げんきいっぱい5年3組 (オリジナル百合)

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107 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 22:42:57.38 ID:pCqT42gVO
体育座りで音が出ないように鼻をすすった。
砂利音。
懐中電灯の明かりが、ぱっと坂本やすはを照らした。

「こらッ!?」

担任だった。

「夜はホテルから出ないようにと」

「す、すいませんッ。俺が呼んだんです」

坂本が謝った。
いいやつだ。
なんていいやつ。
先生はなんとなくシチュエーションを把握したようで、
それ以上深く突っ込まずに、早く部屋に帰るよう促した。

「……あ、あの」

やすはが口を開く。

「もっと、公園の奥の方にもしかしたら他の生徒がいるかもしれないです。花火しようって、言ってた子がいて」

「なんですって」

「たぶんなんですけど」

「わかりました。見てきますので、あなたたちは早く帰りなさい」

「はい」

先生は足早に暗がりへ溶けていった。
108 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 22:47:49.91 ID:pCqT42gVO
「戻ろうか」

「ごめん。坂本くん、先に帰ってもらっていい?」

「あ、そ、そうだよね。ごめん」

私はできる限り頭を低くする。
やはり、付き合ってることがばれないようにってこと。
話しももう終わった感あるし。
坂本もどこか、やり遂げた顔をしてるし。
いらっとするね、あの顔。
坂本がホテルに向かうのを少しだけ見送って、やすはは噴水に腰掛なおした。
あんな暗い所で一人でやすはが耐えれるわけないのに。
早く帰らんかい。
と、ばばくさいことを脳内で呟いていると、やすはが、あろうことかこちらを向いた。
何。

「あゆむ」

名前を呼ばれて、打ち上げられた深海魚みたいに口から内臓が飛び出しそうになった。
109 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 22:57:37.02 ID:pCqT42gVO
「にゃ、にゃあ」

できる限り本物に近づかせた。

「あゆむでしょ」

観念して、私は恐る恐る立ち上がった。

「……ごめん、盗み聞きするつもりだった」

嘘を吐くわけにもいかなかった。
やすはは一瞬笑ったような気がした。

「約束……どうして破ったの」

「守ろうと思ったよ。でも、みやちゃんの所で言いたいこと言ってきたらやすはがいないんだもん」

「行ったんだ」

「うん」

やすははその二言三言から何か察したのか、

「そっか」

と短く頷いた。

「あゆむは、みやちゃんに何も言えないと思ってたよ」

「……昔はそうだった。それで、みやちゃんが切れたり手に負えない時、いつもやすはがなだめてたんだね」

やすははきょとんとした。

「聞いたの?」

「ううん、カン」



110 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 23:04:29.84 ID:pCqT42gVO
「やすはに言わないといけないことがあったから、このままの自分じゃだめだと思ったの」

「呪いかけられても?」

「やすはがくれるなら不幸だって嬉しいよ」

「呆れる」

「でも、一番の不幸はもうさっき味わったし、しばらくは幸せだと思う」

「みやちゃんと絶交でもしたの」

「え、いやそうじゃないけど」

告白のことだったんだけど。
まあいいか。

「でも、それでもいいの。後悔しない先にそういう道しかなかったとしても」

自分でも照れくさいことばかり言ってる自覚はあった。
暗くて良かった。

「そう言えば、暗いの大丈夫?」

「大丈夫そうに見えるなら、あゆむの目も坂本と同じだね」

私ははっとしてすぐに駆け寄った。
111 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 23:14:15.61 ID:pCqT42gVO
手を取ると、わずかに震えていた。
夏だと言うのにひんやりとしていた。

「どうしてすぐ坂本に言わないの、もお!」

私はやすはの手を引いてホテルに急ぐ。
やすはは抵抗せずに着いて来た。

「坂本に優しくされたいわけじゃないから」

「どういうこと」

意味がよく分からず聞き返す。
自動ドアが開いて、眩いエントランスホールに戻った。
掴んでいた手は、やすはが立ち止まったことによってするりと抜けた。

「それに、あゆむも、ももちゃんに勘違いされる」

「勘違い? 何を」

「嫉妬されたら、色々面倒」

「嫉妬? なんで……」

あ、そっか。
私達が付き合ってると勘違いしてるんだ。

「違うよ。私ももちゃんと付き合ってなんかいないよ」

手を握り返そうとしたら、避けられた。

「……」

やすはに見つめられて照れくさくなりながらも、負けじと見つめ返した。

「女の子だから?」

やすは言った。

112 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 23:30:43.71 ID:pCqT42gVO
「ももちゃんは友だちだから」

私はそう返した。
夢を見ていた。
夢の中を歩いているみたいだった。
そう思って、ここ何日か過ごした。

「みやちゃんも友だち。離れることもあるけど、いつまでも友だちだよ」

叶わぬ夢かもと思いながら。
夢なら、いつかたどりつくかとも。

「私は?」

「尊敬できる友だちだった」

「だった?」

やすはが小首を傾げる。
それは、あの写真で見た時と寸分違わぬ愛らしさがあった。

「でも、いつまでも離れたくない。どこにも行かないで欲しいし、誰の所にも行かないで欲しい。そういう自分勝手な想いがどんどん膨らんで……ごめん、坂本がいるのに迷惑なこと言うんだけど」

「……言うだけならタダだよ」

「えへへ、そうだよね」

私は少し背の高いやすはを見据えた。
そして、私は最後の後悔を口にした。

113 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 23:39:36.89 ID:pCqT42gVO
――――
―――
――


耳元でくしゃりと音がした。
うっすらと開いた瞼。
睫毛がからまっている。
ぼんやり見えてきたのは、見知らぬ部屋。
見知らぬ?

「ん……」

見知らぬ人。

「うえええ?!」

飛び起きた。
かけていたタオルケットがめくれ上がった。
見知らぬ人は、全裸だった。
女性。
白く陶器のような肌。
黒く癖のある髪。
ふと、自分も確認すると丸裸だった。

「ええ?!」

「あゆむ、どうしたの……」

どこか聞き覚えのある声。
見知らぬ人――ではない。
114 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 23:48:09.70 ID:pCqT42gVO
身体ごとこちらを向く。
何もかも包み隠さず見えてしまい、私は急いでタオルケットをかけ直した。
ぶわさッと風が舞う。

「けほッ……なに」

「あ、な、な」

小首を傾げた。
それは、愛らしく。
大人びた顔つき。

「ゆ、夢?」

すっと私の頬に手が伸びた。
ぐにぐにと容赦ない。
めちゃくちゃ痛い。

「寝ぼけてるの?」

「や、やすは」

「……うん」

「昔、小学5年の時、私に呪いかけた?」

「かけたよ……よく覚えてるね」

「不幸になるやつ?」

「うん……普通の人生歩めなくしてやるって」

彼女は笑って、私に啄むようにキスをしたのだった。







おわり
115 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/05(日) 23:50:57.31 ID:pCqT42gVO
ありがとうございました
だいぶはしょってすいません
久しぶりにハッピーエンド……かな
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/05(日) 23:55:07.56 ID:sZIt7pdto


いきなり戻るのか
バタフライエフェクト1のハッピーエンド百合版みたいな?

あと、>>106だけど、多分「後者」が正しい?
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 00:00:11.66 ID:Z++niVVV0
おつ。
めっちゃ面白かった!
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 00:05:43.16 ID:Zw6D+b3s0
とりあえず乙。これで本当に終わりなのか…?
ここまで綿密に描写して来たのに終わり方だけ唐突というか雑な印象が残る。
もうちょっと小○生時代の話を長くしても良いし、現代に戻ってからのエピローグ的な
のでも良いし、とにかくその”はしょって”の部分をはしょらずにもうちょっと
長く書いてほしかった…
119 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/06(月) 00:23:00.54 ID:V8evPFDXO
>>116
後者で合ってます。
成立せず円満に終わった感じです

>>117
ありがとうございます

>>118
ありがとう
結末までの布石を打つので力尽きました
120 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/06(月) 00:34:22.76 ID:V8evPFDXO
ちなみにバタフライエフェクトは見たことないです
ルート255という藤野千夜さんの小説を少し意識しました
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 00:40:35.06 ID:TP5TML6Bo
>>119
>成立せず円満に終わった感じです

それは読み取れました

あと、あゆむの主観として「夜の公園」の直後が「2人の朝」でOK?
それとも、端折られてるけど「夜の公園」と「2人の朝」の間の出来事も体験してる?
122 : ◆/BueNLs5lw [saga sage]:2016/06/06(月) 00:48:43.11 ID:V8evPFDXO
>>121
間の出来事はあります
夜の公園→告白→OK→部屋に帰ってちょっといちゃいちゃして寝る→二人の朝(未来)

二人の朝で少しいちゃいちゃするので、↑のいちゃいちゃ飛ばしちゃいました
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/06(月) 01:16:38.90 ID:TP5TML6Bo
なん……だと……
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/08(水) 01:43:21.54 ID:kyw0US3tO
せ、せめてみやちゃんと上林さんの後日談だけでも......
125 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/11(土) 18:59:32.28 ID:A1BtcuvlO
>>124
簡単に後日談を考えたので後は頼んだ
126 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/11(土) 19:11:05.28 ID:A1BtcuvlO
上林さんに対するみやちゃんのいじめは無くなった。
ただし、相変わらず、上林さんとは口喧嘩の絶えない関係が続いていた。
中学に上がって、二人は同じクラスになった。
みやちゃんは相変わらず、嫌いな人への態度がはっきりしていた。
上林さんは相変わらず孤立してしまう。

上林さんは中学に上がって、美人になって男子生徒から人気が出始めていた。
みやちゃんははっきりした性格のせいか男子からは嫌われていた。
男子にもてる上林さんをネタに、やはり喧嘩をふっかけるみやちゃん。
ある日、みやちゃんがノートが汚いと男子にケチをつけて、逆に怒鳴られる。
びびったみやちゃんだったけど、みやちゃんの周りの友人もみやちゃんが悪いので何も言えない。

上林さんがそれを見ていて、男子に対して謝れないみやちゃんの横に立ち、
一言「謝りなさいよ、あなたが悪いんでしょ」。
周りぽかんと上林さんを見る。みやちゃん、逆上して教室を出て行く。
みやちゃんの友だちも男子もそれを見送る。上林さん席に戻る。

やすはとあゆむがそれとなくいちゃいちゃしている所に、悔しそうに涙を浮かべて突撃するみやちゃん。
みやちゃん公認になった二人に、無言でヨシヨシとフォローされるみやちゃん。
ぽつぽつとみやちゃんが、反省の弁を述べる。
やすはが「そういう風に言ってくれる友だちを大事にしないと」と諭す。

「友だちじゃない」とみやちゃん。やすは「友だちでしょ」と応酬が始まる。
その頃、みやちゃんのいなくなった所で、みやちゃんと一緒だった子たちの陰口を上林さんが聞かされる。
なぜか、上林さんの株が上昇。上林さん特に陰口に参加することなく当たり障りなく教室を出る。


廊下で3人に出くわす上林さん。先ほどの陰口を思い出す上林さん。
みやちゃんは、少し冷静になっていて、やすはとあゆむに押されながら、感謝の言葉を述べる。
上林さん土下座を要求。口喧嘩勃発。
ただ、ケンカしながら上林さん心の中で笑う。
みやちゃんみたいに不器用な人間をいじる楽しみを覚えていた。
上林さんは、いつか自分に泣きついてくればいいのにと秘かに思っていた。



後日談 おわり
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/11(土) 19:54:06.84 ID:1/8f50FtO
>>125
>>126

ありがとう!頼まれても困るけどw
大人になったらどんな感じになるんだろうな(チラッ
128 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/11(土) 20:39:59.49 ID:9xgtdKunO
>>127
うん、何も考えてなかったけど、そう言われるとちょっと大人になった二人書きたくなってきたので、
このスレもうHTML申請出しちゃってるから新しくスレ立てます
129 : ◆/BueNLs5lw [saga]:2016/06/11(土) 20:43:52.25 ID:9xgtdKunO
げんきいっぱい5年3組 大人編 (オリジナル百合)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1465645344/

立てました
何も考えてないのでのろのろ進んで唐突にまた終わると思いますご了承ください
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/11(土) 21:51:03.89 ID:HV/tWTBcO
やったぜ
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