八幡「神樹ヶ峰女学園?」

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328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 01:43:10.82 ID:Ds78eiEto
乙です
329 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/20(土) 17:05:35.48 ID:MYMlAbfc0
本編4-1


ある平日の朝。俺はいつもの通りベッドの誘惑をなんとか振り払いリビングに朝食を取りに行くと、いつもはこの時間にはいるはずのない母親がコーヒーを啜っていた。母親は俺がリビングに入っていくと一瞬「誰だこいつ」って目で俺を凝視してきやがった。おい、息子の顔忘れるなよ。仮にも母親だろ。

八幡の母「あらあんただったの、意外と早いのね」

八幡「……この時間に起きないと間に合わないんだよ。つか母ちゃんこそ今日遅くね。仕事は?」

八幡の母「今日は少し遅い出勤なの。ま、それでも世間の社会人よりかは早いんだけど」

母親の目の下に刻まれた隈がさらに深くなるくらい暗い発言だった。ホント社畜って人間を破壊していく。将来は働くお嫁さんをきちんといたわってあげよう。

八幡の母「そういえば、あんたしばらく見ないうちに少し変わったわね」

八幡「え、何突然」

嘘。母ちゃん、いつも小町の事しか見てないと思ってたら俺のこともきちんと見ててくれたの?八幡感激。

八幡の母「なんか前より丸くなった気がするわ。太った?」

衝撃の発言だった。お、俺が、太った?まままままさか。

八幡「待て母ちゃん。俺が太った?そんな馬鹿な話があってたまるか」

小町「うーん、言われてみると確かにお兄ちゃん少し太ったかも」

いつの間に起きてきたのか小町まで会話に参加してくる。

八幡の母「小町もそう思う?やっぱりね。最近あんたが始めたなんとかって学校との交流?だかなんだか知らないけど、それが原因なんじゃないの」

八幡「2人とも勝手な言いがかりはよしてくれ。俺だってまだ高校2年生の成長期だぞ?体が大きくなることだって十分あり得る」

小町「いきなり横に大きくなるのを成長期だとは言わないよお兄ちゃん」

八幡の母「このままいくとあんた、ただの目の腐ったデブになって一生を終えることになるわよ」

俺は頭の中で材木座の目が腐った姿を思い浮かべてみた。うん、ないな。もはや人間とは呼べない。どこかの絵巻物に出てくる化け物だ。

八幡「そ、それは嫌だ」

八幡の母「ならなんとかしな。そろそろ私出かけるから。2人とも車に気を付けて学校行くんだよ」

小町「はーい!いってらっしゃい!」

八幡「いってらっしゃい……」

母親がいなくなり、兄妹2人で朝食を食べ始めると先ほどまで元気だった小町が少し心配そうな声色で尋ねてくる。

小町「でもお兄ちゃん、ほんとにヤバいかもよ?家族でもわかるくらい変わったなら他の人なんてとっくに気づいてるよ」

八幡「でも別に神樹ヶ峰では何も言われてないぞ」

小町「そりゃ面と向かって『太ったね』なんて言う人がいるわけないでしょ。で、なんか原因はないの?」

ついさっきお前と母親に面と向かってそう言われたばっかりなんだが?と心の中でツッコミを入れつつ原因を少し考えてみる。

八幡「言われてみれば神樹ヶ峰に通うようになって自転車に乗ることもなくなったし、学校で体育もやってないから運動する時間は減ったな」

小町「それだよお兄ちゃん。このまま運動しないとお兄ちゃんの友達の中二病の人みたいになっちゃうよ?そしたら小町口ききたくないよ」

なぜか材木座がとばっちりを受けた。だが兄妹だと考えることも似てくるらしい。ごめんな材木座。

八幡「それはお兄ちゃん困る。あと材木座は俺の友達ではない」

小町「まだそれ言い張るんだ……とにかく今のままだとダメだよお兄ちゃん。なんとかしてね」

八幡「何とかって言われても」

小町「だから運動すればいいじゃん。休日に」

八幡「小町。休日は休む日だ。なんでわざわざ疲れることをせにゃいかんのだ」

小町「そんなこと言ってるから太るんだよ。あ、なら学校で汗を流しなよ。いっそのこと星守クラスの子と一緒に運動したら?」

そういえば若いときに運動をしないといけないとか、一緒に運動しましょうとか、前に誰かに言われたような気がする。誰だったかな。ま、いいや。

八幡「そういうリア充イベントは俺には絶対起こらない。断言してもいい」

小町「えー」

八幡「えー、じゃねぇ。とにかくこの話は終わり。俺もそろそろ行かなくちゃ遅刻しちまう。じゃな小町。いってくる」

小町からも話題からも逃げるように俺は家を出た。
330 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/22(月) 18:43:53.78 ID:FMP4dTeL0
本編4-2

その日の昼休み、教室でぼーっとしていると1枚の写真が足元に落ちているのに気づいた。拾って見てみると俺が神樹ヶ峰に来た日のチャーハンパーティの時に撮った写真だ。

みき「あ、先生。それ私のです!」

声のする方に顔を上げるといつの間にか星月が俺の目の前に立っている。手を差し出してるということはどうやら写真を返せということらしい。

八幡「ん、ほれ」

みき「ありがとうございます!」

星月は俺から写真を受け取るとしばらくじっと写真を見て、また俺をじっと見る。

八幡「な、なんだよ」

みき「いえ、今の先生と写真の中の先生がなんか違うなって」

八幡「そ、そんなことないんじゃないか?」

今朝のこともあって返事がしどろもどろになってしまう。

みき「えぇー、そうですか?そうだ。遥香ちゃんと昴ちゃんにも見てもらいましょう!おーい!遥香ちゃん!昴ちゃん!」

遥香「どうしたのみき」

みき「これ先生が星守クラスに来た日の写真なんだけど、なんか今と違くない?」

そう言って星月は2人に写真を見せる。2人は写真をじっと見て俺をじっと見てため息をつく。

昴「これは、先生……」

遥香「薄々そんな感じがしてたんですけど、やっぱり」

みき「2人もそう思う?」

みき、遥香、昴「先生。太りましたね」

3人ともが揃って俺の心にナイフを突き立てて来た。俺の周りには人を傷つけることしか言わない悪魔のような女性しかいないの?

八幡「今朝、母親と妹にも同じこと言われた……」

遥香「家族の方にも指摘されるなんて相当変化があった証拠じゃないですか」

みき「先生!今のままだと数年後、自分の過去を見られなくなりますよ!」

八幡「確かにどうにかしないといけないとは思うんだが」

昴「なら先生もアタシたちと一緒に特訓やりますか?実際に武器を使ったシミュレーションとかはムリですけど、それ以外のグランドでやる特訓なら一緒にできると思います」

絶対やりたくねぇ。何度かチラッと見たことはあるがみんなキツそうな顔してたし。なんとか言い訳をしてこの特訓からは逃れよう。

八幡「……いや、星守の特訓に一般人の俺が参加しちゃダメだろ?」

遥香「大丈夫ですよ。ただの体力増強のためのトレーニングですから」

八幡「てか俺が参加してもお前らに迷惑だろ?」

みき「そんなことないですよ!むしろ私たちの特訓を見てもらえればそれだけでヤル気が出ます!」

八幡「そもそも俺全然動けないんだけど?」

昴「先生のペースに合わせますから!」

遥香「そうやって言い訳を並べても無駄ですよ先生。さ、明日からはジャージを持ってきて放課後はグランドに集合ですよ」

八幡「いや、放課後には仕事が」

昴「私たちの特訓を見るのも立派な仕事ですよ!」

八幡「そうは言っても、」

みき「なら今から八雲先生と御剣先生に放課後特訓の許可をもらいに行きましょう!」

昴「みきナイスアイディア!」

遥香「そうね、私たちで勝手に決める訳にもいかないものね」

3人は意見がまとまると職員室に向かうために教室を出ようとする。

みき「先生。何してるんですか?行きますよ?」

席を立たない俺を星月が催促してくる。はぁ、俺の意志は無視ですかそうですか。だったらなんとか八雲先生と御剣先生はこっち側に引き込もう。てかそれしかない。
331 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/23(火) 23:41:15.35 ID:/cPjTZY60
本編4-2


星月を先頭に俺たち4人は職員室に入っていく。

みき「失礼しまーす!あ、八雲先生!」

樹「あらみんな揃ってどうしたの?」

昴「実は先生にお願いがあるんです」

樹「なにかしら?」

遥香「明日からの放課後特訓を比企谷先生と一緒にこなしたいんですがいいでしょうか?」

樹「いいわよ」

何のためらいもなく八雲先生は放課後特訓を承認した。

八幡「ダメじゃないんですか?」

樹「むしろこっちからお願いしたいくらいだわ。一緒に特訓をすることであなたたちの『親密度』も上がるんだから」

八幡「親密度?」

どっかのギャルゲーみたいな言葉が飛び出してきて思わず聞き返してしまった。

樹「簡単に言えば仲良くなるってこと。辛いことを一緒に乗り越えれば関係性も一層深まるはずよ」

八幡「そんな簡単に人が仲良くなれるんだったら、世の中からは戦争なんてなくなってますよ」

樹「どうしてこんなに屁理屈ばかり言えるのかしら……とにかく比企谷くんの特訓参加は決まりです」

八幡「でも俺放課後にも仕事があるんですけど」

樹「その仕事も風蘭から押しつられる雑用でしょ?もともと比企谷くんは星守たちとの交流が目的でここに来てるんだから特訓を優先してもらって何も問題ないわ。風蘭には私から言っとくから安心して」

完全に退路を断たれてしまった。「そうねぇ。優先すべきは仕事よね。やっぱり特訓は無理だと思うわ。仕事があるもの」なんていう展開を予想してたのに、「仕事」というワードが一切仕事をしなかった。

樹「というか比企谷くんが特訓をやりたいって言いだしたんじゃないの?」

八幡「やめてくださいよ八雲先生。俺がそんなこと自分から言いだすわけないじゃないですか」

樹「そ、そんな目を腐らせながら自信たっぷりに言われても困るわ……」

みき「私たちが先生を特訓に誘ったんです!」

遥香「比企谷先生の体型改善のために」

八幡「おい、成海。お前もう少しましな言い方あるだろ?」

昴「と、とにかくアタシたちもせっかくだから比企谷先生と特訓したいなって思ったんです!」

樹「そう。でもどんな理由にしろ比企谷くんが特訓に協力してくれるっていうなら助かるわ。よろしくね」

八幡「……はい」

こうして俺たちは八雲先生から特訓の許可をもらい職員室を後にした。

みき「先生!これで明日から存分に特訓できますね」

昴「でもいきなりすごい特訓はできないよみき。先生だってついてこられないだろうし」

遥香「そうね。それに無理をすればケガにつながるわ。しっかりメニューを考えないと」

3人は俺の事なんていないかのように特訓の話に夢中だ。こうなったら適当にうやむやに済ませることにしよう。

八幡「なぁ。別に俺のことなんて気にしなくていいぞ?なんなら俺だけでやるからお前らはお前らで特訓頑張ってくれ」

遥香「ダメです。先生の特訓は私たちがきちんと管理します」

昴「トレーニングはしっかりやらないと効果出ないですよ!」

みき「それに私たちは先生と一緒に特訓したいんですよ?別々にやったら意味がないじゃないですか!」

星月の発言に成海と若葉も頷く。正直ここまでストレートに言われて断るほど俺は腐っちゃいない。もとはと言えば運動してこなかった自分が悪いわけだし、さっさともとの体型に戻して特訓を終わらせる方が生産的だろう。

八幡「……わかった。よろしく頼む」

みき、遥香、昴「任せてください!」
332 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/23(火) 23:42:15.64 ID:/cPjTZY60
>>331は本編4-3でした。すみません。
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/24(水) 00:17:09.78 ID:JUWsJyWho
乙です
334 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/25(木) 00:01:01.94 ID:KptkaY1y0
番外編「茉梨の誕生日前編」


わたし酒出茉梨。神樹ヶ峰女学園に通う高校3年生!いつもわたしはいっちゃんとふーちゃんと放課後に特訓したり遊びに行ったりしています。

よし、もう掃除は終わったし、今日は特訓はお休みの日だから2人とコンビニの新作お菓子を探したいなぁ。

樹「茉梨。ここにいたのね」

茉梨「あ、いっちゃん!ふーちゃん!」

風蘭「さ、茉梨も見つかったことだしサクッと行っちゃおうぜ」

茉梨「行くってどこに?」

風蘭「ナイショー」

樹「ほら茉梨早く行くわよ」

茉梨「え、え、」

わたしはいっちゃんに手を引っ張られてなぜかラボにやって来た。

茉梨「ねぇ、ここで何するの?」

樹「ここでは何もしないわ」

風蘭「そうそう。ほらここに立った立った」

茉梨「でもこれって、転送装置だよね?」

風蘭「そうだけど?」

茉梨「もしかしなくてもこれでどこかへ行くつもり?」

樹「えぇ」

茉梨「な、なんで?ふーちゃんがやるならまだしも、いっちゃんまでこんなことするなんてびっくりだよ!」

樹「理由は後で説明するわ。ほら風蘭!」

風蘭「わかってるって!転送!」

転送時の独特な感覚を味わった後、周りの空気が明らかに違うのに気づいた。なんていうか、あったかい感じ。

樹「茉梨、大丈夫?」

茉梨「うん。大丈夫だよ。それで、ここはどこ?」

風蘭「ふふん、見てわからないか?」

お店がたくさん並んでるのを見ると、ここは商店街なのかな?でも近くの商店街じゃないなぁ。ここにはいかにも南国っぽい木がたくさん植えられているし、いたるところに「沖縄」って文字がある。え、沖縄?

茉梨「まさか、まさかここって那覇の『国際通り』?」

風蘭「大正解!」

茉梨「嘘!なんで2人はわざわざ沖縄までわたしを連れてきたの?」

樹「だって今日は茉梨の誕生日じゃない。こうして私たちが神樹ヶ峰で一緒にいられるのも残り少ないし、思い出作りのために、ね」

風蘭「そうそう!いつもなら絶対イツキはこんなこと許してくれなかっただろうけど、茉梨の誕生日に何かサプライズしたいって言ったらノリノリで協力してくれたんだぜ」

樹「そ、それは、誕生日って年に一回の大切な日だし、私も風蘭も茉梨にはいつも感謝をしているし、そのお礼がしたくて」

わたしのために2人は前から準備してくてたんだ。とっても嬉しいな。

茉梨「いっちゃん、ふーちゃん……ありがとう!」

樹「ふふ、じゃあ行きましょうか」

風蘭「マリのためにうまいサーターアンダギー売ってる店を探しといたからな」

茉梨「サーターアンダギー!?」

樹「せっかくなら本場の味を食べましょ」

茉梨「うん!」
335 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/25(木) 00:01:40.52 ID:KptkaY1y0
番外編「茉梨の誕生日後編」


樹「ほら、あそこよ」

茉梨「うわぁ!すごい!」

いっちゃんが指さす方からは美味しそうな香りが漂ってくる。我慢できずにお店の前まで走っていくと、たくさんのサーターアンダギーが並んでて、看板には「揚げたて」と書いてある。

茉梨「こんなにいっぱいサーターアンダギーがあるなんて、夢みたい。100個くらい買っちゃいたいなぁ」

風蘭「そ、そんなに買うのか?」

茉梨「だってなかなか来られないんだよ?家に買い置きしておきたいじゃん!」

樹「でも茉梨、あなたそんなにお金持ってないでしょ」

いっちゃんに言われてお財布の中を確かめてみると1000円札が数枚と小銭が少し。

茉梨「……100個も買えない」

樹「まぁそうよね。逆に買えるだけの大金を持ってても怖いけど」

風蘭「あ、そういえばアタシお金全然持ってなかったんだ。マリ〜貸して〜」

そう言ってふーちゃんはあたしにすり寄ってくる。ふふ、こうやって甘えてくるふーちゃんも可愛いなぁ。

茉梨「しょうがないなぁ。いいよ」

風蘭「やった!バイト代入ったら返すから!」

茉梨「うん。約束ね」

樹「まったくもう。誕生日の茉梨にお金を借りるなんて風蘭ったら何考えてるのかしら」

茉梨「まぁまぁいっちゃん、せっかくの沖縄なんだから楽しもう?」

樹「……えぇ」

こうしてわたしたちはサーターアンダギーを食べた後、沖縄の他の特産品を食べたり、シーサーと写真を撮ったりして国際通りを満喫した。気づいたらだいぶお日様も低い位置にあってわたしたちの影も長くなっている。

樹「さて、そろそろいい時間だし帰りましょうか」

風蘭「おぉ。じゃあ転送装置のリモコンを。って、あ」

茉梨「どうしたの?」

風蘭「リモコン、ラボに置きっぱなしだ」

樹「ちょ、何やってるのよ風蘭!帰れないじゃない!」

茉梨「と、とにかく学校に連絡してみよ?」

風蘭「そうだな。でも先生にばれるとまずいから、そうだ!多分アスハが学校に残って特訓をしてるはずだ。アスハに頼んでみよう」

そう言うとふーちゃんは通信機を取り出してあーちゃんに連絡をつける。

風蘭「お、繋がった。もしもしアスハか?1つ頼みたいことがあるんだ。ちょっとひとっ走りラボまで行って転送装置を起動させてくれないか?」

明日葉「わかりました!待っててください!」

少しするとまたあの独特の感覚が体を包み、目を開けるとラボに戻っていた。目の前にはあーちゃんと理事長が立っている。

樹「理事長!?」

牡丹「明日葉がラボに行くところを見かけましてね。不審に思って来てみたら無断で転送装置が使われた形跡があったのでここであなたたちを待ってたんです」

風蘭「アスハ〜ばれちゃダメだろ〜」

明日葉「す、すみません!」

樹「なんで明日葉が謝るの。完全に私と風蘭が悪いんだからいいのよ。むしろこちらこそ迷惑かけてごめんなさい」

茉梨「わたしだって悪いよ!わたしのために2人がやってくれたことなんだからわたしにも責任があるよ。ごめんねあーちゃん」

理事長「だいたい事情は分かりました。大方、今日誕生日の茉梨を喜ばせるために樹と風蘭が転送装置を使って沖縄に行くことを考えたのでしょう。親しい友のために行動するその友情は十分伝わりました」

風蘭「それじゃあ、アタシたちお咎めなしですか?」

理事長「それとこれとは話が違います。3人には罰として明日から一か月間の特別特訓を課します。一生懸命励んでくださいね」

そう言って理事長はラボを出ていった。外はすっかり暗くなっている。もう帰らないといけないけど、どうしても一言だけみんなに言いたい。わたしは大きく深呼吸をしてからしっかりと3人を見据えた。

茉梨「いっちゃん、ふーちゃん、あーちゃん。今日は本当に楽しかった!わたし、今日のことは一生忘れないね!」
336 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/25(木) 00:02:57.59 ID:KptkaY1y0
以上で番外編「茉梨の誕生日」終了です。茉梨誕生日おめでとう!第3部にしか出てこないキャラクターなので八幡との交流はしないようにしました。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/25(木) 01:09:18.53 ID:4cXvV3uuo
乙です
338 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/25(木) 01:40:45.07 ID:KptkaY1y0
風蘭の明日葉への呼び方をカタカナにしてしまってました。脳内補完しておいてください。
339 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:24:09.91 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち、拗ねてるんです!@」


八幡「うーす。朝のHR始めるぞ」

俺が普段通り教壇に立って挨拶をすると途端に教室が静かになった。いつもはガヤガヤとうるさいし、俺に対して無駄に絡んできたりもするのだが、今日はなぜかそんなことは全くない。ま、静かなら連絡もしやすいしいいか。

そんな雰囲気の中、2,3の連絡を伝え終えた。

八幡「以上で俺からの連絡は終わりだが、みんなからはなんかあるか?」

この質問に対しても反応はなし。さすがに少し不安になってきた。

八幡「なぁ、みんなどうしたんだ?」

楓「別に何もないですわ」

遥香「えぇ。何もないですよ先生」

ぶっきらぼうな返事しか返ってこない。

八幡「いや、そんなあからさまに嫌そうに言われても信じられないから」

望「そんなに言うなら自分の心に手をあてて考えてみてよ」

ひなた「そうだそうだ!」

八幡「なんで俺が悪いみたいになってるの……」

そうこうしてると1時間目が始まるチャイムが鳴り八雲先生が入ってきた。

樹「みんな、なにしてるの」

そう言って八雲先生は教室全体を見渡す。

樹「なるほど、そういうことね。今日の授業は自習にします。各自勉強しておくように。それと比企谷くんは私と一緒に来て」

八幡「え、なんでですか?」

樹「いいから早く!」

八幡「はい……」

俺は半ば強引に理事長室に連れてこられた。

八幡「あの、ここで何するんですか?」

樹「一度理事長に直接話をしてもらいます。私や風蘭が言うよりも効果があるから」

八幡「いや、でも俺何も悪いことしてないんですけど」

樹「そういうことは理事長に言いなさい」

八雲先生は冷たく言い放つと、俺に理事長室に入るよう促す。

八幡「……失礼します」

ノックしてドアを開けると正面の椅子に神峰牡丹理事長が座っていた。相変わらずの服装に相変わらずのロリフェイスである。

牡丹「あら比企谷くん、それに樹まで。どうされたんですか?」

樹「理事長、実は星守達が全員『拗ね期』に入ってしまいました」

牡丹「それは大変ですね。で、比企谷くんを連れてきたわけですか」

樹「はい。私はひとまず星守達の対応をしますので、彼のことをお願いしてもいいでしょうか?」

牡丹「もちろん。さ、私に任せて行きなさい」

樹「よろしくお願いします」

八雲先生は一礼すると理事長室を後にした。残されたのは俺1人。いったい何をされるの?

牡丹「比企谷くん、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫ですよ。ひとまずそこのソファに座ってください。今お茶を入れますから」

八幡「は、はい」

言われるままに俺はソファに座る。しかしこういうところのソファって無駄に柔らかくて、座るだけでも緊張するんだよな。今みたいな状況だったら余計に。

牡丹「さて、では少し私とお話ししましょうか」
340 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:25:09.27 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!A」


俺の対面に座り、2人分の湯呑を置きながら理事長が口を開いた。

牡丹「まずは今の星守たちの状況について説明しますね。今、彼女たちはあなたに対して『拗ね期』という状態にあります」

八幡「『拗ね期』ですか?」

牡丹「えぇ。文字通りあなたに拗ねてるんです。」

なんだそりゃ。聞いたことがない。つかそもそも拗ねられるようなことをした覚えがない。

八幡「あの、どうして彼女たちは俺に拗ねてるんですか?」

牡丹「心当たりはありませんか?」

八幡「いえ、全く。彼女たちには何もしてないはずなので」

牡丹「それです」

八幡「はい?」

牡丹「彼女たちはあなたが何もしないから拗ねてるんです」

俺が何もしてないから拗ねる?まったくわからない。

牡丹「伝わってないようなので例を出して説明します。例えばひなたがソフトボールの試合で勝ったと報告してきたとしたら、比企谷くんはどう答えますか?」

八幡「多分、ふーんとかへーとか答えると思います」

牡丹「ではもう1つ。くるみが裏庭の花壇を新しくしたから今すぐ見に来てほしいと言ってきたらどう答えますか?」

八幡「後でな、って答えますね」

牡丹「その反応がいけないんです。彼女たちはあなたに褒められたいんです」

八幡「いや、まさかそんなわけ」

牡丹「では思い返してみてください。程度の差はあれ、彼女たち全員があなたにいろいろなことを言ってきたはずです」

そう言われてみると南やサドネはもちろん、煌上や粒咲さんなんかもたまに俺に話しかけてくるな。

牡丹「ね。彼女たちはみんなあなたに認めてもらいたいんです」

八幡「……じゃあ仮に、万が一そういうことだとして、俺はどうすればいいんですか?彼女たちの言うことに良い反応をすればいいんですか?」

牡丹「それも大事ですけど、今はそれよりも優先してやることがあります」

八幡「あんまり聞きたくないですけど、なんですか?」

牡丹「彼女たちの頭をなでることです」

だと思ったー。だからどこのギャルゲーなんだよ。

八幡「やっぱりそれですか……」

牡丹「あら、気づいてたんですか?ならどうしてやらないんですか?」

八幡「できるわけないですよ。同年代の女の子の頭なでるなんて」

牡丹「でも私たちは比企谷くんのなでなでを見て星守クラスの担任にしたんですよ?」

八幡「確かに最初はそうでしたけど、だからってそうほいほいなでられるわけないじゃないですか」

牡丹「安心してください。彼女たちは例外なく比企谷くんになでてもらうことを望んでますから」

そんな風に言われたとしても信用できないし、仮に本当だったとしても恥ずかしくてなでなでなんてできるわけがない。毎日黒歴史を生むようなものだ。

八幡「いや、でも」

牡丹「仕方ないですね。では荒療治といきましょうか」

理事長はすっと立ち上がると扉を開け、座ったままの俺のほうへ振り返る。

牡丹「何してるんですか?行きますよ。星守クラスへ」
341 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:27:47.86 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!B」


俺はゆっくりと歩く理事長の後を無言でついていく。なんか気まずいなぁ。

牡丹「ごめんさいね。色々迷惑をかけて」

八幡「いえ、別に」

牡丹「でも比企谷くんだからこそ彼女たちを任せられるんですよ?誰にだって頼めることじゃない」

八幡「はぁ。それがなでなでですか?」

星守クラスの前で理事長の歩みが止まる。

牡丹「……正直、彼女たちには本当に申し訳ないことをしていると思ってます。大切な中高時代をイロウスとの命がけの戦いに巻き込んでしまっていることを。だからせめて学校では彼女たちの希望をできるだけ叶えてあげたいんです」

確かに星守というのはイロウスを倒せる唯一の存在であり、その見た目の麗しさも相まって一部では「女神」ともまで言われている。だけどその実は授業を受け、部活に出て、休日に友達と遊ぶ女の子だ。そのことは短い間でしか関わっていない俺にも十分わかる。だったら、俺がするべきことは。

八幡「……俺に何かできることがあれば、協力したいです」

牡丹「……ありがとうございます比企谷くん。では早速頑張ってもらいますね」

理事長はにっこりと笑うとドアを開ける。

牡丹「みなさん、お待たせしました。比企谷先生を連れてきましたよ。なんと比企谷先生、自分にできることがあれば何でもするって言ってましたよ」

入るなり何言ってくれてるんですか理事長?ほら、教室中の視線が一斉に俺に向けられるし。すでに居づらい。

明日葉「そうですか。ありがとうございます比企谷先生」

楠さんは席を立つと教壇に上がり教室中を見渡す。いや、俺何も言ってないけど?

明日葉「ではこれより『比企谷先生にいかに頭をなでてもらうか』について話しあいを始めます」

みんな「はーい!」

突然摩訶不思議な話し合いが始まってしまった。

八幡「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりなんですか?」

明日葉「私たちの要望は『なでなで』です。ただやみくもに先生にお願いするのも申し訳ないので、今からルールを作りたいと思います」

八幡「ルール?」

明日葉「はいそうです。みんなの中で何か意見がある者はいるか?」

ゆり「やっぱり日直の人は『なでなで』されていいと思います!」

うらら「あと部活頑張った人も!」

心美「ぶ、部活以外でも学校で何かお仕事した人にもしてほしいです」

遥香「学校以外で頑張った人にもお願いします」

ミシェル「うーん、でもそれだけだと少ないよ〜」

八幡「いや、今でも十分多いから……」

あんこ「なら、HRで何かゲームをやってその上位何名かも『なでなで』してもらえるっていうのはどう?」

楓「それは面白いですわ!」

蓮華「でもどんなゲームするかによって得意不得意ができちゃうから、日直の人がゲームを考えるって言うのはどう?」

昴「いいですね!」

明日葉「ではここまでの流れを整理すると、日直の人、部活頑張った人、部活以外でも学校で頑張った人、学校以外でも頑張った人、HRに行うゲームの上位数名って感じですね」

八幡「多い。多すぎる……」

くるみ「でも先生が私たちのことを無視するのがいけないんですよ?」

サドネ「サドネたち寂しかった」

そういう寂しいアピールをされると何も言えなくなってしまう。ほんとあざとい。助けを求めて理事長を見るとただにこっとされた。いや、そういうことを望んでるんじゃないんですけど。

しかし、どうやらこの状況は俺が妥協しないといけないらしい。正直な話、こんなに可愛い子たちの頭を撫でられるっていうのは非常においしい役割であることは否定できない。ただ、それ以上に良心の呵責に苛まれる。
342 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:29:08.77 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!C」


八幡「……わかった。みんなの提案を受け入れる」

俺がそう言うと、これまでの沈んでいた空気が嘘みたいに活気づいた。

詩穂「やったわね花音ちゃん」

花音「べ、別に私は嬉しくなんてないんだから」

桜「これでより昼寝が気持ちよくなるわい」

みき「じゃあ早速今日からお願いしますね先生!」

八幡「え?せめて明日からにしてくれない?」

蓮華「ダメよ〜今まで散々れんげたちのこと放置してたんだから〜」

望「その分今度はアタシたちに付き合ってもらうから!」

もう逃げられないっぽいなこれ。これからますます大変な日常がやって来るんだろう。せめて黒歴史にならない程度にしておきたいが、どうだろうか。

つか、これ普通に犯罪にならない?あとで賠償請求とかされない?大丈夫?セクハラとか言われたら八幡社会的に死んじゃうよ?

ま、こいつらならそんなことはしないか。

風蘭「話は聞かせてもらった!」

八幡「うお!びっくりした。突然入ってこないでくださいよ御剣先生。今いい感じに終わりかけてたじゃないですか」

風蘭「まぁまぁ。とにかく、アンタたちの中から比企谷になでなでしてもらえるやつを何人か選べばいいんだよな?」

明日葉「え、えぇ。そうですけど」

樹「だったら最初は私たちが考案したゲームに勝った人になでなでされる権利を与えるわ!」

いつの間にか八雲先生も乱入してきてる。なんでこの人たちこんなノリノリなの。

ミシェル「ゲームって何するの?」

風蘭「今回アンタたちにやってもらうゲームは!」

樹「あみだくじよ!」

八幡「……そこまで息巻いてあみだくじですか?」

樹「勝負に勝つには幸運の女神に微笑んでもらうことも時には必要よ」

風蘭「そうそう。それに運勝負ならみんな文句は言えないしな」

単純にあなた方2人がこの状況を面白がってるだけじゃないの?

明日葉「先生方がそうおっしゃるなら、まずはあみだくじで選ぶとしよう」

みんな「賛成!」

あれ、おかしいと思ってるの俺だけ?俺が変なの?

などの俺の心の叫びは通じるはずもなく、あっという間に黒板に大きなあみだくじが書きあがり、次々に名前が加えられていく。

樹「さ、全員の名前が書けたわね」

風蘭「今回の当たりは3人だ。さ、誰が当たるかな〜」

先生2人のテンションとは反対に、星守たちは水を打ったように静かになる。

樹「1人目は、蓮華」

蓮華「あら〜、れんげ、先生にお触りされちゃうのね。緊張するわ〜」

風蘭「2人目はひなた!」

ひなた「やったー!いっぱいなでなでしてもらおうっと!」

樹「そして最後3人目は、楓」

楓「ワタクシですの?ま、まさか当選するなんて思ってなかったですから驚きましたわ」

あっという間に3人が選ばれてしまった。他の15人は明らかに落ち込んでいる。
343 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:30:09.78 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!D」


風蘭「じゃ、今からここでなでなでターイム!3人は前に来い」

八幡「ちょ、今この状況でですか?」

樹「だってこうでもしないと比企谷くんなでなでしないでしょ?」

観客の居る前で女の子の頭なでるとか公開処刑ですか?

八幡「あの、みんなの前とか恥ずかしいんですけど」

風蘭「じゃあ2人きりならできるのか?逆にそういうシチュエーションのほうが危ないだろ」

樹「風蘭の言う通りよ。あくまで教育の一環なんだから比企谷くんは堂々となでればいいのよ」

やっぱりこの人たちの考えおかしいと思うんだよな。なに、星守になる人ってみんなどこかおかしい人なの?

風蘭「ほら時間内から始めるぞ〜。まずは誰がしてもらう?」

ひなた「はいはい!ひなたが最初!」

元気に宣言して南が俺の目の前に近寄ってくる。が、俺を見上げるその目はまだまだ幼い。ゆえにあまり緊張しないで済む。最初がこいつでよかった。

八幡「ま、じゃあ……」

俺はゆっくり南の頭をなでる。

ひなた「ひなた、そうされるの気持ち良いんだぁ……えへへ……」

しかしなんだか犬をなでてる感じに思えてきた。気持ちよさそうに目を細めてるあたりマジで犬。

ひなた「八幡くんの手、あったかくて大きいから、だーいすきなんだっ!」

八幡「お、おう。そうか」

俺が少したじろいでいると御剣先生が俺から南を離す。

風蘭「はーい。お時間でーす」

まるでどこかのアイドル握手会の剝がしをする人みたいな対応だ。

ひなた「えー、もう?まぁしょうがないか。八幡くん、ありがとう!」

八幡「……おう」

樹「じゃあ次はどっちがやってもらう?」

楓「で、ではワタクシが……」

今度は千導院らしい。ま、こいつも小町より年下だしなんとかなるだろ。

八幡「ん」

俺が頭を触ると千導院の肩が震えた。

八幡「大丈夫か?」

楓「と、殿方とのスキンシップには慣れていないので……」

八幡「無理しなくていいぞ?」

楓「は、恥ずかしさはありますが……それよりも嬉しさの方が……」

顔を赤らめながら言うあたり本当に恥ずかしいんだろうな。多分俺も同じくらい赤くなってるはず。

風蘭「はーい。時間でーす」

そして例のごとく剥がされていく。

楓「は、はい!先生、ありがとうございました。またお願いいたしますね」

八幡「あ、あぁ」
344 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/28(日) 00:37:57.03 ID:WbCWzppU0
番外編「私たち拗ねてるんです!E」


樹「えー、そしたら最後は」

蓮華「やーっと蓮華の番ね〜。待ちくたびれちゃった〜」

八幡「やめて芹沢さん、いきなり抱きつかないで……」

全部が当たってるけど主にやわらかい2つの凶器がヤバいです。

俺が少し抵抗すると意外にもあっさり腕を振りほどき頭を差し出してくる。

八幡「じゃ、じゃあ、失礼します」

年上の人の頭なでるの初めてだな。緊張する……

蓮華「やあ〜んっ♪そんなの、くすぐったいじゃないですか〜!」

八幡「いやそう言われても……」

蓮華「でも、れんげだって……嬉しいですよ……そうされるの……」

八幡「え」

冗談だよな?冗談だろ?わかってるよ。訓練されたぼっちの俺がそんな言葉に動揺するわけがない。全然余裕。むしろもっとバッチこい。

風蘭「はーい。お時間でーす」

すでに慣れた手つきで御剣先生が芹沢さんを引き離す。何この人。絶対本場で剥がしを経験してるでしょ。

蓮華「ちょっと短かったけど、よかったわ、先生♪」

八幡「はは……」

うらら「むぅ。なんだか3人の見てたらやっぱりうららもなでなでしてもらいたい!」

サドネ「サドネにもして!おにいちゃん!」

八幡「いやもう俺限界だから」

あんこ「だったらまた他のゲームをやるわよ」

望「今度は絶対アタシ勝つんだから!」

ミシェル「ミミだって負けないんだから!」

八幡「だから俺の話を聞けって……」

詩穂「ふふ、でも先生のあの手さばきを見せられたら私たちだってしてもらいたくなっちゃうわよね。花音ちゃん」

花音「ま、まぁあいつ自体にはこれっぽっちも興味なんかないけど、せっかくだから一回くらい体験しといてもいいかもね……」

樹「ふふ、みんなやる気ね」

風蘭「おーし、じゃあ次は星守っぽくイロウス討伐で競うか!ラボに移動だ!」

みんな「おー!」

この日、俺が18人全員の頭をなでるまでこの盛り上がりが収まることはなかった。そして夜に恥ずかしさのあまりリビングでのたうち回っているところを小町に見られ、詳しく事情を説明することになったというのは言うまでもない。

ま、でも悪かったってことはないですね。うん。ていうかむしろずっとドキドキしてました。
345 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/05/28(日) 00:40:46.86 ID:WbCWzppU0
以上で番外編「私たち拗ねてるんです!」終了です。何か月か前に頂いたアイデアをもとに書いてみました。あみだくじの3人は実際やってみて当たった子たちです。本当は全員のなでなで書きたかったんですが、難しかったのでこういう形になってしまいました。
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 01:30:16.24 ID:rhYU3Isio
乙です
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 16:28:14.99 ID:vyQ7tLJqO

アニメも楽しみだけどゲームもこのままがんばってほしいね〜
348 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/05/29(月) 17:24:06.40 ID:kC9v2x230
本編4-4


翌日の放課後。総武高校のダサい蛍光緑のジャージに身を包んだ俺は体操服の星月、成海、若葉とグラウンドにいた。

みき「先生!今日から頑張りましょうね!」

昴「まずはストレッチからです!」

遥香「運動不足の人がいきなり激しい運動をしてもケガをするだけですから」

八幡「 へいへい」

3人はいつものルーティーンになってるのか、特に声をかけあうこともなく開脚を始める。ただでさえ体操服で色々目のやり場に困るのに、目の前で開脚なんて見せられるとドキドキしてしまう。それにしても3人とも柔らかいな。胸までベターッと地面に付いている。

遥香「先生?ちゃんとやってますか?」

八幡「え、お、おう。当然だ」

みき「全然足開いてないじゃないですか!もしかして体固いんですか?」

八幡「まぁな……」

昴「な、なら、アタシが手伝ってあげます!」

そう言うと若葉は俺の後ろに回り背中を押してくる。

みき「先生。足が曲がっちゃってますよ。押さえてあげますね」

遥香「じゃあ私はみきとは反対の足を」

あっという間に女の子3人に体を押さえつけられてしまった。おかげで主に下半身があまりの痛さに悲鳴をあげている。相撲部屋の新入りへの稽古のような状態である。このままだと何か開けてはいけない扉が開いてしまう。

昴「じゃあこれで10秒頑張りましょう!いーち、にー、さーん」

みき「しー、ごー、ろーく」

遥香「しーち、はーち、きゅー」

みき、昴、遥香「じゅう!」

八幡「ぐはっ……」

なんとか10秒耐え抜き、3人は俺を解放する。

遥香「これから毎日お風呂上がりにストレッチしてくださいね」

みき「体が柔らかくなると色々いいことありますから」

昴「じゃあ次のストレッチいきましょう!」

八幡「ちょ、待っ」

俺の嘆きは聞き入れられず、その後しばらくの間徹底的に体を虐められてしまった。もう八幡お嫁にいけない!

遥香「ではそろそろ特訓に入りましょうか」

八幡「もう俺の中では今日の特訓終わってるんだけど」

昴「まだストレッチが終わっただけですよ……」

みき「ほら先生立ってください!」

星月に強引に起こされ、グラウンドのトラックに移動した。

八幡「で、ここで何するの」

遥香「ここではランニングをやります」

みき「じゃあ私と昴ちゃんがまず走って、その後に遥香ちゃんと先生って順番で!」

昴「今日も負けないからねみき!よーいスタート!」

掛け声に合わせて2人は50メートルほどの直線を駆け抜けていく。あれ?なんか2人とも全力じゃね?

八幡「なぁ成海。これってランニングじゃなくてダッシュっていうものじゃないの?」

遥香「……まぁそうとも言えますね。でも私たちはこれをランニングと習ったので」

八幡「お前、わかってて騙したろ」

遥香「ほら先生、昴があっちで手を振ってますよ。私たちも走りましょう。いきますよ?よーいスタート!」

成海は強引に話を打ち切って走り出した。だが、いくら運動不足だとはいえ、年下の女の子にダッシュで負けるのは情けない。ここは本気を出すしかない……!
349 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/01(木) 00:38:24.55 ID:xx58rS780
本編4-5


八幡「はぁっ、はぁっ、なんとか勝った……」

遥香「ふぅ。あと少しだったんですけど、次は負けませんよ」

昴「待ってよ遥香!次はアタシが走る!」

八幡「待て待て、今の俺の状態見たらムリだってわかるだろ?」

昴「これくらいでへばってたらダメですよ先生!」

みき「ゆっくりでもいいですから頑張りましょう!」

そうして3人に励まされつつ、なんとか10分ほど走り終えた。

みき「お疲れ様です、先生!ランニング終了です!」

遥香「頑張りましたね先生」

八幡「終わり?マジ?」

やっと終わった。正直自分の体の鈍り具合にかなりがっかりしてる。ここまで動けなくなってたのか。

昴「明日はもっと激しくいきますから覚悟してくださいね!」

八幡「いや、多分明日は筋肉痛で動けないと思うぞ」

遥香「そうならないために今からストレッチです」

八幡「え?」

みき「また私たちが手伝いますから先生はそこに座って足を広げてください!」

八幡「お、お手柔らかにお願いします……」

遥香「善処します」

ニコッと笑った成海は容赦なく俺の背中をぐいぐい押してくる。星月と若葉もそれに続けと言わんばかりに俺の足を力いっぱい押してくる。運動した後だから余計痛く感じる。

八幡「あぁぁ」

夕焼けで赤く染まった空に俺の叫び声が空しく響いた。

-----------------------------------------

特訓でのダメージが蓄積された重い体を引きずって、なんとか家までたどり着いた。リビングに入ると小町が参考書と格闘していた。

八幡「ただいま」

小町「あ、お兄ちゃんおかえり!ってどうしたの?なんかすごく疲れてない?」

八幡「あぁ。もうお兄ちゃん、燃え尽きちゃったよ」

小町「何があったの?あ、もしかして星守クラスの人と運動したの?」

流石我が妹。見事な洞察力である。

八幡「まぁ、そんなとこだな。俺は嫌だって言ったんだがしつこく誘われたから仕方なくな」

小町「そう言いながら一緒に頑張るお兄ちゃん嫌いじゃないよ?あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい高い高い」

小町「むぅ、適当だな。ところでお兄ちゃん、その星守の人たちとは仲良くなれた?」

八幡「あ?別になってねぇよ。そもそもお互いに体を鍛えることが目的だし」

小町「はぁ、これだからごみいちゃんは。いい?年ごろの女の子がそんな目的だけでわざわざ男の人、ましてや目の腐ってる捻デレお兄ちゃんなんかを誘ったりしないよ?」

八幡「小町ちゃん?さりげなくお兄ちゃんを卑下するのはやめてね?」

小町「とにかく!これはチャンスだよお兄ちゃん!これをきっかけに仲良くなること!いい?」

八幡「いきなりそんなこと言われても困るんだが」

小町「でも交流が終わったら気軽に会うことはできなくなっちゃうよ?今のうちに仲良くなっておかないともったいないよ!小町はお兄ちゃんを心配して言ってるんだからね?あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい。もう俺疲れたから自分の部屋行くわ」

思わずため息が出てしまったが、小町の最後の発言に少し引っ掛かりを覚えた。本来、俺とあいつらは会うはずのない関係だ。なのに交流とか訳のわからない理屈で今はこうして関わりを持っている。

でも、だからって仲良くすることが正しいとは言えない。いつかくる終わりを意識して関係を深めようとするのを果たして仲良くなると言えるのだろうか。そんな関係は得てして時間が経てば消滅していく空虚なものでしかない。これこそまさに俺が嫌ってきた青春そのものじゃないか。だがいつの間にか俺は今の状況を甘受してしてしまっている。当たり前だと思ってしまっている。……俺は、このまま彼女たちと接していいのだろうか。
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 18:39:57.94 ID:6JdLy0bBO
このめんどくさい思考、八幡らしい
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/02(金) 17:26:30.37 ID:Ua2jyrg3o
乙です
352 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/03(土) 00:10:43.30 ID:EzBsCKrq0
番外編「ミシェルの誕生日前編」


暑い。まだ6月になったばかりだというのに最近暑すぎない?汗でシャツもべとべとになるし、不快指数が限界突破しそうだ。こういう日こそ、家から出ずにクーラーや扇風機のある涼しい部屋でのんびり過ごすのが吉。つまり家から出ない専業主夫が最強。

八幡「いたっ」

ミシェル「むみっ」

そんなことを考えながら歩いていると廊下の角で綿木とぶつかってしまった。綿木はぶつかった勢いで転んでしまう。

八幡「悪い、大丈夫か?」

ミシェル「大丈夫〜」

綿木はそう言いながら起き上がり、落としてしまった箱を持ち上げようとするが、なかなか持ち上げられない。中にかなり重いものが入っているようだ。

八幡「手伝う。どこ運べばいいんだ?」

俺がそう言って何箱か取り上げると、綿木は嬉しそうにはにかんだ。

ミシェル「ありがとう先生!じゃあラボまでお願い!」

ラボってことはまた御剣先生か。今度は何をするんだか。

八幡「了解」

こうして俺たち2人がラボまで荷物を運ぶと、予想通り中で御剣先生が何やら機械をいじくっていた。

風蘭「ミシェルありがとう。お、比企谷もいるのか。ちょうどいい。2人ともこっちに来てくれ。発明品の実験に付き合ってほしいんだ」

御剣先生はさっきまでいじっていた銃型の機械を誇らしげに掲げる。

風蘭「今回はミシェルにうってつけの発明だぞ。その名も『ぴょんぴょんドールくん』!」

ネーミングセンスがTo LOVEるのララと同じだった。不良品だって公言してるようなもんだぞ、それ。

風蘭「この『ぴょんぴょんドールくん』から放たれるビームを浴びた人はたちまち体がウサギのぬいぐるみに変化するっていう代物だ。どうだ?すごいだろ?」

ミシェル「すご〜い!御剣先生!ミミをぬいぐるみさんにして!」

八幡「落ち着け綿木。いくらお前がぬいぐるみになりたいからって、この機械だけはやめといたほうがいい」

風蘭「流石ミシェル。そうこなっくちゃな。じゃあいくぞ!スイッチオン!」

止める間もなく御剣先生は引き金を引く。『ぴょんぴょんドールくん』の銃口から放たれたビームはみるみるうちに綿木を包み込む。

ミシェル「む、むみぃぃぃ」

そして一瞬、ぱっと輝いた後、綿木がいた場所には20センチくらいのウサギのぬいぐるみが落ちていた。

風蘭「成功だな。じゃあ比企谷。ミシェルの面倒よろしくな」

八幡「え?」

風蘭「アタシはこう見えても忙しいんだ。1時間くらいでその効果は切れるからそれまでぬいぐるみ持って適当にうろついてくれ。せっかく夢がかなってぬいぐるみになれたんだ。楽しませてあげてくれ。あ、それとそのぬいぐるみ刺激には弱いから気を付けてくれよ」


八幡「……はい」

そうして俺はラボを追い出された。でもどうすればいいの?まずぬいぐるみ持ってる時点でめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。

八幡「なぁ、どこ行けばいいの?」

ぬいぐるみに聞いてみるものの、当然反応はない。当たり前だわな。

八幡「とりあえず教室でも行くか」

幸い、教室には俺たち以外誰もいなかった。このまま手に持ってるのもあれだなぁ。ひとまず綿木の机に置くか。

八幡「おう、どうだ?ぬいぐるみになって眺める教室は?」

多分、むみぃ!面白い!とか思ってるんだろうな。

八幡「ぬいぐるみの生徒ができるなんて、変なことも起こるもんだな」

樹「何やってるの比企谷くん……」

声がした方を見てみると、いつのまにか扉が開いてて、八雲先生がドン引きした顔でこっちを見ていた。

八幡「あ、」

樹「ご、ごめんなさいね、邪魔しちゃったかしら」

そう言い残すと八雲先生は教室から走り去ってしまった。
353 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/03(土) 00:11:33.49 ID:EzBsCKrq0
番外編「ミシェルの誕生日後編」


まずい。このままだと「放課後の教室でぬいぐるみに話しかけるキモい男子高校生」というレッテルを貼られてしまう。そうなったら俺の人生は終了だ。安西先生でも諦めるに違いない。

俺はぬいぐるみを放置し、八雲先生を追いかけた。

八幡「八雲先生!」

樹「ひ、比企谷くん?あ、安心して?さっきの見た光景は誰にも言わないから。たとえ比企谷くんが放課後に誰もいない教室でウサギのぬいぐるみに話しかけるちょっとおかしな人だとしても私は引かないから」

八幡「めっちゃ引いてるじゃないですか。てか、あれには深い事情があって……」

事の顛末を話し終えると、八雲先生は呆れたように頭を抱えてしまった。

樹「なるほど、そういうことだったの。ごめんね勘違いしちゃって。それにしても風蘭には困ったものね。後で注意しておかなくちゃ」

八幡「いえ、では失礼します」

ふぅ、なんとか俺の面目は保たれた。危うく社会的に死ぬところだった。さ、ぬいぐるみを回収しに行くか。

余裕綽々で教室に戻ってみたら、さっきまであったはずのぬいぐるみがなくなっていた。あれ、なんで?

楓「先生?どうなさったのですか?」

教室中を捜索していると部活終わりだろう千導院に声をかけられた。

八幡「な、なぁ。あそこに置いてあったウサギのぬいぐるみ知らないか?」

楓「あぁ、それでしたらミミの忘れ物だと思いまして、さっき手芸部に渡してきましたわ」

なん、だと。もうそろそろ効果が切れるころだ。早く回収しに行かないと大変なことになりかねない。

八幡「わかった。サンキュ」

俺はすぐ手芸部の部室に走り出した。途中千導院が何か言ってた気がするが構ってる時間はない。

八幡「はぁはぁ。ここか。すみません、失礼します」

部室に入ると何人かの部員らしき子たちが机に置いてあるウサギのぬいぐるみを興味深そうに眺めている。すぐに1人の子が俺に気づいて不審者を見るような目つきで睨んでくる。

部員A「あなた誰ですか?」

八幡「あー、俺は星守クラスに交流で来てる比企谷だ。ちょっとそのぬいぐるみ渡してもらっていいか?」

部員B「えー、これミミちゃんのだって星守クラスの子に言われましたよ」

八幡「あぁ、だから俺が返しとくから渡してくれない?」

部員C「待ってください!このぬいぐるみ本当によくできてるから構造だけでも確認させてください」

そう言うと部員たちはぬいぐるみを押したり引っ張ったりし始めた。

部員C「これどうやってできてるんだろ〜」

部員B「あれ?なんかぬいぐるみ光ってない?」

そういえば刺激に弱いって言われてたっけ。あれ、そしたらこの状況非常にまずくない?

八幡「やばい!」

俺はぬいぐるみを強引にひったくり、ラボに向かって全力疾走を始めた。

走っているとぬいぐるみからの光がどんどん増してくる。なんとかラボまで間に合ってくれ……

八幡「着いた!」

そうして俺がラボのドアに手をかけた瞬間、ぬいぐるみが手の中から滑り落ちてしまった。倒れこみながら必死に手を伸ばしてキャッチするが、その握力が刺激になったのかぬいぐるみがぱっと輝いた。余りの眩しさに目がくらむ。

少したってから目を開けると、ぬいぐるみは消えていた。代わりにうつ伏せに倒れた俺の体の下に綿木がすっぽり収まっていた。俗にいう「床ドン」の体勢である。

ミシェル「先生ありがと!ミミ、ぬいぐるみになって先生と一緒にいれて楽しかったよ!手芸部で体いじられたときとか、先生に掴まれたときはびくってなったけど……」

八幡「それは、悪かった。俺が目を離さなきゃそんなことには、」

ミシェル「だからね!だから、また今度、ちゃんとぬいぐるみのミミをエスコートしてね?」

そうやって小動物みたいに涙目で言うのは反則じゃないですか?それに俺の体の下から出ようともしないし。そんな風に言われたら無下にできるわけないじゃないですか。

つか、これ以上こんな体勢でいたらやばい。俺は立ち上り、まだ地面に寝ている綿木に向かって手を伸ばしながら答えた。

八幡「……ま、気が向いたらな」
354 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/06/03(土) 00:19:13.22 ID:EzBsCKrq0
以上で番外編「ミシェルの誕生日」終了です。ミミお誕生日おめでとう!できれば八幡にも「むみぃ」を言わせたかったんですが無理でした。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/03(土) 18:57:11.47 ID:lbkVnDkDo
乙です
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/05(月) 01:59:19.16 ID:tVkrcOWV0
八幡「むみぃ…」

……ありだな!
357 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/06(火) 17:04:22.49 ID:CL1oron80
本編4-6


特訓が始まってから数日経った。未だ俺の中で彼女たちへの接し方の答えは見つかっていない。

だが相変わらず交流は続き、放課後特訓もだんだんその強度を増してきて、ランニングの他に素振りとダンスをこなした。

そして今日。本来休日であるはずなのに当然のごとく3人に呼び出された。断ることもできず、着替えを済ませグラウンドに向かうと、既に3人が固まって喋っていた。成海がいち早く俺に気づき手を振ってくる。

遥香「先生!こっちですよ」

八幡「お前ら早くね?」

昴「アタシたち、先生と特訓するのが待ちきれないんですよ!」

落ち着け俺。こんなのいつも言われてるだろ。いつも通り、いつも通りの反応だ。

八幡「……そうか」

みき「……」

なぜか星月が黙って俺のことをじっと見つめている。

八幡「なんだよ」

みき「え?いえ、何でもないです!」

昴「じゃ、じゃあ早速始めますか!」

遥香「そうね、7時間もやるわけだし」

八幡「は?何時間だって?」

聞き間違いであることを願って若葉に問いかけるが、無慈悲な笑顔で一蹴される。

昴「7時間です!」

八幡「そんなに長い時間跳ばなきゃならないのか?」

遥香「そうしないと特訓になりませんから」

特訓と言うより最早拷問だった。ここだけ昭和なの?今どきスポ根は流行らないと思うよ?

なども心の中で文句を垂れてもどうしようもないので、俺は落ちている縄跳びを拾う。その光景を見て3人は驚いた表情を見せる。

八幡「なに」

遥香「いえ、先生が自分から縄跳びを拾ったのが意外だったので」

八幡「そうか?」

昴「いつもよくわからない理屈をこねてサボろうとするじゃないですか」

八幡「人をサボリ魔みたいに言うのやめろ。案外俺は真面目なんだぞ?宿題は自分でやるし、仕事なら嫌なことでもこなすし、小6レベルなら家事全般できる。もはや俺の人間力はエベレスト並に高い領域にあるわけだ。だから逆説的に、俺に人が寄り付かないまである。孤高な存在ゆえにな」

俺の力説に3人は素で困惑した表情をしている。

遥香「いつも以上に何を言っているかわからないです、先生……」

昴「アタシも……で、でも先生にやる気が出てきてよかったね、みき」

みき「うん。そうだね……」

そう答える星月の声は幾分か小さい。朝に変なものでも食ったか?

遥香「みき?どうしたの?」

みき「なんでもないよ。さ、今日も特訓頑張ろう!おー!」

遥香、昴「お、おー」

星月の気合につられ、2人もぎこちなく腕を上に伸ばした。

みき「ほら先生も。おー!」

八幡「……おー」

……なにこのグダグダな雰囲気。ま、いつも通りと言われればいつも通りか。じゃあ何も問題ないな。何も問題ない。
358 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/09(金) 18:41:01.61 ID:C9cDcFgo0
本編4-7


八幡「はぁ、はぁ」

一体、何時間こうして俺はなわとびを跳んでんのかなぁ。かよちんでもこんなに跳ばないっての。

昴「ほら見て遥香!三重跳び!」

遥香「さすが昴ね。私もはやぶさ跳んじゃおうかしら」

右にはいつもより若干テンションが高めな若葉と成海。多分ちょっと調子が良いんだろう。

みき「ふぅ、ふぅ」

左にはいつもより若干テンションが低めな星月。多分ちょっと調子が悪いんだろう。

みき「いたっ」

俺に見られてるのを気にしたのか星月は縄につまづいてしまう。他の2人もそれに気付いて縄を回す手を止める。

昴「休憩にする?みき?」

遥香「そろそろお昼ご飯の時間だしね。お腹減ったわ」

昴「遥香はいつもでしょ?」

遥香「そんなこと、ないわよ」

昴「目そらしながら言ったってバレバレだよ〜」

みき「あはは……うん。お昼にしようか。実は私、今朝みんなの分のお弁当作ってきたんだ」

刹那、若葉の顔から血の気が引いた。元凶は今でもなく、星月からの遠慮がちな、でもはっきり聞こえた「お弁当」の単語。

昴「で、でもアタシ自分の分のお弁当持ってきてるんだよなぁ……」

八幡「お、俺も妹が作ってくれた愛兄弁当が」

遥香「私みきの料理大好きだから是非食べたいわ」

成海ぃぃぃ、余計なことを言うなぁぁぁ。巻き込まれる俺らのことも考えてください、お願いします。

みき「じゃ、じゃあはい」

星月が取り出した弁当箱の中に入ってたのは、

八幡「サンドイッチ?」

そう。まぎれもなくサンドイッチだった。星月の料理がこうやって形になってるのを見るのはほぼ初めてだ。まさに奇跡。いつもなら得体の知れない物体Xとかになるはずなのに。俺と同じことを思ってるのか、横で若葉もびっくりしている。

みき「は、はい。全然うまくできなかったんですけど、良かったらどうぞ」

昴「じゃ、じゃあ1つもらおうかな」

八幡「俺も」

タマゴサンドであろうものを一口食べてみる。

八幡「すげぇ。普通のタマゴサンドだ」

昴「アタシのも普通のハムチーズサンドだよ」

見た目が壊れてないだけでも奇跡なのに味も壊れてなかった。ものすごく美味しいわけではないが、ザ・手作りって感じ。

遥香「いつものみき独特の味付けとは違う気がするけど、美味しいわよ」

みき「私の味付けになってない……」

昴「いや、でもこれはこれでいいと思うよ?ね、先生?」

八幡「あ、あぁ、そうだな。いつものよりも王道な手作り料理って感じがするな」

すかさず俺と若葉はフォローを入れた。ここで星月に勘違いされても困る。むしろこのままの方向性で料理のスキルアップを図ってもらいたいところだ。何があったかは知らんが、今までとは比べ物にならないほど改善されてるんだから、これに乗らない手はない。

みき「そうですか……」

そう言って星月はまだサンドイッチが残ってる弁当箱を閉じる。

八幡「どうした?」

だが星月は俺の声に反応せず、俯きながら弁当箱を持つ手を震わしている。
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/06/09(金) 23:45:43.64 ID:b640l3XDO
ポイズンクッキング三時間殺しかな?
360 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/11(日) 22:47:59.34 ID:oP2TgmX+0
本編4-8


みき「……です」

八幡「え?」

みき「みんな私に優しすぎるんです!」

八幡「何言ってんだお前?」

みき「だってそうじゃないですか。サンドイッチだって明らかに失敗作なのに美味しい美味しいって食べてくれて」

昴「いや、あれは実際いつもの数百倍は美味しかったんだけど……」

みき「でも遥香ちゃんは私の味付けになってないって言ってた」

遥香「確かにそうは言ったけど、今日のもとても美味しかったわよ?」

みき「またそうやって優しくする!私はみんなにもっと正直に言ってほしいの!」

八幡「落ち着け星月。どうしたんだ突然」

みき「そもそも先生が悪いんです!」

八幡「俺が何かしたか?」

みき「先生、ここ最近ずっと上の空でしたよね?私たちと特訓を始めたときから、毎日。私ずっとそれが気になってたんです」

八幡「……」

みき「ほら否定しないじゃないですか」

昴「みき。ちょっと冷静に」

みき「昴ちゃんも気づいてたよね?先生の私たちへの接し方がいつもと違うって」

昴「そ、それは……」

遥香「実は、私も気づいてた。でも、なんで先生がそうなっちゃったのかわからなかった。私たちに原因があるんじゃないかって色々考えたりしたけど」

八幡「そんなことはない。お前たちは、悪くない」

みき「じゃあどうしてですか?どうしていつもの先生じゃなくなっちゃったんですか?」

星月は目に涙を浮かべながら追及してくる。若葉も成海も目を赤くして俺の言葉を待っている。

だが、俺はその疑問に答えることはできない。悪いのは俺だ。彼女たちには一切非はない。ならば彼女たちに背負わなくていい重荷をわざわざ与える必要なんてない。俺自身の問題は、俺自身で解決するべきだ。

八幡「……なんもねぇよ。別にいつもと変わらねぇ」

みき「嘘です」

昴「先生、話してください」

遥香「私たち、なんでも協力しますから」

八幡「なんもねぇって言ってんだろ」

つい口調が荒くなってしまった。だが口は止まってくれない。

八幡「お前らいつから俺の親友になったんだ?曲がりなりにも俺は先生としてここに来てるんだぞ?それを考慮に入れてもそもそも俺が今、この場にいる必然性はないし、俺の話をお前らにする義務もない、だから」

違う、こんなことを言いたかったんじゃない。いつもならもっとうまく言いくるめることができた。いや、それ以前に考えもしないことで悩んで、八つ当たりしてしまっている。

八幡「俺に、かまうな」

俺の言葉に誰も反応しない。誰も言葉を発しないまま、重苦しい雰囲気が俺たちを包み込む。

みき「……わかりました。それが、先生の本心なんですね」

それからどのくらい時間が経ったのだろうか。星月は小さくそうつぶやくと弁当箱も持たず、グラウンドを後にする。

昴「みき!待ってよ!」

若葉は俺を見向きもせず、星月の後を走って追いかけ、

遥香「……最低です」

成海は強烈な一言を言い放って2人を追いかけていった。

グラウンドに残ってるのは放置されたなわとびと弁当箱、そして俺。はっ、そうだよ。こういう状況こそぼっちマイスターな俺にふさわしい。だけど最近は交流とか言って女子校に来られて、だいぶ調子に乗ってたらしい。まぁ、いい薬になったわ。これからはまたもとのぼっち生活が始まるわけだ。彼女たちとも接しなくてすむし、余計な悩みも生まれないし、これにて一件落着。

だけど俺はしばらくグラウンドから一歩も動くことができず、その場で立ちつくしていた。
361 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/13(火) 20:58:25.04 ID:I76UsQrX0
本編4-9


星月たちと喧嘩別れした次の日の月曜日、俺は校門で朝の挨拶兼、登校時の服装チェックなることをやらされていた。

なんで俺が月曜の朝からこんなことをしなくちゃならんのだ。そもそもこの学校に校則とかあったっけ?けっこうみんな自由な服装してる気がするんだが。

八幡「はぁ、だるい。帰りたい……」

「先生が朝からそんなこと言ってていいのかなぁ?」

声がした方を見るや否やバッグが腹に直撃した。

望「おっはよ!先生!」

ゆり「こら望!先生に何やってるんだ!」

くるみ「先生、大丈夫?」

お腹をさすりながら顔を上げると天野、火向井、常磐の3人が周りを囲んでいた。

八幡「……あぁ」

ゆり「先生どうされたんですか?顔色よくないですよ?」

八幡「別にいつも通りだろ」

くるみ「でも目つきがいつもより暗い感じがする」

望「ほんとだ。クマもひどいよ?保健室行く?」

八幡「なんもねえって」

みき「望先輩、ゆり先輩、くるみ先輩、おはようございます!」

俺が3人を振りほどこうとした時、星月がこっちに向かって歩いてきた。だがその目線は俺のことを捉えようとはしていない。

望「おはよー!てか見てよみき。先生のクマひどくない?」

八幡「だからこれくらい大丈夫だって」

ゆり「でも心配だから保健室に連れて行こうと思うんだが、手伝ってくれるか?」

星月は一瞬苦し気な表情をしたが、すぐに笑顔になって話し出した。

みき「……先生が大丈夫だって言うなら大丈夫なんじゃないですか?」

くるみ「みきさん?」

みき「別に先生も子どもじゃないですし、私たちがそこまで先生に踏み込んでいく必要もないと思いますよ?」

望、ゆり、くるみ「……」

星月に諭された3人は茫然としている。多分、星月は自分達の味方をしてくれると思ってたんだろう。その予想が見事に裏切られたわけだ。

みき「あ、そろそろ教室に行かないとチャイム鳴っちゃいますよ?」

ゆり「え、あ、あぁ。そうだな。遅刻をしていてはダメだな。なぁ望?」

望「う、うん、そうだよね。早く教室行かなきゃ。ね、くるみ?」

くるみ「え、えぇ」

みき「じゃあ4人で昇降口まで競走しましょう!よーいドン!」

そう言うと星月は俺に背を向けて走り出した。天野たちも少し遅れて星月を追っていった。

八幡「……なんだあいつ」

遥香「みき、大丈夫かしら」

背後の声に気づいて振り返ってみると、俺と目が合って不機嫌そうになる成海と、それを見て心配そうな若葉が立っていた。

遥香「ま、先生には関係のないことですよね」

そう冷たく言うと成海はさっさと昇降口へ向かってしまう。

昴「せ、先生、あの、その、」

八幡「チャイム、もうすぐ鳴るからお前も教室行け」

昴「……はい」

俺が強引に若葉の言葉を遮ると、若葉はそれ以上何も言わず昇降口に寂しげに歩いていった。
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/15(木) 11:51:13.53 ID:fv3Zqu3xo
乙です
363 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/16(金) 22:38:06.47 ID:PvR04w9Y0
本編4-10


八幡「ただいま……」

小町「あれ?お兄ちゃん?帰ってくるの早すぎない?もしかして先生クビになった?」

八幡「そんなわけないだろ。今日は特訓なかったんだよ」

放課後にチラッとグラウンドを覗いてみたが、いつもはチャイムが鳴ると同時に飛び出していた3人の姿はなかった。ま、昨日、今朝の態度から考えても当たり前か。

小町「ふーん、そっか。じゃあせっかく早く帰ってきたんだから部屋の掃除しちゃってよね。お兄ちゃんの部屋、物が散乱してて掃除機かけられないから」

八幡「ん、了解」

俺の返事を聞いて小町が俺の顔を不思議そうに見つめてくる。

小町「……どうしたの、お兄ちゃん?」

八幡「なにが」

小町「いや、なんか口数少なくない?いつもなら今日あったことを小町が聞かなくてもベラベラ喋るじゃん。まぁ、9割方愚痴だけど」

八幡「……そうか?別になんもねぇよ。部屋片付けてくるわ」

これ以上小町と話していたら色々問いただされることになるだろう。俺はさっさと部屋に逃げ込むことにした。

八幡「うん、確かに汚いな」

ここ最近、部屋に入ったら即就寝、起きたら即着替えて出勤、の生活だったからか部屋の中はかなりごちゃごちゃしている。足の踏み場もない、ってわけではないが、毎日使うベッド以外はけっこうひどい状態だ。

八幡「はぁ」

仕方ないし片付けるか。むしろ何かしてたほうが気が紛れていいかもしれない。まずは散らばってる服を集めて、と。パンツと下着は下の棚で、ジャージは上の棚。

……そういえば、特訓始めてからジャージとか着るようになったな。神樹ヶ峰に行くようになってからずっとスーツで、体育もやらなかったからなぁ。特訓やってるときはけっこうキツかったけど、運動して汗かくのは案外悪くなかった……

っていきなり考えちゃいけないこと考えちゃってるじゃん。バカなのか俺は……。気を取り直して次は特に汚い机の上の整理をするか。いらないプリントは捨てて、文房具は引き出しにしまって。ん、なんだこの写真の束。……そうか、俺はハーミットパープルのスタンド能力に目覚めたのか。ならいったい何が念写されているんだろうか。戸塚の背中のあざとか写ってねぇかな。

八幡「あっ……」

間違いない。俺が神樹ヶ峰に来た日の写真だ。確か初めは八雲先生が撮影係をしてくれてたはずだが、途中からそんなことおかまいなしにみんな撮りまくってたっけ。そのせいで後日、何百枚っていう写真を渡されたときはびっくりしたわ。

八幡「……」

今の心持ちで見たらいけないことはわかってる。でも写真をめくる手が止まらない。俺がチャーハン食ってる姿を隠し撮りされた写真。中学生組に纏わりつかれて撮った写真。年上お姉さん方に絡まれて撮った写真。せっかくだからと同い年で撮った写真。なぜかものすごくはしゃいでた先生たちと撮った写真。

どの写真でもみんな心から楽しそうに笑っている。チャーハンパーティーの時はもれなくずっと誰かに絡まれていた気がする。この前に大型イロウス相手に星月と死にそうになりながら戦ってたってのに。

……思えば最初に会った時からみんな俺に積極的に絡んできてくれたな。星月なんかは、特に。

そう思いながら写真をめくっていると星月、成海、若葉と4人で撮った写真が一番上に来た。3人は笑いながら中央の俺を見ていて、そんな俺はきまり悪そうにカメラを見ている。でも、こうして見ると、今までの俺史上で最もまともに写っていると言ってもいい写真だ。よくある修学旅行の後に貼り出される写真とか、まず俺が写ってるのが存在しているのかどうか怪しいレベル。なんとか1枚見つけても俺の目が腐りすぎてて、親に「あんたもう少しまともに写ってるのないの?」と言われる始末。

俺、なんでこんなにちゃんと写ってるんだろう。いや、変に写りたいとかではないが、いつもの俺ならもっと目を腐らせていてもおかしくないはず。

小町「お兄ちゃーん!お風呂湧いたよー!部屋片付けたら入っちゃってー!」

おそらくリビングからだろう、小町の声が響いた。

八幡「へーい」

ま、そこそこ綺麗になったし、ちゃちゃっと入ってきますか。

俺は写真の束を引き出しの奥にしまってから風呂場に移動し、服を脱いで洗濯機に放り込む。浴室に入り、椅子に座ってふと顔を上げると鏡に自分の顔が映っていた。

八幡「え……」

その顔は、これまで見た中でも指折りのひどい顔だった。特に目の腐り方が半端ない。今時ハリウッドでもここまでしないだろうってレベル。そして脳裏にはさっき見た写真の中の自分の顔がちらつく。

八幡「……っ」

俺は脳内イメージをかき消すように力ずくで頭を洗った。泡を落として顔を上げると、もう鏡は湯気で曇ってて俺の顔はそこには映っていない。

八幡「ふぅ……」

結局俺は一度も鏡の曇りをとることなく、いつもより幾分か早く浴室をでた。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/17(土) 07:33:39.55 ID:Py0Igk4b0
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365 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/18(日) 22:22:46.82 ID:RbosLVBr0
本編4-11


それからの数日は、朝のHRを必要最低限で終わらせ、授業を適当に受け、放課後は少し雑務をして終わり次第すぐに帰るという無味乾燥の日々を過ごしていた。神樹ヶ峰に来た当初から待ち望んでいた平穏な生活を俺は手に入れたはずなのに、心は晴れるどころか暗鬱さに拍車がかかっている。そのせいで、放課後に廊下を歩く足取りも重い。

風蘭「おう、比企谷」

前方からいつもの白衣を着た御剣先生に遭遇した。

八幡「なんですか御剣先生」

風蘭「今手空いてるか?空いてるよな?ちょっと資料整理手伝ってくれ」

八幡「いや、俺は……」

風蘭「いいから手伝え」

いつもの感じとは違う、鋭い目つきとはっきりとした口調だ。そんな風に言われたら怖いんですけど。怖くて断れないんですけど。

八幡「はい……」

風蘭「よーし、じゃあラボに行くぞ〜」

御剣先生は俺の返事を受けると打って変わっていつもの顔つきになって、さっさとラボに歩いていった。

---------------------------------

ラボに着くと、パソコンの周りに無数の紙が山となって積まれていた。

風蘭「この資料をパソコンに打ち込んで欲しいんだ。アタシはこっちの山から片付けるから比企谷はそっちの山を頼む」

八幡「……俺の持分のほうが明らかに多くないですか?」

風蘭「何言ってるんだ。アタシはこれ以外にもやらなきゃいけない仕事が残ってるんだよ。手伝うだけありがたいと思え」

いつの間にか俺が御剣先生に手伝ってもらってることになってましたー。

八幡「はい……」

この人相手にはどんな文句、言い訳、その他論理も意味をなさない。黙って機械のように指示されたことをこなすことだけが残された道。だから俺は抵抗を止め、紙の山に手を付けた。

八幡「つかこれなんの資料ですか?」

風蘭「あぁ、そっちの山のは星守たちの訓練データだ。紙に書いてある数値をデスクトップの左上の方の「星守特訓」のExcelに打ち込んでくれ」

八幡「はぁ、でもなんでこんなに溜まってるんですか」

風蘭「いや、最近アンタがみきたちと特訓をやってただろ?だから今まで押しつけてた仕事もアタシがやらなくちゃいけなくて、後回しにしてたんだ。それが昨日樹にバレて、めちゃくちゃ怒られた……」

八幡「なるほど……」

まぁ、俺が手伝わなくなった故に溜まった仕事なら、俺がその後処理をやらされるのは筋が通ってるようにも見える。でも御剣先生は俺がこの学校に来る前はどうやって仕事をこなしていたのだろうか。多分、なんだかんだ八雲先生が手伝ったのだろう。この2人、すごい仲良いしな。

風蘭「ほら比企谷、手が止まってるぞ。早く打ち込め」

八幡「は、はい」

おっと、注意されてしまった。ぼちぼちやらないと解放してもらえなさそうだな。えーと、これは、星月たち高1の特訓データか。2週間前から打ち込まれていないから、そこまでデータを遡ってっと。ほう。やっぱり徐々にではあるがシミュレーションでのイロウス撃破数が伸びてるんだな。他の学年に比べても最近の伸び率には目を見張るものがある。

八幡「ん?」

おかしい。今週に入ってから3人の記録が伸びていない。それどころか急激に下がっている。見間違えかと思い、書類の数値と照らし合わせても、やっぱり数値に誤差はない。他の生徒の成績も、今週に入って伸び悩んでいる人がほとんどで、何人かはほんの少し記録を下げているのもあった。

八幡「これって……」

風蘭「気づいたか?」

いつの間にか御剣先生が俺の左真横に座って、俺が作業しているパソコンの画面を見ながらつぶやいていた。

風蘭「今週に入ってから星守たちの動きに迷いが生じている。数人なんかじゃなく、全員の動きにだ。このまま放っておいていい状況じゃあない。特に、みき、遥香、昴の3人は深刻だ。そう思うだろ?」

八幡「……まぁ、そうですけど」

風蘭「……ホントはアタシがこうやってとやかく言うような役は似合わないんだ。でも今回は事情が違う。それはアンタが1番よくわかってるはずだ」

八幡「だからって俺にどうしろと……」

風蘭「そんなことアタシにはわからないよ。それに、こういうことを話すのはアタシとじゃなくてあいつらと、だろ?」

そう言って御剣先生が顔を向けた先には、星月、成海、若葉が立っていた。

風蘭「ほら!男らしく、けじめをつけてこい」

俺は御剣先生に思いっきり背中を叩かれて、椅子を立ち上がった。
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/19(月) 09:51:46.56 ID:b4UVd9Kio
乙です
367 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/21(水) 23:45:08.80 ID:1sHP3UWw0
本編4-12


八幡「……」

みき「……」

遥香「……」

昴「……」

誰も一言も話さない。俺が立ち上がった意味は何。沈黙は嫌いじゃないけど、こういうのは別です。俺にはどうしようもできません。誰かこの雰囲気誰かどうにかしてください。

風蘭「あー、そういやアタシ樹に呼び出されてたんだっけなぁー。早く職員室行かないとなぁー。そういうことだからアンタたちでここ自由に使ってていいから。比企谷、飲み物とお菓子でも出してやれ。じゃな」

そうして御剣先生は逃げるようにそそくさとラボを出ていく。……後は俺たちでどうにかしろってことですか。気遣いの仕方がわかりやすいですよ、御剣先生。

八幡「……とりあえず座れよ。今飲み物持ってくる」

昴「わ、わかりました」

遥香「……はい」

みき「……」

まさかこの場面でいつも御剣先生にお茶を出してる経験が生きてくるとは思わなかった。これからはもう少し御剣先生に優しくしよう。

だけど今はそんなこと考えてる場合ではない。この状況をどう打開する方法を見つけないと。このままだと1対3で確実に俺が負ける。いや、別に戦ってるわけではないけど。つか、あいつらこそ何をしにここに来たんだ?もう数日ろくに話してないし、とうとう決定的に絶縁を言い渡されるのか?あぁ。戻りたくねぇな。でも行かないとダメだよなぁ。待たせたらまたそれで何か言われそうだし。

八幡「お待たせ。冷蔵庫にあったのを適当に持ってきたから好きなの選んでくれ」

俺は目の前のブラックコーヒーに手を伸ばしながら声をかける。

遥香「ありがとうございます。私もコーヒーいただきます」

昴「アタシお茶。みきどれにする?」

みき「……じゃあリンゴジュース」

俺たち4人はとりあえず飲み物を啜りながら、誰が口火を切るかお互い目だけで確認する。すると意外にも成海がカップの中のコーヒーを一気に飲み干すと、俺の顔を真正面から見つめてきた。

遥香「先生。この前はすみませんでした」

成海は机に額がつくほど深く頭を下げた。

八幡「顔上げてくれ成海。なんでお前が俺に謝るんだ」

遥香「この前の特訓のとき、私が『最低』なんて言ってたことを謝ってるんです。先生のこと、傷つけてしまいました」

八幡「別に俺は傷ついてはない、わけじゃないが、正直ちょっと傷ついたが、それでも俺はお前に謝まる必要はない。俺の方こそ、お前らの気持ちも考えずひどいこと言った。すまなかった」

俺は成海と同じように、頭を下げた。

遥香「顔を上げてください。先生」

久しぶりに聞く、成海の温かな声を聞いて俺はゆっくり顔を上げる。

遥香「私は、今の先生の言葉を聞けてひとまず満足です」

成海はいつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。この表情も久しぶりに見る気がする。

八幡「……そうか」

昴「つ、次はアタシです。先生、最近アタシたちの成績が悪くてすみません」

若葉も頭を下げる。

八幡「それについても、若葉が謝ることじゃないだろ。あの日の特訓以来の俺の態度が原因だ。俺こそ、余計なことで気を煩わせてすまなかった」

今度は若葉に向かって頭を下げる。

昴「や、やめてください先生!そういうことも含めて、もっとアタシたちが強くならなきゃいけないんです。でも、先生にそう言ってもらえて気が楽になりました。これからはもっと頑張ります!」

若葉はいつもの、いやいつも以上に元気な笑顔でそう宣言した。しかし、その後、また場に沈黙が流れる。未だ、星月は顔を俯かせたままでどんな表情をしているか向かいに座る俺からは判断できない。だが星月を真ん中に、両脇に座る成海と若葉は星月の肩にそっと手を置いて星月に囁くように声をかける。

遥香「さ、あとはみきだけよ」

昴「大丈夫。アタシたちもここにいる。ちゃんと自分の気持ちを伝えよ?」
368 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/21(水) 23:46:39.80 ID:1sHP3UWw0
本編4-12


八幡「……」

みき「……」

遥香「……」

昴「……」

誰も一言も話さない。俺が立ち上がった意味は何。沈黙は嫌いじゃないけど、こういうのは別です。俺にはどうしようもできません。誰かこの雰囲気誰かどうにかしてください。

風蘭「あー、そういやアタシ樹に呼び出されてたんだっけなぁー。早く職員室行かないとなぁー。そういうことだからアンタたちでここ自由に使ってていいから。比企谷、飲み物とお菓子でも出してやれ。じゃな」

そうして御剣先生は逃げるようにそそくさとラボを出ていく。……後は俺たちでどうにかしろってことですか。気遣いの仕方がわかりやすいですよ、御剣先生。

八幡「……とりあえず座れよ。今飲み物持ってくる」

昴「わ、わかりました」

遥香「……はい」

みき「……」

まさかこの場面でいつも御剣先生にお茶を出してる経験が生きてくるとは思わなかった。これからはもう少し御剣先生に優しくしよう。

だけど今はそんなこと考えてる場合ではない。この状況をどう打開する方法を見つけないと。このままだと1対3で確実に俺が負ける。いや、別に戦ってるわけではないけど。つか、あいつらこそ何をしにここに来たんだ?もう数日ろくに話してないし、とうとう決定的に絶縁を言い渡されるのか?あぁ。戻りたくねぇな。でも行かないとダメだよなぁ。待たせたらまたそれで何か言われそうだし。

八幡「お待たせ。冷蔵庫にあったのを適当に持ってきたから好きなの選んでくれ」

俺は目の前のブラックコーヒーに手を伸ばしながら声をかける。

遥香「ありがとうございます。私もコーヒーいただきます」

昴「アタシお茶。みきどれにする?」

みき「……じゃあリンゴジュース」

俺たち4人はとりあえず飲み物を啜りながら、誰が口火を切るかお互い目だけで確認する。すると意外にも成海がカップの中のコーヒーを一気に飲み干すと、俺の顔を真正面から見つめてきた。

遥香「先生。この前はすみませんでした」

成海は机に額がつくほど深く頭を下げた。

八幡「顔上げてくれ成海。なんでお前が俺に謝るんだ」

遥香「この前の特訓のとき、私が『最低』なんて言ってたことを謝ってるんです。先生のこと、傷つけてしまいました」

八幡「別に俺は傷ついてはない、わけじゃないが、正直ちょっと傷ついたが、それでも俺はお前に謝まる必要はない。俺の方こそ、お前らの気持ちも考えずひどいこと言った。すまなかった」

俺は成海と同じように、頭を下げた。

遥香「顔を上げてください。先生」

久しぶりに聞く、成海の温かな声を聞いて俺はゆっくり顔を上げる。

遥香「私は、今の先生の言葉を聞けてひとまず満足です」

成海はいつもの柔らかい笑顔を浮かべていた。この表情も久しぶりに見る気がする。

八幡「……そうか」

昴「つ、次はアタシです。先生、最近アタシたちの成績が悪くてすみません」

若葉も頭を下げる。

八幡「それについても、若葉が謝ることじゃないだろ。あの日の特訓以来の俺の態度が原因だ。俺こそ、余計なことで気を煩わせてすまなかった」

今度は若葉に向かって頭を下げる。

昴「や、やめてください先生!そういうことも含めて、もっとアタシたちが強くならなきゃいけないんです。でも、先生にそう言ってもらえて気が楽になりました。これからはもっと頑張ります!」

若葉はいつもの、いやいつも以上に元気な笑顔でそう宣言した。しかし、その後、また場に沈黙が流れる。未だ、星月は顔を俯かせたままでどんな表情をしているか向かいに座る俺からは判断できない。だが星月を真ん中に、両脇に座る成海と若葉は星月の肩にそっと手を置いて星月に囁くように声をかける。

遥香「さ、あとはみきだけよ」

昴「大丈夫。アタシたちもここにいる。ちゃんと自分の気持ちを伝えよ?」
369 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/06/21(水) 23:51:17.75 ID:1sHP3UWw0
すいません。間違えて2回同じものを投稿してしまいました。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 04:01:32.24 ID:kyHFvNSSO

気にせんでええで
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 14:43:46.88 ID:qw64p78Oo
乙です
372 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/24(土) 17:54:51.37 ID:P990LI0n0
本編4-13


星月は顔を上げずにぽつぽつと言葉を紡ぎ出す。

みき「……私、悲しいんですよ?」

八幡「……あぁ」

みき「……私、怒ってるんですよ?」

八幡「……あぁ」

みき「それをわかってて、ああいう態度をとってたんですか?」

八幡「……すまん」

まるで一番始めに戻ったかのような受け答えだ。あの頃と今とで、俺は何か変わったのだろうか。……いや、人間そう簡単に変わらないっていうのは俺が常々思ってたことじゃないか。どんなとこに来たって、どんなことをしたって、俺は、俺でしかない。

みき「そんな風に言われても、私引き下がれません」

星月は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら必死な形相で体を投げ出して迫って来た。そして次には小さい子を慰めるかのように語り出す。

みき「……話して、くれませんか?」

八幡「それは……」

みき「私たちじゃダメなんですか?」

八幡「そういうことじゃない。この前も言っただろ。これは俺自身の問題だ。だから、俺が解決しなきゃいけないんだ。わざわざお前らに話すようなことじゃない」

みき「……わかりました」

観念したのか、星月は姿勢をもとに戻す。なんとか諦めてくれたようだ。よかった。

八幡「そうか。ならこの話は、」

みき「先生の話を聞くまで、私先生から離れません」

突然のトンデモ発言に思わず耳を疑った。

八幡「ちょ、ちょっと待て。なんでそういう結論になるんだ」

みき「だって先生、話したくないんですよね?優しい先生の事だから、私たちの負担になることはしなさそうですから」

八幡「……」

みき「先生は話したくない。でも私は聞きたい。そして知りたい。だったら、踏み込んでいくしかないじゃないですか。今までよりも、もっと」

星月の言葉に両脇の二人も顔を見合わせて頷く。

昴「うん、アタシもみきと同じ気持ち。だからアタシも先生の話を聞くまで帰りません!」

遥香「私も。先生の話聞きたいです。みきたちと一緒に」

八幡「若葉、成海……」

昴「さ、先生。これでもう逃げられませんよ?」

八幡「いや、俺話すなんて一言も言ってないんだけど」

遥香「私たち、本気ですからね?」

八幡「だとしても、いつまでも話さないかもしれないぞ」

みき「いつまでだって待ちます!」

昴「もし下校時間過ぎちゃったら、みんなで合宿所にお泊りだね」

みき「あそこのベッド、ふかふかで気持ちいいもんね」

遥香「楽しみね」

なぜか三人は俺を無視して楽しそうに会話を始めた。今までのシリアスな雰囲気はどこに消えたんだよ。人の話を聞かない星守はこれだから困る。

でも、そんなこいつらが俺の話を聞きたいと言ってきた。あの言葉に嘘はないだろう。成海はともかく、星月と若葉は嘘つくの下手そうだし。

……そうか。俺は変わってない。現に今、ぼっちで頭をフル回転させて思考しているんだから。でも、周囲は変わった。今までと違って、俺のことを知りたい、と言葉にして伝えてくる人が、俺に踏み込みたいと願う人がすぐそばに何人もいる。もしかしたら、こいつらだけじゃないのかもしれない。

もちろん言葉にしてもその意味が完全に伝わることなんてない。行動にしたってそうだ。特に俺は人の言動を深読みして、その裏に隠された真意までもくみ取ろうとしてきた。そして間違えてきた。

だとしたら、俺のことを知りたいと願われているこの状況で、今までと変わらない俺はどう行動すればいいのだろうか。

……ダメだ。いくら考えても答えが出ない。まぁ、当然だな。今まで間違ってきたんだから、答えが出たとしても多分間違ってるし。むしろ、このままずっと何も話さないままこいつらと一緒にいる方がいいかもしれない。
373 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/26(月) 00:07:34.60 ID:De9rxzWL0
番外編「蓮華の誕生日前編」



今日は芹沢さんの誕生日。そんな日の放課後に俺と芹沢さんは2人っきりでとある部屋にいた。

蓮華「先生、早く頂戴……」

八幡「待ってくださいって」

蓮華「れんげもう待てない!」

八幡「ほら。これで、どうですか」

蓮華「あぁ〜ん‼いいわぁ〜!でも、もっと。もっと頂戴!」

八幡「じゃあ俺のとっておきを……」

蓮華「あはっ、先生‼最高だわぁ〜‼」

芹沢さんは艶麗な表情で俺のに夢中だ。まぁ、男としてはこういう表情にさせることができて悪い気はしない。むしろ誇らしいまである。

蓮華「先生、写真撮る才能あるわ〜。この写真のあんことか、れんげでもなかなか見れないスーパーレアショットよ〜」

八幡「はは、そうですか……」

はい。ネタばらしのお時間です。芹沢さんは俺が撮った星守たちの写真に興奮してるだけでした。

実はここ数日、俺は八雲先生と御剣先生に言われて、星守クラスの日常風景を写真に収めている。そして数十分前、なぜか芹沢さんが写真の整理をする俺のとこへ写真を見せろとせがんできて今に至る。

八幡「ほら、写真見せたんですから、作業手伝ってもらいますよ」

蓮華「仕方ないわねぇ。れんげは何すればいいの?」

八幡「学校のHPに載せられそうな写真をこのUSBにコピーしといてください」

蓮華「いいわよ。でもここにはパソコン1台しかないわよ?先生はどうするの?」

八幡「俺は今から放課後の星守たちを撮ってきます。部活の写真とかも必要なんで」

蓮華「は〜い!れんげも行きた〜い」

八幡「ダメですって……」

蓮華「なんで〜?」

八幡「だって芹沢さんが行くとみんなあなたに引いちゃうんですもん」

芹沢さんは不服そうにしかめっ面をするが、1つ深いため息をつく。

蓮華「仕方ないわね。今日はれんげ、先生に免じて我慢しとくわ」

八幡「はぁ……ありがとうございます」

蓮華「でも、適当な写真撮ってきたられんげ許さないからね。みんなのとっても可愛い写真、よろしくね」

落ち着け俺。ここで反応したら芹沢さんの思う壺だ。いや、すでに壺の中にいる説すらある。

八幡「はは、頑張ります……」

蓮華「いってらっしゃ〜い」

写真を見ながらニヤニヤする芹沢さんに見送られて俺は部屋を出た。

--------------------------------------

はぁ。とりあえず校内に残ってる人たちは撮り終えた。粒咲さんとか朝比奈とか写真なかなか撮らせてくれなくて余計に体力を消費した感じだ。

八幡「どうですか?作業終わりましたか?」

部屋に戻ってみると、まだ芹沢さんはニヤニヤしながら画面を見ていた。

蓮華「う〜ん。これも可愛いけど、何か足りないわぁ〜」

八幡「芹沢さん、大丈夫ですか?」

主に頭とか。もしかしなくてもこの人ずっと写真見てたのか……。

蓮華「あら先生。おかえりなさい」

八幡「お、おう……」

蓮華「ふふ、なんだか今のやりとり夫婦みたいね。もしかして先生、少しドキッとしちゃいました?」
374 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/26(月) 00:11:02.61 ID:De9rxzWL0
番外編「蓮華の誕生日後編」


そんな言葉1つでぼっちマイスターの俺の心が揺れ動くとでも?甘い。甘すぎる!動じていない男は冷静に反応するものさ。

八幡「べべ別に、しょんなことないでしゅよ」

決意とは裏腹に噛みまくりだった。

蓮華「ふふ。ま、先生がそう言うなら、そういうことにしといてあげる」

さっきの「おかえりなさい」がけっこうグッときちゃったどうも俺です。はぁ、情けない。

八幡「つか作業は終わったんです、か……?」

あれ、俺の目がおかしいのかな。俺が渡したUSBは黒色だったはずなのに、今パソコンに接続されているのはピンクのUSBなんだけど。なんで?

蓮華「まだ終わらないのよ〜。思ったより写真多くて」

八幡「終わらないのはやってる作業がおかしいからじゃないですか?」

俺は強引に作業を中断し、ピンクのUSBを引き抜く。

蓮華「あ、先生!何するんですか!」

八幡「それは俺の台詞ですよ。なんで自分のUSBに画像移してるんですか」

蓮華「移してないわ。コピーよ」

八幡「いえ、別にそこはどうでもいいんですけど……そもそも俺が頼んだ作業はどうしたんですか?」

蓮華「あぁ、それならすぐに終わらせたわ。はい、これ」

芹沢さんはポケットから俺が渡したUSBを取り出した。

八幡「終わってたんですか。なら素直に渡してくださいよ」

俺が手を伸ばすと、ひょいと芹沢さんがUSBを遠ざける。

八幡「早く返してくださいよ……」

蓮華「え〜、でもれんげ頑張って写真選んだから、先生からご褒美欲しいなぁ〜」

八幡「なんなんですかご褒美って……」

蓮華「さっきまで星守クラスの子たちの写真を見てて、れんげ何か物足りないなぁ〜って思ってたの」

俺の問いは無視して、芹沢さんは椅子から立ち上がると、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。

蓮華「それで先生が部屋に戻ってきて、その足りない何かに気づいたの」

八幡「は、はぁ……」

いつの間にか俺と芹沢さんは数センチの距離まで近づいていた。やべ、芹沢さんの睫毛めっちゃ長い。

蓮華「じゃ、先生。いきますね……」

何が?いったい何が?いや、いきなりそんなこと言われても、俺にも心の準備ってものがいるんですけど!

そんな俺にかまうことなく、芹沢さんは俺の胸に手を伸ばしつつ、頬と頬がふれあうほど顔を近づけてきた。

蓮華「はい、チーズ」

刹那、スマホのフラッシュが俺を襲う。突然の眩しさに目がくらむ。俗にいう目が、目が〜状態だ。

蓮華「ふふ、先生、変な顔ね〜」

八幡「……写真撮るならそう言ってくださいよ」

蓮華「だって撮りたいって言ったら先生嫌がるでしょ?それに、油断してる先生をれんげは撮りたかったの」

八幡「そうですか……」

全くこの人は心臓に悪い。ピュアな男子高校生の心を弄ぶなんて魔性の女だ。

蓮華「……それに、こうでもしないとれんげ、余裕をもって先生と写真撮れないもの」

八幡「何か言いましたか?」

蓮華「なんでもないわぁ。じゃ、先生。また明日」

まだショックで動けない俺を置き去りにして、芹沢さんは優雅に手を振りながら部屋を出ていった。

数分後、『先生、今日はありがと♡れんげ、この写真を先生からの誕生日プレゼントだと思って大事にしますね』というメッセージと、さっきの画像が送られてきた。ま、一応保存しとくか。……一応、隠しフォルダに入れてばれないようにしとこ。
375 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/06/26(月) 00:14:44.16 ID:De9rxzWL0
以上で番外編「蓮華の誕生日」終了です。蓮華、誕生日おめでとう!来週からのアニメが待ちきれないこの頃です。
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/26(月) 00:28:54.96 ID:jRnxvXk7o
乙です
377 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/06/29(木) 00:48:16.00 ID:gK6Ho32c0
本編4-14


あれ。なんだろ。急に視界がぼやけてきた。目の前の三人の表情がわからなくなった。その代わりに、頬に熱いものが流れる。

昴「先生……?」

八幡「な、なんだよ」

遥香「泣いてるんですか?」

八幡「ばっか、ちげぇよ、単に目にゴミが入っただけだ」

俺はあわてて袖で涙を拭おうとするが、それより前に、ハンカチの柔らかな感触とその下から感じる指先の温かさがが俺の頬を包む。

みき「もう、私たちの前で強がらなくていいんですよ?」

星月は俺の涙を拭いながらなおも続ける。

みき「そりゃ、私たちじゃ力不足ですけど、それでも私たちが先生を思う気持ちは誰にも負けていないつもりです」

昴「そ、そうです!アタシたちを信頼してください!」

遥香「何でも言ってください」

三人はそろって俺の心にド直球を投げ込んでくる。でも、三人とも少し勘違いしている。それだけは、今ここで伝えなきゃならない。

八幡「俺は、別にお前らを信用していないわけじゃない。すべては俺自身の問題だ」

みき「どういうことですか?」

八幡「正直、今までこんなに周りに受け入れられた経験がなかったからな。受け入れてもらいたいとも思ってなかったのもあるが。だからなおさら、この学校に来てからの状況に疑問を持ってたんだ。何年も経ってすべてを知り尽くした関係ならまだしも、交流に来てすぐの時から無条件に求められることは、正しいことのか。交流が終わったら消滅するような関係なのに、それを大事にする必要があるのか。俺に、そんな風に求められる資格があるのかって」

俺の静かな告白にしばらく沈黙が続いた後、星月が口を開いた。

みき「私は、先生が私たちのことでそんな風に真剣に悩んでくれてたってわかって嬉しいです」

八幡「え?」

みき「いえ、正直半分くらい何言ってるかわからなかったです。私そんなに頭よくないので。でも、先生が私たちのことをちゃんと考えてくれてるんだなってことはわかりました。じゃなかったらそんなに深く悩まないですよね?」

確かに言われてみればそうかもしれない。俺は「なぜ」こんな風に考えるようになってしまったか、その理由を考えたことがなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。

みき「それと、さっきの話で1つだけ私たちが答えられることがあります。ね、昴ちゃん、遥香ちゃん」

昴「うん!」

遥香「えぇ」

三人は頷くと立ち上がって同じ言葉を叫んだ。

みき、昴、遥香「先生は十分魅力的な人です!」

突然の言葉に俺は開いた口が塞がらない。

八幡「えーと、あの……」

昴「ち、違いますよ?男性として魅力があるってことを言ってるわけでは、まぁ全くないわけじゃないですけど、とにかく違うんです!」

遥香「先生は、屁理屈を使っていろんなことをすぐにサボろうとするし、そのくせ大事なことはこうして隠してるし、とっても面倒くさい人だと思うんです」

ちょっと?なんで成海は俺の事真正面からディスってくるの?歯を素っ裸にしすぎじゃないですか?温かい服着せてあげて。

みき「でも、おんなじくらい、いやそれ以上に私たちの事をすごく真剣に考えてくれて、私たちのために動いてくれてる人だってことも感じてるんです。でもどうしてそこまでしてくれるかわからない。そんな先生に、私たちは惹かれるんです。だから、先生の事もっと知りたくなるんです。だから、先生の傍にもっといたくなるんです」

みき「こんな理由じゃ、私たちが先生に近付く理由になりませんか?」

完全に言葉を失ってしまった。わからないから知りたい。知ったから傍にいたい。この両方を達成するために人に近付く。もしかしたら、こんなことは世の中のリア充連中は意識せにずやっているかもしれない。だとしたら、これは人間本来の欲求だと言い換えられる。人間は知って安心したい。安心するところへ行きたい。だから人と人は繋がりを持たずにはいられないのだろう。

八幡「でも、いつかは俺たちの関係は終わるんだぞ。少なくとも、交流が終わってしまえば……」

みき「そんなこと、その時にならないとわからないですよ!」

俺の言葉を遮るように星月は叫ぶ。

みき「これから先、いや今からでも私たちと先生が近づくことができれば、関係は終わりません。だって、『今』の関係の積み重ねが『未来』の私たちの関係になるんですから」

星月の言葉に、一度は止まっていた感情がまた目から溢れてきた。俺の思考とは裏腹に涙はとめどなく流れ続ける。

そんな俺の両脇に若葉と成海が座り、俺の肩に優しく手を置く。そして真正面からは星月があの太陽のような笑顔でにっこり笑う。

みき「先生。これからもよろしくお願いしますね!」

もう言葉は出てこない。それどころかまともに頭も働かない。ただただ腐った目だけが自分の汚れを落とすかのように涙を流し続けているばかりだった。
378 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/01(土) 00:00:13.14 ID:WWQHmvpZ0
番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」前編



なんだか最近クラスの雰囲気がそわそわしている。南や蓮見がはしゃいでるのはまだしも、千導院や粒咲さんまで落ち着きがない。

そんな中のHR。案の定、俺の話はあまり聞こえていないようである。

八幡「なぁ、お前ら最近どうした?いつもよりも落ち着きがないぞ」

俺の投げかけに星月が立ち上がって感極まった感じで話し出す。

みき「だって、ついに、ついに明日はアニメですよ!先生!」

八幡「……それで?」

思わず俺は素で聞き返してしまう。

昴「すごいことじゃないですか!」

八幡「そうか?」

遥香「昴。先生はもう2クールもアニメに主役として出演してるのよ。多分、これくらいなんともないんだわ」

八幡「おい。いきなりメタ要素入れ込むなよ。ツッコミづらいだろうが」

うらら「でも、それなら先生にアニメに出るにあたっての心構えとか聞いておきたいなー」

八幡「あ?別にそんなもんねぇよ」

ひなた「でもひなた、このままだと緊張しちゃうよー!」

八幡「いや、そんなことないから。そもそもここにカメラが来るわけでもないし」

あんこ「でも先生はイメージアップのためにヲタクの要素隠してるわよね。原作だとガンダムネタとかアイマスネタとかたくさん喋ってるくせに、アニメだとそんなこと全然言わないし」

思わぬところから不意撃ちを受けてしまった。

八幡「そ、そんなことないと思いますけど?」

蓮華「あと、原作だとちょっとHなことも考えてるのにアニメだとほとんどカットされてるわね〜」

花音「やっぱりこいつ変態だったのね。どうせ今も心の中では気持ち悪いこと考えてるんでしょうね」

八幡「……」

望「え、マジ?」

八幡「お、俺だって高校2年生、思春期真っただ中の男の子だぞ。この時期の男子はみな程度の差はあれ、そういうことは想像してしまうもんだ」

サドネ「??おにいちゃんが何言ってるかわからない」

桜「サドネ。わしらにはまだ早い話じゃ」

サドネの他にも何人か首をかしげている。これ以上俺の株を下げてもいいことはないし、ここらで話題を打ち切ろう。

八幡「とにかく、お前らが気負う必要は一切ない。俺だって別にアニメだからって何か特別なことをしたわけじゃないし」

強いて言えば、アニメーションによって戸塚の可愛さがさらに神々しいレベルまで高まったくらいだな。アニメで動く戸塚を間近で見れて、幸せだったなぁ。

ミシェル「むみぃ、でも1つくらい何かアドバイスないの?」

八幡「そんなこと言われても……いや、あるな」

くるみ「なんですか?」
379 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/01(土) 00:00:55.34 ID:WWQHmvpZ0
番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」後編



八幡「……作画に気を付けろ」

心美「ど、どういう意味ですか?」

八幡「そのままの意味だ。下手したら制作会社が変わって、1期と2期で雰囲気がガラッと変わっちまうことだってあり得る」

楓「正直、イマイチ要領を得ないアドバイスですわね」

八幡「ま、いつも通りのお前らでいれば大丈夫だ。心配すんな」

樹、風蘭「いや、アニメはそんな甘いものじゃない!」

そう豪語しながら八雲先生と御剣先生が教室に入ってきた。

樹「アニメは戦場よ!比企谷くんは主役だったから何もしなくても映っただろうけど、私たちはそうはいかないわ!」

さりげなく「私たち」って言いましたよね?映る気満々じゃないですか。

明日葉「ということは、私たちが自力で目立たないといけない、ということですか?」

風蘭「大正解だ明日葉!こういう女の子がたくさん出てくるアニメでは、いかに印象を残すかが大事なんだ!一瞬一瞬が戦いだと言っても過言じゃない。下手したら何週も映らない、なんてこともあるぞ!」

詩穂「なんだか実際に体験してきたような感じですね……」

樹「私たちのアドバイスをしっかり心に刻んで頑張っていきましょうね」

風蘭「毎週毎週色々言われると思うが、めげずにやっていこうな」

星守たち「はい!」

いや、みなさん普通に返事してるけど、この人たち映る気満々だよ?下手したらタイトルが「バトルティーチャー・ハイスクール」とかになりかねない。何それ、めっちゃダサい。

牡丹「みなさんどうしたんですか?いやに張り切ってますね」

教室の盛り上がりを聞きつけたのか、理事長までやってきた。

八幡「いえ、明日アニメが始まるからってみんな盛り上がってるんですよ」

牡丹「そういえばそうでしたね。でも、比企谷先生には関係ないですよね?だってアニメには出ないんですから」

ゆり「先生アニメに出ないんですか!?」

牡丹「この場所が二次創作、かつ作品をクロスオーバーしている特殊な空間だから成立しているんです。だからアニメには他作品のキャラクターの比企谷先生は出られないんですよ」

理事長の言葉に、教室中に何か変な空気が流れる。みんな俺をちらちら見て、目が合うと申し訳なさそうに目をそらされる。あれ、もしかして気を使われてる?

八幡「ほら、あれだ。別に俺がいなくてもお前らなら大丈夫だろ。むしろ、こういうアニメには男性キャラは不必要まである」

ラブライブなんて、主人公のお父さんでさえ首より下しか映ってないんだぞ。可哀想すぎる。ゆるゆりやけいおんにいたっては男の気配ゼロ。モブキャラまで全員美少女。どんな世界だよ。

みき「……わかりました。アニメでは、比企谷先生無しで頑張ります!」

星月の言葉に星守みんなが頷く。なんだか、みんなの成長を感じて少し感動するなぁ。

樹「でもその代わり、比企谷くんは円盤を買って私たちを応援してね」

風蘭「もちろん、初回生産限定盤をな」

牡丹「主題歌やキャラソンのCDもお願いしますね」

八幡「あなたたちのせいで締めが台無しですよ」
380 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/01(土) 00:02:15.47 ID:WWQHmvpZ0
以上で番外編「先生!次の授業はアニメですよ!」終了です。短いですけど、アニメ応援ということで投稿しました。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 00:37:06.94 ID:4RvuhWrjo
乙です
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 03:50:00.67 ID:c8lbLqOq0

突然のメタネタに驚いたけど面白かった
PVには先生らしき男性がチラッと映っていたが果たして…
383 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/04(火) 22:02:21.24 ID:Lk++xY/20
本編4-15


ブーブー

突然ラボ内に警報音が鳴り響いた。

遥香「この音は」

昴「イロウス!」

みき「早く行かなきゃ!」

3人はすぐに転送装置に向かって走る。俺はその姿を見て、自然と足が動いていた。

昴「先生……?」

八幡「……俺も行く」

昴「大丈夫ですか?」

八幡「あぁ。むしろ連れってくれ。頼む」

なぜ積極的に戦場へ向かおうとしているのか自分でもわからない。でも、俺も一緒に行かないといけないってことは直感した。

そんな俺の言葉に星月が嬉しそうに反応する。

みき「もちろんです!行きましょう!」

八幡「……すまん」

昴「謝らないでくださいよ!」

八幡「す、すまん」

遥香「次謝ったら特訓メニュー倍にしますよ?」

成海が冷たい笑顔を浮かべながら忠告してきた。

八幡「す……わかった」

昴「遥香目が笑ってないよ……」

みき「あはは……」

俺は転送先の座標を設定してから転送装置に向かう。

八幡「準備はいいか?」

みき、遥香、昴「はい!」

八幡「よし、転送」

-----------------------------------

転送が終わると、俺たちは荒野に立っていた。

みき「ここにイロウスがいるんですか?」

八幡「あぁ。そのはずだ」

昴「どんなイロウスですか?」

八幡「それがよくわからないんだ。全くイロウスに動きがなくて判別できなかった」

遥香「動かないイロウス、ですか?」

八幡「あぁ。ひとまずここらへんにいるのは確実なんだ。あとは俺たちで動いて探すしかない」

みき「頑張ろう!昴ちゃん!遥香ちゃん!先生も!」

八幡「おう。じゃ、行くか」

俺が歩き出すと、3人は物凄く驚いた表情を見せる。

昴「せ、先生が自分からイロウスに向かって歩き出した……」

八幡「若葉、お前失礼だな。相手は得体のしれないイロウスなんだぞ。別行動するより、全員一緒にいた方が安全だ。幸いにも周りに人家はなさそうだし、時間かけても安全に仕留めることを優先してもいいだろ」

みき「な、なるほど」

遥香「やっぱり先生の頭の回転の速さにはかないませんね」

……実は俺1人でいると危険だから集団行動したかった、ってのは黙っておこう。
384 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/07(金) 00:01:47.96 ID:sIXeq07Y0
番外編「望の誕生日前編」


俺は今、学校帰りにあるスポーツ用品店に来ている。もちろん1人でだ。星守たちの特訓にも付き合うようになり、かつ最近暑くなってきて運動着が数枚必要になったから買いに来ただけだ。

だが、いざ店に来ると何を買えばいいのかさっぱりわからない。まぁ、サイズが合えばなんでもいいんだが、そうは言ってもどれを選べばいいか迷う。

望「あれ、先生?」

なんだかやけに通る声がしたけど気のせい、気のせい。

望「先生!おーい!先生!」

がっつり目が合って手を振られたけど、気のせい。きっと気のせい。

望「せんせー!なんで無視するの!」

とうとうカバンを掴まれてしまった。これ以上無視できないから仕方なく反応する。

八幡「おう。天野か。じゃあな」

望「うん、ばいばい。じゃないよ!先生こんなところで何してるの?」

ちっ、押しきれるかと思ったけどダメか。

八幡「買い物だけど……」

望「奇遇だね!アタシも買い物してるんだ!せっかくだから一緒に見て回ろうよ!」

八幡「いや、別に1人でいい」

望「えー、そう言わずにさ!どうせどのウェア買えばいいか迷ってるんでしょ?特別に望ちゃんがコーディネートしてあげるよ!」

八幡「いらないって……」

だが、俺の抵抗を聞かず、天野はノリノリで運動着を選び始めた。

望「先生は別にスタイル悪くないし、シンプルなやつも似合うかな。でも思い切って奇抜な色合いで攻めるのもアリかな?」

八幡「そこまで悩まなくていいぞ。適当に3枚くらい見繕ってくれれば」

望「ダメだよ先生!いついかなる時でもファッションには気を付けなきゃ!」

八幡「えぇ……別に何着たって一緒だし」

望「そんなことない!アクセサリー1つとっても、ファッションは違ってくるもんだよ!」

天野が鬼気迫る感じで迫ってくる。こいつのファッションへの意気込みは凄まじいものがあるな。

八幡「あ、あぁ。わかった。それならもう全部任せるわ」

俺はもう口出しするのも諦めて天野に丸投げすることにした。

望「オッケー!任せて!」

------------------------------

俺はそこから数十分、着せ替え人形と化してひたすら天野の言う通り運動着を試着させられた。

望「ふぅ、楽しかった!」

八幡「疲れた……」

望「先生もこれを機にオシャレに目覚めたら?楽しいよオシャレ!」

八幡「俺には無理だ。それにいざと言うときは妹に見繕ってもらえばいいし」

望「それは兄としてどうなの……?」

八幡「いいんだよ。どうせ俺の服装なんて誰も見てねぇし」

望「そんなことないです!」

八幡「え……?」

予想外のタイムラグゼロの反論に思わず反応してしまった。

望「いや、その、なんていうか……ほら、いつもと違う服装してたら目立つじゃん?それが先生だったら特に!学校には先生しか男の人いないわけだし」

天野は手をこねこねしながらそれっぽいことを並び立てる。ま、男1人なら何をしたって悪目立ちはするか。

八幡「男が俺1人の時点ですでに目立ってるじゃねぇか。俺は目立たず過ごしたいんだ。だからオシャレはしない」

望「そんなこと言わないでオシャレしようよー」
385 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/07(金) 00:02:37.41 ID:sIXeq07Y0
番外編「望の誕生日後編」


八幡「つかお前はここに何買いに来たんだ」

俺は自分への話題の矛先をそらすために天野に質問した。

望「アタシは部活で使えるサンバイザーを探しに来たんだ!あ、そうだ。先生も付き合ってよ。サンバイザー選び」

八幡「なんでだよ。俺の意見なんてあてにならないぞ」

望「ファッションは他人にどう見られるかも大事だからね!先生からの客観的な意見が欲しいの!」

八幡「いやでも……」

望「ほらちゃっちゃと行くよ!」

こうして俺は天野にテニスコーナーへ強制連行された。

望「うーん、いっぱいあるなぁ。どれにしようかな〜」

八幡「……」

望「あ、これとかオシャレ!でもこっちも捨てがたい!ねぇ先生、どっちがいいと思う?」

そう言って天野はチェック柄で色違いのサンバイザーを2つ、俺の前に掲げてきた。

八幡「ん?どっちもいいんじゃねぇの」

望「むぅ、じゃあこれとこれなら?」

今度は花柄のサンバイザーを掲げてきた。

八幡「どっちも似合うと思うぞ」

望「……先生、本気でそう思ってる?」

やべ、流石に適当に返事しすぎた。

八幡「いや、正直どれも悪くないと思う。天野ならそういう派手目なサンバイザーもいんじゃないか?」

望「なんかイマイチ煮え切らない答えだな……あ、なら先生が選んでよ。アタシに似合うサンバイザー!」

八幡「は?俺が?」

望「そ。さっきはアタシが服選んであげたんだから、今度は先生が選んで!ね!」

そう言って天野は期待に満ちた目で俺を見つめて来る。わかったよ。選べばいいんだろ、選べば。

八幡「……わかった。でも文句はナシな」

俺はこのコーナーに来た時から気になっていたシンプルな白いサンバイザーを差し出した。

望「なんでこれなの?」

八幡「ま、なんだ。サンバイザーは熱中症対策のもんだろ?なら、白いほうが熱を放射しやすくね?」

望「え、まさか機能面だけで選んだの?」

やめろ。俺は、友達の誕生日プレゼントに工具を真っ先に思いつくようなどこぞの氷の女王ではない。

八幡「いや、ほら。お前目立つ色の練習着よく着てるだろ?ならサンバイザーはシンプルなほうがいいかな、って思って。白ならその髪色にも合うだろうし……」

ついキザっぽいセリフを吐いてしまった。やべぇ、気持ち悪がられる……

望「嬉しい……」

八幡「え?」

望「先生、なんだかんだアタシのことよく見ててくれてるんだね!うん。アタシ、これにするよ!これがいい!」

天野は目を輝かせながらサンバイザーを眺めている。俺はそのサンバイザーを天野から奪うと自分の持ってる買い物かごに放り込んだ。

望「え?サンバイザーくらい自分で買うよ?」

八幡「別にいいよ。俺の運動着選びになん何十分も付き合ってくれたお礼と、お前の誕生日プレゼントと併せて、買ってやる」

天野は急に顔を下に向けてもじもじし始めた。なんだよ、トイレ行きたいのか?ならさっさと行って来いよ。

八幡「おい、大丈夫か?」

心配になって声をかけたが、顔を上げた天野には満面の笑みが浮かんでいた。

望「うん。大丈夫!先生、ありがとう!このサンバイザー、一生大切にするね!」
386 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/07(金) 00:04:48.82 ID:sIXeq07Y0
以上で番外編「望の誕生日」終了です。望、誕生日おめでとう!とうとうアニメが始まりましたね。この先どんな展開になるか楽しみです。
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 08:58:17.51 ID:x7Eq948ao
乙です
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/07(金) 20:53:13.40 ID:OoLC+gu80


ホントみんなの性格掴むの上手いなぁ
比企谷も同年代だと遠慮がなくなってるのもいい感じ
389 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/08(土) 09:33:50.15 ID:D/03jL2M0
本編4-16


そうして四人でしばらく歩いていると成海が何かに気づいたような声を上げた。

遥香「あら、あれはなにかしら」

みき「どうしたの遥香ちゃん?」

遥香「向こうの方に何か浮いてない?」

成海が指さす方向を見てみると、確かに丸っこい物体が空中に浮いている。

昴「先生、アタシちょっと見てくる」

八幡「おぉ。頼む」

若葉は元気よく走っていく。でも、物体に近付くにつれてそのスピードが遅くなっているような……?

少しして若葉が帰ってきた。

みき「どうだった昴ちゃん?」

昴「多分、あれがイロウスだよ。あいつの周りだけ重力が強くなってるみたいで体が重くなっちゃったし」

あぁ、だからスピードが遅くなってたのね。重力を扱うなんてプッチ神父か何かですか?

遥香「でもイロウスなら私たちで倒さないといけないわね」

みき「じゃあみんなで行きましょう!」

俺たちはイロウスの能力が届かない距離まで近づいた。

みき「遥香ちゃん、一緒に攻撃してみよ?」

遥香「えぇ」

そう言って星月はガンで、成海はロッドで攻撃するが、あまり効いているとは思えない。

遥香「遠距離攻撃じゃ効果がないのかしら」

昴「なら近距離攻撃するしかないね!」

八幡「じゃあ俺はここで待ってるからお前ら、」

みき「先生も行きますよ!」

八幡「ちょ、腕引っ張んなって」

なぜか俺までイロウスの傍に行くことになってしまった。そして重い体を動かし、なんとかイロウスの目の前まで来ることができた。

みき「なんか、このイロウスただ浮いてるだけだね」

遥香「何もしてこないイロウスなんているのかしら」

八幡「まぁ、何もしてこないならそれに越したことはないんだが」

昴「なら今のうちにサクッと倒しちゃいましょう!」

そう言って若葉はハンマーを出してすぐさま振りかぶる。

昴「やあっ!」

若葉は強烈な一撃をイロウスに加えた。

みき「あ、体が軽くなった!」

遥香「流石ね昴」

昴「へへ〜」

3人はイロウスを討伐できたことに安心しているようだ。だが、このまま簡単に終わっていいのか……?

そう思ってイロウスを見てみると、灰色だった色が赤くなり、膨張しているようだ。これってまさか……

八幡「逃げるぞ……」

みき「え、なんですか?」

星月をはじめ3人ともキョトンとしている。

八幡「いいから逃げるぞ!」

状況を呑み込めていない3人を急き立て、俺たちはイロウスから離れた。次の瞬間、イロウスは盛大に爆発した。
390 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/08(土) 10:30:21.37 ID:D/03jL2M0
本編4-17


あ、危なかった。間一髪だった。

遥香「はぁはぁ、爆発して攻撃するイロウスだったんですね」

昴「はぁ、先生が気付かなかったらヤバかったよ」

みき「はぁはぁ、先生ありがとうございます」

八幡「ぜぇぜぇ、いや、ぜぇぜぇ、おう、、」

急にダッシュしたから息が整わない。返事どころかろくに呼吸すらできてない。

昴「じゃあ他にもイロウスがいないか探しに行こう!」

八幡「ちょちょっと待って。少し休憩させて……」

みき「先生……」

遥香「仕方ないですね。先生が落ち着いたら行動を再開しましょう」

数分後、なんとか息を整えて、俺たちは動き出した。するとほどなくして若葉が声を上げる。

昴「あ!またさっきのイロウスが浮いてる!」

みき「奥の方にさらにいっぱい」

遥香「なら私たちも別れて倒しに行きましょうか」

3人はハンマーを出してイロウスへ向かう。

八幡「……俺はここにいるわ」

これ以上俺にできることはないし、何よりもう走りたくない。

みき「はい。後は私たちで倒せますから大丈夫です!」

昴「安全なとこで待っててください!」

遥香「すぐ戻ってきますから」

……ん?なんか死亡フラグに聞こえたのは俺の気のせい?

そんな俺の心配をよそに3人は次々にイロウスを倒していく。その度に大きな爆発があるから、待ってる身としては気が気じゃないんだが。

つか、改めてあたりを見渡すと、さっきのイロウスがどの方向にも浮いてるじゃん。どんだけ倒せばいいんだよ……

遥香、昴「先生」

いつの間にか成海と若葉が帰ってきていた。

八幡「おう。お疲れさん」

昴「けっこう倒したんですけど、それ以上にイロウスが湧いてきたんで、いったん引き返してきました」

遥香「私たちだけでどうにかできる数じゃなくなってしまったんですが、どうしますか?」

八幡「一番の策は星守の数を増やすことだな。こっちの手数を増やさないと、イロウスを減らすことはできないし」

昴「それなら、一度学校に戻りますか?」

八幡「あぁ、だけど星月も戻ってきてからじゃないとな。あいつだけ置いていくことはできない」

遥香「そうですね。無事だといいんですけど」

成海が心配そうに呟く。

昴「みきなら大丈夫だよ。すぐに戻ってくるって」

遥香「昴……そうね。みきなら大丈夫よね」

八幡「ほら、現に戻ってきたぞ」

俺の視線の先には必死の形相で走ってくる星月の姿があった。なんであいつあんな急いでんの。

みき「みんな〜!」

遥香「みき、おかえり」

みき「みんな、大変なの!」

昴「大変って何が?」
391 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/08(土) 15:19:58.36 ID:D/03jL2M0
本編4-18


みき「さっきあっちのほうまで行ってイロウスを倒してたんだけど、あるイロウスの爆発が他のイロウスを刺激しちゃって、どんどん爆発が広がってっちゃった……」

八幡「てことはつまり……?」

みき「ここら辺、爆発まみれです……」

遥香「何やってるのみき……」

みき「だ、だって!久しぶりに先生にいいところ見せられると思って、張り切っちゃって」

昴「そんなこと言ってる場合じゃないよ!爆発がそこまで迫ってるって!」

若葉の言う通り、星月が走って来た方角から大きな爆発音が止まることなく鳴り響いていて、段々音量も大きくなっている。

八幡「こうなったら早くここから逃げるぞ」

みき、遥香、昴「はい!」

俺たちはもと来た道を引き返していく。だが、なぜか嫌な感じがする。

遥香「なんだかこっちからも爆発音が聞こえない?」

昴「うん、そんな気がする……」

みき「ど、どうしよう先生?」

八幡「とにかくここから脱出する。爆発に巻き込まれるのだけは勘弁だ」

そうして俺たちは方向転換を繰り返していったのだが。

昴「……先生」

八幡「なんだ」

遥香「この状況は、どうやって打開しますか?」

八幡「そんなこと俺が聞きたい」

みき「そんな〜」

八幡「もともとお前が撒いた種だろ……」

もうどこに行ってもイロウスが爆発しまくっていて逃げ場がない。いわゆる袋のネズミってやつだ。

昴「爆風を避けながら走れば、」

八幡「流石に無理だろ……」

遥香「私のスキルが先生にも効果があればよかったんですけど」

八幡「ごめんな。俺が星守じゃなくて」

成海はイロウスからのダメージを無効にする効果を持つスキルを持っているのだが、いかんせんただの人間の俺にはスキルが効かない。だから物理的にどうにかして爆発から逃げないといけないのだが、正直打つ手なくね?

みき「先生!私に考えがあります!」

なんでこんな状況になっても元気なんだこいつは。

八幡「……何」

みき「私があの爆発から先生を守ります!」

八幡「は?どうやって?」

みき「私の爆発系のスキルを使うんです!イロウスの爆発より強力なスキルが打てれば、爆発を相殺できて先生を守れます!」

思ったよりもまともなアイデアだった。でも致命的な欠陥を発見してしまった。

八幡「数体くらいの爆発ならともかく、四方八方から爆発は迫ってるんだぞ?お前1人でどうにかできるレベルじゃないだろ」

みき「あ、そっか……」

俺の指摘に星月はうなだれてしまう。が、成海と若葉は逆に明るい表情になった。

遥香「大丈夫よみき。私たちも一緒にスキルを使えばなんとかなるかもしれないわ」

昴「うん!3人で先生を守ろう!」

みき「遥香ちゃん、昴ちゃん……」
392 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/11(火) 00:46:35.61 ID:Rm0mq5+k0
本編4-19



八幡「……危険すぎる」

遥香「え?」

八幡「危険すぎるって言ったんだ。お前らのスキルがイロウスの爆発より強力な保証はないし、3人のスキルのタイミングと威力が少しでもずれたらバランスが崩れて、結果全員の命が危ない。そんな賭けに俺は乗れない」

昴「なら、先生はどうするのがいいと思うんですか?」

八幡「お前らが助かるのに最も確実なのは成海のダメージ無効スキルを使うことだ。俺に効果はないが、それでもお前らが助かる方を優先するべきだ」

最優先するべきは3人の安全だ。彼女たちはイロウスを倒せる唯一の存在、星守だ。そして、それ以前に俺の生徒だ。絶対に死なすわけにはいかない。

だが、俺の言葉を聞いて、3人は明らかな怒りを顔に出しながら俺に詰問する。

みき「それじゃあダメです!私たちは、4人でイロウスに勝つんです!先生1人だけ見捨てるなんて、私たちにはできません!」

八幡「だけど、」

遥香「逆に先生は私たちが失敗すると、そう言いたいんですか?」

八幡「いや、そういうことじゃない。が、」

昴「ならアタシたちに任せて下さい!アタシたちが必ず先生を守ります!」

八幡「お前ら……」

この星の星守は、俺の生徒は、想像以上に心が強い子ばかりらしい。まぁ、それくらいの気概がないと、こんな危険なことを自分からやりたい、なんて言う筈がないか。

八幡「……わかった。俺の命、よろしく頼む」

みき、遥香、昴「はい!」

……あぶね。なんだか笑みがこぼれそうになった。笑ってられる状況じゃないってのに。むしろこれからが本番だ。気を引き締めないと。

八幡「よし。そしたら作戦を立てるぞ。まずは俺を中心に3人は正三角形の頂点に立ってくれ」

昴「ここらへんですか?」

八幡「あぁ。それと、スキル強化のスキルを誰か使ってほしいんだが」

みき「はい!私が使えます!」

八幡「よし。そしたら星月のスキルを使ってから3人でスキル発動だ。なるべく同じスキルがいいんだけど、なんかないか?」

遥香「それなら『炎舞鳳凰翔』は私たちみんな使えます。爆発系のスキルで威力も同じです」

八幡「ならそれでいこう。後はタイミングのそろえ方だな」

みき「合図は先生が出してください!」

八幡「俺?」

遥香「そうですね。3人の真ん中っていうちょうどいいポジションにいるわけですし」

昴「先生の合図なら、アタシたちさらに頑張れますから!」

……むぅ。正直気乗りはしないが、3人が一番やりやすい状況を作る方が大事だしなぁ。ここは腹をくくるか。

八幡「わかった……」

遥香「では先生の『炎舞鳳凰翔』の掛け声に合わせて私たちがスキルを使うということで」

八幡「待て。なんで俺もあの恥ずかしいスキル名を言わなきゃならないんだ」

昴「だってアタシたちがスキルを使うときはスキル名唱えないといけないですし」

みき「それに先生も一回くらい一緒に言いましょうよ!意外と楽しいかもしれないですよ?」

材木座ならともかく、今の俺にそんな中二病抜群のスキル名を意気揚々と唱えられるほどのメンタルは備わっていない。つか、それ以前に俺の必殺技でもないんだよなぁ。今回はただ合図として技名を叫ぶだけ。ダサい事この上ない。

八幡「……楽しいかどうかはともかく、お前らがそう言うなら合図はそれでいこう」

でも、一度くらいは必殺技大声で叫んでみたいよね?だって男はみな、一生少年なのだから!

昴「よし!これでなんとかいけそうだね!」

遥香「絶対4人で学校に帰りましょうね」

みき「さぁ、みんな!頑張ろう!」
393 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/11(火) 02:38:40.36 ID:Rm0mq5+k0
スキル性能が一緒だから名前も一緒だと勝手に思ってましたが、実はスキル名は違ってたんですね。すいません。でも今回の話では3人とも『炎舞鳳凰翔』で統一します。これからはもっとスキルも確認します。
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 05:14:31.25 ID:5HaB/ylk0
おつ

細かいところは適当に補完していくからあんま気にしなさんな
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 06:59:37.15 ID:NeBvkbId0

元々クロスオーバーでオリジ要素入ってるし多少はね?
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 08:18:30.19 ID:QnR8H8Jao
乙です
397 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/11(火) 23:24:31.03 ID:Rm0mq5+k0
本編4-20


段々爆発が迫って来た。そろそろ作戦開始かな。

八幡「よし。始めるか。星月頼む」

みき「はい!『メガスキルバースト』!」

3人の周りを黄色いオーラが包み込む。例えるならちょっとしたスーパーサイヤ人みたいな感じだ。

八幡「あとはタイミングを合わせてスキルを撃つだけだ」

みき「は、はい!」

遥香「みき緊張してるの?」

みき「う、うん。正直かなり……」

昴「あはは、実はアタシもけっこう緊張してるんだ。でも遥香は大丈夫そうだね?」

遥香「だって、こういう絶体絶命なシチュエーションってよく少年漫画にあるでしょ?それを今実体験してると思うと少しワクワクしてるの」

お前強いなぁ!オラわくわくすっぞ!ってか?心までサイヤ人になっちゃったのかな?

八幡「おい、もう爆発がそこまで来てるぞ。準備しろ」

俺の言葉に3人の雰囲気ががらりと変わる。もうお互いの顔も見ずに、ただ真正面のイロウスにだけ集中している。

八幡「いいか。俺が『炎舞』と叫ぶから、1テンポおいて3人は攻撃してくれ」

みき、遥香。昴「はい!」

俺は3人の背中を順に観察する。星月はソードを、成海はスピアを、若葉はハンマーを構えている。こうして後ろから眺めることは今までなかったが、改めて見てみると、頼もしい背中をしてるんだな。俺を「守」るって意志をひしひしと感じる。

もう爆発が目の前まできている。今まで遠くに見えていたイロウスは爆炎でまったく見えない。だが、至近距離にもイロウスは浮いてるし、それらも爆発しそうに膨張している。

八幡「……いくぞ。『炎舞』!」

みき、昴、遥香「『鳳凰翔』!」

刹那、3方向から凄まじい爆炎が放たれた。ちょうど俺周りで爆炎がぶつかり相殺されているが、周りは360度爆煙で包まれており視界は遮られてしまっている。

八幡「くっ……」

てか爆風がすごすぎて立ってられないんですけど。音もすごいし、本当に星月たちがどうなってるかわからない。

やがて爆煙が薄くなってきた。俺は立ち上がり急いで周りを見渡してみたが、いるはずの人影が見えない。

八幡「嘘だろ……」

最悪のシチュエーションが頭をよぎる。3人は身を挺して爆発から俺を守ったのか?3人が3人とも?はは、まさか。冗談だろ?

八幡「星月……若葉。成海!」

俺はありったけの声を出して叫んでみた。だが返事は聞こえない。

八幡「なんでだよ……」

俺が3人を死なせてしまった。否、殺してしまった。俺だけが犠牲になればこんなことにはならなかったはずだ。なんで俺はあの時、もっと強くあいつらを説得しなかったんだ……

その時、爆煙の下の方に何かの影が見えた。それはゆっくりとこちらへ近づいてくる。あぁ。イロウスの生き残りか。なら、いっそ俺もここで死んでしまうのがいいかもな。俺の死くらいじゃ償いにはならないが、俺にできることはこれくらいだ。

八幡「……殺せ!」

俺はその影に向かって泣き叫んだ。だが影はそこで動きを止める。

「何言ってるんですか先生?」

八幡「え?」

この声は、まさか……

みき「なんとかここまで這って来た私に『殺せ』ってどういうことですか?」

現れたのはぼろぼろの星月だった。

八幡「星月……?お前、なんで這って来たんだよ」

みき「全力でスキルを使ったら、歩く体力もなくなっちゃったんです。なのでこうして這ってきました」

八幡「……ふっ、なんだよ。そういうことかよ。ははっ」

俺は力が抜けて、地面に座り込みながら笑いだしてしまった。そんな俺を不思議そうに星月が眺めてくる。
398 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/11(火) 23:58:52.53 ID:Rm0mq5+k0
本編4-21


やがて成海と若葉も合流した。

昴「先生!無事だったんですね!」

八幡「あぁ。お前らも無事か?ケガはないか?」

遥香「はい。大丈夫です」

みき「ねぇ聞いてよ2人とも!先生ったら、私に向かって最初『殺せ!』って叫んできたんだよ?」

遥香「……どういうことですか?」

八幡「いや、なんか気が動転しててな。自分でもよくわからず口走っちまった」

お前らが死んだと思ってた、なんて口が裂けても言えない。

昴「先生本当に大丈夫ですか?実はどこか爆発に巻き込まれてたりしてませんか?」

八幡「なんともねぇって。強いて言えば疲れだな。ラボから一緒にいて身も心も疲れた」

みき「それって、私たちといると疲れるってことですか!?」

八幡「ま、そうとも言うかもな」

昴「ま、まぁまぁみき。実際、アタシも色々あって今日は疲れちゃったし、大目に見てあげようよ」

遥香「そうね。私もお腹空いたわ。早く何か食べたい」

4人でこんな雑談をしていると、通信機が鳴りだした。

八幡「はい。もしもし」

樹『比企谷くん!?無事ですか?』

八幡「えぇ。星月たちも全員無事です」

俺の返答の後、八雲先生じゃない人たちの歓声が聞こえた。おそらく他の星守たちが後ろの方にいるんだろう。

樹『よかった……』

八雲先生は心の底から安堵したような声を出した。

八幡「あの、周囲にまだイロウスの反応はありますか?」

樹『いえ、レーダーには反応はないわ。完全に消滅しています』

八幡「そうですか、ありがとうございます」

樹『えぇ。じゃあすぐに転送装置を起動させますね。そこで少し待っててください』

八幡「わかりました」

そうして通信は切れた。

遥香「学校からの通信ですか?」

八幡「あぁ。八雲先生からだ。俺たちが無事だって聞いて安心してたよ」

昴「あの、イロウスは?」

八幡「それもこの辺には反応はないそうだ。完全に殲滅できたってよ」

みき「やったー!」

そう言って星月は若葉と成海に抱きつく。

昴「こ、こらみき!いきなり抱きついてきたら危ないって!」

みき「えへへ〜」

遥香「もう、しょうがないわね」

3人はそのままお互いに抱き合って笑い合っている。ついさっきまで俺を守るために死ぬ気で奮闘していた星守とは思えないくらい楽し気に。ゆりゆりに。

八幡「ほら、そろそろ離れろ。八雲先生はすぐに転送してくれるって言ってたぞ」

みき「は〜い」

しぶしぶ3人は離れる。が、なぜか俺の両腕に絡みついてくる。やめて!柔らかい感触と女の子の香りが凄すぎて頭がクラクラする。

八幡「な、なにしてんだよお前ら」

みき、昴、遥香「先生!これからも私たちのことよろしくお願いします!」
399 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/12(水) 00:35:36.75 ID:krpYwvdr0
本編4-21


ラボでのやりとりと、イロウス殲滅の次の日の放課後。俺は総武高校のジャージを着てグランドにいる。なぜかと言うと。

昴「先生!ほらもっと頑張って!ワンツー!ワンツー!」

八幡「いや、もう、もう無理……」

このようにダンス特訓につき合わされているのだ。だが、なんだってあんな戦闘をした翌日からダンスしなきゃならんのだ。

遥香「ふぅ。そしたら少し休憩しましょうか」

八幡「そ、そうしよう……」

俺たちはグラウンドの木陰で休むことにした。

みき「あ、みんな!私、今日は疲労回復に効果のある料理を作ってきたんだ!」

八幡、昴「え?」

俺と若葉は同時にうめき声のような声を出してしまった。でも、この前みたいな料理だったらまだ食べられるかもしれない。もう絶望する必要なんて、ない!

遥香「何を作ってきたの?」

みき「えへへ〜、じゃーん!」

星月が開けたタッパの中には、なにか得体のしれない茶色の物体が得体のしれない紫色の液体の中に沈んでいた。

昴「み、みき?これは、なに?」

みき「え−、見ればわかるじゃん!レモンのはちみつ漬けだよ!私なりに健康に良さそうなものを加えたんだ。疲労回復には効果抜群だよ!」

もうどこにもレモンもはちみつもいない。これを食べたら間違いなく「こうかばつぐん」で倒れてしまう。

だが成海は躊躇なく茶色い物体を口に入れる。

成海「美味しいわみき!この前のスランプは抜け出せたみたいね」

みき「うん!今回は前のサンドイッチのリベンジも兼ねて、いつもよりも気合入れて作ったんだ!ほら、先生と昴ちゃんも食べて食べて!」

八幡「いやあ、実は俺そんなに疲れてなかったな。さ、すぐにでもダンスを再開するか若葉」

昴「そうですね先生!次はf*fのダンス教えますね!」

みき「2人とも、食べてくれないの?」

遥香「こんなに美味しいのにもったいないですよ」

だからこそ危ないんだろうが!と心の中ではツッコめるが、星月の泣きそうな顔を見ると、そんなことは言えるはずもない。助けを乞うように若葉を見るが若葉も同じようにいたたまれない表情をしている。

八幡「……わかった。食べるよ。ほら若葉も食うぞ」

昴「はい……」

俺の言葉に若葉も諦めたように頷く。そして恐る恐るレモンには到底見えない茶色い物体を1つ取り出す。

八幡「……ふぅ。いただきます」

俺はそれを口に入れるが……

ナニコレ!今までの星月の料理の中でも1,2を争うほどヤバい味だ。口の中だけじゃなくて、鼻の中にも危険なにおいが通過するし、物体に触れた唾液までもが食道や胃を破壊していくようだ。若葉に至っては顔色も茶色じみてきている。もはやこれは凶器というより兵器だな。

みき「先生どうですか!?」

八幡「あ、あぁ……少し食べただけでもすごい効くなこれ……」

みき「ほんとですか!?まだまだありますよ?」

八幡「いや……1つで十分だ。ありがとう……」

これ以上食べたら間違いなく病院行きだ。生身のジョーイさんに治療してもらわなくてはならなくなる。

遥香「さ、ではそろそろダンス再開しますか」

昴「待って遥香。アタシもう少し休憩したい……」

八幡「俺も……」

みき「2人とも立って!私、先生を引っ張り出すから、遥香ちゃんは昴ちゃん引っ張って!」

遥香「任せて」

こうして俺と若葉は強引にグランドへ引っ張り出されてしまった。く、このままダンスなんてして大丈夫だろうか?イロウスと戦う時より不安だ……
400 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/12(水) 00:37:43.91 ID:krpYwvdr0
以上で本編4章終了です。>>394,>>395の方々ありがとうございます。他の方も適宜補完してくれていると思いますが、この先もよろしくお願いします。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/12(水) 02:37:10.33 ID:XFyX1Mono
乙です
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/12(水) 11:06:34.95 ID:Ws8AlcUOO

綺麗にまとまりすぎてて最終回かと心配した
アニメと一緒に楽しみにしてるよ
403 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/12(水) 22:58:59.63 ID:krpYwvdr0
本編5-1

ある日の放課後。俺が職員室で作業をしていると、八雲先生に声をかけられた。

樹「比企谷くん、ちょっとこっちに来てもらえるかしら?」

八幡「はぁ。なんですか?」

促されるままに職員用談話室に移動すると、天野、火向井、常磐がソファに座っていた。

ゆり「先生!」

望「先生が来たってことは、つまりそういうことかな?くるみ?」

くるみ「かもしれないわね」

なんの話だ?3人とも、何かわかったような口ぶりだが。

樹「比企谷くんも座って下さい」

八幡「はぁ」

事情が呑み込めない。3人の雰囲気から想像するに、怒られるわけではなさそうだけど。

樹「みなさん。今日は『修学旅行』について話すことがあります」

八幡「修学旅行?」

俺が不思議そうに聞き返すと常磐が何かに気づいたような声を出す。

くるみ「あ、先生は知らなかったんですね」

ゆり「毎年、星守クラスの高校2年生は普通クラスとは別の修学旅行に行くんです!」

望「まぁ、修学旅行って言っても毎年近場での日帰り旅行なんだけどね……」

八幡「日帰りで修学旅行?」

樹「えぇ。万が一イロウスが現れたときにすぐに対処ができるよう、日帰りにしているの」

旅行っていうか、遠足みたいだな。しかも星守クラスの高2だけというところがまた少し可哀そうではある。

八幡「修学旅行の概要はわかりました。でもなんで俺がここに呼ばれたんですか?」

「その説明は私たちがするわ」

ドアを開けて入ってきたのは、今日は仕事で学校を休んでいた煌上と国枝だった。

樹「えぇ、そうね。じゃあお願いしようかしら」

詩穂「はい。お任せください」

そう言うと2人は少し興奮気味に話し出す。

花音「実は私たちも事務所からお休みをもらえたから、みんなと一緒に修学旅行に行けることになったの」

望「おぉ!やった!」

花音「でも驚くにはまだ早いわ」

詩穂「さらにリフレッシュのために、と事務所負担で一泊二日の沖縄旅行をさせてもらえることになったの」

くるみ「沖縄なんてすごいですね」

詩穂「ふふ。それで私たちが事務所にお願いをして、皆さんも沖縄旅行の人数に入れてもらえたの」

ゆり「と、いうことは?」

花音「私たち星守クラス高校2年生全員で沖縄修学旅行に行けるってことよ!」

望、ゆり、くるみ「おぉ!」

3人のテンションも一気に高まる。まぁ近場での日帰り旅行が沖縄宿泊旅行になったらそりゃ喜ぶわな。しかも費用は向こう持ち。最高かよ。

花音「何1人他人面してんのよ。あんたも行くのよ」

ぼーっとしていた俺に煌上がなんかすごいことを言ってきた。

八幡「は?俺も?なんで?」

花音「なんでって……そんなこともわかんないの?」

詩穂「だって先生も私たちと同じ高校2年生じゃないですか」

八幡「いや、年齢だけ言ったらそうかもしれないけど」
404 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/14(金) 21:21:01.65 ID:qzloTAQI0
本編5-2


樹「さすがに泊まりとなると私も風蘭も都合つかなくて引率できないの。だから比企谷くん引き受けてくれない?」

引率係を同学年のぼっち男子高校生に頼むっておかしくない?と思いつつ煮え切らない態度を取っているとさらなる追撃が四方八方から飛んできた。

ゆり「私も風紀委員長として先生のお手伝いしますから安心してください!」

望「先生もアタシたちと一緒に沖縄行こうよ〜!」

くるみ「これを機に先生とゆっくり話してみたいです」

花音「というか今さらキャンセルなんてできないんだけど」

詩穂「先生が来てくれると、とても心強いです」

……こうして6人に言われてしまうと、もう断れないよなぁ。まぁ沖縄にタダで行ける機会なんて滅多にないしな。引率と言っても、こいつらなら別に危ないこともしないだろうし、やることないだろ。

八幡「……わかりました。俺も行きます」

詩穂「うふふ。ありがとうございます。では先生。来週はよろしくお願いしますね」

八幡「そんな直近だと旅程立てられないだろ」

花音「心配ないわ。ホテルの予約とかも含めてスケジュール立てはうちの事務所が全部やってくれるから」

望「おぉ!さすが大手芸能事務所!」

詩穂「実際のところは、私と花音ちゃんが一緒にいると行く先々にご迷惑をかけてしまうからその事前対策のためですけどね」

くるみ「有名人は大変なんですね」

ゆり「でも私たちの修学旅行なのに、全て決められてしまうのも何か違う気が……」

花音「一応、事務所のほうからは行きたいところがあったら教えて欲しいと言われてるわ。一泊二日だからそこまで沢山は無理だけど」

望「はいはい!せっかくの沖縄だし、海行きたい!」

天野がすかさず手を挙げながら大声で発言する。

詩穂「海いいわね。花音ちゃん、新しい水着買いに行きましょうよ」

花音「そうね。修学旅行だし少し奮発してもいいかも」

ゆり「み、水着だなんて破廉恥な!」

くるみ「でも海で普通の服着てるほうが変だと思うけど」

望「ゆり〜、もしかして水着になるのが恥ずかしいの〜?」

ゆり「そ、そんなことないぞ!私だって着ようと思えば水着くらい余裕だ!」

花音「じゃあ希望は海でいいわね」

煌上の言葉に5人が頷く。ははは。すがすがしいくらいに俺のことは無視ですか、そうですか。ミスディレクションを発動してるつもりはないんだけどなあ。

詩穂「先生の意見は聞かなくていいの花音ちゃん?」

おお。国枝は俺のことを覚えてくれていたらしい。

花音「どうせこいつは『暑いしめんどくさいからホテルから出たくない』って言うにきまってるわ。聞くだけ無駄よ」

煌上は当然のことのように話す。ふふふ。く、悔しいがその通りだから反論できない。

望、ゆり「確かに……」

そこ2人。俺より先に同意しないで。なんか悲しくなるから。

くるみ「本当に先生は行きたいところがないんですか?」

八幡「……まぁ、ないな」

花音「あんた、一応修学旅行なのよ?ちょっとは楽しみなことあるんじゃないの?」

煌上の何気ない一言が、俺のトラウマスイッチを押してしまった。どうやらこいつは修学旅行というものを勘違いしているらしい。一つ、修学旅行の黒い部分を教えなくてはならない。

八幡「修学旅行なんてトラウマが大量生産されるイベントだぞ。クラスで余ったやつ同士で班を組まされ、お通夜なムードの班行動。部屋では邪魔にならないようにおとなしくしてるのに、ネタの標的にされる。挙句の果てには持参した携帯ゲーム機で遊びだす始末だ。俺の修学旅行での役割なんて、観光地で妹と親のためにお土産を買うマシーンと化すくらいなもんだ」

俺の言葉に周りの全員がドン引きした。何人かは引くのを通り越して憐みの目線を送ってくる。

望「うわ。先生の修学旅行つまんなそ〜」

詩穂「色々苦労されたんですね先生……」
405 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/17(月) 18:14:55.06 ID:ZlOqQNIU0
本編5-3


八幡「とにかくだ。そういうことだから俺のことは無視して、お前らのやりたい修学旅行を計画してくれ」

俺は半分ヤケになりながらそう呟いた。

ゆり「ですが……」

花音「いいわよゆり。こいつのことは無視して私たちで計画立てましょう」

くるみ「いいんですか?詩穂さん?」

詩穂「先生もあのように言っているし、こうなった花音ちゃんは強情だからなかなか説得するのは難しいわね」

望「もう、先生ったら……」

俺たちのやりとりに一定の成果を見たのか、八雲先生がソファから立ち上がる。

樹「一応、話はついたかしら?あとはみんなで仲良く計画してね。どういう日程になったかの報告だけはしっかりお願い。私はもう行くわ」

「仲良く計画」とか無理難題なんだよなぁ。今まで人と仲良くしたことないし。

5人「はい!」

そんな俺のことは露も考えず、他の5人は元気よく返事をする。その返事を聞いて微笑みながら八雲先生は部屋を出て行った。あれ。てか俺も一緒に出て行けばよくね?うん、出よう。これ以上この空間に俺がいても意味はない。むしろ邪魔まである。

八幡「じゃ俺も行くわ」

俺が立ち上がろうとすると隣に座ってる常磐に腕を掴まれた。

くるみ「どこ行くんですか先生?」

八幡「いや、俺も仕事に戻ろうかなって」

詩穂「先生ももう少し私たちと打ち合わせしましょうよ」

こういう時の打ち合わせって結局雑談になってなに一つ進まなくなるよね。八幡知ってるよ。

望「じゃあ服屋巡りしちゃおうよ!」

ほら。天野がいきなり沖縄とは関係ないこと言い出した。

花音「せめてもう少し沖縄らしいイベント考えなさいよ……」

ゆり「だったら南国の暑い気候の中で特別特訓だ!」

いや、なんで修学旅行先で特訓するんだよ。μ'sでさえ合宿と言いながら海で遊んでるんだぞ。俺たちが特訓なんて出来るはずがない。

花音「修学旅行なんだから特訓はしなくていいんじゃないの?」

くるみ「八重山諸島には珍しい植物がたくさん生えてるのよね。細かく観察したいわ」

離島ですることじゃねぇな。つか離島なんて行けるの?

花音「離島まで行ってみんなで植物観察はちょっと……そもそも本島にしか行けないと思うわ」

詩穂「流れるようにツッコむ花音ちゃんカッコ可愛いわ」

八幡、花音「もうやりたいことでもないじゃない(か)!」

やべ。つい声を出してツッコんでしまった。しかもよりによって煌上とハモっちゃったし。ほら。俺のことすごい睨んできてるよ煌上。その目つきはテレビでやらない方がいいと思うぞ。ごく一部のマニアックな性癖の人は喜びそうだけど。

花音「まさかあんたと同じことを言っちゃうなんて。失態だわ」

八幡「うるせ。つか、お前はどっか行きたいところないのかよ」

花音「私?私は無難に首里城とか見れればいいかしら。遠くに行こうにも時間がかかるし、手軽に電車で行けるところで修学旅行らしい場所ってなると妥当なところじゃない?」

八幡「まぁ確かに」

ゆり「修学旅行ですもんね!その土地の史跡を巡るのも大切です!」

望「でもちょっと普通過ぎない?」

くるみ「海で遊ぶなら、少しくらいは勉強になるところへ行くことも必要だと思う」

詩穂「花音ちゃんが行きたいならどこへでもついていくわ」

八幡「煌上。否定の意見はあまりなさそうだし、首里城も候補に入れといていいんじゃないか」

花音「そうね。案外あっさり決まってよかったわ」

しまった。いつの間にか俺も打ち合わせにがっつり参加しちゃってるじゃん。ほんと場の空気って怖い。……まぁすぐ流される俺も悪いんだが。
406 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/19(水) 23:28:38.75 ID:TCAAurcq0
本編5-4


打ち合わせ、と言えるかどうかわからない何かしらが終わった数日後、俺はいつものごとく職員室で書類整理に追われている。近頃は特に修学旅行関係で学校に提出する書類作成をやらされている。八雲先生に「私は何をするかあまりよく知らないし、比企谷くんが引率するんだから、事務的な資料作成もお願いしたいの」と言われてしまい、しぶしぶ作っているのだが……

いかんせん俺も何をやるのかよくわからない。確かにこの前、いくつか行きたい場所の希望を出しはしたが、それだけだ。実際の旅程がどうなっているのかは何一つ知らない。大丈夫なのこの修学旅行?このまま計画だけで立ち消えとかにならないかな。旅行って計画している時が一番楽しくて、実際始まるとそれほど楽しくない、っていうのをよく聞くけど、今のところ計画してても全く楽しくない。なんならストレスばかり溜まっていく。これで旅行が始まったらストレス過多で倒れるかもしれない。精神的安静のためにも俺は旅行には行くべきではないと思います。

「せーんせ!」

そうやって心の中で文句を言い連ねていると後ろから声をかけられた。振り向くと天野たち高2の5人が立っていた。

望「はいこれ。修学旅行のしおり!」

そう言って渡されたのは女子高生らしい丸っぽい字で「星守クラス修学旅行in沖縄!」と書かれた分厚い冊子だった。一瞬タウンページかと思ったぞ。

八幡「なんでこんな分厚いの?」

ゆり「修学旅行は風紀が緩みがちなので、注意事項をたくさん記しておきました!」

(すごく慎ましい)胸を張りながら、火向井が自慢げに説明する。

八幡「はぁ……」

望「ごめん先生!ゆりがどうしても入れたいって言うから」

ゆり「何言ってるんだ望!修学旅行こそ真面目に取り組まなきゃいけない行事だ!何かあってからでは遅いんだぞ!」

くるみ「この6人でいて、危ない状況になることなんてないと思うけど」

俺は目の前で交わされるやり取りを無視して、しおりをパラパラ見ていった。火向井が作ったであろう細かい文字でびっしり書かれた注意事項のページはもちろん、それ以外のページもけっこう盛り沢山な内容だ。

八幡「これ全部読まなきゃダメか?」

俺の疑問に、煌上はため息をついてゴミを見るような目つきで座っている俺を見下ろしてきた。だから俺にそんな性癖はないってば。

花音「当たり前じゃない。それ一冊でスケジュール確認だけじゃなく、ガイドブックにも使えるように作ったのよ」

詩穂「花音ちゃん、頑張って市販のガイドブックから楽しそうな場所やおいしそうなお店をピックアップしていたものね」

国枝の言葉に煌上の顔がみるみる赤くなる。

花音「し、詩穂!それは言わない約束でしょ!」

くるみ「みんな頑張っていたんですね」

反対に常磐は冊子に目を落としながら他人事のようにつぶやいた。

八幡「常磐は何もしてないのか?」

くるみ「私も手伝おうとしたんですけど、私が近づくとパソコンはもちろん、印刷機も壊れてしまうので、できることがなかったんです」

八幡「なるほど……」

噂には聞いてたが本当だったとは。近づくだけで機械を壊すなんて、この科学の時代でどうやって生きてるの?

望「けどモデルコースの作成とかはすごく手伝ってくれたじゃん!くるみがいなかったらあんないいのできなかったよ!」

ゆり「それに注意事項のアイデアもたくさん出してもらったし、感謝してるぞくるみ!」

くるみ「本当……?ならよかった」

常磐はほっと胸をなでおろし、天野と火向井も安心したように笑顔になる。

八幡「ま、助かるわ。これがないと書類作れなくて困ってたんだ」

詩穂「なんの書類ですか?」

八幡「なんか生徒が修学旅行に行く際には色々提出しなきゃいけない書類があるんだと。それを作らされてるってわけ」

花音「へぇ。意外と真面目に仕事してるのね」

八幡「意外とってなんだよ……俺みたいな組織の底辺にいる人間は雑務であろうと仕事は断れないんだよ」

くるみ「大変そうですね。私もお手伝いします」

そう言って常磐は俺が作業するパソコンに近付いてきた。次の瞬間、パソコンから黒い煙が出てきて、画面が消えた。

八幡「あ」

くるみ「す、すみません……先生の力になりたいと思ってつい……」

八幡「いや、まぁ、まだ全然作業してなかったし、パソコンだって学校の備品だからそんなに問題はねぇよ」

実はそこそこ書類作ってたんだけどね!だけどここで本当のことを言って常磐を傷つけるのは間違っている。これくらいの分量、俺が徹夜で作業して取り返せばいいだけの話だし。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/20(木) 22:36:26.62 ID:txL1VeP7o
乙です
408 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/21(金) 01:19:04.13 ID:6Z6IIi3h0
本編5-5


晩御飯も終わり、普段ならゲームしたりラノベ読んだりアニメ見たりと一段落するところなんだが今日は違う。もう家でも作業をしないと旅行に間に合わない。そうしてとうとう仕事を家に持ち帰る始末……あぁ。また一歩社畜に近付いてしまった……

小町「あ、お兄ちゃんがリビングでパソコンいじってる。ネットサーフィン?」

小町は質問しながら冷蔵庫をごそごそしている。チラッと見たがどうやら風呂上がりの恰好だったから、何か冷たい飲み物を探しているらしい。

八幡「ちげぇよ。仕事だ」

小町「し、仕事?お兄ちゃんが家で仕事?明日は槍でも降るのかな。鎧着なきゃ」

八幡「おい。珍しい光景なのはわかるがそこまでではない。せめて飴が降るとかにしとけ」

小町「そのツッコミ、文字だからこそできるやつだよね。でお兄ちゃん。なんで仕事してるの」

八幡「今度神樹ヶ峰で修学旅行に行くんだが、それまでに提出しなきゃいけない資料を作らされてるの」

小町「へー、どこ行くの?」

八幡「沖縄」

小町「沖縄!?」

小町が沖縄という単語に食いついた。小町は目を輝かせながら、飲み物とアイスを持って俺の隣に座る。

小町「いいなぁ。小町も沖縄行きた〜い!あ。これしおり?見てもいい?」

そう言って小町は例の分厚いしおりを手に取ってパラパラ読み始める。

八幡「俺の返事聞けよ。なんで質問したんだよ」

お前は「あー、タバコ吸ってもいい?」って聞いてくる喫煙者か。あいつら、承諾されること前提で聞いてくるからな。それでいて、こっちが拒否したら物凄い嫌そうな顔つきになるんだよなぁ。そしてその後、露骨に雑な対応しかしなくなるまでがお約束。マジであの時の店長許さん。拒否したからってバイトの面接速攻で終わらせて不採用にしやがって。

小町「まぁまぁいいじゃない。減るもんじゃないし」

八幡「まぁそうだけどよ……」

これ以上話してもろくな会話にならないから、俺は作業に戻る。しばらくしおりを読んだ後、小町はメモ用紙を取ってきて何か書きだした。

小町「はい。お兄ちゃん!」

渡されたのはさっき小町が何か書いてたメモ用紙。開いてみると『小町の欲しい沖縄お土産リスト』の文字。

八幡「ナニコレ」

小町「はーい。ではただいまから小町の欲しい沖縄お土産の発表でーす!はい。お兄ちゃん読み上げて」

小町がメモを指さしてくる。いや、もうお前が言えよ。なんで俺が言わなきゃいけないんだよ。

八幡「三位。ちんすこう」

小町「学校の人にも配りたいから多めによろしくです!では次!」

八幡「二位。シーサーの置物」

小町「縁起がいいからね!シーサーの御利益で高校受験でも『ワンチャン』スを掴み取る!」

八幡「すごいわかりにくいし、狛犬とごちゃ混ぜになってるぞ。なんならシーサーは犬ですらない。獅子、ライオンだ」

小町「そ、それくらい知ってるし?ちょっとしたアニマルジョークだよアニマルジョーク。ほら続き続き!」

八幡「……一位は小町直々に発表します」

俺がメモを読み上げると、おほんと小町は一つ咳ばらいをして話し出す。

小町「小町が一番欲しいのは、『お兄ちゃんと星守さんたちとのひと夏のアバンギャルド』だよ!キャー!」

自分で言って自分で照れてれば世話ないわ。もうダメだこの子。受験勉強のしすぎで頭がおかしくなったのかしら。

八幡「小町。正しくはアバンチュールだ。それに俺はひと夏の恋などしない。なんせ俺は引率の教師として行くだけだし」

小町「そんなのわかんないじゃーん。むしろ、先生と生徒の禁断の恋っていうシチュエーションのほうが燃えるかもよ」

八幡「やめろ。中には現役女子高生アイドルもいるんだ。あらぬ疑惑をかけられただけで、俺は燃えるどころか大炎上してしまう」

小町「まぁお兄ちゃんのことだし、そんなことは絶対ないと思うけど、それくらい楽しんできてほしいって小町は思ってるの。あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい、高い高い。でも小町も俺の心配より自分の心配した方がいいぞ?英語と歴史なんて特に」

小町「そうやって妹の弱点を指摘するの、小町的にポイント低いかも……」

不満を言いつつ、小町はまたしおりをパラパラめくって「いいなぁ」を連呼する。まぁ、待ちぼうけを食らう可愛い妹のために、沖縄では美味しいちんすこうと御利益のあるシーサー探しを頑張りますか。星守たちとは、まぁ、いつも通り接してればいいだろ。多分。
409 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/21(金) 01:24:52.34 ID:6Z6IIi3h0
なかなか沖縄行けない……高2組は人数も多く、修学旅行で遊ぶシーンも書きたいんでこれまでの本編より長くなるかもです。
あと、小町が予想外にアホの子になってしまった。ここまでアホにするつもりじゃなかったのに……
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/21(金) 15:08:57.38 ID:g1xC5UF/o
乙です
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/21(金) 17:06:56.46 ID:W5Q1kzQh0
人数多いしええんとちゃう?
八幡は同年代と喋ってる時が一番生き生きしてると思うよ
412 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/22(土) 19:37:19.68 ID:OoSZuS2Z0
本編5-5

いよいよ修学旅行当日。飛行機に乗るため俺は早朝から羽田空港へ向かう。しかし、羽田空港を東京国際空港と呼ぶのはいいとして、千葉県にある成田空港を新東京国際空港と呼ぶのはどういう理屈なんだろうか。東京ディスティニーランドといい、東京ドイツ村といい、千葉は東京の名を使いすぎじゃない?これはあれだ。もう日本の首都が千葉だというkとの証明なのだ。キャピタルオブジャパンイズチバ。なにこれちょっとカッコいい。

こんなしょうもないことを考えていたら空港に到着した。空港は駅とは勝手が違うらしい(小町談)ので、しおりに書いてある集合時間よりもだいぶ早く着いてしまった。暇だし空港内を少し見て回るか。外を見れば快晴。旅立ちには最高の天気やね!あ、枕忘れた!でも冷静に考えて飛行機には2時間半しか乗らないし、正直普通に邪魔。

そうして1人Wonderful Rush状態で空港をブラブラ歩いていると突然背中に何か細くて硬いものを押し付けられた。

「振り向かないでください。振り向いたら撃ちます。まずは近くの本屋へ行きなさい」

現状に理解が追いつかず、頭が真っ白になる。ここで俺死ぬの?うっすい人生だったなあ……葬式には戸塚来てくれるかなぁ。来てくれなかったら成仏できずに戸塚だけに見える霊「はちま」になる。もしくは胸に孔が開いて虚になる。

「早く歩きなさい」

なんだか聞いたことのある声にせかされ俺は歩き出した。

八幡「……はい」

数分歩いて本屋に着いた。

「では雑誌コーナーにある花音ちゃんが表紙の雑誌を4冊買ってきなさい」

……なんだか命令がおかしい気がする。それに今こいつ「花音ちゃん」って言ったか?

八幡「それらはなんのために使うんだ国枝」

詩穂「もちろん、鑑賞用、保存用、布教用、使う用です」

急にアホらしくなって俺は背中の感触を無視して振り返った。そこには俺の予想通り、ペンを持った国枝が立っていた。

詩穂「あら先生。おはようございます」

八幡「おはようございます、じゃねぇよ。朝から何してんだお前」

詩穂「ちょっとした遊びです。昨日読んだ推理小説の中で、犯人が名探偵を殺そうとして拳銃を背中に突き立てたシーンがあったんです。驚きましたか?」

国枝はイタズラっぽく笑って顔を近づけて来る。やめて。その笑顔はまさしく殺人級だよ。

八幡「別に驚かねぇよ。流石に非現実的すぎる」

詩穂「あら、事実は小説よりも奇なりとも言うじゃないですか。現実では小説以上にいろんなことが起きるものですよ。もしかしたらこの修学旅行の間にも何か起きるかも」

八幡「勘弁してくれ。俺はなんのトラブルもなくこの修学旅行を終えたいんだ。そもそも修学旅行自体が非日常的イベントなんだし、これ以上は俺の手に負えなくなる」

詩穂「うふふ。さあ。そろそろ集合時間ですね。遅刻したら花音ちゃんと火向井さんに怒られちゃいますよ」

八幡「だな。行くか」

---------------------------------

集合場所に行くと、すでに4人が集まって談笑していた。天野がいち早く俺たちに気づき、手を振っている。

望「お。先生!詩穂!おはよ!」

ゆり「みんな時間までに集まったな!」

くるみ「いよいよ出発ね」

詩穂「おはようございますみなさん。花音ちゃん。出発前にあのことを言っといたほうがいいんじゃない?」

花音「そうね。みんなちょっといいかしら」

煌上と国枝が俺たちの前に立つ。煌上はビデオカメラを取り出しながら話し出す。

花音「今、私たちはあるドキュメント番組の密着取材を受けているの。それで今回の修学旅行も取材したいってお願いされたんだけど、流石にプライベートだからって番組の人が同行するのは断ったわ」

詩穂「でも一応この旅行は事務所が私たちのお金も出してくれてるから、完全に断るのは出来なかったの」

花音「そこで私たちが自分たちで映像を撮るってことで妥協したの。だからこの修学旅行中みんなをカメラで撮って、もしかしたらその映像を放送に使うかもしれないけどいいかしら?」

望「もちろん大丈夫!むしろいい映像撮れるように協力するよ!」

くるみ「そうね。せっかくならいい映像撮りたいものね」

ゆり「……間違ってもくるみはビデオカメラには触らない方がいいぞ」

花音「みんなありがとう。じゃ、これよろしく」

そう言って煌上は俺にカメラを渡してきた。

八幡「……もしかしなくても俺が撮影係?」

花音「当然よ。そのためにあんたを呼んだのよ。もしあんたの目が映ったら放送事故扱いで使えなくなるし」

ですよねー。でも俺の目が放送事故レベルに腐ってるのは否定したい。せめてモザイクかければ映れるレベルだと自負してる。そして円盤では無修正でお届け!さらにオーディオコメンタリーも付けちゃう!
413 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/22(土) 19:39:02.06 ID:OoSZuS2Z0
>>412は本編5-6でした。
414 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/24(月) 22:18:31.07 ID:Kc6EheuQO
理事長が今日誕生日だというのをさっき知りました。
今日中にSSを投稿するのは厳しいので明日か明後日には投稿します。
ひとまず牡丹理事長。お誕生日おめでとうございます!
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/25(火) 07:14:22.24 ID:AAob7kZlo
乙です
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/25(火) 10:39:23.63 ID:hniD30GzO
何歳になったんですかねぇ…
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/25(火) 14:46:42.63 ID:q0k1esct0
水着シーンお願いします
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/07/25(火) 14:47:50.50 ID:q0k1esct0
水着回お願いします

419 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/25(火) 14:59:02.58 ID:Y6V0l6zS0
番外編「牡丹の誕生日前編」


梅雨が明け、セミの声が響き始めた。今年も暑い夏がやってくる。いっそ夏はさっさと通り過ぎて早く秋になってほしい。暑いの嫌い。でも夏に薄着になる女の子を見るのは嫌いではない、どうも俺です。

そんな夏の厳しい日差しが差し込む放課後。ラボに荷物を運んだ帰り道に校舎の外を歩いていると、1人で神樹の前に佇んでいる理事長を発見した。

独特のオーラというか、雰囲気というか、理事長の存在感は変わった人が多いこの学校内でも際立っている。現に俺がすぐ見つけられるくらいの存在感だし。

背後からの視線に気づいたのか、理事長は振り向いて俺に声をかける。

牡丹「あら比企谷くん。こんにちは」

八幡「どうも。そんなとこで何してるんですか?」

理事長はにっこり笑いながら返答する。

牡丹「神樹の声に耳を傾けていたんです」

八幡「神樹の声?」

理事長も常磐と一緒で植物の声が聞こえる能力者だったのか。あれ、でも同じ能力の実って存在しないはずでは?設定が歪んでますよ尾田先生!

牡丹「私は大地の巫女として神樹を守る役割を務めていて、そのおかげで神樹からの声を聞くことができるんです。くるみのようにすべての植物の声が聞こえるわけではないですけど」

また聞いたことのないような役職が出てきましたねえ。バトルマンガでよくある後付け設定かよ。で、中盤まではこういう後付け設定のバーゲンセールをしておきながら、結局風呂敷を広げたまま連載が終了していく事例が多数。もはやこの展開こそバトルマンガの王道、と言っても過言ではない。

八幡「なんだか大変そうなお仕事ですね」

牡丹「大変とは感じないけれど、特別な力が必要ですからね。その点では一般の人にはできない仕事と言えますね」

そこで理事長は何かを思いついたように手をポンと叩いた。

牡丹「そうだ。外は暑いですし、せっかくなら理事長室で涼んでいきませんか?」

確かにここは結構暑い。だけどわざわざ涼みに行くほどのことでもない。というか早く帰ればいいだけの話だし。

牡丹「それに、作りすぎて余ったおはぎもあるんです。是非比企谷先生にも召し上がってもらいたいんです」

躊躇している俺に対し理事長はさらに畳みかけてくる。……ま、おはぎを少しもらうくらいならいいか。

八幡「では、お言葉に甘えて」

牡丹「ふふっ。では行きましょうか」

俺は理事長に従って歩き出した。

---------------------------------

牡丹「どうぞソファに適当にかけてください。今お茶とおはぎを持ってきますね」

八幡「は、はい。ありがとうございます」

もう何回か訪れてはいるものの、やはりこの部屋には慣れない。居心地が悪いってわけではないが、なんだかこの空間だけ他の場所とは隔絶している印象を受ける。それが部屋の調度品のせいなのか、理事長自身の雰囲気のせいなのかはわからないが。

牡丹「お待たせしました。どうぞ」

そう言って理事長から渡された皿には、どこか高級店の商品だと勘違いしそうなくらい綺麗なおはぎが乗っていた。

八幡「これを理事長が作ったんですか?すごいですね」

牡丹「おはぎを作るのが趣味なんです。味にも自信があるのでどうぞ食べてみてください」

八幡「はい。いただきます」

俺はつぶあんおはぎを1つ口に入れてみる。

うわっ、え。めっちゃうまいんですけど。表面のつぶあんと、なかのもちもちのおもちが絶妙にマッチした食感を与えてくれる。それに甘すぎず、でも薄すぎないちょうどいい味付け。これなら何個でも食べられる気がする。

牡丹「いかがですか?」

八幡「とても美味しいです。正直、今まで食べたおはぎの中で一番おいしいです」

牡丹「あら。そう言ってもらえると作ったかいがありますね。他にも様々な種類のおはぎを作ってるんですが、いかがですか?」

八幡「いただきます」

この味を一度知ったらもう止まることはできない。俺はきな粉、黒ゴマ、抹茶、よもぎ、その他理事長オリジナル、と出されたおはぎを次々に食べてしまった。その光景を理事長はペットがえさを食べているのを眺める飼い主のように微笑みながら眺めている。なんだか餌付けされているようだな。うん。悪くない。

八幡「御馳走様でした。本当にどのおはぎも美味しかったです」

牡丹「あら。そこまで褒めてもらえるなら、理事長を辞めておはぎやさんでも開こうかしら」

理事長はくすくす笑いながらそんな冗談を言う。こんなふうに可愛く笑ってはいるが、この人八雲先生たちよりずっと年上なんだよな。一体何歳なんだ……
420 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/25(火) 15:00:18.85 ID:Y6V0l6zS0
番外編「牡丹の誕生日後編」


牡丹「でも、それよりも私はここでの生活の方が面白いですし、充実していますね」

理事長はすこし遠い目をしながらつぶやいた。

八幡「神樹ヶ峰での生活が、ですか?」

牡丹「ええ。生徒のみんなが日々成長し立派な人間となってこの学校を巣立っていく。もちろん、淋しさもありますけど1人1人の成長を間近で見られるというのはやりがいですよね。特に、星守クラスの子にはどうしても目をかけたくなっちゃいますね」

八幡「まぁ、あいつら目を離すとろくなことしませんからね」

牡丹「それもまた面白いじゃないですか。それに、比企谷先生が来てくださってから、星守クラスの子たちはより充実した学校生活を送れていますし」

八幡「そうですか?別にあいつらなら自分たちだけで楽しくワイワイやれそうですけど」

牡丹「もちろんポテンシャル自体は彼女たちにもともと秘められていたと思います。ただ、それを開花させたのは比企谷先生のお力です」

八幡「そんな、俺は別に、」

牡丹「比企谷先生」

俺の反論を遮り、理事長は強い口調で俺の名前を呼んだ。

牡丹「謙遜は美徳です。でも過ぎればそれは醜いものとなり、周囲からの反発も受けるでしょう。特に比企谷先生はご自身の能力を過小に見ておられます。もっと自分を信じてください」

突然の理事長からの言葉に俺は少しの間、言葉が出なかった。

八幡「……ですけど証拠も何もないまま信じるのはできないですよ」

牡丹「あら。すでに証拠はあるじゃないですか。毎日毎日、比企谷先生に向けられる星守たちの笑顔。あれこそが比企谷先生の能力の高さを示す何よりの証拠ですよ」

俺には理事長の言葉に返す答えを持たない。確かに彼女たちは俺の前でいつも楽し気に会話している。たまにはそれに巻き込まれもする。だけど、それは果たして理事長が言うように俺のおかげなのだろうか。本当に俺は何もしていない。なんなら足を引っ張っている。空腹な人に魚を与えるどころか、魚の獲り方すらまともに教えられないのに。

牡丹「だから私、少し嫉妬しているんです。何年も星守と関わっている私よりも、短時間で容易に彼女たちを笑顔にしていく比企谷先生に」

八幡「理事長……」

牡丹「でも同時に、その何百倍も感謝しているんです。命がけで戦う彼女たちをこれ以上ないくらいの笑顔にしてくれているんですから」

理事長は見た目のかわいらしさからは想像がつかないほどまっすぐに俺を見ながら、真剣な口調で語り続ける。それに気おされてまったく身動き一つとれない。さながら覇王色の覇気を受けているみたいだ。

八幡「……」

牡丹「今日はこのことが言いたくて比企谷先生をお呼びしたんです。比企谷先生の周りには常に星守の誰かがいるのでなかなか言えなかったんですよ。比企谷先生はモテますから」

理事長はそれまでとは打って変わって朗らかな口調になる。そこで俺もようやく口が開くようになった。

八幡「あいつらはただ単純に俺をからかって遊んでるんだけです。むしろ積極的に話しかけてください。そして俺を助けてください」

理事長「あら、なら今度からは私もみんなと一緒に比企谷先生をからかおうかしら」

八幡「ははは。勘弁してください。あいつらがさらにつけあがるだけですから」

理事長「ふふっ。それもそうですね」

俺と理事長はお互いにクスクス笑いあった。

気づけば窓から夕日が差し込んでいる。夏は日が長いから油断しがちだが、けっこうな時間をここで過ごしてしまったのだろう。明日もあるし、そろそろ帰るとしよう。

八幡「すいません、そろそろ俺は帰ります。長い時間ありがとうございました」

牡丹「いえ、私も楽しかったですよ。おかげさまでいい誕生日を過ごさせてもらいました」

八幡「え。理事長今日誕生日だったんですか?」

牡丹「ええ。言ってなかったかしら」

八幡「初耳です……」

なんなら誕生日があることに驚いてる。この人が子どもの時とか想像つかない。いや、けっして見た目が子どもだから、とかではない。理事長ってなんかこの姿のままずっとこの世に存在している感じがする。神ですら神話では両親とか出てくるし、もはや神を超えた存在として俺は理事長を認識していた。

つーかこの人マジで何歳なんだよ。誕生日がくるってことは毎年1つは年を取ってるんだよな。取ってるんだよね?

牡丹「あら、比企谷先生。もしかして私の年齢のこと考えてますか?」

八幡「へ、いえ、別にそんなことはまったくちっともこれっぽっちも考えてないですよ?」

理事長のペガサス並みのマインドスキャンに対し、俺はしどろもどろに返事をしてしまった、助けて、もう一人の僕!

牡丹「そうですか。命を粗末にしない、いい心がけですね」

この世には触れてはいけないものが存在する。その最たるものが何なのか。微笑を浮かべる理事長を見て今日俺は痛切に実感した。
421 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/25(火) 15:04:04.53 ID:Y6V0l6zS0
以上で番外編「牡丹の誕生日」終了です。1日遅れてしまってごめんなさい理事長。
422 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/25(火) 16:07:24.68 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たち@」


放課後、俺は特別棟の四階にある奉仕部の部室を目指していた。本心を言えば1ミリたりとも行きたくはないのだが、行かないと物凄く罵倒してくる雪女のように冷酷な部長だったり、犬のように寂しがる見た目はリア充だが頭はアホな部員だったり、毎度毎度訳のわからん依頼をしてくる生徒会長のあざとい後輩だったりがいるために行かざるを得ない。そういえば最後のは部員でもなんでもないじゃん。まぁ行ったところで大体は本を読むだけの活動しかしないのだが。

八幡「うす」

ドアを開けるといつもの席に3人が座っていた。

結衣「あ、ヒッキー!やっはろー!」

雪乃「こんにちは比企谷くん」

いろは「先輩おっそーい」

八幡「なんで一色いるの」

いろは「なんでって、今日は特訓の日じゃないですか。逆に私いなくていいんですか?」

一色が頬を膨らませながら文句を言う。はいはいあざといあざとい。そしてそんな一色に雪ノ下が本を読みながら話しかける。

雪乃「その男に何を言っても無駄よ一色さん。ろくに人と会話しないから、人の発する周波数を感知できなくなってるのよ。超音波を使わないと」

八幡「俺はイルカか。それなら鴨川シーワールドでショーしないといけなくなっちゃうんだけど」

雪乃「あら。なら比企谷くんはイルカ未満かしら。運動能力もたいしたことないし、それ以前に人を笑顔にする仕事なんて絶対にできないもの」

そう言う雪ノ下は満面の笑みを浮かべて生き生きしてる。それこそ水を得た魚のように。

結衣「まぁまぁゆきのん、そのくらいで……」

雪乃「そうね。そろそろ特訓に行かないと」

静「残念だが、今日は特訓はナシだ」

ドアを勢いよくあけて平塚先生が入ってきた。

雪乃「平塚先生、ですからノックを」

静「悪い悪い。でもイロウスが現れたんだ。もたもたしてる暇はない。お前たち。今すぐ殲滅に行ってこい」

雪乃「わかりました。どこに向かえばいいですか?」

雪ノ下が平塚先生から情報収集をする隣で、由比ヶ浜もふんふんそれを聞いている。

八幡「由比ヶ浜。お前、話聞いてもわからんだろ。じっとしてろ」

俺に注意されたのが不服だったのかぷんすかしながら由比ヶ浜が反論してきた。

結衣「そ、そんなことはないもん!ちょっとくらいはわかるし!よーし。これまでの特訓の成果を発揮してイロウス討伐頑張るぞー!」

いろは「結衣先輩張り切ってますねー。私は正直めんどくさいんですけど」

逆に一色はヤル気なさそうに正直すぎる感想を言う。うん。めんどくさいってとこには俺も共感するぞ一色。

八幡「でもお前そう言いながらいつもけっこう倒してるじゃん」

いろは「え、なんですか急に。はっ、もしかして今口説こうとしてましたかごめんなさい普段から見てもらえてるってわかってちょっと嬉しいですけどもう少し雰囲気のいい時に言ってもらえますかごめんなさい」

毎回よくこんなに一気にまくしたてられるよな。ある意味すごい。もう断られすぎてこんな境地に至ってしまったどうも俺です。

雪乃「何をぐずぐず言ってるの。早く行くわよ」

メモを持った雪ノ下が俺たちに声をかける。

いろは「は、はい!」

結衣「おー!」

八幡「はいはい」

こうして俺たちはイロウスが現れた現場まで急行した。
423 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/25(火) 16:08:10.15 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たちA」


八幡「ここか」

雪乃「えぇ」

着いたのは海岸の工場。いかにもバトルで出てきそうな感じのところ。仮面ライダーとか戦隊シリーズがよく戦うとこ的な。

いろは「この瘴気の色。いつ見ても気味悪いですねー」

結衣「だねー。そういえば瘴気が紫色なのってイロウスがブドウみたいな紫色の食べ物ばかり食べてるからかな?」

由比ヶ浜のアホ全開の発言に雪ノ下が恐る恐る口を開く。

雪乃「由比ヶ浜さん。冗談で言ってるのは百も承知で一応言っておくと、別に食べ物の色と瘴気の色は関係ないと思うわ……」

結衣「わ、わかってるよゆきのん!そんなかわいそうなものを見る目であたしを見ないで〜!」

八幡「おいお前ら。来たぞ」

前方の道に小型イロウスの群れが現れ、こっちに向かってきた。

雪乃「由比ヶ浜さん、一色さん。変身よ」

結衣「うん!」

いろは「了解でーす」

雪ノ下の声に合わせ、3人が星衣フローラの姿に変身する。雪ノ下は白を、由比ヶ浜はオレンジを、一色はピンクを基調とした星衣だ。

雪ノ下「2人とも準備はいい?」

結衣「いつでもOK!」

いろは「大丈夫でーす」

雪乃「では突撃開始」

雪ノ下を先頭に3人は一斉にイロウスに向かって突っ込んでいった。

雪乃「はっ」

結衣「やぁー!」

いろは「せい!」

みるみるうちに、道にいた小型イロウスは全滅した。

結衣「ふぅ。とりあえず近くのイロウスは倒せたね!」

いろは「あんまり手ごたえ無かったですねー」

雪乃「2人とも油断しないで。まだどこかに大型イロウスがいるはずよ」

3人が俺のところへ戻ってくる。ここで俺はいつも抱いていた疑問がふっと口から出た。

八幡「なぁ。ずっと思ってたんだけど、星守でもない俺がここに来る意味なくね?」

すると3人の表情が不満げなものに変わった。なんだよ。俺変なこと言ったか?

雪乃「比企谷君、あなたはこの2人の面倒を私1人で見ろとでも言いたいの?さすがの私でも戦いながら2人のフォローをするのはかなり厳しいのだけれど」

結衣「あたしはヒッキーに直接見てもらいながら戦いたいの!」

いろは「先輩がいないと、結衣先輩と雪ノ下先輩だけになっちゃうじゃないですか。そしたら緩衝材が、じゃなかった、場をとりなしてくれる人がいなくなって大変なんですよ〜」

3人ともが勝手な言い分を持ち出して俺に反論してきた。こうなったら勝ち目がないので俺はすぐ白旗を挙げる。

八幡「わかったわかった。俺が悪かった。だからこの話はもう終わりにしよう」

雪乃「わかればいいわ」

いろは「ほんと。いきなり何言いだすんですか先輩」

結衣「ヒッキーってそういうとこは鈍感だよね」

八幡「……うっせ。ほら。さっさと大型イロウス探しに行くぞ」
424 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/25(火) 16:08:49.58 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たちB」

結衣「あ!いた!」

探し始めてからほどなくして由比ヶ浜が大型イロウスを発見した。

いろは「あれはクィン種ですね」

雪乃「そうね。由比ヶ浜さん、一色さん。武器をガンに切り替えて」

結衣「あたしガン苦手なんだよねえ。リロードするのにいつも手間取っちゃって」

いろは「ああ。結衣先輩、オートリロードのスキル持ってないですもんね」

結衣「そうなんだよ〜。だからずっと撃ち続けられるいろはちゃんが羨ましい!」

雪乃「はぁ。いつも言ってるじゃない由比ヶ浜さん。リロードは緊急回避中に右手でガンを持ち、左手で、」

結衣「う、うぅ……」

八幡「そのへんにしとけ雪ノ下。由比ヶ浜の頭はもうパンク寸前だ。とりあえず目の前のイロウスを倒してからじっくり教えてやれ」

雪乃「そ、そうね。由比ヶ浜さん、一色さん、行くわよ」

ガンガン行こうぜ!という作戦でも設定してるのか、3人ともガンをガンガン打ち続ける。イロウスもガンガン倒れていく。

雪乃「電撃来るわよ。みんな避けて」

雪ノ下の前方のイロウスが攻撃態勢に移ったのか、雪ノ下が俺たちに注意を促す。

結衣「あ。弾切れだ。リロードリロード」

しかし、轟音が響く中、雪ノ下の背中側にいた由比ヶ浜にはその声が通っていないようだ。

八幡「おい由比ヶ浜!イロウスの攻撃が来るぞ!」

結衣「ふえ?」

由比ヶ浜は俺の声には気づいたようだが、イロウスの攻撃には気づいていない。俺は思わず走り出した。

雪乃「比企谷君!由比ヶ浜さん!」

八幡「くそっ!」

俺は由比ヶ浜の身体を抱き、自分もろともたたきつけるように地面に倒した。その直後イロウスの電撃が俺たちの上空を通過した。

結衣「ヒ、ヒッキー。ありがとう……」

由比ヶ浜が顔を赤らめながら小声でつぶやく。

八幡「……もっと周りに気を配っとけ」

結衣「う、うん」

改めて間近で見ると、星衣ってやっぱりエッチだよね。身体のラインがはっきりわかるデザイン。肩とか脇腹とか背中とか際どいを覆ってるのが黒いスケスケの布地。極め付けは短ーいスカトとハイソックスの間に光り輝く絶対領域。星衣作った人って何者?

だけどそれ以上に今は、胸に押しつけられてる2つのあったかくて柔らかな爆弾の感触にドキドキする。やべ。どうしよ。すぐに離せばよかったのに、今は逆にいつ離せばいいのかわからない。

雪乃「周りに気を配るのはあなたもよ比企谷君。いつまで由比ヶ浜さんのことを抱きしめてるのかしら?強制性交等罪で訴えられたいの?」

ぞっとするような冷たい声を頭の上から浴びせられたと思ったら、いつの間にか雪ノ下が俺たちのすぐそばに来ていた。俺は由比ヶ浜から離れて立ち上がりながら反論する。

八幡「どう見ても俺が由比ヶ浜を助けたところだろうが」

雪乃「あら。この前法律が変わって被害者の告訴が無くても訴えを起こすことが可能になったのよ。だから私が証言すれば比企谷君も立派な性犯罪者に、」

いろは「雪ノ下先輩。少し落ち着いてください……」

おお。流石いろはす。氷の女王から俺のことを助けてくれるのか。

いろは「先輩が犯罪者に見えるのはわかりますが、今そんなことをしても私たちに何もメリットがありません。どうせなら私たちにたっぷり慰謝料が入るように工作しましょう」

助けてくれませんでした。なんならもっとひどい提案を出してきやがった。

八幡「いい加減にしろ一色。そして雪ノ下も真剣に悩むな。即刻却下しろ」

雪乃「そう?割といいアイデアだと思わないかしら?刑務所で何年か過ごせば比企谷君の性格も更生できると思うわ」

八幡「そんな更生の仕方は絶対嫌だ……」

結衣「もう。2人ともいつまで話してるの?早くイロウス倒そ!」

雪乃「誰のせいでこうなったと思って……まぁいいわ。行きましょうか」
425 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/25(火) 16:09:20.69 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たちC」


大型のラプター種が5.6匹は飛んでいる。これは倒すの時間かかりそうだな。

八幡「雪ノ下。この数を相手にするなら少し対策を練ったほうがいいんじゃないのか?」

雪乃「そうね。由比ヶ浜さん、一色さん、一旦こっちに、」

結衣「いくぞー!」

いろは「ま、待ってください結衣先輩ー!」

雪ノ下の声は届かず、由比ヶ浜と一色はイロウスの群れに突っ込んでいった。が、イロウスの放つ電撃やら竜巻やらでロクな攻撃もできるはずがなく、すごすごと帰ってきた。

結衣「うぅ、避けるので精一杯だったよお……」

八幡「策もなく突っ込むのが悪い」

いろは「じゃあ先輩たちは何か戦術を考えついたんですか?」

雪乃「もちろん」

一色の発言を挑発だと捉えたのか、雪ノ下はまくしたてるように作戦の概要を伝えだした。

雪乃「まずは一色さんが私と由比ヶ浜さんにスキル強化をかける。次に由比ヶ浜さんがスキルで攻撃する。それでも倒せなかったら私がさらにスキルで攻撃する。こんな感じかしら。」

いろは「成程。わかりました」

結衣「頑張ろうね、ゆきのん!いろはちゃん!」

雪乃「えぇ。ではまず一色さん。お願い」

いろは「はい。『ハートフルガイザー』!」

一色の地中から湧き出た温泉が雪ノ下と由比ヶ浜を包む。

結衣「ありがとういろはちゃん!いくよ!『クリスティ・ナタリス』!」

由比ヶ浜のガンから星型の光が次々に放たれる。イロウスにはかなり効いているようだが、全滅にまでは至らない。

結衣「ゆきのんごめん!倒しきれなかった!」

雪乃「構わないわ。むしろよく倒してくれたほうよ」

雪ノ下が微笑みながら由比ヶ浜を労う。

雪乃「後は任せて。『ピュアハート・ブーケ』!」

雪ノ下の持つガンがブーケに変わる。さらに雪ノ下は素早い動きでイロウスに接近しつつ、上空にブーケを放り投げる。それが落ちてくるにしたがって巨大化し、イロウスに豪快に衝突する。

少しして、爆煙の中から雪ノ下が出てきた。

雪乃「終わったわ」

結衣「お疲れゆきのん!」

由比ヶ浜は雪ノ下に走りより思いっきり抱きつく。

いろは「いつ見てもすごい威力ですね〜」

雪乃「由比ヶ浜さん、離れて……ま、まぁ2人のスキルのおかげで威力も向上したし、2人にも感謝してるわ」

必殺技、雪ノ下のデレに由比ヶ浜は一瞬で堕ちたようだ。さらに強く雪ノ下を抱きしめる。

結衣「ゆきのん〜」

雪乃「由比ヶ浜さん、痛い……」

これ以上目の前でゆりゆりした光景を見せられても困るし、そろそろ家に帰りたいなあ。それに一色も手持ち無沙汰そうだ。

八幡「そろそろ学校に戻るか」

結衣「うん!あ、そうだゆきのん。戻ったら少し部室でお茶しようよ。いろはちゃんも一緒にどう?」

いろは「はい!ぜひぜひ!」

雪乃「私、戦闘で疲れたのだけれど……」

結衣「なら部室で休憩するってことで!ね?いろはちゃんも来たいって言ってるし」

雪乃「はぁ。わかったわ」

ちょっと雪ノ下さん。相変わらずあなた由比ヶ浜さんに甘すぎますよ。いつもの俺への冷酷さはどこ行っちゃったんですか?
426 : ◆JZBU1pVAAI [saga]:2017/07/25(火) 16:09:56.85 ID:Y6V0l6zS0
番外編「総武高校の星守たちD」


戦闘終了を平塚先生に報告し、俺たちはまた奉仕部の部室に戻ってきた。雪ノ下は手早く人数分の紅茶とお菓子の準備を終える。

雪乃「さて、では簡単に今日の反省をしましょうか」

いろは「今回はラプター種が多かったですからねー。電撃を避けながら攻撃するのは大変でした」

雪乃「そうね。これからは遠距離攻撃を避けながら反撃する特訓も加えましょうか」

結衣「でもあんなにたくさんのラプンツェル?見たの初めてだった!」

何言ってんだこいつ。塔の上のお姫様が何人もいたらおかしいだろ。

八幡「ラプターな。それと由比ヶ浜はまず自分だけで突っ込むアホさを直すべきだな」

結衣「言い方ひどくない!?ま、まぁ確かにあたしが勝手に行動したのは悪かったと思う。だから、」

しょげながら由比ヶ浜は俺の方に椅子ごと近付いてきて頭を差し出す。

結衣「あ、あたしが次から失敗しないように頭なでて?ヒッキー」

この由比ヶ浜の行動に雪ノ下と一色がすぐさま立ち上がる。

雪乃「待ちなさい由比ヶ浜さん。まずは褒賞として戦果をあげた人からなでられるべきだと思うのだけれど」

いろは「お二人とも。ここは後輩に譲るべきじゃないですか?1人だけ年下っていう環境で私も頑張ってるんですから!」

そう、毎回毎回戦闘後はこうやって『なでなで』の順番で3人は言い争いを始める。由比ヶ浜はともかく雪ノ下や一色が真剣なのは未だ謎だ。俺は頭をなでたくはないと前に拒否したのだが、3人に武器を突き付けられて以来、素直に従うことにしている。

結局じゃんけんをして順番が決まったらしく、小さくガッツポーズをした雪ノ下が俺の近くに座った。

雪乃「さ、早くなでて頂戴」

八幡「はいはい」

俺は雪ノ下の小さな頭をなで始めた。このサラサラツヤツヤな黒髪の感触は何回なでても慣れない。でも、何回でもなでたくなる手触りをしている。

雪乃「ひ、比企谷君。もう少し強くなでてもらってもいいかしら」

八幡「ん」

雪ノ下は両手で強めになでられるのが好みみたいで、よくこういう注文をしてくる。カマクラの腹をワシワシするような感じでなでると、

雪乃「ふふ……」

こうして小さく満足げな声を出す。

結衣「はいゆきのん交代だよ!さ。ヒッキー!お願い」

まだ物足りなさそうな顔の雪ノ下をおしのけ由比ヶ浜が頭を差し出してきた。由比ヶ浜の茶色の髪からはいつもシャンプーのいい匂いが漂ってくる。多分けっこういいの使ってるんだろうな。

八幡「こうか?」

結衣「うん。できればもう少しゆっくりと全体的になでてほしい」

由比ヶ浜は雪ノ下とは対照的にゆっくりとなでられるのがいいらしい。俺は手のひらを大きく開いて、全体で由比ヶ浜の頭頂部だけでなく、後頭部もなでる。

結衣「やっぱりヒッキーは頭なでる才能あるよ!あたしが保証する!」

いろは「なら今度は私がその才能を享受する番ですね!」

今度は一色が由比ヶ浜をどかして俺の目の前の椅子に座る。

いろは「さ、先輩。待たせたぶん、後輩の頭をきちんとなでてくださいね」

八幡「へいへい」

一色は俺の返事を聞くと顔をずいっと近づけてきた。その顔を見ながら俺は頭をなで始める。はじめの頃は一色も頭を差し出していたんだが、最近は俺の顔を見ながらじゃないと嫌だと言うから、俺は一色の顔を間近で見ながら頭をなでる。

いろは「先輩、いつまでたってもなでなでするとき顔赤いですよね。見てて面白いです」

八幡「うるせ。そうそう慣れるもんじゃねえよ」

いろは「でも、だからこそ先輩になでてもらってると安心します」

雪乃「一色さん、そろそろ終わりよ。生徒会長のあなたが下校時間を守らないのはどうかと思うのだけれど」

いろは「あ、なら生徒会長と生徒会長が認めた人は下校時間を無視できる校則を作ります!」

結衣「それって職権乱用じゃない!?」

3人は大声であーだこーだ言い合っている。さっきまでイロウス相手に勇敢に戦っていたやつらとはまるで思えない。ま、これも含めて総武高校の星守の特徴って言えばそれまでなんだけど。
427 : ◆JZBU1pVAAI [sage]:2017/07/25(火) 16:16:31.45 ID:Y6V0l6zS0
以上で番外編「総武高校の星守たち」終了です。たまにはゆきのんたちの出番を与えたくて書きました。中の人つながりで、雪乃の星衣はくるみ、結衣の星衣は望、いろはの星衣は昴の色違いくらいに考えてます。
この番外編は本編とは全くつながりのないパラレルワールドです。本編中のゆきのんたちは普通の女子高生です。
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