見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)

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451 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:11:38.48 ID:EoPZtMcQ0
それでは今回の投下、入ります。

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>>450

ーーーーーーーー

「よう」

ビストロ「レパ・マチュカ」店内で、
巴マミを伴った佐倉杏子がテーブル席の少女に声を掛けた。

「?」
「しばらくだったな」
「あの………どちら様ですか?」
「何?」

きょとんとして問い返す相手に、杏子が聞き返す。

「私の事、知ってるの?」
「何言ってんだ、お前?」
「お客さん」

厨房からマスターの声が聞こえる。

「ごめんなさい。少し、同席してお話いいかしら?」

マミの言葉に、着席している少女はこくんと頷いた。
452 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:14:39.12 ID:EoPZtMcQ0

ーーーーーーーー

「レモンティーを」
「チョコレートパフェ、もらおうかな?」
「あの………」
「ん?」

「ここ、バケツパフェが美味しいんだけど、
良かったら一緒に」
「へえー、変わったメニューだな。そうさせてもらうかな」

「この量なら、二つを三人で分けない?」
「それでちょうどいいと思う」
「それならそれでいいや」
「じゃあ、レモンティー一つとバケツパフェ二つ、
取り皿とスプーンをもう一つお願いします」

取り敢えず、マミがオーダーを出す。

「最初に聞くけど、あなた、私達の事を覚えてる?」

マミの問いに、少女は首を横に振った。

「そう。私は巴マミ」
「………佐倉杏子だ」

マミの肘が軽く当たり、杏子が名前を伝える。

「巴さんに佐倉さん………」
「名前でいいよ、ちょっとややこしい事もあるから」
「私はかずみ」
「かずみ?」

名乗った少女に、杏子が訝し気に聞き返す。
453 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:17:58.00 ID:EoPZtMcQ0

「それが、あなたのお名前?」

マミの問いに、かずみが頷いた。

「ちょっと待て、かずみ、って言われても、
大体お前………」
「お待たせしました」

マミが杏子を手で制し、注文の料理が運ばれて来る。

ーーーーーーーー

「うん、旨い」

杏子の反応に、かずみがとろける様な笑みを見せる。
それを見て、杏子も不敵な笑みを返した。

「話を戻すが、あんた、あたしを担いでるんじゃないだろうな?」
「違う」

杏子の問いに、かずみは真面目に答えた。

「多分、佐倉さんも気が付いてると思うけど………」
「ああ。けど、今の顔見ても、あんたはあたしが知ってる奴だ」
「私の事、知ってるの?」
「ああ、知ってる」
「私もあなたの事は覚えがあるわ」
「分からない」

杏子とマミの答えに、かずみは改めて答えた。

「双子の姉妹とか、いないのか?」
「いない、と思う」
「あなた、記憶が?」

マミの問いに、かずみが頷き杏子が天を仰いだ。
454 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:21:11.09 ID:EoPZtMcQ0

「和紗ミチル、鹿目まどか、この名前に心当たりは?」

マミの問いに、かずみは小さく首を横に振った。

「それじゃあ、御崎海香」
「知ってるの?」
「ちょっとな、あんたの仲間か?」

杏子の問いに、かずみは頷いた。

「ソウルジェム、って知ってるかしら?」

マミの問いに、かずみはそれを取り出した。

「変わってるわね」

マミが、自分のソウルジェムを差し出して言った。

「普通、底は台座になってるけど、
あなたのはトゲなのね。まるでゴルフのティー」

「ああ、確かに見た事ないな」
「あなた達も魔法少女なのね」
「ええ」

かずみの問いに、マミが答えた。

「あたしの知る限り、あんたの名前は和紗ミチル。
あたしと他の魔法少女が揉めてる時に、
あんたが仲裁に入った事があった」

「他の、魔法少女」
「覚えてない?」

マミの問いに、かずみは首を横に振った。

「私は、魔女に襲われていたあなたを助けた事がある。
まだあなたは契約していなかったと思う」

マミの言葉に、かずみは首を横に振る。
455 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/05(月) 03:24:29.36 ID:EoPZtMcQ0

「御崎海香達の事、聞かせてもらえるか?」
「私の、友達、仲間」
「魔法少女?」

マミの問いにかずみが頷いた。

「私達のグループ、プレイアデス聖団」
「プレイアデス?」
「確か、ギリシャ神話ね」
「うん、ギリシャ神話から名前を取った、って聞いた事がある」

「じゃあ、麻帆良学園都市の事、なんか知ってるか?」
「知らない」
「あんたのお仲間が麻帆良学園都市に行ったってのは?」
「知らない」
「それ、マジで言ってんだろうな?」

ずいっと視線を向ける杏子に、かずみが小さく頷く。

「だけど………」
「ん?」
「珍しく他のみんなが、
全員用事があるって言ってほとんど一日会えなかった」
「それって………」

マミがかずみから日付を確かめ、「当たり」である事を確認した。
そして、マミがスマホを取り出す。

「少し、付き合ってくれるかしら?」

==============================

今回はここまでです>>451-1000
続きは折を見て。
456 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:13:30.94 ID:+2ytnorA0
それでは今回の投下、入ります。

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>>455

ーーーーーーーー

「あなた、確か店に?」

マミと杏子に連れられ、トタン囲いの中のビル工事現場に入ったかずみが
目の前に現れた少女に言った。

「はい、私達もあの店にいました」

明石裕奈を伴った佐倉愛衣が返答する。

「改めまして、佐倉愛衣です」
「どうも、私は明石裕奈。
こんな所に来てくれて有難う」
「正直、助かりました。
すんなりついて来てくれて」

裕奈の言葉に、愛衣も続く。

「食べ物に配慮が出来るマミさんと美味しそうに綺麗に食べる杏子、
悪い人だと思えなかったから」

かずみの回答に、マミが苦笑し杏子が肩をすくめた。

「あの………あなた達も魔法少女?」
「いいえ、私達は魔法使いです」

かずみの問いに、愛衣が答えた。
457 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:16:31.75 ID:+2ytnorA0

「魔法使い?」

「ええ、魔法少女とは別に、
元々の才能と特別な訓練によって魔法を使うのが私達魔法使いです。
事情があって巴マミさん、佐倉杏子さんと協力して行動しています。
なお、私の知る限り、私と佐倉杏子さんは親戚的な意味では赤の他人です。
本来であれば魔法使いと魔法少女は不干渉が原則ですけど、
そうも言っていられない事情がありまして。
取り敢えず、一つ確かめたい事があります」

「確かめたい事?」
「ええ、あなたの記憶の事です。
あなたは過去の記憶を失っている、そうですね?」
「うん」

「それは、どの様に?」
「…………より前の事は全然分からない」
「最近ね」

かずみの説明に、マミが言った。

「日常生活は大体大丈夫なんだけど、
私が誰で、過去に何があったのかは全然覚えていない」
「いわゆるエピソード記憶、ですか」

かずみの回答に愛衣が言う。
458 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:19:52.75 ID:+2ytnorA0

「確認のためにいくつか質問をします、
Yes or Noで答えて下さい。
あなたの名前はかずみですね?」

「Yes」

「あなたは12歳よりも年下ですね?」

「No」

「あなた、本当は記憶喪失なんかじゃないですね?」

「Yes 私は本当に記憶喪失だよ。
本当に、昔の事は何も分からない」

「そうですか、失礼しました。
………問題はその記憶喪失の理由です。
何か魔術的な理由があるのかも知れない。
その事を確かめたいのですが」

「うーん」

愛衣の言葉に、かずみが腕組みして唸る。

「それなら、海香が気が付きそうだけど………」
「あなたのお仲間ですね?」
「うん、海香とかニコとか魔法分析が専門だから、
私の記憶喪失の原因が魔法なら分かるんじゃないかって」
「成程………一応、確認だけさせてもらってもいいですか?」
「………いいよ」

かずみは、愛衣を真っ直ぐ見て答えた。

「感謝します。
メイプル・ネイプル・アラモード………」

ぺこりと頭を下げた愛衣が、
呪文を唱えながら右の掌をゆっくりかずみに向ける。
そして、掌をかずみの額に当てた。
459 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/06(火) 17:23:04.80 ID:+2ytnorA0

「………!?」
「メイ、ちゃん?」

その場にすとんと腰を抜かした愛衣に、裕奈が目を見開く。

「…ケ…ノ………」
「ちょっとメイちゃん」
「………な………なんなんですか、あなたは………」

裕奈の口調も変わる中、
その場にへたり込んだ愛衣は口の中でぶつぶつと呟いていた。

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今回はここまでです>>456-1000
続きは折を見て。
460 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:50:28.53 ID:q9fpzJGT0
それでは今回の投下、入ります。

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>>459

「メイ?」

心配そうに言うかずみを前に、愛衣はごくりと喉を動かし、立ち上がった。

「メイちゃん」

懸念をにじませて声を掛けた裕奈に、呼吸を整えた愛衣は小さく頷く。

「かずみさん」
「はい」
「これから少し、付き合っていただけますか?」
「えっ?」
「麻帆良学園までご同行願います」
「メイちゃん?」

大真面目な眼差し、硬い口調で言う愛衣に、
裕奈も真面目に問いかける。

「おいおいどうなって………」

杏子が言いかけ、鋭く視線を走らせた。
その視界に入ったマミも同様だった。

「アデアット!!」

愛衣がざざっと後退し、裕奈が斜め上に向けて魔法拳銃を連射した。
こちらに飛来中に銃撃を受け、
複数のミサイルが白煙に包まれて空中爆発した。

「!?」

次の瞬間、強烈な衝撃を受けて愛衣の体が吹っ飛ぶ。
461 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:54:31.52 ID:q9fpzJGT0

「野郎っ!!」

愛衣と敵との間に杏子が割って入り、
杏子が振るった横殴りの槍が跳び越された。

「!?」

地面に投げ出された愛衣がとっさに地面を転がり、
愛衣がいた地面に一撃が叩き付けられる。
愛衣の目が、乗馬服風の衣装で鞭を振るう眼鏡の魔法少女をとらえる。

(さっきの体当たり、魔法防壁が無ければ感電で卒倒してた。
武器は帯電、それに魔法で強化した鞭)

「このっ!」

杏子の剛槍が、でっかいぬいぐるみを思わせる熊を切り裂いていた。
その間にも、熊の群れが工事現場に殺到し、
大量のマスケットを空中に呼んだマミと
魔法拳銃の裕奈が弾幕でその進行を阻止する。

「デフレクシオッ!!」

愛衣の側でしなる鞭が、風の楯に弾き飛ばされる。

(無詠唱光の矢!)

愛衣が背後の空間から発した光の矢を鞭使い浅海サキが交わし、
サキは帯電と共に愛衣に急接近する。

「貴様はボクを怒らせた」
「伸縮自在、ですか」

サキの鞭が猛獣調教から乗馬用に変化し、
サキが呟きと共に放った一撃を愛衣は箒で受け止める。
462 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 17:58:23.14 ID:q9fpzJGT0

「サキッ」
「かずみ、逃げろっ!」
「え、えっ?」
「いいから、ここから離れて、戻ってるんだっ!」
「浅海サキさん」

愛衣の声に、サキは愛衣の目を見た。

「彼女、かずみさんは、自分の事を知りたがっています」
「黙れ………行くんだ、かずみ」

得物が弾け、双方距離をとる。

「気が付きませんか?」
「何?」
「あなたの言動こそが、私を核心に近づけている」
「黙れえっ!!!」

サキの放った猛獣鞭が、愛衣の風楯に弾き飛ばされる。

「お返しです」

愛衣から近距離で無詠唱の一撃を食らい、
サキが体を折った。

(まだ、魔法少女相手にはサギタ・マギカ一発二発は威力が………)

畳みかけようとした愛衣が、ゾクリとした悪寒と共に振り返り、箒を振るった。

「黙れよ、お前」

たっぷりの髪をふわっと膨らませ、ピンク色のふわふわメルヘン系な衣装。
それにしては武器が凶悪にゴツ過ぎる。

愛衣の使うオソウジダイスキは魔法具の箒だが、
ふわふわピンクが振り下ろす
魔力を帯びたクレイモアの振り下ろしを捧げ持った箒で受け太刀するのは、
かなり手の痺れる事だった。

若葉みらいがそのクレイモアを振り上げ、愛衣が後ろに跳んだ。
463 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/07(水) 18:01:53.95 ID:q9fpzJGT0

「サキを惑わせやがって、潰してやるよ………!?」
「怨み事の前に手ぇ動かすんだなっ」

みらいの腰に背後から鞭が巻き付き、がくんと後ろに引っ張られる。
鞭は杏子の槍が化けたものだった。

「くそっ!」

振り返ったみらいが幅跳びで杏子に斬りかかり、
杏子は鞭を解いてそれを交わした。

「かずみ、今は逃げろっ!!」
「!?」

サキが呼んだ落雷が愛衣を足止めし、
サキの叫びにかずみが踵を返した。

「明石さん追ってっ!」
「オーライッ!!」

愛衣の叫びに、ようやく熊が片付いた裕奈が応じる。
裕奈の側では、手刀をマミに向けた神那ニコと
マスケットをニコに向けた巴マミが互いの手の内を晒した形で睨み合っていた。

「!?」

工事現場の中に、再びミサイルと熊のぬいぐるみが殺到する。

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今回はここまでです>>460-1000
続きは折を見て。
464 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:36:53.46 ID:Vo/udzBi0
それでは今回の投下、入ります。

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>>463

ーーーーーーーー

「待って、かずみちゃん、っ!?」

工事現場の資材や骨組みから塀を飛び越え、
屋根から屋根へと跳躍するかずみを裕奈が追跡する。
追跡しながら、裕奈は空き地に飛び込んでいた。

(資材やクレーン車とか、さっきの工事のかな?)

着地と共に一瞬周囲を見回した裕奈が、ダッと横っ飛びする。

(光の矢? いや、もう少し大きい)

斜めに降って来た光球が猛スピードで地面を抉り、
裕奈が発砲した魔法拳銃の銃弾が次に飛来した光球を消滅させる。
そして、走り去るかずみと裕奈の間に、
近くの資材の山から二人の少女が着地した。
どちらもフードつきの白い装束、半ばフードに隠れているが、
一方はロングヘアで一方はショートボブ。

「………(確か、ロングが御崎海香、ショートが牧カオル)
どう見ても魔法少女、だよね」
「そっちも、魔法を使うみたいだな」

牧カオルが裕奈の言葉を返す。

「お互い素人じゃないって事で。
麻帆良学園学園警備魔法使い明石裕奈。
御崎海香さん、学園での事件に関して聞きたい事がある。
少し、付き合ってくれる?」

「断る、と言ったら?」

御崎海香が聞き返す。
465 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:40:27.05 ID:Vo/udzBi0

「そもそも、私はかずみちゃんを追っていた」
「させないっ!」
(ボレーシュートッ!?)

海香が開いた本から光球が弾け出し、
とっさに身を交わした裕奈の側を通って光球が空中を突き抜ける。

「(行け行けにジグザグっ!)デフレクシオッ!」

駆け寄って来るカオルの複雑な動きとスピードに魔法拳銃での銃撃を諦め、
裕奈は防御魔法と共に弾き飛ばされていた。

(鋼鉄の腕のクロスガード突進、
防壁が一瞬遅れてたら血反吐吐いてるねこれ)

跳躍しながら、裕奈は小さな魔法練習杖を握ったまま、
痺れの走る左腕を振る。
その時には、カオルは海香からの光球を跳ね上げていた。

「くっ!」

裕奈がカオルに向けて発砲し、
カオルが蹴り出した光球が銃撃を受けて消滅する。
その時には、裕奈はずしゃあっと足を滑らせて
カオルのクロスガード突進を交わし、
裕奈の発砲をカオルが身を反らして交わす。

「デフレクシオッ!」

たたっと双方距離を開き、裕奈が練習杖を突き出して風楯を張るが、
とっさの未熟な楯を威力ピーク距離からの光球が一撃し
衝撃を察した裕奈がそれを受けながら背後に跳ぶ。
裕奈が、背後に跳躍して鉄材の山に乗る。
すると、カオルは更に跳躍して、裕奈が乗った山の背後にある
更に高い鉄材の山に飛び乗っていた。

「くっ!」

上からの光球シュートを交わし、山を飛び降りながら、
裕奈は上の山のカオルを銃撃する。
カオルも又、それを交わしながら山を飛び降りていた。
466 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:44:03.70 ID:Vo/udzBi0

(上からオーバーヘッドキックッ)

海香が高々と放った光球が空中のカオルに追い付き、
カオルは空中でくるりと回転しながら下の裕奈へとシュートを放った。

とっさに張る事が出来た一杯いっぱいの魔法防壁が、
光球が帯びた強烈な衝撃波に押され、
裕奈の背は辛うじて魔法防壁に守られながら
バウンドする勢いで地面に叩き付けられていた。

カオルが着地する。裕奈は痛む体を引きずって即座に跳躍し、
クロスガードタックルを交わした。
そして、クレーン車のコクピットの上に飛び乗る。
その頃、カオルは海香からの光球をトラップしている所だった。

「ちょこまかと、結構いい動きじゃん」

資材や重機の上を飛び回る裕奈を、
リフティングしながら目で追ったカオルは不敵な笑みを浮かべていた。

(背中が痛いけど、雨は降ってない。
祈るから上手く当たってっ!!!)
「カオルっ!」
「!?」

裕奈の発砲した魔法銃弾は、
身を交わす迄もなくカオルの周辺を突き抜けた。

「チッ!」

幸い、ダンプからは若干の距離があったものの、
裕奈の動きの緩みを見て瞬時にシュート体勢に入っていたカオルの耳に、
すぐ側のトラックの荷台や資材の山からの荷崩れの轟音が突き刺さった。
カオルが、そのまま光球を裕奈に向けて力一杯シュートする。
467 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:48:02.84 ID:Vo/udzBi0

「!?」

裕奈が、魔法使いの出力で大ジャンプをした。
そして、カオルと、カオルの側に駆け寄った海香の側に勢いよく着地する。
二人がとっさに身を交わし、
裕奈は着地しながら両手持ちした光球を勢いよく振り下ろしていた。

「とっ!」

そして、裕奈は鋭い足払いを交わす。
御崎海香は、目の前で展開される団子状の混戦を呆然と見ていた。
手出しが出来なかった、と言うのが正しい。
物理的に手出しが出来ず、
裕奈とカオルは不敵な笑みと共に走りながらもつれ合っている。

「つっ!」
「もらっ………」
「チェックメイトっ!」
「こちらがね」

カオルの鋭いスパイクの足裏が、裕奈の脛を一撃した。
と、次の瞬間には、裕奈は転倒がてらカオルの胸倉を掴み、
二人もつれての回転が終わった時には、
裕奈の魔法拳銃の銃口がカオルの額に押し付けられる。
そして、その裕奈の背中には海香の向けた槍先が向いていた。

海香は、槍を向けながら、目の前の二人がくくくっと笑い出すのを見た。

「やってくれたね、牧カオル」

カオルの上に乗っかって拳銃を向けていた裕奈が、
ごろんと地面に転がり大の字になった。

「明石裕奈? あんた、バスケやってるの?」

あははっと笑ったカオルが質問した。
468 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 01:51:55.74 ID:Vo/udzBi0

「まーねー、うちの部は弱いけどね、つっ」
「大丈夫? 結構思い切り削った筈だけど」
「まあね、これぐらいなら私の初歩的治癒魔法でもなんとか」

立ち上がった裕奈が、とんとんと脚の具合を確かめ軽く顔を顰める。

「お互い、ホントんとこはボールは友達、でいたいもんだね」
「全く」

裕奈の言葉に、カオルが苦笑しながら立ち上がる。

「で、あんた達プレイアデス聖団?
実際ん所、麻帆良学園都市で一体何してた訳?」
「ちょっと観光に、って言ったら納得していただけるかしら?」
「正直、かなり難しいと思う」

海香の返答に裕奈が苦笑する。
裕奈が、そろそろと拳銃を差した腰に手を動かし、
海香が手にした本を槍に変化させる。

「カオル、かずみはあなた達を友達だと言った。
カオル達もそう思ってる? それでいい?」

裕奈の問いに、カオルが頷いた。

「あたし達の大事な友達だ」
「そう………!?」

裕奈が、とっさに腕をクロスして魔法防壁を張った。
殺到するカササギの群れが裕奈の側を通り過ぎた時には、
資材置き場には裕奈だけが取り残されていた。
469 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:01:32.41 ID:Vo/udzBi0

ーーーーーーーー

さっとシャワーの湯を浴び、少しばかりの英気を取り戻す。
脱衣所からバスローブ姿でリビングに戻り、
二枚のバスタオルの内一枚を解いて
豊かな黒髪を解き放ってからどうとベッドに倒れ込む。

(十分、ぐらい目を閉じようか)

麻帆良芸術大学附属中学校女子寮の一室で、
夏目萌はスマホを手元に心の中で呟いていた。

(出来る所までやっておかないと。
本当はデータの持ち返り自体違反なんだけど、
本部の、上の方がきな臭いって………)

政治的事情に加えてそのために公的設備の使用も制限される。
IT系要員でもあるナツメグこと夏目萌にとってはダブルパンチで頭が痛い。

「ん………」

ナツメグがスマホの着信に気付いたのは、
意識が飛ぶ寸前の事だった。

「メイ? ………
もしもの時は、送られて来たものに
ナツメグさんの生年月日末尾二桁を足し算して下さい。
それがパスコードです。
現時点では他言無用、このメールは即座に削除して下さい、
って………何やってるのよあの娘………」
470 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:07:18.25 ID:Vo/udzBi0

ーーーーーーーー

「もしもし、明石か?」
「佐倉愛衣です」

スマホの電話に出た長谷川千雨に、愛衣が電話越しに告げた。

「ご協力いただけるのでしたら、一つお願いしたい事があります………」

愛衣の生真面目な声を聞きながら、千雨はメモを用意した。

「………ああ、イミグレの………分かった、やってみる」
「有難うございます。それから、そちらに送ったメール、
出来ればすぐにでも読んで下さい」
「ああ、分かった」

千雨が電話を切り、メールを読む。

「まず、メモに書き写してこのメールは即座に削除して下さい。
定期連絡が途切れたら、
これをこのまま指定のアドレスに転送して下さい、か。
クラウドストレージのサービス名とID、パスだな。
どんな危ない橋渡ってやがる」

ーーーーーーーー

「有難うございます」

あすなろ市内、漫画喫茶の多目的ルームで、
愛衣が裕奈にスマホを返却した。

「PCとメイちゃんのスマホから何か色々送信してたよね?」
「はい」
「一体何を?」
「すいませんが、その答えは少しだけ待って下さい」
「お前、絶対何か隠してるよな?」

杏子が、愛衣に剣呑な視線を向ける。
471 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/09(金) 02:10:49.30 ID:Vo/udzBi0

「あんたは箒で追跡して、あたし達には屋敷を見張る様に指示を出した。
それから、ここを待ち合わせ場所に指定して来た。
あたしらから連絡内容を隠すために時間稼ぎをしたって事か」

「申し訳ありません」

愛衣が、ぱたんと体を折って頭を下げた。

「これだけは、確証無しに口に出せる事じゃないんです」
「かずみさんの事?」

マミの問いに対して、
愛衣の反応は沈黙は肯定と受け取るに十分なものだった。

「明石さん、確認します」
「うん」
「牧カオルは、かずみさんの事を友達だと言った、そうですね」
「うん」
「その言葉に嘘は無かったですか?」
「なかった、私はそう思う」

愛衣を真っ直ぐ見て返答する裕奈に、
愛衣は小さく頷いて、斜め下を見た。

==============================

今回はここまでです>>464-1000
続きは折を見て。
472 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:18:33.14 ID:2egH53yq0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>471

ーーーーーーーー

「もしもし?」

あすなろ市内の漫画喫茶多目的ルームで、
そろそろ次の事を考えようかと言う矢先に明石裕奈がスマホを取った。

「明石か?」
「うん」

相手は、長谷川千雨だった。

「今、何処にいる?」
「ああ、………って漫画喫茶の個室」
「そこ動くな、大丈夫だと思うけど防戦の準備だけしとけ」
「マジ?」
「ああ、流石にそこでドンパチはないと思うがな。
少しだけ待ってくれ」
「分かった」

裕奈が電話を切り、口調が変わった裕奈を同じ部屋にいた
佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子も見ていた。

「千雨ちゃん、なんか、近くに敵がいるみたいだね」

へらっとした口調で言うが、伝わるものは伝わった。

「どうするんですか?」

「仮にプレイアデスだとすると、
ここでおっ始めるって事は無いんじゃないの?
次の連絡あるまでここで警戒しつつ待機、って事でいい?」

愛衣の問いに裕奈が答え、一同が頷いた。
473 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:21:50.26 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「もしもし」

千雨からの次の連絡を、裕奈他の一同はスマホのスピーカーで聞いていた。

「もしもし、千雨ちゃん? みんな聞いてるけどいい?」

「上等だ。佐倉のがどうも嫌な予感がし過ぎる言い方だったからな。
念のためこっちで色々確認して見た。
結論を言う、そこ、御崎海香のグループに張られてるぞ」

「プレイアデス聖団に?」
「プレイアデス?」
「御崎海香達の魔法少女のグループの事です」

裕奈の言葉を愛衣が補足した。

「携帯電話会社と防犯ビデオのデータで把握した。
現在進行形でそっちの店を包囲してる」
「相手も魔法少女、今までのパターンから言っても
街中戦う事はないと思うけど」
「ああ」

マミの言葉に千雨も同意する。

「だがな、そのプレイアデスのメンバーの神那ニコってのが
ちょっと厄介な代物を使ってる」
「厄介?」
「お前ら四人の魔力の波長をスマホに記録させて探査してやがる」
「魔力の波長、スマホに、って、本当ですか?」

愛衣が食い気味に尋ねた。

「ああ、想像以上のハイテク魔法軍団だ、
放っておいたら地の果て迄でも追いかけて来るぞ」
「面倒だな」

千雨の答えに、杏子も苦り切った。

「私に考えがある」
474 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:25:22.58 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「動きは?」
「ノン」

ドーナツショップのテーブル席で、
浅海サキはスマホ越しに神那ニコの返事を聞く。

「いいか、動きがあったらすぐに報せろよ」
「よござんす」

サキは、ふうっと息を吐いて通話を終えた。

「サキ………」
「押さえるぞ」

同席した若葉みらいに、サキが言う。

「多少危ない事をしても、あの魔法使いの身柄を全力で抑える。
言っておくが殺しちゃ駄目だ。
ネカフェって事を考えても、あの箒女の口は絶対に割らせるんだ。
後の三人も………絶対に、足止めする。
対策出来ないなら、絶対にこのあすなろ市から出さない」

「分かってるよ、サキ」

「………」

みらいとサキのやり取りを見ていた宇佐木里美が、
自分のスマホを見た。

「動き出したみたい」

里美が、何処ぞのビルの屋上から
ニコが送って来た通話アプリの言葉を示す。
475 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:28:22.30 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

御崎海香と牧カオルが、裕奈達から少し遅れて漫画喫茶の個室を出て
裕奈達とは一見逆方向に歩行する。

「駅方向」
「人通りの多い所を通ってこの街を脱出するつもり?」

それぞれスマホを見ながらカオルの言葉に海香が続き、迂回路へと急ぐ。

ーーーーーーーー

「………丁目方面」
「よし」

スマホの地図を見ながら進む里美に、同行するサキが呟く。

「この先のオフィス街だ」

サキが言った。目標の地点はこの時間は閑散とする、
何度か魔女狩りで出向いて土地勘もある。

「どうしてそのルートを?」

サキの差しているイヤホンに、海香からの声が聞こえる。

「駅からも反れて、無意味なオフィス街に向かっている意味は?」
「海香はどう見る?」

サキが、スマホに繋がるマイクに問いを吹き込む。

「釣り野伏せかしら?」
「あたしもそっちの線だね。
明石裕奈、グラウンドが無限大なら伏兵ぐらい仕込んでるかも」

海香の言葉にカオルが続く。

「今、先行して洗う様にニコに伝えた」
「じゃあ、私達はこのまま、タイミングを見て、狩る」

海香の言葉に、サキが告げた。
476 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:32:02.89 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「路地裏に入った?」

スマホの地図に表示される魔力探査情報と
直接追跡しているサキ隊からの連絡に海香が呟いた。

「ニコ、どうだ?」
「伏兵らしき姿は見えない」

ーーーーーーーー

「こちらも同じね」

サキ隊の中で、宇佐木里美が通話状態のスマホに告げた。

「鳥と猫の伝言からも、待機している者はいない」
「へぇーっ」

既に営業終了状態のオフィス街で、
クレイモアを肩がけにした若葉みらいが暗い声を出す。

「つまり、身を隠すつもりか、
それとも、四人でカウンターでもかけるつもりなのかなこれ?」
「好都合だ」

サキの手にした乗馬笞が鋭く空を切る。

「海香、絶好のチャンスだ。
大至急追い付いて挟撃をかけてくれっ」

「サキ、もう行く? この場所なら」
「ああ。だけど、海香達も到着するから手堅く行くぞ」
「でも、倒しても構わないよね?」
「箒の魔法使いの口だけは割らせる、それが優先なの忘れるな」
「分かってるよ………」

オフィス街の歩道から路地裏の突入しようとした
サキ隊の三人が、動きを止めた。

「爆発っ!?」
477 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:35:40.58 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「状況はっ!?」
「壊れた音は聞こえない、煙幕弾かな、これは?」

スマホでの海香の問いに、ニコの返答が聞こえて来る。

「?」

そして、カオルが自分のスマホを見た。

「かずみからのメール? こんな時に」
「私も」

ーーーーーーーー

「敵襲、って?」
「あいつら自体がデコイっ!?」

スマホに届いたメールを見たみらいの言葉に、
同じくメールを見ていたサキが叫んだ。

「敵の写真、ね」
「ぼやけててよく見えない、っ………」

その時、新たな着信に気付き、サキが電話に出る。

「かずみメール今すぐ破棄しろ、添付ファイルは絶対開けるなっ!!」

それはニコの怒声だった。

「添付ファイル………まさかっ!?」
478 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:38:40.61 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「やられたわ」

思えば単純なやり口に、海香は笑いを禁じ得なかった。
だが、プレイアデス聖団、神那ニコを相手にやってのけたと言うのは
とてもじゃないが単純では済まない。

「被害状況、分かる範囲で」
「取り敢えず、魔力探査アプリを集中的にやられた。
特に、最近十何時間以内の更新データは回復不能じゃないかな。
私達の間なら、一人が添付ファイルを開いただけでも瞬時に食い荒らしにかかる、
それぐらいヤバイ奴だよこれは」
「ええ、こちらも、今の所探査アプリを使えない事だけは確かね」

ニコからの説明に海香も応じた。

ーーーーーーーー

「くっそおおおおっっっっっっっっっ!!!!!」

路地裏で、若葉みらいの振るったクレイモアが深々と地面に叩き付けられる。

「ニコ、どうなってるっ!?」
「ノン、分からない。そっちにいない?」

「いないから聞いているっ!
奴の、箒女の魔力波長を記憶させたソウルジェムにも反応は無い。
遠くに逃げたとしか思えないが、気づかなかったのかっ!?」

「サキ達、海香達のルートを考えて、抜け道を上から見張ってた筈だけど、
そこから逃げた奴はいない筈だ」

苛立ちも露わに尋ねるサキに、ニコも感情を秘めた声で応じた。

「里美っ!?」

みらいの問いに、里美は首を横に振る。

「探してもらってるけど、情報網に引っかからない」
479 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:55:35.17 ID:2egH53yq0

ーーーーーーーー

「助かったわ」

見滝原市内のマンション玄関で、巴マミと佐倉愛衣が言葉を交わした。

「あのさ、マミ」
「安全のためよ」

マミの隣で何か言いたげな杏子に、マミはキリッとした顔で言う。
そして、二人は一緒に玄関から建物に入って行った。

ーーーーーーーー

麻帆良学園女子中等部寮廊下。

「助かりました」
「助かった、有難う」

礼を言う愛衣と裕奈に、長瀬楓と村上夏美が笑顔で応じた。
そして、そのチートな隠密能力の魔法で
あすなろ市からの脱出を手伝ってくれた楓、夏美と別れ、
裕奈と愛衣は女子寮大浴場「涼風」に向かう。

「ああー、しんどかったぁー」

浴槽に浸りながら裏声を出す裕奈に、愛衣は苦笑する。

この時間は、言わば魔法使いタイムだった。
既に通常の使用時間は終了しており、
通常時間から完全終了までなんとなくラグを作っておいて、
魔法使いのルートで裏で申請したら使用出来る
魔法使い作業用のちょっとした便宜だった。

シャワーを浴び、汗を流してサウナに移動する。
少し遅れて、二人から見たら立派な金髪美女がサウナに入って来た。
二人の学校の先輩であり、
既に「仕事」らしき事を始めている二人にとっては上司でもある
高音・D・グッドマンが裕奈、愛衣の隣に座る。
480 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 03:59:20.96 ID:2egH53yq0

「何か、分かりましたか?」

愛衣からメールでの帰宅報告を受け、
待ち合わせを指定して来た高音が尋ねる。

「まず、御崎海香のグループは、プレイアデス聖団を通称とする
魔法少女のグループでした」
「魔法少女、ですか」
「………お姉様」

少しだけ目を閉じ、目を開いて呼びかける愛衣を、裕奈は見た。

「なんですか?」

「もう少しだけ、時間を下さい。
相手が魔法少女であっても、
今回は麻帆良学園、魔法使いに関わっている可能性は捨て切れません。
今、何とか接点が出来つつあります。
この段階で魔法少女と魔法使いの関係で公式に扱えば逃げられる恐れがあります。
ですから………」

「………明後日一番に詳しい報告をしなさい。
それまでは現場の判断での対応を許可します」
「分かりました」
「………メイ」

立ち上がった高音が、二人に背を向けたまま口を開いた。
481 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/10(土) 04:02:02.12 ID:2egH53yq0

「はい」
「あなたは、年齢的には優秀な魔法使いです、私はあなたを買っています」
「有難うございます」

「そして、魔法使いのなんたるかを、
少なくとも隣の見習いよりは弁えていると、
その様に理解しています。
魔法使いとして為すべき事、為さざるべき事、
その最低限弁えるべき事は弁えていると、
私はあなたの事を、そう理解しています。
自分の身を守り、驕る事なく、
魔法使いとしての為すべき事を為す事です。いいですね」

「はい」

高音が、ようやく振り返る。

「それを理解して、今夜は休みなさい」
「はい、お休みなさい」

「お休み、高音さん」
「あなたも余り無茶はしない様に………
メイの手助けをして下さい」
「うん、はい、了解しました」

高音が頷き、サウナを出て行く。
残された二人も、スリリングな一日の疲れがいよいよ
眠気になるのを自覚しながら腰を上げた。

==============================

今回はここまでです>>472-1000
続きは折を見て。
482 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:28:14.66 ID:nTewOq/m0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>481

ーーーーーーーー

高音は水風呂とシャワーだけを使ってさっさと大浴場「涼風」を後にし、
明石裕奈と佐倉愛衣はひと風呂浴びて修羅場の垢を落として脱衣所に移動する。

「メイちゃん………佐倉先輩」

愛衣は、髪の毛をバスタオルに挟みながら、
声を掛けて来た裕奈を見た。

「最悪、私の独断専行って事でいいですから」
「?」

「先輩、メイちゃんが、
何かかなり危ない事をやってるって事ぐらいは分かる。
メイちゃんが任務中に、高音さん相手にもそれをやるって事は、
それは本当に考えた末の事で、決して只の馬鹿や我が儘じゃないって事も。
でも、佐倉先輩は魔法協会で上に行く、行かないといけない人だから」

「高音お姉様に任されたあなたに独断専行で無茶をされては、
私はひどく間抜けな先輩と言う事になりますけど」

何でもない事の様に着替えを始める裕奈に愛衣が答える。

「だよね」

裕奈がふうっと息を吐き、
愛衣は丁度裕奈が下着を身に着けた辺りを手の甲でぽんと叩く。

「僅かな勇気は使いどころが肝心。
今の所はその立派な胸にしまっておいて下さい」
「言うね、メイちゃん」
「魔法使いですから」

へへっと笑った裕奈に、愛衣はとびきり可愛らしく微笑んだ。
483 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:32:35.02 ID:nTewOq/m0

「魔法使いですから………
彼女達は、希望を願った魔法少女ですから………」
「ん?」

さっぱりとシャツ、パンツ姿になった裕奈が、
気が付いて自分のスマホを手にした。

「メイちゃん、これ、千雨ちゃんがメイちゃんにって」
「私に?」

裕奈に言われ、愛衣がスマホを見た。

「神那ニコのスマホから気になるものを見つけた?」
「これって、何? イングリッシュ?」

「英字新聞みたいですね。
分かりました、私のスマホに送って下さい。
私の方から長谷川さんに連絡します」

「りょーかい」

「………明石さん」
「何?」
「明日、私の背中をお願いします。
それが、当面の明石さんのお仕事です」
「了解、先輩」
484 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:35:48.24 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「一体、何がどうなってるのっ!?」

御崎海香邸のリビングに、かずみの叫びが響き渡る。

「魔法使いって何なの!?
どうしてこんな事になってるのっ!?」
「かずみ、かずみが心配するのは分かる。
でも、大丈夫だ。ちゃんと、対処出来るから」
「そういう事を言ってるんじゃないっ!」

なだめる浅海サキに、かずみが叩き付ける様に叫んだ。

「魔女、魔法少女、それに魔法使いまで関わって、
わたしの事でわたしに隠れて何をやってるのって言ってるのっ!!」
「分かってる、かずみが怒るのはもっともだ」

牧カオルが割って入った。

「そうね………」

腕組みをして立っていた御崎海香が片目を開いて口を開いた。

「見ての通り、魔法使いまで関わって来て状況が混沌としてる。
きちんと説明したいのはやまやまだけど、
事情が凄く込み入ってて………」

「海香っ!」

「ええ、だから、明日………
いえ、早ければ明日、二、三日、少しだけ時間を欲しい。
ちゃんと説明はする。
当座の問題は魔法使いよ」

「そうだ!」

海香の言葉に、狼狽していたサキが勢い込んで言った。
485 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:39:23.99 ID:nTewOq/m0

「あいつを何とかしないと、
明日にでもこっちから………」
「サキが行くならっ」
「落ち着けっ!!」

前のめりなサキと若葉みらいをカオルが一喝した。

「そんな事、出来る訳ないだろっ!!
佐倉愛衣、明石裕奈、あいつら単体であれだけ強いんだ。
魔法使いの本拠に殴り込みなんてしてみろ、
拷問不要で全部吐き出すのはこっちの方だっ!!」

「何か、魔法使いと揉めてるの?
あの人達、悪い人には見えなかった」
「ええ、そうよ」

かずみの言葉に、海香も応じた。

「魔法使い、魔法使いは魔法使いのルールを守っているだけ。
それは決して悪い事じゃない。
だけど、今回はちょっと私達と利害が合わない、それだけの事だから、
今は防御を固めて、傷が浅ければ時間をかけて調整できる事だから」

「うぅー、だから、その理由をちゃんと教えてって言ってるのっ!!」

「ええ、分かってる。分かってるから、
だけど、色々込み入った事情があって、
分かる様に説明するのには材料が必要なの。
だから、少しだけ私達に時間を頂戴」

「そうだ、かずみ。頼むから今はあたし達を信じて待っててくれ」

サキの絶対零度の視線を浴びつつ両肩を掴んで迫るカオルに、
かずみはみらいの絶対零度の視線を浴びながら僅かに唸って頷いた。
486 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:43:13.86 ID:nTewOq/m0

「アプリの再インストールはどう?」

「取り敢えず、全員のスマホを預かって点検してるけど、
あれだけのサイバー攻撃だ。
こっちの安全確認と相手のタイプからのセキュリティー設定をやらないと
危なくて使い物にならない。もう少し時間をくれ」

海香の問いに神那ニコが答えた。

「只のサイバー攻撃じゃないんだよな」

「辛うじて痕跡を見つけた、
微かに「魔法があった」と言う事だけが分かる微量の痕跡がね。
間違いない、敵は魔法を使う。
十中八九魔法使い、それも科学的見地から見て極めて高度なハイテク魔法。
こんなハイテク魔法使いがいるって、
時代は変わるモンだね。くわばらくわばら」

ニコの答えに、カオルは天を仰いだ。

==============================

今回はここまでです>>482-1000
続きは折を見て。
487 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:51:17.29 ID:nTewOq/m0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>486

 ×     ×

「いやぁー、何度見ても、この件はいいですねぇ」
「ウェ、ヒ、ヒヒヒ………」

臆面もなく大泣きしているおっさんを隣に見て、
鹿目まどかは大汗と共に乾いた笑い声を漏らしていた。
だが、それも無理のない事である事も、まどかは理解していた。

魔法世界メガロメセンブリアの高級ホテルの高級会議室で、
美味しい和風ランチをいただいてから唐突に三部作の映画の鑑賞が始まり、
今、第二部が終わった所。

この魔法世界の歴史を描いたスペクタクル超大作映画は、
笑いあり涙あり手に汗握り感涙にむせぶ、
まどかが映画として観て素直に面白いものだった。
本当はとても三部作の、それもこの鑑賞時間では済まないものを
徹底厳選編集して、それでも結構な長さだったがここまで決して飽きさせない。

そして、まどかの隣で映画を鑑賞しているこの魔法世界の偉い人、
メガロメセンブリア元老院議員にしてオスティア総督であるクルト・ゲーデル。
物腰柔らかな紳士にして何処か油断ならない曲者。

これだけ偉いんだからそうなのだろうとまどかにも分かる人物であるが、
この涙に嘘はないのだろうと言う事も分かる。
取り敢えず、彼自身が映画の中の登場人物の一人として
描かれたあの体験をしているのだから。

「あ、あの、刹那さん」

第三部が始まる前の休憩時間、まどかは、
ここまで同行して来た桜咲刹那に声を掛けた。
488 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:54:19.02 ID:nTewOq/m0

「はい」
「あの、あの映画に出て来た
ナギ・スプリングフィールド、って、
もしかしてネギ先生の………」
「はい、お父君です」

刹那があっさり返答し、まどかは目をぱちくりさせた。
魔法少女に魔法使いと関わって来て
現在地が魔法世界であるまどかであるが、
その状況に頭が完全について来ている、とは言い難い。
只、名字と顔立ちが余りにもあからさまだったものを質問した結果がこうだ。

「えっ、と、これ、本当のこの世界の歴史、なんですか?」
「ええ、当時の事を忠実に再現しました」

鼻をかみ終えた議員先生の提督閣下がソフトに返答する。
だとすると、刹那達の担任教師だと言うネギ・スプリングフィールドは
とんでもない人物、掛け値なしの英雄の息子だと言う事になる。

「それじゃあ、ネギ先生のお母さん、って………」
「それは、今私達が答える事は出来ません」

刹那の穏やかな言葉に、まどかは自分の不躾を反省する。
そして、この映画と今迄の体験から、もう一つ、
何か引っかかるものが喉迄出かかっていた。

「では、そろそろ最終章の上映を」

ゲーデルが言い、まどかは椅子に座り直した。

「本邦初公開。何しろ、今年の夏の出来事なのですから」
489 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:56:05.42 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「無事でしたか」
「お互いにな」

明石裕奈と共に見滝原市の通称マミルームを訪れた佐倉愛衣に、
部屋で待っていた佐倉杏子が応じた。

前日、あすなろ市の漫画喫茶からなんとか脱出して、
翌日、マミは普通に学校に、杏子はこの部屋で留守番をしていた。

一般的な魔法少女の性質上、後の面倒を考えても
登下校や学校に殴り込む事迄はしないだろう。
常識的な多人数の中にいた方がいいと言う判断の結果で、
マミは学校、実質的な所在不明女子の杏子は
マミが事前の合言葉で連絡する迄は絶対に部屋を開けない。
それは裕奈、愛衣も同様の判断で半日を過ごしていた。

「始めましょうか」

甘い香りに釣られ、裕奈がマミの出て来るキッチンを見た。
部屋の主、巴マミの用意したお茶とケーキは美味しかったが、
会議は大真面目に行われた。

「長谷川千雨さんが用意してくれたプレイアデスのデータ」

言いながら、マミが広げたのは地図だった。

「これを見てて、気になった事があるの」
490 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:58:39.48 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

日も暮れて、佐倉愛衣、明石裕奈、巴マミ、佐倉杏子の四人が
あすなろ市内工業団地跡地に集結していた。

「そこに目を付けたか」

電話の相手は、長谷川千雨だった。

「ええ。携帯電話の位置情報の地図データ、見せてもらった。
プレイアデス聖団が魔法少女のグループであれば、
魔女の出易い場所を移動するのは説明出来る」

スマホのマイクを手にしたマミが言った。

「だけど、ここだけはそのパターンを外れてる。
確かに、閑散としていて魔女が出て来ても不思議じゃない
だけど、パトロールにしても
何もない場所にみんなで来ている頻度が多すぎる。
それも、かずみさん抜きでね」

そして、千雨とイヤホンマイクを装着したのは、
魔法装束姿の明石裕奈だった。

「GPS作動してる?」
「OK、茶々丸衛星映像と一緒にリアルタイム把握した。
それを、プレイアデスの過去データを最高精度で照合して………
もう少し、もう少し右回り………そっから真っ直ぐ!」

明石裕奈が、閑散とした跡地に向けて魔法制限弾を発砲した。
491 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:00:41.52 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「!!」

御崎海香邸の食後のダイニングで、
神那ニコが何やら言葉を吐き捨てた。

「どうしたっ!?」
「やられた………」

浅海サキの問いに、ニコが改めて答える。

「再インストールしたアプリ、汚染が………」
「そんなっ! あれは………」
「ああ」

声を上げたサキにニコが説明を続ける。

「再インストールしたのはラボにあったバックアップ。
それを、新品の機材を使って有線から有線にコピーして、
最終的に、新しく用意した全員のスマホにインストールした。
徹底的にチェックした筈だが、
バックアップそのものが、ラボにまでサイバー攻撃が及んでいたか、
厳重に調べて、どうしてもこれはと
前のスマホからコピーしたデータにウィルスが残っていたか」

「アプリは正常に動いている様に見えるけど」

ニコの言葉に若葉みらいが言う。
492 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:04:10.63 ID:nTewOq/m0

「それはダミーだ。
書き換えられたのは魔力探査アプリのあの四人の探査プログラム。
ある時点を最後に、そこから過去五時間以内の
行動の往復を表示するだけのループプログラムに切り替わって
魔力データそのものはデリートされてる」

「それじゃあ、奴らは………」
「!?」

サキが言いかけた時、ニコはスマホからの警告音にスマホの操作を再開する。

「結界が、破られた………」

ーーーーーーーー

通話を終えた長谷川千雨は、猛烈な速さでノーパソの操作を始めた。
そして、がたりと立ち上がり、詠唱を始める。

「広漠の無、それは零。大いなる霊、それは壱。
電子の霊よ、水面を漂え………」

ノーパソが短いステッキに変化して、千雨の手に戻った。

「我こそは、電子の王!」
493 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:07:26.57 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「今回は又、一段と薄気味悪いな………」

長谷川千雨は、周囲を見回して呟いた。

そこは電脳世界がイメージ化された世界であり、
得体の知れない絵画の様に、今までにもまして得体が知れない。
そこを、アニメキャラクター
ルーランルージュを模した魔法装束姿で歩いている、

と、千雨は認識している訳だが、
本来の千雨の肉体は別の場所で意識を失っている筈だ。
つまり、魂だけ電脳世界に吸い込まれた、
これに近いイメージであり、それが千雨の能力でもあった。

「ちう・パケットフィルタリーングッ!!」

そして、半回転しながらステッキ状の魔法具「力の王笏」を振るう。

「アハッ」

千雨に迫っていた大量のケーブルが弾き飛ばされ、
微かに声が聞こえた。

「今の、分かるんだ」

半透明のケーブルがちらっ、ちらっ、と
微かに姿を見せながら四散する光景する中、
千雨はその声に目を向ける。

「ああ、魔法だけでもエレキだけでも駄目だっただろうな。
重ねがけの反則技でギリギリ分かった」

千雨が返答する。
494 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:10:12.45 ID:nTewOq/m0

「出やがったな」
「私の事を?」

「ああ、連続少女失踪事件。
公式にはバラバラの扱いだが、それでも捜査は進んでる。
失踪した少女の中には、メールで接触を受けていた者がいた。
だが、その発信元は不明だった。
海外串とかなんとかチャチな話じゃねぇ。
電話会社、接続業者の鯖から、都合の悪い情報を丸ごと消しちまう
電脳世界の化け物が一枚噛んでやがる」

「電脳世界の化け物、か。
君に言われたくはない所だが」

「ま、私も結構大概だけど、さぁ。
だから、今回の件であすなろ市中心に動き回ってりゃあ、
何れ出て来るだろうとは思ったけどね」

「成程、まんまと得意フィールドに呼び出されたって訳か」



あんたが相手じゃあ舐めプ、って訳にもいかねぇだろうがな。

なぁ、

ヒュアデス



==============================

今回はここまでです>>487-1000
続きは折を見て。
495 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:13:29.75 ID:/WZ1nIy00
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>494

「チャオ♪」
「お前がヒュアデスか、聖カンナ」

簡単に言えば魂が電脳空間に飛び込んだ状態である千雨が、
その電脳空間内で、目の前に現れた少女の姿に呟く。
帽子を被った黒い魔法装束。
その顔立ちは、プレイアデス聖団のメンバーの一人に瓜二つ。

「ゴーストダイブ………いや、ケーブルつきのデコイか」

「ご名答。君の言う通り、
この状況では私の絶対のコネクトすら分が悪いらしい。
直接仕掛けようとしたら僅かにでもリスクがある。
だから、コミュニケーション用のダミーインターフェイスを仕立てた。
私の事は何処から知った?」

「御崎海香のグループを調べ始めてすぐだな。
顔認証の分析に使ってたAIが、一卵性双生児の可能性の確認を要求して来た。
機械的に分析にかけた結果、そのレベルで外見が酷似した二人の人間が
あすなろ市の近いエリア内で同時に動き回ってる。
しかも、接触した形跡がない。その時点できな臭いってレベルじゃない。

二人の内の一人は神那ニコ。
御崎海香のグループ、つまりプレイアデス聖団のメンバー。
もう一人があんた、聖カンナ。

二人共アメリカ帰りなのは共通していたが、
神那ニコは辛うじて実在が確認出来るってレベルで公式記録が薄い。
形式上一応存在している、って言うレベルだ。
対して、聖カンナは普通に家族、学校に繋がっていた。
ああ、コネクトだな。
神那ニコのコネクトは事実上プレイアデス聖団だけに近いが、
聖カンナは普通の中学生の社会、生活にコネクトしてる」
496 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:21:43.51 ID:/WZ1nIy00

「流石、と言っておこうか電子の王。
見事な電脳ストーカーだ」

「リソースは使い放題だし必要に迫られたからな。

あんたと神那ニコ、
引いてはプレイアデスの行動パターンその他を分析する限り、
単に近いってだけじゃない。
プレイアデスに対して何等かの暗躍をしている、
あんたこそがストーカーって考えるのが自然だろうな。

さっきちょっと触ったが、あんたのコネクト、
電子と魔法の重ねがけが最強な私だからこそ、
この電脳空間では対処出来たが、それでもあそこまで迫られた。
魔法少女としてまともに仕掛けたらどれだけのモンなんだろうな」

「まあ、万能の透明ケーブル接続だとは言っておくよ」

「ヒュアデス、プレイアデスの異母姉妹だな。
あすなろ市で失踪した少女の一部が、
「ヒュアデス」からのメールを携帯に残していた。

メール本文に加えて電話会社、接続業者側のログが綺麗に消されていたから
警察はそこから先を追えなかった。

だが、私はあんた自身をマークしていた。
同時にあすなろ市を中心にした魔法少女関係の情報を収集していた。
その結果、あんたとヒュアデスの一致度が高過ぎる、と言う結論に達した。
ヒュアデス、プレイアデスの異母姉妹だな。
ヒュアデスを名乗る魔法少女がプレイアデスの周辺に現れた。
これは、偶然じゃあないよな」

「そうだね。だから、何?」

カンナに問われ、千雨は取り出したスマホの画面をカンナに示す。
カンナが見せた笑顔に、千雨の足は退きそうになっていた。
497 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:23:29.40 ID:/WZ1nIy00

「カリフォルニアで発生した拳銃暴発事故。
これが全ての始まり、って事でいいんだよな?」
「Yes 曖昧なものの無い零と壱。
その世界の電子の王が確信しているのなら、
答えは二択の内の一つ」

笑顔で答えるカンナに、千雨は天を仰いだ。

「三人の子どもが、ちょっとした手違いで
放置されていた実弾入りの拳銃を手にした。
その結果が二人死亡一人重傷。
この、重傷を負って生き残った子どもが聖カンナだ」
「私の事か」

カンナの言葉に、千雨は僅かに口角を上げる。

「家で友達と遊んでいた幼児が、身近にあった拳銃に興味を抱いただけの事故。
親の方も、多分な不可抗力と遺族の厚意と元からの財力によって、
社会的に死なない程度の示談金で刑務所行きを免れた。
だが、この結果は子どもにとって余りにも重過ぎた。
その子は以後十年余り、神に許しを請い、笑顔を失って過ごして来た」

「今時のネット社会はそんな事迄?」

「確かに、かなりの所まで入手可能だったが、
種を明かせば私一人の調べじゃない」
「それにしても、よく調べたものだ。
聖カンナの物語を」
「お褒めに預かって光栄、と言っておこうか」

そう言って、千雨はちらりと横を見た。

「?」

千雨とカンナの視線の先から現れたのは、
麻帆良学園が誇る魔法ガイノイド、絡繰茶々丸が引く屋台だった。
498 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:25:55.70 ID:/WZ1nIy00

「釜揚げもらおうか」
「ありがとうございます」
「いや、ちょっと待て」

屋台のカウンターに立ち、
茶々丸と注文を交わす千雨にカンナが口を挟んだ。

「ん?」
「おかしいだろ、明らかに」

「科学的な非科学的上等だからな。五感全部支配されるVRなんて、
推理漫画発のアニメ映画やらWeb小説発のラノベ経由のアニメやら
今時珍しくもない。電脳世界の何丁目かは分かってるから、
ちょっと味覚データの出前してもらったって事さ。食わんのか?」

「………パスタの屋台? おかしいだろ、明らかに。
ちょっと調べたけど、麻帆良の名物屋台はチャイニーズじゃないのか?」
「多角展開って奴だ。何作っても及第いける技量だしな。
それに、最近の屋台はこれが流行りらしい」

「じゃあ、鉄板ナポリタンもらう」
「ありがとうございます………出来ました」
「おう」
「………」

深めの皿の中に手際よく卵を割り入れ、鬼の様に七味をぶっ込んで
混ぜ込まれた卵の絡む熱々のパスタを猛然と食らい始める千雨の隣で、
カンナが突っ込む言葉を探している内に
カンナの前のカウンターにいい匂いの皿が置かれた。

「成程」

フォークに巻いたパスタを口にしながら、
カンナの語彙はそれだけだった。
そして、その響きは、間違いなく好意的なものだった。
499 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:28:49.01 ID:/WZ1nIy00

「聖カンナの物語」

皿を拭ったパンを口にしながら、カンナが言った。

「君が調べたのは、聖カンナの物語なのか?」
「まあ、そういう事になるかな」

いっそ清々しくパスタを掴んでいた箸をおき、千雨が答える。

「つまり、私の物語か?」
「ああ、そういう事になるな」

「それにしても、よく調べたものだな」

千雨は、すっと隣のカンナを見る。

「あんたが生まれた物語だ」

カンナの顔から、笑みが消えた。

「聖カンナの物語は、私が生まれた物語。
今の言葉を繋げるとそういう事になるんだけど?」
「それで合ってる。そうだろ聖カンナ」
「どういう意味かな?」

静かに微笑んだカンナの手で、
皿の上のパンにすとっとフォークが突き立つ。

「だから、言っただろ。科学的な非科学上等だと」
「流石に、今のこの時代の科学だけなら、
電脳世界でこの美味はやり過ぎだろうね」

カンナの言葉に、茶々丸が一礼する。

「そうじゃないと繋がらないんだ」

そう言って、千雨は改めて英字記事が表示されたスマホを掲げる。
500 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:31:42.86 ID:/WZ1nIy00

「それは、精神攻撃か何かのつもりか?」
「只の物証だ」

口だけ微笑むカンナに、千雨は淡々と答える。

「笑顔を失い贖罪意識に囚われた少女。
事件の事を知る、知らないに関わらず、
聖カンナを知る者は皆、聖カンナに就いてそう評価している。
事件後からつい最近までな」

「つまり、過去の話だと?」

「そういう事になる。最近の聖カンナは変わったと。
この一年足らずの事だ。家族にも友達にも恵まれた快活な少女。
それが、今の聖カンナの評価。
心境の変化なんてちゃちなもんじゃない。
分厚い黒雲が突風で綺麗さっぱり吹き飛ばされた、
そんな変わり様だ」

「それは、おかしな事なのかな?」

「本来歓迎すべき事だと思うが、客観的に見ておかしい。
おかしいかどうか、まずそれを判断して見た。
結論を言えば、明らかにおかしい。
聖カンナがそうなった経緯から言ってな」

「聖カンナがどうしてそうなったのか、
勿体付けずに口に出して言ってみたらどうだい?」

「二人が死亡し聖カンナ自身が重傷を負った拳銃暴発事故、
物理的に引き金を引いたのは聖カンナだ」
「零と壱、君が断言するなら、そうなんだろう」

「ああ、既に調べはついてる。
自らの大怪我、それ以上に二人の友人を死亡させた、
その引き金を引いた聖カンナの事件後の言動。
今の聖カンナは、過去から現在までの流れと噛み合わない。
だからと言って、全くの別人にすり替わった訳でもない。
関係者が多いだけに、流石にそれは無理がある。
余りに非論理的であり得ない事が起きた。
だったらいっそ、こう考えたらすっきりする。
これは、非科学的な現象なんだとな」
501 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:35:18.63 ID:/WZ1nIy00

「魔法少女の契約、か」

「最初は、自分の事件の記憶だけを消したのかとも思った。
こっちの魔法にそんな都合のいいモンはちょっと見当たらない。
都合よく自分の記憶を操作するカードゲーム、
なんて都市伝説も無いではないが、
取り敢えず本人の素質があれば
無制限でピンポイントなオーダーが可能な魔法少女契約が一番適しているし、
結論としてあんたも、そして神那ニコも魔法少女だった。
遠いアメリカでの事件、法的な責任が問われた訳でもない、
日本で直接知っている者が限られているならうってつけだ」

「最初はそう思った。今はそう思わない」
「ああ、思わないね」

そう言って、千雨はスマホを見た。

「過去の惨劇、罪悪感、一人で苦しんで来た聖カンナが、
例えそのチャンスを得ても記憶を消して逃れようと考えるか?
もちろん、もう嫌になったと、苦しみを手放す事はあり得るだろう。
だが、聖カンナはそうしなかった。私はそう思う」

「何故?」

「こちらの事情でプレイアデスを調査した時にこいつを見つけた。
神那ニコ、聖カンナのそっくりさんのスマホからだ。
それも、常時と言っていい程この記事を見ている。
聖カンナは、過去の惨劇、大き過ぎる罪悪感を抱えて、
決してそれを手放そうとしなかった。
そして、非科学的上等、その中でも、
とびきりのご都合主義が可能な魔法少女の契約。
これで、理屈が繋がる」

「どういう風に?」
502 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:37:37.03 ID:/WZ1nIy00

「もう一人の自分、理想の自分、
あの事件が無かった自分。
その一方で、現実の自分の罪悪感は、
償いを忘れる事を自分に許さなかった、
だけど、空想するぐらいは神も許すだろう。
その足を、あくまで現実に留めながら、
なりたかった理想の自分を作り出した。
それが聖カンナの魔法少女契約の概要、
私は、そう考えた」

ぱん、ぱん、ぱん、と、手を叩く乾いた音が響くのを、
千雨はつーっと汗を浮かべながら聞いていた。

「じゃあ何? 私は、聖カンナは、
聖カンナの空想上の産物って事なのかな?」

「私の推測ではそういう事になるな。
過去から契約時点までの聖カンナは、
魔法少女契約で生み出したニュー聖カンナを現実社会に結び付けて、
元の聖カンナは神那ニコと名前を変えて闇に消えた。
恐らく、一つの願い、契約に基づく包括的な効果で、
神那ニコとしての最低限の公式記録もセットだったんだろう」

「随分と、想像力が逞しい」

「だが、現実問題として、
非科学的だが一定の法則がある現実を受け入れた以上、
実際に存在する材料から私が見る限り、
それが不可能を除いた残りの真実、って事になっちまう」

「素晴らしい。流石は電子の王、君は全てをお見通し。
この時代においては、君は丸で神様だ」

「いながらにしてその目で見、その手で触れぬ事の出来ぬあらゆる事を知る。
何一つしない神様。少し前までそうだった。今も似た様なものか。
もっとも、全部が全部私が安楽椅子で検索したって訳でもないけどね」

「だったら、次に私がどうするつもりかも分析済みかい?
誰かの都合で作り出されて、
己の罪も知らずに幸せごっこを満喫して来たおめでたい私が、
そうやって、丸で神様の様に私を作り出し、高見から見下ろして来た者に対して
どうするつもりでこの魂を契約に差し出したのかを?」
503 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:41:09.15 ID:/WZ1nIy00

「まあ、どう考えても不穏な事だろうな。
割り切れるぐらいならこんな話にはなっていないだろうし。
相手が神様なら、神がやらなきゃ」

「人がやる。そのために私はこの力を得た。
祈りの心は向こうに置いて来ても、
バイブルはその役割を教えてくれた。
そう、私が何処から来た何者なのか、それを知った時にね、
何処に行くべきか、そして、何をするべきか。
私が、何を齎すために生まれたのか、そこに赴くのか」

「ルカによる福音書、か」
「Correct」
「とっさにそれが出るって、
あんたのデータベースもちっと偏向してるな」
「お互い様だ」

テーブルの下での蹴り合い、と言う比喩が相応しい空気の中、
茶々丸は綺麗に平らげられた食器を黙々と片付ける。

「そういうあんたはどうするつもりだ? 電子の王?」

「さあな、元々、こっちの都合で必要があって当たってただけの事だ。
そんなクソ重いモンどうにか出来る柄じゃない。
只、デジタルな情報、
一部は足で稼いだモンを使わせてもらったのも含めてだが、
それだけでも分かる事もある。
旨いものを食って喜び、身近な人に愛され愛する人といる事を喜び、
そして、失う事、傷付く事を悲しむ。
少なくともあんたの心は本物の筈だ」

バン、と、両手でカウンターを叩いたカンナを、千雨は静かに見ていた。

「魔法少女の事は詳しく知らない。
だが、非科学的上等に馴染んだ私として、知ってる事はある。
一歩前に進むための、願いをかなえる魔法の契約は、
宿った心がその意思を決める、生きている魂と結ぶものだってな。
私が知ってるのは、その程度の事だ」
504 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:43:30.82 ID:/WZ1nIy00

「………美味しかったよ、ご馳走様」

横を向いたカンナに、茶々丸が一礼した。
カンナが、数秒間茶々丸をじっと見る。

「私にとって害はなさそうだし、
ここで不利な喧嘩をするメリットは無い」
「それは、利害が一致して助かる」
「チャオ♪」

ーーーーーーーー

あすなろ市内のビルの屋上で、望遠鏡を覗いた聖カンナはくっくっ笑い出した。

「おいおい、派手に喧嘩売ってるじゃないの魔法使い………」

そして、左手でスマホを見る。

(魔法使いは何処迄把握して何処迄介入するつもりだ?
長谷川千雨、電子の王………最悪を考えるなら、
PCにスマホ、ラボも全てハッキングされたとしたら………)

………チリン………

「………教えて………」
「ん?」
「貴方の名前」
「我々は何者なのか!?」

振り返ったカンナの手にしたバールと天乃鈴音が振るった剣が激突した。

「アテンション!」
「!?」

バールと剣が弾けた刹那、
左手からの叫びと共にカンナの意識が強烈に左手に引っ張られる。
同性から見ても美人な、スタイルのいい同年代の魔法少女の姿が
嫌でもカンナの目に入る。
次の瞬間には、カンナは新手の敵による銃撃をまともに受けて、
それと共にカンナの魔法少女の変身自体が解除され、
カンナは丸腰状態で鈴音の剣と死神規格の鎌を向けられていた。
505 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:45:26.88 ID:/WZ1nIy00

「なんなんだ、あんたら?」
「初めまして、私は奏遥香。
ホオズキ市で魔法少女グループのリーダーをしています」
「堂々とした縄張り荒らしだね」

スタイル美女の言葉にカンナが毒づく。

「それなんだけどさぁ」

口を挟んだのは、
カンナに鎌を向けているツインテールの魔法少女成見亜里紗だった。

「あんたがけしかけた双子もどきの変態牝郎がこっちで悪さしてくれてね。
スズネっちが追っ払ったからカナミは無事で済んだけど、
大元叩こうって事でこっち来た訳。
ま、それは口実で借りを返しにってのも大きいんだけどさ」

「何を………」

「なんか、あんた随分物騒な事計画してるんだって?
文字通りの世界平和ってなると、
結局こっちの縄張りにも引っかかるしね」
「世界の平和、ね」

刃を向けられながら、カンナはくっくっ笑い出す。
そんなカンナの前に、
フードを被った白いローブ姿の魔法少女が姿を現した。

「そんな訳で、あんたは全部喋ってもらってから地元に任せるから。
ま、周りに迷惑かけるのは程々にして、
精々当事者同士でドツキ合って解決するんだね」

「おーおー、あんたが言うと重みが違うわ」

亜里紗の茶々を聞き流しながら、
白い魔法少女日向華々莉がフードを脱いでカンナの頭を掴み、
カンナの目を見ながら告げた。
506 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:47:46.25 ID:/WZ1nIy00

ーーーーーーーー

長谷川千雨は、椅子の背もたれを軋ませて一言呟いた。

「只の、時間稼ぎだよ」

ーーーーーーーー

「ヒュアデス、聖カンナは確保しました。
後はこちらの領分で処置します」
「分かった。有難う詩音さん」

住まいの女子寮の一室で、
ナツメグこと夏目萌は手にしたスマホで詩音千里からの電話を切る。

ゲートの暴走事件後、
独自に御崎海香グループの内偵を進めていたナツメグだったが、
明石裕奈等の情報を得た後、秘かに長谷川千雨にも連絡、
非公式に情報をすり合わせて調査を進めていた。
アメリカに関わる当事者が多いと言う事で、
佐倉愛衣の留学時の友人に依頼してそちら側からの情報も得ていた。

最終的に、行き掛り上知り合った奏遥香のチームに
駄目元で協力を依頼した事も含め、
いつの間にかキーステーションになって
綱渡りな事をしていた状況にどっと疲れを感じるが、
であるからこそ、取り敢えず今夜の状況が確定する迄一風呂浴びて休む、
と言う訳にはいかないらしい。

「後は、メイ達がどう決着つけるか………」

==============================

今回はここまでです>>495-1000
続きは折を見て。
507 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:30:56.19 ID:Hj5Wsof20
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>506

ーーーーーーーー

「海香、カオルっ!」

正に出撃、出陣の様相を呈した
御崎海香邸リビングで、かずみは叫んだ。

「私も連れて行ってっ!」
「待て、かずみ………」

割って入ろうとした浅海サキを御崎海香の腕が制する。

「分かった、付いて来て」
「海香!」

海香の返答にサキが叫ぶ。

「相手があの四人ならなまなかな事じゃ収まらない。
留守番が安全だと言う保障も無い。
向こうで説明する事になると思う」
「腹、くくれ、ってか」

海香の言葉に、牧カオルが空笑いした。
508 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:33:23.25 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「これが隠れてたってか?」
「魔法で異界、異次元空間に隠匿していた、そんな所ですか」

あすなろ市内工業団地跡地で、
明石裕奈の魔法制限弾を受けた空間から唐突に表れた建物を見て
佐倉杏子と佐倉愛衣が言葉を交わす。

「確かに」

続いたのは巴マミだった。

「魔女の結界も異次元空間だから、こんな魔法があっても不思議じゃないわね」
「鍵、かかってるね」


唐突に現れた大きな洋館の入口を調べていた裕奈が、
玄関ドアを確認していった。

「お願いします」
「了解」

ドアを確認してそこから下がった愛衣の言葉を受けて、
裕奈がドアに魔法拳銃を向けた。
509 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:35:55.66 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「凄い………」

裕奈の銃撃による魔法のロックが解除され、
建物の中に入ったマミが中の光景に呟いた。

「これ、全部テディ・ベア?」
「可愛い、けどちょっと怖いわ」

膨大と言ってもいいぬいぐるみが
夜の博物館の棚に陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

「明日葉、ですか」

「?」

「Anjelica Bears
この建物の名前として表の壁に書かれていました。
ベアーズは熊達、熊々、アンジェリカは人の名前かとも思いましたが、
元の意味は明日葉と言う日本の植物です。
生命力が強く栄養価も高い、医学的な薬効もありますから、
魔法使いによる研究対象にもなっています」

「なんとなく、アンジェリカってだけでもありそうな名前だけどな」

杏子の言葉に、愛衣は小さく頷いて言葉を続けた。

「前の戦いで熊の使い魔を使っていたのは若葉みらい。
漢字の意味が似ている若葉と明日葉を
当て字にした名前と見るのが自然かと」
「だとしたら、恐らく魔法少女としての願いそのものね」

愛衣の推測にマミが続く。

「建物の規模と隠匿、魔法少女の普通の魔法にしては規模が大き過ぎる。
このテディベア博物館を願いにして契約した、
そう考えるのが自然よ」

マミの推測を聞きながら、
愛衣は静かに片膝をついて床に手を当てていた。
510 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:38:31.81 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「どうしたっ!?」

屋根から屋根へと移動するプレイアデス聖団御一行様。
最終目的地に到着間近と言う時、
偵察ポイントに予定していたビルの屋上で、
先行して棒立ちになった御崎海香に浅海サキが声を掛けた。

「炎の、文字?」

サキの隣で、若葉みらいが呟く。
確かに、アンジェリカ・ベアーズの屋根より少し高い空中に、
炎が浮遊しているのをサキも見て取った。

「アルファベット? アール、イー………
イー、エム………」

宇佐木里美が呟く側で、海香の顔から血の気が引き、
カオルもぐっと前を睨み付けている。

「何語?」

かずみが首を傾げる屋上で、バチッ、と、不穏な響きが伝わる。

「あ、あああああ………
魔法使いいいいいぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!!!」
「サキっ!!!」

==============================

今回はここまでです>>507-1000
続きは折を見て。
511 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:27:08.28 ID:VZJbN5Sj0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>510

ーーーーーーーー

若葉みらいの魔法少女契約で作られたテディベア博物館
「アンジェリカ・ベアーズ」。
その中で、雷の勢いで飛び込んで来た浅海サキが、
佐倉愛衣の魔法箒「オソウジダイスキ」ですぱーんと足を払われ
テディベアが陳列されている壁際の棚へと雷の勢いで体ごと頭突きするのを、
巴マミと佐倉杏子は首を左右に動かしながら大汗を浮かべて眺めていた。

「風花・風障壁」

その間に愛衣は呪文詠唱を終え、雷の勢いで突っ込んで来た浅海サキが、
ダンプカーのカチコミにも耐える魔法障壁に雷の勢いで体当たりし、
自分が崩壊させた棚の穴へと背中から戻っていくのを、
巴マミと佐倉杏子は首を左右に動かしながら大汗を浮かべて眺めていた。

「明石さん」
「お、おう」

ガラリ、と、崩壊した棚から立ち上がり、
両手で猛獣鞭を振り上げたサキに明石裕奈の発砲した魔法制限弾が直撃した。

「なっ!? 変身がっ?」
「紫炎の捕らえ手っ!」

そして、魔法少女への変身が解除されている事に戸惑うサキに、
既に呪文詠唱を終えた愛衣からの捕縛魔法が飛ぶ。
512 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:30:18.09 ID:VZJbN5Sj0

ーーーーーーーー

「な、に、やってんだてめえぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!」

決して弱くはない筈だが、完全に感情に飲まれてる。
そんな浅海サキの有様を大汗浮かべて眺めていたマミと杏子は、
絶叫が聞こえた時には戦闘態勢をとっていた。
だから、殺到する熊の使い魔の群れは、
マミの周囲を包囲回転する大量のマスケット銃と
杏子の豪快な槍使いを前に次々と消滅していく。

「サキいぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!
どけやああああああっっっっっっっっっっ!!!!!」

そして、その熊の大群の向こうから
小柄な体躯と正反対のクレイモアを振り上げて絶叫する
若葉みらいが突撃して来ると、
マミと杏子はさささっと彼女の言う通りにした。

「ああああ………あああああっっっっっ!?!?!?」
「あなたの熊さん達、いいカモフラージュになったわ」

邪魔者ことごとくを一刀両断し、愛するサキを救出する。
脳内リソースをそれ以外に欠片も利用するつもりのなかった若葉みらいは、
足元から噴出した大量のリボンに雁字搦めを通り越して
顔だけ出した繭包みにされてその道行きを強制中断し、
巴マミが胸の下辺りで腕を組んでその理由の一端を告げていた。

「デフレクシオ(風楯)ッ!!」

愛衣が魔法防壁を張り、裕奈も魔法拳銃を発砲して、
博物館に飛び込んで来た光球を回避する。

「サキっ!?」
「酸欠で意識を飛ばしました、一時的なものです。
但し、ソウルジェムはこちらで預かっています」

博物館に飛び込み、声を上げる牧カオルに愛衣はむしろ淡々と答えた。
513 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:33:36.63 ID:VZJbN5Sj0

「メイ、杏子、これはどういう事なのっ!?」

次に叫んだのは、かずみだった。

「改めまして、
関東魔法協会麻帆良学園学園警備魔法使い佐倉愛衣です。
浅海サキさんの身柄はこちらで預かります」
「なっ………」

かずみの後には残りのプレイアデスメンバーも揃っており、
平然と通告する愛衣に、カオルは絶句した。

「それは、随分横暴な話ね」

言ったのは、御崎海香だった。

「横暴かどうかは、彼女に確かめればすぐに分かります。
彼女が口に出さなくても確かめる方法は幾らでもあります。
我々は、魔法使いですから………
(サギタ・マギカ・ウナ・ルークスッ!)」
「きゃっ!」

愛衣がとっさに床に飛び込みながら無詠唱で光の矢を放ち、
その一撃を食らった宇佐木里美がのけぞる。

「里美っ!!」

カオルが叫んだ時には、
里美は横っ飛びした裕奈の魔法制限弾の連射を受け、
跳躍したマミと杏子に取り押さえられていた。
514 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:36:43.59 ID:VZJbN5Sj0

「危なかったぁ、メイちゃん撃ちそうになってた」

「タイプは違いそうですが、同士討ち系の魔法少女には
最近少々痛い目を見せられましたから。
巴さん、こちらは浅海サキ一人で十分です、
こちらが見えない様に拘束しておいて下さい」

「分かったわ」
「おいっ!」

愛衣とマミとのやり取りにカオルが声を荒げた。

「お前達、魔法少女だろ。
魔法使いにこんな事やらせておいていいのかっ!?」

「あなた達から確実な情報を引き出す、
と言う点では私達の利害は一致している」
「魔法少女同士でも随分ドンパチしてたからな。
興味があるのはこっちの身内がどう噛んでるか、それだけだ」

カオルの言葉に、マミが真面目に応じて杏子が鼻で笑う。

「えっと、メイ。サキも里美も、私の大事な友達で………」
「こちらも大切なお友達の安否がかかってる」
「我々としては、サキさんが知っている事を把握したいだけです。
手荒な事はしませんし、する必要もありません」

マミと愛衣が、怖々口を挟むかずみに告げる。

「明石さん、浅海さんを運んで下さい」
「了解、先輩」

愛衣の指示も、それに対する裕奈の返答も手堅いものだった。
515 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:43:44.11 ID:VZJbN5Sj0

「待てって言ってるだろっ!!」
「Shut up!!」

声を荒げて愛衣に迫ろうとしたカオルは、
愛衣の一喝を聞きながら箒の先を向けられていた。

「そもそも、気に食わないんです」
「は?」

ぐっ、と、一歩前に出た愛衣に、
箒を向けられたままのカオルがじりっと一歩下がった。
それを見て、愛衣はどん、と、箒の先で床を叩く。

「人道上、やむを得ないケースもあるのでしょう。
but いい加減な契約で強力な魔法をデタラメに使う。
私にとっては不愉快です」
「この………」
「今更何キレてんの?」

今度こそ愛衣に掴みかかろうとしたカオルの鼻先に槍の穂先が向けられ、
その出所を見たカオルの前で佐倉杏子が鼻で笑っていた。

「だから、私達魔法使いとも不干渉と言う事になったのでしょうね。
街の裏側で魔女を退治しているだけなら
こちらからどうこう言う筋合いでもありませんが、
それで済ませるには、目に余る」
「言ってくれるね、魔法使い」

応じたのは、神那ニコだった。

「しかし、よく無事にここまで入れたモンだね」
「ああ、ここのトラップの事?
なんか随分悪戯好きって感じで色々仕掛けてあったけど、
それはこっちも負けてないからね」

ニコの言葉に、魔法拳銃を振りながら裕奈が答える。
516 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:47:15.93 ID:VZJbN5Sj0

「それで、プレイアデスはどうするの?
交渉決裂なら答えは二つ。
この四人を力ずくで取り押さえてサキを奪還するか、
それともこのまま行かせるか」

ニコが指折りして仲間に迫る。

「一つ目の選択はお勧めしません。
私としても痛い目を見たいとは思いませんし、
既に報告を外部に預けてあります。
私からの連絡が途絶えた時点で、あなた達は麻帆良学園、
否、関東魔法協会の総力で潰されると思って下さい」

「月並み、だけど破るのは難しいカードね」
「それを理解したなら、無駄な抵抗はやめて下さい」

海香の言葉にそう応じて、愛衣は片手で掲げた箒をひゅんと回転させた。
炎を浴びた箒の先を、どん、と、床に叩き付ける。

「浅海サキさんの頭の中を一から十まで強制コピーされるのが嫌なら、
まず、この封印に就いて説明して下さい」

一瞬、博物館の床に広く火線が広がり、
床は複雑な紋様を刻んでぼうと輝き始めた。

==============================

今回はここまでです>>511-1000
続きは折を見て。
517 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:28:22.60 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>516

「私達の魔法なのは分かるけど、かなり複雑な術式ね」

見た目で言えば、趣味のために糸目をつけない現金を丸ごとぶち込んだ
異界の博物館「アンジェリカ・ベアーズ」。
全体に贅沢過ぎるスケール、面積の中に、
更に一つ、二つのテディベアを陳列した清潔なガラスケースが
規則正しく林立する西洋風の高級意匠ホールの中で、
十分な横幅のあるレッドカーペットの通路に現れた魔法陣を見て巴マミが言う。

「コンセプトは空間と転移、そこまではなんとか分かりますが、
だからこそ、これ程の高度な術式、
作った術師の教え抜きに動かすのは危険過ぎる。
その本ですね」

佐倉愛衣が、御崎海香の持つ分厚い本に視線を走らせて言う。

「似た様なものを知っています。
魔法具によって検索した外付けの知識、魔法技術を使って、
本来は非常に緻密で高度、強力な術式を設計し、発動させた。
案内していただきましょうか?」
「分かったわ」
「海香」

難色を示して名を呼ぶ牧カオルに、海香は小さく頷く。

「巴さん、浅海サキさんの拘束を、
案内はこのメンバーでお願いします」
「お前らあっ!!!!!」
「やかましい」

リボンの繭から顔だけ出して絶叫する若葉みらいの鼻先に、
佐倉杏子が槍先をむける。
518 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:31:27.67 ID:0SoCioM80

「若葉みらいさん」

愛衣が、みらいの前にツカツカ近づきながら
生真面目な口調で声を掛ける。

「これは、最大限譲歩した結果です。
争いや危害は好みません、大人しく待っていて下さい」

指先を外側に向けた右掌にバスケットボール大の火球を乗せ、
愛衣は淡々と告げた。

ーーーーーーーー

海香が魔法陣の魔法を発動させ、魔法のエレベーターの様な移動を経て、
恐らく博物館の地下と思われる扉の向こうへと移動し、
佐倉愛衣チーム、巴マミチームは共に凍り付いた表情で立ち尽くした。

「な、んだよ?」

ようやく言葉を発したのは、佐倉杏子だった。
そこは、屋内の親水公園を思わせる、一本の太い通路があり、
その真ん中を水路が通りオブジェが設置された空間だった。
そして、その通路の両サイドには、大量のカプセルが林立している。
液体の入った大量のカプセルの中でどう見ても本物の人間、
十代の少女達が意識を失っていた。

「ソウルジェム、ここにいるのは魔法少女?」

水路の真ん中に設置された
湧き水のオブジェの中に大量のソウルジェムを見つけ、
巴マミが動揺を抑え込んだ口調で言う。

「ソウルジェムを沈めているオブジェの下に魔法陣。
封印の紋様みたいですけど、それだけでは………」

オブジェを調べていた愛衣が呟いた。
519 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:33:15.07 ID:0SoCioM80

「佐倉愛衣さん、明石裕奈さん」

その様子を見ながら、先頭を行く御崎海香が口を開いた。

「何が起きても対処出来る様に、腹積もりをして頂戴」

振り返った海香、カオル、ニコが愛衣達と向き合った。

「覚悟して聞いて欲しい」

そう行った海香が見ていたのは、巴マミの目だった。

「魔法少女は、魔女になる」
「何?」

目が点になったマミの代わりに、杏子が聞き返した。

「ソウルジェムの濁りが限界に達すると、
ソウルジェムはグリーフシードを生み、
魔法少女は、魔女になる」
「何を、言っているの?」

マミが、ぽかんとした口調で尋ねた。

「ソウルジェムの濁りを取るために、
私達魔法少女は魔女を退治してグリーフシード、魔女の卵を回収する。
そこまでは理解出来るわね」
「ええ」

海香の言葉に、マミが応じる。

「じゃあ、その濁りを取らずに限界迄濁ったソウルジェムがどうなるか、
あなた、知っていたかしら?」
「確かに、見た事ないな。
少なくともあたしはそんな非効率的な事はしないし」

マミに代わり、杏子が返答した。
520 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:34:48.94 ID:0SoCioM80

「ご、ごめんなさい、その話、本気で言ってるの?」

「ええ、大真面目よ。
私達は過去、実際に魔女になった魔法少女を見ている」

「その、魔女になった魔法少女、は?」
「退治した。ソウルジェムは魔法少女の本体、命であり魂そのもの。
そのソウルジェムがグリーフシードとなり、
魔女が生まれてしまった後では、もう取返しが付かない。
被害の拡大を防ぐためには、殺すしかない。これが現実よ」

「じゃあ、私達が退治している魔女は」
「使い魔が成長したものでなければ、
私たちすべての魔法少女の末路」

限界を迎えていたのは、海香と問答していたマミの表情だった。

「そん、な。じゃあ、私、美樹、さんに………」

次の瞬間、「レイトウコ」と
プレイアデス聖団が呼ぶこの空間に銃声が響いた。

「なっ!?」

箒を手放し両手を振る愛衣を後目に、裕奈がマミに向けた魔法拳銃が
マミのマスケット銃の銃弾に弾き飛ばされていた。

「!?」

次のマスケットを構えたマミが硬直する。
その射線には、裕奈が両腕を広げて立ちはだかっていた。

「なんだか知らないけど、
この娘達を傷つけるつもりっ!?」
「落ち着けマミっ!!」

裕奈と杏子の叫びを聞き、マミは荒い息を吐きながら銃口を下ろした。
521 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:38:57.60 ID:0SoCioM80

「大丈夫、メイちゃんっ!?」
「ええ、魔法銃に弾かれただけですから。想像以上の威力です」

マミの背後にそっと接近し、マミに「眠りの霧」をキメる直前に
恐慌した表情でマミが振り返り、
マミが発砲した銃口にとっさに魔法の箒を向けていた愛衣が青い顔をして言った。

「マミ、ソウルジェムを出せっ!」
「えっ?」
「いいから早くっ!!」

杏子に気圧される形でマミが従い、
杏子が手持ちのグリーフシードでマミのソウルジェムを浄化する。

「一つ貸しだからな。ここで濁られたら本気でヤバそうだから」
「そ、そう、魔女、魔法少女が魔女になる、って、
改めて聞くけど、本当なの?」
「ええ、本当よ」

改めての質問に、海香が根気よく答える。

「そん、な………キュゥべえ、どうして………」

「奴の正体は宇宙生物、希望が絶望に相転移して魔法少女が魔女になる。
その時に発生するエネルギーを回収して宇宙の延命に役立てている。
取り敢えずキュゥべえ自身はそう説明している。
彼らの発想に善も悪も無い、地球の人間の事なんて
そのための家畜、燃料だとしか思っていない。
嘘だと思うなら、キュゥべえに直接確かめてみるいい」

「あ、の、野郎………」

海香の説明にマミがすとんと座り込み、杏子が呪詛の言葉を吐いた。
522 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:41:03.43 ID:0SoCioM80

「あすなろ市を中心に発生していた少女失踪事件。
これがその真相ですか?」
「相当数はそうでしょうね」

愛衣の質問に海香が答えた。

「理由、教えていただけますか?」
「海香………」

背後から声をかけるかずみに、カオルが小さく頷いた。

==============================

今回はここまでです>>517-1000
続きは折を見て。
523 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:13:39.34 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>622

ーーーーーーーー

<御崎海香の絶望>

以下略

「そうやって、絶望にとらわれ魔女の餌食になりそうになった私達を、
かずみは救ってくれた、命も、心も。
だから、私達も魔法少女となって、
かずみと共に「プレイアデス聖団」を結成した」

「最初は只、みんなで集まって、人に害を為す魔女を退治する、
楽しいパーティーだったよ」

御崎海香の説明に牧カオルが付け加え、巴マミが視線を落とす。

「だけど、飛鳥ユウリの魔女化によって私達は魔法少女の真実を知り、
魔法少女と言うシステムとの戦い、そして破戒を決意した」
「じゃあ、ユウリは………」

杏子の言葉に、説明していた海香は目を閉じて頷いた。

「ちょっと待て、かずみの記憶の事は?
こいつは………」
「かずみはかずみよ」

杏子の言葉を遮る様に海香が言った。
524 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:18:11.32 ID:0SoCioM80

「魔法少女の真実を知り、色々異常な状態で魔女との戦いが続いた。
そんな中で、かずみは一時行方不明になり、
医学的なものとも魔術的なものとも判然とせずに記憶を失って戻って来た。

佐倉杏子さん、あなたの言いたい事は分かる。
だけど、彼女の頭に記憶を完全に戻そうとすると、
現実問題として拒否反応が起きてかずみを苦しめる事になってる。

だから、彼女が受け入れている「かずみ」の名前と共に
今は無理のない生活を模索している段階。
その事を理解して欲しい」

海香がカオルと共に頭を下げ、杏子はそっぽを向いた。

「海香、カオル………」
「ええ、だから、今は無理をしなくていいの」
「そうだ、かずみには私達がついてる、
少しずつ思い出していけばいい」

不安を隠せないかずみに、海香とカオルが言った。

「彼女達は皆、魔法少女なんですか?」

改めて、周囲を見回した愛衣の問いに、海香が頷く。
その背景で、カオルが通路の奥にある巨大な円柱にすとんと着地していた。

「そうよ、だから私達は魔法少女狩り、とも呼ばれている」
「何、だよそれ………」

海香の言葉に、口角を上げた杏子の足がじりっと下がる。

「全部濁ってるのは偶然じゃないよね?」

水の中のソウルジェムをすくい、かずみが言った。
525 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:21:02.23 ID:0SoCioM80

「この魔法陣は、ソウルジェムと肉体を分断し、
休止させるためのもの」
「これ以上ジェムが黒くならないように?」
「そう、そして魔女化しないために、
彼女たちが人間であり続けるために」
「それだけじゃない」

かずみと海香のやり取りを、円柱の上に座ったカオルが続ける。

「ジェムを完全に浄化し、彼女たちを人間に戻す方法を見つける。
その日まで自分たちで戦い続ける。そう決めたんだ。
それがあたし達の、『魔法少女システム』に対する『否定』ってヤツさ」
「それじゃあ、あたし達の事も?」

快活なスポーツ少女の印象を離れた、物憂げですらあるカオルの言葉に、
問いかける杏子の手は僅かに強く槍を握る。

「ええ、本当であればこの中に加えたい。
だけど、魔法少女の中でも有力者で知られるあなた方が
魔法少女の真実を知った今、
敢えてそれをやる優先順位は低くなった」

「そりゃどうも」

海香の返答に、杏子が笑みに殺気を込めて答える。

「その方法が見つかる迄、こうやって眠り続けてる、って。
そうしないと魔女になる、から………」

少女達が液体に沈むカプセルを見回しながら、
裕奈は自分の言葉を頭の中で反芻する。

「Sleeping Beauty」
「Yes その時迄、王子様のキスを待って眠り続ける」

愛衣の呟きに、神那ニコが答えた。
526 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:24:43.74 ID:0SoCioM80

「だけど、王子様なんて待ってられない」

カオルが続けて言った。

「だから、私達はあらゆる手段でその方策を探し続けた。
この本でも足りなかった。
だから、魔法使いの知恵も借りようとした。
そちらの、麻帆良学園の図書館島にも侵入してね。
微かな情報から魔法使いの情報を少しずつ集めて、
図書館島なら役に立つ情報があるのではないかって」

海香がカオルの言葉に続いた。

「お役に立てましたか?」

「今の所は何とも言えない。
確かに、図書館島の奥地は私達にとっても危険過ぎる場所。
それでも少しずつ、
そちらの監視を掻い潜りながらの探索を続けていたけど、
何か強力な魔法の発動を察知して、
危険過ぎると言う事で撤退した、それっきりよ」

愛衣の問いに海香が答える。

「じゃあ、鹿目さん達、ゲートが起動した事は知らない、
そう言いたいの?」

「よく分からないけど、私達は図書館島で本を探していただけ。
それ以上の事は知らないわ。
魔法使いと関わる事も、思い当たるのはそれだけね。
そちらの秘密の文献に勝手に接触しようとしたのは
そちらにとっては不都合だったと、それは認める」

マミに対する海香の返答を聞き、
愛衣はすー、はー、と深呼吸した。
527 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:27:21.13 ID:0SoCioM80

「分かりました」
「え?」

愛衣の返答に、カオルが思わず声を上げた。

「前から申し上げていますが、元々魔法使いと魔法少女は不干渉です。
魔法少女同士の事であれば、我々が敢えて介入する事はありません。
図書館島を勝手に使われては困りますから、
その点は上に報告してしかるべく対処する事になると思いますが、
率直に言って、管轄違いの面倒事に巻き込まれるのは御免です。
後はそちらで片を付けて下さい」

「佐倉さ、メイさん?」
「お、おう」

言いかけたマミにちらっと視線を走らせ、杏子が頷いた。

「あんたらのご大層な志は分かったよ。
けど、風見野と見滝原には手を出すな。
少なくともあたしは、魔女なんかにならない様な上手くやる。
見滝原の魔法少女に手を出したら、
百戦錬磨の大ヴェテラン巴マミ先輩に踏み潰されるぞ」

「え?」
「なあ」

「え、ええ、そうね。理屈は分からないでもない。
だから、あすなろ市での事は敢えて口出ししない。
だけど、見滝原に、特に私の後輩達に手を出すと言うのなら、
黙って見ている訳にはいかないわ」

杏子から唐突に名前を出され、
戸惑いを見せていたマミも通告しながらペースを取り戻した様だった。
528 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:35:49.22 ID:0SoCioM80

「先程は言葉が過ぎました、ごめんなさい」
「いや、いいよ。こっちも色々まずい事はあったんだし」

円柱から大ジャンプして着地したカオルに愛衣が頭を下げ、
カオルは手を上下させてとりなす。
そのカオルの手が、バスケットボールを受け取った。
そこに書かれた、
「Yuna 2on2」の文字にカオルが顔を綻ばせる。

「時間があったら、赤外線でアドレスでもしたかったんだけどね」
「これ以上の深入りはお互いのためになりませんので」
「そうね、面倒をかけて悪かったわ」

裕奈と愛衣の言葉に、海香が応じた。

「大丈夫、かずみ?」

海香が、俯くかずみに声を掛ける。

「うん………魔法少女狩りはユウリのことがあったからなんだね?」

海香に肩を掴まれながらかずみが言い、
そんな二人に愛衣が一瞬鋭い視線を走らせる。

「………みんな疲れてる」

口を挟んだのは、オブジェの上のカオルだった。

「今日は、お開きに出来ないか?」
「見た所、そちらの御崎さん、神那さんがいれば
上のメンバーを縛っているリボンの拘束は解除出来そうですけど、
どうでしょうか?」
「Yes なんとかなると思うよ」

愛衣の言葉に、ニコが応じた。

「それでは、元の場所に戻って、そこで解散と言う事で」
529 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:41:54.79 ID:0SoCioM80

ーーーーーーーー

「巴さん」

「アンジェリカ・ベアーズ」を出た後の夜のあすなろ市内の路上で、
愛衣がマミに声をかける。マミの顔色は未だ良くない。

「大丈夫、ではないと思いますが」
「ええ、今でも吐き気がする。
だけど、ずっと知らないよりはマシ。お礼を言わないと。
それに、銃を向けたお詫びも」
「いえ、部外者が立ち入った事を。
それに、勝手に魔法をかけようとしたのはこちらですから」

マミと愛衣が互いに頭を下げる。

「頼むぜ」

口を挟んだのは杏子だった。

「見滝原の方は、
取り敢えずマミ先輩があいつらへの重石、って事になってんだ」
「ええ、有難う。そう仕向けてくれて」

にこっと笑うマミに、杏子はそっぽを向く。

「もういいわ。どっちにしろ、私には選択の余地なんてなかったんだし」
「?」

んーっと腕を伸ばすマミを、愛衣達は見ていた。

「小さな頃に、両親と一緒の車で交通事故に遭って、
子どもでも自分は死ぬんだってそう思った」
「それが、魔法少女契約の理由ですか」
「そう。本当なら家族みんなが助かる事を願うべきだったんだけどね。
それも、今更言っても仕方がない事よ」
「………死にそうになって命が助かる事を願う。
単純すぎてその善悪を考える事すら馬鹿げています」
「うん、他に言い様がない」

辛い微笑みを作るマミに愛衣が告げ、裕奈も素直に従う。
530 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:44:58.06 ID:0SoCioM80

「私達は部外者です。只、さっき相対してはっきり分かりました。
巴さんは常時魔女と戦う世界を、一生懸命生きて生き抜いて来た人だって」
「私なんて二回銃口向けられてるからね。当然分かるよ」
「そうじゃなきゃ、魔法少女なんて何年もやってらんねぇよ」
「じゃあ、そうして下さい」

杏子の言葉に、愛衣が言う。

「全てが上手くいかないなら、限りある生命で最もマシな選択を。
部外者としては他に言うべき事もありません」
「私は好きだけどね、マミさん達の事。
片が付いて気が向いたら又遊びに来てよ」

「そうさせてもらうわ」
「このかお嬢にもよろしくな」

「それでは、
私達はこれから少し報告のための打ち合わせがありますので」
「へーへー、こっからは魔法使いのお仕事ですか」
「すいませんがそういう事になります」

「鹿目さん達の事は結局振り出し」

杏子と愛衣のやり取りにマミが口を挟む。

「はい、この後の状況次第ですが、
私達も用事を済ませてなるべく早くこちらから連絡します」
「分かった。あくまで鹿目さんの安否が優先だから」
「それでは」

マミと愛衣の合意が成立し、魔法使いと魔法少女が左右の道に分かれた。
531 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:49:13.35 ID:0SoCioM80

ーーーーーーーー

「!?」

魔法少女と別れて少し進んだ所で、裕奈は後ろから愛衣に飛び付く。
愛衣は、脱力で脚が一度に崩れていた。

「す、すいません」
「大丈夫じゃないって、それ、メイちゃんの事だよねっ?」
「は、はい」

荒い息を吐きながら立ち上がろうとした愛衣が、
向きを変えて裕奈に抱き着いた。

「(めっちゃ震えてるんだけど)
あの、大丈夫じゃないって、熱とかある?」
「いえ、それは大丈夫、だと思います。
只、今になって、凄く、怖く、すいません」

切れ切れに言いながら俯く愛衣を、裕奈がぎゅっと抱き締めた。

「いいよ、あの場にいたら怖くて当たり前だよね。
私だって怖かったし、それに、
メイちゃんが矢面に立って、頭いいから余計にね」

愛衣が小さく頷き、ゆっくり呼吸を整えた。
そして、二人は近くに屋根つきのバス停ベンチを見つけ、腰かける。

「あ、すいません」
「ああ、いいよそのままで。お疲れ様」

裕奈に言われ、裕奈の隣に座った愛衣は
裕奈の腕に自分の体重を預け続ける。
532 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:52:30.24 ID:0SoCioM80

「ごめんなさい、あの、有難うございます。
私は言わば正統派の魔法使いの見習い、それだけです。
実戦慣れ、殺し合いをして来た未知の存在である魔法少女の集団相手に、
明石さんがいてくれたから辛うじて踏ん張れた」

「有難う。メイちゃん凄く格好良かった。
それで、凄く無理してた。
魔法少女相手に魔法協会、魔法使いを背負ってさ」

「明石さんが背中を守ってくれたから、
あの夏、あの世界を救う只中にいた3Aメンバーの明石さんが」

「それは、メイちゃんも同じでしょう。
あの時の事改めて確認したけど、高音さん達、
危険な現場に踏み止まって命懸けで戦い抜いた、メイちゃんも一緒に。
あの夏も、今回も、魔法協会、魔法使いとして
譲れないものがあるってみんなの背中に教えてもらってる」

「後輩に、余り格好悪い所は見せられないですから」
「そうだね。だから、メイちゃん、佐倉先輩が上に行く時には、
私は下から支えられる様に頑張るから」
「とても期待してます」
「あ、はは、参ったな」

苦笑いする裕奈の横で、愛衣は座り直し、んーっと伸びをする。
533 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:54:32.41 ID:0SoCioM80

「大丈夫?」
「はい。私の背中、明石さんが守ってくれるんでしょう?」
「うん」

裕奈の返事と共に、愛衣は立ち上がった。

「それじゃあ、余り時間がありません」
「そうだね」

裕奈が立ち上がった。

「それでは、もう一仕事、済ませましょう」
「OK Boss」

==============================

今回はここまでです>>523-1000
続きは折を見て。
534 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:17:14.48 ID:kTOh43GI0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>533

ーーーーーーーー

「楽しんでいただけましたか?」

魔法世界、メガロメセンブリアの高級ホテルのホールで、
照明が復帰する中でゲーデル総督が鹿目まどかに声をかけた。

「は、はい」

まどかは、ようやく気が付いたと言う状態でゲーデルの問いかけに応じる。

「それでは、ゲートの、旧世界への帰還の準備を行います。
準備中はこちらで部屋を用意しました。
何日もかかると言う事にはならないと思いますが、
刹那と共に寛いで待っていて下さい。
今なら個室風呂も使えますが、いかがですか?」

「えーと………」
「到着まで割と長かったですし、
折角ですからいただきましょう」
「はい」

ちらっとまどかが視線を送った桜咲刹那が素直に応じ、
まどかもそれに従った。
535 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:20:19.88 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「ウェヒヒヒ………」

うつ伏せに岩盤浴をしながら変な笑いが漏れる辺り、
疲れているのだな、と、まどかは自覚する。
案内された個室風呂はちょっとした銭湯とでも言うべき規模で、
こうして岩盤浴もオプションについていた。
取り敢えず、色々あり過ぎたが大きな怪我も無く無事帰る事が出来そうだ、
と分かって少しほっとする。
そして、隣の刹那に視線を向ける。

(………ほむらちゃんに似てる?)

まどかの知る刹那は、優しい先輩だった。
一見凛々しい女侍だが、まどかにはしばしば優しく微笑みかけて、
何故か矢鱈と危ない事に巻き込まれるまどかを安心させてくれた。
そんな刹那が、静かにその身を休めている。
端正で、クールな横顔が、時間で言えば
ごく最近まどかのクラスに転入して来た転校生を連想させる。

「そろそろですね」
「はい」

砂時計を見て、二人は身を起こした。
536 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:24:59.81 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「ウェヒッ!」

さっと掛け湯の後の水風呂に、
まどかは声を上げながら身を震わせる心地よい落差を堪能する。
刹那も、悪い汗を搾り取った後のその身を心地よく冷やして、
水風呂を上がる所だった。

(色、白い。京都の人だからかな?)

その刹那の後を追いながら、まどかは心の中で呟く。

最近温泉を共にした近衛木乃香もそうだったが、
こうして見ると刹那も如何にも肌理の細かそうな、
絹の様に色白な肌をしていた。

グラマーと言うタイプではない、
年齢的にはむしろ小柄で、普段着では華奢にも見える刹那であるが、
それを言うならまどかも同様である上に刹那の方が一つ年上である。

そんなまどかから見た刹那は、
全体に引き締まって均整の取れた如何にも凛々しい女剣士。
それでいて、客観的にも最近ぐっと女っぽくもなった、
そんな優しく魅力的な先輩だった。

「凄かったんですね」

ちょっとした銭湯程もある個室風呂の主浴槽で、
熱めの湯に浸かりながらまどかが言った。
537 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:27:27.81 ID:kTOh43GI0

「さっきの映画で刹那さん達、
あんな風に、ネギ先生達と一緒に
この夏休みにこの魔法世界を本当に救ってたって」
「実際、否定する程間違っていない内容だったとは言え、
ああして劇的に作られると少々照れますね」
「ウェヒヒヒ」

まどかの隣で刹那が言い、双方苦笑いを交わす。

「この魔法世界に来てから、なんか随分色々VIP待遇だと思ったら」

「まあ、大半はこれが理由ですね。
鹿目さんを巻き込んでしまった状況では本当にありがたい事です。
色々助かりました」
「本当に、こっちの世界に来て刹那さんが一緒じゃなかったらって、
今考えるとぞっとします」

「まあ、ある程度知識があれば本来はそれ程怖い場所でもないんですが、
本来、魔法に関わる人間しか来る事の出来ない場所ですので」

「そう、ですね。色々あったけど、
いい人達にも会えたって、そう思います」
「ええ、そういう事です。
それは我々が普段暮らしている世界と変わりません」
538 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:30:35.28 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「サキ、サキっ」
「ん、んー………」

目を開いた浅海サキは、早速に若葉みらいに抱き着かれていた。
頭の回転を取り戻し、周囲を確認する。
身近にいるのは若葉みらい、宇佐木里美、神那ニコ、
馴染みのある面々だが、どうも足りない。
場所は、これ又馴染みのある「アンジェリカ・ベアーズ」の一角。
そう、あの魔法使いにやられた辺り

「魔法使いっ!!」
「ちちちちょっと待って、サキ、体の調子はっ?」
「大丈夫だっ!」

ぐわっと立ち上がろうとしたサキにみらいが叫び、
サキが怒鳴り返した。

「かずみはっ!?」
「海香とカオルが連れて帰った、色々あって疲れてたからね」
「じゃあ魔法使いはどうしたっ!?」
「帰ったみたいだよ、どうやら話が付いたからね」
「は?」

ニコの返答を、サキはぽかんと聞いていた。
539 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:32:45.61 ID:kTOh43GI0

「彼女達には「レイトウコ」を見せた、

基本的な事はバレてたからね。
それで、魔法少女が魔女になる事、魔女化を防ぐために、
完全な解決が出来る迄魔法少女狩りを行っている事を説明したら、
魔法使いは納得して帰って行ったよ。

これ以上危ない事には関わりたくない、
魔法少女だけの事なら魔法使いの管轄外だから勝手にしろってね。
図書館島の事だけ、これから厳しくなりそうだけど。
魔法少女の巴マミと佐倉杏子も、
縄張りの見滝原、風見野にさえ手を出さなければこれ以上口出しはしないって」

「なんだよ、人騒がせな………」

ほっと脱力しそうになったみらいが、ぎりっ、と不穏な音を聞いた。

「冗談、じゃない」
「えっ?」

サキの言葉に、みらいが聞き返した。

「あの、火文字の意味が分からないとでも言うのかっ!?
海香、カオルは何処にいるっ!?
かずみ、かずみを守らないとッ!!」

ニコは、狼狽そのものに言葉を吐き出し続けるサキと
ひんやり暗い眼光のみらいの姿を腕組みして見極めていた。
540 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:34:42.36 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

あすなろ市内のスーパー銭湯、
閉店時間が比較的遅いその施設のシャワーコーナーで、
佐倉愛衣と明石裕奈はシャワーを浴びていた。
二人がさっぱりとして振り返った所で、
タオル一本下げた御崎海香、牧カオルと遭遇する。

「来てくれたんだね」
「赤外線用のインクで書き込まれたアドレスと時刻。
それに付き合わざるを得ない理由もあったから」

裕奈の言葉に、頷くカオルの隣で海香が言った。
そこで、シャワーを離れた四人は、
まずは互いの持ち物を確認する。
タオルの他は、パクティオーカードまたはソウルジェムだけ。
取り敢えず、相手の戦闘開始には対応出来る事を双方確認する。

「それじゃあ、次の即売会向けの企画、聞かせてもらおっか」

浴室内の混雑は既にピークを大幅に過ぎていたが、
裕奈がチラと周囲に視線を走らせて言い、一同が小さく頷いた。

ーーーーーーーー

「取り敢えず、先程の博物館で私達とは決着した、
とは思っていないですよね?」

丁度無人だったサウナに愛衣、海香等四人が移動し、愛衣が口火を切った。

「佐倉さん、私の見る限り、
魔法少女の真実に対してあなたはかなり冷静だった。
知っていたの?」
「直接は知りません」

海香の問いに、愛衣が答える。
541 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:37:54.07 ID:kTOh43GI0

「見当は付きました」
「魔法少女が魔女になるって?」
「ですから、直接は知らなくても、
十分考えられる事態であると」

カオルの問いに、愛衣は答える。

「やっぱり、落ち着いてるな」
「それが、魔法の歴史ですから」

カオルの言葉に、愛衣は落ち着いた口調で続ける。

「魔法使いにはどう見えるのか、
忌憚のない所を聞かせてもらえるかしら?」

海香が尋ねた。

「私個人の意見で、魔法協会を代表するものではありませんが」
「聞かせて」

重ねて問うカオルに、愛衣は頷いた。
542 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:47:11.55 ID:kTOh43GI0

「メフィストフェレス」

愛衣の第一声に、海香は薄い笑みを浮かべる。

「キュゥべえが何者であれ、魔法少女の様な契約は悪魔の契約。
立場、経験上、私達はその事に現実感、リアリティを持っています」

「後からよく考えたらそうかも知れないけど、
事前に知らないで今迄の常識と言うか科学を
目の前で否定されたら引っかかるかもね」

「それで、見た目と声が反則ってのがね」

愛衣の言葉に裕奈が腕組みして言い、カオルが付け加えた。

「その様な都合のいい、絶対的な程の奇跡を売り歩く者がいたら、
間違いなく途方もない代償を支払う事になる。
まず、途方もない欲望を満たす術がある事はある、
但し、その契約は基本、身を滅ぼす。
稀代の術師であっても、捻じ曲げられ何倍もの力で戻って来る
条理の反動をまず避けられない、と言う事を前提にそう考えます。
情において忍びない事は多いと思います。
それでも、契約をして報酬を得ながらその代償を踏み倒そうとする事自体、
限界の中で少しずつでも進もうとする立場からは
随分と虫のいい話にも見えます」

「理屈、通りね」

「その様な契約が通常になった魔法少女の世界と
私達の世界がいつしか不干渉になったのも、
そのリスクと、それでも引き付けられる人の心に
直面し続けて来た結果なのかも知れない。
私は人の手で、少しでもよりよい事をしようと、
そのために、私は勉強を、修行を重ねて来ました」

「日本だけではないわね。
アメリカにもそうした所が?」
「あちらの魔法学校にも留学した事があります」
「あるんだ」

愛衣の返答に、カオルが愛衣を見直す。
543 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:50:21.88 ID:kTOh43GI0

「そ、この娘、メイちゃん、私よりも年下だけど魔法使いの先輩で、
魔法協会のエリート候補生だから
あんまり甘くみない方がいいよ」
「本当に頭の悪い相手よりは話が通じるのは助かる、
例え敵になったとしても」

裕奈の言葉に、海香は静かな微笑みと共に答えた。

「私達が学んで来たのは、先人達の失敗の歴史です。
欲望に溺れ力を欲し、一時の契約でその身を滅ぼした者、
耐えられない悲しみ、喪失感を諦める事が出来ず、諦めきれずに、
喪ったものを条理を超えて取り戻そうと足掻き続けた人達。
そこから、僅かな勇気を僅かにでも形にする事を学んで来た」

愛衣は、横に座る海香、斜め上に座るカオルを見据えた。
そして、愛衣は口を開く。






Rewrite emeth to meth






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今回はここまでです>>534-1000
続きは折を見て。
544 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:21:25.94 ID:Ruj68JQ50
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>543

ーーーーーーーー

「タツヤくんお久しぶりー」
「こんにちはー」

その日の日暮れ後、鹿目家の玄関で、
腰をかがめた早乙女和子が鹿目タツヤに笑顔を向けていた。

「大きくなったねー」
「いつぶりだっけ? あっと言う間だなー」

タツヤの母親、鹿目詢子が腰に手を当ててカラカラ笑う。

ーーーーーーーー

「ごちそうさまー」
「ご馳走様でした」

あすなろ市内のビストロ「レパ・マチュカ」で、
同席した鹿目タツヤと早乙女和子がほぼ同時に挨拶をする。
三人とも評判のいいハッシュドビーフにアイスクリームも付けての食事だったが、
子ども向けにも作ってくれた料理にタツヤもご満悦だった。

ーーーーーーーー

「私まで悪いわねー」

詢子の運転する車内で、
時折チャイルドシートのタツヤとお話しながら和子が言った。

「知久は昔の友達と珍しく呑みで、まどかは学校公認の受験合宿だからな」
「ええ、色々あって予備校との合同企画のサンプル抽選に当たったから」
「仕事でもらったあすなろの地域クーポン、そろそろ有効期限なもんで」
「で、最後に一杯ひっかけて運転は私と」
545 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:23:44.54 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「おいおい、危ないぞ」

あすなろ市内のスーパー銭湯の脱衣所で、
脱衣も途中でたたたっと駆け出したタツヤに詢子が言う。
詢子が慌ててスカートをすっぽ抜いた時には、
タツヤはすてーんと床に伸びていた。

「うー」
「大丈夫?」

タツヤが顔を上げると、しゃがみこんだ千歳ゆまが覗き込んでいた。

「ほらほら、お姉ちゃんに笑われるぞ」
「うー」
「よしよし」

頭上に詢子の言葉を聞き流し、
唸りながら立ち上がったタツヤの頭をゆまが撫で撫でする。

「お友達かい?」
「うん」

そんなゆまに祖母が声をかけ、
ゆまはにぱっと笑って返事した。
546 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:27:31.35 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「Rewite emeth to meth」

スーパー銭湯の浴室で、詢子達が一風呂浴びてサウナに入ると、
丁度、四人の先客が何やら話し込んでいる所だった。

四人組は、詢子がドアを開けると、ちらとそちらを見てめいめい立ち上がる。
取り敢えず、娘のまどかと同年代かと、鹿目詢子は最初にそれを思う。

4人の少女達は詢子達とすれ違う様にサウナを後にするが、
恐らく2on2のチーム。
何処かぴりっとした緊張感を詢子は嗅ぎ取るが、
取り敢えず見た目はカタギの少女達で、
今の詢子には関わりのない事でもあった。

「ん?」

そして、サウナに入った詢子が来た道に目を向けると、
千歳ゆまがベンチによじ登っている所だった。

「おい………」

次の瞬間、詢子は、火のついた様な泣き声を聞いた。

「おいっ!」

そして、大声と共に頭を抱えて床にしゃがみこんだゆまに
詢子と和子が駆け寄る。

「どうしたっ!?」
「熱い、熱いっ」
「熱いっ? 何処が?」
「お手手」

ゆまは、すすり泣きながら右手をぶらんと差し出す。
547 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:29:23.18 ID:Ruj68JQ50

「んー、火傷はしてないな、
熱いの触ってびっくりしたか?」
「うん」
「よしよし、熱い所あるから気を付けろよー」
「よしよし」

タツヤがゆまを撫で撫でするのを見て、
詢子がくくっと笑いを噛み殺す。
それを見て、ゆまもにこっと笑みを見せた。

「おばあちゃんは………」
「ゆまちゃん」

ドアが開き、ゆまの祖母が入って来る。

「ああ、いたいた、ゆまちゃん」
「ああ、すいません。タツヤにくっついて来たみたいで」

ゆまの祖母と詢子がぺこりと頭を下げる。

「さ、一緒にお風呂入ろうね」

祖母が言うが、ゆまは首を横に振る。

「サウナ入りたいのかい?」
「うん」

「困ったねぇ、一緒に入りたいけどお婆ちゃん血圧がねぇ」

「ちょっとだけここで預かりましょうか?
この娘、意外と頑固でしょう。すぐに連れて行きますので」
「そうですか、すいません。
ゆまちゃん、こっちのお母さんの言う事聞くんだよ」
「うん」

「よーし、じゃあ、タオルの上にゆっくり座るの。
木の所は熱くないからなー。
ちょっとでも気持ち悪くなったらすぐ言うんだぞ」
「うん」
548 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:31:52.46 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「っつぅー………」

サウナと掛け湯で芯迄火照った佐倉愛衣の全身に、
水風呂の冷たさが突き抜ける。

「………………!?!?!?」
「にゃははー、脳味噌筋肉の割には結構脂肪分詰まってるねー」

ぶるりと身を縮めてその落差の心地よさに浸る愛衣に、
背後からそーっと接近していた牧カオルに背後から抱き着き、
両掌を前に回した明石裕奈がカオルの耳元で笑っていた。

「誰がだよっ!? 大体、それを言うなら、
あたしの背中に当たってるその凶暴な弾力はなんだっ!?」
「バスケットボールかにゃー?」
「それで、どんだけ揺らしてダンクしてんだっての」
「そーなの、最近運動のジャマでー」

「呪殺するぞ即席ホルスタインっ!
うらうらハンドリングハンドリングハンドリングーッ!」
「ハンドリングのハンドだっ、反則だにゃー」

「こほん。お子様の躾と言うか、
お子様以下の事は少し控えては?」
「すいませんすいませんすいません」

一足先に水風呂を上がった御崎海香が腕組みして二人を見下ろし、
その側で愛衣がぺこぺこ頭を下げるのを、
詢子が苦笑いして手を上下させる。
549 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:34:14.22 ID:Ruj68JQ50

「よいしょっと、君達きょうだいかなー?」

水風呂を上がった裕奈が、横並びに立つタツヤとゆまに声を掛け、
ゆまが首を横に振る。

「へえー、じゃあカップルかにゃー。
いい、ああ言う大人になったら駄目だからねー」
「一人でなーに言ってんだゴラアッ!!」

裕奈の背後から怒号が響き、
体を前に倒し、二人に視線を合わせていた裕奈を
指をくわえたタツヤがじーっと見ていた。

「いーい、こうやってやるだけやって
バックれる様な大人にだけはなっちゃ駄目だからなー。
で、君、サッカーやるの?」
「さっかーさっかー」
「おー、ボールは友達」
「ともだちー」
「よしよし」

しゃがみこんでタツヤの頭を撫でるカオルを、
ゆまがじーっと見ていた。

「ふふーん、年下の男の子を上手く手懐けるにゃー」
「人聞きが悪いっ、大体、アンタがふざけた事言うからだろうが」

「人のせいにするのー? やだねーこういうお姉ちゃん。
今度一緒にバスケしようか」
「何言ってんだあんたはっ!?!?!?
よーし、いい加減決着を………」
「望む所だにゃ………」

「………反省」
「して下さい………」
「「すいませんでした」」

燃え上がる炎とゴゴゴゴゴゴゴゴと言う効果音と
黒目の消えた両目をイメージ映像に、
腕組みしてV字の横並びに立つ海香と愛衣を前に、
裕奈とカオルは深々と頭を下げる。
550 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:36:08.87 ID:Ruj68JQ50

「まあ、友達困らせるのも程々にしとけよ、
やんちゃとセクハラも、って言うか今はセクハラとか普通に駄目だから」
「ほんとーにすいませんでした」

腕組みする海香に睨まれ、タツヤとゆまにじーっと見られながら
裕奈とカオルは体を折って深々と頭を下げ続け、
手をパタパタ上下させて苦笑いする詢子に愛衣ももう一度頭を下げる。

「ほら、行くぞタツヤ」
「ゆまちゃんも、お婆ちゃんの所に行こうか」
「「はーい」」
(お姉さん、じゃないよね………)

和子と談笑しつつ子どもを連れて行く詢子を見送りながら、
愛衣は心の中で呟く。
どうも母親の友人らしい女性も年相応に落ち着いた美人の部類に入るが、
あの母親は、もしかしたら元はいわゆるヤンママ、なのかも知れない。
子連れにしては若々しくスタイルのいい、溌溂とした美人だと、
愛衣は理屈に直せばそんな事を考えて、若輩ながら感心する。

ーーーーーーーー

「言っておきますが」

浴場を歩きながら一度とんとん肩を叩き、
はあっと息を吐いた愛衣が口を開く。

「さっきも言った筈ですが、もしここで私に何かがあれば、
確定的に困った事になるのはあなた達の方ですので」
「う、うん、まあ、
ちょっとした気の迷いって言うか、すいませんでした」

愛衣の言葉に、カオルは後頭部を掻いて笑って謝る。
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