とある後日の幻想創話(イマジンストーリー)4

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426 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:40:28.40 ID:YJs6rbFR0

土御門「一時の感情で無計画に動き回るのは、カミやんのいつもの悪い癖だ。 いい加減そろそろ学習するべきだぞ」

上条「助けたいと思って助けることの何が悪いんだよ。 誰から何を言われようと、俺は自分を貫き通す!」

上条「俺は絶対に――――諦めたりなんかしねぇぞッ! 土御門ッ!」



上条当麻は、不幸になりそうな人を助けるために。
土御門元春は、世界と自身の大切な人を危険から遠ざけるために。
2人は己の信念のため、この場でぶつかり合う。そして、勝利した者だけがその信念を貫徹できるのだ。



上条「……いくぞ!」

土御門「……」



幾許かの睨み合いの末、2人はついに足を踏み出した。

427 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/12(火) 00:41:20.18 ID:YJs6rbFR0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
428 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/12(火) 00:58:10.71 ID:+ObhvQK2o
乙です
429 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/12(火) 05:17:49.04 ID:LM7UYOub0
乙!
友人同士の引けない戦い……青春してますね

んで、レミパチェはどうしてるのか
430 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/12(火) 20:36:37.90 ID:ivbvN2yi0
久々に見に来たが乙
431 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/13(水) 19:22:18.99 ID:AeOoqVEEo
おかえり本編
432 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/01/18(月) 00:11:00.35 ID:BaO6L2rk0
>>429
レミパチュは現在弾幕ごっこをしております
時系列的には巻き戻っておりますので


これから投下を開始します
433 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/01/18(月) 00:12:19.15 ID:BaO6L2rk0

上条「うぉらァッ!!!」ブオン!



当麻は土御門の腕に向けて拳を放つ。


能力も特別な技術もない、素人丸出しの拳。しかしそれこそが、上条当麻が持つ唯一の武器。
鍛え上げられた肉体から繰り出されるそれは、大の男を軽々と吹き飛ばす程の力を持っている。
それにより沈んでいった者は数知れず。土御門もまた、その拳を身に受けた者の1人である。



土御門「ふっ!」



しかし一度拳を受けたからこそ、それを見切るのもまた容易い。
何より土御門は、あらゆる暗殺武術を極めた人間である。
肉体、精神共に疲弊していたあの時ならいざ知らず、十全な状態の彼に大振りの攻撃など届くはずもない。

434 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:13:38.01 ID:BaO6L2rk0

彼は自身に向かって突き出された拳を危なげなく躱すと、その腕を自身の腕で絡め取る。
そして相手の力をそのまま利用し、背負い投げの要領で勢いよく投げ飛ばした。



上条「うっ!? ……とっと!」



そのまま地面に叩きつけられると思われたが、当麻は上手く体を捻って着地した。
流石、と言うべきか。事あるごとに何十メートルも吹き飛ばされてきただけある。
咄嗟に受け身を取るのは朝飯前というわけだ。



上条「危な――――!?」



ブオッ!



着地の姿勢でしゃがみ込んだまま、背筋に悪寒を感じ取った当麻は、反射的にその場から飛び退く。
すると間一髪、彼の瞳には目の前から相手の拳が遠ざかっていく光景が映し出された。

435 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:14:24.33 ID:BaO6L2rk0

顎へと正確に狙いを定めた正拳突き。
もしもまともに食らっていたら、いくらタフな当麻といえども、昏倒は避けられなかっただろう。
起こり得たかもしれない未来に冷や汗を流しつつ、彼はさらに土御門から距離を取る。


が、土御門は当麻を逃がすまいと俊足で以て一気に肉薄した。



当麻「――――!?」

土御門「……」ブンッ!



瞬きする間も無く迫り来る、金髪サングラスの男。その脇から、居合のようにして握り拳が打ち出される。
距離は目と鼻の先。避けるにはあまりにも時間が足りない。
だが対処しなければ、その拳は自身の鳩尾へと吸い込まれる。


避けることはできない。ならば、受けるしかない。

436 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:15:09.36 ID:BaO6L2rk0

ガシィッ!



土御門「!」

上条「……!」



当麻は迫り来る拳を手の平でうけ、しっかりと掴んだ。
直ぐさま土御門のもう一方の拳が同じようにして突き出されるが、それも辛うじて受け止める。



上条「ぐぐっ……!」

土御門「くっ……!」




二人の両腕、すなわち四本の腕が橋を作る。
ここからは純粋な力くらべ。互いに相手の拳を押し返そうと、さらに力を込める。

437 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:16:16.32 ID:BaO6L2rk0

しかし力は拮抗し続け、一向に状況は変わらない。2人の腕力はほぼ同等だったのだ。
幾多の修羅場を迎え、その度に乗り越えることで鍛え上げられた肉体。
境遇は違えど、彼らは紛うこと無き歴戦の戦士である。
その力に容易く優劣をつけることなどできはしない。


単純な力勝負では、決着はつきそうにない。
では、『力』以外で勝敗を分けるものといえば何があるだろうか?
次点に来るものとして考えられるのは、力を扱う『技術』だろう。



上条「おわっ!?」



突然、当麻は勢い良く前へとつんのめった。
原因は無論、土御門にある。彼は力比べを早々に切り上げ、『その腕を引いた』のだ。
相手を押し返すようにして力をかけていたところに、急にその支えを奪われてしまえば、
バランスを崩してしまうのは当たり前の話である。


当麻は不意を突かれ、完全に自身の足元を見る体勢となる。
そして見下ろした視線の先には、土御門の膝が自身の顔面へと向かってくるのが見えた。

438 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:17:38.79 ID:BaO6L2rk0

ガスッ!



何かが勢いよく擦れるような、鈍く乾いた音が響く。当麻の前額から鮮血が飛び散った。
土御門の膝が届く前に首を捻り、辛うじて直撃を回避したのだ。
咄嗟のことで躱しきれなかったようだが、頭を粉砕されることに比べれば遥かに良い方である。



上条「う、おおおぉぉぉぉおぉぉおお!!!」

土御門「!?」



当麻は咆哮を上げ、前のめりの体勢のまま土御門へと突進した。
己の重心を思いっきり前へと移し、全体重を相手にかける。


こうなると、次にバランスを崩すのは土御門の方である。
相手をこちら側に引きつけようと、体の重心を後ろに下げていたためだ。
このままでは無様に倒れ込み、当麻にマウントを取られてしまうだろう。
そうなったら最後、再び起き上がることは二度と叶うまい。

439 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:19:06.16 ID:BaO6L2rk0

土御門「甘いッ!」

上条「うっ!?」



しかしそこは熟練の格闘家である土御門。彼の頭の中では、瞬時に次に移るべき行動を弾き出していた。
彼は相手の勢いに逆らうことなく『相手の下に滑り込むようにして、わざと自ら倒れ込んだ』。
2人の位置関係は土御門が下に、当麻がその上に覆い被さる形となる。


一見、相手の突進に対して早々に屈したように見える。その認識はある意味で正しく、そして間違っている。
だが彼は『屈した訳ではない』。この動作は次の動作へ繋がる布石。
彼は仰向けに姿勢のまま、当麻の腹部を思いっきり蹴り上げた。



ドスッ!



上条「がっ――――!?」



体の中からミシミシと、背骨の悲鳴を上げる音が聞こえる。
腹部が圧迫され、胃の中の咀嚼物と肺の中の空気が逆流しそうになる。
喉の奥から迫り上がってくる強烈な不快感に、全身から嫌な汗が噴き出した。


440 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:20:27.04 ID:BaO6L2rk0

だが、それを意識する暇もなく彼の視界が反転する。
視界には土御門の顔があったはずが、いつの間にか満天の星空へと様変わりしていた。
それに遅れて全身を包む浮遊感。その時初めて、自身が投げ飛ばされたことに気づく。



上条(やばっ――――!?)



このままでは背中から地面に叩きつけられることに気づき、慌てて体を捻って姿勢を立て直す。
俯せの姿勢で地面に手を突き、落下の衝撃を和らげる。衝撃が腕の隅々を伝播した。


その痛みを噛みしめながら当麻は、反撃を避けるべく急いで起き上がる。
多少のふらつきはあるが、問題は無い。まだ戦うことはできる。
見やると、土御門も同じく起き上がる所であった。ただし、当麻のようにふらついてはいないが。



禁書「とうま!? だいじょうぶ!?」

上条「俺は大丈夫だ、インデックス」



不安な顔持ちで声を上げるインデックスを安心させようと、何でもない風を装って答える。

441 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:21:50.54 ID:BaO6L2rk0

しかし実際の所、腹部を蹴られた痛みは容易には看過できない。
土御門が手加減してくれたおかげか、口から血を吐くような重篤ものではなかったが、
それを差し引いたとしても身体へのダメージはかなり大きいようだ。
蹴られたことによる鈍痛は勿論のこと、喉の奥から沸き上がってくる嘔吐特有の不快感。
それらの襲い来る感触が、当麻の心身をじくじくを蝕み始めていた。



土御門「カミやん、諦めろ。 今ので判っただろう? お前の攻撃は単調で隙がありすぎる」

土御門「そんな力任せの攻撃じゃあ、いつまで経っても俺には当てられないぜい?」

上条「まだだ……これ位のことで、諦めて、たまるかよっ!」

土御門「いい加減にしろ。 本当なら、最初の段階で投げ飛ばしたりせずに腕をへし折っても良かったんだぞ?」

土御門「第一に、だ。 そんなフラフラの状態で、まともに俺と戦うことができるのか?」

上条「ぐっ……」



土御門の最後の一言に、当麻は苦い顔をした。
目の前の天の邪鬼の発言は的を射ている。反論の余地すら無い。
腹部に一撃を貰い、体力を大きく削られた今となっては、当麻が勝利する可能性は無きに等しい。

442 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:23:20.24 ID:BaO6L2rk0

元々万全の状態でやり合ったとしても、勝率など高が知れているのだ。
幾たびの戦いの最中、上条当麻が身につけた『攻撃の予兆を感じ取る』という戦いの才能。
それを以てしても、土御門がこれまで築き上げてきた戦闘技術には遥かに及ばないのだから。


しかしそれ以上に、彼が持つ『もう一つ強味』が生かせないことの方が致命的である。


上条当麻の『話術』。
彼から紡ぎ出される言霊は、ある時には相手の『心の隙間』を突き崩して動揺を誘い、
あるときには迷いの直中にいる者の背中を後押しし、奮い立たせる。
彼は遥かに強大な敵との戦いを、言葉の力を借りて有利に進めてきたのだ。
自覚していたわけではない。だが例え無自覚でも、その力は紛れもない上条当麻が持つ力である。


しかしそれが通用するのは、相手が『心の隙間』を持っている時、
そして何より『良心の叱責』を持っている時だけである。
自身の考えに確固たるものを持っている者には当麻の言葉は届かないし、
彼の言葉が『道徳心』から出るものである以上、良識が欠如している者にも同様に効果はないのだ。


そして今回の例に当て嵌めるならば、土御門は前者の人間である。
土御門は心に迷いを抱えているわけではない。明確な意志を持ってこの場に立っている人間だ。
彼の意志は、言葉だけで容易く揺り動かせるほど甘くはない。

443 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:24:12.19 ID:BaO6L2rk0

上条(不味いな……このままじゃ、いつまで経っても土御門をフランから引き離せない)

上条(腕っ節は同じくらいだけど、経験は土御門の方が上……俺の大振りな攻撃じゃあ、直ぐに見切られちまう)

上条(まともにやり合っても勝ち目は薄い。 だけど、それ以外に方法がない)

上条(何とかフランのことを諦めてくれるように説得できれば良いんだけど、策は浮かばねぇし……)



フランドールを助けるには、どうにかして土御門を説得し、止めなければならない。
しかし、それを成すための確かな言葉を、当麻は未だに探し出せていなかった。
無情にも過ぎ去っていく時間。このままでは何も事態は好転しない。


それに、この場に居ないレミリアやパチュリーのことも気掛かりだ。
レミリアはこの事件の首謀者。何を思ってこのようなことをしでかしたのかは知らないが、
目的があって行動している以上、それを邪魔する者に対しては容赦しないだろう。
そしてパチュリーも『吸血鬼退治』に駆り出されている以上、相当な腕を持つ魔術師のはず。
『最大主教』の命もある。戦いになった際は全力で事に当たるだろう。


そう考えると彼等二人がいる場所が、自分が今いる場所よりも遥かに殺伐しているだろうことは容易に想像出来る。
戦闘、しかも純粋な殺し合いに発展していてもおかしくはない。
辿り着いた時には既に、どちらかが死んでいても何ら不自然ではないのだ。

444 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:25:00.18 ID:BaO6L2rk0

そうなる前に、何としてでも止めに入らなければならない。
しかしそのためには、この状況を打開しなければならないのだが……



禁書「あっ……!」

上条「っ!? どうした、インデックス――――」

土御門「む……?」



思考が無間に陥りかけた時、インデックスが突然、何かに気づいたように声を上げる。
彼女の視線は土御門の背後に注がれていた。


釣られて同じように自身も眼を向けると、そこには。
俯きながらも立ち上がった、フランドールの姿があった。

445 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/01/18(月) 00:33:00.66 ID:BaO6L2rk0
今日はここまで


原作では上条さんは魔神との戦いの経験で土御門よりも強くなっている気がしますが、
このSSでは上条さんと土御門の力関係は『御使堕し』の時から若干差が縮んだ程度になっています
あまりインフレし過ぎると色々と前提が崩れてしまいそうなのでこのような形にしました


質問・感想があればどうぞ
446 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/18(月) 01:23:59.69 ID:RAKMtesDO
乙です
447 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/18(月) 05:51:24.97 ID:z62758j70
乙!
さぁて起き上がりましたフランちゃんですが嫌な予感しかしません!どうなる次回!?
448 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/01(月) 00:43:06.59 ID:MVucWqbl0
これから投下を開始します
449 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:44:10.41 ID:MVucWqbl0

フラン「――――」



その姿は、お世辞にも『安心』と言えるものではなかった。


彼女は体を前後にゆらゆらと揺らしており、その様子は少し小突けば簡単に倒れるのではないかと思えるほど。
顔を伏せているため、その表情を窺い知ることは出来ない。
それはまるで陽炎のよう。瞬きすれば消え去ってしまいそうな、そんな不安に駆られるものだった。



上条(眼が醒めた……のか? いや、まだ意識が曖昧なのか……)



フランドールの傍に駆け寄りたい衝動に駆られるが、すんでの所で押し留める。
彼女と自身との間には土御門元春がいる。それは、二人の間に難攻不落の城壁があることと変わらない。
それを乗り越えることができなければ、視線の先に立つ少女には触れることすらできないだろう。

450 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:44:59.21 ID:MVucWqbl0

上条(今すぐ様子を見に行きたいけど、先ずは土御門を何とかしないと……!)



故に考える。如何にして間に立つ男を打倒するかを。
例えそれが無理難題だとわかっていても、思考を止める理由にはならない。



土御門(馬鹿な……もう目覚めたのか!?)



当麻が思案している一方で、土御門はフランドールの姿を見て戦慄する。
『フランドールが眼を覚ました』。ただそれだけの事実が、彼にとっては信じられないことだった。



土御門(あの麻酔は少なくとも丸3日は効果があるはずだぞ!?)

土御門(まさか、吸血鬼化の影響か? それで薬物に耐性が……!?)



フランドールに撃ち込んだ麻酔は、並みの人間であれば1日そこらでは眼を覚まさない強力なもの。
薬品の分量を間違えれば、『眠るように死ぬ』という言葉をそのまま実現できてしまうほどの代物だ。

451 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:46:24.28 ID:MVucWqbl0

上条(今すぐ様子を見に行きたいけど、先ずは土御門を何とかしないと……!)



勿論、そのような薬品を使っていることには理由がある。
もしも拉致している途中でフランドールが眼を覚まし、その能力を使われたとしたら。
その時点で、彼のこれまで練ってきた計画が破綻しまう可能性が高いからだ。


フランドールの捕縛に失敗した場合、レミリアに交渉する際の重要なカードを失うことになる。
『人質を使って相手を脅迫する』という、外道ながらも有効的な策を使うことができなくなる。
そうなれば、今回の任務の難度は格段に跳ね上がるだろう。
いくら多様な魔術を行使し、多彩な策を弄することができるパチュリー・ノーレッジであっても、
『もどき』とはいえ吸血鬼を相手にして楽に事を進めることはできないはずである。


だからこそ彼は、任務を確実に遂行するために強力な麻酔薬を持ち出したのだ。


にも拘わらず、フランドールはものの10分もしない内に覚醒しかけている。それは何故か。
その理由は単純。『人の身であれば3日は眼を覚まさない』のであれば、『人の身でなければ早期に眼を覚ますことができる』。
即ち、『フランドールの肉体は普通の人のそれとは違う』ということであり、
『フランドールの肉体は吸血鬼化している可能性がある』ということに他ならない。
吸血鬼の肉体であれば、あるいは薬物の効力を打ち消すことができるのかもしれない。

452 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:47:50.74 ID:MVucWqbl0

土御門(ちっ、また効くかはわからないが……もう一度――――)



土御門は内心舌打ちしつつも、再び麻酔銃を構える。


例え麻酔の効果が薄かったとしても、『一時的にでも眠った』ことは紛れもない事実。
フランドールが起き上がったことは計算外だったが、まだ修正できる程度の問題だ。


眼を覚ましてしまうのであれば、その度に麻酔を打ち込めばいい。
1発では足りないのであれば、2発、3発と打ち込めばいい。
何と言うことはない、ただそれだけのことである。



上条「おい、ま――――」

453 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:49:07.68 ID:MVucWqbl0

パシュンッ! パシュンッ! パシュンッ!



当麻の静止を最後まで聞くことなく、土御門は麻酔銃をフランドールへと向け、その引き金を引いた。
軽い音が三回続き、それと同じ数だけ銃口から毒牙が飛び出す。


たった一発だけでも人を眠り姫にしてしまう麻酔弾を3発。
それだけの数を受ければ、常人であれば間違いなく麻酔の過剰摂取で危篤状態へと陥るだろう。
危篤になるだけならまだ良い。最悪ショック症状を起こして死んでしまうかもしれない。


土御門元春、上条当麻、そしてインデックス。
3人が3人、フランドールが凶弾によって倒れる未来を想像して――――










パンッ!



不意に、気の抜けたような音が響いた。

454 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:50:42.53 ID:MVucWqbl0

上条「――――え?」



当麻は土御門の凶行を止めようとした姿勢のまま、その場に硬直する。
そしてあっけに取られた顔のままそれを眺めていた。


彼の瞳に映るのは2人の姿。
相も変わらず、顔を伏せたまま佇んでいるフランドール。
そして、彼女に拳銃を向けたまま立ち尽くしている土御門。
何の変哲もない、それだけの光景。おかしい所は何も見あたらない。
だが当麻はそれを見て、強烈な違和感を感じ取っている。


――――フランドールは土御門の銃弾をもろに受けた。
彼女にそれを回避する素振りはなかったし、第一あれは回避できないものだ。
ならば何故、彼女は未だに二本の足で直立することができているのだろうか?


その問題は、次の瞬間氷解することになる。


455 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:52:12.13 ID:MVucWqbl0

土御門「チッ、遅かったか!? こいつ能力を……!?」

上条「……!」



土御門の舌打ちと、それに続く危機感を帯びた声。
その一言、二言で、当麻は今起きた現象の全容を理解した。


何故フランドールは銃弾を受けて立っていられるのか。その答えはフランドール自身の能力にある。
自身に触れた物質の悉くを破壊する超能力『物質崩壊』。
おそらく彼女は、その能力を使って銃弾を自身に着弾した先から破壊したのだろう。



フラン「……」

上条「……フラン?」



当麻は目の前の少女に恐る恐る問いかける。
しかし、その答えが返ってくることはやはり無かった。


彼女の足が一歩、前へと踏み出される。

456 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:54:16.78 ID:MVucWqbl0

ビシィッ!



その一歩で、鋭い音と共に石畳に大きな罅が走った。


だが、それだけでは済まない。果たしてその亀裂は何処まで走ったというのか。
亀裂は地中深くにある水道管までをも破断し、それによって隙間から地上へと向かって勢いよく水が噴き出す。



ズズンッ!



土御門「うっ……!?」

上条「う、わ……!」

禁書「きゃっ……」



そして止めとばかりに、一帯に激震が走る。
足下を見やると、所々地面が崩れて穴が開き始めていた。

457 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:55:57.08 ID:MVucWqbl0

学園都市の敷地面積は、外部からの供給無しに都市機能を持続するにはあまりにも狭い。
その問題を解決するために、学園の地下には何層にも渡って地下都市が広がっている。
地下都市を支える壁や柱は、日本国を度々襲う地震に耐えるために最高の耐震素材と耐震技術を駆使して生み出されたものだ。
例え壮絶な大地震が起き、関東一円が壊滅状態になったとしても、学園都市の地下空間は何事もなくそこに在り続けるだろう。


しかし、如何に堅牢な建造物でもフランドールの能力の前には全くの無力。
どんなに強固な構造にした所で、彼女の力にしてみれば砂上の楼閣であることは変わらない。
故にその力に晒された地下空間の壁面は、砂の如く崩れ去るのみ。
そして地下が崩れ去れば、地上も同様に崩落するのは当然の帰結である。



上条「――――ッ!」



当麻は崩れ始める足場の中で何とかバランスを保つ。


――――このままここにいるのは危険だ。
あと少しすれば地面は陥没し、この場あるもの全てが奈落に飲まれるだろう。

458 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:57:25.40 ID:MVucWqbl0

禁書「あぅ……」

上条「!?」



亀裂が走る音に紛れて耳に届いてくる声。
振り向くとそこには、その場にへたり込んで身動きが取れなくなっているインデックスの姿。
そして、彼女の目の前には既に崩れ始めている地面が――――



上条「インデックス!」



ドッガァッッッ!!!



それを見るや否や、当麻は叫び声と共に弾けるようにして駆けだした。
同時に、彼の周囲が轟音を響かせながら堰を切ったように崩落を始める。


徐々に不安定になる足下。
落とし穴を全力で踏み抜いた時のような、地に足がつかなかった時独特の奇妙な感覚を足に感じながらも、
目の前に広がる罅の入った地の中から、足場となり得る安定したものを持ち前の観察眼で見極める。
その姿は端から見れば、地に落ち行く瓦礫を足場に空を歩いているように見えるだろう。


そんな、ただ一度でも成功し難い神業を幾重にもこなしながら、当麻はインデックスの元へと辿り着く。

459 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:58:44.22 ID:MVucWqbl0

上条(間に合えッ――――!!!)



インデックスの足場が崩れ落ちるその刹那。
当麻は彼女の腕を掴み取り、渾身の力で引き上げた。



禁書「わっ……」



間の抜けた声を漏らしながら、インデックスは空に放り上げられる。
そして幾許かの時間を滞空した後、彼女の体は傍の花壇へと着地。
花弁が周囲を舞い上がり、その芳香が鼻をついた。

460 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/01(月) 00:59:31.10 ID:MVucWqbl0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 07:03:14.86 ID:eLCiAChZ0

落ちる足場!アクションゲームの定番だね!(錯乱)
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 10:58:04.55 ID:rvCEhlImo
乙です
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 21:29:17.48 ID:C56gsj1z0


??「花を潰した?どこの誰の仕業かしら?」
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/02(火) 04:20:00.24 ID:R2/k6pSE0
フランの能力で学園都市がヤバい
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/03(水) 00:48:04.29 ID:I2HiB7K90
芳香「お肌はケアしてる」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/05(金) 04:59:04.14 ID:x8Eymw8w0
紅魔邸「じ、冗談じゃねぇ!ここは幻想郷じゃねーし、俺だって紅魔館でもないってのに、結局壊されるのか!?」
467 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 00:55:25.00 ID:tdp3J+XE0
>>461
アニメでも黒子助けるためにやってたからへーきへーき(白目)

>>463
不可抗力だから……(震え声)

>>464
本気出せば学園都市を楽々壊滅できそうなの結構いるから、多少はね?(レベル5話)

>>465
防腐剤はNG

>>466
紅魔邸(の庭)は犠牲になったのだ……
468 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 00:56:25.02 ID:tdp3J+XE0
これから投下を開始します
469 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 00:57:13.38 ID:tdp3J+XE0

禁書「っ、とうま!?」



インデックスは自身を助けてくれた少年の安否を知ろうと、痛む体を無視して起き上がる・
軟らかい土の上に落ちたため、幸い大きな怪我をすることはなかったものの、
その衝撃は彼女の体に少なからずの痛みを与えていた。


起き上がった彼女の目の前に現れたのは、直径5メートルは在ろうかという大穴。
穴は地中深くまで開けられ、その底を計り知ることはできない。
まるで、その地面だけが巨大な型抜きでくりぬかれたかのように、穴は綺麗な円の形をしていた。


一度その穴に飲まれてしまえば、おそらく二度と這い上がって来られまい。
まさか落ちてしまったのか――――そんな最悪の結末がインデックスの脳裏を過ぎった時。



「っぶねぇ……」

禁書「!」



どこからとも無く聞こえてきた声。
その方向を見やると、少年――――上条当麻が穴の縁から這い上がってくる所だった。

470 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 00:59:04.31 ID:tdp3J+XE0

彼はあり得たかもしれない『転落死』という結末に冷や汗をかきながら、歯を食いしばって崖をよじ登る。
辛うじて引っかかっている片足に神経を集中しつつ、もう片足を器用に動かしながら足場となる場所を模索する。
そうして十数秒程かけて脆くなった断壁から足場となる箇所を見つけると、その足場を思いっきり蹴り上げ、
当麻はやっとの事で崖上へと帰還することができた。


荒い息を整えつつ、彼は眼前の奈落を眺める。
後一歩遅ければ、崖淵に捕まることができずに闇の底へと真っ逆さまだっただろう。



禁書「とうまっ!」

上条「え? あぁ、インデックスか……怪我はないか?」

禁書「私は大丈夫。 とうまこそ……」

上条「へへ、そんな顔するなって……上条さんは、こんな事ではへこたれませんことよ?」

禁書「もうっ!」

上条「っと、それよりも土御門は……!」



己の身を心配するインデックスを余所に、当麻は穴の向こう側へと視線を移す。


足場が崩れ落ちる直前、土御門は当麻と逆の方向に身を投げ出していた。
つまり、彼は崖の向こう岸にいるということ。穴に落ちたのでなければ、姿が見えるはずである。
そして同じように穴の向こうには、この大穴を造った本人であるフランドールがいる。


もしあの2人が同じ場所に立っているのであれば。状況は非常に拙いと言わざるを得ない。

471 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:00:59.58 ID:tdp3J+XE0

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



一帯に狂笑が響く。


当麻が見やるとそこには、争っている二人の姿があった。
フランドールは顔を破顔させ、笑い声を上げながら。
土御門は顔に苦悶の表情を浮かべながら。


いや、よくよく見るとただ争っているわけではないようだ。
土御門が圧倒していると思いきや、予想に反してフランドールが責め立て、土御門は逃げの一手に出ている。
素人丸出しの大振りな拳を前に、土御門はただ避けることしかしていない。
彼が持つ技術ならば、簡単に相手の動きを封じることができるにも拘わらず。



土御門(拙いな……体術は素人のそれだが、予想以上に拳速が速い。 何より所持している能力が危険すぎる)

土御門(少しでも掠っただけで死に至る魔手か。 一方通行でもあるまいに……!)



土御門はフランドールから無造作に突き出される腕を、細心の注意を払いながら躱していく。
少女の拳撃は、愚直ではあるがそれを補って有り余る程の速さを持っている。
が、武術家である彼としては見切り易く、それ自体は脅威に値するものではない。
問題はその拳に付与されている異能――――超能力に問題があった。

472 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:01:36.91 ID:tdp3J+XE0

フランドールの超能力は『触れた物質を分解する』というもの。
つまり、指先一つでも体の何処かに触れられてしまった時点で、自身の体はバラバラになってしまうのだ。
彼が持つ知識の中で例えるならば、『海原光貴(エツァリ)』が行使する魔術の一つである、
『トラウィスカルパンテクウトリの槍』の効果を全身に纏っているということ。
その魔術の威力を十二分に理解している土御門にとっては、体の傍を腕が通過しただけで冷や汗ものだ。


加えて、こちらの攻撃はその全てが能力に阻まれて相手に届くことはない。
肉弾戦など以ての外。不用意に手を伸ばそうものなら、その端から腕が分解されてしまうだろう。



土御門(俺に残された攻撃手段は、銃に込められた麻酔弾5発と緊急時のための実弾カートリッジが3本……)

土御門(どれもこれも、コイツを止めるには無力な代物だ。 こんな事になるんだったら、
多少の手間をかけてでも他の手段を揃えるべきだったか)

土御門(……それにしてもこの変貌、何が起こっている?)

土御門(情報では、こんな戦闘狂じみた人間じゃなかった筈だが……)



土御門は攻撃を捌きながら、肉薄してくるフランドールを見る。
彼女は口角が裂けそうな程の笑みを浮かべつつ、『紅い瞳』でこちらを見ていた。

473 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:02:10.63 ID:tdp3J+XE0

事前の調査において彼は、『フランドールは引っ込み思案で大人しい性格である』と結論づけていた。
彼女はかつて、阻止相応の活発な少女であったが、7年前に起こした事件により引きこもりがちになったと聞く。
おそらく、自身の能力が怖くなったのだろう。自身の力が他人を傷つけたという事実は、少女の心に深い傷を負わせたはずだ。


彼の同僚にも似たような境遇の人間がいたから、そのことは簡単に想像がついたし、
その感情は容易に克服できないということも理解していた。
だからこそ彼は、重装備をせず身軽な体で捕獲作戦に望んだのだ。
それはフランドールが攻撃的な性格ではなく、それ故に御しやすいと想定したためであり、
予定では存在していたはずの十六夜咲夜を無力化するには、武力よりも奸計が効果的だと判断したためもであり、
そして何より『余程追い詰められなければ、フランドールが能力を行使することはないだろう』と確信したからである。


だがここに来て、土御門の予想は大きく裏切られた。
引っ込み思案である筈の少女は、狂気を帯びた瞳を携えながら嬉々として拳を振るってきている。
体の動きは土御門が評したように、素人に域を出ないものであるが、勢いだけは眼を見張るものがある。
つまり、攻撃の仕方にまるで躊躇がないのだ。彼女は明らかに、『相手を傷つけるため』だけに行動していた。


自身よりも大柄な男に、怯むことなく攻め入る少女。
その姿を見て、彼女を『大人しい性格である』と判断する人間はどれだけいるというのか。
もしいたとしたら、その者の眼は節穴と言いきっても良いだろう。

474 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/08(月) 01:02:57.23 ID:tdp3J+XE0

土御門(いや、それを言い出したら、コイツの本性の見抜けなかった俺自身の眼が節穴って事になるか――――!?)



ビュオッ! バチンッ!



土御門の思考の僅かな隙を突いて、フランドールの腕が彼の頭部の脇を通過する。
その際に掠った彼のサングラス。それが掠った部分から朽ちるようにして崩れていく。



土御門「ぐっ……!」



粉砕されたサングラスの破片が、土御門の視界を覆い尽した。
彼は眼を守るべく、反射的に瞼を閉める。


それはこの場に於いて、明らかに致命的な隙。即、死に繋がる危険な行為だ。
どんなに戦い慣れた者でも、視界を奪われた状況では判断が遅れてしまう。
例え一瞬だったとしても、その僅かな空白は生死を左右するには十分すぎる。

475 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:03:34.40 ID:tdp3J+XE0

フラン「くすくす……」



そしてその隙を、目の前の少女が見逃すはずもない。
フランドールは土御門が眼を瞑ったと見るや否や、好機とばかりに構成を更に苛烈にする。
ただでさえ防戦だった戦況が、更に劣勢に立たされる。
今まで危なげなく躱せていたものが、体を擦る一歩手前になるまでになった。



土御門「クソッ!」



自身が立たされた状況に悪態をつくが、時は既に遅く。
問題を解決するための手段も時間も、最早彼には残されていないのだ。
何れ訪れる破滅を如何に引き延ばすか。彼にできることと言えば、ただそれだけ。

476 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:04:53.81 ID:tdp3J+XE0

フラン「っ、あ゛ぁ!!!」



ズガンッ!!!



未だにしぶとく粘る土御門に、良い加減嫌気が差したのか。
フランドールは足を大きく振りかぶり、渾身の力で地を踏みしめる。
次いで、強烈な地鳴りと共に大地がめくれ上がった。



土御門「ぐおっ!?」



土御門はめくれ上がった地面と共に、空へと高く打ち上げられた。
辛うじて保たれていた均衡。それすらも容易く打ち崩される。


状況は最悪を極まった。空中では自由に身動きすることができない。
眼下には、こちらを見上げているフランドールの姿。
いつの間にか血のように紅く染まった眼が、土御門の体を射貫く。
彼女の顔は、獲物を仕留めることができる事実に歓喜していた。

477 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:05:39.71 ID:tdp3J+XE0

「う、おおぉぉおぉぉぉおぉぉぉおおおおっっっ!!!」



その状況を吹き飛ばすかのような大声が轟く。


その声が誰のものなのか。それは考えるまでもない、上条当麻のものだ。
危機に陥っている土御門を救うため、全速力でもってこちらに走り込んできていた。
『いつものカミやんだにゃー』――――彼の必死な形相を見てそんなことを思うのもつかの間、
当麻は捲れ上がった地面の一つを踏み台にし、土御門目掛けて飛び上がった。



ズダンッ!



上条「土御門――――!」

土御門「カミや――――」



当麻は落下をする土御門を受け止めようと、その両腕を伸ばす。
助走は十分。加えて彼の脚力を持ってすれば、土御門の所にも容易に届くだろう。


『まさか男に抱えられることになるとは』などと場違いな事を思いつつ、何気なしに空を見上げて――――

478 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:06:46.05 ID:tdp3J+XE0








フラン「――――」



自分よりも遥かに高所からこちらを見下ろし、落下してくるフランドールの姿があった。










479 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:09:25.82 ID:tdp3J+XE0

土御門「――――来るなッ!!!」




















ブシャッ

480 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/08(月) 01:10:29.69 ID:tdp3J+XE0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/08(月) 12:23:09.79 ID:I8WPsC8/0

さて、中々に生々しい音がしたけども
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/08(月) 15:07:31.91 ID:HMeuZRBto
乙です
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/09(火) 04:05:21.59 ID:2lhDLfq20
やっぱり狂気が発現したか。だがいまいち理由が分からんな
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/14(日) 21:04:53.94 ID:MMaFGljj0
完結したら読もうと思ってもうすぐ4年
485 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/22(月) 00:06:20.19 ID:ioodkC9U0
これから投下を開始します
486 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/22(月) 00:07:51.08 ID:ioodkC9U0





     *     *     *





487 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/22(月) 00:08:43.93 ID:ioodkC9U0

――――目覚めは最悪だった。



途切れていた意識が僅かに覚醒した時、私が真っ先に感じたのは体の前面に触れている石のように固い物体。
少しばかりひんやりとしたそれは、頬の骨やら膝の骨やらを強く刺激して私に鈍い痛みを与えていた。
次いで気づいたのは、口の中に広がる埃っぽい味と鼻を突く青臭い匂い。
金属のような独特の苦みと、青葉をすりつぶした時特有の臭気だった。


やがて思考にかかった霧が少し晴れて、段々と体の感覚が戻ってきた時、
私はそれらの刺激の原因が『自分が俯せで地面に倒れているからだ』と気づいた。


何故、倒れているのか。私の身に何が起きたのか。
そんな疑問が浮かんだが、それは瞬く間に濃い霧の中へと紛れてしまった。
思い出そうにも意識が合間合間に途切れ、果てには『思い出そう』という気持ちすらおぼつかない。
口と鼻に感じる不快だけははっきりと感じながら、思考の堂々巡りを繰り返す。


両手で十分に数えられるくらいの思考のループを繰り返しつつ、
やがて顔面から感じる不快に我慢できなくなった私は、それから逃げるために起き上がろうとした。

488 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/22(月) 00:09:23.16 ID:ioodkC9U0

だけど、動かそうとした体は動かなかった。全身に力が入らなかった。
例えるなら、春先のふかふかのベッドで気持ちよく寝ていた所に、
無理矢理叩き起こされて起き上がらなければならなくなった時に似ている。


体中から感じ取れる筋肉の弛緩。そして、言葉で表すことが難しい不思議な心地よさ。
頭の中がぼうっとしていたこともあって、まるで夢の中にいる気分だった。
とは言っても、口に感じている苦みと鼻に感じている臭いは相変わらずだったから、
お世辞にも『良い夢』と言えるような代物じゃなかったけど。


動かそうと思っても動かない体と、嫌な味と匂いにイライラしていると、
今度は聞き慣れない音が耳に飛び込んできた。

489 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/22(月) 00:10:29.61 ID:ioodkC9U0

「そ で    、どうし       に居る     ?」



耳の穴に水が入った時のような。音がこもっていて、良く聞き取れない。
辛うじて判ったことと言えば、その音は『人の声である』ことと、『自分が知らない人の声である』こと。


何者かもわからない人間が、私の傍にいる。
その事実にちょっと不安になったけど、体が動かないんじゃどうしようもない。
私は起き上がることを一旦諦めて、聞こえてくる声に集中することにした。



「例    平 に  と     ても、   不 になる   視     でき  !」



すると今度は、さっきの人間とはまた別の声が聞こえてきた。
固い決意を感じさせる、金剛石のように美しい声色。
何処かで聞いたことがある声だった。


ただ、その声は誰のものだったか。
記憶を掘り返そうにも、やはり頭がぼやけて上手くいかない。
まるで笊を使って水を掬い上げるかのように、思考がぼろぼろとこぼれ落ちていく。

490 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/22(月) 00:11:19.58 ID:ioodkC9U0

「お願  よ、  みかど。    を連 て    で欲 い   」



また別の人の声が聞こえてくる。
今度の声は明るく、硝子のように透き通っていて――――それでいて何処かに優しさを感じるもの。


そこで漸く気づいた。
私はこの声の持ち主を知っている。彼等は、私にとって大切な人達。
不相応な力を得て調子に乗って、その結果大切なものを壊して。力に怯えて閉じこもった最低な私。
そんな私と一緒にいてくれた人達。


最初はそんな気持ちはなかった。
変な男達に絡まれていた私を助けようと、初対面なのに友達のように振る舞った人。
無視することもできたはずなのに、あの人はわざわざ厄介事に飛び込んできた。

491 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/02/22(月) 00:14:24.93 ID:ioodkC9U0

最初は、変な人だなと思った。でも話をしてみると、少しだけ面白い人だと思えた。
おねえさまから逃げてきた私は何もすることがなかったから、その人に付いていくことにした。


そして、あの子に会った。
純白の修道女を着た、『シスター』という言葉をそのまま形にしたかのような人。
だけど、実際は見た目通りに腕白で、食べることが大好きな人。


私はやっぱり、変な子だと思った。
シスターと言えば神職なのだから、とても慎ましい人だと想像していたのに。
だけど、そんなあの子を微笑ましく思う自分がいて、同時に羨ましくも思った。
だってあの子は、薄汚れた私と違って何処までも真っ白だったから。


そして私は、あの子とまた遊ぶ約束をした。私の家の場所を教えて、いつでも会えるようにした。
他の人と遊ぶ約束をするなんて、いつ以来のことだったっけ。
あの時からできるだけ他の人と関わらないように生きてきた私にとって、
その繋がりは嬉しくもあり、恐ろしくもあった。

492 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:16:18.72 ID:ioodkC9U0

私がかつてどれだけ酷いことをしたのか、彼等には教えてない。
この体がとっくの昔に血で濡れている事を、彼等には伝えていない。
もしも本当ことを知られてしまったら。
私はその可能性を心の何処かで恐れていた。


だからそれは、とても精巧にできた氷細工のようなもの。
僅かに触れただけでも砕けて、放っておけば融けて消えてしまう儚いもの。
だけど、いつかは消えて無くなってしまうものだとしても、私にはそれを手放すことが出来ない。


もう得ることはできないと思っていた宝物。
そんな大切なものを、簡単に捨てるなんて、できるわけないじゃない。

493 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:17:45.73 ID:ioodkC9U0

「俺は絶対に――――諦めたりなんかしねぇぞッ! 土御門ッ!」



あの人が大声で吠える。今度こそ、その言葉をはっきりと聞き届ける。


何故あの人は、そんなにも必死になっているのだろう?
そもそも、どうしてこんな所にいるのだろう?


わからない。
わからないけど、たぶん誰かを助けようとしているんだろう。
私の時と同じように。

494 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:20:47.50 ID:ioodkC9U0

「うぉらァッ!!!」

「ふっ!」

「うっ!? ……とっと! 危な――――!?」



あの人と誰か。二人が争う音が聞こえる。
拳を振るう風切りの音。それを避ける布刷りの音。
未だに動けない私にはその光景を見ることはできないけど、耳に届く音だけでそれを思い描く。

495 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:22:06.82 ID:ioodkC9U0

「う、おおおぉぉぉぉおぉぉおお!!!」

「甘いッ!」

「うっ!? がっ――――!?」



重い音と一緒に、苦悶の声が聞こえた。


――――あの人が苦戦している。
あの人は果敢に攻めてるみたいだけど、相手はそれより上手。簡単にいなされて反撃されたみたい。
気迫はあの人の方がある。だけど、それだけじゃどうにもならないほどの歴然とした差が相手との間にあるのかもしれない。

496 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:24:30.16 ID:ioodkC9U0

「カミやん、諦めろ。 今ので判っただろう? お前の攻撃は単調で隙がありすぎる」

「まだだ……これ位のことで、諦めて、たまるかよっ!」

「いい加減にしろ。 本当なら、最初の段階で投げ飛ばしたりせずに腕をへし折っても良かったんだぞ?」

「第一に、だ。 そんなフラフラの状態で、まともに俺と戦うことができるのか?」

「ぐっ……」



苦しい声を上げながらも立ち向かおうとするあの人。
それに対して、相手がその力の差を言葉で突きつけた。


その言葉を前に、あの人は反論することができない。おそらく、自分でもわかっていたのだろう。
自分の実力では、相手に届かないということに。万に一つも、勝利する可能性が無いことに。


――――なんて、馬鹿な人。勝てもしないのに戦いを挑むなんて。
無茶。無謀。骨折り損の草臥れ儲け。そんな言葉がぴったりの、実に愚かな行為。

497 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:25:45.39 ID:ioodkC9U0

『気合いで劣勢を覆す』なんて、フィクションの中では良くある話だけど、そんなものは所詮絵空事だ。
実際の世の中なんて、何でもかんでも気合い一つでどうにかなるようなものじゃない。
むしろ、気合いで解決できることなんて高が知れている。
そんなことは誰だって、頭が良ければ子供ですら知っていること。


だから、あの人は本当に、本当に馬鹿な人なのだ。
あの人を見た者は皆が皆、口を揃えて同じ事を思うはず。
不可能だと判りきっていることに、どうしてそこまで執着するのかって。


だけど――――そんなあの人のことを、馬鹿だとは思うけど嗤うことができない。
どうして?そんなこと判りきっている。心の内に渦巻く感情。それを私は理解していた。


私は、あの人のことが羨ましいんだ。
傷つきながらも困難に立ち向かう、その姿が。
挫けそうになっても諦めない、その心が。


あらゆる事から逃げて拒絶してきた私には、それらがすごく尊いものに思えて。
同時に直視できないほど輝かしく、眩しかった。

498 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:26:32.16 ID:ioodkC9U0










――――助けなきゃ。


あの人が酷い目にあっている。もう一人の誰かに傷つけられている。
あの人は無能力者だ。私と違って、何の力も持たない一般人。
喧嘩は強そうだけど、結局はそれだけの話。超能力者が相手ではあまりにも無力だ。


加えてあの人が戦っている相手は、素手でもあの人より強いらしい。
二人の会話を聞けば、相手が手加減していることなんて簡単にわかる。
そんな相手が超能力まで使い始めたら、その先に待つのは――――

499 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:28:44.49 ID:ioodkC9U0

だから、私が助けなきゃ。守らなきゃ。
守らなきゃいけないのに、私の体は動いてくれない。力が入らない。
私の体はその役目を忘れてしまったかのようにピクリともしない。


なんでこんな時に限って。大事な決断した時はいつもそう。
その決断を踏みにじるかのように、いつも邪魔が入るのだ。
私が外に出ようとした時、おねえさまがそれを拒んだように。


まさか、これがおねえさまが言った私の『運命』なの?
私は自分の力では絶対に何かを成し遂げることはできない。
人形師に操られるマリオネットのように、自分の意志では何もできない。それが私の『運命』だというの?

500 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:29:30.69 ID:ioodkC9U0

そんなのは嫌だ。
誰かに縛られたまま、ただ言われるがままにされる人生なんて嫌だ。
なのに、こんなにも私は必死になっているのに、この体は私の命令を拒絶する。
その事実が、私の心を焦燥に苛ませてくる。


何でもいい。満足に動かせる体が欲しい。
早くしないと、あの人がもっと傷ついてしまう。
私にしかできないのに。私が不甲斐ないから、あの人が辛い思いをする。
そんなのはもう嫌だ。私の所為で誰かが傷つくなんてもう沢山だ。


だからはやく、はやく、はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく――――――――――――――――










――――――――――――――――アイツヲコワサナイト。

501 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:30:09.10 ID:ioodkC9U0










ドクンッ!










502 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:31:18.26 ID:ioodkC9U0

体に熱がこもるのを感じる。グツグツと、血液が沸騰を始める。





                                         熱サノアマリ、喉ガドンドン渇イテイク。





体を流れるのは強烈な電撃。脳からの信号が全身の神経をこじ開け、ビリビリと駆け巡る。





                 強烈スギル電気信号ガ神経ヲササクレ立タセ、針デ滅多刺シニ刺サレタカノヨウナ激痛ガ走ル。





筋肉がそれに呼応し、錆び付いた歯車のような音を響かせながら駆動する。





                                余リ余ッタえねるぎーヲ発散シヨウト、体ガ勝手ニ動キ出ス。





――――――――――――――――目の前が、真っ赤に染まった。





503 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/02/22(月) 00:32:10.00 ID:ioodkC9U0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/22(月) 01:02:26.67 ID:v8v4sintO
乙です
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/22(月) 07:36:41.58 ID:KiXFVxDt0
乙!
助けようと思って動いた結果がこれかー……
506 : ◆A0cfz0tVgA [saga]:2016/03/07(月) 00:02:06.60 ID:jCr4dQiA0
これからと投下を開始します
507 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:02:49.30 ID:jCr4dQiA0

立ち上がったワタシの、血の色に染まった視界に移るのは三人のニンゲン。
一人目はカミジョウトウマ。今ワタシが守るべきモノ。
二人目はインデックス。ワタシの大切なトモダチ。


そして、最後のヒトリ。金髪でサングラスをかけた男。


コイツだ。コイツがあの人をイジメてるんだ。
ワタシの大切なモノを奪おうとする悪い人。許してはならない大罪人。
コイツを倒せば大丈夫。あの人を助けることができる。





――――コイツヲコワシテシマエバ、ミンナガシアワセニナレル。





508 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:03:21.33 ID:jCr4dQiA0

「おい、ま――――」





どこからか響いてくる声に意識を戻すと、男が手に持つ何かをこっちに向けていた。
手に握られているのは、黒光りする鉄の塊。どうやら拳銃のようだ。しかも本物。
その男は驚きと敵意を滲ませた顔で、ワタシに銃口の照準を合わせている。



その奥には、男の行動を止めようと手を伸ばしているあの人の姿が。
あの人がそんな行動を起こすのは当然。何せ、ワタシが拳銃を向けられているんだから。
だけど、間に合わない。男とあの人の距離は5メートル以上も離れている。
引き金に手をかけ、今にも撃鉄を下ろそうとしている男の行動を止めるには、それこそ瞬間移動でもしないと無理。

509 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:04:14.25 ID:jCr4dQiA0

パシュンッ! パシュンッ! パシュンッ!



男が引き金を引く。
撃鉄が落ち、薬莢を打ち鳴らし、火薬が爆発し、推進力を得た弾丸が銃口から飛び出す。
その一連の流れが、まるでスローモーションのように感じられる。
いや、それは錯覚じゃない。実際ワタシには、その動きが手に取るようにわかった。


銃口から飛び出した弾丸の数は3発。
弾丸の形はよく見る楕円形のものじゃなくて針状。たぶん、麻酔銃みたいなものなのかもしれない。
そうか。ワタシがいつの間にか眠っていたのも、コイツが原因か。
コイツをコワス理由がまた増えた。もう、容赦なんてしない。
ワタシの力で、跡形もないくらいグチャグチャにしてやる。


麻酔弾がワタシの元へと飛んでくる。眉間に1発。首筋に2発。
避けることはできない。銃弾の軌道を見ることはできても、体がそれに追いつかない。


――――でも、問題無い。ワタシのチカラがあれば大丈夫。
拳銃なんてオモチャ、怖がることなんてないんだから。

510 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:05:02.61 ID:jCr4dQiA0

極限まで引き延ばされた時間の中で精神を研ぎ澄ませる。
自分の中にあるチカラを操る姿を思い描き、コンマ一秒後の光景をイメージする。
麻酔針がワタシに触れた瞬間、それを片っ端からぶっこわす。



「チッ、遅かったか!? こいつ能力を……!」



男が焦ったように口を開く。
それは当たり前。ワタシのことを仕留められると思ったのに、平然としているんだから。
ワタシは麻酔針が当たる部分を超能力で覆った。触れたものを、みんなバラバラにしちゃう『膜』。
超能力の膜に当たった麻酔針は、触れた傍から粉砂糖みたいに崩れていった。


なんて、無力。無力すぎて、変な笑いが出てしまいそう。
拳銃なんて、ワタシの能力の前では存在すら無いに等しい。
そして、それを向ける金髪の男なんて、これっぽっちも怖くない。

511 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:05:34.75 ID:jCr4dQiA0

さて、どうしようか。
男は動揺しているみたいで、まだこっちを睨みつけている。
このまま『壊し(コロシ)』に行ってもいいんだけど、それだとなんか物足りないし。
折角だから、どーんとすごいことをしてみたい気もする。


――――そうだ、『あれ』をやってみよう。もしかしたら、すごいことが起こりそうだ。
理由なんて無い。ただの思いつきなんだから。


精神を集中する。ワタシの能力の全てを、足の裏にかき集める。
じんわりと、ナニカが足下を覆っていくのを感じる。暖かいような、むず痒いような、そんな感覚。
能力を一箇所に集めるなんてことはやったことがなかったから、少し違和感を覚える。
だけど、それ以上に心を満たすのが高揚感。全力でチカラを使うなんて今まで無かったから、こんな感情は初めて。


そろそろ、足がしびれてきた。もういいかもしれない。
ワタシは足に集まったチカラを、地面に向けて解き放った。

512 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:06:20.33 ID:jCr4dQiA0

ビシィッ!



下から大きな音が聞こえる。ワタシのチカラで地面が砕ける音だ。
だけど、それだけじゃ終わらない。ワタシのチカラはこんなものじゃない。
ソレは地中奥深くまで食い込み、そこにある全てを蹂躙する。



ドッガァッッッ!!!



轟音が響く。大きく地面が揺れたけど、ワタシの体がぶれることはない。
まるで地面に突き立つかのように、ワタシはしっかりと二本足で立つ。
その一方で、金髪の男は震動で体がよろついていた。



「!? ちぃッ!」



このチャンスを見逃すわけがない。
ワタシは金髪の男目掛けて走り出し、チカラを纏った右腕を振り下ろした。

513 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:06:53.30 ID:jCr4dQiA0

だけど、当たらない。
すんでの所で気づいたのか、男は体を無理矢理捻ってワタシの拳を躱し、そのまま逃げ出そうとする。
その姿は狼から逃げようとする小兎のよう。見ていると、わるい感情がむくむくと心の中に擡げてくる。
当然、ソレを黙って見ているワタシじゃない。あの人を傷つけた奴を、生かして帰したりはしない。


ワタシは男を追いかける。
体が軽い。まるで全身が羽毛になったかのよう。
崩れ落ちる大地を、ボールのように跳ね回る。
そして何度かソレを繰り返すと、あっという間にあの男に追いついた。


ふわりと軽やかに男の後に降り立って、間髪入れず腕を上げて、男に目掛けて振り下ろす。
だけど、やっぱり当たらない。男は向こうを見ていたはずなのに、後ろに目が付いているみたいに避けた。
飛び出すようにして避けたから、地べたを転がって無様だけど。
面倒くさい奴。さっさと死んじゃえばいいのに。


男は急いで起き上がると、私の方に向き直って睨みつけてきた。
サングラスのせいでどんな目をしているのか見えないけど、たぶんもの凄いことになっているんだろう。
それこそ、普段のワタシなら泣いて逃げ出しちゃうくらいに。今は怖いどころか滑稽に見えるけど。
今まで逃げてたくせに、虚勢を張っているのが丸わかり。大方、最後の抵抗という奴なのかもしれない。
まぁ、向こうから逃げなくなっただけ良しとする。

514 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:07:19.59 ID:jCr4dQiA0

良い加減に飽きたワタシは、心の倦怠に従ってさっさと終わらせることにした。
適当に腕を振りかぶり、男の顔面目掛けて突き出す。もちろん、能力付き。
皮に掠っただけでも頭が粉々になるだろう。


――――当たらなかった。ちょっと首を捻られただけで、余裕を持って躱されてしまった。
私の心の中に苛立ちが生まれる。少し乱暴気味に、今度は思いっきり蹴りを繰り出した。
もろに当たればお腹に綺麗な風穴が空くだろう。


――――またしても躱された。男はワタシの足の長さを見切ったようで、少し後ろに後退した。
そのせいで、ワタシの足はギリギリ届かなかった。まるで目の前でお預けを食らったようで、すごくむかつく。


業を煮やしたワタシは、怒りのままに男へと殴りかかる。
三撃目。四撃目。五撃目――――――――――――――――二十四撃目。
当たらない。何度やっても避けられる。余裕綽々で、ということはなくなったけど、それでも紙一重で躱されてしまう。
こう何度も躱されると、意地でも当てたくなる。当てた時は、もの凄く爽快そうだ。


バラバラに千切れ飛ぶ体。一面に降り注ぐ血の雨。
――――アア、タノシミデシカタガナイ。

515 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:07:54.04 ID:jCr4dQiA0

「――――ハ」



ワタシの口から勝手に笑いがこぼれ落ちる。
想像した世界が余りにも『凄惨(ウツクシ)』すぎて、それだけで頭がどうかなってしまいそう。
ばくばくばくばく。心臓が早鐘を打ち鳴らし、マグマのように熱いナニカが全身を駆け巡る。



「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



気づくとワタシは大声で笑っていた。自然と、自分でもわからないうちに。
肺が。喉が。じくじくの痛むくらい大きな声で、ワタシはいつまでも嗤い続ける。
やがて、ワタシの中にナニカがぬるりと入り込んできた。

516 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:08:37.25 ID:jCr4dQiA0





――――タノシイの?



                                               ――――うん。 楽しいよ。



――――何がタノシイのかな?



                                              ――――あれ? 何でだっけ?


――――わかんないの?



                                     ――――わかんないけど、楽しいものは楽しいよ。



――――じゃあもっと教えてアゲル。



                                                      ――――え?





517 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:09:11.32 ID:jCr4dQiA0


















ブシャッ










518 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:09:45.14 ID:jCr4dQiA0

「――――あれ?」



ふと、私は我に返った。


視界に入るのは、見るも無惨な姿となった家の庭。
綺麗に整備されていたはずの花壇はめちゃくちゃに踏み荒らされ、そこに咲いていた花は花弁を散らしている。
家と門を繋ぐ石畳には大きな亀裂が入り、場所によっては大きく捲れ上がっていた。
そして何より眼に付くのは、底が見えないくらい深い大きな穴。
覗き込んだらそのまま吸い込まれてしまいそうな、そんな恐ろしさを感じるものだった。


一対何が起きたの?私は今まで何をしていたんだろう?
そんな疑問が思考を支配するが、それが長く続くことはなかった。

519 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:10:26.63 ID:jCr4dQiA0

「――――っ!?」ズキン!



突然、私を襲う頭痛。そして脳裏に蘇る光景。


乾いた銃声。
足元から伝わる衝撃。
大地が軋む音
舞い上がる土埃。
そして、狂気に彩られた笑い声。


それを幻視したのは刹那。だけど鮮烈でとても生々しく。
私の精神を、一瞬にしてごっそりと削り取っていった。



(っ、なんだか、臭い……?)



締め付けるような頭痛に悩まされながら、つんと鼻を突く匂いに私は顔をしかめる。
生肉を鼻に押しつけられたかのような、湿っていて生ぐさい匂い。
夏の暑さも相まって、呼吸する度に噎せ返りそうだ。
私は思わず、自分の鼻をつまもうとして――――










「――――――――――――――――え?」



自分の手が、真っ赤になっていることに気がついた。

520 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:11:46.80 ID:jCr4dQiA0

赤よりも赤い『紅』。
手に纏わりついたソレは空に浮かぶ月の光に照らされ、艶やかな光を放っていた。
少しばかり粘りを帯びた液体が、手のひらから線を描きながら腕を伝い、肘から地へ滴り落ちる。
ぽたり。ぽたり。規則正しいリズムで紅い液体は地に堕ち、その音を奏でていた。


どうして■に濡れているんだろう?
どこも怪我をしていないのに。痛いところなんて、どこにもないはずなのに。


どうして。どうして私の手は、体は――――チニヌレテイルンダロウ?



「あ、ぅ……」



茫然としたまま意味もなく視線を下ろすと、私の体が血に染まっていることがわかった。
ペンキを頭から被ったかのように。自慢の服は余すところなく、紅一色になっている。
既に乾き始めて赤黒くなっている場所も、そこかしこにある。


頭に手を伸ばして触ってみると、ぐしゃりと自分の髪の毛が湿っているのがわかった。
絞り出された液体が顔を流れ、左目の眼球に入り込む。
軽い痛みと共に、私の視界の半分が赤のフィルターを通したかのようになる。


そして、そのフィルターを通した先には。
血の海に沈むあの男と、それに縋っているあの人の姿が――――

521 : ◆A0cfz0tVgA [sage saga]:2016/03/07(月) 00:12:31.45 ID:jCr4dQiA0
今日はここまで
質問・感想があればどうぞ
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 00:36:02.99 ID:zY9fnbzco
乙です
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 01:35:19.31 ID:1OO1fjZn0
カエル医者「今すぐ連れて来い!間に合わなくなっても知らんぞー!」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 14:26:53.54 ID:5yI6eLpZ0
土御門をやっただけで鳴りを潜めた?フランの狂気は……いや、吸血鬼化前ならそんなもんか?
それともアカインドでもしてやがるのか……
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/08(火) 02:01:49.28 ID:5mxw6cl00
華仙?以来の能力暴走→気絶な流れか?
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