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【艦これ】鳥海は空と海の狭間に

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762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 13:15:53.92 ID:RCsb3zRqO
乙乙
763 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/06/30(金) 10:37:36.69 ID:M4ZwKNjgo

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 日付は二月十九日に変わり、その頃には艦隊全体が洋上への展開を終えていた。
 鳥海もその中にいて全体の旗艦としての任も預かっている。
 三人一組の小隊に分けると、いざ戦闘が始まればそれぞれが独自の判断で当たるように伝えていた。
 上空では二式大艇が誘導と哨戒のために飛んだまま。夜戦が始まれば吊光弾も投下する手はずになっていた。

 頭数はこちらのほうがやや多いものの、決して優勢とは言えない。
 泊地に向かう深海棲艦は航速によって前後に分かれていて、特に脅威なのは高速艦で構成された前衛だ。
 五、六人のレ級が主戦力となっている上に、中核と見られるのはエリートに分類される赤い光を放つ個体だった。

 艦娘も二対一の比率で前後衛に分かれている。
 不幸中の幸いというべきか、前衛同士ならほぼ倍の人数で当たれた。

 夜戦の口火を切ったのは深海棲艦だった。
 レ級たちが一斉に砲撃を行うと、すぐに散開してこちらへの突撃を始めてくる。
 それぞれが単身だけど、夜戦という状況とレ級の性能を考慮すればかなり厄介。
 艦隊をかき回すつもりだろうし、隊列に下手に飛び込まれたら同士討ちの危険も出てくる。
 それを分かっていて、向こうも突撃してきているに違いない。

「各隊、各個に迎撃してください! 後衛は後続に注意を!」

 鳥海は無線で通達すると、さらにいつもと違う顔触れに声をかける。

「嵐さんと萩風さんは援護を。普段通りにやってもらえれば大丈夫ですから」

「了解! 天津たちの分までやってやるぜ!」

「は、はい!」

 嵐さんはともかく、萩風さんは少し頼りない返事だった。
 気負っていたり萎縮しているのかもしれないけど、今はそれじゃ困る。
 二人は木曾さんたちの護衛についている天津風さんたちの代わりとして臨時に編入されていた。


764 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/06/30(金) 10:39:09.36 ID:M4ZwKNjgo


 隊列は鳥海を先頭にして、二人はその左右後方に位置して三角形を形作っている。
 夜間なので日中よりもやや間隔を広めになっていた。
 鳥海の前方、まだ離れた位置に弾着の水柱が生じると、萩風のほうが過敏に反応する。

「敵は……敵はどこ? 撃ち返さないと!」

「落ち着いてください、この距離ならまだ当たりません」

 鳥海は意識してゆっくりと言う。
 互いに相手の存在を把握しているとはいえ、今のが命中を期しての攻撃とは思えなかった。
 景気づけというか戦意を鼓舞するための砲撃なのかもしれない。
 月明かりの下を黒い影がいくつも踊り、その内の一つがまっすぐ向かってきている。
 再度の砲撃に浮かび上がった姿は、レ級と見て間違いない。

「近づいてくるレ級から叩きます。砲撃はもう少し引きつけてから」

 告げて、転舵も指示。
 鳥海の動きに合わせて嵐たちも続くが、やや動きがもたつく。特に萩風にはぎこちなさが見え隠れしている。

「萩、遅れてる」

「ごめん……」

 二人の小声でのやり取りが鳥海にも聞こえてくる。
 間合いの取り方も気になっていた。夜なので昼よりは距離を取る必要はあるが、それにしても間隔をもう少しぐらいは詰められる。
 でも、おかしい。訓練や日中では見受けられない硬さだった。
 どうしてと考えて、鳥海はあることを思い出す。

「……苦手意識ですか」

 司令官さんが以前言っていたこと。
 嵐さんは事務作業のような、こまごまとした仕事を苦手だと思い込んでいる。
 だけど実際はその逆で、細かい数字を管理するのは得意だった。

 そして嵐さんとは別に萩風さんにも苦手意識がある。夜戦への、夜への苦手意識が。
 司令官さんは払拭させたかったようだけど、結局できてないままだった。
 萩風さんを鈍らせているのは、それが原因と考えられる。


765 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/06/30(金) 10:40:14.70 ID:M4ZwKNjgo


「司令官さんなら……」

 呟いてから、違うと気づいた。
 ここで考えないといけないのは私ならどう伝えるかだ。
 司令官さんはここにはいない。ここにいるのは私であり嵐さんであり萩風さん。
 あの人の言葉を借りようとしたって意味はない。自分の言葉で伝えないと。

 どう伝える?
 いきなり口出ししたぐらいで苦手を解消できるなら、誰だって苦労なんかしない。
 私は元から夜戦には抵抗感がないし、むしろ好きと言えてしまう。
 そんな私が何かを言ったところで、本当に分かってもらうのは難しい。

 でも、このままではだめ。何も言わないのはもっと悪い。
 不安は気後れや自信のなさを招き、ひいては行動や判断の遅れに繋がってしまう。
 それは命取りになりかねない。

「萩風さん」

「はい!」

「夜はあなたの敵じゃありません」

「え……?」

 レ級を警戒して顔を向けることはできない。
 だけど、萩風さんの戸惑った気配は顔を見るまでもなく明らかだった。
 懇切丁寧に説いてる時間はない。というより私もどう言っていいのか言葉が固まってない。

「あなたが夜を怖がってるのは知ってます。でも本当に怖いのは夜じゃないはずです」

「それってどういう……」

「夜戦がなんだってことだよ、萩!」

 嵐さんの声の直後に砲撃が落ちてくる。外れたけど、さっきより近い。これ以上の会話を遮ろうとしているようでもあった。


766 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/06/30(金) 10:41:06.38 ID:M4ZwKNjgo


「俺とお前とで嵐起こしてやろうぜ、萩!」

「嵐……」

「次の砲撃に合わせて撃ち返します。あなたたちなら大丈夫ですよ」

 言葉としては気休めでしかないけど、率直な気持ちでもある。
 そもそも十分に訓練はしているし実戦だって何度か経験している。
 あとは余計な気負いさえなくせば、他の子とも遜色ない動きができるのは分かっていた。

 深海棲艦たちの背後で連続して青白い光が生じていく。
 二式大艇が投下した吊光弾によるもので、深海棲艦たちの姿が光の中に浮かび上がる。

「探照灯を三十秒使います! 照準が済み次第、砲撃開始です!」

 アンテナの左側に横付けしているライトから真っ直ぐ光が伸びる。
 吊光弾とは違う、暖色の強烈な光が近づいてきていたネ級を捉えた。
 黒いコートのような装甲に、白い肌が艶めかしくも危うげな色を出している。

 他の艦隊からも探照灯の光が伸びて、それぞれの目標を指示しているのが視界の端に入ってくる。
 あらかじめ夜戦をすると決めていれば、それに適した装備を持ち込むのは道理だった。
 もっとも鳥海の場合、探照灯は標準装備の一つではあったが。

 目標にしたレ級が光源――鳥海に向かって尾に装備された各砲を撃ちかけながら猛然と向かってくる。
 顔をレ級に向けたまま、鳥海は転蛇して回避を試みた。

 長門型相当の主砲が鳥海を襲い、副砲弾もそれに続く形で飛来する。副砲でさえ戦艦の主砲に準じた威力を有していて、重巡の主砲とは比にならない。
 鳥海の体がいくつもの水柱に呑まれて、探照灯の光軸も激しくぶれる。それでもすぐに無事な姿を見せると、今一度レ級に光を当て続ける。
 もっとも鳥海の息も荒い。今の攻撃に恐怖を感じないはずがなかった。

 この探照灯には標的にされやすくなる以外の問題もある。
 まず熱い。光源が頭から多少離れているとはいえ、髪や頬が焼けてしまうような熱気を感じる。
 また頭のアンテナに横付けされているため、頭の動きがダイレクトに反映されてしまう。
 つまり照射中は目標から顔を逸らせず、その間はどうしても周囲への警戒が疎かになる。


767 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/06/30(金) 10:41:59.01 ID:M4ZwKNjgo


「照準完了! さあ、受けてみやがれ!」

 意気込んだ嵐の声を聞きつつ鳥海も砲撃を始めていた。初めから斉射。
 三人の砲撃が次々にレ級に収束すると命中の閃光と破砕音とが生じ、外れた砲弾により海面は沸騰したように弾けていく。
 めった打ちにされてるにもかかわらず、レ級もさらに反撃してきた。
 萩風の悲鳴じみた声が飛んだのは、すぐだった。

「赤いレ級が来ます! 左側、十時方向より!」

 探照灯を切ると、鳥海は素早く萩風の示した方向へと視線を向ける。
 吊光弾の光の中で、赤いレ級の姿は他の深海棲艦よりもいくらか目立っていた。

「これはよくないですね……」

 赤いレ級はなんの抵抗も受けないまま近づいてきていた。
 他の艦隊はまだ各々の相手から抜け出せずにいるからで、こちらも状態としては同じだ。
 合流前に交戦中のレ級を沈めようにも困難だった。
 多少の手傷は負っているけど、なまじ中途半端な手傷でかえって怖い。
 かといって赤いレ級を放置したままでいるのも危険すぎる。

 要はこのまま三人で二人のレ級を相手にするか、分かれて各個に一人のレ級を相手にしていくか。
 あれこれ考えてはみても答えは直感的に出ていた。

「二人はこのレ級をお願いします。私は赤いのを」

 どちらにしても危険な相手だけど、分断したほうがまだ戦いやすいと思えた。
 二人はどちらも固唾を飲んだような顔をして、萩風さんが訊いてくる。

「私たちに任せてくれるんですか?」

「ええ、もちろん」

 思うにこうするのが一番だ。気がかりがないと言えば嘘だけど、頼りにもしている。
 ここにいるのが天津風さんたちでも、きっと同じように頼んで同じように感じるに違いない。

「行ってくださいよ。こっちも四駆流の夜戦をやつに教えてやりますから!」

 威勢のいい嵐の声に後押しされる形で、鳥海は転蛇する。頼みました、ともう一度声に出せば後は振り返らない。
 嵐、萩風と赤いレ級との間に立ち塞がる形になった鳥海は、赤いレ級へと先制の砲撃を放つ。
 砲撃がレ級の鼻っ面を打ち据える。もろに砲弾を受けてレ級の顔が仰け反るが、何事もなかったように顔を向け直してくる。
 レ級の鼻からは黒い血筋が流れるも手の甲でぬぐい去ると、返礼とばかりの砲撃。
 襲いかかってくる砲撃の数は通常の個体のそれと変わらないが、威圧感はそれ以上だった。
 一撃でもまともにもらえば、それで戦闘能力を喪失しかねないし最悪も十分にあり得る。
 いくつかの至近弾を抜けた鳥海に、赤いレ級の声が無線を通して聞こえてくる。

「バラバラニシテヤル」

 怒ってるかと思いきや笑っている。
 その様に鳥海は確信した。
 このレ級は楽しんでいる。戦うのを。
 こちらも醒めた頭が、宣戦に応じる。レ級の注意を自身に向けさせるためにも。

「やってみなさい……できるならですが」

 今まで姫級といいネ級といい、難敵とは幾度も交戦してきている。
 このレ級もそんな手合いの一人。ならば退けるまで。


768 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/06/30(金) 10:54:21.69 ID:M4ZwKNjgo
短いけどここまで。月曜に続き……はさすがにきついかもだけど目標ってことで
そして乙ありでした

>>761
まだ200レス以上残ってるので、なんだかんだで終わると思ってます
それと今のところ1レス当たり30行を目安に投下してるのですが、一度に投下できる上限はもっと大きいので、本当に足りなくなりそうならレス当たりの分量を増やせばいいと思ってます
余談ですが>>767なんかは普段の倍ほど詰め込まれてます
769 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 21:54:12.72 ID:W3/c2uXtO
乙!
770 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 02:41:23.71 ID:l6NxNjC3o
乙なのです
771 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/04(火) 22:40:52.87 ID:uG1UXyELo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 鳥海さんが隊列から離れていくと、レ級は尾を上げて狙いを定めようとした。
 追撃の気配を見せるレ級に、萩風は嵐と一緒になって猛射を浴びせかける。
 一発一発の威力は小さくとも数が積もれば無視はできない。
 少なくともレ級の標的をこちらへと切り替えさせるだけの効果はあった。

 ぐるりと尻尾が向きを変えると砲撃してくる。
 すぐに散開して逃れると、数秒後に遅れて怒涛が生じた。

「あっぶな! 一発でも当たっちゃいけないやつかよ……」

 嵐の声にひやひやする。確かに私たちの艤装では装甲なんて有って無いに等しい。
 ただ駆逐艦という艦種で見れば、ほとんどの砲撃がそれに当てはまってしまう。
 どんな攻撃だって私たちには命取りになりかねない。
 お互いに撃ち合いながら嵐に言う。

「今はこのまま引きつけよう?」

「ああ、だけど……」

 何か言いたそうだった嵐の返事を聞く前に砲戦に引き込まれてしまう。
 レ級の砲撃はすぐに私に集中し始めていた。

 萩風は直撃を避けるためにも撃ち返して何度も針路を変え、速度もできるだけ落とさないようにしながら砲撃の合間を突っ切っていく。
 嵐は全速力でレ級の背中から横に抜けて離脱しながら主砲を撃ち込んでいる。

 レ級は被弾しても怯まないし、たまに嵐に視線を向けるだけで、火砲は相変わらず私を狙い続けていた。
 そうして気がつけばレ級に追いかけ回されるようになっていた。

772 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/04(火) 22:42:23.72 ID:uG1UXyELo


 考えようによっては、これはこれで引き付けるのには上手くいってる。
 だけど艦隊全体からも引き離されてるかもしれない。
 執拗な砲撃を避けながら、しかも夜の海でそれを確認するのは至難の業だった。

 夜の海。確かに私は怖い。
 夜が敵じゃない。それがどういう意味かも本当は分かってるつもり。
 それでも今、私は自分の中にくすぶったまま消せない恐怖とも戦っていた。

「萩、反撃するぞ! このままじゃやられるのを待つだけだ!」

 嵐はある程度の距離を保ったまま、萩風と併走していた。
 その通りだと思う。ここで反撃に出ないと手の打ちようがなくなってしまう。
 頭ではそう分かってるのに、弱気の虫が出てきて胸中で甘言を囁く。
 このまま時間稼ぎをして、鳥海さんや他の誰かが助けに来るのを待ってもいいじゃない。

 いきなり目の前で白い閃光が広がった。遅れて浮遊感、それから落下、衝撃。自由が利かない。
 嵐が何か叫ぶのが聞こえてきたような気がしたけど、はっきりとしなかった。

「あ……」

 被弾したんだ。体感では一瞬だけど、本当はもっと長い間、呆けてしまっていたらしい。
 そして水に浮かぶ自分にも気づく。海面に仰向けになっているのか、きらきらした星空が目に入った。
 自分はまだ沈んでないんだ。つまり艤装は生きている。

 手袋越しに左手が水面をかき混ぜて足も動く。たぶん両足とも。
 体が動くのを確認しながら上半身を起こす。

 嵐とレ級との戦いは続いていた。
 どうして、と萩風は疑問に思う。レ級の狙いは嵐に移っているようだった。
 今なら簡単に沈められるのに。
 追撃がこないのは助かるけど、それで疑念がなくなるわけじゃない。


773 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/04(火) 22:45:02.46 ID:uG1UXyELo


 起き上がろうとして気づいた。
 右の手首が曲がっていた。動いちゃいけない、おかしなほうへと。
 気づいたのが、きっかけになったんだと思う。
 いきなり刺激が、激痛が襲ってきた。

「ひあ……あ……」

 右手を押さえるようにしてうずくまる。痛いのは右手だけじゃなくて全身だった。
 熱くてたまらない。涙がどんどんあふれてくる。
 痛くて声を出そうとして、声にならない悲鳴みたいなのが口から出てきた。

 ……あんな考えをしたのがよくなかったんだ。誰かに押しつけるような考えをしたのが。
 嵐はレ級をなんとか食い止めようとしていたし、鳥海さんは赤いレ級を一人で抑えてる。他のみんなだってそれぞれ戦ってる。
 私は何もしないうちから当てにしてしまった。

 ずきずき手首が痛い。ここだけ自分の体じゃなくなってしまったような感覚。
 右手をかばうようにして立ち上がる。余計な力を抜くようにすれば、少しだけ痛みが遠のいてくれるような気がした。
 息を呑む。主砲は近くに落ちていたので、左手で把手を掴んで拾い上げる。
 もう間に合わないかもしれない。でも嵐はまだ戦ってる。それなら、やることは一つだけ。

 どんな命中の仕方をしたのか分からないけど、艤装の調子は予想外に快調だった。
 少なくとも戦艦砲が命中したとは思えないぐらいには。
 重心は不安定になってるし速力も落ちてる。それでも艤装に絞れば軽傷で済んでいる。

 萩風は嵐との合流を目指しながら、左手だけで主砲を構えて撃つ。
 普段はそこまで意識しない反動が今の体にはよく響いていた。
 砲撃は当たらなかったけど、レ級はこっちを見る。なぜか首を傾げるような仕種をしていた。

「嵐!」

「萩? 大丈夫なのか?」

「なんとかだけどね……」

「よかった……ああいや、まだ全然よくねえ状況だぞ!」


774 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/04(火) 22:46:33.65 ID:uG1UXyELo


 嵐はレ級の砲撃を避けるように蛇行していた。
 被弾した様子はまだなくてほっとする。
 だけど、嵐の言うように苦戦したままなのには変わりない。

「正面からただ撃ち合っても……」

「俺に考えがある! 隙を作ればこっちのもんだ!」

「どうする気なの?」

 嵐には何か作戦があるみたいだった。
 悠長に話してる暇はないとばかりに、嵐は小刻みに転蛇して軸合わせするような動きを取る。

「正面突破するんだよ! 俺に続けえ!」

「聞いてなかったの!?」

 あんまりな嵐の言葉に唖然とする。
 こんなのは作戦じゃない。だけど嵐だって、そんなのは分かってるはずだった。
 だからレ級へとまっすぐ突っ込んでいく嵐に、遅れながらも続く。
 右手側にレ級が見える針路を取っていた。

 嵐の狙いはとにかく、右雷撃戦用意をする。損傷の影響は気になるけど雷管も正常に使えるはず。
 私たちの火力でレ級に有効打を与えるためには、肉薄しての砲撃か魚雷しかない。
 それに繋がるための隙を嵐は作ろうとしているのかも。というより、それ以外にありえない。

 後ろから見る嵐の背中は頼もしかった。
 そんな嵐がなんとかするつもりなら上手くいく。私はそのチャンスを逃さないよう集中すればいい。


775 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/04(火) 22:48:59.86 ID:uG1UXyELo


 レ級は速度を維持しながらも、嵐を迎え撃ちながら直進している。
 近くに戦艦砲が落ちようと嵐の勢いは止まらない。まっすぐレ級へと突き進んでいく。
 二人が間近に迫った時だった。嵐とレ級との間に閃光が走る。
 後ろからでも分かる強い光に、レ級が苦悶の声をあげて顔を覆い隠す。

「どうだ、目に焼き付いたか!」

 さっきのは探照灯の光だ。嵐のバックルにも取り付けられている。
 嵐は接触を避けるように針路を外側へと変えて離脱すると、萩風もそれに合わせつつ雷撃を実行した。
 発射管から吐き出された四門の魚雷は、レ級へと伸びていってるはずだった。
 魚雷発射に合わせて舵を切っている萩風には、魚雷の行き先を目で追っている余裕はない。

 距離を取る萩風の耳に炸裂音、足元では衝撃波が行き過ぎていくのを感じた。
 命中したんだ。喜んだのも束の間、右手首の痛みがぶり返してくる。
 痛みにこらえていると、嵐が急転回していた。

「よし、このまま止めを刺してやる!」

 萩風は体をかばうように、大きめの円を描くように舵を切る。
 横目に見たレ級がどのぐらい傷ついているかははっきりしなかった。
 今も視力が戻っていないのか顔を押さえながら苦しそうな唸り声を出しながら、しゃにむに動いている。
 動きはそのまま、でたらめな回避運動になっていて読みにくい。

 再接近した嵐は雷撃を試みようとして速度を落とす。狙いをしっかりと定めるために。
 そしてレ級の尻尾がいきなり動いた。
 嵐に向けて主砲を撃ち込むと、直後に尾がしなるように海面を鋭く打ちつける。その反動で嵐のほうへと飛びかかるように動く。
 体ごと引っ張るような尾の動きに、レ級も目が見えないながらも従うように急発進する。

 嵐の周囲に砲撃が落ちる。直撃こそないものの小柄な体が、その衝撃に翻弄される。
 油断している様子はなかった。それでも嵐はその場から離れるのが遅れ、レ級に距離を一息に詰められる。

「嵐!」

「うわあっ!?」

 萩風が主砲を構えた時には、すでに遅い。
 レ級の尾にある口が牙をむき出しにして、横向きに飛びかかる。
 がきりばきりと金属の壊れる異音が響く。
 バックルの探照灯や対空機銃を噛み砕きながら、レ級の尾が嵐の腰に喰らいついていた。


776 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/04(火) 22:51:15.15 ID:uG1UXyELo
いつの月曜か指定してないって、しらばっくれるのもどうかと思った次第
次回更新で夜戦は終わらせる予定。そんなこんなで乙ありでした
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/04(火) 23:00:39.51 ID:T30UfafGo
乙です
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/05(水) 08:30:54.35 ID:HDzyozR9O
乙乙なのです
779 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:15:20.79 ID:y/Ht6pRUo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 艦娘たちの後衛は愛宕を旗艦として摩耶、球磨と多摩に改白露型と夕雲型の一部から成る水雷戦隊だ。
 両陣営の前衛同士が交戦を始めた頃、愛宕たちは深海棲艦の後衛を阻むために進出していた。
 相手の後続艦隊について判明しているのは、様々な艦種による混成艦隊であるということ。二十隻余りの陣容で、二十ノットほどで西進を続けている。

 ちょうど彼我の前衛同士が交戦する海域と、泊地へと進もうとしている後続たちとの中間点にまで進んだ頃。
 前衛の劣勢が明らかになり、彼女たちは二者択一の選択を迫られていた。
 前衛艦隊の救援に向かうのか、トラックを狙う深海棲艦の後続にしかけるのか。

「どうする、姉さん?」

「そうねえ……」

 摩耶に訊かれて、愛宕は思案するように答える。
 愛宕は悩んだ。
 実のところ、愛宕の選択は決まっていた。決まっているからこそ悩みもしている。
 しかし気長に考えている時間はないし、悩む姿を見せてばかりもいられない。

「針路このまま、艦隊速度三十」

 泊地ではコーワンの配下たちが守りについているが、そちらも二十隻余りと敵とほぼ同数。
 丸投げしてしまうには心許なく、せめて一撃を与えて敵戦力を削ぐ必要があると愛宕は考えた。
 艦隊から復唱の声が続く中、摩耶が違うことを言う。

「本当にいいんだな?」

「いいも悪いもないよ。摩耶、復唱は?」

「針路このまま、艦隊速度三十。分かってるよ」

 渋い顔をして摩耶は復唱する。ふて腐れているわけではない、と愛宕は思う。
 それでも見かねたのか、球磨がそれとなく言う。

「どっちに行っても難しい決断クマ」

「それは分かるんだけどさ……クソ。ごめんよ、姉さん」

「別にいいのよ。摩耶の気持ちはよく分かるもの」

 この局面ではトラック泊地を守るのが最優先である一方、正面戦力である艦娘たちに被害を出すわけにもいかなかった。
 夜明け後の戦いでは一丸となる必要があると、そう愛宕は考えている。
 しかし、現実にはどちらか一方しか選べない。
 それならばと、愛宕は自分なりに俯瞰した視点で判断するしかなかった。

 そんな折、予期していなかった電文が愛宕たちの元に届いた。
 前衛艦隊からではないが、友軍の使う暗号で組まれている。
 発信元を確認すると愛宕は首を傾げた。

「マリアナの二水戦? どうして?」

 もちろん誰にも答えられないのだが、重要なのは電文の内容だった。
 二水戦はトラック泊地の救援のためにやってきたのであって、これより前衛の戦闘に加わると伝えてきていた。


780 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:16:30.01 ID:y/Ht6pRUo


─────────

───────

─────


「見えました、砲戦の光です! 周囲に敵影は見当たらず」

「承知しました」

 目ざとく報告してきた野分に、二水戦を率いる神通が応じた。
 戦闘海域は遠目には青白く色づいているように見える。
 吊光弾による明かりなのだが、周辺の宵闇にじわじわと侵食されていくような弱々しい明るさでもあった。

 さらに近づいていけば、雷でも生じたように一瞬の光が明滅しているのに気づくことができる。
 ただし、まばらではない。
 そこかしこで連続して瞬き、それはどこか闇に呑まれるのに逆らっているようでもあった。

 耳に当たる夜風に紛れて、音が遅れてやってくる。砲撃音。
 傍受できた通信によると戦況はあまり芳しくないらしい。おそらくは混戦になっている。
 神通は一息吐き出すと静かに、そして澄んだ声で命令を下す。

「雪風は左、吹雪は右から各隊を率いて味方の救援を。野分と舞風は私についてきてください」

 マリアナ所属の二水戦は神通を旗艦として雪風、野分、舞風の三人の陽炎型に、二代目の吹雪型と綾波型による特型駆逐艦たちの計十六人で構成されている。

「雷撃を行う場合は味方を巻き込まないように注意を」

 言うまでもないとは思っても、注意喚起というのは意識させる上で大事だ。事故というのは恐ろしいのだと神通はよく知っている。
 味方を巻き込む可能性がある以上、魚雷の使用には慎重を期すべきだった。
 かといって使用を下手に禁じてしまって、行動を狭めるのも下策と神通は考えている。身を守るための手段を奪う気はない。
 そうなれば、あとは各員の判断を当てにするしかなく、その点に関しては神通も信頼していた。

「それではみなさん、気を引き締めて参りましょう」

 夜に紛れながら、粛々と彼女たちは動き始める。


781 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:17:48.36 ID:y/Ht6pRUo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 自身を壊そうとする揺さぶりに、鳥海は歯を食いしばってこらえる。
 身近に迫った複数の至近弾による衝撃だった。
 撃ってきたのは赤いレ級。闇の中でも赤いレ級の姿は目立っていて、それは同時に健在という証左でもある。
 距離を保ったまま、しかも夜であっても楽しそうに笑っているのが分かる。

 夜の海を駆け抜けながら、鳥海も弾の装填が済み次第に撃ち返す。
 音速を突破した砲弾は、発射からほとんど間を置かずにレ級へといくつも命中する。
 ただし有効弾にはならない。
 ほとんどはコートのような装甲に弾かれている。一見柔らかそうであっても高い耐弾性を有していた。
 うまく体に直接当たっても勢いが衰えたようには見えない。

「さすがに戦艦というだけは……」

「褒メルナヨ……照レルジャナイカ」

 聞き耳を立てているかのようにレ級が反応してくる。
 見た目は華奢でさえあるのに驚くべき打たれ強さだった。それにこちらを茶化す余裕まである。
 守りに自信があるのか、赤いレ級はこちらの攻撃にはほぼ無頓着だった。

 唯一、火力の集中している尻尾への攻撃だけは避けようとしている。
 特にレ級の中でも小さい目標ではあっても、砲撃が終わる度に尾を海中へと潜ませてしまう。
 火力を損なってはいけない――というのは共通した認識らしかった。

 これが思った以上にいやらしい。レ級の尾には魚雷の発射口もある。
 砲撃の最中に忍ばせながら撃ち込んでくる可能性も捨てきれないだけに、常に雷撃への警戒も続けなくてはいけない。

「先ニ行キタキャ……モット近ヅイテコナイトサア……」

 このレ級は意外と何かを言ってくる。挑発なのか本音なのか、いずれにせよ聞き流す。
 砲撃には無頓着でも、こちらの動きには無関心ではないらしい。
 このレ級は早い内から、私たちの間に強引に割り込むようにしてきた。
 嵐さんたちとの合流を望んでないという意図があるのは確かだ。


782 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:19:30.61 ID:y/Ht6pRUo


 こちらのほうが優速であっても、こうなってしまうと突破は難しかった。
 それにうまく突破しても背中から撃たれてしまう状況には変わりない。
 向こうの戦況が分からないのも気がかりだった。
 こうして撃ち合ってしまえば、二人のレ級を同時に相手をできなかったのは実感として理解できるものの、分断されてもよくない。

 こちらの意図を察してか、レ級は針路上を常に抑えようとしていた。
 そのために動きは予想しやすく命中弾は稼げている。ただし装甲を抜けないせいで、いつまで経っても埒が明かない。

「不本意だけど言う通りかも……」

 このレ級は自身の能力を把握している。
 それが熟知なのか過信なのかは図りかねるけど、距離を縮めて有効弾を狙ったほうがいいかもしれない。
 最悪の場合は後ろから撃たれ続けるのも承知で突破するしかなかった。
 ただ、それは最後の方法だ。
 どちらにしても、このまま相手のペースに乗せられているようでは話にならない。

 体の向きや姿勢を微妙に変え、鳥海は針路の調整をする。
 行こう、前へ。そう決めてしまえば、艤装が意を汲んだように動きを表わす。
 体が前から押し返される感覚を受けながら、実際には後ろから突き出されるように進んでいく。

「来ルカア!」

 レ級の目が一際赤く輝く。喜悦に満ちたような顔は、三日月のように片側だけ吊り上がった唇のためか。
 そこまで観ながら鳥海の意識はレ級の尾を探る。まだ海面に出てきていないのを見て、本体へと主砲の斉射。
 命中。レ級は怯まない。巻き起こった爆風の隙間から尾が砲身を覗かせ、そして反撃。
 瞬間的に至近で弾けた奔流が後ろへと流れ去っていく。
 不正振動で舌を噛まないように、口を固く結ぶ。雷撃が来ないのを見定めつつ息を吸い直す。
 その頃には次発装填も完了している。発射速度なら距離の遠近には関係がない。


783 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:20:30.56 ID:y/Ht6pRUo


 すぐさま砲撃を浴びせる。斉射ではなく、およそ八秒間隔での交互射撃。手数ならば、確実に鳥海が優位に立っている。
 次々に送り出されていく砲撃。レ級に命中の閃光と火花も生じ、周りの海面も破片などでにわかに沸騰したようになる。
 並の深海棲艦なら圧倒できるはずの集中砲火に、さしものレ級もたじろいだようだった。

 このまま押し切りたかったけど、レ級は砲撃を受けたまま向かってきた。
 鳥海が舵を切って正面を避けるように動くと、レ級もそれに追いすがってくる。
 針路を塞ごうとしてた今までとは違う。もっと明確に対決しようという動き。

 鳥海は反撃をすぐ後ろに受けて、衝撃に体を貫かれる。
 崩れそうになる姿勢を踏み止まるように立て直すが、艤装の不調をすぐに感じ取った。

「やられたの? 速度が……」

 缶から咳き込んだような音が漏れ出すと、速力がみるみる落ちていく。
 速度計は二十七ノットを示していて、これではレ級を振り切るどころじゃない。
 しかし火力への影響は出ていなかった。

「避けて通れないなら……ここで一撃を!」

 鳥海はレ級から距離を取ろうとしたまま砲撃を続ける。飛翔した砲撃がレ級に当たっていき、やはり多くが弾かれていく。
 しかし、そこで変化が生じた。
 鳥海が放ったのとは別の砲撃がレ級に集まった。それも一つや二つでなく、つぶてのように降り注ぐ。
 別方向からの大量の砲撃は休む間もなくレ級を襲っていき、生じた水柱の高さから駆逐艦のものだと分かる。
 レ級が惑ったように顔と尾をそれぞれ四方へ巡らすのが見え、無線に通信が飛び込んできた。

「お助けします!」

「誰……?」

 聞いたことのある声だけど、すぐに声と名前が一致しない。
 もっとも味方の声だと判断した時には鳥海も次の行動に移っている。
 レ級への接近コースへと針路を変更。加勢してくれたのが味方の駆逐艦隊なら雷撃できるよう、レ級の注意を引きつけるべく動いていた。


784 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:21:25.25 ID:y/Ht6pRUo


 ところが意外にも、赤いレ級はあっさりと引き下がり始めた。
 砲撃を受けたまま背を向けると、尾がこちらに接近を拒むよう砲撃を行いながら退避していく。
 その思い切りの良さに感心する反面、誘い込むための罠ではないかと警戒心も湧いてくる。
 なんであれ深追いなんかしてる場合でなく、一刻も早く合流しないと。

 鳥海は主砲を撃ち続けたものの、赤いレ級の追撃はしなかった。
 増援の駆逐艦隊もそれに倣うように砲撃の手を止めると、鳥海を護衛するよう近づいてくる。
 ある程度、近づいてきてから鳥海は誰が来たのか気づいた。

「雪風さん?」

「はい、雪風です! お久しぶりです!」

 声を聞いてすぐに分からなかったのは今の所属が違うからだ。雪風はマリアナ所属だと鳥海は思い出す。
 そのまま雪風の僚艦たちを見て、鳥海は軽く息を呑む。
 雪風と行動を共にしているのは特型の綾波型の六人で、鳥海とはちょっとした面識があった。
 彼女たちは二代目の艦娘であり、やはり同じ二代目であった鳥海が過去にマリアナを奇襲された際に、自分の身を犠牲にして助けた艦娘たちだった。
 それぞれの挨拶がやってきて返しつつも、これはどういう巡り合わせだろう、と頭の片隅で思う。

「どうしてここに……いえ、それは後回しですね。今は嵐さんたちのところに戻らないと」

 気になることは色々あるけど、ゆっくり詮索している時じゃない。
 そこで雪風が目を輝かせるようにして、自信を持って言うのを鳥海は聞いた。

「ご安心ください! そっちには神通さんが行ってますから!」


785 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:22:50.98 ID:y/Ht6pRUo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 どこか呆然とした表情で嵐は自分の腰を見下ろした。体は自然と震えだしている。
 レ級の尾にある巨大な口が食いついていた。
 食らいつかれたのは一瞬のことで、気づいた時にはもう噛みつかれていた。

 白い石のような歯は牙というよりも杭のようで、バックルに取り付けた装備ごと押し潰すように締め上げてくる。
 無遠慮な圧迫に鋭い痛みが走って、我慢できずに呼気と一緒に声を吐き出してしまう。

「嵐!」

 萩が名前を呼ぶのが聞こえてきた。切羽詰った普段なら聞かないような声で。
 こいつはやばい。このままだと噛み砕かれる。というより――喰われるのか?
 その想像に肌が粟立った。
 戦場に身を置いてれば最期の想像なんていくらでもする。それでも喰われる最期というのは嫌悪感しかなかった。

「こんの……放せよ!」

 拘束から逃れようと嵐は口の両端を掴むと、なんとかこじ開けようと力を込めた。
 少しでも緩めば抜け出すつもりだったが微動だにしない。殴りつけても変わらない。
 それどころかレ級の尾は嵐をくわえたまま、鞭がしなるように縦横に激しく暴れだした。
 嵐の体がそのまま何度も海面に叩きつけられ、時には海中へと引きずり込まれる。

「やめて……やめなさい!」

 萩の声が聞こえて、遅れて砲撃音が続く。
 それからしばらくして、体を振り回す動きがようやく止まる。
 海面に引き上げられた嵐は、口から入り込んだ海水を喘ぐようにして吐き出していく。

「むちゃくちゃ……しやがって……」

 かろうじて悪態をつく。
 やっぱ……夜の海は怖いところだ。溺れさせられて今のは生きた心地がしなかった。
 呼吸を取り戻そうとしながら、嵐は周りの様子に目をやる。


786 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:23:52.15 ID:y/Ht6pRUo


 萩が片手でレ級に砲撃を続けている。
 尾が俺をくわえたままだからか、レ級はコートで身を隠すようにしながら萩の砲撃を受け続けている。
 そうしながらレ級は未だに両目を手で抑えて苦しそうにもがいていた。
 目を開けたって光の残像が視野に残ったままに違いない。それだけの光を間近で浴びせてやったんだから。

「嵐を放しなさい!」

 萩が必死に砲撃を続けている。俺をどうにか助けようとして。
 そんな萩のためにもなんとかしなきゃと思いながら、別の考えも思い浮かんでくる。
 俺がこうして拘束されてるから、レ級のやつは萩に攻撃できないんじゃないかと。
 それなら、このままでいたほうが萩の身は安全かもしれなくて……それってつまりだ。

「俺はいい……行ってくれ、萩。鳥海さんと合流するんだ」

「何を言ってるの!」

「こんなやつ……俺一人でも……十分ってことさ!」

 精一杯強がって見せる。
 自己犠牲なんて柄じゃないけど、このままじゃ二人してやられてしまう。
 だけど今なら萩は逃がせるし、それなら無駄死にじゃない。
 ああ、間違いないな。ただ喰われるよりずっといい。
 嵐は弱々しくも笑って見せる。

「頼むよ……カッコつけたいんだ……」

「いや。絶対にいや」

 萩風はかぶりを振ると、レ級ではなく嵐に叱責するような眼差しを向ける。

「どうしてだよ……」

「自分が沈んでしまうのを強く意識しちゃうのが夜の海……だから夜が怖いの」

「だったら……!」

「でもね、それと同じぐらい本当に怖いこともあるの……怖いことを怖いままにしてたらダメなんだよ!」

 萩風は動きが鈍いままのレ級の側面に回りこむと、尾の付け根を狙って砲撃を続けていく。

「だから諦めないで二人で帰ろう? それでも帰れないなら……その時は今度も一緒だよ」

 その言葉に衝撃が走る。
 萩風は嵐に笑ってみせた。それは先ほど自分がしてみせた顔つきと似ているようだと、嵐は悟った。
 俺たちはお互いに沈む覚悟ができている。
 そして俺は自分の身に代えても萩は助けようと、逆に萩は俺を助けようと考えている。
 自分だけが助かるなんて願い下げだとばかりに。


787 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:25:11.23 ID:y/Ht6pRUo


 嵐はしばし痛みを忘れ、代わりに胸の内に強い感情が湧き上がってくる。
 俺は大バカだ。
 こんなのは理屈じゃない。

「なんてことを言わせてんだ、俺は……」

 俺が死ぬってことは萩を殺してしまうってことでもあるんだぞ。
 そんなの我慢ならない。それこそ絶対にいやだ。
 俺たちはどっちも欠けちゃいけない。

「うああああっ!」

 いつまでも噛みついたままのちくしょうを思いっきり殴りつける。何度も握りしめた拳を振り下ろす。
 頬だとか歯だとか、どこかに少しぐらい痛みが通じる場所があるはずだ。
 とにかく叩く。叩き続ける。分厚いゴムを叩いてるようだった。
 握った拳が熱い。皮が擦りむけて血が出ていた。けど、それがなんだって言うんだ。

 ついに打撃が通じたのか、体を抑えていた歯が少しだけ緩んだ。
 すかさず左腕を体と歯の間に差し込むように入れて、腕を広げてこじ開けていく。
 レ級の尾も逃すまいと口を閉じようとするが、嵐の体が抜け出すほうが早い。
 口が勢いよく閉じた時には、嵐は後ろに尻餅をつきながらも逃れていた。

「やった! これで……」

 嵐が喜んだのも束の間だった。
 レ級の矛先が砲撃を続けていた萩風へと変わり、尾が主砲を撃ち込んだ。
 主砲の着弾に、萩風の体が大きく揺さぶられるのが嵐には見えた。

「萩!?」

「まだ大丈夫……!」

 すぐに返事をよこす萩だったが、艤装や服はボロボロで満身創痍という有様になっていた。
 もう一度撃たれたら次はどうなるか分からない。
 レ級もいくらか視力が戻ってきたのか、赤々とした瞳が二人を交互に見ていく。
 品定めしているような目つきだと思えて、嵐は歯噛みする。


788 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:27:29.36 ID:y/Ht6pRUo


 嵐のほうには武器らしい武器が残っていなかったし、拘束から逃れただけで満足な状態にもほど遠かった。
 打つ手なし、と浮かんだ考えを頭を振って追い払う。

「ただ指をくわえて待つだけなんて……ごめんだ!」

 萩と二人で生き延びるか、さもなければ……レ級の背中で爆発が上がったのはそんな時だった。
 無線が一度砂を噛むような音を出してから、懐かしい声を響かせる。

「ちょっとー! 二人とも早まらないでよ!」

「ここから先は私たちで引き受ける!」

 その声はよく知っている。こっちが問い返した声は上擦っていた。
 同じ陽炎型の艦娘で、第四駆逐隊を構成していた舞風と野分の声だ。

「舞? それにのわっちまで……」

「……のわっちはやめて、嵐」

 苦笑するような響きを残したまま、立て続けの砲撃がレ級に襲いかかる。
 レ級は後ろへと向き直ってから徐々に速度を上げていき、高々と上がった尾が発砲炎を目安に遠方への砲撃を行う。
 もはや脅威とならない嵐と萩風には関心を示していない。
 レ級の砲撃が来る前に、二人は散開しているのが嵐の目には見えた。

 あれなら当たりっこない。確信した嵐はレ級に再度の命中弾が生じるのを見る。
 今度は真横からの砲撃で、舞風からでも野分からの砲撃でもない。
 もう一人がレ級の真横から迅速に近づきながら撃ちかけていた。
 間近で一撃を浴びせたと思うと、あっという間にレ級の横をすり抜けて離脱。すぐに反転すると再度の攻撃を敢行する。
 発砲炎の光に浮かび上がったのは、やはり嵐の知る艦娘だ。

「神通さんか……すげえ」


789 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:29:53.57 ID:y/Ht6pRUo


 こんな暗闇の中をあの速度で張りついてる。衝突する危険もあれば誤射の可能性もあるのに恐れ知らずだった。
 舞風と野分の砲撃も次々とレ級に集中し行動を阻害していた。
 レ級が忙しなく首を巡らし狙いをつけようとするが、快速を生かした攻撃の前に翻弄されている。
 するとレ級が砲撃を受けながらも海域外から離れていこうとする。撤退しようとしているのは明らかだった。

「逃げるつもりですか? これだけ好き放題にしておきながら」

 神通の静かな声を嵐は聞く。
 それは同じ味方であっても背筋がひやりとする声音だった。
 追撃の手を緩めようとしない神通さんはレ級に追いすがろうとするが、舞の声が無線を振るわせる。

「新手が来ました! 赤いレ級!」

 続けて舞が示した方角に目をやると、確かに赤いレ級がいた。
 どうして……あいつは鳥海さんが相手をしてたはずなのに。あの人がやられるなんて思えない。
 野分の声が続く。

「雪風から入電。鳥海さんの救援には成功したようですが、赤いレ級は後退したとのことです」

 それでここに戻ってきたのか。
 その赤いレ級は遠巻きに神通を狙う。遠方からの砲撃だが精度はよく、神通が変針して砲撃を避けるよう動く。
 撤退を支援するための砲撃だと分かるが、かといって阻止する手立てもない。

「嵐と萩風の二人を護衛しつつ、一度雪風たちと合流します。追撃は諦めたほうがよさそうですね」

 俺も萩も命拾いしたけど、現状は何も改善されていないのかもしれない。
 怖いぐらいに冷徹な神通さんの声が、嫌でもそう認識させてくれた。


790 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:31:52.61 ID:y/Ht6pRUo


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 夜戦が終息してすぐに、鳥海は出雲型輸送艦に回収に来るよう無線を飛ばした。
 元から深海棲艦の数は少なかったので、一度立ち直ってしまえば劣勢をひっくり返すまでは早かった。
 後続艦隊を追った愛宕姉さんからも、迎撃に成功したとの一報が入ってきている。

 迎えが来るまでの間、夜の海を待ちぼうけるように漂う。
 結果として何人かの中大破を出したものの、未帰還は一人もいない。
 敵に与えた損害ははっきりしないものの、前衛だけでも何人かのレ級や取り巻きを沈めたという報告はある。

 だけど、それもマリアナからの増援があればの話で、そのまま単独の戦力だけで交戦していたら、どれだけの被害が生じていたのかは分からない。
 少なくとも嵐さんと萩風さんは帰ってこれなかったと、私は思う。
 重傷を負った二人から詳しい話を聞いて、戦い抜いてくれた二人には感謝した。本当に生きててくれてよかったと。
 助けに来てくれたマリアナの艦隊にしてもそう。
 彼女たちがいなければ、きっと私はここでも何かを失っていた。

 夜が明けるまで、あと六時間を切っている。
 そのあとに待つのは総力同士での決戦だ。
 もしかすると、この戦いで私たちが得るものなんて何一つないのかも。
 逆にただ失うばかりになってしまうかもしれない。

 それでも他に道はなかった。
 私たちにできるのは、ただ向かうだけだった。
 今も昔も、そのことはきっと変わってない。
 意識しようとしまいと、刻一刻と時間は迫ってきていた。


791 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/07/18(火) 13:34:55.58 ID:y/Ht6pRUo
ここまで、乙ありでした
長々かかってしまったけど、次から決戦前における最後の日常会話みたいなやつになります。それが終わったら。あとはもうなるようにしかならんのです
792 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/18(火) 17:56:03.57 ID:GWIhe66io
乙です
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/20(木) 07:10:28.16 ID:/1eksXsko
乙なのです
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/22(土) 12:46:19.57 ID:22Z2UcHsO
乙乙
795 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:20:50.89 ID:w7DJVXDCo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 夜戦を終えた艦娘たちが泊地に戻ると、すぐに艤装の修理に弾薬や燃料の補給が始まった。
 明かりを灯されたドック内の様相は、ある意味で戦場と変わらない。
 夕張と明石、あるいは整備課の人員や妖精たちが夜通しの作業を始めている。
 彼我のどちらが先手を取るにしても、できる限りの修繕と整備を行わなくてはならない。

 提督は夜戦の報告もそこそこに、艦娘たちには休息を取るよう命令している。
 この日ばかりは総員起こしは意味を成さず、残りの時間をどう過ごすのかは各々の自由にさせることにした。
 その彼自身は各所からの報告や進捗を取りまとめ、新たにいくつかの指示を出してから執務室に戻っている。

 時刻は二時を回っていた。
 トラック諸島の日の出は午前七時と本土と比べて遅いが、深海棲艦の動きがそれに合わせてとは限らない。
 いずれにしても五時までは作戦行動を起こさない方針を固め、準備に専念させていた。
 それまでは深海棲艦も大人しくしてくれているのを願うばかりだ。

 執務室には独特の静けさがあり、椅子に座ってしまうと睡魔があっという間に迫ってきた。
 舟をこぎだした提督を起こしたのはノックの音だ。
 はっと目を覚ました提督は自分の状態に気づくと、襟元をただしてから誰何の声を投げかける。

「誰だ?」

「夕雲です。少々よろしいでしょうか?」

「鍵なら開いてる。入ってくれ」

「それでは失礼しますね」

 執務室に入ってきた夕雲は提督の顔を見るなり、口元に人差し指を当てる。
 思案する仕種から出てきた声は、やはり問いかけだ。

「もしかしてお邪魔でしたか?」

「逆に助かった」


796 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:25:04.68 ID:w7DJVXDCo


 眠気を払おうと頭を振りつつ提督は答える。
 目をしばたたかせるのは、完全に目が覚めたとは言いがたいためだ。
 いかにも疲れているという様子を見せるのは憚られたが、提督も秘書艦を務めている夕雲の前では脇が甘くなっていた。
 他の艦娘やコーワンたちの前にいる時とは違い、口調にも飾り気がなくなっている。

「それで何かあったのか?」

「そういうことではなく、これを提督にと。甘い物はお嫌いではなかったですよね」

 夕雲が提督の机に置いたのは、銀紙に包まれた板状のチョコレートだった。
 考えてみれば、昨日一日はほとんど何も口にしていない。夕時に間宮たちから配られてきた握り飯を食べただけと提督は思い出す。

「こいつはありがたい」

 すぐにでも口に放り込みそうな提督に、夕雲はすぐに制止するように声を出す。

「今は食べないで起きてからにしてください。眠れなくなってしまいますからね」

「俺は大丈夫だ。そういう心配ならいらない」

「指揮官だからこそ体を労わるのも必要です。疲れきっていては、とっさに正常な判断を下せないかもしれません」

「……はっきり言うんだな」

「なんでしたら添い寝もしましょうか? 提督がご所望でしたら夕雲は一向に構いませんよ?」

「勘弁してくれ……」

 より疲れたように提督が肩を落とすと、夕雲は小さくほほ笑む。

「冗談はさておき、提督に休息が必要なのは確かでしょう。私たちのためだと思って休んでください」

「それなら夕雲にも休んでもらいたいな。明日も長くなるぞ」

「では……一時間半ずつ休みましょうか。提督が先に休んでください」

 夕雲はそう提案する。
 悪くない案だと提督も思う。たとえ三十分程度でも寝れるなら寝たほうがいい。
 色々と気を遣われているのを察して提督は聞き返す。


797 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:27:41.33 ID:w7DJVXDCo


「先に寝なくていいのか?」

「大丈夫ですよ、ちゃんと起こしますから。長く寝かせたら、あとで気にするのでは? それに私も……実は眠たいですし」

「やはり俺は後からのが……」

「そう言って不寝番をするつもりでは? ですから交代がいいんですよ。お互いに出来る最善、まさにベストオブベスト……なんですか、その顔は?」

「面白いこと言うやつだと思ったんでな」

「まあ、なんだか誤解されてる気がします」

 提督はどこかすねたような口調の夕雲をまじまじと見つめる。
 その視線は夕雲に気づかれる前に消えていた。

「いいだろう、君の提案を採用だ。どうせなら自分の部屋で寝させてもらうよ」

「分かりました。ちゃんと時間になったら起こしますから安心してくださいね」

「でないと夕雲が眠れないからな」

「そういうことです」

 提督が執務室から出て行こうとしてドアノブに手をかけると、夕雲がその背中に声をかける。
 ノブに手をかけたまま提督は肩越しに振り返った。

「一つ教えてくれませんか? どうして夕雲を秘書艦に選んだのですか?」

「……どうしてだったかな」

「話したくないなら、それはそれでいいですよ? 私を選んでよかったといつか言わせてあげますから」

 自信をたたえた笑顔を夕雲が見せると、提督もまた口角を上げて見返す。

「もう今でも思ってるよ」

「え……あの? 今のは……」

「あとで頼む」

 戸惑う夕雲をよそに、提督は部屋から出て行ってしまう。
 夕雲は閉まるドアの音を聞きつつ体の力を抜く。
 一言褒められたかもしれないだけで動揺していたかもしれないなんて。

「私もまだまだみたいですね……」

 余裕を持ってからかうように振る舞ってみたところで、単に子供のようにあしらわれてしまっているだけかも。
 夕雲はため息をつくと時計を見上げる。
 ひとまず一時間半はうたた寝することもなさそうだと彼女は思った。
 秘書艦らしく務めを果たしておきたかったし、何よりも平静を取り戻さないといけないために。


798 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:29:04.94 ID:w7DJVXDCo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 萩風と嵐は野分と舞風との再会を喜んでいた。
 久々に第四駆逐隊として揃った一行は、嵐たちが使っている部屋で夜明けまで過ごそうとしている。

「今回ばかりはもうダメだと思ったよ……」

 萩風はあらかじめ作っていた手製のケーキを切り分けると、三人の前に出していく。
 自分の分も用意して丸いテーブルを囲むように座る三人に混ざると、萩風はふと自分の右手首をさする。
 帰投してすぐにバケツによる治療を受けたので、傷や後遺症は残っていない。
 それは嵐も同じなのだけど、見るとこっそりおなかを触っている。やっぱり噛まれたというのが気になっているためなんだと思う。

「ほんとにな。もう二人には足を向けて寝られねーや」

「私たちってば、やっぱ頼りになるでしょー? でも二人もすごかったじゃない」

 舞風に言われて嵐は互いに顔を見合わせる。
 お互いに苦戦してた印象しかなくて……すると野分が言う。

「二人ともよく支えてたじゃない。レ級の相手なんて簡単なことじゃないのに」

「そうなのかしら……」

「そうだよ。ちょっと会わない間に見違えちゃった」

 野分にそんな風に言われると急に恥ずかしくなってくる。

「なんか面と向かって言われると……照れるな」

「そうだね……」

 嵐も恥ずかしそうにしていて、話を変えたくなったのかもしれない。別の話を切り出す。


799 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:31:49.12 ID:w7DJVXDCo


「そういや、マリアナ組はどうやってここまで来たんだ? あっちからじゃ全速でも丸一日はかかると思うんだけど」

「今まで大変で気にしてなかったけど、言われてみたら……」

 トラックからマリアナまで直線距離でも千キロ以上は離れている。
 水雷戦隊が最高速で進み続けても到着には二十時間はかかってしまう。それも無休無補給の上で、索敵警戒などを一切考えないという条件で。
 深海棲艦を発見したのが昼頃だったから、そう考えるとまだ戦闘が始まってから半日と少ししか経っていない。

「嵐ってば、それ聞いちゃうんだ……」

 舞風がげんなりした顔をする。野分もなぜか目を泳がせている。
 それまでとは、ちょっと違った雰囲気になっていた。

「もしかして聞いちゃまずかったのか?」

「あんまり思い出したくないっていうかさー……のわっちー……」

「まあ、隠すような話ではないから……ここまでは輸送機で来たのよ。それで戦闘海域から少し離れたところに降りたというか落とされたというべきか……」

「落とされた?」

「パラシュートをつけて降下だよ。ちゃんとした訓練もしてないのに、夜の海にね? すごく暗かった……」

「もうね、考えたやつはバカじゃないの……なんてね」

 体験はしてないけど、私もそんなことをやらされたら二人以上に怖がってる自信がある。
 ただでさえ夜の海は怖いのに。嵐でさえちょっと引いてる。

「大変だったんだね……」

 思わず同情すると舞風が大きく頷いてきた。
 だけど涙目になってる舞風はちょっとかわいらしい。


800 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:32:28.05 ID:w7DJVXDCo


「それで別に落とされた艤装とかの装備を回収して、そこからは自力で航行してきたの。あとは知っての通りかな」

「へぇ……なんつうかむちゃくちゃだな」

「そうだね。でも、そうする必要があったのは分かるんだ。マリアナの主力もラバウルに釘づけにされたままだから、トラックで敵の攻勢をはね返すのは私たちや向こうの仲間を助けることにもなるのよ」

 野分の言葉になるほど、と思う。
 確かに私たちがトラック泊地から離れられないのは、前線にいる艦娘たちを支える必要があるからだ。
 もしかしたら野分と舞風のほうが、その辺りの実感は強いのかもしれない。

「でも、あんなのはもうこりごりだよ……」

「……ほんとね」

「……でも、その無茶にはちょっと感謝かな。こうしてまた舞とものわっちとも会えたんだから。萩もそう思うだろ?」

「うん。すごくほっとしてるよ。来てくれて本当にありがとう」

 野分が気にするなと言いたそうに首を振ると、舞風がケーキの皿を掴んで勢いよく立ち上がる。

「よーし、第四駆逐隊の再結成を祝して乾杯だあ!」

「おおっ! 次も俺たちで嵐、巻き起こしてやるぜ!」

「二人とも気が早いわよ。まったく元気なんだから」

 盛り上がりだした二人に野分もたしなめるような声をかけるけど、満更ではなさそうだった。
 まだ戦いは終わっていないけど……長い夜をようやく抜けたような、そんな気がした。


801 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:33:58.54 ID:w7DJVXDCo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 武蔵が自身の艤装の点検を終えた頃だった。
 聞き覚えのある声が、言い争っているらしいのを聞いてしまったのは。
 そんな声を聞いてしまえば、何が起きてるのか確認しに行くのは当然だった。

 しかし、こんな状況で何をしているんだ。
 ケンカなら仲裁する必要があるし、そもそも戦闘を間近に控えているのに、こんなところで無駄な体力を使わせるわけにもいかない。
 もっと言うなら、ケンカなぞしている場合ではないだろうに。

 果たして武蔵が出くわしたのは清霜と夕張の二人だった。
 二人は何かを言い合っている。
 夕張は艤装の整備をしている途中のようで、油汚れの目立つつなぎを着込んでいた。
 清霜のほうは普段通りの格好だが、手に丸めて筒のようになっている紙を持っている。

 近づいて分かったのは、言い争うというよりは夕張に清霜が噛みついているようだった。
 どうにも単なる口ゲンカではなさそうだが。

「二人とも何をしているんだ」

 武蔵が声をかけると二人の顔が向く。
 夕張はほっとしたように一息つき、清霜は驚いてから武蔵と目を合わせないように視線を外してしまう。

「ちょうどよかった、ちょっと助けてくださいよ。清霜ったら無謀をやってくれって……」

「無謀なんかじゃないよ! これは絶対に必要になるんだから!」

「だから、どうしてそんな結論になるんですか! 戦艦になりたいって言うのと、これは全然違うんですよ!」

「待ってくれ、ちっとも話が見えてこないぜ」

「清霜ちゃんが艤装を改造したいって言い出したんですよ」

「なんでまた……」


802 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:34:32.66 ID:w7DJVXDCo


 清霜がいつか戦艦になりたいのはよく知っているし応援もしている。
 ただ一朝一夕にできるような話ではないし、本人も承知の上で夢として語っていると思ってたんだが。
 そんなことを考えていると、清霜は設計図を差し出してきた。

「これは……清霜の重装化プランです。設計図も自分で引いてみました……」

「何が重装化よ。無理やり戦艦砲を載せてみようってだけでしょ」

「ただの戦艦砲じゃなくて武蔵さんと同じ四十六cm砲だよ!」

「なお悪いから! 重心とか復元性を甘く考えてるでしょ! 速力だってどのぐらい出せるやら……」

「夕張も少し落ち着いてくれ。頭ごなしに言うもんじゃないだろ?」

 少しばかり気が立っているように見える夕張をなだめる。
 夕張としても、今は清霜だけにかかずらってるわけにはいかないのだろう。そんな焦りを見ていると感じる。
 かといって俺に丸投げしないのは気にかけているからか。

「なあ、清霜よ。どうして改造したいんだ? 本当に今じゃないといけないのか?」

 清霜は言葉を詰まらせる。上目にこちらを見上げる顔は、何か葛藤しているようでもあった。
 いくらか落ち着きを取り戻したような夕張の声が続く。

「そうよ、主砲を載せられるのと扱えるのは全然違うんだから」

 その通りだ。清霜の艤装にだって載せられるだろう、戦艦級の主砲を。
 ただし、それが十全に性能を生かせるかといえば、そうはならない。
 あくまで積んで撃てるだけ。むしろ本来なら起こりえない問題を生じかねさせず、戦力として数えられるとは武蔵も思っていない。
 清霜にだって言われなくとも分かっているはずだ。

「何か理由があるんだろう?」

 そうさ、清霜はこういう駄々はこねない。
 無言を貫いていた清霜だが、やがて耐えかねたように口を開いた。

「私が考えてる相手は戦艦棲姫だから……今のままじゃ武蔵さんの力になれないよ……」

 清霜の視線と言葉に武蔵は我知らず後ずさっていた。
 ……下手な砲撃を受けるよりも、よっぽど衝撃だった。つまりだ。

「原因は俺か……」


803 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:36:33.50 ID:w7DJVXDCo


 分かってしまえば単純な話だ。
 清霜はこの武蔵の身を案じている。それが今回の行動の引き金になっていた。
 ……清霜は聡い子だ。もしかしたら、俺が姫に対してどこか及び腰になっているのに気づいてしまったのかもしれない。

「……情けないな、俺は」

 そう、本当に情けない話だ。
 俺自身の弱気が清霜までを惑わせていた。
 らしくなかった。相手が強いから、なんだと言うんだ。そういう相手だからこそ力の振るい甲斐があるというのに。
 武蔵は清霜の両肩に手を置くと、視線を正面から合わせて受け止める。

「お前の気持ち、確かに受け取ったぜ」

「武蔵さん……」

 ならば。ならばこそだ。

「信じてくれないか、清霜。この武蔵を。俺は絶対に戦艦棲姫には負けない。だからお前はお前らしく、俺を助けてほしい」

 勝負事はやってみなくては分からない。
 それでも始まる前から負けるかもしれないなどと考えていては、勝てるものも勝てなくなってしまう。
 最後の一線で踏みとどまれるかは少しの気合いの差だったりする。
 そしてそれはほんの少し前の俺には欠けていて、清霜はそれを俺に分からせてくれた。

「……はい。清霜は、清霜もがんばります!」

 清霜は言い切ると、今度は勢いよく夕張へと向き直る。

「あの、夕張さん……こんな時にご迷惑をおかけしました!」

 敬礼でもするように背筋を伸ばして、清霜は頭を下げる。
 夕張はすぐに顔を上げさせると、自分も感情的だったと謝った。

「もういいのよ、二人のやり取りがちょっと分からないとこはあったけど丸く収まったんだし。それに……正直に言うと、私もこんな時じゃなければちょっとだけ主砲を積んでみたい気持ちはあったし」

「それって……じゃあ私もついに戦艦に?」

「ただ主砲を積んだだけでは、いいとこモニター艦ってやつじゃないのか」

「まあ課題は山積みですよね……せっかくですし無事に戻ってきたらやってみましょうか?」

 清霜と夕張はそんな話をして笑い合っていた。もちろん俺もだ。
 戦いの結果がどうなるかは分からない。
 それでもやつと雌雄を決するための心の用意はできたと、俺はようやく確信していた。


804 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/03(木) 23:37:10.31 ID:w7DJVXDCo
ここまで。決戦前のやり取りとしては半分ぐらい。全部書いてからと思ったけど、間が空きすぎてしまったので……
遅れがちで申し訳ないですが、乙ありでした
805 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 05:56:45.68 ID:53UI87+Vo
乙です
806 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/13(日) 10:01:11.71 ID:8bLtKexBO
乙乙
807 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:01:55.42 ID:ptl+Dcauo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 消毒液の匂い、というのはコーワンにとってなじみのない匂いだった。好き嫌い以前に。
 彼女は医務室に足を踏み入れてすぐに、目当ての相手を探す。
 医務室には扶桑が収容されていて、山城もそれに付き添っているはずだった。
 すぐに中ほどのベッドで寝ている扶桑を見つけ、その傍らでは山城も椅子に座ったまま寝息を立てている。
 そして扶桑を挟んで山城の向かい側に艦娘がもう一人いて、近づくと顔を向けてきた。

「アナタハ確カ……白露ノ妹……」

「時雨だよ。姉さんの妹だと候補が多すぎるね」

 時雨はどこか楽しげに、そして名乗るように言うと、自分の隣に丸椅子を置いて座るように促してくる。
 何をしにきたのかとは聞かない。すべて分かっているという感じだった。
 座るかどうか迷ったものの、おそらくは時雨の厚意に従う。
 コーワンはベッドに寝かされている扶桑を見る。見た目に異変はないのに目を覚まさない。

「扶桑ノ様子ハ……?」

「見ての通りだよ。ローマが言ったように、そのうち目は覚ますと思うけどね」

 時雨はコーワンを見上げていた。
 見返して思ったのは、確かに白露と目元が似ているような気がした。
 といっても彼女から受ける雰囲気は白露とは異なる。違った意味での穏やかさというか落ち着きを感じる。

「扶桑を心配してくれるのかい?」

「ソレニ……山城モ……」

 時雨に問われ、コーワンは頷く。
 私は確かに扶桑の身を案じていた。このトラック泊地に来てから特に世話になったのは艦娘は扶桑と山城の二人だから。

「そうなんだ。二人に代わってありがとう」

 時雨は屈託のない顔で笑う。こういうところも白露の妹を感じさせた。

808 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:03:32.66 ID:ptl+Dcauo


 しばらく互いに無言で様子を見ていたが、時雨のほうが口を開く。

「なんだか変な感じだよ。ボクたちは前の提督を、君たちはワルサメをなくしている。それが今は一緒にいるんだから」

「二人ガ……巡リ合セテクレタノカシラ……」

「どうかな……けど、本当にそうだとしたらボクらはこう言うんだ。これは運命だって」

「運命……」

「二人が生きていた結果なのかも。きっと本当なら交わらないはずのボクらがこうして今を共有してるのは」

 時雨の視線を受け止める。彼女の言うことはもっとも。
 我々は二人の犠牲を足がかりに、この場にいる。本来なら忌んだり悲しむような出来事を経たからこそ成立した関係。

「……でも、これ以上は誰かを失いたくないものね」

 いきなり眠っていたと思っていた山城が言い出し、驚いてそちらを見る。

「あなたも来てたのね、コーワン」

「起コシテシマッタ……?」

「いいのよ、いつまでも寝てるわけにはいかないし」

 山城は椅子に座ったまま扶桑を見ていた。
 普段は物憂げな顔をしている時が多い彼女だが、この時は違った。引き締まった顔は凛としていた。
 まるで独り言のように山城は漏らす。

「……禍福あざなえる縄のごとし」

「ドウイウ意味……?」

「幸運も不幸も交互にやってくるという意味で……要はどちらにも終わりは来るということ。友人の言葉を借りるなら、雨はいつか止むかしら」

 ことわざ、というものだろうか。
 なぜか時雨がなんだか嬉しそうにしている。

「へえ……いいことを言う友達もいたもんだね、山城」

「そうね、そういうことにしておいてあげるとして」

 山城は時雨になんともいえない視線を向けているが、そこに含めれている意味は私には分からなかった。


809 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:04:04.22 ID:ptl+Dcauo


「でも現実には終わらせようとしないと、いつまでも終わらないこともある……悪いことには特にね。今回は目に見える相手がいるだけ分かりやすくていいわ」

「山城ハ……何ヲスル?」

「何って決まってるじゃない。姉様に仇なすやつらがいるなら戦うだけよ。どんな相手だとしてもね」

 山城の意志が硬いのは口振りや表情を見ていれば分かる。
 ……どうしてだろう、もどかしさを感じる。
 その理由を考えている内に、時雨が山城に言う。

「無茶はしないでよ。君に何かあったら扶桑が困るんだ」

「……その言い方はずるいわよ、時雨」

「それならボクも困る」

 横目に見た時雨の表情は真顔だった。
 山城を諫めようとしている。もしかすると時雨は私が感じていない何かに気づいたのかもしれない。

「……なるようにしかならないわ」

 山城はそう言うと立ち上がる。時雨の言葉をはぐらかしてはいるが、同時に本心でもあるように聞こえた。

「私はそろそろ行くわ。いつ招集がかかるか分からないし、あなたたちも少しでいいから寝ておきなさい。今日も長くなるわよ」

「待ッテ、山城」

 思わずコーワンは呼び止めていた。
 もどかしく思ったのは、自分とホッポの関係を重ねてしまったからかもしれない。
 あるいは時として、行動には犠牲が付きまとうのを知っているからか。


810 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:05:16.13 ID:ptl+Dcauo


「時雨ノ言ウヨウニ……無茶ハヨクナイ」

 山城はコーワンを見ると、問い返すように語り始める。

「……もしも自分の前に選択肢があったとするじゃない。右に行くか左に行くか、この部屋にいるかいないか。実際は二択どころか、もっと多くの可能性があるんでしょうけど、とにかく選択肢があるのよ。私の場合、大抵は何を選んでも不幸な目に遭うの」

「ソンナコトハ……考エスギデハ?」

「あるのよ、私の場合。何を選んでも不幸になるなら、それでもいいのよ。自分でやるべきと思った選択をして、そんな目に遭ってから言えばいいんだから。不幸だわって。それでおしまい。だから無茶はしないつもりだけど、その時々にすべきと思ったこと
をやらせてもらうわ」

 山城の言うことはよく分からない。
 悪いことが起きるという前提で動くこともないのでは。
 ただ、山城はこうと決めた基準を持っている。それはきっと外から誰かが口出しして、どうにかなる話ではない。
 時雨が悲しげに言う。

「……君はひねくれてるなあ。それとも逆にまっすぐすぎるのかな」

「なんとでも言いなさい」

 山城は苦笑いを浮かべてから部屋を辞した。
 止めることはできない、とコーワンは思った。部屋を出て行くのがではない。死地に向かうのだとしても。

「簡単にやらせはしないさ」

 時雨がコーワンに向かって言う。
 分かっていると言いたげな時雨に、コーワンもまた頷き返す。
 この時雨はきっと頼りになる。そう思わせるだけの気配がある。

 一方で自分の抱えたもどかしさが胸の内で膨らんでいくのも感じた。
 当事者でありながら状況に関与できていない。
 このままではいけないと思うも、打開するための方法が分からない。
 重石のようなのは心なのか体なのか、区別がつかなくなっていた、


811 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:06:27.63 ID:ptl+Dcauo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 深度二十付近の海中で眠っていたネ級は、やはり海中で目を覚ました。
 うっすらと目を開くも、夜の水中はとても暗い。
 水面からのわずかな月明かり、あるいは夜光虫やより深い場所を根城にする海洋生物が発する淡い光ぐらいしか光源がないからだ。

 いや。とネ級は己の考えを否定する。
 今はネ級も金色の光を発していて自らが光源になっている。露出を抑えようと思えば抑えられるが、完全には消えない。
 たまに光に誘われて近づいてくる魚などもいるが、ネ級の存在に気づくと警戒心を思い出したように逃げていく。
 運が悪ければ、腹を空かした主砲たちの口内に直行することになるが。

 海中で眠るのは、そのほうが安全だからだ。普段ならばさすがにここまではしないが。
 ネ級は近くで同じように眠っていたはずのツ級がいないのに気づく。
 どちらかが潮に流された可能性もあるが、互いにそんな間抜けはしでかさないはず。
 となれば上か。

 ネ級は眠ったままの主砲たちを起こさないまま海上へとゆっくり浮上していく。
 水面から顔を出すと夜空に出迎えられた。
 頭上には数えるのを放棄したくなるぐらいの星々が瞬き、月は左だけの半月に近い形をしている。青い光が網膜に焼き付く。

 頭を巡らせるとツ級を見つける。
 そして意外な先客もいた。飛行場姫だ。二人は水上に出ていて、何か話していたらしい。
 ツ級が私に気づいたのだろう、視線を下げてこちらを向く。おそらくは頭の動きから目が合った。
 先の戦闘で受けた傷の修復はすでに済んでいる。
 飛行場姫もこちらに気づいた。こうなると出ていくほかない。
 海面に立ち上がると、主砲たちも起きる。体を後ろへ伸ばしながら身震いして、水滴を振り落としていく。

「珍シイ……二人ガ話シテイルナンテ」

 出会い頭にかける言葉としてはどうかと思うが、これ自体は正直な気持ちだった。

「タマニハ……ソレモイイトナ」

 飛行場姫は妙に穏やかで、それでいてどこか寂しげに見える顔で笑う。


812 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:07:47.20 ID:ptl+Dcauo


「……ヨクヨク考エルト……オ前タチト……アマリ話シテコナカッタ」

「……ダソウデス」

 付け加えるようなツ級には硬さが見て取れた。
 普段は必要以上に話さない姫との接触に戸惑っているのかもしれない。

「話デスカ?」

「エエ、話ヨ」

 そこで話が途切れた。
 いきなり話そうとしても思い浮かんでくる話題がない。
 私たちはそこまで多弁というわけではないようだ。

 代わりに頭の中に不明瞭な言葉が浮かんでくるが、ぼんやりとしているだけに正確な形にはならなかった。
 女三人集まれば……ぜかまし?
 どこか違う気がする。よくは分からないが。

「……静カナモノデスネ」

 ツ級が私と姫へ交互に顔を向けて言う。

「夜戦ガアッタノニ……私タチダケ切リ離サレテシマッタヨウデ」

「支援作戦ニ近イカラ付キ合ウ必要ハナイ。ソノ分ダケ休ンデ……朝ニ備エタホウガイイ」

「朝ニ……」

 詳しくは知らないが、人間たちとの交渉は物別れに終わったと聞いていた。
 それについては特に思うこともない。初めから、そうなる気がしていたから。
 しかし、こうなるともう戦うしかない。あの艦娘――鳥海と。
 総力戦である以上、戦域も拡大する。それに伴って遭遇する確率も低くなるはずだが、また出くわすという予感がした。


813 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:08:27.04 ID:ptl+Dcauo


 ふと月を見上げる――月が綺麗だ。
 今は半月に近いが、あと一週間ほどで朔になるだろう。なぜか、今日の月が満月でないのが残念だった。
 次の新月を迎えられる保証はどこにもなかった。なんで、今まで月を見た時にそう感じなかったのだろう。
 気づいてしまえば、声が自然と出てくる。

「確カニ……何カ話スナラ今ダ。言ッテオキタイコトデアレ……抱エテイル秘密デアレ……次ノ夜ヲ迎エラレルカナンテ分カラナイ……」

 最後になるかもしれない、そんなに夜にできることならば。
 では、とツ級が声を発する。頭は飛行場姫を向いていた。

「ネ級ニハ話シマシタガ……私ハ艦娘デシタ。何者ダッタカマデハ分カリマセンガ……」

「ソウ……」

 飛行場姫はこともなげに言う。
 驚きはなく、あくまで静かな態度だった。

「驚カナインデスネ……」

「……ソウダッタトイウ話ハ聞カサレテイル。元ガ誰カマデハ分カラナイ……知リタイノ?」

「イエ、アマリ知リタクハ……分カッタトコロデ何モ変ワリマセン……ツ級デアルコトニハ何モ」

 仮面のような外殻の奥で、ツ級はどんな顔をしているのか。
 憤りは感じない。悲しむぐらいはしているかもしれないが、かといって嘆くような調子でもないのは確か。
 事実は事実として受け止めている。たぶん、そういうことなんだと思う。

「ツ級トシテ生マレ……ネ級ヤアナタニ会エテヨカッタト思ッテイマス。ソレダケハ言ッテオキタクテ……」

「私モ……最初ニ会ッタノガ……ツ級デヨカッタ」

 これは正直な気持ちだ。
 私たちの関係をどう表現するかは難しいところだが、どこかでツ級を守るのは当たり前に思っている。
 それもこれもツ級には沈んでほしくないからだ。
 この場で振り返ってみれば、出会ってごく最初に抱いた感情なのかもしれない。


814 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:09:40.80 ID:ptl+Dcauo


「仲ガイイノネ……オ前タチハ」

 飛行場姫に言われ、確かにそうかもしれないと内心で認める。

「モチロン……姫ニモ感謝ヲ……アナタハ他ノ姫タチトハ……ドコカ違ウ」

「フン……違ウカ……マア褒メ言葉トシテ受ケ取ロウ」

 そんな話をしていたら主砲たちが体に巻きつこうとしてきた。
 意味が分からない。が、ひとまずじゃれる二つの頭を手で抑える。

「ソノ子タチモ……ネ級ヲ好イテル」

 ツ級がそんなことを言い出すと、同意するように主砲たちも短い声を出す。
 それを聞いた飛行場姫まで納得したように言う。

「ナルホド……私タチモ忘レルナト言イタイノカ」

 そうなのだろうか。
 疑問に答えるように、主砲たちはツ級と姫へ交互に短く鳴いた。
 甘えるような、高くて明るい声だった。

 心なしか、頬を緩ませたような飛行場姫が天を仰いだ。
 湿り気を帯びた夜風が海を渡っていた。
 うまくは言えないがいい風で、そんな風に誘われるように姫の声が波に乗って聞こえてくる。

「私ニモオ前タチノヨウニ仲ノイイ者ガイタ」

「コーワントヤラデスネ?」

 姫は視線を空から、こちらと同じ高さに戻す。何も答えないが肯定らしい。


815 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:11:30.95 ID:ptl+Dcauo


「コーワンハ望ンデ艦娘ニ協力シテイル……シカシ……今デモコーワントハ戦イタクナイ」

「ダカラ……艦娘ヤ人間ニ停戦ヲ申シ入レタノデスカ?」

 ツ級の問いに姫は答えなかった。今回は肯定、というわけでもなさそうだ。
 そう感じたのは姫に緊張した雰囲気を感じたためだ。

「誰モガ極端ニ動イテイル……ドウシテモソレガ正解トハ思エナイダケ……コノママ戦ッテ勝テテモ……相応ニ消耗スルダケデショウシ」

 確かにそうなる可能性は大いにある。
 トラックの艦娘たちは手強くて粘り強い。単純に数で力押ししてどうこうできる相手ではなかった。

「タダ生キ延ビルダケナラ……今カラデモ戦闘ヲ放棄スレバヨイノダロウガナ」

 飛行場姫はどこか自虐めいた笑いを浮かべる。
 そんな顔を見ていると、ふと疑問が思い浮かぶ。

「コーワンタチト一緒ニ行ク気ハナカッタノデスカ? 仮ニ飛行場姫タチヘノ牽制ガ必要ダッタトシテモ……」

「艦娘ヲ何モ知ラナイノニ?」

 確かにその通りだ。コーワンたちにとって艦娘は敵ではないようだが、深海棲艦にとっては敵でしかない。
 だからこそ今の状況があるわけだ。
 飛行場姫はほとんど即答するような早さで答えたが、すぐに言い足す。

「今ナラ分カル……本当ハ恐レテイタ」

 飛行場姫は重々しさを伴って言う。

「コーワンヲ信ジル以上ニ……未知ナルコトヲ。守ロウトシテイタノハ……私自身モダ」

「艦娘ガ今デモ恐ロシイノデスカ?」

「恐ロシイノハ未知ダカラ……知ッテシマエバ……キットナンデモナイ」

 知ってしまえば。
 言うのは簡単だが、もしかすると一番難しいことなのかもしれない。
 飛行場姫はネ級をじっと見る。


816 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:12:18.56 ID:ptl+Dcauo


「オ前ハ……ドウナノダ? 艦娘ヲドウ感ジル?」

「艦娘ハ……無視ノデキナイ相手デ……ヤツラモマタ私ヲ……無視シナイデショウ」

「ネ級ハ狙ワレテイマス……」

「ホウ……」

「確カニ……奇妙ナコトナラ言ワレマシタ……私ハ司令官……提督デアルノカト」

 ネ級は言ってから、かぶりを振る。
 今のは推測みたいで、正しい言い方ではない。

「以前カラ頭ノ中ニ……知ラナイ誰カノ記憶ガアルノハ感ジテイタ……ソレガ提督ナノデショウ」

「ソウ感ジルノカ……」

「快イトハ言エマセンガ……」

 頭の中にいる誰かを提督として明確に意識するようになったのは、鳥海と接触したからだ。
 司令官――どうやら提督をそう呼んでいるらしいが、あの艦娘の声と言い方は妙に頭に引っかかる。
 何かとても大切なことだったように。初めて出会ったはずなのに、奇妙な引力を持っていた。

「ネ級ハアノ艦娘ニ……モウ関ワラナイホウガイイ……」

「ソウモイカナイ……アイツハ必ズ私ノ前ニマタ現レル……ソレト言ッタハズ……鳥海ハ私ニ任セテオケバイイト」

 ツ級の諫言かもしれない言葉を聞き流す。
 鳥海との決着は避けて通れないという予感があって、それを全面的に信じている。
 それに私に言えたことではないが、ツ級もどういうわけか鳥海に執着しすぎているように思える節があった。
 先の交戦で執拗に攻撃を加えていたように思えて、今まで行動を共にしてきているとツ級らしからぬと感じられた。

「ハッキリトハ覚エテイナイガ……ソノ艦娘ハ提督ガ最期ニ会イタガッテイタ者カモシレナイ」

 飛行場姫の言葉に、きっとそうだろうという感想が出てくる。
 あの艦娘――鳥海は何か他の艦娘とは違う。


817 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:13:43.70 ID:ptl+Dcauo


「ドンナ艦娘カ……モウ少シ踏ミ込ンデ聞イテオケバヨカッタカ……」

「イズレニシテモ……ヤツハ強敵デス……」

 ネ級が強敵として頭に思い浮かべるのは赤いレ級で、自身の高性能を存分に生かした戦い方をしてくる。
 対して、この鳥海はそれとはまた違う毛色の強敵だ。
 おそらくは、こちらの動きや性能を見極めた上で最適な行動を選択してくる。
 高い技術と豊富な経験に裏打ちされた戦い方というべきか。
 たとえば同じ兵装と同じ量の弾薬を持たせて同じ作戦目標を指示しても、他の艦娘よりも多くの戦果を挙げて帰ってくるようなやつ。

 そこまでネ級は考えて、今のは本当に自分の分析だろうかと疑問に思う。
 もしかすると提督の知識を、私が代弁しているようなものかもしれなかった。
 ……結局は提督だ。今の私は思考がそこに行き着いてしまう。

「姫……提督トハドノヨウナ人間ダッタノデスカ?」

「イササカ難シイ……私モアノ人間ニハ詳シクナイガ……」

 そう前置きしながらも、飛行場姫は提督がガ島にコーワンによって連れてこられた経緯と、その最期を話してくれた。
 提督のことを聞けばもっと何かを感じるかと思ったが、特に何かを喚起されることはなかった。
 姫が次に言うことを聞くまでは。

「提督ハ……ヤレルコトヲヤッタ……自分ガスベキト思ッタコトヲ……」

「……冗談ジャナイ」

 思わず姫に言い返していた。考えがあってではなく、ほとんど反射的な反応だった。
 驚いた顔を向ける姫を尻目に、急速に怒りが沸き上がってくる。
 私の頭に浮かんだのは、なぜか鳥海だった。

「……アノ艦娘ハ提督ヲ忘レテイナイ……スベキコトヲシテ……アレガ結果ナラバ……間違ッテイタトイウコト」

 こちらに話しかけ、攻撃をためらい、それでも撃つという選択をした艦娘。
 こんなはずではなかった。きっと提督ならそう思うに違いない。
 だからこそ腹立たしく感じるのか。分からない。そもそも私は何に怒りを感じたのか。

「コウナルナラ……アガクベキダッタンダ……最期マデ生キルノヲ」

 そうすれば万が一でも提督は生き延びたかもしれない。
 あの鳥海と再会して、彼女が私に妙なこだわりを持つこともなく。
 だけど、そんなのは仮定だ。私と鳥海の間の奇縁が消えたかは分からず、そもそも今の敵という関係が変わるわけでもない。

「ネ級……」

「私ハ……モット生キテイタイ……」

 二人の視線を振り払うように月を見上げる。
 また思い出す。月が綺麗だと――満月の夜に誰かがそう言ったのを。
 それはきっと提督が鳥海に伝えた言葉だ。使い古された殺し文句。
 だけど、それは二人には確かに大きな意味を持っていたはずだった。
 ……どんな意味があっても、生きていなくては無為だ。


818 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/13(日) 22:14:49.30 ID:ptl+Dcauo
ここまで。乙ありでした
前回分も含めて、かなりの難産。書いては没にしたシーンがいくつか。台詞だけなら後からでも使えるかもしれないですが
そして今更だけど、今までも深海棲艦しかいない場面は台詞も普通に書いた方が読みやすかったのかなって反省
819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/14(月) 05:57:21.27 ID:vhXl9Kt6o
乙です
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/17(木) 14:30:30.87 ID:gbdTaRv9O
乙乙
今のままでいいんじゃね
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 18:19:34.65 ID:Zlv/iT9RO
乙乙
822 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/30(水) 23:08:44.81 ID:qAhr7+Ybo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 二月十九日。この日、トラック近海の天候は朝から思わしくなかった。
 晴れ間こそ覗いているものの、南方から厚く垂れ込めた入道雲が壁のようになって広がりつつある。
 発達した雲はどこかで豪雨が降りだすのを予感させ、いかにも一筋縄ではいかない天気に見えた。
 この戦いと同じだ。提督はそんな風に思う。
 与えられた時間の中で最善を尽くしたつもりでも、どう転ぶのかは分からない。

 提督は作戦室の窓からそんな空を見上げていたが、すぐに意識を現実へと戻す。
 時刻は九時を回っているが、泊地はすでに五百機からなる艦載機の空襲を受けていた。
 コーワンの配下たちが前日から引き続き防衛に就いているが、敵艦載機は彼女らを素通りして泊地施設を攻撃してきている。
 幸いにも今回の空襲でさほどの被害を受けなかったが、それだけに敵も艦砲などの方法も含めて更なる攻撃を仕かけてくる可能性は高い。

 そして前線の艦娘たちも、敵艦隊と接触したとの通信を入れてきていた。
 夜以来の索敵により敵は東方から襲来する可能性が高いのは分かっていたし、実際に進攻は東から行われている。
 しかし前日と敵の動きはまったく違う。

「偵察ヲ許サナイツモリノヨウデスネ……」

「ええ、どうも気に入らない。早急に全容を把握しないと取り返しのつかないことになるかもしれない」

 同じように作戦室に詰めているコーワンに返しつつ、提督は彼我の状態を示している表示板に目をやった。
 今までと違って、日が昇ってからは偵察に出している彩雲や二式大艇が迎撃を受けるようになり、索敵の成果が芳しくない。
 本来ならこれが当たり前の行動なのだが、昨日はあえて偵察を許していたように見えるだけに引っかかる。

 所在が分かっているのは飛行場姫と戦艦棲姫の二人で、先陣を切っているのは飛行場姫の艦隊だった。
 そのあとに戦艦棲姫が続く形で、二人の姫を取り巻く艦隊は合わせれば百を越えている。
 そして、おそらくより後方に控えているはずの敵の機動部隊や、何よりも空母棲姫と装甲空母姫の姿を確認できていない。

「モシ……密カニ動イテイルナラ……」

「狙いはここ……その時はあなたの配下たちを当てにするしかないでしょう」

 それも踏まえて泊地より七十キロから百キロ圏内を第一次防衛圏に、五十から七十キロ圏内を第二次防衛圏として定めての迎撃戦を展開している。
 航速や射程距離を考えると泊地からはかなり近いが、裏を返せば不測の事態が起きても艦娘たちが泊地へ取って返せる距離でもあった。
 しかし、あまり好ましい展開にはならないかもしれない。
 敵の動きを予測しながら提督は考える。

「この布陣も飛行場姫を無理にでも戦わせようとしてのものだ」


823 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/30(水) 23:09:45.80 ID:qAhr7+Ybo


 飛行場姫はこちらに対して停戦のための交渉を持ちかけようとしていた。
 他の深海棲艦からすれば承服できるような話でもないのだろう。
 だから最前線において、戦わざるを得ない状況を作り出そうとしている。
 そうした判断そのものは理解できた。獅子身中の虫かもしれない相手の出方を見極めるには危険に晒してしまえばいい。

 艦娘たちには飛行場姫を自衛などの、やむを得ない事情がない限りは攻撃しないように伝えている。
 この戦力差では、いかに彼女たちが奮闘したところでじり貧にしかならない。
 泊地を守り抜くには、こちらが余力を残したまま敵艦隊には甚大な被害を与える必要がある――残る他の三人の姫級を沈めるような痛手を。

 飛行場姫を無視するのは、戦力上の負担を減らす意味でも効果はある。
 そうした戦果をあげた上で、停戦を持ちかけるなりして落としどころを用意する。それが目指す勝利の形だった。
 そのためには、そうした提案に応じるであろう飛行場姫の存在が不可欠となる。

「私ニ艤装ガ戻ッテイレバ……」

 コーワンが誰ともなく呟いたのを提督は聞き、そしてつい想像してしまう。
 もし、この姫が敵だったらどうなっているのだろうと。
 そう考えてしまうのは、自分と深海棲艦の接点が戦いの中にしかなかったからかもしれない。

 もう五年ほど前になる。日本が深海棲艦と接触して、一方的に敗れたのは。
 すでに存在が確認されていた深海棲艦に、従来の兵装がろくに通用しないことは知られていた。
 そんな中、深海棲艦の手はこの国の経済水域を侵すまでに至り、そうなれば行動を起こさないわけにはいかなかった。
 そうして戦闘は生起したが……とても戦闘とは呼べない有様だった。

 提督は疼くような感覚がして左手へ視線を落とす。今でもどうして生き延びたのか分からない。
 多かれ少なかれ、自覚があるかは別にして、今を生きる人間は何かを深海棲艦に奪われている。
 コーワンや彼女に連なる者たちが手を下したわけではないにしてもだ。

「今は信じるしかないでしょう。彼女たちなら上手くやってくれると」

「……ソウデスネ」

 コーワンはどこか不安げに、しかし何かを秘めたような顔で頷く。
 不意にそれまで思いつかなかった考えが提督の頭をよぎる。
 これは試練なのかもしれないと。何の、という具体的なことまでは分からない。
 過渡期というのは往々にして事変が起き、これもそんな出来事の一部ではないかと思わずにはいられなかった。


824 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/30(水) 23:10:44.78 ID:qAhr7+Ybo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 鳥海ら三人の重巡が放った一斉砲撃、合わせて三十近い砲弾がル級を打ちのめす。
 いかに戦艦であっても全身が堅牢ではない。攻撃目標となったル級は集中砲火によって物言わぬ躯になると、急速に海中に没していた。
 ――まるで何か見えない手に引きずり込まれるように。鳥海はそんな感想を抱く。
 主力艦を失いながらも残存する敵艦も戦意を失っていない。
 むしろ果敢に砲撃の合間を狙って駆逐艦たちが突撃してくるも――。

「通すわけねえだろ!」

 摩耶の主砲に機銃群や島風と長波の砲撃に煽られながら蹴散らされていく。
 四人いた改良型のイ級駆逐艦も二人が摩耶たちによって沈められ、砲火を一時は逃れた残る二人も追撃を受けて撃沈されていく。
 周囲の敵影が途切れた所で、摩耶が快哉をあげる。

「これで十! 当たるを幸いってか? 今日はなんか調子がいいや」

「朝ご飯がおいしかったからかしら。質素にお蕎麦なんて言ってたけどねえ」

「そんなわけ……ないとも言い切れないけど」

 摩耶の意見に同意するように愛宕姉さんの声が続き、高雄姉さんがちょっと困惑したように応じていた。
 確かに摩耶が言うように調子がいい。

 今の第八艦隊は通常編成と違って、ローマさんが主力へと抜けた代わりに愛宕姉さんと摩耶が入ってきている。
 島風と長波さんもいるし、この編成だといつかの第四戦隊を思い起こす。その時とは何もかもが違うけど。

「どうしたんだよ、鳥海。浮かない顔して」

「もしかして呆れられちゃってる?」

 摩耶と愛宕姉さんに声をかけられて、すぐに首を振る。

「あ……いえ。むしろ二人が自然体で頼もしいです。このまま飛行場姫への牽制を続けましょう」


825 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/30(水) 23:12:10.19 ID:qAhr7+Ybo


 この戦闘の主目標はトラック泊地を守り抜くことであり、そのためにも姫級の撃破は不可欠な要素だった。
 その中でも飛行場姫のみは、自衛を除いて交戦を避けるよう言われている。
 だから、できることなら無視しておきたいけど敵の先鋒にいる以上は不本意でも放置できない。

 そこで主力艦隊は飛行場姫を取り巻く艦隊を迎撃しながら、後続にいる戦艦棲姫を目指している。
 私たち第八艦隊もその負担を減らすために、遊撃を行いながら飛行場姫の艦隊をできるだけ引きつけようとしていた。
 主力に向かう全ての相手を阻止できるわけではないにしても、それなりの戦果も挙げている。

 その甲斐もあってか、深海棲艦はここで足踏みしているようだった。
 このまま時間を稼げれば、その間に未発見の機動部隊を発見できるかもしれない。
 そうでなくとも注意を引き続けることができれば、主力はもちろんのこと迂回して後方から機を窺っているはずの木曾さんたちにも有利になるはず――。

「敵影見ゆ。あいつは……!」

 長波さんの声に、体が自然と反応する。鳥海たちはその場から逃れるよう散開すると、新たな敵の存在を見やった。
 複数の深海棲艦。護衛要塞を伴った艦隊で十隻以上いる。そして中心にいるのはネ級とツ級。
 見張り員を通して強化した視覚で見たネ級は、こちらを見返しているように感じられた。

「ネ級……やはりこうなるんですね……」

 万が一……言葉通りに万が一、もう出会わない可能性も考えていた。
 けれど出会った。ならば望むことは一つ。
 鳥海は声を発する。その顔は決然とネ級を向いていた。

「皆さんにお願いがあります。どうか私のわがままを聞いてください」

 一呼吸挟むと、鳥海の唇がかすかにためらったように震える。
 しかし、それも一瞬のことで当人でさえ意識していない。

「ネ級とは私一人だけで戦わせてください。勝手は承知しています……ですが、どうか……」


826 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/30(水) 23:12:56.13 ID:qAhr7+Ybo


 鳥海はあえて視線をネ級たちから逸らすと、一同へと頭を下げる。
 最初に答えたのは高雄だった。

「いいわよ、行ってきなさい。あなたにはそう言うだけの、そうするだけの権利があるはずよ」

「姉さん……」

「鳥海たっての願いだもの。ちゃんと聞いてあげなくちゃねー」

「避けちゃいけない勝負事ってあるもんな。行ってきなさいよ、鳥海さん。今回も勝って帰ってくるんだろ?」

 愛宕と長波の声が続くと、摩耶と島風が鳥海の前に進み出てくる。

「ぎりぎりまで、あたしらで護衛する。それにどうせネ級の側にはツ級もいるんだし、そっちの相手もしてやらなくちゃ悪いからな」

「ほっといたら一人でも行っちゃいそうだもんね。そんなのはもうなしだよ」

 鳥海は自然と固く握り締めていた手をほどく。
 後押しされた、という感覚に自然と胸が熱くなるのを感じた。

「みなさん……ありがとうございます。くれぐれも無理だけはしないようにしてください」

 摩耶が背を向けたまま手を振る。気にするなと言うように。

「となると私たちは残りの相手ね」

「いいとこ見せちゃいましょうか!」

 高雄と愛宕、長波が別方向へと舵を切ると敵艦隊へと迫っていく。
 一方、摩耶と島風が鳥海を先導するように進んでいく。

 すると敵艦隊にも変化が生じ、鳥海たちの意を汲んだかのように二手に分かれる。
 ネ級とツ級だけが鳥海たちへと向かい、残りの護衛要塞らは前後列に分かれて高雄たちへと向かっていく。
 そうしてさらにネ級たちと距離が縮まったところで、ネ級がツ級と分かれる。
 というより増速したネ級がツ級を無理に引き離したように見えた。

「あいつも同じように考えてるんだ……」

「行ってこい! ツ級はあたしらで面倒見といてやるから!」

 摩耶が砲撃。それはネ級とツ級の間に着弾し、両者の距離をより大きくしたように見えた。
 ネ級は狙われてないと見たのか、さらに離れたところに私を誘導しようとしている。
 この誘いには乗るしかない。


827 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/30(水) 23:13:45.70 ID:qAhr7+Ybo


 私たちは申し合わせたわけでもないのに、互いに一切の砲撃を行わないまま近づいていく。
 それもやがて減速して止まる。辺りからは砲撃の音が盛んに聞こえていた。
 姉さんたちも摩耶たちも砲戦を始めたということ。
 そして私とネ級の間隔は百メートルほど。肉薄といっても通じてしまう距離だけど、ここ最近はこんな至近距離に身を置くことが増えてしまった気がする。

「ネ級……」

「モウ……司令官トハ呼バナイノカ」

「……分からなかったんです。あなたが本当に司令官さんだったのか」

「今ハ分カッタノカ?」

「少なくとも、私の司令官さんはもうどこにもいません」

 感傷をごまかすように笑おうとすると、妙に乾いた声になってしまう。
 そんな私をネ級は見つめながら、己のこめかみに人差し指を当てる。

「アレカラ知ッタ……確カニ私ニハ提督ガ混ザッテイルソウダ……」

「……そうですか。それが真実なら、あなたは司令官さんの生まれ変わりのような一面もあるのかもしれませんね」

 ネ級は答えない。好きに解釈しろ、と言われているような気がした。
 肯定も否定もなければ、確かに自分の好きなように受け止めるしかないのかも。

「ただ……もしも、あなたが司令官さんの生まれ変わりなら、私はあなたを許せない」

「……ソレハソウカモシレナイナ」

「私を手にかけるのならまだいいんです。私は司令官さんを助けられなかったんですから」

 因果応報。そう言ってしまっていいのかは分からないけど、私の身に起きることに限ればそういった割り切りはできてしまう。
 だけど、そうじゃない。

「もっと早くに気づく……認めるべきでした。あなたは私以外も傷つける。司令官さんが大切にしてきたものを壊そうとする……だから私が終わらせます。それがあの人にしてあげられる最後の……」

「ソウカイ……私モ一ツ認メテオク。オ前ニトッテ……ネ級ガ特別ナ敵デアルヨウニ……私ニモ鳥海ハ特別ナ敵ダ」

 だから引かない。進むしかない。決着をつけるしかないんだ。
 それはきっとネ級も同じような気持ちなんだと思う。
 私たちにあるのは戦うという選択。
 そうして私たちは――決着を求めた。


828 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/08/30(水) 23:16:35.55 ID:qAhr7+Ybo
ここまで。イカばっかりやってて申し訳ない……次は姫戦を一つぐらいは終らせたいとこ
間隔ばかり空いてますが、乙ありでした

>>820
書いてる自分は気にしてなかったんですが、読むほうは地味に負担になってたんじゃないかなと
ここまで来てしまいましたし、このままカナと漢字でやってきます
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 23:28:30.25 ID:mk/0fDzd0
深海語は公式もカタカナだし気にならないよ
830 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 05:55:46.44 ID:OJYUeLkuo
乙です
831 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 08:47:57.85 ID:9/9LQyn1O
乙乙
832 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/13(水) 23:12:50.00 ID:SIo8V+0io


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 第一次防衛圏における主力艦隊は武蔵、ローマ、リットリオの三人の戦艦を核として、球磨と多摩にザラ、夕雲型と白露型の半数。そしてマリアナからの増援組を加えた三十人で構成されている。
 彼女たちは飛行場姫の艦隊に断続的な攻撃を受けながらも、その後続に当たる戦艦棲姫たちと接触しようとしていた。
 この頃になると状況も変化し、偵察機が深海側の機動部隊を発見し大まかな位置と艦載機による攻撃準備をしているのを知らせてきている。
 すぐに偵察機は撃墜されたのか、それ以上の続報はなかった。

「総員、合戦用意クマ! 武蔵、大物は頼んだクマ」

「願ってもない。この武蔵に万事任せておけ!」

 主力はあくまで三人の戦艦だが、艦隊の旗艦を預かっているのは球磨だった。
 より戦闘に集中できるのだから武蔵としては何も不満はない。
 あらかじめ戦艦棲姫には武蔵が当たって、ローマたちは他の深海棲艦を相手にするのは決まっていた。

 敵機動部隊の位置が発覚した段階で、このまま戦艦棲姫と交戦するのは危険という意見もあったが、球磨は危険を承知で混戦に持ち込むのを提案していた。
 仮に一時でも引いた場合、敵は艦載機でこちらを漸減することも可能で、そんな状態で迎え撃つ方が悲惨だとして。武蔵も同感だった。

 戦艦棲姫は艦隊の先頭に立ちながら近づいてきている。
 その後ろには護衛要塞を始めとした、様々な艦種が入り乱れた艦隊が続く。姫よりも高速の駆逐艦や巡洋艦でさえ後ろに従っている。

「自ら先陣を切るか……誘っているな」

 武蔵は相手の意図を察し、思わず笑みを顔に浮かべる。
 にやりと唇を吊り上げるが目が据わったままという、好戦的で不敵な笑い方だった。
 艦隊がそれぞれ動き始める中、清霜がすぐ隣まで近づいてくる。

「武蔵さん……どうか御武運を」

「そちらもな。清霜には感謝してる。お前がいなければ、戦う前から負けていたかもしれない」

 これは偽らざる本心というやつだ。らしくなかった自分に気づかせてくれたのは、他の誰でもない清霜なのだから。


833 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/13(水) 23:13:40.42 ID:SIo8V+0io


「凱旋しようにも一緒に帰って喜んでくれる者がいないと寂しくなる」

 ただ無事でいてくれ、と言うだけでよかっただろうに、回りくどい言い方をしてしまう。
 清霜はそんなこちらを見て、胸を張ってみせた。

「心配しないで、武蔵さん。清霜だっていつかは大戦艦になる女よ?」

「ふむ……ならば先輩らしく振舞ってみせねばな」

 清霜の言葉は理屈になっていなくとも、こういう前向きさは頼もしく好ましい。
 呼び止めていたのはこちらだったが清霜に夕雲の声がかかる。

「清霜さん、遅れないでくださいね」

「ごめんなさい! すぐに行きます、夕雲姉様!」

 清霜は武蔵に向かって恥ずかしそうに舌を出して見せると、元の隊列へと戻っていく。
 そういえば夕雲が清霜と同じ艦隊にいるのは意外と珍しいような印象がある。
 普段の夕雲は機動部隊の護衛が多いからか。
 この大一番だからこそ、長女の夕雲がいるのは他の夕雲型にもいい影響を与えるのかもしれない。

 代わりといっていいのか、普段よく見かける気がする白露は後方の機動部隊に回っている。
 この辺はバランス感覚なのだろう。
 どちらにも、いざという時の要がいると安定感が違うものだ。

 そこまで考え、武蔵は目前に意識を集中しなおす。
 ほどなくして敵艦隊を目視できる距離まで進出する。
 目視といっても敵の姿はごく小さい。
 意識して水平線に目を凝らすと、ようやく人型らしい影を判別できる程度だ。

 それでも武蔵は砲撃する。すでに射程距離に入り、出し惜しみをするつもりもない。
 先制を期しての攻撃だが、ほぼ同時のタイミングで相手からも発砲の閃光が生じる。
 間違いなくやつ、戦艦棲姫だ。
 他の艦娘たちも砲撃を始めながら、互いの距離が近づきはじめる。
 それに連れて徐々にやつの姿もはっきりした形になっていく。
 黒衣の裾を風にはためかせ、豪腕の獣に手を絡ませている姫。


834 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/13(水) 23:14:54.62 ID:SIo8V+0io


 戦艦棲姫以外からの砲撃は武蔵に来ない。
 仲間が守っているという以上に、深海棲艦たちが攻撃を控えているというほうが正しそうだった。
 覆せないほどの数字上の戦力差がここには厳然と存在している。

 今や砲撃のペースは戦艦棲姫のほうが少しずつ速くなっているが、先に命中弾を得たのは武蔵だった。
 獣の鼻っ面に一弾が直撃し、巨体が押し返されるように震える。
 逆に姫の砲撃は武蔵を未だに捉えてはいない。
 まずは幸先よしだ。

「イイワ……ソノ気ニナッテクレタ……!」

 姫の笑う声が風に乗るように聞こえてくる。
 無線に介入してきた声なのに、耳元で囁かれたように聞こえるのは奇妙で不安を煽るような薄ら寒さがあった。
 冷や水を浴びせるような声を振り払うように、武蔵は声を大にする。

「どうした! まさか、こんな小手調べで終わる貴様ではあるまい!」

「……モチロン」

 今まで手を抜いていたわけではないだろうが、次に飛来してくる砲撃の狙いは正確になっていた。
 武蔵は自分に向かって砲弾がまっすぐ飛んでくるのを見る。
 こういう風に見える時は直撃してしまうと考えて間違いない。

 身構えた武蔵の元で命中の閃光と衝撃とが生じる。
 戦艦棲姫の砲撃は主砲の天蓋部分を叩いて、そして海へと弾かれていった。
 装甲の厚い区画であるため貫通こそされないが、さすがに重い一撃で骨身に響く痛みが体をさいなむ。

「戦艦武蔵……冥海ニ沈ミナサイ!」

「ただではやられん!」

 そこから砲撃による殴り合いの応酬になった。
 主砲が命中しあうと艤装が削られ弾け、赤と黒の血が流れる。
 互いの体力を削り合い、しかしどちらも優勢を引き寄せるに足る一撃を得られないままでいた。
 そんな矢先に厄介な一報が舞い込んでくる。


835 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/13(水) 23:15:25.35 ID:SIo8V+0io


「敵艦載機が接近中。接触までおよそ五分!」

「友軍機はどうしたクマ!?」

「向かっています! でも間に合うかどうかは際どくて……!」

 球磨と夕雲のやり取りを聞きつつ、内心でほぞを噛む。
 敵機にこんな間近まで迫られていたとは。
 このまま姫と撃ち合うのは危険すぎる。空海両面からの攻撃をさばく余力はない。
 それは戦艦棲姫も当然分かっているだろうに、やつは意外にも砲撃を止める。

「余計ナ真似ヲ……」

 戦艦棲姫が毒づくのが聞こえてきた。

「切リ抜ケナサイ……待ッテテアゲル」

「何を考えている!」

「アナタハ……私ダケノ強敵ダモノ……」

 戦艦棲姫が何を言いたいのか武蔵は悟る。
 あくまでも、やつは力比べをしたいのだ。ゆえに手を出さない。純粋にこの武蔵との決着を望んでいる。
 そこに余計な介入を望んでいない。
 あえて塩を送るような厚意に感謝すべきなのかもしれないが、それを示すのは口ではなく行動であるべきなのかもしれない。

 砲弾を三式弾に交換しつつ、主砲は空を仰ぐ。
 対空戦闘に集中できるのは好都合だが、他の者はそうもいかない。
 あくまで砲撃を控えているのは戦艦棲姫だけで、他の敵は攻撃の手を緩めたりはしていない。

 となると優先して狙うのは自身ではなく、他の艦娘にまとわりつこうとしている敵機。
 こちらが対空砲火を見せつければ敵機の狙いも引きつけられるかもしれず、それはそれで好都合と言える。
 ああ、そうさ。この武蔵が無視などさせなければいいのだ。


836 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/13(水) 23:16:05.00 ID:SIo8V+0io


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 秋島近海で待機していた木曾たちは夜が明ける前から行動を始めていた。
 敵機動部隊の位置は大まかにしか分かっていないが、発見してからでは戦場に間に合わない。
 逆探のみをアクティブにして彼女たちは北寄りの航路を取る。

 木曾が見る限り、一向に緊張している様子は微塵もない。
 二人の姉は普段通りのマイペースだし、天津風は海原を渡る風を一身に受けてご満悦。
 リベは踊るように海を進んでいる。ヲキューは……こう言っちゃ身も蓋もないが、何を考えてるのか分からない。

 それでも聞こえてくる通信に誰もが耳をそばだてていた。
 すでに交戦は始まっている。いつ何時、敵艦隊についての情報が入ってくるのか分からない。
 事態が動き始めたのは艦隊戦が始まるという知らせが入ってからだ。
 本体のほうはすでに捕捉されているのもあって無線封鎖を放棄している。

「そろそろ出くわしてもおかしくない頃ね……みんな、先制攻撃に注意して。ミイラ取りがミイラじゃ笑えないわよ」

 旗艦こそ北上姉が務めてるけど、実務の指揮は大体ほとんど大井姉がやってる。
 周囲に艦影はなし。逆探もジャミングの影響下というのもあってか反応なし。
 電探を使うという手も無論あるが、やはり効果には乏しく、逆にせっかく保っている隠密性を損なうことになりかねない。
 そんなことを思っていると北上姉がヲキューに顔を向ける。

「ねえねえ、オキュー。深海棲艦も電探を無視すれば、あたしらとそこまで索敵距離は変わらないんだよね」

「ソレデ間違イナイ。目視ハ目視……ドンナニ目ヲ凝ラシテモ水平線マデシカ見エナイ」

「そっか。となると、やっぱり目ざとく見つけるしかないね」

 自己解決したのか、北上姉はうんうん頷いている。
 そうして航行を続けていると、待ち望んでいた一報が飛び込んできた。
 敵機動部隊を発見したという内容で、すぐに現在地とのすり合わせを行い針路を微調整すると増速していく。

「およその座標位置は分かったか……こいつでまずは第一関門突破ってところか」

 あとは気づかれずに近づけるかどうかだ。奇襲であれ強襲であれ。
 なんとしても先制を取りたいところだ。
 水雷戦に偏重している編成である以上、強みを発揮して押しつけたい。


837 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/13(水) 23:17:54.32 ID:SIo8V+0io


 空はあいにくというべきなのか鉛色をしている。
 晴れ間の見えない天気だが、天候が悪くなれば艦載機の動きも制限される。悪い話ばかりでもない。
 そうして決して穏やかとは言い切れない波間を進んでいくと、ついに黒い影を水平線付近に見つけることができた。
 幸か不幸か、主力艦隊が空襲に見舞われているという知らせが少し前に入ってきているくる。
 向こうには災難だが、こちらには好都合だ。突入時に空襲を受けないか、敵機がかなり少なくなってるのは間違いない。

「Veni, vidi, vici」

 唐突にリベが呟く。普段と違った言い回しに一堂の耳目が集まるが、当のリベはいつもと変わらない様子だった。

「ローマに聞いたんだけど昔の偉い人が言ったんだって。ここまで来たら負けないよ!」

「来た、見た、勝った……ってやつか。気は早くとも、その通りだな」

 こいつは実際、千載一遇のチャンスだ。
 三人の姫たちもそうだが、ここで機動部隊を叩けないと俺たちに勝ちの目はなくなってしまう。
 空振りに終わるか各個撃破の危険もあったが、こうして機会をものにできた。
 なればこそ、ここで最高の効果をもぎ取る。

「ヲキュー、上空からの支援は当てにさせてもらうわよ」

「……頼マレタ」

「一気に突入します! 狙うは空母、そして姫級です!」

 大井姉の号令に従って、天津風を先頭にした単縦陣を組むと突撃をかける。
 ヲキューもまた帽子のような口から艦載機を発進させていく。
 敵も後方から攻めてくるこちらの存在に気づいたのか、動きに乱れが生じる。
 明らかに混乱しているのか動きには統制がない。状況を理解したらしい護衛の一部が向かってくるが、個別に先行しているだけのように見える。

「見ツケタ……装甲空母姫ハ中心付近ニイル。陣形ハ輪形陣」

「それならこのまま中心を目指します。態勢を整えられる前に大打撃を与えるのよ!」

 主砲はともかく魚雷の数には限りがある。いくら重雷装艦が三人揃っていても全てをというのは不可能だ。
 できることなら雷撃は空母か姫相手に絞って叩き込みたい。
 ヲキューの艦載機は直掩機との交戦に入ったのか、上空に火線の赤い色が瞬く。
 その間にもヲキューは敵状をこちらへと伝えていく。
 装甲空母姫の姿は確認できた。敵のヌ級やヲ級も艦載機の数から想定されていた範囲の数。しかしだ。

「……空母棲姫はどこにいるんだ?」

 水をかけたように嫌な予感が胸の内に広がる。
 俺たちは重大な見落としをしていたのかもしれない。
 深海棲艦も俺たちと同じように別働隊が動いているのではないかと。


838 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/13(水) 23:20:08.66 ID:SIo8V+0io
短いけど、ここまで。ここで何か書くと墓穴を掘ってるだけの気が
ともあれ乙ありなのです
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/14(木) 06:07:25.86 ID:eQVHqinGo
乙です
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/14(木) 08:08:09.62 ID:fXeG0K1wO
乙乙なのです
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/15(金) 11:45:35.93 ID:+WuAbAmRO
乙乙
842 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 22:42:20.79 ID:pYkjVetWo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 トラック泊地の索敵網に空母棲姫の姿が発見された時には、すでに泊地から四十キロ圏内にまで侵入されていた。
 北から迫ってくる一団は二十八ノットで接近しつつあり、一ダースの護衛要塞とやはり同数の深海棲艦を伴った空母棲姫で構成されている。

 知らせを受けた提督はコーワンの配下たちに時間稼ぎの迎撃を命じる一方、機動部隊から戦力を抽出して泊地まで戻るように命令を下す。
 連携が取るのは難しくとも、二つの艦隊には協同して空母棲姫に対抗してもらうしかない。
 基地航空隊にも空母棲姫への攻撃命令を出しているが、向こうも相応の数の艦載機を要しているはずなので効果はあまり期待できなかった。
 決して良策とはいえないが、そもそもの戦力が足りていない。

 各個撃破の愚を犯しかねないのは承知だが、この局面で他に取れる手立てがなかった。
 事によっては泊地を直接砲撃されるのも考えなくてはならない。提督はそう判断している。
 早いうちに発見できれば他の手立てもあったはずだが、こうも近寄られてしまっては後手に回るしかない。

 ただし状況も悪くなってばかりではなかった。
 重雷装艦を中心とした別働隊は敵機動部隊への奇襲に成功したとの一報を寄越してきている。
 こうなってくると、あとはもう各々の健闘と戦果を期待するしかないのかもしれない。
 戦況は提督の手から離れた所で動き始めている。
 だからなのか、提督はコーワンに言う。

「ここはもういいから、ホッポに会ってきたらどうです?」

「シカシ……」

「じきにここは砲撃に晒される。そうなると、どこが本当は安全かなんて分かったもんじゃない」

 提督の言にコーワンは驚いたように息を詰めて見返してくる。
 深海棲艦の目というのは、思っている以上に感情を見せるらしい。
 それもあってか深海棲艦そのものには思うところのある提督も、コーワンに対しては嫌悪感も薄い。

「会える時に会ったほうがいい。私だってそういう相手がここにいるなら、今はそうするでしょうよ」

「アリガトウ……提督」

 コーワンの礼に提督は無言で掌を振る。
 彼女が部屋を辞していくのを見届け、提督は腕を組み直す。
 どこが安全か分からないなら、と自身の言葉を反芻する。

「俺は最後までここに留まるつもりでいたほうがいいな」

 作戦室、といっても今は司令所といったほうが適切か。
 戦況や被害状況によっては放棄も考えないといけないが、当面はここに踏み留まる。
 見届けられるなら最後まで見届けたいものだった。


843 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 22:43:52.82 ID:pYkjVetWo


─────────

───────

─────


 コーワンがホッポを探しに向かったのは工廠だった。
 工廠は港沿いに面した一角にあり、泊地施設内でも重要拠点であるがゆえに守りも堅い場所である。
 そういう場所にいたほうが安全とコーワンは考え、戦闘時にはホッポにそこで待つように言っていた。

 ホッポはすぐに見つかり、夕張と一緒になって何かしている。
 二人の周りには工具が広げられ、そして艦娘の艤装――というよりも兵装が転がっていた。
 悪い予感がした。これはまるで身支度で、それも戦場に出るための用意のようで。

「ホッポ……何シテルノ?」

 聞かずとも察している。それでも聞かずにはいられなかった。
 コーワンの声にホッポと夕張がぎくしゃくした顔を向ける。しでかしを見咎められたような反応だった。
 そんな顔をされては、コーワンもかえって険しい顔にならざるを得なかった。
 ホッポの足元には駆逐艦用の主砲が置かれている。用途は武器以外に考えられない。
 コーワンの視線がホッポと夕張の間を行き来すると二人が口を開いた。

「使エルカ試シテタノ……着ケテミタイッテ……私ガ無理ヲオ願イシタカラ」

「えっと……使えるなら持たせたほうがいいと思ったのは私なんで。ホッポは言われるままにしてただけですから」

 互いにかばい合うような言い方に、コーワンは首を左右に振ると夕張と目を合わせる。
 コーワンのまとう雰囲気は重く、ある意味で威圧感になっていた。

「一体……ドウイウコト? ホッポヲ戦ワセルツモリ……」

「必要とあれば、そうなるかもしれませんね。あくまで最低限の自衛程度ではあっても」

 夕張はそう答えると、胸の内に詰めていた息を吐き出すように深呼吸する。

「この先、敵の攻撃の切れ目に明石や間宮さんたちを海上に逃がすことになるかもしれません。その時にせめて最低限の自衛ぐらいはできるようになっていてほしいんです」

「ホッポハ戦力トシテハ見テナイ……トイウコト?」

「ええ、私だって別に進んで戦わせたいとは思っていないので」


844 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 22:46:16.72 ID:pYkjVetWo


 コーワンはその答えに安堵したのか、まとっていた緊張感が緩む。
 戦況は何かのきっかけ一つで劣勢に転がり落ちかねない状態だった。
 夕張が言うように、いざとなれば攻撃の切れ目に、非戦闘型の艦娘たち海上に逃がすという選択肢は残っている。
 もちろん海上よりも内陸に逃げたほうが目標にされにくいが、それもトラック諸島を維持できるという前提があればの話だ。

 コーワンがそう考えているとホッポのほうから話しかけてくる。
 見上げる表情は真剣そのもので、眼差しはコーワンの目をしっかりと見ていた。

「コーワンハ私ガ戦ウノハ……ダメナノ?」

 その問いかけにコーワンは虚を衝かれ、すぐに答えられない。
 答えを探すように、ちらりと夕張を見ると彼女もまた今の言葉には驚いている様子だった。
 ややあってコーワンは絞り出すような声で聞き返す。

「ドウシテ……ソンナコトヲ言ウノ」

「戦ウノ……悪イコトナノ?」

「エ……」

「ヲキューモミンナモ……白露モ春雨モ戦ッテル……悪イコトヲシテルノ?」

 コーワンは即座に首を横に振っていた。そこだけはしっかり否定しないといけない。

「ソウデハナイノ……デモ……ホッポハ危ナイコトヲシナクテイイ」

「分カラナイ……分カラナイヨ、コーワン」

「今ハ分カラナクテイイ……アナタハ特別ナノ」

「ソウイウ特別ハ……イヤダヨ……」

「ワガママヲ言ワナイデ……」

 わがまま、そう言ってしまうのは簡単なのかもしれない。
 しかしホッポを戦わせたくないというのも、裏を返せば私のわがままであるとも。
 コーワンはそう考え、上手く伝えられないもどかしさに苦しむ。


845 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 22:48:10.14 ID:pYkjVetWo


「コーワンが言いたいのはね、ただ戦う以外にもできることがあるっていうことじゃないかな」

 夕張が口を出してくると、ホッポの質問の先も変わる。

「夕張ハ戦ウノ?」

「あら、いつだってそうよ。今回は最後の砦にもならないといけないみたいだけどね……」

 ホッポだけでなく、夕張は自分に言い聞かせるような含みがあるようにコーワンには聞こえた。

「……ソウナノ、コーワン?」

「……ホッポニハ戦ウ以外ノコトカラ始メテホシイノ……私ト同ジヨウニハナラナイデホシイカラ」

 今の言葉に嘘はない。ただ夕張の言葉がなければ、ここまでは言えなかったのも分かっている。
 深海棲艦には何か欠けているものがある……それはきっと自分たちだけでは埋めきれない。艦娘やあるいは人間がいて、初めて埋まる何か。

 そこまで考え、コーワンは不意にある思いに気づかされた。
 ここで何をしているのだろう、と己に投げかける。
 戦う以外の何かがあって、それを知るためにも戦いを遠ざけようとしていた。だけど、それは身近にまで追いついてきた。
 そもそも遠ざけていたのではなく、ヲキューたちや艦娘にさえ押しつけていたのではないか。
 一時の安寧のために犠牲を強いただけで、守らせてばかりで私は何をしている……?

「コノママデハ……何モ解決デキナイ……」

 失ったもの、奪ったものに対して何もできていない。
 姫と呼ばれた私にはまだ為すべき責務が残っているはずだと、胸の奥から悔いのような感情が湧きあがってくる。
 それを見て見ぬ振りなど到底できそうになかった。

「夕張……私ニ力ヲ貸シテホシイ」

 ここは工廠。そして夕張は艦娘の艤装に携わっている。
 この場において、これほど頼りになる者もそうは望めない。
 そして……私だけが血を流さないのはありえないことだ。


846 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 22:51:29.03 ID:pYkjVetWo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 海面に外れた砲撃により生じた水しぶきが鳥海の体を洗っていく。
 熱を帯びた主砲から蒸気が吹き出て冷まされるのを感じるけど、把手からじんわりと伝わってくる深奥の熱までは変わらない。
 放たれた砲弾がネ級に続けて命中していくも、そのいずれもが黒い飛沫と一緒に弾かれていく。

 反撃してくるネ級の主砲と副砲が火を噴くと、鳥海はその場から動きたくなるをぐっとこらえる。
 すると、いくつもの砲撃が左右と後方へと次々に落ちていく。
 回避しようと舵を切っていたら、必ずどれかには当たるような撃ち方だった。
 砲撃をやり過ごしたものの、唯一空いている正面からはネ級が突っ込んでくる。
 即座に鳥海が応射するとネ級の体に被弾の閃光が次々と生じた。しかしネ級は強引に鳥海へ肉薄しようと突っ込んでくる。

「こういう近づき方は!」

 鳥海もまた振り切れないと見て、あえてネ級へと向かう。
 互いに衝突しそうなコースを取っていたものの、間近のところで鳥海は舵を外に切る。
 ネ級はその動きに追従しきれないが、掴みかかろうと両手を伸ばしてくる。
 それを横から打ち下ろすように払うと、そのまま二人は交錯してすれ違う。

 すぐに鳥海が弧を描くような機動で振り返って主砲を向けると、ネ級も同じように向き直っていた。
 旋回性能の差なのか主砲が自立的に動けるからなのか、ネ級のほうが少しだけ砲撃に入るまでが速い。
 この少しの差が後々に響いてくるかもしれない――再度の砲撃の最中に鳥海はそう感じる。

 互いの主砲弾が行き交い、時に命中弾を出すが多くは外れていく。
 その状態に鳥海は思わず溜め込んでいた息を深く吐き出す。神経がすっかり張り詰めていた。

「サスガニヨク動ク……」

 感心なのか苛立ちなのか、聞こえてきたネ級の言葉にある真意は分からない。
 ネ級はどうにか至近距離での戦闘にもつれ込ませようとしている。
 実際に組みつかれたら私の力では敵いっこない。


847 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 22:53:09.66 ID:pYkjVetWo


 そういう意味では距離を取る必要がある。だけど容易には振り切れない。
 ネ級のほうが私より速度が出るし、そもそも初めから近づきすぎてしまっている。
 ううん、そうじゃない。近づかないと話ができなかったんだから、この距離はきっと仕方なかった。
 問題はとても振り切れそうにないこと……このままネ級のペースに付き合っていたら、勝ち目は薄くなってしまう。

 どちらかと言えば、私のほうが今は押しているのかもしれない。
 ただネ級はこちらの動きに対応してきているし、戦いの運びはネ級の流れにあると感じる。
 つまりはどちらも主導権を握れたとは言えない状態で、何かのきっかけ一つで大きく流れの変わる状態だった。

「やはり、あの体液をどうにかしないと……」

 命中率で言えばこちらのほうが優勢なのに、未だに有効弾を与えたという手応えはない。
 それもこれも砲撃の効果が薄いから。
 ネ級の情報はどうしても少ない。それでも木曾さんが立てた仮説から、有効になるかもしれない手段は考えている。

「この三式弾で……距離、方位よし!」

 三式弾を装填した五基の主砲がそれぞれ少しずつ異なる角度と方位を指向する。
 確実に当たるように放射状に砲撃を散らせるためだった。
 元より対空用の砲弾だから、徹甲効果はまったく期待できない。
 だけどネ級のまとう黒い体液には有効な可能性がある。
 そうでなくとも命中する面積を増やせば、それだけ体液の流出を促して消耗を早められるかもしれない。
 つまり撃ってみるだけの見込みはあるということ。

「主砲、一斉射!」

 計十発の三式弾が放たれ、次弾も同じく三式弾が装填される。
 発射された三式弾がネ級の面前で次々に弾けて、傘のような弾幕を形成していく。
 ネ級がそのまま弾幕の中に飛び込んでいき、抜けた時には体の所々から火が上がっていた。


848 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 22:54:19.80 ID:pYkjVetWo


 初めて受けた想定外の攻撃に、火に巻かれたネ級の足が急速に鈍り、頭を抑えるようにしてもがく。
 するとネ級の体から火のついた部分が、鱗が剥がれるようにこそぎ落とされていく。
 固まった体液による作用らしく、ネ級の体からは黒い体液がそれまで以上に染み出てきていた。

 本当に効いている。その実感を得た鳥海は、主砲の狙いを直前の放射状から一点集中へと変える。
 動きの遅くなったネ級の面前で三式弾が一斉に弾けていく。
 焼夷弾子の雨に打たれてネ級の体があっという間に火だるまになる。
 そのネ級は火にくるまれたまま素早く主砲で反撃するなり、海中に飛び込むと姿を消す。
 苦し紛れの砲撃だったかもしれないけど、それが右にある砲塔の一基に直撃すると砲身をでたらめに歪めて使用不能に追い込む。

「よくもやって……! その上、こういう逃げ方は想定外ですね……」

 すぐにいた場から後退しつつ、ネ級が消えた付近の海面を窺う。
 爆雷でもあれば追撃できたけど、初めから持ち合わせていない。これは計算外だった。
 どのぐらいの速さで水中を移動できるか分からないけど、あまり速くはないと考えたい。さすがにネ級は潜水型のような個体ではないはずだから。

 そのまましばらく手出しができないまま時間が過ぎていく。
 気を抜けないまま待ち構えていると、いつの間にか左手方向の海面すれすれの所にネ級の主砲たちが顔を出していた。
 考えていたよりも、ずっと近い位置。
 狙われてる、と感じたのと同時に砲撃を撃ち込まれていた。すぐに避けようと鳥海は舵を左に切り――そこをさらに狙われた。

「誘われた!?」

 ネ級が海上に飛び上がるように姿を現し、その時にはすでにいくつもの魚雷を放った後だった。
 八本もの雷跡が鳥海の回頭先めがけて白い尾を引きながら迫り、その雷跡を追うようにネ級も接近してくる。
 この反撃で一気にしとめたいという意思を感じた。

「ソロソロ……終ワレ!」

「お断りします!」

 避けようにも舵を切り始めた直後だったから、慣性を振り切って再転進するまでにタイムラグが生じている。
 雷速はかなり速い上に狙いもかなり正確で、これでは逃げ切れるか分からない。
 それなら……このまま反撃する。相打ちでもなんでも、ただやられる気はなかった。


849 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 22:55:28.82 ID:pYkjVetWo


 ネ級に向かって、こちらも酸素魚雷を投射する。
 四本の魚雷をネ級の左右に振り分け、残る四本はネ級へと直進する形に放つ。直進に撃った内の二発は雷速を遅く設定している。
 本当に跳んで雷撃を避けてくるのか知らないけど、それならその着地点も狙えるようにしておくまでだった。

 そうして放たれた魚雷は予想外の物に命中した。
 両者の間でくぐもった音を響かせ水柱が上がる。すると連続して水柱が海中から吹き上がっていく。
 魚雷同士が触雷したのか、明らかに連鎖的に誘爆を引き起こしていた。

「ナンダト!?」

「当たったの!? いえ……これは計算通りです!」

 魚雷同士の相殺なんて狙ってもできるようなことじゃない。それを分かっているのに言っていた。
 雷撃がお互いに無効化したことで、再び距離を保つような砲戦が再開する。
 互いの背中を取ろうと、大きな動きでいえば円を描いてるような動きを取る。
 ネ級は三式弾の影響もあってか、最初に比べると息が上がり始めているように見えた。

「見栄ヲ張ッテ……!」

「あなたが相手だからでしょうね……!」

 負けなくない。
 司令官さんがいた時は常にどこかで感じていた気持ちを、今はより強く意識できる。
 割り切っているつもりでも、どこかでネ級に司令官さんの面影を探そうとしてしまうからかもしれない。
 だからこそ負けるわけにはいかない。ネ級に対してだけは絶対に。

 鳥海は一転して、ネ級に砲撃を続けながら相対するように針路を変える。
 残る八門の主砲を集中させ、正面対決の形を取る。

「勝負をつけましょう、ネ級!」

「力押シカ……イイダロウ!」

 力押しですって? そう思うのは結構だけど……伊達酔狂で今まで戦ってきたわけじゃない。
 私は私にできることをする……あなたには負けたくないから。


850 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/09/29(金) 23:00:33.63 ID:pYkjVetWo
ここまで。今回も乙ありでした
この辺からは好きなボス戦BGMとか流すといい感じかもしれませんね

ちなみにネ級戦における自分の作業用はこの辺
サントラだと後半に別のBGMも付きつつ、タイトルで壮大なネタバレをしているという https://www.youtube.com/watch?v=OsRz8x8n8qI
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/29(金) 23:14:50.90 ID:kEJQHc1L0
おつー
劇場版ガンダムの哀戦士が頭の中で流れてた
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/30(土) 07:10:07.92 ID:tX8XZ3mvo
乙です
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/02(月) 09:59:43.66 ID:VxB92anaO
乙乙
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/03(火) 07:24:38.37 ID:+0sj0SKhO
乙乙
855 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/10/19(木) 01:21:29.84 ID:hgnI04YGo


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 摩耶は島風と一定の距離を保ちながらツ級に砲撃を加えていた。
 島風の背中には一基の連装砲がおぶさるようにくっついているが、残りの二基は水面上で自立機動を行いながら砲撃に加わっている。
 ツ級は砲撃を避けつつも先行した鳥海とネ級の後を追うような動きを見せていたが、いずれも摩耶の砲撃によって阻まれている。

「こいつを早いとこ片付けて、あたしたちも追うぞ」

「うん。鳥海さんを見届けるんだね?」

「ああ……ま、本当にやばくなったら助けるけどな」

「でも、それって……」

「あいつの本意ではないんだろうけどさ……鳥海を沈めさせる気はないよ。助けたことで一生恨まれたって構わない。水だろうが手だろうが、必要ならなんだって差してやるよ」

「摩耶は偉いね……私はたぶん鳥海さんの言う通りにしてると思う。それがつらいことになっても……」

 摩耶はツ級から視線をそらすわけにもいかず、島風の顔までは見ていない。しかし聞いた声音は深刻だった。
 考えた末の結論なのだろうし、逆に島風のほうが鳥海の意思を尊重しようとしているのだろう。
 どんな結果を迎えようと、鳥海の好きにさせると決めているんだから。

 あたしだって本当はそうさせてやりたいんだ。
 でも鳥海は今でもあいつを、提督を引きずってるんじゃないかって見えることがある。
 提督が絡むと、あいつは冷静さを忘れてしまう。目を離すわけにはいかない。

「……提督は死んじまった。でも鳥海は生きてる。どっちが大切かなんて考えるまでもないんだ、あたしには」

「それでも行かせてくれたんだね」

「妹のわがままだぞ。姉ならたまにはそのぐらい聞いてやらないとさ」

「お姉さんのことは分からないよ」

 島風が苦笑いのような響きを声に乗せているが、ツ級が砲声でそれも不確かになる。
 出足を封じられた形のツ級だったが、摩耶と島風を無視できないと見てか砲撃に移っていた。
 摩耶にしても、それは同じことだ。鳥海と合流するためにもツ級は邪魔だった。


856 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/10/19(木) 01:23:38.58 ID:hgnI04YGo


「さあて! 二対一でも、やらせてもらうぜ!」

 摩耶と島風は散開するように離れると、左右から挟み撃ちにするように近づこうとする。
 すぐにツ級の砲撃も二人を追うように分かれた。
 元が対空戦を重視しているからか、かなりの速射だった。次々と高速で撃ち出された砲弾が摩耶たちに迫ってくる。
 熾烈な砲撃を前に簡単には近づけず、距離を取らざるを得なかった。

「敵ガ……何人イヨウトモ!」

 聞こえてきたツ級の声からは、ただならない戦意が伝わってくる。
 あいつも同じように退けない理由がある、と摩耶は感じた。
 だからと言って手心を加えるつもりはなければ余地もない。

 連射速度や精度から、すぐに侮れない相手だと悟る。
 航空機相手に弾幕となる砲火力は、特別装甲が厚いわけでもない二人に対しても大きな脅威だった。
 それでも摩耶たちにとっても砲戦距離であるのには変わらない。

 摩耶の砲撃がツ級の面前に着弾し、弾幕に綻びが生じる。
 それを皮切りに島風の連装砲たちも連携して砲撃を集中し、ツ級の体をつぶてのように叩いていく。
 砲撃は脅威でも、ツ級はあくまで軽巡であって堅牢というわけじゃないらしい。
 ツ級から艤装の破片がいくつも飛び散っていく。

 そのツ級もただやられてるだけでなく、二人に命中弾を与え始めていた。
 摩耶には艤装の左右に一弾ずつ当たる。
 右側にある対空機銃群の一角を台座ごと削り取り、左への一発は装甲の薄い箇所に飛び込むと破孔を穿って黒煙を生じさせた。
 島風に向けて放たれた一発は海上にいた連装砲の一基に直撃し、砲撃ができない状況に追い込む。
 すぐに島風が中破以上の損傷を負った連装砲を拾い上げると、背中に乗せて保護する。

「さすがに無傷ってわけにはいかないが!」

 摩耶の声に応じるようにツ級に更なる砲撃が降り注いでいく。
 頭部を始め命中の閃光がいくつも生じる。
 軽巡に耐え切れる量の命中弾ではないはずだった。
 しかしツ級は体の各所から出血や兵装の損傷こそ隠せないが、なおも耐え凌いでいた。
 両腕を重たそうにだらりと下げたまま、素顔の分からない顔が摩耶のほうを向く。まるで凝視するように。


857 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/10/19(木) 01:24:33.15 ID:hgnI04YGo


「コノヨウナコトデ……倒レラレナイ……倒レタラ……遠クナル……!」

 ツ級の体から赤い光が漏れ始めると、力を失ったように垂れ下がっていた両腕が体を開くように振り上げられる。

「邪魔ヲシナイデ……私ハ……ネ級ヲ守ラナイト!」

「あいつ……ここに来て!」

 赤い光を発する深海棲艦は戦闘能力が上がっている。エリートなんて呼称される状態だ。
 元の状態を考えれば追い込んではいるのかもしれないが、それにしたって厄介なことになりやがった。
 撃たれると感じるよりも早く、身を翻してその場から離れる摩耶にツ級が砲撃を始める。
 左右交互に吐き出される砲弾が現在地と未来位置に、やはり交互に落ちていく。
 全てを避けることはできず、摩耶の艤装に次々と命中すると損傷が蓄積されていく。

「こいつ……!」

「それ以上はさせないよ!」

 横合いに回りこんでいた島風がツ級に砲撃を浴びせると、摩耶への砲撃も途絶える。
 ツ級は後退をかけながら目標を島風へと切り替える。
 被弾の影響でツ級は速度こそ遅くなっているが、砲撃力は未だに健在だった。
 島風は転舵を織り交ぜて器用に狙いを外していくが、それもいつまで続くかは分からない。

 今度はこっちが援護する番だ。そう思った摩耶は後方から砲声が轟くのを聞く。
 背筋を冷たいものが走り、その正体を確認するよりも前に体が自然と回避のために動きを取っている。
 ツ級に背を向けるのは危険と分かっていても、思い切って背を向ける形での取り舵を切る。
 高速で流れる視界の中に、二つの護衛要塞が並んでるのをはっきりと見た。
 それまで自分がいた場所を狙って砲弾が落ちる。弾が大きく散っているのを見ると、ツ級とは違って砲撃の精度はだいぶ甘く感じる。

「護衛要塞がニ……姉さんたちが取り逃がしたのか?」

 向こうは向こうで不利な戦力差での交戦なんだから、こういう漏れが出てきてしまうのは仕方ない。
 むしろ、そういった場合に対処できるように鳥海の護衛に就いていたんだから。


858 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/10/19(木) 01:26:30.04 ID:hgnI04YGo


「摩耶、要塞をお願い! こっちは私に任せて!」

 島風が通信を入れてくる。
 一人で今のツ級を?
 無茶だと声に出かかるが島風の判断も一理あると気づく。
 挟み撃ちを受けながらツ級を相手にするより、個別に対処したほうがやりやすい。
 そして火力の問題が立ち塞がる。島風の砲撃力だと護衛要塞の相手は骨だ。

「……分かった。すぐ戻るから無茶すんなよ!」

「そっちこそ!」

 鳥海の邪魔をさせないためにもツ級の相手を引き受けたのに、今やあたしと島風が無事でいるための戦いだ。
 砲撃を避けたまま護衛要塞らを正面に見据えた形の摩耶は前へと増速。彼我の距離を縮めつつ砲撃を行う。
 そこまで怖い相手ではないが一発ニ発を当てた程度では沈められないし、かといって時間をかけていられる余裕もない。

 こんな時、鳥海ならどう立ち回る?
 昔は張り合ったりもしたけど、やっぱりこういう際どい局面の判断とか行動力には一日の長ってやつがある。
 きっと、あいつなら敵の戦力に当たりをつけて、どう動くのが最適か考えるはず。最適って言うのは、今回みたいな時は効率になるのか。

「どうするって……鳥海なら攻めるだろ。真っ向から突撃するに決まってる」

 摩耶は自分に言い聞かせるように声に出す。
 うちの妹はよく言えば果敢で……悪く言うなら脳筋っぽいところがある。
 でも今なら分かる。そうしないといけないから、そうするんだ。
 護衛要塞の弱点がどこかは分からないけど、どんなやつでも確実に弱いのは背後だろう。
 とはいえ、いくらこっちより機動力が低い相手でも、二体同時に相手をしながら背後を取るってのは難しい。

「あとは口の中だ」

 あいつらの主砲は口内にある。上手く狙えれば一撃で誘爆させて沈めるのも不可能じゃないはず。
 問題は狙える範囲が狭くて、正面からの攻撃に限られてくること。
 そして砲撃が激しいのは正面。装甲が厚いのも正面。相手の得意な領域で撃ち合わなくちゃいけない。

「クソが……当たらなきゃいいんだろ、要はさ!」

 つまり砲撃をかいくぐって、要塞が攻撃する瞬間に口元を狙う。
 堅実とは真逆の考え方だ。博打であって、しかも自分の力量に自信がないとできない考えであり行動だ。
 それだからこそ摩耶は不敵に笑う。

 あたしの艤装だって鳥海と同じ高雄型改二の艤装なんだ。
 特長が違うにしてもベースが同じなら、やってやれないことはない。うちの妹なら間違いなくそうする。


859 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/10/19(木) 01:27:20.71 ID:hgnI04YGo


 摩耶は二体の護衛要塞に向かって疾駆する。
 護衛要塞は発砲後は砲煙が消えない内から口を閉ざしてしまう。口内を狙える機会というのは思いのほか短い。
 狙い澄ましたはずの砲撃も命中こそするが、目当ての場所には当たらなかった。

 あえて敵の正面に身を晒す摩耶は、まず右側の要塞に集中する。
 飛来する砲撃を左右に感じながらも、ぐんぐんと近づく。距離が近ければ、それだけ当てやすくもなる。

 護衛要塞は艦娘の優に倍はある巨体だが、海面からわずかに浮いたような状態だ。
 原理は分からないけど、あれのせいで雷撃の効果も期待できない。
 あれで護衛対象がいる場合は肩代わりするように当たるらしいが、今回はそれも望めなかった。

 護衛要塞が口を開くと見るや、摩耶はすかさず主砲を斉射している。
 入れ違うように要塞たちも砲撃した。三連装二基の主砲が二体で、十二発の主砲弾が迫ってくる。
 摩耶の放った斉射の内の数発が護衛要塞の口に飛び込むと、そのまま口腔を突き破るように内部にまで侵入し誘爆を引き起こした。
 護衛要塞が一瞬にして膨れ上がる火の玉に変貌し、その余波として衝撃波が周囲に広がる。
 片割れが衝撃に押し出されるのを見た摩耶にも遅れて爆圧が襲いかかる。

 思っていたよりも近づきすぎていたらしい。
 そう感じた摩耶は歯を食いしばりつつ、姿勢を崩さないようにしながらも煽る動きに逆らわなかった。
 視線はあくまで残る護衛要塞に向けられ追撃に備えている。

 摩耶からすれば危険な状態だったが、護衛要塞は攻撃してこなかった。
 より近くにいたために爆圧の影響を強く受けてそれどころではなかったのか、あるいは摩耶からの攻撃を警戒したのか。
 警戒、という判断が連中にあるのかは摩耶も分からない。ただ護衛要塞の行動は明らかに遅れた。
 摩耶は左舷側の三基の主砲を先制して護衛要塞の上顎に当たる箇所目がけて撃ち込む。
 撃たれてもなお護衛要塞は反撃に転じない。剥き出しの歯を閉ざして、攻撃に備えているようだった。
 あるいは僚艦の最期から不用意な攻撃に移れない、とでも考えているかのように。

 摩耶は構わずに今度は左の主砲と、交互に砲撃を浴びせていく。
 護衛要塞はここでようやく反撃に転じてきた。このままでは打ちのめされるだけだと気づいたかのように。
 もっとも、こうなると優勢に立った摩耶に敵うはずもない。残った護衛要塞は粘りながらも海底に没していく。
 一方の摩耶は被害らしい被害を受けなかったものの、苛立ちを露わにしていた。

「時間をかけすぎちまった……無視すりゃよかったのか?」

 それはそれでできない相談だった。放置していたら後ろから要塞たちに撃たれながらツ級とも戦わないといけなかったんだから。
 結果的に大して強い敵ではなかったが、そんな相手でも一方的に撃たれるとなると話は別だ。
 対処するしかなかったという判断はきっと間違いではない。ただ手順だとか中身のほうが問題であって――。

「ええい、考えるのは後だ! 今は島風を助ける!」

 摩耶は渇を入れるように自分の両頬を掌で叩く。
 きっと、あたしがこの場でやらないといけないのはそっちだ。
 鳥海のことも気がかりではあったが、それ以上に目の前のことからやっていかないと話にならない。
 摩耶は島風とツ級の姿を探す。もしかしたら二人の戦闘はすでに終ってしまったかもしれないと、そんな予感を抱きながらも。


860 : ◆xedeaV4uNo [saga]:2017/10/19(木) 01:28:45.45 ID:hgnI04YGo
ここまで。明日も頑張る
空いてしまいましたが乙ありなのです

>>851
その曲は荒野を走るドムの列という印象が個人的に強かったり
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/19(木) 07:55:51.66 ID:5XmVkAXeo
乙です
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