とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4

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326 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:41:52.14 ID:CYcEgEI30

レミリアは淡々と言葉を紡ぐ。
それを前にフランドールは、ただ沈黙を貫いていた。


レミリアが言うビル崩落事故を引き起こした犯人。
それが自分自身であることを、フランドールは理解している。
当時は暴力を受けた後で意識が朦朧としていたために、いくつかの記憶が抜け落ちている。
だがあの時、自身の能力がビルに亀裂を走らせ、崩壊に追い込んだことは覚えていた。



レミリア「……」

フラン「……」

レミリア「……フラン、貴方に一つだけ言っておくことがあるわ」

フラン「何よ?」



幾許かの沈黙の後、再び姉は口を開く。先ほどと同じように、その言葉に抑揚はない。
だが明らかに違う点が一つだけある。彼女は何かを見透かすような眼差しを向けていた。


まさか、気づかれたのか――――そんな思考がフランドールの脳裏を過ぎる。
彼女が事件を起こしたという証拠はない。あったとしても、それをレミリアが知ることはできない。
姉はただの一般人。事件の捜査状況を一般人に情報を漏洩させる程、『警備員』の管理は杜撰ではないはずである。
よって、姉が持っている情報は人からの又聞きでしかない。


しかし、それを承知の上で疑いの目を向けているとするならば……
フランドールは姉の次の句に備えて身構える。


そして――――

327 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:42:43.60 ID:CYcEgEI30










レミリア「……力を過信すると、痛い目を見るわよ?」










328 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:43:45.83 ID:CYcEgEI30

フラン「……???」



その言葉の意味を、フランドールは直ぐに理解することができなかった。
それは自身の予想から外れた言葉であったために。
そして、『その言葉を口にした理由自体を解せなかった』ために。


てっきり、姉にビル崩落事件の犯人ではないかと問い詰められると思っていた。
それは今までの会話の流れを考えれば当然のこと。むしろ、それ以外の考えに至る方がおかしいと言える。
彼女は一瞬の思考の空白を経て、直ぐさま我に返り、頭の上に疑問符を付けながら再度姉に問うた。



フラン「どういうこと?」

レミリア「使い方を誤ると、碌でもないことになるってことよ」

レミリア「この言葉、良く肝に銘じておきなさい。 でないと……後悔することになるわ」

フラン「ちょっと――――」



ところが、レミリアは妹の疑問に答えることは無かった。
彼女は席を立ち、そそくさと自室へと戻ってしまったのである。
残されたフランドールは、氷解しない疑念を抱えたまま呆然と椅子に座り続けるのだった。

329 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/10/26(月) 00:44:32.64 ID:CYcEgEI30
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 00:52:14.19 ID:BHhat95mO
乙です
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 21:48:22.74 ID:6KJTxciJ0
現実的な姉妹の仲なんてこんなもんだよな
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/28(水) 13:33:04.50 ID:odyNFNds0
根気よく続けてくれるのはありがたいな
333 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/11/02(月) 00:22:56.99 ID:2biU/Avf0
これから投下を開始します
334 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:23:46.51 ID:2biU/Avf0





     *     *     *





335 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:24:41.20 ID:2biU/Avf0

レミリア「……何がしたかったのかしらね」



レミリアは自室のベッドに座り、ぽつりと言葉を漏らした。


その声には心なしか、疲れと呆れの感情が滲み出ている。
まるで自嘲するかのように、彼女は僅かに口角を釣り上げて薄笑いを浮かべていた。



レミリア(本当、こんなことに悩むなんて…… どうしちゃったのかしら、私)

レミリア(あんなもの、気にすること自体がおかしいのに。 疲れてるのかしら?)

レミリア(こんなんじゃ、学校のみんなに笑われるわね。 しっかりしないと)



己の不甲斐なさを叱責しながら、その一方で精神に活を入れる。
それは自身の心を安定させるため。自傷行為のようなものだが、案外落ち着くものだ。
独り言なので人前でやったりすると、間違いなく変な目で見られるだろう。

336 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:25:55.57 ID:2biU/Avf0

何故そんなことしなければならないほどに、彼女は悩んでいるのか。
事の始まりは今日の朝。彼女が目覚めた時に遡る。


――――夢を見たのだ。そしてそれは、とても恐ろしい夢だった。


残念ながら、どのような夢を見たのかを詳細に思い出すことは叶わない。
夢の内容を細部まで記憶して目覚めるなど、そうそうあることではない。
殆どは覚醒と同時に記憶から抜け落ちるのが当たり前。
仮に覚えていたとしても、漠然とした印象しか残らないのが『夢』というものだ。


しかし全てを覚えていなくとも、その夢の一場面が余りにも強烈すぎて。そして鮮明すぎて。
あたかも目の前で見たかのように、あの光景が網膜に張り付いて離れないのだ。

337 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:26:47.74 ID:2biU/Avf0










妹が、フランドールが血まみれになって立ち尽くしている。


例え夢であっても、そんな光景をどうして忘れることができようか。










338 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:27:26.64 ID:2biU/Avf0

驚愕のあまり、夜中に大声を上げて飛び起きてしまったほどだ。
幸いフランドールに気づかれることはなく、夜中に騒ぎになる事態は避けられたが、
冷静になるまでに相当時間がかかり、結局朝まで再度寝付くことはできなかった。
それから今日丸一日、今に至るまでその夢を忘れたことはない。



レミリア「……っ」



それを再び思い出してしまったのか、レミリアの表情が強ばる。
夢の中のフランドールは、全身にべっとりを血を浴びながら、虚ろな目で呆然としていた。
あの血が誰の物なのかは判らないが、少なくとも妹の物ではないことは確かだ。
夢なのでもしかしたら覚えていないだけなのかもしれないが、妹の体に傷らしきものは見られなかった。
だがそれは裏を返せば、『誰かの返り血を浴びていた』ということになるわけだが……

339 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:28:15.38 ID:2biU/Avf0

レミリア「……ふ、言った傍からこれじゃあ駄目ね」



心を落ち着かせようとして、結局できていないことに気づく。
多少のことなら動じないと思っていたが、案外自分も脆いものなのだとレミリアは改めて自覚した。


彼女はどちらかというと自尊心が強く、そして強気な人間だ。
かつては歴史ある一族の次期党首として、様々な教育を受けていた身である。
誇りある一族の長としての身の振る舞い方を、彼女は既に身につけていた。
その結果としての、幼い容姿からは想像もできない大人びた思考と発言。
それは彼女を初めて見る者に、強烈な違和感を与えるには十分なものだ。
しかし、だからこそ彼女は学生でありながら、フランドールの保護者的な立場にいることができる。


だがそんなレミリアでも動揺し、取り乱すことはある。
いくら教育を受けたとしても、彼女は年端もいかない少女だ。
彼女の中にあるのは『知識』だけであり、『経験』が欠如している。
不測の事態への対処方法は未だ不慣れであり、焦燥に駆られるのは当然のことだろう。
ただ、それでも動揺を表に出さないのは流石と言った所だろうか。

340 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:29:06.02 ID:2biU/Avf0

レミリア(……いい加減にしなさい、私。 何故こんなにも恐れているの?)

レミリア(所詮アレは夢に過ぎない。 『空想』を恐れるなんて、ばかばかしいにも程があるでしょう?)

レミリア(こんなことはさっさと忘れてしまうのが一番。 こんな小さな事で悩むなんて、私らしくないわ)



再度自分に言い聞かせて、今度こそ心の中の不安を取り払う。
無理矢理ではあるが、これで悩みを断ち切ることができた。


『夢』は所詮『夢』だ。
夢に深い意味なんて無いし、ましてや『夢が現実になる』なんてことがあるはずもない。
超能力であれば、もしかしたら――――などと考えもしたが、そもそも自分は無能力者である。
妹とは違い、何の特別な力も持たない一般人にすぎないのだから。



レミリア(なんて、自分で言ったら自虐もいいところね)

レミリア(さぁて、明日の準備をしなくちゃ……)



夢のことを頭から完全に忘れ去ると、レミリアは明日に向けて準備を始めるのだった。

341 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/02(月) 00:30:53.83 ID:2biU/Avf0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 01:07:55.60 ID:Mm0MF04RO
乙です
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 19:15:42.46 ID:HUPTlfT90

その夢は能力の一端か
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/02(月) 21:43:26.83 ID:4IUcFUBa0

ん?『運命観察』はまだ持ってない?それとも自覚なし?
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/03(火) 16:29:08.06 ID:5wNKoBeC0
あ〜あ、やらかしちゃうのかフランちゃん
346 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/11/16(月) 00:30:38.51 ID:Ad0FEgFD0
これから投下を開始します
347 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:31:12.87 ID:Ad0FEgFD0





――――数日後





348 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:32:11.52 ID:Ad0FEgFD0

「ねぇねぇ、最近できたお菓子屋さんのこと知ってる?」

「ゲームセンター向かいにできたお店のこと?」

「そうそう! この前の日曜日に行ってきたんだけど――――」



真夏の昼下がり。学校では丁度お昼休みの時刻。
子供達が勉強漬けの一日の中で、纏まった休息を得ることができる唯一の時間帯である。


教室内でただひたすら駄弁りながら過ごす者。
体育館やグラウンドで運動に汗を流す者。
教師からの注意も顧みず廊下を走り回る者。
図書室に出向いて静かに本を読みふける者。


時間の使い方は多種多様であれど、皆が皆思うままに行動している。
辛い勉学の事を一時ながらも忘れ、楽しそうに趣味や遊びに興じていた。


そんな男子の叫声やら女子の歓声があちこちから響き渡る中。
昼休みに何故か机に向かって勉強している変わり者が一人。
349 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:32:52.80 ID:Ad0FEgFD0

フラン「……」カリカリ



金髪の少女――――フランドールは、自身に課された宿題をこなすべく鉛筆を走らせていた。
机の上には個人授業に使う教科書と参考書。そしてA4版の学生ノートである。
獣医の雑音を気にも留めないその様は、まるで体が机と一体化したかのようにも見える。
年頃の小学生としては、少々異様ともいえる姿がそこにはあった。



女子1「フランちゃんったら、ま〜た勉強してるの?」

女子2「最近、休み時間中ずっと勉強してるよね?」



そんな彼女の様子が気になったのか、二人の女子が傍に近寄ってくる。
折角の休みをそっちのけで勉強しているのだ。興味を持たない方がおかしいだろう。
だが実際興味を持っても、彼女達のように近寄ってくる人間は珍しいといえる。
一種の鬼気迫る姿から近寄りがたい雰囲気が出ているためだろう。
宿題を片付けているフランドールに話しかけるのは、席が近く会話をすることが多い彼女達くらいのものだろう。

350 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:33:25.35 ID:Ad0FEgFD0

フラン「こうでもしないと終わらないのよ。 まだ半分しかできてないし……」

女子1「ふーん……」



フランドールは友達に目を向けることもせず、ただひたすら鉛筆を動かし続ける。
一方少女2人は机の上に広げられている教科書や参考書を覗き込んだ。


目に飛び込んでくる、見たこともない漢字と難解な図面。
それらが所狭しと並び、まるで何かの紋様のようにも思える。



女子1「……」

女子2「……」



たちまち彼女等の顔の眉間に、深い皺が寄せられた。明らかに『理解できない』といった顔つきである。
フランドールが使っている教科書は、範囲が限られているとはいえ早くとも高校で学ぶものばかり。
それをただの小学校低学年の子供が理解できるはずもなく、彼女等はノートとそれを何度か交互に見た後、
少しばかりの溜息をついて首をかしげた。

351 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:34:41.42 ID:Ad0FEgFD0

女子1「わっかんない」

女子2「私も」

フラン「でしょうね」

女子1「フランちゃんはわかるの?」

フラン「だって、教えられてるし……わからないと先生から怒られるし」

女子2「……大変だね」

フラン「まぁ、ね」



短い会話が続く。しかしそれでも、机に向かう少女の手が休まることはなかった。


そしてその後、一同に沈黙が訪れた。話すことが無くなったためである。
フランドールは宿題を片付けることに躍起になっていて、周りを気にする余裕はない。
少女達はそれを眺めるだけであり、今までのようにおしゃべりをすることもなく、
近くの椅子に座ってぼうっとするだけである。
352 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:35:41.12 ID:Ad0FEgFD0

ただ悪戯に時間を無駄にする行為。
フランドールは別として、取り巻き少女達にとっては貴重な休みを浪費する愚行である。
しかし彼女達にとしては、そんなことは最早どうでも良かった。
というより、『おしゃべりする』ことも『フランドールを観察』することも、彼女達の中では同じ事なのだ。
外から見れば無駄なことでも、当人にとっては同じ『暇つぶし』に過ぎない。


そうして幾許かの時間が流れた後、女子の片割れがふと思いついたように言葉を口にした。



女子1「……ねぇ」

フラン「ん?」

女子1「そろそろ見せてよ、フランちゃんの能力。 あれからもう大分経ってるんだよ?」

女子2「1ヶ月位前だっけ? 能力者になったの。 ビックリしたよね」

女子1「なんだかすごいみたいだけど、まだ一回も見せてもらってない!」

353 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:37:37.89 ID:Ad0FEgFD0

フラン「無理。 先生にまだ使うなってきつく言われてるから」

女子1「そんなの無視しちゃえばいいじゃん」

フラン「あのね……約束破って怒られるのは私なんだけど」

女子1「みーたーいーのー!」

フラン「うるさい!」



駄々をこねる少女に対し、フランドールは苛立ちを隠さずに怒鳴る。
どうやら相当宿題に手こずっているようで、その焦燥が彼女に荒い言葉を吐かせたのだろう。
だがそんなことで怯む少女達などではなく、むしろ駄々がエスカレートしていった。


『見たい、見たい』の大合唱。その声は廊下まで響くほどだ。
挙げ句の果てには体を揺すってガタガタと椅子を鳴らす始末。
近くでこうも騒がれては、勉強に集中することなどできはしない。
全く以て迷惑千万であるが、注意したどころで効果は薄いことは先ほど見たとおりである。
仕方なくフランドールは、取り巻きを黙らせるために『とっておき』を使うことにした。

354 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:38:43.59 ID:Ad0FEgFD0

フラン「あーもう、放課後お菓子でも奢ってあげるから、それで勘弁して」



そのとっておきとは、『餌を与えて黙らせる』というもの。
愛玩動物よろしく、食べ物で大人しくさせるのだ。
フランドールが能力者になってから、女子の騒ぎを沈静化するために新たに編み出した手法である。


本当であれば、こんな方法などそうそう使えるものではない。
毎回お菓子を奢っていては、いくらお金があっても足りないからである。
ではどうしてこんなことが出来るのかと言えば、偏に彼女がレベル4の能力者になったおかげだ。
月に1回もらえる奨学金の額が、以前と比べて倍にまで跳ね上がったのだ。


よってフランドールの財布の中は、小学生とは思えないほどリッチな状態になっており、
お菓子を買う程度であれば容易に無くなることはないのである。

355 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:39:37.47 ID:Ad0FEgFD0

女子1「本当!?」

女子2「さっすがレベル4。 太っ腹だねぇ〜」

フラン「……はぁ」



先ほどの騒ぎは何だったのか。2人とも目を輝かせながらこちらを見ている。
お菓子をちらつかせた途端大人しくなった一同を見て、フランドールは呆れたように声を漏らした。
何やらお菓子目的でたかられているような気がするが、これも仕方のないことだと割り切る。


彼女は超能力を持てば良いことばかりであると思っていたようだが、そんなことはない。
有名になると言うことは、それと同時に厄介事にも巻き込まれやすくなるのだ。
有名人には多くの人が集うが、皆が皆いい人というわけではないのである。
『敵意』や『嫉妬』と言った負の感情をぶつけられていないだけ、まだマシと言えよう。

356 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:42:39.01 ID:Ad0FEgFD0

女子1「それじゃフランちゃん、お願いね〜」

フラン「わかってるわよ……」



憎たらしいほどの笑顔を見せる友人を余所に、フランドールは再び机に向かう。
この遣り取りだけで、貴重な休み時間の多くを浪費してしまった。早く後れを取り戻さなければ。


彼女が勉強を再開しようとすると――――



「あなたたち、何してるの?」



フラン「ん?」

女子1「うげっ……」



声がした方向を見ると、教室の出入り口に一人の少女が立っている。
髪が桃色の、少し堅物な印象を受けるその子は、眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいた。

357 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/16(月) 00:43:16.15 ID:Ad0FEgFD0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 01:02:23.98 ID:49G6oZf9O
乙です
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 03:53:13.04 ID:1vgPj+Qz0
「そんなに……彼女の力が見たいのか……?」
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/16(月) 20:10:43.74 ID:vqkxz1Xb0


桃髪少女か
能力者が能力を使う際の脳の働きを模写することで劣化コピー技を使えそうだな(適当)
361 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/11/30(月) 00:49:59.48 ID:oTN8jzTy0
これから投下を開始します
362 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/11/30(月) 00:50:59.84 ID:oTN8jzTy0

フラン「……なんだ、委員長か」

委員長「なんだとはなによ。 口の利き方には気をつけて」



ぶっきらぼうに言うフランドールに、『委員長』と呼ばれた少女は厳しい口調で非難する。
しかし非難された本人には、反省の色は見られない。


フランドールと委員長。
彼女等の仲は最悪とまではいかないにしても、良好な関係とは言い難かった。
その理由は二人の性格が、致命的と言っていいほどそりが合わないためである。


委員長は言ってしまえば『真面目』という言葉が歩きまわっているようなものであり、融通が利かず頑固な性格である。
そして何事にも本気で取り組み、決して中途半端に妥協することは無い。
そんな性格から来る不真面目な男子に対して事あるごとに説教をする様は、もはや日常風景と言っても良い。
故に一部の同級生からは煙たがられているのだが、その反面、教師達からの信頼は厚かった。
363 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:52:07.30 ID:oTN8jzTy0

それに対してフランドールは、『全く』とまではいかないにしても、それほど真面目な性格では無い。
興味を持った事柄に対しては積極的に動くが、そうでないものに対してはいい加減に対処してしまう。
そして彼女は『熱しやすく、冷めやすい』。仮に興味を持ったとしても、途中で飽きてしまうこともしばしばある。


『毎回のように本気を出すのは疲れるだけ』。
『結果さえ出してしまえば、やる気なんて関係ない』。


ある意味合理的だが、ある意味では不真面目にも捉えられる価値観を持っているのが彼女であった。


真面目さに価値観を見出すことなく、程々のやる気で物事を解決しようとするフランドール。
真面目過ぎる性格であるが故に、他人の不真面目を許容できない委員長。


これが漫画等で見られる『真面目な学級委員長と不真面目な生徒』という、
よくあるシチュエーションであったのならそれほど問題は無かっただろう。
『口煩い学級委員長の説教を、のらりくらりと受け流す生徒』。そんな構図が出来上がったはずである。
それに於いては『柳に風』の如く、正面から衝突するようなことは無い。

364 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:53:53.99 ID:oTN8jzTy0

しかし困ったことに、フランドールにはそのようなことが出来るだけの器量はなかった。
自身と真逆の思考を持つ存在が居るという事実に、我慢ができなかったのである。
故に彼女は、委員長に対し露骨なまでの敵意を抱いていた。


ところが、そこまで不仲だったにも拘わらず、実際に二人が正面からぶつかったことはこれまでにない。それは何故か?
それは彼女二人の間には、かつて『超能力を持っているかいないか』という明確過ぎる一つの差があったからである。


フランドールは最近レベル4相当の超能力を持っていると判断された身であるが、
過去に於いては僅かどころか全く能力を持っていない、レベル0の無能力者だった。
一方桃色髪の少女は、以前から学内では数人しか存在していないレベル3相当の能力者である。
その二人がぶつかればどうなるか。その結果は火を見るよりも明らかだろう。
そしてそれを理解できないほど、フランドールの頭は悪くない。


『力を持つ者』と『力を持たざる者』。
『超能力』はこの街、『学園都市』の根幹であり、最も重要視されるものでもある。
どんなに頭脳明晰でも、どんなに聖人君子であっても、『超能力を持っている』という価値には代えられない。


露骨なまでの超能力至上主義。
それは『学園都市』が抱える病であり、容易に直すことができない難病だ。
時には周囲の人間からの侮蔑として。時には本人の心の内に湧き上がる劣等感として。
その病は子供達の心を蝕み、追い詰め、食らい尽くすのである。

365 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:55:56.98 ID:oTN8jzTy0

フランドールも例に漏れず、その毒牙の犠牲となった一人だ。
『負けたくない相手が、自分が持っていないものを持っている』という事実は、
ある種の敗北感を彼女に植えつけるには十分である。
そして何より、『むかつく奴を見返すことができない』という状況が彼女をこの上なく苛立たせていた。


しかし、それはもう過去の話。二人の間柄は、以前とは大分違っている。
言うまでもなく、フランドールが能力を得たことで『超能力の有無』という明確な違いが無くなったためだ。
加えてフランドールはレベル4相当の能力者であり、その力関係は逆転したと言えるだろう。


フランドールは、相手よりも優位な立場に立つことが出来るようになった。
つまりは、それまでのように委員長に対して引く必要がなくなったということでもある。



フラン「それで、一体何?」

委員長「放課後の外出は禁止になってるでしょ。 それなのに、外出するみたいな話をしてる」

フラン「めんどくさいなぁ。 一々私のやることに口出さないでよ」

委員長「クラスの風紀を守るのが私の役目よ。 危険なことをするつもりなら止めるわ」

委員長「それに貴方こそ、私に口を出されないように気をつけたらどうなの?」

366 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:57:59.12 ID:oTN8jzTy0

ところが、力関係が変わっても人間関係は依然として変わっていなかった。
相も変わらず委員長は、フランドールの一挙一動に目くじらを立て、その都度彼女を諫めている。


フランドールとしては、超能力を持った時点で委員長からこちらに従うと考えていた。
『自身がそうだったのだから、相手もそうだろう』という思考に基づくものである。
そして委員長が事あるごとに自分に突っかかってくるのは、自分よりも力があるからだとも考えていた。


だが実際の所、そんなことを気にしていたのはフランドールだけであり、
委員長は彼女のことをどうとも思っていなかったのだ。
フランドールは委員長のことを『気に入らない奴』として敵視していたが、
委員長にとってのフランドールは、『少しひねくれた同じクラスの人』程度でしかない。
委員長にはフランドールを見下しているつもりなどないし、自身の力を傘に優位に立とうなどとも思っていない。
彼女が口うるさく言うのは、純粋に委員長としての使命を全うしようとしているからにすぎない。



しかし残念ながら、フランドールは委員長の考えに事実に気づいていない。
そして、委員長もフランドールにどのような目で見られているか知らない。
お互いに相手がどう思っているかなど理解することはなく、すれ違いばかりが続いていた。

367 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 00:59:21.14 ID:oTN8jzTy0

フラン「ほんっと、あなたって生意気よね」

委員長「……どういうこと?」

フラン「毎回毎回口出しして、一体何様のつもりなの?」

委員長「言ったでしょ、私は委員長。 クラスのみんなを正しく纏めるのが役目よ」

フラン「別に、あなたに纏めてもらおうなんて思ったこと無いんだけど」

委員長「貴方がそう思わなくても、誰かが纏めなきゃいけないわ」

フラン「自分勝手ね。 そもそも、委員長なんて居ても居なくても同じでしょ」

フラン「あなたが委員長になったのは、他の誰も成ろうとしなかったじゃない」

フラン「みんな委員長なんてどうでも良いのよ。 むしろ、そんな面倒くさいものなんかこっちから願い下げなの」

フラン「あなたのことなんか誰も望んでないわけ。 その辺わかってる? 『委員長さん』」

368 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:00:19.19 ID:oTN8jzTy0

委員長に対しフランドールは辛辣な言葉を投げかける。
その発言の一言一言に、彼女の敵意が乗せられているかのようだ。
相手の心をより深く抉るように、言葉を選んでるようにも感じられる。
『お前の存在なんて誰も望んでいない』と、相手の存在を全力で否定している。


実際の所、現状を鑑みると彼女の言葉は嘘ではない。
委員長がクラスの者から大部分から避けられているのは、紛れもない事実である。
真面目すぎる性格に加えて、極度のお節介焼きでもある彼女。
何か事あるごとに周りに口出しをし、さらには長々と説教をする人間を好く者など、
その者と同類の人間か、余程の物好きな人間しかいないはずである。



委員長「確かに、私はクラスの皆に嫌われていることは自覚しているわ」

委員長「私のような説教臭い人間なんて、嫌われて当然でしょう」

委員長「『先生達と仲が良い』という点も、その理由の内に入るでしょうね」

委員長「でも、皆に嫌われたとしても、誰も望まなくても、私は与えられた役目を果たすだけよ」



しかしその事実を指摘されても尚、委員長が狼狽えることはなかった。
むしろ、その逆境を目の前にして燃えているという節すらある。
相も変わらず彼女は、強固な意志が見え隠れする眼でフランドールを見据えていた。

369 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:03:03.94 ID:oTN8jzTy0

フラン「……」



一方その反応を見たフランドールは、眼を見開き、そして顔を強ばらせることになる。
その愕然とした表情は、己の予想から外れた事象を目の当たりにした時のもの。
委員長を言い負かそうとしたのに、全く堪えていないのである。
言い負かそうとした当人にしてみれば、明確な敗北感を覚えるものだった。


だが考えてみれば、委員長の反応は当然のことといえるだろう。
周囲の人間の行動に対して口出しするには、自分の考えに自信を持っていなければならない。
何故なら迷いを抱えていると、その発言に力がなくなってしまうからである。
言葉に強い芯が通っているからこそ、人はそれに耳を傾け、心が動かされるのだ。
批判されたからといって簡単に意志を曲げてしまっては、何度も他人に口出しなどできはしない。

370 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:04:27.88 ID:oTN8jzTy0

フラン「……………………は」



僅かな間が空いた後、フランドールの口から乾いた笑いがこぼれた。
口角が僅かながら釣り上がり、眉をひそめ、眼からは覇気が霧散している。
その表情は正しく、『失笑』の一言が相応しい。


そしてその時、彼女は目の前の少女に対し言論で勝つことを放棄した。敗北を認めたのだ。
そう認めざるを得ないほど、委員長の意志は固いことを自覚したのである。
ただし勘違いしてはいけないことは、それは『全面降伏』という意味ではないということ。
勝負の方法は、別に口論だけというわけではない。もっと単純明快でわかりやすい方法も存在する。


例えば――――『腕力による勝負』とか。

371 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:05:41.17 ID:oTN8jzTy0

フラン「――――あー、ほんと、うざったいわねっ!」

委員長「!」



突然、フランドールは大きく右手を振りかぶった。
彼女の細腕が大きくしなり、末端の手の平が相手の頬に吸い込まれる。



バチィンッ!



次の瞬間、教室に大きく打音が響き渡った。その音は紛れもなく、肌同士がぶつかる音である。


フランドールの右腕は、委員長の頬の手前で止まっていた。
腕を止めたのは、委員長本人の左手。彼女はすんでの所で、防ぐことに成功したらしい。
彼女は腕に走る衝撃に苦悶の表情を浮かべつつ、目の前の少女を睨みつけた。

372 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/11/30(月) 01:06:33.57 ID:oTN8jzTy0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/30(月) 01:25:17.94 ID:nGR6+K2Vo
乙です
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/07(月) 01:36:26.42 ID:o6OCx0+r0
あーあ、やっちゃうのかねぇー?
375 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/12/14(月) 00:50:14.20 ID:n7uuoCGq0
これから投下を開始します
376 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:51:06.51 ID:n7uuoCGq0

委員長「……っ、いきなり、何をするの?」

フラン「うっさい! 黙って殴られなさい!」



その抗議を意にも介さず、フランドールは相手を睨み返した。
彼女は止められた腕を戻し、間髪入れずに今度は蹴りを放つ。



委員長「っ!?」



委員長はその蹴りを、後ろに下がることによって躱そうとする。
が、それには距離が近すぎた。足裏が委員長の腹部を捉え、彼女は後ろに吹き飛ばされる。

377 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:51:47.04 ID:n7uuoCGq0

ドサッ!



委員長「ぐっ……」

フラン「ふん、思い知った?」



尻餅をついた委員長を、フランドールは薄笑いを浮かべながら見下ろす。
その瞳に浮かぶのは明らかな侮蔑。相手を見下す蔑みの眼である。
憎き相手を見下ろすことが、これほど清々しいものだったなんて――――
フランドールは心を支配する高揚感に、一人酔いしれていた。



委員長「貴方っ……」ギリッ

フラン「くすくす……謝るなら今の内だよ?」

女子1「やっちゃえ! フランちゃん!」

男子1「なんだなんだ?」

男子2「みんな! フランと委員長が喧嘩してるぞ!」



騒ぎを聞きつけた他の子供達が、何事かと集まってくる。
そして状況を理解した者から次々に、二人に対して野次が飛ばし始めた。

378 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:52:38.10 ID:n7uuoCGq0

日頃の委員長への不満を晴らすためにフランドールを応援する者や、
逆に生真面目な部分で共感を覚えている委員長を応援する者。
どちらに味方をするわけでもなく、ただただ騒ぎを楽しむ者もいれば、遠巻きにその光景を眺めている者もいる。


いずれにせよ皆に共通していることは、普段とは違った出来事に興奮を覚えているということだろう。
いつもの代わり映えのない日常に退屈していた彼等にとって、フランドールと委員長の喧嘩は興味の絶えないものだ。
例えそれが悪いことだとわかっていたとしても、内から沸き上がる狂熱に耐える術を持っていなかった。
まるで蜜に誘われる羽虫の如く子供達は喧噪に群がり、いつしかその騒ぎは教室の外にあふれるまでになっていた。



委員長「こんな騒ぎになっちゃうなんて、委員長失格……」



その光景に委員長は、現状を生み出してしまった己の不甲斐なさに歯噛みする。


大きくなりすぎたこの騒ぎを、彼女一人で抑えることは既に不可能。
先生達が来れば自然と沈静化するだろうが、そのような事態の収束を彼女は望んでいなかった。
それは、彼女が持つ矜持なのだろう。自身の役割を果たせずに終わることだけは許せなかったのだ。


だから彼女は、無理矢理にでも己の力でこの騒動に幕を下ろそうとする。
例えそれが、自身が最も嫌う方法であったとしても。

379 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:53:39.16 ID:n7uuoCGq0

委員長「……後で先生に怒られるかもしれないけど、仕方ないわね」



委員長は疲れたようにそう呟くと、上に向けて腕を伸ばした。
次の瞬間、部屋中の塵や埃が舞い上がり、手の平に集まり始めた。
灰色の球体は見る見るうちに大きくなり、やがて野球玉程度にまで成長する。



委員長「……こんな狭い場所じゃ、これが精一杯かな」

男子1「出たぜ、委員長の超能力――――『千里霧中(エアゾール)』だ!」



男子がその光景に叫ぶまもなく、委員長は手の平の球体をフランドール目掛けて飛ばした。
飛ばされた球体は二人の丁度中間まで来ると、大きく膨れあがり拡散する。
そして靄が相手を覆い込もうとする様子を見た彼女は、開いた手の平を今度は強く握りしめた。

380 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:54:29.38 ID:n7uuoCGq0

フラン「……!」バッ!



相手の意図に気づいたフランドールは、反射的にその場から飛び退く。彼女の体が靄を突き抜け、外へと放り出された。
その次の瞬間、靄は再び一点に集合し始め、元の球体の姿に戻る。
もしもあの場所に留まっていたならば、あの靄にまとわりつかれて身動きが取れなくなっていた所だ。


委員長が持つ超能力、『千里霧中』。
『念動力』の一種に分類され、小さな粒子――――塵や砂など――――を操る能力。
大きさが規定に収まっていれば何でも良いらしく、煙や霧なども操作でき、
それらの形を自在に変えたり、一箇所に集合させて固体として扱うこともできるそうだ。


その特性故に、土埃が飛散するような場所では驚異的な強さを誇る超能力であり、
噂ではその力を使って、絡んできた5人のスキルアウトを一撃で吹き飛ばしたと言われている。

381 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:55:14.02 ID:n7uuoCGq0

フラン「あぶ――――がっ!?」



相手の攻撃を避けたことに安心しようとした刹那、フランドールの首元が突然強く締め付けられた。


何事かと見やると、そこには自身の首に巻きつく灰色の糸が見えた。
そしてその線を辿って行くと、行き着く先には先ほど避けたはずの塵の集合体が。
なんと言うことはない、フランドールは委員長の攻撃を避けた気になっていたが、
実際のところ全く逃げ切れていなかったのだ。



委員長「もしかして、避けたつもり? だとしたら残念だったわね、そこはまだ射程圏内よ」

委員長「まぁ、この教室から逃げでもしない限りは、避けることなんてできなかったけど」

フラン「このっ……!」



首を抑えてもがくフランドールを、委員長は冷めた目で見つめる。
フランドールの首を捉えた糸は、時が経つに連れてどんどん太くなっていった。
糸の根源である球体が、その身を縮めて糸を太く、強固にしているのだ。
いずれは塵の全てが首に巻きつくことになるだろう。

382 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:56:24.16 ID:n7uuoCGq0

委員長「貴方はもう、私の手から逃れられない。 これで終わりよ」

女子1「ちょっと委員長! フランちゃんを離しなさいよ!」

女子2「そうよそうよ! この堅物!」

委員長「断るわ。 今離したら、何をしでかすかわからないし」

委員長「それよりもそこの男子。 静かにして」

男子1「えぇ〜! もう終わりかよ!」

男子2「つまんねーの!」

委員長「黙りなさい。 いい加減ににしないと……」

男子1「うっ……」



委員長は騒ぎ立てる男子に対し、無言の圧力をかける。
その剣幕に臆したのか、その男子を含めた野次馬が一斉に口を噤んだ。

383 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:56:52.48 ID:n7uuoCGq0

目前には委員長の手により首を捕まれているフランドールの姿。
彼女は脱出しようと暴れているが、一向にそれが成される気配はない。
灰色の糸は首にしっかりとへばり付き、逃げることを許さない。


もしも逆らったら、自分も同じ目に会うかもしれない――――そんな予想が野次馬の中を伝播する。
無論、委員長がフランドールにしたことと同じ事をすると決まったわけではない。
むしろ、その可能性は低いだろう。元々委員長は、武力による制圧を望んでいないのだ。
このような状況になっているのは、フランドールが力で委員長を従えようとしたからに過ぎない。


だが、今の彼等にその考えに至るだけの余裕はなかった。
そして何より、委員長の剣幕と気迫が彼等の予想に現実味を帯びさせていた。
故に、野次馬達はぶつくさ言いながらも彼女の言葉に従うしかなかった。

384 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:57:39.43 ID:n7uuoCGq0

フラン「くっ、この……!」



その光景を余所に、フランドールは依然として委員長の束縛から逃れようとしていた。
首にまとわりつく糸を、どうにかして引きはがそうとする。
だが、その糸は強固の一言。まるでピアノ線を相手にしているかのようである。
微細な塵の集まりに過ぎないはずなのに、それはあまりにも頑丈すぎた。


それもそのはず、糸を作り上げている力の元は委員長の『念動力』。
その力によって粒子同士をつなぎ合わせ、その結果一本の糸を成している。
『念動力』とは物理法則から外れた力。人間の常識を逸脱した代物。
『念動力』を使えば、鋼線よりも頑丈な糸を創り出すことも可能なのだ。



フラン(ちくしょうっ……こんなっ……!)



どうすることもできない状況、己の醜態が晒され続けている状況に、フランドールは焦燥、屈辱、憤怒に支配される。
周りの様子を見ると、野次馬の注目は委員長だけに向いていた。フランドールのことなど気にも留めていない。
彼等は既に、『フランドールは委員長に負けた』と考えているのだ。

385 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 00:59:01.10 ID:n7uuoCGq0

こんな筈じゃ無かったのに――――彼女は心の中で歯噛みする。
そもそも、面と向かって争うこと自体が間違いだったのだ。
『強度』としてはフランドールの方が格上とはいえ、能力者としての経験の差が違いすぎる。
その事実は、フランドールが終始能力を使わなかったことに対し、
委員長は躊躇いもなく人に向けて能力を使った所に現れている。


委員長は『超能力の扱い方』というものを心得ている。
その言葉の中には、単純に『超能力を操作できる』というだけでなく、
『超能力を使うべき状況を判断できる』という意味合いも含まれている。
彼女の中には能力を使うべき『基準』というものがあり、それがあるからこそ迷い無く能力を行使することができる。


その『基準』は、実際に超能力者にならなければ定めることができない。
力をいつ、どのように使えばよいのか。それは当事者になった時に初めて理解できるもの。
故に、それを持たないフランドールには『今、力を使う』という選択肢が頭に浮かんでこなかった。

386 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:00:42.92 ID:n7uuoCGq0

フラン(っ、こうなったら……!)



だがそれは、あくまでも『力を使う機を判断できなかった』というだけである。使おうと思えば使えるのだ。
まだフランドールの敗北が、完全に決定付けられたというわけではない。


彼女は能力の演算を開始する。自身にまとわりつく糸に触れ、その性質を理解し、破壊しようとする。
この力を自身の意志で使うのはこれが初めて。能力に覚醒した時は意識が朦朧としていたし、
それ以降は先生達の許可がなければ使うことができず、その性質を知るための実験として使用したことがあるのみ。
言ってしまえば、今回が初めての実践ということなる。


自分に上手く能力を扱うことができるだろうか?
そんな不安が、彼女の脳裏を過ぎる。


今まで実験として色々な物を壊してきたが、超能力が作用しているものには試したことはない。
委員長の『念動力』により造られた一本の糸。それに自身の能力が作用するのかは、全くの未知数。
『糸の破壊に失敗し、結局逃げられなかった』ということも十分あり得ることである。


この行動が、必ずしも成功するとは限らない。だが、何もしなければ何も変わらない。
だから彼女は、この策が成功することに賭け、行動に移した。

387 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:01:38.97 ID:n7uuoCGq0

フラン(物を壊すには、物質同士を繋ぐ力を切っちゃえばいい筈……)

フラン(この糸を繋ぐ力は『念動力』だから……………………これだっ!)



フランドールは糸が帯びている力を見極め、それに自身の能力を作用させる。
委員長の『念動力』に、自身の『念動力』をねじ込み、糸を形成する力を妨害する。


すると――――



ブツンッ!



鈍い音と共に、触れた部分から糸が千切れる。果たして、フランドールの策は成功した。
彼女の能力は、『念動力』によって造られた糸にも効果があったのだ。


フランドールが持つ『物質崩壊』は委員長と同じ『念動力』に分類されるものであり、互いに干渉することができる。
ならば純粋に出力が上回る彼女の『念動力』が、委員長のそれに劣ることなどあり得ない。

388 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:02:31.61 ID:n7uuoCGq0

フラン(物を壊すには、物質同士を繋ぐ力を切っちゃえばいい筈……)

フラン(この糸を繋ぐ力は『念動力』だから……………………これだっ!)



フランドールは糸が帯びている力を見極め、それに自身の能力を作用させる。
委員長の『念動力』に、自身の『念動力』をねじ込み、糸を形成する力を妨害する。


すると――――



ブツンッ!



鈍い音と共に、触れた部分から糸が千切れる。果たして、フランドールの策は成功した。
彼女の能力は、『念動力』によって造られた糸にも効果があったのだ。


フランドールが持つ『物質崩壊』は委員長と同じ『念動力』に分類されるものであり、互いに干渉することができる。
ならば純粋に出力が上回る彼女の『念動力』が、委員長のそれに劣ることなどあり得ない。

389 :投稿ミス ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:03:15.91 ID:n7uuoCGq0

委員長「なっ――――!?」

「おぉっ!」



束縛を逃れたフランドールを見て、委員長は目を開く。
それと同時に、予想外の展開に周囲が一気に色めき立った。


フランドールがクラスの皆の目の前で能力を披露するのはこれが初めて。
彼女の能力の情報については、噂程度の物は伝わっていたものの、その詳細を知る者はクラスのどこにもいなかったのだ。
その理由は、教師達がフランドールの超能力の情報が不用意に広がる恐れ、
許可無しに能力を使わないよう釘を指したからであり、フランドールも律儀にそれを守っていたからである。


だが今回、彼女の頭に血が上りその約束を忘れたことで、超能力の正体があらわとなった。
その超能力に対し、委員長は自身の能力が破られるほどのものであることに驚愕し、
クラス一同はついに明かされる未知の力に、熱い視線を送る。
この瞬間、この場にいる人間の全ての視線がフランドールに集まっていた。


だがそれを前にして、当の本人はまるで気に留める様子はない。
彼女の頭の中は、『目の前の敵をどう打倒するか』ということしかなかった。

390 :投稿ミス ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:04:35.28 ID:n7uuoCGq0

フラン「……ははっ!」

委員長「くっ!」



フランドールは素早く身を起こすと、委員長目掛けて突進する。
それに少し遅れて、委員長が再び相手を束縛しようと能力を行使した。


再び、灰色の糸がフランドールに迫る。しかし、それらが標的を捉えることは無かった。
フランドールが糸を手で乱暴に鷲づかみにし、自身の『念動力』で片っ端から破壊したのである。
糸を自力で壊せるとわかった以上、それを恐れる必要など無く、その行動には一分の迷いも存在しない。
彼女は糸を手で握りつぶしながら、ものの数秒の内に委員長の下へと辿り着いた。



委員長「そんな……!」



自分の能力が全く効かない。その事実に委員長は大きく狼狽する。


ものの一分とかからずに覆された戦況。それを冷静に受け入れるには、彼女はまだ若すぎる。
彼女は荒事を経験したことがあるとはいえ、その対処には『力による強引な排除』という手段しか執ったことがない。
『戦いの最中に戦略的な方法を考える』などという経験は無かった。
故に彼女は、突然訪れた危機的状況に対して咄嗟の判断をすることができない。

391 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:06:37.16 ID:n7uuoCGq0

フラン「あはは、これでおしまい――――」



思考停止により棒立ちとなった委員長を目の前に、フランドールは自身の腕を相手に目掛けて突き出す。
狙うは相手の衣服。それを粉々に破壊し、身包み全てを奪い去ろうとした。


『貴方に最高の屈辱を与えてやる』。
『公衆の面前で裸体を晒し、皆の嗤いものになってしまえ』。
フランドールは邪な願いを込めて、口元を歪ませながら委員長へと飛びかかる。


――――いつもの彼女ならば、そのような考えなど持つはずがない
いくら相手を憎たらしく思おうと、所詮それは子供の感情。
そんなものから生まれるのは、重箱の隅をつついたような幼稚な仕返しかないだろう。
ましてや相手を辱め、陥れるなどという下卑な発想などできるはずもないのだ。


だが今の彼女の心の内は、何処からとも無く湧いて出た目の前の相手への憤怒と憎悪で満たされていた。
感情に身を任せて相手へ復讐することへ、一種の喜びを見出してすらいた。
そして、普段と比べて明らかにおかしい自身の行動に疑問を挟んでいない。


フランドールの心が突然、別人のように変わってしまったその理由。
それが『己の体の内にあるものが為だ』などと、彼女が知るはずもなかった。

392 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:07:33.27 ID:n7uuoCGq0

委員長「い――――」



目の前に迫り来る魔の手を前に、委員長は半ば反射的に体を動かす。
彼女はまだ、フランドールの腕にどのような力が宿っているのかを知らない。
ただ、一つだけ理解したことがある。それは、『相手の力は自身のそれを凌ぐもの』であると言うことだ。


そして今、その得体の知れない力が宿った腕が、自身に触れようとしている。
『それ』が自身に触れたら最後、一体どのような事が起こるのか。それはわからない。
しかしわからないからこそ、訪れるであろう『未知の結末』に彼女は恐怖した。










――――だから、仕方のないことだったのだろう。


彼女がフランドールの腕を、その手で振り払ってしまったのは。

393 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/14(月) 01:08:11.48 ID:n7uuoCGq0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 01:26:39.82 ID:gNV2gWSAO
乙です
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/14(月) 01:30:15.34 ID:GQG7pp6w0

魔性が鎌首を擡げたか……

しかし、今にもグチィ!されてしまいそうなのはピンク髪の真面目少女の腕、か。ふむ……
彼女の念動力をもってすれば、何かを巻き付けて補ったりする事も十分に可能だろうなぁ
396 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:38:17.86 ID:NnHwervu0
これから投下を開始します
397 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2015/12/26(土) 00:39:05.08 ID:NnHwervu0

ボンッ!!!



フランドール「――――え?」

委員長「――――あ?」



何かが破裂するような、大きな音が教室に響いた。


その時、フランドールも委員長も、彼女等を取り巻く子供達でさえも一様に静まりかえる。
皆が皆、突然起こった出来事に、その光景を目の前にして呆然としていた。

398 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:40:06.95 ID:NnHwervu0










委員長の右腕が。



フランドールの腕をふり払ったその腕が。



まるで最初から無かったかのように、跡形もなく消し飛んでいたのだ。










399 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:41:11.39 ID:NnHwervu0

ブッシュゥゥゥゥッ!!!



委員長「あ、あああああああぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」



一瞬の間を置いて、委員長の肩口から鮮血が噴水のように吹き出す。
瞬く間に、床一面が赤よりも紅い色に染まっていった。
そして、先ほどまで右腕のあった場所から血が吹き出す様を見て絶叫する少女。
その叫び声には、腕を失ったことからくる驚愕と恐怖が入り交じっていた。



委員長「あ、あぁ……」



ドチャッ!



一頻り叫んだ彼女は失血によるショックか気を失い、糸が切れた人形のように血の海の中へと倒れ込む。
水気を多分に含んだ雑巾を、地面に叩きつけたかのような音が響いた。


彼女の肩の傷口からは、勢いは衰えているものの未だに血が流れ続ける。
その血は血溜まりを更に大きく広げ、すでに教室の四半分を染め上げるほどだ。
止めどなく流れ出る生命の源。委員長が少しずつ、着実に死へと近づいていることが見てわかった。

400 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:42:32.18 ID:NnHwervu0

「う、うわああぁぁぁぁ!!!」



周りで見物していた子供達が、次々と悲鳴を上げる。
恐怖が一同に伝播し、一瞬にして教室はパニックに陥った。


心の内に沸き上がる恐怖心により、その場から一目散に逃げ出す者。
凄惨な光景に立ちすくみ、ただただ泣き叫ぶ者。
精神的ショックのあまり、自ら意識を手放す者。


精神的にも肉体的にも未熟な彼等は、恐怖という名の本能に従って狼狽するしかない。
血を流して倒れている委員長を手当てすることもなく、ただおろおろと動き回るだけだった。


しばらくして、騒ぎを聞きつけた教師達が現場へと駆けつけてくる。
そして目の前に広がる光景を一目見て、一瞬その場に棒立ちとなった。
何せ、騒ぎの中心であろう2人の内の1人は血の海に倒れ込み、
もう1人は全身血まみれになりながら立ち尽くしているのだ。
その光景を見せつけられて、動揺の一つもしない人間はいまい。


しかし彼等は成熟した大人。子供達のように恐慌に陥るなどと言う無様な醜態は晒さない。
直ぐに我に返った彼等は取るべき行動を頭の中で瞬時に弾き出し、それを行動に移す。


事の顛末を把握しようと、周囲に事情を聴く者。
あるいは泣き叫び、あるいは逃げ回る子供を落ち着かせようとする者。
流血する委員長駆け寄り、応急処置をしようとする者。


彼等は事態を収束させるために、素早く動き出した。

401 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:44:28.50 ID:NnHwervu0

フラン「――――」



阿鼻叫喚に陥った教室。その中で、フランドールはただ1人呆然としていた。
今彼女の眼前に広がっている地獄。それがあまりにも非現実的で、夢の中を漂っているかのよう。
それを生み出したのは自分であるにも拘わらず、まるで他人事のような眼で眺めていた。


彼女は委員長の血飛沫を正面から浴び、まるでペンキを被ったかの如く全身が真紅で彩られている。
瞳には生気が無く、目の前に広がる光景を『ただ眼に映している』だけ。
それはまるで、血の池地獄から這い出してきた幽鬼のような姿。


周りからなにやら叫び声が聞こえるが、頭の中に入ってこない。
耳と脳の間をつなぐ回路が壊れてしまったかのようだ。
男子の絶叫も、女子の叫喚も、教師の大喝も。全てが耳障りな雑音でしかなかった。


意味を持たない、ただのノイズのみとなった世界。
そこに佇む彼女の耳に、一つだけ明確に理解できる『言葉』が飛び込んできた。

402 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:45:45.55 ID:NnHwervu0










『バ ケ モ ノ』










403 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:48:48.29 ID:NnHwervu0

フラン「ぇ――――?」



ふと思い出したかのように、頭の中が真っ白なままフランドールは周囲を見渡す。
とある女子が、恐怖と侮蔑と敵意をかき混ぜたかのような視線が向けていた。
相手の存在そのものを、徹底的に否定するかのような眼。
その存在を跡形もなく消し去ることを望むような、そんな眼だ。


しかし今の彼女にとって、その事実は二の次でしかない。


瞳を向ける子供は、先ほどまで仲良く会話していた少女だったのだ。
クラスの中でもそれなりに親しかった彼女が、恐怖の眼をこちらに向けている。
いつも笑顔を浮かべているはずの顔は、その眼のせいで酷く歪んでいるように見えた。


心にちくりと何かが刺さる。
そして再び周囲を見渡して、また一つ気づいた。
少女だけでなく、自身を見つめる子供全てがその眼をしているということに。


濃密な負の感情が込められた数多の眼光が、彼女の体に突き刺さっていく。
じくじくと、図太い針が皮膚に食い込んでいくような。
そして針に含まれた毒がじわじわと心身を蝕んでいくような、そんな錯覚に襲われた。

404 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:50:00.66 ID:NnHwervu0

フラン「――――ぁ」



それを見たフランドールは、理屈も過程も吹き飛ばして一つの答えを導き出す。


『自分はもはやまともなニンゲンではない』ということに。
『ニンゲンの枠から外れたバケモノだ』ということに。
人の枠を超えた力を手に入れたその代償として、『人間の環』から外されてしまったと理解した。


『人を人たらしめるもの』とは何か。
『人の胎から生まれ落ちれば人』か?それはノーだ。
確かに『種族』という因子は個の存在を決定するには必要なものではある。


だがその種族が『人間』という枠組みになると、途端にその因子だけでは頼りないものになってくる。
なぜなら『種族』という因子は『生物学的に』個の存在を決定づけるものでしかないからだ。

405 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:53:34.29 ID:NnHwervu0

人間は『社会的生物』である。


個々の人間は、生身では猫にも劣る力しか持ち合わせていない。
それ故に、彼らは群れることによって己の非力を補おうとした。
さらには『爪と牙』という野生の力を放棄し、代わりとして『頭脳』というあらゆることに応用可能な力を手にしたのだ。


その結果、人間は頭脳を用いて群れることにより『社会』と呼ばれる大規模な集団を構築し、
地球上のあらゆる種族に対抗しうる手段を手に入れることになる。


その『社会』に属するためには、『人間から人間と認められなくてはならない』。
それは、『社会的』に個の存在を決定づける方法に他ならない。
『生物学的』にも『社会的』にも『人間』と判断された時、その個は初めて『人間』となりうるのである。










それならば、『人間という名の社会』から外されたフランドールは、果たして人間なのだろうか?

406 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:54:21.65 ID:NnHwervu0

フランドール「う、うあぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁ!!!」



突如の頭痛にフランドールはその場に座り込む。
精神が不安定になったときに起きる『自分だけの現実』の暴走。
脳細胞の異常な活発化により、フランドールの脳に大きな負担がかかり始めた。
そして何より問題なのは、『自分だけの現実の暴走』とは『能力の暴走』と同義であり――――



「――――っ!?」

「――――、――――!!!」

「――――!? ――――!!!」



床にうずくまるフランドールを見た教師たちが、何か叫び声を上げる。
彼女の身に何が起こっているのかを察知し、その場全員に避難を促そうとした。


だが恐慌状態に陥っている状況下で、その声が届くことはない。
教室の中には、未だにその場から動くことの出来ない子供であふれていた。

407 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:55:28.70 ID:NnHwervu0

フラン「あぁあぁぁ……!」



バキッ!!!



教師達が仕方なく子供達を強引に教室から連れ出そうとしたとき、フランドールに更なる異変が起こる。
頭を抱えてうずくまる彼女を中心として、床に亀裂が入った。
その亀裂は蜘蛛の巣のごとく次々に広がっていき、見る見るうちに教室全体にまで達する。



「――――!?!?!?」



それを見た教師たちは、これから何が起ころうとしているのかを察知し、一瞬にして血の気が引いた。
彼等は慌てて子供達を抱え、部屋から飛び出そうとして――――

408 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 00:55:57.21 ID:NnHwervu0










その直後、校舎の一角が轟音を立てて崩落した。










409 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2015/12/26(土) 01:08:16.19 ID:NnHwervu0
今日はここまで


今年最後の投稿になります
今年はリアルの忙しさもあって、殆ど進めなかったのが心残りです
話の流れとしては後半の中頃にさしかかったところなので、なんとかエタらずに済みそうです
まだ最後まで書ききってはいないんですけどね

どれほどの方がご覧になってくださっているのかはわかりませんが、
来年も何卒よろしくお願いします


それでは皆様、よいお年を
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/26(土) 07:30:42.24 ID:WZAEjkfq0

こんな事になって、よく暗部に堕とされなかったなフランちゃん。姉の頑張りか?

よいお年を!
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/26(土) 14:17:43.40 ID:hsb1C02ao
乙です
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/27(日) 07:53:31.66 ID:cCpqsYuP0
それから今までふさぎこもり軟禁状態……これは封印されてきた吸血鬼化がどうなる事やら
413 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/01(金) 01:15:31.44 ID:ZnHob6e30
あけおめ!
414 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/01/12(火) 00:26:44.64 ID:YJs6rbFR0
あけおめことよろ
今年最初の投下を始めます
415 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/01/12(火) 00:27:31.34 ID:YJs6rbFR0





――――7月28日 PM10:03





416 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:28:31.54 ID:YJs6rbFR0

土御門「カミ、やん……」

上条「……」



空に浮かぶ満月に、煌々と照らされる中。
スカーレット邸の玄関前において、土御門元春と上条当麻が対峙していた。


土御門は自身の足下で眠る少女――――フランドール・スカーレットの近くにしゃがんだまま、
背後の突如現れた親友を返り見て硬直している。
それに対し、当麻は土御門を睨みつけたままその場から動く様子はない。
しかしその顔から迸る怒りの感情は、今にも土御門に対して殴りかかってきそうな気迫を携えていた。



上条「……土御門、お前、『フランに何をした?』」

土御門「……」



ぽつりと、ただしはっきり聞こえる声で当麻は問う。
彼はたった一言だけ、目の前の男に自身の疑問を口にした。

417 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:29:18.81 ID:YJs6rbFR0

しかしその一言は、土御門をその場に射止めるには十分な代物。
その言葉の言外には、『下手な言い訳は許さない』という明確な意思が付随している。
いかに当麻を言いくるめるかを全力で思案していた彼にとって、
正しく心を鷲掴みにされたかのような錯覚を覚えるものだった。


だが土御門の精神は、その程度で錯乱状態に陥るような軟なものではない。
彼は幼少のころから闇の狭間を生きてきた人間である。
このような状況など、星の数ほど経験してきたのだから。



土御門「……麻酔を使って眠らせた。 暴れられると困るからな」

土御門「能力を使って無暗矢鱈に破壊し始めたら、いくらオレでも手がつけられない」

上条「……」



土御門は己の行いを、嘘偽りなく当麻へ曝け出した。
下手に虚言を並べない方が、これからの話を円滑に行えると考えたからである。
その予想は当たっていたようで、彼の発言に対して何か強く言いだすことを当麻はしなかった。

418 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:31:00.28 ID:YJs6rbFR0

土御門「それでカミやん、どうしてこんなところに居るんだにゃー?」



ある程度考えを纏めた土御門は、話し方を普段使っている猫被りに戻す。
そしてゆっくりと立ち上がると、いつものおどけた表情を造りながら当麻に問いかけた。


しかしながら、その疑問は彼の中で既に氷解している。
どうして目の前の男がこの場に居るかなど、当人の性格を鑑みれば考えるまでもないことだからだ。
故にこの問いは、あくまでも会話を自身のペースに乗せるためという意味合いしかない。



上条「そんなの決まってるだろ。 お前やパチュリーを止めるためだ」

土御門「止める? 一体何をだ?」

上条「フランとレミリアを、イギリス清教に連れて行くことだ。 知ってるんだよ、お前達がこれから何をしようとしているのか」

土御門「なーるほど……一つ聞くが、そのことを何処で?」

上条「ステイルだ。 聞いたら教えてくれた」

土御門「ステイルが? 良く教えてくれたもんだな」

上条「それは俺もそう思う」

419 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:31:39.84 ID:YJs6rbFR0

土御門は一連の話の中で、一つの疑問について思考を巡らせる。


何故、ステイルは当麻にこちらの情報を教えたのか。
『上条当麻に教えるな』と直接釘を刺したわけではないので、それが原因と言われればそれまでである。
しかしステイルほどの人間が、自身の行動が何をもたらすのかについて全く気づかないとはあり得ない。


当麻に事件の詳細を伝えることは、彼を事件に突っ込ませると言うことであり、
ひいてはインデックスを事件に巻き込むと言うことである。
インデックスの身を誰よりも案じているであろう彼が、
彼女に危険が迫るようなことをするとは思えないのだが……



土御門(ステイルの奴、一体何を考えている……?)

上条「……土御門」



当麻の声に、土御門の思考は現実へと引き戻される。
ステイルの思惑は気になるが、それを考えるのは今するべき事ではない。
目の前で仁王立ちしている親友をどうするのか。それがまず先だ。

420 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:32:53.94 ID:YJs6rbFR0

土御門「ふぅ、カミやんの言いたいことはよ〜くわかったにゃー。 ……その上で聞こう」

土御門「……カミやん、自分が何を言っているのかわかっているのか?」

上条「……わかってる、わかってるさ」

土御門「いいや、わかってないな。 カミやんがやろうとしていることは、イギリス清教への明確な反逆だぞ?」

土御門「しかも単なる業務妨害じゃない。 俺達の任務は『最大主教』の直々の指令だ」

土御門「それを邪魔することが何を意味しているのか、留年ギリギリのカミやんでもわかるはずだぜい?」

上条「知っている。 俺がお前達の邪魔をすればイギリス清教に目の敵にされることも、
インデックスがイギリスに連れ戻されることも、全部わかっている」

上条「だけど、それでもなんだ。 俺には、フラン達が連れて行かれるのを黙って見ていることなんてできない」

上条「例えそれで平和になるとわかっていても、誰かが不幸になるのを無視するなんてできねぇ!」

土御門「おいおい、まさかカミやんの都合でインデックスに迷惑をかけるつもり――――」

「それは大丈夫なんだよ」

421 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:33:48.63 ID:YJs6rbFR0

少女の声が響いたかと思うと、当麻の背後――――屋敷の門の陰から人影が飛び出してきた。


白いベールのついた帽子に、長い青色掛かった銀髪。
それを風に靡かせながら、その者は小走りでこちらに駆け寄ってくる。
その姿は、土御門にとっては慣れ親しんだもの。


イギリス清教の切り札。10万3000冊の魔道書を脳に刻み込んだ最強の防護壁。
『禁書目録』もとい、インデックスであった。



土御門「インデックス……カミやん、やっぱり連れてきたのか?」

上条「……あぁ」

土御門「イギリス清教に所属している身としては、あまり彼女を危険な場所に連れまわしてほしくはないんだけどにゃー……」

禁書「つちみかど」



インデックスは土御門に呼びかける。
彼女の眼は、当麻のそれとはまた違った、とても澄んだ色をしている。
邪なものを感じさせない純真無垢な瞳は、当麻とはまた違った圧迫感を感じさせるものだった。

422 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:35:30.15 ID:YJs6rbFR0

インデックスは土御門に呼びかける。
彼女の眼は、当麻のそれとはまた違った、とても澄んだ色をしている。
邪なものを感じさせない純真無垢な瞳は、当麻とはまた違った圧迫感を感じさせるものだった。



禁書「お願いだよ、つちみかど。 ふらんを連れて行かないで欲しいんだよ」

禁書「ふらんは何も悪いことはしてないし、吸血鬼の魔術だって何とかなるかもしれない」

禁書「だから……もう少しの間だけ待ってて欲しいんだよ!」



インデックスは嘆願する。
その姿はまるで、あの時の――――インデックスにかけられた1年ごとに記憶を消される呪いを解くために、
期限が迫る中で上条当麻が神裂火織とステイル対して食い下がった時のそれとよく似ていた。
彼ほど迫力こそはないものの、その言葉に込められた感情は比べるべくも無い。



土御門「……残念だが、『禁書目録』の頼みでもそれはできないぜい」



しかし、土御門はその嘆願を拒否した。
もし彼がただの一般人だったのであれば、その姿に心を動かされもしたのだろう。
彼女の姿は、人の心に罪悪感を沸き上がらせるには十分に足るものである。
だが、公私を区別できる土御門にとっては意味のないものであった。

423 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:36:56.31 ID:YJs6rbFR0

土御門「吸血鬼の存在はイギリス清教だけじゃなく、魔術サイド全体に関わる問題だ」

土御門「個人の都合でどうこうできるほど、今回の案件は軽くはないぜよ」

土御門「仮に俺達が引いても、いずれは他の奴等が嗅ぎつけてくる」

土御門「ローマ正教に見つかりでもしてみろ。 『捕縛』だなんて生ぬるい事なんてせずに、
その場で首を切り落とされること間違い無しだ」



それに、と土御門は付け加えながら再び当麻を見て、更に言葉を紡ぐ。



土御門「カミやんだってわかっているだろう? こいつらを放置する事が如何に危険なのかが……」

土御門「下手すれば、魔術サイド全てを巻き込んだ戦争が起こる。 しかもかなりの規模になるだろう」

土御門「インデックスがいる以上、そして彼女が発見者である以上、学園都市だって無関係を決め込めるじゃないんだぜい?」

土御門「戦争を防ぐには、スカーレット家が生み出した魔術を欠片も残さず排除するしかない」

土御門「そしてこいつらが魔術で吸血鬼化しているとなれば、今度は魔術の痕跡を消すだけじゃあ足りなくなる」

土御門「殺すか、もしくは未来永劫幽閉し続けるしかないんだ。 誰の手にも触れられることの無いようにな」

上条「本当に殺すしかないのか? 本当に永遠に閉じ込めるしかないのか?」

上条「もしかしたら、まだ手があるかもしれないだろ!?」

土御門「そんな手があったらとっくに使っている。 根拠の無い希望的観測は止めろ、上条当麻」

424 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:38:21.14 ID:YJs6rbFR0

土御門はついに、当麻の意見をばっさりと切り捨てた。


上条当麻は甘い人間だ。彼は敵味方、善悪問わず救おうとする。
言ってしまえば、理屈など度外視して、感情のままに行動するのだ。


『人を救う』ことは素晴らしいことだ。それに異論を挟む余地はない。
だが問題は、彼は救う人を選ばないのだ。相手がどのような人間であろうと手を差し伸べてしまう。
世界を滅ぼそうとする人間であろうと、自分に対して耐え難い苦痛を与えた人間であろうと、
その者が不幸の沼に足を囚われていれば、助けようとしてしまうのである。


それが如何に危険なことなのか、彼はわかっていない。
悪人を救おうとすれば、彼自身も共犯となる。つまり、周囲を敵に回すことになるのだ。
以前にも彼は、全世界を敵に回した少女を救おうとして同じような目にあっている。
あの時は運良く生きながらえたから良かったものの、今度もそうなるとは限らない。


これ以上上条当麻に無謀なことをさせることは、土御門としても容認できることではなかった。
だからこそ彼は親友を諦めさせようとする。

425 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:39:39.53 ID:YJs6rbFR0

上条「……そうかよ。 なら――――」

土御門「力尽くで、か? カミやん? らしくないな。 いつもの説教はどうした?」

上条「そうでもしないと止まりそうにないからな。 お前と口論したって、説得できそうもねぇし」

土御門「よくわかってるじゃないか……勝てると思ってるのか? この前のようにはいかないぜい?」

上条「上等。 俺だってあの時と同じじゃねぇよ」

禁書「とうま……」



軽口を叩き合いながらも、2人は静かに臨戦体勢へと入る。


彼等は以前にも、こうしてぶつかり合ったことがある。
一戦目は土御門元春の勝利。二戦目は、上条当麻の勝利で終わっていた。
互いに一勝一敗。この三戦目でついに優劣がつくことになる。

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