会長「音が紡ぐ笑顔の魔法」

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209 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/31(木) 08:29:48.00 ID:FgwfDCqSO
男「あっ……」

男「ご、ごめんなさい……」

咄嗟にタオルを取り出し、濡れてしまった作詞先輩に手渡した。 

シャツにコーラがかかり、若干ではあるものの透けてしまった……なるべく作詞先輩の事を見ないように務める。

作詞「うん……困ったね。これでは恥ずかしいよ」

部長「俺のTシャツ貸してやろうか?」

作詞「すまない。今日は制汗剤を持っていないからね、部長の体臭は耐えられそうにないよ」

部長「風邪引いちまえ」

作詞「男君。なにか肌着でもいいから持ってるかな?」

作詞先輩はくすみがかった銀髪を結ってから身を乗り出すと、テーブルの向かい側で座る俺の眼前まで顔を近づける。

作詞「濡らした君が責任を取るべきだよね」

人差し指と親指を使い、俺の顎を掴む。
挑発するかのような仕草は俺の事をからかう為だろう。

会長「む」

男「あっ、あー……バッグに入ってますね。待ってください」ゴソゴソ

衣替えが始まってしまったからなぁ、夏服になってから着替えも持ち歩かなくなったけど……

確かスクールバッグの中に……あ、あった。

不良(こいつ、どうしてカツラを持ち歩いて……私にしか見えていないよな?これ)

男「着てない体操着の上、ありましたよ」

作詞「ありがとう。着替えてくるかよ」

作詞先輩は俺の体操服を持ち、どこかへと着替えに行ったのだった。
どうせトイレ辺りだろう。

副部長「貸そうと思ってたのに行っちゃった」

幼馴染「ソニアの顔面プリントTはキツいと思う、私でもね」
210 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/31(木) 19:17:28.15 ID:fTSKDSqZO
>>209
作詞「ありがとう。着替えてくるかよ」

作詞「ありがとう。着替えてくるよ」
211 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/05/31(木) 19:28:52.70 ID:fTSKDSqZO
男「気になってましたけど」

男「ツンデレ脱退てマジですか」

話が脱線していたが、どうしても気になっている。先程からぐわんぐわんと頭が揺れ、冷や汗が止まらない。

作詞先輩が席を外しても変調が続くという事は、口に含んでいたジュースを作詞先輩にかけてしまったのが変調の原因ではないと言う事だ。

幼馴染「馴れ馴れしいわね」

男「アイドルくらい呼び捨てさせろよ」

幼馴染「先輩の言う事を聞かないなんて……いつからここまでひねくれたのかしら」

この女……白々しいな。

幼馴染「芸能活動自体も休止らしいよ」

男「芸能活動まで!?」
212 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/04(月) 21:41:29.03 ID:+w0TtT1YO
幼馴染「……」

幼馴染「なによ、アンタ……そこまでアイドルに興味があるの?」

男「あっ……いや、その……」

幼馴染は怪訝な表情で俺を見据える。
なんと説明をすれば良いのやら、幼馴染はやはり面倒だ。
疑い、興味、洞察をこの部活の中ではしっかりと持っている部類の人間。

副部長「男君はソニアちゃんが大好きだからね!」

副部長「入部したばかりの頃もソニアちゃんに関するすごーい考察を聞かせてくれたもん!」

副部長ナイスです!やっぱり持つべきはファンですね!
考え方がどうかしているけれど。

幼馴染「えっ?そうなの?てっきり興味が無いとばかり思ってたわ」

男「まぁ、存在がミステリアスだからな……正体不明のアイドル」

男「テレビにも良く出ていたし」

会長「しかし、正体は不明のままだった」

男「気になっちゃうだろ、そんな煽り見たら」

幼馴染「……私だってソニアの正体は気になるわ」

毎日のように約束を取り付けようとするぐらいだからな。
返事をするこっちの身にもなって欲しい。

男「……」

副部長「わたしも……だね」

そもそも、会長、俺、幼馴染の正体が明らかにならない事が奇跡だろう。

3人共顔が割れないような売り方をしているのも共通している。

会長は別としても、だ。
そもそもあの人だけ無名な癖に才能だけは人並み外れているのが気に食わない。

会長がアイドルとして成功しなかったのは巡り合わせ次第ではあると分かっている。

おっと、嫉妬になってしまったな。
早く俺が活きる道を切り開かなければ。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/04(月) 22:47:02.54 ID:im3dM/DEo
辛いな
214 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/09(土) 08:36:58.39 ID:delpFlFDO


そう、幼馴染がどうしようが俺には関係ない。

男「そんな事よりも……この部について考えよう」

幼馴染「そうね、そっちの方がずっと大事」

幼馴染「アイドルの事なんて今はどうでもいいでしょ?」

会長「そうだな……どちらにせよ今のままでは……うむ」

副部長「あっ、そうだ!」

副部長「動画サイトに配信してみない!?」

部長「YouTu〇er的なノリだな」

会長「学校の許可さえ貰う事が出来たら可能だが……」

男「話題作りか」

副部長「うん!これでTVや雑誌の取材が来たら学校側もうちの部活の事を放っておけないよね!」

作詞「何かしらの成果には当てはまりそうだね」

会長「人前に出る訳では……うん」 

不良「さっさと許可取ってやろうぜ」

作曲「出来ることは、全部……」
215 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/22(金) 08:30:37.04 ID:x5TB1cP5O
部長「勿論却下な」

男・幼馴染「「同じく」」

副部長「えー!?どうして!?」

不良「どーしてだよー」

不良は顔を膨らせて不満を露わにする。

会長は俺と幼馴染の発言待ちといった所だろう。

作詞「方向性は悪くないけれども、動画メインはよろしくないかな」

作曲「……」

作曲先輩はじっと作詞先輩を見つめる。ついさっきまで話に乗っかっていただろうにと言った表情。

作詞「そんな目で見ないで欲しいな、今から100万再生なんて目指すのはいささか現実離れしている。自分達で配信するのにも」

幼馴染「機材ね、揃わないでしょ」 

作詞「……」

また話を切られたなこの人。

会長「素人をメインに取り上げている配信者に取り上げてもらうのが無難だな」

男「そうですね」

俺と幼馴染が考えている事は全く同じだろう、動画配信はテレビと違うハードルがある。

中でもコメントが厄介なのだが……これ以上はもういいか。

部長「フェスで結果を残す。そう決めただろ?」

副会長「その通りです」

部長「ロリも反対する……と思うし」

副部長「ねぇねぇ……部長ってさロリちゃんの事……」コソコソ

幼馴染「放っておきなさいよ」ハァ
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/22(金) 10:39:17.34 ID:ChahlElDO
蘭子「混沌電波第173幕!(ちゃおラジ第173回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529353171/
217 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/23(土) 09:07:24.61 ID:wfFZ79r0O
男「ちょっといいですか」

次に出るフェスの目星はついているだろう。
審査性のイベントともなれば数は絞られる。

重要なのはそこでどのような結果を残すか。

男「少し考えました」

男「自由天文部に足りないのって歌とか演奏力とかでは無く、本番慣れだと思います」

幼馴染「……」

幽霊部員「ぶっつけでは限界があるってことっすね?」

男「あー文化祭や学内での催しはやってますけど……」

そんな学生行事は本番の内に入らないって言ったら怒られるかなぁ……なんて言ってやろうか。

幼馴染「結局うちの学生は味方でしょ?雰囲気が温いのよ」

不良「箱でやんのか?」

作曲「ライブハウス……」

作詞「周りが他人と言う環境の中、実質敵地とも言えるであろう場所で僕達はどのように演奏出来るのか?実力がため」

幽霊部員「ずーっとやってみたいと思ってたんすよ!盛り上がってキター!ぴゅーぴゅーぴゆーぴゅるるるる!」

作曲「お金は?」

不良「チケット代だよな、私は友達すくねぇからなぁ……」

部長「何度も呼べるかは自信ないけど、任せろよ」

副部長「同じく!」

会長「では、これからどうするかを改めて確認しよう」

会長「私達が目指すフェスの目星もついた」

副会長「8月20日のロック・スターと呼ばれるフェスです」

副会長「若手実力派インディーズバンドの祭典ですが、学生もそれなりに出場しています」

会長「それでいてなおかつ学生も入賞している」

副会長「しかし……私が見た所によるとライジングロックよりハードルが高いと思います」
218 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/23(土) 16:40:45.87 ID:CjGPrmuFO
副会長「私達よりもずっと歳上の実力派も出ているのが厄介です」

副会長「演奏力がもう若手とは比べ物になりません」

副会長「若手もこれから台頭する事を目指している方ばかり」

不良「不足はねーな」

副部長「大丈夫かな?また駄目だったら……」

会長「副会長、一番大事な事を」

副会長「あっ……」

会長「いい、私が言う」

副会長「すみません」

会長「このフェスはな、ジャンルを問わない」

部長「はぁ!?」

副部長「なんでもありって事?」

会長「そうだ、正確には音楽のジャンルを問わない」

幼馴染「あ……だから私達にもある意味チャンスがあると」

会長「暗黙ではあるけれど学生バンド枠もある」

作詞「これは驚いたね」

男「ちょっと悩みましたけどこれしかないですよ、学校としての成果を認めてくれそうな所」

会長「私と男と副会長で決めた。You○uberを目指すよりは現実的だと思う」

周りを見ても満場一致だった。
ロリ先輩を除いては。

部長「決まりだな、ロック・スターを目指していく」

副会長「その為には沢山歌う、弾く。特に本番で」

幼馴染「あれ?ロリは?」

部長「……今日は体調不良だってさ」

副部長「最近多くない?大丈夫?」

作詞「……」

作曲「……大丈夫」
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/24(日) 22:47:18.85 ID:sivIg2Kko
おつおつ
220 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/28(木) 19:41:57.57 ID:1xWDZ/KaO
メモリ~キミトワタシノ~♪

幼馴染「っ」ピクッ

男「……」

ツンデレと期間限定ユニットを組んだ時に歌った曲『memory』これって凄く売れたんだよな、特に女性層の受けが……

副部長「あ、ロリちゃんから電話だ」

やっぱり副部長の着信音だったのか

部長「出なくていい」

作詞「そうだね、どうせ他愛もないくだらない話だから」

作曲「出なくていい……」

不良「気色悪ぃな、今決めたことをロリに言わなくてもいいのかよ?」

副会長「不良さんの言う通りです、ロリさんがあってこその自由天文部です」

男「そうですね、何をするにしてもあの人の確認を取ってからにしないと」

会長「出て欲しい」

副部長「もしもしー!?」

部長「おいっ!」

部長が本気で叫んだ所を初めて見たかも知れない、ロリ先輩と喧嘩でもしたのか?

作詞「部長、やめよう。そうさ、全員が知るべきなんだ」








221 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/28(木) 21:13:24.91 ID:3/g1EWveo
  
   




ロリ「あっ……」

ここは?

どこ?

なんて惚けて見せたけど

ロリ「んー」

どうせ病院のベッドだろう。

ロリ「もう卒業は確定だから良いけど……」

ロリ「◯回も留年するハメになった割には呆気なかったなぁ」

色々な子と出会ってきた、全員を泣かしてしまった。

私だけが変わらない思い出を見ると本当に申し訳がないと思う。

最後の世代には悪い事をした。

トラウマにならなければ良いけど。

先輩『もう諦めんの?まだやれるっしょ』

月日が経つ毎に頻度を増す先輩のまぼろし。

ロリ「もう……無理だよ」

先輩『そっか………』

先輩『でもさ、ありがとう。ロリ』

先輩『ロリのおかげでここまで自由天文部が存続したんだ!』

私の身体が危うくなっていく程、色濃く映る先輩。

もう居ない先輩。

聞こえが良い言葉、私が望む言葉をかけてくれる。

先輩『でもさ、まだやれるでしょ?』

私は知っている、先輩はそんな事を言わない。

先輩『どうせ死ぬなら、全力を出してから!って相場は決まってるでしょー』

私が留年している間に医学は進歩しているらしく、外国で手術を受けたらまだ助かる見込みがあるらしい。

ロリ「そうだね……」

もう限界だろう。

ロリ「……」

可愛い後輩達は私が留年を繰り返していると知っても、距離を置かずに接してくれる。

素晴らしい部だ。

先輩が作った自由天文部は如何なる状況に置かれても、それぞれの年代が色褪せることなくも素晴らしい。

揺れる視界の中でまどろむ私は、今の自由天文部では唯一私の身体について知っている3年生達に連絡する。

もう、無理だと伝えるつもりだ。

私は先にリタイアをする。

もう、十分がんばったよね?

皆。

ロリ「……」

何度目だろうか、あの時を思い出すのは――




222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/28(木) 23:55:22.73 ID:UlRu7lNbo
ロリあきらめるな
おつ
223 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/30(土) 17:44:55.12 ID:fY5velzQO
◯年前、私は1人だった。

幼い頃から友達も居ないし、喋らない。長くは生きられないと告げられてからは以前よりも増して人と関わらなくなってしまった。

外見も人より優れ中でも勉強はずっと1番、体が弱いから積極的に取り組もうとはしないものの運動だってその気になれば簡単にこなすことが出来た。
そのせいか私の人生は退屈かつ簡単、どのようして死ぬか考えなかった日は無い。

ただ、音楽は少しだけ好き。
初めて両親に頼んで買ってもらったのはベースという楽器で、1番難しそうと言うのが購入の理由。

だが、すぐに上達してしまった。

死ぬまでには完璧になっているのかなと思うと少し寂しい、そもそも私は簡単に出来てしまう物なんて求めていなかった。

高校2年生になった時、また1歩死に近づいたと思うとどうしようもない不安が体の芯から外へぶわっと広がっていく。

ロリ「このバンド、ちよっと下手くそ」

私は毎日のように中庭の隅で座って音楽を聴いている。

ロリ「男子は沢山走るなぁ……」

無邪気に走れる人が1番羨ましい、この時の私は全力で走る事さえ出来なくなってしまっていた。

ロリ(1人で過ごす休み時間は特に楽しい)

「ねぇ、君は今何してるの?」

そして事件が起きた。

ロリ「え?」

224 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/06/30(土) 20:12:54.44 ID:fY5velzQO
「いっつもイヤホンしてるよね?」

「音楽聞いてるよね?」

「何年生?私3年生!!」

ロリ「イヤホンは挿してるだけ」

ロリ「……2年生、です」

「え?うそだ!めっちゃ、音漏れてるよ!?」

ロリ「っ!」ビクッ

「はーん、ひっかかったね?」

ロリ「……」

正直な第一印象は私と正反対。

不意に現れた見ず知らずの人は太陽を背にしているからなのかとても眩しく見えたが、それ以上に鬱陶しかった。

「ねね、やろうよ」

ロリ「なにを?」

「バンド!!」

茶色混じりの金髪が太陽の光に当たり、ただでさえも鬱陶しく、眩しく見えた先輩はさらに眩しく感じた。

この時にはもう鬱陶しいとは思っていなかったかも。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/01(日) 02:50:27.33 ID:H5d5G4gjo
こういう展開凄く好き
おつ
226 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 20:19:29.20 ID:P6SUzcOCO
ロリ「お断りします」

「即答!?」ビクッ

この時にはもう人と関わるつもりが微塵も無かった。

ロリ「どうして私を……」

「へ?音楽が好きそうだから?あと、タメ口でいーよー堅苦しいの嫌いなんだよねーーー!!!」

ロリ「……」

「私の名前は△〇☆▽!!君は!?」

ロリ「……ロリ」

「じゃあロリだ!!私の事も名前で呼んでよ!!」

ロリ「……先輩で」

先輩「たはーっ!!壁を感じるぅー!」

キーボード「くるくるー、何してるの?」

ドラム「誰このガキ?」

ロリ「ガキ……?」ピクッ

ロリ「凄く失礼……」
227 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 20:28:30.75 ID:P6SUzcOCO
初めて先輩とキーボードとドラムに出会った時、私の人生、いや、違う。
青春は大きく変わり始めた。

キーボード「あっ!ぴっっこーん!!!進入部員だよこれきっと!」

ロリ「違う!」

ドラム「えっ!?マジ!?もう人数揃うの!?」

先輩「天文部活動も忘れんなよー」

ロリ「天文部?」

ドラム「どーせ結果残せなきゃ廃部だろ!?」

先輩「ざんねーん、天文部としては結果残せてますー」

キーボード「ぴるぴる。ライジングロックで入賞しなきゃどうせ廃部だよ?」

先輩「あはは!難しいよねー!!」

ロリ「何部ですか?」

先輩「それはねー」




先輩「自由天文部!!」
228 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 20:51:19.79 ID:P6SUzcOCO
興味本位で案内された部室には賞状が綺麗に飾られ、星の本?等が机の上に沢山積まれていた。

先輩「元々はふっつーの天文部なんだけどね、部員が一人だけだったから私がこの学校に存在しない軽音楽部も兼任させたの」

先輩「やっぱり軽音楽部はやってみたい人が居るみたいでさ、簡単にアホが釣れた訳よ!」アハハ

ロリ「……」

果たして、私もアホの一員なのだろうか。

先輩「まぁ、ホントの事を言うとさ」

先輩「最初は普通の天文部としてやっていくつもりだったんだけど……元々居た一人の部員も卒業してね、このままじゃあ同好会以下になってしまう」

先輩「という訳で!!!」

ロリ「」ビクッ

先輩「軽音楽部やってみました!!」

先輩「あはは!!」

ドラム「こいつが最アホな」
229 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 21:16:52.28 ID:P6SUzcOCO
キーボード「トゥンク……元から居た先輩が好きだから天文部に入った癖にー」 

先輩「はぁ!?好きじゃないし!!あんな陰キャ別になんとも思ってないから!!」

ロリ「好きな先輩がきっかけ……」

先輩「ちがうっての!!」

ドラム「頭おかしいよな、こいつ」

ドラム「好きなだけでそこまでやるかよ」

キーボード「じーーーーーーっ」

ドラム「な、なんだよっ」

キーボード「べつにっ」

先輩「こほんっ……まぁ、どうしていつも一人なのか分からないけどさ……良かったら私達と無理難題に挑戦しよーよ」

ドラム「ライジングロック入賞!」

キーボード「確かに無理難題だよねー」

先輩「音楽の魔法、見せてやる!」

ロリ「!」

凄く、心惹かれる言葉だった。

ロリ「……良かったら何か演奏してみて」

先輩「勿論!」

私は心を踊らせて先輩達の演奏に耳を傾けた。
自分の中で変わりつつある何かに、今まで感じたことの無い何を知るために――

ギュイ-ン

バンバン

ギィギィギギギ

ポン……ポンチャ-ンッ

現実は厳しい。








ロリ「下手過ぎ!!!」ガ-ンッ
230 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/02(月) 21:39:02.39 ID:P6SUzcOCO
ロリ「ここもっと強く弦を押さえて!!」

先輩「弦とは?」

ロリ「はぁ!?」

ロリ「もっと優しく叩いてよ!」

ドラム「は?全力だろ何事も」

ロリ「脳味噌筋肉なの?馬鹿なの?猿なの?」

ロリ「楽譜からやろう、多分すぐ覚える……と思う」

キーボード「ピンポーン、りょーかいっ!」

ドラム「扱い違くね?」

先輩「ほんとね、おかしいよこれ」

ロリ「こいつら……」

先輩「歌は負けないからな!」

そう言えば誰も歌っていなかった事を思い出す。
先輩が歌う様子だが、あの演奏を聞く限り私は期待なんか出来なかった。

先輩「じゃあ適当にあの歌で」スゥッ

ドラム「やったれ!」
231 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/07(土) 21:42:34.42 ID:dnR3G5R3O
なんて言えば良いのだろうか、素晴らしい?上手?凄い?いい声?素人にしては?

違う。

先輩の歌を表現する言葉は見つからないけれど、これだけは言える。

魅了された。

ロリ「うん、歌は通用するかも」

4人だけしか居ない部室で聞いた歌は私の考えを変えた。

先輩「凄いだろ?お母さんから昔教わってたんだよ」

ドラム「こいつとカラオケ行くとさ、しらけんだよなーうますぎて」

キーボード「ぽっぽっぺー、これで練習したらそこそこいいとこ目指せそうな気がするよー?」

ロリ「でも……楽器が初心者だと……」

先輩「……」

ロリ「どちらにしたって」







先輩「ねぇ、知ってる?」

ロリ「……?」
232 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/07(土) 22:08:02.48 ID:dnR3G5R3O

先輩「音楽にはね、魔法があるんだよ」

先程も先輩が言っていた言葉。

どうしてか分からないけれど私が惹かれた言葉。

音楽の魔法。

ロリ「魔法?」

そう、音楽の魔法。

魔法とはそもそも人知の及ばぬ事を表していたり、子供向けの言葉であったり、定義が曖昧な事象を……

先輩「教えてあげよっか?」

指すのだが……

でも、知りたい。

ロリ「教えて欲しい」

本当にあるのなら。

先輩「どうしようかな〜?」

どうしても知りたい。

ロリ「酷いと思う」

こうして人をからかう人間なのだろう、私としては凄く腹立たしい。

先輩「あはは、ごめんごめん、教えてあげる」

先輩「……音楽にはね」

ロリ「……」





先輩「――人を笑顔にする魔法があるんだよ」   
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/09(月) 00:35:40.38 ID:R/7qGhzUo
きた!
234 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/11(水) 22:06:31.41 ID:OFkSezKmO
ロリ「人を笑顔にする魔法、ふーん」

先輩「私の先輩は笑顔になったよ!うん!」

ロリ「音楽で笑顔になった事は無いから私には分からない」

先輩「私もさ!音楽なんて退屈でくだらないって思っていた……けど」

ロリ「けど?」

先輩「私の先輩はさ、私の歌を聞いて笑顔になってくれたんだ」

ロリ「馬鹿にされたとか?」

あの歌を馬鹿にするなんて、そうそう出来る事ではないと分かっているけど。

先輩「私の先輩はさ、私の歌になら天文部を任せられるって言ってくれたんだ」

先輩「いつも無表情だった先輩が――」

先輩「だから、奇跡は起きるって!!ね!?」

ロリ「ふーん……うん?」

ロリ「それって音楽じゃなくて、歌の魔法では?」

先輩「あ゛!!」

ドラム「俺不要だな、これ」

キーボード「プシュン、ほんとそれー」

先輩「違う!違う!先輩如きじゃ足りないでしょ!?」

ロリ「如きって……」

どのような関係性なのだろうか。

先輩「足りないって思ったんだ、私1人じゃ先輩1人しか笑顔にできないし……」

先輩「歌も含めて音楽にしたらもっと
多くの人を笑顔……というか。奇跡が起きる気がしたんだ」
235 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/12(木) 20:06:37.71 ID:bJND8/v/O
ロリ「言い訳としてはかなり苦しいけれど……話半分で聞いておく」

先輩「いつかわかる時が来るから!!いつか」

ロリ「……」

先輩「〇〇年後とか!」

ロリ「そう……」

その時には死んでいるかなぁ、きっとこの世に居ないだろう。

ドラム「信じてやってくれよ、あいつアホだから失言ばっかなんだよな」

先輩「アホじゃないし!卒業はギリギリ?出来るから……たぶん、きっと……」

キーボード「ひとはーそれをーアホと呼ぶ〜イエーイ!」

ロリ「はぁ……いいよ、やってみよう」

先輩「!」パアァァァ

ドラム「よっしゃ!」グッ

キーボード「テレレレッテレーッ!」ピョンッ

私もアホ……なのかな?
236 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 17:38:36.31 ID:7YRgBPOWO







朧気な意識。
そうか、私は寝ていたのか。

また眠ればあの時の事を思い出せそうだ。

だけど、その前にやる事がある。

ロリ「……」

3年生にこれからどうするのかを伝えよう。

ロリ「メッセージだけでいいかな……」

途中で打ち上げを抜けていたからか、自由天文部の面々からは沢山のメッセージが送られている。
皆には心配をかけてしまったなぁ。

ロリ「……よし」

3年生のグループチャットにメッセージを残す。
今日も倒れてしまった事、これから私はどうするかをはっきりと伝えた。

ロリ「先輩……」

もう一度眠りにつく。

次はどこまでかな。
237 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 17:53:22.33 ID:7YRgBPOWO
先輩「いえええええええい!!!!」

ロリ「!」

初めてのライブだ。

寝る間も惜しんだ甲斐があり、初心者ばかりが集まったこのバンドも著しく成長した。

先輩「みんな!これからも“Starry sky”をよろしくね!!」

先輩のゴリ押しで決まったバンド名、安直だしセンスもカルチャーも無い。

ナンテイミ-?

先輩「星空!!!!」

ヘ--

先輩「リアクション!!」

ドラム「そりゃどうでもいいわ」

ドッ

キーボード「早く次の曲いこーよ」

場を沸かすドラムと周りに興味が無い二人は私の目からは対照的に映る。
そんな二人の上達は目覚しい物があった、本当に向いているのだろう。
238 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 18:29:37.67 ID:7YRgBPOWO
先輩のギターは……まぁそれなりにまともになったかな。

先輩「じゃあ私のソロから……」

ソロなんか10年早いけれど。

ドラム「やめろ」

キーボード「それだけはない」





 
「てかこいつら下手糞じゃね」



はーいるよね、こういう人はどこにでも。
学生だからしかたないかな。
ムカつくけど。

ドラム「あ?」

キーボード「テンテンテン……ちょっと向きにならないでよーー」

キーボード「って、あ!」

先輩「なに?私が何かした?」

「は?」

先輩は誰よりも早く心無い言葉を放った張本人の元へ駆け寄っていた。

誰よりも感情的な人だった。

キーボード「あちゃー……止めてよドラムー」

ドラム「あいつキレるとめんどくせーから嫌なんだよ」

先輩「馬鹿にするなよ、こっちは本気なんだから」

「うっぜ、てか痛いんだけど。恥ずかしくねーの?」

先輩「ふざけるな!」

ゴンッ

「おごっ」

ドラム「あっ、金的」

先輩「お前に先輩の何が分かる!」ゲシッゲシッ

 「ごめん!ごめん!ほんとごめん!」

先輩「じゃあいいよ」ニコッ

「えっ、あっうん」

先輩「君も良かったら自由天文部においでよ」

「え……そんな……」

先輩「よーし!演奏再開!」

「……///」

すごくモテるらしい。
239 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 22:47:16.24 ID:eIBQKX15O
“あの子”は先輩の事が好きだったのだろうか。

まだ分からない。




先輩「みんな゛っ!!」バンッ

ロリ「わっ……!」

ドラム「まさか……」

一悶着もあったが初めてのライブは無事に成功を収めた私達は勢いのままライジングロック予選に参加する事が出来た。

先輩「はぁーっ……はぁーっ」ゼェゼェ

先輩は勢い良く部室の扉を開けて私達の前に現れた。
走ってきたのだろう、息が荒く今にも倒れてしまいそうだった。
そんな先輩の様子から察するに、ライジングロックの結果が出たのだろう間違い無い。

演奏レベルでは負けていると分かっているけれど、先輩の歌はそんな私達の演奏も押し上げてくれる。

だから信じてる。

私も……ドラムとキーボードだって。



240 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/21(土) 22:54:40.85 ID:eIBQKX15O





先輩「ライジングロックの予選……通過ああああああ゛あ゛あ゛!!!」

ドラム「よっしゃあああああああああ!!!!」

キーボード「きゃーーーー!!やったよーーーー!!!」

ロリ「あはは……夢みたい……」

先輩「〜♪〜♪〜♪」

ロリ「歓喜の歌……こんなのも歌うんだ…… 」

叫んだから?先輩の声が掠れているような?

先輩「歌は゛さ……お母さ゛んから無理矢理叩き込まれたんだ」

先輩「昔ば……お母さんのぜい゛…で…歌が嫌いだったけど……今じゃ……感謝してる……よ゛……」

ドラム「まてよ、お前声が……」

先輩「あ゛はは……声出しすぎたね」

キーボード「病院……行ってよね……これ、おかしいよ」

先輩「え゛、練習しなき……ゃ゛」

ロリ「今すぐ行って!!」

先輩「!」ビクッ

私がこんなにも声を荒らげたのは初めてだった。
明らかに先輩の喉は酷使されていた、毎日のように練習していたのだろう。

もし、先輩の喉に大事があるのならライジングロックも辞退しなければならない。

嫌な予感がする。

先輩「……分かった」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/07/23(月) 00:55:38.78 ID:tYeshYsFo
怖いな
おつ
242 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/29(日) 19:33:22.83 ID:RXK2QqszO
先輩に何が起こっているのかはその日の内に分かった。

ドラム「あいつの喉大丈夫かな……」

キーボード「ピコピコ……ライジングロック本番は1週間後だから心配だなー」

ドラム「軽い風邪ならいいんだけどな」

今一身が入らない部活動を終えた後、自由天文部共通の帰り道の中央で先輩は立ち尽くしていた。

住宅街の路地とは言え道の中央で立っているのは危険だ、車が来たらどうするつもりなのか。

ロリ「先輩……」

先輩「……」

ロリ「……!」ハッ

喜怒哀楽のどれにも当てはまらない。
無表情、どこを見ているのかも分からない。

鼓動が早くなる。
嫌な予感――

先輩「大丈夫!」ニッ

ギュッ

先輩は満面の笑みで私達全員を抱き締めた。

先輩「入賞……しようね」

ロリ「先輩……良かった」

キーボード「できる」

ドラム「ちっ、少しは弱い所を見せろよ」

先輩は先輩という物語の主人公だと私は思い込んでいた。
243 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/29(日) 19:46:46.25 ID:RXK2QqszO
>>242

先輩に何が起こっているのかはその日の内に分かった。

ドラム「あいつの喉大丈夫かな……」



ドラム「あいつの喉大丈夫かな……」



訂正です
244 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/07/29(日) 20:13:27.42 ID:RXK2QqszO
ライジングロック当日。

先輩は喉の調子を整える為、部活に参加する事は1度も無かった。

1度きりの本番、リハーサルにも参加しないらしい。

先輩「てかさ、ライジングロックって名前がもうダサいよな」

ドラム「あ、分かる」

キーボード「ドゥドゥン、もう少しオシャレにして欲しいよねー」

ロリ「はぁ?何を今更……」

先輩「いやー少しは悪態をついてやろうと思ってさ」

ドラム「このライジングロックに振り回されてきたからな、分かるわ」

キーボード「まじムカつくよねーこの催し」

先輩「大体さ、学生バンドに序列なんか付けるなっての!」

ドラム「俺らのようなズブの素人が通る時点で採点基準がほぼ歌だって丸わかりだし!」

キーボード「それ言っちゃうー?でもさ、ほんとにそーだよね!」

ロリ「あは、あはは!あははははっ!」ケラケラ

この人達……

先輩「どーしたの?」

本当に最高だ。

先輩は本当に主人公だ。

この私を心から笑わせてくれるなんて、私の世界を変えてくれるなんて、色を付けてくれるなんて。

私は音楽の魔法をこの時初めて知った。

ロリ「なんでもないっ!」ニコッ
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 22:43:05.59 ID:pFHED656o
かわいい
おつ
246 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:02:05.51 ID:go9hQ4YNO
先輩「……持ってよね」

ドラム「順番が来たぞ」

ロリ「絶対に入賞しよう」

キーボード「ねぇねぇ」

先輩「どうしたっ゛……の?」

キーボード「ありがとう」

先輩「え?」

キーボード「〇のおかげでかけがえのないものものに、大好きなものに出会えたからさ」

ドラム「面白い高校生活だったけどさ、〇のおかげでもっと楽しくなったわ」

ロリ「ねぇ、先輩……」

女「……名前で呼んでよ」

ロリ「……」

ロリ「〇」

ロリ「〇のおかげでね、まだ生きたいって思えたんだ……」

女「あはは……っ」

女「そんなの、あたりまえじゃん」

ロリ「でね、音楽の魔法にはつづきがあるって分かったんだ」

笑顔から絆が生まれて。

女「……後で聞かせてよ」

――奇跡が起きる。

女「さーって、これを終わらせたら」

ドラム・キーボード「「先輩に自由天文部存続を知らせなきゃ」」

女「……うん」
247 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:03:51.24 ID:go9hQ4YNO
>>246
訂正 正しくはこちらです

先輩「……持ってよね」

ドラム「順番が来たぞ」

ロリ「絶対に入賞しよう」

キーボード「ねぇねぇ」

先輩「どうしたっ゛……の?」

キーボード「ありがとう」

先輩「え?」

キーボード「“女”のおかげでかけがえのないものものに、大好きなものに出会えたからさ」

ドラム「面白い高校生活だったけどさ、“女”のおかげでもっと楽しくなったわ」

ロリ「ねぇ、先輩……」

女「……名前で呼んでよ」

ロリ「……」

ロリ「女」

ロリ「女のおかげでね、まだ生きたいって思えたんだ……」

女「あはは……っ」

女「そんなの、あたりまえじゃん」

ロリ「でね、音楽の魔法にはつづきがあるって分かったんだ」

笑顔から絆が生まれて。

女「……後で聞かせてよ」

――奇跡が起きる。

女「さーって、これを終わらせたら」

ドラム・キーボード「「先輩に自由天文部存続を知らせなきゃ」」

女「……うん」
248 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:17:37.29 ID:go9hQ4YNO
ワアア

女「下馬評は低いなこりゃ」

先輩は苦笑いで観客席の反応を確かめていた。

ドラム「こういうのは大抵、実績を残している学校が目立つもんだよ」

キーボード「カッキーン。学生スポーツとは違うのにねー」

女「スポーツでも番狂わせくらいあるでしょ」

ロリ「ほんの僅かだけど……」

女「見せてやろうよあいつらにさ」

女「私達の実力を」

女「かましてやろうよ、この歌で」

私が作曲して先輩の先輩、自由天文部の設立者が歌詞を書いた曲。

所々不完全な面があるけれど、現時点の私達が出せる最高の曲だ。

女「よし、始めよっか」

最高の舞台。

先輩の絶叫がその舞台の上から会場全体に響き渡る。
249 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:32:42.47 ID:go9hQ4YNO
ロリ「……」

凄い、最高潮だ。

私達の演奏は今までに無い程の出来だった。
全てが噛み合っているかのような、全員が同一人物ような……つまりは出来過ぎている。

気がかりな事がある。

『かましてやろうよ、この歌で』

この発言に私は違和感を覚えている。

いつもの先輩ならば歌とは言わずに曲と言っていた筈なのだ。

ずば抜けた歌唱力を持っている先輩は、楽器の力があってこその歌があるというポリシーを持っている。
歌と演奏が合わさって曲になる。
そう言っていた筈なのに――

いや、気にする必要は無い。

私達が持てる限りの力で、先輩を――

女「っ゛!!」

ロリ「!」

ドラム「おいっ!」

キーボード「女!?」

女「そ゛ら゛に゛――」

ロリ「……」

一瞬だった、ほんの一瞬の出来事で全てが決まった。

先輩の夢は潰えた。
250 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 21:47:40.26 ID:go9hQ4YNO
ドラム先輩とキーボード先輩は泣いていた。

それでも辛うじて演奏を続けていた。

先輩は無表情で掠れ掠れの声、先輩の本来の声からはかけ離れた醜い歌を続けていた。

これまでのやり取りは全て虚勢だったのだろう。
先輩の喉は限界だったのだ。

先輩の事だから皆には喉の事を話せなかったのだ、医者に無理を言って……この日の為だけに照準を合わせて……手術が必要なら手術を先延ばしにして……

先輩が大好きな人の為に……最大の機会を逃さずにはいられなかった。

私には分かる。

辛いよね、ごめんね、無理をさせて。

先輩一人に背負わせ過ぎてしまった。

女「――゛――゛♪゛」

声が掠れてしまってからの先輩は仕方が無く歌っていた。
せめてもの意地だろう。
この舞台に立っていると言う責任が、この舞台に私達を連れて来たと言う責任が先輩を晒し者にしていた。

先輩「……ありがとうございました」

曲が終わり、私達は不測の事態に騒然とする会場を後にした。

アンコール?あってたまるものか。
251 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 22:05:45.95 ID:go9hQ4YNO
ロリ「先輩?」

ロリ「先輩!?」

ドラム「おい!気にするなよ!?」

キーボード「大丈夫だよ!大丈夫だから!」

ロリ「私が自由天文部を存続させるから!先輩!!??」

先輩は無表情のまま私達の呼び掛けにも答えず、瞳から涙を零しながら覚束無い足取りで全てを遮断するかのように私達から離れようとしていた。

狂ったのか壊れたのか、ぶつぶつとお経のような独り言を垂れ流している先輩は無表情……能面を保っていた。

ドラム「おい!」

キーボード「待って!!」

ロリ「先輩!!」

急に私達をふり払うと、宛もなく一人で歩き始めた。

これ以上私達には止める気力が無かった。
私とドラムとキーボードも限界だったのだ。

私は気丈に振る舞うと決めていたのに……泣き崩れてしまった。
252 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 22:39:05.45 ID:go9hQ4YNO
あれから先輩は学校に顔を出す事が無かった。

単位がどうなのか、中退なのか退学なのか卒業出来たのか私には分からなかった。

ドラムとキーボードもあれから先輩がどうなったのかは知らない。

喉が無事だと良いな……それだけで私は満足だから。

ロリ「……」

ドラムとキーボードが卒業し、誰も居ない自由天文部で私は一人で表情を作っていた。

私には人を惹きつけるキャラクターが無い、それならばキャラクターを作ればいい。

ツッコミ所があり、だれからも愛される。
そんな存在になる為には別の自分を演じるしかなかった。
自由天文部の存続の為には――

ロリ「うん、この口調でばっちりだにょ?」

きっと私も先輩と同じ様に壊れていた。

このまま一人で卒業するのだろう、先輩の夢は叶えられないのだろう。

ガチャ

「えーっと、新入部員募集してる?」

信じられなかった。

ロリ「!」

初めてのライブで悪口を吐いた人間が新入部員になるのだ。

ロリ「……どうして?あの時、先輩に打ちのめされたのに?」

「……///」

「それでもさ、単純に楽しそうだったんだよ」

ロリ「え?」

「あのライブを見てさ、俺もあそこに立ちたいなって……女先輩のようになりたいって」

ロリ「……」

「おい!泣くなよ!」

ロリ「……」

ロリ「――歓迎するにょ!」

私は決めた。

自分を偽ってでも、犠牲にしてでも、余命を先輩が望んだ自由天文部存続の為に捧げると――
253 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 23:04:44.15 ID:go9hQ4YNO
先輩の意思は波及する。

先輩は主人公。

跡を継ごうとする人が現れる。

そう信じていた。

だからこそ新入部員が来てくれた。
あの時の私には一人だけでも十分だった。

だからこそ留年する勇気を貰えた。

あれから世代の移り変わる様を私は見守ってきた。

道化を演じてでも私は自由天文部を存在させたかったのだ。








ロリ「……」

こうして目が覚める。

3年生のグループチャットには私の正気を疑うメッセージが残っていた。

私は本気だ。

部長に電話をかけても出ようとしない。
優しい子だ、部長はいつも私が無理をして動くのを止めようしてくれる。

それでも今回の私は止められない。

私は電話をかけ続けた。

死んでも良い。
私は諦めない。

『もしもしー!?』

『おい!』

繋がった。
254 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/03(金) 23:31:17.52 ID:go9hQ4YNO



 



作詞「もういいよ部長、作曲」

作詞「そもそもロリの事を止めようとする事自体がお門違いだったんだ」

男「ロリ先輩……」

副部長「え?うん!分かった」

『聞こえるかな?』

副部長は通話をハンズフリーに切り替えた。

今回のロリ先輩はいつもと違った。

『実はもう長くないんだ』

真剣なトーンで会話を進め、変な語尾も使う事が無い。
いつもと違うロリ先輩。
しかし、それが本当のロリ先輩かのように俺の目には映った。

不良「長くない?」

『うん。このままだと長くない』

『すぐにでも外国で手術を受けなければならないけど、後回しにするよ』

副部長「!?」

『次に出場するイベントが終わるまでは頑張りたいな』 

部長「やめろよ……!そうやって自分を犠牲にするなよ!お前が頑張ったって変わらねぇよ!今は俺達が……!」

ロリ『違う、わたしのわがまま』

ロリ『私の挑戦に皆を付き合わせているだけだよ』

部長「どうしてそこまでして自由天文部に拘るんだよ!?」

ロリ『残したいんだ……先輩が好きな自由天文部を』

部長「……ばかじゃねーの」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/04(土) 18:13:43.90 ID:PJlc+VBvo
辛い
256 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/05(日) 00:11:52.22 ID:mBsBk4u3O
部長「俺はお前に……ロリ先輩に死んで欲しくない」

部長は涙ながらに訴えた。
この人がここまでも感情を露わにするのは初めて見る。

作曲先輩と作詞先輩はやるせない表情に涙を浮かべながら副部長のスマートフォンを見つめていた。

『あはは、大丈夫だよ』

『次に出るイベントは何?』

作詞「ロック・スター」

『大丈夫。ロック・スターで入賞したらすぐに手術を受けるから』

会長「どうして今まで明かさなかった自分の寿命を伝える気に?」

『ケジメかな?隠し事をしてはいけないって反面教師が居たからね』

『それと決意表明』

『私が足を引っ張らないって』

『この部活でも噂する子が居る、部長のバンドか真剣に活動していないって』

幼馴染「……」

『本当はあの活動の量でも正解』

『私が休みがちだったから』
257 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/11(土) 07:51:41.28 ID:cq6gh92HO
男「それに関しては聞いていましたけど結果が全てですから」

不良「お前……ちょっと引くわ」

男「お前も俺側の人間だろ」

現状に対して部長達がどのような行動を起こしたのか俺には分からない。
ロリ先輩が部長達を庇うというのならば、それなりに取り組んでいたのだろう。

『ごめんね、私が足を引っ張ってた』

『その癖会長達に付きっきりだったから』

『上手くいかないよね……』

男「……」

ただ練習に励むのが正解なのかも分からないのも事実、個々のスキルだって周りと比べても遜色が無い。

『会長の歌を初めて聞いた時の事は今でも思い出すよ……正直に言うと衝撃的だった』

不良「あぁ……覚えてる」

『それでも会長の入部時期が遅かった。もっと早かったら色々と教えられたのに』

作詞「……」

『嫌味や飾りが無い歌……それって本当に凄い事なんだ。もう少しでもうちに入部してくれるのが早かったら……ライジングロックに参加してもらってたよ』

この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていけど俺の見当違いだったようだ。

現実主義者。

会長の入部がもう少し早ければ、部長よりもずっと上手に歌えるようになるのが早かった場合は平気で部長の代わりに会長を据えていただろう。

会長に付きっきりだったのも会長の成長度合を確かめる為だ。

結局部長を起用したのは損切りだろう、会長と部長のどちらを起用しても結果は変わらないと踏んだロリ先輩は思い出作りの為に上級生を起用した。

ロリ先輩の思い描いていた結果は……そういう事だろうな。
258 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/11(土) 07:59:39.79 ID:cq6gh92HO
>>257
この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていけど俺の見当違いだったようだ。

この人は上級生を気に掛けるタイプだと思っていたけど俺の見当違いだったようだ。

以上、訂正です。
259 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/23(木) 22:43:20.81 ID:c+zKH7EIO
『諦めようと何度も思ったけど……ズルズル言っちゃったよアハハ』

本当のロリ先輩、俺達が知らないロリ先輩と呼ぶべきなのだろうか。
話し方で分かる。
本当の彼女は陰険だ。

部長「おかしいだろ。留年を繰り返してまで、時間を無駄にしてまで……余命を削ってまでうちに固執するなんて」

『話が二転三転して申し訳ないけど、本当はね』

『先輩が建前、自由天文部そのものが私の一部になっちゃったんだ』

『私にとっては我が子同然だから諦められないんだよね』

『何度もやめようと思ったけど……』

『可愛い可愛い後輩達が卒業する度に頼まれてきたから……ね?』

部長「っ!」

男「俺は……尊敬します」

『ありがとう』

『男は私とそっくりだよ、うん』

『ロック・スターで入賞しようね』

『すぐに復帰するから、また頑張ろう』

部長「迷惑かけるなよ」

部長なりの虚勢、この人は今にでも泣いてしまいそうだった。

『大丈夫、私は皆を頼るから』

『会長なら先輩を越えられると信じてる』

会長「……」

プツ……ツ-ツ-

電話が切れると同時に部長はその場で崩れ落ちると同時に言葉にはならないうめき声をあげていた。

部長はロリ先輩の事が好きなのだろう、俺にだって分かる。

ロリ先輩は例の先輩が好きだって分かるが……未だに人物像が捉えられない。
話にはよく出るのだがこれでは何が何だか分からないままだ。

会長「今日は解散しよう、男。帰るぞ」

男「え?」
260 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/25(土) 01:39:28.47 ID:ONekfHsdO
男「えっ?ちょっと急じゃ……」

会長「活動にならないだろう」

会長「私が指揮を執るのも今日までにして欲しい」

会長「部長、分かるだろう?」

会長は膝を着いて部長に語りかける。

部長「……」

見かねた会長は部長の肩に手を置くと、付け加えるように優しく囁いた。

会長「ほぼ1年前……初めて自由天文部のライブへ行った時、部長と会った時の事は今でも思い出します」

会長「むせ返るような暑さの校舎隅で当時の3年生と一緒にグラウンドを盛り上げていた。夏休みでしかも無許可。ふふっ……先生に呼ばれた時は驚いたな」

会長「当時、思い描いていた夢と大きくかけ離れた現実を叩きつけられてもがき苦しんでいた私にとって、自由気ままに歌いたいように歌う貴方は本当に眩しかった」

会長「子供の時から習い事で楽器を嗜んでいたが、あの時はとある事情で音楽に関わる物全てが嫌いになっていた」

男「……」 

アイドル時代か。

会長「あの時の部長が居たからこそ、私は嫌いになってしまった音楽をもう少し頑張ろうと思ったんです」

会長は部長の前から踵を返して立ち上がると俺の手を引っ張って部室を後にしようとしたが、扉の前で立ち止まる。

男「ちょっと……!」

会長「明後日の放課後から夏休みだ、四限が終わったら各自でこの部室に集合すること」

と、一言を付け加えて部室を後にした。
261 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/08/26(日) 10:08:11.31 ID:J5/9IAGSO
男「ちょっと!会長!」

校門の前まで来てしまってはどうしたらいいのか分からないが、やっと手を振り払う事が出来た。

男「良いんですか?あのまま解散させて」

会長「3年生が憔悴しきっていたから無理だ。放っておこう」

男「でも……」

会長「男は強いが……周りも尊重した方がいいと思うよ。全員が全員が同じペースで走れる訳が無い」
 
男「ペースを合わせろって?」

会長「少し引っ張ってやるくらいでいい」

男「俺からしたら貴女の方が……」

会長「私だって皆と走りたいさ」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/26(日) 21:30:32.61 ID:1DIbf0i0o
強いな
おつ
263 : ◆MOhabd2xa8mX :2018/10/15(月) 12:24:22.67 ID:YzHlGJ9vO
テス
やっと復活した、、、
264 : ◆MOhabd2xa8mX :2018/10/16(火) 00:54:15.54 ID:3YvXXP+eo
会長「放っておくのが正解かは分からない」

会長「それでも下手に構うよりかはマシだと思うんだ」

男「良いんですか?あのまま来なくなっても」

会長「良いよ、そうなるとは思えない。そうなってしまうのならハナから無理な話」

会長「凄く立派な人だから大丈夫さ」

男「ふっつーの学生だと思いますけど?」

会長「そんな事はない。バイタリティは誰よりもある」

男「だからと言って、今回は様子がおかしいでしょ」

男「あのまま不貞腐れておしまい……」

会長「部活動とは言え私だってすぐやり直せたんだ、部長ならすぐ立ち直るさ」

男「やり直すのが今だとしたら、その前のアイドル時代ってそんな辛かったんですか?」

ふざけたメイクが印象的な会長のアイドル時代。
ちょっとした嗜虐心がそれを掘り起こそうとする。

会長「あれでも本気だったんだ」
265 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/10/21(日) 13:40:24.26 ID:2/sMNUDao
会長「でも、違った」

男「違う?」

会長「方向性の違う努力、自分に合わない目標はただただ自身の首を絞めるという事を私は知らなかった」

今の俺なのかな、それ。

陽射しよりも身に染みる。

会長「ダブルフェイスのようになりたかったんだ。正体不明でも実力で輝けるような圧倒的な存在」

男「顔を半分しか晒していないのにあの人気は信じられませんから。ただ、全てが優れてた」

加工とはいえ歌もダンスもトークも仕草もファンサービスも何もかもがトップだったと……思う。

綺羅星ソニアの座がいつ脅かされてもおかしくない存在だった。

会長「思い描いていたんだ曖昧な偶像を漠然と輝いている姿を」

会長「現実は違った。歌はとにかく、周りに知られたくない一心で厚塗りしたメイク、一向に上達しないダンス。失敗するに決まっていたんだ」

会長「逃げるように離れておいて言うのもなんだが、私の居場所では無かった」

男「居場所を作る努力しました?」

会長「してなかったな」

嫌味で言ったつもりだがこの人はとっくに切り替えている。

過去の事は振り返らない。

会長はいずれどうなって行くのだろうか、これからもずっと音楽に関わるつもりなのか。

俺は……
266 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/10/21(日) 14:16:03.88 ID:2/sMNUDao
会長「今の状態がどれだけ続くかもわからないから楽しみたいんだ」

男「ずっと続きそうですけどね」

たとえ上体が悪くなったとしても上達し続けてしてしまいそうな人だ。

会長「皆、私の事を過大評価しているよ」

会長「砂上の楼閣だよ」

男「……その原因って」

会長「色々あるよ、簡単に言ってしまっても良い事ではない」

会長「いつ追いていかれてもおかしくはない……かな?」

男「ずっと先に行ってる癖に……」

会長「それなら、追いついてくれるか?」

男「!」

会長「皆と一緒に私の所まで来てくれるのか?」

男「……」

はいと返事をすればいいだけなのに、それだけなのに。

自信が無かった。
俺自身が会長に追いつけるかどうかも、自由天文部の全員で会長に追いつけるかも。

返事が出来なかった理由である会長の言い草、それは俺自身が自由天文部を導けば良いかのような口振り。

男「はい……」

少しだけ覚悟を決めた。

いいたいことはたくさんあるけれど。

会長「そうか、男の事だからとんでもない事をしてくれると信じてるよ。私の予想を遥かに上回るような……」

そうなるのかも知れない。

男「今弾いているギターだって怪しいのに……会長ってたまにロリ先輩のような事を言いますよね」

男「勝手な期待とか特に」

会長「……少し付き合え」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 18:32:09.67 ID:lOXtBKYdo
おつおつ
268 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/03(土) 17:45:14.62 ID:bQ119exQO
訂正

>>266
たとえ上体が悪くなったとしても

状態が悪くても
269 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/03(土) 23:41:27.27 ID:sQjXwa9UO
数十分後、予想もつかない場所に連れて来られた。

男「どうしてここに?」

会長「た、たたたた、たっ、たまには息抜きも必要だと思ってな!」

男「遊園地でしょこれ」

会長「1度行ってみたかったんだ」

男「だれかと……あっ、友達居ないんだった」

会長「……居るからな」

男「え?」

会長「男と行ってみたかっただけだからな、私にも友人は居る」

会長「むしろ、男こそ友達が居るのか?」

男「居ます!居ますから!友とか不良とか!!」






友「男の跡を着いて行ったら……あの女……やっぱり男の事を……」コソコソ
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 00:30:54.50 ID:RN/Xx2Zso
おつおつ
修羅場か?
271 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/11(日) 10:18:20.53 ID:qlzx5d80O
会長「もしかしてそれだけしか?」

男「さてと……」

男「ジェットコースターとかどうですか?」

会長「……」ジト-ッ

男「うぐっ」

自分からけしかけておいてこれは非常に恥ずかしいのだが、無理にでも話を逸らすしかない。

友達……当時の俺が唯一、人間関係を築けそうな同業アイドルも男である事がバレてしまうのを嫌った結果、親しい間柄になれたのは結局ツンデレもとい幼馴染のみとなってしまった。

幼馴染に正体を隠し通すなんて今考えれば信じられないな。ゾッとする。

だからと言って友達が居ないと言うわけでは決して。

ギュッ

男「ふぇっ?」

会長「ジェットコースター、乗るぞ」

そ、そんな俺の手を握り引っ張ってまで乗りたいのか?

会長「はやく」

駄目だ。

普段の会長からは考えられないほどに目が輝いている……
272 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/11/27(火) 23:25:38.51 ID:3sqohgBMO
全てのアトラクションを楽しんでいる内に気が付いたら日が沈んでいた。

男「うーん……」

会長「まぁ、こんなレベルだとは思っていたよ」

分かりきっていたことだが、感想としては

男・会長「「普通」」

男「でしたね」

会長「否定しないよ」

男「会長は楽しかった?一緒に居ましたけど、どうでした?」

普通と楽しいは違う。

男「俺は、どうだろう……正直に言うと……会長はどうしてくれますか?」

女々しい奴だとは思う。
会長の事なんかこれっぽっちも興味が無いのに思わせ振りな態度をとってしまう。

更に言うと1人の男性とは思えない答えだな、女性優先に話を進めようとする。

ひとりで勝手に話を進める癖に答えを求める。
ただの自己中心的な人間だ

会長「男と一緒だとすると」

会長「うん、楽しかったよ」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 12:45:11.58 ID:ytvop2ibo
青春だな
おつ
274 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/16(日) 23:12:03.59 ID:ReHUvjz1o
男「俺もたのしかったですよ」

会長「それに、どうしてくれるかと言われても分からないよ」

会長「どうしたらいい?」 

男「さあ?」

会長「嫌な奴だな」

男「またこうして遊べるといいですね」

会長「皆とも行きたいな」

男「うわっ……サイテー」

会長「え?そうなのか?」

男「かなり」

会長「本心だが」

男「しっかりとしているのか、抜けているのか……」

この人にとっては俺をこの場に誘うだけで精一杯だったのか、一度アトラクションに乗った後はずっと無愛想ないつもの会長だった。

会長「明後日、来てくれるかな」

男「……」

平気そうに取り繕っていたのは演技か。

本当は会長も不安だった。

男「来ますよ、皆ロリ先輩の事が大好きだから」
275 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/16(日) 23:37:10.23 ID:ReHUvjz1o
男「とりあえずロリ先輩が居ても楽な空間づくりをしなければいけません」

会長「……」

会長「本音を言うとあの人にはこれ以上無茶をして欲しくない」

男「それは無理な相談ですよ、あの人は目標を達成するまでは死ぬまで無茶をする」

会長「どうして分かる」

男「俺と幼馴染とロリ先輩って少し似ていると言うか……」

だからこそ今まで静観を保って来た幼馴染が理解出来なかった。

ダブルフェイス解散はお前なりの禊なのか?だったのなら理解出来る。

男「少なくとも俺がロリ先輩なら同じ事をします」
276 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/17(月) 00:04:58.53 ID:jgrVU/g0o
会長「男のそういう所、理解出来ないな。うん」

男「うーん、そうですか?」

男「まぁ、理解されようとも思っていませんよって……」

男「!」

会長「男?」

友「ん……?男の様子がおかしい」コソコソ

男「マネージャー……!」

会長「マネージャー?」

マネージャー「あれ?ソニア?って……今は男だったね」

男「プロデューサーは?」

男「もしかしてまた1人でスカウトさせられてるの?」

マネージャー「あはは……バレたか」

マネージャー「男をスカウトしてからずっとこうだよ……でも中々いい子が居なくてさ……ってあれ隣の子は彼女?」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/18(火) 09:45:23.52 ID:IN06ocPgo
続きがすごく気になる展開
おつおつ
278 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/24(月) 18:15:29.90 ID:GLctfL+jO
男「ちがいます」

マネージャー「食い気味だね……」ハハッ

会長「はじめまして、男とは同じ部活です」

マネージャー「お名前は?」

会長「会長と言います」

マネージャー「アイドルに興味ある?可愛いからアイドルに向いてるよ?」

会長「御遠慮します」

マネージャー「そんな!声も綺麗なのに!」

マネージャーの見る目は間違っていない。
会長はアイドルにも向いている。

男「あれ?プロデューサーは?」

マネージャー「今日は会議に出てるよ!」

会長(今日の男はよく喋るな……)
279 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/29(土) 00:42:22.85 ID:eOJliWyMO

マネージャー「あっ……ソニアって言っちゃってたよね?私」ゾワツ

男「今更?」フフッ

男「安心して、この人は知ってるから」

マネージャー「嘘……?」

マネージャー「どどどどどどうして!?」

男「ソニアと俺を見たら分かったみたい、うん」

マネージャー「内緒にしてください!お願いします!事務所が潰れちゃう」

会長「土下座しないでください……顔をあげて……」

マネージャー「おおおお、お命だけは……」

会長「取りません」

会長は土下座するマネージャーの脇を持ち上げてなんとか立ち上がらせようとするが、マネージャーは宙吊りのマリオネットのようになっても抵抗する。

マネージャーが抵抗すればするほど人の目が増える。
この場に居るのが苦痛になってしまう。

男「マネージャー、大丈夫。」

男「この人はいいひとだから」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 14:53:03.49 ID:0TdvJqBNO
男がなんか穏やか
おつおつ
281 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/31(月) 21:43:26.30 ID:wmFkEBSMO
会長「……」ムッ

マネージャー「そっか……」

マネージャーはようやく立ち上がった。

マネージャー「男がそんな表情をする人、私以外で初めて見たな」

男「そう?」

マネージャー「うん!昔はすっごくムスッとしてて扱いに困ったなぁ」

マネージャー「あっ!」

マネージャーは何かを閃いたかのように人差し指を立てる。

マネージャー「思い出した!デパートの子だよね?」

男「――!」

驚きを隠せなかった。
ほぼ別人と言ってもいいアイドル姿から会長を見抜くとは。

デパートの時にマネージャーは居なかったので、きっと映像越しに見たのだろう。
そもそも映像越しで分かるか物なのか?

会長「あはっ、ははは、分かるのか?」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/31(月) 22:06:11.83 ID:WwrfsYGmo
天性の才能か
おつ
283 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2018/12/31(月) 22:52:05.30 ID:wmFkEBSMO
会長「どどど、どうっ、どうして?」

会長の驚き方もまた尋常ではない。
俺の正体が会長に気付かれてしまった時だってそこまで動揺していない。

会長「私の黒歴史が……」

黒歴史だったのか。

マネージャー「そんな事ないよ?」

マネージャー「必死に頑張ってたでしょ?」

会長「うっ……」

男「努力の方向が違ってただけ」

男「今では会長も凄いボーカルなんですよ」

マネージャー「え?男は歌わないの?」

マネージャー「ギターなんて背負っちゃって……」
284 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/02/24(日) 22:58:19.39 ID:80Mig672o
男「えっと、それは……まずはギターを覚えようとしているから歌は一旦置いといているだけで」

マネージャー「噓、歌わないと勿体無いよ」

マネージャーは幾つになっても無垢な瞳で俺の事を見ている。
奥の奥まで見透かされている気がして、俺はいつもその予想を覆そうと――

男「歌う」

会長「え?」

男「あっ」

マネージャー「やった!」

言ってしまった。マネージャーに言ってしまったからにはもう後戻りは出来ない。
俺の、僕の、私の中ではそう決まっている。
それが綺羅星ソニアとしての矜持、会長とは決して違うのはそこだ。

マネージャー「今度は二人の歌をきかせてね?出来たら男の歌が良いな……いつかきっと」

男「ライブがあったら呼ぶよ」

マネージャー「あっ!これからオーディションの時間だ」

男「あっ、俺が辞めてから良い人は見つかった?」

マネージャー「会長ちゃんかな?」

男「!」

俺の決意はここで固まったと思う。

マネージャー「じゃーね!」

会長「ま、また今度!」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/26(火) 09:51:26.66 ID:fpwdeJfeO
こういうの好き
286 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/03/22(金) 23:05:48.64 ID:Kq4RO6WhO
嵐のように去っていったマネージャーはしっかりと爪痕を残した。

会長「歌うのか?」

お前が聞くなよ。

妬ける。

男「はい、これから夏休みだし良い機会だ」

会長「そうか、やっと……歌う気になったのか」

会長「もう男が歌うつもりが無いとばかり」

そうか、この人はロリ先輩とは違う。
俺は何かを勘違いしていた。

ロリ先輩なら俺が女装しなければ歌えないという事実も理解してくれていた筈だ……

男「勿体ないでしょ?」

女装しないと歌えないからって、どう説明したら良いのか……ソニアの時とは化粧を変えて男と分かるようにしたらソニアとバレることもないだろう。

会長「その通り、綺羅星ソニアが居るのなら」

男「ロック・スターなんて簡単、ですよ」

男「最初からそうしていれば自由天文部の問題なんてすぐに解決する」

会長「百人力と言うつもりだったのだが」

もう、ライバルなんだ。
言ってしまえ。

男「あんたより俺の方が歌えるんだよ」
287 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/03/22(金) 23:20:50.28 ID:YMM2cXR+O
夏休みだから偽れる。

それはすなわち。

歌えるという事。

俺は最初から認めていなかった。

会長のほうがぼくよりもうたえるんだっていうことを!!

会長「バンドはどうするつもりだ?」

男「問題なく続けますよ」

男「それに……ロック・スターに限った話ではないけれど、女装した俺は特定の人物を除いて簡単には見抜けない。バレてしまったとしてもロック・スターはライジングロックとは違い、学校毎の参加ではなくバンド毎の参加だからメンバーの重複は意にかえしませんよ」

会長「なら私が歌う必要は」

腹が立つ、こうやって一歩引いてしまう所が特に。

男「あるんだよ、あんたに勝ちたいから俺が歌うんだ」

そして夏休みが始まった。
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 17:53:48.00 ID:PvEUNWW4o
熱い夏が始まりそう!
おつおつ
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/28(日) 01:32:23.87 ID:J7fwRFkoo
まってる
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/13(月) 03:31:12.28 ID:t51E+8UVo
まだか
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/10(月) 01:14:12.55 ID:reWPaXZbo
まってるぞ
292 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/27(木) 20:01:34.17 ID:NjgE3cN8O
部長「うぃーすっ」ガチャ

誰も居ない部室、俺の言葉だけが響く。
夏休みからではあるけど誰よりも早く来て準備する。
会長が歌に専念できるように、これが俺が出来るせめてもの努力。

部長「なんだよ、誰も居ねーのな」

会長に全てがかかっている。

部の存続のためなら、三年の夏を全て捧げるつもりだ。
今まで散々足を引っ張ってきてしまったのだから、この程度の事は――

男「とか思ってんだろうな」

部長「はぁ!?」

男「部長、誰かのお膳立てで最後の夏を終わらせるつもりですか?」

部長「お前誰?女子なのに制服が男子だけど」

男「誰って、そうか。分からないですよね」

男「男です」

部長「は?」

男「声で分かりますよね?鈍い人はいつも誰かの後塵を拝する」

男「俺、会長のバンドを抜けますから」

部長「……」

ウィッグの毛先が肌に刺さった気がした。
293 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/27(木) 20:28:13.11 ID:NjgE3cN8O
部長「自由天文部をやめるの?」

男「軽音部にするつもりで頑張りますよ」

部長「ほんと合わねぇな、自由天文部はずっと自由天文部だ」

男「それでもいいですよ」

俺にとっては関係の無い事でも部長にとっては大きな意味があるのか、明らかな苛立ちは舌打ちという形で現れた。

部長「お前さぁ、今のバンドから抜けてどうするつもり?カツラを被ってまでして何がしたいんだよ」

次は溜め息。
怒りを抑えて後輩の暴走をなだめてやろうとしているのだろう。
俺は至って冷静だ。

男「本当はね、歌いたいんですよ。やったことの無いギターをやりたかったのも本当です」

男「ギターを弾くよりも歌いたいんです」

部長「ロリから歌えないって聞いたけど?」

男「歌えますよ」

部長「はぁ?意味わかんねぇ」

性別を偽っていると歌えるなんて誰が信じる?
良いさ、歌って黙らせよう。

男「何聞きます?洋楽?邦楽?ジャンルは?」

部長「……貶されても文句言うなよ」

きっとこの男は自分の方が歌えると思っているけど無理もない話だ。

部長「邦楽バンド、流行りの奴なら良いよ」

男「女性ボーカルだったらあそこだな……歌います」

アカペラで十分だ。

部長「女性の歌?」

男「〜♪」
















294 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/27(木) 21:34:16.83 ID:rJGBXHUwo
部長「……」

男「〜♪」

綺羅星ソニアとは違う女性の歌。
男性として、男としては歌えない。
けれど、外見を偽ってなら誰よりも、会長よりも歌える。

歌ってみせる。

男「〜〜♪」

この曲は簡単だ、歌い込まなくても声だけで誤魔化せる。

ソニアなら、綺羅星ソニアの曲なら全てを完璧に歌えるだろうけどそれでは俺自身がつまらない。

それに、多少のアレンジを加える事だって出来る。
ちょっとした抑揚で部長の反応が伺える。

部長「会長以上……」

何か聞こえた気がする。
その瞬間に最高潮を迎えた。


男「歌えるでしょ?」




295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/28(金) 01:05:24.32 ID:NHyioHrBo
男が輝く時が来たか
296 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/28(金) 23:11:26.83 ID:t2Wn3/bzO
部長「悔しいけど本物だよ」

部長「俺なんかよりずっと……な」

男「このまま俺を置いておくのは勿体無いと思いませんか?」

男「ギターはまだ弾きたいけど、俺の実力では足を引っ張ってしまう」

部長「……」

何も言わないが暗に肯定している。

男「作詞先輩の方がずっと向いている」

部長「う〜ん……あいつが承諾――」


作詞「するに決まっているだろう?」

部長「めんどくせ」

作詞「今言った事は水に流してあげよう。何故なら今の私の機嫌がとても良いからだ、男君の歌は女性の中でもトップクラスの魅力持っている。現時点では会長よりもずっと上、これからは男君が自由天文部を引っ張り会長がその後を追うだろう。しかし、私は男君にギターを教えたように完成品には興味が無いのであって可能性を秘めている方が共に歩んでいくには」

部長「つまり?」

作詞「弾は二発あった方が良い。どうせロリはまともに動けないんだ。ある程度の配置換えは必要さ」

作詞「文化祭の時とは状況がは違うからね」

部長「急だろ、色々とさ」

男「一昨日、部長はもう部活に出ないと思ってた」

男「でも違った。1番に来た」

男「良いですか?俺が一緒にバンドはやりたいと思ったメンバーを言っても」
297 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/06/28(金) 23:28:27.15 ID:t2Wn3/bzO
いつの間にか部室に居た作詞先輩は俺の代わりになってもらう。
はっきり言って会長のバンドは更に輝きを増すだろう。

男「どちらかと言うと燻っている人の方がやりやすい」

副部長「何何!?すっごく素敵な歌声が聞こえたよ!?って〜!!何このお人形さん!?誰!?何年生!?何組!!!!???」ガチャ

男「ギターは副部長」

副会長「ちょっと副部長……落ち着いて?ね?」

男「ドラムは副会長」

ガチャ

幼馴染「誰?あんた」

男「ベースは幼馴染」

作曲「男……君?」

男「キーボードは作曲先輩が良いな、出来ると思う」

作曲「楽器は出来ない」
男「嘘だね、出来ますよ。幽霊部員程ではないけど」

作曲「っ……」

男「“メイン”ボーカルは――」

男「部長、お願いします」

部長「はぁ!?」





298 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/07/07(日) 08:48:49.79 ID:meyuQHT/O
男「俺と歌ってもらいます」

部長「言っても俺なんかお前や会長と比べても」

男「てんで魅力が無いけど。貴方が必要なんだ」

男「可能性がある」

足手まといが居た方が良い。
会長よりも俺の方が優れている明確な証拠になる。

幼馴染「こんな可愛い子居たかしら?聞いてないわよ?」

男「俺だよ、幼馴染」

幼馴染「あんた本当に男なの……?」

男「声で分かるだろ?小さな時に暫く会わなかった内に女声の方が得意になったんだ」

男「それよりもベースやってくれよ、得意だろ?」

幼馴染「私はロリの代わりに会長のバンドで弾くつもりで、ましてや掛け持ちなんて」

男「ロリ先輩は必ず来るよ、本番だけでも」

部長「すぐに復帰するって言ってたな」

幼馴染「そうね……そうだったわ」

幼馴染「良いわよ、あんたのワガママに付き合ってあげる」

幼馴染「死ぬ程嫌だけど!!!なんかムカツク!」





299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/07(日) 10:25:36.96 ID:4b0YJ2zno
青春って感じだ
おつおつ
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/14(日) 00:00:41.64 ID:S1y6LRWto
幼馴染みに殺されそう
301 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/07/25(木) 23:50:59.79 ID:TR86hXKSO
男「死ぬ程嫌がられる意味が分からないけど助かるよ」

幼馴染の鼻の下が少しだけ伸びている。
紫がかった黒髪ロングのウィッグが幼馴染のタイプだったのか。
俺の顔がタイプなのか。

幼馴染「本っ当に可愛いわね……メイクも少しだけ」

近くでまじまじと見つめられても困るな、俺が綺羅星ソニアと分かる筈は無いが正直緊張する。

幼馴染は女の子の方が好きだと思う。
ただ、幼馴染が一番好きであろう綺羅星ソニアは俺なんだけどね。
笑えないよね。

男「あ、そうだ。」

男「部長と作曲先輩は協力する気が無かったら別に参加しなくても大丈夫ですよ」

部長は今日一番早くに来た、この人が一番燻っているのは間違いない。
問題はそれをどこに向けるかだ。

作曲先輩の本職がキーボードだって事は何となく分かる。
曲調と曲が流れている時の手の動きは鍵盤を叩く動きだった。
癖だろうけど。

部長「俺はやるよ」

男「ならお願いします」

部長「あ゛」

明らかに怒ったな、この男は暴力に訴える事をしない分扱い易い。

副部長「あっさり……男君ってこんなキャラだっけ?」

副会長「今までは猫を被っていただけかと」

そう、猫を被っていただけ。
今までの俺はソニアと同じように猫を被っていた。

だからこそ酷い言葉を使って二人を試す事になんの躊躇いもない。

男「作曲先輩?」

副会長「男君、もう少し後輩らしく………」

教室の隅で俺の出方を伺うだけの作曲先輩、違うだろ。
貴女はもっとエゴのある人間だ。

男「そうですか、だったらこのバンドのキーボードも作曲も全部幽霊部員先輩にやってもらおうかな」

作曲「!!」

作曲「っ……やる……やらせて……」







302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/07/27(土) 05:52:45.30 ID:zg7REJjeo
芸能生活で得た経験が違うな!
おつ
303 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/07/27(土) 22:55:02.84 ID:Js1diIMdO
笑いがこみ上げてくる。
そう、このバンドは誰かよりも劣っている人間がいい。
会長には完成品を押し付けてやる。

ギターは副部長より作詞先輩のがずっと上手、副部長は本当に普通の音しか出ない。

ドラムの副会長と不良なんて比べるまでも無い、不良のがいい音をだす。
副会長には遊び心って奴が無い。

作曲先輩は幽霊部員先輩に勝てなくなった結果、音を作る事を選んだのだと思う。
作曲先輩が気を病むのは仕方がないと思う、幽霊部員先輩だけは正直言ってプロの域に達している。
音楽で一生食べていける人間。

部長と会長なんて比べるまでも無い、会長はステージが違う。
そう、綺羅星ソニアの域へ向かってる。

幼馴染?
世間の評価で言えば俺に勝てなかったアイドル。
絶頂期の人間が負けたままアイドルを辞めるって事は、本当に負けたままって事になる。
そう言う意味でも幼馴染がロリ先輩を超える人材とは思えない。

男「はっきり言います」

男「仲良しこよしでは会長、会長のバンドどころか一発勝負のロック・スター入賞なんか夢のまた夢」

男「会長のバントを超えるつもりでこのバンドは動きます」

そう、会長だけではない。
プロになる資格がある人間、大人になってもひたすら努力を重ねている人間、同年代の天才もライバルになる。

期待に胸が踊る、このメンバーがどのよう成長するのかが俺にはまだ分からないのだから。








304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 13:44:17.28 ID:MU2YMvQ/o
吹っ切れた男は強いな
おつ
305 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/08/30(金) 22:50:24.19 ID:rwH+KsCwO
1時間後、遅れて来た会長は明らかに動揺をしていた。

どうやらこの先も俺とバンドを組めると思っていたらしい。
そんなもの通る訳が無い、俺自身が敵意を剥き出しにしたのを貴女は見ていただろう?

ずっと俺の事を睨んでいるが、ギターは俺よりも作詞先輩の方がずっと上手。
どうして怒っているのか。

歌詞の事は全く分からないが、作詞先輩のギターは飛び抜けている。

この人から教わったからこそ分かる。
2年生でまだ先がある会長とは違い、3年生であるこの人は燃え尽きる場所を探している。
生真面目すぎる会長にはこういう人の方が合う。

こんな機会をずっとまっていたんだろう?作詞先輩。

会長「私は認めたくない」

男「部の為です。勝負する弾は多い方が良い」

不良「男、私は反対しないけどさ」

不良「お前、ギターやめるの?」

男「……やめないよ」

不良「そっか、なら頑張れよ」

この部の中でも不良だけは俺の事を分かってくれている気がする。

幽霊部員「会長!これからよろしくっす!」

作詞「どうせ短い付き合いさ、よろしくね」

会長「……どうして?」

男「俺が歌う方が部の為だと思ったから、俺のギターでは幽霊部員先輩が納得しないから。なによりもこの部の為に」

何も嘘は言っていない。
その通りなのだから、会長のバンドで足を引っ張っていたのは明らかに俺。

会長「男なら幽霊部員だって……」

幽霊部員先輩は自分自身が気に入った人間としか演奏しないのは目に見えていた。
会長に対しては幾度も賞賛の言葉を浴びせていたのにも関わらずバンドに入ろうともしなかった。

男「幽霊部員先輩」

幽霊部員「男君の言う通りっすよ」

会長「……!!」

男「ほらね」
306 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/09/07(土) 22:55:07.55 ID:W6n3gUc/o
幽霊部員「会長の事は気に入っていたんすけど、どうしてもバンドに入る気がしなかった」

幽霊部員「それこそ成り行きや、強制でないと」

幽霊部員「それでも良かった。でも嫌だなって……歌はすっごく魅力だけど、今の男君のギターテクは正直に言うと会長のバンドの基準に達していないっすよ」

“今の男君”ね……まるでいつかは基準達する事ができるかのような言い方だな。
本人は言葉を選んでいるつもりなのだろうが癪に触る言い方だ、それでいて本当の事を臆する事も無く話す。
幼馴染や作詞先輩とはそれでも問題が無かったのだろうが、その前は?まともな感性を持った人なら一緒にバンドを組む事は疎か、仲良く話す事も難しいと思う。

副会長「幽霊部員!貴女はいつも空気を……どうして!?」

幽霊部員「あっ……ご、ごめんなさい」

不良「謝んなよ、逆にカンジ悪ぃ。そもそも男のギターは悪くないっての」

幼馴染「男、幽霊部員と副会長を入れ替えても良いかしら?」

男「ダメだね、俺達のバンドには副会長と幼馴染が居る分揉め事が少なくて済むだろうけど仲良しこよしでは無いってさっきも言っただろう。ねぇ?部長」

部長「あぁ、そうだな」

部長は本当に器が深い、ありとあらゆる人間を自由天文部に受け入れている。幽霊部員先輩を筆頭に“実力のある問題児”を制した事も無いのだろう、だからこそ今ここで先輩として敢えて厳しく接するように仕向けた。
この男だって幽霊部員先輩自身の問題に気付いている筈。
かっこいいね、面子が砕かれても後輩の事を思うなんて。

作詞「幼馴染、大丈夫さ。私が居るよ」ニコッ

幼馴染「……そうね」

幼馴染と作詞先輩と幽霊部員には同じバンドだからとか、友達だからとか、そういったものとは違う奇妙な絆がある。



307 : ◆MOhabd2xa8mX [saga]:2019/09/11(水) 20:14:29.79 ID:uJ5CxtMsO
男「それに、あれだけ言われたんだ」

男「絶対に嫌だね、気に食わない」ボソッ

幼馴染「……困ったちゃんばっか」

部長「早く練習するぞ、これ以上はやめよう」

男「完全復活って奴?ちょっと前までは死にそうな顔してたのに」

部長「お前のおかげさんでな」

男「ふーん」

部長「急に馴れ馴れしいな」

会長「待て」

会長「歌を聞かせてくれ、その上で考える」

この人もしつこいな、周りだって納得している。形はともあれ全員が貢献出来る様になった今ではわがままを言っているのは明らかに会長のみだ。

男「練習の時に聞けますよ、行きましょう」

会長「……」

作詞「男君ばかりに執着されると傷つくね、私だって居るんだよ?決まった事はもう覆せないのだから今居るメンバーを大事にして欲しいね、うん」

不良「ロリ無しでもやるしかないな」

会長「仕方ないな、違和感はあるけど始めよう。男の言っていることは正しい」

作詞「うん?慣れているから怒らないけど本当はショックなんだよ?聞いてるかな?何回無視するんだい?」








308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/12(木) 22:17:00.83 ID:KL48j8HRO
続きがたのしみだ
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