千歌「勇気は君の胸に」

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327 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 00:44:09.25 ID:1wzK0UIw0

よしみ「曜ちゃん、千歌ちゃん! 直ぐに戻るからそれまで待ってて!!」

曜「……」コクッ






梨子「ねえねえ、この状況をちゃんと理解しているの?」

梨子「自分で言うのもアレだけど、私はこの前君が倒した人形兵(マリオネット)や逆に倒された『雷電』使いの子とは格が違うんだけど」

曜「理解していないのは桜内 梨子、アンタの方だよ」

梨子「?」


曜「今回は最初から千歌ちゃんが側に居るんだ。だから、今の私は誰にも負けない」

梨子「……『同調』だっけ? そんな他力本願な力で強気になるなよ」



巻き付いた鎖を嵐の炎で分解し、引き千切る。



梨子「一先ず、この一撃を防げるかな?」



三発目の光球。

曜は両手を地面に叩きつけて水の壁を作り盾を張った。

最初の一発より一回り小さかったが威力は絶大。

水の壁は一瞬で蒸発し、二人は後方に吹き飛んだ。



千歌「きゃっ!」

梨子「おお! 今ので貫けないのね!」

曜「くっ……炎は消せても、衝撃までは無理か!?」

梨子「ほらほら、避けなきゃ死ぬよ」



―――ゴッ!! ゴオッ!! ゴオォォ!!



曜「嫌らしい攻撃だなっ!」
328 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 00:47:19.96 ID:1wzK0UIw0


曜は千歌を抱え、飛んでくる光球を回避する。


梨子の目的は千歌を無傷で連れて帰る事。
その際、邪魔者は排除しなければならない。

邪魔者の排除は難しくは無い。
しかし、その強すぎる火力ゆえに対象も巻き込むリスクが伴う。

曜もまた、千歌を梨子の魔の手から守る立ち回りをしなければならない。


……梨子はそこを逆手に取った。


先程の攻撃で曜の『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』のおおよその耐久力は把握出来た。
ならば、それよりもほんの少し高威力の光球を千歌を狙って放てばいい。

そうすれば曜は千歌を守らざる得ない。

今は避けられているが、その内逃げ場は無くなる。

詰むのは時間の問題だ。



梨子「その子に自身を守る術が無い以上、君に勝ち目は無いわよ?」

千歌「梨子ちゃんの言う通りだよ! 曜ちゃんの得意な接近戦に持ち込まなきゃ!」

曜「それじゃ前の二の舞になっちゃうよ!」

千歌「攻撃が全部私に向けられているのは分かってる。だったら私を囮に――」


曜「ダメ、それだけは絶対に嫌だ!!!」

千歌「ならどうするのさ!?」
329 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 00:49:03.40 ID:1wzK0UIw0





梨子「……やーめた」




曜「は?」

千歌「攻撃を止めた…?」

梨子「このまま続ければ確実に仕留められるけど、それじゃ物足りないわ」


梨子「私に恐れずに挑もうとしてくれてる。こんな機会は久しぶりだもの……勿体無いわ」


曜「……勿体無い、か」

梨子「気に障ったかしら?」

曜「いいや、お手上げ状態だったから寧ろ有難いよ」


曜「最後までそうやって慢心していてくれるともっと嬉しいかな」

梨子「君には私が慢心してるように見える?」



ジャラジャラッ―――!!!



梨子の周囲に『水の鎖』を生み出す。

全身に巻き付かせて動きを封じる算段だ。



梨子「その技はもう見たよ!」



鎖が梨子の体に触れる前に一瞬で空中分解する。

身体の周囲に嵐の炎を纏わせてバリアを張っていたのだ。


このバリアがある限り『水の鎖』は勿論、『激流葬』も通じない。
330 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 00:51:50.94 ID:1wzK0UIw0



曜「はあぁぁぁッ……!!!」



梨子へと向かい迫る曜。

眼前まで迫り、右手のトンファーを振り抜きバリアを打ち破る。

もう片方のトンファーで顎を狙う。


が、梨子はとれを片手で軽々と受け止める。



梨子「いいわねぇ! 恐れずに接近してくるその勇気!」

曜「……ッ、素手で止めるの…!?」

梨子「素手? 違うわよ」



―――ゴオオオォォッ!!



梨子はインパクトの瞬間、手の平から炎を出して衝撃を和らげていた。

今度はその炎で掴んだトンファーごと曜の左腕を焼く。



曜「ぅぐああああッ……!!」



誤って沸かしたてのやかんに触った時とは訳が違う。

まるでマグマの中に腕を突っ込んだような、そんな痛みと熱さが曜を襲う。


曜は咄嗟に飛び退き、距離を取る。



曜「……ッぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛……ッッ!」
331 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 00:59:39.66 ID:1wzK0UIw0

梨子「炭化させたつもりだったんだけどな……雨の炎で守ったのね」

曜「ぁ……ぐぅ、はッ……」



手を握ったり開いたりして動きを確かめる。

皮膚はただれ、意識が飛びそうになる程痛いが腕は死んでない。


……まだ、戦える。



曜「……行くぞッ!!!」


梨子「……」



……今の一撃で折れなかったのは意外だったな。

あの子の左腕はほぼ使い物にならなくなった。


片方のトンファーに炎を集中させての連続攻撃。

速く、鋭い連撃。

果南さんと修行を積んだのは嘘じゃないみたいだね……。



―――ゴッ!!!



曜の攻撃が梨子のこめかみにヒット。

体勢が大きく崩れた。



曜「チャンスだ……ッ!!」

332 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 01:05:08.27 ID:1wzK0UIw0



千載一遇の好機。

ここで畳みかけて一気に決着をつける。

曜の炎は更に大きく燃え上がる――。



……梨子の目は曜の動きを完全に捉えていた。







勝敗を決する要因は様々存在する。


体力、体格、筋力といった基礎能力。

モチベーションや精神状態などのメンタル力。

これまでに培ってきた経験値。


これらは戦いが始まる前から現れる差だ。

梨子と曜にはこの時点で圧倒的に差がついている。


しかし実戦では何が起こるか分からない。

思わぬラッキーパンチが敵に致命傷を与えるかもしれない。

戦いの中で急激な成長があるかもしれない。

感情の高ぶりで突然新たな力が発現するかもしれない。


……否だ。

百歩譲ってラッキーパンチの可能性はあるだろう。


だが、今回の曜が与えた一撃は違う。

梨子が気まぐれで思い出に一発プレゼントしてあげただけ。


現実では都合よく新たな力は発現しないし、圧倒的な実力差をひっくり返すほどの成長は起こらない。

気持ちが勝敗を分けるのはお互いの実力が拮抗している時のみの話だ。


……勝負は始まる前から既に決まっている。

曜が勝てる見込みなんて最初からゼロなのだ。



333 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 01:06:54.89 ID:1wzK0UIw0




梨子「もういいわよ」

曜「や、やばッ……」



体勢を崩した梨子だが、右手は曜の体の方に向けられている。

回避はもう、間に合わない―――。



―――ゴオオオォォッッ!!!



梨子の炎が曜の全身を焼き尽くす。


コンクリートを一瞬で灰にする火力。

人間に直撃すれば体は一瞬で蒸発する。


……曜の体は残っていた。

間一髪で雨の炎を全身に纏わせるのが間に合ったのだ。


しかし防げたのはごく一部。

辛うじて即死を免れたに過ぎなかった。

全身重度の火傷状態。

曜は力なくその場に倒れ込んだ……。



334 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 01:08:22.66 ID:1wzK0UIw0

曜「っ、ぁ……」ドサッ

梨子「……蓋を開けてみれば大した事無かったわね」

梨子「久々に歯向かってくる敵だったからちょっぴり期待しちゃった」


曜「あ、あぁ……ぁ…」シュウゥゥゥ


梨子「結局、よしみは間に合わなかったか。残念だったね」


曜「ぁぐ……ぐっ、はぁ………っ」


梨子「苦しそうね? 安心して、今楽にしてあげるから」



梨子の手の平に高純度の嵐の炎が集中する。

先ほどは直撃だったとは言え、僅かながら雨の炎で威力を軽減していた。

だが、今の曜に次の攻撃を和らげる力は残っていない。
梨子の攻撃を受ければ今度こそ消し炭にされる。

……はずだった。



梨子「………何のつもり?」
335 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 01:11:00.69 ID:1wzK0UIw0


千歌「……」


曜「ぢ……が、ちゃ………ん………?」

千歌「………っ!!」キッ!!



千歌が曜と梨子の間に割って入る。

両手を横に広げ、鋭い目つきで梨子を睨み付けている。




千歌「――止めて! もう曜ちゃんを傷つけないでっ!!」

梨子「涙目で睨まれてもねぇ……いいから、そこをどきなさい」

千歌「どかない……!!」フルフル


梨子「―――どけ。私をこれ以上怒らせるな」ギロッ

千歌「……ッ!? い、嫌だ……絶対にどかない!!」

千歌「あなたの目的は私でしょ? どこにでもついて行くから……だからもう止めて……!」

曜「ッ!!?」


梨子「そうね……でも、ここにいる反逆者を見逃すわけにはいかない」

千歌「……だったら」



千歌はポケットから先の尖がったガラス片を取り出し、刃先を自分の喉元に突き立てる。



梨子「……正気?」

千歌「私が死ねば、あなたは任務を遂行出来ない。それは凄く困るんじゃないの?」
336 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 01:12:57.19 ID:1wzK0UIw0

梨子「……そんな脅しは無意味―――」



―――ザクッ!!!



千歌は突き立てたガラス片を左腕に突き刺す。

傷口からは真っ赤な鮮血がドクドクと流れ出てきた。



千歌「〜〜〜ぅ痛ッッ!!!!!?」ボタボタッ

梨子「んな!?」

千歌「……あ、侮らないでよ。私だって覚悟してこの場所にいるんだから……ッ!」ジワッ

梨子「!」ギリッ


千歌「これ以上誰も傷つけないって約束するなら、大人しくついて行くよ」

梨子「誰もって誰の事?」

千歌「曜ちゃんは勿論、よしみさんやルビィちゃん、花丸ちゃん、果南ちゃんも含めてだよ」

千歌「金輪際、みんなを襲わないって約束して」

梨子「……」

千歌「……ねぇ、どうするの?」


梨子「私がその条件を受け入れたとして、こっちにメリットはあるの?」

千歌「女王様が私を探している理由は分からない。でも、どんな要求でも断らないし全面的に協力する」

梨子「……仮に、要求が“命”だったとしても?」

千歌「………うん」

曜「!!?」

梨子「そう……なるほどね」


曜「だ……め、だよ……行っちゃ、だめだ……!」
337 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 01:14:44.74 ID:1wzK0UIw0




梨子「いいよ。その条件、受け入れてあげる」



梨子は手の炎を消す。



梨子「ただし―――」



千歌の隣を横切り、倒れている曜の指からリングを取り外した。



千歌「ちょっと、何を―――」



―――パキパキパキッ



千歌「……あっ」

梨子「このリングは破壊する。微々たる戦力でも削らせてもらうわ」

曜「ぁ、ぅあ……」





曜『――このリングもパパから譲ってもらった宝物なんだ!』エヘヘ






曜「……う、うぅぅ、うわあ、あぁ」ポロポロ


千歌「曜、ちゃん……」ギリッ


梨子「さあ、ついてきなさい」

千歌「……はい」
338 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 01:16:46.73 ID:1wzK0UIw0






曜「……ま、て……待って、よ………」グググッ

梨子「あ?」

曜「……わ、たさ、ない……私は、まだ……戦え、る…!!」



……立て……立て立て立て立て!! 立てよッ!!!!

立ち上がらないと千歌ちゃんが……千歌ちゃんが連れて行かれるんだ!!!


何の為に強くなろうと決めたんだ。

絶対に守るって約束だってしたじゃないか。

今立ち上がらなくちゃ意味が無い!!


くそッ!! 言う事聞けよ私の体あああ!!!!


…… お願いだから……お願い、だからッ!!




千歌「――よーちゃん」



必死に立ち上がろうとする曜の頬に
千歌はそっと手を添える。



曜「ちか、ちゃん……?」
339 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/03/26(火) 01:19:24.98 ID:1wzK0UIw0
千歌「ごめん……ごめんね……私にも戦う力があれば、曜ちゃんがこんなに傷つく事は無かったんだよね」

曜「……ぅぁ」



……違う、千歌ちゃんは悪くない。



千歌「私と出会ったせいで曜ちゃんの人生を滅茶苦茶にしちゃったよね」

千歌「本当にごめん……」

曜「……っ、ち……が……っ」



……嫌だ……千歌ちゃん……。

行かないでよ……ねぇ……。



千歌「―――バイバイ、今までありがとうね」ニコッ






340 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/02(火) 22:10:33.23 ID:14MbcLkM0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




治療を終えたよしみ。

曜の増援へ向かう為、ルビィと共に戦場へ走る。


あの場から離れてから約五分。

到着まではもう一分も掛からないだろう。



ルビィ「……閃光と轟音が止んだ……?」

よしみ「嫌な予感がする……っ!」


ルビィ「もうすぐ着きます!」



曜「……ぁ、ぉっ……ぁ」



よしみ「……っ!! 曜!!」

ルビィ「ひ、酷い火傷……っ!」
341 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/02(火) 22:12:10.74 ID:14MbcLkM0


よしみ「直ぐに治療を始めます! ルビィ様!」

ルビィ「は、はい! アジトから道具一式を持ってきます!!」ダッ


よしみ「曜! もう少しだけ耐えて!」ボッ!!

曜「……ち、……か……ちゃ…が」

よしみ「……喋らなくていい分かってる」ギリッ

よしみ「間に合わなくてごめん……」


曜「……っ………っっ」ガクガクッ


よしみ「ま、マズイ!?」

ルビィ「持ってきました! ……えっ」

よしみ「ショック状態だ!! 早くそれを渡して!!」

ルビィ「はい!」


よしみ「死なせない……! こんな所で死なせて堪るか!!」

ルビィ「曜ちゃん頑張って!! 曜ちゃん!!!」





342 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/02(火) 22:18:29.22 ID:14MbcLkM0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜浦の星王国 城内〜



梨子「――はい、これで手当てはお終いよ」


千歌「うん、ありがとう」

梨子「全く……あんな瓦礫で体を傷付けるなんてどうかしてるわよ」

千歌「心配してくれるんだ」

梨子「……別に、無傷で連れてこられなかったのが嫌だっただけ」



千歌「私はこれからどうなるの?」

梨子「女王様の……ああ、名前は知ってるんだっけ?」

千歌「うん、ダイヤさんだよね」

梨子「あなたをダイヤ様の所へ連れて行く」


千歌「……私、殺されちゃうの?」

梨子「さあね。少なくとも直ぐには殺されないとは思うわ」


梨子「ただ、今ダイヤ様は立て込んでいるのよ」
343 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/02(火) 22:22:20.34 ID:14MbcLkM0
千歌「じゃあ、私は牢屋に……」

梨子「いいえ」

千歌「へ?」

梨子「監禁するつもりは無いわ。城内から出なければ自由に行動しても構わない」

千歌「……逃げ出すかもしれないよ?」

梨子「言わなくても逃げ出せばどうなるかくらい分かるよね?」

千歌「うぅ……はい」


千歌「でも本当にいいの? 入っちゃいけない部屋とかは?」

梨子「心配しなくてもその部屋には入ろうとしても入れないから」

千歌「そっか」


梨子「……」ジッ

千歌「な、何でしょう……か?」

梨子「かしこまらなくていいわ。そっちの世界だと私達は友達なんでしょ?」

千歌「そう、だけど……」

梨子「前は私があなたの事を知らなかったからあんな事を言っただけ」
344 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/02(火) 22:28:15.89 ID:14MbcLkM0
千歌「じゃあ……梨子ちゃん」


千歌「質問したい事があるんだけど、いい?」

梨子「内容によるけどいいわよ」


千歌「果南ちゃんはダイヤさんが女王様になった時にこの国から出て行った。それはダイヤさんのやり方に納得できなかったから……」


千歌「でも梨子ちゃんはどうして今もダイヤさんの守護者をやっているの?」


梨子「……」

千歌「この世界に来てみんなと会って、話して、それで分かったんだよ」

千歌「確かに私の知ってるみんなとは年齢も生活も人間関係も全然違う」


千歌「……でもね、曜ちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃんにルビィちゃんも私の知ってるままだった」

梨子「偶然よ」

千歌「そんな事無い。世界が違ってもその人の内面を作っているものは変わらないんだよ」

千歌「だから梨子ちゃんだってきっと――」


梨子「やめて」


千歌「……っ!」

梨子「他の人がどうだったかなんて関係ない。私は私なの。それ以外の何者でもない」

梨子「勝手にあなたの中の像を押し付けないで」

千歌「……ごめんなさい」


梨子「質問はどうして私がダイヤ様に仕えているか、だったわね」
345 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/02(火) 22:33:50.41 ID:14MbcLkM0
千歌「うん」


梨子「簡単よ、私はダイヤ様に恩義があるから」

千歌「恩義……?」



梨子「私は元々、音ノ木坂の人間だったのよ」


梨子「生まれも育ちも音ノ木坂でね、将来の夢は守護者になる事だった」


梨子「その為に必死で努力した。努力して努力して……音ノ木坂では誰にも負けないくらい強くなったわ」


梨子「……でも、私は守護者になれなかった」

千歌「リングに選ばれなかったんだね……」


梨子「音ノ木坂で守護者になれるのは一部の血筋を引く者だけだった。私には初めから挑戦権すら無かったってわけ」

千歌「……」


梨子「哀れでしょ? 最初から知っていれば叶うはずの無い夢を見る事も無かったのにね」


梨子「嵐の守護者になったのは『西木野家』の人間だった。……実力は私の方が上なのにっ」ギリッ

梨子「まあ、誰一人認めてくれなかったけどね」


梨子「……自分より弱い人の下につく気はさらさら無い。だから私は国を出て行った」
346 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/02(火) 22:47:55.78 ID:14MbcLkM0
千歌「……」

梨子「……そんな事の為に出て行ったのって思ってる?」

千歌「ううん、思ってないよ」

千歌「梨子ちゃんにとって重要な事だったんでしょ? ならその選択は間違いじゃない」

梨子「そう……」



梨子「当ても無く彷徨っていた私はダイヤ様と出会ったの」


梨子「あの人は私の力を認めてくれた……私が必要だと言ってくれた」


梨子「――そして、ダイヤ様のおかげで私は夢だった守護者になれた」


梨子「私だってダイヤ様の女王としての振る舞いは正しいとは思わない」


梨子「……思わないけど、それは私がダイヤ様の敵に回る理由にはならないわ」


千歌「そうなんだ……」
347 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/03(水) 00:00:58.99 ID:TCkwwZxf0



梨子「あなたはダイヤ様が悪だと思っているの?」

千歌「……違うの?」

梨子「果南さんからどんな話を聞いたか知らないけど、片方の話だけで決めつけるのはどうかと思うわ」


梨子「正義の反対は悪じゃない、もう一つの正義よ」


千歌「梨子ちゃんは何か知っているんだ」

梨子「いいえ、ダイヤ様は私達にも何も話していない」


梨子「でも……あなたになら話すかもね」

千歌「私がお客さんだから?」


梨子「……すぐに分かるよ」


348 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/03(水) 00:02:23.54 ID:TCkwwZxf0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜三日後〜



よしみ「―――以上が、二人が外出中に起こった事の全てです」

果南「そっか……報告ありがとう」

よしみ「いえ……留守を任されていたのに申し訳ございません」

果南「梨子相手に全滅しなかっただけ良かった。よく生き残ってくれた」

よしみ「……はい」


果南「……それで、曜の具合は?」


よしみ「全身に重度の火傷を負っていましたが、一命は取り留めました」


よしみ「酷いケロイドが顔や全身に残っているものの特に後遺症はありません」


よしみ「……ただ、精神面のダメージが深刻で」

果南「……」

よしみ「ずっとうなされているんですよ……見てるこっちも辛くなる程に……」

果南「目の前で千歌を連れ去られて、大切にしていたリングも壊されれば無理もないよね……」

よしみ「……恐らく曜ちゃんはもう――」


果南「曜は今起きてるの?」


よしみ「え、あ、はい」

果南「ちょっと二人で話してくるよ」

よしみ「……分かりました。後はよろしくお願いします」

349 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 21:51:09.18 ID:4H6J/4r50

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「………」ボーッ


果南「やっほ、帰って来たよ」


曜「あぁ……果南さん」

果南「怪我の具合はどう?」

曜「……見た通りだよ。皮肉?」

果南「そうじゃない、本人の口からも聞きたかったの」

曜「そう……」


果南「……」


曜「………」



果南「……私の代わりにみんなを守ってくれてありがとね。曜のおかげで―――」



曜「気休めは止めて。私は何も守れなかった」



果南「………」
350 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 21:54:10.53 ID:4H6J/4r50
曜「何も……ね……」




……重苦しい空気が医務室に漂う。

果南も曜も何も話さない。

長い長い沈黙が続く。


……そんな沈黙を打ち破ったのは曜だった。




曜「―――……歯が立たなかった」



果南「うん?」


曜「あれが守護者の実力なんだね。私の攻撃が全く通用しなかったよ……そもそも戦いにすらなって無かった」


曜「……このバカ曜は自惚れていたんだよ。千歌ちゃんが居れば誰にも負けないって思い込んでいた」


曜「その結果このザマ……ボロボロにされて、千歌ちゃんは連れ去られて、形見のリングも壊された」


曜「私は……私はっ……弱い……っ!!」ポロポロッ
351 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 21:56:52.04 ID:4H6J/4r50

果南「……」


曜「あの女王のことだ、近い内に千歌ちゃんは必ず殺される……」


曜「もうぅ…… 二度と千歌ちゃんに会えない……」

曜「ねぇ、果南ちゃん……私はこれからどうすればいいの? ……どうしたらいいの?」


果南「どうすればいいか……か」

曜「もう分からない、分かんないよ……」


果南「悪いけどそれは私が決める事じゃないな」

曜「っ! だよ、ね……」


果南「でも、んー……強いて言うならそうだなぁ」



果南「――取り敢えずさ、難しいことは一旦置いておこうよ」


352 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 21:59:37.31 ID:4H6J/4r50

曜「えっ……?」

果南「相手が誰だとか、自分の力がどうとか、そんなものは一回忘れよう」


果南「私は曜の本心が聞きたい」

曜「本心……?」

果南「確かに千歌は連れ去られた。でも、連れ去ったという事はダイヤは千歌に何かしら要件があるってことだ。すぐには殺されない」


果南「まだ曜は大切なものを全て失ってない。まだ取り返しがつく」



果南「……それを踏まえて聞くよ、曜はどうしたいの?」



曜「………ぁ」


果南「言ってごらんよ」




曜「………たい」ボソッ

果南「ん?」


曜「……千歌ちゃんに、会い、たい…」ポロポロ


果南「うん」


曜「こんな殺伐とした所だけじゃなくて、この世界の楽しい所を見せてあげたい」


果南「……うん」


曜「千歌ちゃんが元の世界に帰るその瞬間まで……私が一番長く側に居たい」


曜「千歌ちゃんと話したい事も……一緒に行きたい場所も沢山あるんだよぉ……」ポタッポタッ


果南「……うん」ナデナデ


曜「だから……だからぁ……う、うぅぅ……ひっく、ちか、ちゃんに……会い、たい」


果南「……それが曜の本心なんだよね?」

曜「……うん」
353 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:03:07.36 ID:4H6J/4r50



果南「立ち向かう勇気はある?」

曜「……ひっく、……え?」


果南「もう一度、戦う勇気はある?」


曜「……でも私にはもう――」



果南はポケットから何かを取り出し、それをテーブルの上に置いた。



曜「これって、まさか」



果南「雨のAqoursリングとその専用の匣だよ」

果南「これを曜に託す」

曜「!」

果南「確かに曜は弱い。でも力が足りないなら、別の何かで補えばいい」

果南「曜の覚悟が本物なら、このリングと匣は必ず力を貸してくれる」

曜「……力」

果南「ただし、ここでその覚悟を示せないのならそれまで」

果南「千歌の事は諦めるんだね」

曜「……」
354 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:15:22.97 ID:4H6J/4r50


果南「どうする? ……決断して」




曜「……答えなんて決まってる」




曜は机の上に置かれたリングを掴み、右手の中指にはめた。

曜の想いに呼応し、リングから雨属の青い炎が灯る。

灯った炎は不純物が殆どない、透き通るような青色の炎。


炎の純度はリングの性能にも左右されるが、
大きな要因は使用者の想いの強さだ。

混じり気の無い純粋な想いを持つ者に

リングはその力の全てを還元する。



曜「凄い綺麗だ……」


果南「曜はそのリングに認められた。雨の守護者に選ばれたんだよ」

曜「私が、守護者に……? 実感がわかないなぁ」


果南「これでメンバーが揃った。ダイヤ達に挑む為のメンバーがね」

曜「でも雷が……」



ルビィ「私が居るよ」ガラガラッ



曜「る、ルビィちゃん……!?」
355 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:16:01.95 ID:4H6J/4r50

ルビィ「私も戦う……戦わなくちゃダメなんだ」


ルビィ「もう、後悔したくないから」


花丸「一度やると決めたルビィちゃんは誰にも止められないずら」

果南「ルビィ、花丸……勝手に入って来ちゃダメだよ」

ルビィ「ごめんなさい……」




花丸「でもさ、改めて考えるとマル達はイカれた事考えてるよね」

花丸「たった六人で国相手に挑もうとしているんだもん。正気の沙汰じゃ無いずら」

ルビィ「目的もバラバラだしね」

曜「いくらリングが凄い力を持っているからって、この人数で勝算はあるの?」

果南「勿論」


果南「みんな無事で終わるのが理想だけれどね。少なくとも私は死ぬからさ」

曜「……」

花丸「まあ……うん、そうだよね」

ルビィ「果南さん……」
356 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:21:01.44 ID:4H6J/4r50


果南「もう! みんな暗い顔しないの!」

果南「私はこの力を得た事を後悔してない。命の使い方を自分で決めただけ」

花丸「……言い方だけはカッコいいずらね」


果南「――曜!」

曜「!」

果南「これから新しい力の使い方をマスターしてもらう」

果南「時間が無い……死ぬ気でやりなよ?」


曜「……分かってるさっ!」
357 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:25:36.99 ID:4H6J/4r50


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



千歌「――あっ」

善子「げっ」


善子「マジか……私が最初に見つけちゃった……」

千歌「私を探していたの?」

善子「そうよ。女王がアンタと話がしたいってさ」

千歌「……そっか」


善子「そもそも、何勝手に城内をウロウロしているのよ!」

千歌「だって梨子ちゃんがいいよって言ってたから……」

善子「梨子がぁ?」


千歌「聞いてないの?」

善子「……まあいいわ、案内するからついて来なさい」




善子「……」

千歌「……あー、その」

善子「何?」

千歌「怪我は大丈夫?」

善子「あぁ、うん、別に何ともない」
358 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:28:14.17 ID:4H6J/4r50

千歌「なら良かった」

善子「……変な人ね」



善子「ねえ、アンタ」

千歌「千歌だよ」


善子「千歌は普通に梨子や私と会話しているけど、怖くないの?」

千歌「怖い? どうして?」キョトン

善子「自覚無しか……ならそれでいいわ」


千歌「気にかけてくれてありがとうね」

善子「別に」プイッ

千歌「ふふ、善子ちゃんは善子ちゃんのままだね」

善子「千歌がそう思うならきっとそうなのかも」


善子「ただ、油断して心を許すような真似はしない事ね」

善子「私にとって千歌は友達どころか知り合いでもない、赤の他人なんだから」

千歌「今から友達になれないの?」

善子「……はぁ?」
359 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:29:49.57 ID:4H6J/4r50

千歌「な、何さ……?」

善子「あのね……敵対組織の人間同士が友達になれると思う? 無理でしょ」


善子「それとも千歌は果南達を裏切ってこっち側の人間になるって言う訳?」

千歌「それは……うぅ……」

善子「どーせ短い付き合いになるんだし、無理して関わる必要は無いわ」






善子「っと、話している間に着いたわよ」

千歌「ほぇ……大きな扉だね」

善子「この中で女王が待っている」

千歌「ダイヤさんが……」


善子「千歌の知ってる女王がどんな性格かは知らない。けど、同じように接するのは止めておきなさい」

千歌「……うん、気を付けるね」





善子は自分の身長の数倍大きな扉を開ける。


その向こうには、RPGでよく見る『王の間』と同じ様な空間が広がっていた。

扉から最奥にある玉座まで赤い絨毯が敷き詰められている。


玉座には一人の女。


退屈そうに頬杖をつきながら。

じっと千歌の目を見据える。


……冷たい。


視線、空気感がとにかく冷たかった。

今にも氷漬けにされそうな感じ。

震えが止まらなかった。




千歌「……ダイヤさん」


ダイヤ「ダイヤ……ああ、久しぶりにその名で呼ばれましたわね」
360 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:34:49.75 ID:4H6J/4r50


ダイヤ「何をしているのです、もっと近くまで来なさいな」

千歌「う、うん……あ、はい、分かりました」

ダイヤ「普通の言葉遣いで構いませんよ。貴女にとってわたくしは女王ではないのですから」



ダイヤ「ふむ、実際にこの目で見て見ると……」ジロジロ

ダイヤ「何と言うか……普通、ですわね」

千歌「うぐっ」

ダイヤ「崩壊のリスクを冒してまで鞠莉がわざわざ別世界から呼び寄せた人物にしては普通過ぎる……」

千歌「……私だって好き好んで来た訳じゃ」ムスッ

ダイヤ「ああ、気分を害されたのなら謝罪しますわ」

千歌「え、いや、大丈夫です、よ?」



……あれ?

思っていたより普通に話せるぞ??



ダイヤ「首にぶら下がっているそのリング」

千歌「これですか?」ジャラッ

ダイヤ「それを触媒に召喚されたのですね」
361 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:37:59.81 ID:4H6J/4r50

千歌「そうなんですか? 私には分からないですけど」


千歌「あ、これには触らない方がいいですよ。何かバリアみたいな物が張られているみたいで……」

ダイヤ「ご心配なく、貴女からそのリングを没収するつもりはありませんから」

千歌「大空のリングですよ?」

ダイヤ「現状それを使える人物はこの世に居ない。誰が持っていても関係ありませんわ」


ダイヤ「わたくしが貴方を連れて来させたのは大空のリングが欲しかったからではありません」

ダイヤ「貴女の力……いいや、正確には“貴女の中にある力”が欲しかったからです」


千歌「私の中にある……力?」

ダイヤ「貴女が唯一使える技の『同調』。これは元々鞠莉の技だという事は知っていますか?」

千歌「知ってるよ」

ダイヤ「では、本来なら貴女はこの世界の力を扱えない事は?」

千歌「……?」


ダイヤ「別世界から来た貴女と私達は体の作りが若干異なります」

ダイヤ「貴女には私達と違って炎を灯す為の生命エネルギーの波動が流れていない」
362 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:45:07.84 ID:4H6J/4r50

ダイヤ「ですが貴女が使っている『同調』はれっきとした炎を使った技です」

千歌「……何? どういう事??」

ダイヤ「使えないはずのものが使える理由はただ一つ」



ダイヤ「――貴女の中には鞠莉の魂が宿っているんですよ」



ダイヤ「それ故に貴女には大空の波動が流れ、鞠莉の技が使えるのです」

ダイヤ「恐らく、そのリングも使えるでしょうね」

千歌「……意味が分からないよ」


千歌「私の中に鞠莉ちゃんが? そんなバカげた話が……」

ダイヤ「信じてもらう必要はありません」


千歌「……ダイヤさんは私の、私の中の鞠莉さんの力を使って何をするつもりなの?」


ダイヤ「世界を救います」


千歌「……は?」


ダイヤ「私の行動、決断は全てこの国を守る事、そして世界を救う事に重きを置いている」
363 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:47:31.22 ID:4H6J/4r50

千歌「話が全く読めないよ……ダイヤさんは悪者なんじゃないの!?」


ダイヤ「では逆に質問しますが、わたくしは誰にとっての悪者ですか?」

ダイヤ「浦の星ですか? 虹ヶ咲ですか? それとも音ノ木坂ですか?」

ダイヤ「まあ、少なくとも後者二つにとっては悪に見えるでしょうね」


千歌「……そうだよ! ダイヤさんが戦争を仕掛けたせいで大勢の人が亡くなっている!」

千歌「星空さんやあの姉妹だって死ぬことは無かった!!」


ダイヤ「………」


千歌「他の国を強引に侵略して、罪の無い人を大勢殺して……これがダイヤさんがやりたかった事なの……?」

千歌「答えて……っ!」



ダイヤ「………黙りなさい」ギロッ



千歌「ひっ!?」




千歌は心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。


……殺される。

彼女の本能はそう直感した。




ダイヤ「……失礼。“怒り”は残している数少ない感情ですのでつい高ぶってしまいました」
364 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/04(木) 22:49:56.57 ID:4H6J/4r50

千歌「……はぁ、はぁ」ドクンッ、ドクンッ


ダイヤ「高海 千歌、貴女には知る権利がある」

ダイヤ「何故この世界に呼び寄せられたのか、そして貴女がこの世界で成すべき使命を」


千歌「……ダイヤさんが呼び寄せた訳じゃないのに知っているわけが……」

ダイヤ「おおよその検討はつきますとも」



ダイヤ「全ては二年前、鞠莉を始めとした多くの主要人物が殺されたあの会合での事件ですわ―――」











――
――――
――――――
――――――――
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――――――――――――

365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 14:31:34.32 ID:IUh86TrAO
ついに真相がわかるのか
366 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/06(土) 23:39:34.31 ID:U1qz22Pu0



〜二年前 虹ヶ咲王国某所 城内〜



鞠莉「―――じゃあ、ダイヤ以外はここで待っていて」



【浦の星王国 第八代目女王 小原 鞠莉】



「承知いたしました」

「のんびり待ってますよ〜」

「後は任せたよ、ダイヤ」


ダイヤ「鞠莉様、行きましょう」



【浦の星 雨の守護者 黒澤 ダイヤ】



―――ガチャッ



鞠莉「チャオ〜♪」


「……遅い、やっと来たよ」


「待ってましたよ、鞠莉さん」
367 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/06(土) 23:46:19.55 ID:U1qz22Pu0


鞠莉「あら、私が最後だったのね。遅くなってしまってごめんなさい」


鞠莉「――雪穂、歩夢♪」



【音ノ木坂王国 第十代目女王 高坂 雪穂】


【虹ヶ咲王国 第三代目女王 上原 歩夢】



歩夢「あ、謝らなくていいですよ! それほど待っていませんので」

鞠莉「んん〜、やっぱり二人は優しいわね!」

雪穂「……私は別に許してないんですけど?」

歩夢「まあまあ、いいじゃないですか」

鞠莉「ごめんってばユッキー」テヘペロ

雪穂「ユッキー言うな!」


亜里沙「馴れ馴れしいですよ、浦の星の女王」ギロッ



【音ノ木坂 霧の守護者 絢瀬 亜里沙】



鞠莉「……むぅ、ソーリー……」

ダイヤ「……」
368 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/06(土) 23:49:19.36 ID:U1qz22Pu0



かすみ「……ねえ、歩夢」



【虹ヶ咲 雲の守護者 中須 かすみ】



歩夢「どうしたの?」

かすみ「本当にあれが浦の星の女王様なの?」

歩夢「うん、そうだよ」


かすみ「……ふーん」

歩夢「どうかしたの?」

かすみ「初めて直に見たけど、なんか拍子抜けって感じー」

歩夢「ち、ちょっと!?」


かすみ「愛先輩もそう思いません?」

愛「愛さんに聞いちゃう?」



【虹ヶ咲 晴の守護者 宮下 愛】



愛「うーんまあ……威厳っていうかオーラ? みたいのが無いよね」

かすみ「やっぱり? かすみんの感覚に狂いは無かった!」
369 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/06(土) 23:51:21.35 ID:U1qz22Pu0


鞠莉「Oh……散々な言われようデース」シュン

歩夢「あわわわわわ」

雪穂「鞠莉が女王としての風格に欠けているのは確かだよ。もっと自覚持った方がいいんじゃない?」

鞠莉「親しみやすさを売りにしてるからいいのよ」ムッ

雪穂「でもさ……」

亜里沙「親しみやすさ……ねぇ」



ダイヤ「………」ジッ



かすみ「……何? さっきからかすみんの事ジロジロ見てさ……キモイんですけど」


ダイヤ「はて、わたくしは別に貴女の事など見ていませんが」

かすみ「嘘だね! 確かに視線を感じてましたー!」

ダイヤ「……随分と自意識過剰な方ですわね」

かすみ「はあ?」イラッ

愛「なら愛さんの方かな?」
370 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 00:00:00.32 ID:U1qz22Pu0

ダイヤ「ですから、あなた達の様な下劣な人など見ていないと申しています」

愛「ありゃりゃ、下劣だってさ、私達」ケラケラ

かすみ「愛先輩……笑う所じゃないですよ」

鞠莉「ちょっとダイヤ、言葉には気を付けなさい!」


亜里沙「もっとも、女王に対して呼び捨てで呼んだり、キモイなどという下品な言い方をする辺り……まともな守護者ではないのは確かですけどね」

亜里沙「風格が欠如した女王といい、人間として低レベルな守護者を選別した女王といい、どちらも本当にどうしようもないですね」


ダイヤ「……はっ?」ピキピキッ


かすみ「……なーーんか、イラっとしましたね」


愛「はは……愛さんでも今のはちょーっと聞き捨てならないかなー?」ニコニコ


亜里沙「ん? 私、何か間違った事言いましたか?」
371 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 00:04:43.32 ID:Zj9NQIuv0



ダイヤ「………」

かすみ「………」

愛「………」

亜里沙「………」




―――ボオオオッ!!!!




四人が放つ炎が部屋全体を覆う。




かすみ「増援呼ばなくていいんですかー? こっちには守護者が二人いるんですけどぉ?」


ダイヤ「構いませんわ。あなた達程度、わたくし一人で十分」


愛「女王を侮辱した事……後悔させてやる」


亜里沙「いい機会だね。全員ここで消す……!」






女王達「―――止めなさい」






四人「ッッッ!!!?」ビクッ
372 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 00:08:08.03 ID:Zj9NQIuv0



雪穂「亜里沙、誰が戦えと命令した?」

亜里沙「ぅ……ごめん、なさい」


歩夢「二人共……自分が何をしようとしたか理解してるの!?」

かすみ「……だって」

歩夢「かすかす!!」

かすみ「……はい」シュン

歩夢「愛さんもだからね!」

愛「あはは……申し訳ない」


鞠莉「らしくないじゃない? 果南なら冷静に対処したと思うわよ」

ダイヤ「ええ……完全に頭に血が上ってしまいました……反省しています」


鞠莉「全く……どうして険悪な雰囲気になっちゃうのかしらね?」

歩夢「長い間争っていた仲でしたから仕方ないですよ」

鞠莉「私達は凄く仲良しなのにねぇ」

雪穂「……えっ、仲が……いい?」

鞠莉「ちょっ、冗談キツイよ……ユッキー」

雪穂「悪かったよ、マリー」フフ

歩夢「あ、あははは……」ホッ
373 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 00:22:42.95 ID:Zj9NQIuv0



歩夢「ゴタゴタはありましたが、一先ず座って下さい」

歩夢「私達は争う為に集まったんじゃ無いのですから!」

鞠莉「そうね!」ヨイショ

雪穂「早速本題に入ろう。マリー」

鞠莉「ええ」


鞠莉「……私が並行世界を観測する力がある事は知っているわよね?」

雪穂「うん」

歩夢「私達女王がそれぞれ持つ特異能力ですから」

雪穂「マリーの国は別世界から色々な知識、技術を会得して発展してるんだもんね……反則だよ、全く」


鞠莉「私がその能力で観測していた世界が次々と消滅している」

歩夢「消……滅……?」

雪穂「文明が滅んだとかじゃなくて?」

鞠莉「人類が滅亡したとか地球が吹き飛んだとかそんな次元の話じゃないわ……まるで世界(宇宙)全てを消しゴムで消したように綺麗さっぱり、痕跡一つ残っていない」


歩夢「――まさか」ゾッ

374 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 00:41:46.13 ID:Zj9NQIuv0

鞠莉「歩夢なら聞いた事があると思うわ」

鞠莉「私と同じ様な能力なんだもん、どこかの世界線で見聞きしたはずよ」

歩夢「……っ」

雪穂「何? 早く教えてよ」


歩夢「……『ヨハネ』ですよね?」


雪穂「『ヨハネ』……?」


鞠莉「この世界は鏡合わせのように無数の世界で構成されているのは知っているわね」

雪穂「今更説明されなくても大丈夫だよ」

歩夢「けれど維持できる世界の数には限界があります」


鞠莉「『ヨハネ』は並行世界の数を間引いて調整する……言ってしまえば神みたいな存在ね」


雪穂「……そのヨハネが世界を消す基準は?」

鞠莉「正確には分からない……私はヨハネが“この世界には未来が無い”と判断した時に役目を実行すると予想している」

歩夢「私はヨハネの気分次第って聞きました」

雪穂「曖昧な基準だな……」

鞠莉「つい先日消滅した世界の“私”が消滅間際にこう言っていたわ」



鞠莉「――『覚悟しなさい、ヨハネは貴女の世界に向かった』ってね」



歩夢「……」

雪穂「……そう、選ばれちゃったか」

375 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 22:12:24.45 ID:Zj9NQIuv0



かすみ「……デタラメだ」

かすみ「浦の星の女王は私達を陥れる為にデタラメを言ってるんだ! 世界が消滅する? ありえないっ!!」

歩夢「かすかす……」


かすみ「確か音ノ木坂の女王は、過去と未来のモーメントリング継承者とコンタクトが取れるんだったよね!?」

愛「そうか……! 未来に継承者が存在していれば……!」

雪穂「……」

亜里沙「ど、どうなの……?」


雪穂「……残念ながらマリーの言っている事はデタラメじゃないよ」

かすみ「っ!!?」

雪穂「真っ暗だった……未来に私達は、いや、私達の世界は存在していない」

亜里沙「そん、な……」


鞠莉「このまま何もしなければ私達の世界は確実にヨハネに消される」

ダイヤ「相手は神なのですよね? 何か手段はあるのですか?」
376 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 22:15:48.27 ID:Zj9NQIuv0

鞠莉「……愚問ね、何の為に三人の女王が集まるこんな場を用意したと思っているの?」


歩夢「ヨハネによる間引きが実行された並行世界で消滅しなかった所が僅かながら存在しています」

鞠莉「撃退出来るって事なの、ヨハネの襲撃はね」

雪穂「神を相手に真っ向から挑もうってか……」

雪穂「……面白いじゃない」ニヤッ


愛「……なんだか急に分かりやすい話になってきたね!」

愛「早い話『私達で協力して強大な敵を退けよう!!』って事でしょ!」

ダイヤ「人々が団結するのに共通の敵の存在は好都合ではありますが……」

かすみ「協力する、なんて出来るの? 私達でさえあのザマだったのに他の奴らじゃ到底無理よ」


歩夢「出来なかったら消滅するだけだよ」

かすみ「むぅ……それはイヤだな」

愛「やるっきゃないでしょ!」
377 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 22:23:54.86 ID:Zj9NQIuv0

ダイヤ「具体的にどんな作戦で?」

鞠莉「まず第一に――」






「―――楽しそうな話をしているじゃない、私も混ぜてよー」






一同「っっ!!!!?」ギョッ!



「どう? いいよね?」


雪穂「何コイツ!? どこから入って来た!!?」


歩夢「う、嘘……」ゾッ

愛「歩夢下がって! かすみ!!!」

かすみ「分かってますよ愛先輩っ!!!」


ダイヤ「何の前触れも無く現れた……っ!?」

鞠莉「………っ」

ダイヤ「鞠莉! わたくしの後ろに――」
378 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 22:26:07.64 ID:Zj9NQIuv0


鞠莉「また会ったわね、『ヨハネ』」

鞠莉「あっ、“この世界”では初めましてだった」


ヨハネ「みなさん初めまして。私が噂の『ヨハネ』よ」


ダイヤ「ヨ、ハネ……コイツが」

愛「背中から黒い羽根なんか生やして……これって」

かすみ「神って言うより堕天使って感じ?」

ダイヤ「見た目なんてどうでもいいですわ!!」

ダイヤ「重要なのは我々が倒さねばならない敵が今目の前に現れた! それだけです!!!」

かすみ「……アンタに言われなくても分かってますー!」ボオッ!!

愛「他の守護者も直ぐに駆けつけて来る。サクッと倒して世界を救っちゃおうか!」ボオッ!!

雪穂「……あれ?」キョロキョロ

379 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 22:28:24.81 ID:Zj9NQIuv0


ヨハネ「挑むんだ、この私に」

ヨハネ「ちょっと予定より早いけど……ま、いっか」



―――ゴオオオオッッ!!!



ダイヤ「ッ!? 黒い炎!?」


ヨハネ「今すぐこの世界を消すけど……いいよね?」


歩夢「あの炎を使わせちゃダメッ!!」

かすみ「って言われてもさぁっ!!」

愛「間に合わない……ッ!」


ダイヤ「私の技で防ぎきれ――」

鞠莉「……ダイヤッ!!!」ドンッ!!

ダイヤ「えっ」




カッ―――!!!




380 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 22:36:56.11 ID:Zj9NQIuv0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




ダイヤ「―――……ぅぅ」パチッ



……天井が見える。
わたくしは倒れているのですか……?

……身体中が痛い。
右腕の感覚が――あぁ、肘から先が無いのか。

鞠莉さんに突き飛ばされた後の記憶がありませんわ。

自分の呼吸音しか聞こえない。
戦闘は既に終わった?



ヨハネ「……目が覚めたみたいね」

ダイヤ「ッ!!!? ヨ、ハネ……ッ!?」

ヨハネ「初撃で全滅させられなかったのは久々だったわ……ちょっと舐めてた」

ダイヤ「鞠莉は……鞠莉さんは……?」

ヨハネ「マリ? ああ、金髪のあれか!」


ヨハネ「あの個体は中々にしぶとかったよ。最期まで抵抗してきたしね」

ダイヤ「……殺した、のですね」

ヨハネ「ええ、この場で生き残っているのはあなただけ」


ダイヤ「この世界は消されるのですか……」

ヨハネ「そうしたいのは山々なんだけど直ぐには出来なくなった」

ダイヤ「……えっ?」
381 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 22:52:16.70 ID:Zj9NQIuv0

ヨハネ「三人の女王を殺すのに力を使い過ぎちゃったのよ。だから暫くは回復に専念するわ」

ヨハネ「良かったわね? 寿命がほんの少し伸びて」ニコッ

ダイヤ「……わたくしを殺さなくていいのですか?」

ヨハネ「あなた程度ならいつでも殺せる」

ダイヤ「……ッ」ギリッ


ヨハネ「完全回復には数年掛かるわ。せいぜいそれまでに私と互角に戦えるだけの戦力を整える事ね」スウゥゥ...



ヨハネの姿は霧のように消えた。



ダイヤ「……死んだ……鞠莉さんが……死んだ」


……どうして鞠莉さんが死んでわたくしが生き残った?

黒澤 ダイヤ、貴様の使命は女王を守る事では無かったのか?
何故守るべき人に逆に守られた?

お前が、オマエが弱いせいで鞠莉さんは死んだ……。




ダイヤ「――……っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


ダイヤ「何が守護者だ! 肝心な時に役に立たないじゃない!!」


ダイヤ「憎い! 自分の弱さが……憎い……ッ!!!」


ダイヤ「……わたくしを生かした事を必ず後悔させてやるぞ……ヨハネェェェェェェ!!!!」



―――パキッ、パキパキパキパキッ!!!



――――――――――――――
――――――――――――
―――――――――
―――――――
―――――
―――
382 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 23:20:52.12 ID:Zj9NQIuv0



ダイヤ「……こうして、激しい憎悪をキッカケにわたくしは『氷河の炎』を発現しました」

千歌「……」



……ヨハネ。

それって善子ちゃんがいつも言ってるやつだよね。


これは偶然なの?

もし予想が正しければ善子ちゃんがヨハネの正体になる。

けれど善子ちゃんは当時あの場に居ない。

それどころか守護者にもなってないから流石に違うか……。



千歌「……今の話は果南ちゃんから聞いてない」

ダイヤ「当然です、話したのは貴女が最初なのですから」

千歌「そんな重要な事をどうして黙っていたんですか!?」


ダイヤ「……ヨハネは突然あの会合場所に現れました」

ダイヤ「そしてわたくし以外のあの場に居た全員を殺した」

ダイヤ「ですが、あの場に居た人数と死体の数が合わなかったのです」

千歌「数え間違いでは?」

ダイヤ「中には原形を留めていない死体もありましたが、確実に一人分足りなかった」
383 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 23:22:34.51 ID:Zj9NQIuv0


ダイヤ「……つまり、ヨハネはあの場に居た人間の“誰か”に化けていた可能性がある」

ダイヤ「変装……と言うよりは変身に近い、もしくは寄生虫のように誰かの身体を乗っ取っていたのかもしれない」

千歌「ならヨハネは今も誰かの身体に潜んでいる……?」

ダイヤ「ヨハネがどのように身を隠しているか分からない以上、不用意に話すべきじゃないと判断しました」

ダイヤ「貴女に話したのは鞠莉が召喚した人物だったからですわ。ヨハネに対抗する切り札なら奴が潜んでいる可能性は極めて低い」


ダイヤ「もっとも、既に乗っ取られていたのなら詰みですけどね」

千歌「そんなの自分じゃ分からないよ……」

ダイヤ「構いませんわ。どちらにせよ話すつもりでしたから」


ダイヤ「ヨハネの存在が明るみに出れば世界は大混乱に陥る。存在を隠しつつ戦力を増強しなければならない」

ダイヤ「……人が強くなるのに最も重要な感情は知っていますか?」

千歌「……憎しみ、ですか?」

ダイヤ「ご名答」
384 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/07(日) 23:24:14.94 ID:Zj9NQIuv0


ダイヤ「わたくしを殺す為に強くなろうとする人が増えれば増える程、ヨハネに対抗出来る戦力も増える」

ダイヤ「及第点の戦力はヨハネに奪われない人形兵(マリオネット)としてストック、その過程でわたくしよりも強い人が現れればそれでも良かった」

千歌「果南ちゃん達と決別したのは……」

ダイヤ「それはご想像にお任せしますわ」


ダイヤ「“罪悪感”“同情”“悲しみ”……わたくしが憎しみの対象になるのに不要な感情は全て『氷河の炎』で凍結させました」

ダイヤ「生き残ったわたくしにはこの国を、この世界を守る義務があります……例え鞠莉の理想を踏みにじってでも」

千歌「そんな……」

ダイヤ「色々とやってきましたからきっと地獄に……いえ、その更に下へ落ちるでしょうね。ですがそれでいいのです」


ダイヤ「――業を背負うのはわたくし一人で充分ですから」


千歌「ダイヤさん……」

ダイヤ「果南の事です、数日以内に貴女を取り戻しにここへ乗り込んで来るでしょう」

千歌「!」

ダイヤ「果南かわたくしか、どちら側につくか決めて置いて下さい」

ダイヤ「話は以上です――」


385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/12(金) 19:55:59.42 ID:NHs/6jEaO
まってるぞい
386 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/14(日) 23:44:33.61 ID:ceyo8NM50


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜四日後 車内〜


花丸「最後にキュッと締めて完成!」

ルビィ「うぎゅぅ!?」

花丸「ずらっ!?」

ルビィ「ぐ、苦しいよぉ……」

花丸「ごめんね……直ぐに緩めるずら」


曜「……もぐもぐ」

果南「お、美味しそうなハンバーガーじゃん。私も貰っていい?」

曜「えー……果南ちゃんさっきも食べてたよね?」

果南「そう固いこと言わないでさー」

曜「結構高いやつ買ったんだけど……」
387 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/14(日) 23:49:44.59 ID:ceyo8NM50

よしみ「そもそも味が分からない人が食べても意味無いよねー」

果南「うるさいぞ!」ドガッ!!

よしみ「うおっ!? 運転の邪魔しないでよ!!!」

果南「今のはよしみが悪い」プンプンッ



ルビィ「ネクタイ結べたよ!」

花丸「意外と苦労したずら……」

曜「お疲れ様」

果南「うん、良く似合ってるよ」

ルビィ「えへへ」


果南「この服は守護者が着ているものと全く同じものでね、耐炎性の高い繊維で作られているの」

ルビィ「炎の攻撃から身を守ってくれるんだね」

よしみ「その繊維、凄く苦労して手に入れたんだぞー」
388 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/14(日) 23:52:38.45 ID:ceyo8NM50


曜「いい素材で出来た服なのは分かったんだけど……」

果南「何か不満なの?」

曜「不満と言うかその……どうして全員黒いビジネススーツ風な訳?」

花丸「しかもメンズタイプだし。どうせなら女の子らしいのが良かったずら」


よしみ「何でって、分からないの?」

花丸「機能性を重視した?」

ルビィ「全身を覆えるから?」


果南「そんなのカッコイイからに決まってるじゃん!」


花丸「えぇ……」

果南「完全に私の好みです。異論は認めませーん」

よしみ「それに戦闘服と言えば黒スーツって相場が決まってるしね!」

果南「そうそう」

ルビィ「それは違うような……」

花丸「曜ちゃんも何か言ってやってよ!」
389 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:06:02.61 ID:EgyrcWXx0

曜「……なるほど、うん、カッコイイのは分かる! なんかマフィアみたいでいいかも!」

ルビィ「多数派になっちゃった!?」

果南「でしょ!? 流石は曜、分かってるねっ!」


果南・曜「「イェーイ!!」パチンッ


ルビィ「ハイタッチまでしちゃったよ」

花丸「服装だけでモチベーションが上がるならいいんじゃないかな」



よしみ「……っと、明るい雰囲気なのはいいけどさ、そろそろ着くよ?」

果南「……ん、りょーかい」




―――ブロロロロッ……




曜「到着っと」トンッ

果南「すんなり着いたね」


ルビィ「入口の門が開いたままだ……」

花丸「門番も居ないずら」

よしみ「どうぞ入って来いってか……楽だから有難いけどね」
390 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:08:07.59 ID:EgyrcWXx0


曜「……」

果南「怖い?」

曜「ううん、そうじゃないよ」


曜「まさか、憧れの場所にこんな形で来る事になるとは思ってなかったからさ。なんか不思議な気持ち」

果南「予想できないからこそ面白いんだよ」

曜「確かに。いつの間にか守護者にもなっちゃったし」フフ


ルビィ「ねぇ、曜ちゃん」

曜「ん?」

ルビィ「これ渡しておくね」

曜「……えっ、これってパパの……」

ルビィ「形見だったんだよね、このリング」

ルビィ「写真とかが無かったから記憶を頼りに花丸ちゃんと一緒に作り直してみたの」

花丸「見た目だけそっくりなハリボテのリングだけどね」

ルビィ「戦いには使え無いけど……受け取ってくれますか?」


曜「……当たり前だよ……まさかまたこのリングを手に出来るなんて! 本当にありがとう!!」ウルッ


ルビィ「うん! どうたしましてっ」

花丸「良かったずら♪」ニッ
391 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:11:23.53 ID:EgyrcWXx0



よしみ「ねえみんな、この戦いがぜーーんぶ終わって丸く収まったらさ……何しよっか?」

曜「私は沢山あるんだよなぁ……」ウ-ン


花丸「マルは千歌ちゃんに歌を教えて貰うずら! 教えてくれる約束、まだ果たされてないからね」

ルビィ「一緒にダンスも教えてもらえるかなぁ……」


よしみ「じゃあ、その流れでアイドルやっちゃうってのは?」

花丸「ずらっ!?」

ルビィ「ぴぎぃ!?」

果南「お、それいいかも! みんな可愛いし人気出るんじゃ無い?」

曜「衣装作りなら私に任せるであります!」

よしみ「何言ってるの? 二人も一緒にやるんだよ」

果南「私も?」

曜「いやいや、この顔で人前に出るのはちょっと……ねぇ」

よしみ「設備の整った病院で手術すれば元の顔に治せるから心配しないで」

曜「この傷治るの!?」
392 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:12:29.43 ID:EgyrcWXx0

よしみ「果南さんは……うん、命尽きるまで頑張ろ!」

果南「私だけ雑だなぁ……」

花丸「果南ちゃんもやるなら、マルはやってもいいずら」

果南「ちょ、本気で言ってるの!?」

ルビィ「私も!」

曜「楽しそうだし、やってみようよ!」

果南「マジか……」


よしみ「……どーします?」フフ

果南「……はいはい、分かったよ」


果南「もうこの際、千歌の世界と同じメンバーでグループ組んじゃおうよ!」

ルビィ「お姉ちゃん達も入れるの!?」

よしみ「それは思い切ったねぇ!」
393 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:14:00.02 ID:EgyrcWXx0

曜「実現したら千歌ちゃんもきっと喜ぶよ!」

ルビィ「……実現するかな?」

果南「夢は声に出して言っちゃえば叶うんだよ」

花丸「あはは、ぶっ飛んだ夢ずら」

よしみ「ホント、あの氷の女王がふりふりひらひら衣装着て歌って踊る姿を想像したら……くっ、くふふふふ」

果南「あはははは、全然想像できないや!」

曜「楽しそうではあるけどね」アハハ




「―――ふふ、あはははははは♪」




よしみ「ははは………はぁ、笑った、笑った」

曜「………ふぅ」

ルビィ「………笑ったね」

花丸「………うん、満足したずら」


果南「―――よし、みんな行こうか」



394 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:26:58.34 ID:EgyrcWXx0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



曜「ここって本当に王都なの? 誰も歩いてないじゃん」

よしみ「多分私たちが来るのを予想して外出禁止令が出たんだよ」

ルビィ「本当は人が沢山いるのに何か不気味な感じ……」

花丸「黒スーツ着た集団が横一列で歩いてる方がよっぽど不気味だと思うずら」

果南「無関係の人を巻き込まなくて済むのは有り難いかな」

よしみ「いつ襲って来るか分からない。気は抜かないで」



果南「……っと、敵の団体さんが見えてきたね」



城へと続く一本道。

その行先には無数の人形兵と王立軍の兵士が群がっていた。



曜「も、物凄い数だね」

果南「ザッと見て200人くらいって感じ?」

よしみ「意外だな……本気で倒す気は無いのか」

曜「この数で!?」
395 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:30:30.32 ID:EgyrcWXx0

花丸「ここは敵の本拠地だよ? その全兵力がこの程度の訳が無いずら」

ルビィ「お姉ちゃんは何を考えているんだろう……」


果南「ともあれ、邪魔するなら蹴散らすだけだよ。……花丸」

花丸「『村雲』の出番ずらね!」

果南「範囲攻撃で半分くらいは片付けて欲しい」

花丸「……了解ずらっ!」ボウッ!!



よしみ「――いや、狙うのは入り口に向かうのに邪魔な敵だけに絞っていいよ」



花丸「えっ、そんなピンポイントでいいの?」

よしみ「これから強敵と戦うのに無駄な体力を使う事無いよ」


よしみ「『村雲』で隙を作ったらみんなは一気に城内に駆け込んで。連中とは私一人で戦う」


ルビィ「よしみさん!? む、無茶だよ!?」

花丸「よしみさんでもこの数を一人では……」
396 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:33:57.74 ID:EgyrcWXx0

よしみ「数が多いったって全員守護者より弱いから大丈夫大丈夫!」

よしみ「それにAqoursリングを持たない私じゃこの先足手まといになる。ヒーラーは真っ先に狙われるポジションだしなおさらね」

よしみ「私が役に立てる場面はここしかないの」

果南「……」


果南はよしみの耳元へ顔を近づけ小声で話しかける。


果南「……さっきあんな事言った癖に自分は死ぬ気なの?」

よしみ「その言葉、そのまま果南さんにお返しますよ」

果南「うぐっ」


よしみ「果南さん側につくと決めたあの日からこうなる覚悟は出来てました。この世に動く体がある限り、死んでも連中は足止めしてみせます」

果南「……ごめん」

よしみ「その代わり、あの女王様をちゃんとブン殴って来なよ?」ニコッ


果南「――よしみの提案に乗ろう」

曜「本気!?」

果南「よしみはこの中で『二番目』に強い。数が多くても有象無象が相手なら一人で問題無い」

よしみ「みんなには話してない“奥の手”もあるし!」
397 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:38:43.95 ID:EgyrcWXx0



果南「花丸、お願い」

花丸「……ずら」ボオッ!!



匣の中から日本刀型の武器『村雲』を取り出す。

手に取った『村雲』を刀身からそっと地面に落とすと、まるで水面に落としたように地中に吸い込まれていった。

次の瞬間、花丸の背後の空間に円形状の光の扉が大量に発生した。全ての扉からは『村雲』の刀身が飛び出ている。

高らかに右腕を突き上げ、標準を定める。



花丸「―――……一掃せよ、『村雲』!!!」



腕を振り下ろしたと同時に、待機中の『村雲』が敵陣へと一斉掃射された。

狙われた範囲に居た人形兵や兵士の体を次々と貫く。



果南「今だ!!! 走れ!!!」ダッ!!

曜「うん!」ダッ!!

花丸「後で合流しようね!」ダッ!!

ルビィ「待ってるから……っ!」ダッ!!


「くそっ……何てデタラメな匣兵器だ…」

「しまったっ!? 何人か侵入された!」

「追え、人形兵(マリオネット)!!!」


よしみ「……おっと、ダメダメ、追わせないよ?」


「……はあ?」

「おいおい……この数相手に一人で戦うのか?」
398 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:40:52.15 ID:EgyrcWXx0

よしみ「………」ニコッ


「……人形兵、殺れ」



命令を受けた人形兵が一斉によしみへ襲い掛かる。

それぞれ多様な属性、匣兵器で武装した人形兵。

よしみは匣兵器を使う素振りすら見せない。



よしみ「――ッうらあああああッ!!!」



実にシンプルな攻撃だった。
最初に届く範囲に来た人形兵の顔を掴んで振り回したのだ。

たったこれだけで、掴まれた人形兵の顔はひしゃげ、巻き込まれた三体も機能を停止した。



「腕力だけでこんな……んな!?」

「な……なんだっ!? その“腕”は何なんの!!?」



人形兵を掴んだよしみの腕の筋肉は異常なまでに巨大化していた。

……実に通常時の約五倍。



よしみ「……驚いた? 肉体が炎の特性を匣兵器並に生かせるように体をちょーっと改造(いじ)ってるんだよね」


「バカな……そんな技術がいつの間に実用化されていたの……?」
399 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/15(月) 00:42:20.66 ID:EgyrcWXx0

「あの人は以前、人形兵開発の最高責任者だった人よ。未発表の技術の一つや二つあっても不思議じゃない」


よしみ「私の持つ属性は『雲』と『晴』の二つ」

よしみ「雲の増殖による『筋肉の異常増殖』+晴の活性による『過剰活性』の複合技」



よしみ「―――差し詰め、『肉体変異(メタモルフォーゼ)』とでも名付けようかな」



―――メキッ、ミキミキミキッ!!!



二種類の炎の力で右腕だけではなく左腕、両足も同じく巨大化

よしみの見た目はもう完全に化け物となった。



「こ、これが人間の姿……なの……?」

よしみ「一人で残ったのはこの醜い姿を見られたくなかったのもあるんだよねぇ!!」

「……この化け物めっ」




よしみ「――さあ、いつでもいいよ……死にたい奴から掛かって来なぁ!!!」



400 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 22:41:20.34 ID:tYHAcBhr0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜城内 三階 大広間前〜


花丸「……静か過ぎる。私達の足音しかしないずら」

曜「ねえ、城の中って普段から誰も居ないの?」

果南「まさか」

ルビィ「曲がり角とかから襲って来てもおかしくないのに……」

花丸「最短距離で王の前に向かっても良さそうだね」

ルビィ「お姉ちゃんがそうさせてる気もするけど……」

果南「廊下の突き当たり、扉の向こうの大広間を抜ければ直ぐに着く!」



花丸「……扉の向こう……何か、嫌な感じがするずら……」

曜「うん……誰か居るね」

ルビィ「迂回する?」

果南「時間が惜しい。このまま突っ切る」

曜「分かった……」ゴクッ
401 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 22:47:35.65 ID:tYHAcBhr0


果南「……開けるよ!」



果南は大広間への扉を勢いよく蹴り開ける。

中に居たのは―――。





梨子「……来たわね」



ルビィ「う、嘘っ!?」ビクッ

曜「……桜内、梨子っ!!」

梨子「君は……あんだけコテンパンにしたのにまだ戦う意思が残っていたんだ……」

梨子「ついでにAqoursリングも手に入れちゃったと」

曜「……お陰様でねっ」ギロッ

果南「城内でも人形兵が襲って来ると思ったんだけど……初っ端から梨子か……っ!」



梨子「城の中で人形兵が襲って来る事は無いわよ」

梨子「この上の階に善子、そして王の間にはダイヤ様と高海 千歌が居る」

花丸「本当ずらか?」

梨子「そんなつまらない嘘は言わない」


果南「先に進みたかったら梨子を倒すしかない訳だね」

梨子「その通り」キイィィン




―――ゴオオオォォッ!!!




放たれる強大な光球。

果南は右手を突き出してそれを打ち消した。




梨子「凄っ! 本当に問答無用で打ち消しちゃうんだ!!」
402 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 22:51:35.16 ID:tYHAcBhr0


果南「いきなり最大出力かいッ!」ギリッ

梨子「まさか! 今のは半分くらいに抑えてますよ!!」



―――ゴオオォォッ!! ゴオオォォッ!!!



果南「クソッ! 花丸、曜! 回り込んで!!」




果南の指示で左右に飛び出す二人。

お互いの手にはAqoursリング専用の匣兵器、Aqours匣が握られている。




梨子「甘いわ……『プレリュード』!!!」



梨子の背後から嵐の炎を纏った犬が飛び出す。



嵐犬「ワオーーーーーーーン!!!!」ゴオオォォ



曜「うわッ!!?」

花丸「ぐっ!」



犬による嵐の炎の咆哮で二人の体は大きく後方へ吹き飛んだ。




梨子「『プレリュード』の咆哮をまともに受けて無傷か……その服にカラクリがあるのね」
403 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 22:56:54.84 ID:tYHAcBhr0


曜「何なのあの犬!」

梨子「この子は『嵐犬(カーネ・テンペスタ)』の『プレリュード』、私のAqours匣よ」

花丸「アニマル型の匣……っ」


果南「最初から匣を使っていたのに、どうして『形態変化(カンビオ・フォルマ)』させてなかったの?」

梨子「え、良かったの? 一瞬で終わっちゃうけど?」

曜「舐めるな!!」ボッ!!

梨子「ま、使わなくても一人くらい消せるしね……!!」



―――ゴオオオォォ!!!!



曜の方向に初撃の倍以上の大きさの光球が放たれる。

Aqoursリングを使えるようになったとは言え、曜単体では炎の出力はメンバー最下位。

この規模の炎を相殺するだけの力は無い。


対抗手段は果南の右手しかないが、曜までの距離が離れ過ぎている。




果南「ダメ……この距離じゃ間に合わない!!!」

花丸「曜ちゃん避けて!!!」

曜「………ッッ!!!」






ルビィ「―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)!!!』」






突如、光球の真上に落雷が落ちた。

その衝撃で光球は真っ二つに割れて曜の体から綺麗に逸れたのだ。




曜「い、一撃で壊した……」
404 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:04:43.13 ID:tYHAcBhr0

梨子「……へえ、ルビィ様がAqours匣を」




Aqours匣の中にはアニマル型の匣兵器が搭載されている。

嵐には犬、雷には猫といったように。

それ単体でも他の匣兵器とは別格の威力を持っているが、Aqours匣には特殊な機能が備わっている。


―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)』

アニマル匣が守護者専用の強力な武器へと変形する。


ルビィの『雷猫(エレットロ・ガット)』は『槍』へと変形。


そして変化は服装にも表れる。

発動と同時に使用者は白を基調とした専用の服を身に纏う事になる。


ルビィの場合は白ジャケットにウイングカラー付きのシャツ、黒の蝶ネクタイ、左胸にはピンク色のバラの花が付いている。


……もし、この場に千歌が居れば一目でこれが何の衣装か分かっただろう。

ラブライブ地区予選で披露した曲の衣装である『MIRAI TICKET』のそれと全く同じだ。



ルビィ「梨子さんの相手は私がします。みんなは先に行って下さい」

花丸「ルビィちゃん!?」
405 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:11:55.65 ID:tYHAcBhr0
果南「………」


梨子「ルビィ様が? その子じゃないの?」

曜「そうだよ!! コイツは私が……ッ!」

ルビィ「曜ちゃんの目的は千歌ちゃんを取り返す事。梨子さんと戦う必要は無い」

曜「でも!」

ルビィ「果南さんも花丸ちゃんも戦うべき相手が居る……なら、私しか残ってない」


梨子「全員まとめて掛かって来ればいいじゃない」

ルビィ「……分かりませんか?」

梨子「?」



ルビィ「梨子さん相手なら私一人で充分だって言ってるんですよ」



梨子「………へぇ」



ルビィ「ずっと後悔してた……千歌ちゃんが連れ去られたあの日、私に戦う勇気があればって……」

ルビィ「今の私には立ち向かう勇気も力もある」

果南「ルビィ……任せて大丈夫?」

ルビィ「……うん」ニコッ


ルビィ「梨子さんを倒したら直ぐに果南さん達と一緒にお姉ちゃんとも戦う!!」

ルビィ「……私が駆けつける前に倒されないでよね?」

果南「ふふっ……心配なら早く来てよ!」


ルビィ「曜ちゃん、必ず千歌ちゃんを取り返して……!」

曜「うん……!」


ルビィ「花丸ちゃんも頑張って!」

花丸「……うん、ルビィちゃんもね!」
406 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:12:46.21 ID:tYHAcBhr0








梨子「………」

ルビィ「みんなが通り過ぎるのを見逃してくれるんだ」

梨子「ダイヤ様には自由にやれと命令されましたから」

梨子「……だから相手がルビィ様でも手加減はしない」



梨子「――プレリュード、『形態変化(カンビオ・フォルマ)』」



梨子の合図でプレリュードは『二丁拳銃』に姿を変え、梨子仕様の『MIRAI TICKET』衣装へと換装。



梨子「一撃で終わるようなつまらない結果だけは止めてくださいよ……?」

ルビィ「……負けないからっ!!」






【ルビィ(属性:雷) VS 梨子(属性:嵐)】


407 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:26:23.50 ID:tYHAcBhr0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



戦闘が開始されて早々、梨子は右手の銃から二発発砲する。


梨子の専用武器『二丁拳銃』の弾丸鉛玉の代わりに炎を圧縮したものを撃ち出す。

本来この弾丸は曜の弱点でもある生成できる炎が弱い人間がそれを補う為に作られた物。


その弾丸を梨子のように強力な炎を扱える者が使った場合、どうなるのかは想像に難くない。


……炎の規模、破壊力共に数倍に跳ね上がった。



――ルビィは雷の炎を纏わせた槍の柄を地面に押し当てる。


正面に体を覆い隠す大きさのレンズ状のバリアが出現。

梨子の炎を防いだ。




ルビィ「……効かないよ」

梨子「私の攻撃を防ぐか! 流石は王族、黒澤家の人間と言った所ね!」


梨子「さて……そのバリアは何発まで耐えられるのかしらね!」



―――ゴオォォ! ドゴオォォォッ!!



ルビィ「うぐっ、ぐぐ……ッ」



四発、五発と命中する数が増える度にバリアごとルビィの体はジリジリと後退していく。



梨子「守っているだけじゃジリ貧だよ!」
408 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:29:16.25 ID:tYHAcBhr0

ルビィ「……ッ、うぅ」

梨子「もしかして攻撃の仕方が分からないの?」


ルビィ「……大丈夫だよ」ニッ



梨子の周囲数メートルに小さな雷雲が複数出現する。



梨子「い、いつの間に!?」


ルビィ「――当たって!!!」ブンッ!!


ルビィが槍を振り下ろすと雷雲からビーム状の雷の炎が発射された。

不規則な方向からの攻撃な為、回避は困難。

急所は避けたが肩や脇腹に被弾。
それ以外の部位にも掠り焦げ跡を残す。



梨子「痛……ッ!?」


……この程度の威力なら衣装の耐久性の方が勝る。
ダメージも大したことがないわ。

つまり、この攻撃は私のバランスを崩す為の陽動……!


梨子「……本命は真上の雷雲か!!」

ルビィ「気がついた所で今更遅い! 避けられよ!!!」


ルビィ「――『落雷(サエッタ)!!!』



目が眩む閃光と耳をつんざく激音が大広間に鳴り響く。
梨子の炎を真っ二つにした雷が今度は脳天に直撃した。


梨子「……がっ、あ、ああああッッ!!!」
409 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:30:00.54 ID:tYHAcBhr0



梨子は倒れない。



ルビィ「た、耐えるの……この一撃を!?」

梨子「今のはちょっと効いた……ぐっ」フラッ

ルビィ「ならもう一度―――」



―――ズドドドッッ!!!



梨子は周囲に発生していた大小様々な大きさの雷雲を全て撃ち抜いた。



梨子「二度は通用しないわよ」ギロッ

ルビィ「うっ……!?」



ルビィは槍の柄を地面に打ちつけて雷雲を発生させる。



梨子「何としてでも近寄らせたくないってか……」



電撃による遠距離攻撃で牽制。

梨子はそれを左右ジグザグに走り回りながら回避し、銃撃で応戦する。

数発がルビィの頬と腰を掠めた。



ルビィ「熱ッ!!?」

梨子「なるほど、雷雲による攻撃とバリアは同時には行えないってね!!」
410 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:34:30.94 ID:tYHAcBhr0

ルビィ「くっ……何でその銃は弾切れにならないのさ!?」



お互いに一定の距離を保ち移動しながら攻撃と回避を繰り返す。

攻撃の密度はルビィが優るが、精度は梨子が優る。

ジリジリとダメージが蓄積していくのはルビィなのだが攻撃方法を変更する気配はまるでない。


梨子はそれに違和感を持った。



――妙ね……ルビィ様の武器は『槍』。

中遠距離での撃ち合いよりも白兵戦に持っていきたいと思ったんだけど。

ルビィ様の使い方は間違ってはいないけど『槍』よりも『杖』の側面が強い。

さっきの技だって槍を使った本来の戦い方の中に組み込めば最大限に活かせる感じがする。


梨子「じゃあ、こうしよう……!」


梨子は銃口から放たれる炎を推進力としてルビィの目の前まで瞬時に接近した。

接近に思わずギョッとしたルビィ。

梨子は御構い無しにグリップの底でこめかみを殴りつける。



ルビィ「ッああ!?」



ガンッ! ガンッ! ゴンッ!



頬、顎、肩、みぞおち……。
不快な肉を打つ鈍い音が断続的に響く。

果南が全員に装着させたスーツを含むすべての衣服には炎に対してはかなりの耐性を誇っている。

一方、物理攻撃に対してはただの服と同じ防御力。
ダメージの軽減はほとんど無い。



梨子「どうしましたッ! その槍は飾りなの!?」
411 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/18(木) 23:38:04.03 ID:tYHAcBhr0

ルビィ「…ッ、あ゛あ゛ッ!!」ブンッ!



槍を振り回す。

が、苦し紛れに振った所で梨子の体には掠りもしない。バックステップで軽々と回避した。



ルビィ「ぅぐうぅ……がっ、はぁッ……」ボタボタッ

梨子「……この辺で諦めてくれませんか?」

梨子「ダイヤ様の命令とは言え、こうやってルビィ様を痛めつけるのは正直嫌です……」

ルビィ「はぁッ……はぁっ……ッ」

梨子「たった一言でいいのです……降参と言ってください」


ルビィ「うあ゛あ゛あ゛ッ!!!」ダッ!!

梨子「あぁ……向かって来てしまいますか――」カチャッ



ボロボロになりながら向かってくるルビィに対し、梨子は無慈悲にも二丁合わせて引き金を六回引いた。



412 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/27(土) 23:45:09.51 ID:eoWGRzzU0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



王の間へ続く広々とした廊下。
その途中で仁王立ちで待ち構えていたのは、霧の守護者の善子だった。

既に善子仕様の『MIRAI TICKET』衣装を身に纏っている。



善子「――遅い! 梨子の居た大広間からそんなに距離ないでしょうが!」

果南「えー……真っ直ぐ来たんだけどな」


花丸「……善子ちゃん、虹ヶ咲領で会った時以来だね」

善子「虹ヶ咲……あぁ、やっぱりあの時邪魔した雲の炎使いはずら丸だったのね」


善子「ずら丸がリングに選ばれるなんて意外だった」

花丸「そう? マルだってやれば出来るずら」

善子「……そう」


善子「こっちは『形態変化』も済ませて準備万端よ」

曜「あの武器は……何なの? 杖?」

善子「これは『錫杖(しゃくじょう)』よ。遊行僧が携行する道具の一つってところね」ジャラ

善子「まあ、あなたの言う杖が魔法の杖を指すならあながち間違いじゃないけど」
413 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/27(土) 23:48:51.43 ID:eoWGRzzU0


果南「気をつけて……善子は最年少で守護者に選ばれた天才術者だ。あの子の使う幻術はヤバい!」

善子「いやいや、気をつけた所でどうしようもないわよ?」

善子「天才の私が使う幻術にAqours匣の力が上乗せされれば……どうなると思う?」ニヤッ



ボオウゥゥ―――ッ!!



善子の錫杖とリングに藍色の炎が灯ると、瞬く間に廊下全体へ広がる。


……一瞬の暗転後、曜の足元の地面が消失した。



曜「……う、うおおおおッ!? 落ち―――」

花丸「惑わされないで! これは幻術、ただの錯覚ずら!!」

曜「幻術……これが……」キョロキョロ

花丸「そう、幻術……そのハズなんだけど」

曜「それにしてはリアル過ぎない!?」
414 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/27(土) 23:52:25.83 ID:eoWGRzzU0


善子「幻想的な空間でしょう? 暗黒空間に神殿が浮かんでいるイメージを具現化させてみたわ」

果南「私には幻術は効かないはず……なのにどうして!?」

善子「ふふ……分からない?」


果南「まさか……脳内じゃなくて、この空間そのものを書き換えたの……ッ!?」


善子「霧属性の特性は『構築』よ。私の力と組み合わせればこのくらい余裕で作り出せる」

善子「ここは私のイメージを自由に具現化出来る理想の世界……何もかもが私の思うまま」



にっこりと微笑む善子。

錫杖を軽く振ると、右の肩甲骨から大きな白い翼が生え、頭上には純白のリングが浮かぶ。

その姿はまるで―――。



花丸「――天…使……?」




善子「ようこそ、私の幻想(せかい)へ」



415 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/27(土) 23:55:02.60 ID:eoWGRzzU0

曜「持ってる武器は僧侶用のものなのに、姿は天使とか!?」

花丸「果南ちゃん!」

果南「世界を書き換えた力が炎によるものなら何も問題無い!!」



果南は右手を地面に叩きつける。

ガラスが割れるような甲高い音と共に、景色が元の渡り廊下へと戻った。


……が、それはほんの一瞬。
一回のまばたきの間に善子の幻想(せかい)に書き換わる。



善子「ここは私の炎で絶えず構成している……右手の力で打ち消してもすぐに再構築出来るのよ」

果南「……っ、本当に相性が悪いな」



善子がパチンッと指を鳴らすと、曜達の辺り周辺に無数のナイフが生成される。



曜「か、囲まれた!?」

善子「その右手でも水の壁でもこの攻撃は防げないわよ?」

果南「いや、当たる瞬間に幻想(せかい)を打ち消せば――」

善子「馬鹿ね、そんな事してもナイフに影響は無い。別に試してもいいけどね」
416 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:01:02.06 ID:99ZARqho0

曜「ヤバイ! 私全方位の攻撃を防げる技なんて持ってないよ!?」

果南「くそっ! 全員急所だけは守って!!」


善子「ふふふ……穴だらけにしてあげるわ」



錫杖を軽く振る。

待機中だった全てのナイフが一斉に曜達に襲い掛かった。




花丸「―――『形態変化(カンビオ・フォルマ)!!!』」



ゴオオオォォッ―――!!



花丸を中心に吹き荒れた強力な炎が全てのナイフを弾き飛ばす。

手には開かれた新書サイズの分厚い本が握られていた。

服装は勿論、花丸仕様の『MIRAI TICKET』



花丸「果南ちゃん、曜ちゃん、ここはマルに任せて欲しいずら」

花丸「いいよね?」
417 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:12:28.79 ID:99ZARqho0

果南「……分かってるよ、善子と戦う事が花丸の目的だったもんね」

花丸「マルの用事が済んだらルビィちゃんと一緒にすぐに向かうから」

善子「ふーん……一人で私の相手をするの?」

花丸「不満なの?」

善子「……いいえ、果南とやるより面白そうだから構わないわよ」



再び善子は指を鳴らす。

すると曜と果南の姿が消滅した。



花丸「んな!?」

善子「安心しなさい、私の幻想(せかい)から退出させただけだから」

花丸「ここは現実世界とは隔離された空間なんだ」

善子「そーゆーこと」

善子「だからどんなに暴れても城は壊れない……思う存分戦えるってわけ」

花丸「……それはいいね」ニッ




【花丸(属性:雲+α) VS 善子(属性:霧)】



418 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:16:07.96 ID:99ZARqho0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




曜「――うおっ!? 廊下に戻った……?」

果南「善子が私達だけを術中から追い出したんだ」

曜「この黒い幕みたいな物の向こうに二人は居るんだね」

果南「うん」

果南「どうなるか分からないから触るべきじゃないかな」

曜「花丸ちゃんはどうするの?」

果南「……このまま任せる。花丸とはそういう約束で付いて来てもらったから」

曜「そっか……」



善子と遭遇した廊下を過ぎ去り、さらに上のフロアに向かう。

誰一人会うことなく王の間の扉前に辿り着いた。


……寒い。

この扉の前に来て曜が感じた事だ。

移動中は常に走っていたので体は温まっていたにもかかわらず、その体温が一気に奪われる感覚。

下の隙間から白い冷気が漏れ出しているのが全てを物語っていた。




果南「曜、体に異常は無い?」

曜「大丈夫だよ。体力も気力も充分」

果南「気を引き締めなよ……この扉の向こうに女王が、ダイヤが居る」
419 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:20:12.92 ID:99ZARqho0

曜「……分かってる、決意も覚悟も出来てるさ」

果南「お、いい眼だね。もっとビビッてると思ってた」

曜「技は花丸ちゃんに、心は果南ちゃんに散々鍛えてもらったんだ。もう並大抵の事じゃビビらない」

果南「それは心強いや!」

曜「それに、これから果南ちゃんと一緒に戦うのに足を引っ張るわけにはいかないからね!」

果南「頼りにしてる」ニッ

曜「任せてよ!」



―――ガチャ



ダイヤ「………来ましたか」

千歌「………」


曜「千歌ちゃん!!!」

千歌「……よう、ちゃん……」


果南「……やっほ、ダイヤ」

ダイヤ「果南……」

果南「一発ブン殴りに来たよ」

ダイヤ「性懲りも無くまた挑むのですか……あの時嫌という程体に覚えさせたつもりだったのですが?」

果南「生憎、痛みは随分昔に感じなくなったからさ。もう覚えて無いや」

ダイヤ「ホント、呆れた人ですわね」
420 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/28(日) 00:24:05.23 ID:99ZARqho0


曜「千歌ちゃんは返してもらうぞ!!!」

ダイヤ「返す? まるで千歌さんが貴女の所有物みたいな言い草ですわね」

曜「……何だと?」

ダイヤ「千歌さんはとっくの昔に自由の身ですわ」

曜「っ!?」

ダイヤ「その証拠に彼女の体には自由を拘束する類の物は一切付いていないでしょう?」

果南「なら……千歌は自分の意志で……」

曜「そ、そんな……どうして……千歌ちゃん!!?」

千歌「……っ」ギリッ


曜「ダイヤ!! 千歌ちゃんに何をした!!!」

ダイヤ「別に、薬物投与や精神操作などの小細工は一切行っていません」

ダイヤ「千歌さんは自らの意志こちら側についた、ただそれだけの事です」

曜「ふざけるな……そんなの信じられるか!」

曜「じゃあ私は……私は何の為にここまで……ッ!? 私やみんなの頑張りは何だったのさ!?」

ダイヤ「貴女の目的が千歌さんだとしたら、無駄な努力だった以外のなにものでもないですわね」

曜「ッッ!!!」キッ!!
421 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/29(月) 22:13:04.85 ID:UR1kTAuN0

千歌「………」


……ダイヤさんの話を聞いて今日までずっと考えてた。

私が元の世界に帰るには、この世界の破滅の危機から救わなきゃならない。


ダイヤさんの選択は非情だ。

けど『世界を救う』目的のみに限れば完全には間違ってないと思った。



誰かの味方になるってことは別の誰かの味方にならないってことだ。

曜ちゃん達か、ダイヤさんか。

私の……私の答えは……。


千歌「分かんない……よ」ジワッ



果南「―――千歌、ダイヤから何か聞かされたんだよね?」

千歌「……えっ」

果南「それが私から聞いた話と食い違ったか、それとも別の真相を知ってしまったか」

果南「それでどうすればいいか悩んでるだよね?」

千歌「……うん」

千歌「何が正しいのか……全然分からないよ……私には重過ぎる……」
422 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/29(月) 22:15:58.86 ID:UR1kTAuN0



果南「じゃあさ、千歌はどうなって欲しいの?」

果南「千歌が望む未来は……どんな結末ならハッピーエンドになると思う?」

千歌「私が望む……未来……」

果南「私やダイヤ、曜の事も全部無視していい……自分の気持ちに正直になってよ」

果南「私は千歌の選択を尊重する。その結果敵に回ってしまったとしても、裏切られたとは思わないし、千歌が罪悪感を抱く必要も無い」

曜「……」

果南「曜だってそうだよね?」

曜「……それで千歌ちゃんが無事に帰れるならいい……かな」

ダイヤ「……」

果南「千歌、聞かせて?」

千歌「本心……未来……」












ダイヤ「―――そう、ですか。それが貴女の選択なのですね……千歌さん」
423 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/29(月) 22:18:37.24 ID:UR1kTAuN0

千歌「ごめんなさい……私はこっち側につくよ」

曜「よ、よかった」ホッ...


ダイヤ「貴女が倒すべき相手はわたくしでは無いことを知っていても尚、立ちはだかるのですか」

千歌「……ダイヤさんがどれほどの覚悟で今の立場に至ったのか、私じゃ全然想像出来ない」

千歌「ダイヤさんの選択はこの世界を救う方法としては合理的で確実なのかも知れない」


千歌「――でも……その方法じゃダイヤさんが救われない」


ダイヤ「………」

千歌「たった一人で全員分の悪意を背負うなんておかしいよ! 悪意で得た力を使っても幸せな未来なんか訪れやしない……!」

ダイヤ「……それが貴女の答えですか?」


千歌「言葉で説得しても意味無いよね」

果南「だから力尽くで分からせてやるよ」コキコキッ

曜「やる事は予定と変わらないって訳だ」

果南「千歌、あとでダイヤから聞いた事を包み隠さず話してもらうからね」

千歌「分かってる」



ダイヤ「――仕方ありませんわね」



パキッ、パキパキパキ―――!!



曜「うぅ!? 寒っ!!!?」ブルブルッ

千歌「一気に部屋の温度が……!」

果南「……物凄い殺気だ。寒さを感じないはずなのに私も体が震えたよ」
424 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/04/29(月) 22:22:35.55 ID:UR1kTAuN0

ダイヤ「あの時はこの殺気だけで怖気づいていたのに。少しは成長したみたいですわね」

ダイヤ「千歌さんがどちら側の味方をしようとも、貴女達は見逃せない。Aqoursリングと匣は返してもらいます」

ダイヤ「本来なら人形兵(マリオネット)にするところですが……氷漬けにして城に展示させてもらいますわ」


果南「前に話したようにダイヤの炎は『大空の七属性』から外れた『氷河』の炎だ。大気中の水分は勿論、こっちの炎も凍結させてくる!」

曜「相手は浦の星最強の女王、最初から出し惜しみは無しだ!」カチッ!!



バシュッ!!!



匣を開口すると同時に、曜の体は雨の炎に包まれる。

衣装、専用武器共に換装完了。

曜の手には刀身が半透明な水色の日本刀。


むつの『雷電』、花丸の『村雲』と同シリーズの匣兵器。

固有名は『時雨』

今まで使用していたトンファーを匣ごと破壊された曜の新しい武器だ。



ダイヤ「それがわたくしが使うはずだったAqours匣ですか」

曜「今は私の匣兵器だよ」

果南「数日で完璧に使いこなせるまで成長してる。千歌の『同調』も合わせればとんでもなく強いよ」


千歌「よ、曜ちゃんのそれ……MIRAI TICKETの衣装じゃん!?」

曜「み、ミライチケット?」

果南「何それ??」

千歌「い、いや……何でもない」

千歌「ライブの衣装がこんな所で出てくるんだ……」ボソッ


果南「曜、千歌、援護よろしく!」

曜「任せてよ!」

千歌「私は直接戦えないけど……頑張って二人のバックアップをする!」






【果南(属性:???)、曜(属性:雨)&千歌 VS ダイヤ(属性:氷河)】


425 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:00:58.57 ID:Jguby87Y0


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




花丸の匣兵器、『魔道目録(ブックメーカー)』のページには技の発動に必要様々な魔法陣が描かれている。

そこから一ページを破り取り、空中に投げ飛ばす。
一枚だった紙が雲の『増殖』で六つに増え、空間にその数だけ魔法陣が展開した。



花丸「―――『雷の魔弾(サンダーバレット)!!』



魔法陣から高速で発射された雷属性の弾丸。
善子はコンクリートの壁を生成してそれを防ぐ。


花丸の攻撃は終わらない。

開かれた『魔道目録』からどんどんページが飛び出し
花丸の周囲に円軌道を描きながら漂う。

その数枚から再度魔法陣が展開。

そこから『村雲』と弾丸が不規則な軌道で動く『晴の魔弾(サニーバレット)』が放たれた。


善子はその場から飛翔し、攻撃を躱す。



善子「『雲』に『雷』に『晴』……あなた、同時に複数の属性を扱えるのね」

花丸「その通りずら」ジャラッ



花丸の右手の指全てにリングがつけられていた。



花丸「マルにはこの匣兵器を操る為の五つの波動が流れているずら」

善子「つまりあと二つ見せて無い属性があるわけか!」
426 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/05/02(木) 23:04:09.04 ID:Jguby87Y0

花丸「安心して、もう使ってるずら」



―――ジャラジャラッ!!



水の鎖が善子の手足に絡みつく。



善子「この技は曜の!?」

花丸「マルの扱える属性の技なら魔法陣をページに記録しておけばいつでも発動出来るんだよ!」



動きが止まった所を『村雲』、『雷の魔弾』、『晴の魔弾』で掃射する。



善子「中々のチート能力ね! でもこの程度の拘束、どーって事ないっての!!」



善子は白翼で鎖を切断し、攻撃をひらりを回避した。




善子「弾幕が薄いんじゃない? そんな攻撃いくら撃っても―――」



―――ドドンッ!!



善子「ぐっ!? 何!?」

花丸「驚いた? 全然見えなかったでしょ?」フフフ

善子「今のは霧属性の……!?」


花丸「そう、不可視の弾丸。『霧の魔弾(ミストバレット)』ずら」
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