イタリア百合提督(その2)「タラントに二輪の百合の花」

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695 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/11/23(月) 02:04:17.28 ID:0tB4BqT30
ディアナ「はい…この車はエンブレムがフィアットの物では無いようですね、絵柄は蠍に見えますが…」黄色とオレンジ色で斜めに塗り分けられた盾の中に、図案化された黒い蠍が入っている…

エミーリア「そうなのよ、実はね……」

提督「…どう、ディアナ? 気に入った一台はあった?」ガレージのオーナーであるおっちゃんとランチアの部品についてやりとりしていたが、必要な話は済んだらしく、ディアナのもとにやって来た…

ディアナ「はい、提督。この車にしようかと思っているのですが…」

提督「あら、フィアット850ね。見た目も可愛らしいし、大きさも手頃だしいいじゃない……って、ちょっと待って?」にこにこと微笑していたが、車体を見て何か腑に落ちないような表情を浮かべ、それからフロントの蠍のエンブレムを見て驚きの表情を浮かべた…

提督「……もしかして、これってただのフィアット850じゃなくて「フィアット850アバルト」なの?」

(※アバルト…イタリアの自動車カスタムメーカー。フィアット500を始めとする各種の自動車をレース仕様に改造して多くの成績を残し、エンブレムの「スコルピオーネ」ともども有名)

エミーリア「ふふーん、さすが海軍さん……その通り♪」ニヤリと笑うと、後部のエンジンカバーを開けた…

提督「うわ…!」

エミーリア「どうよ? 一見するとただの850に見えるけど、エンジンから足回りから、中身はまるっきりの別物…これならオートストラーダ(高速道路)で生意気な顔をしている今どきのルノーだのアウディだのにも負けないわ♪」

提督「驚いたわね…ちなみにおいくら?」

エミーリア「そうねぇ……万リラって話をしてたんだけど」

提督「え、この850アバルトが…!?」

エミーリア「そこはワケありでね……実は前の持ち主がこれで事故ってて「不愉快だから」って手放したってシロモノなの。もちろんフレームは問題ないし、各部もこっちでしっかり直してあるんだけど、どうも売れなくってねぇ…と言うわけで、現金の一括払い……それと整備をうちでしてくれるって言うなら、この値段でいいわ♪」

提督「…いいのね?」

エミーリア「もちいいわ…買う?」

提督「ディアナの気に入ったならね……どうかしら?」

ディアナ「そうですね、お話を聞く限りではかなりの掘り出し物のようですし…わたくしも気に入りましたので、これにしようかと存じます♪」

エミーリア「決まりね!」

提督「それじゃあ私が……万リラは出してあげるわ。それにしてもこの値段で「850アバルト」が買えるなんて良かったわね」

ディアナ「ええ。提督もよろしければ後で試してみて下さいませ」

提督「ありがとう♪」

…それから事務所で契約書類を始め、車検証だの何だのとこまごました書類にサインを書き込んだディアナと提督…

エミーリア「…はい、それじゃあ晴れてあの850はあなたの物よ……よくしてやってね♪」

ディアナ「ええ、ぜひともそうさせていただきます」

エミーリア「良かった…それじゃあお役所の手続きがあるから、12日までにはそっちの鎮守府にお届けするわ」

提督「あら、12日といえばちょうどディアナのお誕生日ね♪」

ディアナ「さようにございますね」

エミーリア「ホント? それならなおの事よかったわ…お父さん、聞いた?」

おっちゃん「おうよ……良かったなお嬢ちゃん。ちょっとばかし型は古いが、いい車だぜ?」

ディアナ「はい…♪」

提督「それじゃあ、当日はよろしくお願いします」

おっちゃん「ああ、まかしときな!」

ディアナ「よしなに」

………

696 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/11/25(水) 01:57:27.51 ID:C66/dfAs0
…11月12日・午前…

提督「さて、と…それじゃあディアナのために、腕によりをかけてごちそうを作るとしましょうか♪」タートルネックセーターの袖をまくりエプロンを着けると、ヘアゴムで髪を束ねた……

ドリア「はい…♪」

エリトレア「お任せ下さいっ♪」

アブルッツィ「ええ、任せておいて」

ルイージ・トレーリ「和食ならいくらか心得がありますから、お手伝いしますね」

提督「ふふ、みんな頼もしいわ…それじゃあ基本はここに貼ってある献立通りに行きましょう…もし材料が足りなかったり時間が足りなかったりしたら、そのときは臨機応変に……ね?」

四人「「了解」」


…誕生日というよりは、いわば「成人式」のような就役日(ディアナの進水自体は5月25日)だと言うのに、いつものように厨房で料理を作ろうとするディアナをなかば無理矢理に追い出し、提督の指揮の下でごちそうの準備に取りかかる…


提督「セコンド・ピアットは予定通りローストのチキンにしましょう……シンプルにローズマリーとオリーヴオイル、塩胡椒でいいわよね」

(※セコンド・ピアット…食前酒、「アンティパスト(前菜)」、「プリモ・ピアット(第一皿…パスタ・スープ類)」に続く「第二皿」と呼ばれるメインディッシュのこと)

アブルッツィ「それと提督のおばさまが送ってきてくれたイノシシ肉ね……ドングリだの松の実だのを一杯食べた秋のイノシシだから脂も乗ってるし、赤味もすごく美味しそうよ!」ひと抱えはありそうな大きなイノシシのもも肉とあばら肉を取り出し、まな板の上にドシンと置いた…

提督「シルヴィアおばさまは猟の名人だもの♪」

アブルッツィ「みたいね……うーん、ここはやっぱり炭火でこんがりと…いや、赤ワインと玉ねぎでじっくり煮込んだのも捨てがたいか…むむむ……」

提督「んー…チキンはローストだから、イノシシは煮込みにしたらどうかしら……残ったらボロネーゼ風にして、明日のパスタにしてあげる♪」

アブルッツィ「そうね、それがいいかも……あぁ、考えただけでお腹が空いてくるわ!」

提督「ふふっ、私も…♪」

トレーリ「ふふ、提督は食いしん坊さんですものね……それでは、私は「茶碗蒸し」を作ろうかと思います。ジァポーネで食べる、甘くないプリンのような蒸し物ですよ」

提督「なるほど…」

エリトレア「じゃあ私は東南アジア風のサラダでも…そういえばボルネオのときも一緒でしたね、トレーリ?」

トレーリ「はい。他にカッペリーニたちもいて……懐かしいです」技術・貴重物資交換のために日本へと派遣されたトレーリたち数隻の大型潜水艦と、その支援にあたったエリトレア…

エリトレア「…こうしてまたトレーリたちに会えて嬉しいですっ♪」

トレーリ「私もです、エリトレア」

提督「良かったわね、二人とも……ところでエリトレア、お湯が噴きこぼれそうだけれど?」

エリトレア「うわわっ…!」

提督「ふふ…♪」

………


…昼頃…

提督「…えー、それではディアナの就役記念日を祝って……乾杯♪」

一同「「乾杯っ♪」」

ディアナ「ありがとうございます…このように盛大なお祝いを開いていただいて、言葉もございません」チェザーレから借りた真っ白なトーガに身を包んで銀の弓を背負ったディアナは、まさに月の女神のように見える……乾杯の音頭を受けたディアナは弓と矢筒をかたわらに置くと、優雅に一礼した…

エリトレア「まぁまぁ…そう固くならずに、遠慮しないでいっぱい食べて下さいねっ♪」

ディアナ「ふふ、エリトレアがそう言って下さるのですから…遠慮せずいただくことと致しましょう」

………



697 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/11/28(土) 02:39:36.19 ID:TzoCDUmn0
提督「…ディアナ、もう少しパスタを取ってあげましょうか?」

ディアナ「ありがとうございます」

ポーラ「良かったらキアンティをもう一杯いかがですかぁ〜♪」

ディアナ「よしなに…♪」

アブルッツィ「いっぱい作ったから、遠慮しないでどんどん食べてよ?」

ディアナ「ええ」


…歯切れのいいきゅうりのような食感をした青パパイヤと蒸した鶏の胸肉を細く切って和え、軽く魚醤で味付けをして砕いたピーナツを散らしたエリトレアの「東南アジア風サラダ」に始まり、春に続いて秋に旬を迎えるアサリで仕上げた「スパゲッティ・アッレ・ボンゴレ」に、提督の実家から送られてきた猪肉の味わい深い煮込み……飲み物にはイタリア赤ワインの王様「バローロ」と、銘柄こそないがポーラが選んだすっきりした地元の白ワイン、それにキアンティやシェリーが何本か待機している…


提督「んー…料理もよければワインも素晴らしいわ」

エリトレア「頑張って作ったぶん、美味しさもひとしおですねっ♪」

提督「ええ」

ペルラ(中型潜ペルラ級「真珠」)「ところで、今日のドルチェは何かしら…♪」

アメティスタ(中型潜シレーナ級「アメジスト」)「何でしょうね…私も楽しみです」

ヴォルフラミオ(中型潜アッチアイーオ級「タングステン」)「……甘い物はそこまで好きじゃない」

プラティノ(アッチアイーオ級「プラチナ」)「ヴォルフラミオってば、いつもそうやってドイツ人みたいなことを言うんだから……もっと人生を情熱的に楽しみなさいよ♪」白金のような輝く白い歯を見せて笑いかける…

ヴォルフラミオ「そう言う性分なんだ、仕方ないだろう」ヴォルフラミオ(元は「狼の泡」の意)はドイツ語が語源と言うこともあるためか、狼のような雰囲気でタングステンらしい冷徹な印象を与える……

アクスム「ヴォルフラミオはいつもこうでしたよ……ね、デジエ?」

デジエ「そうね、アクスム…♪」

アッチアイーオ「ちょっと、食事中にいちゃつくのは止めなさいよ!」

アルゴ(中型潜アルゴ級)「いいじゃない、二人は「私に乗る権利がある」くらいの立派な英雄だもの♪」ギリシャ神話のイアーソーンが「金羊毛」を求めて作った伝説の船「アルゴー号」にちなんでいるアルゴ……そのせいか、勇敢だったり戦績を残している娘にはとことん甘い…

アッチアイーオ「ほんとにもう…!」

ナウティロ(中型潜フルット級「オウムガイ」)「まぁまぁ、いいじゃないですか…♪」オウム貝の殻のように紅白で房になっている髪を垂らしている…

アラジ(中型潜アデュア級)「ナウティロの言う通りね。怒ってばかりだと疲れちゃうわよ?」

シーレ(アデュア級)「そうそう♪」

トリチェリ(大型潜ブリン級)「たまにはゆったりした気分でワインを味わって、のんびりして下さい……ね?」

アッチアイーオ「分かった、分かったわよ…あなたたちに言われたら何にも言えないわ」


…有名な「マイアーレ(豚)」ことSLC(人間魚雷)を搭載してアレクサンドリア港に侵入、戦艦「クィーン・エリザベス」「ヴァリアント」を大破着底、駆逐艦「ジャーヴィス」を損傷させた殊勲艦「シーレ」と、55回もの出撃を行い無事に戦後を迎えた強運の「アラジ」、そして紅海で対潜グループ相手に浮上砲戦を強いられるも駆逐艦とスループ各一隻を返り討ちにし、最後は総員退艦の上で自沈した「トリチェリ」と、そうそうたる功績の持ち主がアッチアイーオをなだめる…


アラジ「よろしい」

提督「…それじゃあそろそろドルチェを持ってきましょうか……ね?」

エリトレア「はいっ♪」

…厨房から提督とエリトレアが持ってきた大きなお盆には、イタリアの秋を代表する栗を使った「モンテ・ビアンコ」がぎっしりと並べてある…

(※モンブラン…元はフランスではなくイタリアの郷土菓子。日本で見られる「モンブラン」はアレンジされたもので、元祖イタリアのものはモンブランの山並みを表したきつい三角錐型に整えたマロンクリームに白い粉砂糖を振りかけるスタイル)

ディアナ「まぁ…♪」

ドリア「美味しそうですね♪」

ヴォルフラミオ「…」

プラティノ「…ヴォルフラミオはいらないそうだから、私がもらっておくわね♪」

ヴォルフラミオ「いや、別に食べないとは言ってないだろう……///」

近くの数人「「あはははっ♪」」

ヴォルフラミオ「///」

………

698 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/11/30(月) 02:19:11.33 ID:0EK9Te0B0
…食後…

提督「ふぅ…美味しかったのはいいけれど、思っていたより食べちゃったわね……」

アッチアイーオ「いっつもそんなこと言ってるじゃない、少しは加減したらどうなの?」

提督「…言ってくれるわね」

デルフィーノ「まぁまぁ…食べた分だけちゃんと運動すれば大丈夫ですよぅ」

ドリア「うふふっ、提督はそれが出来ないからお悩みなのですよ…デルフィーノ♪」

提督「むぅぅ…」

エリトレア「……それじゃあ、身近な所から始めてみたらどうでしょうかっ♪」

提督「あら、エリトレア…えぇと、その「身近な所」ってどういう意味かしら?」

エリトレア「はいっ、そのことですが…家事は意外と身体を使いますし、腹筋や腕立て伏せみたいにだらだら汗を流して……と言うわけでもありませんから、こまめに身体を動かすにはいいと思うのですが…どうでしょうか、提督っ♪」

提督「なるほど、なかなかいい考えかもしれないわね…♪」

エリトレア「そうですか…では洗い物もいっぱいありますし、まずはお皿洗いなんてどうですかっ?」

提督「……本当はそれが狙いね?」

エリトレア「あらら、バレちゃいましたか…」

提督「もう…そんな手を使わなくたって、必要なら手伝ってあげるわよ♪」ウィンクをすると椅子から立ち上がり、タートルネックの袖をまくり上げた…

エリトレア「ありがとうございますっ♪」

ディアナ「あ、でしたらわたくしも…」

提督「いいのよ、ディアナは今日の主役なんだから…ゆっくりしていて?」さっと立ち上がろうとするディアナを軽く押さえてにっこりした…

ディアナ「恐れ入ります…」

提督「さぁ、それじゃあ頑張りましょうか♪」

エリトレア「はいっ♪」

…数十分後…

提督「ふー…やっと終わったわね」

エリトレア「今日は特にお皿が多かったので、大変でしたねっ」数人が当番として手伝ってくれたとはいえ、かなりの作業だった後片付け……にも関わらず、いつも通りの屈託ない笑顔を見せるエリトレア…

提督「まぁ、美味しいごちそうを食べるためにはやむを得ないわね…」

アッチアイーオ「提督、門の所に訪問者よ……誰だか知らないけれど、つなぎを着た女の子が古めかしいトレーラーで来てるわ」

提督「トレーラー…? あぁ、はいはい」

アッチアイーオ「入れていいのね?」

提督「ええ、いいわ……ディアナ、来たわよ♪」

ディアナ「あら…♪」

…鎮守府・管理棟前…

エミーリア「はーい、海軍さん…ご注文の品のお届けに上がったわよ♪」つなぎ姿のエミーリアは、戦前のモデルと思われる骨董品のトレーラートラックから「よっ…!」と飛び降り、後ろの道板を下ろした…

提督「まぁ、これはまたずいぶんと……戦前のOM?」(※オフィシーネ・メカニケ…戦前〜1970年代に「イヴェコ」へ統合されるまで長くトラック等を作っていた自動車メーカー)

エミーリア「そ、ひいお祖父ちゃんの代からずーっとうちで使ってるトレーラーなの…もちろんパワーステアリングとかエアコンなんてないし、ウィンカーだって「窓から腕を振る」スタイルだけど、これだけ古いと逆に目立つから、結構いい広告になるのよ?」

提督「確かにそうでしょうね…」

エミーリア「…それじゃあ降ろすからね」フィアットの運転席に乗り込むと、ゆっくりバックさせてトレーラーから降ろした…

ディアナ「ありがとうございます」

エミーリア「いいのよ、あなたの就役記念日なんでしょ? おめでとう!」そう言うとつなぎのポケットに隠していたクラッカーを取り出して「パンッ!」と鳴らした…

ディアナ「まぁ…♪」

エミーリア「それじゃあ、これからもうちのガレージをよろしくね!」

ディアナ「こちらこそ」

提督「…良かったわね、ディアナ♪」

ディアナ「はい」
699 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2020/12/06(日) 02:23:32.05 ID:2nlRcBMt0
…数日後・提督私室…

提督「うーん…」

アッチアイーオ(常温)「提督、一体どうしたのよ? 冬物の服を見ながら考え込んじゃって」

提督「いえ、それがね…ここに着任した時は春だったから、冬物を箱に詰めて来たのだけれど…その時に整理を兼ねてハンガーを捨てたりあげちゃったりしたものだから……こうして冬物を出したら本数が足りなくなっちゃって…」ロングコートにマフラー、厚手のセーターやカーディガンといった冬物を広げて、少し困り顔の提督……

アッチアイーオ「だったら誰かから借りればいいじゃない…エウジェニオあたりならお洒落にもうるさいし、ハンガーの数本くらい持っているんじゃないの?」

提督「まぁ、今だけならそれでもいいのだけれど……でも、これから冬の間ずーっと借りっぱなし…っていう訳にもいかないじゃない?」

アッチアイーオ「まぁ、そうよね…じゃあ買いに行けば?」

提督「んー……そうね、そうするわ。 それじゃあアッチアイーオ、一緒に行かない?」

アッチアイーオ「私はいいわ…その分、秘書艦として留守はしておいてあげるから」

提督「そう…それじゃあ留守はよろしくね♪」ちゅっ…♪

アッチアイーオ(温)「も、もうっ…いきなりしないでって言ってるでしょ///」

提督「ふふっ……それじゃあ何かお土産を買ってきてあげるから…ね♪」

アッチアイーオ「い、いらないわよ! …提督がキスしてくれれば……それでいいし…///」

提督「ふふふっ、了解♪」

…玄関…

ディアナ「あら、提督…お出かけですか?」

提督「ええ。ちょっと「近くの町」まで買い物に行こうと思って……ディアナは?」

ディアナ「まぁ、奇遇でございますね…実はわたくしも、ちょうどお買い物に行こうと思って準備を整えた所でして…それに、せっかく自動車も買ったわけですし、少々試し乗りも兼ねて……と言うわけでございます」そう言うと、少し照れたような笑みを浮かべた…

提督「なるほど、いいじゃない♪」

ディアナ「はい……あ、一つ良い考えを思いついたのですが」

提督「いい考え?」

ディアナ「ええ…よろしければ、提督もわたくしのフィアットにお乗りになっては?」

提督「ディアナ、そう言ってくれるのは嬉しいけれど……始めて同乗するのが私でいいの?」

ディアナ「もちろんでございます…いかがでございましょう?」

提督「そうね……ディアナが乗せてくれるなら、喜んで♪」

ディアナ「では、決まりでございますね」

…数分後…

提督「……さてと、それじゃあ留守はよろしくね?」

デルフィーノの声「了解です、気をつけて行ってきて下さいねぇ♪」提督はインターホンのカメラ越しに当番のデルフィーノに手を振りつつ正門を開け、門を出た所でデルフィーノにロックを操作してもらうと、ちゃんと施錠されたことを確認した…

提督「これでよし…と♪」

ディアナ「…では、よしなに参りましょう♪」ブォ…ン、ブロロロ…ッ!

提督「…っ!?」

…提督がドアを閉めてシートベルトを締めたことを確認すると、ディアナは一気にフィアットのアクセルを吹かした……手早くギアをトップに入れると、十秒もしないうちに速度計の針が百キロを越えた…

提督「ね、ねぇ…ディアナ」

ディアナ「はい、何でございましょう」

提督「いえ、その……少し飛ばしすぎじゃないかしら?」

…外見こそノーマルの物とあまり変わらない、ディアナの小さな「フィアット850」ではあるが、中身は「アバルト」仕様で手を加えてあるので、ものすごいスピードで海沿いの道路を疾走する……もちろん提督も自分の「ランチア・フラミニア」でなら100キロなど何と言うこともないのだが、大柄ですわりのいいランチアに比べて小さいフィアット850だけに身体の振られ方や車体の傾きが激しく、同時に自分で運転していない分だけ他の事に意識が向き、より速度が出ているように感じる…

ディアナ「…そうでしょうか?」

提督「ええ……120キロは出ているわよ」

ディアナ「さようにございますね」にこにこしながらハンドルをさばきつつ、一流ドライバー並にコーナーをクリアしていく……

提督「…」(「高速スループ」だけあって、ディアナは車に乗るとスピードが抑えられないタイプなのかしら…?)

ディアナ「ふふふ、運転というのは楽しいものでございますね…♪」

提督「え、えぇ……そうね」
700 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/08(火) 02:10:25.91 ID:LWvTy/0w0
…数時間後…

リットリオ「あ、お帰りなさいっ♪」提督が帰ってくると、玄関先で待っていたリットリオが飛びついてきた……割と長身の提督よりもさらに頭一つ分は大きいリットリオに抱きつかれて、ちょうど胸の間に顔が埋まった……

提督「んむっ……///」

リットリオ「ふふふっ、提督が帰ってくるのを待っていたんですよっ…♪」

提督「んんぅ、むふぅ……ぷはぁ♪ …もう、リットリオってば♪」

リットリオ「えへへっ…それで、ディアナとのドライブはどうでした?」

提督「あー……次回からは遠慮させてもらいたいわね」

リットリオ「え? でもディアナは運転が上手だって話でしたよ?」

提督「ええ、確かに上手ではあるわよ……でもスピードが…」

リットリオ「なるほど、そういうことですか」

提督「ええ…普通なら十分や十五分はかかるっていう道のりを半分くらいに縮めるんだもの……ちょっと冷や汗が出たわ」

リットリオ「それは大変でしたねぇ……私がヴィットリオやローマとお出かけするときは、そこまで出しませんから♪」

提督「それがいいわ…」

リットリオ「…あ、そういえば」

提督「なぁに?」

リットリオ「この間「近くの町」にお買い物に行ったとき、ちょっと変わった人を見かけたんですよ♪」

提督「変わった人?」

リットリオ「はい…町のカフェでコーヒーを飲んでいた時なんですが、クリーム色のチンクエチェント(フィアット500)に乗った人が通りかかって……」

………

…しばらく前…

リットリオ「はー…お買い物、楽しかったですねぇ♪」

ヴィットリオ・ヴェネト「そうですね、姉さま……でも、少し喉が渇きました」

ローマ「なら、カフェで休憩でもしていきませんか?」

リットリオ「はーい、それじゃあそうしましょう♪」ちょうど道端のカフェを見つけると真っ赤なフィアット500を多少ぎこちなく停めた…

…数分後…

ローマ「…リットリオ姉様、口の端にクリームが付いていますよ?」

リットリオ「本当? …それじゃあローマ、取って♪」テーブル越しに顔を近づける…

ローマ「も、もう……仕方ないですね…あむっ///」

ヴィットリオ・ヴェネト「ふふ、リットリオ姉さまってば…」と、不意にテーブルに男が近寄ってきた…

男「やぁ、お嬢さん方…♪」

…リットリオたちに声をかけてきた愉快そうな顔をしたいがぐり頭の男は赤いジャケットに青いワイシャツ、黄色のネクタイ…と、ど派手な格好をしていて、そばにはカスタードクリームのような色をしたチンクエチェントが停まっている……車体には帽子を目深にかぶった立派なあごひげの男がもたれかかり、吸いさしの煙草をくわえている…

リットリオ「はい、何でしょう?」

派手な男「いやぁ、ちょーっと火を貸してもらえたら……と思ったんだけどなぁ♪」ちょっと軽い三枚目といった口調で、派手なウィンクを投げて来た…が、それほど悪い人間には見えない…

ローマ「済みません、あいにく煙草はたしなまないもので」

派手な男「あらぁ〜、それはごめんなさいねぇ……ところでそこのチンクエチェント、あれは君の車?」

リットリオ「はい、そうですよ」

派手な男「そっか…大事にしてるねぇ」

リットリオ「ええ、もちろんです♪」

ひげの男「……おい、いつまで油を売っているつもりだよ?」

派手な男「そう言うなよ……それじゃあお嬢さん方、チャオ♪」そう言うとクリーム色のチンクエチェントに飛び乗り走り去っていった…

ヴェネト「なんだか面白い感じの人でしたねぇ♪」

ローマ「そうね、ちょっと軽い感じだけれど……」ローマがそう言いかけた時、イタリア財務警察のパトカーが数台、甲高いサイレンを鳴らして青い回転灯を回しながらカフェの前を通過していった……

リットリオ「そうですね…さ、コーヒーは飲み終わりました?」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/12/08(火) 20:13:36.04 ID:bI5zaUi6O
久しぶりにその1から読み直してたけどグレイ提督がだんだん金髪ギブソンタックの某妖怪紅茶格言ババアの声でされるようになってしまった...
702 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/11(金) 03:29:59.34 ID:dfwfGMK00
>>701 振り返ってみるとあちこちに誤記や設定の矛盾があって恥ずかしい限りですが、読み返して感想まで下さる方がいて嬉しい限りです……最近色々と忙しく、更新が滞りがちなので、そうして読み返しながらお待ちいただければ幸いです


…あの髪型は「ギブソンタック」と言うのですね、知らなかったのでためになりました……それと「妖怪紅茶格言ババア」呼ばわりなどすると、家にパンジャンドラムが放り込まれたり、チャーチル歩兵直協戦車のゲテモノ派生型が突っ込んで来たりするかもしれませんよ…くわばらくわばら


……この後は「横須賀第二鎮守府」に戻った百合姫提督の様子でも書こうかと思っていますが、帝国海軍の艦にはなかなかエピソードも多いので、資料を読みつつどの艦をキャラクターとして使うか思案中です…個人的には松型駆逐艦や、普段はなかなか目立たない補助艦艇、護衛艦艇を中心に出して行きたい所存です……もし出して欲しい艦があれば、いつでもリクエストを下さいね

703 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/12(土) 03:01:30.79 ID:OMqTK5j60
リットリオ「…と言うわけで、なんだか面白そうな人でした♪」

提督「なるほどね……うーん……」

リットリオ「どうしました、提督?」

提督「いえ…その特徴をした男の人、どこかで見かけたことがある気がするのだけれど……あ!」こめかみに手を当てて考えていたが、ふいにすっとんきょうな声をあげた…

リットリオ「思い出しましたか?」

提督「ええ、まだ私がパリ駐在の海軍武官付連絡将校だったころよ…まだ駆け出しの中尉で、マリーとも知り合って間もない頃ね♪」

リットリオ「そのお話、ぜひ聞きたいです♪」

提督「それじゃあ立ち話もなんだし、食堂で話すとしましょうか♪」

…食堂…

提督「さてと…」何だかんだで非番の艦娘たちが良く集まってお茶とお菓子を楽しんだり、おしゃべりに興じている食堂……提督が座ると面白い話でも聞こうと、三々五々と集まってくる…

ライモン「あ、提督……お帰りなさい」さきほどまで当直で作戦室に詰めていたライモン……ずっとレーダー画面を見ていたせいか、しきりにまばたきしている…

提督「ええ、ただいま…はい、お土産♪」町の小さな菓子店で買ってきた、クッキーの小袋を渡した…

ライモン「ありがとうございます」

提督「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)…大丈夫、みんなにも買ってきたわよ♪」


…小脇に抱えていた大きな紙袋をがさごそと開けて、チョコレートやアーモンド入りのクッキー、小さなピスタチオ入りケーキを取り出して大皿に並べる提督……ほとんどは買ったものだが、お菓子屋の主人であるほっそりしたおじさんと、その奥さんである愛想のいいおばさんは「お得意様」である鎮守府に、欠けたり割れたりした焼菓子や、少し崩れたムースやら飾りのサクランボが取れたカンノーロやらををたくさんおまけしてくれた…


カルロ・ミラベロ「ふふ、ありがとう…でも、私はもっと甘いものが食べたいの♪」

アウグスト・リボティ「そう…舐めるとあまーい蜜がいっぱい滴ってくるような……ね?」ねちっこい妖しい手つきで提督にまとわりつく二人…

提督「ふふっ、それは夜のお愉しみに取っておきましょうね……♪」

エリトレア「はいはーい、みなさーん♪ お茶を淹れましたから、飲みたい方は自分で注いで下さいねっ♪」

提督「ふふ、ちょうどタイミングね…それじゃあ……」

ライモン「提督のはわたしが持ってきますから、どうぞ座っていて下さい」

提督「あら、ありがとう……ちゅっ♪」

ライモン「も、もうっ…///」

提督「…さてと、リットリオたちが会ったっていう男の人だけれど……」みんなにリットリオの話のあらましを伝えると、紅茶を一口すすってから続けた…

………

…十年ほど前・パリ…

カンピオーニ中尉(提督)「ふぅ……まったく」

エクレール中尉(エクレール提督)「…そういうこともありますわ」

提督「そうは言ってもね……「ブリエンヌ館」(フランス防衛省…パリ七区)に行けば書類を渡す相手がいるって言われたのに、行き違いで「オテル(ホテル)・ドゥ・ラ・マリーヌ」(フランス海軍参謀本部…パリ八区)に行かなきゃいけないなんて…まったく」


エクレール提督「まぁ、でも良いではありませんの…パリ七区に八区と言えば「オテル・ドゥ・ザンヴァリッド(アンヴァリッド…廃兵院。古くは傷病兵の施設だった。軍事博物館(ミュゼー・ドゥ・ラルメー)が併設されており、ナポレオン・ボナパルトの棺もある)」に「コンコルド広場」「オルセー美術館」「グラン・パレ(パリ万博会場で現在は展示場兼美術館)」…他にもあまたの名所旧跡のある世界遺産ですもの。書類を渡し終えたら、わたくしが案内して差し上げますわ♪」


…セーヌ川を挟んで向かい合わせの位置にあり、どちらも高級商業地区と官庁街であるパリ七区と八区……ルノーやシトロエンが行き交う橋の歩道を連れだって歩きながら、自慢げに言うエクレール提督…


提督「世界遺産だって言うのならローマだってそうよ……それにプロヴァンス娘の貴女にパリの案内が出来るのかしら♪」

エクレール提督「この、言わせておけば…!」

提督「ふふっ、冗談よ」

エクレール提督「…世の中には言って良いことと悪いことと言うものがありますわ」

提督「悪かったわ……代わりに今夜はたくさん愛してあげるから…ね?」

エクレール提督「こ、こんな所でそういうことを言うものではありませんわ…っ///」

提督「ふふっ、それじゃあカフェでお茶でもごちそうしてあげる…♪」
704 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/13(日) 11:37:08.65 ID:f+VetOaY0
提督「……これだけ種類があると目移りしそうね…マリーはどれにするの?」

エクレール提督「そうですわね…わたくしはクレープにいたしますわ」

提督「そう、それじゃあ私はエクレール(エクレア)にするわ♪」にっこりと微笑み、それからさりげなくウィンクを投げた…

エクレール提督「…ま、また貴女はそうやって……///」

提督「あら、いけない?」

エクレール提督「い、いけない事はありませんわ……奇をてらったところがないだけに、最もパティシエの腕前が試されるお菓子ですもの///」

提督「ふふっ…そうよね♪」

エクレール提督「…え、ええ///」

…数分後…

提督「あら、美味しい…中のクリームも甘すぎなくて、ちょうどいいわ」

エクレール提督「それはなによりですわ…まぁパリには美食という美食が集まっておりますもの♪」

提督「ええ…少なくともカトリーナ・ディ・メディチが教えてからはね」

(※カトリーナ・ディ・メディチ…フィレンツェの名門メディチ家の出身で、フランス国王アンリ二世の王妃。フランス名はカトリーヌ・ド・メディシス。政略結婚でフランスに嫁がされ、その際にイタリアのすぐれた文化が多くフランスに持ち込まれた)

エクレール提督「また貴女はそうやって…!」

提督「まぁまぁ…そうやってイライラしているとお肌に悪いわよ?」

エクレール提督「そうなったのは一体誰のせいだと…」

提督「さぁ?」

エクレール提督「…まったく///」

提督「ふふふっ…♪」提督が笑っていると、そばの席に二人の男が座った……片方は派手な赤いジャケットに黄色のワイシャツ、青いネクタイで、もう一人は目深にかぶった帽子にものすごいあごひげで、ひしゃげた吸いさしの煙草をくわえている…

ひげの男「…やれやれ、本当にあの女の言うことを信じるつもりなのか?」

派手な男「ああそうさ……それに今回のヤマはどデカいぜぇ♪」

ひげの男「あきれかえって物も言えねぇな…だいたい「とっつぁん」が目の色を変えて追っかけて来てるって言うのによ」

派手な男「うひひ、とっつぁんは熱心だからねぇ……っと、いけねぇ」そう言うと不意に提督たちの方に声をかけてきた…

派手な男「エクスキューゼ・モア(失礼)…お嬢さん方、ちょーっとその新聞を見せて欲しいんだけどなぁ?」エクレール提督が買って持っていた「ル・モンド」を指し示した…

エクレール提督「まぁ、別に構いませんけれど…いきなりなんですの?」

提督「まぁまぁ……さ、どうぞ?」

派手な男「メルスィ♪」

…軽く礼を述べて「ル・モンド」を受け取ると、二人は紙面を広げて顔を隠すように読み始めた……と、男が新聞を広げるか広げないかのうちに、ふにゃふにゃの茶色いトレンチコートに帽子の男が通りかかった…どうやら日本人らしいコートの男は、雰囲気いい態度といい、どこからどう見ても刑事にしか見えない…

刑事「くそぉ…奴め、逃げ足だけは天下一品だ……!」肩を怒らせ、どたどたと足音も荒く通りを走っていった…

派手な男「……ぬひひ♪」

ひげの男「ははははっ…♪」

派手な男「うひひひ……っと、新聞をどうも♪」

エクレール提督「ええ…」何が何やらといった表情で、細い眉をひそめているエクレール提督……

派手な男「…それじゃあ行くかい?」

ひげの男「おう、そうだな」

…二人の男は勘定をテーブルに置くと、ひょいと横の小路を曲がった……そしてエンジンをかける音が聞こえると、目の覚めるような黄色の「メルツェデス・ベンツSSK」に乗って出てきた…

提督「すごいわね…あれ、メルツェデスのSSKよ」

エクレール提督「確かにクラシックな車のようですけれど……そんなにすごい車なんですの?」

提督「ええ、世界に数百台とない名車よ…立派な車ですね」

派手な男「いやぁ、どうも……とにかく、さっきはありがとさん♪」邪気のないウィンクを投げると、エンジン音を響かせて走り去っていった…

エクレール提督「なんだか知りませんが、変わった方でしたわ……」そう言って丸められた「ル・モンド」を開くと、中に一輪のバラが仕込まれていた…

エクレール提督「まぁ…驚きましたわね」

提督「…なかなかお洒落なことをするわね、私も見習おうかしら♪」
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/12/18(金) 18:27:06.81 ID:PNcM2sITO
アバルトの850ベルリーナとはまたオシャレなイタリア車を... アバルトは元のフィアットの可愛さを残したままレーシーに仕上がってるので私も大好きです。私の愛車のアバルト1000もよく走る、よく曲がる、よく壊れるの3拍子ですが手を掛ければかけるほど愛情と愛着が沸きとても可愛いです。
706 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/19(土) 00:26:07.47 ID:yfdtbr+t0
>>705 まずはコメントありがとうございます、それにしてもアバルト1000に乗っておられるなんてお洒落ですね!


当初はセイチェント(フィアット600)やフィアット127、あるいはいっそスポーティでとても格好いい「ランチア・アウレリア・スパイダー」にしようかとも考えていましたが、ディアナがお買い物にも使えて、なおかつスピードの出る一台を選ぶなら……と考えて850にしてみました。小さい丸っこい見た目でよく走る、イタリアの街角に似合いの一台といったイメージですね


…イタリア車というと、一時期は工員がライン上の車でお昼を食べたり休憩したりして「弁当がオマケについてくる」なんて言われたこともあったそうですが……メンテナンスフリーといった感じの日本車と違って「自分でメンテナンス出来る人が手をかけて楽しむ」イメージがありますね
707 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2020/12/19(土) 01:24:01.28 ID:yfdtbr+t0
………



提督「…って言うことがあったから、たぶん同じ人じゃないかしら?」

リットリオ「きっとそうですね♪」

提督「ね……って、あら」首から提げている携帯電話が「ヴーッ、ヴーッ…!」とうなりだした……

ライモン「電話ですね…どなたでしょうか?」

提督「えぇと…あ、姫からだわ♪」嬉しそうにいそいそと電話を取る提督…

提督「…もしもし、姫?」

百合姫提督の声「ええ、フランカ……電話をするのが遅くなっちゃってごめんなさい、本当は成田に着いたらすぐに連絡したかったのだけれど…この数日はちょっとバタバタしていたものだから……それにこっちが忙しくない時間にかけようとすると、そっちは時差で夜中になっちゃうし…ごめんなさいね?」

提督「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)…それより、姫の声が聞けて嬉しいわ……まるで天上の音楽みたいね♪」

百合姫提督「も、もう…またそうやって……///」

提督「ふふふっ…ところで、そっちはどう?」

百合姫提督「そうね。みんながよく留守をしていてくれたおかげで、問題はあまりなかったわ」

提督「それはなによりね…良かったら横須賀に戻ったときの話を聞かせてくれる?」

百合姫提督「ええ、でも長話になってしまいそうだけれど……大丈夫?」

提督「構わないわ…姫の方こそ国際電話でしょう? 主計部か何かに「通話料が高い」とか何とか、ねちねち言われたりしない?」

百合姫提督「そうねぇ、それは一応大丈夫だと思うわ……」

提督「そう、それなら安心ね♪ それじゃあ、そっちの話を聞かせて?」

百合姫提督「ええ、今話すわね……」


…数日前・成田空港第一ターミナル…


足柄「ふぅぅ…やっと着いたわね」

百合姫提督「疲れた?」

足柄「まさか……もっとも、まだ飛行機の旅は慣れないわね」

龍田「そうねぇ…お日様が後から着いてきたりとか、夕焼けからお昼になったりとか……」

足柄「ね……面白いから見ていたかったんだけど、カーテンを閉めるように言われちゃって残念だったわ」

百合姫提督「確かに国際線の飛行機じゃないと出来ない体験だけれど、あれを見ていると時差ボケがひどくなるから……仕方ないわ」

足柄「そうらしいわね……それに機内食もなかなかだったわよ。とはいえ、タラントの食事に比べれば「月とすっぽん」ってところだけど…」

百合姫提督「ふふ、無理を言っちゃだめよ…何しろエコノミーだもの」

…今回の「交換プログラム」には百合姫提督の他に「横鎮(横須賀鎮守府)」からもう一人、そして「呉鎮(呉鎮守府)」「佐鎮(佐世保鎮守府)」「舞鎮(舞鶴鎮守府)」から二人ずつの都合八人と、その随行の艦娘たちがイタリアやイギリス、フランスへと派遣されていた……となると、ファーストクラスはおろかビジネスクラスでも予算がかかりすぎる……結局、エコノミークラスで少々疲れる飛行機の旅をすることになった百合姫提督たち…

足柄「まぁそうよね……いいわ、戻ったら好きなだけ寝ればいいんだものね」

百合姫提督「そういうこと……さ、行きましょうか」…PKO参加の部隊や国際貢献活動からの帰還と違って、大仰な「帰国式」だの「旗を振ってのお出迎え」だのといった物もないので、入国審査を済ませた後はむしろ気楽な気分で電車に乗り込んだ……

…電車内…

龍田「…ところで、提督」

百合姫提督「なぁに?」

龍田「結局鎮守府には列車で戻るの?」

百合姫提督「あぁ、そのことね……実はね、横須賀線だと遠回りになるから千葉港までうちの「十七メートル内火艇」が迎えに来てくれるって」

(※十七米内火艇…戦艦・一等巡洋艦(重巡)クラス搭載のモーターランチ。軽快で後部に甲板室を設けている事から「長官艇」としてもよく用いられた。速度およそ十五ノット)

足柄「それはありがたいわね」

百合姫提督「そうね…♪」
708 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/20(日) 02:54:27.29 ID:+uJOkREP0
…千葉駅…

百合姫提督「さてと、ようやく着いたわね」

足柄「着いちゃったわねぇ……それにしても、どうして今の日本はコンクリートとガラスの建物ばっかりで、しかも統一感がなくってごちゃごちゃしているのかしらね」駅のホームからを見える街の様子を眺めてため息をついた…

龍田「そうねぇ…それでいてお店はみんな似たようなチェーン店ばっかりだものね」

足柄「まったくよ…そりゃ向こうにもゴミが散らかっている場所だってあったし、スプレーの落書きがひどい場所なんかもあったわよ? でもこうやって戻ってきてあっちに比べると、どこの駅前もそっけないコンクリートとガラスのビルばっかりで嫌になるわ……我が国だって大正年間にはもっとこう…レンガと装飾のあるハイカラな建物があったじゃない」

百合姫提督「そうね、私もそんな時代を見てみたかったわ…確かにイタリアはすぐ水道が詰まったり、アパートには階段しかない…なんて不便なところもあったけれど……でも「ただ古い」だけじゃなくて、歴史を大事にした綺麗な建物が多かったわね」

足柄「ほんと、そういうところなのよね」

百合姫提督「そうね…」

龍田「……それはそうとして、千葉港まではどうやって行くのかしら?」

百合姫提督「あぁ、それならモノレールがあるから…それで行きましょう」

足柄「へぇ、モノレールってあのぶら下がったりまたがったりしてるやつでしょ?」

百合姫提督「ええ、そうよ」

足柄「私はまだ乗ったことないわ…面白そうね♪」

百合姫提督「ふふ、気に入ってくれるといいのだけれど……と、その前に」

足柄「なに?」

百合姫提督「せっかくだからここでお弁当でも買っていきましょうか……港に内火艇が来るまでもうしばらくかかるし」

龍田「それがいいわねぇ」

足柄「いいわね、もうお昼に近いし……言われてみればお腹も減ったわ」

百合姫提督「それじゃあ決まりね…♪」

…千葉都市モノレール…

足柄「うわ、思ってたよりもつなぎ目のところでガタガタ揺れるのね……しかも結構加速するし、ぶら下がってるから変な気分」

百合姫提督「…驚いた?」

足柄「そりゃあ私がフネの形で「産まれた」頃にはなかったもの…まぁ路面電車の方がロマンがあると思うけれど、眺めはこっちの方がいいわね」

百合姫提督「そうね…ちなみにここのモノレールは世界で一番長い「懸垂式」のモノレールなんですって」

足柄「へぇ、そうなの」

…しばらくして・千葉港…

足柄「……あぁ、いい風…青くって穏やかな地中海も良かったけど、やっぱりこっちの海の方が落ち着くわねぇ」

龍田「そうねぇ、風の匂いも波の音も……全てが懐かしいわぁ」

百合姫提督「ふふ…それじゃあ懐かしい海を見ながらお昼にしましょうか」


…港を望む「千葉ポートタワー」とその周辺に広がる公園……薫る海風を受け、周囲に広がる東京湾と沿岸の工業地帯を眺めるベンチに腰をかけた……百合姫提督が袋から取り出したのは千葉駅の名物「はまぐり飯」の駅弁で、大きな瀬戸物で出来たハマグリ型の入れ物を開けると、中には醤油で炊き込んだご飯に甘辛いハマグリのむき身が散りばめられたものが入っている…

(※はまぐり弁当…以前は千葉駅にある「万葉軒」の名物だったが、外房線・内房線を使った観光客が減ったためか今では販売されていない)


足柄「あら、美味しそうじゃない」

百合姫提督「それと、ついでにこれも…はい♪」串に刺して焼き、甘辛く味付けした焼き鳥のような「はまぐり串」を差し出した…

龍田「ふぅ……洋食も悪くはなかったけれど、やっぱりご飯と醤油の味は落ち着くわねぇ」

足柄「そう? 私はイタリヤ料理だって好きだけれど?」神戸生まれのハイカラさんで「スピットヘッド観艦式」への参加と欧州歴訪経験もある足柄らしく、少々得意げに言った…

龍田「相変わらずバタ臭いことを言っているわねぇ…」(※バタ臭い…バターの匂いをさせていることから転じて「ヨーロッパ風」あるいは「欧州かぶれ」のこと)

足柄「バタ臭いとは失礼ね」

百合姫提督「ふふふ、まぁまぁ……♪」
709 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/24(木) 01:34:26.33 ID:II9EerSm0
…数十分後…

足柄「あれ、うちの内火艇じゃない?」

龍田「間違いないわねぇ……」

百合姫提督「そう、それじゃあ行きましょうか…♪」

…いつもは東京湾クルーズの遊覧船が舫って(もやって)いる客船用の桟橋に近寄ってきた十七メートル内火艇は、桟橋の近くまで来ると逆進をかけて行き脚を止め、ピタリと桟橋に寄せた……そこからさっと降りて提督たちに敬礼する、きりりとした雰囲気の艦娘…

百合姫提督「ご苦労様……わざわざ迎えに来てくれて、どうもありがとう」答礼をすると手を下ろし、それからやさしい微笑を浮かべた…

長身の艦娘「構いません、提督……私が一番にお迎えできて嬉しい限りです♪」

龍田「…相変わらず眩しいわねぇ」

足柄「ええ……まるで帝劇か宝塚のスタアみたいよね」

艦娘「ふっ、そう言われると照れるね……お帰り、足柄、龍田…イタリーは楽しかったかな?」

足柄「相変わらずいいところだったわよ…長門」順番に内火艇へと乗り込みながら返事をした…

長門(長門型戦艦一番艦)「それは何よりだね、まぁつもる話は後で聞くとしようか……さぁ、どうぞお乗りください、提督」内火艇から渡された道板を歩く百合姫提督にさっと手を差しだし、きりりとした凜々しい表情を向けた…

百合姫提督「ええ、ありがとう…///」

…東京湾…

足柄「あー、あれは「高栄丸」ね……また機雷敷設に行くのかしら、ご苦労なことね」元は貨物船ながら帝国海軍へと徴用され「特設敷設船」として機雷敷設を行っていた功労船…同時に無事に大戦を生き延びて長く活躍した幸運船でもある「高栄丸」がゆっくりと出港していく……

龍田「本当にねぇ…」

百合姫提督「……ところで長門、鎮守府はどう?」

長門「ほとんど問題ありません、提督…私と「比叡」のどちらが提督を迎えに行くかで少し押し問答がありましたが……」

百合姫提督「もう、長門ってば……」

長門「申し訳ありません…何しろ比叡が「お召し艦ならば私です」というので「いや…提督は司令官なのだから、そこは『連合艦隊旗艦』の私が行くべきでしょう?」と言ったら、最後は折れてくれました……しかしそのままでは面子が立たないだろうと思ったので、鎮守府での帰還式は比叡に任せました」

百合姫提督「そう、鎮守府での暮らしはお互い譲り合って…ね?」

長門「はい、心得ております」

百合姫提督「よろしい…♪」

足柄「…それで、鎮守府の様子はどう?」

長門「ふふ、そこは相変わらずと言った所かな……」

龍田「天龍姉さんはどうかしら?」

長門「相変わらずの暴れ者で困った限りさ…」そう言いながら龍田の頬に手を当てて、じっと目を見る…

龍田「…ちょっとぉ、止めてくれるかしらぁ?」

長門「おっと、済まないね…♪」

足柄「全く、このやり取りがあると帰ってきた気分になるわね……」

長門「ふふ、足柄もご苦労様……久しぶり会えて嬉しいよ」

足柄「…ちょっ、いいから止めてよ!」

長門「ああ、悪かったね…そうそう、妙高たちも元気で、足柄に会えるのを楽しみにしているよ」

足柄「それならよかったわ」


710 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2020/12/25(金) 02:48:13.96 ID:/SNzKGI00
…読んで下さっている皆様、メリークリスマス……どうか楽しいクリスマスを送れますように…

…きっとクリスマスは可愛い女の子が彼女さんとチャイナドレスでデートしたり、命感じたりするのでしょうね……ちなみに>1は25日のディナーにローストチキンを焼く予定です…

711 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/26(土) 03:26:26.45 ID:mqgdI8yL0
…横須賀第二鎮守府…

長門「そろそろ到着の頃合いだな…」

足柄「……はぁ、早く畳で休みたいわ」

長門「そうだろうね…さ、提督も準備のほどを……♪」

百合姫提督「え、ええ……ありがとう///」

龍田「そういうことをさらっとするんだものねぇ…」

…百合姫提督の預かる「横須賀第二鎮守府」は湾内の拡大された軍港エリアの一画にあり、沖には猿島、東側には記念館「三笠」の姿が見える……周囲の海面には通船や曳船が行き交い、何隻も停泊している各種の艦艇がかつての横須賀を想起させる…

百合姫提督「……帰ってきたわね」

足柄「そうね…ま、比叡が帰還式の音頭を取るってことはかしこまった制式の式があるんだろうから…しゃっきりしてよ?」

百合姫提督「ええ…♪」

長門「機関後進微速…機関停止!」


…将旗を掲げた内火艇が埠頭に着くと、陸(おか)にいた一人がもやい綱をクリートに結ぶ…道板が渡され、龍田、足柄、長門……そして百合姫提督が降りた所でさっと旭日旗と将旗が翻り、整列していた艦娘たちが一斉に敬礼する…同時にスピーカーから「君が代」と、続けて「軍艦」(軍艦マーチ)が流れる…


比叡(金剛型戦艦二番艦)「鎮守府司令官、帰投されました! …提督、どうぞご挨拶を」

百合姫提督「ええ…」ご丁寧にも倉庫から持ち出して来たらしいレッドカーペットを歩くと用意されているマイクスタンドの前に立ち、大小様々な姿をしている艦娘たちをさっと見渡した…

百合姫提督「……今回は「交換プログラム」によるイタリアへの派遣により、大いに研鑽を積み、また見聞を広めることが出来ました……その間、鎮守府の留守をよく守ってくれてありがとう」そう言って軽く頭を下げる…

百合姫提督「こうして無事に帰投することができ…そして皆が健勝であることをこの目で見ることが出来るのは大変に喜ばしいことです」

百合姫提督「……さて、明日からはまた本官が執務を行いますが、欧州で得た経験を持ってして…労苦を惜しまず、より一層この鎮守府の運営に励みたいと思う所存です。ぜひ、皆も協力を願います」挨拶が終わったことを示すべく、マイクスタンドから一歩下がる…

比叡「全体、敬礼っ! 解散っ!」

百合姫提督「……式の進行、ご苦労様」

比叡「いえ、こうした式はきちんと行わないといけませんから……ですが、ありがとうございます」

百合姫提督「どういたしまして。ところで……」そう言いかけたところで次々と艦娘たちが押し寄せ、たちまち取り囲まれた百合姫提督たち…

金剛「お帰りなさぁい……提督♪」

伊勢「提督の帰投を心よりお待ちしておりました」

飛龍「お帰りなさい、提督…みんな待ちくたびれていましたよ!」

妙高「足柄、お帰りなさい……会いたかったわよ」

足柄「ええ、私も…」

那智「足柄、戻ってきてくれて嬉しいわ…後で囲碁でも一局指しましょうか」

足柄「私は囲碁なんかよりチェスの方がいいわ……ハイカラだし」

羽黒「ふふ、まーた足柄の「ハイカラ病」が始まったわ…♪」

天龍「……お帰り、龍田」

龍田「ええ、ただいま」

電「提督、お帰りなさ…!」

百合姫提督「ただいま、いな……痛っ!」

電「あいたた……ぁ!」百合姫提督に挨拶をしようと「ととと…っ!」駆け寄ってきた電だったが、百合姫提督が振り向いた途端頭をぶつけた…

比叡「まったくもう、なにをやっているんです…っとと」ずっしりと重くかさばる赤い絨毯をきちんと丸めて片付けようとした比叡だったが、思わずたたらを踏む…

雪風「大丈夫ですか、比叡…よかったら私が代わりますよ」

比叡「大丈夫よ、大丈夫……雪風は身なりもちゃんとしていて偉いわね」

雪風「あ、ありがとうございます…///」

松「お帰りなさい、提督!」

竹「会いたかったわ!」

梅「うむ、待ちくたびれたぞえ」

百合姫提督「ありがとう、みんな……さぁ、立ち話もなんだから休憩室にでも行きましょう」
712 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/27(日) 03:14:15.85 ID:iA+3r6mJ0
…休憩室…

百合姫提督「畳の部屋で緑茶とお茶請け……ふふ、何だかんだで落ち着くわ…♪」

龍田「何より靴を脱いでいられるのはありがたいわねぇ……スリッパや室内履きだとしても、室内で履物を履いていないといけないって言うのは落ち着かなかったものねぇ」

足柄「まぁ、気持ちは分かるわ……龍田、お煎餅を取ってちょうだい」

龍田「はいはい、どうぞ…♪」

百合姫提督「今日のお茶請けは「三原堂」の塩せんべいね……私は好きよ、これ」餅米の粒を残して薄く焼いてある塩せんべいは、独特のばりばりとした食感と香ばしい風味がしてとても美味しい……

足柄「でも何枚もないわね……もらっちゃっていいかしら?」

妙高「もちろんいいわ、だって海外派遣の間はお煎餅なんて食べられなかったでしょう?」

足柄「まぁね……最も、イタリヤじゃあ「カンノーリ」とか「ビスコッティ」みたいにハイカラで素敵なお菓子をうんと食べてきたけれど♪」

羽黒「じゃあいらない?」

足柄「まさか…せっかくなんだもの、いらないって事にはならないわよ」

妙高「そういうところは相変わらずね…♪」

扶桑「あらら……出遅れちゃいましたね。塩せんべいはもうおしまいですか?」

雪風「あ、ごめんなさい…最後の一枚は私が……半分食べます?」

扶桑「ありがとう、それじゃあ半分だけ……」

雪風「はい、おすそ分けです」

百合姫提督「……塩せんべいは無くなっちゃったけれど、他にも色々あるから…何か食べる?」

扶桑「そうですね…何がありますか?」

百合姫提督「えぇと…普通の厚焼き煎餅に「チーズアーモンド」と「柿の種」…それからこれは「七福神あられ」ね……」

赤城「あ、それは私が注文しておいたものです……良かったら皆さんもどうぞ」


…群馬の隠れた(?)お土産である「七福神あられ」…昔懐かしい感じがする四角い缶には、個包装されているあられがざらざらと入っている…一口大の軽い食感をした薄焼きあられはコミカルな七福神のイラストの描いてある袋に一枚ずつ入っていて、恵比寿様の「えび」や福禄寿の「しそ」…はたまた弁財天の「バター」や毘沙門天の「カレー」といった洋風な味もある…


榛名「…存外美味しいですよね、これ」赤城山、妙義山と並ぶ「上毛三山」の一つである榛名山が名前の由来だけに、群馬名物には目がない…

百合姫提督「それから甘いのは「ルマンド」に「バームロール」と……」

大淀「あ、そういえばそのお菓子は「新発田鎮」の提督からいただきました……提督がお戻りにならないうちに開けてしまうのもいかがかとは思いましたが、置いておいて悪くしてしまうといけないと思ったので…///」

(※お菓子メーカーの「ブルボン」や柿の種の「亀田製菓」はいずれも越後(新潟)にある。また山本五十六長官も同じく新潟の出身なので、艦隊と縁があるとも言える…?)

百合姫提督「ええ、分かっています……どうぞ、遠慮しないで?」

間宮「…皆さん、お茶のお代わりを淹れてきましたよ」

百合姫提督「あら、ありがとう……間宮も座って?」

間宮「ありがとうございます…それでは♪」

百合姫提督「……それで、留守中は何もなかった?」

大淀「そうですね…だいたいはいつも通りです」

百合姫提督「だいたいは…?」

大淀「はい。ですが何人かは…その…少々……」

百合姫提督「…その話は後で執務室に戻ってから聞くことにしましょう……留守中の執務、お疲れ様」言いづらそうに口ごもった大淀の様子と、艦娘たちのいつもの調子からだいたいの予想がついた百合姫提督……

大淀「いえ、そんな…///」

百合姫提督「みんなもよく協力してくれたみたいで嬉しいわ…改めてお礼を言わせてもらいます……」

百合姫提督「……どうもありがとう、みんな」背筋を伸ばして姿勢を正すと、丁寧に頭を下げた…

………


713 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/29(火) 01:07:27.41 ID:4K2R67yb0
…しばらくして・執務室…

百合姫提督「…それで?」

大淀「は…みんなの陰口を言うようで、あまりいい気分ではありませんが……」

百合姫提督「もし問題が起きそうなら何か起きる前に収めなればいけないし、みんなが鎮守府で気持ちよく過ごせるために聞くだけだから……必要以上に口外もしません」

大淀「言われてみればそうでした。提督に限って軽々しくしゃべったりはしないですよね……」そこまで言いかけたところでふと口をつぐむと机の上のメモ帳を取って何か書き、それを百合姫提督に渡すと閉まっている扉の方を向いた…

百合姫提督「…」(「誰かが扉の外で聞き耳を立てています。忍び寄って取り押さえるので、何か話していてください」…ね)

大淀「……と言うわけでして、提督はどうお思いになられますか?」

百合姫提督「そうね…にわかには信じがたいことだけれど、そういうことがあったなら考え直さないといけないかもしれないわね……」

大淀「提督もそう思いますよね……そこにいるのは誰かっ!」

間宮「…っ!」

大淀「間宮?」

百合姫提督「……間宮、そんなところで一体どうしたの?」

間宮「えぇーと、その…実は、提督に何かお飲み物でもお持ちしようかと……」

大淀「…お茶ならもうありますが?」

間宮「あー、それはそうですが……そうそう、お茶請けに間宮特製の羊羹でもお持ちしましょうか…甘くって美味しいですよ♪」

大淀「…」

百合姫提督「…」

間宮「…」

百合姫提督「……間宮」

間宮「はい、提督」

百合姫提督「…本当は何をしていたの?」

間宮「……すみません。どうにも二人のお話が気になったものですから、少々聞き耳を…」

(※間宮には高性能の通信機器が装備されており、米軍の通信を探知・傍受するなど「情報収集艦」としての機能も有していた)

大淀「はぁ、まったく……どうしますか、提督?」

百合姫提督「そうねぇ…間宮」

間宮「は、はい…」

百合姫提督「…今から食堂に行って、私と大淀に羊羹を切ってきてもらえる?」

間宮「は、はい…すぐに行って参ります!」

大淀「……よろしいのですか?」

百合姫提督「ええ…間宮は速度が出ないから、行って帰ってくるまでにはしばらくかかるでしょう」(※間宮…最高速度14ノット)

大淀「なるほど」

百合姫提督「さぁ、それじゃあ今度こそ聞かせてもらえるわね?」

大淀「はい、まずは……」

………

714 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/29(火) 02:54:20.89 ID:4K2R67yb0
…数ヶ月前…

蒼龍「…提督がいないと寂しいわ」

飛龍「確かに…それに出撃もなくて、身体もなまっている感じ……」

龍驤「…それじゃあ一つ気晴らしに「演習」でもしますか」

鳳翔「あぁ、演習ですか…いいですね♪」

…しばらくして…

摂津(標的艦)「な、なぁ……うちのこと呼んだ…?」

鳳翔「はい、呼びましたよ…♪」

飛龍「呼んだよ……摂津おばあちゃん♪」

赤城「……ふふ、かつての戦艦がおどおどして……たまりませんね♪」

加賀「うんと逃げ回って、私たちを愉しませてくださいね……それと、貴女たちも♪」爛々とした目をして、ぺろりと舌なめずりする空母たち…

波勝(標的艦)「くふふっ…空母のお姉ちゃんたちってば、まーた私たちで「演習」したいんだ……本当にスキモノなんだから♪」

矢風(標的艦)「わ、私は……ほ、ほら、摂津が相手してくれるからいいでしょ?」

…稽古室に呼び出されたのはかつての戦艦、ワシントン条約の制限で「陸奥」建造の代償として標的艦にされた旧戦艦「摂津」と、その無線操縦を行う旧駆逐艦「矢風」…そしてより高速で駆逐艦に似た形状をした標的艦の「波勝(はかち)」…

摂津「あ、あんまり痛いのは堪忍してな…?」

龍驤「…っ///」

鳳翔「……もう、そんなことを言われると…♪」

飛龍「余計にたまらなくなっちゃう……♪」

摂津「…ひっ///」立派な身体をしている摂津だが、妙に嗜虐心をくすぐるオーラを放っている…

赤城「そう怖がらずに…さぁ、頭にこれを♪」


…そう言うと煙突から艦内に演習弾の弾片が飛び込まないようにする、そろばん玉のような形をしたファンネルキャップ(煙突カバー)…のようなかぶり物を身に付けさせた…


波勝「それじゃあ私も…と♪」小さい「波勝」は船体の上に隙間を空けて設けられた装甲に加え、上空から見た時のシルエットを大きくする「幕的(まくてき)」という折りたたみの布がついている……それを広げると、まるで演歌歌手が派手なパフォーマンスをしているように見える…

矢風「私は大丈夫だよね……」それでも一応かぶり物と、摂津を「操る」リモコンを手にしている…

飛龍「それじゃあ始めようか……そーら、捕まえちゃうぞ!」

摂津「いややぁ…止めて、堪忍して…ぇ///」

鳳翔「あぁ、その表情っ……ほぉら、そんな鈍足では逃げ切れませんよぉ♪」

矢風「ほら、もっと捕まらないように頑張ってよ……早く、取り舵いっぱーい!」着物の裾やたわわな胸元をはだけさせ、よろよろと逃げ回る摂津……そしてそれを「操り」ながら、自分は巻き込まれないようにしている矢風…

摂津「は、はひっ…♪」

波勝「加賀さんこちら、てーの鳴る方へ……っと♪」一方、赤城、加賀、蒼龍、飛龍の四人を相手に幕的をひらひらとひらめかせ、ちょこまかと動き回る波勝……

加賀「ふふ、捕まえたらうんとお仕置きです…逃がしませんよ♪」

波勝「ひゃあ…っ///」

赤城「ほぉーら、つーかまえーた……この、このっ♪」パシッ、ピシャン…ッ♪

波勝「あひっ、ひゃあんっ…♪」

鳳翔・龍驤「「捕まえた♪」」

摂津「なぁ龍驤、鳳翔……お願いやから堪忍してぇなぁ…♪」

鳳翔「あら、戦艦は艦砲にも耐えられるはずでしょう……こんな…三号演習爆弾程度では……効かないんじゃありませんか?」バチンッ、ピシン…ッ♪

…鳳翔と龍驤は大柄でぽっちゃりした摂津を捕まえると四つん這いにさせて着物の裾をめくると、代わる代わるむっちりしたお尻へと平手を加える…

摂津「あぁん……っ///」

龍驤「いいよ、たまらない……はい、鳳翔の番♪」バチンッ、ビシッ…♪

鳳翔「はいっ……あぁ、かつての戦艦をこんな風に踏みつけにしていると思うと……ぞくぞくしてきます…っ♪」ぐりぐり…っ♪

摂津「はぁぁん…っ♪」足袋を履いた鳳翔に頭を踏みつけられ、また龍驤にお尻を叩かれながら畳の上で喘いでいる摂津……
715 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/31(木) 03:01:55.16 ID:FlOthHET0
赤城「ふぅぅ、ふぅ…っ♪」ぬちゅっ、ぬる…っ♪

加賀「あぁ……んくっ♪」くちゅっ…ぬちゅっ♪

波勝「はひぃ、あひぃぃっ……♪」じゅぷじゅぷっ……とぽ…っ♪

飛龍「んっ、んんぅぅっ……はぁ、はぁ…でも、まだ終わりじゃないでしょ……攻撃するなら徹底的に叩かないと、ね♪」

蒼龍「ん、飛龍の言うとおり…♪」

波勝「あへぇぇ……ぜぇぇ、はぁ……♪」

飛龍「あー、でも波勝はすっかりイっちゃって息切れか……なら♪」じゅるっ…と舌なめずりをして「矢風」を見た…

矢風「えっ、ちょっと待って……ほ、ほら…私は摂津の操作をするだけで「実艦的」じゃ……」

赤城「…それは以前の話ですよ…ね♪」

加賀「ふふ、貴女だってちゃんと「実艦的」改装を受けているでしょう……大丈夫、耐えられる程度にしてあげるから…♪」

矢風「いや、でもほら……」

鳳翔「……ふふ、摂津はあっさり捕捉できてしまって少々物足りないですから♪」

龍驤「そういうこと…もう息も上がってるし♪」

摂津「はへぇ…はひぃぃ……♪」鳳翔たちがほどよく手心を加えたビンタの跡が残る大きなヒップをさらし、唾液と愛蜜にまみれた状態で畳に崩れ落ちている……

飛龍「と言うわけで…第二次攻撃の要ありと認めます♪」

赤城「そうですね、普段ならもう満足なのですが……」

加賀「今日は少し物足りないので……賛成です♪」

矢風「…ひっ!」

鳳翔「怖がらなくても大丈夫ですよ、ちゃんと手加減してあげますから…ね♪」腰が引けている矢風をねっとりとした目つきで、舐め回すように眺めた…

飛龍「そぉら、お姉ちゃんたちに捕まらないように逃げ回ってごらん…♪」

蒼龍「捕まったら食べられちゃうぞ…ぉ♪」

矢風「わ、私までさせられるなんて聞いてない……いやぁぁ…っ///」

………

大淀「…とまぁ、出撃がなく身体をもてあましていた空母勢はこのような具合でして」

百合姫提督「……そ、そう///」

大淀「それから……」

百合姫提督「まだあるの…?」

大淀「ええ、もっともこちらは違う方に……」

………



…別の日…

大淀「はぁ、書類仕事をするといつもこうなんですから…」紙に付いていた手の小指側の部分がすっかり黒くなってしまい、それを洗いに来た大淀…

大淀「お腹も減ったことですし、間宮のお昼が楽しみですね……あら?」洗面台で手を洗っている一人の艦娘…

電「あ、大淀さん」

大淀「どうしたの、電……もうお昼ですよ? 手を洗うのはいいけれど、早く行かないと」

電「はい。でもおかしいんです、いくら洗っても汚れが落ちなくて……石鹸が悪いんでしょうか?」

大淀「え…?」

電「ほら、私の手……赤茶けた染みが見えますよね…?」そういって差し出した両手は白く綺麗で、汚れ一つ付いていない…

大淀「…」

電「そういえばこの間、執務室にお邪魔したとき提督がいらっしゃらなくて…どうしてかなって思ったら……提督のお名前は「深雪」なんですよね……だから私の代わりにいなくなっちゃったんでしょうか?」

大淀「い、電……」

716 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/31(木) 17:21:20.66 ID:FlOthHET0
…時が経つのは早いもので、今年もあと数時間となりましたね。このssを読んで下さった方、感想を下さった方…なかなか進まない中お付き合い下さり、どうもありがとうございます。


…色々と大変な一年でしたし、来年はもっといい年になるといいですね……新年の投下では縁起をかついで「松」型駆逐艦の「松」「竹」「梅」でも登場させようかと思っております…
717 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/02(土) 01:21:04.10 ID:tm4xbeH90
明けましておめでとうございます……今年も初日の出をちゃんと拝むことが出来て感無量でした…


…今年は牛歩の歩みで、遅くとも一歩ずつ投下していけるよう頑張ります…
718 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/01/03(日) 01:50:23.24 ID:IuAZhzQP0
大淀「さすがにあの時は背筋に冷たいものが走りましたよ…」

百合姫提督「そうでしょうね。ちなみに、どう対処したの…?」

大淀「それなんですが……提督のお部屋に連れて行って布団の残り香を嗅がせたらすぐに収まりました」

百合姫提督「そう…電には後でうんとわがままを言わせてあげるとしましょう……」

大淀「それがいいかもしれませんね……っと、もうこんな時間ですか。提督、帰ってくる間の道中で食事をしている時間もあまり無かったでしょうし、間宮に言って軽く作らせておきましたが…?」

百合姫提督「あら、本当に…?」

大淀「はい、きっと鰹節の香りが懐かしいだろうと思いまして……いかがいたしますか?」

百合姫提督「そうね、途中でお弁当はいただいたけれど…せっかく作ってくれたのだから、いただきます」

大淀「了解」

間宮「失礼します、提督。羊羹をお持ちしました…♪」

百合姫提督「あら、ありがとう…せっかく持ってきてくれたところ申し訳ないけれど、羊羹は食堂でご飯をいただいてから頂戴します」

間宮「そうですか」

百合姫提督「ええ…わざわざご苦労様」ちゅっ…♪

間宮「!?」

大淀「て、提督…っ!?」

百合姫提督「…っ、ごめんなさい……向こうでは頬に口づけするのが挨拶のようなものだったから…///」

間宮「いえ、あの……わ、私は別に構いませんので……」

大淀「…驚きましたね」

百合姫提督「///」

…廊下…

大淀「……留守中にあったことは日誌に付けてありますので、後で確認いただければと思います」

百合姫提督「はい」

間宮「///」

百合姫提督「間宮…?」

間宮「は、はい…っ!」

百合姫提督「その……さっきは驚かせてしまってごめんなさいね?」

間宮「いえ、そのことでしたら全然…でも、不意打ちだったものですから///」

百合姫提督「ええ、私もなかば無意識にしていたから……///」

大淀「やれやれ、提督があちらでどんなことをなさっていたのか気になる所ですね…」

…食堂…

足柄「待ってたわよ、提督」

龍田「遅かったじゃない」

百合姫提督「ええ、少し報告を聞いていたものだから……いい香りがするわね」

間宮「はい。提督は洋行帰りですし和食が食べたいかと思いまして…何品か用意させていただきました」

長門「それにしても提督がお帰りになると鎮守府に花が咲いたようですね……さ、お手を取らせていただきます♪」椅子を引くと、百合姫提督の手を取って席に座らせる…

百合姫提督「…何もそんなにしてくれなくたって///」

長門「ふふ、そうおっしゃらず…」

719 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/05(火) 02:05:09.08 ID:ORDf8MIy0
足柄「それで、献立は何かしら?」

間宮「はい。献立ですが、海風が冷たかったでしょうから温かいものにしようと思いまして…ちょうど頂き物の山菜も残っておりましたので、山菜そばにいたしました……杵埼たちも運ぶのを手伝って下さい」

杵埼(給糧艦「杵埼」型)「はい、間宮さん」

早崎(杵埼型)「私も手伝います♪」

白崎(杵埼型)「私もっ」

荒崎(杵埼型)「すぐ行くよ!」

野埼(給糧艦「野埼」型・単艦)「私も運びますね♪」

剣埼(給油艦「剣埼」型・単艦)「分かりました、それじゃあ私も…って、わわっ!」

…小学生も低学年くらいに見える小さな給糧艦の「杵埼」たちに交じって料理を運ぶ小柄な給油艦の「剣埼(初代)」は妙に足元がおぼつかず、お盆を持ってふらふらしていたが、机まできた所でよろめいてこぼしそうになる……

足柄「ちょっと…!」

吹雪「うわ…っ!」

大淀「あ、危ない…っ!」

百合姫提督「きゃ…っ!」よけようと慌てて席から立ち上がる百合姫提督と艦娘たち……

剣埼「提督、ごめんなさい……」どうにかこぼさずに盆を置くことは出来たが、すっかりしょげている剣埼…

百合姫提督「いいのよ…それより怪我はない?」

剣埼「だ、大丈夫です……」

百合姫提督「それなら良かった……今度は運ぶ量をもっと少なくした方がいいかもしれないわ」

剣埼「はい、今度からはそうします」

百合姫提督「ええ」

間宮「…お蕎麦も無事で良かったですね」

百合姫提督「そうね……あら、美味しそう」


…蕎麦どんぶりで湯気を立てている山菜入りの蕎麦は出汁を宗田節と利尻昆布、いりこでしっかりと取り、つゆを関東風の濃口に仕上げてある……蕎麦はつゆの濃い味わいに合わせて白く細い更科(さらしな)ではなく殻ごと挽いてある田舎蕎麦を使い、上には醤油で煮付けにした数種類の山菜と、まだからりとしている天かす(揚げ玉)が載せてある…


間宮「どうぞ召し上がれ」

百合姫提督「ええ…では、いただきます」

…つゆをひと口飲むと、続けて蕎麦をたぐる…多少幅のある田舎蕎麦はするりとすするより、口の中で軽く噛む方が、香ばしい蕎麦の風味がより引き立って美味しい感じがする…

百合姫提督「…はぁぁ」何口かすすると、満足げにため息をついた…

間宮「美味しいですか?」

百合姫提督「ええ…とっても」

間宮「良かったです……みんな提督がいらっしゃらなくて寂しく思っておりました」

梅(「松」(丁)型駆逐艦)「うむ…それだけに提督が戻ってきてくれて喜ばしいの。まさに「盆と正月がいっぺんに来た」というものじゃな♪」

百合姫提督「ふふ、嬉しいお言葉…」

間宮「ええ……さ、早くしないと蕎麦が伸びてしまいますよ?」

百合姫提督「はいはい…♪」

足柄「…あー、美味しいわね」

間宮「他にも色々ありますから、たくさん召し上がって下さいね♪」

…どんぶりの隣には長方形の皿が置いてあり、三角型の大きな混ぜご飯のおにぎりが二つ載せてある。百合姫提督が手に取って一口頬張ってみると、醤油と砂糖、それにみりんで味付けしたらしい甘塩っぱいおかかと、細かく刻んだ昆布の佃煮の味がした…

百合姫提督「これも美味しい…もしかしてお出汁を取った後の昆布と鰹節?」

間宮「ええ、そうです……皆さんの分を作るとかなりの量が出ますし、それをただ捨ててしまうのはもったいないですからね」

百合姫提督「そうね…味付けもちょうどいいわ」

間宮「そう言ってもらえて何よりです。あとはたくあんとぬか漬けに…食後には白玉のお汁粉も用意してあります」

百合姫提督「それは楽しみね…♪」
720 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/06(水) 01:55:56.36 ID:l5tzBqU30
…しばらくして・執務室…

百合姫提督「ふぅ、ちょっと食べ過ぎちゃったわ……」

長門「結構なことではありませんか…それに、そういう所も可愛いですよ」

百合姫提督「///」

大淀「長門は相変わらずですね……ところで提督、留守中のことでいくつかご報告が」

百合姫提督「なにかしら?」

大淀「はっ、提督のイタリア訪問中にお中元ですとか贈り物を頂戴しまして…一応私からお礼の手紙を書いておきましたが、改めて提督からもお礼をお願いしたいので…」

百合姫提督「なるほど、分かりました……名前は控えてある?」

大淀「もちろんです」

百合姫提督「助かるわ…それじゃあまずは電話でお礼を伝えて、お返しはまた改めて送ることにしましょう……最初は誰から?」

大淀「えー…まずは「市川・梨香子(いちかわ・りかこ)」中佐ですね。いつものようにご実家から梨をたくさん送って下さいました」

百合姫提督「相変わらず梨香子は親切ね……とりあえず電話をかけていきましょう」受話器を取り上げると、ダイヤルを回した…

…千葉県・館山…

女性「はい、もしもし…こちら「海上自衛隊横須賀鎮守府付属・館山基地分遣隊」です」

百合姫提督「もしもし「横須賀第二鎮守府」の百合野ですけれど……市川中佐はいらっしゃいますか?」

女性「あ、深雪ぃ……久しぶり♪」

百合姫提督「…あら、もしかして梨香子?」

市川中佐「もしかしなくてもよ……急に電話なんてどうしたの?」

百合姫提督「ええ、うちの大淀から聞いたのだけれど…今年もご実家から梨を送ってくれたそうだから、まずはお礼の電話をしようと思って……」

市川中佐「あー、あれね…いいのいいの、気にしないで? …どうせ「送った」っていっても、形が悪くて売れないのばっかりだから、むしろ食べてくれて助かるわ」

百合姫提督「いえ、そんな…」

市川中佐「本当にいいのよ…なにしろ夏頃になって実家に戻ると箱詰めや直売所を手伝わされるし、選別ではじかれた梨ばっかり食べさせられるしで……そうやって喜んでくれる人がいて嬉しいわ」

百合姫提督「いえいえ、こちらこそもらってばっかりで……今度うちでお手伝い出来る事があったら遠慮無く言ってね?」

市川中佐「ええ、わざわざどうも♪」

百合姫提督「はい、それじゃあまた…」

大淀「…次は伊豆大島分遣駆逐隊の司令、本八幡・由紀(もとやわた・ゆき)中佐ですね」

百合姫提督「はい」

…伊豆大島…

綺麗な黒髪の女性「はい、こちら大島分遣隊の本八幡です」

百合姫提督「もしもし、こちら「横二」の百合野です……久しぶりね、由紀」

本八幡中佐「あら、あらあら…深雪、いつ戻ってきたの?」

百合姫提督「ちょうど今日戻ってきたわ……ただいま」

本八幡中佐「お帰りなさい。それで、帰国早々に私に電話をくれるなんて…そっちで何かあったの?」

百合姫提督「いいえ……ただ、鎮守府にあててお中元を送ってくれたそうだから、まずは取り急ぎお礼の電話を…と思って」

本八幡中佐「これはどうもご丁寧に…せっかく伊豆大島の分遣隊司令だから、地元特産「大島椿」の髪油にしてみたけれど……毎日使ってたおかげで私の髪はつやつやになったけれど、そっちの娘たちは気に入ってくれたかしら?」

百合姫提督「ええ、とっても気に入ってくれたみたい…♪」横でうなずいている大淀を見ながら返事をした…

本八幡中佐「なら良かった……その様子だと、他にもあちこちに電話をしなきゃいけないんじゃない? お時間を取らせたら悪いから、失礼させてもらうわね」

百合姫提督「ごめんなさい、お気遣いいただいちゃって……それじゃあ、今度は時間があるときにゆっくりお話しましょうね」

本八幡中佐「ええ、またね」


721 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/01/06(水) 01:59:10.96 ID:lFP7dIijo
いつも楽しみにしています
722 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/08(金) 01:08:08.42 ID:fsyfMdVM0
>>721 ありがとうございます。しばらくは百合姫提督と艦娘たちの日常をお送りするつもりですので、よろしかったら見ていって下さい。

…すでにお気づきかと思いますが「市川」と「本八幡」は総武線が千葉県に入ってすぐの駅名から順に取っています…ついでに色々調べてみましたが、結構特産品や名所旧跡があったので、そのうちに取り入れてみる予定です。



他にも各鎮守府の提督として名字に地名を入れたキャラクターを出してみようかと思っておりますが、もし都道府県のリクエストがあれば、その都道府県にある市町村や駅名などから名前を出そうかな……とも思っております

723 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/08(金) 02:09:06.91 ID:fsyfMdVM0
百合姫提督「ええ、またね……大淀、次は誰に電話をすればいいのかしら?」

大淀「えー、次はですね…中山翔子(なかやま・しょうこ)少佐にお願いします」

百合姫提督「…あぁ「下総中山」の」

大淀「そういえば、提督」

百合姫提督「ええ、なにかしら…?」

大淀「いえ、中山少佐のそのあだ名は幾度か耳にしましたが……どうして「下総中山」なんです?」

百合姫提督「あぁ、そのこと?」

大淀「はい」

百合姫提督「いえ、実はね……ふふ♪」口元に手を当てて、くすくすと笑いはじめた百合姫提督…

大淀「…何がおかしいんです?」

百合姫提督「実はね、私と翔子は同期なんだけれど……中山っていう名字は同期に数人はいたし、彼女は始め鎮守府じゃなくって「下総基地」の航空隊の方にいたものだから…」

大淀「それで「下総中山」ですか」

百合姫提督「ええ…誰かが駅の名前とかけて付けたあだ名なのだけれど、便利だからすっかり浸透しちゃって……」

大淀「…なるほど」

百合姫提督「ええ……それじゃあ電話するわね…♪」

………



…翌日…

百合姫提督「……鎮守府のみんなで飲み会?」

大淀「はい。提督も無事に帰国された訳ですし、横須賀のお店数軒を借りてお祝いでもしようと…いかがでしょうか?」

百合姫提督「そうねぇ、とりあえず明後日は市ヶ谷(防衛省)で帰還式と研究成果の報告会があるから……それより後の日付なら大丈夫よ」

大淀「了解」

百合姫提督「それより予算は大丈夫? …いくら出せばいいかしら?」財布を取り出してお札を渡そうとする百合姫提督…

大淀「いえいえ、とんでもない……みんなのお給料から出しあいましたので、提督はお金の心配をしなくても大丈夫ですよ」

百合姫提督「そう…なんだかごめんなさいね?」

大淀「お気になさらず。みんな提督が帰ってきて嬉しく思っておりますから……♪」

百合姫提督「ありがとう…///」

大淀「はい」

…数日後・市ヶ谷…

百合姫提督「…横須賀第二鎮守府の百合野です。ただいま到着いたしました」

防衛省幹部「あぁ、ご苦労様です……どうぞ会議室へ」

百合姫提督「はい」

…会議室には旭日旗が飾られ「交換プログラム」に参加した数名の提督たちと広報課のカメラマン、そして海幕(海上幕僚監部)のエライ人も幾人かやって来た……挨拶に始まり、短くまとめたプログラムの成果発表、そして提督たちに対するねぎらいの言葉……と、式次第に則って滞りなく行われる…

百合姫提督「…以上で、本官の発表を終わります」

進行役「では、最後にご挨拶をいただきます…」

海幕のエライ人「うむ……各提督それぞれよく研究し報告書にまとめられていたと思います…今回の経験を糧にして、これからも海上における安全保障と国際貢献のために尽くしてくれることを願っています…以上!」

………



724 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/09(土) 11:08:12.03 ID:U57nhV8t0
…数日後・横須賀市街の居酒屋…

大淀「……えー、では提督の帰還と欧州歴訪の完了を祝って…乾杯!」

一同「「乾杯!」」

提督「…ありがとう、みんな」

長門「なに、礼を言うには及びません……みんな、注文は?」

陸奥「じゃあ…きゅうりの浅漬け」

明石「たこぶつお願いします」

雪風「私は冷奴(ひややっこ)がいいです…♪」

比叡「焼き鳥盛り合わせを頼みます…軟骨と皮、ハツ(心臓)は塩、他はタレで」

霧島「それならだし巻き卵で」

長門「分かった……提督、提督は何にします?」

百合姫提督「私はみんなが頼んだ分から一口ずついただくわ……ほら、他の娘たちのいるお店も回らないといけないし」

…百合姫提督の鎮守府は「連合艦隊勢揃い」とまでは行かないが、大小取り混ぜて二百人近くもの艦娘たちがいる大所帯なので、たいてい一軒の店では入りきらない……そのため、いくつかの店で数十人分の席を取り、お互いに入れ替わり立ち替わりしながら宴席を張り、百合姫提督も中座してはそれぞれの店を行ったり来たりする…というのがいつものやり方になっていた…

長門「それもそうですね……あと鯨の刺身を」

百合姫提督「んくっ…こくんっ……」百合姫提督はビールがあまり得意でないのと(たいていは酒豪の)艦娘たちが善意からお酌をしてくれたり杯を勧めてきたりすることを踏まえて、長門が手際よく人数分注文した「キリン」の生を少しずつ飲む……

霧島「あー……美味しい」

店員「…お待たせしました、冷奴ときゅうりの浅漬け、それと鯨の刺身にたこぶつですね」

長門「来たか…それじゃあいただこう」からし醤油で赤身の濃い鯨をつまんだ……

明石「…本当にあのときは、鯨なんて見るのも嫌だったくらいよく献立に出ましたよね」

長門「確かに……でも私は好きだが?」(※長門…今の山口県にあたり、鯨の水揚げを行う漁港もあった)

明石「それもまぁ人それぞれですね……あむっ」たこのぶつ切りを威勢良く口に放り込む…

比叡「明石、箸の持ち方が良くありませんよ」

明石「了解……全く比叡ときたらお召し艦だったからって、小姑みたいに行儀作法をねちねちと…」

比叡「…何か言いましたか?」

明石「いいえ、なーんでも……ま、もうちょっとしたら別の店の方に行って、そこで駆逐艦の二、三人でも引っかけて…ふふっ♪」

百合姫提督「…」

長門「…それにしても今回はいい店が取れてよかったですね……あのときの居酒屋みたいな店だったら、軽巡たちがまた暴れたに違いないですから」

百合姫提督「ええ、そうね…」

霧島「本当に水雷戦隊は気が荒いんだから…」

長門「ふっ、君も人のことは言えないんじゃないかな?」

霧島「私の場合は別です……店員さん「白霧島」と氷を下さい」

百合姫提督「あと、白和えをお願いします」

店員「はい」

………

725 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/12(火) 02:23:06.22 ID:SL1ufSD10
…別の店…

利根「…おっ、提督じゃない! さ、座って座って!」

百合姫提督「ありがとう」

球磨(二等巡洋艦「球磨」型)「夜風に吹かれて冷えたでしょ? ま、とりあえず一杯ってところで……!」

百合姫提督「え、ええ…いただきます」とくとくとくっ…と小気味いい音を立てて注がれた燗酒の「八海山」を控え目に含んだ……

足柄「それとこれ、食べさしで悪いけど……ねぇ、提督にそっちのもつ煮をよそってあげて」

松風(神風型駆逐艦)「了解…七味はいります?」

百合姫提督「ええ」

足柄「なんでも食べたいものを頼んでよ?」

百合姫提督「ありがとう」

木曾(球磨型)「あぁ……沁みるねぇ」

妙高「…そういえばさっき利根たちの話になってたわよ」

利根「へぇ、どんな?」

妙高「例の居酒屋で暴れた話…」

利根「あぁ、あれか……そんなこと言ったって、あれは向こうの言い方が悪いってもんよ」

………



…数年前・居酒屋にて…

川内(二等巡洋艦「川内」型)「…それじゃあ作戦成功を祝って!」

神通(川内型)「乾杯!」

利根「乾杯!」

暁「乾杯!」

雷「乾杯…っ!」

天龍「んっ、んっ、んんぅ……くぅーっ!」

川内「さすがは「暴れ天龍」…いい飲みっぷりね!」

天龍「なんだよそれ……さ、もう一杯!」

龍田「はいはい、手酌は良くないから私が注いであげる♪」

天龍「おっ、悪い…♪」

店員「すいません「お通し」お持ちしました」

暁「あ、はーい……って、何これ?」解凍ものにしても粗末な枝豆が数個ばかり小鉢に入っている……

店員「いや、お通しですけど……うちではお酒を注文するときに「お通し」も頼む形になってるんで…」

(※お通し…地域によっては「突き出し」とも。少なくとも江戸時代には余り物や半端な量だけしかない料理を店に「お通し」した際に出すこと、あるいは「突き出す」程度のひと品といった意味合いで、その「残り物」の善し悪しで店の技量が分かるとされていた。元来は店の「心意気」であって金を取るような物ではなく、客もちゃんと料理を頼み「お通し」だけで酒を飲むなどといった野暮はしないのがしきたりであったが、今では「席料」がわりとしてお通しでお金を取る店も多い)

川内「…は?」

神通「今なんて言った…?」

店員「いえ、ですから…」

利根「なぁお兄さん、ちょいと待ちなよ……お通しを「頼む」ってことは金を取るってぇのかい?」日本三大暴れ川の長男「板東太郎」の異名を持つ利根だけに、江戸っ子のようなべらんめえが出始める…

店員「はい、そういうことになってます」

利根「……ここにそんなこと書いてあるか?」メニューをめくって指差した…

店員「いや、書いてはないんですけど……そう言う仕組みなんで…」

利根「あぁ、悪かった。兄さんに言ったって仕方がねぇや……ちょいと店長さんでも何でもいいから、上の人を呼んできてくんなよ」

店員「は、はい…」

726 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/16(土) 02:10:59.29 ID:fJ/9p/wD0
白雪「雷たちは先行して居酒屋に入っているはずですから、着いたらすぐに何か飲めますね」

百合姫提督「そうね…あ、あったわ。確か利根たちが言っていたのはこのお店だったはず……一体どうしたのかしら」居酒屋の前には交番のスクーターが二台ばかり止まっている…

初雪「酔客でも騒いだんじゃないでしょうか……それより外は蒸し暑いですし、早く入りましょう♪」

百合姫提督「ええ…」チェーン居酒屋の自動ドアが開き、のれんをくぐった……

…数分前…

利根「……んだとぉ、頼んでもねえ物に金を払えってぇのか!?」

店長「ですから、この「お通し」はお酒とセットになって注文される仕組みなんですよ…」

利根「そんなこたぁ献立表のどこにも書いてねえじゃねぇか!」

店長「いや、書いてないですけどうちの店の決まりになっていて…」

利根「知ってて頼んだってぇならこっちも悪いが、書いてねぇんじゃこちとらぁ知りようもねえじゃねえか!」

店長「いえ、でもお客さん…」

天龍「なぁ、このままじゃあ埒があかないから出よう……な?」

川内「全く、楽しく飲むべき酒がこれじゃあやりきれないわ…利根、その辺で止めておいたら?」

利根「待てよ川内、こんなのおかしいだろう……!?」

龍田「もういいから……さぁ、もう帰るからお勘定を持ってきて?」

店長「えーと、それでしたら冷酒一合が六本に瓶ビールが三本、それとセットのお通しで…」

天龍「おいおい、待てよ……こっちがその「お通し」を食べたって言うんならちゃんと払うけど、食べてないんだぞ?」

店長「いえ、でもお客さんは注文していますから支払っていただかないと……」

天龍「…なんだとぉ!?」

木曾「貴様ぁ!」

………

巡査「…つまり「頼んでもいないし食べてもいない物にお金を払う必要」はない、ってことでいいですか?」

利根「その通り、さっすが話が早ぇや…!」

巡査B「……それじゃあセットになっているので、お酒を頼んだ以上は支払ってもらいたいと」

店長「そうなんですよ」

百合姫提督「…あの、済みません」

巡査「はい、なんですか?」

百合姫提督「その……なにかトラブルでも…?」

木曾「あっ…!」たちまち姿勢を正して直立する艦娘たち…

百合姫提督「よろしい、休め」

巡査「……この人は君たちのお知り合い?」

木曾「知り合いも何も…うちの提督だよ」

百合姫提督「ねぇ木曾、何があったの?」

木曾「ああ、それがかくかくしかじか……」

百合姫提督「なるほど……それで巡査さん、こういった場合はどうしたらいいですか?」

巡査「そうですね…別に店員を殴ったとかそういうことではないですから、誰かが飲食の料金を払えばいいんですが……」

百合姫提督「そうですか、分かりました…では私が払いますので、それで大丈夫ですか?」

店長「はい、払ってくれれば何も問題はないので…」

利根「ちょいと待った!別にこっちは飲み食いして金を払わねえってんじゃあねえんだ……勝手に注文したことにして金を取ろうってぇ、そのしみったれた了見が気に入らねぇってんだ!」

百合姫提督「……利根」

利根「う…分かったよ、提督に迷惑がかかっちゃあいけねえ……」

………

727 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/16(土) 03:45:47.84 ID:fJ/9p/wD0
神通「あったあった…♪」

木曾「ああ、あったねぇ……全く利根は暴れ者なんだから♪」

利根「へっ、あちこちで暴れてきたお前さんたちに言われたかぁねえや…兄さん、この「鰺のなめろう」を三つばかし頼むよ♪」

店員「はーい!」

妙高「全く……提督もこんなのばっかりで頭が痛いわね?」

百合姫提督「ふふ、利根たちは威勢がいいのが取り柄だもの…それに私はそういうのが苦手だから、少しうらやましいわ……」

足柄「やれやれ…「あばたもえくぼ」とはよく言ったものね」

羽黒「提督の変わり者ぶりには感心するわ」

扶桑「ええ、全くです……何しろ他の鎮守府で持て余されていた私たちを受け入れてしまうほどですもの」

山城「…どうして「出来損ない」呼ばわりされていた私たちを引き取る気になったんですか?」

百合姫提督「そうね…あの時は……」

…数年前・市ヶ谷…

提督「百合野くん、百合野くん…ちょっと相談事なんだが……今いいかな?」

百合姫提督「はい、なんでしょう…?」

…市ヶ谷(防衛省)での「深海棲艦対策検討会」を終えて書類をまとめていると、中将の階級章を付けた一人の提督に手招きされた…

提督「いや、実はな……うちの鎮守府にもそろそろ「大和」と「武蔵」が欲しくて条件を揃えた所なんだが、今期の建造枠では足りなくってね…良かったらうちの鎮守府の艦娘数人と「交換」ってことで、しばらく建造枠を貸してくれないかな…?」

百合姫提督「交換…ですか?」

提督「ああ……いやもちろん「無理に」とは言わないし、建造枠のトン数もこっちの分が溜まったら返す。それに何か百合野くんが手を回して欲しいことやなんかがあったら、できるだけ手助けするが…どうかな?」

百合姫提督「そうですね……ええ、構いませんよ」

提督「本当かい! いやぁ、君に相談して正解だったなぁ……他の提督たちにも当たってみたんだが、なかなか「大和」と「武蔵」が建造出来るほど枠を残している提督はいなくってね……恩に着るよ」

百合姫提督「いえいえ…」

提督「それじゃあうちから「放出」できる艦娘のリストを後で送るから、好きな娘を選んで教えてくれ」

百合姫提督「はい」

………



扶桑「それで選んだのが私と山城、それと「知床」型給油艦の五人を合わせて七人……どう見ても割のいい交換じゃありませんよ?」

山城「ええ…何せ私たちは落ちこぼれの「カテゴリーF」ですから」

百合姫提督「……確かにそういう意見もあるかもしれないわ…でもね」ちびりと日本酒を飲むとコトリとおちょこを置いた…

百合姫提督「私は背伸びをしてまで「大和型」を持とうとは思わないの…確かに「世紀の大戦艦」ではあるし、当時の技術の粋を集めた大艦巨砲主義の究極ともいえる二隻であるのは間違いないわ……でも運用するとなれば鎮守府の設備や使いどころを考えるにも苦労するし、水中防御や隔壁配置の脆弱性から言っても「世界で最も優れた戦艦」とは必ずしも言い切れない……それならむしろ伊勢型とも合わせやすいあなたたちを選ぶわ」

扶桑「…」

百合姫提督「…それと「大和と武蔵を持っている」っていう満足のためだけに、艦隊運用に必要なフネをおざなりにするようなことはしたくないから……」

山城「提督…」

百合姫提督「……あと、私みたいな若輩者が大和型を持っていたら、先輩にあたる提督方に対して「生意気」だものね?」急に流れた真面目な雰囲気を和らげるように、わざと冗談めかした…

足柄「違いないわね…♪」

百合姫提督「ね? …あ、そこにあるお豆腐の田楽を取ってくれる?」

木曾「はい、どうぞ…めっぽう美味いですよ、これ」厚手に切った木綿豆腐に酸味の利いた赤出汁の味噌を塗り、その上にぱらりと白胡麻を散らしたものと葉山椒を載せたものの二種類を炭火で香ばしく炙ってある…

足柄「本当に木曾ときたら、赤出汁ならなんでも美味いっていうんだから……この美濃の田舎娘は」

木曾「余計なお世話だっての…そもそも赤出汁の方がぼんやりした白味噌より美味いだろ?」

百合姫提督「まるで織田信長ね……あ、でも本当に美味しい♪」

木曾「ほら…♪」
728 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/18(月) 03:44:50.88 ID:fC93kTTt0
店員「山菜のお煮しめです」

龍田「あ、はーい…神通、那珂、お煮しめはどうですか?」

…鉢に盛られた山菜の煮しめは醤油と酒、砂糖、みりんで味を付けてあり、細くて歯切れのいい「姫竹(※「地竹」あるいは「根曲がり竹」とも)」に味の良く染みた椎茸、それにぜんまいやわらびが入っている…

那珂「ちびちび飲むにはいいかもね……少しちょうだい?」

神通「それなら私も」

龍田「はいはい…さ、どうぞ?」

那珂「いや、ありがと…って」

神通「うっ…!」

龍田「どうかしたの……あっ」

神通「や、やっぱりいらないかな……」山菜を小鉢に取り分けてもらったが、その中に入っているわらびを見て苦い表情を浮かべた神通…

百合姫提督「……神通、良かったら私が」

神通「すみません、提督…」

百合姫提督「大丈夫、気にしないで?」

…数十分後・三軒目の店…

足柄「うー…ちょっと飲んでは別の店に向かって、そこでまた少し飲んで……まるでハシゴ酒じゃない。こんな飲み方をしていたら酔いが早く回りそうよ……」

百合姫提督「仕方ないわ、みんなの所にちゃんと顔を出してあげないといけないし……」

足柄「相変わらず律儀なことで…それで、今度の店は……」

百合姫提督「…確かここじゃないかしら?」

足柄「…中華料理「定遠」……ええ、ここで合ってるわ」

…店内…

鵜来(海防艦「鵜来」型)「…あっ、提督!」

新南(鵜来型)「いらっしゃい♪」

松輪(海防艦「択捉」型)「待ちくたびれましたよ…ささ、どうぞ上座に♪」

百合姫提督「ええ、ありがとう…」

日振(海防艦「日振」型)「食べ放題飲み放題ですからね、たくさん食べないと損ですよ?」

四阪(日振型)「ここの中華は美味しいですよ……私が保証するアル♪」戦後は中華民国(国府軍)に引き渡され「恵安」となり、中共の手に落ちた後も長らく奉公した功労艦の四阪……

百合姫提督「ふふ、四阪(しさか)が言うなら間違いないわね……みんなこそちゃんと食べてる?」

第一号(海防艦「第一号」(丙)型)「はい、たくさんいただいてます…」

第二号(海防艦「第二号」(丁)型)「こんなに食べられるなんて良い時代ですね……司令」


…大戦も末期に急遽大量生産された「第一号」(丙型)および「第二号」(丁型)型海防艦は「鵜来(うくる)型」(甲型)海防艦をさらに簡略、小型化した戦時急造の海防艦で「痩せ馬」の目立つフネであったが、それを反映してか(鎮守府ではちゃんと食べさせているにもかかわらず)みんなあばら骨が浮き出て見えるようなやつれた子供のような姿をしていて、その哀れを誘う様子を見るたびに、百合姫提督としては贅沢をさせてあげたくなる…

(※痩せ馬…造船時において外板に使う鋼材の厚みや品質を落とした時に起きる現象で、外板がへこんで船の肋材の部分だけが浮き上がって見える状態。粗製濫造、劣悪な造船の代名詞)


百合姫提督「え、ええ…いっぱい食べてね……」多くは不遇な生涯を送った海防艦たちのいじらしい様子を見て、かすかに目をうるませる百合姫提督…

鵜来「本当ですね……あ「薩摩白波」お代わりで」(※鵜来…戦後は海上保安庁の巡視船「さつま」となり、1965年(昭和四十年)まで長く艦齢を重ね無事退役)

新南「古滷肉(くーろーよー…酢豚)をお願いします!」大陸に進出して以来、帝国海軍の献立にも取り入れられた中華料理…その中でもおなじみだった「古滷肉」を頼む鵜来型の「新南(しんなん)」…

竹生(鵜来型)「春巻きを六皿お願いです」

杉(松型駆逐艦…戦後国府海軍「恵陽」)「麻婆豆腐を…大皿だし三つでいい?」

梨(松型)「ん、いいんじゃない?」

杉「じゃあ三つで…それと五目焼きそばが二つと、小籠包と海老焼売を蒸籠で三つずつ……それと東坡肉(角煮)を四皿…」

店員のお姉さん「はい♪ …一杯食べてくれテ、私たちも嬉しいネ!」注文を取ると奥の厨房に向かって声を張り上げ、早口の広東語で注文を伝えた…

729 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/19(火) 01:12:42.09 ID:B9ibwpp60
…しばらくは百合姫提督と艦娘たちの飲み会の場面をお送りする予定で、登場した艦娘たちについては後で紹介を書きたいと思っております…


…相変わらず新型コロナの拡大が叫ばれている中で「大学共通入試テスト」に挑んだ受験生の皆さんや、雪の多い地域に住んでいる皆様は何かと大変なことと思いますが、このssで気分転換になれば幸いです…
730 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/23(土) 02:04:32.82 ID:Hfaed8l30
鵜来「あ、これも美味しい……ほら、提督も今のうちにいっぱい食べてください」一段に小籠包が五つ入っている丸い蒸籠を渡す…

杉「麻婆豆腐もよそってあげますね」

梨(「松」型駆逐艦)「どうぞ、春巻と海老焼売ですよ♪」

四阪「棒々鶏も取ってあげます」

百合姫提督「い、一旦そのくらいで……いただきます…」

…小籠包を小ぶりのれんげに移して、箸で少し皮を切る……ふわりと生姜の香る熱い肉汁をすすると、それから小籠包そのものを口に運ぶ…

百合姫提督「あ、あふっ…!」

足柄「あー、もう提督ったら…よく冷ましてから食べないと……」

百合姫提督「え、ええ……でも美味しい…」舌先が火傷するかと思うような熱い小籠包に涙目を浮かべ、ふーふーと慌てて息を吹きかける…

初雪「それじゃあ私は春巻を…ふわ、おいひい……♪」

白雪「ん、本当に美味しいです…」

…皿に数本ずつ盛られている春巻を取り、まずはそのまま食べる二人……からりと揚がった皮目が「ぱりっ…」といい音を立てて、中にたっぷり詰まっている餡がこぼれそうになる……餡はひき肉と刻んだ春雨、きくらげと細切りの筍で、オイスターソースと醤油の風味が効いた香ばしい味が付いている……それから残りの部分に辛子醤油を付けて口に運ぶ…

四阪「小姐、很好吃(お姉さん、美味しいよ)!」通りかかったお姉さんに向かって声をかける…

お姉さん「謝謝(ありがと)!」

足柄「それじゃあ私も…と♪」

…大皿から取り分けた「五目焼きそば」は塩味風のあんかけがたっぷりかかっていて、色鮮やかなむき身の海老、細かな切り込みの入れてあるイカ、きくらげ、フクロタケや短冊切りの筍…それにさっと油通しをしているおかげで、シャキシャキしていながら火の通っている白菜と人参などがたっぷり入っている…

足柄「……美味しいわね、これ」

第六十七号(第一号型)「これも美味しいですよ、提督?」

百合姫提督「ええ……私より、六十七号こそちゃんと食べてる?」

第六十七号「はい、いっぱい食べてます♪」

…醤油に八角や紹興酒を加えた甘辛い味で豚の三枚肉をとろとろになるまで煮込み、それをさらに蒸して仕上げた「東坡肉」……北宋時代の詩人であった蘇東坡が左遷先で考案したという一品は手間がかかるが大変に美味で、赤みを帯びた艶のあるタレが肉とよく合う…

百合姫提督「あ、これも美味しい…」

初雪「提督、これも美味しいですよ……はい♪」

百合姫提督「ありがとう、初雪」

初雪「いいんですよ、みゆ……提督///」

百合姫提督「ふふ…初雪がよければ「深雪」でもいいわ……♪」

白雪「…だって、吹雪お姉ちゃん?」

吹雪「い、いえ…さすがに提督のことを名前で呼び捨てにするのは……」

百合姫提督「そう……でもあんまり堅苦しいのは抜きにしましょう、ね?」

吹雪「え、ええ…」

足柄「そうよ、軽巡たちなんて羽目を外しすぎてひっくり返りそうだったんだから」

吹雪「あー……」

百合姫提督「まぁまぁ。人様に迷惑をかけるようなことをしない限りは、少しくらい羽目を外しても……ね?」

白雪「そうですね…特に比叡さんはああですから、提督の留守中は息苦しくって……」

吹雪「ちょっと、白雪…!」

白雪「…っ!」

百合姫提督「大丈夫、比叡には言わないであげるから…♪」

足柄「ま、余計な口は利かないで黙って食べておくことね……もしどこかでこの話が漏れたら、あの調子でねちねちやられるわよ?」

白雪「…気をつけます」

………

731 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/01/26(火) 02:54:08.31 ID:Gu6r3h8L0
…数時間後…

百合姫提督「ふぅ…すっかり食べ過ぎちゃった……」

足柄「そうねぇ、それに飲み過ぎもしたし…最後のお銚子は止めておけばよかったわね」

百合姫提督「まぁまぁ…いつも鎮守府で過ごしているんだもの、たまには酒量を過ごしたっていいわ……♪」ぎゅっ…♪

足柄「///」

…多少酔っているらしく、少し紅潮した頬をした百合姫提督はいつもより積極的な様子で、足柄の腕に軽くしがみついた……もちろん足柄もまんざらではないが、腕に抱きつかれて赤くなっている…

大淀「あぁ、提督もいらっしゃいましたか」

百合姫提督「ええ…この後はカラオケに行くんでしょう?」

大淀「はい。ああいう施設は「この姿」になるまでは知らなかったので、目新しくて面白いですね……それに「中央」や「どぶ板通り」もずいぶんと変わったものです」

(※「中央」「どぶ板通り」…いずれも横須賀の繁華街。戦前は横須賀鎮守府の門前で栄え、今でも海自や米軍、観光客向けの店で賑わっている。また「どぶ板通り」は戦前に海軍工廠から鉄板を分けてもらってどぶ川の上に渡し、その上に店を連ねたからと言われる)

百合姫提督「そうね……それで、みんなも行くのかしら?」

大淀「何人かの当直艦と眠気がこらえきれない数人は先行して帰りましたが、おおかたは行くそうですよ」

百合姫提督「了解」

龍田「……あらあら、足柄ったら提督に抱きつかれて…うらやましいわねぇ♪」

足柄「からかわないでちょうだい、提督も少し「きこしめしてる」から支えてるだけよ…ところで川内はどこ?」

扶桑「それがさっきはぐれてしまって……磯波も一緒だったはずなのですが」

山城「まったく、図体の割には手のかかる子供なんだから……戻ってきたらうんとしごいてやらないといけないわね…ぇ♪」白地に紅と黒で彩った般若と髑髏の着物をまとい、ぎらりと八重歯をのぞかせる「鬼」の山城…

初雪「確かに旗艦がいないのでは……」

白雪「…困っちゃいますよね、お姉ちゃん?」

吹雪「え、ええ? まぁ、そういうことになるのかも知れないけど…」

叢雲「まぁ、風の向くまま気の向くまま…月に叢雲、花に雨……まこと世の中は変わりやすい…」

百合姫提督「とりあえず、しばらくの間ここで待っていてあげましょう?」

…数分後…

川内「……お、遅くなりました」

磯波「済みません…」

百合姫提督「大丈夫…それよりも二人が迷子にならなくてよかったわ」

川内「は、それが鳳翔さんが探しに来てくれまして……面目次第もありません」

鳳翔「ふふ、迷子の扱いには慣れていますから…それに少しだけとはいえ「水雷戦隊旗艦」というのも面白いものでしたよ♪」

金剛「おやおや、川内も鳳翔の前では赤子同然ですねぇ…♪」

川内「///」

百合姫提督「まぁまぁ……無事に揃ったわけだし、お店に行きましょうか」

…カラオケ店…

大淀「…予約しておいた「横二」鎮守府ですけれど」

店員「あぁ、はい…えーと、大部屋が全部と手前の個室が十部屋、それにドリンクの飲み放題ですね」

大淀「そうです」

店員「…それでは、これが端末とマイクですね……どうぞごゆっくり!」

大淀「はい、それじゃあ分散してそれぞれの部屋に入って下さい」

一同「「了解」」

百合姫提督「…それじゃあ、私は大淀たちと一緒でいいかしら?」

大淀「そうですね、それじゃあまずは私たちと……♪」

732 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/28(木) 01:52:17.18 ID:jnaPZfiB0
百合姫提督「えーと…それで、まずは誰から歌うの?」

球磨「んじゃあこっ球磨が「一番槍」行くと……ぬしらも一緒っ歌ば歌うとばい!」

(※…>1は方言のない地域の人間なので出てくる方言は正しくありませんが、あくまでも雰囲気としてお読み下さい)

多摩「あぁ、球磨ってば酒が入るとまた球磨弁に戻っちゃうんだから…ったく分かりづらい!」

木曾「まぁまぁ…こっちも訛りくらい出るこたぁーあーから」

多摩「だぁぁ、もう…っ!」

百合姫提督「はいはい、それじゃあマイクをどうぞ……」

多摩「それじゃあ「妖怪人間」の替え歌で「水雷戦隊の歌」…行きます!」


三人「♪〜闇にかーくれて生きる、おれたちゃ水雷戦隊なのさ」

三人「♪〜敵に姿を見せられぬ、ブリキのようなこの船体(からだ)」(早く二水戦になりたい!)

三人「♪〜くらいさーだめを、ふきとばせ!」(※以下くり返し)

球磨「球磨!」

多摩「多摩!」

木曾「木曾!」

三人「♪〜水雷戦隊!」

…そのまま二番、三番と続ける三人……本来は「北上」と「大井」も姉妹艦であり仲が悪い訳でもないが、二人は別の部屋に入っている…

三人「♪〜月に涙を流す、おれたちゃ水雷戦隊なのさ」

三人「♪〜悪を懲らして人の世に、生きる望みに燃えている」

(※くり返し)

三人「♪〜星に願いをかける、おれたちゃ水雷戦隊なのさ」

三人「♪〜正義のために戦って、いつかは生まれ変わるんだ」

(※くり返し)

百合姫提督「うん、上手だったわ……次はだあれ?」

白雪「…でしたら提督、一緒に歌いませんか?」透き通るような白い肌にほっそりと涼しげな顔立ちの「白雪」が百合姫提督を誘った…

百合姫提督「ええ、それじゃあ……」

白雪「えーと、じゃあこの曲を……吹雪お姉ちゃんに捧げます♪」くすくす笑いながらマイクを取り、ついでに初雪にも渡した…

吹雪「?」

白雪「曲は…「氷の世界」です」

百合姫提督「あぁ、なるほど……」

白雪「♪〜窓の外ではリンゴ売り、声を枯らしてリンゴ売り…!」

百合姫提督「♪〜きっと誰かがふざけて、リンゴ売りの真似をしているだけなんだろう…」

初雪「♪〜僕のテレビは寒さで、画期的な色になり」

白雪「♪〜とても醜いあの子を、ぐっと魅力的な子にしてすぐ消えた…」

百合姫提督「♪〜今年の寒さは、記録的なもの」

初雪「♪〜凍えてしまうよ、あぁ…!」

白雪「♪〜まいにーち、吹雪、吹雪…氷の世界ぃぃ…!」

吹雪「も、もう…そういうことね///」

一同「「あはははっ♪」」

百合姫提督「…ふぅ、それじゃあ私は他の部屋にも顔を出してきますから……みんなはそのまま楽しんで♪」
733 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/31(日) 01:34:17.20 ID:jBZPKpsI0
…別の個室…

百合姫提督「…どう、みんな?」

天龍「おう、提督……おかげさまで楽しくやらせてもらってるよ!」

百合姫提督「そう、よかった」

天龍「まぁまぁ、立ち話ってこともないだろ…ほら」席を詰めるとソファーの座面を「ぽんぽん…っ」と叩いた…

百合姫提督「ええ、それじゃあ……」

天龍「いいってことよ」

龍田「ふふ、来てくれて嬉しいわ」

百合姫提督「いえいえ…♪」

伊勢「龍田、貴女の番じゃない?」

龍田「あら、ご丁寧にどうも……では、わたくし「龍田」が一曲歌います…♪」提督に向けて軽く一礼するとマイクを取りあげる…

天龍「龍田か…「よっ、待ってました!」とは言いにくいな……」

龍田「ふーん、一体どういう意味かしら…ぁ?」立ち上がっていたが腰をかがめ、天龍のあごを指先で撫でた……

天龍「いや、龍田の歌は怖いんだよ……」

百合姫提督「まぁまぁ、天龍…別に龍田だって怖がらせるためにやっているわけじゃないはずだもの……」

天龍「いや、それは分かってるんだけどさ…で、何を歌うんだい? まぁ、なんか明るいのがいいな!」

龍田「……えぇ、ではこの曲を「龍田の夢は夜ひらく」です…♪」演歌ではなく怨みを込めた「怨歌」と称される名曲にのせ、歌い始める…

天龍「これだよ……」

龍田「♪〜紅く咲くのは、けしの花…白く咲くのは百合の花」

龍田「♪〜どう咲きゃいいのさ、この私……夢は夜ひらく…」

龍田「♪〜(昭和)十六、十七、十八と…私の人生、暗かった……過去がどんなに暗くとも、夢は夜ひらく…」

龍田「♪〜昨日「蕨」に「四十三」…明日は「疾風」と「如月」と……」

(※「龍田」は戦前の演習で「第四十三号潜水艦」と衝突・沈没させ、「美保関事件」では演習の防御側として夜襲を迎え撃つため探照灯を照射、これを避けようとした「神通」が回頭し「蕨」沈没の原因となった。「疾風」「如月」は大戦初期ウェーク島攻略時に撃沈された)

天龍「なぁ提督…」

百合姫提督「なぁに、天龍?」

天龍「いや、龍田が歌い終わったら一曲やってくれないか……これじゃあ盛り下がっちまうよ」

百合姫提督「分かったわ…」

龍田「……ありがとうございました」

百合姫提督「上手だったわ、龍田……それじゃあせっかくだから私も…♪」

龍田「それじゃあマイクをどうぞ」

伊勢「曲は何にします?」

百合姫提督「あんまり上手じゃないから、ちょっと恥ずかしいけれど……誰か一緒に歌ってくれる?」

天龍「もちろん」

松「じゃあ私も♪」

梅「うむ、わらわも付き合うぞえ♪」

梨「はい」

百合姫提督「ありがとう、それじゃあ……」

………

734 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/02(火) 22:39:27.84 ID:MJAwUMIL0
…次の投下は(多分)木曜の深夜になるかと思います…このところなにかと忙しく、かといって休日に出かけるのもはばかられて息苦しい感じですが、そのぶん頑張って書き続けていこうと思います……ちなみに出てくる曲は懐かしの昭和歌謡から名曲と思われるものを多めにしております


…そういえば今年は百数十年ぶりに今日が節分だそうですね……ぜひ豆を撒いたりヒイラギを飾ったりしましょう
735 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/02/05(金) 02:00:59.75 ID:SXqBTSbd0
…しばらくして…

比叡「提督、ぜひもう一曲お願いします♪」

百合姫提督「…分かったわ、それじゃあ……「初恋」で」

天龍「おっ、提督の十八番じゃないか!」

夕立「待ってましたっ!」

百合姫提督「もう…そんなに言われたら恥ずかしいわ……///」


百合姫提督「♪〜五月雨は、緑色……かーなしくさせたよ、一人の午後は…」

百合姫提督「♪〜恋をして、淋しくて…とーどかぬ想いを、暖めていたぁぁ……」

百合姫提督「♪〜「好きだよ」と言えずに初恋は……振り子細工のこころ…ぉ」

百合姫提督「♪〜放課後の校庭を走る君がいた…遠くで僕はいつでも君を探していた……」

百合姫提督「♪〜浅い夢だからぁ…胸を離れない……」


梨「提督の声、やっぱり沁みるわ…」

梅「確かに綺麗じゃのう……」

百合姫提督「も、もういいでしょ……ほら、次は誰の番?」

…しばらくして・また別の個室…

百合姫提督「……ごめんなさい、遅くなっちゃって」

赤城「あぁ、提督……良く来て下さいました」

加賀「謝る事なんてありませんから…どうぞかけて下さい♪」

百合姫提督「ありがとう」

飛龍「ここは空母ばっかりだから蒸し暑いかもね?」

鳳翔「まぁ、ふふ…♪」

赤城「その話は言いっこなしですよ」

蒼龍「曲は?」

赤城「そうですね…さっきまで演歌でしたから、この辺りで趣向を変えて……ね、加賀?」

加賀「はい、一緒にね…♪」


…曲の前奏に合わせて「ピピピピピ…」と電子音が流れると、二人して背中合わせに立った…


赤城・加賀「♪〜I just feel 『rhythm emotion』……この胸の鼓動は…」

赤城・加賀「♪〜あなたへとつづーいてーる…so far away…!」

赤城「♪〜…もう、傷ついてもいい 瞳をそらさずに……熱く、激しく生きていたい…!」

加賀「♪〜あーきーらめーなーい強さを…くーれーる、あなただから抱きしめたい…!」

赤城・加賀「♪〜I just feel 『rhythm emotion』」

赤城「♪〜過ちも痛みも…あーざやかーな、一瞬の、光へとみちーびーいて!」

赤城・加賀「♪〜I just feel 『rhythm emotion』」

加賀「♪〜この胸の鼓動は、あなたへとつーづいてーる、so far away…!」

百合姫提督「二人とも、とっても格好いい…」二人が歌い終わったのを見て拍手をしている百合姫提督…

赤城「ありがとうございます…♪」

加賀「…ゼロ、教えてくれ……私はあと何機のグラマンとカーチスを殺せばいい…?」

百合姫提督「……加賀?」

飛龍「…くすくすっ♪」

龍驤「くくっ…♪」
736 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/02/05(金) 03:03:25.01 ID:2vv8dtEa0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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737 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/02/08(月) 23:25:37.09 ID:DjVB5Cg70
まさかのガンダムW
738 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/11(木) 01:06:37.59 ID:yelslRfq0
Wのあの効果音付きは、最後の数回だけだったとは思えないほどの印象がありましたね…



…それにしても「そうりゅう」の事故はかなりひどいものですね…


…もちろん詳しい原因は各種の審判や調査を待つ必要がありますが「航路逸脱があった」とか「フルノを作動させていなかった」とか「ワッチがちゃんとしていなかった」といった言い訳も立つ水上艦と民間船の事故ならばともかく、聴音もバッフルクリアーもせずにただ浮上し、おまけにセイルのアンテナを損傷させたので乗員の携帯で陸と連絡を取ったというのでは……



こう言うときはたいてい、部外者側に何か原因の一部でもを押しつけられないかやっきになって、それから不運な当直など「誰か」が責任を負わされる…そして「監視をちゃんと行う」のような分かりきったことを小難しく書いたマニュアルを作るよう言われる、というパターンが出来上がっていますから……そして責任者は「あぁ、あの人はね……」と毒にも薬にもならない場所に転属させられて、腫れ物に触るような扱いを受ける……と



…「そうりゅう」型そのものは「世〇の艦船」のそうりゅう型潜水艦とAIPについての特集で詳しく書かれており、なかなか優れた潜水艦である印象を受けましたが……
739 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/14(日) 01:19:37.38 ID:+E2XBgOH0
…本当は今日投下するつもりだったのですが、地震もありましたし明日以降に持ち越します……住んでいる地域は揺れこそしたものの、棚の小物が少々落ちた程度で済みましたが……皆様の住んでいる場所でも被害が少なかったことを願っております…


……落ち着いたらまた投下します

740 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/15(月) 03:44:21.64 ID:V1XzAlLH0
…数十分後…

龍驤「♪〜きさまとお〜れ〜と〜はぁぁ、同期のさ〜く〜らぁぁ! お〜なじ兵学校のぉ、にぃぃわぁぁにぃ咲ぁぁくぅ〜!」

鳳翔「♪〜ちぃぃにくわぁぁけたぁぁる、仲でぇぇはな〜い〜がぁぁ…!」

二人「♪〜な〜ぜか気がおぉぉてぇぇ、わぁぁかれらぁぁれぬぅぅ…!」(※「同期の桜」二番)

…酔うとたいていの(特に戦前から戦況の良かった大戦序盤を経験している)艦娘たちは当時流行していた軍歌のメドレーというのがお決まりになっていて、鎮守府のそばにあるカラオケ店の履歴には「軍隊小唄」や「月月火水木金金」のような歌が入っている……そしてかなり酒が回っている鳳翔と龍驤もそのタイプで、肩を組みながら「同期の桜」を熱唱している…

百合姫提督「……ぐすっ…」

鳳翔「あぁ、目一杯歌っていい心持ちです……って、提督…っ!?」

百合姫提督「だめ、歌詞が……泣けて…あのね、絶対に……ぐすんっ…私はみんなのことを無駄死なんてさせない……無茶な作戦で「散る」なんてさせないから…!」

赤城「あらら……さ、ちり紙をどうぞ」

百合姫提督「あ、ありがとう…」

…さらに数分後…

鳳翔「……それにしても少々歌いすぎたせいか、喉が渇きましたね」

百合姫提督「…ドリンクバーはセットに入っているし、何か取ってくる…烏龍茶でいい?」

鳳翔「そんな滅相もない!提督に飲み物を取ってきていただくなんて……」そう言いながらマイクを握っていない数人をちらりと見た…

赤城「あー…なら私が……」

加賀「そ、そうですね…ここは若輩者である私たちが…」

飛龍「いえ、だったら我々の方が後輩なので……!」

蒼龍「そ、そうですよ…!」鳳翔の視線を受けて、一斉に立ち上がろうとする「後輩」たち……

龍驤「え、飲み物を持ってきてくれるって? …なんだか悪いねぇ」

鳳翔「おや、わざわざ済みません……でも、せっかくそう言ってくれるなら…お言葉に甘えさせてもらいましょうか♪」

百合姫提督「鳳翔、龍驤。いくら自分たちが年上で先輩だからって、赤城たちをあごで使うようなことはしない」ソファーでくつろいだ姿勢を取っていたが、急に背筋を伸ばすとピシリと言った…

鳳翔「……それを言われますと」

龍驤「確かに提督のおっしゃるとおりです…」

百合姫提督「あのね、飲み物が欲しいなら素直にお願いすること……それから不公平にならないように順番で行きなさい。いい?」

鳳翔「はい」

百合姫提督「……よろしい、それじゃあ私は他の部屋も回ってきます♪」

…いくらか酩酊しているらしい百合姫提督はいつもより感情の表し方がはっきりさせていて、それもころころと変わる……ついさっきまで鳳翔たちを叱っていたかと思いきや、素直に反省した様子を見せると途端に笑顔になった…

飛龍「提督、大丈夫ですか…?」

百合姫提督「ええ、大丈夫大丈夫…お気持ちだけいただいておきます♪」

…別の個室…

百合姫提督「みんな、お待たせ♪」

択捉「提督っ、連絡してくれたら迎えに行ったのに…!」

百合姫提督「いいのいいの……ここ、座っていい?」

択捉「はい、もちろんですよ♪」

日振(「甲(日振)」型海防艦)「…えー、それじゃあ次は私たちが歌います」

佐渡(「甲(択捉)」型海防艦)「この曲を大好きなお姉ちゃんたちに捧げます……たとえ三人生まれたときは違っても、最期はみんな一緒だからね…お姉ちゃん?」

松輪(「甲(択捉)」型海防艦)「き、気持ちは嬉しいけど……」

741 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/21(日) 02:14:31.92 ID:4bYGHXsG0
百合姫提督「わー…♪」胸の前で小さく拍手する百合姫提督…

日振「♪〜かーわいいいふりしてわりと、やるもんだねと」

佐渡「♪〜言われ続けたあのこ〜ろ、生きるのが辛かった」

日振「♪〜行ったり来たりすれ違い、あなたと私の恋…」

二人「♪〜いつかどこかで結ばれるって、ことは永遠(とわ)の夢…」

日振「♪〜あーおーく、広いこのそーらー…」

佐渡「♪〜誰のものでもなーいわー」

二人「♪〜かーぜに、ひとひらの雲…流してなーがーされてーぇ…」

二人「♪〜わたしまーつーわ、いつまでも待つわ」

二人「♪〜たとえあなたが振り向いてくれなくても」

二人「♪〜まーつわー(待つわ)…いつまでもまーつーわ」

二人「♪〜他の誰かにあなたが振られる日まーで…」

第二十二号「本当に仲がいいね、松輪?」

松輪「むむ…嬉しいような嬉しくないような……」

第百二号哨戒艇(単艦)「そういうことは言わないの、大事な姉妹でしょ?」

松輪「まあね……」

百合姫提督「ねぇねぇ択捉、何か頼まない…?」

択捉「いいけど、お財布は大丈夫?」

百合姫提督「ええ大丈夫、そのためにちゃんとお金も下ろしてきたの……みんなも好きな物を頼んでね?」

日振「やった♪ それじゃあ私はパンケーキにする♪」

佐渡「じゃあアイスでも頼もうかな…お姉ちゃんにも一口分けてあげるからね」

日振「ありがと……提督は何にしますか?」

百合姫提督「私はイチゴパフェにするわ…お酒を飲んだ後はパフェを食べるって、北海道へ出張したときに教わったの♪」

択捉「ああ、そういえば聞いたことがあるかも…」

百合姫提督「そうそう「すすきの」でごちそうになったときも最後はみんなでパフェを食べて……懐かしいわ」

竹生(鵜来型)「提督も意外とあちこちで遊んでるよね」

百合姫提督「んー…と言うよりは、各地に出張で行くとたいてい地元の提督さんや幹部の人から「本日はお疲れ様でした…どうですか、少し?」って飲みに誘われるから…むげに断るのも悪いし……」

新南(鵜来型)「提督も私と同じであちこち行ってるもんねぇ…」

(※新南…戦後は海上保安庁の巡視船「つがる」となり皆既日食の観測などを行い、さらに海保退役後はボルネオ石油開発公団の宿泊船として用いられ、1971年(昭和46年)に解体と、長く数奇な運命をたどった)

百合姫提督「ええ、おかげで全国の繁華街は一通り巡ったと思うわ…すすきのに国分町、京都の先斗町(ぼんとちょう)に大阪の道頓堀、十三(じゅうそう)……神戸の「南京町」(中華街)や名古屋の栄…福岡の「親不孝通り」(天神)に中州……あと、沖縄の「国際通り」とかも」指折り数えてみる百合姫提督…

日振「へぇ、ずいぶん遊んでるんだ?」

百合姫提督「ううん、私はあくまでもお招きに預かっただけ……たいていはお店まで連れて行ってもらうから、道もよく知らないの」

第一号「そうなの」

百合姫提督「ええ…それより注文は決まった?」

択捉「決まったわ」

百合姫提督「それじゃあ電話を…と♪」

………

742 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/23(火) 02:29:04.05 ID:FykYnvfk0
…数分後…

店員「ご注文は以上ですか?」

百合姫提督「はい、ご苦労様です……さ、遠慮せずに召し上がれ…♪」

日振「じゃあいただきます…♪」

百合姫提督「私もパフェが溶けないうちに……」

第二十二号「美味しいですか?」

百合姫提督「ええ、ひんやりしていて美味しい……はい、みんなにもおすそ分け…♪」柄の長いパフェスプーンでイチゴパフェをしゃくっては、順繰りに味見させる百合姫提督…

鵜来「ふわぁ、甘くて美味しいですねぇ…」

竹生「んー…♪」

百合姫提督「ね、火照った身体が涼しくなる感じがするわ…」

新南「提督にしてはいっぱい飲んでましたからね……さっきも中華を食べながら「杏露酒」とか「サンザシ酒」とか、けっこう色んなお酒を飲んでましたもんね?」

百合姫提督「そうなの。なんだか見慣れないお酒も多かったから味見してみたくて……」

第一号「提督のそういう所も可愛いです…♪」

百合姫提督「ふふ、ありがとう……それじゃあお礼にもう一口あげます…はい「あーん」して……♪」

第一号「あーん……ん、冷たっ」

第二号「分かる分かる、いっぺんに食べると「キーン」ってなるよね」

百合姫提督「あれはねぇ「アイスクリーム頭痛」って言うらしいわね…大丈夫?」

第一号「ん、平気」

百合姫提督「良かった……んぅぅ♪」満足げにパフェを食べ進めた百合姫提督……

…数十分後…

百合姫提督「みんな、忘れ物はなぁ…い?」

択捉「ちゃんと確認したから平気。それより提督こそ大丈夫?」

百合姫提督「ありがとう、大丈夫……っ」

松輪「あぁもう、全然大丈夫じゃないですよ……さ、つかまって下さい」

百合姫提督「本当に大丈夫だから…それに提督として松輪たちに迷惑をかけるような事はしませんし、こうしてちゃんと歩けます……っとと」

日振「もう、大人しい顔して頑固なんですから…」

百合姫提督「…それよりみんなも帰り支度をして、もう一度忘れ物がないか確認すること…あぁ、それと個別で頼んだものの支払いは私が済ませてきますから…みんなはお店の邪魔にならないように外で待っていてね……」

第六十七号「提督、一人では足元がおぼつかないですから……私が随伴します」

百合姫提督「いいからいいから、支払いなんて私に任せて…」

足柄「……またずいぶんとへべれけじゃない…提督にしては珍しいわね」

鵜来「あぁ、足柄さん」

足柄「なぁに、提督ったらあなたたちの言うことを聞かないでいるわけ?」

日振「えぇまぁ……私たちに「支払いは私が済ませるから先にお店を出ていなさい」の一点張りで」

足柄「変に律儀だものねぇ、うちの提督は……さ、それじゃあ私が肩を支えてあげるから」

百合姫提督「大丈夫よ足柄、ちゃんとお財布はこうしてあるから…ほら」

足柄「別に財布の中身を心配しているんじゃないの……いいから一緒に行くわよ?」

百合姫提督「りょうかぁ…い♪」

足柄「どうも済まなかったわね、提督をあなたたち「ちびっ子」組に任せちゃって」

第一号「むぅっ…私たちに「菊の御紋」がないからって「ちびっ子」言うな!」

(※海防艦…当初は帝国海軍における狭義の「軍艦」に含まれていたが、途中で類別が「特務艦艇」へと変更され、またほぼ全ての海防艦が1943〜45年に就役したため「軍艦」にのみ施される艦首の「菊の御紋章」の飾りはない)

足柄「あぁ、悪かったわ。別に他意があって言ったわけじゃないの」

第一号「ならいいけど…小さいからって役立たずってわけじゃないんだから」

足柄「知ってるわよ…さ、帰りましょう?」
743 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/27(土) 01:36:53.89 ID:Y/Bh6zKJ0
百合姫提督「…♪」

足柄「あら、ずいぶんとご機嫌ね?」

百合姫提督「だって、久しぶりにみんなとお酒を飲んで……それに…こうして足柄と一緒だから…///」足柄と手をつなぎ、肩に頭をもたせかけている…

足柄「///」

間宮「あらまぁ。ずいぶんと仲がいいじゃあありませんか、足柄……もしかしてイタリヤでお二人の仲を進展させるような事でもあったんですか?」

足柄「よ、余計なお世話よ…///」

吹雪「もう…いいじゃないですか、提督に頼られて」

白雪「本当ですよ、私たちだってしたいくらいなのに」

初雪「足柄ばっかりずるいです…」

百合姫提督「あぁ、みんなごめんなさい……それじゃあ交代…っ♪」

吹雪「はい、じゃあ支えますよ…っ!」

白雪「右手は私が」

初雪「じゃあ左は私ですね」

百合姫提督「まぁ、みんな手が冷たいけれど…大丈夫?」

白雪「いつものことじゃないですか、大丈夫ですよ」

初雪「それより提督こそずいぶん火照ってますね……溶けちゃいそうです」

百合姫提督「まぁ、ふふ…雪のみんなが溶けたら雨になっちゃうわね……♪」

摂津「そないなことより、はよ渡らんと信号が変わってまう…!」

百合姫提督「それじゃあ最大戦速で渡らないと……さぁみんな、急いで急いで♪」

吹雪「わわっ、酔ってるのに走っちゃ転んじゃいますよ…!」

第一号「ま、待って…ふぅ、ふぅ……そんなに早くされると追いつけない…」

間宮「ええ、私も……はぁ、はぁ…走るのが…遅いものですから……」

潮(「吹雪」型駆逐艦)「本当に前進しているのか後退しているのか……ほら、手を出して…」

間宮「…ふぅ、ふぅぅ……ええ…助かります……」

…鎮守府…

百合姫提督「はい、ただいまー…♪」

足柄「はいはい……いいからまずはお風呂にでも入って、歯を磨いたらとっとと寝床につきなさいよ…明日があるんだから」

百合姫提督「そうしま……ふわぁ…」

雪風「ふふ、提督もかなりおねむみたいですね…♪」

比叡「さ、どうぞお風呂に……みんなは提督が入浴を済まされた後ですからね」

吹雪「了解」

百合姫提督「あぁ、今のは取り消し…私が出るのを待っていたら遅くなるから……「入浴許す」をかけますから、みんなで入っちゃいましょう…♪」

比叡「しかしそれでは艦隊の規律が…」

長門「まぁまぁ、提督がそう言っているのだから……ね?」

比叡「確かにそうですが……」

金剛「そういうことよ…それとも比叡は提督の命令が聞けないの……んん?」生っ白い指をくねらせると、ねっとりした手つきで比叡の頬を撫で上げる「蛇」の金剛…

比叡「そ、そういうことではありません!」

百合姫提督「はい、それじゃあ行きましょう…♪」

744 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/05(金) 01:53:02.85 ID:iR33lOce0
…浴場…

百合姫提督「ふぅ……このお風呂に入ると「帰ってきた」っていう気分がするわね…」

足柄「ええ。タラントのお風呂は少し贅沢すぎたものね……このぐらいの方が気楽でいいわ」

…壁沿いに並んだカランが十数個と、色あせたタイル張りの真四角な浴槽……風呂自体にはかろうじて追い炊きや保温の機能がついているが、それ以上でもそれ以下でもない「横須賀第二」鎮守府の浴場……まるでさびれた温泉旅館をほうふつとさせる浴室ではあるが、艦娘たちにとっては「真水とお湯が自由に使える」というだけでも充分に贅沢だというので、文句が出ることはあまりない……手桶で一つ二つとかけ湯をすると、ほどのいい熱さのお湯にほっそりした身体を沈める百合姫提督…

吹雪「提督」

白雪「…隣、よろしいですか?」

百合姫提督「ええ、どうぞ……」

速吸「では私も…♪」

足柄「ちょっとちょっと、何もみんなして提督の周りに集まることはないでしょう……せせこましいったらありゃしないわ」

比叡「そうです。だいたいちゃんとかけ湯はしましたか?」

明石「…うわ、まーた比叡のガミガミが始まった……」

比叡「何かいいました?」

明石「なーんにも…ね、間宮♪」

間宮「はい…♪」お互いに顔を見合わせ、いたずらっ子のような笑みを浮かべる二人…

比叡「……まぁいいでしょう。それから流しは交代で使って、一人で長く使わないこと」

百合姫提督「はーい…♪」

比叡「あっ、いえ……決して提督に申し上げたわけではありませんので」

百合姫提督「ううん、ちゃんと私も守らないと不公平になるもの……そろそろ身体を洗いましょうか」

雪風「あっ、私が支えます…!」

百合姫提督「あぁ、私は大丈夫だから……ゆっくり浸かっていて?」

電「それに私がいますから…提督、お手をどうぞ♪」

百合姫提督「ありがとう…」

…カランの前に座ると少々ぼんやりした様子で石鹸を泡立て、身体を洗い始めた百合姫提督……長い黒髪は紺ですすきの模様が染め抜いてある手拭いでまとめてあり、酔いと入浴で火照ったうなじが桜色を帯びている…

足柄「…」

松「…」

明石「ごくり……」

百合姫提督「……ふぅ、それじゃあ今度は頭を…と」手拭いをほどくとしっとりとした「烏の濡れ羽色」の髪が滝のように背中へと流れた…

羽黒「提督の髪は相変わらず綺麗ですね……しっとりしていて艶があって…」

百合姫提督「あら、それを言うなら羽黒だってこんなにすべすべ…それに那智も、本当に「那智黒」の名前にぴったりな黒髪で……」羽黒の髪を手のひらですくい上げると優しく撫で、それから碁石で有名な「那智黒」を連想させる、那智の艶やかな黒髪にそっと指を沈めると手櫛で梳いた…

羽黒「///」

那智「…て、提督///」

長門「ふふ、提督はだいぶ聞こし召していらっしゃるようですね……あんまり長くいるとのぼせてしまいますから、頭を洗ったらお上がりになったほうがよろしいですよ」

百合姫提督「ええ、そうさせてもらいます…長門は優しいわ……♪」

長門「い、いえ…別にそういうつもりではないであります///」

明石「…んふふっ♪」

長門「な、何…?」

明石「いいえ……でもいつも帝劇のスタアみたいに凜々しい長門が長州弁で「デアリマス」なんて言うものだから……おかしくって♪」

梅「くくくっ、確かにのう…♪」

長門「…っ///」

百合姫提督「明石、人の訛りを笑ったりするんじゃありません……」

明石「はい、提督」

百合姫提督「よろしい…♪」
745 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/08(月) 04:02:22.78 ID:r8IW4DcX0
…寝室…

百合姫提督「よいしょ…あ、誰かお布団を干しておいてくれたのね……」


…百合姫提督が普段過ごしている執務室の隅っこには床の間のように一段高くなった三畳ほどの場所があり、その茶室のようなスペースには畳が敷かれ「仮眠用」の布団一式も用意してある…誰か親切な艦娘が準備してくれたのか、すでに敷き布団と枕は整えてあり、足元に三つ折りになっている掛け布団を広げるとふわりと軽い手触りがした…


百合姫提督「暖かい…これならよく眠れそう……」タラントとヴェネツィアではゆったりと過ごせたものの、最後の数日はローマへの移動、それから幾日もせずに帰国…と気ぜわしかったので、畳から漂う「藺草(いぐさ)」の青い香りを嗅いでほっとした…

百合姫提督「お休みなさい……」

…枕に頭を乗せると掛け布団を身体に掛け、ほっと息を吐いた…掛け布団は表に桃色で桜を散らし、裏地は「花色木綿」というつゆくさのような落ち着いた青色に染めてある布団で、折り返しについているラベルの部分には「横須賀第二・備品(三)」などとマジックで書きこんである…

百合姫提督「すぅ……」

………



…しばらくして…

百合姫提督「…すぅ……すぅ……」

?「ふふ、よくお休みで…♪」

百合姫提督「……すぅ…」

?「いやはや、提督は寝顔も可愛らしいですねぇ……では、ちょっと失礼して……♪」布団を少し持ち上げると、浴衣姿で眠っている百合姫提督の隣に身体を滑り込ませようとする…

百合姫提督「ん…ぅ…?」

…よく眠っていたが、不意に布団の隙間から冷えた夜風が流れ込んできて目が覚めてしまった百合姫提督…と、百合姫提督の寝ている布団に潜り込もうとかがみ込んでいる黒い影が視界に入った…

百合姫提督「……誰?」

?「おや、起こしてしまいましたか……そのつもりはなかったんですが…」

百合姫提督「明石…?」

明石「はい、その明石ですよ…♪」

百合姫提督「ふわ…ぁ…こんな時間に一体どうしたの?何かあった…?」時計へ目をやると、すでに明け方近い…

明石「ええまぁ……久々に提督がお帰りですから、少々「お相手」でもしていただこうか…と♪」百合姫提督の隣に這いずりこむと、ねっとりした手つきで鎖骨の部分を撫でる明石……だいぶ酔っているのか髪は乱れ、ろれつも少し回らない…

百合姫提督「え、それって……」

明石「ふふふ…イタリーでは足柄と龍田が提督を独り占めだったんですし、今夜くらい私がいい思いをしたってバチは当たりませんよね……さ、どうか身を任せて……」蛸が獲物に巻き付くような様子で脚を絡めると、右手で浴衣の襟元をゆっくりと開いていく……

百合姫提督「…あ、あっ///」

明石「いいんですよ、恥ずかしがらないで……提督を始め、みんなの身体に関しては隅々まで知っているんですから…♪」

百合姫提督「そういうことは言わないで…」

明石「それじゃあ提督が私のことを黙らせて下さいよ……ね?」

百合姫提督「わ、分かりました……///」ちゅ…♪

明石「んふふふぅ、そんな口づけじゃダメですよぉ…と♪」

百合姫提督「んむぅ…っ!?」

明石「ちゅる、むちゅっ、ちゅぷぅ…っ……♪」

百合姫提督「んっ…んんぅっ///」

明石「ちゅぷっ、むちゅ…ぴちゅっ……ぷはぁ♪」

百合姫提督「も、もう……///」

明石「ふふふ、今夜はもう寝かせませんからね♪」

百合姫提督「それは困るわ、明日の執務に差し障るから……」

明石「大丈夫ですって、大淀もいるんですから…♪」

百合姫提督「あっ、待って……きゃあっ!?」

………

746 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/03/15(月) 04:43:51.99 ID:3RqJy0zm0
…しばし間が開いてしまいましたが、ここで艦娘の紹介を一つ…


駆逐艦「松」型

基準排水量は1260トン前後で、速力は約27ノット。甲(陽炎型・夕雲型)乙(秋月型)丙(島風)に続く「丁」型と称され、前期型と後期型によって「松」および「橘(たちばな)」型に分ける事ができるが、帝国海軍ではひとくくりに扱っていた。

武装は単装12.7センチ40口径高角砲(前部)と同じく連装高角砲(後部)各一基、3連装25ミリ機銃四基、単装25ミリ機銃八基(艦によってはさらに増備したものもある)九二式4連装61センチ魚雷発射管一基。九四式爆雷投射器二基など。


「特」型を始め、戦前に設計された駆逐艦はカタログスペックを重視するあまりデザインを凝りすぎ、量産向きでなかったことから損失に対して補充が追いつかなくなり、また必要とされていた対空・対潜戦にも不向きだったため、帝国海軍が改㊄計画において「量産に向いた駆逐艦」として要求した実戦向きの駆逐艦。
とにかく生産性の向上を図ったが、生産しやすい優れた小型の高出力機関がなかったため速度は27ノットで忍び、しなやかで美しいダブルカーブ船首や各部の曲線はできる限り廃し、代わりに戦訓を受けて増備した多数の25ミリ対空機銃と、Yの字型をした「九四式爆雷投射器」及び艦尾舷側に爆雷投下軌条を設け、ラッパ型の22号電探や対潜用の探信儀など水測兵器も設けた。とはいえ設計時に「魚雷を持たないのは駆逐艦ではない」と押し切られる形で魚雷発射管を設けたあたりは、バックレイ級などを「護衛駆逐艦」と割り切って雷装を廃した米英と、あくまでも「簡易型の駆逐艦」とした帝国海軍の差が出ている。

完成直後は特型などに比べて簡素な作りで、また艦名を「松」「桃」「桑」「桐」など花木から付けたため一部に「雑木林」などと揶揄する声もあったというが、実際には「こだわり抜いた」設計であったはずの特型にも劣らない優れた凌波性、また特型とは比較にならないほど優れた対潜・対空能力を持ち、機関も分散配置するなどして生存性も高い優秀艦だった。
惜しいことに完成が大戦末期だったことから多くの戦果を上げることは出来なかったが、中の何隻かは国府(中華民国)海軍に賠償として渡され長く奉公し、また「梨」は「わかば」として海上自衛隊の草創期を支え、1962年(昭和37年)に起きた三宅島の噴火時には、避難民を乗せるなどして戦後も活躍した。

百合姫提督の艦娘「松」型はいずれも艦名となった花や木をモチーフにしたかんざしや髪飾りを付けている。戦前組の一部からは「駆逐艦もどき」などとからかわれることもあるが、実力は充分で百合姫提督の信頼も厚い。




海防艦「択捉(えとろふ)」型

1941年(昭和16年)に設計された海防艦。基準排水量870トン。速度19.7ノット。
武装は単装12センチ45口径砲三基、25ミリ連装機銃二基、九四式爆雷投射器および三型爆雷装填台(九五式爆雷36発)、九三式聴音機および九三式探信儀。
(後に機銃、爆雷を増備。二二号電探を追加。また九三式探信儀を三式探信儀に換装している)


開戦以前は短期決戦を考えていた海軍が予定していなかった南方進出と戦争の長期化に伴い、急遽護衛艦艇が必要となったことから大慌てで整備することになった海防艦で、北方警備用の占守(しむしゅ)型の設計を転用した。

そのため「設計の見直しや簡素化が不十分」で建造に時間がかかり、またモデルとなった占守型が「北方の漁場を維持する」目的で建造されていたため対空・対潜能力が低く、南方用だというのに北方向けの補助機関を付けているなど目的に合っていなかった。
海防艦としては不十分な性能とされたが、1943〜44年(昭和18〜19年)の完成時には米潜の攻撃が猛烈になってきていたためすぐ実戦投入され、14隻のうち半分の七隻が撃沈されている。

特に悲劇的なのは空母「大鷹」給油艦「速吸」を含む重要船団「ヒ71船団」を壊滅させた敵潜を撃沈するはずの「松輪」「佐渡」および日振型の「日振」が、米潜一の殊勲艦として知られる米潜ガトー級の「ハーダー(ボラ類の総称)」および「ハッド(カラフトマス)」の待ち伏せにあって揃って撃沈されたことで、これは当時の帝国海軍の探信儀・聴音機の性能が悪く、ハーダーとハッドの存在に気づいていなかったことによる。

(また「敵潜の攻撃があった方に急回頭し突撃をかけ爆雷を投射する」という戦法が米軍に知り尽くされていて返り討ちにあった海防艦も多いが、これも探信儀の性能が悪く失探してしまうことが多かったため、がむしゃらに魚雷発射点に急行せざるを得なかったことによる)



艦娘「択捉」は小さい身体に不釣り合いな12センチ砲を積み、乏しい爆雷と機銃で船団護衛を頑張るけなげな艦娘。もっとも百合姫提督による効果的な対潜戦指導もあってそこそこの戦果を上げている。




海防艦「日振(ひぶり)」型

基準排水量940トン。速度19.5ノット。
武装は12センチ45口径単装高角砲(前部)と12センチ45口径連装高角砲(後部)各一基。25ミリ3連装機銃二基、九四式爆雷投射器および三型爆雷装填台それぞれ二基、爆雷投下軌条二基、九五式爆雷120個、九三式水中聴音機、九三式水中探信儀。単艦式大掃海具。
(後に二二号電探の追加および機銃、爆雷の増備、爆雷投射器および装填台を一基追加、九三式水中探信儀を三式水中探信儀に換装)

戦況に合っていない「占守」「択捉」型と、それに続く中途半端な性能だった「御蔵(みくら)」型を見直し、船体の簡易化を進めて量産性を高めた「鵜来」型の船体に御蔵型の兵装を備えた、いわば両者の中間にあたるタイプ。

抜群の量産性を持っていた「鵜来」型の設計だけあって、一隻当たり四ヶ月という(当時の日本としては)早さで建造できたが、対潜戦には必要のない「掃海具」(機雷原へ侵入した時、艦尾からおもりを付けた長いワイヤーを曳航し、係維機雷なら海底と機雷を留めているワイヤーを切って機雷を浮き上がらせ、磁気機雷なら磁石棒を鈴なりにくっつけて反応・爆破させるもの)を用兵側に要求されたため爆雷投射器や装填台が減らされ、結果としてどっちつかずな性能になってしまった。

ネームシップ「日振」が「松輪」「佐渡」とともに撃沈された悲劇もあったが「生名(いくな)」が海上保安庁の巡視船「おじか」に、また「四阪(しさか)」が国府(中華民国)「恵安(Huian…フゥイアン)」となり、さらに中共に渡るなどして長く戦後も奉公した。

747 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/16(火) 02:42:21.58 ID:bcwvjfeL0
海防艦「鵜来(うくる)」型

基準排水量940トン。速度19.5ノット。二十隻(うち敗戦までに完成・就役できたものは九隻前後)。

武装は12センチ45口径単装(前部)および連装(後部)高角砲各一基。3連装25ミリ機銃二基、九四式爆雷投射器二基、三式爆雷投射器16基、爆雷投下軌条二基、九五式爆雷120個、22号電探、九三式水中聴音機、九三式水中探信儀それぞれ一基。
(後に3連装25ミリ機銃を五基に増備、および爆雷を二式爆雷120個に積み替え、九三式水中探信儀を三式水中探信儀二基に変更など)


1943年(昭和18年)から敗戦までに九隻が建造された海防艦。これまでの中途半端な海防艦と違い、爆雷庫から「電動式揚爆雷筒」という世界的にも珍しい送り出し機構で爆雷を次々と甲板に送り出し、上がってきた爆雷を十八基もの投射器で投射するという対潜火力に優れた海防艦。
船体構造も生産性に優れていたが、主機の「艦本式二二号一〇型」ディーゼルエンジンが潜水艦用に回されてしまったため、思っていたほど建造できなかった。完成した二十隻のうち四隻は戦没したが、ネームシップの「鵜来」が巡視船「さつま」、「竹生(ちくぶ)」が「あつみ」、また「志賀」が海上保安大学校の練習船「こじま」になるなど、何隻かは戦後も活躍した。


特に「新南(しんなん)」数奇な運命をたどったことで知られ、引き揚げ船として各地の将兵を内地へ連れて帰った後に、巡視船「つがる」として活動する中ベトナムに派遣され、日本としては初めて海外で皆既日食の観察を行うなど1966年(昭和41年)まで長く活躍し、最後はボルネオ石油開発公団の宿泊船として活動し、1971年(昭和46年)に解体された。


艦娘「鵜来」型は身体こそ小さく速度もそこまで出ないが、爆雷投射器を多数備え、高角機銃も増備されていろことから船団護衛、対潜攻撃に関しては抜群で、その実力はあなどりがたい。鵜来は巡視船「さつま」となったことからサツマイモが好きで、好きな酒は焼酎「薩摩白波」という酒豪。新南は「つがる」になったことからリンゴ好き。




海防艦「第一号(丙)」型(計画132隻。うち完成53隻、戦没26隻)

基準排水量745トン。速力16.5ノット(主機「艦本式二三号乙八」型ディーゼル)
武装は12センチ45口径単装高角砲二基、3連装25ミリ機銃二基、三式爆雷投射器12基および爆雷投下軌条一基、九五式爆雷120個、22号電探、九三式水中探信儀、九三式水中聴音機。
(後に機銃の増備および二式爆雷への積み替え、八センチ潜水艦威嚇用「音響弾」迫撃砲一基、探信儀を「三式水中探信儀」二基へ換装など)


米潜および航空機による船団への被害が甚大になっていることをうけ、「鵜来」型に続けて建造された小型の海防艦で、同時に建造された「第二号」型とは主機が異なるだけで設計、能力ともにほぼ同じ。
その特徴は何と言っても鵜来型をさらに簡易・小型化したような設計で、船体外板も品質を落とし、煙突も鉄板を貼り合わせるだけで済むよう(上から見て)六角形にするなど「戦時急造」の目的にあった設計でまとめたことから極めて量産性に優れ、1943〜44年の護衛艦艇不足の時期にタイミング良く就役することが出来た。


ただ、海防艦にも搭載できるような小型・高性能かつ生産性の高い主機がなかったことから出力の低い主機で我慢することになり、速度面では海防艦で一番遅いフネとなってしまった。そのため高速の船団に対する護衛では貨物船についていくのがやっと、また戦局が悪化している中で戦力不足だったために、訓練も武装の増備もままならないまますぐ実戦投入され「第一号」から「第二十五号」までの最初の十三隻が全て戦没するなど厳しい戦いを強いられた。

艦名はいずれも奇数の番号で、戦後は数隻が国府海軍に引き渡され、さらに中共に鹵獲されて長く使われた艦もあった。


艦娘「第一号」型は小学生にも見える小さい身体で、船体の「痩せ馬」(※やせうま…品質の悪い鋼材を使うと起きる。外板の肋材と接合している部分以外がへこんでしまい「あばら骨が浮き上がって見える」状態のこと)が目立つ急造艦だったためか、肋骨が浮き出て見えるなど哀れをさそうような外見をしていて、百合姫提督も何かと美味しいものをごちそうしたりと気にかけている。

また「第一号」は国民からの献金を募って建造された「報国第一号海防艦」として(検閲だらけの当時の新聞ではめずらしく)進水が報じられたことから、出撃時は「報国」の鉢巻きを締めている。




海防艦「第二号(丁)」型(計画143隻。うち完成63隻、戦没25隻)

基準排水量740トン。速度17.5ノット(主機「艦本式甲二五」型オール・ギヤード・タービン)
武装は「第一号」型海防艦とほぼ同じ。

「第一号」型と異なり、主機に戦標船(※戦時標準型貨物船…戦時下に建造された簡易型貨物船)用の蒸気タービン主機を転用したタイプで、燃費効率が悪く「第一号」型の航続距離6500浬に対して、14ノットで4500浬しか航行できなかった。このため当初は内地からスマトラまでの航行がせいぜいということになり問題視されたが、皮肉なことその頃には南太平洋の各拠点を失っており、実用上で不便は生じなかった。

第一号型と同じく簡易設計で量産性に優れ、小型ながら対潜能力に関してはそれまでの海防艦より優れていたところもあった。とはいえ1944〜45年になってからは潜水艦よりも制空権を失ったことによる空襲が激増しており、機銃を増備したものの対抗することができず多くが沈められた。


艦名はいずれも偶数の番号で、「第一号」型と同じく一部が戦後賠償として国府(中華民国)に引き渡され、その後鹵獲されるなどして中共に渡るなどした。

百合姫提督の艦娘「第二号」型は第一号型とそっくりで見分けもほとんどつかず、やはりどこかすすけているような印象を受ける。



748 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/22(月) 01:04:14.14 ID:7GBLMcGl0
哨戒艇「第百二号」

基準排水量1270トン。速度26ノット。
武装は単装八センチ40口径高角砲二基、あとは(詳細不明ながら)連装および単装25ミリ機銃数基に九四式爆雷投射器一基、一三式および二二号電探に九三式水中聴音機および九三式水中探信儀。


帝国海軍で(おそらく)一、二を争う数奇な運命をたどった哨戒艇で、元はフィリピンを根拠地としていた米海軍アジア方面艦隊の「クレムソン」級駆逐艦の「スチュアート」(DD−224)だったもの。ちなみに「クレムソン」級は七隻を「ホンダポイント事件」で座礁・喪失するなど事故が多かった。
(※ホンダポイント事件…1923年。夜間に高速航行演習を行っていたが推測航法にズレが生じ、また注意をうながした無電局からの位置情報を司令が「(まだ黎明期の技術だった)無電ビーコンなどアテにならない」と無視した結果、駆逐隊まるごとが座礁・転覆した大事故。死者は少なかったがヒューマン・エラーの例としても有名)


当時の米海軍としても太平洋、大西洋の二正面作戦は戦力的には難しく、そのため太平洋ではフィリピンの失陥を前提に「いい気になって日本軍が手を伸ばしすぎるまで引き寄せてから叩く」という考えがあったことから、アジア艦隊には旧型艦が多く回されており、スチュアートも1920年に就役した「フォア・スタッカー(四本煙突)」型と呼ばれた旧式駆逐艦の一隻だった。


スチュアートはバリ島沖の海戦で「朝潮」型四隻に砲撃され12.7センチ砲弾を被弾しスラバヤの浮きドックで補修中に、固定の仕方が悪く転覆し浮きドックごと沈没。日本軍が迫っていた事もあり自爆措置を施した。が、完全に破壊するまでには至らず、スラバヤの工作部でかなり大規模な改装を受けて哨戒艇「百二(一〇二)号」として再就役した。

特徴的な四本煙突は一、二番をつなげて三本煙突にし、25ミリ機銃や爆雷投射器と投下軌条、探信儀などを搭載し哨戒にあたり、それを見た米潜から「わが軍の四本煙突型駆逐艦にそっくりなフネが日本海軍にいる」「四本煙突型駆逐艦に攻撃を受けた」との報告が続き米海軍を困惑させ、一部では尾ひれがついて「日本側が欺瞞戦術として「四本煙突」型そっくりなフネを建造した」とまで言われた。


戦歴では「松輪」「佐渡」「日振」を沈めた殊勲の米潜「ハーダー」を海防艦「第二二号」と協同撃沈したことが有名で、よる年波で故障も多かった割には敗戦時まで無事に過ごし、戦後アメリカに帰還し「おてんば娘の帰還」などと新聞にも書き立てられ歓迎された。その後は航空機のロケット弾攻撃の標的として破壊処分されたが、日米双方の旗の下に長く活躍したフネだった。


百合姫提督の「第百二号」はあちこちいじくり回された結果アメリカンな部分をかなり失っているが、見た目は金髪に青い目をしている。またもとの「四本煙突」型に似ているためやせっぽちで、ちょくちょく故障している。




給糧艦「杵埼(きねさき)」型。四隻

基準排水量910トン。速力15ノット。武装は艦首楼上の砲座に設けられた8センチ40口径「三年式」単装高角砲一基および後部の13ミリ「九三式」連装機銃一基。搭載物資、生鮮品約84トン(杵埼は82トン)および真水約71トン。

本来は日華事変に応じて活動していた支那方面艦隊支援のため計画された二隻の給糧艦のうち、640トンの小型タイプだった「野埼(のさき)」と比較のため建造された拡大版の1000トンクラスの給糧艦で、当初は雑役船扱いだったことから野埼の「雑役船第四〇〇七号」と同じように「雑役船第四〇〇六号」と船名もなかったが、その後「南進(なんしん)」さらに「杵埼」と改名され、小型の野埼よりも補給能力に優れ使い勝手が良かったことから、姉妹艦となる「早埼(はやさき)」「白埼(しらさき)」「荒埼(あらさき)」の三隻が追加建造された。


外見はただの「船首・船橋楼型」構造をした一本煙突型の貨物船だが、冷凍能力があったことから漁場で買い上げた魚を直接冷凍し艦隊へ送り届ける事ができるなど補給面ではそれなりに活躍し、また1945年(昭和20年)に奄美で戦没したネームシップ「杵埼」以外は無事に敗戦を迎え、復員輸送を終えた後は「早埼」「白埼」がそれぞれ賠償艦としてソ連、中国へ引き渡し「荒崎」は当時の農林省水産講習所の練習船「海鷹丸」となり、解役後さらに船会社に払い下げられ転々としたのち、最後は1967年(昭和42年)フィリピンに売り渡されるなど長命だった。


艦娘「杵埼」型は小学生のような外見をしていて、普段は間宮の手伝いをして料理を運んだり材料を取ってきたりとまめまめしく活動しているが、場合によっては艦隊への補給に出撃することもある。魚の目利きと買い出しに関してはなかなかで、市場や魚屋ではかなり顔が利く。


749 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/22(月) 01:11:50.47 ID:7GBLMcGl0
哨戒艇「第百二号」

基準排水量1270トン。速度26ノット。
武装は単装八センチ40口径高角砲二基、あとは(詳細不明ながら)連装および単装25ミリ機銃数基に九四式爆雷投射器一基、一三式および二二号電探に九三式水中聴音機および九三式水中探信儀。


帝国海軍で(おそらく)一、二を争う数奇な運命をたどった哨戒艇で、元はフィリピンを根拠地としていた米海軍アジア方面艦隊の「クレムソン」級駆逐艦の「スチュアート」(DD−224)だったもの。ちなみに「クレムソン」級は「ホンダポイント事件」で一気に七隻を座礁・喪失するなど事故が多かった。
(※ホンダポイント事件…1923年。夜間に高速航行演習を行っていたが推測航法にズレが生じ、また注意をうながした無電局からの位置情報を司令が「(まだ黎明期の技術だった)無電ビーコンなどアテにならない」と無視した結果、駆逐隊まるごとが座礁・転覆した大事故。死者は少なかったがヒューマン・エラーの例としても有名)


当時の米海軍としても太平洋、大西洋の二正面作戦は戦力的には難しく、そのため太平洋ではフィリピンの失陥を前提に「いい気になって日本軍が手を伸ばしすぎるまで引き寄せて叩く」という考えがあったことから、アジア艦隊には旧型艦が多く回されており、スチュアートも1920年に就役した「フォア・スタッカー(四本煙突)」型と呼ばれた旧式駆逐艦の一隻だった。


スチュアートはバリ島沖の海戦で「朝潮」型四隻に砲撃され12.7センチ砲弾を被弾し、スラバヤの浮きドックで補修中に固定の仕方が悪く、転覆し浮きドックごと沈没。日本軍が迫っていた事もあり自爆措置を施した。が、完全に破壊するまでには至らず、スラバヤの工作部でかなり大規模な改装を受けて哨戒艇「百二(一〇二)号」として再就役した。

特徴的な四本煙突は一、二番をつなげて三本煙突にし、25ミリ機銃や爆雷投射器と投下軌条、探信儀などを搭載し哨戒にあたり、それを見た米潜から「わが軍の四本煙突型駆逐艦にそっくりなフネが日本海軍にいる」「四本煙突型駆逐艦に攻撃を受けた」との報告が続き米海軍を困惑させ、一部では尾ひれがついて「日本側が欺瞞戦術として「四本煙突」型そっくりなフネを建造した」とまで言われた。


戦歴では「松輪」「佐渡」「日振」を沈めた殊勲の米潜「ハーダー」を海防艦「第二二号」と協同撃沈したことが有名で、よる年波で故障も多かった割には敗戦時まで無事に過ごし、戦後アメリカに帰還し「おてんば娘の帰還」などと新聞にも書き立てられ歓迎された。その後は航空機のロケット弾攻撃の標的として破壊処分されたが、日米双方の旗の下に長く活躍したフネだった。


百合姫提督の「第百二号」はあちこちいじくり回された結果アメリカンな部分をかなり失っているが、見た目は金髪に青い目をしている。またもとの「四本煙突」型に似ているためやせっぽちで、ちょくちょく故障している。




給糧艦「杵埼(きねさき)」型。四隻

基準排水量910トン。速力15ノット。武装は艦首楼上の砲座に設けられた8センチ40口径「三年式」単装高角砲一基および後部の13ミリ「九三式」連装機銃一基。搭載物資、生鮮品約84トン(杵埼は82トン)および真水約71トン。

本来は日華事変に応じて活動していた支那方面艦隊支援のため計画された二隻の給糧艦のうち、640トンの小型タイプだった「野埼(のさき)」と比較のため建造された拡大版の1000トンクラスの給糧艦で、当初は雑役船扱いだったことから野埼の「雑役船第四〇〇七号」と同じように「雑役船第四〇〇六号」と船名もなかったが、その後「南進(なんしん)」さらに「杵埼」と改名され、小型の野埼よりも手頃で使い勝手が良かったことから姉妹艦となる「早埼(はやさき)」「白埼(しらさき)」「荒埼(あらさき)」の三隻が追加建造された。


外見はただの「船首・船橋楼型」構造をした一本煙突型の貨物船だが、冷凍能力があったことから漁場で買い上げた魚を直接冷凍し艦隊へと送り届ける事ができるなど補給面ではそれなりに活躍し、また1945年(昭和20年)に奄美で戦没したネームシップ「杵埼」以外は無事に敗戦を迎え、復員輸送を終えた後は「早埼」「白埼」がそれぞれ賠償艦としてソ連、中国へ引き渡し「荒崎」は当時の農林省水産講習所の練習船「海鷹丸」となり、解役後さらに船会社に払い下げられ転々としたのち、最後は1967年(昭和42年)フィリピンに売り渡されるなど長命だった。


艦娘「杵埼」型は小学生のような外見をしていて、普段は間宮の手伝いをして料理を運んだり材料を取ってきたりとまめまめしく活動しているが、場合によっては艦隊への補給に出撃することもある。魚に関してはかなりの目利きで、市場や魚屋にも顔が利く。
750 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/22(月) 01:19:06.81 ID:7GBLMcGl0
給油艦「剣埼(つるぎさき)」(初代)

基準排水量1970トン。速力11ノット。武装8センチ40口径「安(アームストロング)式」単装砲二基。搭載物資石油1100トン。


そもそもは1917年(大正6年)就役の給油艦で、このころ多くの軍艦が用いる燃料が石炭から重油へと代わってきたことから、港内での給油用として建造されたもの。
さしたる性能も必要ないフネ(またちょうどいい大きさのディーゼル主機がなかった)ということで練習も兼ねて、当時新型だった「浦風」型駆逐艦用のディーゼル主機二基を搭載するなど新機軸を盛り込んだ…が、第一次大戦中だったことから(当時敵国であった)ドイツ製の部品である「流体継手(フルカン継手)」が入手できなかったことをはじめ、まだまだ珍しかったディーゼル機関に馴染みがなかったこともあって多くの問題が発生した。
そのため当初は呉〜佐世保あるいは呉〜横須賀の航海でほぼ毎回のように機関が故障するなどトラブル続きで、呉軍港では「剣埼」の入港時に全艦艇に対して(衝突回避のため)「機関点火」が要請されるといった有名なエピソードもあった。

その後は水産庁の漁業取締船「快鳳丸」となったが、1945(昭和20)年には護衛艦艇不足から「特設砲艦」の扱いで戦場へと駆り出され、北海道の日高沖で米潜に撃沈されている。

(※フルカン継手…無段変速機の一。オイルで満たした筒の中に「機関側」と「軸側」それぞれに繋がっている水車のような機構を仕込んである変速機。機関の動力を受けた機関側の水車が回り、それがオイルに水流を生んで軸側の水車を回すことで滑らかに変速できる)


艦娘「剣埼」は一見すると小柄な女の子だが、艦齢を考えると大変な「お年寄り」で、また補給には「知床」型をはじめ大型艦がいることからほとんど作戦には投入されない。それでは申し訳ないと食堂の手伝いや何かをしてくれることもあるが、しょっちゅう転びそうになったり物を落としそうになったりしているので、「剣埼」が動くとなると百合姫提督を始め全員が様子を見ながらヒヤヒヤしている。




標的艦「摂津(せっつ)」

排水量20650トン。速度18ノット。武装なし。
標的艦としての防弾能力は17000〜22000メートルからの「20センチ演習砲弾」および4000メートルからの「三番(30キロ)演習爆弾」に耐える程度。

元は日本が初めて国産に成功した弩級艦である「河内(かわち)」型戦艦の二番艦で、1912年(明治45年)に就役した戦艦。ネームシップの河内は弾薬の爆発事故で失われたが、摂津はその後も長く大正天皇・皇后のお召し艦になるなど威容を誇っていた。しかし1923年(大正12年)ワシントン軍縮条約によって「陸奥」を建造する代わりに兵装を撤去し標的艦とすることで同意したことから類別が変更となった。


当初は後方に板状の的を曳航するなどした「操作側」だったが、1931年(昭和6年)にはドイツ製遠隔操作装置を元に日本で製造した遠隔操縦装置を搭載し、それ以降は元駆逐艦の「矢風」からリモコン操作を行い、演習弾を浴びても損傷しないよう防弾鋼板を装着した「実艦的」として用いられた。この際攻撃側は「摂津」に命中させるよう、また回避側は攻撃回避の訓練ができるようになっていた。
特に爆撃訓練の時は(演習砲弾よりは小さく安全な演習爆弾のため)回避側が実際に「摂津」の防御区画に乗り組み、直接回避行動の訓練を行っていた。
外見では煙突の口から弾片が飛び込まないように設けられたそろばん玉のような「ファンネルキャップ」(煙突カバー)が特徴的で、長く連合艦隊の訓練の相手を務めてきた「摂津」だったが、最後は1945年7月の呉軍港空襲を受けて大破着底し、そのまま敗戦を迎えた。


艦娘「摂津」は大柄で、お召し艦だったこともあり上品な関西弁をしゃべるが、標的艦という性質のせいか妙にいじめたくなるようなオーラをまとっている。演習となると頭にファンネルキャップを模した笠をかぶり「矢風」の指示のままに逃げ回るが、鈍足のためすぐ捕捉されてはひいひい言わされている。




標的艦「矢風(やかぜ)」

排水量1321トン。速度24ノット。武装は5センチ「山内式」単装砲一基、25ミリ九六式単装機銃四基、爆雷八個。
防弾能力は「1キロ演習爆弾」に耐える程度。

もとは「峯風」型の駆逐艦だったが、1937年(昭和12年)以降無線操縦装置を設けて「摂津」の無線操縦にあたっていた。しかし開戦以降、鈍足の摂津一隻では海軍航空隊の訓練には足りないことから「矢風」自身も防弾板を装備して南方へ進出し、現地で「実艦的」として訓練の相手を務めるようになった。敗戦時は修理もままならず中破着底状態で横須賀にあり、戦後解体された。

艦娘「矢風」は演習となるとリモコンを手に摂津を操りいいように使っている生意気な小娘だが、たいてい摂津に飽きた空母勢の「次の目標」にされては追い回されている。




標的艦「波勝(はかち)」

排水量1641トン。速度19ノット。武装は13ミリ九三式連装機銃二基。
防弾能力は高度4000メートルからの「一番(10キロ)」演習爆弾に耐える程度。

「摂津」第二次改装の結果、標的艦を有人操作して行う爆撃訓練は有効だということは分かったが、摂津では海軍航空隊の練習相手としては速度が遅く、また旋回性が不満足だったため、1941年(昭和16年)に計画されて1943年(昭和18年)に就役した標的艦。
特徴的なのは艦の左右に張り出す折りたたみ式の幕を使った「幕的」で、これを使うことで上空からのシルエットを駆逐艦程度から重巡程度まで大きく見せることができるというもの。また最初から標的艦として考えられていたため船体と主甲板の間にすきまを開けて、甲板の損傷が船体にまで及ばないようにしてあるのが特徴。
大戦中は南方に進出して機動部隊の相手を行い、無事に大戦を生き延びて復員輸送を行ったのち解体された。


艦娘「波勝」は中学生程度に見える艦娘で、演習となるとムササビか派手なパフォーマンスをする歌手のように袖の幕を広げ、空母たちの相手を務める。
751 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/22(月) 02:14:51.92 ID:7GBLMcGl0
というわけで、帝国海軍の補助艦艇を中心に紹介してみました……たいては小さいフネですけれども「縁の下の力持ち」として艦隊を支えた功労艦たちですね。


それと、ここ数週間はF−4EJ「ファントム」や「YS−11」の退役、それにイージス艦「はぐろ」の就役などニュースが多かったですね。もっとも、好みで言えばステルス性を重視してのっぺりしたデザインになっている最近の軍艦よりも、戦中の艦艇の方が国ごとの個性があって好きですが…。


あと、749と750で連投になってしまいましたので、どうぞ片方は読み飛ばして下さい。
752 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/27(土) 01:16:12.94 ID:GmInuUyk0


百合姫提督「…と言うことがあって」

提督「ふふ、姫もなかなか大変なようで…でも、慕われているようで何よりね♪」

百合姫提督「ええ。でも艦隊を指揮する上で「艦娘」の娘たちと親しくなりすぎるのもいけないような気がして……その距離感が難しいわ」

提督「気持ちは分かるわ…そういう面では、私は自分のことを「提督にふさわしくない」と思っているもの」

百合姫提督「貴女が?」

提督「ええ。必要とあれば敵に撃沈されることを承知で艦娘を送り込まなければならない……私にはそんな命令を下して、その罪の十字架を背負える自信なんてないもの」

百合姫提督「でも、タラントでの指揮ぶりは見事だったし、そんな風には見えなかったけれど……」

提督「それはそうよ…まがりなりにも「提督」としてベタベタ金モールを付けている以上、まさか艦娘たちの前で真っ青になってガタガタ震えているわけにもいかないでしょう? とはいえ作戦を考えているときは寝付けなくなるし、お腹も痛くなったし……生理のひどいときを思い出したわ」

百合姫提督「フランカも悩んでいるのね…」

提督「もちろん…もっとも、そうやって「うちの娘たちが怪我をしないように」って頭をひねって考えるから、いい作戦が出来上がるのかもね♪」

百合姫提督「そうかもしれないわ」

提督「ね……それでいくと、姫は立派な提督よ♪」

百合姫提督「もう、やめてよ……///」

提督「別に冗談や酔狂で言っているわけじゃないわ…あまりジァポーネの提督に詳しいわけじゃないけれど、姫なら「イソロク・ヤマモト」とだっていい勝負だと思うわよ?」

百合姫提督「もう、私なんか山本長官の足元にも及ばないわ……もっとも、彼の名言は飾ってあるけれど」

提督「名言?」

百合姫提督「ええ。前にも言ったかもしれないけれど有名な言葉で「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、誉めてやらねば人は動かじ」っていう…本当は続きもあるけれど、その部分が一番知られていて……私もその通りだと思うから、執務室の額に入れて飾ってあるわ」

提督「いい言葉ね…ちなみにそういうことなら私も良く実行しているわ」

百合姫提督「本当に?」

提督「ええ…提督として本当にやるべき事は率先して「やってみせ」て、反対にどうでもいいことの時はそれ相応の態度を取るわけ……ふふっ♪」

百合姫提督「何がおかしいの?」

提督「いえ、ね…例えばスーペルマリーナ(海軍最高司令部)発で「鎮守府の規律を守り、綱紀粛正に努めるべし」みたいなしょうもないお達しが回ってきたとするでしょう?」くすくす笑いの発作を起こしながら続けた…

百合姫提督「ええ…それで?」

提督「前にそういうのが来たときにはね……」

………

…数ヶ月前…

アッチアイーオ「提督、ローマのスーペルマリーナから文書が届いているわ」

提督「スーペルマリーナから?」

アッチアイーオ「ええ」

提督「こんな時期にスーペルマリーナからだなんて……何かしら?」

アッチアイーオ「さぁ…とにかく開けてみたらいいんじゃない?」

提督「そうね……って、これだけ?」

アッチアイーオ「何だったの?」

提督「これよ」イタリア海軍の紋章が印刷されている封筒から数枚の紙を取り出してひらひらと振り、それから執務机の上を滑らせて渡した…

アッチアイーオ「前文…はいいとして……「各提督および所属の『艦娘』は鎮守府内における規律向上と整理整頓に努めるべし…」って、なによこれ?」

提督「季節になるとよく来るお説教のお手紙よ…要は「ブーツをピカピカに磨き上げておくこと」の海軍版ね」

アッチアイーオ「はぁぁ…しょうもないわね。この書類を印刷する予算があるんだったら、あのかみ合わせが悪いモンキーレンチでも買い直してくれればいいのに」

提督「ええ、まったく…とはいえ「提督は各鎮守府所属の『艦娘』たちにも周知徹底するべくこれを通達すべし」とあるから、後でみんなに読み上げないとね」

アッチアイーオ「あーあ、ばかばかしい…」
753 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/27(土) 02:52:52.48 ID:GmInuUyk0
…数時間後・食事時…

提督「…はーい、注目」

チェザーレ「おや、どうかしたのか……諸君、静かに」

ライモン「なんでしょう…?」

ムツィオ「さぁね。でも作戦の話はもう済んでるし……提督もあんまり話す気があるようにも見えないから、大した通達じゃないんじゃない?」

ライモン「でも提督のお話ですから、ちゃんと聞かないと」

エウジェニオ「相変わらず律儀ね、ライモンドは…もっとも、愛しい提督さんのお話だものね♪」

ライモン「///」

提督「あー…だいぶ静かになったわね。それじゃあ通達します」通達の紙を手に立つと、横に座っているデルフィーノがくりっとした目で見上げてくる……提督が横目でちらりと見おろしながら小さくウィンクをすると、はにかんだような微笑みを浮かべてにっこりした…

提督「…ローマのスーペルマリーナから届いた通達ですが「各鎮守府の提督および艦娘は規律の向上、及び整備整頓に努めるべし」とのことです」さしたる内容でもない「通達」に、艦娘たちのため息と小声のおしゃべりが交じる……

提督「えー、と言うことですから…」片手で書類を持って続けながらもう片方の手をデルフィーノの頭に伸ばし、濃い灰色の髪を指でくしけずったりはね上げたりしている提督…

デルフィーノ「…んっ///」

提督「……従って全員よくこの通達に従い、規律の向上に努めるよう…」声だけは真面目な調子で訓示しつつも、瞳をきらめかせ、口元にはいたずらっぽい笑みを浮かべている…

デルフィーノ「…あっ…あふぅ///」

提督「…各自がより一層規律正しく健全な生活を送るようにすることで……」そう言いながら左手を伸ばし、デルフィーノの引き締まった乳房を優しくこねくり回している…

デルフィーノ「ふわぁぁ…あふっ///」

提督「……私も提督として模範を示すべく、この通達にあるよう「規律正しく」生活し、スーペルマリーナの求める理想の提督たるべく…」もにゅ…むにっ♪

デルフィーノ「はふぅ、はぁ……んぅぅ///」とろけた表情を浮かべ、我慢しきれなくなったようにほっそりした指を灰色のプリーツスカートの中へと滑らせていくデルフィーノ…

提督「……では、訓示を終わります…以上♪」

…最後は艦娘たちに露骨にウィンクを投げると席に着き、そのままデルフィーノを抱き寄せる提督…色欲旺盛で「一人遊び」も好きなデルフィーノ(イルカ)は恥ずかしさと快感から顔を火照らせ、花芯に沈めた人差し指から「くちゅ…っ♪」と水音が響かないようそっと動かしている…

ガリバルディ「はいはい、オッベディスコ(従う)、オッベディスコ……ね♪」左右の艦娘の肩に腕を回し、ぐっと引き寄せた…

チロ・メノッティ「そうですね///」

エンリコ・タッツォーリ「はい…///」

…リソルジメント(イタリア統一)における殉教者で、ガリバルディが息子の名前にも付けた「チロ(チーロ)・メノッティ」と、同じくオーストリアからの独立運動を行い処刑された「ベルフィオーレの殉教者」の一人である神父「エンリコ・タッツォーリ」は、女たらしのガリバルディに抱き寄せられて真っ赤になっている……

エウジェニオ「ふふ…っ、姉さん……♪」

アオスタ「ち、ちょっと…だめ…///」

エウジェニオ「いいじゃない…相変わらずお堅いんだから……もっとも「お堅い」のはここもかしら?」もみっ…♪

アオスタ「あっ、やめ……っ///」

提督「んちゅっ、ちゅっ…♪」

デルフィーノ「はぁっ、はぁぁ…っ///」

アッチアイーオ(温)「て、提督……デルフィーノだけじゃなくて、私も構ってほしいわ…///」

提督「ふふ、ごめんなさい…不公平なのはいけないわよね♪」

アッチアイーオ「んふぅ……あむっ、ちゅぅ…♪」

デュイリオ「あらあら」

カヴール「ふふ、みんな若いですね…♪」

チェザーレ「カヴールにしてはずいぶんと枯れたことを……チェザーレはまだまだ現役のつもりだが?」

リットリオ「あんまり無理しちゃだめですよ、チェザーレ?」

チェザーレ「ほほう、いうではないか…後で音を上げるなよ、リットリオ?」

リットリオ「ふふふっ、負けませんよ…♪」

………

提督「…っていう具合に「行動」で示すことにしているわ♪」

百合姫提督「もう、フランカってば…♪」そう言うと苦笑しながら「またね」と通話を終えた…
754 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/02(金) 01:34:47.97 ID:jQL21t0r0
…別の日…

提督「ふぅ……やっと書類の処理が終わったわね…」

デルフィーノ「たくさんあって疲れちゃいました」

提督「手伝わせてしまってごめんなさいね、二人とも」

アッチアイーオ「いいのよ。それが秘書艦の任務なんだから」

提督「そう言ってもらえると助かるわ……んー♪」差し戻しを受けた書類の処理を終えると、椅子に座ったまま大きく伸びをした…

デルフィーノ「次は何をしますか、提督?」

提督「そうねぇ…この時間だから鎮守府の中を回って……」

アッチアイーオ「それから提督は体育館で運動ね」

提督「えー…?」

アッチアイーオ「まったく「えー?」じゃないでしょうが…食べた分だけカロリーを消費しないと、そのうち服が着られなくなるわよ」

提督「それはそうだけれど…」

アッチアイーオ「なら早く支度をしなさいよ……ちゃんと運動したら私がご褒美を上げるから…///」

提督「…あら、それは信じていいのかしら?」

アッチアイーオ「もうっ、私が提督に嘘なんてつくわけないでしょう……///」

デルフィーノ「えへへっ、アッチアイーオったら耳が真っ赤です♪」

アッチアイーオ「うるさいわね…!」

提督「ほーら、喧嘩はしないの……それじゃあ着替えてくるから、少し待っていてね?」

アッチアイーオ・デルフィーノ「「了解」」



…体育館…

チェザーレ「おや、提督…見回りか?」

提督「いいえ、二人にせっつかれて少し運動を…ね」

バンデ・ネーレ「へぇぇ、提督が運動……明日は雨かな?」

提督「おっしゃってくれるわね…そういうバンデ・ネーレは?」

バンデ・ネーレ「ボクかい?ボクはチェザーレと剣の練習を♪」

(※「ジョバンニ・デレ・バンデ・ネーレ(黒装束のジョバンニ)」ことジョバンニ・ディ・メディチは剣術の達人であり勇猛果敢、その上で当時の(教養のある)傭兵隊長の中でも特に優れた人格者だったことから名高く、これだけの傭兵隊長は二度と現れないだろうということで「最後のコンドッティエーリ(傭兵隊長)」と呼ばれた)

チェザーレ「うむ。十五世紀の剣術というのもまた興味深いのでな…この前は「フィオール・ディ・バッターリア」を借りたのだが、面白く読ませてもらった」

(※「フィオール・ディ・バッターリア(fior di battaglia)」…「戦いの花」というタイトルが付けられた十五世紀の剣術指南書で、当時「剣術の達人」として広く知られていたジョバンニ・デレ・バンデ・ネーレに取材してまとめられたもの。ルネサンス期以降に銃器が発達して廃れてしまった実戦型の剣術を後世に伝えた有名な本で、ヨーロッパの武術研究家や歴史家はこれを元にして当時の剣術を復活・研究させている)

提督「確かにバンデ・ネーレの剣術は大したものだものね。私なんかじゃあ手も足も出ないわ…」フェンシングを始め伝統的に剣術が強いイタリアにあっては、あまり上手とはいえない腕前の提督…

バンデ・ネーレ「そんなに誉められると少し恥ずかしいね……でも、提督にそう言ってもらえて嬉しいよ」

チェザーレ「そうだな…では、参ろうか。お手柔らかに頼むぞ♪」顔を防ぐための面をつけ、刃の付いていない…しかし古代ローマのグラディウス(ローマ式幅広の剣)を再現した練習用の剣を取った…

バンデ・ネーレ「こちらこそ。英雄チェザーレと剣を交えられて光栄だよ…審判は提督たちにお願いしようか♪」こちらは左肩に黒マントを羽織り、細身の長剣を提げている…

チェザーレ「うむ、それがよいであろうな……構わぬかな?」

提督「ええ♪」

アッチアイーオ「言っておくけれど、二人の練習が終わったらちゃんと運動するのよ?」

提督「…んー?」

デルフィーノ「くすくすっ…提督ってば二人の試合の審判をしてごまかすつもりだったんですね♪」

提督「そんなことはないわよ、ちゃんと二人の試合が終わったら運動するつもりだったわ」

アッチアイーオ「どうだか…」

提督「本当よ……だって運動したらアッチアイーオの「ご褒美」があるんだもの…ね?」アッチアイーオの耳に口元を寄せ、甘い声でささやいた…

アッチアイーオ「っ、いいから始めるわよ…///」
755 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/04(日) 02:33:01.59 ID:IPjqRLqW0
提督「そうね。それじゃあ……始めっ!」

チェザーレ「では、ジュリオ・チェザーレ…参るぞ!」グラディウスを抜き放ち、振りかぶった…

バンデ・ネーレ「フィレンツェのジョヴァンニ・ディ・メディチ……主の名にかけて、正々堂々とお相手します!」

…バンデ・ネーレが左肩からかけているマントは、果たし合いの多かった中世において衣服として…そしてとっさの時の盾代わりとして有効活用されてきた……左腕でマントをぐるぐると回しながら、ずっしりしたウールの生地でチェザーレの剣を巻きとめようとする…

チェザーレ「…ふんっ!」

バンデ・ネーレ「…っ!」マントで剣身を受けたが、そのまま勢いで押し切られて防具を着けた腕に「ばしっ!」と一撃を浴びた…

提督「判定っ!」さっとチェザーレ側の旗を上げ、また旗を降ろして「始め!」をかける提督……

チェザーレ「どうしたというのだ、バンデ・ネーレ……臆せずにかかってくるがよかろう!」

バンデ・ネーレ「くぅっ…さすがチェザーレ、重いし早い……けれどね!」

チェザーレ「むっ…!」

…フランス系の剣術をベースに様式化されたフェンシングと違い、より実戦的な円形のコートでお互いに回りながら隙を見計らっている二人……と、バンデ・ネーレが飛び出して一気に突いた…

提督「判定っ!」

チェザーレ「ふむ、さすが「最後のコンドッティエーリ」であるな……しかし、実戦ではそうはいかぬぞ…!」真紅のマントをはためかせて間合いに詰め寄ると、剣を叩き落としつつ鳩尾に蹴りを入れ、よろめいたところで首筋に剣を突きつけた…

提督「判定!」

デルフィーノ「チェザーレさんはさすがです」

チェザーレ「…バンデ・ネーレ、平気か?」

バンデ・ネーレ「ボクは平気だよ……さすがにチェザーレは違うね♪」

エットーレ・フィエラモスカ(大型潜・単艦)「実力者同士の試合はわくわくしますね…私も騎士の血がうずいてきてしまいそうです♪」

アルベルト・ディ・ジュッサーノ(軽巡ジュッサーノ級)「確かに。私も久しぶりにやってみようかしら……バルトロメオ?」

…神聖ローマ帝国の皇帝として名高いかの「バルバロッサ(赤ひげ)」ことフリードリッヒ一世の侵略に対し、チャリオットとそれを援護する「死の中隊」を編成して戦い、ついにミラノを守り切り撃退したロンバルディアの伝説的英雄、アルベルト・ディ・ジュッサーノ…

バルトロメオ・コレオーニ(ジュッサーノ級)「ああ、いいよ……私も姉さんと剣の練習をするのは久しぶりだ」

…こちらは中世ヴェネツィアの「ドゥーチェ(統領)」で、当時のライバルであったミラノの女公「ビアンカ・マリア・ヴィスコンティ」を暗殺させたという人物…

ジュッサーノ「お互い軍艦としてみれば姉妹。とは言えヴィスコンティ家にあんなことをした以上、容赦はできないわよ…?」お互い権謀術数が渦巻き、戦争も相次いでいた中世イタリアの都市国家…その歴史もあってか、地域が絡むと一気にやり取りが熱を帯びてくる……

コレオーニ「そういうのはお互い様さ、姉さん…行くよ!」

アッチアイーオ「さ、せっかくだから提督もやったらどう?」

提督「いえ、どちらかというと剣術はあんまり……それにあのすごい立ち回りを見た後だと、なおのこと…ね」

アッチアイーオ「…私だって剣は得意じゃないもの。お互い様よ」

提督「そうね、アッチアイーオがそこまでいうなら……それじゃあまず防具を着けないと…」手足や胴体、それに頭と顔を守る「面」を付けて、剣を提げた…

デルフィーノ「提督、アッチアイーオ、準備はいいですかぁ?」

アッチアイーオ「いいわよ……ま、もし提督が勝ったら舌を入れてキスしてあげたっていいわ」

提督「舌を入れるキス……デルフィーノ、今のちゃんと聞いたわね?」

デルフィーノ「はい…アッチアイーオ、そんなことを言って大丈夫ですか?」

アッチアイーオ「自信がなかったらそんなこと言わないわよ……さぁ、審判をお願い!」

提督「デルフィーノ、いつも気を回してくれるのは嬉しいけれど、こと審判に関しては私が提督だからってえこひいきしちゃ駄目よ…もちろん、アッチアイーオにもね?」

デルフィーノ「はい、大丈夫です……始めっ♪」

アッチアイーオ「…」長剣をだらりとさせ、下から切り上げる体勢を作る…

提督「…」一方、長身の提督は懐に飛び込まれないよう間合いを広くし、剣を両手で握って肩で担ぐように構える「乙女の構え(posta di donna la soprana)」を取った…

ライモン「提督とアッチアイーオ…どっちにも頑張って欲しいですね」

グレカーレ「うーん……動きの速さはアッチアイーオ、間合いでは提督が有利ですね」

提督「…」

アッチアイーオ「…」
756 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/13(火) 12:25:56.45 ID:NS5sm3XB0
…数分後…

デルフィーノ「勝負あり!」

アッチアイーオ「はぁ…はぁ…」

提督「ぜぇ……はぁ……」

アッチアイーオ「…いったいどういうわけよ!?」お互いに息を切らしながら握手をし、面を外した途端に怒鳴った…

提督「ふぅ、ふぅぅ……なにが?」

アッチアイーオ「あんなに運動が苦手なくせして、どうしてこういう時だけ勝てるのかって聞いてるの!」

提督「そうねぇ…愛の力かしら♪」

ライモン「確かに、提督の剣術がお世辞にも優れているとは言えませんが……」

グレカーレ「…女の子といちゃつけるとなると急に強くなるものねぇ」

アッチアイーオ「聞いてあきれるわ……」

提督「ふふっ…それよりお約束のキスはいつしてくれるの?」

アッチアイーオ「だぁぁ、もう! こんな皆が見ているまえでするわけないでしょうが!」

提督「あら、残念…まぁ、とりあえず運動もできたし、後は食堂でお茶でも……」

バンデ・ネーレ「…ねぇ提督、せっかく防具を着けたのに一回の手合わせで「はい、おしまい」じゃあ物足りないんじゃないかな?」

チェザーレ「うむ。チェザーレも提督とお手合わせ願いたいとかねがね思っていたのでな」

ガリバルディ「そうよね、せっかくだもの……♪」

提督「え、ちょっと…」

デルフィーノ「そうですねぇ。提督も運動のために来たんですから、もう何人かと練習したらいいかもしれないです」

提督「…デルフィーノ、覚えていなさいよ…後でとっておきの恐怖映画祭りにしてあげるから……」

バンデ・ネーレ「まぁまぁ…さ、面を付けて」

提督「うぅぅ…午後の執務もあるのだから、ほどほどにお願いね」

バンデ・ネーレ「ふふ、ボクだってそこまで意地悪じゃないよ……♪」

ガリバルディ「…でも、こっちが勝ったらご褒美が欲しいわよね」

提督「ご褒美ねぇ……ん、ご褒美?」(もし私が負けたところでキスすればいいだけとなれば、別に負けても損はない…?)

バンデ・ネーレ「いいかな?」

提督「そうねぇ…分かったわ♪」

チェザーレ「どうやら乗り気になってくれたようであるな…バンデ・ネーレ、先に手合わせしてよいぞ」

バンデ・ネーレ「じゃあボクがお先に…♪」右手に長剣、左手に短剣を構えると一礼した…

提督「マン・ゴーシュね……」

(※マン・ゴーシュ…左手に短剣を持つ二刀流スタイル。短剣の鍔(つば)に金属の籠目飾りがあり、そこに相手の剣身を絡ませて動きを止めたり、ナックルのように柄に指を通しているレイピア等では剣身ごとねじって相手の手指を折ったりする)

デルフィーノ「それでは…始め!」

バンデ・ネーレ「はぁ…っ!」

提督「やぁっ…!」

………



757 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/18(日) 01:47:47.75 ID:ajNWCHIP0
…数十分後・執務室…

提督「はぁぁ…疲れた……」

デルフィーノ「バンデ・ネーレさんたちにずいぶんしごかれていましたですね」

提督「ええ、あんなに剣術をやらされたのなんて士官学校の授業以来よ……あいたた…」

デルフィーノ「まだ痛みます?」

提督「ええ。防具越しだったのにまだ打たれた所がじんじんするわ…」慎重に椅子へと腰かけたが、うずくような痛みが伝わって顔をしかめた…

デルフィーノ「あらら…」

…チェザーレの「ローマ軍団式」実戦的剣術に始まり、バンデ・ネーレの巧みな剣さばき…あるいは真っ直ぐ立って腕を前に突き出し、剣を伸ばすようにして正面に構え、相手を中心に円を描くようなステップを踏みつつ剣を振るう「最強の剣術」ことスペイン流剣術を使いこなしてくる「アレッサンドロ・マラスピーナ」や「イリデ」などにみっちりしごかれた提督…

(※アレッサンドロ・マラスピーナ…大型潜マルコーニ級。艦名はイタリア出身で、スペイン海軍の士官としてガラパゴス諸島等の探検を行った航海者から)

(※イリデ…中型潜ペルラ(真珠)級。艦名は伝令の女神「イーリス」またはイーリスのシンボルである花で、これは英語で言う「アイリス」つまりアヤメ類。スペイン内乱時はフランコ側を支援するべく他のイタリア潜数隻とともにナショナリスタ側に貸与され、スペイン潜「ゴンサレス・ロペス」として極秘裏に参戦している)


提督「何しろこんな具合だもの…もう執務なんて出来そうにないから、しばらくお茶を飲みながら休憩するわ」

デルフィーノ「分かりました、それじゃあお茶の用意をしますね」

提督「ええ、お願いするわ。それとアッチアイーオもそろそろ来るでしょうから、三人分用意してくれる?」

デルフィーノ「もちろんです♪」

提督「あと、まだ汗が抜けないから…しばらく執務室の扉も開けておいて」

デルフィーノ「はい♪」

…廊下…

アッチアイーオ「それにしても、提督ってばみんなの前であんなことを言わなくたって……」提督のささやく歯の浮くような文句と甘い声を思い出しながら、恥ずかしさを追い払うように頭を振った……

アッチアイーオ(温)「…舌を絡めるような……提督の、キス……///」いくどか交わしたことのある柔らかな口づけを思い出し、思わず唇を指でなぞった……

アッチアイーオ「……それにベッドへ入るといつもぎゅって抱きしめてくれて…暖かくて柔らかくて…甘い良い匂いがして……///」

アッチアイーオ「って、もう…なにを考えているのよ……デルフィーノじゃあるまいし…///」

アッチアイーオ「…ん、執務室の扉が開けっぱなしじゃない……まったく提督ったら、ドアを閉めるのもおっくうなほどくたびれちゃったとでも言うのかし……ら?」開いている執務室のドア越しに、提督とデルフィーノの会話が漏れてくる…

提督「……は甘い方が好きだものね。デルフィーノだってそうでしょう?」

デルフィーノ「そうですね、まるで口の中に余韻が残るような感じがするので♪」

アッチアイーオ「…ちょっと、あの二人ときたら…なんでドアを開け放しにしてキスの話なんてしているのよ///」

提督「…ふふ、きっとデルフィーノのことだからそう言うと思ったわ。ところで、アッチアイーオのカップだけれど……少し小さくないかしら?」

デルフィーノ「……もう少し大きい方がいいですか?」

提督「ええ、やっぱりその方がいいと思うの…何しろ「大は小を兼ねる」って言うものね♪」

デルフィーノ「それもそうですねぇ…」

提督「手触りはすべすべしていて抜群にいいだけに、ちょっと惜しいわよね」

デルフィーノ「そうですねぇ。形も丸っこくて可愛らしいですし、もうちょっと大きければ抜群なんでしょうが……」

提督「それでいけばデルフィーノのは大きさもちょうどいいし、形も綺麗よね」

デルフィーノ「私は提督のもいいと思います♪」

提督「そうね。私も形や大きさ、それに色合いも気に入っているの。特に長丁場の時には重宝しているわ……ただ少し重たいのが欠点ね…」

アッチアイーオ「…さっきから黙って聞いていれば好き放題言ってくれちゃって……デルフィーノ、提督!私の乳房が大きかろうが小さかろうが余計なお世話よ!」

提督「まぁまぁ落ち着いて…どうしたのアッチアイーオ、そんなに血相を変えて?」

デルフィーノ「そうですよぉ、何を怒っているんです?」

アッチアイーオ「怒るに決まっているでしょうが、ドアを開けっぱなしにしたままで人のカップがどうのこうの…っ!?」テーブルの上に並べられているのは菓子皿と三つのコーヒーカップで、アッチアイーオのものだけ一回り小さい…

デルフィーノ「アッチアイーオ?」

アッチアイーオ「な、何でもないの……ちょっと勘違いしただけだから///」

提督「……ちなみに私はアッチアイーオのおっぱいも引き締まっていて好きだから、心配要らないわ♪」

アッチアイーオ「…っ///」
758 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/23(金) 01:21:20.65 ID:j+kVkFSz0
…その晩…

提督「ふー…」

アッチアイーオ「お疲れ様、これでようやっと文書の処理が済んだわね」

提督「ええ…それにしても管区司令部ときたら、ああだこうだと理屈をつけては「差し戻し」をかけてくれちゃって……」

デルフィーノ「そうですねぇ…こうやって見ただけでも「摘要が違います」「日付は決済日と同じにして下さい」「物品購入の予算申請時は見積書、契約書、納品書のコピー、またはデータを添付して下さい」……他にもいろいろありますねぇ」

提督「あののどかな「近くの町」にあるお店で何か買ったとして、見積書だの契約書だのを作ってくれなんて言ったらお店の人がびっくりしちゃうわよ。ちゃんと領収書は添付してあるのだから、文句を言わずに交付してくれればいいものを……きっと管区司令部に私の事が嫌いな人がいるに違いないわね」

アッチアイーオ「提督のことだから、思い当たる節でもあるんでしょう?」

提督「いいえ♪」

デルフィーノ「くすくすっ…提督ってば自信満々です♪」

提督「だって、ねぇ……少ないとは言え、イオニア海管区司令部にだって仲良しの数人くらいはいるし…」

アッチアイーオ「ふぅん…提督の「知り合い」ねぇ」

デルフィーノ「なんだかいやらしい感じです///」

提督「もう、私にも普通の知り合いくらいいるのよ? …まぁ、たまたま仲が良くなって関係が進展しちゃう事もあるけれど……」

アッチアイーオ「だと思ったわよ…」

提督「まぁまぁ…とにかく書類の整理は終わったのだから、二人とも戻っていいわ。お疲れ様」

デルフィーノ「はい、それじゃあお休みなさい♪」

提督「ええ、お休みなさい…」

アッチアイーオ「……ねぇ、提督」

提督「なぁに?」

アッチアイーオ「昼間「もし私に勝ったらキスしてあげる」って言ったわよ……ね///」

提督「ええ」

アッチアイーオ「その…してあげるから……///」

提督「分かったわ…アッチアイーオはベッドがいい?」

アッチアイーオ「あ、当たり前でしょうが…!」

提督「分かったわ。それじゃあ……」ひとまとめに束ねていた髪をほどくと寝室へと入り、着ていた栗色のタートルネックとベージュのスラックスをしゅるりと脱いでいく…

アッチアイーオ「///」

提督「ほら、来て……?」下着姿でベッドに腰かけると、迎え入れるように両腕を広げた…

アッチアイーオ「え、ええ…///」提督の柔らかくしっとりした唇に、アッチアイーオの唇が触れる……

提督「ん…♪」

アッチアイーオ「ん、ふ……んむ…っ///」ぎこちなく舌を絡め、いくらかぎくしゃくした様子で提督の乳房に手を伸ばす…

提督「……無理しなくていいから、アッチアイーオの好きなようにして?」

アッチアイーオ「わ、分かってるわよ……ん、ちゅぅ…ちゅっ…///」

提督「ん、んちゅ……んぅぅ♪」

…アッチアイーオを抱き寄せるようにしながら、自分からベッドに寝転がる提督……左手はアッチアイーオの青みがかった艶やかな黒髪を撫で、右手でしなやかな背中を優しく抱きしめた…

アッチアイーオ(熱)「んんぅぅ、あふぅ、あふっ……あむっ、ちゅぅ…っ♪」

提督「んっ、ちゅむ…ちゅうっ……ふぅ…んっ♪」次第にキスが熱を帯び、黒い瞳に爛々と情欲の炎をたぎらせ始めたアッチアイーオに刺激される形で、提督も金色の瞳を輝かせ、アッチアイーオを抱き寄せる…

アッチアイーオ「はぁぁ…ぅ…ん♪ んあぁぁ…っ♪」

提督「んぅぅ…ふあぁ…んっ♪」

アッチアイーオ「ていとく…ていとくっ……あ、あっ、ふぁあぁぁ……っ♪」

提督「アッチアイーオ……んんぅっ、あっ、あんっ…はぁぁぁ…んっ♪」

………

759 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/27(火) 11:55:24.35 ID:KczeNKWC0
…ここ数日不具合(?)で入れなかったのですが、どうやら直ったようですね……とりあえず次の投下は週末にでも…


…あと、数日前イタリアの歌手「ミルバ」が亡くなりましたね……「ミーナ」「イヴァ・ザニッキ」と並ぶ女性カンタウトーレ(カンツォーネ歌手)として60年代ごろから一世を風靡した方で、オペラ並みのパワフルな歌唱力をもつ驚くような声量の持ち主でした…
760 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/01(土) 03:36:53.24 ID:6azsiJke0
…とある日…

提督「おはよう、デルフィーノ」

デルフィーノ「おはようございます、提督…目覚めのカフェラテをどうぞ。ミルクはぬるめで砂糖ひとさじです♪」

提督「グラツィエ……ずいぶんと天気が悪いわね。気象通報は?」

デルフィーノ「はい、ここに持ってきてあります」

提督「ありがとう…どれどれ……」まだ起き抜けで歯を磨いただけの提督はナイトガウン姿のまま執務室の椅子に座ると、コーヒーカップ片手に気象通報のプリントアウトを読んだ……

提督「……イオニア海に低気圧が接近、現在中心気圧980ヘクトパスカルでなお発達中。風は南西風、風力4から5…波高2メートルから4メートル…海況は今後さらに悪化する見込み。イオニア海並びにティレニア海南部に波浪注意報および航行注意情報……」そこまで読み通すと後ろを向き、執務室の窓から空を見上げた…

提督「……確かにこれは時化そうね」

デルフィーノ「はい…黎明哨戒から戻ってきたレオーネたちも「今日はひどくガブった」と言っていました」

提督「そうでしょうね……とりあえず駆逐艦は今日の出撃を取りやめ、哨戒は潜水艦の娘に任せましょう」

デルフィーノ「分かりました。それじゃあ私が伝えてきますか?」

提督「いいえ。代わりに出撃してもらう娘には苦労をかけるのだから、私が直接伝えることにするわ」

デルフィーノ「了解♪」

提督「アッチアイーオは作戦室?」

デルフィーノ「そうです」

提督「それじゃあ後で立ち寄ってあげないとね……」

…数十分後・待機室…

提督「おはよう、みんな……こんなお天気の時に出撃をお願いして悪いわね」

オタリア「仕方ないですよ。このうねりの中で駆逐艦を出撃させたって哨戒になりませんもの…私たち大型潜にお任せ下さい」

ガリレオ・ガリレイ「そういうことね」

コマンダンテ・カッペリーニ「それに提督がお天気を悪くしたわけじゃないんですから…謝らないで下さい♪」

トリチェリ(U)「その通りです……あ、前の哨戒組が戻ってきたみたいですね」

アクィローネ(「北風」)「…まったく、今日のお天気ときたらばっかじゃないかしら……ひどい時化になってきたわね」

トゥルビーネ(「旋風」)「頭からつま先までびしょ濡れだものね。あぁ、提督…おはようございます」

提督「ええ、おはよう…この天気の中ご苦労様。きっと冷えたでしょうし、お風呂に入っていらっしゃいな」

…身体のあちこちからポタポタと雫を垂らし、濡れた髪を額に張り付かせた姿で敬礼するトゥルビーネたちに答礼すると、慈しむような表情を浮かべてねぎらった…

ニコロソ・ダ・レッコ(ニコ)「ああ、そうさせてもらうよ……もっとも、ドック脇のシャワーで潮気は軽く落としてきたけれどね」

提督「時化の具合はどう?」

アントニオ・ピガフェッタ「そうですね…これからもっと荒れてくる気がします」

提督「やっぱり……分かったわ、ありがとう」と、提督の足元にルチアがやって来て身体を擦り付けた……

ルチア「ワフッ…♪」

提督「あら、ルチア…でもこのお天気だから、お散歩はちょっと無理ね……ブラシをかけてあげるから、それで我慢して?」

ルチア「クゥーン……」

761 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/05/02(日) 02:10:21.90 ID:xvFzyd2e0
…午前中…

提督「んー、いよいよ雨脚が強くなってきたわね……みんな、お部屋や廊下の窓はちゃんと閉めた?」

ライモン「はい、ちゃんと閉めてきました」

提督「よろしい♪ アッチアイーオ、新しい気象通報は?」

アッチアイーオ「ええ、さっき来たわよ…1000時の気象通報によると「低気圧は進路を南東に変えアルジェリア沖を進みつつあり、本日1600時にはマルタ、ケルケナー諸島間を通過する見通し。北アフリカ沿岸、特にリビア・エジプト沖は荒天が予想される」だそうよ」

提督「了解…こんな時に作戦がなくて良かったわ」

レモ「でもこのお天気じゃあ外にも行けないし…レモたいくつー……」

アラジ「同感…うぅ、早く身体を動かしたい……」(※アラジ…中型潜アデュア級。大戦中の出撃55回を数えた「イタリア潜でもっとも作戦行動した艦」かつ、終戦まで無事に生き残った幸運の持ち主)

ドリア「アラジたちは元気で何よりですね」

カヴール「ふふふっ、本当に…若いというのはいいことです」

提督「もう、二人ともお婆ちゃんじゃないんだから……」

ドリア「あら、提督…♪」

カヴール「何かおっしゃいましたか……?」

デュイリオ「うふふっ、提督は冗談がお上手でいらっしゃいます…♪」

提督「あー……いえ、何でもないわ」

チェザーレ「…やれやれ、これだけ若返っているのだから艦齢の事を気にすることもあるまいに……それはそうと、確かに少し退屈ではあるな」

ロモロ「提督、なにか映画とかないの?」

提督「うーん、こんな天気にふさわしい映画ねぇ…」

スクアーロ「…なら「パーフェクト・ストーム」なんてどう?」

提督「時化の時に時化の映画を見てどうするのよ……」

スクアーロ「気に入らない? だったら代わりにいい暇つぶしの方法でも教えてもらいたいわ」

提督「もう、分かったわよ…そうね、それじゃあみんなで順繰りにお話でもしましょう」

デルフィーノ「わぁ、提督のお話ですか。ぜひ聞きたいです……でも怖いのはだめですよ?」

提督「ええ、分かっているわ…そうね、どちらかと言えば「怖い話」ではなくて「不思議な話」かしらね…」

提督「これはジェーン…前に「交換プログラム」でここへ来たミッチャー提督ね…から聞いた話なのだけれど……」

…数年前・ノーフォーク沖…

ミッチャー提督「…ふう、今回のUボート狩もどうにかうまくいったわね……ナイスハントだったわよ」

エンタープライズ「センキュー、マーム……うちの飛行隊がスコアを稼いだのはいいけど、ノーフォークが恋しいわ」

ミッチャー提督「そうね、まぁもうちょっとの辛抱だから…そろそろチェサピーク湾に入る頃だし、そうしたらハンプトン・ローズやニューポート・ニューズだってすぐ見えてくるわ」

エンタープライズ「ホーム・スウィート・ホーム(懐かしの我が家)ね」

ミッチャー提督「そういうこと……そうだ、戻ったらシーフードレストランでソフトシェルクラブでも食べに行くとしようか」

エンタープライズ「サウンズ・グッド(いいわね)♪」

…凪の海を航行するミッチャー提督の空母機動部隊は、北大西洋での深海棲艦「Uボート」のハントを終え、チェサピーク湾に入ろうとしていた…

ミッチャー提督「ん…ヘイ、ワッツ・ザッ(あれはなに)? 方位グリーン(右舷)10、前方500ヤード……海面のところ」

エンタープライズ「確かに白波が立ってるわね…サメ?」

ミッチャー提督「いや、サメだったらあんなにくねくね動かないから……」

…双眼鏡の視界には白波を蹴立てて浮かんだり潜ったりしている何かのシルエットが収まっている…黒褐色の艶のある様子はカワウソかアシカのようでもあるが、それにしては馬のような頭とぎざぎざの背びれがあり、動きもちがう…

エンタープライズ「ミネアポリスと駆逐艦たちからも見えるって言ってきてるわ…ねぇマーム、もしかしてあれって……」

ミッチャー提督「ええ…きっと「チェッシー」じゃないかしら」

エンタープライズ「ワーオ♪ 噂には聞いたことあるけどお目にかかるのは初めて…!」

ミッチャー提督「私もよ……っと、潜っちゃったわ」

エンタープライズ「もう?できればもっと見たかったわね……」
762 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/05(水) 03:00:55.12 ID:h8r/BqSS0
提督「…とまぁ、そういった話を聞いたことがあるわ」

スクアーロ「チェッシー?」

提督「ええ、チェサピーク湾にいるっていう未確認生物ね……名前は「ネッシー」をもじって付けられたそうよ」

デルフィーノ「不思議なお話ですね…他にはありますか?」

提督「そうねぇ、それじゃあ今度はジュリアが数年前に経験した「スリル満点」のお話を……」

ライモン「提督、その前にお茶をどうぞ…お話をしていると喉が渇きますから」

提督「あら、ありがとう…」紅茶をひとすすりすると話を始めた…

…数年前・地中海上空…

P−3副操縦士(コ・パイロット)「機長、ウェイポイントに到着。針路120度に旋回します」

アントネッリ中佐「了解、針路120。ルイージ、MAD(磁気探知機)に感は?」

レーダー員「MAD、レーダー共に感なし…静かなもんです」

アントネッリ中佐「了解……それじゃあコーヒーでももらおうか。トーニ、ギャレー(簡易厨房)から持ってきてもらえるかな?」

機上整備員「了解。ただし、味の保証はしませんよ?」

アントネッリ「なに、構わないさ…それとミルクを少し」

副操縦士「後でおれのも持ってきてくれよ…おれのは砂糖も入れてな」

機上整備員「分かってますよ、大尉は甘党ですからね」

副操縦士「そりゃあ…隊長が横に座っている中でずっと飛ばしてみろ。緊張して変な汗が出る」

アントネッリ「おや、私が横に座っているだけで緊張するようじゃ検定には合格させてやれないな」

副操縦士「こりゃあ手厳しい…」

アントネッリ「当然さ。深海お化けの潜水艦が対空機銃を撃ち上げて来ることだってあるんだ…隣に飛行隊長が座っているくらいでおたおたしているようじゃあダメだろう。違うかな?」

副操縦士「おっしゃるとおりです…精進しますよ」

アントネッリ「よろしい、向上心がある……一点追加だ♪」

機上整備員「お待たせしました、隊長」

アントネッリ「ん、ありがとう……飲み終えたら操縦を代わろう」

副操縦士「お願いします」

…と、急に操縦席のディスプレイに赤い警報ランプが灯ると、それまで「ビィィ…ン」と単調な音を立てていたターボプロップエンジンの一基が火を噴いた…

アントネッリ「右翼、四番エンジンから出火」

副操縦士「四番エンジンを停止、プロペラをフルフェザーにします!」ピッチ角を変更しエンジンを停止させている間にも、次々と警報が点灯し、機の自動音声やアラーム音が鳴り響く…

アントネッリ「よーし、操縦を交代だ…トーニ、席に着いてくれ」

機上整備員「了解!」

アントネッリ「よし、それじゃあ基地に連絡しよう…緊急事態を宣言」

副操縦士「スクォーク7700(トランスポンダ・緊急時コード)?」

アントネッリ「そうだ…第三エンジンは?」

副操縦士「第三エンジン出力低下、燃料ポンプに異常」

アントネッリ「……左翼のエンジンは?」

副操縦士「現状では問題なし」

アントネッリ「よし…なら針路を変えてトラーパニに戻ろう」

副操縦士「了解」

アントネッリ「…しかし、この機が双発の「アトランティック」じゃなくてよかったな」(※ブレゲー・アトランティク…フランス・ブレゲー社製の対潜哨戒機。イタリア海軍でも主力の対潜哨戒機として運用されていたが「ATR−72・ASW」に交替されつつある)

副操縦士「やれやれ「深海棲艦の脅威に対抗するため」P−3Cを貸与してくれたアメリカさんには感謝ですね……」

763 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/06(木) 01:51:18.63 ID:rXWJJ1lC0
アントネッリ「まったくだな……コントロール、こちら「アルチェーレ(射手座)2」…第四エンジンから出火、第三エンジン出力低下。現在高度3000フィート、針路120、速度260ノット。緊急事態を宣言する」

戦術管制「こちらコントロール。アルチェーレ、何か支援できることはあるか…どうぞ?」

アントネッリ「アルチェーレよりコントロール、針路290への変針を要請」

戦術管制「こちらコントロール、針路290への変針を許可する…他には?」

アントネッリ「こちらアルチェーレ、今のところ飛行は安定しているが、エンジン二基で飛行しているため上昇は難しい…こちらの航路から他機をどけてもらえると助かる。それから燃料を積み過ぎているので空中投棄の許可願う…なお第四エンジンはすでに停止、鎮火を確認しているので投棄に際し引火の危険性は少ないものと思われる。どうぞ」

戦術管制「…アルチェーレ、こちらコントロール。燃料投棄を許可」

アントネッリ「了解…それからトラーパニ以外に着陸することも検討しているが、着陸可能な代替飛行場があれば教えて欲しい。どうぞ」

戦術管制「了解、少し待て……」

副操縦士「…今ごろ向こうじゃあ大騒ぎでしょうね」

アントネッリ「そうだろうな…」

戦術管制「アルチェーレ2,こちらコントロール…着陸可能な飛行場はパレルモ、シニョネッラ、コーミゾ、それとカターニアだ」

アントネッリ「了解、これから検討する……君ならどこがいいと思う、アドリアーノ?」

副操縦士「そうですね…まずパレルモはあり得ません。パレルモまで飛ぶんだったらトラーパニに降りたってほとんど距離は変わりませんよ」

アントネッリ「それから?」

副操縦士「コーミゾは距離的にはいいですし、滑走路も一本だけとはいえ2500メートルありますが…今日の風向きではアプローチするのに不向きです」

アントネッリ「よし…じゃあカターニアは?」

副操縦士「カターニアも滑走路はたっぷり2500ありますし、滑走路も08と26の二本がありますが…この時期のカターニアじゃあ旅客機がうようよいますから、それをどかしてもらってアプローチするとなったら時間がかかります」

アントネッリ「それじゃあシニョレッラだったら?」

副操縦士「そうですね、シニョネッラなら「第41ストルモ・アンティソマージビリ(対潜航空団)」の連中と米軍が展開している軍用飛行場ですから、管制も手慣れていますし備えもばっちりあります。滑走路も充分ですし、距離的にもトラーパニに飛ぶより断然近いです」

アントネッリ「満点の回答だな…それじゃあシニョネッラに向かい、いざというときはカターニアへ降りるとしよう」

副操縦士「了解」

アントネッリ「…こちらアルチェーレ。コントロール、聞こえるか?」

戦術管制「こちらコントロール、聞こえている。 アルチェーレ、候補地は決まったか? どうぞ」

アントネッリ「こちらアルチェーレ、候補はシニョネッラ海軍航空基地、もしシニョネッラの受け入れが難しいようならカターニアに着陸したい。どうぞ」

戦術管制「了解、シニョネッラだな…すぐ問い合わせるのでそのまま飛行を続けてくれ」

アントネッリ「了解」

…数分後…

戦術管制「アルチェーレ、シニョネッラはそちらの受け入れが可能だ…また、訓練飛行中の空軍機をチェイス(随伴)機としてそちらに向かわせた。機種はMB−339で、合流予定時刻は十分後。そちらから見て四時方向から接近の予定」

(※アエルマッキ・MBー339…イタリア空軍の高等ジェット練習・軽攻撃機。イギリスの「BAeホーク」などと同じように小型かつ軽快で、イタリア空軍アクロバット・チーム「フレッチェ・トリコローリ」の機体としても用いられている)

アントネッリ「了解」

…十分後…

空軍機「こちら「ジェメリ(双子座)01」…アルチェーレ1、聞こえるか?」

アントネッリ「アルチェーレ1よりジェメリ01へ、感度明瞭…来てくれて感謝するよ」

空軍機「なに、そちらがお困りだって聞いたものでね……このままシニョネッラまで送っていく予定だが、何かご注文は?」

アントネッリ「ご丁寧にどうも…それじゃあ機体右側および下面を見てもらって、オイル漏れや損傷がないか確認して欲しい。どうぞ」

空軍機「了解。お安いご用だ……あー、目視ではオイル漏れおよび損傷は見られない。どうぞ」

アントネッリ「了解、それじゃあこれから減速して着陸態勢を取ってみるので、脚およびフラップが正常に作動するか確認して欲しい…どうぞ」

空軍機「了解。やってくれ」

764 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/10(月) 01:58:00.75 ID:hpQTwtRS0
アントネッリ「よーし…それじゃあ着陸態勢だ、準備はいいか?」

副操縦士「もちろんです」

アントネッリ「よろしい……フラップ!」

副操縦士「ダウン!」

アントネッリ「ランディングギア(降着脚)!」

副操縦士「スリー・グリーン(異常なし)!」

アントネッリ「なるほど、計器は「異常なし」って言っているようだな……ジェメリ、どうだ?」

空軍機「こちらから見る限り異常はない、大丈夫だ」

アントネッリ「作動液漏れも?」

空軍機「見えないな」

アントネッリ「分かった、ありがとう」

空軍機「どういたしまして…そちらが降りるまでお見送りしていくよ」

アントネッリ「それはどうも」

戦術管制「アルチェーレ、こちらコントロール…そちらは間もなくこちらのコントロールを離れ、シニョネッラのタワー(管制塔)が最終誘導を行う」

アントネッリ「了解。コントロール、ここまでの支援に感謝する」

戦術管制「こちらコントロール、礼はちゃんと降りてからにしてくれ」

アントネッリ「了解だ…シニョネッラ・タワー、こちらアルチェーレ1。 間もなくアプローチに入る」

基地管制塔「了解、こちらタワー。アルチェーレ、そちらを確認。高度5000からランウェイ27にアプローチせよ。風は230度から0.3メートル」

アントネッリ「アルチェーレ了解。ランウェイ27にアプローチする……」

副操縦士「機長、また問題発生です。ILS(計器着陸システム)受信機が消えました、反応ありません!」

アントネッリ「…シニョネッラ・タワー、本機のILS受信機が故障、計器進入できなくなった。VFR(目視飛行)で着陸したい」

管制塔「了解、VFRでのランディングを許可」

副操縦士「くそ、このじゃじゃ馬め……えぇい、直りやがらないか」スイッチを切ったり入れたりしている副操縦士…

機上整備士「軽く引っぱたいたら直るかもしれませんよ?」

アントネッリ「…やれやれ、前に私は「飛行機は女性だ」って言ったはずだぞ。せっかく金の翼(ウィングマーク…パイロット徽章)を付けていても、それじゃあモテないな」

副操縦士「そんなこと言ったって…ILSがダウンしたとなると、グライドスロープに乗せるのも手動って事になりますよ? それでなくてもエンジンが「双発半」ってところなのに……」

アントネッリ「なに、こんなのは自転車と同じさ。一度飛ばしたら、身体が覚えているよ……タワー、こちらアルチェーレ。着陸進入灯を確認した」

管制塔「こちらタワー、了解。 そちらの降下角は3度。進入角適正、グライドスロープに乗っている…そのままアプローチせよ」

アントネッリ「了解……少し出力を高めにして着陸するぞ」

副操縦士「了解」

…次第に迫ってくる灰色の滑走路と、次第に緊張の度合いを高めている操縦室や基地の雰囲気とは反対に、穏やかでのんびりした様子の日差しと地中海……すでに滑走路の両脇と誘導路上には消防車や救急車が待機している…

副操縦士「……高度300フィート」

アントネッリ「よし、出力を絞る……ようそろー…」

副操縦士「高度100…50…30……」

アントネッリ「よーし…まだだ、まだ……着陸!」最後に軽くふわっと迎え角を取ると、主脚が軽く「ドンッ…」と滑走路に触れた…

副操縦士「ブレーキ!」

…停止したエンジンがある中でプロペラピッチを変更してリバーサーを使うと、出力の差で機首が振れ地上偏向してしまう可能性があるので、リバーサーはかけない……滑走路の先を見据えつつブレーキペダルをいっぱいに踏むアントネッリ……すると、まるで停止する気がないようにぐんぐん滑走を続けていたオライオンが次第に速度を落とし、滑走路の半分を過ぎた辺りでしずしずと止まった…

副操縦士「と、止まった……」

アントネッリ「…ふぅ♪」

機上整備士「はぁ……寿命が縮まるかと思いました」

アントネッリ「そうか? …で、午後のフライトはどうする?」

副操縦士「勘弁して下さいよ…!」

………
765 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/14(金) 01:51:03.89 ID:9Xa7PuwX0
アヴィエーレ「……それで、結局原因は何だったんだい?」

提督「聞くところによると燃料に不純物が混じっていたとかなんとか…あの時はまだまだマルタ辺りにも深海棲艦が出ていたから、あちこちの航空基地は突貫工事で増設していたし、そのせいだったみたい……とにかくその件でジュリアは「非常時に冷静かつ的確に行動した」ということで功労賞をもらったのよね」

アヴィエーレ「へぇ…それにしてもずいぶん細かい部分まで知っているんだね、提督?」

提督「えぇ、何しろジュリアがベッドの中で「ちょっと寝物語にお話ししようか…」って話してくれたから」

ドリア「まぁ、ふふふっ♪」

ガリバルディ「提督らしいわね……♪」わざと大仰にウィンクを投げるガリバルディ…

提督「あら、でも仲のいい士官同士でそういう話は結構するものよ……失敗しそうになった話とか、ちょっとしたおふざけの話とか…」

エウジェニオ「失敗談ねぇ……提督は何かある?」

提督「私? それはもう失敗だらけよ…もっとも、背筋が凍るほどのものはあまりないから、そういう面ではツイているのかもしれないけれど」

ライモン「提督は失敗だらけなんかじゃありませんよ。運がいいことは本当ですけれど」

提督「そうね、ライモンを始めみんなに出会えたんだもの…確かに運がいいわ♪」

ライモン「///」

カヴール「提督のお話は面白いですね、他にも合ったら拝聴したいですね。 …どのみちこのお天気では鎮守府の中で缶詰でしょうし」

提督「そうねぇ……」

カヴール「例えばトゥーロンのエクレール提督とはどのような…?」

提督「さてはカヴールったら……最初からその話が聞きたかったんでしょう」

カヴール「はて、何のことでしょうか…私には分かりかねます♪」

提督「もう……まぁいいわ、それじゃああの「パリジェンヌを気取ったプロヴァンスの田舎娘さん」の話をするとしましょうか♪」

………

…しばらくして…

提督「ふぅ……クロワッサンと揚げタマネギの話だけでこんなに盛り上がるとは思わなかったわ」

カヴール「面白いお話を拝聴させていただきました…♪」

提督「それなら良かったわ…ところで、誰かそろそろ変わってくれないかしら? 私はトークショーの司会者じゃないのよ?」

デュイリオ「そうですね、でしたらわたくしが一つ昔話をするといたしましょう。 神様は人間を救いたいと……」

オタリア「……大型潜水艦オタリア以下四隻、鎮守府近海の哨戒から帰投いたしました!」

提督「あぁ、お帰りなさい。みんなお疲れ様…って、びしょびしょじゃない……!」

カッペリーニ「まぁまぁ、潜水艦なんていつもこんなものですよ…それにひどいときは潜航していましたから」

提督「それにしたって……ほら、ほっぺただってこんなに冷たい…」

カッペリーニ「あ…っ///」

提督「いまは簡単な報告だけでいいから、とにかく暖まっていらっしゃい…それとお昼にはスープを作ってあげるわね♪」

トリチェリ「ありがとうございます…ではお風呂に行ってきます」

提督「ええ。お湯は好きなだけ使えるのだから、ゆっくりしてくるといいわ」

ガリレイ「なんとも素晴らしいことね…それでは、ガリレオ入浴してきます♪」

提督「ええ、行ってらっしゃい……それじゃあその間に作っておくとしましょう」

エリトレア「はいっ、今日は茸入りのクリームスープにでもしましょう♪」

提督「いいわね…♪」

………

766 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/18(火) 01:51:11.65 ID:z/mKo+iM0
…午後・待機室…

ライモン「雨、止まないですね…」

提督「そうね…それどころか、気象通報によるとこれからが一番ひどくなるみたい。雷も鳴っているし……」南から吹き付ける風にあおられて窓ガラスに「ざぁっ…!」と打ち付ける激しい雨と、ゴロゴロと地底から響くような遠雷の音が聞こえている…

ルチア「クゥン、ヒュゥ……ン」

提督「あぁ、ルチアったら可哀想に…怖いわよねぇ。よしよし、大丈夫大丈夫……」ルチア用の古毛布を取ってきてフードのようにかぶせ、横に座り込んで頭を撫でてあげる提督……と、壁の電話が鳴った…

ライモン「はい、こちら待機室…アオスタさんですか、どうしました? …了解、提督に伝えますね」

提督「……何かあった?」

ライモン「はい。作戦室のアオスタさんによると、民間船の救難信号をいくつかキャッチしたそうです。 もっとも、いずれもわたしたちの管区ではなく、すでに対応する管区が受信確認しているそうですから……」

提督「…救援に駆り出されることはなさそうね」

ライモン「はい」

提督「どのみちこの天気で民間船の救助となると、駆逐艦では危険すぎるわ…最低でも軽巡クラスは必要になるわね」

(※イタリア王国海軍の軍艦、特に駆逐艦はサイズの割に兵装が過大で、また高速を求めたために安定が悪かった…実際マエストラーレ級「シロッコ」等は荒天下で転覆している)

ライモン「必要となればいつでもおっしゃって下さい。いつでも出られますから」

提督「ありがとう、でもその必要はないはずよ……とはいえ、これじゃあやることもないわね」

ライモン「そうですね…」

提督「仕方ないから部屋の片付けでもするわ…」

ライモン「それはいい考えですね♪」

…執務室…

提督「……ところで、フォルゴーレたちはちゃんと戻ったの?」

ライモン「はい、フレッチアがうんと雷を落としていました」

提督「ならいいけれど…元気なのは結構だけれど、この嵐の中で庭に出てはしゃぎ回るのはちょっとね……」

ライモン「まぁ、彼女たちはみんな「嵐の申し子」みたいなものですから……フレッチア自身も口では「あの大馬鹿たちを連れ戻してくるわ」と言いながら、実際の所は楽しげでしたから…」

(※フレッチア級・フォルゴーレ級…ほぼ同型の駆逐艦グループで、艦名はいずれも「雷」「稲妻」「閃光」「電光」など、雷や放電現象に由来する)

提督「やれやれね。さてと、それじゃあ棚の整理でもするとしましょうか…」私用の本棚から次々とファイルや雑多な資料、書籍を取り出しては執務机やその前に据えてある(普段は秘書艦の娘たちが使う)応接テーブル、椅子の上などに並べていく……

デルフィーノ「失礼します……あ、私も手伝います♪」

提督「あら、ありがとう…でも、スクアーロたちと一緒じゃなくていいの?」

デルフィーノ「はい。だって私は秘書艦ですから……それにスクアーロお姉ちゃんってば、私が怖がるのを知っていて恐怖映画を見せようとするんですよ?」

提督「もう、スクアーロったら意地悪ね…それじゃあ一緒にお片付けを手伝ってもらえる?」

デルフィーノ「はいっ♪」

提督「グラツィエ…それじゃあ本はこっち、資料はこっち……これはいらないパンフレットだからゴミ箱に…と」

ライモン「提督、これはどうしましょうか?」

提督「それは要るわ…とりあえず判断に困るようなものはそっちの「保留」の方に置いておいて?」

ライモン「分かりました」

デルフィーノ「提督、しおりが出てきました」

提督「あぁ、そんなところにあったのね……この間から見つからなくって探していたの」

デルフィーノ「見つかって良かったですね…って、写真もありましたよ♪」

…一冊の本の間からひらひらと舞い落ちた写真を拾い上げたデルフィーノ…写真はどこかの公園の噴水の前で、提督を中心にして十人ほどが笑みを浮かべている…

提督「どれ? あぁ、それならここに赴任する前ローマで撮った写真ね。そのとき集まることが出来た仲のいい知り合いと出かけたときに撮ったの」

ライモン「…この写真に写っている全員が、ですか?」

提督「えぇ、まぁ…ローマにいたときはちょっと「親しい間柄」になっている知り合いが多かったものだから///」

ライモン「………」

767 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/23(日) 02:45:04.02 ID:VpTt/Sbu0
デルフィーノ「…でも意外ですねぇ」

提督「何が?」

デルフィーノ「だって提督のことですから、きっと目も覚めるような美人さんばかりとお付き合いしているものとばかり思ったんですよぅ」

提督「あぁ、そういうこと……」

デルフィーノ「はい」

提督「…確かに私の知り合いには顔だけ見ると「美人」に含まれない人も多いかもしれないわね…でもね、彼女たちにはそれぞれ素敵ないいところがあって、私はそれが好きでお付き合いしていたの♪」

………

…一年前・ローマ…

カンピオーニ大佐(提督)「うーん…いい気持ち♪」

栗色の髪をした士官「そうねぇ……ここから眺めている分にはローマもいいものね」

ぽっちゃりした士官「確かに。ローマは観光ならいいけれど、実際に過ごすとなるとねぇ…」

細身の美人士官「言えてるわ…物価も高ければ渋滞もひどいし、おまけにほこりっぽいんだもの……嫌になっちゃうわよね、フランカ?」

提督「ええ、まったく♪」


…ローマを望む郊外の丘で寝転んだり座ったりしている提督たち…そして提督の左側にはくっきりした目鼻立ちの美人が座って提督の髪を指先でもてあそび、右隣にはそれと対照的な、黒と白の地味な服を着たやせこけた女性が座っている……そのやせっぽちの士官は野暮ったくカットした黒髪と大きなレンズの丸眼鏡のせいで、まるでティム・バートンが描くキャラクターか何かのように見える…


美人士官「それにしても昨日はあんなに冷え込んだのにね…洗濯屋さんから冬物のコートを慌てて取ってきたのが馬鹿みたいだわ」

やせっぽちの士官「仕方ないわ。秋の天気は我が国の首相と同じくらい変わりやすいのよ…」

一同「「くすくすっ…♪」」

提督「…ふふっ、相変わらず冗談が上手なんだから♪」

やせっぽちの士官「ありがと、フランチェスカ……」

…昼時…

提督「はい、どうぞ。あり合わせの材料を挟んだだけだけれど、結構上手く出来たと思うから、良かったら食べてみて?」

…細いバゲット風のパンに、薄切り牛肉やアーティチョークのピクルス、あるいはマリナーラソースやガーリック風味のオリーヴ、白身魚のフライなどを挟んで、それを柳のバスケットに入れて持ってきた提督…

勝ち気そうな士官「へぇ、それじゃあお一つ…」

美人士官「では私も遠慮せずにいただくわ。 …ん、ボーノ(おいしい)…さすがはフランカね♪」それぞれサンドウィッチを手に取り、色づいた木々の葉や古代ローマの遺跡を眺めながら頬張った…

提督「ふふ、ありがと♪」

栗色髪の士官「本当に料理が上手よねぇ……っと、いけない!」うっかりマリナーラをスカートにこぼしてしまい、慌ててハンカチを取り出しこすろうとした…

ぽっちゃりした士官「あぁ、だめ! こすったら染みついちゃうわよ…ちょっと貸して?」自分のハンカチを二つに折ると、片側を手元の「ペレグリーノ」(無糖の瓶入り炭酸水)で湿らせ、こぼれた部分にあてがって挟むようにすると、上から湿った方で「とんとんとん…っ」と叩いた…

ぽっちゃり士官「こうすれば……ほぉら♪」しばらく叩いてハンカチをどけると、クリーム色のスカートの染みがほとんど見えなくなっていた…

栗色髪の士官「まぁ、ありがとう♪」

ぽっちゃり士官「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)…こういうのだけは得意なんだから、任せてよ♪」

………



提督「…とまあ、みんなそれぞれいいところがあって……この頬杖をついている女性(ひと)は話が上手だからお店でおまけしてもらえたり」

デルフィーノ「それじゃあこのお姉さんは?」

提督「あぁ、アデーレね…彼女は記憶力が抜群で、どんなにくだらない事でも聞けばだいたい覚えているの……ローマでは借りていた部屋の鍵を無くしたときに見つけてくれたことがあるわ」

ライモン「みなさん色んな特技をお持ちなんですね……」

提督「もちろん得意なことのある女性もいたけれど、それよりもまず「一緒にいて気持ちのいい女性」かどうかね…だから顔は美人でも性格の悪い人とはあんまり付き合わなかったわ。反対に心根のいい女性とは、容姿とか関係なしによくお付き合いしたものよ♪」そう言うとちょっといやらしい笑みを浮かべ、わざとらしくウィンクしてみせた…

デルフィーノ「……提督ってばえっちです///」

提督「そうね…毎日お盛んな貴女ほどじゃないけれど♪」

デルフィーノ「///」

提督「それで、その後は私の部屋に行こうって話になって……」
768 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/25(火) 02:40:21.34 ID:QNjW4uNI0
…夕刻・提督が借りているアパートの部屋…

提督「…ちょっとここで待っててね、部屋を片付けてくるから」キーリングを取り出して鍵を開けると、笑みを浮かべて手で押しとどめるようなジェスチャーをした…

美人士官「ふふ、そう焦らなくたっていいわよ……ちゃんと待っていてあげるわ♪」

やせっぽちの士官「そうそう。フランカが「一人遊び」で使った玩具をしまう間くらい待っていてあげるもの……」

提督「もう。私は基本的に道具を使わない主義よ…忘れた?」

やせっぽちの士官「そう言えばそうだったわね…」

ぽっちゃり士官「ほら、いいから早く片付けてきなさいよ♪」

提督「あぁ、そうだったわね……」いそいそと部屋に入ると、クッションの形を整えると洗濯物を浴室のカゴに放り込んで目隠しのタオルをかぶせ、それから部屋の上空に向けて軽く香水を吹いた……

…数分後…

提督「ふぅ、お待たせ…」

美人士官「待つって言うほど待ってないわ……もう入ってもいいのね?」

提督「ええ、どうぞ♪」

栗色髪の士官「それじゃあお邪魔します…なんだ、きちんとしているじゃない♪」

提督「表向きだけはね……さ、どうぞかけて? それと椅子が足りないから、ベッドに腰かけてくれて構わないわ」

美人士官「それじゃあ私はベッドでいいわ…どうぞ皆は椅子を使って?」

やせっぽちの士官「それはご親切に……でも私は身体が骨張っているから、椅子だと腰が痛くなるの。だからベッドにするわ」

ぽっちゃり士官「反対に私はご覧の通りでしょ? 椅子なんかに座った日には椅子が壊れるか、肘掛けの間に挟まって抜けられなくなっちゃうのがオチね……と言うわけでベッドに座らせてもらうわよ、フランカ♪」ぽっちゃりとした丸っこい顔にえくぼを浮かべ、ベッドに腰かけた…

提督「ねえ、何も皆してベッドに座ることはないじゃない……これから夕食にするけれど、飲み物は何がいい? あるのは白、赤、カンパリ、アプリコットリキュールがほんの一口、まだ開けてないグラッパが一瓶…あとはミネラルウォーターに炭酸水、紅茶、コーヒー……冷蔵庫にオレンジとレモンがあるから、絞ればオレンジジュースとレモネードもできるわ」

やせっぽちの士官「それじゃあ赤ワイン…」

勝ち気そうな士官「私も赤で」

美人士官「私はカンパリソーダを♪」

ぽっちゃり士官「白があるなら白をもらうわね」

栗色髪の士官「じゃあカンパリオレンジにしてくれる?」

提督「了解、それじゃあ今から何か作るわね…と言っても残り物か、すぐ作れるものばかりだけれど♪」

…提督は部屋を片付けるついでに、お出かけの時に着ていた栗色のタートルネックを着心地のいいロングワンピースに着替えていたが、その上にエプロンをつけた……それぞれにグラスを渡すと、少し手狭な台所に戻って忙しく立ち回り始める…

ぽっちゃり士官「良かったら何か手伝おうか?」

提督「そうねぇ、それじゃあそこにフォークとナイフ、スプーンがあるから並べておいてもらって……とりあえずはそれくらいかしら」

ぽっちゃり士官「ん、分かった♪」肉付きのいいおばさん体型ではあるが、動きはバレリーナのように軽やかでテキパキしている…

提督「…それからおつまみ代わりにアンティパスト(前菜)をどうぞ♪」冷蔵庫に残っていたルッコラやトマトを適当に切ったりちぎったりして器に盛り、残っていた瓶詰めのオリーヴと固ゆでの卵をスライスして散らした…

美人士官「ねぇフランカ、夕食はまだ待てるから一緒に座りましょう……ね?」

やせっぽちの士官「…と、狼が舌なめずりをしながらいいました」

ぽっちゃり士官「ぷっ…♪」

勝ち気な士官「あっははは…傑作♪」

美人士官「もう……そんなつもりじゃないわよ?」

提督「ふふっ、もうちょっとだけ待っててね…はい、お待たせ♪」自分のグラスを持ってくると椅子に腰かけてフォークを手に取った…

栗色髪の士官「それじゃあいただきますか……」

提督「ええ、召し上がれ♪」

………

769 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/29(土) 03:52:42.43 ID:nFNXQIHz0
美人士官「相変わらず料理が上手ね、フランカ」

提督「グラツィエ♪」

ぽっちゃり士官「本当にね……このパスタも本当に美味しいわ。こんなに美味しい料理をごちそうになったら食べ過ぎちゃって、ますます太っちゃうわよ♪」そう言うと肌つやのいい頬にえくぼを浮かべ、派手なウィンクを投げてみせた…

提督「ふふーん♪ …実はね、そのレシピは私が母親に教わった「とっておき」の一つなの」

勝ち気そうな士官「へぇ……つまりフランカは今日の夕食が「とっておき」だと思ってるわけか」

提督「さぁ、どうかしら?」ワイングラスを軽く揺さぶりつつ、意味深な笑みを浮かべる提督…

美人士官「そうね、少なくとも私は期待……しているわよ?」

提督「ふふっ、もう…貴女にそんなことを言われたら、みんな胸が高鳴っちゃうわよ?」

美人士官「さぁ……それは私との関係にもよるんじゃないかしら」テーブル越しに腕を伸ばし、人差し指と中指で提督の首筋を軽く撫でた…

提督「…んっ///」

やせっぽちの士官「……食事中はお行儀良くって聞いたことがない?」

美人士官「あら、妬いちゃったかしら…フランカ、もう一杯ワインをいただくわね♪」

栗色髪の士官「明日は勤務じゃないの?」

美人士官「ふふふ、明日は休み……それに車も駐車場に停めてあるし」

栗色髪の士官「さすがに作戦課ともなると手際がいいわね…」

美人士官「そういうこと……ところで貴女は?」

栗色髪の士官「私も明日はお休みよ。何しろ土曜日だもの♪」

勝ち気そうな士官「あーあ、佐官クラスにもなるとお休みが多くて結構ですね…私みたいな中尉クラスは「貧乏暇なし」ってやつなのに」

やせっぽちの士官「……それは貴女が魚市場の人間みたいに喧嘩っ早いせいね。仕方ないわ」

栗色髪の士官「ふふっ…♪」

勝ち気そうな士官「ふんっ、言ってくれるよ…まるで新月の晩みたいに暗いくせしてさ♪」口ではそう言いつつも、大きく腕を広げておどけた態度を取っている…

提督「さぁさぁ、言い合いはそこまで……ドルチェ(デザート)を持ってくるわね♪」

勝ち気そうな士官「いいね。それじゃあ私はそれをいただいて帰るとするかな…もし停めておいたヴェスパがコソ泥に盗まれていなきゃね」

やせっぽちの士官「あら、ヴェスパ(スズメバチ)がヴェスパに乗るとは驚きね……フランチェスカ、私もドルチェをいただいたらお暇するわ」

提督「分かったわ。二人とも気をつけて帰ってね?」

やせっぽちの士官「ええ、でも彼女がいるから大丈夫。向こう見ずで見境なしにかんしゃく玉を破裂させるのが悪い癖だけれど…」

勝ち気そうな士官「人を鉄砲玉みたいに言うな!」

やせっぽちの士官「ごめんなさい…確かに貴女は鉄砲玉じゃないわ。 …鉄砲玉なら雷管を叩かないかぎり飛び出さないもの」

勝ち気そうな士官「このっ、口先だけは上手な……フランカ、とっととドルチェを持ってきてよ! この女と来たら食べ物か飲み物が口の中に入っていない限り、この世の終わりまでずーっと皮肉を言い続けるつもりなんだから!」

提督「ふふふっ…了解♪」

…食後…

美人士官「さ、いらっしゃい…♪」

提督「ええ…って、私のベッドよ?」ワイングラスを片手にしたままベッドに腰かけ、相手の肩にもたれかかっている…

美人士官「ふふふ、そうだったわ…」

提督「……ねぇ、アウローラ///」

美人士官「どうしたの、フランカ?」

提督「ん…♪」

美人士官「ん……ちゅっ♪」

提督「ん、んっ、んっ……んんぅ、ちゅっ、ちゅぅぅ…っ♪」

美人士官「んっ、んむっ、ちゅっ……♪」

………

770 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/06(日) 02:16:02.90 ID:/FUgEzhX0
提督「あっ、ふあぁ……あふっ♪」

美人士官「ん、んっ…んんっ♪」

…腕を伸ばして飲み干したワイングラスをベッド脇の小机に置くと、そのまま指と脚を絡め合い、長いキスをする……白くほっそりした美人士官と、ほのかにクリーム色を帯びた豊満な提督は好対照で、揺らぐ炎のようにベッドの上で脚が交差する…

美人士官「フランカ……フランカ…っ♪」

提督「アウローラ…はむっ、ちゅぅ……っ♪」

美人士官「ふぅっ、んんぅ…っ、はう…っ……♪」

提督「……指、入れるわね♪」ちゅぷ…♪

美人士官「ふぁぁぁっ、あっ、あっ、ああぁ…っ!」

提督「んふふっ、アウローラったらそんな大声を出して……他の部屋に聞こえちゃうわ」

美人士官「だって、フランカの指がっ……んあぁぁっ♪」

提督「ふふふ、アウローラったら相変わらずここが感じやすいのね…それじゃあもう一本……と♪」くちゅり…っ♪

美人士官「あぁぁぁんっ♪ フランカ、フランカぁぁ…っ♪」提督の綺麗な人差し指につづいて、中指が花芯に滑り込む……そのまま第二関節までするりと入れて優しく指を動かすと、がくがくと腰が跳ねた…

提督「私はここよ……んっ♪」身体は重なり合ったまま顔だけ少し離すと、提督のずっしりとした髪の房が胸元にこぼれる…それからまた顔を近寄せていき、舐め取るように唇を交わす…

美人士官「はぁ、はぁ、はぁ…っ♪」厚手のストッキングと黒の下着をずりおろしてはいるが、粘っこい蜜がまとわりついて染みを作り、提督が指を動かすたびに湿っぽい音が響く…

提督「……それじゃあ、行くわね」

…金色をした提督の瞳が熱っぽい輝きを帯び、頬や胸元に赤みが差す……脚を曲げ伸ばししたり身体をくねらせたりしてランジェリーを脱ぎ、それをベッドの足元に放り出すと、ゆっくりと身体を重ねていった…

美人士官「はぁぁぁ…んっ///」

提督「んんぅ…♪」

栗色髪「……あんなの見せられたら、こっちまで変な気分になるわよね///」

ぽっちゃり「…じゃあ、私たちもする?」

栗色髪「え、ええ……///」

ぽっちゃり「分かった…それじゃあ最初はキスから♪」

栗色髪「んっ…はむっ、んちゅっ、ちゅぅ…っ、んふぅ……っ♪」食卓の椅子に腰かけた栗色髪の士官と向かい合わせになるようにして、ぽっちゃりした方がまたがった…

ぽっちゃり「大丈夫? 潰れてない?」

栗色髪「だ、大丈夫だから……来て…ぇ///」

ぽっちゃり「了解…椅子が壊れないといいけど♪」ぐちゅぐちゅ、にちゅ…っ♪

栗色髪「んふぅ、んんぅ、んむぅぅ…っ!」

…数十分後…

栗色髪「ぷはぁっ…! はぁ、はぁ…んはぁぁ……///」

美人士官「はふっ、はひぃ……っ♪」

ぽっちゃり「はぁぁ、こんなの久しぶりに味わったわ…でも、まだ身体がうずくのよね♪」

提督「あら、奇遇ね……私ももっと甘い声を聞きたい気分なの♪」

ぽっちゃり「そう…それじゃあ、と……♪」椅子を降りると提督と美人士官が寝転がっているベッドへとにじり寄り、提督を押し包むようにのしかかった……たぽたぽと揺れる胸とお腹の肉が提督の肌にぺたりと吸い付き、甘い蜂蜜めいた匂いと汗ばんでしっとりした肌触り、それに身体の熱が伝わってくる…

提督「んんっ、暖かくて……それに柔らかい♪」

ぽっちゃり「お布団にちょうどいい?」

提督「ええ…こんな布団があったら一日中ベッドから出ないわ♪」

ぽっちゃり「一日中はさておき……一晩中なら出来るわよ♪」赤ちゃんのような丸っこい可愛らしい手で、提督の秘部をなぞった…

提督「あん…っ♪」提督もお返しとばかりに、ぽよぽよと柔らかい乳房を「ぎゅむっ♪」と揉みしだいた…

ぽっちゃり「あうんっ……このぉっ♪」

提督「ふふっ…んぅっ、あんっ…ふあぁあぁんっ♪」

………

771 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/08(火) 01:39:02.21 ID:VzmfaJYu0
…翌朝…

ぽっちゃり「おはよう、フランカ……おはようってば♪」

提督「おは…ふあぁぁ……///」あくびをもらし、口元に手を当てた…

ぽっちゃり「ふふ、寝起きの顔も可愛いわよ……目は覚めた?」

提督「ふわ…ええ、まぁどうにか……」

…寝ぼけまなこのまま洗面台に向かうと水道をひねる……水道の調子はいつも通りイマイチで、蛇口をひねるとゴロゴロと音を立て、水が間欠泉のように勢いよく出たり弱まったりする……提督は眉をひそめ、古代ローマの水道に比べてこれでは「さして進歩がない」どころか退化していると思いながら顔をゆすいで歯を磨き、うがいをした…

ぽっちゃり「はい、コーヒー…それと、勝手だけれどシャワーを使わせてもらったわ」

提督「ええ、どうぞ遠慮なく……タオルの場所は分かった?」

ぽっちゃり「もちろん♪ 勝手知ったる他人の家…ってね♪」

提督「なら良かったわ……そうそう、帰る時になったら教えて? せっかくだし送るわ」ベッドに腰かけるとコーヒーのマグを受け取る…

ぽっちゃり「ありがとう…でもまずはフランカがスッキリしてからね♪」

提督「そうね。…あ、朝食はどうする? パンとカフェオレくらいで良ければ用意するけれど」

ぽっちゃり「お気遣いどうもね…でも大丈夫、帰ってから食べたっていいし、トラットリア(軽食堂)に寄ったっていいんだから」

提督「分かったわ」

美人士官「うぅ…ん♪ こんな朝早くからどうしたのよ……?」

ぽっちゃり「あら、眠り姫のお目覚めね……ついでにこっちも起こしてあげるとしますか♪」

栗色髪「ん、んふぅ……あぁ、おはよ…///」

ぽっちゃり「おはよう♪ ほら、フランカが送ってくれるっていうから、着替えちゃいましょう」

栗色髪「あぁ、はいはい…あれ、ブラはどこに脱いだっけ」

美人士官「これじゃない?」

栗色髪「ああ、それ……ねぇ、アウローラ。これ、貴女のストッキングじゃない?」

美人士官「あら、ありがとう…フランカ、良かったら貸してあげましょうか?」

提督「あら、それってどういう意味かしら?」

美人士官「ふふふっ、分かっているくせに…♪」

…しばらくして…

大家のおばさん「あら海軍さん、おはよう。今日はお休み?」

提督「おはようございます、おばさん…ええ、お休みです♪」

大家「それは良かったわね……そうそう、後でおかずをおすそ分けしてあげるわね」

提督「ふふ、嬉しいです。おばさんのお料理は美味しいですから♪」

大家「ありがとね、そう言ってくれるとこっちも張り合いがあっていいわ……ところで、昨夜は楽しかった?」ひそひそ話をするような様子で口元に手の甲を寄せると、邪気のないウィンクを投げた…

提督「もう、おばさんってば……♪」

大家「冗談よ。それにしても今まで色んな士官さんに部屋を貸してきたけれど、貴女は一番いい店子だわよ」

提督「グラツィエ……それではちょっと彼女たちを送ってきますので」中庭の一部を使った駐車スペースに停めさせてもらっている「ランチア・フラミニア」に乗り込もうとした…

大家「ええ「彼女たち」をね♪」

提督「もう、そっちの「彼女」じゃありませんって…♪」

………



提督「……今思えば我ながら「奔放な生活」だったとは思うけれど、何だかんだで結構楽しかったわね」

デルフィーノ「それを聞くと、提督がここに飛ばされたのも仕方ない気がしますねぇ」

ライモン「でも、そのおかげでわたしは提督と出会えたわけですけれど…///」

提督「そうね…おかげで私もライモンたちに出会えたんだもの。幸運に感謝しなくちゃ♪」

ライモン「そうですね///」
772 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/06/14(月) 02:56:21.09 ID:lYmtJ9450
…夕食後・バーカウンター…

ニュース番組「……低気圧は勢力を弱めつつありますが、依然として海上は風力4〜6程度の風が吹き荒れ、波浪注意報も発令されています。また、リビア沖で数隻の貨物船から救難信号が発信され、現在海軍と沿岸警備隊が救助にあたっているとのことです…」

ガリバルディ「…この時化の中で難航だなんて、聞くだけでもいただけないわ」

提督「そうね…気象通報によると、この低気圧もあと数時間で通り過ぎるっていう話だけれど……」

ザラ「嵐が無事に過ぎ去って、こっちにまで救援要請が回ってこないで済めばいいわね」

提督「そうねぇ…ポーラ、もう一杯だけ注いでもらえる?」

ポーラ「はぁ〜い♪」

フィウメ「それにしても、時化というとポーラ姉さまの件を思い出しますね」

ザラ「ああ、アレね……おかげでしばらくは鎮守府のワインセラーが一杯だったもの、貴女には感謝してるわ」

ポーラ「えへへぇ、それほどでも…♪」

提督「…というと?」

ゴリツィア「ああ、そう言えばあの時はまだ提督の着任前でしたね……」

………

…提督の着任以前・とある悪天候の日…

ポーラ「こんな天気に出撃もないですよねぇ……」白く逆巻く波頭と灰色がかった海面を艦橋から見下ろし、身体の水平を保ちながらコーヒーをすすっている…

ポーラ「…戦隊旗艦より各艦へ、大丈夫ですかぁ? 減速が必要なら言って下さいねぇ?」

ジュッサーノ「こちらジュッサーノ、滅茶苦茶がぶっている以外は大丈夫です。ただ、この状況ですから一番砲塔は使用不能です」

バルビアーノ「バルビアーノ、同じく……」

カドルナ「駆逐隊を連れてこなくて良かったわね…この時化ぶりじゃあひっくり返っちゃうでしょうし」

ディアス「同感…軽巡の私たちでさえこの有様なんですから」

ポーラ「それでも戦果があれば良かったのに、空振りですものねぇ…とにかく帰ったら暖かいお風呂ですねぇ♪」ギリシャ海軍からの「敵艦複数見ユ」の通報を受け、低気圧の隙間を縫ってどうにか出撃したものの、誤報と分かりげんなりしているポーラたち…

ジュッサーノ「賛成、ところで……」

ポーラ「ん? ジュッサーノ、ちょ〜っと待って下さいねぇ……」艦の無線に鎮守府からの通信が入ってきた…

ポーラ「えぇ、と……鎮守府より「…そちらの位置から針路275度、距離およそ30浬の地点で貨物船「ワン・スイ・グランド」号より救難信号。可能ならば救援されたし…」ですかぁ…」

…その当時はまだ予備扱いで、司令官となる提督が着任していない鎮守府の「艦娘担当官」としては、任意とは言え管区司令部の要請はなかなか断りにくい…

カドルナ「……距離的には行けなくはないですが、これからさらに時化るそうですよ?」

ポーラ「ん〜…とはいえ見捨てるわけにも行きませんねぇ……とりあえず行ってみましょ〜う」

ジュッサーノ「了解」

…一時間半ほどして…

ジュッサーノ「…これは大変ね」

ポーラ「そうですねぇ……」

…ポーラたちが双眼鏡を向ける先では、船体をグレイに塗った一万トンクラスの貨物船が難航していて、貨物甲板の40フィートコンテナ数個が荷崩れを起こしかけて傾いている……そのコンテナは濃いブルーの地に「WAN SUI」と白フチ付きのロゴが入っていて、他の文字が青文字なのに対して「A」と「U」だけが赤文字になっている…

ポーラ「こちらイタリア共和国海軍、重巡「ポーラ」より貨物船「ワン・スイ・グランド」へ、聞こえますか? 状況を教えて下さい、どうぞ?」

貨物船「こちら「ワン・スイ・グランド」聞こえます…本船は二時間ほど前に三角波を受けてコンテナが荷崩れを起こし、同時に機関の一基が損傷、浪に対して船首を保つのがやっとの状態です…どうぞ」

ポーラ「了解、今から救援を行います…」

ジュッサーノ「ポーラ、気象通報ではこれからますます時化るって……!」

ポーラ「分かってます…ここは私が曳航を試みてみますからぁ、ジュッサーノたちは安全のために先に戻って下さいねぇ」

ディアス「冗談でしょう? いくらポーラが重巡だからって、一隻だけで貨物船を港まで曳航するなんて無理です」

ポーラ「ポーラはぁ〜「港まで」曳航するなんて言ってませんよぉ…このまま嵐が収まるまで、曳航状態で一緒にいてあげるつもりですから♪」

カドルナ「そんなのだめです、敵潜のいい的にされます!」

ポーラ「こんな時化の最中に魚雷を撃てる潜水艦なんていませんよぉ……それに「誰かが助けに来てくれる」ってとっても嬉しいことだって、ポーラはよ〜く知っていますから…ね?」

ジュッサーノ「…分かりました」

773 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/19(土) 13:39:09.99 ID:gYeCE8mI0
…十数分後…

ポーラ「ポーラより「ワン・スイ・グランド」へ、これより曳索を投げます…どうぞ」

貨物船「了解、受け入れ準備完了…投げて下さい!」

ポーラ「それでは、トーレ、ドゥーエ、ウーノ……それっ!」


…ポーラは浪に振り回される貨物船と衝突しないよう絶妙な位置に艦を寄せ、後甲板の旗竿の辺りから小アンカーの重りをつけたロープを投げ縄のように振り回してから放った……ロープには丈夫な鋼鉄製ワイヤーが繋がれていて、がちゃんと派手な音を立てて船首甲板に落ちたアンカー付きロープを目立つ黄色の防水外套を着込んだ貨物船の乗員たちが、つるつると滑る甲板上で悪戦苦闘しながらもどうにか受け取ってたぐり寄せ、ワイヤーを結びつける…白い波飛沫で時々船員の姿が隠れる中で数分ばかり待っていると、無事に曳索を結びつけたらしく船員が手を振った…


貨物船「こちら「ワン・スイ・グランド」…無事に曳索を結びつけました、どうぞ!」

ポーラ「こちらポーラ、了解…それではこのまま「ヒーブ・ツー」しましょ〜う」

(※ヒーブ・ツー(heave to)…日本語では「踟躊(ちちゅう)」という。帆船時代からある荒天下での操船法で、最低舵効速力を維持したまま波に二十度ほどの角度を保つやり方)

貨物船「了解、感謝します!」

ポーラ「沿岸警備隊の救難ヘリももうじきやって来ますから、それまで頑張って下さいねぇ?」

貨物船「こちら「ワン・スイ・グランド」了解」時折船体に叩きつける波音が鉄鍋を叩くように「がぁぁ…ん!」と響き、喫水線下の赤く塗られたバルバス・バウが水面に露呈してはまた海面下に突っ込み、そのたびに派手な波飛沫が揚がる…

ポーラ「うーん、あとはこのまま時化が収まってくれるのを待つばかりですねぇ…」

………



ザラ「……それから救難ヘリが来て乗組員を助けた後も、ポーラは数時間貨物船を曳航したままでその海域に留まったのよ」

フィウメ「それから曳船がやって来て曳航を代わったんですが、後でその事を聞いた海運会社の社長さんが「無事に船とクルーを救ってくれたお礼に、何でも好きなものを寄付したい」って言って…」

ゴリツィア「それでポーラは「それじゃ〜あ、鎮守府の食卓を豊かにするためにワインを寄付してくれませんか〜?」って…」

ポーラ「そうなんですよぉ……でもポーラはぁ、せいぜい数ケースだろうと思っていたんですけれどぉ、届いてみたらなかなかのワインがここのセラー一杯になるくらいあって…えへへぇ♪」

ザラ「なんでも向こうのエライ人いわく「船員と船を救ってもらったお礼がワインなら安いものだ」だって……額が額だけに、海軍最高司令部にはああだこうだ言われたけれど「艦娘」個人への寄付は認められているからって押し通したのよ」

提督「なるほど……でも確か前に聞いたときは「とある社長さんが乗っているクルーズ船を救助した」って言っていたような…」

フィウメ「くすくすっ。まぁ、このエピソードは話すたびに設定が変わるんですよ…特にお酒を飲んでいる時は♪」

提督「それじゃあきっとすごい尾ひれが付いているに違いないわね……まぁ、よくあることだけれど♪」

ザラ「ふふふっ♪」

ポーラ「えへへぇ…♪」

提督「面白い話を聞かせてもらったわね……それじゃあ、お休み」

ザラ「お休みなさい」

…翌日…

提督「さてと…それじゃあ、あの嵐でここの庭先がどうなったか確認しないと。それに海面の流木なんかは回収しないと出撃に差し障るし……」

アッチアイーオ「ええ…とにかくあの様子じゃあ無茶苦茶になっているに違いないわ」

提督「そうね、まずは様子を確かめて…それから片付けが必要なら皆にも手伝ってもらいましょう」

…軍用ブーツに濃緑色の作業つなぎを着て、胸ポケットにセーム革の手袋を押し込んだ「作業スタイル」の提督……アッチアイーオも青みがかった黒色のウェットスーツ風の「艤装」をまとい、足元を丈夫な革長靴で固めている…

デルフィーノ「私も手伝いますよ、提督っ」イルカらしい濃灰色と淡灰色のツートンカラーでまとめられたボディスーツを着て、しなやかで長い濃灰色の髪をポニーテールに結い上げている…

提督「ええ。頼りにしているわよ、二人とも♪」

デルフィーノ「はいっ♪」

アッチアイーオ「ええ、任せておきなさい」
774 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/22(火) 03:26:31.42 ID:R14M7mbl0
…鎮守府・庭…

アッチアイーオ「……だいぶ荒れたみたいね」

提督「そうねぇ、これでもここは波が穏やかな場所なわけだし…そう考えると昨日の時化は相当だったのね」


…鎮守府が面している海は数キロほど離れた西側の岬と、鎮守府のレーダーが据えてある東側の小さな岬に挟まれた緩やかな三日月型の湾になっていて、内湾ほどとは言わないまでも波穏やかなはずだった……が、浜や西側の波止場周りにはかなりの漂着物が流れ着き、あるいは波打ち際に漂って寄せ波に洗われている…


デルフィーノ「とにかくこれじゃあ浜辺でのんびりも出来ないです」

提督「その通りね…アッチアイーオ、手が空いている娘がいたら呼んできてもらえる? それと来る時は「必ず丈夫な手袋と靴で来ること」って」

アッチアイーオ「了解」青みがかった艶のある黒髪をなびかせて駆けだしていった…

提督「さぁて、それじゃあ出来るものから片付けていきましょうか♪」

デルフィーノ「はい♪」

…数分後…

ドリア「あらまぁ、これはまたずいぶんと色々なものが打ち寄せられたものですね?」

デュイリオ「全くですねぇ…庭の花木もずいぶんと風に痛めつけられたようですし」

カラス「アー…」


…肩に革の当てが付いているベージュ色のセーターを着て、そこにペットのカラスを止まらせているデュイリオ……一応脚には紐が付けられているが、デュイリオのカラスは賢いため、飼い主であるデュイリオの頬に顔を寄せたり羽ばたいてみたりする程度で大人しくしている…


アラジ「さぁ、どんどん片付けちゃおうよ♪」中型潜アデュア級の「アラジ」は出撃55回とイタリア潜一の出撃数を誇ることからとても活発で、数分とてじっとしてはいられないほどの性格をしている……提督たちの傍に駆け寄ってくると、さっそく流れ着いた流木を動かそうとしたり漁網の切れ端を引き上げたりしている…

シーレ「そうね、とっとと片付けないと」


…吸着機雷を敵艦船の船底に取り付ける水中工作用スクーター「人間魚雷」こと「SLC(マイアーレ)」を使ったコマンド作戦で幾度も大戦果を挙げたアデュア級の殊勲艦「シーレ」…そのシーレが同じくSLC搭載潜となっていたアデュア級の「ゴンダル」やペルラ(真珠)級中型潜の「イリデ(虹・アヤメ)」「アンブラ(琥珀)」たちと一緒にやって来て、さっそく腰の左右と背中側に付けたSLC格納筒…のような形をした小物入れからペンチやら大ぶりのカッターナイフやらを取り出した…


ライモン「提督、遅くなりました…!」

提督「あら、ライモン……さっきまで当直だったでしょうに、休まなくていいの?」

ライモン「はい。なにしろレーダー画面の写っているディスプレイをずっと見ていた後ですから…外で身体を動かしたい気分なんです」

提督「ありがとう、一緒に頑張りましょうか……それじゃあこれからモーターランチを出して波止場周りの漂流物を回収する班と、砂浜と庭を片付ける班に分かれることにします。 …海岸の班は、足元に尖ったものが落ちていないか気をつけて作業するように!」

………

…しばらくして…

提督「ふぅぅ……これでどうにか出撃が出来るようになったわね」


…提督を始め数人は鎮守府のモーターランチとカッターに分乗して、流木や旗付きのブイ、ゴミと海藻が絡まった漁網、空の発泡スチロール容器やポリタンク、古い浮き輪と言ったものをしゃくいあげては波止場に積みあげた……そうして二時間近く経ち、もはや腕を伸ばすのも、たも網を繰り出すのもおっくうに感じるようになった頃、ようやく鎮守府のドックに続く海面が綺麗になった…


ガッビアーノ「きっと漂うものはいつかどこかに流れ着く、そういう運命(さだめ)なのだろうね……」小さい身体にしては妙に世捨て人のような雰囲気をかもし出しているガッビアーノ(カモメ)級コルヴェットの「ガッビアーノ」が、黄色い目を遠くに向けて言った…

チコーニャ「ふぃー、疲れましたねぇ…提督、良かったらチョコレートでもどうですか?」一方で姉妹艦のチコーニャ(コウノトリ)はよく柳のカゴにお菓子や何かを入れて、みんなに持ってきてあげている事が多い…

提督「気持ちは嬉しいわ。 でも、全部終わってからにしましょうね」

チコーニャ「分かりました」

提督「よろしい。それじゃあ分別の方も頑張りましょう♪」流木などの自然物とブイやポリ容器といった人工物は分別して、後で軍のトラックが回収しにくるまでゴミ置き場に置いておく…

チコーニャ「了解です」

………

775 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/28(月) 01:57:17.25 ID:2diIYsi60
…しばらくして・食堂…

提督「それにしても、あの流木は結構な量よね……一回で回収しきれるかしら?」

カヴール「ああ、そのことでしたらご心配には及びませんよ」

提督「?」

ディアナ「……ここに漂着したもののうち、プラスチック容器のような人工物は軍のトラックに回収してもらいますが、流木はよく乾かして冬場の暖炉や、外にある直火用グリルの焚き付けに使うのでございます」

提督「そう言えばここには暖炉があったわね…」

…食堂の北側の壁にはレンガ造りの暖炉がしつらえられていて良い雰囲気をかもし出していたが、春に着任した提督はまだ火が燃えている様子を見たことがない…

ドリア「ええ。秋から冬にかけてはそこで焼き栗をしたり…あるいはアルミホイルに包んだジャガイモを灰に埋めておいて焼きジャガイモにしたりもできますよ♪」

提督「あら素敵…♪」

ライモン「それに実際問題として、どうしても冬場は冷えますから…ここはいいところですが、唯一暖房の効きに関してはあまり良くありませんので」

提督「うーん……まぁこれだけの歴史的建物となると、そのあたりはどうしてもね…」


…鎮守府の暖房は各部屋にグリルのような「ラジエーター」の付いているセントラルヒーティング式であることだけは知っていたが、実際のところはまだ経験のない提督……とはいえライモンの意見にうなずいている艦娘たちを見れば、おおよその想像はついた…


チェザーレ「うむ。 ここの暖房は古代ローマと同じ方式でな、裏手に湧いている例の温泉から冷める前の湯や蒸気から暖気を取って循環させているのだ……おかげでいくら動かしておこうが一チェンテージモもかからぬ」

(※チェンテージモ…リラの下にある通貨単位で、日本で言う「銭」にあたる。複数形はチェンテージミ)

提督「言われてみれば施設の書類にそうあったわね…」

ドリア「ただ、ここの源泉は割とぬるいものですから、その熱だけではそこまで暖かくないのが欠点でして……私のような老嬢には堪えます」そう冗談めかすと、口元に手を当ててころころと笑った…

提督「またまた…こんなに張りのあるお婆ちゃんがいてたまるものですか♪」つん…っ♪

ドリア「あんっ…もう提督ったら、おいたが過ぎますよ?」

提督「ふふ、ごめんなさい…♪」

アッチアイーオ「でも、冬場の事を考えるともう少し暖かい寝具が欲しいところね……今度布団でも買おうかしら」

提督「あら、私と一緒に寝るのじゃだめ?」

アッチアイーオ「な、なに言ってるのよ…///」

デュイリオ「そうですよ、提督…それじゃあわたくしがお邪魔できないではありませんか♪」

提督「ふふっ、それもそうね…♪」

アッチアイーオ「はいはい、色ボケ同士で仲良くやってちょうだい…」

デュイリオ「あら、色ボケだなんて……わたくしは単に身体を持て余しているだ…け♪」

アッチアイーオ「だーかーら、そういうのが色ボケだって言ってるのよ!」

デュイリオ「あらあら、アッチアイーオったら怒っても可愛いですわね…♪」大柄なデュイリオはアッチアイーオを抱きしめ、胸元に顔を埋めさせて頭を撫でた…

提督「それにしても秋、ねぇ……美味しいものが増える時季よね」

ドリア「そうですね」

提督「…シルヴィアおばさまは、今年も「あれ」を送ってきてくれるかしら……」

ライモン「提督「あれ」ってなんですか?」

提督「え、あぁ…いいのいいの、気にしないで」

ライモン「はい、提督がそうおっしゃるのなら……」

提督「ええ……みんなのことを考えて、今年は多めに送ってくれるよう頼んでおいた方がいいわね…」

ライモン「?」
776 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/02(金) 02:26:31.37 ID:8wx2Ryv00
…昼下がり…

提督「さてと、それじゃあシルヴィアおばさまに電話しておこうかしら……」携帯電話を取りだして実家の番号をダイヤルすると、耳元に「ルルルル…ッ」と呼び出し音が響く…

…同時刻・クラウディアの寝室…

シルヴィア「ん、あむっ…ん、ふ……♪」

クラウディア「あ……んぅっ……んちゅっ…♪」


…窓から爽やかな秋風がさあっと室内を通り抜けていく中、ベッドで甘い接吻を交わしているクラウディアとシルヴィア……クラウディアは白くて豊かな身体に良く似合う、黒いレースに紅の花模様をあしらった下着姿で、表から帰ってきたばかりのように見えるシルヴィアは、クリーム色のタートルネックセーターと茶色のズボンで、刈り取った雑草と土の匂いをさせている…


クラウディア「ちゅ、あむっ……ん、電話?」

シルヴィア「ぷは…そうみたいね。私が出るわ……」

クラウディア「いいじゃない、電話なんて放っておけば…ね?」一階の廊下で鳴り響いている電話に出ようとベッドから降りたシルヴィアの後ろから腰にしがみつき、甘えたような声をあげる…

シルヴィア「私だってそうしたいけど、何度もかかって来る方が興ざめでしょう……すぐ済ませてくるから」

クラウディア「もう、分かったわよ…それと戻ってくるときには、ちゃんと着替えてきてね?」

シルヴィア「いきなり「キスしたい」って言ってベッドに連れ込んだのは貴女でしょうが…」かすかな苦笑いを浮かべつつ一階に降りると、受話器を取った……

シルヴィア「もしもし、カンピオーニですが……あぁ、フランカ。 相変わらず元気そうね…」壁に斜めにもたれかかるようにして、提督の声を聞く…

シルヴィア「そう、それはよかったわ…それで、どうしたの? …え、ああ……もちろん今年も送るつもりよ。 ええ「艦娘」の娘たちがたくさんいるのは分かっているから、今年は多めにしてあげるわ……」

クラウディアの声「……シルヴィア、いったい誰だったの?」

シルヴィア「フランカよ、クラウディア。 …ええ、クラウディアも相変わらずよ……いま降りてきたわ」

クラウディア「ねぇシルヴィア、フランカからの電話ですって?」下着の上にあっさりしたガウンだけ羽織って、いそいそと階段を降りてきた……

シルヴィア「ええ、可愛いフランカからよ……いま代わるわ」

クラウディア「…チャオ、フランカ♪ ええ、私よ…元気にしているかしら? そう、良かったわね……鎮守府の娘たちも変わりはない?」胸元に手を当てて弾む呼吸を落ち着かせながら、提督と話をするクラウディア……

クラウディア「ああ、そうなのね。良かったわ……そうそう、そう言えばこの間ミラノでファッションショーがあって、いくつか試供品をもらったから、そっちに送るわね…鎮守府の娘たちもお洒落がしたいでしょうし。 それと去年のモードだけれど、秋冬物の服なんかもついでにね♪」

クラウディア「え…いいのいいの♪ 艦娘の娘たちはきっといつもは灰色ばっかりでしょうから、たまにはお洒落を楽しませてあげて?」

クラウディア「ええ、貴女もね……それじゃあシルヴィアに代わるわ♪」電話越しにキスの音を送ると、シルヴィアに受話器を渡した…

シルヴィア「それじゃあそういうわけで、今度の週末には送れると思うから…ええ、またね」さっぱりした言い方ながら、愛情を込めて通話を終えた…

クラウディア「相変わらずそうで何よりね♪」

シルヴィア「そうね……それと、今年は「あれ」を多めに送って欲しいって」

クラウディア「あら、いいじゃない…我が家の秋の風物詩だものね♪」

シルヴィア「ええ……」そう言うとクラウディアの腰に手を回しつつ、親指であごを持ち上げて顔を軽く上向かせる…

クラウディア「あ…っ///」土と草の素朴な匂いに交じって、ふっと爽やかな香水の香りが鼻腔をくすぐった…

シルヴィア「……続きをしましょうか」

クラウディア「…ん♪」

シルヴィア「それじゃあベッドに行くとしましょう……せーの!」かけ声をかけると反動を付け、ひょいとクラウディアを抱きかかえた…

クラウディア「ひゃあん…っ♪」

シルヴィア「ちょっと、そんなに暴れないで……落っことしちゃう」

クラウディア「ええ、分かったわ…///」そのままシルヴィアのうなじに手を回し、下からシルヴィアの整った顔を見つめる…

シルヴィア「……よろしい」ぷるっとしたクラウディアの唇に口づけすると、足元を確かめながら階段を上っていった……

777 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/05(月) 02:08:23.59 ID:+epZ4/2X0
…数日後…

提督「ふわぁぁ…いいお天気……」

…執務室で雑多な書類を片付けると軽く伸びをして、窓際に歩み寄って外を眺めた提督……冷涼な秋風が鎮守府を吹き抜け、暖かい日差しとほどよく交じりあう…海は波もなく穏やかで、真夏のような目に痛いほどの輝きはないが、きらきらときらめいている……と、デルフィーノが入口から顔を出した…

デルフィーノ「提督、正門に宅配業者の方が来ましたよ」

提督「了解…今行くわ」

デルフィーノ「はい」

…鎮守府・正門…

提督「どうもご苦労様です」

宅配業者「どうも…えーと、荷物はこれですね。あて名に間違いがないようでしたら、ここにサインをお願いします」

提督「あて名は…大丈夫ですね。はい、どうぞ」

宅配業者「ありがとうございました♪」帽子に手を当てて軽く会釈をするとイヴェコのトラックに乗り込み、正門前の広い部分でUターンさせて走り去った…

提督「さてさて、この大きな箱は冷蔵品みたいね…と言うことは……♪」冷蔵扱いになっているのは人の一人くらいは簡単に入りそうな大きな木箱で、差出人が実家の「シルヴィアおばさま」になっているのを見て笑みを浮かべた…

ガリレオ「あら、ずいぶんと嬉しそうね?」当直にあたっていたガリレオと、その弟子であるトリチェリが台車を用意する…

提督「ふふーん…まぁね♪」

トリチェリ「何が届いたんですか、提督?」

提督「すぐに教えてあげるわ……さ、運びましょうか」他にも鎮守府のみんなが頼んだものなどを積んで、ゴロゴロと台車を押していく提督たち…そしてルチアも尻尾を振りながら横についてくる…

…食堂の外…

提督「さてと、それじゃあこれを運び入れないとね……いい?」

トリチェリ「もちろんです♪」

ガリレオ「当然♪」

ディアナ「こちらも受け取りの準備は整っておりますよ」庭へと出るドアを兼ねた食堂の大きな窓を開け放っている…

提督「それじゃあ行くわよ、せーの…っ!」いそいそと箱に近づくと膝を屈め、力を込めて持ち上げようとする提督……が、重い箱はびくともしそうにない…

ガリレオ「もう、提督ったら珍しくせっかちじゃない……ほら、私とトリチェリで運んであげるから♪」

トリチェリ「そうですよ…さ、先生♪」

ガリレオ「ええ、そっちは頼むわね…そーれっ♪」大きくかさばるので二人がかりで持ち上げているが、いともたやすく箱を運び入れた…

提督「はぁ、ふぅ……さすが艦娘ね…私なんて腕が抜けそうだったのに……」

ディアナ「…ところで、こんなに大きな箱ですが…中身はいったい何でしょうか?」

デルフィーノ「私も気になります♪」

提督「ふふーん、よくぞ聞いてくれました……デルフィーノ、ルチアを抑えておいてね♪」そう言うと木箱のふたにバールを差し込み「えい!」とこじ開けた…

ガリレオ「これはこれは……すごいわね♪」

トリチェリ「わぁ…♪」

ディアナ「まぁ…」

デルフィーノ「もう、早く私にも教えて下さいよぅ♪」首輪に付けているリード(綱)をつかんでルチアを押さえながら、首を伸ばして箱の中身を見ようとするデルフィーノ…

ルチア「ワフッ、ワンワンッ…!」一方デルフィーノに押さえられているものの、尻尾を振りながら箱に近づこうとするルチア…

提督「…ふふ。毎年秋になるとおばさまが送ってくれるのだけれど、今年から鎮守府に着任したわけだから「みんなの分も送って欲しい」って頼んでおいたの♪」

デルフィーノ「ですから何をです?」

提督「それはね…じゃーん♪」箱の中から取りだしたのは大きな肉の塊で、濃い赤身と外側の白い脂身が綺麗に分かれている……

ロモロ「お肉ね!」

レモ「わぁ…美味しそう♪」くつろいでいた「ロモロ」と「レモ」も目を輝かせてやって来た…

提督「毎年秋になると、おばさまは散弾銃を持ってイノシシ猟をするのだけれど…そのお肉ね」ビニールがかけてあるイノシシの腿肉を、軽く平手で叩いた…

ディアナ「それにしても相当な量でございますね……おおよそ一頭分くらいでしょうか?」

提督「そのくらいはあるはずだから、しばらくはうんと楽しめるわよ。 …もちろんルチア、あなたもね♪」

ルチア「ワンッ!」
778 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/10(土) 03:42:19.82 ID:USquDalD0
…翌日・厨房…

提督「さて、それじゃあどう調理しようかしら?」

ディアナ「部位によって調理法を変えるのがよろしいかと存じますが……それと、今日はどの部分を使うことに致しましょうか?」

提督「そうねぇ…やっぱりあばら肉か腿肉かしら。 固い部分は今日からゆっくり煮込んで、明日以降に食べればいいし、レバーなんかは香味野菜と一緒に調理して、レバーペーストにすればパンのお供に出来るものね」

エリトレア「それはいい考えですねぇ♪」

提督「でしょう? …と言うわけで、まずは「ローストで香ばしく」なんてどうかしら?」

ディアナ「それはよろしゅうございますね…♪」

提督「良かった♪ そうと決まれば、必要なものを用意しないと……」

ディアナ「何を用意すればよろしいでしょうか?」

提督「シンプルなローストとなれば、まずはいい塩だけれど…確か岩塩があったはずよね?」

ディアナ「はい、ございます」

提督「なら塩は大丈夫ね……ローズマリーとオレガノは?」

ディアナ「乾燥ものが少々」

提督「それで充分よ…黒胡椒」

エリトレア「ありますよ♪」胡椒は粒のものを買い、必要な分だけ食料庫から取り出してきては、そのつどオリーヴの木で出来たペッパーミルで挽くようにしている…

提督「ニンニク」

エリトレア「それもあります」

提督「よろしい。あとは付け合わせに茸のソテーでも添えれば充分素敵なご馳走になるけれど……在庫はあったかしら?」

ディアナ「いえ、茸は数日前に使い切ってしまいましたので…」

提督「そう言えばそうだったわね……」

リットリオ「だったら私が買いに行きますよ…提督っ♪」ひょいと顔をのぞかせたリットリオは可愛らしい秋めいた色あいのスカーフとブラウス、それにひらりと広がった朽葉色のスカートをまとい、ウェーブがかかった髪を後頭部で巻き髪スタイルにしている…

提督「リットリオが買ってきてくれるなら助かるわ……ちょっと待ってて」

…そう言うと鉛筆を取り、厨房に置いてある「メモ用紙」(たいていは期限切れの回覧文書や前日の天気予報をプリントアウトした紙、広告の裏紙などを適当な大きさに切りそろえたもの)にさらさらと買い物のリストを書いた…

提督「…それじゃあお願いね。お金は後で渡すわ」

リットリオ「はいっ♪ ヴェネト、ローマ、良かったら一緒にお買い物に行きませんか?」

ヴェネト「わぁ、嬉しいです♪」

ローマ「私もいいんですか、リットリオお姉様?」

リットリオ「もちろんですよ、だって二人とも私の妹ですし…♪」パチリとウィンクをすると「チンクエチェント(二代目・フィアット500)」のキーが付いているキーリングを人差し指に引っかけてくるくると回した…

提督「気をつけて行ってらっしゃいね?」

リットリオ「もう、大丈夫ですよ…それじゃあ行ってきます♪」二人の妹を連れて真っ赤なフィアットに乗ると、ギアレバーの隣にあるチンクエチェント独特の「エンジン始動レバー」を引いてエンジンを回し、空冷エンジン独特のバタバタいう音を残し「近くの町」に向けて車を走らせていった…

提督「それじゃあこちらはその間に、下ごしらえと行きましょうか…!」服の袖をまくるとよく研がれた大ぶりの包丁を持ち、大きなあばら肉を解体するべく構えた…

ディアナ「では、僭越ながらわたくしも手伝わせていただきます」

エリトレア「私もですよっ」

提督「それじゃあ左右を押さえておいてね……ふんっ!」包丁の背に片手をあてがいつつあばら肉の骨と骨の間に刃を入れると、ぐっと引き切っていく…良く研いでいる包丁だけあってすっと刃が入っていくが、さすがに野山を駆けまわっていた猪の肉だけあって、いつもよりは力がいる…

エリトレア「わぁ、さすが提督…見事に切れましたねっ♪」

提督「ふふーん…これでもおばさまに多少は教わったんだもの、これくらいは出来ないとね。 …さ、それじゃあ味を付けていきましょうか♪」

ディアナ「よしなに…♪」専用のヤスリで岩塩を削り、胡椒はペッパーミルで粗挽きにする…それにオレガノ、ローズマリーを合わせたものを手に取り、ひんやりと冷たい肉の表面にすり込んでいく…

提督「これが意外と重労働なのよね……ふぅ」大きな肉の塊を相手に、少々汗ばんでいる提督…一つ息をつくと、肉の脂や塩のついていない腕の真ん中辺りで額を拭った……

779 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/10(土) 03:45:32.11 ID:USquDalD0
…翌日・厨房…

提督「さて、それじゃあどう調理しようかしら?」

ディアナ「部位によって調理法を変えるのがよろしいかと存じますが……それと、今日はどの部分を使うことに致しましょうか?」

提督「そうねぇ…やっぱりあばら肉か腿肉かしら。 固い部分は今日からゆっくり煮込んで、明日以降に食べればいいし、レバーなんかは香味野菜と一緒に調理して、レバーペーストにすればパンのお供に出来るものね」

エリトレア「それはいい考えですねぇ♪」

提督「でしょう? …と言うわけで、まずは「ローストで香ばしく」なんてどうかしら?」

ディアナ「それはよろしゅうございますね…♪」

提督「良かった♪ そうと決まれば、必要なものを用意しないと……」

ディアナ「何を用意すればよろしいでしょうか?」

提督「シンプルなローストとなれば、まずはいい塩だけれど…確か岩塩があったはずよね?」

ディアナ「はい、ございます」

提督「なら塩は大丈夫ね……ローズマリーとオレガノは?」

ディアナ「乾燥ものが少々」

提督「それで充分よ…黒胡椒」

エリトレア「ありますよ♪」胡椒は粒のものを買い、必要な分だけ食料庫から取り出してきては、そのつどオリーヴの木で出来たペッパーミルで挽くようにしている…

提督「ニンニク」

エリトレア「それもあります」

提督「よろしい。あとは付け合わせに茸のソテーでも添えれば充分素敵なご馳走になるけれど……在庫はあったかしら?」

ディアナ「いえ、茸は数日前に使い切ってしまいましたので…」

提督「そう言えばそうだったわね……」

リットリオ「だったら私が買いに行きますよ…提督っ♪」ひょいと顔をのぞかせたリットリオは可愛らしい秋めいた色あいのスカーフとブラウス、それにひらりと広がった朽葉色のスカートをまとい、ウェーブがかかった髪を後頭部で巻き髪スタイルにしている…

提督「リットリオが買ってきてくれるなら助かるわ……ちょっと待ってて」

…そう言うと鉛筆を取り、厨房に置いてある「メモ用紙」(たいていは期限切れの回覧文書や前日の天気予報をプリントアウトした紙、広告の裏紙などを適当な大きさに切りそろえたもの)にさらさらと買い物のリストを書いた…

提督「…それじゃあお願いね。お金は後で渡すわ」

リットリオ「はいっ♪ ヴェネト、ローマ、良かったら一緒にお買い物に行きませんか?」

ヴェネト「わぁ、嬉しいです♪」

ローマ「私もいいんですか、リットリオお姉様?」

リットリオ「もちろんですよ、だって二人とも私の妹ですし…♪」パチリとウィンクをすると「チンクエチェント(二代目・フィアット500)」のキーが付いているキーリングを人差し指に引っかけてくるくると回した…

提督「気をつけて行ってらっしゃいね?」

リットリオ「もう、大丈夫ですよ…それじゃあ行ってきます♪」二人の妹を連れて真っ赤なフィアットに乗ると、ギアレバーの隣にあるチンクエチェント独特の「エンジン始動レバー」を引いてエンジンを回し、空冷エンジン独特のバタバタいう音を残し「近くの町」に向けて車を走らせていった…

提督「それじゃあこちらはその間に、下ごしらえと行きましょうか…!」服の袖をまくるとよく研がれた大ぶりの包丁を持ち、大きなあばら肉を解体するべく構えた…

ディアナ「では、僭越ながらわたくしも手伝わせていただきます」

エリトレア「私もですよっ」

提督「それじゃあ左右を押さえておいてね……ふんっ!」包丁の背に片手をあてがい、あばら肉の骨と骨の間に刃を入れると引き切っていく…よく手入れされている包丁だけあってすんなりと刃が入っていくが、さすがに野山を駆けまわっていた猪の肉だけあって、普段よりは力がいる…

エリトレア「わぁ、さすが提督…見事に切れましたねっ♪」

提督「ふふーん…これでもおばさまに多少は教わったんだもの、これくらいは出来ないとね。 …さ、それじゃあ味を付けていきましょうか♪」

ディアナ「よしなに…♪」専用のヤスリで岩塩を削り、胡椒はペッパーミルで粗挽きにする…それにオレガノ、ローズマリーを合わせたものを手に取り、ひんやりと冷たい肉の表面にすり込んでいく…

提督「これが意外と重労働なのよね……ふぅ」大きな肉の塊を相手に、少々汗ばんでいる提督…一つ息をつくと、肉の脂や塩のついていない腕の真ん中辺りで額を拭った……

780 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/13(火) 11:27:48.36 ID:IaIzlsrW0
…その頃・近くの町…

ヴェネト「ふぅ…着きましたね」

ローマ「リットリオ姉様、車の鍵はかけましたか?」

リットリオ「もちろんですよ、ローマ。それじゃあお使いを済ませちゃいましょう♪」

…長身を押し込んでいた小さなフィアット500から出ると、身体をほぐすように伸びをしたリットリオたち……鎮守府から二十分ほどの小さな町は相変わらずのどかで、古くから続いている個人商店や露天が並ぶ小さな市場では馴染みの客と交わす愛想のいい会話や元気な売り声が飛び交っている…

鮮魚店のおっちゃん「おっ、海軍さん! どうだい、タコ買っていかないか!新鮮だよ!」鍋を置いて蛸を茹でている鮮魚店のおっちゃんは茹でる前のタコを一匹つかみ、持ち上げてみせた…

リットリオ「そうですねぇ、おいくらですか?」

おっちゃん「海軍さんにはいつもうんと買ってもらってるからな、安くしとくよ! 一匹あたりこれぐらいでどうだい?」指で「手やり」を出して値段を示す…

リットリオ「うーん、もうちょっとですね♪ その代わり五匹は買いますよ?」

おっちゃん「かーっ、海軍さんは商売が上手いや…分かった、持ってきな! それと鱗だのなんだのがきれいな服に付いちまうといけねえから、もちっと離れておいた方がいいぜ……っと、ほい!」手早く油紙の袋に包むとリットリオに渡した…

リットリオ「ふふっ、ありがとうございます♪」

おっちゃん「毎度っ!」

野菜売りのおばちゃん「海軍さん、良かったらうちでも買っていってよ!」

ヴェネト「そうですね、それじゃあその黄色いズッキーニを……ええ、500グラムでいいですよ♪」

おばちゃん「毎度どうもね…それと、これはおまけ」

ヴェネト「わぁ、ありがとうございます♪」

ローマ「……お姉様方、本命をお忘れではありませんか?」

リットリオ「大丈夫ですよ、ローマ……さ、茸を買わないとですね♪」

茸取りのじいさん「いらっしゃい、今年も茸の季節になったよ! 今だけだからね、買っていっておくれ!」


…時季と言うこともあって、露天のいくつかでは山から採ってきた茸が並んでいる……イタリア人が大好きで希少なポルチーニが一箱に白トリュフがいくつか、そしてついでといった具合に自家栽培のものらしいマッシュルームがたっぷりひと山……他にもオレンジ色をした柄の細いものや、茶色のずんぐりしたもの、傘がひらひらしているものなど、見慣れたものから馴染みの薄いものまで数種類が並んでいる…


リットリオ「あっ、ありましたね…おじいさん、そのポルチーニを五百グラムと、マッシュルームもくださいな」

じいさん「ほいきた! ポルチーニは裏のひだに砂だのホコリだのが付いているからまずは軽く洗って、それからフリッタータ(フライ)か……バターで焼いても美味しいぞ!」浅い木箱に山積みにされた茸をつかみ取ると、手際よく重さを量って袋に詰める…

リットリオ「考えただけで美味しそうです♪」

じいさん「当たり前さ、この時期だけのご馳走だからね!」白髪をオールバックにしているじいさんはリットリオたちにむけて明るくウィンクを投げ「おまけだ♪」とマッシュルームをひとつかみ多く入れてくれた…

リットリオ「グラツィエ♪」

じいさん「おうさ。今月の末頃までは採れると思うから、また来ておくれよ!」

リットリオ「はい♪」

屋台のおじさん「アランチーニ、アランチーニはいかが? 揚げたてで美味しいよ!」

(※アランチーニ…「小さいオレンジ」の意。トマトソースが入った丸型のライスコロッケ)

リットリオ「わぁ、本当に揚げたてですね…せっかくですから一つ食べていきましょう。私がおごりますよ♪」

ヴェネト「嬉しいです♪」

ローマ「いえ、そんな姉様に…」慌てて小銭入れを出そうとするローマ…

リットリオ「ノン・ファ・ニエンテ(構いませんよ)…おじさん、三つ下さいな♪」

おじさん「毎度っ、熱いから気をつけて食べてね!」野球ボール大のアランチーニをトングでつかむと、紙に挟んで手渡してくれる…

リットリオ「ありがとうございます…さ、食べましょう♪」買い物を詰めた大きめの袋を肩にかけ、湯気の立つアランチーニを頬張る…

ヴェネト「はふっ…あつ……///」

ローマ「ほわ…っ……おいひいれふね…」

リットリオ「ふふ、良かったです…それじゃあこれを食べ終わったら、もうちょっとだけ見て回ってから帰りましょう♪」

ヴェネト「はい…♪」

ローマ「了解……あつつ…!」

リットリオ「ふふ、それじゃあ私も…はむっ、ふあ……///」熱いアランチーニをまた一口かじると、空気を取り込むように口をぱくぱくさせた…
781 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/07/17(土) 01:36:09.08 ID:Vik0Mz6j0
…一時間後…

リットリオ「ただいま戻りました♪」

提督「お帰りなさい。買い物は楽しかった?」

リットリオ「はい♪」

ヴェネト「ええ、とても楽しかったです」

ローマ「私は買うべきものも買ったのですし、昼食の支度が遅れてはいけないですから早く戻ろうと言ったのですが……」

提督「いいのよ、十分間に合ったから…それじゃあ食材を受け取るわね」

リットリオ「はい、これが茸と…」

提督「ポルチーニとマッシュルームね…それもこんなに♪」

ヴェネト「…それから茹でダコをいくつか」

ディアナ「それはレモンを搾っていただくとしましょう」

ローマ「他にも青物を少々買ってきました」

提督「いいわね、それじゃあ肉を焼くとしましょうか……せっかくだし表で直火を使って、ね♪」

リットリオ「いいですねぇ♪」

…厨房の外…

提督「さーて、それじゃあローストしていきましょう」

エリトレア「はいっ♪」

…厨房の外にはレンガで作られた手頃な炉があり、直火でちょっとした焼き物が出来るようになっている…煙の臭いが染みついてもいいよう、よれたTシャツと作業用のズボンに着替えている提督は、マッチを擦ると古新聞に火をつけて小枝の下に押し込み、それから流れ着いた流木や木切れをよく乾かして薪としたものをくべ始めた……しばらくは木切れのはぜる地味な音が散発的にしているだけだったが、そのうちに火が舌を出して威勢良く燃え始める…

提督「ん、火はいい具合になったみたいね…ディアナ、エリトレア。お願いね?」

ディアナ「よしなに」

エリトレア「了解しましたっ♪」

…岩塩にローズマリー、オレガノ、それに胡椒といったスパイスをすり込んだ猪のあばら肉を網の上に並べる……そして付け合わせのポルチーニをバターソテーにするべく、いそいそと厨房に戻っていくディアナ…

ルチア「フゥ…ン♪」

提督「ルチア、ここは火があって危ないから離れていなさいね?」じゅうじゅうと脂が滴り、燃える薪に落ちてはパッと煙を上げる……吹き付けてきて目に沁みる煙と熱気を手で払いつつ、時々トングで肉を持ち上げて焼き具合を確かめる提督…

ディアナ「添え物の方は出来ましたので、わたくしもお手伝いいたします」

提督「ええ、ありがとう…火の前にいるものだから、もう熱くて熱くて……ちょっと冷たいものでも飲んでくるわ」

…しばらくして…

提督「…もういいかしらね♪」程よく火が通ったであろうあばら肉を、ディアナとエリトレアが持っている大皿に載せていく……ふちの方はまだぷちぷちと脂が跳ね、香草の香りを含んだ美味しそうな匂いを立てている…

提督「さてと…それじゃあ私もすぐ着替えてくるから、みんなが食卓に着いたら始めましょう♪」

ディアナ「よしなに…♪」

…昼食…

提督「それじゃあそろそろお待ちかねの肉料理と参りましょうか♪」食前酒の間から漂っていたいい香りに気もそぞろな艦娘たちに微笑みかけると厨房に入っていき、エプロンを着けて戻ってきた…両手でつかんで持ってきた大皿には、ポルチーニのソテーを添えた猪のあばら肉がきちんと並んでいる…

デルフィーノ「わぁぁ、ご馳走ですね…♪」

トレーリ「…いただきます♪」

ドリア「それでは、私も早速…♪」

アブルッツィ「どれどれ…」中央に置かれた大皿から銘々に取り分けると、早速賞味する艦娘たち…
782 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/07/17(土) 03:08:51.54 ID:isZbkD9h0
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783 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/20(火) 00:54:07.79 ID:ZIx1ptnR0
提督「それで、お味はいかが?」

アブルッツィ「ええ、美味しいですよ!」

提督「よかった…」そう言って食堂を見渡す提督…


…白いテーブルクロスをかけた長テーブルに並んでいる艦娘たちが談笑しながらワインを傾け、料理を賞味している…とはいえ食べ方はそれぞれで、上品にナイフとフォークを使いこなす娘から、海賊まがいの食べ方でがっついている娘もいる…


ドリア「美味しいですね、ガリバルディ?」

ガリバルディ「ええ。ドングリを食べて脂が乗った秋のイノシシに勝る物はないわね……そうでしょう、メノッティ?」

チロ・メノッティ「いかにも、ガリバルディの言うとおりです」

カヴール「チェザーレ、もう一切れいかが?」

チェザーレ「いただこう…デュイリオ、そなたは?」

デュイリオ「ご心配なく、わたくしなら勝手に取らせていただきますから♪」グラスの赤ワインを傾け、上機嫌で笑い声を上げるデュイリオ…

チェザーレ「そうか…では、ロモロ、レモ、そなたらはどうだ……?」

ロモロ「はぐっ、あぐっ…むしゃ…」

レモ「んぐっ、むしゃっ……」歯をむき出しにして、骨付きの肉にかぶりつくロモロとレモ…

チェザーレ「おやおや。あの二人の食べ方ときたら、まるで狼のようではないか」

提督「狼と言うより「我が子を喰らうサトゥルヌス」みたいね…」

ライモン「美味しいのはいいことですが…あんなに勢いよく食べて、喉に詰まらせたりしないでしょうか」

チェザーレ「まぁ、その心配はあるまい…ライモンド、もう一杯どうだ?」

ライモン「ありがとうございます」

チェザーレ「うむ」

スクアーロ(中型潜スクアーロ級「サメ」)「……ふふ…魚もいいけど、こういう血のしたたるような肉もいいわよね♪」

レオーネ(駆逐艦レオーネ級「雄ライオン」)「んぐぅ…んっ!」

パンテーラ(レオーネ級「ヒョウ」)「はむっ、むしゃ……」

ティグレ(レオーネ級「トラ」)「あぐっ、もぐ…」骨から肉を噛みちぎりむさぼっている肉食獣の艦娘たち…

カラビニエーレ(ソルダティ級「カラビニエーリ隊員」)「ああもう、まったく行儀の悪い…!」

アオスタ「全くです、野蛮人でもあるまいし…提督からもなにか言って下さいませんか」

提督「まぁまぁ。美味しいって喜んでくれているわけだし、たまには…ね?」

アオスタ「提督がそうおっしゃるのでしたら……」

提督「ええ、今だけは目をつぶってあげて? とはいえあんまり勢いよく食べてお腹に差し障りがあるといけないから……ロモロ、レモ、せっかくおばさまが送ってきてくれたお肉なんだから、もう少し味わって食べて欲しいわね?」

ロモロ「…ん、言われてみれば……」

レモ「はーい」

提督「よろしい♪」

ディアナ「それにまだドルチェも控えておりますから、お腹を空けておきませんと食べられませんよ?」

フルット「それで、今日のドルチェは何でしょうか…ディアナ?」

ディアナ「今日は栗のケーキです、何しろ時季ですから」

提督「秋と言えば栗だものね。 焼き栗なんかはローマでも秋になると売っていて…一袋買って、午後の勤務の時にみんなで分けたりもしたわ」

ローマ「あれを食べると「秋が来た」という気分になりますね」

提督「ええ。こっちではあまり見かけないから、懐かしいわね……」


784 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/22(木) 01:33:12.09 ID:rsP+4x970
…食後…

ライモン「そう言えば、提督のご実家から届いた箱がもう一つありましたが…あれは?」

デルフィーノ「お肉の方は冷蔵で届きましたけれど、あっちの箱は冷蔵でもなかったですし…中身は何ですか?」

提督「ああ、あれの中身は……知らない方がいいわ♪」

デルフィーノ「え?」

提督「冗談よ…テーブルを片付けたら持ってきましょう」

…数分後…

アッチアイーオ「持ってきたわよ、提督……大きさの割には軽いわね」

提督「そうでしょうね…それじゃあ開けるとしましょうか、よいしょ……♪」そう言って箱のテープをナイフで切るとふたを開けた…

ライモン「わ、洋服ですか?」

デルフィーノ「しかもこんなにたくさん…!」

提督「ええ♪ お母様がみんなのためにって、この間のミラノコレクションのときに秋冬物を見繕ってきたそうよ…果たして何が入っているのかしら」

…大きな段ボール箱にはまだビニールでくるまれているまっさらなものから、昨シーズンのデザインだったり、数が揃わないなどで持て余されていたらしい衣類などが詰め込まれていた……とはいえ元はファッションデザイナーのクラウディアだけあって、使い勝手の良さそうないいものを上手く選んである…

ガリバルディ「私はこれがいいわ」

エウジェニオ「それじゃあ私はこれを♪」

アヴィエーレ「ふむ、私はこれにしたいところだね…」

アンジェロ・エモ「わ、わ、どれにしようか迷ってしまいます…♪」

提督「はい、ちょっと待って…!」服を取り出してはきゃあきゃあと歓声を上げながら品定めをする艦娘たちに待ったをかけた…

オンディーナ「どうしたんです、提督?」

提督「今から話すわ…あのね、お母様はたくさん服を送ってきてはくれたけれど全員分って言うわけには行かなかったでしょうし、みんなの好みもあるから、数が足りないこともあると思うの……それに哨戒の娘たちが帰ってこないうちに選んでしまうのはよろくしないでしょう?」

ライモン「そうですね」

提督「と言うわけで、選ぶのは哨戒の娘たちが帰ってきてから…それと、もし欲しいものが誰かとかぶったら当事者同士で相談して決めるかくじを引くこと…そのときは私か秘書艦の二人、あるいは自分のクラス以外からネームシップの娘を呼んできて、きちんとやり取りを見ていてもらうこと…いいわね?」

一同「「了解」」

提督「それから、倉庫にもうちの分として管区司令部から送られてきた秋冬物の服があるから…それもそのとき一緒に確認しましょう♪」

デルフィーノ「それじゃあ、後で出してこないとですね♪」

提督「ええ。もっとも管区司令部から送られてくるのは財務警察が押収品を競売にかけて、応札のなかった物だから……あんまり期待は出来ないかもしれないわね」

チェザーレ「分からぬぞ、もしかしたら意外な掘り出し物があるやもしれぬ」

提督「そうだといいわね…とはいえ、そこの鎮守府では誰も欲しがらない物を「そちらではどうですか?」って送りあったりするのだけれど、気付いたらいつか自分の所から送った物が巡り巡って戻ってきた……なんて言うこともあるくらいだから」そう言うと肩をすくめて苦笑いを浮かべた…

シーレ「まるで渦みたいね」

ヴォルティーチェ(フルット級「渦動」)「呼んだ?」

シーレ「呼んでない」

ゴルゴ(フルット級「渦」)「それじゃあ私?」

シーレ「だから呼んでないわよ!」

アッチアイーオ「ぷっ…くくっ♪」

ライモン「くすくす…っ♪」

デルフィーノ「あはははっ♪」

提督「ふふっ…♪」

シーレ「まったくもう…♪」
785 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/25(日) 02:03:45.90 ID:CmTRydi40
…午後・提督私室…

提督「それはそうと…せっかくの機会だから、私も服を秋冬物と入れ替えるとしましょう」執務机で書類を整理していたが、ある程度片付いたところで「思いたったが吉日」とばかりに立ち上がると、私室のクローゼットを開けた…

デルフィーノ「私も手伝います♪」

提督「ええ、ありがとう…それじゃあ夏物は洗濯屋さんに出すから、とりあえずこっちに…それから衣装箱を開けて、と……」樟脳(虫除け)の入っている衣装箱を開けると、ハンガーに掛けたり畳んだりし始める…

アッチアイーオ「結構色々持ってるのね」

提督「ええ、お母様がシーズンごとに何着かは送ってくれるから…んー、これはもう着られないのよね……」身体が成長したことと好みが変わったことで、着られなくなったり着るつもりがなくなったりした服を取りのけていく…

デルフィーノ「わ、これなんか可愛いです♪」

提督「そうねぇ、でも私にはちょっと可愛すぎるから……後でほしい娘がいたらあげることにしましょう」

アッチアイーオ「提督、これはハンガーに掛ければいいかしら?」

提督「ええ、お願い」

アッチアイーオ「ふぅん、あんまり服には詳しくないけれど…これって結構いいコートなんじゃない?」取り出した黒いベルテッドのトレンチコートをしげしげと眺めた…

提督「そうね、それは少尉任官のときにお母様とおばさまがプレゼントしてくれた物だけれど…十数万リラくらいはしたはずよ」

デルフィーノ「わ、ずいぶん高いですね」

提督「ええ。なんでもお母様いわく「コートやジャケットはいいものを買いなさい、それと色は地味にすること…真っ赤なコートなんて買ったら、目立つから着回しできないわよ?」って……だから私も黒と灰色、それと白に近いベージュの一着ずつにしたわ」そう言って衣装箱からダブルの灰色コートと、ベージュのラップコートを取り出してみせた…

アッチアイーオ「そういうものなのね…エウジェニオやなんかはお洒落だしそういうのに詳しそうだけど、私にはよく分からないわ」

提督「まぁまぁ、お洒落なんてしたくなった時にすればいいのよ♪」

…そう言いながら厚手のスカートやふんわりとしたカシミアのセーター、それに黒革の手袋やニーハイのヒールつきブーツなどを取り出していく提督…革手袋やブーツは去年のシーズン終わりにきちんと湿気を除き、表面も皮革用クリームで磨いておいたおかげでどこも悪くなっていない…

デルフィーノ「提督、これはどこに置きましょうか?」くるぶしに金色のバックルがついたショートブーツを持って聞いた…

提督「あぁ、そのブーツね…実はそれ、ローマにいたときに「ちょっとつま先が細いけれどお洒落だし…」って買ってみたけれど、やっぱり履いていると足が痛くって……」

デルフィーノ「じゃあこっちですね?」

提督「ええ」

デルフィーノ「分かりました♪」

提督「こうしてみると私も買ってないようでいて、ずいぶん衣装持ちだったのね…」腕を組んで「むぅ…」とうなった……

アッチアイーオ「ま、提督の場合はお母様がデザイナーなんだし…無理もないんじゃない?」

提督「それもそうね……さーて、それじゃあ洗える物は今のうちに洗濯機にかけておきましょうか♪」

アッチアイーオ「私も運ぶわ」

提督「ええ、ありがとう…それじゃあデルフィーノ、私とアッチアイーオは洗濯をかけに行ってくるから、その間に皆に譲る方の服はまとめておいてもらえるかしら?」

デルフィーノ「はい」

提督「それじゃあお願いね♪」提督とアッチアイーオは普通に洗える種類の衣服を両手に抱え、部屋を出て行った…

デルフィーノ「…さぁ、それじゃあ残りを片付けるとしましょう。これはこっちで……」

デルフィーノ「ふ〜ふ〜ん…ふふ〜ん……♪」一人で軽くハミングをしながら、てきぱきと片付けていく…

デルフィーノ「次はさっきのブーツですけれど……ちょっと履いてみたいですね///」軽く足を入れてみると、デルフィーノの足は小さいので難なく履ける…そのままとんとんっ、とつま先を軽く床に打ち付け、足の据わりを整える……

デルフィーノ「あ…これ、結構いいかもです♪」姿見の前に行くと足元をしげしげと眺めてみる…金のバックルのついた黒革のショートブーツが足元をきっちりと締めている…

デルフィーノ「っと、遊んでいないで片付けないとですね…よいしょ……」そう独りごちてブーツを脱いで手に提げると、ふと顔に近づけた…

デルフィーノ「……なんだか独特の匂いがします///」なめし革の強い匂いとほんのり残った蒸れた匂い、それにかすかな土の匂いが混じって、妙にデルフィーノを引きつける…

デルフィーノ「すう…んはぁぁ……///」今度は酸素マスクのように鼻をあてがい、深々と匂いを吸い込んだ……

デルフィーノ「んんぅ…はぁぁ……んっ、んぅ…ぅ♪」右手でブーツを持ったまま、左手をスカートの中に滑り込ませる…

デルフィーノ「すぅぅ……はぁ…んぅぅ…はぁ…///」くちゅ…くちゅっ♪

デルフィーノ「ふあぁぁ…たまらないです…ぅ///」ぺたりと床にへたり込むと、とろんとした表情を浮かべて秘所をかき回し続けた…

………

786 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/27(火) 10:48:21.03 ID:62y48hEH0
…夕食後…

提督「さてと、それじゃあみんなお待ちかねのようだから始めましょうか」

シロッコ「待ってました♪」

提督「はいはい…まずはテーブルの上に並べていくから、欲しいものがあったら目安を付けておくこと」小山のように積み上げられた服を全員で並べ、番号を書いた紙を添える…

アオスタ「並べ終わりました」

提督「そうみたいね……それじゃあ後は一から順番にやっていきましょうか」オークションスタイルで順繰りに服や小物を提示していき、欲しい娘たちには手を上げてもらう…

提督「まずはこのスカートからね……色はお洒落なグレイだし生地もなかなかいいけれど、デザインはちょっと古いかもしれないわ…誰か欲しい人?」秋には良さそうな、厚手の生地で出来た膝丈のスカート…

カヴール「はい、わたくしが」

ザラ「私も」

提督「あら、いきなりかぶったわ……それじゃあ後でお互い話し合って決めてちょうだいね?」

カヴール「はい」

ザラ「私もあれは欲しいから…譲らないわよ、カヴール♪」

カヴール「ええ♪」

提督「次は……ウールのダッフルコートね。ウールだから結構ずっしりしているけれど、デザインはいいし…袖に色落ちこそあるけれど、哨戒の時なんかにはいいんじゃないかしら」

アミラーリオ・ディ・サイント・ボン「では本官が」

アミラーリオ・ミロ「私も欲しいです」

バリラ「私もよ。哨戒の時に使っているコートがだいぶよれてきちゃったし…」

提督「あらら、ずいぶん競合しちゃったわね」

アオスタ「大型潜の娘たちの身体に合うサイズとなると、意外とないものですから」

提督「言われてみればそうね……女性用の大きいサイズだと余っちゃうし、かといって若い娘向けのファッションでもないものね」

アッチアイーオ「なまじ大きい身体だと、そこが悩みどころよね」

提督「ええ……それじゃあ次は…黒革のスキニーね。サイスがタイトだから、選ぶなら気をつけてね」

バンデ・ネーレ「それはボクがもらうよ。サイズも見ておいたけれどちょうどだったからね」

提督「そう、誰か他に欲しい娘は?」

バンデ・ネーレ「…どうやらいないみたいだね」

提督「みたいね。それじゃあバンデ・ネーレ、これは貴女のものよ」

バンデ・ネーレ「よし…♪」

提督「それから次はセーターね……色は微妙だけれど、まぁ普段使いにする分には悪くないと思うわ。誰か欲しい人?」

提督「誰もいない? …それじゃあこれは他の鎮守府へ送る分に回すわ」

提督「それからこれは……」

…しばらくして…

カヴール「では、今度何かの形でお返ししますから」

ザラ「いいのよ、私には少し大きすぎたし……貴女が使ってちょうだい」

カヴール「ええ、ありがとうございます♪」

提督「…それじゃあフレッチアがこっち、フォルゴーレがこっちのにしたら?」

フォルゴーレ「そうね、私はそれでいいけれど…そっちはどう?」

フレッチア「ええ、いいわよ」

アッチアイーオ「そろそろ片付くわね」

提督「そうね…でもみんな喧嘩もなしに融通しあってくれるから助かるわ」

アッチアイーオ「そりゃあ子供じゃないんだから」

レモ「ま、見た目は中学生くらいだけどね♪」

アッチアイーオ「余計なお世話よ…!」

提督「ふふっ…♪」
787 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/01(日) 01:22:17.66 ID:OBHjSCOZ0
…夜…

提督「えーと、それじゃあこれが哨戒組の娘たちが希望していた分……と」

…近海哨戒に出ている艦娘たちには出撃前にどれが欲しいか見定めておいてもらい、代わりに提督が「応札」する形で参加していた…そして競合する娘が少なかったおかげで、出撃組にはおおかた希望通りの物が手に入っている…

アッチアイーオ「これなら、あの娘たちも納得じゃない?」

提督「そうね…それにしてもみんな楽しそう」

…すっかりはしゃいでいる駆逐艦や中型潜の娘たちや、姿見の前で服をあてがっては組み合わせを考えるのに余念が無い軽巡や重巡たち…そしてまだまだはしゃぎたい盛りのリットリオたちを除いて、いずれも大人の余裕をのぞかせてコーディネートの助言をしてあげる戦艦勢…

デルフィーノ「やっぱりみんなお洒落はしたいですから」

提督「それもそうよね♪」

デルフィーノ「はい♪」

提督「さてと…それじゃあ二人も色々楽しみたいでしょうし、後は自由にしていていいわ。 お疲れ様」

アッチアイーオ「了解」

デルフィーノ「分かりました」

…中型潜「スクアーロ」級の部屋…

デルフィーノ「ただいまです」

ナルヴァーロ(イッカク)「お帰りなさい…秘書艦の業務はもう良いの?」

デルフィーノ「はい、提督が「どうせ明日以降でもいい書類ばかりだし、今日は選んだ服を試してみたいでしょうから」っておっしゃって切り上げてくれました♪」

トリケーコ(セイウチ)「それは良かったわね」

デルフィーノ「はい♪」

スクアーロ(サメ)「…あら、デルフィーノ……夕食後の執務はなし?」

デルフィーノ「はい、提督が切り上げてくれました♪」

スクアーロ「それは良かったわね…ところで、これはどう?」よく見ると黒革のショートブーツを履いているスクアーロ…きゅっと引き締まったふくらはぎへの曲線と、くるぶしについた金のバックルが足元を引き締めている……

デルフィーノ「あ、それ…」

スクアーロ「そう。さっき競り落としたの…サイズもちょうど良いし、デザインもお洒落だから気に入ったわ」

デルフィーノ「そ、そうですね…///」(まさかさっきあのブーツを使っていやらしいことをしたなんて言えないです…)

ナルヴァーロ「…どうかしたの、デルフィーノ?」

デルフィーノ「いえ、なんでもないです…!」

トリケーコ「おおかたそのブーツを履いたスクアーロ姉さんに踏まれるところでも想像していたのね…♪」

デルフィーノ「ち、違います…っ///」

スクアーロ「いいのよ、して欲しいならそう言って……だってデルフィーノはいやらしいことが大好きだもの…ね?」そう言うと、白く輝く尖った歯で首元を甘噛みした…

デルフィーノ「ふぁぁ…っ、お姉ひゃ…ん///」

スクアーロ「それにしても、本当にこのまま食いちぎりたくなるような柔肌ね…ふふ♪」

デルフィーノ「あふっ…もう、だめですよ……ぉ///」

トリケーコ「ふふっ、デルフィーノってば全然嫌がっているように聞こえないんだから…♪」

ナルヴァーロ「全くね…いやらしくて可愛い♪」

スクアーロ「今夜はじっくり味わってあげようかしら。 …ね、デルフィーノ?」

デルフィーノ「も、もう…お姉ちゃんってばぁ……///」

788 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/03(火) 02:37:43.63 ID:MfAXWcwc0
…とある日…

アッチアイーオ「おはよう、提督」

提督「ええ。おはよう、アッチアイーオ…ん♪」文書便の束を両手で抱えて持ってきたアッチアイーオを執務室に迎え入れると、左右の頬に挨拶の口づけをした…

アッチアイーオ「え、ええ……文書便を持ってきたわよ///」

提督「ありがとう、机の上に置いてもらえる?」

アッチアイーオ「分かったわ…そう言えば提督宛にずいぶん分厚い封筒が届いてるけど」

提督「本当ね、いったい何かしら……あぁ♪」A4サイズの分厚い書籍が楽々と収まりそうな大きい公用封筒に書かれた宛名を見て、得心がいったような声をあげた…

アッチアイーオ「何だか分かった?」

提督「えぇ、これは「交換プログラム」の結果をまとめた報告書よ…各鎮守府の提督たちが提出したレポートをまとめたものね」

…ペーパーナイフで封を切り、中から綺麗に製本されたカタログのような冊子を取り出した……表紙は艶のある紙に単縦陣を組むイタリア海軍艦艇が写っていて、タイトルには「戦術知識交換プログラム報告書」と麗々しく記されている…

アッチアイーオ「提督のもあるの?」

提督「もちろん。最も私の報告書だけじゃなくて、全部の報告書をコピーして見られるようにしておくわ……せっかくだからちょっと読んでみようかしら」目次を見て興味を引いたページをめくる…

提督「…これはルクレツィアの報告書ね「エーゲ海管区・レロス島第十二鎮守府。艇隊司令・ルクレツィア・カサルディ中佐」と……」

アッチアイーオ「カサルディ中佐…あの小柄でさっぱりした感じの人ね」

提督「そうそう…えーと、表題は「エーゲ海における「深海棲艦」船団に対する夜襲についての報告」と…今でこそいくらか静かになったけれど、エーゲ海と言ったら一時は深海棲艦がうようよしていた激戦地だもの……あのMS(※Moto Silurante…魚雷艇)やMAS(※Motoscafi anti sommergibili…直訳すると「対潜機動艇」だが、実際は高速魚雷艇)の娘たちにしたって、なりは小さいけれど、相当暴れていたって聞くわ」

アッチアイーオ「らしいわね」

提督「ええ「…日の2300時、月明を背にした敵船団に対し、島陰を利して隠密接近を図る。夜霧がかかっていたため接近は容易であったが、航跡が白く目立つためごく低速で射点に着く…」魚雷艇の戦いでは鉄則ね」

アッチアイーオ「ま、私たち潜水艦も似たような物だけれど…あっちは潜れない代わりに四十ノットは出せるし、こっちは潜れるけど水中じゃあ七ノットがせいぜい……どっちがいいかは「神のみぞ知る」って所ね」

提督「ええ。続きを読むわよ…「護衛は「ハント」級護衛駆逐艦一隻および「花(フラワー)」級コルヴェット二隻で、護衛駆逐艦が一キロほど先行し、コルヴェットが左右およそ500メートルに展開、およそ八ノットで航行」…目に見えるようね……」

………

…エーゲ海・とある夏の夜…

カサルディ中佐「…いい? 魚雷を発射したら一気に増速、尻に帆かけて逃げ出すわよ」

MS16「分かってるわ、司令」

カサルディ中佐「よし…22も分かってるはずだけど……」夜霧で霞む先をにらみ、僚艇であるMS22を見つけようとする…

MS16「大丈夫、22とは息ぴったりだもん♪」

カサルディ中佐「そうだったね……魚雷は深度三メートル、速度四〇ノットに調整。目標、中央の輸送船タイプ」

MS16「調整よし」

カサルディ中佐「機銃と爆雷は?」

MS16「ブレダ二十ミリは榴弾を装填、8ミリ機銃は通常弾。爆雷は零深度に調定済み…あっちの足元に転がしたらきっと大騒ぎになるよね♪」

カサルディ中佐「ふっ、違いないね……発煙浮標」

MS16「いつでも落とせるよ♪」

カサルディ中佐「よし、それじゃあ一暴れ行きますか…魚雷一番、二番、てーっ!」

MS16「魚雷一番、二番、発射!」発射管から450ミリ魚雷が滑り出してバシャンと水中に飛び込むと、そのまま霧の向こうにぼうっと見える黒いシルエットに向けて航走する…

カサルディ中佐「…気付かれた! 機関全速、取り舵一杯!」深海側も白く伸びる雷跡を目ざとく見つけ、たちまち探照灯が海面を払い、照明弾が打ち上げられる…

MS16「命中! …いいけどにぎやかになってきたね、司令!」

…船団の中ほどにいた3000トンクラスの輸送船に魚雷が命中し、火柱が高々と上がる…しかし同時に深海側のエリコン機銃やポンポン砲がうなり、ヒュンヒュンと空を切る曳光弾の赤い尾と、左右の海面に水飛沫をあげながら着弾する機銃掃射が迫る…小さい身体で舵輪を回しながら、猛烈な速度で離脱を図るMS16…

カサルディ中佐「ちっ、冗談にもならないわ…ハント級が追ってくる!」護衛駆逐艦が急回頭して、離脱にかかっているMS艇に追いすがってくる…

MS16「それじゃあ爆雷があるから落っことしてあげよっか!」追ってくる敵艦の目の前で炸裂するよう零深度に調定にしてある爆雷を艇の後部から転がし、同時に敵艦が爆雷を避けようと回頭したところで座礁することをもくろみ、島の間の浅海をすり抜ける…

カサルディ中佐「……あ、奴さんあきらめたみたいね」どうやら浅瀬の砕け波に気付いたらしく、追撃をあきらめて戻っていく深海棲艦の「ハント」級…

MS16「ふふーん、私もやるでしょ…司令♪」小さい身体で伸びをして、唇にキスをした…

カサルディ中佐「ええ、最高だったわよ……スリル満点でね♪」鉄兜を脱ぐと煤と硝煙と汗にまみれた額を拭い、歯を見せて笑いかけた…

………

789 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/07(土) 02:46:49.69 ID:wcnABbjn0
済みません、書き間違いがありましたので訂正しておきます。

MAS艇は小型なので450ミリ型の魚雷ですが「MS.T」型艇は1941年ごろにユーゴスラビアから鹵獲したドイツ製「Sボート」を参考にしたので、搭載魚雷は533ミリでした…失礼しました。
790 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/07(土) 11:02:39.25 ID:wcnABbjn0
提督「…で、結果として「3000トン級一隻大破、また僚艇MS22の雷撃により1500トン級一隻撃沈…」と…ここからは夜間の水雷戦に関する戦術論ね」専門的な部分は後でしっかり読み込むこととして、ぱたりとページを閉じた…

アッチアイーオ「ふーん、一回の出撃で一隻撃沈と一隻大破……まぁなかなかね」

提督「あら、アッチアイーオったら妬いてるの?」

アッチアイーオ「なんでこの私が他所の艦娘が挙げた戦績をうらやましがる必要があるのよ、馬鹿馬鹿しい…ところで、それも司令部からの書類じゃないの?」

提督「どれどれ…あ、これね」管区司令部発の封筒を引っ張り出し、封を切る…

アッチアイーオ「で、内容はなんなの?」

提督「今読むわ……あぁ♪」

アッチアイーオ「なんだか嬉しそうね、昇給の通達か何か?」

提督「いいえ、これが届いたの……冬期休暇の申請書類♪」申請手続きの要項が書かれた書類を指でつまんで、お見送りのハンカチのようにひらひらと振って見せた…

アッチアイーオ「あぁ、もうそんな時期ね…」

提督「ええ。ここに着任してから毎日充実はしているし満足もしているけれど…夏の休暇は色々あって結局忙しかったし、クリスマスは実家でのんびりしたいわ」

アッチアイーオ「そうね、それもいいんじゃない? ところで……」

提督「…もしアッチアイーオが良ければ、私と一緒に冬期休暇を過ごさない?」

アッチアイーオ「…っ///」

提督「言いにくそうにしているから、てっきりそういうことなのかと思ったけれど…違った?」

アッチアイーオ「ち、違わないわよ…っ///」

提督「ふふ、良かった……みんなの分の申請書も入っているから、後でちゃんと渡さないと」

アッチアイーオ「そうね」

提督「ええ…って、もうこんな時間。 …今さら書類の処理を始めても中途半端になっちゃうでしょうし、いっそ先に申請書を配っちゃいましょうか♪」

アッチアイーオ「私はいいけど…午後の執務が大変になるんじゃない?」

提督「いざとなったら貴女がいるから大丈夫♪」

アッチアイーオ「もう、調子がいいんだから…///」

…数分後・中型潜「ペルラ」級の部屋…

提督「…失礼、ちょっといいかしら?」

ペルラ「どうぞ?」

提督「チャオ、ペルラ…みんなも♪」

ベリロ(ペルラ級「ベリル(緑柱石)」)「ごきげんよう、提督…どうかしましたか?」

提督「ええ、実はこれが届いたから渡しておこうと思って……♪」

ディアスプロ(ペルラ級「ジャスパー(碧玉)」)「あ、冬期休暇の申請書ですね」

提督「そう。国内なら大丈夫だけれど、どこか海外に行きたいようなら管区司令部が渡航していいか審査するから…少し早めに出した方がいいわ」

トゥルケーゼ(ペルラ級「トルコ石」)「…非友好国や紛争中の国もありますからね」

提督「そういうこと。まぁたいていの西ヨーロッパ諸国と、アドリア海を挟んだ「お向かい」のアルバニアやクロアチアとかなら大丈夫でしょうけれど…ところで、そのネックレス……」

…それぞれ宝石や貴石を艦名に持ち、由来となった宝石のアクセサリーをたくさん持っているため、まるで宝飾品店の店先のようにきらびやかなペルラ級の部屋…今もお互いにネックレスや指環、ティアラを交換して試していたようだが、提督はペルラたちのネックレスを見て、妙な表情を浮かべている…

ペルラ「とても綺麗でしょう、提督?」白い真珠のネックレスを首にかけている…

提督「そうねぇ…とても艶のあるいい真珠だし、ペルラに似合っていて素敵だけれど……少し長くないかしら?」提督が持っている40センチや45センチのネックレスに比べると少々長く、胸の谷間に届こうとしている…

ペルラ「ええ、でもこれでいいんです♪」にっこりと微笑むと綺麗な白い歯がのぞく…

提督「…と言うと?」

ペルラ「ちょうど53.3センチあるんです」

提督「あ、533ミリ魚雷と合わせてあるわけね♪」

ペルラ「はい」

提督「なるほど……それじゃあ休暇申請の方はよろしくね?」

ペルラ「了解♪」
791 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/12(木) 01:53:07.64 ID:yB2GUe8y0
…お茶の時間・食堂…

カヴール「…クリスマス休暇の申請書ですか」

ライモン「早いものですね、提督?」

提督「本当にねぇ……でもローマにいたときの気ぜわしい感じとは違って、一日が鮮やかに彩られている気分よ♪」

アッテンドーロ「へぇ、提督ったら詩人ね……」

ルイージ・セッテンブリーニ(中型潜セッテンブリーニ級)「提督は文学も良くたしなまれておりますからね」(※セッテンブリーニ…リソルジメント(イタリア統一運動)に参加した愛国詩人)

ゴフレド・マメリ(中型潜マメリ(マメーリ)級)「図書室でもよく会うものね」

(※マメリ…同じく愛国詩人でガリバルディの側近として共闘。現在のイタリア共和国国歌「フラテッロ・ディターリア(イタリアの兄弟)」を作詞したことから、この曲を「インノ・ディ・マメーリ(マメーリの賛歌)」とも呼ぶ)

ジョスエ・カルドゥッチ(駆逐艦オリアーニ級)「確かに提督は読書家です」(※カルドゥッチ…同じくノーベル文学賞の詩人で愛国者)

提督「もう…文学者の皆に言われるとくすぐったいわ♪」

ガリレイ「…あら、みんな楽しそうね」

トリチェリ「なんのお話をしていたんですか?」

提督「あら、みんな……今はちょうど「冬期休暇の申請書が来た」って言う話をしていたのよ。 みんなの部屋にも届けたから、早めに記入して提出してね?」

…提督たちがのんびり会話をしていると、鎮守府の科学者や天文学者、物理学者の名を持つ潜水艦の娘たちがぞろぞろと入ってきた…そしていずれも中世の学者たちが科学とともにたしなんでいたためか「錬金術士」の格好をしていて、可愛らしいケープや帽子をまとっている…

トリチェリ「はい♪」

アルキメーデ「それなら早めに記入しないといけませんね」

提督「ええ…ところでなんだかいい匂いがするわね?」

ダ・ヴィンチ「ふふーん、提督ったら……せっかく驚かそうと思っていたのに♪」今日はピンク色の帽子に同系統の色合いでまとめた短いケープと上着、それに膝丈のプリーツスカートで、脚は飾りのついた茶革のニーハイブーツでまとめている…

提督「?」

ダ・ヴィンチ「じゃーん…♪」後ろ手に隠していた皿を前に回して披露する…

提督「あら、美味しそうなパイ…厨房で作ったの?」

ダ・ヴィンチ「いいえ、ちょっと錬金釜でね♪」

提督「へぇぇ、錬金術でパイを…ねぇ。 …まぁ錬金術かどうかはさておき、美味しそうに出来ているわね」

ダ・ヴィンチ「良かったら味見する?」

提督「ええ、せっかくだから…それと良かったら、みんなにも一切れずつ分けてあげて?」

ダ・ヴィンチ「もちろん…♪」ナイフを入れると「さくっ」と良い音を立て、焼けたパイ皮とバターの香ばしい香りと、中に詰めたリンゴの甘い芳香が立ちのぼった…

提督「あら、いい香り……いただきます」フォークで小さく切ると口に運んだ…パイ皮は軽くさっくりとした歯ごたえで、中のリンゴは食べにくくならないようプレザーヴ(少し形を残したジャム)スタイル、そしてシナモンは利かせずさっぱりした味わいに仕上げてある…

ドリア「…あら、本当に美味しいですよ」

セッテンブリーニ「レオナルドは万能の天才ですね♪」

ダ・ヴィンチ「…提督はどう?」

提督「ええ、とっても美味しい。 私はシナモンが多いタイプのアップルパイは苦手だから、こういう味だと嬉しいわ♪」

ダ・ヴィンチ「良かった……おかげでちゃんと提督に食べさせることが出来たし♪」

提督「え、それってどういう…っ!?」不意に脳の血管に「どくん…っ!」と拍動が響いた…

ライモン「うっ…!?」

ドリア「あ、頭が……」

ダ・ヴィンチ「…その様子だと上手くいったみたいね♪」

提督「ダ・ヴィンチ、このパイに一体なにを……」
792 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/14(土) 13:36:12.68 ID:zXFHtiTN0
ダ・ヴィンチ「実はねぇ…そのパイは「一時的に性格を変えちゃうパイ」なの♪」

カルドゥッチ「なんでそんなものを食べさせたんですか…」

ダ・ヴィンチ「いや、それが作ってみたら普通に出来ちゃったものだから試してみたくて♪」

ガリレイ「あれ、普通のパイじゃなかったの…?」

トリチェリ「てっきり私もただ錬金術でパイを作ったものと……」

セッテンブリーニ「そんなことはどうでもいいから…提督、大丈夫ですか?」まだパイに手を付けていなかったセッテンブリーニが提督を揺さぶる…

提督「…」

ダ・ヴィンチ「…提督?」

提督「……ふぅーん。ダ・ヴィンチは普段の私じゃあ満足出来なかったわけ」ゆらりと椅子から立ち上がった提督は、金色の瞳に妖しげな光をたたえている…

ダ・ヴィンチ「いえ、別にそういう意味では…」

提督「じゃあどういうつもりでこんなことをしたの…ねぇ?」あごに親指をあてがい、ぐいと顔を上げさせる…

ダ・ヴィンチ「えぇと、だから面白いかと……」

提督「そう、じゃあ私も面白ければダ・ヴィンチに何をしてもいいわよね…ぇ♪」

ダ・ヴィンチ「え、えっ……///」

提督「どうしたの、だって面白ければ何をしてもいいんでしょう? 少なくとも、私は面白いわよ…♪」ダ・ヴィンチの腰に手を回してぐっと引き寄せ、さげすむような視線を投げかける…

ダ・ヴィンチ「あう…///」

提督「ふふっ、おどおどしちゃって可愛いじゃない…♪」んちゅ、むちゅ…じゅるうぅっ♪

ダ・ヴィンチ「んふっ、んんぅぅ…っ///」

提督「んちゅ、ちゅぷ……ちゅるっ、ぢゅむ…じゅるぅっ♪」

ダ・ヴィンチ「んっ、ふぅぅん…っ///」

提督「ちゅむぅっ……ぷは♪」

ダ・ヴィンチ「…はひぃ///」

提督「あら、もう終わり……?」口元から垂れた唾液を手の甲で拭うとゆっくり視線を動かし、食堂にいる娘たちを品定めするようにねっとりと眺めた…

トリチェリ「うわ、提督の目が据わっていますよ…先生、どうするんですか?」

ガリレイ「と、とにかく効果が抜けるまで待つしかないでしょう…ドリアたちは?」

トリチェリ「そう言えばライモンドとムツィオも食べていましたね…」恐る恐る視線を向ける…

ドリア「わー、このパイおいしー♪ ドリアこれ大好きですぅ♪」普段はおっとりした妙齢の女性であるドリアがぶりっ子の小娘のように高っ調子の声をだしている…

トリチェリ「…」

ガリレイ「1916年生まれの淑女がやってると痛々しい事おびただしいわね……ライモンドたちの方はどうなったの?」

ライモン「…ムツィオはいちいちわたしと提督の仲に口を挟みすぎです!」

アッテンドーロ「だって、私…お姉ちゃんの恋が成就してほしいから良かれと思って……」

ライモン「余計なお世話です! わたしは提督と愛を交わした仲だし、一昨日の晩だって三時間も情を交わしましたっ!」いつもは律儀で奥ゆかしいライモンがちゃきちゃきのナポリっ娘のようなべらんめえでまくし立て、さばさばした性格のムツィオは歯切れが悪い…

ガリレイ「…それはそれは♪」

トリチェリ「先生、今のは聞かなかったことにしてあげないと……きっとライモンド、後で真っ赤になっちゃいますよ」

ライモン「だいたい提督だって提督です! いっつも可愛い女の子とみれば見境なしに口説いて回って…ちょっと、聞いてますか!」

提督「どうしたのよ、ライモン…へぇ、眉をつり上げて怒ってみせて……嫉妬だなんて可愛いじゃない、その怒り顔がめろめろにとろけきるまで抱きたくなるわ…♪」身体を寄せると頬に手を添え、もう片方の手をスカートの中に滑り込ませる…

ライモン「言いましたね、今日はわたしの指で腰が抜けるまでイかせてあげますから!」

提督「あら、ライモンにそんなことが出来るのかしら……いつも鳴かされてばっかりのライモンに♪」長テーブルに上半身を押し倒す形で抱き合い、お互い主導権を争うように唇をむさぼり、乳房をこねくり回し、秘部に滑り込ませた指をくちゅくちゅと動かす…

トリチェリ「…あの、先生」

ガリレイ「はい、トリチェリ」

トリチェリ「提督とライモンドですが……性格こそ変わっていますが、やっていることはいつもとそう変わらないのでは?」

ガリレイ「え、なに…耳が悪くてよく聞こえなかったわ」

トリチェリ「…」
793 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/20(金) 02:19:14.68 ID:SxORM81s0
トリチェリ「と、とにかく早く何とかしませんと…!」慌てて食堂の壁掛け電話に駆け寄り、内線を回してラッパ型の送話器にとりついた…

…執務室…

アッチアイーオ「ふぅ、そろそろ私もお茶を飲みに行こうかしら……」と、内線が「リリリンッ…!」と鳴り響いた…

アッチアイーオ「内線?一体何かしら? …はい、こちら執務室」

トリチェリ「もしもし、こちら食堂です……執務室聞こえますか!」

アッチアイーオ「ええ、聞こえるわよ。 一体どうしたって言うのよ、トリチェリ…そんなに慌てふためいた声を出して?」

トリチェリ「アッチアイーオですか? 食堂でトラブルなんです、至急来て下さい!」

アッチアイーオ「トラブル?」

トリチェリ「はい、提督がダ・ヴィンチの作ったパイを食べたら性格があべこべになってしまって……とにかく手の付けようがないんです」

アッチアイーオ「またあのイカれた天才が何かやらかしたのね…了解、すぐ行くわ」

トリチェリ「はい、お願いしま……」そこまで聞こえた所で唐突に通話が切れた…

アッチアイーオ「トリチェリ?ちょっと、どうしたのよ?」再三話しかけてみるが、応答がない…

アッチアイーオ「……とにかく提督がおかしくなってるって言うんなら、平手打ちでもなんでもして正気に戻してあげるのが秘書艦の務めってものよね…!」

…食堂…

トリチェリ「はい、お願いします…!」そう言いかけた所で後ろから甘い吐息が吹きかけられたかと思うと、突然送話器のフックを押され電話を切られた…

提督「せっかく私が近くにいるのに、他の誰かとおしゃべりなんてしないで欲しいわねぇ……」

トリチェリ「えぇと、提督…とにかく落ち着いて下さい」

提督「あら、私は落ち着いているわよ…トリチェリ♪」トリチェリを壁に押しつけて頭のすぐ脇に手をつき、同時に膝の間に脚を割り込ませる提督……紅いルージュを引いた唇がゆっくりと、しかし着実に迫る…

トリチェリ「ん、ふ……///」

提督「んむ、ちゅっ、じゅるっ……ちゅるぅっ…」

トリチェリ「んんぅ…ん、あふっ……んん…っ///」

提督「ぷは…♪ 美味しかったわよ、トリチェリ。 それじゃあ皆の様子も見てくるけど……戻ってきたら、もっと素敵な事をしてあげるから…ここでいい娘にしていなさい♪」

トリチェリ「ふぁ…い///」

…廊下…

提督「あら、アッチアイーオ…♪」

アッチアイーオ「提督、食堂で一体何をやらかしたの…返事いかんでは提督と言えども引っぱたくわよ?」

提督「あら、怖い顔……でもね」普段の柔和な笑みとは違うサディスティックな欲望をどろりとにじませた表情を浮かべ、じりじりと距離を詰めてくる…

アッチアイーオ「ちょっと、それ以上近づかないで…っ///」

提督「…アッチアイーオ、貴女に私の事をぶったり出来ないのは分かっているの」

アッチアイーオ「……っ///」両の手首をつかまれ、口づけされるアッチアイーオ…相変わらず上手なことは上手だが、いつもの提督とは真逆の、相手を考えない自分本位のわがままなキスが続く……

提督「ふふ……脅しをかけるなら、もっと真実味のある嘘をつかないとだめよ…♪」

アッチアイーオ「もう知らない……どうとでも好きにすればいいでしょ…///」

提督「そうね、鋼鉄も熱すれば柔らかくなるというし……すぐとろっとろにして私好みの鋳型に流し込んであげるわ」んちゅっ、ちゅむ……♪

アッチアイーオ「んっ、んちゅ、ちゅぷ……んっ、あぁぁ…っ///」

提督「アッチアイーオったら、もうイっちゃったのね…♪」軽蔑をにじませたような声で耳元にささやく…

アッチアイーオ「ええ、そうよ……だって…提督とするのがたまらなく好きなんだものっ///」

提督「よく言えたわね……それじゃあご褒美にもう一回してあげる…♪」ちゅぷっ、くちゅっ……♪

アッチアイーオ「あっ、あっ、あぁぁぁ…っ♪」そのまま提督の身体にしがみつき、人差し指と中指でゆっくりと膣内をかき回されながら果てた…

………

794 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/22(日) 03:08:28.86 ID:raWz9qH30
…数分後…

提督「…スクアーロ、貴女は噛みつく悦びなら知っているでしょうけれど、たまには……噛みつかれる悦びを味わってみない?」かぷっ…♪

スクアーロ「んっ…んぁぁ♪」

提督「ふふふ……お腹が白くてとってもきれいね♪」ちゅ、ちゅ…っ♪

スクアーロ「提督ぅ…んっ///」

提督「ふーっ…可愛かったわよ、スクアーロ♪」

スクアーロ「ふあぁ…っ……///」しゃがんだ提督に脇腹を甘噛みされ愛撫され、最後はおへその辺りに息を吹きかけられると力が抜けたようにくずおれた…

提督「さーて、スクアーロ(サメ)のおつぎはデルフィーノ(イルカ)にしようかしら…♪」

デルフィーノ「あっ、あっ…あふっ……んっ♪」くちゅくちゅっ、ちゅぷっ…ぐちゅっ♪

提督「あら、デルフィーノってば私が「してもいい」とも言わないのに…どうして一人で勝手に始めているの?」

デルフィーノ「らって…ぇ♪」

提督「……あら、言い訳をするつもり? そんな悪い娘にはお仕置きが必要よね…ぇ♪」

…廊下で出くわすなり提督に責めまくられてイかされた姉スクアーロの様子を見て、これからされることを考えて欲情がおさまらないデルフィーノ…何もしないうちから内股になり、とろけた顔で膣内をかきまわしている…

提督「まったく、可愛い顔をしておきながら……そこで仰向けになりなさい」

デルフィーノ「ふあ…ぁ♪」

提督「…さあ、どうすればいいと思う? 頭のいい貴女なら分かるわよね?」ヒールを脱ぐと、黒いストッキングで包まれたつま先を顔の前に突き出した…

デルフィーノ「ふぁい……んちゅっ、れろっ……ぴちゃ…♪」片手で秘部をかき回しながらもう片方の手で提督の足を握ると、恍惚の表情を浮かべて一心に舐め始めた……

提督「ふぅん、デルフィーノはそうするべきだと思ったのね……もういいわ」

デルフィーノ「あ…」

提督「まだ舐めたいの? 相変わらずどうしようもないほどの発情期ね……安心なさい、まだ終わらせないから…♪」デルフィーノを軽蔑したような視線で見下ろすと、舐め回されてじっとりと濡れたつま先を濡れそぼったデルフィーノの花芯にあてがった…

デルフィーノ「ふあぁぁ…っ、ていとく…気持ひいいれす……っ♪」ぷしゃぁ…ぁっ♪

提督「全く、廊下の真ん中で愛液を滴らせながらよがって…デルフィーノ、どういうつもりなの?」

デルフィーノ「らってぇ…ていとくの足が……あそこを…ぐりぐりって……気持ひぃ…んぁぁぁっ♪」

提督「そう、それは良かったわ……ねっ♪」そう言って足をどけると、踏み換える形でヒールのかかとをデルフィーノの割れ目に押し込んだ…

デルフィーノ「んあぁぁぁ…っ♪」

提督「…それじゃあ、後はきちんと片付けておきなさい」

デルフィーノ「りょうかい…れふ……んくぅ…っ♪」

…作戦室…

アオスタ「はい、こちら作戦室……え、何ですか? 提督が?」内線を取るなりまくし立てられたらしく、しばらく耳を傾けているアオスタ…しかし話の内容が腑に落ちないらしく、眉をひそめてけげんな表情を浮かべている……

アオスタ「……一体どういう事ですか…とにかく分かりました、秘書艦の二人は? …連絡がつかない? 了解、ならばこちらから指示を出します…とにかく館内放送をかけますから」

トレント「…どうしたんですか?」

アオスタ「ええ…実は食堂から連絡があって、ダ・ヴィンチのせいで提督の性格があべこべになって大変だって……」

トレント「あべこべ…ですか?」

アオスタ「聞いた限りではとにかくわがままで自分本位、相手のことを考えないでキスしたり、それ以上も……とにかく襲われた娘が出て大変だって連絡があったわ///」

ザラ「なんだ……確かにスタイルはあべこべだけど、やっている事はいつもと同じじゃない」

アオスタ「冗談を言っている場合じゃないでしょう…とにかく提督と接触しないよう館内放送をかけます」

トレント「了解…それとここの鍵もかけます」

アオスタ「そうね」
795 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/30(月) 01:57:22.57 ID:3qHUnNkw0
館内放送「全艦娘に告ぐ!全艦娘に告ぐ! 現在、提督は正常な状態になく、鎮守府司令官としての職務遂行に問題があります…同時に、提督との接触は性的に非常な危険を伴いますから、全艦娘は居室ないしは手近な室内へと退避し施錠を行い、もし提督が解錠を指示、懇願、命令しても開けないよう伝達します!これは演習ではありません!繰り返します……」

提督「ふーん、館内放送とは思い切ったわね…♪」

…船渠…

ニコ(ニコロソ・ダ・レッコ)「ふー、疲れた」

ニコロ・ツェーノ「練習も楽じゃないからね…」

館内放送「…繰り返します…提督は現在……」

レオーネ・パンカルド「待って、館内放送が……」

ニコ「…館内放送? 一体何だろう?」

チェザーレ・バティスティ「さぁ…音量を上げないと聞き取れないかも……」

ニコ「弱装薬とは言え、砲撃練習の後だからね……」壁のスピーカーに手を伸ばしかけたところで、入口に立っている提督の姿を認めた…

提督「…」

ニコ「あぁ、提督…ニコロソ・ダ・レッコ以下駆逐艦四隻、ただいま練習より帰投しました!」

提督「ええ、ご苦労様……さぞ汗をかいたでしょうね…ぇ♪」そう言いながら後ろ手に船渠入口のドアを閉めた…

ニコ「はい……あの、提督?」

提督「…脱いで」

ニコ「えっ?」

提督「脱いでと言ったの…聞こえない?」

ニコ「いえ…」

提督「…それじゃあ四人とも並んで、気を付け」

四人「「…」」キャミソールやショーツとブラなど、それぞれ下着姿で並んだ四人…

提督「ふーん……」閲兵するかのように両手を後ろ手に組み、舐め回すような視線でニコたち四人を眺める…

ツェーノ「…」

提督「…れろっ」

ツェーノ「…っ///」

提督「しょっぱいわね……んちゅぅ…ぅ♪」ツェーノの鎖骨周りに吸い付くようなキスをすると、今度はバティスティの耳を舐め回した…

バティスティ「ふあぁ…っ///」

提督「バティスティ「気をつけ」は?」

バティスティ「はっ…///」

提督「よろしい……ちゅるっ、ちゅぷ…♪」隣に移ると直立不動の姿勢を取っているパンカルドの前で身体を屈めてお腹に口づけをし、脇腹に沿って舌で舐めあげる…

パンカルド「はひっ…///」

提督「いつ私が「休め」なんて言った…気を付け♪」

パンカルド「は、はい…っ///」

提督「パンカルド、貴女の「気を付け」はそういう姿勢なの?」前から手を回してきゅっと引き締まったヒップを撫でながら、蔑むような声でささやく…

パンカルド「い、いえ…!」

提督「そうよね……それじゃあもう一度、気を付け」

パンカルド「はい…っ///」

提督「結構…それじゃあ最後は……んむっ、ちゅる……じゅるっ、ちゅぷ…っ♪」ニコをレンガ敷きの床に押し倒して、白いショーツを引き下ろして指を秘部に滑り込ませると同時に、一方的なキスを浴びせかけた…

ニコ「ん、んんぅ…あふっ、んちゅ……んぅぅ…っ♪」

提督「ふう……よろしい、解散」しばらくニコをむさぼっていたが満足したと見えて、唐突に立ち上がると命令口調で言った…

ニコ「はへぇ…///」

ツェーノ「ニコ、大丈夫…!?」

ニコ「ふわぁ…ぁ///」
796 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/09/07(火) 01:56:56.21 ID:KijI5dgO0
…数分後…

アオスタ「それで、提督の現在位置は?」

トレント「…分かりません」

アオスタ「困ったわね…とにかく外に出ていた娘たちはモーターランチで海上に退避してもらったし、鎮守府の中にいるみんなには鍵のかかる部屋に籠城してもらったから、あとはパイの効果が切れるのを待てば良いのかもしれないけれど……被害が出ては困るわ」

ザラ「とはいえ私たちは艦娘なんだから、いざとなったら提督一人を抑え込むことくらいはできるんじゃない?」

アオスタ「そうかしら…タガが外れた提督を相手にするとなったら、一筋縄で行くとは思えないけれど……」

トレント「…確かに」

ザラ「……それもそうね」

…一方…

館内放送「…全艦娘に告ぐ!全艦娘に告ぐ!……」

アレッサンドロ「…ふふーん♪」

セルペンテ「ふぅ…ん♪」

ガリバルディ「へぇ…「性的に危険な」状態の提督、ねぇ♪」

エウジェニオ「…面白そう♪」

デュイリオ「あらあら…♪」

メドゥーサ「それはぜひとも愉しませてもらわない…と♪」

…それぞれの居室にスピーカーを通して流れてきた館内放送を聞くと読書や爪の手入れを終わらせ、他の艦娘たちとは逆に笑みを浮かべたり舌なめずりをしながら部屋を出る数人の艦娘たち…

…数分後…

提督「あーあ、誰もいないしつまらないわね。せっかくみんなを「教育」してあげようと思ったのに……♪」冷たく歪んだ欲望をたたえた瞳で辺りを見回しながら、鎮守府を歩き回る提督…

提督「せっかく私が部屋をノックしても誰も出てきてくれないし…いっそのこと「司令官命令」って言って無理にでもドアを開けさせて……」両手を後ろ手に組んだまま、つまらなそうに廊下を歩く提督…

アレッサンドロ「…その必要はないよ、提督♪」むにゅ…♪

提督「その声はアレッサンドロね……いきなりどこを触っているの?」乳房を持ち上げるように下から回されたアレッサンドロの手を取ると、ダンスを踊るようにくるりと回って向かい合った…

アレッサンドロ「それはもう、この豊かなふくらみ…さ……」浮いた台詞が出かかった所で提督に見据えられると、いつもの暖かな雰囲気とは違うサディスティックな瞳の色に身体が固まった…

提督「ねぇアレッサンドロ、外に出ちゃいけないってアオスタが放送していたでしょう…聞こえなかったの?」

アレッサンドロ「いや、聞こえてはいたけれどね…提督も一人じゃあ寂しいだろうと思ってさ……///」

提督「そう……でももし私が敵だったら、貴女はどうなるかしら…♪」そのまま数歩ばかり歩を進め、アレッサンドロを壁に押しつける…

アレッサンドロ「いや、でも提督は敵じゃないから……んっ///」

提督「それで…?」片手をアレッサンドロの服の中に入れてふっくらした胸をまさぐり、耳元にささやきかけつつ吐息を吹きかける…

アレッサンドロ「んくっ……んっ、あ…///」提督のもう片方の手が花芯に伸び、綺麗な指がするりと入ってくる…

提督「さぁ、アレッサンドロはこの状況からどうやって離脱するつもり……ほら、早く抜け出さないと…♪」くちゅ、くちゅ…っ♪

アレッサンドロ「んあっ、あふっ……あ、あ…っ♪」

提督「ほらほら、時間が経てば経つほど不利になるわよ…?」膝の辺りまで下着を引き下ろし、わざと粘っこい水音が響くように指を動かす…

アレッサンドロ「ふあぁ…提督っ、いいよ……いい…っ♪」くちゅ、とろ…っ♪

提督「そんな簡単にイっちゃったらつまらないわ……ほら、綺麗にして」とろりと糸を引いた右手を口元に突き出した…

アレッサンドロ「ふぁ…い///」膝の力が抜けてがくがくと震えるなか、提督が手を引っこめるまで人差し指と中指を丁寧に舐めあげた…

提督「後は好きなだけ自分でするといいわ……それじゃあ」

アレッサンドロ「りょ、了解…っ///」ぺたりと床に座り込み、トロけた表情で指を秘部に這わせる……
797 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/09/13(月) 10:32:34.28 ID:ZW5vAb4U0
………



…さらに十数分後…

セルペンテ「提督、海蛇(セルペンテ)に締め付けられたら逃れられないわよ…っ♪」

提督「そうね…でも、逃げる必要なんてあるのかしら……んちゅっ、ちゅっ、ちゅるっ、じゅるぅ…っ♪」

セルペンテ「ん、んぐぅ…っ!? ……あひっ、い゛…っ///」ぷしゃぁぁ…♪



メドゥーサ「私の眼を見て、提督……ほぅら、もう動けないでしょう?」見たものを石化させるというメドゥーサだけに、瞳で相手を見据えると身体をしびれたように動かなくさせることが出来る…

提督「ふふ…たとえ貴女がメドゥーサだとしても、私からすればただのかわいい娘に過ぎないわ……♪」金色の瞳がカエルをにらむ蛇のようにメドゥーサをねめつけ、舌が滑り込んでくる…

メドゥーサ「う、嘘でしょ……あ、あっ…んんぅ///」

提督「残念だったわねぇ…ゴーゴンの三姉妹の中で末っ子の貴女だけは人間に倒せるのよ? ……あるいは、私がステンノかエウリュアレーなのかもしれないけれ…ど♪」

(※ステンノ、エウリュアレー…ギリシャ神話に出てくるゴーゴン三姉妹の長女と次女。メドゥーサは髪の毛が蛇だが、上の二人は髪の毛が龍で不死身のため、ペルセウスにも退治は出来なかった。ゴーゴンにされてしまった理由は諸説あるが、月と守護の女神アテネに対し美しい髪を自慢して憎まれたためだとも言われる。一説にはアテナの機嫌を損ねた末っ子メドゥーサをかばったために二人も妖怪にされてしまったという)

メドゥーサ「は…はひっ……///」



デュイリオ「うふふっ…ここは通しませんよ、提督♪」豊満な身体で包み込むようにぎゅっと抱きしめ、胸元に顔を埋めさせる…

提督「そう……でも、貴女に私が止められるかしら…旧型の貴女に?」ちゅっ、ちゅるっ…むちゅっ…じゅるるぅぅっ、ちゅぱ…♪

デュイリオ「あんっ、あっ……あふっ…んぅ♪」

…執務室の前…

ガリバルディ「ねぇ、提督……執務室に入る前に…私に抱かれて、熱き血潮をたぎらせてみない?」

提督「ええ……もし私を熱くさせられるものならね」

ガリバルディ「言ったわね…革命家は恋愛も熱いのよ♪」

提督「んふっ、んちゅる……ぢゅるぅぅ…っ、れろっ…ちゅぷ……っ、んちゅ…♪」

ガリバルディ「ふ、んふっ…あむっ、ちゅるぅ…っ、ちゅ、ちゅ…っ…ちゅるっ、ちゅぅぅ…っ///」

提督「…ぷは」

ガリバルディ「はー、はー…っ///」

提督「もう終わり? …気が済んだのならここを通しなさい、ガリバルディ」

ガリバルディ「…オッベディスコ(従う)」

…執務室…

提督「ふぅぅ…」

エウジェニオ「……ずいぶんお疲れのようね、提督」

提督「エウジェニオ、執務室に何かご用?」

エウジェニオ「ええ……その綺麗な顔を間近で見たくて…♪」するりと後ろに回り込むと肩に手を回し、耳元でささやいた…

提督「今日はみんながそう言ってすり寄ってくるわ……」

エウジェニオ「安心して、私で最後よ…♪」ちゅっ、ちゅ…っ♪

提督「ん、あ……っ///」

エウジェニオ「みんな貴女の事が分かってないのよね……力づくでどうこうしようとしたってどうにもならないの…に♪」ちゅ…っ♪

提督「んふっ、あむ…っ♪」

エウジェニオ「…こういう時は純粋で優しい口づけから始めないと……ちゅ、ちゅ…っ♪」数分ばかりついばむようなキスをしていると、次第に提督の瞳に光が戻ってきた……

提督「んちゅ……エ、エウジェニオ…ちょっと待って///」

エウジェニオ「あら、どうやら元に戻ったみたいね……でも駄目、しばらくは私と付き合ってもらうわよ♪」

提督「ええ……あっ、あん…ああぁんっ♪」
798 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/09/20(月) 02:33:58.58 ID:NlCXmcoT0
…数時間後…

提督「ふぅ…はぁ……んっ♪」

エウジェニオ「ふふふ、可愛かったわよ…提督♪」ベッド脇の小机に畳んでおいた服を手際よく着ると「それじゃあね♪」と小さく手を振り、ウィンクを投げて出て行った…

提督「あ、んんぅ…またね……エウジェニオ…」

提督「はぅん…っ……とっれも、気持ひ…よかった…ぁ///」身体のあちこちにじんわりと残るエウジェニオの指先の余韻を感じながら、ベッドで仰向けになっている提督……

提督「……せっかくだから…もう、ちょっとだけ…♪」くちゅ…っ♪

………

…翌日・会議室…

提督「さてと…ダ・ヴィンチ、何か申し開きしたいことは?」

ダ・ヴィンチ「反省はしているけれど、後悔はしていないわ…だって試したかったんだもの」

提督「そう……では、みんなの意見は?」

カヴール「普段でしたらちょっとしたいたずらとして口頭での注意で良かったのでしょうが、提督が執務できないような状態だったことを考えますと……何かしらの罰直は必要かと」

ザラ「そうね、アオスタが提督の「指揮不適格」を宣言して鎮守府の指揮系統を維持したから良かったようなものの…まかり間違えば大変な事になっていたかもしれないわ」

アオスタ「そうですね、それにあの時は秘書艦の二人まで所在不明…実際は行動不能の状態だったと聞いています」

マエストラーレ「そうね……とりあえず何かしらの罰は必要じゃない?」

ベネデット・ブリン「本官もそれには同意する」

フルット「心苦しい限りですが、ちょっと度を過ぎておりましたからね」

提督「分かったわ…それじゃあみんなはどの程度の罰にすればいいと思う?」

カヴール「ことさらに悪気があったわけではないですし、一日だけ外出禁止と言うのはいかがでしょうか」

ザラ「そうね…トイレ掃除一週間でいいんじゃない?」

アオスタ「数日間は休憩中のトランプやゲームを禁止ですね」

提督「なるほど、よく分かったわ…でも「外出禁止」と言ってもそう出かけるわけじゃないから効果がないし、当直や見張りは大事な事だから、罰でいやいややるべきじゃないわ。それに私も私自身と秘書艦が両方ともどうにかなってしまった時の事を考えていなかったわけだし、その点では良い薬になったから……」

ブリン「ではどうなさいますか?」

提督「ええ、実は一つ考えがあって……」

………

トリチェリ「…それでこうなったのですか」

ダ・ヴィンチ「ええ……」

提督「ふふっ…これなら迷惑をこうむったみんなも文句はないでしょうし、下手な罰直よりも効果的じゃないかしら?」

…廊下の掲示板には提督がサインを入れた張り紙が画鋲で留められ「罰直…レオナルド・ダ・ヴィンチ。期間…本日0001時から2359時まで。内容…全員が依頼する雑用全般」とある…

ダ・ヴィンチ「全くね…みんなまるで私の事を馬車馬のごとくこき使うんだもの」

チェザーレ「レオナルド、済まぬがコーヒーを持ってきてくれぬか…少し熱くして、スプーマ(泡)は多め、砂糖はひとさじで頼むぞ」

ダ・ヴィンチ「はいはい…」

ディアナ「それが終わったら、お皿洗いを手伝って下さいな」

ダ・ヴィンチ「分かってます」

マエストラーレ「それが済んだらこっちもお願いね」

ダ・ヴィンチ「ああもう…こうなると知ってたらもっと色々しておけば良かったわ!」

提督「もしそうしていたらこんなものじゃあ済まなかったでしょうね…終わったら私にもコーヒーのお代わりをちょうだいね」

ダ・ヴィンチ「むぅ…!」

ルチア「…ワフッ!」

ダ・ヴィンチ「もう、ルチアまで!?」

………

799 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/09/27(月) 00:47:08.98 ID:sELjmqPe0
…とある日・執務室…

提督「それじゃあ今日も執務のお手伝いをよろしくね…アッチアイーオ、デルフィーノ♪」

デルフィーノ「はい、提督♪」

アッチアイーオ「ええ…しかしこのところ提督を始め、みんな妙に浮かれているわね」

提督「だってあとひと月もすればクリスマスじゃない…しかもうちの鎮守府は本来しなくて済んだはずの秋期作戦を失敗したよその鎮守府に代わって実施したから、冬期作戦への参加はなし……つまりみんなが押しつけ合うクリスマス前後の作戦はお休みできるから、問題なく休暇が取れるはずなのよ♪」

アッチアイーオ「なるほどね」

提督「あら、アッチアイーオはクリスマス休暇が嬉しくないの?」

アッチアイーオ「そりゃあ嬉しくないわけじゃないけど…」

デルフィーノ「アッチアイーオは寒くなると性格まで冷たくなっちゃうんですよ…何しろアッチアイーオ(鋼鉄)ですから」

提督「そう言えばそうだったわね……まぁ、私も休暇の申請書は出しておいたし、管区司令部の審査も無事に通るはずだから…もし予定がないようなら、一緒に私の実家で過ごさない?」

アッチアイーオ「…そうね、考えておくわ」

提督「ええ♪」

ライモン「提督、文書便が届きましたよ」

提督「グラツィエ、ライモン…ライモンもまた私の実家に来る?」

ライモン「え、えぇと……」

提督「返事はまだ良いわ…あくまでも「冬期休暇のプランの一つとして考えておいて?」ってことよ♪」

ライモン「はい///」

提督「…それと、十二月のあいだは鎮守府にも飾りを施したりご馳走を作ったりして、クリスマスらしい雰囲気を作りたいわね……入り用なのはクリスマスツリーと…飾りなんかは倉庫にあるのかしら?」

デルフィーノ「さぁ…どうなんでしょう?」

アッチアイーオ「調べてみないと分からないわね……それより、その書類って管区司令部からの書類なんじゃない?」届いた文書便をより分けながら、山の中に入っているお役所風の封筒を指差した…

提督「ええ、きっと休暇申請が通ったに違いないわね…♪」

…白い封筒に青色の錨とロープ、それにイタリア海軍の三色旗があしらわれた封筒を取り上げると、ペーパーナイフで封を切った…それから封筒の中に指を入れて一枚の便せんを引っ張り出したが、腑に落ちない様子で封筒の中をのぞき込む…

デルフィーノ「どうかしましたか?」

提督「ええ、休暇申請の許可書にしては封入物が少なくて……」

アッチアイーオ「それじゃあ何か別の書類なんでしょ…とりあえず読んでみたらいいじゃない」

提督「それもそうね…」さっと文面を読み通すと表情を曇らせ、もう一度内容を読み返した…

アッチアイーオ「で、どうだったの?」

提督「ええ、それが「ご都合がよろしければ下記の日時に管区司令部へおいで下さるよう申し上げます」って……体裁は丁寧だけれど、実際は出頭要請みたいなものね」

デルフィーノ「一体なんでしょう…提督は何か管区司令部に呼び出されるような事をした心当たりはありますか?」

提督「いいえ…とにかく明後日の十時には管区司令部へ行かないといけないわ」

デルフィーノ「送迎の車は来るんでしょうか?」

提督「まさか…最近は深海棲艦相手の臨時昇進や任官が多いから、二つ星(少将)とはいえ片田舎の提督なんかに運転手つきの車なんて回してはくれないわよ。 それに車を走らせるのは好きだから、自分で運転していくわ」

デルフィーノ「分かりました」

提督「それにしても一体何の用なのかしらね…」

アッチアイーオ「おおかた以前別れた前の恋人が管区司令部にいて、復縁を迫るために理由を付けて召喚状を書いたんでしょ」

提督「んー、それはないわね」

アッチアイーオ「即答ね…本当にそう言い切れる?」

提督「ええ、だって修羅場は作らないようにしてきたもの♪」

アッチアイーオ「どうだか…」
800 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/09/28(火) 02:42:19.86 ID:ZlYybT7u0
…二日後…

提督「それじゃあ何かあったら遠慮しないで携帯に連絡してちょうだい」

デルフィーノ「はい、行ってらっしゃいです」

ライモン「お気を付けて」

提督「ええ…戻りの時間は分からないけれど、帰る前には電話するから」

アッチアイーオ「せめて夕食の時間に間に合うといいわね」

提督「いくら管区司令部がお役所仕事だからって、そんなに時間はかからないはずよ…じゃあ、行ってくるわ♪」ランチアの運転席から身体を乗り出し、ライモンの頬にキスをした…

ライモン「…っ///」

提督「留守番はよろしくね♪」

…提督は脱いだ制帽と書類のファイルを助手席に置くと濃青色に塗られている「ランチア・フラミニア」のアクセルを踏んだ……提督のランチアは4ドア・ベルリーナ仕様で割と大柄な車体ではあるが、重心のバランスが取れているランチアは反応もよく、カーブが多い海岸沿いの地方国道でも綺麗にコーナーをクリアしていく…

提督「ふーん…ふふーん……♪」どこかで耳にしたうろ覚えのメロディーをハミングしながら、悠然とハンドルを操る…速度計の針はだいたい100キロを示し、青みの薄くなってきた空にぽつぽつと点在する雲が晩秋のイタリアらしい風景を彩る…

提督「……さすがに風が冷たいわね」

…せっかくのすがすがしい空気を入れないのはもったいないと思いヒーターは入れず窓を開けていたが、さすがに高速で吹き込んでくる風は頬に冷たく、窓からびゅうびゅうと吹き込んでくる勢いに書類が飛ばされそうになったので、あきらめて速度を落として運転席の窓を閉め、それからハンドルを握り直してもう一度アクセルを踏み込んだ…

………

…一時間後・タラント市街「イオニア海管区司令部」の待合室…

提督「…」

提督「…ふぅ」


…提督は小さくため息をつくと、ちらりと腕時計をのぞいた……一応は鎮守府を預かる司令官の少将と言うことで、革ソファーの応接セットがしつられられているそれなりの待合室に通されたが、数十分たっても呼び出しはこない……白地に青色で錨とロープがあしらわれた陶磁器のカップにはコーヒーが入っているが、どうやらかなり長い間コーヒーポットで保温されていたらしく煮出したような味がする…おまけに時間を持て余しているからと言って、そうそうお代わりばかりしていても仕方がない…


少尉「お待たせいたしました、少将閣下…本官が管区司令官の部屋へご案内しますので、どうぞこちらへ」

提督「ええ、ありがとう…てっきり忘れ去られてしまったのかと思っていたわ」

少尉「いえ、そんな……」

提督「ふふっ、冗談よ…♪」

…管区司令部・司令官室…

少尉「失礼いたします。 タラント第六鎮守府のカンピオーニ司令官を案内して参りました」

中将「ああ、ご苦労…下がってよろしい」

少尉「はっ」

提督「お早うございます、司令官」

中将「おはよう、カンピオーニ君……急に呼び出した上に送迎の車も用意させなくて済まなかったね」敬礼を交わすと、司令官は向かいの席に座るようすすめた…

提督「いえ、そのようなお手数を取らせてしまっては申し訳ありませんから……」

中将「君がそう言ってくれて助かるよ、何しろ最近はみんなして運転手付きでの送迎をしてもらえるものと思っているらしくてな…」

提督「お察しします」

中将「ああ…ところで君の鎮守府だけれども、なかなか良くやってくれているな。 夏期作戦に続いて、例の降って湧いたような秋期作戦まで成功させてくれて、こちらとしても非常に感謝している」

提督「お褒め頂き恐縮です……」

…同じ管区に所属する他の鎮守府が失敗した作戦のやり直し…要は「尻拭い」だった秋期作戦を提督がこなしたことで、自身の成績にも汚点が付かずに済み、ほっとしている様子の管区司令官…とはいえ二ヶ月近くも前の作戦成功を褒めるために提督を呼ぶはずもなく、むしろ苦い薬を包む甘い糖衣のようなものを感じさせた…

中将「うむ……ところでカンピオーニ君」

提督「はい」

中将「君の冬期休暇の事についてなんだがね……」
801 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/10/05(火) 00:48:33.13 ID:S1IXtQc/0
提督「はい」

中将「……申し訳ないのだが、その前に君に出張をお願いしたいのだ」

提督「出張ですか…ちなみに行き先はどこでしょうか?」

中将「ヘルシンキ……フィンランドだ」

提督「フィンランド、ですか?」

中将「うむ…実は十二月の中頃にノルウェー、スウェーデン、フィンランドのスカンジナビア三国を中心として、デンマークやポーランドといった「NATO北欧連合軍」に属する欧州諸国や準加盟国も招いて深海棲艦対策の情報交換を目的とした会議を行うのだが、そこに我々イタリア海軍がオブザーバーとして招かれていて……」

提督「あの、口を挟むようで申し訳ありませんが…フィンランド湾やバレンツ海を受け持つスカンジナビアの深海棲艦対策会議に、地中海の我々が参加するのですか?」


…ノルウェー沖の北海からグリーンランド、アイスランド、イギリスを結ぶ「GIUKライン」を中心に受け持つNATOの北部方面に対し、NATO南欧連合軍に属し地中海を中心に活動しているイタリア海軍ではまるで縁もゆかりもない…面食らった提督は思わず聞き返した…


中将「うむ、その事だが理由があってな……実はその会議にロシア海軍からも将官が参加するそうなのだ」

提督「ロシア海軍ですか、それはまた…会議場が戦場になりかねませんね……」

中将「それだ…スカンジナビア三国とロシアの仲は険悪だから、そこにオブザーバーとして北欧と縁遠い我々イタリア海軍が入れば、少しは場の空気も和らげられようということで招待されたのだろう。つまりは緩衝材の役割だな」

提督「なるほど……ですが、なぜ私に?」

中将「うむ…まず、その会議は数カ国が参加する国際的なものである以上はそれなりの規模があるから、そこらの少佐や中佐では役不足だ。少なくとも将官でなくてはいかん…そして君がその候補に選ばれたと言うわけだ」

提督「確かに国際的な会議ともなれば将官の出席が必要だという点は私も理解できます…しかし私はフィンランド語もロシア語も出来ません。海軍には私より適任な将官がたくさんいると思いますが……」

中将「そのことだが、今度の件は私が言い出したことではなくてな……海軍情報部から候補の一人として君をご指名なのだ」

提督「私をですか…?」

中将「うむ…幸い君の鎮守府は冬期作戦への参加もないし、もし君の都合さえ良くて承諾してくれると言うのなら、私としても助かるのだが……ともかく詳しいことは情報部から派遣されてきた大尉がいるから、参加するかしないかを決める前に状況説明してもらってはどうだろう?」

提督「そうですね、お気遣い感謝します」

中将「なに、構わんよ……情報部の大尉を呼んでくれたまえ」


…管区司令官が一人の少尉に呼んでくるよう言いつけて一分もしないうちに、少尉に案内されて一人の女性士官が入って来た…士官はあっさりとしたセミロングの髪に鋭さを秘めているような引き締まった顔立ちで、かちりとかかとを合わせて敬礼した…


女性士官「失礼いたします…海軍情報部、ミカエラ・フェリーチェ大尉です」

中将「ああ、よく来てくれた……彼女がカンピオーニ少将だ」

フェリーチェ大尉「はっ、よろしくお願いします。少将閣下」

提督「え、ええ……」

中将「では詳細はフェリーチェ大尉から…少尉、お二人を別室に案内してあげてくれ」

少尉「はい…どうぞ、こちらです」

…別室…

提督「…」

フェリーチェ大尉「どうもご苦労様、必要になったら呼びますから…それまでは下がっていて下さい」

少尉「はっ、では失礼します…」

フェリーチェ大尉「…」

…フェリーチェ大尉は廊下に出てドアのプレートを「使用中」に変えると戻ってきて、後ろ手に鍵をかけた…

提督「…」

フェリーチェ大尉「これでよし、と…久しぶり、フランカ♪」つかつかと近寄ってくると提督の左右の頬に軽くキスをし、それから唇に濃厚な口づけを一つ見舞った…

提督「ぷは……もうミカエラったら、今回のは貴女の計略ね?」

フェリーチェ大尉「かもね……とにかくこの話が来たときにすぐ貴女の顔が浮かんで、調べたらタラントにいるっていうから…勝手ながら候補に入れさせてもらったわ」

提督「もう、クリスマス前に出張を組むなんて意地悪ね……断らせてもらおうかしら」

フェリーチェ大尉「まぁそう言わないで、今から説明するから…」
802 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/10/09(土) 03:27:46.76 ID:G/+QNg6x0
提督「説明されても納得しないかもしれないわよ♪」

フェリーチェ大尉「それならそれで仕方ないわ……でも、フランカなら分かってくれると思っているから」

…考えを見通せない瞳と、情報部らしいどことなく冷めた無表情の「仮面」の下から、少しだけ微笑がのぞいた…

提督「いいわ、それじゃあ聞いてあげる」

フェリーチェ大尉「ありがとう…今回の会議にはスカンジナビア三国、デンマーク、ポーランド、ロシアが参加する予定になっているの」

提督「司令官もそう言っていたわね」

フェリーチェ大尉「ええ、何しろ私がそう説明したから……ともかく、各国も深海棲艦対策を担当する提督たちや佐官級を送り込んでくる。その中で折衝やもめ事の仲裁に入る事を考えると肩章に「二つ星」くらい付いていればニラミもきくでしょうし、箔が付くっていうのは分かるでしょう」

提督「ええ、でもそれだったら私じゃなくてもいいわよね」

フェリーチェ大尉「そこで二つ目の理由よ……」

提督「…それで、その二つ目の理由っていうのは何かしら?」

フェリーチェ大尉「それは簡単…貴女がビアンで女たらしだから」

提督「けほっ…!」

…コーヒーカップを手にさらりと言ってのけるフェリーチェと、唐突な一言に思わずむせる提督…

フェリーチェ大尉「大丈夫…?」

提督「ええ、どうにか……いきなり面と向かってそんなことを言われるとは思わなかったけれど」

フェリーチェ大尉「そうね、少し言葉が足らなかったわ…正確に言うと、私が知っている海軍士官の中でも貴女はかなり相手の感情や機微を推し量ることができるタイプなの……そういった能力はビアンに多いらしいけれど、私が知っている限り貴女にはその能力がある」

提督「それで?」

フェリーチェ大尉「簡単よ…私が影のようについて回るから貴女は各国の士官と会話をして、どんな時に表情が変化したか後で教えてくれればいい」

提督「まるで操り人形ね…他には?」

フェリーチェ大尉「……早めのクリスマス旅行のつもりで、一緒に北欧旅行なんてどうかしら」

提督「もう…やっぱり個人的理由じゃない♪」

フェリーチェ大尉「ふふ……情報部にいて便利なことはね、一介の大尉風情でも驚くほど融通が利かせられることにあるのよ…例えば、鎮守府の将官を出張を兼ねた旅行に誘ったりね」

提督「まったく……それにしても確かに久しぶりね。ローマ以来?」

フェリーチェ大尉「ええ…それにその時の事もあって、貴女を選ぼうと思っていたの」

提督「もう、はた迷惑な話ね…」

フェリーチェ大尉「貴女が誰とでも仲良くするからいけないのよ、フランカ」

提督「そのことに関しては反省しているわよ」

フェリーチェ大尉「どうかしらね……それで、行くかどうかは決まった?」

提督「そうね、少し考えさせてもらえるかしら……」

フェリーチェ大尉「もちろん構わないわ、あくまでも今回の出張に関しては情報部からの「要請」であって、参加するかしないかはフランカ次第だから……考えを決めるまでに三十秒待ってあげる」

提督「え、ちょっと…いくら何でも三十秒は……」

フェリーチェ大尉「貴女は提督でしょう、三十秒も悩んでいたら艦が座礁するわよ?」

提督「ああもう、分かったわよ…行くわ」

フェリーチェ大尉「そう、分かった……それではカンピオーニ少将、ご協力に感謝いたします」

提督「むぅ…」

フェリーチェ大尉「…それじゃあこの資料を渡しておくから、当日までに良く読み込んでおいて」大きい茶封筒を手渡してきた…

提督「ええ」

フェリーチェ大尉「あとは管区司令官にお礼を言って…その後でお昼でも食べに行きましょう」

提督「はぁ……まったくミカエラにはかなわないわ」

フェリーチェ大尉「女たらしのフランカに言われるなんて光栄ね…♪」
803 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/10/11(月) 00:44:26.92 ID:C29BcpSE0
…午後・鎮守府…

ライモン「それじゃあクリスマス休暇は頂けないんですか?」

提督「いいえ、そう言うわけじゃないけれど…日数が少し減らされちゃったのと、日付を後ろに繰り下げられる形になるってこと…大丈夫、クリスマスの週はちゃんと休めるわ」

ライモン「それなら良かったです…♪」

提督「ええ。まさかその前に出張をねじ込まれるとは思わなかったけれど…もっとも、ミカエラにはお世話になったこともあるから文句も言えないわ……」

エウジェニオ「ふぅん、提督がお世話に…せっかくだから聞かせて欲しいわ」

提督「別にいいわよ…ミカエラと初めて知り合ったのは私が大尉の時で、ちょうどそのときは借りていた部屋に誰も同居していなかったから、しばらくは一緒に過ごしていたりしたのだけれど……」

デルフィーノ「破局しちゃったんですか?」

提督「破局って言うか自然解消ね…二人でいるときはお互いに仲良しだったのだけれど、私は「家にいるときは一緒に夕食を囲みたいし、できるだけ職務は持ち帰りたくない」っていう考えで……その点ミカエラは情報部だから時間は不規則だし、いつ帰ってくるかも分からなかったりして…ちょっとぎくしゃくしちゃったのよね」

エウジェニオ「そういう考えの違いって響くわよね…」

提督「ええ…ある時は「今から帰るわ」って電話をくれたのに、待てど暮らせど帰って来なくて…心配になって電話をしても私用の携帯電話は繋がらないし…すっかり冷めてしまった料理とむなしくカチコチ鳴っている時計を相手に一人ぽつんと夕食を済ませて、冷たいベッドに潜り込んで……結局翌日まで帰って来なかったわ」

ライモン「…それはちょっとさみしいですし、心配になってしまいますよね」

提督「まぁね…別に結婚しているわけでもないし、お互い海軍士官として仕方のない状況があるっていうのも分かるから、とやかくは言わなかったけれど……」

ガリバルディ「そしていつしか冷め切ったコーヒーみたいな関係になっちゃったのね」

提督「うーん「冷め切った」とまではいかないかもしれないわ……お互いに一緒にいれば素敵な時間を過ごせるし、私もミカエラも二人でいたいと思っていたから…ただ、ミカエラの勤務が都合でより一層不規則になって、私も私でそれなりに忙しかったから……」

エウジェニオ「あるわよね、そういうの……でも「お世話になった」っていうのは?」

提督「ええ、それなのだけれど…あれは私が大佐になるかならないかくらいの時で、ローマのスーペルマリーナ(海軍最高司令部)勤めになっていた頃のことよ……」

…数年前・ローマ…

カンピオーニ中佐(提督)「…今日の夕食は何にしようかしら…と♪」

…中佐の肩章もすっかり馴染んでいる提督は勤務終わりに夕食の材料を買い、紺の制服姿で茶色の紙袋を抱えていた…懸案だったとある書類が予想より簡単に片付いてご機嫌の提督は、特に何かを考えるでもなく歩いていた……と、借りている部屋の近くまで来たとき、脇道から一人の女性が出てきた…

黒髪の女性「…あっ!」

提督「きゃ…っ!?」

…お互いに避ける間もあればこそ、かわすことも出来ずに突き当たってしまった提督と黒髪の女性……提督の持っていた紙袋から数個のトマトと玉ねぎが転がり出し、歩道の石畳に転がった…

黒髪「あぁ、ごめんなさい…!」

提督「いえ、私は大丈夫ですから……それより貴女は?」

黒髪「私も大丈夫よ…いけない、貴女のお買い物をダメにしてしまったわ」転がった野菜を拾い集めてくれたが、歩道に落ちたトマトは潰れてしまっている…

提督「いいですよ、トマトの二つや三つくらい…」

黒髪「申し訳ないわね……」そう言っている女性の黒いハイブーツに、跳ねたトマトの果肉と汁が付いてしまっている…

提督「いいえ…それより、ブーツのつま先にトマトの汁が……」

黒髪「このくらい構わないわ…近くの水道で洗えばいいんだから」

提督「いえ、それじゃあせっかくの革が痛んでしまいます……私の部屋は近くですし、ブーツを拭くための雑巾もありますから」

…提督はぶつかってしまった事で少し慌てていたために最初こそ気がつかなかったが、よく見ると相手はセミロングの黒髪にすっきりとした目鼻立ちで、美人とまでは言わなくともローマやミラノにいそうな、きりりとした「大人の女性」タイプだった…

黒髪「そう? それならお言葉に甘えさせていただくわ…」

提督「はい…♪」
804 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/10/17(日) 01:31:41.76 ID:lAUtn1Dz0
提督「…はい、これで綺麗に拭き取れましたよ」

黒髪「ありがとう、お嬢さん…それじゃあ今度お茶でもご馳走するわ」

提督「いえ、そんな…」

黒髪「あんまり遠慮しないで? 別に高い店に誘おうっていうのでもないの。ちょっと街角のカフェでコーヒーでも一緒に…ってだけよ」

提督「ええ、それでしたら……///」数日後に道端のカフェでコーヒーを飲むことにした二人…

黒髪「良かった。それじゃあまた……っと、まだ名前も聞いてなかったわね」

提督「あ、そう言えばそうでした…フランチェスカです、フランチェスカ・カンピオーニ」

黒髪「フランチェスカね……私はマリア・ヴィットーリア・ステファネッリ」

提督「初めまして、マリア」

マリア「ええ、初めまして…フランチェスカ」さばさばした都会人らしく、左右の頬にキスをするときも形ばかり軽く頬を当てるだけで済ませたマリア……羽織っている黒い毛皮のコートの裾をさっとひるがえすと、足音も軽やかに出て行った…

………

エウジェニオ「…それじゃあまずはお茶の約束をしたわけね……それで?」

提督「ええ、それで数日後に……」

………



マリア「待たせたわね、フランチェスカ…行きましょうか」提督の下宿先の前まで迎えに来たマリアは毛皮のコートにブラウス、ひざ丈のタイトスカート、黒ストッキングにハイヒールの姿で、手にはハンドバッグを提げている…

提督「はい」勤務終わりの提督も制服ではなく私服姿で、クリーム色のコートにふわっとしたカシミアセーター、秋らしい色合いのフレアースカートとニーハイブーツでまとめている…

…道端のカフェ…

マリア「…フランチェスカは何にする? 私は「カフェ・コレット・アッラ・サンブーカ」にしようかと思ってるけど」

(※カフェ・コレット・アッラ・サンブーカ…エスプレッソにリキュールの「サンブーカ」をたらしたもの)

提督「そうですね、それじゃあ私もそれで」

マリア「そう…カフェ・コレット・アッラ・サンブーカを二つ」

…カフェ・コレットの甘くて苦い一杯をお供に、しばしたわいのない話をした提督とマリア…日が落ちるにつれて周囲の街灯が点き、せわしないローマなりに夕食へ出かける人の姿や食前酒をかたむけつつ人たちの笑いさざめく声が増えてきた…一見すると都会風の素っ気ない感じのするマリアではあったが、話してみると意外と話しやすい女性である事が分かり、気付けば色々な事を話していた提督……少ししゃべり過ぎてしまったかと、慌ててあたりさわりのない話題に転じようとした…

提督「……ところでマリア」

マリア「私の事なら「ミミ」でいいわよ、フランチェスカ」(※ミミ…イタリア語圏で「マリア」に付けられるあだ名)

提督「それなら私も「フランカ」って呼んで下さい」

ミミ「いいわよ、フランカ」

提督「えーと、その…もうそろそろ夕食の時間ですけれど、どうします?」

ミミ「そうね、私は家に帰って食べるつもりだけれど……帰りに出来合いのラザニアでも買っていくわ」

提督「…お料理はしないんですか?」

ミミ「ええ、料理って面倒だし苦手なのよ…」肩をすくめてみせるミミ…

提督「あの…それじゃあ一緒にどこかで食べて行きませんか?」

ミミ「そうね、たまにはそれも悪くないわね……フランカ、どこかお勧めの店はある?」

提督「ええ、この近くにいいトラットリア(軽食屋)があります」

ミミ「それならそこにしようかしら…」

提督「はい…♪」
805 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/10/22(金) 02:17:19.22 ID:rRn+U1R80
提督「それからミミとの交際関係が始まったのだけれど……」

ライモン「…それがどうして提督がミカエラさんのお世話になる原因に?」

提督「ええ、今から話すわ…」

提督「……それから数回お茶を飲んだりご飯を食べに行ったりしているうちに、私が部屋に招いて夕食を作ってあげたりするようになって、いつしかそのまま一緒に暮らすようになったの…一見するとつんとすました感じの人だったけれど、私が作った夕食を「美味しい」って言って食べてくれるし、聞かれたくないことを無理に聞くようなこともしない…最初はとっても過ごしやすい相手だなと思っていたのだけれど……」

エウジェニオ「けれど?」

提督「…そのうちにどこか引っかかる感じがしてきたのよね」

カヴール「と、言いますと?」

提督「ええ…例えば私がキスをすると気持ちよさそうにしてくれるし、ベッドでもリードして欲しい時は包み込んでくれて、私がリードしたい時は受け入れて最後まで付き合ってくれる……でも、どこかよそよそしいというか…私に合わせすぎている感じがしたの」

アッチアイーオ「それはまた良く出来た相手だけれど……でも、そういう人だっているんじゃない?」

提督「私も最初はそう思ったわ…けれど、なんて言うのかしら…好きでしている感じではないけれど、上手に好きなふりをしているというか…ファッションレズだとか、無理に恋人に合わせているだとかっていう感じじゃなくて…もっと「目的のために教わった技能を使いこなしている」っていう感じがして……」

デルフィーノ「それは提督に合わせてくれていたのでは?」

提督「ええ、それだけなら私もそう思ったわ…でも、他にも気になることがあって……」

チェザーレ「ほうほう」

提督「ミミが私の部屋で一緒に過ごすようになってからというもの、お料理を教えて欲しいって言うからいくつか教えてあげて…本人も色々と勉強しては振る舞ってくれたのだけれど……あるときスパゲッティ・ボロネーゼを作ってくれたの」

………

ミミ「できたわよ、フランカ……味の保証はしないけれど、食べてみて」

提督「ええ…それじゃあ♪」くるりと巻いてパスタを口に運ぶ…

ミミ「お味はいかが」

提督「ええ、美味しい…赤ワインに良く合う味ね。 ほら、ミミもどうぞ…あーん♪」

ミミ「ん……確かに、我ながらなかなか上手く出来たわ」

提督「ふふっ、このまま頑張れば一流料理人も遠くないわね…♪」

………



アッチアイーオ「別にいいじゃない」

提督「ええ、料理を始めたばかりにしてはなかなか上手で美味しかったわ…でも、少し味の雰囲気が違ったのよ」

デルフィーノ「どういうことです?」

提督「ええ、実は食べたときかすかにサワークリームみたいな風味があって……もちろん隠し味にそういうのを入れる人がいないとは言えないけれど、ローマ生まれのローマ育ちが作る味にしては妙な違和感を覚えて……」

アッチアイーオ「たったそれだけで?」

提督「いえ、もちろんそれまでの事もあってどこか腑に落ちない気がしていたというか…で、その当時「海軍情報部」の中尉だったミカエラに相談しようと思ったの……」

…とある日…

提督「…ミカエラ、忙しいのに呼び出したりしてごめんなさいね」

フェリーチェ中尉「いいえ、気にしないで…それで、急にコーヒーに誘ったりしてどうしたの?」

提督「ええ。実は最近同棲するようになった彼女のことなのだけれど、少し気になることがあって……」

フェリーチェ中尉「浮気の相談や尾行のお願いなら探偵事務所にどうぞ?」

提督「ううん、そうじゃなくて…」かくかくしかじかと事情を説明する提督…

フェリーチェ中尉「…なるほど」

提督「で、もしかしてもしかしたらだけれど…彼女、イタリア人じゃないのかもしれないと思ったの……私の考え過ぎならいいのだけれど、ミカエラはどう思う?」

フェリーチェ中尉「そうねぇ、まぁ考えすぎだと思うわ」

提督「そう、ミカエラがそう言うのなら……」

フェリーチェ中尉「ええ、ところで…」フェリーチェはふと話題を転じ、そのままたわいない会話をして過ごした…
806 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/10/26(火) 11:08:23.21 ID:TqJF9VPx0
エウジェニオ「それで?」

提督「それから数ヶ月は何もなかったわ…でもある日、いきなりスーペルマリーナ(海軍最高司令部)の中にあるカフェテリアに呼び出されて……」

………

…とある日…

フェリーチェ中尉「フランカ、この後の予定は?」

提督「私なら1700時にここを出て部屋に帰るわ……どうかした?」

フェリーチェ中尉「ええ…悪いんだけれど、1900時頃までは部屋に戻らない方がいいと思うの」

提督「……分かったわ」

フェリーチェ中尉「理解が早くて助かるわ…それじゃあ、私は少し急用があるから」

…海軍情報部のフェリーチェがわざわざ提督を呼び出し、さもばったり出会ったかのような顔をしてそれだけを告げる…その時点でことさらに鋭くなくても何かあることに気付く…

デルフィーノ「それって…」

提督「ええ…ミカエラは私の相談を聞き流すフリをして、それから内密に調べを進めていたのね……ミミはロシアのスパイで、NATO関係の資料を入手するべく私に接近してきた事が分かったわ」

ライモン「それで、ですか…」

提督「ええ……私は部屋に機密資料を持ち帰ったりなんてしていなかったけれど、それでも本来なら閑職に飛ばされておしまいだったはず……それが昇進の上に「栄転」させてもらえたのは、裏でミカエラが何か手回ししてくれたからに違いないわ…」

………



…海軍情報部…

情報部少佐「……確かにカンピオーニ中佐は軍の資料を持ち帰っていませんでしたが、しかしどのような情報が漏れたか分かったものではありません。今後、彼女は機密情報にタッチできないような部局に転属させて、そのまま軍歴(キャリア)を終わらせるべきです」

情報部長「ふむ…」

少佐「それに、彼女は今までも士官として不適切で破廉恥と思われる振る舞いが多かったと聞き及んでおります…ですから向こうもそれにつけ込んでハニートラップをしかけてきたわけです。自分でまいた種なのですから、きっちり中佐自身に責任を取ってもらうべきでしょう」

情報部長「なるほど…分かった、下がってよろしい」

…かなりの剣幕でまくし立てていた防諜課の少佐を退出させると、フェリーチェの方を向いた…

情報部長「……さて、彼はああ言っていたが…実際に今回の白星を挙げたのは君だ。 …君はどう思うね、遠慮せずに述べてくれ」

フェリーチェ中尉「は…そもそもあの女性がスパイかもしれないということに気付いたのはカンピオーニ中佐自身です。彼女が不審に思って相談してこなければ我々も当該人物をマークすることはなかったでしょうし、そうすればスパイの存在に気付かなかったかもしれません」

情報部長「なるほど、一理あるな」

フェリーチェ中尉「それに、彼女の能力をどこかの古びた施設の館長かなにかで埋もれさせてしまうのはもったいないかと思います……スーペルマリーナにおけるNATO海軍戦略以外の分野でも重要な職務はいくつもあります。とりあえずは彼女の上官である提督に相談の上、そうした職務に転補させる方が海軍のためにもなるかと」

情報部長「ふむ、それは悪くないね…それにスパイ事件だなんだとあちこちの耳目を集めないでも済む」

フェリーチェ中尉「はい……それに彼女の交友関係に対して「不適切で破廉恥」という意見でしたが、きっとあれはモテない士官のひがみかと」

情報部長「ははははっ、そうかもしれんな…よし、では早速あの「老大将」に相談して、彼女を落ち着かせる事の出来る任地を見つけてもらおうじゃないか」

フェリーチェ中尉「はっ、それが一番よろしいかと」

………


提督「…提督として着任することになった事を伝えても「おめでとう」としか言わなかったけれど、間違いなくミカエラは関係していたはず……それだけに私としてもミカエラの頼みは断りづらいの…もちろん、友人でもあるし」

ガリバルディ「わかるわ。女同士の友情っていうのは宝石箱の中でもつれちゃった数本の金のネックレスみたいなものよ……ほどくのは難しいけれど、かといって価値があるから切るわけにもいかない…ってね♪」

提督「その通りね…」

アッチアイーオ「それじゃあ出張の件は」

提督「断らないつもりよ…仕方ないわ、寒さに震えながら本場のサンタクロースでも見てくるとしましょう」

ライモン「それじゃあ暖かいコートを忘れないようにしてくださいね」

提督「ええ、ありがとう♪」
807 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/11/06(土) 00:34:17.41 ID:y5hfBLWB0
…午後…

提督「それはそうと、ミカエラから「事前に確認しておくように」って何だか分厚い封筒をもらったことだし……中の資料はちゃんと読んでおかないとね」

ライモン「一体なんの資料なんでしょう?」

提督「まだ開けてみたわけじゃないから分からないけれど、多分北大西洋やバルト海、北海の状況に関するNATOの資料だと思うわ……」

アッチアイーオ「国際会議ともなればそうでしょうね」

デルフィーノ「だったらちゃんと読んでおかないといけませんね、提督?」

提督「ええ、これでも資料は真面目に読み込む方よ…♪」

…そう言いながら分厚い封筒を開けると中に手を入れて冊子を取り出し、途端に苦笑を浮かべる提督…

ライモン「…それで、中身は何でした?」

提督「これよ……まったくミカエラったら♪」中に入っていたカラフルな冊子を手に取り、ライモンたちに見せた…

ライモン「えーと…「会話で覚えるらくらくフィンランド語入門」に……」

アッチアイーオ「もう一冊は「フィンランドの楽しみ方…ヘルシンキ」…どうみても観光向けのガイドブックじゃない」

提督「もちろん軍の資料も入ってはいたわ……楽しい事はご褒美に取っておくとして、まずはこっちからね」

…数時間後…

提督「ふー…さすがに目が疲れたわ」

デルフィーノ「大丈夫ですか、提督?」

…当直の都合で席を外すことになったライモンに代わって色々と手伝ってくれ、秘書艦の務めをきちんと果たしてくれたデルフィーノとアッチアイーオ…

提督「ええ。少しくたびれたけれど、だいたいの所は読み終わったから……コーヒーでも淹れましょう」

デルフィーノ「コーヒーは私がやります、提督はどうぞ座っていて下さい」

提督「ありがとう、それじゃあミルクと砂糖を多めでお願い」

アッチアイーオ「ねぇ、提督」

提督「なぁに、アッチアイーオ?」

アッチアイーオ「……少し肩でも揉んであげましょうか」

提督「それは嬉しいけれど……どうかしたの?」

アッチアイーオ「いいえ…ただ、提督が真面目にやっていたから……///」

提督「まぁ、嬉しいお言葉……それじゃあお願いするわね」

…椅子の背もたれに身体を預け、ほっそりした…しかし力のあるアッチアイーオの手が肩を揉むのに身を任せた…

アッチアイーオ「どう、痛くない?」

提督「ええ、気持ちいいわよ……それにアッチアイーオに揉んでもらえるなんて嬉しい」

アッチアイーオ「そ、そう…///」

提督「あぁ、いいわね……肩のこわばりがほぐれていく気がするわ…」

アッチアイーオ「なら良かったわ……ねぇ、どこか揉んで欲しい所はある?」

提督「そうねぇ、それじゃあ胸でも揉んでもらおうかしら♪」

アッチアイーオ「ば、ばか…っ///」

提督「いけない?」

アッチアイーオ「い、いけないに決まってるでしょうが……隣の部屋にはデルフィーノだっているのよ?」

提督「そんなこと言わないで…ね?」肩を揉んでいたアッチアイーオの手に自分の手を重ねて優しく包み、そのまま胸元へといざなってゆく…

デルフィーノ「…提督、コーヒーが入りましたよぉ♪」

アッチアイーオ「っ///」真っ赤になって手を引き抜き、ぷいとそっぽを向いた…

提督「ありがとう、デルフィーノ」

デルフィーノ「いいえ、お気になさらずですよ♪」

提督「ありがとう…ふふ♪」顔を紅くしているアッチアイーオに向けて、パチリとウィンクを投げてみせた…
808 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/11/16(火) 01:42:58.61 ID:Jg4bNYLU0
…夕食時…

提督「……それにしてもなかなか難しいわね」

ドリア「何がです?」

提督「フィンランドの言葉よ……もちろん会議そのものは同時翻訳がつくし、交流の時は英語でいいにしても、せめて挨拶くらいはフィン語で出来ないと……もっとも、フィンランドはスウェーデン系も多いからスウェーデン語でもいいそうだけれど……」

ライモン「やっぱりその国の言葉で話せた方がいいですものね」

提督「ええ。それとロシア語も冷戦の頃と違って士官学校の必修じゃあなくなっていたから、そっちも勉強しないと……」

チェザーレ「ふむ、ロシア語ならチェザーレが受け持つといたそう」

アオスタ「私もロシア語なら出来ますよ」(※チェザーレ、アオスタは戦後賠償でソ連に渡っている)

提督「助かるわ……私が知っているロシア語なんてせいぜい「ウォッカ」と「ピロシキ」くらいなものだから」

アオスタ「ご安心下さい、提督……一週間もしないうちにきっちり話せるようにしてあげますから」

提督「どうやらスパルタ教育になりそうね……」

エウジェニオ「あとは無料動画サイトでフィン語のニュースとかを流しておけばいいんじゃない?」

提督「動画サイト……YuriTube(ユリチューブ)みたいな?」

エウジェニオ「そうそう……提督はああいうのに疎いからよく知らないでしょうけれど、色々と便利よ♪」

提督「なるほどね、エウジェニオがそういうのに詳しくて助かるわ」

エウジェニオ「お褒めにあずかり恐縮だわ」

ディアナ「いっそのこと、お料理も北欧週間といたしましょうか♪」

提督「北欧週間ねぇ……そういわれてもどんな名物料理があるのかピンとこないわね……」手元のガイド本をパラパラとめくる……

提督「えーと、フィンランドの名物料理は……どうやらココット(キャセロール)が多いみたいね」

(※キャセロール…具材を入れた平鍋、グラタン皿でつくる煮込み料理の総称)

ドリア「あまり美食で有名な国ではないようですね……」

提督「まぁ、厳しい気候の中でつつましく暮らしている人たちだもの、無理もないわ……誰でもいいけれど、他にスカンジナビアの事で知っている事はあるかしら?」

ディアナ「そうですね……わたくしは戦中MAS艇の母艦でもあったので覚えておりますが、確か「第12MAS隊」と豆潜水艦がラドガ湖に派遣されておりませんでしたか?」

提督「そう言えばそうだったわね。 目立たない戦いではあったけれど、船団を攻撃したりソ連の潜水艦を叩いたり、なかなかに活躍したと聞いているわ……後は確か、戦前にノルウェーかスウェーデンに駆逐艦を売却したことがあったような……」

セラ「はい、スウェーデンに私たちの姉妹が渡っていますよ」

提督「そう、セラ級だったのね……まぁ詳しいところは後で調べるとして、まずはご飯にしましょう♪」

…数日後…

アオスタ「なかなかにロシア語が上達しましたね、提督」

提督「スパスィーバ(ありがとう)、タヴァリシチ(同志)アオスタ♪」

アオスタ「もう……やめて下さい、提督」

提督「ふふ、冗談よ……ロシア語はいいとして、フィン語の方は似たような言葉がないから覚えるのが大変ね」

アオスタ「そうですね」

提督「発音そのものは「aa」や「kk」みたいに音を重ねることが多いようだけれど、これはどうにかなるから……あとは語彙を増やしたいところね」

アオスタ「確かに色々な事が言えれば便利ですし……」

提督「ええ。それに妖精みたいなフィンランドの美人とお話する機会もあるかもしれないもの♪」

アオスタ「まったくもう……」

エウジェニオ「いいじゃない姉さん。美人を口説くなんて理由があれば、勉強する意欲だって出るわ……ね♪」

提督「ええ♪」
809 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/11/19(金) 10:36:23.79 ID:TQjWDWB+0
>>808 間違えました…正しくは「『第12MAS隊』がフィンランドに、豆潜水艦が黒海に派遣された」ですね……別の話とごっちゃにしてしまいました

ちなみにフィンランドに派遣された「第12MAS」隊はレニングラード封鎖に参加し砲艦や貨物船を撃沈、黒海ではMAS艇数隻、および貨物列車で沿岸まで陸送された豆潜水艦がソ連の潜水艦を撃沈するなどちょっとだけ戦果を挙げています
810 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/11/28(日) 01:39:03.95 ID:v98k1zgy0
…数日後・提督私室…

提督「まずはパスポートに、お金、トラベラーズチェック(旅行小切手)……携帯電話の充電器と、電圧が違うから向こうのコンセントにさせる変換用のタップ……それからコートと毛皮の帽子、私服が数日分。下着やタイツや多めに詰めて……と」


…トランクのふたを開け、ベッドやテーブルの上に服や旅行に必要な小物を並べている提督……かたわらにはかいがいしく支度を手伝ってくれるライモンと妹のムツィオ・アッテンドーロ、そして隣の執務室で書類仕事を片付けながら、時折様子をのぞきにくる秘書艦のデルフィーノとアッチアイーオ、それから暇な鎮守府の艦娘たちも手伝い半分、野次馬半分でかわりばんこにやってくる…


ライモン「……できるだけ暖かい服を持って行って下さいね?」

提督「ええ、もちろん……それから食品保存袋(ジップロック)が何枚かいるわね」

ライモン「それなら厨房にありますが……一体何にお使いになるんですか?」

提督「そうねぇ、例えば着替えの靴下や下着なんかを詰めたりとか、何か液体のものや散らばって困るものをトランクに入れるときとか……あると何かと役に立つわ。 練習航海のときも持っていて重宝したもの」

ライモン「言われてみれば便利そうですね」

提督「ええ、それに大きめの衣類圧縮袋もいくつか持っているから、それも入れておくわ。 できるだけ荷物はコンパクトにして、その分お土産を詰めてこられるようにね」

オンディーナ(水の精「ウンディーネ」)「……ふふ、素敵なお土産を期待してるわ♪」

提督「ええ♪ あとはもらった語学ガイドと参考資料、ラップトップのパソコンに筆記用具……それから化粧品にちょっとしたお薬、それと生理用品のポーチも入れていかないと。そういうものは規格が違ったりして身体に合わなかったりするから……」

ライモン「なるほど」

提督「うーん、とりあえずこんなものかしら……意外と小さくまとまったわね」トランクのふたを閉めてみて、一人で納得したようにうなずいている……

ライモン「基本的に服は制服でいいから簡単ですね」

提督「ええ……とはいえ礼装と一般用制服の両方を持って行かないといけないし、特に礼装は金モールなんかが付いているからトランクに押し込むことも出来ないって考えると、結構面倒ね」黒いガーメントバッグ(持ち運び用スーツバッグ)をトランクの上に載せ、手のひらを上に向けて肩をすくめた……

アッテンドーロ「そうね」

提督「後は出発の前日にナポリでミカエラと合流、それから空軍の連絡機でローマに出て……ローマではいくつか指示を受けてから、フィウミチーノ空港(ローマ)で飛行機に乗って、数カ所を経由してヘルシンキに行くことになっているから……」

ライモン「なるほど……それにしてもナポリですか、懐かしいです」

提督「開戦当時は第二巡洋艦戦隊の所属だったものね」

ライモン「はい、コレオーニが一緒でした」

提督「そうだったわね……ねえライモン、それじゃあナポリまで一緒に行く? 有給休暇を使うことになっちゃうけれど……」

ライモン「え、でもご迷惑じゃあありませんか?」

提督「まさか。 一人でいるより、誰かが隣にいる方がおしゃべりが出来て楽しいもの……それがライモンならなおさら嬉しいわ」

ライモン「……そ、それじゃあ///」

提督「そう、良かった……ムツィオ、貴女もどう?」

アッテンドーロ「姉さんだけじゃなくて私まで一緒に鎮守府を留守にしちゃったら、編成が回せなくなるんじゃない?」

提督「どっちみち姉妹の片方が欠けたら、セットにしている戦隊のバランスが崩れるのは同じだもの……それに駆逐隊の戦隊旗艦ならジュッサーノたちに十分任せておけるし」

アッテンドーロ「でも、私が横にいると姉さんをせっついちゃう気がするわ」

ライモン「もう、ムツィオってば」

提督「大丈夫、ムツィオがやきもきする前にベッドに引きずり込むって約束するから♪」

ライモン「提督まで……///」

アッテンドーロ「それなら安心ね……いいわ」

提督「決まりね。 ついでに本場のマルゲリータでも食べて、しばらくはおあずけになる国の味を舌に覚えさせておくことにするわ」

アッテンドーロ「ナポリならいい店を知ってるから任せておいてちょうだい♪」

811 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/12/07(火) 00:36:44.44 ID:Q9+9Yq7a0
提督「……それはそうと、出張の前にクリスマスの準備をしないといけないわね」

アッテンドーロ「とはいえ潜水艦の娘たちは後からここに来たからクリスマスの手順はちんぷんかんぷんだし、私たちがどうにかしないといけないわね」

提督「それは私も同じよ……これまではどんな感じだったの?」

アッテンドーロ「そうねぇ……良く考えたらさしたる事はしてなかったわね。提督が着任するまでここにいたのは司令官じゃなくて「担当官」だったから、何かする権限も予算もあまりなかったし……せいぜい賛美歌のレコードを流して、お菓子を焼く程度だったわね」

提督「うーん、それじゃああんまりにも素っ気なさ過ぎるわね……町でもみの木を買ってきて飾りをつけて、それからクリスマスの前後はごちそうを作って……」

アッテンドーロ「まぁそんなところじゃない?」

提督「あと、当日は近くの町の神父様にお願いしてミサを執り行ってもらいましょうか」

ライモン「妥当なところだと思います」

提督「そういってもらえて良かったわ。あと、ご馳走に関しては私に任せておいて♪」

…翌日・倉庫…

提督「……ここにあるのよね?」

ドリア「はい、そのはずなんですが……見つかりませんか?」

提督「ええ、どうにも見当たらないの……」

…ホコリっぽい倉庫に入って箱をどかしたり棚から下ろしたりしてあちこちかき回しながら、クリスマス用の飾り物が入った箱を探している提督……後ろからは最古参の一人として鎮守府を見守り切り盛りしてきたドリアがのぞき込んでいる…

ドリア「おかしいですね……この辺りにあったように記憶していますが」むにっ…♪

提督「そう……ドリアが言うなら間違いないわよね♪」ドリアが提督の後ろから身を乗り出して棚の上を確認すると、そのはずみでずっしりと重く張りのある乳房が背中に押しつけられた……

ドリア「ええ、確かここに……あ、見つけました♪」むにゅ…っ♪

提督「あら、本当に?」

ドリア「はい……ほら、この箱です♪」棚に両腕を伸ばして箱を下ろそうとして、ますます提督に身体を押しつけるドリア……

提督「…ふふっ♪」さわ…っ♪

ドリア「あんっ……もう、提督ったら♪」

提督「ごめんなさい。でも、さっきからドリアの胸が背中に当たって……つい、ね♪」手を後ろに回してドリアのヒップを撫でると、口の端にえくぼを見せていたずらっぽく微笑んだ……

ドリア「もう、いけませんね……箱を落としたらどうするんです?」

提督「ドリアなら落とさないって信じているわ♪」

ドリア「まったく、お上手なんですから……よいしょ」箱を床に下ろしたが、そのまま提督を棚に押しつける姿勢のまま動こうとしない……

提督「ねえドリア、箱は見つかったんだから早く出ましょうよ?」

ドリア「まあ、提督ったらちっともそんなつもりではないくせに……ん、ちゅっ♪」

提督「ちゅ……あ、んぅ……っ♪」


…金属の星や木でできたリンゴの飾り物が入った箱を床に置いたまま、次第にむさぼるようなキスを交わし始める提督とドリア……長身の提督よりさらに一回り大きいドリアは、向かい合わせになった提督の腰に腕を回しぐっと引き寄せると、顔を胸の谷間に挟みこんであご先を指で軽く上向かせ、上から押さえ込むように口づけを見舞った……


提督「ん、んはぁ……ちゅっ……じゅるっ、ちゅぷ……ぷは……ぁ♪」


…ドリアの熱く優しいキスにとろりと甘い表情を浮かべ、夢見心地の様子で舌を絡める提督……すでにひざは力を失い、両手をドリアの首筋に回し、豊満な身体にしがみつくようにして唇を重ねている……タイトスカートの裾からのぞく黒いタイツにつつまれたふとももはスプーンを入れたフォンダンショコラのようにとろりと愛蜜があふれて沁みを作り、ぎゅっとドリアの腰を挟んでいる…


ドリア「もう、いけませんね……倉庫でこんなことをするなんて♪」くちゅくちゅっ、ぐちゅ……っ♪

提督「だって、ドリアが誘惑してくるんだもの……ふあぁぁ、あふっ、あぁ……んっ♪」じゅぷじゅぷっ、にちゅ……っ♪

ドリア「まぁ、ふふっ……私のせいですか?」

提督「そうよ、可愛くて優しいドリアがいけないんだから……ね、もっと♪」

ドリア「仕方ありませんね……あんまり遅いと皆が気にしてしまいますから、あと一回だけですよ?」

提督「もう、ドリアのいじわる……んちゅぅ、ちゅぷ……♪」

ドリア「んちゅ、ちゅる……っ♪」

812 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/12/13(月) 02:23:34.44 ID:IjK5a0vd0
…しばらくして・食堂…

ディアナ「あら、提督……昼食はまだ出来ておりませんが?」

提督「お昼を食べに来たわけじゃないわ、クリスマスに入り用なものを出してきたの♪」

…上に軽く積もっていたホコリを拭き取って食堂に持ってきたのはクリスマス飾りが入っている箱で、艦娘のドリアが大きい方を抱え、提督が小さい方を持っている……たかだが箱を出してきただけにしては妙に息を弾ませている提督と、後ろに付き従いながら艶やかな笑みを浮かべているドリアを見て、ディアナは事情を悟ったような表情を浮かべた…

ディアナ「ああ、なるほど……」

提督「そろそろ待降節も来るわけだし「いよいよクリスマス」っていう気分になってくるものね」

(※待降節…たいこうせつ。ラテン語から「アドベント」とも。クリスマスのおおよそ四週間前を指す。ここからいよいよクリスマスモードになり、寝かせた状態に置いた緑葉のリースや燭台に立てた四本のろうそくを週末ごとに一本ずつ点けていくなどの風習がある)

ディアナ「それもそうですね……ではわたくしもパネットーネなど作ると致しましょうか」

(※パネットーネ…ドライフルーツが入ったパウンドケーキ的な焼き菓子。キログラム単位で作りクリスマスまで長く楽しむ。北イタリア・ミラノの銘菓)

アッテンドーロ「いいじゃない、私も食べたいし手伝うわよ」ミラノ・スフォルツァ家の源流である傭兵隊長「ムツィオ・アッテンドーロ」を由来に持つだけに、ミラノと聞くと食いつきがいい…

提督「それがいいわね。ディアナは大変だけれどいくつか焼いてもらって、好きなようにつまんでいいことにしましょう……それとも手間がかかって大変でしょうから、買ってくる?」

ディアナ「皆さんに手伝っていただければ大丈夫かと……エリトレアもおりますし」

提督「そう、良かった♪」

ディアナ「では、どうせですからパンドーロも作りましょう」

提督「材料は同じようなものだものね」

(※パンドーロ…「パン・デ・オーロ」(黄金のパン)を意味するヴェローナの銘菓。卵や牛乳をふんだんに使い焼き上げたパネットーネの元祖のような菓子で、上から見ると角の多い星形をしている)

エリトレア「それじゃあパンドーロは私が作りますね」

提督「ええ、それからクリスマスツリーにするもみの木を買ってこないと……私のランチアにはさすがに載らないから、鎮守府のトラックを出すしかないわね」

ディアナ「わたくしのフィアット・アバルト850には載せられませんか?」

提督「うーん……ツリーの大きさにもよるけれど、さすがに厳しいんじゃあないかしら」

ディアナ「それは残念です、せっかくあの850を走らせるいい機会だと思ったのですが」

提督「それなら一緒に行きましょう? 町でお買い物をしたい娘もいるでしょうし、ディアナが車を出してあげればみんな喜ぶわ」

ディアナ「さようですか、でしたらそういたしましょう」嬉しそうな様子でいそいそと車の準備をしに行くディアナ……

アッテンドーロ「……ディアナの車に乗りたがる娘がいるかどうかは別として、ね」

提督「あら、ディアナの運転はとても上手よ……ただ、乗り心地がいいかは別だけれど」

…数十分後・近くの町…

ディアナ「あら……」

フルット「クリスマスの装飾が何とも華やかですね」

リットリオ「わぁぁ、すごく綺麗です♪」

提督「そうね……そのうち交代で皆も連れてきてあげましょう」


…小さな町の中央広場にはさまざまな飾りと電飾が施されたツリーが堂々と立っていて、古式ゆかしい町の建物も窓や壁に飾り布を垂らしたり、リースをつけたりしている……町の通りの左右にはクリスマス関係の商品を扱う露店がいくつも出ていて、のんびり買い物を楽しむ老夫婦からはしゃぎ回る子供まで、老若男女を問わず多くの人々が楽しげに歩いている…


オンディーナ「ここのお店にクリスマスの飾り物がありますよ、提督っ……♪」

シレーナ「ラララ……ララ……露店ならここにもあるわよ……♪」

リットリオ「提督ぅ、早く行きましょうよぉ♪」

提督「あぁ、はいはい……そんなに引っ張らなくたってお店は逃げたりしないわよ」子供のようにはしゃぎ回るリットリオたちを見て笑いながらついていく提督……鎮守府で飾るのに頃合いなもみの木を探しつつ、木箱に入った小さな球形の飾り玉や木で出来たリンゴの飾り、小さいキャンドルなどをのぞいて回る…

ディアナ「まるで母娘のようでございますね」

アッテンドーロ「ふふ、同感……♪」

813 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/12/20(月) 00:42:10.10 ID:aKiWTZ3c0
提督「……それじゃあこの金と銀の飾り玉をそれぞれ一袋ずつ」

リットリオ「この木彫りのリンゴを二ダースほど下さいな♪」

オンディーナ「綺麗なガラス細工ですね、これをお願いします…♪」

ディアナ「まぁ、可愛らしいろうそくの飾り物でございますね……おいくらですか?」

…本命のもみの木にある程度目星を付けた提督たちは通りをそぞろ歩きしながら、着々と買い物袋の中身を増やしていく……華やかなリボンや飾り物、商店から流れてくる賛美歌やクリスマスソングを聞きながら歩いていると、不思議と財布の紐も緩くなってくる…

提督「うーん、けっこう買ったわね……これならツリーも充分に飾ることが出来そう」

ディアナ「飾り物もだいぶ痛んだり煤けてきたりしておりましたから、良い機会でございますね」

アッテンドーロ「ずいぶんと散財したものね、これだけあれば充分でしょう」

リットリオ「それじゃあそろそろ本命のもみの木を買わないと……ですね♪」

提督「ええ……買ったら皆も手伝ってちょうだいね? 私だけじゃあとってもじゃないけれど車まで運べないもの」

フルット「もちろんですとも……♪」

…広場の露店…

提督「それじゃあこれでいいかしら?」

ディアナ「よろしいかと思います」


…広場にいるツリー売りの露店商はもみの木を何本も並べていて、辺りには爽やかな匂いが立ちこめている……事前に天井の高さを測ってメモ帳に書き留めておいた提督は、候補として手頃な数本を選び出した……が、リットリオを始め数人は大きなツリーに心引かれ、どうも得心がいかない様子でいる……そうなると露店商のおじさんも好機とみて「せっかくのクリスマスなんだから」とか「一年に一回なんだし買っていきなよ」などと景気の良いことを言って、しきりに買わせようとする…


リットリオ「……ねぇ提督、どうせですからもっと大きいのにしませんか?」

フルット「ですがリットリオ、天井の高さを考えたらこの程度でないとつかえてしまいますよ」

リットリオ「それもそうですが……でもせっかくのツリーですし、六メートルものの方が見栄えもしますし形も整ってますよ?」

提督「リットリオの言うことももっともだけれど、大きくても四メートル以内じゃないと食堂の天井につかえちゃうから……ね?」

リットリオ「でもお値段だってそう変わりませんし……」

提督「まぁまぁ……このもみの木だってたくさんある中で見ているから小さく見えるけれど、持って帰って据え付けたら結構な大きさに見えるはずよ?」

リットリオ「むぅ……」

アッテンドーロ「だいたい天井につかえるようじゃあ間抜けも良いところじゃない。 値段だって単価でいけば……リラしか変わらないわよ」計算高いミラノ人らしく、さっと暗算してみせた…

リットリオ「言われてみればそれもそうですね……」口ではそう言っているものの、まだ未練がましい表情で堂々としたツリーを眺めている……

提督「ふぅ……分かった分かった。 そっちの大きい方も買うことにしましょう」

リットリオ「えっ、本当ですかっ?」

アッテンドーロ「ちょっと!」

提督「……ただし、リットリオも半分出すのよ? いい?」

リットリオ「はいっ♪」

提督「よろしい……それじゃあこの三メートル半のを一本と、それからこの六メートルものを一本」

露店商「毎度あり! お嬢さん方、どうか良いクリスマスを!」

リットリオ「はいっ♪」

提督「さぁリットリオ、それじゃあ運ぶのを手伝ってちょうだい」

リットリオ「もちろんです♪」そう言うとちょっとした街灯ほどの高さがあるツリーをひょいと持ち上げ、切り口を固定している四角い鉢を支えてプレゼントのように抱えた…

提督「それじゃあもみの木はトラックに積むから……リットリオ、帰りは助手席に座る?」

リットリオ「いえ、せっかくのツリーですから横に座って押さえておきます♪」

提督「ふふっ、了解……それじゃあ、はい。 ……そのまま荷台に座ったら服が汚れちゃうから、これを敷いて座るといいわ」ランチアのトランクを開けてメンテの時に敷く古毛布を取り出した

リットリオ「えへへっ、ありがとうございます♪」

アッテンドーロ「……まったく、大きいなりをしておきながらまるで子供なんだから♪」ご機嫌でトラックの荷台に乗り込むリットリオを見ながら、微笑ましいのとあきれたのが混じったような苦笑を浮かべた…

提督「そこがまた可愛い所なのよ♪」そう言ってアッテンドーロにウィンクを投げた…
814 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/12/26(日) 01:23:16.63 ID:Tlp9xEGX0
…鎮守府までの帰り道…

提督「うーん、それにしてもよく飛ばすわねぇ……」


…先頭をぶっちぎりで走っていくディアナのフィアット850を見て感心したように言った提督……どちらかと言えば運転の得意な提督から見てもディアナの運転は段違いで、コーナーのクリアはまるでラリーでもしているように見える……海沿いの地方道路を感心するような勢いで飛ばしていくさまは、普段のしとやかで落ち着いた「月の女神」ディアナではなく、弓を持って野山を駆け巡る「狩猟の女神」ディアナを表しているようにも見える…


アッテンドーロ「あの調子じゃあ無茶苦茶に揺られてるわね、きっと……フルットたちが吐かなきゃいいけど」

提督「そうね」

…先頭を行くディアナのフィアットに続く提督のランチア・フラミニア…そしてその後ろに続くのが鎮守府に配備されている旧式なイヴェコのトラックで、荷台には幌が張ってあり、車体の後端からはクリスマスツリーが突き出している…

トゥルビーネ「提督たちは心配し過ぎよ、あの程度で吐いてたんじゃあ沖に出られないでしょ?」

提督「まぁね、でも船酔いと車酔いは違うから……実際にフリゲートの艦長で一人いたもの。ブリッジまで波がかぶりそうな時化の海でも平然とコーヒーをすすっていられるのに、ローマのタクシーで真っ青になっていた人が」

シロッコ「それはローマのタクシーだからじゃないかな?」

提督「まぁね…っと、パトカーだわ。 みんなシートベルトはしているわよね?」

…スタイリッシュな黒と紅に塗り分けられたカラビニエーリのフィアット・プントが鎮守府のトラックと併走し始めると、回転灯を回して停止をうながした…

提督「あら、こっちじゃないみたい……でも私が応対したほうがいいわね」車道の端にランチアを停めると後続車を確認し、それからドアを開けてパトカーの方へと向かった…

提督「……ボンジョルノ、シニョーレ(ミスター)……どうかしましたか?」

カラビニエーリ隊員「ボンジョルノ……ああ、海軍さんですか」

…脇に寄せて停めたイヴェコの運転席から降りてきた「ソルダティ(兵士)」級駆逐艦の「ヴェリーテ(軽歩兵)」と、近寄ってきた提督を交互に眺めるカラビニエーリの隊員…

提督「ええ……どうぞ、身分証です」

カラビニエーリB「はい、どうも」

…有事となれば「第四の軍隊」として治安維持や海外派遣も行うが、同時に警察とカバーし合うように田舎での警察活動も請け負っているカラビニエーリ(軍警察)…もっとも中央の精鋭部隊と違って、地方にいるカラビニエーリは割とのんきで気さくな雰囲気を漂わせている…

提督「それで、うちの娘たちがなにか……?」

カラビニエーリ「ああ、いや。 ただちょっとばかりツリーの先端が大きく荷台からはみ出していたもんで……基地で飾るんですか?」

提督「ええ、そうです」

カラビニエーリB「そりゃあいいですね。とはいえやはり少し気になりますが……」鎮守府の艦娘たちの何人かが持っている、運転できる場所や速度が限定される制限付き免許のような海軍の「許可証」を確認しながらあごをかいた……

提督「それでしたら一応監視役も乗せてありますから……ね、リットリオ?」

リットリオ「はい♪」提督の声に応えて、荷台からひょっこりと顔を出して笑顔を浮かべるリットリオ…

カラビニエーリ「ああ、後ろに乗ってたんですね……それならばっちりですよ。 やあお嬢さん♪」

リットリオ「チャオ♪」

提督「では、大丈夫ですか?」

カラビニエーリ「ええ、問題ありません……お嬢ちゃん、ご協力ありがとう」ヴェリーテに許可証を返すとおどけたように敬礼し、フィアットに乗り込んだ…

ヴェリーテ「いいえ」

提督「パトロールご苦労様です」

カラビニエーリB「これはどうも……あぁ、そうそう」

提督「何でしょう?」

カラビニエーリB「良いクリスマスを♪」

提督「グラツィエ♪」

815 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/12/31(金) 01:39:36.27 ID:ln18LMee0
…しばらくして・鎮守府…

カヴール「……それであんなに大きなツリーを買ってきたのですか」

リットリオ「はい♪」

ドリア「確かに立派ですけれど、あれだけのツリーともなるとお値段が張ったでしょう?」

リットリオ「ええ、でも提督が半分出してくれましたから♪」

アオスタ「リットリオったら仕方ないですね……提督にまでお金を出させるだなんて」

リットリオ「でも、せっかくのクリスマスですし……」

アオスタ「そうやって無駄遣いをするのは良くないですよ」

リットリオ「むぅ、アオスタってばそういうことを言うんですか」

アオスタ「だってそうじゃありませんか」

提督「まぁまぁ、アオスタ。 確かに一年に一回のことだから……それにあれを見ると、ね?」

…リットリオは鎮守府に戻ってくるなりいそいそとツリーを下ろして、食堂のフランス窓から見える位置に堂々と立てた……早速ツリーに群がって、きゃあきゃあと歓声を上げながら飾り付けに興じる艦娘たち……すでにツリーのあちこちには星形や球形のオーナメント(飾り物)がぶら下がり、どこかから引っ張り出してきたらしい電飾も巻き付けられている…

アオスタ「……それもそうですね、皆があんなに喜んでいるのにお説教もないものですね」生真面目な委員長気質の軽巡アオスタはふっと肩の力を抜いて、提督に向かって苦笑した…

提督「そういうこと♪ さぁリットリオ、トップの星を飾ってきて♪」

リットリオ「はいっ♪」

…リットリオがツリーのてっぺんに飾る銀の星を持っていそいそと駆け寄ると、たちまち駆逐艦たちや潜水艦の娘たちに取り囲まれて歓声を浴びせられ、うんともてはやされている……同時に、何やら楽しげな様子であることを察したルチアもみんなの足元で尻尾を振って駆け回っている…

カヴール「……何とも楽しげではありませんか♪」

提督「そうね、小さいのだけじゃなくて大きいのも買ってよかったわ♪」

ドリア「そうですね……それでは飾り付けは元気な駆逐艦や潜水艦の娘たちに任せて、私たちは中に入って温かいワインでもいただくとしましょう♪」

提督「ええ」

…食堂…

提督「まぁ……私たちが出かけている間にここまでやってくれたの?」

デュイリオ「はい♪」


…パチパチと木切れがはぜ、楽しげに火の踊る暖炉が食堂を心地よく暖め、テーブルには新しいテーブルクロスが掛けられている……テーブルの上にはいくつか燭台が置かれ、綺麗に焼き上がったパンドーロやパネットーネは大皿に載せられ、誰でも好きなようにつまみ食いが出来るよう、切り分け用のナイフや小皿と一緒に置いてある……提督たちが買ってきた小さい方のクリスマスツリーにも早速飾り付けが始まっていて、金色や銀色をした玉や木彫りのリンゴ、リボンをかけた箱の形をした飾り物などがあちこちに吊り下げられていく…


ペルラ(「真珠」)「提督、お帰りなさい」

トゥルケーゼ(「トルコ石」)「みんな提督のお帰りを待ってましたよ……♪」

ルビノ(「ルビー」)「お帰りなさいっ……はむっ、んっ、ちゅぅ……っ♪」

提督「んむっ、ぷは……もう、ルビノったら積極的なんだから♪ ただいま、みんな」

ドリア「ツリーの飾り付けはいかがですか?」

スメラルド(「エメラルド」)「見ての通り順調です」

ペルラ「スメラルドの言うとおりです……ご覧になってみて、どうでしょうか?」

提督「そうね、とっても綺麗できらきらしていて……って、ちょっと」

オニーチェ(「オニキス」)「どうかしたの?」

提督「いえ、だって……これって貴女たちが持っているネックレスとかじゃない」室内の灯りを受けて輝いているモールや飾りをよく見ると、ペルラたちが持っている装身具のいくつかが交じっている……

ペルラ「どうですか、とても綺麗でしょう?」

提督「いえ、確かに綺麗だけれど……」

アルジェント(「銀」)「ふふ、せっかくのクリスマスですから……ここにはアクセサリーをくすねるような手癖の悪い娘もいませんし」

デュイリオ「あら、それはどうでしょう……わたくしはコルウス(カラス)の使い手ですし、カラスは光り物が好き……もしかして、そーっと持って行ってしまうかもしれませんよ……ね♪」肩に止まらせているペットのカラスの喉を軽くかいてあげるデュイリオ…

カラス「アー」

シレーナ(「セイレーン」)「ララ、ラ……ふふ、私も宝石は好き……♪」

提督「もう、せっかく信用してくれているんだからそういうことは言わないの♪」
816 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/12/31(金) 16:12:57.13 ID:ln18LMee0
…今年も残すところ数時間となりましたね。このssを読んで下さった皆様に感謝します…


しかし年末近くにも護衛艦「みくま」進水や長きに渡り活躍した「せとゆき」の退役など、新たに生まれる艦がいれば花道を去る艦もあって色々ありましたね……来年も七つの海が穏やかで、海に関わる方々が良い風と波に恵まれますように
817 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/01/02(日) 00:43:09.25 ID:GgALU43l0
遅くなりましたが明けましておめでとうございます、本年もぼちぼち書いていきたいと思います


…そして何故か三日の夜にイタリア・ドイツ・日本と所属を変えるという数奇な運命をたどった大型潜水艦「コマンダンテ・カッペリーニ」を題材にしたドラマが放送されるようで、イタリア王国海軍のファンとしては楽しみです
818 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/01/14(金) 02:43:48.80 ID:WTxXQ7Hw0
…出張当日・朝…

提督「忘れ物はない? ライモン、ムツィオ」

アッテンドーロ「ないわよ」

ライモン「準備はととのっています」

提督「そう、じゃあ乗って?」

デュイリオ「行ってらっしゃいまし、提督」

提督「ええ、艦隊旗艦として留守は任せたわ」ランチアの運転席から顔を出し、デュイリオの頬に軽くキスをする……

デュイリオ「はい、わたくしとアオスタで切り盛りさせていただきます♪」

提督「お願いするわ……アッチアイーオ、デルフィーノ。よく二人を補佐してあげてね?」

アッチアイーオ「もちろんよ」

デルフィーノ「分かっています」

エウジェニオ「それじゃあ行ってらっしゃい、提督……ライモンド、遠慮しないで好きなことをおねだりするのよ?」

ライモン「もう、エウジェニオってば……分かっていますから///」

アッテンドーロ「姉さんの尻押しはちゃんと私がやるから大丈夫よ」

エウジェニオ「ふふっ、確かにムツィオがいるなら大丈夫よね……それじゃあ行ってらっしゃい♪」

ライモン「ええ、行ってきます」

…グロッタリーエ空軍基地…

提督「では、お願いね」

…愛車の「ランチア・フラミニア」を数日とは言え置き去りにするのは忍びなかったがやむなく基地の駐車スペースに預け、それから本部施設で係の士官に搭乗のための「予約票」を渡した…

空軍士官「お任せ下さい……搭乗するのは閣下と随行する艦娘が二人ですね」

提督「ええ」

士官「確認しました……他に手荷物は?」

提督「今持っているもので全部よ」中くらいのスーツケース一つに礼装の入ったガーメントバッグ(旅行用スーツ袋)を指し示す…

士官「分かりました、それは部下に運ばせます……伍長!」


…少尉は下士官を呼んで提督たちの持ち物を機に積み込むよう指示した……エプロンに駐機しているのはエンテ翼(先尾翼)に、推進式(プロペラが後ろに付いている)双発エンジンと未来的なデザインをしたピアッジォP180「アヴァンティ」で、機付整備員とパイロットが最終チェックを行っている…


操縦士「では、この機でナポリまでお送りいたします……とはいえ通常の輸送型ですからさしたるおもてなしは出来ませんが」

提督「大丈夫よ、大尉。お気遣いなく」シートにゆったりと腰かけ、ベルトをしめた……

…数時間後・ナポリ…

アッテンドーロ「うーん、この喧噪にごちゃついた町並み……ナポリ、懐かしいわね」

提督「そうね」


…賑やかでちょっとごみごみした港町でありながら、明るい陽光と家並みのせいか、どこか親しげな雰囲気のナポリ市街……沖には観光名所のカプリ島を望み、山側にはかの高名なヴェスヴィアス(ヴェスヴィオ火山)がそびえている……提督は停泊中の米第六艦隊の艦艇を横目に見ながら、つい短艇の吊り方や整頓の様子を確かめてしまう…


アッテンドーロ「……そういえば提督はナポリにもいたことがあるのよね?」

提督「ええ、そこでジェーン(ミッチャー提督)と出会ったの……泊まるところがないっていうから下宿に泊めてあげたのがきっかけでね」

………


819 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/01/17(月) 00:42:57.09 ID:vjM9YSGV0
…数年前…


米海軍の女性士官「ホーリィ、シッ……こういう時に限ってこうなんだから、タイミングが悪いったらありゃしない」米海軍中佐の制服を着ている一人の女性が舌打ちしながら米兵相手のホテルから出てきた……

女性士官「ふぅ、参ったわね……」ぼやいている女性はボリュームのある身体をしていて、つやつやした褐色の肌が制服からはち切れそうになっている……と、制服姿の提督を見るとガイドブック片手に歩み寄ってきた……

女性士官「あー……キューズミー、キャニュウスピーキン、イングリッシュ?(ちょっと失礼、英語は話せる?)」

カンピオーニ少佐(提督)「ええ、ある程度なら……メイ・アイ・ヘルプ・ユー?(何かお手伝いしましょうか?)」


女性士官「そうね、ぜひその「ヘルプ」をお願いするわ……あのね、この辺りでどっか泊まれそうなホテルかなにかないかしら? 実はホテルの予約がしてあったはずなのに部屋が取れてなくってね……別のホテルもいくつかあたってみたんだけど、事もあろうに「アイク(CVN69・原子力空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」)」の入港とかぶっちゃって……どこもいっぱいだって言うのよ」


提督「なるほど、それは大変ですね。 でもホテルと言っても、ここから歩いて行ける距離となると……タクシーを使っても今は観光シーズンですし、空母の入港も重なっていますから、悪くすると(ナポリ湾の対岸にある)ポッツォーリの辺りまで満員かもしれませんよ」

女性士官「オーケイ、それじゃあ基地に戻って内部の宿舎に一晩泊まるわ。消灯時刻はうるさいし、夕食に出るのったら出来損ないの「SOS」だけだろうけど……ま、少なくともベッドだけはあるわけだし……呼び止めて悪かったわね、えーと……」

(※shit on a single…トーストのクリームソース和え。南北戦争の頃にはレシピが生まれていたらしいが、今ひとつな味と鳥の糞に見える見た目の悪さから「屋根の上の糞」という不名誉なあだ名が付いている)

提督「フランチェスカ・カンピオーニ少佐です」

ミッチャー中佐「私はジェーン・ミッチャー中佐。ジェーンでいいわ……とにかくありがとね、カンピオーニ少佐」

提督「私もフランチェスカでいいですよ、ジェーン」

ミッチャー提督「オーケイ、フランチェスカ……それじゃあ私は基地に戻ってシケた晩飯を食べることにするわ……はるばるナポリまで来てキャンベルスープの缶詰か、それとも「テレビ・ディナー(冷凍食品)」か……とにかくアンクル・サム(合衆国)印のヤツをね♪」ニヤリと笑って、大げさに肩をすくめて見せた

提督「あの……もし良かったら、玉ねぎのマリネとスパゲッティ・アッラ・プッタネスカ、それに冷えた赤ワイン、ドルチェに甘いジェラートなんて言うのはいかがですか?」

ミッチャー提督「すごく美味しそうに聞こえるわね……フランチェスカ、それはあなたのフラット(住居)で、ってこと?」

提督「ええ。せっかくナポリに来たのですし……ナポリ料理とまでは言わなくても、イタリア料理を食べないなんてもったいないですから」

ミッチャー提督「そう……まぁせっかくそう言ってくれるのなら、お邪魔しようかしら」

提督「ええ、ぜひ…♪」

…提督の下宿先…

提督「どうぞ、ちょっと手狭ですけれど」

ミッチャー提督「ノー・プロブレム……駆逐艦のバンク(寝台)に比べたらヒルトンのスイートルームみたいよ」

提督「どうします、先にお風呂にしますか? それとも夕食を?」

ミッチャー提督「そうね……それならシャワーをもらおうかしら。何しろ陸(おか)に上がってからというもの「ハリウッドシャワー(使い放題のシャワー)」が楽しみだったのにロクな浴室と出会ってなくってね♪」

提督「分かりました。それじゃあその間にテーブルを整えておきますから、どうぞシャワーを浴びてきて下さい……それから体拭きのタオルと……私の予備ですけれど、着られますか?」白いパイル(タオル)地のバスローブを取り出して渡した…

ミッチャー提督「サンクス♪ ちょいとキツめだけど着られるわ……フランチェスカが水道代で目を回さない程度にたっぷり使わせてもらうわね」

提督「ふふっ、遠慮せずにどうぞごゆっくり♪」

…十分ほどして…

ミッチャー提督「ふー…さっぱりしたわ。本当にありがとね……っと」

提督「さ、どうぞ座って下さい♪」

…制服を脱いでシンプルなワンピース姿に着替え、その上からエプロンを着けている提督……部屋の灯りは少し暗めにしてあり、テーブルには赤ワインの瓶と皿が並び、ゆらゆらと炎が揺らめくキャンドルが一本立てられている…

ミッチャー提督「……ワーオ、まるで素敵なレストランみたいじゃない♪」

提督「いえ……だってせっかくですから、お洒落な方がいいかと思って///」

ミッチャー提督「いいじゃない、これなら干からびたパンとチーズだって美味しく頂けそうよ♪」

提督「きっと干からびたパンよりは美味しいと思います……どうぞ、ボン・アペティート(召し上がれ)♪」
820 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/01/17(月) 01:03:15.10 ID:vjM9YSGV0
アッテンドーロ「……そうやって引っ張り込んだわけね」

提督「あら「引っ張り込んだ」なんて人聞きが悪いわね……本当に親切でごちそうしてあげたかっただけよ?」

アッテンドーロ「どうだか……♪」

提督「もう……それより二人とも、ここからだとヴェスヴィアスが綺麗に見えるわ♪」

アッテンドーロ「あら、はぐらかしたわね……それにしてもヴェスヴィアスも相変わらずだこと。 ……開戦前までは登山電車があったけれど、今はないのよね」

提督「ええ、今は道路も出来たから車でも頂上近くまで行けるし……残っているのは「フニクリ・フニクラ」の歌だけね」


(※フニクリ・フニクラ…1880年(明治13年)ヴェスヴィアスに観光登山電車(フニコラーレ…「フニクリ・フニクラ」はその愛称)が作られたが、あまりの急勾配に恐れをなした観光客が乗ろうとせず売り上げが振るわないので、イギリスにある世界最古の旅行会社「トーマス・クック旅行社」がテコ入れのため、ナポリの新聞記者「ジュセッペ・トゥルコ」に作詞、ロンドン音大の教授として勤めていたナポリ出身の「ルイージ・デンツァ」に作曲を依頼。出来上がったこのCMソングは大ヒットし、無事に登山電車も人気となった……1944年、連合軍の管理下にあった登山電車そのものはヴェスヴィアス噴火のため閉鎖されたが、歌そのものは今も残っている。日本語訳では「♪〜登山電車ができたので、誰でも、登れる」といかにも登山電車の歌になっているが、原語(ナポリ語)では火山の炎と恋模様をからめたラブソングなのがイタリアらしい)


ライモン「フニクリ・フニクラですか……ムツィオは覚えてる?」

アッテンドーロ「ええ、もちろん♪」すっと息を吸い込むと高らかに歌い始めた……


アッテンドーロ「♪〜アイセーラ、ナンニネ、メ・ネ・サリェッテ。 トゥ・サーレ、アディオ」

(♪〜お嬢さん、今宵ぼくは登るんだ。どこだか貴女はわかるかい?)

アッテンドーロ「♪〜アドォ、トゥ・コーレ、ンガラァト、チィウ、ディスピェット。 ファルメ、ン・ポ」

(♪〜そこはもう恩知らずの心がぼくをじらさないところ)

アッテンドーロ「♪〜アドォ、ロ・フォーコ、コ・セ、マ・シ・フゥイエ。 テ・ラッサ・スタ」

(♪〜そこには火が燃えているが(嫉妬の炎ではないから)貴女を放っておける場所)

アッテンドーロ「♪〜エ・ヌン、テ・コォーレ、アプリィエッソ、ヌン・テ・ストゥルィェ。 スロ・ア・グラダ」

(♪〜貴女を追ったり(恋で)苦しめずに、ただ見つめていられる場所)

アッテンドーロ「♪〜ヤンモ!ヤンモ!ンコッパ、ヤンモ・ヤ!」
(♪〜行こう!行こう! 上へと行こう!)

アッテンドーロ「♪〜フニクリ・フニクラ、フニクリ・フニクラぁぁ!」
(♪〜フニクリ・フニクラ…)

アッテンドーロ「♪ンコッパ、ヤンモ・ヤ! フニクリ・フニクラ!」
(♪〜上に行こう! フニクリ・フニクラ!)


提督「あら、お上手♪」

アッテンドーロ「そりゃあね……まぁ、テアトロ・アッラ・スカラ(ミラノ・スカラ座)でプリマ・ドンナをやれるとは言わないけれど♪」

提督「ふふっ……ところで二人とも、そろそろお昼にしましょう? ミカエラも待っているだろうし、ピッツェリーア(ピッツァ店)辺りで手早く…ね?」

アッテンドーロ「そうね、でもせっかくだから地元の名店でマルゲリータを食べなくちゃ……ほら、ついてきて?」

…怪しい裏通り…

提督「……ここ?」

アッテンドーロ「そうよ。 お世辞にも品のいい場所とは言いがたいけれど、この路地の奥にある店で出すマルゲリータは絶品なんだから」

提督「そうなのね……それで、ピストルは準備しておいた方がいいかしら?」

ライモン「大丈夫ですよ、提督。 わたしとムツィオが付いていますから」

アッテンドーロ「そうそう……あとは大金を見せびらかしたりしなければ大丈夫」

提督「……そういうことにしておくわ」
821 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/01/28(金) 02:04:18.86 ID:VGjoX0eq0
アッテンドーロ「さ、早く済ませないといけないんでしょ?」

提督「ええ」

…坂の多い港町ナポリの裏通りをすいすいと歩いて行くアッテンドーロとそれに従って付いていく提督、そして提督の横に付いているライモン……路地の道端には壊れた木箱や野菜くずが放り出してあり、お世辞にも柄がいいとは言えない…

アッテンドーロ「ほら、ここよ」

提督「……どうやら間違いないみたいね」

…案内された先には薄汚れた黄色の壁をした一軒の小さな店があり、年季の入った小さな木の吊り看板には「ピッツェリーア」の文字が彫り込まれている…

アッテンドーロ「チャオ、三人よ」

提督「ごめんください……」

オヤジ「へい、らっしゃい! 注文は!」

…アッテンドーロの後に付き店内へと入った提督とライモン……店の中は全体的に古く薄汚い感じではあるが、テーブルだけは長い年月にわたってずっと拭かれているのか、表面に艶が出てすっかり飴色になっている……威勢のいい店主は丸顔であごに無精ひげをはやし、汚れきったエプロンに台拭きを挟みこんでいる…

アッテンドーロ「それぞれにピッツァ・マルゲリータよ」

オヤジ「あいよ! 飲み物は?」

アッテンドーロ「ロッソ(赤)をもらうわ」

オヤジ「ほいさ……士官さん、そっちは?」

提督「それじゃあ同じものを」

オヤジ「そっちのお嬢ちゃんは?」

ライモン「わたしも同じでいいです」

オヤジ「よしきた! ほらおっかあ、聞いただろ!」

おかみさん「ガタガタ言わなくたって聞こえてるよ、あたしにだって耳があるんだからね!」

オヤジ「そうかい! おれはてっきりこの間「オレキエッテ」と一緒に料理しちまったと思ってたぜ!」

(※オレキエッテ…「耳」を意味する丸っこいパスタ。タラント近郊では「小石」を意味する「チァンカレーレ」とも)

…勢いのいい店主とおかみさんのやり取りに、数人の客はげらげら笑っている……そのうちの三人は顔なじみらしい爺さんたちで、後は白粉をベタベタと塗った娼婦の「お姉さま」方……彼女たちもきっと数十年前は王室ヨットのようにスマートで綺麗だったのだろうが、すっかり沿岸回りの老朽貨物船のような体型になっていて、サビの上にペイントを塗りたくっているあたりもよく似ている…

おかみさん「はい、お待たせ!」編んだ柳のカゴにすっぽりと収まっている丸っこい瓶から、グラスにごぼごぼとワインを注いだ……

オヤジ「おう、とっととしねえか! せっかくのピッツァが冷めっちまうだろうが!」

おかみさん「分かってるよぅ! それにもし冷めたらヴェスーヴィオ(ヴェスヴィアス)にでも突っ込めばいいじゃないか!」

…下町のナポリ人らしく元気にまくし立てながら、さっとピッツァ・マルゲリータの皿を提督たちの前に並べたおかみさん……縁のある丸くて薄い生地にさっとサルサ・ポモドーロ(トマトソース)を塗り、モッツァレラ・チーズとバジリコを散らしてある…

提督「グラツィエ」

おかみさん「はいよ! 冷めないうちに食べな!」

提督「ええ……あむっ」

…パリッとして少し焦げのある香ばしい「耳」の部分と、さっくりとした生地の部分……そこに酸味のあるポモドーロと、ふつふつたぎっているモッツァレラの脂っ気、そしてそれをすっきりと打ち消すバジリコの爽やかな風味……一人に一枚を供するナポリピッツァで、差し渡したっぷり二十四センチはありそうな一枚が来て、提督は少し持て余してしまうかと思ったが、口当たりが軽いので美味しく食べられる…

………



アッテンドーロ「……ね、美味しかったでしょ?」

提督「はぁ、確かに美味しかったわね……あんなに美味しいピッツァ・マルゲリータを食べたのは初めてかもしれないわ」

アッテンドーロ「でしょう?」

提督「ええ、これで心おきなく出張に出かけられるわ♪」

アッテンドーロ「良かったわね……それじゃあ私と姉さんはこれで♪」

提督「楽しんでいらっしゃいね」

ライモン「提督も楽しんで来て下さいね」

提督「ありがとう、ライモン」
822 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/02/04(金) 11:30:35.82 ID:6//l9u1t0
…ナポリ基地「南部ティレニア海」管区司令部…

フェリーチェ大尉「来てくれて嬉しいわ、フランカ……それで、この後のスケジュールだけれど」手際よくラップトップコンピューターとメモを用意し、説明に入る…

提督「ええ」

フェリーチェ大尉「まずはローマのスーペルマリーナでいくつか資料を受け取り、それからアリタリアの便でスキポール空港(アムステルダム)に。スキポールにはハーグのオランダ海軍参謀部から士官が来ているから、その士官に二つほど資料を渡す」

提督「それから?」

フェリーチェ大尉「次にスカンジナビア航空の飛行機でオスロに飛んで、私はあちらの情報部と少し情報交換をするわ……それが済んだらノルウェーの海軍士官に基地を案内してもらって、フリゲートや艦娘たちを紹介してもらう予定になっているわ」

提督「ノルウェーのフリゲート……フリチョフ・ナンセン級ね」

フェリーチェ大尉「ええ。それからもう一度スカンジナビアの便に乗ってストックホルムに行って一泊、翌日の夕方にはフィンエアーの飛行機でヘルシンキ入り……細かい時間のスケジュールはこの紙に書いてあるわ。いくつかはぶいてある部分もあるけれど、そこは気にしないで?」

提督「分かっているわ。 それにしても結構なスケジュールね……色々見てみたい名所もあるのに、全然見られそうにないわ」


…公務である事は提督にも分かっているが、ヘルシンキ入りするの前のたった一日か二日の間にオランダ、ノルウェー、スウェーデンと駆け抜けるスケジュールを見て、さすがに愚痴が出る…


フェリーチェ大尉「そこは勘弁してちょうだい、フランカ。 やっぱり将官が行くと金モールの威光が働くから、先方が無理解な部類でも話を通しやすくなるのよ……それだけに普段は許可が下りにくい所へも訪問の予定を詰めこませてもらったから、どうしてもね」

提督「ええ、分かっているわ。でもせっかくのフィンランド湾だし、ストックホルムからヘルシンキは流氷クルーズの船で行きたかったなぁ……って」

フェリーチェ大尉「悪いわね、観光旅行って訳じゃないから時間がかかる船便は「うん」って言ってもらえないのよ……いつかみたいに火山が噴火して航空便が軒並み欠航にでもなれば別だけれど。代わりにストックホルムで一泊させてもらえるから、ちょっとだけ観光が出来るわ」

提督「わざわざ掛け合ってくれたのね、ありがとう……ストックホルムは「北欧のヴェネツィア」っていうくらいだし、一度見てみたかったの」

フェリーチェ大尉「いいのよ、私だってたまには観光くらいしたいし……官費とあればなおの事ね」ふっと浮かべた笑みを見ると、提督はフェリーチェとしばし同棲していた時を思い起こした…

提督「そうね……せっかく機会を得られたのだから、出来るだけ楽しまないと♪」

フェリーチェ大尉「だからって羽目は外さないようにね」

提督「分かっているわ♪」

…午後・カポーディキーノ空軍基地…

フェリーチェ大尉「それじゃあ、準備はいいわね? パスポートと航空券は持ってる?」

提督「ええ♪」

フェリーチェ大尉「よろしい」

…荷物検査のエリアへ提督を連れて行くと、空軍の係官にパッと何かを提示して見せた…

係官「あっ……確かにうかがっております」

フェリーチェ大尉「結構」係官がチェーンで塞いでいる通り道を開けて、二人をさっと通してくれる……

提督「……」

…官民共用のカポーディキーノ基地で空軍の「ガルフストリーム」哨戒・連絡機に乗り込み、次々と離着陸するカラフルな旅客機を眺めつつ離陸を待った…

提督「ふー……空港の手続きっていうのはせわしなくって気疲れがするわね」

フェリーチェ大尉「たかが国内でそんなことを言っているようじゃ、途中でへたばっちゃうかもしれないわね」

………

…数時間後・ローマ…

フェリーチェ大尉「それじゃあ今夜はここで一泊するから……明日は0800時にはスーペルマリーナで資料を受け取り、その脚でフィウミチーノ空港に向かうわ。駆け足の行動になるから早めに寝ることね」

提督「ええ、そうするわ……」

…そう言ってビジネスホテルらしいシングルベッドに潜り込むと、軽くため息をついた…

フェリーチェ大尉「あ、そうそう」

提督「なぁに?」

フェリーチェ大尉「お休み……♪」提督の唇にさっとキスをすると、隣のベッドに潜り込んで卓上スタンドの灯りを消した……

提督「///」


823 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/02/19(土) 01:30:56.43 ID:91e2KKf20
…翌朝・フィウミチーノ空港…

出国カウンター職員「ご連絡は承っております、どうぞお通りください」

フェリーチェ大尉「グラツィエ」

提督「……ねぇミカエラ、手荷物検査も搭乗手続きもなしってどうなっているの?」エアバスの座席に腰かけて、シートベルトを締めながら小声で尋ねた……

フェリーチェ「そう、もう言ってもいいわね……私は表向き「オブザーバーとして会議に出席するイタリア海軍将官に随行する士官」って事になっているけれど、ハーグで渡す資料はNATOの「機密」扱いだから、実際は情報部のアタッシェ(伝達吏)扱いなの……まぁていの良いカモフラージュね」

提督「あぁ、それで……」

フェリーチェ「そういうこと……フランカがおしゃべりするとは思わないけれど、知らなければ顔にも出ないし口が滑ることもないもの。とにかくスキポールでオランダ海軍の士官に資料を渡せば、重荷はなくなるから安心して」


…アムステルダム・スキポール空港…

オランダ海軍士官「連絡は受け取っております。では資料を……」

フェリーチェ「お願いします」

オランダ士官「確かに……どうもありがとうございました」

フェリーチェ「いいえ、どうもご苦労様でした」トランジット(乗り換え)エリアにやって来たオランダ海軍士官が身分証を見せて資料を受け取り、軽く会釈すると立ち去った……

提督「……あれだけ?」

フェリーチェ「ええ、あれだけよ……あとはあの士官がハーグにあるオランダ海軍の参謀本部まで運ぶ手はずになっているの。これで最初の用は済んだから、今度はSAS(スカンジナビア航空)の飛行機に乗ってオスロ入りね」

提督「そう……ところでお昼は?」

フェリーチェ「どのみち短時間だし、エコノミーの機内食を食べるよりもオスロでの昼食に期待しましょう。 今のうちにお腹を減らしておけば、より美味しく感じられるでしょうし」

提督「空腹は最良のソースってわけね……」


…オスロ…

ノルウェー海軍士官「ようこそおいで下さいました。ノルウェー海軍のビョルゲン・クリステンセン少佐です」

提督「初めまして、少佐……イタリア海軍のフランチェスカ・カンピオーニ少将です。こちらはミカエラ・フェリーチェ大尉」

クリステンセン少佐「初めまして、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……ノルウェーは初めてですか?」

提督「ええ」

クリステンセン「そうですか。時間があればたくさん案内したい場所があるのですが、残念ですね」

…堂々とした体格に金髪、青い目、あごにそって生えたひげ……と、北欧神話の神トールやエッダ(伝承物語)に出てくる英雄ベーオウルフ、あるいはヴァイキングをほうふつとさせる偉丈夫のクリステンセン少佐は数多くの冒険家と探検家を生み出してきたノルウェー人らしい立派な顔立ちをしている……敬礼のを済ませてから握手を交わすと、そのゴツゴツとした力強い大きな手に驚かされる…

提督「お気遣いありがとうございます、少佐」

クリステンセン「いえ……では早速ですが行きましょう。フェリーチェ大尉は情報部の人間が迎えに来ていますから、その間カンピオーニ少将には大戦中ドイツ艦隊の侵攻を迎え撃った海岸要塞の遺構を案内します……それからベルゲンの「ハーコンスヴァーン海軍基地」に向かい、見学の方をなさって下さい」

提督「分かりました。ところで「要塞」というと……オスロの戦いでブリュッヒャーを沈めた「オスカシボルグ要塞」ですか」

クリステンセン「そうです、よくご存じで」

提督「ええ、ノルウェー軍の奮戦ぶりについては私も以前から尊敬の念を抱いておりましたから……と言いたいところですが、お恥ずかしながら細かいところは映画で知ったのです」はにかんだような笑みを浮かべる提督……

クリステンセン「なるほど……とはいえわざわざ「予習」までして下さったようで嬉しいですね。ところで昼食はお済みですか?」

提督「いえ、それがまだでして」

クリステンセン「そうですか、ではベルゲンへ向かう前に昼食をお召し上がりいただくとしましょう……お客様のために素晴らしい鮭の燻製を用意してありますよ」

提督「まぁ、それは楽しみです♪」
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/02/21(月) 07:14:28.18 ID:TKSSFowqo
SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
825 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/02/27(日) 00:42:52.60 ID:RoXNloNK0
>>824 教えて下さってありがとうございます。

……とはいえさして更新がはかどるわけでもないのでしばらくはここで投下していき、そのうちにそちらへ移ることも考えて行きたいと思います。


それにしてもウクライナはどうなるのか……日本から心配してもどうこうなるわけでもありませんが、せめて気持ちだけでも応援してあげたいですね。
826 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/02/27(日) 01:56:01.40 ID:RoXNloNK0
…数時間後・ハーコンスヴァーン海軍基地…

基地司令「ようこそハーコンスヴァーン海軍基地へ」


…曇り空の下に広がるベルゲン沖の海は冬の北欧らしく荒々しく冷たい灰色に白い波頭を散らしていて、切り立った崖やフィヨルドが天候とも戦わなければならないスカンジナビアの荒々しい自然の雰囲気を感じさせる……基地には小型ながらイージス・システムを備え「ミニ・イージス艦」とあだ名されるノルウェー海軍の「フリチョフ・ナンセン」級フリゲートや、まるで陸戦兵器のようにグレイとグリーン系の色でスプリッター迷彩を施した「シェル(盾)」級ミサイル艇が数隻停泊していて、隣接する区域には艦娘たちの居住施設がある…


提督「とても大きな基地ですね……それに崖の中にドックがあったりと、実に興味深いです」

基地司令「そうでしょうね。我が国が地政学的の観点から、かなり独特な兵器体系を構築してきていることは自認しております」

…映画館やジムといった各種の娯楽施設まで備えた、まるで一つの町のような基地を案内してくれているのは基地司令の大佐で、ダンディな金褐色の口ひげを生やしている…

提督「いえ、国情に合った見事なものだと思います……それにノルウェーの「コングスベルグ」といえばペンギン・ミサイルを初め有名ですし、ぜひ色々と勉強させていただきたいと思っております」

(※コングスベルグ…ノルウェーの総合軍需メーカー。IR(赤外線)誘導の短距離対艦ミサイル「ペンギン」はベストセラーSSM(対艦ミサイル)で、発展型の「NSM」は「JSM」としてF-35戦闘機の兵装としても採用された)

基地司令「恐縮です……まぁ陸軍にはかの有名な名誉連隊長「ニルス・オーラヴ」がおりますが、その分我々海軍にはペンギン・ミサイルがありますからね……ところで昼食がまだでしょう? どうぞ食堂の方へ」


(※ニルス・オーラヴ准将…イギリス、スコットランド動物園にいるキングペンギン。現在は「三世」で階級はノルウェー近衛部隊の准将。1961年、各国軍隊の音楽隊によるイベント「ロイヤル・エディンバラ・ミリタリー・タトゥー」でノルウェー軍の中尉が交流を持ち、そののち隊のマスコットとして認めてもらうよう働きかけたもの。当初は上等兵だったが昇進を重ね、代替わりを続けながらとうとう准将となった。名前は当時の国王オーラヴ五世にあやかったもの)


提督「これはどうも、わざわざありがとうございます」オスロでも軽い昼食を食べてはいたものの、むげにもてなしを断るのも悪いのでそっと制服のベルトを緩めながらついていく……


…基地の食堂では艦娘担当の中佐一人と艦娘二人が提督たちを出迎えてくれた……白いテーブルクロスをかけた長テーブルには、さまざまな取り合わせの具材を載せたノルウェー式オープンサンドウィッチ「スモーブロー」や綺麗なスモークド・サーモンの皿が並んでいる…

艦娘担当官「では、こちらの艦娘たちを紹介いたします……「スレイプニール」級駆逐艦の「スレイプニール」と「オーディン」です」

艦娘「スレイプニール級駆逐艦、スレイプニールです」

…神話と同じく脚が八本あるかどうかはテーブルクロスに隠れていて見えないが、たてがみのような銀髪にしっかりした表情は水雷艇クラスの小さな駆逐艦とは思えないほど大人びている…

艦娘「同じくスレイプニール級、オーディンです」

…こちらも北欧神話の主神オーディンと同じく片目がないかどうかは顔にかかっている髪で定かではないが、やはり神話にあやかっているのか、左右の耳にはオーディンへと世界中の情報を伝えるカラス「フギン(思考)」と「ムニン(記憶)」をあしらったイヤリングをし、足元をそっとのぞくと狼の「ゲリ」と「フレキ」(二匹とも「貪欲」「大食らい」といった意味)をモチーフにしたアンクレット(脚飾り)を付けている…

提督「初めまして」

基地司令「……さぁどうぞ、遠慮せずに召し上がって下さい」

提督「では、いただきます」具をこぼさないよう、お上品にスモーブローを口に運ぶ提督……北欧風の薄くしっかりとした固めのパンに、それぞれ塩漬けニシンや味の濃いハム、酸味の利いたピクルスなどが載せてある……

基地司令「いかがですかな?」

提督「ええ、とてもおいしいです……ニシンというのはピクルスとも合うものですね」

艦娘担当官「お気に召していただいたようで何よりです」

提督「ええ。それにこの燻製サーモンも絶品ですし」ほどよく脂が乗っていてしっとりしているサーモンに、さっぱりしたサワークリームが添えてある……

基地司令「それはよかった……深海棲艦が出現した当初は出漁も出来ず、養殖場も被害を受けたりしたものですからね。 当時はしばらくサーモンとお別れでしたよ」

提督「そうでしょうね……イタリアでも海産物の価格が跳ね上がって大変でしたから」

オーディン「あの時はゲリとフレキの食べものに苦労しました」

提督「ふふ、何しろ名前からが「貪欲」ですものね♪」

オーディン「……北欧神話をご存じですか」

提督「ええ、一応は……きっと貴女はミーミルの泉の一口と引き換えに、片目をあげてしまったのね」

オーディン「その代わり世界で一番賢くなったので……」そう言いながらスモーブローを食べているが、片目のせいで目算を誤ってしまうのか、ちょくちょく足元の「ゲリ」と「フレキ」のあたりにこぼしている……

スレイプニール「……」

オーディン「何か?」

スレイプニール「いいえ、私はオーディンの馬ですから」

オーディン「ならよし……それにしてもハチミツ酒(ミード)が飲みたいものだ」

基地司令「こらこら、昼からはいかんぞ」真面目そうな表情をふっと崩すと、軽く叱りつけた……

提督「ふふっ……♪」
827 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/03/25(金) 11:03:21.07 ID:PjuYs/Jb0
提督「……ところでここの戦隊司令はどちらに?」


…食後のコーヒーをカップに注いでもらい、灰色の海を眺めながら担当官に聞いた……当然ながら各国で「艦娘」の運用制度は異なるので、ノルウェーの担当官がどういう立ち位置にあるのかは少し分かりにくかったが、どうやら艦隊の運用に当たる「提督」とは別に、艦娘たちのメンタルや広報活動を受け持つ、マネージャー兼カウンセラーのような扱いであるらしい…


基地司令「いやはや申し訳ない。 本当ならばここの戦隊司令も少将をお出迎えする予定だったのですが、哨戒中に潜水艦らしきコンタクトを発見しまして……先ほど帰投したので、すぐこちらに参ります」

提督「ああ、そういうことでしたか。では「どうぞ焦らずにおいで下さい」とお伝え願えれば……」そう言いかけたところで一人の少尉が入って来て、基地司令になにか耳打ちした……

海軍士官「……」

基地司令「ん、そうか。では格好を整えたらすぐ来るようにと……戦隊司令ですがもうすぐ来ますので、どうぞコーヒーのお代わりでも」

提督「そうですか、では半分ほど……」

…数分後…

海軍士官「遅くなりました。ノルウェー海軍のビョルン・ダニエルソン中佐です……少将どの、はるばるイタリアからようこそお越し下さいました」

提督「初めまして、ダニエルソン中佐。イタリア海軍のフランチェスカ・カンピオーニ少将です。お会い出来て光栄です」

…急いで正装に着替えてきたらしい中佐は荒波などものともしないようながっしりした体型をしていて、まるでファンタジーに出てくるドワーフのような金茶色のヒゲが顔の下半分を覆うほどにたっぷりと生えている……声は低いが良く通り、そのゴツゴツした手はコーヒーカップが小さく見える…

スレイプニール「お帰りなさい、司令」

オーディン「帰投を待っていました」

ダニエルソン中佐「ああ……ちゃんといい子にしてたか?」

スレイプニール「もちろんです」

ダニエルソン中佐「よし、偉いぞ」そう言うと大きな手で頭を撫でた……お客様である提督の前だからか遠慮しているように見えるが、普段は親子のように仲良くしているらしいことがうかがえる……

基地司令「それじゃあダニエルソン中佐……そろそろ少将に我々の活動を説明するから、君も同席して実際にはどんな様子だとかを解説してもらいたい」

ダニエルソン中佐「了解」

…しばらくして…

基地司令「いかがでしたか?」

提督「ええ、とても参考になりました」

…ノルウェー海軍製作のごく短い映画と、直近の活動中に撮影した写真を使ったプレゼンテーションを見せてもらい、それから様々な説明を受けた提督……手持ちのノートには聞き留めた大事な単語や肝心な所を要約した短文があれこれと書き込まれ、そこからあちこちに矢印が飛び出して他の単語や言い換えとつながっている…


ダニエルソン中佐「残念な事に我々ノルウェーの艦娘はあまり数が多くないうえ、大型艦がほとんどおりませんから、沿岸防衛が主任務となっております。夏場は夏場でユンカースJu−88やハインケルHe−111による空襲がありますし、冬場はひどく時化るので、活動が難しいという面では苦労します……それに最近は見かけなくなりましたが、一時期は重巡クラスの深海棲艦も確認されていたので、必要なときはシェットランド諸島に展開している英海軍と協力しています」

提督「なるほど」

ダニエルソン中佐「オスロからノルウェー南端のクリスチャンサンはスウェーデン、デンマーク、ドイツ海軍と協力しつつスカゲラク海峡とカテガット海峡の安全を確保してバルト海への入り口を維持し、ここベルゲンを始めとした西海岸のノルウェー海沿いには、スタヴァンゲル、オーレスンド、トロンヘイム、ナムソス等に鎮守府があってロフォーテン諸島やノール岬への海路を確保しています……そしてナルヴィクから北、トロムセの鎮守府から先のヴァランゲル半島、ノール岬(ノールカップ)を経由し、ロシアのムルマンスク港へと向かうバレンツ海の極北航路を維持するのは主にキルケネスの鎮守府となっています」


(※スカゲラク海峡、カテガット海峡…スカンジナビア半島とデンマークのあるユーラン半島に挟まれた海峡で、スウェーデン東岸やフィンランド南部、ポーランド北部やバルト三国に面しているバルト海やフィンランド湾へ入るための出入り口にあたる要衝。いわば北欧のジブラルタルかダーダネルス海峡といった場所)


提督「なるほど……それにしても長い半島西側は制海権を維持するのが大変ですね」

ダニエルソン中佐「その通りです。南部はデンマークやスウェーデンの海軍に任せておけますが、西にはアイスランドしかありませんからね……そのため我々ノルウェー海軍は西岸の基地に多く展開しているのです」

提督「良く理解できました、ありがとうございます」

ダニエルソン中佐「いえ、何かの参考になれば嬉しいですよ……そういえばオスロからは列車で?」

提督「いえ、飛行機でした」

ダニエルソン中佐「それは残念です。何しろ「ベルゲン鉄道」と言えばすばらしい景色で有名な観光列車ですから、ぜひ乗ってほしかったですね」

提督「私も時間さえあればそうしたかったのですが、なにぶん出張ですから……」

ダニエルソン中佐「どうやら小うるさくてけちな主計部というのはどこの海軍も変わらないようですね」

提督「ふふ、同感です♪」

828 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/03(日) 02:06:33.27 ID:LWsM42WL0
提督「……ところでダニエルソン中佐はどうして海軍に?」

…海軍士官がお互いに出会うと、話は自然と今まで航海した海や港で出会った興味深いものや珍しいもの、変わったこと……そして(当人が話してくれるようなら)海軍に入った理由もよく話題になる…

ダニエルソン「私ですか……私はうちが代々クジラ取りの漁師でしてね」

提督「クジラですか」

ダニエルソン「ええ。ノルウェーじゃ伝統的に食べていたんですが、昨今は保護団体からの風当たりが強いもんですからね……それに深海棲艦のこともあってクジラ漁が立ち行かなくなったので、サーモンやカニ漁に切り替えようとしたんですが、それもダメでしてね……結局、海のことならどうにかなるだろうと海軍予備士官に志願したんです」

提督「そうだったんですね」

ダニエルソン「ええ……カンピオーニ少将はクジラを食べたことがありますか?」

提督「いいえ、一度も」

ダニエルソン「……少将もやはりクジラは保護するべき生き物で、猟の対象にするべきではないとお考えで?」

提督「どうでしょうか……同族の哺乳類を食べていると嫌悪感を抱く人がいることは知っていますが、それでいけば牛や豚も食べられませんし……実家では時々、猟で仕留めたイノシシやウサギ、シカを食べていましたから……絶滅危惧種なのに見境なく乱獲するとか、あるいは遊び半分に殺すのでなければそういう文化があっても良いと思いますよ」

ダニエルソン「そう言ってくれると嬉しいですね。ノルウェーでもいまやクジラを食べる人はごく少なくなってきてしまいましたから……たいていは日本に輸出されるんですよ」

提督「なるほど」

ダニエルソン「これが昔持っていたうちの船です」

…ダニエルソンは胸ポケットから軍隊手帳を取り出すと、折り返しの透明窓の所に挟んでいる写真を見せてくれた……ふちが少しよれている年季の入った写真には、北欧らしいずんぐりむっくりとした寸詰まりの船体に、やたら乾舷の高い船首をもった一隻の漁船が写っている……舷側は鮮やかな赤色で、埠頭に横付けした船の前でダニエルソンとその家族と思われる数人が笑顔で収まっている……

提督「素敵な写真ですね」

ダニエルソン「いや、どうも……」ぼりぼりと頭をかきながら、少し恥ずかしげに照れ笑いを浮かべた……

提督「……ところでダニエルソン中佐、ノルウェー海軍も深海棲艦が出現してからは「提督」として任官する士官が多いのでしょうか?」

ダニエルソン「ええ、多いですね……私のような予備士官を始め、他兵種からの転属や若手士官の起用、士官学校の拡充も続いていますよ」

基地司令「とはいえ、どうしても他兵種からの転属組は「艦娘」の運用となると難しい所がありましてね……何しろレーダーやミサイルに慣れている今どきの士官に、大戦中の兵器について学び直してもらうのでは時間がかかりすぎますから」

提督「そうですね」

基地司令「それに「艦娘」たちは戦う軍艦としての存在であると同時に、一人の女の子でもありますし……その心のケアや体調管理には気を遣っています」

提督「たしかに、専門のカウンセラーや医療施設、ジムや温水プール、美容室……艦娘たちの福利厚生にとても気を配っている印象を受けました」

基地司令「ええ……我々は彼女たちに高いパフォーマンスを発揮、維持してもらうためにはそういった施設が必要だと考えていますし、同時に「深海棲艦」による制海権の喪失や、それをイージス艦や戦闘機といった既存の兵器で奪い返すコストを考えれば、それだけしても充分にお釣りが来ると考えております」

提督「同感です」

ダニエルソン「それに、彼女たちはみな良い娘ばかりです……そりゃあ時には叱りつける事もありますが、よく頑張ってくれていますよ」

提督「ふふ、それは私の所でも同じです……♪」お互いに提督として理解し合い、話が盛り上がってきた所でそっとフェリーチェが耳打ちした……

フェリーチェ「フランカ、そろそろ空港に行かないと……」

提督「ええ……色々なお話を聞くことが出来てとても有意義な時間でしたが、そろそろ空港に向かわないとならないので……本当はもっとお話をしたいのですが」

ダニエルソン「それは残念です……カンピオーニ少将は例のヘルシンキで行う会議に出席なさるのですね?」

提督「ええ」

ダニエルソン「そうでしたか……私は参加しませんが、ノルウェー海軍からは別の士官が出席する予定ですから、カンピオーニ少将のことをお伝えしておきます」

提督「ありがとうございます」

基地司令「では、送迎車を玄関に回しておきましたので……有意義な時間を過ごしていただけたようなら本官としても幸いです」

提督「ええ、大変に学ぶところがありました……大佐の心のこもったもてなしについては、ノルウェー海軍本部にも御礼を伝えておきます」

基地司令「いや、これはどうも……では、また機会がありましたらぜひ当基地へいらしてください」

スレイプニール「では、いつかまた来て下さいね。カンピオーニ少将……ちゅっ♪」敬礼を交わした後、つま先立ちをすると頬に口づけをした……

提督「あら……♪」

…司令部の入り口で基地司令とダニエルソン、それに「スレイプニール」を始めとする艦娘たちが見送ってくれる中、いそいそと車に乗り込んだ…

フェリーチェ「……どうやら良い思い出ができたようね」

提督「そうね……♪」

829 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/10(日) 02:20:06.56 ID:j7Yli54l0
…ストックホルム…

提督「うーん、やっと着いたわね……肩と腰がすっかりこわばっちゃった」

フェリーチェ「慣れてないでしょうし無理もないわ……でも、情報部だったら一泊で五カ国を巡ったりなんていう弾丸旅行みたいな出張もよくあるのよ?」

提督「頭が下がるわ……でも、今夜はちゃんとしたホテルに泊まれるのよね?」

フェリーチェ「ええ」

提督「助かったわ」

…空港ビル…

美人の女性士官「……ようこそストックホルムへ。お二人を案内することになりました、スウェーデン王国海軍のイングリッド・ラーセン大佐です」

…アーランダ国際空港のターミナル5で二人を出迎えてくれたのは、大佐の制服もビシッと決まっている海軍士官で、きりりとした典型的な北欧美人といった顔立ちもあいまって、銀幕を彩った往年の名女優「グレタ・ガルボ」を彷彿とさせる……

提督「初めまして、ラーセン大佐……「タラント第六鎮守府」司令のフランチェスカ・カンピオーニ少将です(それにしても目が覚めるような美人ね……)」敬礼を交わし、握手をしながらごくりと生唾を飲み込む……

フェリーチェ「ミカエラ・フェリーチェ大尉です」

ラーセン大佐「スウェーデン訪問を歓迎します。少将閣下、それと大尉……ここからストックホルムのホテルまでは私が車でお送りします。 ところで、お二人はこれまでストックホルムにおいでになったことは?」

提督「いえ、まだです」

ラーセン「そうですか、では「ガムラスターン(旧市街)」や王宮での衛兵交代は見たことがないわけですね?」

提督「ええ」

ラーセン「分かりました。せっかくストックホルムに来たのですから、ぜひご覧になってもらいたいですね……衛兵交代は正午ですから、明日ご案内しましょう」

提督「ありがとうございます」

ラーセン「いいえ。さぁ、どうぞ乗って下さい……ちょっと狭いかもしれませんが」駐車しているのは丸みを帯びた流線型で構成された2ドアの自動車で、銀色の塗装が空力を意識した滑らかで美しいラインを際立たせている……

提督「サーブですか、今どき珍しいですね……」


(※サーブ…1937年に国営の航空機メーカーとして設立された。「SAAB」は「スヴェンスカ・アエロプラン・AB(スウェーデン航空機製造会社)」の頭文字から。小国でありながら高い技術力をもち、戦中にエンテ翼、双ブーム、推進式エンジンという独特なデザインを持つJ21を完成させるなど意欲的な機種を次々と開発。戦後も50年代には米ソよりも早くダブルデルタ翼を採用したJ35「ドラケン(ドラゴン)」やJマルチロール機として好調なJAS39「グリペン(グリフォン)」を送り出すなど、優れた設計と高い技術力を誇る。一時期は航空機設計の技術を応用して自動車分野にも参入し、技術力に裏打ちされた優れた自動車をリリースしていた)


ラーセン「ええ、サーブ96です。父の代から乗っていて愛着があるものですから……年代物ですし運転には少し慣れが必要ですが、よく走りますよ」

提督「それでは……よいしょ、と」助手席の椅子を前のめりに倒してもらい、そこから後席に潜り込む……大柄な車ではないので少しせせこましいが、それでもそこまで居心地が悪くないのはシートやルーフ(屋根)のデザインがよく出来ているからだろうと提督は思った……

フェリーチェ「じゃあ私は助手席で」

ラーセン「ええ。それでは行きましょう」

…ストックホルム市街への道…

提督「……それにしても、コンパクトなのによく走りますね」

ラーセン「そうですね……乗り心地はいかがですか?」

…アンダーパワー気味のエンジンしか積んでいないため加速はそれなりだが、空力設計が上手いからかコーナーではかなり機敏なサーブ96……提督も車の運転は得意な方なのでしげしげと観察していたが、ラリーカーとして活躍するだけのことはあると思わせる…

提督「そうですね、かなり面白いです」

ラーセン「ちゃんとした自動車でお迎えできなくて済みません……本当は運転手付きの黒塗りでお出迎えする予定だったのですが、たまたま黒塗りの使用日時がかぶってしまいまして」

提督「構いませんよ。それにこちらの方がスウェーデンの自動車らしくて楽しいです」

ラーセン「そう言ってもらえると助かります」

提督「いえいえ」

ラーセン「……ストックホルムに着きましたら市街の案内や通訳は私が行いますので、必要な事があればどうぞご遠慮なく」

提督「ありがとうございます」

ラーセン「いいえ」
830 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/04/17(日) 02:36:41.50 ID:XwueR7TO0
ラーセン「ところで、スウェーデンで何かご存じのことはありますか?」

提督「そうですね……スウェーデンと言うと、サーブの戦闘機に「ヴィズヴィ」級フリゲート、Strv.103(Sタンク)のように、ユニークで優秀な兵器を持っているイメージですね……他に知っている事と言えば、恥ずかしながらグレタ・ガルボやイングリッド・バーグマンのような綺麗な女優が多いことと、警察小説の「刑事マルティン・ベック」シリーズ……そうそう「ニルスの不思議な旅」も子供の頃に読んだことがあります」


…提督は自分でも知識が偏っていることに苦笑いをしながら、運転席でハンドルをさばいているラーセンにそういった…


ラーセン「なるほど、「ニルスの不思議な旅」ですか。 あれは子供のためにスウェーデンの地理と歴史を楽しく学べるよう書かれた児童文学ですから、あれを読めばスウェーデンの大まかなところが理解できますよ……あとでゆかりの場所もご案内しましょう」


(※ニルスの不思議な旅……セルマ・ラーゲルレーヴの児童文学。動物をいじめていたり親の言いつけを守らない悪童ニルスが妖精をいじめたために小さくされてしまい、ガンの群れについて行こうとして飛び立った家のがちょうを捕まえようとして飛び立ってしまい、そこから渡りの中で様々な経験をして成長するお話。スウェーデンの地理や歴史を物語として楽しみながら学べるようになっている)


ラーセン「……それにしても時間の都合でカールスクルーナに寄れないのは残念ですね。私の鎮守府もカールスクルーナにあるので、ぜひご覧になって欲しかったのですが」


(※カールスクルーナ…スウェーデン南部に位置する軍港都市で世界遺産。冷戦中の1981年、ソ連の「ウィスキー」級潜水艦が座礁した「ウィスキー・オン・ザ・ロック」事件が起きた場所でもある。「ニルスのふしぎな旅」ではカール十一世のブロンズ像と、カールスクルーナ提督教会にある有名な老人型の寄付箱「ローゼンボム」の像が出てくる)


提督「ラーセン大佐はカールスクルーナ鎮守府の司令なのですね」

ラーセン「ええ……生まれたのは南部のマルメですが。 マルメはストックホルムよりも暖かですし、住んでいる人も穏やかな良いところですよ。それにコクムスの造船所もあります」

(※コクムス……スウェーデンの造船会社。1840年からあって、所有していたガントリークレーンはマルメの名物だった。潜水艦の建造にたけており「ゴトラント」級を始めとするAIP(非大気依存)システム搭載の通常動力潜水艦では高いノウハウを持つ。海自の「そうりゅう」型にも技術が導入されている)

提督「そうですね」

ラーセン「ええ。夏場は避暑を兼ねて多島海にある小島の別荘に行って、日光浴をしたり冷たいアクヴァヴィットを飲みながらのんびりしたりして時間を過ごすんです」

提督「自分の島があるなんて素敵ですね♪」

ラーセン「まぁ、スウェーデンは島が多いですから……それと先ほどからのお話を伺っている限りでは少将は映画がお好きなようですが、それで言うとマルメはアニタ・エクバーグの出身地でもありますよ」

提督「やっぱりスウェーデンはきれいな人が多いんですね。ラーセン大佐もとてもきれいな方ですし……それもぎらぎらした太陽ではなくて、静寂の中で輝きを放つ月のようです」

ラーセン「お上手ですね……何かお飲み物でもごちそうした方がよろしいですか?」

提督「いいえ、むしろ私からごちそうさせて下さい♪」

フェリーチェ「カンピオーニ少将」ラーセンに色目を使い始めた提督をたしなめるように、事務的な声を出した……

提督「あー、こほん……そう、映画は好きですよ」

ラーセン「そうですか。他にもスウェーデンと言えばイングマール・ベルイマン監督や俳優のマックス・フォン・シドー……イタリアと言えば「ヴェニスに死す」に出演した美少年タジオを演じたビョルン・アンドレセンもスウェーデン人ですよ」

提督「ルキノ・ヴィスコンティの映画ですね……幼い頃に見た時は分かりませんでしたが、ある程度大人になってから見ると感情や描写の奥深さに驚かされます」

ラーセン「そうですね、中年の作曲家が名前も知らない美少年に心を奪われてしまう……それだけで済ませることのできない人間の心や、美しいものに心惹かれる感情の機微というのでしょうか……」

提督「ええ。それにヴィスコンティ自身も美少年が好きだったようですから、一層リアリティがありますね」

ラーセン「たしかにその話は聞いたことがあります……そろそろホテルに着きますよ」

…ストックホルム市街は古き良き石造りの建物も多いが、同時にガラスとコンクリートで出来た現代的なビルディングも数多く立ち並んでいる……どちらにもいい点はあるのかもしれないが、淡い黄色や落ち着いた白色の壁の古い建物の方が好ましく思えた…

提督「きれいな街ですね」

ラーセン「ありがとうございます……ですが、私からすると堅苦しくてよそよそしい感じがしますね。もっとも、それは私がストックホルムの人間でないせいかもしれませんが」

提督「いえ、その気持ちはよく分かります。イタリアでもローマはせわしなくて慌ただしい感じですから……どこでも首都というのはそういうものなのかもしれませんね」

ラーセン「かもしれません……さぁ、着きましたよ」

831 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/18(月) 01:42:06.03 ID:5ZxYdCGc0
…翌日…

ラーセン「さてと、手荷物は大丈夫ですか?」

提督「ええ」

ラーセン「分かりました、それでは行きましょう……王宮周辺は車が乗り入れられないので近くで車を停めて、あとは歩きです」

…ガムラスターン(旧市街)と王宮は、ストックホルム市街の周辺に広がる多島海の一つ「スターズホルメン島」に集中している……周囲はクリスマス前とあってバザールが開かれていたりと賑やかで、灰色の冬の空を押し戻そうとしているかのように、あちこちに鮮やかな青と黄色のスウェーデン国旗が翻っている……ラーセンは旧市街の入り口でサーブを停めると、提督とフェリーチェを案内して旧市街を連れ立って歩いた…

…ストックホルム宮殿前…

提督「あ、始まったわ……」

…王宮前の広場で行われる衛兵交代式を見学する提督一行……青を基調にした凜々しい礼装姿のスウェーデン近衛兵達が、白馬にまたがり石畳の広場で見事な行進を披露する……およそ半時間あまりにわたる式典を見終えると、周囲の観光客と同じように惜しみない拍手を送った…

…しばらくして…

ラーセン「……いかがでしたか?」

提督「とても素晴らしかったです、まるで物語に出てくる騎士達のようですね」

ラーセン「気に入ってもらえて何よりです……失礼、少々よろしいですか」

…新市街に戻ってくる途中で広告のついた青色のトラックを見かけると、いささか唐突に車を停めたラーセン大佐…

提督「どうかしましたか?」

ラーセン「いえ……つかぬ事をお尋ねしますが、少将はアイスクリームがお好きですか?」

提督「ええ、どちらかと言えば好きな方ですよ」

ラーセン「そうですか、それはよかった……では行きましょう!」

提督「ラーセン大佐?」

ラーセン「ああ、そういえば少将はご存じないですね……あの車は「ヘムグラス(Hemglass)」のアイスクリーム販売車ですよ」

…妙にのんきなオルゴールのようなメロディを響かせながら道端に停まった青色のトラック……と、たちまちあどけない子供たちから、ネクタイを締めた生真面目そうな会社員、杖をついたお年寄りまで、ありとあらゆる年齢層の人がトラックの周りに集まってくる……どちらかと言えば落ち着いていてあたふたすることの少ないスウェーデン人が、我先にとトラックの周りに集まってくるのに何とも言えない違和感を覚えた提督…

提督「えーと……」

ラーセン「あぁ、スウェーデン語で書かれているからどれがどの味が分かりませんか? 英語でよろしければ翻訳しますよ?」言うよりも早く自分のアイスクリームを注文しているラーセン……

提督「そうではなくて……」

ラーセン「では何か……もしかしてお好みの味がありませんか?」

提督「いえ、そういうわけでも……」

フェリーチェ「……噂は本当だったようね」提督の横に立っているフェリーチェが小声でつぶやいた

提督「どういう事?」

フェリーチェ「あぁ……北欧やロシアの人間はアイスクリームが大好きだって話よ。空気が乾燥しているから、飲み物よりも時間をかけて舐めることが出来るアイスクリームが好まれる……って」

提督「そういうこと……それにしてもこの気温でアイスクリームね。まぁいい経験かもしれないわ」財布からアストリッド・リンドグレーンが描かれた20クローナ札を取り出すと、ラーセンに通訳を頼んでアイスを買おうとする……

(※アストリッド・リンドグレーン……「長くつ下のピッピ」の作者。それ以前の20クローナ札は「ニルスの不思議な旅」と作者のラーゲルレーヴだった)

ラーセン「あの、カンピオーニ少将……」

提督「何でしょう、ラーセン大佐」

ラーセン「いえ……スウェーデンのたいていのお店では現金が通じないので。電子マネーかカードの類はお持ちですか?」

提督「あぁ、そういえばそうでしたね……逆にイタリアでは現金以外は信用されないものですから、つい♪」額に手を当てて少しおどけたような身振りをすると、改めて財布からプリペイドカードを取り出した……

…数分後…

提督「……ミカエラは何味にしたの?」

フェリーチェ「普通のバニラ味ね、フランカは?」

提督「キイチゴ味ね……普通のイチゴよりも甘酸っぱいわ」

ラーセン「無事に買えたようで何よりです……出遅れるとすぐなくなってしまいますから」

提督「ふふ……スウェーデンの方はアイスクリームが好きなんですね」整っていて「格調高い」とも言えそうな顔立ちのラーセンが、子供のようにアイスクリームをなめている姿を見ると、何となくおかしさがこみ上げてくる……

ラーセン「ええ、子供の頃から家にはアイスクリームがたくさんありましたよ……どうかしましたか?」

提督「いえ、何でもありません♪」ある意味で面白い体験が出来たと、気温がひとケタの寒空の下で暖かいコートにくるまってアイスをなめた……
832 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/26(火) 11:35:50.37 ID:t2dgCduN0
…しばらくして…

ラーセン「カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉。よろしかったら「フィーカ」をご一緒しませんか?」

提督「フィーカ……たしかコーヒー休憩のことでしたっけ」

ラーセン「ええ、よくご存じですね……いかがですか?」

提督「そうですね、ぜひ♪」

…前日にスウェーデン入りしたばかりだと言うのに、すでにコーヒーを飲み続けている気がしている提督……フィンランド人の次にコーヒーを消費し、EU(欧州連合)平均の倍はコーヒーを飲んでいるとされるスウェーデンだけあって「フィーカ(コーヒー休憩)」というと、もはや息をするのと変わらないほど生活に染みついている…

…カフェ…

ラーセン「カンピオーニ少将、マザリン・ケーキをどうぞ」

提督「ありがとうございます」

…濃く淹れた苦くて熱いコーヒーにたっぷりと牛乳を入れたミルクコーヒーに、小さいタルトのような台にアーモンドのペーストを詰めて、上から粉砂糖でコーティングした甘い「マザリン・ケーキ」を添えた提督……フェリーチェもマザリン・ケーキを取り、ラーセンはしばし考えてスイートロールを取った……カフェとペストリーを売る菓子店を兼ねている「コンディトリー」は、ガラス張りの陳列棚に甘い菓子がいくつも並び、コーヒーの香ばしい香りが漂っている…

ラーセン「ええ……ふぅ、やはりこれがないと落ち着きません」きりりとした表情を少しゆるめて、満足げなため息をついたラーセン……

提督「スウェーデンの方はコーヒーがお好きですね」

ラーセン「そうですね。同じように牛乳も好きですが……ところで昨夜の夕食はいかがでした?」

提督「ええ、美味しかったですよ」

ラーセン「それは何よりです」

…前夜・レストラン…

提督「……わざわざありがとうございます」

ラーセン「いえ、どのみち私も夕食を取りに出かけようと思っていたところでしたから」


…提督たちをホテルに送ってくれた後で「夕食でもいかがですか」と誘いに来てくれたラーセン……提督としては美しいラーセンにそう言われて一瞬わくわくしたが、ラーセンとしては他意はなく、単に外国の将官に気を遣ってそう言ってくれたのだと思い、少しがっかりすると同時に、その気配りを嬉しく感じた……制服から私服に着替えてきたラーセンは淡いグレーのスカートとクリーム色のセーター、それとライトグレイのコートに合わせて、袖口に白い毛皮の縁取りを施したライトグレイの手袋をしていて、脱いだコートと手袋は横に置いてある…


提督「そうだとしても、わざわざ誘って下さるなんて嬉しいです♪」


…いかにもスウェーデンらしいゆでジャガイモとベリーソース添えのミートボールを食べながら、にっこりと微笑みかけた提督……ストックホルムのぴりっと冷たい寒さに対抗して、黒いウサギの毛皮帽に黒革の手袋、それに暖かなクリーム色のラップコートで、下にはふんわりした淡い桃色のセーターとひざ丈のスカートをまとい、ストッキングに黒革のニーハイブーツで足元を固めている……フェリーチェは黒のハイネックセーターに控え目な金のネックレス、割とぴっちりした地味なスラックスを合わせていて、カブのピューレをそえた小ぶりなヒレステーキを味わっている…


フェリーチェ「私もスウェーデン語はおぼつかないので、助かりました」

ラーセン「いえ、どうぞお気になさらず……後でクリスマス前のマーケットも寄ってみましょう」

………



提督「……それにしても、うちの艦娘たちも、スウェーデン海軍の「プシランデル」級や「ロムルス」級に会えれば良かったのですが」

ラーセン「そういえば、もともとそちらの艦(フネ)でしたね」

提督「ええ。プシランデル級がもとのセラ級駆逐艦、ロムルス級がスピカ級の水雷艇です……あとは戦後の「トレ・クロノール」級軽巡もアンサルド社のデザインですし、親近感があります」

ラーセン「当時、ソ連やドイツに備えるために艦艇を整備していた我が国にとってみれば、必要な性能があって固いことを言わずに売却してくれるイタリア艦は貴重な戦力でしたからね……何しろ軍艦を建造すると言っても、造船所には限りがありますから」

提督「それに、長い半島と陸地に囲まれた穏やかな海という部分でもイタリアに似ていますし、スペックや性格の部分でも扱いやすかったのではないかと思います」

ラーセン「おっしゃるとおりです……それに数隻とは言え、独ソ両方から中立を守るという意味ではいい時期に艦隊へ編入することが出来ました」

提督「スウェーデンの中立維持は今も昔もなかなか舵取りが難しいですね」

ラーセン「ええ。とはいえ、バルト海の深海棲艦も活動がかなり下火になりましたから……失礼」

提督「……そういえば、スウェーデンの人って歯磨きの後にうがいをしないわよね」化粧室に向かったラーセンの後ろ姿を見送りながら、ふと気になったことを口に出した……

フェリーチェ「ええ……なんでもフッ素の成分をうがいで流してしまわないためだそうだけど。キシリトールガムがやたら多いのもそのためだって聞いたわ」

提督「なるほどね……理屈は分かるけれど、私は遠慮しておくとするわ」

………

833 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/04/27(水) 17:09:45.16 ID:EOgtssco0
…そういえば4月26日は「海上自衛隊の日」で、海自の創設70周年でしたね。近年ますます世界の情勢が混迷を深める中、活躍している海自の皆さまには頭が下がります……平和で海難事故もなく、金曜カレーの味を競うような穏やかな日々が続けば良いのですが…

…それにしても旧帝国海軍の駆逐艦や海防艦、米軍のお下がりといった寄せ集めの艦艇群だった当時に比べ立派な護衛艦を持つようになって、本当に隔世の感がありますね…
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2022/05/06(金) 18:32:27.55 ID:ihDcxAkHO
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/
835 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/05/09(月) 00:43:40.42 ID:9fHPSI/e0
…艦娘紹介(スウェーデン)…


ゴトラント…航空巡洋艦。単艦

世界的にも珍しい航空巡洋艦(水上機運用巡洋艦)。平甲板で構成された船体と、前部主砲として「ボフォース・M/30」152ミリ連装砲、および艦橋両舷のケースメイトに同単装砲一基ずつを備え、後部甲板には75ミリ60口径連装高角砲、および中央部両舷に同単装高角砲、また533ミリ魚雷発射管や機銃少々を装備した。

巡洋艦としては低速で、あくまで武装を強化した水上機母艦といった立ち位置ではあるが、アイデア自体はフランスや日本に影響を与え、「リシュリュー」級戦艦や「利根」型一等巡洋艦の設計、また「最上」型二等巡洋艦などの「航空巡洋艦」化につながったとも言える。

後に搭載機の「ホーカー・オスプレイ」(1928年初飛行の複葉軽爆「ホーカー・ハート」の艦載型)が旧式となり、戦時下にあってカタパルトの変更や代替機の調達がかなわなかったことから、ボフォース製の大傑作である40ミリ60口径「ボフォース・m/36」高角機銃を後甲板に増備し防空巡洋艦となった。
大戦中、スウェーデンは武装中立を維持したので戦績という戦績はないが、ドイツ・ソ連の双方にニラミを利かせ、またドイツ戦艦「ビスマルク」の出撃時にはこれを発見、イギリスに通報することで撃沈の端緒を作っている。艦名はスウェーデンの「ゴトラント島」から。


艦娘「ゴトラント」は軽巡と言いつつも小柄で、火力、防御、速力いずれもそこまで高い能力があるわけではないが、当時のスウェーデン王国海軍でほぼ唯一の巡洋艦ということで頑張っている。「ゴトラント」の名前に影響を受けてか、南部スウェーデン人らしく気さくで人のいい性格をしている。


……

トレ・クロノール級軽巡…二隻。

イタリア艦「R・モンテクッコリ」級や「アブルッツィ」級など、デザイン的に優れていた「コンドッティエーリ(傭兵隊長)」型軽巡の設計案を売り込まれたスウェーデンが、これをベースに設計した新型軽巡。

武装は全てスウェーデンのボフォース製に換装されており、特に当時としては先進的な自動装填機能、仰角70度まで指向できる152ミリ高角砲を主砲とし、同時に高角機銃として高性能を誇るボフォース製「m36・40ミリ60口径」機銃を装備して対空戦に備え、専用の高角砲を持たない所に特徴がある。
一番艦の「トレ・クロノール(三つの王冠)」は43年に進水、就役は戦後の47年。64年には除籍されたが、同じく戦後に就役した二番艦「イェータ・レヨン(黄金の獅子)」はスウェーデン海軍除籍後チリに売却され「アルミランテ・ラトーレ」として1984年に除籍されるまで長く活躍した。
艦名の「トレ・クロノール」「イェータ・レヨン」はいずれもスウェーデン王家の紋章から。


大戦には間に合わなかったことから活躍の機会もなかった「トレ・クロノール」級だが、艦娘として活躍の機会が得られたことから張り切っている。スウェーデン王室のシンボルを冠しているだけに高貴な印象を与えるが、国民とも積極的に関わり合うスウェーデン王室を体現してか、意外と気さくで付き合いやすい。服はスウェーデンらしい青地に黄色のワンポイントが入ったお洒落な礼装。

……

プシランデル級駆逐艦…イタリア海軍の「セラ」級駆逐艦のうち二隻を購入したもので、砲や機銃はスウェーデン軍に合わせてボフォース製のものに換装され、450ミリ魚雷も53.3センチ魚雷に換装された。


塗装もスウェーデン独自の灰色と白にグリーン系の三色で構成された迷彩を施し、イメージがかなり変わっている。

元の「セラ」級は小柄な船体に過剰とも言うべき兵装を搭載していたが、波穏やかなバルト海ではそこまでの影響がなく、航続距離(アシ)の短さも防衛を主とするスウェーデンでは欠点とならず、沿岸防衛や哨戒に活躍した。


服は迷彩服のような色味で、小さいが何でもそれなりにこなせる器用なところがある。
836 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/05/21(土) 00:55:46.56 ID:JH8ZyRRw0
…フィンランド・ヘルシンキ空港…

提督「はー、ここがヘルシンキ……って、寒いわね」

フェリーチェ「無理もないわ。気温を見てみなさいよ」それぞれ現地時間とロンドン時間を表示している二つの時計や各種施設の案内が書かれている大きな案内板……そしてそれに付いているデジタル温度計を軽く指し示した……

提督「うわ、外は氷点下なのね……道理で」

フェリーチェ「暖かいコートで正解ね」

提督「ええ……それにひきかえフィンランドの人ときたら、寒くないのかしら」


…暖房の効いていたフィンエアーのサーブ機から降りてきた提督とフェリーチェは当直(ワッチ)にも使える厚いダブルの軍用コートをきっちり着込んでいたが、それでもなお沁みこんで来るフィンランドの冷気に軽く身震いした……にもかかわらず辺りを行き交うフィンランド人はさして寒そうな様子もなく、一応コートや毛皮の帽子は身に付けているが、当たり前のように歩き回っている…


フェリーチェ「きっと慣れっこなんでしょう」

提督「そのようね……それで、お迎えの士官さんはどこかしら……?」

フェリーチェ「……ゲートの所に二人いるわ、きっとあれがそうでしょう」そう言っている間にも丁寧な雰囲気のフィンランド海軍の士官が歩み寄ってきて、ぴしりと敬礼した……

フィンランド軍士官「お待ちしておりました。ようこそフィンランドへ……本官がお二人を送迎することになっております。どうぞこちらへ」

提督「感謝します」

士官「お荷物は下士官に運ばせますので、どうぞお楽に」

提督「ありがとうございます」スーツケースを運んでくれる下士官にも礼を言うと、メルセデスの後部座席に腰を下ろした……


…所帯が小さいフィンランド軍は、陸・海・空・それぞれの司令官を少将が務めていることもあり、「はるばるイタリアからやって来た将官」という立場である提督に対して、わざわざ前部のフェンダー部分に軍のペナントを立てた立派なメルセデスのSクラス乗用車と随伴車が一台ついた車列で迎えに来てくれていた……ぜいたく自体は嫌いではないが、仰々しいのが苦手な提督としては別にタクシーでも構わなかったが、車内が暖かく乗り心地がいいのはありがたかった…


フィンランド軍士官「それでは、本官がヘルシンキのホテルまでお送りいたしますので」

提督「お願いします」

…滑らかに走り出したメルセデスのシートに深々と腰かけ、窓からの景色を眺めつつフェリーチェに話しかけた…

提督「それにしても北欧は色が少ない感じね。 白と灰色と針葉樹の緑……建物に赤や黄色を使いたくなる気分も分かるわ」

フェリーチェ「同感」

提督「フィンランド海軍の艦娘たちと会う機会はあるかしら? スウェーデンの娘たちとは会えなかったし」

フェリーチェ「それなら会議には随伴として来ているはずだから、きっと会えるわ」

提督「そう、良かった♪」

フェリーチェ「ええ……ところでストックホルムで買い込んでいたクリスマス飾りは鎮守府へのお土産?」

提督「そうよ。スーツケースには着替えくらいしか入っていないし、いざとなったら宅配便で送っちゃえばいいものね」

フェリーチェ「なるほど、フランカも色々と考えてきたのね」

提督「ええ、ミカエラほど旅慣れてはいないけれど……♪」

フェリーチェ「何事にも初めてはあるものよ。 それと、会議の出席者だけれど……」さっと資料を取り出すと、手早くブリーフィングを行った……

提督「ええ」

…数分後…

フェリーチェ「……ざっとこんなところね」

提督「よく分かったわ」

フィンランド軍士官「……少将閣下、もうそろそろホテルに到着します」

提督「ええ、ありがとう」

士官「ホテルではこちらの代表である鎮守府司令官がお二人を出迎える手はずになっております……わが軍のおおよその態勢や状況はその士官からお聞きいただければと存じます」

提督「分かりました、ありがとう」
837 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2022/06/13(月) 01:08:13.44 ID:VtVpfAb50
…ヘルシンキ・ホテルのラウンジ…

色白の女性士官「ようこそ「森と湖の国」フィンランドへ、お会い出来て光栄です……クリスティーナ・ニッカネン少佐です」

提督「フランチェスカ・カンピオーニ少将です。こちらこそ、暖かいもてなしに感謝しております」敬礼を交わすと、軽く握手をした……

ニッカネン少佐「我々フィンランド人は「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)でもない限り、いつでも旅人を歓迎しますよ。 イタリアの方にこの寒さはこたえたと思いますが……コーヒーでもいかがですか?」

提督「ええ、いただきます」

…コーヒー好きのフィンランド人らしく、早速コーヒーを注文したニッカネン……運ばれてきた銀色のポットからカップにコーヒーが注がれるのを見ながらも、ついニッカネンを観察してしまう…

提督「……」

ニッカネン「どうかなさいましたか?」

提督「あぁ、いえ……」


…ニッカネンは色白で、淡い琥珀色の髪に色素の薄いブルーの瞳をしていて、髪を頭に巻き付けるように結っている……すでに結氷期で艦娘側も深海側もお互い活動が低調な東部バルト海とはいえ、フィンランド海軍の持つ戦力はごく小さく、哨戒や指定海域での機雷敷設、あるいはフィンランド湾を封鎖しようと深海側が敷設する機雷の掃海と忙しいらしい……カップを持つ指は多少骨張った感じではあるが白くすんなりとしていて、帰投してから急いで金モールと略綬付きのきれいな制服に着替えてきたらしく、髪にほのかな潮の匂いが残っている……また、それがどんな香水よりもニッカネンのすっきりした美しさを引き出している…


ニッカネン「それにしても少将がいらっしゃるとは思いませんでした……フィンランドは初めてですか?」

提督「ええ。北欧自体が初めてなので、何もかもが目新しくて興味深いです」

ニッカネン「そうですか……少将は何かご趣味を?」

提督「ええ。映画や絵画の鑑賞、読書など一通りは……それに射撃も少し」親指と人差し指で小さなすきまを作り「ほんのたしなむ程度に」と身振りをつけた提督……

ニッカネン「射撃ですか、それなら私もたしなんでいます……時期になると鹿撃ちや鴨猟をやりに田舎の方へ出かけますよ。猟のシーズンならご一緒出来たのですが」

提督「まぁまぁ、休暇で来たわけではありませんから……少し残念ですけれど」

ニッカネン「他にフィンランドでご存じのことは?」

提督「そうですね……」

提督「やはりフィンランドと言えばマンネルヘイム将軍と「冬戦争」ですね……それに子供の頃に読んだ「ムーミン」や、船舶用ディーゼルのヴァルティラ……電子機器のノキアにアパレルのマリメッコ、銃火器のヴァルメ……」

ニッカネン「なるほど」

提督「それから作曲家のシベリウスに建築家のアルヴァ・アールト、ライコネンのような有名レーサーたちに、パーヴォ・ヌルミを始めとする陸上競技の「空飛ぶフィンランド人」や、クロスカントリースキーといったスキースポーツの選手……そうそう、実家にはイッタラのグラスもいくつかありますよ」

ニッカネン「これはこれは……私がイタリアについて知っている事よりも多いですね」

提督「そうですか? ふふっ♪」眉を持ち上げて驚いた様子のニッカネンを見て、思わず笑みを浮かべた提督……

ニッカネン「ええ。それと、この後の予定ですが……会議は翌日から始まる予定ですから、それまでの間に基地の艦娘たちを紹介する機会や、ヘルシンキ市内をご案内する時間も持てると思います。「スオメンリンナ要塞」(世界遺産)の見学や、市街の散策もできるかと思います」

提督「まぁ、それは嬉しいです」

フェリーチェ「ニッカネン少佐、お気遣いありがとうございます」

ニッカネン「いいえ。大尉もぜひ楽しんで下さいね」

フェリーチェ「そうさせていただきます」

ニッカネン「ええ、ですがその前に当地の情勢について軽く説明を……」

提督「ええ、ぜひお願いします」

…無愛想というわけではないが、あまりおしゃべりではないニッカネンが慎重に口を開く……提督もノートとペンを取り出し、あらためて椅子に座り直す…

ニッカネン「我々フィンランド海軍ですが……現在はフィンランド湾口を押さえるハンコ半島を拠点に、深海側の活動を抑え込んでいるというのが現状です」横に置いてあった書類鞄から様々な書き込みが加えられた地図を取り出し、ディバイダーと定規を当てて説明に入った……

提督「なるほど」

ニッカネン「フィンランド湾の最奥はクロンシュタットやサンクトペテルブルクといったロシアの都市があり、同地には黒海艦隊(バルチック艦隊)の基地があります」

…深海棲艦という「人類共通の脅威」を前にしてある程度協力関係にあるとは言え、過去にフィンランドへとしてきた仕打ちを考えるとお世辞にも「味方」とは言いにくいロシア海軍の事だけあって歯切れが悪い…

提督「ええ」提督も察して、そこは軽く相づちを打つだけでとどめた……

ニッカネン「……基本的に我々はフィンランド湾から深海棲艦がバルト海へ進出するのを抑え、同時にこちらの活動が制限されないよう、ハンコ半島や周辺海域を封鎖されないよう機雷の掃海に当たっています」

提督「なるほど」

ニッカネン「とはいえ冬期はフィンランド湾が結氷し、日照時間も短くなるので活動は低調になります」

提督「そのようですね」冬とは言えまだ日差しのある南イタリアのタラントに比べて薄く弱々しく、それすらもすぐに沈んでしまう北欧の太陽を経験している最中なので気持ちがこもる……

ニッカネン「ええ」
838 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/06/14(火) 03:17:20.56 ID:kXMqWcJ80
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839 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/06/30(木) 00:38:09.54 ID:VDMzgJCv0
いよいよ「リムパック2022」が開催されましたが、現役の方はぜひ事故のないよう気を付けて下さい……世界がきな臭くなっている中での演習ですから緊張も増していると思いますが。


それと一つ間違いの部分を……サンクトペテルブルクはバルチック艦隊の根拠地ですから当然ながら黒海艦隊ではなくバルト海艦隊ですね。

また、この後ロシア連邦海軍のキャラクターを登場させるつもりでいます。ウクライナのことがあるのでどうかとは思ったのですが、登場させること自体はウクライナ以前に考えていたので……あくまでもテンプレートな冷血ロシア人キャラという事で、特段の意図を持っているつもりはありません。

840 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/07/16(土) 11:17:46.30 ID:KE82mUTN0
…しばらくして…

ニッカネン「それではそろそろキルッコヌンミの鎮守府を案内しましょう」


…ホテルのラウンジで美味しいコーヒーをお供に情勢説明を受けた提督とフェリーチェ……カップの濃いコーヒーを飲み終えると、ニッカネンが切り出した…


提督「楽しみです」椅子から立ち上がると制服を軽くはたき、さっと身体を見回してお菓子の食べこぼしやコーヒーの染みがないか確かめる……

…ホテルの玄関先…

ニッカネン「では、おいてきた車を取ってきます……本官が先行しますから、どうぞ後からいらっしゃって下さい」

提督「ええ、お願いします」提督とフェリーチェが送迎用のメルセデスに乗り込んでいると、ニッカネンが自分の車を運転してきた……

フェリーチェ「あれじゃない? ……またずいぶんと年季が入っていそうな車ね」

提督「フィンランドの人は物持ちがいいって言うけれど、本当みたいね」


…黒塗りの後部座席におさまり待っていた二人の横を、ニッカネンが乗った車がすり抜けて前に出た……彼女が乗っているのはその真四角なデザインと、外見のイメージを裏切らない頑丈さで一世を風靡したスウェーデンの「ボルボ240」ステーションワゴンだったが、かなり使い込まれているらしく見た目はずいぶんとくたびれている……ニッカネンのボルボが走り出すと、後ろに付くようにしてメルセデスが滑らかに走り出す…

………



…ヘルシンキ郊外・キルッコヌンミ鎮守府…

ニッカネン「お疲れさまでした、少将。 ここが私の所属する「キルッコヌンミ鎮守府」です」

提督「なるほど、見事に整えられていますね」


…ゲートで守衛に敬礼され、提督たちのメルセデスは本部庁舎前にしずしずと滑り込んだ……先行したニッカネンは車を置いてきて、庁舎の入口で改めて敬礼し、握手を交わす……庁舎前の国旗掲揚柱にはフィンランド海軍旗、それにイタリア海軍旗が掲げられ、海から吹いてくるかすかな……しかしぴりっと冷たい微風に揺れている……ニッカネンの左右にはフィンランド国旗の白と爽やかな青色を基調にした服をまとった艦娘たちと、主計や軍医といった内勤の将校が並び、フィンランド海軍公報のカメラマンが左右に動き回り、しきりにフラッシュを焚いている…


ニッカネン「それでは鎮守府をご案内します」簡単な式典を済ませると、ニッカネンが並んでいる艦娘たちを紹介してくれた……

ニッカネン「彼女たちが鎮守府の海防戦艦、イルマリネン級の「イルマリネン(鍛冶の匠)」と「ヴァイナモイネン(老賢者)」です」

イルマリネン「初めまして、少将」

ヴァイナモイネン「フィンランドへようこそじゃ、少将」


…イルマリネンとヴァイナモイネンは二人とも背は低く、イルマリネンはどこかおっちょこちょいな印象を、反対にヴァイナモイネンからは知恵や深い叡智といった雰囲気を感じる……お互いに性格は正反対のようだが、仲がいい様子はちょっとしたやり取りや雰囲気から伝わってきて、何とも微笑ましい…


提督「ええ、ありがとう。 可愛らしい娘たちですね」艦娘たちと軽く握手を交わしにっこりと微笑み、それから港内に停泊している「イルマリネン」級をじっくり観察した提督……


…灰色と灰緑色、それに白という冬のフィンランドにふさわしい迷彩塗装を施した海防戦艦が穏やかな湾内で揺れている……幅広でずんぐりした砲艦のような船体と、それとは不釣り合いなほど巨大に見える前後一基ずつの連装254ミリ主砲、そして中央部に高々とそびえるマストと各所に詰め込まれた高角砲や高角機銃という船型はかなり風変わりで、陸上兵器のような迷彩ということもあって独特な雰囲気をかもしだしている…


ニッカネン「……見た目こそ小さいですが、強力なモニター(装甲砲艦)や防空砲台としてフィンランドの沿岸部を守っている、わが海軍の主力艦です」

提督「そうですね……艦名は叙事詩「カレワラ」の人物でしたか」

ニッカネン「ええ、その通りです。イルマリネンは鍛冶の匠で、ヴァイナモイネンは白髪、白髯(白ひげ)の賢者と言われております」

イルマリネン「そうそう、年寄りのくせに若い娘に求婚してフラれたんだもんね」

ヴァイナモイネン「やかましい、後から来て横取りしおって」

ニッカネン「こう見えても仲はいいのです……さ、少将に艦を案内してあげなさい」

ヴァイナモイネン「では、この賢者ヴァイナモイネンが……」白髪をさっとなびかせ、提督を案内しようとする……

イルマリネン「年寄りの冷や水はやめなって、私が案内するからさ」

ヴァイナモイネン「こら、そう年寄り扱いするでない!」
841 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/07/29(金) 01:45:13.48 ID:7T6PnXRw0
…海防戦艦「イルマリネン」艦上…

イルマリネン「ここが艦橋です」

提督「なるほど……ふむふむ」

ニッカネン「……いかがですか?」

提督「ええ、とてもきちんと整備されていますね……見事なものです」


…舷梯(タラップ)を上り、ニッカネン少佐とイルマリネン、ヴァイナモイネンの解説を受けながら艦内を軽く一回りした提督……真鍮や銅で出来ている金具はきれいに磨き上げられ、甲板や調度品の木材は艶やかで、塵のひとつ、汚れの一点もない……だがそれより提督の気を引いたのはきちんと前後の水平を保って繋止されているカッター(ボート)や、急な対空戦になっても即応できるよう満杯にしてあるボフォース40ミリ高角機銃の弾薬箱、とっさの時に凍り付いていて使えないことのないよう防寒用の布でくるまれている消火ポンプと消火用ホースなど、あちこちを磨き立てることよりも、いつでも戦闘に入れるよう準備が整っている事に感心した…


ニッカネン「少将にそう言っていただけると嬉しいかぎりです……イルマリネンも少将にお礼を申し上げなさい」

イルマリネン「ありがとうございます、少将」

提督「いいえ♪」

………



提督「貴重な時間に感謝します、少佐……フィンランド海軍の海防戦艦をつぶさに観察する機会はそうありませんから、いい経験が出来ました」

ニッカネン「そうおっしゃっていただけるとこちらも案内したかいがあります……この後は司令部でわが海軍の短い紹介映像と、最近の作戦行動を簡単にまとめた資料を用意してありますので、そちらをご覧になっていただければと思っております」

提督「ありがとうございます……と、あれは……」


…空冷エンジン独特の乾いた音を響かせて、曇り空をブリュースター・B239「バッファロー」戦闘機が飛び去っていく……どこかユーモラスでもあるずんぐりした機体は黄色く塗ったエンジンカウリング以外は濃淡二色の緑色で迷彩が施されていて、その飛行する姿はエンジン音といいシルエットといい、どことなくクマバチを思わせる…


ニッカネン「わが軍の「ブルーステル(ブリュースター)」です……よほどの悪天候でなければ、ああしてフィンランド湾や沿岸部の哨戒に当たっています」

…太平洋では日本の「零戦」や「隼」といった格闘戦の得意な機体にいいように落とされ、評価の低い「バッファロー」だが、機体の頑丈さを活かしたフィンランド人の運用の上手さとソ連空軍の練度の低さから「冬戦争」では大いに活躍し、一部のフィンランド軍操縦士からは「空の真珠」とまで言われている……そのままフィンランド湾の沖に向かって飛行していったバッファローを見送ると、ニッカネンの案内を受けて基地施設に入った…


…司令部…

ニッカネン「どうぞおかけになって下さい」

提督「ええ」

…なまじ将官が座らないでいると室内の全員が座ることをためらってしまうので、勧められたら遠慮せず、すぐ腰かけることにしている提督……司令部施設のブリーフィングルームか会議室と思われる部屋にはプレゼンテーションの準備が整っていて、暖房も入っていて暖かい…

ニッカネン「では、始めさせていただきます……」カーテンを引くと十五分あまりの短い広報用映画と、作戦行動中に撮ったと思われる映像がいくつか、そしてフィンランドの艦娘たちが基地でのんびりしたりにぎやかにしたりしている「日常のひとこま」といった映像も合わせて流れた……

提督「……」メモ帳を机の上に置き、機雷掃海や対空戦の場面では真剣に、にぎやかな場面では微笑みを浮かべて映画を見た……

ニッカネン「……以上です」

提督「ありがとうございます、掃海の場面や対空戦の部分は非常に参考になりました……どの娘も手際が良くて、動きが身についていますね」

ニッカネン「そうかもしれません。 このあたりではこちらも深海側も勢力が小さく、お互いに決め手を欠くところがありますから」

提督「そこで機雷の敷設ということになる……と言うわけですね」

ニッカネン「その通りです。何しろ水路や湾口を塞いでしまえば相手は何もできなくなりますから……敵味方の本拠地が近いこともあって、機雷の敷設は結氷する冬期を除いていつでも行われております」

提督「なるほど、とてもためになりました……」そう言ってメモ帳を閉じ、礼を言おうとしたところでフェリーチェの携帯電話が震えだした……

フェリーチェ「……っ、失礼。 どうも急ぎの用件のようでして……」ちらっと発信者の番号を見ると、ニッカネンにわびて部屋を出る……

ニッカネン「構いませんよ、大尉……では少将、もう一杯コーヒーでも」

提督「ええ」

…しばらくして…

提督「……フィンランドと言えばやはり「ムーミン」とトーベ・ヤンソンでしょうか。彼女は同性のパートナーと仲むつまじくしていたとか。ムーミンに出てくる「おしゃまさん」はトーベ・ヤンソンのパートナーがモデルだと聞いたことがあります」

…フェリーチェが戻るまでの間、時間つぶしのおしゃべりを続けている提督とニッカネン……そこでフィンランドの有名人という話題から「ムーミン」で有名な女流作家のトーベ・ヤンソンの話になり、そこで何の気なしに同性のパートナーがいたことにも触れた提督……

ニッカネン「トゥーティッキ(おしゃまさん)ですね、確かにそう言われています……ですがフィンランドはその点立ち遅れていましたから、もったいないことに彼女の活躍は長い間認められずにいました。 今でこそそうした権利も認められるようになってきましたが、我が国では長らく同性愛は病気扱いでしたので」イタリア人の提督なら手を上に向け派手に肩をすくめるような態度で、小さく肩をすくめたニッカネン……

提督「そうだったのですか、もったいないことですね」

ニッカネン「ええ」そう言って簡単に相づちをうったニッカネンだったが、提督に向けた視線がほんの少し長かった……

提督「……?(気のせいかしら)」

842 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/08/07(日) 01:28:36.38 ID:6gTvanY50
提督「……それにしても暗くなるのが早いですね」

ニッカネン「北欧の冬はいつもこうです……まぁ、慣れているとは言え少し嫌になりますね。 早く夏になって日光浴か、さもなければイナリ湖あたりの森でシカ猟でもしたいところです」


…イタリアならまだまだ午後の日差しが暖かく辺りを照らしているはずの時間だというのに、すでに辺りは夕闇に覆われ始め、埠頭の周囲を飛び回っていた白いカモメたちも家路についている…


提督「ああ、そういえばニッカネン少佐は猟をなさるそうですね」

ニッカネン「ええ、カンピオーニ少将も銃猟をたしなんでいるとおっしゃっておられましたが……」

提督「はい、子供の頃から家族に教わりまして……もっとも、任官してからはすっかりごぶさたですが♪」苦笑しながら肩を大きくすくめた

ニッカネン「海軍士官ですし無理もありません……獲物は何を?」

提督「そうですね、場合にもよりますが散弾銃でカモ撃ちをしたり、実家にいたときはコムーネ(自治体)からの駆除依頼を受けてイノシシ撃ちをしたりしていました」

ニッカネン「いいですね……銃は何を?」

提督「そうですね、私はフランキかベネリの12ゲージ(番)や20ゲージが多いですね、ニッカネン少佐は?」

ニッカネン「私は……」

フェリーチェ「失礼、遅くなりました」

ニッカネン「大丈夫ですよ、大尉……用事は無事に済みましたか?」

フェリーチェ「ええ。ご迷惑をおかけしました」

ニッカネン「いいえ……それではそろそろホテルの方に戻りましょう」

………

提督「ニッカネン少佐、せっかくですしもう少し少佐のお話を伺いたいですね」

ニッカネン「それは光栄です……とはいえ明日からは会議が始まってしまいますし、そうなるとなかなか時間も取れないかと……」

提督「そうですね……もし少佐がよろしければ、ホテルまで少佐の車に乗せていただいてもよろしいでしょうか?」

ニッカネン「え? しかし私の車はあのメルセデスと違って乗り心地もあまり良くないですから……」

提督「確かにご迷惑かもしれませんけれど、せっかくですし少佐のボルボ240にも乗ってみたいです……ダメでしょうか?」

ニッカネン「それは……まぁいいでしょう。上からはカンピオーニ少将とフェリーチェ大尉のためにできるだけ便宜を図るよう指示されておりますから……ただ、できればご内聞にお願いします」

提督「ええ、もちろんです♪」

ニッカネン「送迎車の運転手には私から話をしておきましょう」

提督「すみません、ワガママを言ってしまって」

ニッカネン「その程度ならワガママの内には入りませんよ」そう言うとかすかに微笑を浮かべた……

提督「それじゃあ私はミカエラに説明しないと……フェリーチェ大尉」

フェリーチェ「は、何でしょうか」

提督「私はニッカネン少佐と話したい事がありますので、ホテルまでニッカネン少佐の車に乗ります……黒塗りの後部座席に一人だなんて寂しいでしょうけれど、ホテルに戻ったらその分の埋め合わせはするから……我慢してね?」まるで命令を伝えるかのような堅苦しいはっきりした口調で呼びかけると、口調を変えてこっそり耳打ちした……

フェリーチェ「了解しました、少将……まったく、貴女はすぐそうやって女と一緒になりたがるんだから」

提督「ごめんなさいね♪」見送りのため整列している将校や艦娘たちから見えないよう、こっそりとフェリーチェに小さなウィンクを投げた……

フェリーチェ「いいのよ」

ニッカネン「お待たせしました……さあ、どうぞ」

提督「ありがとうございます♪」助手席に乗せてもらい、まるでエアロックのような重くずっしりしたドアを閉める……途端に外部の音がシャットアウトされて、低いエンジン音だけが深い火山の鳴動か何かのようにお腹の底に伝わってくる……

ニッカネン「それでは出しますよ……ベルトは締めましたか」

提督「ええ♪」

ニッカネン「では行きましょう」

…まるで子供のようにわくわくしながら、ニッカネンの運転を楽しむ提督……名ドライバーを数多輩出しているフィンランド人だけあって、ニッカネンの運転は相当上手で、重さのあるボルボをキレのある挙動で走らせる…

提督「……少佐は運転がお上手ですね」道路の前方を見据えて巧みにボルボをコントロールするニッカネンのきりりとした横顔に、つい見惚れてしまう……

ニッカネン「そうですか?」

提督「ええ♪」
843 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/08/16(火) 01:51:09.71 ID:Wk3G7LJE0
…ホテル前…

ニッカネン「着きましたよ、少将」

提督「ありがとうございます、少佐……とても楽しいドライブでした♪」

ニッカネン「それはどうも……///」

提督「ええ、それでは明日の会議で」フェリーチェを乗せたメルセデスを待つ間に、肉が薄くひんやりとした……しかしすべすべしたニッカネンの頬へ挨拶のキスを済ませると、色白のニッカネンが少し頬を赤らめた気がした……

フェリーチェ「お待たせしました……ニッカネン少佐、本日は鎮守府の案内をありがとうございました」

ニッカネン「いえ。 ではまた明日」

フェリーチェ「はい」

…ホテルの部屋…

提督「ふー……到着して挨拶をするだけかと思っていたけれど、意外と盛りだくさんだったわね」

フェリーチェ「そうかもしれないわ……ところで、夕食の前に明日からの会議に備えてちょっと状況説明をしておきたいのだけど」

提督「分かったわ」礼服がシワにならないようきちんとハンガーに掛けるとブラウスのボタンをいくつか外して胸元をゆるめ、肩を回したり首を傾けたりして凝りをほぐしつつ、ベッドに腰かけた……

フェリーチェ「聞く気になってくれて助かるわ」

提督「まぁ、明日からの会議でどんな人が来るかくらいは知っておかないといけないでしょうし……どうぞ始めてちょうだい?」

フェリーチェ「ええ。明日からの会議だけれど、参加国は主催役のフィンランドを始め、スカンジナビアのノルウェー、スウェーデン……フィンランドからは陸・海・空軍や参謀本部の士官が数人、ノルウェー、スウェーデンからは佐官が何人か……スウェーデンからはこの前会ったラーセン大佐がメンバーに入っているわ」

提督「あぁ、あの気品がある美人の……♪」

フェリーチェ「今のは聞かなかったことにしておくわ……それからポーランド海軍からも佐官が何人か。 グディニヤやグダニスクみたいなバルト海に面した港湾もあるから深海棲艦対策には熱心で、フィンランドとも協同しているわ」

提督「ええ」

フェリーチェ「それから、問題のロシア軍将官ね……階級は少将で副官が一人。今回の件でわざわざモスクワから派遣されるほどの優秀な将官で、頭の切れるタイプだと思われるから注意して。 うかつなことを言うと言質を取られるから、うっかりしたことは言わないように」

提督「そうね……なんだか聞いているだけで、氷みたいに冷たい目をしてニコリともしない顔が目に浮かぶわ」

フェリーチェ「そう思っておけば問題ないはずよ。とにかくこちらとしてはオブザーバーとして、スカンジナビア側とロシア側がいがみ合わないよう上手く取り持ってあげれば良いだけだから……くれぐれも「ソ・フィン戦争」の火を付けることがないように」

提督「ええ。 それにしてもロシアの将官ね……士官学校の教官や先輩方はまだソ連が仮想敵だった頃だから詳しいけれど、私はもうその世代じゃないし……それに今までロシア軍の将官なんて会ったこともないから、どんな人なのかちょっと興味があるわ」

フェリーチェ「いいけど、例え美人だったとしても口説いたりはしないでちょうだい」

提督「……ということは女性なの?」

フェリーチェ「ええ……頼むから国際問題のタネを作るような真似はしないでよ」

…その頃・バルト海上空…

女性士官「……あと十五分程度でヘルシンキです、少将」

女性将官「ダー(ああ)……カサトノヴァ少佐、準備は整っているな?」灰皿に煙草を押しつけて消すと、副官の少佐に尋ねた……

少佐「はい」

少将「よろしい」


…独特なエンジン音とゆっくりと回転しているように見える二重反転プロペラが特徴的なツポレフTuー95「ベア」戦略爆撃機の高官輸送型……未だに世界で最高速かつ長大な航続距離を持つターボプロップ機の座席にロシア海軍の黒っぽい冬用制服を着た将官が腰かけ、向かいに副官の少佐が座っている…


少佐「……少将、フィンランドの戦闘機です」エスコート(護衛)というよりは警戒しているかのように、五時方向と七時方向(斜め後ろ)に占位したフィンランド空軍のFー18C「ホーネット」…

少将「結構、時間通りだな……」

少佐「ダー」

少将「それと今回の会議だが、よく目と耳を澄ませておけ」

少佐「はっ」

………

844 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/08/21(日) 01:41:30.76 ID:a8IKP+rY0
…翌日…

提督「どう、大丈夫かしら?」

フェリーチェ「ええ。金モールもよじれてはいないし、略綬もきちんとしているわ」

提督「なら大丈夫ね」

…紺色のきちんとした軍装に肩章の仰々しい金モールと、一列ごとの幅はまだ短いものの何だかんだで三列にわたっている略綬、ピシッとしたタイトスカートと黒ストッキングに、磨きあげておいた革靴……腰には礼装用の短剣を吊るし、髪は結い上げ、タイをきちんと締めた…

フェリーチェ「ええ、なかなか凜々しく見えるわ」

提督「ありがと♪」ちゅっと音をさせて、軽く唇にキスをする……

フェリーチェ「やめて、口紅の色が移るから……」

提督「分かったわ♪ ……さ、気合いを入れていかないとね」姿見の前でもう一度格好を見直すと部屋のロックをかけ、フェリーチェとロビーへ降りた……

…午前・会議場…

ニッカネン「お早うございます、カンピオーニ少将。フェリーチェ大尉も」

提督「ええ。 おはようございます、少佐」

フェリーチェ「おはようございます」

ニッカネン「各国の将校もおおかたやって来ましたし、会場も開いていますから……席におかけになってはいかがでしょう?」

提督「ありがとう、そうさせてもらいます」


…会議場はフィンランド国防省が用意した施設の一室で、かなり広々とした室内のスクリーンを取り囲んで「コ」の字型にテーブルと椅子が並べられ、席にはそれぞれの名前を記したネームプレートが英語と出身国の母語で併記されている……席には控え目な花とミネラルウォーターのボトル二本とグラスが置いてあり、提督とフェリーチェは自分の場所を確認すると、それからあちこち立ち歩いて各国の士官たちと顔を合わせ、軽く挨拶をかわした…


フィンランド軍士官「……それでは、そろそろ時間となりましたので……皆様、どうぞお席の方へ」ガヤガヤとざわめきが聞こえ、椅子を引く音や咳払いが一通り収まると、司会を務めるフィンランド軍参謀本部の士官が開式の辞を述べる……

フィンランド士官「……では早速ですが、近年のバルト海における「深海棲艦」の動静について、ニッカネン少佐から」

ニッカネン「各国の将官、また士官の方々……紹介にあずかりました、クリスティーナ・ニッカネン少佐です……」

提督「……」

フェリーチェ「……」提督はペンを持ってメモ帳を広げ、フェリーチェはラップトップのコンピュータを開いている……

ニッカネン「……冬季になりますとバルト海の結氷により、いわゆる深海棲艦の活動は低調となることは周知の事実かと思われます。しかしながら、フィンランド湾およびバルト海東部では深海側による機雷の敷設により、艦艇の行動に不自由を生じており……」

提督「……なるほどね」

ニッカネン「……これにより、ポーランド、バルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)、ロシア、ドイツの一部で海運や漁業に影響が生じております。このことは沿岸各国において大変重大な……」スクリーンにコンピュータの図表データを表示し、簡潔な説明を終えて着席したニッカネン……

フィンランド士官「ありがとうございます、少佐。では続いて……」


…ニッカネンに続いて各国の士官がそれぞれの国の立場から状況の説明を行う……とはいえ、各国ごとにそれぞれの思惑と利害関係があるので、そう簡単には「足並み揃えて」といった具合にはなってくれない……結局、二時間近くかかったそれぞれの状況説明の後、今度は「艦娘」の運用や担当範囲、あるいは各国海軍の連携について、どこで折り合いを付けるかの長い長い話し合いが始まった…


ノルウェー軍士官「……バルト海に関しては、分担は各国のEEZ(排他的経済水域)を目安にすべきだと考えますが」

ニッカネン「それではこちらの負担が少し大きすぎるように思います……わが軍がバルト海東部から出現する深海棲艦を抑えているのは事実ですから、ぜひ各国の協力もお願いしたいところですね」

ポーランド海軍士官「同感です。バルト海東部で深海棲艦を跳梁跋扈させることは、ひいてはバルト海全体の制海権を失うことにつながる」

ラーセン「スウェーデン海軍のラーセンです。今のご意見には賛同いたします。 しかし本官は同時に、バルト海東部での活動にもっとも適しているのがフィンランド、ポーランド海軍である事も間違いないと思いますが」


…結局のところ、各国いずれも深海棲艦対策で負担を担ったり割りを食ったりするのは避けたい上、自国の艦娘たちが怪我をしたり、あるいはもっと悪いことが起きたりという事態は避けたい……そういった面で、各国いずれもできるだけ艦娘たちを出撃させたくないのが実情だった……かといって、手の内が読めない……しかもバルト海沿岸に対する領土的野心を捨ててはいないロシア海軍バルチック(バルト海)艦隊の手を借りることもしたくはない…


ロシア海軍代表「……」むっつりと黙りこくっているロシア海軍の数人は、黒っぽい制服もあいまって異彩を放っている……その中には女性の将官も一人いて、冷たい目で会議場内を眺めている……

提督「……」

フェリーチェ「……」しばらくけりは付きそうにないと、会話を黙って聞いている提督とフェリーチェ……少し効き過ぎな暖房のせいで喉は渇き、きちんとした正装のせいでひどく暑苦しい……

提督「……しばらくは様子見で行くわ。みんな疲れた頃合いになったら折衷案でも出してみるわね」

フェリーチェ「任せるわ」
845 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/08/27(土) 01:46:37.57 ID:WyYZz/100
…またしばらくして…

ニッカネン「……では、スウェーデン海軍としては「艦娘」の派遣には応じられないと言うことでよろしいですか?」

ラーセン「……本官個人としてはそちらと協力すべきであるというのは理解しているのですが、残念ながらわがスウェーデン海軍もそこまでの規模を有しているわけではありませんので……ただ、先ほど申上げたように哨戒機による支援は政府の方でも確約しておりますので、実行が可能です」


…きりりとした美しい顔に疲れも見せず、淡々と意見を述べるラーセン大佐……とはいえ、どちらかと言えばフィンランドを「緩衝地帯」として扱って、自国の中立を崩さないよう慎重に振る舞ってきたスウェーデン政府の指示もあるのか、ニッカネンの欲しい……ひいてはフィンランド海軍が聞きたい「艦娘」の派遣や協同での哨戒といった言葉は出てこない…


ニッカネン「なるほど……それからポーランド海軍ですが、バルト海北部の哨戒に協力することは難しいと」

ポーランド海軍士官「残念ながら。 我々ポーランド海軍の「艦娘」たちは自由ポーランド軍当時の艦艇……つまりほとんどはイギリスから貸与・提供された旧型駆逐艦であり、かつグダニスクを始め、我が国の港湾都市と海路を維持するために戦力を割かなければならないので、そこまでの支援は難しいと思われます……その分、わがポーランド海軍としてはバルト海南部における航路の維持と海上交通のために尽力しております」


…きちんとした黒いダブルの上着に金ボタンと金モールが映えて、いかにも海軍士官らしいポーランド軍の代表たち……何人かは綺麗に切り整えた口ひげを生やしていて、風格がある……が、やはり上層部の指示か、フィンランド側に対しては煮え切らない態度を取っている…


提督「……まさに「会議は踊る」ね」横に控えているフェリーチェにこっそりささやいた……

フェリーチェ「そうね……まぁ、どこの海軍も自分から大変な哨戒や掃海を請け負いたくはないもの」

ニッカネン「ラーセン大佐、スウェーデン海軍は海防戦艦を基幹に駆逐隊、小艦艇群を有しておりますが……海面の氷が溶ける夏の時期だけでも良いのです、そちらの艦娘たちと共同作戦を行うことは叶いませんか?」

ラーセン「無論、そういった打診があれば検討の上で派遣することもあり得るでしょう。とはいえ先のことはまだ分かりかねます。 その時期になったらまた改めてお国の政府からストックホルムに打診していただければ、具体的な回答が出来るものと思います」

ニッカネン「なるほど、では現状では何も確約は出来ないと?」

ラーセン「先の情勢が予見出来ない以上、本官としてはそう回答するしかありません……」

ニッカネン「……」

…各国の代表から「支援したいのはやまやまなのですが……」と、気持ちばかりで実行はさっぱりという支援案を聞かされ、とうとう黙りこくって四杯目のコーヒーをすすりはじめたニッカネン……ざわつきばかりで誰も意見を言おうとしない中、提督が切り出した…

提督「……すみません、少々発言をよろしいですか?」

司会「え、ああ……どうぞ」

提督「ありがとうございます……イタリア海軍からオブザーバーとして派遣されましたカンピオーニです」長らくだらだらと続いていた会議の間、メモをとりながら温めていた意見を述べる……

提督「えー、まずはノルウェー海軍のヨハンセン大佐……大佐は先ほど「駆逐隊をバルト海東部まで派遣するのは難しい」とおっしゃっておりましたね」

ノルウェー海軍代表「ええ。 ノルウェー西岸に深海棲艦が出没する可能性がある以上、遠くフィンランド湾にまで艦娘を派遣してしまっては、強力な敵艦の出現があった際これを呼び戻しても間に合わない危険がありますので」

提督「確かに……では、スウェーデン南部ではいかがですか?」

ノルウェー士官「スウェーデン南部、ですか?」

提督「ええ。 例えばカールスクルーナの沖合といった所ですが」

ノルウェー士官「そうですね、それなら……いやしかし、大ベルト海峡の航行に時間がかかる可能性がありますから……」

提督「アムンセンやナンセンを先輩に持つノルウェー海軍の皆さんが、まさか海峡ひとつにそこまでの苦労はなさらないでしょう?」ノルウェーが生んだ偉大な航海者や冒険家を引き合いに出して冗談めかすと、少し笑い声が聞こえた……

ノルウェー士官「それは、まぁ……」

提督「では、ラーセン大佐」

ラーセン「何でしょうか、カンピオーニ少将」

提督「ええ……お国の南部方面に展開する駆逐隊は、基地であるカールスクルーナを中心に、オーランド諸島からエストニア沖、スウェーデン南端のマルメを結ぶ三角形を哨戒しているという認識でよろしいですか?」

ラーセン「おおよそその認識で合っています」

提督「では、例えばマルメからカールスクルーナまでのエリアをノルウェー海軍と協同で哨戒することは可能ですか?」

ラーセン「不可能ではありませんね、すでに演習などで実績があります」

提督「分かりました……では、その分艦娘の行動エリアを北部に移して……例えば哨戒線をエストニア、タリンの沖辺りまで北上させることは出来ますか?」

ラーセン「……ええ、不可能ではありません」しばし熟考してから、ゆっくりと言った……

提督「では、こうしたらいかがでしょう……バルト海の入り口、カテガット海峡はノルウェー海軍、デンマーク海軍にお任せする……そうすればスウェーデン海軍のうち、イェーテボリに配属されている艦娘たちは手すきになります。 それをカールスクルーナに移せば、フィンランドを支援する戦隊を派遣する余裕が出るのではありませんか?」いわば「玉突き式」に、各国がそれぞれ隣国を支援する形を提案した提督……

提督「それに移動するのは艦娘たちだけで、フリゲートや潜水艦といった通常戦力を移動させるわけではありませんから、費用もそこまでかからないと思いますが」ついでに海軍の悩みのタネである「予算」を盾にされないよう、先手を打って言い添えた……

ノルウェー士官「ううむ……」

ラーセン「なるほど」

ニッカネン「……」

提督「それはそうと、少し休憩にしませんか? さすがに皆さん疲れが見えますし……いかがでしょう?」

司会「そうですね、では一時休憩とします」
846 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/09/03(土) 11:07:46.49 ID:/gCWDoGZ0
ラーセン「カンピオーニ少将、先ほどはお見事でした」

提督「いえいえ、何かたたき台がないことには永遠に話が進まないでしょうし……それにオブザーバーの私なら、多少勝手なことを言ってもあとに響くことはないでしょうから♪」

ニッカネン「違いありませんね」

…会議室から出て別室で休憩をとる各国の代表たち……室内ではポットのコーヒーと軽食が供され、それぞれ立ったり座ったりしながら二ヶ国間で話を詰めたり、あるいは頭に栄養を送るため、小さくカットされているサンドウィッチをつまんだりしている……提督は消しゴムほどの大きさをした可愛らしいサンドウィッチを三つばかりつまみ、砂糖とミルクを入れたコーヒーをとり、それからスウェーデン海軍のラーセンとフィンランド海軍のニッカネンに合流した…

提督「それに、スカンジナヴィアの三国は関係がとてもいいようですから……我々イタリアが沿岸の防衛をフランスに任せるというのよりは現実味がありますよ♪」冗談めかして小さくウィンクを投げた……

ラーセン「ふふ、確かに……♪」

提督「……ところでロシア海軍の代表ですが……まだこれと言った発言がありませんね?」

ラーセン「ええ。ポーランド海軍の提案に反対意見を述べた以外には」

提督「どういうつもりなのでしょう? それにバルチック艦隊の大佐が、しきりに横の将官を気にしているようでしたが……」

ニッカネン「あの冷ややかな表情をした少将でしょう?」

提督「ええ……いったい誰なんです?」ロシア海軍代表は談話室でも一か所に固まり、あたかも鉄のカーテンを引いたままに見える……その中心にいる押し出しの強そうな赤ら顔の大佐はバルチック艦隊代表を務めているが、その大佐はハンカチで額を拭いながら、しきりに後ろの少将を気にしている……

ニッカネン「あの将官ですが、今回の会議に合わせてモスクワから派遣されてきた少将です」

ラーセン「おそらくはお目付役といったところでしょうね……ソ連時代ならさしずめ「政治将校」といった役どころでしょう」

提督「なるほど、それは難物ですね」

ラーセン「ええ……それにロシアが会議に絡んでくるとなると、途端に話がこじれてしまいますから」

ニッカネン「同感です。 彼らは何かにつけて、こちらが賛成だというと「ニェット(ノー)」だと言いますからね」

提督「じゃあ会議がまとまった頃になって壊してくる可能性も……?」

ラーセン「ないとは言えないでしょうね」

提督「困りましたね……それで、ロシア海軍は具体的に何を引き出したいのでしょう?」そう問いかけると顔を見合わせたラーセンとニッカネン……

ラーセン「……それは何とも言いがたいところですね」

ニッカネン「具体的なところはあまりはっきりしていないようにも感じられます……しいて言うなら、フィンランド湾における主導権は握りたいが、かといって声高に主張して自国の艦娘を使うことになってしまったら、それはそれでフィンランドをはじめ沿岸各国の得になるので面白くない……といった具合でしょう」

提督「うーん……そうなると駆け引きが面倒になってきますね」

ニッカネン「ええ……なにしろ向こうは我々が深海側との戦闘で疲弊するのを見ていればいいわけですから」

提督「しかし、ロシアもフィンランド湾が深海棲艦に閉塞されれば困る事になるのでは?」

ラーセン「確かに困らないとはいいませんが……あちらは貧乏にも抑圧にも慣れていますし、国土が大きいだけ体力がありますから」

ニッカネン「フィンランド湾やバルト海で深海棲艦が跋扈するような事態が続けば、海運においては相対的にこちらの方が大きなダメージを受けることになりますので」

提督「では、ロシア海軍に協力を願うほかはない……と?」

ニッカネン「そうならざるを得ないでしょう……もっとも、先ほど少将が切り出した「たたき台」のおかげで、ロシア海軍抜きでもバルト海における協力態勢がまとまりそうになっていますから、このまま合意する方向で持って行けば向こうがあわて出す可能性もあります」

ラーセン「あとはポーランドやバルト三国に協力を取り付けるだけですが、そこはどうにかなるでしょう」

提督「……そうですか、なら会議もどうにか無事に済みそうですね」

ニッカネン「そう願いたいものです……いい加減この暖房で蒸れた室内からおさらばして、サウナにでも行きたいところです」

提督「あー、フィンランド式サウナですね。 聞いたことはあります」

ニッカネン「……こちらへ来てから、まだ経験していらっしゃらないのですか?」どちらかというと感情表現の小さなニッカネンが珍しく驚いたような顔をした……

提督「ええ。ヘルシンキに来てからまだ二日あまりですし、その機会がなくて……」

ニッカネン「わかりました……会議が終わったら、どこかでご案内しましょう」

ラーセン「フィンランドの方はサウナがお好きですものね……そろそろ休憩も終わりのようですし、参りましょうか」

提督「ええ」提督たちが歩き出すと、あちこちで耳をそばだててきたらしいフェリーチェが戻ってきて、さりげなく提督の脇についた……

フェリーチェ「……どうだった?」

提督「そうね……ニッカネン少佐とラーセン大佐はロシア抜きで話をまとめようとすることで、向こうを慌てさせたいみたい」

フェリーチェ「なるほど、いい形になってきたわね……フランチェスカ、さっきの貴女の意見でノルウェーも渋々ながらバルト海に駆逐隊を出す考えに傾き始めているわ。 これならスカンジナヴィア三国とポーランド、バルト三国の間で合意が得られるかもしれない……そうなればロシアの提督たちはは立つ瀬がなくなって、慌てて参加する方向に舵を切るかもしれないわ」

提督「ふう、助かったわ……てっきりこのまま会議室で雪解けの季節まで缶詰かと思っていたところよ」

フェリーチェ「金モールをつけた少将なのにだらしないわね……大尉の私だって一日や二日の雪隠詰めくらい耐えられるのに」

提督「ふふ、ミカエラにはかなわないわ……♪」
847 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/09/12(月) 01:13:04.31 ID:CXXTcSsw0
…夜…

司会「えー……では、今日の会議はここで一旦中断し、続きは明日の0940時から行います。お疲れさまでした」司会が閉会の挨拶をすると、あちこちでガタガタと椅子を引く音がして、席を立った海軍士官や将官たち……

提督「……ふー、疲れた」会議場の玄関ホールでホテルまで送ってくれる黒塗りの到着を待ちながら、くたびれた様子で長いため息をついた……

フェリーチェ「お疲れさま、フランチェスカ」

提督「ええ……だらだらと続くばかりの会議って嫌いだわ」

フェリーチェ「そんなものが好きな人間なんていないでしょうよ」

提督「確かにね……それにしても、まるで味のないガムを噛み続けているようだったわ」

フェリーチェ「同感ね」


…昼下がりから再び始まった会議ではスカンジナヴィア三国が妥協点を見つけてお互いに歩み寄りはじめた矢先に、今度はロシア海軍の代表がああだこうだと口を挟みだし、それに対してポーランドやバルト三国が反発して、いつ果てるとも分からない不毛な堂々巡りを始めていた……提督も円満に会議がまとまるよう尽力したが、責任も権限もないオブザーバー、しかもバルト海沿岸諸国とは馴染みの薄いイタリア海軍代表という立場では、いまいち各国の代表たちに響かない…


提督「とにかく、ホテルに戻ったら美味しいものでも食べて……それからベッドでぐっすりしたいわ」

フェリーチェ「良い考えね……ほら、車が来たわよ」

…数十分後・ホテル…

提督「あー……これでやっとくつろげるわ」制服をハンガーにかけるとブラウスやタイツを脱ぎ捨てながら、ベッドに腰かけた……

フェリーチェ「服は脱いだようだし、シャワーをお先にどうぞ?」

提督「ミカエラが先でいいわよ?」

フェリーチェ「こういうのは提督が先って決まっているものよ……それに、私は今日のやり取りで気になった部分をまとめておくつもりだから」

提督「そう……じゃあお先に入らせていただくわ」

…ホテルの清潔な……しかし鎮守府の豪奢な大浴場とは比較にならないほどせせこましい浴室でシャワーを浴び、脚の収まらないバスタブに身体を沈めた提督……足裏やふくらはぎは座りっぱなしだったせいでこわばり、心なしかいつもよりむくんでいる気がする…

提督「ふぅ……きっと鎮守府のみんなは夕食を済ませたころね。お風呂から出たら電話でもしてみようかしら」

…数分後…

提督「ミカエラ、出たわよ」ホテルに備え付けの、ふかふかした着心地の良いバスローブをまとい、メイクも落としてさっぱりした提督……

フェリーチェ「そう、なら私も入ってくるわ」

提督「ええ……それと、お湯の栓をひねるときは注意したほうがいいわよ。急に熱くなるから」

フェリーチェ「ありがとう、気を付けるわ」

提督「さて、それじゃあ……と」ペットボトルのミネラルウォーターを三分の一ばかり飲み干すと、ベッドサイドの小机に置いておいた携帯電話を取り、電話帳から鎮守府を選んで電話をかけた……

…鎮守府…

デュイリオ「あら、電話でございますね……はい、こちらタラント第六鎮守府」

提督「もしもし、デュイリオ?」

デュイリオ「まぁまぁ、提督♪ お声が聞けて嬉しいです」

提督「私も貴女の声が聞けて嬉しいわ、デュイリオ。 今日はもう用事もないし、時間があるから電話をしたのだけれど……みんなはどう、元気でいるかしら?」

デュイリオ「あぁ、提督。 それがもうこちらは大騒動でして、すぐにでも鎮守府に戻ってきていただかないと……」

提督「えっ!?」

デュイリオ「そうなんです……ライモンドは提督がいらっしゃらないからとふくれ面、ポーラはキアンティの飲み過ぎですっかりへべれけ、チェザーレは近くの街で人妻と火遊びをして警察沙汰になる始末……シロッコは階段で転んでひっくり返り、ディアナは皿を割り、ルチアは一晩中鳴き続け……ふふっ♪」真面目な口調で言っていたが、我慢しきれなくなったのか含み笑いをもらしたデュイリオ……

提督「もう……からかわないでよ、一瞬本当に何かあったのかと思ったじゃない」

デュイリオ「くすくすっ♪ 申し訳ありません。提督とお話が出来て嬉しかったものですから、つい……こちらは万事順調ですよ♪」と、電話口の向こうからルチアの吠える声が聞こえてくる……

提督「良かったわ……でも、それにしてはルチアが騒いでいるわね? どうしたの?」

デュイリオ「ああ、ちょうどディアナが明日の夕食に出す牛すじ肉のシチューを作ろうと下ごしらえをしているものですから」

提督「それで大騒ぎをしているのね……♪」

デュイリオ「ええ……ところで提督、せっかくですからここにいる娘たちと順繰りにお話でもなさってはいかがでしょう?」

提督「そうね……いない娘たちには申し訳ないけれど、そうさせてもらうわ♪」そう言って、何人かの艦娘たちとたわいもない会話をする提督……

フェリーチェ「出たわよ……っと、楽しいお話の最中だったようね」

提督「ええ……♪」近況や来たるクリスマスの話をしつつ、フェリーチェに向けてウィンクを投げた……
848 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/09/20(火) 01:17:03.17 ID:lu5tE7z10
…翌朝…

提督「ふわぁ……おはよう、ミカエラ」

フェリーチェ「おはよう、フランチェスカ……コーヒーはミルク入りの方が好きだったわね」

提督「ありがと、覚えていてくれたのね……♪」ベッドで半身を起こし、コーヒーのマグを受け取る……室内はセントラルヒーティングで暖かいが、片手で毛布を引っ張り上げて胸元を隠した……

フェリーチェ「今日の日程は覚えている?」

提督「ええ、大丈夫よ」砂糖少しとミルクの入ったコーヒーをひとすすりしてほっと小さく息をつくと、くしゃくしゃになった髪を軽く手で梳いた……

フェリーチェ「なら結構……新聞は?」

提督「気にはなるけど、あいにくフィン語もスウェーデン語も読めないわよ?」

フェリーチェ「まさか、私が貴女にフィン語の新聞なんて勧めるわけがないでしょう。記事の少ない海外向けだけど一応「レプブリカ」よ」

提督「そう、それじゃあ後で読むわ」

…ベッドから降りるとバスローブを羽織って浴室に行き、歯を磨いて顔を洗い、それからシャワーを浴びてさっぱりした…

提督「……改めておはよう、ミカエラ♪」軽く頬にキスをする提督……

フェリーチェ「ええ、おはよう。 いいけど、早く髪を乾かさないと時間に間に合わなくなるわよ」報告書か資料か、ラップトップを立ち上げて手早くキーを叩きながら、提督のあいさつに軽く答えた……

提督「それもそうね」

…タオルで髪を包んで乾かしつつ海外版の「レプブリカ」紙にざっと目を通し、読み終わったところで化粧台の前に座り髪を整え始める……肌に当たる櫛の感触を楽しみながら長い髪をくしけずり、冷風から温風へと切り替えながらドライヤーをあてる……髪がある程度まとまったところで軍帽に合うような形に結い始め、ピンを差して形をまとめた…

提督「うん、いい感じ……♪」少しもつれているこめかみの辺りを直し、鏡に向かって微笑んでみたり真面目な表情を浮かべてみたりする……

フェリーチェ「そろそろ終わらせないと、朝食を食べ損ねるわよ」

提督「はいはい」

…手際よくルームサービスを頼んでおいてくれたフェリーチェに感謝しつつ、バスローブ姿で朝食をしたためる提督……向かいにはフェリーチェが座り、ライ麦パンとコケモモのジャム、しっかりした味わいのチーズといった朝食を淡々と食べる…

提督「それにしても……」

フェリーチェ「ん?」

提督「フィンランドの食事は……何というか、ずいぶんと素朴な感じね」ジャムを付けたライ麦パンをよく噛んで飲み込むと、少し考えてから言葉を選んだ……

フェリーチェ「厳しい土地だもの、仕方ないわ……ま、今回の会議が上手くまとまればパーティがあるし、そうしたらきっと美味しいものだって出るわ。ごちそうのためにも頑張ってちょうだい」

提督「ええ、そうさせてもらうわ」

…会議場…

ニッカネン「おはようございます、少将。フェリーチェ大尉も」

提督「ええ、おはようございます……ぴりっとした空気のおかげで目が覚めますね」

ニッカネン「田舎に行けば森の香りとしっとりした朝霧でもっと空気を楽しめるのですが、贅沢は言えませんね……昨夜はよくお休みになれましたか」

提督「ええ、おかげさまで……おはようございます、ラーセン大佐」まだ日の出を迎えたかどうかもあやふやな冬のフィンランドの朝だというのに眠そうな様子一つ見せず、きちんと折り目正しい様子のラーセン……

ラーセン「おはようございます」

ニッカネン「それでは、会議場に入りましょうか」

…午前中…

司会「……では、この件に関しては賛成多数で可決とします。次の議題ですが……」

提督「……昨日に比べればずいぶんと話が早くまとまってくれそうね。筋肉痛のカタツムリから、短距離走者のカタツムリくらいにはなったんじゃないかしら?」

フェリーチェ「昨日のやり取りで互いの立場が明らかになったからでしょうね。お互いに制服組同士、小難しい外交に関しては政府に任せて、身内でどうにか出来る範囲のことだけ折り合いを付ければいい」

提督「ええ……この調子なら、カチコチの雪だるまになる前に帰国できそうね♪」口元を手で隠し、小声でフェリーチェに耳打ちした……

フェリーチェ「どうかしら。あちらがそれで納得してくれればいいんだけど……」向かいのテーブルから冷たい目で会場を見わたしているロシア海軍の女性少将をちらっと眺めた……

ロシア海軍将官「……」

………

849 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/10/02(日) 01:45:34.45 ID:1wqdHT430
ニッカネン「その意見には納得できかねます、マリノフスキー大佐」

ロシア海軍大佐「どう思われようとご自由だが、我々はそう決定している……少佐」赤ら顔の大佐は規模の小さいフィンランド軍「少佐」が他国なら大佐クラスに相当するにもかかわらず、下の階級だと言わんばかりの態度を取っている……

提督「また始まったわね……」


…右耳には単調な声で話す同時通訳のヘッドホンを当て、もう片方の耳で生の声に含まれている調子や強弱を聞き、相手の出方を確かめようとする提督……手元の手帳には交渉材料に使えそうな単語がいくつか書き散らしてあり、隣のフェリーチェはメモ帳とラップトップを使い分け、さらに目線は相手の口元や視線を捉えている…


フェリーチェ「バルト海艦隊の代表はモスクワから来たお目付役の前で強気な態度を取って「いいところ」を見せたいのよ」

提督「きっとそうね……ねぇミカエラ、そろそろニッカネン少佐の援護射撃をしてあげようかしら?」

フェリーチェ「待って、ラーセン大佐が動くわ……」

ラーセン「失礼、発言をよろしいですか?」

司会「ラーセン大佐、どうぞ」

ラーセン「どうも……失礼ながらマリノフスキー大佐、貴国のバルト海艦隊に所属する「艦娘」たちだけでバルト海全域をカバーするのは物理的に不可能かと思いますが」

大佐「ニェット(いや)、本官はそう思わない」

ラーセン「そうでしょうか? ですがそちらの艦隊に所属している「艦娘」を海域に展開させると、哨戒可能な範囲は周囲……浬、対してフィンランド湾の面積はこれだけあります……明らかに足りないように思えますが?」

大佐「……」

ミカエラ「……フランチェスカ」

提督「ええ。 マリノフスキー大佐、私からも一つ……」

…午後…

司会「では、以上でバルト海「深海棲艦」対策会議を終了いたします。皆様、お疲れさまでした」

提督「ふー……どうにかまとまってくれてよかったわ」

フェリーチェ「お互いに妥協出来そうなところまで持って行けてよかったわ……ロシア側もこっちの意見を押し切るほどの力はないし、どこかで折れるとは思っていたけど」

提督「ミカエラの読み通りね……」と、資料を小脇に抱えたニッカネンが近寄ってきた……

ニッカネン「お疲れさまでした、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉」

提督「いえいえ、少佐こそ……途中、なかなか話が決まらなくて大変でしたね」

ニッカネン「いえ、沿岸諸国の会議ではこのくらいよくありますから……ところで少将」

提督「はい、なんでしょう?」

ニッカネン「この後、なにかご用事は?」

提督「いえ、せいぜいホテルに戻って夕食を食べるくらいです」

ニッカネン「そうですか……ところでこの前お話ししたサウナですが……もしご都合がよろしければ、これから一緒にいかがですか?」

提督「ええ。 せっかくの機会ですから、ぜひお願いします♪」

ニッカネン「それはよかった……フェリーチェ大尉は?」

フェリーチェ「いえ、私は片付けなければならない資料があるので明日にでも……申し訳ありません」

ニッカネン「おや、それは残念です……では少将、後でそちらのホテルまでお迎えにあがります。1600時頃でよろしいでしょうか」

提督「ええ。 何か必要なものはありますか?」

ニッカネン「そうですね、同性とはいえ身体を見られるのが気になるようでしたら水着が必要ですが、他のものはタオルを始め、たいていの浴場でレンタルがありますので」

提督「分かりました、それじゃあ楽しみに待っていますね」

ニッカネン「はい、それでは……」

提督「もう、ミカエラったら……私のために遠慮しなくたってよかったのに♪」

フェリーチェ「よく言うわ。 とにかく、サウナにもフィンランド美人にものぼせないようにすることね」そう言うとあきれたように小さく肩をすくめた……
850 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/10/16(日) 01:43:37.68 ID:E5njUObA0
…夕方・ホテルのロビー…

ニッカネン「お待たせしました」

提督「いいえ、私もちょうど支度を終えて降りてきたところです……明るい黄色がよく似合っていらっしゃいますね♪」

…北欧の冬は昼が短く、1600時ともなればすでに周囲は暗くなっている……私服に着替えた提督がホテルのロビーで待っていると、ニッカネンがやってきた……着ている服は特にお金をかけているいう風でもなく、むしろごくあっさりとしたファストファッションのものらしいが、白い肌に似合う明るい黄色のセーターと淡いベージュのコート、明るいグレイのスラックスでスマートにまとめている…

ニッカネン「ありがとうございます、アドミラル・カンピオーニ」

提督「ふふっ……もう制服を脱いでいるのに「アドミラル」もないでしょう。 フランチェスカか、さもなければ「フランカ」で構いませんよ?」

ニッカネン「ではそうさせていただきます、フランチェスカ……」

提督「ええ。ところで私も「クリスティーナ」と名前で呼ばせてもらってもいいですか?」

ニッカネン「はい、もちろんです……それでは参りましょう」提督をボルボの助手席に乗せると自分は運転席に乗り込んだ……

…公共サウナ…

ニッカネン「さぁ、着きました……車を駐車場に停めてきますから、どうぞ先に降りて下さい」

提督「ええ」

…そもそも「サウナ」という言葉自体がフィン語であり、人口よりもサウナの方が多いと言われるほどサウナ文化の盛んなフィンランド……当然ヘルシンキ市街にも公共サウナを始め、リゾート用の高級な場所から親しみやすい大衆向けの浴場までさまざまなサウナ施設が点在している……ニッカネンが提督を連れてきたのは比較的新しい感じのする施設で、受付で貴重品を預けると、二人は暖房の効いた清潔感のある更衣室で服を脱いだ……提督のバラ模様をあしらった黒いブラとパンティが淡いクリーム色の肌を引き立たせ、服を脱ごうと身動きするたびに豊かな乳房が「たゆんっ……♪」と弾む…

ニッカネン「……」

提督「どうかしましたか?」ニッカネンの控え目な視線に気付いた提督が、小首を傾げて問いかけた……

ニッカネン「ああ、いえ……///」

提督「ご覧になりたければ遠慮せずにどうぞ? 運動不足なもので、少し肉付きが良すぎるところもありますが……それでもよろしければ♪」冗談交じりに軽く笑みを浮かべ、ウィンクを投げる…

ニッカネン「いえ、そういうつもりでは……中に入りましょう///」

…サウナ内…

提督「あ……とてもいい針葉樹の香りがします」

ニッカネン「そうでしょう」

…おそらく杉材で作られたと思われるほの明るい室内にはやはり木で出来たベンチがあり、中央には枠で囲われて、黒っぽい石が積み上げられている……提督は「サウナ」と聞いて真夏の機関室のような状態を想像し身構えていたが、室内の温度はずっと穏やかで「熱い」というほどでもなく、ほっと安堵してニッカネンの隣に腰を下ろした…

ニッカネン「……サウナは初めてだそうですから、私が「ロウリュ」を行いますね」

提督「ええ」

…手桶に水を汲むと、中央で熱を放っている石にそれをかけたニッカネン……しゅうしゅうと音を立てて水蒸気が立ちこめると、次第に室内が蒸れた感じになってくる…

ニッカネン「こうして蒸気を立てて、ほどよく汗をかくようにします」

提督「なるほど……」

…とつとつと静かに話すニッカネンの、陶器のように白い肌に赤みが差してくるのを見ていると、提督自身も身体から汗が浮いてくるのを感じた……汗が出てくるのと同時に身体がじんわりと熱を帯び、真っ白なタオルがしっとりと湿り気を帯びてくる…

ニッカネン「……それでは、そろそろヴィヒタを使いましょう」

提督「ヴィヒタ?」

ニッカネン「これです」まるで瞑想にふけるように蒸気の中でしばし沈黙していたニッカネンだったが、つと席を立つと、片隅に置いてあった細い白樺の枝を取り上げた…

提督「あ、なんだか聞いたことがあるような気がします……それで軽く叩くのでしたね?」

ニッカネン「そうです、よくご存じで……どうぞ、背中を向けて下さい」

提督「どうかお手柔らかにお願いします♪」

ニッカネン「ええ、大丈夫です」

…冗談交じりに言った提督に対して、生真面目に答えるニッカネン……提督が背中を向けると、ニッカネンがほどよい勢いで白樺の枝を振るった……枝を振るたびに残っている白樺の葉から雫が飛び散り、ふわりと新鮮な木の葉の香りが漂う…

ニッカネン「痛くはないですか」

提督「ええ、心地よい程度です」

ニッカネン「そうですか……では、そろそろ交代をお願いします」

851 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/10/27(木) 01:26:08.17 ID:e9noRa9A0
提督「初めてですから、もし加減を誤っていたらおっしゃって下さいね」そう言うとヴィヒタを手に取って、ニッカネンのしみひとつない白い背中にそっと枝を振るう…

ニッカネン「もう少し強くても大丈夫ですよ」

提督「そうですか……では」

…ニッカネンの身体はやせていて、うっすらとシルエットが浮かぶ鎖骨まわりや肉の薄い脇腹は、まるで提督が持っている白樺の枝のように細くしなやかに見える……ヴィヒタで背中や肩甲骨の辺りを軽く叩くと血流が良くなった部分がほのかに赤みを増し、白かった肌が桃色を帯びてくる…

ニッカネン「……そのくらいで結構です」

提督「分かりました」

ニッカネン「それでは、水浴に行きましょう」

…冷水浴の浴室…

ニッカネン「いきなり入ると冷たくて心臓に悪いですから、足先からそっと入って下さいね」

提督「ええ」

…サウナを出た隣にある大きなバスタブには水が満たされていて、そこにそっと身体を沈めていく……冷水といってもおそらくは常温の水で、ことさらに冷やしてあるというわけでもないのだろうが、じんわりと汗が滴るほど熱を帯びた身体にはまるで氷水のように感じられる…

提督「っ……冷たいですね」

ニッカネン「そうかもしれません。ですがこれで身体を冷まし、同時にすっきりさせることが出来るので、サウナでは外すことの出来ない手順なんですよ」そろりそろりと入っていく提督とは対照的に、躊躇なく身体をひたしていく……

提督「少なくとも流氷の浮いている海に飛び込んだりする必要はないようですね……助かりました」肩の下まで冷水に浸かると浴槽がかき回されて冷感が増すことがないよう、できるだけ身動きしないようにしながら冗談めかした……

ニッカネン「ああいうのはことさらに……えーと……そう、チャレンジ精神が旺盛な人がやるものですから」

提督「そうだろうと思いました……」

…二度目のサウナ…

ニッカネン「……ところでキルッコヌンミ鎮守府にご案内した際、フランチェスカも銃猟をすると言っていましたが、そのお話をもっと聞きたいですね」

提督「猟の話ですか、いいですよ」冷水浴を終えてサウナに戻ると、蒸気の中で好みの銃や獲物の話をする提督とニッカネン……

提督「……そういえば、クリスティーナはどんな銃が好みですか?」

ニッカネン「私ですか? そうですね、私は値段と性能が折り合えば充分なので、あまり特定のモデルにこだわった事はありませんが……今のところ、中古の垂直二連が一丁と「ブローニング・オート5」を持っています」

(※ブローニング・オート5…天才的銃器設計者「ジョン・M・ブローニング」による、世界で初めて成功を収めた大ベストセラーのセミオートマティック・ショットガン。原型は1898年(明治31年)と古いが基礎設計が優れており、ベルギーFNやレミントンを始め、日本を含めた世界中で長く生産された)

提督「オート5はいい銃ですね……普段は鹿撃ちだそうですね?」

ニッカネン「そうです。普段は鹿と、それから鴨のような野鳥類ですね。他にはトナカイ撃ちも数回ほど……あと一頭だけ、クマも経験があります」

提督「なるほど……私は大きくてもせいぜいイノシシ程度ですね。実家では食べるために撃ったり、地元のコムーネ(自治体)から駆除依頼が来たりしていましたので」

ニッカネン「あれはあれで危険だと聞いていますが」

提督「ええ。イノシシはああ見えて意外と素早いですし、雄の牙で太ももを突き上げられたら命に関わりますので……撃ちに行くのは秋が多くて冬場の繁殖期には基本やりませんでしたが、その時期は雄雌ともに気が立っているので特に危険ですね」

ニッカネン「なるほど」

…提督はどちらかというとニッカネンを「寡黙で人付き合いが好きではないタイプ」だと思っていたが、サウナの蒸気の中でぽつぽつと……しかしあまり途切れる事なく会話に興じるニッカネンを見るかぎり、別にそういうこともないらしい……隣に座って小さな身振りを交え、シカ撃ちの話やフィンランドの森の話をするたびに汗の玉が滑らかな白い肌を下っていき、小ぶりで形のいい乳房の谷間や、金色の野原のような脚の間に流れていく…

提督「……」サウナの蒸気に交じってニッカネンの爽やかな汗の香りと、発散される体温が隣に腰かけている提督に伝わってくる……

ニッカネン「それで、去年のシーズンでは二頭を……フランチェスカ?」

提督「ああ、はい……聞いていますよ。それで、撃った二頭は雄でした?雌でした?」

ニッカネン「一頭は雄で、もう一頭は雌でした……そろそろ上がった方が良さそうですね」

提督「ごめんなさい、もっと聞いていたかったのですが……」

ニッカネン「いえ、いいんですよ……またお話しする機会もあるでしょうから///」

提督「ぜひその機会が欲しいものですね……っとと♪」サウナでたっぷり蒸されたおかげですっかり身体がふわふわしている提督……立ち上がってよろめいてしまい、その拍子にニッカネンの身体につかまった……

ニッカネン「あっ……大丈夫ですか///」

提督「大丈夫です……ちょっと勢いよく立ち上がり過ぎました」しっとりと濡れたニッカネンの肩に手をかけ、少し見おろすような形で顔を近づけている……

ニッカネン「転ばなくて何よりでした……さあ、出ましょう///」そっと提督の手を肩からどけると、転ばないようにと軽く腕をつかんでくれる……

提督「ええ、そうしましょう♪」
852 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/11/03(木) 01:07:49.13 ID:lgP2pU9P0
ニッカネン「ところで、フランチェスカ……ホテルに戻る前にクリスマス市でも見ていきませんか? 今日は時間もありますし」

提督「そうですか、それではぜひ♪」

…ヘルシンキ市街・クリスマス市…

提督「ふふ……♪」

ニッカネン「何かおかしかったですか?」

提督「いいえ♪ こうして楽しげなクリスマス市を見ていると、それだけでこちらも気分がうきうきしてきますね」

ニッカネン「そうですね」

…ニッカネンと連れだって、時代を感じさせるヘルシンキ市街の綺麗な建物とその前に開いているクリスマス用品のマーケットを見て回る提督……繊細なガラス細工やオルゴール、クリスマスツリーにぶら下げるオーナメント(飾り物)の数々……街頭や店先の灯りに照り映えて、キラキラと光り輝く光景はどこか幻想的で美しく、にぎわう街の喧騒さえもどこか美しく聞こえる…

提督「クリスティーナ、お店の人に「これを一袋下さい」と言ってもらえますか?」フィンランド国旗を彷彿とさせる、綺麗な青と白の二種類が入っている玉飾りの袋を指さした……

ニッカネン「ええ、分かりました」

…ゆったりとした歩調で通りを歩きながら時折足を止め、鎮守府へのお土産としてクリスマスツリーに吊るすオーナメントや綺麗な細工物を見繕う提督……フィン語でのやり取りはニッカネンにお願いして、着々と買い物の量を増やしていく…

ニッカネン「フランチェスカ、荷物の量は大丈夫ですか?」

提督「ええ。トランクは結構空きがありますし、もし入りきらないとしても追加の手荷物料金くらい払いますよ……それとお店の人に「どうか良いクリスマスを」と伝えてもらえますか?」ニッカネンに向けて微笑を浮かべつつ、お店の人から商品の袋を受け取った…

ニッカネン「伝えましたよ……フランチェスカ「貴女にもよいクリスマスを」だそうです」

提督「グラツィエ♪」

…辺りにはオルガン音楽やクリスマスを題材にしたポピュラー音楽が流され、コートの合わせや靴底から伝わってくる冷たい夜気も、サウナのおかげか、さもなければ暖かな気分のために心なしか柔らかく感じられる…

ニッカネン「フランチェスカ、少し身体が冷えてきたのではありませんか? ……良かったらコーヒーハウスにでも寄っていきましょうか?」

提督「ええ」

…コーヒーハウス…

提督「ふぅ……身体の中から暖まりますね」

ニッカネン「美味しいですか?」

提督「ええ、とても。フィンランドの方はみんなコーヒーを淹れるのが上手ですね」

ニッカネン「まあフィン人の「みんな」と言うこともないでしょうが……それに、コーヒーを淹れるならやはり森の中、焚き火を使って銅のポットを使うのが一番です」

提督「素敵ですね。 静まりかえった森の中、二人きりで焚き火のはぜる音を聞きながらコーヒーを沸かす……なんて」テーブルの上に置かれたニッカネンの手にそっと自分の手を重ねる……

ニッカネン「え、ええ……///」かすかに頬を赤らめて、乗せられた手から自分の手を引き抜くかそのままにしておくかためらっているニッカネン……

提督「……さてと、そろそろホテルに戻りましょうか」

ニッカネン「そ、そうですね……///」

…ホテル前…

ニッカネン「サウナはいかがでした、フランチェスカ?」

提督「ええ、とても気持ちが良かったですし、機会があったらまた行きたいものですね。 それに買い物も楽しめました」買い込んだ飾り物の袋や箱を積み重ね、その下に腕を回して支えている提督…

ニッカネン「それは何よりです。 それでは、明日の夕食会でまた」

提督「ええ、また明日……っと、ちょっと待って?」ホテルの前まで送ってきてくれたニッカネンがボルボに乗り込もうとするところを呼び止めた…

ニッカネン「何か?」

提督「ええ……ちゅっ♪」

ニッカネン「……あっ///」

提督「今日はとても楽しかったわ、クリスティーナ……チャオ♪」ニッカネンのひんやりした頬に軽くキスをすると、軽くウィンクを投げた……

ニッカネン「そ、そうですか……喜んでいただけたようでなによりです///」提督の唇が触れた部分に手を当てると、何を言うか迷っているように口ごもり、ようやくそれだけ言って車に乗り込んだ……

提督「ふふ……っ♪」いつもよりぎくしゃくした運転で走り去るボルボを見送ると、含み笑いをしながらホテルの入り口をくぐった……

………

853 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/11/18(金) 01:50:40.43 ID:7E4+Zff30
…翌日・夕食会…

ニッカネン「さぁ、どうぞお入り下さい」

提督「素敵な会場ですね……♪」


…礼装に身を包んだニッカネンに案内されてやって来たパーティ会場はきれいにしつらえられており、床の一部には赤と緑でパッチワーク風の模様に仕上げたフィンランドの伝統織物「ルイユ織り」の絨毯が敷かれ、テーブルには色とりどりの花が飾ってある……それも参加各国をもてなす意味を込めてそれぞれの花瓶に各国の国旗と同じ色が使われていて、カーネーションやカラー、バラに百合、かすみ草といった花をバランスよく組み合わせて、イタリアのトリコローリ(三色旗)の色である緑・白・赤をはじめ、ポーランドの白と赤、スウェーデンの青と黄色、ノルウェーの赤、青、白といった具合に仕上げてある……


ニッカネン「どうしても冬は色がなくて殺風景に感じますから、こうやって花があるのはいいものです」

提督「同感です……」提督はニッカネンと話しながら、テーブルのそばで立っている各国士官の一団に近づいた……

ニッカネン「それでは、改めて紹介しましょう。こちらはウーシマー旅団のミカ・カンキネン大尉」がっしりした体格をした沿岸防衛旅団の大尉は鍛え上げた肉体のために礼服が窮屈そうで、頬の肉が付いているところに赤みが差している様子はどことなくサンタクロースを思い起こさせる……

カンキネン「初めまして」

ニッカネン「こちらは空軍のラウリ・キルピ大尉」

キルピ「お目にかかれて光栄です、アドミラル・カンピオーニ」

提督「こちらこそ……大尉はどんな機種を操縦なさっているのですか?」

キルピ「たいていは「サーブ・ドラケン」です。私も機体も退役するはずだったのですが、深海棲艦のことがあってまだ引退できずにいましてね」戦闘機の操縦士としてはかなり高齢に見えるキルピ大尉はいかにもパイロットらしく、細身の顔とほとんど同じくらいあるがっちりした首をしているが、一度笑うと目尻や口元に笑いじわができて親しげな表情になる……

提督「なるほど」

ニッカネン「こちらはポーランド海軍のヴァシェフスキ中佐」

ヴァシェフスキ「スタニスワフ・ヴァシェフスキです。どうぞお見知りおきを」

提督「フランチェスカ・カンピオーニです……ポーランド軍の勇敢さについてはよく聞き及んでおります。イタリア人として、お国のドンブロフスキがイタリアで軍団を編成した歴史があるというのは光栄なことです」

(※ヤン・ドンブロフスキ……ナポレオンの下、イタリアで亡命ポーランド人たちを募った「ポーランド軍団」を編成し、ロシア・オーストリア・プロイセンなどに分割されたポーランドを復活させるために戦った。ポーランド国歌「ドンブロフスキのマズルカ」はその際にポーランド軍団の兵士たちが歌った愛唱歌を元にしている)」

ヴァシェフスキ「これはまた、我が国の歴史をご存じで……どうもありがとうございます」風格のあるヴァシェフスキの顔がぱっとほころんだ……

ニッカネン「では、自己紹介も済んだことですし……乾杯にお付き合いいただけますか、少将?」

提督「ええ、喜んで」

ニッカネン「良かった……フィンランドのウォッカは最高ですよ、ぜひ賞味してみて下さい」

提督「そうですか、でしたら」澄み切った液体がなみなみと満たされている小さいグラスを取った……

ニッカネン「では、音頭は私が……キピス(乾杯)!」

一同「「キピス」」

…ウォッカを始め、度数の強い酒を恐る恐る飲もうとするとかえって飲みにくいので、覚悟を決めて一気にあおった提督……いいウォッカだというニッカネンの言葉通り、カッと熱い感覚が喉を流れ落ちるが口当たりは水のようで、当たりの強さやえぐみはまったくない…

ニッカネン「いかがですか」

提督「ええ……とってもいいウォッカですね」つばを飲み込み、一呼吸してから答えた……

キルピ「それでも慣れていないと飲みにくいでしょう……キャビアを一緒に食べるといいですよ」小さじで皿にキャビアをよそってくれたキルピ大尉

提督「ありがとうございます」

…度数こそきついが口に入れた瞬間は甘いウォッカと塩っぱいキャビアは確かによく合い、食べた後にかすかに残るキャビアの海くささのようなものを、ウォッカがきれいに落としてくれる…

提督「……なるほど、これはいい組み合わせですね」

ニッカネン「そうでしょう……ところでこれはどうですか? トナカイの燻製ですよ」

提督「これがそうですか、初めて食べます……」赤身が濃くて鹿肉に似ているトナカイ肉の燻製は噛みごたえがあって、あごはくたびれるが、噛めば噛むだけ旨みが沁みだしてくる……

ニッカネン「いかがですか?」

提督「これは……例えば暖炉か何かのそばに腰かけて、じっくり噛みしめて食べる……そうした食べ方が合いそうですね」

カンキネン「おや、なかなか通な意見ですね」

提督「それはどうも……もちろんパルマの生ハムも美味しいですが、このトナカイ肉とは風味や歯ごたえが全く違いますし、同じ物差しでどちらが美味しいとか優れているとか、そういった比較をすることはできませんね……少なくとも、私は美味しいと思いますよ?」

ニッカネン「そう言ってもらえると嬉しいですね」提督の言った言葉に含まれた意味を理解して、ニッカネンをはじめフィンランド軍の士官たちは軒並み苦笑いした……

ヴァシェフスキ「では、今度は私からも乾杯を……カンピオーニ少将、お願いできますかな?」

提督「ええ、分かりました」

854 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/11/26(土) 02:14:45.57 ID:mss3scI10
…しばらくして…

提督「この鴨肉もとても美味しいです……肉が柔らかくて、脂の甘味がじんわりと染み出すようで……」

ニッカネン「鴨肉ならシャンパンの方が良いでしょう、お取りしますよ」

提督「グラツィエ♪」


…会場で各国士官たちと会話をする間もニッカネンが隣に付いてくれ、並んでいる料理や酒を勧めてくれる……鴨のローストにシャンパン、キャセロール(グラタン皿料理)にフィンランドウォッカ、ノルウェーから空輸されてきたサーモンに、海老を使ったグリル……提督以外にも食欲旺盛な士官は多くいて、食器やグラスの触れあう音もにぎやかにパーティが進み、幾人かは頬の血色が良くなっているが、それは暖かな空調のためだけではないように見える……提督はニッカネンのガイドのおかげで料理と酒の美味しい組み合わせを堪能しながら、打ち解けた様子の士官たちと面白おかしく脚色した過去の失敗談やちょっとした冗談を交わした…


キルピ「……ところでアドミラル・カンピオーニ、実は「ドラケン」というとちょっとした小話がありましてね」一杯機嫌で愉快そうなキルピ大尉が切り出した……

提督「と、いいますと?」

キルピ「ええ……戦闘機に限らず飛行機は着陸に際して、滑走路への進入前に脚(降着装置)を下ろし、前後共に下りたことを示す表示を確認して「スリー・グリーン」と管制官にコールするんですが……」

提督「ええ、聞いたことがあります」

キルピ「そうですか……いや、ドラケンはご存じの通りダブルデルタ翼で、離着陸時の機首上げ角度が強いもんですから、いわゆる「尻餅」をつかないよう胴体後部にもう一つ尾輪が付いているんですよ」

提督「なるほど……?」

キルピ「ですから、管制官から「スリー・グリーンを確認せよ」と言われた時にわざと「フォー・グリーン」と返して面食らわせてやることがありましてね……♪」

提督「くすくすっ……そういうことですか♪」

ヴァシェフスキ「……ところでカンピオーニ少将、ポーランドへ旅行したことはありますか?」

提督「いえ、残念ながら機会がなかったものですから」

ヴァシェフスキ「それはもったいない……ワルシャワ、クラクフ、どこも歴史があって良い街ですよ」

提督「そうですね、かの有名な「ワルシャワ・マーメイド」の像も見てみたいですし」

(※ワルシャワ・マーメイド……自身を捕らえた悪徳商人から助けてくれたワルシャワの人たちへの恩返しとして、剣と盾を持ってワルシャワを守護する約束をした人魚。ワルシャワの誇りと名誉のシンボル)

ヴァシェフスキ「ああ、あれはぜひ見てほしいですね。ショパンやマリー・キュリーといった偉人もおりますし……カンピオーニ少将はSF小説を読まれますか?」

提督「学生時代に好きでよく読んでいました……ポーランドと言えば「ソラリス」のスタスワフ・レムですね?」

ヴァシェフスキ「その通りですとも。他にも「無敵(砂漠の惑星)」や「星からの帰還」といった真面目な作品から「宇宙創生期ロボットの旅」のような皮肉の効いたユーモアSFまで……あの複雑なポーランド語の味わいが翻訳では出せないのが残念です」

提督「同感ですね。映画にしろ書籍にしろ、翻訳ではどうしても思っている事を伝えきれないのが残念です……こうしてお話ししている時も、失礼な言い方に感じられてしまったらごめんなさい」

ヴァシェフスキ「いえいえ、私の英語よりはずっとお上手だ……シャンパンはいかがですか?」

提督「ええ、では……♪」

…またしばらくして…

カンキネン「カンピオーニ少将、もう一杯いかがですか?」

提督「いえ、もうこのくらいにしておきます……お酒が入るとおしゃべり機関銃どころか、「おしゃべりCIWS」になると言われておりますから♪」

(※CIWS…「近接迎撃兵装システム」の略。アメリカの二十ミリ「バルカン・ファランクス」やイタリアの四十ミリ「ダルド」、オランダの三十ミリ「ゴールキーパー」等が有名。シーウィズ)

カンキネン「ははは、そいつは大変ですね」

キルピ「それにしてももう数日早ければ、独立記念日に間に合ったのですが……当日はパレードや何かがあって、白と青の旗が家々に翻って、それはそれは美しいものですよ」

提督「私も話には聞いていたので見逃すことになって残念です……この予定を組んだ上層部が恨めしいですね」

カンキネン「まぁ、いつかまたお出でになる機会もありますよ……キピス!」

提督「キピス♪」

855 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/12/04(日) 02:01:39.19 ID:Zkv+0TkO0
フェリーチェ「……だいぶ打ち解けてきたようね?」提督が歓談している間に会場を歩き回って会話に加わり、またさりげなくあちこちの会話に聞き耳を立てていたらしいフェリーチェ……

提督「ええ、おかげさまで」

フェリーチェ「それと今さらだけれど、あまり食べ過ぎないようにね?」

…提督の皿に盛られているマッシュド・ポテトと濃厚なクリームで和えたミートボール料理をちらりと見て、冗談半分に釘を刺した…

提督「ええ。それよりも飲み過ぎの方が問題ね……」

フェリーチェ「頼むからああいう風にはならないでよ?」

…フェリーチェがちらりと目線で指し示した先では、ロシア海軍バルト海艦隊の士官たちが「タダ酒」ということでいい気になってウォッカやウィスキーをがぶ飲みしていて、会議の代表を務めていた大佐クラスの士官を始め、たいていが鼻の頭や頬を真っ赤にしながら大声のロシア語でしゃべっている…

提督「ならないわよ……まあ、ミカエラにとってはああいう相手の方が都合が良いんじゃないかしら?」

フェリーチェ「そうね。でもそれは私だけじゃなくてどこも同じよ……」付き合いがあった提督だけが分かるような微妙な身振りで何人かの士官を指し示した……

物静かなフィンランド軍士官「……」

気配の薄いスウェーデン軍士官「……」

提督「なるほど……」と、台に乗っているグラスを取りにロシア海軍の女性将官が近寄ってきた……

ロシア女性将官「失礼、そのシャンパンを取ってもらえまいか」

提督「ええ、どうぞ」


…フェリーチェ言うところの「モスクワからのお目付役」らしいロシア海軍の女性将官は少将の階級章を付け、胸元に並んでいる略綬の他にも、いくつかのメダルが留められている……瞳は冷厳な印象を与える淡い青灰色で、まるで妖精のような美しいプラチナブロンドの髪をしている……その横に影のように付いている女性の大尉は後ろでまとめた金髪に淡いブルーの瞳で、きっちりとした態度はいかにも優秀な副官タイプに見える…


ロシア女性将官「スパシーバ(ありがとう)」

ニッカネン「しかし、なんというか……あの人はまるで冬のヴァンターヨキ川よりも愛想がないですね」さっと歩み去った女性将官を見送りつつ、つぶやくように言った……

提督「言い得て妙ですね。もっとも、冬のヴァンターヨキ川がどのような様子かは知りませんが」

カンキネン「いや、ありゃあどちらかというと「メルケ」だな……ニコリともしやしない」

(※モラン…ムーミンシリーズに登場する、冬を具現化したような女の妖怪。 黒いローブを引きずったような姿で、座った跡は霜が降りてしまう。フィン語のメルケは「お化け・幽霊」の意味)

キルピ「全く、東から来るもので歓迎できるものといえばお日様だけだからな」

…そろそろ酔いが回ってきて、次第に打ち解けた……場合によっては隠していた本音の部分が顔をのぞかせ始めた各国の士官たち……特に北欧諸国やポーランドの代表は、お世辞にもロシアと友好関係にあるとは言いにくく、ウォッカやシャンパン、アクヴァヴィットのグラスを重ねたこともあって、勢い舌鋒も鋭くなる…

フィンランド士官「……いや、ようこそフィンランドへお出で下さいました。ヘルシンキに足を踏み入れたロシアの士官は捕虜を除けば少将が初めてですな」

ロシア女性将官「……」

フィンランド士官B「良かったらサルミアッキでもいかがですか、美味しいですよ?」

(※サルミアッキ…リコリス飴。北欧ではよく食べられるが外国人には「塩味のゴム」など散々な評価で、かなりクセのある味だという)

スウェーデン海軍士官「何か飲み物はいかがですか? せっかくですから「ウィスキー・オン・ザ・ロック」でも?」冷戦時代の事件をあてこすって、ウィスキー・オン・ザ・ロックを勧めるスウェーデンの海軍士官……

ロシア女性将官「スパシーバ(ありがとう)……ウォッカを頂戴する」皮肉などまったく意に介さない様子で冷たく相手を見据えると、露が降りるような冷たいウォッカのグラスを受け取る……

…時間が過ぎてたびたびグラスが干されるうちに真面目で感情表現の控え目なフィンランド軍の士官たちもかなり陽気な雰囲気になってきて、中の数人がヴァイオリンやアコーディオンを用意し始めた…

フィンランド軍士官「……さて、何か演奏しましょうか。聞きたい曲があったら遠慮なくどうぞ?」アコーディオンを首から提げると、鍵盤を軽く試した……

ニッカネン「カンピオーニ少将、せっかくですから何かリクエストなさってみては?」

提督「それもそうですね……あいにくフィンランドの曲はあまり知らないのですが「サッキヤルヴェン・ポルカ」でしたか、それなら題名くらいは聞いたことがあり……」言いかけたところで隣にいたフェリーチェが小さく、しかし思い切りふとももをつねった……

提督「痛っ……ミカエラ、どうしたの?」

856 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2022/12/26(月) 01:23:01.13 ID:ZUFS9DHc0
フェリーチェ「フランチェスカ、何を考えてるの! ……「サッキヤルヴェン・ポルカ」はロシアに奪われたカレリアを懐かしむ歌なのよ?」小声で提督を叱りつける……

提督「あっ……しまったわ」

フィンランド士官「さすがはアドミラル・カンピオーニ……ではリクエストにお応えして「サッキヤルヴェン・ポルッカ」!」


…提督は慌てて別な曲を頼もうとしたが時すでに遅く、アコーディオンを持った士官が曲を弾き始めると、たちまち勢いづいたフィンランド軍の士官たちがグラスを片手に声を張り上げた…

フィンランド軍士官たち「「♪〜オン・カウイナ・ムイストナ・カレヤラ・マー、ムッター・ヴィエラカ・スォイメサ・スォイナッター」」
(♪〜美しき思い出の地カレリアよ、今も心に沸き上がる)

士官たち「「♪〜クン・スォッタヤン・スォルミスタ・クーラッサー、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(♪〜奏者が奏でるサッキヤルヴェン(サッキヤルヴィの)ポルッカ!)

士官たち「「♪〜セ・ポルッカ・ター・ミエネッタ・ミエレン・トゥオ、ヤ・セ・ウオトゥオ・カイプタ・リンタン・トゥオ」」
(♪〜ポルッカが過去を呼び起こし、胸に追憶が去来する)

士官たち「「♪〜ヘイ・ソイタッハー・ハイタッリン・ソイダ・スオ、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(♪〜アコーディオンを奏でれば、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)

士官たち「「♪〜ヌオレン・ヤ・ヴァンハセ・タンセン・ヴィエ、エイ・セレ・ポルカラ・ヴィエター・リィエ!」」
(♪〜老いも若きも踊り出す、ポルッカに勝るものはなし!)

士官たち「「♪〜セ・カンサー・オン・ヴァイッカ・ミエロン・ティエ、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」
(♪〜さすらう身となっても(故郷を失ったとしても)歌はある、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)

士官たち「「♪〜スィナア・オン・リプラトゥス・ライネッテン、スィンナア・オン・フゥオユンター・ホンキエン」」
(湖には波が立ち、松の梢はざわめいて)

士官たち「「♪〜カレヤラ・スォイ・カッキ・ティエター・セン、サッキヤルヴェン・ポルッカ!」」
(カレリアの誰もが歌詞を知る、サッキヤルヴェン・ポルッカ!)

士官たち「「♪〜トゥレ・トゥレ・トゥットネ、カンサネ・タンサネ・クォ・ポルカネ・ヘルカセ・ヘルカンター」」
(♪〜娘さんよ私と踊ろう、優しきポルッカの響きに乗って)

士官たち「「♪〜ホイ・ヘポ・スルコヤ、ハンマスタ・プルコン・スィーラナ・イーメスィティ・スーレミ・パー」」
(♪〜馬は歯ぎしりしているが、頭が大きい(賢い)のだから勝手にやらせておこうじゃないか)

士官たち「「♪〜トゥレ・トゥレ・トゥットネ、カンサネ・タンサネ・メーレア・リェームヤ・スヴィネン・サー!」」
(♪〜娘さんよ私と踊ろう、優しきポルッカの音色が響く!)

士官たち「「♪〜サッキヤルヴェセ・メルター・オン・ポィス、ムッタ・ヤイ・トキ・センターン・ポルッカ!」」
(♪〜サッキヤルヴィは失われてもポルッカの音色は残ったのだから!)


ロシア海軍士官「……諸君、我々も一曲歌おうじゃないか!」

…ウォッカで顔を赤くしたロシア軍の少佐が塩辛い声でそう言って、空のグラスを片手に指揮者のように腕を振ると、フィンランド軍士官たちの歌声をかき消そうと、ソ連時代から続く海軍の軍歌「艦隊への道(タローガ・ナ・フロート)」を合唱し始める…

フェリーチェ「フランチェスカ、どうするつもり?」

提督「困ったことになったわね。まるで「カサブランカ」の場面みたい……あ、そうだわ」互いの声が砲弾のように飛び交う中、ふと思いたってラーセン大佐のそばに行き、ひそひそと耳打ちする提督……

ラーセン「……分かりました、やってみましょう」

…フィンランド軍士官とロシア海軍士官がお互いに歌声を張り上げて相手をやり込めようとしている中、ラーセンがスウェーデン軍の士官たちに小声で何事か指示した……ラーセンが提督のリクエストを伝えると、若手士官の何人かは提督に向かって「了解した」というように軽くうなずいたり小さく親指を立てたりした…

提督「あー、よろしければもう一曲構いませんか?」

…サッキヤルヴェン・ポルッカの合唱が終わったところでニッカネンに近寄ると、さりげなく尋ねた…

ニッカネン「もちろんです……皆さん、アドミラル・カンピオーニからもう一曲リクエストがあるそうですよ? それで、曲は何を?」

提督「ええ……良く考えたら明日は聖ルチアの日ですし「サンタ・ルチア」をお願いします♪」

フェリーチェ「……なるほどね」


857 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/01/08(日) 01:56:39.93 ID:+EvTlOXR0
ニッカネン「それではアドミラル・カンピオーニのリクエストで「サンタ・ルチア」です」


…ニッカネンがさっと助け船を出してアコーディオン係の士官に合図をすると、士官はナポリ民謡「サンタ・ルチア」を演奏し始めた……ナポリに勤務していた事もある提督にはお馴染みの……また冬の寒さと暗さに耐えるスカンジナヴィアの人々にとっては(旧暦にあたるユリウス暦では)これから夜が一日ずつ短くなっていくという嬉しい「聖ルチアの日」を祝う歌としてよく耳に馴染んでいる「サンタ・ルチア」…


提督「♪〜スル・マーレ・ルチィカ、ラストゥーロ・ダルジェント……」
(♪〜海の上、星は銀に輝き……)

…提督が本来の歌詞で歌い出す暇もあらばこそ、あっという間にスウェーデンやフィンランドで付けられた冬の終わりを喜ぶ歌詞が大合唱になって
覆い被さってくる…

提督「ふぅ……」

フェリーチェ「……どうにかなったわね」

提督「ええ。私が撒いた種だもの、少しはどうにかしないと……でしょう?」

…さっきまでのロシア軍士官に対する険悪な雰囲気はどこへやら、フィンランド軍やスウェーデン軍の士官たちが聖歌隊の子供のような熱心さで歌を歌っている…

ラーセン「……これで大丈夫でしたか、カンピオーニ少将?」

提督「ええ、おかげで助かりました……♪」

ニッカネン「ラーセン大佐、私からもご協力に感謝します」

ラーセン「とんでもない……あのままロシア側といがみ合いにならなくて幸いでした」

ニッカネン「そうですね」

提督「本当に申し訳ありません……」

ニッカネン「いいえ……その代わりと言ってはなんですが、もう一杯お付き合いいただけると嬉しいのですが」

提督「え、ええ……」


…提督としてはそれまでも何回か乾杯に付き合っていたので、出来ることなら勘弁してもらいたいところだったが、フォローしてもらった手前むげに断るのも具合が悪い……それならせめてアルコール度数の低いカクテルでもと思って酒類のテーブルを眺めたが、残念な事に並べられているのはウォッカにアクヴァヴィット、ウィスキーとブランデーと、度数の高い酒のグラスばかりが並んでいる……仕方なしにテーブルの中では一番軽いシャンパンのグラスを取り、ニッカネンの掲げたウォッカのグラスと軽く触れあわせた…


ニッカネン「キピス」

提督「キピス♪」

………



…しばらくして…

フェリーチェ「大丈夫、フランチェスカ?」

提督「ええ、思っていたよりも量を過ごしてしまったけれど……まだローリング(横揺れ)は起こしていないわ♪」

…立食ながら種類も量もたっぷりあった北欧料理と、それに合う度数の高いお酒ですっかり身体が火照っている提督……いつもより冗談が増え、頬紅(チーク)なしでもほんのりと色づいた頬が艶めいている…

フェリーチェ「なら良かったわ。ホテルに戻ったら酔い覚ましにシャワーでも浴びて、ゆっくり休むことね……どうかした?」酔いが回っているだけではない、提督のご機嫌な様子に気付いた……

提督「ちょっと……ね♪」

フェリーチェ「なに?」

提督「ふふふ……あのね、さっきニッカネン少佐と「キピス」をしたでしょう?」

フェリーチェ「それは見てたわ。そのあと二人して話し込んでいたようだったけれど」

提督「そうなの……それで、ニッカネン少佐が「よろしければ、後で部屋に来ませんか」って♪」

フェリーチェ「つまり、貴女の「Lバンドレーダー」に引っかかったってわけね」

提督「なぁに、それ? 私は捜索用レーダーなんて積んでないわよ?」

フェリーチェ「あら、意外ね。貴女ときたらいつでも色んな女性と付き合っているものだから、てっきりそういう女性を見つけるためのレズ(L)バンドレーダーを搭載しているんだと思ってたわ」

提督「くすくすっ……そういうことね♪ とにかく、今夜はニッカネン少佐の所に泊まるわ」

フェリーチェ「はいはい。くれぐれも粗相をしないようにね」

提督「もちろん♪」
858 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/01/16(月) 02:01:22.75 ID:ti0t2krK0
ニッカネン「お待たせしました。それでは行きましょう」

提督「ええ♪」

…黒塗りでホテルまで送迎される各国士官を見送ってからタクシーを呼び止めたニッカネン……運転手に場所を告げてしばらく走ると、ヘルシンキ市内にある五階建てアパートの前でタクシーが停まった…

………



…ニッカネンの住居…

ニッカネン「さ、どうぞどうぞあがって下さい」

提督「お邪魔します」


…ニッカネンがヘルシンキに借りている住居(フラット)は部屋に備え付けのものらしいシンプルかつ実用的な家具でまとめられていて、持ち込んだものは室内の隅に置かれているショットガン用のガンロッカーと卓上の写真立て、それに白いエナメル塗装が施された金属製の本棚に並んでいる本といった程度らしい……清潔感はあってきれいにまとまってもいるが、全体的には鎮守府のそばに構えた独身士官用の宿舎と同じような「仮住まい」という雰囲気で、家具や調度もフィンランド人らしく無駄がなく簡素な感じがする…


ニッカネン「殺風景な部屋でしょう? 実家には色々と家具もあるのですが、転属のことを考えると身軽でいたいものですから」提督の視線に気付いたのか「言い訳がましく聞こえるかもしれないが」というニュアンスを込めて、あっさりした調度について弁明した……

提督「分かります。むしろ私は余計なものを増やしすぎて引っ越しの時に後悔することになったほうなので、うらやましいです」

ニッカネン「そうですか? ああ、どうぞかけて下さい。いま飲み物を持ってきます……ウォッカのジュース割りでかまいませんか? 実家で採ったコケモモのジュースがまだあるのですが」ベッド脇の椅子を勧めると、提督に尋ねたニッカネン……

提督「自家製のコケモモジュースなんて素敵ですね、ぜひそれでお願いします♪」

ニッカネン「分かりました」

…台所から戻ってきたニッカネンはフィンランドではお馴染みのウォッカ「コスケンコルヴァ」と、コルクで栓をしてある貯蔵用の瓶を持ってきた…

ニッカネン「ウォッカはどのくらいにします?」

提督「それじゃあ少な目でお願いします……ええ、そのくらいで」

…それぞれのグラスにウォッカを注ぐと、そこにコケモモのジュースを加えるニッカネン……クランベリーの親戚であるコケモモのジュースはザクロのように透き通った赤色をしている…

ニッカネン「はい……では、キピス」

提督「キピス」

…冷えたグラスを手に取って何口か飲んでみる提督……甘酸っぱいコケモモジュースのさっぱりした飲み口のおかげで案外飲みやすく、暖房やお酒で火照った身体にきりりと冷たい飲み物が心地よい…

提督「こくんっ……甘酸っぱくて美味しいです」

ニッカネン「それは良かったです」

提督「ええ。それにこうやって照明にかざして見ると、ルビーみたいで綺麗ね♪」控え目な光を投げかけている照明にグラスを掲げて、液体を透かしてみる提督……

ニッカネン「アドミラル・カンピオーニは詩人ですね」

提督「ふふっ……堅苦しい表敬訪問ではないのだから、気軽に「フランチェスカ」って呼んでほしいわ♪」

ニッカネン「あ、では私のことも「クリスティーナ」と……」

提督「ええ、そうします……クリスティーナ♪」少し首を傾げ、甘い声で呼びかける……

ニッカネン「はい……少し、恥ずかしいですね///」

提督「そうかしら?」

…しばらくして…

ニッカネン「フランチェスカは聞いたことがあるでしょうか……長く続く暗鬱な冬の夜を過ごしているとフィンランド人はいくつかの種類に分かれると言います」

提督「というと?」

ニッカネン「ええ。イヨッパラリ(大酒飲み)か、その反対に禁欲主義者……さもなければメタルバンドを組むようになると♪」

提督「まぁ、ふふっ♪」

…提督がほどよく相づちを打ったり笑ったりしているためか、さもなければ提督よりかなり早いペースでグラスを干している「ウォッカのコケモモジュース割り」のおかげか、少しぎこちない感じはあるものの、ちょっとした冗談まで言うようになったニッカネン…

ニッカネン「あ、いつの間にかずいぶん遅い時間になってしまいました……こうして話をしながら飲むというのも良いものですね」

提督「そう……ね♪」身体を乗り出し、ニッカネンの頬をそっと左手で撫でる……

ニッカネン「あ……///」
859 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/01/22(日) 01:25:22.31 ID:cckXYrAS0
提督「あら、ごめんなさいね……つい」

…口調もそれまでより親しげにして距離を近づけつつも、頬を撫でた手はうっかりだったかのようにすぐ引っ込めた…

ニッカネン「いえ……それにしても、フランチェスカの手はとても綺麗ですね」

提督「お褒めにあずかり恐縮ね。 これでも士官学校や若手士官のころはロープに海水、挙げ句の果てには機械油と「働き者の手」だったけれど、最近はそういうこととはすっかり縁遠くなったものだから……」名ばかりの提督としてのんきに過ごしていることを示す綺麗な手をしていることに苦笑する提督……

ニッカネン「いえ、分かります……それに爪も艶やかですね。クリアのマニキュアですか?」

提督「いいえ、爪やすりだけよ? 以前ガラスの爪ヤスリを買ってからというもの、爪だけはつるつるのぴかぴかで……自分でもちょっと気に入っているの♪」綺麗に切り整えられ、照明の光を鏡のように反射している形の良い爪……

ニッカネン「やすりだけですか? そうは思えないほどですね」

提督「そう言ってもらえると手入れをしたかいがあるわ」

ニッカネン「ええ。なにしろ私の爪はお世辞にも艶があるとは言いがたいので……」確かにニッカネンの爪は短く切り整えられてはいるものの、表面にはかすかに縦溝が入っていて、少し固くなっている……

提督「まぁまぁ、それなら今度爪やすりを贈るわ。クリスマスも近いし、せっかくこうやって知り合う事が出来たのだものね……でも、私は貴女のほっそりした手が好きよ?」


…そう言ってニッカネンの細く、少し骨ばった手に指を絡めた提督……さっきまでは遠慮がちに手をほどいていたニッカネンも今は繋いだ指を離そうとせず、提督が金色の瞳でじっと見つめると、恥ずかしさと困惑が混じり合ったような様子で視線をそらす…


提督「……クリスティーナ」

ニッカネン「なんでしょうか、フランチェスカ……」

提督「私ね、貴女に恋をしたみたい……帰国するまでの短い間だけれど、貴女のことを好きになってもいいかしら?」

ニッカネン「……私だってそのつもりでした……でなければ、こうして部屋に呼んだりはしません///」

提督「嬉しい……」ちゅっ…♪

ニッカネン「ん……///」

…立ち上がると小さなテーブルを回り込み、座っているニッカネンの右手を両手で包み込んだまま、見おろすようにして優しく口づけする提督……柔らかで、それでいて張りのある提督の唇が、ニッカネンの薄い唇にそっと重なる…

提督「……ん、んっ♪」

ニッカネン「あ……んんっ、ちゅ……あふっ///」

提督「んちゅ、ちゅ……っ♪」甘酸っぱいコケモモジュースの後味が唾液に混じり、離した唇から細い銀の糸が一筋伸びた……

ニッカネン「……フランチェスカ///」


…ニッカネンも立ち上がると提督の手を引き、片隅にあるシングルベッドに導いた……清潔感のあるベッドは折り目もぴしっとしている洗い立てのシーツと暖かそうな羽毛布団、それと真ん中をへこませて両脇をふくらませた枕とクッションがいくつか並べてある……二人は金モールや略綬の付いた礼装の上着を脱いで椅子に置くと、ベッドに潜り込んだ…


提督「クリスティーナ♪」

ニッカネン「フランチェスカ……///」


…ニッカネンが「フランチェスカ」と言うと、フィン語独特の母音を重ねたような響きが交じり、多くの恋人、あるいは「親しい友人」たちからたびたび名前をささやかれてきた提督の耳に、北欧の魅力的な雰囲気をともなって心地よく聞こえる…


提督「んっ、んんぅ……はむっ、ちゅ……ぅっ♪」

ニッカネン「あふっ、んっ……ふぁ……あふ……っ///」

提督「……それにしても、クリスティーナったら表情を隠すのが上手ね? こうしてお部屋に招いてくれたりサウナに誘ってくれたりしなかったら、クリスティーナが「そう」なのかどうか迷っていたところよ?」二人して息継ぎをすると、いたずらっぽく笑いながらニッカネンを眺めた……

ニッカネン「それは私の言うべき言葉です。フランチェスカの態度はアプローチなのか、それともただ親しげなだけなのか……ずいぶん考えさせられていたんですからね……///」

提督「あら、私は伝わっているとばかり思っていたわ♪」

ニッカネン「私の方では、イタリア人はみんなそうなのだと思っていましたから……」

提督「心外ね……ちゅっ、ちゅるっ……んちゅ……っ♪」

ニッカネン「んっ、れろっ……ちゅむ……っ///」
860 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/01/30(月) 01:56:59.92 ID:a/oBWygb0
提督「……あむっ、ちゅぅ……っ、ちゅ……♪」

ニッカネン「はふっ、ふぁ……んちゅ……っ///」

…そっと花びらに触れるような控え目な口づけから、次第にじっくりと甘いキスへ変わっていく二人……口中でお互いの舌が絡み合い、コケモモの甘酸っぱい残り香とウォッカの火照りが提督をくらくらさせる…

提督「んんぅ、ちゅるっ……じゅるぅぅ……っ♪」

ニッカネン「ん、んっ、んん……っ///」

提督「ちゅむっ、ちゅる……んちゅ、ちゅぅぅ……っ♪」

ニッカネン「んくっ……ふ……んん……っ///」

提督「ちゅむ、ちゅるぅ……っ……ぷはぁ♪」

ニッカネン「ぷはっ……はぁ、はぁ、はぁ……っ///」

…ニッカネンの口中を舌でなぞり、ついばみ、吸い上げるようにして息が切れるまでキスを交わした提督……さすがに息苦しくなって口を離すと、プールから上がってきたかのように大きく息を吸い込んだ……同じようにニッカネンもすっかり息を切らし、大きく胸を上下させている…

ニッカネン「……はぁ、はぁ……こんなに……長いキスは……はぁ、ふぅ……初めてです……///」

提督「長さよりも、クリスティーナが気持ち良かったのなら嬉しいわ……?」

ニッカネン「ええ……気持ち……よかったです///」

提督「よかった……でも、まだまだこれからよ♪」

…室内をほんのりと照らす程度まで光量を下げてある照明の中で、ニッカネンと向かい合って互いの着衣を脱がしていく……互いに礼装の下に着ていたワイシャツを脱がせあうと、ニッカネンは提督の肌を引き立てる黒レースの薔薇模様が入ったランジェリー、提督はニッカネンが身に付けているすっきりしたライトグレイの下着に手を伸ばした…

提督「綺麗よ、クリスティーナ……♪」

ニッカネン「……こんな風に見つめられる機会はあまりなかったので、少し恥ずかしいですね///」

提督「そう? 白くて形も整っていて、とっても素敵よ?」

ニッカネン「それを言ったらフランチェスカの乳房の方が、大きくて丸みを帯びていて綺麗です……張りもありますし……」

…そう言いながら提督のブラジャーを外そうとするが、ホックに苦戦気味のニッカネン……自分のブラなら何となく手が馴染んでいるが、相手の脇から背中へと腕を回して、見ないでホックを外すのは意外と難しい……そんなニッカネンの様子を見た提督は、口の端にえくぼを浮かべて微笑むと、ニッカネンの右手を取ってブラの下へと滑り込ませた…

提督「外さなくたっていいわ……ね?」

ニッカネン「あっ///」

提督「ほら、遠慮しないで……?」

ニッカネン「わ……柔らかいのにずっしりしていて……///」もみっ、ふにゅ……♪

提督「クリスティーナのはしっかりしていて引き締まっているわね♪」むにゅ…っ♪

ニッカネン「なんとも言いようのない柔らかさです……それに肌ももっちりしていて、吸い付くようですね……///」ニッカネンのひんやりした指がブラの下に這い込み、提督の乳房を遠慮がちに揉んでいく……

提督「ふふふっ、もっと思いっきりどうぞ……♪」

ニッカネン「わっ……///」たゆんっ♪

…提督はずっしりした胸の谷間にニッカネンの顔を埋めさせた……どうにか右手だけでブラのホックを外すと後ろ手に放り出し、左手でニッカネンの後頭部を優しく撫でながら胸に押しつけ、さらにはむっちりした太ももでニッカネンのきゃしゃな腰を挟みこむ…

提督「クリスティーナ……れろっ♪」

ニッカネン「んぅっ///」

…ニッカネンの耳元で名前をささやき、それから吸い付くように耳を舐めてから「ふーっ」と息を吹きかける……ニッカネンはぞくぞくするような刺激に思わず身震いしながらも提督の谷間を舐めたり、細い指で張りのあるヒップを撫でたりし始めた…

提督「れろっ、ちゅる……ぴちゃ♪」ニッカネンの肉の薄い鎖骨まわりに舌を這わせ、次第に頭を胸元へと動かしていく……

ニッカネン「ぷは……ぁ♪」提督の胸の谷間から顔を上げると、すっかり上気した表情で息継ぎをする……

提督「うふふっ……気に入った?」

ニッカネン「はい、こんなのは初めてですが……癖になりそうです///」まだまだ恥ずかしげにしているが視線は提督のずっしりした乳房や甘い表情にくぎ付けで、表情の乏しい顔にも少し甘ったるいものが交じり始めた……

提督「よかった♪」そう言うといたずらっぽい笑みを浮かべ、ニッカネンの控え目な乳房に舌を這わせた……

ニッカネン「あ、あ、あっ……///」

提督「んふふっ、ちゅぅ……ぅっ♪」乳房を優しく舐めたり先端に吸い付いたりしながら、両手でニッカネンの背中や脇腹を優しく愛撫する……

ニッカネン「あふっ、ふぁ……あっ、あ……///」

提督「ふふふ……っ♪」提督の金色をした瞳にとろりとみだらな光がきらめき、綺麗な指が徐々に下半身へと下っていく……
861 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/07(火) 01:55:40.39 ID:u9v+bFJs0
提督「んちゅ、ちゅ……っ♪」

ニッカネン「ん、ん、んんっ……///」くちゅくちゅっ……ちゅぷっ♪

…舌を絡めてゆっくりとキスをしながら、ニッカネンの秘部にするりと指を滑り込ませる提督……始めは驚いたように小さく引きつったニッカネンの身体だったが、しばらく動かさずにいると次第に緊張がほぐれてきた……提督はそれを確かめてから、暖かく濡れた花芯を優しくかき回した…

提督「れろっ、ちゅく……ちゅぱ……っ♪」

ニッカネン「んぁぁ……あ、あ、あっ///」

提督「ふふ……そんなに悦んでもらえると張り合いがあるわね♪」くちゅくちゅっ、にちゅっ……ちゅぷっ♪

ニッカネン「あぁぁ…っ/// あ、あ……っ///」

提督「……ねぇ、クリスティーナ?」

ニッカネン「ふぁ、ふぁい……///」

提督「私にも……お願い♪」ちゅく……っ♪

…提督はニッカネンの白くひんやりした手に自分の手を重ね、そのまま下腹部へと指を導いた……粘っこい水音がしてニッカネンの指が膣内へと入ってくると、熱を帯びた花芯に冷たい指と第二関節の固い感触が伝わってくる…

ニッカネン「あ…フランチェスカのここ……暖かい……///」くちゅ……っ♪

提督「クリスティーナ……んっ♪」

ニッカネン「ど、どうでしょう……か///」

提督「ふふふっ……そんなに遠慮がちにしなくても大丈夫よ♪」耳元でささやきながらニッカネンのぎこちない指を誘導する……

…しばらくして・深夜…

ニッカネン「んあぁっ、あっ、ふあぁぁ……っ///」

提督「んんんっ、あ、あっ……♪」

ニッカネン「はひっ、ひぅっ、はっ、はぁ……っ♪」とろっ、にちゅ…♪

提督「クリスティーナ……イって良いのよ♪」くちゅくちゅっ……ちゅぷっ♪

ニッカネン「ふあぁぁ……っ♪」とろっ……ぷしゃぁ……っ♪

提督「んんんっ、あ、あっ……んぅぅっ♪」くちゅっ、とぽ……っ♪

…ニッカネンが打ち上げられた魚のようにびくびくと跳ねてとろりと愛蜜をこぼし、その勢いで提督の花芯をかき回していた二本の指が奥を激しくえぐった……ニッカネンを抱きとめるようにしながらも、思わず甘い嬌声をあげる提督…

ニッカネン「はぁ、はぁ……///」

提督「ん、ちゅっ……れろっ♪」口の端から垂れた唾液をすくい上げるように舐めた……

…さらに数時間後…

ニッカネン「ふあぁぁっ、あんっ、ああ……っ///」

提督「あんっ、あふ……っ、はひっ……んあぁぁっ♪」

…ニッカネンの指遣いはまだぎこちないものの、逆にその初々しさと骨ばった感触が新鮮な提督……暖房が効いた暖かい部屋とはいえ、掛けてあった布団をはねのけてしっとりと汗ばんだ身体を重ね、互いに蜜の糸を引いた指をゆっくりと引き抜くとべとべとになった手をヒップに這わせ、濡れた花芯を重ね合わせた…

ニッカネン「はひっ、あふっ、ああぁ……っ♪」くちゅ…ぬちゅっ♪

提督「んっ、ん……あふっ…あぁん……っ♪」にちゅっ、くちゅ……♪

ニッカネン「はひっ、ひぅ……はっ、はっ……ふあぁぁっ♪」

提督「あっ、ふあぁ……あん……っ♪」

…夜明け前…

ニッカネン「はぁ……///」

提督「ふふ……♪」

…冬の北欧は夜明けが遅く、カーテンの外もまだ真っ暗闇ではあるが、ベッド脇の時計で光る夜光文字はすでに0500時近くを指している……提督はニッカネンを優しく愛撫しながら、ベッドの上で甘い余韻に浸っている……一方のニッカネンはくたびれきった様子だが、提督の肩に手を当て、甘えるように身体を寄せている…

ニッカネン「……せっかくですし、コーヒーでも淹れましょうか」

提督「いいわね……ついでにシャワーでも浴びたいわ♪」

ニッカネン「そうですね。このまま今日の会議に出るわけには行かないですし……///」

提督「ふふっ……こんな風にふとももまでべとべとにして会議に出たら私たちのお付き合いがバレちゃうものね? それともいっそのことそうしちゃおうかしら♪」冗談めかしてウィンクを投げる……

ニッカネン「もう、フランチェスカ……///」

提督「冗談よ♪」ちゅっ……♪
862 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/14(火) 01:03:58.41 ID:kgOA7nhU0
…0600時ごろ…

フェリーチェ「……お帰りなさい、フランチェスカ。どうやら二日酔いの薬は飲み忘れなかったようね」

提督「おはよう、ミカエラ……ええ、ちゃんと水も飲んだし、シャワーも浴びてきたわ」

フェリーチェ「そう、ならいいわ。昨日は事前の予想よりも話が上手くまとまったから今日の会議は午後から……それもあんまり議題がないし、寝ぼけていてもどうにかなるとは思っていたけれど……その調子なら大丈夫そうね」

提督「そこまで考えていたの?」

フェリーチェ「一応はね……はい、コーヒーと新聞」

…イタリアと違ってエスプレッソやカフェ・ラテといった多彩な飲み方はないが、ルームサービスが持ってきたポットのコーヒーはフィンランド人秘伝のレシピでもあるのか不思議とおいしい……砂糖少しとミルクを入れてカップを両手で包み込むようにしながら、ゆっくりすする提督…

提督「グラツィエ」コーヒーで身体が暖まると、今度は新聞に取りかかった…

フェリーチェ「……うーん」

提督「どうかしたの?」

フェリーチェ「ああ、いえ……なんでもないわ」ラップトップコンピュータを開いて難しい顔をしているフェリーチェ……

提督「そう?」

フェリーチェ「ええ。今日の会議でどんな話題が出て、どういう風に返せばいいか……その想定問答を考えているだけよ」

提督「そうね……昨日だけでよーく分かったけれど、スカンジナヴィア三国や東欧諸国とロシアの険悪さはなかなか解消できないものね」

フェリーチェ「たとえ「深海棲艦」なんていう共通の問題があってもね……まあ、そのことで頭を悩ませるのは私の仕事。フランチェスカはうまく双方の間を取り持ってくれればいいわ……貴女の「華麗な女性関係」から考えても修羅場には慣れているでしょうし、ね」

提督「まさか。私はそういうのが苦手だから修羅場は作らないようにしてきたのよ?」

フェリーチェ「そうかしら。確か六年前の七月、日曜日だったわね……貴女がとある測量部の大尉と昼からいちゃついているところに、前夜に忘れ物をした通信隊の少佐が戻ってきたことがあったはずよ? その時は修羅場じゃなかったのかしら?」

提督「……何で知ってるの」

フェリーチェ「海軍情報部大尉ともなると、いろんな噂が耳に入るのよ」

提督「あー……でも結局はそのあと三人で「仲直り」したし、どうにかなったわよ?」

フェリーチェ「……とにかく、貴女は釜が沸き立ちそうになった時の「差し水」になってくれればそれでいいわ」

提督「大変そうだけれど、まぁやってみるわね……数字や資料の援護射撃はお願いするわ、ミカエラ」

フェリーチェ「ええ」

………



…お昼前…

提督「……そうえいば、今日は聖ルチア祭ね。うちの鎮守府で飼っている犬は「ルチア」っていう名前だから、名前の聖人の日でお祝いをしているはずよ」

フェリーチェ「ルチアね、良い名前じゃない」

提督「ええ。真っ白な大型の雑種犬で賢いし可愛いの……せっかくだから鎮守府に電話でもしてみようかしら♪」

フェリーチェ「それがいいわ。それに公務での出張だから、国際電話の通話料は官費よ?」

提督「もう、たかだか電話の一本でそこまで言わないわよ……官費を申請したらしたで、どうせ書類を山ほど書かなきゃいけなくなるでしょうし、その方が面倒だわ」そう言うと手のひらを上に向け、肩をすくめる……

フェリーチェ「よく分かっているじゃない。 それじゃあ邪魔しないよう、私は隣にいるわ」

提督「お気遣いありがと、ミカエラ……でも聞かれても困るような話題はないし、一緒にいてくれてもいいのに?」

フェリーチェ「そういうのは余人を交えず、身内同士で話す方が楽しいものよ……電話が終わったら言ってちょうだい」

提督「そうするわ」


863 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/20(月) 00:40:10.68 ID:eYuXb+Wv0
…同じ頃・鎮守府…

ルチア「ワンワンッ!」

リベッチオ「ほーら、追いついてごらん!」

…冬の風にも負けず、鎮守府の庭を駆け回っているルチアと「リベッチオ」を始めとする活発な駆逐艦たち……そこへアッチアイーオがやって来て呼びかけた…

アッチアイーオ「リベッチオ。そろそろ準備に入るから、ルチアとじゃれるのはおしまいにしなさいよ」

リベッチオ「えー? ルチアだってもっと遊びたいよね?」

ルチア「ハッハッハッ……♪」

アッチアイーオ「もう、どっちが犬だか分かりゃしないわね……」

………

…しばらくして・大浴場…

チェザーレ「よーし、それでは諸君にも手伝ってもらわねばな」

ニコ(ニコロソ・ダ・レッコ)「分かってるよ」

チェザーレ「結構……さぁルチア、こちらに来なさい」

ルチア「ワフッ」

…急に飛び出したり危ない物に触れたりしないようにと「待て」や「お座り」程度はきちんとできるようしつけられているルチアではあるが、さっきまで庭を駆け回り、古いロープの切れ端を骨のような形に結んだおもちゃを振り回していた興奮冷めやらない状態ではなかなか落ち着かない……首輪にリードを付けて馬を抑えるように「どうどう」と軽く引くと、ようやく跳ね回るのを止めて「ハッハッハッ……」と舌を出して床に伏せた…

チェザーレ「やれやれ、またずいぶんと泥だらけであるな……ごちそうを食べる前にきっちり綺麗にせねばな」

ルチア「ワンッ……!」

チェザーレ「よーしよし、いい娘だ……お前は風呂が好きなようで助かるぞ」浴用に使っているトーガをまとい、こだわりのある髪もアップにまとめて態勢を整えているチェザーレ……

カヴール「ふふ、そうねぇ♪」

…大浴場の片隅にある流し場の一つを使って、ルチアを洗うチェザーレたち……土ぼこりをかぶって薄い砂色になっているルチアの身体へぬるま湯にしたシャワーをかけ、それから赤ちゃん用の低刺激シャンプーを泡立てて塗りつける…

アッチアイーオ「まるで大きなデコレーションケーキね」

チェザーレ「全くだ……顔は嫌だろうからな、濡れタオルで拭いてやってくれぬか」胴を抱えるようにしながらゴシゴシと洗っていく……

アッチアイーオ「了解」

ルチア「ワフッ、フガ……ッ」すっと伸びたマズル(鼻)にタオルがあてがわれ顔や耳を拭かれている間、くしゃみが出そうになった人のような声を出すルチア……

ニコ「もう少しだからね、そのまま……そのまま……」

アッチアイーオ「……チェザーレ、もういいんじゃない?」

チェザーレ「待て待て、ここの毛がまだ整っておらぬから……」髪の手入れにはうるさいチェザーレだけあって、洗い残しやシャンプーの泡を流しそこねた部分がないか念入りに確かめる……

カヴール「もういいでしょう? ジューリオ?」

チェザーレ「ふむ、まだ少し気になるが……まぁよかろう」

ルチア「ワン、ワンッ!」手を離すと飛び出して行きそうなルチアをしっかりと押さえ、大浴場の入り口に待ち構えていた数人が専用の古タオルで包み込んで拭き始める……

ルチア「ワフ……ッ」

…ドライヤーの音があまり好きではないルチアのために、わしゃわしゃとタオルでよく拭いてやり、ついでにブラッシングもしてあげるチェザーレたち……ルチア自身がバタバタと身体を揺すって残った雫を振り払っている間にも純白の毛が撫でつけられ、次第に乾いてふんわりとした具合になってくる…

………



…しばらくして…

ムツィオ「ずいぶんと綺麗になったわね」

カヴール「そうですね」

チェザーレ「これならば充分であろう……さ、参ろうか」

ルチア「ワフッ♪」

864 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/20(月) 01:17:05.72 ID:eYuXb+Wv0
…食堂…

トレント「あ、来た来た」

アッチアイーオ「待ちくたびれたわよ」

チェザーレ「うむ、あい済まぬ。だが毛並みを整えてやる必要があったものでな……」

…シャンプーが終わったのを確認してから食堂へ向かったアッチアイーオだったが、髪にうるさいチェザーレがルチアのブラッシングに時間をかけたので愚痴をこぼした……

デルフィーノ「アッチアイーオ、そう言わないであげよう?」

アッチアイーオ「それもそうね。 じゃあアトロポ、お願い」

アトロポ「ええ……さぁさぁ、主賓にはこれをつけてあげないと♪」

…糸や針の扱いが上手いアトロポ(アトロポス)が端切れで作った赤い前掛けをルチアの首に回し、後ろで軽く結んだ……ルチアも気になる様子で匂いを嗅いだり舌を伸ばしてみたりはするが、嫌がる様子はない…

アッチアイーオ「さてと、それじゃあ聖ルチア祭のお祝いを始めましょう……乾杯!」

一同「「乾杯」」

ディアナ「ルチア。今日はあなたが主賓ですし、ごちそうもうんとありますからね」

ルチア「ワンッ!」

…食堂の長テーブルを囲んだ一同には牛もも肉のロースト、それに保存用しておいた乾燥トマトに残る風味が夏を思い起こさせる「パスタ・アラビアータ」それにクリスマスまでの一ヶ月間、自由に食べられるようにとたくさん焼いてある「パン・ドーロ(黄金のパン)」や果物入りドライケーキの類…飲み物は温めた果汁入りのグリューワインやミルクと砂糖入りのブランデー、サンブーカ(リキュール入りコーヒー)といった、身体の内側から暖まるような飲み物が並ぶ…

ジャンティーナ「美味しいですね……ぇ♪」

フルット「同感です」

ディアナ「はい、あなたの分ですよ。召し上がれ♪」

…主賓のルチアには味付けなしの牛すじ肉と、小腸のようなもつの部分をニンジンやジャガイモと一緒に煮込んだものや、肉の切れ端の部分を焼いたステーキ、また同じように切れ端の部分や古くなってしまったモッツァレラやカチョ・カバッロ、あるいはゴルゴンゾーラ・チーズを載せて焼いた小ぶりなピッツァをえさ皿に載せて仰々しく出した……ディアナが皿を置くまでの間、ルチアはよだれを垂らして尻尾を振っていたが「よし」の声を聞くやいなや勢いよくがっつき始めた…

ドリア「まぁまぁ、そんなに勢いよく食べて……」上品に料理を味わいながら「まるで普段は食べさせていないみたいですね」と、思わず苦笑するアンドレア・ドリア……

レモ「これ……美味しい……っ」

ロモロ「はぐっ、むしゃ……ね、とっても美味しい……ごくんっ」

アッチアイーオ「相変わらず食べ方が汚いんだから……ほら、ソースが付いてる」

レモ「ん、ありがと」

アッチアイーオ「当然でしょ? 提督が留守の間は私がしっかりしていなきゃいけないんだから」

チェザーレ「はは、アッチアイーオも貫禄が付いてきたようであるな」

アッチアイーオ「そりゃあ、提督がいないんだもの……///」

エウジェニオ「まあ、いつもはあんなにつっけんどんなのに照れちゃって……可愛い♪」

アッチアイーオ「う……うるさいわねっ、黙って食べてなさいよ///」

エウジェニオ「ふふふっ、そうさせてもらうわ♪ ジュゼッペ、もう一杯注いでくれる?」

ガリバルディ「ああ。しかし色白なところに赤みが差して、とても魅力的だ……食後に頂きたくなるね♪」

エウジェニオ「まぁ、ふふ……っ♪」

バリラ「さぁさぁ、食べたいものがあったらよそってあげますからね?」

フィザレア「ありがとう、マンマ(お母さん)」

バリラ「もう、私はお母さんじゃあありませんよ」旧式の大型潜「バリラ」級はほとんどが戦時中に解役されて燃料タンクとなっていたためか、潜水艦隊のいいお母さん役を担っている……

アルキメーデ「マンマ、こっちにもお代わりをもらえる?」

バリラ「もう……はいはい♪」

865 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/02/27(月) 02:25:45.12 ID:+e+6lu3F0
…食後…

ポーラ「ザラ姉様ぁ、もう一杯注いで下さい♪」

ザラ「はい……それじゃあポーラ、私にも何かカクテルを作ってくれる?」

ポーラ「はぁ〜い♪」

…親しげに暖炉の火が燃える食堂で聖ルチアのお祝いを済ませると「主賓」のルチアは満足して暖炉の前に敷かれた絨毯の上に寝そべり、当直のない艦娘たちは食後のドルチェやコーヒー、あるいは軽いカクテルをお供に楽しいおしゃべりを始めた…

カヴール「ポーラ、私にも何か作ってくださいな。さっぱりしたのが飲みたいですね」

ポーラ「いいですよぉ〜」

…ザラに代わってバーカウンターの内側に入るとリキュールの棚を眺め、それからグラスとシェーカーを取ったポーラ……それから規則正しい音を響かせるとグラスに綺麗な紅色をしたカクテルを注いだ…

ポーラ「どうぞ「シー・ブリーズ(海の微風)」のシェイクです♪」

カヴール「まぁ、ルビー色の綺麗なカクテルですね」

ポーラ「召し上がれ〜♪」

カヴール「あら、爽やかで美味しい……暖炉の火で火照っていたところですから、ちょうどいいですね♪」ウォッカとクランベリージュース、グレープフルーツジュースのさっぱりしたカクテルを味わいながら、片手で小さく扇ぐ真似をしてみせた……

ザラ「こっちのも美味しいわよ、ポーラ」

…乾杯の時に開けたスプマンテのお余りと、イチゴのピューレを合わせてフルートグラス(丈の長いシャンパングラス)にそっと注ぎ込む「ロッシーニ」を味わっている……と、食堂の壁掛け電話が「ジリリリン……ッ!」と鳴り始めた…

ザラ「こういう満ち足りて動きたくない時に限って電話って鳴るのよね……もしもし?」

提督の声「プロント(もしもし)、ザラ? 私だけれど聞こえるかしら?」

ザラ「あぁ、提督……どうかしたの?」

提督「いえ、ちょっと時間があるから皆はどうしているかしらと思って……それに今日は聖ルチア祭の日でしょう? ルチアは元気?」

ザラ「ええ。ディアナの作ったごちそうを食べて、今はご機嫌で暖炉の前に寝そべっているわ……提督は?」

提督「おかげさまで会議はどうにかなりそうよ。てっきり白髪のお婆さんになるまで帰れないと思っていたのだけれど……」

ザラ「そうならなくて良かったわね」

提督「ええ。ところで、良かったら皆の様子を動画にでも撮って送ってもらえないかしら? ミカエラに言わせると、鎮守府のビデオカメラで撮影して、コンピュータにデータを送ればメールに添付できるそうだから」

ザラ「いいけど、私はあんまりそういうのは得意じゃないから……天才のレオナルドにでもやらせてみましょうか」

提督「そうね」

ザラ「分かったわ、それじゃあ電話は他の皆に代わってもらって……レオナルドは?」

ガリレオ・ガリレイ「ダ・ヴィンチなら自室に戻っているはずよ」

ザラ「分かったわ、それじゃあ呼んでくるわ……ライモンド、愛しの提督から電話よ。 良かったら代わってちょうだい?」

ライモン「……そういうのはやめてください///」

ザラ「悪かったわ、とにかく代わってちょうだいよ……他にも話したい娘はいるんだから、独り占めしないようにね♪」グラスの残りをぐっと空けると、ラッパ型の受話器を押しつけた……

ライモン「も、もう……代わりました、わたしです///」

提督「あら、ライモン♪ ご機嫌いかが?」

ライモン「はい、わたしは元気ですよ。 提督はいかがですか?」

提督「そうねぇ……礼装は堅苦しくて居心地が悪いし、会議の後の立食パーティでは乾杯続きで飲み過ぎるし、空気が乾いているから喉はひりひりするし、隣にライモンもいないし……ヘルシンキは素敵な街だけれど、今は早く帰りたいわ」

ライモン「ふふっ、もう……♪」

提督「ふふふっ……まぁ、あと数日もしないうちに帰国できるし、そのあとはクリスマス休暇が待っていると思えば何てこともないわね♪」

ライモン「その意気ですよ、提督♪」

提督「ええ。お土産もたっぷり買って帰るつもりだから、それだけは期待しておいてくれていいわ」

ライモン「はい。 でも、一番のお土産は提督が元気に帰ってきてくれることです///」

提督「まぁ、ふふ……ライモンも最近は上手になったわね♪」

ライモン「……独り占めは良くないですし、他の人に代わりますね///」

提督「ええ、それじゃあね……♪」
866 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/03/05(日) 01:46:29.30 ID:kPBcFmMN0
…しばらくして…

提督「……ええ、帰ったらうんと甘やかしてあげるわね♪」

提督「もう、そんなにつれないことを言わないの……それじゃあね、アッチアイーオ……チャオ♪」

フェリーチェ「……そろそろいいかしら?」

提督「ええ。声も聞けたし、鎮守府のコンピュータを使って映像も送ってもらったわ……みんな楽しそうで良かったわ」

フェリーチェ「良かったわね……さ、そろそろ支度をしないと」

提督「ええ、あとは上着を着れば準備完了よ♪」

フェリーチェ「結構」

………



…会議場…

ニッカネン「あ、カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……どうぞこちらへ」

提督「ええ♪」

フェリーチェ「グラツィエ……それと私からもお礼を。少佐の提供してくれた資料のおかげで作業がはかどりました」

ニッカネン「こちらこそ……こちらも懸案の課題が片付きそうですし、ほっとしています」

…会議の場に集まっている各国士官たちも、議題がある程度片付いたことから「雪解け」とまでは行かないがいくらか和やかな様子で、初日ほどのピリピリした雰囲気はなくなっている……もっとも、何人かはフィンランドの強いお酒が効いてしまったのか、げんなりした様子で椅子に座り込んでいる……その点、提督とフェリーチェは「オブザーバー」ということで、0940時から始まった会議は昼休憩の後まで出なくてもいいよう取り計らってもらっていた…

ニッカネン「では、どうぞお席へ」

提督「ええ……っと、失礼しました」

…提督が席に着こうと会議場を歩いていると、横合いから出てきたロシア海軍の女性将官とぶつかりそうになった……長身の提督とも遜色がないロシアの少将だが、提督のきらきらした金色の瞳とは対照的にその瞳は冷え切った薄いブルーグレイで、寒々しい極北の冬を思わせる…

ロシア女性将官「いや、大丈夫だ」

提督「それなら良かったです、あー……」

ニッカネン「……アドミラル・カンピオーニ、こちらはロシア連邦海軍のクズネツォワ少将。クズネツォワ少将、こちらはイタリア共和国海軍のカンピオーニ少将」

ロシア女性将官「初めまして、アドミラル・カンピオーニ」

提督「こちらこそ。アドミラル・クズネツォワ」儀礼的な握手を交わしたが、クズネツォワの考えが読めない瞳に困惑気味な提督……

クズネツォワ「ああ……では失礼」

提督「……」

…提督はクズネツォワが立ち去ると、握手を交わした手をしげしげと眺めた……まるで何かを隠すように軽く触れあわせるだけの握手だったが、その手は骨ばっていて力強く、何か冷たい気迫のようなものが伝わってきた気がした…

ニッカネン「……どうかしましたか?」

提督「ああ、いえ……なんでもありません」

ニッカネン「そうですか?」

提督「ええ」

ニッカネン「フランチェスカ……彼女のことを考えているのなら、気を付けた方が良いですよ? あまり詳しいことは言えませんが、色々と暗い噂も多いですから……」誰にも聞こえないよう、提督の耳元に唇を寄せてささやいた……

提督「あら、私だってそう誰でも見境なしに抱くわけじゃないわ……クリスティーナ」ニッカネンがしたように耳元へ顔を寄せ、いたずらっぽくささやいた……

ニッカネン「///」

提督「……でも、ご忠告ありがとう」

ニッカネン「いえ……///」

提督「うふふっ、それじゃあ本日もよろしくお願いします♪」

ニッカネン「え、ええ……」

フェリーチェ「……」数歩離れた場所に立って、我関せずと言った表情をしている……

867 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/03/11(土) 01:58:42.89 ID:IZkmBJHT0
司会「では、皆様も席に着かれたようですので会議を再開いたしたいと思います」

提督「……昨日よりは人が増えたわね」

フェリーチェ「今日の会議は昨日まとまった内容の説明も兼ねているから、地元のフィンランド国防省を始め各国の大使館からもお役人が来ているわ……ニッカネン少佐の隣に座っているのがフィンランド国防省で外務の調整を行う担当課長、その隣がフィンランド外務省のお役人。それからロシアも大使館から何人か来ているわね……」


…提督もこれまでに何回か舌を巻いた経験があるが、フェリーチェはその任務上から何人もの顔と特徴を覚えていて、その情報を小声で教えてくれる…


フェリーチェ「あの恰幅の良い丸顔はロシア大使館付きの海軍武官をやっているニコノフ大佐だけれど、あれはウォッカ浸りでただのお飾りだから気にしないで良いわ……それよりも後ろの席に腰かけている眼鏡、あれがくせ者のヴァシリーエフ少佐だから注意するようにね。聞いていないふりをして耳をそばだてているから、彼の近くではうっかりしたことをいわないように」

提督「ええ」

フェリーチェ「フランチェスカは聞き分けが良いから助かるわ」

提督「ふふっ、ありがとう♪」口元を手で隠し、耳元でささやいた……

司会「それでは、ニッカネン少佐から説明を……」

…休憩時間…

提督「ふぅ、これでだいたいの説明は終わったわね」

フェリーチェ「そうね……フランチェスカ、貴女にお客様よ」

提督「え?」

ニッカネン「カンピオーニ少将、フェリーチェ大尉……お二人ともお疲れさまでした」

提督「いえ、とんでもない。ニッカネン少佐こそあれこれ質問されて大変でしたね」

ニッカネン「まあ、いつものことですから……少将も経験があるのでは?」

提督「ええ、ローマのスーペルマリーナ(海軍最高司令部)にいた頃はしばしばでした♪」

ニッカネン「そうでしょうね……♪」

…どの国でもあまり変わらない、役人や「エライ人」へ説明する時に経験する苦労のあれこれに共感して、思わず苦笑いを浮かべる提督とニッカネン……と、そこへロシア海軍のクズネツォワ少将が副官の女性士官を連れて近寄ってきた…

クズネツォワ「……役人への説明は疲れるものだな」

提督「そうですね」

ニッカネン「……失礼、私は国防省の役人に渡さなければならない書類があるので……それではまた明日。カンピオーニ少将、クズネツォワ少将」

提督「はい、また明日」

クズネツォワ「ダスヴィダーニャ(さようなら)」

…ニッカネンが立ち去るのを見送ると、クズネツォワが提督の方を向いて視線を合わせてきた…

提督「……どうかされましたか?」

クズネツォワ「いや。単にコーヒーを取りに来ただけだ……」

提督「ああ……はい、どうぞ♪」コーヒーのポットやちょっとした菓子が置いてあるテーブルのすぐ脇に立っていたので、コーヒーカップを渡した……

クズネツォワ「スパシーバ(ありがとう)」

提督「どういたしまして……クズネツォワ少将、そちらの方は?」

クズネツォワ「ああ、彼女か……私の副官をしている、マリア・エカテリーナ・カサトノヴァ少佐だ」

カサトノヴァ「……どうぞお見知りおきを、カンピオーニ少将」

提督「こちらこそ♪」

…端正な顔立ちに淡いブルーの瞳、冬の陽光のような淡い金髪が合わさって、目立たずきっちりと職務をこなす、いかにも副官らしい副官といった雰囲気のカサトノヴァ……その綺麗な顔立ちもぱっと見ただけではそこまでの印象を残さないが、どうやらあえてそうなるようにメイクや物腰に注意しているらしい……ロシア海軍の黒い制服に身を包み、今日は三つ編みを後頭部に流したハーフアップにしている…

クズネツォワ「ところでカンピオーニ少将、さっきの会議で貴官が言っていた……」

提督「ああ、そのことですか。それなら……」

…コーヒーカップを手にクズネツォワの投げかける質問へ応じる提督と、お互い一歩下がった位置からその様子を黙って見ているフェリーチェとカサトノヴァ…

提督「……ということだと思います」相手が相手だけにしゃべっても大丈夫な情報だけを口にするよう、言葉や内容に注意しながら話す提督……

クズネツォワ「ふむ、なるほど……よく分かった。 では、また後で」

提督「ふぅぅ……」

フェリーチェ「まさか向こうから近づいて来るとはね……それにしてもフランチェスカ、さっきの受け答えは上出来だったわ」

提督「グラツィエ♪」少しおどけた態度で一礼した……
868 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/03/17(金) 01:30:23.91 ID:d8omLR1s0
…夕食会…

ニッカネン「……カンピオーニ少将。会議も無事にまとまったことですし、もう一杯いかがですか?」

提督「ええ。これで明日と明後日の予備日がお休みになるわけですし、それなら多少は過ごしても大丈夫でしょうね……いただきます♪」

ニッカネン「良かった……では、キピス♪」

提督「キピス♪」

…先日の立食パーティはお互いに海軍の「同業者」ということで開かれた内輪のものだったが、この日の夕食会はフィンランドの関連省庁や関係国の大使館員などもいることから一回りぜいたくなものになっていて、美味しいものに目がない提督は太ももが圧迫している礼装のことを気にしながらも、シェフが取り分けてくれる料理のコーナーを前にしてどれを味わうか目移りしていた……幸いにしてニッカネンがあれこれとお勧めのフィンランド料理を教えてくれ、同時にシャンパンやよく冷えたウォッカのグラスも取ってくれる…

ニッカネン「……んくっ」

提督「んっ……」

クズネツォワ「失礼する……おや、アドミラル・カンピオーニ」

提督「ああ、クズネツォワ少将……もしよろしければ、私たちと乾杯しませんか?」ウォッカのグラスを取りに来たクズネツォワに対して何も言わないのも失礼にあたるかと、形ばかり申し出てみる……

クズネツォワ「君たちと? ……そうだな、いいだろう」

提督「……えっ?」

クズネツォワ「何かおかしいか? そちらが誘ったのだと思ったが」

…そもそも長身の提督と並んでも遜色がないほどの身長があるクズネツォワだが、優しげな提督と違って冷厳とした雰囲気をまとっていることもあって、隠しきれない威圧感のようなものがにじみ出ている…

提督「ああ、いえ……では、私が音頭を取りましょうか」

クズネツォワ「そうだな、お願いしよう」

提督「分かりました、それでは……ザ・ズダローヴィエ(健康を祝して)」事前に詰め込んできたロシア語の引き出しから、慌てて乾杯の言葉を引っ張り出した……

クズネツォワ「ザ・ズダローヴィエ!」

ニッカネン「……キピス」

提督「ごくん……っ」思っていたよりも素直に乾杯に応じてきたクズネツォワの意図を考えるあまり、ウォッカの味も分からないままにグラスを干した提督……

クズネツォワ「スパシーバ。ありがとう……アドミラル・カンピオーニはロシア語もできるのか」

提督「いえ、一夜漬けですからほとんど出来ませんよ」思わず苦笑いをしてしまう提督……

クズネツォワ「いや、私はイタリア語などまるで出来ないからな……大したものだ」

提督「恐縮です」

クズネツォワ「なに……ところで向こうにあるピローグ(東欧風パイ)はもう食べたか?」

提督「いえ、まだです」

クズネツォワ「それは良くないな……では一緒に来るといい」ニッカネンから横取りする形で提督の手を取り、別のテーブルへと引っ張っていくクズネツォワ……

提督「あの、クズネツォワ少将……」

クズネツォワ「なにか?」

提督「いえ、私は手を引いていただかなくても大丈夫ですから……」

クズネツォワ「これは失礼した」硬く力強い手を離すとピローグの皿を取って提督に渡した……

提督「では、いただきます……あむっ」

…ずっしりと盛り上がった円盤をケーキのようにカットしてあるピローグはさっくりとしたパイ生地にキノコやタマネギ、ジャガイモなどを詰めてあって、サワークリームやコンソメといった味で仕上げてある……パーティ向けと言うにはすこしボリュームがあるが、オードブルの盛り合わせのようなメニューが並ぶことが多い会場で、終わってから空腹を抱えたままでいることが多かった提督からするとこうした料理はありがたい…

クズネツォワ「それからこれも……シャンパンと一緒にやるといいだろう」

提督「スパシーバ」黒キャビアを小さじでつまみつつ、シャンパンを少しずつ口に含む……

クズネツォワ「どうだ?」

提督「ええ、美味しいです」

クズネツォワ「そうか……」

提督「……あの、クズネツォワ少将?」

クズネツォワ「ユーリアと呼んでくれて結構だ、アドミラル・カンピオーニ」

提督「では、私のこともフランチェスカで構いませんよ……ユーリア」

クズネツォワ「ダー、分かった……フランチェスカ」

提督「ええ」
869 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/03/25(土) 01:15:52.44 ID:+XvZN4+Y0
…パーティを終えて・ホテル…

フェリーチェ「……それじゃあクズネツォワ少将からの夕食のお誘いに応じたわけ?」

提督「ええ。明日の夜に夕食でもいかがですか……って言うから」

フェリーチェ「はぁ、目を離すとすぐにこれなんだから……ロシア海軍の将官と二人っきりで夕食だなんて、後で情報部から何を聞かれるか分かったものじゃないわよ?」

提督「だからってむげに断るのも失礼でしょう?」

フェリーチェ「もう、仕方ないわね……もし事情聴取を受けるような事があったら私に言いなさいよ?」

提督「ええ、ミカエラには感謝しているわ♪」鎮守府の豪華な大浴場とは比ぶべくもないが、ともかく堅苦しい礼装を脱いでホコリを落とし、さっぱりした気分で髪をくしけずりながら、フェリーチェに軽くキスをした……

フェリーチェ「本当に貴女と来たら……ん、ちゅ♪」

提督「ふふっ、こうしていると同棲していた時の事を思い出すわね?」

フェリーチェ「まぁね……フランチェスカはたいていエプロン姿で、ワインとパスタを用意して待っていてくれたわね」

提督「ええ。それでミカエラはたいてい難しい顔をして帰ってきて……でも私の料理を美味しいって喜んでくれたわよね♪」

フェリーチェ「事実だもの。まったく、海軍司令部に入っている食堂もあれくらい美味しい料理を出してくれればいいんだけど」

提督「もう、電子レンジで温めたような出来合いの料理と比較しないで欲しいわ」

フェリーチェ「それもそうね……じゃあ、明日は気を付けて行ってくる事ね」

提督「ええ、迂闊な事を言わないよう気を付けます♪」

…翌日・夕刻…

提督「さてと、髪をとかしたら着替えて……あのクリーム色のセーターで良いわよね」

フェリーチェ「なに、せっかく持ってきたのにカクテルドレスは着ていかないの?」

提督「ええ、クズネツォワ少将いわく「あくまでも会議中のことに関して質問があるだけで、夕食を済ませたらすぐ終わるので普段通りの格好で結構だ」って……」

…提督はフェリーチェに「クズネツォワ少将ったら、まるで絵に描いたように無機質な人みたいね」と肩をすくめ、それでも黒いシルクにレースで薔薇模様をあしらったミラノ製の上等なランジェリーを身に付け、鏡の前でためつすがめつしながらルージュを引き、白粉をはたいてメイクを仕上げている……

フェリーチェ「そう……」

提督「なぁに? 私がマタ=ハリかボンドガールの真似をして情報を引き出せるように、色っぽいカクテルドレスの方がよかった?」冗談めかして、腰に手を当てた色っぽい姿勢を取ってみせる……

フェリーチェ「そうじゃないわ。ただ、私が用意したものを考えるとドレスの方がいいかと思って……」

提督「用意した、って……何を?」

フェリーチェ「これよ……貴女に似合うと思ったから用意したの。良かったら付けてみて?」

…そう言って黒いヴェルヴェットのアクセサリーケースを取り出すと、蓋を開けて提督に差し出した……中には直径十ミリくらいの大きさをした、真珠のイヤリングが対になって収まっている…

提督「あら、素敵なイヤリング……でも残念ね。私、イヤリングの穴を開けたことはないのよ?」

フェリーチェ「もちろんそのくらいは知っているわ。 だからイヤーカフみたいに耳たぶへ挟むタイプにしておいたの……いい?」

提督「ええ」化粧台の前で座りなおすと豊かな髪をかき上げ、フェリーチェがイヤリングを付けやすいようにした……

フェリーチェ「そのままよ、まだ動かないで……どう? 本物じゃなくてイミテーション(模造)の真珠だけど、なかなかいいんじゃないかしら」

提督「そうね、大粒だけれど自己主張し過ぎない程度で……ちょうどいいわ」鏡の前で左右に首を動かし、耳たぶの下で揺れる模造真珠のイヤリングを確かめる……

フェリーチェ「気に入ってもらえたようで良かった。ネックレスは持っているでしょう?」

提督「ええ、銀のネックレスがあるわ」

フェリーチェ「なら首もとは心配ないわね……ふむ、なかなかいいじゃない」

提督「そう?」

フェリーチェ「ええ、決まっているわ」

提督「ミカエラがそう言ってくれるなら成功ね……っと、いけない。もうそろそろ迎えの車が来る時間だわ」身支度を済ませ、ノートや筆記具を入れた小ぶりな黒革のバッグを肩に掛けると、忘れ物がないかさっと見わたした……

フェリーチェ「それじゃあ舞踏会へ行ってらっしゃい、チェネレントラ(シンデレラ)」

提督「ええ、行ってきます♪」

フェリーチェ「気を付けてね」
870 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/04/02(日) 01:33:37.51 ID:9BAJdt4i0
…ホテル前…

カサトノヴァ「お待ちしておりました、アドミラル・カンピオーニ」

提督「あら、カサトノヴァ少佐……貴女が運転を?」

カサトノヴァ「ダー。どうぞお乗りください」

提督「スパシーバ」

…カサトノヴァがロシア大使館ナンバーのついた黒い「メルセデス・S600」のドアを開け、後部座席に座るよううながした……私服に着替えているカサトノヴァだったが、上着の裾が持ち上がった瞬間、提督の目にちらりとマカロフ・ピストルのホルスターが見えた…

提督「……」

カサトノヴァ「……シートベルトはよろしいですか」

提督「ええ」

カサトノヴァ「結構です。では車を出します」

………



…ヘルシンキ市内・高級ロシア料理店…

クズネツォワ「こんばんは、アドミラル・カンピオーニ」

提督「どうも……」

…レストランは暗めの照明と観葉植物でそれぞれのテーブルが隠されたようになっているが、さらに奥の半個室でクズネツォワが待っていた……カサトノヴァに案内されてやって来たテーブルにはぼんやりと残照のような色の光を投げるランプとヴィンテージワインの瓶が置かれていて、提督が腰かけると、クズネツォワが早速グラスにワインを注いだ……

クズネツォワ「ご苦労だった、下がってよろしい」

カサトノヴァ「ダー」

クズネツォワ「……さてと、まずは良く来てくれた」

提督「ええ、聞きたいことがあるという事でしたから……」

クズネツォワ「そうだな。だがまずは一杯付き合ってくれ……ザ・ズダローヴィエ(健康を祝して)」

提督「ザ・ズダローヴィエ」底が読めない相手だけに、控え目にワインを含む提督……

クズネツォワ「聞きたいこともあるが、まずは食べてからにしよう……夕食はまだだろう?」

提督「はい、まだです」

クズネツォワ「結構。勝手に料理を頼んでおいたが、構わないな?」

提督「え、ええ……」

…黒いタートルネックにチャコールグレイのダブルのブレザーを羽織り、提督が食べている様子をじっと観察しているクズネツォワ……彼女自身はときたま精密な動きでナイフを動かし、視線を提督に向けたまま料理を口に運んでいる…

提督「……それで、クズネツォワ少将」

クズネツォワ「ユーリアで結構だ、アドミラル・カンピオーニ」

提督「そうですか、では……ユーリア」

クズネツォワ「何だ?」

提督「いえ、その……私に聞きたいことがあるということでしたが」

クズネツォワ「ダー、その通りだ。 だがさっきも言ったとおり、まずは食べてからにしよう」

提督「そうですね……」

…普段は縁のないお高いレストランにありがちな、大きくて真っ白な皿にソースで点々と色を垂らして縁取りをした料理を口に運ぶ……サーモンの桃色が上品なムースにサワークリームとビーツのコントラストも鮮やかなボルシチ……スメタナ(クリーム)やキャビアを添えた温かいブリヌイ(そば粉のクレープ)に、器の大きさに対して驚くほどボリュームのある濃厚なクリームシチュー……途中で赤ワインのボトルが空になるとクズネツォワはウォッカを頼み、小さいショットグラスを軽く持ち上げると一気に飲み干した…

提督「乾杯」濃厚な味付けの多い料理と、度数は高くても水のように余計な味のないウォッカはなかなか相性が良い……

クズネツォワ「どうだ?」

提督「ええ、美味しいです」少しだけ緊張をほぐしてゆったりと腰かけた提督……

クズネツォワ「ハラショー(結構だ)」
871 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/04/11(火) 01:46:51.66 ID:6mQxCad+0
…食後…

提督「ふー、大変美味しかったです」

クズネツォワ「結構」

…デザートに出されたのは初雪のように粉砂糖がかかったふんわりした揚げパンケーキ「スィールニキ」と、色鮮やかなイチゴの「ヴァレーニエ(シロップ煮)」を添えたもので、サモワール(沸かし器)で淹れた紅茶と一緒に甘い味を楽しみながら、提督は案外くつろいだ気分になっていた…

クズネツォワ「さて……そろそろ食べ終わったかな?」ヴァレーニエを小さじですくって肴にしながら紅茶をすすっていたが、提督がデザートを食べて紅茶を飲み終えたのを見ると、かちゃりとカップを置いて尋ねた……

提督「はい」

クズネツォワ「よろしい……では行こう」

提督「あの、尋ねたいことがあるというお話でしたが……?」

クズネツォワ「アドミラル・カンピオーニ……まさか夕食を済ませたばかりで堅苦しい話もあるまい?」

提督「え、ええ……」

…会計…

クズネツォワ「会計を頼む」

提督「……あ、私の分は払います」さっさと入り口で会計を済ませようとするクズネツォワを引き止めて、あわてて長財布を取り出す提督……

クズネツォワ「待て、私が君を呼んで夕食に付き合わせたのだぞ? 野暮なことを言うな」

提督「いえ……これでも私の立場上、酒食のもてなしを受けてはならないことになっていますから」

クズネツォワ「だが今は軍服を着ていないだろう。任務外で個人と個人が出会って一緒に食事をしただけにすぎない……まとめて頼む」

提督「お気持ちは嬉しいですけれど、そういうわけにはいきません」さすがに「ロシア海軍の将官に夕食をごちそうになって情報部の取り調べ対象になりたくはないので……」とは言えないので、一般論を武器に丁寧な態度で食い下がる提督……

クズネツォワ「もういい、分かったわかった……別会計にしてくれ」

提督「スパシーバ。 あ、領収書をお願いします」

…ローマやパリの偉そうなビストロやリストランテと同じようにゼロが一桁多い金額を見て、美味しい食事とデザートで得たご機嫌な気分も少し色あせてしまったが、領収書をもらって少し安心した提督……コートや革手袋、毛皮帽を受け取るときっちり身に付けて、クズネツォワと一緒に店を出た……店の入り口ではカサトノヴァ少佐がメルセデスで待っていて、さっとドアを開けた…

クズネツォワ「……ご苦労、マリア・エカテリーナ」

カサトノヴァ「はっ……どうぞお乗りください、アドミラル・カンピオーニ」

提督「ええ、ありがとう」

…ヘルシンキ中心街・高級ホテル…

カサトノヴァ「……着きました、少将」

クズネツォワ「ああ、ご苦労だった。大使館に車を戻したら帰ってよろしい」

カサトノヴァ「はい」

提督「えっ……?」

クズネツォワ「何かおかしいか、アドミラル・カンピオーニ? これから部屋で話をするというのに、少佐をいつまでも待たせたままにしておくわけにもいかないだろう」

提督「いえ、それはそうですが……」

クズネツォワ「ならどうしてそんなに驚いたような声を出したのだ? 別に人跡未踏の地ではないのだ、帰る時になったらタクシーでも呼べばいい」

提督「ええ、そうします」

クズネツォワ「さ、いつまでも外にいては冷えてしまう……中に入ろう」

…スイートルーム…

クズネツォワ「さて、では話をする前に……何か飲み物がなくてはな」ルームサービスで氷の詰まったアイスペールを持ってこさせると、ロングコートのどこかからとり出した「ストリーチナヤ」ウォッカの瓶を突っ込み、グラスを二つ置いた……

クズネツォワ「これでよし。さて、それでだが……」

提督「ええ……」

…飲み過ぎないよう注意はしていたものの、すでにいくらか酔いが回ってふわふわした気分になり始めている提督……それとは対照的にクズネツォワは顔色一つ変わっておらず、テーブルに会議の資料や地図を広げると、単刀直入な言葉遣いで疑問点やあいまいな部分を問い詰める……提督も余計な事は言わないようにと気を付けながら説明するが、士官学校で口頭試問を行う教官のような勢いで矢継ぎ早に質問を浴びせられると、ついぽろりと本音がこぼれたり、うっかり感想を述べてしまったりする…

クズネツォワ「……ふむ、なるほど」

提督「もう大丈夫ですか?」尋問のようなやり取りが済んで、思わず肩の力を抜いた提督……

クズネツォワ「ダー、納得がいった……感謝する」そう言って二つのグラスにウォッカを満たすと、片方を提督に握らせた……

提督「お役に立てて良かったです……」
872 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/04/20(木) 00:51:27.25 ID:j4NiNM1J0
…しばらくして…

提督「それでは、私はこの辺で……」

…まるで流氷のように冷たい「ストリーチナヤ」をグラスに注がれ、クズネツォワの冷たい瞳に見据えられていることもあって、二杯ほどウォッカを喉に流し込んだ提督……ちらりとクロノグラフ(腕時計)を見ると、立ち上がって辞去しようとした…

クズネツォワ「おや、もうそんな時間か……とはいえ帰るには少々遅い時刻だ。 幸い、寝室にはベッドが二つあるし、今夜はここに泊まっていったらどうだ?」

提督「ご厚意はありがたいですが……明日もあることですし、タクシーでも呼んで帰ることにします」

クズネツォワ「そうか。 だがここはモスクワやニューヨークのような大都会ではないのだ。当たり前のフィンランド人ならきっとベッドに潜り込んでいるか、さもなければコスケンコルヴァでもがぶ飲みしている時間だろう。タクシーなどいるはずもない」

提督「それは……」

クズネツォワ「どのみちストリーチナヤがまだ残っている……せっかくだ、もう少し付き合ってくれ」

提督「……分かりました」そういうと、また腰を下ろした提督……

…またしばらくして…

提督「……しかし、先ほどからうかがっていると、お国の「艦娘」の扱いはずいぶんと……その……冷たいように感じます」

クズネツォワ「ふむ。ならば、アドミラル・カンピオーニはいわゆる「艦娘」をどうすればいいと思っているのだ?」

提督「私ですか……私は、もしできることなら艦娘たちを戦わせたくはありません」

クズネツォワ「……申し訳ないが、そこが西側諸君の甘いところだ」表情の読めない冷たい瞳が提督を真っ直ぐ見つめ、冷淡な口調で言い放った……

提督「と、いいますと?」

クズネツォワ「深海側と対話ができるというのならさておき、あの連中には話など通じない……それに部下である艦娘たちを愛玩動物か何かのように可愛がっていては、かえって判断を曇らせ、戦闘の帰趨に影響を与えかねない」

クズネツォワ「ましてや軍隊は戦うための組織であって、不合理な命令であっても従わなければならない理不尽なところだ。 私とて戦うために必要な資材や戦意を高めるための休養といったものを惜しむものではないが、貴女方のいう「鎮守府」とやらは、まるで特権階級(ノメンクラツーラ)の別荘(ダーチャ)だ」

提督「……私たちの鎮守府が特権階級のダーチャなら、お国の鎮守府はシベリアのラーゲリ(強制収容所)ですね」酷薄なまでに冷淡なクズネツォワへの反発と酔った勢いもあって、つい言い返してしまう提督……

クズネツォワ「ふ……ははははっ! やはり君は面白いな、タヴァリーシチ(同志)カンピオーニ、そうやって面と向かって口答えをされたのは久しぶりだ」

提督「恐縮です」

クズネツォワ「ああ……だがな、少将。 君の豊かな人間性を否定するわけではないが、戦闘時に余計な感傷は不要だ」

提督「ええ、それは私も分かっているつもりです。ですが、艦娘の娘たちとは日頃から生活を共にしている仲です。そう簡単に割り切れるものでもありません」

クズネツォワ「君のような女性からすればそうだろうな」

提督「ええ、そもそも私は軍人向きではありませんし……よくいう「祖国のために殉ずるは甘美にして名誉なこと」という言葉は嫌いです」

クズネツォワ「ホラティウスか……まぁそうだろうな」

(※ホラティウス……クィントゥス・ホラティウス・フラックス。古代ローマの詩人「dulce et decorum est pro patria mori」はホラティウスの格言の一つ)

提督「ええ。 貴女からすれば甘いとは思いますけれど」

クズネツォワ「ダー、その通りだ。艦隊を率いる将官としては甘いし、考え方も青い……だが、たまには違う考え方の人間がいてもいい」提督の目には、冷たく刻み込まれたクズネツォワの額の縦じわが少しだけほぐれたように見えた……

提督「ありがとうございます……それで、クズネツォワ少将は?」

クズネツォワ「私が何か?」

提督「少将の行動原理です」

クズネツォワ「ああ、そういうことか……簡単だよ。「撃たれる前に撃て」これだけだ」

提督「ふふっ、なるほど。それなら私も同じです」

クズネツォワ「そうは思えないがな」

提督「いいえ……確かに私は深海側と交渉で解決できるならそうしたいと思っています。 しかしその機会がないのなら、私としては鎮守府の可愛い娘たちのために「やられないためにやっつけろ」と言うでしょう」

クズネツォワ「……なるほど、どうやら同じ結論にたどり着いたようだな?」

提督「ええ、意外ですが」
873 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/04/24(月) 01:29:50.90 ID:WB0UYTOX0
クズネツォワ「私も意外だよ……もっとも、君の考えを理解できないこともない。なにしろ私は平和主義者だからな」

提督「あー……聞き違いでしょうか?」

クズネツォワ「いや、私が「平和主義者」といったのは聞き違いではないよ……考えてもみるがいい」

提督「何をです?」

クズネツォワ「冷戦時代のことだ。もっとも、君の世代ではもう知らないか?」

提督「そうですね、私が生まれたか生まれないかのころにソ連は無くなっていましたから」

クズネツォワ「そういうことを言われると自分が年寄りになった気がするな……それはそうと、強力で圧倒的なソ連軍があったとき人はソ連を恐れ、また憎みこそすれ、刃向かおうという者はそういなかった。例えそれが誰かの犠牲によって立っているとしても、少なくとも多数の人間にとって平和な時代であったこともまた事実ではないか?」

提督「……つまり「ゆえにカルタゴは残さねばならない」ということですか」


(※ゆえにカルタゴは……古代ローマの政治家「大カトー」が北アフリカ沿岸にありローマにとって身近な脅威であったカルタゴに対し「……ゆえにカルタゴは滅ぼさねばならない」と演説をしめくくるのに対して、政敵であったスキピオ・ナシカは仮想敵がなくなると軍備がおろそかになったり緊張感がなくなることでローマが衰退するとして「……ゆえにカルタゴは残さねばならない」と演説したという)


クズネツォワ「いかにも……米ソ冷戦が終わって「悪の帝国」がなくなったとき、世界は指針を失って混迷の時代を迎えた。 一つくらい持病を持っていた方が健康に気を使うようになるのと同じで、世界には強大な敵役が必要なのだ」

提督「それがロシアだと……?」

クズネツォワ「いかにも。望むかどうかは関わりなく、ロシアというのはそういう役割を担っているのだ」ウォッカのグラスを一息に干すと、かすかに皮肉っぽい表情を浮かべた……

提督「そうですか?」

クズネツォワ「ああ。それに我が国がソ連時代から軍拡に努めてきたのは、全てアメリカからソ連を防衛するためにすぎない……実際問題として、アメリカが我が国の裏庭である東欧諸国に優れたミサイルを配備しておきながら、我が国がアメリカの裏庭であるキューバや中南米にミサイルを配備してはいけないというのは不公平というものではないか?」

提督「……納得は出来ませんが、そういう意見もあるでしょうね」

クズネツォワ「そうとも。それに当時のソ連海軍が保有していた艦艇も航空機も、全てアメリカの原潜や空母打撃群、爆撃機に対抗するためのものでしかない……」

提督「なるほど」

クズネツォワ「それにだ、たいていの軍人は戦争など欲しない。それがいかに悲惨なものかよく知っているからだ……クレムリンの政治屋どもがどう思っているかは知らないが、少なくとも私は平和であって悪いことはないと思っているよ」

提督「そうですね。私が言うのもおかしな話ですが、軍人が「本業」に精を出すようになったらおしまいですから」

クズネツォワ「そういうことだ……さ、もう一杯飲もう」表情はまるで変わらないが、どうやらご機嫌な様子のクズネツォワ……提督のと自分の、二つのグラスのギリギリまでウォッカを注いだ……

提督「……いただきます」

…どの世界でも「部外者」の同国人よりも「同業者」の外国人の方が考えを理解しやすいし付き合いやすいというのはありがちな話で、提督とクズネツォワも何だかんだとウォッカのグラスをやりとりする程度には打ち解け始めていた……

クズネツォワ「……」

提督「……どうかしましたか?」

クズネツォワ「ニェット(いいや)……だが……ふむ、なるほどな」もう一杯ウォッカを飲み干すと、なにやら納得した様子のクズネツォワ……

提督「?」

クズネツォワ「なに、こっちの話だ……いいか?」上着の内ポケットから煙草の箱を取り出すと、提督に尋ねた……

提督「ええ、どうぞ……ずいぶん気になる言い方ですね」提督は煙草が好きではないので、失礼にならない程度で少し椅子を下げた……

クズネツォワ「そうか?」

提督「ええ。特にそんな風に気を持たされたらなおのこと♪」

クズネツォワ「かもな……」

提督「はぐらかすのがお上手ですね、ユーリア♪」

…机の上の灰皿を引き寄せて煙草に火をつけ「ふーっ……」と紫煙をくゆらせるクズネツォワに対して、ちょっと小首をかしげて頬杖をつき、ウォッカでぽーっと火照った顔にいたずらっぽい微笑をうかべる提督…

クズネツォワ「……まあ、せっかくの機会だ」

提督「と、いいますと?」

クズネツォワ「なに、すぐに分かる……」そういうと吸いさしの煙草を灰皿に押しつけて消した……
874 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/01(月) 01:44:48.40 ID:st6aV10Z0
提督「……ユーリア?」

クズネツォワ「何を戸惑っているのだ? 君だって子供ではないのだから、ここまで来たらどういう意味かくらいは分かるだろう?」

…立ち上がると提督の手に自分の手を重ね、ぐっと上半身を屈めるようにして提督の瞳をのぞき込んだ……冷たく骨っぽい、逆らいがたい力を秘めた手が提督の手首をつかみ、椅子から立ち上がらせる……反対の腕を提督の腰に回すと、そのままベッドルームとおぼしきドアへと提督を連れて行くクズネツォワ…

提督「ユーリア……///」ふんわりしたセーターの生地越しにクズネツォワの固く引き締まった身体が感じられ、煙草の香りが混じったビターな吐息がふっと耳元に吹きつけられる……

クズネツォワ「ああ」

提督「……いいのですか?」

クズネツォワ「駄目だったらこんな真似はしない」

…ベッドルーム…

クズネツォワ「……さて、それではもっと個人的な話をする前に……カンピオーニ提督、少しよろしいか?」

提督「ええ、何でしょう?」

クズネツォワ「失礼」提督が付けているイヤリングを外すと、ナイトテーブルにあった水差しの中に放り込もうとする……

提督「あっ、何を……」

クズネツォワ「申し訳ないな。 だが、盗聴されるのは趣味ではない」

提督「えっ?」

クズネツォワ「おや、気が付かなかったか? では後でご友人に聞いてみるといい……悪いがこんな小細工に気付かない私ではない」

…イヤリングの人工真珠に爪をかけると、パカッと真珠が二つに割れ、中にボタン電池程度の小さな機械が収まっている……クズネツォワは機械に唇を近づけてそう言うと、改めてぽちゃんとイヤリングを放り込んだ…

クズネツォワ「さて……一つ始末したとはいえ、おおかたこの部屋そのものにもフィンランド側が仕掛けた盗聴器が山とあるはずだ」

提督「そうでしょうか?」

クズネツォワ「ダー(ああ)。 もっとも、探して見つかるような幼稚な場所にありはしないだろう……驚きはしないがね。 公的なレセプションに出席したロシア海軍の将官が宿泊する部屋に盗聴器の一つもないとしたら、その方が驚きだ」

提督「そういうものですか……私には縁のない世界です」

クズネツォワ「そうだろう、だから君のご友人も盗聴器を仕込む気になったのだ……自分の持ち物に盗聴器を仕掛けられていることを知らない人間なら、不自然な挙動をすることもないからな。とはいえフィンランド人にただ盗み聞きされるのも芸がない……」

…そう言うとどこからか文庫本くらいの大きさをした、テルミンと音叉のあいのこのような器具を取りだしてナイトテーブルに置き、側面のスイッチを入れた……途端に「ぶぅん……」と、遠くでクマンバチが飛んでいるような振動音が低く鳴り始める…

提督「それは?」

クズネツォワ「ノイズメーカーだよ……低周波を始めとした音波を発してガラス窓や壁に反響させ、室内の声が捉えにくくなる。これで多少は私的なおしゃべりもできるわけだ」

提督「……」

クズネツォワ「どうした? 遠慮せずに座るといい」

…重そうなコートと地味なチャコールグレイのブレザーを脱いでベッド脇の椅子にかけると、化粧っ気のない地味な黒いタートルネック姿になったクズネツォワ……将官というよりは競泳選手のような引き締まった身体と冷徹な表情を浮かべた苦みばしった顔に、可愛らしさのかけらもないモノトーンの服が良く似合う……そのままベッドに腰かけると掛け布団を軽く叩き、隣に腰かけるよううながした…

提督「ユーリア、もしかして私がどういう人間かご存じの上でやっているでしょう?」

クズネツォワ「だとしたらどうなのだ?」

提督「……こうします」

…そういうとかたわらに腰かけ、顔を向けさせてキスをした……冷たく煙ったい煙草の香りとウォッカの味が少し残っている薄い唇に提督の柔らかなみずみずしい唇が触れる…

提督「ん、ちゅ……っ♪」

クズネツォワ「……んっ」

提督「ぷは……///」

クズネツォワ「ふ、なるほどな……くくくっ♪」

提督「何がおかしいのです?」

クズネツォワ「いや。まったく面白い女性だよ、君は……」

…そういうなり提督をベッドに押し倒し、あご先に指をあてがうと上向かせると唇を押しつけた……片腕で提督の手をつかみ、上から覆い被さって身体を押さえ込むようにして長々と口づけをする…

提督「ん、んんっ……んぅ///」

クズネツォワ「ん……ふっ……んむっ……」

提督「ぷはっ……はぁ、はぁ……っ///」息切れを起こすかと思うくらい長々と続けられた口づけに、呼吸を荒くする提督……

クズネツォワ「……それで、もうおしまいか?」

提督「いいえ……これからです♪」ちゅ……っ♪
875 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/04(木) 01:25:30.38 ID:4vqiA8he0
クズネツォワ「んん……ちゅ…る……」

提督「ん…ふ……ちゅぅ……♪」

クズネツォワ「んむ……っ、んぅ……」

提督「はぁ、はぁ……あむっ、ちゅるっ……ん……ぅ♪」


…肺に深く吸い込んだ空気と鼻呼吸で、唇を離すこともなく長々と接吻を交わす提督……最初はクズネツォワの唇を優しくついばみ、次第にじっくりとむさぼるようなキスに変えていく……舌先を唇のすき間に滑り込ませるとクズネツォワの舌に絡みつかせ、かすかに甘いウォッカの後味と煙草の冷たく煙ったい香りが残る口中をねちっこくねぶっていく…


クズネツォワ「ん、んっ……んぅっ……」

提督「ん、はむっ……れろっ、ちゅぅ……っ♪」

クズネツォワ「……っ、はぁ」

提督「ユーリア……貴女が誘ったんですからね?」

クズネツォワ「ダー、分かっている……どうして、なかなか大したものじゃないか」

提督「ふふふっ、まだこれからです……♪」

クズネツォワ「ほう、それはそれは」

提督「むぅ……そうやって涼しい顔でいられるのも今のうちですからね?」


…クズネツォワが着ているセーターの裾から手を入れ、固く引き締まった猟犬のような脇腹をそっと愛撫し、同時に親指をかけてセーターをずりあげていく……次第にあらわになっていく引き締まった腹部にはうっすらとだが腹筋の割れ目が浮かび、それがナイトスタンドの明かりを受けて砂丘のように陰影を強めている…


提督「すごい筋肉ですね……私なんてどう頑張ってもこんな風にはなれそうもありません」

クズネツォワ「いや、簡単なものさ。毎日百回単位で腕立て伏せや腹筋をすればいいだけだ」

提督「それが出来そうにありませんから……」苦笑いをしながら揉みほぐすようにしてお腹を撫で、次第に乳房の方へと指先を進めていく……

クズネツォワ「かもな……」


…提督の手と呼応するようにクズネツォワも提督のセーターを徐々に脱がしていき、その冷たい目が提督の柔らかな曲線を帯びた身体のラインをじっくりと眺め回す…


提督「……ね、ユーリアと比べたら私なんてクジラみたいなものでしょう?」

クズネツォワ「ああ……だが、抱くにはこの方がいいな」ぎゅむっ……♪

提督「きゃあっ♪」

クズネツォワ「ふむ……柔らかいが張りと弾力もあっていい揉み心地だ」

提督「そんな淡々と言われても……あんっ♪」

クズネツォワ「なにしろ誰かとベッドを共にすることはあまりないからな……こういうのはなかなか新鮮だ」淡々と言いながら提督の豊満な胸をこね回す……

提督「もうっ、ユーリアがそうなら私も……っ♪」

クズネツォワ「私の胸では揉むほどもあるまい」

提督「それならそれで他にやりようはありますから……それに、結構ありますよ? ちゅっ♪」

…提督はクズネツォワの硬く引き締まった乳房に唇を這わせ、薄い小豆色をした先端に優しく吸い付き甘噛みした……ぎゅっと抱きしめたクズネツォワの身体は骨ばっているが筋肉質で引き締まった弾力があり、鍛えているためか提督が身動きをしたり舌で舐めあげても小揺るぎすらしない…

クズネツォワ「そうか、なにぶん比較対象が少ないものだからな……しかし君の身体は柔らかいな。肌もきめ細かくて手に吸い付くようだ」

提督「ふふっ、くすぐったいです……♪」

クズネツォワ「ああ、済まないな……ふむ」提督のスカートに手を伸ばすと少々ぎこちない手つきでずりおろし、黒タイツに包まれたヒップを撫でた……

提督「もう、ユーリアったらせっかちですね♪」

クズネツォワ「ウスカレーニエ(加速化)というやつだ」(※ウスカレーニエ…ゴルバチョフ時代の経済発展加速化プラン)

提督「……ウスカレーニエ?」

クズネツォワ「ふ、分からないならそれでいい……♪」

提督「ん……あふっ♪」

876 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/12(金) 01:04:02.98 ID:HJOkhMsZ0
クズネツォワ「ん…ちゅる……っ」

提督「ふぁ……あ、あっ……ん、ふっ♪」


…舌を絡めたキスを続けるうちに口中の唾液は水気が減って粘っこくなっていき、もどかしいような息継ぎをするたびに湿っぽい音を立て、朝露に濡れた蜘蛛糸のように銀色の糸を引く……クズネツォワの手がいささか強引に提督の下着を引き下ろし、むっちりした太ももから柔らかそうな下腹部があらわになる…


クズネツォワ「それでは……」ぐり……っ♪

提督「んっ……ユーリア、いきなり指を入れるなんて乱暴ですよ……」


…痛さに飛び上がるほどではなかったが、いずれも絶妙な愛技の持ち主でじっくり丁寧に気持ちを高めるのが上手だったローマやミラノの「恋人」たちや、技巧はそれほどでもないにしろ提督に対する「好き」の気持ちがこもっている愛しい艦娘たちと違って、いささか唐突かつ粗削りな手つきで指をねじ込まれ、少し涙目になる提督…


クズネツォワ「そうか、それは済まなかった……しばらくそのままにしておけばいいのか?」困惑さと意外さがない交ぜになったような表情を浮かべ、提督の花芯に挿し入れた指をどうすればいいか持て余し気味にしている……

提督「ええ、しばらくはそのままで……ところで、もしかしてカサトノヴァ少佐相手にもこんな風に?」

クズネツォワ「ああ。少なくともマリア・エカテリーナとするときはな」

提督「まったく……こんなやり方じゃあカサトノヴァ少佐が可哀想ですよ?」

クズネツォワ「考え方の相違だな。私がマリア・エカテリーナを抱くときは何も考えず思考をまとめたい時だけだ……それ以上でもそれ以下でもない。 彼女は余計な事を言わずに寝ていてくれればそれでいいし、こちらに余計な気づかいや、どうやって彼女を悦ばせるかと言ったことを考えさせるようなら欲しくない」

提督「だからってあんまりですよ、それだったら玩具でも変わりないでしょうに」

クズネツォワ「ニェット(いいや)。マリア・エカテリーナはそのへんをよくわきまえてくれているからな」

提督「もう、ユーリアったら勝手なんですから」

クズネツォワ「これでも何かと考えることが多いのでな……いいか?」

提督「ええ、少しは落ち着いてきましたから……///」

クズネツォワ「そうか、だが少し控え目にしなければいけないようだな……」ぐちゅ、にちゅ……っ♪

提督「ん、んっ……」

クズネツォワ「大丈夫か?」

提督「ええ、さっきよりは……あ、もっとゆっくり……」

クズネツォワ「なるほど……こうか?」ちゅくっ、くちゅり……♪

提督「はい、ですがまだ強すぎます……あ、あっ///」

クズネツォワ「ふむ、目の前にいる女性の事だけを考えてするのもそれはそれで新鮮だな……ここか?」くちゅくちゅ……じゅぷっ♪

提督「あ、あっ……そこ、気持ちいい…っ///」

クズネツォワ「こっちは?」

提督「ふあぁ……あふっ、はぁ……んっ♪」

クズネツォワ「ここが感じやすいようだな……んちゅっ♪」提督に覆い被さりながら豊かな乳房に吸い付いたクズネツォワ……

提督「ふあぁ、もう……あっ、あぁぁんっ♪」


…空いている手で乳房にクズネツォワの頭を押しつけると、ぎゅっと脚を締め付けてクズネツォワの身体を挟みこむ提督……まだクズネツォワの手つきはぎこちなく洗練されていない感じも残るが、身体が火照ってくるにつれて提督自身みだらな気持ちになってきて、クズネツォワらしい冷たさと煙草の香りが混じった髪の匂いを吸い込むと、秘部がとろりと濡れてきた…


クズネツォワ「ん、ぴちゃ……れろっ、ちゅ……」ぐちゅっ、ぬちゅ……っ♪

提督「あ、あ、あっ……あんっ、んふふっ♪」ときおり妙な舌遣いをされ、気持ちよさよりもくすぐったさに笑いが漏れる……

クズネツォワ「……私のやり方はおかしいか?」

提督「いえ、そうではなくてくすぐったくて……ふぁぁ、あふっ……あっ、んんぅ……っ♪」

クズネツォワ「そうか」ぐちゅぐちゅ……ずぷっ♪

提督「ふあぁ……ぁっ♪」とぽっ、とろ……っ♪

クズネツォワ「……どうだ、少しは良かったか?」

提督「そんなことを聞くのは無粋ですよ、ユーリア……それに」

クズネツォワ「それに?」

提督「……今度は私の番ですから♪」金色の瞳にとろりと甘いみだらな光を浮かべ、クズネツォワに身体を絡ませた……
877 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/20(土) 01:12:13.69 ID:j8KxuYom0
クズネツォワ「ん、んっ……」

提督「ユーリア、そんなに身構えないで……もっと肩の力を抜いてください」

クズネツォワ「ダー。しかし身構えているつもりはないのだがな……」

提督「そうですか? それじゃあ私がユーリアの気持ちをほぐしてあげます♪」

…提督はしっとりとした柔肌をクズネツォワの引き締まった裸身にぺたりと合わせて、綺麗に整えられた左手の中指と薬指をやんわりと彼女の花芯へと滑り込ませていく……ベッドを共にしているのにどこか隔たりを感じるクズネツォワの冷たい手に右手を絡ませて「恋人つなぎ」にすると、優しく唇を触れあわせながらしばらくそのままついばむようなキスを続け、冷たい手がほのかに温もりを帯びるまで恋人つなぎを続けた…

クズネツォワ「……こういうのは初めてだな」

提督「言わなくっていいです……いまは私のこと以外は考えて欲しくないので」ちゅ……っ♪

クズネツォワ「分かった」

提督「はい……♪」

…しばし幼い子供のように無垢な口づけを続けていたが、次第にねっとりと甘ったるいキスへと変化させていく提督……クズネツォワの固く引き締まった胸にはたわわな乳房を押しつけて弾力のある柔肌の中に埋めさせ、ゆったりと動かし始めた左手の指は優しく、しかし執拗に膣内をかき回していく…

クズネツォワ「……んっ、ふ///」

提督「んちゅっ、ちゅる……っ♪」

クズネツォワ「あ……ふ、んむ……っ///」

提督「ユーリア、こっちの方がいいですか……?」

クズネツォワ「好きにしろ。私はどっちでも構わない」

提督「あら、つれないお返事……そういうことなら、うんとさせてもらいますから♪」じゅぷ、ぐちゅっ……くちゅっ、にちゅ……っ♪

クズネツォワ「ああ……ん、んんっ///」

提督「ふふっ♪ ユーリアのここ、ずいぶん濡れてきましたね♪」ぬちゅ、ぐちゅり……じゅぷっ♪

クズネツォワ「そうだな……んん゛ん゛っ///」

提督「うふふっ、ちゃんとそうやってトロけたお顔もできるんですね……可愛いですよ♪」じゅぷっ、ぬちゅり……ぐちゅぐちゅっ♪

クズネツォワ「あ、あ゛っ……はぁぁ……ぁっ♪」

提督「んぅ、そろそろ体勢を変えますね……はひっ、あ……あふっ♪」

…粘っこい水音をさせて指を引き抜くと粘土をこねるような手つきで下腹部を愛撫し、それから身体を起こすとクズネツォワの太ももを両手で押し開くようにして開脚させ、自分の花芯とクズネツォワの花芯を重ね合わせた……すでにとろりと濡れている提督の秘部が意外なほどに熱を帯びたクズネツォワの秘所と触れあうと、しびれるような甘い感覚が背筋を伝わっていくように走り、思わず甘ったるい嬌声が漏れる…

クズネツォワ「はぁ……あぁ、んんうっ///」

提督「あっ、はぁっ、はぁ……はひっ……ふわぁぁぁ……っ♪」

クズネツォワ「あ゛っ、はぁぁっ……ん゛あ゛あ゛ぁぁ………っ♪」

…提督の甘い声と共鳴するようにクズネツォワの吼えるような声が響く……クズネツォワの競泳選手のような脚が提督の腰に絡みつき、まるで腰骨が折れそうな強さでぎゅっと締め付けてくる……お互い身体を離そうにもいやでも伝わってくる脳をとろけさせるような快感に呑まれて、身体を引き離す事もできない……提督は甘ったるい声を響かせながらも、クズネツォワの無表情の仮面がいくらかなりとも崩れて喘いでいるさまに気づいて嬉しさと同時に、普通なら敵うはずもないクズネツォワのような鍛え上げられた相手を思い通りにしている事実に、みだらでわがままな嗜虐心をくすぐられた…

提督「んふふ……っ♪」ぐちゅっ、にちゅ……っ♪

クズネツォワ「お゛っ……あ゛ぁ゛ぁぁっ♪」

提督「あっ、ユーリア……激しっ……ふわぁぁぁ……っ♪」

クズネツォワ「あぁぁっ、はぁっ……♪」

提督「ふあぁぁっ、そんなに締め付けられたら……あっ、あぁぁっ♪」

…提督は目の焦点が合わなくなり、暖かくぬめる下腹部からの止めどない熱と快感の波動に身体をのけぞらせて嬌声をあげる……一方のクズネツォワもがくがくと太ももをひくつかせ、がくりと首を上向かせて腹筋をけいれんさせている…

クズネツォワ「ああぁぁ……っ♪」

提督「あぁぁん……っ♪」

…互いに終わりが見えないまま、愛撫したり甘噛みをしたり跡の残るようなキスをしたりしつつ、秘所を重ね合わせる二人……全身はじっとりと汗ばみ、重ね合わせている身体がぺっとりと吸い付き、時にはぬるりと滑る……そのまま何時間たったのかも分からないまま、最後は崩れるようにして愛蜜まみれのベッドシーツに倒れ込んだ…

クズネツォワ「ふー……」

提督「はぁ、はぁ、はぁ……ぁ♪」

クズネツォワ「……ふふ」

提督「何かおかしいですか?」

クズネツォワ「いや、なに……まさか一回りも年下の小娘にここまでいいようにされるとは思っていなかったからな。私もまだまだということか」

提督「えーと……お褒めにあずかり恐縮です///」

クズネツォワ「ふ……まったく面白い女だよ、君は」
878 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/05/28(日) 00:53:14.75 ID:0BYdMybg0
提督「……」

クズネツォワ「ふー……何か気になることでも?」

…裸のまま起き上がるとベッドサイドの小机に置いてあった煙草の箱を引き寄せ、一本取り出して火を付けたクズネツォワ……提督が少し意外そうな表情でその様子を見ていると、視線が気になったのか問いかけてきた…

提督「いえ、そこまでのことでは……」

クズネツォワ「構わないから話してみるがいい」

提督「そうですか、本当に大したことではないのですが……ユーリアは左利きですか?」

クズネツォワ「どうしてそう思う」

提督「いえ、だって煙草をそうやって左手で持っているものですから……」

クズネツォワ「ふ……なかなか観察眼が鋭いな」そう言って親指と人差し指の間に挟んだ煙草をもうひと吸いすると、ふーっと長い息を吐いた……

提督「そうですか?」

クズネツォワ「ああ……私は職業上、右手を常に空けておくよう訓練されてきたからな。そのせいで煙草を左手で吸う癖がついてしまった……」

提督「でも、ユーリアのお仕事は海軍軍人でしょう? そこまで徹底して右手を空けておくような訓練を受けるものでしょうか?」

クズネツォワ「海軍軍人か、確かにな」

提督「……そういえば、クズネツォワ提督はどうして海軍に?」

…あまり根掘り葉掘り聞くようなことでもないらしいと気付いて、とっさに話題を転じた提督……胸元に布団を引き寄せ、枕を背中にあてがってベッドのヘッドボードを椅子の背のようにして座った…

クズネツォワ「そうだな……おそらくは私のバーブシュカ(祖母)の影響だろうな」提督に煙を吹き付けないようもうひと吸いすると、ゆっくりした口調で言った……

提督「バーブシュカ……たしかお祖母さんのことでしたね?」

クズネツォワ「ダー……私の祖母ナターシャ(ナターリアの通称)は政治将校として大祖国戦争(独ソ戦)を戦い抜いた女性でな。ブーツも汚さずに安全な後方からスローガンをわめいていた連中と違って常に兵と共に銃を取り、後に「赤いジャンヌ・ダルク」などとまつりあげられたほどの人物だったのだ」

提督「立派なお祖母様だったのですね」

クズネツォワ「少なくとも私はそう思っている……せっかくだ、祖母から聞いた話でもしてあげよう」そう言うと昔話を語るように淡々と話し始めた……



クズネツォワ「……今は昔、大祖国戦争(独ソ戦)の頃の話だ。 私の祖母は当時ではまだ珍しい高等教育を受けていたので軍で庶務であったり読み書きといった兵への教育を行っていてな。組織に献身的だったことと「大粛正」後の士官不足と言うこともあって大尉に昇格していたのだが……1941年6月22日、状況が変わった」

提督「独ソ戦の開戦、ですか」

クズネツォワ「ああ。祖母は大祖国戦争開戦の一報をラジオで聞いたそうだ……」

………

…1941年…

ソ連軍士官「同志政治将校、今の放送をお聞きになりましたか!」

ナターリア(ナターシャ)・クズネツォワ大尉「聞いた……司令部からの命令は?」

士官「はっ! 命令ですが「全部隊は直ちに鉄道駅に集結、急ぎ祖国防衛のために進発せよ!」とのことです!」

ナターシャ「よろしい、ではそのように計らえ……私も駅へ行く」

…駅…

ナターシャ「同志諸君! 邪悪なファシスト共の魔の手から我らの祖国(ロージナ)を、父を、母を、兄弟姉妹を守るのだ!」

…ぴしっとしたカーキ色の軍服にトカレフ「TT33」ピストルのホルスターを吊るし、メガホンの筒を手に声を張り上げ、客車・貨車を問わずに次々と列車に乗り込む将兵たちを激励するナターシャ……プラットホームではやはり軍服を着た軍楽隊のオーケストラが勇ましい軍歌を演奏し、その重厚なメロディと地元合唱団の声が響き渡るなか、兵たちを乗せた列車が重そうに発車していく……

ナターシャ「さあ、列車に乗り込め! 祖国は同志諸君を必要としている!」



クズネツォワ「しかし、粛正に次ぐ粛正で思考力のある有能な士官を失っていて、かつ奇襲を受けたソ連軍はドイツ軍の「電撃戦」に後退を余儀なくされた……そして数週間後、祖母はレニングラードにいた」

提督「……レニングラード、ですか」

クズネツォワ「そう……九百日も包囲されたレニングラードだ。だが私の祖母は運が良かった」

提督「と、いいますと?」

クズネツォワ「召喚命令だよ。 レニングラード防衛戦の実情が分からないモスクワのスタフカ(STAVKA…赤軍最高会議)に直接報告に行けと命令を受けたのだ……私の祖母はラドガ湖を使って包囲直前のレニングラードから脱出できた人間の一人だ」

提督「なんと、まぁ……」

クズネツォワ「その時の話は祖母からいくつか聞いたよ……いよいよレニングラードも包囲され始めた、とある曇りの日だったそうだ……」
879 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/06/10(土) 00:44:29.34 ID:BE4DfZCG0
…レニングラード…

ソ連軍士官「……同志政治将校、民間人がやって来て同志政治将校に会わせて欲しいと言っているのですが」

ナターシャ「民間人?」

…包囲されつつある市街の命運を暗示するような曇り空のレニングラードには次第に近づいて来るドイツ軍の砲声が遠雷のように響き、街には工場から続々と吐き出される対戦車砲や対戦車ライフル、果ては火炎瓶からあり合わせの即製兵器までが配備され、目抜き通りのあちこちにはバリケードが並べられている…

士官「ダー……忙しい最中だからと言ったのですが」

ナターシャ「それほどまでに私に会いたいとは、よほど重大な事なのだろう……まだ船団は出ないはずだ。 通してやれ、アントーン・イリイッチ」

士官「はっ」

…部下に連れてこられた民間人はやせていて、おびえたような態度をしている……身体にあまり合っていない茶系の背広の胸元には民間人に授与される文化系の勲章をいくつか付けていて、司令部入り口の衛兵や士官たちから門前払いをされなかったのはそのおかげらしい…

ナターシャ「さて。私に用があるそうだが、同志……」

民間人「ニコライ・シモノフです……同志政治将校」軍における恐怖政治の執行者として民間人にも知れ渡っている「政治将校」に対し帽子を脱ぎ、おずおずと手を伸ばして握手する民間人……

ナターシャ「ナターリア・ニコラーエヴナ・クズネツォワ大尉だ、同志シモノフ。 それで、用件とは?」

民間人「はい、実は……」

ナターシャ「……なるほど、市内にある美術館の収蔵品を退避させると」

民間人「ええ……もちろん、開戦してからエルミタージュ美術館を始め、名のある美術品の疎開は続けておりましたが、それでも市内の美術館にはまだたくさんの貴重な品々が残っているのです……同志政治将校、どうか美術品を運び出してもらえないでしょうか?」

…ナターシャのところにやって来た民間人は市内にある美術館の館長で、そこはエルミタージュほど高名でもなければ大きくもなかったが、ナターシャ自身も何回か見学したことのある場所だった……困ったように手をこすり合わせながら、館長はナターシャに懇願した…

ナターシャ「なるほど……話は理解した。 だが、ここを出て行くラドガ湖艦隊の艦艇は軒並み避難民や負傷者で舷側すれすれまで満載だ。 運び出してくれと言われても、そう簡単にはいかない」

館長「むろんそのことは承知しています、同志たちの生命はどんな美術品よりも尊いものです……ですが、このまま人民の宝を戦災にさらしておくなど……」

ナターシャ「ああ、分かった……はしけでも伝馬船でも良いというなら、どうにか用立ててみよう。ただ、ファシスト共の爆撃を受けるかもしれないが……それでも構わないのだな、同志?」

館長「はい、このまま戦火にさらすよりは少しでも可能性のある方に賭けようと思います、同志政治将校」

ナターシャ「いいだろう。では今からラドガ湖艦隊の司令部に掛け合ってみよう、一緒に来てくれ」

…ラドガ湖艦隊司令部…

ソ連海軍士官「……送り出した輸送船の十隻のうち五隻は沈められるような状況で、美術品なんぞに構っている余裕があると思っているのかね、同志政治将校?」

ナターシャ「無論そのことは承知しています。だが美術館の品々も貴重な人民の宝であることを忘れないでいただきたい。ファシストの畜生共にむざむざ破壊されるのを見ているわけにも行きますまい……同志少佐?」政治将校という存在の恐ろしさをにじませるように、階級が上の相手に対してかすかな非難の響きを込める……

海軍士官「……だが、すでに船団の出港準備は整っている。 今から積み込むのでは間に合わない」

ナターシャ「なら次の便で構いません……構わないな? 同志シモノフ?」

館長「ええ、とにかくここから運び出すことさえ出来れば……」

ナターシャ「なら決まりだ。 次の便に載せる美術品を運び出し、埠頭まで持ってくるとしよう……積み込みはこちらで行います。それならばそちらの将兵を使うこともない……よろしいですか、同志少佐?」

海軍士官「ああ、分かった……ただし、どんな事情であれ出港に間に合わなければ置いていく。よろしいな? 同志政治将校」

ナターシャ「結構です、同志少佐。 協力に感謝します。上層部にも同志少佐の「国家の至宝を守ろうとする懸命な判断と献身的な行為」を報告しておきます……では急いで美術館に向かうとしよう、同志」

…十数分後・レニングラード防衛司令部…

士官「同志政治将校!? 先ほどの船団でレニングラードを離れられたのでは!?」

ナターシャ「そうする予定だったが事情が変わったのだ。 急ぎトラック二台と一個分隊を用意しろ」

士官「トラック二台に一個分隊ですか? ……了解、同志政治将校」困惑してすっとんきょうな声を上げたが、じろっとにらみつけられると慌てて敬礼をし、トラックを探しに駆けだしていった……

…数分後…

士官「トラック二台と一個分隊の用意完了です、同志政治将校!」

ナターシャ「結構、良くやった……それでは美術館まで行こう、同志シモノフ」

…しばらくして・市内の美術館…

ナターシャ「これで全部か? 同志?」木箱に梱包されたり筒状の入れ物に収められたりしている様々な美術品をトラックの荷台に詰め込ませると、館長に尋ねた……

館長「はい、最も貴重な物はこれだけです……出来れば全部運び出したいところですが……」

ナターシャ「それは諦めてもらうほかはあるまいな……さぁ、出発しろ!」
880 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/06/20(火) 01:41:27.83 ID:b4svyaCY0
提督「……そんな体験をなさったのですか」

クズネツォワ「ダー……途中でファシストの空襲にも遭ったそうだ」

………



…ラドガ湖…

ナターシャ「……船長、護衛との会同は?」

…ナターシャは戦傷者や難民たちが舷側すれすれまで詰め込まれたおんぼろ砲艦や小型貨物船で編成された船団の一隻に乗り込むと、彼方に霞むレニングラードを見送りながら煙草を吹かしていた……港を出てしばらくすると船員がやって来て、案内されるがままに人混みをかき分け船橋に行くと、もじゃもじゃのあごひげを生やした船長にさっそく尋ねた…

船長「さぁ、ワシには何とも……出港前に聞いた話じゃ空軍が顔を見せてくれるって話ですがね、同志」

ナターシャ「そうか」

…そうは言っても空軍も海軍航空隊も緒戦の奇襲で甚大な被害を受けている以上、まともな援護など期待できない事くらい誰にでも分かりきっていた……それでも、ポリカルポフ戦闘機の一機でもいてくれれば心強い事は確かで、ナターシャは期待するようにちらりと上空へ目をやった…

船長「へぇ。まぁ大したもてなしもできやせんが、どうか少しでも居心地良くしておくんなさい」

ナターシャ「スパシーバ。とにかく頼むぞ」

…ちっぽけな船橋から甲板を見おろすと、美術館の館長から預かった美術品が収まっている船倉ハッチには防水布がかけられ、その防水布の上にも鈴なりに人が座り込んでいる……左右を進む船舶も同じように甲板上に負傷兵や避難民たちが座り込み、何人かの兵士が少しでも気が紛れるようにと、持ち込んだアコーディオンやバラライカを弾いている……と、どこからか蜂の羽音のような単調なエンジン音が聞こえてきた……

ナターシャ「……敵機! 上空にシュトゥーカ!」

…雲間から黒いシルエットが現われ、途端に反転するようにして船団へ向けて急降下をかけてきた……

ソ連兵「敵襲!」

ソ連下士官「アゴン(撃て)、撃てっ!」

…どんな勇敢な兵士でさえも恐怖に耳を塞ぎたくなるという、ユンカースJu−87「シュトゥーカ」が急降下してくるときの甲高い音が鳴り響き、その恐怖に抗うかのようにピストルから短機関銃、重機関銃、即席の砲座に据え付けられた高角砲まで、ありとあらゆる兵器が撃ち上げられる…

船員「爆弾が来ます!」

…通り過ぎる急行列車のような音を立ててシュトゥーカが上空を通過し、同時にすさまじい轟音と水柱を噴き上げ着弾する爆弾……凍るように冷たい飛沫が軍服を濡らし、頭から水が滴る……と、横を進んでいた小型貨物船が黒煙をあげて停止し、別れを告げるような哀れな汽笛の音を響かせながらゆっくりと傾いていく…

ソ連兵B「……可哀想に」

…沈んでいく友軍を助けてやりたいのは誰も同じだが、舷側すれすれまで人と荷物を積み込んでいる船団の船に他の誰かを助ける余裕はない……それでも近くの数隻が減速して幸運な最寄りの十数人を拾い上げ、護衛の老朽掃海艇も無電で救援を要請し、もしかしたらやってくるかもしれない友軍艦艇に浮かんでいる同志たちのことを託した…

下士官「敵機!雲の切れ目から来ます!」

ナターシャ「操縦席を狙って撃て!」

…一機目の投下した爆煙が収まらないうちに二機目が急降下をはじめ、船団めがけて突っ込んでくる……これを迎え撃つ船団では銃座に装備された古めかしい、しかし頼りになる水冷のマキシム機銃が吼えたて、兵士の「モシン・ナガン」小銃やトカレフ・ピストルまで、雑多な銃器が上空のシュトゥーカを狙って弾幕を張る…

ソ連兵C「やった……やった!」

…弾幕のうちの気まぐれな数発が当たったらしくシュトゥーカのエンジンが白煙を吐き、投下した爆弾は輸送船の脇で水柱を上げただけに留まった……シュトゥーカはぐっと機首を上げると、そのまま低く垂れ込めた雲に逃げ込んだ…

船長「やれやれ……」

ナターシャ「ふぅ……どうにかなったな、船長」

………

提督「……大変な経験でしたね」

クズネツォワ「ダー……だが、祖母の経験はそこで終わらなかった」

…一本の煙草を吸い終えると最後の煙を空中に吐き出し、紫煙が空調装置に吸い込まれていく様子をじっと眺めた……煙が完全に吸い込まれるのを見届けると、話の続きを始めた…

提督「まだ他にも経験したのですか」

クズネツォワ「ああ。モスクワで戦況を報告した祖母はしばらくスタフカと前線を行ったり来たりして連絡将校じみた事をしていたそうだが、あるとき能力を買われて次の戦場で兵の督戦と前線の維持を命令されたのだ……場所は42年の冬、スターリングラードだ」

提督「スターリングラード……!」

クズネツォワ「そうだ」
881 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/07/03(月) 01:50:58.48 ID:CkD0yM610
…1942年・スターリングラード…

ナターシャ「……同志諸君、一歩も退くな!ヴォルガ河の後ろに前線はない!」

…腰ベルトのトカレフ・ピストルと柄付き手榴弾、そして肩から「バラライカ」ことPPSh41短機関銃を提げ、防寒用の長い外套を羽織って渡船場の渡り船から降りてくる将兵に声を張り上げるナターシャ……軍の政治将校ならピカピカでもおかしくない制服やブーツは泥とほこりにまみれ、顔も土ぼこりや汚れですっかり黒ずんでいる…

ナターシャ「一人でも多くファシストを撃て! 諸君の家族や故郷のために!」

…ヴォルガ河の渡船を使って次々と送り込まれる兵士たちの群れに向かって、声を張り上げ督戦するナターリア……強大なドイツ軍に対して二人に一人しか支給されない小銃や乏しい弾薬を補うのは、これだけはどうにか毎日欠かさず支給されるウォッカとボルシチ、それに生存本能に根ざした獣のようながむしゃらさだけだった…

ナターシャ「たとえ死ぬとしても、決して無駄死にはするな! 一人でも多くの敵を道連れにせよ!」

…たいていの政治将校が暖房の効いた地下壕でぬくぬくと過ごし、ビラを刷っては口先ばかりの宣伝をひねくり回している間、ナターリアは地面を這いずり埃と垢にまみれ、後方から来る弾薬や、はるばるアメリカから運ばれてくる缶詰といった物資を背嚢に詰め込み、がれきと廃墟の中に陣取る兵士たちへと配って回り、また時には兵士と一緒になって敵の攻撃を撃退したりもした…


…とある防衛拠点…

ナターシャ「……あの建物から敵を叩き出せ!敵の銃撃が収まる瞬間を待って突入する!」

下士官「了解!」

ナターシャ「いいか、私が援護してやるから心配するな。屋内に突入したらひと部屋ごとに手榴弾を放り込め……今だ!」

下士官「よし、突っ込め!」

兵士たち「「ウラー!」」

…ナターリアはドラム型弾倉のPPsh−41短機関銃「バラライカ」を、ドイツ兵の陣取るアパート二階の部屋に向けてバリバリと浴びせる……窓の下までたどり着いた兵士たちが手榴弾や梱包爆薬を投げ込むと爆煙が噴き出し、がれきやセメントの破片がバラバラと飛び散る……そのまま崩れた階段の残骸を使って屋内へと突入する兵士たち…

…数分後…

ナターシャ「……よくやったな、伍長」

下士官「ありがとうございます、同志政治将校」

ナターシャ「礼などいい……諸君も良くやった。これで隣の拠点とも連絡がつくようになるだろう」おそらく今のスターリングラードでは一番のごちそうに数えられるであろう、アメリカ製コーンビーフの缶詰を背嚢から取り出して分隊の兵士に配った……

………



クズネツォワ「そうして一進一退、拠点を奪っては取り返し……祖母はドイツ第六軍が降伏するまで市街を駆け回っては兵を励まし、敵を撃ち、重傷の兵には優しい言葉をかけてやったのだ……いまのヴォルゴグラード(スターリングラード)、ママイェフの丘にある『母なる祖国』像はロシアの大地を表す女神であると同時に、スターリングラードを始め各地で戦った女性の将兵たちや、苦しい戦時下の生活に耐え抜いた女性たちの象徴でもあると祖母は言っていたよ」

提督「あの剣を持った巨大な像のことですね……」

クズネツォワ「ダー……祖母はその後前進を続ける軍と共にベルリンまで戦い続けた。しかし祖母は厳格な人間だったのでな、よく言われるように「略奪した腕時計を両腕にびっしりはめている」ようなこともなかった。家にあったのは当時の捕虜から取り上げたルガー・ピストルくらいなものだった」

提督「すごいお話ですね……まるで歴史書の登場人物のような……」

クズネツォワ「ダー。バーブシュカは戦後もしばらくは将校として務めていたが退役して、私が子供の頃にはすっかり白髪になっていたが……それでも頭は切れるし身体も動くし、かくしゃくとしたものだったよ……その祖母に言われたのだ「泥まみれで埋め草にされる陸軍の兵隊と違って、少なくとも海軍なら乗り物がある」とな」

提督「なるほど、それで海軍に……」

クズネツォワ「ああ、子供のころから聞かされていれば自然とそう思うようになる……あと、祖母いわく「色んな経験をしたが、自慢できるのはムラヴィンスキー指揮のレニングラード交響楽団が演奏するショスタコーヴィチを生で聞けたこと」だとよく言っていたよ」

提督「確かに、それはなかなか機会があるものではないですものね……ところで」

クズネツォワ「なんだ?」

提督「あー、その……ユーリアは音楽を聞きますか?」

クズネツォワ「無論だ。音楽は時に心を駆り立て、時に心を落ち着かせる……モスクワ・ボリショイ劇場の券は年間パスで買っている」

提督「なかなかお好きなんですね」

クズネツォワ「ああ……それでフランチェスカ、君はどうだ?」

提督「私はそんなに裕福ではありませんから……数回だけミラノ・スカラ座に行った事はあります。それに音楽は好きですよ」

クズネツォワ「そうか、例えば誰の曲が好きだ?」

提督「いつもは60〜70年代のカンツォーネを流しているので、クラシックはあまり……でも、母の影響でヴィヴァルディやロッシーニ、ヴェルディ……あとはラヴェルやチャイコフスキー、ビゼーも時々聞きます。もっとも、私の場合は気分に合わせて聞いているだけですので、難しい考証や解説はできませんが……」

クズネツォワ「いや。気分に合わせて難しいことを考えずに聞く、それでいいのではないか? あくまで感性の問題だからな。演奏のテクニックで悩むのは楽士と指揮者だけで充分だろう」抑揚がない感情の薄い声だが、どうやら冗談めかしているらしい……

提督「ユーリアも冗談を言うのですね?」

クズネツォワ「ああ、私にだってユーモアのセンスくらいはある……皮肉というのは言われる側も意味を理解していないと皮肉にならんからな。作品に込めた意図が分からなければ、風刺作家をルビヤンカ監獄に放り込めないだろう?」

提督「なるほど……」実際にそういうことをしそうなクズネツォワだけに、提督も素直に笑えない……
882 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/07/11(火) 01:06:42.53 ID:0ftPuc1q0
クズネツォワ「例えば、そうだな……フランチェスカ、ちょうどこの窓から広場のクリスマスツリーが見えるが、君はサンタクロースのことを信じているか?」窓の外には控え目だが綺麗に飾りつけられた大きなモミの木がそびえていて、街灯の光を受けて静かに輝いている……

提督「サンタクロースですか?」

クズネツォワ「ダー」

提督「そうですね……うちでは子供の頃から好きなものは買ってもらえましたし、私もあんまり欲しがりな子供ではなかったそうなのでそこまでは……親もそういう存在がいることは教えてくれましたが」

クズネツォワ「そうか……実はな、サンタクロースというのはソ連の具現化だと言ったら、どうだ?」ごくかすかではあるが、笑顔のような表情を浮かべてみせるクズネツォワ……

提督「えっ?」

クズネツォワ「考えてもみたまえ……赤色というのはソヴィエトの象徴である色だろう?」

提督「ええ、そうですね」

クズネツォワ「そしてその「赤い」服を着たヒゲのおじさんが、良い子にしていれば「みんなに」「無料で」「公平に」プレゼントを配る……どうだ、誰かを思い出さないか? アメリカ資本主義の代表のような、あの有名なコーラ会社が広告のためにサンタクロースを赤色にしたというのに、その実態はまるでソ連を具現化しているようなものなのだ」

提督「……考えてもみませんでした」

クズネツォワ「ふふ、そうだろうとも」提督の乳房を軽くいじりながら皮肉な表情を浮かべた……

提督「ええ……ところでユーリアのお祖母様は軍の政治将校だったわけですが、お母様はどんな方なのですか?」

クズネツォワ「私の母か? もう辞めてしまったが、母はソ連時代には科学者だった」

提督「なるほど、科学者ですか……しかし、科学の発達というのは目覚ましいものがありますね。近頃は「iPS細胞」というもので、同性間でも子供が出来るようになるとか」

クズネツォワ「ダー。ヤポーンスキ(日本人)の学者が発明したと言うアレだな……もっとも、あれならソ連が数十年は前に開発していたよ」

提督「まぁ♪ くすくすっ、ふふふ……っ♪」

クズネツォワ「おかしいか?」

提督「ええ、だって……ふふ、うふふっ……「それは我がソヴィエトが数十年前に発明していた」はよく聞くジョークですから……ふふふふっ♪」

クズネツォワ「面白がってくれて光栄だが、同志カンピオーニ……現に私がそうなのだ」

提督「うふふふっ……えっ?」

クズネツォワ「年齢のわりに耳が遠いようだな」

提督「あ、いえ……言葉は聞き取れましたが……でも……」

クズネツォワ「にわかには信じがたいか?」

提督「え、ええ……」思いがけない話に困惑して、うまい返事ができない……

クズネツォワ「ま、仕方のない事だな……だが、君も私のミドルネームには気付いていただろう?」

提督「ええ、確かロシアの人はミドルネームに父の名がつくのでしたね……」

クズネツォワ「そうだ。それが私の場合は「両母」の片方、つまり「父親の側」にあたる母の名になっているわけだ」

提督「あー……それは養子ですとか、そういう……?」

クズネツォワ「ニェット(いいや)……私は「ソ連版iPS細胞」の実験で生まれたいわゆる「試験管ベビー」というやつなのだ」

提督「……」

クズネツォワ「どうせだからな、寝物語(ピロートーク)に話すとしよう……」

…箱から煙草を抜き出すと火をつけ、布団をかぶって上半身を起こしている提督の裸身を眺めながらゆっくりと話し始めた……フィンランドの長い長い夜はまだ明ける様子もなく、閉じた窓越しに街灯の明かりと、時折聞こえる車の音や人の声がかすかに室内へと入ってくる…

クズネツォワ「かつてソ連は『大祖国戦争』で多くの人間を徴兵したり動員したりして、そのうちの多くを失った」

提督「ええ……」

クズネツォワ「戦後になってモスクワの首脳部はこう考えた……「大祖国戦争で我々がかろうじて勝利できたのは兵隊の数が多かったからだ。つまり戦争を戦うには人口が多い国が有利だ。それに大祖国戦争で多くの人間を失ったぶん、次代の兵士や学者や労働者になる子供たちもたくさん必要だ」……とね」

提督「……」

クズネツォワ「しかし、いざ戦争ともなれば男は軒並み駆り出されることになるし、そもそも戦後すぐのソ連では男性の数がかなり減っていた……そこで首脳部は「戦場に行くことの少ない女同士で子供を作ることは出来ないか?」と考えたのだ」

提督「当時のソ連にそんな計画が……?」
883 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/07/18(火) 01:47:20.45 ID:svOXb5PM0
クズネツォワ「ダー……詳細はもはや闇の中になってしまったが、基本的にはそういった経緯でフルシチョフのころに研究が開始されたらしい。そして何十年もかかってソ連崩壊の直前、ようやく実用化の目途がついた」

提督「……ええ」

クズネツォワ「そこで研究所としては誰か被験者を探さなくてはならない……とはいえ大祖国戦争を知る世代も減り、当初の目標だった「生産性のある人口の増加」も人海戦術に頼る時代が過ぎていたことから推進する理由が失われていたし、ソ連末期ということで人材を集める資金もなかった。そこで私の「片方の」母、科学者のユーリアが当時親しくしていたバレエダンサーのマリアを口説いて被験体になってもらったのだ」

提督「実験の被験体だなんて、よく了承してもらえましたね?」

クズネツォワ「ああ……当時のソ連では同性愛は違法だったが、ユーリアとマリアはお互いに愛しあっていたからな。マリアが被験体になることで当局に同性同士での「恋愛」や「結婚」を黙認してもらったらしい……」

…1980年代・とある研究所…

研究者「主任、これを……とうとう成功しましたよ!」

ユーリア・クズネツォワ(クズネツォワの母)「ハラショー、実に見事なものだ……皆もよくやってくれた」

…胸元のネームプレートに白衣姿で、鉄縁眼鏡をかけた研究主任のユーリアの元へと集まってくる研究者や技師たち……ラットに犬、そしてとうとうサルでの実験に成功し、みんな科学者らしく冷静さを装いながらも沸き立っている…

研究者B「これで所長にもいい報告が出来ますね」

研究者C「次はいよいよ人体での治験ですか……とはいえここの研究所で被験者を募るのは……」何十年と結果を残せずにいて今ではすっかり後回しにされている研究に、人を募るための予算が回してもらえるはずもない……

ユーリア「そのことだが、治験に応じてくれそうな人間に心当たりがある。所長の許可と被験者の承諾を取るあいだ、諸君は作業を続けてくれ」

…数日後の夜・モスクワ市街…

ユーリア「……遅くなって済まなかった、マリア・ニコラーエヴナ。冷えてしまっただろう?」クレムリンのタマネギ型ドームが建物の狭間から見える橋のたもとで一人待っていたマリアに、自分の不格好な……しかしとりあえずは暖かい厚手のウールコートを羽織らせるユーリア……

マリア「いいのよ、ユーリア……一緒に歩きましょう///」

…バレエダンサーらしい華奢でほっそりとした身体に、青色の涼しげな目元と金色の髪をしたマリア……その柔らかなソプラノで教養のある話をするさまは、さながら乙女の理想像のように見える……薬品で荒れた手に、まるで技術レポートでも読み上げているかのように聞こえる素っ気ない自分の話し方と比較して、なんと対照的なのだろうとユーリアは考えた…

ユーリア「ああ……」

マリア「……それで、話って?」

ユーリア「そのことだが、とりあえず座って話そう」川を望む道端のベンチを見つけた二人……

マリア「さ、座ったわ……話してくれる?」

ユーリア「ああ、そうだな……」

マリア「……言いにくいこと?」下からのぞき込むようにして顔を近づけるマリア……

ユーリア「いや、そういうわけじゃないが……」

マリア「そう……じゃあ話してくれるまで静かに待っているわね」

ユーリア「……」

マリア「……」

ユーリア「……その、マリア」

マリア「なぁに?」

ユーリア「実は、君に頼みたい事がある……」

マリア「頼みたい事?」

ユーリア「ああ。科学の進歩のためにも、君に協力してもらえたらと思っているのだが……」詩的な言い回しや心をとろかすような表現どころか、堅苦しい言い訳しか出てこない自分のセンスに内心でげんなりしながらも切り出した……

マリア「協力というのはお注射でも打つの? それとも何かのお薬でも飲めばいいのかしら?」

ユーリア「それなのだが……手術を伴う可能性がある時間のかかる大がかりな話で、おまけに君の身体にも大きく影響することになる……そして間違いなくバレエダンサーを続けることは不可能になるだろう」

マリア「……ずいぶんと危険な実験のようね? 貴女がそんな実験を行っているのかと考えると心配になるわ」

ユーリア「いや、私は危険でも何でもないんだ……」

マリア「それじゃあ、一体どういう実験なの? それに私でなければならないって……ロケットで宇宙へ行って、そこで『白鳥の湖』のオディールでも踊るのかしら?」

ユーリア「そうじゃないが……実は、私との子供を作って欲しいんだ///」

マリア「えっ?」

ユーリア「その……私の勘違いでないとしたら、君は私に好意を持ってくれているようだし……つまり……///」

マリア「えーと、それって体外受精かなにかの実験っていうこと?」

ユーリア「似ているがそうじゃない。実は……女同士で子供を作る実験なんだ……その、私は君のことが好きだし……実験のためとはいえ、二人の子供ができたらと……///」

マリア「貴女との子供? ……嬉しい、そういうことなら喜んで協力させていただくわ♪」警官に見とがめられないよう、コートの襟を立てて唇にキスをした……

ユーリア「……ありがとう、マリア///」
884 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/07/31(月) 01:57:18.47 ID:0v3FzSsN0
………

提督「そして産まれたのが……」

クズネツォワ「ダー。この私だ……もっとも、私が生まれてすぐに「予算の削減」で実験は中止。それから十年もしないうちにソ連が崩壊して、研究所も実験のレポートも失われてしまったから、今では証明のしようもないがな」肩をすくめてみせた……

提督「そうだったのですか……それで、ご両親は?」

クズネツォワ「今でもモスクワで仲むつまじくやっているよ。マリアの方はサワークリームとマヨネーズ、それにウォッカのせいで太り気味だが……どうだ、寝る前のおとぎ話にはちょうどよかっただろう?」

提督「寝物語どころか、あまりのことにすっかり目が覚めてしまいました」

クズネツォワ「ふふ、まあそうだろうな……吸うか?」

提督「いえ」

クズネツォワ「……では私の方は勝手にやらせてもらうよ」

提督「ええ」

クズネツォワ「済まんな」

提督「……ところで」

クズネツォワ「ん?」

提督「お祖母様の薫陶を受けて軍に入ろうと思ったのは分かりました、でもどうして海軍だったのですか? お祖母様は陸軍配属の政治将校だったのでしょう?」

クズネツォワ「ああ、それもバーブシュカに吹き込まれてだ……」薄い唇に皮肉めいた苦笑いを浮かべて、煙草の煙を吐き出した……

提督「?」

クズネツォワ「さっき話したように私の祖母は大祖国戦争を戦い抜いたが、幼い頃の私をひざに乗せてよく言っていたよ『入るなら海軍に入りなさい』とな……海軍なら歩かされることも、機銃の弾幕に向かって突撃させられることもまずない。行軍に付いていけなくなって置きざりにされたあげく、パルチザンに処刑されることもない」

提督「まぁ、それはそうですが……」

クズネツォワ「それに、海軍こそは世界の覇権を決める力だ……近代以降、戦争に勝った『大国』で海軍が弱小だった国はない」

提督「それは確かですね」

クズネツォワ「ダー。 それに私の祖母は当時の陸軍元帥だの大将だのをよく知っていたからな……ヴォロシーロフにブジョンヌイといった人物たちだが、祖母いわく『馬鹿ばっかりだった』そうだ。 まぁどこにも馬鹿はいるものだが、祖母からすれば海軍は少なくとも陸軍よりマシに見えたのだろう」

提督「なるほど」

クズネツォワ「さて、おしゃべりはこのくらいでいいだろう……時間になったら起こすから、少し寝たらどうだ?」

提督「お気持ちは嬉しいですが、ユーリア……どうせあと数時間でおいとまするつもりですし、街の夜景も見ていたいですから」布団を裸身に巻きつけると、街の景色が見えるように身体を動かした……

クズネツォワ「そうか、なら好きにすればいい」

提督「……ユーリア」冷徹な色をたたえた瞳に、街のクリスマスツリーを彩る電飾や灯りが映って銀河のようにきらめいている……吸い込まれるように顔を近づけ、煙たい味のする唇にそっとキスをした……

クズネツォワ「ん……あれだけして、まだ物足りなかったか?」

提督「いいえ……でもそうやって遠くを眺めているユーリアは、唇を触れあわせておかないとどこか遠くへ行ってしまうような気がして……」

クズネツォワ「ふ、なんともロマンティックなことだな……ローマにいた頃は、そうやってミミ・ステファネッリを口説いていたのだろう?」

提督「!?」情報流出こそなかったとはいえ、ロシアの女スパイに言い寄られた数年前の事件をいきなり持ち出されてびっくりする……

クズネツォワ「驚いたようだな……なに、君と彼女のあれこれは私もよく知っている」

提督「ユーリア、もしかして……?」

クズネツォワ「いいや、その件は私じゃない。ただモスクワのファイルに君の名前があったものでな……なに、心配はいらない」

提督「どこかの情報機関のファイルに自分の名前があるのに、なにが心配いらないんです?」

クズネツォワ「簡単なことだ。君は『女たらしで軍人らしい命令遵守の意識や厳格さにも欠けるが、性格は意外と几帳面であることから有用な情報源たり得ず、かえって工作員の偽装を見抜いたために情報収集活動は失敗した。今後の工作は検挙のリスクが大きいため破棄する』とあったよ……性格診断も含めて、きわめて同感だ」

提督「もう……ちっとも嬉しくありませんよ」

クズネツォワ「そうか? ところでフランチェスカ、君はどうやって彼女の偽装を見破ったのだ?」

提督「ミミのことですか? それなら隠し味にサワークリームを入れるのが東欧風だったので……」

クズネツォワ「ふむ、なるほどな」

提督「……ところで、彼女は無事なんですか?」

クズネツォワ「無事だよ。君に化けの皮を剥がされたおかげでキャリアは棒に振ってしまったが、モスクワで文書読解をはじめとした内勤をしているそうだ」

提督「良かったです」

クズネツォワ「まさか自分のところに送り込まれた工作員の心配をする人間がいるとはな……実に面白い女だよ、君は♪」
885 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/08/08(火) 02:20:21.30 ID:0N3qegzU0
…朝…

提督「送って下さってありがとうございます、ユーリア」

クズネツォワ「ああ。ではな」

提督「はい……カサトノヴァ少佐も」

カサトノヴァ「いえ。それでは」

…黒いメルセデスが走り去るのを見送ると、ホテルに入った提督……エレベーターで泊まっているフロアまで上がると、あくびをしながら部屋のドアをノックする…

フェリーチェ「はい、どなた?」

提督「ミカエラ、私よ……いま戻ったわ」

フェリーチェ「今開けるわ、ちょっと待ってて……」ドアチェーンや鍵を開ける音に続いてドアが開き、フェリーチェが顔を出した……

提督「ただいま、ミカエラ……♪」

フェリーチェ「んっ……お帰りなさい」

提督「ええ。 さ、部屋に入れてくれる?」

フェリーチェ「ええ」

…数分後…

提督「ふー……」

フェリーチェ「さっぱりした? はい、お水」

提督「ありがと」

…昨日着ていたお出かけ用の服を脱いでシャワーを浴び、メイクも落としてさっぱりした気分でベッドに腰かけると、ミネラルウォーターのグラスを受け取った…

フェリーチェ「……結局一晩中帰って来なかったわね」

提督「ええ、クズネツォワ少将が帰してくれなくて……それよりミカエラ、あのイヤリングに仕込んだ盗聴器はいったいなぁに?」威厳のないバスローブ姿ではあるが立ち上がると腰に両手を当て、フェリーチェを問いただした……

フェリーチェ「ああ、あれね……クズネツォワの個人情報を少しでも聞き出せればと思って仕込んだんだけど、やっぱり彼女は一筋縄じゃいかなかったわね」

提督「もう。 貴女は情報部だし、私も多少の事なら協力してあげたっていいとは思っていたけれど……それにしたって何も知らない私をダシにして情報収集なんて人が悪いんじゃない?」

フェリーチェ「あー、事前に教えなかったことは謝るわ。 でも「私をダシにして」に関しては、むしろ「貴女だからこそ」だったのよ」

提督「どういう意味?」

フェリーチェ「本当なら言うわけにはいかないんだけど、貴女も関係者みたいなものだから特別に教えてあげるわ……ま、かけて?」

提督「ええ」

フェリーチェ「情報部としてはね、前々から彼女に目を付けてはいたのよ……冷厳で無慈悲、システマみたいな軍用格闘技に小火器、ヘリや飛行機の操縦も出来て、ロシア語に英語、フランス語もばっちり」

提督「確かにフランス語は上手だったわ」

フェリーチェ「でしょうね……しかしクズネツォワ少将は表向きこそ「海軍少将」とはいいながらも何をしているのかはっきりしないし、あちらの部内で粛正なんかに携わっていたなんていう後ろ暗い噂もあって、こっちとしては彼女の性格や任務に関わる情報なら何でもいいから引き出したかったの」

提督「つまり狼の前に肉の塊をぶら下げてみたわけね」

フェリーチェ「ありていに言えばね。でも、危険性に関しては部内でも十分検討したし考慮されていたのよ。仮にもお互い海軍少将で、プライベートな会話をするだけ……それを盗聴しようとしたからっていちいち相手の首をへし折ったりしていたらかえって大問題になるし、あちらも貴女が「仕込み」であることは分かっていたはずよ……だからこそあのイヤリングに気付いたわけだし」

提督「むぅ……でも、そうは言っても少しくらいは信用して欲しかったわ」

フェリーチェ「それに関しては本当に謝るわ……でも貴女は素直だから、イヤリングの盗聴器を隠しおおせるような腹芸はできないし、ましてや相手はその道のプロだもの、素人芝居で取り繕ったってすぐ見抜いたに違いないの……結局のところ、知らないでいるのが一番良かったのよ」

提督「なるほどね、納得は出来ないけれど理解はしたわ……それにしても、ユーリアってそんなに危険な相手だったの?」会話を思い返してみても色々と常人と違うところはあるが、ユーモアのセンスもあれば人並みに笑うことも出来る彼女が冷酷で無慈悲な人間だとは思いにくい……

フェリーチェ「どうかしらね。危険だって確証が掴めているようならそもそも調べたりはしないし、何より貴女みたいな大事な女(ひと)を送り込むような真似なんてしないわよ」

提督「まぁ、お上手だこと」

フェリーチェ「ま、少なくともクズネツォワ少将に関して言えば「限りなく黒に近いグレイ」ってところね……海軍に所属している形をとって、GRUに籍を置いていないスパイの親玉だとにらんでいるの」

(※GRU…ゲー・エル・ウー。軍の諜報・防諜を担う情報機関。ソ連軍参謀本部情報総局)

提督「GRUって、こっちでいう「AISE」……改編前の「SISMI」みたいな組織でしょう?」

(※SISMI…「Servizio per le Informazioni e la Sicurezza Militare」の略。軍事保安庁。防諜担当のSISDEと対になる情報機関だった)

フェリーチェ「おおかた合ってるわ。まぁ、規模もやり口もAISEよりは数段格上だけれど」

886 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/08/15(火) 01:57:29.95 ID:i4/jssu/0
提督「それにしてもソ連の方がなくなってGRUが残るだなんて、当のロシア人だって思いもしなかったでしょうね」

(※GRUはソ連崩壊後も「ロシア連邦軍参謀本部情報総局」として名前を変え、ほぼ組織を残している)

フェリーチェ「どこでも組織なんていうのはそういうものよ。そしてその血脈を受け継いでいるのがクズネツォワ少将ってわけ」

提督「なるほどね……ところでさっき「後ろ暗い噂」って言っていたけれど、本当にそんな噂があるの?」

フェリーチェ「断定できるようなものは何も……もっとも、ロシアの情報機関は国内での暗殺をいうほどこっそりはやらないけれど」

提督「どうして?」

フェリーチェ「理由は簡単。バレなければそれで結構だけれど、バレたらバレたで「政府に逆らうとこういう目に遭うぞ」って脅しに使えるのよ。むしろわざとバレるようにやる場合さえあるわ」

提督「……」

フェリーチェ「それで、彼女が関わっていると思われるケースはというと……」

提督「なんだか聞かない方が良さそうな気がしてきたわ」

フェリーチェ「ご冗談、彼女とベッドを共にしてきた勇気があるんだから大丈夫よ……最初が軍内部でクーデターを画策したと思われる陸軍高級将校の不審な事故死」

提督「事故死?」

フェリーチェ「ええ。入浴中、バスタブに落ちたドライヤーで感電」

提督「それなら普通にあってもおかしくはなさそうだけれど?」

フェリーチェ「それだけならね。ただ、その高級将校はガラス玉そこのけのつるつる頭なのよ……ドライヤーで胸毛でも乾かしていたっていうのなら話は別だけれど」

提督「なるほど……」

フェリーチェ「それから兵器の横流しをしていたとある補給所長。公的な記録によると「ウォッカの飲み過ぎで吐瀉物を喉に詰まらせ」となっているんだけれど、調べたところによれば、その汚職軍人はアルコールが飲めるほうじゃなかったのよ」

提督「ロシアにもお酒が飲めない人がいるのね」フェリーチェから明かされた情報の多さに戸惑い、とんちんかんな感想を漏らす提督……

フェリーチェ「そりゃあいるわよ……他に関与が疑われているものが二、三件あるけれど確証はなし。ただいずれも軍内部の粛清に限られているわ」

提督「だからってちっとも安全になった気がしないのは私だけ?」

フェリーチェ「大丈夫よ。こういう探り合いはお互いにやっていることだから……なんなら経歴をファックスで送るように頼んだっていいくらいよ」

提督「私には縁のない世界だわ」

フェリーチェ「貴女は素直過ぎるもの……とにかくお疲れさま。刺激的な一晩だったでしょう?」

提督「刺激的すぎてくたびれちゃったわ……少し眠るけれど、支度をする時間になったら起こしてね?」

フェリーチェ「ええ……私は報告を書き上げちゃうから、その間ゆっくり寝てて」

…コンピュータを立ち上げ、カタカタと文書を打ち始めるフェリーチェ……普段は好ましく感じている、個人的にされた話やプライベートに関わることを胸の内にしまっておける提督の義理堅さを厄介に思いながらも、会話の間に忍ばせていた質問や裏を取りたい事項で分かった部分をまとめていく…

提督「すぅ……すぅ……」

フェリーチェ「ふふ、子供みたいなあどけない寝顔をしちゃって……♪」

…まだ曙光がおとずれない窓を眺めやりながら文書を叩き、出来上がった文書はロックと暗号化を行ってUSBメモリに保存し、ラップトップから外すとドッグタグ(認識票)のように首からかけた……それも懇談会に出る前には大使館で本国に送信してもらい、メモリ自体は消去してもらう…

フェリーチェ「……これでよし、と」

………



…数時間後…

フェリーチェ「フランチェスカ、そろそろお目覚めの時間よ」

提督「んんぅ……おはよう、ミカエラ♪」

フェリーチェ「ええ、おはよう……もっとも、もう「おはよう」の時間でもないけど」

提督「懇親会まであとどのくらい?」

フェリーチェ「二時間はあるわ。それだけあれば十分に支度できるでしょ」

提督「ええ。こればっかりは士官学校の教育に感謝しないと♪」

フェリーチェ「言えてるわ」
887 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/08/20(日) 01:38:24.41 ID:I2vJbfKD0
…午前中…

ニッカネン「カンピオーニ少将にフェリーチェ大尉、ご機嫌いかがですか」

提督「ええ、おかげさまで元気です」

フェリーチェ「私もです……会議が無事に終わってよかったですね」

ニッカネン「それもお二人がオブザーバーとして参加くれたおかげです。今日はもう話し合うこともありませんし、細かい手続きは事務方のほうで詰めてくれる手はずになっておりますから、お二人の行きたいところがあればご案内しますよ」

提督「それは楽しみですね……フェリーチェ大尉、貴女は?」

フェリーチェ「はっ、私は……」

クズネツォワ「おや、カンピオーニ少将にフェリーチェ大尉」

提督「あら、クズネツォワ少将」

クズネツォワ「おはよう……いや、もう「こんにちは」だな」

提督「そうですね、この時期のフィンランドは昼間が短いので分からなくなりそうですが」

クズネツォワ「イタリア人の君からすればそうかもしれないな」

提督「ええ……ところで、何か私に用がおありでしょうか?」

クズネツォワ「ダー。君は昨晩、私の部屋に忘れ物をして行っただろう。それを返しに来たのだ……ほら」そういって盗聴器入りの真珠のイヤリングを取り出し、提督の手に載せた……

ニッカネン「カンピオーニ少将? 昨夜はクズネツォワ少将の宿泊しているホテルで一晩お過ごしになったのですか……?」

提督「あー……それは、その……会議の内容について少々質問があるからと……で、夕食をご一緒したのですが遅くなってしまったので、そのまま……///」

ニッカネン「……そうですか、なるほど」頬を紅くしてしどろもどろな返事をする提督に醒めた視線を向けるニッカネン……

クズネツォワ「とにかく、これはお返しする……ああ、それとフェリーチェ大尉」

フェリーチェ「何でしょうか」

クズネツォワ「いや、聞くところによるとこのイヤリングは君からカンピオーニ少将への個人的なプレゼントだそうだな……実に素敵な品物だ」

フェリーチェ「恐縮です」

クズネツォワ「いや、なに……ところで一体どこに行けばこういったものが手に入るのか、非常に興味があるのだが」

フェリーチェ「そうですか? てっきりモスクワにもこうした品物を扱う店は数多くあると思っておりましたが」

クズネツォワ「ふむ、そうだな……とにかく、今後はこういったことがないようにした方がいいだろう」

フェリーチェ「そうですね。アクセサリーを置き忘れたり、うっかり水の中に落としたりしないよう気を付けたほうがいいでしょうね」

クズネツォワ「そうだな……では失礼する」

フェリーチェ「……ふー」

提督「ミカエラ、あれって……」

フェリーチェ「ええ、クギを刺しにきたの……さすがに正面切って顔を合わせると肝が冷えるわ」

ニッカネン「クズネツォワ少将は一筋縄で行くような人物ではないと噂に聞きます。十分ご存じのこととは思いますが……」

フェリーチェ「ええ、ありがとうございます。ですがいつかは誰かが「猫の首に鈴」をつけなければなりませんから」

提督「あれはどちらかと言えば猫と言うよりはアムールトラだけれど……」

フェリーチェ「それでも貴女からすれば「ネコ」なのは同じ……でしょ?」

提督「ノーコメント」

ニッカネン「カンピオーニ少将? まさかとは思いますが……」

提督「……クリスティーナ。制服を着ていない時の私の行動についてはしゃべらない自由もあるはずよね?」

ニッカネン「ええ、もちろん」

提督「ならそういうことで……ね?」

ニッカネン「分かりました……話を戻しますが、市街散策などいかがでしょうか」

提督「ええ、ぜひ……せっかくクリスティーナが誘ってくれたんですもの♪」後半は耳元に口を寄せて、甘い声でささやいた……

ニッカネン「……はい///」

888 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/08/28(月) 02:50:35.30 ID:J4WEynrY0
…軍事博物館…

ニッカネン「……軍人としては光栄ですが、せっかくの自由時間に訪問するのがこのようなお堅い施設で良いのですか?」

提督「ええ。ヘルシンキ旧市街も素敵だけれど、初日にある程度は回ることが出来たから……それに、色々と用意してくれているのでしょう?」

ニッカネン「それはもう……といっても、実銃の試射くらいしか出来ませんが」

提督「それだけ体験できれば充分よ♪」

フェリーチェ「何しろフランチェスカは射撃が趣味だから……普段は大きい音が嫌いなくせにね」

提督「だって、自分が撃っている間は気にならないもの♪ よいしょ……っと」

…制服を汚さないようにと用意してもらったフィンランド軍の野戦服に着替えると、博物館の館長を兼ねている予備役少佐の解説を聞きながら、戦中・戦後のフィンランド軍が使ってきた多種多様な兵器を観察して回る……冬戦争や継続戦争で改造をくり返しながら戦力として役立ててきたそれらの兵器は、提督にとってなじみ深いイタリアの兵器を始めドイツ、スウェーデン、あるいはイギリス、フランス、はたまたポーランドといったものから、ある意味では主力とも言える鹵獲品のソ連製までさまざまで、どれもよくレストアされ、きちんと管理されている…

ニッカネン「これは対戦車砲の牽引などで活躍したソ連製のT−20「コムソモーレツ」小型トラクターです」

提督「可愛らしいトラクターね。マリー……フランス海軍の友人の鎮守府にあった「ルノーUE」やイギリスの「ブレンガン・キャリア(ユニバーサル・キャリア)」、あるいはイタリアのL3「カーロ・ヴェローチェ」を思い出します」

ニッカネン「そうですね。性格としては「カーデン・ロイド」豆戦車から発展した一連のシリーズによく似ています……」と、館長が何やらニッカネンに話しかけた……

ニッカネン「カンピオーニ提督……いま館長が「せっかくですから屋外射撃場までこれに試乗していきませんか?」と申しておりますが」

提督「よろしいのですか? では、お言葉に甘えて♪」

…屋外射撃場…

提督「あいたた……お尻が痛くなっちゃったわ。それにエンジン音も結構大きかったし」

…提督たちは「コムソモーレツ」の後部にある開放型の木製シートに腰かけて屋外射撃場までやって来たが、足回りはごくあっさりした構造なので地面の起伏に合わせてガタンゴトンと派手に揺れ、エンジンの排気がもうもうと立ちこめた……よいしょと脇に降りても、まだ身体の中に振動が残っている気がする…

フェリーチェ「乗ってみたいと言ったのは貴女でしょうが」

提督「まぁね……こういうのもいい経験よね♪」

ニッカネン「あまり乗り心地がいいとは言えなかったと思いますが……大丈夫でしたか」

提督「ええ、大丈夫よ」

ニッカネン「それなら良かったです……では、こちらがカンピオーニ提督に体験していただく銃です」屋外射撃場の台の上には、現用のものからクラシカルなものまで、数種類の軍用銃が並べてある……

提督「こんなにたくさん用意して下さって、ありがとうございます」英語とつたないフィン語のちゃんぽんで、博物館の職員にお礼を言う提督……

館長「いえ、興味を持っていただいて嬉しいですよ……どうぞ一通り試してみて下さい」他のレンジには現役下士官らしい数人が入っていて、集中した様子で爽やかな森の中にある的に向けて射撃練習をしている……提督は耳当てを受け取ると館長から一通りの操作手順を聞いて、一挺を手に取った……

ニッカネン「それは「スオミ・KP31」短機関銃です。ソ連の「バラライカ」ことPPSh−41短機関銃に似ていますが、登場したのは1931年ですから、こちらの方が先ですね」

提督「なるほど……すごくずっしりしていますね」木製ストックにドラムマガジンのついたクラシックな造りの短機関銃は「ベレッタM12S」や「フランキLF57」といった短機関銃どころか、提督が士官学校で扱ったことのある「ベレッタBM59」自動小銃と比べても重く、がっちりしている……手に軍用の防寒ミトンをはめて耳当てを付けると、射撃場の的に向かって銃を構える……

館長「では、いつでもどうぞ」

提督「ええ……撃ちます」

…射撃時にボルトと連動しないよう独立している槓桿(コッキングハンドル)を引いて初弾を送り込むと、引き金を引く……途端に銃口から「バリバリッ……!」と威勢良く9×19ミリの銃弾が撃ち出され、硝煙が立ちこめる……弾倉を含めた銃の自重がたっぷり7キログラム近いこともあって跳ね上がりはほとんどなく、腕が抜けそうなほどの自重を除けば素直によく当たる…

提督「なるほど……重い分だけ跳ね上がりが少ないですね」

ニッカネン「その通りです。それに本来この銃は短機関銃というよりは、スキー部隊が奇襲の際に使う「9ミリ口径の軽機関銃」といった扱いでしたから……とのことです」

提督「そう考えると納得ですね……それから、これは「ヴァルメRk62」ですか」

ニッカネン「ええ、フィンランド軍の現用自動小銃です。操作系はAK……つまりカラシニコフ突撃銃と同じです」

提督「なるほど、海軍士官学校では東側の銃器を扱う事がないので興味深いです」

…ある程度聞きかじりの耳学問でカラシニコフの操作手順は知っていたが、実際に手に取るとフィンランド軍が信頼するその頑強さがよくわかる……その上でヴァルメ62にはフィンランドらしい実用性に優れたアレンジが加わっていて、とても頼もしい一挺に仕上がっている…

館長「どうぞ、ご自由に撃ってみて下さい」

提督「……撃ちます!」ダダッ、ダダッ、ダダッ!

ニッカネン「いかがですか」

提督「そうですね、思っていたよりはマイルドでしたが……何しろ最近撃った銃と言えばショットガンかピストルがせいぜいだったので、少し苦戦しました」弾倉を抜いて薬室の弾をはじき出すと、苦笑いを浮かべて台に置いた……

ニッカネン「少将はそうおっしゃいますが、館長は「大変お上手だ」と言っていますよ」

提督「ふふ、そう言われるとお世辞でも嬉しいですね……せっかくですから残りの銃も試させて下さい♪」すっかり乗り気になっている提督と、熱心に話を聞き感想を述べてくれる提督に嬉しくなって、あれもこれもとコレクションを持ち出してきた館長……

フェリーチェ「やれやれ、これは長くなりそうね……」

ニッカネン「でも、喜んでもらえたようで良かったです」

フェリーチェ「……まるでクリスマスプレゼントをもらった子供みたいにね」
889 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/09/11(月) 01:01:00.15 ID:vcNtmlmO0
…昼食後…

提督「はぁ……美味しい」

ニッカネン「……午前中は射撃を楽しんでもらえたようで何よりです」

提督「ええ、おかげでとても貴重な経験が出来たわ♪」ヘルシンキ市内の老舗レストランで昼食をとり、食後のコーヒーを楽しんでいる提督たち……

フェリーチェ「博物館の館長とずいぶん小火器談義に花を咲かせていたものね……」

提督「だって、なかなかフィンランドの銃を手にする機会なんてないもの……クリスティーナには苦労をかけたわ」

ニッカネン「いえ、そんな……///」

フェリーチェ「こほん……ところでニッカネン少佐」提督がニッカネンに対してテーブル越しに微笑みを向けているのをみて、横合いから声をかけた……

ニッカネン「あぁ……はい、なんでしょう」

フェリーチェ「午後のスケジュールですが、このまま旧市街の散策と言うことでよろしいでしょうか」

ニッカネン「はい、そのつもりです」

フェリーチェ「分かりました」

提督「なぁに? もしかしてまた用事?」

フェリーチェ「いいえ。済ませるべきものはすっかり済ませたわ」

提督「なら心おきなく街歩きが楽しめるわね?」

フェリーチェ「美人を見るとすぐフラフラとどこかに行ってしまう、どこかの誰かさんのお守りさえなければね」

提督「誰の事かしら?」

フェリーチェ「その大きな胸に手を当てて考えてみることね」

提督「……私の胸がどのくらい大きいか、ミカエラはよくご存じだものね♪」フェリーチェの耳元に顔を寄せ、いたずらっぽくささやいた……

フェリーチェ「まったく、相変わらずよく口が回ること……」

…数分後…

ニッカネン「あの、カンピオーニ提督。一つお願いがあるのですが……」コーヒーも飲み終わりかけたころ、ニッカネンが遠慮がちに切り出した……

提督「ええ、どうぞ?」

ニッカネン「申し訳ありません……その、硬貨を貸していただけませんか?」

提督「硬貨ですか? 少し待って下さいね……」制服のポケットに入れてある革の小銭入れを取り出すと、中をかき回した……

提督「はい、ありましたよ」五ユーロ硬貨を取り出すと、包み込むような手つきでニッカネンの手のひらに載せる……

ニッカネン「ありがとうございます」

提督「いつでもどうぞ……でも、どうして硬貨を?」

ニッカネン「えぇと……実はその、これを///」いま提督が渡したばかりの硬貨を添えて、小ぶりな長方形の包みを手渡す……

提督「あら、そんな……わざわざプレゼントを?」

ニッカネン「ええ……せっかく出会えたのですし、もらっていただけると嬉しいです///」

提督「ありがとう、クリスティーナ……開けてもいいかしら?」

ニッカネン「どうぞ、ぜひそうしてください」

提督「何かしら……まぁ♪」

…包み紙をめくってニスを塗った飾り気のない、しかし丁寧に作られた箱を開けると、中には一振りのフィンランド・ナイフが収まっていた……フィン語で「プーッコ」と呼ばれる、つばのないシンプルな片刃のナイフは峰の方に向けて刃が反っている……柄はしっかりした角製で、刃渡りはだいたい十センチあまり……握ると角製の柄が持つ表面のでこぼこが滑り止めの役目を果たしていて、刃と柄のバランスもちょうどいい…

ニッカネン「その、どうでしょうか……///」

提督「ええ、とっても嬉しい……それに、フィンランドでナイフを贈られるのはとっても名誉な事だって聞いたことがあるわ」

ニッカネン「ご存じでしたか」

提督「ええ」

ニッカネン「……その、最初は別のものにしようかとも思ったのですが……私は化粧品や服など詳しくないですし……それならいっそ実用として使えるものの方が良いかと思いまして、それで……柄は私が仕留めたトナカイの角を使っています///」

提督「そんなにしてくれて嬉しいわ、クリスティーナ……それで硬貨が必要だったのね♪」

ニッカネン「ええ、昔からあるしきたりですので」

提督「ありがとう、大事に使わせてもらうわ」
890 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/09/21(木) 01:42:40.22 ID:GpOw/6mp0
…出張最終日…

フェリーチェ「今日で帰国だけど、出張はどうだった?」

提督「そうねぇ。短かったようで長かったような、長かったようで短かったような……とにかく今は鎮守府に戻って、ベッドでゆっくりしたいわ」

フェリーチェ「ふっ……相変わらずね、そういうとこ」

提督「仕方ないじゃない、そういうふうに出来ているのよ」

フェリーチェ「買い物は済んだ? 荷物は詰めた?」

提督「ええ。鎮守府に戻ってすぐ渡したいお土産はトランクに詰め込んで、あとのものは航空便で送るわ」

フェリーチェ「ま、そうなるでしょうね……そろそろ時間よ、行きましょう」

…ヘルシンキ空港・第二ターミナル…

ニッカネン「……それでは、よい空の旅を」

提督「お見送りありがとう、クリスティーナ……クリスマスにはメッセージを送るわ♪」親しみを込めて腰に腕を回し、唇に優しくキスをした……

ニッカネン「はい、楽しみにしています……///」

フェリーチェ「カンピオーニ少将」まるで生ゴミに呼びかけるような口調で声をかける……

提督「あら、何かしら?」

フェリーチェ「そろそろチェックインの時間です」

提督「まぁ……クリスティーナ、せっかく仲良くなれたのに離ればなれになるのは辛いことだけれど、寒い冬もいつか終わって春が来るように、私たちもきっとまた逢えるときがくるわ」

ニッカネン「ええ、そうですね……」

提督「それに別れは辛いけれど、淋しくはないわ……だってクリスティーナ、私には貴女がくれたプーッコ(フィンランドナイフ)があるもの。猟で使うたびに、刃を研ぐたびにきっと貴女の事を思い出すわ」

ニッカネン「そうあってくれれば嬉しいです」

提督「ええ、もちろん。それから、今度は貴女がイタリアへいらっしゃいな……ローマの遺跡や美術館、博物館に美味しいもの……案内したいところがたくさんあるわ♪」

ニッカネン「機会が出来たら、ぜひそうします」

提督「それじゃあ、その時を楽しみにしているわね♪」もう一度ほっそりした身体を抱きしめ、唇に音立てて口づけする提督……

女性グラウンドパーサー「あの、お客様……」ブロンドの髪をしたフィンエアーのグラウンドパーサーが声のかけどころに困りつつ、フェリーチェにそっと呼びかける……

フェリーチェ「ああ、すぐに連れて行きますから……フランチェスカ」

提督「それじゃあまた会いましょうね、クリスティーナ……チャオ♪」最後に少し気取って飛びきりのウィンクと、人差し指と中指での投げキッスを送ってゲートをくぐった……

ニッカネン「……チャオ、フランチェスカ///」

…ローマ・フィウミチーノ空港…

提督「うーん……懐かしのローマ、この空気や喧騒さえも懐かしい気がするわ」

フェリーチェ「たった数日の出張でそれじゃあ困るわね……それととりあえずはここでお別れ。私は情報部に寄って成果の引き渡しと任務報告(デブリーフィング)を済ませなきゃいけないから」

提督「今から?」

フェリーチェ「ええ、そうよ」

提督「もうクリスマスも近いのに?」

フェリーチェ「情報部にはクリスマスも週末もないの」

提督「……私にはついて行けそうにないわ」そう言うと驚いたような表情をつくり、大きく肩をすくめてみせた……

フェリーチェ「ついて来いなんて言った覚えはないわよ……はいこれ、グロッタリーエ空軍基地までの搭乗許可書」

提督「グラツィエ、ミカエラ」

フェリーチェ「いいのよ……それと明後日にはタラントの管区司令部で貴女への聞き取りを行う予定だから、今のうちに想定問答でも考えておく事ね」

提督「考えただけでげんなりするわ……」

フェリーチェ「バカ言わないでよ。本当なら貴女にもこのままスーペルマリーナ(海軍総司令部)までついてきてもらって、情報部の担当者から半日はあれこれ聞かれるはずなんだから……これでもずいぶんと大甘なのよ?」

提督「それもそうよね、まさか官費で北欧旅行を楽しませてくれるはずはないし……貴女が手心を加えてくれたのよね、ありがと」

フェリーチェ「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)……これもしばらく同棲していたよしみと、私からのささやかなクリスマス・プレゼントってことで」

提督「嬉しいわ……それじゃあ、またね♪」

フェリーチェ「ええ」
891 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/09/28(木) 01:55:50.76 ID:fWeSDmOH0
…しばらくして・提督執務室…

デルフィーノ「はい、こちらタラント第六鎮守府です」

提督「チャオ、デルフィーノ♪ 私だけれど、聞こえる?」

デルフィーノ「提督っ♪ もうイタリアですか?」

…提督の留守中、交代で執務室に詰めていた艦娘たち……電話が鳴った時にいたのは現「秘書艦」の片方である中型潜「デルフィーノ」で、イルカの艦名に似つかわしい濃灰色のピッタリとしたセーターと白いスラックスのツートンで、受話器越しに聞こえる提督の甘い声を聞くと喜びのあまり腰を浮かせた…

提督「ええ、いまフィウミチーノから電話をかけてるの。順調に行けば……そうね、1600時ころにも帰れると思うわ」

デルフィーノ「わぁぁ、嬉しいですっ♪ なにか用意しておきましょうか?」

提督「そうねぇ……とりあえずはふかふかのベッドとたっぷりの夕食、それに温かいお風呂かしらね」

デルフィーノ「はい、全部用意をしているところですよ」

提督「グラツィエ、みんな気が利くわね。それじゃあ……」

デルフィーノ「?」

提督「……早く貴女の可愛い顔が見たいわ♪」

デルフィーノ「あぅ、提督……っ///」

提督「ふふっ♪ それじゃあできるだけ早く帰るようにするから……飛行機の時間が近いから、またね?」

デルフィーノ「はい……っ///」ガチャリと受話器を置くと、赤くなった頬に手を当てた……

アッチアイーオ「……電話が鳴ってたみたいだけど、提督から?」ともに秘書艦を務めている中型潜「アッチアイーオ」が、帰りに備えてベッドを整えていた提督寝室から顔を出す……

デルフィーノ「そう、提督から……///」

アッチアイーオ「それで? 思わずあなたが濡らしちゃうような口説き文句以外に何か言ってた?」

デルフィーノ「は、恥ずかしいからやめてよぉ……///」

アッチアイーオ「周知の事実を今さら隠し立てしたって無駄なのよ……いいから「なにが欲しい」とか「なにがしたい」とか、あったでしょ?」

デルフィーノ「それなら「夕食とお風呂、それにベッドの用意をしておいて」って」

アッチアイーオ「ならどれも準備万端ね……いつ頃戻るって?」

デルフィーノ「1600時には戻れると思うって」

アッチアイーオ「そ、ならみんなにもそう言っておかないと……」

…夕方…

提督「……すっかり遅くなっちゃったわね」

…グロッタリーエ空軍基地の駐車スペースに預けておいた「ランチア・フラミニア」を受け取ると、受付の下士官に「早めのクリスマスプレゼントよ」と、ヘルシンキで買ったチョコレートの大袋を渡してきた提督……と、そこまでは良かったが、道中でちょっとした渋滞に巻き込まれてしまい、抜け出して鎮守府への道を飛ばしている間にも、日がどんどん傾いていく…

提督「焦らない焦らない……せっかちは事故のもと」そう自分に言い聞かせながらも足は自然とアクセルを踏みこみ、大柄だが走りのいいランチアはカーブの多い海沿いの道をクリアしていく……

提督「…」ちらりとメーターに目をやり、少し速度を落とした提督……それでもランチアの走りを信頼して、時速80キロは充分に出している……

…夕暮れ時・鎮守府…

提督「はぁ、急いでは来たけれど一時間は遅くなっちゃったわ……」暗証番号を打ち込んで正面ゲートを開け、鎮守府の本棟にゆるゆるとランチアを進ませる……と、本棟の前に集まっている艦娘たちの姿が見えた……

艦娘たち「「お帰りなさい、提督!」」

提督「ただいま、みんな……寒いのに表で待っていてくれたの?」

リットリオ「当たり前じゃないですか♪」

カヴール「皆、提督のお帰りを首を長くして待っておりましたよ……長旅お疲れさまでした」

アッチアイーオ「それにしても、遅れるなら遅れるって連絡しなさいよ……心配したんだから///」

ルチア「ワンワンッ!」

提督「ごめんなさいね、道路で渋滞につかまっちゃって……」

ライモン「……お帰りなさい、提督。 わたし、提督が帰ってくるのを待っていました///」恥ずかしげに提督の頬へ軽いキスをしたライモン……

提督「ええ、ただいま……♪」

892 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/04(水) 01:52:33.01 ID:pkZtqh5L0
マエストラーレ「提督、提督っ♪」

オリアーニ「なんだか久しぶりな感じ……ね、キスして?」

ルビノ「早く提督の熱い唇をちょうだい……っ♪」

提督「もう、焦らなくたって私はいなくなったりしないわよ?」そう言いながらも、挨拶代わりにキスをして回る提督……

カラビニエーリ「こら、そんなにまとわりつかれたら提督が歩きにくいでしょうが」

提督「いいのいいの、むしろ出張から帰ってきただけなのにこんなに歓迎してくれて嬉しいくらい……カラビニエーリもいらっしゃい♪」

カラビニエーリ「そ、それじゃあお言葉に甘えて……///」

リットリオ「提督っ、私もいいですか♪」

提督「もちろん♪」

…年相応の女の子のようにきゃあきゃあと笑いさざめきながら、鎮守府のこまごました出来事や面白かった出来事を一斉に話す艦娘たち……提督は辺りに笑顔を振りまきながら相づちを打っていたが、玄関ホールまで入った所で軽く手を鳴らした…

提督「はいはい、そう一斉に話されたら何が何やら分からなくなっちゃうわ。 それに荷物も降ろしたいし、続きは夕食の後にでもゆっくりと……ね?」

カヴール「そうですね、暖炉の前でゆっくりワインでもいただきながら……ということにいたしましょう♪」

ライモン「では、荷物はわたしが……」

提督「ありがとう、ライモン」

デルフィーノ「お部屋の用意は済ませてありますよ」

提督「助かるわ。 正直、ちょっと疲れちゃったもの。お風呂をいただいてさっぱりしたら夕食にするわ……みんなはもう夕食を済ませたの?」

ドリア「いいえ。みんな「提督が帰ってくるまで待とう」と……保温容器に入れてありますから、まだ熱いままですよ」

提督「そんな、わざわざ待たなくても良かったのに……それじゃあお風呂でほこりを流してくるから、もう少しだけ待っていてちょうだいね?」

…大浴場…

提督「はぁぁ……♪」

…古代ローマ風の豪奢な浴槽に「ちゃぽん……」とつま先から脚を入れ、それから滑り込ませるようにして身体をお湯に沈めた提督……鎮守府の温泉は裏手に湧いている源泉の具合によって泉質が多少変化するが、今日はほのかな緑白色をしていて、誰かにそっと抱きしめられた時のようにじんわりと温かい…

アッチアイーオ「……提督、せっかくだから洗ってあげましょうか?」

…暖かければ暖かいほど柔らかくなり、冷えるとツンとした態度、さらに寒くなるとすっかり心がもろくなってしまうアッチアイーオ(鋼鉄)……今は結い上げた髪にタオルを巻いた姿で提督の横に腰かけ、ガンブルーを思わせる艶やかな黒い瞳をちらちらと提督の裸身に走らせている…

提督「そうねぇ、それじゃあお願いしようかしら……」

アッチアイーオ「分かったわ、それじゃあ私が流してあげる♪」

…浴槽から出てカランの前に座った提督の後ろに回るとご機嫌な様子でシャンプーを取り、提督の髪を洗い始めた……ほっそりした、しかし意外なほど力のある指が心地よく頭皮を撫で、提督の腰まである長い髪をていねいに梳いていく……お湯を含んでずっしりとした髪に甘いシャンプーの香りが絡みつき、アッチアイーオの指が滑っていくたびに心地よい刺激が伝わってくる…

アッチアイーオ「それじゃあ、流すわよ……熱くない?」

提督「いいえ、ちょうどいい具合よ……こんなに気持ち良いと眠くなってきちゃうわね」

アッチアイーオ「だからってここで寝ないでよ?」

提督「ええ、そうするわ」

アッチアイーオ「はい、おしまい……次は身体を洗ってあげる///」

提督「それじゃあ前は出来るから、背中をお願いしようかしら」タオルで頭をまとめ上げると、豊かな胸からほどよくくびれたウエスト、そしてむっちりしたヒップへと続く白く滑らかな背中があらわになる……

アッチアイーオ「え、ええ……///」何度かベッドを共にしたことがあるとはいえ、明るい大浴場でしげしげと眺めるのは少々気恥ずかしい……

提督「アッチアイーオ?」

アッチアイーオ「ううん、何でもないわ……」スポンジでもこもことせっけんを泡立てると、ふわっと花束のような甘い香りが立ちのぼった…肩甲骨から下へ向かって、柔和なラインを持った提督の背中にスポンジを走らせると、まるで愛撫しているような気分になってくる……

提督「あ…そこ、気持ちいい……んっ♪」

アッチアイーオ「そ、そう?」提督が発する甘い声にドキリとして、返事がついうわずってしまう……

提督「……ねえ、アッチアイーオ♪」

アッチアイーオ「な、なに?」

提督「なんだか億劫になっちゃったから、前もお願いできるかしら……♪」鏡越しにアッチアイーオの表情を見ると、提督の金色の瞳にいたずらっぽい…そしてどこか甘くいやらしい光を宿すと、からかうような…あるいは誘うような声を出した……

アッチアイーオ「べ、別にいいけど……?」

提督「ならお願いするわ、戻ってくるときに急いだりして結構汗ばんじゃったから……丹念にお願いね♪」

アッチアイーオ「……っ///」
893 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/09(月) 02:35:18.96 ID:T5P3BkAm0
…しばらくして・食堂…

アラジ「……ずいぶん遅かったね?」

アッチアイーオ「///」

提督「そうね、なにしろ髪が長いものだから♪」

…まだ余韻を残しているようなアッチアイーオが顔を赤くしてそっぽを向いたのに対して、にこやかに微笑みながらさらりと言い逃れをする提督……もちろん察しのいい一部の艦娘たちにそんなありきたりな嘘が通用するわけもないが、恥ずかしげなアッチアイーオのためについた言い訳であることを分かってほしいという含みを持たせた…

ドリア「そうですね、チェザーレも髪を乾かすとなると大騒ぎですし♪」口元を手で押さえてころころと笑いながら、髪にうるさいチェザーレを引き合いに出してからかった……

チェザーレ「む、それは致し方あるまいが……」

ディアナ「さあさあ、提督もお腹を透かしていらっしゃるのですから……まずは夕食にいたしましょう」

リベッチオ「賛成っ♪」

提督「そうね、お風呂に入ってさっぱりしたらお腹が空いてきたわ♪」

…すっかりクリスマスムードの食堂で楽しげにしている艦娘たちを眺めつつ、定位置に腰かけた提督……最初は遠慮していたが周囲にやいのやいの言われて横に座ったライモンが、グラスに白ワインを注いでくれる…

カヴール「では改めて……お帰りなさいませ、提督♪」

提督「ええ♪」

…ディアナは旅の疲れで食欲が出ないだろうと気を利かせてくれていて、テーブルには家庭的なミネストローネ、それと作り置きの野菜マリネや牛の生ハムスライスといった、さっぱり食べられるものが並んでいる…

ディアナ「いかがでございましょう?」

提督「ええ、とっても美味しいわ……♪」すっきりと飲み口のいいシチリアの白ワインをお供に、暖炉の火がかもし出す暖かな雰囲気の中で艦娘たちとゆったり食事をとる……

ライモン「もう少しいかがですか、提督?」

提督「ありがとう。ライモン、ところでワインをもう少しいかが?」

ライモン「ええ、それじゃあ半分ほど……///」

…食後…

提督「ふー、美味しかったわ……ディアナ、お皿洗いを手伝いましょうか?」

ディアナ「お帰りになったばかりの提督にそのようなお願いはいたしません……それより、あの娘たちに土産話でもしてあげて下さいませ」

提督「分かったわ。それじゃあお皿洗いは後にして、ディアナもいらっしゃいな♪」

ディアナ「まぁ……では、よしなに」

…暖炉のそばに引き寄せた椅子や暖炉の前に敷いてある大ぶりの絨毯には艦娘たちと、鎮守府の皆に可愛がられている純白の雑種犬「ルチア」が三々五々と集まり、椅子に座って火を眺めていたり、あるいは直接絨毯に座ったり寝そべったりしている……中の何人かはクリスマスシーズンということでつまみ食い自由にしてある「パンドーロ(黄金のパン)」といった伝統焼き菓子をつまんだり、果物やスパイスの入ったホットワインやキアンティを垂らしたコーヒーで暖まっている…

提督「よしよし♪」ルチアのふんわりと長い毛をブラシでくしけずりつつ、ときおり耳のあたりや尻尾の付け根をかいてあげる提督……

ルチア「ワフッ……♪」

デュイリオ「うふふっ♪ ルチアも提督がお戻りになって、安心したようですね♪」

…おっとりした妙齢のお姉さまである「カイオ・デュイリオ」は自分のペットであるカラスを肩に止まらせつつ揺り椅子に腰かけ、紅に金糸で模様をあしらった豪奢なガウン姿でちびちびとブランデーを舐めている……時折かたわらに置いてある小皿からクルミを取るとカラスに食べさせて、それから頭を撫でたり、羽根を整えてあげたりしている…

カラス「カー」丸い利口そうな目をくるくると動かし、それからデュイリオの頬にちょんと身体を寄せると頬ずりのような動きをした……

デュイリオ「まぁまぁ……それじゃあもう少しだけあげましょうね♪」

カルロ・ミラベロ「それで、提督のお眼鏡にかなうような綺麗なお姉さんはいた?」絨毯に寝そべり頬杖をついて、脚をぱたぱたと動かしている……

提督「もう、別に北欧へ遊びに行ったわけじゃないのよ?」

エウジェニオ「あら、そうなの? でも、出会いの一つや二つはあったでしょう?」

提督「それは、まあ……なかったとは言わないけれど♪」

ガリバルディ「やっぱりね……それで?」

提督「そうねぇ。例えばスウェーデンのラーセンっていう大佐なんかはとっても綺麗な人で……まるでグレタ・ガルボみたいで、惚れ惚れするような美しさだったわ♪」

エウジェニオ「そう。ところで提督が大事そうに部屋へ持って行った贈り物のナイフ……あれの送り主のフィンランド人とはずいぶん仲良くなったみたいだけれど、その話はしないの?」

提督「……どうしてあの贈り物がナイフだって分かったの」

エウジェニオ「ふふ、私の目をごまかそうとしてもそうは行かないわ♪ まず、あの箱の様子だと中身は長細いものでしょうし、かといってペンにしては大きすぎる……これといったロゴやブランド名もないから、送り主の手作りかそれに近い素朴な何か……で、今回の出張先はフィンランドでしょ」

提督「え、ええ……」

エウジェニオ「フィンランドと言えばフィンランド・ナイフ(プーッコ)が有名だし、あの飾り気のなさはスウェーデン人よりは質素倹約を重んじるフィンランド人からのプレゼントにふさわしい……ってところね。どう?」

提督「……エウジェニオにはかなわないわね」
894 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/21(土) 01:16:08.05 ID:+S+lF9aD0
…その晩・提督寝室…

提督「ねぇライモン、一緒に入る?」

…ワインやカクテルといったお酒、それに暖炉の火ですっかり暖まった提督がぽおっと赤みを帯びた顔に柔和な笑みを浮かべつつ、布団を持ち上げすき間を作った…

ライモン「あ、いえ……わたしは自分の部屋で休みますから///」

提督「……いいの?」

ライモン「そんな誘い方……ずるいです///」くるぶしまである純白のネグリジェをするりと脱ぐと、滑るようにベッドへ入ってきた……

提督「ふふ、いらっしゃい♪」

ライモン「提督……///」

提督「ライモン……こうやって名前を呼ぶのも久しぶりな気がするわ♪」

ライモン「わたしも……待ち遠しかったです///」

提督「嬉しい……んっ♪」

ライモン「ん……ふ///」

提督「ちゅっ……んちゅ…ちゅる……っ♪」

ライモン「ん、んぅ……ちゅぱ///」

提督「ぷは……ライモン、貴女の好きなようにしていいのよ?」

ライモン「そ、そうですか……それじゃあ///」

…提督の両肩に手を置き、ずっしりした乳房に顔を埋めるようにしてぎゅっと身体を寄せるライモン……提督の谷間にライモンの暖かい吐息が微風となって吹きつけ、しっとりしたライモンの白い肌が提督の柔肌と吸い付くように重なり合う…

提督「よしよし……♪」

ライモン「あ……っ///」

…明るい、しかしけばけばしくはないライモンの金髪をくしけずるように撫でる提督……ベッドの白いシーツには提督の長い金色がかった髪がウェディングドレスの裾のように広がり、その上で抱き合っている二人はまるでひまわり畑で寝転んでいるように見える…

提督「……来て?」

ライモン「はい……///」ちゅぷ……っ♪

提督「んっ……ふふっ♪ ちゃんと、私の気持ちいいところ……」

ライモン「忘れるわけがありません……だって、フランチェスカ……貴女が教えてくれたんですから///」

提督「そうね。それじゃあ私も、ライモンが教えてくれたところ……♪」くちゅ……っ♪

ライモン「あ、あ、あ……っ///」

提督「ふふ、可愛い声……もっと聞かせて?」ぬりゅっ、くちゅ……り♪

ライモン「ふぁぁ……あっ、ん……あぁ……んっ///」

提督「……ほら、好きにしていいのよ?」

ライモン「だったら……手を止めてください……っ///」

提督「ふふ、仕方ないじゃない。いつも可愛いライモンがそういうトロけた表情をするの……ベッドの中でしか見られない特別な顔で好きなんだもの♪」

ライモン「……も、もうっ///」顔を真っ赤にしたライモンが照れ隠しに怒ったような表情を浮かべ、提督の濡れた花芯に中指と薬指を滑り込ませた……

提督「ひゃぁん…っ♪」

ライモン「貴女は、いつもそうやって優しくて甘い言葉をかけてくれるから……だから……っ///」じゅぷっ、ぐちゅぐちゅ……っ♪

提督「あっ、あっ、あぁぁ……んっ♪」

ライモン「だから、わたしだけじゃなくてみんなが貴女の事を好きになって……ずるい女性(ひと)です……っ///」くにっ、こりっ……ちゅぷ……っ♪

提督「あぁぁぁん……っ♪」長い余韻を残しつつ、甘くねだるような声で絶頂した提督……嬌声をあげながらも片手はライモンの滑らかなほっそりした腰に回され、もう片方の手はライモンのとろりと濡れた秘所にあてがわれ、中にぬるりと滑り込んでいる指が粘っこい水音を響かせながらなめらかに動く……

ライモン「あぁぁんっ……フランチェスカ……ぁ///」

提督「ねえ、ライモン……」太ももを重ね合わせて「ぬちゅっ、くちゅっ……♪」とみだらな水音を響かせながら、耳元でささやいた……

ライモン「なんですか、フランチェスカ……?」

提督「ええ、貴女にちょっと早めの……クリスマスプレゼント♪」ぐりっ、ぷちゅ……っ♪

ライモン「あ、あぁぁぁぁ……っ♪」

提督「……うふふっ、しばらくご無沙汰だったぶん……今夜は好きなだけしていいから、ね?」
895 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/26(木) 01:19:06.59 ID:fR+tjxd80
…翌朝…

デルフィーノ「おはようございます、提督」

提督「おはよう、デルフィーノ。 ちょっとだけ声を落としてもらえるかしら……ね?」ベッドのふくらみを指し示して、パチリとウィンクをした……

デルフィーノ「……あ、はいっ///」

提督「ふふ、ありがと♪」デルフィーノの頬におはようのキスをするとガウンを羽織り、浴室へ行って洗面台で顔を洗い、それからきっちりと歯を磨く……北欧出張の際に現地で買った、キシリトール入りだという歯磨き粉をさっそく使ってみる……

提督「……なるほど、確かにスッキリした感じはあるかもしれないわね」

…歯みがきと洗顔を終えて部屋に戻ると、デルフィーノがせわしなく動きながら朝刊と目覚めのコーヒーを用意してくれていた…

デルフィーノ「朝のコーヒーと新聞です、提督。 お留守の時の分もとってありますから、読みたかったら後で読めますよ」

提督「グラツィエ……ん、いい香り」

デルフィーノ「今日のコーヒーはゴンダールが淹れたエチオピアです」

提督「ゴンダールだものね……美味しいわ」(※ゴンダール…当時の「イタリア領東アフリカ」(エチオピア)にある都市。世界遺産にもなった建築などで知られる)

デルフィーノ「それでは、また朝食の時に……///」

提督「ええ♪」窓を細めに開き、冷たいが清らかな冬の海風を少しだけ部屋に入れながらガウンにくるまり湯気の立つコーヒーを楽しむ提督……朝刊の「レプブリカ」を読んでいると、ライモンが目をこすりながら出てきた……

提督「おはよう、ライモン」

ライモン「おはようございます……朝のコーヒーはわたしが支度をしたかったのですが、寝過ごしてしまいました……」

提督「いいのよ……昨夜聞かせてくれた甘い声だけでお釣りがくるわ♪」コーヒーカップ片手にからかうような口調で言った……

ライモン「も、もう///」

提督「今日は何の予定もないし、荷物の整理が済んだらのんびりさせてもらうわ……それとライモンには、留守中にあった話でも聞かせてもらおうかしら」

ライモン「はい♪」

…朝食後・食堂…

提督「……それじゃあみんなに早めのクリスマスプレゼント♪」

…朝食を済ませてゆったりとした空気が流れている中、提督がトランク一杯買ってきた北欧三カ国のお土産を渡し始めた……当直や哨戒のために出撃している艦娘をのぞいた手すきの娘たちが食堂に集まり、それぞれ提督がふさわしいと思ったものや、本人が欲しがっていたものを受け取っている…

リベッチオ「提督、さっそく開けていい?」

提督「もちろん、貴女のために買ってきたのだから……喜んでもらえるとうれしいわ♪」

リベッチオ「何かなぁ……わぁ、素敵なマフラー♪」包みから出てきたのは長いふんわりしたクリーム色のマフラーで、褐色の肌と良く似合う……

提督「この間、出撃の時に首元が寒いって言っていたから……どう?」

リベッチオ「うん、うんっ♪ とっても暖かいよっ……ありがと♪」

提督「みんなにもそれぞれあるから……はい♪」いくら四姉妹とはいえ、いつも十把一絡げにしたようなお揃いばかりではつまらないだろうと、それぞれの好みに合わせて違う色や柄のマフラーを選んできた提督……

マエストラーレ「とっても嬉しいよ、提督♪」

提督「そう言ってもらえて良かったわ……でも、それならお礼のキスくらい欲しいわね♪」

マエストラーレ「ん、まかせて♪ んちゅ、ちゅる……っ♪」冗談めかした提督に対して、マエストラーレがくっつくように身体を寄せるとつま先立ちをし、提督の両頬を手で押さえると舌を滑り込ませた……夏の香りを残したような褐色の肌が近寄り、あどけなさの残る……しかし熱っぽいキスを浴びせてくる…

提督「んぅぅ……ぷは♪」

マエストラーレ「これで満足?」

提督「ええ♪ それにこれ以上したくても、ここでするわけにはいかないものね?」

リベッチオ「くすくすっ……提督がしたいならここでしたっていいよ?」ぱっちりとした目をくるくると動かしつつ斜め下から見上げるような、挑発的かつませた態度をとってみせる……

提督「ふふっ、リベッチオったら♪」

ライモン「……提督」

提督「あぁ、はいはい。 えぇと、これは……ディアナ」

ディアナ「まぁ、わたくしにもプレゼントを?」

提督「もちろん……貴女にはこれを」小ぶりな箱に入っていたのは三日月をあしらった銀のキーホルダーと、真珠をあしらった銀の髪留め……

ディアナ「あら、こんなに素敵なものを……」

提督「ほら、貴女がいつも使っているフィアット850……あれのキーには何も付いていなかったから、もし良かったらと思って」

ディアナ「とても嬉しいです、提督……♪」
896 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/10/31(火) 01:53:34.78 ID:YYE93CNN0
…しばらくして…

提督「これでみんな配り終わったかしらね」

リットリオ「こんなにいいものをもらえて私は幸せですっ♪」

バリラ「ええ、本当に……お礼に提督の事をぎゅーってしてあげます♪」旧型の潜水艦ゆえに出撃の機会は少ないが、そのぶん鎮守府の潜水隊にとってのよきお母さんでもあるバリラ級のネームシップ「バリラ」が、その母性を存分に発揮して提督を抱きしめる……

提督「あんっ……♪」たわわな胸元に顔を埋めて、ミルクのような甘い匂いを吸い込みながら甘い表情を浮かべている提督……

デュイリオ「あらあら、でしたらわたくしも……♪」むぎゅ……っ♪

ドリア「それなら私もお邪魔させてもらいましょう♪」むにゅっ♪

提督「ふふっ、そんなに胸元に押しつけられたら窒息しちゃうわ……でもきっと、世界で一番幸せな窒息ね♪」三方から囲まれるようにして抱きしめられ、ご満悦の提督……

ライモン「……はぁ」

アッテンドーロ「やれやれ、姉さんったら……確かに提督はなかなかの美人だし性格も優しいけど、私にはあの女たらしのどこがいいのかいまだに分からないわ」

ライモン「仕方ないでしょう……だって一目見てからずっと好きなんだもの///」

アッテンドーロ「それはまたずいぶんと一途なことで……」

提督「んむ、んふぅ……ぷはぁ♪」

…提督もかなり長身な方だったが、それよりもさらに頭ひとつ分は大きい、優雅でおっとりした感じのするドリアやデュイリオといった「妙齢の」ド級戦艦であるお姉さま方、そしてはつらつとして可愛らしい表情と、それに似合わぬほどの高身長でメリハリのある身体をしたリットリオ級の娘たち……そんな艦娘たちに抱きつかれて、提督はまるで新婚かなにかのように抱きついてみたり軽い口づけを交わしたりといちゃついている…

アッテンドーロ「……ふぅ、仕方ないわね」

ライモン「何が……って、きゃっ!?」アッテンドーロに突き飛ばされるようにして、提督たちの間に飛び込んだライモン……

提督「あら、ライモン……ごめんなさいね? 貴女を仲間はずれにしちゃって」

ドリア「ふふっ、ライモンドも遠慮しないで……さあ、お姉さんの胸の中にいらっしゃい♪」

デュイリオ「くすくすっ、ドリアはライモンドの「お姉さん」にしてはずいぶんと艦齢(とし)の差があるようだけれど?」

ドリア「……ふふっ、それを言ったらデュイリオだってそうでしょう?」

デュイリオ「あら、なかなかお上手だこと♪」

提督「もう、こんなに瑞々しい身体なんだからお互いそういうことは言わないの……ね?」パチリとウィンクをすると、二人のたわわな乳房を下から支えるようにして軽く揺すった……

デュイリオ「あんっ……もう提督ったら♪」

ドリア「いたずらなお手々ですね♪」

カヴール「ふふ、ライモンドも遠慮しないでいいのよ?」

ライモン「///」自分の手にカヴールの白くて柔らかい手が重ねられると、そのままずっしりとした乳房に誘導されて真っ赤になる……

提督「ふふっ、ライモンはいつでも初々しくて可愛いわ♪」

エウジェニオ「同感ね……これじゃあ提督がいたずらしたくなっちゃうのも無理ないわ」

ガリバルディ「そうね、実に可愛いわ♪」

…暖炉脇の敷物に座って、提督が「誰でも自由に取っていいように」と置いたお土産のチョコレートをつまみつつ、泡立つスプマンテを傾けていたエウジェニオとガリバルディ……艦隊一の技巧派で相手をとろかすような女たらしであるエウジェニオと、それとは対照的に革命家らしく情熱的で、燃え上がるような女たらしのガリバルディ……その二人が「コンドッティエーリ(傭兵隊長)」型軽巡の先輩、あるいは従姉とでもいえる関係にあるライモンを眺めて舌なめずりをした…

提督「うふふっ、二人もそう思う?」

エウジェニオ「ええ……とっても美味しそう♪」

ガリバルディ「焼け付くような愛の炎を起こしてみたいわ♪」

ライモン「も、もう……みんなしてわたしの事をからかうんですから///」

提督「だってライモンが可愛いんだもの♪」

ガリバルディ「言えてるわ」

エウジェニオ「ええ……ところでジュゼッペ、お一つどうぞ♪」チョコレートを一つくわえると口を近づけた……

ガリバルディ「グラツィエ……ねえエウジェニオ、少し喉が乾かない?」

エウジェニオ「そうね、ちょっと暖炉で火照っているし……♪」

ガリバルディ「だと思ったわ……んくっ♪」スプマンテを口に含むと、しなだれかかるエウジェニオに口移しで飲ませた……

エウジェニオ「ふふ、美味し……♪」

提督「まぁ、ふふっ……二人は本当に絵になるわね」

ライモン「///」
897 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/11/09(木) 01:56:42.81 ID:mtb5KQ5Y0
…翌日…

提督「さてと、昨日はゆっくり休めたのだから……今日は書類を片付けないと」

デルフィーノ「私もお手伝いしますよ、提督」

アッチアイーオ「遠慮しないで任せておきなさい」

カヴール「事務書類の処理は得意ですから、任せて下さいな♪」

ライモン「及ばずながら、わたしもお手伝いします」

提督「みんな、ありがとう……それじゃあ手早く片付けましょうか」

…提督の執務机の上「未決」の箱に積み上がっているのは出張の間にも日々溜まっていたとおぼしき書類の山……内容を読んだ上でファイルするだけのものや、提督の手を借りずとも処理できそうなものは秘書艦のデルフィーノとアッチアイーオを始め、書類仕事の得意な艦娘たちがある程度は片付けてくれていたが、それでもひとつの鎮守府に届く書類となると相当なものがある…

提督「請求書、納品書、領収書……通達に納品書、また領収書……」

カヴール「では納品書の確認は私が」

提督「ええ」

アッチアイーオ「ファイルに綴じるのは私がやるわ」

提督「お願いね」

デルフィーノ「領収書の値段があっているかどうかの計算は私がやりますねっ」

提督「助かるわ、デルフィーノは計算が得意だものね♪」

ライモン「えぇと、それじゃあわたしは……」

提督「ライモンは私の隣で、書いたものに誤りがないか確認してくれる? 重要な役目だからぜひ貴女に頼みたいわ」

ライモン「はい///」

カヴール「まぁまぁ、提督ったら公私混同ですね♪」

提督「司令官特権よ♪ ……ん、この場合はどの予算で執行すればいいのかしら?」

…納品書に書いてある品目や値段があっているかどうか、決済の日付が正しいかどうか、用途別に付いている予算から正しい要目を選んでいるかどうか……ラップトップコンピュータの画面と送られてきた書類を突き合わせながら一つひとつ確かめていく…

提督「えぇと、この場合は諸雑費からの支出で……」

…ピンクや黄色の付せんだらけになっている「支出処理マニュアル」をめくりながら、ときおりこめかみに手を当てて眉をしかめ、カタカタとキーボードに入力しながら、思い出したようにコーヒーカップに手を伸ばす……

…しばらくして…

デュイリオ「……みんなお疲れでしょう、しばらくわたくしが代わりますよ♪」

ペルラ(ペルラ級潜水艦「真珠」)「アッチアイーオ、交代しましょう」

ベリロ(ペルラ級「緑柱石」)「デルフィーノも少し休んできたらどうですか?」

デルフィーノ「え、でも私とアッチアイーオは秘書艦ですし……」

提督「いいのよ、少し休憩していらっしゃい……ライモン、貴女も」

ライモン「いえ、もう少しですから」

提督「相変わらず律儀ね……分かったわ、それじゃあその書類が終わったら三十分は休憩してくること。いいわね?」

ライモン「はい」

提督「よろしい。 えぇと、次の書類は……あー、クリスマス休暇関係ね。これだけはどうにか終わらせないと、私をふくめてみんなの休暇が取れなくなっちゃうわ……」

…提督は何本か持っている万年筆のうち、鎮守府に「栄転」することになった際に仲良しの数人がお金を出し合ってくれたプレゼントの万年筆を選んで紙面に滑らせた……軸は海のような濃い青色で、要所を締める金の部品がしゃれている万年筆は、提督の名前が筆記体で彫り込んである……見た目だけでなく書き味も極上の万年筆は持っているだけで文豪や名士の仲間入りした気分になれるので、なんとなく書類も手際よく片付けられる気がする…

提督「えーと……休暇開始予定日…期間……非常時連絡先……海外旅行をする場合は目的地……」

…海軍士官である提督、それに艦娘たちは休暇の際に海外旅行をしたい場合は軍に申請しなければならない……むろん、非友好国や危険がありそうな国への旅行は認められず、安全と思われる国であってもかなり細かいチェックをうける……艦娘たちの何人かはフランスやスペイン、あるいはアドリア海を挟んで向かい側のアルバニアといった国に旅行したいと申請していたので、まずは提督がサインを入れ、その上で管区司令部へと回す…

提督「ふー、これで休暇の申請書類は終わったわね。あとは期日までに郵送するか直接提出すれば完了……と」

ペルラ「お疲れさまです、提督」

提督「ふふ、自分の休暇がフイにならないために頑張っただけよ♪」ペルラの真珠色をした艶やかな瞳、それに珠を転がすような美しい声で言われるとくすぐったい気分になり、照れ隠しに冗談めかした……

デュイリオ「ふふっ、いずれにせよあともう少しですから……頑張りましょう、ね?」

提督「ええ♪」
898 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/11/18(土) 02:13:59.28 ID:gqvE9Z1O0
…翌朝…

ライモン「おはようございます、提督……今日はタラントの管区司令部までお出かけだそうですね」

提督「ええ。北欧出張の時に話をした例のロシア軍将官について情報部の聞き取り調査があるの。ついでにみんなのクリスマス休暇の申請書を提出してくるわ」きちんと冬用の制服に身を包み、片手には金属のアタッシュケースをぶら下げている……

ライモン「気を付けて行ってきて下さいね?」

提督「ありがとう……どう、一緒に行く?」ランチアのキーをつまんでゆらゆらさせつつ尋ねた……

ライモン「あの、提督と一緒に行きたいのはやまやまですが、今日は午後直が入っていますから」

提督「そうだったわね……ライモンの当直時間を忘れちゃうなんてうっかりしていたわ。時差ボケかしら?」

ライモン「そんな、でも誘ってくれて嬉しかったです///」

提督「そう言ってもらえて光栄だわ……それじゃあ他の誰かを誘うことにするけれど、何か欲しいものはある? タラントで買えるものなら買ってくるわよ?」

ライモン「いいえ、大丈夫です」

提督「そう? 遠慮しないでもっとねだってくれたっていいのに……まぁいいわ、留守のあいだは鎮守府をドリアに任せるけれど、何かあったらかまわず連絡を頂戴ね?」

ライモン「はい」

提督「いい返事ね、それじゃあ行ってきます♪」

ライモン「はい、行ってらっしゃい」

…玄関…

提督「さてと、用意はいい?」

エウジェニオ「ええ」

サイント・ボン「本官の準備は出来ておりますよ」

ニコロソ・ダ・レッコ(ニコ)「いつでもいいよ、提督」

…鎮守府に配備されている一台ずつの三トン軍用トラックとベスパ、それにリットリオのフィアット500(チンクエチェント)とディアナのフィアット850だけでは「近くの町」ならともかく、全員が好きな時にタラントへ出かけるという訳にはいかないので、提督は公務でタラントへ出かけるようなときは、できるだけ艦娘たちを連れて行くようにしていた…

提督「よろしい、それじゃあ行きましょう♪」

…地方道路…

エウジェニオ「……いい風ね、少し冷たいけれど」

提督「ええ」

…提督は車内にヒーターをいれつつも、張り詰めたような冬の冷たい風を感じられるよう少しだけ窓を開けて、「ランチア・フラミニア」を走らせていく……助手席にはエウジェニオ、後部座席には大型潜の「アミラーリオ・ディ・サイント・ボン」と駆逐艦の「ニコロソ・ダ・レッコ」が座っている…

サイント・ボン「では、タラントに着きましたら本官たちは市街で買い物などしておりますので」

提督「それがいいわ。お昼になったら管区司令部の前で合流しましょう……もし聴取が長引いたりするようだったら連絡するわね」

エウジェニオ「ふふ……♪」

提督「何かおかしいかしら?」

エウジェニオ「ええ、それはもう……だってこともあろうにロシア軍の美人将官と寝たって言うんだもの、貴女の女好きも大したものね」

提督「だって……///」

エウジェニオ「なぁに?」そう言いながら提督の太ももをさりげなく撫で回しはじめた……

提督「エウジェニオ、運転中は止めてちょうだい……いくら美女と一緒でも、まだ崖下にダイブする気は無いわ」

エウジェニオ「ふ、冗談でしょう? 貴女なら目をつぶっていても、キスしながらでも運転できるでしょうに」

提督「ごあいにくさま、私はフェラーリでもなければヌヴォラーリでもないの。それにせっかくのキスを「ながら」でしたくはないもの」

エウジェニオ「ふふ、そういう真面目なところが好きなのよ……いいわ、きちんと座っていてあげる♪」

…エウジェニオは無造作に散らしたようなセミロングの髪型で、黒いレザージャケットにヴィヴィッドな色味の紅のタートルネックセーター、きゅっと引き締まったヒップから伸びる長い脚は黒の乗馬ズボンとひざ丈まである黒革のヒールつきブーツで固め、片耳にだけ付けたイヤリング……と、どう見てもビアンの格好いいお姉さんといった服装に身を固めている…

提督「グラツィエ。帰ったらごほうびをあげるわ」

エウジェニオ「期待しているわよ♪」

提督「ええ。って、そんなことを言っていたらもうここまで……相変わらずにぎやかね」タラント市街が近づくと、艦娘の「具現化」させた往時の海軍艦艇が出撃していき、漁船や沿岸航路の貨物船、それに定期航路の客船といった民間の船舶が行き交い、上空ではイオニア海を哨戒するカントZ506水偵やフィアットCR42戦闘機がエンジン音も高らかに飛んでいく…

ニコ「それに市街もすっかりクリスマスだ」

提督「そうね、みんなへのお土産にクリスマス菓子でも買って帰りましょうか」

サイント・ボン「それはよろしいですね」
899 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/11/23(木) 01:09:07.13 ID:Gz1NGPh50
…管区司令部…

提督「おはよう」

受付の下士官「おはようございます、少将……数日前もいらっしゃったのに、また呼び出しとは大変ですね」

提督「本当にね……そうそう、ちょっと早いけれどクリスマスプレゼントをどうぞ。当直のみんなに分けてあげて?」フィンランドの免税店で仕入れてきたチョコレートやキャンディが詰め合わせになった大袋を受付の伍長に渡す……

受付「わざわざありがとうございます」

提督「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)……よいクリスマスをね」

受付「は、ありがとうございます。少将も良いクリスマスを」

提督「グラツィエ♪」

…事務方…

提督「おはよう、大尉……申請書類の提出に来たのだけれど、今いいかしら?」

事務方の士官「おはようございます、カンピオーニ少将。申請書ですね、どうぞ」

提督「ありがとう。それじゃあ私と鎮守府の娘たちの分のクリスマス休暇申請書、手続きをお願いするわ」厚手の本くらいはありそうな申請書類の束をカウンターにどさりと載せる……

士官「確かに受け取りました、処理しておきます」

提督「助かるわ。それと、良かったらこれ。クリスマスも近いし……ね?」茶目っ気のある表情を浮かべつつ、またまた菓子の大袋を手渡した……

士官「は、いつもありがとうございます……」後ろでデスクを並べ、書類の処理に当たっている数人からもさりげない感謝のジェスチャーや小さな会釈が向けられる……

提督「ええ。さ、法務や内務のお堅い士官に見つかってガミガミ言われないうちに……♪」

士官「分かっております。少将も良いクリスマスを♪」

提督「ええ♪」

…会議室…

提督「さて、いよいよ次が本命ね……」別に悪さをしたわけではないが、情報部によるデブリーフィング(任務報告)とあって、ひとつ深呼吸して身構える……

案内の下士官「……カンピオーニ少将がおいでになりました」

フェリーチェ「どうぞ……あぁ、少将。よく来てくださいました」よそよそしい態度を演技しているのはフェリーチェで、すでに卓上には提督のレポートとラップトップコンピュータ、メモ帳に録音用のボイスレコーダーなどが並べられている……

提督「ええ……」

フェリーチェ「ご苦労様でした、二等兵曹。下がってよろしい」

下士官「は、失礼します」

フェリーチェ「……さてと、それじゃあ貴女の女遊びについてじっくり問いただすとしましょうか♪」

提督「もう「情報部の聞き取り調査」だなんて言うから、てっきり無表情な士官が二、三人で絞り上げてくるのかとばかり思っていたわ♪」

フェリーチェ「そうしたいのは山々だったけれどね「私が一番うまく情報を引き出せますから」って上にかけ合ったのよ……たまたま任務の都合でイオニア海管区に来る用事もあったし……ね♪」

提督「嬉しいけれど、貴女が聞き出すのだから隠し事は出来そうにないわね……」

フェリーチェ「よく分かってるわね……録音するタイミングになったらそう言うから、とりあえずはクズネツォワ少将について知っていることと分かったことをあらいざらい話してもらうわよ」

提督「ええ……」

フェリーチェ「録音開始……聴取担当者、海軍情報部、ミカエラ・フェリーチェ大尉。対象者、フランチェスカ・カンピオーニ少将……」レコーダーに音声を吹き込むと、テーブルの中央に置いた……

フェリーチェ「では少将にお尋ねします。フィンランドにおける深海棲艦対策の会議において面識を持った、ロシア連邦海軍のユーリア・クズネツォワ少将についてですが、貴官は会議の場、またそれに関連する場所においてどのような会話をなさいましたか?」

提督「はい。基本はごくありふれた会話でしたが、北欧における深海棲艦対策に関してロシア海軍がどう行動するつもりか、出来る限り聞き出そうとしました」

フェリーチェ「なるほど……それで、クズネツォワ少将から何らかの回答を引き出せましたか?」

提督「いいえ。書面によりこちら側に明示された方針以上のものはなにも」

フェリーチェ「口は固かったということですか?」

提督「ええ、相当に」

フェリーチェ「なるほど……」そこでレコーダーのスイッチを「一時停止」にいれた……

フェリーチェ「……なら、ベッドの上では?」

提督「けほっ……!」

フェリーチェ「お願いよ、フランチェスカ。私が貴女にボンドガールの真似事みたいな事までさせて知りたかったことなのよ……あの無表情な「インペラトリーツァ(女帝)」のことならなんでもいいわ、身体に刺青や傷があるとか、えっちするときの好みのやり方とか……録音はしないし、貴女から仕入れた情報だって事も上には伝えない……ミカエラ・フェリーチェとして約束するわ」
900 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/11/30(木) 01:58:49.86 ID:tFe17jz30
提督「……誰にも口外しない?」

フェリーチェ「ええ、情報源は秘匿する」

提督「そう……ミカエラ、貴女の事を信じるわ」

フェリーチェ「ありがとう、フランチェスカ」

提督「いまさらお礼なんていらないわ……それで、どんなことを聞きたいの?」

フェリーチェ「とにかくクズネツォワについて気付いたこと、あるいは彼女が話したこと……些細な事でもちょっとした癖や習慣のことでも構わないわ」

提督「そうね、それじゃあ……クズネツォワ少将だけれど、とにかく煙草をよく吸うわ」

フェリーチェ「銘柄は?」

提督「そう言われても私は吸わないし、ましてやロシアの煙草だったから銘柄までは……でも確か、箱にソリの絵が描いてあったわ」

フェリーチェ「それなら『トロイカ』ね……」

提督「それから吸うときは左手の親指と人差し指でつまむように煙草を持っていたわ。なんでも「そう教え込まれた」みたいなことを自嘲するように言っていたけれど……」

フェリーチェ「なるほど、彼女ならそうでしょうね」

提督「それから、ライターにこだわりがあるようには見えなかったわ。ホテルのブックマッチを使っていたりもしたから」

フェリーチェ「ふっ……さすがの観察眼ね、フランチェスカ。身の回りのものにこだわりがないというのはこっちの調査でも推測されていたけれど、これで改めて裏付けが取れたわ」

提督「そう、良かったわ」

フェリーチェ「ええ。 ほかに特徴的な言動は?」

提督「えぇ…と、まずは一緒に夕食を食べて……」当日の経緯を順繰りに思い出していく提督……

フェリーチェ「お酒は?」

提督「ウォッカやシャンパンを飲んではいたわ。でも顔色は全然変わらないし、口調もまるでしらふのまま」

フェリーチェ「相当に強いみたいだから無理もないわ……続けて?」

提督「それから彼女の泊まっているホテルまで車に乗せてもらって……そうそう、副官のカサトノヴァ少佐はピストルを隠していたわ」

フェリーチェ「マカロフ?」

提督「たぶん……腰のバックサイド・ホルスターに入っているのがちらっと見えただけだから断言はできないけれど」

フェリーチェ「いいえ、十分な情報よ……それで?」

提督「えぇと、それから……」

………



提督「ん……///」

クズネツォワ「……どうだ?」

提督「あっ、あふ……っ///」

クズネツォワ「柔らかくて初々しい……まるでマツユキソウのようだな」

提督「あっ、ふ……あんっ……「森は生きている」ですか」

(※マツユキソウ…待雪草。英名スノードロップ。春を告げる白い可憐な花で、ロシア文学「森は生きている」で、わがままなお姫様が真冬にも関わらずマツユキソウを見たいと言ったことから、主人公の少女が意地悪な継母にマツユキソウを探してこいと真冬の森へと追いやられる)

クズネツォワ「マルシャークを読んだことがあるのか」

提督「ええ……」

…提督がまだ余韻に浸っているなか、クズネツォワはてきぱきと着替えていく……と、スラックスのベルトにホルスターを通し、無骨さと優雅さの同居したような「トカレフTT−33」ピストルを小机から出して突っ込んだ……

提督「ユーリア、そのピストルは……」

クズネツォワ「トカレフだが」

提督「いえ、トカレフなのは分かりますが……いつも手元に?」

クズネツォワ「ダー。祖母がくれたものなのだが、他のものはともかく、これだけは手放したことがない」

提督「……大事なものなのですね」

クズネツォワ「お守りの十字架や幸運の「うさぎの脚」よりは役に立つからな」そっけない言い方の中に、少しだけ冗談めかした声が混じった……

………
901 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/07(木) 02:15:02.29 ID:v0j/RYhV0
フェリーチェ「……お祖母さんの持っていたトカレフだなんて、ああ見えてセンチメンタルなところがあるのね」

提督「ええ。もちろん部品は取り替えたりしているとは言っていたけれど」

フェリーチェ「お飾りの銃を持っているようなタイプではないものね」

提督「そう思うわ。それと二人きりになると…たいていは皮肉なブラックユーモアだったけれど…意外と冗談も言うし、少なくとも無感情なロボットみたいではなかったわ」

フェリーチェ「なるほどね……続けて?」メモすら取らずに、手を組んで話を聞いている……

提督「それから……ねぇ、本当に言わないとダメなの?」

フェリーチェ「言える範囲でいいわよ……例えば傷だとか刺青はあった?」

提督「いいえ、少なくとも見た限りでは綺麗だったわ」

フェリーチェ「ふぅん?」

提督「ミカエラも気になった? 私も「ロシアの将校」っていうと刺青を入れているようなイメージがあったから聞いてみたの」

フェリーチェ「それで?」

提督「ええ、クズネツォワ少将が言うにはね……」

………

提督「……ユーリアの肌は綺麗ですね」

クズネツォワ「そうか?」

提督「ええ……きめ細やかで、透き通るように白くて……」

…互いに身体を重ね合ったあと、クズネツォワの裸身を優しく愛撫する提督……乳液や保湿クリームといった肌の手入れとはまるで縁がないようだが、鞭のようなしなやかな筋肉を包む肌はあくまで白く、提督と交わした愛の交歓のおかげでぽーっと赤みが差している…

クズネツォワ「ふむ、そうか……」

提督「はい。 それに、刺青は入れていないのですね」

クズネツォワ「刺青?」

提督「その……勝手なイメージですが、ロシアの将校というと腕やお腹にすごい刺青を彫っているものとばかり……」

クズネツォワ「映画などに出てくる兵隊崩れのマフィアが入れているような、おどろおどろしい髑髏だのコウモリが羽を広げているようなやつか?」

提督「えぇ、まぁ……お恥ずかしながら、その程度のイメージしかなくって///」

クズネツォワ「ふ……まあ分からんでもない、空挺の連中や何かはよくドッグタグ(認識票)代わりに刺青を入れたりするし、ロシアンマフィアはハッタリのためだったり、組の構成員であることの証明で刺青を入れていたりするからな」

提督「ええ、そういうイメージです……」

クズネツォワ「まあ知らん人間からしたらそうだろう……だがな」

提督「?」

クズネツォワ「スパイにしろなんにしろ「本物」はそんなもの入れないのだ……特徴的な刺青なんていうのは、それだけで身元を割られる元だからな」

提督「なるほど……」

クズネツォワ「ああ。期待を裏切って申し訳ないがな、西側の映画や何かでみる「刺青を入れたイワンのスパイ」なんていうのは絵空事だよ」

提督「そうなのですね……では、私がユーリアの真っ白なキャンバスに絵を描くことにします♪」そう言いながら鎖骨に吸い付くようなキスをした……

………

提督「……と、そんな風に言っていたわ」

フェリーチェ「やっぱりね……おかげでいい情報がとれたわ」

提督「約束は覚えているわよね?」

フェリーチェ「当然。貴女から聞いたなんておくびにも出さないわ……あとはもう一度レコーダーを回してありきたりな質問をするから、それなりに答えてくれればいいわ。お疲れさま」

提督「どういたしまして」

…再びICレコーダーを回していくつかの質問をぶつけると、事務的な口調で「以上で聴取を終わります」と締めくくった……それからポットのコーヒーを注ぐと、しばし軍で親しい間柄にある知り合いたちの近況を話題にして話の花を咲かせた…

フェリーチェ「いけない、もうこんな時間……悪いけど、ローマに戻って報告書を上げないといけないの。それじゃあ、良いクリスマスをね?」

提督「相変わらず忙しいのね。 ミカエラもいいクリスマスを♪」

フェリーチェ「ええ、ありがと……それじゃあね」そういって提督の唇に「ちゅっ♪」と音を立てて唇を重ねた……

提督「ええ♪」
902 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/14(木) 02:12:50.55 ID:MasWu44x0
…数日後…

提督「さてと、今日の書類はこれでおしまい……と♪」

ドリア「ずいぶんとご機嫌ですね?」

提督「ええ。みんなと過ごすのも楽しいけれど、やっぱりクリスマス休暇があと数日で始まると思うとね……ドリアはクリスマス休暇が嬉しくない?」

ドリア「いいえ、私のようなおばあちゃんでもクリスマス休暇は嬉しいですよ……ですが、休暇中はこうして提督と過ごすことができないと思うと、一抹の寂しさを覚えます」

提督「あら、そんな風に思っていてくれていたなんて光栄だわ///」満面の笑みを浮かべて「ちゅっ♪」と音高く頬にキスをした……

ドリア「まあ、提督ったら♪」

提督「ふふっ、遠慮せずにうんと甘えていいのよ……さ、いらっしゃい♪」両腕を広げて小首を傾げた……

ドリア「……それなら、少しだけ///」

提督「ええ♪」

…執務机の椅子で向かい合うようにして抱き合った提督とドリア……提督は胸元にドリアの顔を埋めさせ「地中海の黒い狼」などと言われたアンドレア・ドリアをほうふつとさせる艶やかな黒髪に顔を押しつけ、深く息を吸った……花の香りのシャンプーと少し残った重油と海の匂い、それにドリア本人の頭皮からかすかに立ちのぼる、ほのかに甘いような匂いが混じり合う……

ドリア「……提督は甘くていい匂いがしますね♪」

提督「お世辞を言っても休暇は増えないわよ?」

ドリア「お世辞ではないですよ……それと、こんなに暖かくて柔らかい♪」ふにっ♪

提督「くすくすっ……もう、ドリアったら意外とおてんばなのね♪」

…口ではそう言いながらも、提督は自分の太ももにまたがるようにして座っているドリアのスカートをずり上げた……黒いストッキングに包まれたむっちりした太ももがあらわになり、提督の太ももと触れあった…

ドリア「あん……っ♪」くちゅ……っ♪

提督「ふふ、ドリアったら積極的ね……そんなにしたかった?」

ドリア「……もう、そんなことを言うのは野暮というものですよ♪」ふんわりしたカシミアのセーターをたくし上げると、黒い花柄のブラに支えられたずっしりとした乳房へと提督の手をいざなった……

提督「なら、失言のお詫びをしないと……ね♪」提督も制服の上着を脱ぐと執務机の上に放りだし、ブラウスの胸元を大きく開いた……ドリアとさして遜色がないほどたわわな自身の胸へと彼女の手を誘導し、同時に片方の手を背中に回すとブラのホックを外そうとした……

提督「ん……くっ……」

ドリア「ふふふっ、それではまるでヨガの姿勢ですね……私が外してあげます♪」象牙色の地に、淡いパステルカラーの桃色や黄色の花々が咲いている提督のブラをパチリと外すと、丁寧に執務机の上に置いた……

提督「ドリア……触って♪」

ドリア「あら、提督は触られるだけで良いのですか?」ころころと笑いながら、わざといじわるな事を言うドリア……

提督「もう……どうすればいいか分かっているくせに///」

ドリア「うふふっ、そうですね……それでは♪」もにゅ…っ♪

提督「あっ、ん……♪」お返しとばかり、ドリアの豊満な胸に指を埋めてゆったりとこね回す……

ドリア「んふふっ、くすぐったいです……ところで、こちらが少し手持ち無沙汰ですね♪」

提督「そう、ね……あぁん……っ♪」椅子から転げ落ちそうになりながら互いのランジェリーをずり下ろし、暖かな下腹部を触れあわせた……

ドリア「まぁまぁ……提督ったらこんなに熱くして、おまけにすっかりとろとろです♪」ぐちゅっ、にちゅ…♪

提督「あら、それを言うならドリアだってこんな風にいやらしい音をさせているじゃない♪」じゅぷっ、くちゅ……っ♪

ドリア「では引き分けということで……ん、あっ♪」

提督「ええ……あっ、あふっ♪」

………



ドリア「……それにしても愛を交わしている最中に見つかってしまったときは気まずかったですね♪」

提督「よく言うわ、デルフィーノが入って来てからも平気で私のことをイかせ続けたくせに♪」

ドリア「まあ。それを言うなら提督だって、ちっとも嫌がらなかったではありませんか」

提督「だって……デルフィーノに見られながらドリアに中をかき回されるの、腰が抜けるほど気持ち良かったんだもの♪」

ドリア「それは私もです、おかげですっかり下着を濡らしてしまいました♪」

提督「それじゃあクリスマス休暇が終わったら、また……ね?」

ドリア「ふふ、約束ですよ?」

提督「ええ♪」
903 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/17(日) 01:36:15.14 ID:c8l2I2/00
…鎮守府・正門…

提督「それじゃあ気を付けて行ってらっしゃい……良いクリスマスを♪」

ウエビ・セベリ「では、行ってきマス」

ゴンダール「エリトリア土産に何か珍しいものでも買ってきますネ♪」

…クリスマス休暇の申請に許可が届き、トランクやスーツケースを手に次々と休暇に入る艦娘たち……提督自身の休暇もあと数日という中で、楽しみを待ちきれない様子の艦娘たちに手を振り、頬にキスをして見送っている……深海棲艦の蠢動(しゅんどう)具合や社会情勢のこともあって、なかなか許可の下りなかったキレナイカ(リビア)やAOI組はようやく降りた許可に安堵して、提督がタラントまでの便として管区司令部に手配してもらったミニバスに乗り込んでいく…

(※AOI…当時「イタリア領東アフリカ(Africa Orientale Italiana)」と呼ばれた地域。現在のエチオピアやエリトリア)

提督「そういえばペルラもきょう発つのね」

ペルラ「はい、私はマダガスカルのあたりまで行ってきます」

…淡い真珠色の涼やかな目元をした中型潜「ペルラ(真珠)」は、すっきりしたシルエットをしたパールホワイトのトレンチコートに、淡いフラミンゴのようなピンク色が控え目にフェミニンな雰囲気を主張しているひざ丈のフレアースカート、それに提督の母親であるクラウディアが送ってくれた衣類の山から選んだ象牙色のショートブーツと白ストッキング、首元には粒選りのピンクパールのネックレスをつけている…

提督「貴女はアトランティスを探しに行くのよね♪」

ペルラ「はい」

(※ペルラ…当時インド洋を中心にマダガスカル沖などで暴れ回っていたドイツの仮装巡洋艦「アトランティス」への補給と捕虜の受け取りのため会同したことがある)

下士官「さぁさぁお嬢さん方、そろそろバスを出しますよ! パスポートにヴィザ、手荷物にお財布はちゃんとお持ちですか!」ミニバスでの送迎を請け負ってくれたのはお堅い管区司令部には珍しい陽気な下士官で、観光ガイドの物真似をして艦娘たちを笑わせている……

アシアンギ「忘れ物はないデス」

提督「それじゃあ行ってらっしゃい♪ …では、うちの娘たちをよろしくお願いするわ、三等兵曹。あなたも良いクリスマスを」

下士官「はい、お任せください」

…数日後・朝…

提督「いよいよ私も今日から休暇ね……クリスマス中はよろしくお願いするわ」いよいよ休暇初日の朝を迎え、いそいそと支度を済ませる提督……

チェザーレ「うむ、留守中はこのチェザーレに任せておけ」

提督「ええ。艦隊総旗艦の役は名将チェザーレ、貴女にこそふさわしいわ」

ドリア「あら、実際に旗艦だった私ではなく?」

デュイリオ「そうですよ、わたくしだって艦隊総旗艦だったのですから……」

提督「貴女たちも、よ……良くチェザーレを支えてあげてね?」

カヴール「いささか髪にうるさい妹ではありますけれど……ね♪」

チェザーレ「むむ、髪のことは関係あるまい」

ライモン「……提督、くれぐれもお気をつけて」

提督「ありがとう……貴女もね、ライモン」

アッテンドーロ「姉さんには私がいるから平気よ。 提督こそ、美人だからって知らないお姉さんにノコノコついて行っちゃ駄目よ?」

提督「私だって子供じゃないんだから知らない美人について行くことなんてしないわ……ついて行くのは知り合ってからよ♪」提督の冗談に艦娘たちの笑いが起きる……

ドリア「皆さん楽しそうですが、くれぐれも気を付けて行ってらっしゃいね」

提督「ええ、ドリアたちもゆっくり骨休めをしてちょうだい」

ドリア「はい、留守はお任せを」

提督「任せたわ……それにしても本当にいいの?」

ドリア「ええ、構いませんよ。夏はうんと旅行をさせていただきましたし、クリスマスはここでのんびり過ごす方が気が楽です……リットリオたちが戻ってきたら、入れ替わりで小旅行にでも行ってくることにしますから♪」

提督「それじゃあクリスマスプレゼントでも送ってあげるわ、一番欲しいものをクリスマスカードに書いて送ってちょうだい?」

ドリア「ふふふ……一番欲しいものを書いて送ったら、提督はとんぼ返りすることになってしまいます♪」

提督「あら、嬉しいお言葉……それならいっそ絨毯にくるまれて来た方がいいかしら?」

ドリア「それならジュリオが喜ぶでしょうね」

(※絨毯にくるまれて……クレオパトラ7世の伝説。秘密裏にカエサルに会うべく、クレオパトラが贈り物の絨毯に隠れて来たという)

提督「リットリオ、貴女も気を付けるのよ? 特にこの時期のオートストラーダ(高速道路)は飛ばしている車も多いから……」

リットリオ「大丈夫ですよっ、私だってちゃんと運転はできますから♪」艶のある真っ赤な「フィアット500(二代)」に妹の「ヴィットリオ・ヴェネト」「ローマ」とぎゅう詰めになって乗り込む……手を振りながら正門を出て、ぎくしゃくとしたギアチェンジをしながら走って行った……

提督「やれやれね……♪」
904 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/24(日) 02:11:39.88 ID:aRz/cVAV0
提督「ディアナにも苦労をかけるわね」

ディアナ「いいえ、年が明けたら自動車旅行にでも行くつもりですので……それにせっかくのクリスマスですから、大いに腕を振るってご馳走を作ってあげませんと」

提督「むぅ……帰省は嬉しいけれど、ディアナのご馳走を食べ損ねるのは残念だわ」

ディアナ「まぁ、お上手でございますこと♪」

提督「本当のことよ」

ルチア「クゥ…ン」

提督「ルチア、貴女もね……戻ったらうんとお散歩に付き合ってあげるわ♪」

ルチア「ワンッ!」提督の言葉を聞いて、ぱたぱたと尻尾を振った……

ディアナ「では、行ってらっしゃいまし」

提督「ええ♪」

…艦娘たちが「家族水入らずのクリスマスを邪魔しないよう」にと提督に遠慮した面もあるかもしれないが、彼女たちもそれぞれ姉妹や仲良しの娘と一緒の旅行を計画していたり、はたまた鎮守府でのんびり過ごすつもりでいて、結果として提督は一人で気軽な帰省というかたちになっていた……ランチアに乗り込むと、冬の低い日差しで目がくらまないようサングラスをかけ、鎮守府の正門を出た…

提督「♪〜ふーん、ふーふーん……」艶のある深青色のランチアはきらりと日差しを反射して、右手に冬のイオニア海を見ながら海沿いの地方道路を走っていく……

………



提督「ふぅ……オートストラーダに入ったし、これで速度も出せるわね」

…眺望は素晴らしいがカーブが多く、片側一車線しかない地方道路から片側三車線の立派なオートストラーダ(高速道路)に入った提督……道路は大都市である北部のローマやトリノを離れ、バーリを始めとする暖かなアドリア海沿いにある南部の観光地でクリスマス休暇を過ごそうとする人たちで南へ向かう車線こそ混み合っていたが、ありがたいことに提督が向かう北部への道路はあまり混雑していなかった……それでも物流を支える大きなイヴェコの長距離トラックや、追い越し車線でいらだたしげなエンジン音を残して飛ばしていくフェラーリやメルセデスがいて、提督は気を付けて運転していた…

提督「……あらまぁ」

…この時期になると、ポルストラーダ(※ポリツィア・ストラダーレ…交通警察)も速度を出すことそのものにはある程度目をつぶってくれるが、無理な追い越しをかけたり傍若無人な運転をしている車がいると、途端にサイレンを鳴らして猛禽のように飛びかかっていく……提督が運転している前でも一台のメルセデス63AMGが白と青のランボルギーニ・ガヤルドのパトカーに誘導され、路肩で違反切符をきられていた…

提督「クリスマスだからって交通ルールが変わるわけじゃないし、私も気を付けないと……」

…しばらくして・休憩所…

提督「……もしもし、お母様?」

クラウディア「まぁ、可愛いフランカ……休暇は今日からだったわよね、いまどのあたり?」

提督「もう、子供じゃないんだから「可愛いフランカ」は止めてよ……いま14号線の休憩所で、もうそろそろ16号線に乗り換えるところ」

クラウディア「じゃああと四時間もしないくらいかしら?」

提督「そうね」

クラウディア「分かったわ、いっぱい美味しいものを用意しておくから楽しみにしていてね?」

提督「ありがとう……でも前にも言ったとおり、今回は夏の休暇と違って私一人だからほどほどにね」

クラウディア「ええ、残念だわ。夏の時はライモンドちゃんたちも喜んでくれたし、今回もうちに来る娘がいたらうんとご馳走を振る舞ってあげようと思っていたのに……そうそう、シルヴィアも会いたがっているわよ♪」

提督「私もよ、それでシルヴィアおばさまは?」

クラウディア「ジュリエッタの整備をしに町へ行っているわ……とにかく、気を付けて帰ってくるのよ?」

提督「ええ、そうするわ……それじゃあ、チャオ♪」携帯電話越しにキスの音を送ると休憩所の喫茶店で買い込んだコーヒーを飲み干し、肩を回して伸びをすると、あらためて車に戻った……

…オートストラーダの制限速度はいちおう130キロから150キロまでということになってはいるが、高速道路の常で真面目に守っているドライバーはほとんどいない……提督も「ランチア・フラミニア」の安定感に任せて140キロで路面を走らせているが、追い越し車線ではまるでジェット機のように飛ばしている車が次々と視界から遠ざかっていく…

………

…昼下がり…

提督「ふぅ、やっとここまできたわね」

提督「燃料もまだあるし、このまま行けば1500時には家に着きそうね……」

提督「……って、私ったら♪」つい「午後三時」のことを軍隊式に「1500時」と考えてしまい、一人で苦笑いをした……

提督「アンナじゃないけれど、このままじゃあ腕と膝を伸ばして行進しかねないわ……♪」

…小さいころからの幼馴染みで、提督の「許嫁」を自称しているアンナいわく「早く私と結婚して退役しなさい、そうじゃないとそのうちに腕と脚を伸ばして行進するようになりかねないわ」とのことで、それを思い出して思わず微笑んだ…

提督「まぁ、もしアンナも帰省しているようなら、クリスマスの間くらいはわがままに付き合ってあげても良いかもしれないわね……♪」そう独りごちた途端、腰に手を当て、提督に向かって身勝手かつわがままな……それでいて可愛らしい「お願い」をするアンナの姿が目に浮かんだ……

提督「……ふふっ♪」

………

905 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2023/12/29(金) 01:52:19.05 ID:hWfNLb6y0
…カンパーニア州・提督の地元…

提督「……やっぱり故郷はいいわね」

…街角のクリスマス装飾や家々に暖かな懐かしさを覚えながら左右に視線を向けつつ、故郷の狭い石畳の道路に合わせてゆっくりとランチアを走らせる……街の道路をのろのろと抜けると、海沿いのちょっとした丘の上に建つ提督の実家が見えてきた…

提督「ふぅ、やっと着いた……♪」

…家の門を開けるとランチアを庭の小道に進ませ、車庫に停める提督……車を降りてエンジンの冷めるチリチリいう音を聞きながら伸びをしていると、玄関を開けて母親のクラウディアが小走りでやって来た…

クラウディア「お帰りなさい、フランカ♪」そのまま提督に駆け寄ると左右の頬にキスをして、その上で暖かで柔らかい唇をたっぷりと重ねた……

提督「ぷは……ただいま、お母様♪」

クラウディア「ええ♪ さ、外は冷えるから中に入りましょう? 暖炉の火も燃えているし、暖かいコーヒーにパンドーロもあるわよ♪」

提督「ありがと、お母様」

クラウディア「いいのよ……あら、ちょうどシルヴィアも帰ってきたわ♪」

…提督の実家に向けて続くなだらかな上り坂を、艶やかな赤に塗られた「アルファロメオ・ジュリエッタ」スパイダーが走ってきた……オープンカーのジュリエッタ・スパイダーは冬なので屋根に幌を張っているが、その小粋な姿は変わらない……提督のフラミニアの隣にジュリエッタを入れると、軽やかな足取りでシルヴィアが降りてきた…

シルヴィア「ただいま……それとフランチェスカ、お帰り」

提督「ただいま、シルヴィアおばさま♪」シルヴィアに近寄ると左右の頬にキスをし、それからぎゅっと抱きしめる……

シルヴィア「ん……っと、フランカってばまた大きくなったみたいね」提督に抱き寄せられ、かるくたたらを踏んだシルヴィア……

提督「もう……高校生じゃないんだからいまさら背なんて伸びたりしないわ♪」

シルヴィア「どうかしらね……」

クラウディア「さぁさぁ、早く手を洗って……積もる話は部屋でお茶を飲みながらしましょう♪」

…居間…

提督「あぁ、やっぱりうちはいいわ♪」手洗いとうがい、それにメイク落としも済ませると、冬用のふんわりした部屋着とスリッパに着替えて居間の定位置に落ち着いた……

クラウディア「実家って言うのはそういうものなのよ……さ、クリスマスのお菓子を召し上がれ♪」

提督「ありがと、お母様♪」長らく愛用しているカップに注がれた甘いミルクコーヒーとクリスマスシーズンに食べる特別なお菓子である「パンドーロ」をつまみ、パチパチとはぜる暖炉を眺める提督……

シルヴィア「……今はこうして何でもないようなふりをしているけれどね、クラウディアと来たら一昨日くらいからフランカが帰ってくるのをずーっと待ちわびていて、今朝もフランカの部屋を掃除したり、ごちそうの支度をしたりでちっとも落ち着かなかったのよ」

クラウディア「もう、それは言わない約束でしょう///」

シルヴィア「言わなくたって分かることだもの……そうでしょ、フランカ?」

提督「ええ、でも嬉しいわ♪」

クラウディア「……もう、二人して私の事をからかって♪」

シルヴィア「からかってはいないわよ……」ちゅっ♪

クラウディア「ん、あっ……もう、フランカの前なのよ?」

提督「どうぞおかまいなく♪」

シルヴィア「理解力のある娘で良かったわ……ん、ちゅっ♪」

クラウディア「ん、あふっ……せっかく淹れたコーヒーが冷めちゃうわ」

シルヴィア「冷めたって良いわ……」

クラウディア「もう、そういうことをいうなら……ん、ちゅる……っ♪」

シルヴィア「ふふ、ようやくいつも通りのクラウディアになった……んっ、ちゅむ……んちゅ♪」

提督「私が言うのもどうかと思うけれど、お母様とおばさまは相変わらずね……倦怠期なんてあったのかしら?」

シルヴィア「無くはなかったわよ、程度が軽かっただけでね」

クラウディア「まぁ、シルヴィアってばそうやってごまかすんだから……私、あの時期はずいぶんこたえたのよ?」

シルヴィア「かもしれないわ、二日も口を利かなかったのは後にも先にもあの時くらいだったもの」

提督「……それだけ?」

クラウディア「もう「それだけ」ってことはないでしょう? 冷え込んだ関係の二人が一つ屋根の下で過ごす二日は長いものよ?」

提督「あー……まぁ、お母様たちの仲を考えるとそれだけでも記録破りだけれど……」

シルヴィア「まぁ、結局は仲直りできたんだから良しとしないと……ね」

クラウディア「ええ♪」
906 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/05(金) 02:01:34.49 ID:nyN/p2w50
提督「あんまり仲良くいちゃついていると他人は胸焼けするってよく分かったわ……私も気を付けないと」

クラウディア「ということはフランカも鎮守府でライモンちゃんたちとずいぶんいちゃいちゃしているってことね?」

提督「まぁ、ありていに言えばね」

シルヴィア「確かに気立てが良くて可愛い娘だったわね」

クラウディア「もう、シルヴィアってばすぐそうやって女の子に色目を使うんだから」

シルヴィア「別に色目は使ってないわ……それに、浮気で言えばクラウディアだって相当なものだったと思うけれどね」

クラウディア「むぅ……」

提督「お母様が浮気?」

シルヴィア「そう。もっとも、私は気にしなかったけれどね」

クラウディア「お互い、女の子と遊ぶ時はちゃんと相手にも「ただのお遊びで、本気じゃない関係でいいなら」って伝えることって決まりにしていたから、あんまりこじれたことはなかったわね」

提督「……私もそうしておくべきだったわ」

シルヴィア「ということは、フランカに熱を上げている女の子がいるわけね……となるとアンナかな?」

提督「ええ……物の道理が分からない子供の頃にした「約束」を持ち出して結婚しろ、って言われてもね……」

クラウディア「アンナちゃんは勝気だけれど良い子だもの、結婚すればいいじゃない♪」

シルヴィア「そうね。ちょっと短気な所はあるけれど決断力はあるし、若いのに国際弁護士だなんて大した娘だと思うわ」

提督「ちょっと、お母様とおばさままで……まさかアンナに丸め込まれたわけじゃないわよね?」

シルヴィア「人にどうこう言われて意見を変えるような親じゃないってことは、フランカが一番よく知っているはずよ」

提督「ええ、それはもう……でも、だとしたら余計に困るわ」

クラウディア「ふふふっ、フランカも色んな可愛い娘を連れてきたものね……もし目移りしちゃうようなら、一人くらい手伝ってあげるわ♪」

シルヴィア「一人で済むとは思えないわね」

提督「あぁ、もう……この話はおしまい。シルヴィアおばさま、あとで銃のメンテナンスを手伝って?」

シルヴィア「ええ」

提督「それから、おばさまがクリスマスのご馳走に食べられるよう鎮守府へ猟の獲物を送ってくれるって話をしたら、みんな喜んでいたわ」

シルヴィア「そう、良かった。何しろ今年は夏からずっとイノシシが多かったものだから、コムーネの駆除依頼も多くてね……私とクラウディアだけじゃとうてい食べきれないし、肉屋のアルベルトに売りにいっても良かったんだけど、それよりは鎮守府の娘たちに送ってあげた方が喜ばれるでしょうし」

提督「ええ、とっても……この秋はイノシシだけ?」

シルヴィア「でもないわ。野ガモもいくらか撃ったし、ウズラもいくらか……あと、農家のエミーリオに頼まれて、ウサギも何羽か」

クラウディア「……そういえば、あのフランスの女の子はウサギのパイ皮包みが好きだったわね」

提督「マリーのこと?」

クラウディア「ええ♪ あの娘ったら顔立ちが整っていて、いかにもフランス人らしいコケティッシュなファッションが似合っていたわよね♪ 黒のミニドレスとか、薄い藤色のプルオーヴァーなんてすごく素敵で……♪」

提督「確かに」

クラウディア「フランカもそう思うわよね。 それで、せっかくだからフェンディのミニドレスでもあげようと思ったのだけれど、あの子ったら「マダム、お気持ちは嬉しいのですけれど……わたくし、ファッションはフランスのものしか身に付けないつもりですの」って♪」

提督「あー……マリーならそういうことを言うわ」

クラウディア「そうなの、だから代わりにイヴ・サンローランのクリーム色をしたトレンチコートをあげたのだけれど……すらっとしていて良く似合っていたわ♪」

提督「でしょうね。マリーったらいっつも「体型を維持する」とかいって、ヨガだかピラティスだか……そんなようなことをしていたもの」

クラウディア「ヨガ、ね……最近ふとももやヒップが気になるし、私も始めてみようかしら?」

シルヴィア「その必要はないんじゃない」

クラウディア「あら、どうして?」

シルヴィア「第一に、そのくらいむっちりしている方が私の好みだから」

クラウディア「もう、シルヴィアったら……で、第二の理由は?」

シルヴィア「ベッドの上で一晩過ごせば、ヨガなんかよりもずっといい運動になるから……♪」そう言うと身体を抱き寄せ、甘噛みしつつ鎖骨にキスをした……

クラウディア「あんっ♪」

提督「……帰って来ない方が良かったかしら」
907 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/11(木) 01:10:01.78 ID:0BOJ4mtA0
…夜…

提督「あぁ、美味しかった……お母さまの手料理に勝るものはないわ♪」

クラウディア「ふふっ、鎮守府であれだけ美味しい料理を食べているフランカにそう言ってもらえると、私も作ったかいがあるわ♪」

シルヴィア「フランカの言うとおり、クラウディアの料理ほど美味しいものはないから仕方ないわ……基地祭でご馳走になったディアナの料理も見事なものだったけれど、やっぱり「家の味」が一番いいもの」

クラウディア「もう、二人してそんなに私の事をおだてて……パンドーロをもう一切れ切ってあげましょうか?」

シルヴィア「私はもう満腹……フランカは?」

提督「うーん、もう少し食べたい気分だけれど……太ももが気になるから明日にするわ」

クラウディア「そう? じゃあ器にはフタをしておくから、いつでも食べてね?」

提督「ありがと、お母さま……それじゃあお風呂に入ってくるわね♪」

…実家の懐かしい……しかし鎮守府の豪華な大浴場に比べるとあまりにもつつましやかな浴槽に身体を押し込むと、肌にたっぷりの湯気を吸い込ませようとするかのようにシャワーの栓をひねり、日頃「節水」の二文字に追い回されている海軍軍人にとっての罪深い楽しみである際限なしのシャワーに身体をあずけた…

提督「ふー……♪」ふかふかのバスローブと頭にタオルを巻いた格好で歯を磨き、それから洗面台で髪にドライヤーをあてる……

シルヴィア「さっぱりした?」

提督「ええ、とっても♪」

シルヴィア「それは良かったわ」少し古びてはいるが暖かそうな栗色のパジャマ姿で、ゆっくり本のページをめくっている……

クラウディア「お部屋の布団は冬物にしておいたから、暖かく眠れるわよ♪」クラウディアは身動きするたびにパールピンクとアイボリーに変化して見えるシルク生地のネグリジェ姿で、その上からライトグレイのガウンを羽織っている……

提督「それじゃあゆっくりベッドの中で寝転がることにするわ……お休みなさい♪」クラウディアとシルヴィア、双方の唇にお休みのキスをして、お返しに二人からも口づけをもらって自室へと入った……

提督「寝るのには少し早いし、読書でもするとしましょうか……」

…ベッド脇のスタンドを点けると本棚から文庫本を取り出してベッドにもぐり込み、ラジオ局の放送にチャンネルを合わせると、うるさくない程度に音をしぼった……

ラジオ「RAI(イタリア国営放送)ラジオが……時をお伝えします。続けて各地の天気ですが……」

提督「ふわぁ……」

…次第に暖まってくるふわふわの布団と、ほどよく薄暗くしてあるスタンドの明かり、それにラジオの音に混じって寝室に届く波の音……ベッドこそ少し小さいが、懐かしい居心地の良さがある自分の部屋でゆったりと本のページをめくっていると、次第にまぶたが下がってきた……提督は本にしおりを挟むと卓上に置き、スタンドの明かりを消すと、そのまま小さな寝息を立てはじめた…

………

…翌朝…

提督「うぅ……ん♪」時計を気にせずあれこれ考える必要もないままに、ベッドの中でもぞもぞと身体を動かしながら、裸身をくすぐる布団の感触を楽しんでいる……

シルヴィア「……フランカ、もう起きてる?」

提督「ええ、目は覚ましているわ……」

シルヴィア「ならいいわ。朝食が冷める前に来るようにね」

提督「はぁーい」眠気の混じったあくびとも返事ともつかないような声をあげると、名残惜しげにベッドを出て、すぐ足元に並んでいるスリッパに足を入れ、それから椅子の背に引っかけてあるガウンに袖を通した……

…しばらくして…

クラウディア「おはよう、フランカ♪」

提督「おはよう、お母さま♪」

…歯を磨いて冷たい水で顔を洗うと、すっかり眠気が覚めた提督……居間の暖炉は残っていた昨夜のおき火にシルヴィアが焚き付けを足してあり、火勢こそ強くはないが心地よく火が燃えている……テーブルにはまだ十分に温かいコーヒーのポットと温めたミルク、暖炉のそばで温めたおかげで外皮がパリパリとして、中心の白いふわふわした部分にバターが溶けて染みこんでいるパン、夏の間にクラウディアが作ったお手製のイチゴジャムと、さっぱりしたミルクのような口当たりのリコッタチーズ…

クラウディア「よく眠れたようね」

提督「ええ、一晩中ぐっすり……♪」

シルヴィア「新聞はここに置いておくから、読みたかったらどうぞ」

提督「……ありがとう、おばさま」長い脚を暖炉の心地よい熱で温めながら、目をつぶって苦くて甘いミルクコーヒーをゆっくり味わう……

シルヴィア「このジャム、甘さもちょうどいいわ」

クラウディア「そう、良かった。甘過ぎると貴女の好みじゃなくなるし、かといって砂糖が少なすぎるとカビが生えるから……フランカはどう?」

提督「そうね、私もちょうどいいと思うわ……おばさま、リコッタの鉢をこっちに回してくれる?」

シルヴィア「ええ」

クラウディア「ふふ、いいものね……家族そろって食卓を囲むのは♪」

………

908 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/14(日) 00:58:06.48 ID:atQrelcs0
…午前中…

クラウディア「そういえばフランカ、クリスマスカードは書いた?」

提督「ええ。海軍関係の知り合いにはタラントの管区司令部で軍事郵便にして投函してきたわ……軍事郵便だから相手の所属と名前さえ分かっていればどこにでも届くし、軍の知り合い以外に出す分もついでに書いて、タラント市内の郵便ポストに投函しておいたわ」

クラウディア「そう、なら大丈夫ね」

提督「ええ。お母さまは?」

クラウディア「私は親戚だとか、付き合いのあったデザイナーやモデルの知り合いくらいかしら」

提督「つまり例年通りたくさんっていうことね」

クラウディア「そうでもないわ。私は半ば引退しているようなものだから、最近はそれなりに親しい人としかクリスマスカードのやり取りはしないし……」

シルヴィア「よく言うわ……この間「書き終わったクリスマスカードを投函したい」って言うから郵便局まで車を出したけれど、たっぷり五十枚はあったでしょう」

クラウディア「そうは言うけれど、あれでも現役の頃よりは減っているのは貴女が一番よく知っているじゃない」

シルヴィア「まぁね」

クラウディア「でしょう? それからフランカのクリスマスプレゼントはそこにちゃーんと用意してあるから、当日は楽しみにしていてちょうだいね♪」

シルヴィア「私からも用意してあるからね」そういって軽く頭を動かしてみせた先、可愛らしいクリスマスツリーの下には確かに「フランカへ」とカードのついた包みが二つおいてある……

提督「いつもありがと。お母さま、おばさま」

クラウディア「どういたしまして……ところでフランカ、あなたは鎮守府の女の子たちにプレゼントを用意してあげたの?」

提督「ええ、もちろん。 おかげで冬の賞与があらかた吹き飛んだわ……」艦娘たちの喜ぶ表情を想像し、それから通帳から引き出した額のことを考えて、思わず苦笑いを浮かべる提督……

シルヴィア「フランカは良い子だね」

クラウディア「ええ、だって私たちの娘だもの♪」

提督「もう、やめてよ……///」

シルヴィア「それにしてもあれだけの娘たちにプレゼントを買ったのなら、相当な大荷物になったんじゃない?」

提督「ええ、まるで絵本の泥棒みたいに袋を担いで鎮守府へ運び込んだわ」

…さかのぼって…

提督「ただいまー……ふぅ、ふ……ぅ」

デルフィーノ「お帰りなさい、提督……って、その荷物は一体なんですか?」

提督「それもちろん、みんなへのクリスマスプレゼントよ……これでもまだ半分で、残りは車の中にあるの」

デルフィーノ「じゃあ私も手伝いますっ」

提督「いいのいいの……私がみんなに買ってきたプレゼントだもの、最後まで私が運ばないとね」

ルチア「ワンワンッ♪」帰ってきた提督を見て、じゃれつきたそうに尻尾を振って足元を駆け回っている……

提督「あぁ、ルチア。お散歩は後で連れて行ってあげるから、今は大人しくしていてちょうだいね……お座り」

ルチア「ワフッ…♪」きちんとお座りをして、床の大理石を尻尾でぱたぱたと掃いている……

…廊下…

提督「ふぅ……ひぃ……みんな、ちょっと道を空けて」

トリチェリ「すごい大荷物ですね」

エウジェニオ「まるで夜逃げでもするみたいじゃない?」

提督「言ってくれるわね……よいしょ」執務室の前にたどり着くと、大きな袋をそーっと下ろした……

エウジェニオ「……これからプレゼントにつけるカードを書くのね?」

提督「ご名答……エウジェニオ、貴女は?」

エウジェニオ「私はもう済ませちゃったわ……提督もそういう時は化粧品とか下着みたいに軽いものを選ぶほうが楽よ?」

提督「それは私も知っているけれど、みんなの好みを考えたらそうも言っていられなくて」

エウジェニオ「ふふ、一人ひとりに合わせて好きそうなものを選んでプレゼントするなんて提督らしいわね……大抵の鎮守府じゃあ出来合いになっているお菓子の詰め合わせが良いところだって聞くわよ?」

提督「そうできないのが私の指揮官としての悪いところよ……貴女たちが可愛いから、つい恋人同士みたいな気分になって甘やかしちゃう♪」

エウジェニオ「恋多き女性だものね?」

提督「それは貴女もでしょ、エウジェニオ♪」
909 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/19(金) 01:46:26.07 ID:/1S64vcq0
…しばらくして・食堂…

提督「よいしょ……うんしょ……」

エウジェニオ「ほら、提督が通るから道を空けなさい」

ニコ「ずいぶんな大荷物だねぇ」

トレント「て、手伝いましょうか?」

提督「いいのよ、もう降ろすから……ふぅ」

レモ「くすくすっ、提督ってばまるで泥棒さんみたーい♪ それで、何が入ってるのぉ?」

提督「それはもちろん……♪」

レモ「……もしかして、クリスマスプレゼントっ?」

提督「ご名答。くれぐれも当日までは開けないように♪」

…クリスマスツリーの根もとに次々とラッピングの施された箱や包みを並べ、積み上げていく提督……個々のプレゼントには表書きに艦娘それぞれの名前を書き込んだ提督からのクリスマスカードが貼りつけてあり、それらを並べている間にも噂を聞きつけ、艦娘たちが入れ替わり立ち替わりでのぞきにくる…

エリトレア「わぁ、すごいたくさんのプレゼントです」

フルット「普段からよい暮らしをさせてもらっておりますのに、さらに散財をしていただいて……感謝しております」

提督「いいのよ、お世話になっているのはむしろ私の方だもの……♪」

アブルッツィ「それにしてもまぁ大変な量ね……」

提督「まぁね……それとクリスマス休暇に入っちゃう娘には先に渡すから、当日になったら開けてちょうだいね♪ セベリ、貴女もそうだったわよね……少し気が早いけれど、はい」

ウエビ・セベリ「わ、嬉しイです」

提督「そう言ってくれると用意したかいがあるわ♪」そう言って、クリスマス休暇で鎮守府を離れる予定の艦娘たちにプレゼントを渡す……

………



シルヴィア「いいことをしたわね。彼女たちだって欲しいものが色々あるでしょうし」

提督「ええ、そう思ってさりげなく聞き出したり、遠回しに尋ねてみたり……大変だったわ」

クラウディア「そうね……ところでフランカ、あの超ミニスカートのサンタ服は着たの? けっこう可愛かったけれど」

提督「けほっ! もうお母さまったら、何を言い出すかと思ったら……そもそもどうしてあの格好の事を知っているの?」

クラウディア「だって、前にうちに泊まりに来たお友達の方が教えてくれたもの」

提督「もう、いったい誰よ……そういう余計な事を吹き込んで……///」

…転属や航海の都合で「根無し草」的な暮らしになる事の多い海軍士官の常で、温かい家庭的な雰囲気というものに憧れがある……そのせいか、お互いに機会があれば家に泊めてあげたり、食事を振る舞ってあげることも少なくない……提督の実家はガエタの近郊とは言うものの田舎にあって交通の便もひどく悪いが、それでも仲良しになった何人かは週末や短い休暇を使って泊まりに来たことがある…

クラウディア「さぁ、誰かしら♪」

提督「もう……」

シルヴィア「ふふ……そういえばフランカ、クリスマス休暇はいつまで?」

提督「えーと、クリスマスを挟んでの二週間と年始からの三日間ね……どうして?」

シルヴィア「いえ、せっかくの機会だからどこかスキーにでも行こうかと思って……モンテ・チェルヴィーノ(マッターホルン)のふもと辺りなんてどうかしら」

提督「チェルヴィニアとか?」

(※モンテ・チェルヴィーノ…マッターホルンのイタリア名で「鹿の角」の意。第二次大戦時に「白い悪魔」とも称されたイタリア山岳部隊「モンテ・チェルヴィーノ」大隊の名前の由来でもある。チェルヴィニアはそのふもとにある村で有名なリゾート地)

シルヴィア「ええ。もっともああいう有名どころは外して、もっと小さなコムーネにある静かなホテルにでも泊まって過ごすの」

提督「うーん、アイデアは素敵だけれど休暇の日数を考えると……ね」

シルヴィア「ちょっとせわしないわよね、フランカが子供の頃はあちこちよく行ったものだけれど」

提督「でも嬉しいわ、おばさまが誘ってくれて……♪」

シルヴィア「当然でしょう? 貴女は私にとって最愛の女性の娘であり、可愛い宝物だもの」ふっと口元に小さな微笑を浮かべ、さらりと言った……

提督「……おばさまにそういう風に言われるとすごくドキドキするわ///」

クラウディア「そうよね、私まで胸がときめいたわ♪」

シルヴィア「さすがに二人同時に相手をするのは勘弁して欲しいわ……どっちも可愛いけれどね」

クラウディア「ふふ、それじゃあ今夜は私♪」
910 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/22(月) 01:38:57.03 ID:ING35Mc+0
…翌日…

シルヴィア「おはよう、フランカ……少しいいかしら」

提督「なぁに、おばさま?」

…鎮守府では朝から新聞やニュース、気象通報に目を通し耳を傾けていたが、休暇に入ってからはテレビやラジオのニュースも最低限で済ませ、一日中ふにゃふにゃのセーターやナイトガウン姿で庭いじりをしてみたり、文庫本をめくっていた提督……士官学校で身体にしみついた習慣が抜けないもので寝具だけはきちんと畳んでおいたが、この日ものんびり温かいカフェラテをすすり、ほかほかしたパンを口に運んでいた……と、シルヴィアが声をかけてきた…

シルヴィア「いえ、せっかくの機会だから射撃にでも行こうかと思って……行く?」

提督「ええ、久しぶりだし……ちょっと待ってて、すぐ食べ終わるわ」残ったパンを口に放り込むとカフェラテで流し込み、食器を洗いにせかせかと台所へ歩いて行く……

シルヴィア「ゆっくりでいいわよ、私だって支度はまだなんだから」

提督「だって、せっかくの機会だもの……できるだけ長く一緒にいたいわ」

クラウディア「そうね、昨晩は私が独り占めしちゃったから……今日はフランカの番♪ お弁当、いま用意してあげるわね」

提督「グラツィエ、クラウディアお母さま……大好きよ♪」

クラウディア「はいはい♪」

…しばらくして…

提督「用意できたわ、おばさま」

シルヴィア「私もよ……ところでフランチェスカ、鎮守府ではずいぶん美味しいものを食べているみたいね」

提督「むぅぅ……これでも腹筋や腕立て伏せをしてみたり、チェザーレやバンデ・ネーレに剣術の稽古を付けてもらったりして気を付けてはいたのよ?」

…提督はクリーム色のセーターに茶色のラム革ベストと黒い牛革の手袋、鎮守府ではほとんど出番のない軍用の迷彩ズボンを着て、背中にはクラウディアの用意してくれた弁当や水筒の入っている小ぶりなリュックサックを背負っている……腰のベルトには散弾銃の弾薬ケースやこまごましたものの入った小ぶりなポーチを通し、ズボンの裾を黒革のひざ丈ブーツに突っ込んであるが、鎮守府での食生活がたたってかズボンのヒップからふとももは少しきゅうくつで、ベストの胸回りも少しきつい…

シルヴィア「ま、デスクワークが多いでしょうし仕方ないわね」

…そう言って肩をすくめたシルヴィアは着古した白いプルオーヴァーと、自分で射止めてなめした鹿革をクラウディアに縫製してもらった愛用の茶色いベスト、黒い乗馬ズボンとふくらはぎ丈の黒革ブーツ姿で、肩からは昔の山賊のように弾薬ベルトをかけ、獲物をさばくためのがっしりした「フォックスナイヴス」のナイフをブーツに突っ込んである…

提督「ええ、書類の海で泳げそうなほどよ」

シルヴィア「それじゃあせいぜい野山を歩き回って新鮮な空気を味わうとしましょう……お昼になったらクラウディアのお弁当を食べて、夕方になったら戻る」

提督「とっても健康的ね」久々に持つベネリの散弾銃を手に持ち、重さを確かめるようにして握り直す……

シルヴィア「そういうこと」フランキの散弾銃を肩にかけ、裏庭の門を開けると雑木林の間に入っていった……

…二時間後…

提督「ふぅ……」

シルヴィア「だいぶくたびれたみたいね……少し休憩にする?」

提督「そうする……まったく、身体がなまっているって実感したわ……」手頃な倒木に腰を下ろすと暴発させないよう散弾銃を置いて、肩を回し、脚を伸ばした……

シルヴィア「そうみたいね」午前中だけで茂みから飛び出してきたつがいのキジに、素早い野ウサギを一羽、それに四羽ほどの野鴨を仕留めて腰にぶら下げている……

提督「ええ……そんなに歩いたわけでもないのに、こんなに息切れするなんてね……」射撃の腕自体は衰えていないはずだったが肩で息をしていたせいか、それまでなら難なく撃ち落としていたはずの野鴨の群れに逃げられ、二羽ばかりが残念そうにぶら下がっている……

シルヴィア「まあ、こっちにいる間だけでも身体がなまらない程度に運動すればいいわ……ちょっと早いけどお昼にして、それからもう少し歩いて帰りましょう」

提督「そうね……」

…暖かな日差しを受けた森の空き地でお弁当の包みを開く提督とシルヴィア……中身はもちもちしたフォカッチャに乾燥トマトや黒オリーヴ、少し塩っぱいハムなどを挟んだサンドウィッチと、アーモンドと干しぶどうを練り込んだ味の濃いチーズ、小瓶に入ったアーティーチョークのピクルス……冬枯れた広葉樹の枝やいつでも青々としたカサマツの間を風がさわさわと吹き抜けて、硝煙と汗にまみれた肌を冷やしていく…

シルヴィア「……いい風」

提督「ええ」

シルヴィア「ねえ、フランチェスカ……」散弾銃を置くと提督の隣に座り直した……

提督「なぁに、おばさま?」

シルヴィア「……久しぶりに……する?」じっと見つめてくる瞳に、汗と硝煙と皮革の野性的な匂い、そこに爽やかな松葉の混じった香ばしいような香り……

提督「ええ……///」

シルヴィア「ん……♪」

提督「あ、んぅ……あふっ///」

シルヴィア「フランカとこうするのも久しぶりね……んむ、ちゅ……っ」

提督「ええ、だってシルヴィアおばさまは私が初めて好きになって、初めて愛することを教えてくれた女性(ひと)だもの……」

シルヴィア「……あの時は私もずいぶん悩んでからクラウディアに相談したものだけれど、まさかあんなにあっさり許すとは思わなかったわ」

提督「そうね、お母さまが心の広い人で良かったと思うわ……ん、ちゅ♪」
911 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/01/29(月) 02:28:02.91 ID:qw/aShxX0
シルヴィア「ふふ……私もクラウディアのそういう所が好きで結婚したのよ」

提督「おばさまの気持ち、分かるわ……んんっ、あぅ……ふあぁ……っ///」

…日差しの差し込む小さな森の空き地で生えている木に背中を預け、脚の間に割って入るシルヴィアの膝や、ぐっと迫ってくる顔と吐息を感じている……きゅっと引き締まった乳房がセーター越しに触れ、ベルトを緩めてズボンの中に入ってきたシルヴィアのひんやりした指が熱を帯びた提督の秘部に触れる…

提督「ん、あっ……あぁ……ん///」

シルヴィア「フランカ……愛おしい私の娘♪」

提督「シルヴィアおばさま……ぁ///」

シルヴィア「……ここ、好きだったわね」ちゅく……っ♪

提督「ええ、そう……ふぁぁ……っ♪」

…木立の間に響く野鳥の鳴き声や、地面から立ちのぼってくる枯葉と土の乾いた匂いを感じながら、下腹部のじんわりととろけるような感覚に甘い声を漏らす…

シルヴィア「良かった。忘れていないものね……」ごつごつした樹皮に提督を押しつけるようにしながら身体をくっつけるとズボンのベルトを緩め、ウエストのすき間から提督の手をいざなって自分の花芯へと導いた……

提督「シルヴィアおばさまのここ……濡れていて……温かい……♪」

シルヴィア「フランカのキスが上手だからよ」

提督「嬉しい……ん、ちゅぅ……ちゅる……っ///」

シルヴィア「フランカ……♪」

提督「あ、あっ……シルヴィアおばさま……ぁ///」とろ……っ♪

シルヴィア「ん……♪」最後に愛のこもった優しいキスを唇にすると、濡れていない方の手で短めにしている髪を軽くかき上げた……

提督「はぁ、はぁ、はぁ……ぁ///」

…木の幹に背中をあずけたまま、ずるずるとくずれ落ちそうになる提督……気だるげな心地よさと、もっとシルヴィアと愛し合いたいという甘ったるい欲望で目がかすみ、敏感になった乳房の先端やとろりと濡れた花芯に下着の布地が触れるたびに静電気のようなピリッとした刺激が伝わってくる…

シルヴィア「そろそろ日が傾いてくるし、戻りましょう」

提督「ええ、シルヴィアおばさま……///」服の乱れを直して立ち上がったが、じんわりと濡れて冷たくなり始めた下着がはり付いてくる気色の悪い肌心地と、下腹部からの甘い余韻が合わさって微妙な内股になっている……

シルヴィア「ふふ……その調子じゃあ日暮れまでにうちに戻れるかどうか分からないわね」

提督「も、もう……おばさまったら笑わないで///」

シルヴィア「悪かったわ……足元のおぼつかないフランカも可愛いわよ♪」どちらかと言えばクールなシルヴィアにしては珍しく、どこか色っぽい笑みを浮かべながら見せつけるようにして右手を開き、中指と薬指の間に引いた粘っこい糸を舐めあげた……

提督「……っ///」

………

…夕方…

提督「お母さま、いま戻ったわ」

シルヴィア「ただいま、クラウディア」

クラウディア「あら、お帰りなさい♪ 獲物はあった?」

シルヴィア「悪くはなかったわ。血抜きは済ませてあるから、羽根をむしったり皮を剥くのは後でするとしましょう」

クラウディア「ええ、お願いね……あら」シルヴィアとキスをすると、少し問いかけるような表情を浮かべた……

シルヴィア「どうかした?」

クラウディア「……フランカの味がするわ」

提督「……っ!」

シルヴィア「さすが、鋭いわね」

クラウディア「自分の結婚相手と娘の味くらい分かるわ……それで、どうだった?」笑みを浮かべ、上目遣い気味にしながらいたずらっぽく問いかけた……

シルヴィア「とっても可愛かったわ、貴女の娘だけあって……ね♪」

クラウディア「まぁ、ふふっ……♪」

提督「///」

クラウディア「あらあら、フランカったら恥ずかしがっちゃって……シルヴィアは素敵だもの、我慢なんてできないわよね?」

シルヴィア「まったく、自分の娘に惚気てどうするの」

クラウディア「いいじゃない、貴女は私の自慢の女性(ひと)だもの……さ、夕食の前にほこりを洗い流していらっしゃいね♪」
912 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/02/03(土) 02:28:47.52 ID:YuI7hGX20
…クリスマス数日前…

提督「お母さまたちとクリスマスを過ごすのも久しぶりね」

クラウディア「そうねぇ……フランカが海軍に入ってからはなかなか会う機会もなかったものね」

提督「これでもクリスマスに休暇が取れるよう毎年頑張ってはいたのだけれど……なかなかそうも言っていられなくて」

シルヴィア「でもフランカは毎年クリスマスカードを書いてくれていたから、クリスマス・イヴになるといつも二人で読んだものよ」

提督「私もお母さまとおばさまのカード、欠かさず読んでいたわ……それにお菓子やプレゼントも贈ってくれたわよね」

クラウディア「ええ、一緒にいられないぶん贈り物くらいはしないと♪」

提督「お母さまたちの気持ちが伝わってくるようで嬉しかったわ。お菓子なんかは士官宿舎で集まって持ち寄りのクリスマスパーティなんかしたときに、ずいぶん好評だったし」

クラウディア「そう言ってもらえると作ったかいがあるわ」

提督「何しろみんな甘いものが好きだから……」と、提督の携帯電話がぶるぶると震えだした……

シルヴィア「電話みたいね」

提督「ええ。緊急呼び出しの番号なら着信音も鳴るようにしてあるから、たぶんそこまでの用事じゃないはずだけれど……あ」

クラウディア「知り合いの女の子?」

提督「ええ、ジュリアだわ。P−3C哨戒機の飛行隊長をしている……もしもし?」

…シチリア島・カターニア…

アントネッリ中佐「やぁフランチェスカ、ご機嫌にしているかな?」

…イタリア海軍航空隊・カターニア航空基地の外、モトグッツィの大型バイクのかたわらで電話越しに提督の柔らかな声に耳を傾けているアントネッリ……黒革のライダースジャケットに筋肉質な脚線美を余すところなく引き出しているぴっちりしたレザージーンズ、オートバイ用のがっちりしたブーツで、黒に近いボルドー色のルージュを引き、冬の低い日差しで目がくらまないように濃いサングラスをかけている…

提督「ええ、おかげさまで……ジュリア、貴女は?」

アントネッリ「ご機嫌さ、ありがとう」

提督「クリスマス休暇は取れた?」

アントネッリ「ああ、今日からね……正確に言えば今からかな。今日の明け方から太陽と一緒に哨戒飛行を済ませてきたところさ。他の連中はフライトスーツを脱ぐなり街に飛び出していったよ……酒を飲んでしまえば緊急呼集がかかっても飛ばなくて済むからね」

提督「なるほどね♪ それで、何事もなかった?」

アントネッリ「ああ、深海のお化けたちもクリスマスはお休みらしい」

提督「それは良かったわ」

アントネッリ「まぁね……私の方は機付整備員たちをねぎらって、それからさっきまで基地司令がよこすしょうもない書類にサインをしていたんだが……今は晴れて自由の身さ。年内は実家かい?」

提督「ええ、その予定よ……もし良かったら泊まりに来る?」

アントネッリ「いいや、せっかくの家族水入らずの時間に割って入るほど無粋じゃないつもりだよ……年が明けたら鎮守府の方にお邪魔するさ」

提督「あら、そう? ジュリアが来てくれたらお母さまもおばさまも喜んでくれると思うけれど……」

アントネッリ「なに、その気持ちだけで嬉しいよ……可愛いフランチェスカ♪」

提督「もう、相変わらず上手なんだから♪」

アントネッリ「事実なんだから仕方ないさ」

提督「今までどれだけの相手にそう言ってきたの?」

アントネッリ「君ほどの美人には一度も」

提督「ジュリアってば……口説いた相手全員にそう言っているんでしょう?」

アントネッリ「いいや? 私が本気で口説くのはフランチェスカ、君と……それからあの青い空だけさ」

提督「まぁ、今どきメロドラマでもそんな台詞は言わないわよ?」そう言いつつも、携帯電話の耳元へささやくように話しかけるアントネッリの声に、思わずどきっとする提督……

アントネッリ「そうかもしれないね……ふふ、とにかくよいクリスマスを」

提督「ええ……ジュリア、貴女もね」

アントネッリ「ああ、ありがとう……チャオ♪」電話越しに投げキッスの音を送ると、通話を終えた……

提督「もう、ジュリアってば……ただ「良いクリスマスを」って言えばいいだけなのに///」

シルヴィア「……この調子だとこれから数日はフランカの携帯電話が鳴りっぱなしね」

提督「それだけは勘弁してほしいわ」想像して思わず苦笑いを浮かべた……
913 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/02/07(水) 01:39:13.15 ID:aQ++Hmij0
…12月23日…

提督「いよいよ明日からクリスマスね」

(※カトリックの国は教会暦で24日の晩からがクリスマス。クリスマス・イヴは「クリスマスの晩」であって「前夜」ということではない)

クラウディア「そうね……さぁ二人とも、一緒にツリーの飾り付けをしましょう?」

提督「はーい」

シルヴィア「ええ、いま行くわ」

…ここ何年か提督抜きの二人きりでクリスマスを過ごしてきたクラウディアとシルヴィアだったが、今年はひさびさに家族揃ってのクリスマスということで、居間のツリーはしきたりにのっとり、今日まで飾り付けを仕上げないまま立ててあった……暖炉のなごやかな火を見ながら穏やかに、しかし和気あいあいと母娘で飾りつけに興じる提督たち…

提督「……やっぱりうちで過ごすクリスマスっていいものね♪」

クラウディア「そうでしょう。それから明日はちゃんとお魚料理、明後日はアヒルや鴨のごちそうが控えているから期待していてね♪」

シルヴィア「しかもクラウディアが料理するんだもの……考えただけで涎が出るわね、フランカ?」

提督「ええ♪ あ、その飾りはこっちにちょうだい?」

…クラウディアとシルヴィアが年ごとに、また色々な記念に少しずつ買い足していった思い入れのあるオーナメントや飾り物でにぎにぎしく装飾されていくクリスマスツリー……木の葉が揺れ動くたびに青々とした針葉樹の香りがふっと鼻腔をくすぐり、金銀の玉飾りやリンゴを模した木の飾り物、雪の結晶や小さな銀の星が取り付けられてゆくうちに、ツリーが華やかさを増していく…

クラウディア「どう? お星様は傾いてない?」つま先立ちをして人の背よりも高いツリーのてっぺんに銀の星の飾りを載せると、少し下がってシルヴィアに尋ねた……

シルヴィア「大丈夫、真っ直ぐよ」

クラウディア「そう、それじゃあ完成♪」

提督「……本当に、いつ見ても綺麗ね」

クラウディア「ええ、シルヴィアほどじゃないけれど♪ ……それに、こうして祝えるのがなによりね」

提督「そうね」

シルヴィア「それじゃあ賛美歌のレコードでもかけて……二人とも、ヴィン・ブリュレーでも飲む?」

(※ヴィン・ブリュレー…温めた赤ワインに香辛料や柑橘の風味を利かせたもの。グリューワイン)

クラウディア「ええ、いただくわ♪」

提督「私も」

シルヴィア「分かった」

…暖炉の片隅に鍋を置くと赤ワインを注ぎ、砂糖の代わりに地元の農家から分けてもらった蜂蜜を垂らし、ショウガやシナモン、それにオレンジとレモンのピール(皮)を加えて軽く温める……鍋でワインがふつふつと言い始めたところで鍋を火から遠ざけると、めいめいのカップにワインを注いだ…

クラウディア「ん……美味しい♪」

シルヴィア「クラウディアは甘めが好きだから、蜂蜜を多めにしたの……フランカはどう?」

提督「ええ、ちょうどいいわ」

シルヴィア「それなら良かった……ん///」

クラウディア「ちゅっ……どう、美味しい?」

シルヴィア「ええ、とっても甘かったわ」

提督「そうね……お母さまたちがいちゃつく分、蜂蜜はもっと少なくて良かったわ」

クラウディア「もう、フランカってば自分の母親に嫉妬しちゃって……んーっ♪」

提督「ん、んぅ……っ///」

クラウディア「これで機嫌を直してくれる?」

提督「機嫌を直すもなにも……実の母親にキスされたからってどうこうしないわよ///」

クラウディア「あら、残念♪」

シルヴィア「……クラウディア」

クラウディア「なぁに?」

シルヴィア「ん……んちゅっ、ちゅぅ……ちゅる……っ、ちゅ……っ♪」

クラウディア「あっ……ふ……んぅ♪」

シルヴィア「ぷは……フランカは可愛いけれど、せっかくのキスを上書きされたくはなかったから」

クラウディア「……まぁ///」

提督「……やっぱり蜂蜜はいらなかったわ」
914 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/02/13(火) 01:56:19.59 ID:q0m2a0XY0
…12月24日・午前…

提督「おはよう、お母さま、おばさま……いよいよクリスマスね」

クラウディア「ええ、今夜は一緒に教会へ行きましょうね♪」

提督「こっちでクリスマスミサに参加するのも久しぶりね……」

…そう言って提督がのんきにコーヒーをすすっていると、庭の門に付いている呼び鈴が鳴っている音が聞こえてきた…

クラウディア「……きっと郵便局のペリーニさんね」

シルヴィア「さすがね……貴女の言うとおり、郵便配達のペリーニだったわ。それを取って頂戴?」椅子から立ち上がり居間の窓から庭先の門を眺めて言った……

クラウディア「ええ♪」この町の郵便配達やパトロールの巡査、消防署員といった人たちに挨拶として渡すため、クラウディアが毎年のように作っているクリスマスカード付きの菓子の小袋を一つ手渡した……

提督「ペリーニさん、まだ配達をしているのね」

クラウディア「ええ。本当ならくせっ毛のアルベルトが継ぐはずだったのだけれど、田舎は嫌だってナポリに出て行っちゃったものだから」

提督「ナポリねぇ……食べ物は美味しいけれど、地区によってはずいぶん柄の悪い人間もいる街よ?」

クラウディア「そうは言っても、都会にあこがれるものなのよ」

提督「かもね」そう言って肩をすくめた提督……と、シルヴィアが戻ってきて束ねた郵便物と小包の山を机に置いた……

シルヴィア「郵便配達の人がクリスマスカードを届けてくれたわよ……フランチェスカ、貴女宛のもずいぶんあるわ」

提督「あら、本当?」

クラウディア「せっかくだし誰から来たのか読んでみたら?」

提督「そうね、他にやることがあるわけじゃないし……えぇーと」

…士官学校で知り合い、いまではそれぞれの任地に散らばっている仲の良い同期を始め、提督と「親しい」間柄にあった女友達やまだ文通の続いている「お姉様」たち、それにフランスのトゥーロンからカードを送ってきたエクレール提督を始め、各国海軍にいる提督の知り合いや友人たち…

提督「さてと、一体誰から来ているかしら……まずはトゥーロンのマリーに、イギリスからはメアリ、アメリカからはノーフォークのジェーン……あ、姫もわざわざ横須賀からカードを送ってきてくれたのね」

クラウディア「ジェーンって言うのは、写真で見せてくれた褐色のグラマーさん?」

提督「ええ、口は悪いけれど米大西洋艦隊ではピカイチの提督ね」

シルヴィア「姫っていうのは、夏期休暇の時の日本酒をプレゼントしてくれた日本の提督さんでしょう?」

提督「ええ。横須賀の百合野准将……長い黒髪がきれいな奥ゆかしい女性よ。提督としても艦隊運用が上手だし、ぜひまた会いたいわ」

クラウディア「他にもあちこちからたくさん届いているわね……フランカは可愛いから♪」

提督「もう、照れるからよして……たいていはもう送ってあると思うけれど、カードを出していない人がいたら書いてあげないと」

シルヴィア「良かったわね、読む楽しみが出来て……それとクラウディア、フランカだけじゃなくて貴女にもずいぶん来ているのよ?」

クラウディア「あら、本当に……お義理のカードはもうお断りしているのだけれど、それでもずいぶんあるものね」

シルヴィア「デザイナーをしていたときの貴女は顔が広かったものね」

クラウディア「そうは言ってもファッション業界なんて次々と新顔が出てくるし、私みたいに引退してのんびりしている人間なんてすぐ忘れられちゃうわ」

シルヴィア「この量を見る限り、そうでもないみたいだけれどね」

クラウディア「んー……まぁ、まだ時々は私にデザインを見て欲しがる人なんかもいるし、多少はね?」

提督「お母さまってば、せっかくお呼びがかかるんだもの……もう一度デザイナーとして復帰すればいいのに」

クラウディア「いいの。こういうのは形だけ言っておくお世辞みたいなものなんだから、本気にしたらバカにされちゃうわ……それにここでシルヴィアと愛し合っている方が性に合っているもの♪」

シルヴィア「ミラノのファッションにとっては大きな損失ね」

クラウディア「貴女がいないミラノよりは、貴女のいるここがいいわ♪」

シルヴィア「嬉しいことを言ってくれるわね……でも、このまえ身に付けていたミラノの素敵なランジェリーは捨てがたいわ」

クラウディア「もう……♪」

提督「あー……私はお母さまたちのお邪魔をしないよう、部屋でクリスマスカードを読んでいることにするわ」

クラウディア「ふふ……ありがと、フランカ♪」提督が二階へと上がって行くなり、シルヴィアに抱きついた……

シルヴィア「ちょっと、クラウディアってば……ミサの時間まで半日はたっぷりあるんだから、そう焦らなくたっていいでしょうに」

クラウディア「むしろ、たった半日しかないのよ? お夕飯の支度もしないといけないし……」

シルヴィア「それじゃあ夕飯の支度をしながらすればいいわ……こんな風に♪」よく台所でするように、後ろからぎゅっと抱きしめた……

クラウディア「あんっ♪」
915 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/02/19(月) 02:15:52.33 ID:ExjpwAj80
…しばらくして…

クラウディア「それじゃあ晩のミサの前に食事にしましょう……さ、二人ともかけて?」

提督「ええ」

シルヴィア「座ったわよ」

クラウディア「よろしい、それじゃあ食前のお祈りを……」

…シルヴィアもクラウディアも形ばかりのカトリックであまりやかましいことは言わないが、食べ物への感謝をこめて食前の祈りをささげ、提督も二人に合わせて祈りの言葉を唱え、十字を切った…

シルヴィア「……そして素晴らしい食事を作るクラウディアにも」祈りのおまけにそう付け加えたシルヴィア

クラウディア「もう、シルヴィアったら……それじゃあ召し上がれ♪」

…イタリアではクリスマスの晩は肉食を断って魚料理を主菜におくことから、食卓には魚料理が並んでいる……前菜のマリネに続いて、クラウディアがアサリのうまみが沁みだした「スパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレ」(ボンゴレ・ビアンコ)を取り分ける…

クラウディア「どう、フランカ?」

提督「ん……美味しいわ♪」

…どんな魔法を使っているのか、シンプルなヴォンゴレのパスタにもかかわらず、提督が作るものよりも美味しい……アサリから出た旨味のある塩気と、白ワインからくるごくかすかな爽やかな酸味……それにあとを引くニンニクの風味…

クラウディア「そう、良かったわ♪」

シルヴィア「本当に美味しいわよ……ワインも進むわ♪」

クラウディア「ミサに行くのだからあんまり飲み過ぎないのよ?」

シルヴィア「ええ、そうするわ」

クラウディア「ふふっ……それじゃあ次のお料理を取ってくるわ♪」

…軽やかな足取りで戻ってきたクラウディアが卓上に置いたのは、メインディッシュにあたる「セコンド・ピアット(第二皿)」の料理で、クリスマスの魚料理ということで、シチリアと向かい合うイタリア半島のつま先、レッジョ・ディ・カラーブリアの名物料理「ストッコ・アッラ・マルモレーゼ(マルモラ風の干し鱈)」がほかほかと湯気を立てている…

シルヴィア「いい匂いね」

クラウディア「うふふっ、今年はフランカが帰ってくるって言うから少し高いバッカラ(干し鱈)を買っておいたの」

提督「二日前から水に漬けて、半日おきにその水を替えて……お母さま、大変だったでしょう?」

クラウディア「いいのよ、久しぶりに家族みんなで過ごすクリスマスなんだもの♪」

…浅鍋でソフリット(野菜のみじん切りやハーブをラードで炒めたもの)を作ったところに皮を剥いたトマトを加えて煮詰めながら塩を振り、くし形に切ったジャガイモやオリーヴ、バッカラを加え、コトコトと煮込む…

提督「ん、はふっ……うーん、いい味♪ トマトの甘酸っぱいところにソフリットの風味とオリーヴの渋み、絶妙な塩気……私も何回か作ったことがあるけれど、やっぱりお母さまにはかなわないわ♪」お手上げとばかりに両方の手のひらを上に向けた……

クラウディア「ふふっ、私だってただ長い間台所に立っているわけじゃないのよ♪」

シルヴィア「そうみたいね……それにフランチェスカもいるから、今年のはことさらに美味しいわ」

提督「私もお母さまたちと一緒に食べることができて嬉しい……♪」

………



提督「……あぁ、美味しかったわ♪」

クラウディア「いっぱい食べた?」

提督「ええ、食べ過ぎちゃったくらい……あんまり家の料理が美味しいのも考え物ね?」そういうと、冗談めかしてお腹の肉をつまむ真似をする……

クラウディア「ふふ、貴女くらいの歳ごろは食べ過ぎるくらいでちょうどいいのよ♪」

提督「もう、お母さまったら……私だってもう子供じゃないんだから、そんなに食べさせなくったっていいの」

シルヴィア「それでもフランチェスカはまだ若いからいいわ……私なんかは気を付けないと、あっという間に樽みたいな体型になってしまいそうね」

クラウディア「あら、私は貴女が樽みたいな体型だって構わないわよ?」

シルヴィア「勘弁してちょうだい……そうならないためにも、皿を片付けて運動するとしましょう」

提督「それなら私も手伝うわ。食後のパンドーロを食べた分、カロリーを消費しないと♪」

クラウディア「まぁ、二人ともありがとう♪」

………
916 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/02/26(月) 01:30:53.98 ID:zTDZK47j0
…夜…

クラウディア「それじゃあ、ミサに行く準備はできた?」

…そういって玄関先で二人に声をかける……クリスマスミサと言ってもある程度シックな装いであれば問題ないので、クラウディアはクリーム色のベルト付きトレンチコートに、淡いレモン色のふわふわしたセーターと白のスラックス、頭にはメルトン(厚手のフェルトのような布)の白いベレー帽をかぶって、首元にアクセントとして花柄プリントが施されたスカーフを巻いている…

シルヴィア「済んでるわ」

…シルヴィアは黒いダブルのステンカラーコートにパールグレイのピッタリしたタートルネックセーター、細身の黒いスラックス……それに差し色としてワイン色のマフラーを巻き、足元をヒール付きショートブーツで固めている…

提督「私も」

…提督は北欧への出張でもお世話になった黒のラップコートと淡いあんず色のセーター、それに百合の花のように広がるシルエットが綺麗な白いスカートで、黒タイツと茶革のミドル丈のブーツを履いた…

クラウディア「鍵は私がかけるわね」二人が玄関を出ると鍵をかけ、それからシルヴィアの腕につかまって歩き出した……

シルヴィア「そうしがみつかないで、歩きにくいわ」

クラウディア「恥ずかしい?」

シルヴィア「それは別に……ただ、そこまで身体を寄せられるとね」

クラウディア「そう、残念♪」おどけた口調でそういうと少しだけ身体を離し、代わりにシルヴィアの指に自分の指を絡めた……

シルヴィア「そのくらいならいいわ」

クラウディア「フランカ、あなたには反対側を貸してあげる♪」

提督「ありがと、お母さま……それじゃあ遠慮なく♪」そういうとわざとスキップのような子供じみた動きで横に並び、黒革の手袋につつまれた細い、しかし意外と力強いシルヴィアの手をつかんだ……

シルヴィア「まさに両手に花、ね」

…街の教会…

アンナ「……フランカ!」

…家から歩いて十分あまり、クラウディアたちに続いて街の中心広場に建っている教会へと入ろうとしたとき、不意に後ろから声をかけられた提督……聞き馴染みのある声を耳にして振り向いた矢先、幼馴染みのアンナが飛び込むようにして抱きついてきた…

提督「アンナ、帰ってきていたのね?」一瞬たたらを踏みそうになったが航海で鍛えられたバランス感覚でどうにか姿勢を保ち、アンナを受けとめながらたずねた……

アンナ「そりゃあクリスマスだもの……ベルギーとルクセンブルクでそれぞれ一件ずつ税法絡みの訴訟があったんだけど、とっととけりを付けて戻ってきたの」提督の左右の頬にキスを済ませると、肩をすくめていった……

提督「相変わらずね」

アンナ「それはこっちのセリフよ。帰ってくるんだったらそう言いなさいよ……てっきりクリスマスもタラントで缶詰にされているものだとばっかり思ってたわ」

提督「さすがに海軍だってクリスマスくらいは休ませてくれるわよ」

アンナ「そう。それじゃあフランカ……明後日にでもうちにこない?」

提督「えっ、でも……」いくら幼馴染み…アンナに言わせると「許嫁」とはいえ、家族水入らずで過ごすのが当然のクリスマス前後に家への招待を受けるのは…と、遠慮する言葉が出かかった提督……

アンナ「大丈夫よ。うちは広いし、フランカとの関係だって許してくれてるのは知ってるでしょ? おまけにパパもママも明日にはシチリア旅行に出かけるから、邪魔する人なんていないのよ?」まるで提督の言わんとすることを先読みしたように言葉を続けた……

提督「それはそうかもしれないけれど……」

アンナ「ふぅ……あのね、フランカ。 私、このあいだミラノに行ってきたの」

提督「あら、素敵。スカラ座でオペラでも見てきたの?」

アンナ「もう、フランカってばとぼけちゃって……つまり、ブティックで買い物をしてきたって言ってるの……ね、どんなのを買ったか見たいでしょ?」下からのぞき込むようにして、じらすような口調で言った……

提督「……っ///」

アンナ「何を照れてるのよ、これまでだってさんざん見ているくせに……♪」

提督「いえ、だって……///」

アンナ「まったく、相変わらず初心なフリをしてくれちゃって……そういうところが可愛いのよね♪」

提督「もう、からかわないでよ……」

アンナ「からかうくらいで許してあげているんだから感謝しなさい?」

提督「……ええ、そこは感謝しているわ」

アンナ「当然でしょう? 私は度量の広い女なのよ」

提督「度量の広い人間は自分でそういうことを言わないと思うの……」

アンナ「いいから。 ねぇ、せっかくだから一緒に入りましょうよ……今度白いドレスで一緒に入るときの予行練習ね♪」

提督「……」
917 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/03/04(月) 03:12:52.71 ID:Il+wi9AK0
…教会…

アンナ父「おやフランチェスカちゃん、クリスマスおめでとう。こっちに帰ってくるのは久しぶりじゃないか。 うちのアンナも何かといえば君の話でね……積もる話もあるだろうし、良かったら今度うちにおいで?」

アンナ母「ええ、本当に……貴女なら大歓迎よ♪」

提督「ありがとうございます」

アンナ「もうっ! パパもママも、余計な事は言わなくてもいいの!」

…こぢんまりとした……しかし由緒ある教会には続々と町の人がやってくる……おおよそ定位置が決まっているベンチに皆が腰かけていく中で、提督はアンナの両親と言葉を交わした……仕立てのいい茶色のスーツに暗紅色をした楕円の宝石をあしらったループタイを身に付け、相変わらずのしゃがれ声で髪の毛をぺったりと後ろに撫でつけたアンナの父と、高そうなプッチの黒いドレスとストッキング、首元に大粒の真珠のネックレスと、ぽっちゃりと丸っこい指にダイアモンド付きの豪華な指輪をし、会うたびにふくよかさが増しているアンナの母……それにアンナの父が経営している『貿易会社』の一癖ありそうな若い衆が二、三人…

アンナ父「何が「余計な事」なものだね、アンナ」

アンナ母「そうよ、フランチェスカちゃんは本当に良い子なんだから」

提督「これは、ご丁寧にどうも……そろそろ席に着かないといけませんので……」

アンナ父「それもそうだ、あんまりおしゃべりをしていては神父様に叱り飛ばされてしまうな」

アンナ「……まったく。とにかく貴女のことなら大歓迎だから、必ず来なさいよね♪」軽く手を振ると、両親と一緒に定位置のベンチに腰かけた……

提督「え、ええ……」

…ミサ…

神父「天にまします我らの主よ……」

…提督が子供の頃からずっと町の教会でミサを執り行っている神父がクリスマスミサのお祈りを続け、式次第に合わせて祈りの言葉を唱えたり十字を切ったりする会衆…

神父「……アーメン」

………



…ミサの後…

クラウディア「ふぅ……教会って底冷えするわね、足先が冷たくなっちゃったわ」

シルヴィア「神父は寒くないんでしょうよ。帰ったらまた暖炉の火をおこして、それからグラッパを垂らした熱いコーヒーでも飲みましょう」

提督「賛成」

クラウディア「それに、お菓子も好きなだけ食べていいわよ」

提督「まぁすごい、まるでクリスマスみたい♪」冗談めかしてわざと驚いてみせる……

クラウディア「そのクリスマスよ」

シルヴィア「ふふ……♪」

…教会前の広場では飾り立てられたツリーを見ながら気の合う仲間同士でおしゃべりに興じる人たちや、久々に顔を合わせて口づけを交わす恋人たち、あるいはお菓子をもらってご機嫌な子供たちなどが笑いさんざめき、小さな町にもにぎわいが戻ってきたような感がある…

アンナ「フランカ♪」

提督「あら、アンナ……お父様たちとはもういいの?」

アンナ「ええ、どうせうちに帰ったらずーっと「誰がどうした」とか「どこどこの娘が結婚した」だのって噂話を聞かされるんだから……それよりも貴女と一緒にいられる時間を有効活用しないと……ね♪」提督よりも小柄なアンナだが、腰に手を回すと勢いよく身体を抱き寄せた……

提督「もう///」

クラウディア「まぁ、ふふっ……アンナちゃんってば♪」

シルヴィア「相変わらずみたいね」

アンナ「あ、これはお義母さまにおばさま……お久しぶりです」

クラウディア「ええ、久しぶりね♪」

シルヴィア「そういえばこの間「お土産に」ってくれたワイン、とても良かったわ」

アンナ「お気になさらず。お義母さまとおばさまは私の母も同じですから♪」

提督「なんだか着実に外堀を埋められている気がする……」

シルヴィア「……それで、こっちにはいつ頃まで?」

アンナ「年明けの三日にはスイスへ飛ばなければいけないので、二日までです」

クラウディア「それじゃあ、良かったらフランカとも過ごしてあげて?」

アンナ「ええ、もちろんです♪」

提督「……」
918 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/03/12(火) 02:14:36.28 ID:zmg+/zf40
…12月25日…

提督「ふ〜ふふ〜ん〜…♪」

クラウディア「あら、フランカったらご機嫌ね♪」

提督「そりゃあクリスマスだもの……お母さまとおばさまもそうでしょう?」

クラウディア「そうね。もっとも、シルヴィアがいるならいつだって嬉しいけれど♪」

シルヴィア「はいはい……」

…クリスマスの朝はひんやりと寒かったが、日が昇るにつれて次第に明るい光が降り注ぎ、庭から望めるティレニア海の波もきらきらと輝いている……提督たちは暖炉の前で温かいコーヒーをゆっくり飲み、クラウディアがかけたクリスマスソングのCDを聞きつつ、届いたクリスマスカードのメッセージを読んでいる…

クラウディア「あら、もうこんな時間……そろそろローストの準備に取りかからないと」

提督「なら私も手伝うわ」

クラウディア「ありがとう、フランカ。でもクリスマスなんだから座っていていいのよ……今日は私が腕によりをかけて作るから、美味しく食べてくれればそれで十分♪」そう言って座っている提督の前髪をかきあげて額にキスすると、エプロンをつけて台所に入っていった……

提督「……お母さまったら張り切っちゃって。あの調子じゃあ一個分隊でも食べきれないくらい作っちゃいそうね」

シルヴィア「久しぶりにフランカと過ごせるクリスマスだもの、クラウディアだって嬉しいのよ」

提督「そうね、私だっておばさまたちと過ごせて嬉しいわ」

シルヴィア「ありがとう……ところで、クリスマスカードについていたプレゼントはどうだった?」

提督「ええ、それならいろんな物が届いたわ。香水や日持ちのするお菓子、それから小さなアクセサリーや小物とか……」

………



提督「さてと、誰から何が届いたのかしら……♪」淡い桃色のバスローブ姿で脚をぶらぶらさせながら、クリスマスカードの差出人を見ては文面を読み、それから小包や箱を開けていく……

提督「まずは……エレオノーラからね♪」

…北アドリア海管区の「ヴェネツィア第三鎮守府」でコルヴェットや駆潜艇といった小艦艇を中心とした戦隊を編制し、掃海や船団護衛、対潜掃討を行っているシモネッタ大佐……提督とは士官学校の同期で、優秀な成績とたおやかで優しい立ち居振る舞いのおかげでそうは見えないが、実際は重度のロリコンをこじらせていて、鎮守府では艦娘たちが慕ってくれるのをいいことにただれた生活を送っている…

提督「えーと、なになに……「フランカ、クリスマスおめでとう♪ 私はヴェネツィアでうちの娘たちと楽しく過ごしています。また機会があったら遊びに行きます……それからプレゼントですが、貴女に似合うと思うので、良かったらぜひ使って?」相変わらず小さい娘たちといちゃいちゃしているのね……そろそろ憲兵に逮捕されるんじゃないかしら……」眉をひそめてから、プレゼントの包みを開けた……

提督「あら、新色の口紅……さすがエレオノーラね、色の趣味がいいわ♪」ラメの入った明るいイタリアンレッドの口紅は、これからやってくる春にふさわしい……

提督「それじゃあお次は……と」

提督「あ、これはルクレツィアのね」

…シモネッタ提督と同じく士官学校の同期で、今でも仲の良いカサルディ中佐……小柄でカラッとした気持ちの良い性格をしていて、エーゲ海でMAS(機動駆潜艇)やMS(魚雷艇)の艦娘たちを率いて暴れ回っている…

提督「さてと……「フランカ、クリスマスおめでとう! 私はがさつだし何を贈ればいいか分からなかったから、とりあえずフランカの好きそうな物にしてみたわ。それじゃあね、チャオ!」ふふっ、相変わらずね♪」

提督「それで、ルクレツィアは何を贈ってくれたのかしら……と」

提督「あら……ルクレツィアってば、なかなかいいセンスよ?」出てきたのはクレタ文明のモザイク画風に描かれたイルカや魚をあしらったスカーフで、クリーム色の地に青やオレンジの柄が映える……

提督「こういうしゃれたスカーフは私よりもシルヴィアおばさまみたいな格好いいタイプの人に似合いそうだけれど……でも嬉しいわ♪」

提督「それからナタリアのプレゼントは、と……」

…クリスマスカードに書かれた近況やあいさつを読んでは知り合いや(少なくない)恋人たちとのあれこれを思い出し、それからさまざまなプレゼントを開けては楽しんだ…

………

シルヴィア「そう、良かったわね」

提督「ええ。もっともまだいくつも残っているし、お休みの間にちょっとずつ開けていくつもり……そう思って今もいくつか持ってきたの」

シルヴィア「それじゃあ開けてみたら?」

提督「そうするわ、あんまり変な物は入っていないでしょうし……って///」そう言いながらローマの海軍司令部で知り合いだったお姉様からの小包を開けると、黒の透けるようなベビードールが出てきた……

シルヴィア「……確かにただの下着であって「変なもの」ではなかったわね」

提督「その、えぇーと……」

シルヴィア「大丈夫よ。フランカだっていい大人なんだからそういうものを着たっていい」

提督「あー……まぁ、そうね」

シルヴィア「ええ、たまにはそういう遊び心があってもいいと思うわ……今度クラウディアにもそういうものを着てもらおうかしら」

提督「おばさま?」

シルヴィア「いいえ、なんでもないわ」
919 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/03/19(火) 02:24:38.84 ID:qpJUg7410
…お昼時…

クラウディア「さぁさぁ二人とも座って? スプマンテのボトルは用意した?」

シルヴィア「ええ」

提督「準備出来ているわ、お母さま」

クラウディア「よろしい、それじゃあ……乾杯♪」

…エプロンを外してクラウディアが席に着くと、シルヴィアがスプマンテのコルクを布で押さえつつ「ポンッ!」と控え目な音をさせて栓を抜いた……シューッと軽やかな音を立ててフルートグラスに注がれると、三人で軽くグラスを合わせて喉を湿した…

クラウディア「フランカ、いっぱい食べるのよ?」

提督「ぜい肉にならない程度でね」

シルヴィア「今日くらいはそのことは考えなくても良いんじゃないかしら」

提督「それもそうなのだけれど、美味しいものを前にするたびにその言い訳を使っている気がして……」

クラウディア「そう、それじゃあこのガチョウはいらない?」

提督「いいえ、ぜひ食べたいわ」

クラウディア「まぁ、ふふっ……♪」

シルヴィア「クラウディアの料理を前に我慢なんて出来ない相談だもの……私が切りましょうか?」

クラウディア「ええ、お願い♪」

…ローズマリーやオレガノ、ニンニク、粒の黒コショウと粗塩を擦り込み、中にみじん切りの野菜を詰め込んでじっくりとローストしたガチョウ……シルヴィアが大ぶりのナイフで手際よく切り分け、美味しい脚の部分を提督とクラウディアに取り分ける…

クラウディア「もう、だめよ? 脚は貴女とフランカで食べるのよ」

シルヴィア「そういうわけにはいかないわね。切り分けているのは私なんだから言うことを聞いてもらわないと……それに他の部位も肉厚で美味しそうじゃない」

提督「それならお母さまとおばさまが脚を取ればいいわ。ごちそうは他にも色々あるんだし、私は胸肉だって好きよ?」

クラウディア「もう、仕方ないわね……それじゃあシルヴィア、半分こしましょう?」

シルヴィア「それなら文句ないわ。これを料理した貴女がこの美味しそうな部分を食べられないなんて、そんな不公平があったらいけないもの」

クラウディア「ふふ、相変わらず優しいのね……♪」

提督「それなら私からもお母さまたちに分けてあげるわ」

クラウディア「いいのよ。いくつになってもフランカは私たちの娘なのだから、遠慮せずにいっぱい食べなさい……それにどうしても腿が食べたければ、もう一羽むこうに焼いたのがあるんだから♪」いたずらっぽい笑みを浮かべると、軽くウィンクをした……

シルヴィア「なんだ、それならそうと言えばいいのに……」

提督「ふふっ、本当にね♪」

………

…同じ頃・鎮守府…

ドリア「それではクリスマスの晩餐をいただくことにしましょう……主の恵みと料理を手伝ってくれたみんな、そしてこんなに立派な猟鳥を贈ってくれた提督と提督のお母様方に……乾杯♪」

一同「「乾杯」」

…しゅわしゅわときめ細やかな泡を立て、燭台の灯りや暖炉の炎に照り映える金色の「フランチャコルタ」や鮮やかな紅の「ランブルスコ」、さっぱりとした白ワイン、あるいは深いルビー色に輝く赤ワインのグラスを掲げ、乾杯する一同……それが済むと食欲旺盛な駆逐艦や潜水艦の娘たちは早速ディアナたちに料理を取り分けてもらう…

リベッチオ「ふー、ふー…はふっ、あちち……っ!」

カヴール「あらあら、よく冷ましてから食べないと舌を火傷しますよ?」

…アンティパスト(前菜)のガランティーヌ(タンや肉のゼリー寄せ)やサラミの盛り合わせに続くプリモ・ピアット(第一皿…一つ目のメインディッシュ)は温かいコンソメスープにラヴィオリを浮かせたもので、ラヴィオリの中にはトリコローリに合わせてそれぞれホウレンソウ、リコッタチーズ、トマトペーストなどを詰め込んである…

レモ「それじゃあこっちも食べるね♪」

スメラルド「オンディーナ、私にも取り分けてもらえますか?」

オンディーナ「ええ、どうぞ」

…コース料理の花形(プリマ・ドンナ)であるセコンド・ピアット(第二皿)は提督の実家からシルヴィアが送ってきた鴨やアヒル、ガチョウ、それにたっぷり脂が乗った鶏を始め、濃い赤身が食べたい娘たちには赤ワインソースの鹿肉、野趣あふれる肉が食べたい娘たちにはドングリを食べてほどよく脂が乗ったイノシシ肉のあばら肉が香草を効かせたローストで饗されている…

ディアナ「遠慮せずいっぱい召し上がれ?」

…まだ表面がぷちぷちと音を立て、きつね色の皮目がパリッと焼けている鶏やガチョウ……かかっているソースも肉に合わせて爽やかなオレンジソースやドライトマトで作った甘酸っぱいトマトソース、瓶に詰めて保存してあった濃緑色のペスト・ジェノヴェーゼ(バジルペースト)と、いく種類も取りそろえてあり、めいめいが好きな味や肉を選べるようにしてある…

コルサーロ「こいつは美味い……最高だよ♪」

カラビニエーレ「……相変わらずお行儀が悪いんだから、まったく」肩をすくめて……ただ、いつものようなお説教はせず口のまわりについた鳥の油をぬぐってあげる……

チェザーレ「ははは、元気で何よりだ♪」
920 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/03/26(火) 02:14:43.64 ID:p10Q7sa80
チェザーレ「……それにしても済まぬな、ディアナ」

ディアナ「と、申しますと?」

チェザーレ「この立派な正餐のことだ」長テーブルの上に並んでいる皿の数々を指し示した……

ディアナ「いいえ、わたくしも皆に喜んで頂きたかったので」

チェザーレ「さようか。提督に代わって礼を言うぞ」

ドリア「……チェザーレ、ディアナ、もう一杯いかがですか?」

ディアナ「ええ、ではもう少しだけ」

チェザーレ「もらおう、リットリオたちはおらぬのだからな……その分を開けても文句は言うまい」

ポーラ「そうですよぉ、クリスマス休暇を先に取っちゃった娘たちや提督の分まで開けちゃいましょ〜う♪」

ザラ「もう、相変わらずなんだから……フランチャコルタ?」

ポーラ「そうですよぉ……以前、提督に見せたら「私の月給の三分の一くらいする……」って言ってましたねぇ〜♪」

…暖炉の火とアルコールで赤みを帯びた頬を火照らせ、ころころと笑いながら値の張るスプマンテを遠慮なく開けるポーラ……しゅわしゅわと軽い音をさせながらグラスに液体が注がれ、注ぎ分けたグラスを持ち上げて乾杯する…

リベッチオ「ねぇねぇディアナぁ……お酒もいいけど、そろそろケーキを切らない?」ディアナのかたわらにやって来て、おねだりをするようにしながら軽く袖口を引っ張った……

マエストラーレ「まったくもう、リベッチオってばせっかちなんだから。ディアナだってお酒は飲みたいし、まだ食事も済んでいないのよ? もう少し我慢しなさい」

リベッチオ「えー?」

ディアナ「ふふ……リベッチオ、もう少しだけ待って下さいましね? そうしたらケーキを出しますから」

リベッチオ「ホント?」

ディアナ「ええ、本当です」

リベッチオ「やったぁ♪ ね、そろそろケーキだって♪」

マエストラーレ「はいはい……♪」

…普段から駆逐艦「マエストラーレ」級の長姉として奔放な妹の手本となるべく、また準同型の「オリアーニ」級の先輩としてもお姉ちゃんらしく振る舞っているマエストラーレだが、嬉しさが顔に出るのは隠しきれない…

アルフレド・オリアーニ「ふふ……マエストラーレったら、こんな時くらいは子供みたいに振る舞ったっていいのに」

マエストラーレ「な、何言ってるのよ……///」

カルロ・ミラベロ「くすくすっ、私たちからしたらみんなお子ちゃまみたいなものなのにね?」

アウグスト・リボティ「ね♪」駆逐艦では艦隊最高齢の小さな「ミラベロ」級駆逐艦、幼い外見に似合わないおませなミラベロとリボティがくすくすと笑った……

ディアナ「ふぅ……さて、それではそろそろケーキを持って参りましょうね」上品に口のまわりを拭うと立ち上がり、厨房へと入っていった……

ピエトロ・ミッカ「それでは私も手伝いましょう」大型潜水艦のミッカを始め、敷設や輸送に縁があった何人かが手伝おうとついていく……

ディアナ「まぁ、それではよしなに♪」

…待つほどでもないうち、ディアナたちがケーキの載った大皿や盆を捧げて戻ってくると、たちまち大食堂に娘たちの黄色い歓声が沸き上がる……同時に誰かが「きよしこの夜」のレコードをかけ、どこからともなく合唱が始まった…

ディアナ「さ、お待たせしてしまいましたね……食べたいものを切り分けますから、どうぞお皿を回して下さいな」

…ディアナが愛車の「フィアット・アバルト850」を飛ばして、鎮守府のお馴染みになっている近くの町のケーキ屋さんで買ってきた大きなスポンジケーキを始め、ディアナやドリアが腕によりをかけて作った、イタリアのクリスマス菓子として定番のパンドーロやパネットーネ、あるいは上から白い粉砂糖をふるったチョコレートケーキや、砂糖漬けの果物もカラフルなタルトと、目移りしそうなほど並べられた…

グラウコ「うーん、どれも美味しそうで決められそうにないです……」

オタリア「本当ですね……迷ってしまいます」

カヴール「ふふ、それじゃあ私が取ってあげましょう♪ ……それにしてもディアナ、ずいぶんたくさん焼いたのですね?」

ディアナ「ええ。何しろクリスマス休暇に入った娘が多かったものですから、注文しておいた卵が余ってしまって……傷ませてしまうまえに使い切ってしまおうと思いまして」

リベッチオ「それでこんなにケーキが食べられるならゴキゲンだよ♪ ね、お姉ちゃん?」皿にケーキを盛り合わせにしてもらうと、脚をぶらぶらさせながらケーキをぱくついている……

マエストラーレ「だからってあんまり食べ過ぎないの」

シロッコ「ふふ、今日くらいはいいじゃないか」

トリチェリ「……はい、先生もどうぞ? あーん♪」

ガリレオ・ガリレイ「うぷっ……もう、鼻の頭にまでクリームを食べさせることはないでしょ♪」

…艦娘たちはそれぞれケーキを食べたり、お酒のグラスをかたむけたり、クリスマスソングを歌ったりしている……暖炉の前に敷かれた絨毯の上ではルチアが骨をかじりながら寝そべり、何人かがブラシで毛並みをくしけずったり撫でたりしながら遊んでやっている…

ドリア「いいクリスマスですね、デュイリオ」

デュイリオ「あら、まだまだクリスマスは長いのよ……アンドレア♪」
921 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/03/31(日) 02:21:54.49 ID:pRbdUNY+0
…食後…

カヴール「さて、食卓は片付きましたね?」

ガリバルディ「ええ、大丈夫よ」

レモ「今度はなぁに?」

ドリア「あちこちからクリスマスカードが届いておりますから、せっかくですし読み上げようかと」

ガリバルディ「いいわね、どうせ時間もあることだし」

デルフィーノ「そうですね。それにしてもそれぞれ個性があって面白いです♪」デルフィーノは鎮守府に届けられたメッセージカードの山をより分けながらしきりにうなずいている……

カヴール「それでは読みましょうか……♪」おっとりとした貴婦人のような様子で暖炉の前の椅子に腰かけると「鎮守府宛」になっているクリスマスカードの中から、企業の広告や管区司令部からのカードを除いた何枚か手に取った……

エウジェニオ「誰から?」

カヴール「最初は……あら、イギリスのグレイ提督ですね」

…提督の実家とは別に、鎮守府にも送られてきた提督たちからのクリスマスカード……これにもそれぞれの性格や色が出ていて、イギリスの貴族令嬢であるグレイ提督は上品なハロッズ(百貨店)のカードに綺麗な筆記体で「Merry Christmas」とつづってあるのに対し、アメリカのミッチャー提督はコミック風のサンタクロースが描かれたカードに大きな文字で「Merry X‘mas」と、いかにもアメリカらしい書き方をしている…

ガラテア「それで、レディ・グレイは何とおっしゃっています?」美しいガラテアが、カヴールの後ろから乳白色の美しい腕を首元に優しく回す……

カヴール「ええ、今読みますね……「タラント第六鎮守府の皆様、メリークリスマス。このカードを書いている間、あの明るいイオニア海の海原を思い出しました。どうか七つの海が平和でありますよう、そして貴女方が良いクリスマスを過ごせますように」……だそうです」

ネレイーデ「ふふ、あの人は相変わらずですね……♪」

ドリア「それでは次は私が読みましょうか……「メリークリスマス、ガールズ。ノーフォークは北風が寒くって最悪で、サンディエゴやマイアミ、あるいはそっちのナポリみたいな港が恋しいわ。ステイツからプレゼントを贈ったから、喜んでもらえたら嬉しいわ」だそうですよ」

セッテンブリーニ「ミッチャー提督も相変わらずね、プレゼントはきっとダサいセーターと野球帽、七面鳥のローストにチューインガムで間違いないわ」

ドリア「まぁ、ふふっ……♪」

カヴール「それから次のカードは……エクレール提督ですね。フランス語ですから、私が読みましょう」

ダルド(駆逐艦フレッチア級)「ヴァイス提督からのカードは私が読めるわ」

アントニオ・ピガフェッタ(駆逐艦ナヴィガトリ級)「ドイツ語なら私も読めるけどね……途中で代わろう」

ルイージ・トレーリ(大型潜マルコーニ級)「では、百合姫提督のカードは私が読みますね」

…フランスのエクレール提督は香水つきのカードに長々とメッセージを書き、ドイツのヴァイス提督は堅苦しいまでにきちんとした内容を罫線でも引いてあるかのような具合で真っ直ぐに書きつづり、百合姫提督は和紙を使ったはがき大のカードに丸みを帯びた丁寧な筆文字でメッセージを書き留めている…

カヴール「あらまぁ、くすくすっ……♪」

チェザーレ「なにかおかしい事でも書いてあったのか?」

カヴール「ええ、ふふっ♪ エクレール提督ったらエスカルゴの前菜から始まるクリスマスの正餐ですとか、お国自慢を長々と書き連ねてあるものですから……♪」

エウジェニオ「エスカルゴってカタツムリのことでしょ……それがごちそうの前菜なの? カエルやカタツムリを食べるフランス人には困ったものね」

カヴール「まぁまぁ、あれもバター焼きにすれば案外良いものですよ?」

ダルド「そろそろいい? それじゃあこっちも読むわよ……「クリスマス、そして新年おめでとう。レープクーヒェン(ドイツのクリスマスに欠かせないショウガクッキー)を送ったので、ぜひご賞味いただきたい」だそうよ」

ピガフェッタ「レープクーヒェンか……地味な菓子だが嫌いじゃないよ」

トレーリ「それでは次は百合野提督のカードですね、読みますよ……「タラント第六鎮守府の皆様、メリークリスマス。クリスマスカードを送る風習がないものですから、何を書けばいいかずいぶん悩みました。ともあれタラント第六のみんなが良いクリスマスと新年を過ごせるよう、心から願っております。またいつか訪問できる機会を楽しみにしています」とのことです」

カヴール「ふふ、いかにも日本人らしい奥ゆかしい文面ですね」

チェザーレ「むしろ彼女の人柄であろうな……それぞれプレゼントも付いてきたようであるから、少々早いが開けてしまおうか」

(※イタリアではプレゼントを開けるのはイエス・キリストが生まれたとされる1月6日の公現祭(こうげんさい)の日。プレゼントは東方の三賢人の誘いを断り、結果キリストの誕生に立ち会えなかったことを後悔し続けているとされる魔女「ベファーナ」が持ってくるとされている)

フルミーネ「やった♪」

カヴール「まぁ、少し早い気もしますが……クリスマスですからね、提督方の贈り物に限ってはいいということにしましょう♪」

…チェザーレやカヴールたち、留守を預かる「大人組」の許しを得て、クリスマスのメッセージカードに添えて送られてきた包みを喜び勇んで開ける駆逐艦や潜水艦の艦娘たち……娘たちによって人柄がでるのか開け方もさまざまで、待ちきれない様子で嬉しそうに包み紙を破る娘から、ある程度落ち着いてリボンをほどく娘までさまざまだった…

フレッチア「すんすん……匂いからするとショウガクッキーね」

ピガフェッタ「レープクーヒェン、ドイツのクリスマス菓子では定番のやつさ」

コマンダンテ・カッペリーニ「百合野提督の贈り物は……化粧品と手拭いですね」

…日頃から潮風に吹かれ波飛沫を受けている艦娘たちにと、日本メーカーの乳液や保湿クリームといった化粧品の詰め合わせと、銀座の中心地、歌舞伎座のそばにある老舗で売っている、色も柄もさまざまな手拭いがたくさん入っている……かさばらずにお洒落なものをという、百合姫提督らしい気づかいが見て取れる…

トレーリ「柄のいくつか「鎌○ぬ(構わぬ)」と言葉遊びになっていたり「後ろに下がることがない」蜻蛉(とんぼ)の柄みたいに、戦場での縁起を担いでいたりするんですよ」

デュイリオ「まぁまぁ、それは素敵ですね♪」
922 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/04/08(月) 00:19:59.79 ID:XZ5d4hH20
…しばらくして・中型潜「スクアーロ」級の部屋…

スクアーロ「ふぅ、たっぷりのご馳走に上等な酒……最高だったな」

トリケーコ「そんな風にすぐ横になると消化に悪いですよ?」

スクアーロ「今日はクリスマスなんだ、そう言うなよ」

デルフィーノ「スクアーロはクリスマスでなくたってそうじゃないですか」

スクアーロ「お、言ったな? そういう生意気を言うと……こうだぞ♪」ベッドから飛び起きるとデルフィーノの肩口を甘噛みし、ついでに脇腹をくすぐる……

デルフィーノ「ひゃあぁ、やめて下さい……っ///」ばたばたと暴れ回るデルフィーノ……

ナルヴァーロ「ほら、じゃれ合うのもほどほどにしなさい……私たちはバンディエラの部屋に遊びに行ってくるわ♪」そう言ってナルヴァーロ(イッカク)とトリケーコ(セイウチ)は出ていった……

デルフィーノ「はぁ、はぁ、はぁ……///」

スクアーロ「どうだ、姉に逆らうとどうなるか分かったか?」スクアーロ(サメ)の名にふさわしい、白くギラギラした犬歯をのぞかせてにんまりと笑ってみせる……

デルフィーノ「もう、分かりましたよぉ……」

スクアーロ「よーし、ならいい……しかしジァポーネの提督もマメだねぇ」

…鎮守府の艦娘全員に行き渡るほどの化粧品や、和紙の包み紙さえお洒落な和風の小物が詰め込まれた百合姫提督の贈り物……スクアーロは早速包み紙を開けて、中に入っていた「資生堂」の乳液をしげしげと眺めた…

デルフィーノ「そうですねぇ」

スクアーロ「ああ……ところでデルフィーノ」

デルフィーノ「なんです?」

スクアーロ「せっかくだしちょっと塗ってくれるか、肌がガサガサなんだ」

デルフィーノ「はい、いいですよ」

スクアーロ「悪いな」

…スクアーロは自分なりに「海のギャング」らしくということでクリスマスパーティの正餐に着ていた、グレイで黒リボンの付いているボルサリーノ(ソフト帽)と、サメの背中のような濃い灰色のスーツとジレ(ベスト)、パールグレイのネクタイとワイシャツを次々に脱いでいく……着る物をすっかりハンガーに掛けてしまうとベッドにうつ伏せになり、デルフィーノに乳液の瓶を渡した…

スクアーロ「どうだ?」

デルフィーノ「たしかにずいぶん荒れてます。もしかして食生活とかが乱れているんじゃないですか?」

スクアーロ「みんな同じものを食っているのにそんな訳があるか……まぁいい、塗ってくれ」

デルフィーノ「もう、人遣いが荒いんですから……」よいしょとスクアーロの背中にまたがって甘い香りの乳液をとろりと背中に垂らすと、すんなりした手で塗り込んでいく……

スクアーロ「お、なかなか気持ちいいな……♪」

デルフィーノ「それなら良かったです。せっかくだからこっちもやってあげますね?」スクアーロのサメ肌へ馴染ませるように肩甲骨、背中、脇腹、腰の辺りへと器用な手つきで滑らせていく……

スクアーロ「あぁ、いいな……うん、上手じゃないか……♪」

デルフィーノ「あの……スクアーロ///」スクアーロにまたがり、その白い裸身を見ながら揉みほぐすように乳液を塗り込んでいるうちに、ごちそうとお酒で火照った身体が甘くうずき始める……

スクアーロ「ん?」

デルフィーノ「……そのぉ、ついでだから脚もマッサージしましょうか///」

スクアーロ「どういう風の吹き回しか知らないが、せっかくそう言ってくれたんだ……ぜひやってくれ」

デルフィーノ「はぁい……♪」スクアーロのきゅっと張りつめたようなヒップからしなやかな太ももに手を這わす……

スクアーロ「おい、それじゃあ手つきが違うだろう……この万年発情期が♪」

デルフィーノ「だ、だってぇ///」

スクアーロ「ったく、仕方のない妹だな……ほら♪」ごろりと寝返りを打つと自分の手にも乳液を取り、デルフィーノのフリル付きワンピースの下へ手を入れ、片手でくびれた腰から太ももの付け根、もう片方の手で形の良い乳房を愛撫する……

デルフィーノ「はぁ、あぁんっ……はひゅっ、はひっ♪」数分もしないうちに可愛らしいくりくりした瞳は焦点を失い、半開きの小さな口から甘えたような吐息が漏れる……我慢しきれないと言うように片手はとろりと濡れた秘部へ伸び、もう片方の手はワンピースの裾をたくし上げている……

スクアーロ「ふふ、可愛い表情で喘ぐじゃないか……♪」

デルフィーノ「らって、らって……ぇ♪」ろれつも回らないままに嬌声を上げ、くちゅくちゅと指を動かしながらふとももに蜜を垂らし、スクアーロの上でひくひくと跳ねる……

スクアーロ「ここなんかも好きだったろ?」ちゅぷ……っ♪

デルフィーノ「ふわぁぁぁ、そこ……そこれす……ぅ///」

スクアーロ「ふふ、今日は午後いっぱいしてやるからな……覚悟しておけよ?」

デルフィーノ「はぁ……い♪」
923 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/04/27(土) 00:49:53.25 ID:Vpqh/dsf0
…一方・提督の実家にて…

提督「ふわ……ぁ」

…午後の日だまりを浴びながら猫のように伸びをすると、ベッドに寝転がり文庫本をめくり始めた……と、ベッド脇のテーブルにある携帯電話が震えだし、提督は本を閉じるとせかせかと携帯に手を伸ばした…

提督「……もしもし?」

ミッチャー提督「ハーイ、フランチェスカ。いま大丈夫?」

提督「あら、ジェーン♪ ええ、大丈夫よ。貴女の声が聞けて嬉しいわ♪」

…電話口の向こうから聞こえてきたキレの良いアメリカ英語の主は、かつて提督と付き合いがあったアメリカ大西洋艦隊のジェーン・ミッチャー提督……グラマーで褐色の肌、黄色の1971年型「バラクーダ」を乗り回し、コルトM1911「ガバメント」のカスタムピストルで射撃にいそしみ、アメリカ人らしいスタンドプレーと多彩な悪口、それにタフさと知性を兼ね備えた実力派の提督で、穏和な提督とは正反対に近い勇猛果敢なタイプだが、映画という共通の趣味もあってか意外なほど仲が良い…

ミッチャー提督「そいつはこっちも同じよ……ところで一つ貴女に言いたいことがあるんだけど」

提督「……ええ、どうぞ?」思い詰めたような声の響きに思わず姿勢を正し、何を言われても驚かないように身構えた……

ミッチャー提督「それじゃあ言わせてもらうわ……メリークリスマス♪」

提督「もう、ジェーンったら……真剣な口調で言うから何かあったのかと思ったじゃない」身構えていたぶん拍子抜けで、笑い出しながらベッドの上にひっくり返った……

ミッチャー提督「あははっ、ソーリィ♪ なにせこっちはターキーを食ってクリスマスポンチを飲んで、すっかりご機嫌だからね、ちょっと驚かせてみようかと思ってさ……今はガールズたちにクリスマス映画を見せてるとこ」確かに電話口ごしに映画のものらしい音声や曲が聞こえてくる……

提督「いいわね。それで、映画は何を流しているの?」

ミッチャー提督「心暖まるクリスマス映画の定番よ「ホワイト・クリスマス」に……」

提督「ビング・クロスビーの? 曲も名曲で、映画自体も素敵よね」

ミッチャー提督「でしょう? あとは1947年版の「三十四丁目の奇蹟」と「素晴らしき哉、人生!」、それから「スクルージ」ね」

提督「スクルージだけはイギリス映画ね?」

ミッチャー提督「そ、ハリウッドにも「クリスマス・キャロル」を映画にした作品はいっぱいあるけど、私の中じゃこれが一番イメージにピッタリだから。1935年の映画だけど、時代がかった感じが逆に文学作品っぽくていいわ」

提督「そうねぇ。それにどの映画もみんな心暖まる映画で、クリスマスにふさわしいと思うわ」

ミッチャー提督「でしょ? なにしろ任務に次ぐ任務じゃあ気持ちがすさんでくるし、うちのガールズにもクリスマスくらいは幸せな気持ちでにこにこ笑っていてもらいたいからね。テーブルにはキャンディとチョコレート、デコレーションケーキにローストターキー、頭にはパーティ帽……ヤドリギの下ならキス御免で、ベッドに吊るした靴下の中やツリーの前にはリボンのかかったプレゼント……これならハッピーな気分になれるってものよ」

提督「いい考えね♪」

ミッチャー提督「サンクス、そっちは何してるの?」

提督「今は実家でベッドに転がって読書中……海軍士官になるまでは考えもしなかったけれど、何も考えずにベッドでごろごろできるのって最高の娯楽ね」

ミッチャー提督「しかもクリスマスのごちそうとワインを腹いっぱい詰め込んでから、でしょ? たしかに最高だけど、ずっとそんなことをしていたら、また太ももにぜい肉が付くわよ?」電話越しにクスクスと笑っているのが聞こえる……

提督「ええ、でもクリスマス休暇の間はそれも考えないことにしているの♪」

ミッチャー提督「スラックスがキツくなっても知らないわよ?」

提督「その時はスカートにするわ……それでジェーン、貴女自身のご予定は?」冗談めかしてたずねる提督……

ミッチャー提督「ごあいにくさま、フランチェスカと違ってサッパリよ」

提督「あら、意外……ジェーンなら一人で「ダイナ・ショア・ウィークエンド」を開催出来るほどだと思っていたわ」

(※ダイナ・ショア・ウィークエンド…往年の名女性歌手ダイナ・ショアがゴルフ・コンペを開いた際、クラブハウスに女性たちが集まったことに由来するという全米最大のビアン・イベント。カリフォルニア州パームスプリングスで開催される)

ミッチャー提督「そうだねぇ……私だってアレサ・フランクリンみたいに歌って、フレッド・アステアのように華麗に踊れて、おまけにハンフリー・ボガードみたいに気の利いた台詞が言えれば良かったんだけど、残念ながらそうはいかないもんでさ♪」

提督「ふふ……それを言ったら私だってオードリー・ヘップバーンみたいな顔が欲しかったわ♪」

ミッチャー提督「お互いないものねだりってわけね……でもフランチェスカは綺麗だと思うわよ。脚はまるでシルヴァーナ・マンガーノかジェーン・フォンダかってところだし、胸だって全盛期のころのジーナ・ロロブリジーダみたいで……それでいて顔は柔和で優しげ。パーフェクトじゃない」

提督「あら、ずいぶん褒めてくれるのね……おだてても何も出ないわよ?」

ミッチャー提督「そいつは残念」

提督「くすくすっ……相変わらずみたいね♪」

ミッチャー提督「まぁ、ノット・バッド(悪くはない)ってところよ。どいつもこいつも責任逃れしようとのらくらしているし、何をするにも申請書類をレーニア山くらい積み上げないと許可されないけど」

提督「ふふっ、お役所仕事はどこも同じね」

ミッチャー提督「そういうこと……ともかく、クリスマスカードとプレゼントをありがとね。うちのガールズも喜んでたわよ」

提督「それなら良かったわ。それから貴女のカードもこっちに届いたわ……またこっちにくる機会があったら教えてね? うんと歓迎するわ♪」

ミッチャー提督「サンクス、いいクリスマスをね♪」

提督「ジェーン、貴女もね」
924 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/05/06(月) 01:48:13.72 ID:LBiF/fyO0
…一方・クリスマスのトゥーロン第七鎮守府…

リシュリュー「提督、午後の郵便でまたクリスマスカードが届いておりますよ」

エクレール提督「メルスィ、リシュリュー。ちなみに誰からかしら?」

リシュリュー「読み上げて差し上げましょうか?」

エクレール提督「ウィ、お願い」姿見の前で顔を左右に向けてみたり制服の裾を伸ばしてみたりと、艦娘たちを前に行うクリスマスのあいさつに備えて身支度に余念がない……

ジャンヌ・ダルク「モン・コマンダン(私の司令官)、ぜひ私にもお手伝いさせてください」

エクレール提督「そうね、それではリシュリューと半分ずつ分け合って読み上げてもらおうかしら……構わないわね?」

リシュリュー「無論ですとも……ではこちらの束を」枢機卿のような緋色の生地をした厚手の衣をまとい、丁寧だが表情の読めないリシュリュー……

ジャンヌ・ダルク「ええ、お任せを!」裾に金百合の縫い取りが施された白い清楚なワンピースとふわっとした上着を羽織っている……

エクレール提督「ではリシュリュー、貴女の束からお願いするわ」

リシュリュー「では僭越ながらわたくしめが……まずはパリの海軍省から」

エクレール提督「形式的なものね、後で構いません」

リシュリュー「さようで……地中海艦隊司令部」

エクレール提督「それも後で結構ですわ」

リシュリュー「イギリス地中海艦隊のメアリ・グレイ少将」

エクレール提督「わざわざクリスマスカードを送ってくるだなんて、おおかた皮肉でも書き連ねてきたのでしょうね」

リシュリュー「でしょうな……ドイツ連邦海軍のヴァイス中佐」

エクレール提督「そう」

ジャンヌ・ダルク「では続けて私が……マリアンヌ・サヴォワ少佐」

エクレール提督「ああ、マリアンヌね。パリで一緒だったわ」

ジャンヌ・ダルク「ジュヌヴィエーヴ・フォルバン少佐」

エクレール提督「彼女ならカサブランカですわね。ジャンヌ、続けてもらえる?」

ジャンヌ・ダルク「はい、次は……イタリア海軍、フランチェスカ・カンピオーニ少将」

エクレール提督「フランチェスカから!? ……まぁ、わたくしからもカードを送ったのですし当然ですわね///」

ジャンヌ・ダルク「そうですね」

リシュリュー「おほん……他のカードは後回しにしてもよろしいような物ばかりかと存じますし、司令官も食堂でのあいさつの前にいささか公務が残っておりましょう……私どもは失礼させていただきますゆえ、何かご用の向きがございましたらまた……」

エクレール提督「え、ええ……そうですわね。つまらない書類仕事が少しだけ残っておりますし、二人はそれまで食堂でくつろいでいて構いませんわ」

ジャンヌ・ダルク「あの、モン・コマンダン? よろしければ私もお手伝いを……」

リシュリュー「……ジャンヌ」小さいが含みのある声でたしなめる……

ジャンヌ・ダルク「あっ……いえ、なんでもありません。失礼します///」

エクレール提督「え、ええ……///」

…二人が下がると提督からのクリスマスカードをしげしげと眺め、それから丹念に文を読んだ……提督の柔らかな筆跡で書かれている筆記体のフランス語を読み、二つほどあった小さな文法の誤りを見つけると眉をひそめ肩をすくめたが、読み終えると頬を赤らめてもう一度読み返した…

エクレール提督「それにしてもフランチェスカときたら……本当にこういう事を恥ずかしげもなく書くのですから///」

…提督からのクリスマスカードには「クリスマスおめでとう」の下に添えて「クリスマスには会えないので、私からの愛をプレゼントに込めて送ります……可愛いマリーへ。フランチェスカ」とあり、ほのかに甘い香りのする香水が吹き付けてある…

エクレール提督「……まったく、もう///」時間をかけて「シェルブールの雨傘」のカトリーヌ・ドヌーヴ風にセットした髪を指先でいじりつつ、口元に笑みを浮かべるとカードを読み直し、それからカードにキスをすると引き出しの大事な場所にしまい込んだ……

エクレール提督「さて……わたくしも食堂へ行くとしましょう」

エクレール提督「フランチェスカ、貴女も良いクリスマスを……♪」一人でつぶやくように言うと、足取りも軽く執務室を出て行った……

………

925 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/05/13(月) 01:49:52.02 ID:1BynDEZv0
…同じ頃・ジブラルタル…

クィーン・エリザベス「メリークリスマス、マイ・レディ」

グレイ提督「メリークリスマス」

…地中海の出入口である要衝ジブラルタルの鎮守府もクリスマスの時期ばかりはお祭りムードが漂っていて、蓄音機にはクリスマス音楽や「遥かなるティペラリー(ティペラリー・ソング)」といった愛唱歌がかかっている…

グレイ提督「ふふ、それにしてもみな楽しげで……」

クィーン・エリザベス「ええ、にぎやかで何よりでございますね」

…食堂のテーブルにはクリスマス・プディングと一緒に大きなパンチボウルが鎮座していて、駆逐艦を始めまだまだ「遊びたい盛り」の艦娘たちがやって来てはラム酒いりのポンチをレードル(おたま)でカップに注いでは、にぎやかに飲んだりはしゃいだりしている……一方、クィーン・エリザベスを始めとする年かさの娘たちはある程度落ち着いていて、グレイ提督のそばでゆっくりとウィスキーやブランデーをかたむけている…

エメラルド「提督、よろしければお代わりでも?」

グレイ提督「そうですわね……ではグレンフィディックをストレートで」

エメラルド「はい」

ヌビアン(トライバル級駆逐艦・二代)「提督、プレゼントを開けてもいいデスカ?」

グレイ提督「ええ。貴女たちへのプレゼントなのですから、好きな時に開けて構いませんよ」

ヌビアン「じゃあさっそく……わ、手袋デス」プレゼントの包み紙を待ちきれないというように破くと、中からしっとりした手ざわりの手袋が出てきた……

…ヌビア人(いまのスーダンや南部エジプトにいたナイル川流域の原住民)を艦名に持つ「ヌビアン」は黒褐色の肌に金のネックレスが良く似合っていて、グレイ提督がロンドンのホワイトホール(海軍省)に寄った際に「ハロッズ」で注文しておいた暖かな青灰色の手袋をはめて喜んでいる…

グレイ提督「地中海とはいえ冬は寒いし、貴女はことのほか寒がりですものね」

ヌビアン「アリガトウ、マイ・レディ♪」

グレイ提督「いいえ、構いませんわ」椅子に腰かけ、いつも通りの表情でちびりちびりとウィスキーを傾けているが、その口元には小さな笑みが浮かんでいる……

ジャヴェリン(J級駆逐艦「投げ槍」)「私のはハンカチだ…!」

グレイ提督「前に使っていたのはずいぶんとすり切れていたでしょう? 良かったらお使いなさいな」

ジャヴェリン「はい、大切にします♪」

…普段は落ち着いた雰囲気で、エリザベス女王陛下とネルソン提督の肖像画が見おろしている食堂も、今日ばかりは紙テープやリボンでにぎにぎしく飾りつけられ、演壇の周囲ではクリスマス恒例のくじ引きが行われている…

ジャーヴィス(J級駆逐艦・嚮導型)「やった、当たったぁ!」

ジャッカル(J級駆逐艦)「まーたジャーヴィーが一等を持って行っちゃったのか……私はいっつも残飯あさりだよ」

クィーン・エリザベス「相変わらずジャーヴィスは幸運の持ち主でございますね」

グレイ提督「さすがは「ラッキー・ジャーヴィス」ですわね」

(※ジャーヴィスは地中海を中心に活動し被害も多かったが、不思議と戦死者の出ない幸運艦「ラッキー・ジャーヴィス」として有名だった)

エメラルド「同感です……ところで提督」

グレイ提督「ええ、何かしら?」

エメラルド「イタリアのカンピオーニ提督にもプレゼントを贈っていらっしゃったようですが」

グレイ提督「ええ。彼女には「フォートナム&メイソン」のダージリン、セカンド・フラッシュ(二番茶)を一箱……トワイニングも普段の紅茶としては充分だけれど、たまには本物を味わってみるべきですものね」

エメラルド「なるほど」

グレイ提督「タラントからはクリスマスに合わせて素敵なイタリア食品とワインの詰め合わせを贈ってもらったことですし、そのくらいのお返しはしておかないと失礼と言うものですから」

クィーン・エリザベス「それに、個人的なプレゼントも届いていたようでございますね」

グレイ提督「ええ、リチャード・ジノリの素敵なティーカップを……色も鮮やかで、午後のお茶の時間が楽しみになりますわね」

エメラルド「ああ、あのアンズ柄の」

グレイ提督「いつものウェッジウッドも良いものだけれど、違う茶器を使うのも目先が変わって楽しいというものですわ」

クィーン・エリザベス「さようでございますね」

グレイ提督「ええ……なにはともあれ良いクリスマスですわね。誰も欠けることがなく、にぎやかで……ふふ♪」

エメラルド「まったくです」

グレイ提督「エメラルド、貴女も好きな飲み物を取っていらっしゃいな。今宵ばかりは多少酔ってもとがめ立てしたりはしませんよ?」

エメラルド「いえ、充分いただきましたから……今は提督のお側にいたいです///」

グレイ提督「まぁ……ふふっ♪」
926 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/05/18(土) 02:05:06.58 ID:1pEXzytZ0
…一方・横須賀…

百合姫提督「それじゃあ皆、メリークリスマス♪」

一同「「メリークリスマス」」

…横須賀の鎮守府では百合姫提督が艦娘たちにごちそうを食べさせるためのいい口実として形ばかりのクリスマスパーティーを開いていた……食堂のテーブルには艦隊の胃袋を支えて来た給糧艦「間宮」「伊良湖」を始め、動きが危なっかしいことで何かと話題になる給油艦の「剣埼(初代)」や大型給油艦の「速吸」、給炭艦「襟裳」といった面々が当番の艦娘たちと奮闘して作り上げたご馳走が並び、正装の百合姫提督を上座に全員がずらりと並び、グラスを持ち上げて乾杯した…

大淀「提督、お注ぎしますね」

百合姫提督「ありがとう、大淀」

妙高「提督、よろしければこの「フーカデンビーフ」をお取りしましょう」ゆで卵を埋め込んだミートローフ「フーカデンビーフ」を切り分けてくれる……

百合姫提督「それじゃあ一切れいただきます」

四阪「提督、こっちも美味しいアルヨ!」海防艦「四阪」は大戦を生き抜き中華民国の賠償艦、その後投降して中共に渡り「恵安」として長く艦籍にあった功労艦であり、今は綺麗なチャイナドレスとウェーブのかかった髪で「李香蘭」風にしている……

百合姫提督「ええ、ありがとう。四阪はもう取った?」

四阪「はい、もうたくさんとったアル!」

百合姫提督「それならいいわ。みんなもお腹を壊さない程度にいっぱい食べてね?」

…百合姫提督は普段から艦娘たちが暮らしやすいようにと心を砕き、特に食べ物に関しては窮屈なことがないよう、たびたび鎮守府の食卓料に自分のポケットマネーをつぎ込んでいた……そのおかげもあって、いつもやつれているように見える「第一号(丙型)」「第二号(丁型)」といった海防艦の娘たちも以前よりはずっと血色が良い…

足柄「提督。せっかくだし一杯注がせて?」

…フーカデンビーフにローストチキン、それに艦娘たちにとってはなじみ深い料理であるコロッケや、士官食堂でしかお目にかかれないあこがれの献立でもあるチキンライスを包み込むタイプのオムライスといった洋食に合わせて、テーブルには清酒だけではなく紅白それぞれのワインも並んでいる……洋行帰りのハイカラが自慢の足柄だけに、ボトルを手に百合姫提督にもワインを勧めた…

百合姫提督「ありがとう」

足柄「どういたしまして。代わりに私のをお願いしていい?」

百合姫提督「ええ、手酌はお行儀が良くないものね……はい、どうぞ」

足柄「ありがとう。ところで……」

百合姫提督「なぁに?」

足柄「今年の忘年会だけど、手はずはもう決まってる?」

百合姫提督「あぁ、そのこと……一応いつもの料亭に席は取っておいたのだけれど……」

足柄「どうかしたの?」

百合姫提督「いえ。もっと気さくな飲み屋さんとかの方が良かったかしら、って……ちなみに足柄は何が食べたい? 天ぷらとか?」

足柄「そうねぇ……やっぱり年末と言えばすき焼きじゃない?」

百合姫提督「すき焼きね、それならお願いできるわ」

足柄「そんなに心配しなくたって大丈夫よ。どうせ飲んだくれてきたら味なんか分からないんだし、水雷戦隊の駆逐や軽巡だのは味より量なんだから」

百合姫提督「もう、そんな身も蓋もない……♪」思わず苦笑いを浮かべる百合姫提督……

足柄「事実は事実よ。現にほら、あの様子を見てご覧なさいな」

初雪「わぁ、美味しいです♪」

白雪「本当に……もぐもぐ……それに量もたくさんあって……」

雷「間宮さん、とっても美味しいです!」

間宮「そう言ってもらえると私も頑張ったかいがあります」

百合姫提督「ふふ、良かった……あの娘たちがお腹いっぱい食べている姿を見ると嬉しくなるわ」

足柄「ふ、まったく面倒見が良いというか世話好きというか……」

百合姫提督「いつも頑張っているんだもの。私だって普段から「提督」だなんて言っている以上、そのくらいはしてあげないと……ね?」

妙高「とはいえそれが実行できる提督は少ないですし、本当に提督には感謝してもしきれません」

赤城「その通りです……良かったら私からも一献///」群馬の地酒「赤城山」の一升瓶を持ってかたわらにやって来た……

百合姫提督「あら、赤城……だいぶ回っているようだけれど平気?」

赤城「平気です、後はお風呂に入って寝てしまえばいいですから……ひっく♪」

百合姫提督「くれぐれもお風呂で溺れないようにね?」

赤城「はい……ひゃっく♪」
927 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/05/24(金) 01:39:49.31 ID:N02BX3Bt0
百合姫提督「もう、赤城ったらそんな足元がおぼつかないほど飲んで……立てる?」

赤城「立てますよ、子供じゃないんですから……っとと」

百合姫提督「大丈夫?」倒れそうになる大柄な赤城を懸命に抱きとめる……

赤城「ええ……すん、すんっ」

百合姫提督「ごめんなさい、もしかして汗臭かった? ……温かい部屋で食べたり飲んだりしたものだからちょっと汗ばんでいるし」

赤城「いえ、そうではなく……いつもの香水とは匂いが違いますね」

百合姫提督「あ……そ、そうね///」

足柄「そういえば今日のは甘っぽい花の香りよね……ねぇ、もしかして」

百合姫提督「///」

足柄「ふぅん、なるほどね♪」

…普段はグリーンティー(緑茶)や柚子のような、どちらかというと中性的でさっぱりした和風のパルファム(香水)を使うことの多い百合姫提督……だが、頬を赤らめた百合姫提督のうなじから立ちのぼるのはフローラルブーケ系の甘く華やかな香りで、それを指摘されると恥ずかしげに小さくうつむいた…

龍田「提督もなかなか捨てておけないわねぇ?」

百合姫提督「も、もう……これはフランチェスカからのクリスマスプレゼントだったから、少し付けてみただけで……///」

足柄「まぁそういうことにしておいてあげるわよ……そうよね、間宮?」

間宮「ええ♪ 提督が一生懸命読んでおられたタラントの提督さんからのお手紙に「クリスマスの時は私も同じ香水を付けるから、香りだけでも一緒にいましょう?」と書いてあったなんて、たとえ風の噂で耳にしたとしても言うわけにはいきませんから♪」

百合姫提督「ま、間宮っ///」

間宮「あ、いけません……ついうっかり♪」帝国海軍の給糧艦であり、また強力な通信設備と傍受機能を持っていた「間宮」は艦隊の金棒引きとして、鎮守府の噂という噂を知り尽くしている……

妙高「はぁ、お熱いお熱い……♪」わざとらしく手で顔を扇いでみせる……

金剛「……それでいえば、長門だってそういうのはたくさんあるでしょう?」

長門「まぁ、少しは……♪」

…戦前にはその特徴的な煙突のシルエットから広く国民に知れ渡り、ある種のアイドルとして名高かった戦艦「長門」……その性質を受け継いでいるのか、長身の古風な美人でさながら「帝劇のスタア」といった容姿の長門には、鎮守府祭や広報活動で知ったという人たちからたびたびファンレターが届いたり、上陸休暇中にツーショットやサインをせがまれたりする…

利根「へぇ、あれが少しだってぇのかい! この間の入湯上陸で一緒に陸に上がったけど、まるで「煙管の雨が降る」ってぇやつだったじゃあねぇか!」

(※煙管の雨が降る…江戸時代、花魁が好みの相手にひと吸いしたあとの煙管を渡すことに由来。要は吸い口ごしの間接キスをねだるというしゃれたアプローチで、それが複数の相手から行われることから。歌舞伎「助六」でお馴染みのモテ表現)

長門「あの時はたまたまよ、たまたま」

足柄「モテる女はたいていそういうことをいうのよ……ね、提督♪」

百合姫提督「私は別にモテるとかそういうのは……///」

龍田「そうねぇ、でもタラントでは向こうの提督さんとずいぶん仲良くしていたわよねぇ?」

百合姫提督「いえ……だって、それは……えーと、そういえば忘年会のことだけれど……///」

羽黒「あらまぁ、艦隊運動の時のキレの良さはどこへやら……さぁさ、提督の苦しい話題の転換に敬意を表して聞いてあげるとしましょうよ」

百合姫提督「もう、みんなしてそうやって……///」

足柄「いつも通り「マウンテン」か「チェリー」か……それとも「マミー(ミイラ)」あたり?」

(※帝国海軍士官の間ではスラングとして単語を英語にもじり「パイン」(料亭『小松』)や「グッド」(料亭『吉川』)などの言い換えが流行っていた)

百合姫提督「えぇと、今年は「山科」と「小桜」は別の鎮守府が押さえているそうなので、27日に「木乃伊」で行うことになりました」

初雪「……それにしても「木乃伊」って変な店名ですよね」

百合姫提督「ええ、なんでも店のご主人がそれらしい店名にしようと思って「木乃伊(きのい)」としたら、後で「ミイラ」って読み方があったことを知ったそうよ」

足柄「ずいぶん変な店名だと思ってたけれど、そんな理由だったのね……ま、あそこは手ごろな割に料理もお酒もいいし」

百合姫提督「ええ、それに店のご主人も何かと良くしてくれるから……」

足柄「それじゃあそういうわけで……それじゃあ時間も遅いし、一旦おつもりにしましょうか」

百合姫提督「そうね。それじゃあ一度お開きにして……まだ飲み足りない娘はもう少し飲んでも良いけれど、明日に響くことがないように」

仁淀「後は私が管理しておきます」

百合姫提督「お願いね。私はお風呂をいただいてから休みますから、何かあったら構わずに連絡してください」

………

928 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2024/05/30(木) 02:51:57.04 ID:aSUSxV0q0
…翌日…

足柄「……なぁに、また飲み会なの? 忘年会の季節とはいえ、このところ三日にあげず飲み会ね」

百合姫提督「ええ。今日は横鎮の提督を始め横空(横須賀航空隊)の司令官とかみんなが集まる忘年会だし、私だけ欠席するわけにも行かないから……」

足柄「まぁいいけど、飲み過ぎないようにしなさいよ? 帰りは無理して歩こうとしないで、ちゃんとタクシーを拾うのよ?」

百合姫提督「そうするわ」

梅「良ければわらわが付いて行こうか?」

百合姫提督「お気遣いありがとう、でも大丈夫よ……場所と時間、それに電話番号はここに書いておいたから、何かあったら連絡してちょうだいね?」はぎ取り式のメモ帳に書き付けて手渡す…

大淀「では、お気を付けて」

百合姫提督「ええ、行ってきます」

…横須賀市内・料亭「美月(みつき)」…

百合姫提督「遅くなりました」

横鎮先任提督「おお、百合野くん……なに、全然遅くないよ。どこでも好きな場所にかけてくれ」

横鎮後任提督「百合野准将、どうぞ上座に」

…横須賀第一鎮守府を預かる中年の先任提督に始まり、末席の年若い佐官クラスまでさまざまな男女十人前後が座敷に集っている……百合姫提督の後からも何人かやって来ては席についた…

先任提督「さてと、百合野君はビールでいいかな?」

百合姫提督「ええ、はい」

先任提督「じゃあ注いであげよう……みんな飲み物は行き届いたね?」生ビールと(下戸の提督は)烏龍茶のグラスが行き渡ったか確認する……

百合姫提督「ええ、大丈夫です」

先任提督「よろしい……それじゃあ今年もご苦労様、乾杯」

一同「「乾杯」」

先任提督「さぁさぁ、遠慮しないでつついてくれ……田中君、お造りや天ぷらも遠慮しないでいいんだぞ?」

若手提督「は、ありがとうございます」

先任提督「百合野君。きみも遠慮しないで、食べたいものがあったらドンドン頼んでくれよ?」

百合姫提督「ええ、いただきます」

…お造りの鯛にわさびを乗せ、ちょんとつつくように小皿の醤油を付けて口に運ぶ……薄いがもっちりした鯛の食感と濃い口醤油の深みのある味わい……それにチューブのではない「本物の」わさびならではつんとした、しかし爽やかな香気が鼻を抜ける…

短髪の女性提督「良かったらいくつかお取りしましょうか?」

百合姫提督「ええ、ありがとう」

…お造りの他にも懐紙を敷いた粋なカゴに、からりと揚がった春菊、レンコン、さつまいものような冬野菜、それに車エビ、太刀魚などの天ぷらが盛り合わせてある……手元には塩だけでなく温かい天つゆの小鉢も置いてあり、それぞれ好きな方で食べられるようになっている…

短髪「はい、どうぞ……ところでこの間は燃料を融通して下さってありがとうございました」

百合姫提督「いいえ、うちの方の割り当て分にまだ余裕があっただけだから」

先任提督「いやいや、あの時は本当に助かったよ。本当なら「横一」である僕の方から佐藤君の鎮守府に融通してあげないといけない所だったんだけどもね、あいにくジャワ島方面までうちの娘たちを動かしている最中だったもんだから……とかく戦艦ってのは燃料を食うしねぇ」

百合姫提督「そうですね」

先任提督「燃料廠にそういって追加を出してもらうとなったら恐ろしく面倒な手続きが必要になるし、最終的には艦隊司令部のお歴々も市ヶ谷に出向いて説明しなきゃいけなくなる所だったから……いやぁ、あれには本当に感謝だよ」

百合姫提督「そんなに感謝されるとかえって気恥ずかしいです……」

短髪「いえ、おかげで大規模対潜掃討も無事に済みましたから……私になにかお返しできる機会があったら何なりとおっしゃって下さい///」

百合姫提督「ええ、ありがとう……///」お酒も回って紅潮した頬をした女性提督から熱い視線を向けられ、はにかんだように答えた……

先任提督「とにかく君が横須賀にいてくれてありがたいよ。さすが井ノ上校長の愛弟子だね♪」

百合姫提督「もう、またそれですか。その話は誰かが広めたまったくの作り話なんですよ……本当に広まって欲しくない話ばかり勝手に広まるんですから///」

短髪「でも、その事なら私も聞いたことがあります。江田島では井ノ上成美(いのうえ・なるみ)校長の愛弟子だったとか……」

百合姫提督「だからそれは誰かが言いふらした噂で……」

後任提督「そうそう、僕も聞いた覚えがあるよ。「横二」の百合野提督は井ノ上校長の愛弟子で「智」の百合野って呼ばれているって」
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