【オリジナル】男「没落貴族ショタ奴隷を買ったwwww」

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506 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/04/18(月) 23:07:33.83 ID:R3zx0t5S0
お久しぶりです。今日はここまで。
保守、感想ありがとうございます。嬉しいです。
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/18(月) 23:22:30.54 ID:kSRM4PhIO
来てた!すごい物騒なことになってた…
忘れかけてたけどまだ回想なんだよね
殺害失敗からの逆襲で最初に繋がるのかなー?
なんにせよ夏か秋か冬か分からないけど楽しみ
508 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/05/05(木) 12:40:31.32 ID:+DEy+jEYo
様々な事情があり、エロ・フェチを含むSSは
http://ex14.vip2ch.com/news4ssr/
に移動をするようです

エロもフェチ(近親系)もガッツリ含んでいるので、移動することになるかと
おそらく自動で飛ばされるかと思いますが、
もしも「あれ、板がねぇぞ」となったら上記に移動していると思うのでよろしくお願いします
509 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/05/05(木) 12:46:11.25 ID:+DEy+jEYo
板じゃない、スレだった
恥ずかしい
510 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/05/05(木) 12:54:11.22 ID:+DEy+jEYo
新しいエロ向け板ですが、現在作業中らしく
ガラケーおよびスマホではエラーが出てしまう模様
511 :スレッドムーバー [sage]:2016/05/17(火) 23:41:25.67 ID:???

このスレッドは一週間以内に次の板へ移動されます。
(移動後は自動的に移転先へジャンプします)

SS速報R
http://ex14.vip2ch.com/news4ssr/

詳しいワケは下記のスレッドを参照してください。。

■【重要】エロいSSは新天地に移転します
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462456514/

■ SS速報R 移転作業所
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463139262/

移動に不服などがある場合、>>1がトリップ記載の上、上記スレまでレスをください。
移転完了まで、スレは引き続き進行して問題ないです。

よろしくおねがいします。。
512 :真真真・スレッドムーバー :移転
この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/27(金) 01:31:45.25 ID:ACNnFxMLo
久しぶりに来たら更新来てた!

タカシの自己中ぶりがやっと露になったね。確かに不幸な少年時代だけど、ショウタには
全く関係ない訳で。正直サイコパスっぽいとすら思っていたから死んだ子供に対する義理と知って納得
楼主が男前だわ。やっとタカシに正論ぶつける人が現れて胸がスッキリした
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/06/24(金) 23:00:19.72 ID:q3vuq3VY0
セルフ保守
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/07/25(月) 00:27:20.30 ID:A8AZJ2of0
ほしゅ
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/06(土) 21:31:54.59 ID:+cea9A2Jo
待ってるよ!
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/08/21(日) 23:54:12.30 ID:U/JKSAXq0
続き楽しみほしゅ
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/09/21(水) 01:44:57.75 ID:At/g53Kb0
ほしゅ
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/10/02(日) 23:24:19.13 ID:aXw3IVeb0
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/10/22(土) 01:14:34.68 ID:kX0VNZdto
作者生きてる?生存報告欲しい
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/10/22(土) 22:20:29.05 ID:YGu4M2th0
ほしゅ
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/03(木) 22:33:51.14 ID:KvgSZ96xo
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/20(日) 23:54:51.15 ID:aag0X5eY0
ほしゅ
524 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:07:31.78 ID:199uZvbgo
お久しぶりです……
525 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:18:13.82 ID:199uZvbgo
 報告の全てはセキュリティを何重にも施したメールで送られてきた。
 細かな文字の羅列を一文字も逃すことなく目を通しながら、タカシは感心していた。
たった一日での報告にしては、内容に富んだ満足のいく報告書が画面に広がっている。
ここまで詳細な報告を寄越す探偵は、前回の仕事では全く役には立たなかったものの、
今回はいい仕事をしてくれたようだ。
かつてミユキと義父の思惑を探るために、
そしてタカシの一族の末裔を見つ出すために雇った、そのうちの一社だ。
前者については全く役に立たなかったが、後者の末裔探索については当時も仕事が速かったと記憶している。
 忘れ去られた都市の一画に存在する小さな店を探れ――、
一般人が耳にしたのなら、鼻で笑われそうな内容であったが、相手は探偵だ、
依頼を受けたその日に動き出し彼は現地入りを果たした。
 自分の社会保障番号が登録された都道府県より他の地域には移動してはいけない――、
そんな意識が深く根付いているのもまた一般人のみであり、
探偵は仕事となれば北へ南へ、どこへでも飛んで行った。
その職業上、探偵は『忘れ去られた都市』についてもその存在を噂程度には知っていたし、
タカシの依頼の目的についても詮索したりはしない。そしてこの充実した報告書。
一般の範囲内の仕事ならば、優秀と言ってもいいだろう。
 タカシは画面をスクロールし続ける。
526 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:27:53.55 ID:199uZvbgo
 その内容の殆どは、タカシにとって喜ばしいもので、
しかし花街にとってはその逆であることは間違いのない内容であった。
 結論から言えば、花街は死を迎えつつあった。
 最も花街が栄えていた時代――、それと比べての近頃の利用者数は、
その存続も危ぶまれるほどに減少していたのだ。
特定の人間以外とも性的な関係を結びたいと感じる若者が減少していることにその原因があった。
 若者が枯れている、と言うわけではない。
 思春期ともなれば、性への興味は暴走するばかりであるのは、どの時代の若者であっても常である。
しかし今はバーチャルの時代だ。おおよそのことは電脳空間で体験可能な、素晴らしい時代なのだ。
あたかも生身のように感じられるリアルな空間、それがあまりにも生活に深く根付きすぎた為だろう。
生まれたときから直ぐ傍にリアルな紛い物が存在した彼らにとっては、それらは現実と変わりない『紛い物』なのだ。
バーチャル空間で散々遊び倒し、しかし肉体そのものは婚姻後まで清いまま――、などという、
健全なのか不健全なのか判然としない、ちぐはぐな若者は多いようだ。
何と言っても、生身の体験は危険を伴う。
おおよその病気は治せる世の中になったものの、しかし性病の治療には羞恥を伴う。
医者に恥部を晒すことをよしとする人間はあまりいないだろう。
おまけに最悪の場合、免疫系へと一生モノの傷を残す可能性もあるわけで、
そんな危険は誰もが避けたいと願うのは、当然のことと言えよう。
そのような価値観が根付くに従い、若者は徐々に花街の存在そのもを危険なものと認識し、
存在を存じていても避け、見ようとせず、そして記憶の彼方から消し去っていったのだった。
お貴族さまのボンボンは、馬鹿馬鹿しくも『箔をつける』為に花街へと赴くこともあるようだが、
それだって祖父、いや、曽祖父の代からの慣例染みた行いのようなもので、貴族の全てがそうであるわけではない。
つまり、花街の利用者数は著しく減少傾向にあるのだ。
 当然、ショウタが逃げ込んだあの店も、一時ほどの――、
今現在楼主となっているあの男の父の代の話である――、
賑わいはなく、花街全体はあれほどまでに華やかかつ賑やかであるにも関わらず、
店としての収入はとても少ないようだった。
527 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:30:59.39 ID:199uZvbgo

 奴隷の売り買いのイベントが開催されるシーズンには、一時的に客足がが増えることもあるようだが、
それとて年に数回開催される『奴隷市』などという悪趣味この上ない催しが行われた時だけのこと。
数ヶ月もの間、賑わいが続くわけではない。
 その奴隷を購入する人間も少しずつ減少しているというのだから、
花街には少しずつ、だが確実に終焉へと向かっているようだった。
 毎月支払わなければならないショバ代も馬鹿にならないはずだ。
 花街の住人は、最初からそこに居たか、或いは外部から無理やり連れてこられたかのどちらかだ。
 ――彼らには後ろ盾がない。新天地でなにかを始めようにも、その手立てがないのだ。
 ならばタカシが後ろ盾になればいい。
 実入りの少ない商売などはスッパリと捨て、
タカシの力添えで新天地でなにか新しい事業を始めたほうが、
その後、彼の人生にプラスになることは間違はないだろう。
 あの如何わしい街にいつまでも居座っていたところで、何になるというのだ。
 セックス、セックス、セックス。
 肉と肉のぶつかり合いに金を掛ける時代はもう終わった。
 タカシは、あの楼主を己の手駒にすべく、彼について様々な事柄を調べていた。
 両親は夭逝しきょうだいは居ない。
身内と呼べるのは伯父で、その伯父も花街で医者をしているようだった。
伯父は国家資格を保持してはいるようだが、
彼が見るのは客の無体によって体を傷つけられた男娼や娼婦、
或いは使えなくなった『彼ら』の『後始末』であり、
真っ当な医者ならばまずこなさないような仕事ばかりを請け負っていた。
 兄弟のように育ったのは警ら。彼の職業は一応は花街の警備や面倒ごとの片付けではったが、
花街内での建物や機器類の修繕も手がけているようだった。
 そして楼主自身はと言えば、あの男娼が言っていたように『優しい』らしく、
不細工でろくな商品にもならないような男娼や娼婦まどをも引き取り、世話をし、
その都度店を赤字へと向かわせていた。
経営者としては全くお話にならない、と言うレベルの仕事ぶりである。
528 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:33:29.50 ID:199uZvbgo
 それでも店がなんとか持っているのは楼主の人柄のためであるらしい。
彼は一度引き受けた人間の面倒は最後まで見る人物として周知されていた。
 色を買う客には楼主の人柄など『どうでもいい』ことは間違いないが、
店を取り仕切る長の態度は、そのまま娼婦・男娼の性格や勤務態度に浮かび上がるものなのだろう、
赤字には赤字であったが、あの街では、中の中程度の売り上げは弾き出していた。
 報告書をスワイプで消し、タカシは背もたれに身を深く沈めた。
 材料は揃っている。
 赤字経営、金にもならない娼婦に男娼、忘れ去られた土地。それは正に沈み行く泥舟であった。
 材料だけは、ふんだんに揃っているのだ。
 ――だが、あの楼主は一筋縄ではいかない。
 たぶらかすには、なにか『いい話』を作り上げなければならないだろう。
 戸籍の移動はなんとかなるに違いないが、しかし肝心の『いい話』が思いつかなかった。
 約束を反故にしたりはしない。
 ショウタの身に安全を確保するためには、楼主を陥落させるよりほかはない。
 だが、果たしてあの楼主が、『いい話』を提示したところで、ショウタを手放すだろうか――?
 あの、花街に似合わぬほどに、情に厚いと評判の男が……。
529 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:35:37.21 ID:199uZvbgo
 伸びをして体を動かし、ストレッチをする。
 腿の上には、シュウの頭が乗っていたが、それにも気づかぬまま報告書を熟読していたようだ。
 幼いシュウの目の下に、クマが浮かんでいる。
アンドロイドによれば、ここのところ、情緒が不安定なようで、睡眠が満足に取れていないとのことだ。
眠っても直ぐに目を覚まし、タカシの姿を探しては、その不在の落胆するのだという。
 不安定になるのも無理はない。父親が何をしているのか判らない上に、
慣れぬ土地で頭の狂った女と一つ屋根の下に閉じ込められていたら、タカシでも気持ちが塞ぐというものだ。
おまけに、友人であるショウタは、シュウが理解できぬ『何か』にとても腹を立てた様子で突如として姿を消したのだ。
 早くなんとかしてやらねば、シュウ自身もおかしくなってしまうだろう。
 アンドロイドに眠ったシュウを自室へと連れて行くように促し、報告書にもう一度目を通す。
 シュウを安心させるためには、まずショウタをどうにかすることが急務であろう――、
そんな思案を重ねていた瞬間、タブレットが急速に明るく輝きだした。
 どうやらA社本社にいるはずの部下からの、仕事用の連絡機による連絡のようだ。
 対話には不向きな、互いの顔が見えないタイプの、要するに単純な『電話』での連絡である。
遠く離れた部下と話す際には、互いの表情を確認できるタイプでの通信方法が望ましい。
そのほうが相手が何を言わんとしているのかより理解し合えるからだ。
通常とは異なる連絡方法をいぶかしみながら、タカシはタブレットを手に取った。
 だが、変化はそれだけではなかった。
 画面上で、いくつものポップアップが浮かび上がっては消えていく。
 一つ、二つ、三つ。
 五つ目ほどでタカシは異常を察知し、一先ずは部下からの電話を受け取ることにした。
530 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:37:20.78 ID:199uZvbgo
「はい」
『テレビつけてください!』
 部下は名乗りもせず、タカシの都合も尋ねず、突如そう言い放った。
 言われるがままにタカシはテレビの電源を入れ、
取敢えずは日本放送技術公社にチャンネルを合わせた。
ホログラムがゆっくりと浮かび上がり、電波が悪いのか、緊迫した様子の女性がなにやら必死に告げていた。
女性が何を言っているのかタカシが理解できないうちに、映像は『現場』に切り替わったようだ。
 揺れる不明瞭な映像に、タカシは見覚えがあった。
 空を貫くような高さのビル、その壁面が大きく崩れている。
 地面から伸びるのは、この大日本帝国が誇る防空用のミサイルだ。
通常は人が携帯して攻撃するもののようだが、この国では国民にそれをさせることがない。
完全にコントロールされた地下システムによって、有事に際して『勝手に』地下から伸びだし敵を攻撃するもの――、
その禍々しい筒状のそれに対するタカシの認識はそれだった。
その国防の為の小型のミサイルコンテナーが、どういうわけか、ビルに向けられていたのだ。
 一度、二度、三度。整列したそれらは規則的にビルを攻撃していた。
531 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:40:17.37 ID:199uZvbgo
『ご覧下さい、物凄い勢いで建物が崩れています!』

 髪を振り乱しながら、アナウンサーが叫んでいる。
 揺れるホログラムは、タカシのよく見知るビルであった。
 空を貫かんばかりに縦長であったその建物は、
国防の為の小型ミサイルによって攻撃され、頂上部分が殆ど欠けた状態となっていた。
地上から百数十メートル上空を攻撃するのは不可能であろうから、
近隣の防護壁に設置されたものから放たれたのかもしれない。
 激しく火を吹くビルから、落下するのは瓦礫に、そして時折――、人と思しき形状のもの。
 続いてズームされた映像として映し出されるのは、
ビルから這い出るようにして逃げてくる者、慌てて避難する通行人、怪我をして歩けない者。
 現実味のない映像が、立て続けにタカシを襲った。
 だらんと膝の上へと放った手の中から、激しい叫び声が聞こえてくる。部下との通信はそのままだったのだ。
 気分が悪くなる。
 腹の底から、食べたものが競りあがってくるような感覚に、タカシは慌てて便所へと駆け込んだ。
 喉が焼き付けられるような感覚と苦しさに、涙が零れ落ちるのもそのままに、
タカシは幾度も便器へと吐瀉物をぶちまけた。
 今の生を受ける前の、戦中の記憶が一気に溢れ出した。
 吐き気が治まった頃、タカシはゆらりと立ち上がる。電話はいつの間にか途切れていた。
 国防システムによる破壊の渦中にあるのは、どうやらA社の本社社屋だと、タカシは漸く理解した。
 細長いビルがまるで特撮のジオラマのように崩れ、火を噴いている。
532 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:44:38.50 ID:199uZvbgo
 タブレットが『異常事態宣言発令』の文字を画面へと浮かび上がらせている。
これは自身の住まう地域が災害や異常事態――、他国からの攻撃などがそれに当たる――、に、みまわれた際に、
国民が一人でも多く逃げ延びるために発令されるものだ。
 ホログラムに浮かび上がるのは、喚くアナウンサー、そして『国防システムの暴走か?』の文字。
 唐突に理解した。
 『終わり』が来たのだと。
 これは、A社に対する明確な殺意が形になった攻撃に違いない、と。
 A社はこのまま転覆するのだろう――、そんな確信めいた予感が、タカシの頭を駆け巡った。
 それは『開放』か、『終焉』か、それとも――、『完全な死』か。
 自分の身に降りかかるであろう三つの未来が生々しく浮かび上がり、そしてタカシは床を蹴るようにして立ち上がった。
 ヒュッと、喉が鳴り、一瞬呼吸が途切れていた己を自覚する。
 肺一杯に空気を吸い込み、考えるより早く、たった一つの名を叫んでいた。
「シュウ!」
 声を荒げて息子を呼ぶ。
 国防システムの異常? そんなはずはない、とタカシは確信していた。
 国防システムには何重にもロックが掛けられているはずだ。
 二度目の生をスタートさせたばかりの学生時代、課外授業で国防システムを見学させてもらったことがある。
 パスワード、声紋認証、角膜認証、そしてまたパスワード。
 それぞれの異常事態発生地の都道府県知事が国に報告、国が異常事態を確認、
そして漸く、異常が認められた各当都道府県の知事がそれらのロックを遠隔的に外し、初めて国防システムが動くのだ。
 非常事態でもないのに、仰々しい白いヘルメットを被った施設の管理者がそう説明していた。
 間違いは起こらない。決して。安全が一番大切なのだと、説明を繰り返していた。
 だから、間違いは起こりようがないのだ。
 それが『意図的』でないのなら。
533 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:46:30.49 ID:199uZvbgo
「シュウ!」
 もう一度叫ぶようにシュウを呼んだ。
 先ほどアンドロイドに部屋に運ばせたばかりではあるが、
そう暢気に構えている時間はない。
 何故ならば、一家は『避難』しているのだ。
 何から避難しているのか、そろそろみなが、いや、その避難を強固に願ったミユキでさえ忘れているようではあるが、
危険から身を隠すために避難をしていたのだ。
 国防システムの暴走など有り得ない。有り得るはずがない。
 誰かしら意図的に暴走を引き起こしたとしか思えなかった。
 そう、例えば――、A社をよく思わない連中。
 水製造機の存在を未だによく思わない団体は国内にいくつかあって
、開発者であるタカシは疾うに死んでいることになっているものの、
まるでその遺志を継ぐかのようにしてメンテナンスを積極的に行うA社を、
彼らは当然のようにタカシそのものよろしく敵視している。 
 デモ行為など可愛いものである。
 抗議活動は何度か社屋前で行われたが、実害らしい実害と言えば、社員の誘拐未遂事件くらいであった。
 社員の誘拐から社屋爆発――、手口が急激にテロリスト染みたことに些かの違和感は覚えたものの、
しかしタカシは今漸く急激に身の危険を意識したのだった。
 ミユキの戯言などに付き合うのは馬鹿馬鹿しいと感じていたが、
しかしこうも明確に敵意を剥き出しにされては、危険を認知せざるを得ない。
 軋む階段を駆け上がり、寝ぼけ眼でベッドに座すシュウの両肩を引っ掴む。
534 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:48:24.33 ID:199uZvbgo
「お父さん……?」
「シュウ、よく聞いて。今すぐにこの家を出なくてはならなくなった。
アンドロイドと一緒に荷物をまとめてくれ」
「お家に帰るの?」
「違う」
 即座の返答に、シュウは少しばかり落ち込んだ顔を見せた。
 しかし、タカシの掌が己の肩に食い込むほどにきつく力を込めたことによって、
聡い子供は異常を察知したようだった。
「わかった」
 シュウが力強く頷く。眠気はどこかに吹き飛んだようだった。
「十分で済ませられるね?」
「十分……、長い針が十個分? できる」
「いい子だ」
 頭を撫で、己は階下に駆け降りる。
 タブレットが明滅を繰り返している。
 それらの全ては無視して、義父へと連絡を繋ぐ。
 義父へも怒号の勢いで連絡が行っているのであろう、タカシからのそれはなかなか繋がらなかった。
 苛立ちながら、己もこの出立の準備を進める。
 敵が、どこまでタカシたちの動向を把握しているのかは定かでないが、
ここに留まるのが得策でないことだけは判っていた。
 大阪か、兵庫か、或いは愛知、静岡か。
 人々は、己の住処を離れてはならない。
離れることは『よくないこと』だと、箱庭計画を実行するための下地として長きに渡って刷り込まれてきたが、
しかしタカシは違う。タカシは戦火を潜り抜け西へ東へとひた走った過去を持つ、若者の皮を被った老人なのだ。
己の身を守るためならば、県を跨いで移動することに何の罪悪感も後ろめたさも感じない。
 兎に角逃げなくてはなるまい。
535 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:52:22.04 ID:199uZvbgo
 家に戻ることは得策ではない。
ショウタの通う初等部へと脅迫状が届いているということは、住まいなどとっくに割れているだろう。
 自宅周辺の都道府県への移動も避けるべきだろうか。
 いっそのこと、古都東京、そうでないのなら神奈川――、駄目だ、とタカシは首を振る。
この二都県には水製造機全一二〇機それぞれ十機ずつが存在する。これはかなり多い数だ。
東京都の面積に対して機体が多いのは、頻繁に歴史的建造物の修復を行うためだ。
神奈川に多いのは、
単純に先の大戦の元となった『無国籍軍による横浜空港襲撃事件』の二の舞を危惧してのことである。
あの県には、万が一の襲撃に備え、最も規模の大きい国防軍を配置してあるのだ。
 A社に露骨な攻撃が仕掛けられたということは、
全国に配置された製造機にも同様のことが起きることは安易に想定できる。
寧ろ、起こされた行動は遅すぎたくらいである。もっと早くに今と同様の事態が訪れても不思議はなかった。
 最悪の場合、A社そのものが解体されることになるだろう。
 だが、それはいい。そうなってしまったら、それはそれとして仕方がないことだ。
 タカシは婿ではあるが息子ではない。A社に然したる思いいれはない。
 だが――、ぞっとした。
 先の大戦、逃げ惑う日々、息子を、あの子を、タカシを奪われた悲劇。
 こみ上げる吐き気を掌で押さえ込み、すぐさま荷造りを再開させる。
 必要最低限のものだけをトランクに積み込み、それを庭へと運び出す。
 シュウのしたくはアンドロイドが手伝っている。
 ミユキは異常事態を把握しているだろうか。
ここ数日、寝ているか叫んでいるかが多くなったミユキには、正気で居る時間が全くない。
 タカシが全てを告白した途端に、もとより不安定であった彼女の精神は、木っ端微塵に砕け散った。
 尤も、彼女の狂った計画は最初から成功の見込みはなく、
いずれは彼女もその事実を知るに至っただろうから、少しだけ、崩壊の瞬間が早まったに過ぎないのだが。
 だが、置いていくわけにはいかないのだろう。
 タカシには、ミユキへの関心が全くない。彼女がどうなろうが知ったことではない。
だが、ここに捨て置けるだろうか。彼女を放置することはきっと『よくない』ことだろう。
536 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:54:16.12 ID:199uZvbgo
 タカシは嘆息しつつ、小走りで屋内へと戻る。
 と、揺らめくシルエットがホログラムの前に確認できた。
 ――ミユキだ。
 彼女は視線をホログラムへと張り付かせたまま、小刻みにゆらゆらと揺れていた。
 揺れるスカートに、既視感を覚える。
 気分が悪くなる。
 あれは、タカシが二度目の生を受けたばかりの、あの日の残像だ。
 マッドサイエンティストであるあの女を殺害したタカシのもとへと、ミユキはやってきた。
 既に若返った己の肉体へと脳を移植した彼女は、少女になっていた。
少女の彼女は、全てを任せろと言い、そしてタカシの罪を全て洗い流したのだった。
「ミユキ」
 名前を、久しぶりに呼んだ。
 細い首が静かに動き、真っ直ぐにタカシを見据えた。
 本の僅かな正気を宿した瞳が、恐怖と不安を綯い交ぜにして揺れている。
「ここも危険かもしれない。逃げよう」
 言葉は、すんなりと出た。
 捨ててしまえばいい。
 ここに置いていけばいい。
 何故か、どうしてかそうは思えなかった。
 この女は、ショウタの母親なのだ。
 ショウタを産んだ、女なのだ。
 いいや、言い訳だ。
 単純にタカシは『寝覚めの悪い思い』をしたくないだけだ。
 ミユキを捨て置くことには罪悪感が生じる。だから、仕方がなく。
 そんなことは判っているであろうミユキの首が、だがしかし、ぎこちなくはあるも縦に振られた。
537 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:57:03.46 ID:199uZvbgo
****

「ショウタを迎えに行く」
 助手席にミユキを乗せ、シュウは運転席の後ろに、
アンドロイドはトランクに荷物と一緒に詰めて車は動き出した。
 楼主はすんなりショウタを返してはくれないだろう。
 だが、非常事態だ。
 なんとしても返してもらわなくてはならない。
 ――日差しが、眩しい。
 あの街へと向かうのは、いつでも夜だった。
 昼間に見る捨て去られた街への道筋は、とても新鮮だ。
 自動運転機能は解除し、危険は自らの運転で回避する。
時折小石に乗り上げ、その衝撃が体を襲った。
 運転が得意な訳でも好きな訳でもなかったが、不測の事態に陥った時、
限界までスピードを出せるセルフ操縦の方が危険が少ないと考えたのだ。
 木々の合間に、燃えるような赤い鳥居がチラチラと影を見せる。
現実味のない虚像のような鳥居は確かにうつしよのものなのだ。
 国防の為の道具がどういうわけかA社を攻撃している。
その不可解な事実に比べれば、赤い鳥居の存在の方が判りやすく現実的だ。
 ミユキが運転席を凝視ししている。
 いや、運転席のその横、窓の更に奥にある鳥居を見ているのだろう。
538 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 21:59:32.59 ID:199uZvbgo
「馬鹿みたい」
 ミユキが小さく呟いた。
 本来、神聖な場所への入り口であるはずの鳥居が、汚れた街への入り口となっている。
 奇妙な現実だ。
「私、貴方が好きだったのよ」
 なにかを思い出したように、ミユキが言った。
 知っていた。そんなことは、タカシ自身が充分に知っていた。
 タカシと生きるために、新たな体を用意し自身の脳を元の体からくり貫いたのだ、この女は。
 危険を承知で、戦犯となったタカシに協力さえしてみたのだ。
 ミユキがどれほどタカシを求めていたのかなど、今更語るべくもない。
「貴方だけが好きだった。殺したいほどに、全部自分のものにしたいほどに」
 それきりミユキは黙りこくった。
 ミユキはタカシだけを好きだった。
 確かにそうではあるが、それよりも何よりも好きなのは自分自身だと言うことに、
悲しい彼女は気づいていない。
 見栄えのしない面立ちと言うわけではない。家柄とて悪くはないのだ。
 そんなミユキに一切の興味を抱かず、惑わされず、振り向かず――、
だというのに実の姉にトチ狂った男。そんなタカシをモノにしたかっただけだろう。
 彼女はタカシに踏みにじられた自尊心を、
タカシを完璧に手中に収めることによって回復したかっただけだと気づかない。
 でなければ、自分の欲の為に子供を――、自分が産んだ子供の体に、
好いた男の脳を移植しようだなんて、いかに鬼畜な母親だって考え付かないはずだ。
 彼女の気持ちも、行動も、全てが彼女の為のものだ。
 彼女がそれに気づいてるかどうかは兎も角、彼女はタカシを求めていたが、
それは純粋な恋情からくるものではないはずだ。
 勘違いを拗らせ、彼女はついには狂ってしまった。
 ミユキはイカレている。
 そのミユキに対する評価だけは、タカシは譲ることができない。
 尤も、イカレているのはお互い様だろう。
 二人は二人とも、イカレていて、ある意味、似た者夫婦なのだ。
 やがて鳥居が間近に迫ってきた。
 タカシはより一層スピードを上げ、ショウタのもとへと一分一秒でも早く駆けつけようとした。
539 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:01:32.67 ID:199uZvbgo


 鳥居の前は、日々の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。
 国防システムの暴走。その事実に人々の興味は集中しているようだった。
 国防システム――、
それらの力が及ばない、殆ど無法地帯と化しているこの街でさえもが注目をせざるを得ないほどに、
その事件は重要なものなのだ。
 何せ、国の根幹が揺らぎかねないのだ、その『暴走』は。
 多額の税金が投じられた国防の為のシステムは、今やその信頼を失墜させ、
国民の安心感を根こそぎ奪い取る存在となっていることであろう。
 なにがあったのかは定かではないが、この体たらくでは、万が一他国に攻め入られた場合、
それらが正常に機能するかどうかさえ怪しいものだ。
そればかりか、守るべき国民を攻撃しさえもする。
 あってはならぬはずの、いや、あるはずのない事態がこうして現実に起きている。
 この事実に、注目しないほうがおかしいだろう。
 フロントガラス越しに、鳥居とその奥を盗み見るが、誰もが立ち止まり、そして俯いていた。
 鳥居の出入り口を監視する警らたちでさえ、一人が手にしている小型端末を数人で囲んで覗き込んでいる。
 鳥居を潜ろうとしていた客の男たち数名もその場で固まったように立ち尽くし、
警らたちと同様に、手の中のそれを睨むようにして見ていた。
 車を駐車し、後部座席を振り返る。シュウが不安げな顔でタカシを見上げてきた。
 ――ここへ置いていくべきか、それとも鳥居を潜らせるべきか。
「シュウ、おいで」
 迷った挙句、タカシはシュウを抱き上げた。ミユキの傍にシュウをおいておきたくはなかったのだ。
 ミユキは助手席に座ったまま、動こうともしない。
540 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:03:07.23 ID:199uZvbgo
 鳥居へと近づくと、画面を食い入るように見つめていた男たちが顔を上げた。
いつもの警らもそれには含まれており、「旦那」と、かさついた声で呼びかける。
「二人分の通行証を」
 なにか言いたげな顔で警らの男は逡巡したが、結局通行証は発行された。
「ありがとう」
 礼を言って鳥居を潜るが、警らは二人を監視するためか、
それとも単純になにか申し伝えたいことがあるのか、二人の後を追ってくる。
 玉砂利が擦れる音がする。花火も今日は鳴り響いてはおらず、
揺らめく提灯だけが、この非常時に場違いなほどに明るかった。
「旦那」
 タカシは返事をしなかった。
 もう何度この道を辿っただろう。
漸く覚えた道を行く最中、何度か警らに声を掛けられたが、ついに会話は成立しなかった。
 やがて辿り付いた置屋は、やはりシンと静まり返っており、格子の中にも男娼や娼婦は皆無であった。
 構わず扉を開ければ、そこには――、楼主が居た。
 楼主は世のざわめきと忙しなさなど何ひとつ知らぬと言った顔で煙草をふかし、
しかしタカシの姿を認めると、視線を鋭く尖らせ煙を吐き出した。
541 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:04:57.32 ID:199uZvbgo
「ここは保育所じゃねぇんだ。そんなチン毛も生えてねぇようなガキをつれて来られても困る」
 自分のことを何か悪く言われたと感じたのだろか、腕の中でシュウが縮こまるのをタカシは感じた。
 だが、シュウには悪いが、今はそんなことに構っている場合ではない。
「――ショウタを、返してもらいに来た。金はいつか耳を揃えて払う。
平和的解決の為に、いくつかの提案も考えていたが、時間がない」
 取り繕ったりご機嫌を窺っている時間はない。タカシは要求を端的に述べた。
「提案、ね」
 楼主は小馬鹿にしたようにして煙を吐き出した。
「店を畳めって? 出資してやるから、もっと治安のいい場所で新たに事業でもしろってか」
 誰かがこちらを嗅ぎまわっているのは知っていた、と楼主は言った。
「あんまり馬鹿にしないで貰いたいねぇ。私は好きでこの店をやっているんだよ」
 その通りであろう。この男が思わずグラつくような話を用意せねば、説得が難しいことは判っていた。
 だからこそ、なにかいい手はないものかと考えていたわけだが――、
結局、『いい話』などと言うものは、浅はかなタカシには思いつかなかったのだ。
 ならばもう、脅すしかない。
 この情に厚い男の、一番突かれたら嫌な部分を、突き倒すしかないのだ。
「このままここに居たらショウタは死ぬ」
「安心しろよ、そんなことにはならない。私の店に居る限りは」
 タカシはかぶりを振った。
 楼主は、未だショウタが何者であるのかを把握していないのだろう。
 ショウタはただのボンボンではない。A社を取り仕切るあの男の孫なのだ。
 だが、その事実を安易に公表できるほど、今現在ショウタを取り巻く環境は安全なものではなくなっている。
 どこに『反水製造機』を掲げるテロリストが潜んでいるかも判らない状況なのだ。
542 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:06:58.58 ID:199uZvbgo
「ショウタは、ただの子供ではない」
「ほう?」
 楼主はなにも判っていない。だから理解できない。
ショウタが今、どんな状態であるのかが、判らないのだ。
 当たり前の事実に、苛立ちが募る。
「詳細は述べることができないが、ショウタは――、政治家だとか、つまりそういう立場にある人間の孫だ」
「それで?」
「――知ってのとおり、今この国では何かが始まってしまった。
ショウタの身にも、いつ何時なにが起こるか判らない状況だ」
 ショウタを目標としたテロが、近々起こるかもしれない。
それは起こるかもしれないし、起こらないかもしれない――、
曖昧さを含ませてそう告げるが、タカシは確信していた。それは必ず起こる。
 敵はおそらく、ショウタの居所など容易く突き止めることであろう。
「国防システムが暴走した」
「ならば国防システムのないこの街に居るほうが安全だろう」
 その通りだ。この街には日本全土に張り巡らされている国防システムが、
例外的に外されている唯一の場所だ。
 システムが脅威だというのなら、寧ろこの場に居たほうが安全なのは、タカシでも判る。
 だが、敵はそれだけではない。
「システムが暴走するように仕向けた者が居る。それは『人間』だ。人間がシステムを狂わせた。
そいつらがここに来ないという保証はない。
この街全体に火の粉が降りかかるかもしれない。勿論、この置き屋にも」
「――脅しているのかい」
 楼主の眼差しがスッと冷えていく。
タカシを小馬鹿にしたように三日月形に細めていた目は、今や鋭利な刃物のようだ。
不快感と拒絶を滲ませた視線に、だがしかし、タカシは怯むことなく「そうかもしれない」と続けた。
 今更取り繕ってどうなるというものではない。
兎に角今は、ショウタの身の安全を確保することが最も大切なことなのだ。
543 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:07:53.07 ID:199uZvbgo
「申し訳ないが、ショウタを返して欲しい」
 シュウを抱えたまま、頭を下げる。
 プライド、ショウタを拒絶したい気持ち――、それらが散り散りになっていく。
 だが、ショウタを受け入れることができない。
拒絶と言うよりも、ただただ、ショウタの存在を『己の子』として受け入れることができないのだ。
 愛している? そんなはずはない。未だにその気持ちは変わらない。
 あの子の手前、ショウタを愛せない? その気持ちも、否定したい。
ショウタを愛せないことは、タカシ自身の欠陥であって、あの子は無関係だ。
 だが、ショウタの命が失われること、それだけは避けたかった。
 愛してはいない。
 タカシの息子は、あの子とこの腕に抱いたシュウだけで、そこにショウタは含まれて居ない。
 では、何故助けたいのか。
 未だタカシはその答えを出せずに居た。
544 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:09:25.69 ID:199uZvbgo

「愛していないと、駄目だろうか」
 タカシはポツリと呟いた。
「ぁあ?」
 楼主が苛立ったように声を荒げた。
「親になることは、きっともうできない」
 ショウタはもうタカシになにも求めていないし、望んでもいない。
 タカシはタカシで、ショウタを受け入れることもできなければ、
そんな存在であるショウタになにかを強制することもできない。
 親子の関係は、まやかしだ。
 たとえ己の遺伝子を受け継いでいたとしても、乳飲み子から片時も離さず育て上げたとしても、
だからと言って一心同体、子が愛しくてたまらない、ということはない。
子もまた同様に、無条件に親を慕うというわけではない。
 おそらく、最初から、タカシは間違えていたのだ。脳を移植された若い身体に引きずられたのか、
それとも元来の性分なのか、タカシの中にある、どうしても昇華できぬ子供染みた拒絶と拘りは、
大いにショウタを傷つけたことだろう。
 それらの過去をなかったことにはできない。
ショウタの胸にタカシが作った傷を塞いでやることはかなわない。
 ならばいっそ、親でもなんでもない立場の人間として、ショウタを保護することはできないだろうか。
 簡単なことだ。
 親になる必要はない。
以前のショウタならばそれを求めていただろうが、彼はもうすでに、親を求めることを諦めた。
 今更そんなもの、熨斗をつけられたとしても彼は必要ないと拒絶することだろう。
 親にはなれない。
 だが、遺伝上のつながりを持つ『他人』として保護をすることならば。
545 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:11:22.65 ID:199uZvbgo
「ショウタに一番近い『他人』として、彼の身柄の保護に全力を注ぎたい」
「それはお前さんのエゴだ。自分の体面を保つためにショウタを手元に置きたいだけだろう。
ふざけたことを言うんじゃないよ」
 楼主がタカシを睥睨した。いや、汚物を見るような目、とでも言うのだろうか。
 彼の目には、タカシに対する怒りと侮蔑で鋭さを湛えた光りが宿っていた。
「そうだ。それに他ならない。だけどショウタが死ぬことは避けたい。
親になれないのだから、命くらいは守ってやりたい」
「勝手なことを言うな! 万が一ショウタが死んだらテメェの寝覚めが悪いだけだろ!」
「その通りだ」
 タカシは頷いた。
 隠すことはできない。
 逃げることも、今はもうできない。時間的余裕がない。
 今はただ、ショウタを守らねばならないという使命感が胸にあった。 
 それはただ、別に逃げ道を作っただけだということも理解している。
問題はなにひとつ解決していないのだから。
 タカシが選んだのは、ショウタの父となることを結局のところは拒絶したままで、
その代わりに自身の体裁を整え『他人』としてできうる最低限の務めを果たすことだ。
 タカシの言動に逐一傷つくことがなくなったショウタにとっては、ただのありがた迷惑に他ならないだろう。
 結局自分本位に生きていることには変わりない。 
「自分の立場が悪くなることも避けたい。自分の所為でショウタが死ぬことも避けたい」
「アンタな……!」
「それが俺にできる『限界』なんだ」
 楼主の顔を見て、タカシは言った。
546 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:13:08.65 ID:199uZvbgo
 タカシは生涯、ショウタに父親として接してやることはないだろう。
 きっとそれは、永遠に覆ることはないはずだ。
 例え500年タカシが生きたとしても。
「取り繕って父親のフリをしてやることさえもできなかった俺に、唯一できることだ。
命を守ることが、俺があの子の為にしてやれる最初で最後の、たった一つのことだ」
 今更、可愛がるフリなどできない。
 今更、善人のフリをすることなどできない。
 ならばせめて、命を守ってやることくらいしか、タカシにはできないのだ。
「……命を守る、なんてたいそれたことをするよりも、愛しているフリをするほうが何ぼも楽だろうが。
私はアンタが理解できないね」
「そんな紛い物、与えられたところで、あの子は気づいただろうよ」
 ショウタは賢い。
 タカシがシュウに注ぐ愛情と、自身に注がれるそれに温度差があることなど、
きっとあの子供はすぐに気づいたことだろう。
 ショウタはそういう子供だ。
 ――だが、ふと、考える。
 偽物の愛情でも与え続けたら、ショウタは笑顔で気づかないフリをしてくれただろうか。
 大人の身勝手を責めることもなく、こんな場所に出奔することもなく、ただ『いい子』を演じただろうか。
 それはそれで、とても残酷なことだ。
 今、タカシに歯向かい自由に行動しているショウタは『本物』だ。
 アンドロイドを父と呼んだときから、ショウタは脱皮し『本物』のショウタになった。
 自身の行動を擁護するつもりなどタカシにはなかったが、
だが、本物のショウタは、今この残酷な経験を通過することによって、漸く発露されたものだとも思えるのだ。 
「そんなもの、与えたところで意味はない」
 嘘は嘘だ。紛い物には温もりがない。
 結局のとこと、ショウタを歪ませる結果に終わることだろう。
「――だが、私の知る限り、あの子はアンタにそれを求めていたよ。偽物でもな」
 楼主は暫く考えこみ、そして溜息を一つ吐いた。
「あの子が拒絶したら、それっきりだ。もうここにも来ないでくれ」
 タカシは唇を引き結んだ。
 頷くことができず、時間が1秒、2秒……、1分と経過していく。
 了承せねば、ショウタと面会することさえも叶わないのだろう。
 不承不承、タカシは頷く道を選んだのだった。
547 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2016/11/22(火) 22:41:07.47 ID:199uZvbgo
今日はここまで

なんか、すみませんでした
元気です
保守してくださった方、ありがとうございます

全くの外部サイトで申し訳ないのですが
過去作のうちいくつかを乗せたアドレスおいておきます
(非公開中のものもあります)
http://www.pixiv.net/member.php?id=9400707
あとカクヨムにもこの『没落貴族〜』を加筆修正したものがあるんですけど
IDを失念してしまったのでまた今度
タイトルは『そして彼らはひとり記憶の荒野に立つ』に改題してあります
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/11/23(水) 11:17:34.22 ID:NKtG+c8SO
スレタイ詐欺
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2016/12/21(水) 20:36:48.32 ID:7RAkgpJo0
ほしゅ
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/12/24(土) 02:07:00.33 ID:GGsgR2Ac0
お疲れ様です。作者さん、元気ということで安心!お待ちしておりました。
今回も読みごたえあって楽しませて頂きました!いつもありがとうございます。

タカシ本人の口から、ショウタへの思いが語られましたね…
ずっとショウタかわいそうと思っていたので、納得はできないし自己中なヤツだなって気持ちは変わらないけど、
それでも彼なりにショウタのことを考えているということは理解してあげたい。

作者さんを知ったのは別の作品だったのですが、偶然この作品を目にして「もしかして、あの作品の作者さん?」と思い出して
その後過去作品を探して読ませて頂き
作者さんの作品の、話自体も勿論、凝った世界観なども本当に大好きなので、
あらためて過去作品を読めるの嬉しいです。

続きも楽しみに待っています!
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/01/22(日) 01:39:26.11 ID:Ijgc/kL80
ほしゅ
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/16(木) 01:38:56.45 ID:d9helZXj0
hoshu
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/26(日) 20:32:57.27 ID:dhbkqUsFo
久しぶりに続き来てたんだね。乙
まだまだ待ってます
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/28(火) 20:20:04.42 ID:j5YtEOMz0
ほしゅ
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/21(金) 23:23:50.96 ID:3xuCoYZZ0
ほしゅ
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/20(土) 13:59:19.98 ID:EXH8nMFU0
ほしゅ
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/16(金) 18:59:29.92 ID:wtmh6DrU0
ほしゅ
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/07/07(金) 01:35:03.24 ID:G6IRnip80
ほしゅ
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 23:44:29.96 ID:FDWk9Z750
ほしゅ
560 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 00:55:26.46 ID:pjPWS69mo
あってるかな、よいしょ!
561 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 00:57:44.68 ID:pjPWS69mo
 ショウタはいつでも、窺うようにこっそりとタカシを見つめる子供であった。
 そっと静かに見つめ、タカシがそれに気づき振り返れば、咎められると思ったのだろう、
何も見ていかなかったかのように視線を逸らす子供。
 シュウを羨ましげに見ていたことも一度や二度ではない。
 可哀想な子供。不憫な子供。本来生まれてくるはずのなかった、
身体の半分をタカシで構成された子供。
 その子供は、今、タカシの前に立っていた。
 視線が逸らされるのは、怯えからではなくタカシへの反抗心だ。
 置屋の中へとタカシを招き入れることを、ショウタが「どうしても嫌だ」と厭ったため、
こんな道の往来で二人は対峙していた。
どうせこの混乱だ、客なんて来はしないのだから問題はないだろう。
 何をしに来た。何の用のだ。そんな問い掛けさえないまま、二人はそこにただ立ち尽くしていた。
 楼主に首根っこを捕まれるようにして外へと放り出されたショウタは、
その楼主に助けを求めるように彼を見つめていた。
 ショウタにとって、頼るべき大人、甘えるべき大人は最早タカシでもミユキでもなく楼主なのだ。
 楼主は店に引っ込む直前に、ショウタの後頭部をさり気無く撫でた。
 まるで父親だ。
 そのさり気無い愛情表現に、鈍磨したショウタは気づかない。
ただなんとなく触れただけ。そんな風に思っているのかもしれない。
 楼主がさっさと置き屋へと引っ込んでしまってからは、助けてくれるつもりがない彼に対してか、
それともタカシに対してか、不貞腐れるような顔でただこうして突っ立っている。
 シャツに、半ズボン、それに少し伸びた髪。
 剥き出しの足は下駄に突っ込まれ、小さな爪がむき出しだ。
562 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 00:58:52.72 ID:pjPWS69mo
「寒くないか」
 小さく声を掛けると、ショウタはぞんざいに「寒くない」と答えた。
「俺、仕事が残ってるんだ。さっさと済ませてくれる?」
 矢継ぎ早に言うと、足元の小石をつま先で蹴って弄び始める。
 お前と話すことなどない――、そういうことだろう。
 小手先の取り繕いなど、最早意味を成さない。
そうなるまでショウタを追い詰めたのは、他ならぬタカシだ。
 タカシは息を吸い込むと、ショウタを真っ直ぐに見た。
「単刀直入に言う。俺とこの街を出よう」
 ショウタは視線を俯かせたまま、小石を蹴っている。
返事はなく、ただ風の音が二人の間を通過していった。
「知っていると思うが、A社が破壊された。
おそらく、A社に対するテロ行為だ。お前の命もいつ狙われるか判らない」
 提灯が揺れている。
 普段ならどこからか聞こえてくる明るい調子の音楽も一切聞こえない。
花火も花を咲かせていない。
 ただ、小さな声で「だから」と。
突き放すように「だからどうしたの」と言うショウタのか細い声が、
どうしてか、やけに大きく聞こえてきたのだ。
「貴方は、別に俺が死んでも悲しくないでしょ」
 言葉に詰まる。
 ショウタが死んだ場合を想定したとき、頭を駆け巡る感情は実に様々で、
しかしその感情の根っこにあるものは殆どが『焦り』であり、
ショウタが言うように『悲しみ』はその極々一部、とても些細なものであった。
563 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:02:56.96 ID:pjPWS69mo
例えば、特別ファンではないが、同世代の芸能人がこの世を去った時のような、些細な悲しみ。
それによく似ている。
 しかし、それでもタカシはショウタの命を守らなければならないのだ。
 ショウタは『同世代の芸能人』ではなく、タカシの子供なのだ。
その発生こそタカシの与り知らぬところで行われたものであったが、
しかしタカシが遺伝上の父親だというのなら、
最低限度、『最も近い他人』としてしてやらねばならないことはそれだった。
 ショウタは既に父親を必要としていない。生きる手立てでさえ自分で整えた。
 そんなショウタに『父親であるタカシ』を押し出したところでなんの効果もないだろう。
 ならば、いっそショウタを対等に扱うべきだろう。
「お前は突然生まれた」
 ショウタの肩が、ピクリと揺れたように見える。
相変わらず俯いたままで、表情は判らない。
 二人を見守るようにして警らの男が傍らに立っているが、口を挟む様子はない。
ただ静かに、成り行きを見守っている。
「体重2700グラム、少し小柄だが、健康な男の子だと言われた。だけど、」
 お父さんは。そう一人称を紡ごうとしたが、やめた。
 ここで『父』を匂わせる単語を用いること以上に卑怯なやりかたはないはずだ。
「――俺は、お前を自分の子供であるとは思えなかった。
気づいたらミユキはお前を身篭っていた」
 俺の精子を使って勝手に。
 精子、という単語を、果たしてこの子供が理解できるかどうか不明であったから、
事象だけを短く告げることにした。
「父親が、父親の自覚を持つ前に子供が生まれ出るのは、今時珍しくない。
だから、俺がお前の父親になれなかったのは、俺自身の欠陥であってお前の所為ではない」
「知ってる」
 ショウタが突然しゃがみ込んだ。
 足元の玉砂利を寄せ集め、山を作り、そして崩した。意味のない遊びだ。
ショウタはタカシと、決して視線を合わせようとはせず、その無意味な手遊びを繰り返した。
564 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:05:07.92 ID:pjPWS69mo
「知ってた。俺が生まれたのは俺の所為じゃないし、
アンタが毛嫌いする原因は俺にはないって知っていた。直せる事じゃない。
俺の所為じゃないのに、アンタは俺を邪魔者にした。
でもその原因は俺にはなくて、アンタの中にあった。知ってた。ずっと知ってた」
 ショウタは、玉砂利を積み上げる。そして崩す。
 玉砂利の山のように、少し力を加えれば崩れ去る城に、ショウタは住んでいた。
 自分を『脳みその器』としか思わない母と、たまにしか会いに来ないくせに邪険に扱う父。
そして、そんな子供を不憫に思ったのか、殊更優しく接しようとする祖父。
 だが、ショウタはそんな事実に気づかないフリをしていた。
普通の子供――、与えられるべき愛情を真っ当に注がれている子供であろうとした。
「今更何も必要ない。誰かに優しくしくしてもらいたくもないよ。
好きにすればいいじゃん、今までどおりに。
俺が殺されてしまっても、今までみたいになかったことにすればいいよ」
 ショウタは自ら砂の城を崩し去ったのだ。
 大人たちを見限り、自分一人で生きていくことを選んだ。
 揺れた提灯の明かりが、ショウタの旋毛を照らし出す。
 綺麗に巻いた頭の渦に、既視感を覚えた。
 シュウだ。ショウタの旋毛は、シュウのそれとよく似ていた。
 タカシの傍らで息を潜め、そっとタカシの手を握る幼子のそれにソックリだったのだ。
 ショウタは、紛れもなくその体の半分を、タカシで構成された子供なのだ。
「お前を死なせたくない」
 唐突に、言葉が飛び出した。
 ショウタが手を止め、そしてタカシの全てを遮るように、玉砂利の山を崩す。
565 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:06:54.20 ID:pjPWS69mo
「いらない」
 短い言葉は、ハッキリとタカシの鼓膜を振るわせた。
 鼓膜の振動は脳に伝達され、それが拒絶の言葉であると強い力で自覚させる。
 当たり前だ。今更何を言い出すのだと罵倒されてもおかしくはない。
 漸く向けられた、冷たさだけで構成された親切心など、ショウタは欲していない。
 ショウタは賢い。ショウタは最早子供ではない。
 長らく親に無下に扱われてきた不遇の子供――、ショウタがもしもそのような、
そうとしか言いようのない子供であったのなら、
或いはタカシのこの愛情の欠片もない手を握り返したかもしれない。
 だが、ショウタは確かに不遇の存在ではあったが、既に『従順の殻』を脱ぎ捨て
子供である自分を捨て去ってしまっている。
 そうさせたのはタカシだ。そうさせたのはミユキだ。 
「そういうのも、いらない。忘れちゃってよ。アンタの子供はシュウ君しかいない。それでいいじゃん」
「そうだ。俺の子供はシュウだけだ」
 残酷な、だか嘘偽りのない言葉を告げると、ショウタは、ふ、と視線を持ち上げ、そして苦笑した。
 ほらな、やっぱりな。
 そう言いたげな視線は、タカシを貫くと同時に、再確認によってショウタ自身をも傷つけていた。
「だから、お前の遺伝上の父親としていではなく、一番近い他人としてお前を助けたい」
「――わあ嬉しい、ありがとう。そう言えばいいの?」
 冗談じゃない。
 やけに大人びた声音が、小さく、憎しみを込めて落とされる。
「馬鹿にしないでよ。俺はどこにも行かないよ。
ここにいる。俺の命を狙う人が来るんだとしても、俺はここいる」
「ショウタ」
「名前、呼ばないで。一度も呼んだことなんてなかったくせに」
「ショウタ」
「呼ばないでってば!」
 キィンとした、子供特有の甲高い声が花街の不自然に静かな夜を切り裂いた。
566 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:08:31.51 ID:pjPWS69mo
 呼ばないで、呼ばないで、呼ぶな、呼ぶな、呼ぶな。
 ショウタは我武者羅に叫びきると、最後に「親父様」と助けを求めるように楼主を呼んだ。
「親父様!!」
 ショウタの声は、怒りで震えていた。
「親父様!!」
「でかい声出すんじゃないよ、みっともない」
 置屋から溜息を吐きつつ顔を出した男に向かって、ショウタは全力疾走していった。
 受け止める素振りもない楼主に抱きつき、その胸に顔を埋める。
 なにも聞きたくない、なにも見たくない。
そう言わんばかりに、片方の腕を耳にあて、もう片方は楼主の腰を手繰り寄せるのに使われている。
「俺はずっと"いい子"にしてた……俺はずっと"いい子"にしていたよ……!」
 悲痛な叫び声に、タカシは立ち尽くした。
 最早、なすすべはないのだろう。
ショウタは、例えそれが単純な依存であろうとも、楼主の下に居ることを選んでしまった。
 歪だろうが、異常だろうが、それがショウタの出した答えだった。
 タカシには、もうなにも言うことができない。
 肩が震えている。細い腕は、この世にまるで楼主しか存在し中のように、
彼に必死ですがり付いている。
「馬鹿な子だ」
 楼主は哀れむような視線をショウタの旋毛に向けた。  
「ショウタ」
 ショウタが、ただ一人頼るべき相手と定めた男が、彼の名を呼んだ。
 ゆっくりと後頭部が上向き、おそらくその視線は楼主のそれと交じり合った。
567 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:25:09.31 ID:pjPWS69mo
「勘違いするなよ、ショウタ」
 硬質な声は短く告げたかと思うと、その幼子の両頬を優しげに両手で包み込み、
しかしもう一度「勘違いするな」と手酷く言い放つ。
 相反する仕草の狭間で、ショウタの薄い肩骨が、
戸惑うように、もしくは恐怖するように震えた。
「私はお前の父親じゃあない。父親役を求められても困る。
お前がそれなりの年齢に達すれば店にも出てもらうつもりだ。
私はお前の父親にはなれない」
「……判ってる」
 蚊の鳴くような声がそう答えるが、楼主はきっぱりと短く言い放った。
「判っちゃいない。お前はあわよくば私を父親に仕立て上げようとしているだろう」
 ショウタの中に、少しもそんな希望がなかったのなら、
あの負けん気の強い子供は即座に否定したことだろう。
 だが、ショウタは弱く脆く、そして愛情を求めて歩く哀れな子供だ。
 愛情らしきものを充分に与えられなかった子供は、
自分に好意を示した大人を、夜から朝へと連れ出してくる突破口に見立てていたに違いない。
 ショウタは黙りこくったまま楼主の腕を振り払うこともせず彼の顔を見上げていた。
「私はお前を愛しているわけじゃない」
 嘘だ――、大人の目から見れば、それは明らかな嘘だ。
 楼主はショウタを自分の懐に迎え入れた時点で、この子供に何らかの情を抱いていたはずだ。
 だが、彼はきっと妙なところで『常識的』なのだ。
 タカシが言うように『何かが』起きた場合、ショウタの身を守りきれないと判っているのだ。
 タカシが守りきれるかどうかは定かではない。
 それでも最後の最後に、こうしてチャンスをくれてやろうと考えているに違いない。
 タカシにチャンスをやるわけではない。ショウタに、だ。
 ショウタがタカシに引き渡され、その後状況が落ちつき次第置屋に戻ってくるのならば、
きっと楼主は、ショウタが大人になるまで面倒を見てくれることだろう。
 これは、ショウタが真っ当な世界へ帰る最後のチャンスだ。
 初めてショウタがこの街の住人になることを決意した夜とは、事態が違う。
 ショウタの身に危険が差し迫っているような状況でなかったとしたら、
己の懐へと収めたショウタを手放したりはしなかっただろう。
 事態を重く見た楼主が、生命の危機を回避させると同時に、
最後のチャンスを与えただけに過ぎないのだ。
568 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:28:53.04 ID:pjPWS69mo
「私はお前を金のなる木ぐらいにしか思っちゃいない。
いいじゃないか、一度もとの世界に戻ってみるのも。
うちにゃあ食い扶持も稼げねぇガキを置いておく金なんてないんだよ。
どうしてもその身体で稼ぎたいって言うんなら、『売り時』になってからまた来ておくんな。
まったく、面倒だったらありゃしない。
すぐ熱を出すわお使い一つまともにできやしねぇわ、
身体が小さすぎてケツも使えない。そんなガキなんて邪魔なだけだ」
 トン、とショウタの身体が後ろへと後ずさる。自らそう動いたわけではない。
 楼主が残酷な愛情を孕んだその手で、ショウタの身体を突き放したのだ。
 自分を突き放した男の掌に、優しさや愛情が含まれているなどと、
ショウタは露ほども思わないことだろう。
「おい……!」
 黙ったまま応酬を見守っていた警らが声を上げるが、
楼主が放った視線はとても冷ややかで、それに恐れを為したのか、彼は口を噤んでしまった。
「今のお前はうちの店にとってお荷物でしかない。その気があるのならまた来ておくんな、坊や」
 それはあと何年のことだろう。
 男娼として『真っ当な』売り方をしてもらえる最少年齢をタカシは知らない。
 酷い店ならば、男娼や娼婦の身体への負担も考えずに、
売れるときに売ってしまうことも少なくないだろう。
 だが、楼主はこんな場所に居ながらも奇妙な常識を携え生きている。
 そんな店で、ショウタが売り物になるのは一体いくつになったときなのだろう。
 一年後か、二年後か。或いはもっと先か。
 たとえそれがひと月後であったとしても、ショウタにとっては遠い遠い未来の話だと感じるに違いない。
 捨てられた。きっとあの小さな頭はそんな言葉で埋め尽くされていることだろう。
 かと言って、命の危険があるような店――、
いいや、情を抱いた楼主が切り盛りしているわけではない店へ、そんな場所へと移動するのは、
ショウタの本意ではないのだろう。
 楼主がそうであるように、ショウタとて彼に対して情を抱いているのだ。
 別の選択肢を模索するには時が経ちすぎた。
 雛鳥の刷り込みのように、ショウタは楼主を絶対的存在として捕らえているのだ。
569 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:30:52.71 ID:pjPWS69mo
「い、いやだ……!」
 悲痛な声が、花街の薄ぼんやりとした夜に響く。
 嫌だとショウタは何度か叫び、楼主の腕にすがりついた。
「嫌だ、嫌だよ! 今更、今更帰れなんて言わないでよ……!」
 子供の声で――、実に子供らしい仕草と声で、ショウタは首を振り何度も嫌だと叫ぶ。
 それを見下ろす楼主の瞳のなんと冷たいことか。
 ――可哀想に。
 ふと、そんな感情がこみ上げた。
 可哀想に。
 客観的な感想は、感情を伴わない。
 映画を見た時のように、ドラマを見たときのように、湧いてきた感情はその場限りの偽物だ。
「おや、親父様……!」
 楼主に見捨てられまいと、必死で彼にすがりつく子供の姿は、
哀れで、悲しくて、そして可哀想だ。
 ショウタはどこにもいけない。誰の子供にもなれない。誰のものにも、なれない。
 いっそ店に出て、贔屓の客でもついたほうが、ショウタにとっては幸せなことのかもしれない。
 それはミユキがショウタにしたのと同じ『所有』だろうが、
少なくとも贔屓客はショウタの全身を見てくれる。
 頭の中身だけをくり貫き中身を挿げ替え、その中に納められたタカシを見るわけではないのだ。
 どちらも鬼畜の程度は同じだろうが、
それでも前者の方が、ショウタにとってはほんの僅かではあるが幸せなことなのだろう。
570 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:32:18.14 ID:pjPWS69mo
「親父さま……! 親父さ、」
 それは、ショウタが男を呼び出して何回目のことだったろう、
突然ショウタの声が途切れたかと思うと、次の瞬間にはその身体はふわりと宙に浮き、
そして玉砂利の上へと落下したのだった。
 楼主がショウタの襟首を掴んで放り投げたのだと悟ったのは、
「しつこい!」と言う怒気を孕んだ声に鼓膜が震えたからだ。
「私は忙しいんだ! 優しくしてやっているうちに帰っておくんな!」
 小さな嗚咽が、風に混じって聞こえてくる。
 これが優しさ、もしくは愛情と呼ばれるものだと言うことに、
ショウタはこれから先気づく日が来るだろうか。
 気づけばいい。
 それがたとえ遺伝上の親以外の他人であっても、
自分に情を与えてくれた存在だと、覚えているといい。
 ミユキの父親で、ショウタの祖父たるあの男――、
すべての元凶でもあるあの男が、その役目を担うには最も適切な存在であるはずだが、
ショウタにとって最早身内は『信用できない』存在なのだ。
 ミユキが接触を拒んでいた所為で、ショウタにとって祖父とは、
金目のものを買い与えるだけの存在なのだ。
 やはりショウタにとっては最も信用できる大人というのは、楼主意外には有り得ないのだ。
 それも今この瞬間までの話であったが。
 ショウタはどう出るだろう。
 夜風に震える細い肩が寒々しい。
 脱げた下駄が玉砂利の上へと転がっていた。
 ここでショウタが自棄を起こし、他の店に行く可能性は零ではない。
 その万が一が起こった場合、タカシは全力で止めねばならぬだろう――、最も近しい他人として。
 ショウタがすっくと立ち上がった。
 目元を袖口で拭っているようだった。
 子供が、振り返った。
571 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:36:13.03 ID:pjPWS69mo
「……アンタの所為だ……」
 深い恨みを湛えた眼差しが、タカシを射抜く。
「アンタがこなければ俺はずっとここに居られたのに……!」
 その通りだろう。
 おそらく楼主は、ショウタをそれなりに大切にはしてくれたはずだ。
売り物として、そして保護対象としても。
 タカシは何ひとつ反論しなかった。
 すべての言葉は、ショウタの逆鱗に触れることであろう。
ならばなにも答えずに居るほうがいい。
「アンタの所為だからな……!!」
 楼主の裏切りに悲鳴のような声を上げて泣くショウタは、やはり子供だ。
 それが裏切りではないと気づきはしない。
 おそらく楼主とて、ショウタの命の危険が差し迫った状態でないのなら、
易々とタカシに渡したりはしないだろう。
 楼主の心根の『常識的な部分』と『異常事態』という要素が重なった結果、
彼はタカシへとショウタを渡すことにしたのだ。
 上手く行けば、ショウタはもうこの花街に戻ってこない。
 それを楼主は『喜ばしいこと』と感じているのだろう。やはり彼はこの花街には向いていない。
 ショウタが腕で顔を擦った。
「親父様……」
 蚊の羽音よりも小さな声で楼主を呼ぶ。
 返事はない。
「親父様……!」
 楼主の返事はなく、そして――、彼の姿は彼自身の城の中へと吸い込まれるようにして消えていった。
 シュウがタカシの手をギュッと強く握った。
 ショウタは無慈悲に放り出された夜の中で、ひ、と小さく息を飲んだ。
 だが、泣きはしない。ただただ、唇を噛み締め、現実を受けれようとしていた。
そう、タカシの拒絶を受け入れ、そして自分自身の遺伝上の繋がりをすべて捨て去った時のように。
572 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:38:35.00 ID:pjPWS69mo
「……アンタの世話になるなんて、死んだほうがマシ」
 どれほど時間が経っただろうか。
 あまりぐずぐずとしている時間はない。
だから、暴れようが殴られようが、ショウタを抱えてでも
この街を脱出しなくてはならない――、そう考え始めた頃に、ショウタはそう漏らした。
「それならお爺様の所に行った方がマシ」
「それは駄目だ。危険すぎる」
「だからなに!? 危険だろうがなんだろうが構わない!
アンタの世話になんか絶対になりたくない!」
「ショウタ……」
「今更そんな"父親みたいな顔"をしないでよ、鬱陶しい」
 辛らつに吐き捨てると、ショウタは下駄を履きなおした。
「どこに行く」
「どこだっていいだろ。俺が一番近い他人のアンタに望むことは一つだよ。
放っておいて。それだけ」
「ショウタ」
「優しくしてくれたことなんて一度もなかったくせに、今更なんなの、気持ち悪い」
 ショウタは吐き捨てるとどこかへと彷徨うように歩を進めた。
 もう駄目だ。決定的な判決は下された。どうやってもショウタはタカシについてはこない。
 ショウタの意志はどこまでも堅い。
 ショウタを頑なにさせたのはタカシと、そしてミユキだ。
 ショウタは誰にも従わないだろう。
 誰のものでもなく、誰に従うこともなく、ただ孤独に大地を踏みしめ生きていく。たった一人で。
 タカシは、こんな状況に陥ってもなお――。
「これは最初で最後にお願いだ」
 不夜城の赤い光りを反射する背に向かって、タカシはそう声を掛けた。
 ショウタの足が止まる。
 ショウタは、タカシの言葉を『聞いてやっている』のだ。
 それでいい。
 本来タカシは、ショウタに何事かを願える立場にないのだから。
573 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:40:41.46 ID:pjPWS69mo
「これが最初で最後の頼みだ。状況が落ち着くまでは守らせてくれ。
その後はお前の好きにしていい。
ミユキとも俺とも、A社と縁を切ってくれて構わない。
後はお前は自由だ。この街に戻るも、一人で生きていくも、決して止めはしない」
「勝手すぎる」
 小さな頭が振り返った。
「……判った。これっきりだ」
 ショウタは意外なほどあっさりと返事し、タカシに向かって歩いてきた。
 寧ろその変わり身の早さに面食らったのはタカシの方だった。
 だが、ショウタはそうすることで近い未来の自由を勝ち得たのだ。
 彼は、タカシを許したわけではなく、タカシを受けれたわけでもなく、
タカシに従ったわけでもない。
 タカシに付きまとわれることを終わらせるために、タカシの願いを『きいてやった』のだ。
 自由と一時的な拘束を、その小さな頭で天秤に掛けたに違いない。
 賢い選択、とも言えない事もないだろう。しつこく『帰って来い』と言われる未来を断ち切り、
より自由度の高い未来を得たのだ。
「約束を破ることは許さない」
 ショウタはもはや何の感情も感じさせない瞳で、タカシをじっと見た。
 タカシも、反故にするつもりはなかったが、ショウタを信頼を得ようと力強く頷いた。
「……親父様に"出掛けてくる"って伝えてくる」
「判った」
 ショウタは逃げも隠れもしないだろう。
 そういう子供だ。
 タカシはショウタが帰ってくるのをこの場で待つことにした。
 数分後、ショウタは小さな風呂敷包みを片手に持ってタカシの前へと現れた。
 その背後には楼主が居たが、ショウタは振り返らずに足元ばかりを見つめている。
「ショウタ」
 声を掛けたのは楼主だった。
 ショウタはゆっくりと顔を持ち上げ、楼主を見上げた。
 不安、絶望、失望。
 そんなものさえも感じさせることのない、光のない瞳が真っ直ぐに楼主を見つめていた。
 楼主は何も言わず、ショウタの頭を撫でた。
 それから肩を押し、タカシのもとへと行くよう促す。
 ショウタもまた、なにも言わずに重い足取りのままタカシの方へと進んだ。
「行ってきます」
 蚊の鳴くような声は、楼主に背を向けたまま放たれたものだった。
 楼主はなにも答えない。
 不断の空気と唯一同じなのは、隠微な香の匂いだけ。
騒音に紛れることのない玉砂利の音が、ショウタの孤独を示しているようだった。
 タカシに従うことなく、ショウタは率先して歩いていく。
574 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:42:28.08 ID:pjPWS69mo
 空気が揺れる。
 風に靡く赤い提灯が、金魚のようだった。
 静寂と言うほどではないが、常ならざる静かな空気だ。
 なにか言いたげなシュウであったが、タカシに手を引かれれば素直に歩き出す。
 タカシは、シュウと歩きながらショウタの背中を見た。
 ショウタの荷物は、小さな風呂敷包みだけ。
ショウタのなにも与えれなかった人生のようで、物悲しささえ覚えた。
そのように仕向けたのはタカシ自身であるというのに、だ。
 ショウタはどこへ向かうのだろう。どんな風に生きていくのだろう。
 タカシにはなにひとつ予見できないままだった。
 なにもしてやることなど、できないのだ。
 タカシにはなんの力もない。
 精々、今日から数日、或いは数ヶ月の間だけ傍にいることで、
ショウタの身の安全を確保するよう努めることくらしか、できない。
 それとも上手くこなせるかどうか怪しいものであったが。
 下駄は相変わらず、カランコロンと鳴っている。軽快ささえ覚えるような小気味のいい音。
それに、玉砂利の擦れる音。
「ショウタ」
 思わず声を掛ける。声を掛けたが二の句は継げない。ショウタも返事はしなかった。
 返事をもらえるなどと思ってはいなかったから、落胆することはない。
それに、ショウタとタカシの間柄は親子ですらないのだから、落胆などしようがない。
 ならば何故呼び止めたのだろう。頼りない小さな背中に何かしらの情を抱くのなら、
もっと早い段階でそうすべきであったのだ。
 だがタカシにはそれができなかった。それができなかったのは、タカシ自身の欠陥だ。
 追いやり、追い詰め、そして柔軟な子供は捩れきった。捻くれた、ではない。捩れてしまったのだ。
 きっと遅かれ早かれ、ショウタはこの街に戻ってくる。最初からここで生まれたような顔で、
少しずつこの街の世界と掟に馴染んでいくことだろう。
 連れ出すことは間違いであったかもしれない。ショウタの一端は、もうこの街の色に染まっていた。
 命の危険さえなければ、何事もなければ。
 このままショウタを手放していたのだろう。
 元々倫理観といものが薄い方なのだ、タカシは。
 それでも。
575 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:44:48.69 ID:pjPWS69mo
「……?」
 物思いに耽りながら、ショウタのあとをついていっていたタカシであったが、
微かな違和感を覚えた。
ゆらゆらと、ただ機械的に前へ前へと動かされていた足が
何かしらの異常を察知して緊張するのを感じた。
 なにかが、おかしい。そう感じたのだ。
 鳥居に近づくにつれて、なにやら喧騒が広がっていくような気がした。
 賑やかに、がやがやとしているのは、この街の常。
 だが、今日は『異常事態』に際して奇妙な静けさが広がっていたはずだ。
 鳥居の近くでは徐々に落ち着きを取り戻し、通常の営業が開始されたということだろうか。
 否、それにしてはざわめきが妙に、妙にそう、乱暴なのだ。
「ショウタ……」
 小さく声を掛けるが、返事はない。
「ショウタ!!」
 怒鳴るようにその子供の名を呼ぶと同時に、風船が割れたかのように複数の悲鳴が一気に上がった。
 間違いない、なにかが起きている。
 そう判断するまで僅か数秒程度、
タカシは無理やりショウタの腕を乱暴そのものの手つきで引っ張っていた。
 子供の体がよろける。瞬間的に与えられた強い力に、シュウが意味不明な声を上げた。
 タカシは咄嗟の判断で、子供二人を両脇に抱え、もと来た道を走っていく――、
走っているつもりであったが、如何せん子供二人を抱えてのそれは
『走っている』と称するには遠く及ばず、タカシは転げるように玉砂利を蹴りつづけた。
 なにかが起こっている。だがなにが起こっているのかを振り返って確める余裕はない。
576 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:46:46.62 ID:pjPWS69mo
「アンドロイド」
 舌を噛み千切りそうな振動の中、シュウがもらした一言をたった一つで、
それはよく知った単語であった。
 アンドロイドが何だというのだ。
 タカシは疑問を抱いたその一瞬、振り返って今しがた走って来た道を見てしまった。
 もとより酸素が欠乏した状態であったが、その一瞬で呼吸が止まりそうになる。
 アンドロイドだ。アンドロイドが、全速力で走っていた。
 ――タカシたちを目指して。
 見覚えのあるアンドロイドであった。
 今回の旅に同行させた、ショウタがかつて『お父さん』などと呼び、
歪な親子関係を形成したことさえあったあれと同型の――、
いや、おそらく義父がショウタに宛がった、ショウタ名義のそれであった。
 それが、どういうわけか、血だらけでタカシたちを追ってきていたのだった。
 背後からは怒号が飛び、手に刀やら拳銃を携えた人々が走ってきていた。
 遠くで「先生を呼べ!」だの「死んじまうぞ!」だのと言う物騒な言葉が飛び交っている。
 先生とは、誰のことだろう。死ぬとは誰が。何故タカシたちはアンドロイドに追われているのか。
 何故、アンドロイドは血だらけなのか。
 そもそも、あのアンドロイドは電源を落としてあったはずだ。
 なにが起こっているのか判らなかったが、タカシは走り続けた。
 だがアンドロイドの殆ど無尽蔵である体力――、体力、と呼ぶべきかどうかはさておき、
走り続けることが可能である能力だ――に生身の人間であるタカシが勝てるわけもない。
 あと少し、あと僅かと言うところで、タカシは身を屈めた。
577 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:48:37.14 ID:pjPWS69mo
 アンドロイドが、タカシたちに害を為そうとしていることは本能的に判った。
 ふと、頭の中を光速で記憶が駆け抜けていく。
なるほど、これはもしかしたら走馬灯というものかもしれない。
 そんなことを冷静に考えながら、タカシは子ども二人を自分の身体の下に隠した。
 ごく普通、中肉中背体型のタカシの身体からは子供一人ならいざ知らず、
二人を覆い隠すまでには至らない。
二人の身体の半分ずつ程がタカシの身体からはみ出す形となった。
 瞬間、腰から腹部に掛けて耐え難いほどの、凄まじい痛みに襲われた。
 悲鳴さえ漏れないような痛み。
 それが断続的に何度も襲う。
 なにが起こっているのか。なにをされているのか。
 タカシは絶望的な、かつて体験したことのない痛みを感じていた。
 悲鳴が響く。
 老若男女問わない、悲鳴。
 一際耳に響くのは、子供の悲鳴。
 恐怖心に耐え切れずショウタとシュウが、鼓膜が破れそうな金切り声で悲鳴を上げていた。
 痛みは尚も続く。痛みが酷すぎて気を失うこともままならないような痛みだ。
 ああそうか。
 唐突に気づく。
 タカシは、腰から腹部に向かって、肉体を大きくえぐられていたのだ。
 割れた肋骨が引き抜かれ、内臓も派手に掴み出される。
 アンドロイドは、随分と手酷く、タカシの肉体を蹂躙していた。
 身動きすることさえも困難となったタカシの身体の下から、シュウが抜き取られる。
578 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:50:18.27 ID:pjPWS69mo
「ま、」
 待て。
 漸く搾り出された言葉は言葉にならなかった。
 無理やり首を動かし、己の身体の上でなされるおぞましい行為にタカシは気がふれそうになる。
 アンドロイドが、泣き叫ぶシュウを人形かなにかのように捕らえ、そして。
「ま、て、」
 首がボキッと気味の悪い重低音を上げてへし折られた。
「シュ、」
 少しでも身体を動かせば、ひどい痛みが走る。
 声が出ない、出せない、声を出すだけで激痛に震え上がりそうになる。
 起き上がることがままならず、だが不自然な体勢のまま、その瞳は惨劇を捕らえ続けていた。
 身体の痛みと精神的なショックで、呼吸が浅くなっていくのを、タカシ自身も感じざるを得ない。
 なによりも、己の身体の損傷が異常なもの、普通の損傷度合いと一線を画するものであると
頭の片隅で理解が積み重なっていく。
 死ぬのだろう。ふいに、そう思った。
 身体から徐々に失われる血液は、体温ばかりか、気力も奪っていくようだった。
 続いて引きずり出されたのは、ショウタ。
 ハッとする。タカシは、約束をしたのだ。
 そうだ、ショウタを守らなくてはならないのだ。
 一番近い他人として、またこの子供を絶望させてはならない。
 たとえ今際の際であったとしても、ショウタを絶望させてはならないのだ。
 未だ嘗てない責任感が、タカシの頭を支配した。
 駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ。
 頭がおかしくなりそうだった。
 シュウはおそらく死んでいる。やっと再び生まれたのに、また死んでしまった。
 なにかよくないことが起こって、そしてシュウは奪われてしまった。
 せめてショウタを、ショウタだけは。
 守らなくてはならないと思った。だがどうだ。タカシは非力でなにもできない。
 手を伸ばすが、ショウタには届かない。
 そして。
579 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:51:34.90 ID:pjPWS69mo

「ぎゃあああああああああ」
 ショウタの腕が、引きちぎられた。
「ショ、ウ、」
 ボトリ、と細い子供の腕が投げ捨てられる。
 それからアンドロイドはタカシにしたように、素手でショウタの腹部を貫いていた。
 先程まで悲鳴を上げていたショウタの声が止む。
 痛みで、声さえ出ないのだ。
 アンドロイドが何かしら臓器を抉り出して玉砂利の上へと放り投げる。
 やめろ、やめろ、やめろ。
 声がでない。指一本も動かすことが適わない。
 なにが起こっている、一体なにが。
 ロボットの三原則。そう言ったものがアンドロイドには刷り込ませてあるはずだ。
 いわく、人に危害を与えてはならない。それは第一項であり、尤も厳守されるべきもののはずだ。
「ショウタ!」
 聞き覚えのある声がした。
「早くしろ!」
「駄目だ、子供に当たる!」
「頭だ、頭を狙え頭だよ!!」
 怒号が飛び交い、そして続いて響くのは銃声。
 着弾したのか、どさりと音がし、ショウタの身体が玉砂利の上へと落ちていった。
 ガウン、ガウン、と言う音がひっきりなしに響く。
 銃では無理だ。この街の住人は知らないのだろうか。この手のアンドロイドは、
戦闘にかち合うことも予測され、銃弾にはめっぽう強く設計されているのだ。
 狙うのなら首。それから大たい骨と胴体の付け根。
 その辺りに刃物――、長い刃物、つまり刀などだ――、を差し込んで切断する必要があった。
 ただし、それらもおそろしく頑丈にできている。
580 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:53:34.35 ID:pjPWS69mo
「全然当たらな、うわああああ!」
 無様に寝転がったままのタカシには、状況がまるで掴めない。
 視界が低すぎて、なにも見えない。
 ただ飛び交うのは、先程までの静けさが嘘のような銃声、怒号、悲鳴だった。
 見なくても判る、地獄絵図だ。
 なにが行われているのかまったく理解できない、地獄絵図。
「ショウタ!」
 タカシの脇をすり抜け駆け寄ってきたのは、楼主だ。
「ショウタ、しっかりしろ! 待っていろ、もう直ぐ医者が来る!」
 ショウタがなにか言ったのか、楼主は「大丈夫、大丈夫だ」と繰り返している。
「おい、逃げろ!」
 ジャリ、ジャリ、と不気味な音が響いてくる。
「……テメェ……アンドロイドだかなんだか知らんがこんなガキになにしてんだ!」
 銃声が、一発、二発、三発。
 だが当たらないのだろう。やがてカチッカチッという悲しく頼りない音だけが木霊するようになる。 
 やがて楼主も悲鳴を上げたきり、声を上げなくなった。
 損傷したのか、それとも絶命したのか。
 辺りに飛び交う怒声が徐々に減っていき、そして増えていくのは悲鳴だ。
 あってはならない、起こってはならない事象によって、アンドロイドが暴走をしているのは判る。
 判るが、何故そんなことになっているのかは皆目判らなかった。
 ミユキはどうしたのだろう、とタカシは漸く思い至った。
 タカシたちを追い詰めるより前にアンドロイドはボディを赤く染めていた。
あれはもしかしたら、ミユキの血であったのかもしれない。
もしもそうなら、おそらく彼女も生きてはいないだろう。
581 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:54:56.44 ID:pjPWS69mo
 アンドロイドは無差別に暴走しているわけではないようだった。
 狙いはタカシたち一家で、その邪魔をしているこの花街の住民をついでのように攻撃している。
 明らかにA社が襲われた一件と関連性があるだろう。
 だが、どうやって? どうやって、A社で最初の最初、
生産の初期段階で仕込んでいる三原則を解除したというのだろう。
 駄目だ。
 急速に意識が薄れていくのをタカシは感じていた。
 そうなると、己の思考など無意味なもののように思えてきた。
「離れろ!!」
 突如怒号が響いたのは、タカシが意識を手放すかどうか、という直前であった。
 またもや、聞き覚えのある声だ。恐ろしい俊足で、タカシの横を駆け抜けていく足は、
この街では珍しいスニーカー履きであった。
 うおおお、と言う獣のような叫びと共に、金属同士が擦れるような音と、なにかが破壊される音、
それが止むと玉砂利に重い物体が落下するような音がした。
「やったか!?」
 誰かが叫ぶ。
「まだだ! 足だ、足も切り落とせ!」
 切り落とせ――、つまり誰かが手か、胴体か、頭を切り落としたということになる。
 チュイン、チュインと言う派手な音が何度も響く。
 なにかしらの高速回転する機器で、アンドロイドは切断を繰り返されているようだった。
 やがてそれらの音が聞こえなくなると歓声が響いた。
 アンドロイドは制圧されたのだろう。
 最初に四方八方から銃弾を浴びせたのが幸いしたのだろう、軽度の損傷とは言え、
それがなかったら、一般市民の持ち物ではアンドロイドを沈黙させることは現実的とは言いがたい。
582 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:57:47.36 ID:pjPWS69mo
「おい、大丈夫か! 先生はまだか!?」
 聞き覚えのある声は――、警らのそれだと気づいた――は周囲を見回っているようだ。
 大丈夫か、そう何度か声を掛け、その声が一瞬途切れたかと思えば、
呻き声のような声で「畜生」と悪態を吐き、そしてその声は地面から近い場所で響くようになった。
「おい、おい、大丈夫か! しっかりしろ、兄弟! 畜生! しっかりしろ!」
 警らの男が、しきりに楼主を呼んでいた。
 楼主の怪我もまた、タカシ同様にひどいものなのだろう、「眠るな」だの「しっかりしろ」だのと
警らは何度も叫んでいた。
「先生は、先生はまだか!! 早くしてくれ! 死んじまう!!」
「あと少しで着くそうだ! 頑張れ!」
「駄目だ、血が止まんねぇんだ! おい、しっかりしろ!」
 悲鳴、励まし、悲鳴、励まし。
 それらが幾重にも重なり合唱のようだった。
 提灯が風に揺れて優雅に揺れている。
 視界がかすんでいく。
 ああ、バチが当たったのかもしれない。
 一度死を体験し、ほぼほぼ無神論者となったくせに、タカシはそんなことをぼんやりと考えていた。
 寒い、とても寒い。
 これで、全部が終わるのだろう。
 生の終焉を感じながら、漸く一つの結論に至る。
 なるほど、アンドロイドはハッキングでもされたのだろう、と。
 最早痛みを感じることはなくなっていた。
 もしも、もしも死の国があるのなら、姉はそこにいるのだろうか。
 合唱に混じって、子供の声が非力に「痛い……」と痛みを訴えるのを聞いたのは、
幻聴だったのか、それとも。

 こうしてタカシの二度目の生涯は、幕を閉じることになる。
 とは言え、それが実際に起こるのはそれから一時間後のことであると、
タカシは三度目の生でもって他人によって伝えられることとなるのだが。
583 : ◆OfJ9ogrNko [saga]:2017/08/20(日) 01:58:34.22 ID:pjPWS69mo
今日はここまで
なんか……すみません……

感想と保守ありがとうございます
嬉しいです
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 10:43:16.85 ID:t9DaP2ds0
続ききてた!どうもありがとうございます&お疲れ様です!
ショウタは親父様と幸せになってくれと思った矢先…大変なことに…。

続きも楽しみにしてます。
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 00:30:09.57 ID:YGuo9UYJ0
ほす
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/18(土) 02:36:57.64 ID:GhQDzjD+0
ほしゅ
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/09(土) 23:03:51.82 ID:vz3/PTwN0
ほす
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/24(日) 12:08:50.91 ID:7NuLLkv80
メリクリほしゅ
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/07(日) 21:19:54.41 ID:ZTET3gPd0
ほす
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/16(火) 21:24:32.33 ID:tRkMOCI0o
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/02/12(月) 23:00:32.00 ID:u3P4O89K0
ほす
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/24(土) 20:06:22.30 ID:d9Wc9E1B0
保守
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/03/18(日) 04:17:12.25 ID:WOBA7fET0
ほしゅ
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 08:59:16.99 ID:lxvlIdMZO
ほしゅ
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/04/10(火) 11:56:16.60 ID:j5EjI2/G0
ほす
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/05/05(土) 02:22:19.43 ID:j4y4jOfF0
はしゅ
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/06/01(金) 23:59:29.56 ID:8e/l8XdY0
ほす
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/07/02(月) 03:11:51.79 ID:tgtb2Ams0
ほしゅ
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/08/08(水) 17:16:50.65 ID:s4ygg3pV0
ほしゅ
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 22:30:22.97 ID:s2OyRMbp0
ほしゅほしゅ
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/10/19(金) 02:35:45.48 ID:GNZRR6TR0
ほしゅ
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/13(火) 11:00:37.39 ID:NNEALs7DO
ほしゅ
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/12/13(木) 19:07:53.22 ID:w8Rg49do0
ほしゅ
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/16(日) 19:52:15.06 ID:OaDGYvV8o
久しぶりに来た

これで長かった回想も終わりかな
もう少しで完結だと思うので頑張って欲しい
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/12/28(金) 23:53:01.26 ID:7okbYwYT0
ほしゅ
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