ミリオンデイズ

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86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/23(月) 13:10:58.25 ID:aY7VMHe/O
千鶴さんの招待HRいいよね
千鶴さんのカードで一番好きだわ
87 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/10/26(木) 18:47:23.82 ID:wDzg5ho80
===10.

「仕掛け人さま仕掛け人さま」

「ん、どうしたエミリー? ……と、エレナ」

「今日もお仕事頑張ってるネ! 今からそんなプロデューサーを、二人で応援してあげるヨー!」

そう言うとチアガール衣装に身を包んだ二人はポンポンを振って踊り出し。

「フレー、フレー! 仕掛け人さまっ!」

「ファイト! ファイト! プロデューサー!」

「わぁーっ♪」

「イェーイっ♪」

「あー……応援してくれるのは有り難いが、あんまり埃は立てるなよ」

「えへへ……げ、元気になって頂けたでしょうか?」

「それじゃ、早速確認を――♪」

「っておい! お前ら乙女の癖にどこを見て――さ、さては星梨花!? 星梨花だな! 星梨花ーっ!!」

二人の少女に迫られて、プロデューサーは慌ててその場から逃げ出した。……若干前かがみになりながら。

後に残されたエミリーが言う。

「oh……。エレナさん、私たちには魅力が足りてないんでしょうか?」

「落ち込まないで、エミリー。次はサンバの衣装でチャレンジだヨ!」

「はぅ、サ……南米舞踏の衣装は布が少なくて着れません〜!!」
88 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/10/26(木) 18:55:53.92 ID:wDzg5ho80
===
この一コマはこれでおしまい。エレナ誕生日おめでとう!
それにミリシタコミュのエミリーのさ、応援は笑顔になっちゃうよね〜。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/27(金) 00:03:24.17 ID:ohBu4YU8O
勃起させるやつお前だったのか
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/27(金) 10:39:26.58 ID:GxtjkMlEO
なぜチアガール衣装なのだ
どうせなら水着チアで応援して欲しかった
91 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/27(金) 18:42:12.15 ID:23i0x2er0
===11.

両手合わせて十本の指から伝わって来る肉の感触はと言えば実に柔らかくってふにゃふにゃしてて。

おまけに彼女の頭がすぐ目と鼻の先にある物だから、
さっきからシャンプーの甘い香りに俺の意識は苛まれてしまって困るのだ。

「プロデューサーさん」

「は、はい!」

「もう少し……その、強めにしても大丈夫です」

言われて、俺は指先に込める力を強くした。
すると歌織さんは僅かに肩を寄せ、「んっ……」と鼻にかかったような悩ましすぎる吐息を漏らす。

正直に言って色っぽい。ここがもし事務所の中じゃ無かったら、
俺の理性はとっくの昔に崩壊して彼女を後ろから抱きしめていたかもしれなかった。
92 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/27(金) 18:43:43.13 ID:23i0x2er0

「あの〜、歌織さん」

「……もう。プロデューサーさん違います」

「えぇ!? まだダメなんスか? ……うー……お、お姉ちゃん」

「うん、なぁに?」

「この肩もみ、いつまで続けたらいいのかな?」

――さて、ここで聡明なる諸氏におかれてはこんな疑問を抱いたはずだ。

「お姉ちゃん? 貴様、なにをたわけたことを言っとるんだ!」と。

全く持ってその通り、不思議に思って当然だろう。だから、少しだけ説明させてほしい。
どうして俺が歌織さんのことを姉と呼び、彼女の肩を入念に揉みほぐすことになったかを。

きっかけは本当に些細なことさ。
事務所で彼女と雑談中、二人の年齢についての話になった。


「歌織さん二十三でしょう? はは、俺の方が一個年下だ」

「えっ」

「だから俺の方が一つ下。……二十二なんですよ、俺。ちょうど風花のヤツとタメなんです」

 するとどうだ? たちまち彼女は驚いて。

「プロデューサーさん、私より年下だったんですか!?」

「そ、そんなに驚くことですかね」

「ビックリですよ! 私、同い年だと思ってましたから」

そこからアレコレ話が広がり気づけばなぜかこんな流れに。

「それじゃああの、折角なので一つだけお願いしても構いませんか?」

「ええ、そんなに改まらなくても……。借金の話じゃなかったら、俺は大抵のことは受けますよ」

「その言葉、ホントですね?」

「ホントです。なんてったって業界じゃ、"便利屋のPちゃん"で通ってますからね!」
93 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/27(金) 18:46:03.90 ID:23i0x2er0

落ち着いて思い返してみれば、きっとこの一言が余計だったんだ。
どんなお願いが飛び出すのかと身構えている俺に向けて、歌織さんがもじもじしながら口にしたのは――。

「私のことを、"お姉ちゃん"って呼んでみてもらってもいいですか?」

「は、はぁ……!?」

「以前から思ってたんですけど、プロデューサーさんって少し子供っぽいところがあるじゃないですか。
……それで私、弟がいたらもしかして、こんな感じなのかもしれないなって」

「だからって、えぇっと……俺が代わりに?」

「やっぱりダメでしょうか? ……ぴ、Pちゃん……!」

その瞬間、俺はまさに「はうあっ!!?」って感じで驚いた。
なんたってあの歌織さんが、頬を赤らめながら俺に"Pちゃん"って……。

そして期待に満ち満ちた瞳でこっちを見上げるんだもの。
もしもこれこれで断るような奴がいるならば、そいつはただのヘタレと言っても過言じゃない!

俺は緊張に震える拳を握りなおすと意を決し。


「じゃ、じゃあ……か、歌織姉さん」

「……少し、距離を感じます」

「なら……お、お姉さん」

「家族から他人になった気が」

「うぅ〜……姉さん」

「プロデューサーさん。私、"お姉ちゃん"と呼んでもらいたいって」

「……お姉、ちゃん」

「――えっ? よく、聞こえなかったな」

「歌織……お姉ちゃん」

いや、実に顔から火が出そうなほど恥ずかしい。とはいえ彼女の望みは叶えたのだ。
これで一件落着はいお開きよ、お互い仕事に戻りましょう――なーんて思った俺だったが。
94 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/27(金) 18:46:59.40 ID:23i0x2er0

「うん、なぁに?」

まさかまさかの展開さ。歌織さんは俺という疑似弟に向かってグイッと顔を近づけると。

「お姉ちゃんに、何か用?」

「え、いや、用って急に言われても……」

「ん〜……。じゃあ、お姉ちゃんをただ呼んだだけ?」

「それも呼んだだけというか、呼べと強制されたというか――」

「Pくんは、お姉ちゃんにご用があるんだよね?」

瞬間デジャブを感じたね。今、歌織さんの全身からは"お姉さんしたいオーラ"が溢れている。
これはそう、瑞希が未来たち乙女ストームの面々のお世話をしたがった時のように。

「……ま、毎日仕事で疲れてない? 俺、良かったらお姉ちゃんの肩揉むよ」
95 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/27(金) 18:48:12.51 ID:23i0x2er0
===

――とまぁ、その結果としての肩揉みだ。

かれこれあれから十分弱、俺は丸椅子に座った歌織さんの肩を
もみもみもみもみ揉み続けて今に至っていたというワケである。

そろそろ指だってしんどしいし、仕事にも戻らないといけないし、
できることならこの辺で姉弟ごっこにも満足してもらいたかったのに……。

「……二人とも何をしてるのかしら?」

そこに、タイミングよくやって来たのが我らが頼れるこのみ姉さん。
彼女は俺たち二人を凝視すると、「はは〜ん」と頷きこう言った。

「ズバリ、女王様とその下僕!」

「伊織の命令じゃあるまいし、歌織さんがそんなことを望みますか!」

「なら、新手のアルバイト? 副業もほどほどにしなさいよ〜」

そうしてこのみさんは自分も丸椅子を持ち出すと、それを歌織さんの隣にトンと置き。

「よっ……こらしょっと」

ポスンとその上に腰かける……その小さく可愛らしい背中をマッサージ中の俺に向けて。

「……あー、もしもしこのみさん?」

「ん、順番待ち」

ああ、やっぱり。
96 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/27(金) 18:49:52.42 ID:23i0x2er0

「勘弁してください! 俺は別に肩もみで小遣い稼ぎなんて――」

「星梨花ちゃんのね」

「ぐっ!?」

「納得させるのがすっごく大変だったのよ。……お陰で肩が凝っちゃって」

言って、彼女は自分の肩をしんどそうにトントンとこれ見よがしに叩いて見せた。

この時、俺には二つの選択肢が与えられたことになる。

一つはこのまま順番通りにこのみさんの肩も揉みほぐすという無難な物。
二つ目はこの場から今すぐ逃げ出して、"軟弱者"のレッテルを彼女から頂戴する物だ。

だがしかし! 今日のところに限っては悩める俺のすぐそばに救いの女神が存在した。

「あ、だったら私が揉みますよ」

そう! 女神、歌織さんが!

「えっ……いいの、歌織ちゃん?」

「勿論です! さぁどうぞ、私の前に来てください」


優しく彼女に促され、このみさんが歌織さんの前に椅子ごと場所を移動する。
すると歌織さんがこのみさんの肩を揉み、その歌織さんの肩を俺が揉むという奇妙な構図が出来上がる。

「あ、ああ゛〜……いいわぁ。歌織ちゃん肩揉み上手ねぇ……!」

「そうですか? よく、父の肩を揉んでいて……んっ!」

「あ! す、すみません。力、入れ過ぎちゃいましたか?」

「いえ、そんなことは。……プロデューサーさんもお上手ですよね、肩揉み」

「ははは……昔、まだ事務所の仕事が少なかった頃は社長の肩ばっかり揉んでましたから」

「あらそうなの? プロデューサーの過去話、私ちょっと気になるかも」

「このみさんもですか? ……実は私も」

「えぇー? でも、そんな面白い話でもないですよぉ」

「この際だからいいじゃないの! これは、年上命令よ♪」

そうして俺の昔話をBGMに、この一種異様な肩揉み空間はしばらく活動を続けたが――。
97 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/27(金) 18:51:03.75 ID:23i0x2er0

「……お兄ちゃんたち何してるの?」

そこに、ちょうど桃子の奴が帰って来た。固まる俺たち察する彼女。
桃子は開け放した扉のドアノブにそっと静かに手をかけると。

「うん、まぁ、芸能界だし、大人の世界も色々あるよね。……桃子、誰にも言わないからっ!」

バタン、無慈悲に閉められるドアと猛スピードで遠ざかっていく幼い少女の足音のコンボが胸を打つ。

……さてと! ここはなにやら妙な誤解をしたらしい桃子を追いかけて行くべきか。

「ちが、違うの桃子ちゃん! ……別にこれは、なにかやましい行為じゃなくて――」

「ちょ! か、歌織ちゃん苦し! くる、重いぃ……っ!!」

はたまたそのショックの強さから、縋りつくようにこのみさんを抱きしめている歌織さんを正気に戻す方が先か?

……全く、口は災いの元ってのはホントだなぁ。
98 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/10/27(金) 18:52:35.80 ID:23i0x2er0
===
この一コマはこれでおしまい。三人並んでの肩もみは、お風呂での背中流しに通じるところがある気がする。
99 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/05(日) 01:42:38.05 ID:8Kmh9Nmz0
===12.

十月も終わりが近づくと外はすっかり寒くなる。暖房の効いた建物から寒空の下に出れば、
その風の強さに両手を擦って肩を震わせるなんて光景が街のあちこちで見受けられるようになる。

「うぅ、寒ぶ寒ぶ」

その反応に歳の差なんてものは大して関係ないみたい。
テレビ局から出たわたしとプロデューサーさん、それから静香ちゃんの三人は揃って両手を合わせると。

「お昼どうします?」

「わたし、こんな日はあったかい物が食べたいでーす!」

「なら鍋だな」

「お昼だって言ったハズですけど」

なんて、なんでもないお喋りをしながら道を歩く。
行き先は最寄りの繁華街、お仕事でペコペコになったお腹を満足いくまで満たすためだ。

「でもな、流行ってるらしいぞ鍋ランチ」

「みたいですね。先日もこのみさんたちから試したなんて話を聞きました」

そう、静香ちゃんの言う通り。このみさんたちってばわざわざわたしたちのトコまで来て、
「スッゴク美味しかった!!」って自慢するんだもん。お昼の鍋物はまた"オツ"なんだぞとかなんだとか。

「それも酔いに酔った状態で。……どうせ意志薄弱なアナタのことですから、鍋だけ食べて終わる気がしません」

「バカ言うな! 流石に勤務中に飲酒なんて――」

「したこと無いって言えますか?」

「……二度や三度はあったかもなぁ」

他人事みたいにぼやく彼の反応に、「ほら見たことですか」って感じで静香ちゃんがため息をつく。

つまり、鍋物案は却下だと。
100 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/05(日) 01:44:15.00 ID:8Kmh9Nmz0

「じゃあ丼物は? 親子丼とか美味しそうだよ〜」

そんな二人に、わたしは通りにある食堂のショーケースを指さしながら提案する。
これならボリュームもあるしヘルシーだし、代替案としても十分な――

「翼、親子丼なんて太るわよ」

「え゛っ」

「そうだぞ翼。親子丼はこう……並みだと物足りないよな。気分的に」

「間食にだって甘くなるの。お昼は親子丼だったから、お菓子の一つ二つは大丈夫よねっていう風に」

「……それって単に二人の意思が弱いだけじゃ――ううん、なんでもありませーん!」

わたしは慌てて言葉を飲み込むと、二人に首を振って見せた。

だってプロデューサーさんたちったら揃って笑顔になるんだもん。
……その反論させないスマイルの怖いこと怖いこと。

「でもそれじゃ、結局何を食べるんです? ……カレーとか?」

「カレーかぁ……昨日の昼に食べたからちょっと」

「それに温かい食べ物って感じもしないわね。どっちかと言うと辛い食べ物」

「だったらラーメン? これなら"ザ・冬の食べ物"って感じもするし」

「ラーメンもなぁ……昨日の晩に食べたから」

「惜しいけどありきたりじゃないかしら? もっと、体の芯から温まれるような一品を――」

でもそれじゃ、導き出される答えは自然と一つしか残らない。
……うぅ、でもでもこれは、正直食べ飽きちゃってるんだけどなぁ。
101 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/05(日) 01:45:40.71 ID:8Kmh9Nmz0

「……じゃ、もしかしてまさかそんなことは万に一つも無いと思うけど――おうどん?」

恐る恐ると口にして、わたしは二人の反応を見る。
もっと正確に言うならば、決定権を持つ静香ちゃんの答えを待つ。

「いや、待て、早まるな翼! もっとよく考えて――」

「プロデューサーは少し黙って下さい」

瞬間、静香ちゃんにジロリと睨みつけられたプロデューサーさんが子供みたいに首を縮こまらせた。
……プロデューサーさんは強い者に従うタチの人だから、こういう時には全くアテにも役にも立たないのだ。

そうして静香ちゃんは考え込むように口元に手を当てて――

ちなみにだ。これは昼食をおうどんにするかどうかで悩んでるワケじゃなく、
一体なにうどんを食べるのがベストなのかを考えているんだと思う――しばらく経って出した結論は。

「……今日は、お蕎麦」

「えっ!?」

「そばっ!?」

 驚くわたしたちを他所に、静香ちゃんは一軒のお蕎麦屋さんを指さした。

「この季節、鴨そばなんていいじゃないですか。それにお蕎麦屋さんの丼物は結構当たりが多いですよ?」
102 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/05(日) 01:46:48.45 ID:8Kmh9Nmz0
===
この一コマはこれでおしまい。おでんなんかも良いですよね
103 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/06(月) 02:29:53.02 ID:VPgwpRAe0
===13.

その日、周防桃子は朝からゴキゲン斜めだった。

劇場内の控え室にて。手近な席に陣取ると、いかにもといった体でむくれている
その幼い少女の虫の居所が悪いワケを同席する真壁瑞希は知っていた。

知っていて、しかしそれでも「どうしました?」の一言すら彼女は発することもせず、
手元に広げた手品道具の手入れに精を出していた次第である。

「……ねぇ瑞希さん」

だが、素知らぬ振りをする瑞希のことを桃子は暇人であると見なした。
見なし、声かけ、自らの持つ鬱憤を吐き出すために彼女との距離を縮めて切り出した。

「今日のみんな、変じゃない?」

はて、変とは一体どういうことか?
瑞希は磨いていたコインを卓に置き、顔だけを桃子に向けて考える。

「変……ですか?」

「変だよ。ヘン、すっごく変!」

時間稼ぎにと訊き返してみるが、問題解決には至らない。
桃子は頬杖をついてぶーたれると、「聞いてくれる?」と瑞希を見上げつつ。

「朝からみんなコソコソして、桃子と会うのを避けてるみたい。こっちから話しかけたって、どこか上の空って感じの返事だし」

「はぁ、そうなんですか」

「ほらそれ! 今瑞希さんがしてるみたいに」

ビシッと指さし指摘され、瑞希が「困ったぞ」とその眉を寄せた。
104 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/06(月) 02:32:20.76 ID:VPgwpRAe0

「私は……道具の手入れをしてますから」

「なら一旦止めて、手を止めて」

「でも――」

「……瑞希さんも、桃子の話なんてどうでもいいんだ」

反論二人を取りなさず。

泣きそうな顔で言われれば、流石に相談事を優先させねばならないぐらい瑞希にだって分かるもの。
持っていた布を手放して、両手はお行儀もよく膝の上へと移動した。

そうして瑞希は居住まい正し、背筋を伸ばし、体ごと桃子に向き直ると。

「では、続けてください。……聞く姿勢はご覧の通りバッチリだぞ」

この天晴れな瑞希の対応に、桃子の機嫌も幾分か上向きになったらしい。
彼女も頬杖から腕組みへと自分の姿勢を移行させ、

「あのね? 今朝からみんながなんていうか……。距離を取ってる感じなの。桃子と、長い間一緒にいたくないみたい」

「すぐにその場から離れて行ってしまうと?」

「うん。忙しい時期なら分かるけど、今日はその……みんな余裕はあるハズだし」

「余裕ですか」

「現に瑞希さんだって暇なんでしょ? さっきから見てたけど、ずっと手品道具を弄ってる」

言われ、瑞希が大げさに肩を強張らすジェスチャー。
ご丁寧にも「ギクリ」と擬音のサービスつき。

「そうですね。確かに暇と言われれば暇ではあります」

「でしょ? それに予想もつくんだよね、みんなが急に桃子に対して冷たくなったその理由」

「……一応、それはこちらから聞いた方がいいアレですか?」

「そうだね、聞いてくれると有難いな。……やっぱりその、こっちから言うのはなんか嫌」

そうして桃子に求められるままに、瑞希はコホンと咳払いを済ませると。

「では――周防さんは、お気づきになってしまったと」

「うん、お気づき気になっちゃった。……って言うか、これで気づかない方がバカだと思う」

桃子がやれやれと首を振り、恥ずかしそうにため息をつく。
その視線の先にあったのは、『HAPPY BIRTHDAY MOMOKO!』と書かれたホワイトボードなのであった。
105 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/06(月) 02:36:17.64 ID:VPgwpRAe0
===

さて、"サプライズ"と頭につくからには、前もって誕生日を迎える本人に
「サプライズバースデーパーティー」なる催しを開くことがバレてしまっては一大事。

本来ならば計画に関わる全員は、細心の注意と気配りをもってこの秘密プランの情報漏洩を阻止する運びとなるハズだが……。

「こんな風にさ、堂々と書かれて置かれてちゃ気づくなって言う方に無理があると思うんだよね」

当の祝われる本人である桃子の前に、誰のうっかりか手違いか、その旨を記したサプライズボード
(桃子本人の似顔絵と、お祝いの寄せ書きが書かれたホワイトボードである)

がデンと置かれていたのなら、嫌でも悟ると言うものだ。

「おまけにみんな演技が下手。ボロを出さないようにしようって普段より妙に落ち着きない人ばっかりだし。
……ま、まぁみんながそうして抜けてるから、桃子も"何かあるな"って気づけたけど」

瑞希に向けてたどたどしく語る桃子の姿は、どこか嬉しさの中にホッとした気持ちも混ざってるように感じられた。
瑞希が口元に手をやって、思った疑問を言葉にする。

「まさかとは思いますが、周防さんは本当に自分が嫌われてしまったのではないかと疑って――」

「お、思って無い! 心配だってしてないし、不安になったりもしてないからっ!」

だがしかし、口数少ない瑞希は知っていた。

桃子が部屋にやって来た直後、彼女の暗い顔が一瞬ハッとした表情に切り替わり、
今度はすぐさま不機嫌さ全開になったことを。

それから先はこの部屋で、ゴキゲン斜めに不貞腐れ続けていたことも。

「だ、大体みんなが桃子のこと、急に嫌ったりするわけない……。ない、よね? も、桃子、別に悪いことなんてしてないし」

「さて、どうでしょう。それは皆さんに直接訊いてみなければ――」

「うぅ〜……、瑞希さんの意地悪!」

今度こそ取り繕うこともせず、真っ赤になって桃子が言う。
それは気を許した仲間相手にだけ見せる、年相応の遠慮なき照れ隠しの態度だった。
106 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/06(月) 02:37:09.23 ID:VPgwpRAe0
===
この一コマはこれでおしまい。センパイ誕生日おめでとう!
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/06(月) 10:49:00.38 ID:1+VrjNkw0
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/07(火) 09:26:51.72 ID:GtkcW0TlO
CCC組はいいぞ
ホワイトボード出しっぱなしにした犯人、未来、分かるか?
109 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/11(土) 09:33:50.10 ID:zjG9pEgO0
===14.

男、男の夢。タフでイケてるガイが一度は憧れる漢の夢。それはヒーロー。

イカス衣装なんてなくてもいい。ただ大切な何かを、誰かを、
その身をていして守ることのできる純粋な"カッコイイヤツ"になりたい。そのチャンスを、男はいつも探している。

例えばそう、ここに一人の青年がいる。彼はタフでもイケてもいないのだが、紛れもない一人の立派な男だった。

そして今、彼の眼前には助けを求めている者が――青年にとっては何ものにも代え難い大切な者が――
居た、要るのだ、必要としているのである。自身を窮地から救い出す、正にヒーローと言える存在を!

「て、天空橋さん。動いたりしちゃあだめですよ……!」

言って、青年は緊張から唾を飲み込んだ。ここは765劇場入り口前。

ちょっとした広場になっているこの場所で、今、アイドル天空橋朋花は自身の親衛隊とも言える
「天空騎士団」の面々によって物々しく包囲されていた。無論、青年もこの栄えある騎士団員の中の一人である。
110 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/11(土) 09:35:07.99 ID:zjG9pEgO0

「私のことより、皆さんの方が心配ですね〜。……無理に寄って来られなくても」

朋花が聖母の笑みをたたえ、周囲の団員に笑いかける。
だがその顔には僅かばかりの緊張が走り、普段のような柔らかさがない。

それもそのハズ、微笑みかける朋花の肩に、彼女の笑顔を凍りつかせる原因が鎮座ましましていたのだから。

「この蜂も……自然に離れて行ってくれますから〜」

そう! ハチだ。彼女の服の肩口には、黄色と黒のストライプが嫌でも目を引く大きな大きな蜂の姿。
それが今、我らが聖母の方へ向けて羽根を鳴らしていたのである。

始まりは実に唐突で、かつ展開もスピーディ極まりないものだった。

いつものように騎士団たちを従えて劇場にやって来た朋花。そこに一匹の蜂が元気もよろしく大接近。
狼狽える彼らの間を縫うようにヤツは飛び交うと、最終的に聖母の服へと取りついた。

「あ、慌てちゃダメです朋花さん!」

「刺されたら大変なことになりますからっ!」

「とりあえず止まって、止まって……どうする? おい、こんな時ってどうするんだ!?」

慌てふためく団員に、朋花は毅然とお願いした。

「皆さん、どうか落ち着いて。私の方は大丈夫……。こちらから刺激しないうちは、刺されることも無いハズですよ〜」
111 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/11(土) 09:35:59.41 ID:zjG9pEgO0
===

さて、事ここに至って団員たちもただ手をこまねいていたワケではない。
彼らだって何とか蜂の脅威から朋花を救い出さんとアレコレ試しはしたのである。

甘い匂いに寄って来ないかと周囲にジュースを撒いてみたり(もちろん、後から掃除はする)
遠くから風を送れば飛んで行きやしないかと団扇で彼女を煽ったり(ただ、近づけないため効果は無いも同然だった)

今は団員全員で朋花を中心とした円を作り、その幅をじわじわと縮める作戦中。
有効距離に近づいたら、常に所持しているコンサートライトを近付けての熱源攻撃を開始するという手筈だった。

「なにやってるんだアンタたち! こう言うのはな、迅速に行動すべきだろが!」

だがしかし、そこに空気を読めない男がやって来た。
誰でもない朋花の担当プロデューサー。765プロ一のお騒がせ男、歩くトラブルメーカーだ。

彼は劇場の前で繰り広げられる奇妙な光景に気がつくと、その抜群な危険察知能力で(彼の視力はとても良い)
朋花の置かれた危機的状況を瞬時に把握、接近、物怖じすることなく堂々と彼女の傍までやって来ると。
112 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/11(土) 09:37:24.47 ID:zjG9pEgO0

「てぇいっ!」

その手にしたポスターブレードで朋花の肩を払ったのだ。
この時、周囲で見ていた団員たちには男がヒーローに見えたという。

……一つしくじれば大惨事。誰もが"後一歩"を踏み出せないでいた状況に、まるで風穴を開けるような彼の行動は――。

「プロデューサーさん?」

「うん」

「アナタのような人のことを、きっと愚かな勇者と言うんですね〜」

さらなる事態の混乱を招く。

今、朋花の肩から追い払われた怒りに燃えるスズメバチはブンブンブンと二人の周囲を飛び回ると、
最後には朋花の頭にチョコンと止まってカチカチと顎を鳴らしていた……。

つまりは正面に立つプロデューサーへ向けて"威嚇"ではなく"警告"を発していたのである。

「ホントにダメなプロデューサー。機嫌を損ねてどうするんです?」

「それはどっちの機嫌かな……」

「……私は怒ってなんていませんよ。ただただ呆れ果てているだけですから〜」

こうなるともうにっちもさっちも動けない。

蜂は今にも彼らを襲わんと不機嫌な舌打ちを繰り返し、
その場に集まる誰しもが、本能的にこれ以上の接近はマズいと言うことを察していた。
113 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/11(土) 09:39:02.37 ID:zjG9pEgO0

なるべく刺激を与えぬよう、団員たちがゆっくり包囲を広げていく。
プロデューサーもじりじりと、蜂を見据えながら朋花との距離を離していく。

そんな周囲の行動を目だけを動かし確認すると、朋花はホッとしたように息を吐き。

「そう、もうこれ以上は何もせず自然の流れに任せましょ――」

刹那、プロデューサーが再び丸めたポスターを振りかぶった。
朋花が僅かに息を止め、「へくしゅっ!」と可愛くくしゃみをした。

その際の頭の上下運動に、蜂も思わず彼女の頭から飛び立って――。

「でぇいっ!!」

ポスターが風を切った後、パンと素晴らしい音を響かせる。

蜂がブブンと円を描き、団員たちの遥か頭上を飛び去って行く。

頭を思い切りどつかれた、朋花がぐすっと鼻を鳴らす。

「いや、あの、これはその! ……一撃必中というか何と言うか――」

「聖母の頭をはたくなんて……。素晴らしい度胸をお持ちですね〜」

「ワザとじゃないんだ! 不可抗力で……あっ! ああっ!」

さて――ヒーローが事態を解決すれば、助けられた人々は祝福を与えるものである。
感謝の言葉、プレゼント、そして中にはみんなで彼の体を持ち上げて。

「お・し・お・き……です!」

「やめろ! 止めさせて! 俺が悪かったから、とっ、朋花さま〜っ!!」

胴上げさながらに団員たちに持ち上げられ、プロデューサーが涙を流して訴える。
だがしかし朋花は無慈悲に掲げた指先を、劇場の横に面した海へ向かって無言で振り下ろしたのであった。
114 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/11(土) 09:41:54.32 ID:zjG9pEgO0
===
この一コマはこれでおしまい。朋花誕生日おめでとう!
ネタ元は雑スレより。バースデーに合わせる形となりました。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/11(土) 12:21:30.80 ID:Zve/a9rAo
おつ
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/13(月) 13:00:01.94 ID:o3LZdWnzO
視力はいい(文字と空気は読めない)タイプかな
この時期の海は冷たいからミルキーウェイシナリオは夏にやってやれよ
117 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/17(金) 00:36:55.40 ID:j29cbswo0
===15.

事務所の談話用空間にて、新聞を広げてガサガサガサ……。
やよいさんと志保さんはその手に持った紙の束に、一枚一枚目を通します。

何を隠そう、それは宝くじの束。
彼女たち二人のすぐ傍では、購入者でもある仕掛け人さまも当選番号と睨めっこ。

「はずれ、はずれ、これもはずれ」

「これもこれもこれもはずれですー」

「うーむ、結構買ったのに今回はまだ一枚も当たってない……」

ぐぬぬと悔しがる彼を見もせずに、志保さんはやれやれとため息をつきました。

「大体不健全なんですよ。こんなコトでお金を増やそうとか」

「なんだよ、夢を買ってるんだ」

「でもプロデューサー? こんなに沢山あったって、紙は食べられないかなーって」

「やよいは現実的だなぁ。……だけどこの紙の中にはごく稀に、お金と交換できる物だってあるんだよ」

そうして、三人は視線すら合わせずにその後も黙々と作業を続け。

「……はい、こっち終わりました」

「私もぜーんぶ終わりましたー!」

「よし、じゃあ今回当たった総額は――合計三千九百円!」

三百円の当たりくじが十三枚。使った時間は一時間。
やよいさんと志保さんが仕掛け人さまに向けて同時に右手を差し出します。

「それじゃあ約束のバイト代を」

「一人一時間八百円、ですよね? プロデューサー」

「現物支給でいいですから――ここから三枚貰いますね」

「それじゃ、私も志保ちゃんと同じで三枚分」

手渡されたくじを確認すると、お二人は素敵な笑顔で「ありがとうございました」と述べて席を立ちました。

一人残された仕掛け人さまが首を捻る。
それから彼は一部始終を見届けていた私の方へ顔を向け。

「いいかエミリー。これが有名な『時そば』だ」

「絶対違うと思います」
118 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/11/17(金) 00:37:57.80 ID:j29cbswo0
===
この一コマはこれでおしまい。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/17(金) 09:48:39.08 ID:K53XzBecO
ま、まぁ引き換える手間が減ったと思えば…いやどうせ他のも換金必要だから変わらんか
120 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/21(火) 12:37:51.33 ID:xpLIx66g0
===16.

これは閉店間際のたるき亭、座敷席でくだ巻く者たちの記録である。

「ちょっと、ちょっと! プロデューサーくんってば聞いてるの?」

「えっ? ああ、聞いてる聞いてる」

「じゃあ何の話だか言ってみて」

「だからさ、スルメ怪人ゲソングが……」

「ちっがーう! タコ足配線の話でしょー?」

「そうだったっけ? ……でもさぁ、莉緒も飲み過ぎだよ」

「え〜?」

「顔も真っ赤になっちゃってさ、このみさん抱えて酒あおって」

「だって姉さんあったかいし、抱き心地だっていいんだもん」

「そりゃまあサイズはいいだろうけど……」

すると莉緒に抱えられた姿勢のまま、このみは「くぉらっ! だーれが高級ハグピローかっ!」なんて勢いだけの野次を飛ばし。

「だいたいアンタはそこがダメ! 酔いに任せて抱き着くのが、どーして私、私なのか!」

短い手足を振り回す、その姿はすっかり出来上がっている人のソレだ。
121 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/21(火) 12:39:52.07 ID:xpLIx66g0

「おっ、虎だ」

「さしずめリトルタイガーね♪」

「がるるるっ! あんまり舐めてちゃ噛みつくわよ!!」

そうしてこのみは自分の頭を撫で続ける莉緒の左手を鷲掴み――

「いい? 莉緒ちゃん、いいえ莉緒! その手を止めてまぁ聞きなさい」

「えっ、いいの? このみ姉さんがそんなに言うなら止めるけど――」

「……うぅん、ホントはもう少し撫でて欲しい」

「んもうやっぱり? 姉さん素直じゃないんだから〜♪」

なでなで続行を要求すると満足そうに喉を鳴らした。しばし訪れる卓の沈黙。
誰とはなしに酒を含み、グラスを置いたら喋りだす。

「でも、まっ、冗談はさておき本題はよ?」

「このみさん、その入り今ので六回目」

「……それより聞いてよ二人とも、私ってなんでモテないかなー」

「何言ってんだ贅沢者。ファンなら一杯いるじゃないか」

「んもう! 私が言ってるのはファンじゃなくて、パートナーの話よパートナー」

「だから莉緒ちゃん、そのワケを今から話してあげるって――」

「……この際このみさんで手を打てば?」

「その手があった! キミ冴えてるー♪」

「冴えてない! 私は断然ロマン派だぞー!!」

すると目の座ったプロデューサーは首をかしげ。

「ロマンス?」

「スランプ?」

「ぷ……ぷ……プリンセス!」

「そうだよなー。女の子はお姫様なんだよなー」

しみじみ呟く彼を指さし、このみが「それだそれ!」と怪しい笑顔を浮かべて言う。
122 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/21(火) 12:43:09.65 ID:xpLIx66g0

「たまにはね、プロデューサーも男らしいトコ見せなさいよ!」

「なんスかそれ? 普段の俺は男らしくないみたいな言い方して」

「そうね、どっちかと言うと親父くさい?」

「莉緒まで言うか!?」

「やだ! その歳でもう加齢臭?」

「おい嬢ちゃん、俺よりアンタの方が上だかんな?」

瞬間、莉緒の腕をバッと振りほどきこのみがその場に立ち上がった。
それから彼女は足取りも危うげにプロデューサーの傍まで移動して。

「ねぇ、抱っこ」

「はぁっ!?」

「女の子はお姫様なんでしょー? お姫様だっこ、しーろっ! しーろっ!!」

「こんな酒臭いお姫様がいるもんか!!」

「なによう!」

「やるかっ!?」

「ほら――」

「高い高ーい!!」

息もぴったりこのみの体を持ち上げると、プロデューサーはそのまま彼女を肩車。

「見て莉緒ちゃん! これぞ無敵!」

「上出来!!」

「超!」

「合体っ!!」

「おお〜……!!」

ポーズを決めた二人に向け、パチパチパチと莉緒の拍手が木霊する。

「しかしあれね……まだいけるわ!」

「と、言うと?」

「両手が空いてるんだから、まだまだ余裕があるハズよ!」

「つまり、サポートメカの出番ですね!」

そうして二人は目の前の、莉緒を指さし言ったのだ!

「今こそ男を見せる時!」

「女は度胸! カモン莉緒ちゃん!」

「えっ、えぇ!? でもでもドコにどうやって……」

深夜も迫るたるき亭、常連だけが残る店内にて。
一部始終を眺めていた店主はカウンター席に座る旧知の男にサービスの味噌汁を差し出すと。

「いやぁ実に……若いと元気が余ってるね」

「う、うぅむ……あれはただ、悪酔いしてるだけじゃあないかなぁ?」

苦笑する高木社長の背後では、今まさにお姫様抱っこを敢行して崩れ落ちる若き三人の姿があったとか。
123 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/21(火) 12:43:44.60 ID:xpLIx66g0
===
この一コマはこれでおしまい。莉緒ちゃん誕生日おめでとう!
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/21(火) 12:59:11.21 ID:c33kfkB1O
うーん地獄絵図
おつ
125 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/11/23(木) 00:53:42.28 ID:iIqpRiWl0
===17.

いつからかな? 他人(ひと)に髪の毛を弄られる感触が、こんなに心地よくなったのは。

「ねぇハニー」

「なんだいダーリン?」

「そのダーリンって言うの止めようよ」

「ならミキも、ハニーって呼ぶのを止めないとな」

部屋に広がる独特の香り。足元でカサカサ鳴ってる新聞紙。
両目は軽く閉じたままで、作業中の彼に声をかける。

「どうして? ……ハニーって呼ばれるの、嫌い?」

「う〜ん……。好き嫌いの話じゃなくてさぁ、似合わないだろ? 俺に」

「そんなことないの」

「そんなことあるの……よし、大体全部終わったかな」

その一言を合図にして彼の手がスッと離れていく。
それは同時に、気持ちいい時間が終わりを告げた瞬間なの。

でも、しょうがないことなんだよね。楽しい時間や幸せな時は、
「永遠に続け〜!」って思えば思うほど、あっという間に過ぎちゃうから。

瞼をそっと開けてみて、首だけを回して彼の方を見れば――。

「何……してるんです美希先輩?」

「髪染めてんのか? 劇場(こんなトコ)で」

丁度部屋へと入って来た、翼とジュリアの二人と目が合った。

「そうだよ。最近色落ちしてたから」

「でも先輩、フツーは美容院とかで――」

「地毛じゃ無いのは知ってたケド、まさかプロデューサーがやってたとは驚きだな」

呆気にとられる二人に向けて、ハニーが「誤解するなよ」と肩をすくめる。

「俺なんかただの素人さ。美希のワガママに付き合わされてるだけなんだよ」

途端、翼は期待が外れたような顔になると「なーんだ、そっかぁ〜」なんて残念そうな声を上げた。
すると彼女の頭に手を置いて、ジュリアが呆れたように言ったんだ。

「おい翼、なんでガッカリしてんだよ」

「だってジュリアーノ。プロデューサーさんが髪を染めるの上手なら、わたしたちもお願いしようかな〜……なーんて」

その時だよ。誤魔化しながらも呟いた翼の目が一瞬本気だったから――。

「ダメなの」

……ちょっとだけ、強く言い過ぎちゃったかもしれないけど。今でさえデートの邪魔もされてるし、
付き添いの時間も減ってるし、これ以上ハニーと二人で居れる時を誰かに渡したくなんてなかったから。

「プロデューサーはホントに下手だから、翼たちの髪の毛を上手に染められるワケないの」

「おい、おい!」

「染め忘れとか色ムラとか失敗するのが当たり前。だから翼たち二人には、
素直にちゃんとした美容院に行って欲しいってミキ思うな」

「おいこら美希、ちょっと待てって」

「待たない! プロデューサーは少し黙っててっ!」

ビシッと鋭く言い放つと、彼は渋々といった様子で口を閉じた……ごめんねハニー、後でタップリサービスしてあげるから。
ミキ的にはハニーの話に耳を傾けるより、今は目の前のお邪魔虫をどうにかするのが先なんだよ。

だから律子、さんの真似をするように腕を組み、翼たち二人に言ったげたの。

「これもひとえに先輩としてのロバ刺し? ……ってヤツから来てる忠告ね、うん!」

「ロ、ロバ?」

「うぅ、美希先輩の言ってることよくわかんない……」

「とにかくプロデューサーに髪を染めて貰えるのは、事務所の中でもミキだけなのー!!」
126 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/11/23(木) 00:57:48.82 ID:iIqpRiWl0
===
この一コマはこれでおしまい。美希、ハッピーバースデー!
127 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/07(木) 19:21:18.38 ID:oBiTvi6A0
===18.

季節は十二月になった。道行く人はコートを着込み、鞄を持つ手をかじかませながら職場や学校へ歩いていく。
ビニール袋を手に下げた買い物帰りの主婦もまた、家に帰ればハンドクリームをその手に塗りたくることに違いない。

そんな人通りを眺めながら、担当アイドルを待つプロデューサーも両手を擦り合わせている。

二、三度擦ってしばし休み、冷えて来たならばまた擦って。
忙しなく手を動かすその様は、もしかすると彼の前世はハエだったのではないかと他人に思わせるほどであった。

「くぅぅ〜……しかし、ホントに今日はよく冷えるぜ」

はぁっと吐いた息も白く。空に向けて悪態をついた彼の背後から誰かの足音が聞こえて来る。
振り向けば、貸しビルの狭い階段を降りて来たばかりの大神環が彼を見上げ。

「お待たせおやぶん!」

「おう、お帰り」

「たまき、一人でもレッスンちゃんと頑張ったよ!」

「そうか? よしよし偉いじゃないか!」

くしゃくしゃと頭を撫でられて、環は「くふふ♪」と喜びの声を上げた。
そしてそのままプロデューサーの伸ばした手は、彼女の首元に引っ掛けられているだけのマフラーへと向かっていく。

「後はコイツもちゃんと巻いて……ジャンパーのチャックも締めなくちゃな」

すると環はマフラーを巻かれながら「えぇ〜? いいよ、寒くないし」と不満げに唇を尖らせた。
128 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/07(木) 19:22:42.04 ID:oBiTvi6A0

「ダメだ! 風邪でも引いたら一大事……。環の元気は知ってるが、アイドルの健康管理もプロデューサーの仕事なのだ!」

「……おやぶんの大事なお仕事なの?」

「ああ、そうだぞ」

「ん……じゃあたまきも言うことちゃんと聞くぞ! お仕事は、キチンとやるのが偉いもんね♪」

「よーし! 環はホントに良い子だな」

そうして、再び頭を撫でられながら環はあることに気がついた。プロデューサーのその手である。
冬の寒さに凍えた手は、今まさに血の気を失って青白くなっていたのだった。

当然、心優しき環はプロデューサーの手を掴むと。

「冷たっ!?」

言って、彼の右手を両手で丹念に揉み始めた。驚いたのはプロデューサー。
彼は慌ててその手を振りほどく――という少女の厚意を無下にするような行動に出ることは無かったが。

「環、待て、何やってる!?」

「何って、おやぶんの手を温めてるの。ばあちゃんもね、こうしてあげると喜ぶんだ♪」

「そりゃ、孫にマッサージしてもらうのは嬉しいことだと思うけどな……」

しかし、男は環の祖父でも無ければ父でもない。
彼はゆっくりと環の両手を自らの右手から引き剥がすと。

「そう言うのは家族を相手にするもんだ。後、こんな場所で環に手を揉んでもらってると――」

「えっ? ダメなの?」

「最悪あらぬ疑いをかけられる。……でもありがとな。俺の手の心配をしてくれて」

プロデューサーはポケットから財布を取り出して、貸しビルの前に設置された自動販売機を指さした。

「だからこれ以上冷やさないように、温かい飲み物でも買うか」

言われた環が小首を傾げ、「なんで?」と彼に質問する。
129 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/07(木) 19:23:52.58 ID:oBiTvi6A0

「なんでって……温かい飲み物を持ってれば、かじかんだ手だってぬくもるだろ?」

「あ、そっか。そうだね!」

「それにレッスンをちゃんと頑張って、さらに俺の心配をしてくれた環にだって買ってやるぞ。ほら、好きなの選ぶといい」

プロデューサーがお札を入れ、自販機のランプが点灯する。
環は彼にお礼を言うとジュースのボタンに指をやった。ガシャコン! と音を響かせて、自販機のランプが再度灯る。

「次、おやぶんの番だよ」

「よーし……どーれーにーしーよーうーかーなー?」

「ねえおやぶん、ボタンはたまきに押させてね!」

環の言葉にうなずくと、プロデューサーはとあるコーヒーを指さした。環が背伸びをしてボタンを押す。
再びガシャコンと音が鳴り、取り出し口から商品を受け取った環が彼に言う。

「はいおやぶん。卵のコーヒー」

「ん、ありがと」

そうして、並んだ二人が劇場への帰り道を歩き出す。
灰色に染まる空を見上げ、環がプロデューサーに訊く。

「おやぶん、明日って雪降るかな?」

「どうだろうなぁ。天気はあんまりよくないし、冷えて来てるからひょっとすると……ってトコじゃあないかねぇ」

「そっか。……たまきね、雪が積もったら劇場のみんなと雪だるま作る!」

「お、いいねぇ」

「それにね、かまくらでしょ? 雪合戦でしょ? かき氷に、ソリもするぞ!」

そこまで言うと、環はプロデューサーに向かって自分の片手を差し出して。

「でね? その時にはおやぶんにも手伝ってもらうんだ! ……だけどその前に、
今日が寒すぎるとしもやけになっちゃうかもだから――」

コーヒーを持たぬ方の彼の手を取り、無邪気な笑顔でこう続けた。

「たまきの手も、おやぶんの手も、こうしておけばしもやけだってへっちゃらだぞ! くふふっ♪」
130 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2017/12/07(木) 19:24:31.31 ID:oBiTvi6A0
===
この一コマはこれでおしまい。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 20:01:43.45 ID:VY5I+XRn0
おつ
たまごのコーヒーってなんのこと?
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/07(木) 21:53:26.57 ID:p3VZ2hs50
乙。
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/08(金) 15:52:08.46 ID:z3IJg2FnO
小学生に手を握ってもらうだけでお巡りさんのお世話になる可能性があるとか都会は怖いなー
134 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/12/08(金) 23:16:06.89 ID:HCx9fRaJo
===
―どっちも元気が出る曲よー―

P「ねぇ小鳥さん、海美の新曲聴きました?」

小鳥「『スポーツ!スポーツ!スポーツ!』のことでしたら勿論」

小鳥「海美ちゃんらしい、元気の湧いて来るいい曲です!」

P「はい、その点に異論はありません。ただ――」


P「途中、『レッツトレーニング!』ってコールが入るトコ」

P「何でですかね? 水兵さんが歌い出すんです。頭の中で」

小鳥「水兵さん? ……あ!」

小鳥「もしや、その後ろに踊るカウボーイとインディアンたちも?」

P「当然、いますよ!」


P「すると手拍子やら笛の音やらも"それ"を彷彿させちゃって」

P「……別段似てはないんですけどねぇ?」

小鳥「止めてくださいプロデューサーさん!」

小鳥「私、唐突に海美ちゃんがカバーした『Macho Man』が聴きたくなっちゃったじゃないですか!!」


P「……という話をしたんだが、どうだろう律子? このカバー企画」

律子「ダメです」
135 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/12/16(土) 03:08:56.91 ID:UcB0sd1Io
===19.

楽屋に流れる陽気な音楽。ぽっひぽっひ、ぽっぽぴっひー。
なんとも軽快なリズムのその曲は、中谷育によるリコーダーを使った演奏だ。

曲目は彼女の持ち歌の一つ「アニマル☆ステイション!」。略称、「アニ☆ステ」である。

「兄☆捨て? 兄ちゃん捨てんの?」

「んなわけないっしょー」

「でもたまに、ゴミと一緒に出したくなる時はあるかな」

そして、そんな育の演奏を聞きながら
何やら不穏な乙女トークを展開するのは亜美真美桃子の三人だ。

さらに噂をすればなんとやら。

楽屋の扉を開けて打ち合わせに現れたプロデューサーは
待っていた四人の姿を見つけるなり。

「すまん、待たせた……っと、育はリコーダーの練習か?」

熱心だな、上手だぞと続くハズであった彼の言葉はだがしかし、
「もう! 練習中に声かけちゃダメなんだからね!」と怒った育の台詞で遮られた。

……呆れた顔の桃子が言う。

「ほら、こんな時がそうだよ」
136 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2017/12/16(土) 03:19:51.30 ID:UcB0sd1Io
===
この一コマはこれでおしまい。そのたどたどしい音色に癒される、育ちゃん誕生日おめでとー。

それと、ミリシタでもキャスティング投票始まりましたね。今回も熱い接戦が見られそうで楽しみです。
…アナタも琴葉に、あと歌織さんに票をいれた〜くな〜れ〜…! テレパスィー…!
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/16(土) 11:43:47.08 ID:L8H+4q2nO
毎度動向見るのがたのしいよね
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/17(日) 09:10:46.60 ID:qZuX1Y2T0
琴葉も歌織さんも安泰じゃん。うらやましいっすわ。
139 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/01/11(木) 07:15:05.36 ID:zchgwGjyo
ふと思いついたネタ

P「一富士、二鷹、三杏奈」
P「初夢に杏奈が出てきたら、それだけで幸せになる気がする」
杏奈「……え?」
P「いやさ、杏奈って茄子に似てるじゃない」
杏奈「似て……え?」
P「色合いって言うか、全体的なフォルム的に……お茄子」
杏奈「……全然、違うと思う……ます」
P「いや、似てるんだって。杏奈、ナンス、茄子、ほらな?」

ふと思いついたネタ2

P「ほっほっほー」
P「姫ほっほー」
P「マシュマロ欲しいかそらやるぞ〜♪」

姫「プロデューサーさん」
P「ん?」
姫「お仕事中にその歌は……ね?」
140 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/01/15(月) 06:22:43.53 ID:SBhfipfKo


P「あの〜、歌織さん」

歌織「はい? なんですかプロデューサーさん」

P「不躾なお願いになるんですが――」

P「今からここで子守唄を歌ってもらうなんてこと、できませんか?」

歌織「子守歌を?」


P「ええ、子守唄を……です」

P「実は、少し仮眠を取ろうと思ってるんですけど」

P「最近仕事に追われてるせいか、横になるだけじゃ寝付けなくて」

歌織「まぁ大変! 確かに、寝つきが悪いと辛いですよね」

P「歌織さんにも経験が?」

歌織「あります。講師をしていた頃は生徒さんの発表会の前日に」

歌織「私まで、緊張で眠れなくなってしまって」

歌織「当日は逆に、私が寝不足を心配されてしまったり」

P「はは、歌織さんらしいお話ですね……優しいから」

歌織「もしくは、ただ気が小さいだけかもしれません」

歌織「だって……。今でもステージの前の日には緊張を」

歌織「この前だって夜遅くに、プロデューサーさんへ長々とメールしてしまって」


歌織「……ご迷惑じゃありませんでした?」

P「まさか! とんでもない」

P「本番を前にしたアイドルの緊張を和らげるのはプロデューサーとしての仕事です」

P「むしろ、もっと頼ってもらってもいいぐらいで――」ぼそっ

歌織「えっ?」

P「ああ、いえ! 独り言です、独り言。……それでそのぉ」
141 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/01/15(月) 06:24:16.32 ID:SBhfipfKo

歌織「子守歌、ですね?」

P「ええ……いいでしょうか?」

歌織「もちろんです。私の歌でよろしければ」

P「ありがとうございます!」

歌織「ふふっ。いえいえそんな、これぐらいで」


歌織「……あっ! でも、プロデューサーさん?」

P「はい?」

歌織「何かリクエストはあったりするんですか?」

P「へっ?」

歌織「リクエストです。私に」

P「あ……え? リクエストって……そんなこと良いんですか?」

歌織「むしろ、無いと困ってしまいます」

歌織「キチンと教えて頂かないと……私、どうしたらいいか分かりませんもの」


P「……じゃ」

P「じゃ、じゃあ! えーっと、そのっ」

P「仮眠はソファでとるつもりなんで」

歌織「はい」

P「歌織さんには……あー……膝枕を」ぼそっ

歌織「はい?」

P「膝枕で、子守唄を。で、寝付くまで体をトントンとかしてもらえると……最高ですっ!」


歌織「と、トントン……!? あ、あの、プロデューサーさん?」

P「はい?」

歌織「私は、その……子守歌で何を歌えばいいのかと」

歌織「一口に子守唄と言っても、種類は沢山あるワケで……」

歌織「それで、あのぅ……"曲"のリクエストを」

歌織「なにか、お好きな曲があるのかもと」
142 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/01/15(月) 06:26:25.87 ID:SBhfipfKo

P「……あ゛」

歌織「プ、プロデューサーさん?」

P「……た、た」

歌織「た? "た"から始まる曲ですか?」

P「た……たっは! なーんて、言っちゃったりしてみちゃったりして!!」

P「あ、あはは、あは! なんてなんて! 冗談、さっきのはただの冗談ですよ!」

歌織「は、はぁ?」

P「膝枕とか、トントンとか、頭撫でてもらいたいなー……とか!」

P「そういうの、全部!」


P「だからその、子守歌に詳しいワケじゃないですから」

P「歌は、歌織さんの歌い慣れたヤツにお任せします!」

歌織「え、ええ! はい、わかりました……?」


P「――すみません、歌織さん」

P「なんか俺、一人で勘違いしてワケの分からない事言っちゃって」

歌織「プロデューサーさん、そんなに謝らないでください」

歌織「……むしろ、その」

P「その……なんです?」

歌織「ふ、不束な」

歌織「不束な……私の膝で、よろしければ……!!」

P「っ!!?」
143 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/01/15(月) 06:51:54.44 ID:SBhfipfKo
===
あー、歌織さんの上腿にお邪魔したい。それでエミリーがこう言うんだ

「膝枕は、"膝枕"と言うのにお膝の上ではないのですね」

そしてそんな彼女に誰かが言う。

「せやけどエミリー。膝枕ゆうたら昔の女性の嗜みなところあるよ」

「そうなんですか?」

「時代劇でも見るわねぇ〜。着物の若い女の人が、悪代官を膝に乗せて」

「そうそう、それな。あずささん」

「……でもそうすると仕掛け人さまは」

「プロデューサーさんがどないしたん?」

「"よいではないか"の悪代官!? た、大変です! いつか"ゴセイバイ"されてしまうかも……!」

「じゃあじゃあ私も、手籠めにされたりしちゃうかしら〜? ……きゃっ♪」

(エミリーはともかくとして、あずささんなんか嬉し気やな?)

――と、そんな感じで一コマ終了。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/15(月) 23:11:00.89 ID:rsHC37eq0
トントンじゃなくてたんたんたぬきを狙ってるデューサーさんだ。ひわい
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/16(火) 16:19:34.42 ID:cmqmKctcO
これは頭部にレーザーポイントですね
146 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/01/19(金) 11:24:40.27 ID:FwE0C8ELo
思わず妄想が膨らんだの


百合子「で、ドンドンドンとここでノックの音がして……こほん!」

百合子「『――そう、ちょうどこんな風に。……驚いた、演出としてはこれ以上ない」

杏奈「……もう深夜になるのに、お客様?」

百合子「珍しいね」

杏奈「ご、ご主人様の言った悪しきモノが――」

百合子「かもしれないね」

そわそわと落ち着かない杏奈の様子を見て、百合子は椅子から立ち上った。
そうして彼女は怯える杏奈に近づくと。

百合子「怖いかい?」

杏奈が小さく頷いた。

百合子「私もさ。でも、出迎えないワケにもいかないだろう?」

杏奈「……ん」

百合子「大丈夫。いつものように震えなくなるおまじないを、ちゃんとアンナにかけてあげる」

杏奈の肩にそっと手を置き、百合子が彼女を優しく抱き寄せた直後のこと。
147 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/01/19(金) 11:26:36.23 ID:FwE0C8ELo

琴葉「ふ、二人は……一体なにしてるのかな……?」

百合子「わわっ!? こ、琴葉さんっ!?」

杏奈「……おはようございます」

琴葉「うん、おはよう杏奈ちゃん。――じゃなくて!」

琴葉「えー……えっとね? もちろん友情の表現には色々あると思うけど」

琴葉「劇場みたいな不特定多数の目がある空間でそういう濃ゆいやり取りは――」

百合子「お、落ち着いてください琴葉さん。今のは舞台の練習で」

杏奈「百合子さんとは、その台本の読み合わせ……」

琴葉「……舞台? 練習?」


百合子「あの、恵美さんから聞いてませんか?」

百合子「今度劇場で上演する、ヴァンパイアを題材にした連作劇……」

琴葉「恵美から……彼女も出るの?」

百合子「はい。他にもまだ何人か共演する人はいますけど」

琴葉「……そう言えば今日、恵美から相談があるってココに呼び出されたわ」

琴葉「それってつまり、その舞台の――」


恵美「そゆことそゆこと! こーとはっ♪」

琴葉「きゃあ! う、後ろから急に話かけないで!」

恵美「にゃははっ、ごめんごめ〜ん。……で、早速だけどさ相談ね!」

琴葉「な、なに?」

恵美「女の子を口説く時って、どういう風にしたらイイと思う?」

琴葉「……えっ!?」

恵美「強引にこう! 唇を奪ってから話し出した方が――」

琴葉「やっ、止めてよ恵美、ココじゃダメ! 二人がソコで見てるから〜!!」


百合子「うわぁ……!」

杏奈「……凄く近い、ね」

百合子「でもこれ、参考になるのかなぁ……?」
148 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2018/01/19(金) 11:35:54.63 ID:FwE0C8ELo
===
とりあえず今日からのイベントに先駆けて一コマ。

今回の新楽曲は歌詞や台詞からあれこれ妄想が広がって、さらにはMVの出来も凄い!

まだコミュもフルもCDのドラマパートも一切触れてないのにワクワクが続いて止まりません
ああ、早くフルで聞きたい……!
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/19(金) 15:50:45.24 ID:XDlLaK19o
ワクワクするよね今回のイベ
150 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/21(日) 18:52:13.74 ID:kNu55X8Eo
===

見苦しい、ただそう思った。目の前で這いつくばっている標的は、
ジタバタと不自由な手足を動かして、なおもこの場から逃走を図ろうと必死だった。

ありふれた貧しい山村を恐怖に陥れた原因。血と欲望に飢えた獣のような生き物ヴァンパイア……。

家畜を襲い、人々の生活を弄び、増長と無益な殺戮を楽しんだ末の代償。

この土地の領主より討伐を命ぜれた騎士団員たちの手によって、彼女は罠にかけられ、無様に逃げ出し、
鬱蒼と木々が立ち並ぶ森の奥深くで、今は命乞いの為にその目を涙で濡らして訴える。

「堪忍、堪忍や!! さっきから何度も言ってるやん、もうこの土地からは出て行きます……!」

反吐が出る言い訳。心にも思って無いだろう言葉。

これまで幾人もの無力な人間を、その手にかけて来た者の口から出たとは思いたくも無いほど陳腐な台詞。

「ふん……貧民街のゴロツキでも、こういう時にはもう少しマシな嘘をつくぞ」

構えた剣を握り直し、怪物退治を生業とする天空騎士団団長チヅルは侮蔑の笑みを獲物に向けた。

その心に湧き上がる感情は怒りであり、勢いよく振り下ろされた鋭い剣の切っ先がヴァンパイアの太腿を貫いて体と地面を縫い付ける。

……次の瞬間、例えるなら狼の咆哮にも似た悲鳴が深い森の中に木霊した。
151 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/21(日) 18:53:53.87 ID:kNu55X8Eo

「痛むか? 教会で清められし聖なる剣の味はどうだ?」

返事など最初(ハナ)から期待はしていない。許してやるつもりも毛頭ない。
相手の苦しみのたうつ様が憎悪の炎に薪をくべる。

「私に言わせれば貴様など、死肉に群がる屍鬼にも劣る。……少なくとも、奴らは戦場にしか姿を見せぬ分礼儀が良い」

「あ、んな……ハイエナ共と、一緒にすな……! あぁっ!?」

剣を乱暴に引き抜かれた、その苦痛で化け物は声を上げた。
傷口からは大量の血が噴き出る代わりにしゅうしゅうと腐臭をまとった煙が立ちのぼる。

「耳が悪いか頭が悪いか。悪戯に人里を襲う分、貴様の方が下だと言ったんだ!!」

そして森は、再び悲鳴で包まれた。

幾度となく振り下ろされた剣先が相手の耳を、頬を、肩を、腹を、腕を、刻み、傷つけ、
容赦なく与える痛みはチヅルに託された人の遺志だ。

「ワケが違うだろう!? 村人が振るうなまくらとこの剣ではっ!
――これは貴様がっ! 奪った! 人の恨みだ! 私の! 殺されたっ! 部下の恨みもだっ!!」

実に一方的で凄惨な光景。どちらが悪魔憑きなのかを忘れてしまう逆転の関係。
だがこれは私刑ではなく制裁であり、痛みの先には許しがある。

幾重にも付けられた刀傷によって心も折れ、もはや悲鳴すら上げられなくなった怪物の成れの果てを見下ろしチヅルが問う。

「それで? この土地を離れて何処へ行く? 貴様のような半端者は、行った先でもまた村を襲うことしかできまい」

怪物の、虚ろな視線が宙をさまよう。

自らの吐き出した血で濡れた唇がかすれた声を外へ押し出す。
152 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/21(日) 18:55:38.36 ID:kNu55X8Eo

「やくそくの、地へ……」

「……なに?」

「遥か南にあるらしい夢の土地……。私らに伝わる理想の国……!」

弱々しく紡がれるその言葉は、先ほどのお粗末な命乞いよりもよほど彼女の真に迫っていた。
剣先を相手の首筋に当てたまま、先を促すようにチヅルが訊く。

「ではなぜお前はそこに行かなかった。こんな辺境の村を食い物にしてお山の大将を気取る前に」

「……そんなん、行けへんかったからや」

「行けなかった、だと?」

「人間さんは知らへんの? 今じゃ南の国境は、クソッタレ共の一族が――」

しかし、とつとつと怪物が語り始めたその時だ。
二人の傍の茂みを鳴らしてこの場に現れた者がいた。

……一人はチヅルと同じように騎士団の鎧を着た少女。

そしてもう一人は彼女を先導するようにして現れた、
この場に似つかわしくない派手なドレスを着た女性。

「マスター! ヘルプに来ましたよ!」

「チヅルさん! ご、ご無事ですか!?」

怪物の顔が驚愕に歪む。その首筋に添えられた刃の冷たさも忘れたように大声を上げる。

「お前かっ!! お前がおったから私はこんな目に――!!」

だが……恨み言はそれ以上続かなかった。

彼女が動き出した瞬間「危ない!」と、
鎧の少女が手にしていた大槌を怪物に叩き込んだからだ。

辺りに鮮血と肉の崩れる音が弾ける。

物言わぬ塊と果てたヴァンパイアに、ドレスの女性が用意していた油を降り注いだ。

「下がって、火をつけます」

そこから先はもはや全てが後始末。

燃え盛る炎は三人を照らし、剣を収めたチヅルは駆けつけた二人に話しかけた。
153 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/21(日) 18:57:18.36 ID:kNu55X8Eo

「二人とも私を追って森の中に? 特にコロ、お前には村を任せたハズだったが……」

するとコロと呼ばれた鎧の少女が大槌の構えを解いてから。

「もぉ〜、マスター! ロコの名前はコロではなくてロコですってば!!」

頬を風船のように膨らませ、自分の名前を訂正した少女に続いて女性が言う。

「コ、コロさんは私を守るために、あえて、一緒に来てくれて」

「カレンまで!? ロコです! ロ〜コ〜!!」

「あぅっ!? そ、そうですよねロコさん。ご、ごめんなさい……!」

そんな二人のやり取りに、チヅルはやれやれといった様子で肩をすくめると。

「とにかく、無事でよかった」

ポンポンとロコの頭を撫で、チヅルはカレンに顔を向けた。

「カレン」

「は、はい」

「君が香を用意してくれたお陰だな。こちらもだいぶ被害を被ったが、
それでもヴァンパイアを罠にかけ討つことができた」

「そんな……騎士様。私にはただ、先祖から伝えられた薬草の知識があっただけです」

謙遜するようにそう言って、カレンが表情を曇らせる。

「なのに村の人たちだけでなく、騎士団の皆さまにまで多くの犠牲を出してしまい……」

悔いるように語るカレンだが、旅の薬草医としての彼女の知識無くては得られなかった勝利だった。

彼女が特別に調合した吸血鬼の力を封じるという香の力をもってなお、村を襲った怪物を止めるのは容易でなく……。

「それでもケリはついたのだ。村人たちも久方ぶりに、怯えることなく夜を明かすことができるだろう」

仇(あだ)を包む炎の明るさに目を細めて、
チヅルは命を散らした無辜の民と、勇敢に戦った仲間たちの死に黙祷を捧げる。

そう、怪物は討ち倒され、村にはようやく平穏が戻るのだ。

自分と同じように怪物の最期を見届けるロコたちの横顔を眺めながら、
チヅルは失った物も多くあるが、それだけの価値ある結果が残ったと自分に言い聞かせるのだった。
154 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/21(日) 18:58:25.41 ID:kNu55X8Eo

翌日、村の広場には騎士団員たちが集っていた。
宿から現れたチヅルを見つけ、隊員たちを整列させていたロコが走って来る。

「マスター、カレンはしばらくこの村に残るそうです。
魔除けの香や傷薬などで、村をアシストしたいと言ってました」

「……そうか、しかし残念だな。彼女とは旅の途中で出会った仲だが、街まで来れば相応の報酬も出るだろうに」

そうしてチヅルは彼女が近くにいないかと、辺りにカレンの姿を捜してからこう続けた。

「だが、無理強いするのも良くないか。人の為に何かをしたいという遺志を、尊重するのもまた騎士道」

「だったらカレンへの報酬は、ロコが代わりに受け取るなんてのは――」

「調子に乗るな、コイツめ。……皆の用意は?」

「バッチリです!」

団長であるチヅルを先頭にして騎士団が村を後にする。
村人たちは一行に感謝と祝福の言葉を投げ、彼女たちも堂々とした行進でそれに応えるのであった。

また、一方では村を見下ろせる丘の上の花畑からその様子を眺めていた者もいる……カレンだ。

「……とりあえずは、コレで一段落」

呟く彼女の視線は騎士たちに、次いで彼らが帰る先である、遠く辺境の街がある方向へと向けられる。

「カレンめは、無事に一族の役目を果たしました。村人たちの信頼も得て、騎士団にもそれなりの功と傷を……」

呟きが人の耳に届くことは無く。ただ風に撫でられた花びらが舞うと、まるで霧に溶けるようにカレンの姿は見えなくなり、
後にはくすくすと鈴を転がすような笑い声が、揺れる花たちの間に響くだけであった。
155 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/21(日) 19:09:05.45 ID:kNu55X8Eo

千鶴「――と、序幕の方はここまでですが、いかがでしたかプロデューサー?」

P「いや良かった! みんな練習とはいえ本番さながらの熱演で!」

P「特に千鶴さんが剣を振るうところなんて、凄みに圧倒されましたよ!」


千鶴「まぁ! そう言って頂けるとわたくしも、夜な夜な豚肉を相手に包丁で練習した甲斐が――」

P「えっ?」

千鶴「い、いえ! 多くの映画や舞台を見て、勉強した甲斐がありましたわ!」


ロコ「確かに、チヅルの迫力はグレートでした」

可憐「わ、私も出番を待つ間、ドキドキが全然止まらなくて……」

可憐「舞台で目を合わせた時に、き、切り刻まれちゃうかも……なんて」
156 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/21(日) 19:29:42.92 ID:kNu55X8Eo

奈緒「……ヒュー、ドロドロドロ〜……うらめしや、やでー」

奈緒「プロデューサーさぁ〜ん。千鶴ばっかり褒めてないで、私のことも褒めてください〜」

P「お、奈緒もお疲れ様。見事なやられっぷりだったぞ」

奈緒「それ褒め言葉とは違ゃいますやん! 大勢の騎士団相手に立ちまわる、村のシーンもカッコ良かったでしょ!?」

千鶴「村のシーン?」

可憐「……ああ、そこは」

ロコ「ナレーションで済ませたパートですね!」


奈緒「ああ! 尺が、尺が憎い!!」
157 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/21(日) 19:32:26.73 ID:kNu55X8Eo
===
この一コマはこれでおしまい。イベントコミュは千鶴さんの凛々しい演技が良かったです。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 15:54:07.70 ID:HCsIIrJBO
今回のイベこじらせすぎてていいよね
159 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/22(月) 17:00:37.52 ID:CA2QW3PKo

―P、デスク周辺―

P「フフフーン、フフーン♪ プリントアウト〜」

ジー、ガタガタガタ

P「なあ志保」

志保「はい」

P「この前のドラマな、結構評判になってるぞ」

P「特に志保の演技が光ってたって」

志保「……ホントですか?」

P「嘘ついてどうする」


P「ほら、これがドラマの感想を集めたヤツ」どさっ

志保「わざわざプリントしたんですか? 結構お暇なんですね」

P「ははっ、一応お仕事なんだけどな」

志保「冗談です。言ってみただけで……っ!」ハッ!

P「ん? どうした?」


志保「コレ、今から目を通すなら何か飲み物が欲しいかな」

志保「あっ! プロデューサーさんコーヒー切らしてるじゃないですか」

志保「……仕方ないですね。ついでに入れて来てあげます。カップ、貸してください」


P「う、うん。よろしく……頼むよ?」

志保「別にこれぐらいで一々お礼なんて……。私と、アナタの仲ですし」ぼそっ

P「えっ?」

志保「なんでも。それじゃ、お仕事しながら待っててください」
160 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/22(月) 17:03:30.52 ID:CA2QW3PKo

―そして、給湯室―

コポポポポ…

志保「…………」←カップにお湯を注いでいる。

志保「コーヒー一杯のイマージュ〜、先に越されたね――」

志保「……KISSのお返ししよう……」


ぽつり、呟き少女は熱々のカップを手に取った。そして吸い込まれるように縁へとキス。
ちょうどそう、プロデューサーがコーヒーに口を付ける場合、高確率で唇が重なるであろう部分にだ。

「ふふっ♪」

実に計画的、天才的な間接キスの仕込みを終えた少女は思わず笑みを漏らし……。

「しぃぃ〜ほぉ〜〜?」

背後から突然聞こえて来た、今一番会いたくない女の声に驚き振りむいた。
ニヤニヤと笑うその女は持っていたカップうどんの蓋を開けながら言う。

「一体何をイマージュしたのかしらね〜」

まさにそれは一生の不覚。浮かれていたとはいえ許されざるほどの油断大敵。

だがしかし、志保は非常に落ち着いていた。

彼女はこちらをからかう気満々な静香と真っ正面から向き合うと。

志保「…………」ズズッ

静香「っ!?」

志保「勘違いしてるみたいだけど、コレは私の分だから」

そう言って、堂々と給湯室を後にする志保の背中は大きかった。

ふてぶてしい好敵手の対応に静香も思わず感心し、
やりきれない敗北感を反芻するうちにカップうどんの麺は伸びた。

そして、再びPのデスク――。


志保「お待たせしました。どうぞ」

P「ああ、ありがとう志保――って、あれ?」

志保「どうかしました?」


P「いや、何だかコーヒーが……カップの半分もないような」

志保「気のせいでしょう、気のせい」
161 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/22(月) 17:05:34.18 ID:CA2QW3PKo
===
一コマおしまい。特典だけじゃない765曲のカバー集出してくれないかな〜、もっと聴きたい…
162 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/22(月) 17:11:34.58 ID:CA2QW3PKo
訂正、歌詞は"先に"でなくて"先を"です、でした。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/22(月) 18:52:11.08 ID:YZpRCb3V0
こういうのいいね
おつ
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 10:31:08.96 ID:6dEW/a0TO
カップうどんがのびるとはどれだけ反芻してたんだろうな
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/24(水) 19:39:51.44 ID:RpvYWVLQo
カップうどんなんて伸びた方が旨いくらいやから平気平気
166 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 09:58:18.61 ID:Dt1Jf1hJo
>>154からの続き―

ひとえに辺境の街と言えば聞こえが悪い気もするが、
南の国境を守る要であるその場所は国でも有数の賑わいを見せる大都市だ。

もっと正確に街の様子を語るなら、巨大な城とも呼べる砦を中心に造られた城下町。

強固な石壁と堀によって外の世界とは隔てられ、
壁の中に住む住民には遥か北方で行われている戦いの噂もどこ吹く風。

そんな辺境都市の一角にはこの土地を治める領主の住んでいる屋敷がある。

ヴァンパイア討伐を終えたチヅルとロコの二人は今、
屋敷の一室にて一人の人物と対面していた。

高級な肘掛け椅子に腰を下ろし、目の前の机に山積みされた手紙や書類に目を通す
その人物こそこの土地を治める辺境伯。リオ・エレオノーラ・モモセだった。

彼女は新たに広げた羊皮紙にペンを走らせつつチヅルたちへ質問を投げかける。


「それで……害獣退治の首尾はどう? 無事に戻って来れたということは、解決はしてきたんでしょうけれど」

害獣退治。その言葉に、チヅルの口端が僅かに歪む。

「村に被害をもたらしていたのは、初めの報告にあった狼や野犬などではなく……それを使役するヴァンパイア」

「ヴァンパイア? あらまぁ、大物じゃない」

「村人の話では北方の戦が始まったしばらく後に現れたと。恐らくは、戦火に追われる形で南まで――」

「逃げて来た先の村の近くに住み着いた。……イヤね、まるで難民だわ」

怪物の癖にとリオが締める。

隣でロコが頷く様子を目の端に捉え、チヅルは何とも言えぬ気持ちで俯いた。
167 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 10:00:37.97 ID:Dt1Jf1hJo

確かに、村を襲ったヴァンパイアは人の生活を脅かす紛れも無い怪物ではあった。

しかし彼、または彼女らは人語を解し話もする。

姿も人間と変わりなく、真偽のほどは知れないが、
その昔人の男と恋に落ちた一人のヴァンパイアは子供を産んだなんてウワサ話もあるほどだ。

「でもそうね。ヴァンパイアは一匹だけだったのでしょう?」

インク壺に羽ペンの先を浸しながら、リオは確認するようにそう尋ねた。

「まさか血を吸われた村人が第二第三のヴァンパイアに――」

「……なったという話は聞いていない。ヤツを仕留める際にも
少しばかり森の中を泳がせたが、助けに入る者もいなかったな」

「そう」

「それに、しばらくの間は旅の薬術師が村の面倒を見てくれると。
魔除けのスペシャリストだそうだ。私も今回は世話になった」

言って、チヅルはシノーミヤへの報酬の件を思い出した。
差し出がましいとは思いながらも、それとなくリオに打診してみる。

「本人は連れて来れなかったが、希少な薬や香を惜しみなく使ってくれた。
……受け取るかどうかは分からないが、私は礼をしたいと思う」

「あら? あらあらまぁまぁまぁ♪」

わざわざペンを動かす手を止めてから大げさに微笑んで見せるリオ。
机の上で頬杖をつき、楽し気な視線をチヅルへと向ける。

「ふふっ、優しい騎士さまのお願いだもの。私も冷たくできないわね」

「……では?」

「もちろん使いの者を行かせるわ。どのみちあの村の被害の程度を
視察する必要はあったのだし……まっ、物のついでよ」
168 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 10:04:48.51 ID:Dt1Jf1hJo

そうしてリオは部屋の隅に控えていた使用人を傍に呼び、
新たな命令を言付けると一仕事終えたと言わんばかりに手をうった。

「さ、て、と……。残りの消耗品の補充だとか、
埋めなきゃならない欠員だとか、その手の話は従士ロコ?」

「は、はい!」

「アナタからでも訊けるわよね? チヅルはもう下がっていいわ。長旅で疲れてるでしょうし」

けれども、チヅルは退室の許可を与えられても動かない。
細かな報告を終えるまで自分の仕事は終わりではないと思っているのだ。

……リオがやれやれと困ったように首を振った。
その表情は強情を張る子供を諭そうとする母親のようである。

「お行きなさいアレクサンドラ。そうしてアナタの妹に、早く元気な顔を見せてあげて。
……ノエルったら、アナタが街を空けてから毎日のように祈ってたのよ」

自らの貴族名(セレブネーム)をリオに呼ばれ、チヅルは観念したように息を吐いた。
おまけに自分の留守中に、面倒を見て貰っている妹のことまで出されたならば従うよりも他は無い。

「……お心遣いに感謝します」

その場にロコを一人残してチヅルはリオの部屋を後にする。
扉を閉めるその直前に、リオの囁くような声が聞こえてきた。

「一人にされて緊張してるの? ……うふっ、見た目通りに可愛いのね」

また彼女の悪い癖が出たなとチヅルは思う。けれども誰が止めれようか?

辺境伯夫人エレオノーラが"様々な意味"でのやり手であることは世間一般に広く知られ

――だからこそ彼女は女の身でありながらにして、
国王より南方の全権を任されるほどの実力者としてのし上がったのだ――

この程度の息抜きは必要悪と言ったところ。

早々に扉の前から退散すると、チヅルは屋敷内にある別の部屋へと足を向けた。

その部屋は建物の離れと呼べる場所に位置しており、滅多に人は訪れない。
人けの無い静かな廊下を進んで行き、目的の部屋の扉を叩く。
169 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 10:08:04.17 ID:Dt1Jf1hJo

トン、トン、トン。三度ノックし、「私だ」と声をかけるとややあってから扉は小さく開かれた。
チヅルを出迎えたメイドの少女がうやうやしく頭を下げる。

「ノエルは?」

「起きていらっしゃいます」

必要最低限の会話だったが、それはいつものやり取りでもあった。

勝手知ったる何とやら。

チヅルはしばしの暇を与えたメイドと入れ替わるようにして中に入ると、
部屋の奥に置かれた天蓋付きのベッドの傍まで移動する。

「お帰りなさい、お姉さま」

そうして、彼女を満面の笑みで出迎えたのは高貴な花を思わせる少女。
例えれば柔かな花弁を持つ薔薇のような……。

イオリーミナッセ・ノエル・ニカイドー。
名家ニカイドー家に残された二人姉妹のうちの一人。チヅルの実の妹である。

「帰ってらしたのは分かってたの。だってお姉さまの足音が聞こえたから」

「足音がかい? ノエル」

「ええ、そう。1、2、1、2……規則正しく響く音は、凛々しいお姉さまにとても似合ってるわ」

そう言ってイオリは目を閉じると、精神を集中させるように息を止めた。
一秒、二秒。再び目を開いた彼女が言う。

「私ね、病気になってから色々と鋭くなったのよ。特に耳や鼻がよくなったみたい。
お医者さんも話してくれたけれど、時々そういう人がいるんですって」

だがイオリは、自らの感覚が"鋭くなりすぎている"ことについては触れなかった。

実はベッドのすぐ傍にある大きな窓。それを僅かに開けただけで、

今のイオリは風に乗ってやって来る何百という音と匂いを聞き分け、嗅ぎ分けることにより、
その中から特定の誰か一人だけを見つけることだって(時間はかかるが)可能なのだ。

今だってそう。先ほど部屋を出ていったメイドが隣室で自分たちの為に特製のハーブティーを入れている様子が音で分かり、
匂いも同時に感じることで、瞼を閉じればその情景をまざまざと思い描くことさえできる。
170 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 10:10:04.18 ID:Dt1Jf1hJo

「だから、一人でも全然寂しくなんて無かったわ。
風に乗って鳥たちの歌が、お庭に咲いてるお花の香りが私を慰めてくれたもの」

けれども、イオリがその全てを姉に話すことは無い。
いいや、姉だけではなく誰にも彼女は話していない。

なぜなら耳が良すぎるあまり、ふとした瞬間に知りたくも無い
他人のウワサ話を聞いてしまうこともあったからだ。

誰しも人は裏の顔を持つ。

ある日、原因不明の病気によって自力では
ベッドから降りることすら困難になってしまったイオリ。

そんな彼女を姉のチヅルは心配し、普段から甲斐甲斐しく世話も焼いてくれるが、
一歩部屋を出たその先で何を口走っているか――そんな物を自分は聞きたくはないし知りたくも無い。


幸いにも自らが意識しない間は、この"能力"も病気になる前と殆ど変わらぬ人間並み。

だがひとたび"聞こえること"を知られたなら、
相手が以前のようには自分と接してくれなくなるであろうことの想像はつく。

……例えそれが、血を分けた肉親であってもだ。

感じる不満や愚痴を全て、心の中に仕舞ったままにできる者などいないだろう。
もしもそのような無理をしようとすれば、その者の表情は固くぎこちないものになっていく。

だからこそ目の前にある自分を見下ろす優しい顔が、
鳥籠のような部屋の中で過ごすこの生活の支えとも言えるその愛情が、

嘘偽りの無いものであると信じ続けていくためにも、
イオリは親愛なる姉に小さな嘘をつき続ける必要があったのだ。
171 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 10:12:53.72 ID:Dt1Jf1hJo
===幕間

さて、嘘と言えばこんな話が一つある。

辺境都市の東側、要は治安の悪い貧民街の路地には恐ろしい魔物が棲んでいると。

出処は不明、数年前から突如流れ始めた噂だが、酔っ払ったろくでなし共の喧嘩を夜の子守歌に、
用水路に流れるドブの臭いを揺りかごにして育ったエドガーは「嘘っぱちだね」とこの噂話を笑い飛ばす。

「オレは生まれた時からココに住んでるけど、路地にはひったくりだの物乞いだの。
売りをやってる女だとか、のされた馬鹿にションベンかけてく野良犬とかさ。そーゆーヤツらしかいないって。

……なのに、そんな、人を襲う怪物? ハッ、くっだらねーや!」

しかし、独りごちる少年の足取りはおっかなびっくりとぎこちない。
時刻は深夜を過ぎた辺り。街には霧が立ち込めだし、視界もすこぶる悪かった。

染みと汚れが模様のようになって落ちないシャツ。
ズボンの裾は擦り切れており、ツギハギだらけの外套は夜風をちっとも遮らない。

穴の開いたポケットに両手を入れ、エドガーは路地という路地を早足に徘徊して回る。
172 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 10:16:04.66 ID:Dt1Jf1hJo

「畜生、今日はしけてやがるぜ」

実入りが無い夜というのは辛い。

エドガーの"趣味"はこうして夜の街を巡り、
道端に倒れた酔っ払いを探して歩くことだった。

運が良ければ道端で眠っている寝坊助たちを叩き起こし、
ついでに幾らかの"介抱料"を請求できる。

どうしてそんなことをしているかと言えば、単純に少年が孤児であったからだ。

物心ついた時から父はおらず、エドガーは貧民街のあばら家の中、母の手一つで育てられた。

けれどもその母親が流行り病で亡くなると、少年が日々の糧を得るのは極端に難しくなった。

昼間の靴磨きだけでは食べて行けない。
だからと言って他の孤児のように人から盗みを働くのは気が進まない。

「常に正しい人でありなさい」それは母との大切な約束であり、エドガーの生きる指針でもあった。


「おいオッサン。こんなトコで寝てると風邪引くぞ」

月明りしかない暗がりの中、ようやく見つけた"お客さん"の姿にエドガーは内心「やった」とほくそ笑んだ。

建物に寄りかかるようにして座っているそれなりに身なりの良い中年男性の傍までやって来ると、
エドガーは相手に意識があるかどうかを確認しようとして――その"異変"を感じ取ってしまった。

……男は息をしていない。それだけならよくあることでもある。
遭う度に嫌な汗を掻いてしまうが、貧民街では昼夜を問わず死体と出くわすこと自体はままあるのだ。

その原因も病気や空腹、凍死に事故。
ゴロツキや追い剥ぎに刺されたことによる出血死とバリエーションに富んでいた。

しかし、しかしだ。
173 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 10:19:32.34 ID:Dt1Jf1hJo

「……嘘だろ、おい」

思わず唾を飲み込んだが、喉を過ぎるソレはカラカラの砂のようであった。
口の中が急速に渇いて行き、エドガーの視線は男のある一点に釘付けとなって離れない。

死体である。それは分かる。だがこの死体の首筋にくっきりハッキリと付けられた痕はなんだ?

血の気の無い青い首筋には、等間隔で並ぶ二つの穴が開いていた……
何か鋭い物を突き刺したような、例えるなら獣の牙のような。

――ヴァンパイア。噂話に聞いていた、人に紛れて人を襲う、闇夜の怪物の名前が脳裏をよぎる。

今度は嘘っぱちさと笑い飛ばすこともできなかった。

背中を襲う寒気と共に、背後から不意打ち気味に聞こえた物音によってエドガーは弾かれたように走り出した。

その手足は他人の物のようであり、耳元で大きく聞こえる自分の鼓動の音に急かされるまま
なるべく開けた街路や明るい場所を求めて少年はひたすらに夜を逃げる。

だが、今いる路地は細く長い。目の前に見える出口が酷く遠い。

……あと少しだ。十メートル、数メートル。

「きゃあっ!?」

突然体が弾け飛んだ。冷たい地面で尻をうって、思わず悲鳴を上げるエドガー。

何かにぶつかったのだと顔を上げた、
その視線の先にいたのは貧民街(この場所)には場違いな身なりの少女だった。

地面に横たわる少女とエドガーの視線と視線が合致する。

歳は自分と同じぐらいか――なんてことを頭の隅で考えた瞬間、
エドガーは勢いよくその場から立ち上がると少女の手を引いて走り出した。

「あっ、あの! 一体何をするの!?」

「黙って走れ! 後ろがとにかくヤベーんだよ!!」

背後を振り返っているような余裕などない。
状況の説明をするような時間ならなおさらだ。

エドガーはただただ"危険だ"と本能が訴えかけているこの現場に、
少女を一人残して行くなどできるワケがなかっただけである。


……路地から溢れ出た闇がじわじわと街を覆い出すような月夜の最中。

一組の少年少女はこうして出会いを果たしたのだ。
174 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/01/27(土) 10:23:01.23 ID:Dt1Jf1hJo
===
一コマおしまい。ようやくイベントを走り終わったので妄想をこうして形に出来ますです。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/27(土) 10:24:28.85 ID:iiU4LeMYo
今回のイベ妄想が捗るよね
176 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/02/03(土) 20:05:35.78 ID:atIyUbQCo

劇場にやって来た私はソファで居眠りをしているプロデューサーさんを見つけました。

……お髭が少しだけ伸びています。着ているシャツも、しわしわです。
お仕事の机の上を見れば、書きかけの書類や封筒なんかが並んでいて。

「もしかして、またお泊りしたのかな?」

きっとそうです。アイドルをしている私たちにはいつも「キチンと休みはとるように」
……そう言ってるのに、自分は「まだまだ仕事が残ってる」なんて、時々しかお家に帰らないから。

私は「お疲れ様です」と呟くと、床に落ちてしまっていたタオルケットを拾い上げて、
寝ているプロデューサーさんにちゃんとかけ直してあげました。

それから、起こさないようにそーっとそーっとプロデューサーさんの頭をなでなでしてあげます。

いつも私たちのために頑張ってくれているから……これは、私からの内緒のご褒美です♪


 ―○月×日ぺけ曜日。箱崎星梨花のP日記より―
177 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/02/03(土) 20:06:42.36 ID:atIyUbQCo
===
一コマおしまい。…あー、星梨花からなでなでご褒美もらいたい
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/03(土) 21:43:51.37 ID:bUy111Fdo

俺もなー!星梨花に優しく撫でて欲しいなー!
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 23:13:05.64 ID:SH0SrFxno
星梨花になでなでされたらそれだけで3日は寝ずに仕事出来そう
180 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/02/06(火) 14:13:40.98 ID:0ypyzIt3o
・特になんでもないネタ

まつり「プロデューサーさん。姫、レッスンのし過ぎで足が痛いのです」

P「ほーう」

まつり「だから、ね? プロデューサーさん」

・可憐に足をくねらせるまつり。「ふっふっふ」と妖しく微笑み返すP。

P「馬鹿め! 俺がなんでも言うことを聞くと思ったら大間違い!!」

P「召使いじゃあないんだ。ええ歳してかわい子ぶりっ子しおってからに――」

P「――あ、もみもみもみ……」

まつり「それでもまつりの言うことを聞いてくれるプロデューサーさんは優しいのです」

P「当然だろう!? キュートなまつりのこの足だぞ」

P「疲れたままになんてしておけるか! 丁寧に揉まねば罰もあたるっ!」

まつり「だからまつりは、そんな優しいプロデューサーさんが」

まつり「大好き、なのです♪」

P「はーはっは! もっと褒めて!」


朋花「……ホント、色ボケダメデューサーですね〜」ズズッ

P(うっ、それでも天罰が!?)
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 14:31:38.38 ID:w8+wcLshO
あのセリフ姫は構ってほしいだけなんじゃないかと思ってしまう
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 23:02:09.77 ID:3nOQU3640
姫はエスコートされたいんだよ。「姫」としての扱いを要求していらっしゃる。
183 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/02/12(月) 16:34:19.06 ID:6j8GrbgEo

「なっ、なあ! プロデューサー」と、昴は少し緊張しているような面持ちで俺に声をかけてきた。
一旦仕事の手を休め、何事だろうと彼女を見る。

「どうした昴? また野球をやってて怒られたか?」

「大丈夫、今日はまだな。……じゃなくて、プロデューサーに確認したいことがあってさ」

「確認? ……先に言っとくがキャッチボールもダメだからな」

ちなみにキャッチボールだけではなく、
劇場内ではバレーもバスケもドッジボールも禁止。

原則、許可の無い球技全般がご法度だ。

「それはとっくに分かってるって! ……あ、あのさ? プロデューサーは、その、俺と……」

そう言って、急にもじもじとしおらしい態度をとる昴。

……なんだ? 今日はまだとか言ってたし、
まさかもう既に花瓶やらなにやらに被害を出した後だとでも――。

それで、いつものように一緒に謝ってくれとかそういう相談か?

「俺のこと、えぇっと――嫌いじゃない、よな?」

窺う昴は上目遣い。

思いがけない質問だが、昴のことをどう思ってるかと問われれば。

「ああ、別に嫌いじゃないぞ」

仕事も遊びも一生懸命前向きに。
そんな彼女を嫌ってる人間の方がこの世に少ないと思うんだが。
184 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/02/12(月) 16:36:14.68 ID:6j8GrbgEo

「ホントか?」

「ああ」

「プロデューサーは俺のこと、嫌いじゃない?」

「だからそうだって言ってるだろ」

「なら、それってつまり好きってことか?」

「……えっ?」

「嫌いじゃないなら、好きってことだろ? 好きじゃないなら、嫌いってことだし」

「まあ……そういうことならそうなるかな」

なんだそのゼロか百かの極端な例は。

……けれどもだ。俺が答えた途端に
嬉しそうな笑顔を浮かべた昴の気持ちに水を差すのは気が引ける。

……ならば俺が取るべき道は。
ここは一つ、彼女の望む回答をだ。

「俺は昴のことが大好きさ。その証拠にいつだって大事にしてるだろ?
キャッチボールにも付き合うし、怒られる時は一緒だし」

「だ、だよな? そうだよなっ!!」

すると昴ははしゃぎながら、羽織っているジャケットの両ポッケから小さな何かを取り出した。

「へへっ。……だったら、そんなプロデューサーにプレゼントだ!」

それは昴の手の平にも収まるサイズの球体で。
周囲を包んでる銀紙に描かれたプリントによって野球のボールにも見える。

……と、言うかボールだ。いわゆるベースボールチョコレートの一種。
それが四つ五つと昴の両手に握られている。


「これ、チョコレートの中に野球関係のミニチュアストラップも入っててさ。
ついつい買いすぎちゃったんだけど、流石に全部は食べれないし」

「ああなるほど。その処理を俺に手伝ってほしいと」

事情を理解した俺が素直にそう言って頷くと、
昴はチョコレートを手渡しながら照れ臭そうにこう続けた。

「それに、こういうのは好きな人に渡したいからさ――」

「なにっ!? す、昴! それってつまり……!」

「あっ……ち、違う違う! 俺が好きな人じゃなくて、俺のことを好きな人に渡したいってことだよ!」

二人同時に驚いて、慌てた様に昴が言う。

「だって……。嫌いなヤツから貰っても、嬉しくなんてないだろうし」

「それでさっきの質問か。……なにを心配してたかしらないが、俺は昴ことを嫌ったりなんてしてないさ」

「……うん」

だから俺は、彼女に満面の笑顔を見せてやった。
言葉は心からの本音であり、信じてくれるといいんだが。
185 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage saga]:2018/02/12(月) 16:37:31.72 ID:6j8GrbgEo

――そうしてその反応を確かめようとする俺に、
昴は銀紙の包みを剥がしながらぽつぽつと。

「プロデューサーにはいつだって、一杯迷惑かけてるから。内心じゃ俺のこと嫌いかもしれないって。
……ほら、俺ってよく怒られるし、その度にプロデューサーも一緒に謝ってくれるだろ?」

手の平の上、剥き終わったチョコレートを指でころころと転がしながら恐る恐ると俺を見た。

「だからホントは嫌われてるんじゃないかって。……怖かったんだ、凄く」

「昴……」

「でもさ、さっきのプロデューサーの笑顔を見て、嘘じゃないって分かったから」

言って、彼女は普段通りの明るい笑顔を取り戻すと。

「なあなあ、一緒に食べようぜ、チョコ。早く食べないと溶けちゃうよ」

「……ああ、そうだな!」


ちなみに、二人で食べたチョコレートの中からは
最初にされた説明の通りオマケの入ったカプセルが。

俺が中身を確認した途端、昴は「ああっ!」と声を上げた。

「いいなー……。プロデューサー、それシークレットだ」

出て来たのは有名球団のマスコット。話を聞けばポーズが普通と違うらしい。
……じぃっとこちらを見つめる彼女の眼差しが言っている。

「昴、これいるか?」

「くれるの!?」

「もちろんさ。俺と昴の仲なんだし」

渡してあげると昴は子供のように喜んだ。
いや、実際まだまだ子供なんだけどね。

「えっへへ。なんか催促しちゃったみたいだけど――」

それでも、彼女の嬉しそうな姿が見れるなら満足だ。

昴は早速貰ったストラップを自分のスマホに取りつけると、
元気溢れる笑顔で改めて、俺に向けてこう言ってくれたんだ。

「ありがとな、プロデューサー! ……やっぱ俺も、プロデューサーのこと大好きだぜ♪」
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