何も無いロレンシア

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18 : ◆SbXzuGhlwpak [sage]:2019/06/01(土) 02:39:24.45 ID:zJUkddjZ0
「……そんな顔をするな」

「……だって」

 今にもこぼれそうなほど目じりに涙をためた妹に、ため息をつく。

 同情は嫌いだ。

 同情された事なら何度かあるが、手を差し伸べられたことなど一度も無いのだから。

「俺のことなんて気にせず、自分と姉のことを気にしろ。俺に言われても嬉しかないだろうが――達者でな」

 妹の疑問は解いた。別れの挨拶もこれで十分だろうし、いい加減旅立つとしよう。 

「……いいえ、ありがとうございます。貴方も――」

 妹は言いかけた別れの挨拶を止めると、穏やかな笑みを浮かべた。

 それは俺の住む世界とはまるで別の、夢物語のような淡く優しく、そしてどうしようもなくかけ離れたような笑み。

「“何も無い”ロレンシア。どうか貴方が、私たちとはどこか遠いところで何かを見つけ、幸せになることを祈ります」

――――――――ああ。

 何と心地よい突き放し方だろう。

 もう二度と関わり合いたくない俺の幸せを祈るには、これが最上の別離の言葉でなかろうか。

 この依頼を引き受けて良かったと改めて思いつつ、俺は歩き始めた。
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