【デレマス×ワートリ】P「広域仮想空間での集団戦闘訓練だ」【ランク戦編 ROUND.1】

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35 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:41:34.41 ID:tsGVl3h90
【ボーダー隊員の人員構成】

・司令
美城

・本部長(戦闘部隊総隊長)
P

・本部長補佐
ちひろ

・外務・営業部長
ちひろ

・メディア対策室長
ちひろ

・本部開発室長
晶葉

・チーフエンジニア


・A級(1位から順に)
木場隊  真奈美 のあ あい マキノ    
片桐隊  早苗 心 雫 紗南    
速水隊  奏 美嘉 周子 フレデリカ 志希
鷹富士隊 茄子 クラリス 清良 亜里沙  
向井隊  拓海 夏樹 亜希 里奈 涼   
和久井隊 留美 美優 雪美 瞳子 
川島隊  瑞樹 比奈 春菜 紗理奈    
新田隊  美波 夕美 文香 唯 愛梨  

・B級

財前隊 時子 有香 法子 ゆかり  
桐生隊 つかさ 翠 千秋 聖來
相原隊 雪乃 巴 琴果 桃華
神谷隊 奈緒 凛 加蓮 楓  
二宮隊 飛鳥 蘭子 小梅 あの子(?) ありす
輿水隊 幸子 友紀 紗枝 まゆ  
本田隊 未央 茜 裕子 藍子
双葉隊 杏 きらり 悠希
丹波隊 仁美 あやめ 珠美 葵 
浅利隊 七海 ライラ ナターリア 歌鈴
前川隊 みく 李衣菜 アナスタシア 肇
綾瀬隊 穂乃香 柚 あずき 忍  
五十嵐隊 響子 美穂 卯月 かな子 智絵里
ヘレン隊 ヘレン
南条隊 光 麗奈 千佳 柑奈
岡崎隊 泰葉 裕美 ほたる 千鶴
早坂隊 美玲 輝子 乃々 由愛
的場隊 梨沙 晴 みりあ 千枝

※基本的に一番左が隊長(隊名にもなっている)、一番右がオペレーター。
オペレーターが隊長の双葉隊、一人部隊のヘレン隊など一部例外あり。

※ある程度、キャラの個性をサイドエフェクトやチームの戦術などに反映させています。
36 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:46:56.31 ID:tsGVl3h90
転送直後。四隊の全隊員が、マップ内にそれぞれ一定距離を空けた位置にランダムに配置される。



それと同時に、新田隊以外の隊員及びスクリーンの映像を見ていた観客は驚き、あるいは感嘆の声を上げた。




茄子「うふふ、やりますね美波ちゃん♪」

華奢な細腕に見合わぬ大きな銃二丁を両手に携えた茄子が、楽しげにつぶやいた。

茄子「……さて、行きますか!」



早苗「なるほど……そう来るのね。皆、いい? 今から──」

目立つ転送位置から速やかにビルとビルの間の路地に身を滑り込ませた早苗が、片桐隊の隊員達を指示を飛ばす。


志希「くんくん……見つけた。今から言う位置のレーダーの点にタグ付けて。まずあたしのすぐ北のこれが──」

大型家電量販店の屋上で志希は静かに佇んでいた。サイドエフェクト「強化嗅覚」を駆使し索敵を行う彼女の頭に、白いものがふわりと乗った。


雪だ。


美波「合流地点はポイントC周辺にします! 合流まで無茶な交戦は避けること! 皆、A級デビュー戦絶対取るよっ!」

『『『『了解!』』』』

ランク戦のマップは「都心A」。現実世界であれば絶え間なく人が往来し、騒音の耐えない活気ある空間だったであろう。

しかし、ここは無音の仮想空間。それはまるで、雪によって時間が停止したかのような静けさ。

だが間もなく、その静寂は破られるだろう。
37 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:49:13.49 ID:tsGVl3h90
ありす「雪……!」

茜「ややっ、雪ですかっ!」キラキラ

ありす「更に新田隊、雪原迷彩とも言うべき白い隊服に身を包んでいます! おそらくバックワームも白色に設定されていると思われます!」

真奈美「天候設定『雪』か。大粒の雪が降り靴が埋もれる程度には積もっているが、『昼』な事もあり空は明るくそれほど視界が悪い訳じゃない。フフ、中々面白い事をするじゃないか」

ありす「日野隊員、これはどういった狙いでしょうか?」

茜「ん〜、いいですねぇ! 今度本田隊(ウチ)がマップ選択権を貰った時は、天候設定を雪にしてもらいましょうか!」ワクワク

ありす「あの、日野隊員? 日野た……茜さんっ!!」

茜「へぁ? ……あっ、こほん! えー、恐らく『カメレオン』対策ですね!! 早苗さんのカメレオン+格闘術、茄子さんのカメレオン+幸運のサイドエフェクトの強力なコンボを、足跡で位置が丸見えな雪によって弱体化させる狙いでしょう!」

真奈美「カメレオンを起動している間は透明化出来るが、その代わりそれ以外のトリガーを同時に使えなくなる。当然シールドも使えず、攻撃に対して完全に無防備な状態になるから、雪で正確な位置が割れれば当然戦いにくくなるだろうな」

ありす「ですが、なぜ視界が悪くない程度の雪に留めたのでしょう? 大雪で視界を悪くすれば、鷹富士隊を始めとした他隊のスナイパー達を大きく機能低下させられたと思うのですが……」

真奈美「おそらくそれだと屋内戦にもつれ込み、アタッカーが有利になりすぎると踏んだのだろう。敢えてそうしなかったのは他隊の強力なスナイパー達に片桐隊長や宮本隊員といった強力なアタッカーへの抑止力となってもらう為だと思うよ」

ありす「あっ! 鷹富士隊長が仕掛けるようです!」
38 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:50:11.97 ID:tsGVl3h90
一面真っ白な高層ビルの屋上で、バックワームを纏った鷹富士茄子は片膝をついた状態で静止していた。

その視線は、トリオン体の標準機能であるレーダーに注がれている。バックワームを装備していない敵や味方の位置を平面マップ上に光点で示すものだ。もっとも、レーダーではその光点が誰かまでは分からない。

茄子が得意としている攻撃手段の一つに、「適当メテオラ」というものがある。といっても大層なものではなく、レーダーを見て「メテオラ」を勘で撃つだけのものだ。

トリオン弾は基本的に重力や空力の影響を受けず、放たれるとひたすら直進していく。だが、茄子の使う擲弾銃は狙撃トリガーにすら匹敵する長い射程と引き換えに、その性質を持たない。

つまり、数百メートル規模での「曲射」が可能なのだ。

レーダーを見ての適当撃ちなので、普通なら当然命中精度は低く、警戒しているフリー状態のA級隊員が相手ではまず当たらないだろう。



そう、「普通」なら。
39 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:51:46.20 ID:tsGVl3h90
茄子「」ガチャ!

茄子は銃を構えた。

適当撃ち。当たるか外れるかは「運」次第。といっても、当たる確率は限りなく低いだろう。

で、あるならば。「幸運」のサイドエフェクトを持った彼女ならばどうだろうか。




茄子『レーダー上の全光点を狙って5秒後に撃ちます! 炙り出されて浮いた子を狙撃して下さい!』

清良クラリス『『了解』』

戦闘用義体「トリオン体」の標準機能である内部通信機能により、声を発さずチーム内で会話する。

茄子「(……5……4……3……2──)」

パキ

茄子の背後から、小石を踏んだような音が微かに聞こえた。

茄子「!!」バッ

その音に茄子が振り向いた時には、「それ」は輪郭がブレる程に加速していた。

??「」ビュオッ!

高速で接近してくる何者かに対し、茄子は反射的に回避行動を取った。

直後、凄まじい速度で接近してきたブレードが茄子の頬を掠めた。

早苗「ハァイ♪」ギラッ

茄子「わわっ!」

茄子が辛うじて回避した後、気さくな声色に見合わぬ鋭い眼光と不敵な笑み、稲妻のような動きで彼女に迫りながら声をかけたのは片桐早苗。バックワームでレーダーから消えていた早苗が、茄子に奇襲を掛けたのだ。

茄子は回避した流れでバックワームを靡かせながらそのまま綺麗に側転すると、間髪入れず鉄柵を飛び越え、ビルの屋上から飛び降りた。アタッカーと見紛う程の身のこなしだ。

早苗「(んー、踏み込みの瞬間に『運悪く』雪の下に隠れてた小石かなんかを踏み砕いちゃったか。ま、茄子ちゃんだし仕方ないわね)」

早苗は鉄柵を飛び越える時間すら惜しいと言わんばかりにスコーピオンで鉄柵を一瞬で切り刻み、一瞬も減速する事なく、電光石火の如く猛追する。
40 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:52:42.18 ID:tsGVl3h90
茄子のいたビルは前述の通りかなりの高層。地上までは三十メートル程もある。

早苗「グラホ持ちのあたしの前で飛ぶなんて、ちょーっと迂闊じゃないかしら?」

茄子「そんな事ないですよー!」ガチャ

茄子は落下による空気抵抗で強くはためくバックワームを解除しつつ、空中で体を捻り早苗に銃口を向ける。

ドドドドドドォン!

早苗は茄子の放つメテオラ群をシールドで難なく防御した。だが、その感触に早苗は違和感を抱いた。

早苗「(弾の収束が甘い? ……そういう事ね)」

茄子は早苗を倒す事を狙って撃ったのではない。今しがた飛び降りた高層ビルを狙ったのだ。数発早苗に撃ったのはシールドを張らせて動きを止める狙いだろう。

茄子「(大体の位置がバレてて身動きの取れない空中じゃ透明化した所で格好の的……まだカメレオンは使えない! 地上に降りるまで時間を稼がないと……!)」

メテオラの当たりどころが良かったのか、ビルが砕けてできたガレキが爆散し、早苗と茄子を遮るように飛んできた。

早苗「時間稼ぎのつもりかしら?」

早苗「(『居る』ならここで撃たれるかしらね)」
41 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:53:44.95 ID:tsGVl3h90
ビギュン

ご名答。

早苗「ん、やっぱりね」サッ

転送運が良く、クラリスが茄子を援護できる位置にいたのだ。鷹富士隊は茄子のサイドエフェクトのお陰で、毎試合必ず「良い位置」に飛ばされる。早苗も当然それを警戒していた為、難なく躱す事に成功した。

早苗は、攻撃する瞬間が一番隙だらけになる事を理解していた。

ありす『鷹富士隊、今回も非常にいい位置に転送されていました! これも鷹富士隊長のサイドエフェクトの力なのでしょうか?』

真奈美『そう、鷹富士隊長を狙う時には常に自分が狙撃手の射程圏内にいる事を覚悟しておかなければならない』

──300m南西──

クラリス「外しましたか」バッ

ライトニングで早苗を牽制した直後、クラリスは潜伏していたビルのオフィスの窓を割って飛び降りた。

───────

紗南『あのビルだよ』

雫「はいー」ズド


ドゴオォォォォン!!


直後、クラリスが数秒前までいたビルの上半分が吹っ飛んだ。
42 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:56:38.94 ID:tsGVl3h90
undefined
43 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:57:52.55 ID:tsGVl3h90
早苗『雫ちゃん、片っ端から清良ちゃんが居そうな狙撃ポイント潰してって。紗南ちゃん支援頼むわね』

紗南雫『『了解!』』

数秒後、周囲のビルやショッピングモール、家電量販店、立体駐車場などの大型建造物がが次々と爆音を立てて崩落していく。

茄子『清良さん!』

その呼び掛けは、決して清良の身を案じてではない。スナイパー1位にそんなものは不要だった。

清良『』ダンッ! ダンッ! ダンッ!

清良は、イーグレットで三発の銃弾を放った。



そのたった三発は、試合を大きく動かした。
44 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/11(土) 23:58:29.70 ID:tsGVl3h90
一方、観戦ルーム。

清良が一発目の弾を撃つと室内は大きな歓声が上がり、二発目を撃つと更に大きな歓声が、三発目が撃ち終わる頃には室内の半数ほどの人が立ち上がり、ある者は絶句し、またある者は驚きのあまり悲鳴すら上げていた。

みく「うえぇぇぇ!? 一発目とか外してたらどうするつもりだったにゃ!?」

比奈「絶対に当てる自信があったからでしょうねぇ」

藍子「す、凄いです……! 凄すぎて、私……」

菜々「ふふっ、清良ちゃんも相変わらずですねぇ」ニコニコ

飛鳥「…………」ポカーン

比奈「(飛鳥ちゃん、口開いてるっスよ)」ヒソヒソ

飛鳥「!」パクッ

比奈「あはは、気持ちは分かるッスよ」

飛鳥「……ッ。忘れてくれ」カァッ…
45 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:01:14.89 ID:K6z61BeE0
undefined
46 : ◆AXT/uuswxI [saga >>42の分です]:2020/04/12(日) 00:04:22.04 ID:K6z61BeE0
早苗『雫ちゃんナイスぅ♪』

雫『いえいえー♪』

早苗「これでしばらく援護は望めないわよ」

茄子「着地出来れば充分ですよー!」ブゥン…

早苗は空中で茄子に向き直るが、一瞬早く着地した茄子はそれと同時にカメレオンを起動し、透明化した。

早苗「(む、消えたかー。でも美波ちゃん達が雪にしてくれて助かっ……やるじゃない)」

早苗は透明化した茄子を雪の足跡を利用して見つけようと考えたが、茄子は透明化する前、早苗が空中で瓦礫や狙撃に対処していた一瞬の隙に地面に向かってメテオラを撒いていた。そのお陰で雪の積もった地面はまるでいくつも丸く型抜きされたクッキー生地のように、円状にアスファルトが露出していた。

茜『茄子さん流石です! 無駄な動きがありませんね!!!』

真奈美『瓦礫の崩れる音で足音も上手く消しているな』

早苗「(ここまでされちゃ、後は神頼みね。って──)」ヒュオッ!

早苗はスコーピオンを二つ繋げて伸ばす高等技術、「マンティス」を駆使し、レーダーをチラ見しつつ薙ぎ払うように広範囲を攻撃した。

カメレオンを使用している相手は、姿は見えないがレーダーにはハッキリと映る。つまり、レーダーを見ながら大まかな位置を「勘」で攻撃するしかない。

早苗「(茄子ちゃん相手にそれは無いわね)」

茄子「(おっとっと。よっと。ひょいっと)」

まさに「神業」、早苗の猛攻を紙一重で全て回避していた。
47 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:05:16.10 ID:K6z61BeE0
ありす『片桐隊長、超高速のマンティス! しかし鷹富士隊長には当たりません!!』

真奈美『直接斬りに行かないのは柳隊員が射程内にいる事を考え、射線の切れる所から攻撃をせざるを得ないからだろうな。他のスナイパーならそれでも斬りに行っているだろうが、柳隊員は格が違う。試合も序盤でまだ勝負に出る訳にはいかないんだろう』

茜『早苗さんも刺し違える覚悟なら倒せるでしょうが、茄子さんと自分(早苗さん)のトレードじゃ割に合わないと判断したのだと思います!!』

ありす『片桐隊長は及川隊員には撃たせないんでしょうか?』

真奈美『カメレオン状態の鷹富士隊長にはおそらく当たらない。ハウンドでは片桐隊長も巻き込むおそれがある。それに爆風やら何やらで運要素が強まってしまうのを懸念したんだろうな』

茜『茄子さんを倒す時には、なるべくそういった運要素を排除するのが定石ですからね!』
48 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:06:37.11 ID:K6z61BeE0
まず一発目。その弾は、なんと清良のいる建造物を粉砕せんと飛んでくる雫のアイビスの弾そのものを空中で撃ち抜いた。

その爆音はエリア全域に鳴り響き、その爆風は周囲の雪を一瞬で吹き飛ばした。それは幸運にも茄子の逃げた先の地面の雪であり、茄子の逃走を手助けする形となった。清良の元へと逃げた茄子の判断が功を奏したようだ。

次に二発目。これは雫へのカウンタースナイプ。

雫は大規模破壊が目的のアイビスによる狙撃(砲撃)を行う時はバックワームを使用しない。それだけ目立つ行動をすれば一瞬で位置が割れて反撃に遭うので、ブラックトリガー級のトリオン能力を活かして半球状のシールドで自身を覆い、僅かに開けた穴をシールド変形で動かしながら狙撃を行う。


清良はその穴を撃ち抜いた。


雫はこういった万が一に備えて穴の射線上に体を置く事はしないのでトリオン体は無事だが、それでも武器となる狙撃銃(アイビス)は完全に破壊され、その衝撃で体勢を崩してしまった。すぐさま次弾を放つのは不可能だろう。

清良がたまたまその穴を狙撃出来る位置にいたのも、ひとえに「運が良かった」。これに尽きる。
49 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:07:18.90 ID:K6z61BeE0
最後に三発目。早苗のマンティスを撃ち砕いた。

イーグレットを構えてから撃つまでの刹那、流石の清良も高速で動く刃を捉えるのは難しいと考えた。そこで、清良は刃が空振った後、反転する際の一瞬の停止時間を狙ったのだ。

これは最上位クラスの隊員しか知り得ない、あるいは知った所でどうしようもないとも言うべき小さな早苗の弱点だが、早苗は自身の体に当たるであろう攻撃には極めて敏感に反応するが、それ以外、つまり早苗の体を通過しない攻撃には反応が鈍い(基本的には誰もが当てはまるだろうが)。

並のスナイパーなら、早苗本体を狙った方が早い、もしくは現実的だと考えただろう。しかし、清良は臨戦態勢かつフリー状態の早苗にこの距離(200m)での狙撃は当たらないと判断し、武器狙いに切り替えた。


普通ならその判断で早苗そのものを諦めるだろうが、清良は「狙える」のだ。

結果、次弾を警戒した早苗は武器を破壊された上に清良に意識を大きく奪われ、茄子を取り逃がす事になった。


茄子「(なんとか早苗さん撒けたみたい。でもやっぱり狙撃ポイント潰されると困るし、うーん?……)」





茄子「(──雫ちゃんがやっかいですねぇ)」キィン
50 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:08:28.22 ID:K6z61BeE0
ありす『な、なんと! 柳隊長の神業の如き三連弾により、鷹富士隊長が片桐隊長を撒く事に成功しました!』

真奈美『これが鷹富士隊の強さだよ。戦場における運は彼女達に味方する。戦場で敵に運を味方に付けられる事、そしてこちらが運に見放される事、それがどれ程恐ろしい事か……。言うまでも無いだろう』

ありす『実力が拮抗している場合、勝敗を決するのは読み合い。言ってみればジャンケンに近いと聞きます。運は極めて重要な要素ですね』

茜『それに、スナイパーのアシストがあるとはいえあの距離まで近付かれた早苗さんから逃げ切るのはほんっっとーに凄い事ですよ!! 身のこなしに優れた上位アタッカーですら難しいと思います!』

ありす『そうなんですか? いくら早苗さ……片桐隊長とはいえ、スナイパーのアシストがあるなら絶望的に難しいとは思えないのですが……』

茜『一体一なら機動力のある双葉隊の悠貴ちゃんや私、機転が利くフレデリカさんや志希さんなどはいけるかも知れませんが、大抵は雫ちゃんがどこからでも射線お構い無しにどでかいのを撃ち込んで来るので崩された隙にやられてしまいます! 武術に長けた早苗さん相手じゃ組み付かれた時点でほぼやられますので!』

ありす『ひえぇ、日野隊員や乙倉隊員でも逃げられないんですか……となると、木場隊長も逃げられないんですか?』

真奈美『私は逃げないよ。近づかれる前に斬る』

ありす『か、かっこいい……!流石は総合1位です!!』キラキラ

真奈美『買い被りはよしてくれ、斬れずに寄られて倒される事も当然ある。私の場合立ち向かうのが分が悪い勝負ではないだけだよ』

ありす『……っ!』←充分かっこいいですという眼差し

真奈美『……それに、やはりと言ったところか。最初に鷹富士隊長が片桐隊長と接触した時は運が悪いと思ったが、結果的には鷹富士隊有利な状況になりつつある。見てみろ』

ありす『あっ! あれは……!』
51 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:11:16.74 ID:K6z61BeE0

夕美『雫ちゃん発見! 交戦していい?』

美波『OK! でも無理はしないでね!』

夕美『分かってる、合流優先っ!』

唯『夕美ちゃんファイトっ!』



志希『雫ちゃんと夕美ちゃんみっけ〜。うまいことやりまーす』

周子『あーい』

フレデリカ『らーぶ?』

志希『ゆー!』

ふれしき『『いぇーい♪』』

周子『なんのこっちゃ』

美嘉『気が抜けるなぁ……』

奏『志希、具体的にはどうするつもり? 簡単にでいいから教えてちょうだい』

志希『ん? えっとねー───』



雫『あっ、夕美ちゃんに見つかっちゃいましたー。交戦は避けらなさそうですねー』

心『まじ? 思ったよか早いじゃん。一人でやれそ?』

雫『夕美ちゃんだけなら大丈夫ですー。けど恐らくあれだけ撃ったので足止めされてる内に次々来ると思いますー。そうなったなら多分やられちゃいますねー』

早苗『ごめん、あたしはちょっと遠いわ! 心ちゃんお願い!』

心『つっても夕美ちゃんから走って逃げるのは無理ぽいな! おっけすぐ行くぞ、あと1〜2分待っとけ☆』

紗南『50秒ね。このルートなら目立つけど心さんなら多分行けるから表示しまーす』

雫『お願いしますー』

心『任しとけちくしょうめ☆』

余談だが、心にはこういう役回りが多い。
52 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:12:21.32 ID:K6z61BeE0
真奈美『まぁ、流石にあれだけ派手にやれば見つかるだろうな』

茜『志希さんはまだ夕美さんと雫さんのどちらにも気付かれていないようですね!』


夕美のハンドガンは、片方は「射程」と「弾速」、もう片方は「威力」と「弾速」に重きを置いた設定になっている。左右持ち替える事も可能。グリップ部分に夕美にしか分からないような微妙な感触の違いがあるのだが、見かけ上はどちらも全く同じな為、相手からすればどちらがどちらか分からない。

夕美「行くよっ!」

夕美は二丁のハンドガンを構え、雫のシールドの一点を狙い連発するが、雫のシールドはビクともしない。

夕美「(だったら……)」

続いて「射程」の方のハンドガンで牽制しつつ
「威力」の方で崩しを狙ったり、攻めのリズムをわざと単調にしておいて急に変調させるなど、様々なテクニックを織り交ぜてはみたものの、そのどれもが通じなかった。

シールドが硬すぎて並のトリオン量の隊員が相手なら通じる戦法も、雫には通じない。また雫のハウンドが作る弾幕が分厚過ぎて、そもそもハンドガンが活きる近めの射程距離に入れて貰えないのだ。

だが、夕美もあの早苗に師事する達人である。雫と対面してこれだけハウンドを撒かれながら数十秒も無傷でいられる隊員はそう多くない。

夕美「(美波ちゃんと対雫ちゃんの特訓してなかったら危なかった……!)」

夕美はマスタークラスのシューターでもある美波が雫並のトリオンになるよう訓練室の設定をし、この「都心A」でひたすらトリオンモンスター美波とのタイマンで実戦経験を体に叩き込んで来たのだ。
53 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:12:55.83 ID:K6z61BeE0
夕美「っふぅ! やっぱり正面からは無理かな」

雫「効きませんよー!」ギィン

雫はシールドを張ったままアイビスをオフにし、3メートル四方はあろうかという巨大なトリオンキューブを頭上に発生させ、それを縦×横×高さで4?、64分割にした。64分割とはいえ、その一つ一つが並のシューターの丸々一つ分かそれ以上の大きさだ。

夕美「(来た!)」

夕美は俊敏な動きでその場を離れ、ビルから飛び降りた。


真奈美『夕美のあの動き……』ボソ

茜『ややっ!? なんだか早苗さんに似ているような……!?』


雫「ハウンド!」

凄まじい威力と弾速のトリオン弾群が夕美に降り注ぐ。それらと同程度のトリオンが割り振られた射程距離もかなりのものだろう。

トリオン量が規格外な為、射撃トリガーを放つ際にチマチマとトリオン量の配分を考えずに大雑把に割り振っても問題ない所が雫の強みの1つでもある。
54 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:13:35.19 ID:K6z61BeE0
夕美は本能的に向かってくるハウンドと反対側に逃げようとする気持ちを抑え、最短かつ華麗な身のこなしで雫の居たビルの屋上の3階下のフロアのガラスを割り中へと侵入した。

雫のハウンドはシールド二枚のフルガードでも防げない。そう考えた夕美はビルでガードすると同時に、その凄まじい威力を利用して下のフロアにハウンドを誘導し破壊する事で屋上にいる雫の足場を崩した。

真奈美『相葉隊員は及川隊員のハウンドを利用して自分のいる階から上を崩落させ、落ちてくる及川隊員を狩る狙いのようだ』

茜『いくら雫ちゃんのシールドが硬いとはいえ、ゼロ距離でシールドを削られ続けるのはジリ貧です!! 雫ちゃんピンチですね!!』

雫「きゃあ! ……そう来ましたかー。でしたら私もっ」

雫は抱えていたアイビスをONにし、真下のビルごと夕美を狙う。

夕美「!!」

夕美は一瞬で反応し、すんでのところでビルから脱出する。



直後、何度響いたか分からない爆音が鳴り、ビルが崩壊しはじめた。
55 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:14:55.05 ID:K6z61BeE0
夕美「(雫ちゃんが落下中で体勢を崩してる今しか距離を詰められないっ! すぐ戻らなきゃ!)」

夕美は崩落したビルの対面のビルの壁を蹴り、地上へと加速した。

雫「うっ」ドサッ

それを確認した雫は数十メートル落下した後着地してすぐ起き上がり、瓦礫を払い除けるとバックワームを起動させてレーダーから姿を消し、夕美が脱出した方向の反対側に走り出した。

雫「(夕美ちゃん、前より対面した時の圧力が強くなってますねー。一旦心さんと合流して──)」


───雫の視界が傾いていく。気付けば、右に空が、左に地面があった。


志希「夕美ちゃんを撒いてもうすぐ心さんと合流出来る、最も油断しちゃうこのタイミング。逃す訳ないよね〜」

否。奇襲を仕掛けた志希に首を落とされたのだ。


『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』


ありす『一ノ瀬隊員の奇襲により及川隊員ベイルアウト! 速水隊先制点です!』

茜『おおおおおっ!!! やりますねぇ志希さん! 一瞬の隙を突く素晴らしいタイミングでした!』

真奈美『……? 志希の動き、何やら違和感が……』ボソッ

茜『むむ? どうかしましたか?』
56 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:15:28.44 ID:K6z61BeE0
──片桐隊 作戦室──

雫「わっ。え?……私、倒されちゃったんですかー?」ドサッ

紗南「おかえりー。うん、志希ちゃんが潜伏してたみたい。アレは仕方ないよ、志希ちゃんの潜み方と忍び寄り方上手すぎ」

心『めんご雫ちゃん間に合わなかった☆』テヘ

雫「いえ、一瞬油断しちゃいましたー……」シュン

早苗『はいはい切り替え! 心ちゃんはあたしに合流して!』

心『うぃっす☆』
57 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:16:26.57 ID:K6z61BeE0
その数秒後、雫が倒された地点に夕美が到着した。

夕美「(ベイルアウトの光! それにあれは志希ちゃんっ!雫ちゃんが倒されたんだっ! 一足遅かった……!)」グッ

志希「あ、夕美ちゃんだ〜」フリフリ

夕美「(志希ちゃん……武器トリガーも持たずに棒立ち? いや、一応周囲の狙撃ポイントからの射線は切れる位置にいる……。って事は今回はシューター? いや、それにしては距離をとる素振りもないし何か変……うぅん、考えても仕方ないっ! 分からないなら先手必勝で……あれ?)」

不気味な振る舞いを見せる志希を警戒し思案を巡らせる夕美をよそに、志希は夕美に興味を無くしたかのように視線を外した。

志希「ごめんね夕美ちゃん、作戦上夕美ちゃんの相手してるヒマないんだ〜。ってゆーかあんまり今の夕美ちゃんにキョーミないしね〜。んじゃねー」

夕美「なっ……! 雫ちゃん取り逃して速水隊にリードされたんだから、こっちには戦う理由があるんだからねっ!」

志希「ふーん、じゃ好きにすれば〜? あたしは早苗さんとか清良さんとか、そういう『強いヒト達』の相手しなきゃなんないし。それにエースって言っても、見たところA級上がりたてで緊張しちゃってる夕美ちゃんくらいなら────」

振り向いた志希は、つまらなそうな顔をして言い放った。



志希「────いつでも倒せるしね」



そう言って、志希はスコーピオンのブレードを両手に発生させ、走り去って行った。
58 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:17:26.82 ID:K6z61BeE0
夕美「なっ……!!?」

志希の言葉は、夕美の心を強く揺さぶった。

A級に上がり初めての試合。それは新田隊の誰しもが緊張と不安を抱いただろう。最も得点を取らなければならない「エース」であり、責任感の強い真面目な夕美なら尚更だ。

血が滲む程の鍛錬はした。だが、そんな事は誰もが当たり前のようにやっている事。何も特別な事ではない。

しかし、夕美には自信があった。早苗に師事し訓練を積む事で、自分が成長しているという確かな実感を持っていた。自分はそこそこ強い、A級でも通用すると。それはシューター・ガンナーランキング3位という数字にも表れている。

それに自分だけではない。新田隊のメンバーも成長している。A級上位の猛者達にも新田隊の皆が実力を発揮出来れば、少なくとも手も足も出ず一方的に負けるとは思っていなかった。

それは、仲間達も同じ想いだった。

美波『だ、大丈夫! ウチだってA級なんだから、きっと皆要注意だよ! ねっ!』

唯『あはははっ♪ そーだよね! 考えてみたら、あのカイブツみたいに強い早苗さんとかがウチらの対策考えてるんだよ? これってなんかスゴくなーい!?』

〜〜


美波『……うぅん。私達は、この間までB級だった。けど、今は違うわ。憧れたあの人達と同じステージにいるの。格下なんて思う必要なんて無いわ! この前啖呵を切った速水隊にだって、きっと勝てる!』

夕美には自信があった。

そのはずだった。



それなのに。



────志希は、自分を警戒すべきライバルとは認めていなかった。
59 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 00:18:16.14 ID:K6z61BeE0
夕美「(それに、志希ちゃんはここを離れる前にブレードを出してた。という事は志希ちゃんはシューターじゃない。それってつまり──)」

──舐められてた。

それが、負けず嫌いな夕美の心に火を付けた。

夕美「そんなの……やってみなくちゃ分かんないでしょっ!?」

悔しさ、不安、怒り、焦り、自尊心。それから自分をエースとして認めてくれた新田隊の強さを証明してやるという想いを胸に、夕美は志希を倒すべく全速力で走り出した。
60 : ◆AXT/uuswxI [sage saga]:2020/04/12(日) 00:27:30.28 ID:K6z61BeE0
書き溜め分ここまで。続きは明日以降に投稿します

ワールドトリガーのキャラクターは基本的に若くても精神的に老成していて、そこが魅力ではあるのですが、やはりデレマスのキャラクターを出す以上はそのキャラ等身大の性格でいて欲しいという思いがあり、あまり上方修正は掛けていません

あと、個人的にワートリの当馬や清良さんみたいな「バックワーム、イーグレット、シールド×2」みたいな「自分は小細工なしのイーグレット1本で飯食ってくから」みたいな渋いトリガー構成にカッコよさを感じます



今日のウワサ@おっぱいが大きい程トリオン量が多くなるらしい。




それでは、おやすみなさい
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/04/12(日) 00:32:44.79 ID:gOsjy+1oO
乙です!
続編待ってたしたー!
62 : ◆AXT/uuswxI [saga 書きながらゆっくり投下していきます]:2020/04/12(日) 19:59:34.45 ID:K6z61BeE0
志希「くんくん。おー、夕美ちゃん怒ってるね〜」ニヤ

それこそが志希の狙いだった。


志希はそんな気配を臭いで感じ肩越しに夕美を一瞥すると、すぐに前方に視線を戻した。



興味なさげに夕美に背中を向けた志希だがその実、いつでも反撃出来るように全神経を背後の夕美に集中させている。前方の景色は目で見えてはいるものの、集中する志希の脳は不要と判断しほぼ認識していなかった。
63 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 20:01:30.97 ID:K6z61BeE0
真奈美『……そういう事か。志希も中々にえげつない事をする』フフッ

ありす『木場隊長? あの……』アセアセ

真奈美『……ん! あぁ、済まない。いや、恥ずかしながら志希の……一ノ瀬隊員の考えている事についての考察に夢中になってしまっていたよ。解説の職務を放棄してしまって申し訳ない』

ありす『で、では、その考察の解説をお願い致します』

真奈美『承った。まず、向こうの音声はこちらには届かないので何を言ったかまでは分からないが、恐らく何らかの言動による挑発をしたと見て良いだろう』

ありす『ちょ、挑発ですか!?』

真奈美『そうだ。何も言ってないにしろ、戦闘態勢を取らず背を向けたあの挙動そのものが挑発行為に相当する。その狙いは────』
64 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 21:00:56.92 ID:K6z61BeE0
先程、志希は夕美に対して当然のように「いつでも倒せる」と言い放ったが、実際の戦闘力は夕美の方が上であり、正面きっての戦いになった時に自分が不利な事は志希も正しく理解している。

そこで、志希はトラップを仕掛けた。

一つは物理的なトラップ。夕美が雫と対峙している時、周囲に白く着色され雪の背景に溶け込んで見えにくくされたスパイダーが張り巡らされた空間をいくつも作り出した。格上の夕美にも勝ちうる空間だ。

次に、そこへ誘い込む為の心理トラップ。A級に上がりたてで不安もあろう「新田隊」。そしてそのエースであり、負けず嫌いで責任感の強い「夕美」。

雫を倒す事に成功した場合に何かしらの策でワイヤー地帯に夕美を誘い込む事は奏に伝えていたが、「挑発」という手段を選んだのは志希のアドリブだ。

夕美は、「雫を仕留め切れず横取りされた。これはエースとしての自分の落ち度だ」と認識している。つまり夕美と志希は直接戦闘行為を行っていないにも関わらず、夕美はこの時点で志希に先を行かれたという感覚を持ってしまった。

そんな相手。自分の獲物を目の前でかっさらって行った相手からの、挑発。

更に敢えて言葉を少なくする事で、あたかも「志希は思った事を言っただけ」のように見せかけた。志希の普段の自由な振る舞いもその印象を強めるのに拍車を掛けている。

一番効くタイミングで一番効く相手に、巧みな演技と言葉選びを駆使し的確に挑発という手段を通した。挑発で視野が狭まっている今の夕美ならば、ワイヤートラップに掛かる確率は普段より高くなるだろう。
65 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 21:01:59.16 ID:K6z61BeE0
当然、ワイヤーが失敗した際の二の矢も用意してある。志希が向かう先にはフレデリカがおり、そこに誘い込んで数の有利を取り反撃する算段だ。志希にとってはこれが本命の策である。

勿論、サイドエフェクトの「強化嗅覚」で夕美の向こうから雫を助け損ねた心が迫っている事も把握している。

もし心に追いつかれたとしても、位置関係から先に心と会敵するのは夕美であり、その場合は先程と同じようにフリーになった志希が両者が戦っている隙に周囲に罠を張るなり、潜伏して不意打ちを狙うなり、先にフレデリカと合流してから勝負に勝って消耗した方を挟撃するなりと、今以上に志希にとっての有利状況となる。

そしておまけにもう一つの心理トラップ。これは志希が常に展開しているもの。いわゆるパッシブスキル。

それは「不気味さ」。
66 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 21:04:00.54 ID:K6z61BeE0
まず、自分のトリガーセットは志希に知られているのに志希のトリガーセットは不明という情報ディスアドバンテージ。更に志希はその高い知能と柔軟な思考により、誰もが思いもよらない奇想天外な作戦で不意をついてくる。

これにより、志希はある意味で最強の戦術である「初見殺し」を見知った相手に何度でも仕掛ける事ができ、「自分の手の内は志希にバレているのに、志希は何をしてくるのか、どんな手で倒しに来るのか分からない」という心理的不安を相手に与える。

それが実は相手の過大評価だったとしても。

そしてその過大評価が、夕美より格下である筈の志希の「いつでも勝てる」という言葉に現実味を帯びさせるのだ。

当然、以上の事を志希は完全に把握している。

志希の恐ろしさは戦闘力ではない。その卓越した頭脳だ。

「考証」し、「実験」する。そして期待通りの「結果」が得られた時、志希はえも言われぬ快楽を感じる。

全ては志希の掌の上だ。
67 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 21:23:40.16 ID:K6z61BeE0
夕美「ふぅ……一旦落ち着かなきゃ」

しかし、夕美も曲がりなりにもA級のエース。いつまでも煽りに思考を支配される程愚かな女ではなかった。

夕美は悔しい、実力を証明したいと強く思いながらもこの状況を客観視し、現状を省みていた。

これで本当に大丈夫なのか? と。

────だがそれが、夕美を更なる思考の迷宮へと叩き落とす事になる。

夕美「ふぅーっ。早く落ち着かなきゃ……冷静にならなきゃ……!」

そう、夕美は「冷静にならなければ」と思っているだけ。それは決して、冷静な者の思考ではないのだ。
68 : ◆AXT/uuswxI [sage]:2020/04/12(日) 21:25:32.48 ID:K6z61BeE0
>>61
3年前のssの続きを待ってたなんて…
ありがとうございます、励みになります
69 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 22:34:55.54 ID:K6z61BeE0
(夕美視点)

──私よりずっと頭の良い志希ちゃんが、私にいつでも勝てるって言ってた。でも志希ちゃんは自分と相手の実力差が分からないような素人じゃない。

って事は、私は……ほんとに志希ちゃんに勝てない?

いや、過去に個人戦をした時は8:2くらいの割合で勝ててたもん。

でも、その時の志希ちゃんはミスばかりで、やりたい事が出来てない感じ……いや、違う。

〜〜

志希『んー、これは流石に当たんないか。ロマン砲って事で遊ぶ時のネタ枠として封印かなー。んじゃ次はアレ試してみよー♪』

〜〜

とか言ってたし、考えてる事が実戦で上手くいくかどうか試行錯誤してる感じだった。



でも過去のログを見た限りチームで行うランク戦で志希ちゃんがそんなミスをする事は一度もなかったから、志希ちゃんにとって個人戦は志希ちゃんが思いついた変わった戦法が実戦で相手に通じるかどうかを試す場……なんだと思う。

志希ちゃんのポイントが強さの割に低いのは使ってるトリガーが多くて点がバラけてるのもあるけど、個人ランク戦をそうやって使ってるからなのかも。

それに志希ちゃんはどんなトリガーでも上手に扱えるから、相手に合わせて毎試合トリガーセットをガラッと変えてくる。それにすっごく頭がいいから、色々作戦も考えてる。

何をしてくるのか分からない。さっきはスコーピオンを出してたけど、考えてみればシュータートリガーを入れてないとも限らない。そうやって私を騙す作戦なのかも。

志希ちゃんは私よりずっと頭がいいから、どんな切り口で攻撃してくるのか、どんな作戦を何通り考えてるのか分からない。

……分からない。

…………分からない。



────怖い。
70 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 22:35:40.68 ID:K6z61BeE0
もし今回のトリガーセットが、作戦が、私を倒せるものだったとしたら。私が思いもよらないような凄い作戦で、私を倒せると確信してるとしたら。

もしここで私がムキになって志希ちゃんに返り討ちにされたら。 新田隊で一番得点力のある私が点を取れずに倒されちゃったら、ただでさえ対戦相手が格上ばかりのこの試合は……。

でも、そんな事言ってたら何も出来ない。それにこの試合には志希ちゃん以外にもフレちゃんや早苗さん、心さん、清良さん……他にもとんでもない強敵はいっぱいいる。私達はそんな人達に勝ちに来たんだから、怖がってても仕方ない!

でも、そんな前掛りになっちゃってさっきの雫ちゃんみたいに志希ちゃんに不意を突かれたら……。

うぅ、考えがループしてきちゃったよぉ……。

けど、のんびり考えてる時間なんてないし……。



早く、答えを出さなきゃ……。
71 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/12(日) 23:15:04.31 ID:K6z61BeE0
志希「(夕美ちゃんの匂いが少し遠ざかった……てことはスピードが少し緩まった。悩んでるね〜。これは夕美ちゃんが心さんに捕まっちゃうルートかな?)」

当然、これも志希の予想の範囲内である。相手もバカではない。そこも計算に入れた上で作戦にハメる。

志希「(なら敢えてこっちはスピードを上げちゃおー。考える余裕なんて与えな〜い♪)」

A級ランク戦の初試合、ただでさえ緊張と不安の中責任重大なエースの役割である真面目な夕美に突き刺さる煽り。冷静に戻ったように見えて、思考のキャパシティは間違いなく少なくなっている。それに、対戦相手が自分より遥かに頭が切れるという事実は想像以上に精神的不安を催す。

それに耐え切れず思考停止し、無策で突っ込んで来るならそれまで。ループする思考を止められずに動けなくなるならそれまで。

それらを気力で押し返して何らかの策を講じてもワイヤートラップが待ち受け、その先には総合3位のフレデリカ。


戦場で役立つのは戦闘力だけでは無い。それはあくまで手段の一つ。志希は使えるもの全てを利用し、容赦なく勝ちに来る。それこそが志希の強さだ。
72 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:05:31.17 ID:v+83LJnc0
真奈美『──という事だ』

比奈「うひぃ……志希ちゃん、相変わらず恐ろしい子ッスね……」プルプル

飛鳥「全くだ。彼女が敵だったらと思うと枕を高くして眠れないよ」

藍子「……」シュン

みく「藍子ちゃん? 下向いてどうしちゃったにゃ?」

藍子「……私、その、志希ちゃんの事は大切なお友達と思ってますけど、挑発とか煽りとか、そういった戦法は……その……よくないと思います……」ボソ

「「「……!」」」

藍子「だって、夕美ちゃん達新田隊の皆は一生懸命頑張ってA級になったんです。だから、私達も応援してて……なのに、その不安や緊張を逆手にとって、というのは味方に対してあまりにも、その……」

藍子「志希ちゃんはいつも違った戦法を使ってて凄いと思いますけど、でも今回のは……正々堂々と戦っても強いんですから、わざわざそんな事しなくてもって思ったんです」

菜々「……藍子ちゃん、言いたい事はとっても分かります。でも」

みく「みくもそう思うにゃ! みく達はライバルだけど敵じゃないもん! 同じボーダーの仲間だもん! だから──」

「何を甘えた事を言っているのかしら」

「「「「「!!」」」」」

みく「時子チャ……さん」
73 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:06:48.07 ID:v+83LJnc0
時子「チッ……藍子。貴女は対ネイバーを想定した訓練であるランク戦を、スポーツか何かと思っているのかしら。スポーツマンシップに則って、とでも言いたいの? 競技のような形式だから勘違いしてる子も多いようだけど……少しお仕置きが必要みたいね」

藍子「そ、そんな事! 私はPさんや、ネイバーから家族や友達を守りたいっていう未央ちゃん達のお手伝いがしたくて……でも私達は仲間なんですよ? わざわざ仲違いするような事しなくたって……! それこそネイバーとの戦闘になれば数隊合同で当たる事もあるんですから、別の隊同士の連携だって大切ですし……!」

時子「アァン? この私に口答えとはいい度胸ね。躾られたいのかしら? ……いい? 必要以上に馴れ合うのを仲間とは言わないわ。ランク戦は遊びじゃないのよ。同じ事を二度言わせないで」

藍子「……勿論そんなつもりはありません。私はただ、これが原因で仲が悪くなっちゃうのが悲しくて……。志希ちゃん、とってもいい子なのに……。C級の中には、志希ちゃんを誤解してる子もいて、だから……」シュン

時子「(……この私に対して思ったより食い下がるわね。普段から頭の足りないチームメイトに振り回されているし、その穏やかな物腰からして意志薄弱そうに見えたけど、意外と芯が通ってるようね)」

時子「ハァ……そもそも夕美の表情を見るにそれほど残酷な煽りでもないでしょう。本当の戦場に出た時、ネイバーから掛けられる言葉はもっと恐ろしいわよ。例えば、そうね」

藍子「……?」

時子「人型ネイバーとの交戦の最中、敵からこんな事を言われたら?『さっきから貴女達が探してるPと呼ばれてる男は貴女達の仲間よね? 姿が見えない? あぁ、そいつなら向こうで死んでるわよ』……とかね」

「「「「「ッ!!!」」」」」ゾクッ!
74 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:07:41.08 ID:v+83LJnc0
みく「Pチャン、が……」カタカタ…

菜々「……っ」サァーッ…

比奈「……菜々さん、顔青いっスよ、大丈夫でスか」サスサス

菜々「……! え、ええ! ナナは大丈夫ですよっ……!」ニコ…

比奈「(菜々さん……やっぱり『あの事』がまだ……)」

飛鳥「時子さん!! 言っていい事といけない事があるだろう!! あまり人の考えに口を挟むのは好きじゃないが、今のはボクも看過出来ない! 冗談では済まないぞ!」バンッ!

藍子「うぅっ……」プルプル…

比奈「……言いたい事は分かるっスけど、 心が成熟しきってない若い子の前で刺激の強い話は良くないっス。ここは『死』が冗談にならない場所なんスから」

時子「ほんの例えよ。それに、ネイバーが『言っていい事といけない事』を考えてくれると思っているの? 心優しい侵略者が居たものね」ウデクミ

時子「その言葉が事実であれハッタリであれ、心を乱さずに戦いを続けられるかしら。乱してしまうのなら、そんな事で仲間や人々を守れるのかしら。若くて未熟なら、『ボーダー隊員』が死から目を逸らしていいのかしら。私が言いたいのはそういう事よ」

比奈「……」

飛鳥「……それは」
75 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:09:11.53 ID:v+83LJnc0
時子「いいこと? 起こりうる全ての可能性に備えなさい。奴らは手段を選ばない。そしてそれはこちらも同じ事。なら、ランク戦でも同じでしょう。私達は『仲間に』勝つ為じゃない。『敵を』斃す為にやっているのよ」

藍子「……はい」シュン

時子「……ハァ。まぁ手段を選ぼうが選ぶまいが勝手だけど、そういう手段を取って来るネイバーに対して怯んでしまうような訓練をしていては救えるものも救えないわ。覚えておきなさい」クルッ

みく「……はいにゃ」

飛鳥「時子さん」

時子「何よ」

飛鳥「……ネイバーに襲われた友達のように……Pが死んだ所を想像して、取り乱してしまった。済ま……ごめんなさい」ペコリ

時子「……フン。あの豚はちょっとやそっとじゃやられない程度には躾けてあるわ。それにそもそもベイルアウトがあるでしょう。ほんの例えよ。それに藍子」

藍子「! はい」

時子「安心しなさい、志希はある程度気心の知れた相手にしかああいう戦法は取らないわ。それに試合の後は速水隊のメンバーがさりげなくフォローもしてる。だから今までも、変に関係が拗れた事は無いわ。もっとも志希本人は無意識で、人を選んでるつもりは無いようだけど」

藍子「そう、なんですか」ホッ

菜々「ふふっ、志希ちゃんはああ見えて寂しがり屋ですからね。友達は大切なんですよ」

時子「フン、そういう意味では志希も甘いわね。私は誰だろうと追い詰めるわよ。勝つ為にね。精神が未熟な小娘の為にわざわざフォローもしないわ」カツカツ…

比奈「……時子さん、人には人のペースってもんがあるんスよ。一足飛びに心が強くなる訳じゃない。この子達は元から強い子だからよかっただけっス。正論が全て正しいとは、アタシは思わないっス」

時子「……子供の成長を敵は待ってはくれないわ。この子達も一応戦力でしょう」カツカツ…

比奈「だからこそ、アタシら大人が強くあるんスよ」

時子「……フン、平行線ね」カツカツ…

比奈「そんな事ないっス、アタシ達は……」



比奈「………………」

76 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:09:55.01 ID:v+83LJnc0
みく「比奈チャン、あの……」

比奈「……志希ちゃんは、皆に備えて欲しいんスよ。『ネイバーはこういう事もやってくるよ』って。めちゃくちゃやってるから誤解されやすいけど、志希ちゃんはいい子っスからね。藍子ちゃんも知ってる通り」ニコ

藍子「はいっ♪」ニコッ

飛鳥「にしても恐ろしいな、A級ランク戦とは。志希程の才能の持ち主が、どんな手を使ってでも、という覚悟で全霊を賭して勝ちに来る。その貪欲さがなければ生き残れない……A級ランク戦とはまさしく暗黒郷(ディストピア)だな」

比奈「ま、相手の嫌がる手を打ち続けるのが勝負の鉄則っスからね。そういう意味では川島隊(ウチら)も中々やらしーっスよ?」ニヤ

菜々「ふふ、そうですね」ニコ

みく「あ、夕美チャンが動いたにゃ!」

飛鳥「……!? この動きは……」
77 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:10:37.92 ID:v+83LJnc0
少し遡り。夕美が思考の迷宮で右往左往していた時。

『……ちゃん。夕美ちゃん!』

夕美『…………あっ、えっ!? な、何? 美波ちゃん』

愛梨『夕美ちゃんっ。大丈夫ですか? ずっと静かだったので、少し気になっちゃって。勝手に繋いじゃいました』

夕美『あっ……』

美波の呼び掛けに意識が引き戻された夕美は、慌てて応答した。定期的に内部通信で情報のやり取りをしていた新田隊のメンバーの中で急に相槌すら打たなくなった夕美を心配した愛梨が、美波に夕美に話し掛けるように働きかけつつ、内部通信をメンバー全員に聞こえるようにしたのだ。

夕美『美波ちゃん、あのねっ──』

夕美は、志希に侮るような挑発を受けた事、それを見返そうと思っていた事、しかし志希が不穏な動きをしていて不安になった事、そのせいで自分がどうすればいいのか分からない事をできるだけ端的に伝えた。

答えはすぐに帰ってきた。

唯『だめだよ夕美ちゃん! 志希ちゃんの事ちゃんと信じて、ちゃんと疑わなきゃ!』

夕美『へぇっ? しんじて、うたがう?』

唯『えっとね〜つまりぃ……ん〜っ難しい! フィーリングで感じて☆』

夕美『えぇ〜?』
78 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:11:20.30 ID:v+83LJnc0
直感的な唯の言葉に首を傾げる夕美に、美波が付け加えた。

美波『夕美ちゃん、志希ちゃんは意味なくそういう言い方をするような子? 違うよね。なら、どういう目的で言ったと思う?』

文香『志希さんの向かう先に美波さんと唯さんがいます……。それと、客観的に見ても志希さんの戦闘力が夕美さんのそれを凌駕しているとは考え難いかと……』

美波と文香の言葉を必死に噛み砕き、意図を読み取る。

唯『てゆーかさ! 別に志希ちゃんの考えなんて分かんなくてもよくない? どーせ考えても誰も分かんないんだし』

美波『そうよ。作戦をどうにかしようとするのは「受けの思考」。つまり、戦術の引き出しが極めて多い志希ちゃん相手に後手に回る事になるわ。それはダメ』

文香『相手の出方が分からないのであれば、何もさせなければ良いのです……。夕美さんの得意を押し付ける「攻めの思考」……。こちらの土俵に引きずり込むのが最善かと……』

美波『でも勘違いしないでね、志希ちゃんに戦って勝てって意味じゃないわ。そんなに絶望的な状態でもないって事! 最後に一つだけ、視野は広くね!』

夕美「……うんっ」

当然美波も文香も暇ではない。端的にまとめられた夕美の報告で夕美の置かれた状況を完全に把握などできはしない。だからこそ手短に必要な事だけを伝え、後は夕美が自分で答えを出すのを信じた。

唯『頼りにしてるよ、エースさん♪』

夕美『任せてっ!』

夕美の力強い返事を聞くと、新田隊の三人は内部通信を切った。

夕美「(皆……ありがとう)」

愛梨『(……よかった〜)』

夕美「(……ありがとう、愛梨ちゃん)」
79 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:13:50.68 ID:v+83LJnc0
数年前。

愛梨は元々、高いトリオン能力を買われて戦闘員としてスカウトされていた。


「私が困っている人を助けられるなら」。そんな思いで、愛梨はスカウトを受けた。

適性検査では、シューターの適性が出た。愛梨のトリオン能力を十分に活かせるポジションだ。

しかし、愛梨が戦闘員として活躍するには重い枷となる問題があった。


人が撃てなかったのだ。


しかし、当時愛梨はそんな事は気にしていなかった。人は撃てずともトリオン兵は撃つ事が出来たし、なればこそ訓練にも真面目に取り組んだ。

成績こそ振るわなかったが、それでも愛梨は世のため人のためにと一生懸命に頑張った。


だが一部の心ないC級の隊員達は、押しに弱い愛梨に無理やり個人戦を申し込んでは「いいカモだ」と訓練や任務でコツコツ貯めたポイントを掻っ攫っていった。

愛梨のトリオン能力に対する嫉妬もあったのだろう。

優しい友人も当然いたが、訓練や任務がある為常に愛梨を守る事は出来ない。その者達は決まってその友人達がいない時を狙った。

ボーダーには、愛梨をガードしてくれる学校の友人はいなかった。


ある日、愛梨の心が挫けた。
80 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:15:38.23 ID:v+83LJnc0
美城司令に呼び出されていたPはその道すがら、廊下の隅っこで泣いている愛梨を見つけた。思わず駆け寄り、何があったのかと訊ねた。


愛梨は一部始終を話したが、心ないC級隊員達を悪し様に言ったりはしなかった。ただ、「自分が不甲斐ない、弱くてごめんなさい、撃てなくてごめんなさい」と繰り返した。

気付けなかったPは自責の念に駆られながら、堪らなくなって愛梨に訊ねた。

「ボーダーを辞めるか?」と。

記憶封印処理を上手く使えば、嫌な思い出も忘れられる。

優しい友人達の庇護の下に愛梨を逃がしてあげられる。

そう思っての発言だったが、愛梨は首を横に振った。

まだ私はここで何もしていない、こんなでも人の為に戦いたい、ボーダーの友人達を忘れたくない……と涙ながらにPに訴えた。

深くため息をついたPは、もう一呼吸おき、愛梨にオペレーターへの転向を勧めた。

「戦闘だけが戦う事じゃない」と。

愛梨は首を縦に振った。
81 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:20:08.22 ID:v+83LJnc0
まだ隊に所属していないオペレーターは、それまで本部所属という扱いになる。

そこでも、愛梨をよく思わない者はほんの一部だがいた。「自分は誇りを持ってやっている。オペレーターは落伍者の受け皿ではない」と。

しかし、もう愛梨は挫けなかった。

勉強し、努力し、少しずつだがオペレーターとして成長していった。

どれだけ頑張っても何も変わらないあの頃とは違う。愛梨は楽しさすら感じていた。

その頃には、愛梨を白い目で見るオペレーターはいなくなった。

数ヶ月後、愛梨がB級に上がった日の事。その日の内に、愛梨にC級時代の優しい友人達から隊結成の誘いが来た。


そうして出来たのが、新田隊だ。


曰く、「おめでとう、愛梨ちゃん」「愛梨ちゃんをイジメた子達のポイントはゆい達がぜ〜んぶ貰ってきたよ!」「これからは私達が愛梨ちゃんを守るからねっ!」「この日を、待ち望んでいました……」らしい。

当時の心ないC級隊員からは、「どうせ同情で誘っただけ」だの「優秀な新田美波も目は節穴だったか」だの陰口を叩かれた。

因みに、愛梨がB級に上がった時も彼らはまだC級隊員だった。


事実愛梨は、オペレーターとして特別優れている訳ではなかった。また5人隊のオペレーターは優秀な者でも難しいもの。しかし、愛梨は食らいついた。

新田隊の誰もが、そんなものを気に留めたりはしなかった。

ただ、前を向いていた。



結果、新田隊はA級に昇格した。


愛梨がいなければ、辿り着く事はなかっただろう。
82 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:24:54.00 ID:v+83LJnc0
そんな強い結束で結ばれた新田隊。夕美は、それに報いたいと願った。

夕美「(ふぅっ。いったん頭をからっぽにして考えてみよう……志希ちゃんは意味なくあんな言い方をする子じゃない。ならどうして? 私はああ言われて悔しかった。てことは志希ちゃんはそれが目的で……)」

夕美「(なら、挑発して私を誘き寄せることが目的? でもそれにしては安易に背を向けたりして無防備過ぎるんじゃ……いや、志希ちゃんのサイドエフェクトの『強化嗅覚』で感知出来るからあれだけ余裕だったのかも)」

夕美「(で、その余裕を見せる事で更に私の負けず嫌いを煽ったんだ! 最初に手ぶらで立ってたのもそういう事! もー、志希ちゃんほんといい性格してるよねっ)」プクー

夕美「(だったらこれは……罠! 志希ちゃんの向かう先には、多分私が不利になるような何かがあるんだ!)」

夕美「(じゃあ私がしちゃいけない事はこのまま志希ちゃんを追う事。するべき事は……離脱と合流! 何してくるか分からない志希ちゃんには付き合わない! 私達の強みは連携! 私一人じゃ不安なら、数の力で対応するんだ! この戦いは私1人じゃない!)」

夕美「(つまり、志希ちゃんの仲間としての心を信じる事! そして賢い志希ちゃんはその知識や技術を使って何か企んでると疑う事、だよねっ、唯ちゃん!)」

夕美「(そして、当初の作戦は……)」

夕美『いったん身を隠してから迂回ルートを取って美波ちゃん達に合流します! 愛梨ちゃん支援お願いっ!』

志希程ではないが、夕美もそこそこ頭が切れるようだ。

『『『了解!』』』

愛梨『了解ですっ。そこから北西に向かえば文香ちゃんの射程内に入るので安全だと思いますっ! ルート表示しますね! 文香ちゃん、南東から夕美ちゃんが来ますので援護狙撃の準備お願いしますっ!』

夕美の出した答えはシンプルだが、概ね最善に近い。抜けがあるとすれば、未だに心を認識出来ていない点だろう。

何重にも施されたトラップも、夕美が志希を追わなければどれも成立しない。だが志希が夕美を追えば、返り討ちに遭う可能性は高い。

「仲間」を信じる心が、夕美を正解へと導いた。
83 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:29:00.45 ID:v+83LJnc0
心「(あっ、夕美ちゃんが横に逸れた。志希ちゃんは方向そのまま。どっちを追いかけよっかな〜………)」

心「(ん? 待てよ? 志希ちゃんより強いはずの夕美ちゃんが志希ちゃんを追うのを諦めたって事は志希ちゃんがまたなんか『やってる』んじゃね?)」

心「(そして、志希ちゃんが向かう先にはちょっと方向ズレてるけど早苗さんがいる)」

心「(……よし)」

心は、狙いを志希の方に決めた。

もし心が夕美を追っていれば、夕美はその存在に気付かないまま奇襲を受けていただろう。

天は夕美に味方したようだ。



心「ってこんな所にスパイダーがばふっ!?」ズベシャ



志希「(ふーん、やるじゃん。流石、あたし達の『ライバル』だね。そう来なくっちゃ)」クスッ

夕美の臭いが遠ざかっていくのを感知した志希が、心の中で嬉しそうに呟いた。

志希は、とっくに夕美及び新田隊を認めている。



志希「あれ? 心さんの動きが止まった。何してんだろ」スンスン
84 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 00:32:46.47 ID:v+83LJnc0
今日はここまで。
このなんちゃって頭脳戦、ワールドトリガーよりどっちかと言うとハンターハンター寄りじゃね?と書きながら思ったり



二宮飛鳥のウワサ@教室に乱入して来た暴漢をトリガーオンして倒す妄想を授業中にしているらしい。



それでは、おやすみなさい
85 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 18:40:33.91 ID:v+83LJnc0
ありす『あっ、片桐隊長の所でも動きがありました!』


時は遡り。それは、早苗が茄子を取り逃してから数十秒後の事。

早苗「茄子ちゃんは逃がしちゃったわね……まぁいいわ、近場の倒しやすい子から倒していきましょ」

早苗「さて、誰から──ッ!」

ドンドンドンッ!

早苗がレーダーに目をやった直後、背後から直進するトリオン弾が早苗に放たれた。その音に反応した早苗は最小限の動きで躱しその弾の出処に向き直ったが、見えたのは風に流れる長い金髪が曲がり角に消えた所だった。

早苗「唯ちゃんね……っと!」

ヒュヒュンッ!

更に時間差で唯の方に振り返った早苗の後頭部に弾速の速い弾が数発撃ち込まれたが、早苗はそれを間一髪で回避した。

美波「(くっ、外した!)」ダッ

早苗「この早苗さんが二度も犯人を取り逃したりするもんですかっ! お姉さんに発砲しちゃう悪い子はタイホよタイホ! 神妙にお縄につけー!」ブゥン

早苗「(ある程度開けててスナイパーからの射線も切れてる。いい襲撃地点を選んだわね)」

美波「うぅ〜……!」

全力で退避しながら「美波は逮捕されるような悪い子じゃありません!」と心の中で返す美波をよそに、早苗は新田隊を内心褒めながらカメレオンを起動して透明化し、そのまま美波を追跡する。

早苗「(なら、射線の関係上文香ちゃんもそう遠くない距離に居るかもね。あたしに仕掛けてきたくらいだし、慎重な美波ちゃんの事だもの)」

戦況分析を進める早苗に対して、美波は早苗の襲撃に備え孤月の柄を握り締めた。
86 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 18:42:48.55 ID:v+83LJnc0
美波「(カメレオンを起動している間は無防備……! 落ち着いてレーダーや足跡を見れば、寄られる前に倒せ……足跡が消えてる!?)」

唯「美波ちゃんちょい上!空中!」

美波「えっ!?」バッ

反射的に顔を上げる美波。しかし────

早苗「『えっ』じゃないでしょ」ガッ

次の瞬間、美波は独りでに宙を舞っていた。

早苗「すぐに」グイッ!

早苗「動く!!」ズダァン!

早苗が姿を消してから一瞬の出来事だった。

気付いた時には美波は受け身すら取れず雪の上に仰向けに倒れ、早苗が美波の右手首を右足で踏み、左手首を左手で押さえ、鳩尾には左膝をめり込ませて完全に美波を押さえ込み、美波の首にスコーピオンの刃を振り下ろす所だった。

早苗「!!」バッ

美波は己の敗北を覚悟したが、すんでのところで早苗は飛び退き────

早苗「」ギュン

美波「っ!!」ギィン!

──ながら、スコーピオンを伸ばして美波が居る場に残し、そのまま薙いで美波の首を刎ねようとするが、美波の集中シールドにギリギリで阻まれた。

数瞬後に美波の体の上を唯の放ったトリオン弾が通過した。ギリギリで助けられた美波はバネのように跳ね起き、構えて早苗から距離を取った。

早苗「(判断早いしタイミング完璧。シールド間に合わなかったわ。唯ちゃん上手いわね)」

唯「あっぶな〜! 間に合わないかと思ったよ〜」

愛梨『唯ちゃんナイスですっ!』

唯「えへへ〜」

美波「……っ!」

安心する愛梨や唯とは裏腹に、美波は激しく戦慄していた。

美波「(……何も出来ずに、何も分からずに一瞬で倒される所だった。雪なんかで対策してつもりになってた。何もかもが甘かった……! これが早苗さん……!)」
87 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 18:44:34.68 ID:v+83LJnc0
早苗は姿を消す前、美波の視界の外になる高さの空中にグラスホッパーを複数設置していた。そしてカメレオンを起動・透明化し、跳躍。設置していたグラスホッパーを踏み美波の前に着地。

孤月を持っていた美波の右手を左手の甲で弾いて右手で美波の隊服の胸元を掴み、「片手で」背負い投げた。

美波が倒れたのを確認してカメレオンを解除し、スコーピオンで美波を刺そうとしたが唯により阻まれた……といった運びだ。

ありす『で、出ました! 片桐隊長の背負い投げ!』

茜『早苗さんが得意としている技ですね!! 身長が低い人にピッタリな技だと前に早苗さんから教えて貰いました!! 試しに私が未央ちゃんにやると何故か前方に数メートル投げ飛ばしちゃいましたけど!!』

真奈美『透明化した状態で接近戦を仕掛け、達人級の武術を用いて相手を無力化した後、カメレオンを解除して武器を出し倒す。これが片桐隊長の基本的な戦い方だ』
88 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 18:46:55.17 ID:v+83LJnc0
真奈美『カメレオンは透明になるという強力な効果があるが、反面他のトリガーと併用出来ないという難点がある。しかし片桐隊長は武術に精通しており、体そのものが武器のようなものだ。その上トリオン量も多い彼女にとって、カメレオンのデメリットなど無いに等しい』

茜『どんなに強くとも、敵の前で無防備に地面に転がされてしまってはどうしようもありませんからね!!』

ありす『なるほど……。いくら透明状態といえど武器もシールドもない状態で接近戦ができるのも、片桐隊長の格闘技経験から来る戦闘技術の賜物なんですね』

茜『ええ! しかし、格闘技の試合とトリガー使い同士の戦闘は違いますからね!!早苗さんは、武術で磨いた近接テクニックとボーダーに入隊してから磨いたトリオン体での戦闘のテクニックの両方を組み合わせて、独自の格闘術を編み出したらしいですよ!!』

ありす『……と、言いますと?』

茜『詳しい事はよく分かりません!! 真奈美さんお願いします!!』

真奈美『私も詳しい訳では無いが、そうだな……生身では出来ないアクション映画のような動きや技の掛け方でも、トリオン体の膂力なら出来るという事は多いだろう? また、格闘技の試合では気にしなくていい事もこちらでは警戒しなくてはならない。各種トリガー、多対多・一対多などの状況や地形、射撃・狙撃など色々な。それらに対応するノウハウを体系化し、『トリオン格闘術』としてまとめたのが片桐隊長という訳だ』

茜『早苗さんの一番弟子であり、空手の経験者である有香ちゃんはそのノウハウを受け継いでいると聞きます! もしかしたら夕美ちゃんも教わっているのかもしれません!!』

ありす『生身での戦闘技術をトリオン体の戦闘に応用した、という事ですか。確かに、それが可能ならカメレオンで透明化した武術の達人が襲いかかってくるというのは極めて厄介ですね』

真奈美『それもあるが……あの人はなんというか、喧嘩慣れしているんだ』

ありす『け、喧嘩慣れですか?』

真奈美『ふふっ、言い方が悪かったかな。言い換えるなら戦闘センスが抜けていると言うべきか。まぁ見ていれば分かるさ』
89 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:49:22.46 ID:v+83LJnc0
早苗と一定の距離を保つべく、美波はシュータートリガーのアステロイドを、唯はアサルトライフルからアステロイドを撃ち早苗を牽制していた。

早苗「(さて……どう攻めようかしらね)」ヒュヒュン

早苗が攻め方を考え始めた2秒後、心から内部通信が届いた。

心『そっちに志希ちゃん向かってる! バクワしてるから見えないけどはぁとからだいたい80〜100メートルくらいのとこ! 奇襲警戒してて!』

早苗『了解ありがと!』

早苗「すぅー……ふっ!」ピシィ!

報告を聴きつつも思考を続けていた早苗は短く返すと、美波達に対して構えをとった。美波達と距離のある今この状況ではさほど意味は無いが、美波達への威圧も兼ねてのいわゆるルーティーンの一種だ。

美波「すーっ……ふーっ……(このままじゃ埒が明かない……何かしないと……!)」ドドドッ

唯「美波ちゃんリラックス!」タタタンッ

早苗「決めた! 美波ちゃんから倒そうかしら。次に唯ちゃんね」ブゥン…

早苗は、2人のうちより揺さぶりが効きそうな美波をターゲットにした。

美波唯「「!!」」

早苗が再び姿を消す。

唯『あれはあれだよ! じゃんけんで今からチョキ出すから〜みたいなのとおんなじやつ!』

美波『分かってる!』

内部通信で唯が喚起したように、二人ともただの揺さぶりだと分かっている。マイペースな唯は気にせず聞き流す事が出来たが、美波は夕美と同じだった。軽い揺さぶりに緊張と不安が上乗せされ、どうしても動きが少し固くなる。

あんなにもあっさりと、さも当然の事のように勝利宣言をされてしまっては。
90 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:50:51.99 ID:v+83LJnc0
ありす『しかし、片桐隊長はあれだけカメレオンを連発して大丈夫なのでしょうか? バックワームも頻繁に付け外ししてますし……。カメレオンの弱点の1つに、トリオンの消費が比較的大きい点がありますが』

真奈美『彼女はトリオン量が向井隊長並に多い。片桐隊長は高速で飛び回りながらカメレオンとバックワームを高速で切り替えて相手の目を欺き、グラスホッパーで高い機動力を更に補強し攻める戦法を好む。これは「トリオンの多いアタッカー」でなければ成立しない』

茜『トリオン量の恩恵を受けにくいアタッカーですが、早苗さんのような戦い方ならそれも十二分に活かせます!!』

ありす『なるほど……。しかし、それならもっと直接的にトリオン量の恩恵を受けられるシュータートリガーのアステロイドかハウンドでも入れたらいいのに、と思ってしまうのですが……。片桐隊長はトリオンが多いんですから、限界の8枠パンパンにトリガーを入れてもデメリットはさほどないのでは……?』オズオズ…

真奈美『ふふ、そんな自信なさげな顔をするな。その考え方は基本的には正しいよ』ポフ

ありす『……! は、はいっ』

茜『シューターである拓海さんも同じ事を早苗さんに聞いているのを見ましたが、早苗さん曰く「余計なトリガーを入れるととっさの判断が鈍るのよ」だそうです。その意見には私もその場で同意しました!!』

ありす『それは、どういう……?』

真奈美『これはもしかするとアタッカーの我々にしか分からない感覚かも知れないが、アタッカーは至近距離で相手とやり合う分行動選択に費やせる時間がシューター・ガンナー・スナイパーに比べて非常に短い。だからこそ採れる選択肢は可能な限り絞りたい』

ありす『……? 思考時間が短かろうと、選択肢は多い方がいいと思うのですが』

茜『ありすちゃんは出された問題に1秒で答えろと言われた時、2択と3択どっちが「迷わずに」「素早く」答えられますか?』

ありす『……!』ハッ
91 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:51:48.09 ID:v+83LJnc0
真奈美『日野隊員、いい例えだ。アタッカー……近接戦闘は0コンマ1秒の世界。一瞬の迷いが命取りになる』

ありす『……』

真奈美『もちろん君の言う通り、片桐隊長が機械のように常に最善の選択をし、アステロイドを入れても迷いなく、今までと同じような無駄のない動きが出来るならそれに越した事はない。入れない理由がないだろう。しかし実際は違う。片桐隊長がいくら怪物染みた強さだろうが紛れもない人間であり、得意不得意がある。当然ミスもする』

茜『ですね! ぶっちゃけ早苗さんは射撃戦が得意ではありません! それに早苗さんがアステロイドで出来る事は、大体雫ちゃんがやっている事ですからね!!』

ありす『なるほど……』

真奈美『まぁ、トリオンの多い片桐隊長がシュータートリガーを使うのは間違いなく「強い手」だ。だが強いからこそ、それを選ばずにスコーピオンを選択した時に「今はアステロイドの方がよかったんじゃないか?」という思考が頭をよぎる。それにより──』

真奈美はここで少し溜めたかと思うと、少し眉根を寄せて声のトーンを一段低くした。

真奈美『──刃を振るう瞬間、相手に全て注がれるはずの集中に僅かな雑念が混じる。それが刃を鈍らせる。そして……』

茜『その僅かな差が勝負を分けるんです』

茜にしては珍しく、真面目で普通の声量だった。それは紛れもなく、戦う女の顔だった。
92 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:52:19.95 ID:v+83LJnc0
飛鳥「……ボクの認識が間違っていたよ。キミの所の茜はこと戦闘に関しては中々に造詣が深いようだ。キミのチームメイトへの無礼な認識を詫びよう」フフッ

藍子「ふふ、そうでしょう♪」ニコニコ

飛鳥「キミの隊と試合をした時は、いつも彼女は猪のように無策で突っ込んでくるだけだから……つい先入観がね」クス

藍子「……一応無策ではないんです。茜ちゃんも、ちゃんと頭では理解してくれているんですけど、その……本能には逆らえないみたいで……あはは」タラー

飛鳥「それは……なんというか、難儀なタチだな」タラー

藍子「本当に……」

飛鳥「では、同じ本田隊の裕子も地頭は悪くないが、根源的欲求たる戦闘本能という茜と同じ業(カルマ)を背負っていたのか。フフッ、どうやらボクの見えているセカイは思ったより、虚構が占める割合が多いようだ」

藍子「あ、いえ、あの、ユッコちゃんは……」

飛鳥「……?」

藍子「見たままの認識で、合ってます……」カァ…

飛鳥「……」

藍子「……」

飛鳥「……ごめん」

藍子「……いえ」
93 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:53:14.93 ID:v+83LJnc0
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94 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:54:15.55 ID:v+83LJnc0
──司令室──

美城「──大体君は部下の管理がなっていなさすぎる。あの宮本と塩見など気まぐれに私の家に入り浸って冷蔵庫の中身を食い漁り、一ノ瀬に至っては私のベッドで昼寝する始末。ここが自宅だと言わんばかりに我が物顔でくつろいでいる有様だ」

P「ええっ!? あいつら……すみません、すみません……! 私も普段から言って聞かせているのですが、なにぶん聞く耳を持たず……」ペコペコ

裕子「(ああ、私のせいでPさんが美城司令にお説教を……! しかもこれは年配の方特有の段々と話が脱線していって長時間コースにやるパターンのやつ……! ここは私のサイキックでなんとかしなければ! ムムムーン!)」

美城「それは君が彼女達に甘いからだろう。表面上厳しく取り繕うことになんの意味がある。……いいか、何も辛く当たれと言っているのではない。上に立つ者なら最低限威厳を持てという事だ。こんな事では有事の際に君の指示に素直に従うとも限らない。人々を守る立場の我々がそれでいいと思うのか?」

P「全くもっておっしゃる通りで返す言葉もありません……本っ当に申し訳ありません……今後改善に努めますので……」フカブカ

裕子「!」ピキーン!

裕子「ふぇっくしゅん!(ビチャ) ムムッ、エスパーユッコのサイキックパワーがどこかで私の噂を感知しましたよ!! ムムムーン!」

美城「………………」ビチャア

裕子「あ」

P「あっ……」サアーッ…
95 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 19:54:42.27 ID:v+83LJnc0
美城「……ほう? ではそのサイキックパワーとやらで君が真っ二つに切り裂いた私の愛車を直して貰おうか。去年買い替えたばかりの私の愛車を。まだローンが残っている私の愛車を。ついでに私の顔面にくしゃみを掛けた理由もぜひお聞かせ願いたい」ゴゴゴゴゴ…

裕子「す、すみません! 今すぐ拭きますから! 私、常にハンカチを持ってるんです!」ゴシゴシ

美城「」メイク グチャグチャ

裕子「あ゙っ」

P「(ユッコの意外な女子力の高さが仇に……。い、胃が……すみませんもう無理です)」キリキリ

P「じゃ、じゃあ私は実働部隊のトップとして保有戦力の把握の為に新田隊のデビュー戦の観戦をしないといけませんのでこの辺で……」ソローリ…

美城「待ちたまえ」ガシッ

P「ひっ」ビクッ

美城「堀隊員は当然として……上司である君の管理責任だ。そして君の上司である私も上司として責任を取り……」

美城「部下の教育に努めるとしようか」ゴゴゴゴゴ

ヒイィィィィィィィ…!!! キャアァァァッ!!!
96 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:03:56.30 ID:v+83LJnc0
美波「ハウンド!」

美波は姿を消した早苗を炙り出す為に、トリオン誘導のハウンドをやや低速で広範囲に射出した。カメレオン対策の基本を押さえた戦法だ。

早苗「(甘いわね! こちとらそのくらいの対策、飽きる程見たってのよ)」ヴォン

それを見た早苗は姿を表すとハウンドをシールドで防いだ。そして右手を背後に隠し、左手にクナイのような形状のスコーピオンを五指の間に挟むように四つ生成した。

美波「!?」

美波は戸惑った。あの右手は何なのか? あのクナイ型のスコーピオンはこちらに投擲してくるのか? あれは早苗の体から切り離された変形しないスコーピオンなのか?

そして同時に焦っていた。早苗と対面して初めて分かる。彼女は作戦の決定、トリガー選択、そして動きそのもの──一つ一つの動作が淀みなく切れ目なく、かつ速すぎる。

対処が追いつかない。


早苗は自分と美波達の間にある雪面にクナイ型スコーピオンを等間隔で投擲した。

美波「な、何が起こったの……!?」

早苗は雪の中にグラスホッパーを埋める形で設置、その後スコーピオンをそれぞれに当ててグラスホッパーを起動しスコーピオンを反射させ、垂直に打ち上げた。

美波「(……!? 何を……?)」ズザッ

上を見上げ構える美波と唯。

しかし何も起こらない。
97 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:04:27.88 ID:v+83LJnc0
美波「──しまっ」

美波は一瞬後にブラフと気付いたが、もう既に早苗は次の行動に移っていた。

早苗「芸術は」キィン



早苗「爆発よっ!」ボォン!

雪の爆発。

唯「ひゃあぁ!?」

美波「きゃっ!?」

早苗は右足の爪先からスコーピオンを薄く広い板状に展開し積もる雪の下に滑り込ませ、その足元にグラスホッパーを発生させ起動、広範囲の雪を跳ね上げたのだ。

余った勢いは左足から錨のように地面に縫い付けたスコーピオンで相殺した。

向こうが見えないほど濃い雪のカーテンが早苗を覆い隠している間に、早苗は一瞬にして美波達の視界から消えた。




美波達は早苗を見失った。
98 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:05:35.01 ID:v+83LJnc0
美波「(あれ自体に威力はない。目くらまし? だとしたらどこかの遮蔽物の後ろに……)」

唯「アステロイド!」

思案を巡らせながら顔を腕で庇う美波の横で、唯が舞う雪を貫くアステロイドを四方八方に放った。

バゴッ キキン!


前方斜め左にある黒のワンボックスカーを唯のアステロイドが貫いた直後、金属音の様な乾いた音が響いた。

美波「(そんな、あの一瞬でもうあんな位置に!?)」

唯「(今シールドの音した! じゃあカメレオンは使ってない! それにバックワーム使っててレーダーには映らないから……)」

愛梨『ひだ』

唯「美波ちゃん!」

美波「ハウンド!」

愛梨『りから』

ほぼ同時に発された3人の声。

唯と同じ結論に至った美波は、トリオンを感知して追尾する誘導弾を放った。

愛梨『来てます!』

美波唯「「!!」」

美波の意図しない、左斜め後ろにいた唯の方に向かって。

愛梨がレーダーに映る光点を認識し、美波達が愛梨のアラートを聞き、それを2人の脳が認識した時にはもう遅い。

早苗の速さの前では、オペレーターの警戒喚起も意味を成さない。
99 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:09:27.62 ID:v+83LJnc0
早苗「(だから飽きる程見たっての。トリオン誘導でしょ)」

敵を追尾するトリガー、ハウンド。その追尾の仕方には2種類あり、使用者の視線の先に向かっていく視線誘導と近くのトリオン反応を感知し追尾するトリオン誘導がある。

透明化している相手に撃つのがどちらかは言うまでもない。

唯「わっ!?」

美波の前方に放たれたハウンドは、大きく弧を描きながら唯に吸い込まれていく。

美波「唯ちゃん!? 防いで!」

早苗は美波がハウンドを放つ前からそれを予測し、美波と自分で唯を挟む位置に移動。美波がハウンドを放ちそれが唯へと向かったのを確認するとバックワームを解除しカメレオンを起動、唯との距離を一気に詰める。

不意を突かれた唯は美波のハウンドを躱す事が出来ず、シールドで防いだ。当然その背後を取っている早苗にとっては隙だらけだ。

唯「きゃ!?」ブォン

早苗「(いっちょ上がり!)」

美波と同じように透明化されたまま綺麗に腰で投げられ、唯は地に伏した。透明化を解除しスコーピオンを構える早苗だったが、その背後を覚悟の決まった顔の美波が取っていた。その周囲には2?、8個のアステロイドがふわふわと周回している。

唯「ゆいごとやって!」ガッ!

早苗「!」グラッ

唯はそれを見て叫びつつ、倒れたままの状態で早苗の足を蹴った。

唯はこんな所で、こんな形で脱落するのは不本意だった。しかし、「早苗さんとゆいのトレードならおつりであと2,3人ゆいが買えるくらいだよね!」とも考えていた。
100 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:11:43.18 ID:v+83LJnc0
早苗「(それじゃ崩せないわ)」スッ…

しかし早苗はすぐに蹴られた足を浮かせ、膝下の力を抜いて唯の蹴りをいなし、踏み込み直す──

美波「アステロイド!!」ギュン!

──までの一瞬の隙を突き、美波はアステロイドを放った。

早苗「(あのアステロイド、相当威力と弾速にトリオンが割り振られてる! 分割数が少ないから!? ヤバい!)」

早苗はアステロイドが放たれた瞬間、美波のアステロイドの性質を見抜いた。

片足が浮いていてすぐに回避行動が取れない。かといって、背中を向けた状態で正確にかなりの威力・速度のアステロイド群全てを防ぐ大きさ・位置のシールドをこの一瞬で生成出来る自信はなく、万一防げたとしても正面の唯に対して無防備になる。

早苗「(これしかない……!)」

早苗は咄嗟に踏み込み直そうとする足の下に真横に飛ぶような角度で設置、それを踏んだ早苗はきりもみ状態で思いっ切り吹っ飛ばされた。

早苗「(危なかった……! けど美波ちゃんとあたしの直線上にいた唯ちゃんはここで──)」

唯「……っ」

唯も、早苗が離脱したのを見て無念のままに脱落する事を覚悟した──

フッ

唯「……きえた? ゆい生きてる?」


──が、アステロイドは唯の目の前で消失していた。唯は目を見開き、ぱちくりと瞬きをした。

美波「唯ちゃんすぐ立って!」

唯「う、うん!」バッ!
101 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:17:32.28 ID:v+83LJnc0
>>99
訂正
2?、8個のアステロイド ?
2の3乗、8個のアステロイド 〇

立方体のトリオンキューブを縦横高さで綺麗に8分割したと考えてもらえればOKです
102 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:18:24.95 ID:v+83LJnc0
茜『ややっ!!? あれはPさんの技では!?』

真奈美『新田隊長はアステロイドのトリオンを威力と弾速に大きく割り振り、射程に使うトリオンを極少にしながら調整する事で、「片桐隊長には当たるがその直線上にいる大槻隊員には当たらない、絶妙な射程距離のアステロイド」を撃った。日野隊員が言うようにP本部長が得意としている技だが、新田隊長が行った今のは少し違う』

真奈美『P本部長のは射程の分のトリオンを限界まで節約する事で、弾速と威力を出来る限り大きくして「接近戦専用のアステロイド」を展開しアタッカーとしての立ち回りを強くする事が目的だ。つまり「相手に当たればいい」』

真奈美『だが、今の新田隊長のは「相手に当てつつ味方に当てない」という超高度で精密なトリオンコントロールを要した。しかもあの土壇場でだ』

ありす『つ、つまり新田隊長は、あのP本部長よりもすごい事をした、という訳ですか?』キラキラ

真奈美『P本部長はそもそもの使い方や立ち回りが違うが、それもまた超人の域で新田隊長のそれとは別種の難しさだ。一概には言えないな』

ありす『そ、そうですか』

真奈美『しかし、あれだけ繊細なトリオンコントロールが出来るシューターはボーダーには川島隊長と速水隊長くらいしか居ないと思っていたが……いや、驚いたよ』

ありす『ですよね! 友紀さんは強いけど大雑把ですし! ……あ、こほん』
103 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:19:14.98 ID:v+83LJnc0
みく「そうなの? 飛鳥チャン、比奈チャン」

飛鳥「うーん……いや、違うんじゃないかな。川島さんはトリオン割り振りの精度に関しては上の下程度だと思う。トップレベルではあるが最上位レベルではない……あぁいや、済まない。比奈さんの隊長を悪く言ったつもりは無いんだ」

比奈「いえいえ。飛鳥ちゃんの言う通り、川島さんは違いまスよ。自分とこの隊長だから分かりまスけど、あの人は確かに一流のシューターですけど奏ちゃんほど微細なトリオンコントロールに秀でてはいないっス。木場さんも流石にシューター界隈の事は詳しくないみたいっスね」

みく「え、そうなの? でも川島さん、奏チャンの師匠なんでしょ?」

比奈「奏ちゃんなんてもう免許皆伝、とっくに暖簾分けしてるッスよ」

みく「じゃあ、奏チャンは師匠の川島さんを超えちゃったって事かにゃ?」

比奈「それもまた否ッスよ。2人の強みはそれぞれ別っス。ウチの隊長は『読み』の力が凄いんス。敵の動きを予測して先読みし、そこにバイパーを置いとくんスよ。どうやってるのかは分からないっスけど大体読みは当たってるっス」

みく「……A級って、人間やめてる人ばっかだよね」トオイメ

比奈「A級の中にもアタシみたいに凡人はいますし、B級の中にも怪物は沢山いるっスよ」
104 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:20:25.41 ID:v+83LJnc0
美波は孤月を手に走り出していた。唯も慌てて立ち上がり、美波に続く。

早苗「(ふふ、凄いじゃない)」

グラスホッパーで吹っ飛ばされている最中、早苗はその様子を目の端で捉え、素直に心の中で賞賛していた。

早苗「よっと」ババッ ズザザ

美波「ハウンド!」

唯「アステロイド!」

早苗は両手を地面に付けて体を跳ね上げ、バック転の要領で綺麗に受身を取ったものの、足元が安定しない中ブレーキをかけて体勢を崩したこのチャンスを見逃す訳にはいかない。美波は一気に畳み掛ける。

唯もそれに続き、突撃銃を二丁構えて渾身のアステロイドを放つ。

早苗「(またまたいいタイミングね。避けらんないわ)」

早苗はフルガードせず、敢えて一枚のシールドで防いだ。美波と唯はアタッカートリガーも持っているオールラウンダーなので、シールドを張ったまま動かずにいると二対一の状態で撃たれながら寄られてジリ貧になる。その状態で対処出来ると考える程油断出来る相手ではない。

そう考えた早苗は、シールド一枚で射撃をある程度受けたあと美波達と距離がある内にシールドを解除して距離を取り、一旦仕切り直そうとした。

ガキキキン! …パキ

早苗のシールドが美波達のトリオン弾を受け、ヒビが入る。それを確認した早苗が、美波達の張る弾幕の僅かな切れ目を見切りシールドを解除する──

早苗「ッ!」

と同時に遠方から狙撃されるが、なんとか回避し弾丸は首の根本の右、僧帽筋がある辺りを穿いた。
105 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:21:17.08 ID:v+83LJnc0
──250m西──

文香「……掠った程度ですか」

文香は、持ち前の忍耐力と一度本を読み始めると何をされようが動じない集中力を発揮し、ひたすら機を窺っていた。美波や唯が倒されそうな時もずっと耐え忍び、早苗を狙撃出来る絶好のチャンス、その一点のみを考え狙っていた。

今の狙撃は渾身の一発だった。

──それを、外した。

文香「(……狙撃位置を変えましょう)」

だが、文香はすぐに切り替えていた。文香は我慢強い子だ。

文香「(……次は、必ず)」メラメラ…!

それと同時に、意外と負けず嫌いな子でもあった。
106 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/13(月) 22:22:14.56 ID:v+83LJnc0
早苗「3対1は流石にキツいわね……」


誰に言うともない早苗の呟きを、鼻の利く彼女は聞いていた。


ギィン!




志希「ざんね〜ん、3対1対1でーす♪」
107 : ◆AXT/uuswxI [sage]:2020/04/13(月) 22:28:05.43 ID:v+83LJnc0
今日はここまで。

戦闘描写を分かりやすく書くのは難しいですね。逆に解説パートはどうしてもクドくなってしまいます



今日のウワサA戦えるオペレーターは、志希と奏以外にもいるらしい。


それでは、おやすみなさい
108 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:17:57.56 ID:VpKPXEPs0
志希の得意とするバックワームでの奇襲。両手にスコーピオンを持ち、早苗に斬りつけた。だが、当然と言うべきか早苗のスコーピオンに防がれ、鍔迫り合いのような形になる。

早苗「(やけにバカ正直に突っ込んで来るわね……)」

志希「」ニタァ スンスン

志希は不敵に笑いながら、何かの臭いをかいでいる。

早苗「(って、またどーせ何か企んでるんでしょうけど)」ギチチ

志希「ごー」ギギギ

早苗「何もさせないわよ」フッ

早苗は不意にスコーピオンを消し急に力を抜くと、志希の手首を掴んで転がるように後ろへと倒れ込んだ。志希は鍔迫り合っていた時の勢いのまま早苗の方へよろけた。

早苗「んッ!」ドッ!

そのまま巴投げをすると思いきや、跳ね起きをする前の姿勢のように両手を顔の横の地面に着け膝を胸元に引き付けて腰を浮かせ、そのままバネのように全身を伸ばして志希を蹴り上げた。

早苗は足の裏にスコーピオンを仕込もうとも考えたが、志希が蹴られるであろう腹にピンポイントで集中シールドを張っていたので諦め、シールドごと蹴り飛ばす。

志希「よん」ヒュヒュッ

志希は何かを投げるような動作をした。体から切り離したスコーピオンだ。
109 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:18:41.85 ID:VpKPXEPs0
早苗「(カウントダウン? ……いや、いつもの心理トラップね。気にした時点で志希ちゃんの術中だわ)」

入隊前から、もっと言えば学生時代から百戦錬磨の早苗は弟子の夕美とは違い、志希の意味深なカウントダウンを思考の外に完全に追いやり、目の前の志希に全集中する。

ザク ザクッ

蹴り上げられて体勢を崩したせいか、志希がイタチの最後っ屁の如く投げたスコーピオンの刃はあらぬ方向に飛び、早苗の斜め後方の左右に刺さった。

早苗「終わりよ」パッ

志希「ありゃ」ズダンッ

早苗は蹴り上げた先にグラスホッパーを下向きに設置した。それに触れた志希は勢いよく真下に弾かれ、ぐしゃっと地面に叩きつけられた。早苗は志希が地面に叩きつけられる前から、着地するであろう位置に向かって刃を走らせていた。

その首を狙いスコーピオンを振り下ろす早苗。だが──

志希「さん」

それまで楽しげな表情だった志希の眼が突然肉食獣のような獰猛な光を放ち、ペロリと妖しげに舌なめずりをした。

志希「──『韋駄天』」

韋駄天は、あらかじめ設定した軌道で高速移動出来る、言わば人間バイパーのようなトリガーだ。

志希が突然弾丸のように高速移動し、早苗を全方位から攻撃しながら飛び回った。

ギンギギギギン!

早苗はトリガーを変えている暇はないと判断し、スコーピオンのみで志希の超連撃をしのぎ切った。だが──

早苗「ぐッ!」ミリリ…

早苗はワイヤーに四肢を拘束されていた。
110 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:19:29.35 ID:VpKPXEPs0
なんと、志希は空中に蹴り上げられた時に苦し紛れのように投げたスコーピオンにスパイダーを括りつけており、その反対側は韋駄天の連撃に使ったスコーピオンに繋がっていた。

言わば、紐が長い刃型のヌンチャクのような形状だ。

最初に投げたスパイダー付きスコーピオンは地面に突き刺さりしっかりと固定されているので、後は志希が早苗の周りを計算された軌道で飛び回れば早苗は拘束されるといった寸法だ。

韋駄天からのスコーピオンの超連撃で倒せるならよし。失敗しても拘束出来ればよしの二段構えの作戦だ。

早苗「(それにこのスパイダー、雪に紛れるように白色に設定してある。きっと即興よね。抜け目ないわね)」

志希「にー」ヒュッ

早苗「まだよ!」ユル… ガキッ

今がチャンスとばかりに早苗の首に斬り掛かる志希だが、一瞬で拘束から脱出した早苗のスコーピオンに阻まれた。

早苗はワイヤーが体に触れ己が攻撃されながらスパイダーで拘束されていると悟った瞬間、早苗は全身に力を込めてトリオン体の筋肉に当たる部分を膨張させていた。

そして拘束後力を緩め、動くようになった手にスコーピオンを発生させ、全身を撫でるように刃を走らせ拘束を解いた。

警察官時代に学んだ縄抜けの術(すべ)は、ここでも活かされている。
111 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:20:18.12 ID:VpKPXEPs0
早苗「今度こそ──」

志希「いち」バッ!

何を思ったか、志希はおもむろに後方に高くジャンプした。

まるで、何かに巻き込まれるのを避けるかのように。

その志希と入れ替わるように、何本ものトリオン弾が早苗に直進する。

早苗「(ここでアステロイド!? てことは美嘉ちゃん!? ヤバ……!)」

志希「……アステロイド♪」

その光の筋は、急に弾道を不規則に変え始めた。

早苗「……バイパーじゃない! んもう!」

志希「にゃは♪」ニヤ

早苗「(カウントダウンはこれの布石だったのね……!)」

志希の心理トラップだと断じて切り捨てたカウントダウンはバイパーが到着するまでの時間だった。そう理解した早苗は、ここまでの自分の動き、果てはここに至るまでの秒数までが志希の手のひらの上だった事に戦慄した。

カウントダウンが決まった所で何がある訳でもない。だが、純粋な戦闘力では圧倒的に勝っている志希に、自分の土俵である筈のアタッカーの間合いで全てを読み切られた。余裕綽々で遊び心を見せられた。この事実が早苗の思考を一瞬支配し、0コンマ数秒間早苗の動きを止めた。

早苗に安い挑発は効かない。それは今までに何十戦とやったランク戦で分かり切っている。

にも関わらず、志希は敢えて早苗の精神に揺さぶりを掛けた。「一流のアタッカー相手に、その間合いを維持しつつカウントダウンを成功させる」という超高難度かつ回りくどいやり方を通し、歴戦の猛者たる早苗を動揺させた。



──早苗もまた、志希の心理トラップからは逃れられなかった。
112 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:21:15.40 ID:VpKPXEPs0
二段構えの作戦──ではなかった。あの韋駄天も拘束も、早苗をバイパーの終着点とした定位置から動かさないようにする為のもの。

志希は早苗に斬り掛かる前に、時間差で到着するようにバイパーを仕込んでいた。

早苗「くぉんのぉ……!(この子ったら何手先を読んでるのよ!)」

普段なら声に出して素直に賞賛していたのだが、この時ばかりはそんな余裕は無かった。

早苗は褒め半分苛立ち半分の心境でシールドを張る。ほぼ全方位から攻撃する弾道に設定しているので、早苗は半球状のシールドを張らざるを得なかった。

奏『完璧なタイミングね──』

リアルタイム弾道引きバイパー使いの奏も、内部通信で賞賛を送った。それもそのはず。

奏『──我ながら♪』

弾道を引き、タイミングを指示したのはオペレーターである奏だ。志希は視界に表示された弾道をなぞっただけ。


全トリガーを巧みに使いこなす志希は当然バイパーも人並み以上に扱えるが、流石の志希もリアルタイムで弾道を引く事は不可能だ。

だが、志希には相手に「あれ程なんでも出来るのなら、あるいは弾道引きも出来るのでは?」と思わせる「スゴ味」があるのだ。

志希「ぜろ」キィン

志希は既に「黒い」トリオンキューブを四角錐の形に3等分し、展開していた。

志希「『鉛弾(レッドバレット)』」ビギュン

鉛弾はシールドを透過する。

早苗「やられた──」ガキン!

3本のバイパーに乗せた鉛弾が、半球シールドを張っていた早苗の右上腕部と左側腹部に突き刺さり、錘を発生させた。残りの1本はなんとか紙一重で避けた。

カウントダウンは1で終わりと誰が言ったのか。早苗は志希を見誤っていた。

そう、志希の作戦は二段構えではない。四段構え──

「ぼんじゅーる♪」

でもなかった。
113 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:24:07.02 ID:VpKPXEPs0
フレデリカ「ぼんじゅーる♪」

早苗の正面斜め上5メートルの空中に、フレデリカが突然現れた。目線の先数10メートル程度の距離の瞬間移動が可能なトリガー、テレポーターを使ったのだ。

志希「あー楽し♪ トリップしちゃいそー……♪」ゾクゾク

──そう、五段構え。これが「早苗とのワンセット」における志希の作戦の全容だ。


フレデリカ「『旋空弧月』」ヒュッ

孤月専用オプショントリガーの旋空による拡張斬撃が早苗の首に迫る。

早苗「(やば、重りの付いたこの体じゃフレちゃんには対応出来ない……殺られる──)」

「んぎぃ!」ヒュッ

ガキッ!

旋空同士がぶつかり合う。

心「ふぃー。うっし、間に合ったぜ姐さん☆」キラン

志希「(はぁとさん? あれ? なら夕美ちゃんは?)」

早苗「ちょっと何カッコ付けてんのよ! 5秒遅いっての!」

雫『私も助けて貰えませんでしたしねー』

紗南『しかもんぎぃ!って。全然スウィーティーじゃないじゃん』

心「いじわる〜い仕掛け方のワイヤートラップに引っかかってたの!! なにさはぁとだって必死に頑張ってるもん!! 泣くぞ!?」ナミダメ

志希「あっそれあたしが仕掛けた〜♪」

心「やっぱりお前か! 覚えとけコンニャロー☆」
114 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:24:56.65 ID:VpKPXEPs0
事実、雫を助けるべく直線経路で屋根の上を全速力で走っていた為、致命傷は何とか回避したものの何度も周子に狙撃されている。

周子は何やら忙しそうな心を見て反撃はないと悟り、嬉々として心を撃ちまくっていた。お陰で心は四肢の欠損こそ無いが、所々輪郭が欠けてしまっていた。ツインテも片方無い。

前述の通り、心はこういう役回りが多い。

心「さてと! どーする姐御? 錘ついてるけど」

早苗「もちろん」ザシュッ プシュー!

早苗はおもむろに左手を振ったかと思うと、錘が右腕ごと落ち左の脇腹の錘も落とし、そこからトリオン漏出を示す煙が勢いよく噴出していた。早苗はすぐにスコーピオンを左脇腹から出して薄く延ばし、傷口を覆って漏出を防いだ。

早苗「こうするわよ」

心「わお。流石の即断即決っすね」

早苗「当たり前じゃない。あのフレちゃん相手じゃこんな重いの付けてるあたしなんてなんの役にも立ちゃしないわ」

早苗「さぁ」


早苗「短期決戦よ!」ドン!

早苗のトリオン体の頭の中に、システムアラートが響いた。

『警告:トリオン漏出甚大』
115 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 19:26:01.53 ID:VpKPXEPs0
一旦ここまで
116 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:04:44.63 ID:VpKPXEPs0
──観戦ルーム──

ありす『えー、状況を整理すると、新田隊長と大槻隊員が片桐隊長の体勢を崩した所に一ノ瀬隊員が奇襲、その知謀策謀により片桐隊長にレッドバレットの重りを付けて追い詰めた所を宮本隊員が更に奇襲、そこを佐藤隊員が止めた形になりますが……えー……』

シーン…

ありす『一瞬で色んな事が……。ええと……あまりの出来事に、観客席の皆さんも言葉を失い、静まり返っています。私も、その……』チラ

茜『……』プルプル

ありす『……茜さん?』

真奈美『』スッ ←耳を塞ぐ

茜『志希ちゃん!!! 素晴らしいです!!!!!』キーン!

ありす『うっ』グワングワン

茜『あの!! 早苗さんにっ!! 対してっ!! 先の先のそのまた先のもっと先を読むかのようなとてもすごい戦略モコモゴ』

真奈美『声が大きい』ギュムー

茜『ふみまへん!!』

ありす『……』カチッ ←茜のマイクを切る音

真奈美『……一ノ瀬隊員だが、彼女はこういう戦い方を好む。その場の思いつきで適当にいくつもの布石をばら撒き、使えると思った時に使う』

茜「あと、何か変わった作戦を使う時には必ず手堅い作戦を裏に控えて、失敗するリスクのケアをしている印象ですね!!」

真奈美『もちろんそんな事はA級部隊やB級上位部隊なら当たり前にやっている事だが、それは事前にチーム全員で時間をかけて話し合いを行って練り上げたり、自分のチームの得意なセットアップを想定しパターン化する』

真奈美『翻って志希はそれをその場のアドリブでたった一人で思いつき、より高い質の作戦を練り上げる』

ありす『ひえぇ……』

茜「志希ちゃんとそうですが、凄いのは速水隊の他のメンバーも志希ちゃんのアドリブ作戦に対応し、キッチリと連携を決めてくる所です! まさに阿吽の呼吸!! いやー、惚れ惚れします!!!」

真奈美『新田隊も、少し緊張気味だがあの片桐隊長を相手にしながらも動きは悪くないし、全員なんとか無傷だ。さて……』

真奈美『役者は揃った。ここから一気に試合が動くぞ』
117 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:05:33.18 ID:VpKPXEPs0
フレデリカ達に向かって走りながら、早苗は紗南に内部通信で指示を飛ばす。今や敵とぶつかるまでの数秒も無駄には出来ない。

ここで、早苗はあるアイデアを思い付いた。

早苗『そうだ、紗南ちゃん、あたしがトリオン切れでベイルアウトするまでの秒数を視界に表示できる?』

紗南『ん、めっちゃ余裕』カタカタカタカタカタッタン!

『ベイルアウトまで残り 164 秒』ピピ

紗南の素早く正確な機器操作により、早苗の視界の端に残り時間が表示される。

早苗「(3分弱って意外と持つじゃない。あたしってやっぱりトリオン多いのね)」

早苗が己のトリオン量について無頓着なのは、純粋なアタッカーがトリオン量の恩恵を受けにくい為だ。射撃トリガーと違い、近接トリガーは使用者のトリオン量の多寡に関わらず一定の威力を持つ。

紗南『意外と長いとか思ってるかもしれないけど、当然トリガー使ったりカメレオン使う為に蓋代わりのスコピ解除なんかしたらガンガン減ってってマジですぐ死ぬからね! スコピ解除しないにしても半分くらいに見といた方がいいよ!』

早苗『えっ……わ、分かってるわよ!』

早苗が内部通信で素早く準備を済ませている間に、心は威力を限りなくゼロに近づけたアステロイドを早苗の背中に向けて撃った。

射撃トリガーに乗せて撃った相手にマーカーを付けるトリガー。スタアメーカーだ。

早苗「さ、やるわよ」

心「うっす!」

早苗「(……あら?)」



早苗「(美波ちゃんと唯ちゃんがいないわ)」

118 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:06:24.26 ID:VpKPXEPs0
こっそりと夕美が合流しこの場に3人(文香はスナイパーの為遠方)が揃った美波達は、真正面から早苗&心と対峙するフレデリカ&志希を挟んで、片桐隊の反対側に付かず離れずの位置で半円状の陣形を組み、バックワームを起動して身を隠していた。

つまり真っ向から速水隊と対面する片桐隊と潜伏する新田隊で、速水隊の2人を挟んだ形になる。

地形的にも雫に破壊されていないポイントであり、射線が通りにくくスナイパーの横槍をあまり気にしなくていい場所で向かい合う速水隊と片桐隊。

新田隊にとっては、落ち着いて潜伏出来る状態だ。

美波「(今までは数の差でなんとかやれてたけど、志希ちゃんが早苗さんに奇襲して結果的に大ダメージを与えた所にフレちゃんが合流、早苗さんに心さんが合流して状況がガラリと変わった。私達が4人揃ったとは言っても三つ巴だし、速水隊の他の2人や鷹富士隊の姿が見えない以上慢心は出来ないわ)」

夕美「(なら、位置取りとその情報アドバンテージの差で勝負するっ! これならまだこの場にいない子達に奇襲される可能性は低いし、こっちが奇襲出来るチャンスもあるもんねっ!)」

文香「(強化嗅覚のサイドエフェクトを持つ志希さんには恐らく匂いで私達の位置が露見してしまっているでしょうが……早苗さんや心さんの相手をしながらこちらに襲撃しに来るのは難しいでしょう……)」

唯「(なら、早苗さん達とフレちゃん達が戦ってる隙を見て倒せそうな方から倒す! どうせ早苗さんは大ケガしてるから何もしなくてもしばらくしたらいなくなるし!)」

愛梨『えぇっと、効果的な襲撃ポイントと見つかっちゃった時の4人分の逃走ルートを絞り込んで……』

どんな有利な状況においても徹底的に負け筋を潰し、常に手堅く、しかし必要とあらば大胆に。これが新田隊の戦い方だ。
119 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:06:52.49 ID:VpKPXEPs0
真奈美『なるほど。やるな美波』

ありす『これは……。片桐隊長が深手を負った事で速水隊が有利となるはずが、新田隊が宮本隊員と一ノ瀬隊員を片桐隊と自隊で挟む形で潜伏する事で、速水隊不利の状況に持ち込んだ、という認識で合っていますか?』

真奈美『あぁ、その通りだよ。新田隊からすれば、放っておけば勝手に落ちる強い敵に積極的に絡みに行く理由は無いからな。なら、現状最も厄介なのは次に強い宮本隊員だ』

真奈美『そして片桐隊には選択肢はない。片桐隊にとっても最も厄介なのはやはり宮本隊員であり、これを落としておかないと片桐隊長がベイルアウトした後に宮本隊員を倒せる者は居なくなる。つまり負けだ』

茜『隠れている新田隊を探す時間なんてありませんしね!!』

真奈美『そして現状は速水隊が不利だが、時間が経つにつれ……』

ありす『片桐隊が不利になる。そして、新田隊の有利は揺るがない』

茜「いつでも奇襲出来る状態ですからね!! 全員が射撃トリガー持ちなのも追い風です!!!」

真奈美『一番実力で劣っていたはずの新田隊が、いつしか戦況をコントロールし主導権を握っている。ここまでの展開を志希が奇襲を仕掛けたあの一瞬で読み、指示をしたのであれば……ふふ、新田隊長への評価を私の中で一段階上げねばならないな』

オォォ...! ザワザワ…

ありす「(あの真奈美さんにここまで言わせるなんて……! 美波さん、凄いです!)」キラキラ
120 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:07:21.08 ID:VpKPXEPs0
少し巻戻り、早苗が新田隊の潜伏に気付く少し前。

志希『奏ちゃん』

奏『なぁに?』

志希『新田隊が隠れちゃったこの状況、ヤッバイよね〜』ウズウズ

奏『そうね』

志希『そこでなんだけど〜、志希ちゃんフレちゃんと2人で好き勝手していい? 奏ちゃんオペレーターで忙しいし〜』

奏『ふふっ、今度はどんな面白実験をするのかしら?』

志希『やる事はシンプルだよ。まずはね〜……』

奏は言うまでもなく速水隊の隊長だが、オペレーターとして4人の情報支援をしながら指揮を執るとなると相当の負担となる。

そこで、奏がオペレーターであり、かつ志希が「面白いコト」を思いついた場合に限り、現場で奏に代わり作戦立案・指揮を行う事になっている。

といっても平時、志希は基本的には指揮などせず自由にやっており、他のメンバーも事前に話し合って決めた作戦に沿って動いている。そして志希が何かを思いついた時に奏に提案し、通れば実行という形になる。


つまり、奏が戦場に立つ時はその的確な指揮により高いレベルで安定したチームになり、志希が戦場に立つ時には不安定で波があるがアドリブの作戦がハマればとんでもない爆発力を発揮するチームになる。

これもまた、速水隊が変幻自在のチームと言われる所以の1つなのである。
121 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:08:06.63 ID:VpKPXEPs0
志希『……ってのが狙い。ほぼノーリスクでリターンおっきいよ』

奏『是非もないわ』

フレデリカ『採用だって! 我が社で頑張ってくれたまえ!』

志希『あはは〜失踪しまーす』

早苗達が少しの間動かず準備を進めている間に、志希達も作戦を共有し終えたようだ。そもそも早苗が自傷したのを確認した時点で、志希達は早苗達にいくら作戦立案に時間を使われても利しかない。

こちらの方が戦術では勝っているという自信があるからだ。

志希「──ってコトで。おっけーフレちゃん?」

フレデリカ「オールオッケー! やっちゃうよー! 雪の日のフレちゃんはわくわくでパワーが1.2倍になるのだ〜!」

志希「割と現実的〜」

122 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:08:47.21 ID:VpKPXEPs0
向こうから早苗と心がこちらへ猛然と走り出したのをフレデリカは見て、志希は嗅いで感知した。

早苗はカメレオンを使っていない。トリオンを温存するつもりらしい。

志希「……ん。来たね」クンクン

フレデリカ「んじゃ作戦どーり!」

フレ志希「「逃げろー!」」ダッ

早苗心「「ッ!?」」

猛然と迫る片桐隊の2人に対し、フレデリカと志希は隙のない構えを維持しつつ脱兎の如く逃げ出した。

早苗「(そう来たかぁ……! あーもう時間ないってのに面倒臭いわね!)」

フレデリカ「上に逃げるよ! ほい志希ちゃんもっ!」パッ

志希「んじゃ、消耗戦といこーか♪」パッ

フレデリカはグラスホッパーで志希と共に開けた場所から高層ビルの陰に隠れるように斜め上に飛び、スナイパーの射線を切りつつ早苗にグラスホッパーを使ってのトリオン消費を強要した。

早苗「もー! 逃がしちゃダメ! グラスホッパーの消費くらいたかがしれてるわ! 追うわよ!」

早苗は舌打ちすると、先程のフレデリカと同じように自分と心にグラスホッパーを使い、フレデリカ達を追うが──

ビヨン グルン!

早苗「!?」

心「おわぁ!? 早苗さん!?」
123 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:09:41.10 ID:VpKPXEPs0
志希「あーあーグラスホッパーで加速なんてしちゃうから〜」ニヤ

早苗はラリアットでも受けたかのように空中で足が先行し、そのまま回転しながら勢いよく落下した。

志希の仕掛けた、白く着色されたワイヤートラップを首に引っ掛けたのだ。

普段なら見切ったであろうスパイダーも、グラスホッパーで加速した状態でかつ雪で視界が若干悪く、更に時間がないという焦りから見切る事が出来なかった。

その上、フレデリカ達が逃げたのは風上。吹きつける雪の影響を最も受ける方向だ。

早苗「ッ!!」

が、潜伏している新田隊が体勢を崩した早苗を見逃す訳もなく。

夕美「ここっ!」ダンッ! ダンッ!

美波「今よっ!」ギュンッ!

唯「てぇーい!」タタタタタンッ!

3つの建物の陰から、アステロイド群が早苗に殺到する。

志希「バイパー」ギュパッ

志希も当然隙を狙い撃つ。

早苗「くっ!」

早苗は全方位からの射撃にたまらず2枚の半球シールドを張るが、流石に広く張ったシールドでは4人からの集中攻撃には耐えられず、

バリン! パキキ…

1枚が割れ、もう1枚にもヒビが入った。

美波「(普通ならとっくに割れてる。あの広さのシールドでもこんなに硬いの……!?)」

文香『割ります』ダンッ!

バキン!

早苗「ぐッ!」

遠方からの文香の研ぎ澄まされたアイビスでの一射が、シールドごと早苗を貫いた。

トリオン量の多い文香のアイビス。それまでの一斉射撃の一射一射とは一線を画す威力だ。
124 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:10:24.16 ID:VpKPXEPs0
早苗「危な………!」シュウウウ

だが、新田隊の一斉射撃を受けた段階で文香の狙撃を予見していた早苗は致命傷となる胸への一撃をギリギリで回避し、左肩を貫かれた。



美波『今ので位置がバレたから移動して!』

夕美唯文香『『『了解!』』』

新田隊は深追いしなかった。あくまで有利状況の維持を徹底するようだ。
125 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:11:20.68 ID:VpKPXEPs0
ありす『辛くも首の皮一枚繋がった! 片桐隊長、先程からずっとマスタークラス以上の隊員達から集中攻撃を受けているにも関わらず、物凄い生存能力です!』

真奈美『完全回避しようとするのは難しい。ならば致命傷だけを避ければいい。口で言うのは簡単だが、A級の猛者達を相手にそれを成すのは極めて困難だ』

茜「さすが早苗さんですね!! 私はよく対戦相手に全力タックルで突っ込んで早々に落ちているので、尊敬します!!!」



飛鳥「……ウチのチームメイト達が天からの授かり物に思えてきたよ」※蘭子、小梅、ありす

藍子「ほ、本田隊だって皆仲良しで良い子ですし……!」※未央、ユッコ、茜

藍子「ただちょっと作戦を聞いてくれなかったり……美城司令の車を両断しちゃうくらいで……始末書も……いっぱい……」ズーン…

飛鳥「えっ……あぁいや違うんだ、ほら、元気なのはいい事だよ。ボク達のように変にヒネた子供より、まっすぐなキミ達の方が一般市民の方々には好まれやすい面もあるじゃないか」オロオロ
126 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:12:15.55 ID:VpKPXEPs0
数秒遡り、早苗が集中攻撃を受けている最中。

心「ん!」

早苗の少し後ろを飛んでいた心は早苗が引っかかった辺りに目を凝らし、仕掛けられたワイヤーを見切って左手で掴み、ぐるんと大車輪のように体を一回転させてそのまま前方に飛んだ。

心「旋空弧月!」ヒュン!

叫びと共に、旋空に追従させるようにアステロイドを放つ。

フレデリカ「よっと」

やはり総合3位。テレフォンパンチは通じない。

距離もあり、あっさりと躱された。
127 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:13:15.38 ID:VpKPXEPs0
心「おっけおっけ」

だが、心もそんな事は百も承知。この旋空孤月は周りのスパイダーを切断しつつ、アステロイドでこの場で一番厄介なフレデリカを牽制して早苗にこれ以上追撃をさせない意図からだった。

心は早苗の元に着地した。

心「(早苗さんのトリオン漏出を狙っての時間稼ぎかー。普通に戦ってもむちゃくちゃ強いクセに徹底してんなー☆)」

と心は思ったが、志希やフレデリカにとってはそうではなかった。

早苗「ありがと!」ダッ

早苗は心に短く礼を言うと、ノータイムでフレデリカ達の方へと駆ける。

『ベイルアウトまで残り 95秒』

肩を穿たれ漏出が更に早まってしまった今は1秒すら惜しい。心もそれを理解し、追走する。

しかし志希は満身創痍の早苗に、更に追い討ちを掛ける。

志希「スゥーッ……」

志希は早苗から全力で逃げながら、大きく息を吸い込んだ。フレデリカはギラついた眼でその隣でいつでも斬りかかるぞと言わんばかりの攻め気味の体勢で孤月を構え、早苗を牽制している。
128 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:15:53.97 ID:VpKPXEPs0
志希「美波ちゃんはあの建物の1階!! 夕美ちゃんはあのコンビニの中!! 唯ちゃんはあそこの路地裏だよ!!」


志希「(文香ちゃんは遠くて分かんな〜い)」

志希は「潜伏している新田隊にも聞こえそうな程の」大声で、一息に叫んだ。

新田隊「「「「ッ!!?」」」」

心「そう来たか☆」

早苗「……!!」

この大胆な戦法に対するそれぞれの表情は、想像にかたくない。

志希「どうする? このままあたし達と鬼ごっこするか、あたしの言葉を『信じて』バラけてる新田隊の皆を1人ずつ倒してくか。どうするのが正解か、よ〜く考えてね? 『時間はたぁっぷり使っていいから』」ニタァ

フレデリカ「わーおシキちゃん悪役みたいでカッコイー! あっ早苗さん、こっち来るならまた糸に引っ掛けられないように気を付けてね? フレちゃん早苗さんのカッコ悪い所もう見たくないなぁ♪」ニコニコ

早苗「」



早苗「」メキ

奏『……うわぁ』タラー

奏は画面越しに、戦略とはいえよく早苗さんをここまで煽れるわね、と志希とフレデリカを半分尊敬し半分呆れていた。
129 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:16:33.66 ID:VpKPXEPs0
心「(うっわこれはキレるわ)」タラー

早苗「こんのぉ……! あの子達はホントに……!」プルプル…!

さて、ここで早苗視点でここまでの試合を事を振り返ってみよう。

鷹富士隊に出し抜かれて茄子を取り逃し、美波と唯と志希に集中狙いされ、志希にハメられて錘を付けられ、苦肉の策でトリオン体ごと切り落としタイムリミットを課せられたと思うとワイヤートラップに無様に転ばされ、そこをまた集中狙いされ、時間の無い中究極の2択を迫られた挙句ここぞとばかりに煽り散らされた。

早苗は一流の武術家であるが故にここまで冷静さを保っていたが、本来気の長いタチではなかった。

早苗「アンタ達ねぇ大人をナメんじゃないわよ!! 上ッ等じゃないやったろうじゃないの!!!」ガオォォォ!!

雫『あー……』

紗南『いや、むしろここまでよく我慢したよ。あたしならとっくに台パンしてるわ』

不憫な早苗に思わず同情したが、しかし紗南はオペレーターとして冷静に現状を早苗に伝えた。志希が喧伝したポイントへのタグ付けは既に済ませてある。

紗南『気持ちは分かるけど早苗さん、志希ちゃんとフレちゃんの言った事よーく考えてね。あたしらにとってはマジで究極の2択だよ』

早苗『全部分かってるわよ!! だからこそイラついてんの!! あの子達ったら憎たらしいほどうまいことこっちを追い詰めて来るんだから!! もうっ!!』プンスカ

紗南『よかった。思ったよりは冷静だね』

紗南はオペレーターとしてクールに早苗を宥めつつ、志希の仕掛けた択について思考を続けていた。

志希が大声で放った言葉は、挑発以上の大きな意味を持つ。
130 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:17:51.60 ID:VpKPXEPs0
茜「ややっ!? 志希ちゃんの声がこちらへ聞こえて来ましたよ!!」

ありす『一ノ瀬隊員に関しては音声が聞き取れないとお二人が解説のしようがない場合があったので、内部通信でちひろさんに頼んで特別にあの戦闘域の音声をこちらに繋いで貰いました。多少の雑音はご了承下さい』

茜「おおっ!! やりますねぇありすちゃん!!」

真奈美『ふふ、二宮隊のオペレーターは戦闘中の情報支援以外でも仕事が出来るようだ。偉いぞ』

ありす『えっ……いえそんな、私なんて……えへへ』テレテレ



飛鳥「ふっ」ニマニマ

みく「飛鳥チャンニヤニヤして嬉しそうだにゃー」

藍子「分かります、チームメイトを褒められると嬉しいですよね」ニコ

飛鳥「えっ……あ、あぁ、そうだね」

比奈「(耳が真っ赤っスよ、飛鳥ちゃん)」クス
131 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:19:51.72 ID:VpKPXEPs0
undefined
132 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:20:53.15 ID:VpKPXEPs0
真奈美『さて。さっきの一ノ瀬隊員の言葉だが、聞いての通り志希が強化嗅覚を使って感知した新田隊のそれぞれの位置を片桐隊に伝えた形だ。そして教えた位置が本当かどうかは、この解説席の後ろの各隊員の位置を示す大画面モニターを見れば分かる通りだ』

真奈美『そして音量は自動調節されている為分かりにくいが、息づかいと間の取り方、音割れの具合いから相当の大声だったと予測出来る。これが何を意味するか分かるか?』

茜「とっても気合いが入っていたのでしょう!! クールな志希ちゃんも早苗さんを相手にする時には気合いが必要という事ですね!! 私も解説として負けていませんよ!! マイクなんてなくてもモゴゴ」

ありす『うるさいです。……新田隊にも聞こえるように、という事ですね』

真奈美『その通り。片桐隊に新田隊の各隊員の位置を教えた事を大声で伝える事で、片桐隊には時間がない中での二択を強要し、新田隊にはコソコソさせずに無理矢理表へ叩き出させる。二隊同時にプレッシャーを掛けた』

茜「なるほど!! 流石志希ちゃんですね!!!」

ありす『片桐隊にとっては「逃げに徹する宮本隊員と一ノ瀬隊員を同時に相手取るか」と「胡散臭い一ノ瀬隊員の言葉を信じて新田隊を1人ずつ倒すか」の択、という訳ですね。しかもタイムリミットがある片桐隊長にとってはより効いてくるんじゃないですか?』

真奈美『そうだな。シールド技術がボーダー随一である宮本隊員は、守りに徹した場合相当立ち回りが硬い。そこに一ノ瀬隊員が加わっており、かつ時間制限がある今の状況でそこを攻めるのは精神的に相当キツいだろう』
133 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:22:43.59 ID:VpKPXEPs0
真奈美『更に先程スパイダーのトラップがあるのを見せつけられて、この2人を攻めるのは二重苦三重苦の状態。それにあの一ノ瀬隊員の事だ、それを四重苦、五重苦にもしてくるような策を用意している事は今までの経験からも百も承知だろう』

真奈美『一方新田隊をやる方の択を選んだとしても、教えられた位置がどこまでが本当なのか分からない。万一全て本当だったとしても、自然と速水隊の2人と新田隊に挟まれる形になる』

真奈美『かといって悠長にしていると、位置をバラされて新田隊側も余裕がなくなった今4人に集結され、手堅い新田隊長の事だからトリオン切れを待たれる守りの戦法を取られるだろう。やるなら今すぐに行くしかない』

真奈美『また、新田隊があの場から逃げる可能性もある。一旦点を取るのを諦め、速水隊と削り合わせて片桐隊長がいなくなるまで待ち、消耗した所を攻めるという作戦も全然アリだからな』

真奈美『だが、片桐隊としては新田隊に逃げられると得点源が減る。そうすると片桐隊の勝利は更に遠のく』

ありす『ほ、本当に究極の2択なんですね……』

真奈美『「時間がない」という片桐隊長の弱みを最大限に利用している。これは相手の強さや己の練度に左右されないという点においても効果的な作戦だ』

茜『……私、今の早苗さんの立場じゃなくてよかったです……!』プルプル
134 : ◆AXT/uuswxI [saga]:2020/04/14(火) 22:23:52.58 ID:VpKPXEPs0
真奈美『また、あの位置ばらし作戦を決行したタイミングも中々いやらしい。位置の真偽という不確定要素を含む以上、普通なら速水隊を攻める方を選び、新田隊が逃げない事に賭けるのが片桐隊長としては確実で太い択だったのだろうが、敢えて最初のタイミングでは仕掛けずに攻めさせ、トラップに上手く引っかけダメージを与え、結果片桐隊の攻撃は失敗した。つまり──』

ありす『つまり?』

真奈美『「──今速水隊を攻めるのは間違いではないのか?」という印象を片桐隊に与えた』

ありす『そこまで……』ゾクッ

茜「ち、知恵熱が出そうです……! IQが上がってしまうぅ……!」ガタガタブルブル

真奈美『ここまで長々と説明はしたが、一ノ瀬隊員にとっては多少時間を稼いで片桐隊長に精神的ダメージを与えられただけで十分なのだろう。一ノ瀬隊員の作戦は深く考察しようとすれば複雑怪奇だが、構造はシンプルだ。まぁ、だからこそ恐ろしいのだがな』



比奈「……なんか、ここまで来ると早苗さんが可哀想になってきたっス。や、真剣勝負だし仕方ないんスけどね」

菜々「ナナもです。はぁ、今日の飲み会は早苗さんの愚痴で長くなりそ……ハッ!」
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