森久保乃々「ええっ。もりくぼ以外、もりくぼじゃないんですけど」

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1 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage]:2017/05/20(土) 01:34:54.93 ID:XLADNSTB0
ちょっと早い梅雨の日に贈るモバマスSS。
精神世界などが出てくるので苦手な人注意。
アイドルたちの独自解釈があったり、様々な点で原作と大きく乖離しているため注意。
書き溜めプロット一切なし。連載物予定。8月までに終わりたい。

作品内に登場する諸行為は真似しないでください。
少なくとも法に触れないとは思いますが、大きく健康を害する可能性があります。念のため。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1495211694
2 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/05/20(土) 01:35:40.15 ID:XLADNSTB0
遠い日の記憶に浮かぶのは、新入生身体測定。小学校一年生になる前の時のこと。
4月の春の陽気に桜の薄い色が映えて、とっても綺麗だったのを覚えています。
私は視力検査が怖くて、心臓ばくばくでした。

「目にちゅうしゃをするんですか?」
「ののは目がみえなくなるんですか?」

何も知らない私は、これだけは達者だった想像力と妄想力と恐怖心を最大に発揮して、先生にしきりに質問していました。
うんうん、大丈夫だからね、平気だからね、と、何も根拠のない気休めの言葉をもりくぼは本能的に信用できないでいました。
次第に恐怖が恐怖を呼び、もりくぼはパニックになったのでした。

「あくまがののの目をたべちゃう!」
「せんせいはあくまのつかいだ!」
「みんなの目をくりぬいてなべでにこんでたべるんだ!」
「みんな目がみえなくなっちゃうんだ!!!」

もはやもりくぼ以外の子も怖がり始めました。泣き出す子もいました。吐いてる子や漏らしている子ももいました。
先生はものすごく慌てていました。慌てるくらいなら、ちゃんと説明するべきだったのに、と思います。

記憶はそこで途切れていました。そこから数日の記憶がないまま過ごしていたような気がします。

いつしか私は中学生になり、アイドルになっていました。
人生とはわからないものです。人間万事、塞翁が馬……って、言うんでしたっけ。
3 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/05/20(土) 01:36:20.39 ID:XLADNSTB0
〜〜〜〜〜〜〜
も、もりくぼです。
今日もまた机の下にいます。今、事務所にはもりくぼ以外誰もいません。独占してます。
照明もつけてませんから薄暗くて落ち着きます。無音で落ち着きます。ほっとします。
たまに「パキィ!」とか「ミシィ!」とかいう家鳴りがするのは本当に勘弁して欲しいですけど……

あれって、幽霊や妖怪の仕業とかではないらしいです。小梅ちゃんから聞きました。
あっ。でも、たまにいたずらしておどかしてくるとかも、き、聞きました……

あぅぅ……思い出しちゃったんですけど……むり、むぅーりぃー……
うぅぅ、怖くなってきました。こ、こういう時にはあれです。
4 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/05/20(土) 01:36:58.28 ID:XLADNSTB0
「すぅー……はぁー……」

「すぅー……はぁぁーー…………」

「すぅー……はぁぁぁぁーーー………………」

深呼吸をします。机の引き出しにぶつかるかぶつからないかのぎりぎりで体を伸ばして落ち着きを取り戻します。
落ち着いたらまた体育座りします。うん、やっぱりこういう風に固まってたほうがいいです……

恐怖を追い出して自分のペースを取り戻す。
平常の心を取り戻したら、自分を癒すためにもりくぼはある場所へと行くのです。
深呼吸してるうちに目を閉じて、私は自分の世界へと深く入り込んでいきます。
机の下の肉体を離れて、私にしか行けない場所へと旅立っていく。
5 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/05/20(土) 01:37:31.52 ID:XLADNSTB0
行く。行くの。行く。行く。行きたい、行きたい、行かせてほしい、着いて、早く着いて。早く、早く。着いて、着いて。早く。

そう祈りながら、私は体がどんどん軽くなっていくのを感じます。いい感じです。
私はこれからたどり着くそこのことを「もりくぼの森」と呼んでます。
もりくぼにしか行けない、もりくぼにしか見えない、もりくぼの好きなものだけが集まってる、そういう森です。

なぜ行けるようになったのかは知りません……ポエムとか絵本とか描いてたら、いつの間にか森にこれるようになってました……
行き方知ったところで、教えてもどうせわかってくれないです……たぶんもりくぼにしか行けませんから……
6 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/05/20(土) 01:38:16.11 ID:XLADNSTB0
気づいたらもりくぼは黄緑で、背丈の低い草が地面を覆う広い場所に座っていました。
周りは木が覆っています。上を見上げると空が木々の枝葉の隙間から狭く見えます。

空は夕焼けと昼と夜が混じって、赤紫色と群青色の筋が、コーヒーにミルクを溶かしたばかりのようにまだら模様に混ざり合っていました。
大地はどこまでも草と木に覆われて、裸足の足元を風がくすぐっていきます。
もりくぼの森に着きました。手は……動きます。足は……伸ばせます。
立てます。歩けます。目ははっきりと見え、耳をすませば小鳥や小動物の鳴き声が聞こえてきます。

成功です。もりくぼの森に完全に入りました。
走れます。もりくぼは走れるんです。どんどん走れるんです。

もりくぼの森の中ではもりくぼは最強です。速くて強いもりくぼです。
どれだけ最強かというと、ものすごく早く走れます。
ものすごく足が速く動きます。

足と草が触れ合って奏でる音が、流水の音みたいになってきました。
7 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/05/20(土) 01:38:52.21 ID:XLADNSTB0
あと、もりくぼの森にいるともりくぼは羽が生えて空が飛べます。
十分速く走った後に足に力を入れて空に飛び出します。
不思議な力を足から肩、肩甲骨のあたりに移すと、ぶわっと大きな翼が生えるんです。

もりくぼの森はとても広いですから、何処へでも飛んで行けます。
お気に入りの場所がありますから、そこから離れないように注意しないとだめですけどね。
高いところに来すぎると怖いですから、ちょっと降ります。

もりくぼが空を飛んでるうちに空は昼模様に整いました。
白い雲と眩しい太陽がどこまでも清々しい空でした。
手を伸ばすと空は掴めて、するっと引っ張ると水色のレースが手首に巻きつきました。
そのまま頭を下にして縦にくるりと一回転すると、もりくぼの翼は空のレースと編み合わさって長いスカーフのようになりました。
そのまま風を受けて、もりくぼは再び地に立ちます。
8 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/05/20(土) 01:39:37.69 ID:XLADNSTB0
手のひらに花びらが降りてきました。すぅっと鼻から息を吸い込むと、鼻腔に花びらの甘く爽やかな香りが広がります。
吸った息そのままふぅっと吹きかけてやると、花びらは数百万もの花吹雪になって、もりくぼの森へと散らばって行きました。
やがて花びらが地面の草と草の間に落ちると、そこから大きな花びらを携えた花が、次々と咲き始めました。

まさに百花繚乱。そんな言葉が似合う光景でした。

両腕を広げ仰向けに倒れこむと、地面の草がもりくぼを優しく抱きとめます。
草たちはそのままたくさんの緑色の蝶々になって、もりくぼをゆっくりと、優しく、包むように空へと連れて行くのです。

ふわり、ぷかり、ゆめごこち。
きらり、ゆらり、しあわせ。

もりくぼの森は夜になる前に帰らないといけません。どういうことかわからないですけど、なぜかそうなっているみたいです。
9 : ◆t6XRmXGL7/QM [sage saga]:2017/05/20(土) 01:40:04.67 ID:XLADNSTB0
今は大体……夕方の2つくらい手前です。藍子さんのように、量の指をカメラみたいな形にして空を覗くと、うっすらと文字が浮かびました。
これはもりくぼがポエムや絵本を書く時に使ってる文字ですから、もりくぼ以外には読むことも書くこともできません。

その文字たちは花のような、蔦のような形をしています。

4文字のうち右端が蛇になって、蔦になって、きのみになって……
多分時間はすぐきてしまいます。今日はいつもより時間の立ち方が早いのは、ここに来る前にちょっと怖い思いをしたからなんだと思います。

緑色の蝶々たちが雲に並んで飛んでいます。かなり高いところに来ました。もりくぼは下を見ることができません。森とはいえちょっと怖いので。
蝶々に飽きたので、下を見ないようにしながらもりくぼは蝶々から飛び降りました。
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