見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)

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486 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 02:43:13.86 ID:nTewOq/m0

「アプリの再インストールはどう?」

「取り敢えず、全員のスマホを預かって点検してるけど、
あれだけのサイバー攻撃だ。
こっちの安全確認と相手のタイプからのセキュリティー設定をやらないと
危なくて使い物にならない。もう少し時間をくれ」

海香の問いに神那ニコが答えた。

「只のサイバー攻撃じゃないんだよな」

「辛うじて痕跡を見つけた、
微かに「魔法があった」と言う事だけが分かる微量の痕跡がね。
間違いない、敵は魔法を使う。
十中八九魔法使い、それも科学的見地から見て極めて高度なハイテク魔法。
こんなハイテク魔法使いがいるって、
時代は変わるモンだね。くわばらくわばら」

ニコの答えに、カオルは天を仰いだ。

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今回はここまでです>>482-1000
続きは折を見て。
487 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:51:17.29 ID:nTewOq/m0
それでは今回の投下、入ります。

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>>486

 ×     ×

「いやぁー、何度見ても、この件はいいですねぇ」
「ウェ、ヒ、ヒヒヒ………」

臆面もなく大泣きしているおっさんを隣に見て、
鹿目まどかは大汗と共に乾いた笑い声を漏らしていた。
だが、それも無理のない事である事も、まどかは理解していた。

魔法世界メガロメセンブリアの高級ホテルの高級会議室で、
美味しい和風ランチをいただいてから唐突に三部作の映画の鑑賞が始まり、
今、第二部が終わった所。

この魔法世界の歴史を描いたスペクタクル超大作映画は、
笑いあり涙あり手に汗握り感涙にむせぶ、
まどかが映画として観て素直に面白いものだった。
本当はとても三部作の、それもこの鑑賞時間では済まないものを
徹底厳選編集して、それでも結構な長さだったがここまで決して飽きさせない。

そして、まどかの隣で映画を鑑賞しているこの魔法世界の偉い人、
メガロメセンブリア元老院議員にしてオスティア総督であるクルト・ゲーデル。
物腰柔らかな紳士にして何処か油断ならない曲者。

これだけ偉いんだからそうなのだろうとまどかにも分かる人物であるが、
この涙に嘘はないのだろうと言う事も分かる。
取り敢えず、彼自身が映画の中の登場人物の一人として
描かれたあの体験をしているのだから。

「あ、あの、刹那さん」

第三部が始まる前の休憩時間、まどかは、
ここまで同行して来た桜咲刹那に声を掛けた。
488 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:54:19.02 ID:nTewOq/m0

「はい」
「あの、あの映画に出て来た
ナギ・スプリングフィールド、って、
もしかしてネギ先生の………」
「はい、お父君です」

刹那があっさり返答し、まどかは目をぱちくりさせた。
魔法少女に魔法使いと関わって来て
現在地が魔法世界であるまどかであるが、
その状況に頭が完全について来ている、とは言い難い。
只、名字と顔立ちが余りにもあからさまだったものを質問した結果がこうだ。

「えっ、と、これ、本当のこの世界の歴史、なんですか?」
「ええ、当時の事を忠実に再現しました」

鼻をかみ終えた議員先生の提督閣下がソフトに返答する。
だとすると、刹那達の担任教師だと言うネギ・スプリングフィールドは
とんでもない人物、掛け値なしの英雄の息子だと言う事になる。

「それじゃあ、ネギ先生のお母さん、って………」
「それは、今私達が答える事は出来ません」

刹那の穏やかな言葉に、まどかは自分の不躾を反省する。
そして、この映画と今迄の体験から、もう一つ、
何か引っかかるものが喉迄出かかっていた。

「では、そろそろ最終章の上映を」

ゲーデルが言い、まどかは椅子に座り直した。

「本邦初公開。何しろ、今年の夏の出来事なのですから」
489 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:56:05.42 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「無事でしたか」
「お互いにな」

明石裕奈と共に見滝原市の通称マミルームを訪れた佐倉愛衣に、
部屋で待っていた佐倉杏子が応じた。

前日、あすなろ市の漫画喫茶からなんとか脱出して、
翌日、マミは普通に学校に、杏子はこの部屋で留守番をしていた。

一般的な魔法少女の性質上、後の面倒を考えても
登下校や学校に殴り込む事迄はしないだろう。
常識的な多人数の中にいた方がいいと言う判断の結果で、
マミは学校、実質的な所在不明女子の杏子は
マミが事前の合言葉で連絡する迄は絶対に部屋を開けない。
それは裕奈、愛衣も同様の判断で半日を過ごしていた。

「始めましょうか」

甘い香りに釣られ、裕奈がマミの出て来るキッチンを見た。
部屋の主、巴マミの用意したお茶とケーキは美味しかったが、
会議は大真面目に行われた。

「長谷川千雨さんが用意してくれたプレイアデスのデータ」

言いながら、マミが広げたのは地図だった。

「これを見てて、気になった事があるの」
490 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 22:58:39.48 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

日も暮れて、佐倉愛衣、明石裕奈、巴マミ、佐倉杏子の四人が
あすなろ市内工業団地跡地に集結していた。

「そこに目を付けたか」

電話の相手は、長谷川千雨だった。

「ええ。携帯電話の位置情報の地図データ、見せてもらった。
プレイアデス聖団が魔法少女のグループであれば、
魔女の出易い場所を移動するのは説明出来る」

スマホのマイクを手にしたマミが言った。

「だけど、ここだけはそのパターンを外れてる。
確かに、閑散としていて魔女が出て来ても不思議じゃない
だけど、パトロールにしても
何もない場所にみんなで来ている頻度が多すぎる。
それも、かずみさん抜きでね」

そして、千雨とイヤホンマイクを装着したのは、
魔法装束姿の明石裕奈だった。

「GPS作動してる?」
「OK、茶々丸衛星映像と一緒にリアルタイム把握した。
それを、プレイアデスの過去データを最高精度で照合して………
もう少し、もう少し右回り………そっから真っ直ぐ!」

明石裕奈が、閑散とした跡地に向けて魔法制限弾を発砲した。
491 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:00:41.52 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「!!」

御崎海香邸の食後のダイニングで、
神那ニコが何やら言葉を吐き捨てた。

「どうしたっ!?」
「やられた………」

浅海サキの問いに、ニコが改めて答える。

「再インストールしたアプリ、汚染が………」
「そんなっ! あれは………」
「ああ」

声を上げたサキにニコが説明を続ける。

「再インストールしたのはラボにあったバックアップ。
それを、新品の機材を使って有線から有線にコピーして、
最終的に、新しく用意した全員のスマホにインストールした。
徹底的にチェックした筈だが、
バックアップそのものが、ラボにまでサイバー攻撃が及んでいたか、
厳重に調べて、どうしてもこれはと
前のスマホからコピーしたデータにウィルスが残っていたか」

「アプリは正常に動いている様に見えるけど」

ニコの言葉に若葉みらいが言う。
492 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:04:10.63 ID:nTewOq/m0

「それはダミーだ。
書き換えられたのは魔力探査アプリのあの四人の探査プログラム。
ある時点を最後に、そこから過去五時間以内の
行動の往復を表示するだけのループプログラムに切り替わって
魔力データそのものはデリートされてる」

「それじゃあ、奴らは………」
「!?」

サキが言いかけた時、ニコはスマホからの警告音にスマホの操作を再開する。

「結界が、破られた………」

ーーーーーーーー

通話を終えた長谷川千雨は、猛烈な速さでノーパソの操作を始めた。
そして、がたりと立ち上がり、詠唱を始める。

「広漠の無、それは零。大いなる霊、それは壱。
電子の霊よ、水面を漂え………」

ノーパソが短いステッキに変化して、千雨の手に戻った。

「我こそは、電子の王!」
493 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:07:26.57 ID:nTewOq/m0

ーーーーーーーー

「今回は又、一段と薄気味悪いな………」

長谷川千雨は、周囲を見回して呟いた。

そこは電脳世界がイメージ化された世界であり、
得体の知れない絵画の様に、今までにもまして得体が知れない。
そこを、アニメキャラクター
ルーランルージュを模した魔法装束姿で歩いている、

と、千雨は認識している訳だが、
本来の千雨の肉体は別の場所で意識を失っている筈だ。
つまり、魂だけ電脳世界に吸い込まれた、
これに近いイメージであり、それが千雨の能力でもあった。

「ちう・パケットフィルタリーングッ!!」

そして、半回転しながらステッキ状の魔法具「力の王笏」を振るう。

「アハッ」

千雨に迫っていた大量のケーブルが弾き飛ばされ、
微かに声が聞こえた。

「今の、分かるんだ」

半透明のケーブルがちらっ、ちらっ、と
微かに姿を見せながら四散する光景する中、
千雨はその声に目を向ける。

「ああ、魔法だけでもエレキだけでも駄目だっただろうな。
重ねがけの反則技でギリギリ分かった」

千雨が返答する。
494 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/11(日) 23:10:12.45 ID:nTewOq/m0

「出やがったな」
「私の事を?」

「ああ、連続少女失踪事件。
公式にはバラバラの扱いだが、それでも捜査は進んでる。
失踪した少女の中には、メールで接触を受けていた者がいた。
だが、その発信元は不明だった。
海外串とかなんとかチャチな話じゃねぇ。
電話会社、接続業者の鯖から、都合の悪い情報を丸ごと消しちまう
電脳世界の化け物が一枚噛んでやがる」

「電脳世界の化け物、か。
君に言われたくはない所だが」

「ま、私も結構大概だけど、さぁ。
だから、今回の件であすなろ市中心に動き回ってりゃあ、
何れ出て来るだろうとは思ったけどね」

「成程、まんまと得意フィールドに呼び出されたって訳か」



あんたが相手じゃあ舐めプ、って訳にもいかねぇだろうがな。

なぁ、

ヒュアデス



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今回はここまでです>>487-1000
続きは折を見て。
495 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:13:29.75 ID:/WZ1nIy00
それでは今回の投下、入ります。

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>>494

「チャオ♪」
「お前がヒュアデスか、聖カンナ」

簡単に言えば魂が電脳空間に飛び込んだ状態である千雨が、
その電脳空間内で、目の前に現れた少女の姿に呟く。
帽子を被った黒い魔法装束。
その顔立ちは、プレイアデス聖団のメンバーの一人に瓜二つ。

「ゴーストダイブ………いや、ケーブルつきのデコイか」

「ご名答。君の言う通り、
この状況では私の絶対のコネクトすら分が悪いらしい。
直接仕掛けようとしたら僅かにでもリスクがある。
だから、コミュニケーション用のダミーインターフェイスを仕立てた。
私の事は何処から知った?」

「御崎海香のグループを調べ始めてすぐだな。
顔認証の分析に使ってたAIが、一卵性双生児の可能性の確認を要求して来た。
機械的に分析にかけた結果、そのレベルで外見が酷似した二人の人間が
あすなろ市の近いエリア内で同時に動き回ってる。
しかも、接触した形跡がない。その時点できな臭いってレベルじゃない。

二人の内の一人は神那ニコ。
御崎海香のグループ、つまりプレイアデス聖団のメンバー。
もう一人があんた、聖カンナ。

二人共アメリカ帰りなのは共通していたが、
神那ニコは辛うじて実在が確認出来るってレベルで公式記録が薄い。
形式上一応存在している、って言うレベルだ。
対して、聖カンナは普通に家族、学校に繋がっていた。
ああ、コネクトだな。
神那ニコのコネクトは事実上プレイアデス聖団だけに近いが、
聖カンナは普通の中学生の社会、生活にコネクトしてる」
496 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:21:43.51 ID:/WZ1nIy00

「流石、と言っておこうか電子の王。
見事な電脳ストーカーだ」

「リソースは使い放題だし必要に迫られたからな。

あんたと神那ニコ、
引いてはプレイアデスの行動パターンその他を分析する限り、
単に近いってだけじゃない。
プレイアデスに対して何等かの暗躍をしている、
あんたこそがストーカーって考えるのが自然だろうな。

さっきちょっと触ったが、あんたのコネクト、
電子と魔法の重ねがけが最強な私だからこそ、
この電脳空間では対処出来たが、それでもあそこまで迫られた。
魔法少女としてまともに仕掛けたらどれだけのモンなんだろうな」

「まあ、万能の透明ケーブル接続だとは言っておくよ」

「ヒュアデス、プレイアデスの異母姉妹だな。
あすなろ市で失踪した少女の一部が、
「ヒュアデス」からのメールを携帯に残していた。

メール本文に加えて電話会社、接続業者側のログが綺麗に消されていたから
警察はそこから先を追えなかった。

だが、私はあんた自身をマークしていた。
同時にあすなろ市を中心にした魔法少女関係の情報を収集していた。
その結果、あんたとヒュアデスの一致度が高過ぎる、と言う結論に達した。
ヒュアデス、プレイアデスの異母姉妹だな。
ヒュアデスを名乗る魔法少女がプレイアデスの周辺に現れた。
これは、偶然じゃあないよな」

「そうだね。だから、何?」

カンナに問われ、千雨は取り出したスマホの画面をカンナに示す。
カンナが見せた笑顔に、千雨の足は退きそうになっていた。
497 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:23:29.40 ID:/WZ1nIy00

「カリフォルニアで発生した拳銃暴発事故。
これが全ての始まり、って事でいいんだよな?」
「Yes 曖昧なものの無い零と壱。
その世界の電子の王が確信しているのなら、
答えは二択の内の一つ」

笑顔で答えるカンナに、千雨は天を仰いだ。

「三人の子どもが、ちょっとした手違いで
放置されていた実弾入りの拳銃を手にした。
その結果が二人死亡一人重傷。
この、重傷を負って生き残った子どもが聖カンナだ」
「私の事か」

カンナの言葉に、千雨は僅かに口角を上げる。

「家で友達と遊んでいた幼児が、身近にあった拳銃に興味を抱いただけの事故。
親の方も、多分な不可抗力と遺族の厚意と元からの財力によって、
社会的に死なない程度の示談金で刑務所行きを免れた。
だが、この結果は子どもにとって余りにも重過ぎた。
その子は以後十年余り、神に許しを請い、笑顔を失って過ごして来た」

「今時のネット社会はそんな事迄?」

「確かに、かなりの所まで入手可能だったが、
種を明かせば私一人の調べじゃない」
「それにしても、よく調べたものだ。
聖カンナの物語を」
「お褒めに預かって光栄、と言っておこうか」

そう言って、千雨はちらりと横を見た。

「?」

千雨とカンナの視線の先から現れたのは、
麻帆良学園が誇る魔法ガイノイド、絡繰茶々丸が引く屋台だった。
498 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:25:55.70 ID:/WZ1nIy00

「釜揚げもらおうか」
「ありがとうございます」
「いや、ちょっと待て」

屋台のカウンターに立ち、
茶々丸と注文を交わす千雨にカンナが口を挟んだ。

「ん?」
「おかしいだろ、明らかに」

「科学的な非科学的上等だからな。五感全部支配されるVRなんて、
推理漫画発のアニメ映画やらWeb小説発のラノベ経由のアニメやら
今時珍しくもない。電脳世界の何丁目かは分かってるから、
ちょっと味覚データの出前してもらったって事さ。食わんのか?」

「………パスタの屋台? おかしいだろ、明らかに。
ちょっと調べたけど、麻帆良の名物屋台はチャイニーズじゃないのか?」
「多角展開って奴だ。何作っても及第いける技量だしな。
それに、最近の屋台はこれが流行りらしい」

「じゃあ、鉄板ナポリタンもらう」
「ありがとうございます………出来ました」
「おう」
「………」

深めの皿の中に手際よく卵を割り入れ、鬼の様に七味をぶっ込んで
混ぜ込まれた卵の絡む熱々のパスタを猛然と食らい始める千雨の隣で、
カンナが突っ込む言葉を探している内に
カンナの前のカウンターにいい匂いの皿が置かれた。

「成程」

フォークに巻いたパスタを口にしながら、
カンナの語彙はそれだけだった。
そして、その響きは、間違いなく好意的なものだった。
499 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:28:49.01 ID:/WZ1nIy00

「聖カンナの物語」

皿を拭ったパンを口にしながら、カンナが言った。

「君が調べたのは、聖カンナの物語なのか?」
「まあ、そういう事になるかな」

いっそ清々しくパスタを掴んでいた箸をおき、千雨が答える。

「つまり、私の物語か?」
「ああ、そういう事になるな」

「それにしても、よく調べたものだな」

千雨は、すっと隣のカンナを見る。

「あんたが生まれた物語だ」

カンナの顔から、笑みが消えた。

「聖カンナの物語は、私が生まれた物語。
今の言葉を繋げるとそういう事になるんだけど?」
「それで合ってる。そうだろ聖カンナ」
「どういう意味かな?」

静かに微笑んだカンナの手で、
皿の上のパンにすとっとフォークが突き立つ。

「だから、言っただろ。科学的な非科学上等だと」
「流石に、今のこの時代の科学だけなら、
電脳世界でこの美味はやり過ぎだろうね」

カンナの言葉に、茶々丸が一礼する。

「そうじゃないと繋がらないんだ」

そう言って、千雨は改めて英字記事が表示されたスマホを掲げる。
500 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:31:42.86 ID:/WZ1nIy00

「それは、精神攻撃か何かのつもりか?」
「只の物証だ」

口だけ微笑むカンナに、千雨は淡々と答える。

「笑顔を失い贖罪意識に囚われた少女。
事件の事を知る、知らないに関わらず、
聖カンナを知る者は皆、聖カンナに就いてそう評価している。
事件後からつい最近までな」

「つまり、過去の話だと?」

「そういう事になる。最近の聖カンナは変わったと。
この一年足らずの事だ。家族にも友達にも恵まれた快活な少女。
それが、今の聖カンナの評価。
心境の変化なんてちゃちなもんじゃない。
分厚い黒雲が突風で綺麗さっぱり吹き飛ばされた、
そんな変わり様だ」

「それは、おかしな事なのかな?」

「本来歓迎すべき事だと思うが、客観的に見ておかしい。
おかしいかどうか、まずそれを判断して見た。
結論を言えば、明らかにおかしい。
聖カンナがそうなった経緯から言ってな」

「聖カンナがどうしてそうなったのか、
勿体付けずに口に出して言ってみたらどうだい?」

「二人が死亡し聖カンナ自身が重傷を負った拳銃暴発事故、
物理的に引き金を引いたのは聖カンナだ」
「零と壱、君が断言するなら、そうなんだろう」

「ああ、既に調べはついてる。
自らの大怪我、それ以上に二人の友人を死亡させた、
その引き金を引いた聖カンナの事件後の言動。
今の聖カンナは、過去から現在までの流れと噛み合わない。
だからと言って、全くの別人にすり替わった訳でもない。
関係者が多いだけに、流石にそれは無理がある。
余りに非論理的であり得ない事が起きた。
だったらいっそ、こう考えたらすっきりする。
これは、非科学的な現象なんだとな」
501 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:35:18.63 ID:/WZ1nIy00

「魔法少女の契約、か」

「最初は、自分の事件の記憶だけを消したのかとも思った。
こっちの魔法にそんな都合のいいモンはちょっと見当たらない。
都合よく自分の記憶を操作するカードゲーム、
なんて都市伝説も無いではないが、
取り敢えず本人の素質があれば
無制限でピンポイントなオーダーが可能な魔法少女契約が一番適しているし、
結論としてあんたも、そして神那ニコも魔法少女だった。
遠いアメリカでの事件、法的な責任が問われた訳でもない、
日本で直接知っている者が限られているならうってつけだ」

「最初はそう思った。今はそう思わない」
「ああ、思わないね」

そう言って、千雨はスマホを見た。

「過去の惨劇、罪悪感、一人で苦しんで来た聖カンナが、
例えそのチャンスを得ても記憶を消して逃れようと考えるか?
もちろん、もう嫌になったと、苦しみを手放す事はあり得るだろう。
だが、聖カンナはそうしなかった。私はそう思う」

「何故?」

「こちらの事情でプレイアデスを調査した時にこいつを見つけた。
神那ニコ、聖カンナのそっくりさんのスマホからだ。
それも、常時と言っていい程この記事を見ている。
聖カンナは、過去の惨劇、大き過ぎる罪悪感を抱えて、
決してそれを手放そうとしなかった。
そして、非科学的上等、その中でも、
とびきりのご都合主義が可能な魔法少女の契約。
これで、理屈が繋がる」

「どういう風に?」
502 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:37:37.03 ID:/WZ1nIy00

「もう一人の自分、理想の自分、
あの事件が無かった自分。
その一方で、現実の自分の罪悪感は、
償いを忘れる事を自分に許さなかった、
だけど、空想するぐらいは神も許すだろう。
その足を、あくまで現実に留めながら、
なりたかった理想の自分を作り出した。
それが聖カンナの魔法少女契約の概要、
私は、そう考えた」

ぱん、ぱん、ぱん、と、手を叩く乾いた音が響くのを、
千雨はつーっと汗を浮かべながら聞いていた。

「じゃあ何? 私は、聖カンナは、
聖カンナの空想上の産物って事なのかな?」

「私の推測ではそういう事になるな。
過去から契約時点までの聖カンナは、
魔法少女契約で生み出したニュー聖カンナを現実社会に結び付けて、
元の聖カンナは神那ニコと名前を変えて闇に消えた。
恐らく、一つの願い、契約に基づく包括的な効果で、
神那ニコとしての最低限の公式記録もセットだったんだろう」

「随分と、想像力が逞しい」

「だが、現実問題として、
非科学的だが一定の法則がある現実を受け入れた以上、
実際に存在する材料から私が見る限り、
それが不可能を除いた残りの真実、って事になっちまう」

「素晴らしい。流石は電子の王、君は全てをお見通し。
この時代においては、君は丸で神様だ」

「いながらにしてその目で見、その手で触れぬ事の出来ぬあらゆる事を知る。
何一つしない神様。少し前までそうだった。今も似た様なものか。
もっとも、全部が全部私が安楽椅子で検索したって訳でもないけどね」

「だったら、次に私がどうするつもりかも分析済みかい?
誰かの都合で作り出されて、
己の罪も知らずに幸せごっこを満喫して来たおめでたい私が、
そうやって、丸で神様の様に私を作り出し、高見から見下ろして来た者に対して
どうするつもりでこの魂を契約に差し出したのかを?」
503 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:41:09.15 ID:/WZ1nIy00

「まあ、どう考えても不穏な事だろうな。
割り切れるぐらいならこんな話にはなっていないだろうし。
相手が神様なら、神がやらなきゃ」

「人がやる。そのために私はこの力を得た。
祈りの心は向こうに置いて来ても、
バイブルはその役割を教えてくれた。
そう、私が何処から来た何者なのか、それを知った時にね、
何処に行くべきか、そして、何をするべきか。
私が、何を齎すために生まれたのか、そこに赴くのか」

「ルカによる福音書、か」
「Correct」
「とっさにそれが出るって、
あんたのデータベースもちっと偏向してるな」
「お互い様だ」

テーブルの下での蹴り合い、と言う比喩が相応しい空気の中、
茶々丸は綺麗に平らげられた食器を黙々と片付ける。

「そういうあんたはどうするつもりだ? 電子の王?」

「さあな、元々、こっちの都合で必要があって当たってただけの事だ。
そんなクソ重いモンどうにか出来る柄じゃない。
只、デジタルな情報、
一部は足で稼いだモンを使わせてもらったのも含めてだが、
それだけでも分かる事もある。
旨いものを食って喜び、身近な人に愛され愛する人といる事を喜び、
そして、失う事、傷付く事を悲しむ。
少なくともあんたの心は本物の筈だ」

バン、と、両手でカウンターを叩いたカンナを、千雨は静かに見ていた。

「魔法少女の事は詳しく知らない。
だが、非科学的上等に馴染んだ私として、知ってる事はある。
一歩前に進むための、願いをかなえる魔法の契約は、
宿った心がその意思を決める、生きている魂と結ぶものだってな。
私が知ってるのは、その程度の事だ」
504 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:43:30.82 ID:/WZ1nIy00

「………美味しかったよ、ご馳走様」

横を向いたカンナに、茶々丸が一礼した。
カンナが、数秒間茶々丸をじっと見る。

「私にとって害はなさそうだし、
ここで不利な喧嘩をするメリットは無い」
「それは、利害が一致して助かる」
「チャオ♪」

ーーーーーーーー

あすなろ市内のビルの屋上で、望遠鏡を覗いた聖カンナはくっくっ笑い出した。

「おいおい、派手に喧嘩売ってるじゃないの魔法使い………」

そして、左手でスマホを見る。

(魔法使いは何処迄把握して何処迄介入するつもりだ?
長谷川千雨、電子の王………最悪を考えるなら、
PCにスマホ、ラボも全てハッキングされたとしたら………)

………チリン………

「………教えて………」
「ん?」
「貴方の名前」
「我々は何者なのか!?」

振り返ったカンナの手にしたバールと天乃鈴音が振るった剣が激突した。

「アテンション!」
「!?」

バールと剣が弾けた刹那、
左手からの叫びと共にカンナの意識が強烈に左手に引っ張られる。
同性から見ても美人な、スタイルのいい同年代の魔法少女の姿が
嫌でもカンナの目に入る。
次の瞬間には、カンナは新手の敵による銃撃をまともに受けて、
それと共にカンナの魔法少女の変身自体が解除され、
カンナは丸腰状態で鈴音の剣と死神規格の鎌を向けられていた。
505 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:45:26.88 ID:/WZ1nIy00

「なんなんだ、あんたら?」
「初めまして、私は奏遥香。
ホオズキ市で魔法少女グループのリーダーをしています」
「堂々とした縄張り荒らしだね」

スタイル美女の言葉にカンナが毒づく。

「それなんだけどさぁ」

口を挟んだのは、
カンナに鎌を向けているツインテールの魔法少女成見亜里紗だった。

「あんたがけしかけた双子もどきの変態牝郎がこっちで悪さしてくれてね。
スズネっちが追っ払ったからカナミは無事で済んだけど、
大元叩こうって事でこっち来た訳。
ま、それは口実で借りを返しにってのも大きいんだけどさ」

「何を………」

「なんか、あんた随分物騒な事計画してるんだって?
文字通りの世界平和ってなると、
結局こっちの縄張りにも引っかかるしね」
「世界の平和、ね」

刃を向けられながら、カンナはくっくっ笑い出す。
そんなカンナの前に、
フードを被った白いローブ姿の魔法少女が姿を現した。

「そんな訳で、あんたは全部喋ってもらってから地元に任せるから。
ま、周りに迷惑かけるのは程々にして、
精々当事者同士でドツキ合って解決するんだね」

「おーおー、あんたが言うと重みが違うわ」

亜里紗の茶々を聞き流しながら、
白い魔法少女日向華々莉がフードを脱いでカンナの頭を掴み、
カンナの目を見ながら告げた。
506 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/17(土) 03:47:46.25 ID:/WZ1nIy00

ーーーーーーーー

長谷川千雨は、椅子の背もたれを軋ませて一言呟いた。

「只の、時間稼ぎだよ」

ーーーーーーーー

「ヒュアデス、聖カンナは確保しました。
後はこちらの領分で処置します」
「分かった。有難う詩音さん」

住まいの女子寮の一室で、
ナツメグこと夏目萌は手にしたスマホで詩音千里からの電話を切る。

ゲートの暴走事件後、
独自に御崎海香グループの内偵を進めていたナツメグだったが、
明石裕奈等の情報を得た後、秘かに長谷川千雨にも連絡、
非公式に情報をすり合わせて調査を進めていた。
アメリカに関わる当事者が多いと言う事で、
佐倉愛衣の留学時の友人に依頼してそちら側からの情報も得ていた。

最終的に、行き掛り上知り合った奏遥香のチームに
駄目元で協力を依頼した事も含め、
いつの間にかキーステーションになって
綱渡りな事をしていた状況にどっと疲れを感じるが、
であるからこそ、取り敢えず今夜の状況が確定する迄一風呂浴びて休む、
と言う訳にはいかないらしい。

「後は、メイ達がどう決着つけるか………」

==============================

今回はここまでです>>495-1000
続きは折を見て。
507 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:30:56.19 ID:Hj5Wsof20
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>506

ーーーーーーーー

「海香、カオルっ!」

正に出撃、出陣の様相を呈した
御崎海香邸リビングで、かずみは叫んだ。

「私も連れて行ってっ!」
「待て、かずみ………」

割って入ろうとした浅海サキを御崎海香の腕が制する。

「分かった、付いて来て」
「海香!」

海香の返答にサキが叫ぶ。

「相手があの四人ならなまなかな事じゃ収まらない。
留守番が安全だと言う保障も無い。
向こうで説明する事になると思う」
「腹、くくれ、ってか」

海香の言葉に、牧カオルが空笑いした。
508 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:33:23.25 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「これが隠れてたってか?」
「魔法で異界、異次元空間に隠匿していた、そんな所ですか」

あすなろ市内工業団地跡地で、
明石裕奈の魔法制限弾を受けた空間から唐突に表れた建物を見て
佐倉杏子と佐倉愛衣が言葉を交わす。

「確かに」

続いたのは巴マミだった。

「魔女の結界も異次元空間だから、こんな魔法があっても不思議じゃないわね」
「鍵、かかってるね」


唐突に現れた大きな洋館の入口を調べていた裕奈が、
玄関ドアを確認していった。

「お願いします」
「了解」

ドアを確認してそこから下がった愛衣の言葉を受けて、
裕奈がドアに魔法拳銃を向けた。
509 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:35:55.66 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「凄い………」

裕奈の銃撃による魔法のロックが解除され、
建物の中に入ったマミが中の光景に呟いた。

「これ、全部テディ・ベア?」
「可愛い、けどちょっと怖いわ」

膨大と言ってもいいぬいぐるみが
夜の博物館の棚に陳列されている光景にマミと裕奈が言葉を交わした。

「明日葉、ですか」

「?」

「Anjelica Bears
この建物の名前として表の壁に書かれていました。
ベアーズは熊達、熊々、アンジェリカは人の名前かとも思いましたが、
元の意味は明日葉と言う日本の植物です。
生命力が強く栄養価も高い、医学的な薬効もありますから、
魔法使いによる研究対象にもなっています」

「なんとなく、アンジェリカってだけでもありそうな名前だけどな」

杏子の言葉に、愛衣は小さく頷いて言葉を続けた。

「前の戦いで熊の使い魔を使っていたのは若葉みらい。
漢字の意味が似ている若葉と明日葉を
当て字にした名前と見るのが自然かと」
「だとしたら、恐らく魔法少女としての願いそのものね」

愛衣の推測にマミが続く。

「建物の規模と隠匿、魔法少女の普通の魔法にしては規模が大き過ぎる。
このテディベア博物館を願いにして契約した、
そう考えるのが自然よ」

マミの推測を聞きながら、
愛衣は静かに片膝をついて床に手を当てていた。
510 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/18(日) 03:38:31.81 ID:Hj5Wsof20

ーーーーーーーー

「どうしたっ!?」

屋根から屋根へと移動するプレイアデス聖団御一行様。
最終目的地に到着間近と言う時、
偵察ポイントに予定していたビルの屋上で、
先行して棒立ちになった御崎海香に浅海サキが声を掛けた。

「炎の、文字?」

サキの隣で、若葉みらいが呟く。
確かに、アンジェリカ・ベアーズの屋根より少し高い空中に、
炎が浮遊しているのをサキも見て取った。

「アルファベット? アール、イー………
イー、エム………」

宇佐木里美が呟く側で、海香の顔から血の気が引き、
カオルもぐっと前を睨み付けている。

「何語?」

かずみが首を傾げる屋上で、バチッ、と、不穏な響きが伝わる。

「あ、あああああ………
魔法使いいいいいぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!!!」
「サキっ!!!」

==============================

今回はここまでです>>507-1000
続きは折を見て。
511 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:27:08.28 ID:VZJbN5Sj0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>510

ーーーーーーーー

若葉みらいの魔法少女契約で作られたテディベア博物館
「アンジェリカ・ベアーズ」。
その中で、雷の勢いで飛び込んで来た浅海サキが、
佐倉愛衣の魔法箒「オソウジダイスキ」ですぱーんと足を払われ
テディベアが陳列されている壁際の棚へと雷の勢いで体ごと頭突きするのを、
巴マミと佐倉杏子は首を左右に動かしながら大汗を浮かべて眺めていた。

「風花・風障壁」

その間に愛衣は呪文詠唱を終え、雷の勢いで突っ込んで来た浅海サキが、
ダンプカーのカチコミにも耐える魔法障壁に雷の勢いで体当たりし、
自分が崩壊させた棚の穴へと背中から戻っていくのを、
巴マミと佐倉杏子は首を左右に動かしながら大汗を浮かべて眺めていた。

「明石さん」
「お、おう」

ガラリ、と、崩壊した棚から立ち上がり、
両手で猛獣鞭を振り上げたサキに明石裕奈の発砲した魔法制限弾が直撃した。

「なっ!? 変身がっ?」
「紫炎の捕らえ手っ!」

そして、魔法少女への変身が解除されている事に戸惑うサキに、
既に呪文詠唱を終えた愛衣からの捕縛魔法が飛ぶ。
512 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:30:18.09 ID:VZJbN5Sj0

ーーーーーーーー

「な、に、やってんだてめえぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!」

決して弱くはない筈だが、完全に感情に飲まれてる。
そんな浅海サキの有様を大汗浮かべて眺めていたマミと杏子は、
絶叫が聞こえた時には戦闘態勢をとっていた。
だから、殺到する熊の使い魔の群れは、
マミの周囲を包囲回転する大量のマスケット銃と
杏子の豪快な槍使いを前に次々と消滅していく。

「サキいぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!!
どけやああああああっっっっっっっっっっ!!!!!」

そして、その熊の大群の向こうから
小柄な体躯と正反対のクレイモアを振り上げて絶叫する
若葉みらいが突撃して来ると、
マミと杏子はさささっと彼女の言う通りにした。

「ああああ………あああああっっっっっ!?!?!?」
「あなたの熊さん達、いいカモフラージュになったわ」

邪魔者ことごとくを一刀両断し、愛するサキを救出する。
脳内リソースをそれ以外に欠片も利用するつもりのなかった若葉みらいは、
足元から噴出した大量のリボンに雁字搦めを通り越して
顔だけ出した繭包みにされてその道行きを強制中断し、
巴マミが胸の下辺りで腕を組んでその理由の一端を告げていた。

「デフレクシオ(風楯)ッ!!」

愛衣が魔法防壁を張り、裕奈も魔法拳銃を発砲して、
博物館に飛び込んで来た光球を回避する。

「サキっ!?」
「酸欠で意識を飛ばしました、一時的なものです。
但し、ソウルジェムはこちらで預かっています」

博物館に飛び込み、声を上げる牧カオルに愛衣はむしろ淡々と答えた。
513 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:33:36.63 ID:VZJbN5Sj0

「メイ、杏子、これはどういう事なのっ!?」

次に叫んだのは、かずみだった。

「改めまして、
関東魔法協会麻帆良学園学園警備魔法使い佐倉愛衣です。
浅海サキさんの身柄はこちらで預かります」
「なっ………」

かずみの後には残りのプレイアデスメンバーも揃っており、
平然と通告する愛衣に、カオルは絶句した。

「それは、随分横暴な話ね」

言ったのは、御崎海香だった。

「横暴かどうかは、彼女に確かめればすぐに分かります。
彼女が口に出さなくても確かめる方法は幾らでもあります。
我々は、魔法使いですから………
(サギタ・マギカ・ウナ・ルークスッ!)」
「きゃっ!」

愛衣がとっさに床に飛び込みながら無詠唱で光の矢を放ち、
その一撃を食らった宇佐木里美がのけぞる。

「里美っ!!」

カオルが叫んだ時には、
里美は横っ飛びした裕奈の魔法制限弾の連射を受け、
跳躍したマミと杏子に取り押さえられていた。
514 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:36:43.59 ID:VZJbN5Sj0

「危なかったぁ、メイちゃん撃ちそうになってた」

「タイプは違いそうですが、同士討ち系の魔法少女には
最近少々痛い目を見せられましたから。
巴さん、こちらは浅海サキ一人で十分です、
こちらが見えない様に拘束しておいて下さい」

「分かったわ」
「おいっ!」

愛衣とマミとのやり取りにカオルが声を荒げた。

「お前達、魔法少女だろ。
魔法使いにこんな事やらせておいていいのかっ!?」

「あなた達から確実な情報を引き出す、
と言う点では私達の利害は一致している」
「魔法少女同士でも随分ドンパチしてたからな。
興味があるのはこっちの身内がどう噛んでるか、それだけだ」

カオルの言葉に、マミが真面目に応じて杏子が鼻で笑う。

「えっと、メイ。サキも里美も、私の大事な友達で………」
「こちらも大切なお友達の安否がかかってる」
「我々としては、サキさんが知っている事を把握したいだけです。
手荒な事はしませんし、する必要もありません」

マミと愛衣が、怖々口を挟むかずみに告げる。

「明石さん、浅海さんを運んで下さい」
「了解、先輩」

愛衣の指示も、それに対する裕奈の返答も手堅いものだった。
515 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:43:44.11 ID:VZJbN5Sj0

「待てって言ってるだろっ!!」
「Shut up!!」

声を荒げて愛衣に迫ろうとしたカオルは、
愛衣の一喝を聞きながら箒の先を向けられていた。

「そもそも、気に食わないんです」
「は?」

ぐっ、と、一歩前に出た愛衣に、
箒を向けられたままのカオルがじりっと一歩下がった。
それを見て、愛衣はどん、と、箒の先で床を叩く。

「人道上、やむを得ないケースもあるのでしょう。
but いい加減な契約で強力な魔法をデタラメに使う。
私にとっては不愉快です」
「この………」
「今更何キレてんの?」

今度こそ愛衣に掴みかかろうとしたカオルの鼻先に槍の穂先が向けられ、
その出所を見たカオルの前で佐倉杏子が鼻で笑っていた。

「だから、私達魔法使いとも不干渉と言う事になったのでしょうね。
街の裏側で魔女を退治しているだけなら
こちらからどうこう言う筋合いでもありませんが、
それで済ませるには、目に余る」
「言ってくれるね、魔法使い」

応じたのは、神那ニコだった。

「しかし、よく無事にここまで入れたモンだね」
「ああ、ここのトラップの事?
なんか随分悪戯好きって感じで色々仕掛けてあったけど、
それはこっちも負けてないからね」

ニコの言葉に、魔法拳銃を振りながら裕奈が答える。
516 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/20(火) 02:47:15.93 ID:VZJbN5Sj0

「それで、プレイアデスはどうするの?
交渉決裂なら答えは二つ。
この四人を力ずくで取り押さえてサキを奪還するか、
それともこのまま行かせるか」

ニコが指折りして仲間に迫る。

「一つ目の選択はお勧めしません。
私としても痛い目を見たいとは思いませんし、
既に報告を外部に預けてあります。
私からの連絡が途絶えた時点で、あなた達は麻帆良学園、
否、関東魔法協会の総力で潰されると思って下さい」

「月並み、だけど破るのは難しいカードね」
「それを理解したなら、無駄な抵抗はやめて下さい」

海香の言葉にそう応じて、愛衣は片手で掲げた箒をひゅんと回転させた。
炎を浴びた箒の先を、どん、と、床に叩き付ける。

「浅海サキさんの頭の中を一から十まで強制コピーされるのが嫌なら、
まず、この封印に就いて説明して下さい」

一瞬、博物館の床に広く火線が広がり、
床は複雑な紋様を刻んでぼうと輝き始めた。

==============================

今回はここまでです>>511-1000
続きは折を見て。
517 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:28:22.60 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。

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>>516

「私達の魔法なのは分かるけど、かなり複雑な術式ね」

見た目で言えば、趣味のために糸目をつけない現金を丸ごとぶち込んだ
異界の博物館「アンジェリカ・ベアーズ」。
全体に贅沢過ぎるスケール、面積の中に、
更に一つ、二つのテディベアを陳列した清潔なガラスケースが
規則正しく林立する西洋風の高級意匠ホールの中で、
十分な横幅のあるレッドカーペットの通路に現れた魔法陣を見て巴マミが言う。

「コンセプトは空間と転移、そこまではなんとか分かりますが、
だからこそ、これ程の高度な術式、
作った術師の教え抜きに動かすのは危険過ぎる。
その本ですね」

佐倉愛衣が、御崎海香の持つ分厚い本に視線を走らせて言う。

「似た様なものを知っています。
魔法具によって検索した外付けの知識、魔法技術を使って、
本来は非常に緻密で高度、強力な術式を設計し、発動させた。
案内していただきましょうか?」
「分かったわ」
「海香」

難色を示して名を呼ぶ牧カオルに、海香は小さく頷く。

「巴さん、浅海サキさんの拘束を、
案内はこのメンバーでお願いします」
「お前らあっ!!!!!」
「やかましい」

リボンの繭から顔だけ出して絶叫する若葉みらいの鼻先に、
佐倉杏子が槍先をむける。
518 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:31:27.67 ID:0SoCioM80

「若葉みらいさん」

愛衣が、みらいの前にツカツカ近づきながら
生真面目な口調で声を掛ける。

「これは、最大限譲歩した結果です。
争いや危害は好みません、大人しく待っていて下さい」

指先を外側に向けた右掌にバスケットボール大の火球を乗せ、
愛衣は淡々と告げた。

ーーーーーーーー

海香が魔法陣の魔法を発動させ、魔法のエレベーターの様な移動を経て、
恐らく博物館の地下と思われる扉の向こうへと移動し、
佐倉愛衣チーム、巴マミチームは共に凍り付いた表情で立ち尽くした。

「な、んだよ?」

ようやく言葉を発したのは、佐倉杏子だった。
そこは、屋内の親水公園を思わせる、一本の太い通路があり、
その真ん中を水路が通りオブジェが設置された空間だった。
そして、その通路の両サイドには、大量のカプセルが林立している。
液体の入った大量のカプセルの中でどう見ても本物の人間、
十代の少女達が意識を失っていた。

「ソウルジェム、ここにいるのは魔法少女?」

水路の真ん中に設置された
湧き水のオブジェの中に大量のソウルジェムを見つけ、
巴マミが動揺を抑え込んだ口調で言う。

「ソウルジェムを沈めているオブジェの下に魔法陣。
封印の紋様みたいですけど、それだけでは………」

オブジェを調べていた愛衣が呟いた。
519 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:33:15.07 ID:0SoCioM80

「佐倉愛衣さん、明石裕奈さん」

その様子を見ながら、先頭を行く御崎海香が口を開いた。

「何が起きても対処出来る様に、腹積もりをして頂戴」

振り返った海香、カオル、ニコが愛衣達と向き合った。

「覚悟して聞いて欲しい」

そう行った海香が見ていたのは、巴マミの目だった。

「魔法少女は、魔女になる」
「何?」

目が点になったマミの代わりに、杏子が聞き返した。

「ソウルジェムの濁りが限界に達すると、
ソウルジェムはグリーフシードを生み、
魔法少女は、魔女になる」
「何を、言っているの?」

マミが、ぽかんとした口調で尋ねた。

「ソウルジェムの濁りを取るために、
私達魔法少女は魔女を退治してグリーフシード、魔女の卵を回収する。
そこまでは理解出来るわね」
「ええ」

海香の言葉に、マミが応じる。

「じゃあ、その濁りを取らずに限界迄濁ったソウルジェムがどうなるか、
あなた、知っていたかしら?」
「確かに、見た事ないな。
少なくともあたしはそんな非効率的な事はしないし」

マミに代わり、杏子が返答した。
520 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:34:48.94 ID:0SoCioM80

「ご、ごめんなさい、その話、本気で言ってるの?」

「ええ、大真面目よ。
私達は過去、実際に魔女になった魔法少女を見ている」

「その、魔女になった魔法少女、は?」
「退治した。ソウルジェムは魔法少女の本体、命であり魂そのもの。
そのソウルジェムがグリーフシードとなり、
魔女が生まれてしまった後では、もう取返しが付かない。
被害の拡大を防ぐためには、殺すしかない。これが現実よ」

「じゃあ、私達が退治している魔女は」
「使い魔が成長したものでなければ、
私たちすべての魔法少女の末路」

限界を迎えていたのは、海香と問答していたマミの表情だった。

「そん、な。じゃあ、私、美樹、さんに………」

次の瞬間、「レイトウコ」と
プレイアデス聖団が呼ぶこの空間に銃声が響いた。

「なっ!?」

箒を手放し両手を振る愛衣を後目に、裕奈がマミに向けた魔法拳銃が
マミのマスケット銃の銃弾に弾き飛ばされていた。

「!?」

次のマスケットを構えたマミが硬直する。
その射線には、裕奈が両腕を広げて立ちはだかっていた。

「なんだか知らないけど、
この娘達を傷つけるつもりっ!?」
「落ち着けマミっ!!」

裕奈と杏子の叫びを聞き、マミは荒い息を吐きながら銃口を下ろした。
521 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:38:57.60 ID:0SoCioM80

「大丈夫、メイちゃんっ!?」
「ええ、魔法銃に弾かれただけですから。想像以上の威力です」

マミの背後にそっと接近し、マミに「眠りの霧」をキメる直前に
恐慌した表情でマミが振り返り、
マミが発砲した銃口にとっさに魔法の箒を向けていた愛衣が青い顔をして言った。

「マミ、ソウルジェムを出せっ!」
「えっ?」
「いいから早くっ!!」

杏子に気圧される形でマミが従い、
杏子が手持ちのグリーフシードでマミのソウルジェムを浄化する。

「一つ貸しだからな。ここで濁られたら本気でヤバそうだから」
「そ、そう、魔女、魔法少女が魔女になる、って、
改めて聞くけど、本当なの?」
「ええ、本当よ」

改めての質問に、海香が根気よく答える。

「そん、な………キュゥべえ、どうして………」

「奴の正体は宇宙生物、希望が絶望に相転移して魔法少女が魔女になる。
その時に発生するエネルギーを回収して宇宙の延命に役立てている。
取り敢えずキュゥべえ自身はそう説明している。
彼らの発想に善も悪も無い、地球の人間の事なんて
そのための家畜、燃料だとしか思っていない。
嘘だと思うなら、キュゥべえに直接確かめてみるいい」

「あ、の、野郎………」

海香の説明にマミがすとんと座り込み、杏子が呪詛の言葉を吐いた。
522 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 03:41:03.43 ID:0SoCioM80

「あすなろ市を中心に発生していた少女失踪事件。
これがその真相ですか?」
「相当数はそうでしょうね」

愛衣の質問に海香が答えた。

「理由、教えていただけますか?」
「海香………」

背後から声をかけるかずみに、カオルが小さく頷いた。

==============================

今回はここまでです>>517-1000
続きは折を見て。
523 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:13:39.34 ID:0SoCioM80
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>622

ーーーーーーーー

<御崎海香の絶望>

以下略

「そうやって、絶望にとらわれ魔女の餌食になりそうになった私達を、
かずみは救ってくれた、命も、心も。
だから、私達も魔法少女となって、
かずみと共に「プレイアデス聖団」を結成した」

「最初は只、みんなで集まって、人に害を為す魔女を退治する、
楽しいパーティーだったよ」

御崎海香の説明に牧カオルが付け加え、巴マミが視線を落とす。

「だけど、飛鳥ユウリの魔女化によって私達は魔法少女の真実を知り、
魔法少女と言うシステムとの戦い、そして破戒を決意した」
「じゃあ、ユウリは………」

杏子の言葉に、説明していた海香は目を閉じて頷いた。

「ちょっと待て、かずみの記憶の事は?
こいつは………」
「かずみはかずみよ」

杏子の言葉を遮る様に海香が言った。
524 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:18:11.32 ID:0SoCioM80

「魔法少女の真実を知り、色々異常な状態で魔女との戦いが続いた。
そんな中で、かずみは一時行方不明になり、
医学的なものとも魔術的なものとも判然とせずに記憶を失って戻って来た。

佐倉杏子さん、あなたの言いたい事は分かる。
だけど、彼女の頭に記憶を完全に戻そうとすると、
現実問題として拒否反応が起きてかずみを苦しめる事になってる。

だから、彼女が受け入れている「かずみ」の名前と共に
今は無理のない生活を模索している段階。
その事を理解して欲しい」

海香がカオルと共に頭を下げ、杏子はそっぽを向いた。

「海香、カオル………」
「ええ、だから、今は無理をしなくていいの」
「そうだ、かずみには私達がついてる、
少しずつ思い出していけばいい」

不安を隠せないかずみに、海香とカオルが言った。

「彼女達は皆、魔法少女なんですか?」

改めて、周囲を見回した愛衣の問いに、海香が頷く。
その背景で、カオルが通路の奥にある巨大な円柱にすとんと着地していた。

「そうよ、だから私達は魔法少女狩り、とも呼ばれている」
「何、だよそれ………」

海香の言葉に、口角を上げた杏子の足がじりっと下がる。

「全部濁ってるのは偶然じゃないよね?」

水の中のソウルジェムをすくい、かずみが言った。
525 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:21:02.23 ID:0SoCioM80

「この魔法陣は、ソウルジェムと肉体を分断し、
休止させるためのもの」
「これ以上ジェムが黒くならないように?」
「そう、そして魔女化しないために、
彼女たちが人間であり続けるために」
「それだけじゃない」

かずみと海香のやり取りを、円柱の上に座ったカオルが続ける。

「ジェムを完全に浄化し、彼女たちを人間に戻す方法を見つける。
その日まで自分たちで戦い続ける。そう決めたんだ。
それがあたし達の、『魔法少女システム』に対する『否定』ってヤツさ」
「それじゃあ、あたし達の事も?」

快活なスポーツ少女の印象を離れた、物憂げですらあるカオルの言葉に、
問いかける杏子の手は僅かに強く槍を握る。

「ええ、本当であればこの中に加えたい。
だけど、魔法少女の中でも有力者で知られるあなた方が
魔法少女の真実を知った今、
敢えてそれをやる優先順位は低くなった」

「そりゃどうも」

海香の返答に、杏子が笑みに殺気を込めて答える。

「その方法が見つかる迄、こうやって眠り続けてる、って。
そうしないと魔女になる、から………」

少女達が液体に沈むカプセルを見回しながら、
裕奈は自分の言葉を頭の中で反芻する。

「Sleeping Beauty」
「Yes その時迄、王子様のキスを待って眠り続ける」

愛衣の呟きに、神那ニコが答えた。
526 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:24:43.74 ID:0SoCioM80

「だけど、王子様なんて待ってられない」

カオルが続けて言った。

「だから、私達はあらゆる手段でその方策を探し続けた。
この本でも足りなかった。
だから、魔法使いの知恵も借りようとした。
そちらの、麻帆良学園の図書館島にも侵入してね。
微かな情報から魔法使いの情報を少しずつ集めて、
図書館島なら役に立つ情報があるのではないかって」

海香がカオルの言葉に続いた。

「お役に立てましたか?」

「今の所は何とも言えない。
確かに、図書館島の奥地は私達にとっても危険過ぎる場所。
それでも少しずつ、
そちらの監視を掻い潜りながらの探索を続けていたけど、
何か強力な魔法の発動を察知して、
危険過ぎると言う事で撤退した、それっきりよ」

愛衣の問いに海香が答える。

「じゃあ、鹿目さん達、ゲートが起動した事は知らない、
そう言いたいの?」

「よく分からないけど、私達は図書館島で本を探していただけ。
それ以上の事は知らないわ。
魔法使いと関わる事も、思い当たるのはそれだけね。
そちらの秘密の文献に勝手に接触しようとしたのは
そちらにとっては不都合だったと、それは認める」

マミに対する海香の返答を聞き、
愛衣はすー、はー、と深呼吸した。
527 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:27:21.13 ID:0SoCioM80

「分かりました」
「え?」

愛衣の返答に、カオルが思わず声を上げた。

「前から申し上げていますが、元々魔法使いと魔法少女は不干渉です。
魔法少女同士の事であれば、我々が敢えて介入する事はありません。
図書館島を勝手に使われては困りますから、
その点は上に報告してしかるべく対処する事になると思いますが、
率直に言って、管轄違いの面倒事に巻き込まれるのは御免です。
後はそちらで片を付けて下さい」

「佐倉さ、メイさん?」
「お、おう」

言いかけたマミにちらっと視線を走らせ、杏子が頷いた。

「あんたらのご大層な志は分かったよ。
けど、風見野と見滝原には手を出すな。
少なくともあたしは、魔女なんかにならない様な上手くやる。
見滝原の魔法少女に手を出したら、
百戦錬磨の大ヴェテラン巴マミ先輩に踏み潰されるぞ」

「え?」
「なあ」

「え、ええ、そうね。理屈は分からないでもない。
だから、あすなろ市での事は敢えて口出ししない。
だけど、見滝原に、特に私の後輩達に手を出すと言うのなら、
黙って見ている訳にはいかないわ」

杏子から唐突に名前を出され、
戸惑いを見せていたマミも通告しながらペースを取り戻した様だった。
528 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:35:49.22 ID:0SoCioM80

「先程は言葉が過ぎました、ごめんなさい」
「いや、いいよ。こっちも色々まずい事はあったんだし」

円柱から大ジャンプして着地したカオルに愛衣が頭を下げ、
カオルは手を上下させてとりなす。
そのカオルの手が、バスケットボールを受け取った。
そこに書かれた、
「Yuna 2on2」の文字にカオルが顔を綻ばせる。

「時間があったら、赤外線でアドレスでもしたかったんだけどね」
「これ以上の深入りはお互いのためになりませんので」
「そうね、面倒をかけて悪かったわ」

裕奈と愛衣の言葉に、海香が応じた。

「大丈夫、かずみ?」

海香が、俯くかずみに声を掛ける。

「うん………魔法少女狩りはユウリのことがあったからなんだね?」

海香に肩を掴まれながらかずみが言い、
そんな二人に愛衣が一瞬鋭い視線を走らせる。

「………みんな疲れてる」

口を挟んだのは、オブジェの上のカオルだった。

「今日は、お開きに出来ないか?」
「見た所、そちらの御崎さん、神那さんがいれば
上のメンバーを縛っているリボンの拘束は解除出来そうですけど、
どうでしょうか?」
「Yes なんとかなると思うよ」

愛衣の言葉に、ニコが応じた。

「それでは、元の場所に戻って、そこで解散と言う事で」
529 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:41:54.79 ID:0SoCioM80

ーーーーーーーー

「巴さん」

「アンジェリカ・ベアーズ」を出た後の夜のあすなろ市内の路上で、
愛衣がマミに声をかける。マミの顔色は未だ良くない。

「大丈夫、ではないと思いますが」
「ええ、今でも吐き気がする。
だけど、ずっと知らないよりはマシ。お礼を言わないと。
それに、銃を向けたお詫びも」
「いえ、部外者が立ち入った事を。
それに、勝手に魔法をかけようとしたのはこちらですから」

マミと愛衣が互いに頭を下げる。

「頼むぜ」

口を挟んだのは杏子だった。

「見滝原の方は、
取り敢えずマミ先輩があいつらへの重石、って事になってんだ」
「ええ、有難う。そう仕向けてくれて」

にこっと笑うマミに、杏子はそっぽを向く。

「もういいわ。どっちにしろ、私には選択の余地なんてなかったんだし」
「?」

んーっと腕を伸ばすマミを、愛衣達は見ていた。

「小さな頃に、両親と一緒の車で交通事故に遭って、
子どもでも自分は死ぬんだってそう思った」
「それが、魔法少女契約の理由ですか」
「そう。本当なら家族みんなが助かる事を願うべきだったんだけどね。
それも、今更言っても仕方がない事よ」
「………死にそうになって命が助かる事を願う。
単純すぎてその善悪を考える事すら馬鹿げています」
「うん、他に言い様がない」

辛い微笑みを作るマミに愛衣が告げ、裕奈も素直に従う。
530 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:44:58.06 ID:0SoCioM80

「私達は部外者です。只、さっき相対してはっきり分かりました。
巴さんは常時魔女と戦う世界を、一生懸命生きて生き抜いて来た人だって」
「私なんて二回銃口向けられてるからね。当然分かるよ」
「そうじゃなきゃ、魔法少女なんて何年もやってらんねぇよ」
「じゃあ、そうして下さい」

杏子の言葉に、愛衣が言う。

「全てが上手くいかないなら、限りある生命で最もマシな選択を。
部外者としては他に言うべき事もありません」
「私は好きだけどね、マミさん達の事。
片が付いて気が向いたら又遊びに来てよ」

「そうさせてもらうわ」
「このかお嬢にもよろしくな」

「それでは、
私達はこれから少し報告のための打ち合わせがありますので」
「へーへー、こっからは魔法使いのお仕事ですか」
「すいませんがそういう事になります」

「鹿目さん達の事は結局振り出し」

杏子と愛衣のやり取りにマミが口を挟む。

「はい、この後の状況次第ですが、
私達も用事を済ませてなるべく早くこちらから連絡します」
「分かった。あくまで鹿目さんの安否が優先だから」
「それでは」

マミと愛衣の合意が成立し、魔法使いと魔法少女が左右の道に分かれた。
531 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:49:13.35 ID:0SoCioM80

ーーーーーーーー

「!?」

魔法少女と別れて少し進んだ所で、裕奈は後ろから愛衣に飛び付く。
愛衣は、脱力で脚が一度に崩れていた。

「す、すいません」
「大丈夫じゃないって、それ、メイちゃんの事だよねっ?」
「は、はい」

荒い息を吐きながら立ち上がろうとした愛衣が、
向きを変えて裕奈に抱き着いた。

「(めっちゃ震えてるんだけど)
あの、大丈夫じゃないって、熱とかある?」
「いえ、それは大丈夫、だと思います。
只、今になって、凄く、怖く、すいません」

切れ切れに言いながら俯く愛衣を、裕奈がぎゅっと抱き締めた。

「いいよ、あの場にいたら怖くて当たり前だよね。
私だって怖かったし、それに、
メイちゃんが矢面に立って、頭いいから余計にね」

愛衣が小さく頷き、ゆっくり呼吸を整えた。
そして、二人は近くに屋根つきのバス停ベンチを見つけ、腰かける。

「あ、すいません」
「ああ、いいよそのままで。お疲れ様」

裕奈に言われ、裕奈の隣に座った愛衣は
裕奈の腕に自分の体重を預け続ける。
532 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:52:30.24 ID:0SoCioM80

「ごめんなさい、あの、有難うございます。
私は言わば正統派の魔法使いの見習い、それだけです。
実戦慣れ、殺し合いをして来た未知の存在である魔法少女の集団相手に、
明石さんがいてくれたから辛うじて踏ん張れた」

「有難う。メイちゃん凄く格好良かった。
それで、凄く無理してた。
魔法少女相手に魔法協会、魔法使いを背負ってさ」

「明石さんが背中を守ってくれたから、
あの夏、あの世界を救う只中にいた3Aメンバーの明石さんが」

「それは、メイちゃんも同じでしょう。
あの時の事改めて確認したけど、高音さん達、
危険な現場に踏み止まって命懸けで戦い抜いた、メイちゃんも一緒に。
あの夏も、今回も、魔法協会、魔法使いとして
譲れないものがあるってみんなの背中に教えてもらってる」

「後輩に、余り格好悪い所は見せられないですから」
「そうだね。だから、メイちゃん、佐倉先輩が上に行く時には、
私は下から支えられる様に頑張るから」
「とても期待してます」
「あ、はは、参ったな」

苦笑いする裕奈の横で、愛衣は座り直し、んーっと伸びをする。
533 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/22(木) 18:54:32.41 ID:0SoCioM80

「大丈夫?」
「はい。私の背中、明石さんが守ってくれるんでしょう?」
「うん」

裕奈の返事と共に、愛衣は立ち上がった。

「それじゃあ、余り時間がありません」
「そうだね」

裕奈が立ち上がった。

「それでは、もう一仕事、済ませましょう」
「OK Boss」

==============================

今回はここまでです>>523-1000
続きは折を見て。
534 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:17:14.48 ID:kTOh43GI0
それでは今回の投下、入ります。

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>>533

ーーーーーーーー

「楽しんでいただけましたか?」

魔法世界、メガロメセンブリアの高級ホテルのホールで、
照明が復帰する中でゲーデル総督が鹿目まどかに声をかけた。

「は、はい」

まどかは、ようやく気が付いたと言う状態でゲーデルの問いかけに応じる。

「それでは、ゲートの、旧世界への帰還の準備を行います。
準備中はこちらで部屋を用意しました。
何日もかかると言う事にはならないと思いますが、
刹那と共に寛いで待っていて下さい。
今なら個室風呂も使えますが、いかがですか?」

「えーと………」
「到着まで割と長かったですし、
折角ですからいただきましょう」
「はい」

ちらっとまどかが視線を送った桜咲刹那が素直に応じ、
まどかもそれに従った。
535 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:20:19.88 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「ウェヒヒヒ………」

うつ伏せに岩盤浴をしながら変な笑いが漏れる辺り、
疲れているのだな、と、まどかは自覚する。
案内された個室風呂はちょっとした銭湯とでも言うべき規模で、
こうして岩盤浴もオプションについていた。
取り敢えず、色々あり過ぎたが大きな怪我も無く無事帰る事が出来そうだ、
と分かって少しほっとする。
そして、隣の刹那に視線を向ける。

(………ほむらちゃんに似てる?)

まどかの知る刹那は、優しい先輩だった。
一見凛々しい女侍だが、まどかにはしばしば優しく微笑みかけて、
何故か矢鱈と危ない事に巻き込まれるまどかを安心させてくれた。
そんな刹那が、静かにその身を休めている。
端正で、クールな横顔が、時間で言えば
ごく最近まどかのクラスに転入して来た転校生を連想させる。

「そろそろですね」
「はい」

砂時計を見て、二人は身を起こした。
536 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:24:59.81 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「ウェヒッ!」

さっと掛け湯の後の水風呂に、
まどかは声を上げながら身を震わせる心地よい落差を堪能する。
刹那も、悪い汗を搾り取った後のその身を心地よく冷やして、
水風呂を上がる所だった。

(色、白い。京都の人だからかな?)

その刹那の後を追いながら、まどかは心の中で呟く。

最近温泉を共にした近衛木乃香もそうだったが、
こうして見ると刹那も如何にも肌理の細かそうな、
絹の様に色白な肌をしていた。

グラマーと言うタイプではない、
年齢的にはむしろ小柄で、普段着では華奢にも見える刹那であるが、
それを言うならまどかも同様である上に刹那の方が一つ年上である。

そんなまどかから見た刹那は、
全体に引き締まって均整の取れた如何にも凛々しい女剣士。
それでいて、客観的にも最近ぐっと女っぽくもなった、
そんな優しく魅力的な先輩だった。

「凄かったんですね」

ちょっとした銭湯程もある個室風呂の主浴槽で、
熱めの湯に浸かりながらまどかが言った。
537 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:27:27.81 ID:kTOh43GI0

「さっきの映画で刹那さん達、
あんな風に、ネギ先生達と一緒に
この夏休みにこの魔法世界を本当に救ってたって」
「実際、否定する程間違っていない内容だったとは言え、
ああして劇的に作られると少々照れますね」
「ウェヒヒヒ」

まどかの隣で刹那が言い、双方苦笑いを交わす。

「この魔法世界に来てから、なんか随分色々VIP待遇だと思ったら」

「まあ、大半はこれが理由ですね。
鹿目さんを巻き込んでしまった状況では本当にありがたい事です。
色々助かりました」
「本当に、こっちの世界に来て刹那さんが一緒じゃなかったらって、
今考えるとぞっとします」

「まあ、ある程度知識があれば本来はそれ程怖い場所でもないんですが、
本来、魔法に関わる人間しか来る事の出来ない場所ですので」

「そう、ですね。色々あったけど、
いい人達にも会えたって、そう思います」
「ええ、そういう事です。
それは我々が普段暮らしている世界と変わりません」
538 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:30:35.28 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

「サキ、サキっ」
「ん、んー………」

目を開いた浅海サキは、早速に若葉みらいに抱き着かれていた。
頭の回転を取り戻し、周囲を確認する。
身近にいるのは若葉みらい、宇佐木里美、神那ニコ、
馴染みのある面々だが、どうも足りない。
場所は、これ又馴染みのある「アンジェリカ・ベアーズ」の一角。
そう、あの魔法使いにやられた辺り

「魔法使いっ!!」
「ちちちちょっと待って、サキ、体の調子はっ?」
「大丈夫だっ!」

ぐわっと立ち上がろうとしたサキにみらいが叫び、
サキが怒鳴り返した。

「かずみはっ!?」
「海香とカオルが連れて帰った、色々あって疲れてたからね」
「じゃあ魔法使いはどうしたっ!?」
「帰ったみたいだよ、どうやら話が付いたからね」
「は?」

ニコの返答を、サキはぽかんと聞いていた。
539 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:32:45.61 ID:kTOh43GI0

「彼女達には「レイトウコ」を見せた、

基本的な事はバレてたからね。
それで、魔法少女が魔女になる事、魔女化を防ぐために、
完全な解決が出来る迄魔法少女狩りを行っている事を説明したら、
魔法使いは納得して帰って行ったよ。

これ以上危ない事には関わりたくない、
魔法少女だけの事なら魔法使いの管轄外だから勝手にしろってね。
図書館島の事だけ、これから厳しくなりそうだけど。
魔法少女の巴マミと佐倉杏子も、
縄張りの見滝原、風見野にさえ手を出さなければこれ以上口出しはしないって」

「なんだよ、人騒がせな………」

ほっと脱力しそうになったみらいが、ぎりっ、と不穏な音を聞いた。

「冗談、じゃない」
「えっ?」

サキの言葉に、みらいが聞き返した。

「あの、火文字の意味が分からないとでも言うのかっ!?
海香、カオルは何処にいるっ!?
かずみ、かずみを守らないとッ!!」

ニコは、狼狽そのものに言葉を吐き出し続けるサキと
ひんやり暗い眼光のみらいの姿を腕組みして見極めていた。
540 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:34:42.36 ID:kTOh43GI0

ーーーーーーーー

あすなろ市内のスーパー銭湯、
閉店時間が比較的遅いその施設のシャワーコーナーで、
佐倉愛衣と明石裕奈はシャワーを浴びていた。
二人がさっぱりとして振り返った所で、
タオル一本下げた御崎海香、牧カオルと遭遇する。

「来てくれたんだね」
「赤外線用のインクで書き込まれたアドレスと時刻。
それに付き合わざるを得ない理由もあったから」

裕奈の言葉に、頷くカオルの隣で海香が言った。
そこで、シャワーを離れた四人は、
まずは互いの持ち物を確認する。
タオルの他は、パクティオーカードまたはソウルジェムだけ。
取り敢えず、相手の戦闘開始には対応出来る事を双方確認する。

「それじゃあ、次の即売会向けの企画、聞かせてもらおっか」

浴室内の混雑は既にピークを大幅に過ぎていたが、
裕奈がチラと周囲に視線を走らせて言い、一同が小さく頷いた。

ーーーーーーーー

「取り敢えず、先程の博物館で私達とは決着した、
とは思っていないですよね?」

丁度無人だったサウナに愛衣、海香等四人が移動し、愛衣が口火を切った。

「佐倉さん、私の見る限り、
魔法少女の真実に対してあなたはかなり冷静だった。
知っていたの?」
「直接は知りません」

海香の問いに、愛衣が答える。
541 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:37:54.07 ID:kTOh43GI0

「見当は付きました」
「魔法少女が魔女になるって?」
「ですから、直接は知らなくても、
十分考えられる事態であると」

カオルの問いに、愛衣は答える。

「やっぱり、落ち着いてるな」
「それが、魔法の歴史ですから」

カオルの言葉に、愛衣は落ち着いた口調で続ける。

「魔法使いにはどう見えるのか、
忌憚のない所を聞かせてもらえるかしら?」

海香が尋ねた。

「私個人の意見で、魔法協会を代表するものではありませんが」
「聞かせて」

重ねて問うカオルに、愛衣は頷いた。
542 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:47:11.55 ID:kTOh43GI0

「メフィストフェレス」

愛衣の第一声に、海香は薄い笑みを浮かべる。

「キュゥべえが何者であれ、魔法少女の様な契約は悪魔の契約。
立場、経験上、私達はその事に現実感、リアリティを持っています」

「後からよく考えたらそうかも知れないけど、
事前に知らないで今迄の常識と言うか科学を
目の前で否定されたら引っかかるかもね」

「それで、見た目と声が反則ってのがね」

愛衣の言葉に裕奈が腕組みして言い、カオルが付け加えた。

「その様な都合のいい、絶対的な程の奇跡を売り歩く者がいたら、
間違いなく途方もない代償を支払う事になる。
まず、途方もない欲望を満たす術がある事はある、
但し、その契約は基本、身を滅ぼす。
稀代の術師であっても、捻じ曲げられ何倍もの力で戻って来る
条理の反動をまず避けられない、と言う事を前提にそう考えます。
情において忍びない事は多いと思います。
それでも、契約をして報酬を得ながらその代償を踏み倒そうとする事自体、
限界の中で少しずつでも進もうとする立場からは
随分と虫のいい話にも見えます」

「理屈、通りね」

「その様な契約が通常になった魔法少女の世界と
私達の世界がいつしか不干渉になったのも、
そのリスクと、それでも引き付けられる人の心に
直面し続けて来た結果なのかも知れない。
私は人の手で、少しでもよりよい事をしようと、
そのために、私は勉強を、修行を重ねて来ました」

「日本だけではないわね。
アメリカにもそうした所が?」
「あちらの魔法学校にも留学した事があります」
「あるんだ」

愛衣の返答に、カオルが愛衣を見直す。
543 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/23(金) 03:50:21.88 ID:kTOh43GI0

「そ、この娘、メイちゃん、私よりも年下だけど魔法使いの先輩で、
魔法協会のエリート候補生だから
あんまり甘くみない方がいいよ」
「本当に頭の悪い相手よりは話が通じるのは助かる、
例え敵になったとしても」

裕奈の言葉に、海香は静かな微笑みと共に答えた。

「私達が学んで来たのは、先人達の失敗の歴史です。
欲望に溺れ力を欲し、一時の契約でその身を滅ぼした者、
耐えられない悲しみ、喪失感を諦める事が出来ず、諦めきれずに、
喪ったものを条理を超えて取り戻そうと足掻き続けた人達。
そこから、僅かな勇気を僅かにでも形にする事を学んで来た」

愛衣は、横に座る海香、斜め上に座るカオルを見据えた。
そして、愛衣は口を開く。






Rewrite emeth to meth






==============================

今回はここまでです>>534-1000
続きは折を見て。
544 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:21:25.94 ID:Ruj68JQ50
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>543

ーーーーーーーー

「タツヤくんお久しぶりー」
「こんにちはー」

その日の日暮れ後、鹿目家の玄関で、
腰をかがめた早乙女和子が鹿目タツヤに笑顔を向けていた。

「大きくなったねー」
「いつぶりだっけ? あっと言う間だなー」

タツヤの母親、鹿目詢子が腰に手を当ててカラカラ笑う。

ーーーーーーーー

「ごちそうさまー」
「ご馳走様でした」

あすなろ市内のビストロ「レパ・マチュカ」で、
同席した鹿目タツヤと早乙女和子がほぼ同時に挨拶をする。
三人とも評判のいいハッシュドビーフにアイスクリームも付けての食事だったが、
子ども向けにも作ってくれた料理にタツヤもご満悦だった。

ーーーーーーーー

「私まで悪いわねー」

詢子の運転する車内で、
時折チャイルドシートのタツヤとお話しながら和子が言った。

「知久は昔の友達と珍しく呑みで、まどかは学校公認の受験合宿だからな」
「ええ、色々あって予備校との合同企画のサンプル抽選に当たったから」
「仕事でもらったあすなろの地域クーポン、そろそろ有効期限なもんで」
「で、最後に一杯ひっかけて運転は私と」
545 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:23:44.54 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「おいおい、危ないぞ」

あすなろ市内のスーパー銭湯の脱衣所で、
脱衣も途中でたたたっと駆け出したタツヤに詢子が言う。
詢子が慌ててスカートをすっぽ抜いた時には、
タツヤはすてーんと床に伸びていた。

「うー」
「大丈夫?」

タツヤが顔を上げると、しゃがみこんだ千歳ゆまが覗き込んでいた。

「ほらほら、お姉ちゃんに笑われるぞ」
「うー」
「よしよし」

頭上に詢子の言葉を聞き流し、
唸りながら立ち上がったタツヤの頭をゆまが撫で撫でする。

「お友達かい?」
「うん」

そんなゆまに祖母が声をかけ、
ゆまはにぱっと笑って返事した。
546 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:27:31.35 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「Rewite emeth to meth」

スーパー銭湯の浴室で、詢子達が一風呂浴びてサウナに入ると、
丁度、四人の先客が何やら話し込んでいる所だった。

四人組は、詢子がドアを開けると、ちらとそちらを見てめいめい立ち上がる。
取り敢えず、娘のまどかと同年代かと、鹿目詢子は最初にそれを思う。

4人の少女達は詢子達とすれ違う様にサウナを後にするが、
恐らく2on2のチーム。
何処かぴりっとした緊張感を詢子は嗅ぎ取るが、
取り敢えず見た目はカタギの少女達で、
今の詢子には関わりのない事でもあった。

「ん?」

そして、サウナに入った詢子が来た道に目を向けると、
千歳ゆまがベンチによじ登っている所だった。

「おい………」

次の瞬間、詢子は、火のついた様な泣き声を聞いた。

「おいっ!」

そして、大声と共に頭を抱えて床にしゃがみこんだゆまに
詢子と和子が駆け寄る。

「どうしたっ!?」
「熱い、熱いっ」
「熱いっ? 何処が?」
「お手手」

ゆまは、すすり泣きながら右手をぶらんと差し出す。
547 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:29:23.18 ID:Ruj68JQ50

「んー、火傷はしてないな、
熱いの触ってびっくりしたか?」
「うん」
「よしよし、熱い所あるから気を付けろよー」
「よしよし」

タツヤがゆまを撫で撫でするのを見て、
詢子がくくっと笑いを噛み殺す。
それを見て、ゆまもにこっと笑みを見せた。

「おばあちゃんは………」
「ゆまちゃん」

ドアが開き、ゆまの祖母が入って来る。

「ああ、いたいた、ゆまちゃん」
「ああ、すいません。タツヤにくっついて来たみたいで」

ゆまの祖母と詢子がぺこりと頭を下げる。

「さ、一緒にお風呂入ろうね」

祖母が言うが、ゆまは首を横に振る。

「サウナ入りたいのかい?」
「うん」

「困ったねぇ、一緒に入りたいけどお婆ちゃん血圧がねぇ」

「ちょっとだけここで預かりましょうか?
この娘、意外と頑固でしょう。すぐに連れて行きますので」
「そうですか、すいません。
ゆまちゃん、こっちのお母さんの言う事聞くんだよ」
「うん」

「よーし、じゃあ、タオルの上にゆっくり座るの。
木の所は熱くないからなー。
ちょっとでも気持ち悪くなったらすぐ言うんだぞ」
「うん」
548 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:31:52.46 ID:Ruj68JQ50

ーーーーーーーー

「っつぅー………」

サウナと掛け湯で芯迄火照った佐倉愛衣の全身に、
水風呂の冷たさが突き抜ける。

「………………!?!?!?」
「にゃははー、脳味噌筋肉の割には結構脂肪分詰まってるねー」

ぶるりと身を縮めてその落差の心地よさに浸る愛衣に、
背後からそーっと接近していた牧カオルに背後から抱き着き、
両掌を前に回した明石裕奈がカオルの耳元で笑っていた。

「誰がだよっ!? 大体、それを言うなら、
あたしの背中に当たってるその凶暴な弾力はなんだっ!?」
「バスケットボールかにゃー?」
「それで、どんだけ揺らしてダンクしてんだっての」
「そーなの、最近運動のジャマでー」

「呪殺するぞ即席ホルスタインっ!
うらうらハンドリングハンドリングハンドリングーッ!」
「ハンドリングのハンドだっ、反則だにゃー」

「こほん。お子様の躾と言うか、
お子様以下の事は少し控えては?」
「すいませんすいませんすいません」

一足先に水風呂を上がった御崎海香が腕組みして二人を見下ろし、
その側で愛衣がぺこぺこ頭を下げるのを、
詢子が苦笑いして手を上下させる。
549 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:34:14.22 ID:Ruj68JQ50

「よいしょっと、君達きょうだいかなー?」

水風呂を上がった裕奈が、横並びに立つタツヤとゆまに声を掛け、
ゆまが首を横に振る。

「へえー、じゃあカップルかにゃー。
いい、ああ言う大人になったら駄目だからねー」
「一人でなーに言ってんだゴラアッ!!」

裕奈の背後から怒号が響き、
体を前に倒し、二人に視線を合わせていた裕奈を
指をくわえたタツヤがじーっと見ていた。

「いーい、こうやってやるだけやって
バックれる様な大人にだけはなっちゃ駄目だからなー。
で、君、サッカーやるの?」
「さっかーさっかー」
「おー、ボールは友達」
「ともだちー」
「よしよし」

しゃがみこんでタツヤの頭を撫でるカオルを、
ゆまがじーっと見ていた。

「ふふーん、年下の男の子を上手く手懐けるにゃー」
「人聞きが悪いっ、大体、アンタがふざけた事言うからだろうが」

「人のせいにするのー? やだねーこういうお姉ちゃん。
今度一緒にバスケしようか」
「何言ってんだあんたはっ!?!?!?
よーし、いい加減決着を………」
「望む所だにゃ………」

「………反省」
「して下さい………」
「「すいませんでした」」

燃え上がる炎とゴゴゴゴゴゴゴゴと言う効果音と
黒目の消えた両目をイメージ映像に、
腕組みしてV字の横並びに立つ海香と愛衣を前に、
裕奈とカオルは深々と頭を下げる。
550 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:36:08.87 ID:Ruj68JQ50

「まあ、友達困らせるのも程々にしとけよ、
やんちゃとセクハラも、って言うか今はセクハラとか普通に駄目だから」
「ほんとーにすいませんでした」

腕組みする海香に睨まれ、タツヤとゆまにじーっと見られながら
裕奈とカオルは体を折って深々と頭を下げ続け、
手をパタパタ上下させて苦笑いする詢子に愛衣ももう一度頭を下げる。

「ほら、行くぞタツヤ」
「ゆまちゃんも、お婆ちゃんの所に行こうか」
「「はーい」」
(お姉さん、じゃないよね………)

和子と談笑しつつ子どもを連れて行く詢子を見送りながら、
愛衣は心の中で呟く。
どうも母親の友人らしい女性も年相応に落ち着いた美人の部類に入るが、
あの母親は、もしかしたら元はいわゆるヤンママ、なのかも知れない。
子連れにしては若々しくスタイルのいい、溌溂とした美人だと、
愛衣は理屈に直せばそんな事を考えて、若輩ながら感心する。

ーーーーーーーー

「言っておきますが」

浴場を歩きながら一度とんとん肩を叩き、
はあっと息を吐いた愛衣が口を開く。

「さっきも言った筈ですが、もしここで私に何かがあれば、
確定的に困った事になるのはあなた達の方ですので」
「う、うん、まあ、
ちょっとした気の迷いって言うか、すいませんでした」

愛衣の言葉に、カオルは後頭部を掻いて笑って謝る。
551 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/02/24(土) 02:39:00.21 ID:Ruj68JQ50

「ま、メイちゃんの背中は私が任されてるんで」
「だな」
「いい人ですね」

何故か裕奈と意気投合するカオルを見て、
愛衣が海香に声を掛ける。

「元気で友達思いで、そして本当は凄く賢い」
「そちらのパートナーも」

海香が言い、愛衣が頷く。

「カオルも、裕奈さんも。
小難しく考えてる横で、何が本当に大事なのかが
直感で分かるんでしょうね。
そして、それを貫く意思を持っている。
根性って言ってもいい」
「はい」
「じゃあ」

少し先を歩いていた裕奈が振り返って口を開いた。

「今度作るゲームの事、少し詰めようか」

==============================

今回はここまでです>>544-1000
続きは折を見て。
552 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:10:11.77 ID:4xYS9yiD0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>551

ーーーーーーーー

「………」

あすなろ市内のスーパー銭湯フードコートの小上がりで、
ソフトクリーム片手に祖母の下に向かっていた千歳ゆまが
ふと視線を感じて振り返る。

「駄目だぞタツヤー、
さっき食べただろ、お腹ゴロゴロになるからなー」
「はいタツヤ君、たこ焼きフーフーするよ」

母親と、母親の友人の和子お     姉さんに呼び戻され、
鹿目タツヤがトテトテ別のテーブルに向かう。

「おいしー」
「じゃああたしも一つ。
ほらタツヤ、こっち一つ食うか? 塩とタレどっち?」
「運転しないからってあんまり飲み過ぎないでよ詢子」
「いやー、ここ飯もツマミも結構イケるって評判だからなー」

選り分けた焼鳥を見様見真似に爪楊枝で一つ頬ばっていたタツヤが、
もう一つ、タレ焼鳥をぷすりと刺して歩き出す。
553 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:11:42.28 ID:4xYS9yiD0

「食べるー?」

すっと目の前に差し出されて、ゆまは目をぱちくりさせる。

「………」

くっくっ苦笑いする詢子の横で、和子は、
そう言えば、三人和気藹々なこちらをやけに見ていたなあの娘、
と、ふと思い返す。

「ええと………」

きょろきょろ見回したゆまは、祖母と詢子が笑って頭を下げるのを見て、
ぱくりと口に入れた。

「美味しい、有難う」
「ありがとー」
「どういたしましてだろー、
うちののプレゼント貰ってくれてどうもー」

カラカラ笑う詢子に、ゆまもにっこり笑って応じていた。

ーーーーーーーー

「頼む」

女湯の浴場で薬湯に浸かりながら、牧カオルは頭を下げる。

「かずみを助けて。
いや、かずみには手を出さないでくれ。この通りだ」

そんなカオルの頭が向いている先で、
佐倉愛衣は伏し目がちに首を横に振る。

「あなた達は和紗ミチルさんに救われた」

愛衣の声を聞き、カオルは顔を上げる。
554 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:15:22.38 ID:4xYS9yiD0

「あなた達は和紗ミチルさんの導きで魔法少女になった。
和紗ミチルさんは明るく、優しく逞しいリーダーだった」
「あ、ああ、そうだ。ミチルはそんな、
掛け替えのないリーダー、仲間だった」

愛衣に迫る様に言うカオルの背後で、
御崎海香が僅かに眉を顰める。
もう、九割方無駄だと分かっていても、それでも、
相手の術中に飛び込んでいるカオルに対して。

「魔法少女は魔女になり、そして、
魔法少女に討たれてグリーフシードと言う形で糧となる」
「あ、ああ………」
「それでは、かずみ、とは誰なんですか?」
「かずみは、かずみだ」

厳しいぐらいに硬い愛衣の問いに、カオルは答えた。

「かずみはかずみ、
あたし達の大切な友達、大切な仲間だ。だから………」

「只、習っただけじゃない、アメリカ英語を使い慣れた日本人。
私が見たかずみさんです。

和紗ミチルさんは、アメリカに長期留学していますね。
義理の祖母の死をきっかけに帰国している。
集められるだけのサンプルで比較しても、
最新の電子的鑑定の結果では、かずみさんと和紗ミチルさんは同一人物。
少なくともその事を否定出来ない程度には外見が酷似している。

そして、昨年以前の和紗ミチルさんの周辺に、
双子の姉妹がいたと言う形跡は欠片も無い。
かずみは和紗ミチルのかずみ。記憶を喪った同一人物。
そう考えるのが一番自然です」

「そ………」
「科学しか知らない、知識でしか魔法を知らない人なら、
そういう結論を出したでしょうね」

言いかけたカオルに、愛衣は被せる様に言った。
555 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/03(土) 03:18:47.81 ID:4xYS9yiD0

「私は、かずみさんに触れています。
そして、あのレイトウコで、
説明が終わったその瞬間に立ち会っていました、
かずみさんと一緒に、魔法使いとして」

改めて、ぐっと前を見るカオルを愛衣は見返す。

「かずみさんは言っていました。
御崎海香さん、神那ニコさんは魔法分析の天才だと。
あの博物館、レイトウコを見て私は確信した。
魔法少女の魔法、未知の部分もあるけど、私達にも通じる部分もある。
高等魔法の莫大な知識を外付けして使う事が出来るあなた、御崎海香さん。
そして、科学とも融合して変化させ作り出す事が出来る神那ニコさん。
この二人の高等魔法技術を組み合わせて、私達が連想するのは」

「錬金術」

静かに言った裕奈を、主として喋っていた愛衣が振り返る。

「まあ、私は歴史と、
魔法の基になっている理論を勉強し始めたばかりだけど」

「そういう事です。伝説にカテゴライズされているものは別にして、
私達は歴史を見て来ました。
今の所は時の魔法と共に、魔法であっても一線の向こうにあるもの。
現在ではそうカテゴライズされている領域に挑んで来て、
現在に至る迄その結論を変える事が出来なかった、
極めて高度な魔法使い達が積み重ねて来たその歴史を」

その愛衣の目力は、元来気の強いカオルもたじろぎそうになるものだった。

==============================

今回はここまでです>>552-1000
続きは折を見て。
556 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:40:19.02 ID:ioJ43ves0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>555

ーーーーーーーー

「取り敢えず、刹那さんがごく最近、
このメガロメセンブリアにいた事は間違いないね」

魔法世界メガロメセンブリアのオープンカフェで、
美樹さやかが手帳片手に口にした。

「魔法のネカフェがあるとかって、
魔法世界がどんだけ普通の世界なんだって。
あの二人、このかさんと刹那さんが有名人だったから、
意外と早く絞り込めたけど」
「二人がまどかと行動を共にしていた情報も色々出て来てる。
情報の日時から言って、少なくとも桜咲刹那はこの街にいる筈………」

そう言って、ほむらはコーヒーカップに視線を落とす。
ほむらは明らかに焦っている。
さやかはその事を察していた。

「って言うか、ここまで色々調達するのに、
本格的に色々ヤバイ橋渡って来てたんだね転校生。
どう見ても普通の空港レベルな出入り口を時間停止でブッチするとか、
誰だよあんたなお下げ眼鏡の可愛い女の子について来たチンピラが
路地裏で謎のナイトにぼっこぼこにされて
情報と有り金巻き上げられる事件が続発して今に至るとか」

「可愛い女の子だと誰だとあんたは、になるのかしら?」
「少なくとも性格は。見た目は可愛いってより美人だし」

コーヒーカップを持ち上げてフリーズしているほむらを、
さやかはニシシと見ていた。
そんな二人いるテーブルに、とん、と手が置かれる。
557 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:43:09.58 ID:ioJ43ves0

「?」

ほむらとさやかが見た相手は若い女性。
後ろから見ると民族衣装風の被り物が長く垂れているが、
二人の目は、ずれたサングラスの向こうに見えるキツネ目と、
大胆に切れ込んだワンピースから
半ばはみ出したたわわな膨らみに吸い寄せられていた。

「尋ね人かなお嬢さん達?」

ーーーーーーーー

裕奈がついっと目で促し、魔法使い二人、魔法少女二人は
スーパー銭湯女湯の薬湯を上がって浴場の中を移動した。
一般的には大体美少女、と言ってもいい四人の少女が泡風呂に沈む。
四人は四角く深いタイプの、発泡音波刺激タイプの泡風呂に身を沈め、
所属ごとの2on2で向かい合う位置を取る。

「魔法協会は………」

海香が、伏せていた目を上げて口を開く。

「魔法協会は、一体どうするつもり?」

「私が知る限りの事が協会の耳に入れば、
私の推測では十中八九、関東どころか日本の魔法使いの総力を挙げてでも
あなた達は完全に無力化される」

「それじゃあ、かずみは………」

カオルは、湯に浸かりながらも青い顔で問う。

「率直に言って未知の領域、確実な予測は出来ません。
しかし、一つだけはっきりしているのは、
公共の福祉、そのための自然秩序を踏まえた対処をする事になると」
「待ってくれっ!」

湯を割って、カオルがざっと前に動く。
558 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:46:18.38 ID:ioJ43ves0

「待ってくれ、メイ、あんたも見ただろう、かずみに会ったんだろう?
かずみは、かずみは生きてるんだ、かずみはかずみなんだ。
大丈夫、大丈夫だ、かずみは大丈夫だ、
今回は上手く行ってるんだっ!」

「今回は?」

愛衣がぽつりと漏らした言葉に、
縋り付かんとしていたカオルが動きを止めた。

「今回は、ですか?」

いい加減のぼせを考えるぐらいに湯の中にあって、
明石裕奈は冷たい戦慄を覚えていた。

「どういう心算ですか?
一体、何様の心算なんですか?」

佐倉愛衣はサラマンダーを使役する火炎の魔法使いである。
だが今、前に出ようとする裕奈を腕で制して
体の芯から静かな声を発する愛衣がこの湯壺に齎しているのは、
絶対零度の戦慄だった。

ーーーーーーーー

「ちょっ!?」

メガロメセンブリアのオープンカフェで、
話を聞いて立ち上がるや走り出したほむらを、
支払いを済ませたさやかが追い駆ける。

「転校生、急ぎ過ぎっ………」
「………何故、気づかなかった………」

走りながら、ほむらは苦い声を発していた。
559 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:49:10.72 ID:ioJ43ves0

ーーーーーーーー

ざばっ、と、愛衣が立ち上がる。
そして、つかつかと移動し、掛け湯を浴びて水風呂にずぶんと身を沈める。
愛衣が戻って来るのに合わせる様に、他の三人も泡風呂を上がると、
丁度空いていたメイン浴槽で四人が合流した。

「ってる………分かっ、てる」

熱めの湯に浸かりながら、やや落ち着いたとは言え佐倉愛衣から
突き刺さる様な視線を向けられていた牧カオルが、伏せていた顔を上げた。

「分かってる。あたし達は何を言われようが文句の言えた筋合いじゃない、
そんな事は分かってる。
だけど、かずみは………かずみはかずみなんだ。
見ただろう、メイだって、優秀な魔法使いなら分かった筈だ。
かずみは生きている、だけど、まだあたし達がいないと、
だからきっと、きっとあたし達がかずみを………」

愛衣は、愛衣の両肩を掴もうとするカオルからざっと身を交わす。
最早、サスペンスであれば手近な鈍器が降って来る流れだった。

「メイ………」

つんのめった湯面から顔を上げ、
更に縋り付こうとするカオルの両肩を掴んだのは、裕奈だった。
その側で、愛衣は顔を伏せている。

「メイちゃんは優しい娘で、
佐倉愛衣先輩は真面目な魔法使いなんだ。
これ以上苦しめるって言うなら、
不肖の後輩が今すぐ黙らせる」

そして、裕奈が次に見たのは海香だった。
560 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:52:30.92 ID:ioJ43ves0

「私達の口を塞いで、ちょっとでも稼いだ時間の間に
かずみちゃんと姿を消す」

そう告げて睨み付ける裕奈を、海香は静かに見据える。

「そんな事を考えてるんだったら、
あんたらがどうにか出来るのは一人だけ。
例え、刺し違える事になったとしてもね」

裕奈の手が緩み、カオルがゆっくりと距離を取る。

「だから、教えてくれないかな。
あの日、図書館島で何があったのか」
「えっ?」

裕奈の言葉を、カオルが聞き返した。

「あの日、あのタイミングにあんた達が只、
本を探しに来たなんて信じられる訳がない。
元々、本題はそっちの方だからね。
これは本来私の仕事、メイちゃんは監督役だから。
元々、魔法使いは魔法少女には不干渉。
魔法少女しか関わっていない、って事なら深く詮索するのは面倒くさい。
そう考えてわざわざ報告書には書き込まない。
そんないい加減で半人前以下の魔法使いがいるかも知れない」

「ゆーな………」

近づこうとしたカオルを、裕奈は睨み付ける。

「半人前でも、流石に手ぶらで帰るって訳にはいかない。
手土産ぐらい持たせてくれないかな?」

そう言った裕奈が、からりとガラス戸が開く気配に目を向ける。
561 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 03:54:37.96 ID:ioJ43ves0

「あら」
「ありゃ」

声を出したのは、巴マミと明石裕奈だった。

「珍しい取り合わせだな」

マミの背後で杏子が言った。
その間に、メイン浴槽の面々は湯を上がってマミ達に接近する。

「そっちこそ、一緒に温泉とか来るんだ?」
「お仕事の帰り」

裕奈の言葉に、杏子がはあっと嘆息して言った。

「あれから魔女に出くわしてさ、
あたしは縄張り荒らしは御免だって言ったんだけど、
リアルタイムで死人出そうだったからこっちのマミ先輩がどうしてもってね。
どうする? 一戦交える?」

「遠慮しとく、今夜は疲れてるし面倒は御免って事にしておくわ」
「そりゃどーも」

海香の回答に、杏子が鼻で笑った。

「で、食いモンも旨いってから付いて来たんだけど、
密会って事でいいのかこれ?」
「そんな所ですね。図書館島がどれぐらい浸食されたのか、
少々短気な人達抜きで穏便にお話を」
「へーへー、それで不意打ち防止に
ソウルジェム一つの真っ裸で密談ね、用心深いこって」

真面目な顔でつらっと言う愛衣に杏子が言う。
562 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:02:50.84 ID:ioJ43ves0

「入りましょう、あちらにはあちらの都合があるんでしょう」
「そうさせてもらうか」

そう言って、マミは手近なジェットバスに入る。
手すりに腕を絡めてジェットを背中に当て、
マミは身を反らせてご満悦にんーっと唸る。

「おー、気持ちよさそう」

マミと杏子と裕奈が三連のジェットバスを堪能している間、
魔法使い一人とあすなろの魔法少女二人は
気泡超音波風呂で体を温める。
そうしながら、愛衣の視線は出入り口とは別のガラス戸をとらえていた。

ーーーーーーーー

「錬金術」

マミと杏子が裕奈と分かれ、メイン浴槽で本格的に体を温めていた頃。
涼しくなり始めた夜風に吹かれ、敷地内露天風呂に浸かりながら、
海香とカオルを見据えた愛衣が口を開いた。

「あなた達は錬金術を含む高度な儀式魔法を使いますね。
空間や封印の高度な儀式魔法を使う事が出来る。
ゲートを動かしたのは、あなた達ですね?」

「報酬は図書館島よ」

口を開いたのは、御崎海香だった。

「彼女は、前もって用意していたメモと
強力な魔除け札を装備して私達の前に現れた。
ええ、私達は一時期このあすなろ市を結界化して、
魔法少女契約を売り歩くキュゥべえを人の意識から排除して、
独自に開発したソウルジェムの浄化システムを使っていた」
563 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:05:30.80 ID:ioJ43ves0

「改めて、デタラメな魔法の規模。
あなた達は間違いなく儀式魔法を、
恐らくは外付けの膨大な魔法知識から欲した事を検索し、
表示されたやり方を成功させる程度には使いこなしている」

「ええ、それで合ってるわ。
もちろん色々研鑽はしたけど多くは私の固有魔法。
そんな箱庭に現れた彼女は、
既に私達ですら存在の認識を失っていた特殊システムを精査して、
その欠陥を教えてくれた。
その事が無かったら、私達は見せかけの浄化に騙されて、
とっくに全員魔女になって破綻していた」

「お陰で、かつての魔法少女を殺して
グリーフシードを得てソウルジェムを浄化する。
元の木阿弥で共食い生活に戻った訳ではあるけど、
こちらで作った画期的システムのつもりの欠陥に気付かずに、
解決したつもりがいつの間にか魔女になっていた、
なんて結果よりはマシだったかな」

「何を………」

海香に続くカオルの言葉に、
口を挟もうとした裕奈を愛衣が制する。

「彼女の提案、要求は、本来であれば私達のポリシーに反していた」
「ああ、ミチルが悔いた事を、更に付け加える。
その事に加担しようって話だったからな」
「だけど、図書館島へのアクセス権が魅力的だったのも確か。
犠牲によらないソウルジェムの浄化システムを確立する事、
そして、黄金よりも遥かに尊いものを生み出し、完成させるために」

ぐっと睨む愛衣に、海香とカオルは小さく頷いた。
564 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:10:02.59 ID:ioJ43ves0

「だけど、それ以上に、惹かれたのよ。
彼女は、そもそも私達が図書館島を欲したその気持ちを理解してくれた。
ゲートの分析、それ以前にあそこに到達する迄は
決して平坦な道のりではなかった。
それでも私達は、求められた通りにあの日、あの時に
求められた条件でゲートを発動させた。
それは、私達がそれをしたい、と思ったから」

「それは、理解してくれたから?」

裕奈の問いに、カオルが小さく頷く。

「私は彼女であり、彼女は私だった。
理不尽なシステムに奪われたなら奪い返し、
命を懸けて守り抜く。
決して退かず、諦める事無くそれをやり通したいと
心の底から願い、実行する。
決して引かない、引けない思いと行動。
苦しい、悔しい涙と熱い思い、戦い取り戻し守り抜く鉄の意志。
その全てに揺ぎ無く誠実であり、
名も良心も、そして元より自らの命も惜しまぬ者」

こちらを見据える海香の顔を見ながら、
ごくりを喉を鳴らした明石裕奈の顔からは
すーっと血の気が引いて行った。
565 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:11:48.42 ID:ioJ43ves0

ーーーーーーーー

「有難うございます」

桜咲刹那に緑茶の湯飲みを渡され、
ぺこりと頭を下げる鹿目まどかに刹那は優しく微笑んだ。
準備が整う迄と言う事で用意されたホテルのツインルームで、
まどかと刹那はツインのベッドに腰かけながらの一時を過ごしていた。

「あの話には、少々続きがあります」

刹那が口を開き、まどかは、
刹那に合わせる様にサイドテーブルに湯飲みを置いた。

「不老不死、と言うものをご存知ですか?」
「不老不死?」

聞いた事がある、と言うか恐らく知識はある筈だがピンと来ない。
それが鹿目まどかの実感だった。
そんなまどかに、刹那はすらすらと筆を走らせた和紙を渡す。

「老人………年を取らない、死なない、ですか?」

「その通りです。あなたが映画で観たあの戦いの最中、
激しい戦いの中で必要に迫られたネギ先生は、
闇の魔法と契約し、不老不死の身となりました」

「え? あの?」

二人はツインのベッドに座っていたが、
やはり認識が追い付かないまどかが目をぱちぱちさせて刹那を見て、
刹那は静かに微笑みを返した。
566 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:13:15.58 ID:ioJ43ves0

「だから、年を取らない、死なない、です。
実際には許容量を超えたダメージで死ぬ事もあるらしいですが、
大概の事では死にませんし、
多くの場合死の原因となる老いとも無縁の身となりました」

「えー、と、それってとっても、凄い、って言うか」

「ええ、古今東西の英雄、権力者の中には
その全てを懸けてでも欲した者もいます。
莫大な富と権力を得ながら、だからこそ、
それを永劫のものとしようとして、只一つままならぬ最期の時を恐れ、
見果てぬ夢を前に力尽きた者達が」

「でも………」

まどかが下を向いて呟いた。

「それを、不老不死になる、って、私は嫌だ」
「ええ、私もです」

まどかの言葉に応じて、刹那は優しく微笑みかけた。

「じゃあ、ネギ先生は?」

「ええ、それは、世界を救うためにやむを得ない事だった、と、
ネギ先生はそう覚悟を決めています。
ですから、ネギ先生はこれからもずっと、
私達教え子もその他の家族、知人も皆、
年老いて最期の時を迎えるのを子どもの身のままで見守る事となります」

刹那の言葉に、まどかは両手で口を塞ぐ。
そして、刹那に渡されたハンカチを目に当てた。
567 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:14:59.56 ID:ioJ43ves0

「そんなのって………」

「ええ、人の身として、それは本来とても辛い事です。
ネギ先生の様に、大勢の人達から慕われているなら尚の事、
その人達全てと別れても尚、生き続けなければいけない。
その事がずっと続くのですから。
しかし、ネギ先生はそれを受け容れて今、
二つの世界を救う為に奔走しています。
その計画の遠大さと障害の大きさを考えるならば、
魔法世界の英雄、王族の血筋であり、
自身天才的と言ってもいい才能を持つ
ネギ先生程の人物が不老不死でもなければ実現出来ない。
その事も又、辛い現実です」

「そう、ですか………」

淡々と言う刹那の言葉に、まどかはハンカチを握り、下を向く。
その静かな言葉に込められたものが、まどかにも伝わって来る。
恐らくこの人、このクールで優しい先輩も、泣いたのだろうと。

「この魔法世界、正確にはメガロメセンブリアのエリアを除いた大部分は、
火星を依代にした一種のエネルギー体、
その話は映画にも出て来ましたね」

「は、はい、確かそんな話が………」

「つまり、れっきとした生きている人間、或いは動物も草木も生きていて、
建物も何もかもが実在していながら、
それらは全て魔力から生じた言ってみればホログラム、
立体映像に魂が宿ってこの世界での物体としての存在を維持している。
そういう存在です」

「ホログラム、ですか? でも………
でも、みんな、そんな事分からないって言うか、
私も熊のぬいぐるみのおばさんとか、何人か会ったけど、
でも、みんな生きてて、心があって」

「その通りです」

一つ一つ言葉を組み立てるまどかに、刹那はふっと微笑んだ。
568 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:16:52.55 ID:ioJ43ves0

「その通りです。魔法世界に生きている者は誰も、
この世界で心を持ち生きて生活しています」

「ですよね」

「ですけど、その核となる魔力の枯渇により、
魔法世界の人々は、人々も動物も草木も建物も何もかも、
その世界そのものが消滅の危機を迎えた。
その解決策を巡る争いこそが、
夏休みに起きた私達、ネギ先生初め私達が戦った事件の本質です」

「消え、る、解決策………はい、確か、そんな映画だったと」

「ええ。まあ、元々通常の漫画の単行本に換算しても16巻程になる物語に
その背景事情等々を加えたものを総集編として
一本の映画に落とし込んだ力技でしたので、
一度に理解するのは難しいと言うのは理解できます」

「ウェヒヒヒ………」

「色々ありまして、この魔法世界の現実的滅亡を回避し、
魔法世界の土台となっている火星の現実世界のサイドを
緑溢れる惑星へと開発する事で、火星に宿る生命力、
そこから供給される魔力を育てて魔法世界を安定させる。
それが、ネギ先生が示した解決策です」

「火星、ですか? 確か火星って………」

「ええ、今の所、水や大気が辛うじて存在する程度の惑星ですが、
全世界の規模で対応すれば、
我々の世界の様な生きた世界を作り上げる事も理論上は不可能ではない。
ですから、そのとてつもなく遠大なプロジェクトの核となるためにも、
ネギ先生は不老不死となり完成を見届ける迄尽力する、
そういう事になりました」

「そう、ですか………」
「しかし、それだけでは間に合いません」
「間に合わない?」
569 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:18:34.80 ID:ioJ43ves0

「ええ、普通に考えても、火星が緑の惑星になるためには
とてつもない資金と労力、そして、時間がかかります。
あらゆる力を用いて縮めるにしても限度がある。
そして、計算上、どんなに早く計画が遂行されたとしても、
魔法世界の滅亡に追い付く事はあり得ない。
例え私達の全世界の総力を挙げたとしても、
計画が実現する前に魔法世界は滅亡します」

「それ、って、それじゃあこの世界は、ネギ先生が不老不死にっ」
「ええ、ですから、もう一人いるのです」
「もう一人?」
「神楽坂明日菜さん」

まどかの目を見て告げた刹那の言葉に、
まどかはちょっと記憶を辿る。
そう、自分も新・オスティアのパーティーで出会った快活な先輩。
あの時も、写真で見た時も、
それだけでも分かる木乃香の、そして刹那の親友に違いない人。
そして、さっき迄観ていた映画にも、確かにその人は登場していた。
それも、極めて重要なポジションだった筈。

「このかお嬢様と神楽坂明日菜さん、そしてネギ先生、
この三人がルームメイトだった事はお話ししましたね?」
「はい」

「幼稚園以来のエスカレーター組も多い麻帆良学園で、
アスナさんは小学校の途中からあの学園に転入しました。
最初はひどく不愛想で、本人はがさつな乱暴者だと言っていますが、
何時しか溌溂とした、体力自慢の元気な少女に成長したアスナさんは
クラスの中でも慕われる存在となりました。
特に、クラス委員長の雪広さんやこのかお嬢様とは、
出会った時からの親友として深い友情で結ばれています。
そして、昨年ネギ先生がこの学校を訪れた時、
最初に深く関わったアスナさん、このかお嬢様と
行き掛りで同居する事が決まり、お二人は丸で弟の様にネギ先生を愛しみ、
ネギ先生も二人の事をよきお姉さんとして慕っています」
570 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:20:16.03 ID:ioJ43ves0

まどかは、刹那の懐かし気な横顔を見る。
そう、まどかがパーティーで出会った時も、
あの可愛らしい、そして精悍な男の子、ネギ・スプリングフィールド。
そのネギと明日菜の関係は実に気楽な、
僅かな時間会っただけのまどかにも、仲の良い姉弟の様、
と言う刹那の言葉の真実がよく分かるものだった。

「本来は秘密である筈が、アスナさんにはネギ先生があの学校に来て即日に
ネギ先生が魔法使いだと言う事が発覚したと、
今思えば背筋が寒くなる笑い話です。

それからは、様々な魔法のトラブルに於いても、
アスナさんはネギ先生の最良のパートナーとなり、
アスナさんがネギ先生の背中を守り、
時に真面目過ぎるネギ先生を一喝しながらも
ネギ先生とアスナさんは深い信頼関係を結んで
様々なトラブルの解決にも尽力して来た。

アスナさんは、身寄りのない孤児でした。
知り合いの関係で麻帆良学園の学園長の保護下に入り、学園に入学した。
学園長からは構わないと言われながらも、
アスナさんは早くから新聞配達で少しでも学費を稼ぎ、
そうしながら出会った様々な人達と、幸せな学園生活を送っていました」

そう聞くだけでも、贅沢ではないが
苦労知らずでのんびり育って来たまどかは
あの快活な明日菜に畏敬を覚えてしまう。

「そんなアスナさんの過去は、先程の映画でも語られました」
「は、はい」

刹那の言葉に、まどかが記憶を辿る。
571 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:21:35.88 ID:ioJ43ves0

「アス、ナ………あれ? アスナ、って、お姫様………」

「はい。アスナさんは、黄昏の姫君、そう呼ばれていた魔法世界の姫君でした。
魔法世界の中でも極めて希少な能力を持つ血筋である故に、
その人格は実質封じられ、戦争に於ける兵器として利用されて来た。
ええ、利用されて来たんです。

子どもの姿のままの百年余りを経て、そんなアスナさんを救出したのが
ネギ先生の父、ナギ・スプリングフィールド、
加えて、このかお嬢様の父上、当時の青山詠春氏を含む一団「紅の翼」でした。

「紅の翼」に救出されたアスナさんは、魔法に関わる記憶を封印され、
一人の普通の女の子として麻帆良学園に入学しました。

しかし、再びの魔法世界でのトラブル、
それが一時的な戦争と言ってもいい規模に及び、
その中に巻き込まれて敵方の術式の核として利用される事となったアスナさんは
かつての記憶を取り戻し、そして、ネギ先生と共に
その素質を復活させて、魔法の世界を、救いました。
それが、あの映画で描かれていた事です」

「あ、あの、ウェヒヒヒ、ちょっとなんと言うか」
「ええ、付いて行けませんよね。
本人もそう言っていましたし私等も、はい」

「は、はい。なんと言うのか凄い人なんだなと」
「はい、凄い人であり、そして、本来であれば魔法の世界の中でも
とてもとても偉い、到底私等が近づく事等………
ああ、いけませんね。又怒られて、しまいます」

「刹那さん?」

はたと下を向いた刹那にまどかが声を掛け、
刹那は、その呼びかけに優しい微笑みで応じた。
572 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:23:03.83 ID:ioJ43ves0

「いえ、少々長いお話でしたので。
アスナさんは、ネギ先生と共に、この夏休みに発生した
魔法世界の滅亡危機を回避する事には成功しました。
しかし、魔法世界を支える魔力の枯渇により、
遠からぬ未来に魔法世界が滅亡する事に変わりはない。
それを回避するために、不老不死の身となったネギ先生は
魔法世界の依代である火星の開発に着手していますが、
時間が足りません、百年程」

「百年、ですか」

聞き返すまどかに、刹那が頷いた。

「正確には百年そのものではありませんが、
他に手を打たないとその間に滅亡は訪れる。
その足りない百年の時間、
魔法世界を維持するための礎となるのがアスナさんです」

「礎?」

「はい。魔法世界の姫君で特別な素質の血筋であるアスナさんが礎となり、
魔法世界の崩壊を遅らせる大規模な儀式魔法の中核となって
百年間の眠りに就く。
その事により百年の時間が稼げる。そういう計算なのだそうです。
実際に、あの映画でも描かれていた通り、
アスナさんはその血筋と修行によって、魔法世界の存在そのものを左右する
非常に特殊で強力な魔法を用いた事もあります」

「あの、百年の眠りって、それって………」

「おおよそ文字通りの意味です。
アスナさんは百年間俗世から切り離され、封印されます。
封印されて眠りに就き、その間に、
それまで培って来た人格、記憶も全て失って目覚める。
そう予測されています」

落ち着いた口調の刹那の説明を、
まどかはきょとんと聞いていた。
573 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:24:29.64 ID:ioJ43ves0

「詰まりは浦島太郎ですね。
ですけど、浦島太郎の場合は竜宮城に行く前の記憶があります。
しかし、目覚めるアスナさんはその記憶すら失っています。
果たしてどちらが幸せなのか」

「幸せ、って、そんな、そんなのってないよっ!」

最後に自嘲めいた笑みを聞き、まどかは叫んでいた。

「だって、だってあんな、アスナさんあんなに、
みんなと一緒に、あんな、笑って………」

多分、さやかであれば
もっとストレートに感情を発露して表現していたのだろう。
それが出来ない自分がもどかしくも、
まどかは、それでも、例え無駄でも、必死に伝えようとしていた。

「そうです」

まどかを見据える刹那の眼差しは、真摯だった。

「アスナさんは、幸せでした。
魔法世界の姫君として、只兵器として使われるばかりの百年を経て、
その記憶を封印して、麻帆良学園で一人の女の子としての人生を送っていた。
お嬢様や委員長さん、心の通じる親友や尊敬出来る高畑先生達と、
元気に、年相応の恋に悩み、そんな日々を送っていました。
そんなアスナさんがネギ先生と知り合い、魔法を知り、
ネギ先生の日本で最も身近なお姉さん、公私に渡るパートナーとして、
時に命懸けの戦いとなってもネギ先生や他の皆と共に先頭に立ち、
目の前で大事な人のために戦いを選んだ。
その中には、私も含まれていました。
アスナさんはお嬢様の、そして、私の、掛け替えのない友です」

「刹那さん」

既にして、先程辛うじてまどかの中で
ファイティングに沸騰していた気持ちは半ば以上萎えていた。
それは、刹那の言葉だから。
刹那がそう言うのであれば、本当の事であり、仕方がない事なのだろう。
刹那の言葉には、そう思わせるだけの誠実さがある。
574 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:26:32.08 ID:ioJ43ves0

「そんな、アスナさんだから、自らのルーツ、故郷、
そして、そこで出会った人々、自分を助けてくれた、
そのために命を懸けた人々、そうである人、
そうでない人達が生きる世界のために、自らの犠牲を選んだのです。
今迄出会い、共に歩んで来た人達との未来を失い、培って来た思い出を失い、
目覚めた時にはネギ先生以外の知り合いの誰もがその天寿を全うした後。
そうなったとしても、アスナさんはその道を、選ばれました」

「そんな………」

ふうっと息を吐き、説明を終えた刹那に、まどかが呟く。

「んな………そんなの、ってないよ………
あんまり、だよ………」
「ええ」

まどかの呟きに、刹那が反応した。
その刹那の呟きに、まどかは真実を見る。
決して、高潔な犠牲を是とする侍、
ではない一人の親友の、女の子の姿。

「どうにか………なんとか、出来ないんですか?」

まどかに問われた刹那は、小さく首を横に振る。

「アスナさんの性格上、魔法世界の滅亡を、
世界丸ごとに等しい人々の消滅を看過する、
と言う事はまずあり得ません。
問題は、魔法世界を支えるための莫大な魔力です。
一つの惑星の生命力に匹敵するだけの生命力が作り出す魔力。
火星に、魔法世界を維持できるだけの生命が定着する迄の百年の時間、
それを埋め合わせるだけの莫大の魔力、これが無ければどうにもなりません」

「惑星に匹敵する巨大な魔力、百年間、維持出来るだけの魔力」

真顔で、真摯に説明する刹那の言葉をまどかは繰り返す。

「ええ。しかし、そんな事は不可能です。
そんな魔力も生命力も存在しない、
そんなものを他で用意する事は不可能ですね」

そして、桜咲刹那は静かに微笑む。
575 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:29:12.31 ID:ioJ43ves0
















神様でも









ない限り
















576 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/08(木) 04:30:32.64 ID:ioJ43ves0

==============================

今回はここまでです>>556-1000
続きは折を見て。
577 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:35:02.10 ID:eutMDHso0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>576

ーーーーーーーー

「あら」

スーパー銭湯のジェットバスで、
隣のコーナーに脚から入る明石裕奈を見て巴マミが声を上げる。

「又会ったね」
「ええ、話は付いたのかしら?」

泡の中にじゃぷんと体を沈める裕奈に、
マミはちょっと皮肉っぽく尋ねた。

「まあね。お陰さんで肩凝っちゃってさ」

そう言って苦笑いする裕奈にマミは目を細める。
マミから見て、自分の後輩にも似たタイプがいるが、
さっぱりと元気な女の子、に見えてその内心は多感で聡い。

「そうね、お仲間とか、ましてやそちらは組織。
もちろん本業の仕事もあって、
味方は有難いけど色々肩が凝る事も多いわよね」

裕奈に合わせる様にマミも手すりを握って、
噴射に当てた背を伸ばしながら一声唸り声を上げる。
そんなマミの横で、裕奈は舟を漕ぐ様に目を閉じて
かくんと下を向いていた。
そして、くくっ、と笑い声を漏らす。
578 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:41:44.28 ID:eutMDHso0

「くくっ、くっ、あはは………」

そして、いきなり水面から胸を浮かべる勢いでそっくり返り、
天を仰いで大笑いを始めた裕奈にマミはぎょっとした。

「ああ、ごめんごめん、ちょっとくすぐったくて、
お騒がせしましたー」
「そ、そう」

目が点になったマミの横で、
まだくすくす笑っている裕奈がばしゃばしゃと顔を洗った。

「ふふふ………ホンモノは違うねぇ」

ーーーーーーーー

「………大丈夫?」

敷地内露天風呂に丁度三つあった石窯風呂の一つで、
熱めの湯に浸かりながら牧カオルが尋ねる。

「今の所健康面に問題なし、
事によっては引きずり出すから準備して」
「ラジャー」

カオルの右隣りの石窯風呂に浸かった御崎海香と
牧カオルが大真面目に会話を交わす。
海香の右隣の石窯風呂では、佐倉愛衣はぽけーっと天を仰いでいた。
愛衣は、ぱんっ、と、両手で顔を叩き、下を向く。
そして、ばしゃっ、と顔を洗った。

「魔法少女の横紙破りプレイアデス聖団、そして………
今回も、先んじたのはあなた達、ですか」
579 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:42:52.69 ID:eutMDHso0

ーーーーーーーー

「あなたも、なかなか懲りませんね」

鹿目まどかが気づいた時には、
自分がいるホテルのツインルームの壁に小さな穴が一つ増え、
暁美ほむらの右手を右手で掴み反らした桜咲刹那の左の肘が
ほむらの腹に埋め込まれていた。

ほむらが痛覚を切る前に、刹那の指の一撃を受けたほむらの右手が
米軍制式M9拳銃を手放し、
ほむらの体はそのまま背中からベッドに叩き付けられた。

「ほむらちゃんっ!?」
「あなたの負けです、暁美ほむらさん」

魔法少女衣装の楯に伸びたほむらの右手に
刹那の長匕首の棟がぱあんと叩き付けられ、
匕首の切っ先がほむらの喉元、絶妙の距離に向けられた。

「無駄な抵抗はやめて下さい。
ここで限界を超えられると後が面倒ですから」

チラ、と、ほむらの左手を見た刹那の視線に気づき、
ほむらは全身を震わせて吊り上がった目を刹那に向けた。

「桜咲刹那、お前、知ってて、それで………」
「ほむらちゃん、っ………」
「桜咲刹那っ!!」

びっ、と、駆け寄ろうとするまどかに匕首が向けられ、
ほむらは今度こそ体勢を立て直した。

「………匕首・十六串呂」

刹那は、たっ、と飛び退いた。
と、思った時には、
ほむらのすぐ横を通り過ぎた何振りもの匕首が
ドドドドドッと壁に突き刺さっていた。
580 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:44:55.36 ID:eutMDHso0

「話は最後まで聞け。
鹿目まどかではない暁美ほむら一人、
邪魔をするなら斬り捨てる」

「白き翼の剣」がほむらに向けられ、
刹那の声は低く嘲笑的ですらあった。

「聞け」

思わず両手をベッドの上に乗せたほむらに、
瞬時に剣の柄元の刃をほむらの首に向け、
ほむらの胸倉を掴んだ刹那は覆い被せる様に言う。

「暁美ほむら、お前の負けだ。
そして、お前は決して私には勝てない。
それでも未だ目的を果たすつもりがあるなら余計な事はするな、
悪い様にはしない」

「桜咲刹那、あなたは、何を何処まで知っている?」

俗に言うメガほむ、あの頃の、吐き気がする程の恐怖が戻って来そう。
魔女、魔法少女相手に相当な修羅場を潜って来た筈、
ほむらがそう思い直しても、刹那の声音はそれだけ「本物」だった。

「魔法少女は魔女になる、これは、今から説明する話でした」
「え?」

ほむらを突き放し、立ち上がった刹那の一言に
まどかはきょとんとし、ほむらも刹那をぐっと睨み付ける。

「やはり、知っていた」

「神鳴流をなんだと思っている?
王城の地を守って来た退魔の剣。
窮兵衛と契約する魔法少女の実態等、
その歴史の中には幾らでも出て来る」

「あ、あの、刹那さん?」
「なんでしょうか?」

刹那の口調は丁寧に戻ったが、やはり、何処か事務的になった。
まどかはそう思った。
581 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:46:51.53 ID:eutMDHso0

「今、魔法少女が魔女になる、って」

「はい、魔法少女のソウルジェムが完全に濁り切ると、
ソウルジェムはグリーフシードを産み、
魔法少女は魔女になります。
こうなると元に戻す術はありませんから、
かつて希望を願った魔法少女は絶望を振りまき人を食らう祟りとして、
他の魔法少女に退治されて死ぬしかなくなる存在になります」

「ほむら、ちゃん?」

「桜咲刹那の言う事は本当よ。
嘘だと思うならキュゥべえに確かめてみればいい」

「そういう訳で、神鳴流では窮兵衛は人には過ぎた奇跡を売り歩き
人を魔性に変える禁忌の存在として、その関わりを禁じられてきました。
それは、現在では魔法の世界に於けるおおよそのコンセンサス、約束事です。
流儀によっては悪魔の契約と扱われている様ですね。
取り敢えず、まともな呪術、魔法の流儀では
窮兵衛、マギカ、魔法少女には関わらない。
長年の歴史、研究の中でそういう約束事が定着していたのですが、
先程も話した通り、今回は非常事態或いは異常事態です」

「それで、この魔法世界を救うために、桜咲刹那っ!」

「協会の内諾は得ています。
お金で済む事でしたら、非常識な程度の金額は用意します。
その上で、魔女になられては当然困りますから、
まどかさんの魔法少女としての活動は協会として全面支援します」

事務的な刹那の口調を聞き、まどかは、とさっ、と座り込む。

「騙されては駄目よまどかっ」
「騙して等いませんよ。
基本、デメリットは偽りはしなくても喋らない窮兵衛と違って、
私としては必要な情報は提供しました」
「ええ、そうね」

殺意の籠った目で刹那を見てから、ほむらはまどかに視線を向けた。
582 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:48:54.73 ID:eutMDHso0

「聞いての通りよ、まどか。
魔法世界の事は気の毒だと思うけど、元々まどかには関係の無い事、
それは魔法使いでどうにかすればいい。
それより、まどかが魔法少女になると言う事は、
何れ魔女になるリスクがあると言う事。
まどかの才能は大きい、大きすぎる。
だから、魔女になった時はとんでもない被害が出る事になる。
そうでなくても魔法少女がどれだけ危険な事かはまどかだって見て来た筈っ」

「そうですね」

ほむらの言葉に、刹那は、ふっとまどかに微笑みを向けた。

「まどかさんには関係の無い事ですね」
「そんな事、ない」

まどかは首を横に振り、ほむらは目を見開いた。

「ほんの短い間だったけど、魔法世界の人達は色々良くしてくれた。
それに、この世界の人達は、私達みたいに普通に生活して、生きてる。
もしも魔法世界が消滅したら、どれぐらいの人達が?」

「まどかっ!」

「ざっと十二億人。おおよそその人数が消滅します。

魔法世界の中でも数千万人は我々同様の肉体を持っていますから、
その人達は魔法世界と言う世界の消滅によって
通常の生物が住めない丸裸の火星に放り出される事になる。

既に魔法世界の崩壊自体は予見されている事ですから、
今のスケジュールでそれが発生した場合、
数千万人の難民が地球に押し寄せる事になる。
しかも、現状では公開されていない魔法の使用がデフォの難民集団です。

今の世界情勢を鑑みるに、その様な事が起きれば
世界大戦レベルの軍事衝突すら十分起こり得ます」

「桜咲刹那っ!」
583 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:49:55.11 ID:eutMDHso0

「私は、私が契約すれば、その人達は救えるの?
その人達のために、神楽坂明日菜さんは
ひとりぼっちにならなくても済むの? 刹那さんっ!?」

噛み付かんばかりのほむらに白き翼の剣を向けた刹那に、
まどかは強い口調で尋ねていた。

「どうですか窮兵衛?」
「十分だね」
「あ、う………」

その声を聞き、ベッドの上で動こうとしたほむらは、
剣の切っ先と、それと同じぐらいに鋭い刹那の視線に動きを止める。

「君の素質は桁違いだ、出来ない事なんてない、
万能の神にだってなれるかも知れない。
君の願いなら、魔法世界を百年維持し続ける事も十分に可能だね」
「ね、がい………」

ほむらの両手が、布団カバーをぎゅっと掴んだ。

「お願い、まどか。
お願いだから、魔法少女、魔法少女には、ならないで………」
「ほむらちゃん………」
「それが、あなたの願いですか」

刹那に静かに問われ、ほむらは顔を上げた。

「あなたは時間の魔法を使う。
そして、あなたの行動パターンには一つの目的が明確に存在している。
そこから考えるならば、あなたが今迄何をどうして来たか、
その結末がどうだったか、それを推測する事は難しくない」
「桜咲、刹那………」

歯噛みしながら刹那を殺せる程の視線を向けるほむらに、
刹那は微笑みを見せた。
584 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:53:37.99 ID:eutMDHso0

「もう、十分です」
「な、っ………」

「魔法少女の行き詰ったシステムの中、
あなたが我武者羅に突っ張って目的の為に戦い、
傷ついて来た事も容易に推測できます。
少女の一度の人生には過ぎる苦しみを味わって来た事も。
しかし、あなたには無理だ」

「………」ギリッ

「やり直しますか? 
しかし、そこに私がいたら、あなたに勝ち目はない。
スタート時点の経験が違い過ぎる。
守る者としては視野が狭すぎる。
だから、同じ標的を見ていた目にすら気づかない。

そうでなくとも、あなたの素質、あなたの今の人としての素質から言って、
何度やり直しても、むしろやり直しを繰り返す程に
脳に不確定要素が溜まり拭いきれなくなる。

私も仕事では機械を使わざるを得ませんが、
あなたの脳は過剰な経験が歯車に絡み付いて
既に最適化もクリーンアップも出来なくなっている。
魔法少女と言う困難の中で一人を守り抜く、
この目的を果たすためには、
どんなに繕ってごまかしてもあなたは………

………優し過ぎる。

もういいです、暁美ほむらさん」

「あなたに、何が………」
「後の事は、我々に任せて下さい」
「そんな、事が………」
「妨げるならその首もらい受ける迄。
私が大切なのは麻帆良で出会った仲間」

刹那は、静かな口調と共に、
改めて「白き翼の剣」の切っ先をほむらに向ける。
585 :mita刹 ◆JEc8QismHg [saga]:2018/03/17(土) 03:56:10.53 ID:eutMDHso0

「私が大切なのは、
麻帆良で出会った掛け替えのない仲間、掛け替えのない友」
「や、めて………」

震えるまどかの声を聞き、刹那は静かに切っ先を下げる。
だが、ほむらは動かない。
刹那はほむらの手の内を完全に知っている、
少なくともほむらはそう確信している。
そして、ここでほむらが僅かでも反撃の素振りを見せたなら、
その瞬間にほむらの左掌は打ち抜かれる、
それを避ける事は不可能である事も。

「勘違いしないで下さい。
何も人質を取って強要するつもりはありません。
そもそも、この窮兵衛は腐っても窮兵衛ですから、
そんな事をしたら契約の前提となる自由意志を疑われる危険があります。
只、邪魔はするな、と言っているだけです。
いいですね、暁美ほむらさん」

「まどか………分かるわよね………」

折れそうな心を叱咤し、懸命に、
刹那を睨み付けながらほむらが続けた。

「この女………桜咲刹那は、最初から、
最初からまどかを利用するつもりで私達に近づいた。
桜咲刹那と近衛木乃香は、まどかの性格を知っていて、
私達を足止めしゲートを暴走させて
この魔法世界へのまどかを連れ込んだ。
まどかの優しさに付け込んで、この世界を見せるだけで事は足りる、
そう読んでまどかの優しさを利用してっ!!!」

「三十点、否、五点も差し上げられません」

吐き捨てる様に叫んだほむらに、刹那が告げた。
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