僧侶「勇者様は勇者様です」

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253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/26(木) 13:48:53.27 ID:wGaqsHbdO
報告編「報連相は確実に!」
254 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 14:53:45.90 ID:KWPNgOK80





法国の熱い船乗り「ああ? お前らあのヤローの知り合いか?」

勇者「そうなんだ、実はこういった事情で……」


勇者は事情を説明した。


法国の熱い船乗り「……なるほど分かった」

法国の熱い船乗り「こんな状況で海に出るなんざ正気じゃねえが、そういう事なら地獄の果まで付き合ってやるぜ!」

僧侶「ほ、本当ですか……!?」

法国の熱い船乗り「おうよ! 今から準備を始めるからちょっと待ってな」

法国の熱い船乗り「誰かに姿を見られたくないってんなら先に船の中で待っていて構わねえぜ」

紅眼のエルフ「結局普通にはいかないのがこの子達なのね」
255 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 14:54:15.01 ID:KWPNgOK80
暗器使い「普通ではないが、上手く行かない訳では無いのがこいつらの面白い所だ」

紅眼のエルフ「なるほどねえ……」





──法国本島から東の洋上


勇者「…………」

僧侶「……大丈夫ですか?」

勇者「今回はあらかじめ酔い止めを飲んだから多少は……」

法国の熱い船乗り「何だボウズ、酔いやすいのか?」

勇者「恥ずかしながら……」

法国の熱い船乗り「ったく根性がねえな。そんなんじゃ一人前の船乗りにはなれねえぞ」
256 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 14:59:11.97 ID:KWPNgOK80
勇者「ええ……僕っていつの間に船乗り志望になったの……?」

法国の熱い船乗り「しっかし先発のヤローどもに見つからないようにコソコソと進んでいたら思ったより日数がかかっちまったな」

法国の熱い船乗り「前が詰まってちゃ小型船ならではの機動性が活かせねえや」

紅眼のエルフ「上陸地点もずらした方が良いでしょうしね」

暗器使い「まあ俺達が向かうべき状況なのかも分かっていないんだ。今は焦る必要も無いだろう」

暗器使い「それにしてもダンジョンか……久しいな」

勇者「暗器使いもダンジョンに行った事が?」

暗器使い「その言い方だと勇者もあるみたいだな」

勇者「僕は修行の一環で父さん達と昔ね」

暗器使い「なるほどな……俺は領内のダンジョンの調査に携わったことあってな」
257 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:04:02.03 ID:KWPNgOK80
勇者「暗器使いの本職とはかけ離れた仕事みたいだけど?」

暗器使い「それは今もそうだろう」

勇者「まあね」

僧侶「恥ずかしながら私は一度も……」

紅眼のエルフ「それこそ本職とはかけ離れているじゃない。気にしなくていいのよ」

僧侶「そう言って頂けると……」

僧侶「ですが今からダンジョンへ向かうわけですからある程度の知識は備えておきたくて……何か注意するべきことなどは有りますか?」

勇者「じゃあダンジョンに関しての簡単な説明をするね」

勇者「ダンジョンまたは迷宮っていうのは強力な力の持ち主や自然的な力の吹き溜まりによって生成される結界の一種なんだ」

勇者「ダンジョンが生成されるとその内部では生成者……つまりダンジョンの主とその配下の力が底上げされるんだ」
258 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:05:11.01 ID:KWPNgOK80
勇者「内部に居ても主の配下ではない者……つまり僕達攻略者はその恩恵を受けられないから非常に不利なんだよね」

勇者「ダンジョンを消滅させるには主が術を解除するか、主が死ぬしかない」

僧侶「つまり今回のような状況では恐らく……」

暗器使い「向こうが術を解いてくれるなんてことは無いだろうから、主を倒すしか方法はないだろうな」

紅眼のエルフ「それは随分と骨が折れそうね」

紅眼のエルフ「ダンジョンを出現させるだけの力の持ち主の中でも、彼らにとっての敵の本陣目の前を任された奴が主ってことでしょう?」

暗器使い「ああ、並大抵の相手ではないはずだ」

勇者「聖騎士団も当然その事は分かっての人選のはずだから大丈夫だとは思うけど……」

勇者「それでもかなりの激戦になるだろうね」

僧侶「そんな中で私達は一体何をすれば……」
259 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:05:47.55 ID:KWPNgOK80
勇者「少人数の機動性を活かして索敵や情報収集をしようと思うんだ」

僧侶「しかし情報を集めた所でそれをどうやって騎士団に伝えれば? 私達は法国本島に居ることになっているんですよ?」

勇者「いやあ、それはもう普通に伝えに行けば良いんじゃないかな」

僧侶「えっ」

勇者「着いちゃったものは仕方が無いという事で」

僧侶「はあ……要するに無策という事ですね……」

紅眼のエルフ「まあ勇者の言う通り来てしまったものは仕方が無いでしょう」

紅眼のエルフ「割り切ってもらうとしましょう」

暗器使い「僧侶、諦めろ。俺よりも付き合いの長いお前なら勇者の事もよく分かっているだろう?」

僧侶「ええそれは勿論……」
260 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:06:28.27 ID:KWPNgOK80


その時、船乗りが遠方を睨んで銛を構えた。


法国の熱い船乗り「おう! 話している所悪いんだが揺れに備えてくれ!」

勇者「どうしたの?」

法国の熱い船乗り「ダンジョンとやらに行く前にウォーミングアップができそうだぞ」

法国の熱い船乗り「あの魚影は恐らく……ウロコザメだ!」


船乗りの目線の先に鮫というにはあまりに大きな魚影が近づいて来るのが見えた。


暗器使い「俺に任せろ」


暗器使いはそう言うとどこからともなくライフル銃を取り出した。


法国の熱い船乗り「お前一体どこからそれを……?」

紅眼のエルフ「ふうん……そういう力なのね」
261 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:07:36.21 ID:KWPNgOK80
法国の熱い船乗り「力……? そうやってどこからか武器を取り出すのが兄ちゃんの能力だっていうのか?」

法国の熱い船乗り「そいつはすげえがしかし……」

暗器使い(この距離なら当たる……)


暗器使いが引き金を引き、弾がウロコザメに向けて撃ち出された。

しかし銃弾はウロコザメの体を貫くことはなく甲高い金属音とともに弾かれてしまった。


暗器使い「硬い……!」

法国の熱い船乗り「ウロコザメは全身が金属みたいな鱗で覆われている」

法国の熱い船乗り「少なくとも頭側から攻撃しても弾かれるだけだぜ」

勇者「で、でも鮫はこっちに向かってくるわけだから……」

法国の熱い船乗り「おうよ。だからこうするんだ」
262 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:12:16.39 ID:KWPNgOK80
法国の熱い船乗り「まず一発目を避けるぞ!どこでもいいから捕まっておけ!」


船乗りはそう叫ぶと向かってくるウロコザメを避けるように思い切り舵を切った。


僧侶「きゃっ!」

勇者「うわわっ!」

法国の熱い船乗り「へっ! 落ちんなよ!」

法国の熱い船乗り「そんで……こうすんだよ!」


船乗りの手にしていいた銛が突如青白い稲妻を纏い出し、それが船を飛び越えて着水したウロコザメへ向かって投擲された。


勇者「す、凄い……!」

法国の熱い船乗り「護衛もなしにこの辺りで船乗りやるにはこれぐらい出来なくちゃなあ!」

法国の熱い船乗り「だが……ちっ、浅かったな……!」
263 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:12:52.29 ID:KWPNgOK80
暗器使い「もう一度来るぞ……!」

法国の熱い船乗り「しょうがねえ、もう一回やるか……」

紅眼のエルフ「いえ、その必要はないわ」

紅眼のエルフ「念の為と思ってこれを持ち込んでおいて良かったわ」

法国の熱い船乗り「それは船に積み込んだ苗木の枝で作った矢か……?」

法国の熱い船乗り「そんなもんで何をしようって……」

紅眼のエルフ「まあ見ていてちょうだい」

法国の熱い船乗り「何をするつもりかしらねえが任せていいんだな? 来るぞ……!」

紅眼のエルフ「……!」


紅眼のエルフが放った矢は生木特有のしなりのせいか、安定感のない軌道で飛んでいった。
264 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:13:30.42 ID:KWPNgOK80
しかし彼女が二、三言何かを唱えるとウロコザメの目の方向へと鏃が行き先を変えた。


勇者「あ、当たった……!」

法国の熱い船乗り「な、なんちゅう矢の軌道だ……!」

暗器使い「これが噂に聞く森の民の風を操る力か……」

僧侶「で、でも片目を潰されてもまだ鮫は怯んでいませんよ……! こちらへ向かってきます!」

紅眼のエルフ「大丈夫よ。私達が使役しているのは風だけじゃないわ」


再び彼女が何かを唱えると、ウロコザメの頭部から無数の枝が飛び出し爆ぜた。


紅眼のエルフ「生木の矢を使えばこんな芸当も出来るのよ」

暗記使い「ほう……」

勇者「え、えげつない……」
265 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:16:04.79 ID:KWPNgOK80
法国の熱い船乗り「ほーう、この状況下であの島に向かうって言うだけはあるな」

僧侶「元から戦闘要員ではない私は勿論ですが、こういう場所だと勇者様も見ているだけしか出来ませんね……」

勇者「そうだね……エルフさんが仲間になっていてよかった」

法国の熱い船乗り「さあて気を取り直して再出発としようか」
266 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:16:56.96 ID:KWPNgOK80





法国の熱い船乗り「よし、この辺なら騎士団の船にも見つからないだろう」

法国の熱い船乗り「しかし本当にいいんだな……?」

勇者「うん。どうせダンジョンの中では会わなくちゃいけないんだから、帰りは騎士団のお世話になるよ」

法国の熱い船乗り「お前さんがそう言うなら良いんだろうけどな……」

法国の熱い船乗り「まあ頑張れや。俺はこの辺で退散させてもらうぜ」

僧侶「本当にお世話になりました」

暗器使い「帰りも気をつけてくれ」

法国の熱い船乗り「おうよ。じゃあな」


船が無事に沖へ進んでいくのを見送った一行は、装備を再確認して島の奥地へと探索を開始した。

267 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:21:56.22 ID:KWPNgOK80
勇者「そういえばこの島には元々何かあるのかな?」

僧侶「伝統のある寺院があると聞いています。かつては神官らの修業の場としても使われていたとか」

僧侶「近年は老朽化かが進んでいるので保護のために実用は控えられていたようですが」

勇者「じゃあダンジョンの中心はその寺院の可能性が高いね」

暗器使い「教会の伝統的な施設にダンジョンが現れた、か……」

勇者「どうしたの?」

暗器使い「いや、先日の報告を詳しく聞いた所だと、他国では大きな教会自体がダンジョン化に巻き込まれた所もあるらしいな?」

紅眼のエルフ「ええ、そうみたいね」

暗器使い「これは力の誇示……教会勢力への強い敵対意思を示すためのものであることは間違いないだろう」

暗器使い「だがそれだけではない筈だ」
268 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:22:36.93 ID:KWPNgOK80
暗器使い「アピールにしたって目立ちすぎだ。何も各地でこれ程大規模にやる必要があるだろうか」

僧侶「何か別の狙いがあると?」

暗器使い「ああ、これはもしかすると陽動なのかもしれない」

暗器使い「新生魔王軍はこの後に別の……つまりは本命を成すつもりなのではと俺は思っている」

暗器使い「あくまで推測だがな……」

紅眼のエルフ「…………」

僧侶「で、でしたら……」

暗器使い「だが俺たちのやることは変わらない」

暗器使い「これ程の規模の事を陽動に使えるような敵だとすれば、俺たち四人にできることなんざ知れている」

勇者「確かに……」
269 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:23:04.62 ID:KWPNgOK80
暗器使い「教会も馬鹿ではない。気付いてはいるはずだ……」

紅眼のエルフ「そういう事なら早速奥へと行きましょうか」

紅眼のエルフ「身軽なのが今の私達の取り柄なんでしょう?」

勇者「そうだね、行こうか」
270 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/07/31(火) 15:27:41.34 ID:KWPNgOK80
お気づきだとは思いますが、ちょうど前作の《ダンジョン》編と同じ時間の話となっています。
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/31(火) 16:12:06.21 ID:V6qnDRvcO
乙ー
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 00:12:49.30 ID:UZW9tGWDO
乙乙
273 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:03:59.88 ID:b0hzDa7B0





僧侶「だいぶ奥地まで来ましたが……もしかしてあれが」

勇者「うん、ダンジョンの始まりだね。あそこを通過したら制圧するまで戻ってこれないよ」

暗器使い「最低限のものは持ってきているが、長期化しそうならば先発の騎士団の世話になることも視野に入れておいたほうが良いだろう」

勇者「よーし、気をつけて進もうね」


一行は周囲に警戒しながらダンジョンへ踏み込んだ。


僧侶「あ、あれ……? さっきまでこんなに建物や洞窟が有りましったけ?」

紅眼のエルフ「ダンジョン結界内は地形や構造物すらも複雑に変化して文字通り迷宮と化すのよね」

暗器使い「ああ、元の地理の知識は何の役にも立たない。精々中心部がどの方角かが分かる程度だ」

暗器使い「先頭は俺に任せろ。エルフは後方の警戒、勇者は僧侶の護衛を頼む」
274 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:04:57.55 ID:b0hzDa7B0
紅眼のエルフ「わかったわ」

勇者「了解」


暗器使いを先頭にしばらく進んでいくと前方から飛び出してくる影あった。


暗器使い「早速お出ましか……」

勇者「デカい方は任せて! 暗器使いはゴブリンの群れをお願い!」

暗器使い「ああ」

サイクロプスA「オオオオオオッ……!」

勇者(要領はオーガを相手にした時と同じでいいはず……!)


勇者は振り下ろされた棍棒を身を翻して避けると、サイクロプスの懐に飛び込んで剣を突き立てた。


勇者「次っ……!」
275 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:06:17.76 ID:b0hzDa7B0
暗器使い(相変わらず危うい闘い方だ……だが……)

暗器使い(まあいい。俺は俺の相手に集中をせねば)

暗器使い(武装したゴブリンが六体……取るに足らない相手ではあるが手は抜かない)

暗器使い(失敗とはすなわち死だと教えられて来たからな)

暗器使い(銃……は流れ弾が勇者に当たる可能性がある)

暗器使い(ならば……)

ゴブリンA「キキッ、突っ立ってんじゃねえぞ人間! ……あばっ!?」

ゴブリンB「な……んだ……これは」

暗器使い「鋼の糸だ。連邦国の技術力を以ってすればこれ程の強度の物も作れる」

ゴブリンC「や……め……」
276 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:07:16.32 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「…………」


暗器使いが手を引くとゴブリン達は賽の目状に崩れ落ちた。

ふと勇者の方に目をやると彼はサイクロプスらに囲まれていた。


暗器使い(あの馬鹿……突っ込み過ぎだと何度言えば……!)

暗器使い「この一体は俺に任せろ! お前は自分の前の二体をどうにかしろ!」

勇者「う、うん……!」

サイクロプスB「ゲヘヘ……その細腕で俺を相手しようってか?」

暗器使い「……こうすれば筋肉は関係ない」


そう言った暗器使いの手の中にどこからか巨大なハルバードが現れた。


サイクロプスB「なっ……! 一体どこから……!?」
277 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:11:20.09 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「さあな。とにかく俺は重力に従って振り下ろすだけだ」

サイクロプスB「がっ……!?」


サイクロプスはハルバードで頭から両断されてしまった。

その光景に怯んだ隙に勇者も他の二体を斬り伏せた。


紅眼のエルフ「……ふうん……」

僧侶「軽いけがのようですが直ぐに治しますね」

勇者「うんお願い」

勇者「いやあ助太刀ありがとう」

暗器使い「お前はいい加減その後先を考えない闘い方を止めろ」

暗器使い「少しは恐怖心というものがないのか」
278 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:16:56.10 ID:b0hzDa7B0
勇者「恐怖心かあ……うーん、どうだろう」

勇者「そういえば最近特に感じなくなってきたような……」

暗器使い「戦いに慣れてきたということか? いずれにしても良いことではない」

勇者「わかった気をつけるよ」

暗器使い(もしくはあの剣の作用なのか……? いや、あまり憶測で物を言うのは良くないか……)

暗器使い「まあ良い……この先も多くの戦いが予想されるから体力の配分は気をつけていくぞ」

勇者「……待って、これは……」

暗記使い「何だ……? 封印か何かか……?」

僧侶「専門ではないので確実なことは言えませんが、おそらくこれだけでは完全なものではないです」

僧侶「このダンジョンの各地に外の封印の陣があるかもしれません」

勇者「その全部を何とかすれば良いってことか」

僧侶「そうですね。それらの位置を把握して騎士団に伝えるのが良いと思います」

279 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:17:55.87 ID:b0hzDa7B0



それからしばらく、勇者達が二つ目の封印の陣を発見し、その後現れたゴブリンらを制圧した時だった。


勇者「……! まだ何か来るよ……!」

暗器使い「何……?」


勇者達の目の前には先程と同じようにゴブリンなどの群れが姿を表した訳ではなかった。

そこには異様な気配を放つ謎の黒い甲冑の騎士が立っていた。


僧侶「黒い……騎士……?」

紅眼のエルフ「…………」

暗器使い「勇者……」

勇者「うん、わかってる」
280 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:22:05.02 ID:b0hzDa7B0
勇者「“あいつはヤバすぎる”……!」

暗器使い「ああ……素での実力は分からないがこのダンジョンにおいては恐らく……」

勇者「間違いなくSランクだね……」

僧侶「そんなっ……!」

勇者(恐らくこの騎士がこのダンジョンの主だ……こんな所に出てくるなんて想定外すぎるよ……!)

勇者(もう少し僕たちだけで偵察する予定だったけど、これじゃそうも行かないね……)

黒い騎士「……勇者とその仲間だな?」


騎士は甲冑のせいか若干くぐもった声でそう問いかけてきた。


勇者「……そうだよ。僕が勇者だ」

黒い騎士「自分は新生魔王軍の四天王が一人である」
281 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:22:50.84 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「四天王……!」

黒い騎士「我らが覇道の妨げとなる貴様らにはここで消えてもらう」

黒い騎士「いざ参る……!」

勇者「来るっ……!」

暗器使い「馬鹿野郎! 正面からやり合おうとするな!!」

勇者「ぐっ…………あっ…………!?」


黒い騎士の剣を自身の剣で受けた勇者はそのまま後ろへと吹き飛ばされてしまった。


勇者「がはっ……!」

僧侶「なっ……!」

勇者(なんて……力だ……)
282 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:24:01.23 ID:b0hzDa7B0
黒い騎士「こんなものか、勇者よ……」

勇者「ま、まだだ……!」

黒い騎士「甘い……!」


勇者の刺突を躱した騎士はその突き出された腕に剣を突き立てた。


勇者「っ……! ぐああああああああっ!!」

暗器使い「ちっ……! 俺が時間を稼ぐ!」

黒い騎士「貴様もつまらないな。正当な剣の道を修めていないのが分かる」

暗器使い「正面からの立ち合いでは大した事がないのは自覚している……!」

黒い騎士(逆手にナイフ……いつの間に……)

黒い騎士「ほう……だがそれも通用はしない」

283 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:24:58.48 ID:b0hzDa7B0
暗器使いの投げたナイフは全て叩き落されてしまった。


黒い騎士「なるほど邪道の武というのも中々面白いが、まだまだ未熟なようだな」

暗器使い(まずいな……俺では相手になっていない)

勇者「一人一人じゃ駄目だ。連携していこう……」

黒い騎士「何……? 貴様もう傷が……」

黒い騎士「……なるほど、後ろの女の術か。貴様がかの僧侶の末裔だな」

僧侶「私が居る限り誰一人死なせはしません……!」

黒い騎士「……ふん……」

黒い騎士「如何に優れた白魔法使いでも死者を蘇らせることは出来ない。それは貴様らの領域では無い」

黒い騎士「ならば治す前にその生命を奪えば良い」
284 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:33:32.45 ID:b0hzDa7B0
勇者「……!」

暗器使い(ヤバイな……どうにか逃げる手立てを考えなければ……)

暗器使い(自分一人で逃げるならば容易いだろう。以前ならばそれでも良かった。だが……)


勇者『──勿体無いって思っちゃったんだ。こんなに凄い人が一つの国に篭りっきりなんて』


暗器使い(こいつらを見捨てて逃げることは、出来ない……!)

紅眼のエルフ「……ふう、仕方がないわね」


紅眼のエルフが少し面倒くさそうに呪文を唱えると、勇者、僧侶、暗器使いの三人との間に太いツタが絡み合った巨大な壁が現れた。


黒い騎士「ほう、これが森の民の力か……」

紅眼のエルフ「ま、勇者のパーティーに選ばれるんだからこれぐらいは出来るわ」

勇者「エルフさん!? これは一体……!」
285 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:34:22.67 ID:b0hzDa7B0
紅眼のエルフ「こういう鬱蒼とした場所を逃げ回るのは得意なのよ」

暗器使い「駄目だ危険すぎる」

紅眼のエルフ「あら心配してくれるの? ちょっと意外ね」

紅眼のエルフ「でも今は他に方法がないわ。精々私のために騎士団の本隊でも探して来てちょうだい」

僧侶「で、でも……!」

暗器使い「……分かった。すぐ戻る」

僧侶「暗器使いさん!?」

暗器使い「他に手立ては無い。今は彼女を信じよう」

勇者「……エルフさん! 絶対無理だけはしないでね!」

紅眼のエルフ「分かったから早く行きなさい」
286 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:34:49.45 ID:b0hzDa7B0
黒い騎士「みすみす見逃すとでも?」

紅眼のエルフ「あら。これは正面からの闘いとは違うのよ」

紅眼のエルフ「そういうの、貴方は得意なのかしら?」

黒い騎士「…………」
287 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:35:26.08 ID:b0hzDa7B0





勇者「ふう……ふう……」

勇者「何とか……逃げ切れたかな……」

僧侶「でも……エルフさんが……」

勇者「わかってる……だから早く聖騎士団の本隊を探さなくちゃ」

暗器使い「……案外それは早く見つかるかもしれないな」

僧侶「え?」

暗器使い「見ろ、靴の跡だ。大きさや歩幅も人間のものと見て間違いないだろう」

暗器使い「比較的新しい物だから今さっき近くを通過したのかもしれない」

僧侶「本当ですか……!」
288 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:38:22.54 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「ああ、急ぐとしよう」

勇者「…………」

暗器使い「どうした?」

勇者「いや、やっぱり良くなかったかなって」

暗器使い「独断でこの島に来たことか?」

勇者「うん……」

暗器使い「最終的に全員自分の意志でここに来ている。良いか悪いかは別として、お前一人の責任というわけではないだろう」

僧侶「暗器使いさん……」

勇者「……ありがとう」


それからしばらく探索を続けている内に勇者達は聖騎士団の野営地にたどり着いた。
289 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:41:28.43 ID:b0hzDa7B0


第五団聖騎士A「止まれ! 何者だ!」

勇者「僕は勇者。後ろの二人は紋章に選ばれた僕の仲間達だ!」

第五団聖騎士A「勇者だと? 勇者は法都の法王猊下に謁見をしているはずだ」

暗器使い「この島のダンジョンのことを聞きつけて居ても立ってもいられ無くなったみたいでな」

暗器使い「まあ勇者の性というものだろう」

第五団聖騎士A「貴様らが本物の勇者一行であるという証拠はない。ここを通すわけにはいかない」

暗器使い(まあ当然の反応か)

僧侶(ど、どうしたら信じて貰えるんでしょうか……)

???「大丈夫だ。彼らを通したまえ」


勇者達の行く手を塞いでいた聖騎士達の後ろから大柄な中年の男が現れた。
290 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:43:49.61 ID:b0hzDa7B0


第五団聖騎士A「し、しかし団長……」

???→第五聖騎士団長「大丈夫だと言っている。彼らは本物だ」

第五団聖騎士A「は、はっ……!」

第五聖騎士団長「失礼。お初お目にかかるな勇者殿」

第五聖騎士団長「私は第五聖騎士団の団長を務めさせてもらっている者だ」

勇者「初めまして。勇者一族の当代当主を務めさせて頂いています」

暗器使い「北方連邦国の民選議会から来ました。当パーティーのアサシンの紋章持ちとして選ばれました」

僧侶「お、お久しぶりです叔父様……」

勇者「えっ」

勇者(僧侶の叔父さん……!?)
291 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:44:31.63 ID:b0hzDa7B0
第五聖騎士団長「ああ。大きくなったな」

第五聖騎士団長「実の弟の葬儀にも顔を出せない不甲斐ない男ですまない……」

僧侶「そんな事は……! この情勢では多忙を極めておられる筈です……わざわざ王国まで出向いて頂くわけにはいきませんでした」

第五聖騎士団長「あいつに家のことを任せて数十年……ついに兄らしいことは一度もしてやれなかった」

僧侶「……そのように深く想っていただくだけでも天の父上は喜んでいると思います」

第五聖騎士団長「……そうか」

勇者「僧侶のお父さんにご兄弟がいらしたなんて話、初めて聞いた……」

僧侶「叔父様は若い頃に出家をなさっていたので、私も修行の一環で法国に訪れた際に初めてお会いしましたから」

第五聖騎士団長「家を継ぐには私の癒やしの力はあまりに微弱であったのでな。才に恵まれた弟に家督は譲ったのだ」

勇者「そうだったのですか……お会いしたことが無いはずです」
292 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:45:04.85 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「第五聖騎士団長……噂に聞く剣豪か」

暗器使い「純粋な剣の腕のみを頼りにたゆまぬ努力で団長の座まで上り詰めたという」

第五聖騎士団長「弟に比べて体だけは丈夫だったからな」

第五聖騎士団長「自分にはこれ以外無いという心構えで研鑽してきた」

勇者(剣の腕……僕もこの剣を受け継ぐ前から鍛錬はしてきたけど、それでもまだまだ足りていない事は分かっているんだ)

勇者(僕は恵まれた体格じゃない。より一層の努力をしないと強大な敵には歯が立たなくなってしまう……)

第五聖騎士団長「…………」

第五聖騎士団長「焦りは禁物。着実に丁寧に進んでいくことが大切だ」

勇者「えっ……は、はいっ……!」

第五聖騎士団長「さて、弓使いの紋章持ちが新たに仲間に加わったと聞いていたが……」
293 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:45:47.44 ID:b0hzDa7B0
勇者「はい、その件でこの野営地に来ました」


勇者は先ほどの出来事を説明した。


第五聖騎士団長「謎の黒い騎士か……」

第五聖騎士団長「それがこのダンジョンの主である可能性が高いと」

暗器使い「感じる力は凄まじいものでした。自分はそうだと見ています」

第五聖騎士団長「なるほど……黒い騎士の件は了解した」

第五聖騎士団長「だがエルフの弓使い事は我々は関与しない。それはお前達の独断が招いた結果だ」

僧侶「そ、それは……」

勇者「たしかに命令に従わずにここへ来た僕達の落ち度です」

勇者「でもエルフさんは僕達の大切な仲間なんです。捜索のための人員を割いてくれとはいいません」
294 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:46:53.86 ID:b0hzDa7B0
勇者「でも何か痕跡が見つかったりした場合は僕達に報告をしてはいただけないでしょうか」

第五聖騎士団長「厳しい言い方をさせてもらうが、お前達は一体この島に何をしに来たのか」

第五聖騎士団長「大切な仲間が一人行方不明になっただけでそれ以外は何もしていない。遊び半分で来ているならば解決までこの野営地にいてもらおうか」

僧侶「叔父様……」

第五聖騎士団長「大切な姪だとは言えここは譲れない。我々の歩む道には沢山の命がかかっているのだから」

勇者「……遊び半分ではありません」

勇者「確かにろくな計画もなしに来て、結果はこの様ですが……」

勇者「僕達も見据えている方向は同じなんです。役に立ちたいんです」

第五聖騎士団長「……その言葉は嘘ではないのだろう」

第五聖騎士団長「だが、結果が伴わなければそれは口先だけのものと変わらない。そうは思わないか」
295 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:47:28.30 ID:b0hzDa7B0

勇者「しかし……」

第五聖騎士団長「エルフの娘の捜索よりも今我々が優先してしべきことがあるのだ」

僧侶「それは一体……」

第五聖騎士団長「ダンジョンの最深への道を発見することだ」

第五聖騎士団長「どうやらこのダンジョンは見かけ以上に複雑な作りをしているらしい」

第五聖騎士団長「進めども同じ場所へ戻されることも多い」

暗器使い「……先程から口を挟むような間を逃しておりましたのですが、ここで良いでしょうか」

第五聖騎士団長「何かあるのか」

暗器使い「我々はこの島に来て何もしていなかったわけではありません」

暗記使い「まずは先へ進む道を封じているであろう魔法陣を二つほど発見いたしました」
296 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:47:54.63 ID:b0hzDa7B0
暗記使い「他のものと合わせて解除すれば更に奥へと進めるはずです」

第五聖騎士団長「ほう……」

暗記使い「それと、こちらを御覧ください」

第五聖騎士団長「これは……方位磁針か?」

暗器使い「形は方位磁針ですがれっきとした魔法道具です」

暗器使い「この道具は一度接触した対象の方向を指し示すことが出来るものです」

暗器使い「先程の黒い騎士との戦闘で細工をしておきました。奴がダンジョンの主だとすればその行き先を把握できるということは非常に大きな成果では」

第五聖騎士団長「…………ふむ」

第五聖騎士団長「ならば良い!」

第五聖騎士団長「成果があるならば宜しい! 征くぞ、全隊準備に取り掛かれ!!」
297 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:50:43.43 ID:b0hzDa7B0
第五団聖騎士A「はっ……!!」

勇者「いつの間に……」

暗器使い「何の考えもなしに着いてきたわけじゃない」

勇者「暗に僕が考えなしって言ってるよね」

暗器使い「事実だろう」

勇者「事実です……」

暗器使い「しかし俺達がついて行って何か役に立つのか」

暗器使い「正面切っての立ち合いはお前の方が俺よりも上手のはずだが……手も足も出ていなかったしな」

勇者「うん……この状態の僕ではとても敵わない相手だった」

暗器使い「お前も何か隠しダネがあるのか?」
298 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:52:20.09 ID:b0hzDa7B0
勇者「確証はないけどね」

勇者「ただ少し怖いんだ」

暗器使い「……?」

勇者「これ以上進んだらもう戻れないような、そんな気がするんだ」
299 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/08/23(木) 16:52:56.96 ID:b0hzDa7B0
次で《始動》編は終わると思います。
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/24(金) 01:26:55.60 ID:Blw+ng1DO
乙乙
待ってたで
301 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/11/15(木) 16:14:59.74 ID:v6ol9et80
復旧していたんですね……!
週末辺りからぼちぼち再開します。
302 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:42:19.11 ID:xFQvJJ0J0





勇者「日数はかかっているけど道中何の問題もなく進んでこられたね」

暗器使い「統率の取れた軍隊というのはそれだけ強力だ」

僧侶「一応聖騎士団は軍隊では無いのですけれどね」

暗器使い「やっていることは同じだろう。他国への不可侵を謳ってはいるが、各国の教会には駐留しているしな」

暗器使い「共和国の教会のようにほとんど独立してしまった所も有るようだが」

勇者「あはは……言いたいことは分かるけど騎士団のど真ん中でする話では無いかも……」

暗器使い「それもそうか」

僧侶「ふう……」

第五聖騎士団長「距離はあとどの程度だと思うか」
303 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:44:02.61 ID:xFQvJJ0J0
暗器使い「これ自身に距離を測る機能などはありませんが、迂回時の針のブレの大きさからみてもあと少しでしょう」

暗器使い「目標自体が大きく動いている様子は無いのでこちらを待ち構えているのかもしれません」

第五聖騎士団長「そうか……ならばあの中か」


聖騎士団長が指差した先には古びた石造りの建物が見えた。


僧侶「修行用の寺院の跡地……」

第五聖騎士団長「それを利用した迷宮の最深部だろう」

暗器使い「誘い込まれている。まあ恐らくは罠だろうな」

勇者「うん……でもエルフさんも見つからなかったし進むしか無いと思うんだ」

勇者「罠があったとしてもあの黒い騎士がこの中に居るのは確かなんだから」

第五聖騎士団長「そうだな……中に突入する隊と外で待機する隊に分けるとしよう」
304 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:45:11.46 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「突入隊は人数を絞る。待機側はお前に一任しよう」

第五聖騎士副団長「はっ!」

第五聖騎士団長「僧侶、お前もここで待機だ」

僧侶「ですが叔父様……」

第五聖騎士団長「気が付かないか? 我々は今敵に囲まれている」

僧侶「えっ」

勇者「うん、かなりの数……しかも強い」

第五聖騎士団長「待機組には奴らを相手にここで耐えてもらうことになる」

第五聖騎士団長「私の配下は精鋭だ。しかしそれでも負傷は避けられないだろう」

第五聖騎士団長「一族に伝わるその力……それを正当に継いだお前がここで皆を助けてやって欲しい」
305 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:45:37.84 ID:xFQvJJ0J0
僧侶「……はい、わかりました叔父様……!」

第五聖騎士団長「そして勇者は……」

勇者「僕も奥まで同行させてください。貴方から学びたいことがあるんです」

第五聖騎士団長「……よし、良いだろう」

暗器使い「俺は外に残る。エルフの奴のことは任せろ」

僧侶「勇者様、私の回復は無いのですからくれぐれもお気をつけて」

勇者「うん、わかってる」

第五聖騎士団長「それでは行くとしよう」
306 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:46:23.52 ID:xFQvJJ0J0





竜人A「──ぐわああああっ!!」

第五聖騎士団長「よし、次だ」

勇者(つ、強い……)

勇者(剣術も筋力も僕とは比較にならない……日々の鍛錬から生み出される理想の剣捌きだ……!)

竜人B「クソがっ!」

勇者「くっ……!」

第五聖騎士団長「焦りも油断も禁物だ! 常に冷静に剣を振るえ!」

勇者「おおおっ……!」

竜人B「ぎゃあっ!!」
307 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:47:08.39 ID:xFQvJJ0J0
勇者「……ふう……」

第五聖騎士団長「剣筋は悪くない。お父上の教育の賜物か」

勇者「ありがとうございます。幼い頃から剣を握らされてきましたから」

勇者「しかし……」

第五聖騎士団長「どうした?」

勇者「この体躯だけはどうにもなりませんね……」

勇者「父や団長さんのように豪快な剣を振るうことは出来ません。この剣に限れば力の補助でどうにかなりますが……」

第五聖騎士団長「身の丈などは生まれ持ったものだから仕方が無いだろう」

第五聖騎士団長「しかし筋力などは別だ。今の年の頃が一番成長できる」

第五聖騎士団長「基礎に則った剣術そしてそれを十分に発揮できる肉体の鍛錬ををこれから弛まず続けていくのみだ」
308 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:47:38.98 ID:xFQvJJ0J0
勇者「……わかりました……」

第五団聖騎士B「団長、先へ続く道を発見しました」

第五聖騎士団長「よし、進むぞ」


聖騎士団長に続いて進んだ先には大きな空間が広がっていた。


第五聖騎士団長「これは……」

勇者「地下の……墓地……?」

第五聖騎士団長「修行者の中では一生をこの島で過ごすものも居たという」

第五聖騎士団長「ここは彼らが眠る場所なのかもしれない」


黒い騎士「安らかに……という訳では無さそうだがな」


勇者「黒い騎士……!」
309 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:48:17.00 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「奴が……」

第五聖騎士団長(なるほど……凄まじい力を感じる)

黒い騎士「この寺院にどんな歴史があったのかは我は知らぬ」

黒い騎士「しかしこの空間に幾つもの霊魂が彷徨っていることは確かだ。黒い黒い魂だ……」


ぞわり、と黒い騎士の放つ気配が変化した。


勇者「これは……さっきまでとは比べ物にならない……!」

第五聖騎士団長「……参る……!」

黒い騎士「……!」


聖騎士団長の一撃を黒い騎士が剣で受け止め、金属と金属のぶつかりあう音が墓地に響き渡った。

黒い騎士の体がガクリと沈み、力では聖騎士団長が勝っている──かのように見えたのだが……。

310 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:55:46.81 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「むっ……!?」


聖騎士団長の剣は力ずくで弾き返され、その巨躯が宙へと放り出された。


第五団聖騎士B「馬鹿な……! 団長が力負けしただと……!」

勇者「いや、敵は力だけじゃない!」

第五聖騎士団長(……速いな……)


聖騎士団長は黒い騎士の猛攻を凌いで一旦距離を取った。


黒い騎士「なるほど、噂に違わぬ腕の持ち主のようだ」

第五聖騎士団長「貴様も四天王というのは伊達ではないようだな」

第五聖騎士団長「まだ力も出し切っていないと見える」

勇者「えっ……!?」
311 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:58:10.27 ID:xFQvJJ0J0
勇者(今のが全力じゃないのだとしたら、本気になったら一体どんな事になってしまうんだ……!)


その後も聖騎士団長と黒い騎士の闘いは続いたが、徐々に聖騎士団長が押され始めていた。

勇者は高度な闘いを前に、上手く加勢することが出来ずにいた。


第五聖騎士団長(素の力ならばまだ分からないが、ここでは少し分が悪いか)

第五聖騎士団長(今の奴のランクは恐らくは……)

黒い騎士「この場所は自分にとって“二重に”味方をしてくれている」

黒い騎士「負けても恥じることではない」

勇者(二重に……? 一つはダンジョンだとして、後もう一つは一体……)

第五聖騎士団長「フン……」


第五団聖騎士C「ほ、報告です……!」

312 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:58:38.11 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「どうした」

第五団聖騎士C「外で我々が応戦していた敵の軍勢が突如撤退……! 完全に姿を消してしまいました……!」

第五聖騎士団長「何……?」


黒い騎士「……“時間”か……」

勇者「じ、時間……?」

黒い騎士「そうだ、ようやく準備ができたようだ」


そう言うと黒い騎士は地下の墓場のある空間から飛び退いた。


第五団聖騎士B「逃げるか貴様……!」

黒い騎士「ああ、初めからそのつもりだ」

第五聖騎士団長「何…………!?」
313 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:59:08.03 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「……まずい、我々もここから早く……!」


聖騎士団長が気が付いた頃には既に遅く、地下墓地は結界に覆われてしまった。


黒い騎士「運が良ければまた会うこともあるだろう。それまでこの勝負は預けておくとする」

黒い騎士「それが何年後になるかは貴様ら次第だろう」


黒い騎士はそう言い残して奥の暗闇へと消えて行った。


勇者「逃げられてしまった……」

勇者(この結界は一体……)

第五聖騎士団長「下がっていろ」


聖騎士団長は剣を上に構え、その先へと力を集中させた。


第五聖騎士団長「オオオオオオッ……!」
314 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:59:42.90 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「はあっ!!!!」


聖騎士団長が振るった剣は結界の壁にぶつかり、火花弾かせ爆音を轟かせた。

しかし結界にダメージを与えられた様子は無く、依然としてその壁は勇者達を取り囲んでいた。


第五聖騎士団長「今の感触……なるほどそういうものか」

第五聖騎士団長「この結界、決して破れるものでは無いかもしれない」

勇者「それは一体どういう……」

第五聖騎士団長「お前も剣を振るえばわかる」

勇者「は、はい……」


勇者は促されるままに剣を抜き、結界の壁にそれを全力で突き立てた。


勇者「こ、これは……」
315 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:01:06.71 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「この壁はまるで自分自身。写し鏡のようなものだ」

第五聖騎士団長「自分の力では自分を超えることは出来ない、故に破ることが出来ない……そういった類のものだろう」

第五聖騎士団長「こちらを殺しに来るようなそんな罠ならば対処する自信はあったのだが、まさかこういうものだとは……」

勇者「このダンジョンは陽動……本命は別にあるということでしょうか」

第五聖騎士団長「ああ。他のダンジョンも恐らくは同じ様な役目なのだろう」

第五聖騎士団長「主力をダンジョンに閉じ込めてしまうが奴らの目的だったのだ」

第五聖騎士団長「このダンジョンが陽動である可能性は勿論考えられていた。本島には他の団が残っているから法国での事には対処できるだろう」

第五聖騎士団長(だが敵は本格的に動き出した……我々も早くここから脱出して成すべきことを為さなければ……)


消して壊れない結界をどのように突破するか思案し始めたその時、団員の一人があることに気がついた。


第五団聖騎士B「これは……結界にヒビが……?」
316 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:01:44.90 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「何……!?」


聖騎士が指差した場所には非常に小さいが確かに亀裂のようなものがあった。


第五聖騎士団長「ここは勇者が剣を突き立てた箇所だ……」

勇者「えっ、僕の……?」

勇者「団長さんの一撃よりも確実に弱かったはずなのに一体どうして……」

第五聖騎士団長「何か特殊なことは?」

勇者「いえ、普通に剣で突いただけです」

勇者「強いて言えば特殊なのはこの剣自体……」


言いかけて勇者はハッとした。


勇者(まさか……そういう事なのか……?)
317 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:02:55.85 ID:xFQvJJ0J0
勇者(この剣を握ってた時、僕は僕じゃない誰かになる。本来の僕よりも強力な力の持ち主に……)

勇者(僕が僕のものではないこの力を振るえばこの結界を破壊できるのでは……)

勇者(でも今まで通りじゃ駄目だ。こんな小さな亀裂ではこの結界は壊れないはずだ)

勇者(それなら……)

第五聖騎士団長「どうかしたのか?」

勇者「……もしかしたら、僕ならこの結界を壊せるかもしれません」

第五聖騎士団長「何だと……?」
318 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:03:52.42 ID:xFQvJJ0J0





???「やあ」

勇者「……あれ?」

???「どうかしたのかい?」

勇者「いや、いつの間に寝たんだろうって」

???「今は寝ているというより一時的に意識がこちら側に来ていると言う方が正しいかな」

???「君が急に力を引き出そうとしてしまうから」

勇者「力……」

???「うん。君はあの結界を破壊するためにこの力を求めたんだ」

勇者「そうか、僕は剣の力を……」
319 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:13:53.46 ID:xFQvJJ0J0
勇者「いや、“貴方の力”を使ったんだ」

???「そうだね。今まで以上に強く、ね」

???「こうなってしまたらもう止まらない」

???「俺にも止められることは出来ない」

勇者「それは一体……」

???「…………」

勇者「また大事なことは言ってくれないんですね」

???「うん……ごめんね」

???「これあ俺の意思であって、俺の意思ではないんだ」
320 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:14:34.39 ID:xFQvJJ0J0





勇者「…………」

僧侶「ゆ、勇者様?」

勇者「ん、え……?」

僧侶「一体どうしたんですか。寺院から出てきてずっと心ここにあらずといった感じでしたよ」

勇者「い、いや何でもないんだ」

勇者「ダンジョンの主である黒い騎士はここから立ち去った。直にこのダンジョンは崩壊して元通りになるはず」

僧侶「叔父様から報告は受けました。お疲れ様です勇者様」

勇者「うん。それよりもエルフさんは見つかったの?」

僧侶「ああ、エルフさんでしたら」
321 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:15:01.14 ID:xFQvJJ0J0
紅眼のエルフ「私なら平気よ。暗器使いが迎えに来てくれたわ」

暗器使い「俺が行かなくても自力で合流している最中だったみたいだがな」

勇者「ふう……無事でよかった」

紅眼のエルフ「私の心配はいらないって言ったでしょう。あんな甲冑野郎に追いつかれたりはしないわ」

勇者「それでも心配するよ……仲間なんだから」

紅眼のエルフ「……そう、ありがとね」

勇者「一応怪我とか見てもらって。僧侶、お願いしていい?」

僧侶「はい」

紅眼のエルフ「ちょっと、平気よ」

僧侶「駄目です来てください」
322 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:15:41.05 ID:xFQvJJ0J0
紅眼のエルフ「あなたたち心配性ね……」

暗器使い「仲間に恵まれてるな、本当に」

紅眼のエルフ「それは貴方も含めて?」

暗器使い「……どうだろうな」

第五聖騎士団長「さて、勇者殿達は私と一緒に真っ先に本島へ戻ってもらう」

第五聖騎士団長「既に各地の教会で緊急招集が掛けられている。我々にも成すべきことが山程ある」

勇者「その口ぶりですとまた何か……?」

第五聖騎士団長「うむ……」


第五聖騎士団長「──王国、帝国、共和国にまたがる広大な土地と南部諸島連合国の一部の島々が新生魔王軍の手に落ちた」


勇者「なっ……!」
323 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:16:09.52 ID:xFQvJJ0J0
僧侶「それは……!」

暗器使い「やはりダンジョンの出現は陽動だったか……」

紅眼のエルフ「…………」

第五聖騎士団長「奴らは占領した土地を魔国と名付け、人間に対して正式に宣戦布告をしたようだ」

第五聖騎士団長「いよいよ戦争が始まる……我々も備えなければならない」

勇者「…………」
324 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:16:37.12 ID:xFQvJJ0J0


《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 黒い騎士 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い 

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス

325 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/11/18(日) 15:17:24.83 ID:xFQvJJ0J0
お久しぶりです。
次回は《大陸会議》編です。
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 23:47:43.11 ID:kcY/LSHeo
乙乙
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 10:14:06.74 ID:VKgocpADO
328 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:24:21.01 ID:p2+N267H0
《大陸会議》


第五聖騎士団長「甘いっ!」

勇者「くっ……!」


尻餅をついた勇者の喉元に模造剣の先が突きつけられた。


勇者「ま、参りました……」

第五聖騎士団長「……ふう、今日はこの辺りにしておくか」

勇者「今日も一本も取れなかった……」

第五聖騎士団長「闘いの最中に色々と考えすぎるのも良くないが、勇者殿に関しては考えが無さすぎる」

第五聖騎士団長「姪がついていなければ今生きているのかも怪しいのではないだろうか」

勇者「お、仰る通りです……」
329 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:25:05.72 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「まあしかし、この間よりは幾分かマシにはなったがな……」

勇者「僕みたいな未熟者の稽古にわざわざ毎日付き合って頂いて……本当に申し訳ないです」

第五聖騎士団長「なに、いずれは大陸を背負っていく希望の光の手助けが出来るのは光栄なことだ」

第五聖騎士団長「それに久々に勇者と剣を交えられて私もまだ学ぶべきことがあると実感している」

勇者「久々、ですか? もしかして父上と……?」

第五聖騎士団長「ああ、だいぶ昔のことだが何度かな」

第五聖騎士団長「勇者殿の剣筋はやはりお父上とよく似ている」

勇者「幼い頃からずっと稽古をつけられていましたからね」

勇者「やはり特殊な型なんでしょうか?」

第五聖騎士団長「初代勇者が各国を旅しながらその土地での剣術を吸収しつつ練り上げた物が源流で、その後も代々の勇者が改善を加えていったと言われている」
330 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:28:42.16 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「私のような古来から伝わる化石のような剣術使いが相手では良い指導は出来ないかもしれないな」

勇者「そ、そんな事は……」

第五聖騎士団長「……初代勇者が大きく影響を受け、その根幹となったとされている剣術の流派が帝国に存在する」

第五聖騎士団長「今の勇者殿に必要なのはそこでの修練なのかもしれない」

第五聖騎士団長「今の状況でなければ直ぐにでも送り出してやりたいのだがな」

勇者「まあそれは難しいでしょうね……」


二週間前、法国の離島に出現したダンジョンの一つを制圧した勇者らは第五聖騎士団長とともに一番の船で本島に帰還した。

命令違反へのお叱りを十分に受けた後、法王猊下への謁見を済ませてからすぐに状況の整理のための会議へと参加した。


──王国、帝国、共和国にまたがる広大な土地と南部諸島連合国の一部の島々が新生魔王軍の手に落ちた。


第五聖騎士団長の口からそう伝えられた通り、大陸では新生魔王軍がそれらの国々の土地を占領し魔国の建国を宣言した。
331 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:31:12.04 ID:p2+N267H0
既に各国の国境では激しい戦闘が繰り広げられているが、どこも魔国が優勢となっていた。

百年単位で準備された計画であるからというのはもちろんのこと、

各地で同時に出現したダンジョン対応に軍隊や聖騎士団の主力が対応し、その中の実力者の多くがダンジョン内の結界に封じられてしまっている事も大きな原因だ。

結界に封じ込められるだけではなく、更に準備されていた罠によって多くの者が命を落とした。

法国でも第一聖騎士団長が最深の罠によって重症の怪我を負って倒れてしまった。

敵の陽動に見事にしてやられた各国は魔国の建国を安々と許してしまったのだった。

大陸本土はこのように混沌としているため勇者一行の帰還は許可されず、先のことがあるため今回は勇者も従わざるを得ない状況となっている。


第五聖騎士団長「さて、この後は招集がかかっているだろう。水を浴びて汗を流しておいたほうが良い」

勇者「はい、各国の代表の方々お見えになると聞いています」

第五聖騎士団長「私は騎士として立つからこれで良いが、勇者殿達は少し身なりを整えて臨んだほうが良いかもしれんな」
332 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:34:24.58 ID:p2+N267H0
勇者「三人にもそう伝えておきます」

第五聖騎士団長「また後ほど会おう」


勇者は教会に提供されていいる上等な部屋で休憩していた仲間三人に声をかけ、身支度をしてから会議が行われる部屋へと向かった。

席は埋まり始めており、勇者達も指定の場所に急いで着席した。


第三聖騎士団長「例の報告書のことですが、この後よろしいでしょうか?」

第五聖騎士団長「そちらのダンジョンでも同様のものが見られと聞いていたが……分かった、終了後ここに残ってくれ」

第三聖騎士団長「ええ。術的に気になる点もありましたので導師も交えて話しましょう」


──第三聖騎士団長

 全団長の中で唯一の女性で、また最年少でもある。

 法国内に出現した他のダンジョンの調査に当たり、最深での結界の罠は紙一重で回避して帰還した。

333 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:35:42.67 ID:p2+N267H0
王国軍総軍師「久しぶりですな勇者殿。出立の日に顔を出せず申し訳なかった」

勇者「いえいえ、お忙しい身でしょうからお気になさらず」

王国軍総軍師「この期間の間だけで随分とご成長なさった様子……天のお父上もお喜びのことだろう」

勇者「……ありがとうございます」


──王国軍総軍師

 彼の作戦の下で進軍すれば百戦百勝と言われており、大陸中でも名高い軍師。

 接しやすい人柄からか、人脈も広く信頼が厚い。


大柄な熊髭の老人「ふうむ……教会とは無縁の我々まで呼び出されるとは改めてことの大きさを考えさせられる」

自治区五代目区長「千年前と同じく大陸全体を揺るがす事態です……これは教会だけの問題だとすることは出来ないでしょう」

逞しい祈祷師「実際に我々の国土は侵されている。奴らの敵は教会に限られないという事だ」
334 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:37:00.04 ID:p2+N267H0
自治区五代目区長「私達は現在土地を奪われたわけでは有りませんが、先日の同時ダンジョン出現の際はその標的の一つとなっていました」

大柄な熊髭の老人「我々も同じだ。これは現存国家に対しての無差別な宣戦布告であると捉えて間違いないだろう」


──逞しい祈祷師

 南部諸島連合国における祭事で神々と人々を繋ぐ重要な役割を果たす祈祷師(シャーマン)の一人。

 彼はその中でも戦や闘いの神々への祈りを専門としており、南部諸島連合国における軍事においても大役を務めている。


眼鏡の共和国外交官「神聖な教会に異教徒や、ましてや不浄な人外が入り込んでいるとは世も末だな」

自治区五代目区長「…………」
335 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:41:07.63 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「外交官殿、そのような言い方は」

眼鏡の共和国外交官「本当にこのような異教の者共を信用して良いのでしょうかねえ。腹の中はわからないものですよ」


──眼鏡の共和国外交官

 長身で細身の男で攻撃的な発言が目立つ外交官。

 つい先日までは“とある事件の後始末”のために皇国に出向いていた。


第三聖騎士団長「外交官殿いい加減に……」

氷の退魔師「──腹の中が黒々しい奴らは、俺は他にも知っているけどな」

眼鏡の共和国外交官「……ふん……」
336 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:43:58.25 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「おお、氷の退魔師殿も来られましたか」

氷の退魔師「皇国での一件もどうにかカタがついたのでね……ある方の護衛を兼ねてついでに来たわけだ」


──氷の退魔師

 王国を代表する退魔師。

 ランクSまで到達した数少ない退魔師の一人であり、大陸中を駆け回って特務に当たる依頼をこなしている。


氷の退魔師「よお勇者くん、久しぶりだな」

勇者「は、はい……! お久しぶりです……!」

氷の退魔師「無事ダンジョンを攻略したらしいな。成長したものだ」

勇者「いえ、まだまだ皆さんには及びません……皇国でのダンジョンの件も聞いていますが、流石ですね」

氷の退魔師「なに、こっちも仲間に恵まれたに過ぎないさ」
337 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:46:06.21 ID:p2+N267H0
切れ長の目の女皇帝「あら、そちらが例の……?」

氷の退魔師「そう、次期……いや当代の勇者だ」

切れ長の目の女皇帝「まあ随分と可愛らしいこと……しかしその実力は確かなものと聞いている」

氷の退魔師「ああ、そこは俺が保証するぜ」

切れ長の目の女皇帝「はじめまして勇者殿。私は皇国の現皇帝を名乗らさせて頂いている者だ」

切れ長の目の女皇帝「よろしく」

僧侶「こ、皇帝陛下……!?」

勇者「えっ……!? あっ……勿体無いお言葉です……!」

切れ長の目の女皇帝「そんなに畏まらなくていい。氷の退魔師殿みたいにもっと自然にしてくれて構わない」

暗器使い(いやこの男……氷の退魔師は流石に馴れ馴れしすぎるだろう……)
338 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:46:53.66 ID:p2+N267H0
紅眼のエルフ(昔からの仲と言う感じだけれど、どうなんでしょうね……)


──切れ長の目の女皇帝

 皇国の現皇帝で先代の一人娘。

 皇国始まって以来初めての女帝だがその手腕は稀代のものと言われている。


帝国軍将軍「これはこれは、女皇帝陛下自らの出席とは驚きましたな」

切れ長の目の女皇帝「それはこちらの台詞ですわ将軍閣下」

切れ長の目の女皇帝「今はそちらの国は大変でしょうに大丈夫なのですか?」

帝国軍将軍「私のような老いぼれが一人抜けた程度で我が軍はどうにかなったりはしませんよ」
339 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:48:03.89 ID:p2+N267H0
帝国軍将軍「今後のためにもこの会に参加することには大きな意義があると考えての結果です」

切れ長の目の女皇帝「あら、老いぼれと言うにはまだまだ若いように見えますが」


──帝国軍将軍

 帝国の盾と隣国から恐れられる名将。

 彼の即座の対応がなければ魔国領は今の範囲に留まらなかったと言われている。


帝国軍将軍「ダンジョンの同時大量発生……魔国の建国……新生魔王軍の宣戦布告……これらに関して各国の知りうる情報をここで交換する」

帝国軍将軍「それぞれの国の上層部しか知りえない極秘情報も含めて包み隠さず……これが今回の会の趣旨で良いですね?」

色白の法王「ええそうです。皆さん、この緊急時にわざわざここまでご足労頂き感謝しています」

眼鏡の共和国外交官「猊下……!」

第三聖騎士団長「お席へどうぞ、猊下」
340 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:49:49.15 ID:p2+N267H0
色白の法王「うん、ありがとう」


──色白の法王

 各地の大神官が同時に彼を夢に見たという奇蹟から、長らく空席だった法王に異例の若さで選ばれた青年。

 大陸の混乱をおさめるべく、今回の会を自ら招集した。


色白の法王「神の子としてここへ集ってくださった皆さんはもちろんのこと、文化を違いながらも私の招集へ応じてくださったみなさん、感謝いたします」

眼鏡の共和国外交官「お、お顔をお上げになってください……!」

大柄な熊髭の老人「これは大陸に住まう者全ての問題です。そこに文化の垣根はないと考えています」

自治区五代目区長「我々は千年前と同じく巨悪と対峙する同士なのです。どうかお顔をお上げになってください……」

色白の法王「みなさん……本当に感謝いたします」

色白の法王「聖騎士総長を含む数名が事情で欠席しております事を先にお詫びしておきます」

色白の法王「一刻が惜しい事態でしょうから早速本題へと移りましょう」
341 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:51:56.29 ID:p2+N267H0





帝国軍将軍「……つまりあの結界は己の潜在能力を上回る力を以ってすれば破壊することが出来るという事か」

第三聖騎士団長「ええ、第五聖騎士団と氷の退魔師殿との報告で一致していますね」

自治区五代目区長「うちでも同じように結界を破壊できたようです。こちらの場合は森の力を借りてですが……」

第五聖騎士団長「こちらでは勇者の剣の力が発動したようでしたが、皇国のダンジョンではどのように?」

氷の退魔師「俺が式神の力を借りてちょっとね」

逞しい祈祷師「式神、とは確か……」

氷の退魔師「俺達術者に人外の力を貸してもらう術だ。皇国特有の術だが研究する機会があってな」

逞しい祈祷師「ふむ……我々の“贄”とも退魔師が一般に扱う使い魔ともまた違ったもののようだな」

逞しい祈祷師「興味深い話だが詳しくは別の機会としよう」
342 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:54:08.81 ID:p2+N267H0
大柄な熊髭の老人「あの厄介な結界の破壊方法が分かった事は大きいですな。各国とも多くの実力者があれに足止めされていると聞いていますからね」

王国軍総軍師「これでだいぶ立て直しが出来るでしょうな」

眼鏡の共和国外交官「しかし勇者殿のような特殊なケースを除くと、人外共の手を借りざるを得ないということですか……何とも忌々しい」

王国軍総軍師「今の時代人外とも手を取り合わねばならないと、教会の方針でもそうなっていることをお忘れですかな?」

眼鏡の共和国外交官「そうは言いますがこれも忘れてはならない。今回も我々の敵は人外であるということを」

切れ長の目の女皇帝「ふん……彼ら全てを敵と見ると本当にそうなってしまうかもしれぬぞ?」

切れ長の目の女皇帝「現に各国の人外が次々に新生魔王軍の軍門へと下っているという情報が入っているのよね?」

帝国軍将軍「ええ。我が国でも非合法の人身売買組織の拠点制圧をした際に人外の牢だけがもぬけの殻となっていたとの報告が入っている」

帝国軍将軍「目撃者曰く彼らは新生魔王軍の者によって連れて行かれたと……」

帝国軍将軍「如何に優れた軍も圧倒的な数の前には蹂躙されることが多くある」
343 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:54:47.65 ID:p2+N267H0
帝国軍将軍「新生魔王軍の規模はいまや各国それぞれの軍を上回ると考えられる。これ以上敵を増やさないようにすることが大事なのでは?」

眼鏡の共和国外交官「まあ、後ろから刺されたければ勝手にすればよいでしょう」

眼鏡の共和国「さて次の報告へと移っても?」

色白の法王「ええ、お願いいたいします」
344 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:56:34.38 ID:p2+N267H0





その後も各々が持ちうる情報を交換しあい、それに対する議論が幾度となく行われた。

日が昇った頃に会合は始まっていたが気がつけば既に月が空に浮かんでいた。

そして一度休憩を兼ねた夕食へ移ろうとしていたその時、氷の退魔師がある提案をした。


氷の退魔師「──という事を俺は提案したいんだが、どうかな」

第五聖騎士団長「ふむ……」

大柄な熊髭の老人「ほう……面白い」

眼鏡の共和国外交官「……何を馬鹿なことを。認められるわけがないでしょう」

眼鏡の共和国外交官「退魔師協会を教会の庇護から独立させる? それがどういう事なのか分かって言っているのですか、氷の退魔師殿?」

氷の退魔師「もちろん」
345 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:59:17.49 ID:p2+N267H0
眼鏡の共和国外交官「退魔師協会とは大陸中に支部を持つ組織……総力となれば各国の軍隊にも引けを取らないでしょう」

眼鏡の共和国外交官「そんな組織を独立させるなど出来るものか」

第二聖騎士団長「──私も外交官殿と同意見だ。退魔師協会の構成員は教会の信者とは限らない」

第二聖騎士団長「そんな彼らを野放しにするわけにはいかないでしょう」


──第二聖騎士団長


 僧から騎士へと転向したという点では第五聖騎士団長と似ている。

 病弱だった幼少期に死の淵にありながら毎朝の祈りを欠かさなかったと言われるほどの熱心な信者。


氷の退魔師「そんな俺たちを犯罪者集団みたいに言わんでもよお」

第二聖騎士団長「実際に似たような者たちが在籍している事は認知しています」

第二聖騎士団長「我々が統率しているからこそ成り立っているという事が分からないのですか?」
346 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:00:40.94 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「大した言い分だ」

氷の退魔師「……が、本音はこうなんだろ? 教会のシノギが減ると困る、そう言えよ」

第二聖騎士団長「なんだと……?」

第三聖騎士団長「お二人とも、法王猊下の御前です」

氷の退魔師「だとよ」

第二聖騎士団長「…………」

色白の法王「……今の話、もう少し詳しくお聞かせ頂けますか?」

眼鏡の共和国外交官「猊下……?」

氷の退魔師「それでは僭越ながら……」

氷の退魔師「先のダンジョン騒動で早急に攻略されたダンジョンは二箇所あります」
347 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:03:10.02 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「一つ目は勇者殿と第五聖騎士団が赴かれたという法国の離島のもの……」

氷の退魔師「もう一つは“たまたま”私が訪れていた皇国の西人街という場所のダンジョンです」

氷の退魔師「これら二つのダンジョンを数日で攻略することが出来たのは何故でしょうか?」

氷の退魔師「強大な戦力? 相手の意表を突く奥の手? 勿論それもそうでしょうが、それよりも鍵となったものがあります」

王国軍総軍師「ふむ、それは……?」

氷の退魔師「身軽な戦力です」

氷の退魔師「目の前で起こった事に即座に対応できる……ある程度は自分たちの意思で行動できる戦力がいたからこその早期攻略だったのです」

氷の退魔師「西人街では退魔師協会の者やその他の小さな組織……法国の離島では勇者殿の一行がそれに当たります」

氷の退魔師「西人街では本教会の指示を待っていたては被害者の数は大きく増えていた事でしょう」

眼鏡の共和国外交官「だから命令に違反してダンジョンに入ったと?」
348 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:06:52.58 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「結果は出た。謹慎も受けた。何か問題が?」

第二聖騎士団長「身軽な戦力……そのために退魔師協会を本教会から独立させたほうが有用であると?」

氷の退魔師「俺はそう考えている」

第二聖騎士団長「浅はかな……新生魔王軍以外の野放しの猛獣が増えるに過ぎない」

切れ長の目の女皇帝「そう考えるのは勝手だがお前の一存では決められないであろう? 勿論私の一存でもな」

眼鏡の共和国外交官「この件は教会の問題だ。異教の国の長に発言権はない」

切れ長の目の女皇帝「異教の国? 我々は正式に教会を迎え入れたはずだが?」

切れ長の目の女皇帝「そう、貴方がたの国の大使館を兼ねていた教会の代わりにね。お忘れで?」

切れ長の目の女皇帝「“何やら不遜な事を我が領土でやらかそうとしていた事を咎めぬ代わりに譲り受けたと記憶しているが、これ以上何かぬかすのであれば口が滑ってしまうかもしれん”」

眼鏡の共和国外交官「…………フン…………」
349 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:07:20.08 ID:p2+N267H0
切れ長の目の女皇帝「……さて、今の氷の退魔師殿の案についてはこれ以上何かありませんか?」

切れ長の目の女皇帝「無いのであれば……」

色白の法王「……ええ、採決といたしましょう」
350 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:08:36.60 ID:p2+N267H0
遅れましたが《大陸会議》編です。
前作登場人物の氷の退魔師が出てきました。いずれ他にも出てくるかもしれません。
では。
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/13(木) 23:18:53.81 ID:yBi6lTYVo
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 01:51:06.78 ID:NKXPiO+DO
来てたか乙!
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