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【安価でのわゆ】久遠陽乃は勇者である【4頁目】

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21 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/05(土) 22:14:05.02 ID:4m9EtVhK0
2
22 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/05(土) 22:30:02.47 ID:upSXl/jbo

陽乃「……ひとまずは」

このまま寿命を縮める結果になってしまうとしても、

最悪の事態を乗り越えるためなら、この力は使っていこうと陽乃は決める。

水都には悪いが、

切り札として、この力はあまりにも優秀だ

周りの勇者にも影響があり、

陽乃自身にも強い副作用があるという問題はあるが、だからこそとも言える。

陽乃「もう少し、お力をお貸しください」

九尾のように答えてくれるわけではないが、

耳には届いているはずだから、願いだけは口にする。

叶えて貰えるとも限らないが。

陽乃「はぁ……」

陽乃は、少し気怠そうなため息を漏らす。

体はいたって健康、力も余っている。

だが、変に脱力感がある。

明らかに、伊邪那美命の力の影響だろう。
23 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/05(土) 22:49:20.21 ID:upSXl/jbo

今後は、本当に気をつけて使わなければいけない。

水都にせよ、歌野にせよ

力を使う場合は事前に報告は間違いなく必要だ。

何も言わずに力を使って、倒れ、そのままバーテックスに襲撃を受ける可能性も0とは言えないからだ

そうならないくらいの力はあるが、それでも。

陽乃「また、あの子達を喜ばせるんでしょうけど」

信頼されてるだの、頼られているだの

勝手にそう考えて、喜ぶ。

面倒だ。

だけど、自分の身を護るためには、ひと声かけておく必要がある。

陽乃「仕方がない……けど」

二人の喜々とした反応が目に浮かんで。

陽乃は嫌なものを見てしまったように顔を顰める。

陽乃「出来るだけ、使わないようにしたいわ」

声をかけずに済むように

自分の命を削らなくて済むように
24 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/05(土) 22:57:33.06 ID:upSXl/jbo

√ 2018年 9月2日目 夜:諏訪

01〜10 歌野
56〜65 九尾
89〜98 水都


↓1のコンマ

※それ以外は通常
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/05(土) 22:58:54.75 ID:mPJ964ygO
26 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/05(土) 23:18:14.60 ID:upSXl/jbo

√ 2018年 9月2日目 夜:諏訪


水都「広くなっちゃいましたね」

陽乃「もともと広かったじゃない。2人減ったところで大差ないわ」

水都「そんなことないですよ。大きいです」

水都は、もう懐かしむような顔で2人がいた場所を眺める。

杏は比較的静かだったが、球子は賑やかだった。

それが、この部屋には満ちていた。

けれどそれは昨日で終わってしまったから、

見た目以上に、部屋は物寂しい感じがする。と、水都は困ったように笑みを浮かべた。

2人は生きている。

これからのために、ここを出て行った。

だけど、ここにはいないから。

歌野「そうね。寂しくないと言えば、嘘になっちゃうわね」

歌野は、水都にほほ笑んで

余った2組の敷布団の上にある枕を手に取る。

片付けるべきだったのに、片付けなかった。
27 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/05(土) 23:24:41.71 ID:upSXl/jbo

歌野「だから、こうしましょう」

歌野は、ばらけていた3組の布団、陽乃達の分を、すべて並べる。

歌野、陽乃、水都

3人分が、横並びになると、部屋はさらに余りを多くするが、

密着しているその空間は、少し切り離されているように見える。

陽乃「なにしてるのよ」

歌野「良いじゃない。せっかくだから」

陽乃「はぁ?」

せっかくだからとは何なのか。

これだけ部屋を広々と使えるのだから、

2人分くらいの距離を開けて寝るとかならまだ理解もできる

だが、歌野がしたのはその真逆。

歌野はニコニコとしているが、陽乃はそれを睨む。


1、2人でくっついてなさい。私は嫌よ
2、9月とはいえ、まだ暑いのに馬鹿じゃないの
3、勝手にして……もう、面倒だわ
4、何も言わない


↓2
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/05(土) 23:27:02.06 ID:4m9EtVhK0
4
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/05(土) 23:31:53.46 ID:w+A/sZz3O
1
30 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/05(土) 23:37:22.56 ID:upSXl/jbo

では本日はここまでとさせていただきます
明日は可能であればお昼ごろから
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/05(土) 23:56:25.19 ID:50cJMsNqO

常に死がつきまとうけど陽乃さんにとっては現状頼れるのは力だけだしなぁ…
陽乃さんの性格が変わるような出来事がないと色々厳しそう
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 00:22:06.31 ID:PxyFczcWO

くっついて寝ればいいのに
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 00:29:19.84 ID:EcGsAtRP0

天乃先輩お誕生日だね
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 09:30:21.80 ID:y1d5oF/NO
陽乃さん、天乃先輩お誕生日おめでとう
たまには天乃先輩にも会いたくなるな
35 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 18:39:35.48 ID:OiFwquz1o
では少しだけ
36 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 18:40:13.56 ID:OiFwquz1o

陽乃「2人でくっついてなさい。私は嫌よ」

冗談でしょ。とでもいうかのように、

やや引いた目をしながら、陽乃は手で払うような仕草をする。

杏と球子には許していたのに? と言われても困る。

あれだって別に好きでやっていたことではない。

歌野「そんな嫌がらなくたっていいじゃない」

陽乃「嫌なものは嫌」

歌野「……もうっ、久遠さんってば」

陽乃「冗談で言ってるわけでもないんだけど」

歌野は距離を置く態度にめげていない

出会ってから、まだ1年も経っていないのに

半年でさえ経っていないし、無理に言って半月位の関係なのに。

陽乃「私は、できるなら一人になりたいの」

水都「私達とは逆ですね」

陽乃「……」

歌野「久遠さんが一人になりたいのと同じように、私達は久遠さんと一緒にいたいと思ってる」

歌野はそう言って

歌野「一人にしたくないって思ってる」

歌野は陽乃の手を掴もうとして、逃げる手を目で追う。

けれど、距離を詰めても陽乃は後退りして離れて行く。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 18:43:50.17 ID:MzYyhuXJO
来てたか
38 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 18:59:32.05 ID:OiFwquz1o

歌野「だって、久遠さんすっごく、傷つくじゃない」

陽乃「何言ってるのよ。私は独りになりたくて――」

歌野「違う。戦いの話……バーテックスの攻撃じゃなくて、自分の力で傷ついてる。
    だれかを守るために、何かを守るために、何かのために、私達以上に命を懸けてくれてる」

歌野は、悲しそうな顔をする。

陽乃の今は綺麗な手を見て、驚きに戸惑いながら嫌悪感のにじむ顔に目を向けて

陽乃に触れようとしていた手を引っ込めて、自分の胸に当てる

歌野「今日、久遠さんの痛みが私にまで届いたわ。胸の奥に杭を打ち込まれたみたいに、息が止まっちゃうんじゃないかってくらい痛かった」

陽乃「まさか」

否定する陽乃に歌野は首を振って上塗りする。

そんなはずがないと思う気持ちはわかるが、事実痛みがあった。

陽乃から歌野へと力のつながりがあるため、それが伝わったのかもしれない。

歌野「久遠さんはそれ以上の痛みを感じてると思う。なのに、見て見ぬふりなんてできない」

陽乃「私が望んでいても? あんまりにも、独善的だって思わない?」

歌野「だって、久遠さん優しいじゃない。本当に孤独になりたい人は、こんなに優しくないはずだわ」

陽乃「私は優しくなんて」

歌野「じゃぁ、どうしてここにいてくれてるの? 命を懸けてまで諏訪を守ってくれたの? 伊予島さん達の道を作ってくれたの?
    おかしいじゃない……本当に自分だけでいいなら、こんな場所なんて放って四国に帰ってるはずでしょう?」


1、勘違いしないで。余計な争いを避けたかっただけよ
2、ここでしか使えない力を使っておきたかっただけよ
3、ただの気まぐれよ
4、何も言わない


↓2
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 19:02:23.94 ID:bYfkhjBh0
2
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 19:24:29.69 ID:0pwl/MY/0
4
41 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 19:33:25.89 ID:OiFwquz1o

陽乃は、ぐっと唇を噛んで黙る。

論破できるほどの理由があるだろうか。

無理を通したって争いになるだけだったから?

ここに来た意味そのものを失うことになるから?

ここにはまだやり残したことがあったから?

それが最善策だと思っていたから?

どれもこれも "母親より大事なこと" ではない。

陽乃「別に、守りたいとか、そんな思いは……」

歌野「だけど、結果は守ってくれたの」

陽乃の思惑が何であれ、陽乃の行動の結果は歌野達にとって良いものだった。

守りたかったわけじゃないと言われようが、守ってもらったことに変わりはないし、

見捨てるのを躊躇ったわけじゃないと言われても、見捨てずにいて貰ったことになる。

歌野「……はっきり言うわね? 貴女は私たちの命の恩人よ」

陽乃「……」

歌野「意図したことじゃないとしても、私たちは救われてる。そんな人を、放っておけるわけがないじゃない」
42 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 19:47:24.98 ID:OiFwquz1o

辛くて苦しい過去がある

普通にはありえない闇を抱えている

だから、誰も信じたくないし近寄られたくもないし、独りきりでいたいと思っている。

その気持ちをわかるだなんて歌野は言わない。

その言葉は嘘でしかない。

だけど、思う。

その過去があってもまだ、勇者として結果的にとはいえ人を守っているのに報われないなんてあんまりじゃないかと。

言葉通りに命を懸けて、傷ついて

なのに、感謝の言葉さえも許されないなんて酷いじゃないかと。

裏切られたトラウマは、一生涯その根を絶えることはないかもしれない。

だけど、だからって、傷も、闇も、何もかもをそのまま膝と一緒に抱えている姿を、見て見ぬふりなんてしたくはない。

歌野「嫌いになってくれて構わない。鬱陶しいと思ってくれても構わない。
    それでも私は、いつか久遠さんがこちら側に踏み込んできてくれると信じて近付き続けるわ」

陽乃「……貴女まで」

歌野「久遠さんの行動の結果よ……そうね。因果応報、自業自得かしら」
43 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 20:13:57.47 ID:OiFwquz1o

陽乃「……そんなの、私は貸しだと思わないし、見返りを与えるつもりもなければ、恩返しなんてする気もない。費やした全てが無駄になるとは思わないわけ?」

歌野「思わない」

歌野は考えるまでもないとすぐに答えて首を振った。

歌野「言ったでしょ。私ってば、自分勝手なの」

水都「私も」

ね。と、2人揃う

どうあっても、2人は陽乃をひとりにはしないだろう。

満面の笑みを浮かべて顔を見合わせる2人から、陽乃は一歩引いた位置にいる。

この一歩、遥かな距離のある一線を、構うことなく突き抜けてくる。

歌野「あ、そうだ」

俯きかけた陽乃の顔を上げさせる歌野の明るい声

歌野「もう一つあったわ。一蓮托生! 私達、そうでしょ?」

陽乃の力が歌野の力になる。

陽乃がダメになれば、歌野もダメになる。

その逆は、ないけれど。

歌野「だから、私達をそばにいさせてくれないかしら?」



1、……嫌よ
2、嫌って言ったって、聞く耳持ってくれないじゃない
3、得られるものは何もないわ
4、馬鹿じゃないの


↓2
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 20:15:25.14 ID:ku+SLSLZO
2
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 20:17:39.97 ID:EDgtTiXmO
2
46 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 20:30:50.61 ID:OiFwquz1o

陽乃「嫌って言ったって、聞く耳持ってくれないじゃない」

歌野「ええ」

陽乃「……最悪だわ」

歌野「でも、もう取り返しなんてつかないんだから」

歌野は、嫌がらせのように笑顔で言う。

力のつながりができている。

もちろん、絶とうと思えば絶つこともできるだろう

だけど、それで陽乃が得られるのは苦労だけだ。

歌野と水都はきっと変わらない。

歌野「過去にどれだけのことがあっても、それで未来まで台無しにするなんて私が許さない」

水都「ごめんなさい。でも、譲れないものもあるんです」

陽乃「死ぬわよ」

歌野「勇者だもの。命がけでしょ」

2人は引かない。

どれだけ深い溝があっても、諦めよう。なんてことは言わない。

どれだけ遠回りすることになるとしても、いつかは、その先に行くことが出来ると信じて疑っていない。
47 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 20:44:25.77 ID:OiFwquz1o

陽乃「どうなったって、知らないから」

責任なんて取れない

約束を破ったとか、信じていたのにとか

そんなこと言われても陽乃は何にもする気はない。

人を殺してしまったことも、

向こうでは散々に嫌われていることも、

何もかもを知ったうえでこれなのだから、

その果てに何があろうと、自己責任というものだ。

陽乃「……」

陽乃は自分の腕をぎゅっと抱きしめて、2人から顔を背ける。

信じない、信じられない

頼らない、頼りたくない

陽乃「自己責任で、自衛しなさい。私は関与しないから」

歌野「久遠さんの力を借りてるのよ? 何も問題ないわ」

陽乃「そう……そう、思っていればいいと思うわ。保証はしないけど」

歌野「ええ。思わせて貰うわねっ」

歌野はそれでも嬉しそうで、一瞥するだけで陽乃はため息をつく。

結局、布団の距離が開くことはなかった。
48 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 20:55:27.79 ID:OiFwquz1o

1日のまとめ(諏訪組)

・ 白鳥歌野 : 交流有(作戦決行、通信代行、何も言わない、聞く耳を持たない)
・ 藤森水都 : 交流有(作戦前、一緒に、不履行、調子に乗らないで、怒らせたい、特殊1、間違いない、作戦決行、大丈夫だと思った、歌野のところへ)
・ 土居球子 : 交流有(作戦決行)
・ 伊予島杏 : 交流有(作戦決行)
・   九尾 : 交流無()

√ 2018/09/02 まとめ

 白鳥歌野との絆 63→67(良好) ※特殊交流3
 藤森水都との絆 78→81(良好) ※特殊交流8
 土居球子との絆 70→70(良好) ※特殊交流2
 伊予島杏との絆 86→86(良好) ※特殊交流4
   九尾との絆 70→70(良好)
49 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 20:57:48.68 ID:OiFwquz1o

√ 2018年 9月3日目 朝:諏訪

01〜10 歌野
24〜43 神託
56〜65 九尾
89〜98 水都

↓1のコンマ

※それ以外は通常
※ぞろ目で特殊
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 20:58:40.71 ID:EDgtTiXmO
51 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 21:00:26.79 ID:OiFwquz1o

では少し中断いたします
21半頃に再開予定
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 21:02:48.05 ID:2JypsLNKO
一旦乙
53 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 21:42:22.17 ID:OiFwquz1o

√ 2018年 9月3日目 朝:諏訪


変わることのない、鳥の声

天井のシミも、傷のような跡も何も変わらない。

なのに、両隣に見える寝顔が違う。

陽乃「……」

昨日までは杏と球子だったのに、今日は、歌野と水都になっている。

陽乃の方に向いている歌野と、普通に仰向けになったままの水都

陽乃は一瞥して、また仰向けに戻る。

5人いた空間も3人になって、やはり、静けさは増したかもしれない。

陽乃「……ん」

時間は、6時頃

歌野達もあと三十分くらいしたら目を覚ますことだろう。


1、沐浴
2、いつもの部屋へ
3、少しお散歩
4、特に何もしない


↓2
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 21:50:57.93 ID:2JypsLNKO
3
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 21:52:13.28 ID:0pwl/MY/0
1
56 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 22:40:45.59 ID:OiFwquz1o

陽乃「……」

ゆっくり、布団の中から足を引き抜いて、

2人を起こさないようにと一応は気遣って部屋を出る。

日課の沐浴のために、参集殿の通路を歩いて、いつもの場所へ向かう。

途中の窓から見える景色は、晴れ渡っている空が見えた。

陽乃「天気は良好……ね」

襲撃なんて悪いことが置きそうもないが、その通りになるとは限らない。

陽乃が昨日命がけだったので、今日は歌野が襲撃に備えていることだろう。

とはいえ、陽乃が昨日のうちに神託も何も受けなかったから、ない可能性が高い

けれど、警戒は必要だ。

陽乃「……向こうは、どうなのかしら」

結界の外、もう県は跨いだだろうか。

そこは曇っているのか、晴れているのか

それとも、晴れのちバーテックスなのか。

陽乃「貴女達がたどり着かなかったら、私の立場がないのよ」

四国側に送り返したことを伝えてしまったから、

もし、途中で力尽きたりなんかしたら、大変なことになってしまう。

やっぱり、あれは早計だったのかもしれない。

陽乃「はぁ」

着替えの場所にたどり着いて、タオルなどがあるのを確認してから服を脱いで、中へと入る
57 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 23:00:03.46 ID:OiFwquz1o

温度を確認し、まずは浴槽に溜める分の水を出してから、今度はシャワーの方の水栓を開く

シャワーヘッドから勢いよく吐き出される水をそのまま体で受けると、熱が奪われていくのを感じる。

陽乃「ん……っ」

嫌なことも、悪いことも

何もかもが一緒に奪われていくような感覚

体が冷たくなっていって、一線を超えそうなところからまた熱を持ち始めた。

陽乃「……」

沐浴は、陽乃にとって一番心地のいい時間だ。

水都がいることもあるが、

昨日を除いて、水都は基本静かに取り組んでいるため邪魔になっていないから、

2人だけど1人でいるかのようなこの時間だけは、まっさらで居られるのだ。

今は特に、1人きりだからより安らぐことが出来る。

――はずだった

陽乃「っ……ぅぁっ……」

急に胸の奥がズキズキとした痛みに喘ぎながら力なく頭を垂れると、

排水溝の方に流れていく水に赤みが混ざり始める。

真っ赤になったりはしないが、少しずつ、赤いのが流れていくのを目で遡って。

陽乃「ぅ……げほっ……こほっ」

せき込んだ口を覆った手に血が残って、水で流れる。

陽乃「っ……はぁ……」

諏訪の恩恵があっても、あの力の代償は半日で治りきるのは無理だったようだ。

幸い、痛みはすぐに引いて、水に血が混じることが無くなった。
58 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 23:18:43.72 ID:OiFwquz1o

陽乃「……ん」

水の溜まった浴槽に移って、体を浸す。

水を浴びすぎて温まっている体からまた少し熱が奪われて、

もう一度熱を取り戻していく感覚に目を瞑る。

頭の中に浮かんでくる、これからのことや今までのこと

昨日の2人のことだとか。

何もかもを次から次へと、頭の片隅へと追いやって無になっていく

今は何も考えない

考えたくない。

陽乃「……」

離れてと言っても離れてくれない

こびり付く2人のことなど、身を削ってでもどこかへと追いやってしまおう。

陽乃「……やめてって、言ったのに」

陽乃は、独り言ちる。
59 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 23:19:37.48 ID:OiFwquz1o

↓1コンマ判定 一桁

0,6 水都
2,5 歌野

ぞろ目特殊

※他はなし
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 23:20:25.63 ID:0pwl/MY/0
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 23:20:36.12 ID:PxyFczcWO
62 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 23:38:43.71 ID:OiFwquz1o

沐浴の時間は、静かに過ぎていく。

昨日は陽乃が邪魔する形になったが、

その逆に水都が入ってくることはなく、

ひとりで穏やかに、ひっそりと体を清めることが出来た。

陽乃「……」

もし、水都がいたら吐血するのを見られていただろうから、

イザナミ様の力を使うのは絶対にダメだと念押しされていたに違いない。

今は痛みもないし、体の調子はいいから、

イザナミ様の力を借りた反動の穢れのような何かが、

体から排出されたという感覚だろうか。

陽乃「……大丈夫」

手も足も力が入る、めまいもない

ある程度体の動きを確かめてから出て行こうと、

少しだけストレッチ

広いとはいえ、浴室でのストレッチはいささか異質だったけれど、

2人の目の前で大惨事よりは、マシだと陽乃は切り替えた。
63 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 23:40:17.96 ID:OiFwquz1o

√ 2018年 9月3日目 昼:諏訪

01〜10 歌野
23〜32 水都
45〜54 襲撃
89〜98 九尾

↓1のコンマ

※それ以外は通常
※ぞろ目で特殊
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 23:41:36.21 ID:2JypsLNKO
65 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/06(日) 23:46:01.34 ID:OiFwquz1o

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から


天乃の方のおまけを出したかったですが、出せなかったので余裕があるときに詰めて今年中には出せればと思います
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/06(日) 23:59:37.40 ID:2JypsLNKO

陽乃さん次にイザナミ様の力使ったら死にそうなくらいボロボロだけど大丈夫だろうか…

あと久々に天乃先輩主役の三周目のおまけ二本立て楽しみに待ってます
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/07(月) 00:10:22.99 ID:AQR3NJBAO

あんま使わん方がいいなやっぱこれ
68 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/07(月) 22:32:08.28 ID:RWlYliwno
では少しだけ
69 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/07(月) 22:32:51.96 ID:RWlYliwno

√ 2018年 9月3日目 昼:諏訪


特にこれといった異常もないまま、時間が過ぎていく。

雲の少ない空の青さも、照らす太陽の眩しさも、飛ぶ鳥の影も、

何も変わらない。

朝は吐血したけれど、今はそんな胸の奥の痛みもなく、平穏だった。

陽乃「……」

このままでいいのだろうか。

平和であるのは良いことだと、普通なら思うかもしれないが、

陽乃が昨日行ったのは、陽動作戦だ。

バーテックスを引き付け、あえて諏訪を襲撃させようというもの。

なのに諏訪は襲撃の予兆もなく平和な時間が流れていくだけ。

陽乃は、テーブルに突っ伏したまま顔を横に向ける

陽乃「もう一度、外に出た方が良いかしら」

間違いなく、二人に止められるだろうけれど。



1、外出
2、2人のところへ
3、九尾を呼ぶ
4、イベント判定


↓2
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/07(月) 22:34:33.76 ID:q4yJmBXIO
1
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/07(月) 22:37:47.48 ID:OSGjlVdaO
1
72 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/07(月) 22:51:16.92 ID:RWlYliwno

陽乃「じっとしていても仕方がないし……」

結界の外にまで出るかは別として

このまま参集殿の中で呆けているのは違うと、陽乃は思い立って体を起こす。

暫く突っ伏していたせいか、わずかに固まってしまっていた感覚のある体をぐっと伸ばしていく。

体の中に溜まっている活力が仄かに騒めいて、

体中にその熱が染み渡る

陽乃「……こういう時に、土居さんがいればよかったんだけど」

結局一度もすることがなかった模擬戦。

約束して間もなく四国に戻ることが決まってしまったから、仕方がないことではあるのだが、

球子がいれば、気軽に全力を出せるとまではいかないけど、

それなりに力をぶつけてしまえるから、いい運動にはなっただろうに。

陽乃「役立たず……」

どうせ聞かれもしないからと、ボソッと呟いて立ち上がる
73 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/07(月) 23:19:34.60 ID:RWlYliwno

参集殿の外に出ると、参道にはぽつぽつと人影が見えた。

おみくじを買ったりはしていないが、お参りをしているようだ。

中には絵馬を書いている人までいるみたいで、

昨日の陽乃の力による不安がここに足を運ばせたのは確認するまでもないだろう。

陽乃「……」

地震があったと、水都は言っていた。

その影響で残っていた前宮の御柱まで倒壊してしまったとのことで、

人々の不安と恐怖は最高潮になっていたに違いない。

水都達の努力の甲斐あって、

今すぐに結界が壊れてしまうことはないと納得して貰えているとは思うが。

「あら、もう外に出てきて平気なの?」

陽乃「……はい。大丈夫です」

参拝に来ていた高齢の女性に声をかけられて、陽乃は努めて笑みを返す。

陽乃「私が誰だか知っているんですね」

「あまりお顔を見せない勇者様だってお話は聞いていたの。タマちゃんが、貴女は人見知りだから。なんて笑いながら話していたから、声をかけるか迷ったのだけど、でも昨日、頑張ってくれたって歌野ちゃん達から聞いたから」

女性は思い返した笑みを携えて穏やかに語ると、ありがとう。と頭を下げる。

陽乃「お礼を言われるようなことをしたつもりはありません」

「そう? どうして?」

陽乃「事情があるからです」
74 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/07(月) 23:42:52.75 ID:RWlYliwno

諏訪を守ったつもりはない。

むしろ、危険にさらすようなことをしたつもりだった。

運悪く平穏な時間となってしまっているが、

本来なら今、歌野が勇者としてバーテックスと戦っているべきだ。

自然災害が起き、結界が揺らぎ、

住民はいつ壊れるともしれない不安に震えているのが望ましい結果でさえある。

それを引き起こすことを選んだ陽乃は、やはり、首を横に振る。

陽乃「本当に危機が去ったわけでもないのに、救われたわけでもないのに、感謝されても困ります」

「けれど、貴女の頑張りがあったから、今日があると思わない?」

陽乃の否定を聞いても、女性は優しく諭すように言う。

その瞳もまた優しく、温かいものだった。

「明日には滅ぶかもしれないし、今日の夜に人知れず消えてしまうかもしれないけれど、そんな中でも貴重な1日を守ってくれたのよ」

陽乃「……」

「間違いなく、貴女はこの場所とここで生きている人を救ってくれたわ」

きっと、この人は聞く耳を持ってはくれない。

だとしても救われたのだと、また笑顔で言うのだろう。

そんなつもりはないと言っても、首を横に振っても、ここを襲わせるためだと暴露しても

今日という日があることで、守られたという事実が出来上がってしまっているからだ。


1、地震と御柱倒壊の原因が私であってもですか?
2、蝶のような蛾がいるように、勇者のような別の存在もいるんです
3、煽てても、私は守る気なんてありません
4、こんな世界になった原因が、私にあると言ったらどうしますか?
5、何も言わない

↓2
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/07(月) 23:43:50.87 ID:cC6nSwNz0
2
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/07(月) 23:44:50.88 ID:OSGjlVdaO
5
77 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/07(月) 23:47:31.59 ID:RWlYliwno

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/07(月) 23:56:56.54 ID:85jV2BRJO

諏訪の人たちがこれだけ好意的だと四国に避難したら陽乃さんの扱いの悪さにショック受けそう
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/08(火) 01:17:42.40 ID:OfSfpUlfO

こうなってくると諏訪の人たちなんとかしてあげたいよなホント
80 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/08(火) 23:03:52.16 ID:03k9jCpNo
遅くなりましたが、少しだけ
81 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/08(火) 23:04:19.84 ID:03k9jCpNo

陽乃がそれに答えることなく半歩後ろへと下がると、

女性は思い出したように笑みを浮かべる

「ごめんなさいね。あんまり好きじゃないって言われていたのに、ついつい。嬉しくなっちゃって」

手招きしているかのようなジェスチャーを交えながら、

困ったものだわと独り言ちる女性

慌ただしかった手が、落ち着いて。

「貴女に会ってみたいって人がいっぱいいたのよ? もちろん、私もすっごく会ってみたかったの。
 タマちゃんたちで言うことが全然違ってたりするんだけど、でもね。みんな、貴女は優しい子だって言ってたのよ」

陽乃「ふざけて言ってるだけです」

「そう?」

陽乃「……そう思ってなさそうですね」

陽乃が伏し目がちに指摘すると、女性はやっぱり、笑い声を挟む。

心底嬉しそうに。

「それはそうだと思わない? だって、みんな貴女の話を聞くことしかできていなかったんだもの」

陽乃「全部信じているんですか?」

「みんなが嘘を言っていたのかしら? それとも言わされてたのかしら? そうは思わなかったけどねぇ」
82 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/08(火) 23:28:46.80 ID:03k9jCpNo

女性はニコニコとしていて、まるで疑っていない。

陽乃は普段から引きこもりだったから、

周りから聞いた人物像しか抱くことが出来なかった。

めったに会うことのできない勇者様。

見かけた人もいないわけではないが、

どれもこれもが、陽乃が苦しんでいる時期のもの。

陽乃は歌野達と外食に出たこともあるけれど、見られたのはごく少数。

それでいて、昨日は意識不明で運び込まれる始末。

バーテックスとの戦いによるものという話はすでにされていたため、

結局、陽乃はほとんど見ず知らずの人々を守った勇者様だった。

「もう少し、寛容になってもいいと思うわ。もしかしたら、完璧じゃないといけないと思っているのかもしれないけれど、
 歌野ちゃんたちも、貴女も、十分にお役目を果たしてくれていると思っているわ」

陽乃「……」

「……とても、悲しそうな顔をするのね」
83 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/08(火) 23:56:19.90 ID:03k9jCpNo

言われて、顔を上げる。

そんな顔をしたつもりはなかった。

褒められても、煽てられても、

一喜一憂もなく、淡々と受け流しているつもりだったのに。

陽乃「……」

目の前にいる女性は打って変わって、やや深刻そうな顔をしていて

陽乃は、女性の方が悲しそうな顔をしているはず。と、眉を顰めた。

「私達なんかよりもずっとずっと若い子たちが、命を懸けてくれていることが、申し訳ないわ」

陽乃「そうしないと生きていけないだけです。白鳥さん達はともかく、私は誰かを守っているつもりなんてありません」

「……そうなのね」

女性はそれを否定しなかった。

ただ、表情は口よりも雄弁にその心の内を語っている。

「ええ。それでいいのよ」

陽乃「……」

「私達と貴女達。どっちが長生きするべきかなんて、言わなくても分かっているから」

自分のためでいい

そのついで、その偶然

たまたま取りこぼされなかっただけの命であるとしても自分は構わないと、女性は穏やかに言う。

「もし、私たちのことを守るために昨日のようになっていたんだとしたら……ごめんなさいでもありがとうでも、言葉が足らなくなっちゃうじゃない?」

女性は、陽乃の頬に手を伸ばす。

皴のある、年季を感じる手が頬にざらざらと触れる。

「だから、ここに置いて行って頂戴」

陽乃「まだその話は――」

「いいえ。もう何度も聞いたお話だもの。もう十分。老い先短いものに、いつまでも付き合っていくことはないのよ」



1、楽には死ねないとしてもですか?
2、同情を誘おうなんて無駄です
3、知りません。私には関係のない話です
4、その責任を問われるんです。私達は
5、何も言わない

↓2
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/08(火) 23:57:00.92 ID:eiCoQ0Cb0
5
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/08(火) 23:57:33.21 ID:KGHyZOXDO
5
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/08(火) 23:57:42.30 ID:p/aLmk710
3
87 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/09(水) 00:05:40.11 ID:fLKCy/U9o

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/09(水) 00:16:32.46 ID:kloZvpoYO

これは素直な気持ちで助けたいんだと伝えないと諏訪の人たちを死なせてしまうのでは…
陽乃さんもそろそろ変わらないといけない時が来るのかも
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/09(水) 00:48:54.45 ID:9p8ZJvXsO

みーちゃんや諏訪の人たちがいい影響与えてくれればいいけど
90 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/09(水) 23:57:32.13 ID:fLKCy/U9o

すみませんが、本日はお休みとなります
明日は可能であれば通常時間から
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/10(木) 05:14:10.48 ID:yyn2+BLFO
92 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/10(木) 21:50:15.21 ID:yRpJCu7to
では少しだけ
93 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/10(木) 21:51:01.99 ID:yRpJCu7to

「……あぁ」

女性は感嘆に似た声を漏らす。

悲しく、温かい。

そんな表情を浮かべながら、陽乃の頬に触れる。

「貴女は、優しいのね」

陽乃「……」

「優し過ぎるのね……救うことが出来ないことを、何よりも恐れているのね」

女性は見透かしたように囁く

陽乃は心の内をさらけ出すような表情を浮かべたつもりはなかったのに。

ただ、言葉を選ぶために口を閉ざしただけだったはずなのに

「ごめんなさいね……あんまりにも、酷いことを言ってしまったみたい」

陽乃「私は……」

「……でも、だからこそ、置いていった方が良いわ」

女性は陽乃から手を離して、少しだけ後ろに下がる。

悲しさばかりだった顔には笑みが浮かぶ。

「間違いなく、負担になってしまうわ」
94 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/10(木) 22:21:08.87 ID:yRpJCu7to

「貴女は命を懸けてくれる」

陽乃「……自分のためです」

「そうね。でも、それが結局は私達のためになるんでしょう?」

会話をしたこともない人がいる

顔を合わせたことがない人もいる

もちろん、名前も知らず、性別さえも知らず

そんな何一つ知らない人のことですら

目の前でその命が奪われかねないとなったら、救おうとしてしまうだろうから。

「普通には歩けない人がいるの。長くは歩けない人もいるの。そんな人たちを連れてはいけないでしょう?」

陽乃「そうですね」

「……嘘ばっかり」

女性は、ほほ笑む

陽乃がそうではないと確信しているかのように。

「"いきたい"と言ったら、絶対に見捨てられない顔をしていたのよ?」

陽乃「気のせいです。私はそんな、立派な勇者ではありません」
95 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/10(木) 22:41:54.76 ID:yRpJCu7to

女性は何も言わずに笑みを浮かべて見せた。

仕方のない子ね。とでもいうかのようなそれを、

陽乃は一瞥するだけで、視線から外す。

「貴女は勇者だわ。間違いなく、勇者様よ」

陽乃「……」

女性と話す陽乃に気づいた人々が、近づいてくる。

自然には見ることのできない、桜色の髪の少女

ひとたび視界に入ってさえしまえば、

あの子がそうなのかと、悟られてしまう。

「勇者様!」

一人、また一人。

近付いてくる。

その誰もが陽乃を嫌悪せず、昨日のことを案じてさえいる。

「貴女は、勇者様ですよ。久遠陽乃さん」

女性はあえて、そう繰り返した
96 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/10(木) 22:43:12.15 ID:yRpJCu7to

√ 2018年 9月3日目 夕:諏訪

01〜10 水都
23〜32 九尾
56〜65 歌野

↓1のコンマ

※それ以外は通常
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/10(木) 22:44:26.02 ID:pXQI7MYNO
98 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/10(木) 23:18:55.58 ID:yRpJCu7to

√ 2018年 9月3日目 夕:諏訪


陽乃の周囲の人が集まりだし、

抜け出すこともできないまま、お忍びのアイドルが身バレしたかのような状態にまで発展したが、

通信が終わって出歩こうとしていた水都がその騒ぎに気付いて、

どうにか参集殿へと引き戻された。

今までずっと会うことが出来なくて

なのに、昨日には命がけで戦ってくれた少女のことを、人々は称賛していた。

――のだが。

水都「いいことじゃないですか」

陽乃「……何が」

水都「みんな、会うことが出来なくても思っていてくれたってわかったんですよね?」

陽乃「そんなこと言われても困る」

陽乃がいつも個人的に使う部屋

テーブルに突っ伏す陽乃の耳元で、カチャりと茶器が音を立てる

8割ほど注がれたお茶は、さすがに湯気立っていない
99 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/10(木) 23:47:55.78 ID:yRpJCu7to

水都「どうして一人で出かけようとしたんですか? 声さえかけて貰えれば……」

陽乃「私が一人になりたいって知ってるでしょう?」

水都「……無理だと思いますよ」

顔を伏せったままの陽乃のぼやきに、

水都は少し考えたように溜めて、笑み交じりに答えた。

水都「外に出てわかったと思いますけど、今は参拝のお客さんも多いですし。
    それに、今日からは久遠さんに会えるって言うことも伝わってしまったでしょうから」

陽乃「……最悪」

水都「そういわなくても」

陽乃「窮屈だわ」

不貞腐れているような陽乃のそばで、水都は一口お茶を含む

水都「少し休みますか? お夕飯の時には起こしますよ?」



1、そうするわ
2、置いて言って欲しいと、言われたわ
3、諏訪を出る予定は決めてあるの?
4、出て行って


↓2
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/10(木) 23:49:51.07 ID:pXQI7MYNO
3
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/10(木) 23:51:03.46 ID:nuyPcImZ0
3
102 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/10(木) 23:53:00.90 ID:yRpJCu7to

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば通常時間から
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/10(木) 23:59:09.82 ID:pXQI7MYNO

諏訪の人たちを救えないとまたトラウマが増えそうだし多少神様の力使ってでもなんとかしたいな
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/11(金) 01:24:29.41 ID:3JJGrMgd0

うたのん陽乃で護衛しながらゆっくり行けるといいな
105 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/11(金) 22:48:02.46 ID:4MX87F1qo
遅くなりましたが少しだけ
106 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/11(金) 22:50:38.84 ID:4MX87F1qo

陽乃「諏訪を出る予定は決めてあるの?」

水都「え?」

陽乃「聞き返さないで欲しいのだけど」

水都「すみません……話を振ってもらえるとは思っていなくて」

小さな笑い声をこぼす水都は、

手に持っていたお茶の入った茶器をテーブルに置く。

水都「そうですね……元々は9月末付近を考えていました。陽乃さんが諏訪の神様の力を受け取る前ですけど」

陽乃「今は?」

水都「出来る限り早い方がいいとは思ってますが……」

陽乃「私の意見がないと決められない?」

水都「そうですね。最終的な決定は陽乃さんじゃないとできません」

陽乃「……でしょうね」

結界の要である陽乃がどうするか

それがなければ、いつまでには……という要望くらいしか出せない

水都「陽乃さんとうたのんの二人がいれば、たぶん、ここを守りきることは可能だと思います。
    すごく、傷ついてしまうかもしれないけど、どうにかなると思いますし……だから、待つことも、できると思っています」

陽乃「何それ」

水都「……よければ、残りませんか?」
107 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/11(金) 23:07:28.85 ID:4MX87F1qo

陽乃「本気で言ってる?」

水都「うたのんは、それも悪くないって言ってました」

水都はそういって笑みを浮かべる。

いつ話したのか知らないが、

球子たちがいなくなってからのことだろうから、最近、そう話し合ったのだろう。

陽乃を除いて。

陽乃「また勝手なこと決めたのね」

水都「それもいいなって、思っただけです」

陽乃「そんなに残らせたいの?」

水都「……可能なら」

水都は嘘なんてないと示すように柔らかな表情で頷く

辛いことばかりの向こう

大事な人がいるとは言うが、

戻れなければどうにもならない。

なにより、向こうには5人の勇者がいる

道中の安全が確保され、

向こうから本格的な救援が来るのを待つのも、選択肢の一つだろう
108 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/11(金) 23:49:07.19 ID:4MX87F1qo

陽乃「勇者の負担が途方もないと思わなかったの? 私なんて、結界の維持をしているのに」

水都「結界の維持に関しては、そこまで影響ないって陽乃さんが言っていたので……」

伺うように言った水都はお茶を一口飲んで、陽乃を見る

歌野とは、ちゃんと話した。

でも、むしろ切り出したのは歌野の方だった。

待とう。なんて、強く言ったわけじゃない

ただ、独り言のように「いっそ待つのもありじゃない?」と、笑っていただけ。

水都「うたのんは、陽乃さんさえいいなら頑張るって言ってました」

陽乃「そう」

だろうなと、陽乃は飲み込む。

歌野は、そう言っていたから

残れるなら残った方が良いと。

そうして欲しいと。

母親が向こうにいると言ったから引いたはずだけれど、

諦めたわけではないらしい



1、お断りするわ
2、救援なんていつになるかわからないわ
3、何考えてるのよ
4、考えておいてあげるわ


↓2
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/11(金) 23:50:45.22 ID:O98pocOEO
1
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/11(金) 23:51:02.51 ID:g2I4Kz7o0
2
111 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/12(土) 00:00:39.46 ID:UJhl3x3So

では本日はここまでとさせていただきます
明日も可能であれば少し早い時間から
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/12(土) 00:07:19.61 ID:p+GSL4gjO

四国からの再救援か…
大社が派遣してくれる気がしないけど
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/12(土) 09:29:38.44 ID:FyzgrFbVO
114 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/12(土) 21:32:36.10 ID:UJhl3x3So
では少しだけ
115 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/12(土) 21:35:07.07 ID:UJhl3x3So

陽乃「救援なんていつになるかわからないわ」

水都「それはそうですけど、でも、結界の要が陽乃さんになった今、以前みたいに期限があるというわけでもないんですよね?」

陽乃「だからって」

水都「だからこそです」

二人にとって、何が一番負担にならないか。

四国にたどり着いてさえしまえば、歌野と陽乃は一般人の警護から解放されるが、

その道のりは険しく長い。

距離は最低でも500km以上

大雑把な計算でも、平均的な時速は3〜5kmだろうから、

それが続けられたとして、100時間で300〜500km

早ければ休みなし約4日、遅ければそれでも半分程度しか進めない。

当然、休みなしなんて不可能だろうし、

持ち物だって、食料などで重くなるだろうから、移動速度はその遅い計算のさらに半分を前提で考えた方が良い。

それを、勇者である二人は常に気を張って、場合によっては戦い、傷つき、ちゃんとした治療も行えず、

まともな休息をとれないまま、進まなければならない。

水都「はっきり言います……無謀ではなくても無茶です。全員が助かるとは思えませんし……最悪、うたのんか陽乃さんのどちらかが死ぬ可能性さえあります」

陽乃「私が死んだら、白鳥さんも死ぬのは確定だけど」

というよりも、全滅ね。と、陽乃は冗談めかしたように、笑った。
116 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/12(土) 22:03:33.95 ID:UJhl3x3So

水都「土居さん達がいるなら、2人1組で対応できるのでまだ考える余地がありましたけど、
    2人しかいないなら、私は反対です。それでも行くと言われたら従うほかないですけど……でも、考えて欲しい」

陽乃「本気で言ってる?」

水都「本気です」

陽乃「……」

水都「お母さんが心配なのは当然だと思います。でも、私は陽乃さん自身のことも考えて欲しい」

考えて欲しい。

二回繰り返されたそれは、

たぶん、どちらも後者につながっているのだろう。

水都はとても真剣な表情をしている。

きつく当たられることも恐れていない。

水都「駄目ですか?」

陽乃「駄目かと聞かれてもね」

水都「陽乃さんのことなのにですか?」

陽乃「だって、それが何に対して駄目なのかが分からないし」



1、無謀なのは間違ってないかな
2、そんなに私が心配?
3、本当にそれだけ?
4、帰るわよ。向こうに


↓2
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/12(土) 22:05:46.84 ID:bT4MS3H0O
2
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2021/06/12(土) 22:06:10.09 ID:A6VBWPDb0
4
119 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/12(土) 22:26:43.10 ID:UJhl3x3So

陽乃「帰るわよ。向こうに」

水都「それがどれだけ危険だとしてもですか?」

陽乃「私は、絶対にたどり着ける自信があるから」

水都「……そうですね」

場合によっては陽乃が死ぬ可能性もあると、水都は考えていたが、

確かに、陽乃ならたどり着くことは簡単だと思う。

半日程度でこの距離を走破できる力があるから。

でも。

水都「そうですけど」

それは、陽乃が一人の場合だ

陽乃はきっと、

水都たちがいたら、そのすべてを引き上げられないとしたら、

その、最も安全な手段を使わない。

諏訪の人々に囲まれているのを見てしまった。

その人々が、笑顔なのを見てしまった。

欠けられる言葉が、優しいものであると聞いてしまった。

それが、向けられてしまったとしたら、陽乃は――

水都「……」
120 : ◆QhFDI08WfRWv [saga]:2021/06/12(土) 22:28:06.68 ID:UJhl3x3So

↓1コンマ判定 一桁

0,3,7 水都「でも、見捨てられないじゃないですか」
ぞろ目 特殊

※その他 通常
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