国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編

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1 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 08:38:36.32 ID:Y9AZ6UEU0
前スレ→ https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1476520312/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507333115
2 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 08:44:00.62 ID:Y9AZ6UEU0
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3 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 08:47:23.70 ID:Y9AZ6UEU0
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4 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 08:50:27.49 ID:Y9AZ6UEU0

登場人物まとめ
(前スレの激しいネタバレを含みます。長いので覚えている方は飛ばしてもらって構いません)




・魔王と四天王


魔王

邪神の加護を持つ姫君。人類を圧倒する四天王を配下に持ち、自身も邪神の加護を宿している。先代魔王の娘。
過去、邪神の加護が具現化した「魔人」の危機を炎獣に救われながら、冥王の元で魔法を修めた。
思慮深く、四天王からの信頼は厚い。"魔弓"という波動砲を主な武器とする。


炎獣

炎の四天王。肉弾戦の破壊力はずば抜けており、幾度も人類を圧倒してきた。
また、魔王の「魔人」と戦い続け、共に冥王の元で修行をした過去がある。
精神的に未熟な部分があるが、ひたむきな真っ直ぐさで仲間を救ってきた。


雷帝

雷の四天王。頭脳戦に長け、魔法剣を操る歴戦の武人。先代魔王の頃からの四天王で、幼い現魔王を守るために尽力した。
翼の団との戦いで切り札の魔剣を使うが、軍師の罠により瀕死に陥る。その際木竜に助けられるも、木竜が死亡したことで心を閉ざしている。


木竜

木の四天王。大いなる癒しの力とドラゴンブレスを武器にする老齢の竜。先代魔王の頃からの四天王で、年長者として仲間を見守ってきたが、雷帝を治療していた所を魔法使いの不意打ちを受け、死亡した。


氷姫

氷の四天王。氷の女王と呼ばれる強大な力を持つ魔術師。
冥王の元で魔王、炎獣と出会う。スレた態度を取りがちだが、仲間のことを思っている。
血の繋がらない妹への複雑な思いを抱えている。
5 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 08:51:44.15 ID:Y9AZ6UEU0

・勇者一行

商人
港町を支配していた武器商会の女社長。王国動乱では独自に動き、教会と取引をしていた。港町にて魔導砲が魔王に破られ、氷姫に殺害される。

武闘家
人類最強と言われる老武人。港町にて炎獣を追い詰めるが、氷姫との連繋に敗れ死亡。

盗賊
辺境連合軍「翼の団」の首領。王国動乱では戦士・僧侶に協力し、翼の力を手に入れるが、魔王への奇襲で返り討ちにあい死亡。

戦士
王国軍の鬼と言われる武人。王国動乱を兄と共に止めようとするが、兄の裏切りにあって失敗。王国将軍として魔王を止めようとするも四天王に破れ、戦死。

僧侶
生まれながらに女神の加護を持つ聖女。教会の暴走を止めようとするも教皇の圧倒的な力の前に倒れ、くノ一を逃がすために転移を使い、その代償に消滅。

魔法使い
至る所に姿を現す謎の人物。その正体は死んだはずの先代魔王の側近らしい。魔王四天王の一人を殺害している。

勇者
女神の神託を受けたと噂される人物。


6 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 08:54:21.74 ID:Y9AZ6UEU0


・王国側

国王・女王
魔族との和平を望んでいた賢王。王国動乱で教皇に権力を奪われた。

くノ一
女王配下の隠密。戦士と共に王国動乱を止めようとする。その時に義兄妹の忍を失った。僧侶に命を救われた際、「状況を逆転できる鍵を手に入れた」と発言。


戦士の兄。戦士と共に王国動乱を止めるべく動いていたが、建国の儀式で王国側を裏切って教会に下った。正規軍将軍として魔界に攻め込むが、魔王に破れて戦死した模様。

女勇者
前勇者。剣豪、賢者と共に先代魔王を倒した英雄。王国動乱の際、武闘家との一騎討ちに敗れ死亡。

剣豪
前勇者一行であり、戦士と兄の父。先代魔王討伐後は王国にて大将軍として王国軍を御してきたが、教会の策略に嵌められ処刑された。

賢者…前勇者一行。



・教会側

教皇
女神教会のトップ。王国動乱を起こして国王から権力を奪い取った。圧倒的な神秘の力を使い、魔族でさえ操ることができる。魔王の「魔壁」に存在を解体されたが、意識を残し赤毛を我が物にして魔王を打倒せんと目論む。

大僧正
女神教会のナンバー2。王国動乱の首謀者の一人だが、策略を女王に暴かれた。以降、言動が妖しく異様な様子が目撃されている。城下町で赤毛を狙うが、先生に阻まれる。

7 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 08:56:29.85 ID:Y9AZ6UEU0


・城下町

赤毛
突如城下町の人々が夢に見た神託により、奇跡の僧侶となった町娘。町の人々の手から秘密結社の手によって逃れるも、父や母を救いたいという思いから自ら魔王らと対峙し、追い詰める。今は魔壁により存在を解体され、曖昧な自意識の中で魔王と行動を共にしている。

三つ編
城下町の町娘。赤毛らと秘密結社を結成している一人。少し大人びている。魔壁の内側で、炎獣の側に現れた。

坊主
城下町の商家の息子。秘密結社の一人。泣き虫。魔壁の内側で雷帝の側に現れた。

金髪
城下町のわんぱく小僧。秘密結社の一人。やんちゃだが、リーダーシップを発揮することも。魔壁の内側で氷姫の側に現れる。

神父
城下町の教会の神父。独自の哲学をもち、勇者と魔王の争いをどこか俯瞰で眺めている。赤毛に協力した。

先生
赤毛ら秘密結社メンバーの通う学校の教師。生徒の立場に立って赤毛らを導こうとした。赤毛を守るため、大僧正と戦う。


・その他魔族

冥王
冥界を納める貴婦人。その魔法は魔界の誰しもが一目置くほど絶大。弟子入りした魔王に取り引きを持ちかける。

水精
魔王らと共に冥王に弟子入りした魔族。魔術師としては一流だったが、苛烈な修練についていけず遅れをとっていた。冥界で、虚無と共に氷姫に突如牙を向いた。

虚無
闇部の長。自らを「毒虎」という別の魔族に変化させて冥王に弟子入りし、氷姫の殺害を狙っていた。

鳳凰
先代魔王四天王の一人。魔王の座を狙っている。

玄武
先代魔王四天王の一人。

8 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 08:58:03.50 ID:Y9AZ6UEU0




・あらすじ

 魔王と四天王が王国軍本隊を撃破し、港町に迫る場面から物語は始まる。
 魔王と四天王は、立ち塞がる勇者一行を一人また一人と撃破し、犠牲を払いながらも王国へと迫っていった。

 城下町へと進撃した魔王と四天王の前に、奇跡の僧侶と化した赤毛と大いなる力を操る教皇が現れる。
 女神の加護の強大な力を前に魔王らは全滅の危機に瀕したが、状況を打開するために放った魔王の秘技「魔壁」でみなの存在を解体することに成功する。
 そこには赤毛と教皇も巻き込まれた筈であったが、教皇は辛うじて意識を残して自らの存在の再構築を始める。
 魔王も自分の、そして四天王の存在を再構築するために、記憶や感情のピースを集め始めたのであった。

 思い出の旅の中で炎獣は、魔王の持つ邪神の加護が具現化した存在「魔人」との戦いの記憶で、はっきりとした自意識を持つに至る。
 氷姫は、冥王の元で魔王と炎獣と過ごした思い出を元に自分を再構築していくが、やがてそれも大きな山場を迎えていた。
 修業の日々のなか同門の水精と毒虎に命を狙われた氷姫は、毒虎の正体が闇部の長、虚無であると知る。
 炎獣と魔王の協力のもと、水精と虚無を一度退けることに成功するが、依然として彼らの目的が分からないままに、三人は水精と虚無の後を追うこととなるのであった。






9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/07(土) 10:49:07.75 ID:BU5XvKQA0
待ってたぞ!頑張ってくれ
10 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:10:55.11 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫《…》

魔王《………氷姫は強いね》

氷姫《…ううん。本当は、笑っちゃうくらい弱いのよ》

氷姫《今だってこうやって強がって、感情をさらけ出すまいと必死》

氷姫《弱さをさらけ出せないことは…強さじゃないって、今は分かるんだけど、ね》

魔王《…そっか》

氷姫《ねえ、魔王。この先のこと、あの子達には見せられないわ》

魔王《そう、だね》

魔王《ねえ、あなたたち………?》


金髪《おい! おい、赤毛!》

金髪《赤毛ってば!》

赤毛《………》グタ…

11 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:11:58.69 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫《どうしたの?》

金髪《わかんねー! 急に赤毛が眠ってるみたくなっちまって…!》

赤毛《………》

魔王《これは》

魔王《…心が閉じてる。いえ、拐われかけている!》

魔王《これはもしかして………教皇の影響…!? 自我がはっきりしてきたところを、狙ってきたの!?》

グイ…

魔王《!》

金髪《なあ………助けてくれよ…!》

金髪《俺、赤毛の友達なんだよ》

金髪《赤毛を、助けなきゃいけないんだ!》

魔王《…!》

金髪《お願いだよ…!!》

魔王《………》

魔王《分かったわ》

魔王《この子は、私が助ける》

金髪《!》パァ

金髪《ありがとう…!》

魔王《ええ》ニコ

12 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:13:08.71 ID:Y9AZ6UEU0

魔王《氷姫》

氷姫《うん。あんたにそっちは任せるわ》

魔王《………変、かな》

魔王《人間の子供を、助けようなんて》

氷姫《ふふ》

氷姫《あんたらしいわよ》

魔王《…そうかな》

氷姫《あの子達を、お願い》



氷姫《…助けてくれ、か》

氷姫《敵かもしれないあたし達に、あんな真っ直ぐな目でそんなことを…》

氷姫《――もし、あたしもそうできたなら》

氷姫《こんな道を歩かずに済んだかもしれないのにね》

氷姫《………さあ、そんじゃいっちょ、思い出すとしますか》

氷姫《ずっと目を逸らし続けていた、傷を》








13 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:14:51.23 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫「…っ」タッタッタッ

炎獣「お、おい氷姫! 待てよ!」

炎獣「本当にこっちであってんのかぁ!?」

氷姫「…」

炎獣「急にどうしちまったんだよ、あいつ…」

魔王「…がむしゃらに走ってるようだけど、氷姫の足取りは確かだよ」

炎獣「じゃあ氷姫には水精達が逃げた方向が分かってるってことか?」

魔王「うん。…心当たりが、あるのかもしれない」

魔王(それにしても…ここは、どこなんだろう? さっきまで私たちがいた冥界とは、気配が完全に変わった)

魔王(冥界を抜けて、別の地域に入った…?)

炎獣「辺りが真っ白で何も見えないぜ…!」

炎獣「ここはどこなんだよ!?」

氷姫「………」

魔王「! 霧が晴れる!」

魔王「何処かの高台に出るんだ!」


ヒュオォ………




氷の領域



氷姫「こ、これは…」

魔王「氷の、世界」

魔王(もしかして、ここは)

魔王(氷姫の、故郷…!)

炎獣「…で、でもよ。おかしくねぇか?」

炎獣「氷の世界なのに、なんで………」

炎獣「――なんで、あっちこっち火の手が上がってるんだよ!?」

14 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:15:57.28 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫「…っ!!」ギュウ…!

魔王(…幾つかの旗が見える。あれは、確か)

魔王(海王の収める水部署。そしてもうひとつ、虚無の収める闇部署…)

炎獣「虚無と水精が言ってた"本隊"って、まさか、これのことか…!?」

氷姫「………い、行かなきゃ…!」ダッ

魔王「待って氷姫!!」グィッ

魔王「今行ったら、氷姫の身が…っ!」

氷姫「だからって、ここでぼんやり眺めてろって言うの!?」

氷姫「故郷が、蹂躙されるのをっ!!」


氷姫(――…あれ、おかしいな)

氷姫(あたし、ここを故郷だなんて思ってたのか)

氷姫(未練なんて無いって…そう思ってたのに。とっくに無意味なものになっていたはずなのに)

氷姫(今は、あいつの顔が思い浮かんでしょうがない)

氷姫(あたしの、たった一人の妹)

氷姫(あいつの………結晶花の、顔が)

15 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:45:29.02 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫「駄目だ」

氷姫「あたしやっぱり、行かなきゃ!!」

炎獣「お、おい氷姫っ!」


『…お姉ちゃん』


氷姫「!!」

炎獣「な、なんだ?」

魔王(…テレパス!)


氷姫「結晶花っ! あんたなの!?」

結晶花『良かった。本当にお姉ちゃんだ』

結晶花『帰ってきてくれたのね』

氷姫「…っ!」

氷姫「待ってなさい!! 今、そっちに行くからっ!」

結晶花『ありがとう。お姉ちゃん』

結晶花『あなたにひどいことばかりした私達を、助けようとしてくれて』

結晶花『………でもね』

結晶花『ここは、もう』

結晶花『駄目みたい』

16 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:46:58.70 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫「――!!」

氷姫「…な」

氷姫「何、言ってんのよ」

結晶花『敵がすぐそこまで迫ってるの』

結晶花『みんな、私を生かすために戦ってくれたけど………やられてしまったわ』

結晶花『水部と闇部が協定を組んで…いいえ、それだけではないわ、きっと』

結晶花『私達は、裏切られてしまった』

結晶花『――長である、私の責任だわ』

氷姫(………待って)

結晶花『だから、無駄なことかもしれないけれど、私も最後まで戦うつもり』

結晶花『お姉ちゃんみたく魔法が上手だったら…転移魔法を使って脱出できたのかなぁ』

結晶花『あはは。出来ないことを言ってもしょうがないよね』

氷姫(待ってよ)

結晶花『でもね、今なら何だってやれる気分だよ』

結晶花『だって、最期にお姉ちゃんと話せたから』

17 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:48:07.76 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫「結晶花っ…」

結晶花『あ、また名前呼んでくれた』

結晶花『知ってた? お姉ちゃん、なかなか私の名前読んでくれなかったから』

結晶花『とっても嬉しいな』



氷姫(………あたしは、大馬鹿だ)

氷姫(本当に、あたしが謝りたかったのは)

氷姫(ずっと謝りたいって思ってたのは)


結晶花『ねえ、お姉ちゃん』

結晶花『最期に話せて良かった』

結晶花『勇気をくれて………ありがとう』


氷姫「結晶、花っ…!!」


氷姫「今まで………」ポロ…


氷姫「本当にっ…」ポロポロ…





氷姫「――ごめん、なさい…っ!!」

18 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:49:08.21 ID:Y9AZ6UEU0

結晶花『…お姉ちゃん、優しいなぁ』

結晶花『本当はもっと』

結晶花『甘えたかったな』

氷姫「結晶花…!!」

結晶花『ねえ、迷惑かもしれないけど、聞いて?』

結晶花『私の最期のお願い』

氷姫「っ、なに?」ギュッ…

氷姫「お姉ちゃん、なんでも、きいてあげるから…っ」

結晶花『えへへ。ありがとう』

結晶花『…私の、氷部署の長の座を…』

結晶花『お姉ちゃんに、継いで欲しいの』

結晶花『そして………いつの日か、また氷部署を………』

氷姫「分かった」

氷姫「いいよ、結晶花」

氷姫「それくらい、御安い御用よ」

氷姫「ね、だから、お願いだから」

氷姫「あたし、あんたと一緒に――」






――――ズンッ!!





氷姫「あ…」



19 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:50:10.94 ID:Y9AZ6UEU0


ゴゴゴゴゴ…



炎獣「こ、氷の城が」

炎獣「崩れていく…」

魔王「…っ!」

魔王(テレパスも、消えた…)


氷姫「っ」ガクッ…







氷姫「………………………」





20 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 14:51:28.35 ID:Y9AZ6UEU0


炎獣「………」

魔王「………氷、姫」


ズズ…


炎獣(? なんだ、この気…)

魔王「………!!」

魔王「この魔力は…っ!」


氷姫「………さな…」







氷姫「――許さない」ズズズズ…!






氷姫(全ての魔力を出しつくせ)


氷姫(破壊の衝動の全てを力に変えろ)


氷姫(もっと)


氷姫(もっとだ)





魔王「この魔方陣…!」

魔王「氷姫っ!! 駄目っ!!」



















氷姫「 究 極 氷 魔 法 ! ! 」



21 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 20:58:52.10 ID:Y9AZ6UEU0

海王「…これで、こっちの始末は終わりじゃ」

海王「しかし…寸での所で氷部署の長の継承を許してしもうたのう」

海王「なんちゅう体たらくじゃ。ぇえ?」

海王「虚無よ」

虚無「………」

海王「娘っ子一人、刈り取れんとはのう」

虚無「…うぬの使いが足を引っ張ったのだ」

海王「水精がか? カッ」

海王「使えん奴っちゅうのは、とことん使えんのう」

海王「ほいで、その水精は何処に――」


ズズ…

海王 虚無「!」

虚無「この気配は…」

海王「誰じゃ、こんな大それた事をしよるのは」

虚無「………うぬが侮った」

虚無「その娘っ子であろうな」

22 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:00:07.51 ID:Y9AZ6UEU0

ゴォオッ!

炎獣「なんだ!? どうなっちまったんだよ、氷姫は!?」

魔王「究極氷魔法の詠唱に入ってるんだ…!」

魔王「魔力の放出量が凄まじくて、私達が近寄ることも出来ない…っ!」

魔王(究極氷魔法は、全ての魔力を喰らい尽くして発動する魔法だ。コントロールし切れなかった時は)

魔王(死が待ってる…! 今の感情に任せた氷姫の詠唱じゃあ………!!)








ズッ

氷姫(死の行進)

氷姫(全ての敵を狩るまで止まらない死神の召喚)

ズッ

氷姫(あたし自身が冥界とのゲートになる)

氷姫(一度死神の鎌を掻い潜ったあたしはもう条件を満たしている)

ズッ

氷姫(深く潜れ。冥界はここからそう遠くない)

ズッ

氷姫(さらかる深みへ)

ズッ

氷姫(あの極彩色の世界へ)



ズッ







死神「…」

23 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:01:14.53 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫(見えた…。死神だ)

氷姫(さあ! あたしの魔力を喰らえ!)

氷姫(好きなだけ喰らうがいい!!)

氷姫(代わりによこせ! お前の力を!!)


氷姫(あたしは望むっ!)

氷姫(醜い裏切り者共の断罪を!!)

氷姫(冷徹で犀利な大鎌による制裁を!!)




死神「…」ォオ…

ガシッ


氷姫(っ!?)

氷姫(どうして…。どうして、あたしの体を掴む!?)

氷姫(敵は外だ!! くそっ、言うことを聞けっ!!)

死神「…」

氷姫(…まさか)

氷姫(魔力が…足らないっていうの…?)

氷姫(それとも、あたしが、あんたを牛耳るのに値しない使い手だと…?)

死神「…」

24 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:02:18.82 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫(どうしても殺さなきゃならない奴らがいるのよ!!)

氷姫(生かしておいちゃいけない奴らが!!)

氷姫(あたしは死ねないんだ、こんなところで!!)

氷姫(あいつらを殺すまではっ!!)

死神「…」

氷姫(くそ…)

氷姫(またか…)

氷姫(どうせ…あたしには何も出来ない)

氷姫(復讐の…ひとつすら………)





炎獣「お、おい…! なんか氷姫の身体が、地面に引き込まれてねぇか!?」

魔王「…!」

魔王「炎獣、ここをお願い!」

炎獣「え?」

魔王「また彼らが攻めてくるかもしれない。そしたらここを守って!」

炎獣「そりゃ、もちろんだけどよ! お前は何処行くんだよ!?」

魔王「すぐ、戻る!!」バリバリバリ…!

魔王「転移っ!!」

ギュゥン――!

炎獣「ええっ!?」



25 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:03:34.87 ID:Y9AZ6UEU0



冥王「………あら」

冥王「いやね、さっきは死ぬほど無様な転移を披露していたくせして、急になんて見事な転移をするんでせうか」

冥王「先ほどは手を抜いていらしたのかしら? …子猫さん」

魔王「――…お師匠様」

冥王「お前さん、情けない意気地無しのくせして、誰かのためなら無い気概を少しばかり絞り出してみせる、という所かしら」

魔王「…」

冥王「…その顔。面倒事をしこたま背負って帰って来ましたわね」

冥王「順序立てて、お話なさいませ」






金髪《………》

金髪《出来たんだな。滅茶苦茶ムズい、魔法》

魔王《ええ》

魔王《最も、あたしが転移を成功させたのは、後にも先にもこの一回きりだったのだけど》

金髪《なんで?》

魔王《え?》

金髪《なんで出来たんだ?》

魔王《…》

魔王《大切な、友達を守りたかった》

魔王《この時はただその一心だったな》

金髪《…大切な友達を、守る…》

金髪《………そうだ、俺》

金髪《俺も、守らなきゃ。赤毛を…》

赤毛《………》グタ…

26 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:14:47.70 ID:Y9AZ6UEU0

魔王《うん、よし》

魔王《私自身を蘇らせれば蘇らせるほど、私の杭としての役目は強まる》

魔王《ここから投げた思いの糸で、この子を引き上げる…!》

赤毛《………》

魔王《思い出せ。あの時のお師匠様のように――》

魔王《!?》グラッ

魔王《な、何!? 異様な力がこちらを引っ張ってくる!》

魔王《こんなこと、有り得ないはず!》


《――どんな、未知なる奇跡も》

教皇《私であれば可能なのだよ、魔王》


魔王《あ、あなたは!》

教皇《さあ。貴様も来い》

教皇《我が存在の中へ》

魔王《うぐっ!!》

金髪《お、おい!》












氷姫「…………」ユラ…ユラ…

炎獣「氷姫の体が、半分以上地面に呑まれちまってる…!」

炎獣「これが、究極氷魔法の代償だってのか…!? ちくしょーっ、どうすりゃいいんだ!」

炎獣「くそっ…急いでくれ、姫…!!」

炎獣「!」ピク


「――ここにおったんかい」

海王「一緒におるのは、先代の娘の手勢か?」

海王「カッ、手間が省けるわい」

虚無「………」


炎獣「…ちっ」

27 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 21:16:02.31 ID:Y9AZ6UEU0

炎獣「あんだよ、てめぇら」ギロ

海王「口の利き方のなっとらんガキじゃのう」

虚無「………気を抜くな」

海王「ふん。多勢に無勢じゃ。こっちにゃ一部隊丸々ついとるんじゃぞ」

炎獣(くそっ、やべえ。敵の数が多い。囲まれてる)

炎獣(しかもこの二人…四天王クラスのバケモンだ)

炎獣(かといってここを動くわけにはいかねぇ)チラ

氷姫「………」ユラ…ユラ…


虚無「………氷の女王は、自滅しているな。放っておいて問題ないだろう」

海王「何を日和っとるんじゃ、ワレは。邪魔するもんは全部排除すればええ」

炎獣「あんたの言う通りだな」

海王「…何?」

炎獣(へっ、四天王クラスか…)

炎獣(いいじゃねぇか。丁度いい。姫が魔王になるってーんなら、俺は)

炎獣(倒してやるよ。そんくらいの敵なんざ)


炎獣「やるんだろ、オッサン?」

炎獣「――かかって来いよ」ピシ…


海王「カッ!」

海王「面白いガキじゃのう」

海王「ええじゃろう………!」














「おやぁ――?」


「おやおやおや?」



冥王「このあたくしを差し置いて、随分盛り上がったご様子ねえ」

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/07(土) 21:21:09.02 ID:u03vDrZq0
赤毛って字がホモに見えた
29 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:44:54.65 ID:Y9AZ6UEU0

海王「め…!!」

虚無「冥、王………!!」

炎獣「師匠!」パァ

虚無(馬鹿な…!! 早すぎる!!)

虚無(一体どうやって嗅ぎ付けて来た!?)

魔王「…」フラ

炎獣「姫! 大丈夫か?」

魔王「う、うん…」

炎獣「…成功させたのか」

炎獣「お前、すげーよ。ほんと」

虚無(まさか…! あの小娘が転移を成功させたのか!?)

虚無(完全な誤算だ…!!)



冥王「海王。それに虚無」


冥王「魔界の重鎮が揃いも揃ってこんな所になんのご用でせうか?」

虚無「っ…!」

海王「ぐう…!」

30 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:46:31.21 ID:Y9AZ6UEU0

海王「………お」

海王「お前さんこそ、どういう風の吹き回しじゃい、冥王」

海王「ここは冥界の外じゃ。お前さんが出しゃばる理由がワシにはわからん」

冥王「 へ え ? 」

海王「っ…!」

冥王「分からないんですの。そうですのね…」

炎獣「師匠! そんなことより、氷姫が大変なんだ!」

炎獣「このままじゃ――」

冥王「」グワッ

炎獣「うっ!?」






氷姫(これが、究極氷魔法を失敗した、代償)

氷姫(………生者の魂が、抜け落ちる、か)

氷姫(こういうことなんだ…って分かったときにはもう終わりなのね)

氷姫(体の感覚が曖昧で、凍りついてしまったかのように寒い。辛うじて働いてるのは頭だけで)

氷姫(その頭を…奴がはね飛ばすんだ)


死神「…」




――ヒュルヒュル!

氷姫(!? 何!?)

氷姫(天から、黒い糸が垂れ下がってきて…!)

バシッ!

死神「!」

氷姫(…死神を、縛った!?)

31 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:47:42.51 ID:Y9AZ6UEU0

死神「…」ググ…!

氷姫(死神が動きを封じられてる…。それと同時に、あたしの体に血の気がさしていくみたい)

氷姫(あの糸は一体どこから…? 死神を御すなんて、一体誰がそんな高位魔法を…)

氷姫(………いや。こんな滅茶苦茶を平気でしてのける存在を、あたしはひとりしか知らない)

氷姫(あの糸の先には、きっと…!)

氷姫(あの糸を辿るんだ! そうすれば戻れる!)

氷姫(まだ、私は生きれる!!)

グワッ

氷姫(! 急に、凄い力に引き上げられて――!?)






ザブン!

氷姫(…あ)

冥王「これで、満足かしら?」

魔王「!」

炎獣「氷姫!!」

氷姫(戻って…)

氷姫(来た)

冥王「本当にやかまし屋のお弟子さんを持ったもので、参っちまふわ。けれど、お前さん殺しても死なないくらいしぶといものだから」

冥王「黙らせちまふには、とっとと済ますのが一番」ポイ

炎獣「おっと!」ダキ

氷姫(わ…っ)

炎獣「大丈夫か、氷姫」

氷姫「う、うん…」

魔王「お師匠様…」

魔王「ありがとう、ございます…!」

冥王「あたくしはお前様方の便利屋ではないのですけれどねぇ、嫌だわ」

冥王「だから黙ってすっこんでいなさいな。よろしくって?」

32 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:49:24.97 ID:Y9AZ6UEU0

冥王「………さあて」

冥王「あたくしのお弟子さんが、とっても危険な目にあっていたようなのですけれど、何か身に覚えはなくって?」

海王「…カッ、そいつが勝手に自滅しただけのことじゃろがい」

海王「それにしてもらしくないのう。かの冥王が、そこまで弟子に愛情を注いでいたとは、初耳じゃが」

冥王「あら、勘違いは困りましてよ」

海王「あん?」

冥王「おほほほ…! やっぱりあなた様、見かけ通りに愚鈍なのんしゃらんですのねぇ」

海王「あ…!?」

冥王「あたくしのお弟子さんはね、あたくしの弟子になったその時から」


冥王「――あたくしのオモチャなんですのよ」


冥王「ですからあたくしのオモチャに手を出すなんて行為は」


冥王「あたくしの冥界への侵略行為であり」




冥王「宣戦布告に他なりませんわ」





冥界「ましてや、オモチャの分際であたくしに反旗を翻すなんて」









冥王「――許されませんのよ? 虚無さん?」ォ オ オ







虚無(超限界突破の魔力………)

虚無(我が力を持ってしてもおそらくは敵わない)

虚無(…………ここまでか)

虚無「――転移」フッ…

33 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:50:32.75 ID:Y9AZ6UEU0

冥王「 さ せ ま せ ん わ 」

ガシッ


虚無「!!?」

虚無(馬鹿な!! 転移体になった身体を、掴んだ!?)

虚無(そんなことが出来るのは生命体ならざる存在――)




冥王「"食"」

虚無「………え?」




―― バ ク ッ











海王「な………ッ!!」

魔王「………そ…そんな………」

炎獣「食った…!!」

34 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 22:52:18.00 ID:Y9AZ6UEU0

冥王「あら、いやだわ、うふふ」

冥王「これは存在を解体する、無属性魔法ですのよ」

冥王「別に本当に頂いたわけじゃなくってよ、いやあねぇ」


氷姫(…き…消え去ったって言うの?)

氷姫(あれだけ強力な存在だった、虚無が………)

氷姫(…一瞬にして…)



海王「そ、存在を解体する………!?」

海王「そんな化け物じみたことが、出来るわけが―― 冥王「そんなことよりも」

冥王「大事なことは、もっと他にあるでせう?」

海王「っ!!」ゾッ

冥王「お前様が、あたくしに働いた狼藉の」




冥王「"おとしまえ"、ですわぁ」

35 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:13:38.66 ID:Y9AZ6UEU0

海王「まっ……待ってくれい、冥王」

海王「詫びならいくらでもする。この通りじゃ!」

海王「しかし、虚無と違ってワシはあんたんとこの下僕に手ぇ出すつもりなんぞ微塵も無かったんじゃい…!」

海王「ワシの部のものが勝手に虚無に荷担しただけのこと!」

氷姫「!?」

炎獣「…水精のやつの、独断だったって言うのか!?」

魔王「そんな…」

氷姫「いや………違う」

――水精「海王様のお言い付けなんだ。逆らうわけに、いかないんだ」

氷姫「あいつは命令だって、確かにそう言ったんだ…!」

海王「…裏切り者が何を言うとったとしても」

海王「信用に値するのかいのう?」

冥王「………」

氷姫「ふ、ざけるな…!」

氷姫「本当の裏切り者は、どっちだ!!」

海王「カッ。若輩がよう鳴くわい」

海王「水部署の長として誓おうぞ、冥王。ワシにはお前さんに対する敵意はこれっぽっちも――」

ヂッ

冥王「!」

36 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:14:58.77 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫(高水圧のレーザーが………っ!!)

氷姫(冥王様の、頬を…掠めた…!!)

海王「な………!!」

海王「誰じゃあ!! 勝手に仕掛けたんは!!」

海王「見つけろ!! 血祭りに上げるんじゃあ!!」

冥王「………」

海王「め、冥王…! 違うんじゃ、これは………ッ」


冥王「」スゥ












冥王「 ブ チ キ レ ま し た わ ! ! 」









37 :シップwaterfall339 [saga]:2017/10/07(土) 23:17:52.56 ID:Y9AZ6UEU0






氷姫《それから先のことは…よく覚えてないな》

氷姫《怒り狂った冥王様が、無数の軍勢を焼き尽くした》

氷姫《海王の抵抗空しく、氷の領域に集まっていた勢力は》

氷姫《奴もろとも全滅した》

氷姫《あたしの仇は、一瞬にして灰塵に帰した…》

氷姫《皆消えてなくなったわ》

氷姫《更地みたいになった氷の領域であたしたちは》

氷姫《………瀕死の重症を負った、水精を見つけたの》




水精「ぜぇ、はぁ…」

水精「なーによ、雁首揃えて…なんか、用?」

水精「ほっといても、アタイは、死ぬわさ、ぜぇ」

水精「はぁ、はは、それとも何、どうしても止め刺さなきゃ、気が済まない、て?」

魔王「…」

炎獣「…」

氷姫「…あの、冥王様への攻撃」

氷姫「あんたでしょ」

38 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:21:30.70 ID:Y9AZ6UEU0

水精「はは、バレちゃうか、はあ」

氷姫「死角からの攻撃だったとは言え、あの冥王様に手傷を追わせた高出力。他に、そんなことが出来る手練れは水部署にはいないわ」

水精「なにさ、誉めても何も、出ないわよ」

水精「――もう、アタイ、死ぬんだから…」

氷姫「………あんた、何がしたかったのよ」

水精「………」ゼェハァ

水精「人間から、停戦の申し出があったんだわ、さ」

魔王「!」

水精「魔界の勢力のひとつの、長の首と引き換えに」

氷姫「!!」

炎獣「…に」

炎獣「人間が…!」

魔王「…っ」

水精「話は、強大な力を持つ、闇部署の、虚無の所へもたらされた」

水精「虚無は、追い詰められていた海王様と、それから恐らく、炎部署の鳳凰にも、根回ししていた」

炎獣「!」

水精「魔王の座を争う、一勢力を排除して…人間の驚異も退ける、一石二鳥の、策として」

水精「生け贄には…トップについて間もない、未熟な結晶花の率いる、氷部署が選ばれた」

39 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:24:13.13 ID:Y9AZ6UEU0

水精「先代の娘…あんたに与する、雷帝と木竜は手強いから、ね」

魔王「………」

水精「虚無は、氷部の跡取りの血を、確実に絶やすために、このお師匠のところ、に、潜り込んだ」

水精「氷姫、あんたを、殺すため…」

氷姫「…」

水精「それも、失敗に、終わった。あたしの、せいでね」

水精「はっ、ざまぁ、ないわさ」

氷姫「――あんた………」

水精「アタイには」

水精「もう、先がなかっ、た」

水精「海王様に、背くわけには、いかなかったし、あんたを殺せても」

水精「口封じのため、すぐに殺される…」

魔王(………なんて)

魔王(なんて酷い、話だ)

氷姫「…っ」

水精「だから、最後のあれは、復讐、だわさ」

水精「いいように、弄ばれた、アタイから、海王様、への、ね」

40 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:25:18.83 ID:Y9AZ6UEU0

水精「あーあ…冥界なんて、来なければ、なぁ」

水精「そうすれば、もっと、うら若き身体を、もっとさ………」

水精「…何か………」

炎獣「水精…!」

水精「………"魔王"が」

水精「………"魔王"がいないせい…さ…全ては」

水精「…魔界を…統治する…強力な…支配者が………いなければ」

水精「………魔族…なんて………こんな…もんさ…ね」

魔王(………)

水精「――アタイ」

水精「………あんたに………勝ち………たかった」

水精「………氷の女………王………に」

水精「………ただ………誉められた………くて………」

氷姫「水精!」







水精「」





41 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:26:20.55 ID:Y9AZ6UEU0

氷姫「………」

炎獣「………人間の脅し。魔王の座を巡る争い」

炎獣「それが、こんな争いを引き起こしたって」

炎獣「そういうことか」

氷姫「………」

氷姫「水精も…多くの魔族も………死んで、もう戻ってこない」

氷姫(――…結晶花も)

魔王「…っ」

氷姫「………魔王の座がなんだってのよ」

氷姫「そんなことのために、こんなに殺して…っ」

氷姫「くそ…っ!」ゴッ

氷姫「くそぉっ………!」ゴッ…




魔王「………」


炎獣「…氷姫」

氷姫「うぅ…」

氷姫「うぅぅうううっ…!!」ポロポロ…


42 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/07(土) 23:27:27.15 ID:Y9AZ6UEU0


魔王「ねえ、炎獣」

炎獣「うん」

魔王「………氷姫」

氷姫「…」

魔王「――………私」




魔王「私、魔王になる」





氷姫「!」

炎獣(………)







魔王「こんな争いが起こらない魔界を」


魔王「私が、作る」











魔王「絶対に」



43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/07(土) 23:28:02.51 ID:Y9AZ6UEU0
今日はここまでです
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/08(日) 01:29:07.68 ID:JGJM4XVA0
待ってた

大量更新おつ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/09(月) 20:20:16.47 ID:d0Op1sF7o
おつおつ待ってた
46 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/14(土) 08:55:33.79 ID:0W6d7gZb0
>>17誤字訂正
結晶花『知ってた? お姉ちゃん、なかなか私の名前読んでくれなかったから』

○結晶花『知ってた? お姉ちゃん、なかなか私の名前呼んでくれなかったから』

次の投稿から酉を変えます↓
◆EonfQcY3VgIs
47 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:02:08.29 ID:0W6d7gZb0

――――――
――――
――




木竜「………なるほどのう」

雷帝「姫様が」

雷帝「そう仰るのでしたら…」

木竜「うむ」

雷帝「我らは身命を賭して、役目に当たるのみです」

木竜「………とは言え、まずは」

木竜「お帰りなさいませ。姫様」




魔王「…うん。ありがとう」

魔王「ただいま」

48 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:04:38.25 ID:0W6d7gZb0

炎獣「よっ、じーさん」

木竜「炎獣」

炎獣「…守ったぜ。いや、守られたのかな?」

木竜「うむ。色々あったようじゃな」

木竜「炎獣。………恩に着る」

炎獣「…へっ。よせやい、照れるべ」

雷帝「………」

炎獣「なんでムッツリ顔してんだよ、雷帝」

雷帝「…いや」

雷帝「お前の後ろに居るのは、なんだ?」

炎獣「ああ、こいつはな」

「こいつ?」

氷姫「何か態度がでかくなったわね、あんた」

炎獣「え、や、この方はですね…」

雷帝「氷の女王…氷姫」

氷姫「あら。あんたあたしのファンか何か?」

雷帝「その辺りの事情は、事前に姫様からの便りで聞いている」

氷姫「ちょっと、無視かよ!」

炎獣「おお、流石姫だな」

木竜「儂も例の現場は見てきたぞい。…究極氷魔法の、失敗。痛い目見たようじゃのう? 氷姫」

氷姫「う…うっさい!」

木竜「ほほ。…お主もしばらくは行く所もなかろう」

木竜「何よりも、姫様たっての推薦じゃ。しばらくここを、お前の家と思ってよいぞ」

氷姫「っ…」

氷姫「ま、まあ、力を貸してやらなくはないわよ」

炎獣「たはは…」

雷帝「それよりも、だ」

雷帝「…問題は、もう一人の方だ」

魔王「!」

炎獣「えっ、えっとぉ…」

氷姫「うっ…」

魔王「あ、あのね、雷帝」

魔王「これには深いワケがあって!」








「おやまあ、こんなチンケな出迎えしかないなんて、次期魔王が聞いて呆れる甲斐性だこと」

冥王「最上級の椅子とテーブル、それから紅茶の準備をする係は、何処の何方のお仕事ですの?」

49 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:06:51.11 ID:0W6d7gZb0

氷姫《本当に、なんの気紛れだったのか》

氷姫《修練を終えたあたしたちに、冥王様はついてきて、魔王がその座につくための協力を申し出てくれた》

氷姫《冥王様は、元々冥界という治外法権の主であると同時に、邪神を崇める司祭でもあった》

氷姫《司祭の仕事の方は、冥王様はろくにしていなかったのだけど…"魔王の承認"という大役が、その仕事には含まれていたわ》

氷姫《つまり、冥王様が「魔王はこの者だ」と言ってしまえばそれで魔王は決定してしまうわけ》

氷姫《冥王様が自ら"承認"をすることは今までに無かった。魔界の争いにおいて頂点に立った者が、形式的にそれを受けに冥界を訪れるのがそれまでの習わし》

氷姫《あたしたちの作戦は、そういうものを全部すっ飛ばして、当時の姫を魔王にしてしまおうって、そういうものだった》

氷姫《水部と闇部、それに氷部が滅んだ今、魔界の勢力図は大きく変化して》

氷姫《それぞれの部の長である木竜と雷帝、そして冥王様の試練で大魔術師の称号を手にしたあたし、そして邪神の加護を持つ魔王自身に、圧倒的破壊力の炎獣を従える一派は》

氷姫《魔界最強とも言える集団となっていた》

氷姫《ああ。結局魔王はあれっきり転移を使えなくって…あたしに転移体得の権利は移されたわ》

氷姫《納得は出来なかったけど…やはり転移はあたしの方が上手く覚えてみせた》

氷姫《ともあれ、冥王様がいつになく魔界勢力に関与した今回の王座争奪戦争は》

氷姫《冥王様の"承認"で呆気なく幕を閉じたわ》

50 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:14:32.64 ID:0W6d7gZb0

氷姫《元々炎獣の蘇生の時に、魔王になるっていう約束を交わしていたみたいだけど…冥王様の考えることは最後まで分からなかった》

氷姫《厄介だったのは、炎部署の鳳凰。奴は自らを四天王とすることを条件に、魔王への服従を提示してきて…》

氷姫《…え? あたしがどうして魔王について行ったか?》

氷姫《………そうね》

氷姫《他に行くべき所も無かったし…なんてのは駄目よね》

氷姫《魔王は…あたしの命を救ってくれた。その逆もあったけど…冥王様のしごきの中で、運命共同体みたくなっちゃったのよ》

氷姫《あの事件を一緒に経験した…ってこともあったし、それに何より》

氷姫《魔王なら、魔界を争いのない世界にしてくれるって、そう思った》

氷姫《あんなのは、もう二度とゴメンだったからさ》

氷姫《あたしはそのために、力を役立てたかった》

氷姫《…そうしたら、いつかあの子との…結晶花との約束も果たせるんじゃないかって》

氷姫《そう思ったのよ》

51 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:15:34.25 ID:0W6d7gZb0

氷姫《…あれ》

氷姫《涙、か》スッ

氷姫《笑っちゃうわね。氷の女王のくせに、涙なんて》

氷姫《でも、あたしの存在がそれだけ構築されたってことね》

氷姫《流石あたしだわ。一人でなんとかなるもんね》フフン

氷姫《………結晶花。あの日のこと、忘れたことないよ》

氷姫《必ずいつか、約束、果たしてみせるから――》


《あの日の騒乱の黒幕が誰であったか》

《お前は知らぬままなのに、な》


氷姫《っ! 誰!?》


《私か?》

教皇《お前たちを解体する者だ。よく覚えておけ》


氷姫《――敵!》ザッ

教皇《…どうやら、驚くべき速度で再構築を成し遂げたようだな。氷の女王》

教皇《しかしお前には、私に牙を向くことさえ許されない》

氷姫《何!?》


ゴポゴポ…!

魔王《…っ》


氷姫《魔王!?》

氷姫《取り込まれて、いるの!?》

52 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:18:03.43 ID:0W6d7gZb0

氷姫《馬鹿な…っ、あの、魔王が!?》

教皇《お前になす術などない》

教皇《そして、私の圧倒的な力の前に》

教皇《再度屈するのだ》ォオ…

 ド ッ !!

氷姫《がッ…ぁ!?》

氷姫《ぐぅ…っ!! な…なんてっ》

氷姫《なんて圧力………!!》

氷姫《これはっ…!! あの時の支配力に似てる…っ!!》

氷姫《貴…様ぁっ! また、あたしを操るつもり、か………!!》

教皇《…その未完成の状態では、本来であれば砕け散らない方が不思議なくらいだが…流石、四天王か》

教皇《だが、それも》

教皇《"仮初めの力"だ》

氷姫《何、ですっ、て!?》

教皇《お前は知らんのか? 何故貴様ら四天王がそこまで人間を圧倒できるのか》

教皇《その真実を》

53 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:20:56.39 ID:0W6d7gZb0

教皇《冥王が何故、魔王についてその側にいたか》

氷姫《…っ!!》

教皇《お前は何も知らないのだな》

教皇《無知なものが振るう大きすぎる力ほど、恐ろしいものはない》

教皇《排除されるべきは》



教皇《貴様らだ、四天王》






魔王《ぐっ…ごほっ…!》

魔王《苦しい…っ。くっ、取り込まれた!?》

魔王《私の存在、あと少しまで修復出来ていた、のに…!!》

魔王《なんて、強大な力…!!》

「………それで、どう…たのだ?」

魔王《!?》

「…ええ。虚無…、条件を飲む…ですよ」

「ふん。魔族も御し易くなっ…ものだ。先代魔王の存在………魔界にとって…大きかった…かもしれない」

魔王《これ、は…っ》

魔王《この人間の…教皇の、記憶っ!!》


教皇「で、その生け贄の部族には、どこが選ばれるのだ?」

魔法使い「予定通りです。氷部が選ばれました」

魔法使い「今回の一件を機に、氷姫という魔族が先代の娘の一派に合流するはずです」

教皇「これで、四天王となるべき魔族の顔ぶれが揃うというわけか」

魔法使い「ええ。ここで未来の魔王と四天王の結び付きは別ちがたくなります。冥王の後押しも相まってね」

魔法使い「台本通りですよ」

54 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:23:38.58 ID:0W6d7gZb0

教皇「………魔族ですら思いのままか」

教皇「そら恐ろしくすらあるな」

魔法使い「何を今さら恐れているのです?」


魔法使い「ショーは、これからでしょう?」



魔王《!!》

魔王《こ、これは…っ》

魔王《一体…――》




《転移っ!!》

――ギュオォンッ!

氷姫《魔王!!》

魔王《氷姫!?》

氷姫《脱出するわよ!!》

氷姫《ボヤボヤしていたら、あたし達の存在ごと精神を溶かされるわ!!》

55 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:24:29.82 ID:0W6d7gZb0

魔王《っ! だっ、駄目! 待って氷姫っ!》

魔王《今離れたら、この子が取り込まれてしまうっ!!》

赤毛《………》

氷姫《っ…! 魔王…!》

氷姫《その子は………人間なのよ!?》

魔王《…分かってる!》

魔王《でもこの子がいなかったなら! 私たちは今、この瞬間に死んでいる!》

魔王《再生が間に合わず、敵にひねり潰されていた!!》

氷姫《くっ…!!》

――金髪《お願いだよ…!!》

氷姫《………っ》

氷姫《ああ、もう!!》

56 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:25:36.54 ID:0W6d7gZb0

教皇《――抗うな。全ては必然――》

教皇《――そして必然の全ては我が手の内にある――》


魔王 氷姫《!!》


教皇《――考えたことはあるか――》

教皇《――今の貴様らを形作る過去が――》

教皇《――本当に本当なのか――》

教皇《――貴様ら自身が形作ってきたものが、確かなのか――》


魔王《っ!!》


氷姫《…魔王!!》ガシッ

氷姫《あたしを見て!!》

魔王《氷、姫》

氷姫《今は奴の言葉の意味を考える時じゃない!!》

氷姫《あたし達は、生き残らなきゃいけないんだ!!》

氷姫《そうでしょ!? 魔王!!》

魔王《――!》

魔王《………ごめん、氷姫…!》

魔王《そうだ…! この場を切り抜ける策を考えなきゃ…!!》

氷姫《策なら、ひとつあるわ!》

魔王《! それって…》

氷姫《魔王! あたしに》

氷姫《魔弓を撃って!!》

57 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:26:52.42 ID:0W6d7gZb0

魔王《っ!?》

氷姫《言っとくけど、出来うる限りパワー絞ってよ!》

氷姫《あたしがその求心力を反射して、あたし達の位置移動エネルギーに変換するっ!!》

魔王《出来るの!?》

氷姫《知らないわよ!!》

氷姫《やるしか、ないでしょうがっ!!》

魔王《………もし失敗したら…》

魔王《氷姫は…!!》

氷姫《――見くびらないでよ、魔王》

氷姫《冥王様のとこじゃ、魔力制御技術の成績は、あんたの比じゃなかったんだから…っ》ニヤ

魔王《…!》

氷姫《迷っている時間はないわよっ、魔王!!》

魔王《………分かった》

58 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 09:28:00.11 ID:0W6d7gZb0


魔王《行くよ、氷姫!!》




氷姫《来い!!》









魔王《――魔弓っ!!》
























59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 13:00:23.25 ID:13ZcuFtzO
真由美…
60 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 13:00:37.74 ID:0W6d7gZb0









教皇《………》

教皇《逃がした…のか》

教皇《魔弓のエネルギーを利用して、空間の彼方へ飛び去った》

教皇《自殺行為になりかねんことを、よくも………》


――教皇《排除されるべきは貴様らだ、四天王》

――氷姫《………》

――氷姫《知らないわよ…!》

――氷姫《あたし達が何であろうと…!! あたしには、もう失えないものがあるの!!》

――氷姫《守らなきゃならない、友がいるの!!》

――教皇《友…?》

――氷姫《転移ッ!》パチッ

――教皇《…ぬっ。貴様――》

ギュオォンッ…


教皇《………友、か》

教皇《これもまた、お前の筋書き通りなのか?》

教皇《つくづく、憐れみ深い男だ………お前は》

教皇《まあいい》

教皇《奴らは逃げ切ったように思い込んでいるようだが、"これ"は我が手中にある》

教皇《貴様らの崩壊は………もう、すぐだ。魔王》




61 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:06:30.90 ID:0W6d7gZb0





氷姫《ぜっ…はっ…》

魔王《逃げ、切れた………》

氷姫《へ…へへっ…》

氷姫《どーよ。見たか》

魔王《…氷姫。あなたって人は》

魔王《いつもいつも、命を賭けるような無茶をして………そして》

魔王《救ってくれるんだね…。私たちを》

氷姫《…あんたが魔王になった今だって…妹みたいな感じだからねぇ。あたしにとっちゃ!》

魔王《ふふ》

魔王《ありがとう》


魔王《それにしても………あの魔法使いと教皇の言葉。あれは…真実なんだろうか》

魔王《いや…私達の精神を揺さぶるための幻惑?》

62 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:08:15.46 ID:0W6d7gZb0

氷姫《…魔王》

魔王《!》ハッ

氷姫《あんたに何が見えてるのか、あたしには分からない。敵の言葉からですら、あんたは色んなものを読み取れるんだと思う》

氷姫《ただあたし達は、迷いながらでも進まなきゃならない》

魔王《…》

氷姫《あたしは、目の前のことを切り抜けるのに必死だからね。小難しいことは、あんたに任せる》

氷姫《あんたはその眼を開き続けて。見えたものへの道は、多少無理したってあたしが切り開くわ》

魔王《氷姫………》



《うおぉ?》

金髪《ど、どうなってんだ?》

魔王《! この子…》

氷姫《ああ、移動の瞬間に引っ付かんで、連れてきたの。残して来るわけにいかないでしょ?》

魔王《――氷姫…ありがとう。本当に。これで、赤毛ちゃんも…》

魔王《…!? そんな…っ》

氷姫《どうしたの?》

赤毛《…》

魔王《ここにあるのは…再生したこの子の肉体だけだわ》

金髪《…え?》

魔王《心が、ない。………精神だけが、囚われたままになってしまっている…!》

魔王《彼………教皇に…!》

63 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:09:16.10 ID:0W6d7gZb0

金髪《そ、そんな》

金髪《なんで? なんでだよ!? 赤毛、どうなっちまうんだよ!!》

魔王《………魔壁の内側は、精神世界としての意義が強い空間。だから、心は存在のほとんどを占める要素よ》

魔王《このままでは、彼女は教皇に利用される…》

氷姫《一番最初に、あたし達の自我を奪った時と同じように…か》

魔王《ええ。あんなに膨大な力を受けたら、今の私たちではひとたまりもないし、それに》

魔王《この子の心が、もたずにバラバラにされてしまうわ》

金髪《! …あ、赤毛っ》

魔王《状況を打破するには、私たちの力が足りない。逃げ回るので、精一杯》

氷姫《でも、あたしはほとんどの記憶を取り戻してんのよ? これ以上、どうしろって言うのよ》

魔王《…失われたピースが、まだひとつ戻っていない》

氷姫《! それって…》

魔王《そう》

魔王《まだ記憶を取り戻していない………雷帝の存在》

64 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:10:59.51 ID:0W6d7gZb0

魔王《雷帝は、私だけではどうにも出来ないほどの絶望に、心を閉ざしていた》

魔王《でも力の多くを取り戻した今の私や、氷姫や炎獣との繋がりがあれば或いは、再生の道を踏み出せるかもしれない…!》

氷姫《アイツの力が戻って初めて、教皇と張り合える可能性が出てくるってわけ?》

魔王《うん…だから》ス…

金髪《…? な、なんだよ》

魔王《私たちを、雷帝の所へ連れて行って》

金髪《はあ!? オ、オレが!?》

魔王《ええ。炎獣や雷帝と私たちを、結びつけて欲しいの。あなたになら出来ることよ》

金髪《んなこと急に言われたって…!》

魔王《行く先々で、あなた達は赤毛ちゃんとの繋がりをもって姿を見せた…。そして、何故か私たちそれぞれに寄り添ってくれたわ》

魔王《そのおかげで私たちはまだ生きている。あの子達は、あなたのお友達。違う?》

金髪《そりゃ…坊主や三つ編は、オレの友達、だけど》

金髪《………》

魔王《教えてくれない? あなた達のことを》

金髪《オレ達は…》

65 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:12:40.71 ID:0W6d7gZb0

金髪《オレは………っ》

金髪《城下町で町の連中から逃げるとき、皆がばらばらになっちまうって、そう思って》

金髪《もう皆には会えないかもしれないと思って、それで…》

金髪《それで――》




金髪(ああ、くそ)

金髪(声が震える。足も)

金髪「秘密基地で会おうぜ! ほら、アイツら来ちまう! 早く行けって!」

赤毛「…っ!」

三つ編「――必ず」

三つ編「必ず来てよね!!」

金髪「おう、任せとけって!」

三つ編「きっとだからね!!」ダッ

赤毛「三つ編…」

三つ編「急いで、赤毛! 逃げよう!!」グイ

赤毛「…!」

「この餓鬼、なんてことしやがる!」

「巫女様が、もうあんな遠くへ…!」

金髪「うるせぇ!!」

金髪「あいつは巫女様なんかじゃねえ!! 赤毛っていう、な…!」

金髪「オレの友達なんだよッ!!」




金髪《………オレ》

金髪《本当は、泣きたかった》


66 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:14:08.00 ID:0W6d7gZb0

金髪《小さい子みたいにぐずりたかった…っ。離れてくないって…!》

金髪《でも、泣いたらまた、皆離れていっちゃうって、そう思った》

金髪《母さんや、叔父さんみたいに…っ!》

氷姫《…っ》

金髪《だから、必死に、オレはコドモじゃないんだって言い聞かせた…!》

金髪《オレはコドモじゃない、大人ぶって偉そうにしてるだけの奴を信用なんかしてやるもんか…って》


金髪《でも、オレ》

金髪《本当はオレ、一人が怖いだけなんだ》


金髪《ずっと思ってた…! もう一人にしないでくれって…!》

金髪《皆と、一緒に居たいって…!!》ポロ…

金髪《母さんに側にいて欲しかった…!! 叔父さんにも!!》ポロポロ…

金髪《母さんが死んじゃってから、ずっと元気がなかった父さんにも…元に戻って欲しかった!!》


金髪《一人で我慢するのは…もう》

金髪《もう…もう、我慢なんてイヤだ…!!》




金髪《――皆に、会いたい!!》







カッ





67 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/14(土) 19:15:03.61 ID:0W6d7gZb0

《やっと》

三つ編《やっと泣いてくれたね》

三つ編《金髪》

金髪《…!!》

坊主《金髪》

坊主《ごめんね、僕…。金髪に、頼ってばっかり》

坊主《金髪だって、泣きたかったよね》

坊主《ずっと…我慢してたんだよね》

金髪《坊主…。三つ編》

坊主《ごめんね》

三つ編《金髪…》

三つ編《泣いても、いいんだよ》

金髪《オレ…》

金髪《オレ》



金髪《………ぅぅうう、うあぁあぁあっ!》



68 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 19:16:25.37 ID:0W6d7gZb0


氷姫《………》

炎獣《…この子達の心の繋がりが、お互いを引き寄せたんだな》

氷姫《! 炎獣…》

炎獣《あの子供の叫びが、俺にも聞こえたんだ。これ、俺達があの子達と俺達がリンクしてるってことだよな?》

魔王《…うん。そうして私達も、引き寄せられた》

氷姫《あのやんちゃ小僧の感情が》

氷姫《あたしにも流れ込んでくる…》

氷姫《ヘンだよね。敵だと思ってた人間の気持ちと、こんなにも自分が同調してるなんてさ》

炎獣《…ああ》

氷姫《あたし達は、さ。ずっとこういうことを繰り返し続けてきたんだ》

氷姫《人間の命をひたすら奪い続けて………ここにあるのは、深い悲しみと、傷の連鎖》

炎獣《…》

炎獣《魔王と、勇者。…魔族と人間の戦争》

炎獣《分かっていた、はずなんだ。こんなこと》

炎獣《なのに、今になってどうして》

氷姫《うん…》

炎獣《――どうして、こんなに迷うんだろう》

魔王《………》

69 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:23:36.80 ID:0W6d7gZb0

魔王《魔王と勇者の戦い》

魔王《この戦いに、一体何の意味があるのか》

魔王《私たちは…それを考えなきゃいけなかったのかもしれない》

氷姫《意味…》

炎獣《そんなもん、あるのかよ…?》

炎獣《魔族が、魔族であるために人間を倒す。人間もおんなじだ》

魔王《…そう。まるで、生きるためには相手を殺さなきゃならないみたい…》

魔王《人は魔族を、魔族は人を、犠牲にしなきゃ生きることは出来ない…?》

魔王《私達の生は………》


魔王《相手の命を奪うために、存在してるのかな…》


氷姫《…》

氷姫《あたしには、分かんない》

氷姫《あたし達は生きていくだけで必死で、その意味なんて考える暇もない》

氷姫《毎日は死の刃を振りかざしながら行進してくる》

氷姫《息継ぎが遅れれば、あっという間に踏み潰されて、消えて無くなる他ない存在になる》

氷姫《死にたくないから、生きるのよ。誰かを犠牲にしたって》

魔王《………》

70 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:26:47.09 ID:0W6d7gZb0

魔王《私達もここまで、ぎりぎりの選択をしながらやってきた》

魔王《命を狙われ、逆に踏みにじるようなことをして、それに気付いてしまったとしても………それでも》

魔王《笑いあって、お互いを信じてここまで来た》

魔王《………私は、信じてる》

魔王《道は、見つかるはず》

魔王《だから進もう。見つけ出した彼の所へ》

氷姫《………ねぼすけを一人、起こしに行かなきゃ、ね》

炎獣《…ああ》


魔王《さあ、あの子達の心が繋がり合ったように》

魔王《私たちもお互いの絆を信じて…!》

魔王《そうして呼び掛けよう!》


魔王《雷帝の心に!!》



71 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:27:57.65 ID:0W6d7gZb0


《雷帝》

《雷帝…!》

雷帝《誰だ?》

雷帝《そこで何をしている? 止めてくれ》

雷帝《私は、もう思い出したくないんだ》

《俺達の事もかよ?》

《迷ってる俺に檄を飛ばしてくれたよな、雷帝》

《きっとお前も迷ってたのにさ》

雷帝《何の、事だ………》

雷帝《うっ…!》



ザザ…ザ


炎獣「今まで人間を殺しまくってた俺が、今さら何言っちゃってんだって感じだよな」

雷帝「…やはり馬鹿だな、お前は」

炎獣「え?」

雷帝「気を引き締めたいのならば、そんな感情はさっさと捨ててしまえ。考えるのは全てが終わってからでいい」

雷帝「迷いながら戦っていては、死ぬぞ」



《どうしてお前はそんな風に前を向けたんだ?》

《何がお前を急き立てた?》

雷帝《………私は》

72 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:29:13.12 ID:0W6d7gZb0

《あんた、あたしを信じるってそう言ったわよね?》

雷帝《何…?》

《言ったのよ、あの時》



氷姫「………ねえ」

雷帝「なんだ?」

氷姫「重いわね」

氷姫「信じろ…って」

雷帝「…そうだな」

雷帝「だが、今はこうも思う」

氷姫「?」

雷帝「″信じる″というのは、悪くない気分だ」

氷姫「…そ、か」

雷帝「成功させろよ。究極氷魔法」

雷帝「信じてるぞ」



ザザザ…ザザ………


《あの時のあたしに言ったことまで…無かったことにするつもり?》

雷帝《………》

《ねえ、あんたはあの時、どうしてあそこまで腹をくくれたの?》

《あんたの覚悟は…何処から生まれるの?》

雷帝《私の、覚悟…》

73 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:30:09.59 ID:0W6d7gZb0

《雷帝………あなたは、いつも私たちを導いてくれた》

《どんな時だって、一人冷静に状況を見ていた》

《それが、正しい選択だとひたすら信じて》

《それは、苦しい戦いだったはず》

《あなたは一人、どうしてそれをやり遂げてこれたの?》

《教えて。あなたのこと》

《あなたの、想いの理由》

雷帝《私の………想い》




ザ………ザザ…




雷帝「わ、私は…! 魔王様の為ならば、命も惜しくありませんっ!」

雷帝「魔王様は、この争いを終わらせることが出きるだけのお方だと信じています! ですから…」

雷帝「魔王様が、これ以上″力″を使い、生命を削るような事は…私がさせません」

魔王「雷帝…」


74 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/14(土) 22:32:24.64 ID:0W6d7gZb0

ザザ…ザザザ………


魔王《!》

氷姫《何か見えてきたわ…。これって…》

魔王《雷帝が一歩を、踏み出したんだ》

炎獣《俺たちの声が、届いたのか!?》

氷姫《そうみたいね》

炎獣《やったぜぇ!》

氷姫《それにしても…あの雷帝がここまで殻に籠っちゃうなんてさ…一体何事なわけ…?》

炎獣《俺もそれはさっぱり…》

炎獣《ん? なあ、この雷帝が見ている景色………魔王城か?》

氷姫《これ、魔王がその座につく前の魔王城? 過去の…雷帝の記憶の中の、魔王城よ》

魔王《雷帝が、過去を明かしてくれるんだ》

魔王《一体、何があなたを傷つけたの? 雷帝…》

炎獣《お、おい! あそこに倒れてるのって…っ!》

魔王《!!》

氷姫《あれは…》

氷姫《先代様!?》




先代「」




「…これで」

女勇者「これで全てが終わった…?」

剣豪「…っ」

賢者「………こんな終わり方が…あると言うのかい?」




魔王《こ…》

魔王《これは………》




先代「」


剣豪「――魔王は死んだ」

剣豪「つまりは、全ての終わり。そう言うことだろうが」

剣豪「俺様達の冒険は、終わったんだよ………」






魔王《――お父様………っ!!》


炎獣《あ、あいつら…!!》

氷姫《お…女勇者…!?》

氷姫《………こいつら、先代勇者一行だ…!!》

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/14(土) 22:38:37.06 ID:0W6d7gZb0
今日はここまでです
76 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:52:50.10 ID:ib3C7KTz0

魔王《お父様っ!!》

炎獣《せっ、先代様がっ! 女勇者にやられたのか!?》

氷姫《炎獣、魔王、落ち着いて!》

氷姫《これは………もう、過去の出来事よ…!》

氷姫《あたし達は雷帝の記憶の中にいるんだ…!! あたし達は、この時の事に、関与できない!》

魔王《…っ》



女勇者「………終わったのなら、戻ろう」

女勇者「いずれにせよ、私達は」

剣豪「――勝ったんだよ!」

女勇者「…!」

剣豪「俺様達はここまで突破してきた!」

剣豪「魔王は死んだ!」

剣豪「とくりゃあ…人類の勝利だろうが!! それ以外の何がある!?」

女勇者「………ああ!」

女勇者「ああ、そうだ…!」

女勇者「私達は、勝ったんだ…っ!」

77 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:53:41.58 ID:ib3C7KTz0

賢者「………………」

剣豪「…賢者。何を浮かねぇ顔してやがる?」

賢者「この魔族…――」ゴソ…

女勇者「………そいつは一体何だ?」

賢者「この者は、魔王の側近を勤めていた魔族だね」

剣豪「…ひでぇ有り様だ。こりゃあ死んでやがるな」



雷帝(………何故、だ)

雷帝(どうなって、いる…)

雷帝(何故私の体は地を這い)

雷帝(微塵も動くことが許されない…?)

先代「」

雷帝(魔王、様)

雷帝(魔王様が………)

78 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:54:35.33 ID:ib3C7KTz0

木竜「ぜ…ひゅ…」

鳳凰「………ぐはっ」

雷帝(四天王が………敗れたと言うのか)

玄武「」

雷帝(玄武殿………)

雷帝(死んでいる…)

雷帝(そう、か。我々は…)

雷帝(我々魔族は………敗れ去ったのか)



剣豪「…おめぇ、本気で言ってんのか?」

賢者「…これは…もしかすれば、とんでもない事実ってことになる」

女勇者「………」

賢者「持ち帰えろう。"これ"を…」




雷帝(搾取される)

雷帝(全て奪われる)

雷帝(我らの魔界が)

雷帝(終わってしまう………!!)

79 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:55:44.27 ID:ib3C7KTz0

雷帝(くそ)

雷帝(くそ…っ!!)

雷帝(なんて、無力なのだっ、私は!!)

雷帝(何一つ、守れなかった…!!)

雷帝(何一つ………)


先代『………雷帝………』

雷帝(!?)

先代『………お前に………託す………』

雷帝(魔王様っ…!?)


先代『………魔王を………』

先代『………守ってくれ………次の………魔王となる………』

先代『………あの子を………』


キラッ

雷帝(これ、は…)

雷帝(このエネルギー体は)

雷帝(剣…!)

先代『………私が………お前に与えられるのは………』

先代『………もはや………これだけだ………』

先代『………雷鳴剣………呪われた剣だ………』

先代『………守ってくれ………』

雷帝(魔王様!!)

雷帝(魔王様ぁ!!)


80 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/21(土) 09:57:14.46 ID:ib3C7KTz0

先代『………雷帝………』

先代『………呪いを………を押しつけること………許せ………』








雷帝《そうだ》

雷帝《これが、私の覚悟》

雷帝《――思い出した。私には守らなければならないものがある》

雷帝《先代様から受け継いだ、雷鳴剣にかけて》

雷帝《私は、守るために、あの日を生き延びた。だから私は――》


教皇《けれどお前はしくじった》


雷帝《!》

教皇《その雷鳴剣を用いて、戦士率いる王国軍と、盗賊率いる翼の団を壊滅せんとしたお前は》

教皇《翼の団の軍師…あの女の罠にかかって瀕死の重症を負った》

教皇《そのお前を癒さんと、集中治癒に臨んだ木竜が、死ぬことになったのだ》

雷帝《…私の、せいで》

教皇《そう、お前のせいだ》

教皇《お前はひとつも守れていない。それどころか、未熟なお前のせいで、木竜は死んだ》

教皇《お前が殺したのだ!》

雷帝《私が…》




《バーカ言ってんじゃないわよ》

教皇《!》

雷帝《…お前》


氷姫《よ》

81 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:58:06.35 ID:ib3C7KTz0

雷帝《氷姫…》

氷姫《惑わされてんじゃないわよ。あんたらしくもない》

氷姫《よく見なさい。その言葉を並び立てている相手は誰?》

雷帝《………相手》

教皇《無駄だ、氷姫。貴様の微弱な波動では、こやつの精神に干渉することは出来ぬ》

教皇《弱りきった雷帝の魂は、影響力の大きい存在の侵食になすすべなどない》

氷姫《…》

教皇《そして私の大器と、赤髪の娘の膨張能力を持ってすれば、心への干渉など造作もないことだ》

氷姫《………ったく》

氷姫《ちょろちょろとあっちこっちから現れて、ホントによくしゃべる男ね》

教皇《…なんだと?》

氷姫《あーハイハイ。あたし一人じゃどう足掻いても無理だって言うんでしょ。悪かったわね、ビジャクなハドウで》

氷姫《――でも、これならどうかしら?》

炎獣《捕まえたぜ、雷帝》ガシッ

雷帝《! 炎獣?》

炎獣《もう、何処にも行くんじゃねえぞ》

教皇《!? 馬鹿な、不安定な雷帝の魂に触れている…!》

教皇《なぜ…》


《せーので声を揃えるわよ!》

《ほ、ほんとに意味あるのかよぉ?》

《いいから、ほら、行くよ!》

《《《せーの!》》》

三つ編 金髪 坊主《雷おじさーん!!》

82 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 09:59:37.13 ID:ib3C7KTz0

教皇《!?》

雷帝《な、なんだ…?》

氷姫《ぶwwwwwww! 雷おじさんwwwwwwwww》

炎獣《こりゃあ形無しだなぁ?》タハハ…

教皇《なんだ、あの小僧共は…!》

教皇《四天王の存在同士を、リンクさせている役割を担っている…!? これではまるで…!》

《そう》

魔王《あなたにとっての赤毛ちゃんの力を、あの子達が、私たちにもたらしてくれる》

教皇《魔王…! 貴様…》

教皇《なぜ貴様が、奇跡の僧侶と同等の力を持つ存在を従えている!?》

魔王《従えてなどいないわ。彼らは自分の意思で私達に力を貸してくれている》

魔王《友達を助けたい。彼らの思いはただその一心よ》

教皇《くっ…戯れ言を…!》

魔王《教皇。あなたには、彼らの生命の結束が織り成す力は完全に計算外のようね》

魔王《あなたの状態も未だ万全ではないようだけど…ここであなたが勝負を挑むつもりなら》

魔王《私は、それに応じましょう》

教皇《………!!》

教皇《いいだろう…。ここは一旦引いてやる…!》

教皇《だが、全てが元に戻ったところで、結果は変わらん!》

教皇《私たちの力は、簡単に貴様らの結束とやらを食い破り、蝕むだろう!!》

教皇《それは単なる想像ではない!!》

教皇《歴史なのだ!!》


フッ…


83 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:00:52.73 ID:ib3C7KTz0

炎獣《…いなくなったか》

氷姫《けっ、清々しいほどの負け惜しみだわ》

魔王《…》



坊主《おじさん》

雷帝《…お前》

坊主《借りていたもの、返すね》キラッ

雷帝《それは…》

坊主《僕を助けてくれて、ありがとう!》

坊主《大事なもの、なんでしょ?》

雷帝《………温かい》キラッ

雷帝《ああ、そうだ。これは、私の…魔王様への、想い》

氷姫《ちょっと!》

雷帝《ん?》

氷姫《とっととしまいなさいよ! 魔王がそこにいるのよ!》ヒソヒソ

雷帝《………!?》

魔王《…》プシュゥウ

金髪《ん? なんで赤くなってんだ?》

三つ編《ふふ。魔王さん、モテモテだなぁ》

84 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:02:01.59 ID:ib3C7KTz0

雷帝《なな、なんで、魔王様がここに!?》

炎獣《今さら気づいたのかよ?》

三つ編《お兄さんも、最初はそんなこと言ってたでしょ?》

炎獣《んっ!? そ、そうだったけかぁ?》

三つ編《そうよ!》

氷姫《ったく男共はこれだから…》

金髪《姉ちゃんだって、弱音ばっかだったじゃねーか》

氷姫《うっさいわね! あんた、誰にも言うんじゃないわよ!?》

金髪《ひえっ》


雷帝《こ…》

雷帝《これは…どういうことだ?》

雷帝《いつの間にみなと、それに、人間の子供が………》

魔王《…雷帝》

雷帝《魔王様…!》

魔王《雷帝は、一人じゃないよ》

魔王《もう、充分自分を責めたよ。だから、歩き出してみよう》

雷帝《っ…》

魔王《今度は一緒に背負わせて。雷帝の傷を》

炎獣《よろけたらそん時は…肩、貸してやるぜ。ちょっとばかし熱いけどな》ニ

雷帝《炎獣》

氷姫《つまづいたら、あたしが支えてやるわよ》

氷姫《今回だけ、だけどね》

雷帝《氷姫…》

85 : ◆cJ/Se2MNFnrs [saga]:2017/10/21(土) 10:03:10.83 ID:ib3C7KTz0

雷帝《私の、傷。…そうか。対峙すべき時なのですね》

雷帝《私の罪と》

魔王《雷帝の…罪?》

雷帝《あの時………先代様が亡くなった時》

雷帝《私たちの魔王城には、女勇者がその恐ろしいほどの力を以てして、潜入を為し遂げていました。………我らに感知すらさせずに》

雷帝《そして、時を同じくして魔王城では…――あるひとつの、反乱が起きていたのです》

雷帝《何百年も魔界を支え続けていたはずの、先代様に最も近しい男》

雷帝《………側近》

雷帝《奴自身による、反乱が》


86 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:04:58.00 ID:ib3C7KTz0

雷帝「側近様…正気ですか!?」

鳳凰「血迷ったのかえ? 側近」

側近「いいえ。僕は至って正常ですよ」

側近「異常なのはこの事態です。あってはならないことなんです」

先代「………」

雷帝「だからと言って、そんな!」

玄武「んだ。話が飛躍しすぎだべ、側近」

側近「そんな事はありません。このまま魔王様の邪神の加護が弱まれば、確実に勇者一行に敗北します」

木竜「じゃから、殺せと言うのか? まだ赤ん坊の、その子を」

側近「はい」

側近「魔王様、僕はもう一度ここに進言します」

先代「………」

側近「あなたのお嬢様は、今の内に、殺してしまうべきです」

87 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2017/10/21(土) 10:06:04.51 ID:ib3C7KTz0

側近「邪神の加護を受けるは、魔界の全てを統治する者」

側近「王者は魔界に一人だけ。それを誰よりもよく知っているのが、あなたのはずです。魔王様」

側近「邪神の加護を受け、その力で乱世を平定し、その玉座についたあなたですから」

先代「………」

側近「時より、邪神の加護もなしに魔王の座に着くものもいましたが、いずれ全て、加護を持つ者に淘汰されてきた」

側近「その邪神の加護が、魔王様がご健在な今、その娘に受け継がれ始めている」

側近「これは、あなたが敗れることを宿命づけているのではないですか?」

雷帝「な、何を…!!」

木竜「言葉が過ぎるのう、側近」

側近「事実を言ったまでです。そしてそれに対する打開策が…」

側近「まるで魔王様から吸いとるがごとく、その邪神の加護を増していく…その赤子を殺すこと」

側近「既に魔界の王者の資格を、その子供は持っています。ともすれば、彼女はあなたの敵と言っても過言ではないはずです」

先代「………」

雷帝「魔王様…」

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