工藤新一vs杉下右京

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97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:12:30.11 ID:q2OCGKtb0


「待ってくれんか。
コナンくんはワシの親戚の子じゃ。そんな事件になど巻き込まれてはおらん!」


そんな疑問を抱く杉下さんに思わず反論する阿笠博士。

そうだ。阿笠博士にはコナンの親戚ということになっている。

博士の証言があればその前後に何が起きていたのかなど関係ない。


「そうですか。困りましたねえ。
阿笠さんにそんな証言をされたら僕にはこれ以上追求することは出来ません。
ハッキリ言えばお手上げです。
やはりこの事件を解決するにはまだパズルのピースが揃っていませんでしたか。」


ハハ…よかった…

杉下さんがようやく諦めてくれたようで俺はホッとひと安心した。

やべえ…正直この人に糾弾されて生きた心地がしなかった…

けどこれで江戸川コナンの秘密は守られた。

それに俺にはどう考えても江戸川コナンと今回の爆弾騒ぎが結びつくものだとは思えない。

恐らくは杉下さんの読み違えだ。そうに決まっていると高を括っていた。


98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:13:38.14 ID:q2OCGKtb0


「――――工藤くんはその取引現場で毒薬を飲まされたんですよ。」


そんな時だ。突然後ろからそんなことを告げてきた。

馬鹿な…そんなことを知っている…?

それを知っているのは俺と志保、それに服部と阿笠博士に俺の両親だけ。

一体誰だ?

気になった俺はすぐさま後ろを振り向いた。


「どうやらさすがの杉下さんも限界だったようでここからは俺に任せてもらえますか?」


「冠城くん、その自信満々な様子からしてかなり有益な情報を得たようですね。」


「まかせてください。これでも法務省時代のコネをフルに使いましたかね。」


現れたのは杉下さんの相棒である冠城さんだ。

忘れていたがこの人は今回の事件を調べるのに別行動を取っていたよな。

けど何でこの人は俺が毒薬を飲まされたことを知っているんだ?

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:14:40.69 ID:q2OCGKtb0


「工藤くん、ジンとウォッカ。この名前に聞き覚えはあるかな?」


ジンとウォッカ。

その名を聞かれて俺は思わず真っ青な表情になった。聞き覚えなんてあるに決まっている。

かつて俺の身体を小さくさせた黒ずくめの男たちのことだ。


「ジンとウォッカ。まるでお酒の名前ですね。」


「そうです。工藤くんがかつて壊滅させたあの組織。
その組織の人間はコードネームに酒の名前を使っていたそうです。
まあこの情報は世間には公表されていないのでさすがの杉下さんも知らないようですね。」


「しかしそれをキミが知っているということは…彼らに会ったのですね。」


「はい。ジンとウォッカ。
二人は現在も公安が拘束しています。だから二人に会うのは本当に大変でしたよ。」


あぁ…まさか計算外だった…

かつて俺はジンとウォッカを逮捕することに成功した。

組織の人間は幹部クラスになるほど忠誠心が高い。

あいつらも例外ではなく捕まえた際は自殺しようとした。

だから公安は現在も24時間の監視体制で見張っているらしい。

しかし冠城さんがジンとウォッカに会ったとなると…ひょっとしたら…

いや、間違いない。この人は俺が飲まされた毒薬のことも知っているはずだ。


100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:17:05.39 ID:q2OCGKtb0


「APTX(アポトキシン)4869。それがキミの飲まされた毒薬の名前だね。
あの取引現場でキミはジンと男に襲われてヤツに毒薬を飲まされた。
ジンという男は最後まで喋らなかったがウォッカが全部話してくれたよ。
キミに一泡吹かせるならなんでも言うって証言してくれたんだ。」


「しかし奇妙な話ですねぇ。
何故その毒薬を飲んでも工藤くんは死ななかったのですか?」


「実はAPTX4869ですが未完成の薬だったようです。
それに工藤くんに敢えて毒薬を飲ませたのも
その薬は組織が開発していた毒を検知されないモノだったとのことだとか。
だがどういうわけか工藤くんに毒薬は効かなかった。以上が俺の調べた結果です。」


冠城さんは一言一句間違わず真実を告げてみせた。

それはまさかの盲点だった。

左遷部署の特命係にそんな公安に関われるほどコネのある人間がいたなんて…

この事実を明かされて俺の頬から一筋の冷や汗が垂れ落ちた。

恐い。正直に言うが正面を見ることが出来ない。

何で怖気づいているんだ?もう組織はなくなったんだぞ。

101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:19:10.11 ID:q2OCGKtb0


「これでようやくパズルのピースが揃いました。
工藤くん、毒薬を飲まされたのにキミは今もこうして生きている。それは何故ですか?」


「だから…毒薬が未完成だったから…俺は生きていられたんだと思います…」


「なるほど、僕は薬学に関しては専門外なので何とも言えません。
ですが今の話通りならキミはまったくの偶然で助かったということになる。
それは恐らく組織の人間たちが予期せぬ出来事だったはず。
つまり幸運にも命が助かったキミは毒薬を飲ませたジンとウォッカを探すことになった。
そういうことですね。」


杉下さんはまるで見てきたように的確な推理で状況を把握していく。

そして杉下さんは遂に俺が一番触れて欲しくないことにまで追求してきた。


「さて、ここで気になるのが行方不明になった少年。
まるで工藤くんと入れ替わるように現れた江戸川コナン。
やはり僕が思うにこの二人は同一人物である可能性が高い。
ですがこれだと疑問が残ります。何故少年は突然現れてそしていなくなったのか?」


「だから…それは…親が迎えに来たとか…」


「少年は負傷していました。
もしも親が迎えに来ていたとすれば
トロピカルランドの医務室かもしくは近隣の病院に行かせるなりしていたはず。
ですが当時、僕たちが調べた限りではそんな記録はなかった。
つまり少年は一人で逃げたんですよ。それでは少年は何処へ行ったのか?
いえ、そもそも何故逃げる必要があったのでしょうか?」


「一体…何が言いたいんですか…」


「それでは言わせて頂きます。
ひょっとしたら少年は自分の正体を知られるのを恐れたのかもしれません。
何故なら少年は怪しげな取引を目撃していたのですから。」


「つまり…それは…
俺の他にもあの取引を目撃していた人間がいてそれが少年だったということですか?」


「いいえ、そうではありません。
その取引とやらを目撃したのは工藤くんだけでしょう。大事な取引ですよ。
ジンとウォッカが第三者の目に晒すような失態を何度も犯すとは思えない。
それでは少年は何者だったのか?
ここで注目すべきがAPTX4869。人を殺すことのできる致死性の高い薬です。
工藤くん、その薬を飲んだキミは本当に何の変化もなかったのですか?」


APTX4869を飲んだ俺に何の異常も起きなかったのか?

杉下さんはそのことを尋ねてきた。まずい。これだけは触れてほしくなかった。

何故なら俺はその薬を飲んで身体を小さくさせられたんだ。

もう無理だ。この人は俺がコナンかもしれないという確信を得ている。

これ以上隠し通すことは限界に近い。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:21:33.14 ID:q2OCGKtb0


「なあ、もうええ加減にせえよ。さっきから何を因縁つけとんのや!」


そんな動揺を晒している俺に服部が庇い立てしてくれるかのように反論してくれた。

服部は俺にここは自分に任せろと目配りをしながら特命係の二人を相手に対峙する。


「アンタらの話は全部想像の段階や。
それにもう終わったことを蒸し返してどないするん?
正直言わせてもらうけどアンタらのやってることは全部無駄なことやで。」


「それにアンタらの捜査は越権行為に近いで。
どないなコネ使ったか知らんけど窓際部署にそこまで深入り出来る捜査権限はないはずや。
俺のおとんは警察庁のトップちゅうのは聞いたことあるやろ。
これ以上深入りするならこの件は報告させてもらうで。
それが嫌なら黙って引き下がりや。」


服部は父親のコネを使うことを極端に嫌う。

父親へのコンプレックスだろうがそんな服部が父親を盾に俺を庇い立てしてくれている。

服部としても苦肉の策だ。

だが仕方がない。目の前にいる二人はそこまでしなければならない相手だからだ。

恐らくこの特命係の二人は真相を暴くためにまだ俺たちの秘密に踏み込む気でいる。

だからこそ警察官なら誰もが恐る上層部という歯止めを使わざるを得なかった。

これで二人も諦めてくれる。そう思ったが…

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:23:52.11 ID:q2OCGKtb0


「平次ィッ!何しとんのじゃ!」


だがそこに招かざる客が現れた。

突如として怒鳴り声を上げながら服部を殴りつけたこの男。

それは服部の親父さんである服部平蔵さんだ。

けど何で服部の親父さんがここにいるんだ?


「実は言ってませんでしたが今回の蘭さんの爆弾騒ぎに
10年前の工藤くんが解決した事件が関わっていると疑いを抱いています。
しかし10年前の事件の蓋を開けると殆どがFBIの捜査が及んでいた。
その中には日本での違法とも思われる捜査もありました。」


「だから服部長官にもこの件で協力してもらっているんだ。
10年前に何が起きたのか?その時の捜査に違法性はなかったのか?
年月が経過したからといって事件を曖昧な形で終わらせるわけにはいかないんだよ。」


それが杉下さんと冠城さんから告げられた言葉だった。

今まで俺は警察から信用されて捜査を行ってきた。その俺がこうして疑われている?

ありえない…何で…どうして…?

最早、俺には理解を超えた状況だ。どうしてこんなことになった?

もう10年も前の事件を蒸し返される原因はなんだ?

そういえば…俺は…蘭の爆弾騒ぎを止めようとしたんだよな…

それじゃあつまりこうなった原因はすべて…


104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:25:01.86 ID:q2OCGKtb0


「ええ加減にせえ!何も事情を知らんと出しゃばんなやクソ親父!」


「あ?何を吠えとるんじゃ。
わしは今までお前が捜査をすることを多めに見ておったわ。
けど今のお前はどうや?親しい人間庇うためにうしろめたいことを隠しとるやろ。
しかも許せんのはそれに親の名前使とることや。
おんどれは父親になったちゅうのに未だにガキみたいなことしとるんか!あ゛ぁっ!」


「やかましい!
悪いんは爆弾騒ぎを起こしたあの姉ちゃんやろ!
工藤はようやっと父親になるんやで。もうすぐ命が生まれるんや!
その命守るんは親の務めちゃうんか!?」


そうだ。服部の言う通りだ。

今の俺がすべきことは蘭が起こした騒動に狼狽えることじゃない。

志保と生まれてくる命を守ることなんだ。そうだ。しっかりしろ。

それを行うのは俺だ。父親であるこの俺自身なんだ。


「なるほど、生まれてくる子供のためですか。」


「服部の言うように俺は父親です。家族を守らなきゃならない。
悪いけど杉下さん。これ以上あなたたちの推理に付き合うつもりはありません。」


そうだ。これでいい。

母さんたちも今の発言に満足した表情を見せている。

家族を守る。それは父親になる俺にしか出来ないことだ。

そのためなら真実を隠さなければならない時だってある。

これは家族を守るために行っているんだ。


105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:25:55.99 ID:q2OCGKtb0


「家族を…生まれてくる命を守るため…
それなら僕たちにも守るべきものがあります。
それは工藤くんと同じく子供の命を守るためです。」


「子供って…何を言ってるんですか…?」


「そろそろ本題に入りましょう。工藤くん、コナンくんはキミの子供ですね。」


それはまさかの発言だった。

いや、この人のことだ。最初から気づいていたのだろう。

別にこのことについてはどうだっていい。

だがこんな大勢の前で改めて指摘されるとは予想外だった。


「あまり驚いた様子ではありませんね。どうやらキミ自身も察していましたか。」


「確かにコナンは俺の子かもしれない。
けどあいつは母親の蘭が行った爆弾騒ぎに関して何も知らなかった。
つまりあいつは無関係です。」


「ええ、キミの言うようにコナンくんは爆弾に関しては何も知らない。
ですがこの騒動に関してあの子が無関係であるとは思えない。
むしろ今回の騒動は蘭さんがあの子のために行ったのではないかと考えられます。」


蘭が…子供のために…?

ちょっと待て。この人は何を言っているんだ?

まさか父親である俺と遊ばせようとして自殺までしたとでもいう気か!

ふざけんな!そんな話馬鹿げている!?


106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:27:09.39 ID:q2OCGKtb0


「全員、この新聞を読んでください。たった今届いたばかりの夕刊ですよ。」


冠城さんは俺たちの前にある夕刊を見せた。その新聞にはある記事が載せられていた。


『衝撃の真実!あの名探偵工藤新一に隠し子がいた!?』


まるで嫌がらせのごとく一面に載せられている見出し。

それは俺に隠し子がいたという記事だ。

何でこんなものが載せられている?一体誰が載せた?まさか…


「記者の森敦士…あいつが載せたのか…」


「どうやらそのようですねえ。恐らくこれが彼の役割だったのでしょう。
新聞記者である彼は真実を伝えることを職業としています。
つまり彼なら事実を捻じ曲げることなく世間に伝えることが出来る。」


「けど…何でこんなことを…」


「恐らく子供を守るためでしょう。
あなた方がコナンくんを粗末に扱わないように敢えてこの強行的な手段を取った。
蘭さんが工藤くんにコナンくんを連れて行くように仕向けたのもそのためだった。
実の息子を連れていれば嫌でもそれが隠し子だとわかるものです。」


なんてこった。

それじゃあ俺は自分で隠し子がいるということをアピールしていたってことか?


107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:27:41.83 ID:q2OCGKtb0


「まさか…蘭が作った爆弾ってのは…コナンのことですか…?」


「ええ、恐らくそのはずです。
世間で名探偵と注目されるキミにとってあの子の存在はまさしく爆弾ではありませんか。
若いキミが結婚する以前から子供がいた。
世間体を考えればまさに爆弾ともいえることです。」


なんだよそれ。

俺は今までずっと蘭が用意した爆弾と行動を共にしていたわけか。

クソ、少し考えれば簡単なことじゃねえか。

つまり蘭は自分の子供を使って俺に嫌がらせを行った。

もしコナンを粗末に扱えばその時は俺とそれに周りにいる人間がバッシングを受ける。

父さんは小説家、園子は鈴木財閥の次期跡取り、服部も警察の人間、

俺だって今後の探偵としての活動に影響が出る。

しかもタイミングの悪いことに俺と志保の間に子供が生まれる時期を狙った。

そうか。先ほど森谷教授や森記者が言っていたことが繋がった。

俺のすべてを吹き飛ばす爆弾。それに真実を伝えること。

確かにこれは俺にとって爆弾にも等しい。

つまり爆弾とは俺に隠し子がいたという事実そのものだった。


「何考えてんだよ…あいつ…」


周囲に人がいるにも関わらず俺は思わず蘭への苛立ちが募った。

当然だ。子供とさらに自らの死さえも利用してこんな嫌がらせを働いた女だ。

もう幼馴染の印象なんてない。あいつに初恋を抱いたことだってあった。

けど今はもう嫌悪感しかない。こんなこと言いたくはないが死んでくれて清々したよ。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:28:22.03 ID:q2OCGKtb0


「杉下さんの推理通りならこの件はこれでもう終わりじゃないですか。
10年前に俺が組織を潰した件とは一切関係ない。もうこの話を終わらせてもいいはずだ。」


「いいえ、そうはいきませんよ。
まだひとつだけ疑問が残っています。それは蘭さんが遺した手紙です。
あの手紙にはこんなことが記載されていた。」


『爆発すればそれは人を一人確実に殺すことの出来る爆弾』


「つまりこのままにしておけば一人だけ確実に死ぬ。
そうなる前にこの事件における真実を解き明かす必要があります。
そうでなければ蘭さんの意志がすべて無駄になってしまうのですから。」


人を殺す…?この人は何を言っているんだ?

蘭が作った爆弾がコナンならあいつの存在を知られたら俺が社会的に死ぬってことだろ。

それにあんな小さい子供に何か出来るはずがない。

それともコナンに何か秘密でもあるというのか?


109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:30:35.25 ID:q2OCGKtb0


「コナンくんの体調不良。恐らくこれが今回の事件の動機です。
あの子は度々体調不良に見舞われていた。そのことを蘭さんは気に病んでいた。
何故息子がそんな目に遭うのか?蘭さんは子供の安否を気遣っていました。」


「それは…俺も知っています…けどそれが何ですか?この騒動とどう関係するんですか?」


「ここからは僕の推測に過ぎませんが…
コナンくんの体調不良の原因は
かつて工藤くんが黒ずくめの男たちに飲まされたAPTX4869である可能性があります。」


なっ…ちょっと待て…?

今…何だと言った…?

APTX4869がコナンの身体に体調不良を起こす原因だと?

馬鹿な…どうして…


「実は公安で得た資料だけど
APTXに関する資料はほとんど見当たらなかった。
恐らく誰かが持ち出してしまったんだろうね。
見つかったのは毒薬を飲んだ連中の死亡者リストくらいだ。」


「冠城くんが得た資料によると
ここには工藤くんも含むすべての人間が死亡者として扱われている。
それなのにキミは今もこうして無事にいる。
クスリを飲んだ全員が死亡しているにも関わらず何故キミだけ生きているのでしょうか?
これだけ死人が出ているのにキミにだけクスリの影響が出なかった。
本当にクスリの影響はなかったのでしょうか?」


特命係の糾弾に俺は黙秘を続けた。

だがそれも限界に来ている。

何故ならコナンは俺が飲まされたAPTXの影響を受けていると知らされてしまった。

俺は志保との結婚生活に浮かれて子供にそんな影響が出ることなんて考えてもみなかった。

待てよ。それだと蘭が言っていた爆弾ってまさか…


110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:32:53.59 ID:q2OCGKtb0


「どうやら工藤くんもようやく気づきましたか。
そう、蘭さんが遺したメッセージは確かに意味が含まれていたのです。」


森谷帝二、森敦士、引田ひとみ、蘭が三人に遺したメッセージを思い出した。


『爆弾の形は工藤新一が忌むべきモノ』


爆弾は俺が忌むべき形をしている。その俺が忌むべき形とは何だ?

そんなのは決まっている。江戸川コナンだ。

APTX4869の毒薬を飲まされたことで生まれたあの姿。

俺にとってあの姿は組織に自らの幸せを踏み潰されたようなものだ。


『工藤新一が真実を口にしない限り爆弾は決して解除されない。』


ハハ、そうだよな。蘭は毒薬について何も知らない。

何故なら俺は蘭に毒薬のことを何も話していないからだ。

既に組織は潰れてAPTX4969を開発したメンバーも志保以外は全員死んでいる。

だから俺が話さない限り蘭はAPTX4869について知ることが出来ないんだ。


『ここが始まりの場所。爆弾はここで作られた。』


トロピカルランド。思えばあそこがすべての始まりだった。

もしもコナンの体調不良がAPTXの副作用によるものならば…

10年前に俺が黒ずくめの男たちに毒薬を飲まされた時点で爆弾は作られた。

つまり蘭が遺したメッセージにはすべての真実が綴られていたんだ。


111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:33:50.92 ID:q2OCGKtb0


「この推理が正しければ爆弾の正体はコナンくん自身。
いえ、正確に言えばコナンくんが生まれた時から既に起爆スイッチが押されていた。
爆弾の名前はAPTX4869
それこそが人一人を確実に殺すことの出来る爆弾の正体ですよ。」


APTX4869。それが蘭の言っていた爆弾の正体…

確かに俺はAPTXの毒性をこの身を持って経験している。

それは全身に伝わる骨が熱さと心臓が張り裂けるような痛み。

常人が耐えることなど出来ない痛みと苦しみ。あんなものは二度と味わいたくない。

それがコナンの身体を蝕んでいるものの正体だったなんて…

なんてことだ。もうあの事件から10年経っているんだぞ。

それなのに未だに組織の影に怯えなきゃいけないってのかよ!


「かつてキミは組織に毒薬を飲まされた情報を間違いなく持っているはずです。
コナンくんの身体を蝕む原因であるAPTX4869に関する情報を渡してください。
工藤くん、どうかお願いです。あの子を救えるのは実の父親であるキミだけなのですよ。」


コナンを救えるのは俺だけだと杉下さんはそう告げた。

確かにコナンの身体であの毒性に耐えるのは既に限界のはず。

一刻も早く処置を施さなければ命に関わるのは間違いない。

だがそれは同時にAPTX4869の情報が外部に知れ渡るということ。

つまりもうすぐ出産を間近に控えている

俺の妻にして毒薬の製造者でもある志保にあらぬ疑いが掛かるということにも繋がる。

冗談じゃない。今回、俺は志保を巻き込むまいとこの件に関して一切告げていない。

そんなあいつをこんな厄介事に巻き込ませてたまるか。

112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:34:59.08 ID:q2OCGKtb0


「杉下さん、ちょっといいかしら。」


そんな糾弾を続ける杉下さんにこれまで静観を続けていた母さんが口を挟んできた。

それから母さんは俺に代わって二人の糾弾を妨げようと行動に出た。


「わかっていると思いますけど
うちの新一はもうすぐ子供が生まれる大事な時なんです。
確かにコナンくんは新一の子かもしれない。けどそれはまだ可能性の段階でしょ?
ちゃんと検査を行なったわけでもない
確たる証拠もないのに言いがかりをつけるのは名誉毀損になるわよ。」


これ以上糾弾を続けるのなら出るとこに出て訴えてやると特命係を脅す母さん。

母さんにしても俺たちの子供は初孫だ。だからなんとしても守ろうと必死になっている。

それにいくら警察でも確たる証拠がなければお手上げだ。

そもそも今回の疑いもまず俺がコナンの父親である証拠がなければならない。

だが俺がコナンの父親だと証明するにはDNA鑑定の調査が必要だ。

それだって俺が拒否すればいい。この件に関してこれは刑事事件ではない。

つまり警察はそれほど深く関わることなど出来やしない。

だから…コナンには悪いが…

別にあいつのことを見捨てるわけじゃない。

唯…せめて…志保のお腹の子が生まれる間は耐えてもらわなければならない。

そうすればあとで志保に頼んで解毒薬を用意してもらえばいい。

そうすればコナンだって助かるはずなんだ。


113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:35:58.44 ID:q2OCGKtb0


「コナンくんの爆弾の起爆は刻一刻と迫っています。
既に一刻の猶予もない。今すぐになんらかの手を打たなければ手遅れになりますよ。」


「それでも私たちには関係のないことです。放っておいてもらえますか。」


「そういうわけにもいきませんよ。
何故なら10年前、工藤くんの迂闊な行動でこの場にいる全員に危険が及んでいました。
それを見過ごすのは彼がこれから将来における責任の放棄にも繋がります。」


「責任の放棄?何を言っているんだ!」


「言った通りですよ。
キミはこれまで責任をすべて放棄していた。
いい加減自分が犯した過ちに対する責任を取ってはどうですか。」


杉下さんはまるで俺のことを犯罪者へ向ける目で睨みつけた。

ふざけるな。何が責任だ!

俺はこれまでその責任を果たしてきた。

関わった事件で犯人を見つけ、さらに黒の組織だって潰してみせた。

それなのに何で責任を放棄したなんて言われなきゃならないんだ。


114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:36:44.20 ID:q2OCGKtb0


「APTXの影響で工藤くんの身体にはなんらかの副作用が起きていた。
何故なら同時期にキミは世間から姿を消していた。
あれは恐らくキミが世間に出られない状態だったと考えるべきですね。
さて、ここで疑問があります。
そんな状態であるにも関わらず何故キミは一人で組織を追いかけたのですか?」


「そんなのは決まっている。
あの時、組織の存在を知ったのは俺だけだった。だから俺は組織を追ったんだ!」


「なるほど、それが答えですか。
ところで話は変わりますが仮面ヤイバーというヒーローをご存知ですか?」


仮面ヤイバー?何でそんな話をいきなりしてくるんだ?

確かあれは悪の組織に改造手術されて力を得たとかいう正義のヒーローだろ。

それでその悪の組織に敢然と一人で立ち向かうってストーリーだが

何でこんな時に関係ない話をするんだ?


「仮面ヤイバーは悪の組織に捕まり姿を変えられた。
このヒーローは10年前の工藤くんと同じ展開ですねぇ。
同じくキミも悪の組織とやらに捕まり毒薬を飲まされているのですから。」


「しかしここで当時の工藤くんとヤイバーで異なる点があります。
それでヤイバーは力を手に入れましたが工藤くんはむしろその反対だったはずですよ。
何故ならキミの身体にはクスリの副作用が診られたはず。
そんなキミがどうやってまともに組織に太刀打ち出来るというのですか?」


「唯でさえキミはトロピカルランドで返り討ちに遭っている。
そんなクスリの副作用で不安定になっていたキミがどうして組織に立ち向かえるのですか。
普通なら警察に通報すべきことではありませんか。」


警察に通報なんて…それが出来れば端からやっていたよ…

それが出来なかったのには理由がある。

黒の組織は俺が考えていた以上に規模が大きかった。

既に警察にも組織内部の人間が上層部に蔓延んでいてとてもじゃないが信用ならなかった。


115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:41:54.27 ID:q2OCGKtb0


「当時…警察には組織の人間が居た…だから信用は…」


「ええ、それは僕も重々承知しています。
同じ警察関係者としては恥ずべきことです。
ですが工藤くんには目暮警部をはじめとする警察関係者の知り合いがいた。
彼らに事の真相を話すべきだったのではありませんか?
それなのにキミは目暮警部たちにそのことを打ち明けていなかった。
この点についてどうしても腑に落ちないんですよ。」


そんな杉下さんの疑問に

普段なら俺の味方である目暮警部たちも思わず懐疑的な目を向けてきた。

確かに俺は目暮警部たちを頼りにしている。

だが組織との戦いは決して油断ならないものだった。

警察内部に組織の人間がいる以上は迂闊なことを話せない。

だから俺は細心の注意を払うべくこの件を目暮警部たちに伝えることができなかった。


「工藤くんの視点からすれば既に警察内部に組織の内通者がいて
もしかしたら目暮警部にも危害が及ぶと思った。なるほど、理に適っています。
しかしそれでも納得できない。
何故なら当時のキミにとって警察の協力は必要不可欠だったからですよ。」


「警察の協力が不可欠ってどういうことですか?」


「わかりませんか。
工藤くんが言うように黒の組織は根強く蔓延るものだった。
そんな組織がキミの死を見逃していたとは思えない。
もしも当時、キミが死亡したのならその死は大々的に報じられていたでしょう。
だから普通ならその死亡が報じられていない時点で組織が不審に思うはず。
警察に協力を求めていればキミの死を世間に報じるという偽装工作が可能でした。
そうすることで周りに危害が及ばずに済みませからねぇ。」


言われてみれば確かに10年前、俺は世間を賑わせた高校生探偵だ。

その俺が死亡するという記事が

大々的に公表されていないということが組織にしてみれば不自然だと思われるのは当然だ。

116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:43:45.29 ID:q2OCGKtb0


「それなのに組織の人間はキミの死を不審に思わなかった。それは何故か?
つまり組織の中に工藤くんと内通していた裏切り者がいたんですよ。
しかも手引きした人物は間違いなくAPTX4869に精通した人物である可能性が高い。
その裏切り者は当時の毒薬を飲んだ直後の工藤くんと接触していた。」


「その人物ですが俺が調べた限りだと一人だけ該当者がいます。
当時、江戸川コナンくんが通っていた帝丹小学校にとある少女が転校してきました。
少女の名前は灰原哀。
みなさんはご存知のはずだ。阿笠博士の家に住んでいたことのある少女ですよ。」


こいつら…遂に灰原のことまでたどり着きやがったか…

そして二人は阿笠博士に対して灰原の件を追求してきた。


「阿笠さん、灰原哀を調べて分かりましたが彼女には戸籍がありませんでした。
まあそれはあなたの親戚だという江戸川コナンも同様でした。
俺が前職のコネをフルに活用して
どの機関に問い合わせても江戸川コナンと灰原哀の記録は帝丹小学校での通学時期のみ。
こんなことって普通はありえないですよ。」


「冠城くんの調べ通りなら
阿笠さんは10年前に戸籍が不明な子供たちを匿っていたということになる。
こうなればあなたに対して取り調べを行わなくてはなりません。
これよりご同行願えますか。」


「ちょっと待ってくれ!ワシは…」


クソ…博士まで…

父さんと母さんは特命係の二人に待ってくれと擁護している。

だが二人の追求はまだ手を緩めはしないはずだ。


「それでは阿笠さん、お聞かせください。
あなたは身元不明の子供を二人も匿っていた。
調べて分かりましたがあなたの親族に江戸川や灰原といった家の人間はいなかった。
こんな危ない橋を渡ってまで匿わなければならない人間。
それは当時、黒の組織とやらのせいで命の危険に晒されていた工藤くんですね。」


そのことを問われると阿笠博士はもう限界だった。

ダメだ。これ以上嘘は突き通せない。

特命係の二人は真実を追求するためならどんなことでも徹底的にやるつもりだ。

俺にはそれが嫌なほど理解できる。何故なら俺も同じだから…

真実を追求する。その欲求をこの俺が誰よりも欲しているからだ。


117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:44:22.38 ID:q2OCGKtb0


「………そうだ。江戸川コナンは俺です。
黒ずくめの男たちによってAPTXを飲まされて俺の身体は小さくなった。
そして阿笠博士の助言を聞いて俺は正体を暴かれないために偽名を名乗った。
それが江戸川コナンだった。」


もう観念するしかなかった。

これ以上抵抗を続ければ特命係は凡ゆる手で俺が行ったことを糾弾するはずだ。

それこそこの場にいる人間に対して手当たり次第で…

さすがにそんなことはさせられない。

もうこれ以上この場にいるみんなに迷惑をかけることはできない。

だから正体を明かすしかなかった。


「やはりキミが江戸川コナンでしたか。」


「なんか…全然驚いていませんね…最初から予想してたんですか…」


「ええ、最初は半信半疑でしたがね。
蘭さんが常々言っていましたよ。
当時彼女はキミが江戸川コナンではないのかと何度も疑っていたとね。」


どうやら俺は最初から目星を付けられていたらしい。

そりゃそうだよな。蘭の身近にいた人間で俺ほど怪しい人間は他にいないってわけか。

今にしてみればすぐにわかることばかりだ。

思えば杉下さんはずっと俺と行動を共にしていた。

その理由は当初から俺を怪しんでいたからこそだ。

こんなことにようやく気づくなんて…今回は本当に冷静さを欠いてるな俺。

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:44:53.31 ID:q2OCGKtb0


「おい。どういうことだ。」


未だこの状況に狼狽えている俺の前にある男が凄まじい形相で睨みつけていた。

それは蘭の父親にしてコナンの祖父にあたるおっちゃんだ…


「お前…今の話は全部本当なのか…」


「それは…だから…」


「何だ!ハッキリ言え!10年前お前は俺たちに何をしたんだ!?」


ダメだ。おっちゃんの目をハッキリ見れない。どうしてだ…?

俺は何もやましいことなどしてないのに…


「お前は何で俺の事務所に転がり込んできた!言ってみろ!?」


「だから…それは組織を探るために…」


「それなら何でそのことを言わなかった!?
結局俺たちは何も知らずにいたわけだよな!それで今になって嘘がバレた!
しかもこんな最悪な形で!それでお前はどうするつもりだ!?」


おっちゃんに襟首を掴まれ俺はこれからどうするつもりなのかと迫られた。

見るとおっちゃんの拳が力いっぱい握られている。

この場に人がいなければ今にでも俺をブン殴るつもりでいるのだろう。

それを他人が見ているから辛うじて理性で抑え込んでいるんだ。

119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:45:26.43 ID:q2OCGKtb0


「待って小五郎ちゃん!これには事情があるの!」


「そうだ。新一だって組織との戦いで…」


そんな俺を庇うかのように父さんと母さんが仲裁に入ってくれた。

だがその表情は…二人ともつらそうに見えた…

まるでこうなることを最初から予感していたようなそんな感じだ。


「ご両親、もう息子さんを庇うのはどうかと思いますよ。
あなた方は今日まで御子息を守られてきた。ですがそれも終わらせるべきです。
そうでなければ彼はこの先も責任を取れないままですよ。


責任…さっきも言われたこの言葉…

いい加減にしてくれ。責任ならもう取ったはずだ。俺は組織をこの手で倒した。

それなのに何が責任だ!


120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 19:46:51.33 ID:q2OCGKtb0


「毛利さん、覚えていますか。
あなたは以前、江戸川コナンの母親を名乗る女性から養育費を受け取っていますね。
その額は1000万円。いくら子供の養育費とはいえ高額だったと思いませんか?」


「確かにそう言われてみると…けどそれが何なんすか…?」


「何故あのような高額な養育費が振り込まれたのか?
江戸川コナンの正体が明かされた今ならその理由を察することが出来ます。
あの養育費が高額であった理由は毛利さんと蘭さんへの慰謝料込みであったことですよ。」


「慰謝料って…どうして…?」


「それは簡単ですよ。
工藤くんが江戸川コナンとして活動していくにあたって周りに危害が及ぶのは確実です。
ひょっとしたらあったのでありませんか?
黒の組織とやらの尻尾を掴もうとして逆に毛利一家の命が狙われかけたことが…」


杉下さんの指摘通りそれはあった。

以前、黒の組織を後一歩というところで追い詰めようとした時のことだ。

ジンが事務所の前までやってきて銃口を向けてきた。

あの時は俺や赤井さんが咄嗟の機転でどうにか食い止めることができた。

だがあの時…一歩遅ければおっちゃんは銃で撃たれて死んでいた…

それを思うとあれは今でも背筋がゾッとする出来事だった。

121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:10:14.98 ID:q2OCGKtb0


「当時、工藤くんは働ける歳ではなかった。
もし居候していた毛利一家に何か危害があればキミはどうやって償う気でいましたか?
いや、償うことなんて出来るはずがありませんよ。」


「そんな江戸川コナンに用意された高額な養育費。
たった今明かされたように江戸川コナンは架空の人物だった。当然親など存在しません。
それではこの1000万円のお金は誰が用意したのでしょうか?
工藤くんの周りでこれだけ高額なお金を用意出来る人物は限られています。
鈴木財閥の令嬢で友人にして蘭さんと同じ幼馴染の鈴木園子さん?ちがいますねえ。
いくら友人とはいえ当時高校生だった彼女にそんな高額なお金は扱えない。
阿笠さん?これもちがうはず。
いくら協力者とはいえそんなお金を簡単に用意するとは思えない。」


「それでは一体誰がこのお金を用意したのか?
工藤くんの身近にいて彼のために1000万円という高額なお金を用意してみせた人物。
それはやはりご両親しかいないということですよ。
息子のためにご両親がお金を用意してくれたというわけですね。」


杉下さんからそう告げられると

父さんと母さんは今まで俺には見せたこともない醜い顔を浮かび上がらせた。

これまで俺は両親を尊敬してきた。

卓越した推理力を持つ世界屈指の推理小説家である父。

それにかつては世界中の男たちを虜にした元女優の母。

尊敬できる立派な両親だ。けどそれが今はどうだ?

警視庁の左遷部署の二人に問い詰められて狼狽えているじゃないか。

なあ…どうしたんだよ…二人とも…

いつもみたく鮮やかに切り抜けてくれよ。何でそんな険しい顔をしてるんだよ?


122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:11:33.75 ID:q2OCGKtb0


「10年前、あなた方は工藤くんが毒薬を飲まされて身体を小さくなったことを知った。
何故その時に工藤くんを止めなかったのですか。
身体を小さくされた彼が巨大な組織を相手に太刀打ち出来ると思いましたか?
まともに考えればそんなことなど出来るはずがない。
息子さんが小さくなった時点で保護をすべきだったはずですよ。」


「それはわかっていました…実は私たちも一度は迎えに行って…
けど新一は自分で自分を小さくした黒ずくめの男たちを捕まえることに固執して…」


「その時は説得を諦めました。
だからいずれ音を上げて泣きついてくると思っていたら…
まさか協力者を募って組織を倒すまで成長するのだから
親としては子の成長を喜ぶべきかそれとも無謀な真似をしたと叱るべきか悩みましたよ。
ですがそのせいで周りに危険が及ぶのは当初から予想出来ていた。だから…」


「やはりあなた方は危険を予想していた。あの一千万円はそのための慰謝料だった。
責任を取ることの出来ない息子に代わり、
真実を打ち明けることが出来ない毛利一家へのせめてもの罪滅ぼしであった。
そういうことだったのですね。」


俺は今日まで考えたこともなかった。

あのコナンの養育費。当時は金に意地汚いおっちゃんを納得させるだけかと思った。

けどそのお金にもうひとつ別の意図が含まれていたなんて…

そしてこんなことになってようやく気づけた。

両親がこんな形で親としての責任を果たしていたこと。

本当なら二人だってこんなことやりたくはなかったはずだ。

けどそれをやらざるを得なかった理由はなんだ?俺が単独で黒の組織を追ったから…


123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:12:01.36 ID:q2OCGKtb0


「けど…俺は…探偵としての責任を果たした…事実…組織は潰せた…」


俺はまだ抵抗を続けた。こんなことに何の意味があるのか自分でもわからない。

それでも10年前の行いを無碍にしたくはなかった。

あの時、俺が行った捜査は決して無駄ではなかった。

俺は黒の組織を潰してヤツらの脅威からみんなを救った。それだけは確かなはずだ。

そうだ。俺は自らの責任を果たしたはずだ。


「………ちゃうで工藤。あの頃の俺らは責任なんて果たしておらんわ。」


そんな俺の意見に思わぬところから反論が出た。

それは先ほど親父さんにブン殴られたばかりの服部だ。

けど何でそんなことを言うんだ?

お前だって10年前は西の高校生探偵と称されていたはずだろ。


124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:12:30.84 ID:q2OCGKtb0


「なあ工藤、以前太閤秀吉の宝を巡って殺人事件があったなぁ。
あの時、俺が親父に殴られた時のことを覚えてるか?」


それは俺たちが大阪に服部の剣道の試合を観に行った時に起きた殺人事件。

犯人は豊臣秀吉の財宝を狙った犯行に見せかけて次々と連続殺人を行った。

その犯行を捜査していた俺と服部だがその最中に服部が血気に早って現場で取り乱した。

それを服部の親父さんが先ほどのように鉄拳を喰らわして諌めた。


「あとからあれは親父が真犯人炙り出すためにわざとやったのがわかったわ。
けどそれでもあの出来事で思うことがあったで。
あの頃の俺らはほんまに無責任やったんやないかってな…」


「何でそんなことを言うんだ!俺たちは事件を解決出来たはずだ!?」


「確かに俺らは事件を解決したわ。けど思うこともある。
もし俺らが事件解決できへんかったらどうなってたんやろかってな…」


「だから思うたんや。
あれは半分本音も入ってたんやってな。
俺が好き勝手出来たのは半分が親父の七光りがあってのことや。
あの頃の俺は親父と同じ土俵にすらおらんかった。だから警察に入ったんや。
しっかりと責任持って事件と向き合うためにな。」


それが服部の刑事として歩む選択を取った理由だ。

恐らく昨日の宴席でも服部はこのことを俺に告げようとしたことだった。

服部は当時の自分が無責任だったからこそ今は責任を持って事件に当たっている。

だが俺はどうだ?当時と何一つ変わっちゃいない。あの頃と同じままだ…


125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:13:09.39 ID:q2OCGKtb0


「無責任ですか。確かにそうかもしれません。
ですが工藤くんの場合はそれだけではなかった。もうひとつ、キミにはある思惑があった。
それはもしかしたらキミ自身すら理解していなかったことかもしれません。」


俺が…理解していないこと…?

何だよそれ?俺が無責任だということ以上に何があるっていうんだ?


「今の話でキミはご両親の忠告を受けたというのに
それでも黒ずくめの男たちを追うことを決してやめなかった。
その理由は何でしょうか?」


「そんなの…俺がヤツらを捕まえなきゃいけなかったからだ…だから…」


「確かにそれは使命感だったかもしれません。
ですが他にもあったのではありませんか。
先ほど森谷教授を訪ねに行った時のことを覚えていますか。
教授はキミのことをこう評した。目立ちたがり屋で誰かの称賛を得たいとのことだった。」


だから何だというんだ!

ああ、認めてやるよ。

当時の俺は他人からの称賛を得たくて事件を暴いていたことがあったかもしれない。

けどそれがどうした!


126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:14:49.84 ID:q2OCGKtb0


「そんなキミが世間に
黒ずくめの男たちに毒薬を飲まされたことが明かされたらどうなるでしょうか。
冠城くん、どうなると思いますか?」


「たぶんこう思われますよ。
『勝手に事件に首を突っ込んで逆に返り討ちとは間抜けだ。何が平成のホームズだ!』
まあ自業自得だとボロクソに貶されていたかもしれませんね。」


「なるほど、つまり工藤くんが身体を小さくされたことは言うなれば失態になりますね。」


まったく…正直苛立ちを感じる…

ああ、そうだよ。俺は失態を犯した。けどそれが何だというんだ。


「世間には工藤くんが毒薬を飲まされたことは公表されなかった。
都合の悪い部分は隠されてしまった。これが何を意味するのかわかりますか?
つまりキミが一人で黒ずくめの男たちを追い続けた理由。
自分の失敗を他人に明かされたくなかったからではありませんか。」


「そんな…どうしてだ!?」


「それはキミがシャーロックホームズを敬愛しているからです。
ホームズは事件を完璧に暴く名探偵。キミはそんなホームズを尊敬している。
ですが平成のホームズと謳われるキミが失敗を犯してしまった。
犯罪現場を目撃したのにも関わらず
あろうことか犯人に危害を加えられあまつさえ取り逃がした。
どう考えてもこれは失態モノでした。」


「それを隠す必要があった。
ホームズを目指す者が失敗を犯すなどありえない。
だからキミは一人で黒ずくめの男たちを追おうとした。ちがいますか?」」


ふざけるなッ!

俺はここが病院であることを忘れて思わず怒鳴り声を上げた。

何だ!その根拠のない推理は!?


127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:15:37.80 ID:q2OCGKtb0


「根拠ならあります。森谷教授が起こした爆破事件。
最後に爆破された米花シティービル。そこで蘭さんは爆弾の解体するために
工藤くんの指示に従って爆弾の解除を行ったそうですね。」


「そうだ。蘭の身近に爆弾があったから仕方なかった。それがどうした!?」


「問題は爆弾を解除する最後の作業でした。
キミはどうしても最後の赤と青のどちらの線を切ればいいのかわからなかった。
そこでキミが取った方法は何でしょうか?」


その時…俺が行った苦肉の策は…蘭にその選択を託すことだった…

仕方が無かった。あの時、壁の向こうにいる蘭に頼む以外に選択はなかった。

それの何が悪かったんだ?


「もしもその方法で蘭さんが失敗したらキミはどうするつもりでしたか。
当時、蘭さんが爆弾の解体作業を行っていた場所にはまだ逃げ遅れた人たちがいた。
もしも蘭さんが失敗してその人たちが亡くなればそれは蘭さんの責任になっていた。
あの時キミは無意識にその責任を蘭さんに押し付けたのではありませんか。」


「爆弾は運良く正解の線を切ったことで解除されました。
しかしキミはあの時点で考えることを放棄してしまった。
探偵としての責務を果たすのであれば最後まで推理することを放棄すべきではなかった。」


「もうひとつ指摘したいことがあります。
それは記者の森敦士さんが関わったスキーロッジ殺人事件。
あの事件でキミは蘭さんに事件を暴かせた。その理由は何でしょうか?」


「それは…あの場にいた蘭に言ってもらった方が説得力あると思って…」


「なるほど、それは一理あります。
しかしあの事件で蘭さんに犯人を暴いてもらうことが何を意味するかわかりますか?
それは彼女が恩師を糾弾することでもあった。
そんなつらいことをキミは敢えてやらせた。そのことはわかっていますか。」


だって仕方ないだろ。

あの時は記者が身近にいたから工藤新一の名は使えなかった。

もし使ったら俺の存在が世間に知られて黒ずくめの男たちに狙われる。

それに急いで犯人を突き止めなければ凶器に使ったウィッグも処分される可能性があった。

だから蘭に事件を解いてもらうしかなかった。


128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:16:16.95 ID:q2OCGKtb0


「あの事件でもし工藤くんの存在を明かしたら森さんが記事にキミのことを書く。
それを避けるために敢えて蘭さんに事件を暴いてもらった。
ですが事件を暴くためとはいえ蘭さんは自分の恩師の罪を暴かなければならない。
そのことについてキミはなんとも思わなかったのですか?」


「それは思ったさ…けどそうするだけの理由はあった…」


「確かにその必要はありました。
凶器を早々に処分されては逮捕することは困難だったでしょう。
ですがそのせいで蘭さんは深く傷ついたはず。それはわかっていましたか。」


そんなの…蘭が傷つくことはわかっていた…

あいつは優しい。恩師の逮捕に誰よりも悲しんだのは蘭自身だ。

あの時の俺は泣き続ける蘭をコナンの姿のまま抱きしめるしかなかった。


「悪く言えば工藤くんは蘭さんの優しさに甘えていた。
蘭さんはキミのために責任を果たしてみせた。それなのにキミは彼女を捨てた。
これに関してはキミたち二人の問題。さすがにこればかりは僕も触れる気はありません。」


「ですが蘭さんの優しさが彼女を自殺に追い詰めたとなれば話は別です。
ハッキリ言いましょう。蘭さんが自殺した原因は親としての責任を果たすため。
それに彼女自身の優しさがあったからこそですよ。」


蘭が自殺した理由…?

わからない。

APTX4869の副作用が

息子のコナンに影響を及ぼしていたことが蘭の自殺とどう影響するんだ?


129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:17:40.65 ID:q2OCGKtb0


「キミは一度でも蘭さんにAPTX4869のことを話しましたか?」


「いいや、蘭には最後まで何も言わなかった。」


「それでは彼女はキミが飲まされた毒薬について一切知らなかったということですね。
これでようやくハッキリしました。
蘭さんが自殺をした原因はやはり息子であるコナンくんの命を守るためでした。」


「だから…何で…」


「以前からコナンくんは身体の不調を訴えていた。
しかし蘭さんにはその原因はわからなかった。
何故ならキミが毒薬を飲まされたことについて何も話さなかったからです。
そんな彼女は次第に思いつめられていった。何が原因なのか?自分に原因があるのか?
それとも父親に原因があったのではないか?
そして思い当たったのは工藤くんが身体を小さくなったと疑ったこと。」


「もしもそれで何らかの副作用があったとすれば原因は工藤くんにあると疑惑を抱いた。
しかし疑うことは出来てもそれで事態は改善することはなかった。
何故なら蘭さんにはキミを問い詰めることは出来ないからですよ。
以前、蘭さんはストーカー工藤くんに対して騒ぎを起こしてしまい警戒されている。
それに警戒されていなかったとしても
キミは毒薬についてこれまで何度も秘密を守り通してきた。
その秘密を今になって明かしてくれるのか?いや、無理でしょうね。
幸せな結婚生活を送るキミたちにそんな厄介な話を持ちかけても無碍にされると思った。」


「だから蘭さんは自殺を決行したんですよ。」


それが杉下さんの推理する蘭が自殺した真相だった。

その推理に俺は思わず納得してしまった。

いや、俺だけじゃない。この場にいる全員がその推理を聞いて思うところがあった。

確かに俺は幸せな結婚生活を送っている。

そんな俺がいくら蘭から強く頼まれてもAPTXのことを話すか?

答えは否だ。それは自分のことだからよくわかる。

それにたとえ俺でなくても母さんたちだってどうだろうか。

先ほど海外に養子へ出そうと企てていたくらいだ。恐らく見捨てたはず。

だから強硬手段に出た。

こんな謎めいた仕掛けを施したのもすべては俺がこの件に興味を持つために仕組んでいた。

俺は蘭の思惑にまんまと乗せられた。

ハハ…幼馴染だもんな…俺の考えることなんて全部お見通しってわけか…

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:18:11.65 ID:q2OCGKtb0


「お前は…蘭の人生を弄びやがったわけか!
確かに俺は呑んだくれでろくな親じゃなかった。けどお前のせいで…蘭は…
つまり俺の眠りの小五郎やってたのも
お前が何か妙な方法使って眠らせて勝手に推理してたってか。ふざけんなよコラッ!
返せ!蘭の命を!それに蘭の子供の未来を!?」


「そうよ新一くん…
私だって弁護士として成功するために娘を捨てたかもしれない。
こんなこと私が言えた義理じゃないけど…あなた…私たちの娘をなんだと思っているの!」


そんな打ち拉がれる俺の前に毛利のおっちゃんと妃のおばさんが問い詰めてきた。

よくも娘を不幸にしてくれたな。どうしてくれるんだと。

俺は自分の都合で蘭の命を奪ってしまった。

大事な娘の命。それはなによりも掛け替えのないものだ。

俺だってもうすぐ本当の意味で父親になる。だからその心境が痛いほどわかってしまう。


「ねえ…新一くん…アンタ何で蘭に話さなかったのよ…そしたら蘭は…」


「せやで…そしたらアタシらだってこんなことしとうなかったわ…」


蘭の女友達である園子と和葉さん。

事の真相を知り、涙を流しながら自分たちの過ちを後悔した。

彼女たちもまた女性として、今はまた母親として蘭の心情を理解していた。

だからこそ俺のことを許せずにいた。


131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:18:38.86 ID:q2OCGKtb0


「工藤くん…何故ワシらに…
組織のことを話してくれなかった…ワシらはそんなに頼りなかったのか…」


普段は俺に協力してくれている目暮警部も真相を知り悔やんでいた。

そりゃ目暮警部に本当のことを言えなかったのは申し訳ないと思う。

一緒にいる高木刑事やその妻の美和子さんも目暮警部と同じ顔をしている。

どうして自分たちに本当のことを言ってくれなかったんだ。

そしたらどんな協力でも惜しまなかったのにとそう心の中で呟いているんだろう。

それだって仕方なかったんだ。組織は当初俺が考えていたよりも規模が大きかった。

だから迂闊なことは言えなかったんだよ!


「スマン新一…ワシがあんなことを言わなければよかったんじゃ…」


同じく真相を知った阿笠博士が俺に謝罪をしてきた。

思えば博士の助言で俺は正体を伏せることにした。けどそれは結果論だ。

あの時はあれでよかったはずだ。問題はその後だ。

それでも俺には打ち明ける機会が何度もあった。

それを不意にしたのは他の誰でもない俺自身だ。


「工藤…悪い…もう俺はお前を庇ってやれん…」


服部もつらそうな顔でそう告げた。

その理由はわかる。お前はあとからとはいえ俺たちの事情をすべて知っていた。

だから蘭の件については罪悪感を抱いているんだな。

すまなかった。こんな俺の嘘にここまで付き合わせちまってさ。

服部、お前は本当にいいヤツだよ。


「新一、私たちはちゃんとお前に親としての責務を果たすべきだった。」


「10年前、嫌がるあなたを無理矢理でも連れて行けばこんなことにならなかったのに…」


そして事の真相を知った両親も後悔していた。

やめてくれ。二人が後悔する必要なんてない。悪いの俺だ。

俺が一人で組織を追うなんて無茶な真似をしなければこうはならなかったはずなのに…


132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:20:27.52 ID:q2OCGKtb0


「工藤くんが探偵としての責務を果たすのなら蘭さんに真実を打ち明けるべきでした。
探偵とは真実を見出すことが使命のはず。
それなのに真実を偽り、蘭さんを欺いてきた。その結果がこのような悲劇を招いた。
蘭さんを守るはずの嘘が結果として蘭さんを死に至らしめた。
キミは探偵としての使命を重んじるあまり、そのせいで蘭さんの命を奪った。
そんな探偵は殺人者と変わりませんよ。」


杉下さんの言葉が俺の心に伸し掛ってきた。

それはかつて俺が服部に告げた言葉だ。

自殺しようとした犯人をあのまま死なせるべきだと言った服部を諌めるために告げた言葉。

だがそれは皮肉にもこんな最悪な形で俺に投げ返された。

真実はいつもひとつ。

それが探偵としての俺の信条だ。けどこんな真実なんて…

否定してみせたいけどそれは無理だ。

すべての状況がこの事実を裏付けている証拠になっている。

これは他の誰でもないこの俺自身の罪なんだ。


133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:21:53.41 ID:q2OCGKtb0


「工藤さん大変です!奥さんの容態が急変しました!」


だが俺には悔やむ暇すらなかった。

看護師さんが駆けつけて志保の容態が急変したことを告げてきた。

どうやら難産らしいが…待てよ…杉下さんの話が正しければ…

生まれてくる子供は大丈夫なのか?

蘭の子供のコナンはAPTX4869の毒性に身体を蝕まれている。

それは俺と志保の子も同じじゃないのか?

さらに言えば俺だけでなく母親の志保もAPTXを服用している。

つまりコナン以上にお腹の子がAPTXの毒性に蝕まれている可能性が高い。

やばいぞ。急いで志保のいる病室へ行かないと!

だが志保の病室へ向かおうとした矢先、

もう一人看護師さんが駆けつけてきて思いもしないことを告げてきた。


「大変です!コナンくんの容態が…」


なんだと…このタイミングでコナンの容態も急変しただと…

そういえば蘭が遺した日記には

コナンは何度も倒れてもう身体は限界かもしれないと記述されていた。

あいつはまだ6歳。恐らくもう生命力はギリギリだ。

急いで処置を施さないと最悪の場合は死ぬ危険が…

だがその処置を施すにしてもAPTX4869に関しては志保が専門家だ。

その志保が難産だという時に…なんて最悪な状況だ…


134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:22:33.37 ID:q2OCGKtb0


「どうやらキミに選択が迫られているようですね。」


「選択って…何のことですか…?」


「トロピカルランドで引田ひとみさんに告げられた最後のひとつのメッセージですよ。」


そういえば…引田ひとみからこんなことを告げられた…


『この世にもしも傘がたったひとつだとしたらあなたは誰に傘をさす?』


あの時は意味不明すぎてまったくわからなかった。

けどこんな状況に陥った今ならこの意味がわかる。

それは今の状況がまさにこの言葉を物語っているからだ。


「工藤くん、キミは重大な選択を迫られています。」


「恐らくキミの奥さんである志保さんこそかつての灰原哀。そして組織の裏切り者。」


「彼女こそがAPTX4869を製造した人物。」


「その彼女からAPTX4869の情報を聞き出せばコナンくんの命は救われます。」


「しかし彼女もまた難産。
この状況でそんな彼女からAPTXのことを聞き出すなど
生まれてくるお腹の子に影響を及ぼす可能性が高いはずです。」


「だからこれは父親であるキミが決めてください。」


俺は…今ほど…これまでの選択を後悔したことはなかった…

何故ならこれから行う選択はどちらを選んだとしても後悔しか残らないからだ。

蘭の子であるコナンを救うか…それとも志保とお腹の子を救うか…

父親としてどちらかひとつの選択を求められてしまった。

そして杉下さんは冷徹な表情でおれにこう問いかけた。


135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:23:11.19 ID:q2OCGKtb0




キミが持つたった一本の傘。それを誰に渡しますか。




End

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/19(木) 20:23:39.37 ID:q2OCGKtb0
これで終わりです。長くなってごめんなさい。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/19(木) 21:14:38.49 ID:0AMo685kO
バーーーローーがクズいなぁと思いつつ読んでたけど、最後の右京さん無双で燃えた
面白い話ありがとう
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/19(木) 21:17:41.55 ID:30H3f6HSO
リアルにやるとあと何千年かかるかな
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/20(金) 06:26:19.32 ID:rjYfcm23O
改めて言われてみると、バーーーローーって酷いやつだな
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/20(金) 14:04:58.23 ID:mVCizwSl0

作品は面白かったが
この杉下の使い方と言うか、右京さん作者の分身だろ正直ちょっとこじつけじゃね感含む
周到に周りまとめて全滅フルボッコ感と言うか
総武高や岐阜の某小学校壊滅させた人か?
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/20(金) 23:43:05.26 ID:LCrJhlab0
話の都合でキャラが動かされてるのが見えてきて冷めた。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 15:56:09.25 ID:AszfpVruO
↑↑それがこの人の作風だからな
俺は好きよ
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/03(土) 22:15:10.08 ID:jth4HZnDO
まーた灰原厨が蘭をディスってるのか
バーーーローーが蘭以外の女を選ぶことはないから諦めろ
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/08(木) 16:56:49.77 ID:pGepgAeb0
懐かしいね
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/20(火) 09:58:03.41 ID:cziSa2/I0
古い
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/04/12(水) 22:36:47.93 ID:ojuvlcQ90
ピヨピヨ
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