梨子ちゃんとマルの平穏な日々

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53 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/31(日) 00:05:58.91 ID:3+CSf/WK0

ひとしきり歌って…


花丸「梨子さんと歌うのが楽しい理由が分かったずら!」

梨子「え?どうしたの急に?」

花丸「梨子さんってAqoursの歌全部歌えるんだよね」

梨子「それは…一応作曲編曲仮歌入れまでしてますから♪」エッヘン

花丸「他のスクールアイドルとか、プロのアイドルさんとかの曲もたくさん歌えるよね」

梨子「アイドルの曲を作ることになってから色々聴いたからね」

花丸「でも結構昔の曲も歌えるよね?」

梨子「うん。私調べだすと止まらないの」

花丸「それマルもわかるずら!」

梨子「花丸ちゃんも何か読んでる時とか、すごい集中力だもんね」

花丸「梨子さんが鼻唄まじりにピアノ弾いてる時の集中力には負けるずら〜♪」

梨子「だっ…///だからそれやめてってば〜」
54 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/31(日) 00:08:21.36 ID:3+CSf/WK0

梨子「…そろそろかな?」

花丸「そろそろだね」


ガチャ

店員さん入室


梨子「あ、それ、お茶は私です。ありがとうございます」

注文したドリンクをテーブルに置いて

花丸「今日はみかんジュース〜♪」


店員さん退室

ガチャ


梨子「かなり時間分かるようになってきたね」

花丸「うん。もう飲み物だけの注文ならほぼ分かるね」

梨子さんもマルも歌の途中で店員さんが来ると物凄く恥ずかしくなってしまうので
(二人とも店員さんが入って来た時に小声になったり歌うの止めたりしちゃいました)
注文をした後は店員さんが来るまで待ちます

ちょっと時間がもったいない気もするけど
注文をしてから店員さんが来るまでの時間を予測してみたり
喉を休める時間に充てています

梨子さんもマルも歌うのが楽しくてついつい連続で歌っちゃうので
喉を傷めてしまわないように気をつけなければいけません

梨子「よし、じゃあ再開しよっか♪」

花丸「準備は万端ずら!」

気をつけなければいけないんですけど
やっぱり歌うのは楽しくてついつい盛り上がってしまいます
55 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/03/31(日) 00:11:11.94 ID:3+CSf/WK0
以前、Aqoursのみんなでカラオケに来た時には
店員さんが入って来た時、梨子さんとマル以外にも恥ずかしがる子もいたけど
恥ずかしがらない子もいてほぼ半々でした

中には店員さんとハイタッチする子もいて
マルもいつか同じようにやってみたいような気もしています

花丸「〜♪」

ガチャ

花丸「Mk#%&@っ!?」ビクッ

不意にドアを開けて店員さんが入って来て
驚いたマルは意味不明な言葉を叫んでしまいました

梨子「あっ、いいえそれ注文してないです」

ガチャ

失礼しましたとぺこぺこと何度も申し訳なさそうに頭を下げて
店員さんは出て行きました
部屋番号を間違えたようです

花丸「・・・・・・・・・」ドキドキ

はりきって後半戦に突入していたマルは突然の不意打ちに頭が真っ白です

いつかほんとうに店員さんとハイタッチしてみたいとは思ってます

花丸「でもまずは店員さんが入って来ても堂々と歌えるようにならないといけないずら…」

マルはこの時
ピアノの弾き語りを見られたのを恥ずかしがっていた梨子さんの気持ちが
本当の意味で理解できたような気がしたのでした
56 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/03/31(日) 00:12:39.46 ID:3+CSf/WK0
つぎまたしゅうまつまでに
57 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/06(土) 22:50:25.68 ID:xIV1LSl40
9.5

後日


梨子「花丸ちゃんこのまえ部室で一人で歌ってたよね」

花丸「ええっ!?」ガタッ

梨子「キャアッ!?」ビクッ


花丸「ご、ごめんなさい大声出しちゃって!…梨子さんあの時あそこにいたの?」

梨子「うん、忘れ物取りに行ったら聴こえてきて」

花丸「でも梨子さんあの日はいつも通り千歌ちゃんと一緒に下校したって聞いたけど」

梨子「そうだよ。花丸ちゃんの歌声だけ聞いて帰ったんだ。ほらこの間のおかえし…的な?」

花丸「声かけてくれればよかったのに梨子さんも人がわるいずら〜」><

梨子「ふふっ♪ごめんね。でも恥ずかしがってる花丸ちゃんも可愛いから仕方ないよね」

花丸「理不尽ずら〜///」


あの時梨子さんがすごく恥ずかしがっていた気持ちを
マルが本当に理解したのはこの時でした…
58 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/04/06(土) 22:52:15.04 ID:xIV1LSl40
次は明日か明後日か明々後日
59 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:18:00.57 ID:s1hSY5J50
10


冬が去って

お日さまの光があたたかくなって

桜の話をちらほらと耳にするようになった頃

マルは梨子さんとちょっとしたお花見の計画を立てました


梨子「おはよう♪花丸ちゃん」

花丸「あっ、梨子さんおはよう〜♪」

梨子「はいおみやげ」

花丸「こっ、これは…!」

梨子「期間限定、桜ホイップこしあん…なんだっけ?えっと…?」

花丸「なかなかおいしそうずら〜♪」

梨子「まあ名前は置いておいて、花丸ちゃん餡子好きだし丁度いいかなって思って」

花丸「桜の季節に桜菓子とは風情があっていいずら。しかもマルの好みにまで合わせてくれるなんてさすが梨子さん♪これはマルも何かお返しをしないと」

梨子「花丸ちゃんの喜んでくれる姿が見られただけで十分だよ」

花丸「えへへ」

梨子「ふふっ」
60 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:19:40.00 ID:s1hSY5J50
花丸「桜紅茶と桜緑茶、どっちがいい?」

梨子「紅茶で。…桜紅茶なんてのもあるんだね〜」

花丸「頂き物でちょっと特別な桜茶もあるんだけど、それは今度おうちでね」

梨子「わあ、それは楽しみだなあ♪」


持参した二つの魔法瓶から

梨子さんには桜紅茶

マルは桜緑茶を注いで、一服

ここ数日の花冷えが、温かいお茶のありがたみを増してくれてるみたいです


梨子「なんだか贅沢な感じだね〜」

花丸「風流ずら〜」


町を一望できるこの場所は

意外にも桜の時期には人がほとんど来なくて

マルのお気に入りの場所の一つになっています
61 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:23:11.70 ID:s1hSY5J50
人が来ない理由は、どこから来るにしてもそこそこの距離歩かないといけないことや
この場所には桜の木が無いこと

そして、ここは一時期開発計画か何かで立ち入り禁止だったらしくて
その後計画は中止になって何も手を入れられることの無いまま立ち入り禁止が解かれ
結果、人の足も遠のいた…っていうことらしいです

じーちゃんが言ってました


ここからは町や近くの山々の桜を望むことができて
強い風も少なく、行楽にはうってつけです

マルにとっては誰かに教えたいような教えたくないような
そんな特別な場所です


梨子「こんなところがあったんだね〜」

町のあちこちに咲いた桜を眺めながら梨子さんがつぶやいて

花丸「いわゆる穴場っていうやつずら」

ちょっと得意げにマルは返す

梨子「こんないい所なのにどうして人が来ないんだろう?」

首をかしげ疑問を口にする梨子さんに
マルは更に得意げにじーちゃんのうけうりをを語るのでした
62 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:24:44.55 ID:s1hSY5J50
しばし

桜の無い場所で

お茶やお菓子から桜の香りを感じながら

遠くに見える無数の桜の景色を眺めてとりとめのない話をする二人


桜菓子を食べ終え、魔法瓶が少し軽くなってきた頃に

梨子「ねえ、花丸ちゃん」

花丸「…なんか、くどかった気が…」

梨子「ああ、同じこと思ってたんだね」

くすっと笑いながら梨子さんが言う

梨子「あんまり桜まみれにしても良くなかったね」

否定的な言葉とは裏腹に、とても楽しげな口調

花丸「少し贅沢が過ぎたかもしれないね」

嫌なわけでもダメなわけでもなくて、実際この時間はとても楽しくて

梨子「風流も塩梅が大事なのかもしれないねえ…」

花丸「そうだねえ…」

まったりと景色を眺めながら、ただなんとなく

この時間を満喫しすぎているような気分になってしまっていました
63 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:26:51.76 ID:s1hSY5J50
梨子「よし、じゃああの辺りの桜を見に行こうか」

気まずさの無い穏やかな沈黙を破って、突然梨子さんが言う

花丸「えっ?」

梨子「どうかな?なんとなく行ってみたくなったんだけど、花丸ちゃんは行きたい場所ある?」

花丸「マルは特には…」

梨子「じゃあ一緒に行こう?途中のコンビニで限定桜プリンも買って行こう」

いつもより強引に話を進める梨子さん

花丸「えっ?さっき桜くどいって…」

梨子「まあさっきはさっきだし、歩いたらまたおなか空くし」

花丸「それは、マルも否定はしないけど…」


マルがだんだんと乗り気になって来たのを見て取ると
梨子さんはマルにそっと顔を近づけて


梨子「ねえ、せっかくの桜日和だしもっと二人で贅沢な気分を味わっちゃおうよ」


微笑みながらそう囁きかけました


それは、ステージでの梨子さんとも
Aqoursのみんなといる時の梨子さんとも違う雰囲気で
マルの胸をそっとざわつかせました
64 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:27:51.50 ID:s1hSY5J50
結局その日一日は桜の食べ歩きになり

途中から桜の花だけでなく
桜の文字すら追いかけるように町を巡り
内浦の桜を文字通り食べつくす勢いでした


花丸「はぁ〜…堪能した〜」

梨子「探せばあるもんだね〜」

花丸「山のふもとにあんな反橋があるなんて思わなかったずら」

梨子「たくさんの蔦が絡まって、桜も借景みたいになってて不思議な景色だったね」

花丸「朱の褪せ具合も雰囲気出てたよね」
65 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/09(火) 20:32:24.23 ID:s1hSY5J50
口々に一日を振り返りながら歩いていると

梨子「ねえ、花丸ちゃん」

ふと、梨子さんが立ち止り遠くを指さして言いました


梨子「あそこ、今日一緒に町を見渡したあの場所だよね」

花丸「うん。そうだね」

少し眩しくて、手で影を作りながら見ると

山の端に日が沈んでいて

桜尽くしの一日の締めにふさわしい眺めが目に入りました

夕陽に照らされた梨子さんと桜の景色…


梨子「花丸ちゃん…またふたりであの場所に行こうね。来年の桜を見に…ううん」


いつも通りの穏やかな声で


梨子「紅葉の季節でもいいよね…ううん、もっと早くても」


梨子さんの言葉を聞いていると、マルは少し寂しいような気持ちになってきて


梨子「どうかな?花丸ちゃん。次はいつ来ようか」


花丸「…明日…とかじゃだめかな」

梨子「えっ…」

花丸「もう、じきに暗くなるし、梨子さんのおうちまで結構あるし…今日はうちに泊まって、また明日もお花見なんて…えへへ…さすがに本当にくどいよね」


梨子「ふふっ…あはははっ」

花丸「な、なになに?」

梨子「あはは、急にごめんね。だって今日は二回目だから」

花丸「二回目?」

梨子「うん…私も今、花丸ちゃんと同じこと思ってたから…」

花丸「おなじこと?」

梨子「うん。まだ花丸ちゃんと一緒にいたいなって…あ、今朝の桜がくどいねっていうのが一回目でね」

花丸「そうだったね。…結局もっと桜まみれな一日になっちゃったけど」

梨子「明日も桜尽くしだよ。駅前の桜ケーキも桜クレープもまだ味わってないからね」

花丸「そ、そんなものまであるずら!?…梨子さんそんなにマルに気を遣って調べなくても大丈夫なのに」

梨子「花丸ちゃんのためじゃなくて、私が食べたかったんだよ?」

花丸「え?」


梨子「花丸ちゃんと一緒にね」


ほんの少しだけ間をおいて梨子さんが言ったとき
マルの顔は夕陽に染まっていました


梨子「だから、また明日も…一緒にお花見しようね」

花丸「うん」

66 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/04/09(火) 20:33:27.04 ID:s1hSY5J50
次一週間以内
67 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/17(水) 20:30:23.22 ID:OacCeo6A0
無理なので一週間後
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 21:23:23.57 ID:CN0eKn/c0
待っててやろう
69 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/24(水) 21:47:32.89 ID:0fYfzTHF0

11



今日マルはCD屋さんに来ています

マルは最近梨子さんとよくお話をするようになりました


梨子さんは音楽への造詣が深くて

Aqoursの作曲担当で

ピアノが上手で

楽しそうに弾き語りをしてて…


とにかく、共通の話題を増やすために

梨子さんと音楽についても、もっとお話ができるように

マルはクラシック音楽を聴いてみることにしたのです
70 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/24(水) 21:50:26.63 ID:0fYfzTHF0

花丸「ええと、クラシック…クラシック…」


CD屋さんといっても、実はいつも訪れている本屋さんの中にあるお店です

だけど勝手知ったる本屋さんの中でもほんの少しいつもと違う道を歩いただけで別世界に


花丸「交響曲8番…8番?」


本を買いに来ていたときには遠くに聴こえていた音楽がCDショップでははっきり聞き取れるし

壁の色も違う!原色が多い!


花丸「ぶらーむす…はいどん…おいどん…ハッ!?オラは何を…」


慣れない環境で軽いめまいのような感覚を覚えながらCDを物色していたマルだったけど


花丸「想像以上にどれを聴いたらいいかさっぱり分からないずら〜」@@


疲弊と困惑に負けてその日はすたこら退散したのでした
71 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/24(水) 21:54:52.63 ID:0fYfzTHF0
花丸「そうだ!どんな曲を聴けばいいか梨子さんに聞けばいいずら!」


後日そんな当たり前のことに気付いたマルは梨子さんのお家を訪ねたんだけど…


梨子「おすすめの音楽?そうだな〜…ユメノトビラとかどう?」

梨子さんはお家ではクラシックを聴かない人だったのです

梨子「え?どうしてって?小さな頃から聴きすぎちゃって勉強と同じ感覚になってるのと…今は、自分たちのを含めてスクールアイドルの曲を聴いたり作ったりするのに夢中だからかな」


クラシックのCDはあるから貸してあげると言われたので

聴きやすいと言われたものをいくつか持ち帰りました


自主練習用にと買ってもらったCDラジカセで曲を聴きながらマルは
『クラシックを聴いて梨子さんともっとお話しよう作戦』に幕を下ろすことを決めました


そして新たに
『スクールアイドルの曲について梨子さんとお話しよう作戦』を決行することにしたのです


今度の作戦は簡単です

自分たちの曲、梨子さんが作った曲についてなら、いくらでもお話できる気がするから
72 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/04/24(水) 21:56:25.14 ID:0fYfzTHF0
ツギ ハ アシタ
73 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:16:50.81 ID:pEqUKw4t0
12



梨子「狭い道を歩いてる時にね」

花丸「うん」

梨子「向かいから歩いてくる人に気付くのが遅れて、相手も同じ状況で避けようとして」


花丸「同じ方向に避ける」


梨子「そうそう、それでお互いに謝り合って話が進まないの」

花丸「わかるずら」
74 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:25:36.86 ID:pEqUKw4t0
花丸「自分の好みとかを人に聞かれて」

梨子「うん」


花丸「答えた後でその好みが変わっちゃうことが多いんだあ」


梨子「ああー、分かるかも」



花丸「学校の行事とかで意見を聞かれて答えた後に、そのことについて改めて考えてると」


梨子「自分の言ったことと違う結論にたどりついたりするよね」

花丸「前もって考えてたのに自分で口にした後に限って疑問が生まれるずら」


梨子「わかるよそれ」
75 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:31:14.35 ID:pEqUKw4t0
花丸「連絡先を知らないくらいの間柄の相手に住所なんかを尋ねられて、それを伝えた後に」

梨子「うん」


花丸「その伝えた情報が間違いだったことに気付いた時の冷や汗」


梨子「あぁ〜><」
76 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:32:16.04 ID:pEqUKw4t0
梨子「外開きのドアがあって」

花丸「うん」

梨子「からだ一つ分開いてる状態のドア」

花丸「うんうん」


梨子「何となく音も立てたくないから、その隙間を通ろうとして」

花丸「通ろうとして?」


梨子「ドアノブに手をぶつけて痛っ!て声まで上げちゃって台無し」

花丸「あー」
77 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:33:12.53 ID:pEqUKw4t0
花丸「続きの気になる本を読んでて」

梨子「うんうん」

花丸「読書のお供の飲み物を用意するけど気が急いてて」

梨子「うん」


花丸「湯呑みに注ぎ損ねて台所のお掃除するはめに。高揚してた気分が台無し」

梨子「私それTV番組とかでも経験ある!」
78 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:35:00.61 ID:pEqUKw4t0
花丸「心待ちにしてた新刊を買いに行った本屋さんで」

梨子「うんうん」


花丸「店員さんの手書きのおすすめ文句が地味にネタバレっぽかった時の台無し感」


梨子「それは悲しいね…」

花丸「でも読んでみたらそのネタバレっぽい文句が絶妙な騙し要素になってて、店員さん狙ったのかな?って」

梨子「それ面白いね。で、実際はどうだったの?店員さんは狙って書いてたの?」



花丸「…聞いてないずら」

梨子「…そっか」


花丸「!」ハッ

花丸「今のこの台無し感!」

梨子「あはは♪」
79 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/25(木) 23:37:13.06 ID:pEqUKw4t0
次 は 一週間 以内 に
80 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:09:48.77 ID:qydflVIM0
13


少し前から

マルは放課後が待ち遠しくなりました


Aqoursの一員として活動を始めてから

友達が、仲間が増えて
今まで文章から想像するしかなかった色んな感動や苦しさを体験できてます


それはマルが想像していた通りのものだったり

全然違うものだったり

こころにもからだにも、新鮮な刺激が満ちる日々です
81 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:11:14.50 ID:qydflVIM0
最近

マルは放課後がさらに待ち遠しくなりました


梨子さんとお話ができるようになったからです

東京からの転校生
東京オーラを放ち、落ち着いた雰囲気で何でもこなすクールな先輩
近寄りがたく、少し怖い存在…

だったけど

実際に話してみれば、柔らかい物腰と声色で、穏やかな表情で話してくれるし
マルが話す時もマルの言葉を最後までじっくり聞いてくれるし

なにより、思っていたよりも
話していて共感できることが多くて

別世界の住人のように見えていた年上の女の子が
急速に自分の世界に近づいて、入り込んできているような感じがして
マルは不思議なドキドキを感じています
82 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:15:40.54 ID:qydflVIM0

一度距離が近づきだしたら早いもので

部室での二人きりのお喋りから

一緒に下校したり

準備運動や振付確認時にペアを組んだり

梨子さんと一緒の時間はどんどんと増えていきました

83 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:18:00.79 ID:qydflVIM0


マルは週末を心待ちにしています


なぜなら、梨子さんとお買い物に出かけることになったからです


今週末は、マルの大好きな作家『タゾノミウ』先生の新刊発売日で
なんと、梨子さんもタゾノ先生のファンということで話が盛り上がって
梨子さんは他にも画材とかが不足してて
丁度いいから一緒に町までお買い物に行こうということになったのです



約束をしてから一日二日はわくわく


でも、徐々に週末が近づいてくると、次第にそわそわしはじめて


約束の前夜には、ついにドキドキがおさまらなくなってしまってました
84 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:20:17.05 ID:qydflVIM0


お布団の中で

眠れないマル


はじめは、梨子さんは明日どんな服を着てくるだろう?とか
待ち合わせの時間より5分…いや、10分か15分前くらいに着くようにしようかな?
なんてことを考えてたんだけど、次第に…

マルは明日どんな服を着て行こうかな?
あんまり可愛い服着て行ったら変に思われないかな?
お気に入りの服を着て行って似合わないって思われたらどうしよう…

待ち合わせの時間より早く着いて、気を遣わせちゃったらどうしよう?
だからといってぎりぎりの時間を狙って途中で何かあって遅刻しちゃったら…
そもそも待ち合わせの場所を聞き違えちゃってたりして…


なんて
一度不安が頭をもたげると、恐い気持ちが雪崩のように襲ってきて…

必死で眠りに着こうとしても眠れなくて
ますます焦りが募りはじめた時


梨子さんからメールが届きました

85 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/04/30(火) 06:26:21.52 ID:qydflVIM0
『こんばんは花丸ちゃん 夜遅くにごめんね もしかしたらまだ起きてるかな?って思って…』

読んでいると、すぐにいつもの梨子さんの声が想像できてしまう文面で…
梨子さんも眠れなくて、マルと同じような心境だということが綴ってありました


すぐにメールのお返事を送って


自分も同じような気持ちで寝つけなかったこと

明日の予定の再確認

立ち寄るお店のことや、目当ての新刊への期待から

タゾノ先生の過去作への感想

そこから別の本の話に移り

梨子さんの絵の話になったり

正座で足がしびれた話になったり


とめどなく脱線するやり取りが落ち付いた時
外には朝焼けが

結局マルと梨子さんは朝までメールでお喋りをしてしまって
週末のお買いものは次の機会へ持ち越しということに


少し残念な気もしたけど
それよりももっと大きな充実感が得られたような気がして
心地よいけだるさとまどろみに身を任せて
マルは眠りにつくのでした




そして
遅刻予防に前の日にじーちゃんに念入りにお願いしていた結果
マルは心地良い眠りについた直後に叩き起こされたのでした
86 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/04/30(火) 06:29:21.24 ID:qydflVIM0
次も、一週間以内に
87 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/04(土) 15:17:44.87 ID:xa6140Cm0
14


梨子「おはよう花丸ちゃん♪」

花丸「あっ、梨子さんおはよう。随分早いね」

梨子「今朝はいい調子で曲作りが進んで気分がいいから勢いで早出しちゃって…ところで花丸ちゃんしゃがみ込んでなにしてるの?」


花丸「ふふふ…紹介するね。こちらはたいしょうさんだよ」


梨子「?」


たいしょうさん「ニャーーーーーーー」


梨子「わあ!おっきい猫さん」

花丸「たいしょうさん。こちらは梨子さんずら」

梨子「はじめましてたいしょうさん。桜内梨子です」ペコリ


たいしょうさん「ニャーーーーーーーー」


梨子「たいしょうさん声可愛い♪」

花丸「大きな体のたいしょうさんはとってもかわいい声の持ち主なんだ〜」


梨子「和毛だね〜♪撫でたりしたら…怒るかな?」

花丸「そうだねえ、一見さんには厳しいたいしょうさんだからね〜迂闊に手を出すとガブッ!と」

梨子「ひっ?そ、そうなんだ…」ビクビク

花丸「な〜んて、冗談ずら♪たいしょうさんは心の広い猫さんだから大丈夫だよ」

梨子「もう〜花丸ちゃんったら!ふふっ、じゃあ早速…」ワキワキ
88 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/04(土) 15:18:58.81 ID:xa6140Cm0
梨子「〜♪」

花丸「梨子さんお顔が溶けてるよ〜」

梨子「至福の手触りです」

花丸「異論は無いずら」


梨子「それにしても」

花丸「ん?」

梨子「花丸ちゃんのお家に遊びに来るようになって結構経つけど、たいしょうさんを見かけたのは初めてだね」

花丸「たいしょうさんは平日の早朝にしか姿を見せないからね」

梨子「あ、そうなんだ?どうりで」

花丸「それに毎日現れるわけでもないから」

梨子「そっかあ…そういえば音ノ木にも神出鬼没な猫さんいたなあ…みんなはボスって呼んでた」

花丸「へえ〜、やっぱり東京ともなると名前も英語なんだねえ…未来ずら〜」

梨子「あはは、そういうことじゃないよ〜」
89 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/04(土) 15:19:40.17 ID:xa6140Cm0
又一週間以内に
90 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/12(日) 23:52:39.19 ID:7H95N31z0

15


梨子さんと一緒にTVを見ていたある日
こんなことがありました


とあるCMに出ている役者さんを見て梨子さんが言いました


梨子「映画で役所小路さんが出てるとつい見ちゃう」

花丸「役所小路さん…って、だあれ?」

梨子「あ、えっとね、ベテランの女優さんでたくさん映画に出てて…」


花丸「…あのー梨子さん…」

梨子「なあに?」

花丸「マルはなんていうか…有名人とかには疎くて…ごめんなさい」

梨子「どうしてあやまるの?」


花丸「あー…癖、かな…小さい頃からこういうことよくあって」

梨子「そうなんだ。そういうのって癖になっちゃうよね」

花丸「うん」

梨子「そのことについて、花丸ちゃんは話したい?」

花丸「ううん」

梨子「そっか、もし話したくなったらいつでも言ってね」

花丸「うん。ありがと」


梨子「あ、それと」

花丸「ん?」


梨子「言いたくならなかったらずっと言わなくても大丈夫だからね」


花丸「…ふふっ、ありがとう梨子さん。ほんとに」

梨子「うん」


花丸「えへへ」

梨子「ふふっ」
91 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/12(日) 23:55:32.81 ID:7H95N31z0
花丸「よしっ、この間話した香りの良いお茶を奮発しちゃうずら♪」

梨子「実はそれ気になってたんだ〜♪楽しみ」


そう言ってマルは部屋を出て足早に台所へ

一秒でも早くお茶を持って梨子さんとの時間に戻りたくて気が逸ります


だけどこの香りの良いお茶を淹れる時、急いてはいけません

沸かしたお湯を数十秒置いて冷ましたりした後
ゆったりと注がなければいけません


おぼんに湯呑みを乗せて部屋に戻る時も、急いてはいけません

お茶菓子を乗せ忘れて台所に戻ることになっても、あわててはいけません


今し方10秒で来た道を、30秒かけて戻ります

部屋の前まで戻ると、足音でか察してくれた梨子さんが入口を開けて迎え入れてくれます
おぼんで両の手がふさがっているのに途中で気づいて少し悩んでたので助かりました


花丸「梨子さんありがとう。絶妙なタイミングだったけどどうしてマルが来たの分かったの?」

梨子「聞き耳を立ててたの♪花丸ちゃんが戻ってくるの待ちきれなくて」

なんてね。と付け加える梨子さんと、マルは笑いあいます
92 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/12(日) 23:56:48.32 ID:7H95N31z0
満を持して湯呑みの帽子を取ると、和かな香りが広がって
二人の感嘆の溜息が部屋に響きます


梨子さんとマルは、ただお茶の香りと味だけを楽しみながら
何を喋るでもなく過ごします


一緒に持ってきたお茶菓子に手を付けることも無く


お互い何かを促すことも無く


ただただお茶を楽しみながら向かい合い座って過ごします
93 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/13(月) 00:01:32.48 ID:xPnDf7Y70
二人がお茶を飲み終えて
その余韻を堪能し終えると

おもむろに梨子さんがTVの電源をつけました


梨子「あ、また役所小路さんだ」


さっきの会話のきっかけになったCMが再び流れて


梨子「花丸ちゃん。役所小路さんはいくつか本を出してるんだよ」

花丸「そうなの?」

梨子「“千石戦国”とか“三匹で着る”とか…花丸ちゃんは、時代劇とか見る?」

花丸「じーちゃんが見てたのを横で一緒に見てた覚えはあるよ。仕事屋シリーズは好きずら♪影の演出がかっこよくて」

梨子「そっかあ。“三匹で着る”っていう本は役所小路さんが出てた時代劇が元ネタでね、時代劇が好きなら一度見てみると楽しめるかもしれないよ」

花丸「そうなんだ。再放送とかやってるかなあ?」


後日、役所小路さんの本を読んで甚く感動したマルは
“三匹で着る”の元ネタの時代劇を見るために
梨子さんにおんでまんどとかうぇぶ番組だとかを一家総出でご教示いただきました

スマートフォンでも見られるように
あぷりっていうのをだうんろーど?してもらったりして
おうちの外でも時代劇を楽しめるようになりました



そして更に後日、携帯のデータ使用量の警告にあたふたすることになるのですが
それはまた別のお話
94 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/13(月) 00:04:06.84 ID:xPnDf7Y70
1日誤差があるのに今気づいたけど、また一週間以内に
95 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:21:42.37 ID:Y43jmR6h0


15.5



梨子「時代劇も好んで見てるっていうわけじゃないんだね」

花丸「うん。刑事ものとかは見るけど、TVを見ること自体が少ないずら」

梨子「花丸ちゃん刑事もの見るんだね」

花丸「動機とかトリックとかを考えるのが好きなんだ♪ミステリーを読むのも好きだよ」

梨子「そうなんだ…てっきり花丸ちゃんは純文学とかが好きなんだろうって思ってたけど…」


言いながら梨子さんはマルの部屋の本棚をひとしきり眺めて


梨子「違ったんだねえ」


感心したような、なんだか嬉しそうな表情でつぶやきました
96 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:24:00.62 ID:Y43jmR6h0
梨子「やっぱりたくさんあるけど、いろんな種類の本があるんだね」


そう言って立ち上がると、梨子さんは本棚の前に立って


梨子「これは…作者でまとめられてるけど、五十音順じゃないよね。どういう並び?」

花丸「ああこれはね、えーっと…今は、本の発行日順だよ」

梨子「へえ〜…今は、っていうことは前は違ったの?」

花丸「うん。ジャンルで分けることもあるし、分けた上で主人公の初登場時の年齢順にしたり、物語の舞台の時代や年代とか、北から南へ地理順に並べたり、取り扱ってる事件や出来事で分けたり…ハッ!…オラ、一人でべらべらと喋っちゃって…こんな話、梨子さんが聞いてもつまんないよね、えへへ…」


多弁に饒舌を重ねて頭の中でしまったやっちゃった。って後悔がグルグルしてるマルに


梨子「大丈夫だよ。私、話を聞くの結構好きな方だし」


気遣うでも無くごく普通にそう言う梨子さんは


梨子「ほら、前にも言ったでしょ?花丸ちゃんのこともっと知りたいって」


そう続けると、本棚とマルを交互に見ながら
さっきと同じような嬉しそうな表情をしてました
97 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:26:44.26 ID:Y43jmR6h0
梨子「本棚の数も思った通りというかたくさんあるね〜」

花丸「うん。残りの本は別室に保管してあって、ときどきここの本と入れ替えしてるんだ」

梨子「えっ!?別室にもまだ本があるの?…たくさん?」

花丸「う、うん…どっちかっていうとこっちの方が少ないっていうか…///」

梨子「ふふっ、照れなくてもいいのに」


そう言ってまた本棚に目を向けた梨子さんは急に何かを思い出したような顔をして


梨子「あっ!そういえばこの間のインタビュー記事で花丸ちゃん本棚の数も答えてたよね…ひょっとして、本棚の数増えてる?」

花丸「…実は、二つほど増えました」


マルはまた照れくさくなって頭をかきながら答えました


花丸「Aqoursに入ってから、アイドル関連の本とかをまとめた本棚を増やしたんだ」


梨子「これだね。他の本棚と違って明るい色だね」

花丸「何となく、お店で見かけたとき色合いが気に入って決めたんだ」


梨子「それでこっちの本棚は…まだ、あんまり本が並べられてないんだね」

花丸「そっちはこれから増えていく予定っていうか…その…」

梨子「?」


マルが良いよどんでいると梨子さんが小首を傾げ、そのままマルの顔を覗き込む
…顔が近い


花丸「ここには、Aqoursのみんなからおすすめされた本とかを並べていく予定なんだ…」


思わず梨子さんから目をそらしながらそう答えました
98 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:28:54.58 ID:Y43jmR6h0
梨子「ここは、やっぱり私がパッ!といい感じの作品をおすすめする場面だよね」


意気込んだ表情をした梨子さんは腕組みをすると小さく唸り
左手をあごに当てて考え込んでしまいました

正直なところ
梨子さんも本を読むという情報を得たことがこの本棚を置いた理由の大部分だったので
梨子さんからのおすすめは大いに期待してました


梨子「うーーーーん・・・・・・・」


表情が段々と困り顔に変化していく梨子さんは、しばらく思案してる様子だったけど
ふと、閉じていた眼を開きマルの方に向きなおって


梨子「よし、次までに考えておくね」


と、きっぱり口にしたあと、申し訳なさそうな顔をして


梨子「なんか、期待外れてごめんね。実は今読んでる本があってね、その本のことしか思い浮かばないの」


そう言って苦笑いを浮かべました



梨子「なにか夢中になってることがあると、他のこと考えててもついついそのことに考えが行っちゃうことって、無い?」

花丸「あー、よくあるずら」


マルはうんうんと頷き、言葉を続ける


花丸「前に夢中で読んでた本が終盤に差し掛かったところで学校に行った日なんか…あ、その本の主人公がうどん職人さんだったんだけど、通学路でパンの焼ける匂いを嗅いで小麦を思い浮かべて粉からうどん粉うどんと当たり前のように本のことに考えが滑り込んでいったときは自分でも驚いたずら」

梨子「ね、そういうことってあるよねえ」


梨子さんもうんうんと頷いて、マルに同意する
99 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:32:34.51 ID:Y43jmR6h0
花丸「ところで、梨子さんが今夢中になってる本って?」

梨子「ん?ああ、えっとね…」


マルが質問すると
梨子さんはゆっくりと一つの本棚の前に移動して、一冊の本を指さしました


梨子「これ」


花丸「それは…タゾノミウ先生の運命の幼馴染だね。その話の…」

梨子「ストップ!花丸ちゃん待って!」

花丸「!?」ビクッ


梨子さんは両の掌を開いて静止のポーズをとってマルの言葉を遮る


花丸「ど、どうしたの?」

梨子「ごめんね大きな声で。さっきも言ったけどその本今読んでてね、まっさらな気持ちで読みたいからちょっとした感想とかも耳に入れないようにしてるんだ」

花丸「あ〜…!そっか、そうだよね。マルとしたことが浅慮だったずら」><


同じ本好きとして禁忌を踏みそうになったことを悔いたマルが
手の先で軽く自分の頭を叩く仕草をすると


梨子「くすっ、あははっ♪…花丸ちゃんって、ときどき面白い動きするよね」

花丸「えっ?そ、そうかな」


突然笑い出してそういう梨子さんに、マルはドキッとして
小さい頃、マルの古くさい言葉遣いや習慣をからかわれた時のことを思い出しそうになりました


でも


梨子「そうだよ。すごく可愛くて私好きだよ」

花丸「えっ?…そ、そう、なの?」

梨子「うん。大好き」


そう、重ねて真っ直ぐな好意を言葉で伝えられて
少し哀しい思い出がそのまま嬉しい気持ちで上書きされていくように消え去っていきました
100 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/20(月) 20:35:43.08 ID:Y43jmR6h0
梨子「そういえば、もうすぐタゾノミウ先生の新刊が出るから町の本屋さんに行こうと思ってるんだけど、花丸ちゃん一緒に行かない?」

花丸「えっ?あっ…うん。行く」

梨子「よかったあ♪断られたらどうしようってちょっと不安だったんだ」


急なお誘いにマルは完全に不意を突かれてしまって
実は何を言われてどうお返事をしたのかよく分かってませんでした


梨子「ちょうど絵具とか、画材の買い置きも無くなりかけてて、町まで出ないといけなくて…花丸ちゃんと一緒だと楽しめそうで嬉しいよ」


梨子さんの声を聞きながら、先ほどの会話を思い出して反芻し、理解する


梨子「ああでも、本屋さん以外にも付き合ってもらうのはちょっと迷惑かな?」

花丸「ううん、そんなことないよ。普段と違う場所に行ってみるのも楽しみずら」

梨子「ならよかった。花丸ちゃんもどこか行きたい場所があれば言ってね」

花丸「はーい♪」


手を挙げておどけた返事をすると梨子さんは笑って、マルも一緒に笑う
楽しみな気分があふれたまましばらくお話をして、夕方頃にはお別れをしました



わくわくした気持ちに包まれたまま眠りについたその日のマルは想像もしてませんでした

この幸せな気持ちが、少しずつ違うものへと変化していってしまうことを…
101 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/20(月) 20:36:28.24 ID:Y43jmR6h0
次は金曜日 ぐらい
102 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:46:00.59 ID:VWLtwUnE0
16



幽かな振動を感じながら
縦置きのプラスチックケースが並べられたような足場を見る

背後には見知らぬ人
先を行く連れ合いは、その足場に運ばれて離れていってしまう

四辺が警告の黄線で縁どられた、切れ込みを入れられたアスファルトの様なその足場は
踏み出す意思を弄ぶかのように一定の速度で斜め上へと流れていく…


マルはエスカレーターに乗るのが苦手です

あの縦線が怖い
あそこに練った小麦の生地を投げ入れたら太麺ができそうで怖い

足場に乗ろうとするとススーッと速くなってひっくりこけてしまいそうで怖い

最初の足を置いた途端に加速されたら股割きのような格好になって
スカートが引き込まれてマルも呑み込まれて切り刻まれそうで怖い

ハイヒールを履いて乗ってる人を見かけると
あの溝にヒールの部分が刺さって抜けなくならないか心配で怖い

後ろに人がいると、もたついて迷惑をかけてしまうのが怖い


だからいつも、エスカレーターに乗る前には心構えをしてるんだけど
今日は寸前まで、一緒にお買い物に来た梨子さんとのお喋りに夢中で油断をした


梨子「それでね…あれ?花丸ちゃん?」


遠ざかっていく梨子さんが、マルがそばにいないことに気付いて首を振る


梨子「花丸ちゃんどうしたの?具合悪いの?」


エスカレーターの前で立ち止まってるマルを見つけた梨子さんは
心配そうにそう言うと、一瞬マルの方に降りて来ようとするけど
逆走するわけにもいかず困った表情でさらに遠のいていく



流石東京っ子
エスカレーターも簡単に乗り降り…あ、降りるタイミングずれてこけそうになってる
103 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:48:07.63 ID:VWLtwUnE0
それから


何人かに先を譲って、心構えをしてから乗り込んだマルは
心配して降りて来てくれた梨子さんとすれ違って
慌ててしまってさっきの梨子さんと同じように降りる時にこけそうになった

すぐに追いかけて来てくれた梨子さんは、降り際にまたちょっとふらついてたけど


梨子「私もね、エスカレーターとか回転寿司とかちょっと苦手なんだ」


そう言ってマルに笑いかけてくれました

そんな梨子さんの気遣いが嬉しくて
マルは回転寿司は得意なのは黙っておくことにしました



梨子「さて、と…そこのベンチで少し休憩しよっか?」

花丸「うん。そうだね」


エスカレーターそばに設置されたベンチに二人で腰掛けようとしたとき
ふと梨子さんを見やると、手慣れた手つきでハンカチを取り出し
一瞬動きを止めたかと思うとまた手慣れた手つきでハンカチをしまった

マルの視線に気づいた梨子さんは面映ゆそうに


梨子「あはは、ちょっと癖でね」


そう言ってそのままマルの隣に腰を下ろす

マルは特に何も言わず笑顔を返した
104 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:50:47.15 ID:VWLtwUnE0
梨子「最近歌の練習が多くて喉が…」


おもむろに、鞄から飴を取り出して口に含む梨子さん


梨子「花丸ちゃんも、いる?」


微笑んで同じ飴の包みをマルに差し出す


花丸「うん。ありがとう梨子さん」


喉のケアに定評のあるその飴を受け取るとマルも口の中に放り込む

…この飴の歴史は長く
海の向こうではその効能の信頼の高さから神の薬なんて呼ばれるほど

舐め終えた後に喉にしつこく味が残ることも無く
喉風邪の気配を感じたときなんかにマルもよく舐めてます


花丸「梨子さん喉痛めたの?」

梨子「ううん、そういうわけじゃないんだけど、なんていうか、気配がね」

花丸「気配?」

梨子「季節の変わり目とかに喉に違和感が出る前の…なんていうか、気配がね」

花丸「気配…」

梨子「ああっ、ごめんね。こんなこと言っても分からないよね」


慌てた様子で胸の前で振ってる梨子さんの両手をぎゅっと握ってマルは言う


花丸「分かるずら!その気配はよ〜く分かるずら」
105 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:53:36.22 ID:VWLtwUnE0
花丸「声が出辛くなったり、痛みを感じるようになる前の何とも言えない感覚だよね」

梨子「そう!花丸ちゃん。分かる?」

花丸「うん。今までなかなかこの感覚を共有できる人と出会えなかったずら〜」


マルが何気なく考えてたことが伝わったかのように
気配と言う単語を梨子さんが口にしたことに興奮して
やや大げさに喜んでしまったマルでした


梨子「私も〜♪」


梨子さんも気分が高揚したのか嬉しそうににこにこして
マルが握ったままの両手をぶんぶんと縦に振りました




一時
ベンチで休憩をする梨子さんとマル


梨子「エスカレーターじゃなくてエレベーターで上がればよかったね」


数メートル先にあるエレベーターを指さしながらそう言う梨子さん


梨子「でも私エレベーターもちょっと苦手で…動きはじめと止まる時こう…ふわっとなるのが」


ちょこんと肩をすくめて小さく首を振る


梨子「花丸ちゃんは?エレベーター苦手だったりする?」

花丸「エレベーター!」パンッ


待ってましたとばかりにももを叩いて応える
106 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:56:24.95 ID:VWLtwUnE0
梨子さんは肩をすくめた姿勢のまま驚いて少し体を引く

けれどマルは構わずに続ける


花丸「エレベーターは…鬼門ずら」

梨子「き…鬼門?」

花丸「梨子さんの言う通りあの箱は人の魂を吸い取ってしまうずらあ…」


両手を胸の前で垂らして幽霊のポーズから両手をそのまま上に上げて言うマル…


梨子「・・・・・・」ジーーッ

花丸「・・・・・・・・・・・・」


これは…外した…外してしまった…


梨子「!あ、ああ…えっと…どっちだろう…」


何かを察した様子の梨子さんだったけど
マルの意図を二つにまで絞り込んだところで行き詰ったみたい

たぶん、今のがマルの冗談だったことまでは気付いてくれたんだろうけど
驚かせようとした冗談なのか、笑わせようとした冗談なのかを計り兼ねてるんだと思う


鬼門なんて言葉を選んだのが間違いだったずら…


梨子さんはマルのお家がお寺なのは知ってるから
そのマルが口にした
鬼門という言葉に何かしらの意図があるかもしれないと思ったに違いない

挙句、魂なんて言葉まで持ち出したものだから
余計に曖昧な冗談になってしまったんだなあ…
107 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/24(金) 23:57:56.92 ID:VWLtwUnE0
そうして
マルがどうでもいい自省にふけっていると


梨子「ふふふ…ダメだよ花丸ちゃん。花丸ちゃんじゃ可愛すぎて幽霊でも怖くないよ♪」


いつまでも幽霊のポーズのままのマルを真似て
悪戯っぽい表情をして梨子さんが言う


花丸(「その言葉そっくりそのままお返しするズラ♪」って言いたいけどそんな勇気は無い)

結局マルは、「えへへ」と照れ笑いで返すことしかできませんでした


梨子さんは時々ドキッとするようなことを言ったりしたりする



いけないいけない
やっぱり東京のお嬢さんは違うずら

ここは東京オーラにのまれてはいけない


花丸「コホン」


わざとらしく咳払いをして、マルは話題を元に戻す


花丸「エレベーターは苦手ずら」

梨子「あ、そうなんだ。また一緒だね♪」


とても嬉しそうに言う梨子さん
思わずマルは、またそのペースに惹き込まれそうになる



いけないいけない
やはり東京オーラが…
108 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/05/25(土) 00:01:04.02 ID:kyj2MrAw0
気を取り直して


花丸「マルは一度にたくさんの本を買うことが多くて、リュックを使うことが多いんだけど、エレベーターに乗ると周りの人の迷惑になりそうで」

梨子「確かにちょっとスペースを取っちゃうかもしれないね」

花丸「実際人がいっぱい乗ったときとか、身動きすら取れなくなって降りるのも一苦労だったり」

梨子「すし詰めだと横向いただけでぶつかっちゃいそうだね」


花丸「一人のときに中に入ってボタンを押そうと思って手を伸ばした反対側にパネルがあったり」

梨子「あー、あれ何とも言えない気持ちになるよね」


花丸「ボタン係になったときの謎の重圧感」

梨子「嫌っていうわけじゃないんだけどね。手際が悪くなっちゃうと申し訳ない気持ちになるよね」


花丸「だけど笑顔でありがとうねなんて声かけられるとその日一日あたたかい気持ちになれるずら」

梨子「感謝されたくてやってるわけじゃないのにお礼を言われると嬉しくなるって不思議だよね…」


そこで言葉を区切ると梨子さんは、マルの顔をじっと見つめて


梨子「花丸ちゃん」

花丸「?」


梨子「ありがとう」


笑顔で不意に、そんなことを言う

何についてお礼を言われたのか分からずマルが返事も出来ずにいると


梨子「一緒にお買い物に来てくれてありがとう。私、今日とっても楽しいよ」


これだ

最近こんなふうに梨子さんが東京オーラを放つことが多い気がする
それはとても強力で、度々マルを幻惑する


今日もまた梨子さんの東京オーラに翻弄されてしまう予感がしたマルは
案の定その日のお買いものでの目当ての本を
梨子さんとのお喋りに夢中になって買い忘れたことを帰宅後に気付きました


しまったしまったと心の中で焦ったのも束の間
『また一緒にお出かけする口実』ができたと考え直しました

すぐに連絡してお出かけの約束をしようかとも考えたけど

Aqoursの練習で明日も顔を合わせるのだから、その時でいいか
むしろ顔を合わせて直接その話をしたいなと思い
マルはお布団をかぶり眠りにつきました
109 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/05/25(土) 00:03:00.64 ID:kyj2MrAw0
次 は 十日以内
110 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/03(月) 22:14:36.86 ID:ScXdePKj0
17


梨子「こんにちはー」ガラガラー

花丸「いらっしゃ〜い」パタパタ


梨子「お父さんのお土産で面白いものがあったから持って来たよ」

花丸「ほんと?それは楽しみずら♪はいスリッパどーぞ」

梨子「ありがとう花丸ちゃん。私もちょっと楽しみなんだ〜」


とことこ


花丸「じゃあお茶淹れてくるから、くつろいで待っててね」

梨子「うん。ありがとう」


とことことこ


花丸「おまたせー。今日のお茶は地元の玄米茶だよ〜」

梨子「わあ、いい香り」

花丸「何となく玄米茶な気分…ということで」

梨子「そうだね、最近お茶請け甘いもの多いもんね」

花丸「一助有りずら」
111 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/03(月) 22:16:59.87 ID:ScXdePKj0
梨子「はあ〜」

花丸「ふう〜」

梨子「玄米茶おいしいねえ…」

花丸「玄米茶おいしいよねえ…」


梨子「それじゃあ、お土産をお披露目―――」

花丸「ちょっと待った!」


梨子「…えっ…と?」


花丸「ごめんね急に、ちょっとそのお土産当てさせて」

梨子「当てる?…何を持って来てるかを言い当てるってこと?」

花丸「うん」


梨子「そういえば花丸ちゃん推理物とか好きだったっけ。でもこれは当たっても推理じゃなくて透視とかそっち系だよね?」

花丸「ふっふっふ…桜内君、この世には不思議なことなど何も無いずら」

梨子「確かにお土産は箱入りだけど、魍魎とかは入ってないからね」

花丸「あーっ!お土産が箱に入ってるって言い当てたかったのにー」><

梨子「袋の形を見れば分かるからダメです」

花丸「むむむ…」
112 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/03(月) 22:18:32.88 ID:ScXdePKj0
梨子「それで、花丸ちゃん本当にこのお土産の中身を推理できたの?」

花丸「もちろん!…梨子さんのお父さんはどこでそのお土産を?」

梨子「今から推理材料集めるの!?…愛知の出向先で買ったって言ってたよ」


花丸「お店の名前と、値段とかは?」

梨子「事情聴取みたいになってるんだけど…私もお土産を買ったお店とかまでは聞いてないし…というか、花丸ちゃん値段で分かるの?」


花丸「…分かんないね」


梨子「ヒント、要る?」

花丸「待って、まだもう少し猶予を」

梨子「分かった」スッ

花丸「…どうしてお土産を後ろに隠したの?」

梨子「ヒント要らないって言うから」

花丸「梨子さん意外と容赦ないずら」

梨子「じゃあヒント、要る?」

花丸「う〜〜〜〜〜〜ん…やっぱりもう少し考えてみる」
113 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/03(月) 22:20:30.44 ID:ScXdePKj0
花丸「箱入りの…お菓子?」

梨子「答えていいの?」

花丸「だめずら」


花丸「このくらいの大きさの、箱」

梨子「うん」

花丸「・・・確か、梨子さん靴を脱ぐとき荷物の傾きを気にしてなかったずら」

梨子「うんうん」

花丸「つまり傾けたりひっくり返してはいけないような物ではない」

梨子「なるほど」


花丸「だからどうしたずらああ〜」

梨子「そんな頭抱えて嘆かなくても…」

花丸「そんな近所でもないのに傾けられないような物を手提げ袋で持ってくる人なんていないずら〜〜」

梨子「花丸ちゃん…そろそろお土産出しちゃいたいんだけど、いいかな?」


花丸「いいよ。食べよう」

梨子「あれ?食べ物だって分かってたの?」

花丸「ヒントいただきずら」

梨子「もしかして花丸ちゃんまだ続ける気なの?」

花丸「なんか悔しかったから鎌かけただけだよ」


梨子「あぁ、なるほど。上手いね花丸ちゃん」

花丸「感心されてしまったずら…梨子さんの方が上手だったね」

梨子「?…ああ、私の上手いねに上手で返したんだね」


花丸(こりゃかなわんずら)
114 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/03(月) 22:23:19.72 ID:ScXdePKj0
17の話のまま明日か明後日に続く
115 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/05(水) 22:25:01.79 ID:tjsRNNrr0
梨子「これが、お土産だよ♪」ストン

花丸「・・・・・・」

梨子「…あれ?無反応?」

花丸「…ここで問題です」

梨子「えっ?」

花丸「マルは今とてもびっくりしています。それはなぜでしょうか?」

梨子「んー…分かんない。教えて」ニコッ

花丸「…ヒントは、帽子と―――」

梨子「おしえて、花丸ちゃん」ニコニコ

花丸「…実はマルもちょっと珍しいものを用意してて…あ、ちょっと待っててね…」


とことことことこ


花丸「おまたせ、これが問題のブツずら」ストン

梨子「…これは?」

花丸「辻占煎餅だよ」

梨子「なんだか…私が持ってきたフォーチュンクッキーと似てるね」

花丸「原型だからね」

梨子「あっ、そうなんだ?」

花丸「元々はね…あ、長々話してもよくないよね」

梨子「そんなことないよ〜私花丸ちゃんのお話好きだよ。それに面白そうだし」

花丸「そう?それじゃあ改めまして、まず辻占というのは――――」
116 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/05(水) 22:37:05.65 ID:tjsRNNrr0
梨子「えーっと、『このおみくじを10人に配りましょう』…なにこれ」

花丸「マルのは、『クッキーさんクッキーさんおいでください』…?」


パリパリ


梨子「『怪魚とヨロイには気をつけましょう』なにこれ?」

花丸「『意中の相手にスキー旅行に誘われたら要注意』随分具体的ずら」


ポリポリ


花丸「『コーヒー牛乳を愛する』…?」

梨子「『ラッキークッキーお好み焼き』…ああ、お好み焼き。お好み焼ちょっと食べたいかも」


花丸「梨子さんこれ本当にどこで買ったの?」

梨子「そうだね、今度聞いてみるね。本当に」


花丸「じゃあ次は煎餅の方を」

梨子「大凶引きませんように…」

〜〜〜

花丸「『大吉、待てば海路の日和あり』ほうほうなるほど」

梨子「『大吉、待てば甘露の日和あり』…あれ?」


バリバリ


花丸「『星に手を伸ばせば願いは叶うだろう』ふむふむ…これはこれは」

梨子「『愛は全てを救う』うん…まあ、うん」


ボリボリ


梨子「『月が綺麗ですね』…ねえ花丸ちゃん…」

花丸「『事件は会議室で起きてるんじゃない』…?」

梨子「これ私が持ってきたフォーチュンクッキーと同じ店で買ったとかじゃないよね」

花丸「…あながちありえないと言い切れないずら」

〜〜〜

梨子「玄米茶おいしいねえ」

花丸「玄米茶おいしいよねえ」

梨子「…このフォーチュンクッキー実はまだおうちにあるんだけど、明日聖良さんと理亞ちゃん来る日だしみんなで食べようか」

花丸「そうだね、この内容だったらみんなでの方が盛り上がるかもしれないね」


梨子「ところで、花丸ちゃん牛乳ダメだったよね?コーヒー牛乳もダメ?」

花丸「そうだけど…もしかしてコーヒー牛乳飲みたい?あるよ冷蔵庫に」

梨子「あるの!?どうして?」

花丸「じーちゃんがたまに大人買いしてくるんだ。だから遠慮しないで飲んでいいよ」

梨子「そうなんだ。なんか時々無性に飲みたくなる時があってね…さっき名前聞いてから気になっちゃって」

花丸「マルもお好み焼き食べたくなったんだけど、よかったら梨子さん夕飯一緒にどう?もんじゃ焼きも作れるけど」

梨子「もんじゃで」

花丸「じーちゃんが腕鳴らして喜ぶずら♪」
117 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/05(水) 22:39:31.41 ID:tjsRNNrr0
梨子「もんじゃ焼きおいしかった〜♪」

花丸「じーちゃん人をもてなすの好きだからコーヒー牛乳とかもんじゃ振る舞えてご機嫌だったずら」

梨子「エビたっぷりだし本当においしかった」


花丸「オマール海老だったらもっとおいしいのかなあ…」

梨子「…でも、オマールエビともんじゃ焼きは合わないんじゃない?」

花丸「そうかなあ…」


梨子「花丸ちゃんおなかいっぱいで眠くなってない?」

花丸「ちょっとね〜」

梨子「ふふふっ」



梨子「ねえ花丸ちゃん、この町の夜の空ってホントに綺麗だねえ」


花丸「今日は真ん丸お月様ずら」


梨子「星座ってよく知らないけど転校してくる前はこんなに星が輝いてるなんて知らなかったな…」



花丸「・・・・・・」



梨子「・・・・・・」
118 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/05(水) 22:40:36.15 ID:tjsRNNrr0
また17のまま明日か明後日に続く
119 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/06(木) 21:43:57.01 ID:geImiDW00

梨子「月が綺麗ですね…って、言うところかなあ?ここ」


花丸「う〜〜ん…どうだろ…甘露待ち?かなあ」


梨子「あ〜…そうだね。そうかもねえ…」


花丸「梨子さんも眠くなってきてるんじゃない?」

梨子「うん…舟漕ぎそう…」

花丸「梨子さんって寝顔見られるの大丈夫な人?」


梨子「…ハッ!…それは恥ずかしい…」


花丸「実は梨子さんが泊まった夜ね…」

梨子「いつも花丸ちゃんの方が先に寝てるよ?」

花丸「…そうだね。ねえ梨子さんもしかしてマルの―――」

梨子「見てないよ!花丸ちゃんの寝顔見てないよ!」

花丸「う…うん」


梨子「…そこは恥ずかしがってよ…」

花丸「ええっ?マルがわるいの?」
120 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/06(木) 21:46:57.00 ID:geImiDW00
花丸「生姜紅茶おいしいねえ〜」

梨子「生姜紅茶おいしいよねえ〜」


花丸「この間梨子さんが持って来てくれた鴨なんとかティーも良かったけどこれも良いね」

梨子「カモミールティー気に入ってくれてたんだね。また今度持ってくるよ」

〜〜〜

花丸「…ええっと、あとはスキー旅行と怪魚とクッキーさんと…」

梨子「?…それさっきのクッキーの中身の話?」

花丸「そう。スキー旅行は海路待ちとして、クッキーさんとヨロイと怪魚だけど…」

梨子「クッキーさんはこっくりさんだから障らぬ神ってことでいいよね」

花丸「うん」


梨子「ヨロイは、郷土資料館とかで展示されてるかもしれないね」

花丸「確かに。さすが梨子さん」

梨子「あとは怪魚だけど…怪魚って…」

花丸「アカメとかが現実的かなあ」

梨子「アカメ?そういう魚がいるの?」

花丸「うん。怪魚って呼ばれてるよ」

梨子「へえー…私てっきりこう、人間よりおっきくて手足の生えてる魚のおばけかと」

花丸「網タイツとか履いてるやつ?」

梨子「え?網タイツ?」

花丸「なんでもないずら。忘れて」
121 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/06(木) 21:48:43.28 ID:geImiDW00
梨子「ああそうだ、ヨロイと怪魚に気をつけろっていうことだから見に行かなくてもいいんじゃないかな」

花丸「全くご尤もな意見ずら。…でもお出かけの口実としては…どうかな?」

梨子「花丸ちゃんヨロイとか怪魚とか見に行きたい?」

花丸「それなりに面白そうだと思うし、その、梨子さんと一緒だったら…ね」


梨子「…そっか///」

花丸「うん」



梨子「じゃあいつかスキー旅行とかも本当に行ってみる?」

花丸「雪山のペンションとかはちょっと行ってみたい気がするかなあ」


梨子「それなら、私の叔父さんが長野でペンションを経営してるんだけど、話聞いてみようか?」

花丸「そうなの?梨子さんの親戚の人のペンションなら安心できるね」

梨子「ミシシッピマッドケーキっていうちょっと変わったおいしいケーキも食べられるよ」

花丸「ほうほう、それはとっても心惹かれるずら」


梨子「じゃあいつか、都合がついたら一緒に行こうね♪」

花丸「うん。楽しみにしてるね♪」


かくして約束されたスキー旅行で
マルと梨子さんはちょっとした事件に巻き込まれるんだけど

それはまた、別のお話…
122 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/06(木) 21:50:21.12 ID:geImiDW00
17了 次は10日以内で
123 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/16(日) 14:36:53.19 ID:gvtNjXa00
18


花丸「梨子さんと打てば響く仲になりたい」

梨子「どうしたの花丸ちゃん。藪から棒に」

花丸「藪から棒ではあっても、寝耳に水ではないよね?」

梨子「そうだね、どちらかといえば耳よりな御話だね」

花丸「どちらかというべくもなくなるまで物語らいたいずら」


花丸「…物語らうはいまいちだね」

梨子「物語らうはいまいちかもね」

花丸「耳よりまでは良かったと思う」

梨子「そうだね、寝耳に水から綺麗につながったね」


花丸「そこで切り上げておくべきだったのかもしれないね」


梨子「打てば響くって難しいねえ」


花丸「まあ…マル的には十分楽しいけど」

梨子「私もこのくらいが丁度いいというかこれ以上はプレッシャーがかかるというか」

花丸「実際本当に打てば響く仲になったらなんか疲れちゃいそうだし」

梨子「そだねー。もうちょっとぼーっとしてたいよねー」



梨子「この白和えの味もぼーっとした感じだね〜」

花丸「そう?優しい味だしおいしいよ」

梨子「ほんと?気に入ってもらえたなら嬉しいな…実は私もこの味好きなんだけど」


花丸「食べやすいしこれ、コレが不思議な食感でマル好きかも」

梨子「ああそれアボカド。ときどき無性に食べたくなってね〜」


花丸「あぼかどかあ…変な名前♪」
124 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/16(日) 14:38:46.17 ID:gvtNjXa00
梨子「花丸ちゃん牛乳苦手だけどアイスクリームは食べてるよね」

花丸「アイスクリーム好きだよ♪」

梨子「私も大好きだよ♪」


花丸「バニラのね、すごく濃いのとかじゃなければ全然大丈夫」

梨子「じゃあ、花丸ちゃんコーヒーとか飲める?」

花丸「飲めるけどおとなの味っていう感じかなあ」

梨子「駅前に新しいお店ができたんだけど、コーヒーと紅茶がおいしいお店でね、花丸ちゃんアフォガート食べたことある?」

花丸「なんだかあぼかどと似たような響きだね」


梨子「あ、ほんとだ」


花丸「…そのあふぉがーとって、どういうものなの?」

梨子「アフォガートはね、アイスにコーヒーとか紅茶とかをかけたものだよ」

花丸「???…それっておいしいの?」

梨子「う〜んとね…ときどき無性に食べたくなる味、かな」

花丸「梨子さんときどき無性に食べたくなるもの多いね」

梨子「あ、ほんとだね。ふふっ」

花丸「ふふふっ」



梨子「それで、どうかな?今週末にでもそのお店、一緒に行かない?」

花丸「もちろん行くよ!今から週末が楽しみずら〜♪」
125 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage]:2019/06/16(日) 14:39:20.36 ID:gvtNjXa00
次は48時間以内
126 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/17(月) 22:55:28.65 ID:afwAp0LL0
19


梨子「は〜い♪マフィン作ってきたよ〜♪」

花丸「わーい♪今日はどんなマフィンか楽しみずら〜♪…どれどれ…」

梨子「はいはい、お行儀よく座って待っててね〜♪」

花丸「いい匂いがするずら〜♪わくわく♪…ん?この匂いは…?」


梨子「今日は特別メニューだよ〜」

花丸「あっ!海老?海老が入ってる!」

梨子「そうだよ〜今日はエビとアボカドのイングリッシュマフィンと」

花丸「これオマール海老?」

梨子「もうっ、違うって分かってて言ってるでしょ花丸ちゃん」クスクス

花丸「えへへ」


梨子「伊勢エビだよ」マガオ

花丸「えっ!?そうなの?」ビックリ

梨子「うそだよ♪」エガオ

花丸「なんだ〜がっかりずら〜」ガックリ


梨子「花丸ちゃんてノリいいよね」
127 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/17(月) 22:58:46.06 ID:afwAp0LL0
花丸「梨子さん梨子さん、こっちのマフィンは?」

梨子「いちごのマフィンだよ〜♪ブルーベリーのマフィンが好評だったから甘酸っぱいつながりで」

花丸「あ〜、あれはおいしかったずら〜」

梨子「ブルーベリーを気に入ってくれた人は、大体このいちごのマフィンも気に入ってくれるんだよ♪」

花丸「へえ〜、もしかして梨子さんのお気に入りのレシピだったりするの?」

梨子「うん。小さい頃からよく作ってるんだぁ」

花丸「じゃあ今日のも期待できそうだね」

梨子「ふふっ、だといいけど…あっ、この前気になったって言ってた香り付けの香辛料は、今日は使わないようにしたからね」

花丸「ありがとう梨子さん」


梨子「お茶だけど、煎茶とルイボスティーを用意したよ」

花丸「るいぼす?」

梨子「甘くしてもおいしいお茶だよ。香りや風味が独特に感じるかも」

花丸「くんくん…ほんとだ。でもマル嫌いじゃないかも」

梨子「よかった。花丸ちゃんお茶に詳しいけど紅茶とかはあんまりなんだっけ」

花丸「そうだね。ああでも、詳しいってほどじゃないよ。おうちの付き合いとかそういうのでよくいろんなお茶頂いてたり、知識だって殆どじーちゃんたちの受け売りだし」

梨子「それでも十分詳しいよ〜」

花丸「えへへ」


花丸「ところでどうして別々のお茶淹れてきたの?」

梨子「うん。もしどっちかのお茶が花丸ちゃんの好みに合わなかったらって考えて…私は両方好きだから取り替えようかなって…あ、でもそれってお行儀悪いね」

花丸「練習中にも回し飲みしたりするし、二人きりだしそんなに堅苦しくしなくてもいいと思うずら」

梨子「それもそうだね」

花丸「それじゃあマルは折角だからるいぼすティーをいただくずら」

梨子「はーい♪どうぞ」コトン
128 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/17(月) 23:00:03.83 ID:afwAp0LL0
花丸「マフィンの形って帽子みたいだよね」

梨子「そうだねえ…あ、ねえねえ花丸ちゃん」

花丸「ん?なあに?」

梨子「コックさんの帽子ってあるでしょ、あの長いやつ」

花丸「あー、あるね」

梨子「そうそう、あれってなんで長いのか知ってる?」

花丸「ううん、知らない」

梨子「あれはね、マフィアに空洞の部分を拳銃で撃たせるためにああなってるんだって」

花丸「へえ〜・・・・・・・」

梨子「・・・・・・・・・・・花丸ちゃんマフィン食べる?」ヒョイ

花丸「食べる〜♪」パクッ

〜〜〜

花丸「梨子さんさっきのマフィアの話いつ思いつい―――――」

梨子「はい花丸ちゃんマフィンおかわり♪」ヒョイ

花丸「むぐむぐ」マアイイカ
129 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/17(月) 23:01:32.13 ID:afwAp0LL0
19の話のまま、次は2,3日以内に
130 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/20(木) 18:45:27.34 ID:jN6zUPQq0
スクフェスのイベントストーリーとネタが丸被りしたので1週間くらい延期
131 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/25(火) 17:38:53.80 ID:31MoQRTe0
梨子「ところでどうかな?マフィンのお味は」

花丸「おいしいよ♪…でもそういえばなんだかいつもおいしいばっかりで、もしかして説得力無い?」

梨子「ううんそんなことないよ。自分で作った料理とかお菓子をおいしいって言ってもらえるのって、本当にとっても嬉しいんだよ」

花丸「そっかあ…実はちょっとね、いつも貰ってばっかりで気が引けてたんだ」

梨子「気にしなくていいよ。本当に好きで作ってるだけだし」


花丸「ねえ梨子さん、お菓子作りってそんなに楽しいの?」

梨子「そうだねえ、私はお菓子作りの材料の匂いとか好き。焼き上がるまでの匂いも」

花丸「におい?」

梨子「うん。バス停の近くにパン屋さんがあるよね」

花丸「あ〜あるね。あそこマルよく行くよ」

梨子「パン屋さんの近くを通ると時々焼きたてのパンのいい匂いがするでしょ」

花丸「するする〜!焼きたてのパンの匂いってなんだか幸せな気分になるよねえ…」シミジミ

梨子「お菓子を作るといつもそんな気分を味わえるんだよ〜♪」

花丸「なるほど!それは…病み付きになっちゃうかもだねえ〜」


花丸「つまみ食いしたりもするの?…この苺とか」

梨子「あははっ、そんなこと…ちょっとだけね♪」

花丸「それはそれは、病み付きになっちゃうのも無理ないずら」
132 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/25(火) 17:42:23.13 ID:31MoQRTe0
花丸「最近、アボカドの食感が癖になりつつあるずら」

梨子「アボカドってワニ梨とも言うんだよ〜」

花丸「わに、なし?…鰐梨…へえ〜、そうなんだぁ…なんか聞いたことある気がするかも」

梨子「花丸ちゃんのお爺さんか知り合いの人たちが話してたのが聞くともなしに耳に入ってたとか?」

花丸「多分そうだと思う。…梨かあ…梨なんだ、これ」


梨子「花丸ちゃんは、梨は好き?」

花丸「好きだよ〜。梨子さんは?」

梨子「私も好き。ほら、梨子って名前に梨の漢字が入ってるから、一時期梨のお菓子に凝ってたりもしたんだぁ…花丸ちゃん知ってる?梨のドレッシングっていうのもあるんだよ」

花丸「そうなんだ?梨のドレッシングかあ…どんな味なの?」

梨子「えっと、爽やかで…あ、今度食べてみる?」

花丸「百聞は一食に如かず、だね。…梨子さんよかったらマルも一緒に作ってもいい?」

梨子「えっ?いいよ、もちろんだよ!花丸ちゃんがそう言ってくれるなんて思ってなかったから嬉しいなぁ〜♪」

花丸「えへへ、喜んでもらえてホッとしたずら。言ってから、もしかしたら梨子さんは二人で料理するの好きじゃないかもって思って不安になっちゃた」

梨子「ああ、そういうことってあるよね。でも大丈夫だよ、家でもよくお母さんと二人でお料理してるし」
133 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/25(火) 17:44:02.98 ID:31MoQRTe0
梨子「まあでも確かに、一人で集中したいことってあるよね」

花丸「うん。マルも趣味の読書とか、一人で集中したい方だから…」

梨子「そっか、趣味繋がりで私の料理も一人でって考えたんだね」

花丸「うん。マル、なんだかんだで一人の時間って大切だと思うんだ…たとえば梨子さん、一人でじっくりお買いものしたい時って、無い?」

梨子「あぁ…そうだね、時間とかに急かされずにじっくり考えられるもんね」

花丸「梨子さん分かってくれるずら?」

梨子「分かるよ、考えすぎとかトロいとか言われるけど、やっぱり納得いくまで考えたいよね」

花丸「そうずら。結局初めの直感通りの結果になったとしても、買ってからいまいちだったなって思ったとしても、考えつくしてから買うとそれなりに納得できるけど、誰かと一緒だとどうしても時間を気にしちゃったりして焦って買ったものが良くなかった場合とか、なんか心に引っかかっちゃうずら」

梨子「うんうん」
134 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/25(火) 17:45:31.86 ID:31MoQRTe0
花丸「…ついつい熱くなってしまったずら…」

梨子「でも分かるよ〜、花丸ちゃん」

花丸「…ほんとに?」

梨子「ほんとにだよ〜」

花丸「えへへ」

梨子「うふふっ」


花丸「あ、でもねマルは梨子さんと一緒にお買いものしてる時にそんな風に思ってるわけじゃないんだよ。じっくり見て買いたい時もあるっていうだけで…」アセアセ

梨子「だから」


ひとこと言うと梨子さんはマルの両手をそっと握って


梨子「分かってるから大丈夫だよ」


いつもの柔らかい笑顔でそう言ってくれた


梨子「だから花丸ちゃん、今度から私もじっくりお買いものしたい時はそう言うから花丸ちゃんもそういう気分の時は言ってね?っていう感じでどうかな?お互いに気を遣いすぎないように」

花丸「うん。…なんか、重い話になっちゃって申し訳ないずら」

梨子「重くなんてないよ?…私はむしろ、花丸ちゃんと仲良くなれた感じがして嬉しいな」

花丸「そう?えへへっ、よかったぁ」
135 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/06/25(火) 17:47:16.87 ID:31MoQRTe0
梨子「ねえ花丸ちゃん」

花丸「ん?なあに?」

梨子「お菓子作りだけど、今度じゃなくて今から一緒にやってみない?」

花丸「えっ?いいの?わぁ〜たのしみずら〜♪」

梨子「よし♪じゃあ下のキッチンに行こっか」

とことこ

花丸「でも梨子さん、どうして急にお菓子作りを?」

梨子「えっ!?…ああ、えっとね…おなか空いたから…///」

花丸「梨子さんときどきマルより食いしん坊さんだよね」^^

梨子「それほどでも…あるかなぁ///」

とことことこ

梨子「じゃあ今日は――――」

花丸「あの〜梨子さん、マルはお菓子作り初心者なので簡単なものだと有難いずら」

梨子「なるほど…実は私も早く食べたくて我慢できない感じだったりするから、じゃあマフィンの簡単レシピとか、どう?もしマフィン飽きちゃってたら別なものにする?」

花丸「ううん、マフィンで。甘いやつで」

梨子「決まりだね♪あっ、花丸ちゃんホットケーキはダメだったりする?」

花丸「好きだよ?ホットケーキ」

梨子「よかった。じゃあ今日はこのホットケーキミックスを使ってマフィンを作ります」

花丸「おお〜」パチパチパチ


それから、マルは梨子さんに手取り足取りの指導を受けて
マフィンとか、いろんないい匂いも堪能して
ルイボスティーも堪能して…

梨子さんとマルの一日は今日も平穏です
136 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/25(火) 17:48:22.35 ID:31MoQRTe0
次は、5日以内
137 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/30(日) 17:00:53.85 ID:RiTevVVj0
20



街灯もまばらな住宅地を抜けて
家路を辿る

自分でも何が面白いのか
吐く息を意識して白くさせながら、それが消えていくのを眺め、繰り返す

ときどき夜空に光る天馬を探してみるけど
どこにいるのかは分からない
いや、分からないというか知らない

プラネタリウムとか旅行先とかで何度か教えてもらった気がするのに…
というか、つい最近も教えてもらったばっかりなのに

星座って難しい

…忘れたわけだから知らないっていうのも違うかな?

そのことを覚えて無くても…
聞いたことも無いんじゃなくて、一度知ったはずなのに忘れちゃってる場合
忘れたっていうことを覚えてる場合って、それは知らないって言ってもいいのかな?
どっちでもいいかな?
どっちでもいいな


そんな感じで
ぐるぐるとどうでもいいようなことを考えながら歩く


暗い夜道は正直まだ慣れません
日の長い季節にはそれほど気にもなりませんが
練習を終えて家路につく時間帯は、冬にもなると真っ暗です


「真っ暗な海と波の音って、なんだか不思議ずら…」


不意に、つないでいた左手が引っ張られて
一緒に歩いていた花丸ちゃんが立ち止っていることに気付く

潮風で揺らされた繊細な髪が花丸ちゃんの頬をくすぐっている
ときどき見せる物憂げな表情が何を考えているのか、まだ私には分からない
138 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/30(日) 17:03:58.94 ID:RiTevVVj0
普段は風景画とかしか描かないのに
この花丸ちゃんの横顔を描いてみたいと思う

こういう時は、話しかけるのを少しためらってしまう

自分だったらこんな時は何を考えているだろうかと考えてみれば
晩御飯の予想とか、もうくらげはいないかな〜…とか?

…うん、大丈夫かな
話しかけても


「花丸ちゃん、今何を考えてるの?」


花丸ちゃんはこちらに向きなおって


「梨子さん…海月っておいしいのかなあ」


と、無邪気な調子でつぶやく


「くらげかぁ…どうなんだろうね」


くらげを描いてみるのもいいなあ〜とか
ぼんやりと考えてみる

生き物を描くのは少し苦手なんだけど、くらげだったら大丈夫かな?
でも都合よく止まっててはくれないだろうなあ
写真を見て描くのは違うしなあ

くらげの味かあ…
そういえば普段何気なく食べてる料理もたくさんの動植物の命なんだなあ
うわ、料理って凄く猟奇的じゃない?

とか

とりとめなく考えていると


「ところで今日の晩御飯は何だろうね」


また海の方へと視線を戻している花丸ちゃんがつぶやいて
…ああ、やっぱりこの横顔を絵に描いてみたいな
って思う

でもなんだか恥ずかしくて今は言い出せそうにない

その内言える時が来ればいいな
なんて思いながら私は


「ほら花丸ちゃん、身体冷えちゃうからもう行こう?」


そう言って離れかけていた手をつなぎなおして歩き出す


「はーい」


いつもの笑顔で返事をする花丸ちゃんは
握り返す指先で二つ目の返事をした
139 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/06/30(日) 17:05:31.80 ID:RiTevVVj0
一週間以内に次を
140 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/06(土) 16:46:52.65 ID:NBdnHv2K0
21

部室で二人きりで言葉を交わしたあの日に
梨子さんとのびじねすらいくな関係を卒業したはずのマルでしたが

あの後は何気ない言葉を一言二言交わしただけで帰宅したし
翌日校内で顔を合わせても軽い挨拶をするだけで
特段親しくなったと感じることはありませんでした

部室にいる時も挨拶はしても特に話さなかったし…

これは、普段マルの周りには1年生の二人が、梨子さんの周りには2年生の二人がいて
それが普通だったから当然と言えば当然なんだけど…


それでも、マルの中では梨子さんに対する意識の変化が確実に起きていて


以前は、2年生の中の一人
Aqoursのメンバーの一人としてしか認識してなかったのに

今では『桜内梨子』という存在がはっきりと縁どられて見えて
明らかに、マルは梨子さんを意識するようになっていました
141 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/06(土) 16:49:59.62 ID:NBdnHv2K0
例えば、廊下で梨子さんが他の人と一緒に歩いて来ると
すれ違いざま挨拶をする時に、梨子さんとマルの視線が交わるようになりました


他にも、遠くに聴こえる梨子さんと他の人との会話…

例えば
“好きな色は桜色だけど壁紙に使ったら時々目に痛くて失敗だった”

だとか
“餃子にピーマンを隠して食べさせられてお母さんと喧嘩をした”

なんて話の内容が
自然とマルの記憶に留まるようになっていました


それはまるで、マルの記憶の目次の中に梨子さんの項目ができて
そこに梨子さんの情報が日々書き足されていってるようでした

だけどそうして梨子さんの情報が増えていく毎に
マルは不思議な満足感を得る一方で
人づての情報が増えれば増えるほど、なぜか梨子さんを遠くに感じてマルは
いつまでも自分から話しかけることができないまま悶々として過ごしていました
142 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/06(土) 16:51:39.40 ID:NBdnHv2K0
思い返せば話しかける機会なんていくらでもあって

特にあの翌日、出会い頭にでもあの日の話題を持ち出せば
自然に会話が出来てたんじゃないかって

そんな後悔が、時間が経つほどに積もっていってました


自分と話がしたいと言ってくれた相手に話しかける

最初は単純な、それだけのことだったはずで…
確かにマルは自分から誰かに話しかけるのが得意な方じゃないし
引っ込み思案も自覚してたけど


上級生


そつがない


東京から来た都会の女の子


などなど、考えるほどに話しかけるまでの障壁が高く思えて来て
気がついたころには、マルはすっかり腰が引けてました
143 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/07/06(土) 16:54:23.10 ID:NBdnHv2K0
21の続き明日
144 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/07(日) 23:09:32.27 ID:psbtFvU30
何日か後


休み時間


紙の束を抱えたプチ有名人が1年生の教室に現れた


生徒A「あっ、桜内先輩だー!どうしたんですかー?」


教室のドアを開けた途端
噂の転校生の姿に気付いた一人の生徒が底抜けに明るい調子で声をかけた


梨子「えっ!?ああ、これ…先生に頼まれて答案用紙持ってきただけだよ」


その子がいる方向とは別の方向に顔を向けていた梨子さんは突然話しかけられると
少し驚いた様子を見せた後、そう答えた


生徒A「そうなんですかーお疲れ様でーす!あ、これ私のだ〜♪いただきますねー」


その子は梨子さんと短く会話を交わすと、自分の答案用紙を手早く抜き取って
なんだかとても満足げな様子で離れていった


あれずら…あれが気さくに声をかける理想の姿、至高の技術ずら


その子はもと居た場所に戻ると、隣の仲の良さそうな友人と嬉しそうに話をしてる

…そういえば
あの子はAqoursの用事で曜さんが来た時にも同じような反応してたっけ

マルがスクールアイドルはじめた時にも
真っ先に応援してるねって声をかけてくれた
…爪の垢でも煎じてもらおうかな
145 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/07(日) 23:12:00.59 ID:psbtFvU30
密かに落ち込んでいたマルは気が付かなかったけど
気を取り直して教室を見渡すと
いつの間にか梨子さんは教室からいなくなってて
答案用紙は机の上に置かれてた


花丸「時は得難くして失い易し・・・ずら」


落胆


自己嫌悪


実際のところ、言葉の印象ほどひどく落ち込んでるわけでもないけど
こう何度も機会を逸し続けてると、さすがにマルもへこんでしまいます


でも大丈夫


今日もお昼休みは食後に部室で集まるし

放課後もいつも通り練習で集まるから

話しかける機会はいくらでもある
そう、いくらでも
146 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/07(日) 23:17:03.85 ID:psbtFvU30
そしてお昼休み

いつもよりお弁当の量を減らしてきてたマルは
ルビィちゃんや善子ちゃんにそのことをちょっとだけ心配されながらも
ほんの数分だけど、普段よりも早く部室に向かうことに成功しました


一緒にいる時間が長くなればその分話しかける機会も増える

その時のマルの頭の中は、これから梨子さんにどうやって話しかけようかと
そのことでいっぱいでした


もちろん、急いでいるからといって噛む回数を減らしたり
折角のお弁当をおいしくいただくことを疎かにしたりはしませんでした
そして今日はマルの好物も入っていたので気分は上々です


部室への道も意気軒昂と先頭を歩き
勢いのままマルが部室のドアを開けると


ダイヤ「あら、花丸さんたち今日はいつもより少しお早いのですね」


果南「おっ、なんだかずいぶんとやる気に満ちた顔してるね〜」


先に部室に来ていたダイヤさんと果南さんがマルの様子を見て声をかけてくれました
これは幸先がいいと思ったマルは気をよくして


花丸「もちろんですずら!」


なんだかおかしくなってしまった言葉遣いで返事をして、部室を見渡します


…いない


どうやら梨子さんはまだ部室には来ていないらしく
途端に、マルは出ばなをくじかれた気分になってしまいました
147 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/07(日) 23:23:46.30 ID:psbtFvU30
しばし放心してると


ダイヤ「ではわたくしたちは先に始めてしまいましょうか。花丸さんのやる気に水をさしてはいけません」


果南「そうだね。さあ、こっちこっち」


花丸「えっ?」


そう言ってダイヤさんと果南さんの二人に挟まれ手を引かれ、部室の奥の机へ
そばに置かれたホワイトボードには“AZALEA”の文字


花丸「あっ・・・」


…そうでした
どうやら今日のお昼休みはユニット別のミーティングだったということを
マルは失念していたようなのです



千歌「こんちかーーー!!!」


間もなく2年生三人組が連れ立って部室に現れ、にわかに騒々しくなり


鞠莉「シャイニーー!!!」


すぐに鞠莉さんも部室に着くと
各々自分のユニットのメンバーで集まり、話を始めました


少しの間、ちらちらと梨子さんの様子をうかがっていたマルでしたが


ダイヤ「さあ、折角のユニットの活動ですし、より良いものを目指しましょう」


果南「そうだね〜かわいい後輩ちゃんもやる気になってるみたいだしこっちも気合入っちゃうねえ」


二人のそんな言葉を聞いているとなんだかマルも嬉しくなってきて
すぐにユニットについての話し合いに集中していったのでした


結局梨子さんとは挨拶もしないままだったけど
この日のミーティングはかつてないほどの充実感を得られました
148 : ◆QjbAJuMwBnbV [saga]:2019/07/07(日) 23:26:07.85 ID:psbtFvU30
このまま21の続き水曜までに
149 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/10(水) 21:56:05.40 ID:s2HbqQpM0
お昼休みが終わるころ
充実のミーティングを終えたマルはユニットの二人に挨拶をすると部室内を見渡す

梨子さんの姿を探したけど見つからなかった

マルたちが特に熱が入っていたからか
梨子さんもAqoursの他のみんなももういなくて

おつかれさまと声をかけてダイヤさんも果南さんも部室を出ていった


…まだ、まだ大丈夫
まだ放課後があるから…


ミーティングの手ごたえもあって気落ちはしてないマルは
教室へ戻ろうと出口へ向かう
…途中
梨子さんが座っていた場所を何の気なしに見やると、机の上に何かが


花丸「これ…花?…の髪留め」


確かに見覚えのある、白い花をかたどった髪留め

机の上にぽつんと佇むそれを見つけて、思わずマルはつぶやいていました
150 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/10(水) 21:58:43.92 ID:s2HbqQpM0
花丸「梨子さんの…だよね?」


何かの拍子に外した髪留めを
着け忘れたまま教室に戻っていっちゃったのかな?

改めてまじまじとそれを眺めていると
やがてマルの記憶の映像と合致する

この花の髪留めは梨子さんがステージ衣装や普段着に合わせて使ってる物だ


花丸「うん間違いない。これは梨子さんの髪留めずら」


願っても無い機会が訪れたと歓喜したマルはその髪留めを手に取りました

忘れ物を届けるなんてこんなもっともらしい口実を使える機会なんて
実際にはそうそう無い事です

部室の時計を見て時間を確認すると
お昼休みの終わりまではもう数分

今からでは、梨子さんのいる教室に髪留めを届けて
次の授業開始までに自分の教室に戻れるだけの時間は無い

よしんば間に合ったとしても、それでは梨子さんとお喋りをする時間まではとれない

そこまで考えた時、マルの心の中には迷いが生じました
だとしたら、これはマルが持って行ってもいいのだろうか?

もしかすると梨子さんが、髪留めを置き忘れて行った事を思い出して
この部室まで取りに戻って来るかもしれない
でも…

と、考えが堂堂巡りしだしたところで次の授業までもう2分

ええいままよ、と
マルは髪留めを掌に収めたまま1年生の教室へ戻ることを決めました
151 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/10(水) 22:01:27.10 ID:s2HbqQpM0
授業終わりのチャイムが鳴って、休み時間

今すぐ2年生の教室に向かえば
梨子さんに髪留めを渡して、お話する時間も十分にある

…今の授業中に善子ちゃんが得意の堕天を披露したので弄ってあげたいけど
今日だけはごめんね!ルビィちゃん後は任せたずら


マルが、教壇で教材をまとめている日本史の先生の授業終了の合図を今か今かと心待ちにしていると

がらがらがらっと、教室のドアが開いて
世界史の先生が飛び込んで来ました


何やら慌てた様子で日本史の先生に訴えかけている様子
マルの席は教室の後ろの方なので、何を話してるのかは聴こえない

教壇に立ったままの先生は、最初は困った顔をして話を聞いてたけど
ふと何かに気付いたように頷くと、まくし立ててる先生をなだめるように肩を叩いて
まとめていた教材の中からプリントの束を差し出す


プリントを受け取った先生の顔は、驚きの表情から安堵の表情に
遠目からでも分かるほどの大きな変化を見せた


世界史の先生は、大事そうにプリントを抱えて
しきりに日本史の先生に頭を下げて謝った後
こちら側、生徒たちに対しても何度も頭を下げながら教室を出て行った


大事な書類か何かをどこかに置き忘れて探し回っていたのだろうか?
多分そんなところだと思う
152 : ◆QjbAJuMwBnbV [sage saga]:2019/07/10(水) 22:03:56.24 ID:s2HbqQpM0
改めて教壇の上で咳ばらいをして、日本史の先生は授業終了の挨拶をして出て行った

時計を見ればもう次の授業開始の時間だ
間もなくチャイムが鳴り出すと、先ほど出て行った世界史の先生がまた駆け込んできた


先生「ご、ごめんなさいねお騒がせしちゃって!あ、あの休憩時間私のせいで無くなっちゃったからお手洗いとか行きたい人は行ってね?授業開始は10分遅らせるからね」


とても申し訳なさそうな顔をしながらそう言う先生

この先生は、今みたいに困ったり
先生自身が好きな内容の授業だと明らかに饒舌に早口になって
毎回生徒に指摘されて改めるというやり取りが、良くも悪くも定番になっていて
それでいて授業内容は丁寧かつ分かりやすいという不思議な先生で
生徒にも人気があります
マルも先生の授業は好きです
先生のことも好きなんだけど…

もう他のクラスは授業が始まっています
何人かトイレに出ていく生徒たちを横目に、小さい溜息

これでは梨子さんのところへ行っても授業中で、話なんてできるわけもありません


もしも、忘れ物に気が付いた梨子さんが
今の休み時間の内に部室に行ってて
そこに髪留めが無かったらどう思うだろう?

盗られたと思ったり?
…いやいや梨子さんはそんな風には思わないはず
でも、だけど…

頭の中に浮かんでは消える心配ごとで
授業の内容もろくに頭に入らないまま時間が過ぎて行きました


まだ放課後がある…


机の中にしまった花の髪留めを指先で確かめながら
マルは、何度も何度も心の中でそう繰り返していました
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