花丸「恋の魔力」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/08(火) 20:25:36.05 ID:sLn23MpL0
 人を好きになるきっかけって何だろう。


 運命的な体験? 日常の中の積み重ね?

 たぶん十人十色、決まった形なんてなく、唐突に訪れる。

 だけど全員に共通することもある。

 好きになると皆、恋という魔法にかけられるんだ


 それは素敵な魔法。

 世界の全てがキラキラと輝いて見える、とても素敵な。

 だけど徐々に、恋は姿を変えていく。

 その強力すぎる魔力は、人を盲目的にして、狂わせるようになり、互いに傷つき、傷つけられる。

 でも深みにはまり、苦しみを味わっても、それからは誰も逃れられない。


 だって、恋は一度味わうと抜け出せない、麻薬のような物だから、



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1525778735
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 20:29:04.29 ID:sLn23MpL0
   ※

善子「はぁ、やっと落ち着けたわね」

 放課後、マルたち一年生しかいない部室。

 今日の練習は休みだけど、涼みたくてやってきたのだ。


ルビィ「お疲れだねぇ」

善子「ルビィは元気そうね」

ルビィ「がんばルビィしてるからね!」

善子「なにそれ、意味が分からないわ」

ルビィ「善子ちゃんの堕天使よりはマシだよぉ」

善子「マシって何よ! あとヨハネ!」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 20:31:35.53 ID:sLn23MpL0
 じゃれ合うルビィちゃんと善子ちゃん。

 最初はぎこちなかった二人も、最近はすっかり仲良しさん。

 微笑ましい光景を眺めてながら、ゆっくりと本を読むこの時間はとても楽しい。


ルビィ「この後はどうする?」

善子「今日は暑いし、アイスでも食べに行くのはどうかしら」

ルビィ「うーん、それよりもかき氷屋さんに行こうよ。ちょうど今の季節は空いてるよ」

善子「あー、いいわね」

ルビィ「マルちゃんも行くよね」

花丸「うん、もちろん」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/08(火) 20:33:13.33 ID:sLn23MpL0

善子「じゃあさっさと行きましょう、早くしないとバスが出ちゃうわ!」

ルビィ「ま、待ってよ、善子ちゃん」

花丸「ルビィちゃん、走ると転んじゃうよ〜」


 かき氷、何味がいいかな。

 やっぱりここは定番のいちご?

 でも善子ちゃんもいちごだろうし、他のにしたら交換できるかも。

 それならやっぱりみかん――は善子ちゃんが嫌いだ。

 あっ、ルビィちゃんを経由して三人で交換っこする手もある。

 まあその辺も話し合いながら行けばいいかな。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 20:35:20.50 ID:sLn23MpL0
善子「あれ」

 そんな風に考えながら歩いていたんだけど、中庭の辺りで善子ちゃんが突然足を止める。


ルビィ「どうしたの?」

善子「ねえ、あそこにいるのって曜じゃない」

 善子ちゃんが指さす方向には、確かに見覚えのある灰色の癖毛の先輩の姿。

花丸「本当だ。よく気づいたね、善子ちゃん」

ルビィ「ま、マルちゃん、それに横にいるの」

花丸「あれは、クラスメイトの」


 何やら妙に距離が近い二人。

 その姿は、まるで恋人みたいで――
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 20:39:55.32 ID:sLn23MpL0

花丸「あっ」

 そして気づけば。自然と唇を重ね合わせていた。


ルビィ「ピギィ!」

善子「あ、あの二人、キスしたわよ!」

花丸「み、未来ずら……」

 三者三様、でもみんな顔を真っ赤にしながら、視線は二人に釘付けに。


善子「す、凄いわね、なんか」

ルビィ「うゅ……」

 目の前で繰り広げられる愛の語らいは、初心なマルたちには刺激が強すぎる。

 でも初めて生で見るそれに夢中になり、目を離すことができない
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 20:43:02.37 ID:sLn23MpL0

ルビィ「って善子ちゃん、バスの時間!」

善子「ああ!」

 ルビィちゃんの声で正気に戻ると、既に結構な時間が経っている。

善子「ヤバい、今度こそ走るわよ!」

ルビィ「がんばルビィ!」

花丸「ちょ、ちょっと待って〜」



―――
――



善子「でもびっくりしたわね」

ルビィ「まさかあんな場面に遭遇するなんて予想外だよぉ」

 問題の場面の話で、キャッキャッとはしゃぐ二人。

 最初は恥ずかしがっていたけど、そこは女子高生、切り替えは早いみたい。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 20:46:56.09 ID:sLn23MpL0

善子「でも曜さんに恋人がいたなんて」

ルビィ「しかも何か慣れてる感じだったよ」

花丸「流石曜ちゃん、大人だよねぇ」

 学校の人気者は伊達じゃないってことかな。


善子「ちょっと意外だったけどね」

善子「あの人、千歌さん一筋のイメージがあったし」

ルビィ「うゅ、複雑なのも大人の恋愛の一部なんだよ」

善子「面倒くさいわねぇ、恋愛って」

ルビィ「ルビィたちにはまだ早いかなぁ」

善子「そうねぇ」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:00:59.37 ID:sLn23MpL0
 恋愛、か。


 マルは小説が大好きだから、物語の中の恋愛にはたくさん接してきた。

 ただ純粋な愛から、歪んだ愛まで、ある意味色んな愛を知ってる。

 小説家って変わった人が多いから、意外と純愛みたいな話は少ないんだよね。

 どこか歪で、暗くて、でもそれが美しい。

 だからそういう恋愛の方が馴染みはあるかも、なんて。


花丸「ねえ、善子ちゃんは好きな人とかいる?」

善子「な、なによ急に」

 露骨に動揺してみせる善子ちゃん。

 この反応は、もしかしたら。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:04:39.78 ID:sLn23MpL0
花丸「あー、さてはいるんだね」

善子「いや、それはその」

ルビィ「えっ、善子ちゃん好きな人いるの!」

善子「そんなわけないでしょ、堕天使に好きな人なんて――」

ルビィ「あっ、もしかして梨子ちゃんじゃない?」

善子「!」


花丸「ルビィちゃん、この反応は当たりみたいだよ」

ルビィ「やっぱり! 善子ちゃんと梨子ちゃん仲良しさんだもんね!」

 予想が当たって嬉しそうなルビィちゃん。

 無邪気な姿、可愛いな。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:06:50.68 ID:sLn23MpL0
善子「……そうよ、私が好きなのはリリーよ」

 流石に流れが悪いと感じたのか、善子ちゃんもあっさりと認める。

ルビィ「いつから? いつから好きになったの?」

善子「ちょ、落ち着きなさいよ」

ルビィ「わかったから、早くはやく」

善子「え、えっと、あれはね――」

 グイグイと迫るルビィちゃんに押されて、言わなくてもいいことまで喋り始める善子ちゃん。

 2人とも、ある意味らしいというか。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:08:58.12 ID:sLn23MpL0
 でもみんな、平然と女の子が好きなのは、女子高って環境だから?

 この辺は男の子も少ないし、あんまり異性を意識する機会はないもんね。

 実際マルも、恋愛の相手をイメージするとしたら女の子になるかも。


 うーん、どんな人がいいかな。

 ぼんやりして頼りないマルを引っ張ってくれる格好いい王子様みたいな人とか素敵かも。
 
 それで物語の登場人物みたいに、どこか脆く、傷つきやすい儚さを持ってたりして――


ルビィ「マルちゃん?」

花丸「――あ、ごめん」

 しまった、想像の世界に入り込んじゃった。

 マルの悪い癖だなぁ、こういうの。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:11:28.46 ID:sLn23MpL0
善子「そういうあんたたちはどうなの、好きな人とか」

ルビィ「ピギッ」

花丸「ずら?」

善子「私に喋らせたんだから、あんた達も話しなさいよ」

 まあごもっとも。


ルビィ「えっと、ルビィはね、内緒かな」

善子「いや、それは卑怯でしょ」

ルビィ「マルちゃんは?」

善子「聞きなさいよ!」

花丸「うーん……、マルも内緒」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:17:36.11 ID:sLn23MpL0
 好きな人、特にいないから話しようはないし。

ルビィ「ありゃ、マルちゃんも内緒なんだ」

花丸「うん、内緒仲間だよ〜」

 ちょっと残念そうなルビィちゃん。

 やっぱり仲良しの友達の好きな相手は気になるのかな。

 実際、マルもルビィちゃんの意中の相手は気になったもんね。


善子「ちょっとあんた達ね〜」

花丸「あはは、マルとルビィちゃんは内緒同盟だから」

ルビィ「むしろ異端なのは善子ちゃんの方だよ」

善子「くぅ、これだから人間風情は」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:20:35.19 ID:sLn23MpL0
花丸「まあ代わりに、善子ちゃんの恋愛を応援してあげるよ」

善子「え、本当に?」

花丸「ね、ルビィちゃん」

ルビィ「うん、ルビィも2人には上手くいってほしいし」

善子「あ、ありがとう、2人とも」

 実際、梨子さんと善子ちゃんは相性がいいと思うから。

 友達には幸せになってほしいもんね。


ルビィ「じゃあ早速、告白の計画だよ!」

善子「って待ちなさいよ、流石にそれは早い――」

ルビィ「どんなシチュエーションがいいかなぁ」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:23:29.37 ID:sLn23MpL0
善子「ちょっと待って、もっと段階を踏んでからでもいいでしょ」

ルビィ「駄目だよ、恋愛はスピード勝負、早い者勝ちの世界だよ」

善子「経験もないのに偉そうに語らないでよ!」


 大きな声で照れ隠しをする善子ちゃん。

 その姿はとても可愛いし、話しているルビィちゃんも楽しそう。

 現実の恋愛は小説とは違って素敵なものなんだね、やっぱり。

 マルもいつか、好きな相手ができるのかな。

 相手はどんな人なんだろう、どんな恋をするんだろう。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:25:14.91 ID:sLn23MpL0
ルビィ「マルちゃんはどんな告白がいいと思う?」

花丸「そうだねぇ、夜の海岸で『この堕天使ヨハネと恒久的な契約を結びなさい!』って言うのはどうかな」

ルビィ「あはは、その台詞で色々台無し――」

善子「いいわね、それ」

ルビまる「「ええっ!?」」

善子「でももう少し堕天使っぽさを出すために――」


 まあいっか。

 今はこうやって友達と楽しく過ごせれば。

 ルビィちゃんと一緒に善子ちゃんをからかいながらも助けてあげて、どんな人がいいかな何て理想を語り合って、現実的じゃない想像をして。

 きっとそれぐらいが、マルにはちょうどいいんだろうな。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:27:05.52 ID:sLn23MpL0
   ※



ダイヤ「ルビィ、そこ遅れてますわよ!」

ルビィ「あっ、ごめんなさい」

ダイヤ「そうそう、そんな感じですわ」


千歌「こうやって――こうかな?」

梨子「違うわよ、千歌ちゃん……」

鞠莉「そうそう、そこはもっと派手に――」

果南「鞠莉、それも違うから」




 屋上から響く声。

 Aqoursのみんながちょうど練習中。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:30:05.46 ID:sLn23MpL0
 大会も迫ってきてるし、みんな気合いは入ってる。

 でも今日のマルは図書委員の仕事。

 他にやる人もほとんどいないから、たまにはお手伝いしないといけないから。

 でもちょうど読書ができる時間もできて、ちょっと得した気分。


花丸「ふわぁ……」

 外は暑いけど、冷房がしっかり整備されている図書室は快適で、少しずつ眠気を誘う。

 わざわざ放課後にここに来る人なんて珍しいけど、流石に寝たらマズい。

 でも最近、練習がハードで疲れてる。ちょっとぐらい休んでもいいかな。


花丸「……」

 本を閉じて目を閉じると、何だかとてもいい気分。

 ああ、このまま本当に眠っちゃいそう――
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:34:37.33 ID:sLn23MpL0

??「すいませーん」


花丸「は、はい!」

 落ちそうなところで響いた声に急いで目を開けてると、目の前に迫る制服。

曜「お、起きたね」

花丸「よ、曜ちゃん?」

 そこには灰色の癖毛、曜ちゃんの姿。

 練習中のはずなのに、何で図書室に?


曜「今サボって寝てたでしょ〜」

花丸「そ、そんなこと、ないよ」

曜「でもよだれ垂れてるよ」

花丸「えっ」

 指摘されて口元に触れると、そこには確かに水っぽさが。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:37:12.21 ID:sLn23MpL0
曜「あはは、隠さなくてもいいよ」

花丸「は、恥ずかしい……」

曜「大丈夫だよ、可愛いから」

 そう言いながらハンカチで口元を拭ってくれる。

花丸「あ、ありがとう」

曜「うん、どういたしまして」

 流石、動きにそつがない。

 これだからモテるのかな。

 マルだったらきっと指摘することさえできないもの。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:39:22.94 ID:sLn23MpL0
花丸「ところで曜ちゃん、練習はどうしたの?」

曜「あー、一応水泳部の方に顔出しててさ」

花丸「あ、そっか」

 曜ちゃんは水泳部との兼部だったっけ。

 よく見るとちょっと髪が湿っぽい感じがするし。


曜「それでね、早めに切り上げてAqoursの方に行こうと思ったんだけど、何か気が乗らなくて」

花丸「つまり、サボり?」

曜「そうそう、花丸ちゃんと同じサボり仲間」

 少しバツ悪そうな、でも爽やかな笑顔。

 その表情に、思わずドキッとしてしまう。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:41:31.23 ID:sLn23MpL0
 ああ、これは恋人の1人や2人いるわけだ。

 整った顔、中性的な声、きっと男装したら王子様のように見えると思う。

 こんな人に迫られたら、あっさりと落ちちゃうよね、きっと。


曜「花丸ちゃんは練習行かないの?」

花丸「今日は最後まで図書委員の仕事があるから」

曜「仕事? この図書室を使う生徒っているの?」

花丸「えっと……」

 何とも言い返しにくい。

 実際、今日は本当に人が来ていないから。

 部活でもない限り、学校に残ってる人なんていないだろうし。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:44:57.68 ID:sLn23MpL0
曜「ほら、やっぱりいないんでしょ」

花丸「そうだけど、流石にここを離れるわけにはいかないよ」

 ばれることはなくても、任された仕事はちゃんとこなさないといけないもん。

曜「へぇ、じゃあここを離れなきゃいいのかな」

花丸「まあ、そうだね」

 さっきも寝ちゃってたぐらいだし。


曜「ならちょうどいいや」

花丸「えっ――」

 曜ちゃんはカウンターを乗り越えると、座っていた椅子ごとマルを壁に押し付ける。


曜「暇つぶしに、私と楽しいことしない?」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:47:13.65 ID:sLn23MpL0
 あれ、この状態なんていうんだっけ。

 確か梨子ちゃんが好きだった、壁ドン?

 間近に迫る顔、覆い被さられることによって、自分が支配されている感じ。


曜「ねえ、こっち向いて」

花丸「え、えっと」

曜「ふふっ、可愛いよ」


 さらに迫る曜ちゃんの顔と唇。

 高まる胸の鼓動、伝わってくる曜ちゃんの身体の感触。

 駄目、これじゃあ抵抗できない――



曜「なーんてね、冗談だよ」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:50:00.56 ID:sLn23MpL0
 でも、まさにキスしようかという瞬間、曜ちゃんは離れてしまう。


花丸「な、なにを」

曜「ごめんね、ちょっとやり過ぎたかも」

花丸「ほ、本当だよ……」


 まだドキドキしている。

 強引な行為だったのに、嫌な気分はしなかった。

 これは自分の中の問題か、相手が曜ちゃんだからなのか、それは分からない。

 もし曜ちゃんが原因だとしたら、まるで恋の始まりみたい。


曜「花丸ちゃん?」

花丸「……もう、駄目だよ。曜ちゃんは彼女がいるのに」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:53:21.17 ID:sLn23MpL0
曜「へっ、私彼女なんていないけど」

花丸「でも前に見たよ、中庭でキスしてるとこ」

曜「あぁ――あれは別に彼女じゃないよ」

花丸「でもキスしてたよ」

 彼女じゃない人とするなんて、考えられない。


曜「それはほら、あっちから迫ってきてから」

花丸「そ、そんな理由で?」

曜「駄目? 拒否するのも可哀想でしょ」

花丸「でもそんなの」

曜「やれやれ、花丸ちゃんは本当に初心だね」


 もしかして、普通のことなの?

 でも倫理的におかしい――いや、マルに恋愛経験が皆無だから分からないだけなのかな。

 もうなにがなんやら、頭が混乱している。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 21:55:48.73 ID:sLn23MpL0
曜「じゃあ私は練習に行こうかな――花丸ちゃんも仕事頑張ってね」

花丸「う、うん」


 でも混乱を引き起こした張本人は、何事もなかったようにその場を立ち去ろうとして。

 何かモヤモヤするな、一言言った方がいいかな。

 でも曜ちゃんも先輩だし、特に言葉を思いついているわけじゃないし――


曜「あっ、そうだ」


 チュ


花丸「あっ」

 い、いま、ほっぺにキスされて――。


曜「あはは、その顔も可愛いよ」

 手を振って図書室を出ていく曜ちゃん。

 マルはその姿を、呆然と見送ることしかできなかった。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 22:26:29.67 ID:sLn23MpL0
  ※



「――ルちゃん」


 キスされた。

 曜ちゃんに、あの人気者の曜ちゃんに、キス。

「――マルちゃん」


 あの日以来、その事で頭がいっぱいになってる。

 柔らかい唇の感触。

 物語の世界ではそれ以上の事を経験しているはずなのに、実際に体験すると、こんなに心を奪われるなんて――


ルビィ「花丸ちゃん?」

花丸「ふぁ」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/08(火) 22:29:49.90 ID:sLn23MpL0
 目の前に迫るルビィちゃんの顔。

 このぐらいの距離感なんて、何度も経験している仲のはずなのに、意識してしまう唇。

 曜ちゃんのややふっくらした物とは別の魅力を持った小さなそれから、目が離せない。


ルビィ「どうしたの、体調悪い?」

花丸「う、ううん、そんなことないよ」

花丸「ちょっとね、買った本について考えてて」

ルビィ「そっかぁ、マルちゃんいっぱい買ってたもんね」


 今日はルビィちゃんと沼津へ遊びに来ている。

 高校に入ってから善子ちゃんと3人が多かったから、久しぶりに2人きりで遊びに行こうと誘われたの。

 でも部活で忙しくて本屋さんに行くのも久しぶりだったから、つい買いこんでしまった。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 22:32:24.45 ID:sLn23MpL0
花丸「ごめんね、せっかく遊びに来てるのに、たくさん買い物したり、ボーっとしたり」

ルビィ「そう? マルちゃんらしいし、昔に戻ったみたいでルビィは楽しいよ」

 笑顔で手元にあるジュースを飲む姿はとても微笑ましい。

 高校で新しくできた関係も素敵だけど、やっぱりルビィちゃんとの関係は特別。


ルビィ「この後はどうしようか。どこかで買った本を読む?」

花丸「うーん、でもちょっと小腹が空いたような」

ルビィ「それならクレープ屋さんに行くのはどうかな」

花丸「あ、いいね!」


 ちょうど場所も近いし、良い提案。

 甘い物を想像しただけで、テンションが上がってくる。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 22:34:40.60 ID:sLn23MpL0
ルビィ「あはは、マルちゃん、よだれ垂れてきてるよ」

花丸「おっと、恥ずかしい」

 慌てて自分でよだれを拭う。

 我ながら食い意地がはりすぎている。

花丸「うぅ、ちょっと食欲を抑えていかないと太っちゃうかも」

ルビィ「大丈夫だよ、マルちゃんはそれでも可愛いから」

 ほっぺたをプニプニと突かれる。我ながらちょっと怪しい感触。


花丸「でも――――あれ?」

 突かれるのを止めようとルビィちゃんの方を向くと、ちらりと見えたオレンジ色の髪。
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/08(火) 22:36:07.25 ID:sLn23MpL0
ルビィ「どうしたの?」

花丸「いや、いまそこに千歌ちゃんの姿が見えたような」

ルビィ「えっ、珍しいね」

花丸「誰かと遊びに来てるのかな」

ルビィ「あー、もしかして曜ちゃんと?」

花丸「っ」

 名前が出ただけで、ついドキッとしてしまう。


ルビィ「ちょっと声かけていく?」

花丸「あっ、そうだね」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 22:38:28.92 ID:sLn23MpL0
 もし本当に曜ちゃんだったらどうしよう。

 あれ以来、一度も会話してないけど。どんな顔をすればいいのかな。


 というかもしかしてデート?

 千歌ちゃんと曜ちゃんは仲良しだ。

 前に言ってたように水泳部の子と付き合ってないなら、それも十分あり得るような――


花丸「あれ、千歌ちゃんの横にいるの、誰だろう」

 でも千歌ちゃんの横にいたのは、黒系のロングヘア―の女の子。

ルビィ「髪、長いね」

花丸「うん、身長もちょっと高いような」

 黒系で長い人はAqoursにもいるけど、ダイヤさんにしては体格が良いし、善子ちゃんにしては身長が高すぎる。
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 22:40:57.94 ID:sLn23MpL0
花丸「うーん、知らない人と一緒だったら、声かけない方がいいかな」

ルビィ「そうだね、ルビィは知らない人はちょっと……」

花丸「相変わらず人見知りだねぇ」

ルビィ「こ、これでもマシにはなったんだもん!」

花丸「知ってるよ〜」

 
 ムキになって膨らませているほっぺたをプニプニし返しながら考える。

 千歌ちゃんと歩いていた人、誰なんだろう。

 ルビィちゃんは気づいてなかったみたいだけど、ずいぶん距離感が近かった気もするし、恋人なのかな。

 メンバーの恋愛話だとしたら、やっぱり気になる。

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/08(火) 22:43:44.74 ID:sLn23MpL0
 今度、直接聞いてみようかな。

 でも曜ちゃんみたいなパターンもあるし、うーん。


ルビィ「ねえねえ、もう行っちゃったし、早くクレープを食べに行こうよ」

花丸「……うん、そうだね」

 まああんまり気にしても仕方ないかな。

 きっとじきに分かること。

 今は素直にルビィちゃんとのひとときを楽しもう。

 せっかくの貴重な時間なんだ、考え事をしてたら勿体ないよね。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/08(火) 22:47:27.93 ID:sLn23MpL0
ちょっと限界なので一度寝ます
明日か明後日ぐらいまでには完結させる予定です
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 05:00:48.29 ID:RJBD5t7X0
見てる
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 13:08:23.69 ID:hsSCbHDC0
   ※



 夏の暑さも本格的になってくると、同時に試験も近づいてくる。

善子「あぁ、もう限界……」

花丸「ちょっと善子ちゃん、手が止まってるよ」

 目の前にはダイヤさんお手製対策プリントの山。

 これを全部消化するのが今日の義務だ。


善子「仕方ないじゃない、こんなのやってられないわよ」

花丸「まあねぇ」

 正直、マルもちょっとウンザリしてる。

 普段部活に勤しみ過ぎて勉強が遅れ気味なので仕方ないけど、この量はつらい。

『一緒にいたら甘やかすでしょう』と言われて、ルビィちゃんも連れて行かれちゃうし。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:11:21.62 ID:hsSCbHDC0
善子「しかもこの内容、それなりの点を取るだけなら必要なさそうなところまで入ってるわよね」

花丸「そこはほら、ダイヤさんの場合、一位が普通になってそうだし……」


善子「あーあ、せっかくリリーとデートに行こうって話してたのになぁ」

花丸「その言い方だとあの後進展があったんだね」

善子「まあ、進展というか……」

花丸「えっ、何その意味深な言い方」

善子「いや、実はね――」


―――
――


花丸「梨子ちゃんと付き合うことになったの!?」

善子「しっ、あんまり大声で言わないでよ」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:14:02.21 ID:hsSCbHDC0

花丸「で、でも、本当に?」

善子「う、うん」

花丸「ほぇー、未来ずらぁ……」


 びっくりした。

 梨子ちゃんへの気持ちを聞き出してからそんなに経ってないのに。

 まさか、付き合うところまで進展していたなんて。


花丸「告白は善子ちゃんからしたの?」

善子「まあ、一応ね」

花丸「何か言いにくそうだね」

善子「正直、特別に何かをしたというわけじゃなくて」

花丸「なくて?」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:15:51.87 ID:hsSCbHDC0
善子「その、雰囲気とノリで付き合うことしたというか……」

花丸「えー、それはつまらないよ」

 小説だったら間違いなく売れない。

善子「仕方ないでしょ、現実の恋愛なんてそんなものよ」

花丸「むぅ、経験者の上から目線だよ」


善子「別に上からじゃ――ないわよ」

花丸「あー、いま少し間が空いたずら!」

善子「気のせいよ、気のせい」

 絶対わざとだ。

 心なしか普段よりも余裕のある態度だし。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:18:25.87 ID:hsSCbHDC0
花丸「くぅ、むかつくずら」

善子「ふふん、悔しかったらあんたも早く恋人作りなさいよ」

花丸「でもマル、相手もいないし……」

 相変わらず浮いた話もなければ好きな相手もいない。

 そもそもきっかけになることがないから発展しようがないもの。


善子「じゃあルビィでいいじゃない。仲良しでしょ」

花丸「ルビィちゃんかー」

 あんまり考えたことはなかったけど、確かに周囲の人の中では一番恋人に近い関係なのかもしれない。

 でも親友だし、恋人関係は想像しづらいかも。
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:21:19.84 ID:hsSCbHDC0
善子「嫌なの?」

花丸「そうじゃないんだけど、あんまりピンとは来なくて」

善子「ふぅん、そういうものなのね」

花丸「そもそもルビィちゃんの気持ちも分からないし」

善子「確かに自分一人の気持ちじゃ成り立たないもんね」


花丸「はぁ、マルに春が来るのはまだ先なのかな」

善子「そんなに焦ることはないわよ」

花丸「そうなんだけど、なんだかね」

善子「一応相談に乗ってもらったし、もし好きな人ができたら、私もできる限り協力するから」

花丸「うん、ありがとう」
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:25:08.75 ID:hsSCbHDC0

―――
――


 梨子ちゃんと一緒に帰ると善子ちゃんがいなくなり、1人きりになった教室。

花丸「恋人……」

 善子ちゃんの恋路が上手くいったのは嬉しい。

 でも少し残念だな。せっかくロマンティックな展開を楽しみしてたのに。

 堕天使だの何だのと言ってる割に、変なところで現実的なんだから。


 でも寂しいな、恋人ができたら、今までのように仲良し3人組とはいかないだろう。

 善子ちゃんは恋人優先、マルとルビィちゃんは取り残される。

 せめて、マルにも恋人がいればいいのに。

 そうすれば寂しさなんて無縁の生活を送れるだろうから。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:28:23.13 ID:hsSCbHDC0
花丸「うーん」

 ドキドキしていた時なんて、あの図書室での曜ちゃんとの絡みぐらい――


ガラッ


曜「あれ、花丸ちゃん」

花丸「曜ちゃん?」

 教室のドアが開く音に反応して目を向けると、そこには曜ちゃんの姿。

 思考は人を惹きつけるのかな、本人が来るなんて。


曜「なにしてるの?」

花丸「えっと、試験前に勉強を」

曜「一人で? 熱心だね」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:30:24.42 ID:hsSCbHDC0
 善子ちゃんが座っていた場所に、自然と腰掛ける。

 幼馴染と同じ距離感は、とても近い。

花丸「ちょっと前までは善子ちゃんが居たんだけど……」

曜「あらら、フラれちゃったの」

花丸「うん、恋人には勝てなくて」

曜「恋人?」

花丸「あれ、知らないの?」

 もしかして、言ったらマズかったかな。

 梨子ちゃんとは仲良しだから、知ってると思っていたんだけど。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:33:05.28 ID:hsSCbHDC0
曜「善子ちゃんに恋人ができたの? 誰?」

 当然、曜ちゃんは興味満々に食いついてくる。

 これ、話しちゃってもいいのかな。もしかして本当は秘密なのかも。

 でも普通に教えてくれたぐらいだし、たぶん問題ないよね。


花丸「えっとね、何か梨子ちゃんと付き合い始めたみたいで」

曜「あー、なるほど。あそこは仲良いもんね」

 納得したようにうなずく曜ちゃん。

曜「でもマジかぁ、全然知らなかったよ」

花丸「梨子ちゃん、話してなかったんだね」

曜「たぶん他のみんなも聞いてないと思う。恥ずかしがり屋だからねぇ」

花丸「あぁ」

 それだと梨子ちゃん的には隠しておきたかったかな、悪いことをしたかも。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:35:39.14 ID:hsSCbHDC0
曜「うーん、でもちょっとうらやましいよね、みんな恋人ができてさ」

花丸「曜ちゃんなら、作ろうといつでも思えばできるでしょ」

曜「それがなかなか上手くいかなくてね」

 髪をくるくるしながら天井を見上げる。


 好きな相手がいるのかな。それとも周囲にいる子がみんな自分の好みじゃないとか。

 簡単にキスをしちゃう時点で、堅い恋愛観を持っているわけじゃないだろうし。

曜「花丸ちゃんの方こそどうなの」

花丸「マル?」

曜「恋人、いるんだっけ」

花丸「ううん、いないよ」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:38:05.58 ID:hsSCbHDC0
曜「男の子にモテそうだし、ルビィちゃんもいるのにねぇ」

 また出てくるルビィちゃんの名前。

 そんなに仲良しに見えるのかな、それはちょっと嬉しいかも。


曜「でもそっか、恋人はいないのか」

 その言葉と共に真顔になり、じっと顔を見つめられる。

花丸「な、なに?」


曜「じゃあさ、私と付き合ってよ」


 そして飛び出した、予想外の言葉。


花丸「付き合うって、何に?」

 思わず聞き返してしまう。

 あまりの衝撃にショートした脳は、その言葉をとっさに処理できない。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:40:25.24 ID:hsSCbHDC0
曜「……今の話の流れだよ、分かるでしょ」


 そっけない曜ちゃんの態度。

 罰ゲームか何かなのかな? 恥ずかしがっているだけ?

 でも素直に嬉しかった。地味なマルの元に、王子様が現れた、そんな気分。


花丸「マルで、いいの?」

 だから、例え疑問があっても、断る理由なんてなかった。


曜「わざわざ聞くってことは、OKでいいのかな」

 こくりと頷く。

曜「そっか、ありがとう」

 笑顔になり、やさしく頭を撫でてくれる。

 それがこそばゆくて思わず目を細めると、迫ってくる唇。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:42:22.19 ID:hsSCbHDC0
花丸「ぅ」

 気づいたときは、マルのファーストキスは奪われていた。


曜「好きだよ」


 耳元で囁かれる甘い言葉。


曜「大好きだよ、花丸ちゃん」

花丸「ま、マルも、曜ちゃんのこと――」


 言い終わる前に、また塞がれる唇。

曜「離さないよ、絶対に」

花丸「よ、曜ちゃん……」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:48:44.04 ID:hsSCbHDC0
 恋愛なんてしたことのなかったマルには情熱的すぎる、曜ちゃんの行動。

 クラクラして、真っ白になって。

 気づけば頭の中は、曜ちゃん一色になっていた。

 これが恋の力、恋の魔力。


 流される。

 警告を発する冷静な自分は、抗えずにどこかへ消え去ってしまう。

 思考が侵略され、何も考えられない。でもそれが不思議と心地よくて。


曜「二人で、ずっと一緒にいようね」

花丸「……うん」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:49:27.51 ID:hsSCbHDC0
続きは夕方以降に投稿します
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 19:21:40.17 ID:RJBD5t7X0
渋で見た気がする
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 19:41:50.56 ID:cJuPs/0SO
童貞じゃないやん
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 19:52:47.94 ID:hsSCbHDC0


――――
―――
――



 曜ちゃんから告白された。

 曜ちゃんと付き合うことにした。

 あんな格好いい人が恋人になった。


 夢じゃない。

 朝、会った時に確認しても、確かに曜ちゃんはマルの恋人だった。

 これは現実なんだ。

 恋愛なんて、縁がないと考えてたのに。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 19:55:38.73 ID:hsSCbHDC0
善子「花丸、手が止まってるわよ」

花丸「あっ」

 目の前にあるプリントは、まるで進んでいない。

 曜ちゃんのことに夢中になって、普段にも増してぼんやりしてる。


善子「全く、昨日私に注意しておいて、自分でやる?」

花丸「ごめん……」

善子「……何かあったの?」

花丸「えっと……」

 曜ちゃんは特に隠そうとは言っていなかった。

 でも気軽に教えていいのかな、これは。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:00:32.58 ID:hsSCbHDC0
 曜ちゃんは特に隠そうとは言っていなかった。

 でも気軽に話していいのかな。


善子「気になるわね、誰にも言わないから教えなさいよ」

花丸「うーん、ちょっと待って」

 ただでさえ同性同士の恋愛、あんまりペラペラ喋るような話ではないのは確か。

 だけど善子ちゃんは昨日、自分の事を話してくれた。

 マルだけ隠しちゃうのも、何か不公平な気がする。


花丸「あのね、実は昨日、告白されたの」

善子「告白!?」

花丸「うん」

善子「私が帰った後に?」

花丸「そうだね」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:01:58.28 ID:hsSCbHDC0
善子「相手は誰? ルビィ?」

花丸「ううん、曜ちゃん」

善子「曜さん?」

花丸「意外かな」

善子「正直ね、あんまりかかわりがあったとは思えないから」


 そりゃそうだ。

 みんなが見てる前で曜ちゃんと話したことなんて、ほとんど記憶にない。

 二人の時も、最近の図書館と教室ぐらい。

 客観的に考えれば、曜ちゃんの名前は出てこない方が普通だろう。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:04:13.44 ID:hsSCbHDC0
善子「それで、付き合うことにしたの?」

花丸「うん」

善子「でも曜さん、恋人いなかった?」

花丸「えっと、今はちょうどフリーだったみたいで」

善子「流石は浦女のヒーロー、とんだプレイガールね……」 

 ありゃ、変な誤解をされちゃった。

 だけど恋人でもない相手にキスをしていたって話すのも変だし、仕方ないかな。


善子「不安だわ、そんな人と花丸が付き合うなんて」

花丸「そんな人って、Aqoursの仲間なのに」

善子「それとこれとは別問題よ」

花丸「大丈夫だよ、曜ちゃんはやさしい人だから」

善子「それは、分かっているけど」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:12:29.70 ID:hsSCbHDC0
 善子ちゃんが本気で心配するのも無理はない。

 傍から見れば、経験豊富な先輩に遊ばれている後輩みたいな形。

 実際、告白された意図も理解できていないのだから、それが事実な可能性も十分にある。

 でも――


花丸「心配してくれありがとう」

花丸「だけど今は、曜ちゃんを信じてるから」

善子「……それなら、一応素直に祝福しておくわ」

善子「おめでとう、花丸」

花丸「うん、ありがとう」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 20:22:35.13 ID:hsSCbHDC0
善子「でもこの事、ルビィには話しちゃ駄目よ」

花丸「なんで?」

善子「可哀想でしょ、一人だけ恋人がいない状態だと」

花丸「あっ、そっか」


 本当は真っ先に報告するつもりだったけど、確かにそのとおりかも。

 自分だって昨日、善子ちゃんが梨子ちゃんと付き合い始めたって聞いてショックだった。

 それが二人同時なんて、あんまりいい気がしないよね。

 昨日に続いて、ルビィちゃんがダイヤさんにさらわれていてよかった。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:24:13.06 ID:hsSCbHDC0
善子「あと、ルビィ以外の人にも言いふらしたりしない事ね」

善子「昨日、あんたに報告したことを話したら、リリーに凄く怒られたんだから」

花丸「何となく想像はできてたけど、やっぱり」

善子「だから私の件についてもこれ以上は他言無用だからね」

花丸「……了解ずら」


 曜ちゃんに教えちゃったことは話さない方がいいかも。

 でも曜ちゃんが梨子ちゃんをからかったりする姿が容易に想像できる。

 きっとその件で、また梨子ちゃんに怒られるんだろうなぁ。

 ごめん善子ちゃん、いつかお詫びはするから。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:50:22.45 ID:hsSCbHDC0
   ※


善子「あー、やっと終わったぁ」

ルビィ「うゅ〜」

花丸「ずら〜」

 問題の試験がようやく終了。

 試験前からの勉強が大変だったから、凄い開放感。


ルビィ「善子ちゃん、出来はどうだった?」

善子「ダイヤ効果もあってまあまあね」

ルビィ「マルちゃんは――聞くまでもないかな」

花丸「う、うん」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:52:06.51 ID:hsSCbHDC0
善子「微妙だったの?」

花丸「そこまで悪くはないんだけど……」

 しっかり勉強した割に、試験中に集中できず、感触は良くなかった。

 その原因は間違いなく曜ちゃんなんだけど。


ルビィ「じゃあ気分転換も兼ねて、どこかに寄っていかない?」

 まだ昼間、曜ちゃんとの関係を知らないルビィちゃんの誘いは当然のこと。


花丸「ごめんね、マルは今から用事があって」

ルビィ「え、そうなの」

花丸「うん」

 用事があるのは本当。

 試験が終わったら図書室に集合と、曜ちゃんと約束してるんだ。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 20:53:39.76 ID:hsSCbHDC0
ルビィ「……マルちゃん、付き合い悪いよぅ」

 ちょっと拗ねちゃってるルビィちゃん。

 無理もない。

 今まではお互いに、相手からの誘いを断ることなんかなかったし、何も言わなくても常に一緒にいるような仲だったから。

 それなのに試験前も(ダイヤさんの所為だけど)一緒に勉強せず、今も誘いを断る。

 マルとしても、結構申し訳なさはあるんだ。


善子「ルビィ、外せない用事かもしれないんだから、あんまり困らせちゃ駄目よ」

ルビィ「うゅ……」

花丸「この埋め合わせはちゃんとするから、ね」

ルビィ「それなら、まあ……」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 21:29:33.69 ID:hsSCbHDC0

―――
――



曜「ふぁぁ」

 2人きりの図書室。

 ゆっくり本を読むマルと、時々本に手を伸ばしがらも、半分はお昼寝モードの曜ちゃん。


花丸「眠いの?」

曜「流石に試験で疲れてさ」

花丸「あはは、それはマルもだよ」

曜「よく本を読めるね、試験後なのに」

花丸「マルは本が大好きだからね」

曜「私も本は嫌いじゃないけど、流石に辛い〜」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 21:42:30.22 ID:hsSCbHDC0
 机に突っ伏しながら、足をバタバタさせる。

 付き合い始めて気づいたけど、曜ちゃんは案外子どもっぽい。

 普段の格好いい姿とのギャップが、また素敵なんだけどね。


曜「うーん何か――あ、そうだ!」

花丸「どうしたの?」


曜「花丸ちゃん、おいで」

 とつぜん曜ちゃんが膝を空けて手招きする。

花丸「これはどうすれば」

曜「膝の上に乗ればいいんだよ」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 21:44:12.17 ID:hsSCbHDC0
花丸「えっと――こう?」

 ちょこんと膝の上に座ると、伝わるのは鍛えられたら太ももの感触。


曜「あとはこうやってギューっとね」

 膝に乗ったまま、後ろから思い切り抱きしめられる。

花丸「よ、曜ちゃん」

曜「やっぱり柔らかい。この感触が好きなんだよね」

花丸「恥ずかしいよぉ」

曜「大丈夫、誰も来ないから」

花丸「そういう問題じゃなくて……」

曜「うーん、花丸ちゃんは可愛いねぇ」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:09:40.33 ID:hsSCbHDC0
 付き合い始めてから少しの時間が経ったけど、マルたちの関係はずっとこんな感じ。

 最初に曜ちゃんが見せてくれたような、情熱的な愛し方はしてくれない。

 仲の良い後輩か、ペットのような扱い。


 愛されているのは分かるんだけど、どうしても不安になる。

 やっぱりマルとの関係は、曜ちゃんにとって遊びに過ぎないのかなって。

 違うとは思う。でも考えてしまう。

 結局、マルには自信がないから。

 曜ちゃんに愛されているという自信が。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:11:05.24 ID:hsSCbHDC0
曜「ありゃ、黙り込んじゃった」

花丸「あ、ごめん」

曜「抱っこされるの、嫌だった?」

花丸「ううん、そんなことはないよ」

曜「そう? 本を読むのに邪魔だと思ったんだけど」

花丸「うーん、言われてみるとそうかも」

曜「あちゃー、余計な事を言ったか」

花丸「ふふっ、かもね」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 23:25:50.63 ID:hsSCbHDC0
曜「ホント、本の虫。スクールアイドルとは思えないねぇ」

花丸「うん、そうかもしれないね」

 ルビィちゃんや千歌ちゃん、曜ちゃんみたいな明るくて活発な子が普通のイメージ。

 一般的なアイドル象からはかけ離れたタイプなのは間違いない。


曜「花丸ちゃん、何で文芸部に入らなかったの?」

花丸「この学校、そもそも文芸部がないからね」

曜「えっ、そうなの」

花丸「うん」

曜「それはまた、残念だったね」

 ただでさえ部員の少ない学校。

 本を読むよりは外で身体を動かすのが好きな人の方が多い事を考えれば、仕方ないと思う。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:27:33.17 ID:hsSCbHDC0
花丸「例え存在しても、ルビィちゃんが居るから入らなかったとは思うけど」

曜「ルビィちゃんは嫌がるのかな」

花丸「ううん、きっとマルに合わせて入ってくれると思う」

曜「うん、そんな気はするよ」

花丸「でもね、そこで無理をさせたくないから、マルは部に入らないんだよ」


曜「……なるほど――本当に仲良いね、二人は」

花丸「曜ちゃんと千歌ちゃんも仲良しでしょ」

曜「……まあ、そうだね」

花丸「曜ちゃん?」

 急に声のトーンが落ちた。

 もしかして、変な地雷を踏んじゃったかな。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:31:41.85 ID:hsSCbHDC0
花丸「あ、あの、マル――」

曜「大丈夫、千歌ちゃんを水泳部に誘って断られたのを思い出しただけ」

 元に戻る曜ちゃん、少し安心。

 でもどうしたんだろう。

 もしかしたら、千歌ちゃんと喧嘩でもしてるのかも。


曜「元々無茶だったからね、水泳部に入ってもらうのは」

花丸「千歌ちゃん、特別泳ぎが得意なわけじゃないもんね」

曜「結局、私も水泳部を辞めて一緒にスクールアイドルを始めるんだから、面白いけどね」


花丸「へっ、曜ちゃん、水泳部を辞めたの?」

曜「うん、言ってなかったっけ」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:34:01.71 ID:hsSCbHDC0
 そんな話、聞いてない。

 ついこの前まで水泳部の活動に顔を出していたはずなのに。


花丸「どうして辞めたの」

曜「ちょっと部で揉めちゃってさ、居辛くなった」

花丸「揉めた?」

曜「ほら、前にキスした子。花丸ちゃんに見られた時の」

花丸「ああ、クラスメイトの」

曜「あの子が水泳部なんだけどね、キスから色々あってさ」


 その色々は、あまり想像したくない。

 でも仕方ないと思う、キスをされたら普通は勘違いをするもの。

 そう、キスをされただけじゃ、勘違いなんだ。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:36:17.52 ID:hsSCbHDC0
曜「いっそさ、Aqoursも辞めちゃおうか」

花丸「えっ」

曜「そうすればずっと、2人でいられるよ」

 確かにそのとおり、そのとおりだけど――。


花丸「だ、駄目だよ、それは流石に」

曜「わかってるよ、ちょっとした冗談」

 いたずらっ子のような笑顔。

花丸「も、もう、たちの悪い冗談は辞め――」

 言い終わる前に重ねられる唇。

 発しようとした言葉は遮られる。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:38:45.46 ID:hsSCbHDC0
 でもマルは、自分から唇を離す。


曜「花丸ちゃん?」

花丸「ねえ、マルとあの子にしたキスは、同じ意味なの?」

曜「……なるほど、そこが気になるか」


 もう一度キスをされる。

曜「舌、出して」

花丸「んっ」


 今までとは違う、大人のキス。

 お互いの口の中をむさぼりあう、濃厚な。

 たぶん、時間にしたら一分にも満たない。
 
 でも永遠のように感じられる、不思議な感覚。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:45:49.42 ID:hsSCbHDC0
曜「これで許してくれる?」

花丸「……仕方ないなぁ」

曜「ありがとう、花丸ちゃんは特別だからね」


 特別。

 曜ちゃんの、特別。

 嬉しかった、マルが聞きたかったのは、きっとその言葉だったから。


曜「花丸ちゃんにとっても、私は特別かな」

花丸「もちろんだよ」

曜「それは、ルビィちゃんより?」

花丸「……それは」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:46:51.86 ID:hsSCbHDC0
 曜ちゃんが特別なのは間違いない。

 でもルビィちゃんも、曜ちゃんとは違う意味で特別な人。

 二人を区別なんてしたくない。

 でも、決めなきゃいけないとしたら――


曜「ふふっ、いまのは意地悪な質問だったね」

花丸「……ごめんね」

曜「大丈夫、私も似たような質問をされたら、答えるのは難しいから」

 曜ちゃんの場合は千歌ちゃん?

 喧嘩してるかもしれないのは勘違いなのかな。

 それとも、例え険悪でも特別な相手であることには変わりないってこと?。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:53:51.05 ID:hsSCbHDC0
曜「さて、そろそろ帰ろうか、あんまり遅くなるとダイヤさん辺りに怒られそう」

花丸「うん」

曜「悪かったね、最後に変なこと言っちゃって」

花丸「ううん、気にしないで」
 

 マルは特別な人を一人選べと言われたら、曜ちゃんを選べる。

 でも曜ちゃんは違うのかな。

 幼馴染としての時間、それは簡単に乗り越えられるものじゃないのかもしれない。


 でもいつか、いつか曜ちゃんに言わせたい。

 一番の特別は、マルだって。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:56:35.52 ID:hsSCbHDC0
ここまでで全体の半分ぐらいの予定です

続きは明日投稿します
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/11(金) 22:14:07.83 ID:BnnuJvs60
待ってます
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:40:27.31 ID:Kzn9sCI40

   ※



ダイヤ「はい、今日はここまでにしましょう」

 ダイヤさんの声に、一斉に崩れ落ちる面々。

 夏休みになっても、当然Aqoursは練習。

 真夏の日差しと暑さは体力を奪うけど、みんな弱音を吐くことはない。


千歌「果南ちゃん、この振り付けのところなんだけど」

果南「あー、それはさ――」


善子「リリー、この後どこか行かない」

梨子「いいけど、疲れてない?」

善子「私は全然大丈夫よ!」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:42:00.08 ID:Kzn9sCI40
 Aqoursはラブライブの決勝に進むことができなかった。


 でもみんなそこまでの悲壮感はない。

 世間に伝えたいことは十分に発信できたし、ラブライブは年に二回ある。

 まだ最後のチャンスが残っているから。


ルビィ「マルちゃん、お疲れ」

花丸「うん、お疲れ様」

ルビィ「流石にこの時期の練習はキツイね」

花丸「でも慣れたよね、最近は」

ルビィ「最初はずっと、ヒーヒー言ってたのにね」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:44:16.12 ID:Kzn9sCI40
 二人で笑い合う。

 仮入部の時、階段を登ってもすぐにバテちゃうぐらいだったのに。

 当時の体力だったら、この時期の練習は30分も持たないんだろうな。


花丸「次のラブライブ、勝てるかな」

ルビィ「大丈夫だよ、きっと」

花丸「その自信はどこから出てくるの?」

ルビィ「なんかね、根拠はないけどみんな集中できていれば、勝てる気がするんだ」

花丸「不思議ちゃんみたいだよ、その言葉」

ルビィ「預言者ルビィ! ――みたいな感じ?」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:46:01.06 ID:Kzn9sCI40
善子「格好いい!」

ルビィ「ピギッ、善子ちゃん!?」

花丸「いつの間に」


善子「いいわね、私にも似たような二つ名ちょうだい」

ルビィ「え、えっと」

花丸「中二病善子とかでいいんじゃない?」

善子「なによ中二病って! それにヨハネよ!」

 何一つ間違ったことを言ってないけど。

 そもそも普段から堕天使ヨハネって二つ名を名乗っている気が。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:49:29.26 ID:Kzn9sCI40
善子「そういうあんたは、暴食者ずら丸よ!」

花丸「いやいや、流石にそれは酷くない?」

ルビィ「あー、でも分かるかも」

花丸「ルビィちゃんまで!?」

善子「ふっふっふっ、これは多数決で決定ね」


花丸「酷い裏切りを受けたずら……、悪魔ずら……」

ルビィ「あはは、じゃあルビィは悪い子ルビィだね」

善子「あー、なんか妙にしっくりくる」

 確かに、結構語感もいいし。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:50:59.36 ID:Kzn9sCI40
花丸「でも中二病、暴食者、悪い子だと、全くアイドルには聴こえないね」

ルビィ「でもそれがいいんじゃないかなぁ、ルビィたちらしくて」

 確かに、これがAqoursらしさなのかな。

 そんな変わった人間の集団が団結するからこそ、素敵なものを生み出せるのかもしれない。


花丸「流石ルビィちゃん、いいこと言うよ」

ルビィ「えへへ〜」

善子「あんたはルビィのことになると甘いわねぇ」

花丸「そんなことないよ……たぶん」

善子「自覚はあるのね、一応」

 多少、贔屓目が入っちゃってるかなとは思う。

 でも仲良しの相手にそうなるのは仕方ないよね、人間だもの。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:08:23.31 ID:Kzn9sCI40
ルビィ「そういえばマルちゃん、今度の――」

曜「花丸ちゃん、ちょっといいかな」


 ルビィちゃんの言葉と重なる、曜ちゃんの言葉。

花丸「どうしたの?」

曜「ちょっと急いで話したことがあってさ、一回下に来てくれる」

花丸「あっ、うん――ごめんルビィちゃん、話は後でもいいかな」

ルビィ「……うん、大丈夫だよ」

善子「曜さん、タイミング悪いわよ」

曜「あー、ごめん、でも緊急で」

ルビィ「あっ、あんまり気にしないでね」

 申し訳ないけど、急ぎの用なら曜ちゃんが優先。

 ルビィちゃんとも、いつでも話せるもんね。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:10:30.11 ID:Kzn9sCI40

―――
――


曜「あー、やっぱり中は涼しいねぇ」

 屋上を出て、やってきたのは部室。

花丸「どうしたの、急に」

曜「いや、外は暑いし、早く室内に入りたいな〜って思ってさ」

花丸「それだけ?」

 急ぎの用って言ったのに。

曜「いや、あとあそこではしにくい話もあって」

花丸「どんな話なの」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:12:17.09 ID:Kzn9sCI40
曜「今度、デートでもしない?」

花丸「デート?」

曜「ほら、私たちそういうの全然してなかったじゃん」


 言われてみると確かに。

 夏休みに入っても練習ばかり、学校に来ても図書室で会うだけの日々。

 一度、曜ちゃんが家に来たこともあったけど、普段学校で過ごすのとほとんど変わりなくて。

花丸「デート、いいね」

曜「だよね」

花丸「どこに行くとか決めてあるの?」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:19:44.42 ID:Kzn9sCI40
曜「うん、その辺は考えてきてるよ」

 そう言いながら、自分の鞄から二枚の紙を取り出す。


曜「ちょうど遊園地のチケットを貰ったから、ここに行かない?」

花丸「遊園地!」

 遊園地といえば定番デートスポットの一つ。

 青春小説なんかだとよく出てくる、ある種憧れの場所。


曜「その反応、乗り気かね」

花丸「うんうん、行きたいずら!」

曜「よし、じゃあ決定。行くのは今度の練習休みの日でいいかな」

花丸「うん!」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:20:37.80 ID:Kzn9sCI40
 デート、デートかぁ。

 ちゃんとおめかししていかないと。

 流行りの服とかはルビィちゃんに教えてもらわなきゃ。

 あ、でもそんなこと聞いたら恋人がいることバレちゃうかな。

 でも大丈夫だよね、たぶん。

 善子ちゃんにもデートについて聞いてみよう。

 事前に本も読んで勉強しておかないと。
 
 
 あぁ、曜ちゃんとデート、楽しみだな。
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