【艦これSS】不器用を、あなたに。

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575 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/03(金) 02:00:04.54 ID:BMm/1y0AO
今回はここまでです
令和も頑張っていきたいものです
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/03(金) 02:09:51.63 ID:kG2rGl/fo
おっつおっつ
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/03(金) 16:01:40.56 ID:aqO2/xuFo
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/03(金) 22:12:00.62 ID:a5eMCHjBO
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 10:28:56.23 ID:F2FO183fO
今気付いたけど、朝雲と山雲は居ないのか。
580 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/18(土) 23:56:16.04 ID:IEeFCoIvO
時雨お誕生日おめでとう!!!

ちょっとしたら少しだけ投下します
581 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 01:45:06.56 ID:iboqIv40O
−−−

12月19日 12:30 食堂


陽炎「うわっ...ペイントだらけじゃない...」

山城から昼休憩を貰った第3隊の5人は食堂に来ていた。
そして長机の一角にスペースを見つけ座ると、すぐ横に座っていた陽炎から声をかけられた。

時雨「これでもかなり落としてきた方なんだけどね」

夕立「どうせ午後もまた汚れるっぽい」

陽炎「たしかにそれだとちゃんと洗い落とす気にもならないわね...」

不知火「食堂に来る度に見ますから、この光景も慣れてきましたね」

陽炎の向かいに座る不知火が口を挟む。

満潮「......ほんっと最悪よ...」

夕立「でも夕立は5人で遊んでるみたいな気もして少し楽しいっぽい!」

最上「夕立は元気だなぁ...」

扶桑「そうね...」
582 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 01:46:28.28 ID:iboqIv40O
第3隊の発足から5日目。
山城が指揮する訓練は過酷なものだっ
た。

まず第3隊は山城の方針で、海域への出撃による連携の確認といった事を一切やっていない。
なぜなら、山城曰く「雑魚同士で連携しても所詮雑魚の次元は越えられない」からである。

その代わりに彼女が行う訓練は、メンバーを1対5に分けてひたすら“1”の方を5人がかりの砲撃でいじめ抜くという、前代未聞のものだった。
ちなみに山城は最高練度を根拠に、自ら“1”をやる事は無い。

訓練ではペイント弾を使うため、轟沈判定以降も物理的には演習を続行できる。
山城はその性質をいわば悪用している。

つまり“1”に選ばれた者は山城が満足するまで残り5人の容赦ない砲撃に曝され続けるしかない。

たとえ全身がペイントで埋めつくされたとしても、それは訓練終了を意味しないのである。
583 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 01:48:12.04 ID:iboqIv40O
そしてもちろん、諦めて回避運動や反撃を試みなかったり攻撃側が手を少しでも緩めると、必ず山城が口汚く罵ったり煽る。

その度に皆は当然怒りを露わにするが、ありったけの罵倒を吐きながら何とか精神を保つのである。


また他の部隊との演習も毎日、それも相手の都合がつく限り複数回行う。

山城が相手として選ぶのは専ら同じ作戦攻略部隊である第1隊と第2隊である。
両方とも戦力としては第3隊の格上であり、戦っても確実に負ける。
実際にこの4日間はしっかり全敗している。
山城は勝負にならないことを知っていながら演習を組むのだ。

ここで付け加えるべきは、5人は決して負け戦を強いられるのが嫌なわけではない事である。

何が腹立たしいかと言えば山城が、この必然の敗北を引用してやはり散々に罵る事なのだ。

つまり5人からしてみれば山城は自分達を罵倒するためだけに演習を組んでいるように思えて、それが余計に憎悪を深めるのである。
584 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 01:52:04.95 ID:iboqIv40O
そしてこれらのハードな訓練を1日の活動時間に容赦なく過密に詰め込んでいる。
昼休憩を除けば、毎日朝から晩まで訓練漬けである。

さらに恐ろしい事に、もう少ししたら山城はこのメニューに加えて夜戦訓練も実施するつもりらしい。

「鬼の山城」

まさにその言葉が相応しかった。


だがそんな過酷な訓練を、よりにもよって世界一憎んでいる奴の指示によって受けているにもかかわらず、5人は山城へ一応は従っている。

それには理由があった。

不知火「まぁあの戦艦に指導されるのは私も嫌ですが...正直ここまで練度が上がるなら不知火も参加したいですよ」

陽炎「ペイントまみれは嫌だけど...ちょっと分かるわ」

時雨「...」

時雨はバツが悪そうな顔をして沈黙している。
585 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 01:53:27.41 ID:iboqIv40O
扶桑「まさか満潮の改二も今月以内に出来そうなんてね...」

満潮「……」

満潮もやはり気まずく沈黙する。

最上「そういう扶桑も...このペースなら改二もありえなくなさそうじゃないか」

扶桑「私も早くみんなに追いつきたいわ」

そう言って彼女は柔和な笑みを見せた。


・・・そうである。山城の鬼の訓練は、信じられない程に第3隊の練度を引き上げていたのだ。

山城の独裁体制が始動した日の夜には早くも時雨の体が光りだした。
即座に2次改装可能の報告を受けた提督も、まさかここまで早いとは思っていなかったようで大変驚いていた。
586 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 01:54:28.64 ID:iboqIv40O
また当初は作戦にギリギリ間に合うかどうかくらいに見積もられた満潮も、ここ数日での練度の上がり方を見るに、あと1週間程で改二要求練度に到達しそうである。

これ程の過酷な訓練をしているのだから当然であると思う一方で、山城が言うだけの成果を出してみせた点については認めないわけにはいかなかった。

くわえて意外にも山城は、訓練中は扶桑に対して1番容赦なかった。

もちろん扶桑にだけ態度や言動が特別な点は変わらないのだが、訓練の内容で言えば逆に扶桑を徹底的に砲撃し1日に何度も5人で彼女をいじめ抜いている。

それは言うまでもなく、着任が大きく遅れメンバー内で1番練度が低い彼女を大規模作戦レベルに引き上げるためであろう。
587 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 01:56:53.74 ID:iboqIv40O
山城は私情に左右されず、あくまで練度と戦力の向上という目的に忠実なようだ。

そうなるといよいよ、指導理論においては山城に逆らう妥当性が見つからないのである。

これこそが5人が溢れんばかりの憎しみや怒りを抑えながらも山城の指示を聞く理由に他ならない。

陽炎「でもやっぱりストレスが尋常じゃなさそうね...。訓練内容もそうだけど、アイツに指揮されるってのが。」

夕立「そう!ほんとに嫌過ぎて吐き気がするの!」

露骨に嫌そうな顔をしながら言った陽炎の言葉に、待ってましたと言わんばかりに夕立が激しく肯定する。

最上「特に昨日今日は一段とクズだしね」

満潮「何で機嫌悪いのか知らないけど突っかかってこないでほしいわっ!顔見るだけで腹立つってのに...!」

最上の付け加えた言葉に呼応するように満潮が怒る。
588 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 01:58:49.21 ID:iboqIv40O
不知火「一段とクズ...。それは精神衛生に良くないですね...」

扶桑「あまり相手にしちゃ駄目よ?やり返すだけ無駄なんだから」

夕立「そうは言ってもやられっぱなしはムカつくっぽい...!あのクズ、また時雨を...!」

時雨「...まぁ別にアイツが僕にどうこう言うのは気にしてないさ」

興奮している夕立を制するように時雨が口を開く。

時雨「何度も言うけど、僕が許せないのはアイツが絆を踏み躙る事なんだ」

時雨「アイツは、僕の大切な昔の仲間との記憶全てを馬鹿にしてっ...!」

時雨「そしてまたこうやって出会えた仲間たちとの絆までぶち壊そうとするんだ...!」

時雨「僕達全員、今度は完全な意思を持って生まれた艦娘としての存在を、アイツは嘲笑ってる...!そんなの許さないっ...!!」

満潮「ええ、そうよ!あんな奴っ!」

夕立「練度上がるからって我慢してあげたけど、午後はアイツに何かしといた方がいいかなぁ」

駆逐艦3人は瞬く間に憎しみに支配された。
・・・何か行動として、山城に報復を画策しそうな雰囲気になりつつある。
589 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 02:00:27.71 ID:iboqIv40O
最上「...みんな、せっかくのお昼が不味くなるよ」

扶桑「とにかく落ち着きなさい。私だって腹は立つけど...せっかくの5人の団欒を壊したくないわ」

危険な雰囲気を2人がひとまず抑えた。

扶桑「他の人にも迷惑だから、ね?」

そう言いながら扶桑は隣を見遣る。

不知火「あ、いえ。お気遣いなく」

陽炎「私だって聞いてるだけで怒りが湧くもの」

最上「ごめんね、2人とも」

最上は苦い顔で陽炎と不知火に謝った。

最上「まぁアイツが機嫌悪くなってやたら暴言吐いてくるのも、いつもだいたい1日か2日で終わるし」

最上「明日にはマシなレベルに戻るでしょ。...嫌味とか罵ってくるってのは変わらないだろうけど」
590 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 02:02:24.22 ID:iboqIv40O
扶桑「最上の言う通りよ。この間食堂で言った事が守られないのは腹立たしいけど...。わざわざ相手して余計なエネルギーを使うことはないわ」

扶桑「ムカつくのは元からでしょう。だからいつも以上に暴言を吐いてきても、憎むだけに留めて無視しておきなさい」

夕立「むぅぅ...分かったっぽい...」

満潮「扶桑がそう言うならそうするわよ...」

扶桑と最上のおかげで何とか楽しい昼休みの時間を取り戻せそうだ。

最上「...そんなことより楽しい話をしようよ!もうクリスマスまで1週間切ったよね!」

最上が話題を明るい方へ持っていく。
その言葉で皆の顔が和らいだ。

時雨「...ふふっ、そうだね。確かに楽しい事を考えた方がいいな」

時雨「みんなでクリスマスパーティーとかしようか」

夕立「素敵なパーティーしたいっぽい!!」

こうして彼女らの卓は、その後は楽しそうな声で包まれたのであった。
591 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 02:04:02.09 ID:iboqIv40O



−−−



守らなきゃ・・・
また自分が残ったんだから・・・

傍には空母が居る。

絶対に、護らなきゃ・・・
そう強く思いながら海を走る。



だがその想いも砕かれるのだった。

数本の魚雷の発射音が、脳に大きく響いた気がした。

避けて・・・。お願いだから・・・。


そう願っても、隣の空母は大きな水飛沫を上げながら被弾する。


そして・・・
ついにその空母は沈んでいく。
592 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 02:05:14.16 ID:iboqIv40O

どうして・・・!

どうしてこんな目に遭わなければならないの・・・?

こんなの理不尽じゃないか・・・!


涙がひたすらに流れる。

これこそが・・・不幸じゃないか・・・!

心の内でそう叫んでいた。

そして自身の運を憎みながら、恨めしく敵潜水艦が逃げたと思われる方へ目をやった。


・・・するとそこに居たのは、どういうわけかアイツだった。

居るはずのない、アイツだったのだ。

彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
593 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 02:06:24.94 ID:iboqIv40O

そうか、コイツのせいなのか・・・

コイツは許してはいけない奴だった・・・!

コイツは仲間なんかじゃないんだった・・・!


何の疑問を持つ事なく、憎しみが瞬く間に湧き起こった。

その憎しみはどこか心地よいものだった。

・・・そんな心地よい闇に呑まれつつ、またいつも通りの深淵な世界に誘われるのであった。
594 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/05/19(日) 02:08:51.52 ID:iboqIv40O
今回はここまでです

昨日が時雨の進水日!

当初の予定ではそもそもとっくに完結してる予定でしたが、終わらないと分かってからはこの日をデッドラインにしてました

そしたら・・・余裕で間に合いませんでした

ほんとに遅筆ですみません
エタる事はしないので気長にお付き合い頂ければと思います
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 06:31:30.95 ID:vjG60Nv9o
お疲れ様
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 07:22:53.32 ID:QyAMeh0RO
乙!
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 11:17:54.73 ID:gXD3UMnpO
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 12:41:54.13 ID:GhXqpNM/o
おっつおっつ
599 : ◆eZLHgmSox6/X [sage]:2019/06/14(金) 23:10:39.74 ID:tBNlJVQdO
長らく更新が出来てなくて申し訳ない次第です
月曜日くらいに続きを投下出来れば...と思ってます
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/15(土) 00:18:39.38 ID:L7oPqam9o
待ってた
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/25(火) 12:27:16.28 ID:9ckhR7ysO
待ってるぞ
頑張ってくれ
602 : ◆eZLHgmSox6/X [sage]:2019/06/26(水) 11:02:20.88 ID:YtYgWYHzO
−−−
−−


やはりそうだ・・・

眠っている彼女は雨に濡れていた。

・・・きっと私は雨を止ませる事は出来ない。
濡れた彼女の顔を拭いてやるくらいしか出来ないのだ。

それでも彼女ならきっと大丈夫だと思いたい。

雨は・・・いつか止むはずなのだから・・・



−−−



山城「時雨...おはよう」

今しがた目を覚ましたルームメイトに声をかける。

時雨「......おはよう、山城!」
603 : ◆eZLHgmSox6/X [sage]:2019/06/26(水) 11:03:14.63 ID:YtYgWYHzO
目を開いた直後も暫し夢現としていた時雨だったが、やがてにこやかに挨拶を返した。

時雨といえば、この笑顔なのである。

山城「...よく眠れた?」

時雨「...うん、ぐっすりさ!今日も訓練頑張れそうだよ」

時雨は明るい表情でそう言うのだった。

山城「そう...良かったわ。それじゃ時間にあまり余裕無いし、支度してすぐに朝食よ」

時雨「うん」

窓からは綺麗に晴れた青空が見える。
そして同時に、海の上に存在を主張する白く大きな入道雲が真夏らしさを強調していた。


時雨が着任して、6日目の朝だった。
604 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:05:03.46 ID:YtYgWYHzO


時雨「今日は山城の予定はどんな感じなんだい?」

時雨「僕の午前の訓練には付き添ってくれるみたいだけど...」

身支度を済ませた2人は朝食を取りに、食堂を目指して廊下を並んで歩いていた。

山城のすぐ隣の場所は、すっかり時雨の定位置になりつつある。

山城「午前はそうよ。午後はまず昼食後に古鷹と一緒に執務室に行くから...その後はアンタの午後の訓練が終わるまで図書室にでも行こうかしらね」

時雨「古鷹さんと執務室か...また作戦会議とかあるのかい?」

山城「...そんなとこよ。これからこの鎮守府もどんどん戦力拡張していくから、運営会議とかも増えていきそうだわ」

時雨「やっぱり山城は凄いなぁ...うちでトップクラスの練度で、提督からも頼られて、艦隊運営に携わるなんて」

時雨は敬愛の眼差しを向けていた。
・・・その眼差しを照れくさくも素直に受け取る、なんて心持ちには到底なれなかった。
605 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:06:18.83 ID:YtYgWYHzO
山城「ねぇ、時雨...」

時雨「何だい?」

山城「鎮守府生活にはそろそろ慣れたかしら?」

山城はすぐ隣を歩く少女に尋ねた。

時雨「うん、みんな優しくしてくれるからね」

時雨「それに山城が指導艦だもん」

時雨は明るい笑顔を見せる。
それは心の底からの、純度100%の喜びだった。

気付けば山城は歩くスピードを落とし、時雨の頭を撫で回していた。

時雨「どうもこれには慣れないけど、嬉しいな...//」

彼女は恥ずかしそうに顔を綻ばせた。
606 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:07:35.35 ID:YtYgWYHzO
山城「それじゃあ...艦娘としてのは自分には慣れたかしら?」

山城はそう言うと同時に、撫で回す手をその頭から離した。

時雨「...うん、ちょっとずつだけどね」

少しだけ彼女の表情が曇る。
2人の歩むスピードはまた一段と遅くなった。

時雨「まだ艤装を上手く使えないけど...早くみんなを守れるくらいになりたいな」

時雨「艦娘になっても...また山城の横に立ちたいんだ」

彼女には明らかに苦悩が垣間見える。

それでも強くあろうとする決意を乗せて、やはり時雨はにこやかな表情をするのであった。

山城「...あまり焦らない事ね。艦娘になってすぐのうちは、どうしても慣れなくて安定しないものだから」

山城「...色々な事でね。」

漠然とした、それでも最適なアドバイスを彼女に贈る。
607 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:08:27.86 ID:YtYgWYHzO
時雨「そう言ってもらえると安心するよ」

苦そうな笑みで彼女は山城のフォローを受け取る。

山城はもどかしくて仕方がなかった。

だが、他人の悩みに寄り添うという事はそれだけ大変であると気づいたのだ。

私がこの子を、早く他の子達と同じようにしてあげなくてはいけない。
それが自分の役目なのだから・・・。

山城「私はアンタの指導艦なんだから...何でも相談しなさい」

山城「私が出来る範囲でだけど、助けになるわ」

ありきたりな言葉で時雨を励ましてやる。
もどかしくも、それが最適なのだ。
608 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:09:53.72 ID:YtYgWYHzO
時雨「山城は...優しいよね」

山城「...別に普通よ」

山城は目の前の少女の瞳から、霞んだ光を感じ取った。

・・・きっと時雨は私の胸中を察している気なのだ。

時雨「ううん、山城はいつも僕に気を遣ってくれる」

山城「そりゃあ、一応アンタのお世話係みたいなもんだしね」

時雨「...僕の心情を読み取って...いつも寄り添おうとしてくれるじゃないか」

時雨は、困り顔に笑顔を上塗りしたような、そんな顔をしていた。

山城「大袈裟ね、誰だって新人にはこれくらいするわよ」

時雨は物事を重く考えすぎなのだと思う。
それは良くも悪くも彼女の大事な特徴であった。
きっと本能がそうさせているのだろう。
609 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:11:19.46 ID:YtYgWYHzO
時雨「でも金剛さんだって言ってたよ、ほんとに山城は洞察力がすごいって。」

彼女はちゃっかり、山城と同室だった経験を唯一持つ艦娘から色々と話を聞いているようだ。

金剛の事だから、多少オーバー気味な山城像を時雨に吹き込んでいるに違いない。

変に掘り下げられると自分はくすぐったくて堪らなくなってしまうだろうし、そして何より警戒される要素の存在は隠しておきたかったから、とりあえずその話題は受け流す事にした。

山城「はぁ...アンタはね、甘え下手なのよ」

山城「だからこっちは気遣わずにいられないの。私だけが特別気にかけてるとかではないわ」

時雨「そんなにかい...?」

今の時雨の心情が何となく読める。

きっと彼女には複雑な安堵が少しだけもたらされたはずだ。
610 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:12:19.78 ID:YtYgWYHzO
山城「...ええ、そんなになのよ。アンタってすぐに独りで抱え込みそうだからね」

時雨「そんなことは...」

山城「とにかく、甘えられるところでは駆逐艦らしく甘えときなさい。アンタだって所詮はガキなんだから。」

どうにもこういう事は不器用な私には向かない。
それでも、この子のためにも少しでも励ませたらと願う。

時雨「...僕はむしろ甘えてるよ」

時雨「みんなより上達が遅いのに、それを分かってるのに...それでもちっとも良くならないんだ」

時雨「僕は今度こそ昔の仲間達を守るって決心したくせに、結局みんなに助けてもらってばっかで...甘えてるんだ...」

もはやいつもの笑顔も彼女からは消え去りつつあった。
611 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:14:04.10 ID:YtYgWYHzO
山城「あのね...何回か言ってきたけど、時雨は艦時代だとかの今までの事にばっか目を向けすぎなのよ」

山城「それも大事かもしれないけど、それ以上に前を向くべきだわ」

時雨「前を向く...か...」

時雨にはなかなか言葉が浸透しない。

だから必要なのは、彼女の思考を踏襲しながら、こちらのメッセージを染み込ませる事なのだ。

山城「練度って確かに重要よ。これが十分にあれば、自ずと状況把握も連携行動も上手くなる」

山城「精神状態ですら、練度とともに強くなっていく傾向がある」

時雨がピクっと反応する。

山城「でもね、周りのサポートありきでも、ちゃんと練度は少しずつでも上がっていくわ」
612 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:15:56.56 ID:YtYgWYHzO
山城「今のところ進捗が芳しくないってだけで、時雨も行き着くゴールは皆と同じなのだから...そんなに不安にならなくていいのよ」

時雨「そうなのかな...」

山城「だってそうでしょ、今は未熟でも...半年くらい経てばきっとそれなりの戦力にはなってるはずだと思えないかしら?」

時雨「そりゃ半年も経てば練度も上がってマシになってるとは思うけど...」

山城「じゃあそれでいいじゃない」

食い気味の返答に時雨は少しだけ驚いた顔をした。

山城「時雨は...そうね、桜が咲く頃になってようやく自分の才能も開花する、とでも思っとけばいいのよ」

山城「その頃にはきっと強くなってるはずだから」
613 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:17:21.29 ID:YtYgWYHzO
時雨「うん...」

山城「ほら、だから前を見なさい。楽しい事を考えるのよ」

山城「私はそういうキャラじゃないけど...アンタにはそっちの方が似合うわ」

そう言って時雨の頭に手を置いた。

山城「皆、去年の桜がどうだったかなんて興味ないでしょ」

山城「ただただ、今年はどう咲くかって事に期待をふくらませてるのだから」

そう言葉を続けて彼女を軽く撫でてやってから、山城は歩き始める。

山城「...さてと、さっさと朝食に行くわよ」

こんな言葉で、彼女の心を完全な快晴に出来るとは思わない。
・・・彼女はそういう子だから。

それでも、少しでも憂鬱な雲を取り除けたならば嬉しい。
614 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:19:40.63 ID:YtYgWYHzO
時雨「...うん。そうだよね...!」

少しの間の後、ついには時雨も早足で歩きだし山城の隣に再び並んだのだった。

時雨「不安はあるけど...きっと桜が満開になる頃には山城を助けれるくらいになっていてみせるよ!」

時雨「その時には山城の横を僕が守ってて...その...山城とお花見してたいな...!」

少し恥ずかしそうな顔をしながら、時雨はそう遠くはない未来を語った。

彼女の輝く顔に、少し希望が見て取れた。

時雨「山城は...紅葉のイメージだったけど...桜も似合いそうだね」

その言葉に思わず照れてしまった私の頬は、紅葉色だろうか、それとも桜色だろうか。
615 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:22:41.86 ID:YtYgWYHzO
こうやって少しでも彼女に寄り添っていければ、と改めて思った。

山城「ふふっ...楽しい未来を考えれば、一見終わりの無さそうな苦境だって克服できそうに思えるでしょ?」

山城「それで実際に克服出来たら、つまらない事で悩んでたんだ、って思えるようにもなるわ」

山城「...お花見、今から楽しみにしておくわね」

時雨「うんっ!」

時雨「約束だからね!忘れないでよ!」

約束のための指切りをしてきた時雨は、これまでで1番子供らしかった。

・・・そしてそれが彼女があるべき姿だと、山城は強く思うのだった。
616 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:24:11.72 ID:YtYgWYHzO
宣言通りの日時に続きを投下できないのは仕様なので許してください

信用されなさそうですがエタる事はしないので気長に待って頂ければと思います
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 13:20:22.97 ID:L9HIss6fo
遅れる位は気にすんな
最後まで頑張ってね
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 14:22:14.44 ID:mx53DbDi0
乙乙
気長に舞ってる
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 22:45:41.20 ID:a6EzbNFIO
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 21:53:38.22 ID:GkAyFSgHo
全裸待機
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/30(月) 23:06:40.15 ID:dq6clWtLo
エタったか?
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/16(土) 21:26:23.83 ID:SNtzV3I5o
ダメみたいですね
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/17(日) 09:56:41.91 ID:F3Iv1DXGo
いつまでも待ってる
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/12(水) 13:19:30.86 ID:ncNjfrYxO
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