北の果てで

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/30(土) 16:59:52.18 ID:Cmd4XTLW0
執務室の前につくと、時雨が服を引っ張ってくる。何事かと思い振り向くと、少しかしこまった様子でこちらを見つめていた。

「その、提督…僕あんまり他の娘と話すのが得意じゃないんだ。良かったら慣れるまで助けてくれると嬉しいんだけど…」

「安心しろ、今この幌筵には私とВерныйしか居ない。大きさの割りに寂しい白地だよ」

「ふふっ、提督は面白いね」

「あ、あんまり面白い事言ったつもりは無いんだがなぁ…」

時雨のことが良く分からないと思うのは私だけだろうか。だが、これでこの泊地へ3人になった。確かに少ないがそれでもまだマシだ。執務室の扉を開けて暖かい天国へ入る。

「ふぅ、流石に執務室は暖かいな。時雨、名簿に君の名前を追加する。何か名前の他に記入して欲しいことは?」

「そうだね、1つだけ『ム望造建艦妹姉』とでも書いといてよ」

「…直接言わない辺りいやらしいな」

「僕は他人に自分の気持ちを伝えるのも苦手なんだ♪」

「そうか、なら名簿に『ズラカベルス話会』とでも書いとくとしよう」

「…提督もいやらしいじゃないか」

「お互いにな」

名簿に時雨の名前と詳細を書いていく。もちろん、先程の『ム望造建艦妹姉』もだ。もし姉妹艦が4、5人集まったら消しておこう。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/30(土) 17:53:37.91 ID:Cmd4XTLW0
「それで時雨、今の時刻を見て欲しい」

「えっと…午前2時だね。もう良い子は寝てる時間だ」

「そうだ、そして私たちは悪い子になってしまうな。それにこれ以上起きていると、昼夜逆転した生活を送ることになる。廊下を通った時に分かっただろうが、ここは吹雪で全く外の様子が分からない。せめて時計だけでも昼夜に従いたい」

「その時計が正確だと良いね」

「安心しろ、ちゃんと来る前に合わせてきた。滅多なことがない限りずれないぞ」

「なら嬉しい限りさ」

暖炉の火を消し、懐中電灯を取り出して部屋の明かりを消す。そういえば寝床を作っていなかった、どこかの空き部屋で一晩を過ごすとしよう。

「提督、今日は僕と一緒に寝ないかい?」

「何を言い出すんだいきなり」

「冗談だよ、もうちょっと照れてくれたって良いじゃないか」

「すまんが、そういうのは幼馴染で間に合っている」

「あーあ、つまんないや…」

時雨という娘がどういう娘なのか更に分からなくなってきた。とにかく今日は隣で一夜を過ごそう。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/30(土) 17:54:10.94 ID:Cmd4XTLW0
ここまで
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/30(土) 18:39:37.32 ID:7dSISGHWO
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 01:04:00.68 ID:LN/fEczn0
おつおつ
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/22(日) 21:57:43.96 ID:SGGQmyHZ0
再開します
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/22(日) 23:04:07.80 ID:SGGQmyHZ0
「っ〜〜…眠たくなってきたな。この部屋でいいか」

適当に側にあった部屋に入ることにする。スイッチを入れて電気をつけると二段ベッドが二つ、奥には机が机があり挟むようにロッカーが二つ、向かいに二つの計四つある。が、金具は錆びまともに開けられそうにもなかった。

「時雨はどこに寝るんだ?」

「僕は提督と一緒のベッドが良いな。この部屋寒いからかけ毛布だけじゃ足りないよ」

「確かに寒いが他のベッドから毛布をとってこれば良いじゃないか。別に俺と一緒に寝なくても…」

時雨が目をじっと見つめる。まるで誰が譲るもんかと抗議をするかのようだ。

「わかったわかった。これ以上言っても無駄みたいだしな」

「えへへ♪」

上着を脱いでベッドの端にかけておく。時雨は嬉々として毛布をとって来ると、同じ毛布の中へ入り込んでくる。モゾモゾと動かれてかなり気になる。しかし、時雨の体温が高いのか引っ付かれるだけでかなり暖かい。

「なぁ時雨」

「ん?どうしたの提督」

「まだあって一時間も経ったかどうか怪しいが、何で俺にそんなに引っ付いてくるんだ?普通は距離を開けて様子を見ると思うんだが」

「うーん、何でって言われても…初めてあったのが提督だったから、かな?」

「なるほど、生まれたてのひなが初めてみた鳥を親鳥と思い込むのと同じ原理か」

「僕は生まれたてのひなだと言いたいのかい?」

「間違ってるか?」

「ぐぬぬ…」

段々と力強く抱きついてきて少し暑い。こんな寒い部屋の中でまさか暑いと思うとは思わなかった。

「悪かった悪かった、抱きすぎで暑い」

「ダメ、朝までこうする」

「はいはい、おやすみ」

頭を撫でてやると目を瞑って顔を擦り付けてくる。
こう見ていると、犬を思い出す。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/22(日) 23:43:30.50 ID:SGGQmyHZ0
何分ぐらい撫でていただろうか。ふと気がついて布団の覗き込むと、時雨は穏やかな顔で眠っている。自分も枕に頭をおき、目を瞑る。体がベッドに深く沈み込み、力が抜けていく。

「て、提督。もう寝たかい?」

時雨の呼ぶ声が聞こえる。だが、あまりの眠気と脱力感で答える気にならない。

「そっか〜…寝ちゃったかぁ〜…」

しょんぼりとしたような声色で時雨がまた布団のなかに潜り込んでいく。が、こっちはすでに頭が回らない。考えることをやめ意識を捨ててしまおう。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/22(日) 23:43:59.41 ID:SGGQmyHZ0
ここまで
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/23(月) 11:39:38.86 ID:L+Hxs53a0
どうしてウチの時雨ちゃんは画面の外まで着いてきてくれないんだろ……
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/05(日) 14:56:09.00 ID:oyhUll3T0
再開します
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/05(日) 16:06:35.18 ID:oyhUll3T0
あれからどれ程寝ただろうか、窓が無いため外の明るさも分からない。まだ時雨は布団の中で寝息を立ている、もうВерныйは起きているだろうか?ベッドが抜け出て上着を羽織り部屋の外に出る。廊下は明るい白の光で照らされており、目の奥まで光が届くようだ。執務室の扉を開け、中に入ると既にВерныйが暖炉に薪を焚べて火力を調整していた。

「やぁВерный、おはよう」

こちらに振り返ると少し不思議そうな顔をし、目を細める。少しして普段の表情に戻ると挨拶を返してくれた。

「おはよう、"提督"」

椅子に座り机の上を見回す。相変わらず書類も何もない、あるとしたら用もないのに置いてある万年筆だけだろうか。今日は強い風が叩きつける音もせず、雪も降っていない。

「さてはて今日はどうしたものか。運動するついでに島の見回りでもするか」

「いいと思うよ」

「少し外に出てくる。時雨が起きたら外に出ていると伝えてくれ」

「了解」

コートを羽織り、防寒具を整える。多少は体を動かせるだろう。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/05(日) 17:06:35.10 ID:oyhUll3T0
外は案の定辺り一面雪景色、枯れた木が何本か哀しく立っているだけで他には何もなかった。本当にここが軍事施設なのかと疑問になってくる程だ。港、といっても少し舗装されただけの桟橋まで来ると、遠くの方に小さな島影が見える。

「うぅ…」

どこからか女性の呻き声が聞こえたような気がした。もしもこんな極寒の中で倒れてしたら大問題だ。とは言え、こんな所に人が倒れているとも考えづらい。自分の疲れから来た幻聴かもしれない。

「おい、誰か居るのかー?」

少し待っても返事はなかった。そろそろ切り上げようと踵を返す。

「ん?」

突然右足が何かに固定されたように動かなくなった。

「ま、待って…」

「うおっ!?」

いきなりのことに体が飛び上がってしまう。すぐに足元を見ると雪の中から手が出ていた。

「ひっ、引っ張って…」

「お、おう…」

ゆっくりと引っ張り上げると、金髪の少女の顔が出てきた。意外と顔色は良く寒がっている様子もない。

「ぷはー…新鮮な空気…」

「…寒くないのか?」

「あ、うん。えっと…最後まで引っ張ってくれると嬉しいかなぁ〜って…」

「分かった」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/05(日) 17:07:33.80 ID:oyhUll3T0
ここまで
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/05(日) 18:20:00.81 ID:LOS5R7RAO
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/21(火) 13:45:28.77 ID:EAi+tSFy0
再開します
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/21(火) 15:03:52.52 ID:EAi+tSFy0
ゆっくりと雪の中から引っ張り出していくと、全身が露になってくる。青色で装飾された制服、どこかビスマルクの服装に似ている気がしないでもないが、あちらは赤かった。

「ふ〜、助かったよ〜」

「君はどうしてここに?」

「えっと覚えてなくて…あはは…」

「なら名前はどうだ?」

「それなら覚えてるよ!」

コホンと咳払いをし、身体中に付いた雪を払い落としてこちらに笑顔を見せてきた。

「私はプリンツ・ユージン!よろしくね!」

元気に自己紹介をしてくれた彼女は、こんな極寒の島であるにも関わらず笑顔を保ち続けている。体感温度は人間との違いがあるのだろうか。

「私はこの泊地で提督をしているんだ」

「Admiral!?Really!?」

「お…おう」

「うーん、貴女の所でお世話になっても良いかな?」

「ああ良いぞ、人が少なくて寂しかったんだ」

「Thank you!」

とても陽気な子だ。彼女を入れて全員で3人の艦娘がいる。だいぶ雰囲気も良くなることだろう。
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/21(火) 15:55:06.71 ID:EAi+tSFy0
桟橋を後にし、建物に戻ると玄関で時雨が立っていた。どうやらベッドから居なくなったのに気付き慌てて探したのだと言う。プリンツが時雨に挨拶をして時雨も挨拶を返した。

「提督、新しい子を拾って来たんだね」

「拾って、まぁ間違ってはない。これから少し賑やかになるぞ」

「僕は提督のものなら何でも受け入れるよ」

少し話が噛み合っていない気がするが、気にしないでも問題はないだろうと思う。それにしても、会ってまた24時間も経っていないだろうにここまで懐かれると、悪い男に拐われたりしないか不安だ。

「そう言えば、提督は何で起きたとき僕も起こしてくれなかったんだい?」

「起こしたら悪いかと思ってな、そのままにした」

「僕を気遣ってくれるのはうれしいけど、それなら起こしてくれた方が良かったよ…」

しょんぼりとする時雨の頭を撫でてやると、少し笑みを漏らして喜んでいた。後ろでニヤニヤとプリンツがこちらを見ている。

「仲が良いんだね〜」

「といっても会ったのは昨日なんだがな…」

「へぇー」

相変わらず建物の中も外と違う寒さで体が冷える。この檻のような建物からはいつか昇進しておさらばできることを願おう。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/11/21(火) 15:55:41.67 ID:EAi+tSFy0
ここまで
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/21(火) 17:11:55.21 ID:2CORrXoC0
プリンちゃんまさかこれ……
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/01(金) 19:52:56.50 ID:jnUIHnRP0
再開します
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/01(金) 20:25:48.65 ID:jnUIHnRP0
「Верный、戻ったぞ」

「あぁ司令官、ちょうど良かった。あそこの電話、誰からかかかってきたみたいだ」

「本当か?」

すぐに駆け寄り受話器を耳に当てる。

「もしもし、どなたでしょうか?」

『おお、ようやく声が聞こえたよ』

「げ、元帥殿!?」

提督が声をあげて驚いているとき、3人は暖炉の前で座っていた。プリンツは何やらソワソワと落ち着かずВерныйを眺めていた。

「Hi、えっと…ヴェルニー?」

「『ヴェールヌイ』だよ、どうかしたかな?」

「貴女ってSoviet unionの船だよね?」

「『元』ソ連艦だよ」

元という言葉を聞いた途端、プリンツは安堵した様子で大きく息を吐いていた。

「良かった〜…」

「なにが?」

「私でも良く分からないんだけどね?頭の中で『ソビエトに気を付けろ』って、言葉が繰り返し流れてくるの」

「へぇ、面白いね。刷り込みでもされたのかな?」

Верныйはプリンツの言葉に笑顔を見せたが、誰がどう見ても眼が笑っていない。プリンツはぎこちない笑みを浮かべ、その奥では時雨が大きなあくびをしていた。数分もすれば提督も受話器を戻し、暖炉の前に座りに来た。

「提督、何だったの?」

「資源運搬の開始と食料運搬の開始が今日の昼から始まるそうだ。これで飢え死ぬことは無くなるな」

「ハイ!Hamburgerもある!?」

「いや、流石に無いだろ…」

「なーんだ…」

「とりあえず初めの配給は3時間後だ。それまで待機するぞ」

「ハーイ…」

持ってきたタイマーを3時間後に設定し、これまで待つことにする。外へ出てもまだすることがない。それよりも中で暖まっている方が体にも良いだろう。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/01(金) 20:48:30.56 ID:jnUIHnRP0
「ねぇ〜提督〜…何かすることはないのかい…このままじゃ退屈で死んじゃうよ…」

時雨が退屈さに悲鳴をあげたのは待機してから僅か20分の事だった。提督の背中にもたれ掛かり、両手両足を投げ出している。

「おい、まだ悲鳴をあげるのは早すぎるぞ。しょうがない、ココアでも作ってくる。Верный、ココアがあるのはどこの部屋だ?」

「ココア…?えっと…隣の部屋だよ」

「そうか、なら作ってくる」

提督は部屋から出ていき、艦娘3人だけが残された。話しにくいのか、相変わらずお互いに少しの溝があるように思える。

「……」

誰も話しかけない。いや、誰も話しかけれない。提督という連絡橋が無い今、会話を始めるのは不可能に近かった。それでも、プリンツは何度か二人に話しかけようとするが、横姿から溢れてくる無言のオーラには勝てなかった

「戻ったぞ、って何で3人ともそんなに黙ってるんだ?」

「Admiral、ココア!」

「はいはい、慌てるな慌てるな」

1人ずつ丁寧に渡していく、昨日のВерныйのココアに比べればぬるいが、それでもけっこう暖かい。

「久しぶりにココア入れたから、薄かったりしたらすまない」

「気にしないで、提督。僕は薄くても濃くても大丈夫だから」

「Me too!こんなときに文句なんて言ってられないよ!Thank you Admiral!」

「Спасибо」

「ここの艦娘は国際色豊かだな」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/01(金) 20:48:59.13 ID:jnUIHnRP0
ここまで
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/02(土) 07:05:07.96 ID:r5nGdktt0
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 22:03:16.18 ID:TU9ZF9TT0
再開します
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/16(土) 22:49:26.39 ID:TU9ZF9TT0
暖炉の前でココアを啜りながら、4人で固まり暖を取る。少女達の体は上着を着ていないにも関わらず、自分の素肌よりも一段と暖かくプリンツにいたっては今まで外に居た筈なのに3人の中で誰よりも暖かい。時雨は相変わらず誰よりもすり寄ってくるし、Верныйは1番端でココアを啜っている。

「提督、ココアごちそうさま」

「おう、机にでも置いておいてくれ。後で片付けに行く」

1番先に飲み干したのは時雨だった。机にコップを置くとまた隣にやって来てすり寄ってくる。…離れたら時雨は死んでしまうんだろうか?と疑問になってくるほどだ。

「やっぱり提督の隣は安心するね。ずっとこうしていたいよ」

「いや、流石にずっとそうされてると邪魔なんだが」

「…ダメかな?」

「上目遣いでこっちを見るんじゃない。断りにくいだろ」

いやらしい笑顔でこちらを見てくる。横でニコニコとプリンツが見てくる。

「司令官、おかわり頼んでもいいかな?」

「分かった、プリンツと時雨はどうする?今なら淹れてこれるが」

「なら僕のもお願い」

「私のもね!」

「はいはい、全員分だな。少し待ってろ」

「あ、僕も行くよ!」

全員分のコップを2人で持ち、隣の給湯室へ入る。もう一回やかんに水を入れ、ガスコンロの火をつける。やかんの注ぎ口から湯気が出てくるまで少し待機することにしよう。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 03:50:08.55 ID:3kmDV+eF0
「提督…」

「ん?」

時雨は顔を赤くして襟を掴んでくる。

「熱でもあるのか?どれどれ…」

「あっ…///」

額を合わせ体温を確かめる。特に熱は無いようで異常は分からなかった。

「熱は無しと、風邪でもひいたか?」

「いや、その…」

「ともかく異常があったらすぐに部屋のベッドで寝るんだぞ。今は薬がないから何も治療ができんしな」

「ぼ、ぼくは―――」

時雨の声はやかんの蓋のカタカタ音でかき消された。すぐにガスを切ると、コップの中にココアの元を入れお湯を淹れる。

「よし、できたな。時雨、持っていくぞー」

「むー…」

コップを持ち執務室へと戻る。何やら時雨が不機嫌になったようだが、理由は分からない。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/17(日) 03:50:36.63 ID:3kmDV+eF0
ここまで
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 07:17:22.86 ID:uQ2/vviG0
かわいい
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 23:45:26.51 ID:HiRLXSI60
再開します
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 00:36:07.97 ID:tgqb/Ifo0
「2人共、今戻ったぞー」

ココアを両手で持ち、扉を開けてもらい中に入る。さっきと変わらず暖炉のまで座っているが、Верныйが何故か自分のマフラーを首に巻いていた。グルグルと巻かれているマフラーは鼻までを隠すほどまで盛り上がっている。

「Admiral!Thank You!」

こちらに気づくと近付いてくると、まるでひったくるようにコップを取っていく。扉を閉め、暖炉を見るといつの間にか時雨がコートを羽織っていた。正直なところ、体温が低いこちらへ譲ってほしかったが、少女から大人が防寒具を奪うなどただの大人げないやつだ。そうだ、忘れないうちにプリンツを名簿に追加しておこう。

「プリンツ、ちょっとこっちに来てくれ」

「んん?どうしたの〜?」

「名簿にプリンツの事を書いておきたくてな」

「OK!」

引き出しから名簿を取り出す。分厚さの割には最初の1ページ目以外白紙のほぼ真っ白な名簿、これがほとんどの埋まるほどの大所帯だと大変そうだが楽しそうだ。

「さてまず名前だが…プリンツ・ユージンって英語でどう書くんだ?」

「えっとね〜 『Prinz Eugen』…ってあれ?」

「ん?どうした?」

「…ううん、何でもないよー!ほら、『Prinz Eugen』。書いてみて!」

「よし…『Prinz Eugen』だな?」

「YES!次いってみよー!」

書かれた通りに名簿に書き写すと、見た目の特徴等を書いていく。何の問題もなく埋めていったが、今の願いを聞くと、悩み込んでしまった。

「うーん…」

「願い無いのか?最悪おもちゃが欲しいとかでもいいぞ?」

「ううん、そうじゃなくて…誰かに会いたいんだけど全然思い出せないなぁーって」

「なるほど、それなら思い出せてからにしよう。さて、こんなもんだな」

名簿をとじ、引き出しにしまうと狙っいたかのように電話な鳴り響く。

「すまん、ちょっと静かにしていてくれ」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 07:56:08.65 ID:tgqb/Ifo0
「はい、こちら幌筵泊地」

『何度もすまんな、私だ』

「いえ、大丈夫です。それで、なにかご用で?」

『実はな、そっちで引き取って欲しい艦娘が3人ほど居てな』

「こちらでですか?」

『あぁ、『長門』『酒匂』『雪風』なんだが…』

「ちょ、ちょっと待ってください!流石にそれはダメですよ!こんな辺境の地に建造ならまだしもそちらから戦艦を寄越すなんて」

あまりのことにビックリした。長門と言えば、あのビックセブンと呼ばれた艦娘のはず。このような鎮守府に連れてくるのはもったいないはず。

「いや、問題が起きてな…」

「問題?いったいどのような?」

『最近、何かに怯えるように部屋に引きこもってしまって出てこないんだ。『酒匂』と『雪風』も同じような状態でな。何とか同室の艦娘に会話はしてもらっているが、あの状態でこの鎮守府に置いておくわけにもいかなくてな。どうだ?引き取ってくれるか?』

「と言われましても…こっちは戦艦の出撃なんて出来ませんよ?」

『構わない、ストレス発散という名目でそちらに行かせる。リンガでも良かったんだが、大規模作戦前線基地になることが決定してな』

「そうですか、分かりました。こちらは部屋の掃除をして準備をしています」

『頼んだぞ』

向こうから通信を切られるのを待ち、それに合わせてこちらも受話器を戻す。

「司令官、どうしたんだい?」

「艦娘が3人、こちらへ来ることになってな」

「名前は?」

「『長門』『酒匂』『雪風』だ」

「長門!?酒匂!?Really!?」

「お、おう。突然どうした?」

プリンツが机を乗り出して聞いてくる。どこかでの知り合いだろうか?

「酒匂に長門かぁ…久しぶりだなぁ…」

「とにかく、これから部屋の掃除をする。3人だから1つの部屋の掃除で十分か」

「Admiral!長門と酒匂は私の部屋が良い!」

「そうか、ならプリンツと長門と酒匂は同室と」

「提督、雪風は僕と同じ部屋で良いかな?」

「良いぞ、なら2つの部屋の掃除だな。さっさと済ませるぞ、終わらせるなら早い方がいい」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 07:56:40.74 ID:tgqb/Ifo0
ここまで、いやークリスマスやること何も無いですね…
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 12:13:45.22 ID:KNYrLuyf0
おつ
家族と過ごしたらどうだ?
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 15:34:29.35 ID:LGoOBgTA0
>>62
貴女?女だったのか
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 21:21:22.62 ID:r6nqOlbi0
遅れましたが新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします

↑『貴女』は変換間違いです。申し訳ありません
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 21:53:19.71 ID:r6nqOlbi0
適当にほうきと雑巾、バケツを用意する。2つとも倉庫にあり、雑巾に関してはちゃんと乾かしていなかったのか、カチカチに凍ってしまっていた。水は雪をバケツに詰め込めるだけ詰め込め、暖炉で溶かして用意する。水はちゃんと別で用意してあるが、水分補給のためにもここで使いたくはなかった。

水を用意すると、二手に別れて掃除を始める。分け方としては俺と時雨、Верныйとプリンツ。仲間になりたそうにこちらを見ていた時雨を置いて、Верныйやプリンツを選んでいたら面倒くさい様なことになると直感が訴えていたため、時雨をパートナーに選んだ。

「それじゃ時雨、さっさと掃除を終わらせてしまうぞ。時雨は床にたまった埃を掃いてくれ。俺は雑巾で窓や壁を拭いていく」

「僕は良いけど、提督は水が冷たくないのかい?なんなら僕が…」

「大丈夫だ、暖炉で出来るだけ温めてきた。ぬるい程度だが冷たいよりはマシさ」

だが、油断していた俺はバカだった。窓を拭こうとして窓に雑巾を当てると、ぬるま湯がすぐに冷え窓に貼り付いてしまった。

「うおっ!?」

咄嗟に手を離したが、雑巾はピッタリと貼り付いている。外はそれほどまでに寒いのだろうか。ただでさえこの建物の中も寒いと言うのに、外がもっと寒いと思うだけで気が滅入ってくる。

「提督、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。それよりもこの雑巾、どうやって外そうか…」

「それなら、このぬるま湯をかけてサッと」

なんとか雑巾は取れたが、垂れた水滴が固まってしまった。雑巾よりはマシだと思い、壁を拭き始める。

「時雨、助かった。まさか雑巾が貼り付くなんてな」

「僕は提督に凍傷とかがなくて良かったよ」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 22:26:36.60 ID:r6nqOlbi0
壁とベッドの木の部分を丁寧に拭いていく。壁はさほど汚れていなかったが、ベッドの下側を拭いていくと雑巾が黒くなるほど汚れていた。

「酷い汚れようだな、前の責任者もここまでは拭かなかったのか?」

「そんな所はあんまり拭かないんじゃないかな。多分…」

疑問になりながらも雑巾を何度も洗って拭き続ける。用意した水はもう黒く汚れていたが、替えに行くような気力はなかった。

「これほど掃除すれば大丈夫だろう」

「隣はどれくらい終わったんだろうね、ちょっと見てみようか」

「そうだな」

ドアをノックし、出てくるのを待つ。真っ先にプリンツが出てきて、後ろにВерныйが立っている。

「そっちはどうだ?」

「ある程度は終わったよ!」

「そうか、なら片付けるか」

水を一つのバケツにまとめると、給湯室の排水溝で水を捨てる。埃や大きい物は入っていない筈だから、詰まるようなことはないはずだ。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/14(日) 22:28:25.17 ID:r6nqOlbi0
ここまで
久しぶりに実家に帰って家族と会いました。
いろいろと変わっていて、かなり驚くことが多かったです。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/14(水) 09:26:25.80 ID:RyfRHwcf0
再開します
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/14(水) 10:09:48.21 ID:RyfRHwcf0
片付けを終えると腕時計を確認する。船が来る昼頃はそろそろだ。コートを羽織り準備をして執務室に戻ると、Верныйが居ないことに気が付いた。

「プリンツ、Верныйはどこに行ったんだ?」

「ん?Верныйなら先に部屋に戻ったよ?」

「そうか、なら良かった。もうすぐ船が来る、俺は桟橋に行ったと伝えておいてくれ」

「提督、僕も―――」

「時雨はここで待機だ。迎えは俺一人で大丈夫だ」

「…うん」

「それじゃ、任せたぞ」

「行ってらっしゃい」

部屋の外へ出る。不気味なぐらい静かな館内、この静かさが将来的に賑やかな声で騒がしくなっていることを願う。外に出れば雪によってできた道を進んでいく。少しでも道を外せば腰まで雪に埋まることになる。桟橋まで歩いてくると向こうの方から2つの大きな船影が見える。それはゆっくりと大きくなってくる。

10分も待っていると船は桟橋に到着した。橋がかけられ資材運搬用の車両が何十台も出てくる。元帥は最後に艦娘を連れて梯子から降りてきた。

「やあ明戸君、調子はどうだ?」

「まぁまぁです」

「何事もないようで何よりだ。先に連絡入れた艦娘達というのはこの3人だ」

一番前にたっている大きな女性と後ろに隠れている艦娘が二人、何故隠れているのだろうか?
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/14(水) 11:05:04.23 ID:RyfRHwcf0
「この子達は今あまり精神状態が良くなくてな、そっちでカウンセリングや息抜きを任せる。すまない、押し付けるような形となった」

「いえ問題無いです。既に3人分の部屋は掃除してありますので」

「助かる。では私はまだ本土でやることが残ってるからな、あとは頼んだぞ」

そう言って元帥は駆け足で船に乗り込んでいく。運搬用の車両も運び終わったのか次々と船のなかに戻っていき、最後の一両が乗り込んだかと思うと橋が上がって出港していった。

「さて、それじゃ3人とも俺についてきてくれ。君たちと同室を願う子もいるから仲良くしてくれよ?」

3人とも頷いてはくれたが返事はしてくれない。まだあったばかりだからだろうか。それに1人、やたらこっちに敵意を向けてくる子がいる。

「えっと3人の名前は分かってるんだが、顔と名前が一致しない。今のうちに教えてくれないか?」

3人ともなかなか口を開かない。かなり気まずい空気になったところで、一番背の高い子がようやく口を開いた。

「私が戦艦『長門』だ。そして軽巡『酒匂』に一番背の低いのが駆逐艦『雪風』だ」

これで名前がわかった。そして、誰が敵意を向けてくるのかもわかった。雪風が敵意の目でこちらを睨んでいる。これでは当分近付かない方が良さそうだ。時雨に何とかしてもらうとしよう。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/14(水) 11:05:34.16 ID:RyfRHwcf0
ここまで
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/14(水) 13:02:44.00 ID:WMaJyXmiO
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/19(月) 17:52:06.31 ID:CScGkMtA0
再開です
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/19(月) 19:48:55.65 ID:CScGkMtA0
3人を執務室まで連れてくると、二人の姿が見えず、Верныйが1人で暖炉の前で座り込み火掻き棒で中の薪を弄っていた。

「Верный、他の二人はどうしたんだ?」

「入渠設備の掃除に行ったよ。私たちは暇だからね」

後ろにいる3人をВерныйが視認すると火掻き棒を直し、外していた帽子をもって立ち上がった。そのまま扉から出ていこうとする。

「そうだ司令官、少し雪風を借りていくよ」

「ああ分かった、雪風も俺と居るより同じ艦娘と一緒の方が良さそうだしな。名簿には最低でも名前があれば十分だ」

「ありがとう。それじゃあ雪風、行こう」

「え、あ…うん…」

手を力強く握って雪風を連れていった。とりあえず椅子に座り名簿を取り出す。

「何か記載しておいてほしいことはあるか?」

「私は特に無い、酒匂は何かあるか?」

酒匂は長門の言葉に対して首を横に振っていた。それほど話したくないのだろうか、そう考えると少し傷つく。

「これでよし、さてこの鎮守府だが特に何もしないで良い。と言うよりは何もできないが正しいな」

「どういうことだ?」

「資源もさっき補給されたが最低限しかないからな、演習も出撃も緊急時以外は出撃しないことに決めた」

二人は安心したような顔をした。

「そうか、それで私たちの部屋はいったい…」

「Admiral!今戻ったよー!」

プリンツが扉を勢いよく執務室の扉を開ける、後ろから時雨がやれやれといった顔で扉を閉めていた。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/19(月) 21:05:55.36 ID:CScGkMtA0
「長門ー!酒匂ー!」

二人はプリンツの姿を見るとさっきまで険しかった顔が笑顔になった。

「プリンツ!」

「ユージンちゃん!」

3人とも抱き合って、会えた喜びを分かち合っているのだろうか。この3人の関係性をよく分からないこちらからすると久しぶりに会えた艦娘としか思えなかった。

「3人ともいい感じの雰囲気になってるところ水を指して悪いが、良いか?」

「あ、ごめんごめん」

「3人は以前どこかであったことがあるのか?」

「ううん、会った記憶は無いの。でも、会いたいって気持ちがあって…よく分かんない」

「そうか、まあその辺りも調べていくとしよう。プリンツ、二人を部屋に案内してくれるか?」

「もちろん!」

プリンツが楽しそうに二人と手を繋いで出ていった。名簿をしまい一息つく。昨日と今日で艦娘が6人になった、まだ食っていない朝飯を食べてから後々のことを考えよう。食材は何があっただろうか
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/19(月) 21:06:26.80 ID:CScGkMtA0
ここまで
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/20(火) 15:02:13.09 ID:u9ALKsVI0
おつ
50.66 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)