とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4

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232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/11(火) 19:15:00.42 ID:Ia3pGGtM0
フラン「正当なる防衛だよ」(某金髪ロールピザ(当時)男風)
233 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/08/24(月) 00:10:54.91 ID:KRW/N0gR0
これから投下を開始します
234 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:11:48.78 ID:KRW/N0gR0

フラン「……」



レミリアが冷めたハンバーグを一人で食べている頃。
フランドールは自室のベッドに上に蹲り、身じろぎ一つせずにいた。


部屋に明かりは付いておらず、カーテンまでも閉めきっており、一寸先も見えない暗闇である。
更には、今夜は新月のために月明かりが入り込むこともない。
闇に眼を慣らしたとしても、辛うじて物の輪郭がわかる程度にしかならないだろう。
もっとも、顔を伏せてしまっている彼女にとってはあまり関係のないことなのかもしれない。


顔はほぼ全てが膝の下に隠れており、その全貌をうかがい知ることはできない。
また彼女は家に帰ってから着替えもせずにいるため、衣類はぼろぼろのままだ。
それを身に纏っている後ろ姿は、心なしか見た目以上に小さく見える。


どうして、彼女はこのような姿になってしまったのか。
その理由を知るには、彼女が家を飛び出したその後について詳しく読み解くしかないだろう。

235 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:17:33.23 ID:KRW/N0gR0





――――PM 6:22





236 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:18:42.26 ID:KRW/N0gR0

フラン(あ〜……どうしよ)



街の中を一人で歩きながら、フランドールは一人頭の中で悶絶していた。


姉の追及を振り切るように家を飛び出してから数十分。
目的地も定めずに無我夢中で走り回った結果、彼女はいつの間にか街のど真ん中にいた。
周囲には授業や仕事帰りの人、そして夕飯の材料を買い求めている人でごった返している。
誰も彼もフランドールのことを眼に止めることはなく、追い立てられるように足早に歩いていた。


その光景を見て彼女は急激に孤独感じることになったが、この事態を引き起こしたのは彼女自身。
責めるべきは他者ではなく、姉から逃げ出した自分本人であることは疑いようもない。
しかし『自省』などという大人な判断が出来ない彼女には、レミリアに対してぶつくさと不平不満をぶつけることしか出来なかった。


そんな子供な行為暫くしていたフランドールではあるが、やがてその『不満』は次第に『焦り』へと変化してくる。
姉に対して粗暴な口利きをしてしまったという事実。それによる後悔が首を擡げてきたのである。

237 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:19:53.59 ID:KRW/N0gR0

レミリアは彼女にとって、口うるさくはあるが頼りになる姉だ。
家の管理をしているのは彼女だし、フランドールが通う学校からの連絡を受け取っているのも彼女である。
言ってしまえば、レミリアはフランドールの親代わりであり、
フランドールがこの学園都市で暮らしていけるのは、全てレミリアのおかげなのだ。


何から何まで世話になっている姉に対し、何の感謝の念も抱かないなどという恩知らずな性格はしていない。
彼女自身は自覚していないが、心の何処かで姉に対し羨望のようなものをもっている。
その想いが、幼いながらも彼女に自責の念のようなものを抱かせたのだろう。



フラン「うぅ〜……」



顔を俯き、時々低い唸り声を上げながら街の中をフランドールは歩く。
端から見れば少々不審に見える姿であったが、そんな彼女の様子を気にかける者はいなかった。
しかしそのおかげで、彼女は『姉への釈明』についての思考に集中することが出来たのだが。

238 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:20:58.72 ID:KRW/N0gR0

フラン(早くお姉さまに謝らないと何言われるか……でも、今戻るのは気が引けるし……)



今すぐ家に帰り、姉に対して謝罪するのか。
それとも、ほとぼりが冷めるまで待つのか。


彼女の思考はこの二つの選択肢の内、どちらを選ぶのかで判断をしかねていた。
普通に考えれば直ちに姉の元へ参じ、自身の非礼をわびるのが最良だろう。
己の失敗の後始末を先延ばしにすれば、手痛いしっぺ返しを食うのが当たり前である。


しかし再三言うように、幼子のフランドールにそのような大人びた判断が出来るはずもない。
仮に頭の中では理解していたとしても、『姉に対する恐怖』が行動を躊躇させてしまうだろう。
従って彼女に出来ることは、後ろめたさを感じながらも街中を徘徊することしかなかった。

239 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:21:34.31 ID:KRW/N0gR0

フラン(もう少ししたら、戻ろうかな……でも……)



戻らなければならないと心の底で理解しつつも、覚悟ができずに踏みとどまる。
そんなことを繰り返して、どれだけの時間が経ったのだろうか。
時計も携帯電話も持たない今の彼女に、それを知る術はない。



フラン「……あ」



それからさらに、いくらかの時間が経った頃。
ふと無意識に顔を上げると、空が夕日に紅く染まっている光景が目の前に広がっていた。


見渡す限り立ち並ぶ高層ビル群の彼方に、輝きが鈍った太陽がぷかりと浮かんでいる。
ビルの隙間からこっそり街を覗き込んでいるように見え、
太陽がこの街から離れることを名残惜しんでいるように思えた。

240 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:22:20.55 ID:KRW/N0gR0

フラン「きれい……」



ぽつりと、そんな言葉をフランドールは漏らす。
毎日見ているはずの夕暮れだというのに、今この瞬間においては、
心深く染み入る『何か』をそれから感じ取ることができた。


こんな風に茫然と空を見つめたのは、果たしていつ以来のことだろうか。
普段は全く気に留めなかったが、いざこうしてみると改めて空の大きさを身に沁みて感じ取ることが出来る。
それと同時に、自身が持っている悩みが見る見るうちに縮こまり、まるでくだらないもののように思えた。


『今は昔と比べて、空が狭くなった』と人は言う。
確かに、天高く聳え立つビルにより、目に見えるものは減ったかもしれない。
しかし、それでも空は、地上が如何に変わろうとも変わらずそこに在り続けているのだ。

241 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:22:48.73 ID:KRW/N0gR0

フラン「……暗くなっちゃった」



結局フランドールは、太陽が完全に沈み行くまでそれを眺めていた。


足元を見ると、自身の影法師は既に無く、形のはっきりしない冥暗が映るのみ。
周囲では闇に沈む町を照らそうと、街灯の明かりがぽつぽつと付き始めている。


これより先は夜の時間。
昼間の活気に満ちたものとは違う、妖しい雰囲気が漂う『宵闇の街』が現出する。


そしてその世界において、フランドールの存在はあまりにも不釣り合いだ。
高校生や大学生といった、有る程度年を重ねた青年たちならまだしも、
年端もいかない小学生、しかも女の子が歩き回って良い場所ではない。
この街は、弱者に対してはそれほど優しくはないのだ。

242 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:23:32.78 ID:KRW/N0gR0

そのことについては、フランドール自身も理解していた。
夜の街がどれほど危険なのかは、学校の先生から再三聞かされている。
そして犯罪に巻き込まれた生徒達が、一体どのような末路を迎えたのかについても。
子供達の事を考え、詳しく内容が語られることはなかったが、『それ』がどれほど恐ろしいことなのかは知っていた。


そして今、自分は犠牲になった生徒達と同じ『一人で夜の街にいる』という状況下にある。
自身を守る『盾(大人たち)』はこの場に無い。言うなれば、今の自分は暗い森に迷い込んだ脆弱な兎である。
『腹を空かせた狼(犯罪者)』に狙われたら最後、抵抗も出来ずに餌食となるしかないだろう。


その事実に気づいたフランドールは、急に強烈な不安に駆られた。
先ほどまでは全く気にしていなかったというのに、自覚した途端に恐怖が首を擡げてきたのだ。
まるで、不意に獰猛な肉食獣と相対した時のような。突然の出来事に一瞬呆けるが、
状況を理解した時に改めて襲い来る『あの恐怖』と似ていた。

243 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:24:02.91 ID:KRW/N0gR0

フラン「早く、帰らないと――――」



誰かに聴かせると言うこともなく、ぽつりと言葉を漏らす。


その言葉が出た理由は、自身の中の不安を少しでも吐き出すため。
居るはずのない『誰か』と会話することで、平静を保とうとする無意識の行動である。
しかし、それは所詮付け焼き刃に過ぎない。心の中の不安は吐き出した以上に大きく膨れあがっていった。


やがてフランドールは、ゆっくりと自宅へ足を向け始める。
最早彼女の中には、姉に対する後ろめたさは微塵も残っていない。
『その程度のこと』など、自身に迫る危険に比べれば実に些細な問題である。
その代わりとにかくここから離れ、安全な場所へ行きたいという思いが強く支配していた。


彼女の足は迷いを見せることなく、帰路の道を進んでいく。だが――――

244 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:25:21.71 ID:KRW/N0gR0










「よう、お嬢ちゃん。 俺達とイイことしない?」










少し、行動に移すのが遅かったようだ。


思わず足を止め、声をする方を見やるとそこには。
下卑た笑いを浮かべた男達がこちらを見ていた。

245 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/08/24(月) 00:26:53.79 ID:KRW/N0gR0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ

246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/24(月) 00:31:07.99 ID:9A/IwvZyO
乙です
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/08/24(月) 23:38:49.63 ID:kCwhG4/o0
罪袋とどっちがマシだろうか
248 : [sage]:2015/08/25(火) 17:30:27.96 ID:4yFXt0p10
不っ吉な夜が〜迫って来たら〜♪(ネズミー音楽verVILLANS感)
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/04(金) 01:44:02.37 ID:w6VCVaNh0
同人誌みたいに
250 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/09/07(月) 00:15:05.06 ID:bBfa6yub0
休日だというのに筆が進まない。書き溜めがががg



これから投下を開始します
251 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:16:13.07 ID:bBfa6yub0





     *     *     *






252 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:16:43.36 ID:bBfa6yub0

「ちっ、暴れんじゃねぇよ!」

フラン「いやっ、離して!」



それから数分後。
フランドールは男たち3人に、半ば誘拐される形で人の気配がない路地裏へと連れ込まれた。


周囲には見上げるほどの高さの高層ビルが建ち並び、空を非常に狭く見せている。
その空には星が瞬き始めているが、月はその顔を覗かせていない。
それもそのはず、今宵は『新月』。月が空から姿を消す日である。
故に月明かりに照らされない路地裏はいつも以上に闇が深く、人の本能に原初の恐怖を訴えかける。



フラン「きゃっ!」ドサッ!



人の眼が届かない場所に辿り着くと、フランドールの腕を引っ張っていた男は彼女を乱暴に前に突き出す。
その勢いのままフランドールは前につんのめり、その膝と手を地面に突いた。
手の平が強く擦れ、僅かに血が滲み出す。服には土埃が付き、真紅の衣装の所々を灰色に彩った。

253 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:17:31.11 ID:bBfa6yub0

男1「さて、と。 どうする?」

男2「どうするってお前、そんなもん決まってるだろ」

男1「俺が聞いてるのはどんなシチュがいいかってことさ」

男2「シチュって言われてもな……いつも通りじゃダメなのかよ?」

男1「3人でマワして終わりじゃ飽きるだろ? 偶には変わったことしないとな」

男2「まぁ……お前がそう言うなら別にいいけどさ」



フランドールをそっちのけで楽しげに会話を進める男たち。
会話の内容はほとんどわからなかったが、自分に『何か』をしようと相談していると言うこと、
そしてそれは碌でもないことであるというだけは理解できた。

254 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:18:47.43 ID:bBfa6yub0

フラン(どうにかして逃げないと……!)



フランドールは逃げる算段を立てるが、現状では難しいと言わざるを得ない。


人がいる大通りからはそれほど離れてはいない。
全力で走れば、比較的簡単にたどり着くことができるだろう。
しかし、男3人を振り切ってとなるとその難度は跳ね上がる。
未熟な小学生のフランドールの足では、男達の足からは逃げられない。


加えて用心深いことに、男たちはフランドールの逃げようとした時に対処出来るように策を立てていた。
ガタイの良い男2人が正面と背後に1人ずつ。彼女を挟むようにして仁王立ちしている。
彼らの脇をくぐり抜けるのは至難の技だろう。


そして残った1人は、フランドールにほぼ密着するにまで近づいており、ほとんど彼女を真下に見下ろす形になっている。
ここまで近づかれては、少しでも不審な動きをした時点で容易く取り押さえられてしまう。


それは正に二重の檻。
この手慣れた手口を見るに、おそらく男たちは過去に同じ手段を使って、
数多くの女性たちを毒牙にかけてきたのだろう。

255 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:20:15.57 ID:bBfa6yub0

男1「一斉にぶち込むか、両手に茎にするか……お前はどっちがいい?」

男2「好きにしろよ。 俺は別にヤれればそれで良いし」

男1「なんだよ、つまんねぇな。 こんなカワイイ娘とヤれる機会なんて滅多にねぇんだぞ?」

男2「別に俺はロリコンじゃねーし。 むしろ熟女派だし」

男1「いままで散々JC相手にしてきたくせに、何を今更言い逃れしてるんだよ」

男3「良いからさっさとしろよ〜。 こちとらこの日のために1週間も溜めて来てるんだからさぁ〜」

男2「うるせーよ、この性欲魔人」

男1「あ〜、もうその時その時で考えるか」

男2「仕込みは任せたぜ」



一通りの相談が終わると、フランドールの目の前に立っていた男が再び彼女に向き直る。
彼の眼は完全に獲物の品定めをする獣のそれであり、他の2人も同様である。

256 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:21:33.53 ID:bBfa6yub0

男1「さて、痛い目に会いたくなかったら脱ぎな。 脱がねぇなら俺が脱がせてやる」

男1「ま、そうなったらそのきれ〜な服は使い物にならなくなるけどな」

フラン「……」

男1「……おい、聞いてるのか?」



フランドールは俯いたまま、沈黙を貫いている。
恐怖で足が竦んでいるのか、それとも男達に対する精一杯の抵抗か。
顔が見えないこの状況では、そのどちらとも取れなかった。



男1(へっ、健気でやんの。 俺としては無理矢理の方が好みだけどな)



しかしその行動は、男の劣情を更に刺激させる結果にしかならなかったようだ。
彼は内心舌なめずりしつつ、フランドールに手を伸ばす。

257 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:29:42.57 ID:bBfa6yub0

どこから先に手を付けようか?
上着を無理矢理破き、幼い乳房を弄り回してみようか?


下着を脱がせて、そのまま本番に突入するのも良いかもしれない。
その場合は少女が泣き叫ぶ事になるだろうが、この場所なら多少声が大きくなろうとも誰かの耳に届くことはないだろう。
つまりは、『全ての事が終わるまで』自分たちを邪魔する者はいないということだ。



男1「さぁて、先ずは――――」










ブンッ! ドガッ!

258 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:30:16.15 ID:bBfa6yub0

突如、その言葉を遮るように周囲に何かがぶつかる鈍い音が響く。
周りで待機していた他の男達は反応することが出来ず、ただ呆然とその音がした方を注視した。
視線の先にはフランドールと男が相も変わらず立っている。
少女は俯いたまま顔は見せず、男はその少女に手を伸ばしたままだ。


ただ、一つだけ変化があった。フランドールの右足が、思いっきり振り上げられているという変化が。
そしてその足の先は、男の秘部へと深く突き刺さっていた。



男1「――――」ドサッ!



急所を蹴り上げられた男は、無言のまま前のめりになりながらその場に崩れ落ちる。
手の平を突いて受け身を取ることもなく、豪快に倒れ伏した。

259 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:31:33.01 ID:bBfa6yub0

男2「おい――――」

フラン「――――!!!」



そんな仲間の姿を見た男の1人が、慌てて声をかけようとする。
想定外且つ衝撃的な光景を前に、彼の頭の中から少女の存在が完全に消し飛んだ。


その瞬間をフランドールは見逃さない。
極限の状況で思いついた、咄嗟の打開策。そして、それにより生み出された光明。
これを逃せば、この先自分を待ち受けているものは破滅だけである。
彼女は弾けるようにして、この場から逃走を開始した。しかし――――



男3「おぉっと! 逃がさないよ〜ん」

フラン「っ!?」

260 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:32:03.82 ID:bBfa6yub0

それよりも先に、もう一人の男がフランドールの腕を掴み取る。
まるで彼女がどんな行動を取るのか、予め判っていたかのような素早い動きだ。
唯一の脱出の機会を潰された彼女は、驚愕と恐怖で全身が硬直した。



男3「ん〜? なんだか随分と驚いてるみたいだけど、そんなに意外だった?」

男3「君は俺達を不意打ち驚かせてる隙に逃げるつもりだったみたいだけど、残念だったね〜お見通しなんだよね」

フラン「……っ」



男は口角を釣り上げ、ニタニタしながらフランドールを見下ろしている。


随分と軽い言動を繰り返していて、仲間の内からも残念な印象持たれていた様子から3人の中で一番警戒していなかったが、
その予想に反して、どうやらこの男がで一番厄介な存在だったようだ。

261 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:33:53.71 ID:bBfa6yub0

男3「にしても、あいつも馬鹿だな〜。 不用意に近づけば、手痛い反撃を食らうのは判りきったことなのにさ」

男3「『窮鼠猫を噛む』って諺知ってる? 獲物を追い詰めた時は、今まで以上に警戒しなきゃならないんだよね〜」

男3「ほんと、この言葉を造った昔の人達には頭が下がるよね〜」



男は蘊蓄を長々と垂れているが、フランドールにとっては至極どうでも良いことである。
この場から逃げ出す千載一遇の機会を逃した――――その事実だけが、彼女の心に暗澹たる影を齎していた。


これから自分はどうなってしまうのか。
きっと、自身の予想以上に酷い目に会わされるに違いない。
何故なら、男達に反抗してしまったのだから――――


最早フランドールに抵抗する意志は無く、自身が行ったことに対して後悔し、これから降りかかる悲劇に恐怖するのみ。
そんな彼女の心境を知ってか、男は彼女の腕をしっかりと捉えつつも気の抜けた声で仲間に呼びかけた。

262 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:38:50.28 ID:bBfa6yub0

男3「お〜い。 そっちは大丈夫か〜?」

男1「」ピクピク

男2「駄目だな、完全にイッちまってやがる。 こりゃ暫らく目ぇ覚まさねーぞ」

男3「あらら、残念。 で、どうする? 俺達2人で楽しんじゃう〜?」

男2「それもそうだな。 こいつには悪いが、起きるまで待ってると流石に誰か来るかもしれねーしな」

男2「それに――――」



ガッ!



フラン「あぐっ!」

男2「ダチに手を出したツケは、さっさと払ってもらわないとなぁっ!」

263 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:40:22.50 ID:bBfa6yub0

男は拳を握りしめ、フランドールを思いっきり殴りつける。
そして尻餅就いた彼女を、今度はそのまま勢いよく足蹴にし始めた。


彼の顔に浮かぶのは怒り、そして愉悦。
前者は仲間を傷つけられたことに対しての、後者はそれを行った者に報復できていることに対してのものだ。


仲間を傷つけられたことは、彼等の完全な自業自得である。
しかし、暴力をふるう彼にとっては自身に行いの善悪などどうでも良く、
『自分達に刃向かった』という事実のみが彼等の感情を扇動し、激高させる理由となっていた。



男2「オラァ! さっきまでの威勢はどうしたよ、オイ!?」

男3「ヒュウッ! 激しくやるね〜」

男2「自分の立場は徹底的に教え込まないとな。 どうだ、お前もやるか?」

男3「流石にリンチしたら死んじゃうでしょ」

男2「この程度じゃ死にゃしねーよ。 ま、骨の一本ぐらいは折れるかもしれねーけどな」ガシッ!

フラン「っ! ぅうっ!」

264 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:42:21.22 ID:bBfa6yub0

男がそんなことを呟くのを耳の端に聴きながら、フランドールはただひたすら痛みに耐える。


名も知らぬ男から向けられる、一方的な『敵意』と『暴力』。
それは彼女が今まで生きてきた中で初めて自身に向けられたものであり、故に彼女を心の底から恐れさせた。
親に叱られた時とも、姉を怒らせた時とも違うその『恐怖』は、幼子の精神を劇毒のように蝕んでいく。


親であれば、きちんと反省すれば許してくれた。姉であれば、素直に謝罪すれば怒りを収めてくれた。
しかしこの男には、反省も謝罪も全く意味を成さないだろう。
それをした所で、この暴力は収まらないことを彼女は直感的に理解していた。


暴力を一方的に受け続けるしかないという『絶望』。
そして、この状況を生み出してしまったことに対する『後悔』。
彼女の心の内にあるのは、この二つの感情のみ。

265 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:44:10.00 ID:bBfa6yub0

ガッ! ガシッ!



フラン「ぁ! ぐっ!」



暴力の嵐は収まらない。
男の蹴りは少女の絹肌に数多の傷を刻み、蹂躙し続ける。
既にフランドールの姿は、服の汚れと体の傷で眼にも当てられない。
痛みに次ぐ痛みで意識は朦朧とし、まともな思考も出来なくなっていていた。


――――正常な判断力を失った脳は、本能に従う。
身体に絶え間なく加えられる苦痛。そして、極限にまで追いやられた精神状態。
それらの要素は、彼女に『死』の気配を感じさせるには十分なものだ。



フラン(――――嫌だ)



そしてその『死』は、フランドールの『生への欲求』を煽り立てる。
それは生物であれば誰しもが持つ、至極当たり前のもの。


しかし子供の場合、その欲求は大人のそれよりも貪欲だ。
『生への欲求』は『死への恐怖』を瞬く間に押し流し、彼女を『逃避』へと走らせる。
そこに理屈も打算もない。それが可能かどうかは別であり、『ただ本能のままに行動する』だけだ。

266 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:44:41.52 ID:bBfa6yub0









死にたくない










267 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:45:12.02 ID:bBfa6yub0










死にたくない死にたくない死にたくない










268 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga !red_res]:2015/09/07(月) 00:46:42.48 ID:bBfa6yub0










死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない










269 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga !red_res]:2015/09/07(月) 00:47:46.68 ID:bBfa6yub0










フラン(死にたくないっ!)










ビシィッ!!!

270 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/07(月) 00:48:45.16 ID:bBfa6yub0
中途半端ですが、今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 00:53:00.54 ID:eg3Q/xSVO
乙です
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 12:32:11.12 ID:8FPE1tuA0
幼女にはちょいとキツめのイヤボーンでしたか
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 19:27:08.55 ID:rVnmnFLb0
東方新作では世界観を崩壊させそうな奴が複数
禁書新巻には作中最強を更新するキャラが複数

このインフレ被りはただの偶然‥だと信じたい
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/10(木) 23:07:08.76 ID:+AS4iuvI0
マジかよスキルアウト(と、思われる不良)最低だな
275 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/09/14(月) 00:51:30.98 ID:jW3WNHzu0
>>272
命の危機に能力が覚醒する展開。形は違えどよくある話
仕方ないじゃない、使いやすいんだもの

>>273
オティヌスの世界破壊に比べれば惑星を投げるなんて大したことじゃないからへーきへーき
というか、このままだと強さの順が『ヘカT<オティ』になってしまう不具合。仮にも神なのに……
僧正みたいに魔神しちゃう案もあるけど、間違いなく上里に追放されて過去の人になってる可能性が……

>>274
幼女に暴行する奴はギルティですね
276 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 00:52:30.25 ID:jW3WNHzu0

男2「――――んあ?」



周囲に聞き慣れない、とても大きな音が響く。固いものが割れた時のような乾いた音だ。
本来なら聞こえるはずのないもの。しかしそれは、幻聴と片付けるには余りにも大きすぎた。



男2(まさか、誰かいるのか?)



一つの可能性を考慮した男は、その音の出所を探るべく周囲を見渡す。
この路地はただの一本道。視界は開けており、陰に隠れられそうな大きな物は置かれていない。
誰かがいれば、直ぐに眼に付くはずである。

277 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 00:53:42.98 ID:jW3WNHzu0

男2(――――!?)



しかし男が視界に納めたものは『人間』ではなく、『それ以上に恐ろしいもの』であった。


それは『亀裂』。
周囲に立ち並ぶビルの壁に、蜘蛛の巣のように黒い紋様がビッシリと描かれているではないか。
しかも、その亀裂は一刻一刻と広がりを見せている。まるで壁を蝕むかのように。


一体何故、急にこのような現象が起こったのか?ただの老朽化として片付けるには余りにも異質すぎる。
男は亀裂の原因を探るべく、罅の後を眼で追いかける。
すると、その先にあったのは、自分が足蹴にしていた少女の姿。
蹲る彼女が手を突いている地面からだった。



男2「まさか、お前が――――!?」

男3「ちょっと、速く逃げないと不味いんじゃないのコレ!?」

278 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 00:54:13.06 ID:jW3WNHzu0

ビシッ! ビシシィッ!



騒ぐ男達を尻目に、亀裂は更なる音を立てて広がりを見せた。
罅の隙間から粉が吹き始め、小さな破片が飛び散り始めている。


ビルが倒壊するのは時間の問題。冷静に考える余裕すらないだろう。
もはや少女の存在など、彼等の頭の中から完全に頭から抜け落ちていた。



男2「う、うおぉぉぉぉぉ!!!」

男3「おい、置いてくなよ! って、こいつ重……!」



命の危険を感じた男達は、倒れた仲間を担ぎ上げて脱兎の如くこの場から逃げ出した。

279 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 00:56:12.15 ID:jW3WNHzu0





     *     *     *





280 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 00:57:18.15 ID:jW3WNHzu0

フラン「――――」



ビルの亀裂が広がる中、その場に一人残されたフランドールは力なく立ち上がる。


既にビルの倒壊は秒読み段階。画礫が何時降り注いでもおかしくはない。
今の彼女は、正しく命の危機に瀕していた。


ビルの倒壊に巻き込まれて生きていられる人間など、学園都市の中でもごく一部に限られる。
多少の崩落であれば、落下する画礫を『念動力』であれば制止させ、
『発火能力』であれば灰燼と化し、『発電能力』や『空力使い』であれば磁力や風で弾き飛ばせただろう。
しかし、総重量数万トンにも及ぶ大量の画礫全てとなると、一介の超能力者では不可能だ。

281 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 00:58:28.46 ID:jW3WNHzu0

バキィッ!



今までよりも一際大きい音が鳴ったと思うと、上空から人の頭部ほどの大きさを持つコンクリートの塊が、
フランドール目掛けて真っ直ぐに落下してきた。


コンクリートはとても重い物質だ。例え小振りなものであったとしても、
それなりの高さから落下すれば容易に人を殺せる凶器となる。
ましてや、今落下してくるものは少なくとも十数キロはあるであろう代物。
それが10メートル以上の上空から落下してきているのだ。
もしもそれが直撃でもすれば、少女の頭はトマトが鉄球に押しつぶされるかのように粉砕され、
辺り一面は『少女の頭だったもの』で紅く塗りつぶされる事になるだろう。


しかし、自身がそのような危機的状況にあることを自覚していないのか、
フランドールは相変わらず顔を下に向けたままだ。
前髪に隠されているために、その表情の全てを窺い知ることは出来なかったが、
少なくとも良い表情は浮かべていないと言い切れた。


灰色の石塊が迫る。
無垢な少女の頭蓋を、その頑強なる身で圧砕するために。
既にその結末は目の前。最早フランドールにはそれを回避することは出来ない。


そして、灰色の凶器がその頭に触れ――――

282 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 01:01:25.20 ID:jW3WNHzu0










バシュンッ!



気の抜けるような音と共に、石塊は文字通り『粉砕』された。










283 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 01:02:39.77 ID:jW3WNHzu0

フランドールの頭にかつて石塊だったものが、粉塵となって降り注ぐ。
それをまともに被った彼女の髪は、金色からくすんだ灰色へと変わっていった。
しかし彼女にそれを気にするような様子は見られず、そのままふらふらと歩き始める。


建物が限界に近づいてきたのか、次々と大小様々な石塊が降り注ぐ。
しかし、その何れもフランドールの体を傷つけることは叶わない。
触れた傍から砕かれ、粉となって散っていく。


この現象の原因は、彼女が身につけた能力にある。
本人は未だ気づいていない、学園都市の技術により植え付けられた異能の力。
その力の効果は『触れたもの全てを分解する』というもの。
聞くだけにも末恐ろしい能力を、フランドールはこの状況において開花させたのだ。
しかし、本人としてはその力を自分の意志で扱っているわけではない。
それは言ってしまえば、防衛本能に過ぎないものだ。


自身に宿っていると聞かされていた超能力。
それを極限状態の中で無意識に理解した。それだけのことに過ぎない。



ゴゴゴゴゴ…………!



廃ビルが本格的に崩壊を始める。
人の手で生み出され、そして人から捨てられたその歴史に幕を閉じる。
その崩落の最中、フランドールはその場から忽然と姿を消した。

284 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/14(月) 01:05:10.70 ID:jW3WNHzu0
短いですが今日はここまで。
質問・感想があればどうぞ
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/14(月) 01:07:56.64 ID:KREGdvJfO
乙です
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/14(月) 04:30:35.17 ID:IqIIBnOJ0
乙!
女子の憧れシンデレラ。だが王子が居なければ灰も被り損だろう
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/16(水) 02:00:33.03 ID:FmVdqXHZ0
二度三度と襲われなくて良かったね
288 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/09/28(月) 00:03:42.72 ID:q27/xudW0
これから投下を開始します
289 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/09/28(月) 00:04:38.93 ID:q27/xudW0





     *     *     *





290 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:05:15.46 ID:q27/xudW0

フラン「……」



家に帰宅してそれなりの時間が経った頃。
フランドールは未だに自身のベッドの上で蹲っていた。
初めの頃と姿勢が全く変わっておらず、まるで一つの石像のようである。



フラン「……っ」ギュッ



唐突に、彼女は自信の服を強く握りしめる。まるで、何かに耐えるように。


その理由は、彼女は再び恐怖していたからだ。
この街の薄暗がりの中、心ない男達に暴力をふるわれたことに対して。

291 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:05:49.23 ID:q27/xudW0

あの災難から逃れ、家に帰り着くまでの間はその恐怖をすっかりと忘れていた。
その代わり道中の記憶は全く無く、言ってしまえば放心状態で帰巣本能に従いながら歩いていたことになる。
そして我が家に辿り着き、玄関先にいた姉を見て我に返り、
逃げるようにして自身の部屋に閉じこもったその時、再度その恐怖を思い出したのである。



フラン(どうして、こんな事になっちゃったんだろ……)

フラン(先生の言うことを聞かなかったから? お姉さまから逃げ出したから?)

フラン(それとも……)



自身が巻き込まれた不幸。その原因を、彼女は自問自答する。
人は自信に降りかかる災難に、何かしらの理由を求めようとするが、それはある種の危機回避によるもの。
災難の原因を理解すれば、それを解決し、災難を回避することが出来るから。


それでは、フランドールが今回の災難を回避するためには、一体何が必要だったのか?

292 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:06:19.19 ID:q27/xudW0





先生達の話を素直に聞き、超能力開発の授業を受ければ――――


姉の追及から逃げ出さず、彼女の説得を聞き入れれば――――


変に意地を張らずに、直ぐに頭を冷やして家に帰れば――――


姉から出来るだけ離れようと、街まで遠出などしなければ――――


男達に眼を付けられた時、形振り構わず逃げ出せば――――





293 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:07:16.23 ID:q27/xudW0

思い返してみれば、災難を回避するチャンスはいくらでもあった。
最適な選択肢を選んでいれば、あのような暴力を受けずに済んだのだ。
今回の不幸の全ては、自身の身勝手な行いが招いた結果である。


しかし、フランドールはどうしても己の罪を素直に受け入れることが出来なかった。
頭では判っている。しかし、感情がそれを拒んでいるのである。
己の罪を認めることは、精神的な苦痛を伴う。それは自尊心を自ら傷つける行為だからだ。
さらにそこから自身の行いを正すとなれば、それなりの覚悟が必要となる。
大の大人でも難しいというのに、身も心も未成熟な彼女がそれ出来る理由など無い。


そして己の罪を認めることを拒否した彼女は様々な思考の末、ある一つの結論に至った。

294 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:08:08.18 ID:q27/xudW0

フラン(もしも、あの力が使えたら……)



自身が持つ、ビルをも容易く崩壊させる力。
もしもその力をあの場で使えたなら、あのような輩を恐れることなど無かった。
それどころか、逆に彼等を後悔させることも出来たはずである。その圧倒的な力で。


教師達の懇願や、姉の小言という厄介事を持ち込んできた超能力。
しかし今の彼女にとっては、自身にのし掛かる一切合切の問題を解決してくれる一条の光に思えた。



フラン「……ぁは、ははは」



口を大きく歪ませながら、フランドールは嗤う。
一体何故自分はこんなにも悩んでいたのか。答えなど、直ぐ目の前にあったではないか。
この結論に早く至れなかった自分がとても馬鹿馬鹿しく、また滑稽に思えた。


先ほどまでの陰鬱な雰囲気は霧散し、代わって満ちあふれる活気があたりを包む。
自信を悩ませていた荷が下ろされたのだ。喜ばないわけがない。
今まで悩んできた分、それを解した時の爽快感は格別。彼女の心中は実に晴れやかであった。

295 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:08:54.86 ID:q27/xudW0

フラン(そうよ。 この力があれば、もう何も恐く無い。 みんなみんな、『これ』でぶっ飛ばしちゃえばいい)

フラン(まだ自分でもこの力はよくわかってないけど、それはこれから知っていけばいいし)

フラン(先生達なら、喜んで教えてくれるだろうしね)

フラン(お姉さまの言うとおりなっちゃったのは、ちょっと癪だけど……)



フランドールは、心の中でそう溜息を付く。
姉に対して強く反発してしまった手前、その姉の言うとおりに行動するのは気が引ける。
だがそれは、自身の目的の達成――――超能力の制御を学ぶためであれば些細な問題だろう。


大きな力というものは、持っているだけでも抑止としての力が働く。
それをちらつかせるだけでも相手を萎縮させ、更には自信の言いなりにしてしまうことも可能だ。
上手く扱えるようになれば、大半の粗暴な輩はその場で追い返すことが出来るようになるだろう。

296 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:09:58.88 ID:q27/xudW0

そして何より、超能力を持つということは周りから羨まれる存在になるということでもある。
フランドールの同学年には、未だ超能力を発現してない人が多い。
発現していても、その大半はレベル2以下。レベル3に至っては片手で数えられる程度である。


しかし、彼女の超能力は破格のレベル4。言ってしまえば学校の頂点に上り詰めたのだ。
今はまだ学校の皆には知られていないが、彼女が学校側の提案を受け入れた時点でそのことが公になるのは必至。
その時、クラスの皆は一体どんな反応を示すのだろうか。
驚愕か、それとも羨望か。今から楽しみで堪らない。


とにかく、そうと決まれば直ぐ行動。行動の速さは彼女の取り柄である。
しかし粋がってはみたものの、時計を見ると時刻は既に夜中の11時だった。かなりの時間考え込んでいたらしい。
この時間帯では、流石に姉も寝静まっているだろう。起こせば何を言われるかわからないし、行動は明日に回すしかないだろう。


フランドールは再び思考を巡らせながら、ぼろぼろになった衣服を着替えるのだった。

297 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:11:58.82 ID:q27/xudW0





フランドールは己の力を自覚し、それを自分の誇りとした。
自身の存在を更に価値のあるものに昇華せしめる一要素と考えたのだ。


それは何も、彼女のみが考えるような特別な思考というではない。
超能力は一人に一つ。一見同じような能力でも、その中で得手不得手が必ず存在する。
言ってしまえば超能力とは、『その人だけが持つ唯一無二の力』なのである。


故に、その力を自身の利点として捉えることは当然のこと。
彼女のような幼子ともなれば、その力に舞い上がってしまうのは自然な反応だろう。


しかし注意しなければならないのは、『矜持』と『慢心』は非常に似たものであるということだ。


自身の利点を誇りに思うことは、決して悪いことではない。
自分に自信を持つことは本人の精神を安定させる上で必要なことである。
しかしそれが行きすぎて、待たざる者を卑下するようなことはしてはならないのだ。
大きな力には常に責任が伴う。その責任を自覚出来て初めて、漸く一人前と言える。


しかし、年若いフランドールがそのことに気づけるはずもなく。
それが後に、更なる悲劇を招くことになる。





298 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/09/28(月) 00:12:25.34 ID:q27/xudW0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/28(月) 00:32:34.16 ID:FdkMWr+IO
乙です
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/28(月) 06:25:12.35 ID:g8Bi33NL0

壊すだけの力ってのは難儀だよねぇ
301 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/10/13(火) 00:04:48.95 ID:St3u5X900
これから投下を開始します
302 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:05:33.87 ID:St3u5X900





     *     *     *





303 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:06:50.62 ID:St3u5X900

あの事件の後に、彼女の身の回りで起こった出来事を簡潔に纏めると以下のようになる。


始めに事件の翌日の朝。
超能力に目覚め、それをものにしようと決心したフランドールは、
姉に対して開口一番に個人授業を受けることを承諾する旨を伝えた。


前日から180度ひっくり返った妹の態度は、レミリアに相当な衝撃を与え、
妹に昨日何があったのかを聞きそびれてさせてしまうほどであった。
フォークに刺したハムエッグを口に含んだまま固まってしまった姉を尻目に、フランドールはそそくさと食事を済ませ、
テキパキと準備をした後に悠々と学校へと向かうのだった。


学校に着いてから彼女は、教室に足を運ぶことなく真っ先に職員室に向かい、
大きな欠伸をしながら朝礼の準備をしていた担任に対して、姉と同様に個人授業の件を説明した。
突然のことに驚いた担任ではあったが、その驚きはたちまち喜びへ早変わり。
そしてその情報は直ぐさま他の教師達へ伝播し、その結果朝礼は中止となる事態になった。


『学校の威信に関わることなのだから、代わり映えのしない朝礼など後回しにするべき』ということなのだろう。
フランドールの超能力を正式に申請するため、教師達は先ほどの倦怠な雰囲気は何処へやら、
生き生きとした表情で忙しなく職員室内を動き回り始めるのだった。

304 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:08:22.99 ID:St3u5X900

その後職員室に騒動を起こしたフランドールは、その日の授業に参加することはなかった。
何故なら能力開発に関わる色々な手続きのため、一仕事しなればならなくなったからである。
教師の手助けがあるとはいえ、分厚い書類の中身に余さず眼を通す作業は苦行そのものであったが、
これも仕方のないことだと自身に無理矢理納得させ、少々汚い字でサインを記していった。


さらにその翌日。
筋肉痛になった指を揉みながら登校した彼女を待ち受けていたのは、同級生からの熱烈な歓迎であった。
良く見知った友達――――特に女子からもみくちゃにされながら理由を聞いてみると、
どうやらフランドールが能力者なったという情報が何処かから漏れていたらしく、
さらには昨日の昼頃には既にクラス全員に知れ渡っていたようである。
大勢の目の前に立って挨拶でもしなければならないのかと気に病んでいた当人にとっては、何とも拍子抜けな話であった。


そしてホームルームの時に改めて超能力を得たことを皆に伝えると、
またもや前日のように授業に参加することなく、担任により別室に連れられ、
今度は自身が受ける個人授業についての計画の説明を受けた。

305 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:09:25.35 ID:St3u5X900

説明によると、個人授業を行う時間帯は大きく2種類に分けられるらしい。
1つは能力開発の授業時。他の皆とは別々に、彼女専用に用意されるもの。
そしてもう1つは放課後。皆が帰った後に追加で授業を受けるというもの。
これは一時限あたり50分程度で済ませ、それを毎日行う予定らしい。
フランドールはこの二つの授業を毎日受けることになったのである。


何故そのような時間の割り振りになったのか。
それは能力開発の授業時間を利用するだけでは、圧倒的に時間が足りないからだそうだ。
超能力者になったからと言って、フランドールは未だ学生の身である。
能力開発ばかりにかまけて、本業を疎かにするようなことはあってはならない。


しかし時は既に7月半ば。言うまでもなく、学校側の授業スケジュールは既に確定している状況である。
このスケジュールには、フランドールのような高レベルの能力者を育てる授業を挟み込む余地など無かった。
とはいえ、何も手を打たずに彼女の能力をこのまま腐らせるのは論外である。
そこで教師達は苦肉の策として、放課後に授業を設けたのだった。


特に部活に入っていないフランドールとしては、時間の都合という意味での問題は無いが、
休息の時間を削られ、尚かつ更に宿題を課せられるとなると、やはりいい気はしないものだ。
しかしこれも、能力を上手く扱うためには必要なこと。
彼女は心にそう言い聞かせ、一人孤独な授業に望むのだった。

306 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:10:34.78 ID:St3u5X900





1ヵ月後――――





307 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:14:01.21 ID:St3u5X900

教師「――――このように、世界にある全ての物質は、『原子』と呼ばれるとても小さな粒が集まって出来ています」

フラン「……」カリカリ



それから1ヶ月余り過ぎた頃。
フランドールの個人授業は滞りない進展を見せ、現在は自身の能力について勉学に励んでいた。


今彼女が行っているのは、個人授業のカリキュラムの一つである『座学』。
己が持つ超能力。それに密接に関係する科学理論について詳しく理解するためのものだ。
その理解を深めることにより、超能力の出力や安定性を向上することが出来る。


ただの科学理論で超能力を理解できるのか。超常的な力を把握できるのか、疑問を持つ者もいるだろう。
確かに、超能力は普通の物理法則では考えられないような、様々な現象を引き起こす。

308 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:15:23.29 ID:St3u5X900

何も無い所に電気や炎を生み出す。
三次元的な移動を無視して、物質を瞬時にワープさせる。
動力不明の力を用いて、物体を自在に動かす。
人の心を読み取り、また人に心を読ませる。



今挙げたのは、数ある超能力の内のほんの一部に過ぎない。
この他にも普通の常識では測りきれない能力はごまんとあるのだ。
しかし如何に不可思議なものであったとしても、『科学』の枠組みから逃れられることはない。
何故なら超能力は、『科学によって生み出されたもの』だからだ。
そして超能力が科学である以上、『必ず人間に理解されなければならない』。
科学とは神が生み出した『秩序(ルール)』を、人間が理解するために生み出した『道具(ツール)』なのだから。



教師「――――この原子同士を繋いでいる力には色々あり、その中で最も強いものが……」カッカッ

フラン「……」カリカリ



黒板に書かれた文字をノートに書き留める。この他にも、時折教師から出される問題に答えなければならない。

309 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:16:19.29 ID:St3u5X900

『個人』授業なので教室にいる生徒はフランドールだけであり、教師から出された問題は全て彼女対して向けられたものだ。
逃げ場のない状況で教師に質問攻めにされるなど、一部の学生達にとっては拷問のようなものだ。
しかし『自分に当たるかもしれない』という、授業特有の重圧を受けなくて済むという点では、
覚悟が出来てしまえば精神的には良いのかもしれないが。


教師「これにより物質の中に生じた歪みによって、原子同士の結合が断絶。結果として物質は切断されるわけです」カッカッ

フラン(っ!? 間違った。 消しゴム消しゴム……)

フラン(あぁ、また離されちゃった。 早くしないと消されちゃう……)



教師の板書がとても早く、それを追いかけることに少々苦労しているようだ。だが、それについては諦めるしかない。
この個人授業は、元々その年の学校側の教育スケジュールに中には存在しなかったもの。
ただでさえ余裕のない計画を再度切り詰め、それで出来た空き時間に無理矢理ねじ込んだのである。
授業のスピードが足早になってしまうのは仕方のないことであった。

310 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:17:18.01 ID:St3u5X900

教師「……さて、フランドールさん。 ここで問題です」

フラン「! はいっ!」

教師「先ほども言ったように、原子を繋ぐ結合は様々あります」

教師「その中でも『共有結合』、『配位結合』、『イオン結合』、『金属結合』の4種類には、その結合の仕方に共通点があります」

教師「さて、その共通点とは何でしょうか?」

フラン「えーっと……」



フランドールは机の上に広げられた教科書とノートのページを捲り、質問の答えを探す。


彼女が用いている教科書は、学園都市外では主に高校生が勉学に使用するものである。
本来であれば、この教科書に書かれている内容は彼女が学ぶ学問のレベルを完全に逸脱している。
しかしこの場所は、外よりも2、30年は進んでいる科学技術を持つ街。
外では難解な科学理論も、この街の住人にとっては常識中の常識だ。
更には学園都市が発見し、外には秘匿になっているような新理論により、
外の常識がここでは別物に塗り変わってしまっている場合すらある。


従って、明らかに身分不相応の高度な内容を扱った教科書を用いていたとしても、
この街の住人にとっては至極当たり前のことなのである。

311 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:18:56.16 ID:St3u5X900

フラン「えーっと、『電子』……?」

教師「正解です。 では『電子』がどのように関わっているのかまで答えられますか?」

フラン「えっと、『互いの原子が電子を渡し合うことで、結合が形成される』……」

教師「その通りです。 きちんと予習してきているようですね」

フラン「……」ホッ



無事に正答出来たことに、フランドールは安堵する。
使っている教科書は難解な文字が多く、読み解くだけでも精一杯だ。
事前に予習をしてこなければ、間違いなく授業についていけなかっただろう。
一方、教師はフランドールの答えを受けて、更に専門的な内容の話を展開し始めていた。
『量子論』だの『超弦理論』だの、フランドールにとっては1割も理解できない内容ではあったが。


このように、フランドールの授業は主に『物質はどのようにして成り立つのか』を中心に行われている。
特に、『原子同士を繋ぐ力』に関しては詳しく解説しており、その結合力の計算の仕方など、
明らかに大学レベルの知識まで教え込まれていた。

312 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:19:47.25 ID:St3u5X900

では何故、そのような知識を教えられているのか?
それはその知識が、『フランドールの超能力』に大きく関わっているからに他ならない。


彼女が持つ力の名は『物質崩壊』。
その力の概要を一言で言い表すとすれば、『触れただけであらゆる物を破壊する力』である。
原理としては、物質の中にある僅かな歪み――――例えば結晶同士の境界にある結合の欠陥――――を、
『念動力』により力をかけることで歪みを増大させ、破壊するというものである。


この世の全ての物資には、何処かしら脆い部分がある。
それは生物であっても例外ではなく、当然人間にも存在する欠陥だ。
非常に範囲が狭いかつ小さいものであり、人の眼には決して見えぬものであるが、
彼女の能力はその箇所に限定的に働きかけ、その結果『全ての物質を崩壊させる』のだ。


つまり、彼女の能力が物質を形ある物にするために不可欠な『結合』に影響するものである以上、
その『結合』の知識について徹底的に教育を施すことは確定事項であった。

313 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:20:37.49 ID:St3u5X900

教師「……おや? もうこんな時間ですね」

フラン(あ、いつの間にか時間過ぎてる)



ふと、教師が顔を向けた方向を同じようにつられて見てみると、時刻は既に授業時間を過ぎていた。
板書を書き写す事に忙しかったために、時間を気にする余裕など全くなかったが、
思い返せば長いようで短いような、そんな授業であった。



教師「もう少し進めたかったのですが、仕方ありません。 今日はここまでにしましょう」

教師「今日も宿題がありますので、予定表を見て必ず解いて来てくださいね」

フラン「先生、ありがとうございました」

314 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:21:14.13 ID:St3u5X900

フランドールが起立して一礼すると、教師は微笑みながら教室を後にする。
一人教室に残された彼女は、帰宅する準備をするべく机の上に広げられた書物を鞄の中に仕舞い始めた。


外からはグラウンドで練習している野球部の声が聞こえる。
その声は教室の中を僅かに木霊し、孤独感を一層煽り立てた。
もうこの学校には、フランドールのクラスメイトは一人も残っていないだろう。


彼女はまだ幼く、部活に入る年齢でもないため、学校に残る用事というものがないのだ。
何もせずに校内をうろうろしていれば、教師達に早く帰るように注意されることは目に見えているし、
第一そんなことをするよりだったら、友達と街を遊びに行く方が良いに決まっている。
故に、彼女が一人学校に取り残されるのは自然の成り行きである。



フラン(放課後に授業なんて当たり前だし、宿題の数も凄く多い)

フラン(みんな遊べる時間も殆どなくなっちゃったけど、まぁいっか)

フラン(これのおかげで、みんなに自慢できるんだからね)



しかしフランドールはそのことについて、それ程気にしてはいなかった。

315 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:24:04.93 ID:St3u5X900

確かに、放課後友達と一緒に遊べないのは辛い。
だがそれ以上に、日中に於いて周囲から注目の的になるのである。
学校でたった一人のレベル4。その事実は同級生達に羨望の情を抱かせるには十分な要素であり、
そしてそれを一挙に独占することも容易なものなのだ。



フラン「さて、と。 早く帰って、さっさと宿題終わらせよっと」



最後の教科書を鞄に詰め込み、しっかり鍵をかける。
片手にぶら下げると、中に入った書物による加重が腕に大きく掛かった。
日常の授業に使う本の重さと、個人授業に使う本の重さ。
それは、他の子供達では味わうことの出来ないものである。


彼女は片肩から感じる重みにちょっとした優越感を感じながら、彼女は教室を後にするのだった。

316 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/13(火) 00:25:12.04 ID:St3u5X900
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/13(火) 00:37:24.05 ID:hp7XgLUHO
乙です
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 09:57:59.93 ID:CZu76lz80
もっとのんびり生きたい
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/14(水) 20:36:52.98 ID:Sd9SpoTTo
ミテルヨー
320 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/10/26(月) 00:33:28.08 ID:CYcEgEI30
これから投下を開始します
321 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:34:19.07 ID:CYcEgEI30





――――PM 8:37





322 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:35:44.45 ID:CYcEgEI30

レミリア「フラン、ちょっとこっちに来てくれないかしら?」

フラン「んー? いいけど……」



その日の夜。
宿題を片付けていたフランドールは、前触れもなくレミリアに呼ばれた。


内容が全く知らされない急な呼び出し。
その時点で嫌な予感しかしないのだが、後の面倒を考えると拒否など出来るはずもない。
解きかけた宿題に後ろ髪を引かれつつ、渋々部屋へと向かう。


居間に入ると、そこには椅子に座ったまま考え事をしている姉の姿。
テレビは点いておらず、雑音の無い静かな空間の中で彼女は思案していた。
その表情は憤怒とも困惑ともつかない、何とも表現し難いものであり、本心を伺い知ることは出来ない。
そんな姉の様子に不安を感じながらも、フランドールは無言のまま姉の向かいの席に座った。

323 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:37:08.66 ID:CYcEgEI30

レミリア「……」

フラン「……」



沈黙が彼女達を支配する。
フランドールが座った後も、レミリアは一言も言葉を発しなかった。それどころか、身じろぎすらしない。
妹が目の前に座っていることは、とうの昔に気づいているだろうに。
直ぐに話を繰り出さないのは、話すことを迷っているのか、それとも……



レミリア「……………………フラン」

フラン「……何?」



数分ほどそうした後、漸くレミリアは重い口を開いた。
開かれた真紅の瞳は、静かに自身の妹を見据えている。
自身と同じ色の瞳。見慣れているはずのものなのに、何故かフランドールはそれに一抹の恐怖を覚えた。


その恐怖は一体どこから来るものなのか。普通に答えるならば、『姉に小言を言われる事』からなのだろう。
それだけとは言い切ることのできない、漠然とした『何か』があるように思えてならない。
ただ、その『何か』を理解することはできそうにない。

324 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:37:41.74 ID:CYcEgEI30

レミリア「貴方が能力に目覚めてから一ヶ月……調子はどうかしら?」

フラン「調子? ……そこそこかな」

レミリア「そう。 躓いたりしてない? 勉強が上手くいってないとか」

フラン「特に何も。 何も問題ないよ」

レミリア「……それは、よかったわ」



他愛のない会話を繰り広げる二人。しかし、そこには和気藹々とした様子など微塵も感じられない。
レミリアの声には抑揚が感じられず、フランドールに至っては警戒心が剥き出しだ。
お互いに腹の探り合いをしているようにも見え、とてもではないが居心地の良い雰囲気とは言えない。



フラン「……お姉さま」

レミリア「何かしら?」

フラン「言いたいことがあったら早く言ってよ。 私、まだ宿題が残ってるんだから」

レミリア「……」

325 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:40:55.61 ID:CYcEgEI30

フランドールはレミリアに対し抗議し、早く終わらせるように催促する。
宿題のこともあるが、それ以上にこの雰囲気の中にいることが耐えられなかった。
何せ、姉の考えが全く読めないのである。フランドールにしてみれば、時刻のわからない時限爆弾の前にいるようなものだった。



レミリア「……1ヶ月前」

フラン「……?」

レミリア「貴方が超能力に目覚めた晩のことだったかしら?」

レミリア「家を飛び出して、ぼろぼろになって帰ってきたことがあったわね?」

フラン「……それがどうかしたの? 喧嘩しただけだって言ったはずだけど?」

レミリア「聞いた話だと、その日と同じ日にビルの崩落事故があったらしいのよね」

レミリア「崩落の原因は不明。 爆発物を使った形跡もなく、捜査は難航しているようだけど……」

レミリア「噂に聞いた話だと、能力者の仕業らしいのよね」

フラン「……」

326 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:41:52.14 ID:CYcEgEI30

レミリアは淡々と言葉を紡ぐ。
それを前にフランドールは、ただ沈黙を貫いていた。


レミリアが言うビル崩落事故を引き起こした犯人。
それが自分自身であることを、フランドールは理解している。
当時は暴力を受けた後で意識が朦朧としていたために、いくつかの記憶が抜け落ちている。
だがあの時、自身の能力がビルに亀裂を走らせ、崩壊に追い込んだことは覚えていた。



レミリア「……」

フラン「……」

レミリア「……フラン、貴方に一つだけ言っておくことがあるわ」

フラン「何よ?」



幾許かの沈黙の後、再び姉は口を開く。先ほどと同じように、その言葉に抑揚はない。
だが明らかに違う点が一つだけある。彼女は何かを見透かすような眼差しを向けていた。


まさか、気づかれたのか――――そんな思考がフランドールの脳裏を過ぎる。
彼女が事件を起こしたという証拠はない。あったとしても、それをレミリアが知ることはできない。
姉はただの一般人。事件の捜査状況を一般人に情報を漏洩させる程、『警備員』の管理は杜撰ではないはずである。
よって、姉が持っている情報は人からの又聞きでしかない。


しかし、それを承知の上で疑いの目を向けているとするならば……
フランドールは姉の次の句に備えて身構える。


そして――――

327 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:42:43.60 ID:CYcEgEI30










レミリア「……力を過信すると、痛い目を見るわよ?」










328 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:43:45.83 ID:CYcEgEI30

フラン「……???」



その言葉の意味を、フランドールは直ぐに理解することができなかった。
それは自身の予想から外れた言葉であったために。
そして、『その言葉を口にした理由自体を解せなかった』ために。


てっきり、姉にビル崩落事件の犯人ではないかと問い詰められると思っていた。
それは今までの会話の流れを考えれば当然のこと。むしろ、それ以外の考えに至る方がおかしいと言える。
彼女は一瞬の思考の空白を経て、直ぐさま我に返り、頭の上に疑問符を付けながら再度姉に問うた。



フラン「どういうこと?」

レミリア「使い方を誤ると、碌でもないことになるってことよ」

レミリア「この言葉、良く肝に銘じておきなさい。 でないと……後悔することになるわ」

フラン「ちょっと――――」



ところが、レミリアは妹の疑問に答えることは無かった。
彼女は席を立ち、そそくさと自室へと戻ってしまったのである。
残されたフランドールは、氷解しない疑念を抱えたまま呆然と椅子に座り続けるのだった。

329 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:44:32.64 ID:CYcEgEI30
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 00:52:14.19 ID:BHhat95mO
乙です
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 21:48:22.74 ID:6KJTxciJ0
現実的な姉妹の仲なんてこんなもんだよな
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