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八宮めぐる「一緒にここから」
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1 :
◆U.8lOt6xMsuG
[sage saga]:2020/03/21(土) 01:57:39.54 ID:AoPUJLA90
八宮めぐるさんとPの初夜です
2 :
◆U.8lOt6xMsuG
[sage saga]:2020/03/21(土) 01:58:22.33 ID:AoPUJLA90
隣の少女は無言だった。昨日までは寒かったのに、今日はすっかり春らしい気候で、冬服だと首下に汗が滲む。しかし夜になれば話は変わり、昼間のツケが帰ってくるかのように今の服に感謝をした
電灯が等間隔に灯っている。星空の下と、電球の下を繰り返しながら歩いた
「……寒いな。何か買っていくか? コーヒーでも、ココアでも」
少し先に自動販売機が見えた。ホットコーヒーなりココアなり、かじかみかけの手を温めようと少女に提案する
「……うぅん、大丈夫。早くプロデューサーの家に行きたいし」
少女はそう言いながら断った。
プロデューサー、と呼ばれた瞬間に胸が締め付けられた。俺はアイドルのプロデューサーで、この少女の担当をしていて、まだ未成年の彼女を家に連れ込もうとしている。砂糖が溶けきってない、ドロドロのコーヒーみたいな思考が脳内を埋める
自分の事をどうしようもないクズだと自称し、自宅までの道を彼女と歩いた
「……めぐる」
彼女の名を呼んだ。前を向いたままだったので、彼女の金色の髪は視界の端っこにしか入らない
「何、プロデューサー?」
彼女の手は温かかった。冷えた指先が、柔らかい熱に包み込まれる。ほら、変装していると言っても、前に事務所に来た阿久井徳次郎さんみたいな記者にすっぱ抜かれたら、と言いかけて止めた
「……いや、めぐるの手が、暖かいって思って」
代わりの言葉を吐いた。少女はふふっと吐息を溢した。そのまま、身体の側面と側面がくっついた。歩くときに出す足が同じになった
夜になればまだ寒い、とはいえ彼女がいるならば冬服でなくてもよかったのではと思った
3 :
◆U.8lOt6xMsuG
[sage saga]:2020/03/21(土) 01:58:50.56 ID:AoPUJLA90
彼女が――八宮めぐるが自身の抱えている感情に恋と名付け、俺に教えた。それが始まりだった。
アイドルとして抱いてはいけない感情だと言うのは彼女も重々承知していた。しかし、もはや彼女はそれを抑えることが出来なくなっていた
『……うん、言ってスッキリできたよ。ありがとうプロデューサー、また明日ね』
ある日の夕暮れ、帰り支度をしているとき呼び止められた。俺としては急に何をと戸惑うものだったが、めぐるにとってはそうじゃなくて。ずっと抱えていたものを、ようやく吐き出せたらしい彼女の言葉は、途切れ途切れでたどたどしく、最後の方は震えていた
耳まで真っ赤になった顔と、涙がたまった瞳を無理やり笑顔に変えて、彼女は背を向けた。言って、ここで終わりにするつもりだったのだろう。だって八宮めぐるはアイドルで、俺はプロデューサーだから
彼女にとってのこの告白は、精算でもあったのだ。もう抱えているものはお終いにして、明日からは何もなかった頃のように、と。彼女はそれを望んでいた
俺はめぐるが歩き出す直前に、手をとった
アイドルとしてのめぐるの将来と、自分の事を慕う女性に応えようという思い。二つを天秤にかけて、後者を優先した。
めぐるは目を白黒させて戸惑った。俺も俺が何をしているのか理解が追いつかなかった。彼女の涙には覚悟も含まれていた。終わらせるために勇気を振り絞った。俺はそれを侮辱した。それだけだった
今度は子どものように、めぐるが泣きじゃくった。その後に笑った。以来、秘密の関係が出来た。
4 :
◆U.8lOt6xMsuG
[sage saga]:2020/03/21(土) 01:59:20.46 ID:AoPUJLA90
高校生だぞ、と頭の中で自分が何度も叫ぶ。手遅れに……は、既になっているが、それでも早めに元の関係に戻った方が互いのため、だというのも分かる
しかし、引き返すことが出来なかった。どんどんと、自分の足下が泥のようになって行く感覚が大きくなって、沈んでいく息苦しさが増えて行く。それでもめぐるを拒絶出来なかった
彼女が目に涙を溜めながら言葉を綴ったあの夕方の景色を思い出す度、沈んでいく感覚に抗おうという気は小さくなった
『あのね、プロデューサー』
そして、めぐるとそういう関係になって3ヶ月が経った頃。事務所で二人きりになった今日。
俺たちはいつからか、示し合わせたわけでもないのに、互いに事務所に遅くまで残るようになっていた。互いに多忙で、共有出来る時間は少なかった。だからか、俺の仕事が終わるまでめぐるが待っていたり、めぐるがスタジオから戻ってくるまで帰らなかったり、互いにそういうことをしていた
今日もいつも通りめぐると二人きりになって、他愛もない会話をし、時間を一緒に消費していった
『どうしたんだ?』
そんな中で、彼女に切り出された。マグカップを両手で挟んで、うつむいて表情がよく見えなかった。金色の髪の毛から、赤い耳が見えた。
『……そのね、今日、学校でさ、友達が』
彼氏と、そういうことをした。その話を聞いた。めぐるはそう言った。震えた声だった。
『だからっ……って、ワケじゃないけど、その』
興味が出たのだと。それから、自分がプロデューサー――俺にとって、そういう対象として見られているのか不安になってしまったのだと。彼女はポツポツと語った
『いきなりだけど……プロデューサーも、私も、明日はお休みだし』
そうだ。明日はこういう関係になって初めて、共通の休暇日だ。だからといって、これはあまりにも急すぎるのではないか。確かに、性行為で愛を確かめるというのはある。しかし、必ずしも性行為が必須というわけでもない。他に採れる方法は多い。
また、めぐるはまだ高校生だ。自身の身体を慮ることが一番ではないか。もし妊娠でもしたならば、もしトラブルが発生したら……とリスクについて考えてしまう。彼女にとって最悪といえるシナリオが、頭の中で克明に描かれる。
しかし、俺はめぐるにプロデューサーとしてかける言葉を使わなかった
代わりに『家は汚いが大丈夫か』と、最低な言葉を吐いた。めぐるはこくんと頷いた。
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