魔剣士「やはりフキノトウは最高だ」武闘家「えっ?」

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78 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/04(土) 16:14:40.70 ID:JmArPY5Oo

翌日、町を出て車を飛ばした。

少し風が強い。



魔剣士「そろそろ休憩するか」

俺は平原に横たわった。

武闘家「……なんで体に葉っぱ生やしてるの?」

魔剣士「最近食べた草を再構成して光合成してる」

魔剣士「飯を食う手間が省けるんだ」

武闘家「す、すごいわね」

武闘家「…………」

武闘家「ねえ、エリウス。あなた、その……人間の女の子に、全く興味は」

突然バイクに乗った男が現れた。

重斧士「エリウス・レグホニアだな」

男はヘルメットを取った。俺とそう歳の変わらなさそうな青年だ。

重斧士「俺の名はガウェイン」

重斧士「育毛剤探しの旅をしている」
79 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/04(土) 16:15:37.06 ID:JmArPY5Oo
kokomade
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/04(土) 17:38:53.68 ID:uqVnS5xZo
ハゲイン?
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2016/06/04(土) 18:26:07.07 ID:u676wazuO
乙。ガウェインが子供世代とは面白いな(ガウェインはガラハドの親世代)。
82 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/06/04(土) 18:54:28.03 ID:JmArPY5Oo
(※ガラハドの没名を流用してるだけなのでこの話は元ネタの伝説内容とは一切関係ないです)
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/04(土) 22:57:40.48 ID:tKj/0TEfO
花とセックス……どうやるんだ?
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/04(土) 23:49:22.75 ID:tKj/0TEfO
やっぱりハゲじゃないか…
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/04(土) 23:51:46.25 ID:nSkkX8qxO
>>83だけど>>84ではない
こんな人少なそうな板でID被り!?
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/05(日) 16:12:07.49 ID:QxloOSUYO
ガラハドの血筋は皆落ち武者スタイルなのてすね…
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 01:52:28.70 ID:aLuFvB+do
携帯会社同じだったら被りやすかったりすんのかな
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/09(木) 02:06:10.98 ID:YfKtZEmmO
小説版は話の内容変わってるけどSS版準拠でいいのかな
89 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:49:18.37 ID:KFMlrqyGo

第四株 大待雪草


重斧士「剣士か。ならば話が早い」

重斧士「これから決闘を行い、俺が勝てばおまえには育毛剤を調合してもらう」

魔剣士「は?」

奴はやたらでかい戦斧を構えた。

重斧士「剣を抜け!」

魔剣士「え」

重斧士「どうした、怖気づいたのか!?」

魔剣士「今時決闘なんてやる奴いねえよ」

一昔前から、この辺りの国では決闘そのものが禁止されてもいる。

重斧士「その剣はお飾りか!?」

魔剣士「そうだよ!!」

重斧士「そうか。それはすまなかった」

奴は斧をしまった。
90 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:49:48.68 ID:KFMlrqyGo

武闘家「そういえば、あなたが剣を抜いたところを見たことがないわ」

魔剣士「本当は面倒だから剣なんて持ち運びたくないんだが、帯刀しろって母親がうるせんだよ」

武闘家「ああ、持ってるだけで牽制になるものね」

魔剣士「昔近所の道場で習ってはいたんだが実戦経験はない」

うちの村に道場ができたのは、俺が生まれる数年前だったらしい。

「父さんの子供の頃には道場なんてなかったのに、この村も変わったもんだなあ」
と父さんからは羨ましがられたが、俺は好きで剣を習っていたわけではない。

母さんに半ば無理矢理通わされていたのだ。

魔剣士「んで、育毛剤作ればいいのか?」

重斧士「か、金はいくらかかる」

魔剣士「そっちが材料を用意すれば金は取らねえよ」

重斧士「なっ……んだと?」
91 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:50:33.47 ID:KFMlrqyGo

重斧士「タダで依頼を受ける薬師がいるか!! 何を企んでいる!?」

魔剣士「何も企んでねえよ!」

重斧士「やはり決闘だ!!」

魔剣士「決闘で相手に言うことを聞かせようとするのがまずおかしいからな!?」

武闘家「ちょっと落ち着いて」

武闘家「ガウェイン? だっけ? どうして育毛剤を探してるの?」

重斧士「っ――!?」

重斧士「!?!?!?!?」

武闘家「な、なんであたしを見てそんなに驚いてるの?」

重斧士「そ、そんな……そんなことがあるはずがない……」

武闘家「?」

重斧士「い、今まで俺は……男にしかときめいたことがなかったというのに……」

重斧士「おまえを見て、俺の胸はこれまでにないほど高鳴っている!!!!」

武闘家「え?」
92 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:51:09.85 ID:KFMlrqyGo

重斧士「な、名前を教えてくれ!」

武闘家「か、カナリアーナよ……みんなカナリアって呼ぶわ」

重斧士「そうか……カナリアか……可憐な名だな……」

重斧士「い、いい筋肉をしているな」

武闘家「あ、ありが……と……?」

魔剣士「俺もうそろそろ出発したいんだけど」

重斧士「貴様、カナリアとどんな関係なんだ!?」

魔剣士「え? ただの知り合いっつうか」

魔剣士「成り行きで一緒に旅してるだけの同行者だ」

武闘家「……仲間とか、友達とか、もうちょっと暖かい言い方できない?」

重斧士「そうか! 付き合ってるわけじゃないんだな!!」

魔剣士「俺女どころか人間に興味ないし」
93 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:52:00.82 ID:KFMlrqyGo

重斧士「俺はガルブ大陸の最北端の辺りから来たんだが……おまえは?」

ガルブ大陸……ここから西の方にある大陸だ。

砂漠が広がっているイメージが強いが、緑が豊かな土地もある。
南部の方は熱帯雨林が広がっているし、最北端であれば亜寒帯か温帯のはずだ。

武闘家「東のエスト大陸よ」

重斧士「そ、そうか……」

魔剣士「なあ、育毛剤は?」

重斧士「あ、ああ……そうだったな」

重斧士「親父のハゲが年々進行していてよぉ」

重斧士「ある時、俺の妹がこう言ったんだ。『禿げたパパなんてカッコ悪い』ってよ」

重斧士「親父は意気消沈して仕事をしなくなっちまったし、」

重斧士「お袋は腑抜けた親父を毎日罵倒するしよぉ……」

武闘家「あ、あらぁ……」
94 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:52:40.43 ID:KFMlrqyGo

重斧士「元々幸せな家庭じゃあなかった」

重斧士「お袋が精神的に参ってる親父を決闘で負かし、半ば無理矢理手籠めにしてできたのが俺だし、」

重斧士「親父には他に好きな相手がいたんだ」

武闘家「……二十年ちょっと前から、無理矢理……とかはできなくなったはずよね?」

重斧士「山に籠っているところを狙われたんだそうだ」

大抵の町村や街道には、性犯罪を抑止する結界が張られている。

性犯罪以外の違法行為を防止する術も研究されていて、実現できているものもあるが、
必要な魔力量の問題であまり普及していない。

技術が発達すればするほどたくさんの魔力を必要とする時代となっているため、
いかに魔力を節約するかが現代の課題である。

重斧士「俺はグレた。バイクを乗り回してはケンカに明け暮れたぜ」

俺はこいつの身の上話になんて興味はないんだが、カナリアは興味深そうに聞いている。

重斧士「だけどよお、健気だった妹までグレちまったのを見て……」

重斧士「このままじゃ駄目だと思ったんだよ」

武闘家「まあ……」
95 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:54:08.20 ID:KFMlrqyGo

重斧士「髪が生えたところで何の解決にならないもかもしれねえが、」

重斧士「親父が自信を取り戻せば、」

重斧士「もしかしたら……幸せな家族生活って奴を築くきっかけを作れるかもしれねえ」

こいつも将来禿げそうだなと思った。前髪から後退していくタイプな気がする。

魔剣士「まず、薄毛や抜け毛は生活習慣の改善が重要だ。ただ育毛剤に頼るだけじゃ効果は薄い」

魔剣士「だがまあ、わざわざ遠方から俺を訪ねてきたわけだしな……これが材料のメモだ」

魔剣士「本当はおまえの親父さんの体質に合わせた物を作るのが一番なんだが、」

魔剣士「本人がいないのは仕方ないからおまえの容姿から勝手に判断した」

重斧士「ほ、本当にタダでやってくれるのか……!?」

魔剣士「金を取る理由がない」

いかにも貧しそうな奴から金を取る気にはなれなかった。
96 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:55:12.45 ID:KFMlrqyGo

重斧士「す、すまねえな……! カナリアがいなかったらおまえに惚れていたところだ」

魔剣士「やめろ」

尻が危機感を覚えた。

魔剣士「おまえ……本当に男が好きなのか?」

重斧士「親父はゲイだった。だから俺もゲイなんだ」

性的嗜好とは遺伝するものなのだろうか。大学に帰ったら遺伝学の先生に聞いてみよう。

重斧士「だが……俺は確かにカナリアに熱い感情を覚えている……!」

武闘家「て、照れるわね……」

随分オープンな奴だ。
本人が気付いていなかっただけで、ゲイじゃなくバイだったのかもしれない。

青い石「ふぁ〜よく寝たよ」

青い石「……む、この男……どことなく既視感が……」
97 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:57:27.47 ID:KFMlrqyGo

重斧士「おまえ、勇者ナハトと似てるらしいじゃねえか」

重斧士「親父がネットでおまえの写真を見て驚いていたぞ」

ネットができる前から、意図的に情報を画像や映像として魔鉱石に記録する技術はあったが、
当時、その術を使えるのはごく一部の魔術師だけで、
ある程度の金持ちや規模の大きな組織じゃないと彼等に依頼することはできなかった。

今の映写魔術とは保存形式が異なっていることもあり、ネット上に勇者ナハトの写真は出回っていない。
精々似てるかよくわからん肖像画くらいだ。

今の母さんの写真もネットには上がっていない。
だから、俺と勇者ナハトが似ていると騒ぎ立てているのは、
主に勇者ナハトの顔を実際に見たことがある連中である。

重斧士「親父の片想いの相手、勇者ナハトだったらしいんだ」

ん?
98 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:58:22.61 ID:KFMlrqyGo

重斧士「親父は勇者ナハトに結婚を求めて決闘を挑み、敗北した」

重斧士「一旦身を引く決意を固めたものの諦めきれず、」

重斧士「お袋から逃げながら、再戦に備えて鍛錬を続けていたそうだ」

重斧士「そんな中、勇者ナハトがその身を犠牲にして魔族を封印しちまってよお」

重斧士「すごい落ち込みようだったそうだ」

重斧士「お袋との決闘で負けた原因もそれだったらしい」

青い石「あぁ、君のお父さんが誰か察しがついたけど君お父さんのこと誤解してる」

青い石「君のお父さん、勇者ナハトが女の子だって気付いてたから。ゲイじゃないから」

カナリアは気まずそうにガウェインから顔を逸らした。

青い石「駄目だ私の声聞こえてない」

自分のことをゲイだと思い込んでいるノンケの可能性も出てきた。
人の性的嗜好とは不思議なものである。本人の思い込みであることもあるからだ。

思春期の女子なんかは、濃ゆくなり出した男子を汚いからと嫌悪し、
なんちゃってレズと化すことがある。
99 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:59:17.95 ID:KFMlrqyGo

重斧士「勇者ナハトの生まれ変わりだって言われてるおまえに会ったら、」

重斧士「もしかしたら喜ぶかもなあ」

魔剣士「普通に考えてみろ、更に家庭が崩壊するぞ」

重斧士「あ、それもそうだな」

青い石「会っちゃだめ!! というか私が会いたくない!!」

(どんな奴だったんだよ)と俺は心の中でモルに訊いた。

俺はかなり集中すれば魔力でモルと会話することができる。
魔力を分解してこの石の波動に合わせなければならないためちと疲れるが。

青い石「根は悪い奴じゃなかったね。でも思い出しただけで胃がムカムカするよ」

(モルおまえに胃はないだろう)

青い石「段階すっ飛ばして馴れ馴れしく肩を抱こうとしたりして!!」

青い石「決闘して勝ったら結婚してくれっていうのがまずUnsinn!!!!」

青い石「強引だったし!! 全然アルカディアの意思を尊重しないし!!」

(ほーん)

青い石「その点ヘリオス君はかっこよかったよ」
100 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 13:59:51.92 ID:KFMlrqyGo

重斧士「決めた。俺はおまえ達についていくぞ」

武闘家「え?」

魔剣士「いやおまえ育毛剤の原料集めるんだろ」

重斧士「おまえ達と一緒では集められないのか?」

魔剣士「そういうわけでもないが」

重斧士「一人で集めて間違えるよりは、一種類一種類おまえに確認取った方が無難だろう」

魔剣士「ああ確かに」

重斧士「カナリア!」

奴はカナリアの手を握った。

武闘家「え」

重斧士「その……」

武闘家「えっと、あたし達知り合ったばかりだし、」

武闘家「あたし、そういうのはちょっと……」

重斧士「そ、それもそうだな」

重斧士「じゃあ友達から始めさせてくれ!」

武闘家「ええっと……」

重斧士「よろしくな!!」

青い石「押しの強さがお父さんそっくりで胃痛が」
101 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:00:43.72 ID:KFMlrqyGo

――
――――――――

魔剣士「今夜はここらで野宿か」

重斧士「晩飯の獣を狩ってくる」

武闘家「ワイルドね」


青い石「カナリアっち」

武闘家「なあに? モルっち」

青い石「ガウェっちのことどう思う?」

武闘家「う〜ん」

武闘家「まだなんだかよくわからないんだけど」

武闘家「いろいろと急で面喰っちゃったわ」

武闘家「でも、今まで逆玉狙いで寄ってくる男はけっこういたのだけど」

武闘家「あんなに真っ直ぐな男の子は初めてよ」

魔剣士「だが見た目で惚れられるのも面倒だぞ」

武闘家「中身で幻滅されたりするから?」

魔剣士「勝手に幻滅してくれるのならいい」

魔剣士「中身を知っても尚容姿目当てで迫ってくる奴が厄介だ」

武闘家「く、苦労してそうね……」
102 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:01:25.17 ID:KFMlrqyGo

青い石「まんざらでもない感じ?」

武闘家「そ、そういうわけじゃないわよ!」

武闘家「あたしは……」

武闘家「……………………」

武闘家「エリウス、さっきからパソコン開いて何してるの?」

魔剣士「画像に写ってる植物の種類を割り出すアプリ作ってる」

武闘家「え、すごいわね」

魔剣士「魔術のプログラミングと基本は同じだからそんな難しくもないぞ」

武闘家「そ、そうなの?」

青い石「現代技術はすごいね……旧い魔導学しか知らない私にはさっぱりだよ」

青い石「きっと売れるだろうね」

魔剣士「世界中の植物のデータをぶちこめばまあ需要はあるかもな」

青い石「エリウスは偉いね、妹や弟達のためにいっぱい稼いで……」

武闘家「家族のためにやってるの?」

魔剣士「別に」
103 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:02:22.12 ID:KFMlrqyGo

魔剣士「俺にはもう生きてる理由がないからな」

魔剣士「それなら好きなことやって余生を過ごそうと思ったんだ」

青い石「余生とか言う歳じゃないでしょ」

魔剣士「んでまあ、趣味に走ってたら勝手に金が入ってくるようになったんだが、」

魔剣士「ただ貯金されるだけの金には存在意義が無い」

魔剣士「それなら未来のある兄弟達の養育費に充てた方が生産性あるよなと」

魔剣士「そう合理的に判断した。金が無いと喘がれても面倒だしな。それだけだ」

いくら父さんの稼ぎが多いとはいえ、流石に兄弟が増えすぎた。

ただ食っていくだけなら困らないが、
もし全員が進学を望んだら金はいくらあっても足りないだろう。

そうならないよう父さんは子供をそんなに増やす気はなかったらしいんだが、
母さんがやたら産みたがったんだ。

武闘家「生きてる理由がないって、どうして?」

魔剣士「もう喋るのめんどくせえ」

青い石「答えてあげなさい」

魔剣士「ちっ」

青い石「こら! 舌打ちしないの!!」

魔剣士「植物と子孫を残す方法を見つけるのが俺の夢だった」

魔剣士「だが生物を学んでわかったことは、その夢の実現が不可能であることだけだった」

武闘家「……誰かと結婚することは、考えたことないの?」
104 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:03:02.78 ID:KFMlrqyGo

魔剣士「ねえな」

魔剣士「人間でも、植物みたいに静かな……そうだな、」

魔剣士「スノーフレークみたいな奥ゆかしそうな子だったら結婚できるかもしれねえけど」

スノーフレーク、別名スズランスイセンの花が辺りに咲いていた。ムラムラした。
その向こうには森が広がっている。

魔剣士「俺、相手を人間として尊重したりとかできないからな」

武闘家「そ、そう……」

青い石「まったくこの子ったら」

重斧士「イノシシ狩ってきたぞ」

武闘家「まあ!」

重斧士「あとなんか森で迷ってる連中拾ってきた」

黒服大男「た、助かった……」

黒服女刀士「あっあの二人は」

ローブを着た連中が数人ぞろぞろと現れた。

連中は服にメダルを付けており、それらにはオディウム教の紋章が彫られていた。

魔剣士「おいそいつら敵」

重斧士「え」
105 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:04:51.09 ID:KFMlrqyGo

黒服大男「結界石に魔力を込めろ! 奴の魔力を流し込まれないようにな!!」

魔術師じゃなくても防護壁を張れるように術を施された魔導石だ。
どうやら物理攻撃を防ぐ物ではなく、他人の魔力を遮断することに特化しているタイプのようだ。

あれほど質の良い物はなかなかいいお値段がするはずなんだがな。
全員一つずつ所持しているなんてとんでもないことだ。

大男はローブを脱ぎ捨てた。すごい筋肉だ。

黒服剣士「この男の命が惜しくば武器を捨てて手を上げろ!」

重斧士「おおう」

植物を利用した術には対策を立てられた。
通常の魔術で結界を破壊しようにも、かなりムラムラしているため発動は困難である。

カナリアが使う魔術は主に身体強化術らしく、遠距離は不得意だそうだ。

武闘家「くっ……」

魔剣士「おまえが連れてきたんだからなんとかしろ」

重斧士「おう」

ガウェインはローブを着た剣士を軽々と投げ飛ばした。

黒服女刀士「何っ!?」

奴等は全員間を取ってローブを脱ぎ、臨戦態勢をとった。全員ムキムキだ。
この場にいる人間は俺以外皆武闘派らしい。
106 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:07:29.83 ID:KFMlrqyGo

重斧士「久々のケンカだ!! 腕が鳴るぜ!!」

武闘家「はっ! ていっ!」

乱闘と化した。

黒服格闘家「でやっ!」

魔剣士「わー待てって! 俺はケンカとか無理だから!!」

魔剣士「口喧嘩なら負けねえ自信あるけどな!!!!」

急いで地面からスモールソードを拾い上げて抜刀したが、俺は逃げてばかりである。

その昔ケンカを吹っ掛けられた時は、
じいちゃんと取引している商人から習った護身術を使ってその場を凌いだこともあったが、
その術もそう極めたわけじゃない。攻撃を躱すことだけはやたら得意になったが。

黒服格闘家「その剣はお飾りか!?」

魔剣士「だからその通りなんだよ!!」

魔剣士「俺は肉体派じゃねえええええ!!!!」

黒服二刀流「逃がさん!!」

魔剣士「ぎゃあああ!」

魔剣士「研究室に引きこもりっぱなしの院生の軟弱さナメんじゃねえぞ!?」

重斧士「おまえヒョロガリだよなあ」

ケンカ慣れしているガウェインは余程余裕があるらしい。
戦闘中にも拘らず笑いながら話しかけてきた。
107 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:08:18.66 ID:KFMlrqyGo

重斧士「肌も妙に白いしまるでモヤシだ」

魔剣士「うっせ! おわっ! ひいっ!」

重斧士「頭は黒いから黒豆モヤシだな!」

魔剣士「誰がブラックマッペだ!! ちくしょう!!」

研究室でのあだ名はユウレイタケだった。そこまで真っ白じゃないわ。
タヌキノショクダイと呼ばれることもあるがそんなことはどうでもいい。

青い石「白い肌に黒髪碧眼はうちの民族の特徴なんだよ」

黒服二刀流「はっ!」

魔剣士「ひうえぇぇ! 暴力反対!!」

黒服二刀流「それでも勇者ヘリオスの息子か!?」

黒服大男「似てねえし母親が浮気でもしたんじゃないのか」

魔剣士「ありえねえよ!! 天地がひっくり返る以上に!!」

俺は無意識の内にスモールソードで大男を斬っていた。

斬るためというよりは突くための剣なのだが、
断ち切り用の剣の訓練を受けていたためか自然と斬撃を繰り出していた。
108 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:09:05.21 ID:KFMlrqyGo

使い方を習ったのと違うタイプの剣を帯刀しているのは、
単純にスモールソードが軽くて持ち運びが楽だからだ。

今のヒョロガリっぷりでは重量のある剣をまともに扱える気がしないのもある。

魔剣士「うわあああ斬っちまった! 感触生々しいぃぃぃ!!」

黒服大男「ぐっ……」

黒服二刀流「隙あり!」

魔剣士「うおう!」

どうにか全員倒して縛り上げた。通報したからすぐに兵士が逮捕しに来るだろう。

魔剣士「ぜー……ぜー……」

重斧士「体力ないな! がはは!」

魔剣士「ほっとけ」

俺は後衛なんだ。肉体で解決するよりも頭を使って裏から操る方が得意なんだ。

しかし奴等、結界石を持っていたとは……こちらも何かしら対策しねえと。
109 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:10:07.35 ID:KFMlrqyGo

武闘家「運動したらお腹空いたわね。」

イノシシ「ブヒ……」

武闘家「それにしても、よくこんな大物獲れたわね」

重斧士「へへ……もうちょっと待ってろ、今血抜きして解体するからよ」

魔剣士「ひえっ」

重斧士「何ビビってんだよ。狩りやったことねえのか?」

魔剣士「ねえよ、精肉店で売ってる肉しか食ったことねえし」

魔剣士「肉自体あんま食べねえ」

重斧士「だからそんなに貧弱なんだよ。男なら肉食え」

魔剣士「嫌いではないんだが……体質的にどうもな……」

重斧士「そういや、人類最強の男と謳われた勇者ナハトは細身でありながら大剣を振るったって聞いたぜ」

魔剣士「あれチーターだから」

重斧士「チーター? 勇者ナハトは人間じゃなく肉食獣だったのか?」

魔剣士「そうじゃなくてだな、チートをしてる奴って意味で」

武闘家「おいしー」

魔剣士「おいそれ生肉」
110 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:10:36.59 ID:KFMlrqyGo

武闘家「あたし実は生肉好きなのよ」

魔剣士「細菌とか寄生虫とかやべえって」

武闘家「何故だかあたしは平気なのよ。生肉食べて体壊したことないの」

魔剣士「おまえ……俺が毒草食ってるの見てドン引きしてた癖に……」

重斧士「お、俺も食ってみようかな」

魔剣士「やめとけ!!!!」

重斧士「えーでもよぉ」

魔剣士「解体さえ済ませたら俺が調理するから!!」



武闘家「エリウス、あなた随分料理上手よね」

魔剣士「母さんがくたばってる時は俺が作る時もあったし」

青い石「へたばってるの間違いだよね?」

魔剣士「一生独り身だからこれくらいはな」

武闘家「そ、そう……」

重斧士「すげー」
111 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:11:22.94 ID:KFMlrqyGo

魔剣士「この辺の食べられる野草もたくさん入れた」

魔剣士「素材そのものも好きなんだが、」

魔剣士「加工することにより新たな魅力を引き出すこともできるからな」

魔剣士「料理は趣味の範疇だ」

魔剣士「肉や魚の調理法はあんま詳しくないが、普通に食えるくらいにはできる」

重斧士「充分うめえぞ」

武闘家「おいしい……おいしいわ」

重斧士「複数人でメシ食うのは久々だな……涙が出そうだ」

武闘家「あなたもいろいろ苦労してそうだものね」

重斧士「ああ……家族全員でテーブルを囲んでいた頃が懐かしいぜ」

重斧士「お袋、親父と仲はあんまよくねえが、俺達のことは可愛がってくれてよお」

重斧士「作る料理も粗かったが、味は悪かぁなかった」

武闘家「そう……」

武闘家「あたしの母さんが勉強に厳しかったのは、あたしを想ってのことだし……」

重斧士「どうあっても生みの親だからなあ……」

武闘家「やっぱり、親って……憎めないものよね。ね、エリウス」

魔剣士「さあな」
112 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:12:11.38 ID:KFMlrqyGo

武闘家「え……」

重斧士「何言ってんだよおまえ」

魔剣士「俺は母親に愛情を覚えたことなんて一度もねえんだよ」

青い石「こら! この子ったら!! またそんなこと言って!!」

魔剣士「ごっさま。……しばらくこいつ預かっててくれ」

青い石「ちょ」

俺はモルが宿っている石をカナリアに手渡した。

武闘家「何処行くのよ。単独行動は控えるよう言われてるでしょ」

魔剣士「おまえらは離れんなよ」

武闘家「ちょっと!」

魔剣士「性欲は魔術師の大敵だからな。シコってくるんだよ」

武闘家「あ…………そう」

月明かりに照らされたスノーフレークが幻想的で綺麗だ。



重斧士「あいつも反抗期か?」

武闘家「どうなのかしら」

青い石「いつからあんなに素直じゃなくなっちゃったんだろ……」
113 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/11(土) 14:12:38.98 ID:KFMlrqyGo
kokomade
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/11(土) 16:41:27.58 ID:jv9S3nswo
乙乙
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/12(日) 02:27:25.64 ID:axUt+eAbo

続編待ってた
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/12(日) 10:13:55.96 ID:h/++tNewo
素直すぎると思う
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/12(日) 11:10:01.97 ID:HY4AVdEBO
アルカの浮気を疑われた時に無意識に敵を切ってた=自覚ないけど怒った可能性
根が深そう
118 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:05:06.31 ID:NxR8Nj8go

第五株 紫蘇


魔剣士「おまえ、本当に俺達についてくるならこれからも危険な目に遭うぞ」

魔剣士「奴等、俺とカナリアは生け捕りにしようとしてるらしい」

魔剣士「だから俺達はすぐに殺されることはないだろうが、」

魔剣士「おまえに対しては容赦がないかもしれん」

重斧士「構わん」

重斧士「無償で薬を調合してもらうのはやはり性に合わなかったからな」

重斧士「俺のことは護衛に使ってくれ」

魔剣士「それならまあ助かるな」

やたら強いようだし、前衛が増えるのはありがたい。

魔剣士「あ、わりい電話だ」

車を停めて電話に出た。知らない番号からだ。
119 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:06:53.12 ID:NxR8Nj8go

次男『にいちゃーん! もりもり?』

魔剣士「アルバか?」

次男『進学祝いに携帯買ってもらったんだ!』

魔剣士「おーよかったな」

五歳下の弟のアルバは上級学校に入学した。卒業後は士官学校に進むつもりらしい。

父さん似だが眉尻は垂れ下がっていて人懐っこく、愛嬌がある。
駄洒落が好きなところは母さんそっくりだ。

小さい頃は気が優しすぎていじめられることもあったが、今は元気に過ごしている。

魔剣士「一人部屋はどうだ」

次男『めっちゃたのしー! ありがと兄ちゃん!』

俺が使っていた部屋はアルバに譲った。
俺はこの旅が終わっても実家に帰るつもりはない。

そのうち大学の近くで下宿するか家を買うかしようと思っている。
120 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:08:02.31 ID:NxR8Nj8go

武闘家「アルバ君? あたしも話したーい!」

次男『あーカナリア姉ちゃんだー!』

カナリアはアウロラやアルバと仲が良い。

ちなみにアルバの名付け親はアキレスさんだ。
彼の国の古語で日の出という意味の言葉らしい。

武闘家「久しぶり、元気? うん、うん、また一緒に遊びたいね!」

武闘家「そっかあ、皆楽しくやってるんだね」

武闘家「じゃあね!」

重斧士「おい、アルバとは何者だ! どんな関係なんだ!?」

魔剣士「俺の弟だ。カナリアとはただの友達だから落ち着けって」

重斧士「そ、そうか」

重斧士「弟か……欲しかったな」

武闘家「あたしにも弟はいるけど……小さい頃は可愛かったのになあ」

武闘家「段々生意気になってきちゃって」
121 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:09:29.74 ID:NxR8Nj8go

魔剣士「アルバは今でも素直だな。アルクスは元から俺のことが嫌いみたいだが」

下の弟は今年で四歳になる。
生まれた時に虹がかかっていたため、古代言語で虹を意味する言葉を名前にしたらしい。

武闘家「あなたそういえば今何人兄弟?」

魔剣士「自分を含めて七人だ」

武闘家「あら〜増えたわね〜」

重斧士「おまえの親……仲良いんだな……」

青い石「弟……あーくん……」

武闘家「モルにも弟さんがいたの?」

青い石「年の離れた弟がね」

重斧士「……誰と喋ってるんだ?」

武闘家「ああ、この石に魂が宿ってるのよ」

重斧士「お、おう?」
122 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:10:01.50 ID:NxR8Nj8go

青い石「エリウスー北の大陸行こー」

魔剣士「ええぇ……やだよ寒いじゃん。俺寒いの苦手なんだって」

青い石「ヤダ!! あーくん! あーくんに会いたい!!」

青い石「『にいちゃま、にいちゃま』っていつもついてきたあーくん……!」

青い石「あ゛あぁーぐぅん……うううぅぅぅぅぅううう!!!!」

魔剣士「そういうところ母さんとそっくりでイラつくんだよ!」

青い石「ほんとあーくん可愛かったんだから!!」

魔剣士「いくら可愛かったにしても今はもう50代のおっさんじゃねえか!」

青い石「北の大陸!! 行きたい!!」

魔剣士「わかったから! 真夏にな!!」

青い石「ヤッタァァアアア!」

武闘家「……前から気になってたけど、モルって一体何者なの?」

魔剣士「俺の母方のじーちゃん」

武闘家「え……にしては随分扱いがぞんざいよね」

青い石「ほんと困っちゃう」

重斧士「会話に……入れねえ……」
123 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:11:17.41 ID:NxR8Nj8go

町に着いた。

カナリアはこの公園のすぐ傍の店で日雇いの仕事を見つけ、
ガウェインもそれについていった。客寄せをやっているようだ。

青い石「ブロードソードでも買ったらどうだい?」

魔剣士「やだよ重いしかさばるし」

青い石「じゃあスモールソードの使い方を憶えようか」

魔剣士「えー、適当に振ってりゃそれでよくね」

青い石「刺突用の剣には刺突用の剣の効率のよい攻撃方法があるんだよ」

魔剣士「指南書でも買えばいいのか」

青い石「その必要はないよ。スモールソードの扱い方なら私がよく知っているからね」

青い石「当時の貴族にとって、スモールソードは装飾品であると同時に護身具だったんだ」

青い石「生前は剣術大会で優勝し続けたこともあってね」

青い石「スズメバチのモルちゃんと名を馳せたものだったよ」

魔剣士「貴族のお遊びの剣術じゃないだろうな」

青い石「失敬な。ちゃんと実戦で通用するレベルだったよ」

魔剣士「ふーん」
124 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:12:44.67 ID:NxR8Nj8go

青い石「まあ、憶えないよりマシだから」

魔剣士「で、どう構えればいいんだ?」

青い石「ちょっと体動かすよ」

モルが自分の魔力を俺の魔力の一部に同調させた。

青い石「こう相手を見据えて……刺す!」

魔剣士「おおう」

魔剣士「俺が憶えなくても、おまえが俺の体を使って戦えばよくないか?」

青い石「無理無理ずっと起きてられるわけじゃないもん」

しばらくモルに操られて剣を振るった。

魔剣士「意外とこの剣も力要るんだな」

青い石「筋力が足りないね。タンパク質摂らなきゃ」

魔剣士「大豆食うか……」

輸入品であればこの季節でも売っているはずだ。

   「ふざけおって!!」

カナリアが働いている店の方から怒鳴り声が聞こえた。
125 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:13:43.45 ID:NxR8Nj8go

どうやら怒っているのは老年の貴族のようだ。肌の白さは北の大陸の住民のものだ。
従者達はめんどくさそうな表情で控えている。

老貴族「このシャツはいくらすると思っている!?」

店長「申し訳ございません!!」

店員が貴族の服にトマトソースをこぼしてしまったらしい。
店の連中は平謝りしている。貴族相手だしさぞ怖かろう。

老貴族「あああ痒い! 私はトマトアレルギーなんだ!!」

従者「旦那様、すぐにお召し替えを」

老貴族「こんなところで脱げるか!」

店長「君、タオルを持ってこい!! すぐにだ!!」

貴族の怒りが収まる様子は無い。

老貴族「客を殺す気か!?」

店長「まことに申し訳ございません……すぐにお詫びの品を用意いたしますので」

店員「ごべんなざいぃぃぃ」
126 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:15:41.55 ID:NxR8Nj8go

老貴族「まったく、せっかくの引退旅行だというのに……」

老貴族「覚悟しておけ、この店には相応の報いを受けてもらうぞ」

店員「わだじが全財産払ってお仕事辞めまずがら! どうかお店はお助けぐだざい!」

従者「旦那様、命に係わるわけではございませんし」

従者「ほんのちょっと飛んだだけじゃないですか」

老貴族「黙れ!」

従者「う……怒り出したら止まらないんだから」

武闘家「相応の報いとはどういうことですか?」

武闘家「服とアレルギーに関してはお気の毒に存じます」

武闘家「しかし、服のクリーニング代と治療費、法に沿った額の額の慰謝料を払うだけでは足りませんか?」

店長「か、カナリアちゃん」

老貴族「なんだこの生意気な小娘は! 私を誰だと思っている!?」

武闘家「過剰な賠償の請求を行いますか。それとも権力を濫用し、このお店を潰しますか」

武闘家「いずれにせよ犯罪です。貴族であっても処罰の対象となります」

重斧士「かっけぇ……」

老貴族「うぐぐぅぅううう」
127 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:16:45.27 ID:NxR8Nj8go

魔剣士「炎症を起こしているところを見せていただけますかね」

老貴族「なんだおま……えは…………」

老貴族「…………!?!?」

青い石「あーこのじいさんもしかして」

魔剣士「ちょっと失礼。ここか……赤くなってんな」

武闘家「今度は何食べてるの?」

魔剣士「シソの実の塩漬け」

魔剣士「治療しました。ついでに魔法で服も綺麗にしておきます」

魔剣士「しみ抜き<ステイン・リムーブ>」

弟や妹がよく服を汚すため、汚れを落とす魔法は習得している。

老貴族「きさっ、もっもるっもっもっるげっ」

魔剣士「これでもう何も問題ないでしょう」

老貴族「ひぃぃぃぃぃぃぃ」

魔剣士「なんなんだよ……」

青い石「ごめんちょっと体貸して」

魔剣士「ちょ、おい」
128 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:19:20.56 ID:NxR8Nj8go

魔剣士(モル憑依)「ギーゼル? ギーゼルベルトじゃないか?」

老貴族「もるげっろっろっ」

魔剣士(モル憑依)「ほら、落ち着いて。深呼吸」

老貴族「すー、はー……すーげほっ」

老貴族「モルゲンロート!?」

魔剣士(モル憑依)「いやあ久しぶりだね、何十年ぶりだい?」

老貴族「成仏しとらんのか!?」

魔剣士(モル憑依)「うむ。今は孫の体を借りているのだよ」

重斧士「どうしたんだあいつ」

武闘家「後で説明するわね」

店員「えぶえぇぇぇええごめんなざいぃぃぃぃ」

魔剣士(モル憑依)「ほら、あの女の子、あんなに謝っているじゃないか」

魔剣士(モル憑依)「そろそろ許してあげないかい」

老貴族「わかったから! もう怒らんから成仏しろ幽霊!」
129 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:20:11.40 ID:NxR8Nj8go

魔剣士(モル憑依)「しかし、こんなことで店を脅すなんて一体どうしたんだ」

魔剣士(モル憑依)「他に何か悩みでもあるんじゃないのかい」

老貴族「き、貴様には関係ない!」

魔剣士(モル憑依)「ここで再会したのも何かの縁だ。相談に乗らせてはもらえないかね」

老貴族「なんか目尻は吊り上がっとる気がするが、」

老貴族「その物腰の柔らかさ……本当にスズメバチのモルちゃんなのだな……」

武闘家「立ち振る舞いが変わっただけで別人に見えるわ……中身は本当に別人なのだけど」

俺の体返せや。


老貴族「アレルギーを妻に理解してもらえなくてな……」

魔剣士(モル憑依)「おお、結婚していたのだね! おめでとう!」

老貴族「嫌味か? エルディアナを娶った貴様に祝われても全く嬉しくなんだが?」

魔剣士(モル憑依)「まあまあ続けてくれ」

老貴族「……孫の教育に悪いから好き嫌いを直せと言われてしまったのだ」

老貴族「好き嫌いとアレルギーは違うというのに」

魔剣士(モル憑依)「ふむ」
130 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:20:50.05 ID:NxR8Nj8go

老貴族「先程もそのことで喧嘩してしまった」

魔剣士(モル憑依)「それでトマトに過剰反応してしまったのだね」

老貴族「完全にカッとなっていた……」

老貴族「トマトだけでなく、ナスやパプリカ、ジャガイモも食べられなくてな」

ナス科がだめなんだな。

老貴族「本当は食べたいのだがな……昔は普通に食べることができたのだ」

老貴族「はあ……」

後天性のアレルギーか。食べたくても食べられないのはつらいだろう。

老貴族「妻の理解を得られないと、このままでは死んでしまう……」

魔剣士(モル憑依)「ううむ……どうにか理解してもらいたいものだね」

老貴族妻「ちょっとあなた! こんなところにいたのね!」

魔剣士(モル憑依)「おお……クラリッサじゃないか……そうか、彼女と結婚したのか」
131 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:21:20.62 ID:NxR8Nj8go

老貴族「しばらくほっといてくれ……」

老貴族妻「ほら、トマトを克服するわよ!」

老貴族「無理だと言っておるだろう」

老貴族妻「少しずつ慣らせば治ります!」

アレルギーの原因を少しずつ食べてアレルギーを治療できた例はあるっちゃあるが、
専門家の監督下でないと非常に危険だ。

魔剣士(モル憑依)「待ちたまえ」

老貴族妻「!?!?」

老貴族妻「エリウス!? エリウス・レグホニアじゃないの!!」

老貴族妻「キャーほんとモル様そっくり! 私ファンなんです!」

貴族の奥さんは若返ったかのようにはしゃぎ出した。

老貴族「もうやだ」
132 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:22:12.13 ID:NxR8Nj8go

老貴族妻「この人ったら、ある時からトマトを食べられなくなってしまったんです」

老貴族妻「好き嫌いが直るお薬はありませんでしょうか」

(おいモル代われ俺が説明する)

魔剣士「……ふう」

魔剣士「好き嫌いとアレルギーは違うものでして」

魔剣士「薬により症状を抑えることは可能ですが無理に食べさせると死にます」

アレルギーの危険性について説明した。俺の言うことは素直に聞き入れたようだ。


老貴族妻「私は……主人に酷いことをしていたのですね……」

魔剣士「アレルギーの治療について研究している知り合いを紹介しましょう」

魔剣士「治る可能性は0ではありません」

老貴族「お、おお……すまないな」

魔剣士「じゃあ俺はこれで……うっ」
133 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:24:39.41 ID:NxR8Nj8go

ぶっ倒れて店の奥に運ばれた。
無理にモルの魔力が俺の魔力の一部を侵食して体を操っていたせいで気持ちが悪い。

店長「あなたには助けられました。どうぞここで休んでください」

魔剣士「ざけんなよクソじじい」

青い石「ごめんって……生前の知り合いと会ったらつい懐かしくなっちゃって」

老貴族「……何故成仏しとらんのだ」

魔剣士「未練たらたらの状態で死んで、今は惰性でこの世に留まってるらしいっすよ」

老貴族妻「モル様……」

老貴族「おまえは私とあいつのどっちが好きなんだ!」

老貴族妻「愛してるのはあなただけよ! 好きの種類が違うの」

老貴族「うう……やはり私はモルゲンロートが嫌いだ」

老貴族妻「あなたこそいまだにエルさんのこと好きなんじゃないの」

老貴族「とっくの昔に過去の思い出として葬っとるわ」

老貴族「しかしまあ……奴も立派な孫を持ったもんだな」

老貴族「何か礼をしたいのだが、欲しい物はないかね」

魔剣士「……亜鉛がたくさん含まれた食いもんがほしいっす」

店長「あ、私も用意します!」

いつ襲われても通常の魔術を使えるよう毎朝抜いているのだが、
その分亜鉛の消費量が増えてしまっている。俺は禿げたくない。
134 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:25:11.85 ID:NxR8Nj8go

しばらく休んで店を出た。歩いて吐き気を誤魔化したかった。

青い石「あいつが平民相手に威張ってるのを窘めたら決闘する流れになって、」

青い石「見事私が勝利したんだけど、それがコーレンベルク卿の目に留まってね」

青い石「そこからエルディアナとの交際がスタートしたんだ」

魔剣士「そうだ、北の大陸行くならひいじいちゃんの顔も見とくか」

魔剣士「もう九十近いだろ」

青い石「え……」

魔剣士「会いたくないのか?」

青い石「合わせる顔が無い」

魔剣士「どういうことだよ」

青い石「一生娘さんを守りますって彼に誓ったのに、私あっけなく殺されちゃったから」

魔剣士「相手が魔王だったならしゃーねえだろ」

青い石「とにかく申し訳なくて」

魔剣士「俺がひいじいちゃんに会ってる間は寝てりゃいいだけだろ」

青い石「お義父さんの魔感力は凄まじいから絶対ここにいるのバレる……つらい」

魔剣士「……なあ」
135 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:28:24.63 ID:NxR8Nj8go

魔剣士「モルってそんなに俺と似てたのか」

青い石「そうだね。エリウスはお母さん似というよりは私に似ているよ」

青い石「男女差もあるし、世間で言われているほど『勇者ナハト』と瓜二つじゃない」

魔剣士「そうか」

青い石「まあ、誰に似ていようが、君は君だよ」

自分の容姿に関してはいい思い出が何一つない。

この国の生まれなのに外国人扱いされたり、女に執着されたり、
男からは無駄に僻まれたりと面倒なことばかり起きる。

クラスで劇をやることになった時は、髪と肌の色を理由に白雪姫役を押し付けられそうになったし、
大学の学祭では先輩の頼みで勇者ナハトのコスプレをさせられた。ちくしょう。

父さんに似たアルバが羨ましいくらいだ。

青い石「いくら前の依り代よりも魔力伝導率がいいとはいえ、力を使い過ぎちゃったな」

青い石「当分寝るよ」

魔剣士「さっさと永眠しろよ……」


女「おまえ!!」

魔剣士「うおう」

三十代ほどの女に投げられた石をすかさず掴んだ。
136 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:28:59.68 ID:NxR8Nj8go

女「勇者ナハトの生まれ変わり……!」

魔剣士「ちげえよ」

女「覚悟!」

女はでかい石を拾って俺に襲いかかってきた。

戦いの経験なんてない、ただの一般人だろう。余裕で攻撃を避けることができる。
だが、下手に反撃すればこっちが加害者扱いされかねない。適当に逃げよう。

女「おまえのせいで私の人生は滅茶苦茶だ!」

魔剣士「知るかよ」

女「おまえのせいで!! おまえのせいで!!!!」

目にはとんでもなく強い殺意が宿っている。

女「また壊しに来たのか!! 私の家庭を!!」

やべえ、体が上手く動かない。尻もちをついた。

魔剣士「意味わかんねえよ」
137 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:29:56.30 ID:NxR8Nj8go

女「おまえの前世に、私と父さんに血の繋がりがないことが暴かれた」

女「私は父さんにも母さんにも捨てられてこの世を彷徨うことになったんだ!!」

「ナハト」として生きていた頃の母さんはこの地方には来ていない。
この女は恐らく相当遠くからここに流れ着いたのだろう。

魔剣士「母親が浮気してたってことか? 恨むなら母親のだらしのなさを恨めよ」

女「おまえさえいなければ幸せに暮らせたのに!!」

魔剣士「おまえさっき『また壊しに来たのか』っつったよな」

魔剣士「おまえ自身が後ろめたいことでもやってんのか?」

女「ち、違う! 私はやってない!!」

女「今すぐ殺してやる!!」

女は石を握った腕を振り上げた。

子「おかあさーん、どこー!?」

子「!?」

子「なにやってるの!?」
138 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:30:35.21 ID:NxR8Nj8go

女「あ……」

子「お兄さん大丈夫!?」

女「…………」

子「お母さんどいて!!」

女「あのね、これはね、家庭を、あなたを守るためにね、この人は悪魔の生まれ変わりだからね、」

子「そんなんだからお父さんに浮気されるんだよ!!」

女「っ……」

女「知って、たの? お父さんが、浮気してること……」

家庭を維持するために、旦那の浮気を見て見ぬふりをしていたらしい。

子「うちの家庭なんてとっくに崩壊してるんだよ」

子「教会にも疑われてるから、罰されるのも時間の問題だ」

女「あ……ぁ…………いやああああああああああああああああ!!!!」

うるせえ。

女「全部……全部あいつのせい……ナハトが来てから私の人生は……」

子「お兄さん、怪我してませんか? ごめんなさい。うちの母、思い込みが激しいんです」

子「訴えられても文句は言えません」

魔剣士「……まあ、よく自分の母親を見とけよ」
139 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:31:31.39 ID:NxR8Nj8go

クラクラする。やっぱ寝とけばよかった。

武闘家「いた! 心配したんだから!」

魔剣士「……」

武闘家「一人でこんな人気のない所をフラフラしてたら危険でしょ」

武闘家「変装もしてないし、体調だって悪いのに」

魔剣士「ずっと他人の一緒ってのも疲れるんだよ」

武闘家「気持ちはわかるけど、いつオディウム教徒が襲ってくるかわからないじゃない」

重斧士「カナリアの言う通りだ」

魔剣士「わかったわかった。もう仕事は終わったのか?」

武闘家「うん。お給料だけじゃなくて、食材とかいろいろいただいちゃった」

武闘家「今夜はあたしが何か作るわね」

魔剣士「ああ、そうか」


……母親がどれほど恨まれていようが、どれほど汚い人間だろうが、
俺には一切関係ない。

関係ないんだ。
140 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:31:59.65 ID:NxR8Nj8go

翌朝。

筋肉痛はするものの、体調は一応よくなったから厠に行って抜いた。
朝っぱらから疲れた。俺は寝台に倒れ伏した。

重斧士「おまえ、抜き終わるの早くないか?」

魔剣士「早漏だって言いたいのか?」

重斧士「そうじゃなくてよ……一回あたり十回は出すだろ?」

魔剣士「出さねえよ?」

どんだけ体力があるんだこいつは。

しかし、それだけ出すなんて……。

魔剣士「……おまえも亜鉛摂っとけよ。禿げるぞ」

重斧士「出すと禿げるのか?」

魔剣士「らしいぞ。ほどほどにしとけ……」
141 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:35:24.60 ID:NxR8Nj8go

武闘家「おはよ。朝ご飯も用意したわよ」

重斧士「カナリアの飯は個性的で美味いな」

武闘家「こっちの地方の食材はあんまり詳しくないんだけど、」

武闘家「それっぽく料理できてよかったわ」

魔剣士「エスト大陸っぽさがあっていいな」

武闘家「そう? おいしい?」

魔剣士「ああ」

武闘家「よかった……昨晩はあなた反応なかったから」

魔剣士「疲れて食欲なかったからな……」

重斧士「おかわり頼む」


町中に出て植物の観察に向かった。
しかし、いくら精液を空にしても、植物を見ると僅かだが性欲が沸いてつらいな……疲れてるってのに。


道行く男が何か話している。

男「くくく……旭光の勇者ヘリオスも大したことはなかったな」

今、なんて言った?

男「はーっはっはっはっはっは!!!!」
142 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/06/15(水) 18:36:00.22 ID:NxR8Nj8go
ここまで
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/15(水) 23:39:16.67 ID:6Hy2YoUJo
変態過ぎる方が気になって重要そうな台詞をスルーしそう
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/16(木) 21:57:10.70 ID:HhKsltcMO
変態だー!
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 23:33:55.63 ID:tqkG85/IO
ハゲ
146 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/06/24(金) 00:36:22.19 ID:1NI8P9+2o
生きてますが少し忙しいので更新まで時間かかりそうです
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/24(金) 01:49:07.60 ID:u9EFyy4y0
了解です
148 : ◆qj/KwVcV5s [sage]:2016/06/30(木) 22:28:21.02 ID:vXM7S42/O
明日か明後日には更新します多分
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 22:42:50.41 ID:jp6ygg/8o
待ってた
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/06/30(木) 23:14:07.75 ID:Ko6gl987O
151 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:46:06.95 ID:adNNrz6Bo

第六株 熱帯林


男「まさか辛い物大食い大会で奴に勝っちまうとはなあ!」

男友「おまえそれ二ヶ月前からずっと言ってるじゃねえか」

男「別にいいだろお嬉しいんだからよぉ」

なんだそんなことか。心配して損した。

武闘家「お絵描きしてるの?」

武闘家「あら、上手ね……」

魔剣士「植物を描くのだけは得意だ」

武闘家「今時お手軽に写真撮れるのに、どうして絵にしてるの?」

武闘家「あ、別に馬鹿にしてるわけじゃなくてね、ただ気になって」

魔剣士「自分の手で植物の魅力を表現するのが楽しいんだ」

魔剣士「絵と写真とでは表現できるものが違うからな」

武闘家「そう……それもそうね」
152 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:46:32.86 ID:adNNrz6Bo

武闘家「これだけ上手ければ、イラストレーターとしてやっていけるんじゃない?」

魔剣士「もうやってる」

武闘家「え?」

魔剣士「自己満足のために描いていた植物画をまとめて出版したらそこそこ売れた」

自慰用の植物画は昔からしばしば自作している。

魔剣士「それ以来、時折挿絵の依頼が入るようになってな」

武闘家「あなた……本当に多芸よね」

魔剣士「そうか?」

魔剣士「特技がやたら多い奴なんていくらでもいる」

魔剣士「大学行ってみろ、変な奴たくさんいるから」

武闘家「…………」
153 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:47:28.56 ID:adNNrz6Bo

――――――――
――

重斧士「パソコン開いて何やってんだ?」

武闘家「勉強よ」

武闘家「あたしの学校、病気や怪我とかで休学してる生徒用に通信授業制度があるの」

武闘家「二年飛び級してるから、別に一年くらい留年してもよかったのだけど」

武闘家「やっぱり、遅れない方がいいかなって」

重斧士「すげえな……義務教育すらまともに受けてねえ俺とは別次元だ」

俺の携帯が鳴った。ゼミの後輩からだ。後輩と言っても俺より四歳下だが。

魔剣士「どうした」

後輩『ぜんば〜い、ユウレイタケぜんば〜い』

後輩『小でずど、小でずどが』

魔剣士「落ち着け。わからん問題でもあるのか」

後輩『だずげでぐだざい』

後輩『過去問全然わかんないんです』

魔剣士「解説するから詰まってる問題をメッセンジャーで送ってくれ」

パソコンを開いた。
154 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:48:07.00 ID:adNNrz6Bo

後輩『薬学と魔導学バラバラならわかるんでずげど、』

後輩『二つがくっつくともう頭がごんがらがっじゃうんでず……うぅ……』

魔剣士「ああ、魔導応用薬理学Tか」

魔剣士「NSAIDsの働きを魔術で再現するアルゴリズムは理解できてるか?」

後輩『ええと……』

魔剣士「例えば、アセチルサリチル酸C6H4(OH)OCOCH3を再現するにはロネフ関数を使うだろ」

後輩『はい』

魔剣士「ロネフ関数により精製したアセチルサリチル酸型魔力結晶を人体に使用するには、」

魔剣士「どの関数を使うかわかるか?」

後輩『あ……スピール関数ですか?』

魔剣士「その通りだ。だから、フェニル酸系においても……」




後輩『あー! わかりました!!』

後輩『ありがとうございました!! これで単位取れます!!』

魔剣士「アクトン先生なら小テストこなしとけば定期試験は楽勝だ」

重斧士「……何語を喋ってたのかさっぱりだぜ」

武闘家「エリウス……人に勉強を教えるの上手なのね。適度に小出しにしてて」
155 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:48:33.38 ID:adNNrz6Bo

魔剣士「そうか?」

武闘家「面倒見がいいとは思っていたけれど……」

魔剣士「淡泊な性格のわりにはってか?」

武闘家「そ、そんなこと……全く思わなかったわけじゃないけれど」

魔剣士「まあ、言われてみればそうだな」

魔剣士「多分、兄弟や親戚の子供の面倒を看て当然の環境で育ったせいだろ」

武闘家「……実は、その……あたしも、教えてほしいところが」

魔剣士「教科は何だ」

武闘家「物理なのだけど」

魔剣士「ああ、いいぞ。見せてみろ」

文系科目、特に歴史だったら聞かれても答えられる気がしなかった。
理系教科なら今でも教えられる気がする。

重斧士「……疎外感が……俺も勉強すっかな……」
156 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:49:42.59 ID:adNNrz6Bo

魔剣士「ほら、ここに注目して適当に公式使っとけば解けるだろ」

武闘家「あらほんと! ……テストの時に公式を忘れないか心配だわ」

魔剣士「忘れた時はF=maから自分で公式作ったな」

武闘家「それができたら苦労しないわよ」

重斧士「……カナリア、おまえ顔赤くねえか?」

魔剣士「熱でもあんのか」

武闘家「も、問題が解けたのが嬉しくて興奮しちゃってるだけよ!」

重斧士「…………」

武闘家「と、ところで」

武闘家「どうしてエリウスはそんなに早く義務教育と上級教育を終わらせられたの?」

魔剣士「めんどくさすぎたからさっさと片付けたかったんだ」

青い石「お母さんもすごく利発でね、十歳で上級教育をほとんど修めていたよ」

魔剣士「何でそんなに頑張ってたんだよ」

青い石「初恋の男の子に認めてほしい一心で……ああ、なんて健気な」

魔剣士「え、母さんって父さん以外に好きな男いたのかよ」

青い石「まあ、子供の頃の話だけどね」

あの父さんべったりの母さんが他の男を……? 信じられない。

青い石「今モヤッとしたでしょ」

魔剣士「してねえ」
157 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:50:22.20 ID:adNNrz6Bo

重斧士「俺石が何話してるかわかんねえから、横からですまねえんだけど」

重斧士「親に他に好きな奴がいたら自分の存在を否定された気分にならねえか?」

武闘家「あー、わかるかも……」

魔剣士「わかんねえわ」

魔剣士「大学レベルの知識はどうやって身に着けたんだよ」

青い石「各地の図書館とかで勉強してたらしいよ」

魔剣士「『らしいよ』ってどういうことだよ」

青い石「その頃は傍で見守ることができなかったんだ」

青い石「領地が襲撃を受けた時、魔族に前の依り代を破壊されてしまったからね」

青い石「私は他の依り代を求めてこの世を彷徨い、アルカと再会できたのはその八年後だったよ」

青い石「折角会えたのに、アルカの石の声を聴く力がなくなっていたのはもどかしかったな」

魔剣士「え、今は母さんと普通に話してんじゃん」

青い石「あ……まあ、あの頃は色々あったから」
158 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:50:57.02 ID:adNNrz6Bo

武闘家「前はどんな石に宿っていたの?」

青い石「ラズライトという魔鉱石だったよ。スペルがRの方だね」

ラズライトという名を持つ石は二種類ある。
古語で表記するとLazuliteとLazuriteだ。後者はラピスラズリの主成分である。

全くの別物らしいのだが、現代語で書くと同じ読みになって紛らわしいため、
天藍石、青金石と現代語名で表記した方がわかりやすい。

青い石「このアウィナイトほど魔力伝導率が良くなかったから、」

青い石「こんなに頻繁に声を出すことは出来なかったけどね」

青い石「たま〜にアルカと話せた時は嬉しかったよ」
159 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:51:31.75 ID:adNNrz6Bo

武闘家「なんだか切ないわね……あ、ガウィ、今夜食べたいものとかある?」

武闘家「ボディガードしてもらってるわけだし、何かお礼したくて」

重斧士「あ、すまねえな……鶏の味噌焼き食いてえな」

武闘家「よし、じゃあ気合入れてくるわね!」

魔剣士「肉料理はおまえのが得意だもんな。あ、生肉つまみ食いすんなよ」

武闘家「え……し、しないわよ! もう!」

武闘家「そうそう、あくまでお礼だからね!」

カナリアは食材を持って宿の厨房を借りに行った。

重斧士「……はあ。嫁に来てくんねえかなあ」

魔剣士「中身にも惚れたか?」

重斧士「ああ」

重斧士「期待させねえ程度に俺に気を遣ってくれてよ」

重斧士「困っている奴のことは積極的に助けに行こうとするし、すげえいい子じゃねえか」

無鉄砲なのが玉に傷だが、それも正義感に因るものだ。
160 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:53:04.06 ID:adNNrz6Bo

魔剣士「まあ頑張れよ」

重斧士「おまえに応援されても複雑なんだがな」

魔剣士「ん?」

重斧士「厨房の前で見張りやってくる」

……ネットでオディウム教のことでも調べるか。
奴等は相当高価な加工済みの魔鉱石を複数所持していた。

盗んだのか、そうでなければかなりの財源を確保していることになる。

地主の娘さんを狙った時のように金持ちを洗脳しているのかもしれないし、
他の手段で金を荒稼ぎしている可能性もある。

――――――――
――

青い石「そうだ、ハッピーゲブーアツターク」

魔剣士「言語を統一しろ。何言ってるのかわかんねえだろ」

携帯が鳴った。

勇者『もしもし? エル?』
161 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:53:57.41 ID:adNNrz6Bo

魔剣士「うん」

勇者『お誕生日おめでとう』

勇者『……あのね、お母さんね、エルが生まれた時本当に嬉しくてね』

魔剣士「ああうん、何回も聞いたから」

勇者『ちゃんとご飯食べてる?』

魔剣士「食べてるよ」

勇者『悪い人に、絶対捕まっちゃ駄目だからね!』

魔剣士「捕まらねえよ」

勇者『もし捕まったら、お母さんがすぐに助けに行くからね!』

魔剣士「あー、はいはい」

魔剣士「もういい?」

勇者『待って、みんなに代わるから』

四女『にー! にーいー!』

魔剣士「ラヴェンデルか?」

四女『にぃ!』

三女『ラヴィ、代わって』
162 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:54:37.22 ID:adNNrz6Bo

三女『エルお兄ちゃん、お誕生日おめでとう』

魔剣士「セファリナ、この頃友達とはどうだ?」

三女『仲良くできてるよ。ありがとうね』

三男『もうかえってくんなー!』

魔剣士「あーはいはい」

三男『べーっだ!』

長女『こら、アルクス。駄目でしょ』

長女『兄さん、成人おめでとう』

魔剣士「アウロラ、彼氏とは上手いこと続いてるか?」

長女『も、もうっ! いきなりそんなこと聞かないでよ! 恥ずかしいじゃない』

次男『にいちゃーん! 帰ってきたらプレゼント渡すね!』

魔剣士「おー、ありがとな」

次女『ばんばばーん!』

魔剣士「ルツィーレ、今日も元気いいんだな」

次女『あきゃきゃきゃ! ぼく番長になったよ!』

魔剣士「おまえいつから自分のことぼくって言うようになったんだ? 番長ってどういうことだよ?」

次女『おじいちゃんに代わるね!』

魔剣士「ひ と の は な し を き け !」
163 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:55:11.91 ID:adNNrz6Bo

祖父『成人祝いに花瓶作ったから、村に帰ってきたら取りに来てくれ』

魔剣士「マジで!? さんきゅーじーちゃん」

祖母『早いもんだね、あんたが生まれてからもう十八年だよ』

祖母『綺麗な彼女見つけて帰っといで』

魔剣士「あ、うーん……」

勇者『エル、エル、絶対無事に帰ってきてね。お母さん待ってるからね』

魔剣士「ああうん」

重いわ。

勇者『エル……うぅ……ぐすっ……ふああああああん!』

三男『なかないでおかあさん』

面倒になって携帯を切った。

カナリア達には今日が誕生日だと伝えていない。
祝ってもらえてもお返しが面倒だ。
164 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:59:18.44 ID:adNNrz6Bo

数日後、バンヤンの森に入った。一応車で進めるくらいの道幅がある。

武闘家「このあたりの植物、普通よりだいぶ大きくない?」

魔剣士「原因は不明だが、良質な加工済みの魔鉱石の欠片が地下にたくさん埋まっているらしい」

魔剣士「アクアマリーナの大樹と同じ理屈だな」

その魔鉱石が熱の力を宿しているらしく、この土地は周囲よりも気温が高い。
この森は熱帯雨林そのものである。

武闘家「蒸し暑いわね……あ、あの花綺麗ね! シャンデリアみたいだわ」

魔剣士「珍しいな……ヒスイカズラだ。なかなか見れるもんじゃないぞ」

重斧士「あのヒゲみたいなのはなんだ?」

魔剣士「パイナップル科チランジア属のウスネオイデスだ」

武闘家「あ、エアープランツって名前で売られている植物かしら」

魔剣士「ああ。週に一、二回霧吹きをするだけで手軽に育てられると説明されがちだが、」

魔剣士「実際は環境づくりが必要だったりと、長生きさせるのが意外と難しい」

重斧士「なあ植物博士、あの雫を大量に付けてる草はなんだ?」

魔剣士「ああ、モウセンゴケの一種だ。モウセンゴケ自体は広く分布してるんだが、」

魔剣士「こんなに大きいのと出会える場所は……そうそうないだろうな……」

俺は車から降り、
思わず巨大化したモウセンゴケ……ドロセラ・アデラエの葉を優しく抱き寄せてしまった。
165 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 22:59:44.78 ID:adNNrz6Bo

ねっとりとした美しい粘毛が俺に吸い付いてくる。

魔剣士「ああっ! このまま一つになろう!」

重斧士「おい」

魔剣士「邪魔しないでくれ!」

魔剣士「ああ、愛おしいよモウセンゴケ。どうして君は大切な消化器官をさらけ出しているんだい?」

魔剣士「多くの食中植物は葉の中に隠しているというのに!」

魔剣士「故に君は儚く、そして美しい……!」

武闘家「粘液に溶かされたりしないわよね?」

重斧士「おい! 目を覚ませ!!」

魔剣士「アデラエさんっ! 離れたくないよっ!」

重斧士「こいつ大丈夫か……?」
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 22:59:59.18 ID:0OnsCX24o
重斧士と距離があるから
疎外感感じない程度に仲良くなれるといいな
167 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:05:04.25 ID:adNNrz6Bo

モウセンゴケから引き離されて泣く泣く車を運転した。データ採取をする気力もない。

魔剣士「うっ、ぐすっ……ふぅぅぅ」

重斧士「泣くこたねえだろぉ……」

武闘家「ちょ、ちょっと休まない?」

武闘家「泣きながら運転するのは危ないでしょうし……」

魔剣士「失恋はっいつだって辛いものさっ」

武闘家「ほら、そこの小川で体を洗いましょう?」

魔剣士「いやだっ」

重斧士「な、なあ、あそこ見てみろよ、綺麗な花が咲いてんぞ。名前教えてくれよ」

魔剣士「ルエリア・マコヤナっぐずっ」

武闘家「あの紫色の花は?」

魔剣士「ジャカランダっ!」

武闘家「即答できるだなんて流石ね! あ! あそこのバナナでも食べましょうか!」

重斧士「おお、いい考えだな!」
168 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:05:39.70 ID:adNNrz6Bo

魔剣士「えぐっえぐっ」

重斧士「か、皮ごと……?」

魔剣士「中身だって皮だよっ! 中果皮と内果皮っ!」

武闘家「何房か車に積んでおくわね」

魔剣士「冷蔵庫には入れるなっバナナが風邪をひくっ! 熟してからにしてくれっ」

重斧士「美味い果物食えてよかったな、な」

魔剣士「バナナは野菜だっ!」

重斧士「お、おおう……そうなのか」

武闘家「え、じゃあ……バナナの木って木じゃなくて草だったの?」

魔剣士「そうだよっ! うぐぁん! ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

武闘家「……しばらくそっとしておいた方がいいかしら」

重斧士「そうだな……」

武闘家「あたし、あそこの木の実も採って……エリウス!」

カナリアが何かから俺を庇った。

武闘家「何これ……植物の蔓!?」
169 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:06:38.91 ID:adNNrz6Bo

重斧士「カナリアを放せ!」

武闘家「くっ……硬いわね」

重斧士「待ってろ今切ってや……ぅおう!」

カナリアもガウェインも太くて硬い蔓に拘束された。正直羨ましい。

重斧士「まるで意思を持ってるみたいだぞ……!」

魔剣士「植物には自我があるぞ。時々強い主体性を持った精霊もおっふ!」

俺も蔓に捕まえてもらえた。

魔剣士「この締め付け、イイ……!」

武闘家「あなた何喜んでるのよ!」

魔剣士「はあっはあっ」

ガウェインがどうにか拘束から逃れ、カナリアを助けた。
しかし蔓はしつこく襲ってくる。

武闘家「えいっ! たーっ!」

魔剣士「待て! 殴るんじゃない! 俺がこの蔓と波動を同調させてどうにかうぐふっ」

カナリアの攻撃に驚いた蔓は、俺達三人を弾き飛ばした。
170 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:07:40.61 ID:adNNrz6Bo

大きな葉にぶつかったかと思うと、水音が強く響いた。
どうやら巨大なウツボカズラの中に三人とも落ちたらしい。グラグラ揺れている。

ウツボカズラの蓋は開く直前の段階であるようだ。
俺達とぶつかった衝撃で少しずれてはいるが、再び口を閉じている。

消化液の中には虫が一匹もいない。

武闘家「……きゃああ! 溶かされる!!」

魔剣士「すぐに脱出すれば大丈夫だ。大したpHじゃねえから。飲むことだってできる」

武闘家「そ、そうなの?」

魔剣士「蓋が開く前なら雑菌が入らないんだ」

俺好みの渋味がする。うめえ。

重斧士「つるつる滑って登れそうにはねえな……突き破るか」

魔剣士「待ってくれ。俺はこの子を傷付けたくない」

武闘家「じゃあ、一体どうすれば……」
171 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:08:59.75 ID:adNNrz6Bo

魔剣士「カナリアは体を強化してガウェインを外に投げるか肩車するかしてくれ」

重斧士「ああ、担げば縁に届きそうだな」

魔剣士「んで、俺がカナリアを肩車すれば二人は脱出できる」

重斧士「もやしのおまえじゃあカナリアを担ぐ前に骨折しちまうだろ」

魔剣士「そのくらいできるっての」

武闘家「あなたは……どうするの?」

魔剣士「ここに残る」

武闘家「ちょっと」

魔剣士「俺はこの子と一つになるんだ」

武闘家「何言ってんのよ!」

魔剣士「俺は、今まで相手を食べることでしか草花と一つになることができなかった」

魔剣士「どれも儚い恋だったさ」

魔剣士「だが、俺がこの子に食べられたら……俺はずっと植物と共にいられる……」

魔剣士「この子と一つになり、共に日を浴びて、やがて枯れ……」

魔剣士「そしてっ! 僕は新たな植物の養分となりっ! 永遠に生き続けるんだっ!」

青い石「ヘリオス君はどうしてこの子のこと信頼してるんだろ……」

魔剣士「さあ僕をお食べ!」

武闘家「冗談じゃないわよ! 最初にあんたを投げ飛ばしてあげるわ!!」

魔剣士「わっ放せ!!」
172 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:09:29.55 ID:adNNrz6Bo

重斧士「大体おまえ、カナリアに礼の一つでも言ったらどうだ」

重斧士「おまえを庇ったんだぞ」

武闘家「ガウィ、いいから」

魔剣士「あー、そりゃすまなかったな」

武闘家「…………」

武闘家「あの蔓、妙だったわ。近くに操っている術者でもいるのかと思ったんだけど、」

武闘家「人の魔力は感じられなかったし……」

魔剣士「こんな森だからな。精霊が操っていてもおかしくはない」

重斧士「……来るぞ!」

蔓がウツボカズラの蓋を開け、勢いよく中に侵入してきた。

重斧士「カナリアっ!」

武闘家「きゃっ!!」

その衝撃でウツボカズラが大きく揺れ、俺達は投げ出された。
173 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:10:16.96 ID:adNNrz6Bo

俺は宙に浮いている間に捕らえられた。
カナリアとガウェインは地面に落下し、蔓で拘束されている。

重斧士「このっ!」

魔剣士「落ち着け! ちょっと待ってろ」

魔剣士「……俺に用があるんだろ?」

俺の魔力を蔓の魔力の波動に同調させた。

武闘家「あ……拘束が緩んだわ」

魔剣士「邪魔しなけりゃ縛らねえって」

魔剣士「呼ばれてるみたいだからちょっくら行ってくる」

武闘家「ま、待ってよ!」

魔剣士「車の傍で待機していてくれ。しばらくしたら戻るからさ」

重斧士「……本当だろうな?」

魔剣士「日暮れ前までには戻るって約束するから」

魔剣士「あとモル預かっててくれ。他の人間の意志は邪魔なんだと」

青い石「ちょ……」

青い石「心配すぎる……」
174 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:16:52.24 ID:adNNrz6Bo

蔓に導かれる先へと進んだ。
一本一本はそう長くないため、次から次へと他の蔓が俺の体に巻き付いては離れていく。

魔剣士「え? 日暮れ前までに戻るには急がなきゃならねえって?」

魔剣士「おい、強く引っ張られるのは流石にこわっ……ひぃっ!」

荒々しく運搬されたその先には、巨大なガジュマルの木がそびえ立っていた。
蔓達はひれ伏すように地面を這った。あの木がこの森の主らしい。

木の前に半透明の少女が現れた。

赤髪の精霊「手荒になってしまってごめんなさい」

魔剣士「……可視化能力のある精霊と会うのは久々だ」

赤髪の精霊「ええ。私はキジムナーという種族に属する者です」

同じ木の精霊でも複数の種族が存在している。有名なのはドリュアスだ。

魔剣士「俺に何の用だ?」

赤髪の精霊「……私を見ても驚かれないのですね。カティの噂通りです」

魔剣士「ああ……彼女か」

故郷の村の近くの山に住んでるドリュアスのことだ。
美人だが妙におばさんくさい精霊である。俺と仲がいい。

精霊同士は、住処が遠く離れていても仲間を通して重要な情報を伝達しているそうだ。
175 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:21:50.02 ID:adNNrz6Bo

赤髪の精霊「私達にはあなたが必要なのです」

赤髪の精霊「あなたの草木を愛する心と、そして、その魔力の波動が……」

数本の蔦が周囲から這い出て、付着根を俺に吸着させた。懐かれたらしい。

魔剣士「おい、そんなに吸い付くなよ……嬉しくなっちゃうだろ」

赤髪の精霊「……優しい波動。三つ力に育まれた、聖なる輝き」

赤髪の精霊「全人類の中で最も植物に近しいあなたなら、きっと今の状況を変えることができます」

魔剣士「どういうことだ」

赤髪の精霊「ある時代に、人間は私達の体を悪用しないと誓いを立てました」

赤髪の精霊「しかし、あれから時は流れ……」

赤髪の精霊「一部の人間達が密かに私達を悪用し始め、不当に利益を得ています」

魔剣士「……オディウム教が麻薬の密売を行ってるって話があったな」

赤髪の精霊「ええ。彼等はケシの花を奴隷の様に扱っているのです」
176 : ◆qj/KwVcV5s [saga]:2016/07/01(金) 23:23:03.89 ID:adNNrz6Bo

赤髪の精霊「人と草木は共生関係にあります」

赤髪の精霊「時に、私達は人に育てられることで栄え、」

赤髪の精霊「そして、人は私達の体を使い、豊かに暮らすことができます」

魔剣士「敬意を全く払いもせず、悪事のためだけに生命を刈り取られるのが嫌なんだろ」

赤髪の精霊「! ええ、その通りです」

赤髪の精霊「しかし、それだけではありません」

赤髪の精霊「現在、自然を破壊しようとする者が後を絶えないのです」

赤髪の精霊「工業化が進んだ影響でしょう」

赤髪の精霊「その多くに悪意はありません」

赤髪の精霊「ですが、このままでは自然の均衡が崩れてしまいます」

赤髪の精霊「そして、そのような人間達に厳しい罰を与える精霊も少なくありません」

赤髪の精霊「もし、人間と精霊の間で戦争が起きてしまったら……この世界は滅んでしまします」

魔剣士「仲介する存在が必要なんだな」

人と話す力を持った精霊は稀である。
意思の疎通を図る手段はそう多くはない。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2016/07/01(金) 23:23:10.81 ID:/OG8zjstO
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