【シャニマス】摩美々「事務所対抗サッカー大会?」

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39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:08:53.30 ID:+TIzlW0iO
「いい、あさひ、西城樹里は怪我をさせられた。有栖川夏葉はゴール前から動けない。あんたしかいないのよ」
「…っす」
「あんたが小宮果穂を守るのよ」
だからあさひは負けられない。
ただ一人の後輩を守るため、尊敬する先輩の期待に応えるために、今、天才が立ち上がる。
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:10:45.19 ID:+TIzlW0iO
『でも果穂ちゃんって小学生っしょ?流石に小学生には…』
『そうね、私もこの策が考えすぎだと思いたいわよ』

「けど、冬優子ちゃんの言う通りになっちゃったっすね」
やっぱり冬優子ちゃんはすごい。自分には見えないものが見えている。
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:11:26.41 ID:+TIzlW0iO
「はっ、冬優子ちゃん冬優子ちゃんって、あんなぶりっ子の何がいいの?」
「は?」
相手は作戦を変えてきた。身体を壊せないのなら恋鐘や甜花のように心を壊せばいいと言わんばかりに。
「あんたも思ってるんじゃないの?自分よりも下手なやつがリーダーって鬱陶しいって、そのくせ裏では怒られるんでしょ?見たことあるわよ」
「…」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:12:24.44 ID:+TIzlW0iO
「愛依とかいうのも何考えてるかよくわかんないし、もう一人でやる方がいいんじゃ…」
「黙るっす」
「ひっ!?」
背筋が凍りつく。寒い寒い寒い寒い、鳥肌が止まらない。何だこれは、何が起こっている。
「あんたに冬優子ちゃんや愛依ちゃんの何がわかるんすか?」
弱点だと思っていたところは逆鱗だった。『天才』芹沢あさひの絶対に侵してはいけない部分。大切で大切で、何に変えても失いたくない部分。本人も自覚していないくらい大切でたまらない部分。
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:13:12.55 ID:+TIzlW0iO
「そんなに言うなら、あんたは冬優子ちゃんよりできるんすよね?」
「ひっ…あっ…あっ…」
足が震える。小さな身体からは想像もできないくらいの威圧感。その姿は『天才』なんて綺麗なものじゃない。
「ば、化け物…」
「いつまでそのボール持って立ってられるか、楽しみっすね」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:14:13.79 ID:+TIzlW0iO
「はい、取れたっす」
「くっ…こんなに簡単に…」
「はい、パスっす」
「は?」
せっかく奪ったボールをなんと相手に返してしまうあさひ。
「面白くないからもう一回あげるっす」
「なっ!?ば、バカにして…」
「ほい、取れたっす」
「えっ?」
「もう一回っす」
ボールを奪っては相手に渡す。そんな異常としかいいようのない光景が繰り返されていた。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:15:35.76 ID:+TIzlW0iO
「ほら、もう一回っす」
「はい、もう一回」
「もっともっと」
「あ、今度はちょっと粘ったっすね、2秒長くなったっす」
「やる気あるんすか?ほら、もう一回」
「いやぁぁぁぁぁぁあ!?」
加減の無い才能そのものが彼女の心を押しつぶす。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:16:16.91 ID:+TIzlW0iO
「…冬優子ちゃんはこんなことでへこたれないのに…つまんないっす」
「あっ…あっ…あっ…」
まるで『お前が馬鹿にした冬優子に何一つ勝てていない』と言われているようだった。
「覚えておいた方がいいっすよ、こういうの向いてる人と向いてない人がいるんすよ」
きっともう彼女は立ち直れない。アイドルとして再起不能にされてしまった。それはひとえに喧嘩を売る相手を間違えたから。
「もう飽きたんでパスしますけど…」
ついでとばかりに、あさひは続ける。
「もう一人、間違えて喧嘩売ってるっすからね?」
「え?」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:16:50.68 ID:+TIzlW0iO
「甜花ちゃん、大丈夫…?」
甘奈は倒された甜花に駆け寄る。あれだけ飛ばされてしまったのだ。痛くてたまらないだろう。もしかしたら泣いているかもしれない。
「…った…」
「え?」
「なーちゃん…あいつ…今…煽った…」
その目は人見知りな甜花にしては珍しい、けれどゲーマーである甜花はよくしている甘奈にとって見慣れた目だった。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:17:28.01 ID:+TIzlW0iO
パスはそのまま甘奈に渡る。マークをするのは甜花を潰したあの娘だ。
「は!双子で同じように吹っ飛ばして…」
「なーちゃん、二歩右」
「うん!」
「な!?」
たった二歩、位置を変えただけの最小限の動きでかわされる。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:17:54.90 ID:+TIzlW0iO
「甜花ちゃん!」
「うん」
ボールは甘奈から甜花に渡る。
「くそっ!もう一回…」
「にへへ、三歩遅い」
「え?」
ちょうど三歩分、間に合わずに甜花のパスを許す。
「くそっ!」
「なーちゃん、左左右」
「うん!」
「なぁ!?」
急激に曲がる甘奈についていけず、その場に崩れ落ちる。
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:37:20.29 ID:+TIzlW0iO
「どこかに行こうとしたら…反対には行けない…ゲームと一緒…」
「くそっ!舐めんなぁ!」
「もう遅い」
「ナイスー」
ボールはもう一度摩美々に渡る。
「摩美々!」
「…」
咲耶の呼ぶ声が聞こえる。けれど咲耶にはさっきのマークが未だに張り付いている。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:37:53.57 ID:+TIzlW0iO
「どうするの?もう一度勝負してみる?」
「…恋鐘!」
「うぇえ!?」
まだ試合も中盤。ここで無理に勝負しなくてもいい。それならさっきのミスを取り返して自信をつけさせる意味でも恋鐘で勝負する。摩美々は一瞬の隙をついてノーマークになった恋鐘にパスを出す。
「う、うわぁぁあ!!」
「あちゃー、こがたん…ナイス宇宙開発…」
しかし、恋鐘の蹴ったボールはゴールの少し上を凄い速さで飛んでいった。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:38:34.15 ID:+TIzlW0iO
「っ…」
まださっきのトラウマから回復していなかった。それを見極められなかった自分のミスだと摩美々は自分を責めていた。
「なんであそこにパスを出したかわかる?」
「はー?空いてたから…」
「ううん、『空けてた』のあの子は何の脅威でもないから、ノーマークにしても絶対に決まらない」
わざわざ恋鐘に聞こえるように言うその口を縫い付けてやろうかと言わんばかりの目で摩美々は睨む。けれどこれが相手の作戦なのだ。摩美々をいらつかせ、恋鐘をプレッシャーで潰し、咲耶を孤立させる。ならば自分が冷静さを失ってはならない。
「摩美々…すまない…私が…もっと動けたら…」
「摩美々…ごめん…ごめんね…」
例え、二人の親友を傷つけられたとしても。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:42:16.40 ID:+TIzlW0iO
「ほら、今度はこっちの攻撃だよ!」
怒らせてしまったあさひと甜花のいないサイドを駆け上がる。
「行きます!!!」
「そうはいかないわよ!」
果穂のチェックが追いつく前に大きくセンタリングを出す。
「みんな!ラインを上げて…」
「遅い」
「しまった!?」
あまりにも早すぎるセンタリングに三峰のタイミングをズラされる。オフサイドトラップは突破されてしまえば待っているのはキーパーとの一対一。つまり圧倒的に不利な状況だ。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:42:54.53 ID:+TIzlW0iO
「よし、決まっ…」
「ねえ、知ってる?私、逆境の方が強いのよ」
「なっ!?」
シュートを蹴る直前、果敢に滑り込んできた夏葉にボールを取られる。少しでも遅ければ足が顔面に振り抜かれていた。そんなタイミングで。
「あんた…怖くないのかよ?」
「怖い?ええ、怖いわよ、樹里との約束を果たせなかったらと思うとね」
夏葉にとって痛いのは身体ではなく心。その高潔な精神がなによりも彼女を奮い立たせている。
「ピィィィィィイ」
前半終了の笛が鳴る。
試合は未だ動かず0対0だった。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:43:29.15 ID:+TIzlW0iO
「ごめん!みんな!オフサイド取れなかった!」
ロッカールームに三峰の謝罪がこだまする。
「私もごめんなさい。もっと早く動いていれば…」
「ううん、千雪姉さんは悪くないって!」
「そう、なら結華も悪くないわね」
「そうっす!最後に勝ったらいいんすから!」
「そうです!!!チームプレイです!!!」
「…」
夏葉や果穂が励ますように声をかける。それを見ている摩美々には三峰のパフォーマンスの意味がわかっている。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:44:05.70 ID:+TIzlW0iO
「恋鐘ー、聞いてるー?」
「ふぇ!?も、もちろんばい!」
『誰も悪くない』『最後に勝ったらいい』『チームプレイ』きっと直接言っても届かないと思ったから、自分のミスを引き合いにして聞かせているのだ。
「最初は冗談っぽく言ってたけどさー、信じてるのは本当だからねー」
「え?うん…」
きっとその真意は伝わらない。自分がどれほど恋鐘を信じているかなんて、きっと一生正しく伝わらないのだろう。そもそも摩美々は伝えようとは思っていない。けれど、いつも救われる。悪戯をすれば怒ってくれる彼女に、良いことをすれば褒めてくれる彼女に。だから自分は恋鐘を信じている。いつだって全力な彼女はきっと最後に笑うのだ。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:44:34.74 ID:+TIzlW0iO
「ねぇ、こがたん」
「結華…」
もうすぐ後半に入るというタイミング、ピッチに出てポジションに向かう前に三峰は恋鐘に声をかける。
「まみみんのこと、信じてあげてね」
「…うん、でもうちが信じれんのはうち自身ばい」
「ははは、だからそこなんだって」
「?」
まるで何か勘違いをしていると言わんばかりに三峰は恋鐘を笑う。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:46:10.44 ID:+TIzlW0iO
「まみみんが信じてるのはね、こがたんだよ」
「え?うち?」
「いつだって全力で、いつだって前向きのこがたんにみんな助けられてますから」
軽く言っているのはもちろん三峰の気遣いだ。その声は少し震えている。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 13:47:07.60 ID:+TIzlW0iO
「多少の失敗なんてみんなわかってるよ。だけどね、失敗しない私たちよりも凄いところに行けるから…みんなを連れて行ってくれるから、こがたんはアンティーカのリーダーなんだよ」
「結華…」
「そつなくこなすのなんて、それこそまみみんとかさくやんに任せておけばいいからさ…こがたんはいつも通り、三峰たちに見たことないようなものを見せてよ!」
「…わかったばい」
自分にできることを全力でする。いつだって自分はそうしてきたはずだ。できないことを嘆くより、できることを伸ばすんだ。
「摩美々ー!」
「んー?」
「次は絶対決めるけん!」
「…うん、信じてる」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 15:16:10.55 ID:+TIzlW0iO
後半は攻守が入れ替わる。まずは相手のボールを奪わなければならない。
「なーちゃん、もうちょっと右」
「うん!」
「千雪さん、あと二歩前」
「ええ、わかったわ」
「くっ…」
しかし、甜花の指示で動く283プロを前にボールを動かせない。少しでも動かそうものなら細かく指示を出してフォーメーションを修正してくる。
「にへへへ、動けないよね…」
「ちっ…」
攻めているはずなのに神経をすり減らさられる。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 15:19:39.64 ID:+TIzlW0iO
「芹沢さん!」
「はいっす!」
「はっ!そんな簡単に取れられ…」
「はい!!!」
「な!?」
正面からくるあさひは囮、後ろからきた果穂にボールを取られる。
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 15:20:10.41 ID:+TIzlW0iO
「にへへ、上手くいった」
「ありがとうっす!」
「でも良かったの?自分で取らなくて」
千雪はついあさひに聞いてしまった。彼女の性格的になんでも自分でやりたいのではないかと思ったからだ。
「うーん、そうなんっすけど…一番悔しいのはきっと果穂ちゃんっすから」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 15:20:46.79 ID:+TIzlW0iO
「うぉぉぉお!!」
「くっ…この…」
「渡しません!!!」
果穂は賢い。きっと今回のことだって、何人かが気づいたように、樹里がただ怪我をしたわけじゃないということくらい何となくわかっているはずだ。
「あんた…いつも逆でやってたじゃない…早く…渡しなさいよ…」
「渡しません!!!絶対!!!絶対渡しません!!!」
けれど周りは果穂にだけは隠す。人を恨んでほしくないから、傷ついてほしくないから。その優しさを向けられることが、少しだけ悔しいこともあるだろうと、あさひにはわかっていた。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 15:21:20.42 ID:+TIzlW0iO
「くっ…この…」
「摩美々さん!!!お願いします!!!」
「うん、任されたー」
そしてボールはファンタジスタに渡された。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/05/05(木) 16:37:06.23 ID:+TIzlW0iO
「えーっと…」
「あら、簡単には出させないわよ」
相変わらず摩美々には経験者の彼女がマークに付いている。出せるのは咲耶のところか恋鐘のところに絞られている。
「ほら、また王子様に放り入れてみたら?」
「うーん、じゃあお言葉に甘えてー」
「まあ、向こうにはあの娘がいるけどね」
「はぁ?はぁ?咲耶様ぁ?」
「くっ…ずいぶんと熱烈だね…」
咲耶は相変わらずマークに手こずらされている。簡単にパスを出せそうにない。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:38:06.95 ID:+TIzlW0iO
「…」
「あれ?イライラしてる?」
「何のことですかー?してませんけどー?」
そうは言うものの、摩美々の声には確かにイラつきの色が入っていた。
「結局あんたもあの娘と一緒か、あの王子様が好きでたまんなくて、ベタベタしてるだけなんでしょ?」
「…」
「いいよ、隠さなくても。あの娘もそうだしね。結局仲間とか関係なくてあの王子様の見た目が好きなだけでしょ?」
「…そうですねー、咲耶のことは好きですよー」
そう言って、摩美々はなんと中に切り込んでいく。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:38:30.31 ID:+TIzlW0iO
「…」
「あれ?イライラしてる?」
「何のことですかー?してませんけどー?」
そうは言うものの、摩美々の声には確かにイラつきの色が入っていた。
「結局あんたもあの娘と一緒か、あの王子様が好きでたまんなくて、ベタベタしてるだけなんでしょ?」
「…」
「いいよ、隠さなくても。あの娘もそうだしね。結局仲間とか関係なくてあの王子様の見た目が好きなだけでしょ?」
「…そうですねー、咲耶のことは好きですよー」
そう言って、摩美々はなんと中に切り込んでいく。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:39:25.71 ID:+TIzlW0iO
「な!?私と勝負するつもり!?」
「ううん、まさかー」
その一瞬を摩美々は見逃さなかった。まさかの行動で咲耶のマークが止まったその一瞬を。
「な!?まさか、これを狙って!?」
「…イライラしてたのは認めますけどー」
美しい弧を描くパスを放ちながら摩美々はこう続ける。
「それは咲耶を一人にさせてた自分に対してなんでー」
寂しがりやの咲耶を一人にさせてしまった。そんな自分の不甲斐なさに怒りが込み上げてくる。
「ふふふ、もう来てくれないかと思っていたよ」
「私が咲耶を一人にするわけないでしょー」
それは甘い甘いラブレターのようなパスだった。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:40:13.30 ID:+TIzlW0iO
「ふひひひ、させませんよぉ、咲耶様ぁ?」
シュートコースを消すように立ち塞がる彼女に、咲耶は申し訳なさそうに謝る。
「ごめんね、君はここで『シュートを撃つ白瀬咲耶』でいてほしかったんだよね」
「え?」
咲耶は空中で身体を反転させ、ボールを落とす。彼女は咲耶のことを何でも知っていた。けれど最後には『自分にとって都合のいい姿』を求めた。現実を歪めて、誰よりもかっこいい王子様としての姿を見ていたのだ。
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:40:54.88 ID:+TIzlW0iO
「決めるのは私じゃなくていいんだ」
「そんな…一体誰に…」
そう、彼女は忘れていた。FWはもう一人いたことを。それも無理はない。彼女は意図的にその存在を『消していた』。この一瞬のために。
「あ、あれは…」
「そんな…」
彼女の名前は…
幽谷霧子!
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:41:56.37 ID:+TIzlW0iO
「ふふ、ボールさん、行ってらっしゃい」
静かにボールを蹴り出す霧子。相手のキーパーの動きを見てから蹴る霧子のシュート百発百中の精度を誇る。
「させ…るかぁぁぁぁあ!!!」
しかし、ここに来て相手も意地を見せる。咲耶が直接シュートを撃たなかったことで摩美々のマークについていた彼女がフォローに間に合った。
「あ、そんな…」
ボールは済んでのところで弾かれて、僅かながらにゴールを逸れる。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:42:49.13 ID:+TIzlW0iO
「よし…って…嘘だろ…なんで…」
誰もが防ぎ切ったと思ったその瞬間に諦めていなかった人物が一人だけいた。
「なんであんたがそこにいる!?月岡恋鐘!!!」
「うぉぉぉお!!!」
ノーマークだった彼女がなりふり構わず突っ込んでくる。普通だったら間に合わないと諦めるほどの距離、しかし恋鐘は諦めない。
「うぁぁぁぁあ!!」
「間に合うわけない!早く!外に出して!!」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:43:19.38 ID:+TIzlW0iO
「あっ…」
あと一歩のところで恋鐘はこけてしまう。今日はずっとこんな感じだと、変に冷静に恋鐘は考える。
(でも…)
摩美々が繋いだ、咲耶が落として、霧子が決めようとしたボールが今目の前にある。
(これ決めれんかったら…)
「顔向けできんばい!!!」
もう足でも頭でもない。身体全身で転がってボールと一緒にゴールに入る。それはサッカーというにはあまりにも乱暴で、アイドルと言うにはあまりにも泥に塗れたゴールだった。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:45:26.61 ID:+TIzlW0iO
ゴールと同時に試合終了の笛が鳴り響く。それと同時に愛すべきリーダーの元にアンティーカは集まった。
「来てくれると信じてたよ」
「…恥ずかしいからやめてくれるー?」
「ふふふ、照れた姿も可愛いね」
「だからー…」
「摩美々ー!霧子ー!咲耶ー!ありがとーう!」
「ちょっと空気読んでくれるー?」
「ふふふ、恋鐘ちゃんの方こそ、凄いよ…私、感動しちゃった」
「まみみん、きりりんが抱きついてるのはいいの?」
「霧子は別枠なんでー」
「露骨な差!?」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:46:00.70 ID:+TIzlW0iO
抱き合うアンティーカを尻目に、夏葉は果穂に駆け寄る。
「果穂!!!」
「夏葉さん!!!あたし…あたし…」
「頑張ったわね…ええ、貴女は誰よりも頑張ったわ」
何も教えてもらえない。それを果穂が不満に思っているのはわかっていた。けれど巻き込むことはできなかった。それが樹里の意思だから。きっと自分が同じ立場でもそうする。そんな私たちの我儘にこの子は文句の一つも言わずについてきてくれた。
「ありがとう…ありがとう果穂…」
なんて素直で優しい子なのだろう。だからお願い。私の胸に隠れるように泣かないで。貴女は誰よりも強くて誰よりも大人だったのよ。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:46:41.83 ID:+TIzlW0iO
「お疲れ様」
「あさひちゃーん!凄かったじゃーん!さすが!!」
「冬優子ちゃん…愛依ちゃん…」
あさひが冬優子と愛依に会ったのはロッカールームから出た後だった。
「あんたにしては頑張ったじゃない」
「そんなこと言って、冬優子ちゃん、めっちゃ大声で応援してたからね」
「愛〜依〜?」
「うわぁ!?ごめんってばぁ!」
いつもと変わらない、どこよりも落ち着く場所。自分を受け入れてくれる場所。ここがあるから、この二人がいるから自分は『化け物』ではなく『人間』でいられる。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:47:11.02 ID:+TIzlW0iO
「…あさひ?」
「あさひちゃん?」
「え?」
「どしたの?だんまりして珍しくない?」
「…もしかして、何か言われたの?」
あぁ、これだ。この二人はいつだって自分を『天才』ではなく『歳下』で『中学生』で『守るべき存在』として扱ってくれる。だから自分はこの二人が大好きなんだ。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:50:02.14 ID:+TIzlW0iO
「…何にもないっす」
「それってなんかあった時の言い方っしょ!?」
「あんたね、そういうのは我慢しなくていいの」
「我慢はしてないっすよ」
言われた分は自分でやり返した。ただ一つだけ、今日はそんな気分になったから…
「あの…」
「ん?」
「どうしたのよ?」
「…笑わないっすか?」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:50:45.31 ID:+TIzlW0iO
「…笑わない」
「…うん、うちも笑わない」
その言葉を信じて意を決してあさひは言う。
「その…今日は…手を繋いで帰りたいっす」
「はぁ?」
「え?あさひちゃん、マジ!?」
「ダメ…っすか?」
「…誰がダメって言ったのよ」
「冬優子ちゃん!いいんすか!?」
「むしろそんなの普段からでも余裕っしょ?」
「愛依ちゃん!大好きっす!」
当たり前のように受け入れてくれる。自分がどんな無茶をしても追いついて追い越して、間違えていたら正してくれる。そんな二人が大好きだ。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:51:21.05 ID:+TIzlW0iO
「…笑わない」
「…うん、うちも笑わない」
その言葉を信じて意を決してあさひは言う。
「その…今日は…手を繋いで帰りたいっす」
「はぁ?」
「え?あさひちゃん、マジ!?」
「ダメ…っすか?」
「…誰がダメって言ったのよ」
「冬優子ちゃん!いいんすか!?」
「むしろそんなの普段からでも余裕っしょ?」
「愛依ちゃん!大好きっす!」
当たり前のように受け入れてくれる。自分がどんな無茶をしても追いついて追い越して、間違えていたら正してくれる。そんな二人が大好きだ。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:52:38.39 ID:+TIzlW0iO
「ほら、帰るわよ」
「はいっす!」
いつかは別々の道を行くのかもしれない。あさひ自身色々なことにチャレンジしてみたい。いつかストレイライトは形を変えてしまうのだろう。
「あっ!こら、あさひ!ぶら下がるのやめなさいよ!」
「まあまあ、冬優子ちゃん、あさひちゃん疲れてるから」
「そうっす!疲れたっす!」
「こいつ…」
けれど今は、もう少しこのままで。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 16:54:05.50 ID:+TIzlW0iO
「甜花ちゃん!今日凄かったよ!」
「うんうん、もうびっくりしちゃった」
「にへへ、甜花、頑張った」
アルストロメリアの三人だけの帰り道。影は二つ。試合で体力も頭脳も使った甜花は疲れ果てて甘奈におぶられているからだ。
「びっくりしちゃった!甜花ちゃんの言う通りにしたら簡単に抜けたから…」
「本当、凄いわ甜花ちゃん」
おぶられた甜花は照れくさそうに答える。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 17:00:18.64 ID:+TIzlW0iO
「うーん、それちょっと違う」
「え?」
「何が違うの?」
「だって、甜花の指示短いから…」
「え?そうかな?」
「最後なんて方向しか言ってない」
「あー、たしかにそうかも」
「でもわかってくれたのは…なーちゃんだったから」
「甜花ちゃん…」
「千雪さんも…絶対上手くいくって信じてた…」
「ふふ、ありがとう」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/05/05(木) 17:00:51.91 ID:+TIzlW0iO
「樹里ちゃーん!トロフィーと得点女王の盾持ってきましたー!!!」
「約束は果たしたわよ!!!」
「ちょっ!?ここ病院だから!!」

「お、重い…」
「まみみん!?ちょ、離れてあげて!こがたん!さくやん!きりりん!」
「霧子は…いい…」
「徹底してる!?」

「ふんふふーん♪」
「えらくご機嫌ね…」
「今日は甘えん坊モードだねー」

こうして波乱のサッカー大会は幕を閉じた。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2022/05/05(木) 17:48:00.12 ID:AsjWyHeDO
最後一気にまとめ過ぎぃ

でも乙
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 00:51:09.85 ID:Naixsu2lo
良かった…けどイルミネ…
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 00:57:08.92 ID:Py3Wp+BGo
おつおつ
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 17:15:55.51 ID:rYV+b3N9O
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