イタリア百合提督(その2)「タラントに二輪の百合の花」

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695 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/11/23(月) 02:04:17.28 ID:0tB4BqT30
ディアナ「はい…この車はエンブレムがフィアットの物では無いようですね、絵柄は蠍に見えますが…」黄色とオレンジ色で斜めに塗り分けられた盾の中に、図案化された黒い蠍が入っている…

エミーリア「そうなのよ、実はね……」

提督「…どう、ディアナ? 気に入った一台はあった?」ガレージのオーナーであるおっちゃんとランチアの部品についてやりとりしていたが、必要な話は済んだらしく、ディアナのもとにやって来た…

ディアナ「はい、提督。この車にしようかと思っているのですが…」

提督「あら、フィアット850ね。見た目も可愛らしいし、大きさも手頃だしいいじゃない……って、ちょっと待って?」にこにこと微笑していたが、車体を見て何か腑に落ちないような表情を浮かべ、それからフロントの蠍のエンブレムを見て驚きの表情を浮かべた…

提督「……もしかして、これってただのフィアット850じゃなくて「フィアット850アバルト」なの?」

(※アバルト…イタリアの自動車カスタムメーカー。フィアット500を始めとする各種の自動車をレース仕様に改造して多くの成績を残し、エンブレムの「スコルピオーネ」ともども有名)

エミーリア「ふふーん、さすが海軍さん……その通り♪」ニヤリと笑うと、後部のエンジンカバーを開けた…

提督「うわ…!」

エミーリア「どうよ? 一見するとただの850に見えるけど、エンジンから足回りから、中身はまるっきりの別物…これならオートストラーダ(高速道路)で生意気な顔をしている今どきのルノーだのアウディだのにも負けないわ♪」

提督「驚いたわね…ちなみにおいくら?」

エミーリア「そうねぇ……万リラって話をしてたんだけど」

提督「え、この850アバルトが…!?」

エミーリア「そこはワケありでね……実は前の持ち主がこれで事故ってて「不愉快だから」って手放したってシロモノなの。もちろんフレームは問題ないし、各部もこっちでしっかり直してあるんだけど、どうも売れなくってねぇ…と言うわけで、現金の一括払い……それと整備をうちでしてくれるって言うなら、この値段でいいわ♪」

提督「…いいのね?」

エミーリア「もちいいわ…買う?」

提督「ディアナの気に入ったならね……どうかしら?」

ディアナ「そうですね、お話を聞く限りではかなりの掘り出し物のようですし…わたくしも気に入りましたので、これにしようかと存じます♪」

エミーリア「決まりね!」

提督「それじゃあ私が……万リラは出してあげるわ。それにしてもこの値段で「850アバルト」が買えるなんて良かったわね」

ディアナ「ええ。提督もよろしければ後で試してみて下さいませ」

提督「ありがとう♪」

…それから事務所で契約書類を始め、車検証だの何だのとこまごました書類にサインを書き込んだディアナと提督…

エミーリア「…はい、それじゃあ晴れてあの850はあなたの物よ……よくしてやってね♪」

ディアナ「ええ、ぜひともそうさせていただきます」

エミーリア「良かった…それじゃあお役所の手続きがあるから、12日までにはそっちの鎮守府にお届けするわ」

提督「あら、12日といえばちょうどディアナのお誕生日ね♪」

ディアナ「さようにございますね」

エミーリア「ホント? それならなおの事よかったわ…お父さん、聞いた?」

おっちゃん「おうよ……良かったなお嬢ちゃん。ちょっとばかし型は古いが、いい車だぜ?」

ディアナ「はい…♪」

提督「それじゃあ、当日はよろしくお願いします」

おっちゃん「ああ、まかしときな!」

ディアナ「よしなに」

………

696 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/11/25(水) 01:57:27.51 ID:C66/dfAs0
…11月12日・午前…

提督「さて、と…それじゃあディアナのために、腕によりをかけてごちそうを作るとしましょうか♪」タートルネックセーターの袖をまくりエプロンを着けると、ヘアゴムで髪を束ねた……

ドリア「はい…♪」

エリトレア「お任せ下さいっ♪」

アブルッツィ「ええ、任せておいて」

ルイージ・トレーリ「和食ならいくらか心得がありますから、お手伝いしますね」

提督「ふふ、みんな頼もしいわ…それじゃあ基本はここに貼ってある献立通りに行きましょう…もし材料が足りなかったり時間が足りなかったりしたら、そのときは臨機応変に……ね?」

四人「「了解」」


…誕生日というよりは、いわば「成人式」のような就役日(ディアナの進水自体は5月25日)だと言うのに、いつものように厨房で料理を作ろうとするディアナをなかば無理矢理に追い出し、提督の指揮の下でごちそうの準備に取りかかる…


提督「セコンド・ピアットは予定通りローストのチキンにしましょう……シンプルにローズマリーとオリーヴオイル、塩胡椒でいいわよね」

(※セコンド・ピアット…食前酒、「アンティパスト(前菜)」、「プリモ・ピアット(第一皿…パスタ・スープ類)」に続く「第二皿」と呼ばれるメインディッシュのこと)

アブルッツィ「それと提督のおばさまが送ってきてくれたイノシシ肉ね……ドングリだの松の実だのを一杯食べた秋のイノシシだから脂も乗ってるし、赤味もすごく美味しそうよ!」ひと抱えはありそうな大きなイノシシのもも肉とあばら肉を取り出し、まな板の上にドシンと置いた…

提督「シルヴィアおばさまは猟の名人だもの♪」

アブルッツィ「みたいね……うーん、ここはやっぱり炭火でこんがりと…いや、赤ワインと玉ねぎでじっくり煮込んだのも捨てがたいか…むむむ……」

提督「んー…チキンはローストだから、イノシシは煮込みにしたらどうかしら……残ったらボロネーゼ風にして、明日のパスタにしてあげる♪」

アブルッツィ「そうね、それがいいかも……あぁ、考えただけでお腹が空いてくるわ!」

提督「ふふっ、私も…♪」

トレーリ「ふふ、提督は食いしん坊さんですものね……それでは、私は「茶碗蒸し」を作ろうかと思います。ジァポーネで食べる、甘くないプリンのような蒸し物ですよ」

提督「なるほど…」

エリトレア「じゃあ私は東南アジア風のサラダでも…そういえばボルネオのときも一緒でしたね、トレーリ?」

トレーリ「はい。他にカッペリーニたちもいて……懐かしいです」技術・貴重物資交換のために日本へと派遣されたトレーリたち数隻の大型潜水艦と、その支援にあたったエリトレア…

エリトレア「…こうしてまたトレーリたちに会えて嬉しいですっ♪」

トレーリ「私もです、エリトレア」

提督「良かったわね、二人とも……ところでエリトレア、お湯が噴きこぼれそうだけれど?」

エリトレア「うわわっ…!」

提督「ふふ…♪」

………


…昼頃…

提督「…えー、それではディアナの就役記念日を祝って……乾杯♪」

一同「「乾杯っ♪」」

ディアナ「ありがとうございます…このように盛大なお祝いを開いていただいて、言葉もございません」チェザーレから借りた真っ白なトーガに身を包んで銀の弓を背負ったディアナは、まさに月の女神のように見える……乾杯の音頭を受けたディアナは弓と矢筒をかたわらに置くと、優雅に一礼した…

エリトレア「まぁまぁ…そう固くならずに、遠慮しないでいっぱい食べて下さいねっ♪」

ディアナ「ふふ、エリトレアがそう言って下さるのですから…遠慮せずいただくことと致しましょう」

………



697 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/11/28(土) 02:39:36.19 ID:TzoCDUmn0
提督「…ディアナ、もう少しパスタを取ってあげましょうか?」

ディアナ「ありがとうございます」

ポーラ「良かったらキアンティをもう一杯いかがですかぁ〜♪」

ディアナ「よしなに…♪」

アブルッツィ「いっぱい作ったから、遠慮しないでどんどん食べてよ?」

ディアナ「ええ」


…歯切れのいいきゅうりのような食感をした青パパイヤと蒸した鶏の胸肉を細く切って和え、軽く魚醤で味付けをして砕いたピーナツを散らしたエリトレアの「東南アジア風サラダ」に始まり、春に続いて秋に旬を迎えるアサリで仕上げた「スパゲッティ・アッレ・ボンゴレ」に、提督の実家から送られてきた猪肉の味わい深い煮込み……飲み物にはイタリア赤ワインの王様「バローロ」と、銘柄こそないがポーラが選んだすっきりした地元の白ワイン、それにキアンティやシェリーが何本か待機している…


提督「んー…料理もよければワインも素晴らしいわ」

エリトレア「頑張って作ったぶん、美味しさもひとしおですねっ♪」

提督「ええ」

ペルラ(中型潜ペルラ級「真珠」)「ところで、今日のドルチェは何かしら…♪」

アメティスタ(中型潜シレーナ級「アメジスト」)「何でしょうね…私も楽しみです」

ヴォルフラミオ(中型潜アッチアイーオ級「タングステン」)「……甘い物はそこまで好きじゃない」

プラティノ(アッチアイーオ級「プラチナ」)「ヴォルフラミオってば、いつもそうやってドイツ人みたいなことを言うんだから……もっと人生を情熱的に楽しみなさいよ♪」白金のような輝く白い歯を見せて笑いかける…

ヴォルフラミオ「そう言う性分なんだ、仕方ないだろう」ヴォルフラミオ(元は「狼の泡」の意)はドイツ語が語源と言うこともあるためか、狼のような雰囲気でタングステンらしい冷徹な印象を与える……

アクスム「ヴォルフラミオはいつもこうでしたよ……ね、デジエ?」

デジエ「そうね、アクスム…♪」

アッチアイーオ「ちょっと、食事中にいちゃつくのは止めなさいよ!」

アルゴ(中型潜アルゴ級)「いいじゃない、二人は「私に乗る権利がある」くらいの立派な英雄だもの♪」ギリシャ神話のイアーソーンが「金羊毛」を求めて作った伝説の船「アルゴー号」にちなんでいるアルゴ……そのせいか、勇敢だったり戦績を残している娘にはとことん甘い…

アッチアイーオ「ほんとにもう…!」

ナウティロ(中型潜フルット級「オウムガイ」)「まぁまぁ、いいじゃないですか…♪」オウム貝の殻のように紅白で房になっている髪を垂らしている…

アラジ(中型潜アデュア級)「ナウティロの言う通りね。怒ってばかりだと疲れちゃうわよ?」

シーレ(アデュア級)「そうそう♪」

トリチェリ(大型潜ブリン級)「たまにはゆったりした気分でワインを味わって、のんびりして下さい……ね?」

アッチアイーオ「分かった、分かったわよ…あなたたちに言われたら何にも言えないわ」


…有名な「マイアーレ(豚)」ことSLC(人間魚雷)を搭載してアレクサンドリア港に侵入、戦艦「クィーン・エリザベス」「ヴァリアント」を大破着底、駆逐艦「ジャーヴィス」を損傷させた殊勲艦「シーレ」と、55回もの出撃を行い無事に戦後を迎えた強運の「アラジ」、そして紅海で対潜グループ相手に浮上砲戦を強いられるも駆逐艦とスループ各一隻を返り討ちにし、最後は総員退艦の上で自沈した「トリチェリ」と、そうそうたる功績の持ち主がアッチアイーオをなだめる…


アラジ「よろしい」

提督「…それじゃあそろそろドルチェを持ってきましょうか……ね?」

エリトレア「はいっ♪」

…厨房から提督とエリトレアが持ってきた大きなお盆には、イタリアの秋を代表する栗を使った「モンテ・ビアンコ」がぎっしりと並べてある…

(※モンブラン…元はフランスではなくイタリアの郷土菓子。日本で見られる「モンブラン」はアレンジされたもので、元祖イタリアのものはモンブランの山並みを表したきつい三角錐型に整えたマロンクリームに白い粉砂糖を振りかけるスタイル)

ディアナ「まぁ…♪」

ドリア「美味しそうですね♪」

ヴォルフラミオ「…」

プラティノ「…ヴォルフラミオはいらないそうだから、私がもらっておくわね♪」

ヴォルフラミオ「いや、別に食べないとは言ってないだろう……///」

近くの数人「「あはははっ♪」」

ヴォルフラミオ「///」

………

698 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/11/30(月) 02:19:11.33 ID:0EK9Te0B0
…食後…

提督「ふぅ…美味しかったのはいいけれど、思っていたより食べちゃったわね……」

アッチアイーオ「いっつもそんなこと言ってるじゃない、少しは加減したらどうなの?」

提督「…言ってくれるわね」

デルフィーノ「まぁまぁ…食べた分だけちゃんと運動すれば大丈夫ですよぅ」

ドリア「うふふっ、提督はそれが出来ないからお悩みなのですよ…デルフィーノ♪」

提督「むぅぅ…」

エリトレア「……それじゃあ、身近な所から始めてみたらどうでしょうかっ♪」

提督「あら、エリトレア…えぇと、その「身近な所」ってどういう意味かしら?」

エリトレア「はいっ、そのことですが…家事は意外と身体を使いますし、腹筋や腕立て伏せみたいにだらだら汗を流して……と言うわけでもありませんから、こまめに身体を動かすにはいいと思うのですが…どうでしょうか、提督っ♪」

提督「なるほど、なかなかいい考えかもしれないわね…♪」

エリトレア「そうですか…では洗い物もいっぱいありますし、まずはお皿洗いなんてどうですかっ?」

提督「……本当はそれが狙いね?」

エリトレア「あらら、バレちゃいましたか…」

提督「もう…そんな手を使わなくたって、必要なら手伝ってあげるわよ♪」ウィンクをすると椅子から立ち上がり、タートルネックの袖をまくり上げた…

エリトレア「ありがとうございますっ♪」

ディアナ「あ、でしたらわたくしも…」

提督「いいのよ、ディアナは今日の主役なんだから…ゆっくりしていて?」さっと立ち上がろうとするディアナを軽く押さえてにっこりした…

ディアナ「恐れ入ります…」

提督「さぁ、それじゃあ頑張りましょうか♪」

エリトレア「はいっ♪」

…数十分後…

提督「ふー…やっと終わったわね」

エリトレア「今日は特にお皿が多かったので、大変でしたねっ」数人が当番として手伝ってくれたとはいえ、かなりの作業だった後片付け……にも関わらず、いつも通りの屈託ない笑顔を見せるエリトレア…

提督「まぁ、美味しいごちそうを食べるためにはやむを得ないわね…」

アッチアイーオ「提督、門の所に訪問者よ……誰だか知らないけれど、つなぎを着た女の子が古めかしいトレーラーで来てるわ」

提督「トレーラー…? あぁ、はいはい」

アッチアイーオ「入れていいのね?」

提督「ええ、いいわ……ディアナ、来たわよ♪」

ディアナ「あら…♪」

…鎮守府・管理棟前…

エミーリア「はーい、海軍さん…ご注文の品のお届けに上がったわよ♪」つなぎ姿のエミーリアは、戦前のモデルと思われる骨董品のトレーラートラックから「よっ…!」と飛び降り、後ろの道板を下ろした…

提督「まぁ、これはまたずいぶんと……戦前のOM?」(※オフィシーネ・メカニケ…戦前〜1970年代に「イヴェコ」へ統合されるまで長くトラック等を作っていた自動車メーカー)

エミーリア「そ、ひいお祖父ちゃんの代からずーっとうちで使ってるトレーラーなの…もちろんパワーステアリングとかエアコンなんてないし、ウィンカーだって「窓から腕を振る」スタイルだけど、これだけ古いと逆に目立つから、結構いい広告になるのよ?」

提督「確かにそうでしょうね…」

エミーリア「…それじゃあ降ろすからね」フィアットの運転席に乗り込むと、ゆっくりバックさせてトレーラーから降ろした…

ディアナ「ありがとうございます」

エミーリア「いいのよ、あなたの就役記念日なんでしょ? おめでとう!」そう言うとつなぎのポケットに隠していたクラッカーを取り出して「パンッ!」と鳴らした…

ディアナ「まぁ…♪」

エミーリア「それじゃあ、これからもうちのガレージをよろしくね!」

ディアナ「こちらこそ」

提督「…良かったわね、ディアナ♪」

ディアナ「はい」
699 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2020/12/06(日) 02:23:32.05 ID:2nlRcBMt0
…数日後・提督私室…

提督「うーん…」

アッチアイーオ(常温)「提督、一体どうしたのよ? 冬物の服を見ながら考え込んじゃって」

提督「いえ、それがね…ここに着任した時は春だったから、冬物を箱に詰めて来たのだけれど…その時に整理を兼ねてハンガーを捨てたりあげちゃったりしたものだから……こうして冬物を出したら本数が足りなくなっちゃって…」ロングコートにマフラー、厚手のセーターやカーディガンといった冬物を広げて、少し困り顔の提督……

アッチアイーオ「だったら誰かから借りればいいじゃない…エウジェニオあたりならお洒落にもうるさいし、ハンガーの数本くらい持っているんじゃないの?」

提督「まぁ、今だけならそれでもいいのだけれど……でも、これから冬の間ずーっと借りっぱなし…っていう訳にもいかないじゃない?」

アッチアイーオ「まぁ、そうよね…じゃあ買いに行けば?」

提督「んー……そうね、そうするわ。 それじゃあアッチアイーオ、一緒に行かない?」

アッチアイーオ「私はいいわ…その分、秘書艦として留守はしておいてあげるから」

提督「そう…それじゃあ留守はよろしくね♪」ちゅっ…♪

アッチアイーオ(温)「も、もうっ…いきなりしないでって言ってるでしょ///」

提督「ふふっ……それじゃあ何かお土産を買ってきてあげるから…ね♪」

アッチアイーオ「い、いらないわよ! …提督がキスしてくれれば……それでいいし…///」

提督「ふふふっ、了解♪」

…玄関…

ディアナ「あら、提督…お出かけですか?」

提督「ええ。ちょっと「近くの町」まで買い物に行こうと思って……ディアナは?」

ディアナ「まぁ、奇遇でございますね…実はわたくしも、ちょうどお買い物に行こうと思って準備を整えた所でして…それに、せっかく自動車も買ったわけですし、少々試し乗りも兼ねて……と言うわけでございます」そう言うと、少し照れたような笑みを浮かべた…

提督「なるほど、いいじゃない♪」

ディアナ「はい……あ、一つ良い考えを思いついたのですが」

提督「いい考え?」

ディアナ「ええ…よろしければ、提督もわたくしのフィアットにお乗りになっては?」

提督「ディアナ、そう言ってくれるのは嬉しいけれど……始めて同乗するのが私でいいの?」

ディアナ「もちろんでございます…いかがでございましょう?」

提督「そうね……ディアナが乗せてくれるなら、喜んで♪」

ディアナ「では、決まりでございますね」

…数分後…

提督「……さてと、それじゃあ留守はよろしくね?」

デルフィーノの声「了解です、気をつけて行ってきて下さいねぇ♪」提督はインターホンのカメラ越しに当番のデルフィーノに手を振りつつ正門を開け、門を出た所でデルフィーノにロックを操作してもらうと、ちゃんと施錠されたことを確認した…

提督「これでよし…と♪」

ディアナ「…では、よしなに参りましょう♪」ブォ…ン、ブロロロ…ッ!

提督「…っ!?」

…提督がドアを閉めてシートベルトを締めたことを確認すると、ディアナは一気にフィアットのアクセルを吹かした……手早くギアをトップに入れると、十秒もしないうちに速度計の針が百キロを越えた…

提督「ね、ねぇ…ディアナ」

ディアナ「はい、何でございましょう」

提督「いえ、その……少し飛ばしすぎじゃないかしら?」

…外見こそノーマルの物とあまり変わらない、ディアナの小さな「フィアット850」ではあるが、中身は「アバルト」仕様で手を加えてあるので、ものすごいスピードで海沿いの道路を疾走する……もちろん提督も自分の「ランチア・フラミニア」でなら100キロなど何と言うこともないのだが、大柄ですわりのいいランチアに比べて小さいフィアット850だけに身体の振られ方や車体の傾きが激しく、同時に自分で運転していない分だけ他の事に意識が向き、より速度が出ているように感じる…

ディアナ「…そうでしょうか?」

提督「ええ……120キロは出ているわよ」

ディアナ「さようにございますね」にこにこしながらハンドルをさばきつつ、一流ドライバー並にコーナーをクリアしていく……

提督「…」(「高速スループ」だけあって、ディアナは車に乗るとスピードが抑えられないタイプなのかしら…?)

ディアナ「ふふふ、運転というのは楽しいものでございますね…♪」

提督「え、えぇ……そうね」
700 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/08(火) 02:10:25.91 ID:LWvTy/0w0
…数時間後…

リットリオ「あ、お帰りなさいっ♪」提督が帰ってくると、玄関先で待っていたリットリオが飛びついてきた……割と長身の提督よりもさらに頭一つ分は大きいリットリオに抱きつかれて、ちょうど胸の間に顔が埋まった……

提督「んむっ……///」

リットリオ「ふふふっ、提督が帰ってくるのを待っていたんですよっ…♪」

提督「んんぅ、むふぅ……ぷはぁ♪ …もう、リットリオってば♪」

リットリオ「えへへっ…それで、ディアナとのドライブはどうでした?」

提督「あー……次回からは遠慮させてもらいたいわね」

リットリオ「え? でもディアナは運転が上手だって話でしたよ?」

提督「ええ、確かに上手ではあるわよ……でもスピードが…」

リットリオ「なるほど、そういうことですか」

提督「ええ…普通なら十分や十五分はかかるっていう道のりを半分くらいに縮めるんだもの……ちょっと冷や汗が出たわ」

リットリオ「それは大変でしたねぇ……私がヴィットリオやローマとお出かけするときは、そこまで出しませんから♪」

提督「それがいいわ…」

リットリオ「…あ、そういえば」

提督「なぁに?」

リットリオ「この間「近くの町」にお買い物に行ったとき、ちょっと変わった人を見かけたんですよ♪」

提督「変わった人?」

リットリオ「はい…町のカフェでコーヒーを飲んでいた時なんですが、クリーム色のチンクエチェント(フィアット500)に乗った人が通りかかって……」

………

…しばらく前…

リットリオ「はー…お買い物、楽しかったですねぇ♪」

ヴィットリオ・ヴェネト「そうですね、姉さま……でも、少し喉が渇きました」

ローマ「なら、カフェで休憩でもしていきませんか?」

リットリオ「はーい、それじゃあそうしましょう♪」ちょうど道端のカフェを見つけると真っ赤なフィアット500を多少ぎこちなく停めた…

…数分後…

ローマ「…リットリオ姉様、口の端にクリームが付いていますよ?」

リットリオ「本当? …それじゃあローマ、取って♪」テーブル越しに顔を近づける…

ローマ「も、もう……仕方ないですね…あむっ///」

ヴィットリオ・ヴェネト「ふふ、リットリオ姉さまってば…」と、不意にテーブルに男が近寄ってきた…

男「やぁ、お嬢さん方…♪」

…リットリオたちに声をかけてきた愉快そうな顔をしたいがぐり頭の男は赤いジャケットに青いワイシャツ、黄色のネクタイ…と、ど派手な格好をしていて、そばにはカスタードクリームのような色をしたチンクエチェントが停まっている……車体には帽子を目深にかぶった立派なあごひげの男がもたれかかり、吸いさしの煙草をくわえている…

リットリオ「はい、何でしょう?」

派手な男「いやぁ、ちょーっと火を貸してもらえたら……と思ったんだけどなぁ♪」ちょっと軽い三枚目といった口調で、派手なウィンクを投げて来た…が、それほど悪い人間には見えない…

ローマ「済みません、あいにく煙草はたしなまないもので」

派手な男「あらぁ〜、それはごめんなさいねぇ……ところでそこのチンクエチェント、あれは君の車?」

リットリオ「はい、そうですよ」

派手な男「そっか…大事にしてるねぇ」

リットリオ「ええ、もちろんです♪」

ひげの男「……おい、いつまで油を売っているつもりだよ?」

派手な男「そう言うなよ……それじゃあお嬢さん方、チャオ♪」そう言うとクリーム色のチンクエチェントに飛び乗り走り去っていった…

ヴェネト「なんだか面白い感じの人でしたねぇ♪」

ローマ「そうね、ちょっと軽い感じだけれど……」ローマがそう言いかけた時、イタリア財務警察のパトカーが数台、甲高いサイレンを鳴らして青い回転灯を回しながらカフェの前を通過していった……

リットリオ「そうですね…さ、コーヒーは飲み終わりました?」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/12/08(火) 20:13:36.04 ID:bI5zaUi6O
久しぶりにその1から読み直してたけどグレイ提督がだんだん金髪ギブソンタックの某妖怪紅茶格言ババアの声でされるようになってしまった...
702 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/11(金) 03:29:59.34 ID:dfwfGMK00
>>701 振り返ってみるとあちこちに誤記や設定の矛盾があって恥ずかしい限りですが、読み返して感想まで下さる方がいて嬉しい限りです……最近色々と忙しく、更新が滞りがちなので、そうして読み返しながらお待ちいただければ幸いです


…あの髪型は「ギブソンタック」と言うのですね、知らなかったのでためになりました……それと「妖怪紅茶格言ババア」呼ばわりなどすると、家にパンジャンドラムが放り込まれたり、チャーチル歩兵直協戦車のゲテモノ派生型が突っ込んで来たりするかもしれませんよ…くわばらくわばら


……この後は「横須賀第二鎮守府」に戻った百合姫提督の様子でも書こうかと思っていますが、帝国海軍の艦にはなかなかエピソードも多いので、資料を読みつつどの艦をキャラクターとして使うか思案中です…個人的には松型駆逐艦や、普段はなかなか目立たない補助艦艇、護衛艦艇を中心に出して行きたい所存です……もし出して欲しい艦があれば、いつでもリクエストを下さいね

703 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/12(土) 03:01:30.79 ID:OMqTK5j60
リットリオ「…と言うわけで、なんだか面白そうな人でした♪」

提督「なるほどね……うーん……」

リットリオ「どうしました、提督?」

提督「いえ…その特徴をした男の人、どこかで見かけたことがある気がするのだけれど……あ!」こめかみに手を当てて考えていたが、ふいにすっとんきょうな声をあげた…

リットリオ「思い出しましたか?」

提督「ええ、まだ私がパリ駐在の海軍武官付連絡将校だったころよ…まだ駆け出しの中尉で、マリーとも知り合って間もない頃ね♪」

リットリオ「そのお話、ぜひ聞きたいです♪」

提督「それじゃあ立ち話もなんだし、食堂で話すとしましょうか♪」

…食堂…

提督「さてと…」何だかんだで非番の艦娘たちが良く集まってお茶とお菓子を楽しんだり、おしゃべりに興じている食堂……提督が座ると面白い話でも聞こうと、三々五々と集まってくる…

ライモン「あ、提督……お帰りなさい」さきほどまで当直で作戦室に詰めていたライモン……ずっとレーダー画面を見ていたせいか、しきりにまばたきしている…

提督「ええ、ただいま…はい、お土産♪」町の小さな菓子店で買ってきた、クッキーの小袋を渡した…

ライモン「ありがとうございます」

提督「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)…大丈夫、みんなにも買ってきたわよ♪」


…小脇に抱えていた大きな紙袋をがさごそと開けて、チョコレートやアーモンド入りのクッキー、小さなピスタチオ入りケーキを取り出して大皿に並べる提督……ほとんどは買ったものだが、お菓子屋の主人であるほっそりしたおじさんと、その奥さんである愛想のいいおばさんは「お得意様」である鎮守府に、欠けたり割れたりした焼菓子や、少し崩れたムースやら飾りのサクランボが取れたカンノーロやらををたくさんおまけしてくれた…


カルロ・ミラベロ「ふふ、ありがとう…でも、私はもっと甘いものが食べたいの♪」

アウグスト・リボティ「そう…舐めるとあまーい蜜がいっぱい滴ってくるような……ね?」ねちっこい妖しい手つきで提督にまとわりつく二人…

提督「ふふっ、それは夜のお愉しみに取っておきましょうね……♪」

エリトレア「はいはーい、みなさーん♪ お茶を淹れましたから、飲みたい方は自分で注いで下さいねっ♪」

提督「ふふ、ちょうどタイミングね…それじゃあ……」

ライモン「提督のはわたしが持ってきますから、どうぞ座っていて下さい」

提督「あら、ありがとう……ちゅっ♪」

ライモン「も、もうっ…///」

提督「…さてと、リットリオたちが会ったっていう男の人だけれど……」みんなにリットリオの話のあらましを伝えると、紅茶を一口すすってから続けた…

………

…十年ほど前・パリ…

カンピオーニ中尉(提督)「ふぅ……まったく」

エクレール中尉(エクレール提督)「…そういうこともありますわ」

提督「そうは言ってもね……「ブリエンヌ館」(フランス防衛省…パリ七区)に行けば書類を渡す相手がいるって言われたのに、行き違いで「オテル(ホテル)・ドゥ・ラ・マリーヌ」(フランス海軍参謀本部…パリ八区)に行かなきゃいけないなんて…まったく」


エクレール提督「まぁ、でも良いではありませんの…パリ七区に八区と言えば「オテル・ドゥ・ザンヴァリッド(アンヴァリッド…廃兵院。古くは傷病兵の施設だった。軍事博物館(ミュゼー・ドゥ・ラルメー)が併設されており、ナポレオン・ボナパルトの棺もある)」に「コンコルド広場」「オルセー美術館」「グラン・パレ(パリ万博会場で現在は展示場兼美術館)」…他にもあまたの名所旧跡のある世界遺産ですもの。書類を渡し終えたら、わたくしが案内して差し上げますわ♪」


…セーヌ川を挟んで向かい合わせの位置にあり、どちらも高級商業地区と官庁街であるパリ七区と八区……ルノーやシトロエンが行き交う橋の歩道を連れだって歩きながら、自慢げに言うエクレール提督…


提督「世界遺産だって言うのならローマだってそうよ……それにプロヴァンス娘の貴女にパリの案内が出来るのかしら♪」

エクレール提督「この、言わせておけば…!」

提督「ふふっ、冗談よ」

エクレール提督「…世の中には言って良いことと悪いことと言うものがありますわ」

提督「悪かったわ……代わりに今夜はたくさん愛してあげるから…ね?」

エクレール提督「こ、こんな所でそういうことを言うものではありませんわ…っ///」

提督「ふふっ、それじゃあカフェでお茶でもごちそうしてあげる…♪」
704 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/13(日) 11:37:08.65 ID:f+VetOaY0
提督「……これだけ種類があると目移りしそうね…マリーはどれにするの?」

エクレール提督「そうですわね…わたくしはクレープにいたしますわ」

提督「そう、それじゃあ私はエクレール(エクレア)にするわ♪」にっこりと微笑み、それからさりげなくウィンクを投げた…

エクレール提督「…ま、また貴女はそうやって……///」

提督「あら、いけない?」

エクレール提督「い、いけない事はありませんわ……奇をてらったところがないだけに、最もパティシエの腕前が試されるお菓子ですもの///」

提督「ふふっ…そうよね♪」

エクレール提督「…え、ええ///」

…数分後…

提督「あら、美味しい…中のクリームも甘すぎなくて、ちょうどいいわ」

エクレール提督「それはなによりですわ…まぁパリには美食という美食が集まっておりますもの♪」

提督「ええ…少なくともカトリーナ・ディ・メディチが教えてからはね」

(※カトリーナ・ディ・メディチ…フィレンツェの名門メディチ家の出身で、フランス国王アンリ二世の王妃。フランス名はカトリーヌ・ド・メディシス。政略結婚でフランスに嫁がされ、その際にイタリアのすぐれた文化が多くフランスに持ち込まれた)

エクレール提督「また貴女はそうやって…!」

提督「まぁまぁ…そうやってイライラしているとお肌に悪いわよ?」

エクレール提督「そうなったのは一体誰のせいだと…」

提督「さぁ?」

エクレール提督「…まったく///」

提督「ふふふっ…♪」提督が笑っていると、そばの席に二人の男が座った……片方は派手な赤いジャケットに黄色のワイシャツ、青いネクタイで、もう一人は目深にかぶった帽子にものすごいあごひげで、ひしゃげた吸いさしの煙草をくわえている…

ひげの男「…やれやれ、本当にあの女の言うことを信じるつもりなのか?」

派手な男「ああそうさ……それに今回のヤマはどデカいぜぇ♪」

ひげの男「あきれかえって物も言えねぇな…だいたい「とっつぁん」が目の色を変えて追っかけて来てるって言うのによ」

派手な男「うひひ、とっつぁんは熱心だからねぇ……っと、いけねぇ」そう言うと不意に提督たちの方に声をかけてきた…

派手な男「エクスキューゼ・モア(失礼)…お嬢さん方、ちょーっとその新聞を見せて欲しいんだけどなぁ?」エクレール提督が買って持っていた「ル・モンド」を指し示した…

エクレール提督「まぁ、別に構いませんけれど…いきなりなんですの?」

提督「まぁまぁ……さ、どうぞ?」

派手な男「メルスィ♪」

…軽く礼を述べて「ル・モンド」を受け取ると、二人は紙面を広げて顔を隠すように読み始めた……と、男が新聞を広げるか広げないかのうちに、ふにゃふにゃの茶色いトレンチコートに帽子の男が通りかかった…どうやら日本人らしいコートの男は、雰囲気いい態度といい、どこからどう見ても刑事にしか見えない…

刑事「くそぉ…奴め、逃げ足だけは天下一品だ……!」肩を怒らせ、どたどたと足音も荒く通りを走っていった…

派手な男「……ぬひひ♪」

ひげの男「ははははっ…♪」

派手な男「うひひひ……っと、新聞をどうも♪」

エクレール提督「ええ…」何が何やらといった表情で、細い眉をひそめているエクレール提督……

派手な男「…それじゃあ行くかい?」

ひげの男「おう、そうだな」

…二人の男は勘定をテーブルに置くと、ひょいと横の小路を曲がった……そしてエンジンをかける音が聞こえると、目の覚めるような黄色の「メルツェデス・ベンツSSK」に乗って出てきた…

提督「すごいわね…あれ、メルツェデスのSSKよ」

エクレール提督「確かにクラシックな車のようですけれど……そんなにすごい車なんですの?」

提督「ええ、世界に数百台とない名車よ…立派な車ですね」

派手な男「いやぁ、どうも……とにかく、さっきはありがとさん♪」邪気のないウィンクを投げると、エンジン音を響かせて走り去っていった…

エクレール提督「なんだか知りませんが、変わった方でしたわ……」そう言って丸められた「ル・モンド」を開くと、中に一輪のバラが仕込まれていた…

エクレール提督「まぁ…驚きましたわね」

提督「…なかなかお洒落なことをするわね、私も見習おうかしら♪」
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/12/18(金) 18:27:06.81 ID:PNcM2sITO
アバルトの850ベルリーナとはまたオシャレなイタリア車を... アバルトは元のフィアットの可愛さを残したままレーシーに仕上がってるので私も大好きです。私の愛車のアバルト1000もよく走る、よく曲がる、よく壊れるの3拍子ですが手を掛ければかけるほど愛情と愛着が沸きとても可愛いです。
706 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/19(土) 00:26:07.47 ID:yfdtbr+t0
>>705 まずはコメントありがとうございます、それにしてもアバルト1000に乗っておられるなんてお洒落ですね!


当初はセイチェント(フィアット600)やフィアット127、あるいはいっそスポーティでとても格好いい「ランチア・アウレリア・スパイダー」にしようかとも考えていましたが、ディアナがお買い物にも使えて、なおかつスピードの出る一台を選ぶなら……と考えて850にしてみました。小さい丸っこい見た目でよく走る、イタリアの街角に似合いの一台といったイメージですね


…イタリア車というと、一時期は工員がライン上の車でお昼を食べたり休憩したりして「弁当がオマケについてくる」なんて言われたこともあったそうですが……メンテナンスフリーといった感じの日本車と違って「自分でメンテナンス出来る人が手をかけて楽しむ」イメージがありますね
707 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2020/12/19(土) 01:24:01.28 ID:yfdtbr+t0
………



提督「…って言うことがあったから、たぶん同じ人じゃないかしら?」

リットリオ「きっとそうですね♪」

提督「ね……って、あら」首から提げている携帯電話が「ヴーッ、ヴーッ…!」とうなりだした……

ライモン「電話ですね…どなたでしょうか?」

提督「えぇと…あ、姫からだわ♪」嬉しそうにいそいそと電話を取る提督…

提督「…もしもし、姫?」

百合姫提督の声「ええ、フランカ……電話をするのが遅くなっちゃってごめんなさい、本当は成田に着いたらすぐに連絡したかったのだけれど…この数日はちょっとバタバタしていたものだから……それにこっちが忙しくない時間にかけようとすると、そっちは時差で夜中になっちゃうし…ごめんなさいね?」

提督「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)…それより、姫の声が聞けて嬉しいわ……まるで天上の音楽みたいね♪」

百合姫提督「も、もう…またそうやって……///」

提督「ふふふっ…ところで、そっちはどう?」

百合姫提督「そうね。みんながよく留守をしていてくれたおかげで、問題はあまりなかったわ」

提督「それはなによりね…良かったら横須賀に戻ったときの話を聞かせてくれる?」

百合姫提督「ええ、でも長話になってしまいそうだけれど……大丈夫?」

提督「構わないわ…姫の方こそ国際電話でしょう? 主計部か何かに「通話料が高い」とか何とか、ねちねち言われたりしない?」

百合姫提督「そうねぇ、それは一応大丈夫だと思うわ……」

提督「そう、それなら安心ね♪ それじゃあ、そっちの話を聞かせて?」

百合姫提督「ええ、今話すわね……」


…数日前・成田空港第一ターミナル…


足柄「ふぅぅ…やっと着いたわね」

百合姫提督「疲れた?」

足柄「まさか……もっとも、まだ飛行機の旅は慣れないわね」

龍田「そうねぇ…お日様が後から着いてきたりとか、夕焼けからお昼になったりとか……」

足柄「ね……面白いから見ていたかったんだけど、カーテンを閉めるように言われちゃって残念だったわ」

百合姫提督「確かに国際線の飛行機じゃないと出来ない体験だけれど、あれを見ていると時差ボケがひどくなるから……仕方ないわ」

足柄「そうらしいわね……それに機内食もなかなかだったわよ。とはいえ、タラントの食事に比べれば「月とすっぽん」ってところだけど…」

百合姫提督「ふふ、無理を言っちゃだめよ…何しろエコノミーだもの」

…今回の「交換プログラム」には百合姫提督の他に「横鎮(横須賀鎮守府)」からもう一人、そして「呉鎮(呉鎮守府)」「佐鎮(佐世保鎮守府)」「舞鎮(舞鶴鎮守府)」から二人ずつの都合八人と、その随行の艦娘たちがイタリアやイギリス、フランスへと派遣されていた……となると、ファーストクラスはおろかビジネスクラスでも予算がかかりすぎる……結局、エコノミークラスで少々疲れる飛行機の旅をすることになった百合姫提督たち…

足柄「まぁそうよね……いいわ、戻ったら好きなだけ寝ればいいんだものね」

百合姫提督「そういうこと……さ、行きましょうか」…PKO参加の部隊や国際貢献活動からの帰還と違って、大仰な「帰国式」だの「旗を振ってのお出迎え」だのといった物もないので、入国審査を済ませた後はむしろ気楽な気分で電車に乗り込んだ……

…電車内…

龍田「…ところで、提督」

百合姫提督「なぁに?」

龍田「結局鎮守府には列車で戻るの?」

百合姫提督「あぁ、そのことね……実はね、横須賀線だと遠回りになるから千葉港までうちの「十七メートル内火艇」が迎えに来てくれるって」

(※十七米内火艇…戦艦・一等巡洋艦(重巡)クラス搭載のモーターランチ。軽快で後部に甲板室を設けている事から「長官艇」としてもよく用いられた。速度およそ十五ノット)

足柄「それはありがたいわね」

百合姫提督「そうね…♪」
708 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/20(日) 02:54:27.29 ID:+uJOkREP0
…千葉駅…

百合姫提督「さてと、ようやく着いたわね」

足柄「着いちゃったわねぇ……それにしても、どうして今の日本はコンクリートとガラスの建物ばっかりで、しかも統一感がなくってごちゃごちゃしているのかしらね」駅のホームからを見える街の様子を眺めてため息をついた…

龍田「そうねぇ…それでいてお店はみんな似たようなチェーン店ばっかりだものね」

足柄「まったくよ…そりゃ向こうにもゴミが散らかっている場所だってあったし、スプレーの落書きがひどい場所なんかもあったわよ? でもこうやって戻ってきてあっちに比べると、どこの駅前もそっけないコンクリートとガラスのビルばっかりで嫌になるわ……我が国だって大正年間にはもっとこう…レンガと装飾のあるハイカラな建物があったじゃない」

百合姫提督「そうね、私もそんな時代を見てみたかったわ…確かにイタリアはすぐ水道が詰まったり、アパートには階段しかない…なんて不便なところもあったけれど……でも「ただ古い」だけじゃなくて、歴史を大事にした綺麗な建物が多かったわね」

足柄「ほんと、そういうところなのよね」

百合姫提督「そうね…」

龍田「……それはそうとして、千葉港まではどうやって行くのかしら?」

百合姫提督「あぁ、それならモノレールがあるから…それで行きましょう」

足柄「へぇ、モノレールってあのぶら下がったりまたがったりしてるやつでしょ?」

百合姫提督「ええ、そうよ」

足柄「私はまだ乗ったことないわ…面白そうね♪」

百合姫提督「ふふ、気に入ってくれるといいのだけれど……と、その前に」

足柄「なに?」

百合姫提督「せっかくだからここでお弁当でも買っていきましょうか……港に内火艇が来るまでもうしばらくかかるし」

龍田「それがいいわねぇ」

足柄「いいわね、もうお昼に近いし……言われてみればお腹も減ったわ」

百合姫提督「それじゃあ決まりね…♪」

…千葉都市モノレール…

足柄「うわ、思ってたよりもつなぎ目のところでガタガタ揺れるのね……しかも結構加速するし、ぶら下がってるから変な気分」

百合姫提督「…驚いた?」

足柄「そりゃあ私がフネの形で「産まれた」頃にはなかったもの…まぁ路面電車の方がロマンがあると思うけれど、眺めはこっちの方がいいわね」

百合姫提督「そうね…ちなみにここのモノレールは世界で一番長い「懸垂式」のモノレールなんですって」

足柄「へぇ、そうなの」

…しばらくして・千葉港…

足柄「……あぁ、いい風…青くって穏やかな地中海も良かったけど、やっぱりこっちの海の方が落ち着くわねぇ」

龍田「そうねぇ、風の匂いも波の音も……全てが懐かしいわぁ」

百合姫提督「ふふ…それじゃあ懐かしい海を見ながらお昼にしましょうか」


…港を望む「千葉ポートタワー」とその周辺に広がる公園……薫る海風を受け、周囲に広がる東京湾と沿岸の工業地帯を眺めるベンチに腰をかけた……百合姫提督が袋から取り出したのは千葉駅の名物「はまぐり飯」の駅弁で、大きな瀬戸物で出来たハマグリ型の入れ物を開けると、中には醤油で炊き込んだご飯に甘辛いハマグリのむき身が散りばめられたものが入っている…

(※はまぐり弁当…以前は千葉駅にある「万葉軒」の名物だったが、外房線・内房線を使った観光客が減ったためか今では販売されていない)


足柄「あら、美味しそうじゃない」

百合姫提督「それと、ついでにこれも…はい♪」串に刺して焼き、甘辛く味付けした焼き鳥のような「はまぐり串」を差し出した…

龍田「ふぅ……洋食も悪くはなかったけれど、やっぱりご飯と醤油の味は落ち着くわねぇ」

足柄「そう? 私はイタリヤ料理だって好きだけれど?」神戸生まれのハイカラさんで「スピットヘッド観艦式」への参加と欧州歴訪経験もある足柄らしく、少々得意げに言った…

龍田「相変わらずバタ臭いことを言っているわねぇ…」(※バタ臭い…バターの匂いをさせていることから転じて「ヨーロッパ風」あるいは「欧州かぶれ」のこと)

足柄「バタ臭いとは失礼ね」

百合姫提督「ふふふ、まぁまぁ……♪」
709 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/24(木) 01:34:26.33 ID:II9EerSm0
…数十分後…

足柄「あれ、うちの内火艇じゃない?」

龍田「間違いないわねぇ……」

百合姫提督「そう、それじゃあ行きましょうか…♪」

…いつもは東京湾クルーズの遊覧船が舫って(もやって)いる客船用の桟橋に近寄ってきた十七メートル内火艇は、桟橋の近くまで来ると逆進をかけて行き脚を止め、ピタリと桟橋に寄せた……そこからさっと降りて提督たちに敬礼する、きりりとした雰囲気の艦娘…

百合姫提督「ご苦労様……わざわざ迎えに来てくれて、どうもありがとう」答礼をすると手を下ろし、それからやさしい微笑を浮かべた…

長身の艦娘「構いません、提督……私が一番にお迎えできて嬉しい限りです♪」

龍田「…相変わらず眩しいわねぇ」

足柄「ええ……まるで帝劇か宝塚のスタアみたいよね」

艦娘「ふっ、そう言われると照れるね……お帰り、足柄、龍田…イタリーは楽しかったかな?」

足柄「相変わらずいいところだったわよ…長門」順番に内火艇へと乗り込みながら返事をした…

長門(長門型戦艦一番艦)「それは何よりだね、まぁつもる話は後で聞くとしようか……さぁ、どうぞお乗りください、提督」内火艇から渡された道板を歩く百合姫提督にさっと手を差しだし、きりりとした凜々しい表情を向けた…

百合姫提督「ええ、ありがとう…///」

…東京湾…

足柄「あー、あれは「高栄丸」ね……また機雷敷設に行くのかしら、ご苦労なことね」元は貨物船ながら帝国海軍へと徴用され「特設敷設船」として機雷敷設を行っていた功労船…同時に無事に大戦を生き延びて長く活躍した幸運船でもある「高栄丸」がゆっくりと出港していく……

龍田「本当にねぇ…」

百合姫提督「……ところで長門、鎮守府はどう?」

長門「ほとんど問題ありません、提督…私と「比叡」のどちらが提督を迎えに行くかで少し押し問答がありましたが……」

百合姫提督「もう、長門ってば……」

長門「申し訳ありません…何しろ比叡が「お召し艦ならば私です」というので「いや…提督は司令官なのだから、そこは『連合艦隊旗艦』の私が行くべきでしょう?」と言ったら、最後は折れてくれました……しかしそのままでは面子が立たないだろうと思ったので、鎮守府での帰還式は比叡に任せました」

百合姫提督「そう、鎮守府での暮らしはお互い譲り合って…ね?」

長門「はい、心得ております」

百合姫提督「よろしい…♪」

足柄「…それで、鎮守府の様子はどう?」

長門「ふふ、そこは相変わらずと言った所かな……」

龍田「天龍姉さんはどうかしら?」

長門「相変わらずの暴れ者で困った限りさ…」そう言いながら龍田の頬に手を当てて、じっと目を見る…

龍田「…ちょっとぉ、止めてくれるかしらぁ?」

長門「おっと、済まないね…♪」

足柄「全く、このやり取りがあると帰ってきた気分になるわね……」

長門「ふふ、足柄もご苦労様……久しぶり会えて嬉しいよ」

足柄「…ちょっ、いいから止めてよ!」

長門「ああ、悪かったね…そうそう、妙高たちも元気で、足柄に会えるのを楽しみにしているよ」

足柄「それならよかったわ」


710 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2020/12/25(金) 02:48:13.96 ID:/SNzKGI00
…読んで下さっている皆様、メリークリスマス……どうか楽しいクリスマスを送れますように…

…きっとクリスマスは可愛い女の子が彼女さんとチャイナドレスでデートしたり、命感じたりするのでしょうね……ちなみに>1は25日のディナーにローストチキンを焼く予定です…

711 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/26(土) 03:26:26.45 ID:mqgdI8yL0
…横須賀第二鎮守府…

長門「そろそろ到着の頃合いだな…」

足柄「……はぁ、早く畳で休みたいわ」

長門「そうだろうね…さ、提督も準備のほどを……♪」

百合姫提督「え、ええ……ありがとう///」

龍田「そういうことをさらっとするんだものねぇ…」

…百合姫提督の預かる「横須賀第二鎮守府」は湾内の拡大された軍港エリアの一画にあり、沖には猿島、東側には記念館「三笠」の姿が見える……周囲の海面には通船や曳船が行き交い、何隻も停泊している各種の艦艇がかつての横須賀を想起させる…

百合姫提督「……帰ってきたわね」

足柄「そうね…ま、比叡が帰還式の音頭を取るってことはかしこまった制式の式があるんだろうから…しゃっきりしてよ?」

百合姫提督「ええ…♪」

長門「機関後進微速…機関停止!」


…将旗を掲げた内火艇が埠頭に着くと、陸(おか)にいた一人がもやい綱をクリートに結ぶ…道板が渡され、龍田、足柄、長門……そして百合姫提督が降りた所でさっと旭日旗と将旗が翻り、整列していた艦娘たちが一斉に敬礼する…同時にスピーカーから「君が代」と、続けて「軍艦」(軍艦マーチ)が流れる…


比叡(金剛型戦艦二番艦)「鎮守府司令官、帰投されました! …提督、どうぞご挨拶を」

百合姫提督「ええ…」ご丁寧にも倉庫から持ち出して来たらしいレッドカーペットを歩くと用意されているマイクスタンドの前に立ち、大小様々な姿をしている艦娘たちをさっと見渡した…

百合姫提督「……今回は「交換プログラム」によるイタリアへの派遣により、大いに研鑽を積み、また見聞を広めることが出来ました……その間、鎮守府の留守をよく守ってくれてありがとう」そう言って軽く頭を下げる…

百合姫提督「こうして無事に帰投することができ…そして皆が健勝であることをこの目で見ることが出来るのは大変に喜ばしいことです」

百合姫提督「……さて、明日からはまた本官が執務を行いますが、欧州で得た経験を持ってして…労苦を惜しまず、より一層この鎮守府の運営に励みたいと思う所存です。ぜひ、皆も協力を願います」挨拶が終わったことを示すべく、マイクスタンドから一歩下がる…

比叡「全体、敬礼っ! 解散っ!」

百合姫提督「……式の進行、ご苦労様」

比叡「いえ、こうした式はきちんと行わないといけませんから……ですが、ありがとうございます」

百合姫提督「どういたしまして。ところで……」そう言いかけたところで次々と艦娘たちが押し寄せ、たちまち取り囲まれた百合姫提督たち…

金剛「お帰りなさぁい……提督♪」

伊勢「提督の帰投を心よりお待ちしておりました」

飛龍「お帰りなさい、提督…みんな待ちくたびれていましたよ!」

妙高「足柄、お帰りなさい……会いたかったわよ」

足柄「ええ、私も…」

那智「足柄、戻ってきてくれて嬉しいわ…後で囲碁でも一局指しましょうか」

足柄「私は囲碁なんかよりチェスの方がいいわ……ハイカラだし」

羽黒「ふふ、まーた足柄の「ハイカラ病」が始まったわ…♪」

天龍「……お帰り、龍田」

龍田「ええ、ただいま」

電「提督、お帰りなさ…!」

百合姫提督「ただいま、いな……痛っ!」

電「あいたた……ぁ!」百合姫提督に挨拶をしようと「ととと…っ!」駆け寄ってきた電だったが、百合姫提督が振り向いた途端頭をぶつけた…

比叡「まったくもう、なにをやっているんです…っとと」ずっしりと重くかさばる赤い絨毯をきちんと丸めて片付けようとした比叡だったが、思わずたたらを踏む…

雪風「大丈夫ですか、比叡…よかったら私が代わりますよ」

比叡「大丈夫よ、大丈夫……雪風は身なりもちゃんとしていて偉いわね」

雪風「あ、ありがとうございます…///」

松「お帰りなさい、提督!」

竹「会いたかったわ!」

梅「うむ、待ちくたびれたぞえ」

百合姫提督「ありがとう、みんな……さぁ、立ち話もなんだから休憩室にでも行きましょう」
712 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/27(日) 03:14:15.85 ID:iA+3r6mJ0
…休憩室…

百合姫提督「畳の部屋で緑茶とお茶請け……ふふ、何だかんだで落ち着くわ…♪」

龍田「何より靴を脱いでいられるのはありがたいわねぇ……スリッパや室内履きだとしても、室内で履物を履いていないといけないって言うのは落ち着かなかったものねぇ」

足柄「まぁ、気持ちは分かるわ……龍田、お煎餅を取ってちょうだい」

龍田「はいはい、どうぞ…♪」

百合姫提督「今日のお茶請けは「三原堂」の塩せんべいね……私は好きよ、これ」餅米の粒を残して薄く焼いてある塩せんべいは、独特のばりばりとした食感と香ばしい風味がしてとても美味しい……

足柄「でも何枚もないわね……もらっちゃっていいかしら?」

妙高「もちろんいいわ、だって海外派遣の間はお煎餅なんて食べられなかったでしょう?」

足柄「まぁね……最も、イタリヤじゃあ「カンノーリ」とか「ビスコッティ」みたいにハイカラで素敵なお菓子をうんと食べてきたけれど♪」

羽黒「じゃあいらない?」

足柄「まさか…せっかくなんだもの、いらないって事にはならないわよ」

妙高「そういうところは相変わらずね…♪」

扶桑「あらら……出遅れちゃいましたね。塩せんべいはもうおしまいですか?」

雪風「あ、ごめんなさい…最後の一枚は私が……半分食べます?」

扶桑「ありがとう、それじゃあ半分だけ……」

雪風「はい、おすそ分けです」

百合姫提督「……塩せんべいは無くなっちゃったけれど、他にも色々あるから…何か食べる?」

扶桑「そうですね…何がありますか?」

百合姫提督「えぇと…普通の厚焼き煎餅に「チーズアーモンド」と「柿の種」…それからこれは「七福神あられ」ね……」

赤城「あ、それは私が注文しておいたものです……良かったら皆さんもどうぞ」


…群馬の隠れた(?)お土産である「七福神あられ」…昔懐かしい感じがする四角い缶には、個包装されているあられがざらざらと入っている…一口大の軽い食感をした薄焼きあられはコミカルな七福神のイラストの描いてある袋に一枚ずつ入っていて、恵比寿様の「えび」や福禄寿の「しそ」…はたまた弁財天の「バター」や毘沙門天の「カレー」といった洋風な味もある…


榛名「…存外美味しいですよね、これ」赤城山、妙義山と並ぶ「上毛三山」の一つである榛名山が名前の由来だけに、群馬名物には目がない…

百合姫提督「それから甘いのは「ルマンド」に「バームロール」と……」

大淀「あ、そういえばそのお菓子は「新発田鎮」の提督からいただきました……提督がお戻りにならないうちに開けてしまうのもいかがかとは思いましたが、置いておいて悪くしてしまうといけないと思ったので…///」

(※お菓子メーカーの「ブルボン」や柿の種の「亀田製菓」はいずれも越後(新潟)にある。また山本五十六長官も同じく新潟の出身なので、艦隊と縁があるとも言える…?)

百合姫提督「ええ、分かっています……どうぞ、遠慮しないで?」

間宮「…皆さん、お茶のお代わりを淹れてきましたよ」

百合姫提督「あら、ありがとう……間宮も座って?」

間宮「ありがとうございます…それでは♪」

百合姫提督「……それで、留守中は何もなかった?」

大淀「そうですね…だいたいはいつも通りです」

百合姫提督「だいたいは…?」

大淀「はい。ですが何人かは…その…少々……」

百合姫提督「…その話は後で執務室に戻ってから聞くことにしましょう……留守中の執務、お疲れ様」言いづらそうに口ごもった大淀の様子と、艦娘たちのいつもの調子からだいたいの予想がついた百合姫提督……

大淀「いえ、そんな…///」

百合姫提督「みんなもよく協力してくれたみたいで嬉しいわ…改めてお礼を言わせてもらいます……」

百合姫提督「……どうもありがとう、みんな」背筋を伸ばして姿勢を正すと、丁寧に頭を下げた…

………


713 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/29(火) 01:07:27.41 ID:4K2R67yb0
…しばらくして・執務室…

百合姫提督「…それで?」

大淀「は…みんなの陰口を言うようで、あまりいい気分ではありませんが……」

百合姫提督「もし問題が起きそうなら何か起きる前に収めなればいけないし、みんなが鎮守府で気持ちよく過ごせるために聞くだけだから……必要以上に口外もしません」

大淀「言われてみればそうでした。提督に限って軽々しくしゃべったりはしないですよね……」そこまで言いかけたところでふと口をつぐむと机の上のメモ帳を取って何か書き、それを百合姫提督に渡すと閉まっている扉の方を向いた…

百合姫提督「…」(「誰かが扉の外で聞き耳を立てています。忍び寄って取り押さえるので、何か話していてください」…ね)

大淀「……と言うわけでして、提督はどうお思いになられますか?」

百合姫提督「そうね…にわかには信じがたいことだけれど、そういうことがあったなら考え直さないといけないかもしれないわね……」

大淀「提督もそう思いますよね……そこにいるのは誰かっ!」

間宮「…っ!」

大淀「間宮?」

百合姫提督「……間宮、そんなところで一体どうしたの?」

間宮「えぇーと、その…実は、提督に何かお飲み物でもお持ちしようかと……」

大淀「…お茶ならもうありますが?」

間宮「あー、それはそうですが……そうそう、お茶請けに間宮特製の羊羹でもお持ちしましょうか…甘くって美味しいですよ♪」

大淀「…」

百合姫提督「…」

間宮「…」

百合姫提督「……間宮」

間宮「はい、提督」

百合姫提督「…本当は何をしていたの?」

間宮「……すみません。どうにも二人のお話が気になったものですから、少々聞き耳を…」

(※間宮には高性能の通信機器が装備されており、米軍の通信を探知・傍受するなど「情報収集艦」としての機能も有していた)

大淀「はぁ、まったく……どうしますか、提督?」

百合姫提督「そうねぇ…間宮」

間宮「は、はい…」

百合姫提督「…今から食堂に行って、私と大淀に羊羹を切ってきてもらえる?」

間宮「は、はい…すぐに行って参ります!」

大淀「……よろしいのですか?」

百合姫提督「ええ…間宮は速度が出ないから、行って帰ってくるまでにはしばらくかかるでしょう」(※間宮…最高速度14ノット)

大淀「なるほど」

百合姫提督「さぁ、それじゃあ今度こそ聞かせてもらえるわね?」

大淀「はい、まずは……」

………

714 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/29(火) 02:54:20.89 ID:4K2R67yb0
…数ヶ月前…

蒼龍「…提督がいないと寂しいわ」

飛龍「確かに…それに出撃もなくて、身体もなまっている感じ……」

龍驤「…それじゃあ一つ気晴らしに「演習」でもしますか」

鳳翔「あぁ、演習ですか…いいですね♪」

…しばらくして…

摂津(標的艦)「な、なぁ……うちのこと呼んだ…?」

鳳翔「はい、呼びましたよ…♪」

飛龍「呼んだよ……摂津おばあちゃん♪」

赤城「……ふふ、かつての戦艦がおどおどして……たまりませんね♪」

加賀「うんと逃げ回って、私たちを愉しませてくださいね……それと、貴女たちも♪」爛々とした目をして、ぺろりと舌なめずりする空母たち…

波勝(標的艦)「くふふっ…空母のお姉ちゃんたちってば、まーた私たちで「演習」したいんだ……本当にスキモノなんだから♪」

矢風(標的艦)「わ、私は……ほ、ほら、摂津が相手してくれるからいいでしょ?」

…稽古室に呼び出されたのはかつての戦艦、ワシントン条約の制限で「陸奥」建造の代償として標的艦にされた旧戦艦「摂津」と、その無線操縦を行う旧駆逐艦「矢風」…そしてより高速で駆逐艦に似た形状をした標的艦の「波勝(はかち)」…

摂津「あ、あんまり痛いのは堪忍してな…?」

龍驤「…っ///」

鳳翔「……もう、そんなことを言われると…♪」

飛龍「余計にたまらなくなっちゃう……♪」

摂津「…ひっ///」立派な身体をしている摂津だが、妙に嗜虐心をくすぐるオーラを放っている…

赤城「そう怖がらずに…さぁ、頭にこれを♪」


…そう言うと煙突から艦内に演習弾の弾片が飛び込まないようにする、そろばん玉のような形をしたファンネルキャップ(煙突カバー)…のようなかぶり物を身に付けさせた…


波勝「それじゃあ私も…と♪」小さい「波勝」は船体の上に隙間を空けて設けられた装甲に加え、上空から見た時のシルエットを大きくする「幕的(まくてき)」という折りたたみの布がついている……それを広げると、まるで演歌歌手が派手なパフォーマンスをしているように見える…

矢風「私は大丈夫だよね……」それでも一応かぶり物と、摂津を「操る」リモコンを手にしている…

飛龍「それじゃあ始めようか……そーら、捕まえちゃうぞ!」

摂津「いややぁ…止めて、堪忍して…ぇ///」

鳳翔「あぁ、その表情っ……ほぉら、そんな鈍足では逃げ切れませんよぉ♪」

矢風「ほら、もっと捕まらないように頑張ってよ……早く、取り舵いっぱーい!」着物の裾やたわわな胸元をはだけさせ、よろよろと逃げ回る摂津……そしてそれを「操り」ながら、自分は巻き込まれないようにしている矢風…

摂津「は、はひっ…♪」

波勝「加賀さんこちら、てーの鳴る方へ……っと♪」一方、赤城、加賀、蒼龍、飛龍の四人を相手に幕的をひらひらとひらめかせ、ちょこまかと動き回る波勝……

加賀「ふふ、捕まえたらうんとお仕置きです…逃がしませんよ♪」

波勝「ひゃあ…っ///」

赤城「ほぉーら、つーかまえーた……この、このっ♪」パシッ、ピシャン…ッ♪

波勝「あひっ、ひゃあんっ…♪」

鳳翔・龍驤「「捕まえた♪」」

摂津「なぁ龍驤、鳳翔……お願いやから堪忍してぇなぁ…♪」

鳳翔「あら、戦艦は艦砲にも耐えられるはずでしょう……こんな…三号演習爆弾程度では……効かないんじゃありませんか?」バチンッ、ピシン…ッ♪

…鳳翔と龍驤は大柄でぽっちゃりした摂津を捕まえると四つん這いにさせて着物の裾をめくると、代わる代わるむっちりしたお尻へと平手を加える…

摂津「あぁん……っ///」

龍驤「いいよ、たまらない……はい、鳳翔の番♪」バチンッ、ビシッ…♪

鳳翔「はいっ……あぁ、かつての戦艦をこんな風に踏みつけにしていると思うと……ぞくぞくしてきます…っ♪」ぐりぐり…っ♪

摂津「はぁぁん…っ♪」足袋を履いた鳳翔に頭を踏みつけられ、また龍驤にお尻を叩かれながら畳の上で喘いでいる摂津……
715 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/31(木) 03:01:55.16 ID:FlOthHET0
赤城「ふぅぅ、ふぅ…っ♪」ぬちゅっ、ぬる…っ♪

加賀「あぁ……んくっ♪」くちゅっ…ぬちゅっ♪

波勝「はひぃ、あひぃぃっ……♪」じゅぷじゅぷっ……とぽ…っ♪

飛龍「んっ、んんぅぅっ……はぁ、はぁ…でも、まだ終わりじゃないでしょ……攻撃するなら徹底的に叩かないと、ね♪」

蒼龍「ん、飛龍の言うとおり…♪」

波勝「あへぇぇ……ぜぇぇ、はぁ……♪」

飛龍「あー、でも波勝はすっかりイっちゃって息切れか……なら♪」じゅるっ…と舌なめずりをして「矢風」を見た…

矢風「えっ、ちょっと待って……ほ、ほら…私は摂津の操作をするだけで「実艦的」じゃ……」

赤城「…それは以前の話ですよ…ね♪」

加賀「ふふ、貴女だってちゃんと「実艦的」改装を受けているでしょう……大丈夫、耐えられる程度にしてあげるから…♪」

矢風「いや、でもほら……」

鳳翔「……ふふ、摂津はあっさり捕捉できてしまって少々物足りないですから♪」

龍驤「そういうこと…もう息も上がってるし♪」

摂津「はへぇ…はひぃぃ……♪」鳳翔たちがほどよく手心を加えたビンタの跡が残る大きなヒップをさらし、唾液と愛蜜にまみれた状態で畳に崩れ落ちている……

飛龍「と言うわけで…第二次攻撃の要ありと認めます♪」

赤城「そうですね、普段ならもう満足なのですが……」

加賀「今日は少し物足りないので……賛成です♪」

矢風「…ひっ!」

鳳翔「怖がらなくても大丈夫ですよ、ちゃんと手加減してあげますから…ね♪」腰が引けている矢風をねっとりとした目つきで、舐め回すように眺めた…

飛龍「そぉら、お姉ちゃんたちに捕まらないように逃げ回ってごらん…♪」

蒼龍「捕まったら食べられちゃうぞ…ぉ♪」

矢風「わ、私までさせられるなんて聞いてない……いやぁぁ…っ///」

………

大淀「…とまぁ、出撃がなく身体をもてあましていた空母勢はこのような具合でして」

百合姫提督「……そ、そう///」

大淀「それから……」

百合姫提督「まだあるの…?」

大淀「ええ、もっともこちらは違う方に……」

………



…別の日…

大淀「はぁ、書類仕事をするといつもこうなんですから…」紙に付いていた手の小指側の部分がすっかり黒くなってしまい、それを洗いに来た大淀…

大淀「お腹も減ったことですし、間宮のお昼が楽しみですね……あら?」洗面台で手を洗っている一人の艦娘…

電「あ、大淀さん」

大淀「どうしたの、電……もうお昼ですよ? 手を洗うのはいいけれど、早く行かないと」

電「はい。でもおかしいんです、いくら洗っても汚れが落ちなくて……石鹸が悪いんでしょうか?」

大淀「え…?」

電「ほら、私の手……赤茶けた染みが見えますよね…?」そういって差し出した両手は白く綺麗で、汚れ一つ付いていない…

大淀「…」

電「そういえばこの間、執務室にお邪魔したとき提督がいらっしゃらなくて…どうしてかなって思ったら……提督のお名前は「深雪」なんですよね……だから私の代わりにいなくなっちゃったんでしょうか?」

大淀「い、電……」

716 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2020/12/31(木) 17:21:20.66 ID:FlOthHET0
…時が経つのは早いもので、今年もあと数時間となりましたね。このssを読んで下さった方、感想を下さった方…なかなか進まない中お付き合い下さり、どうもありがとうございます。


…色々と大変な一年でしたし、来年はもっといい年になるといいですね……新年の投下では縁起をかついで「松」型駆逐艦の「松」「竹」「梅」でも登場させようかと思っております…
717 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/02(土) 01:21:04.10 ID:tm4xbeH90
明けましておめでとうございます……今年も初日の出をちゃんと拝むことが出来て感無量でした…


…今年は牛歩の歩みで、遅くとも一歩ずつ投下していけるよう頑張ります…
718 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/01/03(日) 01:50:23.24 ID:IuAZhzQP0
大淀「さすがにあの時は背筋に冷たいものが走りましたよ…」

百合姫提督「そうでしょうね。ちなみに、どう対処したの…?」

大淀「それなんですが……提督のお部屋に連れて行って布団の残り香を嗅がせたらすぐに収まりました」

百合姫提督「そう…電には後でうんとわがままを言わせてあげるとしましょう……」

大淀「それがいいかもしれませんね……っと、もうこんな時間ですか。提督、帰ってくる間の道中で食事をしている時間もあまり無かったでしょうし、間宮に言って軽く作らせておきましたが…?」

百合姫提督「あら、本当に…?」

大淀「はい、きっと鰹節の香りが懐かしいだろうと思いまして……いかがいたしますか?」

百合姫提督「そうね、途中でお弁当はいただいたけれど…せっかく作ってくれたのだから、いただきます」

大淀「了解」

間宮「失礼します、提督。羊羹をお持ちしました…♪」

百合姫提督「あら、ありがとう…せっかく持ってきてくれたところ申し訳ないけれど、羊羹は食堂でご飯をいただいてから頂戴します」

間宮「そうですか」

百合姫提督「ええ…わざわざご苦労様」ちゅっ…♪

間宮「!?」

大淀「て、提督…っ!?」

百合姫提督「…っ、ごめんなさい……向こうでは頬に口づけするのが挨拶のようなものだったから…///」

間宮「いえ、あの……わ、私は別に構いませんので……」

大淀「…驚きましたね」

百合姫提督「///」

…廊下…

大淀「……留守中にあったことは日誌に付けてありますので、後で確認いただければと思います」

百合姫提督「はい」

間宮「///」

百合姫提督「間宮…?」

間宮「は、はい…っ!」

百合姫提督「その……さっきは驚かせてしまってごめんなさいね?」

間宮「いえ、そのことでしたら全然…でも、不意打ちだったものですから///」

百合姫提督「ええ、私もなかば無意識にしていたから……///」

大淀「やれやれ、提督があちらでどんなことをなさっていたのか気になる所ですね…」

…食堂…

足柄「待ってたわよ、提督」

龍田「遅かったじゃない」

百合姫提督「ええ、少し報告を聞いていたものだから……いい香りがするわね」

間宮「はい。提督は洋行帰りですし和食が食べたいかと思いまして…何品か用意させていただきました」

長門「それにしても提督がお帰りになると鎮守府に花が咲いたようですね……さ、お手を取らせていただきます♪」椅子を引くと、百合姫提督の手を取って席に座らせる…

百合姫提督「…何もそんなにしてくれなくたって///」

長門「ふふ、そうおっしゃらず…」

719 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/05(火) 02:05:09.08 ID:ORDf8MIy0
足柄「それで、献立は何かしら?」

間宮「はい。献立ですが、海風が冷たかったでしょうから温かいものにしようと思いまして…ちょうど頂き物の山菜も残っておりましたので、山菜そばにいたしました……杵埼たちも運ぶのを手伝って下さい」

杵埼(給糧艦「杵埼」型)「はい、間宮さん」

早崎(杵埼型)「私も手伝います♪」

白崎(杵埼型)「私もっ」

荒崎(杵埼型)「すぐ行くよ!」

野埼(給糧艦「野埼」型・単艦)「私も運びますね♪」

剣埼(給油艦「剣埼」型・単艦)「分かりました、それじゃあ私も…って、わわっ!」

…小学生も低学年くらいに見える小さな給糧艦の「杵埼」たちに交じって料理を運ぶ小柄な給油艦の「剣埼(初代)」は妙に足元がおぼつかず、お盆を持ってふらふらしていたが、机まできた所でよろめいてこぼしそうになる……

足柄「ちょっと…!」

吹雪「うわ…っ!」

大淀「あ、危ない…っ!」

百合姫提督「きゃ…っ!」よけようと慌てて席から立ち上がる百合姫提督と艦娘たち……

剣埼「提督、ごめんなさい……」どうにかこぼさずに盆を置くことは出来たが、すっかりしょげている剣埼…

百合姫提督「いいのよ…それより怪我はない?」

剣埼「だ、大丈夫です……」

百合姫提督「それなら良かった……今度は運ぶ量をもっと少なくした方がいいかもしれないわ」

剣埼「はい、今度からはそうします」

百合姫提督「ええ」

間宮「…お蕎麦も無事で良かったですね」

百合姫提督「そうね……あら、美味しそう」


…蕎麦どんぶりで湯気を立てている山菜入りの蕎麦は出汁を宗田節と利尻昆布、いりこでしっかりと取り、つゆを関東風の濃口に仕上げてある……蕎麦はつゆの濃い味わいに合わせて白く細い更科(さらしな)ではなく殻ごと挽いてある田舎蕎麦を使い、上には醤油で煮付けにした数種類の山菜と、まだからりとしている天かす(揚げ玉)が載せてある…


間宮「どうぞ召し上がれ」

百合姫提督「ええ…では、いただきます」

…つゆをひと口飲むと、続けて蕎麦をたぐる…多少幅のある田舎蕎麦はするりとすするより、口の中で軽く噛む方が、香ばしい蕎麦の風味がより引き立って美味しい感じがする…

百合姫提督「…はぁぁ」何口かすすると、満足げにため息をついた…

間宮「美味しいですか?」

百合姫提督「ええ…とっても」

間宮「良かったです……みんな提督がいらっしゃらなくて寂しく思っておりました」

梅(「松」(丁)型駆逐艦)「うむ…それだけに提督が戻ってきてくれて喜ばしいの。まさに「盆と正月がいっぺんに来た」というものじゃな♪」

百合姫提督「ふふ、嬉しいお言葉…」

間宮「ええ……さ、早くしないと蕎麦が伸びてしまいますよ?」

百合姫提督「はいはい…♪」

足柄「…あー、美味しいわね」

間宮「他にも色々ありますから、たくさん召し上がって下さいね♪」

…どんぶりの隣には長方形の皿が置いてあり、三角型の大きな混ぜご飯のおにぎりが二つ載せてある。百合姫提督が手に取って一口頬張ってみると、醤油と砂糖、それにみりんで味付けしたらしい甘塩っぱいおかかと、細かく刻んだ昆布の佃煮の味がした…

百合姫提督「これも美味しい…もしかしてお出汁を取った後の昆布と鰹節?」

間宮「ええ、そうです……皆さんの分を作るとかなりの量が出ますし、それをただ捨ててしまうのはもったいないですからね」

百合姫提督「そうね…味付けもちょうどいいわ」

間宮「そう言ってもらえて何よりです。あとはたくあんとぬか漬けに…食後には白玉のお汁粉も用意してあります」

百合姫提督「それは楽しみね…♪」
720 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/06(水) 01:55:56.36 ID:l5tzBqU30
…しばらくして・執務室…

百合姫提督「ふぅ、ちょっと食べ過ぎちゃったわ……」

長門「結構なことではありませんか…それに、そういう所も可愛いですよ」

百合姫提督「///」

大淀「長門は相変わらずですね……ところで提督、留守中のことでいくつかご報告が」

百合姫提督「なにかしら?」

大淀「はっ、提督のイタリア訪問中にお中元ですとか贈り物を頂戴しまして…一応私からお礼の手紙を書いておきましたが、改めて提督からもお礼をお願いしたいので…」

百合姫提督「なるほど、分かりました……名前は控えてある?」

大淀「もちろんです」

百合姫提督「助かるわ…それじゃあまずは電話でお礼を伝えて、お返しはまた改めて送ることにしましょう……最初は誰から?」

大淀「えー…まずは「市川・梨香子(いちかわ・りかこ)」中佐ですね。いつものようにご実家から梨をたくさん送って下さいました」

百合姫提督「相変わらず梨香子は親切ね……とりあえず電話をかけていきましょう」受話器を取り上げると、ダイヤルを回した…

…千葉県・館山…

女性「はい、もしもし…こちら「海上自衛隊横須賀鎮守府付属・館山基地分遣隊」です」

百合姫提督「もしもし「横須賀第二鎮守府」の百合野ですけれど……市川中佐はいらっしゃいますか?」

女性「あ、深雪ぃ……久しぶり♪」

百合姫提督「…あら、もしかして梨香子?」

市川中佐「もしかしなくてもよ……急に電話なんてどうしたの?」

百合姫提督「ええ、うちの大淀から聞いたのだけれど…今年もご実家から梨を送ってくれたそうだから、まずはお礼の電話をしようと思って……」

市川中佐「あー、あれね…いいのいいの、気にしないで? …どうせ「送った」っていっても、形が悪くて売れないのばっかりだから、むしろ食べてくれて助かるわ」

百合姫提督「いえ、そんな…」

市川中佐「本当にいいのよ…なにしろ夏頃になって実家に戻ると箱詰めや直売所を手伝わされるし、選別ではじかれた梨ばっかり食べさせられるしで……そうやって喜んでくれる人がいて嬉しいわ」

百合姫提督「いえいえ、こちらこそもらってばっかりで……今度うちでお手伝い出来る事があったら遠慮無く言ってね?」

市川中佐「ええ、わざわざどうも♪」

百合姫提督「はい、それじゃあまた…」

大淀「…次は伊豆大島分遣駆逐隊の司令、本八幡・由紀(もとやわた・ゆき)中佐ですね」

百合姫提督「はい」

…伊豆大島…

綺麗な黒髪の女性「はい、こちら大島分遣隊の本八幡です」

百合姫提督「もしもし、こちら「横二」の百合野です……久しぶりね、由紀」

本八幡中佐「あら、あらあら…深雪、いつ戻ってきたの?」

百合姫提督「ちょうど今日戻ってきたわ……ただいま」

本八幡中佐「お帰りなさい。それで、帰国早々に私に電話をくれるなんて…そっちで何かあったの?」

百合姫提督「いいえ……ただ、鎮守府にあててお中元を送ってくれたそうだから、まずは取り急ぎお礼の電話を…と思って」

本八幡中佐「これはどうもご丁寧に…せっかく伊豆大島の分遣隊司令だから、地元特産「大島椿」の髪油にしてみたけれど……毎日使ってたおかげで私の髪はつやつやになったけれど、そっちの娘たちは気に入ってくれたかしら?」

百合姫提督「ええ、とっても気に入ってくれたみたい…♪」横でうなずいている大淀を見ながら返事をした…

本八幡中佐「なら良かった……その様子だと、他にもあちこちに電話をしなきゃいけないんじゃない? お時間を取らせたら悪いから、失礼させてもらうわね」

百合姫提督「ごめんなさい、お気遣いいただいちゃって……それじゃあ、今度は時間があるときにゆっくりお話しましょうね」

本八幡中佐「ええ、またね」


721 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/01/06(水) 01:59:10.96 ID:lFP7dIijo
いつも楽しみにしています
722 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/08(金) 01:08:08.42 ID:fsyfMdVM0
>>721 ありがとうございます。しばらくは百合姫提督と艦娘たちの日常をお送りするつもりですので、よろしかったら見ていって下さい。

…すでにお気づきかと思いますが「市川」と「本八幡」は総武線が千葉県に入ってすぐの駅名から順に取っています…ついでに色々調べてみましたが、結構特産品や名所旧跡があったので、そのうちに取り入れてみる予定です。



他にも各鎮守府の提督として名字に地名を入れたキャラクターを出してみようかと思っておりますが、もし都道府県のリクエストがあれば、その都道府県にある市町村や駅名などから名前を出そうかな……とも思っております

723 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/08(金) 02:09:06.91 ID:fsyfMdVM0
百合姫提督「ええ、またね……大淀、次は誰に電話をすればいいのかしら?」

大淀「えー、次はですね…中山翔子(なかやま・しょうこ)少佐にお願いします」

百合姫提督「…あぁ「下総中山」の」

大淀「そういえば、提督」

百合姫提督「ええ、なにかしら…?」

大淀「いえ、中山少佐のそのあだ名は幾度か耳にしましたが……どうして「下総中山」なんです?」

百合姫提督「あぁ、そのこと?」

大淀「はい」

百合姫提督「いえ、実はね……ふふ♪」口元に手を当てて、くすくすと笑いはじめた百合姫提督…

大淀「…何がおかしいんです?」

百合姫提督「実はね、私と翔子は同期なんだけれど……中山っていう名字は同期に数人はいたし、彼女は始め鎮守府じゃなくって「下総基地」の航空隊の方にいたものだから…」

大淀「それで「下総中山」ですか」

百合姫提督「ええ…誰かが駅の名前とかけて付けたあだ名なのだけれど、便利だからすっかり浸透しちゃって……」

大淀「…なるほど」

百合姫提督「ええ……それじゃあ電話するわね…♪」

………



…翌日…

百合姫提督「……鎮守府のみんなで飲み会?」

大淀「はい。提督も無事に帰国された訳ですし、横須賀のお店数軒を借りてお祝いでもしようと…いかがでしょうか?」

百合姫提督「そうねぇ、とりあえず明後日は市ヶ谷(防衛省)で帰還式と研究成果の報告会があるから……それより後の日付なら大丈夫よ」

大淀「了解」

百合姫提督「それより予算は大丈夫? …いくら出せばいいかしら?」財布を取り出してお札を渡そうとする百合姫提督…

大淀「いえいえ、とんでもない……みんなのお給料から出しあいましたので、提督はお金の心配をしなくても大丈夫ですよ」

百合姫提督「そう…なんだかごめんなさいね?」

大淀「お気になさらず。みんな提督が帰ってきて嬉しく思っておりますから……♪」

百合姫提督「ありがとう…///」

大淀「はい」

…数日後・市ヶ谷…

百合姫提督「…横須賀第二鎮守府の百合野です。ただいま到着いたしました」

防衛省幹部「あぁ、ご苦労様です……どうぞ会議室へ」

百合姫提督「はい」

…会議室には旭日旗が飾られ「交換プログラム」に参加した数名の提督たちと広報課のカメラマン、そして海幕(海上幕僚監部)のエライ人も幾人かやって来た……挨拶に始まり、短くまとめたプログラムの成果発表、そして提督たちに対するねぎらいの言葉……と、式次第に則って滞りなく行われる…

百合姫提督「…以上で、本官の発表を終わります」

進行役「では、最後にご挨拶をいただきます…」

海幕のエライ人「うむ……各提督それぞれよく研究し報告書にまとめられていたと思います…今回の経験を糧にして、これからも海上における安全保障と国際貢献のために尽くしてくれることを願っています…以上!」

………



724 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/09(土) 11:08:12.03 ID:U57nhV8t0
…数日後・横須賀市街の居酒屋…

大淀「……えー、では提督の帰還と欧州歴訪の完了を祝って…乾杯!」

一同「「乾杯!」」

提督「…ありがとう、みんな」

長門「なに、礼を言うには及びません……みんな、注文は?」

陸奥「じゃあ…きゅうりの浅漬け」

明石「たこぶつお願いします」

雪風「私は冷奴(ひややっこ)がいいです…♪」

比叡「焼き鳥盛り合わせを頼みます…軟骨と皮、ハツ(心臓)は塩、他はタレで」

霧島「それならだし巻き卵で」

長門「分かった……提督、提督は何にします?」

百合姫提督「私はみんなが頼んだ分から一口ずついただくわ……ほら、他の娘たちのいるお店も回らないといけないし」

…百合姫提督の鎮守府は「連合艦隊勢揃い」とまでは行かないが、大小取り混ぜて二百人近くもの艦娘たちがいる大所帯なので、たいてい一軒の店では入りきらない……そのため、いくつかの店で数十人分の席を取り、お互いに入れ替わり立ち替わりしながら宴席を張り、百合姫提督も中座してはそれぞれの店を行ったり来たりする…というのがいつものやり方になっていた…

長門「それもそうですね……あと鯨の刺身を」

百合姫提督「んくっ…こくんっ……」百合姫提督はビールがあまり得意でないのと(たいていは酒豪の)艦娘たちが善意からお酌をしてくれたり杯を勧めてきたりすることを踏まえて、長門が手際よく人数分注文した「キリン」の生を少しずつ飲む……

霧島「あー……美味しい」

店員「…お待たせしました、冷奴ときゅうりの浅漬け、それと鯨の刺身にたこぶつですね」

長門「来たか…それじゃあいただこう」からし醤油で赤身の濃い鯨をつまんだ……

明石「…本当にあのときは、鯨なんて見るのも嫌だったくらいよく献立に出ましたよね」

長門「確かに……でも私は好きだが?」(※長門…今の山口県にあたり、鯨の水揚げを行う漁港もあった)

明石「それもまぁ人それぞれですね……あむっ」たこのぶつ切りを威勢良く口に放り込む…

比叡「明石、箸の持ち方が良くありませんよ」

明石「了解……全く比叡ときたらお召し艦だったからって、小姑みたいに行儀作法をねちねちと…」

比叡「…何か言いましたか?」

明石「いいえ、なーんでも……ま、もうちょっとしたら別の店の方に行って、そこで駆逐艦の二、三人でも引っかけて…ふふっ♪」

百合姫提督「…」

長門「…それにしても今回はいい店が取れてよかったですね……あのときの居酒屋みたいな店だったら、軽巡たちがまた暴れたに違いないですから」

百合姫提督「ええ、そうね…」

霧島「本当に水雷戦隊は気が荒いんだから…」

長門「ふっ、君も人のことは言えないんじゃないかな?」

霧島「私の場合は別です……店員さん「白霧島」と氷を下さい」

百合姫提督「あと、白和えをお願いします」

店員「はい」

………

725 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/12(火) 02:23:06.22 ID:SL1ufSD10
…別の店…

利根「…おっ、提督じゃない! さ、座って座って!」

百合姫提督「ありがとう」

球磨(二等巡洋艦「球磨」型)「夜風に吹かれて冷えたでしょ? ま、とりあえず一杯ってところで……!」

百合姫提督「え、ええ…いただきます」とくとくとくっ…と小気味いい音を立てて注がれた燗酒の「八海山」を控え目に含んだ……

足柄「それとこれ、食べさしで悪いけど……ねぇ、提督にそっちのもつ煮をよそってあげて」

松風(神風型駆逐艦)「了解…七味はいります?」

百合姫提督「ええ」

足柄「なんでも食べたいものを頼んでよ?」

百合姫提督「ありがとう」

木曾(球磨型)「あぁ……沁みるねぇ」

妙高「…そういえばさっき利根たちの話になってたわよ」

利根「へぇ、どんな?」

妙高「例の居酒屋で暴れた話…」

利根「あぁ、あれか……そんなこと言ったって、あれは向こうの言い方が悪いってもんよ」

………



…数年前・居酒屋にて…

川内(二等巡洋艦「川内」型)「…それじゃあ作戦成功を祝って!」

神通(川内型)「乾杯!」

利根「乾杯!」

暁「乾杯!」

雷「乾杯…っ!」

天龍「んっ、んっ、んんぅ……くぅーっ!」

川内「さすがは「暴れ天龍」…いい飲みっぷりね!」

天龍「なんだよそれ……さ、もう一杯!」

龍田「はいはい、手酌は良くないから私が注いであげる♪」

天龍「おっ、悪い…♪」

店員「すいません「お通し」お持ちしました」

暁「あ、はーい……って、何これ?」解凍ものにしても粗末な枝豆が数個ばかり小鉢に入っている……

店員「いや、お通しですけど……うちではお酒を注文するときに「お通し」も頼む形になってるんで…」

(※お通し…地域によっては「突き出し」とも。少なくとも江戸時代には余り物や半端な量だけしかない料理を店に「お通し」した際に出すこと、あるいは「突き出す」程度のひと品といった意味合いで、その「残り物」の善し悪しで店の技量が分かるとされていた。元来は店の「心意気」であって金を取るような物ではなく、客もちゃんと料理を頼み「お通し」だけで酒を飲むなどといった野暮はしないのがしきたりであったが、今では「席料」がわりとしてお通しでお金を取る店も多い)

川内「…は?」

神通「今なんて言った…?」

店員「いえ、ですから…」

利根「なぁお兄さん、ちょいと待ちなよ……お通しを「頼む」ってことは金を取るってぇのかい?」日本三大暴れ川の長男「板東太郎」の異名を持つ利根だけに、江戸っ子のようなべらんめえが出始める…

店員「はい、そういうことになってます」

利根「……ここにそんなこと書いてあるか?」メニューをめくって指差した…

店員「いや、書いてはないんですけど……そう言う仕組みなんで…」

利根「あぁ、悪かった。兄さんに言ったって仕方がねぇや……ちょいと店長さんでも何でもいいから、上の人を呼んできてくんなよ」

店員「は、はい…」

726 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/16(土) 02:10:59.29 ID:fJ/9p/wD0
白雪「雷たちは先行して居酒屋に入っているはずですから、着いたらすぐに何か飲めますね」

百合姫提督「そうね…あ、あったわ。確か利根たちが言っていたのはこのお店だったはず……一体どうしたのかしら」居酒屋の前には交番のスクーターが二台ばかり止まっている…

初雪「酔客でも騒いだんじゃないでしょうか……それより外は蒸し暑いですし、早く入りましょう♪」

百合姫提督「ええ…」チェーン居酒屋の自動ドアが開き、のれんをくぐった……

…数分前…

利根「……んだとぉ、頼んでもねえ物に金を払えってぇのか!?」

店長「ですから、この「お通し」はお酒とセットになって注文される仕組みなんですよ…」

利根「そんなこたぁ献立表のどこにも書いてねえじゃねぇか!」

店長「いや、書いてないですけどうちの店の決まりになっていて…」

利根「知ってて頼んだってぇならこっちも悪いが、書いてねぇんじゃこちとらぁ知りようもねえじゃねえか!」

店長「いえ、でもお客さん…」

天龍「なぁ、このままじゃあ埒があかないから出よう……な?」

川内「全く、楽しく飲むべき酒がこれじゃあやりきれないわ…利根、その辺で止めておいたら?」

利根「待てよ川内、こんなのおかしいだろう……!?」

龍田「もういいから……さぁ、もう帰るからお勘定を持ってきて?」

店長「えーと、それでしたら冷酒一合が六本に瓶ビールが三本、それとセットのお通しで…」

天龍「おいおい、待てよ……こっちがその「お通し」を食べたって言うんならちゃんと払うけど、食べてないんだぞ?」

店長「いえ、でもお客さんは注文していますから支払っていただかないと……」

天龍「…なんだとぉ!?」

木曾「貴様ぁ!」

………

巡査「…つまり「頼んでもいないし食べてもいない物にお金を払う必要」はない、ってことでいいですか?」

利根「その通り、さっすが話が早ぇや…!」

巡査B「……それじゃあセットになっているので、お酒を頼んだ以上は支払ってもらいたいと」

店長「そうなんですよ」

百合姫提督「…あの、済みません」

巡査「はい、なんですか?」

百合姫提督「その……なにかトラブルでも…?」

木曾「あっ…!」たちまち姿勢を正して直立する艦娘たち…

百合姫提督「よろしい、休め」

巡査「……この人は君たちのお知り合い?」

木曾「知り合いも何も…うちの提督だよ」

百合姫提督「ねぇ木曾、何があったの?」

木曾「ああ、それがかくかくしかじか……」

百合姫提督「なるほど……それで巡査さん、こういった場合はどうしたらいいですか?」

巡査「そうですね…別に店員を殴ったとかそういうことではないですから、誰かが飲食の料金を払えばいいんですが……」

百合姫提督「そうですか、分かりました…では私が払いますので、それで大丈夫ですか?」

店長「はい、払ってくれれば何も問題はないので…」

利根「ちょいと待った!別にこっちは飲み食いして金を払わねえってんじゃあねえんだ……勝手に注文したことにして金を取ろうってぇ、そのしみったれた了見が気に入らねぇってんだ!」

百合姫提督「……利根」

利根「う…分かったよ、提督に迷惑がかかっちゃあいけねえ……」

………

727 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/16(土) 03:45:47.84 ID:fJ/9p/wD0
神通「あったあった…♪」

木曾「ああ、あったねぇ……全く利根は暴れ者なんだから♪」

利根「へっ、あちこちで暴れてきたお前さんたちに言われたかぁねえや…兄さん、この「鰺のなめろう」を三つばかし頼むよ♪」

店員「はーい!」

妙高「全く……提督もこんなのばっかりで頭が痛いわね?」

百合姫提督「ふふ、利根たちは威勢がいいのが取り柄だもの…それに私はそういうのが苦手だから、少しうらやましいわ……」

足柄「やれやれ…「あばたもえくぼ」とはよく言ったものね」

羽黒「提督の変わり者ぶりには感心するわ」

扶桑「ええ、全くです……何しろ他の鎮守府で持て余されていた私たちを受け入れてしまうほどですもの」

山城「…どうして「出来損ない」呼ばわりされていた私たちを引き取る気になったんですか?」

百合姫提督「そうね…あの時は……」

…数年前・市ヶ谷…

提督「百合野くん、百合野くん…ちょっと相談事なんだが……今いいかな?」

百合姫提督「はい、なんでしょう…?」

…市ヶ谷(防衛省)での「深海棲艦対策検討会」を終えて書類をまとめていると、中将の階級章を付けた一人の提督に手招きされた…

提督「いや、実はな……うちの鎮守府にもそろそろ「大和」と「武蔵」が欲しくて条件を揃えた所なんだが、今期の建造枠では足りなくってね…良かったらうちの鎮守府の艦娘数人と「交換」ってことで、しばらく建造枠を貸してくれないかな…?」

百合姫提督「交換…ですか?」

提督「ああ……いやもちろん「無理に」とは言わないし、建造枠のトン数もこっちの分が溜まったら返す。それに何か百合野くんが手を回して欲しいことやなんかがあったら、できるだけ手助けするが…どうかな?」

百合姫提督「そうですね……ええ、構いませんよ」

提督「本当かい! いやぁ、君に相談して正解だったなぁ……他の提督たちにも当たってみたんだが、なかなか「大和」と「武蔵」が建造出来るほど枠を残している提督はいなくってね……恩に着るよ」

百合姫提督「いえいえ…」

提督「それじゃあうちから「放出」できる艦娘のリストを後で送るから、好きな娘を選んで教えてくれ」

百合姫提督「はい」

………



扶桑「それで選んだのが私と山城、それと「知床」型給油艦の五人を合わせて七人……どう見ても割のいい交換じゃありませんよ?」

山城「ええ…何せ私たちは落ちこぼれの「カテゴリーF」ですから」

百合姫提督「……確かにそういう意見もあるかもしれないわ…でもね」ちびりと日本酒を飲むとコトリとおちょこを置いた…

百合姫提督「私は背伸びをしてまで「大和型」を持とうとは思わないの…確かに「世紀の大戦艦」ではあるし、当時の技術の粋を集めた大艦巨砲主義の究極ともいえる二隻であるのは間違いないわ……でも運用するとなれば鎮守府の設備や使いどころを考えるにも苦労するし、水中防御や隔壁配置の脆弱性から言っても「世界で最も優れた戦艦」とは必ずしも言い切れない……それならむしろ伊勢型とも合わせやすいあなたたちを選ぶわ」

扶桑「…」

百合姫提督「…それと「大和と武蔵を持っている」っていう満足のためだけに、艦隊運用に必要なフネをおざなりにするようなことはしたくないから……」

山城「提督…」

百合姫提督「……あと、私みたいな若輩者が大和型を持っていたら、先輩にあたる提督方に対して「生意気」だものね?」急に流れた真面目な雰囲気を和らげるように、わざと冗談めかした…

足柄「違いないわね…♪」

百合姫提督「ね? …あ、そこにあるお豆腐の田楽を取ってくれる?」

木曾「はい、どうぞ…めっぽう美味いですよ、これ」厚手に切った木綿豆腐に酸味の利いた赤出汁の味噌を塗り、その上にぱらりと白胡麻を散らしたものと葉山椒を載せたものの二種類を炭火で香ばしく炙ってある…

足柄「本当に木曾ときたら、赤出汁ならなんでも美味いっていうんだから……この美濃の田舎娘は」

木曾「余計なお世話だっての…そもそも赤出汁の方がぼんやりした白味噌より美味いだろ?」

百合姫提督「まるで織田信長ね……あ、でも本当に美味しい♪」

木曾「ほら…♪」
728 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/18(月) 03:44:50.88 ID:fC93kTTt0
店員「山菜のお煮しめです」

龍田「あ、はーい…神通、那珂、お煮しめはどうですか?」

…鉢に盛られた山菜の煮しめは醤油と酒、砂糖、みりんで味を付けてあり、細くて歯切れのいい「姫竹(※「地竹」あるいは「根曲がり竹」とも)」に味の良く染みた椎茸、それにぜんまいやわらびが入っている…

那珂「ちびちび飲むにはいいかもね……少しちょうだい?」

神通「それなら私も」

龍田「はいはい…さ、どうぞ?」

那珂「いや、ありがと…って」

神通「うっ…!」

龍田「どうかしたの……あっ」

神通「や、やっぱりいらないかな……」山菜を小鉢に取り分けてもらったが、その中に入っているわらびを見て苦い表情を浮かべた神通…

百合姫提督「……神通、良かったら私が」

神通「すみません、提督…」

百合姫提督「大丈夫、気にしないで?」

…数十分後・三軒目の店…

足柄「うー…ちょっと飲んでは別の店に向かって、そこでまた少し飲んで……まるでハシゴ酒じゃない。こんな飲み方をしていたら酔いが早く回りそうよ……」

百合姫提督「仕方ないわ、みんなの所にちゃんと顔を出してあげないといけないし……」

足柄「相変わらず律儀なことで…それで、今度の店は……」

百合姫提督「…確かここじゃないかしら?」

足柄「…中華料理「定遠」……ええ、ここで合ってるわ」

…店内…

鵜来(海防艦「鵜来」型)「…あっ、提督!」

新南(鵜来型)「いらっしゃい♪」

松輪(海防艦「択捉」型)「待ちくたびれましたよ…ささ、どうぞ上座に♪」

百合姫提督「ええ、ありがとう…」

日振(海防艦「日振」型)「食べ放題飲み放題ですからね、たくさん食べないと損ですよ?」

四阪(日振型)「ここの中華は美味しいですよ……私が保証するアル♪」戦後は中華民国(国府軍)に引き渡され「恵安」となり、中共の手に落ちた後も長らく奉公した功労艦の四阪……

百合姫提督「ふふ、四阪(しさか)が言うなら間違いないわね……みんなこそちゃんと食べてる?」

第一号(海防艦「第一号」(丙)型)「はい、たくさんいただいてます…」

第二号(海防艦「第二号」(丁)型)「こんなに食べられるなんて良い時代ですね……司令」


…大戦も末期に急遽大量生産された「第一号」(丙型)および「第二号」(丁型)型海防艦は「鵜来(うくる)型」(甲型)海防艦をさらに簡略、小型化した戦時急造の海防艦で「痩せ馬」の目立つフネであったが、それを反映してか(鎮守府ではちゃんと食べさせているにもかかわらず)みんなあばら骨が浮き出て見えるようなやつれた子供のような姿をしていて、その哀れを誘う様子を見るたびに、百合姫提督としては贅沢をさせてあげたくなる…

(※痩せ馬…造船時において外板に使う鋼材の厚みや品質を落とした時に起きる現象で、外板がへこんで船の肋材の部分だけが浮き上がって見える状態。粗製濫造、劣悪な造船の代名詞)


百合姫提督「え、ええ…いっぱい食べてね……」多くは不遇な生涯を送った海防艦たちのいじらしい様子を見て、かすかに目をうるませる百合姫提督…

鵜来「本当ですね……あ「薩摩白波」お代わりで」(※鵜来…戦後は海上保安庁の巡視船「さつま」となり、1965年(昭和四十年)まで長く艦齢を重ね無事退役)

新南「古滷肉(くーろーよー…酢豚)をお願いします!」大陸に進出して以来、帝国海軍の献立にも取り入れられた中華料理…その中でもおなじみだった「古滷肉」を頼む鵜来型の「新南(しんなん)」…

竹生(鵜来型)「春巻きを六皿お願いです」

杉(松型駆逐艦…戦後国府海軍「恵陽」)「麻婆豆腐を…大皿だし三つでいい?」

梨(松型)「ん、いいんじゃない?」

杉「じゃあ三つで…それと五目焼きそばが二つと、小籠包と海老焼売を蒸籠で三つずつ……それと東坡肉(角煮)を四皿…」

店員のお姉さん「はい♪ …一杯食べてくれテ、私たちも嬉しいネ!」注文を取ると奥の厨房に向かって声を張り上げ、早口の広東語で注文を伝えた…

729 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/19(火) 01:12:42.09 ID:B9ibwpp60
…しばらくは百合姫提督と艦娘たちの飲み会の場面をお送りする予定で、登場した艦娘たちについては後で紹介を書きたいと思っております…


…相変わらず新型コロナの拡大が叫ばれている中で「大学共通入試テスト」に挑んだ受験生の皆さんや、雪の多い地域に住んでいる皆様は何かと大変なことと思いますが、このssで気分転換になれば幸いです…
730 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/23(土) 02:04:32.82 ID:Hfaed8l30
鵜来「あ、これも美味しい……ほら、提督も今のうちにいっぱい食べてください」一段に小籠包が五つ入っている丸い蒸籠を渡す…

杉「麻婆豆腐もよそってあげますね」

梨(「松」型駆逐艦)「どうぞ、春巻と海老焼売ですよ♪」

四阪「棒々鶏も取ってあげます」

百合姫提督「い、一旦そのくらいで……いただきます…」

…小籠包を小ぶりのれんげに移して、箸で少し皮を切る……ふわりと生姜の香る熱い肉汁をすすると、それから小籠包そのものを口に運ぶ…

百合姫提督「あ、あふっ…!」

足柄「あー、もう提督ったら…よく冷ましてから食べないと……」

百合姫提督「え、ええ……でも美味しい…」舌先が火傷するかと思うような熱い小籠包に涙目を浮かべ、ふーふーと慌てて息を吹きかける…

初雪「それじゃあ私は春巻を…ふわ、おいひい……♪」

白雪「ん、本当に美味しいです…」

…皿に数本ずつ盛られている春巻を取り、まずはそのまま食べる二人……からりと揚がった皮目が「ぱりっ…」といい音を立てて、中にたっぷり詰まっている餡がこぼれそうになる……餡はひき肉と刻んだ春雨、きくらげと細切りの筍で、オイスターソースと醤油の風味が効いた香ばしい味が付いている……それから残りの部分に辛子醤油を付けて口に運ぶ…

四阪「小姐、很好吃(お姉さん、美味しいよ)!」通りかかったお姉さんに向かって声をかける…

お姉さん「謝謝(ありがと)!」

足柄「それじゃあ私も…と♪」

…大皿から取り分けた「五目焼きそば」は塩味風のあんかけがたっぷりかかっていて、色鮮やかなむき身の海老、細かな切り込みの入れてあるイカ、きくらげ、フクロタケや短冊切りの筍…それにさっと油通しをしているおかげで、シャキシャキしていながら火の通っている白菜と人参などがたっぷり入っている…

足柄「……美味しいわね、これ」

第六十七号(第一号型)「これも美味しいですよ、提督?」

百合姫提督「ええ……私より、六十七号こそちゃんと食べてる?」

第六十七号「はい、いっぱい食べてます♪」

…醤油に八角や紹興酒を加えた甘辛い味で豚の三枚肉をとろとろになるまで煮込み、それをさらに蒸して仕上げた「東坡肉」……北宋時代の詩人であった蘇東坡が左遷先で考案したという一品は手間がかかるが大変に美味で、赤みを帯びた艶のあるタレが肉とよく合う…

百合姫提督「あ、これも美味しい…」

初雪「提督、これも美味しいですよ……はい♪」

百合姫提督「ありがとう、初雪」

初雪「いいんですよ、みゆ……提督///」

百合姫提督「ふふ…初雪がよければ「深雪」でもいいわ……♪」

白雪「…だって、吹雪お姉ちゃん?」

吹雪「い、いえ…さすがに提督のことを名前で呼び捨てにするのは……」

百合姫提督「そう……でもあんまり堅苦しいのは抜きにしましょう、ね?」

吹雪「え、ええ…」

足柄「そうよ、軽巡たちなんて羽目を外しすぎてひっくり返りそうだったんだから」

吹雪「あー……」

百合姫提督「まぁまぁ。人様に迷惑をかけるようなことをしない限りは、少しくらい羽目を外しても……ね?」

白雪「そうですね…特に比叡さんはああですから、提督の留守中は息苦しくって……」

吹雪「ちょっと、白雪…!」

白雪「…っ!」

百合姫提督「大丈夫、比叡には言わないであげるから…♪」

足柄「ま、余計な口は利かないで黙って食べておくことね……もしどこかでこの話が漏れたら、あの調子でねちねちやられるわよ?」

白雪「…気をつけます」

………

731 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/01/26(火) 02:54:08.31 ID:Gu6r3h8L0
…数時間後…

百合姫提督「ふぅ…すっかり食べ過ぎちゃった……」

足柄「そうねぇ、それに飲み過ぎもしたし…最後のお銚子は止めておけばよかったわね」

百合姫提督「まぁまぁ…いつも鎮守府で過ごしているんだもの、たまには酒量を過ごしたっていいわ……♪」ぎゅっ…♪

足柄「///」

…多少酔っているらしく、少し紅潮した頬をした百合姫提督はいつもより積極的な様子で、足柄の腕に軽くしがみついた……もちろん足柄もまんざらではないが、腕に抱きつかれて赤くなっている…

大淀「あぁ、提督もいらっしゃいましたか」

百合姫提督「ええ…この後はカラオケに行くんでしょう?」

大淀「はい。ああいう施設は「この姿」になるまでは知らなかったので、目新しくて面白いですね……それに「中央」や「どぶ板通り」もずいぶんと変わったものです」

(※「中央」「どぶ板通り」…いずれも横須賀の繁華街。戦前は横須賀鎮守府の門前で栄え、今でも海自や米軍、観光客向けの店で賑わっている。また「どぶ板通り」は戦前に海軍工廠から鉄板を分けてもらってどぶ川の上に渡し、その上に店を連ねたからと言われる)

百合姫提督「そうね……それで、みんなも行くのかしら?」

大淀「何人かの当直艦と眠気がこらえきれない数人は先行して帰りましたが、おおかたは行くそうですよ」

百合姫提督「了解」

龍田「……あらあら、足柄ったら提督に抱きつかれて…うらやましいわねぇ♪」

足柄「からかわないでちょうだい、提督も少し「きこしめしてる」から支えてるだけよ…ところで川内はどこ?」

扶桑「それがさっきはぐれてしまって……磯波も一緒だったはずなのですが」

山城「まったく、図体の割には手のかかる子供なんだから……戻ってきたらうんとしごいてやらないといけないわね…ぇ♪」白地に紅と黒で彩った般若と髑髏の着物をまとい、ぎらりと八重歯をのぞかせる「鬼」の山城…

初雪「確かに旗艦がいないのでは……」

白雪「…困っちゃいますよね、お姉ちゃん?」

吹雪「え、ええ? まぁ、そういうことになるのかも知れないけど…」

叢雲「まぁ、風の向くまま気の向くまま…月に叢雲、花に雨……まこと世の中は変わりやすい…」

百合姫提督「とりあえず、しばらくの間ここで待っていてあげましょう?」

…数分後…

川内「……お、遅くなりました」

磯波「済みません…」

百合姫提督「大丈夫…それよりも二人が迷子にならなくてよかったわ」

川内「は、それが鳳翔さんが探しに来てくれまして……面目次第もありません」

鳳翔「ふふ、迷子の扱いには慣れていますから…それに少しだけとはいえ「水雷戦隊旗艦」というのも面白いものでしたよ♪」

金剛「おやおや、川内も鳳翔の前では赤子同然ですねぇ…♪」

川内「///」

百合姫提督「まぁまぁ……無事に揃ったわけだし、お店に行きましょうか」

…カラオケ店…

大淀「…予約しておいた「横二」鎮守府ですけれど」

店員「あぁ、はい…えーと、大部屋が全部と手前の個室が十部屋、それにドリンクの飲み放題ですね」

大淀「そうです」

店員「…それでは、これが端末とマイクですね……どうぞごゆっくり!」

大淀「はい、それじゃあ分散してそれぞれの部屋に入って下さい」

一同「「了解」」

百合姫提督「…それじゃあ、私は大淀たちと一緒でいいかしら?」

大淀「そうですね、それじゃあまずは私たちと……♪」

732 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/28(木) 01:52:17.18 ID:jnaPZfiB0
百合姫提督「えーと…それで、まずは誰から歌うの?」

球磨「んじゃあこっ球磨が「一番槍」行くと……ぬしらも一緒っ歌ば歌うとばい!」

(※…>1は方言のない地域の人間なので出てくる方言は正しくありませんが、あくまでも雰囲気としてお読み下さい)

多摩「あぁ、球磨ってば酒が入るとまた球磨弁に戻っちゃうんだから…ったく分かりづらい!」

木曾「まぁまぁ…こっちも訛りくらい出るこたぁーあーから」

多摩「だぁぁ、もう…っ!」

百合姫提督「はいはい、それじゃあマイクをどうぞ……」

多摩「それじゃあ「妖怪人間」の替え歌で「水雷戦隊の歌」…行きます!」


三人「♪〜闇にかーくれて生きる、おれたちゃ水雷戦隊なのさ」

三人「♪〜敵に姿を見せられぬ、ブリキのようなこの船体(からだ)」(早く二水戦になりたい!)

三人「♪〜くらいさーだめを、ふきとばせ!」(※以下くり返し)

球磨「球磨!」

多摩「多摩!」

木曾「木曾!」

三人「♪〜水雷戦隊!」

…そのまま二番、三番と続ける三人……本来は「北上」と「大井」も姉妹艦であり仲が悪い訳でもないが、二人は別の部屋に入っている…

三人「♪〜月に涙を流す、おれたちゃ水雷戦隊なのさ」

三人「♪〜悪を懲らして人の世に、生きる望みに燃えている」

(※くり返し)

三人「♪〜星に願いをかける、おれたちゃ水雷戦隊なのさ」

三人「♪〜正義のために戦って、いつかは生まれ変わるんだ」

(※くり返し)

百合姫提督「うん、上手だったわ……次はだあれ?」

白雪「…でしたら提督、一緒に歌いませんか?」透き通るような白い肌にほっそりと涼しげな顔立ちの「白雪」が百合姫提督を誘った…

百合姫提督「ええ、それじゃあ……」

白雪「えーと、じゃあこの曲を……吹雪お姉ちゃんに捧げます♪」くすくす笑いながらマイクを取り、ついでに初雪にも渡した…

吹雪「?」

白雪「曲は…「氷の世界」です」

百合姫提督「あぁ、なるほど……」

白雪「♪〜窓の外ではリンゴ売り、声を枯らしてリンゴ売り…!」

百合姫提督「♪〜きっと誰かがふざけて、リンゴ売りの真似をしているだけなんだろう…」

初雪「♪〜僕のテレビは寒さで、画期的な色になり」

白雪「♪〜とても醜いあの子を、ぐっと魅力的な子にしてすぐ消えた…」

百合姫提督「♪〜今年の寒さは、記録的なもの」

初雪「♪〜凍えてしまうよ、あぁ…!」

白雪「♪〜まいにーち、吹雪、吹雪…氷の世界ぃぃ…!」

吹雪「も、もう…そういうことね///」

一同「「あはははっ♪」」

百合姫提督「…ふぅ、それじゃあ私は他の部屋にも顔を出してきますから……みんなはそのまま楽しんで♪」
733 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/01/31(日) 01:34:17.20 ID:jBZPKpsI0
…別の個室…

百合姫提督「…どう、みんな?」

天龍「おう、提督……おかげさまで楽しくやらせてもらってるよ!」

百合姫提督「そう、よかった」

天龍「まぁまぁ、立ち話ってこともないだろ…ほら」席を詰めるとソファーの座面を「ぽんぽん…っ」と叩いた…

百合姫提督「ええ、それじゃあ……」

天龍「いいってことよ」

龍田「ふふ、来てくれて嬉しいわ」

百合姫提督「いえいえ…♪」

伊勢「龍田、貴女の番じゃない?」

龍田「あら、ご丁寧にどうも……では、わたくし「龍田」が一曲歌います…♪」提督に向けて軽く一礼するとマイクを取りあげる…

天龍「龍田か…「よっ、待ってました!」とは言いにくいな……」

龍田「ふーん、一体どういう意味かしら…ぁ?」立ち上がっていたが腰をかがめ、天龍のあごを指先で撫でた……

天龍「いや、龍田の歌は怖いんだよ……」

百合姫提督「まぁまぁ、天龍…別に龍田だって怖がらせるためにやっているわけじゃないはずだもの……」

天龍「いや、それは分かってるんだけどさ…で、何を歌うんだい? まぁ、なんか明るいのがいいな!」

龍田「……えぇ、ではこの曲を「龍田の夢は夜ひらく」です…♪」演歌ではなく怨みを込めた「怨歌」と称される名曲にのせ、歌い始める…

天龍「これだよ……」

龍田「♪〜紅く咲くのは、けしの花…白く咲くのは百合の花」

龍田「♪〜どう咲きゃいいのさ、この私……夢は夜ひらく…」

龍田「♪〜(昭和)十六、十七、十八と…私の人生、暗かった……過去がどんなに暗くとも、夢は夜ひらく…」

龍田「♪〜昨日「蕨」に「四十三」…明日は「疾風」と「如月」と……」

(※「龍田」は戦前の演習で「第四十三号潜水艦」と衝突・沈没させ、「美保関事件」では演習の防御側として夜襲を迎え撃つため探照灯を照射、これを避けようとした「神通」が回頭し「蕨」沈没の原因となった。「疾風」「如月」は大戦初期ウェーク島攻略時に撃沈された)

天龍「なぁ提督…」

百合姫提督「なぁに、天龍?」

天龍「いや、龍田が歌い終わったら一曲やってくれないか……これじゃあ盛り下がっちまうよ」

百合姫提督「分かったわ…」

龍田「……ありがとうございました」

百合姫提督「上手だったわ、龍田……それじゃあせっかくだから私も…♪」

龍田「それじゃあマイクをどうぞ」

伊勢「曲は何にします?」

百合姫提督「あんまり上手じゃないから、ちょっと恥ずかしいけれど……誰か一緒に歌ってくれる?」

天龍「もちろん」

松「じゃあ私も♪」

梅「うむ、わらわも付き合うぞえ♪」

梨「はい」

百合姫提督「ありがとう、それじゃあ……」

………

734 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/02(火) 22:39:27.84 ID:MJAwUMIL0
…次の投下は(多分)木曜の深夜になるかと思います…このところなにかと忙しく、かといって休日に出かけるのもはばかられて息苦しい感じですが、そのぶん頑張って書き続けていこうと思います……ちなみに出てくる曲は懐かしの昭和歌謡から名曲と思われるものを多めにしております


…そういえば今年は百数十年ぶりに今日が節分だそうですね……ぜひ豆を撒いたりヒイラギを飾ったりしましょう
735 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/02/05(金) 02:00:59.75 ID:SXqBTSbd0
…しばらくして…

比叡「提督、ぜひもう一曲お願いします♪」

百合姫提督「…分かったわ、それじゃあ……「初恋」で」

天龍「おっ、提督の十八番じゃないか!」

夕立「待ってましたっ!」

百合姫提督「もう…そんなに言われたら恥ずかしいわ……///」


百合姫提督「♪〜五月雨は、緑色……かーなしくさせたよ、一人の午後は…」

百合姫提督「♪〜恋をして、淋しくて…とーどかぬ想いを、暖めていたぁぁ……」

百合姫提督「♪〜「好きだよ」と言えずに初恋は……振り子細工のこころ…ぉ」

百合姫提督「♪〜放課後の校庭を走る君がいた…遠くで僕はいつでも君を探していた……」

百合姫提督「♪〜浅い夢だからぁ…胸を離れない……」


梨「提督の声、やっぱり沁みるわ…」

梅「確かに綺麗じゃのう……」

百合姫提督「も、もういいでしょ……ほら、次は誰の番?」

…しばらくして・また別の個室…

百合姫提督「……ごめんなさい、遅くなっちゃって」

赤城「あぁ、提督……良く来て下さいました」

加賀「謝る事なんてありませんから…どうぞかけて下さい♪」

百合姫提督「ありがとう」

飛龍「ここは空母ばっかりだから蒸し暑いかもね?」

鳳翔「まぁ、ふふ…♪」

赤城「その話は言いっこなしですよ」

蒼龍「曲は?」

赤城「そうですね…さっきまで演歌でしたから、この辺りで趣向を変えて……ね、加賀?」

加賀「はい、一緒にね…♪」


…曲の前奏に合わせて「ピピピピピ…」と電子音が流れると、二人して背中合わせに立った…


赤城・加賀「♪〜I just feel 『rhythm emotion』……この胸の鼓動は…」

赤城・加賀「♪〜あなたへとつづーいてーる…so far away…!」

赤城「♪〜…もう、傷ついてもいい 瞳をそらさずに……熱く、激しく生きていたい…!」

加賀「♪〜あーきーらめーなーい強さを…くーれーる、あなただから抱きしめたい…!」

赤城・加賀「♪〜I just feel 『rhythm emotion』」

赤城「♪〜過ちも痛みも…あーざやかーな、一瞬の、光へとみちーびーいて!」

赤城・加賀「♪〜I just feel 『rhythm emotion』」

加賀「♪〜この胸の鼓動は、あなたへとつーづいてーる、so far away…!」

百合姫提督「二人とも、とっても格好いい…」二人が歌い終わったのを見て拍手をしている百合姫提督…

赤城「ありがとうございます…♪」

加賀「…ゼロ、教えてくれ……私はあと何機のグラマンとカーチスを殺せばいい…?」

百合姫提督「……加賀?」

飛龍「…くすくすっ♪」

龍驤「くくっ…♪」
736 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/02/05(金) 03:03:25.01 ID:2vv8dtEa0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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737 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/02/08(月) 23:25:37.09 ID:DjVB5Cg70
まさかのガンダムW
738 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/11(木) 01:06:37.59 ID:yelslRfq0
Wのあの効果音付きは、最後の数回だけだったとは思えないほどの印象がありましたね…



…それにしても「そうりゅう」の事故はかなりひどいものですね…


…もちろん詳しい原因は各種の審判や調査を待つ必要がありますが「航路逸脱があった」とか「フルノを作動させていなかった」とか「ワッチがちゃんとしていなかった」といった言い訳も立つ水上艦と民間船の事故ならばともかく、聴音もバッフルクリアーもせずにただ浮上し、おまけにセイルのアンテナを損傷させたので乗員の携帯で陸と連絡を取ったというのでは……



こう言うときはたいてい、部外者側に何か原因の一部でもを押しつけられないかやっきになって、それから不運な当直など「誰か」が責任を負わされる…そして「監視をちゃんと行う」のような分かりきったことを小難しく書いたマニュアルを作るよう言われる、というパターンが出来上がっていますから……そして責任者は「あぁ、あの人はね……」と毒にも薬にもならない場所に転属させられて、腫れ物に触るような扱いを受ける……と



…「そうりゅう」型そのものは「世〇の艦船」のそうりゅう型潜水艦とAIPについての特集で詳しく書かれており、なかなか優れた潜水艦である印象を受けましたが……
739 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/14(日) 01:19:37.38 ID:+E2XBgOH0
…本当は今日投下するつもりだったのですが、地震もありましたし明日以降に持ち越します……住んでいる地域は揺れこそしたものの、棚の小物が少々落ちた程度で済みましたが……皆様の住んでいる場所でも被害が少なかったことを願っております…


……落ち着いたらまた投下します

740 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/15(月) 03:44:21.64 ID:V1XzAlLH0
…数十分後…

龍驤「♪〜きさまとお〜れ〜と〜はぁぁ、同期のさ〜く〜らぁぁ! お〜なじ兵学校のぉ、にぃぃわぁぁにぃ咲ぁぁくぅ〜!」

鳳翔「♪〜ちぃぃにくわぁぁけたぁぁる、仲でぇぇはな〜い〜がぁぁ…!」

二人「♪〜な〜ぜか気がおぉぉてぇぇ、わぁぁかれらぁぁれぬぅぅ…!」(※「同期の桜」二番)

…酔うとたいていの(特に戦前から戦況の良かった大戦序盤を経験している)艦娘たちは当時流行していた軍歌のメドレーというのがお決まりになっていて、鎮守府のそばにあるカラオケ店の履歴には「軍隊小唄」や「月月火水木金金」のような歌が入っている……そしてかなり酒が回っている鳳翔と龍驤もそのタイプで、肩を組みながら「同期の桜」を熱唱している…

百合姫提督「……ぐすっ…」

鳳翔「あぁ、目一杯歌っていい心持ちです……って、提督…っ!?」

百合姫提督「だめ、歌詞が……泣けて…あのね、絶対に……ぐすんっ…私はみんなのことを無駄死なんてさせない……無茶な作戦で「散る」なんてさせないから…!」

赤城「あらら……さ、ちり紙をどうぞ」

百合姫提督「あ、ありがとう…」

…さらに数分後…

鳳翔「……それにしても少々歌いすぎたせいか、喉が渇きましたね」

百合姫提督「…ドリンクバーはセットに入っているし、何か取ってくる…烏龍茶でいい?」

鳳翔「そんな滅相もない!提督に飲み物を取ってきていただくなんて……」そう言いながらマイクを握っていない数人をちらりと見た…

赤城「あー…なら私が……」

加賀「そ、そうですね…ここは若輩者である私たちが…」

飛龍「いえ、だったら我々の方が後輩なので……!」

蒼龍「そ、そうですよ…!」鳳翔の視線を受けて、一斉に立ち上がろうとする「後輩」たち……

龍驤「え、飲み物を持ってきてくれるって? …なんだか悪いねぇ」

鳳翔「おや、わざわざ済みません……でも、せっかくそう言ってくれるなら…お言葉に甘えさせてもらいましょうか♪」

百合姫提督「鳳翔、龍驤。いくら自分たちが年上で先輩だからって、赤城たちをあごで使うようなことはしない」ソファーでくつろいだ姿勢を取っていたが、急に背筋を伸ばすとピシリと言った…

鳳翔「……それを言われますと」

龍驤「確かに提督のおっしゃるとおりです…」

百合姫提督「あのね、飲み物が欲しいなら素直にお願いすること……それから不公平にならないように順番で行きなさい。いい?」

鳳翔「はい」

百合姫提督「……よろしい、それじゃあ私は他の部屋も回ってきます♪」

…いくらか酩酊しているらしい百合姫提督はいつもより感情の表し方がはっきりさせていて、それもころころと変わる……ついさっきまで鳳翔たちを叱っていたかと思いきや、素直に反省した様子を見せると途端に笑顔になった…

飛龍「提督、大丈夫ですか…?」

百合姫提督「ええ、大丈夫大丈夫…お気持ちだけいただいておきます♪」

…別の個室…

百合姫提督「みんな、お待たせ♪」

択捉「提督っ、連絡してくれたら迎えに行ったのに…!」

百合姫提督「いいのいいの……ここ、座っていい?」

択捉「はい、もちろんですよ♪」

日振(「甲(日振)」型海防艦)「…えー、それじゃあ次は私たちが歌います」

佐渡(「甲(択捉)」型海防艦)「この曲を大好きなお姉ちゃんたちに捧げます……たとえ三人生まれたときは違っても、最期はみんな一緒だからね…お姉ちゃん?」

松輪(「甲(択捉)」型海防艦)「き、気持ちは嬉しいけど……」

741 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/21(日) 02:14:31.92 ID:4bYGHXsG0
百合姫提督「わー…♪」胸の前で小さく拍手する百合姫提督…

日振「♪〜かーわいいいふりしてわりと、やるもんだねと」

佐渡「♪〜言われ続けたあのこ〜ろ、生きるのが辛かった」

日振「♪〜行ったり来たりすれ違い、あなたと私の恋…」

二人「♪〜いつかどこかで結ばれるって、ことは永遠(とわ)の夢…」

日振「♪〜あーおーく、広いこのそーらー…」

佐渡「♪〜誰のものでもなーいわー」

二人「♪〜かーぜに、ひとひらの雲…流してなーがーされてーぇ…」

二人「♪〜わたしまーつーわ、いつまでも待つわ」

二人「♪〜たとえあなたが振り向いてくれなくても」

二人「♪〜まーつわー(待つわ)…いつまでもまーつーわ」

二人「♪〜他の誰かにあなたが振られる日まーで…」

第二十二号「本当に仲がいいね、松輪?」

松輪「むむ…嬉しいような嬉しくないような……」

第百二号哨戒艇(単艦)「そういうことは言わないの、大事な姉妹でしょ?」

松輪「まあね……」

百合姫提督「ねぇねぇ択捉、何か頼まない…?」

択捉「いいけど、お財布は大丈夫?」

百合姫提督「ええ大丈夫、そのためにちゃんとお金も下ろしてきたの……みんなも好きな物を頼んでね?」

日振「やった♪ それじゃあ私はパンケーキにする♪」

佐渡「じゃあアイスでも頼もうかな…お姉ちゃんにも一口分けてあげるからね」

日振「ありがと……提督は何にしますか?」

百合姫提督「私はイチゴパフェにするわ…お酒を飲んだ後はパフェを食べるって、北海道へ出張したときに教わったの♪」

択捉「ああ、そういえば聞いたことがあるかも…」

百合姫提督「そうそう「すすきの」でごちそうになったときも最後はみんなでパフェを食べて……懐かしいわ」

竹生(鵜来型)「提督も意外とあちこちで遊んでるよね」

百合姫提督「んー…と言うよりは、各地に出張で行くとたいてい地元の提督さんや幹部の人から「本日はお疲れ様でした…どうですか、少し?」って飲みに誘われるから…むげに断るのも悪いし……」

新南(鵜来型)「提督も私と同じであちこち行ってるもんねぇ…」

(※新南…戦後は海上保安庁の巡視船「つがる」となり皆既日食の観測などを行い、さらに海保退役後はボルネオ石油開発公団の宿泊船として用いられ、1971年(昭和46年)に解体と、長く数奇な運命をたどった)

百合姫提督「ええ、おかげで全国の繁華街は一通り巡ったと思うわ…すすきのに国分町、京都の先斗町(ぼんとちょう)に大阪の道頓堀、十三(じゅうそう)……神戸の「南京町」(中華街)や名古屋の栄…福岡の「親不孝通り」(天神)に中州……あと、沖縄の「国際通り」とかも」指折り数えてみる百合姫提督…

日振「へぇ、ずいぶん遊んでるんだ?」

百合姫提督「ううん、私はあくまでもお招きに預かっただけ……たいていはお店まで連れて行ってもらうから、道もよく知らないの」

第一号「そうなの」

百合姫提督「ええ…それより注文は決まった?」

択捉「決まったわ」

百合姫提督「それじゃあ電話を…と♪」

………

742 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/23(火) 02:29:04.05 ID:FykYnvfk0
…数分後…

店員「ご注文は以上ですか?」

百合姫提督「はい、ご苦労様です……さ、遠慮せずに召し上がれ…♪」

日振「じゃあいただきます…♪」

百合姫提督「私もパフェが溶けないうちに……」

第二十二号「美味しいですか?」

百合姫提督「ええ、ひんやりしていて美味しい……はい、みんなにもおすそ分け…♪」柄の長いパフェスプーンでイチゴパフェをしゃくっては、順繰りに味見させる百合姫提督…

鵜来「ふわぁ、甘くて美味しいですねぇ…」

竹生「んー…♪」

百合姫提督「ね、火照った身体が涼しくなる感じがするわ…」

新南「提督にしてはいっぱい飲んでましたからね……さっきも中華を食べながら「杏露酒」とか「サンザシ酒」とか、けっこう色んなお酒を飲んでましたもんね?」

百合姫提督「そうなの。なんだか見慣れないお酒も多かったから味見してみたくて……」

第一号「提督のそういう所も可愛いです…♪」

百合姫提督「ふふ、ありがとう……それじゃあお礼にもう一口あげます…はい「あーん」して……♪」

第一号「あーん……ん、冷たっ」

第二号「分かる分かる、いっぺんに食べると「キーン」ってなるよね」

百合姫提督「あれはねぇ「アイスクリーム頭痛」って言うらしいわね…大丈夫?」

第一号「ん、平気」

百合姫提督「良かった……んぅぅ♪」満足げにパフェを食べ進めた百合姫提督……

…数十分後…

百合姫提督「みんな、忘れ物はなぁ…い?」

択捉「ちゃんと確認したから平気。それより提督こそ大丈夫?」

百合姫提督「ありがとう、大丈夫……っ」

松輪「あぁもう、全然大丈夫じゃないですよ……さ、つかまって下さい」

百合姫提督「本当に大丈夫だから…それに提督として松輪たちに迷惑をかけるような事はしませんし、こうしてちゃんと歩けます……っとと」

日振「もう、大人しい顔して頑固なんですから…」

百合姫提督「…それよりみんなも帰り支度をして、もう一度忘れ物がないか確認すること…あぁ、それと個別で頼んだものの支払いは私が済ませてきますから…みんなはお店の邪魔にならないように外で待っていてね……」

第六十七号「提督、一人では足元がおぼつかないですから……私が随伴します」

百合姫提督「いいからいいから、支払いなんて私に任せて…」

足柄「……またずいぶんとへべれけじゃない…提督にしては珍しいわね」

鵜来「あぁ、足柄さん」

足柄「なぁに、提督ったらあなたたちの言うことを聞かないでいるわけ?」

日振「えぇまぁ……私たちに「支払いは私が済ませるから先にお店を出ていなさい」の一点張りで」

足柄「変に律儀だものねぇ、うちの提督は……さ、それじゃあ私が肩を支えてあげるから」

百合姫提督「大丈夫よ足柄、ちゃんとお財布はこうしてあるから…ほら」

足柄「別に財布の中身を心配しているんじゃないの……いいから一緒に行くわよ?」

百合姫提督「りょうかぁ…い♪」

足柄「どうも済まなかったわね、提督をあなたたち「ちびっ子」組に任せちゃって」

第一号「むぅっ…私たちに「菊の御紋」がないからって「ちびっ子」言うな!」

(※海防艦…当初は帝国海軍における狭義の「軍艦」に含まれていたが、途中で類別が「特務艦艇」へと変更され、またほぼ全ての海防艦が1943〜45年に就役したため「軍艦」にのみ施される艦首の「菊の御紋章」の飾りはない)

足柄「あぁ、悪かったわ。別に他意があって言ったわけじゃないの」

第一号「ならいいけど…小さいからって役立たずってわけじゃないんだから」

足柄「知ってるわよ…さ、帰りましょう?」
743 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/02/27(土) 01:36:53.89 ID:Y/Bh6zKJ0
百合姫提督「…♪」

足柄「あら、ずいぶんとご機嫌ね?」

百合姫提督「だって、久しぶりにみんなとお酒を飲んで……それに…こうして足柄と一緒だから…///」足柄と手をつなぎ、肩に頭をもたせかけている…

足柄「///」

間宮「あらまぁ。ずいぶんと仲がいいじゃあありませんか、足柄……もしかしてイタリヤでお二人の仲を進展させるような事でもあったんですか?」

足柄「よ、余計なお世話よ…///」

吹雪「もう…いいじゃないですか、提督に頼られて」

白雪「本当ですよ、私たちだってしたいくらいなのに」

初雪「足柄ばっかりずるいです…」

百合姫提督「あぁ、みんなごめんなさい……それじゃあ交代…っ♪」

吹雪「はい、じゃあ支えますよ…っ!」

白雪「右手は私が」

初雪「じゃあ左は私ですね」

百合姫提督「まぁ、みんな手が冷たいけれど…大丈夫?」

白雪「いつものことじゃないですか、大丈夫ですよ」

初雪「それより提督こそずいぶん火照ってますね……溶けちゃいそうです」

百合姫提督「まぁ、ふふ…雪のみんなが溶けたら雨になっちゃうわね……♪」

摂津「そないなことより、はよ渡らんと信号が変わってまう…!」

百合姫提督「それじゃあ最大戦速で渡らないと……さぁみんな、急いで急いで♪」

吹雪「わわっ、酔ってるのに走っちゃ転んじゃいますよ…!」

第一号「ま、待って…ふぅ、ふぅ……そんなに早くされると追いつけない…」

間宮「ええ、私も……はぁ、はぁ…走るのが…遅いものですから……」

潮(「吹雪」型駆逐艦)「本当に前進しているのか後退しているのか……ほら、手を出して…」

間宮「…ふぅ、ふぅぅ……ええ…助かります……」

…鎮守府…

百合姫提督「はい、ただいまー…♪」

足柄「はいはい……いいからまずはお風呂にでも入って、歯を磨いたらとっとと寝床につきなさいよ…明日があるんだから」

百合姫提督「そうしま……ふわぁ…」

雪風「ふふ、提督もかなりおねむみたいですね…♪」

比叡「さ、どうぞお風呂に……みんなは提督が入浴を済まされた後ですからね」

吹雪「了解」

百合姫提督「あぁ、今のは取り消し…私が出るのを待っていたら遅くなるから……「入浴許す」をかけますから、みんなで入っちゃいましょう…♪」

比叡「しかしそれでは艦隊の規律が…」

長門「まぁまぁ、提督がそう言っているのだから……ね?」

比叡「確かにそうですが……」

金剛「そういうことよ…それとも比叡は提督の命令が聞けないの……んん?」生っ白い指をくねらせると、ねっとりした手つきで比叡の頬を撫で上げる「蛇」の金剛…

比叡「そ、そういうことではありません!」

百合姫提督「はい、それじゃあ行きましょう…♪」

744 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/05(金) 01:53:02.85 ID:iR33lOce0
…浴場…

百合姫提督「ふぅ……このお風呂に入ると「帰ってきた」っていう気分がするわね…」

足柄「ええ。タラントのお風呂は少し贅沢すぎたものね……このぐらいの方が気楽でいいわ」

…壁沿いに並んだカランが十数個と、色あせたタイル張りの真四角な浴槽……風呂自体にはかろうじて追い炊きや保温の機能がついているが、それ以上でもそれ以下でもない「横須賀第二」鎮守府の浴場……まるでさびれた温泉旅館をほうふつとさせる浴室ではあるが、艦娘たちにとっては「真水とお湯が自由に使える」というだけでも充分に贅沢だというので、文句が出ることはあまりない……手桶で一つ二つとかけ湯をすると、ほどのいい熱さのお湯にほっそりした身体を沈める百合姫提督…

吹雪「提督」

白雪「…隣、よろしいですか?」

百合姫提督「ええ、どうぞ……」

速吸「では私も…♪」

足柄「ちょっとちょっと、何もみんなして提督の周りに集まることはないでしょう……せせこましいったらありゃしないわ」

比叡「そうです。だいたいちゃんとかけ湯はしましたか?」

明石「…うわ、まーた比叡のガミガミが始まった……」

比叡「何かいいました?」

明石「なーんにも…ね、間宮♪」

間宮「はい…♪」お互いに顔を見合わせ、いたずらっ子のような笑みを浮かべる二人…

比叡「……まぁいいでしょう。それから流しは交代で使って、一人で長く使わないこと」

百合姫提督「はーい…♪」

比叡「あっ、いえ……決して提督に申し上げたわけではありませんので」

百合姫提督「ううん、ちゃんと私も守らないと不公平になるもの……そろそろ身体を洗いましょうか」

雪風「あっ、私が支えます…!」

百合姫提督「あぁ、私は大丈夫だから……ゆっくり浸かっていて?」

電「それに私がいますから…提督、お手をどうぞ♪」

百合姫提督「ありがとう…」

…カランの前に座ると少々ぼんやりした様子で石鹸を泡立て、身体を洗い始めた百合姫提督……長い黒髪は紺ですすきの模様が染め抜いてある手拭いでまとめてあり、酔いと入浴で火照ったうなじが桜色を帯びている…

足柄「…」

松「…」

明石「ごくり……」

百合姫提督「……ふぅ、それじゃあ今度は頭を…と」手拭いをほどくとしっとりとした「烏の濡れ羽色」の髪が滝のように背中へと流れた…

羽黒「提督の髪は相変わらず綺麗ですね……しっとりしていて艶があって…」

百合姫提督「あら、それを言うなら羽黒だってこんなにすべすべ…それに那智も、本当に「那智黒」の名前にぴったりな黒髪で……」羽黒の髪を手のひらですくい上げると優しく撫で、それから碁石で有名な「那智黒」を連想させる、那智の艶やかな黒髪にそっと指を沈めると手櫛で梳いた…

羽黒「///」

那智「…て、提督///」

長門「ふふ、提督はだいぶ聞こし召していらっしゃるようですね……あんまり長くいるとのぼせてしまいますから、頭を洗ったらお上がりになったほうがよろしいですよ」

百合姫提督「ええ、そうさせてもらいます…長門は優しいわ……♪」

長門「い、いえ…別にそういうつもりではないであります///」

明石「…んふふっ♪」

長門「な、何…?」

明石「いいえ……でもいつも帝劇のスタアみたいに凜々しい長門が長州弁で「デアリマス」なんて言うものだから……おかしくって♪」

梅「くくくっ、確かにのう…♪」

長門「…っ///」

百合姫提督「明石、人の訛りを笑ったりするんじゃありません……」

明石「はい、提督」

百合姫提督「よろしい…♪」
745 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/08(月) 04:02:22.78 ID:r8IW4DcX0
…寝室…

百合姫提督「よいしょ…あ、誰かお布団を干しておいてくれたのね……」


…百合姫提督が普段過ごしている執務室の隅っこには床の間のように一段高くなった三畳ほどの場所があり、その茶室のようなスペースには畳が敷かれ「仮眠用」の布団一式も用意してある…誰か親切な艦娘が準備してくれたのか、すでに敷き布団と枕は整えてあり、足元に三つ折りになっている掛け布団を広げるとふわりと軽い手触りがした…


百合姫提督「暖かい…これならよく眠れそう……」タラントとヴェネツィアではゆったりと過ごせたものの、最後の数日はローマへの移動、それから幾日もせずに帰国…と気ぜわしかったので、畳から漂う「藺草(いぐさ)」の青い香りを嗅いでほっとした…

百合姫提督「お休みなさい……」

…枕に頭を乗せると掛け布団を身体に掛け、ほっと息を吐いた…掛け布団は表に桃色で桜を散らし、裏地は「花色木綿」というつゆくさのような落ち着いた青色に染めてある布団で、折り返しについているラベルの部分には「横須賀第二・備品(三)」などとマジックで書きこんである…

百合姫提督「すぅ……」

………



…しばらくして…

百合姫提督「…すぅ……すぅ……」

?「ふふ、よくお休みで…♪」

百合姫提督「……すぅ…」

?「いやはや、提督は寝顔も可愛らしいですねぇ……では、ちょっと失礼して……♪」布団を少し持ち上げると、浴衣姿で眠っている百合姫提督の隣に身体を滑り込ませようとする…

百合姫提督「ん…ぅ…?」

…よく眠っていたが、不意に布団の隙間から冷えた夜風が流れ込んできて目が覚めてしまった百合姫提督…と、百合姫提督の寝ている布団に潜り込もうとかがみ込んでいる黒い影が視界に入った…

百合姫提督「……誰?」

?「おや、起こしてしまいましたか……そのつもりはなかったんですが…」

百合姫提督「明石…?」

明石「はい、その明石ですよ…♪」

百合姫提督「ふわ…ぁ…こんな時間に一体どうしたの?何かあった…?」時計へ目をやると、すでに明け方近い…

明石「ええまぁ……久々に提督がお帰りですから、少々「お相手」でもしていただこうか…と♪」百合姫提督の隣に這いずりこむと、ねっとりした手つきで鎖骨の部分を撫でる明石……だいぶ酔っているのか髪は乱れ、ろれつも少し回らない…

百合姫提督「え、それって……」

明石「ふふふ…イタリーでは足柄と龍田が提督を独り占めだったんですし、今夜くらい私がいい思いをしたってバチは当たりませんよね……さ、どうか身を任せて……」蛸が獲物に巻き付くような様子で脚を絡めると、右手で浴衣の襟元をゆっくりと開いていく……

百合姫提督「…あ、あっ///」

明石「いいんですよ、恥ずかしがらないで……提督を始め、みんなの身体に関しては隅々まで知っているんですから…♪」

百合姫提督「そういうことは言わないで…」

明石「それじゃあ提督が私のことを黙らせて下さいよ……ね?」

百合姫提督「わ、分かりました……///」ちゅ…♪

明石「んふふふぅ、そんな口づけじゃダメですよぉ…と♪」

百合姫提督「んむぅ…っ!?」

明石「ちゅる、むちゅっ、ちゅぷぅ…っ……♪」

百合姫提督「んっ…んんぅっ///」

明石「ちゅぷっ、むちゅ…ぴちゅっ……ぷはぁ♪」

百合姫提督「も、もう……///」

明石「ふふふ、今夜はもう寝かせませんからね♪」

百合姫提督「それは困るわ、明日の執務に差し障るから……」

明石「大丈夫ですって、大淀もいるんですから…♪」

百合姫提督「あっ、待って……きゃあっ!?」

………

746 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/03/15(月) 04:43:51.99 ID:3RqJy0zm0
…しばし間が開いてしまいましたが、ここで艦娘の紹介を一つ…


駆逐艦「松」型

基準排水量は1260トン前後で、速力は約27ノット。甲(陽炎型・夕雲型)乙(秋月型)丙(島風)に続く「丁」型と称され、前期型と後期型によって「松」および「橘(たちばな)」型に分ける事ができるが、帝国海軍ではひとくくりに扱っていた。

武装は単装12.7センチ40口径高角砲(前部)と同じく連装高角砲(後部)各一基、3連装25ミリ機銃四基、単装25ミリ機銃八基(艦によってはさらに増備したものもある)九二式4連装61センチ魚雷発射管一基。九四式爆雷投射器二基など。


「特」型を始め、戦前に設計された駆逐艦はカタログスペックを重視するあまりデザインを凝りすぎ、量産向きでなかったことから損失に対して補充が追いつかなくなり、また必要とされていた対空・対潜戦にも不向きだったため、帝国海軍が改㊄計画において「量産に向いた駆逐艦」として要求した実戦向きの駆逐艦。
とにかく生産性の向上を図ったが、生産しやすい優れた小型の高出力機関がなかったため速度は27ノットで忍び、しなやかで美しいダブルカーブ船首や各部の曲線はできる限り廃し、代わりに戦訓を受けて増備した多数の25ミリ対空機銃と、Yの字型をした「九四式爆雷投射器」及び艦尾舷側に爆雷投下軌条を設け、ラッパ型の22号電探や対潜用の探信儀など水測兵器も設けた。とはいえ設計時に「魚雷を持たないのは駆逐艦ではない」と押し切られる形で魚雷発射管を設けたあたりは、バックレイ級などを「護衛駆逐艦」と割り切って雷装を廃した米英と、あくまでも「簡易型の駆逐艦」とした帝国海軍の差が出ている。

完成直後は特型などに比べて簡素な作りで、また艦名を「松」「桃」「桑」「桐」など花木から付けたため一部に「雑木林」などと揶揄する声もあったというが、実際には「こだわり抜いた」設計であったはずの特型にも劣らない優れた凌波性、また特型とは比較にならないほど優れた対潜・対空能力を持ち、機関も分散配置するなどして生存性も高い優秀艦だった。
惜しいことに完成が大戦末期だったことから多くの戦果を上げることは出来なかったが、中の何隻かは国府(中華民国)海軍に賠償として渡され長く奉公し、また「梨」は「わかば」として海上自衛隊の草創期を支え、1962年(昭和37年)に起きた三宅島の噴火時には、避難民を乗せるなどして戦後も活躍した。

百合姫提督の艦娘「松」型はいずれも艦名となった花や木をモチーフにしたかんざしや髪飾りを付けている。戦前組の一部からは「駆逐艦もどき」などとからかわれることもあるが、実力は充分で百合姫提督の信頼も厚い。




海防艦「択捉(えとろふ)」型

1941年(昭和16年)に設計された海防艦。基準排水量870トン。速度19.7ノット。
武装は単装12センチ45口径砲三基、25ミリ連装機銃二基、九四式爆雷投射器および三型爆雷装填台(九五式爆雷36発)、九三式聴音機および九三式探信儀。
(後に機銃、爆雷を増備。二二号電探を追加。また九三式探信儀を三式探信儀に換装している)


開戦以前は短期決戦を考えていた海軍が予定していなかった南方進出と戦争の長期化に伴い、急遽護衛艦艇が必要となったことから大慌てで整備することになった海防艦で、北方警備用の占守(しむしゅ)型の設計を転用した。

そのため「設計の見直しや簡素化が不十分」で建造に時間がかかり、またモデルとなった占守型が「北方の漁場を維持する」目的で建造されていたため対空・対潜能力が低く、南方用だというのに北方向けの補助機関を付けているなど目的に合っていなかった。
海防艦としては不十分な性能とされたが、1943〜44年(昭和18〜19年)の完成時には米潜の攻撃が猛烈になってきていたためすぐ実戦投入され、14隻のうち半分の七隻が撃沈されている。

特に悲劇的なのは空母「大鷹」給油艦「速吸」を含む重要船団「ヒ71船団」を壊滅させた敵潜を撃沈するはずの「松輪」「佐渡」および日振型の「日振」が、米潜一の殊勲艦として知られる米潜ガトー級の「ハーダー(ボラ類の総称)」および「ハッド(カラフトマス)」の待ち伏せにあって揃って撃沈されたことで、これは当時の帝国海軍の探信儀・聴音機の性能が悪く、ハーダーとハッドの存在に気づいていなかったことによる。

(また「敵潜の攻撃があった方に急回頭し突撃をかけ爆雷を投射する」という戦法が米軍に知り尽くされていて返り討ちにあった海防艦も多いが、これも探信儀の性能が悪く失探してしまうことが多かったため、がむしゃらに魚雷発射点に急行せざるを得なかったことによる)



艦娘「択捉」は小さい身体に不釣り合いな12センチ砲を積み、乏しい爆雷と機銃で船団護衛を頑張るけなげな艦娘。もっとも百合姫提督による効果的な対潜戦指導もあってそこそこの戦果を上げている。




海防艦「日振(ひぶり)」型

基準排水量940トン。速度19.5ノット。
武装は12センチ45口径単装高角砲(前部)と12センチ45口径連装高角砲(後部)各一基。25ミリ3連装機銃二基、九四式爆雷投射器および三型爆雷装填台それぞれ二基、爆雷投下軌条二基、九五式爆雷120個、九三式水中聴音機、九三式水中探信儀。単艦式大掃海具。
(後に二二号電探の追加および機銃、爆雷の増備、爆雷投射器および装填台を一基追加、九三式水中探信儀を三式水中探信儀に換装)

戦況に合っていない「占守」「択捉」型と、それに続く中途半端な性能だった「御蔵(みくら)」型を見直し、船体の簡易化を進めて量産性を高めた「鵜来」型の船体に御蔵型の兵装を備えた、いわば両者の中間にあたるタイプ。

抜群の量産性を持っていた「鵜来」型の設計だけあって、一隻当たり四ヶ月という(当時の日本としては)早さで建造できたが、対潜戦には必要のない「掃海具」(機雷原へ侵入した時、艦尾からおもりを付けた長いワイヤーを曳航し、係維機雷なら海底と機雷を留めているワイヤーを切って機雷を浮き上がらせ、磁気機雷なら磁石棒を鈴なりにくっつけて反応・爆破させるもの)を用兵側に要求されたため爆雷投射器や装填台が減らされ、結果としてどっちつかずな性能になってしまった。

ネームシップ「日振」が「松輪」「佐渡」とともに撃沈された悲劇もあったが「生名(いくな)」が海上保安庁の巡視船「おじか」に、また「四阪(しさか)」が国府(中華民国)「恵安(Huian…フゥイアン)」となり、さらに中共に渡るなどして長く戦後も奉公した。

747 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/16(火) 02:42:21.58 ID:bcwvjfeL0
海防艦「鵜来(うくる)」型

基準排水量940トン。速度19.5ノット。二十隻(うち敗戦までに完成・就役できたものは九隻前後)。

武装は12センチ45口径単装(前部)および連装(後部)高角砲各一基。3連装25ミリ機銃二基、九四式爆雷投射器二基、三式爆雷投射器16基、爆雷投下軌条二基、九五式爆雷120個、22号電探、九三式水中聴音機、九三式水中探信儀それぞれ一基。
(後に3連装25ミリ機銃を五基に増備、および爆雷を二式爆雷120個に積み替え、九三式水中探信儀を三式水中探信儀二基に変更など)


1943年(昭和18年)から敗戦までに九隻が建造された海防艦。これまでの中途半端な海防艦と違い、爆雷庫から「電動式揚爆雷筒」という世界的にも珍しい送り出し機構で爆雷を次々と甲板に送り出し、上がってきた爆雷を十八基もの投射器で投射するという対潜火力に優れた海防艦。
船体構造も生産性に優れていたが、主機の「艦本式二二号一〇型」ディーゼルエンジンが潜水艦用に回されてしまったため、思っていたほど建造できなかった。完成した二十隻のうち四隻は戦没したが、ネームシップの「鵜来」が巡視船「さつま」、「竹生(ちくぶ)」が「あつみ」、また「志賀」が海上保安大学校の練習船「こじま」になるなど、何隻かは戦後も活躍した。


特に「新南(しんなん)」数奇な運命をたどったことで知られ、引き揚げ船として各地の将兵を内地へ連れて帰った後に、巡視船「つがる」として活動する中ベトナムに派遣され、日本としては初めて海外で皆既日食の観察を行うなど1966年(昭和41年)まで長く活躍し、最後はボルネオ石油開発公団の宿泊船として活動し、1971年(昭和46年)に解体された。


艦娘「鵜来」型は身体こそ小さく速度もそこまで出ないが、爆雷投射器を多数備え、高角機銃も増備されていろことから船団護衛、対潜攻撃に関しては抜群で、その実力はあなどりがたい。鵜来は巡視船「さつま」となったことからサツマイモが好きで、好きな酒は焼酎「薩摩白波」という酒豪。新南は「つがる」になったことからリンゴ好き。




海防艦「第一号(丙)」型(計画132隻。うち完成53隻、戦没26隻)

基準排水量745トン。速力16.5ノット(主機「艦本式二三号乙八」型ディーゼル)
武装は12センチ45口径単装高角砲二基、3連装25ミリ機銃二基、三式爆雷投射器12基および爆雷投下軌条一基、九五式爆雷120個、22号電探、九三式水中探信儀、九三式水中聴音機。
(後に機銃の増備および二式爆雷への積み替え、八センチ潜水艦威嚇用「音響弾」迫撃砲一基、探信儀を「三式水中探信儀」二基へ換装など)


米潜および航空機による船団への被害が甚大になっていることをうけ、「鵜来」型に続けて建造された小型の海防艦で、同時に建造された「第二号」型とは主機が異なるだけで設計、能力ともにほぼ同じ。
その特徴は何と言っても鵜来型をさらに簡易・小型化したような設計で、船体外板も品質を落とし、煙突も鉄板を貼り合わせるだけで済むよう(上から見て)六角形にするなど「戦時急造」の目的にあった設計でまとめたことから極めて量産性に優れ、1943〜44年の護衛艦艇不足の時期にタイミング良く就役することが出来た。


ただ、海防艦にも搭載できるような小型・高性能かつ生産性の高い主機がなかったことから出力の低い主機で我慢することになり、速度面では海防艦で一番遅いフネとなってしまった。そのため高速の船団に対する護衛では貨物船についていくのがやっと、また戦局が悪化している中で戦力不足だったために、訓練も武装の増備もままならないまますぐ実戦投入され「第一号」から「第二十五号」までの最初の十三隻が全て戦没するなど厳しい戦いを強いられた。

艦名はいずれも奇数の番号で、戦後は数隻が国府海軍に引き渡され、さらに中共に鹵獲されて長く使われた艦もあった。


艦娘「第一号」型は小学生にも見える小さい身体で、船体の「痩せ馬」(※やせうま…品質の悪い鋼材を使うと起きる。外板の肋材と接合している部分以外がへこんでしまい「あばら骨が浮き上がって見える」状態のこと)が目立つ急造艦だったためか、肋骨が浮き出て見えるなど哀れをさそうような外見をしていて、百合姫提督も何かと美味しいものをごちそうしたりと気にかけている。

また「第一号」は国民からの献金を募って建造された「報国第一号海防艦」として(検閲だらけの当時の新聞ではめずらしく)進水が報じられたことから、出撃時は「報国」の鉢巻きを締めている。




海防艦「第二号(丁)」型(計画143隻。うち完成63隻、戦没25隻)

基準排水量740トン。速度17.5ノット(主機「艦本式甲二五」型オール・ギヤード・タービン)
武装は「第一号」型海防艦とほぼ同じ。

「第一号」型と異なり、主機に戦標船(※戦時標準型貨物船…戦時下に建造された簡易型貨物船)用の蒸気タービン主機を転用したタイプで、燃費効率が悪く「第一号」型の航続距離6500浬に対して、14ノットで4500浬しか航行できなかった。このため当初は内地からスマトラまでの航行がせいぜいということになり問題視されたが、皮肉なことその頃には南太平洋の各拠点を失っており、実用上で不便は生じなかった。

第一号型と同じく簡易設計で量産性に優れ、小型ながら対潜能力に関してはそれまでの海防艦より優れていたところもあった。とはいえ1944〜45年になってからは潜水艦よりも制空権を失ったことによる空襲が激増しており、機銃を増備したものの対抗することができず多くが沈められた。


艦名はいずれも偶数の番号で、「第一号」型と同じく一部が戦後賠償として国府(中華民国)に引き渡され、その後鹵獲されるなどして中共に渡るなどした。

百合姫提督の艦娘「第二号」型は第一号型とそっくりで見分けもほとんどつかず、やはりどこかすすけているような印象を受ける。



748 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/22(月) 01:04:14.14 ID:7GBLMcGl0
哨戒艇「第百二号」

基準排水量1270トン。速度26ノット。
武装は単装八センチ40口径高角砲二基、あとは(詳細不明ながら)連装および単装25ミリ機銃数基に九四式爆雷投射器一基、一三式および二二号電探に九三式水中聴音機および九三式水中探信儀。


帝国海軍で(おそらく)一、二を争う数奇な運命をたどった哨戒艇で、元はフィリピンを根拠地としていた米海軍アジア方面艦隊の「クレムソン」級駆逐艦の「スチュアート」(DD−224)だったもの。ちなみに「クレムソン」級は七隻を「ホンダポイント事件」で座礁・喪失するなど事故が多かった。
(※ホンダポイント事件…1923年。夜間に高速航行演習を行っていたが推測航法にズレが生じ、また注意をうながした無電局からの位置情報を司令が「(まだ黎明期の技術だった)無電ビーコンなどアテにならない」と無視した結果、駆逐隊まるごとが座礁・転覆した大事故。死者は少なかったがヒューマン・エラーの例としても有名)


当時の米海軍としても太平洋、大西洋の二正面作戦は戦力的には難しく、そのため太平洋ではフィリピンの失陥を前提に「いい気になって日本軍が手を伸ばしすぎるまで引き寄せてから叩く」という考えがあったことから、アジア艦隊には旧型艦が多く回されており、スチュアートも1920年に就役した「フォア・スタッカー(四本煙突)」型と呼ばれた旧式駆逐艦の一隻だった。


スチュアートはバリ島沖の海戦で「朝潮」型四隻に砲撃され12.7センチ砲弾を被弾しスラバヤの浮きドックで補修中に、固定の仕方が悪く転覆し浮きドックごと沈没。日本軍が迫っていた事もあり自爆措置を施した。が、完全に破壊するまでには至らず、スラバヤの工作部でかなり大規模な改装を受けて哨戒艇「百二(一〇二)号」として再就役した。

特徴的な四本煙突は一、二番をつなげて三本煙突にし、25ミリ機銃や爆雷投射器と投下軌条、探信儀などを搭載し哨戒にあたり、それを見た米潜から「わが軍の四本煙突型駆逐艦にそっくりなフネが日本海軍にいる」「四本煙突型駆逐艦に攻撃を受けた」との報告が続き米海軍を困惑させ、一部では尾ひれがついて「日本側が欺瞞戦術として「四本煙突」型そっくりなフネを建造した」とまで言われた。


戦歴では「松輪」「佐渡」「日振」を沈めた殊勲の米潜「ハーダー」を海防艦「第二二号」と協同撃沈したことが有名で、よる年波で故障も多かった割には敗戦時まで無事に過ごし、戦後アメリカに帰還し「おてんば娘の帰還」などと新聞にも書き立てられ歓迎された。その後は航空機のロケット弾攻撃の標的として破壊処分されたが、日米双方の旗の下に長く活躍したフネだった。


百合姫提督の「第百二号」はあちこちいじくり回された結果アメリカンな部分をかなり失っているが、見た目は金髪に青い目をしている。またもとの「四本煙突」型に似ているためやせっぽちで、ちょくちょく故障している。




給糧艦「杵埼(きねさき)」型。四隻

基準排水量910トン。速力15ノット。武装は艦首楼上の砲座に設けられた8センチ40口径「三年式」単装高角砲一基および後部の13ミリ「九三式」連装機銃一基。搭載物資、生鮮品約84トン(杵埼は82トン)および真水約71トン。

本来は日華事変に応じて活動していた支那方面艦隊支援のため計画された二隻の給糧艦のうち、640トンの小型タイプだった「野埼(のさき)」と比較のため建造された拡大版の1000トンクラスの給糧艦で、当初は雑役船扱いだったことから野埼の「雑役船第四〇〇七号」と同じように「雑役船第四〇〇六号」と船名もなかったが、その後「南進(なんしん)」さらに「杵埼」と改名され、小型の野埼よりも補給能力に優れ使い勝手が良かったことから、姉妹艦となる「早埼(はやさき)」「白埼(しらさき)」「荒埼(あらさき)」の三隻が追加建造された。


外見はただの「船首・船橋楼型」構造をした一本煙突型の貨物船だが、冷凍能力があったことから漁場で買い上げた魚を直接冷凍し艦隊へ送り届ける事ができるなど補給面ではそれなりに活躍し、また1945年(昭和20年)に奄美で戦没したネームシップ「杵埼」以外は無事に敗戦を迎え、復員輸送を終えた後は「早埼」「白埼」がそれぞれ賠償艦としてソ連、中国へ引き渡し「荒崎」は当時の農林省水産講習所の練習船「海鷹丸」となり、解役後さらに船会社に払い下げられ転々としたのち、最後は1967年(昭和42年)フィリピンに売り渡されるなど長命だった。


艦娘「杵埼」型は小学生のような外見をしていて、普段は間宮の手伝いをして料理を運んだり材料を取ってきたりとまめまめしく活動しているが、場合によっては艦隊への補給に出撃することもある。魚の目利きと買い出しに関してはなかなかで、市場や魚屋ではかなり顔が利く。


749 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/22(月) 01:11:50.47 ID:7GBLMcGl0
哨戒艇「第百二号」

基準排水量1270トン。速度26ノット。
武装は単装八センチ40口径高角砲二基、あとは(詳細不明ながら)連装および単装25ミリ機銃数基に九四式爆雷投射器一基、一三式および二二号電探に九三式水中聴音機および九三式水中探信儀。


帝国海軍で(おそらく)一、二を争う数奇な運命をたどった哨戒艇で、元はフィリピンを根拠地としていた米海軍アジア方面艦隊の「クレムソン」級駆逐艦の「スチュアート」(DD−224)だったもの。ちなみに「クレムソン」級は「ホンダポイント事件」で一気に七隻を座礁・喪失するなど事故が多かった。
(※ホンダポイント事件…1923年。夜間に高速航行演習を行っていたが推測航法にズレが生じ、また注意をうながした無電局からの位置情報を司令が「(まだ黎明期の技術だった)無電ビーコンなどアテにならない」と無視した結果、駆逐隊まるごとが座礁・転覆した大事故。死者は少なかったがヒューマン・エラーの例としても有名)


当時の米海軍としても太平洋、大西洋の二正面作戦は戦力的には難しく、そのため太平洋ではフィリピンの失陥を前提に「いい気になって日本軍が手を伸ばしすぎるまで引き寄せて叩く」という考えがあったことから、アジア艦隊には旧型艦が多く回されており、スチュアートも1920年に就役した「フォア・スタッカー(四本煙突)」型と呼ばれた旧式駆逐艦の一隻だった。


スチュアートはバリ島沖の海戦で「朝潮」型四隻に砲撃され12.7センチ砲弾を被弾し、スラバヤの浮きドックで補修中に固定の仕方が悪く、転覆し浮きドックごと沈没。日本軍が迫っていた事もあり自爆措置を施した。が、完全に破壊するまでには至らず、スラバヤの工作部でかなり大規模な改装を受けて哨戒艇「百二(一〇二)号」として再就役した。

特徴的な四本煙突は一、二番をつなげて三本煙突にし、25ミリ機銃や爆雷投射器と投下軌条、探信儀などを搭載し哨戒にあたり、それを見た米潜から「わが軍の四本煙突型駆逐艦にそっくりなフネが日本海軍にいる」「四本煙突型駆逐艦に攻撃を受けた」との報告が続き米海軍を困惑させ、一部では尾ひれがついて「日本側が欺瞞戦術として「四本煙突」型そっくりなフネを建造した」とまで言われた。


戦歴では「松輪」「佐渡」「日振」を沈めた殊勲の米潜「ハーダー」を海防艦「第二二号」と協同撃沈したことが有名で、よる年波で故障も多かった割には敗戦時まで無事に過ごし、戦後アメリカに帰還し「おてんば娘の帰還」などと新聞にも書き立てられ歓迎された。その後は航空機のロケット弾攻撃の標的として破壊処分されたが、日米双方の旗の下に長く活躍したフネだった。


百合姫提督の「第百二号」はあちこちいじくり回された結果アメリカンな部分をかなり失っているが、見た目は金髪に青い目をしている。またもとの「四本煙突」型に似ているためやせっぽちで、ちょくちょく故障している。




給糧艦「杵埼(きねさき)」型。四隻

基準排水量910トン。速力15ノット。武装は艦首楼上の砲座に設けられた8センチ40口径「三年式」単装高角砲一基および後部の13ミリ「九三式」連装機銃一基。搭載物資、生鮮品約84トン(杵埼は82トン)および真水約71トン。

本来は日華事変に応じて活動していた支那方面艦隊支援のため計画された二隻の給糧艦のうち、640トンの小型タイプだった「野埼(のさき)」と比較のため建造された拡大版の1000トンクラスの給糧艦で、当初は雑役船扱いだったことから野埼の「雑役船第四〇〇七号」と同じように「雑役船第四〇〇六号」と船名もなかったが、その後「南進(なんしん)」さらに「杵埼」と改名され、小型の野埼よりも手頃で使い勝手が良かったことから姉妹艦となる「早埼(はやさき)」「白埼(しらさき)」「荒埼(あらさき)」の三隻が追加建造された。


外見はただの「船首・船橋楼型」構造をした一本煙突型の貨物船だが、冷凍能力があったことから漁場で買い上げた魚を直接冷凍し艦隊へと送り届ける事ができるなど補給面ではそれなりに活躍し、また1945年(昭和20年)に奄美で戦没したネームシップ「杵埼」以外は無事に敗戦を迎え、復員輸送を終えた後は「早埼」「白埼」がそれぞれ賠償艦としてソ連、中国へ引き渡し「荒崎」は当時の農林省水産講習所の練習船「海鷹丸」となり、解役後さらに船会社に払い下げられ転々としたのち、最後は1967年(昭和42年)フィリピンに売り渡されるなど長命だった。


艦娘「杵埼」型は小学生のような外見をしていて、普段は間宮の手伝いをして料理を運んだり材料を取ってきたりとまめまめしく活動しているが、場合によっては艦隊への補給に出撃することもある。魚に関してはかなりの目利きで、市場や魚屋にも顔が利く。
750 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/22(月) 01:19:06.81 ID:7GBLMcGl0
給油艦「剣埼(つるぎさき)」(初代)

基準排水量1970トン。速力11ノット。武装8センチ40口径「安(アームストロング)式」単装砲二基。搭載物資石油1100トン。


そもそもは1917年(大正6年)就役の給油艦で、このころ多くの軍艦が用いる燃料が石炭から重油へと代わってきたことから、港内での給油用として建造されたもの。
さしたる性能も必要ないフネ(またちょうどいい大きさのディーゼル主機がなかった)ということで練習も兼ねて、当時新型だった「浦風」型駆逐艦用のディーゼル主機二基を搭載するなど新機軸を盛り込んだ…が、第一次大戦中だったことから(当時敵国であった)ドイツ製の部品である「流体継手(フルカン継手)」が入手できなかったことをはじめ、まだまだ珍しかったディーゼル機関に馴染みがなかったこともあって多くの問題が発生した。
そのため当初は呉〜佐世保あるいは呉〜横須賀の航海でほぼ毎回のように機関が故障するなどトラブル続きで、呉軍港では「剣埼」の入港時に全艦艇に対して(衝突回避のため)「機関点火」が要請されるといった有名なエピソードもあった。

その後は水産庁の漁業取締船「快鳳丸」となったが、1945(昭和20)年には護衛艦艇不足から「特設砲艦」の扱いで戦場へと駆り出され、北海道の日高沖で米潜に撃沈されている。

(※フルカン継手…無段変速機の一。オイルで満たした筒の中に「機関側」と「軸側」それぞれに繋がっている水車のような機構を仕込んである変速機。機関の動力を受けた機関側の水車が回り、それがオイルに水流を生んで軸側の水車を回すことで滑らかに変速できる)


艦娘「剣埼」は一見すると小柄な女の子だが、艦齢を考えると大変な「お年寄り」で、また補給には「知床」型をはじめ大型艦がいることからほとんど作戦には投入されない。それでは申し訳ないと食堂の手伝いや何かをしてくれることもあるが、しょっちゅう転びそうになったり物を落としそうになったりしているので、「剣埼」が動くとなると百合姫提督を始め全員が様子を見ながらヒヤヒヤしている。




標的艦「摂津(せっつ)」

排水量20650トン。速度18ノット。武装なし。
標的艦としての防弾能力は17000〜22000メートルからの「20センチ演習砲弾」および4000メートルからの「三番(30キロ)演習爆弾」に耐える程度。

元は日本が初めて国産に成功した弩級艦である「河内(かわち)」型戦艦の二番艦で、1912年(明治45年)に就役した戦艦。ネームシップの河内は弾薬の爆発事故で失われたが、摂津はその後も長く大正天皇・皇后のお召し艦になるなど威容を誇っていた。しかし1923年(大正12年)ワシントン軍縮条約によって「陸奥」を建造する代わりに兵装を撤去し標的艦とすることで同意したことから類別が変更となった。


当初は後方に板状の的を曳航するなどした「操作側」だったが、1931年(昭和6年)にはドイツ製遠隔操作装置を元に日本で製造した遠隔操縦装置を搭載し、それ以降は元駆逐艦の「矢風」からリモコン操作を行い、演習弾を浴びても損傷しないよう防弾鋼板を装着した「実艦的」として用いられた。この際攻撃側は「摂津」に命中させるよう、また回避側は攻撃回避の訓練ができるようになっていた。
特に爆撃訓練の時は(演習砲弾よりは小さく安全な演習爆弾のため)回避側が実際に「摂津」の防御区画に乗り組み、直接回避行動の訓練を行っていた。
外見では煙突の口から弾片が飛び込まないように設けられたそろばん玉のような「ファンネルキャップ」(煙突カバー)が特徴的で、長く連合艦隊の訓練の相手を務めてきた「摂津」だったが、最後は1945年7月の呉軍港空襲を受けて大破着底し、そのまま敗戦を迎えた。


艦娘「摂津」は大柄で、お召し艦だったこともあり上品な関西弁をしゃべるが、標的艦という性質のせいか妙にいじめたくなるようなオーラをまとっている。演習となると頭にファンネルキャップを模した笠をかぶり「矢風」の指示のままに逃げ回るが、鈍足のためすぐ捕捉されてはひいひい言わされている。




標的艦「矢風(やかぜ)」

排水量1321トン。速度24ノット。武装は5センチ「山内式」単装砲一基、25ミリ九六式単装機銃四基、爆雷八個。
防弾能力は「1キロ演習爆弾」に耐える程度。

もとは「峯風」型の駆逐艦だったが、1937年(昭和12年)以降無線操縦装置を設けて「摂津」の無線操縦にあたっていた。しかし開戦以降、鈍足の摂津一隻では海軍航空隊の訓練には足りないことから「矢風」自身も防弾板を装備して南方へ進出し、現地で「実艦的」として訓練の相手を務めるようになった。敗戦時は修理もままならず中破着底状態で横須賀にあり、戦後解体された。

艦娘「矢風」は演習となるとリモコンを手に摂津を操りいいように使っている生意気な小娘だが、たいてい摂津に飽きた空母勢の「次の目標」にされては追い回されている。




標的艦「波勝(はかち)」

排水量1641トン。速度19ノット。武装は13ミリ九三式連装機銃二基。
防弾能力は高度4000メートルからの「一番(10キロ)」演習爆弾に耐える程度。

「摂津」第二次改装の結果、標的艦を有人操作して行う爆撃訓練は有効だということは分かったが、摂津では海軍航空隊の練習相手としては速度が遅く、また旋回性が不満足だったため、1941年(昭和16年)に計画されて1943年(昭和18年)に就役した標的艦。
特徴的なのは艦の左右に張り出す折りたたみ式の幕を使った「幕的」で、これを使うことで上空からのシルエットを駆逐艦程度から重巡程度まで大きく見せることができるというもの。また最初から標的艦として考えられていたため船体と主甲板の間にすきまを開けて、甲板の損傷が船体にまで及ばないようにしてあるのが特徴。
大戦中は南方に進出して機動部隊の相手を行い、無事に大戦を生き延びて復員輸送を行ったのち解体された。


艦娘「波勝」は中学生程度に見える艦娘で、演習となるとムササビか派手なパフォーマンスをする歌手のように袖の幕を広げ、空母たちの相手を務める。
751 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/22(月) 02:14:51.92 ID:7GBLMcGl0
というわけで、帝国海軍の補助艦艇を中心に紹介してみました……たいては小さいフネですけれども「縁の下の力持ち」として艦隊を支えた功労艦たちですね。


それと、ここ数週間はF−4EJ「ファントム」や「YS−11」の退役、それにイージス艦「はぐろ」の就役などニュースが多かったですね。もっとも、好みで言えばステルス性を重視してのっぺりしたデザインになっている最近の軍艦よりも、戦中の艦艇の方が国ごとの個性があって好きですが…。


あと、749と750で連投になってしまいましたので、どうぞ片方は読み飛ばして下さい。
752 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/27(土) 01:16:12.94 ID:GmInuUyk0


百合姫提督「…と言うことがあって」

提督「ふふ、姫もなかなか大変なようで…でも、慕われているようで何よりね♪」

百合姫提督「ええ。でも艦隊を指揮する上で「艦娘」の娘たちと親しくなりすぎるのもいけないような気がして……その距離感が難しいわ」

提督「気持ちは分かるわ…そういう面では、私は自分のことを「提督にふさわしくない」と思っているもの」

百合姫提督「貴女が?」

提督「ええ。必要とあれば敵に撃沈されることを承知で艦娘を送り込まなければならない……私にはそんな命令を下して、その罪の十字架を背負える自信なんてないもの」

百合姫提督「でも、タラントでの指揮ぶりは見事だったし、そんな風には見えなかったけれど……」

提督「それはそうよ…まがりなりにも「提督」としてベタベタ金モールを付けている以上、まさか艦娘たちの前で真っ青になってガタガタ震えているわけにもいかないでしょう? とはいえ作戦を考えているときは寝付けなくなるし、お腹も痛くなったし……生理のひどいときを思い出したわ」

百合姫提督「フランカも悩んでいるのね…」

提督「もちろん…もっとも、そうやって「うちの娘たちが怪我をしないように」って頭をひねって考えるから、いい作戦が出来上がるのかもね♪」

百合姫提督「そうかもしれないわ」

提督「ね……それでいくと、姫は立派な提督よ♪」

百合姫提督「もう、やめてよ……///」

提督「別に冗談や酔狂で言っているわけじゃないわ…あまりジァポーネの提督に詳しいわけじゃないけれど、姫なら「イソロク・ヤマモト」とだっていい勝負だと思うわよ?」

百合姫提督「もう、私なんか山本長官の足元にも及ばないわ……もっとも、彼の名言は飾ってあるけれど」

提督「名言?」

百合姫提督「ええ。前にも言ったかもしれないけれど有名な言葉で「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、誉めてやらねば人は動かじ」っていう…本当は続きもあるけれど、その部分が一番知られていて……私もその通りだと思うから、執務室の額に入れて飾ってあるわ」

提督「いい言葉ね…ちなみにそういうことなら私も良く実行しているわ」

百合姫提督「本当に?」

提督「ええ…提督として本当にやるべき事は率先して「やってみせ」て、反対にどうでもいいことの時はそれ相応の態度を取るわけ……ふふっ♪」

百合姫提督「何がおかしいの?」

提督「いえ、ね…例えばスーペルマリーナ(海軍最高司令部)発で「鎮守府の規律を守り、綱紀粛正に努めるべし」みたいなしょうもないお達しが回ってきたとするでしょう?」くすくす笑いの発作を起こしながら続けた…

百合姫提督「ええ…それで?」

提督「前にそういうのが来たときにはね……」

………

…数ヶ月前…

アッチアイーオ「提督、ローマのスーペルマリーナから文書が届いているわ」

提督「スーペルマリーナから?」

アッチアイーオ「ええ」

提督「こんな時期にスーペルマリーナからだなんて……何かしら?」

アッチアイーオ「さぁ…とにかく開けてみたらいいんじゃない?」

提督「そうね……って、これだけ?」

アッチアイーオ「何だったの?」

提督「これよ」イタリア海軍の紋章が印刷されている封筒から数枚の紙を取り出してひらひらと振り、それから執務机の上を滑らせて渡した…

アッチアイーオ「前文…はいいとして……「各提督および所属の『艦娘』は鎮守府内における規律向上と整理整頓に努めるべし…」って、なによこれ?」

提督「季節になるとよく来るお説教のお手紙よ…要は「ブーツをピカピカに磨き上げておくこと」の海軍版ね」

アッチアイーオ「はぁぁ…しょうもないわね。この書類を印刷する予算があるんだったら、あのかみ合わせが悪いモンキーレンチでも買い直してくれればいいのに」

提督「ええ、まったく…とはいえ「提督は各鎮守府所属の『艦娘』たちにも周知徹底するべくこれを通達すべし」とあるから、後でみんなに読み上げないとね」

アッチアイーオ「あーあ、ばかばかしい…」
753 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/03/27(土) 02:52:52.48 ID:GmInuUyk0
…数時間後・食事時…

提督「…はーい、注目」

チェザーレ「おや、どうかしたのか……諸君、静かに」

ライモン「なんでしょう…?」

ムツィオ「さぁね。でも作戦の話はもう済んでるし……提督もあんまり話す気があるようにも見えないから、大した通達じゃないんじゃない?」

ライモン「でも提督のお話ですから、ちゃんと聞かないと」

エウジェニオ「相変わらず律儀ね、ライモンドは…もっとも、愛しい提督さんのお話だものね♪」

ライモン「///」

提督「あー…だいぶ静かになったわね。それじゃあ通達します」通達の紙を手に立つと、横に座っているデルフィーノがくりっとした目で見上げてくる……提督が横目でちらりと見おろしながら小さくウィンクをすると、はにかんだような微笑みを浮かべてにっこりした…

提督「…ローマのスーペルマリーナから届いた通達ですが「各鎮守府の提督および艦娘は規律の向上、及び整備整頓に努めるべし」とのことです」さしたる内容でもない「通達」に、艦娘たちのため息と小声のおしゃべりが交じる……

提督「えー、と言うことですから…」片手で書類を持って続けながらもう片方の手をデルフィーノの頭に伸ばし、濃い灰色の髪を指でくしけずったりはね上げたりしている提督…

デルフィーノ「…んっ///」

提督「……従って全員よくこの通達に従い、規律の向上に努めるよう…」声だけは真面目な調子で訓示しつつも、瞳をきらめかせ、口元にはいたずらっぽい笑みを浮かべている…

デルフィーノ「…あっ…あふぅ///」

提督「…各自がより一層規律正しく健全な生活を送るようにすることで……」そう言いながら左手を伸ばし、デルフィーノの引き締まった乳房を優しくこねくり回している…

デルフィーノ「ふわぁぁ…あふっ///」

提督「……私も提督として模範を示すべく、この通達にあるよう「規律正しく」生活し、スーペルマリーナの求める理想の提督たるべく…」もにゅ…むにっ♪

デルフィーノ「はふぅ、はぁ……んぅぅ///」とろけた表情を浮かべ、我慢しきれなくなったようにほっそりした指を灰色のプリーツスカートの中へと滑らせていくデルフィーノ…

提督「……では、訓示を終わります…以上♪」

…最後は艦娘たちに露骨にウィンクを投げると席に着き、そのままデルフィーノを抱き寄せる提督…色欲旺盛で「一人遊び」も好きなデルフィーノ(イルカ)は恥ずかしさと快感から顔を火照らせ、花芯に沈めた人差し指から「くちゅ…っ♪」と水音が響かないようそっと動かしている…

ガリバルディ「はいはい、オッベディスコ(従う)、オッベディスコ……ね♪」左右の艦娘の肩に腕を回し、ぐっと引き寄せた…

チロ・メノッティ「そうですね///」

エンリコ・タッツォーリ「はい…///」

…リソルジメント(イタリア統一)における殉教者で、ガリバルディが息子の名前にも付けた「チロ(チーロ)・メノッティ」と、同じくオーストリアからの独立運動を行い処刑された「ベルフィオーレの殉教者」の一人である神父「エンリコ・タッツォーリ」は、女たらしのガリバルディに抱き寄せられて真っ赤になっている……

エウジェニオ「ふふ…っ、姉さん……♪」

アオスタ「ち、ちょっと…だめ…///」

エウジェニオ「いいじゃない…相変わらずお堅いんだから……もっとも「お堅い」のはここもかしら?」もみっ…♪

アオスタ「あっ、やめ……っ///」

提督「んちゅっ、ちゅっ…♪」

デルフィーノ「はぁっ、はぁぁ…っ///」

アッチアイーオ(温)「て、提督……デルフィーノだけじゃなくて、私も構ってほしいわ…///」

提督「ふふ、ごめんなさい…不公平なのはいけないわよね♪」

アッチアイーオ「んふぅ……あむっ、ちゅぅ…♪」

デュイリオ「あらあら」

カヴール「ふふ、みんな若いですね…♪」

チェザーレ「カヴールにしてはずいぶんと枯れたことを……チェザーレはまだまだ現役のつもりだが?」

リットリオ「あんまり無理しちゃだめですよ、チェザーレ?」

チェザーレ「ほほう、いうではないか…後で音を上げるなよ、リットリオ?」

リットリオ「ふふふっ、負けませんよ…♪」

………

提督「…っていう具合に「行動」で示すことにしているわ♪」

百合姫提督「もう、フランカってば…♪」そう言うと苦笑しながら「またね」と通話を終えた…
754 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/02(金) 01:34:47.97 ID:jQL21t0r0
…別の日…

提督「ふぅ……やっと書類の処理が終わったわね…」

デルフィーノ「たくさんあって疲れちゃいました」

提督「手伝わせてしまってごめんなさいね、二人とも」

アッチアイーオ「いいのよ。それが秘書艦の任務なんだから」

提督「そう言ってもらえると助かるわ……んー♪」差し戻しを受けた書類の処理を終えると、椅子に座ったまま大きく伸びをした…

デルフィーノ「次は何をしますか、提督?」

提督「そうねぇ…この時間だから鎮守府の中を回って……」

アッチアイーオ「それから提督は体育館で運動ね」

提督「えー…?」

アッチアイーオ「まったく「えー?」じゃないでしょうが…食べた分だけカロリーを消費しないと、そのうち服が着られなくなるわよ」

提督「それはそうだけれど…」

アッチアイーオ「なら早く支度をしなさいよ……ちゃんと運動したら私がご褒美を上げるから…///」

提督「…あら、それは信じていいのかしら?」

アッチアイーオ「もうっ、私が提督に嘘なんてつくわけないでしょう……///」

デルフィーノ「えへへっ、アッチアイーオったら耳が真っ赤です♪」

アッチアイーオ「うるさいわね…!」

提督「ほーら、喧嘩はしないの……それじゃあ着替えてくるから、少し待っていてね?」

アッチアイーオ・デルフィーノ「「了解」」



…体育館…

チェザーレ「おや、提督…見回りか?」

提督「いいえ、二人にせっつかれて少し運動を…ね」

バンデ・ネーレ「へぇぇ、提督が運動……明日は雨かな?」

提督「おっしゃってくれるわね…そういうバンデ・ネーレは?」

バンデ・ネーレ「ボクかい?ボクはチェザーレと剣の練習を♪」

(※「ジョバンニ・デレ・バンデ・ネーレ(黒装束のジョバンニ)」ことジョバンニ・ディ・メディチは剣術の達人であり勇猛果敢、その上で当時の(教養のある)傭兵隊長の中でも特に優れた人格者だったことから名高く、これだけの傭兵隊長は二度と現れないだろうということで「最後のコンドッティエーリ(傭兵隊長)」と呼ばれた)

チェザーレ「うむ。十五世紀の剣術というのもまた興味深いのでな…この前は「フィオール・ディ・バッターリア」を借りたのだが、面白く読ませてもらった」

(※「フィオール・ディ・バッターリア(fior di battaglia)」…「戦いの花」というタイトルが付けられた十五世紀の剣術指南書で、当時「剣術の達人」として広く知られていたジョバンニ・デレ・バンデ・ネーレに取材してまとめられたもの。ルネサンス期以降に銃器が発達して廃れてしまった実戦型の剣術を後世に伝えた有名な本で、ヨーロッパの武術研究家や歴史家はこれを元にして当時の剣術を復活・研究させている)

提督「確かにバンデ・ネーレの剣術は大したものだものね。私なんかじゃあ手も足も出ないわ…」フェンシングを始め伝統的に剣術が強いイタリアにあっては、あまり上手とはいえない腕前の提督…

バンデ・ネーレ「そんなに誉められると少し恥ずかしいね……でも、提督にそう言ってもらえて嬉しいよ」

チェザーレ「そうだな…では、参ろうか。お手柔らかに頼むぞ♪」顔を防ぐための面をつけ、刃の付いていない…しかし古代ローマのグラディウス(ローマ式幅広の剣)を再現した練習用の剣を取った…

バンデ・ネーレ「こちらこそ。英雄チェザーレと剣を交えられて光栄だよ…審判は提督たちにお願いしようか♪」こちらは左肩に黒マントを羽織り、細身の長剣を提げている…

チェザーレ「うむ、それがよいであろうな……構わぬかな?」

提督「ええ♪」

アッチアイーオ「言っておくけれど、二人の練習が終わったらちゃんと運動するのよ?」

提督「…んー?」

デルフィーノ「くすくすっ…提督ってば二人の試合の審判をしてごまかすつもりだったんですね♪」

提督「そんなことはないわよ、ちゃんと二人の試合が終わったら運動するつもりだったわ」

アッチアイーオ「どうだか…」

提督「本当よ……だって運動したらアッチアイーオの「ご褒美」があるんだもの…ね?」アッチアイーオの耳に口元を寄せ、甘い声でささやいた…

アッチアイーオ「っ、いいから始めるわよ…///」
755 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/04(日) 02:33:01.59 ID:IPjqRLqW0
提督「そうね。それじゃあ……始めっ!」

チェザーレ「では、ジュリオ・チェザーレ…参るぞ!」グラディウスを抜き放ち、振りかぶった…

バンデ・ネーレ「フィレンツェのジョヴァンニ・ディ・メディチ……主の名にかけて、正々堂々とお相手します!」

…バンデ・ネーレが左肩からかけているマントは、果たし合いの多かった中世において衣服として…そしてとっさの時の盾代わりとして有効活用されてきた……左腕でマントをぐるぐると回しながら、ずっしりしたウールの生地でチェザーレの剣を巻きとめようとする…

チェザーレ「…ふんっ!」

バンデ・ネーレ「…っ!」マントで剣身を受けたが、そのまま勢いで押し切られて防具を着けた腕に「ばしっ!」と一撃を浴びた…

提督「判定っ!」さっとチェザーレ側の旗を上げ、また旗を降ろして「始め!」をかける提督……

チェザーレ「どうしたというのだ、バンデ・ネーレ……臆せずにかかってくるがよかろう!」

バンデ・ネーレ「くぅっ…さすがチェザーレ、重いし早い……けれどね!」

チェザーレ「むっ…!」

…フランス系の剣術をベースに様式化されたフェンシングと違い、より実戦的な円形のコートでお互いに回りながら隙を見計らっている二人……と、バンデ・ネーレが飛び出して一気に突いた…

提督「判定っ!」

チェザーレ「ふむ、さすが「最後のコンドッティエーリ」であるな……しかし、実戦ではそうはいかぬぞ…!」真紅のマントをはためかせて間合いに詰め寄ると、剣を叩き落としつつ鳩尾に蹴りを入れ、よろめいたところで首筋に剣を突きつけた…

提督「判定!」

デルフィーノ「チェザーレさんはさすがです」

チェザーレ「…バンデ・ネーレ、平気か?」

バンデ・ネーレ「ボクは平気だよ……さすがにチェザーレは違うね♪」

エットーレ・フィエラモスカ(大型潜・単艦)「実力者同士の試合はわくわくしますね…私も騎士の血がうずいてきてしまいそうです♪」

アルベルト・ディ・ジュッサーノ(軽巡ジュッサーノ級)「確かに。私も久しぶりにやってみようかしら……バルトロメオ?」

…神聖ローマ帝国の皇帝として名高いかの「バルバロッサ(赤ひげ)」ことフリードリッヒ一世の侵略に対し、チャリオットとそれを援護する「死の中隊」を編成して戦い、ついにミラノを守り切り撃退したロンバルディアの伝説的英雄、アルベルト・ディ・ジュッサーノ…

バルトロメオ・コレオーニ(ジュッサーノ級)「ああ、いいよ……私も姉さんと剣の練習をするのは久しぶりだ」

…こちらは中世ヴェネツィアの「ドゥーチェ(統領)」で、当時のライバルであったミラノの女公「ビアンカ・マリア・ヴィスコンティ」を暗殺させたという人物…

ジュッサーノ「お互い軍艦としてみれば姉妹。とは言えヴィスコンティ家にあんなことをした以上、容赦はできないわよ…?」お互い権謀術数が渦巻き、戦争も相次いでいた中世イタリアの都市国家…その歴史もあってか、地域が絡むと一気にやり取りが熱を帯びてくる……

コレオーニ「そういうのはお互い様さ、姉さん…行くよ!」

アッチアイーオ「さ、せっかくだから提督もやったらどう?」

提督「いえ、どちらかというと剣術はあんまり……それにあのすごい立ち回りを見た後だと、なおのこと…ね」

アッチアイーオ「…私だって剣は得意じゃないもの。お互い様よ」

提督「そうね、アッチアイーオがそこまでいうなら……それじゃあまず防具を着けないと…」手足や胴体、それに頭と顔を守る「面」を付けて、剣を提げた…

デルフィーノ「提督、アッチアイーオ、準備はいいですかぁ?」

アッチアイーオ「いいわよ……ま、もし提督が勝ったら舌を入れてキスしてあげたっていいわ」

提督「舌を入れるキス……デルフィーノ、今のちゃんと聞いたわね?」

デルフィーノ「はい…アッチアイーオ、そんなことを言って大丈夫ですか?」

アッチアイーオ「自信がなかったらそんなこと言わないわよ……さぁ、審判をお願い!」

提督「デルフィーノ、いつも気を回してくれるのは嬉しいけれど、こと審判に関しては私が提督だからってえこひいきしちゃ駄目よ…もちろん、アッチアイーオにもね?」

デルフィーノ「はい、大丈夫です……始めっ♪」

アッチアイーオ「…」長剣をだらりとさせ、下から切り上げる体勢を作る…

提督「…」一方、長身の提督は懐に飛び込まれないよう間合いを広くし、剣を両手で握って肩で担ぐように構える「乙女の構え(posta di donna la soprana)」を取った…

ライモン「提督とアッチアイーオ…どっちにも頑張って欲しいですね」

グレカーレ「うーん……動きの速さはアッチアイーオ、間合いでは提督が有利ですね」

提督「…」

アッチアイーオ「…」
756 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/13(火) 12:25:56.45 ID:NS5sm3XB0
…数分後…

デルフィーノ「勝負あり!」

アッチアイーオ「はぁ…はぁ…」

提督「ぜぇ……はぁ……」

アッチアイーオ「…いったいどういうわけよ!?」お互いに息を切らしながら握手をし、面を外した途端に怒鳴った…

提督「ふぅ、ふぅぅ……なにが?」

アッチアイーオ「あんなに運動が苦手なくせして、どうしてこういう時だけ勝てるのかって聞いてるの!」

提督「そうねぇ…愛の力かしら♪」

ライモン「確かに、提督の剣術がお世辞にも優れているとは言えませんが……」

グレカーレ「…女の子といちゃつけるとなると急に強くなるものねぇ」

アッチアイーオ「聞いてあきれるわ……」

提督「ふふっ…それよりお約束のキスはいつしてくれるの?」

アッチアイーオ「だぁぁ、もう! こんな皆が見ているまえでするわけないでしょうが!」

提督「あら、残念…まぁ、とりあえず運動もできたし、後は食堂でお茶でも……」

バンデ・ネーレ「…ねぇ提督、せっかく防具を着けたのに一回の手合わせで「はい、おしまい」じゃあ物足りないんじゃないかな?」

チェザーレ「うむ。チェザーレも提督とお手合わせ願いたいとかねがね思っていたのでな」

ガリバルディ「そうよね、せっかくだもの……♪」

提督「え、ちょっと…」

デルフィーノ「そうですねぇ。提督も運動のために来たんですから、もう何人かと練習したらいいかもしれないです」

提督「…デルフィーノ、覚えていなさいよ…後でとっておきの恐怖映画祭りにしてあげるから……」

バンデ・ネーレ「まぁまぁ…さ、面を付けて」

提督「うぅぅ…午後の執務もあるのだから、ほどほどにお願いね」

バンデ・ネーレ「ふふ、ボクだってそこまで意地悪じゃないよ……♪」

ガリバルディ「…でも、こっちが勝ったらご褒美が欲しいわよね」

提督「ご褒美ねぇ……ん、ご褒美?」(もし私が負けたところでキスすればいいだけとなれば、別に負けても損はない…?)

バンデ・ネーレ「いいかな?」

提督「そうねぇ…分かったわ♪」

チェザーレ「どうやら乗り気になってくれたようであるな…バンデ・ネーレ、先に手合わせしてよいぞ」

バンデ・ネーレ「じゃあボクがお先に…♪」右手に長剣、左手に短剣を構えると一礼した…

提督「マン・ゴーシュね……」

(※マン・ゴーシュ…左手に短剣を持つ二刀流スタイル。短剣の鍔(つば)に金属の籠目飾りがあり、そこに相手の剣身を絡ませて動きを止めたり、ナックルのように柄に指を通しているレイピア等では剣身ごとねじって相手の手指を折ったりする)

デルフィーノ「それでは…始め!」

バンデ・ネーレ「はぁ…っ!」

提督「やぁっ…!」

………



757 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/18(日) 01:47:47.75 ID:ajNWCHIP0
…数十分後・執務室…

提督「はぁぁ…疲れた……」

デルフィーノ「バンデ・ネーレさんたちにずいぶんしごかれていましたですね」

提督「ええ、あんなに剣術をやらされたのなんて士官学校の授業以来よ……あいたた…」

デルフィーノ「まだ痛みます?」

提督「ええ。防具越しだったのにまだ打たれた所がじんじんするわ…」慎重に椅子へと腰かけたが、うずくような痛みが伝わって顔をしかめた…

デルフィーノ「あらら…」

…チェザーレの「ローマ軍団式」実戦的剣術に始まり、バンデ・ネーレの巧みな剣さばき…あるいは真っ直ぐ立って腕を前に突き出し、剣を伸ばすようにして正面に構え、相手を中心に円を描くようなステップを踏みつつ剣を振るう「最強の剣術」ことスペイン流剣術を使いこなしてくる「アレッサンドロ・マラスピーナ」や「イリデ」などにみっちりしごかれた提督…

(※アレッサンドロ・マラスピーナ…大型潜マルコーニ級。艦名はイタリア出身で、スペイン海軍の士官としてガラパゴス諸島等の探検を行った航海者から)

(※イリデ…中型潜ペルラ(真珠)級。艦名は伝令の女神「イーリス」またはイーリスのシンボルである花で、これは英語で言う「アイリス」つまりアヤメ類。スペイン内乱時はフランコ側を支援するべく他のイタリア潜数隻とともにナショナリスタ側に貸与され、スペイン潜「ゴンサレス・ロペス」として極秘裏に参戦している)


提督「何しろこんな具合だもの…もう執務なんて出来そうにないから、しばらくお茶を飲みながら休憩するわ」

デルフィーノ「分かりました、それじゃあお茶の用意をしますね」

提督「ええ、お願いするわ。それとアッチアイーオもそろそろ来るでしょうから、三人分用意してくれる?」

デルフィーノ「もちろんです♪」

提督「あと、まだ汗が抜けないから…しばらく執務室の扉も開けておいて」

デルフィーノ「はい♪」

…廊下…

アッチアイーオ「それにしても、提督ってばみんなの前であんなことを言わなくたって……」提督のささやく歯の浮くような文句と甘い声を思い出しながら、恥ずかしさを追い払うように頭を振った……

アッチアイーオ(温)「…舌を絡めるような……提督の、キス……///」いくどか交わしたことのある柔らかな口づけを思い出し、思わず唇を指でなぞった……

アッチアイーオ「……それにベッドへ入るといつもぎゅって抱きしめてくれて…暖かくて柔らかくて…甘い良い匂いがして……///」

アッチアイーオ「って、もう…なにを考えているのよ……デルフィーノじゃあるまいし…///」

アッチアイーオ「…ん、執務室の扉が開けっぱなしじゃない……まったく提督ったら、ドアを閉めるのもおっくうなほどくたびれちゃったとでも言うのかし……ら?」開いている執務室のドア越しに、提督とデルフィーノの会話が漏れてくる…

提督「……は甘い方が好きだものね。デルフィーノだってそうでしょう?」

デルフィーノ「そうですね、まるで口の中に余韻が残るような感じがするので♪」

アッチアイーオ「…ちょっと、あの二人ときたら…なんでドアを開け放しにしてキスの話なんてしているのよ///」

提督「…ふふ、きっとデルフィーノのことだからそう言うと思ったわ。ところで、アッチアイーオのカップだけれど……少し小さくないかしら?」

デルフィーノ「……もう少し大きい方がいいですか?」

提督「ええ、やっぱりその方がいいと思うの…何しろ「大は小を兼ねる」って言うものね♪」

デルフィーノ「それもそうですねぇ…」

提督「手触りはすべすべしていて抜群にいいだけに、ちょっと惜しいわよね」

デルフィーノ「そうですねぇ。形も丸っこくて可愛らしいですし、もうちょっと大きければ抜群なんでしょうが……」

提督「それでいけばデルフィーノのは大きさもちょうどいいし、形も綺麗よね」

デルフィーノ「私は提督のもいいと思います♪」

提督「そうね。私も形や大きさ、それに色合いも気に入っているの。特に長丁場の時には重宝しているわ……ただ少し重たいのが欠点ね…」

アッチアイーオ「…さっきから黙って聞いていれば好き放題言ってくれちゃって……デルフィーノ、提督!私の乳房が大きかろうが小さかろうが余計なお世話よ!」

提督「まぁまぁ落ち着いて…どうしたのアッチアイーオ、そんなに血相を変えて?」

デルフィーノ「そうですよぉ、何を怒っているんです?」

アッチアイーオ「怒るに決まっているでしょうが、ドアを開けっぱなしにしたままで人のカップがどうのこうの…っ!?」テーブルの上に並べられているのは菓子皿と三つのコーヒーカップで、アッチアイーオのものだけ一回り小さい…

デルフィーノ「アッチアイーオ?」

アッチアイーオ「な、何でもないの……ちょっと勘違いしただけだから///」

提督「……ちなみに私はアッチアイーオのおっぱいも引き締まっていて好きだから、心配要らないわ♪」

アッチアイーオ「…っ///」
758 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/23(金) 01:21:20.65 ID:j+kVkFSz0
…その晩…

提督「ふー…」

アッチアイーオ「お疲れ様、これでようやっと文書の処理が済んだわね」

提督「ええ…それにしても管区司令部ときたら、ああだこうだと理屈をつけては「差し戻し」をかけてくれちゃって……」

デルフィーノ「そうですねぇ…こうやって見ただけでも「摘要が違います」「日付は決済日と同じにして下さい」「物品購入の予算申請時は見積書、契約書、納品書のコピー、またはデータを添付して下さい」……他にもいろいろありますねぇ」

提督「あののどかな「近くの町」にあるお店で何か買ったとして、見積書だの契約書だのを作ってくれなんて言ったらお店の人がびっくりしちゃうわよ。ちゃんと領収書は添付してあるのだから、文句を言わずに交付してくれればいいものを……きっと管区司令部に私の事が嫌いな人がいるに違いないわね」

アッチアイーオ「提督のことだから、思い当たる節でもあるんでしょう?」

提督「いいえ♪」

デルフィーノ「くすくすっ…提督ってば自信満々です♪」

提督「だって、ねぇ……少ないとは言え、イオニア海管区司令部にだって仲良しの数人くらいはいるし…」

アッチアイーオ「ふぅん…提督の「知り合い」ねぇ」

デルフィーノ「なんだかいやらしい感じです///」

提督「もう、私にも普通の知り合いくらいいるのよ? …まぁ、たまたま仲が良くなって関係が進展しちゃう事もあるけれど……」

アッチアイーオ「だと思ったわよ…」

提督「まぁまぁ…とにかく書類の整理は終わったのだから、二人とも戻っていいわ。お疲れ様」

デルフィーノ「はい、それじゃあお休みなさい♪」

提督「ええ、お休みなさい…」

アッチアイーオ「……ねぇ、提督」

提督「なぁに?」

アッチアイーオ「昼間「もし私に勝ったらキスしてあげる」って言ったわよ……ね///」

提督「ええ」

アッチアイーオ「その…してあげるから……///」

提督「分かったわ…アッチアイーオはベッドがいい?」

アッチアイーオ「あ、当たり前でしょうが…!」

提督「分かったわ。それじゃあ……」ひとまとめに束ねていた髪をほどくと寝室へと入り、着ていた栗色のタートルネックとベージュのスラックスをしゅるりと脱いでいく…

アッチアイーオ「///」

提督「ほら、来て……?」下着姿でベッドに腰かけると、迎え入れるように両腕を広げた…

アッチアイーオ「え、ええ…///」提督の柔らかくしっとりした唇に、アッチアイーオの唇が触れる……

提督「ん…♪」

アッチアイーオ「ん、ふ……んむ…っ///」ぎこちなく舌を絡め、いくらかぎくしゃくした様子で提督の乳房に手を伸ばす…

提督「……無理しなくていいから、アッチアイーオの好きなようにして?」

アッチアイーオ「わ、分かってるわよ……ん、ちゅぅ…ちゅっ…///」

提督「ん、んちゅ……んぅぅ♪」

…アッチアイーオを抱き寄せるようにしながら、自分からベッドに寝転がる提督……左手はアッチアイーオの青みがかった艶やかな黒髪を撫で、右手でしなやかな背中を優しく抱きしめた…

アッチアイーオ(熱)「んんぅぅ、あふぅ、あふっ……あむっ、ちゅぅ…っ♪」

提督「んっ、ちゅむ…ちゅうっ……ふぅ…んっ♪」次第にキスが熱を帯び、黒い瞳に爛々と情欲の炎をたぎらせ始めたアッチアイーオに刺激される形で、提督も金色の瞳を輝かせ、アッチアイーオを抱き寄せる…

アッチアイーオ「はぁぁ…ぅ…ん♪ んあぁぁ…っ♪」

提督「んぅぅ…ふあぁ…んっ♪」

アッチアイーオ「ていとく…ていとくっ……あ、あっ、ふぁあぁぁ……っ♪」

提督「アッチアイーオ……んんぅっ、あっ、あんっ…はぁぁぁ…んっ♪」

………

759 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/04/27(火) 11:55:24.35 ID:KczeNKWC0
…ここ数日不具合(?)で入れなかったのですが、どうやら直ったようですね……とりあえず次の投下は週末にでも…


…あと、数日前イタリアの歌手「ミルバ」が亡くなりましたね……「ミーナ」「イヴァ・ザニッキ」と並ぶ女性カンタウトーレ(カンツォーネ歌手)として60年代ごろから一世を風靡した方で、オペラ並みのパワフルな歌唱力をもつ驚くような声量の持ち主でした…
760 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/01(土) 03:36:53.24 ID:6azsiJke0
…とある日…

提督「おはよう、デルフィーノ」

デルフィーノ「おはようございます、提督…目覚めのカフェラテをどうぞ。ミルクはぬるめで砂糖ひとさじです♪」

提督「グラツィエ……ずいぶんと天気が悪いわね。気象通報は?」

デルフィーノ「はい、ここに持ってきてあります」

提督「ありがとう…どれどれ……」まだ起き抜けで歯を磨いただけの提督はナイトガウン姿のまま執務室の椅子に座ると、コーヒーカップ片手に気象通報のプリントアウトを読んだ……

提督「……イオニア海に低気圧が接近、現在中心気圧980ヘクトパスカルでなお発達中。風は南西風、風力4から5…波高2メートルから4メートル…海況は今後さらに悪化する見込み。イオニア海並びにティレニア海南部に波浪注意報および航行注意情報……」そこまで読み通すと後ろを向き、執務室の窓から空を見上げた…

提督「……確かにこれは時化そうね」

デルフィーノ「はい…黎明哨戒から戻ってきたレオーネたちも「今日はひどくガブった」と言っていました」

提督「そうでしょうね……とりあえず駆逐艦は今日の出撃を取りやめ、哨戒は潜水艦の娘に任せましょう」

デルフィーノ「分かりました。それじゃあ私が伝えてきますか?」

提督「いいえ。代わりに出撃してもらう娘には苦労をかけるのだから、私が直接伝えることにするわ」

デルフィーノ「了解♪」

提督「アッチアイーオは作戦室?」

デルフィーノ「そうです」

提督「それじゃあ後で立ち寄ってあげないとね……」

…数十分後・待機室…

提督「おはよう、みんな……こんなお天気の時に出撃をお願いして悪いわね」

オタリア「仕方ないですよ。このうねりの中で駆逐艦を出撃させたって哨戒になりませんもの…私たち大型潜にお任せ下さい」

ガリレオ・ガリレイ「そういうことね」

コマンダンテ・カッペリーニ「それに提督がお天気を悪くしたわけじゃないんですから…謝らないで下さい♪」

トリチェリ(U)「その通りです……あ、前の哨戒組が戻ってきたみたいですね」

アクィローネ(「北風」)「…まったく、今日のお天気ときたらばっかじゃないかしら……ひどい時化になってきたわね」

トゥルビーネ(「旋風」)「頭からつま先までびしょ濡れだものね。あぁ、提督…おはようございます」

提督「ええ、おはよう…この天気の中ご苦労様。きっと冷えたでしょうし、お風呂に入っていらっしゃいな」

…身体のあちこちからポタポタと雫を垂らし、濡れた髪を額に張り付かせた姿で敬礼するトゥルビーネたちに答礼すると、慈しむような表情を浮かべてねぎらった…

ニコロソ・ダ・レッコ(ニコ)「ああ、そうさせてもらうよ……もっとも、ドック脇のシャワーで潮気は軽く落としてきたけれどね」

提督「時化の具合はどう?」

アントニオ・ピガフェッタ「そうですね…これからもっと荒れてくる気がします」

提督「やっぱり……分かったわ、ありがとう」と、提督の足元にルチアがやって来て身体を擦り付けた……

ルチア「ワフッ…♪」

提督「あら、ルチア…でもこのお天気だから、お散歩はちょっと無理ね……ブラシをかけてあげるから、それで我慢して?」

ルチア「クゥーン……」

761 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/05/02(日) 02:10:21.90 ID:xvFzyd2e0
…午前中…

提督「んー、いよいよ雨脚が強くなってきたわね……みんな、お部屋や廊下の窓はちゃんと閉めた?」

ライモン「はい、ちゃんと閉めてきました」

提督「よろしい♪ アッチアイーオ、新しい気象通報は?」

アッチアイーオ「ええ、さっき来たわよ…1000時の気象通報によると「低気圧は進路を南東に変えアルジェリア沖を進みつつあり、本日1600時にはマルタ、ケルケナー諸島間を通過する見通し。北アフリカ沿岸、特にリビア・エジプト沖は荒天が予想される」だそうよ」

提督「了解…こんな時に作戦がなくて良かったわ」

レモ「でもこのお天気じゃあ外にも行けないし…レモたいくつー……」

アラジ「同感…うぅ、早く身体を動かしたい……」(※アラジ…中型潜アデュア級。大戦中の出撃55回を数えた「イタリア潜でもっとも作戦行動した艦」かつ、終戦まで無事に生き残った幸運の持ち主)

ドリア「アラジたちは元気で何よりですね」

カヴール「ふふふっ、本当に…若いというのはいいことです」

提督「もう、二人ともお婆ちゃんじゃないんだから……」

ドリア「あら、提督…♪」

カヴール「何かおっしゃいましたか……?」

デュイリオ「うふふっ、提督は冗談がお上手でいらっしゃいます…♪」

提督「あー……いえ、何でもないわ」

チェザーレ「…やれやれ、これだけ若返っているのだから艦齢の事を気にすることもあるまいに……それはそうと、確かに少し退屈ではあるな」

ロモロ「提督、なにか映画とかないの?」

提督「うーん、こんな天気にふさわしい映画ねぇ…」

スクアーロ「…なら「パーフェクト・ストーム」なんてどう?」

提督「時化の時に時化の映画を見てどうするのよ……」

スクアーロ「気に入らない? だったら代わりにいい暇つぶしの方法でも教えてもらいたいわ」

提督「もう、分かったわよ…そうね、それじゃあみんなで順繰りにお話でもしましょう」

デルフィーノ「わぁ、提督のお話ですか。ぜひ聞きたいです……でも怖いのはだめですよ?」

提督「ええ、分かっているわ…そうね、どちらかと言えば「怖い話」ではなくて「不思議な話」かしらね…」

提督「これはジェーン…前に「交換プログラム」でここへ来たミッチャー提督ね…から聞いた話なのだけれど……」

…数年前・ノーフォーク沖…

ミッチャー提督「…ふう、今回のUボート狩もどうにかうまくいったわね……ナイスハントだったわよ」

エンタープライズ「センキュー、マーム……うちの飛行隊がスコアを稼いだのはいいけど、ノーフォークが恋しいわ」

ミッチャー提督「そうね、まぁもうちょっとの辛抱だから…そろそろチェサピーク湾に入る頃だし、そうしたらハンプトン・ローズやニューポート・ニューズだってすぐ見えてくるわ」

エンタープライズ「ホーム・スウィート・ホーム(懐かしの我が家)ね」

ミッチャー提督「そういうこと……そうだ、戻ったらシーフードレストランでソフトシェルクラブでも食べに行くとしようか」

エンタープライズ「サウンズ・グッド(いいわね)♪」

…凪の海を航行するミッチャー提督の空母機動部隊は、北大西洋での深海棲艦「Uボート」のハントを終え、チェサピーク湾に入ろうとしていた…

ミッチャー提督「ん…ヘイ、ワッツ・ザッ(あれはなに)? 方位グリーン(右舷)10、前方500ヤード……海面のところ」

エンタープライズ「確かに白波が立ってるわね…サメ?」

ミッチャー提督「いや、サメだったらあんなにくねくね動かないから……」

…双眼鏡の視界には白波を蹴立てて浮かんだり潜ったりしている何かのシルエットが収まっている…黒褐色の艶のある様子はカワウソかアシカのようでもあるが、それにしては馬のような頭とぎざぎざの背びれがあり、動きもちがう…

エンタープライズ「ミネアポリスと駆逐艦たちからも見えるって言ってきてるわ…ねぇマーム、もしかしてあれって……」

ミッチャー提督「ええ…きっと「チェッシー」じゃないかしら」

エンタープライズ「ワーオ♪ 噂には聞いたことあるけどお目にかかるのは初めて…!」

ミッチャー提督「私もよ……っと、潜っちゃったわ」

エンタープライズ「もう?できればもっと見たかったわね……」
762 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/05(水) 03:00:55.12 ID:h8r/BqSS0
提督「…とまぁ、そういった話を聞いたことがあるわ」

スクアーロ「チェッシー?」

提督「ええ、チェサピーク湾にいるっていう未確認生物ね……名前は「ネッシー」をもじって付けられたそうよ」

デルフィーノ「不思議なお話ですね…他にはありますか?」

提督「そうねぇ、それじゃあ今度はジュリアが数年前に経験した「スリル満点」のお話を……」

ライモン「提督、その前にお茶をどうぞ…お話をしていると喉が渇きますから」

提督「あら、ありがとう…」紅茶をひとすすりすると話を始めた…

…数年前・地中海上空…

P−3副操縦士(コ・パイロット)「機長、ウェイポイントに到着。針路120度に旋回します」

アントネッリ中佐「了解、針路120。ルイージ、MAD(磁気探知機)に感は?」

レーダー員「MAD、レーダー共に感なし…静かなもんです」

アントネッリ中佐「了解……それじゃあコーヒーでももらおうか。トーニ、ギャレー(簡易厨房)から持ってきてもらえるかな?」

機上整備員「了解。ただし、味の保証はしませんよ?」

アントネッリ「なに、構わないさ…それとミルクを少し」

副操縦士「後でおれのも持ってきてくれよ…おれのは砂糖も入れてな」

機上整備員「分かってますよ、大尉は甘党ですからね」

副操縦士「そりゃあ…隊長が横に座っている中でずっと飛ばしてみろ。緊張して変な汗が出る」

アントネッリ「おや、私が横に座っているだけで緊張するようじゃ検定には合格させてやれないな」

副操縦士「こりゃあ手厳しい…」

アントネッリ「当然さ。深海お化けの潜水艦が対空機銃を撃ち上げて来ることだってあるんだ…隣に飛行隊長が座っているくらいでおたおたしているようじゃあダメだろう。違うかな?」

副操縦士「おっしゃるとおりです…精進しますよ」

アントネッリ「よろしい、向上心がある……一点追加だ♪」

機上整備員「お待たせしました、隊長」

アントネッリ「ん、ありがとう……飲み終えたら操縦を代わろう」

副操縦士「お願いします」

…と、急に操縦席のディスプレイに赤い警報ランプが灯ると、それまで「ビィィ…ン」と単調な音を立てていたターボプロップエンジンの一基が火を噴いた…

アントネッリ「右翼、四番エンジンから出火」

副操縦士「四番エンジンを停止、プロペラをフルフェザーにします!」ピッチ角を変更しエンジンを停止させている間にも、次々と警報が点灯し、機の自動音声やアラーム音が鳴り響く…

アントネッリ「よーし、操縦を交代だ…トーニ、席に着いてくれ」

機上整備員「了解!」

アントネッリ「よし、それじゃあ基地に連絡しよう…緊急事態を宣言」

副操縦士「スクォーク7700(トランスポンダ・緊急時コード)?」

アントネッリ「そうだ…第三エンジンは?」

副操縦士「第三エンジン出力低下、燃料ポンプに異常」

アントネッリ「……左翼のエンジンは?」

副操縦士「現状では問題なし」

アントネッリ「よし…なら針路を変えてトラーパニに戻ろう」

副操縦士「了解」

アントネッリ「…しかし、この機が双発の「アトランティック」じゃなくてよかったな」(※ブレゲー・アトランティク…フランス・ブレゲー社製の対潜哨戒機。イタリア海軍でも主力の対潜哨戒機として運用されていたが「ATR−72・ASW」に交替されつつある)

副操縦士「やれやれ「深海棲艦の脅威に対抗するため」P−3Cを貸与してくれたアメリカさんには感謝ですね……」

763 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/06(木) 01:51:18.63 ID:rXWJJ1lC0
アントネッリ「まったくだな……コントロール、こちら「アルチェーレ(射手座)2」…第四エンジンから出火、第三エンジン出力低下。現在高度3000フィート、針路120、速度260ノット。緊急事態を宣言する」

戦術管制「こちらコントロール。アルチェーレ、何か支援できることはあるか…どうぞ?」

アントネッリ「アルチェーレよりコントロール、針路290への変針を要請」

戦術管制「こちらコントロール、針路290への変針を許可する…他には?」

アントネッリ「こちらアルチェーレ、今のところ飛行は安定しているが、エンジン二基で飛行しているため上昇は難しい…こちらの航路から他機をどけてもらえると助かる。それから燃料を積み過ぎているので空中投棄の許可願う…なお第四エンジンはすでに停止、鎮火を確認しているので投棄に際し引火の危険性は少ないものと思われる。どうぞ」

戦術管制「…アルチェーレ、こちらコントロール。燃料投棄を許可」

アントネッリ「了解…それからトラーパニ以外に着陸することも検討しているが、着陸可能な代替飛行場があれば教えて欲しい。どうぞ」

戦術管制「了解、少し待て……」

副操縦士「…今ごろ向こうじゃあ大騒ぎでしょうね」

アントネッリ「そうだろうな…」

戦術管制「アルチェーレ2,こちらコントロール…着陸可能な飛行場はパレルモ、シニョネッラ、コーミゾ、それとカターニアだ」

アントネッリ「了解、これから検討する……君ならどこがいいと思う、アドリアーノ?」

副操縦士「そうですね…まずパレルモはあり得ません。パレルモまで飛ぶんだったらトラーパニに降りたってほとんど距離は変わりませんよ」

アントネッリ「それから?」

副操縦士「コーミゾは距離的にはいいですし、滑走路も一本だけとはいえ2500メートルありますが…今日の風向きではアプローチするのに不向きです」

アントネッリ「よし…じゃあカターニアは?」

副操縦士「カターニアも滑走路はたっぷり2500ありますし、滑走路も08と26の二本がありますが…この時期のカターニアじゃあ旅客機がうようよいますから、それをどかしてもらってアプローチするとなったら時間がかかります」

アントネッリ「それじゃあシニョレッラだったら?」

副操縦士「そうですね、シニョネッラなら「第41ストルモ・アンティソマージビリ(対潜航空団)」の連中と米軍が展開している軍用飛行場ですから、管制も手慣れていますし備えもばっちりあります。滑走路も充分ですし、距離的にもトラーパニに飛ぶより断然近いです」

アントネッリ「満点の回答だな…それじゃあシニョネッラに向かい、いざというときはカターニアへ降りるとしよう」

副操縦士「了解」

アントネッリ「…こちらアルチェーレ。コントロール、聞こえるか?」

戦術管制「こちらコントロール、聞こえている。 アルチェーレ、候補地は決まったか? どうぞ」

アントネッリ「こちらアルチェーレ、候補はシニョネッラ海軍航空基地、もしシニョネッラの受け入れが難しいようならカターニアに着陸したい。どうぞ」

戦術管制「了解、シニョネッラだな…すぐ問い合わせるのでそのまま飛行を続けてくれ」

アントネッリ「了解」

…数分後…

戦術管制「アルチェーレ、シニョネッラはそちらの受け入れが可能だ…また、訓練飛行中の空軍機をチェイス(随伴)機としてそちらに向かわせた。機種はMB−339で、合流予定時刻は十分後。そちらから見て四時方向から接近の予定」

(※アエルマッキ・MBー339…イタリア空軍の高等ジェット練習・軽攻撃機。イギリスの「BAeホーク」などと同じように小型かつ軽快で、イタリア空軍アクロバット・チーム「フレッチェ・トリコローリ」の機体としても用いられている)

アントネッリ「了解」

…十分後…

空軍機「こちら「ジェメリ(双子座)01」…アルチェーレ1、聞こえるか?」

アントネッリ「アルチェーレ1よりジェメリ01へ、感度明瞭…来てくれて感謝するよ」

空軍機「なに、そちらがお困りだって聞いたものでね……このままシニョネッラまで送っていく予定だが、何かご注文は?」

アントネッリ「ご丁寧にどうも…それじゃあ機体右側および下面を見てもらって、オイル漏れや損傷がないか確認して欲しい。どうぞ」

空軍機「了解。お安いご用だ……あー、目視ではオイル漏れおよび損傷は見られない。どうぞ」

アントネッリ「了解、それじゃあこれから減速して着陸態勢を取ってみるので、脚およびフラップが正常に作動するか確認して欲しい…どうぞ」

空軍機「了解。やってくれ」

764 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/10(月) 01:58:00.75 ID:hpQTwtRS0
アントネッリ「よーし…それじゃあ着陸態勢だ、準備はいいか?」

副操縦士「もちろんです」

アントネッリ「よろしい……フラップ!」

副操縦士「ダウン!」

アントネッリ「ランディングギア(降着脚)!」

副操縦士「スリー・グリーン(異常なし)!」

アントネッリ「なるほど、計器は「異常なし」って言っているようだな……ジェメリ、どうだ?」

空軍機「こちらから見る限り異常はない、大丈夫だ」

アントネッリ「作動液漏れも?」

空軍機「見えないな」

アントネッリ「分かった、ありがとう」

空軍機「どういたしまして…そちらが降りるまでお見送りしていくよ」

アントネッリ「それはどうも」

戦術管制「アルチェーレ、こちらコントロール…そちらは間もなくこちらのコントロールを離れ、シニョネッラのタワー(管制塔)が最終誘導を行う」

アントネッリ「了解。コントロール、ここまでの支援に感謝する」

戦術管制「こちらコントロール、礼はちゃんと降りてからにしてくれ」

アントネッリ「了解だ…シニョネッラ・タワー、こちらアルチェーレ1。 間もなくアプローチに入る」

基地管制塔「了解、こちらタワー。アルチェーレ、そちらを確認。高度5000からランウェイ27にアプローチせよ。風は230度から0.3メートル」

アントネッリ「アルチェーレ了解。ランウェイ27にアプローチする……」

副操縦士「機長、また問題発生です。ILS(計器着陸システム)受信機が消えました、反応ありません!」

アントネッリ「…シニョネッラ・タワー、本機のILS受信機が故障、計器進入できなくなった。VFR(目視飛行)で着陸したい」

管制塔「了解、VFRでのランディングを許可」

副操縦士「くそ、このじゃじゃ馬め……えぇい、直りやがらないか」スイッチを切ったり入れたりしている副操縦士…

機上整備士「軽く引っぱたいたら直るかもしれませんよ?」

アントネッリ「…やれやれ、前に私は「飛行機は女性だ」って言ったはずだぞ。せっかく金の翼(ウィングマーク…パイロット徽章)を付けていても、それじゃあモテないな」

副操縦士「そんなこと言ったって…ILSがダウンしたとなると、グライドスロープに乗せるのも手動って事になりますよ? それでなくてもエンジンが「双発半」ってところなのに……」

アントネッリ「なに、こんなのは自転車と同じさ。一度飛ばしたら、身体が覚えているよ……タワー、こちらアルチェーレ。着陸進入灯を確認した」

管制塔「こちらタワー、了解。 そちらの降下角は3度。進入角適正、グライドスロープに乗っている…そのままアプローチせよ」

アントネッリ「了解……少し出力を高めにして着陸するぞ」

副操縦士「了解」

…次第に迫ってくる灰色の滑走路と、次第に緊張の度合いを高めている操縦室や基地の雰囲気とは反対に、穏やかでのんびりした様子の日差しと地中海……すでに滑走路の両脇と誘導路上には消防車や救急車が待機している…

副操縦士「……高度300フィート」

アントネッリ「よし、出力を絞る……ようそろー…」

副操縦士「高度100…50…30……」

アントネッリ「よーし…まだだ、まだ……着陸!」最後に軽くふわっと迎え角を取ると、主脚が軽く「ドンッ…」と滑走路に触れた…

副操縦士「ブレーキ!」

…停止したエンジンがある中でプロペラピッチを変更してリバーサーを使うと、出力の差で機首が振れ地上偏向してしまう可能性があるので、リバーサーはかけない……滑走路の先を見据えつつブレーキペダルをいっぱいに踏むアントネッリ……すると、まるで停止する気がないようにぐんぐん滑走を続けていたオライオンが次第に速度を落とし、滑走路の半分を過ぎた辺りでしずしずと止まった…

副操縦士「と、止まった……」

アントネッリ「…ふぅ♪」

機上整備士「はぁ……寿命が縮まるかと思いました」

アントネッリ「そうか? …で、午後のフライトはどうする?」

副操縦士「勘弁して下さいよ…!」

………
765 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/14(金) 01:51:03.89 ID:9Xa7PuwX0
アヴィエーレ「……それで、結局原因は何だったんだい?」

提督「聞くところによると燃料に不純物が混じっていたとかなんとか…あの時はまだまだマルタ辺りにも深海棲艦が出ていたから、あちこちの航空基地は突貫工事で増設していたし、そのせいだったみたい……とにかくその件でジュリアは「非常時に冷静かつ的確に行動した」ということで功労賞をもらったのよね」

アヴィエーレ「へぇ…それにしてもずいぶん細かい部分まで知っているんだね、提督?」

提督「えぇ、何しろジュリアがベッドの中で「ちょっと寝物語にお話ししようか…」って話してくれたから」

ドリア「まぁ、ふふふっ♪」

ガリバルディ「提督らしいわね……♪」わざと大仰にウィンクを投げるガリバルディ…

提督「あら、でも仲のいい士官同士でそういう話は結構するものよ……失敗しそうになった話とか、ちょっとしたおふざけの話とか…」

エウジェニオ「失敗談ねぇ……提督は何かある?」

提督「私? それはもう失敗だらけよ…もっとも、背筋が凍るほどのものはあまりないから、そういう面ではツイているのかもしれないけれど」

ライモン「提督は失敗だらけなんかじゃありませんよ。運がいいことは本当ですけれど」

提督「そうね、ライモンを始めみんなに出会えたんだもの…確かに運がいいわ♪」

ライモン「///」

カヴール「提督のお話は面白いですね、他にも合ったら拝聴したいですね。 …どのみちこのお天気では鎮守府の中で缶詰でしょうし」

提督「そうねぇ……」

カヴール「例えばトゥーロンのエクレール提督とはどのような…?」

提督「さてはカヴールったら……最初からその話が聞きたかったんでしょう」

カヴール「はて、何のことでしょうか…私には分かりかねます♪」

提督「もう……まぁいいわ、それじゃああの「パリジェンヌを気取ったプロヴァンスの田舎娘さん」の話をするとしましょうか♪」

………

…しばらくして…

提督「ふぅ……クロワッサンと揚げタマネギの話だけでこんなに盛り上がるとは思わなかったわ」

カヴール「面白いお話を拝聴させていただきました…♪」

提督「それなら良かったわ…ところで、誰かそろそろ変わってくれないかしら? 私はトークショーの司会者じゃないのよ?」

デュイリオ「そうですね、でしたらわたくしが一つ昔話をするといたしましょう。 神様は人間を救いたいと……」

オタリア「……大型潜水艦オタリア以下四隻、鎮守府近海の哨戒から帰投いたしました!」

提督「あぁ、お帰りなさい。みんなお疲れ様…って、びしょびしょじゃない……!」

カッペリーニ「まぁまぁ、潜水艦なんていつもこんなものですよ…それにひどいときは潜航していましたから」

提督「それにしたって……ほら、ほっぺただってこんなに冷たい…」

カッペリーニ「あ…っ///」

提督「いまは簡単な報告だけでいいから、とにかく暖まっていらっしゃい…それとお昼にはスープを作ってあげるわね♪」

トリチェリ「ありがとうございます…ではお風呂に行ってきます」

提督「ええ。お湯は好きなだけ使えるのだから、ゆっくりしてくるといいわ」

ガリレイ「なんとも素晴らしいことね…それでは、ガリレオ入浴してきます♪」

提督「ええ、行ってらっしゃい……それじゃあその間に作っておくとしましょう」

エリトレア「はいっ、今日は茸入りのクリームスープにでもしましょう♪」

提督「いいわね…♪」

………

766 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/18(火) 01:51:11.65 ID:z/mKo+iM0
…午後・待機室…

ライモン「雨、止まないですね…」

提督「そうね…それどころか、気象通報によるとこれからが一番ひどくなるみたい。雷も鳴っているし……」南から吹き付ける風にあおられて窓ガラスに「ざぁっ…!」と打ち付ける激しい雨と、ゴロゴロと地底から響くような遠雷の音が聞こえている…

ルチア「クゥン、ヒュゥ……ン」

提督「あぁ、ルチアったら可哀想に…怖いわよねぇ。よしよし、大丈夫大丈夫……」ルチア用の古毛布を取ってきてフードのようにかぶせ、横に座り込んで頭を撫でてあげる提督……と、壁の電話が鳴った…

ライモン「はい、こちら待機室…アオスタさんですか、どうしました? …了解、提督に伝えますね」

提督「……何かあった?」

ライモン「はい。作戦室のアオスタさんによると、民間船の救難信号をいくつかキャッチしたそうです。 もっとも、いずれもわたしたちの管区ではなく、すでに対応する管区が受信確認しているそうですから……」

提督「…救援に駆り出されることはなさそうね」

ライモン「はい」

提督「どのみちこの天気で民間船の救助となると、駆逐艦では危険すぎるわ…最低でも軽巡クラスは必要になるわね」

(※イタリア王国海軍の軍艦、特に駆逐艦はサイズの割に兵装が過大で、また高速を求めたために安定が悪かった…実際マエストラーレ級「シロッコ」等は荒天下で転覆している)

ライモン「必要となればいつでもおっしゃって下さい。いつでも出られますから」

提督「ありがとう、でもその必要はないはずよ……とはいえ、これじゃあやることもないわね」

ライモン「そうですね…」

提督「仕方ないから部屋の片付けでもするわ…」

ライモン「それはいい考えですね♪」

…執務室…

提督「……ところで、フォルゴーレたちはちゃんと戻ったの?」

ライモン「はい、フレッチアがうんと雷を落としていました」

提督「ならいいけれど…元気なのは結構だけれど、この嵐の中で庭に出てはしゃぎ回るのはちょっとね……」

ライモン「まぁ、彼女たちはみんな「嵐の申し子」みたいなものですから……フレッチア自身も口では「あの大馬鹿たちを連れ戻してくるわ」と言いながら、実際の所は楽しげでしたから…」

(※フレッチア級・フォルゴーレ級…ほぼ同型の駆逐艦グループで、艦名はいずれも「雷」「稲妻」「閃光」「電光」など、雷や放電現象に由来する)

提督「やれやれね。さてと、それじゃあ棚の整理でもするとしましょうか…」私用の本棚から次々とファイルや雑多な資料、書籍を取り出しては執務机やその前に据えてある(普段は秘書艦の娘たちが使う)応接テーブル、椅子の上などに並べていく……

デルフィーノ「失礼します……あ、私も手伝います♪」

提督「あら、ありがとう…でも、スクアーロたちと一緒じゃなくていいの?」

デルフィーノ「はい。だって私は秘書艦ですから……それにスクアーロお姉ちゃんってば、私が怖がるのを知っていて恐怖映画を見せようとするんですよ?」

提督「もう、スクアーロったら意地悪ね…それじゃあ一緒にお片付けを手伝ってもらえる?」

デルフィーノ「はいっ♪」

提督「グラツィエ…それじゃあ本はこっち、資料はこっち……これはいらないパンフレットだからゴミ箱に…と」

ライモン「提督、これはどうしましょうか?」

提督「それは要るわ…とりあえず判断に困るようなものはそっちの「保留」の方に置いておいて?」

ライモン「分かりました」

デルフィーノ「提督、しおりが出てきました」

提督「あぁ、そんなところにあったのね……この間から見つからなくって探していたの」

デルフィーノ「見つかって良かったですね…って、写真もありましたよ♪」

…一冊の本の間からひらひらと舞い落ちた写真を拾い上げたデルフィーノ…写真はどこかの公園の噴水の前で、提督を中心にして十人ほどが笑みを浮かべている…

提督「どれ? あぁ、それならここに赴任する前ローマで撮った写真ね。そのとき集まることが出来た仲のいい知り合いと出かけたときに撮ったの」

ライモン「…この写真に写っている全員が、ですか?」

提督「えぇ、まぁ…ローマにいたときはちょっと「親しい間柄」になっている知り合いが多かったものだから///」

ライモン「………」

767 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/23(日) 02:45:04.02 ID:VpTt/Sbu0
デルフィーノ「…でも意外ですねぇ」

提督「何が?」

デルフィーノ「だって提督のことですから、きっと目も覚めるような美人さんばかりとお付き合いしているものとばかり思ったんですよぅ」

提督「あぁ、そういうこと……」

デルフィーノ「はい」

提督「…確かに私の知り合いには顔だけ見ると「美人」に含まれない人も多いかもしれないわね…でもね、彼女たちにはそれぞれ素敵ないいところがあって、私はそれが好きでお付き合いしていたの♪」

………

…一年前・ローマ…

カンピオーニ大佐(提督)「うーん…いい気持ち♪」

栗色の髪をした士官「そうねぇ……ここから眺めている分にはローマもいいものね」

ぽっちゃりした士官「確かに。ローマは観光ならいいけれど、実際に過ごすとなるとねぇ…」

細身の美人士官「言えてるわ…物価も高ければ渋滞もひどいし、おまけにほこりっぽいんだもの……嫌になっちゃうわよね、フランカ?」

提督「ええ、まったく♪」


…ローマを望む郊外の丘で寝転んだり座ったりしている提督たち…そして提督の左側にはくっきりした目鼻立ちの美人が座って提督の髪を指先でもてあそび、右隣にはそれと対照的な、黒と白の地味な服を着たやせこけた女性が座っている……そのやせっぽちの士官は野暮ったくカットした黒髪と大きなレンズの丸眼鏡のせいで、まるでティム・バートンが描くキャラクターか何かのように見える…


美人士官「それにしても昨日はあんなに冷え込んだのにね…洗濯屋さんから冬物のコートを慌てて取ってきたのが馬鹿みたいだわ」

やせっぽちの士官「仕方ないわ。秋の天気は我が国の首相と同じくらい変わりやすいのよ…」

一同「「くすくすっ…♪」」

提督「…ふふっ、相変わらず冗談が上手なんだから♪」

やせっぽちの士官「ありがと、フランチェスカ……」

…昼時…

提督「はい、どうぞ。あり合わせの材料を挟んだだけだけれど、結構上手く出来たと思うから、良かったら食べてみて?」

…細いバゲット風のパンに、薄切り牛肉やアーティチョークのピクルス、あるいはマリナーラソースやガーリック風味のオリーヴ、白身魚のフライなどを挟んで、それを柳のバスケットに入れて持ってきた提督…

勝ち気そうな士官「へぇ、それじゃあお一つ…」

美人士官「では私も遠慮せずにいただくわ。 …ん、ボーノ(おいしい)…さすがはフランカね♪」それぞれサンドウィッチを手に取り、色づいた木々の葉や古代ローマの遺跡を眺めながら頬張った…

提督「ふふ、ありがと♪」

栗色髪の士官「本当に料理が上手よねぇ……っと、いけない!」うっかりマリナーラをスカートにこぼしてしまい、慌ててハンカチを取り出しこすろうとした…

ぽっちゃりした士官「あぁ、だめ! こすったら染みついちゃうわよ…ちょっと貸して?」自分のハンカチを二つに折ると、片側を手元の「ペレグリーノ」(無糖の瓶入り炭酸水)で湿らせ、こぼれた部分にあてがって挟むようにすると、上から湿った方で「とんとんとん…っ」と叩いた…

ぽっちゃり士官「こうすれば……ほぉら♪」しばらく叩いてハンカチをどけると、クリーム色のスカートの染みがほとんど見えなくなっていた…

栗色髪の士官「まぁ、ありがとう♪」

ぽっちゃり士官「ノン・ファ・ニエンテ(いいのよ)…こういうのだけは得意なんだから、任せてよ♪」

………



提督「…とまあ、みんなそれぞれいいところがあって……この頬杖をついている女性(ひと)は話が上手だからお店でおまけしてもらえたり」

デルフィーノ「それじゃあこのお姉さんは?」

提督「あぁ、アデーレね…彼女は記憶力が抜群で、どんなにくだらない事でも聞けばだいたい覚えているの……ローマでは借りていた部屋の鍵を無くしたときに見つけてくれたことがあるわ」

ライモン「みなさん色んな特技をお持ちなんですね……」

提督「もちろん得意なことのある女性もいたけれど、それよりもまず「一緒にいて気持ちのいい女性」かどうかね…だから顔は美人でも性格の悪い人とはあんまり付き合わなかったわ。反対に心根のいい女性とは、容姿とか関係なしによくお付き合いしたものよ♪」そう言うとちょっといやらしい笑みを浮かべ、わざとらしくウィンクしてみせた…

デルフィーノ「……提督ってばえっちです///」

提督「そうね…毎日お盛んな貴女ほどじゃないけれど♪」

デルフィーノ「///」

提督「それで、その後は私の部屋に行こうって話になって……」
768 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/25(火) 02:40:21.34 ID:QNjW4uNI0
…夕刻・提督が借りているアパートの部屋…

提督「…ちょっとここで待っててね、部屋を片付けてくるから」キーリングを取り出して鍵を開けると、笑みを浮かべて手で押しとどめるようなジェスチャーをした…

美人士官「ふふ、そう焦らなくたっていいわよ……ちゃんと待っていてあげるわ♪」

やせっぽちの士官「そうそう。フランカが「一人遊び」で使った玩具をしまう間くらい待っていてあげるもの……」

提督「もう。私は基本的に道具を使わない主義よ…忘れた?」

やせっぽちの士官「そう言えばそうだったわね…」

ぽっちゃり士官「ほら、いいから早く片付けてきなさいよ♪」

提督「あぁ、そうだったわね……」いそいそと部屋に入ると、クッションの形を整えると洗濯物を浴室のカゴに放り込んで目隠しのタオルをかぶせ、それから部屋の上空に向けて軽く香水を吹いた……

…数分後…

提督「ふぅ、お待たせ…」

美人士官「待つって言うほど待ってないわ……もう入ってもいいのね?」

提督「ええ、どうぞ♪」

栗色髪の士官「それじゃあお邪魔します…なんだ、きちんとしているじゃない♪」

提督「表向きだけはね……さ、どうぞかけて? それと椅子が足りないから、ベッドに腰かけてくれて構わないわ」

美人士官「それじゃあ私はベッドでいいわ…どうぞ皆は椅子を使って?」

やせっぽちの士官「それはご親切に……でも私は身体が骨張っているから、椅子だと腰が痛くなるの。だからベッドにするわ」

ぽっちゃり士官「反対に私はご覧の通りでしょ? 椅子なんかに座った日には椅子が壊れるか、肘掛けの間に挟まって抜けられなくなっちゃうのがオチね……と言うわけでベッドに座らせてもらうわよ、フランカ♪」ぽっちゃりとした丸っこい顔にえくぼを浮かべ、ベッドに腰かけた…

提督「ねえ、何も皆してベッドに座ることはないじゃない……これから夕食にするけれど、飲み物は何がいい? あるのは白、赤、カンパリ、アプリコットリキュールがほんの一口、まだ開けてないグラッパが一瓶…あとはミネラルウォーターに炭酸水、紅茶、コーヒー……冷蔵庫にオレンジとレモンがあるから、絞ればオレンジジュースとレモネードもできるわ」

やせっぽちの士官「それじゃあ赤ワイン…」

勝ち気そうな士官「私も赤で」

美人士官「私はカンパリソーダを♪」

ぽっちゃり士官「白があるなら白をもらうわね」

栗色髪の士官「じゃあカンパリオレンジにしてくれる?」

提督「了解、それじゃあ今から何か作るわね…と言っても残り物か、すぐ作れるものばかりだけれど♪」

…提督は部屋を片付けるついでに、お出かけの時に着ていた栗色のタートルネックを着心地のいいロングワンピースに着替えていたが、その上にエプロンをつけた……それぞれにグラスを渡すと、少し手狭な台所に戻って忙しく立ち回り始める…

ぽっちゃり士官「良かったら何か手伝おうか?」

提督「そうねぇ、それじゃあそこにフォークとナイフ、スプーンがあるから並べておいてもらって……とりあえずはそれくらいかしら」

ぽっちゃり士官「ん、分かった♪」肉付きのいいおばさん体型ではあるが、動きはバレリーナのように軽やかでテキパキしている…

提督「…それからおつまみ代わりにアンティパスト(前菜)をどうぞ♪」冷蔵庫に残っていたルッコラやトマトを適当に切ったりちぎったりして器に盛り、残っていた瓶詰めのオリーヴと固ゆでの卵をスライスして散らした…

美人士官「ねぇフランカ、夕食はまだ待てるから一緒に座りましょう……ね?」

やせっぽちの士官「…と、狼が舌なめずりをしながらいいました」

ぽっちゃり士官「ぷっ…♪」

勝ち気な士官「あっははは…傑作♪」

美人士官「もう……そんなつもりじゃないわよ?」

提督「ふふっ、もうちょっとだけ待っててね…はい、お待たせ♪」自分のグラスを持ってくると椅子に腰かけてフォークを手に取った…

栗色髪の士官「それじゃあいただきますか……」

提督「ええ、召し上がれ♪」

………

769 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/05/29(土) 03:52:42.43 ID:nFNXQIHz0
美人士官「相変わらず料理が上手ね、フランカ」

提督「グラツィエ♪」

ぽっちゃり士官「本当にね……このパスタも本当に美味しいわ。こんなに美味しい料理をごちそうになったら食べ過ぎちゃって、ますます太っちゃうわよ♪」そう言うと肌つやのいい頬にえくぼを浮かべ、派手なウィンクを投げてみせた…

提督「ふふーん♪ …実はね、そのレシピは私が母親に教わった「とっておき」の一つなの」

勝ち気そうな士官「へぇ……つまりフランカは今日の夕食が「とっておき」だと思ってるわけか」

提督「さぁ、どうかしら?」ワイングラスを軽く揺さぶりつつ、意味深な笑みを浮かべる提督…

美人士官「そうね、少なくとも私は期待……しているわよ?」

提督「ふふっ、もう…貴女にそんなことを言われたら、みんな胸が高鳴っちゃうわよ?」

美人士官「さぁ……それは私との関係にもよるんじゃないかしら」テーブル越しに腕を伸ばし、人差し指と中指で提督の首筋を軽く撫でた…

提督「…んっ///」

やせっぽちの士官「……食事中はお行儀良くって聞いたことがない?」

美人士官「あら、妬いちゃったかしら…フランカ、もう一杯ワインをいただくわね♪」

栗色髪の士官「明日は勤務じゃないの?」

美人士官「ふふふ、明日は休み……それに車も駐車場に停めてあるし」

栗色髪の士官「さすがに作戦課ともなると手際がいいわね…」

美人士官「そういうこと……ところで貴女は?」

栗色髪の士官「私も明日はお休みよ。何しろ土曜日だもの♪」

勝ち気そうな士官「あーあ、佐官クラスにもなるとお休みが多くて結構ですね…私みたいな中尉クラスは「貧乏暇なし」ってやつなのに」

やせっぽちの士官「……それは貴女が魚市場の人間みたいに喧嘩っ早いせいね。仕方ないわ」

栗色髪の士官「ふふっ…♪」

勝ち気そうな士官「ふんっ、言ってくれるよ…まるで新月の晩みたいに暗いくせしてさ♪」口ではそう言いつつも、大きく腕を広げておどけた態度を取っている…

提督「さぁさぁ、言い合いはそこまで……ドルチェ(デザート)を持ってくるわね♪」

勝ち気そうな士官「いいね。それじゃあ私はそれをいただいて帰るとするかな…もし停めておいたヴェスパがコソ泥に盗まれていなきゃね」

やせっぽちの士官「あら、ヴェスパ(スズメバチ)がヴェスパに乗るとは驚きね……フランチェスカ、私もドルチェをいただいたらお暇するわ」

提督「分かったわ。二人とも気をつけて帰ってね?」

やせっぽちの士官「ええ、でも彼女がいるから大丈夫。向こう見ずで見境なしにかんしゃく玉を破裂させるのが悪い癖だけれど…」

勝ち気そうな士官「人を鉄砲玉みたいに言うな!」

やせっぽちの士官「ごめんなさい…確かに貴女は鉄砲玉じゃないわ。 …鉄砲玉なら雷管を叩かないかぎり飛び出さないもの」

勝ち気そうな士官「このっ、口先だけは上手な……フランカ、とっととドルチェを持ってきてよ! この女と来たら食べ物か飲み物が口の中に入っていない限り、この世の終わりまでずーっと皮肉を言い続けるつもりなんだから!」

提督「ふふふっ…了解♪」

…食後…

美人士官「さ、いらっしゃい…♪」

提督「ええ…って、私のベッドよ?」ワイングラスを片手にしたままベッドに腰かけ、相手の肩にもたれかかっている…

美人士官「ふふふ、そうだったわ…」

提督「……ねぇ、アウローラ///」

美人士官「どうしたの、フランカ?」

提督「ん…♪」

美人士官「ん……ちゅっ♪」

提督「ん、んっ、んっ……んんぅ、ちゅっ、ちゅぅぅ…っ♪」

美人士官「んっ、んむっ、ちゅっ……♪」

………

770 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/06(日) 02:16:02.90 ID:/FUgEzhX0
提督「あっ、ふあぁ……あふっ♪」

美人士官「ん、んっ…んんっ♪」

…腕を伸ばして飲み干したワイングラスをベッド脇の小机に置くと、そのまま指と脚を絡め合い、長いキスをする……白くほっそりした美人士官と、ほのかにクリーム色を帯びた豊満な提督は好対照で、揺らぐ炎のようにベッドの上で脚が交差する…

美人士官「フランカ……フランカ…っ♪」

提督「アウローラ…はむっ、ちゅぅ……っ♪」

美人士官「ふぅっ、んんぅ…っ、はう…っ……♪」

提督「……指、入れるわね♪」ちゅぷ…♪

美人士官「ふぁぁぁっ、あっ、あっ、ああぁ…っ!」

提督「んふふっ、アウローラったらそんな大声を出して……他の部屋に聞こえちゃうわ」

美人士官「だって、フランカの指がっ……んあぁぁっ♪」

提督「ふふふ、アウローラったら相変わらずここが感じやすいのね…それじゃあもう一本……と♪」くちゅり…っ♪

美人士官「あぁぁぁんっ♪ フランカ、フランカぁぁ…っ♪」提督の綺麗な人差し指につづいて、中指が花芯に滑り込む……そのまま第二関節までするりと入れて優しく指を動かすと、がくがくと腰が跳ねた…

提督「私はここよ……んっ♪」身体は重なり合ったまま顔だけ少し離すと、提督のずっしりとした髪の房が胸元にこぼれる…それからまた顔を近寄せていき、舐め取るように唇を交わす…

美人士官「はぁ、はぁ、はぁ…っ♪」厚手のストッキングと黒の下着をずりおろしてはいるが、粘っこい蜜がまとわりついて染みを作り、提督が指を動かすたびに湿っぽい音が響く…

提督「……それじゃあ、行くわね」

…金色をした提督の瞳が熱っぽい輝きを帯び、頬や胸元に赤みが差す……脚を曲げ伸ばししたり身体をくねらせたりしてランジェリーを脱ぎ、それをベッドの足元に放り出すと、ゆっくりと身体を重ねていった…

美人士官「はぁぁぁ…んっ///」

提督「んんぅ…♪」

栗色髪「……あんなの見せられたら、こっちまで変な気分になるわよね///」

ぽっちゃり「…じゃあ、私たちもする?」

栗色髪「え、ええ……///」

ぽっちゃり「分かった…それじゃあ最初はキスから♪」

栗色髪「んっ…はむっ、んちゅっ、ちゅぅ…っ、んふぅ……っ♪」食卓の椅子に腰かけた栗色髪の士官と向かい合わせになるようにして、ぽっちゃりした方がまたがった…

ぽっちゃり「大丈夫? 潰れてない?」

栗色髪「だ、大丈夫だから……来て…ぇ///」

ぽっちゃり「了解…椅子が壊れないといいけど♪」ぐちゅぐちゅ、にちゅ…っ♪

栗色髪「んふぅ、んんぅ、んむぅぅ…っ!」

…数十分後…

栗色髪「ぷはぁっ…! はぁ、はぁ…んはぁぁ……///」

美人士官「はふっ、はひぃ……っ♪」

ぽっちゃり「はぁぁ、こんなの久しぶりに味わったわ…でも、まだ身体がうずくのよね♪」

提督「あら、奇遇ね……私ももっと甘い声を聞きたい気分なの♪」

ぽっちゃり「そう…それじゃあ、と……♪」椅子を降りると提督と美人士官が寝転がっているベッドへとにじり寄り、提督を押し包むようにのしかかった……たぽたぽと揺れる胸とお腹の肉が提督の肌にぺたりと吸い付き、甘い蜂蜜めいた匂いと汗ばんでしっとりした肌触り、それに身体の熱が伝わってくる…

提督「んんっ、暖かくて……それに柔らかい♪」

ぽっちゃり「お布団にちょうどいい?」

提督「ええ…こんな布団があったら一日中ベッドから出ないわ♪」

ぽっちゃり「一日中はさておき……一晩中なら出来るわよ♪」赤ちゃんのような丸っこい可愛らしい手で、提督の秘部をなぞった…

提督「あん…っ♪」提督もお返しとばかりに、ぽよぽよと柔らかい乳房を「ぎゅむっ♪」と揉みしだいた…

ぽっちゃり「あうんっ……このぉっ♪」

提督「ふふっ…んぅっ、あんっ…ふあぁあぁんっ♪」

………

771 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/08(火) 01:39:02.21 ID:VzmfaJYu0
…翌朝…

ぽっちゃり「おはよう、フランカ……おはようってば♪」

提督「おは…ふあぁぁ……///」あくびをもらし、口元に手を当てた…

ぽっちゃり「ふふ、寝起きの顔も可愛いわよ……目は覚めた?」

提督「ふわ…ええ、まぁどうにか……」

…寝ぼけまなこのまま洗面台に向かうと水道をひねる……水道の調子はいつも通りイマイチで、蛇口をひねるとゴロゴロと音を立て、水が間欠泉のように勢いよく出たり弱まったりする……提督は眉をひそめ、古代ローマの水道に比べてこれでは「さして進歩がない」どころか退化していると思いながら顔をゆすいで歯を磨き、うがいをした…

ぽっちゃり「はい、コーヒー…それと、勝手だけれどシャワーを使わせてもらったわ」

提督「ええ、どうぞ遠慮なく……タオルの場所は分かった?」

ぽっちゃり「もちろん♪ 勝手知ったる他人の家…ってね♪」

提督「なら良かったわ……そうそう、帰る時になったら教えて? せっかくだし送るわ」ベッドに腰かけるとコーヒーのマグを受け取る…

ぽっちゃり「ありがとう…でもまずはフランカがスッキリしてからね♪」

提督「そうね。…あ、朝食はどうする? パンとカフェオレくらいで良ければ用意するけれど」

ぽっちゃり「お気遣いどうもね…でも大丈夫、帰ってから食べたっていいし、トラットリア(軽食堂)に寄ったっていいんだから」

提督「分かったわ」

美人士官「うぅ…ん♪ こんな朝早くからどうしたのよ……?」

ぽっちゃり「あら、眠り姫のお目覚めね……ついでにこっちも起こしてあげるとしますか♪」

栗色髪「ん、んふぅ……あぁ、おはよ…///」

ぽっちゃり「おはよう♪ ほら、フランカが送ってくれるっていうから、着替えちゃいましょう」

栗色髪「あぁ、はいはい…あれ、ブラはどこに脱いだっけ」

美人士官「これじゃない?」

栗色髪「ああ、それ……ねぇ、アウローラ。これ、貴女のストッキングじゃない?」

美人士官「あら、ありがとう…フランカ、良かったら貸してあげましょうか?」

提督「あら、それってどういう意味かしら?」

美人士官「ふふふっ、分かっているくせに…♪」

…しばらくして…

大家のおばさん「あら海軍さん、おはよう。今日はお休み?」

提督「おはようございます、おばさん…ええ、お休みです♪」

大家「それは良かったわね……そうそう、後でおかずをおすそ分けしてあげるわね」

提督「ふふ、嬉しいです。おばさんのお料理は美味しいですから♪」

大家「ありがとね、そう言ってくれるとこっちも張り合いがあっていいわ……ところで、昨夜は楽しかった?」ひそひそ話をするような様子で口元に手の甲を寄せると、邪気のないウィンクを投げた…

提督「もう、おばさんってば……♪」

大家「冗談よ。それにしても今まで色んな士官さんに部屋を貸してきたけれど、貴女は一番いい店子だわよ」

提督「グラツィエ……それではちょっと彼女たちを送ってきますので」中庭の一部を使った駐車スペースに停めさせてもらっている「ランチア・フラミニア」に乗り込もうとした…

大家「ええ「彼女たち」をね♪」

提督「もう、そっちの「彼女」じゃありませんって…♪」

………



提督「……今思えば我ながら「奔放な生活」だったとは思うけれど、何だかんだで結構楽しかったわね」

デルフィーノ「それを聞くと、提督がここに飛ばされたのも仕方ない気がしますねぇ」

ライモン「でも、そのおかげでわたしは提督と出会えたわけですけれど…///」

提督「そうね…おかげで私もライモンたちに出会えたんだもの。幸運に感謝しなくちゃ♪」

ライモン「そうですね///」
772 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/06/14(月) 02:56:21.09 ID:lYmtJ9450
…夕食後・バーカウンター…

ニュース番組「……低気圧は勢力を弱めつつありますが、依然として海上は風力4〜6程度の風が吹き荒れ、波浪注意報も発令されています。また、リビア沖で数隻の貨物船から救難信号が発信され、現在海軍と沿岸警備隊が救助にあたっているとのことです…」

ガリバルディ「…この時化の中で難航だなんて、聞くだけでもいただけないわ」

提督「そうね…気象通報によると、この低気圧もあと数時間で通り過ぎるっていう話だけれど……」

ザラ「嵐が無事に過ぎ去って、こっちにまで救援要請が回ってこないで済めばいいわね」

提督「そうねぇ…ポーラ、もう一杯だけ注いでもらえる?」

ポーラ「はぁ〜い♪」

フィウメ「それにしても、時化というとポーラ姉さまの件を思い出しますね」

ザラ「ああ、アレね……おかげでしばらくは鎮守府のワインセラーが一杯だったもの、貴女には感謝してるわ」

ポーラ「えへへぇ、それほどでも…♪」

提督「…というと?」

ゴリツィア「ああ、そう言えばあの時はまだ提督の着任前でしたね……」

………

…提督の着任以前・とある悪天候の日…

ポーラ「こんな天気に出撃もないですよねぇ……」白く逆巻く波頭と灰色がかった海面を艦橋から見下ろし、身体の水平を保ちながらコーヒーをすすっている…

ポーラ「…戦隊旗艦より各艦へ、大丈夫ですかぁ? 減速が必要なら言って下さいねぇ?」

ジュッサーノ「こちらジュッサーノ、滅茶苦茶がぶっている以外は大丈夫です。ただ、この状況ですから一番砲塔は使用不能です」

バルビアーノ「バルビアーノ、同じく……」

カドルナ「駆逐隊を連れてこなくて良かったわね…この時化ぶりじゃあひっくり返っちゃうでしょうし」

ディアス「同感…軽巡の私たちでさえこの有様なんですから」

ポーラ「それでも戦果があれば良かったのに、空振りですものねぇ…とにかく帰ったら暖かいお風呂ですねぇ♪」ギリシャ海軍からの「敵艦複数見ユ」の通報を受け、低気圧の隙間を縫ってどうにか出撃したものの、誤報と分かりげんなりしているポーラたち…

ジュッサーノ「賛成、ところで……」

ポーラ「ん? ジュッサーノ、ちょ〜っと待って下さいねぇ……」艦の無線に鎮守府からの通信が入ってきた…

ポーラ「えぇ、と……鎮守府より「…そちらの位置から針路275度、距離およそ30浬の地点で貨物船「ワン・スイ・グランド」号より救難信号。可能ならば救援されたし…」ですかぁ…」

…その当時はまだ予備扱いで、司令官となる提督が着任していない鎮守府の「艦娘担当官」としては、任意とは言え管区司令部の要請はなかなか断りにくい…

カドルナ「……距離的には行けなくはないですが、これからさらに時化るそうですよ?」

ポーラ「ん〜…とはいえ見捨てるわけにも行きませんねぇ……とりあえず行ってみましょ〜う」

ジュッサーノ「了解」

…一時間半ほどして…

ジュッサーノ「…これは大変ね」

ポーラ「そうですねぇ……」

…ポーラたちが双眼鏡を向ける先では、船体をグレイに塗った一万トンクラスの貨物船が難航していて、貨物甲板の40フィートコンテナ数個が荷崩れを起こしかけて傾いている……そのコンテナは濃いブルーの地に「WAN SUI」と白フチ付きのロゴが入っていて、他の文字が青文字なのに対して「A」と「U」だけが赤文字になっている…

ポーラ「こちらイタリア共和国海軍、重巡「ポーラ」より貨物船「ワン・スイ・グランド」へ、聞こえますか? 状況を教えて下さい、どうぞ?」

貨物船「こちら「ワン・スイ・グランド」聞こえます…本船は二時間ほど前に三角波を受けてコンテナが荷崩れを起こし、同時に機関の一基が損傷、浪に対して船首を保つのがやっとの状態です…どうぞ」

ポーラ「了解、今から救援を行います…」

ジュッサーノ「ポーラ、気象通報ではこれからますます時化るって……!」

ポーラ「分かってます…ここは私が曳航を試みてみますからぁ、ジュッサーノたちは安全のために先に戻って下さいねぇ」

ディアス「冗談でしょう? いくらポーラが重巡だからって、一隻だけで貨物船を港まで曳航するなんて無理です」

ポーラ「ポーラはぁ〜「港まで」曳航するなんて言ってませんよぉ…このまま嵐が収まるまで、曳航状態で一緒にいてあげるつもりですから♪」

カドルナ「そんなのだめです、敵潜のいい的にされます!」

ポーラ「こんな時化の最中に魚雷を撃てる潜水艦なんていませんよぉ……それに「誰かが助けに来てくれる」ってとっても嬉しいことだって、ポーラはよ〜く知っていますから…ね?」

ジュッサーノ「…分かりました」

773 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/19(土) 13:39:09.99 ID:gYeCE8mI0
…十数分後…

ポーラ「ポーラより「ワン・スイ・グランド」へ、これより曳索を投げます…どうぞ」

貨物船「了解、受け入れ準備完了…投げて下さい!」

ポーラ「それでは、トーレ、ドゥーエ、ウーノ……それっ!」


…ポーラは浪に振り回される貨物船と衝突しないよう絶妙な位置に艦を寄せ、後甲板の旗竿の辺りから小アンカーの重りをつけたロープを投げ縄のように振り回してから放った……ロープには丈夫な鋼鉄製ワイヤーが繋がれていて、がちゃんと派手な音を立てて船首甲板に落ちたアンカー付きロープを目立つ黄色の防水外套を着込んだ貨物船の乗員たちが、つるつると滑る甲板上で悪戦苦闘しながらもどうにか受け取ってたぐり寄せ、ワイヤーを結びつける…白い波飛沫で時々船員の姿が隠れる中で数分ばかり待っていると、無事に曳索を結びつけたらしく船員が手を振った…


貨物船「こちら「ワン・スイ・グランド」…無事に曳索を結びつけました、どうぞ!」

ポーラ「こちらポーラ、了解…それではこのまま「ヒーブ・ツー」しましょ〜う」

(※ヒーブ・ツー(heave to)…日本語では「踟躊(ちちゅう)」という。帆船時代からある荒天下での操船法で、最低舵効速力を維持したまま波に二十度ほどの角度を保つやり方)

貨物船「了解、感謝します!」

ポーラ「沿岸警備隊の救難ヘリももうじきやって来ますから、それまで頑張って下さいねぇ?」

貨物船「こちら「ワン・スイ・グランド」了解」時折船体に叩きつける波音が鉄鍋を叩くように「がぁぁ…ん!」と響き、喫水線下の赤く塗られたバルバス・バウが水面に露呈してはまた海面下に突っ込み、そのたびに派手な波飛沫が揚がる…

ポーラ「うーん、あとはこのまま時化が収まってくれるのを待つばかりですねぇ…」

………



ザラ「……それから救難ヘリが来て乗組員を助けた後も、ポーラは数時間貨物船を曳航したままでその海域に留まったのよ」

フィウメ「それから曳船がやって来て曳航を代わったんですが、後でその事を聞いた海運会社の社長さんが「無事に船とクルーを救ってくれたお礼に、何でも好きなものを寄付したい」って言って…」

ゴリツィア「それでポーラは「それじゃ〜あ、鎮守府の食卓を豊かにするためにワインを寄付してくれませんか〜?」って…」

ポーラ「そうなんですよぉ……でもポーラはぁ、せいぜい数ケースだろうと思っていたんですけれどぉ、届いてみたらなかなかのワインがここのセラー一杯になるくらいあって…えへへぇ♪」

ザラ「なんでも向こうのエライ人いわく「船員と船を救ってもらったお礼がワインなら安いものだ」だって……額が額だけに、海軍最高司令部にはああだこうだ言われたけれど「艦娘」個人への寄付は認められているからって押し通したのよ」

提督「なるほど……でも確か前に聞いたときは「とある社長さんが乗っているクルーズ船を救助した」って言っていたような…」

フィウメ「くすくすっ。まぁ、このエピソードは話すたびに設定が変わるんですよ…特にお酒を飲んでいる時は♪」

提督「それじゃあきっとすごい尾ひれが付いているに違いないわね……まぁ、よくあることだけれど♪」

ザラ「ふふふっ♪」

ポーラ「えへへぇ…♪」

提督「面白い話を聞かせてもらったわね……それじゃあ、お休み」

ザラ「お休みなさい」

…翌日…

提督「さてと…それじゃあ、あの嵐でここの庭先がどうなったか確認しないと。それに海面の流木なんかは回収しないと出撃に差し障るし……」

アッチアイーオ「ええ…とにかくあの様子じゃあ無茶苦茶になっているに違いないわ」

提督「そうね、まずは様子を確かめて…それから片付けが必要なら皆にも手伝ってもらいましょう」

…軍用ブーツに濃緑色の作業つなぎを着て、胸ポケットにセーム革の手袋を押し込んだ「作業スタイル」の提督……アッチアイーオも青みがかった黒色のウェットスーツ風の「艤装」をまとい、足元を丈夫な革長靴で固めている…

デルフィーノ「私も手伝いますよ、提督っ」イルカらしい濃灰色と淡灰色のツートンカラーでまとめられたボディスーツを着て、しなやかで長い濃灰色の髪をポニーテールに結い上げている…

提督「ええ。頼りにしているわよ、二人とも♪」

デルフィーノ「はいっ♪」

アッチアイーオ「ええ、任せておきなさい」
774 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/22(火) 03:26:31.42 ID:R14M7mbl0
…鎮守府・庭…

アッチアイーオ「……だいぶ荒れたみたいね」

提督「そうねぇ、これでもここは波が穏やかな場所なわけだし…そう考えると昨日の時化は相当だったのね」


…鎮守府が面している海は数キロほど離れた西側の岬と、鎮守府のレーダーが据えてある東側の小さな岬に挟まれた緩やかな三日月型の湾になっていて、内湾ほどとは言わないまでも波穏やかなはずだった……が、浜や西側の波止場周りにはかなりの漂着物が流れ着き、あるいは波打ち際に漂って寄せ波に洗われている…


デルフィーノ「とにかくこれじゃあ浜辺でのんびりも出来ないです」

提督「その通りね…アッチアイーオ、手が空いている娘がいたら呼んできてもらえる? それと来る時は「必ず丈夫な手袋と靴で来ること」って」

アッチアイーオ「了解」青みがかった艶のある黒髪をなびかせて駆けだしていった…

提督「さぁて、それじゃあ出来るものから片付けていきましょうか♪」

デルフィーノ「はい♪」

…数分後…

ドリア「あらまぁ、これはまたずいぶんと色々なものが打ち寄せられたものですね?」

デュイリオ「全くですねぇ…庭の花木もずいぶんと風に痛めつけられたようですし」

カラス「アー…」


…肩に革の当てが付いているベージュ色のセーターを着て、そこにペットのカラスを止まらせているデュイリオ……一応脚には紐が付けられているが、デュイリオのカラスは賢いため、飼い主であるデュイリオの頬に顔を寄せたり羽ばたいてみたりする程度で大人しくしている…


アラジ「さぁ、どんどん片付けちゃおうよ♪」中型潜アデュア級の「アラジ」は出撃55回とイタリア潜一の出撃数を誇ることからとても活発で、数分とてじっとしてはいられないほどの性格をしている……提督たちの傍に駆け寄ってくると、さっそく流れ着いた流木を動かそうとしたり漁網の切れ端を引き上げたりしている…

シーレ「そうね、とっとと片付けないと」


…吸着機雷を敵艦船の船底に取り付ける水中工作用スクーター「人間魚雷」こと「SLC(マイアーレ)」を使ったコマンド作戦で幾度も大戦果を挙げたアデュア級の殊勲艦「シーレ」…そのシーレが同じくSLC搭載潜となっていたアデュア級の「ゴンダル」やペルラ(真珠)級中型潜の「イリデ(虹・アヤメ)」「アンブラ(琥珀)」たちと一緒にやって来て、さっそく腰の左右と背中側に付けたSLC格納筒…のような形をした小物入れからペンチやら大ぶりのカッターナイフやらを取り出した…


ライモン「提督、遅くなりました…!」

提督「あら、ライモン……さっきまで当直だったでしょうに、休まなくていいの?」

ライモン「はい。なにしろレーダー画面の写っているディスプレイをずっと見ていた後ですから…外で身体を動かしたい気分なんです」

提督「ありがとう、一緒に頑張りましょうか……それじゃあこれからモーターランチを出して波止場周りの漂流物を回収する班と、砂浜と庭を片付ける班に分かれることにします。 …海岸の班は、足元に尖ったものが落ちていないか気をつけて作業するように!」

………

…しばらくして…

提督「ふぅぅ……これでどうにか出撃が出来るようになったわね」


…提督を始め数人は鎮守府のモーターランチとカッターに分乗して、流木や旗付きのブイ、ゴミと海藻が絡まった漁網、空の発泡スチロール容器やポリタンク、古い浮き輪と言ったものをしゃくいあげては波止場に積みあげた……そうして二時間近く経ち、もはや腕を伸ばすのも、たも網を繰り出すのもおっくうに感じるようになった頃、ようやく鎮守府のドックに続く海面が綺麗になった…


ガッビアーノ「きっと漂うものはいつかどこかに流れ着く、そういう運命(さだめ)なのだろうね……」小さい身体にしては妙に世捨て人のような雰囲気をかもし出しているガッビアーノ(カモメ)級コルヴェットの「ガッビアーノ」が、黄色い目を遠くに向けて言った…

チコーニャ「ふぃー、疲れましたねぇ…提督、良かったらチョコレートでもどうですか?」一方で姉妹艦のチコーニャ(コウノトリ)はよく柳のカゴにお菓子や何かを入れて、みんなに持ってきてあげている事が多い…

提督「気持ちは嬉しいわ。 でも、全部終わってからにしましょうね」

チコーニャ「分かりました」

提督「よろしい。それじゃあ分別の方も頑張りましょう♪」流木などの自然物とブイやポリ容器といった人工物は分別して、後で軍のトラックが回収しにくるまでゴミ置き場に置いておく…

チコーニャ「了解です」

………

775 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/06/28(月) 01:57:17.25 ID:2diIYsi60
…しばらくして・食堂…

提督「それにしても、あの流木は結構な量よね……一回で回収しきれるかしら?」

カヴール「ああ、そのことでしたらご心配には及びませんよ」

提督「?」

ディアナ「……ここに漂着したもののうち、プラスチック容器のような人工物は軍のトラックに回収してもらいますが、流木はよく乾かして冬場の暖炉や、外にある直火用グリルの焚き付けに使うのでございます」

提督「そう言えばここには暖炉があったわね…」

…食堂の北側の壁にはレンガ造りの暖炉がしつらえられていて良い雰囲気をかもし出していたが、春に着任した提督はまだ火が燃えている様子を見たことがない…

ドリア「ええ。秋から冬にかけてはそこで焼き栗をしたり…あるいはアルミホイルに包んだジャガイモを灰に埋めておいて焼きジャガイモにしたりもできますよ♪」

提督「あら素敵…♪」

ライモン「それに実際問題として、どうしても冬場は冷えますから…ここはいいところですが、唯一暖房の効きに関してはあまり良くありませんので」

提督「うーん……まぁこれだけの歴史的建物となると、そのあたりはどうしてもね…」


…鎮守府の暖房は各部屋にグリルのような「ラジエーター」の付いているセントラルヒーティング式であることだけは知っていたが、実際のところはまだ経験のない提督……とはいえライモンの意見にうなずいている艦娘たちを見れば、おおよその想像はついた…


チェザーレ「うむ。 ここの暖房は古代ローマと同じ方式でな、裏手に湧いている例の温泉から冷める前の湯や蒸気から暖気を取って循環させているのだ……おかげでいくら動かしておこうが一チェンテージモもかからぬ」

(※チェンテージモ…リラの下にある通貨単位で、日本で言う「銭」にあたる。複数形はチェンテージミ)

提督「言われてみれば施設の書類にそうあったわね…」

ドリア「ただ、ここの源泉は割とぬるいものですから、その熱だけではそこまで暖かくないのが欠点でして……私のような老嬢には堪えます」そう冗談めかすと、口元に手を当ててころころと笑った…

提督「またまた…こんなに張りのあるお婆ちゃんがいてたまるものですか♪」つん…っ♪

ドリア「あんっ…もう提督ったら、おいたが過ぎますよ?」

提督「ふふ、ごめんなさい…♪」

アッチアイーオ「でも、冬場の事を考えるともう少し暖かい寝具が欲しいところね……今度布団でも買おうかしら」

提督「あら、私と一緒に寝るのじゃだめ?」

アッチアイーオ「な、なに言ってるのよ…///」

デュイリオ「そうですよ、提督…それじゃあわたくしがお邪魔できないではありませんか♪」

提督「ふふっ、それもそうね…♪」

アッチアイーオ「はいはい、色ボケ同士で仲良くやってちょうだい…」

デュイリオ「あら、色ボケだなんて……わたくしは単に身体を持て余しているだ…け♪」

アッチアイーオ「だーかーら、そういうのが色ボケだって言ってるのよ!」

デュイリオ「あらあら、アッチアイーオったら怒っても可愛いですわね…♪」大柄なデュイリオはアッチアイーオを抱きしめ、胸元に顔を埋めさせて頭を撫でた…

提督「それにしても秋、ねぇ……美味しいものが増える時季よね」

ドリア「そうですね」

提督「…シルヴィアおばさまは、今年も「あれ」を送ってきてくれるかしら……」

ライモン「提督「あれ」ってなんですか?」

提督「え、あぁ…いいのいいの、気にしないで」

ライモン「はい、提督がそうおっしゃるのなら……」

提督「ええ……みんなのことを考えて、今年は多めに送ってくれるよう頼んでおいた方がいいわね…」

ライモン「?」
776 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/02(金) 02:26:31.37 ID:8wx2Ryv00
…昼下がり…

提督「さてと、それじゃあシルヴィアおばさまに電話しておこうかしら……」携帯電話を取りだして実家の番号をダイヤルすると、耳元に「ルルルル…ッ」と呼び出し音が響く…

…同時刻・クラウディアの寝室…

シルヴィア「ん、あむっ…ん、ふ……♪」

クラウディア「あ……んぅっ……んちゅっ…♪」


…窓から爽やかな秋風がさあっと室内を通り抜けていく中、ベッドで甘い接吻を交わしているクラウディアとシルヴィア……クラウディアは白くて豊かな身体に良く似合う、黒いレースに紅の花模様をあしらった下着姿で、表から帰ってきたばかりのように見えるシルヴィアは、クリーム色のタートルネックセーターと茶色のズボンで、刈り取った雑草と土の匂いをさせている…


クラウディア「ちゅ、あむっ……ん、電話?」

シルヴィア「ぷは…そうみたいね。私が出るわ……」

クラウディア「いいじゃない、電話なんて放っておけば…ね?」一階の廊下で鳴り響いている電話に出ようとベッドから降りたシルヴィアの後ろから腰にしがみつき、甘えたような声をあげる…

シルヴィア「私だってそうしたいけど、何度もかかって来る方が興ざめでしょう……すぐ済ませてくるから」

クラウディア「もう、分かったわよ…それと戻ってくるときには、ちゃんと着替えてきてね?」

シルヴィア「いきなり「キスしたい」って言ってベッドに連れ込んだのは貴女でしょうが…」かすかな苦笑いを浮かべつつ一階に降りると、受話器を取った……

シルヴィア「もしもし、カンピオーニですが……あぁ、フランカ。 相変わらず元気そうね…」壁に斜めにもたれかかるようにして、提督の声を聞く…

シルヴィア「そう、それはよかったわ…それで、どうしたの? …え、ああ……もちろん今年も送るつもりよ。 ええ「艦娘」の娘たちがたくさんいるのは分かっているから、今年は多めにしてあげるわ……」

クラウディアの声「……シルヴィア、いったい誰だったの?」

シルヴィア「フランカよ、クラウディア。 …ええ、クラウディアも相変わらずよ……いま降りてきたわ」

クラウディア「ねぇシルヴィア、フランカからの電話ですって?」下着の上にあっさりしたガウンだけ羽織って、いそいそと階段を降りてきた……

シルヴィア「ええ、可愛いフランカからよ……いま代わるわ」

クラウディア「…チャオ、フランカ♪ ええ、私よ…元気にしているかしら? そう、良かったわね……鎮守府の娘たちも変わりはない?」胸元に手を当てて弾む呼吸を落ち着かせながら、提督と話をするクラウディア……

クラウディア「ああ、そうなのね。良かったわ……そうそう、そう言えばこの間ミラノでファッションショーがあって、いくつか試供品をもらったから、そっちに送るわね…鎮守府の娘たちもお洒落がしたいでしょうし。 それと去年のモードだけれど、秋冬物の服なんかもついでにね♪」

クラウディア「え…いいのいいの♪ 艦娘の娘たちはきっといつもは灰色ばっかりでしょうから、たまにはお洒落を楽しませてあげて?」

クラウディア「ええ、貴女もね……それじゃあシルヴィアに代わるわ♪」電話越しにキスの音を送ると、シルヴィアに受話器を渡した…

シルヴィア「それじゃあそういうわけで、今度の週末には送れると思うから…ええ、またね」さっぱりした言い方ながら、愛情を込めて通話を終えた…

クラウディア「相変わらずそうで何よりね♪」

シルヴィア「そうね……それと、今年は「あれ」を多めに送って欲しいって」

クラウディア「あら、いいじゃない…我が家の秋の風物詩だものね♪」

シルヴィア「ええ……」そう言うとクラウディアの腰に手を回しつつ、親指であごを持ち上げて顔を軽く上向かせる…

クラウディア「あ…っ///」土と草の素朴な匂いに交じって、ふっと爽やかな香水の香りが鼻腔をくすぐった…

シルヴィア「……続きをしましょうか」

クラウディア「…ん♪」

シルヴィア「それじゃあベッドに行くとしましょう……せーの!」かけ声をかけると反動を付け、ひょいとクラウディアを抱きかかえた…

クラウディア「ひゃあん…っ♪」

シルヴィア「ちょっと、そんなに暴れないで……落っことしちゃう」

クラウディア「ええ、分かったわ…///」そのままシルヴィアのうなじに手を回し、下からシルヴィアの整った顔を見つめる…

シルヴィア「……よろしい」ぷるっとしたクラウディアの唇に口づけすると、足元を確かめながら階段を上っていった……

777 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/05(月) 02:08:23.59 ID:+epZ4/2X0
…数日後…

提督「ふわぁぁ…いいお天気……」

…執務室で雑多な書類を片付けると軽く伸びをして、窓際に歩み寄って外を眺めた提督……冷涼な秋風が鎮守府を吹き抜け、暖かい日差しとほどよく交じりあう…海は波もなく穏やかで、真夏のような目に痛いほどの輝きはないが、きらきらときらめいている……と、デルフィーノが入口から顔を出した…

デルフィーノ「提督、正門に宅配業者の方が来ましたよ」

提督「了解…今行くわ」

デルフィーノ「はい」

…鎮守府・正門…

提督「どうもご苦労様です」

宅配業者「どうも…えーと、荷物はこれですね。あて名に間違いがないようでしたら、ここにサインをお願いします」

提督「あて名は…大丈夫ですね。はい、どうぞ」

宅配業者「ありがとうございました♪」帽子に手を当てて軽く会釈をするとイヴェコのトラックに乗り込み、正門前の広い部分でUターンさせて走り去った…

提督「さてさて、この大きな箱は冷蔵品みたいね…と言うことは……♪」冷蔵扱いになっているのは人の一人くらいは簡単に入りそうな大きな木箱で、差出人が実家の「シルヴィアおばさま」になっているのを見て笑みを浮かべた…

ガリレオ「あら、ずいぶんと嬉しそうね?」当直にあたっていたガリレオと、その弟子であるトリチェリが台車を用意する…

提督「ふふーん…まぁね♪」

トリチェリ「何が届いたんですか、提督?」

提督「すぐに教えてあげるわ……さ、運びましょうか」他にも鎮守府のみんなが頼んだものなどを積んで、ゴロゴロと台車を押していく提督たち…そしてルチアも尻尾を振りながら横についてくる…

…食堂の外…

提督「さてと、それじゃあこれを運び入れないとね……いい?」

トリチェリ「もちろんです♪」

ガリレオ「当然♪」

ディアナ「こちらも受け取りの準備は整っておりますよ」庭へと出るドアを兼ねた食堂の大きな窓を開け放っている…

提督「それじゃあ行くわよ、せーの…っ!」いそいそと箱に近づくと膝を屈め、力を込めて持ち上げようとする提督……が、重い箱はびくともしそうにない…

ガリレオ「もう、提督ったら珍しくせっかちじゃない……ほら、私とトリチェリで運んであげるから♪」

トリチェリ「そうですよ…さ、先生♪」

ガリレオ「ええ、そっちは頼むわね…そーれっ♪」大きくかさばるので二人がかりで持ち上げているが、いともたやすく箱を運び入れた…

提督「はぁ、ふぅ……さすが艦娘ね…私なんて腕が抜けそうだったのに……」

ディアナ「…ところで、こんなに大きな箱ですが…中身はいったい何でしょうか?」

デルフィーノ「私も気になります♪」

提督「ふふーん、よくぞ聞いてくれました……デルフィーノ、ルチアを抑えておいてね♪」そう言うと木箱のふたにバールを差し込み「えい!」とこじ開けた…

ガリレオ「これはこれは……すごいわね♪」

トリチェリ「わぁ…♪」

ディアナ「まぁ…」

デルフィーノ「もう、早く私にも教えて下さいよぅ♪」首輪に付けているリード(綱)をつかんでルチアを押さえながら、首を伸ばして箱の中身を見ようとするデルフィーノ…

ルチア「ワフッ、ワンワンッ…!」一方デルフィーノに押さえられているものの、尻尾を振りながら箱に近づこうとするルチア…

提督「…ふふ。毎年秋になるとおばさまが送ってくれるのだけれど、今年から鎮守府に着任したわけだから「みんなの分も送って欲しい」って頼んでおいたの♪」

デルフィーノ「ですから何をです?」

提督「それはね…じゃーん♪」箱の中から取りだしたのは大きな肉の塊で、濃い赤身と外側の白い脂身が綺麗に分かれている……

ロモロ「お肉ね!」

レモ「わぁ…美味しそう♪」くつろいでいた「ロモロ」と「レモ」も目を輝かせてやって来た…

提督「毎年秋になると、おばさまは散弾銃を持ってイノシシ猟をするのだけれど…そのお肉ね」ビニールがかけてあるイノシシの腿肉を、軽く平手で叩いた…

ディアナ「それにしても相当な量でございますね……おおよそ一頭分くらいでしょうか?」

提督「そのくらいはあるはずだから、しばらくはうんと楽しめるわよ。 …もちろんルチア、あなたもね♪」

ルチア「ワンッ!」
778 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/10(土) 03:42:19.82 ID:USquDalD0
…翌日・厨房…

提督「さて、それじゃあどう調理しようかしら?」

ディアナ「部位によって調理法を変えるのがよろしいかと存じますが……それと、今日はどの部分を使うことに致しましょうか?」

提督「そうねぇ…やっぱりあばら肉か腿肉かしら。 固い部分は今日からゆっくり煮込んで、明日以降に食べればいいし、レバーなんかは香味野菜と一緒に調理して、レバーペーストにすればパンのお供に出来るものね」

エリトレア「それはいい考えですねぇ♪」

提督「でしょう? …と言うわけで、まずは「ローストで香ばしく」なんてどうかしら?」

ディアナ「それはよろしゅうございますね…♪」

提督「良かった♪ そうと決まれば、必要なものを用意しないと……」

ディアナ「何を用意すればよろしいでしょうか?」

提督「シンプルなローストとなれば、まずはいい塩だけれど…確か岩塩があったはずよね?」

ディアナ「はい、ございます」

提督「なら塩は大丈夫ね……ローズマリーとオレガノは?」

ディアナ「乾燥ものが少々」

提督「それで充分よ…黒胡椒」

エリトレア「ありますよ♪」胡椒は粒のものを買い、必要な分だけ食料庫から取り出してきては、そのつどオリーヴの木で出来たペッパーミルで挽くようにしている…

提督「ニンニク」

エリトレア「それもあります」

提督「よろしい。あとは付け合わせに茸のソテーでも添えれば充分素敵なご馳走になるけれど……在庫はあったかしら?」

ディアナ「いえ、茸は数日前に使い切ってしまいましたので…」

提督「そう言えばそうだったわね……」

リットリオ「だったら私が買いに行きますよ…提督っ♪」ひょいと顔をのぞかせたリットリオは可愛らしい秋めいた色あいのスカーフとブラウス、それにひらりと広がった朽葉色のスカートをまとい、ウェーブがかかった髪を後頭部で巻き髪スタイルにしている…

提督「リットリオが買ってきてくれるなら助かるわ……ちょっと待ってて」

…そう言うと鉛筆を取り、厨房に置いてある「メモ用紙」(たいていは期限切れの回覧文書や前日の天気予報をプリントアウトした紙、広告の裏紙などを適当な大きさに切りそろえたもの)にさらさらと買い物のリストを書いた…

提督「…それじゃあお願いね。お金は後で渡すわ」

リットリオ「はいっ♪ ヴェネト、ローマ、良かったら一緒にお買い物に行きませんか?」

ヴェネト「わぁ、嬉しいです♪」

ローマ「私もいいんですか、リットリオお姉様?」

リットリオ「もちろんですよ、だって二人とも私の妹ですし…♪」パチリとウィンクをすると「チンクエチェント(二代目・フィアット500)」のキーが付いているキーリングを人差し指に引っかけてくるくると回した…

提督「気をつけて行ってらっしゃいね?」

リットリオ「もう、大丈夫ですよ…それじゃあ行ってきます♪」二人の妹を連れて真っ赤なフィアットに乗ると、ギアレバーの隣にあるチンクエチェント独特の「エンジン始動レバー」を引いてエンジンを回し、空冷エンジン独特のバタバタいう音を残し「近くの町」に向けて車を走らせていった…

提督「それじゃあこちらはその間に、下ごしらえと行きましょうか…!」服の袖をまくるとよく研がれた大ぶりの包丁を持ち、大きなあばら肉を解体するべく構えた…

ディアナ「では、僭越ながらわたくしも手伝わせていただきます」

エリトレア「私もですよっ」

提督「それじゃあ左右を押さえておいてね……ふんっ!」包丁の背に片手をあてがいつつあばら肉の骨と骨の間に刃を入れると、ぐっと引き切っていく…良く研いでいる包丁だけあってすっと刃が入っていくが、さすがに野山を駆けまわっていた猪の肉だけあって、いつもよりは力がいる…

エリトレア「わぁ、さすが提督…見事に切れましたねっ♪」

提督「ふふーん…これでもおばさまに多少は教わったんだもの、これくらいは出来ないとね。 …さ、それじゃあ味を付けていきましょうか♪」

ディアナ「よしなに…♪」専用のヤスリで岩塩を削り、胡椒はペッパーミルで粗挽きにする…それにオレガノ、ローズマリーを合わせたものを手に取り、ひんやりと冷たい肉の表面にすり込んでいく…

提督「これが意外と重労働なのよね……ふぅ」大きな肉の塊を相手に、少々汗ばんでいる提督…一つ息をつくと、肉の脂や塩のついていない腕の真ん中辺りで額を拭った……

779 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/10(土) 03:45:32.11 ID:USquDalD0
…翌日・厨房…

提督「さて、それじゃあどう調理しようかしら?」

ディアナ「部位によって調理法を変えるのがよろしいかと存じますが……それと、今日はどの部分を使うことに致しましょうか?」

提督「そうねぇ…やっぱりあばら肉か腿肉かしら。 固い部分は今日からゆっくり煮込んで、明日以降に食べればいいし、レバーなんかは香味野菜と一緒に調理して、レバーペーストにすればパンのお供に出来るものね」

エリトレア「それはいい考えですねぇ♪」

提督「でしょう? …と言うわけで、まずは「ローストで香ばしく」なんてどうかしら?」

ディアナ「それはよろしゅうございますね…♪」

提督「良かった♪ そうと決まれば、必要なものを用意しないと……」

ディアナ「何を用意すればよろしいでしょうか?」

提督「シンプルなローストとなれば、まずはいい塩だけれど…確か岩塩があったはずよね?」

ディアナ「はい、ございます」

提督「なら塩は大丈夫ね……ローズマリーとオレガノは?」

ディアナ「乾燥ものが少々」

提督「それで充分よ…黒胡椒」

エリトレア「ありますよ♪」胡椒は粒のものを買い、必要な分だけ食料庫から取り出してきては、そのつどオリーヴの木で出来たペッパーミルで挽くようにしている…

提督「ニンニク」

エリトレア「それもあります」

提督「よろしい。あとは付け合わせに茸のソテーでも添えれば充分素敵なご馳走になるけれど……在庫はあったかしら?」

ディアナ「いえ、茸は数日前に使い切ってしまいましたので…」

提督「そう言えばそうだったわね……」

リットリオ「だったら私が買いに行きますよ…提督っ♪」ひょいと顔をのぞかせたリットリオは可愛らしい秋めいた色あいのスカーフとブラウス、それにひらりと広がった朽葉色のスカートをまとい、ウェーブがかかった髪を後頭部で巻き髪スタイルにしている…

提督「リットリオが買ってきてくれるなら助かるわ……ちょっと待ってて」

…そう言うと鉛筆を取り、厨房に置いてある「メモ用紙」(たいていは期限切れの回覧文書や前日の天気予報をプリントアウトした紙、広告の裏紙などを適当な大きさに切りそろえたもの)にさらさらと買い物のリストを書いた…

提督「…それじゃあお願いね。お金は後で渡すわ」

リットリオ「はいっ♪ ヴェネト、ローマ、良かったら一緒にお買い物に行きませんか?」

ヴェネト「わぁ、嬉しいです♪」

ローマ「私もいいんですか、リットリオお姉様?」

リットリオ「もちろんですよ、だって二人とも私の妹ですし…♪」パチリとウィンクをすると「チンクエチェント(二代目・フィアット500)」のキーが付いているキーリングを人差し指に引っかけてくるくると回した…

提督「気をつけて行ってらっしゃいね?」

リットリオ「もう、大丈夫ですよ…それじゃあ行ってきます♪」二人の妹を連れて真っ赤なフィアットに乗ると、ギアレバーの隣にあるチンクエチェント独特の「エンジン始動レバー」を引いてエンジンを回し、空冷エンジン独特のバタバタいう音を残し「近くの町」に向けて車を走らせていった…

提督「それじゃあこちらはその間に、下ごしらえと行きましょうか…!」服の袖をまくるとよく研がれた大ぶりの包丁を持ち、大きなあばら肉を解体するべく構えた…

ディアナ「では、僭越ながらわたくしも手伝わせていただきます」

エリトレア「私もですよっ」

提督「それじゃあ左右を押さえておいてね……ふんっ!」包丁の背に片手をあてがい、あばら肉の骨と骨の間に刃を入れると引き切っていく…よく手入れされている包丁だけあってすんなりと刃が入っていくが、さすがに野山を駆けまわっていた猪の肉だけあって、普段よりは力がいる…

エリトレア「わぁ、さすが提督…見事に切れましたねっ♪」

提督「ふふーん…これでもおばさまに多少は教わったんだもの、これくらいは出来ないとね。 …さ、それじゃあ味を付けていきましょうか♪」

ディアナ「よしなに…♪」専用のヤスリで岩塩を削り、胡椒はペッパーミルで粗挽きにする…それにオレガノ、ローズマリーを合わせたものを手に取り、ひんやりと冷たい肉の表面にすり込んでいく…

提督「これが意外と重労働なのよね……ふぅ」大きな肉の塊を相手に、少々汗ばんでいる提督…一つ息をつくと、肉の脂や塩のついていない腕の真ん中辺りで額を拭った……

780 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/13(火) 11:27:48.36 ID:IaIzlsrW0
…その頃・近くの町…

ヴェネト「ふぅ…着きましたね」

ローマ「リットリオ姉様、車の鍵はかけましたか?」

リットリオ「もちろんですよ、ローマ。それじゃあお使いを済ませちゃいましょう♪」

…長身を押し込んでいた小さなフィアット500から出ると、身体をほぐすように伸びをしたリットリオたち……鎮守府から二十分ほどの小さな町は相変わらずのどかで、古くから続いている個人商店や露天が並ぶ小さな市場では馴染みの客と交わす愛想のいい会話や元気な売り声が飛び交っている…

鮮魚店のおっちゃん「おっ、海軍さん! どうだい、タコ買っていかないか!新鮮だよ!」鍋を置いて蛸を茹でている鮮魚店のおっちゃんは茹でる前のタコを一匹つかみ、持ち上げてみせた…

リットリオ「そうですねぇ、おいくらですか?」

おっちゃん「海軍さんにはいつもうんと買ってもらってるからな、安くしとくよ! 一匹あたりこれぐらいでどうだい?」指で「手やり」を出して値段を示す…

リットリオ「うーん、もうちょっとですね♪ その代わり五匹は買いますよ?」

おっちゃん「かーっ、海軍さんは商売が上手いや…分かった、持ってきな! それと鱗だのなんだのがきれいな服に付いちまうといけねえから、もちっと離れておいた方がいいぜ……っと、ほい!」手早く油紙の袋に包むとリットリオに渡した…

リットリオ「ふふっ、ありがとうございます♪」

おっちゃん「毎度っ!」

野菜売りのおばちゃん「海軍さん、良かったらうちでも買っていってよ!」

ヴェネト「そうですね、それじゃあその黄色いズッキーニを……ええ、500グラムでいいですよ♪」

おばちゃん「毎度どうもね…それと、これはおまけ」

ヴェネト「わぁ、ありがとうございます♪」

ローマ「……お姉様方、本命をお忘れではありませんか?」

リットリオ「大丈夫ですよ、ローマ……さ、茸を買わないとですね♪」

茸取りのじいさん「いらっしゃい、今年も茸の季節になったよ! 今だけだからね、買っていっておくれ!」


…時季と言うこともあって、露天のいくつかでは山から採ってきた茸が並んでいる……イタリア人が大好きで希少なポルチーニが一箱に白トリュフがいくつか、そしてついでといった具合に自家栽培のものらしいマッシュルームがたっぷりひと山……他にもオレンジ色をした柄の細いものや、茶色のずんぐりしたもの、傘がひらひらしているものなど、見慣れたものから馴染みの薄いものまで数種類が並んでいる…


リットリオ「あっ、ありましたね…おじいさん、そのポルチーニを五百グラムと、マッシュルームもくださいな」

じいさん「ほいきた! ポルチーニは裏のひだに砂だのホコリだのが付いているからまずは軽く洗って、それからフリッタータ(フライ)か……バターで焼いても美味しいぞ!」浅い木箱に山積みにされた茸をつかみ取ると、手際よく重さを量って袋に詰める…

リットリオ「考えただけで美味しそうです♪」

じいさん「当たり前さ、この時期だけのご馳走だからね!」白髪をオールバックにしているじいさんはリットリオたちにむけて明るくウィンクを投げ「おまけだ♪」とマッシュルームをひとつかみ多く入れてくれた…

リットリオ「グラツィエ♪」

じいさん「おうさ。今月の末頃までは採れると思うから、また来ておくれよ!」

リットリオ「はい♪」

屋台のおじさん「アランチーニ、アランチーニはいかが? 揚げたてで美味しいよ!」

(※アランチーニ…「小さいオレンジ」の意。トマトソースが入った丸型のライスコロッケ)

リットリオ「わぁ、本当に揚げたてですね…せっかくですから一つ食べていきましょう。私がおごりますよ♪」

ヴェネト「嬉しいです♪」

ローマ「いえ、そんな姉様に…」慌てて小銭入れを出そうとするローマ…

リットリオ「ノン・ファ・ニエンテ(構いませんよ)…おじさん、三つ下さいな♪」

おじさん「毎度っ、熱いから気をつけて食べてね!」野球ボール大のアランチーニをトングでつかむと、紙に挟んで手渡してくれる…

リットリオ「ありがとうございます…さ、食べましょう♪」買い物を詰めた大きめの袋を肩にかけ、湯気の立つアランチーニを頬張る…

ヴェネト「はふっ…あつ……///」

ローマ「ほわ…っ……おいひいれふね…」

リットリオ「ふふ、良かったです…それじゃあこれを食べ終わったら、もうちょっとだけ見て回ってから帰りましょう♪」

ヴェネト「はい…♪」

ローマ「了解……あつつ…!」

リットリオ「ふふ、それじゃあ私も…はむっ、ふあ……///」熱いアランチーニをまた一口かじると、空気を取り込むように口をぱくぱくさせた…
781 : ◆b0M46H9tf98h [saga]:2021/07/17(土) 01:36:09.08 ID:Vik0Mz6j0
…一時間後…

リットリオ「ただいま戻りました♪」

提督「お帰りなさい。買い物は楽しかった?」

リットリオ「はい♪」

ヴェネト「ええ、とても楽しかったです」

ローマ「私は買うべきものも買ったのですし、昼食の支度が遅れてはいけないですから早く戻ろうと言ったのですが……」

提督「いいのよ、十分間に合ったから…それじゃあ食材を受け取るわね」

リットリオ「はい、これが茸と…」

提督「ポルチーニとマッシュルームね…それもこんなに♪」

ヴェネト「…それから茹でダコをいくつか」

ディアナ「それはレモンを搾っていただくとしましょう」

ローマ「他にも青物を少々買ってきました」

提督「いいわね、それじゃあ肉を焼くとしましょうか……せっかくだし表で直火を使って、ね♪」

リットリオ「いいですねぇ♪」

…厨房の外…

提督「さーて、それじゃあローストしていきましょう」

エリトレア「はいっ♪」

…厨房の外にはレンガで作られた手頃な炉があり、直火でちょっとした焼き物が出来るようになっている…煙の臭いが染みついてもいいよう、よれたTシャツと作業用のズボンに着替えている提督は、マッチを擦ると古新聞に火をつけて小枝の下に押し込み、それから流れ着いた流木や木切れをよく乾かして薪としたものをくべ始めた……しばらくは木切れのはぜる地味な音が散発的にしているだけだったが、そのうちに火が舌を出して威勢良く燃え始める…

提督「ん、火はいい具合になったみたいね…ディアナ、エリトレア。お願いね?」

ディアナ「よしなに」

エリトレア「了解しましたっ♪」

…岩塩にローズマリー、オレガノ、それに胡椒といったスパイスをすり込んだ猪のあばら肉を網の上に並べる……そして付け合わせのポルチーニをバターソテーにするべく、いそいそと厨房に戻っていくディアナ…

ルチア「フゥ…ン♪」

提督「ルチア、ここは火があって危ないから離れていなさいね?」じゅうじゅうと脂が滴り、燃える薪に落ちてはパッと煙を上げる……吹き付けてきて目に沁みる煙と熱気を手で払いつつ、時々トングで肉を持ち上げて焼き具合を確かめる提督…

ディアナ「添え物の方は出来ましたので、わたくしもお手伝いいたします」

提督「ええ、ありがとう…火の前にいるものだから、もう熱くて熱くて……ちょっと冷たいものでも飲んでくるわ」

…しばらくして…

提督「…もういいかしらね♪」程よく火が通ったであろうあばら肉を、ディアナとエリトレアが持っている大皿に載せていく……ふちの方はまだぷちぷちと脂が跳ね、香草の香りを含んだ美味しそうな匂いを立てている…

提督「さてと…それじゃあ私もすぐ着替えてくるから、みんなが食卓に着いたら始めましょう♪」

ディアナ「よしなに…♪」

…昼食…

提督「それじゃあそろそろお待ちかねの肉料理と参りましょうか♪」食前酒の間から漂っていたいい香りに気もそぞろな艦娘たちに微笑みかけると厨房に入っていき、エプロンを着けて戻ってきた…両手でつかんで持ってきた大皿には、ポルチーニのソテーを添えた猪のあばら肉がきちんと並んでいる…

デルフィーノ「わぁぁ、ご馳走ですね…♪」

トレーリ「…いただきます♪」

ドリア「それでは、私も早速…♪」

アブルッツィ「どれどれ…」中央に置かれた大皿から銘々に取り分けると、早速賞味する艦娘たち…
782 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/07/17(土) 03:08:51.54 ID:isZbkD9h0
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783 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/20(火) 00:54:07.79 ID:ZIx1ptnR0
提督「それで、お味はいかが?」

アブルッツィ「ええ、美味しいですよ!」

提督「よかった…」そう言って食堂を見渡す提督…


…白いテーブルクロスをかけた長テーブルに並んでいる艦娘たちが談笑しながらワインを傾け、料理を賞味している…とはいえ食べ方はそれぞれで、上品にナイフとフォークを使いこなす娘から、海賊まがいの食べ方でがっついている娘もいる…


ドリア「美味しいですね、ガリバルディ?」

ガリバルディ「ええ。ドングリを食べて脂が乗った秋のイノシシに勝る物はないわね……そうでしょう、メノッティ?」

チロ・メノッティ「いかにも、ガリバルディの言うとおりです」

カヴール「チェザーレ、もう一切れいかが?」

チェザーレ「いただこう…デュイリオ、そなたは?」

デュイリオ「ご心配なく、わたくしなら勝手に取らせていただきますから♪」グラスの赤ワインを傾け、上機嫌で笑い声を上げるデュイリオ…

チェザーレ「そうか…では、ロモロ、レモ、そなたらはどうだ……?」

ロモロ「はぐっ、あぐっ…むしゃ…」

レモ「んぐっ、むしゃっ……」歯をむき出しにして、骨付きの肉にかぶりつくロモロとレモ…

チェザーレ「おやおや。あの二人の食べ方ときたら、まるで狼のようではないか」

提督「狼と言うより「我が子を喰らうサトゥルヌス」みたいね…」

ライモン「美味しいのはいいことですが…あんなに勢いよく食べて、喉に詰まらせたりしないでしょうか」

チェザーレ「まぁ、その心配はあるまい…ライモンド、もう一杯どうだ?」

ライモン「ありがとうございます」

チェザーレ「うむ」

スクアーロ(中型潜スクアーロ級「サメ」)「……ふふ…魚もいいけど、こういう血のしたたるような肉もいいわよね♪」

レオーネ(駆逐艦レオーネ級「雄ライオン」)「んぐぅ…んっ!」

パンテーラ(レオーネ級「ヒョウ」)「はむっ、むしゃ……」

ティグレ(レオーネ級「トラ」)「あぐっ、もぐ…」骨から肉を噛みちぎりむさぼっている肉食獣の艦娘たち…

カラビニエーレ(ソルダティ級「カラビニエーリ隊員」)「ああもう、まったく行儀の悪い…!」

アオスタ「全くです、野蛮人でもあるまいし…提督からもなにか言って下さいませんか」

提督「まぁまぁ。美味しいって喜んでくれているわけだし、たまには…ね?」

アオスタ「提督がそうおっしゃるのでしたら……」

提督「ええ、今だけは目をつぶってあげて? とはいえあんまり勢いよく食べてお腹に差し障りがあるといけないから……ロモロ、レモ、せっかくおばさまが送ってきてくれたお肉なんだから、もう少し味わって食べて欲しいわね?」

ロモロ「…ん、言われてみれば……」

レモ「はーい」

提督「よろしい♪」

ディアナ「それにまだドルチェも控えておりますから、お腹を空けておきませんと食べられませんよ?」

フルット「それで、今日のドルチェは何でしょうか…ディアナ?」

ディアナ「今日は栗のケーキです、何しろ時季ですから」

提督「秋と言えば栗だものね。 焼き栗なんかはローマでも秋になると売っていて…一袋買って、午後の勤務の時にみんなで分けたりもしたわ」

ローマ「あれを食べると「秋が来た」という気分になりますね」

提督「ええ。こっちではあまり見かけないから、懐かしいわね……」


784 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/22(木) 01:33:12.09 ID:rsP+4x970
…食後…

ライモン「そう言えば、提督のご実家から届いた箱がもう一つありましたが…あれは?」

デルフィーノ「お肉の方は冷蔵で届きましたけれど、あっちの箱は冷蔵でもなかったですし…中身は何ですか?」

提督「ああ、あれの中身は……知らない方がいいわ♪」

デルフィーノ「え?」

提督「冗談よ…テーブルを片付けたら持ってきましょう」

…数分後…

アッチアイーオ「持ってきたわよ、提督……大きさの割には軽いわね」

提督「そうでしょうね…それじゃあ開けるとしましょうか、よいしょ……♪」そう言って箱のテープをナイフで切るとふたを開けた…

ライモン「わ、洋服ですか?」

デルフィーノ「しかもこんなにたくさん…!」

提督「ええ♪ お母様がみんなのためにって、この間のミラノコレクションのときに秋冬物を見繕ってきたそうよ…果たして何が入っているのかしら」

…大きな段ボール箱にはまだビニールでくるまれているまっさらなものから、昨シーズンのデザインだったり、数が揃わないなどで持て余されていたらしい衣類などが詰め込まれていた……とはいえ元はファッションデザイナーのクラウディアだけあって、使い勝手の良さそうないいものを上手く選んである…

ガリバルディ「私はこれがいいわ」

エウジェニオ「それじゃあ私はこれを♪」

アヴィエーレ「ふむ、私はこれにしたいところだね…」

アンジェロ・エモ「わ、わ、どれにしようか迷ってしまいます…♪」

提督「はい、ちょっと待って…!」服を取り出してはきゃあきゃあと歓声を上げながら品定めをする艦娘たちに待ったをかけた…

オンディーナ「どうしたんです、提督?」

提督「今から話すわ…あのね、お母様はたくさん服を送ってきてはくれたけれど全員分って言うわけには行かなかったでしょうし、みんなの好みもあるから、数が足りないこともあると思うの……それに哨戒の娘たちが帰ってこないうちに選んでしまうのはよろくしないでしょう?」

ライモン「そうですね」

提督「と言うわけで、選ぶのは哨戒の娘たちが帰ってきてから…それと、もし欲しいものが誰かとかぶったら当事者同士で相談して決めるかくじを引くこと…そのときは私か秘書艦の二人、あるいは自分のクラス以外からネームシップの娘を呼んできて、きちんとやり取りを見ていてもらうこと…いいわね?」

一同「「了解」」

提督「それから、倉庫にもうちの分として管区司令部から送られてきた秋冬物の服があるから…それもそのとき一緒に確認しましょう♪」

デルフィーノ「それじゃあ、後で出してこないとですね♪」

提督「ええ。もっとも管区司令部から送られてくるのは財務警察が押収品を競売にかけて、応札のなかった物だから……あんまり期待は出来ないかもしれないわね」

チェザーレ「分からぬぞ、もしかしたら意外な掘り出し物があるやもしれぬ」

提督「そうだといいわね…とはいえ、そこの鎮守府では誰も欲しがらない物を「そちらではどうですか?」って送りあったりするのだけれど、気付いたらいつか自分の所から送った物が巡り巡って戻ってきた……なんて言うこともあるくらいだから」そう言うと肩をすくめて苦笑いを浮かべた…

シーレ「まるで渦みたいね」

ヴォルティーチェ(フルット級「渦動」)「呼んだ?」

シーレ「呼んでない」

ゴルゴ(フルット級「渦」)「それじゃあ私?」

シーレ「だから呼んでないわよ!」

アッチアイーオ「ぷっ…くくっ♪」

ライモン「くすくす…っ♪」

デルフィーノ「あはははっ♪」

提督「ふふっ…♪」

シーレ「まったくもう…♪」
785 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/25(日) 02:03:45.90 ID:CmTRydi40
…午後・提督私室…

提督「それはそうと…せっかくの機会だから、私も服を秋冬物と入れ替えるとしましょう」執務机で書類を整理していたが、ある程度片付いたところで「思いたったが吉日」とばかりに立ち上がると、私室のクローゼットを開けた…

デルフィーノ「私も手伝います♪」

提督「ええ、ありがとう…それじゃあ夏物は洗濯屋さんに出すから、とりあえずこっちに…それから衣装箱を開けて、と……」樟脳(虫除け)の入っている衣装箱を開けると、ハンガーに掛けたり畳んだりし始める…

アッチアイーオ「結構色々持ってるのね」

提督「ええ、お母様がシーズンごとに何着かは送ってくれるから…んー、これはもう着られないのよね……」身体が成長したことと好みが変わったことで、着られなくなったり着るつもりがなくなったりした服を取りのけていく…

デルフィーノ「わ、これなんか可愛いです♪」

提督「そうねぇ、でも私にはちょっと可愛すぎるから……後でほしい娘がいたらあげることにしましょう」

アッチアイーオ「提督、これはハンガーに掛ければいいかしら?」

提督「ええ、お願い」

アッチアイーオ「ふぅん、あんまり服には詳しくないけれど…これって結構いいコートなんじゃない?」取り出した黒いベルテッドのトレンチコートをしげしげと眺めた…

提督「そうね、それは少尉任官のときにお母様とおばさまがプレゼントしてくれた物だけれど…十数万リラくらいはしたはずよ」

デルフィーノ「わ、ずいぶん高いですね」

提督「ええ。なんでもお母様いわく「コートやジャケットはいいものを買いなさい、それと色は地味にすること…真っ赤なコートなんて買ったら、目立つから着回しできないわよ?」って……だから私も黒と灰色、それと白に近いベージュの一着ずつにしたわ」そう言って衣装箱からダブルの灰色コートと、ベージュのラップコートを取り出してみせた…

アッチアイーオ「そういうものなのね…エウジェニオやなんかはお洒落だしそういうのに詳しそうだけど、私にはよく分からないわ」

提督「まぁまぁ、お洒落なんてしたくなった時にすればいいのよ♪」

…そう言いながら厚手のスカートやふんわりとしたカシミアのセーター、それに黒革の手袋やニーハイのヒールつきブーツなどを取り出していく提督…革手袋やブーツは去年のシーズン終わりにきちんと湿気を除き、表面も皮革用クリームで磨いておいたおかげでどこも悪くなっていない…

デルフィーノ「提督、これはどこに置きましょうか?」くるぶしに金色のバックルがついたショートブーツを持って聞いた…

提督「あぁ、そのブーツね…実はそれ、ローマにいたときに「ちょっとつま先が細いけれどお洒落だし…」って買ってみたけれど、やっぱり履いていると足が痛くって……」

デルフィーノ「じゃあこっちですね?」

提督「ええ」

デルフィーノ「分かりました♪」

提督「こうしてみると私も買ってないようでいて、ずいぶん衣装持ちだったのね…」腕を組んで「むぅ…」とうなった……

アッチアイーオ「ま、提督の場合はお母様がデザイナーなんだし…無理もないんじゃない?」

提督「それもそうね……さーて、それじゃあ洗える物は今のうちに洗濯機にかけておきましょうか♪」

アッチアイーオ「私も運ぶわ」

提督「ええ、ありがとう…それじゃあデルフィーノ、私とアッチアイーオは洗濯をかけに行ってくるから、その間に皆に譲る方の服はまとめておいてもらえるかしら?」

デルフィーノ「はい」

提督「それじゃあお願いね♪」提督とアッチアイーオは普通に洗える種類の衣服を両手に抱え、部屋を出て行った…

デルフィーノ「…さぁ、それじゃあ残りを片付けるとしましょう。これはこっちで……」

デルフィーノ「ふ〜ふ〜ん…ふふ〜ん……♪」一人で軽くハミングをしながら、てきぱきと片付けていく…

デルフィーノ「次はさっきのブーツですけれど……ちょっと履いてみたいですね///」軽く足を入れてみると、デルフィーノの足は小さいので難なく履ける…そのままとんとんっ、とつま先を軽く床に打ち付け、足の据わりを整える……

デルフィーノ「あ…これ、結構いいかもです♪」姿見の前に行くと足元をしげしげと眺めてみる…金のバックルのついた黒革のショートブーツが足元をきっちりと締めている…

デルフィーノ「っと、遊んでいないで片付けないとですね…よいしょ……」そう独りごちてブーツを脱いで手に提げると、ふと顔に近づけた…

デルフィーノ「……なんだか独特の匂いがします///」なめし革の強い匂いとほんのり残った蒸れた匂い、それにかすかな土の匂いが混じって、妙にデルフィーノを引きつける…

デルフィーノ「すう…んはぁぁ……///」今度は酸素マスクのように鼻をあてがい、深々と匂いを吸い込んだ……

デルフィーノ「んんぅ…はぁぁ……んっ、んぅ…ぅ♪」右手でブーツを持ったまま、左手をスカートの中に滑り込ませる…

デルフィーノ「すぅぅ……はぁ…んぅぅ…はぁ…///」くちゅ…くちゅっ♪

デルフィーノ「ふあぁぁ…たまらないです…ぅ///」ぺたりと床にへたり込むと、とろんとした表情を浮かべて秘所をかき回し続けた…

………

786 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/07/27(火) 10:48:21.03 ID:62y48hEH0
…夕食後…

提督「さてと、それじゃあみんなお待ちかねのようだから始めましょうか」

シロッコ「待ってました♪」

提督「はいはい…まずはテーブルの上に並べていくから、欲しいものがあったら目安を付けておくこと」小山のように積み上げられた服を全員で並べ、番号を書いた紙を添える…

アオスタ「並べ終わりました」

提督「そうみたいね……それじゃあ後は一から順番にやっていきましょうか」オークションスタイルで順繰りに服や小物を提示していき、欲しい娘たちには手を上げてもらう…

提督「まずはこのスカートからね……色はお洒落なグレイだし生地もなかなかいいけれど、デザインはちょっと古いかもしれないわ…誰か欲しい人?」秋には良さそうな、厚手の生地で出来た膝丈のスカート…

カヴール「はい、わたくしが」

ザラ「私も」

提督「あら、いきなりかぶったわ……それじゃあ後でお互い話し合って決めてちょうだいね?」

カヴール「はい」

ザラ「私もあれは欲しいから…譲らないわよ、カヴール♪」

カヴール「ええ♪」

提督「次は……ウールのダッフルコートね。ウールだから結構ずっしりしているけれど、デザインはいいし…袖に色落ちこそあるけれど、哨戒の時なんかにはいいんじゃないかしら」

アミラーリオ・ディ・サイント・ボン「では本官が」

アミラーリオ・ミロ「私も欲しいです」

バリラ「私もよ。哨戒の時に使っているコートがだいぶよれてきちゃったし…」

提督「あらら、ずいぶん競合しちゃったわね」

アオスタ「大型潜の娘たちの身体に合うサイズとなると、意外とないものですから」

提督「言われてみればそうね……女性用の大きいサイズだと余っちゃうし、かといって若い娘向けのファッションでもないものね」

アッチアイーオ「なまじ大きい身体だと、そこが悩みどころよね」

提督「ええ……それじゃあ次は…黒革のスキニーね。サイスがタイトだから、選ぶなら気をつけてね」

バンデ・ネーレ「それはボクがもらうよ。サイズも見ておいたけれどちょうどだったからね」

提督「そう、誰か他に欲しい娘は?」

バンデ・ネーレ「…どうやらいないみたいだね」

提督「みたいね。それじゃあバンデ・ネーレ、これは貴女のものよ」

バンデ・ネーレ「よし…♪」

提督「それから次はセーターね……色は微妙だけれど、まぁ普段使いにする分には悪くないと思うわ。誰か欲しい人?」

提督「誰もいない? …それじゃあこれは他の鎮守府へ送る分に回すわ」

提督「それからこれは……」

…しばらくして…

カヴール「では、今度何かの形でお返ししますから」

ザラ「いいのよ、私には少し大きすぎたし……貴女が使ってちょうだい」

カヴール「ええ、ありがとうございます♪」

提督「…それじゃあフレッチアがこっち、フォルゴーレがこっちのにしたら?」

フォルゴーレ「そうね、私はそれでいいけれど…そっちはどう?」

フレッチア「ええ、いいわよ」

アッチアイーオ「そろそろ片付くわね」

提督「そうね…でもみんな喧嘩もなしに融通しあってくれるから助かるわ」

アッチアイーオ「そりゃあ子供じゃないんだから」

レモ「ま、見た目は中学生くらいだけどね♪」

アッチアイーオ「余計なお世話よ…!」

提督「ふふっ…♪」
787 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/01(日) 01:22:17.66 ID:OBHjSCOZ0
…夜…

提督「えーと、それじゃあこれが哨戒組の娘たちが希望していた分……と」

…近海哨戒に出ている艦娘たちには出撃前にどれが欲しいか見定めておいてもらい、代わりに提督が「応札」する形で参加していた…そして競合する娘が少なかったおかげで、出撃組にはおおかた希望通りの物が手に入っている…

アッチアイーオ「これなら、あの娘たちも納得じゃない?」

提督「そうね…それにしてもみんな楽しそう」

…すっかりはしゃいでいる駆逐艦や中型潜の娘たちや、姿見の前で服をあてがっては組み合わせを考えるのに余念が無い軽巡や重巡たち…そしてまだまだはしゃぎたい盛りのリットリオたちを除いて、いずれも大人の余裕をのぞかせてコーディネートの助言をしてあげる戦艦勢…

デルフィーノ「やっぱりみんなお洒落はしたいですから」

提督「それもそうよね♪」

デルフィーノ「はい♪」

提督「さてと…それじゃあ二人も色々楽しみたいでしょうし、後は自由にしていていいわ。 お疲れ様」

アッチアイーオ「了解」

デルフィーノ「分かりました」

…中型潜「スクアーロ」級の部屋…

デルフィーノ「ただいまです」

ナルヴァーロ(イッカク)「お帰りなさい…秘書艦の業務はもう良いの?」

デルフィーノ「はい、提督が「どうせ明日以降でもいい書類ばかりだし、今日は選んだ服を試してみたいでしょうから」っておっしゃって切り上げてくれました♪」

トリケーコ(セイウチ)「それは良かったわね」

デルフィーノ「はい♪」

スクアーロ(サメ)「…あら、デルフィーノ……夕食後の執務はなし?」

デルフィーノ「はい、提督が切り上げてくれました♪」

スクアーロ「それは良かったわね…ところで、これはどう?」よく見ると黒革のショートブーツを履いているスクアーロ…きゅっと引き締まったふくらはぎへの曲線と、くるぶしについた金のバックルが足元を引き締めている……

デルフィーノ「あ、それ…」

スクアーロ「そう。さっき競り落としたの…サイズもちょうど良いし、デザインもお洒落だから気に入ったわ」

デルフィーノ「そ、そうですね…///」(まさかさっきあのブーツを使っていやらしいことをしたなんて言えないです…)

ナルヴァーロ「…どうかしたの、デルフィーノ?」

デルフィーノ「いえ、なんでもないです…!」

トリケーコ「おおかたそのブーツを履いたスクアーロ姉さんに踏まれるところでも想像していたのね…♪」

デルフィーノ「ち、違います…っ///」

スクアーロ「いいのよ、して欲しいならそう言って……だってデルフィーノはいやらしいことが大好きだもの…ね?」そう言うと、白く輝く尖った歯で首元を甘噛みした…

デルフィーノ「ふぁぁ…っ、お姉ひゃ…ん///」

スクアーロ「それにしても、本当にこのまま食いちぎりたくなるような柔肌ね…ふふ♪」

デルフィーノ「あふっ…もう、だめですよ……ぉ///」

トリケーコ「ふふっ、デルフィーノってば全然嫌がっているように聞こえないんだから…♪」

ナルヴァーロ「全くね…いやらしくて可愛い♪」

スクアーロ「今夜はじっくり味わってあげようかしら。 …ね、デルフィーノ?」

デルフィーノ「も、もう…お姉ちゃんってばぁ……///」

788 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/03(火) 02:37:43.63 ID:MfAXWcwc0
…とある日…

アッチアイーオ「おはよう、提督」

提督「ええ。おはよう、アッチアイーオ…ん♪」文書便の束を両手で抱えて持ってきたアッチアイーオを執務室に迎え入れると、左右の頬に挨拶の口づけをした…

アッチアイーオ「え、ええ……文書便を持ってきたわよ///」

提督「ありがとう、机の上に置いてもらえる?」

アッチアイーオ「分かったわ…そう言えば提督宛にずいぶん分厚い封筒が届いてるけど」

提督「本当ね、いったい何かしら……あぁ♪」A4サイズの分厚い書籍が楽々と収まりそうな大きい公用封筒に書かれた宛名を見て、得心がいったような声をあげた…

アッチアイーオ「何だか分かった?」

提督「えぇ、これは「交換プログラム」の結果をまとめた報告書よ…各鎮守府の提督たちが提出したレポートをまとめたものね」

…ペーパーナイフで封を切り、中から綺麗に製本されたカタログのような冊子を取り出した……表紙は艶のある紙に単縦陣を組むイタリア海軍艦艇が写っていて、タイトルには「戦術知識交換プログラム報告書」と麗々しく記されている…

アッチアイーオ「提督のもあるの?」

提督「もちろん。最も私の報告書だけじゃなくて、全部の報告書をコピーして見られるようにしておくわ……せっかくだからちょっと読んでみようかしら」目次を見て興味を引いたページをめくる…

提督「…これはルクレツィアの報告書ね「エーゲ海管区・レロス島第十二鎮守府。艇隊司令・ルクレツィア・カサルディ中佐」と……」

アッチアイーオ「カサルディ中佐…あの小柄でさっぱりした感じの人ね」

提督「そうそう…えーと、表題は「エーゲ海における「深海棲艦」船団に対する夜襲についての報告」と…今でこそいくらか静かになったけれど、エーゲ海と言ったら一時は深海棲艦がうようよしていた激戦地だもの……あのMS(※Moto Silurante…魚雷艇)やMAS(※Motoscafi anti sommergibili…直訳すると「対潜機動艇」だが、実際は高速魚雷艇)の娘たちにしたって、なりは小さいけれど、相当暴れていたって聞くわ」

アッチアイーオ「らしいわね」

提督「ええ「…日の2300時、月明を背にした敵船団に対し、島陰を利して隠密接近を図る。夜霧がかかっていたため接近は容易であったが、航跡が白く目立つためごく低速で射点に着く…」魚雷艇の戦いでは鉄則ね」

アッチアイーオ「ま、私たち潜水艦も似たような物だけれど…あっちは潜れない代わりに四十ノットは出せるし、こっちは潜れるけど水中じゃあ七ノットがせいぜい……どっちがいいかは「神のみぞ知る」って所ね」

提督「ええ。続きを読むわよ…「護衛は「ハント」級護衛駆逐艦一隻および「花(フラワー)」級コルヴェット二隻で、護衛駆逐艦が一キロほど先行し、コルヴェットが左右およそ500メートルに展開、およそ八ノットで航行」…目に見えるようね……」

………

…エーゲ海・とある夏の夜…

カサルディ中佐「…いい? 魚雷を発射したら一気に増速、尻に帆かけて逃げ出すわよ」

MS16「分かってるわ、司令」

カサルディ中佐「よし…22も分かってるはずだけど……」夜霧で霞む先をにらみ、僚艇であるMS22を見つけようとする…

MS16「大丈夫、22とは息ぴったりだもん♪」

カサルディ中佐「そうだったね……魚雷は深度三メートル、速度四〇ノットに調整。目標、中央の輸送船タイプ」

MS16「調整よし」

カサルディ中佐「機銃と爆雷は?」

MS16「ブレダ二十ミリは榴弾を装填、8ミリ機銃は通常弾。爆雷は零深度に調定済み…あっちの足元に転がしたらきっと大騒ぎになるよね♪」

カサルディ中佐「ふっ、違いないね……発煙浮標」

MS16「いつでも落とせるよ♪」

カサルディ中佐「よし、それじゃあ一暴れ行きますか…魚雷一番、二番、てーっ!」

MS16「魚雷一番、二番、発射!」発射管から450ミリ魚雷が滑り出してバシャンと水中に飛び込むと、そのまま霧の向こうにぼうっと見える黒いシルエットに向けて航走する…

カサルディ中佐「…気付かれた! 機関全速、取り舵一杯!」深海側も白く伸びる雷跡を目ざとく見つけ、たちまち探照灯が海面を払い、照明弾が打ち上げられる…

MS16「命中! …いいけどにぎやかになってきたね、司令!」

…船団の中ほどにいた3000トンクラスの輸送船に魚雷が命中し、火柱が高々と上がる…しかし同時に深海側のエリコン機銃やポンポン砲がうなり、ヒュンヒュンと空を切る曳光弾の赤い尾と、左右の海面に水飛沫をあげながら着弾する機銃掃射が迫る…小さい身体で舵輪を回しながら、猛烈な速度で離脱を図るMS16…

カサルディ中佐「ちっ、冗談にもならないわ…ハント級が追ってくる!」護衛駆逐艦が急回頭して、離脱にかかっているMS艇に追いすがってくる…

MS16「それじゃあ爆雷があるから落っことしてあげよっか!」追ってくる敵艦の目の前で炸裂するよう零深度に調定にしてある爆雷を艇の後部から転がし、同時に敵艦が爆雷を避けようと回頭したところで座礁することをもくろみ、島の間の浅海をすり抜ける…

カサルディ中佐「……あ、奴さんあきらめたみたいね」どうやら浅瀬の砕け波に気付いたらしく、追撃をあきらめて戻っていく深海棲艦の「ハント」級…

MS16「ふふーん、私もやるでしょ…司令♪」小さい身体で伸びをして、唇にキスをした…

カサルディ中佐「ええ、最高だったわよ……スリル満点でね♪」鉄兜を脱ぐと煤と硝煙と汗にまみれた額を拭い、歯を見せて笑いかけた…

………

789 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/07(土) 02:46:49.69 ID:wcnABbjn0
済みません、書き間違いがありましたので訂正しておきます。

MAS艇は小型なので450ミリ型の魚雷ですが「MS.T」型艇は1941年ごろにユーゴスラビアから鹵獲したドイツ製「Sボート」を参考にしたので、搭載魚雷は533ミリでした…失礼しました。
790 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/07(土) 11:02:39.25 ID:wcnABbjn0
提督「…で、結果として「3000トン級一隻大破、また僚艇MS22の雷撃により1500トン級一隻撃沈…」と…ここからは夜間の水雷戦に関する戦術論ね」専門的な部分は後でしっかり読み込むこととして、ぱたりとページを閉じた…

アッチアイーオ「ふーん、一回の出撃で一隻撃沈と一隻大破……まぁなかなかね」

提督「あら、アッチアイーオったら妬いてるの?」

アッチアイーオ「なんでこの私が他所の艦娘が挙げた戦績をうらやましがる必要があるのよ、馬鹿馬鹿しい…ところで、それも司令部からの書類じゃないの?」

提督「どれどれ…あ、これね」管区司令部発の封筒を引っ張り出し、封を切る…

アッチアイーオ「で、内容はなんなの?」

提督「今読むわ……あぁ♪」

アッチアイーオ「なんだか嬉しそうね、昇給の通達か何か?」

提督「いいえ、これが届いたの……冬期休暇の申請書類♪」申請手続きの要項が書かれた書類を指でつまんで、お見送りのハンカチのようにひらひらと振って見せた…

アッチアイーオ「あぁ、もうそんな時期ね…」

提督「ええ。ここに着任してから毎日充実はしているし満足もしているけれど…夏の休暇は色々あって結局忙しかったし、クリスマスは実家でのんびりしたいわ」

アッチアイーオ「そうね、それもいいんじゃない? ところで……」

提督「…もしアッチアイーオが良ければ、私と一緒に冬期休暇を過ごさない?」

アッチアイーオ「…っ///」

提督「言いにくそうにしているから、てっきりそういうことなのかと思ったけれど…違った?」

アッチアイーオ「ち、違わないわよ…っ///」

提督「ふふ、良かった……みんなの分の申請書も入っているから、後でちゃんと渡さないと」

アッチアイーオ「そうね」

提督「ええ…って、もうこんな時間。 …今さら書類の処理を始めても中途半端になっちゃうでしょうし、いっそ先に申請書を配っちゃいましょうか♪」

アッチアイーオ「私はいいけど…午後の執務が大変になるんじゃない?」

提督「いざとなったら貴女がいるから大丈夫♪」

アッチアイーオ「もう、調子がいいんだから…///」

…数分後・中型潜「ペルラ」級の部屋…

提督「…失礼、ちょっといいかしら?」

ペルラ「どうぞ?」

提督「チャオ、ペルラ…みんなも♪」

ベリロ(ペルラ級「ベリル(緑柱石)」)「ごきげんよう、提督…どうかしましたか?」

提督「ええ、実はこれが届いたから渡しておこうと思って……♪」

ディアスプロ(ペルラ級「ジャスパー(碧玉)」)「あ、冬期休暇の申請書ですね」

提督「そう。国内なら大丈夫だけれど、どこか海外に行きたいようなら管区司令部が渡航していいか審査するから…少し早めに出した方がいいわ」

トゥルケーゼ(ペルラ級「トルコ石」)「…非友好国や紛争中の国もありますからね」

提督「そういうこと。まぁたいていの西ヨーロッパ諸国と、アドリア海を挟んだ「お向かい」のアルバニアやクロアチアとかなら大丈夫でしょうけれど…ところで、そのネックレス……」

…それぞれ宝石や貴石を艦名に持ち、由来となった宝石のアクセサリーをたくさん持っているため、まるで宝飾品店の店先のようにきらびやかなペルラ級の部屋…今もお互いにネックレスや指環、ティアラを交換して試していたようだが、提督はペルラたちのネックレスを見て、妙な表情を浮かべている…

ペルラ「とても綺麗でしょう、提督?」白い真珠のネックレスを首にかけている…

提督「そうねぇ…とても艶のあるいい真珠だし、ペルラに似合っていて素敵だけれど……少し長くないかしら?」提督が持っている40センチや45センチのネックレスに比べると少々長く、胸の谷間に届こうとしている…

ペルラ「ええ、でもこれでいいんです♪」にっこりと微笑むと綺麗な白い歯がのぞく…

提督「…と言うと?」

ペルラ「ちょうど53.3センチあるんです」

提督「あ、533ミリ魚雷と合わせてあるわけね♪」

ペルラ「はい」

提督「なるほど……それじゃあ休暇申請の方はよろしくね?」

ペルラ「了解♪」
791 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/12(木) 01:53:07.64 ID:yB2GUe8y0
…お茶の時間・食堂…

カヴール「…クリスマス休暇の申請書ですか」

ライモン「早いものですね、提督?」

提督「本当にねぇ……でもローマにいたときの気ぜわしい感じとは違って、一日が鮮やかに彩られている気分よ♪」

アッテンドーロ「へぇ、提督ったら詩人ね……」

ルイージ・セッテンブリーニ(中型潜セッテンブリーニ級)「提督は文学も良くたしなまれておりますからね」(※セッテンブリーニ…リソルジメント(イタリア統一運動)に参加した愛国詩人)

ゴフレド・マメリ(中型潜マメリ(マメーリ)級)「図書室でもよく会うものね」

(※マメリ…同じく愛国詩人でガリバルディの側近として共闘。現在のイタリア共和国国歌「フラテッロ・ディターリア(イタリアの兄弟)」を作詞したことから、この曲を「インノ・ディ・マメーリ(マメーリの賛歌)」とも呼ぶ)

ジョスエ・カルドゥッチ(駆逐艦オリアーニ級)「確かに提督は読書家です」(※カルドゥッチ…同じくノーベル文学賞の詩人で愛国者)

提督「もう…文学者の皆に言われるとくすぐったいわ♪」

ガリレイ「…あら、みんな楽しそうね」

トリチェリ「なんのお話をしていたんですか?」

提督「あら、みんな……今はちょうど「冬期休暇の申請書が来た」って言う話をしていたのよ。 みんなの部屋にも届けたから、早めに記入して提出してね?」

…提督たちがのんびり会話をしていると、鎮守府の科学者や天文学者、物理学者の名を持つ潜水艦の娘たちがぞろぞろと入ってきた…そしていずれも中世の学者たちが科学とともにたしなんでいたためか「錬金術士」の格好をしていて、可愛らしいケープや帽子をまとっている…

トリチェリ「はい♪」

アルキメーデ「それなら早めに記入しないといけませんね」

提督「ええ…ところでなんだかいい匂いがするわね?」

ダ・ヴィンチ「ふふーん、提督ったら……せっかく驚かそうと思っていたのに♪」今日はピンク色の帽子に同系統の色合いでまとめた短いケープと上着、それに膝丈のプリーツスカートで、脚は飾りのついた茶革のニーハイブーツでまとめている…

提督「?」

ダ・ヴィンチ「じゃーん…♪」後ろ手に隠していた皿を前に回して披露する…

提督「あら、美味しそうなパイ…厨房で作ったの?」

ダ・ヴィンチ「いいえ、ちょっと錬金釜でね♪」

提督「へぇぇ、錬金術でパイを…ねぇ。 …まぁ錬金術かどうかはさておき、美味しそうに出来ているわね」

ダ・ヴィンチ「良かったら味見する?」

提督「ええ、せっかくだから…それと良かったら、みんなにも一切れずつ分けてあげて?」

ダ・ヴィンチ「もちろん…♪」ナイフを入れると「さくっ」と良い音を立て、焼けたパイ皮とバターの香ばしい香りと、中に詰めたリンゴの甘い芳香が立ちのぼった…

提督「あら、いい香り……いただきます」フォークで小さく切ると口に運んだ…パイ皮は軽くさっくりとした歯ごたえで、中のリンゴは食べにくくならないようプレザーヴ(少し形を残したジャム)スタイル、そしてシナモンは利かせずさっぱりした味わいに仕上げてある…

ドリア「…あら、本当に美味しいですよ」

セッテンブリーニ「レオナルドは万能の天才ですね♪」

ダ・ヴィンチ「…提督はどう?」

提督「ええ、とっても美味しい。 私はシナモンが多いタイプのアップルパイは苦手だから、こういう味だと嬉しいわ♪」

ダ・ヴィンチ「良かった……おかげでちゃんと提督に食べさせることが出来たし♪」

提督「え、それってどういう…っ!?」不意に脳の血管に「どくん…っ!」と拍動が響いた…

ライモン「うっ…!?」

ドリア「あ、頭が……」

ダ・ヴィンチ「…その様子だと上手くいったみたいね♪」

提督「ダ・ヴィンチ、このパイに一体なにを……」
792 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/14(土) 13:36:12.68 ID:zXFHtiTN0
ダ・ヴィンチ「実はねぇ…そのパイは「一時的に性格を変えちゃうパイ」なの♪」

カルドゥッチ「なんでそんなものを食べさせたんですか…」

ダ・ヴィンチ「いや、それが作ってみたら普通に出来ちゃったものだから試してみたくて♪」

ガリレイ「あれ、普通のパイじゃなかったの…?」

トリチェリ「てっきり私もただ錬金術でパイを作ったものと……」

セッテンブリーニ「そんなことはどうでもいいから…提督、大丈夫ですか?」まだパイに手を付けていなかったセッテンブリーニが提督を揺さぶる…

提督「…」

ダ・ヴィンチ「…提督?」

提督「……ふぅーん。ダ・ヴィンチは普段の私じゃあ満足出来なかったわけ」ゆらりと椅子から立ち上がった提督は、金色の瞳に妖しげな光をたたえている…

ダ・ヴィンチ「いえ、別にそういう意味では…」

提督「じゃあどういうつもりでこんなことをしたの…ねぇ?」あごに親指をあてがい、ぐいと顔を上げさせる…

ダ・ヴィンチ「えぇと、だから面白いかと……」

提督「そう、じゃあ私も面白ければダ・ヴィンチに何をしてもいいわよね…ぇ♪」

ダ・ヴィンチ「え、えっ……///」

提督「どうしたの、だって面白ければ何をしてもいいんでしょう? 少なくとも、私は面白いわよ…♪」ダ・ヴィンチの腰に手を回してぐっと引き寄せ、さげすむような視線を投げかける…

ダ・ヴィンチ「あう…///」

提督「ふふっ、おどおどしちゃって可愛いじゃない…♪」んちゅ、むちゅ…じゅるうぅっ♪

ダ・ヴィンチ「んふっ、んんぅぅ…っ///」

提督「んちゅ、ちゅぷ……ちゅるっ、ぢゅむ…じゅるぅっ♪」

ダ・ヴィンチ「んっ、ふぅぅん…っ///」

提督「ちゅむぅっ……ぷは♪」

ダ・ヴィンチ「…はひぃ///」

提督「あら、もう終わり……?」口元から垂れた唾液を手の甲で拭うとゆっくり視線を動かし、食堂にいる娘たちを品定めするようにねっとりと眺めた…

トリチェリ「うわ、提督の目が据わっていますよ…先生、どうするんですか?」

ガリレイ「と、とにかく効果が抜けるまで待つしかないでしょう…ドリアたちは?」

トリチェリ「そう言えばライモンドとムツィオも食べていましたね…」恐る恐る視線を向ける…

ドリア「わー、このパイおいしー♪ ドリアこれ大好きですぅ♪」普段はおっとりした妙齢の女性であるドリアがぶりっ子の小娘のように高っ調子の声をだしている…

トリチェリ「…」

ガリレイ「1916年生まれの淑女がやってると痛々しい事おびただしいわね……ライモンドたちの方はどうなったの?」

ライモン「…ムツィオはいちいちわたしと提督の仲に口を挟みすぎです!」

アッテンドーロ「だって、私…お姉ちゃんの恋が成就してほしいから良かれと思って……」

ライモン「余計なお世話です! わたしは提督と愛を交わした仲だし、一昨日の晩だって三時間も情を交わしましたっ!」いつもは律儀で奥ゆかしいライモンがちゃきちゃきのナポリっ娘のようなべらんめえでまくし立て、さばさばした性格のムツィオは歯切れが悪い…

ガリレイ「…それはそれは♪」

トリチェリ「先生、今のは聞かなかったことにしてあげないと……きっとライモンド、後で真っ赤になっちゃいますよ」

ライモン「だいたい提督だって提督です! いっつも可愛い女の子とみれば見境なしに口説いて回って…ちょっと、聞いてますか!」

提督「どうしたのよ、ライモン…へぇ、眉をつり上げて怒ってみせて……嫉妬だなんて可愛いじゃない、その怒り顔がめろめろにとろけきるまで抱きたくなるわ…♪」身体を寄せると頬に手を添え、もう片方の手をスカートの中に滑り込ませる…

ライモン「言いましたね、今日はわたしの指で腰が抜けるまでイかせてあげますから!」

提督「あら、ライモンにそんなことが出来るのかしら……いつも鳴かされてばっかりのライモンに♪」長テーブルに上半身を押し倒す形で抱き合い、お互い主導権を争うように唇をむさぼり、乳房をこねくり回し、秘部に滑り込ませた指をくちゅくちゅと動かす…

トリチェリ「…あの、先生」

ガリレイ「はい、トリチェリ」

トリチェリ「提督とライモンドですが……性格こそ変わっていますが、やっていることはいつもとそう変わらないのでは?」

ガリレイ「え、なに…耳が悪くてよく聞こえなかったわ」

トリチェリ「…」
793 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/20(金) 02:19:14.68 ID:SxORM81s0
トリチェリ「と、とにかく早く何とかしませんと…!」慌てて食堂の壁掛け電話に駆け寄り、内線を回してラッパ型の送話器にとりついた…

…執務室…

アッチアイーオ「ふぅ、そろそろ私もお茶を飲みに行こうかしら……」と、内線が「リリリンッ…!」と鳴り響いた…

アッチアイーオ「内線?一体何かしら? …はい、こちら執務室」

トリチェリ「もしもし、こちら食堂です……執務室聞こえますか!」

アッチアイーオ「ええ、聞こえるわよ。 一体どうしたって言うのよ、トリチェリ…そんなに慌てふためいた声を出して?」

トリチェリ「アッチアイーオですか? 食堂でトラブルなんです、至急来て下さい!」

アッチアイーオ「トラブル?」

トリチェリ「はい、提督がダ・ヴィンチの作ったパイを食べたら性格があべこべになってしまって……とにかく手の付けようがないんです」

アッチアイーオ「またあのイカれた天才が何かやらかしたのね…了解、すぐ行くわ」

トリチェリ「はい、お願いしま……」そこまで聞こえた所で唐突に通話が切れた…

アッチアイーオ「トリチェリ?ちょっと、どうしたのよ?」再三話しかけてみるが、応答がない…

アッチアイーオ「……とにかく提督がおかしくなってるって言うんなら、平手打ちでもなんでもして正気に戻してあげるのが秘書艦の務めってものよね…!」

…食堂…

トリチェリ「はい、お願いします…!」そう言いかけた所で後ろから甘い吐息が吹きかけられたかと思うと、突然送話器のフックを押され電話を切られた…

提督「せっかく私が近くにいるのに、他の誰かとおしゃべりなんてしないで欲しいわねぇ……」

トリチェリ「えぇと、提督…とにかく落ち着いて下さい」

提督「あら、私は落ち着いているわよ…トリチェリ♪」トリチェリを壁に押しつけて頭のすぐ脇に手をつき、同時に膝の間に脚を割り込ませる提督……紅いルージュを引いた唇がゆっくりと、しかし着実に迫る…

トリチェリ「ん、ふ……///」

提督「んむ、ちゅっ、じゅるっ……ちゅるぅっ…」

トリチェリ「んんぅ…ん、あふっ……んん…っ///」

提督「ぷは…♪ 美味しかったわよ、トリチェリ。 それじゃあ皆の様子も見てくるけど……戻ってきたら、もっと素敵な事をしてあげるから…ここでいい娘にしていなさい♪」

トリチェリ「ふぁ…い///」

…廊下…

提督「あら、アッチアイーオ…♪」

アッチアイーオ「提督、食堂で一体何をやらかしたの…返事いかんでは提督と言えども引っぱたくわよ?」

提督「あら、怖い顔……でもね」普段の柔和な笑みとは違うサディスティックな欲望をどろりとにじませた表情を浮かべ、じりじりと距離を詰めてくる…

アッチアイーオ「ちょっと、それ以上近づかないで…っ///」

提督「…アッチアイーオ、貴女に私の事をぶったり出来ないのは分かっているの」

アッチアイーオ「……っ///」両の手首をつかまれ、口づけされるアッチアイーオ…相変わらず上手なことは上手だが、いつもの提督とは真逆の、相手を考えない自分本位のわがままなキスが続く……

提督「ふふ……脅しをかけるなら、もっと真実味のある嘘をつかないとだめよ…♪」

アッチアイーオ「もう知らない……どうとでも好きにすればいいでしょ…///」

提督「そうね、鋼鉄も熱すれば柔らかくなるというし……すぐとろっとろにして私好みの鋳型に流し込んであげるわ」んちゅっ、ちゅむ……♪

アッチアイーオ「んっ、んちゅ、ちゅぷ……んっ、あぁぁ…っ///」

提督「アッチアイーオったら、もうイっちゃったのね…♪」軽蔑をにじませたような声で耳元にささやく…

アッチアイーオ「ええ、そうよ……だって…提督とするのがたまらなく好きなんだものっ///」

提督「よく言えたわね……それじゃあご褒美にもう一回してあげる…♪」ちゅぷっ、くちゅっ……♪

アッチアイーオ「あっ、あっ、あぁぁぁ…っ♪」そのまま提督の身体にしがみつき、人差し指と中指でゆっくりと膣内をかき回されながら果てた…

………

794 : ◆b0M46H9tf98h [sage saga]:2021/08/22(日) 03:08:28.86 ID:raWz9qH30
…数分後…

提督「…スクアーロ、貴女は噛みつく悦びなら知っているでしょうけれど、たまには……噛みつかれる悦びを味わってみない?」かぷっ…♪

スクアーロ「んっ…んぁぁ♪」

提督「ふふふ……お腹が白くてとってもきれいね♪」ちゅ、ちゅ…っ♪

スクアーロ「提督ぅ…んっ///」

提督「ふーっ…可愛かったわよ、スクアーロ♪」

スクアーロ「ふあぁ…っ……///」しゃがんだ提督に脇腹を甘噛みされ愛撫され、最後はおへその辺りに息を吹きかけられると力が抜けたようにくずおれた…

提督「さーて、スクアーロ(サメ)のおつぎはデルフィーノ(イルカ)にしようかしら…♪」

デルフィーノ「あっ、あっ…あふっ……んっ♪」くちゅくちゅっ、ちゅぷっ…ぐちゅっ♪

提督「あら、デルフィーノってば私が「してもいい」とも言わないのに…どうして一人で勝手に始めているの?」

デルフィーノ「らって…ぇ♪」

提督「……あら、言い訳をするつもり? そんな悪い娘にはお仕置きが必要よね…ぇ♪」

…廊下で出くわすなり提督に責めまくられてイかされた姉スクアーロの様子を見て、これからされることを考えて欲情がおさまらないデルフィーノ…何もしないうちから内股になり、とろけた顔で膣内をかきまわしている…

提督「まったく、可愛い顔をしておきながら……そこで仰向けになりなさい」

デルフィーノ「ふあ…ぁ♪」

提督「…さあ、どうすればいいと思う? 頭のいい貴女なら分かるわよね?」ヒールを脱ぐと、黒いストッキングで包まれたつま先を顔の前に突き出した…

デルフィーノ「ふぁい……んちゅっ、れろっ……ぴちゃ…♪」片手で秘部をかき回しながらもう片方の手で提督の足を握ると、恍惚の表情を浮かべて一心に舐め始めた……

提督「ふぅん、デルフィーノはそうするべきだと思ったのね……もういいわ」

デルフィーノ「あ…」

提督「まだ舐めたいの? 相変わらずどうしようもないほどの発情期ね……安心なさい、まだ終わらせないから…♪」デルフィーノを軽蔑したような視線で見下ろすと、舐め回されてじっとりと濡れたつま先を濡れそぼったデルフィーノの花芯にあてがった…

デルフィーノ「ふあぁぁ…っ、ていとく…気持ひいいれす……っ♪」ぷしゃぁ…ぁっ♪

提督「全く、廊下の真ん中で愛液を滴らせながらよがって…デルフィーノ、どういうつもりなの?」

デルフィーノ「らってぇ…ていとくの足が……あそこを…ぐりぐりって……気持ひぃ…んぁぁぁっ♪」

提督「そう、それは良かったわ……ねっ♪」そう言って足をどけると、踏み換える形でヒールのかかとをデルフィーノの割れ目に押し込んだ…

デルフィーノ「んあぁぁぁ…っ♪」

提督「…それじゃあ、後はきちんと片付けておきなさい」

デルフィーノ「りょうかい…れふ……んくぅ…っ♪」

…作戦室…

アオスタ「はい、こちら作戦室……え、何ですか? 提督が?」内線を取るなりまくし立てられたらしく、しばらく耳を傾けているアオスタ…しかし話の内容が腑に落ちないらしく、眉をひそめてけげんな表情を浮かべている……

アオスタ「……一体どういう事ですか…とにかく分かりました、秘書艦の二人は? …連絡がつかない? 了解、ならばこちらから指示を出します…とにかく館内放送をかけますから」

トレント「…どうしたんですか?」

アオスタ「ええ…実は食堂から連絡があって、ダ・ヴィンチのせいで提督の性格があべこべになって大変だって……」

トレント「あべこべ…ですか?」

アオスタ「聞いた限りではとにかくわがままで自分本位、相手のことを考えないでキスしたり、それ以上も……とにかく襲われた娘が出て大変だって連絡があったわ///」

ザラ「なんだ……確かにスタイルはあべこべだけど、やっている事はいつもと同じじゃない」

アオスタ「冗談を言っている場合じゃないでしょう…とにかく提督と接触しないよう館内放送をかけます」

トレント「了解…それとここの鍵もかけます」

アオスタ「そうね」
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