる。
「好きな人と一緒にいることがそんなに悪いことか! いけないことか!」
ネミッサにはもう後がない。魔力そのものもそうだが、打つ手がなくなっていた。ヒビがはいりつつある相手に力押しで押し切るしかない。これで倒せなければ、ネミッサにはできることはない。
「そんなちっぽけな祈りがわるいことかっ!」
戦の魔王の武器が夜に浴びせられるたびにその体ごとアスファルトがひび割れる。斧が両腕を砕き、本体に直接打撃が届く。その背後に、夜の逃げこむ結界の入り口が広がる。ほむらの執着が薄れ、魔女の魔力が大きく減っている。それに準じ防衛本能が働き、結界の入り口を作る。だが、最強の魔女の矜恃が自らの本能を拒み前進する。笑い声はまだ響き続ける。
「うるさい! うるさい! うるさい! 嘲笑うな! 嘲笑うな! 嘲笑うなァァ!!」
ネミッサの啖呵は誰の耳にも届かなかったが、テレパシーも伴っていた。魔法少女になってはいたが、使う機会がなかったため吠える言葉がそのまま予期せずテレパシーとなり他の魔法少女に伝播した。それにより、奇跡がはじまったと言っていい。
192 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:47:11.65 ID:BI7uWFfh0
まず、昏睡から杏子が立ち上がる。豊かな髪が乱れ、槍を支えにしている姿はふらふらとして心もとない。だが、その眼光と口元はまだ力を失っていない。大きく深呼吸をすると、眼光鋭く夜を見据えつつも、背後にいるまどかたちに気付く様子もなくシヴァに走り駆け寄る。まどかが止める間もないほど素早い、迷いのない行動だった。
(あんなこといわれちゃぁよぉ…立たないわけにはいかねえよな…あたしらも絶望してないぜ)
「おい、あんた! あんたの槍!貸してくれ」
物怖じしないのか、天然なのか。只の思い付きで最高神に吠える。
『これを? まぁ、確かに威力はそこそこあるが……』
「頼む! それを貸してくれ。そしたらあたしはあんたに何でもするから!」
『ほほう、なんでも、か。ならば私の妻になるとかでもいいかも……』
「ああ、なんでもなるから!」
杏子は言葉の意味が理解できなかったらしい。全くの理解ない状態で丸呑みしてしまった。
シヴァの三叉戟を受け取ると、その重さに戸惑いつつも夜に向かって走り出した。
193 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:48:42.88 ID:BI7uWFfh0
次にマミがマスケットを杖にして起つ。目尻の下がった柔らかな顔は疲労と戦塵により汚れていた。だが、こちらはいつもの優しげな表情とは違う、雄々しげな顔をしていた。
(そうよね、好きな人と一緒にいることの、何が悪いの? 暁美さんだって、鹿目さんと一緒にいたいって思っていいじゃない)
傍らで嘶くスレイプニルの首を叩く。その悍馬もマミを先の竜巻からかばい瀕死に近かった。その姿に心痛めつつもマミは願った。
「ごめんなさい、もう少しの間だけ、時間を稼いでくれる? とっておきのを使いたいの」
理解したように瞬きをすると、スレイプニルは血まみれのままマミの前に立ち突撃の姿勢を取る。マミに迫るすべての攻撃を受け止める覚悟を持って。
194 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:49:23.66 ID:BI7uWFfh0
さやかも立ち上がり、鼻血を拭い口内に溜まった血を吐き捨てる。可愛らしい少女が、笑う。獰猛な笑いはもはや一人の戦士のもの、未熟な新米魔法少女のものではなかった。
(そうだよね。あんなに頑張ってるほむらを嘲笑われるのは我慢できないや。私も手伝う。やっつけよう、ネミッサ!)
レーヴァテインをかざし、自分のサーベルのように魔力を送り込めば巨大になることを把握したようだ。にやっと笑うと走りだす。しかも、自分の体の限界を超える速度を出し、それによる肉体の損傷を自らの魔法で自動回復するという無茶をしだした。魔女にならないギリギリを狙い、綱渡りを始めた。
195 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:49:50.72 ID:BI7uWFfh0
最後に立ち上がったほむらは一番疲労が濃い。元々最も魔力が弱い彼女は、時間停止という極めて燃費の悪い魔法を使い続けたため最も危険水域に近いはずだった。
(ネミッサ…貴女は本当に愚かね……。私はすごくない。ただの痩せっぽちで意地っ張り……。そんな私に貴女はここまでついてきてくれた、導いてくれた。……ありがとう。だから、死なないで。生きて、私に反論させて。……すごいのは、貴女のほうだって言わせて!)
196 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:50:31.46 ID:BI7uWFfh0
奮い立った少女たちは、それぞれが嵐に立ち向かう。その姿を神々が見守る。
『私は光栄に思います。苦難に立ち向かうため、お互いを支えあうあなた方の手助けができることを』
『我はむしろ恐ろしい。お前たちにとって凄まじく絶望的な状況で、逃げ出さず立ち向かう精神が。支えあい、助け合って破滅に立ち向かう心の強さが。……人の子よ、奇跡を我らに見せてみよ』
少し離れたところでは、二人のサマナーががまどかをかばっていた。
「おーおー、すげえな、あいつら。立ち上がったぜ」
「テレパシー使えるんだろう。君も、いいたいことがあるんじゃないかい」
使い魔をやすやすと倒すサマナーに促され、まどかは頷く。ネミッサに習い、祈りを吠える。
”みんな、頑張って! 死なないで! 生きて、帰ってきて! 私、待ってるから!”
197 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:52:03.19 ID:BI7uWFfh0
まどかの祈りに呼応し、杏子が、マミが、さやかが、そしてほむらが雄叫ぶ。
振りかぶった最後の戦斧を渾身の力で叩きつけ、戦の魔王が霧を散らすように消える。それはネミッサの魔力の限界を表していた。膝を折り、仰向けにがれきの上に倒れこむ。できることはすべてやったが、それでも夜は高笑いを続けていた。目に悔し涙が浮かぶ。歯ぎしりをする力すら無く、できることは睨みつけることだけだった。止めのつもりなのか、夜が熱線を撃つべく魔力をためネミッサに狙いをつける。
(チクショウ! クソッ、なんで届かないの! なんで、なんで……。ヤだよ、ヤだよ。ホムラちゃんが、みんなが死んじゃう!)
絶望に落ちかけ崩れ落ちたネミッサの横をすり抜け、惚れ惚れする速度で疾走するそれは美樹さやか。青い衣装が鮮やかに戦場を駆け抜ける。
「真打とーじょー! おーまたせっ、ネミッサー!」
「サヤカちゃん!?」
残った魔力を注ぎ込み、巨大なサーベルを作り上げる。時間を止めたのだろう暁美ほむらが、そのあとをやや遅れて追いかける。絶望なんてしていられない。ネミッサは必死に立ち上がる。
「ネミッサ、射線から離れて! わかるわね!?」
「ホムラ…ちゃん、うん、わかった」
熱線が放たれる瞬間、ほむらが再び時間を止める。力を使い果たしたネミッサを抱きかかえ、走り抜ける。ワルプルギスの夜の攻撃範囲から抜け出すと、そこにネミッサを下ろす。
その背後ではさやかが渾身の力を振り絞って歯車ごと夜を切り上げる。歯車を大きく斬り裂き、ワルプルギスの夜を大きく後退させる。残り十メートル。
「ほらほら、シャキっとしなって。まだお楽しみはこれからだぞ」
「きょ、キョーコちゃんまで…」
超重量のシヴァの三叉戟を振りかざし、持ち前の突進力で突っ込むのは佐倉杏子。更に自らの分身を生み出し、それらすべてが特攻する。本体より先に突き刺さる槍と分身たち。その最期にシヴァの三叉戟を持った杏子の本体が突進する。その最高神の力を宿した槍がやすやすと夜の歯車を貫き大きく損傷させる。残り六メートル。
「こぉい! マミィ!」
これまでにない程巨大なキャノン砲を作り上げる巴マミ。皆が必死に作り上げた僅かな時間全てを巨砲の構築に費やした。杏子の合図が無くとも、マミには砲撃のタイミングはわかりきっていた。まっすぐ正対し、狙いを定める。
五人のなかで瞬間の最大火力を誇るマミが、限界まで魔力を注ぎ込んだ巨大な無数のマスケット。
「ネミッサ、見ていて! あなたの為の…ほんとうに最後の射撃…」
「やっちゃって! マミさん!」
「ティロ・フィナーレ!!」
仰ぎ見るネミッサの頭上を轟音と魔力の光が通り過ぎ、歯車に直撃する。中央にぶち当たり、歯車の構造的に弱い部分を粉々にする。だがワルプルギスの夜は崩れない。三人の必死の攻撃をひび割れた体で耐えぬいた。歯車の回転こそ止まったものの、まだ崩壊の兆しは現れなかった。残り二メートルが遠い。
夜は高笑いを崩さない。勝ち誇った声は勝利の雄叫びにも似て、天地に響き渡る。勝敗を決したことを知り、歯車を回転させ街を蹂躙せんと嵐を呼ぶ。
ほむらは自分の非力さを呪った。さやかのようなスピードはなく、杏子のような接近戦も出来ず、マミのような火力もなければ、ネミッサのような魔力もない。低スペックな自分が歯痒い。そして、皆は力を使い切り、立っているのがやっとのはずだった。
(あと、あと一撃……、あのときのまどかみたいな力が、私にあれば……)
「残念だけどここまでかな。ワルプルギスの夜には敵わなかったね」
淡々とQBはつぶやく。だがまどかはそれを全く聞いていなかった。震える両手で皆の無事と勝利を祈り吠え続けていたからだ。
ほむらは残った小型の爆弾を辛うじて投げつけるが、強風に煽られ明後日の方向に流れ爆発する。
だが絶望はしない。瞳から力を失うことはなかった。頭の中にあるのは、まどかのことだけ。
笑っていた、泣いていた、怒っていた、まどかの顔。さまざまな表情が浮かんでは消える。そして、弓をつがえた凛としたまどか。
(呪いだなんて思ってない。
貴女はなにもない私にすべてをくれたんだよ。
だからすべてを返すの。
私の人生すべてをかけて)
198 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:53:53.25 ID:BI7uWFfh0
それはさいごのきせきのはじまり
ほむらの盾を中心に光とともに細長いものが現れる。その形状が魔法少女となったときのまどかの弓だとすぐにわかった。使い方を理解したかのように盾を左手から外すと、手に握る。丁度弓の真ん中、矢をつがえる部分に盾がほむらのソウルジェムを守るように位置する。引き絞るしぐさに合わせ光り輝く矢が生まれる。すべてを理解し、自らの魔力をすべて矢に注ぎ込む。
ほむらはすべてを知った。
ほむらが時を巻き戻すたびに、ほむらが執着するものに因果が絡まり魔法少女としての素質が強くなるという。それはワルプルギスの夜にも適応され、ほむらの歯がたたないほど強くなってしまった。
では、ネミッサの巻き戻しは、誰に因果を絡めたのか?
(決まってる! 私に、私たちに、ネミッサは力を絡めてくれたんだ!)
ほむらほどではないが、ネミッサもまた何度も繰り返し力をほむらに絡みつかせた。一番の違いは、ネミッサが夜に執着をしていないことだ。彼女の強い執着はほむらたち。ネミッサも知らないうちに彼女たちに因果を絡めその力を少しずつ高めていった。弱体化した夜と強化された魔法少女たち。それが実力差を埋めていたのかもしれない。今までのループでは考えられないほどさやかの素質は高かったし、マミの砲撃もいつもより強く、杏子の分身の数も多かった。
最大まで引き絞ると、ほむらの背中から一組の巨大な黒い翼が広がる。遠目からも、まどかたち全員からも見える雄々しい猛禽類の翼。
「還りなさい! これ以上は行かせないッッ!」
全霊を込め、矢を放つ。極大の閃光とともに矢はまっすぐに夜に直撃し大きくその巨体を曲げる。夜は押し返され大きく後退する。
そしてきせきははたされた
甲高い笑い声はもはや怯えの色を含み、結界内に押し込まれるように吸い込まれる。破片をまき散らしながら、徐々に結界に引き込まれる最悪の魔女。二度と結界から出ないよう、二度と見滝原に近づかないよう縛られた真夜中のサーカスは、静かにその幕を下ろした。
大きく息を吐き、ほむらはその場にしゃがみ込む。
嵐が止んだ。それは同時に、魔法少女の歴史の中で前例のないワルプルギスの夜の撃退がなされた瞬間だった。
199 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:55:24.33 ID:BI7uWFfh0
スーパーセルが過ぎ去り、徐々に晴天が広がる。その様を、全員が脱力し呆けたように見つめていた。一人、また一人と立ち上がりよろよろと集まる。それぞれの武器を杖にして歩くのがやっとの疲労だが、皆の表情には微塵も見られない。
「……あー、あのよぉ。もう終わったんだよな?」
乱れた髪を直そうともしない杏子。魔法少女の服は、あちこち乱れているのも整えないのは疲労のためではなく、彼女の気質によるものであろうか。
「終わったと思うよ。あんだけボコボコにしたんだから……多分」
杖を支えにしてクタクタの体を立たせるネミッサ。銀髪は乱れに乱れているが、表情は爽やかだ
「ホラー映画だとさー、こう、しつこく出てきそうだけどさー」
疲れを露程も見せず軽口を叩くさやかも、整った顔を煤だらけにしてニコニコ笑う。信じているからこその軽口も今は心地良い。
「みんな、無事? ソウルジェムは?」
マミの不安の通り皆のソウルジェムはだいぶ濁っていた。そこでネミッサは自分が持っていたグリーフ・シードをだす。だがそれは周りを先の魔法を使った時のような筒に入っていた。外部の魔力や穢れから守るためのパッケージのようだが……。
「皆、四つあるから、使って」
「え、なんであんたがもってんだよ」
「ちょっと事情があるのよ」
と、訝しがる二人のために、自分のソウルジェムを浄化する。通常のグリーフ・シードとさほど変わらないようだったため、各々が自分のソウルジェムを浄化する。
ややあって、遅れてきたのは心ここにあらずという体で歩くほむらだ。黒髪はぐしゃぐしゃでいつもの凛とした表情に影を残している。最後にほむらが自身のソウルジェムを浄化しても、彼女は言葉を発しない。惰性で行動しているような、そんな緩慢な動き。魔法少女の衣装、背中のあたりに大きな穴が開いている。先ほどの翼のあと。華奢で白い肌がみえる。
「どしたの? ホムラちゃん?」
ネミッサがまっさきに異常に気づいた。全員の間に、ほむらの魔女化の兆候かと不安が走る。だが、そのほむらの顔はどこか呆けた顔をしていた。気の抜けた顔はいつもの暗いが引き締まった顔とは程遠い。歳相応…よりもやや幼くさえみえた。
「え、ええ? どうかしたのネミッサ?」
「どーかしてんのはアンタの方っしょ。何ボケっとしてんの」
「あ、あの、何だか…頭が真っ白になってて…その…」
「ほむらちゃーん! みんなー!」
サマナーに守られ、まどかが走る。瓦礫を恐れず、まっすぐにほむらに近づく。ヴィシュヌもシヴァも遠巻きに五人を見守っている。間近でつまづきつんのめるまどか。いつもの様に反射的にまどかの手を取りささえるほむら。意図せず手を握り合う形になり、二人がまっすぐに見つめ合う。
「終わったんだよね。みんな無事で、やっつけたんだよね」
「ええ、そうよ…。ネミッサと…みんなのお陰でね」
髪をかきあげ、凛とした表情を取り繕うのが見て取れた。まどかだけが気づき、精一杯の笑顔をだす。本当はほむらの顔を観た時から泣きたくてしかたなかったが、なんとか堪えた、頑張って耐えた。皆の顔を見たらきっと泣いてしまう。だからほむらの顔だけじっと見つめる。ほむらちゃんには、最高の笑顔を見せたいから。
「ティヒヒ。ほむらちゃん…、もういいんだよ。もう、いいんだよ…我慢しないで…」
両手でほむらの顔を抱きしめ、自分の胸に押し付ける。自分のために無間地獄を歩き、絶望にも死にも逃げなかった少女を、まどかは抱きしめるしか無かった。ネミッサに言われて初めて気づいた、絶望に逃げられなかったほむらの気高さと苦痛。それを思うと、無力な自分にはできることが思いつかなかった。抱きしめて抱きしめて抱きしめるほかなかった。自分がそうされるほどの価値があるのかわからない。だがほむらは一人は言ってくれた。『貴女は私たちの戻るべきところ』と。ならそうしよう、私がほむらちゃんを、みんなを癒すんだ、と。
「ま、まどか…、もう、いいの? 私、泣いちゃいけないって…泣いたら立てなくなるから…ずっと、ずっと…」
まどかが優しく、黒髪を撫でる。もう、限界だった。もう一度深く抱きしめる。華奢な体。きっとまどかよりずっと細い。そんな体で絶望と戦い続けた少女は、誰のために戦ったのか。
そんなの、皆知ってる。
ほむらのこころがあふれる
200 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:56:20.92 ID:BI7uWFfh0
「まどかぁ…う、うううう、ああああああああああああああああああああああああ!!!」
今までに聴いたことがない声で、ほむらは初めて泣いた。まどかにすがりつき、いつもの仮面を全て捨てて、ただただ最愛の友人の胸の中で泣いた。眼鏡を外し、三つ編みを解いたときから封じた分の涙がすべて流れるまで。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! 私、何度もまどかを殺したの! 見捨てたの! 何度も、何度も! い、一番助けたかったのに! 一番大事な人なのに、私、私…。ごめんなさい…。まどかだけじゃない、さやかも、杏子も、マミさんも! ぜんぶ、ぜんぶ見捨てて…見捨てたのに…。ネミッサがぜんぶ助けてくれて、救ってくれたの。こんな、わたし、救われて…いいの?」
ほむらを一番苦しめていたのは、無間地獄そのものではなかった。一番守りたかったまどかを自らの手で殺めたこと。友人たちを何度も見捨てた罪悪感が、心に澱として残り続けたことだった。それゆえ、徐々にまどかを、皆をもまっすぐ見ることができなくなった。自宅に帰るたび、心の痛みのため嘔吐を繰り返した夜。拒食症のような食生活はそれも遠因であったのかもしれない。
まどかはそれを許すように、優しく強く抱きしめた。ほむらの前髪に軽くキスをする
「ティヒヒ。ほむらちゃん、ずーっとずーっと頑張ってくれたんだね…。私の中にね、ほむらちゃんが出会った私が居るんだよ。私ばかだから、きっとほむらちゃんに酷いことしたことあったよね。私こそ、気づいてあげられなくて、ごめんね。…ありがとう、ほむらちゃんは、私の最高の友達…だよ」
もう、まどかも耐える必要はなかった。まどかとほむらの涙と声は途切れることなく、流れ続けた。
今日まで必死に努力した魔法少女たちも互いに抱き合いながら泣いた。街を守れたこと、まどかを守れたこと、ほむらを救えたことがすべてないまぜになって。あの杏子ですらマミと抱き合い泣き出した。
ほむらの抱えた苦痛がすべて涙で流れ落ちる間、皆も歓喜の涙を流していた。
ようやく抱擁が終わり、二人が四人に向き合う。まだしゃくりあげるほむらの手を握り、まどかは笑顔を見せた。
「暁美さん、鹿目さん、やっと『出会えた』…のかしら?」
つられて涙を浮かべるマミの問いかけに、力強く頷くまどか。けれども、まだ涙がこぼれそうで言葉にならない。
「へっへー、ほむ……転校生の泣き顔なんて初めて観たよー。写メとってやろうか」
「ヒドいよさやかちゃん…。いじわるは私がゆるさないからねっ」
さやかの憎まれ口も、今は心地良い。彼女もまた言葉と裏腹に、涙の跡を隠しもせず二人を見つめていた。
201 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:57:02.37 ID:BI7uWFfh0
ようやく落ち着いたところで、今度はネミッサが槍玉にあがる。まどかとほむらを邪魔しないためでもあるが、ネミッサはいい面の皮だ。
「さぁネミッサ! 行った行った!」
「そうだな。ほれ、お前の相棒だろ。玉砕してこい」
「いや、マジかんべんして。お願いだから!」
そう二人に背を押されて、ネミッサは相棒のところに歩かされる。マミは嬉しそうに笑っているだけだ。
「ごゆっくり〜」
さやかが相棒とネミッサににこやかに笑うと、マミのところに走り去った。当然、ネミッサの様子を三人で伺っているのだが。
ネミッサと相棒が話をする。涙ぐむネミッサの肩を優しく撫でる。何を言っているかは聞こえないが、暖かな雰囲気が伝わってくる。一度、相棒がネミッサの頭をぶん殴る。
「あ、結構容赦無いんだね」
「ネミッサ痛そう」
「うずくまってるもんな」
頭を抑えて立ち上がるネミッサを、相棒は抱きしめる。その横でニヤニヤしているスーツの男と神々。何の罰ゲームかわからないが、ネミッサは驚きのため、硬直し微動だにしていない。
「キース、キース」
「キース、キース」
「……ちょっとあなたたち、酷くないかしら」
さやかと杏子がはやし立て、マミが呆れたようにたしなめる。
202 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:57:44.82 ID:BI7uWFfh0
そんなこととは露知らず、心の支えが取れたようなネミッサは、フワフワした足取りで戻ってきた。
「なー、腹減ったからかえろーぜ。へっとへとだよ」
「そうね、ケーキと紅茶でお祝いしたいけれど…、今日は無理よね」
「…私、黙って避難所抜けだしたんだった…、やば、超怒られる」
変身を解いて、避難所に戻る三人を横目に、ようやく泣き止んだほむらがネミッサに向き合う。いつもと違い、まどかに手を引かれている。本来のほむらとまどかは、こういった関係だったのだろうか。何かを言い出そうとするが自信なく、言いよどむのをまどかが促すのがなんとも微笑ましい。だがそれでも言いづらそうにしていたため、ネミッサが助け舟をだす。今までの仕返しに目一杯ニヤニヤしてやろう、そう意地悪にも思いながら。
「へっへー、ホムラちゃん。アタシが言った約束のこと、覚えてるー?」
「えっ? あ、はい…?」
口調まで変わって…戻っているのだろうか。なんのことがわからずうろたえている。これも今までのほむらからは想像もできない姿に、ネミッサはニヤニヤが止まらない。ネミッサの復讐が始まる。
(ああもう可愛いなチクショー。はぁ、持って帰りたい。マドカちゃんが羨ましい)
手を握り、肩を寄せ合う少女たちに、ネミッサは嫉妬した。ほんの少し。
「ご、ごめんなさい、覚えて、ないです…」
「いやいやいや、謝ることじゃないって。……しょっちゅう言ってたでしょ、『いつかアンタを泣かす』って」
はっとする表情をするほむら。幾度と無く繰り返した軽口。ほむらは歯牙にもかけなかったが、ネミッサは執拗に繰り返した言葉だった。その今までのやり取りの真意に気づいた瞬間、ほむらは目に涙が溜める。
「アタシ、果たせたかな? ……アタシ、あんたの涙の役に、立てたかな?」
照れくさそうに頭をかいて見せる。ネタばらしほど、照れくさいものはない。苦笑いをしてごまかすほかがない。
「ネミッサちゃん、まさか、それだけを言いたくて、ずっと…?」
「うん、そうだよ。ホムラちゃんがマドカちゃんにしたことと、おんなじことしたかったの」
しれっというネミッサに、目をまんまるにして驚くほむら。こらえきれず再び涙を流す。不眠不休で動きまわって、最後の最後で叱咤激励したのは、すべてほむらのため。それをネミッサは当たり前のように言いはなった。なんてことないという姿勢でない限り、ほむらは負い目を持ってしまうだろう。だから精一杯の笑顔で答える。
「ホムラちゃんはアタシの、憧れだから」
今度こそ再び号泣するほむらとまどかを、ネミッサは満足そうに見つめていた。ぐっと晴天を振り仰ぐ。零れそうなものをこらえて、笑った。もう、スワチカは巡らない。
こうして、魔法少女史上初の偉業を成し遂げた五人と一人の戦いは、幕を閉じた。
避難所に戻った六人は、まず家族のお叱りで迎えられた。さやかは両親から拳骨を受け、まどかは詢子に頬を抓られた。そして、勝手なことをしたネミッサたち四人に心底怒っていた詢子は、全員にも同様に叩き込んだ。そして、その両手で四人を抱きしめると、まどかが見たこともないほど大泣きをした。知久も一緒に皆を抱きしめ、無事を喜んだ。
詢子の涙に釣られ皆が泣き出す中、マミと杏子が一際大きく泣きだした。彼女たちには直接叱ってくれる両親がいない。だから、そうやって叱ってくれる大人の存在に感極まってしまった。ネミッサ以外が初めて見るマミの涙と、杏子の呼吸困難になるほどの号泣と謝罪に、詢子のほうがうろたえてしまった。そのため、嵐の中何をしていたか深く詮索されることもなかった。
全員が避難所の毛布にくるまり、寄り添って眠る。達成感に満ちたその表情はみな穏やかだった。ほむらとまどかは、眠りに落ちた時でも手を握りしめ離れることはなかった。
そう遠くない未来、詢子が杏子を鹿目家に養子として迎え入れようと一悶着あるのだが、それは又の機会に。
203 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 21:59:56.96 ID:BI7uWFfh0
避難指示が解除されるのには暫く時間がかかった。街の被害が大きく、建物の倒壊などの危険が残っていたからだ。そのため、皆は毛布に包まったままボケっとしていた。
まどかはずっとほむらのそばを離れずくっついていた。正直言えば、まどかはほむらにぞっこんだった。まどかにはビジョン・クエストで見たほむらの姿が頭にある。おさげ髪で眼鏡を掛け、背中を丸めた可愛らしい姿。それがまどかの隠れた『お姉ちゃん気質』を頗る刺激してしまったようだ。今の凛々しい姿も大好きだが、あの姿とのギャップも相まってものすごく『揺さぶられた』とのことだった。
「はー、嫁が取られちゃったよー」
「入り込む余地すらないよねあれ」
さやかとネミッサがおにぎりのように毛布に包まっている。まだ疲れが抜けていないのか二人とも頭に靄がかかったような会話が続いていた。
「ネミッサ〜、お茶とおにぎり貰ってきたよ」
「ありがとー、喉乾いたトコー」
マミがペットボトルのお茶とおにぎりを人数分確保し持ってきた。ほむらとまどかには杏子が渡している。マミはもぞもぞとネミッサの隣の毛布に入り込む。杏子も気を利かせたのかネミッサたちの方に戻り、さやかの隣の毛布に潜り込む。寒いわけではないが、なんとなく皆が包まる。もそもそとおにぎりを咀嚼する一同の前で、まどかはほむらにおにぎりを食べさせている。
「ああ、お茶が無糖でよかったよ」
「確かに空気が甘いね……なにあれ」
ほむらが困ったようにしつつも受け入れている。包みを丁寧に開けて口に運んであげるあたり、なんだか恋人みたいなやり取りだ。どうやらまどかはお姉ちゃんのつもりらしいのだが、どうしても恋人同士に見えてしまう。
「はぁ、美しいですわ」
うっとりとするような声で現れたのは仁美だ。疲労の色が見えるものの、安堵の表情を浮かべていた。彼女は嵐の中ずっと車で走り回っていたうえ、あの演説の際に使用した違法電波ジャックの追求を受けていた。だがスプーキーズはすべての機材を回収し証拠隠滅を図った。また、あの嵐の中助けた人々がこぞって仁美にお礼を言ってくる。そのため彼女が行った行為も不問とすることで決着したようだった。仮にこれで仁美やスプーキーズに何かあったら、助けられた人たちが黙っていない。そんな空気すらあった。
「ヒトミちゃん、大人気みたいね。あの演説聞いたわよー、カッコ良かった」
「そんな……お恥ずかしい……」
おにぎりになったままネミッサは朗らかに声をかける。その真っ直ぐな賛辞に仁美は頬を朱に染める。照れくさそうにしながらもさやかに声をかける。
「ふふ、あれくらいしなければ、さやかさんに負けてしまいますからね」
「あらあら、手強いライバルね。美樹さん?」
言葉に詰まるさやか。街を守るための戦いをただ見ているだけでは上条をめぐる戦いに勝てないと思ったらしい。それにしたって思い切ったことをしたものだ。あの一件で志筑家は嫌が上にも名前が上がってしまった。これから一段といそがしくなるだろう。ヘタをしたら父親は次期市長選にも推されてしまうかもしれない。
マミやネミッサが賞賛する状況に、どちらかと言えばさやかを応援する杏子は面白くない。苛立たしげにおにぎりを食べきるとさやかに向き合う。
「おい! ぼうやのところいくぞ!」
「わ、なになに!?」
おにぎりさやかはそのままころんと転ぶ。立ち上がった杏子が引っ張ったからだ。そのまま穴に落ちてしまいかねない勢いだった。杏子としてはさやかに勝って欲しい。仁美の大活躍が周囲に伝わっているこの優位な状態ではダメだと思っていた。魔法少女での行いはやはり周囲に伝わったりしない。その評価の差が気に入らない。
「ちょ……、ちょっと杏子!?」
「おら! お前の活躍を聞かせてやるんだ。あのぼうやに!」
「わ、わかったから、せめて毛布を〜〜」
杏子はおにぎりのまま運ばれたさやかを連れて、どこにいるかも分からない上条目掛けて走りだしていった。杏子もかなり疲弊しているはずだが、どこにそんな元気があるのだろうか。かなり強引に力を込めている。微笑ましいといえばそうなのだが、巻き込まれるさやかはたまったものではない。
このあと、二人は上条に会いに行く事はできたらしい。だが彼の周りには大勢の女性ファンが集まっていたとのこと。どうやらあの演奏と演説が女性ファンのハートを掴んでしまったようで、ますます杏子のいらだちに拍車がかかってしまった。
「お二人とも、どこに行くのですか〜」
避難指示の解除が出ていない状態で別の避難場所に移動するのは難しい。泡を食って追いかける仁美を二人はのんきに見送った。何しに来たのだろうと、残されたふたりはおかしかった。
「とと、忘れてしまうところでしたわ。明日皆さんで打ち上げを致しませんか? 皆さんに一言お声をかけて置いてくださいね」
それだけ言いに戻ると、また慌てふためいて二人を追いかけた。
204 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 22:01:14.05 ID:BI7uWFfh0
しばらく会話が途切れる。落ち着いた時間が流れる。ふとマミが呟く。
「ねえ、ネミッサ、ちょっとお願いがあるの」
「んー? 何よ改まって」
マミの頼みならネミッサは大概聞くつもりだ。だから改まって言われて、ついきょとんとしてしまう。
「一緒に、お墓参りに来て欲しいんだ」
誰の? という言葉を飲み込んだ。すぐに気付いたからだ。唇を結び、硬い表情をする。マミの真面目な表情を見つめる。
(マミちゃんも、美人なんだよね。スタイルもいいしさ……、きっと、いい人に出会えるよね。生きてさえいれば)
「うん、私のパパとママの」
「アタシなんかが行っていいの?」
「……一番のお友達を紹介したいんだもん。……皆で頑張ったって報告したいんだもん」
マミがそういうとネミッサにしなだれかかる。マミが甘えられる唯一の、一番のお友達に。
(マミちゃんも疲れたよね……、いいよ、アタシで良ければ甘えて。ゆっくり休んでね)
「やぁ、ネミッサ」
「しーっ。馬鹿うるさい、どっかいけ」
QBが現れたのは、マミが穏やかな眠りについてしばらくしてからだ。ネミッサとしてはマミを起こしたくない。会話なんかしたくないのだ。
「そう言わないで欲しいな。美樹さやかの復活やワルプルギスの夜の撃退の方法が良くわからなくてね。教えて欲しいんだ」
悪びれる様子もないQB。
ネミッサは首をひねる。両方共答えられないのだ。理由はそれぞれ違うが。
「教えたくても教えられないのよ。サヤカちゃんのほうは守秘義務でね。ワルプルギスの夜は何が合ったのか知らないの。ごめんね。多分ホムラちゃんがなんかしたんだと思うけど」
「そうか、それじゃ仕方ないね。暁美ほむらは僕を見ると攻撃してくるんだ」
「それはお気の毒」
「でも、僕は鹿目まどかを諦めないからね。それじゃね」
そのQBの後姿を見送って、ネミッサは一人考える。ワルプルギスの夜は確かに倒した。だが、それでまどかが魔法少女にならないかといえばそうではない。確率は恐ろしく低くなったわけではあるが、まだQBが諦めない限りまだ残っている。万が一、ほむらの生死と引換に願いを叶えさせる可能性もある。それでなくても、まどかの心がそんな不安定な状態で長くいられるとは思えない。何かをきっかけに契約をしてしまう恐れがある。
やはりQBに契約を止めさせるか、まどかの魔法少女としての素質を消すかしなくてはならない。前者は恐らく諦めることはないので難しい。後者は誰かが魔法少女になる願いを使ってもらう方法であればすぐにでも出来るだろうが、ほむらは許さないだろうし、まどかの心を傷付ける恐れがある。
隣では穏やかな寝息を立てるマミ。遠くではさやかと杏子が元気に笑い合い、少し離れたところでほむらとまどかが仲良く寝ている。これがほむらの望んだ世界のはずだ。この世界を壊したくない、壊させたくない。
ほむらはもう時間を戻せない。ネミッサもスワチカを使うつもりもない。
あたり前のことだが、やり直しは効かないのだ。
「また、悩んでるの?」
ネミッサはその声に仰天した。マミがいつの間にか目を覚ましていた。いつからだろうか?
「一人で悩まないで。私も悩みたい。ネミッサと一緒に」
「いつから起きてたの?」
「キュゥべえが来たときからかな」
「じゃぁ最初からか、ごめんね、起こしちゃって」
マミはキュゥべえに裏切られて以来、QBを明確に拒絶するようになった。なまじ家族として接していたため、裏切られた落差は大きかった。それこそ、魔女になりかねない勢いで。ネミッサがいなければマミはQBの餌食になっていただろう。
「いいのよ。キュゥべえと話したくなかったから、寝たふりしちゃったけど」
マミの心の傷は大きく、深い。自分が癒せるだろうか。ネミッサには自信がない。けれども、自分にできる精一杯のことをしてあげたい。そんな思いが、彼女の髪を梳らせる。
「ふふ、お風呂はいってないから、だいぶひっかかるでしょ」
「いい匂いはするけどね」
「やっ、やだっ!」
マミが赤面する。その顔を隠すように毛布に顔を埋める。可愛らしい仕草がなんともいじらしい。皆より年上ぶってるくせに、こういうところは年頃の女の子と何も変わらない。それはきっとほむらも杏子も同じはずだった。彼女たちは年相応の青春を送ってほしい、送ってほしかった。
「ごめんね、また一人で抱え込むところだったよ。やっぱりマミちゃんは一番のお友達だね」
マミは言葉が返せず、益々赤面する。いやいやをするように毛布で顔を隠す。顔の色以上に、にやける顔を隠したい思いがあるのだ。
そんな二人を、いつの間にやら戻ってきたさやかと杏子がニヤニヤ笑いながら見ていた。暫くからかわれたマミはすっかり拗ねてしまい、眼に涙を浮かべながらネミッサの肩に隠れてしまった。
205 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 22:02:07.16 ID:BI7uWFfh0
結局その日一日は避難は解除されず、そのまま皆は寄り添って一晩過ごすことになった。だがそれはまるで林間学校のような雰囲気で、終始和やかだった。周囲の目をくぐり抜け仁美と上条も合流した。それぞれが災禍に立ち向かい戦った戦友だった。奇妙なことに、さやかと仁美による上条の奪い合いが始まるのかと思いきや、上条と仁美がさやかを奪い合うという状況が発生していた。どれだけ『相手が』この災禍に立ち向い、立派に戦ったかを語る場になっていたのである。さやかの前で上条は仁美を褒め、仁美は上条を褒めているのだ。さやかは何が起こっているのかまるでわけが分からなかった。
マミにはわかる。それはさやかへの償いだと。それも自分より相手を慮っての行動だ。さやかにそんな機微がわかるとも思えない。終始困惑していた。
「ネミッサ、その、白虎のことなのだけれど」
ほむらをかばい、命を落とした聖獣のことを思い、ほむらは表情が暗くなる。だが、ネミッサの方はやけにあっさりしていた。
「……? ああ、アイツ? ここにいるわよ」
「私を庇って……。 え?」
といつものスマホを取り出す。テレビ電話のように画面を変更すると、そこに白虎がいた。衆人環視の中悪魔を呼ぶわけには行かないので、その画面のままほむらに突き出す。てっきり死んでしまったものと、落ち着いてから神妙になっていた彼女は肩透かしを食った形だ。
「い、生きてるの?」
「ホンモノの悪魔はこんなもんよ。アタシは人間に近づけちゃったからアウトだけどねー」
テキストにはカタコトではない文字でこう並んでいた。
『暁美ほむらを守れたのは英傑の誉れ。流す涙などいらない』
そんな気障なテキストに軽くイラッとする。
「心配して損したわ」
「心配したってさ」
『おお、それは済まないことをした。鉄面姫の涙をぜひ一度みてみたかったものだ』
白虎のテキストが毒を増す。ほむらはむすっとして画面を見ないようにした。そんな子供っぽい彼女に皆が笑う。
「アタシ見ちゃったけどねー。眼福眼福」
「難しい言葉知ってんなぁ」
「ふふ、たまにあんなところをみちゃうと可愛くてしかたないわね」
「マミさん、ほむらちゃんはいつも可愛いんです!」
「ま、まどか。それに貴女たち、何を言って……」
「ネミッサ、スレイプニルさんはいる?」
『ここにおりますよ。巴マミ。ご無事で何より。貴女を乗せて戦えたのは私の自慢です』
すっかり意思の疎通ができるようになったようで、お互いの信頼関係がとてもよいものになっていた。ネミッサからすればマミの『悪魔たらし』の腕が信じられなかった。ひょっとしたらこの子は優秀なサマナーになるんじゃなかろうかと心配になった。心配することではないのだが。
「ほら、皆寝る時間だよ。明日には家に帰れるから、とっとと寝ろー」
「皆も疲れただろう。ゆっくり休みなさい」
鹿目家の両親に諭され、皆はそれぞれが思い思いの格好で寝ることになった。寄り添って眠る皆の顔を見て詢子は微笑みが止まらない。まどかとほむらは、まるで抱きつくように向かい合い眠りについた。
206 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/10(木) 22:17:13.84 ID:BI7uWFfh0
筆者です。
以上をもちまして、四章【しがつのおわりのおまつり】編
終了でございます。
演目のフィナーレはお気に召したでしょうか。
一か所メモ帳の不具合でおかしなところがありますが、目をつぶってください。
お見苦しい点申し訳ありませんでした。
次回、五章も明日の同じ時間を予定しています。
その次、六章を持って本編はカーテンコール、完結と相成ります。
そののち、小ネタをいくつか上げて行きたいと思います。
マミッサという新ジャンルを誕生させた方に、頑張って捧げます。
エロ薄めでいいですか? なまら恥ずかしいです……。
207 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/10(木) 22:31:45.17 ID:NRq0fEd9o
>>206
イチャラブ強けりゃ良いんだぜ?
とにかく乙
208 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/10(木) 22:38:24.16 ID:4XvV3zwqo
乙でした。
そういえば前の周回に置いてきたっぽいヒトミちゃんどうなってるんだろう……?
さすがにダブルライドウ呼んで
ヤソマガツVSワルプルギスの夜は無かったか……。
209 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/11(金) 00:00:55.36 ID:0VzEbBdb0
筆者です。
レスなくたってへいき! と嘯きつつ、実はレスがあって嬉しかったりします。
>>207
本編でも、わりかしマミッサになってますけどねー。
実際のところ、マミちゃんはネミッサにしか甘えられない気がします。
他の子は、学校でも魔法少女としても後輩だし、強がっちゃうんだろうなと思います。
>>208
ダブル召喚ですね……。
『キョウジ』にしろ『ライドウ』『雷堂』にしろ
あの連中と魔女を戦わせたらそれこそぶち壊しです。自重しました。
メアリー・スーにしないようにしますよ。さすがに。
魔法少女まどか☆マギカSS談義スレその54を読んだら
このスレッドのタイトルがありました。
びっくりしました。なんというか大分憎まれていたんですね……。
誰も読んでないのにこっちに貼られた反論も引用してまで……。
ちょっと怖かったです。
210 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/11(金) 03:42:58.59 ID:wOWV0wu50
>>210
あそこは…少なくともssを投下している間は見ない方が吉…と思う。
貶されたらテンション落ちるし、褒められたら調子乗ってしまいそうだし…。
とりあえず、ここを定期的に覗いている人は楽しみにしているので、挫けずに頑張ってください。
211 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/11(金) 04:22:22.59 ID:0rpz5PNAo
乙!いいクライマックスだった
SS談議スレ見てきたけどキチガイが喚いてるだけだから気にしなくていいと思う
212 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/11(金) 17:29:18.81 ID:bFrEBMYgo
他者を蔑むことでしか自分のアイデンティティーを保てない哀れな人型の言うことなんか気にする必要はありませんよ?
213 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/11(金) 19:16:28.65 ID:kZRQCgrN0
乙
まだ2回ほど続くのかww
今のとこめでたしめでたしで終わりそうな雰囲気ですがどうなるか?
>>211
ソレに同意です。単に気に入らないのが騒いでるだけでしょうから
気にするだけ無駄です。
本当にひどかったらこのスレ自体が荒らされてますから大丈夫ですww
214 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/11(金) 20:16:17.24 ID:ba0QeMSM0
>>211
>>212
>>213
少しの批判をしただけでキチガイ呼ばわりかよカスが
マンセー意見しか認められないんですか読者様は?
オリキャラかクロスの違いだけでメアリー・スーには変わらない実際は最低ssなんだが
215 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/11(金) 21:11:09.36 ID:0VzEbBdb0
筆者です。
お返事を相も変わらずいたします。
>>208
ごめんなさい、見落としていました。
ソウルハッカーズでは、エンディングで瞳とネミッサが分離します。
ネミッサはその後、マニトゥと融合し内包してからネットワークに逃げ込んだ、という設定でした。
ゲームでは マニトゥ>クリア>ベルゼバブ戦>二週目 という流れですが
ここでは ベルゼバブ戦>マニトゥ>ネミッサ分離(15年後の小説へ)という流れになっています。
見滝原に2か月前来たときは遠野瞳(ネミッサの宿主)の外見でした。
このアイディアは携帯アプリゲームの「ソウルハッカーズ イントルーダー」で疑似ネミッサが同じ格好でしたので
それをモチーフにしています。誤解をさせて申し訳ありません。
ちなみに遠野瞳は、15年後の世界でも元気でやっていますよ。
>>210
お気づかいありがとうございます。
自分のへっぽこな作品を好んでいらっしゃる方にこそ
喜んでいただくのが作家冥利というものですしね。
作家というにはおこがましいですが。
大丈夫、完走まで坦々と投稿いたします。
ちなみに「坦々」とは、隆慶一郎先生の墓石に彫られた、
先生の好きな言葉とか。
>>211
ありがとうございます。
mixiに上げた際、友人には『戦の魔王なんて出さないさ〜』とか
大嘘ぶっこいていたのですが、当のシーンを見た友人が
「嘘つかれて文句言いたいけど、あんな使われ方したら文句もいえねえだろ」
とお褒めの言葉をいただきました。
計画通り、でした。
>>212
お気づかいありがとうございます。
でも正直、あの発言のおかげで、次回作のアイディアが浮かびまして
それはそれで無駄ではありませんでした。
ただ、ああいう人を見て、なんとなく「寂しいな」とは感じています。
>>213
ここまでは、いわゆる対処療法なのです。
マミが危なければかばい
さやかが魔女化すれば救い
杏子が自爆しそうなら止めて
ワルプルギスの夜が暴れるなら撃退する……
でも、まだ問題は何も解決しておりません。
QBはまだまどかを諦めていませんし
ほむらたちは未だ魔女狩りを続けないと魔女になる宿命を帯びています。
ネミッサが天海市で何をしていたか、それがこの章で明らかになります。
お楽しみいただけるかと思います。
>>214
お戻りいただきましたか、ありがとうございます。
あなた(同じ人?)のおかげで、次回作が思いつきました。感謝いたします。
改変後の世界を舞台に、クロスSSを考えています。
本当にあなたには感謝しております。ありがとうございました。
216 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:27:11.34 ID:0VzEbBdb0
さて、これから五章が始まります。
ワルプルギスの夜を無事越えた魔法少女たち。
けれども問題は何も解決していません。
それに対し、ネミッサは、『葛の葉』は
どう挑むのか。
五章【どくりつせんそう】
どうぞ、お楽しみください。
217 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:29:04.96 ID:0VzEbBdb0
五章
【どくりつせんそう】
翌日、ようやく避難指示の解除が出た。だが、見滝原中学校は校舎の安全と生徒の安全確認のため数日休校となってしまった。これ幸いと喜ぶさやかに、全員が冷ややかな目を向けた。
その日、志筑仁美のお屋敷でささやかな打ち上げが行われた。参加者は仁美と魔法少女たち、まどかに上条、そしてネミッサ。立食パーティのような気楽な物の割に、部屋が広く面食らう一同。その中で平然としているのはネミッサくらいなものだ。
「乾杯とか誰がやるの?」
「そりゃぁ、ネミッサじゃない?」
「いや、ここはホムラちゃんでしょ」
「え? え?」
「そうよね。暁美さんが望んだことだもの」
戸惑いうろたえるほむらのそばで、飲み物を手渡すまどか。皆の視線を一身に受けてひどく狼狽している。転校当時の凛とした姿とは程遠い雰囲気に全員が思ったことは『可愛い』の一言だ。女性ですらうらやむ美貌である。その気のない上条ですら見惚れて赤面してしまった。そのせいで両方の頬をつねられることになったのだが。
(何を言えばいいのよ!!)
ただでさえ人前に出たことがないほむらである。ましてやこういう晴れの舞台に人目を引くようなことなどやったことがない。そんなときはさやかみたいに砕けて笑いを取ればいいのだがほむらにそんなことをする度胸はない。完全にコップを持ったまま固まってしまった。もちろんこれは皆の悪戯であったり、今まで訳知り顔でいたことへのささやかな復讐であったりするのだが、ほむらには酷なイベントである。
「あ、え、え、そ、その……」
「ほむらちゃん頑張って!」
「ホムラちゃん頑張って」
「似てねえ〜」
「あの、その、皆……、あ、ありが……」
「はい乾杯〜」
「かんぱーい! おつかれほむら〜」
何かを言おうとしたほむらをさえぎり、さやかが勝手に乾杯の音頭を取る。ようやく自分がからかわれたことに気付いたほむらは、皆が感謝を述べるこの状態では怒るわけにもいかず、複雑な表情で皆の乾杯を受けていた。
その後真っ先にサンドイッチを消滅させる杏子。真っ先にケーキに特攻するマミ。さやかを取り合う恭介と仁美。ほむらの手を引いていくまどか。そんな楽しげな風景を見て、ネミッサは顔がほころぶ。彼女が求めていたのはこんな光景だったはずだ。そして、ほむらが求めたものも。
218 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:30:56.67 ID:0VzEbBdb0
ネミッサが一人のんびり軽食を食べていると、まどかがほむらの手を引いて近づいてきた。どうやら寂しいように見えたまどかが気を利かせたようだ。
「隣いいかな?」
「おっけーよ。むしろアタシお邪魔じゃない?」
二人の仲の良さを知っているからこその軽口で返す。まどかのほうは赤面こそするが嬉しそうに微笑む。もっともほむらのほうは赤くなったため顔をあげられない。完全に逆転している関係に、ネミッサは笑いが収まらない。
「ティヒヒ、そんなことないよ。ほむらちゃんを助けてくれたのに」
「たいしたことないって。アタシの都合で好きでやったことなんだしさ」
「そっ、それでも……私は……、嬉しかった」
ネミッサはまた顔がほころぶ。ほむらの素直な気持ちが嬉しかった。
「そ、それに……、ネミッサに言いたいことがあるの」
まどかが嬉しそうに微笑み、ネミッサは小首をかしげる。またしても漫画みたいなクエスチョンマークでもでそうな顔だ。
「わっ、私は……すごくないの……。ただの意地っ張りで、やせっぽちで……。本当にすごいのは、ネミッサなの……。あっ、ありがとう……」
やっと絞り出すように言えた。それでも語尾は小さくなりかろうじてしか聞き取れなかったが、ネミッサには聞こえた。だから、じわっと目頭が熱くなる。
いちばんききたかったことば。
二人が無言で見つめ合うのを見て、まどかが嬉しそうに笑う。二人が仲直りできたと喜んでいた。実際にはさほど喧嘩をしていたわけではなかったのだが。
歓談が進む中、仁美の家の人が仁美に声をかける。次いで、二人でネミッサに近づくと、こう切り出した。
「ネミッサさんにお客様が来ているらしいのですが……、司馬さんにお心あたりはありますか?」
「司馬さん?」
『葛の葉』にそんな知り合いは思い当たらなかった。しばらく考えていたがやがてわからないという風に頭を振る。
「ううん、ごめん知らないわ、どんなひと?」
「インド系の、大柄で精悍な男性です。あと、もう一方は白いスーツの男性でして」
家の人の言葉に再度悩むが、しばしして思い当たる。
「ああ、司馬じゃないよ。シヴァよ。って神様がなにやってんのよ!!」
ネミッサがキレた。
219 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:33:37.07 ID:0VzEbBdb0
『やぁネミッサ。宴の邪魔をしてすまないな』
フランクなしゃべり方をする大柄な男。さすが舞踏の神といわれるせいかその歩き方も美しくサマになっているのが憎らしい。
「『キョウジ』! あんたみたいな大物がなにやってんのよ!」
『まぁまぁ、私は昨日の契約を果たそうと思って来たのですよ』
「俺はただの付き添い。こんなでかい悪魔単独じゃ歩かせられないしな」
ネミッサは頭を抱えた。先にあれだけ戦いに貢献してもらった手前追い返すわけにもいかない。できることなら相棒の方がまだいい。まだ話が通じる。こっちの『キョウジ』は割と何を考えているかわかりづらい。シヴァもそうだからネミッサはどうしていいかわからない。
「で、何よ契約って」
無駄に美丈夫なのが癪に障る。さすがに外見は人間に化けているがその風貌には面影がある。下手にカリスマというかオーラがあるだけ困る。最高神の面目躍如というところだが、こいつの問題は、象徴がリンガなのだ。女性をなるべく近づかせたくない。
『そこの赤毛の少女を妻に迎えようと思いましてな』
サンドイッチを頬張り、われ関せずを貫いてた杏子が、皆の視線を集めた。それにやっと気づくと皆の目に狼狽える。
「アンタ!なんて約束してんの!?」
ネミッサがもう一回キレた。
事情を聴いてネミッサは頭を抱えた。事前に悪魔との注意点を話しなかった自分のミスでもあったが、まさか悪魔がそんな形で契約をしたがるとは思わなかったので、無視していたのだ。
「いやいやいや! それはだめでしょ!」
『しかし、私の三叉戟を貸したのは事実ですし、その時に言いましたからね。それを貸してくれたらあたしはあんたに何でもするから! とね』
確かに言った。その時は正直聞き取れなかったのだが、それは言い訳にならないだろう。杏子の顔色が悪い。ましてや聖職者の娘として、不誠実なことを許せない心が戻っている今の状態では、反故にもできない。何より、あの一撃がなければ押し返すこともできなかった。
『ということで、彼女は連れて行くがよろしいですか』
「あんな子供と結婚する気?」
『確かに若いですが、魅力的ではないですか。私は気に入りましたよ』
「ダメダメダメダメ!」
ネミッサと神が言い争う。ほかの皆は放心状態だったり狼狽えていたり、騒然としている。
「マミさん、あいつ後ろから攻撃して倒しちゃいませんか?」
「それはだめよ! それに……倒せると思う?」
マミとさやかが全力で攻撃をしてもおそらくビクともしまい。徒に怒らせるだけだ。戦場で見せたあの魔力にかなうはずがない。
『悪いようにはしませんよ』
「当たり前だ!」
ますますヒートアップするネミッサに、助け船をだしたのは『キョウジ』だ。
「おいおい、シヴァ。いい加減にしないと奥さんに言いつけるぞ」
神話では、シヴァの妻はパールヴァティーとされる。また、彼女の憤怒相はカーリーとされ、殺人も厭わない残酷な神とされる。
『おお、それは怖い。それでは仕方ない。この契約はひっこめると致しましょう』
あまりにあっさりと引き下がった態度に、ネミッサはやっと二人にからかわれたと気付いた。とはいえあまりにもブラックなジョークである。杏子はやっと気付いてへなへなと腰が砕け、さやかに抱きかかえられる。
「ア・ン・タ・ら!」
ネミッサは怒りのあまり、『キョウジ』の足を踏み抜いた。
220 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:34:35.69 ID:0VzEbBdb0
疲れのあまりぐったりするネミッサをいたわるマミ。闊達に笑いながら平謝りするシヴァと『キョウジ』に皆があっけにとられていた。
「もう、やめてよね……。大きな山は越えたんだけどさ、まだ難題があるんだし」
「まだ、なにかあるのかい」
まったく事情を知らないまま『キョウジ』は素っ頓狂な声を上げる。
事情を知らないのに戦場に駆け付けたその心意気にネミッサは驚き感謝していた。事情を説明すると、難しそうな顔をしている。
「そのキュゥべえに契約をあきらめてもらうほかないだろうな」
「無理よ、ファントムみたいなもんだからね」
「まるで、この星があいつの植民地になっているようだな」
『キョウジ』の比喩は正しい。ガラス球の代わりに奇跡を売り、石油の代わりに魂を奪うのだ。まさに略奪経済の縮図ともいえる。こちらの無知に漬け込むところといい、完全に小ばかにされているようなものだ。だが相手を倒すには不可能に近い。本星は宇宙のはるかかなたにあり、QBを何体倒しても復活してくる。打つ手なしだ。
そこに、ひらめいたのは、なんと仁美だ。
「植民地……、なら、私たちのやることが決まったのではありませんか?」
考え込む一同にまず『キョウジ』が気付きにやっと笑う。次にマミがハッとする。ほむらもそのあとに気付いた。他の皆はまだ思い当たらないらしい。
仁美が、笑顔で言う。
「植民地支配からの脱却……」
「これから始めるのは……」
「そう!」
ほむらが立ち上がる。
「な、何を始める気?」
ネミッサが狼狽えている。このあたりの察しはあまりよくない。
「それはね……」
「独立戦争、ですわね」
221 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:36:28.81 ID:0VzEbBdb0
「いいね。独立戦争か」
だが、その発言に皆は訝しがる。今さっき、QBを殺しても意味がないといったばかりではないか。何を持って戦争と称するのか。
今現在、地球はQBたちに植民地化されている。それは魔女化という方法で魔法少女たちの魂をエネルギーとして搾取されている状態である。魔法少女の願いがなければ今頃でも洞穴で暮らしていた、というのがQBの主張である。そのため人類はQBたちに依存しつつ、搾取されていた。
それを覆す。対等とまでは言わないものの、搾取されている状態を何とかする。そのために戦うというのだ。実際にドンパチやらかすわけではない。ワルプルギスの夜と戦うのとはわけが違う。今度の相手はQBだ、ということだ。
「それじゃアタシは役立たずだねー。とほほ」
肩を落とし苦笑いをするネミッサ。だが、その目は笑っていない。できることはあるはずと考えている目だ。
「何言ってる。ヴィクトルの研究成果を皆に報告したのか?」
「わかってるわよ。明日連れて行く予定。ホムラちゃん、使用済みのグリーフ・シードまだある?」
「え? ええ。QBには渡していないわ。しばらくは孵化しないから大丈夫だけれど」
ほむらは質問の真意がわからずきょとんとしているが、もはやネミッサのことを疑うことはない。納得して頷いていた。
それから口々に皆が言う。何かできることはないかと。ネミッサも『キョウジ』も苦笑いするしかない。
「いや、君たちは可能な限り青春を謳歌すべきだ。魔法少女である以上難しいこともあるだろうけれどね」
にやっと笑う。これは大人の仕事だと言わんばかりの笑いに、一種の頼もしさも感じた。それきり戦いの話は終わり、先ほど通りに歓談が始まった。ネミッサの苦労をねぎらうため飲み物を注いだり、椅子に誘って雑談をしたり、残したらぶっ飛ばすと言いつつお菓子を渡したり、食べ過ぎて苦しいところにケーキを渡されたりされた。律儀にもらったものを全部食べることもないのだが、ネミッサは残さず食べ、苦しいながらも楽しいひと時を過ごした。
222 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:38:57.10 ID:0VzEbBdb0
ふと目をやると、まどかがシヴァと何事か話をしている。さすがに先の杏子のようなことはないだろうが、まどかはシヴァから腕の飾りを受け取っていた。
「うぷ……、明日天海市に行くから、皆時間頂戴ね」
「私はちょっと……、あまり外を出歩くなっていわれちゃってるし」
「こっちもなんだよね。今日は仁美のところだからOKって言われたけど」
家族がいるまどかとさやかは外出できない。さすがに災害で復興途中の町を出歩くのは危ないということだ。そのためやむなく、一人暮らしの魔法少女たちだけで行くことになった。後でその報告を行うということで、さやかはまどかの護衛をするようだ。
「でもパトロールはまだやめてね」
「夜には帰るから、それからにしよ?」
災害で住民の心にも不安がある。そこを魔女に漬け込まれる心配もある。たとえばほむらたちが半壊させた工場の関係者などは狙われそうだ。
それから宴は上条の演奏会になり、さやかと杏子の漫才になり、マミと仁美のお菓子談義になった。そんな楽しげな中に、ほむらはようやく心から笑えるようになった。
昼過ぎ、日が落ちる前に帰れるような時刻に解散となった。さすがに町が落ち着かない状態で深夜までは外出できない。まどかとさやか、上条は家に帰るため、ほむらと杏子に送られてることになった。一方のネミッサはマミの家に帰ることになった。杏子が気を利かせ(あるいは悪戯心で)ほむらの家に住むことになったためだ。散々茶化されて赤面するマミではあったが、ほむらとネミッサの仲が元に戻り、たとえ離れていてもつながっていることの証と、内心胸をなでおろしていた。
223 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:41:17.55 ID:0VzEbBdb0
その二人は自宅には帰らず、少し歩くことになった。治安が心配ではあったが、そこは魔法少女と女悪魔である。真っ暗になる前に戻ればいいと、やや足早に見滝原の郊外に向かう。
そこは海より遠く、ワルプルギスの夜の被害をほとんど受けていない。停電も起っておらず、住宅地は灯りに満ちていた。
「ふふ、見てマミちゃん。これ、皆アンタらが守ったんだよ」
両手を広げ、踊るようにくるくる回るネミッサ。その屈託のない笑顔はマミが何よりも大好きなものだ。自然にマミの顔も綻ぶ。まだ明るいが、気の早い街灯は灯りをともしている。そんな中踊るようにはしゃぐネミッサは嬉しそうだった。
(そんなことない。この街を守ったのは貴女よ)
けれど、それは謙遜ではない。マミはネミッサのその助けができたことのほうが嬉しく誇らしいのだ。そして、自分の一番のお友達が偉業をなしたこと、それが一番嬉しい。『私のお友達は、こんなにすごい子なんだ』と大声で自慢したい。それくらい大好きだった。
二人が向かった先は、墓地。マミの両親が眠るお墓だ。マミの両親は交通事故で亡くなった。同乗していたマミはQBとの契約で生き延びることができた。それは魔女になるとか、危険などと悩む余裕すらない緊急事態だった。だからこそ、さやかやまどかにはじっくり考えてほしかった。後悔がないように。
途中かろうじて空いていた花屋で花を用意する。水を桶に汲みはしたが、作法を知らないネミッサはただ漠然と待っていた。
「パパ、ママ、見てくれていた? 私ね……皆と一緒に頑張ったよ」
マミが汚れた墓石を懸命に洗う。魔法少女のことでなかなか来られなかったため、大分汚れていた。途中ネミッサに桶の水を汲んでくるようにお願いすること二回。やっとのことで掃除が済んだが、かなり時間がかかってしまった。
その間、ネミッサが見えなくなった。墓参りの概念がないからなのかとマミはがっかりした。でも彼女にも手を合わせてほしいと思い、姿を探す。
彼女は木陰にいた。物陰で何をしているか見えない。ちょっとむくれて、マミは大きな声で呼びかける。
「ネミッサー、お線香くらいあげてー」
初めて見る霊園を興味本位でうろうろしていたらしい。さすがに走り回るようなことはしないが、桶や柄杓を興味深そうに見ていた。声をかけられてマミのほうへ戻る。マミが一生懸命掃除したお墓に、線香を手向ける。うろ覚えの作法で両手を合わせ目を閉じた。
「初めまして、パパさん、ママさん。アタシネミッサ。マミちゃんの一番のお友達。マミちゃんね、昨日すっごい頑張ったのよ。見ててくれたよね」
ネミッサのつぶやきは後ろに立つマミにも聞こえて、ちょっと恥じらう。このまっすぐな言いようはいつものことだが、恥ずかしい。
「マミちゃんもアタシのことお友達だと思ってくれてるの。悪魔だから心配かもしれないけど、アタシずっと一緒にいる。ずっとお友達でいるね。だから安心して」
ずっと一緒にいる。そんな言葉にマミが感極まる。さすがに号泣こそしないが、ネミッサの心を聞いて嬉しくなってしまった。きっと両親も喜んでくれると思う。自分だけが生き残ったことに罪悪感がないわけではないが、生きていく自信はついた。そう思う。
「うん、お待たせ。挨拶できてよかった。パパさんとママさんのこと教えて。好きな紅茶とか、好みのケーキとか」
嬉しそうにうなずくマミ。肩を並べて歩き出す二人。仲睦まじく帰路についた。夕暮れが近づく黄昏時、先ほどネミッサと話していた一組の夫婦が、その後ろ姿を見送っていた。
224 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:43:50.30 ID:0VzEbBdb0
翌日、昼前に集まった四人はほむらの家から天海市に移動することにした。朝弱いほむらと杏子のため、早起きなマミがまだ眠い目をこするネミッサを連れて現れた。マミとしては気を利かせたつもりだったが、寝起きの二人は多少不機嫌だった。それでも時間には凛とした姿になるほむらと、いまだ髪がぐしゃぐしゃな杏子の対比に、マミは手を出さずにいられなかったようだ。このマミの構いすぎるあたり自由奔放な杏子やネミッサは苦手なのだが、それを避けずに受け入れたネミッサはマミの部屋に残れた。
相変わらず慌てる三人を強引に連れてテレビに飛び込むと一路ホテル業魔殿に連れ込むと、メアリに声をかける。ヴィクトルの支度ができていないと、しばらくロビーで待つことになること30分。今度こそ紅茶の味を堪能することができた。
「ようこそ我が魔の工房へ。私は悪魔合体を生業とし生命の研究を行う者だ。このたびはそこのネミッサの要請を受け、君らに有用なものの開発を行っている」
威風を漂わせ、ベテラン魔法少女を圧倒する。その眼光は鋭いが、その心の奥を見透かせない深さを漂わせていた。
「おっさん、女の子威圧しないで。本題に入ろう?」
「相変わらず失礼な言いようだな。だが、私も自分の研究成果を早く見せびらかせたい。よかろう、お見せしよう」
ネミッサの悪態を軽く受け流し、研究所の奥に促す。ほむらたちにはまったく理解できない機材が所狭しと並んでいる中に、淡い光を放つガラス管があった。その前に、不思議な風貌の男が立っている。
「おや、これはこれは。魔法少女その人とお会いできるとは思いませんでした」
やや尖った耳に人間とはっきり言い切れない風体。いわゆるオカルトの宇宙人が人間の背格好を真似しているようにも見える。だが、その声や物腰は柔らかく紳士的だ。
「こちらは開発を協力してくれた『生体エナジー協会』のスタッフだ。だが、勿体ぶるのはやめよう。こちらを見給え」
スタッフが横によけると、淡い色を放つ液体のようなもので満たされたガラス管が大量にある。その一つ一つに、見慣れたものが入っていた。
「あれは、グリーフ・シード?」
「左様。これはお前たちが使ったグリーフ・シードを人工的に浄化する装置だ。すでに、浄化が成功したグリーフ・シードはネミッサに預けたが、無事に使えたかね」
驚きのあまり魔法少女たちは後半が聞き取れなかった。ものすごい衝撃を受け言葉を失っている。
「問題なかったわ。今もここに使ったものがあるしね」
ネミッサが『まつり』のあと皆で使ったグリーフ・シードを入れた筒を見せる。使用済みの、穢れをためたグリーフ・シードはそのままだと外界の魔力や負の感情を吸いこんでしまう。それを防ぎ魔女の孵化を防ぐための筒に入れて持ち運んでいるのだ。
「ただ、『純正』のものより穢れの吸収量が悪いかな。でも十分役に立ったわ。ありがとうね」
「『まつり』には間に合ったようで何よりだ」
やっとマミがぽつりとつぶやく。
「ネミッサが、やっていたことって、これなのね」
大きくうなずく。ネミッサの目的はグリーフ・シードの安定供給だ。理想的には完全に人工のグリーフ・シードを作ることだが、その過程で人工浄化の技術が確率できた。『まつり』に間に合わせるため方向を転換した。これで魔女化を完全に防ぐわけではないが、コンディションを良好に保ち戦いを有利にすることができる。また、日常の心労やストレスの浄化にも役立つ。何より、これから受験のマミにとって、勉強とパトロールの両立は難しい。しばらくの間でも狩りをせずに済むのであればそれにこしたことはない。
225 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:45:56.45 ID:0VzEbBdb0
原理の説明を端折ってすると、グリーフ・シードも根源的には魂と似通ったものだ。ソウルジェムの穢れを似通ったグリーフ・シードに移すことでソウルジェムを浄化する。同じ理屈でグリーフ・シードの穢れを魂に似た『マグネタイト』という物質に移すことで浄化を行うという方法だ。
魂は本来『魂魄』といい、それは『魂』と『魄』に分かれる。魂魄のうわべの部分、『魂』を集め物質化したものを『マグネタイト』として保存している。
「そのマグネタイトならば穢れを移せるのではないか、と推測し、それが実現できた、というわけだ」
言葉でいうのは簡単だが、実際には穢れを移す方法に工夫が必要だった。だがそれを発見し、成功させることができた。
「お前たちの友人が魔女化したこと、また魔女から魔法少女に戻せたこと、その情報も大変役に立った。それを逐次伝えるのがネミッサの役目だったのだよ」
「幸い、穢れを移したマグネタイトはかなり需要がありましてね。私どもも助かっているのですよ。共生共栄ですね」
「いずれはお前たちの町にも『生体エナジー協会』の支部を置く。そこでグリーフ・シードのやり取りを行わせるのが目標だ」
「新しい街です。見滝原支部はまだありません。これから物件を探します。皆さんの通えるところに置きたいですね」
にこやかにスタッフの男が話す。
研究所から放心状態で出てくる魔法少女たち。
ほむらが管理する使用済みグリーフ・シードをすべて預け、代わりに人工浄化のグリーフ・シードを受け取った。これを試験的に使用することで浄化の具合や回数などを報告するモニターをすることになった。都合八個。
これを『葛の葉』に参加する魔法少女すべてに定期的に支給する予定だが、月に何個くらい必要かまだ分からない。そのためのモニターとして彼女たちが選ばれた。
受け取ったグリーフ・シードのケースを持ちながら、皆一様に無言だった。
「ん? どしたのみんな。アタシサプライズ失敗?」
「……びっくりしすぎて皆追いつかないだけよ」
ネミッサが行ったことは、たった一人ではできないことだった。『葛の葉』とその協力者が手を繋ぎ、その中に彼女たち魔法少女が入ってるのだ。魔法少女が繋ぐ輪の中にまどかの運命が入ったように。二重の輪ができたわけだ。その輪を作ったのはネミッサだ。
眠い目をこすり、疲れた体を引きずって奔走しまくった結果だった。皆が戦いに目を向ける中、ただ一人ワルプルギスの夜に勝利する未来を思い描き、『その先』を見据えて動いていた。
「どうして、貴女はそこまでできるの?」
「……アタシは何にもしてないよ。みーんなタリキホンガン」
歯を見せて照れくさそうに笑う。
彼女の目的はほむらの祈りの成就だけではない。魔法少女たちが一日でも長く生きていられるような仕組みを作りたかった。それは固有魔法を失い、戦う力をなくすほむらにとってどれだけ救いになるだろう。この仕組みがあれば、ほむらはまどかとそれだけ長くいられるのだから。
「ホントすげえな」
「さすがマダムでしょ。アタシだけじゃこんなコト思いつかないもん」
そうじゃない。皆がそう思っていた。そのマダムに連絡を取り協力を取り付けるネミッサに驚いていたいのだ。確かに、ネミッサがワルプルギスの夜の先を想像したとは思いにくい。そのアイディアを持つ人間との人脈とそれを受け入れる度量が、ネミッサの力だった。
マミは驚きと同時に叫びたかった。
「私たちのお友達は、こんなにすごいんだ」
と。
226 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:50:38.98 ID:0VzEbBdb0
天海市から戻った四人は、さやかに人工浄化グリーフ・シードのことを伝えた。最初は驚き訝しがっていたさやかだったが、徐々に信じるようになり、結局二つ分受け取ることになった。
「この書類を書くのが面倒だなぁ」
「ちゃんとまめに書いてよね。この報告が魔法少女たちの次に繋がるのよ。責任重大よ?」
宿題も苦手なさやかだ。杏子とともにこの手のマメな対応ができるか不安がっている。
学校が再開するまで外出ができないさやかとまどかだが、お互いの家の行き来をしていた。
共働きのため自宅で一人で過ごすさやかは、父親が出勤するのに同行しまどかの家に送り届けてもらう。そこでしばらくすごしたのち、まどかの父親に送ってもらい帰宅するという方法をとっていた。
そのため、全員まどかの家を訪れる。マミや杏子、ネミッサは父親と初対面。マミや杏子はやけに緊張していた。
「あのときは、心配かけてすみませんでした」
「うん、詢子さんもすごく心配したよ。でも無事でよかった」
穏やかに笑う父の知久。まどかやさやかの両親には、杏子とネミッサの安否を心配するあまり友達みんなで飛び出した、という説明をした。ことにネミッサの外国人した風貌のせいで、消極的には信じてもらえたようだ。
「今度から、そういうときは大人を頼るんだよ、いいね」
「はい、すみませんでした」
「なら、お茶にしようか。電気も水も復旧しているし、おやつにしよう」
彼は最近では珍しくもないが、専業主夫である。詢子がキャリアウーマンで、女性には珍しい『強外向』に属する性格なため、彼が家事全般を行っている。性にあっているらしく、特に料理の腕には定評があった。きっとまどかの性格のほとんどは彼の影響であろう。その代り、芯の硬さは母親譲り。
「ときどき買い物で見かけてたけど、まさかまどかの知り合いとはね」
「そんなにアタシ目立つかなぁ」
「銀髪ってのがなぁ」
「それにその服装もね」
「確かにね。一目見て覚えちゃったよ」
ネミッサは一応の肩書を持って自分のことを説明した。『葛の葉』が作った架空の団体に所属し、杏子のようなホームレスの子供たちのケアを手伝う立場だというのだ。嬉しそうに作ってもらった名刺を配り(魔法少女にもだ)自慢していた。
「こんな引っ込み思案のまどかに外国のお友達ができるとはねぇ」
「意外と、そうじゃないんだよね。今は積極的にホムラムガ」
「何を言ってるのかなネミッサちゃん?」
慌てて口を押えるまどか。押えられたネミッサはそのままムガムガ話ししている。そんなことをしなくても、すでに鹿目家ではほむらちゃんは有名だった。ことあるごとにまどかが嬉しそうに話すのだから、外見を一目見ただけで「ほむらちゃん」がわかったとのことだ。
「もう、毎日のように言うんだ。『ほむらちゃんは綺麗で優しい』ってね」
「パッ、パパ! ほむらちゃんに失礼だよ!」
血相を変えてさえぎるまどか。陰ながらそういわれて驚きと恥ずかしさで顔があげられないほむら。
「まー美人だもんねぇ」
「同性から見てもドキッとすることはあるわね」
「あー、あれで微笑むと破壊力がやばい」
「クールなのにビュッフェスタイルわかんないとか、ギャップ萌えもあるしね」
ほむらは手放しのほめっぷりに、顔をテーブルに押し付けて隠した。
一方のまどかも、それを聞いて同じような格好で顔を隠した。
ワルプルギスの夜を超えて、ようやく皆は年頃の少女の生活を取り戻せたようだ。
227 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:52:55.40 ID:0VzEbBdb0
「あ、あのっ」
復興の兆しが見える頃のこと。魔女を五人がかりで倒すときなど、来るとは思わなかった。異様な攻撃方法に遅れを取ることはあったが、それでも五人もいれば大きな損害もなく魔女を打ち払うことができてしまう。
グリーフ・シードの量だけが心配で、極力魔力を節約するよう心がけしのいでいた。とはいえ、ネミッサは穢れを気にせず魔力を使いまくれる。魔女化の恐れを考えればネミッサがメインとなることは当然の成り行きだった。
また、先日モニターと称しもらった人工浄化グリーフ・シードがある。奪い合いや諍いなど、この五人の間では起きるはずもない。
そんな事情のさなか、魔女との戦いを終え結界から出てきた少女たちを迎えたのはいつものまどかではなく、二人の見知らぬ少女だった。いや、まどかもいるが困惑したような面持ちで立っていた。オロオロする姿がなんとも可愛らしい。彼女もあの夜を体験しともに『戦った』わけだが、人の思惑に対応するほど経験は積んでいない。悪意とか、敵意とか、好奇心とか。…野次馬根性とか。
「ん? だれ? 知り合い?」
全員に水を向けるが、誰一人として知らないようだった。一人一人首を振る。年頃は同じくらいの可愛らしい女の子だった。なんだかもじもじして話が出来る状態ではない。皆が不思議がって会話を待つ。
「あの、あの…、ワルプルギスの夜を追い払ったのって、あなた達ですよね」
全員沈黙、そして納得。話を聞くと、彼女たちは隣町の魔法少女とのことだ。あの日、ワルプルギスの夜との戦いを見ていた。だがほとんど新米の彼女たちはその大きさや魔力に震え上がり戦うどころではなかった。その中で、夜に敢然と立ち向かうどころか、それを撃退してのけた五人の姿を見て憧れにも似た思いを抱いた。要はミーハーである。
「なんで、それがアタシらだって思ったの?」
いくらなんでも遠距離から誰が誰か判別できるわけがない。
「ご、五人居ますし…、その…」
アップに髪をまとめた魔法少女が俯きがちに言い、
「あなたの銀髪が、目立ってたから」
ベリーショートのスポーティな魔法少女が付け足す。
ネミッサの見事な銀髪が目印になっていたとのことだ。また、街をうろつくネミッサの姿を何度か見かけられたこともあり、すぐに気づいたという。確かにぶっ飛んだ服装と髪色は目立つ。外国人が安心して目立てる日本ならではの光景。
228 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:54:27.78 ID:0VzEbBdb0
「うーん、有名人扱いなのかしらね。嬉しいというか、複雑ね」
「あれだけでかい嵐にちょっかい出してたんだ、候補生とかにも気づかれたんじゃねーか」
「おおー、さやかちゃんたちも有名になったもんだねー、サインか、サインなのか」
「私は、こういうのは苦手ね……、貴女のせいねネミッサ。何とかして頂戴」
「なんとかって、そりゃ無茶でしょ! 何をどーしろっていうのよアンタ」
「丸投げはかわいそうだよほむらちゃん」
おどおどしながら新米二人が口を挟む。仲の良い所を眩しい表情で見つめながら。
「私ら以外にも見てた魔法少女もいたみたいです。もう近くの街では『夜明けの五重奏(クインテット)』とか『魔法少女戦隊』とか言われてすごい噂になってます。私たちは一番近かったので来てしまいました」
「く、クインテットぉ? いやいやいやいや、なんなのよそれ……」
五人とも恥ずかしくなり軽く引いてしまう。自分達の成し遂げたことが評価されるのは嬉しいが、まるでヒーローものの扱いにされるのはくすぐったい。なにより、自分達にそんな漫画的な名前が付けられるのは困る。非常に困る。恥ずかしいしかっこ悪い。マミが「ティロ・フィナーレ」と言っていたが、あれを他人に名付けられるのはさすがに厳しい。
「え、あれ、恥ずかしかったの?」
「マミちゃんのはかっこいいし好きだからいいのよ。あれとは違うよ」
「ワルプルギスの夜へのダメージソースじゃないですか、もう全然OKっすよー」
「話し合いの時とかわかりやすかったしね」
(ロッソ・ファンタズマのことは言うまい、死ぬまで言うまい!)
何だか今度はマミへのフォローが始まる。余りフォローしすぎると、元来「気にしい」なマミはそれに気をもんでしまう。程々が難しい。ほむら曰く「めんどくさい先輩」とのことだった。
とはいえ、目立つネミッサのせいでそうなったと、ほむらは完全に槍玉に挙げる気である。本心がどこにあるかは不明にしても、いいおもちゃがみつかったかのようにつっつく。
「貴女の派手な外見が一番の原因みたいね。諦めてもらえるかしら。さぁ、ここはネミッサに押し付……任せて私たちはいきましょう」
「今押し付けるって言った!」
「あ、それでなんですけど、その怪物…ですか? あれを呼び出した時の『ホムラちゃん』って誰ですか?」
一斉に全員がネミッサをいじろうとしたほむらの方を向く。突然のことに困惑するほむらに、目をキラキラさせて新米が詰め寄る。全員の視線で『ホムラちゃん』を察したのだ。
「あの『絶望に逃げてないホムラちゃん』ってテレパシー、私も聞きました。ネミッサさんと相思相愛なんですか?」
「嗚呼、禁断の恋ですのね。素敵……」
「…………は?」
229 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:55:23.70 ID:0VzEbBdb0
あの、とはネミッサが啖呵を切ったテレパシーである。ほむらをリスペクトするような言葉は周囲に無差別に伝播してしまった。全員を鼓舞させたそれが、どうやら野次馬の新米たちにもとどいてしまったようだ。ネミッサの顔が真っ赤になる。
(まさか、アレが全員に聞こえてたの? うっそぉぉぉぉぉぉぉぉ〜!)
ほとんど無我夢中で切った啖呵が丸聞こえ。その事実に悶絶するネミッサを半ば無視して新米がほむらに殺到する。
「うわー、髪キレー、手足長い〜美人〜」
「うわ、うわうわ、見て見て! このお尻ちっさ! XS余裕よ!」
「ひゃん!」
後ろに回った新米の一人にお尻を触られ可愛い悲鳴をあげるほむら。ネミッサは若干溜飲が下がる思いであるが、あとで激烈な報復が来るだろう。とはいえ、その場全員が聞いたこともないような可愛らしい悲鳴に、小さな笑いが上がる。
「だれ、今笑ったのは!」
全員です。
「おねーさま、って呼んでいいですか。っていうか呼びます!」
「スレンダーというか超モデル体型じゃん。あー、ダイエットの祈りにすればよかったかなぁ」
「よかったなー、『お姉さま』?」
「佐倉杏子、あとで覚えてなさいよ!」
「あー! 槍の人ですよね。カッコ良かったです!」
「私はあの長銃撃ってる人が素敵でした! 真っ直ぐワルプルギスの夜に直撃させてたもん。どきどきしちゃった」
「剣の人もすっごく素早くて、翻ったマントが綺麗だったよねー。一撃でワルプルギスの夜を押し返してたもんね」
「あの、『絶望に逃げない』って言葉、心に染みました。魔女にならないよう私もあれを励みにします!」
「あ、あのね、ふたりとも?」
黄色い声援があがる。まるでどこかの女子学校の様相を呈する。その横でまどかがむくれている。
一番の友人であるほむらがとられたようで気に入らない。それをなだめるマミ。さらになんだか二人の新米はまどかとほむらたちの間に体を入れて話をはじめてしまったため、疎外感も感じているようだ。二人にそのつもりはまるでないようだが、魔法少女(ほむらたち)と候補生(まどか)とを無意識に分けてしまった。
ひとしきり黄色い声援を浴びせて満足したのか、新米たちは引き上げていった。六人の間にお茶会の話のタネを散々まき散らして。
230 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:56:40.33 ID:0VzEbBdb0
「まどか、あの、大丈夫?」
「だいじょうぶだよどうしたのほむらちゃんしんぱいないよ」
本人は頑張っているつもりだが、表情や口調が違う。ほむらが持ちあげられたこと、魔法少女ではない負い目と疎外感がないまぜになっていつもの微笑みが出来ない。
それを払拭したのはさやかだ。いつもどおり、まどかに抱きつく。
「こぉら、まどまどっ! むくれるなー」
「お、怒ってないもん……」
「いーや、怒ってるぞ、さやかちゃんの目はごまかせないのだー」
表情がすぐにでるまどかはそれはそれで魅力的である。だがそのためか、年齢よりずっと幼く見えてしまうことが悩みの種だ。本人も気にしているようだが、そんなものは一朝一夕に直るものではない。ネミッサは直して欲しくないと思っている。
「ほむほむが取られるのが気に入らないのだな。うむ、お見通しだぞ」
「その呼び名はやめなさい」
「本当に暁美さんが好きなのね、妬けちゃうわ」
とニコニコして、本心を披露するマミ。
「アタシもホムラちゃん好きー」
嘘ではないけど、ヤケクソでカミングアウトするネミッサ。
「あたしもほむら好きだぞ」
時々頭にくることもあるけれど、とつぶやき補足する杏子。
「私も結構好きかな、ほむほむ」
根っこはいい子なんだよ、ループのお陰でスレちゃっただけで。と評するのはさやか。
「わ、私も……好…き……」
皆がカミングアウトしたのでまどかも必死でアピールする。
それを待っていたように全員がニヤニヤまどかを見る。見る見るうちに赤面するまどかが可愛くて仕方ない。ついでにほむらも先ほどから赤面している。
「あ〜、お約束お約束」
「はいはい、帰ってお茶にしましょう? 鹿目さん、お茶を出すの手伝ってくれない?」
「は、はい!」
231 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 21:58:22.78 ID:0VzEbBdb0
「無事だったみたいね。おめでとう。大した子たちね」
「ふふ、もっと褒めて。あの子たちがあの町を守り抜いたのよ」
五月の連休中、マダムが見滝原を訪れる。復興が進む町の一角、瀟洒な喫茶店でネミッサと珈琲を啜る。紅茶を注文しないあたり、もはやマミの紅茶に毒されていた。無意識でやってるあたり、麻薬的な効果でもあるのだろうか。
魔法少女が成したことを『まるで自分のことのように』喜ぶネミッサ。だが中心にいてワルプルギスの夜撃退に参加したにもかかわらずそんな言い回しをする。今回の戦いを自分の手柄と思っていないところに彼女のおかしさがあった。
「貴女も活躍したでしょうに」
「そうでもないよ。それに、アタシはよそ者だもの」
珈琲を一啜り。ネミッサの満足そうな顔の奥に自信がうかがえる。桜井を救えなかった罪の意識を飲み干し乗り越えた顔だった。
「でも、まだ難題があるみたいね」
「まだ二つもあるのよ。いやになっちゃうわ」
「生きていればそういうこともあるわ」
嫌になるという割には、ネミッサに悲観の色はない。何とかしてみせるという揺るぎない意志を感じる。マダムにはそれが伝わった。
「そのうちの一つだけれど、勝つために援軍を用意したわ」
「えー、誰?」
「貴女の相棒よ」
ネミッサが珈琲を吹いた。
232 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:00:40.92 ID:0VzEbBdb0
「改めて、皆、お疲れ様。ありがとう」
マミの部屋で行う打ち上げとお泊り会。今年のゴールデンウィークは災害の影響もあり、旅行などということをどこの家庭もやらない。そのため、家族と暮らすまどかやさやかも金曜の夜から日曜の夜までマミ宅のお泊りが許されていた。
マミお手製とっておきのケーキに、秘蔵の紅茶。それも皆が来るというので一番手間のかかる入れ方をし、丁寧に焼き、丁寧に淹れてもてなした。相変わらずネミッサは味も作法もへったくれもない。だが彼女が他では業魔殿のロビー以外では紅茶を飲まないことをマミはよく知っていた。そして、いつも紅茶を飲んだ後の、優しい表情も。
「ホント、みんな頑張ったよねー」
「一番頑張ったのはあんたじゃない」
「違うわ。一番はあっち」
と、一同の視線がほむらに集まる。最近はすっかり物腰も柔らかくなった。大きな理由はまどかの魔法少女化なしでワルプルギスの夜を超えられたからだろう。
また、本人の学校生活にも変化もあったらしい。学校が元通りになり皆が無事に登校するようになってから、クラスメイトに挨拶をするほむらが散見された。また、まどかが隣で甲斐甲斐しく世話をし、それをあたふたしつつも受け入れる姿が皆の好感を呼んだ。
さらに、少々気が抜けたのか再開した授業中に居眠りをし、それを教師に起こされたことがあった。
「なんて言ったと思う? 『うにゃ!?』よ? どんだけ萌えさせれば気がすむのよホントに」
椅子から立ち上がり、そんな声を思わず出してしまった。赤面し座るほむらに、一拍おいて爆笑の声が上がった。本人は気付いていないが、地である『眼鏡のほむら』に少しずつ戻ってきたようだ。当然弊害もあるようで…。
「毎日ラブレターが靴箱に入ってるんだよね」
「毎日増えているわ。顔も見たこともない相手からどうして……」
「毎日の行動で転校当時の印象が薄まったからだよ。『うにゃ!?』だもん」
「毎日それを言わないで……お願いだから」
特に女性からのラブレターが多く、仁美と人気を二分するほどだ。顔を両手で隠しいやいやをするしぐさ。転入当時からは想像もつかない態度である。
しかもそれが、あらゆる人を魅了する魔性を放っているとは当の本人は気付きもしない。ちなみに、そんなモテるほむらを取られるのが嫌なのか、まどかはラブレターを見るたびに不機嫌になっていった。本当に罪作りな女性である。
233 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:02:39.18 ID:0VzEbBdb0
路地裏を走る若きサマナー。銀の鎧の天使と、昆虫の羽をもつ小さな妖精を従えて何かを探していた。
『サマナー、ミツケタヨ!』
「でかしたっっ、ピクシー」
ビルの谷間を走り抜け、目標を見つけ出す。ピクシーと呼ばれた妖精が小さな落雷で足止めをする。そこをサマナーが拳銃で狙撃する。サイレンサー付の小さな発射音。目標は胴体を撃たれ崩れ絶命する。遺体から何かを回収すると、もう見向きもせずに移動する。
『やはり私には視認できませんね』
「種族による違いがあるのかな?」
『サガシモノトクイー!』
「そういうもんかもな。ありがとう、戻ってくれアークエンジェル」
スマホを取り出すと、天使を収容する。次いで、別の妖精を召喚するとその個体にも周囲の捜索を指示する。情報では、遺体の処理に別個体が現れるとのことだが、それを待ち伏せするため近くに身を隠す。
『ダレカキテルヨー』
「こんばんは」
その背後に二人の少女が姿を現し声をかける。
「やぁ、あんたらか。あんときはありがとうな」
振り向かずサマナーは対応する。警告をしない妖精の態度と、その声に敵意がなかったためそのままの姿勢だ。
「いえ、ご無事で何よりです」
「なにやってるんだい?」
「仕事だよ」
「しろま……」
「来たっっ!」
遺体の処理に来た目標に狙いをつけて拳銃を向ける。押し殺した発射音が響き目標が崩れ落ちる。
「はい三体目。回収頼む」
妖精に回収を命じると、ようやく二人のほうを見る。中学生くらいの二人。若いサマナーの守備範囲外ではあるが、魅力的な容姿をしていた。二人とも平服のまま『変身』していなかったため。サマナーは一瞬見間違えた。
「そうか、変身前なんだね。なにか、用事なのかな?」
「ええ、貴方たちの組織が魔法少女を保護していると聞きまして」
「聞いちゃいないだろ、『視た』んじゃないか」
「さすがですね。でも同じこと。私たちも保護していただこうと」
「ただじゃないよ? ギブアントテイク、ってやつだ」
「でも、グリーフ・シードの安定供給は魅力です」
「いろいろ知ってるんだなぁ。まあいい、ついてきな。恩人だ、教えるよ」
「お願いいたします」
若いサマナーは、二人と妖精たちを引き連れ、町に消えていった。
234 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:04:02.10 ID:0VzEbBdb0
「さ、さぁそんなモテモテほむほむはほっといて、これからどうするのさ」
「ほっとかないでよ! いえ、ほっといてほしいけれど!」
「どっちなんだよ。落ちつけほむら」
さやかが気にしたのは『独立戦争』のことだ。『キョウジ』は何もしなくていいと言ってくれていたが、どうにも落ち着かない。まどかを守る戦いである以上、彼女たちもじっとしているわけにはいかない。だがそれを言っても、皆にできることは思いつかない。ネミッサは一つ思いついたことがある。それをうまく使うことができればいいが、それは魔法少女たちのそれとは別だ。
「なんにもできねえのかなぁ。もどかしいなぁ」
「そうね……でも、私たちにできることもあるわ」
「と、とりあえず、大怪我したり、魔女化しないこと。それだけでもまどかの契約する理由が二つ減るわ」
「あとは、まどかや家族が魔女に襲われないようにするとかだな」
「杏子の養子の話出てるんでしょ。そしたらずっと守れるじゃん」
杏子に対し詢子が養子の提案をしていた。杏子の身の上を知った彼女は嵐当日のあの号泣の意味を理解した。そのためいつもの豪快さで杏子を娘にしたいといいだしたのだ。あまりに性急な言いように杏子は困惑し、時間をもらった。確かに鹿目家の両親はいい人で、杏子もすごく気に入っていた。だが、何かがそれを躊躇わせていた。それがなんだかわからない杏子は素直にうなづくことができなかったのだ。幸い、今すぐでなくていいと言ってくれた。
ちなみに、杏子は暫定的ながら『葛の葉』の提案に乗った。資金提供を受けるようになったため、窃盗を続けるような真似をしなくてすむようになった。制度が整っていないため、まだ保護者や学校復帰などは行えていないようだ、最終的には通学を目標にしているとのこと。今はほむらに家賃を払いながら共同生活を送っているようだ。
「なにか、ためらってる?」
それが杏子にもわからない。それがはっきりするまでは少し時間がほしかった。詢子や知久はそれを理解してくれた。それが嬉しかった。
夕食の買い出しをし、食事を作り、お風呂に入り、皆で肩を寄せ合って眠る。そんな中学生としては当たり前の遊びは、ほむらが遠く望み、そして叶わなかったものだ。また、ワルプルギスの夜を超えたのち、一人自害することすら考えた。グリーフ・シードを手に入れにくくなるためだが、安定供給の流れができ始めてしまった今では、その意味も薄い。また、本人もそれを心の底から望んだわけではない。
まどかを守り続ける。それが彼女の本当の望みだから。
「でも大丈夫だよ。私魔法少女にはならないよ」
まどかのいうことを信じないわけではない。当然皆信じている。だが、彼女が心神耗弱に陥った時、甘言に惑わされる可能性がある。彼女の心優しさを誰もが認めるからこその心配でもある。
「マドカちゃんだけじゃないんだけどね。今後のこともね。アイツらのいいようにされるって気に入らないじゃん」
「まどかを守るついでに未来を守るってわけだね」
「でもね、私はっきり言えるよ」
まどかは背筋を伸ばし、胸を張って言う。
「ほしいものは、ぜんぶここにあるんだもん。きぼうも、みらいも」
全員が安心するほどの満面の笑み。優しさで包み込んだ強さが垣間見える。
ほむらはまた泣き出した。涙腺がすっかり弱くなったと自分でも思う。
235 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:05:17.58 ID:0VzEbBdb0
「アンタはそれでいいの?」
「人とは生きられない」
「確かにそうだよ。それはしかたないの。でもアンタがそうなる必要は」
「ある。それが生まれてきた意味、ここに来た意味」
「そしたら結局同じじゃん。何にも変わらない」
「ほかに方法は」
「ないよ、思いつかない。けど、寂しいよ、アタシ。また助けられないの?」
「違う。これが救い。罪滅ぼしの機会」
「わかった、じゃぁやるよ。後悔しないね」
「しない。これが旅の終わり。旅の意味」
「わかった、頼むわね」
「いのちのこたえ。きみのこたえ」
『貴女の決意を見ました』
「ありがとうございます」
『構いませんよ。報酬も魅力的ですからね』
「そんなこと言って、同じことをするんですよね」
『さて、それはどうでしょうか』
「あなたはうそつきです。びっくりしたんですからね」
『ははは、あれは確かに、申し訳なかったですね』
「今度は信じています」
『それは守りますよ。私の全霊を持って、ね』
休日、魔法少女たちはまどかとともにショッピングに出かけた。まどかのお願いで可愛くなったほむらの私服を買いに来た。ほむらの手をまどかが強引に引いている。ほむらがつんのめるような勢いなのはラブレターの不安があるからだろうか。
「ま、まどか? ちょっと、あぶっ……」
「一緒に買いに行くんだから! 私がコーディネートするの!」
「うん、わかってるから、やめ……やめっ」
引かれる手にとうとうほむらが転ぶ。まどかが慌ててその体を抱きとめる。正面から抱き合うような姿勢になった。いつも以上に顔が近くなり赤面しあう。
そんなふたりを皆がはやし立てる。
「ひゅーひゅー」
「ひゅーひゅー」
「ひゅーひゅー」
「……マミちゃんまで何やってるのよ……」
この日は、私服が少ないほむらと杏子の着せ替えで一日費やされた。久しぶりにスカートを履かされた杏子は居心地が悪くて仕方なかった。
236 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:20:47.58 ID:0VzEbBdb0
筆者です。
五章をお送りいたしました。
四章で頑張ったみんなのため、ほのぼの系を意識した作りにいたしました。
でも我ながら、ギャグセンスはないなぁ。
五章、六章はちょっと短いので、このあと少しだけ短い番外編を
差し込もうかと思っています。
えっと、マミッサネタは頑張って書いてますので、しばしお待ちください。
また、次回作も並行して作成中です。
「茶番!茶番!」と言われる人も納得できるような出来にしたいですね。
もうすぐ、本編もカーテンコールです。
もう少し、お付き合いください。
237 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/11(金) 22:22:23.63 ID:3/wePmmno
茶番だってやりぬけばいいのさ、そこに価値がある乙
238 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:30:58.63 ID:0VzEbBdb0
番外編 【わたしのかれはひだりきき?】
ネミッサ「あのさ、ちょっと調べたんだけど」
さやか 「ん? なに?」
上条 「僕らについて?」
ネミッサ「うん、ほら、カミジョー、左手、動かなかったでしょ」
上条 「今は大丈夫だよ。さやかのおかげでね」
さやか 「ま、まぁそのために魔法少女になったんだけどね、あはははは」
ネミッサ「一応、右は動かせたんだよね」
上条 「そうだね。弓を握るくらいはできてたよ」
さやか 「恭介は右利きだからね、食事とかは問題なかったんだよ」
上条 「そう、けれど左手はバイオリニストの命だからね」
上条 「あのときはさやかに当たって本当に申し訳なかったよ
上条 「まさかあんなことになってたとは知らなかったし」
さやか 「ま、まぁいいってことさ。結局ネミッサたちに迷惑かけたけど……」
ネミッサ「……アンタら、左利き用のバイオリンって、知ってた?」
ネミッサ「ただ逆に持てばいいってわけじゃなくて、中の構造から何から逆に作る必要があるらしいけどね」
上・さ 「あ……」
ネミッサ「コンサートとかだと逆手はぶつかるからあまり見ないらしいんだけど、ソロであればイイんだって?」
ネミッサ「最悪左手に弓括り付けて右手で弦押えたら引けないことはないんだよね」
ネミッサ「ぶっちゃけさー、サヤカちゃんに当たるくらいバイオリン大事ならそれくらい気合い入れて練習してもよかったんじゃないかなー、とかさ」
上条 (言い返せない)
さやか (え? 私契約し損?)
ネミッサ「それこそストラディバリス? みたいな名器はないし、元の腕前からは大分落ちちゃうんだろうけれど」
ネミッサ「アタシとしては当たる前に視野を広く持ってもらいたかったなー、っと」ジト‐
さやか 「ま、まぁそれでも動かない左手じゃ弓の微妙な強弱つけられないし」
さやか 「あのときの恭介じゃそんなこと考える余裕もなかったし!」
さやか 「そ、それに……えっと……、ほら……えーっと」
上条 「いや、いいんだよさやか。確かに僕の努力不足だったよ」
さやか 「でもでも! 避難所で演奏して、皆の役に立ったんじゃん! 私満足だよ!?」
上条 「これはますますバイオリン頑張らないといけないね。さやかのためにも」
ほむら 「貴女なにワザワザ地雷踏みに行ってるのよ……」
239 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:33:09.61 ID:0VzEbBdb0
番外編【いたまえほむほむ】
ネミッサ「んでアンタ結局料理できる設定なの?」
ほむら 「設定って何よ。……ちゃんと出来るわよ失礼ね」
さやか 「ホントかなぁ。できそうであり、できなそうであり」
まどか 「一緒に手作りお弁当とか見せっこできたら嬉しいなって」
ほむら 「そ、そうね! ちゃんと作るわ!」
ネミッサ「なんで吃るのよ」
さやか 「多分嬉しいからなんだよ」ヒソヒソ
ネミッサ「ああ……この子もぼっち?」ヒソヒソ
さやか 「なんだかそんな気もしてきたよ」ヒソヒソ
ほむら 「ちょっとそこ! なにを話して……」
マミ 「あらあら、楽しそうね。私も混ぜて?」
さやか (ああ、なんかややこしくなりそうな予感)
ネミッサ「フツーにマミちゃん料理できるよね。ケーキ焼けるんだっけ?」
マミ 「出来るわよ。お店のには負けちゃうけどね」
まどか 「そんなことないですよ、すっごく上手じゃないですか」
ネミッサ「なら、お弁当くらい作れそうね」
さやか (ば、バカネミッサ!)アワアワ
マミ 「んー、ケーキみたいに手間をかけるようなのじゃなければそれなりには」
まどか 「一人暮らししてると出来るようになるのかな」
さやか (まどか、それはちょっとヤバイ話の流れじゃないか)
マミ 「まぁ毎日否応なしにやっていればできるようになるわ」
ほむら (私もできて当たり前の空気になってない?)
まどか 「ティヒヒ、ほむらちゃんとお弁当交換できたら嬉しいなぁって」
ほむら 「そ、そうよね。私頑張るわ」
さやか (そのセリフ、ひょっとしてマジで料理できなかったりするの? ほむらは)
さやか 「それから数日、目の下にクマをつくるほむらが見受けられるようになりました」
まどか 「誰に話をしてるのかなさやかちゃん」
ほむら 「い、いちいちうるさいわね!」
ネミッサ「いやぁ、マジで出来ないとは思わなんだ」
さやか 「あたしは出来ると信じていたんだけど」
まどか (ホントは苦手だったんだね……ごめんねほむらちゃん)
マミ 「まぁまぁ暁美さん、鹿目さんと一緒に料理覚えればいいじゃない」
まどか 「そうですよね! ほむらちゃん! 私と一緒にお料理を覚えようよ! 私のパパ上手なんだよ」
ほむら 「く……」
みんな 「く?」
ほむら 「クラスメイトには……内緒にしてください……」
みんな (……完璧超人、陥落……)
240 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:37:15.29 ID:0VzEbBdb0
番外編【いちまんじかん】その1
さやか 「あー、もう、悔しい!」
恭介 「いきなり入ってくるなりどうしたんだい?」
さやか 「今日さー、ほむらと模擬戦みたいなのやったのよ。訓練ってことで」
さやか 「そしたらさー、ほむら武器持ってないのに私、全然歯が立たなくてさ」
さやか 「くっそぉ、才能ある人はいいなぁもう、悔しい!」
恭介 「さやかは武器を使ったのかい?」
さやか 「そうだよ。ネミッサが持ってた木刀持ってさ。怪我させたくないしね」
さやか 「でも剣道三倍段っていうじゃん。なのに私ぼろ負けってことは」
さやか 「私より三倍強いってことじゃん!」
恭介 (なんだかエキサイトしてるなぁ)
恭介 「まぁ落ち着こうよ。ほら、お菓子とお茶用意するからさ」
さやか 「くっそぉ、いつかアイツを泣かしてやる!」
ネミッサ(どこかでセリフがとられた気がしたわ)
杏子 「おい、打ち合わせ終わったぜー。見滝原戻って飯にしようぜ」
ネミッサ「はいはい。今日はアタシも上がるから、向こうで食べましょ」
杏子 「いつも使わない頭使ったから腹減ったぜ」
ネミッサ「そういうもんなの……?」
241 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:38:29.26 ID:0VzEbBdb0
番外編【いちまんじかん】その2
まどか 「さやかちゃんだいぶ荒れてるね」
マミ 「暁美さんに負けたのが悔しいみたいね」
仁美 「今朝からずっとあの調子ですもの」
ほむら 「悔しいって気持ちがあれば強くなるわ」
さやか 「くっそぉ、才能がある人はいいなぁ」イライラモグモグ
恭介 「そんな食べ方するとこぼすよ」
マミ 「あら、素質というか魔力ではずっと高いわよ。美樹さんは」
ほむら 「そうね、私なんかより高いのよ」
さやか 「でも時間停止なんて私できないもん」
ほむら 「いえ、それなんだけれど。もう使えないのよ」
まどか 「え、そうなの? それにしてはさやかちゃんをすごくうまくよけてたけど」
マミ 「体術というか体捌きよね」
さやか 「やっぱりほむらは完璧超人なんだなぁ」
恭介 「それなんだけれどさ、ちょっと考えたんだ」
恭介 「大雑把に、世界的な演奏者を目指す人はそれまでの楽器の練習時間が『一万時間』を超えるっていうんだ」
マミ 「そういうのがあるのね」
恭介 「そうなんです。で、暁美さんが過ごした時間、四月の一か月の30日」
恭介 「一日を睡眠と、魔女関係と、あと学校を含めた生活全般に均等に分けるとする」
恭介 「魔女関係のために8時間使ってるとすると」
まどか 「えっと……さんぱ……240時間!」
ほむら 「全部が全部魔女と戦っているわけではないけれどね」
ほむら 「武器調達と、QBの監視もあるし。ばらつきもあるけど一日平均2〜3時間というところかしら」
恭介 「それじゃ少なく見積もって2時間とすると、60時間」
マミ 「あ、だいたいわかってきたわ」
仁美 「暁美さんが繰り返してきた回数がわかりませんが……50回していれば3000時間ですわね」
ほむら 「あまり思い出したくないけれど、それよりはずっと多いわ」
さやか 「……」
まどか 「さやかちゃん……?」
仁美 「仮に500回だとしたら……先の『一万時間』の三倍ですわ」
ほむら 「正確に数えたわけではないけれど……妥当だと思う」
まどか 「ほ、ほむらちゃん……、ごめんね」
ほむら 「気にしないで」ナデナデ
242 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/11(金) 22:40:49.46 ID:0VzEbBdb0
番外編【いちまんじかん】その3
さやか 「そっか、ほむらは私なんかよりずっと頑張ってそこにいるんだよね」
ほむら 「あまり自分を卑下しないで」
ほむら 「私は正直弱かったから、そうするしかなかったもの」
ほむら 「時間も本当に嫌というほどあったしね」
ほむら 「貴女なら努力次第で私を追い抜けると思う」
ほむら 「何しろ貴女はまだ魔法少女になったばかり。のびしろなんていっぱいあるわ」
マミ 「そうよ。なんなら美樹さんが暁美さんを倒せるようなるまでに協力するわ」
仁美 「私も応援いたします!」
恭介 「僕も応援するよ。それにさやかはまだ始めたばかりだからね。これからだよ」
まどか 「私も! 頑張ってさやかちゃん!」
さやか 「ちぇ、なんだい皆して。不貞腐れてたのがバカみたいじゃん」
恭介 「いい友達をもったじゃないか。それもさやかの良さだと思うよ」
さやか 「恭介……。うん、そうかもね。ありがとう」
ほむら 「ふふ、まどかは私を応援してくれないのかしら?」
まどか 「え、え、そ、その……」
さやか 「ふははは! ほむら君。まどかは私の嫁になるのだ!」ダキッ
まどか 「ひゃぁっ! もうさやかちゃんそればっかり〜。もう、止めてよぉ」ジタバタ
まどか (うう、いつもほむらちゃんの前で……)チラチラ
ほむら 「まどかが嫌がっているわ……やはり今日も叩きのめすしかないようね」
さやか 「まどかと交際がしたければ私を倒してからにするのだなほむら君」
ほむら 「ええ、例の銃で消し飛ばしてあげるわ」
まどか 「それはヒドイよほむらちゃん。あんまりだよ……」
恭介 「それで、結局?」
さやか 「今週は全部負けました」
恭介 「まぁ、仕方ないよ」
仁美 「でも巴先輩は褒めていましたよ。気絶する回数が減ったって」
さやか 「仁美、それ褒めてないから!」
恭介 「まぁまぁ。……それじゃ僕もさやかに負けないように頑張ろうかな」
さやか 「うん、頑張って」
仁美 「わたくしたちが応援いたしますわ」
恭介 「僕もがんばるよ。どっちが先に目標達成するか、競争だよ」
さやか 「そうだね。……いつかアイツを泣かしてやるんだから!」
ネミッサ「うん、やっぱりセリフ取られた気がした」
杏子 「あー、食った食った。悪いね晩飯までごちそうになって」
ネミッサ「無理やり奢らせたくせに! もうダンスゲームで賭けるのやめる!」ウワァァァァン!
杏子 「いじけんなよ〜。ムキになるくせに〜」ケラケラ
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2013/01/11(金) 23:24:29.41 ID:rM76UyKU0
乙です!
このメンツでこんなほのぼのとした光景を見れるっていいよなぁ〜。いいお話ってのはエピローグが良くてなんぼだと思います。
ワルプル討伐後の魔法少女たちのケアもちゃんと考えてるところも素晴らしいです。ラスボス倒しても日常を含めた戦いは続くわけですし。
QB及びそれを操る宇宙人の方々はどうやったら諦めてくれるんでしょうね?目的が「何時訪れるかわからない宇宙の熱的死の阻止の為のエネルギー回収」なんて途方も無いものですし…。代替エネルギーでもあれば勝手に満足してくれるんでしょうか?
「心踏みにじってもいいよね?宇宙救うためだもん」とか考える胸糞悪い連中に手を貸すのは業腹ものですが。
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/12(土) 02:08:52.47 ID:J21RZ6Fy0
いろんな作品に登場してるどこぞの閣下なら本気モード(デカブツ化)でも使えばワルプルさんを倒せそうだけど
ソウルハッカーズじゃあ出てないんだよなぁ…
なにはともあれ乙。
245 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 10:54:27.19 ID:8F8LecZm0
筆者です。おはようございます。
昨日、短編のあとの締めの書き込みを忘れてました。
次からは気を付けますね。
>>243
偉い絶賛されて、今朝拝見してなまら喜んでます。
嬉しすぎて寝床から飛び起きました。
作中の細かいネタはあちこちから引っ張ってますが
G・Sの人工浄化のアイディアは自分独自です。
人の魂を道具扱いする、非人道的なやり方がとってもメガテンらしくて
イイかなと使ってみました。
マミちゃんあたりは嫌がりそうなのですが、短編でその辺を語ろうかと
今から考えています。
そもそも、プロットの最終目的がワルプルギスの夜を倒すことではないので
四章で終わっては途中になってしまうんです。
それゆえ、ネミッサは(メアリー・スーと罵られようが)奔走しています。
『絶対に』、外せないエピソードでした。
ほのぼの系がうまくいったか定かではありませんが、
一番書きたかったのは
【『ベイバロンの気』を常時自動発動するほむほむ】
です。
>>244
うむむ、ずいぶん閣下押しですね……。
でも、一応脳内で閣下を降ろしてみたんです。したっけ
「悪しき輝き」だの
「メギドラダイン」だの
「王の中の王」だの
「初めに闇ありき」だの
使われて、見滝原が焦土と化しました。
せいぜいアニメ版P4の
ペルソナの閣下vsアメノサギリくらいにしないと
メアリー・スーどころかデウス・エクス・マキナになりますよ。
超力戦艦も同じ理由で出しませんでした。
蠅王様? 人的被害がやばいです。もっと無理でした。
それに、一番書きたかったのは
素質もない仁美や上条、若いサマナーたちが自分にできることを探し
必死に頑張る姿だったので、最高神たちにも出しゃばらないよう
お願いした次第なのです。
仁美と上条たちを褒めてあげてくださいまし。
246 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/12(土) 10:58:15.34 ID:8F8LecZm0
筆者です。
ミスって下げ忘れたついでに連絡いたします。
今夜、本編が閉幕いたします。
21〜22時頃投稿の予定です。
そのあと、完成していればマミッサネタを投稿する予定です。
最終章は短いので、すぐ終わってしまいますが。
最後まで、ネミッサたちを見守ってあげてください。
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/12(土) 11:47:03.66 ID:YE7wol6Uo
待ってる、超待ってる
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2013/01/12(土) 12:14:50.55 ID:6LNamcTx0
楽しみに待ってます!
そもそもワルプル自体が災害級の化け物なんだから、正攻法で勝つにはこっちも災害級の化け物連れてこないといけないんだよなぁ…。守るべき街を焦土にしちゃ本末転倒だわなw
「ワルプルギスの夜を止める」「街を守る」両方やらなくちゃあいけないってのが魔法少女の辛いところだな。
249 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/12(土) 14:26:21.03 ID:BIlrHqEko
楽しみにお待ちしております。
ソウルハッカーズ主人公はしばらくの間、
ヒトミ・ネミッサ「「二人一緒じゃ、ダメですか」」だったって事か……?
うらやましい様な、救世の報酬としてはささやか過ぎる様な……。
250 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/12(土) 21:02:42.28 ID:8F8LecZm0
筆者です。
お返事タイムです。
>>247
お待たせしました。最後までお付き合いください。
自分のつたない作品で、何か心に残ったものがあるならば
それに勝る幸いはありません。
「最高のミュージック」があなたから聞けるように最後まで努力します。
>>248
私は、こういうアクションもので
力がないキャラが、自分にできることをしながら戦うシーンが大好きです。
うしおととらの守矢克美、麻子の父親とか
「まおゆう」の奏楽子弟、土木子弟とか
だから思うんです。魔法少女だけが町を守る必要がどこにあるのかと。
だから、仁美に、上条に、若きサマナーに、ゆまちゃんにも頑張ってもらいました。
ほむらは気付いてくれたでしょうか。
「貴女だけが苦しまなくていいんだよ」
という私の、ちっぽけな祈りに。
ちょっと、かっこつけてますかね?
>>249
ネミッサは、マニトゥに戻り「死」を伝える必要があったのです。
遠野瞳とネミッサは共存できません。ゲーム終盤で瞳の魂が消えかけてしまうのです。
それゆえ、分離し、ネミッサは消滅しました(ゲームでは)
なんので、遠野瞳は、エンディングでは生存しています。
ちなみに相棒と瞳は恋愛関係とは、必ずしも言えないようです。
これは、アトラス作品に多く見られるのでたぶんあってるかと。
相棒と遠野瞳は、色っぽい話にはなっていません(笑)
その代り、ある方法を取ると、ネミッサの本心が聞けます。
内容は伏せますが。私はそれを見て泣きました。
この作品においてはループの中で死を恐れてしまい、マニトゥの巨大な力を内包したまま
ネットワークに逃げ出しました。
それを恥じて、ネミッサは享楽的な生活をつづけ、ネットを渡り歩きつつさまざまな街で
放蕩無頼の生き方をしていました。ソウルハッカーズの発売が95年、まどマギの公開が
11年ですので、15〜16年は刹那的な生き方をしていた計算です。
251 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:04:33.17 ID:8F8LecZm0
筆者です。
お待たせいたしました。
最終章の始まりです。
出来の不安はありますが、
もう、何も言いません。
最後まで、お付き合いください。
252 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:05:43.00 ID:8F8LecZm0
最終章
【かなめまどか】
彼は、あのときと同じ笑顔でそこにいた
彼は、あのときと同じ頼もしさで待ってた。
彼は、あのときと同じ手の大きさで導いてくれる。
だから、頑張れた。頑張れる。
お泊りが明けた朝、彼はふらりと現れた。マミ宅で朝食が終わりのんびりしていた時だ。控えめなチャイムの押し方。マミが対応に出ると、嬉しそうにネミッサを手招きした。紅茶を啜る手を止めて立ち上がると、そこに相棒がいた。すぐに声がでないネミッサを、マミが軽く背を押す。その手の温かさが頼もしい。恨めしくもあるけれど。
「本当にあなたが来たの?」
「マダムから何も聞いていないのか?」
「き、聞いてたけどさ……」
もう三十代で、年相応のカジュアルな服装をしているが、あのときの雰囲気は変わらない。悪戯っぽい顔。何かを探し求める目。そして、優しい微笑。ネミッサは完全に浮き足立っている。全然落ち着かない。
「へえ、ちょっとかっこいいじゃん」
「あのときのサマナーさん? こんにちはぁ」
「ネミッサが、う・ろ・た・え・て・る!」
「サヤカちゃんうるさい!」
「あのネミッサの手綱の引き方、教えてほしいわね」
「アンタも大概毒吐くわね」
「すまないな、うちのじゃじゃ馬が迷惑かけたろう」
「あなたも乗らないで!」
そんな会話を交わし、マミはワザワザネミッサの隣に相棒を座らせる。その余計な気遣いにネミッサはむすっとする。マミは悪意がないのか心底嬉しそうな顔をしている。散々この相棒に嫉妬していたのはどこにいったのやら。
ほむら、まどか、さやか、杏子、そしてマミ。相棒はそんな皆を見渡すと、すっと頭を下げる。
「改めて。……ネミッサを受け入れてくれてありがとう。相棒として、お礼を言わせてくれ」
「ちょっ、なんであなたが保護者面してんの!」
「おやぁネミッサ、相棒さんだけは『あなた』っていうんだねぇ」
「あぐっ」
さやかの鋭い指摘にネミッサが沈黙する。それだけ、相棒を特別視しているのだろう。少なくとも無意識的には。全員が笑うなか、ネミッサだけがテーブルに突っ伏して顔を隠す。
「うう、何この公開処刑……」
「ふっふっふ、私の復讐なのだネミッサくん。あきらめ給え」
「そういやあんときあんた、何話してたんだよ」
「何か変なこと言ったんでしょ。拳骨もらっちゃって」
「ああ、あれはね……」
「いやぁぁぁぁぁぁ! それは言わないでぇぇぇ!」
253 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:06:49.01 ID:8F8LecZm0
色々と恥ずかしい話を暴露されて悶絶しているネミッサを尻目に、皆は話に花を咲かせていた。特に、マミは興味津々で根掘り葉掘り聞いている。エピソードを一つ一つ話されるたびに、ネミッサの体に電気が走るように身悶える。ちょっと面白かった。
「ほら、いい加減寝てないで、起きなさいよ」
ほむらがぽんぽんと、優しく肩をたたく。ネミッサはふてくされたまま寝っころがったままだ。
「ウェヒヒ、ネミッサちゃんが子供っぽくなっちゃった」
「拗ねてるんだろ。ったく変わんないよ」
「うるさいよ! あなただって変ってないじゃん」
「少年の心を忘れないのさ」
「ああもう、ああいえばこういう! 何しに来たのさ」
そんなやり取りをしつつ会話が一段落すると、襟を正すように座り直し切り出した。
「そりゃぁ、独立戦争のためさ」
空気が変わる。穏やかだが芯の通った声で皆に声をかける。
「君らが望むもののため、この街を守ったことは知ってる。そして、これから守りたいと思うもののため、戦う意思があることも。けれど、それはもう君たちだけの戦いじゃない。もっと大人を頼ってほしい。そのための援軍なんだからな」
相棒は、じっとほむらを見つめていた。ほむらの境遇を知り、一人で背負っていたことを暗に言っているのだ。ほむらは、自らを省みていた。だが、もう彼女は一人で戦うことはもうないだろう。それでもなお、相変わらず他人に頼ることは苦手だ。病弱で、他人に迷惑をかけ続けて生きてきた過去が頼ることを迷惑と解釈してしまうからだ。そういう人間には、おせっかいなネミッサや、無償の愛情を注ぎまくるまどかが必要だった。
相棒の言葉を理解しうなづくほむらに、安心すると会話を続ける。
「これから近いうちに、君らの前でインキュベーターと対決する。それは戦いだし、交渉でもある。君たちに有利なような落としどころを探すから、いろいろ教えて欲しい」
相棒は穏やかに語りかける。皆、とくにほむらはそれに対し真摯に向き合った。
254 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:08:57.03 ID:8F8LecZm0
数日後、復興が進む町の片隅で、世界を揺るがす戦いが始まる。
一同はほむらの部屋に集まると、緊張した面持ちでその時を待った。一人、また一人と集まるなか、最後に到着した相棒が、部屋の真ん中のソファに座る。
「準備はいいかな? 彼を呼び出してもらえるかい?」
こくりとほむらはうなづくと、大きな声で呼びかけた。
「インキュベーター、まどかと契約を結ぶつもりがあるなら姿を見せなさい!」
これは嘘をつけない彼らの性質を利用したものと思われる。この声が聞こえている限り、契約を結ぶ意思がある彼らは姿を見せざるを得ない。それにここに今までとは全く違う不穏な動きをする魔法少女たちがいるのだ。姿を見せずとも警戒し監視しているのは明らかだ。この声が聞こえる以上、これは一種の呪いに近い。
はたして彼は現れた。いつも通りどこからともなく表れて、その大きな尻尾をゆらゆらゆらしている。
「やれやれ、来るなと言ったり出て来いと言ったり、君たちは忙しいね。それでなくともいまは僕らは困っていて忙しいんだから」
「それはすまなかったね、こっちに君たちへの用事があったんだよ」
しれっと相棒は声をかける。自己紹介は不要とばかりに気さくなしゃべり方だ。QBのほうもそれを詮索もしない。おそらくは調べがついているのだろう。さしたる疑問もなく、相棒の正面に座る。
「それで、今更君らに呼ばれたのはどんな用事なのかな」
黒幕の白い珍獣が鎮座する。ほむらの部屋。マミが嫌悪感を見せる以外、皆はなるべくそちらを見ないようにしている。あれだけ煽られて騙された以上、まともに会話ができるとは思えない。そのため、相棒が正対する形で交渉に臨むのだ。
「使用済みグリーフ・シードの回収にも呼ばれないしね。何か大きな動きがあったんだろうけれど」
ネミッサも会話に応じない。余計な情報を相手に与えないためだ。
「単刀直入に言うよ、インキュベーター。この星から全個体の退去をお願いしたい」
「それは無理だね」
(即答かよ)
宇宙の熱量死を防ぐために活動している彼らが、植民地である地球から退去するとは到底思えない。だが、それは百も承知で彼は提案した。
「それよりも、僕らを組織的に攻撃しているのは君たちだよね」
ワルプルギスの夜を超えてから、QBたちが日本の各地で殺害されている。最初は成人による攻撃だったため、回避することが念頭になく瞬く間に葬られてきた。数回殺害されるうちに、ようやく攻撃者が判明した。だがそれまでに百を超す個体が殲滅された。
「攻撃するのが一人や二人ならともかく、二十人を超すとなるとね。それがあの夜から突然、しかも僕らの耳にある輪を回収することも傾向として一致している。偶然とは思えない」
「まぁ、そうだな。無限増殖するって聞いて、新人サマナーの索敵訓練に使われているみたいだぜ」
索敵と、収支のバランスを取る訓練である。報酬と経費のバランスが取れず無駄に悪魔を召喚する新米サマナーが多く、長く続けられないものもいた。そのための訓練である。
「他人事みたいに言うけれど、それは少し困るんだよね。無駄に個体を減らさないでもらいたいな」
「さてね。こっちも洒落で訓練やってるわけじゃないんで、すぐには止められないね」
いけしゃぁしゃぁと言う。内心ネミッサはひやひやしている。
「僕らの譲歩を求めているのかな?」
「この星から退去すれば殺されないで済むと思うがね」
「鹿目まどかと契約さえできれば、個体損失のロスを上回るエネルギーが手に入る。それさえあればノルマは達成できる。そうしたら退去できるね」
「そんなことさせない!」
色めき立つほむらを、相棒が手で制する。なおも何か言いたげなほむらを目線で抑える。それに威圧されほむらが息をのむ。さすがに『キョウジ』を倒した男である。ほむらですら飲まれた。
「エネルギーが最優先の問題か。けれどこのままじゃ契約どころじゃないんじゃないかな」
このままであれば、契約をするにも支障をきたすのではないか、と言っているのだ。むしろそれを目的として訓練としての依頼をしているのだから当然だが。
「個体を増やせば問題ないとはいえ、確かにそうだね。退去以外で僕らに何か要求があるんじゃないかな」
相棒もすぐには答えない。無表情で見つめているだけだ。
255 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:09:43.37 ID:8F8LecZm0
「多少なら飲んでもらえるということかな?」
「そうだね。結果的に勧誘を止めることにならないならね」
「ならさ、ゾンビになるとか魔女が魔法少女のなれの果てとか、事前に説明してよ。あんまりじゃない」
さやかが感情のまま叫ぶ。悲痛ともいえる声にひび割れたものも混じる。
「それでいいのかい?」
「いや、それじゃだめだ。契約相手に曲解なく理解させるようにしないとね。それを理解してなお契約する分には我々は止められない」
さやかは舌を巻いた。同時に自分の失敗と、相棒のフォローを理解した。もうしゃべらないほうがいいということを。
「しかし、それでは勧誘の成功率が下がる。効率が大きく悪くなるね」
(そんなことしったことじゃねーよ)
杏子が心の中で毒づく。
「それはそちらの問題じゃないかな。QB狩りが止めばちょうどよくなるんじゃないか」
「それならその言い分を飲む必要はないね」
QB側としては、狩りが終わらなくても増員で対応ができる。いわゆる『経費』がかかることは問題だが、まだまどかを諦めなければ十分に穴埋めできるわけだ。
「はたしてそううまくいくかな」
「どういうことですか?」
マミが問いかける。
「シヴァ、ヴィシュヌ、そして白山比淘蜷_。三体の悪魔がすでに魔法少女の真実と素質に気付いた。彼女たちが良質の魂を持つものだということにね」
酷い話だが、これは悪魔たちに『葛の葉』が意図的に漏らした情報だ。噂好きな悪魔にこの話はここ数日で広がった。力を求める彼らにはその魂が絶好の食糧に見えるはずだ。ただし、悪魔たちにはその素質の有無の見分けがつかない。そのためどうしてもQBたちの確認が必要になる。悪魔たちが不利になる争奪戦だ。
「なんてことを……」
マミがうめく。だがそこをネミッサが抑え微笑む。マミはそれだけで逆らう気持ちが薄れてしまう。相棒とネミッサを信じようと思ってしまうのだ。
「ところがね、悪魔の中には君を視認できるものがいる。だからさっきの訓練も行えるわけさ。その種族は探し物が得意でね。魔法少女の素質を持つ子を探せるんだよ」
ごろりと爆弾を投げ込んだ形だ。全員が色めき立つ。この男は何を目的とするのか。
「けどね、我々としても少女たちを食い殺されたくない。そこで、お互いに候補生を見つけたら連絡を取り合う協定を組むのはどうだろう? こちらも君たちの手が減るのは困るわけだし」
「君たちは僕らの殺害を止め、僕らは魔法少女に真実とリスクを理解させろ、というんだね」
「そういうこと。どうかな?」
「ダメだね。僕らにはデメリットしかない。それに、僕らは候補生を殺されても困らないんだ。『もったいないけどまいいか』くらいにしか思えないんでね」
相変わらず抑揚のない会話。
「それに、悪魔に襲われたほうが僕としては都合がいい。マミのように命を助ける代わりに契約を申し込めるからね」
ざわっ、とマミが怒りの表情を表す。QBのこの発言は逆鱗に触れたらしい。自分のような弱みに付け込むやり方が許せなかった。もう自分のような悲しい存在を生みたくないと思う彼女にとって到底許せるものではなかった。それと同時にひどく悲しい気分になった。彼女にとって、裏切られたとはいえQBは命の恩人である。彼がいなければ車の下敷きになり絶命していたはずだ。こうして可愛い後輩と一番のお友達に出会えなかったのだ。恩と怨、二つの感情がないまぜになっていた。
「それならさ……」
そこでまどかが口を開く。決意を秘めたまっすぐな瞳で。
「私、契約する」
魔法少女たちから驚きの声が上がる。
256 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:11:09.85 ID:8F8LecZm0
「それでは鹿目まどか、君はどんな願いでその魂を輝かせるんだい?」
その声が聞こえているのかわからないような動きで、腕の輪をテーブルに置く。静かに大事に置くしぐさがあまりにもゆっくりで、皆が訝しがる。
「ん? 私はあなたとは契約しないよ?」
「ああ、まだ早いと思うけれど……まぁいいか」
相棒は苦笑する。確かに交渉はほとんど決裂している。ここからは『実力行使』でもいいかもしれない。
「だって、貴女と契約したら魔法少女になっちゃうじゃない。ならないって約束したのに、嘘になっちゃう」
にこやかに話すその声に、真意は読み取れない。皆もQBもしゃべることができない。ただほむらだけがほっと胸をなでおろした。
「私ね、悪魔召喚士になる」
全員が唖然とする。唯一相棒だけがにやにや笑っている。なぜかという問いを出したくて仕方ない一同を見渡して、にっこりと笑う。
「魔法少女にならないで、皆と一緒に戦うにはそれしかないって思ったの」
「そんな! ほむらがどんな気持ちでいたか!」
さやかの指摘ももっともだ。戦いに身を置いてほしくない、そういう願いがあったはずだ。すでに皆それを理解しているはずだった。まどかすら。
「うん、だから、これは私のわがまま。皆が戦ってる時に自分だけ何もしないのはもういや」
ワルプルギスの夜との戦いで、皆は果敢に戦った。魔法少女やネミッサだけではない、上条や仁美ですら戦った。そんなとき、自分はただ守られてじっとしていただけだった。そんなときに流れた仁美の声、上条の演奏。それを聞いたときから胸に熱いマグマが揺蕩っていた。じっとしていられないまま、まどかは嵐の中走りだし、皆に祈りを吠えた。
「だからって、面白半分に首突っ込んだら、あたしがいの一番に……」
「うん、つぶす、って言ってたよね。でも、私だって大事なものがあるんだもん。負けないよっ」
「はは、なら、突っ走るしかないよな。あたしは止めないよ。突っ走りな」
豪快に大きな声で笑うと納得したのか、杏子はそれきり止めることをしなかった。しばらく笑いが止まらないらしい。残りの皆はきょとんとしていた。
「ごめんねほむらちゃん。でもね。私もほむらちゃんを守りたいの」
ほむらは、驚いた顔で、じっと見つめるしかない。
「ネミッサちゃんと、相棒さんみたいに。どんな苦難も、二人で乗り越えたいの。ゆるして、くれるかな?」
「そ、そんなこと言われたら……、許さないわけにいかないじゃない。……まどか、ずるいわ……」
言葉とは裏腹に、ほむらは笑顔を見せた。目には、うっすらと涙が浮かぶ。まどかもほむらが受け入れたことが嬉しかったのだろう。にこにこしていた。
257 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:13:20.86 ID:8F8LecZm0
「いったい、きみは何を望むんだい?」
「だから言ったじゃない。悪魔召喚士だって」
ことりとポケットから取り出したのは、さやかを救った時に使ったあのスマホだ。ネミッサが小さく驚く。すっかり回収するのを忘れていたのだ。そういえば、あれをまどかは返却しなかった。育ちのいい彼女が、あれを意味もなく着服しようとは思わないはずだ。またあれを悪用するとも思えない。そもそも白山比淘蜷_がそんな悪用に協力するような性格ではない。
「私が契約するのは、シヴァさんだよ」
そう笑うと、腕輪に軽く触れる。まるで寝ている何かを起こすように。
『お待ちしておりました。鹿目まどか殿』
腕輪から声がする。あの雄々しい精悍な神の声だ。どうやら、『キョウジ』の使い魔が自らのわずかな魂を腕輪に変形させ、まどかに渡していたようだ。
「悪魔と契約するのか。けれど、それでどうやって僕の譲歩をひきだすのかな?」
『甘言を囁く白いけだものよ。彼女の因果の力が欠片でもあれば、今にでも私はお前の星に出向き壊滅させることも可能だ。今は黙りたまえ』
声だけにもかかわらず、威圧する。破壊と創造を司る神が世界を覆すほどのエネルギーを手に入れれば、それをこの世界で再現することが可能だ、といっているのだ。
「直接脅迫に来たのかな」
「そうじゃないよ。シヴァさん、今は静かにしててね」
『失礼しました。では私と契約していただけますね』
契約の複雑なプロセスはまどかにはわからない。だが、スマホの機能を使えば、それはいとも簡単に行える。
「それじゃ契約しますね」
ぽん、とアプリを起動すると、ディスプレイから光があふれる。それに合わせ、腕輪からも光があふれる。まどかの体から淡い光が滲み、少しずつ腕輪に引き込まれる。
『私は破壊神シヴァ。今後ともよろしく。鹿目まどか様』
「よろしくね、シヴァさん」
腕輪が光に包まれると、その姿を変え、精悍だが異形の神の姿を取る。あの嵐の中皆に力を貸した神の姿だ。うやうやしくまどかに頭を下げると、再び光になりスマホの画面に吸い込まれる。まどかのすさまじい因果が絡みついた魂を糧に、本霊に匹敵する体を構築してしまったのだ。
「はははは、最初に契約した神が最高神とはねぇ。こりゃあ俺もうかうかしてられないなぁ」
「最初は白山さんですよ?」
「それも十分すごいよ。ははははは……」
相棒は笑いが止まらないという感じで笑い続けている。
「なるほどねー。これなら確かに戦えるわ。こりゃすごいわね」
白山比淘蜷_とインド神話最高神を使い魔にする中学生など世界のどこを探してもいない。生半可な悪魔がまどかを襲っても、返り討ちに合うはずだ。だがそれでも疑問が残る。それはまどかはいいとして、ほかの候補生はどうするのか?
258 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:14:42.25 ID:8F8LecZm0
「さ、彼女が実演してくれたようだ。魔法少女の素質がある子は、悪魔と契約ができる。悪魔に狙われるとしても、戦う方法ができたわけだ」
相棒はにやっと笑う。つまり、魔法少女の素質がある子らは選択肢がある。QBと契約し魔法少女になるか、悪魔と契約するか。
どちらも望まぬなら悪魔に襲われぬよう『葛の葉』の保護を受けることも可能だ。
「悪魔もね、嘘をつかないって方法で契約相手をだますことがあるんだ。それは君らと変わらないだろうね。そういう意味では、君に競争相手ができたに等しい」
植民地から不当に莫大な利益をあげるには一対一の貿易が必要だ。貿易する相手が二か国以上になればより条件のいい国と取引するはずだ。それは植民地が無知であっても利を上げるほうと契約をするにきまっている。今まではQBたちだけが独占して魔法少女たちと取引していたが、今度からは悪魔がその競争相手になる。そうすれば、互いに契約内容を刷新せざるを得ず、利益が下がるのを覚悟で魔法少女側に利のある契約にせざるを得ない。
搾取という状況が崩れるのだ。
そして、QBと悪魔の双方の仲立ちをするのが『葛の葉』たちサマナーである。双方のバランスを見て、魔法少女を助けるようふるまうことが目的である。
「そのうえで、君たちは僕らに協力すると?」
「そりゃそうさ。悪魔が契約するだけとは限らないからね」
有無を言わさず悪魔が食い殺す可能性もないわけではない。それは『葛の葉』の望むところではない。
「その代り、魔法少女のリスクを相手に理解させろというわけだね」
「こちらも君たちへの攻撃も止める。せざるを得ない。また候補生の情報も共有する」
「契約を阻止するつもりじゃないんだね」
「ああ。まだワルプルギスの夜はいるんだ。それを倒すには魔法少女がどうしても必要だ。むしろ覚悟を持った魔法少女には増えてほしいものだ」
そして、望むならばその心のケアを『葛の葉』で行う。組織的な訓練を施し、グリーフ・シードを安定供給し、軍事行動すら目的とする一団の形成。それが
「それが、アタシの目的」
ネミッサは、その『葛の葉』で『魔法少女保護管理室』の初代室長となっていた。人間に比べ寿命がない彼女である。 何十年先の戦いに備えることができる。
ほむらは目が濡れる。自分が先送りした問題に、ネミッサがすでに着手していたことを知ったのだ。尻拭いというと聞こえは悪いが、ほむらの心残りを彼女が果たす。
259 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:16:25.24 ID:8F8LecZm0
「それなりにメリットはあるね。だけれど、それではやはりエネルギーの低下が問題だ。それが解決できるのかい?」
QBが譲歩を見せた。相棒がネミッサをみる。ネミッサが大きく頷く。
「それならアタシが協力できるよ。これを使ってほしい」
と懐からさやかのグリーフ・シードを取り出して、テーブルに立てる。その中身は銀色の何かに満たされている。
「これは……マニトゥ。アタシの中にあったアタシの母体。剥き身のままだと見境なしに人の魂を集める危険なものだけれど、アタシの中やグリーフ・シードに入れておけばそういうことは起きづらいみたい」
それをQBはまじまじを見つめる。高純度のエネルギー体に興味があるようだ。だがこれだけでは魔女化のエネルギー一回分にもならないだろう。
「これをどうしろと?」
「こいつは接続した人間の魂を見境なしに集めるんだ。けど、回収した魂からエネルギーを一部取りそれをまた元に戻せば、微量ながら恒久的にエネルギーを得られる、はずよ。魔法少女のソウルジェムをこれにつないでおけば大きく濁るたびにエネルギーが得られるんじゃないかしらね」
QBも興味をそそられたようだ。
ソウルジェムからスポア、そしてキャリアがマニトゥを経由し、キャリアからソウルジェムへ魂を戻す。
そんな循環する流れが完成させる必要はあるが。
「開発には時間がかかるだろうけれど、今のシステムと両立させれば、君たちと協力する際に損失する分は補えるかもしれないね」
やれやれ、といった風にQBが頭を振る。
「いいだろう。君たちに協力しよう。対悪魔の措置もやってくれるんだよね」
「もちろん。そのあとどちらと契約するか、契約しないかは少女自身に委ねる。かまわないね」
「確かに僕らは競争相手なしに君たちと取引をしすぎた。競争相手ができた以上同じ方法は通じないだろうね。けれど、それ以外は僕らはやり方を変えないよ」
「それで結構でしょう。お互いの利益になるような相互利益の関係が一番いいですからね」
相棒はにっこり笑った。
「細かい話はまたいずれにするが、少なくとも今後契約するときにはちゃんと相手に理解させるようにするよ。また細かい点についての話し合いの時は呼んでほしい」
そう言い残し。QBは窓から飛び降りて姿を消した。
全員が大きなため息をついた。一応の着地地点には到達したように思う。
「うーん、これはQBは大分譲歩してくれたみたいだねぇ」
「そうなんですか?」
「ああ、彼らは僕らと長く付き合っているはずだ。僕の頭でこしらえた考えなんて論破できるような意見はあったはずなんだ」
相棒はこった肩をぐるぐる回して、緊張をほぐす。
「きっと、少しは君たちに感化された……のかな」
「まさか。あの害獣どもがそんな」
「……私はそう信じたいわ……だって、彼は、私の恩人だもの」
切ないマミの祈り。その肩をネミッサが優しく抱きしめる。ぽろぽろと、声もなくマミは泣き出した。それはどういった意味の涙か、それは本人にもわからなった。
260 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:17:45.62 ID:8F8LecZm0
翌日、杏子は養子縁組の話を了承し、近く鹿目家の養女となることを決めた。行方不明としていた期間の話は少々こじれたが、『葛の葉』や志筑家がフォローすることでなんとかするようだ。
「なんで急に?」
「ああ、なんとなく、かな」
杏子は何も言わなかったが、ただ守られるだけのまどかがあまり気に入ってなかった。
また、ただ生き残った自分だけが幸せになることにためらいがあったからだった。それを正直にすべて伝えた。自分だけが、新しい家族を得て、幸せになっていいのか、と。
「娘の幸せを願わない親なんかいねえよ! どんな事情があってもな」
その詢子の一喝が杏子の悩みをすべて吹き飛ばした。強引な言葉に思わず感動し、また号泣してしまった。
実際には同い年だが誕生日が先ということで、杏子はまどかのお姉ちゃんとなった。まどかは新しいお姉ちゃんができたことが嬉しかったらしい。素直に喜んでいた。
知久も新しい家族に語りかける。
「……過去を背負って生きていかなくてはならないのなら、この世の中は幸せになってはいけない人だらけになってしまう。君は幸せになっていいんだよ。杏子お姉ちゃん」
また杏子は泣いた。あの時から凍りついた時間が、解け出すようだった。
後日、再び五人で魔女と戦っていた。今回は変身しているのはネミッサとさやか、そしてほむらだけ。新米として訓練を申し出たさやかと新たな弓を武器にするほむら、魔法少女に変身したてのネミッサのが戦う。ほかの二人は変身すらしていない。さやかはともかく、弓に慣れてないほむらと、魔法少女の力加減が難しいネミッサが苦戦をしていた。
なんとか撃破し結界を出ると、そこにまどか以外の魔法少女がいた。いつかのアップ髪とベリーショートの少女だ。またあの時の再現かと皆が思うと、こういった。
「あの、魔法少女を集めているって話を聞きました。その……、私たちも話を聞かせてもらっていいですか?」
今月これで八人目だ。そこそこ広まっているようだ。ネミッサはにっこり微笑んで対応する。
「いいよ、アタシが一応そこの協力者なんだ。お茶でもしながら話教えたげるよ。グリーフ・シードが目当て?」
二人が苦笑いする。
「でもタダじゃないからね? それと、参加するかどうか別にしてさ、『候補生』がいたら情報教えてほしいんだ。いいかな?」
「はい、それも聞いてます。私のクラスメイトで一人いますよ」
「グリーフ・シードを大量に送ったのが功を奏したようですね」
「あれが君らだったのか。予知ってのはホントすごいね」
「なぁ、もうしろまるは倒さなくていいのかい?」
「もういいみたいだよ。結構いい稼ぎだったんだけど」
若いサマナーは白と黒の魔法少女の監督役になった。戦闘のスキルは魔法少女の方が高く、それ以外の戦闘指揮はサマナーに一日の長がある。
「今日も戦闘訓練だ。お手柔らかに頼むよ」
「はい、頑張りましょう。怪我をしても治してあげますからね」
「怪我するのが前提なのかよ」
261 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:18:27.75 ID:8F8LecZm0
天気のいい日曜日。八人は見滝原の丘にある公園へピクニックに出かけた。マミと杏子、そしてネミッサはお弁当を作って持っていくため少し遅れた。足の覚束ない上条の補助を買って出たさやかと仁美はそこからさらに遅れるとのことだった。
先にいるのはほむらとまどかだけだ。少し動くと五月晴れで汗ばむほどの暖かな日。小
高い丘から見える町の復興は非常に早く進んでいる。
『まず生きることを考えるのが人間だ。我らにはない素晴らしい強さを見た』とはシヴァの弁。悪魔が人間を称賛するちょっと変わった発言だった。
マミ特製のブレンドティーに量の多いサンドイッチが入ったバスケットを、ネミッサと杏子で分担して持つ。
三人が丘を越えた先に、ほむらとまどかがいる。朗らかに、心から嬉しそうに笑うほむらがそこにいた。お揃いの白いワンピースに白いリボンがまぶしい。寒さ除けに用意したカーディガンは近くの木の枝で風に揺れている。
ネミッサが一番見たかった光景だった。嬉しくなって走り出す。
「おーい、ホムラちゃーん、マドカちゃーん!」
つられて走り出す二人。さらにその後方にさやかたちが見えた。皆に気付くとほむらが大きく手を振って返す。
262 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:19:22.49 ID:8F8LecZm0
これからほむらは、みしらぬあしたへ歩き出す。
繰り返した時間の回廊から抜け出した彼女には、あしたはこれまで以上に不安に満ちている。
けれども、そこにはまどかがいる。さやかも、マミも、杏子もいる。仁美もいれば上条もいる。そして、ネミッサも。徒に恐れることはない。
彼女はやっと、あしたへ歩き出せる。最愛の友人たちとともに。
了
263 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:24:50.88 ID:8F8LecZm0
【エピローグ】
「室長、ネミッサ室長」
「それもうやめて、肩書きあっても責任者じゃないし」
「勿論、知ってていってます」
「ウン、次やったらアンタ感電死だってのは知ってるよね」
「メール届いていますから、確認してください」
ネミッサは今、『葛の葉』の組織にいる。日本国内の魔法少女を保護し協定を結ぶことでサマナーのパートナーとして協力してもらう部署を取り仕切っている。『魔法少女保護管理室』と大層な名前のトップといえば聞こえはいいが、完全な顔役である。銀髪を腰まで伸ばした彼女はその容姿自体が証明書に近い。日本国内の魔法少女からは『葛の葉の魔女』といえばネミッサを指すらしく、協定外の魔法少女ですら知っている有名人だ。
『葛の葉』に協力すると、魔法少女たちはサマナーのパートナーとして戦闘の協力や、特殊能力による支援活動に従事する。そのかわり人工浄化したグリーフ・シードが定期的に支給される。また望めば戸籍の復活や住居の斡旋などを受けられる。かつての杏子のように行政手続がわからないままになっている少女も少なからずいて、それなりに助けになっているようだ。
264 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:25:51.36 ID:8F8LecZm0
あれからずいぶん経つ。
まどかはほむらを案じ、ありとあらゆるイベントをこなそうとほむらを引っ張りまわした。弟のための五月の節句に始まり、ショッピング、映画館、七夕、夏祭りに旅行。ハロウィンやクリスマス、除夜の鐘に初詣。スキーや温泉旅行も企画。バレンタインは友チョコを一緒に作り、ひな祭りやお花見まで、ありとあらゆるイベントにほむらを連れ出し、皆でほむらが欲しがった日常をたっぷりと満たした。そのたびに嬉しくて頬を染め、隠すようにそっぽをむくほむらは、皆に可愛がられた。
充分に彼女は幸せだったと思う。
グリーフ・シードの人工浄化技術も徐々に軌道に乗り、組織だった魔法少女の編成も形になり、絶望へのケアも充実した。QBは魔女化しにくくなることに困っていたようではあるが、積極的な妨害はしてこなかった。酷い話ではあるが、まどかの契約もできなくても「ああそうか」くらいにしか感じおらず、数さえあれば同じエネルギーは回収が不可能ではないからだ。
また、マニトゥの協力のもと世界中の人間の感情エネルギーを少しずつ集める技術も開発が進んでいるため、そちらを優先している節がある。魔法少女のシステムも魅力だが、安定して回収できるマニトゥシステムもまた並行して行われるようだ。一度に大量のエネルギーを得る方法と、地道に集める方法と両立させるつもりのようだ。
QBは変わらないまま、まどかたちは成長していった。高校に入り、大学に入り、就職し、結婚し、子を設け、孫を設け、穏やかな天寿を全うすることができた。
あの一ヶ月を全力で駆け抜けた魔法少女たちは、一生涯の友人だった。お互いがお互いを結婚式に招待し、スピーチしあう。家族の次に親しい友人たち。いや、ひょっとしたら、家族よりも親密だったかもしれない。
ネミッサも幸運にもその間に居られたが、一人、また一人と櫛の歯が抜けるように掛けていく彼女たちに一抹の寂しさがあった。皆が成長する中、自分の容姿は殆ど変わらない。それが切なかった。それぞれの臨終にはすべて立ち会うことができたのも幸運ではあったが、それもまた寂しい。
魔法少女本人が亡くなると、中が空洞になったソウルジェムが残るらしい。皆がそれを知ったときに相談し、ソウルジェムをネミッサに託す事にした。困ったことにまどかはネミッサに内緒で皆のソウルジェムを元に自分のそれをデザインし作成した。ネミッサは渡されて死ぬほど驚いたが、まどからしからぬイタズラに、涙を流しながら笑った。
「怒ってくれて、泣いてくれて、助けてくれて、ありがとう」
「貴女に会えて、本当に良かった。みんなのことお願いします」
「わるいね。先行くけど、あんたはゆっくりおいで」
「救ってくれて、ありがとう。最高の友達が沢山いるのはあなたのおかげ」
「あなたがいてくれたから、私はこうしていられます。ありがとう、幸せでした」
265 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:28:22.03 ID:8F8LecZm0
「ん、メール? いつもはアタシ宛のまとめてくれるのに」
いつもはメールの中身を確認して報告してくれる同僚がそんなことを云うのは珍しい。
「それが、魔法少女絡みかどうか、私にはちょっと意味がわからなかったのです。直に読んでもらえますか」
「うん。わかった。ありがとね」
苦手だが仕方ない、メーラーをたちあげて見る。
『送信者:ホテル業魔殿
件名 :急告!
本文 :再結成!! マギカ・クインテット!』
ネミッサは走りだした。走りながら、涙が溢れてきた。止められないまま、間近のテレビに飛び込んだ。
業魔殿は、ヴィクトルが生命の研究のために設立した施設である。
その過程で、悪魔を掛けあわせ新たな悪魔を生み出す「合体」という背徳の技術を生み出した。その技術は広くサマナーたちに知れ渡り、必要な能力を持つ悪魔を生み出すため重要な支援技術として定着していた。
さらにその中に、歴史上の人物を英霊として復活させる技術がある。雛形となる「造魔」に特定の悪魔を組み合わせることで、半ば悪魔化、神格化した英霊たちを蘇らせるのだ。
「おっさん! 邪魔するよ!」
「はっはっはー、私らが英雄かぁ。照れるねえ」
「としたらおかしいわね。貴女対して活躍していないでしょうに」
「うお、相変わらず辛いなあんた」
「でもそうしたら、なんで私もここにいるのかな?」
「ふふ、貴女がいないとダメじゃない。いなくては困るわ」
大きな音がして、五人が寛ぐ一室のドアが開く。
目一杯に涙をたたえて、ネミッサは走りこむ。部屋の五人も一斉に駆け寄る。
その中の一人は真っ先に飛び出し、誰よりも先にネミッサと抱き合った。
266 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:29:48.21 ID:8F8LecZm0
間近に控えたワルプルギスの夜との再戦に、『葛の葉』に所属する多くの魔法少女を投入する作戦があった。
「さあみんな、あの伝説のワルプルギスの夜と、決着を付ける時が来た!」
「敵は歴史に名を残す強力な魔女だ。ケタ違いの耐久力、攻撃力、攻撃射程を持っている」
「けれど、恐れることはないわ! 知っての通り、私達にはあのワルプルギスの夜を退けた英雄たちがついている!」
「彼女たちだけでは退けるだけだった。だけど、アンタたちが力を合わせれば、それ以上の結果が必ず出せる」
「さぁ、暁を見ましょう。炎立つ美しい朝日を見るために! 新しい歴史に名を残す英雄になるために!」
杖を掲げ、ネミッサが宣言する。左右には各々武器を掲げた魔法少女がいた。
美樹さやかはサーベルを地面に突き立て柄に手を載せる、騎士の佇まいで手を添え真っ直ぐ立つ。
佐倉杏子は槍を天高く掲げて、獰猛な笑いを浮かべ魔法少女たちに応える。
巴マミはマスケットを両手に携え、誇らしげに、照れながらも胸を反らしている。
弓を持って、小さく手を振る鹿目まどかは、まだ自分のポジションがわからないらしく照れ笑いを浮かべている。
魔法少女たちの集団の歓声が収まるのを待って、彼女は静かに語り出した。
「私たちは、何かに導かれて、ここに戻って来ました。皆さんも知っての通り、私は何度も一人で立ち向かい敗北しました」
女性たちがため息をつく。古代神話から抜けだした女神のような美貌の持ち主が語る。
「私達がワルプルギスの夜を退けたときも、次世代に先送りすることしかできませんでしたが、それが精一杯でした」
その凛々しい顔立ち、美しい髪、神話から抜けだした戦女神の趣は、すべての魔法少女を奮い立たせる。
「けれども、ネミッサも言うとおり、皆が力を合わせれば必ずワルプルギスの夜を倒せます」
彼女としては、驚くべき言葉が紡がれる。
「そして、私はワルプルギスの夜に因縁があります。……それを断ち切るためにも力を貸してください。どうか、お願いします」
最期の言葉は絞りだすようにこぼれた。
最前列に位置した魔法少女の一団が変身し、各々の武器を出して応じる。それに合わせて漣のように変身の波が広がり、武器を掲げて応じる魔法少女たち。
意気軒昂の五十人を超える戦士たちは歓声を上げ、暁を迎えるために出陣していった。
戦うのは彼女たちだけではない。グリーフ・シードと化した魔法少女たちもまた共に戦う。『葛の葉』のサマナーや悪魔たちも後方支援ととして付く。
総勢三百人を超える大規模な作戦の幕開けだった。
『何かさ、燃え上がれー、って感じでカッコいいと思うなぁ』
ほむらは再び戦場へ。ス−パーセルを引き起こす伝説の魔女と、それを退けた伝説的な魔法少女達の戦いが幕を開ける。
267 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:31:30.82 ID:8F8LecZm0
「あ、大事なこと忘れてた」
「ん? なにネミッサちゃん」
「んーん、大したことじゃないんだけどね……歌、忘れた」
「なんのことですか?」
「『Tout est sur avec une chanson』……『すべては歌で終わる』ってね」
「なら一曲やろうか。任せて」
「おっ、待ってましたー!」
「曲はアレだろ? ならあたし歌えるよ」
「さすが佐倉さんね」
「鐘一つじゃないことを祈るわ」
「それはさすがにひどいよほむらちゃん」
「へぇ、洒落てるじゃないか」
『おお、これは役得』
「それじゃ。ご清聴ください。曲は『グノーのアヴェ・マリア』」
「ふふ、それはどなたへの曲ですか?」
「ちょ、ちょっと! 仁美!」
「ひゅーひゅー」
「ひゅーひゅー」
「も、もちろん……きまってるじゃないか」
これは、祈り
ささやかなみらいをまもるため
全力で駆け抜けた英雄たちへの
ちっぽけな
祈り
268 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 21:42:42.04 ID:8F8LecZm0
筆者です。
最後までお付き合いありがとうございました。
これにて、本編はフィナーレ、閉幕となります。
皆さんの心に、わずかでも爪痕が残せたでしょうか。
正直、この書き込みの時点では、ドキドキしています。
皆さんが納得できるようなストーリー展開ができたか、
ちゃんと理解してもらえるような文章ができたか
とても不安です。
この物語を書くに当たり、
助言や感想をくれた友人に、この場を借りて
お礼申し上げます。
そして、最後までお付き合いいただいた読者のみなさんにも、
お礼申し上げます。
ありがとうございました。
269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/12(土) 21:49:39.30 ID:YE7wol6Uo
乙で済ますにはあんまりすぎる、お疲れ様でした
終わりかー寂しくなるなーマミッサ終わったらホント寂しくなるわこれ……
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/12(土) 21:57:34.26 ID:Hg5s6koO0
乙です
最後はメガテンシリーズらしく悪魔会話で交渉で落とし所を見つけるってのが意外でした
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2013/01/12(土) 22:27:12.99 ID:6LNamcTx0
乙でした!まおゆうが好きとは作者様とはいい酒が飲めそうだw
原作魔法少女達の何が不幸だったかって、ちゃんとした組織(あるいは大人達)の後ろ盾無く戦わざるを得ないってことなんですよね。どんなに強くても補給がままならなければ戦えないのは何時の時代、何処の世界でも同じ事ですし。
また、魔法少女同士のコミュニティもどうしても同族同士の狭い物になってしまって別視点からの価値観というものが入って来ず、柔軟な発想ができないというのも問題ですよね。
他の作品の登場人物と交流して、戦力としてだけでなく、新しい価値観・考え方を得ることで魔法少女達が救われるっていうのがまどマギクロスの醍醐味だと思います。
それら全てをキッチリと描き切っており、とても楽しめました。ありがとうございます
272 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/12(土) 23:50:20.41 ID:8F8LecZm0
筆者です。
おおう、感想ががが。
>>269
寂しがっていただけるとは、冥利に尽きるというもの。
あなたのように楽しみにしている方がいるおかげで
ここまで頑張れました。ありがとうございます。
マミッサが一つかけました。
希望するものとちょっと違うものができましたが
ご賞味ください。
それと、千レスまで大分あまりますし、私の妄想が尽きるまで
「まどマギ×ハッカーズ」ワールドを展開して
よろしいでしょうか?
>>270
セカイ系にせずにQBと折り合いをつけるには
あれしか思いつかなかったんです。
マダムと相棒がよくやってくれました。
いやぁ、キャラが勝手に動くと楽です、ホント。
でも、話に無理があったかな、と。かなり不安でした。
今も不安ですが。
>>271
うう、ちゃんと伝わって私は果報者です。
正直泣いてしまいました。うう。
一章から見ると徐々に手助けをするハッカーズキャラが
増えていって、とうとう五章はネミッサの手を離れます。
そういった流れとか、支援組織のことをちゃんと
読み取ってくれる人がいてくれてホント嬉しいです。
こんな素敵な感想をいただけたのは「VIPに上げようぜ」
と頻りに知ってくれた友人のおかげなんです。ありがたい友人です。
まおゆうは、後発のキャラが全力疾走で主役を追い抜くのが大好きでした。
脇役とか思ってた中年商人が土木子弟と手を組むとか
副官が補給地点潰すとか、軍人子弟が聖鍵遠征軍と喧嘩するとか……。
仁美や上条にもそうさせたかったんですけど、技量不足でした。
くやしいです……。
273 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 23:56:41.68 ID:8F8LecZm0
筆者です。
お約束通り マミッサネタを上げます。
新ジャンルを希望された方の望むものとは
だいぶ違うものになりました。
まぁ、実際、勝手に動き出してしまって、
私の制御なんて聞きゃあしないんですけどね、
あの子。
それでも、ちょっと、味見してください。
274 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/12(土) 23:58:45.63 ID:8F8LecZm0
番外編【けっせんぜんや】
『ああ、言いかけてやめた仕草が気になるね
その溜息の、隙間に落ちたものは何?
いつか二人、友達とは呼べない
距離に変わることに気付いていた
無くすことを恐れて知らないふりをしていた
お互いの躊躇いから踏み出す瞬間
急に話反らして照れたような横顔
始まりの予感抱いて見つめていたい』
「ね、そっちいっていい?」
決戦を明後日に控えた夜。マミは急にそんなことを言いだした。
「ん? いいけど、どったの?」
あまり深く考えないネミッサはあっけらかんと答える。パジャマ姿のマミがいそいそと歩み寄ると、ネミッサの布団にもぐりこむ。
マミの顔がこわばっていることに気付き、察する。
当たり前だ。不安に決まってる。負けて自分が死ぬだけではない。町が壊され、人が死に、まどかが守れなくなるのだ。怖くないわけがない。
「ご、ごめんね……」
「いいわよ。アンタ強がりすぎ。ちょっとはアタシにでも甘えなさいって」
皆の前で強がるマミをこうして甘えさせるのが自分の役目だと、ネミッサは思う。いや、役目なんかではない。自分がしたい。
急速に、マミに魅かれている自分がいた。この強がりで、実は甘えん坊で、かっこつけで、強くて、弱くて、可愛い。そんなマミを。
(急速になんかじゃない)
繰り返すループの中で、ネミッサは何度もマミと知り合い、友人となり、そして失ってきた。ほむらの指示で仲良くすることが多かったが、それがないケースでも進んで友人となった。
後輩たちがいないとき、マミはこうやって甘える。胎児のように体を曲げて、ネミッサにしがみつく。照れ笑いを浮かべながらも背の高いネミッサの胸に顔をうずめる。そんな背中に手を回し抱き寄せるネミッサ。
今回はそれがより強いように思う。三度マミはネミッサに救われた。マミはそのためネミッサに弱依存している。
だから、こんなことは、初めてだった。
丸まったまま、顔を上げ、ネミッサを見上げる。
「ねぇ、ネミッサ?」
「なに?」
顔が近い。吐息がかかる。
「ごめんね……」
275 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 00:01:02.06 ID:IpW5+5uF0
次の瞬間、マミに唇を奪われた。
一瞬触れるだけのこれはバードキスだっただろうかと全く違うことを考えてしまった。
「どうしたの……?」
「怖いの」
「当たり前じゃん。負けられないんだよ、アタシたち」
「違うの」
「……」
「貴女が死ぬのが怖いの。失うのが怖いの」
返事ができない。
「私、正義の味方じゃなくなっちゃった。戦えなくなっちゃった」
ネミッサは拒まない。それがマミには苦しい。最低なことをした自分をいまだに抱きしめているネミッサ。彼女が未だ相棒を想っているいることを、知っているのに。それでもなお、ネミッサはマミを抱きしめている。
「ごめんなさい。最低ね。私」
「……ねぇ。アタシには、アンタの力が必要なんだ。……どうしたら戦える?」
マミは俯いたまま答えない。答えられない。罪悪感から、言葉が出せない。
「……貴女が、好きなの……」
それがどういう意味の言葉か、鈍感なネミッサだってわかる。ぼろぼろとこぼれる涙の意味も、痛いくらいにしがみつく腕の強さの意味も。
「ごめん」
それの意味を知り、マミは嗚咽のように泣き出した。拒絶されたことを知り、ネミッサから離れようと身じろぎをした。だが、ネミッサはそれを抱きしめて胸の中にとどめる。
「いかないで。まだ、まだから」
かなり強い力でマミを抱きしめ抑える。胸に押し付けて離さない。それでも身を捩じって逃げようとする。だが、それでも離さない。
「いかないで、お願いだから」
諦めたのか、マミの動きが収まる。
「今はね、アタシ、アイツが好き。忘れられない」
また泣き出した。マミの静かにしゃくりあげる声。
「でも、多分もうだめ。逃げ回ったから、時間が経ちすぎた。でも、忘れられないの」
ネミッサの胸で隠すマミの耳にささやきかける。
「この戦いが終わったら、アタシアイツに話する。玉砕してくる」
マミは身動き一つせず、嗚咽だけ上げている。
ネミッサも涙一つこぼす。
「玉砕して、立ち直れたら、まず、アンタのこと考えたい」
息をのみ、顔を上げる。その視界いっぱいにネミッサの顔と、潤んだ瞳があった。
「そのときまで、アタシのこと支えて?」
マミの思いにこたえない自分が、身勝手なことを言うと、我ながら思う。けれども、ネミッサにとっても、マミはかけがえのない存在だった。
「アンタの望む関係になれるかわかんない。けれど、アンタと一緒にいることを最優先で考えたい。それまで……、待ってて?」
276 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 00:03:06.71 ID:IpW5+5uF0
『ああ、いつからか泣き顔さえ見せていたね
もう失った恋の話打ち明けたり
多分きっと友達より近くて
不思議な関係を大事にしてた
待ち続けた誰かにあなたが変わっていく
ときめいた胸の奥で何かが弾ける
交差点で手を振り歩き出した背中に
駆け出せば心はもう引き返せない』
「ただいまー。あー、ちょっと歩いたわね」
「そうね、ちょっと疲れたかな」
「アンタ掃除もしたんだもんね。ごめん、手伝わなくて」
「ホントよ。もう、大変だったんだからね」
そういいつつも、顔は笑っている。
「さぁ、冷凍食品は解けてないみたいだし……。今日は簡単なご飯にしましょ」
「たまにはこういうのもいいね」
「そうだね。でも、アンタのご飯が一番美味しいよ」
マミが微笑む。いつものまっすぐな言いようは変わらない。
「相変わらずね」
「フラれちゃった」
息をのむマミ。唐突に、普通に話すネミッサに驚いた。
「もう、子供もいるんだって。奥さんの名前、怖くて聞けなかった」
声を上げず、ただ滴が零れ落ちる。
マミは、かける言葉もなく、立ち尽くす。
「でもね」
言葉はどこまでも平たい声色。
「終わった後、真っ先にマミちゃんの顔が浮かんだの」
泣きながら微笑む。
「どうしてかな」
「わかんないよ」
どちらともなく言う。
「おかしいね」
「そう、だね」
どちらともなく歩み寄る。
「ファーストキスだったんだよ」
「こっちもだよ」
「二回目はなんていうのかな」
「わかんないよ」
重なり合う二つの影。
「ねえ? 今夜はアタシが泣いていいかな」
「いいよ。ずっとそばに、いてあげる。お友達だもの」
でも、それがいつか。違う意味を持つときが来ることを、祈って。
TWO-MIX アルバム「BPM132」収録曲「Friend」より
277 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/13(日) 00:28:58.19 ID:z2M67DKmo
マミッサキタァァァァッ!
初っぱな切ねぇのきたぁぁぁ……でもいい、雰囲気たまらんね
278 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 01:21:48.25 ID:IpW5+5uF0
筆者です。
三時間でまぁかけたほうかな。
TWO-MIXは好きなアーティストでした。永野可愛いよ永野。
Friendは名曲。あとBecause I Love Youも。
>>277
いやぁ、本編でネミッサがあれだけ想ってるのに
きれいさっぱりってわけにはいかなかったのです。
しかしあーただけですよ? そこまで興奮して喜んでくれるのってw
妄想垂れ流す甲斐があるってもんです。
279 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/13(日) 01:46:16.98 ID:KwD+Xeao0
実はスレタイからホムッサを見たいな、なんて思ってたりする俺
280 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/13(日) 02:19:25.55 ID:uMLlIM4To
完結乙でした。
大量の良質の魂を集めたがっているファントムの主とQBをぶつけて共倒れさせるとかかな、
と予想した解決法以上に平穏な方法で、「なるほど、そういう手があったか!!」と思いました。
ドリーカドモン五個使って全員英雄合体して仲魔にしたい。
281 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/13(日) 07:30:19.84 ID:z2M67DKmo
>>278
エロいんも書くんやろ?ん?
282 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/13(日) 20:13:13.23 ID:aB7TAnZk0
乙
>>1
ってもしかしてこのssの作者か?
鳴上「ここは……見滝原駅、というのか」
正直メガテン世界ならQBの上位の存在がいてもおかしくないよな
漫画版葛葉ライドウみたいなマレビト=宇宙生物みたいながいてもおかしくない
283 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/13(日) 21:48:55.65 ID:IpW5+5uF0
筆者です。
お返事タイムであります。
>>279
ほむッサ……、さやッサにあんこッサなど、いろいろ広がりそうですが
まだほかの子たちはイメージが膨らみません。
今度はほむッサに挑戦してみましょうか。
>>280
本気でシヴァの本霊くらいなら、QBの惑星潰すくらいはできるでしょうが
植民地というイメージが浮かんだ瞬間、この結末にたどり着いた次第です。
おそらく「大人」ならこういった解決方法をすると思いました。
魔法少女という同族同士のコミュだと、おそらくは思いつかない方向です。
…英雄トモエマミだけは、ネミッサに譲ってあげてくださいw
>>281
エロスには私があまり興味がないうえ、本編ではマミちゃんたちは
結婚して幸せな家庭をもつような流れにしてあります。
せいぜいキスどまりでお許しください。
>>282
文体が似てましたか? 実は、というほどでもありませんが
VIPではこれが処女作です。
ミコンの町からのメガテンヲタ(歳がばれますが)です。
対地球人用自立行動型インターフェース、インキュベーター
という位置づけで「大いなる存在」に類する何かに
作られた結構寂しい存在なのかもしれませんね。
284 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/13(日) 22:05:07.15 ID:z2M67DKmo
>>283
ほむっさほむほむ
そういや本来はほむっさ何だよな、スレタイ的には
285 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/13(日) 23:10:15.11 ID:IpW5+5uF0
筆者です。
>>284
ほむッサは、なんとなく本編でやったからいいかなーと思って、
スルーしたんです。
打ち上げの時に「デレた」んでそれで許してください。
短編は短編でまた書きますんで。
今さっき書き上げたのでマミッサをアップします。
これから不定期でアップを続ける予定です。
ネタが枯渇するか、次回作ができるまで、html化は先送りします。
よろしければまたしばし私の遊びにお付き合いください。
286 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:12:14.30 ID:IpW5+5uF0
番外編 【いらいざはだれ?】
「ネミッサ様、お願いがございます」
そんなふうにメアリに言われた、七月の梅雨時期。
打ち合わせを終えてお茶を飲んでいるネミッサは顔を上げる。
メアリに紹介された、ホテルの社員。その人物に頼まれた仕事。
その内容を説明されたネミッサはあきれ返った。
「い、いやよそんなの。頼めるわけないじゃない」
「そこを何とかお願いできませんか」
「い、や!」
メアリは(本当にわずかに)残念そうにしながら、借用書を見せる。
それをみてネミッサが表情を変える。赤くなり、青くなり、白くなる顔色。
「ああもうわかったわよ! でもあの子たちが断ったらだめだかんね!」
「そこを何とか……」
借用書を申し訳なさそうに指差す社員。彼女も必死なのだ。
「わかったわよ! やればいいんでしょやれば!」
ネミッサは頭を抱えた。
287 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:12:45.22 ID:IpW5+5uF0
マミ宅に皆を集めてのお茶会。パトロールを終えた皆がマミのお茶を堪能していた。
パトロールをシフト制にしよう、というほむらの提案の元、話し合いが続いていた。
見滝原には戦闘要員がネミッサを含め五人いる。(『デビルサマナー鹿目まどか』を含めれば六人だが、彼女は直接戦闘は行わない)魔女と戦うには多くても三人まででいいというところまで決まった。戦闘人員二人、待機人員に一人、ほかの二人はオフ。といった形だ。
今年受験のマミは受験の合否まで最低でも待機人員で通し、来年はほむらとさやかが待機人員どまり。
「そうは決めても、危なくなったらオフの人も駆け付けちゃうんだろうけどね」
「でもオフの人は遠出もできるわ」
「オフの日はホムラちゃんとデートできるよ。やったねマドカちゃん!」
顔を真っ赤にして俯くまどかとほむら。
「そういうあんたはマミさんとデートするんでしょ」
「そりゃぁね。勉強ばっかじゃ息詰まっちゃうでしょ。当然よ」
「ちょっと、デートってところは否定しなさい」
さやかは反撃のつもりだったが、実際ダメージを受けたのはマミのほうだ。一瞬さやかはおやっと思ったが、目標はあくまでネミッサだ。
「じゃぁマミさんが駄目なら一人ぼっちだね」
「うっさいなぁ。アンタはカミジョー口説いてなさいよ」
相棒はすでにパートナーもいて、家庭を築いていた。パートナーの名前は、聞けなかった。
「んじゃあたしとゲーセン行こうぜ」
「アンタ、ダンスゲームですぐ賭けるからヤダ」
杏子は今見滝原中学校への転校手続き中だ。必要な書類が揃い次第、二学期には転入できるとのことだった。
「ネミッサ、何か話が合ったんじゃないの?」
ピタリ、ネミッサの動きが止まる。実は、皆にお願いがあって集まってもらったのだが、とても言いだせず、ずるずると先延ばしにしていたのだ。それを指摘され口をつぐむ。
真正面から見るマミの目線に怯み、観念して話し出す。
「うう、実はね……皆にお願いがあるんだ」
288 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:14:23.48 ID:IpW5+5uF0
その週の日曜日。朝から一行は天海市にいた。嫌がるほむらを無理やりぴっぱるまどか。乗り気でないネミッサを気にするマミはその背中を押してホテル「業魔殿」に歩かせる。
ちなみに、乗り気ではなかった杏子はバイト料代わりの食事で手を打った。
(ちょろすぎる……)
渋々といった体で受け付けのメアリに取り次ぎをお願いすると、全員がゆったり乗れるほど広いエレベーターに案内された。
ノリノリのさやかに、不安ながらも楽しみにしているまどかがエレベーターから真っ先にでて、目的地に行く。
衣装室へ。
「どうも皆さん。お待ちしていました」
まだ年若い女子社員は、ホテル内の結婚式場の配属だった。そのやる気のある彼女は、新しい企画を提案。その準備をしていた。
『ティーンエイジのためのドレスレンタル』
そんな、企画名だった。
ちょうど、まどかたちの年齢の学生あたりまでをターゲットにした結婚式参列者向けのカラードレスのレンタルを始めるとのこと。その企画書の写真に、年頃の女性モデルが欲しいとメアリに相談し、ネミッサに話がいったそうだ。
ネミッサは正直乗り気ではなかった。皆を説得できる自信がなかったからだが、それを断れなかった理由もあった。
「借金……?」
「いくらくらい?」
「七桁……デス」
「百万……?」
「イイエ、二百万デス」
「にひゃ……」
内訳として、ほむらが譲られた銃がほぼ百万。魔晶化した武器やニュークリアボム、神酒やレンタルした悪魔、ほむらが譲られた魔弾。それらもろもろの経費が百万。それらすべてが、ワルプルギスの夜を撃退するのにネミッサが必要とした金額だった。
だが、それはまだマシだ。金額は組織内の割引のようなものも利いているし、志願したサマナーへの経費などは請求されていない。
それにしても中学生が負う金額ではない。とりあえずヴィクトルが立て替えるという形で支払い、それを借金として『葛の葉』で働きつつ返済することになっていた。せめてもの救いは無期限無利子であるということだ。
「ご、ごめんなさい」
ほむらたちが申し訳なさそうにする。
「き、気にしないで」
とりあえず『葛の葉』からもらえる給料から無理のない返済でいいということだったが、そのためかネミッサはヴィクトルに頭が上がらない。
先の相談を受けたメアリが困りヴィクトルに相談したところ、借金をタテにネミッサを使うようアドバイスされたそうだ。
289 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:15:27.23 ID:IpW5+5uF0
衣裳部屋には色とりどりのドレスが下がっている。奥にはウェディングドレスまである。さすがの女の子である一同の目の色が少し変わった。
だが、それでも杏子とほむらは気遅れしている。二人は華やかな衣装が怖いのだ。
そこには式場担当の女性スタッフが『大勢』集まっていた。
「うわ、みんな可愛い」
「この子スタイルすごいわぁ」
「ポニテの子は磨き甲斐ありそうよ」
「私小柄な子もらいっ!」
「あ、ずるい! じゃぁ私ロングの子!」
「じゃじゃじゃ私マミちゃん!」
「ワタシこのボーイッシュな子磨きたい!」
おそらくヘアセット係なのだろう。ドレスに似合う髪型にするため、思い思いの少女を連れて美容室に連れて行った。余りの早業に、一同は文句を言う暇もなかった。
一時間半後、髪をアップにまとめられ、薄く化粧や口紅を塗られた少女たちが現れた。唯一ネミッサだけは写真に取られないとのこと。
日本国内を目当てにしているので、銀髪は写真にするには向かない。ちょっとだけ安堵していた。
「はぁ……、ちょっとこの子素材良すぎ。ファンデの色よりいい肌色よ」
ほむらを担当したスタッフは上機嫌。周囲のスタッフや魔法少女たちは溜息。当の本人は耳まで顔を赤くして俯く。いつも髪をかき上げるたびにちらちら見えていたうなじが、相当な破壊力で周囲を魅了する。
ネミッサ曰く【マリンカリン垂れ流しほむほむ】だそう。
さやかやマミは初めての本格的な化粧が気に入ったらしい。私服でバランスの悪いながらも嬉しそうに鏡をのぞきこんでいた。
また杏子は初めての経験で、ほむら以上に顔を赤くし、借りたタオルで髪を隠していた。
290 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:16:40.92 ID:IpW5+5uF0
そこからさらに衣装担当のスタッフが拉致る。ほむらと杏子が奪い合いになり、マミがノリノリで、さやかとまどかも半ば開き直ってついていく。
一人に一人ずつスタッフがついて衣装を選び、手の空いたネミッサが茶々を入れる。
「コツはいつも選ばない色の服を選ぶことですよ〜」
「へえ、そうなんですか! じゃぁ青以外でお願いします!」
「おお、アンタてっきり青のマーメイド型すんのかと思ったわ」
「小物で飾りをすると印象変わりますからね〜」
「あ、ホントだ。これ可愛いですね!」
「マドカちゃん、せっかくなんだから大人っぽいのいきなよ」
「はい、マミちゃんはこれ」
「ちょっと! これ胸がすごすぎませんか!?」
「だいじょーぶ、似合ってるよ。アタシ結構好きよそれ」
「も、もう! ネミッサ、その……ホント?」
「貴女は素材がいいのだから、もっと胸を張って!」
「いや、あたしにスカートは駄目だって!」
「魔法少女の時アンタスカートじゃないよ……」
「サイズはたくさんあるし、アジャストできますからね」
「あのう、一番細くしても……緩いのですけど」
「なん、だと……」
ほむらを担当したスタッフまで絶句した。
291 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:18:58.25 ID:IpW5+5uF0
一方、唯一被害(?)を受けていないネミッサは、コメントをさしはさむ程度でその様子を見ていた。タイトな服は好きだが、こういったひらひらの多い服は好まない。じっと皆の変身している様子を見ていた。
そんなネミッサを見かねたのか、先ほどの女性社員が近づく。
「あの、怒ってますか?」
「いやー、怒ってるわけじゃないんだけどね。ほら、アタシの肩、ね?」
ドレスの多くは肩を出すものが多い。そうなるとどうしても傷跡をさらすことになる。それが嫌で記念程度にパーティドレスを着るのも断ってしまった。だが、ほむらですら徐々に乗ってきた様子を見て、ちょっとだけうらやましいと思ってしまった。
「もし、よかったら、洒落ででもこっちを着てみませんか? 駄目ですかね」
と、女子社員が指差した一角に、ネミッサは逆に興味を魅かれた。
「へえ、面白いこと言うわね。いいわよそれなら」
色とりどりのドレスを着て、撮影室に移動。数枚さまざまなポーズで撮り、別の衣装に着替える。経験者はわかるだろうが、手伝うスタッフがいてもドレスの着替えというのは結構疲れる。昼をすぎるころにはさすがに五人に疲れが見えてきた
五人ともなるとカメラマンも大変だろう。だが、なぜか全員ノリノリで作業をしていた。後でわかったことだが、この日は仏滅。結婚式場全体が休館日で、デスクワーク以外ほとんど仕事がないらしい。その日に合わせ休みを取るスタッフも多いはずだが、今回の撮影に合わせ、ほとんどのスタッフが出勤してきた。連れてくるモデルがスタッフの間にで話題に上がるほど素材だったから、だそうだ。
ほむらのドレス姿を自前のデジカメで撮り、ほむらに確認させる女性スタッフまでいた。
「さすが、自前マリンカリン・ほむほむ」
「?」
「ごめんねー。最後にウェディングドレス着て撮影してあげるからさー」
スタッフの提案に黄色い歓声が上がる。杏子はへとへとだが、ほかの四人は大いに盛り上がっていた。
ふと、マミはネミッサの姿が見えないことに気付いた。先ほどから自分の衣装をネミッサに見てもらいたかったのだが、撮影の方が慌ただしく、それどころではなかった。あとで写真を見てもらうしかないと、こっそり溜息をついた。
「マミさん? ネミッサ探してますかぁ?」
さやかはにやにやしている。知ってて聞いてるのだから性質が悪い。
「ひょっとして、ネミッサに見てもらいたかったんですかぁ?」
「そ、そうね! そうなのよ! せっかくだからね!」
肩に力の入りまくった返事にさやかが苦笑い。マミがネミッサをどう見てるかなんて、すでにバレバレなのだが、黙っておくことにした。ネミッサがマミをどう見ているかがわからないからだ。
(悪魔だしタブーとか倫理観とかなさそうだけどねー。すでにキスとかしてたりして!)
……大当たり。
「おーい、ほむら、ネミッサ知らない?」
「さぁ……ちょっとわからないわね」
疲労が顔に少しでてきているようだが、濃い色のカラードレスがほむらの雪のような肌に恐ろしいほど似合う。露出した肩をストールで隠すのが逆に艶めかしい。中学生でこの色気を出すのが末恐ろしかった。
(あー、友人の結婚式でナンパされるポジションの子ね)
経験豊富なスタッフが察する。溜息をつくくらい似合っていた。
「ネミッサちゃん? ううん、わかんない」
淡いパステルな色が似あうまどかも首をかしげる。きっとこの子は成人してもこの手の色が似あうのだろうなと、さやかは思った。居酒屋で同窓会やって年齢確認される未来が見えた。
「あ、しらね」
濃紺のドレスに、疲れきった顔の杏子は言葉少なに返す。同色のドレスグローブを無造作に引っこ抜こうとして怒られていた。そのスカートで胡坐をかくな。さやかはそう心の中で突っ込んだ。
292 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:21:56.63 ID:IpW5+5uF0
昼を大分過ぎたところで昼食を兼ねた休憩をはさむ。一同はさすがにドレスを脱ぎ、上等なガウンが渡されていた。簡単な(それでも一流シェフが作った)昼食に手を伸ばす。その間、撮影された写真をパソコンで見ては、盛り上がった。
「これだけあれば十分すぎます。助かりました」
例の女性社員は皆に頭を下げた。さすがにバイトになってしまうため金銭は渡せないが、ホテルのレストランでの食事でお礼に替えるとのこと。
「またこないだみたいな食い放題がいいな!」
いきなり元気になる杏子に、皆が爆笑した。あれはビュッフェだ。
昼食後、ウェディングドレスを選ぶ。これまたスタッフが嬉々として選ぶのだが、先のカラードレス以上に盛り上がっている。ご丁寧にブーケまで用意し、ティアラまで念入りに組み合わせる徹底ぶりだ。
特に、マリンカリンほむらは念入りに着せ替え人形にされていた。一着ごとに上がる歓声に、胸元まで真っ赤になっていた。
一人一人呼ばれ、ドレスアップしていく。その中、マミはその順序を遅らせてもらっていた。
撮影に臨んで一人になったさやかは、スタッフに聞いてみた。
「ネミッサってどうしました?」
「別の部屋で、別の衣装をあててます」
どんな? という問いに対しスタッフが返事すると、さやかは悪戯を思いついたらしい。事情を説明し、仕込みをお願いする。
スタッフはきゃーきゃーと黄色い声を上げ、嬉しそうに応じた。
最後から二番目、慣れないドレスやハイヒールに困惑する杏子の前に、一人のタキシードの被写体がいた。驚く杏子だが、その理由に笑った。衣装室に戻りこそこそと話すさやかの悪戯に同意すると、最後のマミと入れ替えに仕込みに入る。
マミのドレスは胸を強調したものだった。レースも細部まで凝っているし、ヴェールにも細かい刺繍をしている。ティアラも無駄に豪華なものをつけられた。お姫様気分で浮かれる半分、見てもらえる人がいなくてがっかりしていた。
「ちょ、マミさん似合いすぎです!」
「え、ええ。ちょっと照れるわね……」
「素敵ですよマミさん」
「悔しいけどそうね」
マミは凹凸がはっきりしている分、派手なドレスが似合うのかもしれない。ほむらのすっきりとしたチョイスに比べ、刺繍やなにやらが複雑な衣装が多かった。
293 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:22:45.77 ID:IpW5+5uF0
ブーケも一番豪華なものを持たされ、撮影室でかなりの枚数撮影された。もうここまで来るとマミもノリノリで、嬉しそうに撮影されている。小さいころ、アイドルになりたいという可愛い夢があったらしいので、「見られる」ことに喜びを覚えるのかもしれない。
「さぁ、次はこちらです」
スタッフに促され、別室に移動させられた。マミは一瞬妙だなと思ったが、撮影場所を変えるという説明にすっかり騙された。
そこはチャペルだった。実際に結婚式で使う場所だ。彼女もまた女の子である。魔法少女という宿命のため、一度や二度は諦めたその場所に感動せずにはいられなかった。
ドアを開けると、まどかたちがいた。先ほど着ていた一番気に入ったカラードレスを再び来ていた。マミが撮影していた時に再び着付けていたらしい。
慣れない裾のため、足元を見ながら歩いていた。そのため、ダークグレーのシルク生地のタキシード、その足しか見えなかった。てっきり式場の男性モデルかと思い顔を上げるとあっという声を上げる。ご丁寧に白い手袋を左手に握っている。
「おお、マミちゃん、似合うわね」
「ネ、ネネネネネネネネネっっ!!」
「おーおー、めっちゃ動揺しとる」
「ふっふー、ネミッサどうですか? マミさん」
驚きと、「別の感情」により、真っ赤っかになるマミ。
「……騙したわね……」
「さぁ、マミ、バージンロードよ?」
「えっ? えっ? えっ?」
294 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:23:39.60 ID:IpW5+5uF0
「新婦、巴マミ。貴女はこの新郎を夫とし、病める時も健やかなる時も愛し、守り、助け合うを誓いますか?」
いつの間にかシスターの服に着替えた杏子が牧師役を務める。なかなか様になっていた。
「えええええええええ!?」
「しかたねぇなぁ。お前、あたしたちが二人に気付かないとか本気で思ってたか?」
周囲を見渡すとまどかもほむらもさやかも、知った顔で笑っている。
「マミさんには、お礼したいですしね」
「お似合いですよ、マミさん」
「ネミッサも新郎役、似合うじゃない」
「お似合いのふたり、でしょ?」
「しゃぁねえぇなぁ。新郎、ネミッサ。あんたはこの新婦を妻とし、病める時も健やかなる時も愛し、守り、助け合うを誓いますか?」
「はい、誓います」
……それがネミッサにとって何を意味するか。その場にいる人はわかっているだろうか。
「はは、ほれ、マミ、あんたはどうだ?」
やはり気付いていないようだ。皆、嬉しそうにしているだけだ。
マミは顔を真っ赤にしてやっと言えた。
「はははははい! ち、誓いま…す…」
「では誓いのキスを」
「えええええええええええええっ!」
実は先ほどからずっと、カメラマンが二人を撮影しまくっていた。マミがそんな中でできるわけがなかった。しかも女の子同士で。
「女子同士ならノーカンですよノーカン」
「さぁ、マミちゃん」
ネミッサは迷うことなくヴェールをめくり上げる。背の高いネミッサにはタキシードが異常に似合っていた。だからそれに見とれてしまい、身じろぎ一つとれなかった。
「二回目、だよ」
スタッフや友人があげる、歓声と拍手。真っ赤になる新郎新婦。
これはおままごと。
でもマミにとっては素敵なおままごと。
ネミッサにとっても大事なおままごと。
それならきっと、それはもう、おままごとなんかじゃないだろうけれど。
295 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:25:46.14 ID:IpW5+5uF0
「君ね、この間の企画書読んだけれど、もうちょっと詰めて、再提出してくれないか」
「だめでしたか」
「ああ。手伝いった子たちの写真がフォルダに混ざるのもだめだからな」
「す、すみません!」
「けど、採算取れなくてもいいかもしれないなぁ。あんないい笑顔が見られるのは……、この仕事冥利に尽きるからねぇ」
そこには、マミたちのお財布の中に入っているものと同じ写真が入っていた。
六人が笑う、集合写真。
296 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/13(日) 23:38:10.62 ID:IpW5+5uF0
筆者です。
調子に乗ってます。ノリノリです。
タイトルの、ヒギンス教授役はネミッサですが、ちっとも教授じゃないですね。
今、次回作の作成中で、その片手間で妄想を書きなぐってます。
こんなのクオリティでよければ楽しんでください。
次回作は、このストーリーとは接点のない、魔法少女の物語です。
酉とか変えたほうがいいのかな?
アップする際は21時〜23時くらいが目安です。
それでは、また感想等お待ちしています。
297 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/14(月) 07:37:48.38 ID:1a710E4ao
>>296
にやけが止まらん、このクオリティーでもっとほしいなって
298 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/14(月) 21:18:22.53 ID:/UF+yeyYo
乙でした。
ままごととはいえ、婚姻も契約の一種って事か。
……あれ? 本編で軽い気持ちで槍借りる返事で婚約しちゃった娘がいた様な……?
彼女も後に家庭を持ったらしいけど、旦那はシヴァの化身の一人な気がする。
299 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/14(月) 23:42:07.81 ID:I6W1+cWc0
筆者です。
>>297
もっと欲しいとはなかなか貪欲でございますなぁ。
けれども残念ながらマミッサネタがそろそろ尽きそうです。
それにさすがにだれてきましたので、
次のマミッサで打ち止めとしたいと思います。
一応、ワルプル前と後、本編終了後、エピローグ後と三部作で
考えていましたので、まぁちょうど良いかなと。
本編終了後、マミッサネタについていけないと呆れられないかと
心配してます。
ちなみに、マミさんがちょろすぎるのは、アンソロジーの
あどべんちゃらさんの四コマ作品を読んだせいだと思います。
>>298
そのあたり、一回失敗したはずの杏子は一個も気付いてないようです。
自ら契約に立ち会っちゃう、学習しないのが私の描くあんこクオリティです。
実際、シヴァは契約を自分で引っ込めてもリスクないのでOKのはず。
この杏子は人間の男性と結婚した、と、思い、ます、たぶん。
ネミッサにはままごとどころではなくなりましたが
人間のほうが破っても、悪魔が魂よこせとかやらないかぎり
ペナルティらしいものは、ない、という体でやってます。
あとですね、まどマギはともかくとしてソウルハッカーズ側の
説明不足が見られました。単純に自分の力量不足なのですが
本編を楽しむ際に、不都合があればお答えいたしますので
お気軽に書き込んでください。
今後の予定です。今夜ではありませんが、
近日中にマミッサネタの最後を投稿する予定です。
ちょっとだけ、へんなテンションで書いたので、
イタい感じがして読み返すのが恥ずかしいですが
開き直ります。
最初はほむほむ派だったのが、これを書いて以来
マミちゃん派になりつつある筆者でした。
300 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:08:12.99 ID:2XCLN2QK0
筆者です。
マミッサシナリオ最終回を投稿します。
どうも仕事中も場面や物語が浮かんできて
それを消える前に書き留めないといけなくて
ちょっと困っています。
最初は言われるままに書き始めたのですが
書いていた気付きました。
ネミッサが未だ救われていないことに。
なので、きちっと終わらせようと思い
頑張って続けてみました。
もし、気持ち悪くなければ、
お付き合いください。
301 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:11:00.64 ID:2XCLN2QK0
番外編
【しがつのおわりのおまつり ふたたび】
「ごめんなさい。二人だけにしてもらえる?」
そういって、彼女は人払いをした。ドアが閉まるのを確認し、
彼女に向き合う。
「あの頃のままね」
「悪い意味でね」
「そんなことないわ。とても綺麗よ」
「そんないいものでもないよ」
「……ごめんなさい。私、あなたにひどいことをしたわね」
「気にしてない。ううん、むしろ自分で望んだことよ」
「なかったことにできないの?」
「そんなのヤダ」
「わがまま言わないで。心残りなのよ」
「ヤダ」
「裏切ったのは私なのよ。呪い殺してくれればよかったのに」
「そんなの、できるわけ、ないじゃない。バカ」
「忘れてたのは私なのよ?」
「アンタは……アンタたちは……、幸せにならなきゃだめなの」
「……」
「いい旦那さんがいて、子供がいて、孫がいて、幸せでしょ。違う?」
「……」
「……」
「あなたがいてくれたから、私はこうしていられます。ありがとう、幸せでした」
302 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:12:27.46 ID:2XCLN2QK0
「……」
「……っていうと思って?」
「普通そうでしょ。言ってくれないと。アタシ、バカみたいじゃん」
「そうね、大馬鹿ね」
「……でもね、アンタと同じ時間は生きられないの……」
「なら、なかったことにしてよ! 私を忘れて幸せになってよ!」
「忘れられるわけないだろっっ! バカっ!」
「軽々しくあんなことした私たちを責めてよ! お願いだから!」
「イヤだ!」
「じゃないと私、死んでも死にきれない」
「……」
「お願い……。最後のお願いよ……」
「ヒドいよ。ズルいよ……」
「笑って、ネミッサ……。
あなたがいてくれたから、私はこうしていられます。ありがとう、幸せでした」
「ヒドイよ、マミちゃん……」
303 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:13:27.67 ID:2XCLN2QK0
「また…また、会えたね」
「うん、会いたかったよ……」
「ごめんね、今度は離れないよ」
「ずっと一緒だよね」
「私ね、私ね……貴女にね、会うために来たんだよ」
「わかってる。わかってるからさぁ……」
「ごめんね……約束を破らせてごめんね……」
「わかってるからさぁ、もう泣かないでよぅ……お願いだから」
彼女は会いに来てくれた。生まれ変わって、来てくれた。
そして、泣きながら謝ってくれた。
声も、匂いも、泣き方も、微笑み方も、あたたかさも、
ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ同じ。髪型だって変ってない。
「ふふ、後ろ髪、大分伸ばしたのね」
「へ、変かな?」
「そんなことないよ。素敵。とっても似合ってる」
「ありがとう」
「ずっと一人だったんだって?」
「……待ってたから」
「えっ?」
「……代わりなんて、いない。いらない」
「あれからずっと…?」
「ずっと、待ってたよ。いつか絶対、会えるって」
「……」
「……信じてたから……」
304 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:14:36.53 ID:2XCLN2QK0
「あー、凄まじく熱い抱擁はそろそろいいかなお二人さん」
他の四人が赤面するほど濃厚なシーンが展開されていた。
慌てて二人離れるが、まどかあたりは頭から湯気が出ている。
ほったらかしにされた三人はあきれ顔だ。
「お子様のまどかには刺激が強すぎたよ」
「悪影響ね。もうちょっと自重なさい」
「うう、ごめんよマドカちゃん」
「ティヒヒ。いいよネミッサちゃん。でもすごいね」
「何が?」
「百年も、ずっーと待ってられるなんて」
「どっかの誰かさんも同じようなことしたんだけど?
アンタのためにさ」
「あっ……」
「アタシは忙しかったし、
繰り返しってわけじゃなかったから、まだよかったよ」
「ふふっ……どっちが大変だなんて、比べられないわ」
「けどよー、大変なのはこれからじゃねえか」
「へっ? なにさ」
「さやかは知らなかったか。もうすぐ来るんだとよ」
「あー……」
察したらしい。呆けた顔が一気に精悍な戦士の顔になる。
「えっ? 何が何が?」
まどかはきょとんとしてる。一番最後だったため、たまたま
聞いていなかった。
「偶然にしては、できすぎているわよね」
「奇跡かねえ」
ネミッサは笑う。あの時と変わらない。爽やかな笑いだ。
「奇跡なんて、アンタらすでにやり遂げてるじゃないの」
「ふふ、そうね、これは二度目よ」
「あっ……そっか」
「もう一回、三度目に馬鹿でかい奇跡を成し遂げてやろうぜ!」
305 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:15:39.87 ID:2XCLN2QK0
「でも、いいの? 協力してくれるの? また、戦ってくれるの?
あんな、危ない、怖い目に合ってるのに?」
「何言ってるのよ、ネミッサ」
「多分、ていうか間違いなく」
「あたしたち全員は」
「みーんなで力を合わせて」
「あのワルプルギスの夜を倒すために……」
「そして何より、貴女にもう一度会うために……」
顔を見合わせ唱和する。
(せーのっ)
「「「「「戻ってきたんだよっ!」」」」」
「アンタら……、いつのまに
そんなかっこいいセリフ練習してたの?」
泣きながら笑ってしまう。本当にこの子らは、息がぴったりだ。
「あの時は、ネミッサが私たちのために戦ってくれたじゃない?」
「今度はさ、あたしたちが力を貸す番、そうだろう?」
「見滝原を守ったヒーロー、ネミッサちゃんのため」
「私たちが、貴女とともに、貴女のために戦うの」
「お願い、一緒に戦わせて、ネミッサ……あのときみたいに」
ネミッサは泣いた。今までないほど泣いた。
どうしていいかわからないくらい、涙がこぼれてくる。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう……ありがとう
アンタらがいれば、絶対勝てる! もう、もう完璧!」
涙をぬぐうのを諦めて言う。
「アンタら、大好き!」
306 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:16:30.93 ID:2XCLN2QK0
参謀兼総司令役のサマナーの助言の元、
魔法少女の編成がおこなわれていた。
「基本五人で最少ユニット。あんたらは六人で多いが攻撃の要、
最重要ユニットだ」
そして、ネミッサたちの編成を基本として組み合わせ、
バランスを変えることで近接特化、砲撃特化、捕縛特化などの
ユニットを形成する。
そんな指示を澱みなくだす彼は、有能どころの騒ぎではなかった。
治療魔法が弱いユニットにはそれを得意とする悪魔を配置し、砲撃特化
でも移動が弱ければそれを補う悪魔を入れるといった具合にバランスを
取る指示が的確だった。
それだけではない。魔法少女の特性や人間関係すら一瞬で読み取り
長所を伸ばす組み合わせを選びだす。尋常ではなかった。
唖然とする一同を見ると、口元をニヒルにゆがめて笑う。
『まかせろ』と言わんばかりの、自信に満ちた顔だ。
「あんたらの『戦いぶり』は見たことがあるんだよ。あとは待機して、
ここは任せな。当日までゆっくりしとくといい。
それじゃ……あばよ」
307 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:17:14.41 ID:2XCLN2QK0
「あー、そっか、あれ『誓い』が問題だったのかよ。わりぃ…」
「いいって。アタシ知ってて誓ったんだし」
杏子やさやかが申し訳なさそうにする。『生前』行った悪戯で
図らずもネミッサとマミを無理やり『誓い』即ち『契約』を
させてしまったことを詫びていた。マミのほうはともかく、
ネミッサの場合はあれが鉄の強制力を帯びてしまう。
そのため本来は軽々しくしないものなのだが……。
「マミちゃんと夫婦になれるならいいかなーってやっちゃった」
「相変わらずマミさんにはド直球ですなぁ」
「ええ、その相変わらずのおかげで」
ちらりとほむらがマミを見る。
「ウェヒヒ、マミさんが恥ずかしがってるよ」
「まぁ、あれだ。末永くお幸せに、ってやつだ」
テーブルに突っ伏し、顔を真っ赤にして涙目で睨むマミがいた。
「もう! みんなでからかって! 知らない知らない知らない!」
308 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:17:55.24 ID:2XCLN2QK0
ワルプルギスの夜が作り出す結界内に入った魔法少女は彼女らが
初めてではないだろうか。少なくとも記録にはない。
四方八方にサーカスをモチーフにした使い魔が溢れている。
六十名にも及ぶ魔法少女のうち、近接特化した二組のユニットが
露払いを行う。そのフォローに狙撃特化のユニットの二組が入る。
これは最深部での挟み撃ちや防止や、
非常時の退却ルート確保に充てる。
最大戦力の「伝説の魔法少女」たちは魔力を温存し、最深部まで進む。
残りの四十余名とともに、ワルプルギスの夜への直接戦闘を行う。
さらに治療要員として女神、地母神。補給などの機動力を期待した
霊鳥や聖獣なども同行。全体の連絡にはテレパシーを使う。
合わせて念話も繋ぎ事故防止に備える。
すべての魔法少女に神酒や高性能爆弾を多数配給してある。
また個性に応じて魔晶化した武器も配備済み。これは前回の戦いと
同じだった。
ネミッサたちが騎乗する、聖獣たちも。
”総指令、最深部に到着したわ”
”了解。現時点を持って指揮権は大隊長のネミッサに譲渡”
”拝命したわ。皆聞こえる?”
テレパシーを通じてユニットの隊長格が応じる。
”アタシの友人のホムラちゃんのため、
力を出し切ってもらうわ、いいわね”
テレパシーで雄叫びが上がる。ほむらの美貌と無間地獄の歴史は
有名だった。その英雄の手助けができるとあり、すべての魔法少女は
喜びと、気迫にみなぎっていた。
”ありがとう。……砲撃部隊、捕縛部隊、準備!”
「みんな気力十分みたいね。さ、マミちゃん行くよっっ!」
309 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:18:34.44 ID:2XCLN2QK0
ワルプルギスの夜は、あの時のダメージすべてが
回復したかのように見えた。遠目からは傷一つ見えない。
相手にとって不足はなかった。
スレイプニルにまたがっているのはネミッサと、マミ。
ワルプルギスの夜に照準し、巨大な砲身を2ダースも並べる。
それにネミッサがリボンを伝わせ魔力を送り込む。
かつて夜にいくつも叩き込んだ、万魔の炎だ。
それを砲身から撃ち出し、直進性と貫通性を高める。
その隣には弓をつがえたまどかとほむら。顔を見合わせ微笑むと
弓を引き絞る。最大まで引き絞ると、二人の背中に白と黒の翼が
広がる。それは矢の発射の反動を抑えるバーニアの役割も果たす。
だが、その存在に気付いた夜は活動を開始する。
”予想範囲内よ! 捕縛部隊、GO!”
周囲から多数の鞭やネット、リボンやロープなどさまざまな縄が
ワルプルギスの夜に絡みつき動きを封じる。
動きを封じられた夜は魔力弾による攻撃を試みる。
それをみたネミッサはテレパシーを伴う大声を出す。
「砲撃部隊! 目標ワルプルギスの夜! ……発射!」
夜の魔力弾がマミとネミッサに放たれる瞬間、
四方八方から砲撃部隊の閃光が撃ち出される。
マミとネミッサの共同魔法の砲撃が夜の魔力弾とぶつかると
易々と貫通し、夜に直撃する。
それにやや遅れる形で二人の矢がほとばしり夜を貫く。
英雄たちの砲撃はほかの魔法少女のそれを大きく上回った。
「サヤカちゃん、キョーコちゃん! 及び近接部隊!
使い魔の掃討よろしくっ!」
「マミさん、ネミッサちゃん。魔力弾は全部私たちで撃ち落とすから」
「二人はさっきのを好きなだけ撃ちこんで頂戴」
”使い魔はあたしたちに任せなっっ!”
”杏子と私なら、ラクショーさっ!”
杏子の魔法は無数の分身を生み出す。杏子だけではなくさやかの
実体のある分身を造り出し、それぞれが使い魔に襲い掛かる。
310 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:19:20.68 ID:2XCLN2QK0
「ネミッサ、私誓うわ」
「ん?」
「…病める時も健やかなる時も愛し、守り、助け合うことをね」
二度目の万魔の砲撃の準備のため、ネミッサはマミに抱き着く。
リボンを指に巻きつけ、先と同じように魔力を送り込む。
「アタシはずっとそのつもりよ」
マミが笑う。「しょうがないなぁ」という、困った笑いだ。
「それじゃ、いくよ? これが二人の……」
「「ティロ・フィナーレ!!!!」」
311 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:21:22.84 ID:2XCLN2QK0
『葛の葉』には、生ける伝説となった六人の英雄がいる。
その一人は
魔法少女として救われ、銃で英雄となり甦った少女。
またその一人は
魔法少女たちを救い、その英雄に傅いた銀髪の魔女。
その二人は同性ながら恋仲となり、
永く魔法少女を救済するために尽力したという。
了
312 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/15(火) 22:26:43.52 ID:2XCLN2QK0
筆者です。
いやぁ、自分で書いて赤面いたしますなぁ。
「いらいざはだれ?」は自分の経験から書けましたが
今日のは妄想全開ですからねぇ。
ただありがたいことに
>>298
さんが気付いてくれたので
このストーリーが作れました。
ありがとうございます。
これでマミッサはひとまず打ち止め。
可能ならばほむッサあたりを次作ろうかと思います。
しばし間が開くかもしれませんが、
気長にお待ちいただけると嬉しいです。
313 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/15(火) 22:28:55.92 ID:aCzr3Cmc0
お疲れ様です。この世界だとメシアやガイア連中も魔法少女達を手に入れそうだ。絶対QB悪魔などへの復讐を煽ったりして契約するようになるんだろうな。
314 :
>>298
[sage]:2013/01/15(火) 23:23:59.29 ID:z71UujcTo
乙でした。
人として戦い抜き、英雄という悪魔に成り果てれば、同じ悪魔のネミッサと同じ時を送れる……。
そこまで辿り着いたマミ達が、全員でワルプルギスの夜に挑むシーンも素晴らしかったです。
315 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/15(火) 23:26:09.26 ID:CBBeR/2jo
良い終わりだ、ほむっさに期待してよう
316 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/16(水) 21:06:55.55 ID:8nnXH0tj0
筆者です。
相も変わらずお返事をいたします。
>>313
メシア教徒もガイア教徒も自分に都合のいい願い言わせそうですね。
候補生の囲い込みするのか。こええ!
QBはえぐいことやるので定評ありますしやりかねませんね。
悪魔すべてを消すにはまどかクラスの素質必要になるのかな。
>>314
正直言って、マミッサ最終回はあなたのおかげです。
ネミッサがパートナーを手に入れられたのも、
マミちゃんがネミッサとともに歩けるのも。
ホント、ありがとうございます。
マミッサの合体攻撃も使えたし、感無量です。
>>315
いい感じにまとめられてほっとしております。
つぎはほむッサですね。頑張ります。
無知を隠さずお伺いしますが、まどほむ、とかって
恋愛関係のことをさすんですかね?
そのつもりで思わずマミッサでやっちゃったので
ほむッサのときはどうしたらいいのか困ってます。
一応、友人としてなら思いつくのですが……、
ご協力いただければ幸いです。
二次の二次作品になっちゃうんでしょうか。
317 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/16(水) 21:14:22.58 ID:8nnXH0tj0
番外編小ネタ【くろまどか】
黒まどか「あ、英語の和訳の宿題やってなかった!」
黒まどか「アガレスさん、英語和訳してください」
アガレス「千円でおk」
黒まどか「わーい」
黒まどか「お部屋のお掃除めんどくさーい」
黒まどか「シルキーさん、お掃除してください」
シルキー「五百円でおk」
黒まどか「らくちーん」
黒まどか「暴走族うるさいなぁ」
黒まどか「シヴァさん、とっちめて」
シヴァ 「三千円でおk」
黒まどか「安眠〜」
ほむら 「このままではまどかがだめになる」
ネミッサ「ホムラちゃん、ごめん、アタシが悪かった」
的な。
いや、これっきりですよ?
318 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/16(水) 23:29:09.37 ID:ZvA0lbU/o
そこまで行くと、シーアーク辺りで稼いだマグネタイトを換金したり、換金用魔晶アイテムを作って売ったりして稼げるだろうしね。
黒まどかもそうやって稼いだお金で日常生活でだらけてるのかな?
……リーダーに「アジトのローン? 完済しておきましたよ」とか言ってみたかった……。
319 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga sage]:2013/01/18(金) 21:31:43.66 ID:3uzCsNDI0
筆者です。
復旧後初のお返事のときです。
>>318
「悪魔多発地帯」ですねわかります。
そんなアクティブなまどかさんなまら怖いさ……。
人生イージーモードになるなぁ。
ああ、きっとランチがそんなこといって、トレーラー譲り受けた
んでしょうね。
つか、みんなリーダーの話するとき悲しそうだなぁ。
ちょっとリーダー死亡ルートを書いて後悔しております。
業務(?)連絡ですが
ほむッサはまだかかります。ちょっと難しいデス。
そのかわり、小ネタを投稿します。
笑って許していただけるとありがたいです。
320 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/18(金) 21:35:42.04 ID:3uzCsNDI0
番外編 【えいゆうたちのかいせつろぐ】
まどか 「私たちの? 解説?」
さやか 「そうそう。ちょっと興味ない?」
杏子 「ネミッサのPCから見られるのか?」
マミ 「あの子が怒らなければいいけど」
ネミッサ「いや、怒らないけどさ」
ほむら 「あ、ごめんなさい」
ネミッサ「いいってば。けど、怒らないでね?」
みんな 「???」
321 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/18(金) 21:36:38.27 ID:3uzCsNDI0
英雄 カナメマドカ
鹿目まどか。魔法少女。
見滝原を襲った魔女「ワルプルギスの夜」を撃退した英雄の一人。
小柄ながら素質に裏付けされた高い魔力を備え、強力な弓を放つ。
生前は強大な力を持つ悪魔とも契約したとされ、最高神すら
しもべにしたとされる。史上最強の魔法少女。
最愛の友人にして恋人の暁美ほむらとともに戦い抜いたとされ
互いを互いに守りあうその姿は魔法少女たちの励みとされる。
大変かわいらしい風貌で、彼女を慕う魔法少女は同じツインテール
の髪型にすることが崇拝の証とされる。
毎年十月三日の彼女の誕生日には、演歌を流して祝うことが通例と
されている。
まどか 「えっと、なんで私魔法少女になってるの?」
ネミッサ「誤解と曲解と願望で変わることがあるのよ……」
さやか 「あと、演歌流して祝うってなにさ」
ほむら 「似た髪型にしてる人が多いのはそのせいなのね」
マミ 「恋人って……いやぁん」
杏子 「マミ、人のこと言えねえぞ?」
322 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/18(金) 21:37:35.44 ID:3uzCsNDI0
猛将 アケミホムラ
暁美ほむら。魔法少女。
見滝原を襲った魔女「ワルプルギスの夜」を撃退した英雄の一人。
鹿目まどかを救うため、ワルプルギスの夜を倒すため、
たった一人、千回にも及ぶ時間の巻き戻しを行い、
同じ一か月を繰り返した。
その無間地獄の悲惨さと類稀なる美貌、そして極めて高い戦闘能力と
諦めない意思から、すべての魔法少女の憧れの存在。
生前は友人にして恋人の鹿目まどかと同じ弓を使い、
共に二人で守りあい戦い抜いたとされる。
クールな印象からは想像できない世間知らずなギャップにより、
大変な人気がある。
ネミッサ「猛将って女の子にひどくない?」
まどか 「えへへ、『恋人』だって……」
杏子 「まどかはまんざらでも……喜んでるくらいなのか」
さやか 「ギャップ萌えは生まれ変わっても健在か」
マミ 「並んだ食事に目を白黒させてたわね」
ほむら 「ビュッフェくらいもう慣れたわよ……」
323 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/18(金) 21:38:17.04 ID:3uzCsNDI0
英雄 ミキサヤカ
美樹さやか。魔法少女。
見滝原を襲った魔女「ワルプルギスの夜」を撃退した英雄の一人。
鹿目まどかの親友であり、生前は「まどかは私の嫁」と公言して
憚らなかった。
一度は魔女に堕ちたもののまどかとネミッサの尽力により奇跡的に復活。
神速とサーベル、高い回復能力でワルプルギスの夜に立ち向かった。
バイオリニストと親友の三角関係の大恋愛は歴史に残るほどで、
魔法少女でも男性と恋をしてもいいと、魔法少女たちの憧れの存在。
反面、女性にセクハラをすることがあるとされ、露出の多い衣装では
近づかないほうが無難。
杏子 「セクハラ……、だいたいあってる」
ネミッサ「アタシ脱がされたし」
マミ 「私も胸もまれたっけなぁ」
ほむら 「私も……、『小さい小さい』と言われてね……」
まどか 「さやかちゃん、正座」
さやか 「な、なんでっっ!?」
324 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/18(金) 21:38:53.64 ID:3uzCsNDI0
猛将 サクラキョウコ
佐倉杏子 魔法少女
見滝原を襲った魔女「ワルプルギスの夜」を撃退した英雄の一人。
長い槍と無造作なポニーテールに赤毛が映える魔法少女。
巴マミの弟子であり、一度は袂を分かったものの、さやか救出に尽力し
マギカ・クィンテットに加えられる。
大変な実力があり、単純な戦闘能力に加え、実体のある分身を生み出す
固有魔法の幻術を使いこなす。
生前、魔法少女になったときの祈りのせいで悲劇に会い、そのため自ら
心を閉ざしていた。だが同類のさやかを心配し、それを救ったため、
魔法少女からは聖母の愛称で親しまれる。
大変な食いしん坊で、常にお菓子を食べているのに太らないことから
美容の神のような信仰を集めることがある。
マミ 「食べすぎなのよね」
ほむら 「あのビュッフェのときは参ったわ」
まどか 「私あれ以来食べ放題いかなくなっちゃった」
さやか 「あー、わかる。それにあれで太らないとかズルい」
ネミッサ「それで美容の神様扱いなの? ワケわかんないわね」
杏子 「お前らも食った分運動すりゃいいんだよ!!」
325 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/18(金) 21:39:24.24 ID:3uzCsNDI0
魔人 ネミッサ
女悪魔。ネイティブアメリカン土着の精霊、マニトゥの眷属。
天海市の自治体を巻き込んだ事件「アルゴン・クライム」を解決し、
天海病の原因を突き止め、陰謀を阻止した英雄。その後、
見滝原を襲った「ワルプルギスの夜」を撃退もした稀代の英雄。
悪魔でありながら魔法少女の素質を持ち、
マギカ・クィンテットと共に魔女と戦った。
また、魔法少女の悲惨な運命を打破すべく『葛の葉』と協力して
日本国内の魔法少女を救うべく奔走した「葛の葉の黒い魔女」にして
救い主。
強力な電撃を扱い、高い魔力を誇る実力者。
巴マミとの人間と悪魔の報われぬ恋をするなど、悲恋も体験しつつも
今なお『葛の葉』で魔法少女を救うため尽力する。
当時から、巴マミのお説教が苦手。
ネミッサ「うん、だいたいあってる」
さやか 「『マミさん口説くときはド直球』って追加しないとね」
まどか 「ウェヒヒ、でもお説教苦手なんだ」
杏子 「あー、でも本気でこええぞ。マミの説教」
マミ 「あら、今から実演しましょうか?」
ほむら 「藪蛇ね」
326 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/18(金) 21:40:43.44 ID:3uzCsNDI0
英雄 トモエマミ
巴マミ 魔法少女。
見滝原を襲った魔女「ワルプルギスの夜」を撃退した英雄の一人にして
最強の魔法少女。
柔和な表情に反し高い戦闘能力を誇り、魔法少女の間では
極めて高い人気を誇る。
生前は英雄たちの師匠であり先輩。正義感から使い魔も倒す姿勢を
評価され『正義の味方』と絶賛される。戦闘以外にも治療や索敵など
さまざまな方面で高い実力を示している。
一方でケーキ作りが好きで、大変家庭的な面もある。
生前、ネミッサとの恋をすれ違いの末失ってしまうという
悲しい過去がある。
彼女を語るうえで「ティロ・フィナーレ」と口走った者は
「マミさんごめんなさい」と謝りながら建物の周りを一周しなければ
ならない。
ほむら 「リア王だっけ。それに似たものがあるらしいわね」
まどか 「あれ、かっこいいのになぁ……。だめなのかな」
杏子 「あれであたしらの技に名前つけなきゃいいやつなんだが」
ネミッサ「ティロ・フィナーレ以外にもあるの? あ、走ってくる」
マミ 「ちょっとネミッサわざと言ったでしょ!!」
さやか 「ネミッサと再び恋人になれた、って追加しないとだめじゃん」
327 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/18(金) 21:49:02.87 ID:3uzCsNDI0
筆者です。
お笑いネタ、です。
ちょっとイマイチですね。
未だほむッサがうまく膨らみません。
こう、着地地点とかテーマを見出さないとね。
あと、まったく関係ないのにマミッサの……その、
濡れ場というんですか? それが頭に浮かんだんです。したっけ
「小説にしないで」マミちゃんが私にお願いするところまで
浮かびました。
友人の情事を覗き込んだような気分になり、やむなくお蔵入り
することにしました。
自分の頭がどうなってるのかさっぱりわかりません。
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/18(金) 22:03:26.73 ID:euMy65c9o
リアルタイム乙でした。
ちょっとドクタースリル脅したりロメロに頼み込んだりして、ドリーカドモン5〜6個ゲットして全員仲魔にして来る!!
フロストファイブとマギカ・クィンテット両方仲魔にして十四人パーティとかしてみたい。
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/18(金) 22:05:56.32 ID:7zQRuTxBo
>>327
(浮かんだもん曝しても)ええねんで?
330 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 22:21:09.73 ID:lOJU2yWX0
筆者です。
こう、少ない投稿でもレスポンスがあると
それだけで高揚してきますね、バリアントダンス。
>>328
そーいえば、デビルサマナーのとき、
ガルガンチュアシリーズ(QとかXとか8とか)を倒したら
出てくるんでしたっけ。ドリーカドモン。
おし、一緒に矢来区の下水道を捜索しましょう。
>>329
最初はどうも罪悪感が大きくてできませんでした。
ですが頭の中に物語ができ始めると、吐き出さないと
気持ち悪くてしかたありません。
マミちゃんには申し訳ないけれど、近々……できたら
いいなぁ。とお茶を濁します。
それと、ほむッサネタを投稿します。
半過ぎに投稿予定です。
皆さんに気に入っていただけるよう、頑張った
つもりですので、お付き合いください。
一応、話は繋がっています。
それでは、お付き合いください。
331 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 22:31:31.17 ID:lOJU2yWX0
番外編 【ほんしんはどこにある?】
八月の頭、うだるような暑さの日。
自室で夏休みの宿題をこなすほむらの携帯が鳴る。着信はネミッサだ。
ためらいもなく着信を切って無視する。再び着信したものを切ること二回。
今度はメールだ。
『切 る な 出 ろ』
ポチポチと返信する。
『断 る』
『なんで?』
『勉強中。邪魔しないで』
『わかったまどかちゃんにたのむ』
一方のネミッサは、公園の木陰で噴水を見つめつつ午前中の
暑さをしのいでいた。そこは、かつてさやかを探すまどかが
QBと話をしたあのベンチのそば。噴水が涼を呼ぶ。
そのネミッサの携帯に着信。ペットボトルのコーラを
飲みほしながら応対する。
「はい、こちらは留守番電話サービス〜」
『何言ってるの。まどかの邪魔するなら許さないわ』
「アンタが電話でないからでしょ」
『はぁ、何の用?』
「アンタの家にしばらくやっかいになりたいの」
『断、る』
「お願い!」
『巴マミと喧嘩したの?』
「んなことしないわよ。受験勉強の邪魔したくないの」
『私も勉強あるのよ?』
「じゃあマドカちゃんのとこ行くわ」
ネミッサはほむらの弱点をいちいち突く。
『はぁ、わかったわ』
「ありがとう。助かるわ」
『貴女、本当に巴マミに甘いわね』
「アンタはマドカちゃんに弱いわね」
ブツッ、という音とともに通話が途切れる。
332 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 22:35:42.09 ID:lOJU2yWX0
思わずイラついて通話を切ってしまった。
ほむらは携帯をしばし見つめ、向こうからの発信が来ないので、
今からこちらに来るのだろうと溜息をついた。
消極的に受け入れた形だ。
とはいえ、彼女はうるさくしないし、
料理をしない代わりに出来合いのものをきちんと買ってくるし、
マミから教わったのか米を研いで炊くくらいはやる。
洗濯はしないが杏子のように脱ぎ散らかすことはしないし、
説明すれば素直にやるから洗濯機の使い方くらいは
教えればいい。心配は取り返しがつきにくい色物くらいだろうか。
「念のためアイロンがけは自分でやったほうがいいわね」
もう一つ懸念が思いついたが、チャイムの音に掻き消された。
ドアを開けて迎え入れたネミッサは、この暑さの中汗一つ
かいていない。これが悪魔の体質なんだろうか。肩の傷跡を隠すためか
色の濃い七分袖シャツを着ている。珍しく似合わない、
つばの狭いストローハットを被っているので、一瞬見間違えた。
「ごめんね」
本当にすまなそうにするのがネミッサの可愛さである。
ほむらは悪態の一つでも付くつもりだったが、気勢を殺がれたかたちだ。
このあたり、ほむらもワルに徹することができない善人でもある。
「まぁいいわ。できる範囲でいいから家事を手伝ってもらえれば」
「うん。ついでに家賃払うわ。稼ぎあるし」
といって、一か月分の金額を渡そうとする。そのあたりの機微に彼女は
とても疎い。マミ宅でも全額出そうとして慌てられていた。
その際も相場と同額を出して、マミに諭され半分に変更したらしい。
「そんなにいらないわよ。そもそもそんな長居するの?」
「センターくらいまではお願いしたいのだけど、駄目?」
多分そこまでもたない。多分三日くらいで音を上げるはずだ。
それまで我慢すればいい。ほむらはもう一度こっそり溜息をついた。
お礼とお詫びにと、シューアイスを買って来たらしい。すぐに
食べないので冷凍庫にしまうと、ほむらは机に向かう。
ネミッサのほうもノートPCを開けると立ち上げる。コンセントを
借りると一言断ると、電源を入れる。
「あら意外」
「仕事で持たされたわ。軽いのが救いね。煩かったらごめん」
ビジネスマンみたいだと、ほむらは驚いた。ブラインドタッチも
それなりにサマになっていた。メールの返事をこなしているらしい。
以前の話では『葛の葉』に登録した魔法少女や候補生のリストを
更新しているとのこと。
(本当に、頑張ってくれてるのね)
……借金してまで、見滝原を守ったのだ。自分と関係もない街を。
(わたしたちのために)
333 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 22:40:09.29 ID:lOJU2yWX0
メールが一段落したのだろう。ノートPCを閉じると、ネミッサは
ほむらに問いかける。
「ねえ、お昼どうする?」
「あまり食欲ないから、適当にすますつもりよ」
「サンドイッチとかでいいなら買ってくるけど」
「ええ、お願いしていい?」
「オーケー、珈琲でも淹れといて」
すっと立ち上がると、先ほどの帽子を被って出かけようとした。
ほむらは、自分の分は支払うつもりで財布を取り出した。だが、
ネミッサのほうがそれに気付くと手をひらひら振って断った。
「受け取りなさい」
「後でいいよ」
そういって後でも受け取らないのがネミッサだ。忘れるのか何なのか
理由は不明だが、そのあたり非常に無頓着だ。借金がかさんだ理由が
なんとなく理解できたほむらは、心配になった。
「まぁ、マミがしっかりやる…で…しょう…?」
ずぼらなネミッサとほんわかマミ。不安を頭から追い払い、宿題に
専念する。七月中に終わらせるつもりだったが、少しだけ残ったため
今日中に終わらせてすっきりしたかった。そうすれば残りは自分の
勉強ができる。
もし、マミが来られるなら皆で旅行にも行きたい。さやかからは
そういう話もあるので、宿題を済ませておけば憂いなく
参加できるだろう。
人工浄化したグリーフ・シードがなければ、旅行に行きたいなどと
思わなかっただろう。彼女には感謝してもしきれない。
「そういえばネミッサは石川県に連れて行きたい
……とか言ってたわね。なんで石川?」
何があるのかは尋ねなかったが、それだけは妙に記憶に残っていた。
334 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 22:45:09.95 ID:lOJU2yWX0
案の定、レシートをもらわずにネミッサは戻ってきた。仕方ないので
ほむらは適当に硬貨を渡し、ネミッサは確認もせず受け取った。
そのまま、向かい合い簡単な食事にする。
「マミには話しているの?」
ほむらは気になって問いかける。当然ネミッサは肯定する。
そうだろうな、とほむらは思う。そのあたりいちいち筋を通すのが
ネミッサだ。
「とりあえずしばらくいていいわ。何もない部屋だけどね」
「寝かせてもらえれば、十分よ」
サンドイッチを咀嚼しながら、のほほんと会話をしあう。
コーヒーを啜りつつ、他愛もない言葉が飛び交う空気。
「シューアイスも食べる?」
「お腹一杯よ。……余計なカロリー取ると太るわよ?」
「私が取った余分なカロリーは、魔力に変換されて蓄積されマス」
「羨ましい体質ね、信じてないけど」
ほむらは、奇妙に思っていた。
ネミッサの、会話のない会話に心地よさを感じていることを。
まどかとの間では安らぎというものがあった。だがそれとは違う、
くすぐったいようなさわり心地のいい布を触るような、感触。
しばらくこの空気を感じていたい気がする。
「そういえば、私との契約はどうなってるの?」
「まだ継続中だけど?」
ほむらはてっきりワルプルギスの夜撃退で終了しているものと
ばかり思っていた。ネミッサがほむらに逆らうようなことをしないのも
あるが、ネミッサに無理な命令をしたことがなかったため、
実感することがなかったのだろう。
「必要がなくなったらどうしたらいいの?」
「解約というか、完了の宣言みたいなのすればいいわ、たぶん」
ネミッサ自身も契約したことがないという。
そんな状態でほむらと契約したということは、それだけ危険を伴うことだ。
今更ながら、ネミッサの捨て身の行動が身に染みた。
「そうね、それじゃ。暁美ほむらは、
現時点をもって、ネミッサとの契約を終了するわ。
……これでいい?」
「ま、OKね。これで、主従関係じゃなくて友達になれたかしらね」
「私の友達は、まどかだけよ」
ほむらは微笑んだ。ネミッサは冗談として聞き流した。ほむらの
ジョークにいちいちとんがっていてはやっていられないことを
よく知っているからだ。
335 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 22:50:33.99 ID:lOJU2yWX0
そして、先日のことを思い出した。なにかとんでもないことを
してしまったような気がする。それを口に出そうとした瞬間、割り込む
ように携帯電話が鳴る。
着信は『巴マミ』。ネミッサに目線で断りを入れると取る。
『あ、暁美さん? ネミッサそっちにいない?』
「目の前にいるわ」
『迷惑をかけてない?』
「心配ないわ」
『邪魔なら追い返していいからね?』
「平気よ、むしろずっと一緒にいたいくらい」
苦笑する。マミの過保護が始まったと思った。だから思わず茶化して
しまう。電話の向こうで息を飲むのが聞こえた。マミの生真面目さが
ついほむらに悪戯をさせてしまう。
スピーカーモードにし、ネミッサにも聞こえるようにする。
やり取りを聞かされてネミッサは呆れかえった。
『そ、それって……』
「私に憧れてくれているのよ。手放したくないわ」
「……あんまり追い詰めてあげないでね?」
『あ、あの…、暁美さん?』
「私もネミッサが欲しいわ。あれだけしてくれたのだから」
『あ、暁美さん!』
マミの声に怒気が含まれる。けれどそこに妙な寂しさが滲んでいた。
電話越しに狼狽えているのが目に浮かぶようだった。
ネミッサはほむらの冗談についていけない。溜息一つ。
「私のために何度もループをしてくれた。私がまどかにしたように。
それがどれだけ嬉しかったか。貴女にもわかるでしょう?」
『け、けれど』
「私にとって、彼女は大事よ。そばにいてほしいと思ってる」
『わ、私だって!』
「貴女も?」
『私だってネミッサが大事よ! 何度助けてもらったかわからないわ!
そばに……いて欲しい……!』
336 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 22:55:03.04 ID:lOJU2yWX0
「ふふ、冗談よ。……本気なのね」
『…………、さすがに怒るわよ』
「アクシュミー」
ネミッサはほむらから受話器を受け取る。苦笑いしながら応じる。
「マミちゃん。怒らないでね。本気じゃないんだからさ」
『ええ、わかってるわ』
「今日は帰る。そうね、ほむらちゃんに家事教わって、マミちゃんの
負担減らすようにするからさ、許して?」
『そんなこと、しなくても……』
「マミは貴女がそばにいないと性能が落ちるようよ。
一緒にいてあげなさい。どうせ、強がってるだけなんだから」
「……あとでマミちゃんにお詫びしなさいよ」
おそらく、今回のことはネミッサがいらない気を利かせたのだろう。
それをマミがネミッサの気遣いを尊重し了承してしまったのだ。
だがそのせいでマミがひどく寂しがっていることにネミッサは
まるっきり気付かなかった。
そんなほむらの推測は、そう間違っていないように思われる。
「三日どころか三時間とはね」
まだマミの声が怒っているのがわかる。ほむらの冗談が過ぎたのだ。
だが、受話器に拾えないくらいの小さな声で、ほむらが呟く。
ネミッサにすら聞き取れない声で
「……ぜんぶがぜんぶ冗談でもないんだけど……」
と。
337 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 23:00:06.20 ID:lOJU2yWX0
携帯電話を返してもらうと、ほむらはちょうどいいと尋ねた。
「そういえば、石川県に行きたいとか言ってたわね。何があるの?」
なんだったっけ、と小首をかしげるネミッサ。そしてすぐに思い出す。
「ンー? ああ、白山比盗_社があるの」
「しらやま……ああ」
白山比盗_社。まどかに憑依しさやかを救った白山比淘蜷_を祭る
全国にある白山神社の総本山だ。他に二つ、白山神社の総本山を
名乗る神社があるが、延喜式神名帳に記載があるのは加賀、石川県に
あるこの神社だけであるという。それを根拠にして指定した、
とのこと。
「大方、調べたのは相棒さんじゃないの?」
「はは、当たり。お礼というか、ちゃんとお参りさせてあげたくて。
とくに、サヤカちゃんにはさ」
日本国内の魔法少女の守り本尊としてもいいかもしれないと、気軽に
提案しているのだという。日本各地に分社もあるので参拝も気楽に
できる。
「気軽気軽というと、ありがたみないわね」
白山比淘蜷_は菊理媛神と同一視される。
菊理媛神は伊奘諾尊と伊弉冉尊の生者と死者の夫婦の間を取り持った
という謂れがある。そのため巫女の女神として穢れを払い、
仲直りや縁結びの神として信仰されている。
穢れが溜まって堕ちる魔女を死者とするならば、生者は人間。
そしてその間にいる魔法少女が信仰するにはぴったりだと、ネミッサ
は言うのだ。
338 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 23:05:07.02 ID:lOJU2yWX0
「あんまり格式ばっても長続きしないから、いいんじゃない?」
「でも、まだ山に行くか海に行くかも決まってないのよ」
「それならまだ先でもいいよ。無理言いたくないし」
いずれね、とだけ言うとそれきりその話は終わった。
「さて、なら貴女に家事を教えないといけないかしらね」
「はい?」
ネミッサは電話口で言ったことをすっかり忘れていたらしい。
幸い今日は天気もいい。量は少ないが洗濯物を洗おう。洗剤の量から
干し方に畳み方まで説明しよう。ほむらはそう判断した。
ちょっとだけ、不安げな顔をするネミッサ。
「巴マミの役に立ちたいでしょ?」
「う……」
「お手伝いしたいでしょう?」
「……ウン」
「なら、頑張らないとね」
「……ハイ」
「きっと喜ぶわよ」
「……ガンバル」
(手間がかかるわね……。マミもそこが可愛いのだろうけれど)
二人を引き合わせてよかったと思う反面、失敗したかなと思う。
だから、料理くらいは一緒に習おう。まどかのお父さんにお願いして。
二人でキッチンに立つくらいは、マミに許してもらおう。
(私に、憧れてくれたのだから、これくらいは、いいよね)
ちょっとだけ、マミからネミッサを独占してもいいよね、と。
339 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/19(土) 23:15:51.65 ID:lOJU2yWX0
筆者です。
ほむッサをお送りしました。
難しかったなぁ。イメージ膨らまなくて。
でもそれなりに可愛くできたように思います。
仲のいい喧嘩って難しいね。
ほむさやとか上手くできるひとを尊敬します。
あと、例の件ですが、
明日の同じ時間あたりにやろうかと思ってます。
即興で。
マミちゃんには悪いけどね……。
頭にたまったものを吐き出さないと自分が苦しいので。
実際にマミちゃんがいるわけじゃないんですけどね、
自分が作ったキャラだから、大事にしたいのかな。
ネタに困ってはいますが
リクエストを受けるのが怖い、
筆者でございました。
340 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/20(日) 01:38:48.77 ID:7fcDgKDDo
良いねぇ……青春のひとこまが眩しいZE……
いよいよエロマミッサか!
341 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/20(日) 03:10:29.65 ID:4U/IVioOo
乙でした。
天海市って日本海側にあるらしいから、実体化ダイブを使えばもしかしたら白山比盗_社まで楽に行けるかも。
342 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/20(日) 08:32:12.59 ID:cMZTykG+0
筆者です。
おはようございます。
>>340
まぶしくてとうぜんです。
ほむらが頑張った結果なのですからね。
本編のほむらだって、
こういうのを望んでいたはずですしね。
ガタッ ていうAAが似合いそうな勢いですね。
うう、無駄に熱いパトスがほとばしってる……。
「見たまんま」を描写するようなもんなので
話として面白いかどうか不安です。
消滅してしまう運命だったネミッサも幸せになれる
結末のはず。
いいものにするため、頑張りますけどね!
>>341
実体化ダイブだと、駅弁が食べられないと
騒ぐ子がいるので却下されました。
見滝原の舞台、群馬県前橋と仮定すると
金沢までほぼ三時間、そこから車で
鶴来まで一時間ほどだそうです。
中学生にはぎりぎりの距離ですから
一泊二泊はするようになるのかな。
暇そうだからシックスやユーイチあたりに
運転させます。
業務連絡です。
今日の22時以降を投稿予定時間とします。
そののちも、思いつけば投稿をするつもりですが
全体的には二月中を目途に
終了しようかと考えています。
もちろん最後まで鋭意努力します。
その時まで、
あの子たちに付き合ってあげてください。
343 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/20(日) 22:24:20.28 ID:cMZTykG+0
筆者です。
お約束通り、マミッサのエロス編をお送りします。
ですが、
R-18なので、念のため別スレッドを立てました。
あまり乱立は好ましくないでしょうが
念のため、です。ご了承ください。
スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1358688014/
【ネミッサ「いつかアンタを泣かす」 ほむら「そう、期待しているわ」 R-18】
そこまですることないかな、とは思いますが
お付き合いください。
344 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/21(月) 00:51:56.02 ID:2bx8aRMjo
乙、ただホントにスレ立てるほどじゃないね、内容は甘緩いエロで好きだけど
345 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/21(月) 03:29:38.12 ID:qHtCjNuq0
勿論まだあるよな?
346 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 20:59:40.81 ID:IJ1OI9UG0
筆者です。
しばらくぶりです。
お返事タイムです。
>>344
ぼかぁね、良かれと思ってやったんだ(by大泉洋)
いや、いらない気をまわしてしまいました。
内容は気に入っていただけたようで、ちょっと安心です。
>>345
む、まだとおっしゃりますか。
もう勘弁してください。
女の子同士の、しかも片方処女とかあれが限界ですって。
しんでしまいます。
しかも向こうじゃ「うわぁ」とかドン引きされる有様で。
そして業務連絡です。
ドン引きされたからというわけではありませんが、
そろそろ次回作にも専念いたします。
次の話を持って、このスレッドを終わらせようかと
考えています。
いつもコメントをくださる方や
マミッサ、ほむッサをご所望された方には
感謝でいっぱいです。
最後に、どうしても登場させたいキャラがいますので
彼女の登場をもって最後とさせていただきます。
その後コメントが出きったころを見計らいhtml化の
申請をいたします。
それまでどうぞ、あの子らを見守ってやってください。
ためしに、書き溜めなしで行こうと思います。
それでは、お付き合いください。
347 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 21:10:16.58 ID:IJ1OI9UG0
【えいゆうたちのたんじょうひわ】
二学期の始業式の日。それは杏子のデビューの日だ。
残念ながら、あるいは当然のごとくほむらたちとは
別のクラスになってしまった、
そのためその日は、はじめて他人に『鹿目杏子』と呼ばれる日
でもある。だから最初は自分が呼ばれていると
思えなかったらしく、つい照れ隠しも含めて
「杏子でいいよ」
とぶっきらぼうに言ってしまった。元々、彼女も顔立ちは
悪くない、むしろ可愛いと言われるほうではないだろうか。
粗野だが気品もありぶっきらぼうだが、少しつつくと
反応が可愛いらしく、転校初日にしてちょっとした人気者に
なっていた。
だが、それが逆に本人には辛いらしい。帰る頃になると
慌ててほむらたちのクラスに逃げ込んだ。
「貴女、こちらに来ては駄目でしょう?」
「う、うっせえなぁ。落ち着かねえんだよ」
「ウェヒヒ、だめだよお姉ちゃん。お友達作らないと」
「あれ、まどかすっかりなじんじゃったね」
「上条も仁美もいるんだ。こっちのほうがよかったよ」
杏子は愚痴て腐ってしまった。
348 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 21:21:56.49 ID:IJ1OI9UG0
一方ネミッサは、古い知人に呼ばれていた。
電話でのやり取りを行い、今日落ち合うということだった。
「へへ、お久しぶりです、ヒト……『ネミッサ』?」
「あ、あれ……」
そこにいたのは三十歳くらいの女性。童顔に、丸眼鏡に面影が
あった。ネミッサはそれに気づくと嬉しそうに破顔する。
「ひっさりぶりー。事情は知ってんだよね?」
「うん。はは、ホントにあの頃のまんまだー」
「瞳ちゃんが可愛いからあの顔にしてるの。美人だったしね」
「うんうん。そっくり……。ね、私を助けてくれたのってさ……」
「さすがにごまかせないか、アタシとね……」
「お兄ちゃん、だよね」
彼女はイラストレータとして有名だった。次は絵本を書きたいと
兄からネミッサを紹介されたとのことだった。
「で、何が聞きたいのかな、友子ちゃん?」
夢をかなえた相棒の妹は、にっこり笑っていた。
「ネミッサのやってきたこと、教えて」
349 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 21:33:04.74 ID:IJ1OI9UG0
ひとしきり話し合いが終わったネミッサは、移動をする。
また後日話を聞かせる約束をして、次の約束に向かった。
授業は翌日からのため、今日は学校も早く上がる。
制服姿の杏子が見たいというマミとネミッサの強い希望で、
いつかのファーストフード店に集まった。
上条や仁美も来たがっていたが、二人とも練習とお稽古事がある
とのことで残念ながら不在。
「見てよネミッサ、この生足!」
靴下が革靴に隠れるタイプのもののため、素足に靴を
履いているように見えてしまう。すらりとした健康的な足が
あらわになっている。
「見事な脚線美ねぇ。ケンゼンな男子生徒には目の毒だわ」
「おまえなぁ……」
「杏子は素材がいい、って式場の人も言ってたんだしさ、
オシャレとかすりゃいいのにね」
「ウェヒヒ。実はママがお姉ちゃん改造計画中なの」
「あら楽しそう。鹿目さんのお母さんも好きそうだものね」
「マ……、母さんはあたしを着せ替え人形にしてるんだよ」
(マ?)
「杏子ちゃんまただぁ。ちゃんと『ママ』って呼んでよ〜」
(ああ、そういう)
全員が納得し笑った。まだ、気恥ずかしいのだろう。
「んだその笑いはっっ!」
杏子が叫んだが、それが照れ隠しだとバレバレなため、皆が
また笑ってしまった。
350 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 21:41:49.36 ID:IJ1OI9UG0
杏子は悩みが多い。
まず一つは勉強のこと。年単位でブランクがあり、ついていけるかが
不安だった。
また学校生活そのものもそうだ。幸い、生活リズムは鹿目家での生活
により夏休みでもちゃんとしていた。だが同年代の友人なと魔法少女
になってからほとんどいない。どう友達を作っていいかまるで分らな
いらしい。
「今から焦るこっちゃないでしょ」
「さやかは焦るべきよ。毎日寝てるんだもの」
「あ、それでもなんとかなるのか!」
じとっと横目でにらむまどか。
「ならないからねお姉ちゃん」
「おー、さっそくマドカちゃんがしっかり者の妹に」
「杏子さんは頼りにならないのかしら?」
「う、すげえ言われようだ」
現在、パトロールはマミを除く四人で行っている。手に入れた
グリーフ・シードは個々のソウルジェムの穢れ具合が大きい人を
優先で使ってもらうようにしてある。
時折、受験勉強のストレスで穢れが加速するマミを除いて、戦闘に
参加した人から順に使う形だ。
「戦うときはすっごい頼りになるんだけどね」
「な、そうだろっっ」
口外に『それ以外は駄目』と言われていることに気付かず得意げな
杏子。ネミッサの遠回しな助言も効果なし、である。
「今夜は、あたしとネミッサだったよな」
「待機は私ね。二人は大丈夫でしょうけど、
何かあったら遠慮なく呼んで頂戴」
「ほむらの出番はないぜ、安心しといてくれ」
自分の得意分野ということで、杏子は急に元気になり、皆の笑いを
誘った。
351 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 21:56:08.73 ID:IJ1OI9UG0
そういえば、とほむらは気になることを口に出す。
ネミッサが先に店にいたことだ。日中用事があることを聞いていたため
遅れるものとばかり思っていたので、先にいたことをふと尋ねる。
「ネミッサ。昼間用事があると聞いたけど、
ずいぶん早く終わったわね」
「ン? ああ、仕事じゃないのよ。……一応仕事ではあるのかな……
イラストレータやってる知り合いがいてね……」
と友子との話を掻い摘んで説明する。彼女が相棒の妹であること。
今度絵本を作るため、アイディアを探していること。そして、自分が
たどってきた数奇な運命を話したこと。
「アタシらのことそのまんま本にはしないんだろうけどね、
アイディアがないって嘆いてたから、ちょっと協力したのよ」
お礼が出たら還元するわ、というと、案の定杏子が喜ぶ。相変わらずの
食い気だ。
「へえ、なんて人?」
「あー、名前はわかんない。けど、『スナッピー』って
イルカみたいなのが代表作だってよ」
「えー、それ結構有名な人だよー。一度会ってみたいなぁ」
イラストを描くまどかは興味をそそられたらしい。自分の絵は決して
人に見せられるものではないが、自分の進路を考えるうえで気になる
とのことだった。
「あー、そっか……、私らも『みらい』があるんだもんね」
さやかが呟く。魔法少女としての戦いは決して楽観視できるもの
ではない。けれども、少なくとも人工浄化のグリーフ・シード(今は
便宜上『RGS』あるいは単に『リサイクル』と呼ばれている)の
おかげで生き残る可能性が大きくなっていた。
352 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 22:11:07.87 ID:IJ1OI9UG0
「なんか、夢あるの?」
真っ直ぐなネミッサの何気ない問いに、
さやかがちょっと顔を赤くして答える。
「え、えへへ、笑わないでね?」
さやかの夢は、歌手になることだという。所謂ポップ歌手ではない、
とのこと。はぐらかされ理解できなかったネミッサが再度突っ込むと
さやかは顔を赤くした。
「ほら、杏子が打ち上げの時歌ったじゃない?
ああいう歌手になれたらな……って」
徐々に声が小さくなり、顔を上げられないほど真っ赤になる。
元々、美声のさやかである。練習さえすればきっといい歌い手になる。
誰もがそう思った。
「笑うわけない。素敵じゃない」
「そしてカミジョーと一緒に舞台に出るわけだ!」
図星をつかれてさやかは真っ赤になる。もちろんそれもないわけでは
ないだろうが、それを指摘して笑うのはさすがに失礼すぎた。
「ネミッサ、そういうのを無粋というのよ」
「デリカシーねえよな」
「見損なったわネミッサ。近づかないで頂戴」
「ネミッサちゃんあんまりだよ」
「そうだよね、私には似合わないよね。うん、ごめんね……」
「い、いや、ちょっと待って、ごめん。
悪かったってば! 悪気なかったのよ〜」
さやかも調子に乗り泣いた真似をする。それをネミッサが慌てて
謝るさまをみて、ネミッサ以外の全員が笑った。
ネミッサはソウルジェムの心配までしてしまったため、顔色が
変わってしまった。
冗談と気付いた時には、ネミッサの背中に嫌な汗で濡れていた。
353 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 22:44:48.73 ID:IJ1OI9UG0
謝罪の代わりにネミッサは次のお茶会用の、全員分のケーキを
用意しなくてはならなくなった。幸い稼ぎがほかの中学生より多い
とはいえ、まとまった出費は痛い。項垂れるほかなかった。
「でも、そっか。私はそんな未来も考えてなかったなぁ」
マミが魔法少女になった経緯を思えばそれも仕方ないことと言えた。
「いや、あたしもだよ? こんなことやってりゃさ、
未来なんて考える余裕もなかったよ」
「仕方ないわ。そういう体になってしまったのだもの」
ベテランたちの呟きは重い。まどかは今更ながら、魔法少女に
させないよう努力したほむらのことを思った。空気が重くなるのを
感じ、努めて明るく言った。
「じゃぁさ、皆これから考えようよ。
せっかく、ネミッサちゃんが頑張ってくれたんだしさ」
ネミッサへのフォローと、皆の空気を和らげるためにまどかはそんな
ことを言った。そんな優しさに、皆が和む。
「そうね、今からでも遅くないわ。
……笑わないでね? 私、ケーキ屋をやってみたいの」
「笑うのはネミッサだけだよ。マミらしくていいと思うよ。
……あたしはまだ思いつかないなぁ」
「傷口抉るのやめてよ〜。ごめんってば」
「いいじゃない、ケーキ屋。私も心臓病という枷が外れたし、
本気で考えようかしらね」
ネミッサの懇願も空しく、皆は自分の夢を語り合う。さすがに
しょげ返るネミッサにまどかが気を使って話しかける。
「ネミッサちゃんは、何か夢はないの?」
そこで初めてネミッサははたと『立ち止まる』
「夢……? 夢ねえ。そういえばまるで考えたことなかったわ」
今までは罪悪感と使命感から必死に戦ってきたが、それが急に小さく
なった。まだワルプルギスの夜はいるし、救わなくてはならない
魔法少女はまだたくさんいる。
やらなくてはならないことは多いが、やりたいこととはまた別の
はずだった。
(マミちゃんと、皆と、ずっと一緒にいられたら……いいなぁ。
それも、夢ってことでいいのかな)
けれどもそれが叶わぬ夢だということは、知っている。
それが少しだけ、寂しかった。
354 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/23(水) 22:48:21.61 ID:IJ1OI9UG0
筆者です。
今夜はここまでといたします。
プロットがあるとはいえ、即興は難しいですね。
自分には書き溜めが似合ってるのかな。
【えいゆうたちのたんじょうひわ】
はまだ続きますが、これが最後の話となります。
最後まで、お付き合いください。
355 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/23(水) 23:01:06.85 ID:6rpiaR8Vo
乙でした。
トモコが描いたスナッピーの絵本……。
どんな話なんだ……?
優しいイルカさんに癒される話なのか、優しいふりした悪魔にだまされる話なのか、
優しいふりした悪魔を飽和魔法攻撃で自爆させる話なのか?
356 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/24(木) 01:07:46.41 ID:11JYAUAHo
乙ん
イルカは初見殺し
357 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/24(木) 21:16:40.70 ID:2Cr3Y+C40
筆者です。
>>355
む、しくった。
イメージ的には友子はイラストレータです。
クリスチャン・ラッセンみたいな、
よりもっとパステルカラーの強いイメージしました。
それで新しい方向性で絵本を描くにあたって…
という風のつもりでした。
でも、スナッピーシリーズの絵本とか面白そうですな。
『スナッピー、嘘つく』
『スナッピー、拉致る』
『スナッピー、爆ぜる』
『スナッピー、改める』
うん、いいですね。これでいいや。
>>356
一週目は、カジャしまくりで頑張った覚えがあります。
二週目で、シヴァにメギドラ撃たせて
「吸収できるならしてみろや」
とつぶやいたのはいい思い出です。
これから
【えいゆうたちのたんじょうひわ】
の続きを書きます。
皆を可愛く、楽しく描き切ります。
最後までお付き合いくださいね。
358 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/24(木) 21:40:27.22 ID:2Cr3Y+C40
その日は杏子が大活躍。初めての学校で鬱憤が溜まったのだろう、
その発散のためにかなり大暴れした。
ネミッサはちまちまと使い魔を撃破し、本命の魔女は杏子がメインで
戦った。ネミッサは使い魔撃破や牽制に終始したため、
だいぶ楽をさせてもらったとのことだ。
「やっぱりあたしはこっちだな」
「イキイキしてるわね」
「むこうで打ち合わせするよりもいいよ」
「はは、アンタにはデスクワークは無理ってことね」
槍を振り回し喜ぶ杏子に呆れつつ、グリーフ・シードを拾うネミッサ。
魔力を使った杏子にと、軽く投げ渡す。それを全く見ずに受け取ると
浄化に使う。まだ一回使えるとのことでそれを『リサイクル』を
入れるケースにしまう。
「しかしよ、魔女も元は魔法少女なんだよな……」
「まーね。やっぱり気が進まない?」
「ああ、いや、そうじゃなくてよ」
一歩間違えれば自分もこうなっていたかもしれないと言う思いだ。
ネミッサと『葛の葉』の尽力のお蔭でこうしていられるのはただの
幸運だと思うのが杏子の思考だった。
「あ、いや、あんたに感謝してないわけじゃないぜ?」
「わかってるって」
「さ、まだ時間あるし、もう一体くらい行きたいな」
「元気ねー、付き合うけどさ。明日も朝早いのよ?」
「わかってるって」
(これからしばらく、キョーコちゃんのストレス発散に
なりそうねぇ……。付き合う担当の人はこれから気の毒ね)
杏子の張り切る姿に、ネミッサは笑いが抑えきれない。仕方ないという
風を装いつつも、嬉しそうについていった。
今夜のパトロールは、長くなりそうだった。
359 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/24(木) 21:59:33.17 ID:2Cr3Y+C40
それから数日、学校とパトロールの二重生活が続く。勉強が始まると
日に日に杏子がやつれていった。体調は問題ないらしいが、精神的に
疲れているようだ。しかも、勉強に追いつけないと鹿目家には専門の
家庭教師がついた。
「さぁ、今日は数学よ」
「数学めんどくせええええええ!」
「私も苦手だなぁ」
「二人とも頑張りなさい。パズルだと思えば平気よ。
私がいるからには、二人には赤点は許さないわ!」
「うへぇ……」
わざわざ伊達眼鏡をかけたほむらが家庭教師役を買って出た
パトロール前に杏子とまどかに教えるつもりのようだ。ほぼ
毎日来ては勉強を教えている。杏子は嫌な顔をするが、
まどかはとても喜んでいた。また、詢子も知久も喜んで迎える。
「ほむらちゃんは一人暮らしだろう? いつでもおいで」
「はは、いつの間にか娘が三人になったなぁ」
弟のタツヤも喜んでほむらと遊んでいる。
「ただなぁ。タツヤの目が肥えるのが心配だよ」
「肥える?」
「少なくともほむらちゃんぐらい美人じゃないと、
彼女ができないんじゃないか?」
ドストレートなお褒めの言葉に、ほむらは耳まで赤くなった。
……ひょっとしたら、まどかに妹ができるかもしれない。
黒髪の、クールぶってる美人な妹が。
360 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/24(木) 22:16:16.79 ID:2Cr3Y+C40
「ってことがあってよ」
「それは言わないって約束ではなかった?」
ネミッサがケーキを買ってきた日のお茶会である。買うとなるとなぜか
張り切るネミッサが、普段買わないような高めのケーキを
買ってきていた。シュークリームを固めに焼き、ふたの様に切り取り、
その中にクリームを詰めるタイプだ。ほかにフルーツなどをいれた
かなり凝った作りだった。
「ホムラちゃんが妹になるのかー。ママさん喜んでるんじゃない?」
「うん! パパもママもすっごく気に入っちゃって。
『毎日ご飯食べに来て』とかいうの。私嬉しくって〜」
ネミッサがむけた水にまどかが心底嬉しそうに応じる。幸せそうな
満面の笑みだ。
それに反してさやかはむくれたふりをする
「あーあ、すっかりほむらといちゃいちゃしてー。けしからん!」
杏子はまどかに、まどかはほむらに取られたようになっていたからだ。
「すっかり拗ねちゃったわね。よしよし」
「うぇ〜ん。マミさんだけが味方です〜」
マミがさやかをあやす。それに調子に乗ってさやかは抱きつく。
まどかに抱き着いて茶化すノリのつもりだったのだろうが、マミは
ビックリしてしまう。
慌ててネミッサの顔を見るが、ネミッサのほうはどこ吹く風で、
紅茶やシュークリームを堪能していた。
「あ、もしかして……私お邪魔でした?」
「そ、そんなことないわ。……よしよし」
ちょっとくらい嫉妬してもいいなじゃいかと、マミは内心がっかり
していた。
361 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/24(木) 22:52:43.88 ID:2Cr3Y+C40
「さて、月初めだし、あの書類回収していい?」
書類とは、例の『リサイクル』の使用頻度を確認する文書のことだ。
使用回数や吸収具合などを書き込み、提出するためのものだ。
ここの四人や、ほかの魔法少女の使用具合から平均すると、
狩りなどで魔力を過剰に消費しない限り、一週間で一個くらいで
事足りるだろうことがわかってきた。だが現在はまだ供給が追い付かず
狩りをせずに済む、という状態は難しかった。
「あー、これめんどくさかったー」
「ちょっとなー。宿題みたいだったよ」
「はい、ネミッサ。私の分よ」
「こっちも渡すわ」」
「ありがと、マミちゃんホムラちゃんのは読みやすいって
スタッフも喜んでるよ。ありがとね」
「あたしらのは……?」
「ん? ノーコメントで!」
その言葉の意味を知り、落ち込む二人。何度か書き直したのち、
ネミッサに手渡す。不備があるかざっと目を通し確認すると
全員分をクリアファイルに入れる。
「うん、お疲れ。これと使用済み渡したら、
『リサイクル』もってくるから、また記入よろしくね」
「えー、またぁ?」
夏休みの日記を最終日に書くような杏子とさやかは文句を漏らすが
ネミッサは聞かないことにした。
そんな中、マミはちょっとだけ、浮かない顔をしていた。それに
気づいたほむらが声をかける。
「どうしたのマミ。ちょっと疲れていない?」
「ああ、いえ。ちょっとね」
「んー? どったの? なんか問題?」
「なんとなくだけどね。『リサイクル』のこと、ちょっと気になって」
362 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/24(木) 23:17:23.04 ID:2Cr3Y+C40
マミの心配事は、グリーフ・シードが元は魔法少女で、元人間だ、
ということだ。彼女たちも好き好んで魔女になったわけではない。
その彼女たちが何度も『リサイクル』されるような状態で、永遠に
解放されないという状態が気になっているということだった。
「あ、そっか……。そう思うとちょっとかわいそうですね」
「そう思うとね……なんとなく、使うのを躊躇っちゃって」
皆がマミの方を見る中、ネミッサの表情がわずかに硬くなる。何か
言いたげだがそれを言いだせず、頬を掻くだけだ。
「でも仕方ねえだろ。使わなかったらこんなローテーション出来ねえぞ」
「私は割り切っているわ。ネミッサが私たちのために
作ってくれたシステムだもの。感謝して使うつもりよ」
ほむらは、ネミッサの表情に気付いていた。だからネミッサ寄りの
発言を選んだ。もともと、スタンスとしてはこのシステムを
歓迎していたので、自然な言葉が選べた。
「それは、わかっているんだけれど。彼女たちは、
いつになったら解放されるのな、と思うとね……」
マミは、自然にこぼしたつもりなのだろう。だが、それがネミッサの
とある部分に触れてしまった。
「……じゃぁ、使うの止める? マミちゃん」
低い声色に、一同が振り向く。そこには、俯いて表情を隠している
ネミッサの姿があった。
「止めて……、魔女になった方がよかった?」
マミは自分の失敗を悟った。自らの発言が、図らずもネミッサの努力を
否定しかねない言葉だということに。
ネミッサの声は、濡れていた。
363 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/24(木) 23:19:47.60 ID:2Cr3Y+C40
「ネミッ……」
「ごめん、おかしなこと言ってるのはわかってる。
けど、……ごめん、今は、顔を見ないで」
髪の毛で顔を隠しながら立ち上がる。誰とも目を合わさないネミッサは
初めてだった。目元こそ前髪で見えないが、口元は唇をかみしめている
のが見て取れた。そこに見えたものは『無念』だった。
「ちょっと、頭冷やしてくる。ごめんね、空気壊して」
「待ちなさいネミッサ!」
背中を丸めて歩きだすネミッサ。背が高いだけに、その姿はひどく
寂しそうに見えてしまう。その丸まった背中が追いかけることを
躊躇ってしまうような空気を出していた。
そのまま、とぼとぼと、ネミッサは部屋を出ていった。
らしくない姿に、一同がどうしていいかわからなかった。
中腰になって追いかけようとしたほむらは、マミをにらむ。
「マミ、今のは、あんまりではない?」
その射抜くような視線に、マミは怯む。ほむらの咎めるような声や顔に
まどかはおろおろしている。
「わ、私は……そんなつもりじゃ……」
「本当にそうかしら? 貴女は、
彼女に甘えているのではないかしら?」
「ほむらちゃん!」
まどかの諌める声も、今のほむらには届かない。それだけ、ほむらは
マミの軽率な発言に怒っていた。
ほむらはネミッサが、ここにいる魔法少女のため、尽力したことを
知っていたし嬉しかった。その努力を、こともあろうにネミッサが
大事に思っているマミが否定するのが許せなかった。だから言葉が
きつくなる。
「あたし、探してくる」
「わ、私も行くね。ほむらちゃん、マミさんを責めないでね」
二人が立ち上がり、玄関に駆け出す。まどかは携帯で呼び出していたが
出ないようだった。杏子はテレパシーで呼びかけているのだろうが、
そちらも不調に終わったようだ。慌てた様子で二人はそろって
飛び出していった。
364 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/24(木) 23:27:30.26 ID:2Cr3Y+C40
筆者です。
【えいゆうたちのたんじょうひわ】
をお送りいたしました。
書き溜めせずにやるのは難しいですね。
でも、まどマギのキャラは状況を与えれば
自由に動き出すので、その辺は楽ですね。
キャラの印象を壊してないでしょうか、そこが
大きな不安でもあります。
次の更新で最後になる予定です。
毎回コメントをくださるお二人や
コメントこそなくてもご覧になってる皆様に
申し上げます。
ここまでお付き合いくださってありがとうございます。
皆さんからの感想コメントがいただけたら、1月いっぱいを目安に
html化の申請をしようと思います。
そのときまで、どうぞ、生暖かい目で見守ってください。
皆さんのお褒めの言葉で、最近自分に自信がついてきました。
本当に感謝しています。ありがとうございます。
365 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/27(日) 01:16:17.57 ID:5AOw9zA2o
乙でした。
いっそリサイクルの次を目指して、
精製マグネタイト風呂とかソウルジェムの透析とか重曹で磨くとか、
全く新しい『グリーフシードに依存しない』方法の模索でもマミさんに手伝ってもらうか?
366 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:03:44.51 ID:YvWdcsYL0
筆者です。
>>365
でもエピローグではまだリサイクル使ってる描写を
しちゃってるのでねー。まぁ、あれは戦闘用ってことで
いいのかな。
他はわからないのですが
重層で磨くのは三十路マミさんネタですね。
結構ツボであのマンガ好きです。
それと、反省が。
単純にニーズ読み違えちゃいましたねー。
まどマギより、ハッカーズに軸足置けばよかったかな。
SS読む人は飽きちゃったんでしょうね。失敗デス。
次回作もまどマギクロスのつもりでしたが、
杏子とまどかのサマナー見習い奮戦記でもいいかなぁ。
ただ、ハッカーズのギミックはほとんどぶち込めたので
その辺は満足です。
英雄合体、ビジョンクエスト、悪魔会話、契約システム、
召喚プログラム、召喚魔法、生体エナジー協会などなど。
そして今夜、物語が完了させます。
最後の最後まで、お付き合いください。
それでは
【えいゆうたちのたんじょうひわ】
の最終話です。
367 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:14:10.40 ID:YvWdcsYL0
二人が飛び出したのち、空気が重くなる。そんななか、さやかは全く
別のことを考えていた。それは、ほむらの怒りようである。
確かにネミッサの努力を考えれば『リサイクル』を使いたくない、
というのはあまりいい気分ではない。だが、あのほむらが形相を変えて
まで怒るほどだろうか?
(ひょっとして、ほむらは……。まさかね)
ともあれ、この空気を変えるため、さやかは話し出す。
「マミさん。私、一回魔女になったでしょう。だからわかるんです」
二人がさやかをみる。さやかだけが言える言葉を紡ぎ、諭す。
「魔女になったら確かに辛いんです、苦しいんです。誰だって、
絶望なんか振りまきたくないですよ。でも、でもね……」
そこで言葉が詰まる。自分がそこから戻れたのはただの幸運。
ネミッサの尽力があり、まどかの力と心があり、ほむらの諦めない
意思とさやかへの友情が重なり、自分は魔法少女として甦ることが
できた。天文学的な確率の、僥倖と言っていい。
「グリーフ・シードになって、次の人の役に立つなら、
このシステムも、悪くない、むしろいいことだって。
そう思えるんです」
ほむらもマミも言葉を発することなく、さやかを見つめる。
「それにね、もっと長く、もっと多くの魔法少女の役に立つなら、
一緒に戦えるなら、それはきっと……きっといいことなんです。
ほむらが持ってた私の魂たちも、そう言うはず……です」
368 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:16:02.25 ID:YvWdcsYL0
マミの胸に突き刺さるさやかの思い。
さやかがどれだけネミッサに感謝しているかを思い知った。
そして、自分も救われたのにもかかわらず、そこまでいたらなかった
自分を恥じ、喋ることができなかった。
自分がどれだけ思い上がっていたかを、
自分がどれだけネミッサに甘えていたかを、思い知った。
「ご、ごめんなさい、生意気言って!」
「……ごめんなさいマミ。私も言い過ぎたわ」
「……?」
二人の態度が急変したことにマミは訝しがる。だがすぐに理由に
気付いた。マミが、その双眸から、大粒の涙を流していたからだ。
自分の犯した過ちに気付いたマミを、もう二人は責めることも
諭すようなこともしない。
「い、いいのよ。
私こそごめんなさい。ネミッサに、酷いことを……」
ネミッサを深く傷つけたことを悔やんでいた。
「あの子に、なんてことを……、私は……」
(私は最低だ、最低の女だ。断られないからって、私は何をした?
今日のこともそう。彼女に甘えていたんだ。最低だ)
ぼろぼろと、涙が溢れて止まらない。それをほむらとさやかが
肩を抱いて労わった。
そんなことをすれば余計に涙が止まらなくなるのに。けれど二人は
黙って労わってくれた。
369 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:21:00.02 ID:YvWdcsYL0
ネミッサはいつかの噴水の前にいた。マミの家からはそう遠くはないが
まっすぐ歩けば結構な距離を歩いたはずだ。それだけ長くふらふらと
歩いていたことになる。
最初に見つけた杏子が、まどかに連絡する。場所を伝えると先に
ネミッサに声をかける。
「ここにいたか、らしくねえぞ。マミに文句あるならいつもみたいに
言い争いしたらいいだろ」
杏子の叱責。だが、その声音はどこまでも優しい。聖母のような音色。
ネミッサは何も話せない。
杏子に喋り出したのはまどかが二人を見つけたころだった。
ネミッサは頭を左右に振り言う。
「違うんだ……。……アタシはさ、皆に長く生きて、
幸せになって欲しかったのよね」
「……マミだって、ありゃぁ本心じゃねえよ。
あんたに感謝してるにきまってら」
遅れて場所を聞いたまどかが遠くから歩いてくる。ベンチに座った
ネミッサには目に入っていながら映らなかった。
「それは、うん、わかる。もう大丈夫。
けど違うのよ。アタシの問題は、それに気づかなかったことなの」
それ、とは『リサイクル』の魂たちことだ。彼女たちのことを考えず
まるで物扱いをし、それが悲しいことだとネミッサは気付かなかった。
「そういうことに気付かないアタシは、やっぱり悪魔なんだよ」
寿命もそうだが、一緒にいるには感性が違いすぎる。そう、思って
しまったのだ。自ら思い描いた夢が、一瞬にして消え去った。そう
感じてしまったのだ。
一緒に、いられない、と。
「考え方、感じ方が違いすぎる。一緒にはいられないよ」
370 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:24:17.12 ID:YvWdcsYL0
「そんなことない!」
まどかが叫ぶ。まどかは、泣いていた。苦しいネミッサを思い、
追い詰められている彼女を悲しんで、涙を浮かべていた。
「パパとママだって意見が違うときがあるもん!
けどそれはいつも喧嘩してるわけじゃなくて、結婚してからも。
……その、えっと……だから」
「ああ、そうだな。多分、結婚ってよ、二人の価値観をすり合わせること
なんだよ。一方の意見に従うだけってのは盲信っていうんだろ。
そんなの、対等な……正常な関係じゃねえよ」
ネミッサが顔を上げる。
「話して来いよ。そんなんでお前ら駄目になる関係でもねえだろ。
それでもマミがぐだぐだいうなら、あたしが引っ叩く!」
「……怒った顔見せたくなかったんだよね。優しいね。
でももう平気だよね……『帰ろう』? マミさんのとこにさ」
「でも、でもアタシ……人間じゃない……よ?」
「スプーキーズの皆さんとは、上手くいったんだよね。だったら、
私たちとも、同じようにできるんじゃないかな」
「ああもう、てめえもぐだぐだ言うか!
人と人の間に生きてんなら、もう立派な『人間』だよ。
しゃきっとしろ、ボンクラ」
『それによ、人間に感謝するのは悪いことじゃねえ、
当たり前のこった』
そうだった。杏子はずっと、ネミッサを人間としてみていた。それは
きっとマミも同じはずだ。
ネミッサは泣いた。
ゆめは まだ きえていない。
371 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:27:19.08 ID:YvWdcsYL0
”ほむら。ネミッサ捕まえた。連れ帰る。そっちは落ち着いたか?”
”ええ、ごめんなさい。迷惑をかけたわね”
”あー、それはいい。マミはどうだ”
”二人がかりで落ち着かせたわ。もう大丈夫”
”OK、まどかと一緒に戻るぜ”
”ええ、急いでね”
”……? わかってるよ”
「ほらボンクラ。帰っぞ」
「うん、帰ろ?」
涙ながらに歩くネミッサの手を引いて、二人は歩き出す。
ふと思い立ち、杏子はまどかに聞く。
「ところでよ、二人を夫婦に例えるのはあれか? こないだの
おままごとか?」
「そうじゃないよ!? でもパパとママもいろいろ話し合って
意見をぶつけながら決めたことがたくさんあるんだって。だから、
似てるなって思ったの」
例えば、知久の家事専念、マイホームを買う時期、タツヤの
出産のタイミング。一番最近では、杏子の養子縁組。それらに
さまざま意見を出し合いながら決めたのだという。もちろん
食い違いもあり、一筋縄ではいかなかったようだ。
「だからさ、ネミッサちゃんも、いろんなこと話しよう?
皆いるんだもん。きっと役に立つよ」
かろうじて頷くのが背いっぱいだった。
―――わたしがあくまでも、ともだちでいてくれますか―――
―――ったりまえだ―――
―――それどころかおんじんだよ―――
―――ええ、もちろんよ―――
―――さいしょからそのつもりだよ―――
―――ともだちでもいいので、そばにいてください―――
372 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:28:17.04 ID:YvWdcsYL0
飛び出して気まずいネミッサの背中を押すように、二人は戻ってきた。
ばつの悪い顔をしていたネミッサの前に、号泣しているマミがいた。
「よ、よかった、帰ってきた〜。帰ってこないかと思った〜」
実際には涙でこれより鼻濁音が激しく、最初は何を言ってるかすら
聞き取りづらいほどだった。ネミッサが落ち込む暇も謝る隙も
ないくらい動揺していたのだ。
「ごめんなさい〜、酷いこと言ってごめんなさい〜」
ネミッサもネミッサで言いたいことがあったがあまりの錯乱ぶりに
どうしていいかわからない。
まどかも杏子も呆気にとられている。
「な、なにがあったんだ?」
「ほむらがね、賭けをしだしたんだ。
『パトロールまでに戻らなかったら、ネミッサを引き取る』って」
「ジョーダンだろ。じゃなければあたしに急がせたりしねーよ」
「……いや、あれは本気の目だった」
さやかは、怯えるように身をすくめた。ほむらの態度を直に見たか
どうかで、その解釈が違うようだ。
「……惜しかったわね」
「ほむらちゃんそれじょうだんだってしんじてるからね?」
373 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:30:20.98 ID:YvWdcsYL0
二人の和解が有耶無耶になった。マミはまだぐずついているし、
ネミッサも居心地が悪いらしく、隣に座るもののもぞもぞしている。
マミの代わりにと、ほむらが紅茶を淹れる。
「ほむらのお茶ぁ? マミさんのに比べたら…うまぁい!」
「おやくそくだねさやかちゃん」
かつて、師事していたときに紅茶の淹れ方を教わったらしい。かなりの
スパルタで、当時は苦労したとのこと。ネミッサも喜ぶ味に、ほむらも
自慢げだ。
(まさかねー、そんなことないよねー)
さやかの不安は膨らむ位一方だ。
「さっきはみんなごめん。そんで、ありがとう」
「ったくメンド―掛けやがってよ」
杏子の悪態も甘んじて受け入れるしかない。マミはまだしゃくりあげ、
まだ落ち着いていないので、反論もできない。
「それでね、ネミッサ。やはり私たちも貴女に協力すべきと思うの」
「え?」
「う、うん……さっきね、三人で考えたの……」
「私はそれでいいと思う。あとは杏子の意見かな」
先ほど捜索に行った杏子以外は納得しそれをすることに同意していた。
それを聞いたネミッサは驚くどころの騒ぎではなかった。逆に杏子は
聞いてあっさり同意する。
「あたしはそれでいいぜ。協力する」
「いや! 危ないよ。何が起こるかわからないのに!」
「だからこそよ。魔法少女でもない、この街の住人でもない貴女の
命がけの戦いに報いるには、それしかないんじゃないかしら」
ネミッサも、ぐうの音もでなかった。
374 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:32:43.26 ID:YvWdcsYL0
それから数日して、マミたちは嫌がるネミッサを拝み倒し、
業魔殿についてきた。ヴィクトルの研究に協力するためだ。
「浄化装置に直にソウルジェムを入れて浄化する、か」
「はい、協力させてください」
ネミッサはグリーフ・シードの安定供給のため尽力したが、
その目的はソウルジェムの浄化を魔女狩りなしにすることだ。だから
マミらの申し出はそれに即したものではあったが、正直断りたかった。
『リサイクル』のお蔭で組織に参加する魔法少女は、魔女すなわち
魔法少女が増えることを良しとせずに済んだ。それがQBとの交渉の
一端にもなった。
だからそれであれば危険を冒してまでそんな実験にマミたちを
協力させる必要はなかった。
「はっきり言おう。私は気が進まぬ。ネミッサの年若い友人らを
危険度もわからぬのに、背徳の技術の犠牲には出来ぬ」
「でも、これが可能なら、もっと多くの魔法少女が救えます。
ネミッサの願いに副ったことだと思いますが」
ヴィクトルを威圧するほどのほむらの眼光。だがそれに怯むこともなく
押し返す。間に立つネミッサはどうしていいかわからず
おろおろするだけだ。
今現在でも、『リサイクル』の数は不足している。この数が
増えない限り、これ以上魔法少女を保護できなくなる。
「あたしからも頼む。役に立ててくれよ」
「私もです。よろしくお願いします」
「まだ私はネミッサに恩返しできていません。チャンスをください」
「ネミッサの目標は、私たちの夢でもあります。どうか、
ネミッサのためにも、手伝わせてください」
それは四人全員の願い、祈り。
「……よかろう。ただし条件はある。決して無理はしないこと。
捨て駒になることは許さん。……それでいいかな、お嬢さん」
「はい、お願いします」
「みんな……本当にいいの?」
「いいのよ。だって。私たちはまだ、貴女に恩返ししてないのよ?」
皆を代表して、マミは微笑む。全員が同意見だった。
375 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 22:36:42.69 ID:YvWdcsYL0
それから一年くらいして、皆の家に友子から絵本が届く。
タイトルは『ぎんぱつ悪魔と、きいろの魔法使い』。
この絵本はシリーズ化し、『ぎんぱつ悪魔と、○○の魔法使い』として
計6作品発表された。
言わずもがな、
『きいろ』 はマミを
『くろかみ』 はほむらを
『さくらいろ』はまどかを
『あかげ』 は杏子を
『あおいめ』 はさやかを
それぞれモデルにしていた。
決して大ヒットではなかった。だが魔法少女たちは、最後の
六作目も含めてほとんど全員が購入していた。
悪魔だとして誤解されていたぎんぱつ悪魔が、悩む五人の魔法使いを
あの手この手で救い、笑顔にするという幼児向けのもの。
だが六作目だけは違う。
助けてもらった魔法使いたちだが、悪魔は力を使い果たし倒れてしまう。
それを逆に助けるため、五人の魔法使いが自らの魂を差出すのだ。
一人分の魂をすべて使えばその一人だけが死んでしまう。だが五人は
僅かずつ差し出すことで、なんとか互いと悪魔を助けるのだ。
だが魔法少女は知っている。それが例え話であることを。
魔法少女を救うために奔走した『葛の葉の魔女』、それに協力し
支えあった英雄たちがいることを。
ワルプルギスの夜を退け、
魔法少女のためにソウルジェムすら差し出した魔法少女の伝説は、
彼女たちが生きている間からすでに語り草となっていた。
魔法少女の間で語られる伝説となり、神格化された彼女らは甦る礎を
このとき、完成したと言っていい。
そして、百年ののち、彼女たちは英雄として、ネミッサの前に甦る。
彼女に会うために、彼女と共に戦うために。
了
376 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/27(日) 23:03:31.85 ID:YvWdcsYL0
筆者です。
以上をもちまして、
【ネミッサ「いつかアンタを泣かす」
ほむら「そう、期待しているわ」】
の投稿を終了いたします。
拙い、ニーズも読めない作品でしたが、
お楽しみいただけましたか?
ソウルハッカーズの話を期待した人には
申し訳ありませんでした。
ただ、まどマギの理不尽は
悪魔と技術で覆せたかなと
思っております。
彼女たちが動き出したら
また書くかもしれません。
そのときは、お付き合いください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
皆さんはどうだかわかりませんが、
私は、楽しめました。
皆さんのコメントがとても嬉しかったです。
377 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/27(日) 23:27:14.89 ID:4r/BN4TWo
続編をまだまだ希望するのですぜ
378 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/28(月) 00:29:54.48 ID:wEvJ8F1Ro
乙でした。
最後まで面白かったです。
ちなみに
>>365
の重曹以外のネタはその場で適当にでっちあげた、
水着シーンの必然性とかからのアイデアですのでお気になさらず。
379 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/28(月) 21:59:14.95 ID:HFIPP8ZF0
筆者です
>>377
続編の時は同じ酉で、それとわかるタイトルにしますよ。
多分ネミッサの名前なんてほかの人使わないから
ネミッサになんか言わせましょう。
新米サマナー奮戦記ってネタなら
【まどか「新米サマナー♪」 ネミッサ「鹿目まどか!」】
とか銘打って。
>>378
お楽しみいただいたようで何よりです。
水着とかお色気は意図して外してたんですよ。
両方の意味で苦手でして。
デビルサマナー系は割とその辺ストイックですし、
雰囲気違っちゃうのでやめました。
一応次回作は
「まどマギ」×「ペルソナ2」
を構想中です。
『どっち』なのかは、内緒です
380 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/28(月) 22:20:44.66 ID:NQ/Y68BAo
>>379
初代メンバーもぶっこむん?(期待)
381 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/28(月) 22:45:17.82 ID:HFIPP8ZF0
筆者です
>>380
次回作のことですか?
その辺も踏まえて内緒でお願いします。
ただ、どちらに軸足を置くかでちょっと悩んでますので
続編のほうが先にできてしまうかも……。
だいたい、杏子がせっかく『葛の葉』に所属してるのですし
そのへん描写しようかな、と。
まどか=サマナー。杏子=パートナー(ネミッサポジ)とか
できそうですしね。
382 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/28(月) 22:56:54.24 ID:wEvJ8F1Ro
噂の第三帝国VSインキュベイターだと!?
とても楽しみです。
383 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/28(月) 23:02:49.27 ID:HFIPP8ZF0
筆者です
>>382
いい意味で、期待を裏切りたいところです。
結構皆さんを裏切るストーリーやるのが
快感になってきたので、頑張ります。
そういや、QBを「虐殺&脅迫」しといて
「平穏な方法」って感想言われた時は思わず笑ってしまいました。
QBがえぐいことやってたから、あんなことでも平穏に
見えたんでしょうかね。
384 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/28(月) 23:03:52.89 ID:HFIPP8ZF0
―――おや、また来てくれたのかい? 何かあると思ったのかな―――
―――……疲れたかい?
ビジョン・クエストをそう何度も見るのは大変だろうさ―――
―――まさかビジョン・クエストの中で
ビジョン・クエストを見せることになるとは
思わなかったけどね―――
―――どうだろう、彼女たちの心は受け取ってもらえたかな―――
―――……それはよかった。それじゃぁ……、
っとああそうだ、個人的に一言、いいかな?―――
―――これから僕を救おうとして
頑張ってくれている君に一言―――
―――君が助けるのは僕であって僕じゃないだろう。けどね―――
―――それでも言わせてほしい。
救おうとしてくれて、ありがとう。とても嬉しい―――
―――それだけさ。それじゃ、また―――
385 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/28(月) 23:04:30.09 ID:HFIPP8ZF0
―――どうしたんだい。まだなにかあるのかな?
―――僕が? 『また』って言ったから?
……我ながら、しょうがない口だな―――
―――ああ、『また』だよ、確かに言った―――
―――…………『彼女』が言うんだ―――
―――遠い未来、あの子たちが
『彼女』に会いに来る、
そんな未来が見えるんだってさ―――
―――……すごいと思わないかい?
あの子たちはたどり着くんだ
魂の安息地、そして、彼女のもとに―――
―――それなら、『また』って言うに決まってる、
そうだろう?―――
386 :
◆sIpUwZaNZQ
[saga]:2013/01/28(月) 23:05:37.43 ID:HFIPP8ZF0
―――待ってるよ。ネミッサちゃん。みんな―――
387 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2013/01/29(火) 23:32:24.73 ID:aOvqx07Lo
乙でした。
ありがとう、セガサターンのスプーキー。
これから3DSのスプーキーを助けに行くよ。
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