千歌「会ってみたいのっ! 伝説のポケモンマスター、高坂穂乃果さんに!」

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71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/13(金) 02:29:04.35 ID:iHa0YDGOO
ダイヤ「そう、その状況を作ってしまった人物は、おそらく――綺麗ツバサ」


 鬱蒼と茂った樹木の中心で、ダイヤの放った言葉は弾丸のようににこの耳を貫いていく。


 一瞬何を言ったかわからず、ダイヤに向けて大きな声で返してみせる。


にこ「そ、そんなわけっ……」


 そう、綺麗ツバサのファンであった過去は簡単には拭い去れない。今でこそ面と向かって話すことが億劫に、半ば恐怖となりつつあるにこだが、ツバサに対しての敬意だけは忘れていない。チャンピオンとして、あそこまで人を惹きつけることが出来るその才能は、誰もが羨むもの、そんな人が、高坂穂乃果失踪の原因、つまりポケモン大量誘拐の事件に関わっている、と?


 にこは当時の状況、二年前のことを思い返してみる。


 各地でポケモンの強奪が相次ぎ、結局どのポケモンも戻って来なかったその事件。ことの顛末は当時のポケモン協会理事の行いであるとされた。当時のポケモン協会理事は自殺をし、遺言にはポケモンを、兵器として改造し、出荷したのだと、記されていた。

 ポケモンの強力なエネルギー、機械より融通が利き、一つの兵器として十分な価値が認められているという。


 にこは旅の道中で出会った高坂穂乃果に巻き込まれる形で、いくつかの戦いをしただけ。聞いても何も言ってくれなかったし、それに対して話をしようかと思った時には、失踪してしまっていた。

 ただ、当時のツバサとのチャンピオン戦、かつてない程の鬼気迫るモノを感じたのを覚えている。




ダイヤ「わたくしがなぜこのようなことを言うのか、それは――」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/13(金) 02:31:55.69 ID:iHa0YDGOO
 続けようとしたダイヤは、目を大きく見開き、勢いよく背後に振り返る。持っていた懐中電灯の灯りを、月明かりの届かない樹木の間へと向ける。


ダイヤ「!!」


 異音。光が照らされた先、そこに映し出されたのは――ダイヤの眼前に迫る、ポケモンの紅い棘。


 咄嗟に首を横に倒し、眉間を貫こうとしていた紅い"それ"は、頰の表面を擦りあげる。直撃を避けたのはその棘の攻撃、しかし次の瞬間には鳩尾に鉄の塊が落とされたような重く、鈍い衝撃が走っていた。


ダイヤ「がはっ……」


 衝撃により思わず崩れ落ち、膝を先日の雨で汚れた土に落とす。


 あまりの衝撃と何が起こっているのかわからないダイヤ、にこも同様で、崩れ落ちてしまったダイヤの方向に懐中電灯を向ける。





にこ「――ドクロッグ!?」




 闇夜に浮かぶ紫の影。あまりに不気味でそれを加速させるように、毒々しい赤い部位が複数存在している。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/13(金) 02:34:06.28 ID:iHa0YDGOO

 ダイヤに向けて拳の棘を使った刺突"どくづき"を放ったのだろう、とにこはすぐに理解した。生身の人間がどくづきを受けたのだとしたら今頃は鮮血に染まっているはずだ。ダイヤの元に駆け寄ると鳩尾付近を抑えて苦しんでいたが、その兆候は見られない。


 咄嗟に避けたのだ、すなわち今苦しんでいるのはドクロッグが放った打撃によるもの。


 にこはボールホルダーに手をかける。

 しかし、おかしい。


 ドクロッグはダイヤのことを見つめるだけで、にこのことなど見向きもしない。それにダイヤに対しての次の行動を起こそうともしない。


にこ「なにこいつ……」


ダイヤ「ぐっ……にこ、さん……」


 きゅうしょを突かれたダイヤは呼吸もままならない様子で、掠れた声を上げる。


にこ「黙ってなさいっ、とりあえずこいつをなんとかする!」


 ドクロッグは明確な意思を持ってダイヤのことを襲った。野生のポケモンが襲ってくることがあるとはいえ、この森にそこまで危険なポケモンはいない。そう、目の前のドクロッグはこの森に生息していない。


にこ「誰!? いるんでしょう!?」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/13(金) 02:35:21.49 ID:iHa0YDGOO
 ドクロッグが動かないことを確信。それは――トレーナーからの次の指示がないからだ。近くにトレーナーがいる。周囲に向けて荒げるにこにドクロッグは三白眼の瞳を向ける。


「よく躱してみせた、敬意を表するよ」


 樹木の向こう側、落ち着いた低音の女の声。ドクロッグはその声が聞こえた瞬間、勢いよく駆けていく。


 そしてにこの懐中電灯が捉えたのは、ドクロッグの喉元にある毒袋に手を添える女性。


 闇夜に紛れる黒いコート、センターに別れた前髪が、鋭い切れ長の瞳がよく見えるよう演出している。若い女、だ。


にこ「誰!?」


 懐中電灯の明かりに目を背けるように、地に息を落とす。


英玲奈「統堂英玲奈、名乗ることに意味があるとは思えないが。ジムリーダー、矢澤にこ、あなたに興味はないから安心して欲しい」


にこ「あんた! 誰だか知らないけど、ポケモンを使って――殺そうとしたでしょ!!」


 明確な敵意を持っての攻撃。トレーナーを狙うというご法度、それを目の前の女は実行したのだ。


にこ「警察に突き出すからっ……」


 にこのボールホルダーには二つのモンスターボールがセッティングされていた。いずれもにこが本気で戦う時のポケモンではない。普段なら問題ないが、今回は……。


にこ(あのドクロッグの動き……速かった……油断出来ない)
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/13(金) 02:37:32.05 ID:iHa0YDGOO
 ジムリーダーとなって約一年、様々なポケモンを見てきたにこは、英玲奈のドクロッグが普通ではない鍛えられ方をしているのがなんとなくわかってしまった。

 そう、レギュラーではないポケモン達で相手にするのは厳しいと判断せざるを得ないほどに。

 だからと言って見逃す訳には行かない。


英玲奈「適切な判断を願おう若きジムリーダー。そっちの女、よく見てみるといい」

にこ「え……?」

 にこのすぐ背後、うずくまっていたダイヤが、地に左頰をつけて、失神していた。

にこ「だ、ダイヤ!?」


英玲奈「おそらく――病院までは間に合わないだろうが」

 おかしい、鳩尾に打撃を受けただけのはず、それならばしばらく時間が経てば呼吸も出来るようになって……。様々な可能性が回転する頭の中で、にこはひとつの可能性を見つける。


にこ(もしかして……)

 英玲奈への意識はよそにして、懐中電灯の光をダイヤの陶器のように白い肌へと向ける。そうして見えたのは、白い頰からダラダラと鮮血が溢れでている瞬間だった。


にこ「!」


 衝撃により皮が裂け、その中の血管すらも切り裂いている。決して傷は深くないようだが、問題はそこではない。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/13(金) 02:39:43.77 ID:iHa0YDGOO
にこ「ダイヤ! ダイヤ!」


 肩を揺するにこの行動虚しく、ダイヤの身体には異物が侵入してしまっている。ドクロッグの毒袋から生成されるおぞましき毒物は、人間だとかすってしまうだけで死の扉が見えてくるほどだ。

 ダイヤはどくづきを避けきれず、頰にそれを受けてしまったのだろう。


 つまり、この失神は死へのカウントダウンである、ということ。


にこ「くっ……」


 にこは英玲奈の方へと振り返るが、そこには既に先ほどまでと同じ闇の静謐。ダイヤに気を取られ動転しているうちに、逃してしまったのだと気がつく。


 逡巡の後の後悔、それをすぐに振り切って、今自分がすべきことを思い出す。


にこ「ダイヤ……がんばって!」


 ダイヤが危険だ、この森の中でもそこそこの深い位置に来てしまっている。力なく倒れこむ人をおぶろうとするも、にこは自分の力の無さを憂いてしまう。力を入れられない人間はただただ重い、現在のにこの手持ちポケモンではそういった力仕事が出来るものはいない。つまり、頼れるのは非力な自分だけ、ということになる。


 にこの狭い肩にダイヤの頰を乗せると、長い睫毛を伏せ、浅い呼吸が繰り返されている。


 おぶったままなんとか立ち上がり、来た道を戻っていく。

77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/13(金) 02:42:37.74 ID:iHa0YDGOO

 向かうは病院、もう少し拓けたところまで戻ったら助けを呼ぶしかない。正規のコースから外れた現在の場所では、救助を呼ぼうにも呼べないでいた。



 物理的な重さでふらつく足取りを、命がかかっているという別の重さで塗り替える。そうしてなんとか進んで言った先に――。



にこ「え……」


 月光が降り注ぐ、拓けた空間。

 木々の合間から差し込むその光が照らしているのは――頭部から流血、樹木に背を預け倒れている少女。そして、そのすぐ前方で立ち塞がるように、これまた鼻血を吹き出しながらふらついている少女。倒れている人物をにこは知っていた。みかん色の、高海千歌、そしてその前にいるのは抜群のセンスが光った、渡辺曜。どちらも、今日のジム挑戦者である。そしてそのすぐ横には、ワカシャモとヤヤコマが臨戦態勢。


 渡辺曜がにらみつける先には、ポケモン界の演奏者コロトックル、黒き捕食者、レントラー。そのトレーナーであろう、にこに背を向けて曜と対峙している二人の少女がいる。揺れるツインテールとサイドテールの少女。



理亜「だれ……?」



聖良「ジムリーダー、助っ人ですか……」



 にこは予期せぬ最悪の事態に、汗が吹き出すのを止めることが出来なかった。

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/13(金) 09:17:53.43 ID:KAelMSpH0
レス入れるタイミングが難しいけど面白いよ
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/13(金) 10:50:43.36 ID:tlm4e4fA0
初っぱなからなかなかハードだな
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/14(土) 00:36:40.08 ID:Cdsoru01O
まさかのリョナ要素
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 05:48:55.23 ID:ax0RzxbKO


◇――――◇

20:30



善子「やったっ!!!」


 ヤミカラスの姿がモンスターボールの中に収まる。それを見た善子は大きくその場で飛び跳ねると、待望のポケモンが入ったモンスターボールを広いあげて、背後で見守っていた千歌達にとびきりの笑顔を向ける。

千歌「おめでとう善子ちゃんっ!」

曜「善子ちゃんおめでとう!」

善子「だからヨハネよっ!!」


 本来の名前で呼ばれてしまうことに怒りを感じながらも、ふたりには感謝していた。


 結局一時間半程森の中を彷徨い歩くことになってしまったが、こうしてヤミカラスを捕獲することができたのである。一人だったら見つからない苛立ちから、もっと奥の方まで進んでいって、戻って来られなくなっていたかもしれない。


 止めてくれたのは曜で、トレーナーカードを落として見られたことによる本名の追求が無ければもっと良かったのに、と悪かった点も思い出す。


千歌「でもさ、どうしてヤミカラスに拘るの? アブソル、持ってるんだよね?」


善子「昔、ママがヤミカラスを持っててね、私にも懐いてくれてて……でも死んじゃって」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 05:53:57.41 ID:ax0RzxbKO
千歌「あ……」


善子「だから今度は自分で捕まえて育てようって思ったの、不幸なことにこの地方じゃヤミカラスは珍しいし、なんてことって思ったんだけど」


曜「アブソルが言うことを聞いてくれればもっと楽だったのにね」

善子「ほんとよね」


 善子の手持ちポケモンはヤミカラスに加えてアブソルがいた。しかしそのアブソルも親から貰ったもので、レベルが高く、まともに善子の指示を聞かないのだ。指示というのはバトルの話で、普段の生活ではこれ以上無いくらいに指示を聞いてくれていた。

善子「この子、心配してくれてるのよ。私がバトルをするのを」


善子「だからバトルになると言うことを聞かないの、ママと一緒で、私にバトルをさせたくないのよねきっと」


 ヤミカラスの体力を減らすことが出来ない善子は10個ほどのモンスターボールを消費することによって、ヤミカラスを捕獲していた。


善子「んー……歩くの疲れた」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 05:55:35.21 ID:ax0RzxbKO

 後は帰るだけ。心底良い気分のまま、善子はアブソルをモンスターボールから外に出す。

善子「はー、乗っけてアブソルー」

 まるで乗り物のように扱う善子、アブソルはその指示に、善子が乗りやすいように伏せる形で答える。

曜「えー……ヤミカラスの体力減らす為に出した時は何にも言うこと聞かなかったのに……」

善子「だから言ったでしょ」

千歌「ずるいよぉー!」

善子「町に帰ったら何かお礼するから」

 アブソルの胴体に跨ると、千歌の羨望の眼差しが向けられていることに気がついた。

善子「じ、自分で何か育てなさいよっ」

千歌「うぅ、千歌も乗れるポケモン育てようかなぁ……」


 千歌は疲労に悲鳴を上げる足をぶらぶらと振り回して大きなため息をついた。ジム戦で疲弊仕切ったいたところに、どこにいるとも分からない野生ポケモンの捜索。立っている現在でも落ちてくる瞼を上げるので精一杯、とにかく早くポケモンセンターで眠りたかった。そんな眠気と格闘している様子を曜は微笑ましい光景として、見守っている。


千歌「よしっ、帰ろ!」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 05:58:26.89 ID:ax0RzxbKO
 振り絞った元気を声に乗せる。


「――あの、すみません」

 千歌がぐーっと伸びているその背後、サイドテールを揺らす少女が姿を現す。続いてツインテールを揺らす、強気そうな少女。二人の少女が突然声を掛けて来たことに千歌は素っ頓狂な声を上げて応えた。

 近づいてくる二人の少女、曜はそのなんとも言えぬ雰囲気に眼を細め、観察する。


聖良「鹿角聖良と言います、こっちは妹の鹿角理亞」


千歌「……え、えっと高海千歌です、 よろしく……?」


聖良「すみません、急に声をかけてしまって。妹が――そちらのアブソルを近くで見たいと言うもので」


理亞「ちょっ……姉さま」

85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:00:55.51 ID:ax0RzxbKO
善子「アブソルを? まあ、別に構わないけど」

理亞「いいの……?」

善子「ええ」


 恐る恐る善子の乗っているアブソルに近づいていく理亞。姉の聖良もそんな理亞を見て微笑みながら、千歌達に近づいてくる。


聖良「……アブソルは珍しいですからね。産地であるホウエン地方に行ってもなかなか見られないと聞きます」

千歌「へえ……じゃあ千歌達もラッキーだね?」


 のほほんと聖良との雑談を楽しむ千歌、アブソルに触れて嬉しそうにする理亞を見て自分も誇らしく感じている善子、その中で曜だけは……この鹿角姉妹の動向に気を配っていた。


 確かに近づいてくる理由としてアブソルは申し分ない、しかし突然すぎないだろうか。こんな夜にしかも奥の方で都合よく遭遇するだろうか。事実、奥に来てからは一人の人間にも会ってはいなかった。


 そして、姉の聖良の手が――ボールホルダーにかかる。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:03:02.38 ID:ax0RzxbKO
 一瞬の動作でボールをアブソルの方に投げ、理亞はバック宙を繰り返して聖良の近くまで戻ってきている。

 聖良が投げたボールは空中で炸裂し、コロトックが姿を現す!


 善子も千歌も何が起こったのかわからず、ぽかんと口を開けている。しかし曜だけは違った、ボールを投げる時に見せた明確な敵意を察知!

聖良「ねばねばネット!」


 いち早く異変に気がついた曜がワニノコを繰り出すよりも早く、コロトックへの指示がなされる。きぃんと刃のような両腕を擦り合わせたあと、口から白い網状のネットが射出され、アブソルと善子を包み込む。


善子「へ!?」


 ねばねばネット、その名の通り粘性の高い網が付着し、もがく善子はアブソルの背中でがんじがらめになりつつある。


聖良「おとなしくしてください」


曜「お願いワニノコ!」


理亞「させないっ」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:05:30.55 ID:ax0RzxbKO
 救出しようとした曜に対し、立ちはだかるは妹の理亞。モンスターボールが炸裂し、レントラーがワニノコに向かって煌めく牙を見せ、威嚇をしていた。



曜「くっ……」


聖良「!?」


 曜が善子の方に視線を戻すと、ぐちゃぐちゃになりかけていたねばねばネットが、パラパラと切り裂かれ、地面に張り付いていることに気がついた。

 秒間の出来事に聖良自身も動揺を隠しきれていない。善子のアブソルは、首元と尻尾から生えている刃をゆっくりと動かして聖良に鋭い眼光を浴びせている。

聖良「……粘性の高いネットを一瞬で切り裂くとは……驚きました」


 アブソルは動じず、それに対し善子はアブソルに捕まったまま、小さく震え、怯えている。コロトックが臨戦態勢に入り、負けじと両刃をきりきりと擦り合わせている。


 アブソルは態勢を低くし、両足で地面を噛みしめる。臨戦態勢、聖良はごくりと唾液を嚥下し、備える。


 そして――アブソルはその脚力を持って、跳んだ。


善子「ちょっ!?」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:06:45.18 ID:ax0RzxbKO
聖良「なっ!?」

 跳んだ方向は、聖良のコロトックではなく、明後日の方向。善子の待ってアブソル! という叫び声が遠くで、小さく聞こえた。

理亞「逃げた!? 姉さまっ」

聖良「……残念だけれど、追うのは無理ね。あのアブソルはかなり鍛えられているみたい」

 一瞬の跳躍により、逃げたアブソルの方向にしばらく視線を送り続けたあと、聖良は曜達に対峙するように位置を変える。

千歌「よ、曜ちゃん……」


 千歌も曜と同じく、アチャモを繰り出していた。しかし、目の前のレントラーにコロトックは自分達のレベルで敵う相手ではない、となんとなくわかってしまっていた。力なく曜の名前を呼ぶ千歌、曜は唇を噛み締め、姉妹の前に立ち塞がる。


 聖良はワニノコとアチャモを舐め回すように観察すると、口元に三日月を作って愉快そうに声を上げた。


聖良「――そちらも、珍しいポケモンですね」

 ぞくり。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:09:49.55 ID:ax0RzxbKO

 ヘビに狙いを定められたカエルの気分を曜は味わった気がした。ワニノコ、アチャモ、先ほどまではアブソルへと向けられていた敵意が今はこちら側に向けられている。

 ポケモントレーナー同士の戦いではまずありえない、本物の危険が迫っていることを察してしまう。

 千歌が言っていたことが脳裏をよぎる。近頃ポケモンを奪う事件が増えている、と。今まさしく、その現場に遭遇してしまっている。

理亞「奪う?」


聖良「アブソルを奪うために観察を続けて収穫無しでは――寂しいですからね」


曜「っ!! ワニノコっ! みずでっぽう!」


 確信。ワニノコの放ったみずでっぽう、牽制でもなんでもなく、レントラーへと向けられる。曜も千歌と同じく、レベル差があることはわかっていたし、だからこそ先制攻撃、相手を沈めることよりも、逃げる活路を見出すことに集中すべきという結論に至る。

理亞「かわして」


 たった一言の抽象的な指示。レントラーはワニノコの放った奇襲攻撃を、いとも簡単にかわし、そして態勢を整えると……地面を蹴って身体を飛ばしてくる。



 対象はワニノコでも、曜でもない、横にいる千歌。迅速、レントラーの動きに生身の人間は反応出来るはずがない、曜が危ない、と声を上げた瞬間には――千歌は小さな悲鳴を上げて、背後の樹木へと容赦なく吹き飛ばされていた。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:11:22.86 ID:ax0RzxbKO
曜「……」

 レントラーは気高く身を震わせると、トレーナーの危機に反応し、ひのこを勝手に吹き出したアチャモの攻撃をしっぽだけで振り払う。降りかかるひのこを払う、そのままの行為、実力の差が、ありすぎる。


曜「千歌ちゃんっ!!」


 声を荒げて駆け寄る。


 千歌は経験したこともないほどの、身体を襲った鈍痛に自然に涙を流してしまっていた。後頭部を樹木へと強打、視界がゆらゆらと歪み安定しない。立ち上がろうと力を込めることもままならず、四肢への神経が断ち切られてしまったような感覚に陥る。


 どんっと鈍い音が鳴り響いた衝撃、ポケモンと人とでは力が違いすぎる。それを一身に受けた千歌の痛みは想像を絶する物であったに違いない。


 目の前で虚ろな視線を泳がす幼馴染の姿に、


曜「千歌ちゃん……っ、どこが痛い? 大丈夫!?」

千歌「ぅ、ぅ……」



理亞「――スパーク」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:15:56.07 ID:ax0RzxbKO
 背後でパートナーであるワニノコの悲鳴、豪轟の激しい雷撃音。振り返ると、雷撃の残滓を纏ったレントラーが、倒れこむワニノコを見下ろしている。曜が千歌のことを心配している間に、無防備になったワニノコは一撃で沈められていた。

 曜の視界の中、飛びついたアチャモも赤子を捻るように吹き飛ばされる。


曜「そん、な」


 目の前の姉妹は、千歌のポケモンではなくトレーナー自身を狙った。それは殺意。先程から頭の中で警鐘が鳴り響いている。千歌は向けられた殺意にがたがたと身を震わせ、身体の痛みも相まって立つこともままならない。


曜「くっ」


 危険だ、どうにかして、千歌ちゃんだけでも逃さないと……っ。様々な可能性を考えるも、何も、思いつかない。


聖良「抵抗をやめれば、命は助けてあげますよ」


理亞「面倒、殺しちゃってもいいんじゃないの」


千歌「にげ、て……私のことなんかどうだって、いいからっ」


曜「そんなことできるわけないでしょ!?」


 そんなことを繰り返し言いながら、一歩、また一歩、と距離を縮めてくる。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:18:26.01 ID:ax0RzxbKO
理亞「レントラー」


 意識がまるで向いていなかった。正面から迫り来る、人の脅威にだけ目を向けていたせいで、真横にレントラーがいることには気がつけていなかった。理亞がレントラーの名前を呼んだその直後、曜に千歌と同じくレントラーの身体が叩きつけられる。


曜「うっぁ……」

 腕が軋むのを感じた。何メートルも吹き飛ばされるほどの衝撃を腕でもろに受け止めたため、激痛が走る。


 それでも千歌へと目を向ける。そう、この場で千歌を守れるのは曜しかいないのだ。自分のことよりも、千歌を逃がすために。

 姉の聖良は樹木にもたれかかりながら座り込む千歌の元に迫っていた。

曜「やめろぉ!!!」

聖良「良い友達を持っていますね」


 千歌を守らなくては!! 立ち上がろうとする曜だが、レントラーから受けた衝撃で視界が歪み、上手く立ち上がることもできない。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:21:59.04 ID:ax0RzxbKO
 その間にも聖良の言葉は続く。


聖良「そうですね、アチャモを渡して頂ければ……あの友達は見逃してもいいですよ」


千歌「え……そ、そんな……」

曜「だめだよ千歌ちゃんっ!!」


 叫び、ようやく立ち上がる曜。しかし理亞がそれを許さない。


理亞「黙ってて」


 ごんっと頰に鈍痛。理亞が拳を叩きつけて、再び曜は地面に突っ伏すことになってしまう。無情に――そのままローファーの、爪先を曜の顔面に向けて振り抜く。


曜「が、っぁ……」


 蹴り上げられた顔面、血の味で染まっていく口内に、どくどくと鼻血が溢れて来ているのが自分でもわかった。未だかつて経験したことのない、本物の、容赦ない暴力。


 理亞は歪んだ笑みを浮かべながら倒れる曜を覗き込むようにしゃがみ込み、右腕で曜の頰を地面に押し付ける。血の味に加えて土が入り込む口内、薄れていく意識を繋ぎ止めて、それでも見据えるは親友の安否。


千歌「曜ちゃんっ!!!」


 曜の方を叫ぶ千歌。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:25:58.93 ID:ax0RzxbKO
聖良「回答が遅いですよ」


 聖良はつまらなそうに侮蔑の目で千歌を見下ろしながら、ローファーのかかとを千歌の側頭部めがけて――叩きつける。


千歌「っぅっ!!!」


 樹木に叩きつけられた千歌の頭部からは出血が起き、声にならない小さな悲鳴が森の静寂の中に、吸い込まれていく。


曜「……千歌、ちゃん……」


 脳が揺れる。千歌の視界はぐにゃりと歪み、うわ言のように口元を動かした。混濁する意識の中で、助けを求める。


千歌「ひっぐ……なんで、こんな、こと……うぅ、ゆるじて……ください……」


 聖良は口元に歪んだ三日月を浮かべ、なんとか逃げようと這い蹲る千歌の髪の毛を掴んで無理やり木壁へと押し付けた。緋色の瞳は恐怖に染まりきり、聖良が覗き込んで目を合わせるだけで奥から涙が溢れでて来てしまっている。


聖良「くす……」


 聖良は立ち上がり、ローファーの踵を千歌の頰に押し付ける。聖良はそのまま体重を踵に掛け、千歌の頰の肉がローファーによって押し潰されていく。息をすることすらままならない。脳は変わらず揺れている、満足に動かない四肢を聖良のしなやかな筋肉に沿わせて抵抗を試みる。弱々しすぎる、抵抗。


聖良「汚い手で、触らないで――くださいっ!!」



千歌「あ゛あ゛あ゛っ!!!」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:28:06.22 ID:ax0RzxbKO
 土まみれの千歌の腕を払いのけると、そのままローファーの踵でもって――指を踏み潰す。悲痛な絶叫だけが、響く。


曜「千歌ちゃぁあん!!!」



千歌「梨子、ちゃん……果南、ちゃん……ぐすっ……」


 手を伸ばす。何も出来ない。千歌が無情な暴力にさらされ涙を流して助けを求めている。守ってあげられるのは自分、そう自分しかいない。それなのに……。


 千歌が助けを求めたのは、本当に強い友人だった。


曜(わたし、だめだめだ……)


 自分の無力さを痛感、このままでは千歌のことなど守れっこない。

聖良「諦めますか?」


千歌「……諦めない」

聖良「え?」



千歌「――ひっかく!!!!」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:33:14.22 ID:ax0RzxbKO
聖良「!?」


 千歌が叫ぶ。最後の力を振り絞ったかのような絶叫、千歌の指示は、背後に忍び寄っていたアチャモへのものだった。聖良が振り向くと同時、アチャモはトレーナーの危機に人に攻撃することを躊躇う様子はなかった。


 飛び上がりながら片脚をひきしぼるアチャモ。聖良の驚愕に変わった表情、咄嗟に両腕を出して防ぐが、その両腕をアチャモの鋭撃が引き裂く。

聖良「がっっ……」


 服を皮を血管を切り裂かれる、鮮血が聖良の手から噴き出す。だらりと力なく降ろされた手、アチャモへ憎悪の眼光。


理亞「姉さまっ! レントラー!!」


 再びレントラーが駆ける。驚異的な脚力を助走に使い、技ではない、突進でアチャモへと迫る。身体の小さいアチャモでは、技ではなくとも受けた瞬間には戦闘不能になってしまうだろう。


千歌「……」

 しかし、千歌は知っていた。


 アチャモの身体が眩い光に包まれ――それが無くなった次の瞬間には、大きく発達した腕でレントラーの一撃を食い止めていた。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:49:54.29 ID:ax0RzxbKO
千歌「やっ、た……」

曜「!?」

 ひと回りもふた回りも大きくなった身体、弱々しかった足は大きく太く、レントラーの攻撃を受け止めた衝撃から、力強く身体を支えている。

 森を彷徨う中、何体もの野生ポケモンを倒し経験を積んでいた。ジムリーダーに敗戦したことで曜は千歌に敵を譲り、アチャモは経験を積んでいたのだ。


 アチャモからワカシャモへと進化したのを見た千歌は、絶望的な状況の中、瞬時に次の指示へと移る。


千歌「にどげり!!」


 レントラーが態勢を立て直し切れていない、ワカシャモは着地しきっていないレントラーに二発の健脚を浴びせつける。アチャモの姿からは考えられない脚力の上昇、レントラーはたちまち衝撃により理亞の遥か後方まで吹き飛んでいく。


 動揺と予期せぬ事態への対応に対処しようと、行動が遅れている姉妹、それを見た千歌はもう一つのボールに手をかけ、未だ曜を地面に押し付けている理亞めがけて投げつける。


千歌「――でんこうせっか!!!」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:53:23.56 ID:ax0RzxbKO
 繰り出される千歌のもう一匹の手持ちポケモン、ヤヤコマ。小さな身体は疾風となって、理亞に向かって風を切る。


 善子とヤミカラスを探している道中、進化目前のアチャモと共に育成が行われていた。実践経験を経て連携も取れるようになったため、ヤヤコマも攻撃を躊躇わない!!


理亞「ぐぁっ!!」


 小さな身体は理亞の顎を的確に打ち上げ、仰向けになって地面に倒れこむ。曜は理亞から解放されたと見るやいなや、全身全霊を持って地面を蹴り、千歌の元へ。


曜「千歌ちゃん大丈夫!?」


千歌「えへへ……な、なんとか」


 頭から流血、力なく微笑む千歌はとてもではないが立てそうにない。憎しみが、生まれる。親友である千歌を、痛めつけたこと、心に生まれる黒い炎が、燃え上がる。


千歌「ぅぅ、いたい……」


曜「……壊してやる」ボソッ


千歌「曜ちゃん……?」


 壊す。壊す。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 06:55:42.67 ID:ax0RzxbKO
 千歌をこんな目に合わせた者への、制裁を。自分がどうなってでも、それを実行しなければ、炎は収まらない。


 曜の醜怨は瞳に現れ、千歌は見たことのない親友の姿に恐怖を覚える。


 千歌に背を向け姉妹と再び対峙する。曜のワニノコは戦闘不能、ポケモンはいない。しかし、あの姉妹が千歌を痛めつけたように、生身の身体がある。それだけで、十分だ。


 曜と呼応したかのようにワカシャモが横で臨戦態勢を取っている。

 一旦は形成を覆せたとはいえ、振り出しに戻ったに過ぎない。

 聖良はだらりと腕を降ろす。立ち上がった理亞は聖良の下へ。


聖良「やってくれましたね……」

理亞「ね、姉さま……傷がっ」


聖良「落ち着いて理亞、今はこの人達を処理することを考えなさい」


曜「ふーっ……ふー……」


 がさっ……。

 姉妹は背後で何者かが動いたのを察知、勢いよく振り返る。


にこ「え……?」

理亞「誰?」


聖良「ジムリーダー、助っ人ですか」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 07:01:57.19 ID:ax0RzxbKO
千歌「や、矢澤にこさんっ!!!」


 千歌の声が希望に満ち溢れる。待望の助っ人、それも近くの町で一番強いトレーナー! しかし、にこが誰かをおぶいながら大粒の汗を滲ませているのを見て、違和感を覚える。


 助けに来てくれたというよりは……巻き込まれた、という困惑の表情。


 その場に居たポケモン、人、視線が乱入者にこに集まる中、曜だけは違っていた。

 ふらつく足を叩いて力を注入、地面を蹴り上げ聖良へと迫る!


曜「うぉぉおおおっ!!!」

聖良「!?」


 怨。怨。怨。


 曜の頭の中はそれだけだった。千歌を傷つけた、千歌を蹴った、その傷を見て、どこかネジが吹き飛んだのを曜自身も感じていた。聖良への怒りと怨が極限に達し、求めるのは復讐だけ。


 聖良が振り返ると、曜の助走をつけた拳が振るわれる。手を出そうと咄嗟に防御反応を取ろうとするが――聖良の手はだらりと降りたまま上がってくることはなかった。


 曜の拳が聖良の頬骨を捉える。拳を頰に食い込ませる感覚になんとも言えない快楽を感じながら、聖良を地面に突っ伏させる。足りなかった、醜怨の炎がさらに燃え上がる。恐怖を与えるんだ、千歌が感じた恐怖を倍、三倍にして、2度と千歌に酷いことをしようだなんて、思わない程に!!!
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 07:02:52.27 ID:ax0RzxbKO
曜「よくも、よくも千歌ちゃんを!!!」

聖良「くっ……」


 力尽きる寸前の曜。それでも曜の身体は動く。目を血走らせながら捉えるは、親友の仇。倒れ込んでいる聖良に乗りかかり、拳をふりあげ、再び――。

理亞「レントラー!!」


 レントラーが曜の身体を再び吹き飛ばす。吹き飛んでもなお、立ち上がる。痛みは消えた、怒りと怨み、それを瞳に乗せて眼光として姉妹を貫く。先ほどまでとはまるで違う曜の変貌に、理亞もおもわずたじろぐ。

理亞「こいつ、やばい……」


 聖良も肘から上を使って器用に起き上がると、曜に対しての警戒を強める。


聖良「コロトック……シザークロスっ!!」


 狙いは曜。研ぎ澄まされた両刃を開き、コロトックは背中の羽を羽ばたかせる。必殺の斬撃、人間が受けたら、真っ二つを予感させるものに――。


千歌「曜ちゃんっ!!!」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 07:04:35.37 ID:ax0RzxbKO
にこ「あなた、この子を頼むわ!」

千歌「へ!?」


 一連の騒ぎのうちに千歌のそばへ、千歌の隣にダイヤを寝かせ、ボールを曜の方へ投げる!


にこ「させるかっ!! クチート、てっぺき!!」


 ぎゃりんっ、と曜の目の前で火花が閃く。ジムリーダーにこが繰り出したクチートは、その身を鋼鉄の鋼そのものとし、コロトックの斬撃を受け止めた。羽ばたいた勢いすらも完全に弾き返し、コロトックは腹を見せて無防備に態勢を崩す。


にこ「かみくだく!」

 
 くるりと身を翻したクチートは、全身よりも大きい顎を全開まで開き、コロトックの身体を絶望の牙で圧っする。

 きゅうしょにあたった!


 みしみしと大顎に歪ませられていくコロトックの痩躯、小さな鳴き声とともに、クチートの顎の中で力尽きる。顎の中での抵抗が無くなったと判断したクチートは、持ち主の足元にコロトックを乱雑に投げつけた。


聖良「なるほど……流石はジムリーダー」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 07:07:49.01 ID:ax0RzxbKO
にこ「あなた達が誰だか知らないけどただの喧嘩ってわけじゃないみたいね? 一般人を襲うなんて、なにを考えてるの」

聖良「あなたち話すことは何もありません」

にこ「っ……でしょうね。ジムリーダーとして、あんた達を拘束するわ」


理亞「面倒そうなのが来たわね」



にこ「――こっちは急いでんの!! 誰だか知らないけど邪魔しないでっ!!」


 聖良はコロトックをボールに戻すと、何を思ったのか口元を緩める。


 にこが見たのは、腰付近に装着しているボールホルダーに、満タンの数六つのモンスターボールがセットされているところだった。


 理亞も同様で、にこはそれを見た瞬間に絶望する。レギュラーポケモンならいざ知らず、それとは大きく落ちる戦闘力のポケモンで、残り11体を相手にしなければならないことが確定している。これでは――ダイヤが保たない。




にこ(どうするっ、考えろ……)
 
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/14(土) 07:09:54.91 ID:ax0RzxbKO
 にこの焦りが顔に出てしまっているせいか、姉妹はそれを愉快そうに眺める。まだまだ状況は変わっていない。


「――サザンドラ! りゅうのはどう!!」


 突風が吹き荒れる。
 轟々と地の底から響くような咆哮、木々を揺らす雑音の中でも確かなもの。


 その咆哮と、女性の力強い声は……遥か上空から発せられていた。



千歌「あれは……」
 


 惚けたように上を見上げる千歌。月の真ん中で羽ばたく何か、そう、千歌はそのシルエットを見ただけで何かを把握した。何度も、何度も、録画したテレビを見返した、その中に映っていた圧倒的な存在感を持つポケモン!


 三首の、地獄よりの番竜、サザンドラ!!



 中央の口は大きく開かれ、背中に騎乗するは、神童綺羅ツバサ。手を宙にかかげ、振り下ろす。それが、合図であった。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/14(土) 08:21:03.21 ID:dh/ayjiA0
曜ちゃんはいつもプッツンしてるな
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/14(土) 21:21:25.76 ID:T9SDSZEMO
やべえよやべえよ興奮がとまんねえ
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/15(日) 16:23:09.56 ID:aR2PwSAA0
続き期待
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/19(木) 15:09:32.81 ID:jtDUeRc/O
 鹿角姉妹が異変に気がつき、宙へと視線を移したその瞬間――。


 薄紫の光線が、降り注ぐ。地面を抉り取る破壊の力が、地ひびきを巻き起こす。千歌が悲鳴をあげるが、それを全てかき消すほどに轟々たる破壊音。


 鹿角姉妹は後方に飛び込み、なんとかその一撃を凌ぐ。

 サザンドラの放ったりゅうのはどう、破滅の使者となって、鹿角姉妹の戦意を蹂躙してみせた。


 圧倒的、光線が照射された場所の土は大きく深く抉れ、底を確認することもままならない。鹿角姉妹とにこ達の間に境界線を作り出し、さしずめそれは地獄への入り口。


理亞「く、ぅ」

聖良「はっ……ぁ、なに……?」


 突然の来訪者、サザンドラはゆっくりと鹿角姉妹の前に姿を現す。


聖良「サザンドラ……それに――」

千歌「綺羅ツバサ!?」


 高坂穂乃果と同じく、千歌にとって憧れの存在である神童、綺羅ツバサ。現役チャンピオン。

 サザンドラの背から華麗に降り立つと、周囲を見渡し状況を確認、そして最後に視線を定めたのは鹿角姉妹へだった。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/19(木) 15:10:22.71 ID:jtDUeRc/O
理亞「うそ……」

聖良「くっ……」

曜「え、ええ……?」


にこ「あんた……」


ツバサ「――様子を見に来たらこの調子、全くどういうことかしら」


にこ「あんたこそ、なんでここにっ……」

ツバサ「様子を見に来たと言ったでしょ?」



 にことツバサは会話を繰り広げているが、上手く噛み合っていない様子。


 想定外、この世で考えられる中で最も悪い可能性を引き当ててしまったことを実感する聖良。チャンピオンがこんなところに現れるだなんて、考えるはずもない、半ば冗談であるように思われるその状況だが、事実目の前で毅然たる表情でサザンドラの身体に手を沿わせている。


 鹿角姉妹は地面に突っ伏したまま。聖良は思考し、闘うことを放棄する。起こってしまった最悪の事態に、正面から対抗する手段を持ち合わせているはずがなかった。聖良だけではない、ここオトノキ地方にいる全てのトレーナーも同様。



聖良「理亞……左から2番目のモンスターボールを開けて」


理亞「わかった……姉さま」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/19(木) 15:11:11.68 ID:jtDUeRc/O

 聖良の指示に従って、理亞はホルダーに手を伸ばす。


ツバサ「りゅうのはどう」

 躊躇いなく、無情の宣告。


 サザンドラの口元が薄紫に発行し、絶望の光で照らす。千歌達にとってはこの上ない希望の光、聖良達にとっては死の宣告。


理亞「ひっ……姉さまっ」


 理亞は恐怖に顔を歪ませ、姉へと助けを求める。姉は理亞よりも負傷しており、頼っていいはずがない、考えればわかることだが理亞の現在の精神状態ではそのようなことは考えられない。恐怖、恐怖。

 死を予感した絶望。一歩間違えれば死んでいた、先ほどの光は、理亞の心に大きな傷を植え付けていた。


聖良「理亞早くっ!!!」

理亞「くっ!!」


 姉の言うがまま、理亞はボールの開閉スイッチに指を食い込ませる。

ツバサ「さようなら」



聖良「――テレポート!!」


 放たれる二撃目の、絶望。薄紫に発光した眩い光は辺りを包み込む。木を土を、射線上に存在していたものを全て塵とし、無かったかのような状況を作り出す。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/19(木) 15:13:27.90 ID:jtDUeRc/O

 サザンドラが照射を止めると、パラパラと周辺の樹木から葉が降り注いでいた。


千歌「……」

 目の前で起こったことに理解が追いつかない。チャンピオンである綺羅ツバサが助けに入り、あの姉妹は、どうなった……?

 不気味なまでに静寂が包みこの空間、千歌はその異様な雰囲気に言葉を発することができなくなっていた。

にこ「あんた……殺した、の?」

 にこは呆然と、何も無くなった森の空間を見つめる。サザンドラの放った攻撃は、姉妹を飲み込み、消し去った。跡形もなく、ほこりと同様に。

ツバサ「殺してない、テレポートで逃げたわ。そもそも[ピーーー]気なんてないに決まっているでしょう?」

 当たり前のように、にこに語りかける。[ピーーー]気がない、だとしたらここまでの大出力にする必要はない。技を放つ前のツバサ、それは何の躊躇いもなく……。


にこ「そ、そうだそれよりっ! ダイヤがっ!!」


 本当の目的を思い出したにこは、ツバサにすがりつく思いで状況を説明する。

 そしてツバサは少し考えた後、ボールケースから移動用の飛行ポケモンを繰り出した。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/19(木) 15:14:13.87 ID:jtDUeRc/O

◇――――◇


 ツバサが携帯していた飛行用ポケモンで千歌と曜、それに加えてにこや黒髪の少女は病院へと運ばれていた。

 千歌は病院に着くなり、緊張の糸が切れたように気を失い、十二時間程も眠りについていた。


 全身に鉛を取り付けられたような感覚を感じながら目を覚ましたのはつい先ほどのこと。身を起こすと目の前のベッドでは曜がうつらうつらと意識を混濁させていた。観察してみると、腕にギブス、鼻に包帯、顔にもいくつか痣が出来てしまっている。痛々しい光景に思わず目を逸らしたくなってしまう。



千歌「……あれ、ここは……曜ちゃん?」


 千歌がその名を口にすると、曜の意識が覚醒する。


曜「――千歌ちゃんっ!?」


 ベッドから立ち上がろうとする曜だったが、苦痛に顔を歪ませ、力なくベッドの背もたれに身体を預けた。


曜「うぅ……目を覚ましたんだね、良かった……」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/19(木) 15:16:52.29 ID:jtDUeRc/O
千歌「私たち、ツバサさんに連れられて……ここは病院?」

 千歌が記憶の海に飛び込むと、曜は病院に着いた後の状況を千歌に説明した。

千歌「そっか……」


 いくつかの質問を交えて、納得する。あの姉妹はポケモンを奪う事件の一端を担っている人物であること、トレーナーも狙われていて、命を落とすことが珍しくないということ。それにたまたま、巻き込まれたのだ。善子はおそらく、アブソルがどこか安全な場所まで連れていったのだろうり

 ツバサに助けられたことで急死に一生を得たが、身体に走る痛みと、包帯を巻かれている頭部が、争いの真実度合いを表しているようだった。


千歌(……あの人たち、千歌達のことを殺そうと、してた……)


 冷静に思い返すと、恐怖が身体を支配する。友達が目の前で嬲られ、自身もポケモンに吹き飛ばされ、人間に蹴りつけられ、尊厳など全て蹂躙されていた。


曜「……ごめん、私が守れなかったから」


 小さい声で呟く曜、曜はレントラーの打撃の影響で腕付近を何箇所か骨折してしまっていた。それはなにより、千歌のことを思ったってからである。自身の身を粉にしてでも親友を守ろうとしていた。


 千歌もそれを分かっていたから、曜と一緒で力の無さを恨んだ。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/19(木) 15:18:07.79 ID:jtDUeRc/O

 最初にレントラーに攻撃されたのは千歌だった、少しでも反応出来ていれば逃げ出せる隙を作り出せたかもしれない。


千歌「わたしこそ、ごめん……」

千歌「私がいきなり立てなくなって……曜ちゃんはそれで逃げ出せなくなって……」


 怖かった。逃げてと曜に言うがまるで聞き入れられず、それでも立ち塞がってくれた親友のおかげで、千歌は今こうして生きていられるのだと涙を流す。

曜「そ、そんなっ!!」

曜「わたし、何も出来てない……っ」


 曜も同じく、涙を流す。

 弱い、弱い、弱い。


 守ると決めた友達の、全てを守れなかった。むしろ千歌の機転により守られてしまうことの方が多かった。


 許さない。再び燃え上がる聖良への憎しみの炎。もし次会った時には必ず、壊す。千歌が笑っていられるように、あんな風に恐怖に顔を歪ませなくていいように。

 これからも一番近くで、今度こそ守って見せると誓ったのだった。


 しかし。


千歌「曜ちゃん……次の町からさ、別々に旅、しよっか」



曜「――は?」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/19(木) 15:21:29.32 ID:jtDUeRc/O
千歌「千歌ね、考えたんだ。私、今のままじゃ何も出来ない。曜ちゃんに頼ってばっかり、甘えてばっかり……こんなのじゃ、チャンピオンになれるわけない……ツバサさん、凄かったよね、あれに勝たなくちゃいけないんだよ」


曜「……」

千歌「強くなりたいっ……自分の身も守れないで……誰かに頼って、そんなの意味ないよっ……」

千歌「わかってるつもりだった。梨子ちゃんよりも強くて、あの果南ちゃんも……バトルやめちゃって、そんな人に勝つってこと、つもりだったのに」


 頭が真っ白になる。


曜「――私と一緒に旅するの、嫌、なの?」


千歌「っ、そうじゃないよっ……! 曜ちゃんと一緒がいいけど、曜ちゃん、私より凄いし、だから絶対別々の方がためになる……」


千歌「曜ちゃんのこと、これ以上縛りたく、ない……っ」

曜「なに、それ……」


 そう、か。弱かったから。

 あの場で千歌を守ることが出来ていれば、こんなことを言われる必要なんて無かったのだろう。 弱い自分など、必要がないんだ。千歌にとって、必要なのは強い曜、強い友達。その例になれなかったということは、千歌にとって必要がなくなってしまったのだろう。

 強く、なるしかない。

 誰の目にも疑わせないほどに強く、どのジムリーダーより、どの、四天王より、どのジムリーダーより。そして千歌が必要だと思ってくれるように。

 曜の心に根を下ろした一つの感情、膨らみ続けることで、どこかへと突き落とす。


 沈黙で満たされた一分間、ドアを開けて入ってきたのはジムリーダー矢澤にこ。


 千歌の隣で倒れていた少女、千歌はそのことが少し気になっていた。にこの口から明かされたのは、黒澤ダイヤの容態は昏睡状態、いつ目を覚ますかわからない状態にある、と千歌達に説明をした。


 災難だったわね、また明日色々説明しに来るから、と一言。


 そのにこの言葉は、曜にほとんど届いていない。そんなこと、いや、ほとんどのことが、どうでもよかった。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 00:41:11.77 ID:EKvQtY4SO
曜ちゃんはよく闇堕ちする
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 03:53:23.36 ID:/7yTVAws0
ようちかは形は違えどどちらも重いからな
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/01/23(月) 21:00:51.88 ID:5V8eAVeuO

見てます(・8・)
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/05(日) 23:44:06.61 ID:GfzTq+ndO
見てるぞ
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/09(木) 08:03:16.59 ID:UE39/XC0O
はよ
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