シンジ「その日、セカイが変わった」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

272 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 22:30:46.79 ID:0skklPono
C
273 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/25(金) 02:09:20.11 ID:ymj1j9CJ0
【数十分後 HR】

マナ「はじめまして、霧島マナと言います。親族の都合で越してきました。これからよろしくお願いします」ペコ

男子生徒一同「おお〜〜、か、かわいい」

アスカ「はん、ばっかみたい」

教師「席はぁ、そうですね。碇さんの隣があいているようだから、そこにしなさい」

マナ「はいっ!」

男子生徒A「なぁなぁ、写真よりも実物のが全然いいなっ!」

男子生徒B「シッ! 黙ってろ! 歩いていらっしゃるだろうが!」

マナ「……」スタスタ

男子生徒C「な、なんでかわいい子はいい匂いがするんだろなぁ」

男子生徒D「オーラだよ! オーラが違うんだ!」

ヒカリ「そんなわけないじゃない」

マナ「よいしょっと」ガタ

シンジ「……?」

マナ「よろしくね、碇くん」ニコ

シンジ「あ、あぁ、どうも、よろしく」

教師「霧島さんはまだ端末がきてないんだったね。碇さん、見せてあげなさい」

シンジ「はい」

マナ「あの、先生。机くっつけてもかまいませんか?」

教師「もちろんだ。ノートパソコンであるからそうしないとみれないだろう?」

マナ「ですよね、えへへ」ガタ

シンジ「あ、僕が移動させるよ」

マナ「ありがとう」スッ

シンジ「え……」

マナ「優しいんだね」

シンジ「いや、あの、手……を重ねられると、移動が」

男子生徒A「……!」

男子生徒B「ま、また! またあいつなのか……!」

マナ「ご、ごめんなさいっ! あの、私が机を移動させようとしてたから」

シンジ「ああ、そういうこと。ごめんね、気がつかなくて」

マナ「ううん、いいの」
274 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/25(金) 02:11:27.67 ID:ymj1j9CJ0
アスカ「……」ジー

シンジ「よっと、先生、もう大丈夫です」

教師「ふむ、よろしい。おっと、もうこんな時刻か。今日は私が担当の教科なのでこのまま一限目をはじめる。洞木さん、号令を」

ヒカリ「はい。きりーつ!」

生徒一同「……」ガタガタッ

ヒカリ「礼。ちゃくせーき」

教師「では、端末を立ち上げて」

マナ「……ね、もうちょっと近くにいっていい? 私、近眼で」ズイ

シンジ「う、うん」

マナ「……? どうしたの?」

シンジ「いや、ちょっと近かったから、びっくりして」

マナ「もしかして、照れてる?」

シンジ「いや……」

マナ「ふぅ〜ん。碇くんって、かわいいんだ?」

アスカ「……!」パキッ

ヒカリ「……? アスカ、どうしたの?」

アスカ「あぁ、シャーペンの芯折れたみたい」

ヒカリ「シャーペン使わないよ?」

アスカ「あれ? そうだっけ」

ケンスケ「こりゃあ、一波乱ありそうな。いやぁ〜な予感」

トウジ「ほんま、センセは。どうなっとるんや」
275 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/25(金) 02:39:19.52 ID:ymj1j9CJ0
【ネルフ本部 司令室】

マヤ「ふぅ……」

シゲル「おっ。めずらしいねぇ〜、マヤちゃんがため息つくなんざ」

マヤ「私だって、ため息ぐらいつくわよ」

シゲル「なんか悩み事?」

マヤ「別に」

シゲル「あいかわらずガードのかたいこって。女は少しぐらい隙を見せたぐらいがちょうどいいぜ?」

マヤ「余計なお世話です。またギター雑誌見てるの?」

シゲル「いんや。今日はコレ」バサ

マヤ「なに……? そ、それって……!」

シゲル「かぁ〜わいいっしょ? 今話題のアイドルグループのグラビア。漫画の付録についてんだけどさぁ」

マヤ「不潔っ!」バンッ

シゲル「……ん?」

マヤ「職場でそんなの見るなんて不謹慎よ! 家に帰ってから見たらっ⁉︎」

シゲル「今は空き時間だし」

マヤ「そういう問題じゃない! これは立派なパワハラよ!」

シゲル「お、おいおい」

ミサト「どったの〜? なんの騒ぎ?」

マヤ「葛城さん! 聞いてくださいよ! 青葉くんが!」

ミサト「あっ! これ今話題の子たちじゃなぁ〜い!」

シゲル「葛城さんも知ってるスか?」

ミサト「もちのろんよ〜。くー、若い肌って羨ましいわねぇ」

マヤ「え……」

シゲル「俺はこのセンターの子が押しなんすよ」

ミサト「どれどれ……? だっはっはっ! やぁだぁっ! まだ子供じゃないのー!」

マヤ「……」ギュウ

シゲル「それがいいんじゃないすか。あどけない感じがして」

ミサト「そお〜? あら? 伊吹二尉?」

マヤ「あの、葛城一尉はなんとも思わないんですか?」

ミサト「……?」

マヤ「私たちの職場でこんなの見てるんですよっ!」

ミサト「あぁ〜、なる」

シゲル「マヤちゃんさぁ。ちょっと堅苦しすぎないか?」

マヤ「どうして⁉︎ 私が間違っているって言うの⁉︎」

シゲル「そうは言ってないが。そんなんじゃ、一生独身だぜ?」
276 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/25(金) 02:53:37.81 ID:ymj1j9CJ0
マヤ「どうしてあなたなんかにプライベートの心配されなくちゃいけないのよ⁉︎」

シゲル「俺はそんなつもりじゃ……!」

ミサト「はいはい、そこまで」

シゲル&マヤ「……」

ミサト「たしかに、こういうページを嫌がるというのも理解できるわ。同じ女として、ね?」

シゲル「そういうもんすかねぇ」

ミサト「空き時間の使い方までとやかく言うつもりないけど。青葉くん、コンプライアンス違反にならない程度にね」

シゲル「うす」

ミサト「それで、マヤちゃんはぁ……ちょっち、肩の力入りすぎかな?」

マヤ「私は間違ったこと言ってません!」

ミサト「人間はね、機械じゃないの。常に正しいことで抑えつけようとしてはだめ。息抜きは必要だって理解してあげなきゃ」

マヤ「別の手段があるはずです! なにもソレを選ばなくたっていいじゃないですか!」ビシ

ミサト「そうね、言ってることはもっともだわ。だけど、改めて言うけど、“辻褄が合う行動だけ”をするのが人じゃないのよ」

マヤ「……」

ミサト「セクハラになると感じた?」

マヤ「はい、だって、そんなの……」

ミサト「そんなに嫌だったのね。……いいわ。女性に見せびらかす行為は今後控えるように」

シゲル「ちぇ」

ミサト「相手を選びなさい」

シゲル「了解」

マヤ「私が融通きかないみたいじゃない。なんで……私がこんな思いしなくちゃいけないの。間違ってないのに……!」

ミサト「すこし、落ち着きなさい」

マヤ「いいです! 失礼します!」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 05:24:33.50 ID:k3q1VMPvo
C
278 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/25(金) 23:51:42.58 ID:ymj1j9CJ0
【ネルフ本部 第四通路 女子トイレ】

マヤ「……うぷ……おぇぇっ……」ベチャベチャ

リツコ「……」スッ

マヤ「……! せ、せんぱい……」

リツコ「また、吐いてたの?」

マヤ「……」ジャー

リツコ「よくうがいなさい」

マヤ「大丈夫です」キュキュ

リツコ「やはり、その癖を治す必要があるわね。男という生物は無神経でズボラ。感性が違うのだもの」

マヤ「そうでしょうか」

リツコ「少女漫画の主人公のような、幻想から卒業できないんでしょ、あなた」

マヤ「わ、わたしは……そんなつもり……」

リツコ「汚れていないから。一線を踏みこえていれば案外割り切れるものなのに」

マヤ「仕事があれば、私」

リツコ「マヤの卒業論文を読み私はあなたを部下にするとを決めた。着眼点が優れていたからよ」

マヤ「……」

リツコ「もっと視野を広げるには、今のままじゃ頭打ち。なぜだと思う?」

マヤ「わかり、ません」

リツコ「わからないというのは思考停止しているの? それとも、わかっていて言いたくないという拒絶反応かしら?」

マヤ「人生経験は他で代用できます! 恋愛経験が全てじゃ……!」

リツコ「あなた、なにか勘違いしてない?」

マヤ「え……」

リツコ「私は結果だけを求めているの。あなたができると言うのならかまわないわ。できているのならね。……で、今は?」

マヤ「そ、それは」

リツコ「提案をしているだけなのよ。いわゆる、きっかけを。男の為に頑張る、旅行にいく、なにかを覚える、経験する、そうした動機が行動を生み可能性と言う選択肢を広げる」

マヤ「……」

リツコ「現状を打開するにあたり、なにをすべきか考えてごらんなさい。失敗をこわがっているようじゃ科学者に一生なれないわよ」

マヤ「失敗は成功の母、ですか。納得できません」

リツコ「自分自身に、なにがプラスになるか。やり方は自由よ」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 02:30:06.67 ID:Y3QeeAseO
まだ続いてたのか
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 02:46:08.40 ID:S8HqIS1to
リッちゃんイイヨー
281 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 11:32:59.80 ID:bPa3y6d00
【第三新東京市立第壱中学校 昼休み】

トウジ「さぁて、購買パン買いに行くかぁ」

シンジ「トウジ、僕も行くよ」

トウジ「今日は弁当やないんか?」

シンジ「あ、うん。しばらくそうなりそう、かな」

トウジ「行くならはよ行くで。カツサンドが売り切れてしまうからな」

マナ「あの……」

トウジ「お」

シンジ「……? なにか用? 霧島さん」

マナ「お昼まだなんだけど、購買パンてどこで買えばいいのかな?」

シンジ「それなら、一階の――」

トウジ「センセはだあっとれ!」グイ

シンジ「むぐっ⁉︎」

マナ「口と鼻塞いだら息が」

トウジ「霧島、やったか。俺らも今からとこやから一緒に行くか?」

マナ「いいの?」

トウジ「かまへんで。お前やったら、男子どいつに聞いても喜んで案内するやろうが」

マナ「そ、そんなこと」

トウジ「まぁ、転校初日からいきなり女王様状態になると女子達からやっかみがあるやろからなぁ。ゴリラ女ほど強靭な精神しとるなら話は別やが」

マナ「ご、ゴリラ女?」

トウジ「ほんま、女っちゅーのは猫かぶるから信用できひん。あいつはまさに唯我独尊みたいやつや」

マナ「は、はぁ。その、碇くん、顔が……」

トウジ「なんや、やっぱりシンジが目当てやったんか?」

マナ「そうじゃなくて」

トウジ「こいつはなかなかにモテよるからのお。ライバルは多いで?」

シンジ「……」グタァ

マナ「い、碇くんっ⁉︎」

トウジ「なんや? ……っておわぁっ⁉︎ おい、シンジ、しっかりせぇ!」
282 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/26(土) 12:40:41.26 ID:bPa3y6d00
【十分後 再び教室】

トウジ「めしやめしー」

ケンスケ「驚いたよ。まさか噂の転校生と一緒に食べるとはねぇ」

マナ「迷惑だった?」

ケンスケ「い〜や。ただ、普通は男子は男子、女子は女子でグループを作るモンだろ? 転校初日だし、友達を作るにしたって僕たちのところにきたのが意外でさ」

シンジ「……」ガサガサ

マナ「うん、私もできれば、女の子と仲良くなりたいけど。なんか、視線がきつくて」

トウジ「あん? そんなん気にしとったらあかんで。最初は物珍しさも相まってるだけやろ」

ケンスケ「ま、素材がかわいいからねぇ。嫉妬に巻き込まれやすいのは納得。そういや、碇と惣流が転校してきた時もけっこう騒ぎになったもんなぁ」

マナ「そうなんだ?」

ケンスケ「ああ。碇はロボットのパイロットだとみんなに発覚した時。同じパイロットの惣流は持ち前の美貌から」

マナ「碇くんが⁉︎ すごいっ!」

シンジ「そんな。たいしたことないよ」

マナ「みんなを守ってるんでしょう⁉︎ かっこいいなぁ」

ケンスケ「はぁ。やっぱり、エヴァの操縦士はステータスだよなぁ」

マナ「でも、不思議。パイロット同士で食べないんだ?」

シンジ「そうだね。僕たちは、あくまでネルフという繋がりがあるだけだから。プライベートまで仲良くなる必要はないんだ」

マナ「一緒にいる時間が長ければ仲良くなったりしないの?」

ケンスケ「ほらほら、みんなそう思うよなぁ?」

シンジ「はは。……そうなってもおかしくないのかもしれないけど、そうはなってない」

トウジ「仲良くなるにしても相手次第っちゅーことや。合う合わんはある。だいたいあんなゴリラ女――」

ケンスケ「わかったわかった。パン食いながら喋るなよ」

マナ「惣流さん? って、どの人?」

ケンスケ「あいつなら、あそこ。髪にブローチつけてるから目立つだろ。そうじゃなくったってクォーターだし」

マナ「あぁ、あのキレイな子……教室に入ってきた時から、目についてた」

ケンスケ「素材はいいんだけどねぇ」

マナ「もう一人、キレイな子いるよね?」

ケンスケ「綾波かぁ? そっちもエヴァのパイロットさ」

マナ「へぇ……。このクラスにパイロットが三人も……?」

ケンスケ「うん、まぁ、言われてみれば凄い偶然だよな」

マナ「惣流さん、綾波さんと話してみたいなぁ」

トウジ「やめといたほうがえーで。噛みつかれるわ」

シンジ「アスカと綾波はそんなことしないよ」

ケンスケ「とっつきやすいとは言いがたいんじゃないか。特に綾波はシンジじゃないと会話になるのかさえ怪しいし」

トウジ「せや。それやったら、委員長を間に挟めばええんとちゃうか」

ケンスケ「惣流相手だと、いい考えだね。綾波は――」

シンジ「……?」

トウジ&ケンスケ「シンジ。出番」

シンジ「へ?」

トウジ「紹介しようにもセンセの他に誰が会話になるっちゅーねん」

マナ「あ、あの。迷惑だったら……」

トウジ「かまへんかまへん。友達は作っとくべきや。な、シンジ」

シンジ「……うん、そうだね。アスカと綾波、どっちからにする?」
283 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/26(土) 13:03:57.94 ID:bPa3y6d00
アスカ「――でさぁ、加持さんったらこんなこと言うのよ?」

ヒカリ「……? 碇くん?」

シンジ「食事中にごめん。ちょっといいかな?」

マナ「あの、どうも」

アスカ「転校生じゃない。なに?」

シンジ「まだ、友達がいないんだ。だから、仲間にいれてあげてくれないかな」

ヒカリ「私はいいけど。アスカは?」

アスカ「ふぅ〜ん。どうして私達のところなの?」

マナ「碇くんたちから話を少し聞いて。話てみたいなって。深い意味はないんだけど」

ヒカリ「あ、そっか。碇くんとは席が隣同士だもんね」

シンジ「うん、アスカは悪い子じゃないし。話してみたらいいんじゃないかなって」

アスカ「ぶっ」

ヒカリ「……うん、一緒に食べよ? あ、もう食べちゃった?」

マナ「あ、うん。今日は」

アスカ「はぁ……。席、そこらへんの使っていいんじゃない? 昼休みだし、文句言ってこないでしょ」

シンジ「よかった。ありがとう、アスカ、洞木さん」

マナ「碇くん、ありがとう。わざわざ紹介してもらって」

シンジ「また後で、綾波にも紹介するから。声かけてくれたら」

アスカ「ファーストに?」

シンジ「綾波、友達少ないだろ。だから、いいんじゃないかと思って」

マナ「ち、違うの。惣流さんにも綾波さんにも私が」

シンジ「僕からってことにした方がいいよ」こそ

マナ「あ、ありがとう。……優しいんだね」

アスカ「……? そ。まぁどうでもいいけど。どうせろくに話続かないと思うし」

ヒカリ「とりあえず座ったら?」

シンジ「僕はこれで」

マナ「わかった。また後で。……あの、シンジくんって呼んでもいい?」

アスカ「はぁ?」

シンジ「いいけど……」

マナ「よかった! その、シンジくんともお友達、だよね?」

シンジ「ああ、うん」ポリポリ

ヒカリ「……」チラ

アスカ「ちょっと! 座るの⁉︎ 座らないの⁉︎」

ヒカリ「あ、アスカ」

マナ「ご、ごめんなさい。えへへ」

シンジ「それじゃ」スタスタ
284 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/26(土) 13:29:26.86 ID:bPa3y6d00
アスカ「……」

マナ「よろしく。霧島マナっていいます」

アスカ「朝聞いたからそれは知ってる。あんなのと友達になったってろくなことないわよ?」

マナ「……?」

ヒカリ「……」もぐもぐ

アスカ「三馬鹿グループにはいるよりかはこっちに入った方が断然いいわ。判断は間違ってなかったわよねぇ」

マナ「惣流さんは、シンジくんと仲良くないの?」

アスカ「あ〜ら、もう親しく名前呼びなんだぁ? さっきの今で随分躊躇なく呼ぶじゃなぁ〜い?」

マナ「え? その……」

ヒカリ「仲、いいよ! アスカは素直じゃないだけから」

アスカ「ヒカリっ!」

ヒカリ「もう、霧島さんはなにもわからないんだから」

マナ「えっと、洞木さん、だよね?」

ヒカリ「ヒカリって呼んで? 私もマナって呼んでいい?」

マナ「もちろん。惣流さんは……」

アスカ「ちっ、アスカでいーわよ」

ヒカリ「ご、ごめんね。アスカ、碇くんの話題になると厳しめっていうか、ちょっと扱いが難しくなるんだ。女の子同士だと凄く良い子なんだけど」

アスカ「ちょっと! どーゆう意味!」

マナ「(くすっ、意識してないわけじゃないんだ)」

ヒカリ「マナ、驚いちゃってるじゃない。名前呼びだって気にしないの」

アスカ「その言い方っ! 私がつっかかってるみたいじゃない!」

ヒカリ「違うの?」

アスカ「違うわよ!」

マナ「本当に、席が隣で親切にしてもらったからってだけだよ」

アスカ「……あいつムッツリだから。気をつけた方がいいわよ」

マナ「そうは見えないけど」

アスカ「それがまた曲者なのよぉ〜。そうよ、私はただ転校生に助言をしてるだけ。わかった? ヒカリ」

ヒカリ「はいはい」

マナ「わかった、気をつける」

ヒカリ「親族の転勤だったっけ? めずらしいね、この時期に」

マナ「急でドタバタしちゃったんだけど」

アスカ「使徒がくるこの街に越してくるなんてなかなかいないわよね、おまけに都心はネルフ関係者しか住めないし」

ヒカリ「疎開、する人も少なくないもんね」

マナ「危ないってわかってるけど、守られてるし。そうだ、シンジくん達に聞いたけど惣流さん、パイロットなんでしょう?」

アスカ「あいつ……! なにベラベラ喋ってんのよ」

ヒカリ「隠してたわけじゃないでしょ」

アスカ「まぁ、そうだけど」

マナ「わぁ、かっこいいなぁ!」

アスカ「そ、そう?」

マナ「うんっ! 憧れちゃう」

アスカ「……そっか。まぁ、トーゼンよね! なんてったって私はエリートなんだから!」
285 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/26(土) 22:03:23.93 ID:bPa3y6d00
【放課後 教室】

ヒカリ「アスカ、今日、ネルフの用事は?」

アスカ「なにもなーい」

ヒカリ「それじゃ、途中まで一緒に帰らない?」

マナ「あの、私もいいかな?」

ヒカリ「いいけど……。住まいはどこらへん?」

マナ「地名はまだ。コンフォート17マンションってところなんだけど」

アスカ「え……? そこって、私が住んでるマンション?」

マナ「そうなの?」

ヒカリ「へぇ、偶然だね。なら大丈夫。一緒に帰ろ?」

マナ「う、うん!」

アスカ「親族ってなにしてる人なの?」

マナ「興味ないから詳しくは。なんだったかな……エンジニアしてるって言ってたけど」

アスカ「ふぅ〜ん」

マナ「アスカっていつもはネルフに寄るの?」

アスカ「テストとかがある時はね」

マナ「そうなんだぁ。大変だね?」

アスカ「ま、これもエリートの義務ってやつね。あたしはエースなんだし」

マナ「エース? 凄いなぁ。一番成績がいいんだ?」

アスカ「あったりまえよ。成績だけじゃないわ。迫り来る使徒に対してもあたしとあたしの弐号機は唯一無二なんだから」

マナ「他の二人は?」

アスカ「あいつらは単なるおまけ。チョコボールのおまけより粗末なモンね」

マナ「じゃあ、アスカがこれまでの怪獣を全部やっつけちゃったんだ?」

アスカ「う……。そ、そういうわけじゃ」

マナ「……?」

アスカ「あたしはまだ日本に来て間もないし! 初陣が終わったぐらいなの!」

マナ「へ? えっと、これまでにいくつかきてるよね……」

ヒカリ「碇くんと綾波さんが倒したのよ」

マナ「そうだったんだ」チラ

アスカ「……」ぶっすぅ

マナ「こ、これからだもんね! アスカは!」

アスカ「ふん」プイ
286 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 22:42:47.16 ID:bPa3y6d00
【ネルフ本部 模擬体室】

リツコ「シンジくん。変わりはない?」

シンジ『はい』

リツコ「次、射撃訓練に移行して」

マヤ「……」

リツコ「マヤ? なにぼーっとしてるの」

マヤ「あっ、す、すみません。えっと、なんですか?」

リツコ「インダクションモードへの移行」

マヤ「了解、バーチャルリアリティスタンバイ。仮想敵の投影、開始します」

リツコ「シンクログラフに変化は?」

マコト「チェック2550までオールクリア」

シゲル「臨界点まで、後0.5。全回路、異常なし。パルスによる侵食ありません」

リツコ「やはり、脳に影響は見受けられないみたいね……」

マコト「……? なんのテストですか? これ」

リツコ「独り言よ。気にしないで。本案件は、新兵器のデータ採取」

シゲル「ポジトロンスナイパーライフルの小型化ですか。あれ、燃費悪いっすからねぇ」

マコト「なにせ電力がなぁ」

リツコ「実用化が進めば、威力は多少落ちるでしょうけど中距離戦において大きな戦力アップが見込めるわ」

ミサト「そりゃ助かるぅ〜」クルクル

リツコ「椅子をまわして遊んでるの、楽しい?」

ミサト「それほどでも。しかし、シンジくんとマヤちゃんが同居するなんてビックリだわ」

マヤ「……」ピク

シゲル「俺も俺も。意外な組み合わせっすよね」

リツコ「またその話? 無駄話をしないで。これは遊びじゃないのよ」

ミサト「だってさっきよ? 聞いたの。あたしゃ心配してたんだからさぁ」

リツコ「ミサトが?」

ミサト「そ。シンジくんが一人暮らしするって聞いてあのアパートじゃ。リツコにだって話てたじゃない」

リツコ「そういえばそうだったかもしれないわね」

ミサト「あらま。あいかわらず淡白ね〜」

リツコ「興味ないもの」
287 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 23:22:30.68 ID:bPa3y6d00
【夜 マヤ宅 リビング】

マヤ「ふぅ……よし。シンジくーん。ご飯できたよー」

シンジ「はーい」

マヤ「シンジくんのお皿は、これよね?」

シンジ「そうです」

マヤ「今日もテストお疲れ様。新兵器開発、うまくいくといいね」

シンジ「そうですね、それがみんなの為になるなら」

マヤ「みんなもそうだけど、シンジくんだって痛い思いしなくて済むかもしれないのよ?」

シンジ「期待すると、ガッカリしますから」

マヤ「あ……そ、そうよね。前線で戦ってる側からしたら気休めにならないか」

シンジ「かまいませんよ。それが僕のやるべきことですから」

マヤ「疲れない? そういう生き方」

シンジ「すこし。だけど、できることがわかる内はやろうって決めたんです」

マヤ「へぇ……」

シンジ「いただきます」パク

マヤ「今日は、魚のムニエルにしてみたんだけど」

シンジ「……」もぐもぐ

マヤ「どう? 私、料理を振る舞うのすらあんまり」

シンジ「おいしいですよ。すごく」

マヤ「よかった。健康管理は私の仕事ですから、たくさん食べてね」カチャ

シンジ「あっ! ま、マヤさん!」

マヤ「……?」

シンジ「食べるんですか? それ」

マヤ「食べるわよ? 私もお腹すいてるし」

シンジ「僕、今日はすごくお腹すいてるんです。よかったらもらえませんか?」

マヤ「えぇ? そんなに?」

シンジ「はい」

マヤ「シンジくんって結構食べるのね?」

シンジ「今日は授業で体育があったんです。男子はバスケットボールで」

マヤ「そうなんだ。……わかった。私は後で作りなおすから、食べていいよ」

シンジ「わぁ、嬉しいなぁ」

マヤ「ふふっ、そうしてると本当に中学生みたいね」

シンジ「はは」もぐもぐ
288 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 23:32:13.80 ID:bPa3y6d00
【数十分後 同リビング】

マヤ「シンジくん、メンズ用シャンプー買ってきたの置いておくから」

シンジ「ありがとうございます。先に風呂はいりますね」

マヤ「えぇ。上がる時に風呂の栓を抜いておいてね」

シンジ「はい」ガラガラ

マヤ「ふぅ……。うまくできたかな、相手は子供なんだし、少しずつ慣れていけば、少しずつ」

TVCM「本当の自分をあなたに! コンタクトで世界が変わりますよー」

マヤ「本当の自分、か。さて、私もご飯食べよっと。……あ、フライパンに少し残ってるんだった」ぱく もぐもぐ

TVCM「うまーい! エバラの焼き肉のタレ!」

マヤ「うっ! ま、まずっ! ……なにこれ⁉︎ うそっ⁉︎ お砂糖とお塩間違えてる⁉︎」

シンジ『おいしいですよ、すごく』

マヤ「え? だってさっき、たしかそう言って……――」

シンジ『僕、今日はすごくお腹すいてるんです』

マヤ「も、もしかして、わざと……? 私に食べさせないために?」

シンジ『わぁ、嬉しいなぁ』

マヤ「バカ。私、なにやってるのよ……。中学生に気を使わせて」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 23:37:58.29 ID:lkKpu6jI0
大人過ぎる
290 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/26(土) 23:53:27.90 ID:bPa3y6d00
【コンフォートマンション マナ宅】

マナ「定時連絡です。サードチルドレン、セカンドチルドレンへの接触に成功しました」

戦自高官「ご苦労。反応はどうだ」

マナ「初日ですので積極的な行動は控えています。ファーストインプレッションは滞りなく取り入れられたと思います」

戦自高官「もう一人のチルドレンについては?」

マナ「明日未明に接触を試みます」

戦自高官「とりあえず、出だしは順調といったところか。目的を忘れるなよ。仲良しクラブを作るために派遣したのではない」

マナ「了解しています。あの、ムサシとケイタは……」

戦自高官「心配に及ばんよ。今は訓練生として従事している」

マナ「少しだけでも! 話できませんか⁉︎ 私、頑張りますからっ!」

戦自高官「頑張りなど必要ない。良い知らせだけを期待している。キミの貢献に対して、我々は必ずや応えるだろう」

マナ「だめ、ですか」

戦自高官「まずはデータだ。サードチルドレンから碇一族について情報を聞き出せ」

マナ「でも、あの子、普通の子みたいでしたよ!」ギュゥ

戦自高官「ふん、さっそく情に流されだしたか。親が特殊なのだよ。親が親なら子も子だ。なにか引き出しがあるはず」

マナ「もし、なかった場合は?」

戦自高官「内閣府の可決で、中東に人材を派遣する法案が近々通るそうだ。数千人ほどな」

マナ「そんな⁉︎ 治安の安定していない激戦区じゃないですか! そこにムサシとケイタを⁉︎」

戦自高官「霧島隊員。絶対になにかある。貴様の任務を忘れるな」

マナ「……了解……しました」

戦自高官「時間の猶予はある。励めよ」プツ
291 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 00:22:03.53 ID:dg9h+A5m0
【コンフォートマンション ミサト宅】

ミサト「よっほっ! ふんっほっ!」

アスカ「なにしてんの……?」

ミサト「ふんっ、ほっ、エクササイズのっ、ダンスっ! アスカも、やるっ?」

アスカ「いい」

ミサト「ふぅ……」カチ

アスカ「なんでまた急に」

ミサト「青葉くんがアイドルのグラビア見てたんだけどさぁ、あたしもまだまだ負けてらんないかなって闘志がね」

アスカ「その発言がますますババくさい」

ミサト「アスカもねぇ、油断してるとほんとあっという間よ? 今は若いから肌も代謝もいいけど」

アスカ「あーそー」

ミサト「さて、エビちゅ、エビちゅっと」

アスカ「エクササイズした意味あんの? それ……」

ミサト「これはクスリなの! 明日への活力! 今日を頑張った自分へのご褒美!」

アスカ「めんどくさ。好きにしたら? 風呂はいるわよ」

ミサト「ちょっちまった。忘れるとこだった。アスカにも一応教えておくけど、シンジくんの一人暮らしなくなったわよん」

アスカ「えぇっ⁉︎」

ミサト「これで一安心かなぁ。さすがにあの歳でアパート暮らしのたった十万支給はねぇ……」

アスカ「いつ⁉︎ いつここに帰ってくんの⁉︎」

ミサト「っと、おんやぁ〜? シンちゃんが恋しいのぉ〜ん?」

アスカ「あれ見ても同じセリフ吐ける?」チラ

ミサト「な、なぁ〜る。けっこーたまってるわね。キッチンの洗い物」

アスカ「それだけじゃないわよ! 洗濯物も! あぁんもう、ミサトがコインランドリー行かないからじゃなぁい!」

ミサト「そ、そりは……。忙しくて」

アスカ「無駄な努力をやってたやつが言う⁉︎」

ミサト「む、むだってぇ。あたしだってイケるって」

アスカ「衣・食・住! これ生活のキホン! 三大要素!」

ミサト「めんぼくない」シュン

アスカ「で? シンジはいつ帰ってくるの?」

ミサト「それがぁ、その……」

アスカ「嫌な予感がする。なんで言いづらそうにしてんのよ」

ミサト「さぁ〜すがアスカ! もう、勘がいいんだからぁ〜ん」カシュ

アスカ「……ここには、帰ってこない?」

ミサト「んくんくんくっ、ぷはぁ〜〜っ! はい! 帰りません!」

アスカ「なんとかしなさいよっ!!」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/27(日) 13:19:57.36 ID:Ch61ICrmo
更新頻度上がってうれしい
293 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/27(日) 17:02:04.02 ID:dg9h+A5m0
【翌日 早朝 マナ宅】

マナ「はぁ〜い?」ガチャ

加持「ちょうど近くを通りかかったもんでね、これから学校だろ?」

マナ「誰かと思ったら、加持監査官でしたか」

加持「不用心にドアを開けてよかったのか? 相手が誰か見当がついていなかったんだろ」

マナ「いいんです、そこまで息を潜めなくて。私は、私らしさを忘れたくない。上がっていきますか?」

加持「そのつもりで寄らせてもらったんだ。……ああ、用意しながらでかまわない。昨日一日の様子を聞いておこうと思ってな、失礼するよ」

マナ「はい、どうぞ。適当に座ってください」

加持「――それで、シンジくんたちの印象をどう見る?」

マナ「まだ初日を終えたばかりですよ? そう早々と結論はだせません」

加持「現時点でキミが受けている見解を聞いているのさ。これからやりとりを重ねるにつれて情報は増えるだろうが、とりあえずのね」

マナ「普通の子じゃないですか?」シュル パサ

加持「それだけかい?」

マナ「はい。戦自にも昨夜、定時連絡の折にそう報告しています」

加持「ふっ、それだけじゃ頭のお堅い連中は納得しなかったろう?」

マナ「頑張りますって言っても……相手にされませんでした。意思表明は必要ないって」

加持「だろうね。マナちゃんの経歴書に目を通させてもらったよ。この、度々でてくるムサシとケイタというのは友達かい?」

マナ「幼馴染です。私たち、物心ついた時から、辛い時も楽しい時も同じ環境で過ごしてきました」

加持「戦自に入隊しようとした動機を聞いても?」

マナ「最初は……志願した理由ってほんとにささいなきっかけで。なんだと思います?」

加持「さてね」

マナ「お腹いっぱいご飯を食べられる。それだけだったんです」

加持「……」

マナ「私は、ムサシとケイタと笑って毎日が過ごせるなら満足でした。でも、入隊してから数ヶ月がたったある日、二人の様子がだんだんと変わっていったんです」ギュゥ

加持「国のためという大義名分。団体生活の中で洗脳されていったのか」

マナ「二人ともなにも見えてないんです! 私たちは兵士で、使い捨てのただの駒扱いだって!」

加持「間違っちゃいない。国はそういう目的で人材をかき集めているからな」

マナ「こわくなりました。二人が、もしかしたら……ううん、このままだと間違いなく、死んじゃうって」

加持「なるほど。それで、この任務で白羽の矢が当たった時、キミは飛びついたわけか」

マナ「これしかないんだもん。救うためには」

加持「……」

マナ「戦自の上官は私に約束してくれました。必要な情報を引き出し、結果を示せば、三人とも前線から遠い情報作戦室に配置してくれるって」

加持「(ウソだろうな)」

マナ「だから、それを信じて私は、やります」

加持「事情は把握した。俺からこの道の先輩としてひとつアドバイスをしよう」

マナ「……?」

加持「自分を守れるのは、自分だけだ。退路は常に用意しておけ」

マナ「簡単に言わないでくださいよ」

加持「頭の片隅に入れておくだけでも違うもんさ。良心の呵責でまわりを利用するのに躊躇しちゃいけない、一瞬の判断の遅れが生死を分ける」

マナ「……」

加持「例えば、シンジくんに辛い思いをさせてまで利用することになってもね」

マナ「私は、そのつもりです。ターゲットなんですから」

加持「そうは言っても一線をなかなか踏み越えられないものさ。ま、どう行動するかはマナちゃん次第だけどな」
294 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 17:35:29.40 ID:dg9h+A5m0
【第三新東京市立第壱中学校 HR前】

シンジ「おはよう」ガララ

アスカ「あ、シン――」

マナ「シンジくん! おはよう!」タタタッ

アスカ「っと」

シンジ「マナ、おはよう」

マナ「あの、端末がまだ来てないんだ。明日には届くらしいんだけど。だから、今日も……」

シンジ「ああ、うん。大丈夫だよ」

ヒカリ「これで日直の仕事終わりっと。……? アスカ、手あげたまま固まってなにしてるの?」

アスカ「えっ⁉︎ あ……え〜と、それはその〜、あ、あ〜コンタクトズレちゃったぁ〜」

ヒカリ「へ? アスカ、コンタクトしてたの?」

アスカ「してないけど」

ヒカリ「は、はぁ……」

マナ「あのね、今日は、あとで綾波さんに紹介してほしいな。シンジくんが暇な時でかまわないから」

シンジ「わかった。昼休みでいい?」

マナ「うん、ごめんね? なんだか、いろいろ迷惑、だよね……?」

シンジ「そんな。気にしなくていいよ、マナはまだ二日目だし」

マナ「ありがとうっ! 嬉しいっ!」ハグ

シンジ「わわっ⁉︎」

男子生徒A「だ、抱きついたっ⁉︎」

男子生徒B「なんてうらやま、けしからんやつぅ!」

女子生徒A「なぁ〜にあれ。見せつけちゃってさぁ」

ヒカリ「わぁ……大胆だね、マナって」

アスカ「ヒカリ、席につくわよ」

ヒカリ「いいの? アスカ」

アスカ「なにが?」

ヒカリ「う、うーん? いいなら、いいけど」

シンジ「その、みんなこっち見てるから、離れて」

マナ「あっ! ご、ごめんなさい! つい嬉しくってはしゃいじゃった、えへへ」

シンジ「素直なんだね、マナは」

マナ「そう? 前の学校ではそう言われることあったかも」

シンジ「そうなんだ? 前はどこに住んでたの?」

マナ「ここよりずっと田舎の方。のどかで、私は嫌いじゃなかった」

シンジ「……さみしいの?」

マナ「昨日も、思い出して泣いちゃった。まだきたばっかりだからかな。ちょっと、ホームシック」

シンジ「あ……」

マナ「でも、アスカやヒカリみたいな新しいクラスメートができて嬉しい。それに、その……シンジくん、優しいし……隣でよかった」ポッ

シンジ「いや、まぁ、その」

アスカ「ちっ」

ヒカリ「……」
295 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 17:59:44.40 ID:dg9h+A5m0
アスカ「あたし思うんだけどさぁ、パイロットて常日ごろから危機意識もたないといけないんじゃないかしら?」

ヒカリ「はじめて聞いた」

アスカ「だらしなく! デレデレと! するのはどうかと思わない? 私たち使命があるんだから」

ヒカリ「そうだね?」

アスカ「マナもマナよねぇ。昨日せっかく注意してあげたのに、上っ面に騙されちゃだめだって」

ヒカリ「う、うん」

アスカ「委員長、注意しなくていいの?」

ヒカリ「へ? なんで?」

アスカ「風紀の乱れは校則の乱れでしょ!」

ヒカリ「でも、あれぐらいいいんじゃない?」

アスカ「ぐぬぬ……」

ヒカリ「アスカ、もう少し、素直になりなよ。アスカだって、とってもかわいいのに」

アスカ「はぁ、なにについて? まるで私がシンジに素直じゃないみたいじゃない。私は、あくまでも――」

マナ「あの、今度、お礼がしたいな。一緒にどこか遊びにいかない?」

アスカ「ちょ、ちょっと」

ヒカリ「わあ、大胆プラス積極的」

シンジ「そこまでしてもらっちゃ悪いよ。僕はできることしかしてないから」

ヒカリ「断るのかな」

アスカ「とーぜん!」

マナ「全然! 気にしないで? むしろ、私が申し訳なくて……」

シンジ「うぅん」

アスカ「なに悩んでんのよバカシンジ! 男らしくきっぱり断りなさいよ!」

ヒカリ「ちょっと待ってて」ガタ

アスカ「……?」

マナ「や、やっぱり、迷惑だよ、ね?」

シンジ「そういうわけじゃ」

ヒカリ「碇くん、マナ、おはよう」

マナ「ヒカリ。おはよう」

シンジ「おはよう」

ヒカリ「どこかに遊びにいくの?」

マナ「え? 聞いてた?」

ヒカリ「ごめんね。ちょっと聞こえちゃって」

シンジ「いや、僕は」

ヒカリ「アスカと鈴原たちも誘ってみんなでプールに行かない?」

マナ「わぁ、いいね! そうしようよ!」

ヒカリ「うん、よかった。アスカぁー! ちょっとこっちきて!」

アスカ「……」ぶっすぅ

ヒカリ「みんなで遊びにいかないかって! もちろん行くよね?」

シンジ「女の子同士で行ってきな――」

ケンスケ「そりゃないんじゃないか碇ぃ〜! なんだぁ? 友達におすそ分けしないってのかぁ?」

シンジ「ケンスケ、おはよう。おすそ分けってなにを?」

ケンスケ「プライベートの水着姿なんて高く売れるに決まってるだろ!」こそ

シンジ「ああ……」
296 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 22:44:24.63 ID:dg9h+A5m0
【同学校 昼休み】

シンジ「綾波」

レイ「……? 碇くん?」

マナ「こんにちは。話するのはじめてだね、えへへ」

シンジ「転校生の霧島マナさん。こっちが綾波。エヴァのパイロットだよ」

レイ「……」ジー

マナ「よろしく。よければ、友達になってもらえないかな?」スッ

シンジ「……」

レイ「私が? あなたと?」

マナ「え? ……うん」

レイ「なぜ?」

マナ「え、えっと」

レイ「命令があれば、そうするわ」

マナ「命令って……あの、碇くん」

シンジ「綾波は誰に対してもこうだから。こういう子なんだよ」

マナ「碇くんにも?」

シンジ「僕だって例外じゃない。最近は、少し喋るようになったけど。それに、いきなり仲良くできなくても仕方ないじゃないか」

マナ「(碇くん、綾波さんとアスカで接し方が違うのね。この違いは……? 個性の違い? なにか、ひっかかるような……)」

シンジ「どうしたの? 考えごと?」

マナ「う、うぅん。私、反省してたの。そうよね、いきなり仲良くなってなんて無理よね」

シンジ「よかった、綾波のこと嫌いにならないでくれて。少し、時間がかかるかもしれないけど、僕がいない時も話かけたらいいんじゃないかな」

レイ「碇くん」

シンジ「うん?」

レイ「報告したい件がある。この前の話」

マナ「(……なんだろう、もしかして、情報……?)」

シンジ「わかった。ここじゃなんだから、屋上に行こうか」

レイ「ええ」

シンジ「マナ。僕たちは少し席をはずすね」

マナ「うん……」
297 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 22:46:11.75 ID:dg9h+A5m0
名称が碇くんになってしまってるミスあるんで訂正レスします
298 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 22:47:16.87 ID:dg9h+A5m0
【同学校 昼休み】

シンジ「綾波」

レイ「……? 碇くん?」

マナ「こんにちは。話するのはじめてだね、えへへ」

シンジ「転校生の霧島マナさん。こっちが綾波。エヴァのパイロットだよ」

レイ「……」ジー

マナ「よろしく。よければ、友達になってもらえないかな?」スッ

シンジ「……」

レイ「私が? あなたと?」

マナ「え? ……うん」

レイ「なぜ?」

マナ「え、えっと」

レイ「命令があれば、そうするわ」

マナ「命令って……あの、シンジくん」

シンジ「綾波は誰に対してもこうだから。こういう子なんだよ」

マナ「シンジくんにも?」

シンジ「僕だって例外じゃない。最近は、少し喋るようになったけど。それに、いきなり仲良くできなくても仕方ないじゃないか」

マナ「(シンジくん、綾波さんとアスカで接し方が違うのね。この違いは……? 個性の違い? なにか、ひっかかるような……)」

シンジ「どうしたの? 考えごと?」

マナ「う、うぅん。私、反省してたの。そうよね、いきなり仲良くなってなんて無理よね」

シンジ「よかった、綾波のこと嫌いにならないでくれて。少し、時間がかかるかもしれないけど、僕がいない時も話かけたらいいんじゃないかな」

レイ「碇くん」

シンジ「うん?」

レイ「報告したい件がある。この前の話」

マナ「(……なんだろう、もしかして、情報……?)」

シンジ「わかった。ここじゃなんだから、屋上に行こうか」

レイ「ええ」

シンジ「マナ。僕たちは少し席をはずすね」

マナ「うん……」
299 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 23:11:10.20 ID:dg9h+A5m0
【同学校 屋上】

レイ「手の具合、どう?」

マナ「……」ソォー

シンジ「問題ないよ。アダムがいる違和感はあるけど」

レイ「同化は……――」

マナ「(ここからじゃよく聞こえない……)」ススッ

シンジ「昨日、部屋で包帯をとってみたんだ。確認したら体内にとりこめるんだね」

レイ「碇くんの一部になればなるほど、外見上は普通になっていく」

シンジ「神経を集中していないと思うように目立たせなくできないから、まだ包帯は必要だけど」

レイ「そう」

シンジ「母さんはここまで知っていて僕に移植したのかな」

レイ「ええ」

シンジ「そう、だよね。怪我はいつか治るし、このままの状態じゃ隠せるわけないんだ」

レイ「赤木博士のデータベースにアクセスした」

シンジ「どうだった?」

レイ「権限はレベルEEE。リリスがいるフロアのヘブンズドアと同じ」

マナ「(シンジくんの手になにが……? リリスって……?)」

シンジ「やっぱり、調べるのは難しそう?」

レイ「……」コクリ

シンジ「どうしようかな……。リツコさんに頼むわけにも……」

レイ「電子制御は、アダムの力を使えばできなくもない」

シンジ「え?」

レイ「衝動は平気?」

シンジ「昨日の夜中に少し。アダムからの干渉なの?」

レイ「たぶん」

シンジ「壊したいって思った。なにか、なんでもいいから。積み木や砂場の山をこわすように」

レイ「凶暴性を抑えきれなくなったら言って。協力する」

シンジ「わかった。……ありがとう。さっき、僕の同化が進めば、電子制御できるって言ったよね? それってアクセス権限に関係なく、できる?」

レイ「可能になる。アダムの持つ力は、強い電磁波を発生させるから」

シンジ「……」

マナ「(なに……? なんの話……?)」

シンジ「試してみるよ」
300 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/27(日) 23:31:36.76 ID:dg9h+A5m0
レイ「……」

シンジ「アダム、最初の人間にして、始祖たる存在の一人。使徒、天使の名を持つ使者。……そして、綾波。今なら、母さんが言っていた真実を信じられる」スタスタ

レイ「……」

シンジ「ここから見える景色。街に来た最初の頃は、嫌で嫌でしかたなかったのに。不思議だね、今はそれすら遠い過去に思えるんだ」

レイ「不変なものは存在しないわ」

シンジ「そうかな。僕はそう思わない。取り巻く環境、父さん……はいなくなってしまったけど、かわらないものがあるんじゃないかな」

レイ「……?」

シンジ「綾波は変わった?」

レイ「私?」

シンジ「うん。ネルフで父さんや色んな人と接して、時間を過ごして変わったと思う?」

レイ「わからない」

シンジ「不変なものは存在しないってリツコさんが言ってたの?」

レイ「……」フルフル

シンジ「じゃあ、父さんかな」

レイ「……」コクリ

シンジ「やっぱり、そうなんだね。綾波がちょっとだけ、羨ましい」

レイ「なぜ?」

シンジ「父さんのそばにいられたから」

レイ「……」

シンジ「もっと色々教えてほしかったんだ。ただ、それだけ。でも、こうなってしまった。空、見てみてよ」

レイ「……」スッ

シンジ「雲が流れてる。なにが起こっても、僕たちはちっぽけな人間なんだね」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 02:23:24.19 ID:HEcdXEVNo
(ここで猿岩石)
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 00:38:30.74 ID:m0bnnDrNo
まだかな
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 02:28:05.05 ID:oPh0r+HcO
遠ざかーる雲を見つめ〜て〜
304 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/29(火) 22:04:55.62 ID:L8nioMnc0
【同学校 教室】

マナ「……」スタスタ

ヒカリ「あ、マナ。どこ行ってたの?」

マナ「学校の中を見て回っててたの」

シンジ『父さんのそばにいれたから』

マナ「(あの時見せた、悲しそうな表情はなんなんだろう……やっぱり、上官の言う通り普通の子じゃないのかな……)」

アスカ「見学なんてして楽しい?」

マナ「うん……どこになにかあるか知りたかったって理由もあるよ。アスカは、転校してきたときしなかったの?」

アスカ「はっ、こんなこじんまりした学校のどこに見所があるってのよ。キャンパスと比べて見劣りするじゃない」

ヒカリ「大卒だもんね。飛び級って言ってたっけ? 凄いなぁ、優秀だって認められるなんて」

アスカ「ちょおっとひっかかるんだけど。あたしが才能だけで選ばれたと思ってない?」

ヒカリ「漫画みたいにずば抜けた才能があったんじゃないの?」

アスカ「これだから凡人は。発想が貧弱なのよ。まぁ、日本人はトランスファー制度だって浸透してないし大目に見てあげる」

ヒカリ「むっ。私だって知ってますよーだ。大学で転校するみたいな話でしょ?」

アスカ「大雑把にいうとね。ヒカリ、よく知ってたわね。この国だと大学に在籍したら四年間は同じ場所で過ごすのが普通でしょ?」

ヒカリ「えへへ、たまたまなんだ。海外の学習事情のこと、前ニュースでやってたから」

アスカ「変な国よね、ここ。しなきゃいけないってわけじゃないけど、発想に柔軟性がないような環境っていうか」

マナ「みんな、頑張って生きてる。それだけじゃだめなのかな……」

アスカ「……?」

マナ「エリートとか、凡人とか。そんなので優劣つけたって楽しくないよ。笑って過ごせればいいじゃない」

ヒカリ「マナ……?」

マナ「私は嫌だな。差別意識を助長してる気がして」

アスカ「ひけらかすつもりないけどさぁ、世界経済は一握りの天才がまわしてるもんなのよ」

マナ「アスカも、エリートって“枠”を作りたいの?」

アスカ「そうじゃなくて。頭がいい人、悪い人。抜けてる人。良く言えばそれも個性よね。でも頭がいい人の足を引っ張るのは“行動するバカ”の仕業が大半なのよ」

マナ「そうかな……」

アスカ「バカは自分で考えないでしょ。なぜそうなるのか、どうして辿り着くのか。視野が狭いし考える必要ないもの」

ヒカリ「……」

アスカ「思考停止してるようで自分の楽しいことだけを繰り返す。それこそ、本能だけでね。だけど、それはひとつの正解」

マナ「……」

アスカ「インテリは短絡的思考のバカを嫌うもんよ。世の中が民主主義でよかったわよねぇ、エリート思考なんて考えだとロクなことにならないし」
305 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/29(火) 22:41:23.98 ID:L8nioMnc0
【ネルフ本部 ラボ】

ミサト「フォースの選定ぃ? 三号機の搬入に合わせて? 都合よくホイホイ決まるもんねぇー」

リツコ「マルドゥックから通達があったそうよ。これが、候補者の子の氏名とデータ」ピラ

ミサト「また子供。……しかも、レイと同じ出自不明の少年、か」

リツコ「……」

ミサト「ねぇ、なんでマルドゥックはエヴァのパイロットに関する公開レベルに差をつけるの?」

リツコ「知らないわ。存在自体が謎のヴェールに包まれているもの。選定方法もね」

ミサト「あんた、なにかウソついてない?」

リツコ「あら。どうしてそう思うの?」

ミサト「女の第六感ってや〜つ」

リツコ「男に対する浮気に使うものじゃなくって?」

ミサト「あたしの勘は侮れないわよん?」

リツコ「根拠のない自信ね。ウソはついてないわよ」

ミサト「ほんとにぃ?」

リツコ「私がなにに対して興味をもつのか。友人歴の長いミサトだったらわかるでしょ」

ミサト「人の心なんてわかるもんじゃないわよ」ボソッ

リツコ「え……? 何か言った?」

ミサト「ま、リツコが隠し事をするときはある癖があるしねぇ〜」

リツコ「はじめてね。ミサトがそんなこと言うの。お生憎様、ひっかけにのってあげるのはまた今度ね」

ミサト「ぶーぶー」

リツコ「おちゃらけるのも結構だけど、そろそろ身を落ち着けたら? 加地くん戻ってきてるんだし」

ミサト「やぁだぁ。あいつの話はやめてよー」

リツコ「いつまで逃げ切れるかしらね、過去から」

ミサト「はいはい。お説教がはじまりそーなんで退散しまーす」

リツコ「(やはり、ミサトは勘づいてくるわね……)」
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 05:23:11.31 ID:kbXMosxZo
C
307 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/30(水) 14:02:19.69 ID:r21iIkAN0
【ネルフ本部 執務室】

リツコ「――葛城一尉に関する報告は以上です。人事内部の大幅な改変。これに加えフォースの選定があまにも露骨すぎです。代替え案を提唱します」

ユイ「これがバイタルデータのすべて?」

リツコ「え? え、えぇ。シンジくんの心理状況は極めて安定しています。タブリスの干渉による二次副産物はないもの考えられます」

ユイ「おかしいわ」

リツコ「え……?」

ユイ「赤木博士。人が夢を見る特徴をご存知よね?」

リツコ「レム睡眠とノンレム睡眠時で違いがあります。内容についての分類は諸説ありますので断定はできませんが、なんらかの脳の処理だという点において相違ありません」

ユイ「研究にて睡眠をとる度に毎回、必ず夢を見ることが判明してる。中には“見なかった”という例もあるけど、それは“忘れている”だけ」

リツコ「はい。ですので、シンジくんは記憶の保持ができていないかと」

ユイ「夢を覚えていない確証はない……」

リツコ「……? なぜでしょうか?」

ユイ「前提が不自然なのよ。まず、シンジは本当に睡眠状態と同じだったのかしら」

リツコ「は?」

ユイ「医師の診断報告書によると、光を当ててみても眼球の瞳孔が拡大したままだったとあるわね。普通はそうなる?」

リツコ「たしかに……。しかし、そう裏付けるデータを今回のシンクロテストで――」

ユイ「なぜ、なぜ変化がないの……?」

リツコ「……」

ユイ「タブリスをここに」

リツコ「シンジくんは経過観察でよろしいのでは。今はネルフ内部掌握の件を優先すべきです」

ユイ「いいから呼びなさいっ!」バンッ
308 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/30(水) 14:27:57.15 ID:r21iIkAN0
【数十分後 同執務室】

カヲル「まだなにか僕に用が? 約束の時まで早すぎるようだけど」

ユイ「この書類を見てちょうだい」

カヲル「……」ペラ

ユイ「あまりにも安定しすぎている。脳を弄ったさいに、なにを見せたの? なんの目的であの子を――」

カヲル「ふっ」

ユイ「やはり、なにか仕込んだのね?」

カヲル「貴女は見当違いをしている」

ユイ「……」

カヲル「いいよ。教えるかわりに、僕に何をしてくれるんです?」

ユイ「現在の独居房暮らしから第6区画への移住を認めます。生活が人間らしくなるわよ」

カヲル「ボクがそれを望んでいるわけじゃない。なぜ、ヒトと同じ定義で捉えるのかな」

ユイ「そうだったわね。……あなたの望みをひとつ叶えましょう。できうる限りで」

カヲル「黙秘を希望するよ」

ユイ「バカバカしいやりとりをさせないで! はやく教えなさい!」

カヲル「息子のことになると必死になるのを直した方がいい。冷静さを失っては、愚者の姿になるからね」

ユイ「……!」ギリッ

カヲル「ボクが彼にしたのはほんの“火遊び”さ。最終目的は共通している。碇ユイ博士の障害になるようなマネはしていないよ」

ユイ「シンジは本当にあなたに脳を弄られたという自覚がないのね?」

カヲル「おそらくは」

ユイ「……そう」ギシ

カヲル「わざわざ確認するためにボクをここに? ネルフ総司令は割とお暇なようだ」

ユイ「……」

カヲル「自分の息子に直接聞くのがこわいんだ。違うかい?」

ユイ「……」

カヲル「どんなに優秀であれ、所詮はただのヒトなんだね」
309 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/30(水) 15:03:01.11 ID:r21iIkAN0
【数時間後 ネルフ本部 第四通路】

シンジ「試そうと思ったけど力って、どうやって使えばいいんだろう。聞くの忘れちゃったな」

放送「メンテナンスを実行中。作業員は、現在の区画の予備パイプを――」

シンジ「エヴァと同じで念じればいいのかな」スッ

カヲル「そうじゃないよ」

シンジ「キミは……?」

カヲル「こんにちは、碇シンジくん。起きている時に会うのはこれがはじめてだね」

シンジ「(なんだ、この感じ。綾波に似ている)」

カヲル「音声は拾えないけど、ボクとキミの姿は監視映像で残ることになるから。これでますます疑念を持つだろうけど」

シンジ「……?」

カヲル「アダムの力を使いたいのかい?」

シンジ「あ、うん。知ってるならやっぱり、キミも綾波と似た存在なんだね」

カヲル「彼女もボクと同じだけど、原理的な話をすればキミの方が近しい存在だけどね。アダムの力の使い方をレクチャーしてあげるよ」

シンジ「え……? 知ってるの?」

カヲル「簡単だよ。まずは能力の正体について話をしようか」

シンジ「うん」

カヲル「アダム、その他の使徒と呼ばれる個体が持っている様々な特性は人類が手にしていない未知の構成で成り立っている」

シンジ「……」

カヲル「彼らは自ら望んであの形に進化した。学習してね。さて、そのうえでだ。アダムに特性があるとしたら、どんな能力だろうね」

シンジ「綾波は、電磁波を発生させると言ってたけど」

カヲル「あくまでもそれは、一端だとは思わないのかい? 格好いいとは思わないけど、例えば、“電磁波の味がわかる”……とか」

シンジ「そんな、食べるわけじゃないし味なんてしないよ」

カヲル「ヒトの常識で物事を判断してはないけない。キミはヒトとは別の使徒の力を行使しようとしているのだから」

シンジ「なんだか、超能力者みたいだね」

カヲル「……そうだね、こう考えたらいい。今ある身体能力に余分な要素が増えただけと」

シンジ「使い方は?」

カヲル「最初に言ったはずだよ。簡単だって。キミは呼吸にする時、念じて息をするのかい? 試しに、僕が目の前にある扉の施錠を解除してあげるよ」チラ

シンジ「……⁉︎ す、すごい。目配せだけで?」

カヲル「キミの手に感じる違和感が証拠になる。受け入れていないんだ。身体の一部として」

シンジ「つまり、綾波が言ってた、僕と同化が進めば可能になるって……」

カヲル「そのままの意味ってことさ」
310 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/30(水) 15:43:07.93 ID:r21iIkAN0
【ネルフ本部 執務室】

ユイ「いらっしゃい。ラクにしていいわよ」

アスカ「……」

ユイ「嫌われたものね。苦手? 私が」

アスカ「なんの為にここに呼んだんですか?」

ユイ「キョウコに関することを質問されたのがそんなにイヤだったのね。信じてほしいんだけど、私は、キョウコの友人だった」

アスカ「白々しい。そうやって涼しい顔して平気で嘘を並べ立てる大人ばっかりじゃない」

ユイ「あなたは、はやく大人になりたいんじゃないの?」

アスカ「私は、自分でなんでもできるようになりたいってだけ。それが大人だっていうのならそう。その為に貪欲に色んな経験をしたいの」

ユイ「向上心を持っていて素晴らしいわ。野心もあるのかしら。だとすれば、それはなに?」

アスカ「質問が命令じゃないなら拒否する」

ユイ「駆け引きができるのね、頭がいい。さすが、幼少時代から英才教育を受けてきたエリート。キョウコが存命ならさぞ喜んだでしょう」

アスカ「そんなの当たり前――」

ユイ「だけど、叱られるわよ。今のあなた」

アスカ「……!」

ユイ「もっと自分の為に生きなさい! 私に褒められるだけが人生じゃないのよ! ってね」

アスカ「あんたなんかに……っ! ママのなにがわかるっていうのよ!」

ユイ「これ、見てくれない?」ペラ

アスカ「……? こ、これって……!」

ユイ「そう。キョウコと撮った写真なのよ。私たち、いい笑顔してるでしょ?」

アスカ「ほんとに仲よかったの⁉︎」

ユイ「もちろんよ。研究してる分野は違ったけど、よく昼食を一緒に食べたり、遊びに行ったりしてた。訃報を聞いて、残念に思ったわ……」

アスカ「ママ……」クシャ

ユイ「あなたは、早くに母親を亡くして、孤独で辛い想いをしてきたことでしょう。父親の再婚相手に馴染めずに、不信感を抱いたまま成長してきた」

アスカ「……」

ユイ「これからは私が面倒を見るわ。ネルフにいる間はね、それが亡き親友にできる、精一杯のことだから」

アスカ「ママを、頭がおかしくなったって思ってないの……?」

ユイ「以前に言ったけど、今なら信じてもらえる? 私はキョウコの頭がおかしいなんて思ったことはない。彼女は、聡明で、賢い女性よ」ニコ

アスカ「あ……」

冬月「ユイ君、誰も通すなと言っていたようだが――……なんだ。セカンドチルドレンがいたのか」

ユイ「副司令。どうなされました?」

冬月「戦自について調べが進んだのでね、後でよかろう」

ユイ「かまいません。このまま報告を」

冬月「しかし」

ユイ「いいんです。大切な子なんですから」

アスカ「た、大切な……?」

ユイ「ええ。息子よりとっても優秀な、エヴァのパイロットなんですもの。違う?」

アスカ「いや、その、違わない、けど……」

冬月「……戦自から潜りこんでいるネズミの件だ。霧島マヤだよ」

アスカ「え……?」
311 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/30(水) 15:46:58.10 ID:r21iIkAN0
霧島マナのミス
312 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/30(水) 16:05:00.82 ID:r21iIkAN0
ユイ「やはりこちらの予想通り内部工作が目的で?」

冬月「そう考えて問題なかろう。わざわざ潜伏させるにあたり、具体的な指示は不明だがネルフに対する調査か、あるいは破壊工作だと見て間違いあるまいな」

アスカ「そんな……うそでしょ……?」

ユイ「どうしたの? 驚いてるみたいだけど、知り合い?」

アスカ「クラスメート……」

ユイ「あら、初耳ね。副司令、たしかですか?」

冬月「ああ。資料によると彼女の在籍している学年は2-A。奇しくもチルドレン達と同じ教室だ」

ユイ「困ったわね。警告をだした方がいいかしら……」

冬月「目的がわからない以上、こちらが下手に動くわけにもいくまいよ」

ユイ「そうですね。アスカって、呼んでもいい?」

アスカ「え? ……はい」

ユイ「このことはサードチルドレンにもファーストチルドレンにも秘密にしておいてほしいの。時がくれば、通達できると思うから」

アスカ「シンジにも? だって、自分の息子でしょ?」

ユイ「あの子、すこしだらしないから。アスカの方が信頼できるわ」

アスカ「私を、信じてくれるの?」

冬月「……」

ユイ「だからこその“お願い”よ。強制はしない。だって、あなたはそんなことする子じゃないって思ってるから」

冬月「もしの場合の責任はどうするつもりだね」

ユイ「私が全て負います」

冬月「まだキミたちは知り合って間もないだろう。セカンドチルドレンを買いかぶりすぎではないか。こんなじゃじゃ馬ムスメを」

アスカ「なっ……!」

ユイ「副司令。発言が過ぎています。他言はありませんよ。それと、また同じような暴言をすれば、罰を与えます」

アスカ「……あ、あの……」

ユイ「アスカ、この後の予定はある?」

アスカ「いえ、帰るだけですけど」

ユイ「それじゃぁ、一緒にご飯を食べない? おいしい店があるのよ」

アスカ「えぇと」チラ

冬月「ふん、好きにしろ」

ユイ「すこし、表で待っててくれる? 小言を聞かなきゃいけないから」

アスカ「はい、わかりました」
313 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/30(水) 16:45:47.26 ID:r21iIkAN0
冬月「――見えすいた三文芝居をさせおって」

ユイ「なかなかいい演技でしたよ」

冬月「さしづめ私がムチでキミがアメといった役割か。事前に渡されたメモがなければ意図するところが理解できなかったよ」

ユイ「すこしずつ警戒心を和らげていけばよいのです。利用できるのですから」

冬月「それで? セカンドチルドレンに霧島マナを監視するよう言うのか?」

ユイ「そんな要求をすれば、“対価のためにとりいっている”という印象をいだくでしょう。ですので、そのままです」

冬月「なにも言わないのかね?」

ユイ「ネズミの情報をチラつかせ、彼女を実力で正当評価していると思わせる。たったこれだけで、報告をしてほしいなんて言わずとも、セカンドチルドレンから進んでするようになります」

冬月「親代わりになり信頼を得るか。よかろう」

ユイ「ご一緒にいかがです?」

冬月「遠慮しておく。私は子守りは苦手だよ」

ユイ「葛城一尉宅に仕掛けておくようお願いした爆弾の件は?」

冬月「既に完了してある。マンションを倒壊させるほどの爆薬だ。在宅していれば確実に息の根を止められるだろう。ネズミもろともな」

ユイ「では、そちらも手筈通り、赤木博士に起爆スイッチを渡しておいてください」

冬月「承知した」
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/08/30(水) 17:28:39.65 ID:eLapNNPpo
(怖い)
315 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/30(水) 17:32:42.12 ID:r21iIkAN0
【ネルフ本部 独居房】

シンジ「ここに、住んでるの?」

カヲル「借り暮らしさ、ボクの還るべき場所はここじゃない」

シンジ「でも、住むような場所じゃ……」

カヲル「キミだって似た環境で過ごしていたんじゃないのかい? 父親の、他人のぬくもりを知らずに」

シンジ「人並みに住める家だったよ。それに、不自由はしなかったから」

カヲル「……」スッ

シンジ「な、なに? いきなり肩に手をおいて。なにかついてた?」

カヲル「実験だよ。やはり、人との接触を極端に警戒する傾向にあるね」

シンジ「誰だって、初対面相手だとこうじゃないかな」

カヲル「ヒトは、なにか行動する際に理由を求める。ただ手をおきたかったことだって立派な理由のひとつじゃないのかい?」

シンジ「それは、時と場合によるよ。いきなりそんな……」

カヲル「常識……それとも、不安? それぞれが独立した個であるヒトゆえに次の行動を予測できない」

シンジ「良い気持ちはしない、それだって立派な理由じゃないか」

カヲル「そうだね。だけど、そこに起因するのは心の壁に階層があるからだろう?」

シンジ「……」

カヲル「忘れていた。自己紹介がまだだったね。ボクは渚カヲル。もっとも、名前なんてものは何者か知覚てできるボクたちにとって無価値に等しいけど」

シンジ「僕は、シンジ。碇シンジ」

カヲル「改めまして、よろしく。ボクはフォースチルドレンだよ」

シンジ「え? エヴァは?」

カヲル「近々、三号機が新たに配備される。そのパイロット」

シンジ「キミが……。渚、くん」

カヲル「カヲルでいいよ。シンジくん」

シンジ「やっぱり、その、カヲルくんも母さんの味方なの?」

カヲル「どうして?」

シンジ「ネルフの総司令官は母さんだから。父さんの時は綾波。母さんの時はカヲルくんなんじゃないのかなって」

カヲル「なるほど。でも、前例とまったく同じってわけじゃない」

シンジ「違うの?」

カヲル「純粋だね、キミは。他人の言う意見を間に受けすぎだよ」

シンジ「……」

カヲル「しかし、だからこそキミの無垢な魂は崇高な存在になりえるのかもしれない」

シンジ「教えてほしいんだ。母さんがなにを考えているのか」

カヲル「ボクはただの駒。裏で操作している本人か、委員会の連中に聞くといい。キミがこのまま同化していけば、むしろあちらからすり寄ってくるだろうからね」

シンジ「委員会……。また僕の知らない名前だ」

カヲル「ひとつ教えておいてあげるよ」

シンジ「……?」

カヲル「碇博士はキミにふさわしい相手を見つけるつもりのようだ」

シンジ「ふさわしい、相手?」

カヲル「ボクが言えるのはそれだけ。……そろそろ行かなきゃいけない場所があるから。また会えるといいね、シンジくん」
316 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/08/31(木) 21:48:39.51 ID:v7KgEaxY0
【第三新東京都市 レストラン】

ウェイター「ご予約名は?」

ユイ「碇です」

ウェイター「お待ちしておりました、碇様。ご案内します」

ユイ「いきましょうか」コツコツ

アスカ「……」スタスタ

ウェイター「こちらのお席になります」スッ

ユイ「ありがとう」

アスカ「シンジは?」

ユイ「あら。どうしてシンジが一緒だと思うの?」

アスカ「だって、息子だし」

ユイ「自分の子供だからという理由で特別扱いしないわよ。あなたがここにいる理由だってキョウコの娘だからというわけじゃない。どうしてかわかる?」

アスカ「……」

ユイ「私は、あなたに期待しているの。副司令は過大評価だと言うけれど……きっと、今よりもっともっと成長できると信じてる。その点においては、彼女の子供だからという甘めの基準になってるかもね?」

アスカ「シンジだって、親が優秀という話なら一緒だわ」

ユイ「私を褒めてくれるの?」

アスカ「そうじゃない……です。経歴だけを見たら、そう思うから」

ユイ「たしかにね。私と夫は、積み重ねてきたモノがある。でも、息子はこれまでなんの努力もしてこなかった。ただ、まわりに合わせるように流されて生きてきただけ」

アスカ「……」

ユイ「あなたは違うわ。才能だけで辿り着けない域にまで己を高めてきた」

アスカ「……」

ユイ「ふふっ、さ、なにを食べたい? ここね、ドイツ料理が美味しいと評判のお店なの。日本人に合った味付けをしているから、郷土料理までいかないと思うけど」

アスカ「あの、ママの話を、聞かせて」

ユイ「ゆっくりね? まずは注文を済ませましょ。時間はあるんだから――」
317 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/31(木) 22:12:43.51 ID:v7KgEaxY0
【マヤ宅 リビング】

シンジ「(アダムを僕の一部だと受け入れる……)」もぐもぐ

マヤ「あの、今日は味付け上手にできてると思うんだけど……」

シンジ「え? えぇと」

マヤ「おいしくなかった⁉︎」ぱくっ もぐもぐ

シンジ「あ、いや。そんなつもりは。すいません、少し考えごとしてて味を――」

マヤ「ああ! やっぱり少ししょっぱい……! ちゃんと味見して確認したのに。どうして……」

シンジ「あの?」

マヤ「こんなんじゃダメ! やっぱり、先輩が私の問題点を改善する必要があると言ったのはその通りだったんだわ!」

シンジ「マヤさん?」

マヤ「ごめんね! シンジくん!」ガタッ

シンジ「は、はぁ?」

マヤ「私、変わらなきゃ! シンジくんは中学生、シンジくんは子供、シンジくんは良い子、シンジくんは不潔じゃない……」ぶつぶつ

シンジ「おいしいですよ。これ。そんなに気にするほどじゃ……」

マヤ「馬鹿にしないでっ!」バンッ

シンジ「……!」

マヤ「あ……ち、違うの。その、子供に気を使ってもらうと、私のちっぽけなプライドが……」

シンジ「……僕は、マヤさんにお世話になってる身ですし、馬鹿になんてしてません。それだけわかってもらえれば」

マヤ「うぅ……ごめんね?」

シンジ「謝らないでいいですよ。僕もいつも他人謝ってばかりだから、なんだか自分を見てるような気がします」

マヤ「私って中学生と一緒なの……」

シンジ「他意はないんです。僕は、こう思ってるって普段あんまり主張しないから。自分でもわかってるんです。だけど、自分じゃどうしようもできない」

マヤ「……」

シンジ「抜けだすのって難しいんですよね。同じ経験をしてると勝手に僕が思ってるから言っただけで」

マヤ「どうしたら、いいのかな」

シンジ「マヤさんは仕事ができるし、そんなに悩むことないと思います」

マヤ「でも、私には仕事しか……」

シンジ「(やっぱり、エヴァしかないって思ってる僕と同じだ)」

マヤ「仕事をしてれば、自分を誤魔化すことで見ないふりができる。だけど、それだけじゃ先輩に見捨てられちゃう……」
318 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/31(木) 22:35:44.21 ID:v7KgEaxY0
シンジ「それぞれペースってあるんだと思います。ゆっくりでいいんじゃないですか?」

マヤ「そうかな」

シンジ「僕も、変わろうと決めたところなんです。なかなかうまくいってません」

マヤ「シンジくんも……?」

シンジ「はい。決意表明みたいに宣言する必要はないんじゃないかって。毎日少しずつ変われたらそれで」

マヤ「そっか……。なんだか、少し似てるのかもしれないわね、私たち」

シンジ「そうですね。僕もマヤさんも縋るものの違いだけで、コンプレックスを抱えてるんじゃないでしょうか」

マヤ「私は、異性への対人関係だけど、シンジくんは?」

シンジ「僕は、エヴァしかないってずっと思ってました。パイロットでいれば、みんなが褒めて、一員だと認めてくれる。なぜ乗れるかすらわからないままなのに」

マヤ「あ……そう思ってたんだ」

シンジ「でも、言葉って大事ですよね。行動も。言わなきゃ伝わらないし、動かなきゃ結果はついてこない」

マヤ「……」

シンジ「こわかったんです。悪い結果になるのが」

マヤ「うん、うん、わかる」

シンジ「だから、マヤさんだって――」

マヤ「シンジくんっ!!」ギュウ

シンジ「は、はい……?」

マヤ「一緒に頑張りましょう! 私、シンジくんが子供だと誤解してた!」

シンジ「あ、はぁ」

マヤ「こうなったら年齢は関係ないわ! ううん、そうよ。ただ歳を重ねてたってなにも経験しなければ子供と同じ……」

シンジ「あの、手が痛い……」

マヤ「シンジくんも私も! 絶対に変わりましょう! ねっ!」

シンジ「はぁ……」

マヤ「よーしっ! そうと決まればカリキュラムを作らなくちゃ!」

シンジ「あの、もう食べないんですか?」

マヤ「ラップしといてくれる?」ドタドタ

シンジ「かまいませんけど、どこに?」

マヤ「効率的に変わる計画を立てるの。お互いにね。私だって、先輩に見初められてネルフに入れたんですもの。……私にできる武器……お姉さんが見せてあげる!」

シンジ「……?」

マヤ「お、お姉さんだなんて自分で言っちゃった」

シンジ「(照れるなら言わなきゃいいのになぁ)」
319 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/08/31(木) 23:04:26.37 ID:v7KgEaxY0
【数時間後 風呂】

シンジ「(見た目が気持ち悪い……体内に戻るよう念じれば普通の手と変わらないけど)」ごしごし

アダム「……」ドクンドクン

シンジ「(脈打って生きてるのがわかる。キミはなんの為に生まれてきたの?)」

マヤ「できた!」ガチャッ

シンジ「わ、わぁっ⁉︎」

マヤ「これね、今後の改善点をいくつか考えてみたんだけど――」

シンジ「……あ……あ……」

マヤ「――……へ? あ、ちょ」

シンジ「お風呂ですよ!ここ!」

マヤ「きゃ、きゃあああっ! なんか、なんかついてる!」

シンジ「ど、どこ見てるんですかっ!」

マヤ「見たくて見てるわけじゃ!」

シンジ「泡流して、湯船に……!」キュッキュッ

マヤ「ちょっと! 扉あけたたまま!」

シンジ「へ?」ザーッ

マヤ「わっ、きゃ」

シンジ「し、閉めてくださいよっ!」

マヤ「やだ、こっち向かないでよ!」ポイ ポイ

シンジ「いた、いつっ、なんなんですかもうっ!」

マヤ「汚いもの見せないで!」ブンッ

シンジ「そうだ、僕が閉めれば……! いたっ」カポーン ゴチン

マヤ「え……?」

シンジ「」

マヤ「すごい音……ってやだ。丸見え……そんな場合じゃないのに。うう、不潔」

シンジ「」

マヤ「あの? 大丈夫?」ツン ツン

シンジ「……」ムクッ

マヤ「あ、よかった。大丈夫なのね、すぐ閉めるから」

シンジ「……」スッ

マヤ「え、手、なにそれ――」
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 01:20:02.76 ID:iChoc6/ko
おお、導入が丁寧になったな
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 02:40:56.29 ID:WjNVKN11o
期待
322 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/09/01(金) 03:28:55.47 ID:dd98dZqR0
【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「夢は、性欲に対する願望の表れであると提唱したフロイト……これは、ナンセンスね」カタカタ

加持「遅くまで忙しそうだな。調べものかい?」

リツコ「ノックが聞こえなかったわよ?」

加持「この研究室に必要なのはコレ。……カードキーさ。分厚い金属で隔てられてちゃ、音が届くとは思えない」

リツコ「あいかわらず、へらず口ばっかり」

加持「いつかに言ったかもしれないが、俺の持ち味なんでね。……脳? 調べてたのは、シンジくんの件かい?」

リツコ「正確には、“タブリスがなにをしたのか”よ」

加持「……」

リツコ「加持くんはどう思う?」

加持「さてね、思惑になんて興味ないさ。第壱使徒の名を冠していても所詮、やつはただの駒だろうからな」

リツコ「黒幕にだけ?」

加持「もっと厳密に言えば“真実により近しいやつ”かな」

リツコ「急がば回れ……。全てを知りえた時にあなたの命はあるのかしらね」

加持「そうなったらその時考えりゃいい」

リツコ「ミサト、泣くわよ」

加持「晴れない雨なんてありはしないさ。俺は俺の思うままに……。葛城は女の幸せを自分で掴みとるだろうよ」

リツコ「薄情ね」

加持「――……どれ、タブリスが昏睡状態にあるシンジくんを覚醒させた方法を聞かせてもらえないか?」

リツコ「知らなかったの?」

加持「その場にいなかったからな、俺は。資料は読んでいるが、リッちゃんの口から説明願いたいね」

リツコ「おそらく、なんらかの方法でシンジくんの深層心理にダイブしたんだと思うわ」

加持「鈴原トウジの妹、サクラ……だったか。彼女を使ったのは?」

リツコ「家族、友人の純粋な気持ちが患者本人の情熱を呼び起こす。シンジくんを引っ張りあげるために利用したと推察できる」

加持「過去に同じ例が?」

リツコ「脳に関わる臨床ではたびたび、医学的根拠や客観的な診断くつがえす。つまり、驚異的な回復をうながすケースがなくはないのよ」

加持「……それで、シンジくんのなにを?」

リツコ「“夢を覚えているのか、いないのか”」

加持「覚えていたとしてなにか問題でも?」

リツコ「覚えているとすれば、なにを見たの?」

加持「そこで、タブリスがなにをしたかに集約するわけか」

リツコ「正攻法での追求は不可能ね。自白剤の投与を検討してみようかしら」

加持「使徒相手に人間の薬品が効くと思えないがね」

リツコ「理論だけで試さず結論付けていたら、科学者なんて置物と一緒だわ」
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 14:40:06.11 ID:CtThqPp+O
おもしれーわこれ
324 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/09/01(金) 21:15:27.18 ID:dd98dZqR0
【ミサト宅 リビング】

アスカ「ただいま」カチャ

ミサト「今日は遅かったのね〜。夕ご飯先に食べちゃった……元気ないみたいだけど、どしたの?」

アスカ「別に」

ミサト「アスカは夕ご飯は? クラスメイトの……誰だったか、えぇと、ヒカリちゃんっだっけ? あの子の家に言ってたの?」

アスカ「誰だっていいでしょ、ミサトは保護者じゃないんだから」

ミサト「あらぁ〜、今は私が保護者代理よ?」

アスカ「だとしても、プライベートはほしい。全部報告する義務あんの?」

ミサト「うーん、ないかな」カシュ

アスカ「あっそ、だったら部屋に……」

ミサト「アスカ、私ね、一緒に暮らすのがいつまでかわからないけど……。住んでる間は、本当の家族のように接してるつもり」

アスカ「……」

ミサト「代理は仕事だけど、私情もはいってる。それは認める」

アスカ「それを聞いて、私にどうしてほしいの?」

ミサト「なにかしてほしい、なんてないわ。ただ、私の気持ちを伝えただけ」

アスカ「……」

ミサト「なにかあったら、言いなさい。相談ぐらいなら乗れるから。……以上! 後でちゃあ〜んとお風呂はいりなさいよん?」

アスカ「……ミサト……」

ミサト「ん?」グビ

アスカ「今日、碇司令とご飯、食べてきた」

ミサト「え、司令と?」

アスカ「ママの、友達だったみたい。ミサトも、知ってるでしょ。私の資料読んで……ママのこと」

ミサト「……」コト

アスカ「同じ研究員同士だったみたいで、色々、話聞いてきた」

ミサト「そう……。どうだった?」

アスカ「ふぅ……私が知らないママの顔、たくさん知ってるのね、あの人。本当のこと言っているかわからないけど」

ミサト「司令がアスカにウソをつく意味があるとは思えないけど」

アスカ「わかってる。証拠があるわけじゃ……でも、なんか嘘くさい」

ミサト「……?」

アスカ「表情が、言葉が、全部が。作り笑いしてるけど、目の奥は笑ってない感じ」

ミサト「……」

アスカ「ミサトは、司令をどう思ってるの?」

ミサト「そうねぇ、考えてみればまだあまり話たことすらないかな?」

アスカ「作戦司令なのに?」

ミサト「肝心の使徒が来てないんですもの。ブリーフィングが行われるでもないし、相手はネルフの最高責任者よ? 私なんかがやすやすとお目にかかれる相手じゃないわ。前司令の頃からね」

アスカ「……」

ミサト「これだけは言っておくわ。大人はね、簡単に本心をさらけ出さないものよ」

アスカ「……」

ミサト「ずる賢くなっちゃうのよね、生きてく上で。効率的ってわけじゃなく、他人を、時には自分を欺く術を身につけるの」

アスカ「知ってるわよ、そんな大人、たくさん見てきた」

ミサト「アスカは、シンジくんやレイとはまた違う環境で育ってきているから、見えている景色が違うのよね。お母さんのこと、知りたかったの?」

アスカ「うん」
325 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/01(金) 22:16:12.45 ID:dd98dZqR0
ミサト「警戒するのは、無理ないのかもしれない」

アスカ「……」

ミサト「アスカのこれまでの経験から、私たち大人に対して、なにを信じていいかわからないのよね?」

アスカ「違う。あたしは、チャンスだと思った」

ミサト「……」

アスカ「今日、食事についていったのは、ママのことを知るのに現実的な手段だったから」

ミサト「……」

アスカ「ママの死後、エヴァパイロットとして英才教育を受けて……。死にものぐるいで頑張ってきた。ママの子供はこんなにも優秀だって、狂った親なんかじゃないって、証明するため」

ミサト「……」

アスカ「褒めてほしかった人はもういないのに。だから、あたしはママに認められるように、周囲を黙らせるように。……結果を求めて、代わりのいない、エースだっていう絶対的地位がほしい」

ミサト「大切なものは、今のあなたなのよ」

アスカ「でも! それは私のなりたい自分とイコールじゃないっ!」バンッ

ミサト「……」

アスカ「あたしだって……! 普通に、そこらにいるバカなやつらのようにのほほんと生活してみたくないわけじゃないわよ……っ!」

ミサト「キリがなくなってしまう。壊れてしまうわよ」

アスカ「加持さんに聞いても教えてくれない! どうしたらいいか、わからないのよっ! 自分自身が嫌! なにもかも嫌っ!!」

ミサト「私の父はね、研究に生きる人だった。アスカとは追い求めるモノが違う。嫌いだったの、私」

アスカ「……」

ミサト「家庭をかえりみず研究する父に、母さんは、いつも冷めた夕飯を前にして泣いてた……」

アスカ「……」

ミサト「死んじまえ、クソ親父って、そう思ってた。……だけど、ある日、父がめずらしく私に言ってきたの。社会勉強だ、研究に同行しなさいって」

アスカ「……」

ミサト「勝手よね、今までほったらかしだったのに。嬉しさより戸惑いの方が強かったのは……印象に強く残ってる」

アスカ「……」

ミサト「場所は南極だった。そう、セカンドインパクトの爆心地」

アスカ「……」

ミサト「あんなに嫌いだったはずなのに、最後にあたしを庇って死んだの。この、ペンダントを残して――」チャラ

アスカ「形見なの?」

ミサト「ええ。今でも、その時の傷痕が身体に残ってる。……でも、もっと根深い見えないモノが私の中で、毎日疼くのよ」

アスカ「……」

ミサト「私たち、生きてかなきゃいけない。アスカのママ、そして、私の父。残された者は、大切な人たちの証を色褪せさせちゃいけないわ」

アスカ「……」

ミサト「悩んだっていいじゃない。ギリギリかもしれないけど、女は強いんだから」
326 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/01(金) 22:53:53.64 ID:dd98dZqR0
【ネルフ本部 初号機ケイジ】

レイ「……」チラ

カヲル「アダムより生まれしエヴァシリーズ。おっと、この初号機とキミの乗る零号機は違ったかな」

レイ「あなた、なにしに来たの?」

カヲル「シンジくんにご執心なようだけど、キミの目的はサードインパクトを起こすことなんだろう? 碇博士や委員会と違う形で」

レイ「……」

カヲル「彼を崇高な存在にまで高める。それには、試練が必要だ。魂の浄化がされないからね」

レイ「碇くんは、もうただのヒトではないわ」

カヲル「揺れている、と言ったらわかるかな。僕たちの側に立つか、ヒトの側に立つか」

レイ(少女)「その為に“私達”がいる」

カヲル「全ての使徒、第十七使徒である人類も含めて、シンジくんを頂点にするつもりなのか」

レイ「あなたは、わかってない」

カヲル「……」

レイ(少女)「損得じゃないの。彼の純粋な想いは、種の壁を顧みない」

カヲル「どういう……?」

レイ「あなたに、碇くんは特別な対応をした?」

カヲル「いや」

レイ「私達が違うと知っていても尚、利用しようとしない。思惑がない。あるのは、他のヒトに対する恐怖。他人への畏怖」

カヲル「臆病なだけでは?」

レイ(少女)「そう、あの子はあなたの言う通り、臆病でどちらにも傾く。可能性の塊」

レイ「だから、ひとつになる」

レイ(少女)「純粋にだってなれる」

カヲル「……! この共鳴は――」

レイ「また、アダムの侵食が進んだのね」
327 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/01(金) 23:04:31.92 ID:dd98dZqR0
【再びマヤ宅 脱衣所】

マヤ「か、かは……っ!」

シンジ「……」グググッ

マヤ「し、シンジ……く、ん……はなし……てっ……息が……」

シンジ「くっ、クックックッ」ニヤァ

マヤ「うっ……ぐっ……」

シンジ「……!」ググッ

マヤ「(すごい力、ふりほどけない……! シンジくんの、目が赤く……この瞳、どこかで、レイと同じ……? 意識が……とお、く……)」

シンジ「壊す、壊すんだ。最優先で僕のしたい願望。マヤさん、マヤさんは壊れる時、どんな悲鳴をあげるの?」スッ

マヤ「えほっ! けほっ!」

シンジ「手は離してあげたよ。ゆっくり息をするんだ。吸って、吐いて……」

マヤ「すぅー、げほっ、ごほっ」

シンジ「ああ、器官が伸縮しているんだね。首に僕の手形がついちゃってる」

マヤ「な、なに……? どうしちゃったのよ、シンジくん」

シンジ「わからないんだ。目が覚めたら頭が妙にスッキリしてて。遠くの水滴でさえ、聞こえてる」

マヤ「……?」

シンジ「僕が僕じゃないみたいな感覚なんだ。そうか、これが、抑えられなくなった時なんだね、綾波」

マヤ「シ、シンジくん……? あなた、変よ……」

シンジ「マヤさんに物を投げられた拍子に頭を打って朦朧としたのが原因か、それとも単なる偶然なのか、僕にはわからない。だけど――」

マヤ「ひっ! こ、こないで」

シンジ「衝動を沈めたいんだ、違う、誰かにぶつけたい。なにかに向けることで発散したい」

マヤ「手にあるのは、なんなの……? なんなのよ、それぇっ!」

シンジ「――ごめんなさい、マヤさん」ガシッ

マヤ「いたっ!」

シンジ「ぐっ! 逃げて……」スッ

マヤ「え? ……へ?」

シンジ「はやくっ!! ここから出てってください!」

マヤ「どうなってるの?」

シンジ「くっ、僕が出ていけば……!」ヨロヨロ

マヤ「ねぇっ! どうしちゃったのよ! そ、そうだ! 本部に連絡――」

シンジ「余計なことをして僕を刺激しないでくださいよっ!」バンッ

マヤ「あうっ!」ドンッ ドサ

シンジ「……はぁ……はぁっ……」

マヤ「」

シンジ「だめだ、だめだ、だめだ、手を出しちゃだめだ……! 今すぐに、出ていかないと……!」
328 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/01(金) 23:34:15.45 ID:dd98dZqR0
【ネルフ本部 執務室】

諜報部「ご報告です。伊吹一尉宅より、サードチルドレンが――」ザザッ ザザー

冬月「電波障害か。アダムが本格的に活動を開始するまで時間はかからなかったな」

ユイ「想定の範囲内です。それにしてもシンジったら。破壊衝動を抑える為に女を犯すなり、壊してしまえばいいのに」

冬月「こうなると予見して末端の職員の所に住まわせたのかね」

ユイ「保険ですよ、いつも通り」

冬月「……だが、万一そうなった場合、サードチルドレンの性格からして面倒にならないか」

ユイ「罪の意識――。人は生まれながらにして原罪に抗えません。綺麗になるには、汚れていると自覚させるのが始まりです」

冬月「……」

ユイ「シンジが誰かを壊すまで、もう少しですよ。先生」

冬月「碇がマシに見えてくる。歪んでいるよ」

ユイ「心外ですね。夫は私の為、私はシンジの為を想いやっているのです。誰か一人が不幸になっても、それは必要な犠牲ですわ」

冬月「今はまだ、ことの成り行きを見守るしかできんか」

ユイ「(もうすぐ、もうすぐアダムとあなたは完全にひとつになる。汚れる覚悟を決めなさい、シンジ)」

冬月「伊吹一尉の今後はどうする?」

ユイ「一週間の休暇を与えましょう、その間、今日の記憶を消すように手はずを整えます」

冬月「記憶を操作するのは容易ではないぞ」

ユイ「結果、消えていれば問題ないのです。脅迫、拷問。物理的になろうと手段は問いません」

冬月「サードチルドレンがこのことを知ったら憎まれるのではないか?」

ユイ「そんな役ぐらい。なんだっていうんです?」

冬月「承知した。この電波障害がおさまり次第、諜報部を彼女の家に派遣させる」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 23:54:51.61 ID:jJiSHwy7o
C
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/02(土) 00:51:45.77 ID:E8WGmvgZO
外道や
331 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/09/02(土) 23:25:05.82 ID:hPZpEBXJ0
【第三新東京都市 公園】

シンジ「ふぅ……」

レイ「……」

シンジ「綾波? どうしてここが――」

レイ「シグナルと同じ。私達使徒は、特殊な電波を発信してる。ヒトはそれを解析しパターン青などと呼んでるわ」

シンジ「そっか……。僕も、普通のヒトじゃなくなったんだね」

レイ「波に襲われた時、そばにいた人を壊したくなったはず」

シンジ「前に綾波がそうなった時に言ってって言ってたのは――」

レイ「私なら、代わりがいるもの」

シンジ「そんな……」

レイ「……」

シンジ「綾波は、死んだらどうなるの?」

レイ「次の私にかわるだけ。私は容れ物。碇くんのように魂の融合はできない。元となるモノが空っぽだから」

シンジ「できるわけないよ……」

レイ「……? どうして?」

シンジ「だって、綾波だって生きてるじゃないかっ! 僕にとって綾波は、変わらない人間で」

レイ「あなたは私が他と違うと知ったのよ」

シンジ「だからなんだっていうんだ……。今喋ってるじゃないか! それなのに、人形みたいに扱えるわけないよっ!!」

レイ「衝動は、いずれ抑えが効かなくなるわ。それは碇くんの意識ではどうしようもない」

シンジ「……!」

レイ「アダムに飲み込まれないように私がいる。安心して、あなたは壊れないわ。私が守るもの」

シンジ「次の綾波に変わったら、記憶はどうなるの? 引き継げるの?」

レイ(少女)「わからない」

シンジ「君は、もう一人の綾波だね、夢にいた」

レイ(少女)「私は、前の私。本来ならば、存在しない私。その私でも、どうなるか未知の部分はある」

シンジ「綾波達が僕に見せたって、今までの記憶?」

レイ「ひとつは、私達が持ちうる全ての知識。碇くんの父親、碇司令のすぐそばで見てきた事柄。それを伝えた」

レイ(少女)「もうひとつは、私達の魂であるリリスの真実。ゼーレが発動せんとする補完計画の狙い」

シンジ「ゼーレって」

レイ「人類補完計画委員会の主要組織。ネルフを実行機関とし、各国政府を統率する権力者たち」

シンジ「委員会は、その人たちのことだったのか」

レイ(少女)「いずれ、委員会は碇博士の狙いに気がつく。その時、あなたの中にあるアダムを奪還しようとする」

レイ「しかし、アダムは碇くんの魂レベルにまで癒着し融合され、手は出せないはず。それが碇ユイ博士の狙い。あなたをトリガーの中心に見据えて固定すること」

レイ(少女)「碇くんがいなければ補完計画は発動できなくなる」

シンジ「もともとは、補完計画はどうやって発動するつもりだったの?」

レイ「初号機を依り代にして、量産機を利用する予定。つまり、あなたは直接的には必要じゃない。“初号機パイロット”が必要なだけ」

レイ(少女)「どの道、初号機を動かせるには碇くんだけだったけど。碇くんがダメになった場合を想定してのダミー計画だった」

レイ「でも、ダミーそのものに意味はなくなる。あなたがスペアのない唯一無二の“鍵”になる」
332 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/03(日) 00:08:09.93 ID:zirDl0S50
シンジ「それじゃあ、補完計画を発動するとき、初号機と量産機は無人機の予定だったってこと?」

レイ「量産機はそうだけど、初号機に関してはどらちでもよかったが正解。オリジナルのコピーである初号機さえ在ればよかった」

レイ(少女)「碇ユイ博士は他にもなにかやろうとしている。それは私達にはわからない」

シンジ「……」

レイ「衝動はおさまった?」

シンジ「うん、今は、なんとか」

レイ「そう。これから融合が進むにつれ、もっと頻度は多くなり、間隔は短くなる。あなたは、選ばなければならない」

シンジ「また、またなのか。僕が選ぶことのできない選択肢ばかりに振り回されて……」

レイ「最後の防波堤に私達がいる。忘れないで」

レイ(少女)「なにも気にしなくていい」

シンジ「だから、そうじゃないって――」

レイ「伊吹一尉を助ける?」

シンジ「え?」

レイ(少女)「諜報部員を乗せた車が今、気を失ってる彼女の元に向かってる」

シンジ「そんな、どうして」

レイ「おそらく、碇ユイ博士の指示によるもの。碇くんの手にあるアダムを見られたから」

シンジ「どうやって、それを……母さんは僕を監視してたの?」

レイ「……」コクリ

シンジ「綾波は?」

レイ(少女)「助けるのなら急がなければならない。私はまだ手をだせない。碇くんの力で」

シンジ「そんなっ! 僕ひとりでどうやるのさ!」

レイ「また、逃げるの?」

シンジ「違うっ! だけど、方法が……!」

レイ(少女)「あなたは殺されることはないわ。今説明した通り、誰より必要だから」

シンジ「……!」

レイ「どうする?」

シンジ「行くよ! 行くに決まってるだろ!」クルッ

レイ「あの、気をつけて」

シンジ「わかった! ありがとう、綾波!」タタタッ

レイ(少女)「まだ、アダムは赤子同然の状態」

レイ「それは碇くんも同じだわ」

レイ(少女)「全ては、碇くんの意思の強さに」
333 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/03(日) 00:34:09.31 ID:zirDl0S50
【マヤ宅 リビング】

諜報部A「運べ、急げよ」

マヤ「……」グタァ

シンジ「はぁっ、はあっ」ガチャ

諜報部A「……!」

シンジ「まって、待ってください!」

諜報部A「ちっ、面倒な」

シンジ「マヤさんをどこに連れて行くんですかっ!」

諜報部A「おい、そのまま連行しろ」

シンジ「待てって言ってるでしょ!!」ダンッ

諜報部B「……」スッ

シンジ「質問に答えてくださいよ!」

諜報部A「存じません。本部からの発令です」

シンジ「やっぱり、母さんから……! 母さんに繋いでください! すぐに命令を撤回――」

諜報部A「仕方ない。手加減してやれ」

諜報部B「了解」ガシ ドカッ

シンジ「うっ!」ドサッ

諜報部B「恨むなよ。俺たちも仕事なんだ」ボソ

シンジ「おぇ……おぇぇっ!」

諜報部A「みぞおちにキレイに決まったな」

諜報部B「このまま伊吹一尉の身柄は本部に」

シンジ「まっ、て」ガシ

諜報部B「……」ピタ

諜報部A「おい、小僧。あんまり俺たちを怒らせるなよ。こっちはプロだぞ。ダメージのみを与え苦しめる方法ならいくらでも知ってる」

シンジ「おねが、いします。母さんに、連絡を」

諜報部B「……」

シンジ「マヤさん、起き、て」

マヤ「……」

諜報部A「ほどほどに痛めつけてやれ」

諜報部B「しかし、外傷が残ってしまっては、司令に」

諜報部A「止むをえん。後から報告するしかあるまい」

シンジ「……!」

諜報部B「相手は、子供ですよ」

諜報部A「そうか、お前はガキが産まれたばかりだったな。どけ、俺がやる」
334 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/03(日) 00:46:00.58 ID:zirDl0S50
諜報部B「……」

シンジ「マヤさん!!」

マヤ「……」ピクッ

諜報部A「躾のなってないやつには接し方ってもんがある、お前はそこで見てろ」グイッ

シンジ「くっ……!」

諜報部A「歯を食いしばらなくていい。顔に傷をつけちゃ今後の生活に支障をきたすだろうからな」ドカッ

シンジ「うがぁ! う、うぷっ……おぇ……」

諜報部B「隊長、もう充分でしょう」

シンジ「だめ、だ」

諜報部A「……」

シンジ「連れて、行かせない!」

諜報部A「みぞおちに二発。呼吸が困難な中で根性は認めてやる。中学生にしちゃあな!」ドカッ

シンジ「うっ!」ドサッ

諜報部B「隊長!」

マヤ「う……うん……」

シンジ「おぇぇっ……!」

マヤ「あれ……? 私……? シンジくん?」

諜報部A「これで、どうだ!」ドカッ

マヤ「……! あなたたち! なにやってるんですか!」

シンジ「ぐう、マヤさん、目がさめ」

諜報部A「目が覚められましたか。本部より貴殿を連行するよう仰せつかっています」

マヤ「私を? どうして、本部にはまだなにも連絡を――」

諜報部A「ご同行願います。手段は問わないとの通達です」

シンジ「逃げて! 逃げてください! 母さんは、マヤさんの口封じをするつもりで……!」

マヤ「な、なに言ってるの?」

シンジ「僕の秘密を見たでしょ! あれは見ちゃいけないものだったんです!」

諜報部A&B「……」

マヤ「どういうことですか? あの、私を連行する理由は? シンジくんの言ってるのは本当に……?」

諜報部B「我々がそれを知る必要はありません。上の命令に従うのみ。あなたもネルフの一員ならご理解いただけるかと」

シンジ「だめだ! ついていっちゃだめです!」

諜報部A「少し黙れ」ドカッ

シンジ「うっ!」

マヤ「ちょっと! 暴力はやめてください!」

シンジ「けほっ、こんなの、エヴァで戦う痛みに比べたら……母さんから、連行した後なにか言われてるんじゃないんですか」

諜報部A「……」
335 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/03(日) 01:02:45.00 ID:zirDl0S50
マヤ「先輩に、赤木博士に連絡させてください」

諜報部A「まったく、本当に面倒になった。おい」

諜報部B「はい。これは仕方ありませんね」ガシッ

マヤ「きゃっ!」

諜報部B「ご静粛に願います。こちらとしても手荒なマネはしたくありませんので」

シンジ「くっ……! このっ! うあああっ」ドカッ

諜報部B「むっ!」

マヤ「し、シンジくん」

シンジ「はやくっ!! 走って逃げて!」

マヤ「……!」タタタッ

諜報部B「この、離せ」

諜報部A「ここまで肝が座ってるなんて思わなかったぜ、なかなか見所があるな。お前」グイッ

シンジ「うっ」

諜報部B「ターゲットが。すみません、自分の失態です」

諜報部A「まだそんなに遠くには行ってないだろう。こんな簡単な任務を失敗したとなっちゃ厳罰ものだ」

諜報部B「応援を呼ばれますか?」

諜報部A「馬鹿野郎。今言ったろ。なに、すぐに解決できる。行き先はわかってるからな」

諜報部B「赤木博士ですか。すぐに連絡をいたします」

シンジ「母さんに……」クタ

諜報部A「ふん、逃がした安堵で気を失いやがった。大方、火事場の馬鹿力ってとこか」

諜報部B「子供だと思っていましたが、やるもんですね」

諜報部A「それに関しちゃ同感だ。お坊ちゃんなりに男を見せやがったな」

諜報部B「サードチルドレンはどうされます?」

諜報部A「このまま布団まで運んでやるか。起きた頃には終わってるよ」
336 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/03(日) 01:32:08.32 ID:zirDl0S50
【ネルフ本部 ラボ】

リツコ「――ええ、了解したわ」カチャリ

マヤ「はぁっ、はあ、せ、せんぱい、よかった、はぁ……はぁ、まだ、残ってて」

リツコ「……」スッ

マヤ「ふぅ、ふぅ、あのっ! シンジくんが――」

リツコ「まずは水を飲みなさい。脳に酸素を送らないと順序立てて説明できないわよ」

マヤ「あ……で、でもそれどころじゃ」

リツコ「シンジくんの手の平にあるものを見たのね?」

マヤ「……!」

リツコ「まさか司令がこういう算段であなたの家にシンジくんを送りこんでいただなんて」

マヤ「せ、先輩? あの、どうして知ってるんですか?」

リツコ「私も知っていたから。知っていて協力していると言えば意味は伝わるでしょう」

マヤ「そ、そんな……」

リツコ「ただし、今回の処置については知らなかったわよ。あなたを生贄にするつもりはなかった」

マヤ「生贄って」

リツコ「皮肉なものね。誰かの為にと思ってやった結果が、苦しめてしまう」

マヤ「どうしてなんですかっ! 私の問題を解決する為だって……」

リツコ「私はもとよりそのつもりだった。でも、司令はそうじゃなかった。それだけよ」

マヤ「シンジくんの手になにがあるかなんて知りません!」

リツコ「……」

マヤ「それでいいでしょう⁉︎」

リツコ「そうね、そうであれば問題ない。でも、あなたに楔を打つ必要がある」

マヤ「……」

リツコ「もし喋れば、あなただけじゃない。血縁関係者全員が死ぬことになるわよ」

マヤ「……! せ、先輩は……」

リツコ「今さら驚いたの? 仕事を一緒にしていても本質がなにも見えていない証拠ね。あなたが抱いていたのは幻想。これが本当の私。残酷?」

マヤ「……」ギリッ

リツコ「これでも恩赦を与えているのよ。諜報部員にあのまま連行されていたら、拷問を受けていたでしょうね。外的ショックで喋ることへの恐怖心を植え付ける」

マヤ「シンジくんは、私を……」

リツコ「彼、頑張ったみたいね。相手が子供だと思って油断していたんでしょうけど」

マヤ「……」

リツコ「マヤの保証人には私がなってあげる。これまでのよしみでね。ただし、これ以上の追求はなし。第三者に喋った場合は言った通りよ」

マヤ「それで、これまで通りってことですか」

リツコ「あなたが望むならね。二十四時間体制で監視がつくけど、荷物をまとめて実家に帰ってもいいわよ。後のことは私がなんとかするわ」

マヤ「……」

リツコ「水、飲んだら?」
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/03(日) 06:06:18.25 ID:AFq0B7L9o
C
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/03(日) 22:22:32.52 ID:WWyBcyXAo
ところで伊吹二尉だったような
339 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/03(日) 23:53:34.44 ID:zirDl0S50
あら?ホントだ
途中からずっと一尉になってますね、手直し不可能なのでこのまま続けます
340 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/03(日) 23:54:40.40 ID:zirDl0S50
不可能ではないか
レスしなおすしか方法ないのでこのまま続けます
341 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/09/04(月) 00:38:09.91 ID:fkwizG0h0
【マヤ宅 シンジ部屋】

シンジ「……う……ここは? 僕、どうして、あ、いっ!」

マヤ「おはよう、お腹、痛む?」

シンジ「いてて……。マヤさん?」

マヤ「まだ、夜中だよ。それと、ごめんなさい」

シンジ「あの後どうなったんですか? それに僕なら平気ですから、謝らなくても――」

マヤ「そうじゃないの。謝りたくないから謝った。謝れなくて、ごめんなさい」

シンジ「……?」

マヤ「どうして……? どうして私が巻き込まれなくちゃいけないの? ねぇ、どうして?」

シンジ「あ……」

マヤ「なぜあなたに助けてもらわなくちゃいけなかったのよ! なにもかもあなたのせいじゃないっ!!」

シンジ「……」

マヤ「優しかった先輩を返して! 私の……日常を……返してよ……」ポロ

シンジ「この手にあるのは」

マヤ「聞きたくないっ!」

シンジ「……」

マヤ「知ってどうしろっていうの⁉︎ これ以上私を巻き込まないで!」

シンジ「すみません、そう、ですよね」

マヤ「今の自分が最低だってわかってる。だから、先に謝ったの」

シンジ「……」

マヤ「ネルフの一員で、私は大人だもの。こんな時、優しい言葉のひとつでもかけてあげなきゃいけないんだろうけど……」

シンジ「……」

マヤ「“なんで私が”って気持ちが強くて。それしか考えられない」

シンジ「わかりました」

マヤ「それで、いいの?」

シンジ「いいんです。慣れてますから」

マヤ「どうして⁉︎ どうして我慢しようとするの⁉︎ おかしいわよ、先輩も、あなたも、ネルフもっ!! 人の命をなんだと思ってるの⁉︎」

シンジ「僕は、少しほっとしてます」

マヤ「え……?」

シンジ「僕のせいで嫌な思いをさせてますけど、こうしてここにいるんですから」

マヤ「そんなの自己満足じゃない。私は望んでなかったのに」

シンジ「すごく、よくわかります。僕もそうなんです。いつも、自分の望む形でいられてない。だけど、今回は違う。僕がマヤさんをそうしてしまった」

マヤ「……そうよ、私は巻き込まれただけで……」

シンジ「すみません、謝ることしかできなくて。僕はなにか力になれますか?」

マヤ「私の知らない先輩に、いつもと種類の違う平坦な表情で言われたわ。シンジくんに関して詮索をやめるように。他に喋ったら血縁者を殺すって」

シンジ「(母さん。……父さんと同じか。目的のためなら手段を選ばないんだね)」

マヤ「私の家は……ううん、これから、ずっと監視の目がつきまとう」
342 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/04(月) 01:00:00.83 ID:fkwizG0h0
シンジ「……」

マヤ「でも、残ると先輩に伝えた。このまま帰ったら、きっと私は後悔するから」

シンジ「え……」

マヤ「あなたの為じゃない。ネルフの為でも、先輩の為でもない。そう、これは自分のため」

シンジ「やり残したことがあるとか?」

マヤ「悔しい。ただ、そう思うだけ」

シンジ「たぶん、母さんやリツコさんはまたマヤさんを利用しようとすると思いますよ。弱者に変わりないから」

マヤ「……」

シンジ「僕のこの手バレてしまっているので、今まで以上に露骨に要求してくるかもしれません。同居やアルバイトなんて遠回しをせずに」

マヤ「シンジくんは知ってて私の家に?」

シンジ「いえ、知りませんでした。もしかしたら、そうなんじゃないかって思ったんです」

マヤ「……」

シンジ「僕がここから出ていけばいいんです。それすれば、以前と変わらず、は……無理かもしれないけど、新しいことに巻き込まれないで済みます。僕と、接点がなくなるので」

マヤ「だめ、それはだめよ。シンジくんがここにいるのことが私の生命線になる」

シンジ「でも」

マヤ「よく考えて。あなたが出て行けば、たしかに、これから先は巻き込まれないかもしれない。でも、私は用済みにならない? 秘密を知ってしまってるのよ」

シンジ「……」

マヤ「先輩は、保証してくれるって言ってたけど、それもあなたの受け入れ先という前提があってなのかもしれない。そうじゃないと断定できるまでここにいて」

シンジ「わかり、ました」

マヤ「音声が筒抜けかもしれないから、こわくて下手なこと言えないけど、あなたのせいじゃないって。一人だけじゃどうしようもないってわかってる」

シンジ「……」

マヤ「ほんとに、どうして……」グスッ

シンジ「……」

マヤ「私は一人で考えたいから。おやすみ、シンジくん」

シンジ「おやすみなさい」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 11:00:43.92 ID:LKvmFUNFo
おはようございます
344 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/09/04(月) 14:18:40.78 ID:fkwizG0h0
【ネルフ本部 執務室】

リツコ「諜報部への手引きの件。寛大な計らいに感謝いたします」

ユイ「……」

リツコ「マヤが例の件を漏らした場合は、私を如何様にでもなさってくださって結構です」

ユイ「やはり、情をとるの?」

リツコ「……」

ユイ「とるにたらない職員でしょう。よく面倒を見ていた子で思い入れが強いのね。その有様だと、やはり葛城一尉に――」

リツコ「いいえ、今後、あの子は役に立つからです」

ユイ「と、いうと?」

リツコ「決して軽率に動く子なわけありませんもの。実務能力は私に及ばず、まだひよこですが、だからこそ操作しやすい」

ユイ「……」

リツコ「事情を知っていても尚、抑えこむことが可能であれば……これ以上ない都合の良い駒になります」

ユイ「伊吹二尉の言動を制御できると判断しているのね?」

リツコ「はい」

ユイ「よろしい。では、通達通り伊吹二尉は現状維持のまま技術局一課への配属を認可します」

リツコ「……」

ユイ「ふふっ、これであなたは私にひとつ借りができたわね」

リツコ「この処置は利益になる決定で――」

ユイ「いかに面倒を省くかが重要。あなたは直属の上司であるから、本人が持つ癖をよく把握しているでしょうね」

リツコ「……」

ユイ「しかし、仮にここで私が首を横にふっていたら、あなたはどう思うのかしら」

リツコ「……」

ユイ「血も涙もない外道かしら。それとも、逆張りをして尊敬する? ま、どちらでもかまわないけど。一度、私は彼女を排除すると決めたのよ。結論を覆したのは、伊吹二尉ではない。あなたへの譲歩」

リツコ「はい。感謝しております」

ユイ「これであなたにも楔がついてしまったわね。もし、私を裏切るようなマネをすれば、伊吹二尉もただでは済まない」

リツコ「……」ギリッ

ユイ「いい取り引きだった。用件は済んだわ、下がっていいわよ」
345 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/04(月) 14:43:25.88 ID:fkwizG0h0
【数十分後 同執務室】

冬月「いささか締めつけすぎではないか」

ユイ「充分に譲歩していますよ。交渉の余地を与え目的を達成させてあげたのですから」

冬月「赤木博士は碇の時同様、キミの側近という立場だろう。部下を大切に扱えば今後の為になる」

ユイ「甘くしすぎてしまえば増長を招く結果になりかねません。赤木博士が必要ならばこそ、時には厳しくですわ。飼い主は手綱をしっかりと握る義務がありますので」

冬月「……」

ユイ「中でも、弱みを掴むのはもっとも有効な手段であると言えるでしょう。伊吹二尉をかばったのは、赤木博士を操作する上でおつりがくるほどです」

冬月「あやつも女だからな。男を失って、なにをしでかすかわからないという危険はあった」

ユイ「人は、立場によって、守るものがあると弱くなります。本当にこわいのは、なにもない人間なんです。予測が難しい」

冬月「今後は、サードチルドレンと赤木博士に伊吹二尉を、いうなれば“人質”として実質的な機能させるわけか」

ユイ「シンジは、甘いですから。セカンドチルドレンを同じダシにして同様に楔を打ち込めるでしょう。……しかし、赤木博士に該当するのは、葛城一尉か伊吹二尉しかいません。それがよくわかりました」

冬月「起爆放置を彼女に持たせたのはそういう理由だったのかね」

ユイ「そうですよ。爆弾を仕掛け、彼女に起爆スイッチを持たせる。そうすることで、葛城一尉を“いつでも殺してやるぞ”、と脅しをかけていたんです」

冬月「……」

ユイ「観察している限りだと、あまり効果的ではないのかと思いはじめていましたが……やはり、私の読みは正しかった」

冬月「……」

ユイ「――土壇場になれば、赤木博士は情に流されます。ふふっ、うふふっ、愚かな」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 14:43:45.26 ID:FWdxu2dro
ユイはいちいち癪に触る言い方するよな
愛した男の元嫁関係なく恨みを買うわ
347 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/04(月) 15:10:46.30 ID:fkwizG0h0
【ネルフ本部 MAGI配線室】

リツコ「記録を残し続けるのは、もうすぐ終わりになるかもしれないわね」カチ

リツコ(ボイスレコーダー)『――碇ユイ博士の挑発に乗ってしまった。やりとりをしていて気がついた。ミサトの自宅に仕掛けられた起爆装置は、ミサトを危険視しているのではなく、私に無言の圧をかけていたのだろう』

リツコ「……」カチ

リツコ「母さん、どうしたらいいのかしら」スッ

ミサト『そ、ミサト。葛城ミサト。よろしくね」

リツコ「母さんに友達ができたって言ったら、喜んでくれたわね……」

ナオコ(幻聴)『リッちゃん。あなたは自分の幸せを逃してしまわないか心配です』

リツコ「バカ。母さんだって、不幸なまま死んでしまったじゃない」

ナオコ(幻聴)『私はいいのよ。女としての幸せだったんだから』

リツコ「科学者としての自分、女としての自分。男の為にすべてを投げ出して。それが、女の幸せ?」

ナオコ(幻聴)『研究だけの人生はつまらないわ。飽きてしまう。燻るジレンマが、あなたもわかるでしょう?』

リツコ「ふぅ……気持ちはわからなくもないけど。結局、私も母さんと同じ道を歩んでいたんだもの」

ナオコ(幻聴)『でも、リッちゃんは生きてる』

リツコ「ただ時間を無為に浪費してるだけよ。なんの為に生きてるか――」

ナオコ(幻聴)『苦しいのね、生きづらいでしょう』

リツコ「ふふ、とっても。でも、まだ死ぬわけにはいかない」
348 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/04(月) 15:37:57.44 ID:fkwizG0h0
【翌日 第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

シンジ「ふぅ」

アスカ「はぁ」

トウジ「なんや、あの二人。揃って一日中ため息ばっかついとるで」

ケンスケ「こないだのユニゾンの続きなんじゃないか?」

トウジ「今さらか?」

ケンスケ「さぁね、僕が知るわけないよ」

マナ「おはよう」

トウジ「おう、おはよーさん」

ケンスケ「どうしたんだ、荷物かかえて」

マナ「これ? 端末が届いたから、事務室に取りにいってたの」

トウジ「ああ、そういや今日か」

ケンスケ「トウジの妹さんの手術も今日じゃなかったか?」

トウジ「アホ。学校の備品のついでみたいに言うな」

ケンスケ「あれ? 行かなくていいのか?」

トウジ「そのつもりやったんやけどなぁ。連絡がきた頃には終わっとった」

ケンスケ「へ?」

トウジ「なんでも、今日の朝イチでやってくれたらしい。サクラの前に手術を予定しとった患者さんが昨日の夜遅く、急遽取りやめになったそうや」

ケンスケ「そんなことあるんだな。何時からやってたんだ?」

トウジ「昨日の深夜に点滴を開始して、朝の七時にはもう手術台の上に乗っ取ったって聞いとるで」

ケンスケ「だったら、シンジに教えてやれよ」

マナ「ねぇ、鈴原くんの妹さん怪我かなにかしてたの?」

トウジ「ん? ああ、そうや、霧島は知らんかったな。ちと、ひどい怪我でな」

ケンスケ「碇が怪我させたんだよ」

トウジ「ちっ、おい、ケンスケ」

マナ「シンジくんが?」

ケンスケ「隠したってなんになるんだよ。ああ、そうさ。初陣の時にね」

マナ「そうなんだ……」

トウジ「ワシはもうなんとも思っとらん。最初は、殴ったりもしたが、それでもう帳消しや!」

ケンスケ「よく言うよ。その後にシンジに転院を頼んでたじゃないか。あいつだからよかったものの」

マナ「……?」

トウジ「そ、それで帳消しや!」

マナ「ねぇ、経緯を詳しく聞かせてくれない?」
349 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/04(月) 15:39:52.25 ID:fkwizG0h0
>>348間違ったんでレスしなおし
350 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/04(月) 15:41:36.43 ID:fkwizG0h0
【翌日 第三新東京都市第壱中学校 昼休み】

シンジ「ふぅ」

アスカ「はぁ」

トウジ「なんや、あの二人。揃って一日中ため息ばっかついとるで」

ケンスケ「こないだのユニゾンの続きなんじゃないか?」

トウジ「今さらか?」

ケンスケ「さぁね、僕が知るわけないよ」

マナ「よいしょっと」ゴト

ケンスケ「どうしたんだ、重そうに荷物かかえて」

マナ「これ? 端末が届いたから、事務室に取りにいってたの」

トウジ「ああ、そういや今日か」

ケンスケ「トウジの妹さんの手術も今日じゃなかったか?」

トウジ「アホ。学校の備品のついでみたいに言うな」

ケンスケ「あれ? 行かなくていいのか?」

トウジ「そのつもりやったんやけどなぁ。連絡がきた頃には終わっとった」

ケンスケ「へ?」

トウジ「なんでも、今日の朝イチでやってくれたらしい。サクラの前に手術を予定しとった患者さんが昨日の夜遅く、急遽取りやめになったそうや」

ケンスケ「そんなことあるんだな。何時からやってたんだ?」

トウジ「昨日の深夜に点滴を開始して、朝の七時にはもう手術台の上に乗っ取ったって聞いとるで」

ケンスケ「だったら、シンジに教えてやれよ」

マナ「ねぇ、鈴原くんの妹さん怪我かなにかしてたの?」

トウジ「ん? ああ、そうや、霧島は知らんかったな。ちと、ひどい怪我でな」

ケンスケ「碇が怪我させたんだよ」

トウジ「ちっ、おい、ケンスケ」

マナ「シンジくんが?」

ケンスケ「隠したってなんになるんだよ。ああ、そうさ。初陣の時にね」

マナ「そうなんだ……」

トウジ「ワシはもうなんとも思っとらん。最初は、殴ったりもしたが、それでもう帳消しや!」

ケンスケ「よく言うよ。その後シンジに転院を頼んでたじゃないか。あいつだからよかったものの」

マナ「……?」

トウジ「そ、それで帳消しや!」

マナ「ねぇ、経緯を詳しく聞かせてくれない?」
351 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/04(月) 23:07:19.83 ID:fkwizG0h0
マナ「――ふぅん。男の子の友情って感じ?」

ケンスケ「そんなにキレイなもんじゃないさ。トウジが頑固なだけだよ」

トウジ「ぬぐっ!」

ケンスケ「そりゃぁ、怪我させちゃったのは碇にも責任がある。乗ってる理由が望んでも望んでなくてもね。だけど、トウジはその後のやり方がまずい。それはそれ、これはこれって感じ」

マナ「お互いに許してるんだね。いい関係」

トウジ「ふんっ!」

ケンスケ「まぁ、こいつは元々こんなやつだからねぇ」

マナ「なんだか、友達のこと思い出しちゃった」

ケンスケ「前の学校かぁ?」

マナ「うん、子供で、いつも張り合って喧嘩して。いざと言う時助け合って……」

ケンスケ「碇は消極的だからなぁ。わざとぶつからないようにしてる」

トウジ「せやな。たまにこっちから行動おこさへんと。あんな生き方して辛くないんかのぉ」

ケンスケ「本人に自覚ないんじゃない? 自然だから。我慢するのが」

マナ「どうして、シンジくんは我慢するようになったのかな?」

ケンスケ「僕らも碇が転校してくる前の話はほとんど知らないよ。聞きもしないし」

トウジ「興味ないしな」

マナ「……」

ケンスケ「碇のことをどうしてそんなに知りたがるんだ? やっぱり、エヴァの操縦してるから?」

マナ「あ、う、うん……かっこいいなぁって思う」

トウジ「女に人気でるもんかのぅ」

ケンスケ「碇をもっと知りたいんだったら、エヴァパイロットだからって言わない方がいいよ」

マナ「……? どうして?」

ケンスケ「あいつ、嫌がって乗ってるんだよねぇ」

マナ「……」

トウジ「しかたなしやろ。誰でも乗れるわけちゃうからな」

ケンスケ「くぅ〜っ! 運命は不平等だよ! 僕なら喜んで乗るってのに!」
352 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/05(火) 00:11:57.71 ID:M0MZMnUf0
シンジ「(やっぱり、こっそり調べるよりも一度母さんと話しなくちゃだめだな)」

マナ「ねっ!」ドン

シンジ「いつっ⁉︎」

マナ「あれ? そんなに強くしたつもりないんだけど」

シンジ「い、いや。昨日ちょっと打っちゃってて」

マナ「そうなんだ? ごめんね、痛かった?」

シンジ「どうしたの? さっきまでトウジたちと話してなかった?」

マナ「……見てたんだ?」

シンジ「まあ、なんとなく」

マナ「本当に?」

シンジ「やだな。それ以外になにがあるっていうのさ」

マナ「ぶっぶー。そういう言い方をしちゃいけませ〜ん」

シンジ「……?」

マナ「黙ってジッと見られてるのイヤだけど、見てた?って聞かれた時は少しって答えるのが正解」

シンジ「なんで?」

マナ「全く興味ないって言われてるようでイヤだもの。女の子として見てほしいの」

シンジ「はぁ」

マナ「私って、そんなに魅力ない?」

シンジ「いや、どうかな。そんなことないと思うよ」

マナ「シンジくんってさ、もしかして……ホモの人?」

シンジ「なっ⁉︎ ち、違うよ⁉︎」

マナ「あはは、ムキになってる。かわいい」

シンジ「か、からかわないでよ! もう!」

マナ「だって、シンジくんの浮いた噂聞かないんだもん」

シンジ「そんな……」

マナ「エヴァパイロットってモテるでしょう? 彼女、作らないの?」
353 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/05(火) 00:23:57.57 ID:M0MZMnUf0
シンジ「偏見だよ、そんなの……」

マナ「そうかなぁ。シンジくんがその気になればすぐにできると思うけど。クラスメイトってさ、例えばギターができる、ダンスが上手とか。そんな些細なモノで一気に目立ったりするよね?」

シンジ「うん、まぁ……」

マナ「シンジくんはパイロットなんでしょ? それもみんなを守ってる!」

シンジ「僕は、別に」

マナ「(この反応は。相田くんの言ってたことは本当なのね)」

シンジ「それに、恋愛なんてよくわからないし」

マナ「異性として見れない?」

シンジ「そうじゃないけど……好きってなんだろうって」

マナ「ライクじゃないラヴ。他人を好きになったこと、ないんだ?」

シンジ「そうかも、しれない」

マナ「じゃあ、真っ白だね!」

シンジ「なにが?」

マナ「なにも色がついてない紙と一緒。知ってる? 男の子って、初恋の子は生涯忘れないっていうよ?」

シンジ「あぁ、まぁ、テレビで見たことあるような」

アスカ「ちょっと、マナ」ピタ

マナ「っと、どうしたの?」

アスカ「……」

マナ「アスカ?」

アスカ「(こいつがスパイねぇ)」

シンジ「……?」

アスカ「シンジ、少し話があるんだけど」

シンジ「あぁ、うん。わかった」

マナ「(ヤキモチ? まさかね……)」
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/05(火) 11:44:14.56 ID:yJhUSizso
冬月の言うように締め付け過ぎだろう。
リっちゃんにしてみれば前妻に付き従う理由なんて無く、いまやただの義務感で仕事してるのに。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/05(火) 17:09:20.76 ID:oXrX0EyAo
C
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/05(火) 20:47:29.59 ID:9r/nXaTPo
冬月はわかっているが技術畑で頭脳派のリツコは大事にすべきだろう。怒らせたら
ミサトなんかよりよっぽど脅威になる。夫婦で利用され嫁にはコケにされリツコはそろそろキレていい
357 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/09/05(火) 23:47:38.28 ID:M0MZMnUf0
【第壱中学校 体育館裏】

シンジ「……? ねぇ、アスカ。どうしてこんなところへ」

マナ「(ふぅ……やけに警戒してるな。重要な情報あるのかも)」

アスカ「バカねえ。日本じゃ壁に耳あり障子に目ありって言うでしょ。いつどこで誰が聞いてるかわからないんだから、用心するにこしたことはないわ」キョロキョロ

マナ「(ふふっ、あるのは木の上なんだけどね)」

シンジ「なにかあったの?」

アスカ「あんたホントに聞いてないのぉ?」

シンジ「なにを?」キョトン

アスカ「くっ、なぜだか拍子抜けしてムカつく。平和ボケもたいがいにしなさいっつってんのよ!」バシ

シンジ「いたっ!」

アスカ「……? なんか大袈裟ね」

シンジ「いっつつ。なんなんだよ、もう。言ってくれなくちゃわかるわけないじゃないか」

アスカ「あの霧島マナって子に気をつけなさい」

マナ「(……!)」

アスカ「これは忠告。あんた抜けてるから、色仕掛けされたらデレデレ鼻の下伸ばしちゃいそうだし」

シンジ「はぁ、どうして?」

アスカ「スパイらしいわ。人は見かけによらないっていうけど」

マナ「(うそっ⁉︎ もう身元が割れてるの⁉︎)」

シンジ「マナが? どこの?」

アスカ「戦自」

マナ「(まずい……どうしよう……アスカはどこから? ううん、もしかしたら校内に既に……まだ死ぬわけにはいかないのに……!)」

シンジ「そうなんだ」

アスカ「はぁ? 感想はそれだけ?」

シンジ「うん。アスカは誰から聞いたの?」

マナ「(……!)」ゴクリ

アスカ「あんたのママ。なに考えてんのかしらね、あの人」

シンジ「……」

アスカ「スパイがいるのがわかってるなら捕まえればいいじゃない? でも、そうはしてないみたいだし」

マナ「(母親。……データによると碇ユイ! ネルフの新指令……! しまった! なにか落ち度があったの⁉︎)」

シンジ「母さんは、きっとマナを利用できないか考えてるんじゃないかと思うよ」

アスカ「あいつを?」

マナ「(私を?)」

シンジ「マナを守らなくちゃ」

アスカ「ばっ、バカァ⁉︎ あんたなに考えてんの⁉︎」

マナ「(へ?)」

シンジ「マナはどういう目的でスパイをやってるんだろう。母さんに利用されないようにしないと……」

アスカ「あ、あんたねぇ! 協力体制だとしても、今回の懸案はそういうモノじゃないのよ⁉︎ 戦自はネルフを調べてるんだから!」

シンジ「うん、だから、マナはどういう理由でここに転校してきたのかな」

アスカ「はぁ?」

マナ「(……そう、シンジくんも私を利用するつもり……?)」

シンジ「なにか事情があると思うんだ。僕たちと同い年でスパイだなんて、普通じゃないよ」

アスカ「そんなのどうでもいいでしょ! あいつは敵……かはまだわからないけど、限りなく敵に近いやつなんだから!」
358 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/06(水) 00:05:44.83 ID:Z0wh0f1m0
シンジ「うん、そうかもしれないね」ポリポリ

アスカ「ようやくその足りない頭で事態が――」

シンジ「だけど、決めつけるにはまだはやいよ」

アスカ「……!」

マナ「(も、もしかして、シンジくんってすごくお人好し……?)」

シンジ「アスカ。アスカは、僕がどうしてマナを守らなきゃって言ったかわかる?」

アスカ「知るわけないじゃない! あんたのそのトチ狂った発想なんて知りたくも――」

シンジ「母さんが、こわいんだ」

アスカ「……?」

シンジ「母さん。ほとんど知らない人。顔さえ覚えてなかった。でも、そんな人がある日突然母親だと名乗りでてきたんだ」

アスカ「……」

シンジ「親しげな声で僕の名前を呼ぶ。僕は誰かわからなかったのに。懐かしさはどこかで感じていたよ」

アスカ「それとは話が別でしょ」ボソ

シンジ「同じなんだ。僕の中では。父さんと違う種類のこわさを感じてる。やってきたことを見ても、僕は、こわくてたまらない」

アスカ「はぁ、はいはい。百歩譲って関係あるってことにしといてあげる。で? だから、マナを守るの? あたしたち、ネルフ全体に害をなす存在かもしれないのに?」ビシ

マナ「(……)」

シンジ「うん。まずは話を聞いてみないと。どうやって聞こうかな……」

アスカ「ちっ、司令の判断に納得したわ。あんたに話したってろくなことにならないってことがね」

シンジ「マナってスパイだよね? はおかしいだろうし」ブツブツ

アスカ「あんたの今の言葉、報告しとくから」

シンジ「誰に?」キョトン

アスカ「決まってるでしょ!!」

シンジ「あぁ、母さんか。うん、いいよ」

アスカ「な、なぁっ⁉︎」

シンジ「話はそれだけ?」

アスカ「それだけって……」

マナ「(あは、あははっ。変な子、だめ、声我慢しないと)」

アスカ「だぁ、怒る気も失せてきた。あんたってたまに大物なのか本気のバカなのか判断が難しくなんのね」
359 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/06(水) 01:01:56.26 ID:Z0wh0f1m0
アスカ「なんか変に警戒するのがアホらしくなっちゃった。教室に戻るわよ」

シンジ「待って」ガシ

アスカ「なによ。気安く触らないでくれない?」

シンジ「僕が気になってるのはアスカなんだ」

アスカ「うげ、気持ち悪う」

シンジ「(母さんは、どうしてアスカに話したんだろう)」

マナ「……」

アスカ「はぁ、まぁでも溢れ出る魅力にようやく気がついたってところかしらねぇ」

シンジ「(母さんに確認しなくちゃいけないことがまた増えちゃったな……)」

アスカ「お金はとるけど、デートしてあげないことはないわよ?」

シンジ「うーん」

アスカ「煮え切らないわねぇ、冗談にしても男ならそこは女の子を立てるべきでしょ」

シンジ「……? あ、あぁ、うん、そうだね」

アスカ「っとに、あんたは抜けてるのよねぇ」

シンジ「はは」

アスカ「本気でなおそうとしない。すぐに限界を決めて諦める」

シンジ「うん。それはそうだね」

アスカ「身分ってもんをわきまえなさい? デートなんかあと十年は早いんだから。べーっだ」

シンジ「デート……?」

アスカ「はっはーん、とんだ笑いもんだわ。断られたからってなかったことにするとか。ダサっ」

シンジ「(なに言ってるんだろう……?)」

アスカ「なによ? そんなにしたかったの?」

シンジ「したい?」

アスカ「またすぐ誤魔化そうとする。ストーカーになられたらイヤだし。……一回だけなら、いいわよ」

シンジ「えっ。あの……」

マナ「(ぷっ、くっくっ、声でちゃいそう)」
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/06(水) 01:34:58.46 ID:F1xEJg3Co
361 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/09/06(水) 21:16:29.84 ID:Z0wh0f1m0
【再び教室 放課後】

マナ「(私の正体がバレてるなら、ろくな情報引き出せそうにないな……それに戦自が事態を把握すれば……ここで終わりだなんて)」

ケンスケ「おい、霧島」

マナ「(それにしても、どうして……? どこから突き止めたのかしら。ううん、今はそれよりも今後の身の振り方が最優先。いっそ、ムサシとケイタに全てを打ち明けて……)」

ケンスケ「おいってば」

マナ「(だめ……! 無駄だわ。あの二人は戦自にマインドコントロールされていて私の意見なんか聞いてくれない。救うには、どうしたら。……ちがう。私は、自分の身でさえ守れないのに……)」

ケンスケ「なぁ」ポン

マナ「なによっ⁉︎」バンッ

ケンスケ「お、おう」

マナ「……あ……ど、どうしたの?」

ケンスケ「機嫌でも悪いのか?」

マナ「ご、ごめんね。ちょっと、嫌なこと思い出してて。なにか用?」

ケンスケ「ファンからの手紙を預かってるよ」

マナ「……?」

ケンスケ「ラブレターってやつ。転校してきてまだ数日しかたってないのになぁ」

マナ「あ……」

ケンスケ「渡しておいてくれって頼まれたからさ。とにかく、渡したぞ」カサ

マナ「(こんなの、受け取れるわけないじゃない)」グシャ

ケンスケ「お、おい。いきなり握りつぶすのは」

マナ「ありがとう。言っておいてくれない?」

ケンスケ「……?」

マナ「手紙で想いを伝える男の子なんて嫌いですって」

ケンスケ「辛辣だねぇ。日時と場所が書いてあるだけじゃないか?」

マナ「それも含めて、ね?」

ケンスケ「……はぁ、りょーかい」

マナ「あっ、ちょっと待って!」

ケンスケ「あん? 気が変わったのか?」

マナ「シンジくんは?」

ケンスケ「碇なら下駄箱じゃないか?」

マナ「ありがとっ!」ポイッ タタタッ

ケンスケ「あーあ。こんなゴミみたいに捨てられちゃって。差し出し人は、碇からなんだけどなぁ」カサ
362 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/06(水) 21:33:38.02 ID:Z0wh0f1m0
【下駄箱】

シンジ「(マナ、来てくれるかな。待ち合わせ場所まで急がなくちゃ――)」トントン

マナ「シンジくんっ!」

シンジ「マナ……?」

マナ「今帰り?」

シンジ「うん、そう、だけど……」

マナ「(今すべきことは、保身……! ネルフがいつどういう風に動くのかわからない、接触を待っていてはだめ。昼休みの話を聞く限り、シンジくんは私に敵対心を持ってない、はず……)」

シンジ「あの、手紙、見てくれたの?」

マナ「手紙……?」

シンジ「ええと、ケンスケに渡してもらうように頼んだんだけど」

マナ「――えぇっ⁉︎ さっきの手紙ってシンジくんからっ⁉︎」

シンジ「呼んでないの?」

マナ「あっ、えっと! も、もちろん読んだよ! 嬉しくてすぐに飛び出してきちゃった」

シンジ「嬉しい? ……手紙には、場所と時間しか」

ケンスケ「お、いたいた」

マナ「あ、相田くんっ⁉︎」

ケンスケ「やっぱりまだ下駄箱にいたんだな」

シンジ「うん」

マナ「どうして相手を言わないのよっ⁉︎」

ケンスケ「ファンからだって言ったろ?」

マナ「そんな、シンジくんなんて思うはず――」

シンジ「二人とも、どうしたの?」

ケンスケ「ん? いやぁ、なんにも」

シンジ「僕は先に待ち合わせ場所で待ってるから」

マナ「それなら、一緒に……!」

シンジ「別々に学校を出た方がいいよ」

マナ「(やっぱり、シンジくんはあのことで……!)」

ケンスケ「……いいのか?」

シンジ「うん、手紙見たって言ってくれてるから」

ケンスケ「ふぅ〜ん?」チラ

マナ「……!」

ケンスケ「それなら、なにも心配ないな」

シンジ「それじゃ、ケンスケまた明日学校で。頼みごと聞いてくれてありがとう」

ケンスケ「今度! ネルフに連れてってくれるって約束! 忘れんなよ!」

シンジ「わかってる」スタスタ
363 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/06(水) 21:48:44.25 ID:Z0wh0f1m0
マナ「手紙」スッ

ケンスケ「なんのことだ?」

マナ「……」ヒクヒク

ケンスケ「あ、しまった! おーい、碇! 霧島からのメッセージが」

マナ「ちょっと!」ガバッ

ケンスケ「ぬぐっ! ふむむっ!」

マナ「……さっきのは、訂正する。だから、お願い。手紙を」

ケンスケ「もご?」

マナ「どこ? 手紙」スッ

ケンスケ「ほしいのか? これが」

マナ「相田くん?」

ケンスケ「霧島、うまい話があるんだけど」

マナ「……?」

ケンスケ「実はさ。霧島の写真をほしいって連中がけっこーいてね」

マナ「……」

ケンスケ「いつもは隠し撮りすんだけど、霧島はなんかガードが堅いっていうか。うまく撮れないんだよな。もしかして、気づいてた?」

マナ「……最低」

ケンスケ「いやいや! そんな! 違うよ! これは霧島に正式に依頼して取り分の半分を!」

マナ「写真のことならとっくに気がついてる。相田くん、転校してきた初日から私を撮ろうとしてたでしょ?」

ケンスケ「ああ、やっぱり――」

マナ「でも、それって盗撮だよ? 良くないことをしてるって自覚ないの?」

ケンスケ「うっ、そ、それは……」

マナ「見て見ぬふりをして黙ってたのは、悪い人じゃないんだって信じてたから。それなのに、手紙をネタに脅迫みたいなマネするなんて」

ケンスケ「そんなつもりは……!」

マナ「同じことだよ! 私が断りにくい状況で話を持ち出してきたじゃない!」

ケンスケ「あ……いや、僕は、霧島に、損はない話だって……」

マナ「手紙、返して。じゃないと大声で叫ぶわよ」

ケンスケ「え?」

マナ「下校中だし、まだ生徒はたくさんここを通る。ほら」

男子生徒A「お、霧島だ。かわいいなぁ、いつ見ても。相田となにしてんだ?」チラ

ケンスケ「うっ……」

マナ「立場が逆転しちゃったね」

ケンスケ「す、すまない、霧島。僕、どうかしてて」スッ

マナ「いいの。でも、これからはこんなマネしないでくれるかな?」

ケンスケ「あ、あぁ。気をつけるよ」

マナ「(余計な手間……それよりも、内容は……)」カサカサ

ケンスケ「あのさ、霧島。写真なんだけど――」

マナ「それじゃ! また明日!」トントン タタタッ
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 00:41:58.58 ID:VWcu6J+Do
マダー
365 : ◆y7//w4A.QY [saga]:2017/09/07(木) 10:44:17.98 ID:nADDI2Sj0
【第三新東京都市 工業団地マンション】

シンジ「……」

マナ「はぁっ、はぁ、シンジくん、待った?」

シンジ「あ、よかった。越してきたばかりだから道がわからないのかと心配してた」

マナ「ごめんね、バスを一本乗り遅れちゃって」

シンジ「気にしなくていいよ。それより、話があるんだけど」

マナ「ふぅ、ふぅ……うん、実は、私も」

シンジ「先に、いいよ」

マナ「シンジくん、私の正体に気がついたんでしょ?」

シンジ「どうして、それを?」

マナ「……アスカと話してるの聞いてたんだ。ごめんね、盗み聞きするような真似して」

シンジ「昼休みの? あの場にいたんだ?」

マナ「うん、会話が聞こえるように。そばに木があったでしょ? 登って聞いてたの」

シンジ「わぁ、すごいや。よく登れたね」

マナ「太い木だったから。掴みやすかったし、ってそうじゃなくて、私が、戦自から出向してるってこと。知ったんだよね?」

シンジ「うん」

マナ「ごめんなさい!」ペコッ

シンジ「……?」

マナ「任務で仕方なくて! こうするしかなかったの!」

シンジ「謝らなくていいよ。なにかされたわけじゃないし」

マナ「どうして……? バレなかったからって罪は軽くならない。もし、バレてなかったら、そのままシンジくんや、アスカたちにひどいことしてたかもしれないんだよ?」

シンジ「でも、行動を起こす前にこうなったじゃないか」

マナ「……」

シンジ「“未遂”だった。あるいは、“事前に防ぐことができた”ってことじゃないかな。僕はなにもしてなくて知らされただけ。マナのやろうとしていた目的に関与すらしてないよ。だって、これからやろうとする所だったはずだから。……違う?」

マナ「そう、だけど」

シンジ「うん。その上で聞きたいんだ。マナはどういう目的で、僕やアスカや綾波、ネルフに近づこうと思ったの?」

マナ「なぜ、知りたいの?」

シンジ「もしかしたら、協力できるかもしれない。話を聞くまではわからないけど」

マナ「……どうして、シンジくんは?」

シンジ「母さんがこわいから」

マナ「……?」

シンジ「このまま流れに身を任せていると、母さんに全て壊されてしまいそうな気がするんだ。知り合い、大切な友達、僕の日常。不思議、なんだ。エヴァに乗って戦う日々がたまらなくこわくて嫌だったのに、それ以上にこわいと思う存在ができたら、なんともないと思う」

マナ「勘違いだったらごめんなさい。もしかして、シンジくんは、ネルフに……うぅん、お母様と敵対しようとしてるの?」

シンジ「それは違うよ、僕は守りたいだけ。僕の大切なものを壊そうとするから」

マナ「……」

シンジ「マナの不安は、僕に話たところで庇護されるか。……母さんに殺されないかって思ってるはず。情報の出所は、僕じゃなくネルフだからね」

マナ「(この子、普通じゃない……。頭が良い)」

シンジ「口約束で申し訳ないけど、ここでの話は誰にも言わないと密約するよ」

マナ「(違う、そんなはずない。資料によると普通の中学生だって……。シンジくんも考えなきゃいけないほど追い詰められてるんだわ。そして、自分の感覚を研ぎ澄ましてる)」ゴクリ

シンジ「どう?」

マナ「取り引きってこと?」

シンジ「うん。お互い、有益になるのであれば協力できると思う」

マナ「(どの道、ここは――シンジくんに賭けてみるしか……!)」
366 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/07(木) 11:22:25.94 ID:nADDI2Sj0
シンジ「――それじゃぁマナは友達の為に?」

マナ「うん。二人ともちょっと血の気が多くて、どうしようもないんだけど、憎めないの」

シンジ「……」

マナ「シンジくんたちに近づいたのは、私に命令が下ったから。“碇一族に関する情報を引き出せ”、“セカンドチルドレンとファーストチルドレンに近づいてほしい”って……」

シンジ「……」

マナ「戦自は、ネルフにつけいる隙がほしいみたい。ないなら、作るつもりなんだと思う。急な人事異動に目星をつけて」

シンジ「マナの任務が終わったら、友達は?」

マナ「前線から遠い情報部に異動してくれるって約束してくれた」

シンジ「(マヤさんみたいなポジションてことか)」

マナ「全部、自分の為。これが、私がここに転校してきた理由……」

シンジ「ありがとう」

マナ「へ?」

シンジ「話してくれて」

マナ「シンジくん、本当に優しいんだね。でも、これは私の為に話してるの。今言ったことだって、作り話かもしれないよ?」

シンジ「信じるよ」

マナ「あ……」

シンジ「ウソだとしても、僕はマナを信じる」

マナ「……」グスッ

シンジ「情報を集めるまでに期限はあるの?」

マナ「……う、うぅん、明確な期限は。進展がなければプレッシャーをかけてくると思うけど。まだ始まって間もないし」ゴシゴシ

シンジ「……」

マナ「シンジくんは、なにかプランは?」

シンジ「まず、マナの安全を確保しなくちゃいけない。マナは戦自に属していて、任務を引き受けた時点で正規の手段を使い抜けることは難しい」

マナ「うん」

シンジ「友達を救いたいんだよね? だったら、逃げられない。戦自を欺く必要がある。まだマナの正体はバレてないって、引き続き任務を続けてる体裁を守らなきゃならない」

マナ「うん」

シンジ「問題は、母さんがいつ仕掛けてくるのか。マナの情報を戦自に漏らさない保証と、マナの身の安全の確保」

マナ「(す、すごい。一般人が、よく、ここまで……)」

シンジ「両親や僕の情報については、定期的に教えてあげるよ」

マナ「ほ、本当っ⁉︎」

シンジ「ただし、戦自に怪しまれない程度に。一度に話してほしいんだろうけど、必要な経緯がないと話に無理がでてしまうだろうから」
367 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/07(木) 11:26:06.53 ID:nADDI2Sj0
マナ「それは、そうかも。間違ってないか情報を精査するには時間がかかる。過程で私の正体がバレてるって疑いを持たれたら……」

シンジ「うぅ〜ん」

マナ「……」

シンジ「そうなると、やっぱり、ネルフ側の対応次第だね」

マナ「うん……」

シンジ「これから、母さんと話てみようと思う。……マナのことだけじゃないよ。色々、確認しなくちゃいけないから」

マナ「……」

シンジ「僕に任せる?」

マナ「……!」

シンジ「マナの身の安全、友達のこと。マナがこのままだと、友達も道連れ、だよね」

マナ「いいわ、シンジくんに賭けてみる」

シンジ「……」

マナ「どうせここで終わりだったのかもしれない。どうなろうと恨んだりしない」

シンジ「よく考えなくていいの?」

マナ「時間なんてないもの。こうして話してる瞬間にもネルフか戦自が突入してくるかもしれない」

シンジ「……」

マナ「――私と、ムサシとケイタの運命を、あなたに託します」
368 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/07(木) 11:44:57.51 ID:nADDI2Sj0
【ネルフ本部 司令室】

冬月「なに? ユイくんに会いたい?」

シンジ「はい。今日はシンクロテストがないので、少し話がしたくて」

冬月「キミが自分からとはめずらしいな」

シンジ「母ですし、なにも不思議なことは」

冬月「そうではない。表立って要求をしてくることがだ。父親の時は言った試しがなかったろう」

シンジ「何度か試しましたよ。電話をかけてみたり。忙しいってすぐ切られましたけど」

冬月「ふっ、そうだったのか。碇がやりそうな応対だな」

シンジ「母は忙しいでしょうか?」

冬月「そうだな、いまなら多少の時間はあろう。確認をとるから少しそこでまて」カチャ

シンジ「ありがとうございます」

冬月「――……もしもし、私だ。今、司令はなにをしている?」

シンジ「……」

冬月「ああ、そうだったか。……うん、十分後にサードチルドレンを連れて執務室に向かうと言伝を頼む」

シンジ「(母さん、まともに話するのは僕が麻袋を被せられていた時以来になるのかな……)」

冬月「ではな」カチャ

シンジ「……」

冬月「この後、明日の県議会に出席する為、移動する予定がある。それまでの間、時間を作るそうだ」

シンジ「はい」

冬月「では、降りるとするか」
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 12:02:08.40 ID:S56uxep9o
(いつも更新楽しみにしております)
370 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/07(木) 12:21:12.07 ID:nADDI2Sj0
【ネルフ本部 執務室】

冬月「進みたまえ」

シンジ「失礼します」

ユイ「……」スッ

冬月「(まともに話をしようとしている姿を見るのは、これが初めてか。感動の対面、というわけにもいくまいな)」

シンジ「忙しいのにわざわざ時間を作ってくれてありがとう」

ユイ「気にすることないわ。手の具合はどう? 心配してたのよ」

シンジ「うん、悪くないよ。母さんがコレを僕の手にいれるように指示したの?」

ユイ「ど真ん中どストレートできたわね。駆け引きを楽しむ余裕も必要よ?」

シンジ「どっちみち、僕は母さんに敵うと思ってないし。負けのわかってる勝負なんてつまらないだけだよ」

ユイ「よろしい。実に理にかなった行動です。学習したわね。答えない場合まで想定してる?」

シンジ「選ぶのは母さんだ。答えないという選択だってできる」

ユイ「成長したわ。では、“答える必要はない”と言ったら?」

シンジ「僕は、この手を切り落とす」

冬月「……!」ギョ

ユイ「本気?」

シンジ「試してみる? ほんの二秒あれば手首から先を切り落としてみせるよ……!」

ユイ「交渉テーブルに自らを乗せてきたのね。ふぅん……悪くない。けど、その前にシンジを私たちが取り押さえたら?」

シンジ「もちろん、考えたよ。だから、こうしてすぐ起こせるようにナイフを用意してきた」スッ

冬月「こやつ、正気か?」

ユイ「そんなバタフライナイフで素人が切れるとでも? でも、シンジが怒るのは無理ないわね、あなたの望まない形になっているでしょうから。……それを指示したのは私」

シンジ「……」

ユイ「私からも質問が一点」

シンジ「なに?」

ユイ「覚えてる? 昏睡状態の出来事を」

シンジ「覚えてないって先に報告してあるはず。どうして、これを? 母さんはなにをしようとしてるんだよ」

ユイ「知ってどうするつもり?」

シンジ「僕に関係あるんだろっ!! なにも知らされてないなんておかしいじゃないかっ!!」

ユイ「……」

シンジ「僕には知る権利がある! そうじゃないの⁉︎」

ユイ「あなたは、理解しようとするの? それが、望まない結果になっても、他人を不幸にさせてしまっても受け入れられるほど強くなった?」

シンジ「やらなくて後悔するよりはいいっ!」

冬月「……」

シンジ「なにもかも勝手じゃないか!! マヤさんにしたのも母さんの仕業なんじゃないの⁉︎ どうしてそんなことするんだよっ⁉︎」

ユイ「……あなたの為なのよ……」

シンジ「僕は望んでないよっ!!」

ユイ「シンジ。この世界はね、近い将来、いずれ滅んでしまうの。使徒が来る来ないに関わらず、私たち人類は人口、民族、紛争、食糧危機、未知の病原菌。様々な現実に直面している」

シンジ「……」

ユイ「個人の幸せにかまけている問題ではなくなってしまっているのよ。人類が生き延びる術、全体なの。私たちはセカイを、新しくゼロから仕切りなおさなければならない。それしか方法がないのよ……!」

シンジ「違う、そんな理由じゃないだろ。母さんが望んでるのは」

ユイ「……!」

シンジ「もっともらしいこと言って。そういえば僕が納得するとでも思ったの?」
371 : ◆y7//w4A.QY [sage]:2017/09/07(木) 12:47:36.52 ID:nADDI2Sj0
ユイ「ふふ、男子三日会わずんば刮目して見よ。……本当に強くなったわね。なにがあなたをそこまでステップアップさせたの? アダム?」

シンジ「正直に言うよ。僕は母さんがこわい」

ユイ「……」

シンジ「顔色を変えずに、僕にこんなことを。マヤさんを危険な目に合わせたのがこわいんだ」

ユイ「……」

シンジ「今日の昼休みにアスカから聞いたよ。戦自からスパイが潜り込んでるって」

冬月「ちっ」

シンジ「あの子をネルフで守ってほしい」

ユイ「それに対する見返りは?」

シンジ「僕の協力。母さんの望む働きになれるように――」

ユイ「あなたは優しいもの。あの子ではなくても、鈴原ヒカリ、セカンドチルドレン、伊吹二尉、葛城一尉、排除したとして代わりはいくらでもきく」

シンジ「……」ギリッ

ユイ「代替え案は?」

シンジ「たしかに、母さんにとっては僕がイヤイヤ協力しようが、進んで協力しようが結果は同じこと」

ユイ「そうね」

シンジ「だったら僕は、また自分をかけるしかない」

ユイ「……」

シンジ「この手にあるのは、必要なモノだから。僕も必要なんじゃないの?」

ユイ「……」

シンジ「僕を失うか、目的を達成するまで他に手をかけないか、選ぶのは二つに一つだよ」

ユイ「あなたは私を敵と思ってるのね?」

シンジ「……」

ユイ「及第点を与えましょう。今回は子供の駄々に付き合ってあげます。副司令、霧島マナのファイルを」

冬月「どうするつもりだ?」

ユイ「こちらが証拠を握っているのです。まずは、信頼の証として、それをシンジに渡しましょう」

シンジ「それだけじゃだめだ。データは残ってるはずだ」

ユイ「もちろんね。デジタル化してる現代において、コピーがないなんてありえない。重要であれば尚更」

シンジ「戦自に解放の働きかけはできない?」

ユイ「それは無理よ。大人には大人の都合がある。ネルフから戦自にそんなことをすれば、なにを要求されるかわかったものではないわ」

シンジ「つまり、現状維持」

ユイ「そうね、あなたにネズミの扱いは一任しましょう。それも、シンジが非協力的な態度を見せたらご破算になるけど」

シンジ「……」

ユイ「シンジ。これはあなたに、とっても不利な条件なのよ? わかるわね?」

シンジ「(僕が、協力しなくても、母さんの気が変わっても……だけど、時間稼ぎにはなる)」

ユイ「それを踏まえて発言してるのね?」

シンジ「うん。それならいい」

ユイ「まだまだね。もっと成長しなさい。話は以上どす。副司令、シンジと共にさがってください。原本を渡すのをくれぐれも」

冬月「ああ。こっちだ」
1189.69 KB Speed:0.3   VIP Service SS速報R 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)