中二「玄関あけたらどっかの宿屋」 死神メイド「中二ミーツ死神」

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136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/01(日) 07:36:15.43 ID:tBnFkHuG0
あけおめろまえ!
137 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 03:58:20.44 ID:4HmhLnm2o


………

リィン ゴオン リィン……




中二 (どこからか、鐘の音……?)


キョロ キョロ


女郎蜘蛛娘 「あー、もうこんな時間かあ」


中二 「時間?」


女郎蜘蛛娘 「ほら、ここってずっと夜じゃない?」

女郎蜘蛛娘 「ここで生まれ育つとそうでもないみたいだけど、外の世界から来ると、時間の感覚がつかめないわけ」

女郎蜘蛛娘 「だから、こうやって鐘が鳴るんだよ」


中二 「へえ……」


女郎蜘蛛娘 「どこから聞こえてくるか分かんないんだけどね」


中二 「不思議な鐘ですか」


女郎蜘蛛娘 「そうそう」

女郎蜘蛛娘 「まあ、この町で不思議なんて数えてたら、星を数えるのと変わんないけどね」


138 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 04:16:45.99 ID:4HmhLnm2o


ゴオン リイン……



中二 「宿オークさんの宿には時計がありましたけど」

中二 「あの鐘も、どこかの時計塔から鳴っているんでしょうか」


女郎蜘蛛娘 「さあ……」

女郎蜘蛛娘 「そうかもしれないけど、誰も見つけたことがない」

女郎蜘蛛娘 「もしかしたら時計ができる前……いやいや、町が出来る前から鳴っているのかもねえ」


リイン ゴオン 


中二 「……ううーむ、とことんアタシの常識が通じなさそう」


女郎蜘蛛娘 「あははぁ、考えすぎは毒だぞ妹よ」

女郎蜘蛛娘 「私のようにヘラヘラ無銭飲食できるほど図太くなるのだー」


中二 (この人はもっと考えた方が良い気がする……)


女郎蜘蛛娘 「とにかく、あの鐘の音は覚えておいた方が良いよ」

女郎蜘蛛娘 「冒険者は特にね」



139 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 04:36:09.73 ID:4HmhLnm2o


中二 「冒険者?」


女郎蜘蛛娘 「ほら、この町って……」


ズズズ


女郎蜘蛛娘 「……ん?」


中二 「……何か不安な音が聞こえますが」

中二 「地響きというか……」


ズ ズ ズ ズ


女郎蜘蛛娘 「うーん、何だろうね」


中二 「だ、大丈夫なんでしょうか、これは」


女郎蜘蛛娘 「さあ」


中二 「さあって……」


ズ ズ ゴ ゴ ゴ


中二 「ち、近づいてませんか?」

中二 「下から大きな何かが来ているような」


女郎蜘蛛娘 「そのわりに揺れてないけど……」




コツ コツ コツ コツ


パン娘 「おまたせー」


女郎蜘蛛娘 「お、くるくる」

女郎蜘蛛娘 「ここのパンケーキは美味しい上に来るのが早いんだよー」


中二 「いや、それどころじゃ……」


パン娘 「パンケーキ二つと、星蜜の……」




ゴ ゴ ゴ ゴ

ボコン



パン娘 「きゃあ!?」


ガシャン ガララン


中二 (ちょうどパン娘さんが立っているところの床が、箱の蓋みたいに開いた!)



140 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 04:46:04.67 ID:4HmhLnm2o


モク モク モク


中二 「う、うわ、すごい煙が……!」


女郎蜘蛛娘 「ケホッ……って、吸っても何ともない」

女郎蜘蛛娘 「毒ガスじゃないみたいだけど」


中二 「毒ガス!? ここは床が突然開いて、さらにそこから毒ガスが噴き出す町なんでしょうか!?」


女郎蜘蛛娘 「無いとは言い切れない」


中二 「ええっ!?」


女郎蜘蛛娘 「私もこの町のこと全部知ってるわけじゃないもん」


パン娘 「もー、いったい何なのよお!」

パン娘 「またお料理落としちゃったじゃないの!」


モク モク


中二 (よく見ると不思議な煙……なんだか、キラキラしている)

中二 (というか、もろに煙の中にいるけれど、大丈夫なんだろうか)


モク モク モク モク


人影 「…………」


中二 「……ん?」


モク モク


中二 (煙の向こうに、女郎蜘蛛さんでもパン娘さんでもない人影がある……)


141 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 04:51:47.41 ID:4HmhLnm2o


モク モク モク


人影 「…………」


サアアア


中二 「煙が消えていく……」


ザアア


人影 「…………」

??? 「…………」


女郎蜘蛛娘 「……おおー」


中二 (煙の中から、女の人が現れた)

中二 (人間みたいだけど、頭に犬耳をつけている……?)


??? 「…………?」

コボルト娘 「ここは……」


キョロ キョロ




142 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 05:02:41.81 ID:4HmhLnm2o


コボルト娘 「…………」


キョロ キョロ


中二 (小さな弓のようなものを持っているけど、矢のようなものは見当たらない)

中二 (それにしても、ぼろぼろの服……)


コボルト娘 「酒場……?」


中二 (む、低めの声が格好いい)


女郎蜘蛛娘 「喫茶店だよ」

女郎蜘蛛娘 「青空喫茶へようこそー」


コボルト娘 「青空、喫茶……」

コボルト娘 「…………」


水の入ったコップ


中二 (アタシの飲みかけの水を見つめている)


コボルト娘 「その水は……」


中二 「は、はい」


コボルト娘 「無料だろうか」


中二 「そうだと思いますけど……」

中二 (女郎蜘蛛さん、お助けを)


女郎蜘蛛娘 「うん、タダだよ」


コボルト娘 「そうか……」

コボルト娘 「いきなりですまないが、それを私にくれないか」

コボルト娘 「ひどく喉がかわいているんだ」


中二 「ええと……」



143 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 05:03:43.02 ID:4HmhLnm2o

>>144


1. 中二 「どうぞ」
2. 中二 「いくらくれる?」


144 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 05:04:11.22 ID:4HmhLnm2o





145 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 05:13:35.34 ID:4HmhLnm2o


中二 「どうぞ」


コボルト娘 「恩に着る……」


パン娘 「ちょっとお!」


コボルト娘 「?」


パン娘 「あんた、何してくれてるのよ!」

パン娘 「おかげで料理が台無しになっちゃったじゃない」

パン娘 「私のお給料から引かれちゃうんだからね!」

パン娘 「お尻も痛いし!」


ギャイ ギャイ


女郎蜘蛛娘 「まあまあ、落ち着きなよ」

女郎蜘蛛娘 「二度あることは三度あるって」


パン娘 「まだ二度目よ! 不吉な予言をしないで」


女郎蜘蛛娘 「三度なかったんだ。良かったじゃない」


パン娘 「良かないわよ!」


コボルト娘 「……料理」


床にぶちまけられたパンケーキ ×2
星蜜のお茶 ×2


コボルト娘 「すまない」


パン娘 「そうね、すまないわよね! お店の床までこんなにして」

パン娘 「あーあ、大きな穴!」

パン娘 「もー、どうしてくれるのよ!」


中二 「皿洗いでも、何でもしますから……っ」


パン娘 「あんたはもう良いのっ」



146 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 05:22:15.30 ID:4HmhLnm2o


コボルト娘 「すまない」

コボルト娘 「先にこの水だけでも飲ませてくれないか」

コボルト娘 「ゲホッ……償いは、ちゃんとするから」


中二 (肩で息をしている)


パン娘 「償いっ……て」

パン娘 「何なの、ひどく疲れているみたい」

パン娘 「もしかして、潜ってたの?」


中二 (もぐってた?)


コボルト娘 「ああ」

コボルト娘 「事情を話すと、少し複雑だが……」


ハア ハア


パン娘 「い、いいわよ、飲みなさいよ」

パン娘 「座って」





147 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 05:29:31.87 ID:4HmhLnm2o


コボルト娘 「ありがとう……」


ギギ ガタタ

ストン


コボルト娘 「…………」


ガサ ゴソ


薬筒


中二 (細長い筒を取り出した……)


コボルト娘 「…………」

コボルト娘 「ゴクリ……うぐっ」


中二 (中の物を一気飲み)

中二 (苦そう……)


コボルト娘 「ゴクゴ゙クゴク……」


中二 (すごい勢いで水を飲んでいる)


コボルト娘 「プハッ……」

コボルト娘 「ふう……」


中二 (この人、おっぱいが大きい)


148 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 05:39:22.08 ID:4HmhLnm2o


中二 (年上だとは思うけど、結構近そうな気もする)


コボルト娘 「ありがとう、生き返った」


中二 「い、いえ……」

中二 (微笑みが格好いい)

中二 (犬耳だけど)


パン娘 「おかわりは?」


コボルト娘 「ありがとう、もう十分だ」


パン娘 「そう」

パン娘 「それにつけても、本当にボロボロね」


コボルト娘 「ああ、私が挑むにはまだ早いところだったようだ」


女郎蜘蛛娘 「他の人はいないの?」


コボルト娘 「いない。一人だけだ」


女郎蜘蛛娘 「わお」


中二 (女郎蜘蛛さんが眠たそうに驚いている)


149 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 05:53:04.68 ID:4HmhLnm2o


女郎蜘蛛娘 「すごいね、その若さで一人で潜るなんて」


コボルト娘 「そんなことはない……」


中二 (長い前髪で分かりにくいけれど、左右で目の色が違う)


コボルト娘 「……いくらだろうか」


パン娘 「へ?」


コボルト娘 「私が台無しにしてしまった料理と、床の修理費は」


パン娘 「え、ええと……いや……」


コボルト娘 「こんななりだが、そのくらいの金は出せる」

コボルト娘 「いま出せなくても、潜って返す」


パン娘 「そりゃ、床はちょっと偉い人に聞かなきゃ分かんないけど」

パン娘 「いいって、ちゃんと休んでからで」


コボルト娘 「そうか……」


中二 (犬というより、狼みたい)


150 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 06:20:36.85 ID:4HmhLnm2o


女郎蜘蛛娘 「ねえねえ、パン娘ー」


パン娘 「何よ」


女郎蜘蛛娘 「パンケーキは?」


パン娘 「床に落ちているわよ」


女郎蜘蛛娘 「えー……」

女郎蜘蛛娘 「じゃあ新しいやつ」


パン娘 「あんた、タダ飯食らう分際で……ちょっとは遠慮しなさいよね」


コボルト娘 「すまない」


パン娘 「いや、ええと……」

パン娘 「ああ、もう、分かったわよ!」

パン娘 「持ってくるわよ」


女郎蜘蛛娘 「わーい」


中二 「いやはや、ごめんなさい」


パン娘 「……あんたも、パンケーキで良い?」


コボルト娘 「私?」

コボルト娘 「いや、私は……」


パン娘 「あら、店をこんなにしといて、何も食べずに出て行くつもり?」


コボルト娘 「……。だから、金なら……」


女郎蜘蛛娘 「気にしない、気にしない」

女郎蜘蛛娘 「照れ隠しで言ってるだけだから」


コボルト娘 「……?」


女郎蜘蛛娘 「ここの名物なのよ」

女郎蜘蛛娘 「隠しメニュー、パン娘の優しさ照れ隠し」


パン娘 「そんなもん無いわよ」

パン娘 「じゃあ、ちょっと待ってて。すぐに持ってくるから」


コツ コツ コツ コツ


151 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 06:44:55.47 ID:4HmhLnm2o



女郎蜘蛛娘 「……いやあ、一人で潜るとはねえ」


コボルト娘 「…………」


中二 「あの、潜るって……」


女郎蜘蛛娘 「地下」


中二 「地下?」


女郎蜘蛛娘 「地下じゃないかも」


中二 「はい?」


女郎蜘蛛娘 「とにかく、モンスターとかお宝とか」

女郎蜘蛛娘 「いっぱいあるとこ」


中二 「モンスター……お宝」

中二 「ああ、今流行りの……」


女郎蜘蛛娘 「ああー」

女郎蜘蛛娘 「絶対わかってないよね」


152 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/10(火) 14:37:00.36 ID:4HmhLnm2o



コボルト娘 「……この町には来たばかりなのか?」


中二 「はい」

中二 「まだまだ右も左も分からなくて」


コボルト娘 「そうか……」

コボルト娘 「…………」


女郎蜘蛛娘 「あなたは長いの? この町」

女郎蜘蛛娘 「なんだか慣れた感じがするけど」


コボルト娘 「いや……」

コボルト娘 「百日ほど前に来たばかりだ」


中二 (ここって一日はどのくらいの長さなんだろう)


女郎蜘蛛娘 「それでもう一人で潜ってるんだ」


コボルト娘 「……そうするしかないから」


女郎蜘蛛娘 「ああ、何か事情ありそうだね」


153 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/26(木) 01:14:19.50 ID:iAp7NWefo


コボルト娘 「…………」


女郎蜘蛛娘 「まあ、ここで出会ったのも巡り合わせだよ」

女郎蜘蛛娘 「パンケーキでも食べてのんびりやろうよ」


コボルト娘 「……赤き月の導きのままに」


女郎蜘蛛娘 「ん? なあにそれぇ」


コボルト娘 「……私の世界の挨拶のようなものだ」

コボルト娘 「ここに月は出ないようだが」


女郎蜘蛛娘 「あはは」

女郎蜘蛛娘 「面白いことも言うんだ」


コボルト娘 「いや、今のは……」


中二 (小型の木の弓……あたしでも片手で持てそう)

中二 (持つところに何か腕輪みたいなものがゴチャゴチャついているけど、使いにくくないんだろうか)



154 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/26(木) 01:24:33.74 ID:iAp7NWefo



女郎蜘蛛娘 「でもまさか、ここから出てくるとはねえ」


床の大穴


コボルト娘 「申し訳ない」


女郎蜘蛛娘 「良いよ良いよ、私たち一銭も払ってないし」

女郎蜘蛛娘 「払わないし」


中二 「いま言い直しませんでした?」


女郎蜘蛛娘 「あっはっは」


コボルト娘 「……私が払う」


女郎蜘蛛娘・中二 「ん?」


コボルト娘 「お前たちの食べる分は、私が払おう」


女郎蜘蛛娘 「…………」


中二 「…………」

中二 「……あの、えっと」


女郎蜘蛛娘 「うんうん。真剣な声で」

女郎蜘蛛娘 「お前……だって」

女郎蜘蛛娘 「女の子同士なのに、ちょっとドキッとするよね」


中二 「いえ、そうじゃなくて」

中二 「いえ、はあ、そうですね……」

155 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/26(木) 01:33:38.27 ID:iAp7NWefo


コボルト娘 「そうさせてくれ」

コボルト娘 「でないと、こちらの気がすまない」


中二 (借りはつくらない主義……みたいなものなのかな)


女郎蜘蛛娘 「まあ、どうしてもっていうなら良いと思うけど」

女郎蜘蛛娘 「この大穴、もしかして大発見なんじゃない?」


中二 (大発見?)


女郎蜘蛛娘 「だってさあ、まだ見つかっていなかった脱出口じゃない」


コボルト娘 「偶然見つかって運が良かった」

コボルト娘 「どうやら、こちらからは繋がらないようだが」


女郎蜘蛛娘 「にしてもさあ、ギルドに届けたら特別報酬がっぽり貰えちゃうよ」


中二 (ギルド……)


コボルト娘 「だと良かったんだが……」



156 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/26(木) 01:40:23.57 ID:iAp7NWefo


コボルト娘 「モンスターから逃げきるのに必死だったから」

コボルト娘 「マッピングをする暇もなかった」


女郎蜘蛛娘 「あちゃー……」


コボルト娘 「……あれはどこだったのだろう」

コボルト娘 「青緑色の壁が続く水道」

コボルト娘 「あたりに他の冒険者の姿を見えなかった」


女郎蜘蛛娘 「うーん……上層の人たちなら分かるのかもねえ」


中二 (上層……)


女郎蜘蛛娘 「まあ、良かったよ。命があって」

女郎蜘蛛娘 「帰還おめでとう」


中二 「お、おめでとうございます」


コボルト娘 「……感謝する」


157 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/01/26(木) 01:46:16.09 ID:iAp7NWefo


コツ コツ コツ


パン娘 「へーい、今度こそおまたせえ……」


女郎蜘蛛娘 「お、来た来た」


中二 (三つの皿に、飲み物までいっぺんに持ってきている)

中二 (なれた様子……有能な店員さんなんだなあ)



??? 「全員!」

??? 「動くなぁ!」



中二 「!?」




158 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/27(金) 22:07:00.26 ID:K1Q1iIG9o
中二さんのキャパはまだ平気なんだろうか
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/02/22(水) 17:44:31.80 ID:d0vPOVqK0
待ち
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/03/17(金) 06:17:05.72 ID:JVJyYD770
まだなのかい?
161 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/20(月) 10:15:18.59 ID:uhWJSASWo



中二 (青空喫茶の入り口に……)


??? 「屋根の無い店とはありがたい」

不死竜娘 「百等自警団、不死竜隊である!」


太っちょ兵 「…………」


ひげ兵 「…………」


自警団員たち 「…………」



中二 「自警団……」

中二 (びしっとした、たぶん制服を着ている)

中二 (無骨な鎧や兜をしている人もいるけど、羽根つきだったり、トゲつきだったり、そんなもの身につけてなかったり、統一感は無い)


女郎蜘蛛娘 「もう来たんだ。最近仕事が早いなあ」


コボルト娘 「…………」




不死竜娘 「先ほど、穴の発生が確認された!」

不死竜娘 「よって調査を行う!」

不死竜娘 「これより一時、この場の権限は我々不死竜隊が預からせていただこう!」


162 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/03/20(月) 18:24:06.38 ID:uhWJSASWo


不死竜娘 「申し訳ないが市民の方々には、安全のため、この場から離れていただくことをお願いしたい!」


中二 「声の大きな人だなあ。うらやましい」


パン娘 「何なのよ、大声で威圧して、偉そうにしちゃって」

パン娘 「お願いだなんて、断れば難癖つけて捕まえるくせに」


女郎蜘蛛娘 「まあまあ、最近は物騒みたいだし」


中二 「穴って、やっぱりさっきの……?」


女郎蜘蛛娘 「うん、コボルト娘ちゃんの出てきた穴」

女郎蜘蛛娘 「さあさあ、面倒になる前に離れようよ」


中二 「はい……」

中二 「うーん、結局食べられないままかあ」


コボルト娘 「すまない。私のせいだ」


中二 「いえ、そんな……」



ズカズカズカ


太っちょ兵 「おらおら、いつまでボサッとしてるんだ!」

太っちょ兵 「けつに根っこでも生えちまったか。がはは!」


ひげ兵 「さっさと従わねえと、うちの隊長はおっかねえぞお」


中二 「うわっ」

中二 (こっちに来た。鎧と何かの革の独特なにおい。中は普通の人間に見える)


パン娘 「ちょっと、乱暴に店の中を歩いて、うちの客をびっくりさせないでよね!」


太っちょ兵 「うひょっ、何て口をききやがる」


ひげ兵 「そっちがさっさとどかねえのが悪いんだ」

ひげ兵 「っと……」


中二 「……う?」

中二 (睨まれた?)


163 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/03/20(月) 18:34:34.53 ID:uhWJSASWo


ひげ兵 「おいおい、なんだあ、子どもがいるじゃねえか」

ひげ兵 「とんだ不良娘だぜ」


太っちょ兵 「ひひひ、度胸あるじゃねえか、夜にこんな所を出歩くとはよ」

太っちょ兵 「さっさと帰らねえと、人さらいに捕まって娼婦街の闇行きになっちまうぞ?」

太っちょ兵 「もっともここは、いつも夜だけどなあ。わひゃひゃ……」


中二 「いえ、帰るに帰れない事情がありまして……」


パン娘 「行きましょっ、こんなのと真面目に話す必要なんて無いわよ」


中二 「あ、はい……」


太っちょ兵 「何だあ、お前。ずいぶんとキツいこと言うじゃねえか」


パン娘 「ごめんなさいね。私はがらの悪い兵隊が嫌いなの」

パン娘 「あんたたちなんか、アッカンベエよ」


ひげ兵 「おいおい、こちとらお前らが安心して暮らせるよう日々頑張ってるってのに」

ひげ兵 「そりゃあ無いんじゃねえの」


太っちょ兵 「気の強い女は嫌いじゃないぜ」

太っちょ兵 「しかもパン族の女の腰つきが、へっへっへ……」


女郎蜘蛛娘 「おえっ……」


中二 (女郎蜘蛛娘さんが気持ち悪そうな顔をした)



164 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/03/20(月) 18:48:11.37 ID:uhWJSASWo


不死竜娘 「貴様らあ!!」


ひげ兵・太っちょ兵 「!?」


不死竜娘 「何をもたついているか!」


中二 (隊長らしき人が来た)

中二 (小柄で肌が青白い……顔にツギハギがある)

中二 (耳の上くらいから角が生えて、片方は短い)


ひげ兵 「すみません隊長」


太っちょ兵 「こいつらが、生意気な口をきくもんで」


ひげ兵 「おいっ……」


パン娘 「何よ、いきなり怒鳴ったのはそっちでしょ」


不死竜娘 「生意気な口……?」


太っちょ兵 「うっ……」


不死竜娘 「貴様……」


バチ バチ


中二 (!? 隊長らしき人の角が光り出した)

中二 (帯電している……?)


太っちょ兵 「い、いや、今のは言葉のあやってやつで……」


不死竜娘 「民の僕たる我々が」

不死竜娘 「どの口でそれを言うかあ!!」


バチ バチ

ドゴオン


不死竜娘 の放電!
太っちょ兵 は 210 のダメージ!


太っちょ兵 「ぎゃあ!」


中二 「ぎゃあ!」


165 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/03/20(月) 19:29:00.05 ID:uhWJSASWo


太っちょ兵 「ううーん……」


ドサ


ひげ兵 「余計なこと言うから……」


不死竜娘 「フンッ。この程度の制裁で気絶とは、軟弱者が」

不死竜娘 「この層のレベルは思ったよりも低いようだ」


中二 「あわわわ、かみ、雷が……」

中二 (背はアタシと同じくらいしかないのに、すごい威圧感)


不死竜娘 「……申し訳ない」

不死竜娘 「我が部下たちが失礼なことをしたようだ」


パン娘 「いや、別にそこまでしなくても……」


不死竜娘 「部下たちは厳しくしつけなければな」

不死竜娘 「さて、ここは危ない。申し訳ないが早く避難していただきたい」


パン娘 「そんなに急かさなくても良いじゃない。営業中だし」


中二 (うわあ、すごい度胸)


不死竜娘 「申し訳ないと言っている」

不死竜娘 「穴の調査をすることは、民の安全な生活のために欠かせないものだ」

不死竜娘 「早ければ早いほど良い。ご理解いただきたい」


コボルト娘 「…………」


パン娘 「そりゃあ、そうでしょうけど……」


不死竜娘 「時間が惜しい」

不死竜娘 「快い協力をお願いする」


中二 (脅迫にしか聞こえない……)


166 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/03/22(水) 20:29:33.38 ID:XzhKPw8Vo


パン娘 「むうー……」


フヨヨヨヨ


??? 「……こらこら、パン娘」

けやき箒 「自警団のかたがたを困らせちゃいけないよ」


中二 「うわっ」

中二 (箒が飛んできて、口をきいた!)


パン娘 「店長!」


中二 (店長!?)


けやき箒 「……こんばんは、自警団のかた。治安維持活動、お疲れ様です」

けやき箒 「私はこの青空喫茶の店長です」


不死竜娘 「百等自警団不死竜隊、不死竜娘だ」

不死竜娘 「聞いたと思うが、穴の調査のため、自警団員以外の者にはこの場から避難していただきたい」


けやき箒 「ええ、すぐに避難させましょう」

けやき箒 「パン娘、早くお友だちを連れて避難しなさい」

けやき箒 「どんなに小さなものでも、穴が危険なものだからね」

けやき箒 「お客さん、女郎蜘蛛、今度来てくれたときにサービスしますから、これからもご贔屓にお願いしますよ」


パン娘 「……は−い」


コボルト娘 「…………」


中二 「はい……」

中二 (紳士的な箒……)


女郎蜘蛛娘 「やったあ、大っぴらにタダ飯にありつけるや」


パン娘 「アンタね……」


不死竜娘 「快い協力、感謝する」


167 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/03/22(水) 20:52:11.13 ID:XzhKPw8Vo


けやき箒 「終わったら、椅子やテーブルは……」


不死竜娘 「心配無用だ。こちらで元の場所に戻しておく」



中二 「…………」

中二 (ここでは道具も話すんだ……)


パン娘 「ほら、行くわよ」


中二 「あ、はい」


トコトコトコ


女郎蜘蛛娘 「いやあ、相変わらずあの人たちが嫌いみたいだねえ」


パン娘 「当たり前よ」

パン娘 「自警団だからって、あいつら偉そうに威張り散らして」

パン娘 「お店でも行儀悪くお酒飲んで騒いで絡んできて、いっつもお尻を……ああ、思い出しても腹がたつぅ!」


女郎蜘蛛娘 「大きいもんね」


パン娘 「うるさいわよっ。気にしてるんだからね!」


女郎蜘蛛娘 「あはは……」

女郎蜘蛛娘 「でも、このあたりの自警団のガラが悪かったのって、前の隊長のときなんでしょ?」

女郎蜘蛛娘 「今の隊長になってから、そういうの減ったって聞いてるけど」

女郎蜘蛛娘 「うちの店でも、自警団のお客の行儀が良くなったって言ってたし」


中二 「自警団もそういう店、使うんだ……」


女郎蜘蛛娘 「使う使う。暇さえあれば来てるんじゃない」


パン娘 「あんた、自分がそういう話聞くの嫌なくせに、何てこと子どもに言ってるのよ……」


コボルト娘 「…………」


テク テク テク




自警団員の声 「……おい、何だお前」


自警団員の声2 「今ここは立ち入り禁止だぞ。さっさと立ち去……」

自警団員の声2 「うわっ、何をする!?」


ドゴンッ



中二 「!?」

中二 (どこからかすごい音がした)

168 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/23(木) 07:24:38.95 ID:oz9wNQ7Ho


??? 「…………」

死神メイド 「…………」


鎧の自警団員 「キュウ……」


自警団員A 「何だ貴様! どういうつもりだ」

自警団員A 「我々の邪魔をするつもりか!?」


死神メイド 「……違うわ」

死神メイド 「気安く触ってきたので、やめてもらおうと思って」

死神メイド 「お腹を押しただけよ」


自警団員A 「嘘をつけ!! 押しただけだってんならどうして……」


鎧の自警団員 「キュウ……」


自警団員A 「鎧のどてっ腹がぶち抜かれてるんだよ!?」


自警団員B 「こりゃひでえぜ、泥鬼にぶんなぐられたみたいに見事に粉々だ」


自警団員D 「かわいそうに……こないだ新調したばっかだって言ってたのに」


死神メイド 「…………」

死神メイド 「不思議ね」


自警団員A 「うるせえ!」





169 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/23(木) 08:03:35.95 ID:oz9wNQ7Ho


死神メイド 「…………」


自警団員A 「自警団に暴力を振るうのは重罪だぞ!」

自警団員A 「おまけにそのナメた態度は何だ! 捕まえて牢屋に入れてやる!」


死神メイド 「……ねえ、あなた」


自警団員A 「ああ!?」


死神メイド 「もう少し、静かにした方が良いわ」


自警団員A 「はあ!?」


死神メイド 「人通りが多いとは言え、夜に大声を出したら近所迷惑よ」

死神メイド 「あなたの声、とてもうるさいわ」

死神メイド 「何かあったの。それとも、自覚がないの?」

死神メイド 「自覚が無いのなら、あなた、ちょっと心配だわ」


自警団員A 「……っ………このッッ」

自警団員A 「誰のせいだと思ってやがる!!」


死神メイド 「何が?」


自警団員A 「だから、おれが怒っているのがお前の……」

自警団員A 「えーい、うるせえ! とにかくこれ以上おれを怒らせるな!」


死神メイド 「あなた、怒っているのね」

死神メイド 「自分が怒っているからと言って、それが人を牢屋に入れて良い理由にはならないわ」

死神メイド 「理不尽よ」


自警団員A 「ぐ……ッッ!! ………ぐぎっ!!!」

自警団員A 「この………ッッ」


死神メイド 「私にだって仕事があるの。悪いけれど……」

死神メイド 「………!」



ヒュゴオオオ


不死竜娘 「全団員、どけえええ!!」


170 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/23(木) 08:33:30.25 ID:oz9wNQ7Ho

ドゴオン

ガゴ ゴト ゴロ

バラ バラ パラ



パン娘 「きゃああ!? なになになに、何なのよ、もう!」


中二 「死神メイドさんが現れて、自警団の人と何かもめて……」

中二 「と思ったら、顔色の優れない隊長さんが飛び上がって、どこからか大きな斧のようなものを取り出して」

中二 「帯電しながら落下の勢いにのって死神メイドさん目掛けて突撃しましたね……」


女郎蜘蛛娘 「おー、見事な解説だ」


中二 「へへっ……滑舌は鍛えていますから」


コボルト娘 「…………」



モク モク モク モク

ストン


死神メイド 「…………」

死神メイド 「どうしたの」

死神メイド 「こんなところで、武器を持って戦ったら危ないじゃない」

死神メイド 「机や柵が壊れてしまったわ」


不死竜娘 「貴様を仕留めるためには、最初から手加減などできんからな」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「手加減していたわ」

死神メイド 「この人たちを気づかったのね」



自警団員A 「ふう、ふう、ふう……」

自警団員A 「重いんだよ、この!」


ゴイン


鎧の自警団員C 「キュウ……」


自警団員B 「あ、相変わらず心臓に悪いぜ、隊長の大斧は……」



死神メイド 「おかしな人ね」

死神メイド 「周りの目を気にせず襲ってきたかと思ったら、変なところで気をつかって」


不死竜娘 「その手には乗らん!」


バチチ ブオン

不死竜娘 の 帯電!
不死竜娘 の 素早い斬撃!

ヒラリ

死神メイド は ひらりとかわした!
171 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/23(木) 08:47:44.84 ID:oz9wNQ7Ho


不死竜娘 「バッタのようによく動く……」


死神メイド 「どうしたの、いきなり斬りかかってきて」

死神メイド 「理由が分からない」


不死竜娘 「お前と問答などするものか!」


ブオン ブオン

ヒラリ ヒラリ

ドガ バキバキバキ



パン娘 「きゃああ!」

パン娘 「椅子が! テーブルが! もらったばっかのファイブフェアリーズのサインがあ!」


中二 (ファイブフェアリーズ? どこかで聞いたような……)


女郎蜘蛛娘 「へえー、ここにも来たんだあ」




ヒゲ兵 「隊長、やめてください!」

ヒゲ兵 「今は穴の調査で、そいつとやりあってる暇はねえはずです!」


不死竜娘 「それはお前たちがやれ!」

不死竜娘 「私はこの極悪犯罪人をぶちのめして永久に牢獄にぶち込む!」


ヒゲ兵 「隊長に暴れられたら調査どころじゃねえってさあ!」

ヒゲ兵 「……って、おわっ」


太っちょ兵 「いてて、いったい何が……ふぎゃっ!?」


流れ弾!
重い木片 が 飛んでくる!
太っちょ兵 に 20のダメージ!
太っちょ兵 は 気絶した!


172 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/24(金) 07:11:42.82 ID:sNKls7SUo



死神メイド 「人の話を聞かないなんて、失礼な人」

死神メイド 「人を探しているの。知らないかしら」

死神メイド 「髪が黒か白の、若い……たぶん男か女だと思うのだけれど」


不死竜娘 「でやあああ!」


ビュオン

ドゴオン

バリバリバリ


死神メイド 「……そう」

死神メイド 「困ったわ」


ブオン ヒラリ

バキ ガシャン



通りすがり 「なんだなんだ」


靴磨き 「自警団の喧嘩かな。困るなあ……」


酔っ払い 「いいぞお、やれやれえ」


??? 「…………」



ザワ ザワ

ピー ピー



自警団員A 「こら、見世物じゃないぞ!」


自警団員B 「どうしましょうか」


ヒゲ兵 「隊長が暴れだしたら止まらん」

ヒゲ兵 「しかたねえ、穴の調査はおれたちだけでやるぞ」

ヒゲ兵 「なあに、どうせいつもの迷い穴だろ」

ヒゲ兵 「ちょっと穴周辺の素材を採取して、面倒な書類を上層に送ったらおしまいさ」


173 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/03/24(金) 07:21:14.32 ID:sNKls7SUo


コボルト娘 「…………」


中二 「死神メイドさん……」

中二 (自警団から狙われるって、いったい何をしたんだろう)


けやき箒 「君たち、ここで立ち止まっていてはいけないよ」

けやき箒 「早く避難しなさい」


パン娘 「店長! お店……」


けやき箒 「なあに、すぐになおせるさ」


パン娘 「でもお……」


けやき箒 「調理台はちょっとやそっとじゃ壊れないし、うちは屋根の無い青空喫茶だ」

けやき箒 「飲み物を置ける空いた木箱さえあれば、それで立派なお店だよ」

けやき箒 「さ、行った行った」


174 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/04/17(月) 13:13:10.48 ID:gIkSXohL0
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/05/07(日) 08:48:23.73 ID:ORBPWRW70
176 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/05/24(水) 01:33:08.78 ID:Wsu/zdsto


…………


糸巻きの町 路地裏



ワー ワー

ガチャン ガシャ



パン娘 「さてと……」


女郎蜘蛛娘 「良かったねえ、仕事はやく上がれて」


パン娘 「本当ならもっと早く上がれてたんだけどね」

パン娘 「どうする? 何か食べるなら、うちにでも来る?」

パン娘 「あまり物で良ければ、何か作るわよ」


女郎蜘蛛娘 「わーい」

女郎蜘蛛娘 「やったぜ中二ー」


女郎蜘蛛娘の ハイタッチ!


中二 「わ、わーい」


パチン


中二 「……て、アタシ、宿オークさんの宿に戻らないと……」


女郎蜘蛛娘 「いえーい!」


中二 「いえーい!」


パチン


中二 (体が逆らえない! 柔軟な演技のため、相手の行動を受け入れるように心がけていたせいか!)



177 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/05/24(水) 01:39:58.84 ID:Wsu/zdsto



コボルト娘 「…………」


テク……


パン娘 「ねえ、あなたも来る?」


コボルト娘 「……私?」


パン娘 「冒険から帰ってきたばかりで、栄養つけなきゃでしょ」

パン娘 「店でごちそうできなかった分、うちで食べさせてあげるわよ」

パン娘 「あまりものだけど」


コボルト娘 「…………」

コボルト娘 「冒険者ギルドに報告しなくてはならない」

コボルト娘 「だから……」


パン娘 「じゃあ、先にそっちを済ませてからにする?」

パン娘 「ねえ」


女郎蜘蛛娘 「いえー……ん?」

女郎蜘蛛娘 「ああー、良いよ。私も新しい依頼ないか見ておきたいし」

女郎蜘蛛娘 「ね?」


中二 「え? あ、はい」


女郎蜘蛛娘 「いえーい」


中二 「いえーっ……あの、もうちょっと手を下げてもらえませんか」

中二 「飛ばなきゃ届かない……」


178 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/05/24(水) 02:06:53.25 ID:Wsu/zdsto


女郎蜘蛛娘 「君、小っこいよねえ」

女郎蜘蛛娘 「にんげんの中でも小さい方なんじゃない」


中二 「そうですね。学校でも整列のときはだいたい前になりますね」


女郎蜘蛛娘 「学校かあ。この町にも学院があるよ、すごくでっかいの」

女郎蜘蛛娘 「いえーい!」


中二 「いえー……あの、さっきより高くなってませんかね?」



コボルト娘 「…………」


パン娘 「じゃ、行きましょ。一番近いギルドは……」


グキュルルル


コボルト娘 「…………」


パン娘 「…………」


女郎蜘蛛娘 「お、パン娘の腹の虫が」


パン娘 「し、しかたないでしょ、まだ食べてないんだから!」


中二 「ま、まあ、可愛い音でしたから……」


パン娘 「そんななぐさめ無用よ!」


キャン キャン ウフフ


コボルト娘 「……フフ」

コボルト娘 「ありがたいが、やはり一人で行く」


パン娘 「え? でも」


コボルト娘 「時間がかかるし、さっきのように面倒に巻き込んでしまうかもしれない」

コボルト娘 「食事はまた今度、落ち着いたときに、店で食べさせてもらうよ」


パン娘 「そう……? まあ、そこまで言うなら……」


女郎蜘蛛娘 「店、残ってると良いけどね」


パン娘 「お黙り!」






179 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/06/17(土) 05:52:06.15 ID:RMBbBMYY0
待ち
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/10(月) 10:27:41.99 ID:AdBnkV810
待ち
181 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/07/26(水) 16:31:31.13 ID:NRxNRKBUo


糸巻きの町

魔物区 無限海へ続く川辺



大カエル 「無限にひろがる町の外には、無限にひろがる海があるという説もあります」

大カエル 「しかし海へ向かう人も、海の向こうを知ろうとする人もいません」

大カエル 「冒険心にあふれる人々は、地下に広がるダンジョンそして町中心の城にあるという宝に夢中なのです」



クルルルル ホー ホー

ギシ ギシ ワハハハ……



中二 (コボルト娘さんと別れて、しばらく歩いていたら)

中二 (橋と川だらけの場所に出た)

中二 (大小たくさんの川、それに沿って歪んだ家が縦に横にいくつも重なっている)

中二 (たくさんの橋はそんな家々を出鱈目に繋でいる)

中二 (みすぼらしいもの、立派なもの、何階分も上の家と繋がったもの……どことも繋がっていないものまである)

中二 (広場より静かだけれど、常に誰かの声や橋の軋みが聞こえる)


女郎蜘蛛娘 「ここは下層でも人が多いところだよ。冒険者もたくさんいる」

女郎蜘蛛娘 「冒険者ギルドとか個人工房、色んな店や停留所が近くにあるから」

女郎蜘蛛娘 「学生は少ないけどね」


中二 「へえ……」

中二 「ごちゃごちゃしているけれど、川がきらきらして綺麗ですね」


女郎蜘蛛娘 「星靄の日はもっと綺麗だよ……あ、パン娘、こっちの橋の方が早いよ」


パン娘 「そうなの?」


女郎蜘蛛娘 「この前みつけたんだ」


パン娘 「あんた本当にこういうの得意よね……」


182 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga]:2017/07/26(水) 16:46:07.29 ID:NRxNRKBUo


中二 「それにしても、すごい数の橋ですね」


女郎蜘蛛娘 「みんな好き勝手に渡してるからねえ」

女郎蜘蛛娘 「この前なんか、パン娘の家の窓にさあ……」


パン娘 「その話はやめて」


女郎蜘蛛娘 「あっはは」


中二 (何があったんだろう)


ドボォン


中二 「!?」



???A 「おおーい、誰か落ちたぞお」


???B 「カワウソ隊に連絡だあ」



女郎蜘蛛娘 「おおー、今日も落ちてるねえ」


パン娘 「どうせ酔っ払いでしょ」


中二 (……気をつけよう)

183 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/07/27(木) 00:27:27.28 ID:B4pz5e7ho

魔物区 無限海へ続く川辺



女郎蜘蛛娘 「……もとは大きな川だったらしいんだけどね」

女郎蜘蛛娘 「いろいろあって今の形になったそうなんだよ」

女郎蜘蛛娘 「あ、この先から混沌区ね」



混沌区 星淀む川辺



中二 「混沌区?」


女郎蜘蛛娘 「いろんな種族がごった煮で暮らしているところだよ」

女郎蜘蛛娘 「この町ではいろんな種族が暮らしていてね」

女郎蜘蛛娘 「食べ物とかの関係で相性の悪い種族同士もあるから、住む場所は分かれているんだ」

女郎蜘蛛娘 「その方が、余計なトラブルが起きないしね」

女郎蜘蛛娘 「で、ここはそうじゃない」


中二 「なるほど……」

中二 「危なそうですね」


女郎蜘蛛娘 「うん。危ないよお」

女郎蜘蛛娘 「君は混じりっけなしのにんげんみたいだから」

女郎蜘蛛娘 「人食い鬼さんちとか、桃尻淫魔さんちには近づかない方が良いかな」


中二 「き、気をつけます」





184 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/07/27(木) 10:13:01.99 ID:XJ3NEr8BO
おつ
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/17(木) 02:04:47.14 ID:WWV83SAC0
待ち
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 18:49:04.47 ID:2FLAzmf80
待ち続けますわよ
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/25(月) 04:19:41.14 ID:vNaeF+XO0
待ち続けるったら待ち続けますわよ!
188 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/26(火) 00:26:24.25 ID:YSVUCC5wo


天秤帽子A 「すべての糸を、すべての人に!」

天秤帽子A 「すべての魔法を、すべての人に!」

天秤帽子A 「糸巻きの町のすべての人に、自由を!」



中二 (橋の端に、不思議な帽子を被った二人組がいる)



天秤帽子B 「お疲れ様でえす」

天秤帽子B 「よろしくお願いしまあす」


水平天秤のビラ1


中二 (ビラを差し出された)

中二 「えっと……」


天秤帽子B 「秘密ギルド、水平天秤です」

天秤帽子B 「今度、私たちのギルドの集会があるので、良かったら見学に来てください」

天秤帽子B 「この町の真の平等と自由について一緒に考えましょうねえ」


中二 (一生懸命に作られたような、手作りのビラだ)

中二 「あ、ありがとうございます」




































カン カン カン

ギイイ






女郎蜘蛛娘 「ただいまあ」
189 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/26(火) 00:35:36.74 ID:YSVUCC5wo


川辺のアパート パン娘の部屋



女郎蜘蛛娘 「我が家は落ち着くねえ」


パン娘 「あんたの家じゃないでしょ」


中二 (ベコベコの金属の橋を渡って、隙間を埋めるように伸びる階段を登って)

中二 (パン娘さんの家に着いた)

中二 (小さいけど、住みやすそうな家だ)


パン娘 「あんたは、変なビラを受け取っちゃって……」


中二 「熱心だったもので」


パン娘 「詐欺師だって熱心に仕事するわよ」

パン娘 「この町では、何でもかんでもに首を突っ込まないこと」


190 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/26(火) 00:41:38.32 ID:YSVUCC5wo


パン娘 「じゃあ、ちゃちゃっと何か作るから、適当にくつろいでいて」


女郎蜘蛛娘 「はーい」

女郎蜘蛛娘 「ようし、中二ちゃんよ、パン娘の家を案内してあげよう」

女郎蜘蛛娘 「まずはベッドの横のタンスから」


中二 「はい」


パン娘 「変なことしたら蹴っ飛ばすからね」


女郎蜘蛛娘 「はーい」


パン娘 「まったく……」


スタ スタ スタ



191 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/26(火) 00:58:07.66 ID:YSVUCC5wo


中二 「……何だか、素敵な部屋」

中二 「見たことが無いけれど、なじみのある物ばかり」

中二 「花の形の灯りに、良いにおいがする木のベッドに……」

中二 「あ、窓あけても良いですか?」


パン娘 「ああ、お願い」

パン娘 「うるさかったり変なにおいがしたら、カーテンおろしといて」


中二 「はあい」


カチャ ガココ

ソヨソヨソヨ 


中二 「……ふう」

中二 (風が気持ち良い)

中二 (にぎやかな町の音がどこか遠くに感じる)


女郎蜘蛛娘 「いよっ、窓辺の乙女」


中二 「は、はあ……いえ、そんな」

中二 「良いところだなあって」

中二 「ひしめく家の灯りとか、声とか、人の気配がして、川面の灯りは綺麗で」


女郎蜘蛛娘 「気に入ってくれたかね」


中二 「はい」


パン娘 「あんたの部屋じゃないでしょ」

パン娘 「すぐに飽きるわよ、暮らしていたら」


192 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/09/26(火) 01:04:41.00 ID:YSVUCC5wo


パン娘 「うるさいし、狭いし、下品な笑い声が聞こえてきたりするし」

パン娘 「お尻をさわってくる人もいるし」


女郎蜘蛛娘 「窓辺に座って川を眺めるのが好きなんだよ、パン娘は」

女郎蜘蛛娘 「この前訪ねたときは、歌まで歌ってたんだ」


中二 「良い趣味をお持ちで」


パン娘 「そんなのは教えなくて良いの」

パン娘 「美味しい料理が食べたかったらね!」


トン トン コトコト


女郎蜘蛛娘 「でも、残り物なんでしょう?」


パン娘 「こんにゃろ、わざと塩と苦薬を間違えてやろうかしら……」


女郎蜘蛛娘 「冗談、冗談」



193 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 11:08:46.98 ID:vYn2dPT1O
おつ
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 05:26:47.02 ID:5KfpcvNg0
およよ〜待つおよ〜
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 12:22:30.87 ID:eNFN+Ztdo
こっちの方はなかなか本編が進まないからレスが難しいな
それともだらだら日常系になるのかしら
196 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 01:49:13.51 ID:sOp4ugrwo


…………


グツグツ コト コト 

パン娘 「あちち……」

シュー シュー



中二 (低いテーブル。大木をそのまま輪切りにした感じだ)

中二 (ベリーソースをかけたケーキみたいにつやつやしている……)

中二 (カーペットは何でできているんだろう)


女郎蜘蛛娘 「行儀良いねえ。足くずしなよ」

女郎蜘蛛娘 「こんな狭い部屋だけど、気なんか遣わなくて良いって」



中二 「あ、はい、失礼します……」



パン娘 「ちょっと、また何か聞こえたわよ!」



女郎蜘蛛娘 「あははあ……ねえねえ」

女郎蜘蛛娘 「君って住むところ決まってるんだっけ」


中二 「……あ、はい。宿オークさんのところで」

中二 「家に帰るまで住み込みで働かせてもらいながら、お世話になろうかと」


女郎蜘蛛娘 「住み込みかあ。うちにもいるなあ、住み込みで働いてるの」

女郎蜘蛛娘 「……って、ええー、帰っちゃうの?」


197 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 02:06:48.86 ID:sOp4ugrwo


中二 「はい。私には、声優という夢がありますので」


女郎蜘蛛娘 「セーユウ?」


中二 「声の役者です」

中二 「感情を表現するために、普通の役者は表情や身振り手振り、足音などを使えますが」

中二 「声優は基本的に声しか使いません」

中二 「声だけであらゆる感情、季候に気候など周りの様子さえ表現するのが」

中二 「声優なのです」


女郎蜘蛛娘 「……あー」

女郎蜘蛛娘 「聞いたことあるある」

女郎蜘蛛娘 「声優ね、声優」


中二 「普通の役者よりも高い演技力が求められる、たいへん難しい世界なのです」


女郎蜘蛛娘 「なるほどねえ」

女郎蜘蛛娘 「じゃあさあ、こっちでなっちゃえば良いじゃん」


中二 「え?」


女郎蜘蛛娘 「どうやってなるのか分かんないけどさ」

女郎蜘蛛娘 「大丈夫大丈夫、やればできるって」


198 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 02:37:42.34 ID:sOp4ugrwo


中二 (ここで……)


パン娘 「何を言ってんのよ」

パン娘 「へい、お待ちぃ」


カボチャのドルマ
残り物ピキリア
残り物スープ


中二 (中身をくり貫いたカボチャに、何かおいしそうな炒め物が入っている?)


女郎蜘蛛娘 「きたきたー」

女郎蜘蛛娘 「残り物パン娘スペシャル!」


パン娘 「残り物は余計よ!」

パン娘 「……まだ子供だし、ここで暮らすのは大変よ」

パン娘 「それに、パパやママも心配するでしょ?」


中二 「いいえ? 全然」


パン娘 「いやいや、そうは言っても……」


中二 「まったく、心配していませんね」


パン娘 「まあ照れるのは分かるけど、心配……」


中二 「していません」

中二 「いなくなったら泣いて喜びますね」


パン娘 「…………」

パン娘 「ええぇ〜〜……」


女郎蜘蛛娘 「…………よし」

女郎蜘蛛娘 「いっただきまーす!」



199 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 02:51:29.36 ID:sOp4ugrwo


パン娘 「ちょ、ちょっとあんた、何をのん気に食べ始めてんのよ」

パン娘 「今すごいこと言ったわよこの子!」


女郎蜘蛛娘 「残念ながらたぶん私の手に負えん!」

女郎蜘蛛娘 「食べよう!」


パン娘 「逃げんじゃないわよ!」


中二 「いただきます!」


パン娘 「ちょ、ちょっと、あんたも……!」


中二 「……!! 濃厚な甘みのカボチャとモチっとした麦のような何かのハーモニー!」


ムシャムシャムシャ


パン娘 「えぇ〜……」


女郎蜘蛛娘 「おいしいだろー、中二よ」

女郎蜘蛛娘 「パン娘の手にかかれば、半分ゴミのような食材もこの通り」

女郎蜘蛛娘 「間に合わせのファンタジスタとは彼女のことだ!」


パン娘 「何てこと言ってんのよアンタぁ!」


中二 「なるほど、食の錬金術士……」

中二 「というわけですね!」


女郎蜘蛛娘 「知らんけど」

女郎蜘蛛娘 「うーん、うまいっ!」


中二 「うまいっ!」


モグモグモグ

ムシャムシャムシャ


パン娘 「何なのよコレ、もぉ……」



200 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 03:09:59.01 ID:sOp4ugrwo


パクパク モグモグ


中二 「こんな小さなカボチャもあるんですね」

中二 「皮が暗い紫色で……初めて見ました」


パン娘 「似てるけど違うものよ。もとは同じだけど」

パン娘 「魔女のカボチャ畑でたまにできていたのが始まりなんですって」

パン娘 「今ではお店にいっぱい並べられるくらい、簡単につくれるようになっているの」

パン娘 「栽培には毒ヨモギと角ムカゴが関係しているって聞いたけど、よく分かんない」

パン娘 「前にうちで作ってみたんだけど、だめになっちゃった」


中二 「へえ〜」


女郎蜘蛛娘 「飲む回復薬の材料にもなったりするんだよ」


中二 「コボルト娘さんが飲んでたようなものですか?」


女郎蜘蛛娘 「そうそう。あれはたぶん苦いやつだと思うけど」

女郎蜘蛛娘 「これを使うと甘くなるんだよー」


中二 「へえ。甘い方が良いですねえ」


女郎蜘蛛娘 「だよねえ」


中二 「飲む回復薬って、疲れが取れるとか、そういうものですか?」


女郎蜘蛛娘 「小さな傷もなおせるよ」

女郎蜘蛛娘 「高級なのになると、大怪我もあっという間になおせちゃう」


中二 「傷があっという間になおる……って、想像できませんけど」


女郎蜘蛛娘 「そうなんだ?」


中二 「だいたいの擦り傷とか切り傷とか、小さくてもなおるのに数日はかかります」


女郎蜘蛛娘 「怪我しにくい世界だねえ」

女郎蜘蛛娘 「まあ、こっちでも質の悪いの薬だと小さな傷でもなおすのに時間がかかったりするけどね」


201 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 03:52:03.46 ID:sOp4ugrwo


モグモグ キャッキャ

パクパク ウフフ


パン娘 「……あ、魔動画つけていい?」


女郎蜘蛛娘 「むぃーふょー(いーよー)」


パチン

フヴォン


魔動画 『ダンジョン探索の準備は、ぜひGアント商会で』

魔動画 『上層から下層まで、Gアント商会は良質なアイテムを提供いたします!』


パン娘 「よかったあ、まだ始まってなかった」


中二 (宿オークさんのところにあったものと同じ物?)

中二 (こっちのは箱みたいだけど)


女郎蜘蛛娘 「最近熱心に見てるよね、スパットレース」


パン娘 「私の応援してるチームがいい感じなのよ」

パン娘 「とくに今日は市街戦の王子、飛行帽フォレ様の本領発揮なんだから」


女郎蜘蛛娘 「あはは、好きだねえ」


中二 (スポーツがあるのかな?)


202 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 03:59:01.91 ID:sOp4ugrwo


女郎蜘蛛娘 「スパットっていうモンスターがいるのよ」

女郎蜘蛛娘 「それに乗って、雪原とか砂漠とか市街地とか走って速さを競ったり」

女郎蜘蛛娘 「風船くっつけて割りあったりするわけ」

女郎蜘蛛娘 「今日は夜の市街戦みたい」


中二 「ほー」

中二 (見てみないと分からなそうだ)

中二 (……ん?)

中二 「あれ? 砂漠とか雪原って、この町に……」


女郎蜘蛛娘 「ねー、中二くんよ」


中二 「あ、はい」


女郎蜘蛛娘 「今日はうちに泊まっていきなよ」


203 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 04:18:38.47 ID:sOp4ugrwo


女郎蜘蛛娘 「このままさー」


中二 「ええっと」

中二 (女郎蜘蛛娘さんは魔動画? に顔を向けていて)

中二 (どのくらい本気か分からない)


女郎蜘蛛娘 「うちはここのすぐ上なんだけどさー」

女郎蜘蛛娘 「もう遅いし、宿オークさんには私が説明するからさあ」


中二 「はあ、ありがたいですけど」

中二 「やっぱり一度宿に戻った方が……」

中二 「ほら、なんだかゴタゴタしたまま出てきちゃったので」


女郎蜘蛛娘 「あちゃー、そうかー……」


中二 「はい……」

中二 (そうだ、あんまりゆっくりしてられないや)


女郎蜘蛛娘 「じゃあ、その辺もあした一緒に謝るってことでー……」


中二 「え?」


女郎蜘蛛娘 「あー、食った食ったあ」

女郎蜘蛛娘 「パン娘ぇ、私今日ここに泊まっていいー?」


中二 「はいっ?」


パン娘 「テキトーな子なのよ、本当……」

パン娘 「あんまり真面目に対応しすぎない方が楽よ」


204 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 05:53:02.04 ID:sOp4ugrwo


女郎蜘蛛娘 「中二よ、君も一緒にパン娘の家に泊まるのだ」


中二 「やや、さすがにそれは……」


パン娘 「ほらほら、あんたが連れ出したんでしょ」

パン娘 「ちゃんと面倒見てあげなきゃ……って寝る体勢に入るなあ!」


女郎蜘蛛娘 「寝巻きはそこのタンスの下から二段目だからねー……」


パン娘 「そこは下着よ!」

パン娘 「じゃ無くて……寝るなあ!」


女郎蜘蛛娘 「レース始まるよ」


パン娘 「えっ」

パン娘 「やあん、本当……!」




実況A 『……皆さん、今夜のスパットレースを飲み物片手に観ようだなんて思っていませんか?』


実況B 『だとしたら、今すぐに飲み干すべきだね』


実況A 『その通り。今夜は優勝への大事な大事な大事なターニングポイント』

実況A 『各チーム、いつにも増して本気の布陣で臨んでくるこの試合』

実況A 『目を離す隙なんてどこにもありません』


実況B 『中でも注目は彼さ。飛行帽フォレ』

実況B 『さっき、調整房でロングイアーの碧眼エルフとバルカンの片翼インプと話してたんだけど』

実況B 『どちらも、彼のことをかなり意識していたね』

実況B 『もっとも僕は今、スタンド二段目にいるホットパンツの彼女から目が離せないけど……』



女郎蜘蛛娘 「声優ってこれ?」


中二 「……必要なスキルではあります」


パン娘 「あーん、もう。早く映してよ、飛行帽フォレ様を!」



205 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 06:22:30.87 ID:sOp4ugrwo


中二 (実況の人がどんな話し方をするのか聞いていきたい……)

中二 「…………」



実況A 『さあ、各チームのメンバーを見ていきましょう。まずは……』



女郎蜘蛛娘 「くあぁ………」


中二 「…………」



実況B 『……第四戦から急遽トップフラッグを受け継いだとは思えない貫禄』

実況B 『金毛猫耳が帰って来ても、立派に席を争えるよ』


実況A 『ええ、まさに今季最も成長した選手は間違いなく彼でしょう』

実況A 『さて、皆さんお待ちかね。続いてはこのチーム……』



パン娘 「んもーう! マッスルヴァンパイアの人たちなんて映すの後で良いじゃない!」

パン娘 「見たいのはフォレ様よ、ホークアイのフォレ様!」


中二 (この実況の人たち、息が合ってるな)

中二 「実況の人たちは、いつも同じなんですか?」


女郎蜘蛛娘 「……さあ?」

女郎蜘蛛娘 「でも、たしか魔法ラジオで他の番組を一緒にやってたかも」


中二 「ほー……」

中二 (今度探して聞いてみよう)


女郎蜘蛛娘 「…………」

女郎蜘蛛娘 「泊まってく?」


206 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 06:42:23.42 ID:sOp4ugrwo


…………

…………


少し後



ガサ ゴソ


パン娘 「……どう?」


中二 (パン娘さんの寝巻きを貸してもらった)

中二 (……お尻がぶかぶかだ)

中二 「え、えっと……」


女郎蜘蛛娘 「お尻がぶかぶかでしょ? お尻が」


中二 「あ、はは、まあ……ですね」


女郎蜘蛛娘 「ぶっかぶかだって、お尻が」


パン娘 「分かってるわよ……お尻お尻うるさいわよ!」

パン娘 「ほら、このサスペンダー使って。上は大丈夫?」


中二 「は、はい」


ハミュ ハミュ


中二 「……ど、どうでしょうか」


パン娘 「うん、うんっ、可愛いじゃない!」


女郎蜘蛛娘 「うん、可愛い。変なキノコみたい」


中二 「変なキノコですか」


女郎蜘蛛娘 「眠らせてきたり、毒にしてきたりする奴」


中二 「うわっ、やだなあ」


パン娘 「着心地はどんな感じ?」


女郎蜘蛛娘 「チクチクしない? パン族は下半身ぼーぼーだから」


パン娘 「ちゃんと洗ってあるわよ! ぼーぼーとか言うなあ!」


中二 「ゆったりして、気持ち良いです」

中二 「このまま外を歩きたいくらいですね」


207 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 06:54:32.06 ID:sOp4ugrwo


パン娘 「そう? 気に入ってくれた?」


中二 「はい、すごく。こんなの初めて着ました」


パン娘 「ふうん……」

パン娘 「よし、じゃああげる」


女郎蜘蛛娘 「おおー」


中二 「えっ」


パン娘 「着られなくなって、どうするか迷ってたやつなの」

パン娘 「だから、あげるっ」


中二 「う、うれしいけど悪いですよ、そんな」


パン娘 「いいのいいの。サスペンダーもおまけ。私からの、この町に来たお祝いよ」


女郎蜘蛛娘 「決して、飛行帽の王子様が勝ったから機嫌が良いだけってわけじゃないからね」


中二 「……うぐっ」

中二 (いかん、泣けてきた……!)

中二 「あっ……りがと、ございますぅ゛……!」



パン娘 「ウフフッ、どういたしま……」


女郎蜘蛛娘 「どういたしまして!」


パン娘 「こらあ!」


208 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 07:02:17.14 ID:sOp4ugrwo


パン娘 「さあってと、ベッドはどうしようかしらね」


中二 「ごめんなさい、結局お世話になっちゃって」


パン娘 「いいの、いつものことだし、一人くらい増えたって」


女郎蜘蛛娘 「これからもよろしくー」


パン娘 「あんたは自重なさいっ」

パン娘 「言っとくけど、寝床は良いとしても食費の方は本当に考えるからね!」


女郎蜘蛛娘 「大丈夫、そのあたりの加減は考えてるから」


パン娘 「なら良いけど……良くないわよ!」


中二 「計画的な、たかり……」


女郎蜘蛛娘 「あっはっは」

女郎蜘蛛娘 「また何か良い素材見つけたら持ってきてあげるからさ」


パン娘 「んもう……」


209 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2017/10/22(日) 07:07:14.46 ID:sOp4ugrwo


パン娘 「えっと、じゃあベッドは中二と私が使うとして……」


女郎蜘蛛娘 「えー、三人で並んで寝ようよー」


パン娘 「三人は無理よ」


女郎蜘蛛娘 「パン娘のお尻が大きいから?」


パン娘 「あんたの手足が長いからよ!」


死神メイド 「もしくはその両方ね」


中二・パン娘・女郎蜘蛛娘 「うわあ!?」


210 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/12(日) 02:14:33.96 ID:qd5Qnsz30
待ち
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/04(月) 03:34:50.45 ID:i1NFhpiW0
さらに待ち
212 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/01/04(木) 01:46:14.30 ID:iXjPRWkIo


死神メイド が あらわれた


中二 「び、びっくりしたあ……!」


死神メイド 「そう」


女郎蜘蛛娘 「相変わらず神出鬼没だなあ」

女郎蜘蛛娘 「ねえ、パン娘」


パン娘 「や、やめてよ! 私は知らないわよ、こんな子!」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「傷つくわ。ショック」

死神メイド 「ねえ、パン娘」


パン娘 「やめて! かかわりたくない!」

パン娘 「あんたに関わると何かしら痛い目を見るもの!」


中二 (あれ、知り合い?)


パン娘 「私は死神メイドなんて知らない!」


イヤ イヤ


中二 「すごい拒否反応……」




213 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/01/04(木) 02:07:58.71 ID:iXjPRWkIo


女郎蜘蛛娘 「ほら、死神メイドって超マイペースなんだよ」

女郎蜘蛛娘 「で、パン娘は振り回されるタイプじゃない?」

女郎蜘蛛娘 「そりゃあ、嫌ってほど振り回されちゃうよねー」


中二 「へえ……」

中二 (女郎蜘蛛娘さんも、かなりマイペースだと思う……)


女郎蜘蛛娘 「彼氏ができても振り回されるんだろうなあ」


中二 「面倒見が良さそうだから、ほっとけないんでしょうかね」


女郎蜘蛛娘 「そーそー」

女郎蜘蛛娘 「で、重いって捨てられるの」


パン娘 「聞こえてるわよ、そこ!」


死神メイド 「知らないなんて言わないで。あなたと私の仲じゃない」


パン娘 「いや!」


死神メイド 「傷つくわ」

死神メイド 「ねえ、パン娘。野外喫茶の青空喫茶で働く20歳」

死神メイド 「夢は素敵な旦那様とお店を持つこと」

死神メイド 「好きなタイプは王子様みたいな人」

死神メイド 「趣味は魔動画でスパットレースの観戦」


パン娘 「いや! いや!」


死神メイド 「初恋の相手は近所に住んでいた友達のお兄ちゃん」

死神メイド 「初めての××××は、お風呂場でそのお兄ちゃんのことを……」


パン娘 「きゃあああああ!?」

パン娘 「もうやめてえ!」



214 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/01/07(日) 14:59:54.28 ID:1ox2ti0+o


パン娘 「どどど、どうしてそんなことまで知ってるのよお!」


死神メイド 「さあ」

死神メイド 「なぜでしょう」

死神メイド 「にやり」


中二 (にやりって言った、無表情で……)


パン娘 「やな奴!」



中二 「あのう、パン娘さんと死神メイドさんは知り合いなんでしょうか」


女郎蜘蛛娘 「職場がわりと近所だからね」

女郎蜘蛛娘 「浅からぬ縁ではあるよね」



パン娘 「もー、あんたと関わるとこっちの寿命がいくらあっても足りないから」

パン娘 「他人のふりしていたのにぃ……」


死神メイド 「他人じゃない」


パン娘 「そういう意味じゃなくてっ」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「でも良かったわ、寿命が縮んで」

死神メイド 「死神冥利につきる」


パン娘 「くぅ〜……っ!!」

パン娘 「……はぁ」


215 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/09(火) 05:23:34.31 ID:B9gKTfgy0
更新来てたー
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/11(日) 17:08:35.28 ID:VdBQVJvZ0
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/02(金) 05:04:45.43 ID:xIY8o5yU0
待ってるぞ
218 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/09(金) 03:48:26.87 ID:zRjnC2Tfo


パン娘 「……うちに何しに来たのよ。仕事中じゃないの?」


死神メイド 「仕事中よ。仕事でここに来ているの」

死神メイド 「仕事じゃなきゃ来ないわ、こんなところ」


パン娘 「ぬっく……!」

パン娘 「……ああ、もう、はいはい、何の用なわけ? 私たち、これから寝るところなんだけど」


死神メイド 「あなた達がこの燃えやすそうなボロ部屋で、これから何をするのか」

死神メイド 「ごめんなさい、まったく興味ないわ」

死神メイド 「知ってる? 今月の私のラッキーアイテム」

死神メイド 「一本で巨人の家を燃やせる魔法のマッチ」


パン娘 「そっちの方がどうでも良いわよ!」


219 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/09(金) 04:01:46.93 ID:zRjnC2Tfo


中二 (今月のラッキーアイテム。今月ってことは……)

中二 (ここの暦ってどうなっているんだろう)



死神メイド 「たまたま持っていたのだけど、本当に家を燃やせるのかしら、このマッチ」

死神メイド 「試して良い?」


パン娘 「それが仕事で、そのためにここに来たんだったら引っ叩くわよ」


死神メイド 「……ちょっと、あの、ごめんなさい」

死神メイド 「私、真面目に話しているのだけど」


パン娘 「私だって、ふざけていないわよ! ふざけているのはそっちでしょ」

パン娘 「じゃあ何しに来たのよ。仕事って何なのよ」

パン娘 「っていうか、あんたねえ、うちの店どーーーっしてくれんのよ。百等自警団相手にあんなに暴れて!」

パン娘 「目をつけられちゃったらどうすんのよ!」


死神メイド 「どうしたの、急に怒りだして」


220 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/09(金) 04:16:16.77 ID:zRjnC2Tfo


死神メイド 「暴れたのはあの死に損ないの竜人族の男よ」

死神メイド 「……女だったかしら」

死神メイド 「そもそも私は、お友だちのお店に迷惑をかけようだなんて思わない」

死神メイド 「私、あなたがコソコソと逃げ出したあとも、店を守るためにあの青白い顔の生物に一生懸命言ったわ」

死神メイド 「ここは私の大切な大切な大切なお友だちの勤めているお店だから、暴れるのはやめなさいって」


パン娘 「つけられた! ぜったい目をつけられた!」

パン娘 「もー、あんた何てことしてくれたのよ。あの人たちに目をつけられたら、牢屋にいるのと違わないじゃない!」


死神メイド 「……いらないわ、お礼は」


パン娘 「やらないわよ!」

パン娘 「あー、もう、本当に目をつけられたらどうしよう……」


死神メイド 「大丈夫よ」


パン娘 「気軽に言ってくれちゃって……」


221 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/09(金) 04:18:26.97 ID:zRjnC2Tfo


死神メイド 「だから、大丈夫よ」


バサ


死神メイドは 不死竜娘の頭を 取り出した!


中二・女郎蜘蛛娘・パン娘 「ぎゃっ!」



222 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/09(金) 07:43:20.92 ID:zRjnC2Tfo


不死竜娘の頭


中二 「どどどど、ど、どどどどどどどどどどど……」

中二 (生首! 目隠しされて猿轡された)


パン娘 「あた、あたあたあた……」


女郎蜘蛛娘 「…………」


死神メイド 「…………」

死神メイド 「ね」


パン娘 「何があ!?」


中二 「じょじょじょじょじょ、じょろじょろじょろくもサン、ここここれはいったい………」


女郎蜘蛛娘 「…………」


中二 「あ!」

中二 「気絶してる……」


223 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/10(土) 04:35:05.64 ID:QqLtABPVo


女郎蜘蛛娘 「…………」


中二 (立ったままで、しかも目を開けたままで気絶している)

中二 「スウゥ……」

中二 「女郎蜘蛛さぁん!」


女郎蜘蛛娘 「!!」

女郎蜘蛛娘 「はっ……ああ、何だ、夢かあ」

女郎蜘蛛娘 「さっき、生々しい生首がさあ……」


中二 「違います違います、女郎蜘蛛さん。夢じゃありませんよ」

中二 「あたしなんてもう死神メイドさんに会ったくらいから夢見てる感覚ですけど」



パン娘 「死神メイド……あ、あんた、ついにやっちゃったの」

パン娘 「いつかやるだろうと……っていうか、もうすでに何人かやってそうだと思っていたけど」

パン娘 「ついにやっちゃったの!?」


死神メイド 「いいえ。最近、他人のお腹にパンチするのは控えているわ」


中二 (ん?)


死神メイド 「三人とも、何を慌てふためいているの」

死神メイド 「たかが生首じゃない」


ズイ


不死竜娘の頭



女郎蜘蛛娘 「ぎゃっ……」


中二 「ああっ、また」


224 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/10(土) 04:57:13.75 ID:QqLtABPVo


死神メイド 「どうして人の生首程度で慌てふためくの」

死神メイド 「小魚の生首を見ても、慌てふためかないでしょう」

死神メイド 「小魚に悪いと思わないの」

死神メイド 「料理の皿に小魚の頭が乗っていようが、あなた達の生首が乗っていようが」

死神メイド 「私にとっては同じことなのよ」


パン娘 「大事な友達とか言っておきながら小魚と同列……って、そういう問題じゃないのよ!」


死神メイド 「そうなのね」

死神メイド 「やっちゃったって、お腹にパンチのことでは無いのね」

死神メイド 「ええ、パムンク呼吸法は試してみたわ。効果があったのか、顔色は良くなる一方よ」


パン娘 「ああん、もう会話の行方が分かんないわよう!」

パン娘 「とにかくそれ、その頭しまってよ! 吐きそうなのよ!」


死神メイド 「かまわないけれど、正直嫌なのよね」

死神メイド 「ここまで、この生首、スカートの中に入れてきたのよ。またこんな生臭いものしまうなんて」

死神メイド 「とても嫌」


パン娘 「小魚がどうとか、差別するなみたいなこと、いま言ってたじゃない!」


死神メイド 「言っていたわね」

死神メイド 「ええ、そうよ。小魚の生首をスカートにしまう行為も、とても嫌」

死神メイド 「ちょっとこの生首、テーブルに置かせてくれるかしら」

死神メイド 「わりと重いのよね」


パン娘 「やめてえ!」


225 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/10(土) 05:02:49.42 ID:QqLtABPVo


パン娘 「もう嫌ぁ、やっぱりえらいことに巻き込まれちゃったじゃないのよぉ……」


死神メイド 「いい加減にしてほしいわよね」


パン娘 「あんたが言うなあ!」


死神メイド 「私だって、仕事があるのに」


中二 (死神メイドさん、平然と生首を持っている)

中二 (パン娘さんや女郎蜘蛛娘さんの反応を見るに、ここではそれが普通じゃないみたいだ)

中二 (死神メイドさんは、すごく怖い人なんだろうか……)


死神メイド 「……中二」


中二 「は、はい!?」


ビクッ


死神メイド 「説明、手伝ってもらうわ」


中二 「え?」


226 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/10(土) 05:07:02.61 ID:QqLtABPVo


シュルル チュパア


死神メイドは 不死竜娘の生首から
目隠しと猿轡を 外した!


パン娘 「ちょっとあんた、やめてよ顔なんて見せないで……」


不死竜娘の生首 「ぷあっ……」

不死竜娘の生首 「くそう、このような屈辱……」


パン娘・中二 「…………」


中二 「……ええっ!?」



227 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/10(土) 06:00:12.02 ID:QqLtABPVo



中二 「生きてる」

中二 「ええっ!?」

中二 「女郎蜘蛛さん……は、気絶しているから……」

中二 「パン娘さん、これって……」


パン娘 「私だってよく分かんないわよぉ……」

パン娘 「自警団の隊長はゾンビかそういう種族だったってことじゃないの?」


中二 「ゾンビもいるんですか」


パン娘 「うん……」


中二 (走る人骨だっていたし、何がいても不思議じゃないか)

中二 (つくづく何でもありなところだなあ……と感じるけれど、さすがに生首の持ち歩きは普通じゃ無かった)

中二 (あたしの暮らしているところとだいぶ違うだけで、ここにもちゃんと常識と非常識はあるんだ)

中二 (これは大事なことだぞ)

中二 (あたしが目指す声優界も、いわば別世界。特殊なしきたり、常識非常識があるだろう)

中二 (それをいち早く把握し適応できなければ、一緒に仕事する人たちとの信頼関係は築けない)

中二 (すぐにその世界から抹殺されてしまう)



死神メイド 「私はうちの宿でお世話しているこの子を、連れ戻そうとしていただけ」

死神メイド 「やましいことをしていたわけでは無いの」

死神メイド 「そもそも、私はあなたが言うような極悪犯罪者では無いのよ」


不死竜娘の生首 「ふん……」

不死竜娘の生首 「そうなのですか、黒髪のお嬢さん?」


中二 (生首に話しかけられた。意外と話し方は柔らかい)

中二 「お世話になっているのは本当ですけれど……」

中二 「死神メイドさん、探しにきてくれたんですか?」


死神メイド 「当たり前でしょう」

死神メイド 「大事な後輩だもの」

228 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/03/10(土) 06:16:05.90 ID:QqLtABPVo


…………


不死竜娘の生首 「この町に来てまだ間も無いのですか」

不死竜娘の生首 「私も外の出身です。はじめは色々と、戸惑うことが多いでしょう」


中二 「はい、ええ、もう……」

中二 (しっかりとした声。頭だけでどうやって出しているんだろう)

中二 (あたしの知らない発声法が、ここにはあるのかな)


不死竜娘の生首 「そうですか、あなたがたは、あの野外喫茶に……」

不死竜娘の生首 「巻き込んでしまい、申し訳ない」


パン娘 「申し訳ないじゃないわよ。おかげでお店が滅茶苦茶なのよ!」

パン娘 「あなたたちって、本当に乱暴なんだから。行儀悪いのも多いし」


不死竜娘の生首 「たしかに、隊の風紀は正すべきところが多いと感じております」

不死竜娘の生首 「しかし、私が今日、あそこで斧を振るったのは正義のため」

不死竜娘の生首 「町の平和を守るためなのです」

不死竜娘の生首 「それはご理解いただきたい」


229 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 10:50:23.28 ID:sUVQiha00
お、来てた
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/04/23(月) 12:05:07.42 ID:MZWdcZzr0
231 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/05/14(月) 13:22:07.97 ID:pkk/VKgvo


パン娘 「平和のためって何よ」

パン娘 「そもそも自警団なんてあなた達が勝手に名乗って」

パン娘 「勝手にみんなを取り締まっているだけでしょう」



中二 「パン娘さん、ずばずばと……」


女郎蜘蛛娘 「面倒事に巻き込まれたくないわりに、怖いもの知らずなとこあるからね」



不死竜娘の生首 「もちろん、そのような声が多いことも承知しております」

不死竜娘の生首 「真実正義というものが、大衆に理解されにくいことも」

不死竜娘の生首 「しかし、我々は微かでも尽きることなくこの町に秩序を灯し続けましょう」

不死竜娘の生首 「ゆえに、我々は百等自警団なのです」

232 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/05/15(火) 00:02:58.03 ID:KzSAp6ZXo


パン娘 「それがありがた迷惑だって……」


死神メイド 「やめてあげて、パン娘」

死神メイド 「彼女、こんなになるまで頑張っているのよ」


不死竜娘の生首 「したのは貴様だ」

不死竜娘の生首 「今に尻尾をつかまえて、牢獄にぶちこんでやる」


死神メイド 「私に尻尾は無いわ」

死神メイド 「あるのはあなた……」

死神メイド 「ああ、そう。そうだったのね。あなたなりの冗談だったのね」

死神メイド 「気づかなくてごめんなさい」

死神メイド 「面白くないけれど、笑ってあげるわ」

死神メイド 「うふ」


中二 (真顔で……)


233 : ◆tHMiOqNMgmiR [sage]:2018/05/15(火) 00:45:44.99 ID:KzSAp6ZXo


女郎蜘蛛娘の生首 「あのさあ、ところでさあ……」

女郎蜘蛛娘の生首 「その隊長さんの頭はここにあるけど、身体は大丈夫なの?」

女郎蜘蛛娘の生首 「燃やされちゃったり食べられたりして、なくなっちゃったらまずいんじゃないの?」


中二 「女郎蜘蛛さん、顔が真っ青……」

中二 (声の震えかた、顔の筋肉の様子、しっかり観察しておかなくちゃ)



不死竜娘の生首 「ありがとうございます。私は皆様に奉仕する身。そのような気遣いは無用です」

不死竜娘の生首 「急いだ方が良いのは確かですが」


死神メイド 「私も急いで宿に戻りたいわ」

死神メイド 「誤解もとけたようだし」


不死竜娘の生首 「勘違いをするな」

不死竜娘の生首 「貴様には、先日の賭博場のことで聞き出さねばならんことがある」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「頑張り屋さんは好きよ」


234 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/20(日) 05:23:39.14 ID:JSHlsnhm0
女郎蜘蛛いつのまにか生首になってる…
235 : ◆tHMiOqNMgmiR [saga sage]:2018/05/21(月) 12:52:40.36 ID:Ii/dtFLBo
>>234ありがとうございます



>>233訂正ごめんなさい



女郎蜘蛛娘 「あのさあ、ところでさあ……」

女郎蜘蛛娘 「その隊長さんの頭はここにあるけど、身体は大丈夫なの?」

女郎蜘蛛娘 「燃やされちゃったり食べられたりして、なくなっちゃったらまずいんじゃないの?」


中二 「女郎蜘蛛さん、顔が真っ青……」

中二 (声の震えかた、顔の筋肉の様子、しっかり観察しておかなくちゃ)



不死竜娘の生首 「ありがとうございます。私は皆様に奉仕する身。そのような気遣いは無用です」

不死竜娘の生首 「急いだ方が良いのは確かですが」


死神メイド 「私も急いで宿に戻りたいわ」

死神メイド 「誤解もとけたようだし」


不死竜娘の生首 「勘違いをするな」

不死竜娘の生首 「貴様には、先日の賭博場のことで聞き出さねばならんことがある」


死神メイド 「そう」

死神メイド 「頑張り屋さんは好きよ」
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