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らき☆すたSS〜聖夜、こなた達はネットアイドルになるようです〜 - パー速VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/04(土) 14:04:50.40 ID:/598Yic0
ここは「らき☆すた」のSSスレです。

・どんなジャンルでもどんどん投下したまへ〜 by こなた
・でも、他所からの作品の無断転載は絶対ダメよ! by かがみ
・あとね、あんまりえっちなのはちょっと恥ずかしいから遠慮してほしいな by つかさ
・メール欄に「saga」と入力するとこの板特有のフィルターを回避できます。「sage」ではありませんよ。
 代表的な例が「高翌翌翌翌翌翌翌良」です……よろしくお願いしますね by みゆき
・長編作品はタイトルをつけてもらえるとまとめるときとかに助かります! by ゆたか
・それと、できればジャンルを明記するようにしてほしいの。
 特定のジャンルが苦手な人もいると思うから…… by あやの
・パロディとかクロスオーバーとかもおっけーだけど、
 あんまり度が過ぎると他の人に引かれっから気をつけろよなー by みさお
・シラない人へのハイリョがアればgoodネー byパティ
・初めてでもよっしゃーいっちょ書いたろかって人大歓迎するでー by ななこ
・まとめてくれる人募集中です……そして、現在のまとめ人には感謝してます…… by みなみ
・お題を出せば書いてくれる職人さんもいるっス。ネタのため……
 いや、いろんなお話を読んでみたいんで、いいお題があったら書いてみてください! by ひより
・そしてそして、SSだけじゃなくて自作の絵もOK!
 投下された絵は美術室に展示されるからジャンジャン描くべしっ! by こう
・注意! 荒らしへの反応は絶対ダメ。反応する悪い子は逮捕だ! by ゆい


(避難所)
 PCから->http://jbbs.livedoor.jp/auto/5330/
 携帯から->http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/auto/5330/

(まとめサイト)
 http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/

(SSスレ用画像掲示板)
 http://www.sweetnote.com/site/luckystar/
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【遊戯王SS】カタパ「KONMAI本社爆殺☆」デスガイド「やめろォ!!」 @ 2024/07/01(月) 01:04:26.37 ID:U+HXtwzn0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1719763465/

速水奏「あなたの迂闊なプレゼント」 @ 2024/06/30(日) 22:48:11.99 ID:7rsY9P8g0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1719755291/

フォース=センシティブの集い @ 2024/06/30(日) 15:24:58.53 ID:gevf+T7g0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1719728697/

瑞鶴「シャッフルクエスト」 @ 2024/06/29(土) 23:25:24.58 ID:wIRZwWrO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1719671124/

■ 萌竜会 ■ @ 2024/06/28(金) 16:13:42.83 ID:HbMStrxso
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1719558822/

寝こさんの刃 柱稽古編 @ 2024/06/25(火) 00:00:23.99 ID:SHjc0T4Po
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1719241223/

由比ヶ浜「いくぅぅぅ」雪ノ下雪乃「おっほーーーー」 @ 2024/06/23(日) 10:28:46.49 ID:V45Innkf0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1719106125/

銀 @ 2024/06/22(土) 22:33:26.28 ID:peEoq0JD0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1719063205/

2 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/04(土) 22:07:25.08 ID:C14ft6SO
>>1
乙←これはポニーテールなんたらかんたら
3 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/04(土) 22:08:32.39 ID:Ea3Wt6SO
かなた「>>1さん、お疲れ様です」
そうじろう「おつかれさん」
かなた「…それにしても、こなたがアイドル…ねえ、そう君」
そうじろう「ん、なんだ?」
かなた「もし、私が生きていたら私も…」
そうじろう「いや、生きていても年齢的にアウトだと思うぞ」
かなた「…そうよね」
そうじろう(…なりたかったのか)
4 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/04(土) 22:15:39.29 ID:Ea3Wt6SO
チェリー「惜しかったですな」
みなみ「…なにが?」
チェリー「1000を取れていれば、わたくしがご主人の代わりに出演できていたというのに」
みなみ「…え」
5 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/04(土) 22:27:27.71 ID:pT0sI.U0
>>1

「翌」大杉だろww
6 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/05(日) 13:02:24.29 ID:7OERUyko
>>1

こなた「聖夜か……文字が違ったら夢のコラボだったのにね」
かがみ「いや、聖闘士たちと私たちじゃ作風が違いすぎて無理だろ」
こなた「甘いね、かがみん。SSの世界をなめ過ぎだよ」
かがみ「そうか?だいたい、たとえコラボできたとしても、あの人達が『ネットアイドル』はどうかと思うけど?」
こなた「いやいや。そういうニーズもあるはずだよ、きっと」

つかさ「ねえ、ゆきちゃん。お姉ちゃん達は何の話してるの?」
みゆき「お2人はきっと『天馬星座の星矢』様のこt――げふん、げふん!……いえ、私にもわかりかねます」

こなた「……ねえ、かがみ。みゆきさんがあの人の事を様付けで呼んでたみたいだけど……」
かがみ「そこには突っ込むな。なんかいろいろ見えてしまいそうで怖いから」
7 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:05:30.77 ID:lXmplKY0
投下いきます。

なぜかコンクール作品より先に出来てしまった推理編です。
…コンクール作品が進んでいないわけじゃないですよ?

極力表現は抑えていますが、少々鬱っぽかったりグロっぽかったりするのでご注意気ください。
8 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:06:24.33 ID:lXmplKY0
 ソレを見てるはずなのに、ソレが何か認識できない。そんな漫画みたいなことを自分が体験するなんて、かがみは今の今まで思いもしなかった。
 割れた窓から吹き込んでくる風と雪。その猛威にさらされた部屋の中は、ひどい有様だった。
 その惨状の中、ベッドの上にソレはうつ伏せに寝かされていた。
「つかさ!行っちゃダメだ!戻って!廊下に出て!ゆーちゃんも!」
 こなたが騒いでいる。かがみには、どうしてここにいるはずのみゆきを放って廊下に出なければいけないのか、理解できなかった。
「でも…でも、こなちゃん!ゆきちゃんが!ゆきちゃん、そこにいるのに!」
 そう、アレはみゆきだ。着ている服がそうだから。夕食の時にこなたが大人っぽい服が似合うのが羨ましいと言っていた服だから。
「いいから出て!アレじゃみゆきさんはもう…!」
 あれ?と、かがみは自分の考えに自分で疑問符をつけた。どうしてわたしは服でみゆきを認識しているのだろう。
 気付いてみれば、答えは簡単だった。

 みゆきの首から上が無いからだ。

「み、みゆき…みゆき…よね?…なんの冗談…?」
 かがみはみゆきに近づこうと、一歩踏み出した。しかし、そこで誰かにお腹の辺りを押さえられ、それ以上前へ進めなかった。
「かがみも出て!それ以上行っちゃダメ!」
 かがみが見下ろしてみると、こなたが必死に自分を押し返そうとしていた。
「こなた…みゆきが…」
「いいから出ろーっ!!」
 かがみはこなたに思い切り突き飛ばされ、後ろ歩きで廊下まで行き、そこで尻餅をついた。周りには、同じように座り込んでいるつかさとゆたか。
 最後に部屋から出てきたこなたがドアを閉め、刺さったままのマスターキーを回して鍵をかけた。
 その様子を、かがみは惚けたように見ていた。


- 白雪は染まらない〜推理編〜 -


9 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:07:41.51 ID:lXmplKY0
 ドアに手をかけたまま、こなたがズルズルとその場に座り込む。
「こ、こなちゃん…ゆきちゃんが…中に…早く出してあげないと、風邪引いちゃうよ…」
 つかさが這うようにドアの前まで行き、こなたにすがり付いてそう言った。
「ダメだよ、つかさ…ダメなんだ」
 こなたが首を振って、それを拒絶する。
「中で、何があったんだ…?」
 様子のおかしい四人に、オーナーが恐る恐る聞いて来た。
「…なかったんです」
 かがみがポツリと呟く。
「なかった?」
「みゆきの…首が…なかった…」
 一言一言区切って、自分の見てきたものを確認するようにかがみがそう言った。
 トサッと何かが倒れるような音がした。かがみがそちらを見ると、ゆたかが床に倒れ付していた。


 一階のリビングに戻ってきたかがみは、ソファーに座り天井を見上げていた。隣ではつかさがソファーの上で膝を抱えている。
「なによこれ…なんなのよこれ…」
 かがみが天井に向かい、ブツブツと同じ台詞を何度も繰りかえす。つかさも同じように何事かをブツブツと呟いていた。
 ふと、かがみは階段から誰か降りてくるのに気がついた。
「…こなた…ゆたかちゃんも」
 こなたはゆっくりと階段を降りてきた。その横には青ざめた顔のゆたかもいた。そして、二人もソファーに座る。
「ゆーちゃん、大丈夫?もうちょっと寝てたほうがいいんじゃない?」
 こなたがゆたかを気遣ってそう言うと、ゆたかは首を振った。
「…もう、大丈夫だと思う…それに、二階にいたくなくて…」
「…そう」
 顔色はとてもいいとは思えず、声は消え入りそうだ。それでも、あんなのと同じ二階にいるよりは、多少無理してでもここにいたいのだろう。
 あんなの…かがみは友人だったものを、そう表現した自分に嫌気が指した。
10 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:09:03.44 ID:lXmplKY0
「…首狩鬼だ」
 膝を抱えていたつかさが、急にハッキリした声でそう言った。
「な、なに?急に…」
 驚いたかがみがそう聞くと、つかさはかがみの体にすがり付いてきた。
「首狩鬼だよ。ゆきちゃんが言ってたんだ。この辺りに、人の首を狩る鬼がいるって。昔からいるんだって…だから、ゆきちゃんも…ゆきちゃんも!」
 声を荒げながら自分の身体を揺すってくるつかさに、かがみは何も言う事が出来なかった。
「つかさ、落ち着いて…そんなのいないから」
 つかさの後ろから、こなたが肩に手を置き諭すようにそう言った。
「でも…こなちゃん…だったら、誰が…何がゆきちゃんを…」
「それを見つけるのは警察の仕事だよ。オーナーさんが警察に連絡してくれてるはずだから、後は待ってればいいよ」
 こなたの言葉を聞いたつかさは、かがみの胸に顔を埋めて泣き始めた。そのつかさの頭を撫でながら、かがみはこなたの方を向いた。
「さすがと言うか、あんたは冷静ね…」
 あの部屋に入った時、パニックになりそうだった全員を、こなたは一人で部屋の外に押し出した。あのまま部屋にいれば、本当に頭がどうかなっていたかもしれない。迅速に対応したこなたに、かがみは感謝したいくらいだった。
「いやー、そうでもないよ」
 こなたはかがみに、自分の右手を差し出した。よく見てみると、それは細かく震えていた。
「やせ我慢だよ…怖くて震えが止まらないんだ」
「それでも…なんにも出来ないわたしよりましよ。我慢できるってのも、強さだと思うし」
 かがみがそう言うと、こなたは照れくさそうに鼻の頭をかいた。
「…かがみが普通にわたし褒めるのって、珍しいね」
「そう?…そうかもね」
 かがみはそっと溜息をついた。つかさも落ち着いてきたのか、泣き声は聞こえなくなっていた。


11 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:10:39.89 ID:lXmplKY0
 なぜか防寒具を着こんだオーナーが部屋から出てきたのは、それから少しした時だった。
「オーナーさん、警察に連絡はつきました?…っていうかその服は?」
 かがみがそう聞くと、オーナーは心底困ったような顔をした。
「いや、それが…電話が通じないんだ」
「…え?」
「どうもこの吹雪で電話線が切れたみたいでね…今からそれを確認に行くんだよ」
「そんな…」
 かがみは絶句した。警察に連絡がつかない。だとすると、この吹雪がやむまで自分たちは、みゆきを殺した人間の近くで過ごさなければならないのだ。
 そうだ、自分は何を考えていたんだ。あの状況が自殺や事故なんかな訳がない。みゆきは誰かに殺されてて、その犯人は近くにいる。この吹雪で、どこかに逃げられるとは思えないからだ。
 かがみは玄関から出て行くオーナーを見送りながら、絶望にも似た感覚を味わっていた。
「いやだ…いやだよ…こんなのやだ…帰りたいよ…お家に帰してよー…」
 つかさが再び泣き出した。かがみは慌てて、その身体を強く抱きしめた。
 わたしの妹を泣かせているのは誰だ?
 かがみは、心の中から熱い何かが込み上げてくるのを感じた。
「…み、みなみちゃん…そうだ!みなみちゃんは!?みなみちゃんは戻ってないの!?」
 突然、ゆたかが取り乱し始めた。そういえば、ボイラー施設を見に行ったはずのみなみが戻っていない。かがみも今の今までその事を忘れていた。
「こなたお姉ちゃん!みなみちゃんを探しに行かないと…みなみちゃんも高良先輩みたいに!」
「ゆーちゃん落ち着いて!今は外に出られないよ!」
 玄関から出ていこうとするゆたかを、こなたが必死で止めている。
 わたしの友人を困らせているのは誰だ?
 心の熱さが増していく。
 こんな状況を作り上げたのは誰だ?みゆきを殺したのは誰だ?

 わたしの大切な人たちを、こんな目に合わせているのは誰だ?

 心の熱さとは裏腹に、頭の中が恐ろしいくらい冷えていく。
 かがみは、自分の腕の中にいるつかさをもう一度しっかり抱きしめ、その耳元に囁いた。
「大丈夫よ、つかさ。わたしがなんとかするから」
「…え」
 そして、今度はなんとかゆたかをなだめたこなたに顔を向ける。
「こなた、手を貸して。わたし達で犯人を見つけるわよ」
「かがみ、それ本気…?」
「もちろんよ」
 かがみはこなたに向かい、力強く頷いた。


12 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:12:13.31 ID:lXmplKY0
 かがみとこなたは、ソファーに座っているつかさとゆたかから離れた位置…オーナーの部屋の前に立っていた。
「で、わたしはどうすればいいの?」
 こなたが不安そうにかがみにそう聞いた。
「こなたにはわたしに見えないものが見えるはずよ。それを見逃さないで欲しいの」
「そ、そんなことできるかな…」
「できるわよ。あんたスキーで上手い人のを真似てたらしいじゃない。いくらあんたの運動神経がいいからって、あんなこと本当によく見えてないとできないわよ。それに、あんたは勘もいいしね」
 こなたは少し考え込んだ後、かがみに向かい頷いて見せた。
「わかったよ。つまり、身体は子供、心は大人な名探偵になれと」
「…いや、あんたは心も子供でしょうが。ってかそこは頭脳だろ。あと、あんたはどっちかってーと助手だ」
 思わず突っ込んでしまってから、かがみは気負っていた心が少し軽くなるのを感じていた。こなたの方を見ると、少しぎこちないながらも、いつもの人を食った笑顔を見せようとしていた。
 かがみは、心の中でこなたに向かいありがとうと呟き、こんな友人を持てたことを神に感謝した。
「それじゃ早速だけど、こなたはどう思う?」
「どうって、何が?」
「みゆきが殺されてて、みなみちゃんがまだ戻ってないって事。そして、あの二人が不仲だったって事」
「…かがみ…まさか、みなみちゃんがって?」
「可能性の一つよ。とりあえずオーナーさんが戻ったら、少し話を聞いてみましょう」


 二人がしばらく待っていると、玄関が開きオーナーが戻ってきた。防寒具についた雪を払っている最中に、部屋の前にいるかがみ達に気がつき、防寒具をおいてやってきた。
「どうしたんだい?」
「少し、お話を伺いたくて…みなみちゃんがまだ戻っていないのは知ってますか?」
「え…いや…そ、そういえば…」
 オーナーはかがみの言葉に動揺を見せた。
「しかし…この吹雪だと探すのは難しいな…施設を見に行ってくれてるのだから、中にいてくれればいいんだけど…」
「みなみちゃんは『こう言う事は初めてじゃない』って言ってましたけど、今までに何度か?」
「ああ、みなみちゃんは雪に強いみたいだからね。みゆきちゃんの知り合いだし、頼みやすかったんだ…いや、でも…みなみちゃんから見に行くって言い出したのは初めてだな…」
「なるほど…」
 かがみは顎に手を当てて、少し考え込んだ。
「とにかく、明日の朝には吹雪も収まるだろうから、みなみちゃんを探すのも、警察に連絡を入れるのもそれからになると思うよ」
「え、何時収まるかってわかるの?」
 オーナーの言葉に、こなたが驚いてそう聞いた。
「ああ、この山にも長く住んでるからね。二日くらい先の天気なら、大体分かるよ」
「へー凄いですね…」
 感心するこなたの横で、考え込んでいたかがみが不意に顔を上げた。
「オーナーさん。首狩鬼って知ってますか?この辺りの伝承かなんかだと思うんですけど」
「え?…いや、聞いたことないな」
「そうですか…ありがとうございました。こなた、いくわよ」
 そう言ってかがみは、こなたの手を引いてつかさ達の方へと歩き出した。

13 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:13:24.72 ID:lXmplKY0
「次はどうするの?」
 ソファーに戻ったこなたは、隣のかがみにそう聞いた。
「うん…二階の、現場を見に行こうと思うの」
 顎に手を当てて何かを考えながら、かがみがそう答える。
「…え…や、やだ…」
 かがみの言葉につかさが動揺を見せた。
「お姉ちゃん、ダメだよ…殺されちゃうよ…」
 すがり付いて止めようとするつかさの頭に、かがみは苦笑しながら手を置く。
「大丈夫よ。心配しないで。いざって時は、こなたもいるんだし」
「…かがみさんや。それはわたしを人身御供に差し出す腹ですか…」
「ちがうちがう、あんたなら守ってくれるって思ってるのよ」
 かがみはジト目で見つめてくるこなたに、あわてて手を振って否定した。
「こなちゃん…お姉ちゃんをお願い…」
「なんか頼られてるなー…うん、まあできる限りのことはするけど」
 こなたはつかさに照れくさそうに答えた。
「それじゃ、行きましょうか」
 かがみは立ち上がり、階段に向かった。その途中でゆたかの方を見ると、ゆたかは動く気力もなくしているのか、ソファーに寝転んだままだった。
「つかさ。ゆたかちゃんを見ててあげてね」
 階段に足をかけながら、かがみはつかさに向かいそう声をかけ、階段を登り始めた。


「さて…ここね」
 かがみは、みゆきの部屋のドアノブに手をかけながら呟いた。中にあるのがなんなのか、分かってはいても躊躇してしまう。
 かがみとこなたの二人は一旦自分の部屋に戻り、私服の上からスキーウェアを着こんでいた。部屋の中には恐らく吹雪いているだろうから、防寒具代わりだ。
「開けるわよ…ってあれ?」
 かがみはドアを開けようとして、鍵がかかっていることに気がついた。
「あー、そういえばこなたが閉めてたっけ…しょうがない、オーナーさんに鍵借りてくるか」
 かがみがドアを離れようとすると、こなたが横から鍵穴に鍵を差し込んで、ロックを外した。
「…あんた何時の間に」
「いやー、鍵閉めた後ずっと自分で持ってたみたいで…」
 頭をかきながらそう言うこなたに苦笑して見せた後、かがみはドアを開け中に入った…が、一歩踏み込んだところで慌てて廊下に戻りドアを閉めた。
「ど、どしたの、かがみ?」
「床がビショビショよ。スリッパじゃ入れないわ」
 しょうがなく二人は、一旦下に戻りブーツを取ってくることにした。


14 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:14:28.23 ID:lXmplKY0
「吹雪、少しましになってるわね。これならオーナーさんの言ってる通り、朝には止むかも…」
「で、でも寒いよ…」
 死体の乗っているベッドを避けて、部屋を見渡すかがみ。こなたは身体を震わせながらかがみにへばりついていた。
「で、かがみ。何を探せばいいの?」
「犯人がこの部屋に入った手段よ。わたし達がいたから階段からは上がれないし、この部屋には鍵がかかっていた。とすると…」
 かがみは部屋の反対側。割れた窓の方を見た。
「ベランダから…しかないわね」

 かがみは、できるだけベッドの方を見ないように窓へと向かった。まるで水溜りのような床がビチャビチャと音を立てる。
「雪って言うより、雨が入ってきたみたいだね…」
 相変わらず寒そうにかがみにへばりついているこなたが、床を見ながらそう呟いた。そして何かに気がつき、かがみから離れて床から何かを拾った。
「どうしたの、こなた?」
「かがみ、これ」
 こなたが差し出したのはガラスだった。
「割れた窓のかしら」
「うん。ガラス、全部部屋の中に落ちてる」
「そう…ってことは、窓は外から割られた…やっぱりベランダからか…あれ?でも…」
 何かが引っかかる。あの時、一階で自分たちが聞いたのは、このガラスが割れる音…しかし…。
「かがみ、どうしたの?」
「え、あ、いや、ちょっとね…」
 我に返ったかがみは、割れた窓をくぐりベランダへと出た。

 ベランダの手すりから下を覗き込む。高さはそれほどでもないが、ベランダに飛びついて登るには少々高い。少し離れた位置にボイラー施設が見えた。
「ちょっとした密室ね…」
 かがみはそう呟くと、他に何かないかベランダを見渡した。そして、こなたが端の方でしゃがみ込んでるのに気がついた。
「こなた、またなにか見つけたの?」
「うん、これ」
 かがみがこなたが指差した箇所を見ると、一本のロープがベランダの端の方に括り付けられ、下へと垂らされていた。
「…いやまあ」
 かがみが呆れたようにそう呟いた。
「密室がこんな単純に覆されると、なんかがっくりするわね…」
「いや、推理小説じゃないんだから、こんなもんかと…」
 なぜか肩を落とすかがみを、こなたがなだめる。
「この位置、中からは見えないわね…何時からあったにしても、部屋を使ってたみゆきやつかさは気がついてない可能性が高いわね」
 気を取り直したかがみが、ロープの位置から部屋の方を見ながらそう言った。
 かがみがロープの強度などを確かめていると、同じようにロープを見ていたこなたが立ち上がり、突然ベランダの柵を乗り越え、外に身を躍らせた。
「ちょっ!こなた!」
 かがみは、慌てて柵にもたれかかり下を見た。飛び降りたこなたが、ロープを伝って登ってくるのが見えた。
「よいしょっと」
 呑気な声を上げながら、こなたがベランダの柵を乗り越えてくる。
「ちょっと!なにやってんのよ!びっくりするじゃない!」
 かがみが声を荒げて非難すると、こなたは申し訳なさそうに頭をかいた。
「いやーこのロープ、ホントに登れるのかなって試してみようって…」
「飛び降りることないじゃない!危ないわよ!怪我でもしたらどうするの!?」
「あーソレは大丈夫。下が雪だし、思ったより高くなかったよ。これならつかさやゆーちゃんでも、飛び降りるくらいならできるんじゃないかな」
「それなら言ってからにしてよ…」
 かがみは安堵の溜息をついて、身体を震わせた。
「ちょっと冷えてきたわね。一旦中に入りましょう」
 こなたが頷くのを見て、かがみはまた部屋を横切りドアへと向かった。

15 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:17:30.98 ID:lXmplKY0

 ドアを後ろ手に閉めて、温かい空気にホッとする。
「ねえ、こなた。何か他に…」
 かがみはこなたに話しかけようとして、誰もいないことに気がついた。
「え…ちょっと…こなた?………こなたっ!」
 ここまで戻ってくるまでに、何かあったのか。かがみは慌ててもう一度ドアを開けた。
「うわーっ!さっぶーっ!!」
 それと同時にこなたが部屋の中から飛び出してきて、かがみの胸に飛び込んできた。
「うおー…あったかやわらけー…」
 かがみはゆっくりとドアを閉めた。
「…なにやってたの?」
「え?いや…ちょっと出る前に見ときたいものがあって…」
「だからそういうのは言ってからにしなさいって…本気で心配したのよ?」
「ごめんごめん…それにしても」
「なに?」
「…もうちょい薄着のときにこうしたかった」
 かがみの胸に顔を埋めたままのこながそう言うと、かがみは思い切り呆れたように溜息をついた。
「エロ親父みたいなこと言ってないで、離れろ」
 そして、こなたの額を鷲づかみにして引き剥がした。
16 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:18:28.45 ID:lXmplKY0
「で、何見てきたの?」
 かがみがそう聞くと、こなたは少し困った顔をして頬をかいた。
「えーっと…実は死体をちょっと…」
「…え」
 こなたの答えに、かがみが絶句する。
「あーでも、さすがに怖くてちゃんと見れなかったよ。これでちょっと手の辺りをつついてみたくらいで…」
 そう言ってこなたがポケットから取り出したのは、DSで使うタッチペンだった。
「いや、それでもよくやるわねとしか…で、どうだったの?」
「なんか…硬かったよ」
「硬い?」
「うん。コチコチだった。凍ってたんだと思う。吹雪の中に置き去りだったし」
「…こなた。ベッドの上はどうだった?」
「ベッド?床と同じでビチャビチャだったかな…」
「そう…」
 かがみは顎に手を当てて考え込み始めた。
「あ、それとかがみ。ちょっと自信ないんだけど…」
「なに?」
「アレはホントにみゆきさんなのかなって…」
「え…」
 かがみは驚いて、こなたの顔を見た。
「みゆきじゃないって、どういうこと?」
「う、うん…よく見てないけど、服が余ってる気がしたんだ。体格がみゆきさんより少し小さいんだじゃないかな…ほら、推理物でさ、死体を違う人に見せかけるために首を落としたりするじゃない。なんか、そんな気がして…」
 こなたの言葉に、かがみがまた考え込み始める。
「…でも…いや…もしかして…」
 そして、かがみは顔を上げた。
「こなた。ゆたかちゃんのスキーウェア持ってきて。わたしは予備のをつかさに貸すから」
「え?外出るの?」
「ええ、大筋は分かったわ。この事件にケリつけるわよ」
「えーっと…何かヒントは?」
「そうね…この事件のキーワードは『不自然』と『反則』ってところかしら」
「う、うーん…」
 こなたは首を捻って考えたが、答えは出てこなかった。
「まあ、後でちゃんと説明するわ…場所は…」
 かがみは、今出てきたみゆきの部屋を見た。
「ボイラー施設よ」


- つづく -
17 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 14:21:30.43 ID:lXmplKY0
以上です。

ちょっと細かく区切りすぎた気が…。

よく考えたら、このシリーズも三作目。
また、ネタの使いまわし云々と言われないかが心配。
18 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 16:18:54.04 ID:lXmplKY0
すいません。一箇所訂正前のを投下していました。
>>12はこっちが正しいです。
19 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 16:21:16.46 ID:lXmplKY0
 かがみとこなたは、ソファーに座っているつかさとゆたかから離れた位置…オーナーの部屋の前に立っていた。
「で、わたしはどうすればいいの?」
 こなたが不安そうにかがみにそう聞いた。
「こなたにはわたしに見えないものが見えるはずよ。それを見逃さないで欲しいの」
「そ、そんなことできるかな…」
「できるわよ。あんたスキーで上手い人のを真似てたらしいじゃない。いくらあんたの運動神経がいいからって、あんなこと本当によく見えてないとできないわよ。それに、あんたは勘もいいしね」
 こなたは少し考え込んだ後、かがみに向かい頷いて見せた。
「わかったよ。つまり、身体は子供、心は大人な名探偵になれと」
「…いや、あんたは心も子供でしょうが。ってかそこは頭脳だろ。あと、あんたはどっちかってーと助手だ」
 思わず突っ込んでしまってから、かがみは気負っていた心が少し軽くなるのを感じていた。こなたの方を見ると、少しぎこちないながらも、いつもの人を食った笑顔を見せようとしていた。
 かがみは、心の中でこなたに向かいありがとうと呟き、こんな友人を持てたことを神に感謝した。
「それじゃ早速だけど、こなたはどう思う?」
「どうって、何が?」
「みゆきが殺されてて、みなみちゃんがまだ戻ってないって事。そして、あの二人が不仲だったって事」
「…かがみ…まさか、みなみちゃんがって?」
「可能性の一つよ。とりあえずオーナーさんが戻ったら、少し話を聞いてみましょう」


 二人がしばらく待っていると、玄関が開きオーナーが戻ってきた。防寒具についた雪を払っている最中に、部屋の前にいるかがみ達に気がつき、防寒具をおいてやってきた。
「どうしたんだい?」
「少し、お話を伺いたくて…みなみちゃんがまだ戻っていないのは知ってますか?」
「え…いや…そ、そういえば…」
 オーナーはかがみの言葉に動揺を見せた。
「しかし…この吹雪だと探すのは難しいな…施設を見に行ってくれてるのだから、中にいてくれればいいんだけど…」
「みなみちゃんは『こう言う事は初めてじゃない』って言ってましたけど、今までに何度か?」
「ああ、みなみちゃんは雪に強いみたいだからね。みゆきちゃんの知り合いだし、頼みやすかったんだ…いや、でも…みなみちゃんから見に行くって言い出したのは初めてだな…」
「なるほど…」
 かがみは顎に手を当てて、少し考え込んだ。
「とにかく、明日の朝には吹雪も収まるだろうから、みなみちゃんを探すのも、警察に連絡を入れるのもそれからになると思うよ」
「え、何時収まるかってわかるの?」
 オーナーの言葉に、こなたが驚いてそう聞いた。
「ああ、この山にも長く住んでるからね。二日くらい先の天気なら、大体分かるよ」
「へー凄いですね…」
 感心するこなたの横で、考え込んでいたかがみが不意に顔を上げた。
「オーナーさん。首狩鬼って知ってますか?この辺りの伝承かなんかだと思うんですけど」
「え?…いや、聞いたことないな」
「では、首を落とせるような得物に心当たりは?」
「…そういえば、ボイラー施設に薪を使ってた頃の斧があったかな…」
「そうですか…ありがとうございました。こなた、いくわよ」
 そう言ってかがみは、こなたの手を引いてつかさ達の方へと歩き出した。

20 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/05(日) 16:22:43.43 ID:lXmplKY0
以上です。すいませんでした。
21 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/05(日) 23:40:49.42 ID:mKC8ISUo
>17
乙〜
解決編も楽しみにしてます
22 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/05(日) 23:51:15.95 ID:juRU5Fgo
>>20
乙! また最初から読まねば
オチと言うか、ラスト的にはそういうことなんだろうけど、今回は色々難しいな……
解決編待ってるぜ! コンクールも楽しみにしてるw
23 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/06(月) 00:01:11.47 ID:xzzKePso
★★★らき☆すた★★★

それでは、これより第15回らき☆すたSSコンクールを開催いたします。
お題は『星』、らき☆すたの名に相応しいこのお題、皆さんの魅せる輝きを楽しみにしています。

投稿期間は本日、7月6日から7月19日まで、投票期間は7月21日から7月27日までとなっております。

コンクール参加に関しての詳細はこちらで。
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/673.html
24 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/06(月) 00:02:09.72 ID:TOXHdLc0
 開催宣言、乙です。
 さっそく、コンクール作品投下いきます。
25 :みんなのスター、誰かのスター [saga]:2009/07/06(月) 00:03:08.51 ID:TOXHdLc0
 スターとは何か?
 改めて問われると難しい問題だけど、私はこう答える。
 歳をとっても、死んだとしても、みんなの記憶に強く残る人間。
 たとえそれが悪評でも、みんなの記憶に強く残る人間は、スターと呼ばれるにふさわしい。
 私も、芸能界で生きる人間として、そういう意味でのスターになりたい。少なくても、使い捨てられ、忘れ去られるような三流の人間にはなりたくない。



「小神ちゃん、お疲れ」
「お疲れ様でした」
 テレビ番組の収録が終わり、私はスタッフに挨拶して、楽屋に向かった。
 今の私は、女子高生アイドルといったところ。
 そこそこ売れてはいるが、この業界でははやり廃れはあっという間だ。
 次のステップをどうするかそろそろ考えなければならない歳にはなった。子供という身分に甘えていられる時期はもう過ぎ去ろうとしている。
「お疲れ様です」
 楽屋で私を出迎えたのは、白石みのる。いろいろあって、今は私のマネージャーってところ。
 荷物をまとめて準備万端な白石を引き連れて、楽屋を出る。
 さえない男だが、こんなやつでも可愛い奥さんと器量よしの娘さんが二人もいる。物好きはどこにでもいるもんらしい。
 テレビ局を出ると、外には車が待っていた。
 お子様は深夜は働けないというわけで、あとは家路につくだけだ。
26 :みんなのスター、誰かのスター [saga]:2009/07/06(月) 00:04:12.81 ID:TOXHdLc0
 帰りの車中で明日のスケジュールを確認する。
 明日の最初の仕事は、テレビドラマの収録。
「セリフの方は大丈夫ですか?」
「おまえの頭と一緒にするな。そらでいえるぐらい暗記してるぜ」
「気合入ってますね」
「歳食ってもこの業界で生きてくには、役者で名を上げるのが一番だ。今のうちにアピールしとかんとな」
「ちゃんと先のことまで考えてるんですね」
 白石がスケジュール帳をめくる。
 次の仕事は、バラエティ番組の収録だった。
「ゲストは誰だ?」
 白石がとある若手芸人の名を出した。
「最近ギャグがギャクになってなくてすべってばかりのヤツだな」
「彼なりに努力してるとは思いますが」
「結果の出せない努力なんて、この世界じゃ無意味なんだよ」
「相変わらず、手厳しいですね」
「うまく話ふってやらなきゃならねぇな。面倒くせぇ」
 白石が苦笑を浮かべた。
「何がおかしいんだよ?」
「いや、そういうところが、あなたのお母様にそっくりだと思いましてね」
 私は黙るしかなかった。
「そういう御配慮をさりげなくできるところは、ホントそっくりですよ」

 沈黙が車中を支配した。

 私の母も、芸能人だった。
 天才子役として芸能界に入り、アイドルを経て、晩年は悪女を演じさせたら右に出る者はいないといわれるほどの名女優だった。
 早死にしたから、晩年とはいってもまだまだ若い未婚の母だったけど。
 ちなみに、父親は外面だけはいいが女癖の悪い俳優。母いわく「あのときの私は血迷ってたわ」とのこと。
 母は、アイドル時代の芸風と晩年に演じた役柄、そして未婚の母だったことから悪く言われることも多いけど、死んでも多くの人の記憶に残る人間、つまりはスターだったことは間違いない。
 私にとっては、乗り越えなければならない壁でもある。
27 :みんなのスター、誰かのスター [saga]:2009/07/06(月) 00:05:17.89 ID:TOXHdLc0

「なぁ、白石」
「何ですか?」
「正直なところ、おまえ、私の母さんのことをどう思ってるんだ?」
「正直なところをいえば、それこそ罵詈雑言がノート一冊分ぐらいにはなるでしょうけどね」
 白石はそういって苦笑した。
「でも、感謝してますよ。若いころはいびられどおしでしたけど、今から振り返ればこの業界で生きてけるようにきたえてくださったのでしょう。僕が曲りなりにもこの業界で生きてけるのは、あきら様のおかげです」
「私のマネージャーをしてるのは、その恩返しってわけか?」
「まさか。そんなこと言ったら、思い上がりもいい加減にしろってあきら様に殴られますよ」

 こいつにとっては、母は、何があっても忘れえぬ人間の一人なんだろう。
 小神あきらは、白石みのるにとって、間違いなくスターなのだ。今でも。

 私は、母の威光なしで、この男の記憶に残れるような人間になれるだろうか。
 それすらもできずに、みんなのスターになることなんて無理だろうから。

 小神あきらという存在は、今の私にとっては見上げるほどの絶壁だった。
 でも、いつか絶対に乗り越えてやる。

 そんなことを考えてるうちに、車は家についた。
28 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/06(月) 00:06:38.40 ID:TOXHdLc0
以上です。
29 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/06(月) 03:20:19.19 ID:mEySqISO
>>28

最近亡くなったマイケルジャンクソンはまさにそんな感じのスターだよな
あきら様はそういう意味ではスターの素質があるな

素晴らしかったGJ
30 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/06(月) 03:29:43.58 ID:Xlc/c2I0
>>28
投下早いなー乙
あきら視点は新鮮だった
31 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/06(月) 03:44:04.74 ID:EYUG25oo
ネタが被ったと思ったら相変わらず1本目が叙述トリックでそんなに被ってなかったでござるの巻
やっぱ面白いわこの手の話
32 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/06(月) 03:59:04.26 ID:Xlc/c2I0
って叙述トリックだったのか!
気付かなかった俺アホス
33 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/06(月) 13:08:33.02 ID:6XQG14A0
−侍戦隊−

シンケンレッド・・・あやの
シンケンブルー・・・みゆき
シンケンピンク・・・かがみ
シンケングリーン・・・こなた
シンケンイエロー・・・つかさ
シンケンゴールド・・・みさお
ジイ・・・ななこ

血祭ドウコク・・・みなみ
薄皮太夫・・・ゆたか
骨のシタリ・・・ひより
腑破十臟・・・パティ


あやのが主役になれるネタがあったとは・・・
34 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/06(月) 18:02:22.31 ID:tvrwB1w0

みさお「なぁ、あやのー。侍戦隊ってなんだよ」
あやの「うーん、なんだろうね。でもそんな物の主役になっても私は嬉しくないかな」
みさお「だよなー」

あやの「それに私は、今の日当たりが結構気に入ってるし、主役になんてなれなくても良いと思ってるから」
みさお「あやのは欲がねぇなー。ま、そこがあやのの良い所だけどなぁー」
35 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/06(月) 20:01:10.27 ID:taL/dWA0
>>28です。
 ご感想ありがとうございます。

>>29
 確かに彼は多くの人の記憶に残る人でしたな。
 こんな話を書いといてなんですが、あきら様には早死にせずに長生きしてもらいたいものです。

>>31
 ネタ被ったと思ったってことは、「星→スター→あきら様」の連想が真っ先に思い浮かんだ同志だということですね。
 スターであきら様ネタは誰かいるだろうなぁとは思ってましたが、作品を楽しみに待っております。

>>30 >>32
 早いだけがとりえの拙作です。ネタ被りする前に投下したもん勝ちだという勢いだけで投下しました。
 叙述トリックとしては軽めのつもりだったのですが、最後まで読み流してしまいましたか。
36 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/06(月) 20:15:00.34 ID:pPRLGYso
当初はあきら&白石でいこうと思って挫折した俺は負け組

投下間に合うかな…
37 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/06(月) 21:19:39.63 ID:Xlc/c2I0
>>34
つかさ「そうだねー、日当たりのあんまり良くない所って夏は行きたくなるもんねー」
あやの「えっ? ん、まあ、ありがとう……」
かがみ(フォローの仕方が意味分からん……峰岸も困るっつーに)

みさお「そうそう、そうだよなー」
かがみ(こいつは何も考えてないな……)
38 :双子の誕生日 [saga]:2009/07/07(火) 00:09:43.92 ID:br8gn/s0
投下行きます。

かがみとつかさの誕生日SSです。
コンクールやらなんやらで、かなりやっつけなタイトルと内容ですが…。

あ、一応かがみんがいつも通りなキャラ崩壊物です。
39 :双子の誕生日 [saga]:2009/07/07(火) 00:10:39.33 ID:br8gn/s0
「こなた、もうすぐわたしの誕生日よね」
「そうだねー」
 とある日の放課後。こなたは、抱きついているかがみを引き摺りながら下校していた。
「期待してるわよ…色々と」
「まあ、前向きに善処はしてみるよ」
 こなたはかがみちょっと重いよとか思いながらも、プレゼントやら当日のことやらを考えていた。
「当日はもう、部屋で全裸で正座で待機してるわよー」
「…いや、かがみ風邪ひきやすいんだし、服は着ててよ」
 そんな二人の少し後を、つかさとみゆきは並んで歩いていた。
「かがみさん、嬉しそうですね」
「うん…でも、なんかこなちゃん、お姉ちゃんばっかだよね。わたしも誕生日なのに」
「…え」
 みゆきの足がピタリと止まる。
「…ゆきちゃん…今の「え」って何かな?」
 何か冷や汗を垂らしているみゆきの顔を、笑顔で覗き込みながらつかさがそう言った。
「まさか、わたしも誕生日だって事忘れてたとか言わないよね?わたし達が双子だって忘れてたとか言わないよね?…ねえ、ゆきちゃん?」
「…え、えっと…すいません…忘れてました…」
 誤魔化すことができず、みゆきは素直に謝った。
「プレゼント、楽しみだなー」
「は、はい…前向きに善処してみます…」
 つかさは最後まで、張り付いたような笑顔を崩さないままだった。


- 双子の誕生日 -


40 :双子の誕生日 [saga]:2009/07/07(火) 00:11:50.85 ID:br8gn/s0
「つーわけでだねみゆきさん。かがみ達の誕生日プレゼントを考えようと思うんだけど」
「…はあ」
 休日に稜桜学園の近くにある喫茶店に呼び出されたみゆきは、こなたの提案に生返事を返していた。
「…なんか乗り気じゃないね」
「い、いえ。なんでまた急にと思いまして…」
「んー、プレゼントが被るといけないから、二人で考えようと思ったんだよ」
「あ、なるほど…そうですね」
 みゆきは一度納得したが、すぐに別の疑問が湧いてきた。
「でも、わたしと泉さんでプレゼントが被るようなことがあるのでしょうか?」
「…うん、呼び出しまでしといてなんだけど、わたしも絶対被らないと思った」
 二人の間を沈黙が支配する。
「え、えーっと、とりあえずみゆきさんはどんな感じのを考えてるのかな?」
 場を取り繕うようにこなたがそう聞くと、みゆきは鞄からメモ帳を取り出してページをめくった。
「…このような感じのを予定してます」
 そして、誕生日プレゼントの候補が書かれたページをこなたに見せる。
「…なんかつかさの方の比重が大きいね」
「え、えっと…それには色々と事情が有りまして…」
 だらだらと冷や汗を垂らしながら、みゆきはこなたから顔を背けた。
「まあ、いいや。わたしはこんな感じだよ」
 そう言いながら、こんどはこなたがメモ帳のページを開いてみゆきに見せた。
「…泉さんはかがみさんの方の比重が大きいですね」
「…うん、まあなんだ…ぶっちゃけ、昨日かがみに電話で言われるまでつかさのこと忘れてて、予算が足りなかったと言うか…」
「………」
「………」
 二人の間を沈黙が支配する。
「ま、まあ二人合わせたらバランス取れていいよね!?」
「そ、そうですね!問題ありませんよね!」
 無理矢理空気を変えようと、不必要に明るく笑いながら、二人はそう締めくくった。


41 :双子の誕生日 [saga]:2009/07/07(火) 00:12:54.44 ID:br8gn/s0
 誕生日当日。こなたはみゆきと待ち合わせて二人で柊家に向かうつもりだったが、みゆきから少し遅れるという連絡があり、一人で柊家の前まで来ていた。
「あ、こなちゃん…どうぞ、入ってきて…」
 インターホンを押すと、スピーカーから何処となく元気のないつかさの声が聞こえてきた。何かおかしいなと、こなたは首をかしげながら玄関の扉を開け中に入った。
「…いらっしゃい」
 そこで待ち受けていたのは、全裸で正座しているつかさだった。
「………失礼しました」
 回れ右をして、玄関を出て行こうとするこなた。
「まってこなちゃーん!これには訳がー!」
 背後からの必死に引きとめようとするつかさの声に、こなたは仕方なく中に入って玄関のドアを閉めた。
「で、訳って?」
「あー、うん…お姉ちゃんがね、全裸待機はこなちゃんに止められたから、別のにするって言ってたんだけど、やっぱ全裸も捨てがたいからわたしにやれって…」
 こなたは思わず天を仰いでいた。
「…さすがに何考えてるかわかんない…つかさ、とりあえず服着ていいよ。かがみにはわたしから言っとくから」
「うん、ありがとうこなちゃん…あっ!?」
 正座から立ち上がったつかさは、足が痺れていたのかふらつき、こなたの方へと倒れてきた。
「おっと…大丈夫、つかさ?」
 こなたが身体全体を使ってつかさを受け止める。
「ご、ごめんこなちゃん…」
 抱き合うような形になるこなたとつかさ。こなたの背後で、ドサッとなにかが落ちるような音がした。
 こなたが頭だけ後ろを向けると、そこには何時の間に入ってきたのかみゆきが立っていた。さっきの音は手に持っていた紙袋を落とした音らしい。
「い、泉さん…つかささん…一体何を…?」
 こなたは冷静に自分の状況を確認した。全裸のつかさと抱き合っている。確かに、これはまずい。
「みゆきさん、これには訳が…」
 こなたが状況の説明をしようとすると、みゆきは首を振りながら一歩後ろに下がった。
「つかささんは…つかささんは、わたしだけのご主人様だと思っていましたのにー!」
 みゆきはそう叫びながら、ドアを開け外へと飛び出した。
「なにそれ何処から湧いたのそのトンデモ設定ーっ!!」
 つかさもそれを追って外へ飛び出す。
「…えーっと」
 こなたはしばらくその場で唖然としていたが、とりあえず家に入ってかがみに会うことにした。そして、靴を脱いだところでふと思い出すことがあった。
 つかさは確か、全裸ではなかっただろうか…と。
「…ま、いっか」
 今からじゃとても追いつけないと判断し、こなたはかがみの部屋へと向かった。


42 :双子の誕生日 [saga]:2009/07/07(火) 00:14:14.71 ID:br8gn/s0
「いらっしゃいませ、ご主人様ー」
 と、言う台詞で部屋に入ったこなたを出迎えたのは、バニーガールの格好をしたかがみだった。
「…とりあえず、何処から突っ込んでいいかわからない」
 額に指を当てて、呻くようにつぶやくこなた。それを聞いたかがみは、こなたから視線を逸らしてモジモジしだした。
「ど、何処からって…そ、そうね、わたしが選んでいいって言うならおし」
「すとーっぷかがみ。それ以上はマジでヤバイから」
「…ケチ」
「いや、ケチとかそう言う問題でなくて」
 こなたはとりあえず落ち着こうと深呼吸をし、改めてかがみに向き直った。
「とりあえず、その格好は何?」
「前にこなたに、うさぎっぽいとか言われたからだけど…ダメだった?」
「いや、ダメって事はないけど…あと、台詞もどうかと」
「いや、なんかコスプレしてるっぽい気分になったから、ああいう台詞の方がいいかなって」
「っぽいっていうかもろコスプレなんだけど…ってかなんで誕生日を祝いに来たほうが、こんなにもてなされているのか」
「まあ、細かいことは言いっこなしよ」
 明るくそう言いながら背中を叩くかがみに、こなたは軽く溜息をついて見せた。
「で、さっきから気になってたんだけど、その馬鹿でかい袋は何?なんかあんたの背丈くらいありそうだけど…」
 かがみが、こなたが部屋の隅に置いた袋を指差してそう言うと、こなたはニヤリと笑った。
「いいところに目をつけたね、かがみさんや…実はあれが誕生日プレゼントなんだよ」
「え…いや、なんかデカすぎない?」
 かがみが不安そうに言う中、こなたが袋を開け中身をかがみの前に差し出した。
「じゃーん!等身大抱き枕風こなたん人形ー!」
 こなたが自分と同じ大きさの、稜桜の制服を着た少しディフォルメされた人形の方を抱きながら、得意気にそう言った。かがみはその人形とこなたを、複雑な表情で交互に見ていた。
 そのかがみの様子に、こなたが不安げな顔をする。
「あ、あれ?お気に召さない?すべったかな…」
 思わずかがみにそう聞いてしまう。
「えっと、その…嬉しいんだけど…本人目の前にいるのに、人形に欲情するのはどうかと思って…」
「いや、欲情はしなくていいから。わたしのいない夜にでも抱いて寝ててください。夜這いとかしなくて済むように」


43 :双子の誕生日 [saga]:2009/07/07(火) 00:15:10.27 ID:br8gn/s0
「そういやさ、玄関につかさいなかった?」
 元から部屋にあったボンタ君人形の隣にこなたん人形を座らせながら、かがみがこなたにそう聞いた。
 その言葉に、こなたは何かを思い出したようにポンと手を叩いた。
「そうだ、つかさだよ。かがみ、アレはちょっとないんじゃない?」
「アレって、全裸待機?」
「そうだよ。みゆきさんにも被害が及んだし、できればわたし以外を巻き込まないで欲しいなって…」
「そっか…ごめん。次から気をつけるわ」
 素直に謝るかがみに、こなたは微笑んで見せた。
「…で、つかさはどうしたの?」
 そして、かがみの言葉に笑顔が凍った。
「え、えっと、その…なぜか逃げ出したみゆきさんを追っかけて、裸で駆けてく愉快なつかささんと化して…」
「………」
「………」
「…こなた、ケーキ食べる?」
「…うん、食べる」






「で、なんであなた達は境内を走り回ってたの?しかも、つかさは裸で」
「ごめんなさい。いのりお姉ちゃん…」
「すいません。いのりさん…」


- おしまい -
44 :双子の誕生日 [saga]:2009/07/07(火) 00:16:06.38 ID:br8gn/s0
以上です。

…えっと…二人とも誕生日おめでとう!!
45 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/07(火) 01:05:07.58 ID:8O.TUnI0
>>44
みゆきも壊れてるなww乙
46 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/07(火) 12:46:37.77 ID:8O.TUnI0
酢入りSS

つかさ「推理モノのSSかあ」
かがみ「そういえば今殺人事件のSSが続いてるわね」
つかさ「そうだねー」
かがみ「うん。……ん?タイトルが誤字ってるわね」
つかさ「あれ?ホントだ」
かがみ「まあいっか。それで、どんな話なのかしら」
つかさ「うーん……」


???「ハッ!」
かがみ・つかさ「?」
???「俺たちはとんでもない思い違いをしていたようだ……」
かがみ「え? 何?」
???「まずタイトルの誤字に注目する」
かがみ「まあ、気にはなったけど……」
???「誤字をそのまま記すと『酢入り』となる」
つかさ「うん」
???「酢といえば黒酢を連想するのは当然だ
     すると導き出される解は『黒酢入り』……」
かがみ「はあ」
???「そして最後に意味不明な言葉『入り』……
     これはノイズと考えられるので削除し残りの文字を取りだす
     すると出来上がる言葉は……『黒酢』
     つまり、『クロス』!」
かがみ「ん? あ、まさか……」
???「そう、つまりこれは、クロスオーバー物のSSだったという意味だったのだ!!」
かがみ・つかさ「な、なんだってーー!!」


かがみ「……誰よアレ」
つかさ「さあねー」
47 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/07(火) 20:22:45.22 ID:W/rIzsSO
コンクール作品投下します。
48 :星に願いを [saga]:2009/07/07(火) 20:24:08.30 ID:W/rIzsSO

 季節は夏。そして本日は七夕ということもあり、生徒会による七夕イベントが決行されていた。
イベントといっても、そんなに大それた事ではなく、玄関先に用意した青々と笹の葉茂った竹に、願いを書いた短冊を吊すというシンプルなものだ。
しかし、そのシンプルさ故に、既に笹には数多くの短冊が吊されていた。
当然、願いが叶うなんて非現実的な事はないのだが、こういうのは楽しんだもの勝ちである。
単純に、書いて吊して楽しむも良し。他人が書いた願いを読んで楽しむも良しと、まぁ楽しみ方は人それぞれだ。
「まだ誰も来てないよね?」
 そうこうしているうちに、また一人、短冊に願いを書きに来たと思われる女子生徒が竹に近づいて来た。黄色いリボンがトレードマークの
ショートカットな髪型の女の子は、キョロキョロと周りを確認しながら、落ち着かない様子で短冊を手に取った。
「誰も居ないうちに……」
 どうやらこの女子生徒は、書いているところを見られたくない様である。頬を紅潮させている辺り、恋文染みたものだろうか。
短冊に自分の名前さえ書かなければ、後で誰かに確認されようが分からない。だから誰も居ない時を狙ったのだろう。
ロマンチックな乙女だ。
49 :星に願いを [saga]:2009/07/07(火) 20:26:05.58 ID:W/rIzsSO
「これでよしっと」
 自分で書いた願いを確認して、再び頬を紅潮させ、それを笹に吊した。どんな願いか分からないが、書かれた相手は幸せ者だな。
「あれ? つかさ早いわね。もう書いたの? 見せて見せて」
 つかさと言うのは、黄色いリボンの女の子の事だ。そしてつかさの背後に突然現れたツインテールな髪型の女の子は、つかさの後方にある今吊したばかりの短冊を見てしまう。
「わわわわ、お姉ちゃん!」
 つかさは必死に両手を上下にバタバタとするも時既に遅し。というか姉だったのか。
「……わぁ」
 つかさの姉は、その短冊に書かれていた内容を確認し、気恥ずかしくなりつつも、その短冊をまじまじと見つめていた。
「はぅぅ……」
 つかさはすっかり顔がトマトになり、恥ずかしい様で下を向いていた。一体、どんな内容なのだろうか。
「何々? 『お姉ちゃんとずっと仲良くいられますように』? しかもハートのイラスト付きだとぅ!?」
「わぁぁ! 口に出さないでぇぇ!」
「うぉっ!? こなたいつの間に!? あ、みゆきも」
 突然現れるのが流行っているのかというくらい、タイミングの良い登場の仕方だ。こなたと言う小柄な女子生徒のお陰で、短冊に書かれた内容が判明された。
これは書いた本人も書かれた相手もかなり恥ずかしいだろう。それも身内ときたもんだ。
「だから誰も居ない内に書いたのにぃ……」
「いや、その……ごめん。でも」
「でも?」と、つかさ。
「嬉しいわよ。そういうこと書いてくれてさ」
「……えへへ」
 この瞬間、姉妹という二人の間に、強烈な姉妹愛が生まれた。これを破壊することは何人たりとも出来ないのである。
「ぐぬぬ、やるなつかさ……くそーぅ! 負けてられるかぁー!」
 こなたはそう叫びながら短冊を手に取り、物凄い勢いでペンを走らせていた。何が負けてられないのだろうか。
「良し、これで勝つる!」
 書いた短冊を直ぐに吊しに行くこなた。しかし、ガシッと肩を掴まれてしまう。
50 :星に願いを [saga]:2009/07/07(火) 20:27:10.21 ID:W/rIzsSO
「何すんのさかがみ!」
「ちょっとな、それ見せてみろ」
「もう、せっかちさんだなぁかがみは〜。」
 そう言って短冊をつかさの姉、かがみに手渡した。その内容とは、

 かがみとチュッチュッしたいな(はぁと)
                    こなた

 かがみは固まった。名前を書いてる辺り、つかさよりも大胆である。
「うおりゃー!」
「あぁ! 何すんのさ! 破くなんて酷いよー!」
「こんな恥ずかしい物、吊しといてたまるかっ!!」
 こなたの願いは糸も簡単に粉砕された。ひらひらと舞い散る短冊は風に飛ばされ、余計に虚しさを増した。
「良いもん良いもーん! 私はみゆきさんとチュッチュッするもーん! ねぇ〜みゆきさ〜ん?」
「えーと……」
 こうして、つかさの作戦は失敗に終わった。しかし、失敗して得たものも、そうそう悪いもんじゃないな、と、つかさは思うのであった。
「みゆきさんアイラブユー!」
「えーと……」


 時間変わって、放課後。喧騒ざわめくここ、玄関先も、すっかり生徒達が居なくなり寂れていた頃、一人の教師と思われる女性が、短冊で埋め尽くされている竹に歩み寄って来た。
「ふふふ、あいつに見つからない内に……」
 どうやらこの女性も、書いてる所を誰にも見られたくない様である。
女性はササッと短冊に願いを書き終わると、直ぐに笹に吊した。
しかし、二度あることは三度ある。そう、またしてもこのタイミングで背後から誰かが相手がのである。やはりこの登場の仕方は流行っているのか。
「あら、桜庭先生、短冊書いてるんですか? えーと……」
「ばっ、見てはダメだ!」

 ふゆきと 結 婚 !

 これまた、大胆な願いだ。
「さぁ、結婚しよう」
 そして本人は開き直っている。
「……桜庭先生、こういう形に残るものでこういう事書くのはダメですよ?」
「何? なら形に残らなければ良いんだな?」
「そうじゃありません。……そもそも学校で、」
「ほぅ、学校じゃなければ良いのか」
「もう、何でそうなるんですか」
 しかし、意外に満更でもない様子。新たなカップルの誕生である。
「誕生しません。もう、何ですかこの終わり方は? 綺麗じゃありませんね」
「ふゆきは綺麗だ」
「……ひかるさんったら」



         おわり
51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/07(火) 20:29:48.25 ID:W/rIzsSO
以上です。今日七夕だから投下間に合って良かった。
お題「星」→「七夕」を思い付いたのは俺だけじゃないはず!
52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/07(火) 20:44:31.28 ID:W/rIzsSO
>>50
ミスった

×このタイミングで背後から誰かが相手がのである。
〇このタイミングで背後から誰かが来たのである。

流石携帯……orz
53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/07(火) 23:17:08.85 ID:NJeF8IDO
同じ埼玉に住んでるけど
埼玉なんて毎年七夕の夜は雨か曇りかだよな?
こんなのいつもの事だよ
でもよ、こいつだけは伝えたきといやね
誕生日おめでとうってな!
誕生日祝って貰えんの
そんなのあんたら美人だけの特権だからな!
あと五年十年したら祝って貰えないんだからな!
ちくしょう!誕生日おめでとう!
かがみ!つかさ!
54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/07(火) 23:40:10.16 ID:9od48Ak0
かがみつかさ誕生日おめでとう!
なんとか今日中に言えたぜ!
55 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/07(火) 23:59:59.68 ID:pmi1JcAo
>>51
やっぱ思いつくよなー
つかさかわいすぎるww乙!


そしてかがみ&つかさ誕生日おめでとう!
56 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/08(水) 00:34:45.99 ID:UpF2GMSO
>>51
凄いギリギリwwwwww
57 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/08(水) 12:14:46.32 ID:xCnKPsSO
かがみ「昨日、わたしとつかさの誕生日だったのよ」
こなた「うん、知ってる」
かがみ「…メインキャラ二人だってのに、SSも小ネタもなかったわね」
こなた「コンクール期間中だし、余裕なかったんじゃないかな。祝ってもらえただけも…って、あれ?SSあったよね?」
かがみ「ないわよ」
こなた「えっ、でも日付変わった直後…」
かがみ「ないのよ」
こなた「…えーっと」
かがみ「なかった事にして」
こなた「………」
かがみ「………」
こなた「…かがみ…なかった事にしても、プレゼントもう一回貰えたりはしないよ?」
かがみ「そ、そんなこと考えてないわよ…」
58 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/08(水) 19:04:05.31 ID:WdZNawSO
新しいSSを書き始めの時はすらすら書けるのに
後半gdgdになるのは何故なんだぜ?
59 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/08(水) 19:21:19.91 ID:tfiJzBU0
>>58
次回らき☆すた「やる気の問題」お楽しみに!
60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/08(水) 19:28:48.14 ID:xCnKPsSO
>>58
多分、集中力切れ
61 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/08(水) 19:58:50.80 ID:WdZNawSO
あ! 上手い方法思いついた!

>>59-60
レスありがとう。おかげで解決したww
62 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/08(水) 20:14:26.43 ID:Pk/ZvaY0
コンクール作品投下行きます。
63 :コンクール参加作品『つかさぼし』 [saga]:2009/07/08(水) 20:18:04.78 ID:Pk/ZvaY0
「未来とは、原理的に予測不可能である」

大学時代、そんな文言に出くわしたことがある。
確か、『カオス理論』とか、そんな感じのタイトルの本の、はしがきを読んでいた時だ。
初めて見たとき、私はそれを嘘ではないかと疑った。
なぜなら、世には占星術という未来予知の手段が実在するし、
それはきちんと理論体系に基づいて組み立てられたものだと記憶していたから。

だが、本の内容を読み進めていくにつれ、私はなるほどと納得するようになった。
理論に対する感覚が養われたからだろう。
それ以来私は、占いというものを一段上の目線から眺め下ろすようになった。
例えば、テレビに細○数子さんの顔が映るとき。



午前零時、子供もすっかり寝かしつけた後、
私はいつもの様にベランダに出て、デジタルカメラを構え、真南の空に向けてシャッターを押した。
今日の日付は七月七日。私と双子の妹の誕生日だ。
星空を眺めつつ、これであの子よりも十歳年上になったのか、とぼんやり思った。

一息つくと、私は部屋に戻り、机の上に束ねて置いてあるUSBケーブルを手に取り、作業を開始した。
撮った星空をパソコンに取り込むのだ。

ペイントソフトを起動し、今取り込んだ写真を開く。

ところで、私がこうして南の空を写す習慣をつけたのは、星空そのものを観察したかったからではない。
その空には、ある一つの星が浮かんでいる。
十年前に観測を始めたこの星は、明るさで言うと五等星で、夏の間しか現れない。
それは別に、何の変哲もないただの恒星なのだが、長年観察しているとこれが少しずつ位置を変えているのだ。

その星がどのような軌道で動いていくのかは、わからない。
本によると、天体の運動というのは、単純ではなく、捕えどころのないものらしい。

私はペイントソフトのツールバーから適当な機能を選び、
その観察対象としている星に薄く赤い点をかぶせ、印をつける。

それにしても、この星の軌道は、随分と気まぐれだ。
東に寄ったと思えば、西へ大きく動いていたり。
まるであの子のようだな、と思った。
64 :コンクール参加作品『つかさぼし』 [saga]:2009/07/08(水) 20:19:52.12 ID:Pk/ZvaY0



……天気予報とは外れるものだ。
前日のテレビでは晴れだと言っていたのに、外は見事な土砂降りだった。
私とつかさが二十歳を迎えた日だった。

天気予報が外れるといえば、石○良純さんの顔が浮かぶが、
彼でなくとも予報をしくじることはある。
そもそも彼の天気予報を見たことはないが。

とにかくも、予報外れの豪雨の中、つかさは安っぽいビニール傘を持ち、家路を歩いていた。
傘代の500円は、妹にとって予定外の出費だっただろう。
私は家で、手慣れないケーキ作りに励んでいた。
時折お茶目な姉の冷やかしを浴びながら。

そういえば、高校時代までの、通う先が同じだった頃は、私とつかさはいつも二人揃って帰宅していた。
また、大学生になってからも、六月になってつかさが料理関係のサークル活動を始めるまでは、
電車の駅から家までの道を一緒に歩いていた。
だから、一人帰りを始めて間もないつかさが帰路を来ることには、少々の不安があった気がする。

冷蔵庫の中に、予想以上に形の崩れた、ホイップクリームまみれの円柱形スポンジが収められた頃には、
雲の切れ目から月が冷やかに地上を覗いていた。
雨とはいえ、つかさが家の外にいる時間としては、遅い時間帯だった。

私はつかさの携帯電話に連絡を入れてみた。
応答は全く無い。
プルル、という発信音にピッ、という通話終了の音が繰り返すだけの無用な時間が過ぎていく。
痺れを切らした母が自宅の電話から警察に通報を入れたのは、
私の携帯電話の発信履歴の約半数が、「つかさ」の文字で埋め尽くされた頃だった。

翌朝、警察官の押したインターホンとともに、つかさは私達家族の前に姿を見せた。
ロープでぐるぐる巻きにされ、海水で潮にまみれた死体となって。
65 :コンクール参加作品『つかさぼし』 [saga]:2009/07/08(水) 20:21:20.87 ID:Pk/ZvaY0



事の経緯は次のようなものだったらしい。

つかさは家の300mほど手前の道路を歩いていた。
いつもならそれは大通りなのだが、日付が日付で浮足立っていたからか、
大通りから数区画離れた、細い脇道を歩いていたという。

晴天の日なら、その道はある程度人の通行がある。
しかし、あいにくの大雨で、その一本道はまったくの無人状態だった。
だから、後ろから黒い自動車が近寄っていることに、つかさを含め誰も気が付かなかったし、
その子の身体を車内に引っ張り込むのは容易だったのだろう。

車は家とは反対の方向に向かいスピードを上げていく。
目撃者によると、その運転の様子は随分乱暴だったという。
犯人は初犯だったらしく、慎重に運転するには余裕が足りなかったのかもしれない。

数分もしないうちに、二車線の、少し大きな通りに出た。
そこは川の右岸に沿う、曲がりくねった道だ。

道に入り200mほど進んだ所に、やや急な右カーブがある。
路面は雨で濡れていて、行き交う車が、派手な水しぶきを噴きかけ合っていた。
黒い車が、そのカーブに差し掛かる。
犯人はアクセルを踏みこみ、ハンドルを勢いよく右に切った。
車体が順応して右に傾きかけた。

その瞬間だ。
タイヤがスリップした。
制御が利かない。
犯人はパニックに陥る。

どうすることもできなくなった車体は、大きく回転しながら古びたガードレールに突っ込み、そのまま川へと転落した。

発見されたその車の窓は開いていたという。
恐らく、転落直後に、動転した犯人が脱出を試みたのだろう。
しかし溢れ返った川の水流は、空いた窓から勢いよく車体内へ流れ込み、二人を車外へ放り出した。
川の下流の方へ流され、海に漂着するころには、二つの体は力を失っていたという。

翌日、新聞の一面には、大きな見出しとともに、この気まぐれすぎる事件の成り行きが記されていた。
記事名は「雨の日の生んだ悲劇」だった。
66 :コンクール参加作品『つかさぼし』 [saga]:2009/07/08(水) 20:22:37.77 ID:Pk/ZvaY0



「未来とは、原理的に予測不可能である」

真っ黒な空に赤い印付きの星の画像を映した、パソコンのモニタの前。
私は、あの日の出来事を思い返しながら、この言葉を幾度となく反芻していた。

あの日私の頭の中には、あの出来の悪いケーキを食べながら、
つかさとお互いの誕生日を祝うという未来しか組み立てられていなかった。
だから、そのつかさが哀れをとどめぬ姿になって帰ってきたことは、全くの予想外だった。

私でなくともそうだ。
家族の誰が、つかさのあのような悲惨な最期を予想できただろうか。
つかさも、帰りの道中に突然体をさらわれ、
連鎖した不幸の果てに海へ流され絶命するという未来を予想できただろうか。
そして世間の誰が、こんな仕組まれたカラクリのような事故が現実に起こり得るなどと、予想できただろうか。

この世に未来を100%予知する術は無い。
占いや天気予報だって、当たるときもあれば、外れることもある。
そして、よもや起こるとも考えなかった事態が、突然やってくることもある。
それはあの五等星が、突然方向や速度を変えて動くように。

溜息をつくと、時刻は午前一時を回ろうとしていた。
私は今モニタに映っている画像を、名前を付けて保存した。
ファイル名、「tsukasaboshi_20200707.jpg」。
67 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/08(水) 20:24:41.31 ID:Pk/ZvaY0
以上です。
地の文100%とか、二次創作らしからぬ代物ですね。
内容に合わせて七日の午前零時に投下しようとかも考えてはいましたが、
校正が間に合わなかったw
68 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/09(木) 12:31:18.16 ID:zs7Wu.AO
>>67


つかさの死体が帰ってきたと聞いて、声が出そうなくらいショックでした。
かがみの感情表現がほとんどないので、すごく不気味です。

ところで不規則に動く5等星の赤い星って、何か元ネタがあるんですか?
69 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/09(木) 15:56:08.19 ID:xV5UVNc0
>>68
元ネタはないです。天体の知識は全くないのでw
70 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/09(木) 16:55:43.83 ID:s8FHA9go
>>67
乙。不覚にもうるっとした
淡々とした文章だけど、それが逆にきたわ
71 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/09(木) 17:23:46.04 ID:zs7Wu.AO
>>69
なんだ、本当にそんな星があるのかとビックリしました(^^ゞ
72 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/09(木) 18:30:15.90 ID:TD.50QQ0
つかさ「……今私の残機ってどのくらいあるのかな?」ペラッ←残機通帳


 1000
 0942
 0523
 0120
 0078
 0012
 0007


つかさ「ひ、一桁ぁぁぁ!? おおおおお姉ちゃぁぁぁん!」
かがみ「何よ、騒々しいわね」
つかさ「お姉ちゃんは残機どれくらいある!?」
かがみ「え? えーと、まだ三桁あるけど?」

つかさ「わ、私こんな! こんな!」
かがみ「はぁ!? あんたちょっと死にすぎよ!」
つかさ「好きで死んでるわけじゃないよー!」


っていうくらい、つかさ死にすぎじゃね?w
73 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/09(木) 19:10:37.59 ID:IZCG8OY0
>>72
みゆき「・・・ふふっ。つかささんの残機はあと一桁ですか・・・・もう少しですね・・クスクス・・・」
74 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/09(木) 19:40:04.93 ID:xV5UVNc0
>>72
途中で一気に400機以上減ってるのは何があったんだwwww
75 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/09(木) 20:08:33.45 ID:suU2bkSO
−前スレではかなたさんが怖くて出来ませんでした−


かなた「…んっ…くっ…」
そうじろう「なにしてるんだ、かなた?」
かなた「あっ、そう君いい所に…コードに足引っかけちゃって抜けちゃったの…で、入れようとしてるんだけど、手が届かなくて…」
そうじろう「はっはっは、かなたは小さいからなあ」
かなた「むー…好きで小さいわけじゃないんですよーだ」
そうじろう「えっと、このコードか?」
かなた「あ、それじゃなくて…」

かなた「その、ぶっといのを、後ろの穴に入れて欲しいの」

そうじろう「………」
かなた「…?そう君?」
そうじろう「ううおぉぉぉぉっ!!」ガンッガンッ
かなた「そ、そう君!?どうしたの!?どうして壁に頭打ち付けるのー!?」





PS2のゲームで「ひざまづいて足をお舐め」とボイス付きでのたまったかなたさんを、俺は忘れない。
76 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/09(木) 20:10:28.00 ID:7B4nsMSO
つかさは一回しか殺してないなぁ
77 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/09(木) 20:49:39.94 ID:IZCG8OY0
一つのSSで5ティウンくらいさせたなww
78 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/09(木) 21:16:43.90 ID:MBHyf9.o
残機が7しかなかったら、このスレ終わる頃にはゲームオーバーの可能性も……w
79 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/09(木) 21:27:15.26 ID:1Mlhxm.0
みゆき「大丈夫です、私たちには手段が残されているではありませんか




    コンティニューという手段がwwww」
こなた「さすが・・・セレブのみゆきさんならではの発言・・・」
80 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/10(金) 00:00:00.85 ID:PMcXvdUo
>>74
何も知らずに満月の星陰ルートを選んだんだろうな
81 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 00:08:17.41 ID:cEQRzYAO
>>80
そのあとで更に鉄巨人に400匹もってかれるなww
82 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 07:08:08.40 ID:ZpsZMASO
>>80-81
ちょww

つかさ「もうダメだ。夜逃げしよう……ッス」
83 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/10(金) 07:42:42.94 ID:yfsmAsDO
必死に段差ででかい亀を踏むんだ!つかさ!
84 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 09:25:27.74 ID:qlyi7Gso
そして足を滑らせて甲羅と正面衝突するつかさ
85 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 11:38:24.33 ID:tKAr96E0
  SUPER TSUKASA SISTERS

  W O R L D 1−1

      _「Yフ
   :'´ /⌒ ヽ
   !  / ハヽ.!∩ 
   iヘ| ゚ ヮ゚ノリ ノ  × 7
   ⊂_||ニ||_)
   ノ  y ^ヽ  
  .(_ ノ\__ノ 
 // /      
86 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 12:18:04.52 ID:ZpsZMASO
>>85
吹いたwwwwww
でもWORLD1-1で×7って凄いぞつかさ!
87 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/10(金) 14:00:44.47 ID:iOiqov60
なんか、つかさが可哀相だよ…。
88 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 18:56:57.77 ID:nC9n0ao0
>>85
テレッテッテッテ♪ 

つかさ「よ、よーし」ピョン
つかさ「あいたっ」←ブロックに頭ぶつけた
つかさ「あ・・・」←着地点にキノコの化け物

テレッテテレッテテッテッテン♪


      _「Yフ
   :'´ /⌒ ヽ
   !  / ハヽ.!∩ 
   iヘ| ゚ ヮ゚ノリ ノ  × 6


89 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 22:51:41.80 ID:tKAr96E0
>>88
残機通帳
0007
0006←new!

つかさ「ううううう…(泣)」
かがみ「ほらほら泣かないの、私の残機少し分けてあげるから」
ピロリロリーン、ピッピッピッピッピッ……

TSUKASA      KAGAMI
         ←
   0100           0454

つかさ「えへへ…ありがとうお姉ちゃん」
かがみ「まったくー…しっかりしなさいよ…あんたはただでさえ死にやすいんだから」

というわけでゲームオーバーは回避できるようです

(たしか元ネタの中では、でっていうが初登場する作品で残機のやりとりができたはず)
 
90 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 23:13:57.93 ID:g0oN5Y.0
>>89
みwiki「余計なマネを……」
91 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 23:22:59.19 ID:ZpsZMASO
こなた「かがみ……残機吸い尽くされることに気付いてないね……」
92 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/10(金) 23:41:17.91 ID:u/O20sAO
>>91
かがみ「そう言うこなたもそろそろ残機がヤバいんじゃないの?あんた、なんだかんだで結構死んでるわよね」
こなた「うっ……、怖くて私の残機通帳が見られない……」



みWiki「私は死にましぇ〜ん!!」
93 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/11(土) 00:07:50.18 ID:7gSs44c0
>>92
みwikiさんは残機をお金で買えるからなww
94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/11(土) 01:05:57.49 ID:7r3mBMM0
残機とかなんとか、らきすたはいつのまにシューティングゲーになったんだ。
とう☆ほうですか。おおかたかがみは腋巫女ですか
95 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/11(土) 10:13:17.87 ID:9/ooQFM0
東☆方「見つけたぞ小娘ぇ!」
こなた「ひっ、ひえぇぇぇ!」

東☆方「そらそらそらそらっ! どうした! 逃げるばかりでは勝てんぞ!」
こなた「わぁぁぁぁ誰か!」


東☆方「うぅぬ、何処へ行きおった。逃げ足だけは速いものよ」

こなた「はぁ・・・はぁ・・・、東方先生が相手じゃ命がいくつあっても足りないよ・・・」


こうですね><
96 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/11(土) 11:03:16.65 ID:ZvIfOkAO
数日後、かがみと共に石破☆らぁぶらぶ☆天驚拳をぶちかますこなたの姿が…
97 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/11(土) 11:54:56.88 ID:7bhOk2SO
>>96
イイハナシダナー(;∀;)
98 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/11(土) 20:46:26.57 ID:M6t5kHYo
まつり「あっちゃー。残機がずいぶん少ないわ……姉さん、ちょtっと頼みが――」
いのり「イヤよ。あんた、いつも無駄使いばっかりするんだから」
まつり「ちぇー。どーせ、かがみ達に頼んでもわけてはくれないわよね……かといって地道に稼ぐのも面倒だしなぁ。どうしたものか……」

その日の深夜、つかさの部屋でうごめく影が。

ピロリロリーン、ピッピッピッピッピッ……

そして翌朝。

つかさ「おおおおおおおおおおお姉ぢゃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!」
かがみ「ちょ、ちょっと、どうしたのよ?そんなに慌てて?」
つかさ「残機が、お姉ちゃんにもらった残機がぁ〜!うわぁ〜ん」
かがみ「うわっ。また派手に死んだのね。何やってんのよ、まったく」
つかさ「わ、私じゃないよ〜><」

残機通帳(TSUKASA)
0100
0012←new!
99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/11(土) 20:56:55.62 ID:YuSrqwSO
つかさ、嫌われてるな…。
100 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/11(土) 21:22:58.49 ID:7gSs44c0
>>98
残機を無駄遣いってまつりさん普段何やってんだww
101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/11(土) 22:35:26.28 ID:7bhOk2SO
>>98
まつり姉さんパネェwwww
マジで何に無駄遣いしてるんだ?ww
102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/11(土) 23:41:30.77 ID:sNckt.SO
コロシアムで遊んでるんだよきっと
103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/12(日) 00:51:18.44 ID:Sl1//MDO
>>102
ああ、バギとか烈海王とかジャックとか独歩とかと戦うあれかぁ…
そりゃ命いくらあっても足りんわな…

って、こんな感じか?

―地下闘技場―
ワーワー
アナウンサー『キタァァァ!!また懲りずにやってきたッッ!!!埼玉在住ッ!!神社の娘!女子大生ッ!柊まつりぃぃッ!!!』
まつり「この風、この空気…これこそが戦場よ!!」
104 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 01:54:38.17 ID:2JQ8F/k0
コンクール作品の投下行きます。

多分、自分の作品の中では初となるつかさメインです。
105 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 01:55:40.36 ID:2JQ8F/k0
 とある週末。つかさ、こなた、みゆきの三人は、夕暮の道を柊家に向かって歩いていた。
 今日は柊家でのお泊り会で、つかさが二人を駅まで迎えに行っていたのだ。
「一番星、みーつけたっ」
 空を見上げていたつかさが、歌うようにそう言った。
「えっ、もうそんな時間?」
 隣を歩いていたこなたが、驚いてつかさにそう聞ききながら空を見上げた。だが、いくら目を凝らしても星らしきものは見えない。こなたがつかさに視線を移すと、つかさは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「へへー、嘘だよー。こなちゃん引っかかったー」
 こなたはしばらく唖然としていたが、ムッとした表情になると、つかさの背後に回りこみ両手でわき腹の辺りを掴んだ。
「ひゃっ!?こ、こなちゃんなにするの。くすぐったいよー」
「つかさの癖にわたしを騙すからだー!こうしてくれるー!」
 そのまま掴んだ手をワキワキと動かす。
「あははははっ!こなちゃんやめてー!く、くすぐった…はふぁひゃひゃひゃひゃっ!」
 そんな二人をみゆきは少し笑いながら見ていたが、ふと思いつくことがあってつかさに聞いてみることにした。
「つかささん、この辺りは一番星がよく見えるのですか?」
「え?うん。わたしの家の神社は結構広いし、明かりも少ないからよく見えるよ」
 なんとかこなたから解放されたつかさがそう答える。
「いいですね。わたしの家の周りは、星があまり見えないものですから、一番星ってあまり見たことなくて…」
「そっかー。今の時期ならわたしの家に着く頃には、一番星が見えるよ」
「え?本当ですか?」
「つかさ分かるの?」
 つかさの言葉に、こなたとみゆきが驚きの声を上げた。
「うん。わたし小さい頃から一番星探すの好きだったから、だいたい時間が分かるようになったんだ」
「それは、凄いね…」
 得意気に言うつかさ。こなたもそれには素直に感嘆の声を上げた。
「わたしはね、一番星が大好きなんだー」
 つかさは少し遠くを見るような目で、嬉しそうにそう言った。それを見たこなたは、ふむと頷き隣にいるみゆきの方を向いた。
「みゆきさんや、これには何か特別なエピソードとかあると感じませんかな?」
「そうですね。わたしもそう思ってました」
「と言うわけでつかさ。きりきり話せい」
 こなたはつかさの方に向き直り、脅すようにそう言った。
「えぇー…そんな特別な話じゃないよ…っていうか恥ずかしいよ」
「わたしも興味ありますので、是非」
 みゆきも、こなたの隣からつかさを煽る、
「ゆ、ゆきちゃんまで…えっと…それじゃ、ちょっとだけだよ?」
 二人に迫られた形で、つかさはぼそぼそと喋り始めた。


- 一番星 -


106 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 01:57:03.15 ID:2JQ8F/k0
 小さな頃から一番星が好きだった。
 どの星よりも早く現れるその姿は、とても誇らしげに見えたから。
 いつしかわたしは一番星に憧れ、そして願うようになった。
 何時でもあなたを見られますように、と。



「志望校、稜桜に決めたわ」
 柊家の夕食の席で、かがみは家族に向かってそう言った。
「へえ…流石かがみねー」
 まつりが感嘆の声を上げる。
「理由は?」
 いのりがそう聞くと、かがみは頷いて答えた。
「先のこと考えると、ちょっとでも有利なところ行こうと思ってね」
「堅実って言うか、お堅いわね」
 かがみの答えに、少し肩をすくめて見せるいのり。
「いいじゃない、別に…」
 かがみはそれを見て、少し不満げに口を尖らせた。
「で、つかさの方はどうなの?どこか決めた?」
 まつりは、今度はつかさの方を向いてそう聞いた。
「うん、わたしもかがみお姉ちゃんと同じ。稜桜にしたよ」
 一瞬で食卓が凍りつく。つかさはなぜそうなったのか分からず、不安げに家族の顔を見渡した。
「つ、つかさ…それ本気なの…?」
 まつりが口の端をひくつか背ながら、つかさにそう聞いた。
「うん、本気だよ…えっと…ダメなのかな?」
「いや、ダメってことはないというかなんとういうか…担任はなんて言ってたの?」
「んーとね、『まあ、頑張れば受からないこともないかもしれないから、頑張れ』って」
 つかさの答えに、まつりといのりが顔を見合わせる。
「…さじ、投げられてるんじゃない?」
「…たぶんね」
 姉妹のやり取りを見ながら、かがみが溜息をついた。
「わたしはやめとけって言ったんだけどね…」
 投げやり気味なかがみの言葉に、つかさがムッとした表情をする。
「大丈夫だよー。可能性が無いわけじゃないんだから………でもかがみお姉ちゃんには、ちょっと手伝って欲しいかな…」
「いきなりわたし頼みか!?ってか少しは自分で頑張りなさいよ!」
 かがみに怒鳴られ、つかさが首をすくめる。それを見ていたまつりといのりが、もう一度顔を見合わせた。
「…わたしたちって当てにされてないわねー」
「…まあ、かがみと比べたらね」




107 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 01:57:59.80 ID:2JQ8F/k0
「う、うーん…こ、こうかな…いや、でも…うーん」
 夜遅いつかさの部屋。その中に部屋の主の唸り声が響いていた。
「…だ、だめ…わかんない…明日、お姉ちゃんに聞こう…」
 問題文に線を引く。こうやって分からない部分に線を引き、後でかがみに教えてもらうのが、つかさの勉強方法だった。
「これ…また怒られるかな…」
 問題集を眺めながら、つかさが不安げに唸った。問題の半分ほどに線が引かれている。先日もかがみに「もう少し、自分で考えてみたら?」と、呆れられたばかりだ。
「でも、放っておいたらもっと分からなくなるよね…」
 つかさは問題集を閉じ、布団に潜り込んで部屋の電気を消した。


 次の日の朝、つかさはさっそくかがみに教えてもらおうといつもより早く起きて、台所へと向かった。今日のお弁当はかがみの当番だから、台所にいるはずだ。
 しかし、つかさが階段を下りると、かがみは既に玄関にいて靴を履いているところだった。
「お姉ちゃん。早いんだね…」
 つかさが声をかけると、かがみはチラッとだけつかさの方を向き、視線を靴へと戻した。
「…うん、ちょっとね」
 かがみはそれだけ言って、立ち上がって玄関を出ようとした。
「あ、待ってお姉ちゃん。昨日分からないところがあって、ちょっと教えて欲しくて…その…」
「…また?」
 かがみはそう言って、溜息をつくとつかさの方に手を差し出した。
「見せて。時間ないから要点だけ言うわよ」
「う、うん…ありがとう」
 つかさから問題集を受け取ったかがみは、ざっと中身に目を通した。かがみの眉間に皺がよる。明らかに不機嫌なその顔に、つかさはやっぱり分からないところが多すぎたんだと思った。
 かがみは自分の鞄からシャーペンを取り出すと、線が引かれた問題の中からいくつかに印をつけた。
「チェック入れたところの問題。もう一度やりなおして」
「…え?」
「前に教えたことのある問題よ。それが分からないって、どういうことなの?」
「そ、そうだったっけ…」
「あのねえ…」
 かがみが溜息をつく。
「教えたところまで分からないなんて言われたら、キリがないわよ。もっとちゃんとしてよね」
 不機嫌そのものの口調で言いながら、かがみはつかさに問題集をつき返した。
「…じゃ、行くから。お弁当は台所のテーブルの上においてるからね」
「うん…ごめんなさい」
 謝るつかさを一瞥し、かがみは玄関を出て行った。
 つかさはしばらくそこにたたずんでいたが、制服に着替えるために自分の部屋へトボトボと歩き出した。

 テーブルの上にある弁当箱を手に取り、つかさは溜息をついた。
 志望校を稜桜に決め、本格的な受験勉強を始めてから、かがみの機嫌が悪い日が多くなっていってる。つかさはそう感じていた。
「わたしのせい、なのかな…」
 そう呟いてから、つかさはその考えを追い出すように首を振った。
「…お姉ちゃんも、受験生だもんね」
 お姉ちゃんだって自分の勉強がしたいはずだ。わたしの面倒ばかり見ていられないのだろう。
 つかさはそう自分に言い聞かせて、弁当箱を鞄の中に入れた。



108 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 01:58:54.42 ID:2JQ8F/k0
 お昼休み。つかさは自分の席で弁当を広げながら、教室のドアの方をチラチラ見ていた。
 いつもなら、つかさと共にお昼を食べるためにかがみが来る頃なのだが、受験勉強が始まってからは一度も一緒にお昼を食べていなかった。
「つーちゃん、今日も姐御来ないの?一緒に食べる?」
 つかさが声の方を向くと、三人の女の子が弁当箱やパンの袋などを持って立っていた。
「う、うん…」
 つかさが少し控えめに頷くと、声をかけてきた女の子が周りの机や椅子を勝手に持って来て、四人が食べられるスペースを作り上げた。
 ちなみに『つーちゃん』と言うのは、この子が勝手につけたつかさのあだ名だ。かがみの方には『かーちゃん』とあだ名をつけようとしていたが、何かあったらしくいつの間にか『姐御』と呼ぶようになっていた。
「今日は姐御弁当なんだねー」
「うん…」
 弁当を覗き込みながらそう言う女の子に、つかさは曖昧に頷いた。日によって内容の豪華さが違う弁当に目をつけ、姐御弁当とか妹弁当とかいいだしたのもこの子だ。
 そういえば、お弁当を交互に作るようにしようって言い出したのはわたしだったっけ。つかさはそんなことをぼんやりと考えていた。
 最初かがみは思い切り反対していた。自分に弁当なんて作れるはずない、と。しかし、つかさに執拗に懇願され、結局渋々やる羽目になったのだ。
 それでもかがみは最初の頃は弁当を作る度に、『おいしくなかったでしょ?』『やっぱこういうのは得意な人がやったほうが良いのよ。もう止めましょ?ね?』などと言って中止させようとしていたが、その都度つかさに却下されていた。
 あの完璧な姉に、こんな苦手なものがあったんだと、つかさは自分が見つけたかがみの意外な一面に少し驚き、そして苦手でも文句を言いながらでも。自分のために頑張ってくれているかがみに、嬉しさと感謝を覚えていた。
「…柊さん?」
「ふ、ふぇ?」
 別の子に声をかけられて、つかさは我に返った。
「大丈夫?なんだかボーっとしてたけど…」
「う、うん、大丈夫…ちょっと考え事してただけ…」
 つかさは慌てて取り繕った。折角一緒に食べようと誘ってくれてるのに、考え事はさすがにまずかったと思った。
「やっぱり、受験勉強が大変なの?稜桜受けるって聞いたけど…」
 さらに別の子が心配そうにそう言った。成績のあまり良くないつかさが、難関校の稜桜を受けると言う事は、クラスの中で結構な話題になっていて、受かる受からないで賭けをしようとする輩まで出るほどだった。
「そ、それは大丈夫だよ…お姉ちゃんにも教えてもらえるし…」
 そこで、つかさは今朝のことを思い出した。不機嫌そのものだったかがみ。アレのがもし自分のせいだとしたら、この先勉強を教えてもらえることなど無くなるかもしれない。つかさは堪らない不安が湧いてくるのを感じた。
「まーしっかりやってよつーちゃん。あんたは、あたしら頭悪い組の希望の星なんだから」
 最初の子がそう言いながらつかさの背中を叩いたため、つかさの思考が中断される。その向かい側で、残りの二人が顔を見合わせた。
「あたしらとか言われてもね…」
「アンタと一緒にするなって感じよね…」
「なにー!?あたしだけ頭悪いって言いたいのかー!?」
 騒がしいクラスメイトを見ながら、つかさは遠慮がちに微笑んでいた。



109 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 01:59:47.77 ID:2JQ8F/k0
 放課後。つかさは学校が終わると、寄り道などせずに真っ直ぐに家に向かっていた。いつもはかがみと帰ることが多いのだが、受験勉強が始まってからは昼食と同じくずっと一人で帰っていた。
 かがみは今日は、クラスの友達と図書館によって帰ると言っていた。日によって理由は色々だが、つかさと一緒に帰らないと言う事だけは共通していた。
 ふと、つかさは空を見上げた。日はまだ落ちず、空が明るい。
「…一番星、見つからないな」
 最近は一番星を見ていない。日が沈む前に家に戻り、受験勉強をしている。休日もほとんど外に出ていない。その事を思うと、つかさは少しもの悲しい気分になった。
 つかさはしばらく足を止めて空を見上げていたが、首を振って歩き出した。そう言う事は、全部受験が無事終わってからにしよう。一番星もきっとまた探せるようになるから。そう、思って。



 夕食を終えたつかさが、自室で問題集相手に唸っていると、部屋の外から声が聞こえた。
「あら、かがみ。やっと帰ってきたの?夕食は?」
「…外で食べてきた」
 母親のみきとかがみの声だ。つかさは時計を見た。姉がこんな遅い時間に帰ってくるのは、初めてなんじゃないだろうか。何かあったんじゃないかと、つかさは少しだけ心配になった。


「お姉ちゃん。入るよ?」
 つかさはそう言いながら、かがみの部屋のドアをノックした。
 しかし、返事がない。しかたなくもう一度ノックしようとしたところで、中から「…どうぞ」と声が聞こえてきた。
「…また分からないところ?今朝言ったところはちゃんと思い出した?」
 つかさが中に入るなり、椅子に座り机に頬杖をついているかがみが、つかさの方は見ずに苛立ち混じりにそう言った。
「え、あ、そ、そうじゃなくて…遅かったから、何かあったのかなって…」
 つかさがしどろもどろにそう言うと、かがみは溜息をついた。
「…つかさには、関係ないことよ」
 突き放すようなかがみの言葉。つかさはそれでも何か言おうとしていたが、結局何も言えずに黙り込んだ。
「ねえ、つかさ…」
 かがみは座っている椅子を回して、黙っているつかさの方に身体を向けた。
「どうして、稜桜なの?」
 そして、つかさの目を真っ直ぐに見つめてそう聞いた。つかさは思わず目を逸らしてしまう。
「分かってるはずよ?あなたには無茶なレベルだって…なのに、どうして稜桜なの?」
 重ねてかがみが聞いてくる。つかさは逸らした視線を元に戻すと、精一杯しっかりした声で答えた。
「お姉ちゃんが稜桜にしたから…わたしは、お姉ちゃんと同じ高校に行きたかったから」
 かがみはつかさの答えを聞くと、俯いて拳を握り締めた。
「なによ…それ…」
「…え…お姉ちゃん?」
 かがみの様子がおかしいことに気がついたつかさは、かがみの方に近づこうとした。しかし、急にかがみが顔を上げたため、動きを止めてしまう。
「どうして…どうしてそうなるのよ!」
 かがみの口調が荒くなる。つかさはどうしていいか分からずに、ただ目の前の姉を見つめていた。
「…教えてあげるわ。わたしが稜桜選んだホントの理由…わたしはね、つかさ…あんたから離れたかったのよ!あんたと違う学校に行きたかったのよ!」
 つかさはかがみの言葉が理解できなかった。どうしてそんなことを言うのか、まったく分からなかった。
「稜桜くらいレベルの高いところ選んだら、あんたは絶対ついてこれないと思ってたのよ。あんたは違う学校選ぶって思ってたのよ…なのに、なんでよ!どうしてついてこようとするの!おまけにわたしの足引っ張るような真似して!どうしてそうなるのよ!」
 ああ、そうか。やっぱりわたしのせいだったんだ。つかさはその事に、自分の中で納得してしまっていた。
「…出て行って」
 かがみにそう言われ、つかさは黙ったまま部屋から出て行った。
「…ごめんなさい」
 ドアを閉める寸前に、それだけは言う事が出来た。



110 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 02:01:21.39 ID:2JQ8F/k0
 つかさはかがみの部屋を出ると、そのまま家を出て神社の方へ向かった。社の方まで行き、賽銭箱の前にある段差に座る。
 空を見上げた。星がよく見える。ここはつかさが一番星を探すのに、よく利用している場所だった。今は空一杯に星が広がり、どれが一番星かは分からない。つかさは顔を伏せて、膝を抱えた。
「…どうしよっかな」
 思わず、そんな呟きが漏れる。つかさはかがみのつかさと離れたいという思いを知り、どうすればいいのか考えていた。
「稜桜に行かなきゃいいのかな」
 そう、思い至る。しかし、今更志望校を変えることは出来ない。だったらわざと受験に失敗しようか。
 それがいい。つかさは自分の考えに頷いた。滑り止めも受けるつもりだし、そちらの方は自分のレベルに合わせてある。無理のない勉強が出来るだろうから、かがみに迷惑をかけることもない。そうしよう。
「…やだよぉ」
 しかし、つかさは自分を納得させきることは出来なかった。
「…お姉ちゃんと一緒の学校にいきたいよぉ…」
 涙が溢れてくる。昔からそうだ。嫌なことがあるとすぐに泣いてしまう。そして、その度にかがみが庇ってくれたり慰めてくれたりしていた。
 こうして俯いて泣いていれば、かがみが来てくれるだろうか。つかさはそんなことを思ったが、すぐにその考えを打ち消した。かがみは来ない。この涙の理由が、かがみが自分を遠ざけようとしているからだからだ。
「…ここにいたんだ」
 しかし、予想に反した声が聞こえ、つかさは顔を上げた。そこには何故か頭を濡らしたかがみが立っていた。
「隣、座るわよ」
 そう言ってかがみは、つかさの横に座った。濡れた髪から水の匂いが漂ってくる。
「さっきはごめん…わたし、どうかしてた」
 座るなり、かがみはつかさに向かってそう謝った。
「なんか色々上手くいかなくて、イライラしてたの」
 かがみは、自分の頭に手を置いてワシャワシャとかいた。飛び散る水しぶきが、つかさは少し気になった。
「…あー、なんて言えばいいんだろ…つかさ…あの…」
 何か言おうと口を開けては、止めて閉じてしまう。かがみは何度もそれを繰り返していた。
 珍しい、姉の歯切れの悪い態度。つかさは辛抱強く、かがみが何か言うのを待っていた。
「あのね、つかさ…わたし、ずっと思ってたの…わたしはつかさの足を引っ張ってるんじゃないかって」
「…え」
 つかさは、驚きに目を見開いてかがみの方を見た。
「わたしは、つかさを守ることが…つかさの一歩前にいることが、姉としての自分の役割だって思ってた。ずっとそうやってきた…でも、違うんじゃないかって思ったの。わたしはつかさを守ってるつもりで、ただ邪魔をしてるだけなんじゃないかなって」
 かがみは先程のつかさと同じように、顔を伏せて膝を抱えた。
「…つかさに頼られるのが嬉しかったんだ…それで、出来るだけ答えてあげようって頑張って…でも、その内につかさは本当に些細なことまでわたしを頼るようになってきて………不安になったの」
 かがみの声が震える。今までに見たことないかがみの姿に、つかさは息を呑んだ。
「もし、わたしがいなくなったらどうするんだろうって。このままいけば、つかさは一人で何もできなくなるんじゃないかって…だから、高校は違うところにしようって、少しでもつかさと離れようって思って、付いてこられないように稜桜にしたの」
 かがみが早口になっていく。
「でも、つかさは付いてきた。付いてこようとした。見たことないくらい一生懸命勉強して。わたし、怖くなった。もう手遅れなんじゃないかって。わたしとつかさは、ずっと離れられないんじゃないかって。ずっとずっとわたしはつかさをダメにし続けていくんじゃないかって。すごく、すごく怖くなって…怖くなって…だから…」
 かがみは身体をギュッと縮めた。
「…嘘…ついたの…今朝、わたしが教えたことあるっての…あれ、嘘なの…あの問題、教えたことなんてないの…」
 どうして…と、喉まで出かかった言葉を、つかさはグッとこらえた。
「…家を出てから、すごく後悔した…わたしなにやってるんだろうって…つかさの邪魔して稜桜落とそうって…わけがわからなくなった…自分の考えてること、全然分からなくなった…家にも帰りたくなくなって…でも帰らなきゃって思って…つかさがきて…いつもと変わらないつかさがきて…わたしを心配してくれて…一緒の高校に行きたいって…頭の中真っ白になって…怒鳴り散らして…わけわかんなくて…ごめんなさい…わたし…ホントに…ごめんなさい…」
 つかさの耳に嗚咽が聞こえてきた。かがみは泣いていた。身を縮ませて、膝を抱えて。
 初めて見る姉の弱さ。つかさは小さくなったかがみを抱きしめた。いつも、かがみが自分にしてくれていたように。
111 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 02:03:28.59 ID:2JQ8F/k0
「一番星…」
 つかさの呟きに、かがみの嗚咽が止まった。
「お姉ちゃんは、いつだってわたしの一番星なんだよ…」
「つかさ…」
「それをいつも近くで見ていられることが、わたしは嬉しいの。自分がそんな居場所にいることが…お姉ちゃんの妹でいることが嬉しいの」
 精一杯、言葉を紡ぐ。離れないように、離さないように。
「だから、わたしに頑張らせて。お姉ちゃんと一緒にいる事、頑張らせて。お姉ちゃんが怖くなくなるように、わたしがお姉ちゃんをちゃんと見続けられるように…頑張らせて」
 かがみがつかさを抱き返してきた。
「つかさ…わたし…つかさぁ…」
 かがみの腕に力がこもる。かがみは、もうなんの遠慮もなく泣いていた。つかさはかだみが収まるまで、ずっとその頭を撫で続けていた。


 二人並んで、境内の中を家に向かって歩く。
「…ホントに今日のこと、誰にも話さないでよ?」
 かがみの何度目か分からない念押しに、つかさは少し困った顔を見せた。
「う、うん…多分、話さないよ」
「あんたに『多分』って付けられると、すごく不安なんだけど…」
 かがみは溜息をついた。
「そう言えばお姉ちゃん。どうして頭濡れてたの?」
「え?ああ、これ…つかさ探す前に頭冷やそうと思って、手水舎で水かぶったのよ…」
 つかさの質問に答えながら、かがみはそっぽを向いた。その様子がおかしく、つかさはクスリと笑ってしまった。
「も、もう、笑わないでよ…ってか、ホントに喋らないでよ?絶対によ?」
「うん、分かってるよー」
「…あーもー…ホントに頼むわよ…恥ずかしいんだから…」



 頭良くて、運動も出来て。
 いつもわたしの手を引いてくれて、優しくて。
 でも、料理が苦手で、弱いところもあって。
 そして、ちょっぴり見栄っ張り。
 そんな一番星が、わたしは小さな頃から好きだった。




112 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 02:04:57.67 ID:2JQ8F/k0
「ええ、話やー!」
 話を聞き終わった瞬間に、こなたは号泣しながらつかさに抱きついていた。
「わ、わ、ちょっとこなちゃん…そんな、大袈裟な…ってか、それ演技だよね?」
「バレたか」
 つかさに指摘され、こなたはいつもの表情に戻りつかさから離れた。
「でも、いい話だったてのはホントだよ。ねえ、みゆきさん?」
「ええ、お二人がとても羨ましいです」
「そ、そうかな…」
 照れて頭をかくつかさ。そのつかさを見て、こなたはふと湧いた疑問をつかさに聞いてみた。
「かがみがつかさにとって一番星ならさ、わたしとみゆきさんはどういう星?」
「こなちゃんとゆきちゃん?もちろん、一番星だよ」
 即答するつかさに、こなたは唖然とした。
「いやつかさ…それじゃ、一番星が三つになっちゃうんだけど…」
「こなちゃん。何個あっても、一番星は一番星なんだよ」
 嬉しそうにそう言うつかさを見ながら、こなたは腕を組んで考え込んでしまった。
「…本気でわけがわからない」
「でも、なんとなくつかささんらしいですよね」
「そだね…」
 こなたは考えるのをやめて、腕を解いた。
「あ、やっと来たわね」
 前の方から声が聞こえた。こなた達がそちらを向くと、柊家の玄関前に腕を組んだかがみが立っていた。
「どうしたのよ?えらく時間かかったじゃない」
「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん。ちょっとお話してたら遅くなっちゃって…」
 かがみに向かって謝るつかさ。こなたはその二人を交互に見比べて、ポンッと手を打った。
「ああ、なるほど」
「…なにがよ?」
 かがみがこなたに訝しげな視線を送る。
「いや、つかさがね、家につく頃には一番星が見えるって言ってから、その通りだなって納得したんだよ」
「一番星?まだちょっと早いんじゃない?」
 かがみは空を見上げたが、一番星は見つけられなかった。
「いやいや、立派な一番星がここに…」
 かがみはそこで、こなたが空など見ずにじっと自分を見ていることに気がついた。
「一番星って…ま、まさか………つ、つつつつつかさー!!あんた、まままままさか、あの事っ!」
「…ごめん、お姉ちゃん…こなちゃん達に話しちゃった」
 つかさは、かがみに向かって手を合わせて見せた。
「話しちゃったじゃないでしょー!!あれほどあれほどあれほどあれほど話すなって言ったのに!!」
「ご、ごめんなさい…」
 つかさに詰め寄るかがみ。こなたはその二人の間に割って入って、かがみを制した。
「まーまーかがみんや。そう恥じることもあるまいて。わたしもみゆきさんも、その話にはいたく感銘を受けたのだから…今宵は是非とも、かがみの視点からもお話を伺いたく…」
「バカかあんたは!?話すわけないでしょ!!」
「わたしもすごく興味がありますので、是非」
「みゆきまで何言ってるのよ!?イヤよ!絶対話さないからねーっ!!」
 やっぱり、話したのはダメだったかな。つかさは揉める三人を見ながら、そんなことを思っていた。


 ふと、つかさは空を見上げた。そこに見えたのは、本日四つ目の一番星。
「一番星、みーつけたっ」
 つかさは、歌うようにそう言った。


- おしまい -
113 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/12(日) 02:08:21.41 ID:2JQ8F/k0
以上です。

星繋がりと言う事で、このお話はOVA「聖闘士聖矢冥王ハーディス十二宮編」のOP「地球ぎ」とED「君と同じ青空」を聞きながら思いつきました。
114 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/12(日) 03:28:39.67 ID:PdEuAak0
>>113
えー話やなぁ。
姉御と呼ばれるとは…かがみは一体何をしたんだろう…

それにしてもコンクールのネタ出ないなー。
今ひとつだけ書いてるのあるけど星とはちょっとどころか何かほとんど関係ない感になってきたんだけど書き上げてコンクールに参加したほうがいいかな…?
115 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/12(日) 07:13:50.75 ID:4mhjNcSO
こなた「おーい、かーちゃ〜ん。かーぁちゃ〜んっ」
かがみ「!? つつつつつつかさーっ!
     あああんたどんだけ細部に拘って話してんのよ!?」
つかさ「だ、だいじょうぶだよ、あとはお姉ちゃんが頭を冷やす為に
     ほんとに頭に水を被って冷やしてたとかしか、恥ずかしい事は話してないよっ」アセアセ
かがみ「ななななな…! バカつかさーっ!!」
つかさ「いふぁふぁふぁふぁ!? おれぇふぁんめひゃくひゃいふぁいほぉぉ!?」
みゆき「つかささん、ほっぺが蜂を食べたピクルみたいになってます」

こなた「かがみ。1度だけ…1度だけでいいから呼ばせてほしいんだ…」
かがみ(あ…。そっか、こいつお母さんが…)
かがみ「こなた…」
こなた「姐御…」



かがみ「うるるるるるるるるるるああああああああああああああああああ!!!!!!!」
つかさ「いぎぎぎぎぎぎぎっ!?」メキゴキボキ

今日も仲良しつかさかがみの双子姉妹!
>>113良いお話をありがとう!

つかさ「きちょうなわたしがまたひとりしんじゃ(ゴキッ)…あっ」
116 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/12(日) 07:14:23.86 ID:E8hUuyIo
>>113
俺も姉御がちょい気になるがそれはさておき
本当にいい話だな。お互い思い合ってて、締めもよかった
ラストに繋げた>>106の最初の文もよかった 乙&GJ!
117 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/12(日) 11:37:28.96 ID:/Maym420


まとめ人さんに少しでも楽ができるよう、


  SS除いて こ こ ま で ま と め た 。 


SSはジャンル別けとかよく分からないんで誰か頼む。

>>115
上手くネタにしたなww
118 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/12(日) 15:57:08.23 ID:VpZvrZo0
もうここまで死んでなんともないんじゃ、
つかさ、プラナリアのように増殖し
無限ループなんじゃないかと思ってしまう。
無限増殖ゆえにコンスタントに死んでも問題ないように・・・

こなた「もっと恐ろしいアイテムがあるぞよ」
かがみ「なによ」
こなた「バ   イ   バ   イ   ン」
かがみ「いやあああああああああそれだけはあああああああああああ」
119 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/12(日) 16:04:20.83 ID:VpZvrZo0
>>113へのGJしわすれたぜ。
しんみりほんわかをありがとう。やはりつかさってこういう役がぴったりだZE!
120 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/12(日) 22:31:57.53 ID:nVXbcMSO
つかさ=死亡代表
かなた=復活代表
121 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/12(日) 22:43:56.65 ID:2JQ8F/k0
ここ最近、みんなが何かにとり憑かれたかのようにつかさを殺しにかかってて、少し怖いです。
お母さん、やっぱり監視しに戻ってきてくれませんか?


こなた
122 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/12(日) 23:10:42.88 ID:nVXbcMSO
かなた「じゃあお言葉に甘えて……」
???「お待ちを」

かなた「あ、神様……」
 神 「何処へ行くおつもりですか?」

かなた「ちょっと下界を監視しに……」
 神 「監視ならここからでも十分出来ますよ」

かなた「そうですよね。でもなんか今、」
 神 「あなたは少しばかり下界に行きすぎです。そんなに気軽に行かれては他の天使達に示しがつきません」

かなた「は、はい……」
 神 「あーだ、こーだ、リコーダー」

かなた(ごめん、こなた。お母さん今回は力になれそうにないわ……)
123 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/12(日) 23:54:55.02 ID:GDCWfgSO
>>l22
つかさ「少しは許してよぉ神様><。。。」
124 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/13(月) 00:20:27.37 ID:r2QEID.0
>>117
今更ながら乙!
125 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/13(月) 01:04:49.49 ID:4mcr22SO
デデデデ デデデデ デデデデ デデデデ

つかさ「私ひ〜ぃらっぎかっがっみ。
     SSスレでもまとめ役。人気も主役並にあるのよね♪…って」
デデデデ デデデデ
つかさ「いうじゃな〜い?」
デデデデ デデデデ ジャララ〜ン…
つかさ「でもあんたぁ……」

つかさ「いつもおしっこでご飯炊かれてるだけでしたからぁ〜! 残念っ!!」

つかさ「人気ツンデレ、今は大学でポツンデレ…斬り…っ!」ジャーンッ

…ジャンカ ジャンジャ ジャンカ ジャンジャ ジャラ〜ン…

つかさ「拙者ぁ…大学行ってるのか専門行ってるのか、公式で唯一発表されず
     みんながSSでなかなか大学編について書けない原因になってますからぁ…」

つかさ「切腹っ」ドス



つかさ「……なぁんちゃって。まさか貴重な残機を自らの手で断つワケが」
かがみ「介錯する?」
126 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/13(月) 01:38:57.32 ID:AsBuBESO
流石にそろそろ笑えなくなってきたわ…
127 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/13(月) 01:40:33.70 ID:HiV3KoDO
>>125
つかさー!!
逃げろぉぉぉ!!!
128 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/13(月) 07:09:16.25 ID:rxI3GMSO
>>125
これはwwwwww
アニメのつかさって芸人ネタ好きだよね
129 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/13(月) 13:39:00.60 ID:1ZLGrFgo
まつり「ねえ、つかさ。あんた、順調に残機が減ってるらしいけど……残ってるやつを私に預けてくれたら、倍にして返してあげるわよ?」
130 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/13(月) 17:52:00.83 ID:Z2jVkek0
>>129
死神より質が悪い
131 :コンクール作品「一番星」 [saga]:2009/07/13(月) 18:19:54.85 ID:rBN1pkg0
遅れましたがレスありがとうございます>>113です。

>>114
俺も割りとお題に無理矢理こじつけたりしますので、参加できるのならしたほうがいいのではないでしょうか?

>>115
…えーっと…すいません。ラストシーンでどこか気に食わないところでもあったのでしょうか…?

>>116
姐御は、かがみは割と口が悪いところがあるので、そこを茶化してつけたのだと思われます。

>>119
つかさ独特の柔らかさは、クッション役に最適ですね。いや、変な意味でなく…。
132 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/13(月) 18:57:29.11 ID:gri8Dpoo
これだけ死人が出てスペランカー先生には一切触れられてないとは。
みんなでスペランカーやったらつかさの残機が最初になくなるのは間違いない。
133 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/13(月) 20:29:12.70 ID:rxI3GMSO
>>129
つかさ終了のお知らせww

>>132
あれは慣れてないと誰でも……
でも4人の中ならつかさか
134 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/14(火) 12:06:39.24 ID:5Ct9gISO
−灯台元暗し−

こなた「…あっつーい…かがみー、あついよー」
かがみ「あついあつい言わないでよ…こっちまで暑くなるでしょ…」
こなた「言わなくてもあついのは変わらないよー…かがみー、エアコンはー?」
かがみ「故障中よ…」
こなた「役立たずー…わたしが来るまでに直しとけー…」
かがみ「んだとー…無茶いうなー…」
こなた「………」
かがみ「………」
こなた「かがみー…あついよー…」
かがみ「だから、言うなっつーに…」






つかさ(わたしの部屋はエアコン効いてるのに、なんで二人とも来ないんだろ…?)
135 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/14(火) 12:50:09.87 ID:ooVPt/60
浅茅生の をののしの原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき

こなた「っていう句が古典で出てきたんだけどさ」
みゆき「はい」
こなた「これ何か元ネタがあるとか先生が言ってたんだけどホント?」
みゆき「ああ、はい。元ネタというか……
     『浅茅生の 小野のしの原 しのぶとも 人知るらめや いふ人なしに』
     という歌がありまして、先ほどの歌はこれを取ったものなんですよ」
こなた「えーそれじゃパクリじゃん」
みゆき「その言い方はちょっと……
     こういうのは『本歌取り』と言いますね」
こなた「へー今じゃ叩かれそうなことやってたんだねえ」
みゆき「そうですね……
     他にも、現代と感覚が異なるといえば、ダジャレで感動を表すというのもありますね」
こなた「えー何それ?どんなの?」
みゆき「えー、例えば小野小町の『花の色は……』の句が有名ですが、こういうのは掛詞と言いますね」
こなた「昔は色々とフリーダムだったんだねえ」
みゆき「そうですね……」
136 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/14(火) 12:51:07.98 ID:ooVPt/60
>>134
すぐ傍に極楽があると言うのにww
137 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/14(火) 15:11:38.54 ID:5Ct9gISO
>>135
小説とか昔は翻案とか当たり前にやってたってのは聞いた事あるけど、俳句とかでもあったのか
ちょっと勉強になった
著作権とかなかったら、キャラ名でも色々されそうだ
和泉こなたとか
宝みゆきとか
138 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/14(火) 17:28:03.07 ID:jCLVg.SO
しかし著作権がある今でも某エロゲでは普通にかがみとつかさがいるのであった
名前も髪型も髪色も同じ
139 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/14(火) 22:33:00.02 ID:PJbfwFI0
何かのエロゲーにみゆきさんそっくりのキャラがいたな
140 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/15(水) 02:46:03.21 ID:Owb56gDO
まぁみんな可愛らしい女の子だしな
可愛い女の子エロい場面とか見たくなるのは野郎どもの本懐ったトコさね
貧乳のヲタク?
色気ねーから帰れったとこだn
ゴキッバキバキバキッ
141 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/15(水) 12:15:02.33 ID:IrO/1ISO
そうじろう「こなたの胸は俺が育てた」
かがみ「育ってないじゃないですか」アハハ

こなた「……(´;ω;`)ウッ」
かがみ「あ……」

ゆたか「……(´;ω;`)ウッ」
みなみ「……(´;ω;`)ウッ」
かがみ「……わ、私はこれで帰るわ」

かがみは にげだした !

しかし まわりこまれてしまった !!

かがみ「わ、悪かったって!」

こなたゆたかみなみ
「……Δ(デルタ)アタック(´;ω;`)」

かがみ「あぁぁぁぁぁっ!!」


かがみを たおした !!

けいけんちを 38 てにいれた!(いみがない)

むねぺったんがーるずの きずなが ふかまった !

むねの おにくが 3ポイント あがった !
142 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/15(水) 12:19:14.14 ID:rG35TkSO
こなた「二つ名メーカー!」
かがみ「…なに、それ?」
こなた「ここに名前入れるとね、ラノベ風の二つ名が自動的に生成されるんだ」
かがみ「ふーん」
こなた「では、まずはわたしの名前をっと…」

泉こなたさんの二つ名は…「貫通審問官(ジャッジメント)」です

かがみ「何を審問する気だ」
こなた「いや、わたしに言われても…じゃ、次かがみ」

柊かがみさんの二つ名は…「撃墜貫通(スロウダンス)」です

かがみ「いや、無理ありすぎだろ。スロウとかダンスはどっから出てきた。てか、また貫通か」
こなた「こんなところで、かがみとの絆を確認出来るとは」
かがみ「んな絆いらんわ」
こなた「じゃ、次つかさ」

柊つかささんの二つ名は…「躯形陥穽(フェイタルカオス)」です

こなかが「「わけわからん」」
かがみ「なんだこりゃ…」
こなた「漢字部分が確かにカオスだけど…」
かがみ「…最後はみゆきか」
こなた「うん、真打ちだね」

高良みゆきさんの二つ名は…「鱗刃真紅(クリムゾンブレイド)」です

かがみ「…今までで一番まともだ」
こなた「…確かに…オチなんだし、みゆきさん空気読もうよ…」
かがみ「いや、みゆきのせいじやないでしょ…」
143 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/15(水) 21:33:01.32 ID:7gYpwD.0
なぁ、今日怖い夢見た。

遊戯王に出てくる地縛神に追いかけられた。
それも操ってるのがらき☆すた3年生集団だった。

こなた=ウル
かがみ=コカライア
つかさ=アスラピスク
みゆき=コカパクアプ
みさお=クシル
あやの=チャクチャルア
白石=ウィラコチャラスカ

って感じで。
144 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/15(水) 22:20:13.81 ID:bl/b75ko
>>141
どこから沸いたww
そうか、3上がったかよかったなおめでとう^^

>>142
ある意味普通で逆にオチてる気がするw
145 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/15(水) 22:37:10.10 ID:KNYFx5Io
プププが 1ポイント 上がった

を思い出した
146 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/16(木) 00:34:47.02 ID:zMfyHSo0
>>142
やべえ、二つ名をなにげなーくやってみたら、意外と合う奴等発見wwwwwwww

岩崎みなみ「混迷論理(サイレントタナトス)」
成美ゆい「拘束破陣(マシンガンドールズ)」





田村ひより「三番目の妄想(アンノウンブレイン)」wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
147 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/16(木) 09:12:29.54 ID:Fm3hw6SO
ひよりんあってるとかそんなレベルじゃねーぞwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

みなみかっこいい名だな
148 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/16(木) 10:04:21.81 ID:lHE8iQSO
ルールを知らぬ者達の遊び


カチャカチャカチャ……

つかさ「それポンかな」
みゆき「私はロンです」
かがみ「リーチよ」
こなた「カン」

ななこ「お? なんや麻雀やっとんのか? うちも混ぜ、」

こなた「嶺上開花(りんしゃんかいほう)」
みゆき「それロンです」
つかさ「ドラドラ」
かがみ「ツモよ」

こなた「させないよ。てんぱいそくりー」
「「「「わーいわーい!」」」」

こなた「あ、先生もやります? 麻雀“ごっこ”」
ななこ「いや、えぇわ……」
149 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/16(木) 11:42:17.29 ID:HlTv1dw0
>>148
フリーダムな麻雀だなwwww
150 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/16(木) 13:07:30.68 ID:8mfWSroo
ゆたか「あ、鉄腕アトムが映画になるんだ」

 カチカチ

ゆたか「『あなたのクリックでATOMが目覚めます』、『ATOMが目覚めるまで、あと91822馬力』……。
     クリックしたらアトムに充電できるんだ。やってみようっと」

 カチ

ゆたか「充電された! 1日1クリック続けてみようかな?」




 ―――翌日




ゆたか「え……60万、馬力……?」

 カチ

ゆたか「えぇ!? いっきに1000くらい増えた!?」
151 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:20:19.66 ID:N9VE5ZU0
コンクール作品行きます!
SFを書いてみました。難しいと感じたらすみません、私の力量不足です。
10レスほどいただくと思います。
152 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:22:15.32 ID:N9VE5ZU0
7月7日


私に娘が出来ました。名前はこなたと言います。
ほら、隣で寝ているのがこなたです。
かわいいですよね。まだ生まれて一ヶ月ちょっとしかたっていないんですよ。
これから夫のそう君と二人で力を合わせてこの子を育てるんです。頑張っていかないといけませんね!エイエイオー!!……なんちゃって

さて、今日は何の日か分かりますか?
そう、今日は織姫様と彦星様が年に一度、今日だけ会うことが出来る特別な日。七夕です。
そして願い事を書いた短冊を笹に吊るすと、願い事が叶うって言いますよね?

つまり私が何をしているかと言うと、もちろん私だってお願い事をするんですよ!
いいんです!子供っぽいってそう君に言われたって、そんな事気にする必要はありません!
大切なのはやさしく素直な心を持つ事です。そうですよね。

さあ、書けました。そう君に見られる前に笹に吊るしてしまいましょう。
織姫様、彦星様。どうか私の願いを叶えてください……。


こなたの背は私に似ず
   性格はそう君に似ませんように
       かなた




153 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:23:09.04 ID:N9VE5ZU0
>>152

同時刻


今日の早朝、私は双子の娘を産んだ。
これでこの子の姉二人を合わせて四人姉妹となり、男を産む事は結局なかった。
それでも神様から授かった赤子なのだ。大切に育てていこう。
今日はこの子達の誕生日であり、七夕でもある。
これはきっと偶然ではなく、何か特別な意味があるに違いない。私はそう信じたい。

「お母さん、大丈夫?」

この子の姉となったいのりやまつり、それと旦那が、私と双子が眠る病室へやって来た。
いのりとまつりは、自分の妹たちをまじまじと見つめ、楽しそうに二人で話をしている。

「ねえ、あなた。短冊にお願い事を書いたの。境内にある笹の林に結わえてもらえないかしら」

旦那は無言で短冊を受け取ると、やさしく微笑んでくれた。おめでとう、って。


  つかさとかがみに
    織姫様、彦星様のご加護がありますように
       みき




154 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:24:38.93 ID:N9VE5ZU0
>>153

それから17年後の7月6日


つかさとかがみは、自分の家の境内に友人のこなたとみゆきを招き入れていた。
最近は梅雨の真っ只中らしく、四人はなかなか太陽を拝む事が出来ないでいた。
夕暮れだと言うのにむしむしと湿気と気温ばかりが高く、これでは彼女らの不快指数がうなぎ登りだ。

「や〜、さすが神社の子は違うね!自分の家に笹林があるなんてさ!」
「えへへ。でもこなちゃんが急に私の家に来たいって言うからビックリしちゃった」
「せっかく来てもらったのにこんな天気で、なんか悪いわね」

かがみがそう言って空を見上げた。
今日は七夕前日だと言うのに空は雲に覆われていた。そもそも星が見られないのは毎年の事だからと、あまり期待はしていなかったのだが。

「まあ、天気の事は仕方ないよ」
「明日は雨という予報ですし、残念ですが今年も織姫彦星は見る事が出来そうにありませんね」

三人はお互い目を見詰め合うと、はぁ〜とため息を吐き、なんだかそれがおかしくて自然と笑みがこぼれた。
今回三人がここに集まったのは、もちろん七夕でやらなきゃならない行事をするためだ。
これをしなけりゃ七夕は始まらない。

「じゃ〜ん、短冊は私が持って来たよ!」
「おー……。なんてお願いしようかしらね」
「おっと、その前に、織姫と彦星ってなんて名前の星か知ってる?」
「織姫がベガで、彦星がアルタイルでしょ?」
「そのとおり!じゃあ、それぞれの距離って知ってる?」
「たしかベガが約25光年、アルタイルが約17光年ですね」
「あんた、さすがというか、良くそんな事知ってるわね」
「いえ恐れ入ります……」
「みゆきさんの言うとおり。彦星は光の速さで17年、織姫は25年かかるんだよ。だからさ、短冊に書いたお願い事があの星に届くには、彦星には17年、織姫には25年かかるってわけさ。つまり、今書いた願い事は、17年後か25年後に叶うはずなんだよ!」
「ほわ〜〜〜〜」
「あれ、つかさ?あぁダメだ。全然付いて来れてないわね。後でゆっくり教えてあげるわ」
「いずみさん、すごい事を考えていらっしゃるんですね。でももしそうなら、織姫と彦星に願い事が届いて、更に実際に地球で叶うまでには、往復分でまた17年と25年の時間がかかりませんか?」
「それは、神様なんだからきっと何とかしてくれるって!」
「そんなまた適当な。あれ?こんな展開、何かのラノベにもあったような……」
「かがみん、細かい事は気にしないのがいいよ〜」

155 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:25:31.85 ID:N9VE5ZU0
>>154

こなたの提案から、四人は彦星用に17年後と織姫用に25年後と、それぞれの時に叶って欲しい願い事を短冊に書き記す事になった。
あたりは徐々に暗くなっていき、手元が見えづらくなった頃には、短冊は林の笹に結わいつけられていた。
気温はやや下がり、心地よい風が四人の汗ばんだ肌を冷ますと、そのままサラサラと周りの笹の葉を鳴らして通り過ぎていった。
いくら空が曇っていようとも、笹の林は十分に神秘的な雰囲気をかもし出しており、四人は緊張感に似た、言葉に表しがたい何かを感じていた。

「つかさはなんて書いた?」
「えっとねぇ、『17年後も皆いっしょでいられますように』と『25年後も皆いっしょでいられますように』だよ」
「むー、それってさ、お願いが届くのが17年後でお願いが叶うのは更に17年後にならない?34年も先のことを言ってることになるよね?書くんだったら『皆いっしょでいられますように』だけで言いと思うんだけど」
「え?そっか……。で、でもそれでもいいかも!34年後と50年後にも皆一緒になれるよ!」
「それはロマンチックですね。ずーっと私たちが一緒です」

四人の楽しげな会話は、笹林の静寂の中に溶け込んでいった。



156 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:27:04.76 ID:N9VE5ZU0
>>155

その日の深夜、ちょうど日付が変わろうとしていた時だった。
四人……いや、深夜アニメを見るために待機している約一名を除く三人が眠っている時間の事。
雲の上で日本中の誰かに見られてることのない、七夕の主人公である2つの星の1つアルタイルが一際強く瞬いていた。
気流の乱れが光を屈折させてそう見えたのか、あるいは星自体が光を発したのか。
誰にも見られる事も無く、ただひっそりと瞬いていた。




7月7日


「まってー、お姉ちゃ〜ん!」
「つかさ急いで!あんたが寝坊するのがいけないんでしょうが!!」
「う〜、だって目覚ましが勝手に切れてたんだもん……」
「切れてたんじゃないわ、きっとあんたが自分で切ったのよ。無意識で。もういいわ、とにかく走って」

かがみとつかさは慌しい朝を迎えていた。
かがみはどうにかこなたとの待ち合わせ時間に間に合わせたく、あせる気持ちが強くあった。
どうにか間に合ったにも関わらず、バス停にはこなたの姿が無かった。

「はぁっ、はぁっ。こなちゃん、いないね。ひぃ、ふぅ」

と言ってもこなたが遅刻してここに時間通りに来ない事は、それほど珍しい事でもなかった。
ただ、ここまで苦労してたどり着いたかがみにとっては、「またか」では済まされる事はなかった。

「あいつ……、あとで説教してやるっ」

どうせ携帯にメールや電話をしたところで、普段から携帯を携帯していないこなたと連絡が取れるとははなから考えてはいない。
結局、バスがやって来るまでこなたは現れなかった。
おそらくこなたはまた遅刻だろう。これもいつもの事であり、つかさとかがみは先にバスに乗ることにした。
157 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:27:56.40 ID:N9VE5ZU0
>>156


「おはよう、ゆきちゃん。こなちゃん、また遅刻みたいだよ」
「おはようございます、つかささん。今日はお誕生日でしたよね、おめでとうございます。泉さんならほら、そこにいらっしゃいますよ?」

つかさはみゆきが指差す方向を見たが、こなたの姿は見つからなかった。

「え〜、どこ〜?」
「ほら、そこですよ。自分の席で本を読んでいらっしゃいます」
「ほぇ〜……」

確かにこなたの席で本を読む少女の姿があった。それは青く長い髪で、トレードマークのアホ毛と無きボクロがある。

「え?え?ほ、本当に、こここここここここここなちゃん?」
「あ、つかさ?」

しかし、目の前のこなたの姿は、スレンダーでキリっとしておりで、背がつかさよりも高くて、見た目の幼さが完全に消えたこなたの姿だった。
もしもこなたの成長が止まらず、そのまま背が伸び続けていたならば、まさにこんな体格になっていたかもしれない。

「つかさ、今日は17歳の誕生日でしたね。おめでとうございます!」
「な、なんじゃこりゃ―――――――――!!!!!!!」

賑やかな教室の中で、つかさの悲鳴がこだました。


158 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:28:59.50 ID:N9VE5ZU0
>>157

昼休みになり、かがみは初めてスレンダーで大人なこなたを目の当たりにした。
その前につかさから話は聞いていたため、かがみの悲鳴がこだまするような事は無かったが、それでも狐に化かされているんじゃないかと、到底納得など出来なかった。

「な、なあこなた。えっと何から聞けばいいのか……」
「なんですか?かがみ……」
「じゃあ単刀直入に、なんでそんな格好になっちゃったのよ。なんでみゆきみたいに敬語なのよ」
「えっとー、なんのことですかぁ?私はいつも通りだと思うんですけど。そ、それに敬語だっていつもの事じゃないですか……」
「あんたまさか本気なの?あぁ、なにがなんだか……」
「ねえゆきちゃん。こなちゃんの言ってる事って本当?」
「ええ。本当ですよ。どうしてですか?」
「え、ええとね……。うん、なんでもないよ」
「そうそう、かがみとつかさ〜。今日、私の家に来ませんか?」
「はあ?」
「いや、実は誕生パーティを開こうと思ってるんですよ。だから、ぜひぜひ来て欲しいな〜って」

かがみとつかさはお互いを見つめあい、そして無言のまま小さく頷いた。

「行くわ!」「行くよ!」
「じゃあ決定!学校が終わったらそのまま私の家に直行です!」

何が起こっているのか全くわからない二人にとって、こなたの家に行けることは幸運だった。
なぜこなたの姿が変わってしまったのか。はじめあれがこなただと気が付けなかったほどの変わりようだ。
性格まで変わっているように思う。普段のこなたに比べて、素直になっているようにかがみは感じた。
もう一つ気になるのは、こなたが変化した事を認知しているのが、つかさとかがみだけだと言う事だ。
みゆきによれば、こなたはいつも通りだと言う。クラスメイトも特にリアクションも無く、つかさとかがみだけが取り残されたようだった。
本当は皆の方が正しくて、私たちが間違っているんじゃないか。つかさにそんな考えが頭をよぎり不安にさせた。
そういった答えが、もしかしたらこなたの家にあるかもしれない。いや、ここに無ければ、他に答えを見つける当ては無い。
こなたの家は、つかさとかがみにとっての、唯一の頼みの綱だった。



159 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:30:12.26 ID:N9VE5ZU0
>>158

こなたの家は小さかった。いや、かがみとつかさが知るこなた家が特別大きかったのであって、今のこなたの家のサイズは通常サイズと言えるかもしれない。
庭にはいくつかの花壇があり、良く手入れされていてとてもきれいだ。
洋風に統一されているようで、芝生が青々としていて所々に小人の形をした置物が陳列しており、いかにも女性が好みそうな庭だった。
はたして、こっちのそうじろうはこんな趣味なのだろうか?かがみは疑問に思った。

「ただいま。お母さん」
「お帰りなさい。かがみちゃんにつかささん、みゆきさん。お久しぶりですね」

目の前に現れたのは、かがみとつかさが求めていたこなたの姿だった。
小さくて胸が無く、あのちまっこい、なつかしのこなたの姿だった。
しかしよく見ると、雰囲気や物腰の違いが直ぐに分かる。
むしろこれは今のこなたとそっくりだった。
そして、見た目の違いにも気が付いた。こなたのトレードマークである、アホ毛、泣きボクロ、猫のような口が無い。
それらも今のこなたに受け継がれていた。
目の前にいる人間、それはこなたの家に遊びに行くたびに見ていた、部屋の片隅にいつも置かれた写真の中の人物。


160 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:31:32.16 ID:N9VE5ZU0
>>159

「わ、小さいこなちゃん!」
「それは言わないで―――」
「まさか……。あ、あなたはもしかして、こなたのお母さんですか?」
「え?こなちゃんのお母さん?かなたさん?」
「え、そうですけど……、どうしたんですか?そんな怖い顔して」
「そんな、そんなまさか!」
「お姉ちゃん大丈夫?」
「うん。じゃあ、あの。もしかして、こなたのお父さんは?そうじろうさんはどうしたんですか?」
「かがみ、どうしてそんな事を急に?」
「ごめん、こなた。どうしても知りたいのよ……」
「そう君のですか……?知ってると思うけどそう君は死んじゃってます。そうですよね、こなたの親友だし、大切な事も知っててもいいですよね」
あのね、そう君は病気で死んでしまったんですよ。
あれはこなたがまだ中学生の頃でしたね。やさしくて一途なひとでした。
そうそう、そう君ね死んじゃう直前は私たちや、こなたのいとこの、ゆたかちゃんやゆいちゃん囲まれていたんです。
そうくんよっぽどうれしかったみたいで、『俺の人生は勝ち組だったよ、最高の萌え死にだ』なんて言って息を引き取ったの。
「私にはあまり意味がよく分からなかったけど、きっと幸せだったんですね」
「あぁ、まぁ。おじさんらしいと言うか、突っ込んでいいのか悲しむべきなのか……」

初めは面食らっていた二人だったが、お互いを大切な親友だと想いあっていることは、以前となんら変わっておらず、次第にこの状況にも馴染んでいった。
つかさとかがみの誕生パーティは順調に進んでいた。
次第に空は暗くなり、七夕を祝うため短冊を飾る家がいくつか見えた。
泉家の質素で小さなベランダにも、かわいらしい小さな笹が飾られていた。

161 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:32:31.27 ID:N9VE5ZU0
>>160

「私からは、はい、リボンですよ!つかさとかがみのために、手作りしたんです!」
「わー、こなちゃんありがと〜」
「団長とかは書いてないのね……」
「では、私はペンケースです。すみません、泉さんのように手作りは難しかったです」
「そんなことないよ。すごくうれしいよ!」

そこにかなたが、ろうそくを17本立てた特大ケーキを持ってやって来た。
ほんの少し前まで、絶対に会うことの無いだろう人物だったはずの人間。
しかしかなたの性格が幸いしたのか、かがみたちが抱く違和感は直ぐになくなっていた。
かなたの、昔から会っていたかのような親しみやすさが、二人にはうれしかった。

「七夕がお誕生日だなんて、ロマンチックですね〜。こなたが生まれて直ぐのときにも、短冊にお願い事書いたのよ〜。今日でちょうど17年前の事になりますね」
「そうなの〜、どんなお願いだったんですか?」
「そうねえ、こなたの背は私に似ず、性格はそう君に似ませんように だったかしら。ちゃんと願いが叶ったみたいですね。
こなたが立派に育って、うれしいでしすよ。ふふふ。いや、その、別に私が背が低い事を気にしていたわけじゃないんですよ!」
「お母さん!恥ずかしいなぁもお。私は短冊が無くてもちゃんと育ってました!」
「むむ、短冊にお願い……。17年前……」

時間が過ぎるのはあっという間だった。
もうそろそろ帰らないと、みゆきが乗る最終バスに間に合わなくなってしまう。
帰らなくてはいけない。そう、小さなこなたがいるあの世界に、帰らないといけない。
七夕と言う、特別な日はもう直ぐ終わってしまう。
大きなこなたと、かなたとの別れには複雑な思いがあった。
しかし別れなくては、帰れないのだから。

162 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:33:43.17 ID:N9VE5ZU0
>>161

つかさ、かがみ、みゆきの三人は、夜道を歩いていた。
昨日の天気予報では雨と言われていたにもかかわらず、夜空を見上げると満天の星空が広がっていた。
かがみは少しずつ気が付き始めていた。ここは、自分がいた世界とは違うのではないかと。

「ねえ、お姉ちゃん。ゆきちゃんに正直に言おうよ。今の私たちのことを。だってこのままじゃ帰れないよ?」
「うん……。なんとなくわかってきたのよ。でも……。ねえみゆき」
「はい、なんでしょか?」

かがみは、みゆきに全てを明かす事にした。
世界が違っていても、みゆきとは親友のはず、そう信じていたからこそ打ち明けた。

「まさかそんなことが……。にわかには信じられませんが……いえ、かがみさんがそうまで言うのなら信じます」
「ありがとう、みゆき。こなたの家に行って、いくつかヒントを見つけたわ」
「お姉ちゃんすごい!なにが分かったの?」
「すごく、迷惑な話だけど、どうも、かなたさんの短冊の願いが、17年目にして成就しちゃったみたいなのよ。小さいこなたが言ってたじゃない、アルタイルまでお願い事が届くには17年かかるって」
「えー!?本当に叶っちゃったんだ!」
「それはすごい話ですね」
「性格がおじさんに似ないようにするには、かなたさんは必要不可欠で、途中で死んじゃうわけには行かないし。
あとは、かなたさんが作る栄養バランスの取れた食生活でこなたの身長が伸びたのかしら?きっとあいつコロネばっかり食べてるから大きくなれないのよ」
「つまり、願いが叶うと同時に、かなたさんの寿命が延びたということですか?」
「そうなるわね……」
163 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:34:39.55 ID:N9VE5ZU0
>>162

「じゃあ、なんで私たちだけ、こなちゃんの背が低い事とか、かなたさんが死んじゃってる事を知ってるの?」
「なんでかは分からないけど、ここ、願いが叶った世界と、私たちが知ってる願いが叶わなかった世界の二つがあるんじゃないかって思うのよ。それで私たちが、願いが叶った世界に移ってきたんじゃないかって。私の考えはここまでなんだけど、みゆきはどう思う?」
「そうですね……。私が今まで一緒にお付き合いしていた、つかささんとかがみさんは、今の背の高いこなたさんととても仲が良かったんです。
それが突然、お化けでも見てるかのような目でこなたさんを見るようになってしまって、私もちょっと変だと思ったんですよ。
途中からまたいつもどおりに仲が良くなってきて安心していたら、突然こんな告白をされて、実はちょっと戸惑ってます」
「ごめんねゆきちゃん。私たちも困ってるの。助けて〜」
「もちろん、お力になれることはできる限りのことをいたします。
まず、私の知っているつかささんとかがみさんが何処へ行ってしまったのかを考えると、
やはりかがみさんのおっしゃるように、実は世界が二つあって、もう一つ世界へあなたたちと入れ替わったのかもしれませんね」
「そっかー、こっちの世界にも私たちがいたんだもんね。いまごろ背の低いこなちゃんと仲良くしてるのかな」
「えぇ、私も今までのかがみさんとつかささんに会えないのは辛いんです……。でもどうしてかがみさんとつかさんだけが?」
「さあ、これも七夕関係なのかしらね〜。七夕生まれの私たちに対する彦星の気まぐれかしら」
「そ、そんな〜〜。困るよ〜。どうしたら戻れるのかな?」
「また短冊に書いてお願いするとか。返してくださいって」
「しかしそれが叶うのは17年後の事ですよ。書かないよりはマシかもしれないですが……」
「「う〜〜〜〜ん……」」

164 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:35:35.00 ID:N9VE5ZU0
>>163

つかさとかがみは、かがみの部屋で一緒に眠っていた。
一人用のベッドに二人入るのだから、当然窮屈で、お互いの体温や寝息が聞こえてきそうだった。
一緒に寝たいと言い出したのは、つかさの方だった。
自分たちは外の世界から来た、この世界ではただ二人だけの異世界人。
そう考えると、この世界にいるべきではなくて、全てから仲間はずれにされそうな気がして、怖くて悲しかった。
今の、背が高くて少し大人びているこなた。でも自分の世界のこなたと同様にやさしくて、ただ喋っているだけでも楽しくて、やっぱりあれは、こなただった。
そう考えると、この世界もそれほど悪くは無いかもしれない。

「ねえ、お姉ちゃん。起きてる?」
「なんだ、あんたも眠れないの?」
「うん……。本当に明日は元の世界に帰れるのかな?」
「正直、神のみぞ知るって感じよね。でも、つかさが思いついたあれなら、きっと明日には戻ってるわよ。あんたらしくなく、よく思いついたわよね」
「えへへ、昨日短冊書くときに、似たような失敗してたから、そう言えばって……。こっちの世界のこなちゃんもゆきちゃんも、かなたさんもいい人だったね」
「……。あんた、本当は戻りたくないの?」
「ううん、帰りたい。でも、楽しかった。この思い、こっちの世界の人に伝えくて……」
「……。寝ましょう。明日はまた学校なんだし」
「うん……」

この日の夜も、アルタイルが強く瞬いていた。
よく晴れたこの日、たくさんの人がそれを見たかもしれない。しかしそれに興味を持つような人は結局いなかった。
ただただ静かに、アルタイルは瞬いていた。




165 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:36:44.01 ID:N9VE5ZU0
>>164

7月8日


「あーもー、一緒に寝たから、一緒に寝坊しちゃったじゃない!」
「うー、私のせいじゃないもん!」
「とにかく急ぐわよ!」

かがみとつかさは慌しい朝を迎えていた。
かがみはどうにかこなたとの待ち合わせ時間に間に合わせたく、あせる気持ちが強くあった。
どうにか時間に間に合い、バス停を見ると、そこには背の小さなこなたの姿があった。

「うわ〜〜、こなちゃんの背が低い!背が低いよ!お姉ちゃん!」
「あー、小さいこなた〜。会いたかったわ〜!」
「な、なんだなんだ!?私を小さいって言うな―――――!!」

学校にはみゆきの姿があった。

「あ、ゆきちゃんおはよう!」
「おはようございます。あのう、失礼ですがどちらの世界のつかささんでしょうか……?」
「ゆきちゃん、私たち帰ってきたよ。小さいこなちゃんの世界に戻ってきたんだよ」
「戻ってきたんですか!?あぁそれはよかった……」
「ゆきちゃん、背の高いこなちゃんの世界の私からのゆきちゃん宛のお手紙が、私の机の上においてあったよ。やっぱり私と考える事同じなんだね。私も向こうの世界で気持ちを伝えたくて手紙を書いて置いておいたんだ」
「また、背が低いとか高いとか、私の体にイチャモンつける気?私だって好きでこうなったんじゃないやい!」 
「えへへ、背の高いこなちゃんも、背の低いこなちゃんも大好きだよ!」
「だから背が高いとか低いとか、一体なんなんだ―――――!!!!」

2年B組に、和やかな笑いが広がっていた。


境内にある、笹の林の中に、短冊が一つ新たに吊るされていた。
昨日降った雨のために、ぐしゃぐしゃに濡れてしまい、何が書いてあるかかろうじて読める程度だった。


 17年前の私たちを、
背が高いこなちゃんのいる世界に戻してください
       つかさ かがみ


「あ、そう言えば……」

かがみは2年C組の教室で、一人あることに気が付いていた。

「今回はアルタイルだったけど、もう一つ、ベガの距離が25光年。25歳の誕生日のときにもなんか起こるかも」
「なんだよ柊、にやにやしてなんだか不気味だぜ〜」
「な、なんでもないわよ!」

2年C組でも、和やかな笑いが広がっていた。
166 :アルタイルに願いを [saga]:2009/07/17(金) 00:42:12.36 ID:N9VE5ZU0

>>165
以上です。

分かった人もいるかと思いますが、元ネタはハルヒです。
笹の葉ラプソティ。
後半は眠たくて、若干ダレ気味な気がしてならないです……。
設定はもっと細かく考えていたんですが、小説にすると全部の設定を詰め込めないもんですね。
そういったあたりSFの難しさだと思いました。

しかし丁度、アルタイルの距離が17光年といい感じでよかった。20光年とか10光年じゃ、在学中のストーリーが出来なかったかも……。
167 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/17(金) 04:52:44.33 ID:p1FmcAco
>>166
ラストの短冊は背の低い、かな?
乙。話の筋がしっかりしててよかった。丁度あったのをうまく使ってるその発想に驚いたな
面白かったぜ。GJ!
168 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/17(金) 06:42:21.10 ID:Dt.PVMAO
>>167

おはようございます。
感想ありがとうございます。

ラストの短冊はあれで正しいです。
あれは背の低いこなたの世界に来てしまった、背の高いこなたの世界出身のつかかさとがみが書いた短冊です。
背の低いこなたの世界出身のつかさかがみが書いた短冊は、背の高いこなたの世界にあります。
169 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/17(金) 17:40:48.64 ID:p1FmcAco
>>168
ああ、戻ってきたわけだからそうか。あっちのかがみとつかさのこと忘れてた
解説サンクス
170 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/17(金) 19:05:04.91 ID:/cc53Zco
コンクール作品投下します。長さは6レス程度。
171 :スタアの条件 [saga]:2009/07/17(金) 19:06:00.21 ID:/cc53Zco
 3.

 きょうわおかあさんといっしょにひとがいっぱいいるところにいきました。
 おおきなおにいさんとぼーるあそびおしました。
 でんきがまぶしかったです。
 おうちでおかあさんによくできましたっていわれました。
 それからおかあさんといっしょにあいすくりーむおたべました。
 すごくおいしかったです。


 4.

 きょうは、おゆうぎのひでした。
 おにいさんのまねをして、おゆうぎすると、おとなのひとがほめてくれました。
 いっしょに、おゆうぎをしていたみんなも、がんばっていました。
 おうちにかえるまえに、おかあさんと、おそとでごはんをたべました。
 ほんとうは、おかあさんと、おとうさんと、わたしの、さんにんがよかったです。


 5.

 テレビのおしごとをするところで、おとなのひとが、おたんじょうびおめでとうとゆってくれました。
 きのうは、わたしの、5さいのおたんじょうびだったからです。
 さつえいがおわってから、おにいさんが、おたんじょうびプレゼントをくれました。
 おうちにかえって、あけてみたら、にゃもーのおにんぎょうでした。
 にゃもーがだいすきなので、とってもうれしかったです。


 6.

 きょうは、テレビのおしごとのまえに、おとなの人に、きょうはそつぎょうしきだっていわれました。
 らいしゅうからは、あたらしいテレビにでます。
 さつえいがおわったあと、おにいさんに、おはなをいっぱいもらいました。
 おにいさんは、ないていました。
 かえりに、ゆきがつもっていました。
 まっしろで、つめたかったです。
172 :スタアの条件 [saga]:2009/07/17(金) 19:07:47.04 ID:/cc53Zco
 7.

 きょう、学校からかえったら、パパとママがけんかをしていました。
 二人とも、すごくこわかったです。
 わたしは、おへやで、パパとママがなかよくなるのをまっていました。


 8.

 今日もパパとママが口げんかしました。
 ママは、いつもばんごはんの時間に出かけます。
 パパがばんごはんを作るので、わたしもお手つだいします。
 おふろで、パパに、「あきらはえらいね」と言われました。
 今日は、シャンプーハットなしで頭をあらえたので、自分でもえらいと思いました。


 9.

 ママに「ママとパパのどっちがすき?」と聞かれました。
 わたしはけんかをしないパパとママがすきです。
 でも、本当にそう言うとママがおこるので、「どっちもすき」と答えました。
 今のママはきらいです。
 ねる前にトイレに行くと、おふろでパパが泣いていました。


 10.

 最近は、ママがいらいらしているのであまり家に帰りたくありません。
 学校が終わったら、パパの車でまっすぐテレビ局へ行きます。
 仕事のせりふの練習をしている時が一番気楽です。
 帰りもパパの車ですが、家の前でおりるとママが怒るので、少し遠くでおります。

 今日はぶあつい台本をもらいました。今度のドラマに出られるらしいです。
173 :スタアの条件 [saga]:2009/07/17(金) 19:09:20.12 ID:/cc53Zco
 11.

 次の土曜日はパパの家でおとまりです。
 ママにバレると叩かれるので、ママには友達の家にとまるとウソをつきました。


 12.

 今日、ママにいきなり「局への送り迎えは私がする」と言われた。
 ママに秘密でパパの車に乗せてもらっていたのがバレたらしい。
 パパに会うのも電話をするのも禁止された。

 本当はパパと暮らしたかった。パパの方がずっと優しい。
 ママなんていなくなればいいのに。


 13.

 今度、「らっきー☆ちゃんねる」というラジオ番組のメインパーソナリティをやることになった。
 番組のレギュラー自体は何回かやったけど、自分の番組っていうのは初めてだ。
 白石みのるという人と一緒らしい。聞いたことがないけど誰だろう?
 とにかく、大きなチャンスなんだからがんばらないと。
 早く自立して一人暮らしがしたい。

174 :スタアの条件 [saga]:2009/07/17(金) 19:10:14.28 ID:/cc53Zco
 *


「ねえ白石、あんたの家って両親いる?」

 突然、目の前の少女が尋ねてきた。
 あおっていた水を飲み干し、コップをテーブルに置いてからみのるは答える。

「ええ。二人とも元気ですよ」

 小神あきらは寡黙な男もお喋りな男も嫌う。問答においては一を聞かれたならば返すのは二が正解。
 長い付き合いの中で彼はそう学習していたし、彼女がプライバシーに踏み込まれることを嫌うのも承知している。
 だからこれは実に適当な返事のはずだった。

「……私はさぁ、パパが別居しててママと二人暮らしなんだけどね」

 ところが、若干の沈黙の後、あきらはこう続けてきた。
 自ら家庭の状態を話すなんて、自分はどこかで地雷を踏んだだろうか? そう考えるも思い当たる節は当然ない。

「私を芸能界に入れた張本人がママで、パパはどっちかと言うと反対してた。意見の食い違いで喧嘩始めちゃったのよね」
「それで別居、ですか?」

 正直に言って彼女のプライバシーに興味がないわけではない。ここは耳を傾けるべきだとみのるは相槌を打つ。

「本当はこんな仕事やめたかったんだけど、私もまだガキだし? 喧嘩に口出しできないまま別居なんてことになっちゃったわけ。
 ぶっちゃけね、パパと一緒が良かったのよ優しいから。ママは嫌い。私を自分の道具か何かにしか思ってないんじゃないの」
「あきら様――」
「あんたのとこは? 仲、いいんでしょ」
「……えぇ、まあ」
「羨ましいわ。両親、大事にしなさいよね」

 少女の意図が掴めない。
 こういった話の相手として選ばれるのは信頼されている証だ。そう期待していないと言えば嘘になる。
 だが、オチとして自分が軽く貶されて、さっさと次の話題へ次の話題へと移るのが常なのだ。こんな悲しい話を聞きたいわけではない。
175 :スタアの条件 [saga]:2009/07/17(金) 19:11:09.05 ID:/cc53Zco
「でもさ」

 あきらは更に続ける。

「この番組やってて少し救われたのよね。何だかんだで素で楽しめてると思う」

 楽しんでいる、ということについてはみのるにも自覚があった。
 番組開始当初と今とを比べると、彼女の言葉に込められた棘は明らかに少なくなり、逆に笑顔を見せることが多くなった。
 もちろん、裏にこんな事情があるなど今日まで思いもよらなかったが。

「家のことも気にならなくなってきてさ。確かにママは嫌いだけど、まぁいいかって感じで」
「それは……」
「せっかくここまで来たんだから、パパのためにも私は上を、それも頂点を目指そうって思うようになったのよ」

 ああ、とみのるは頷いた。

「あきら様、ご立派です。……でも、でもですよ? 余計なお世話だとは自覚してます。
 こんなこと言うと怒られそうですけど、お母さんにも感謝すべきですよ。やっぱり、あきら様をここまで立派に育ててくださったわけですし」
「それは何、反面教師って意味で?」
「そうじゃなくてですね! 僕は――」
「いや、……まあ、わかってるから」

 彼女の口から飛び出す皮肉からは、しかし負の感情を読み取れない。
 母親が子に託そうとした希望というものを、彼女も彼女なりに理解したのだろう。

「……もうすぐ母の日ですね」
「うるさいな。いちいち言わなくたっていいっての」
「そうでした。すみません」

 ふっ、とどちらともなく笑みがこぼれた。
176 :スタアの条件 [saga]:2009/07/17(金) 19:12:17.24 ID:/cc53Zco
「カーネーションとか柄じゃないし。温泉でも行こうかなってね」
「いいですねえ。僕はそれこそカーネーションになりそうですよ。今月はあまり余裕がないんで」
「まっ、物なんて結局は副産物でしょ」

 そう言い、少女は今日もまた笑顔を見せる。
 出会った頃の、露ほどの余裕も感じられなかった爆弾のような小神あきらはもういない。
 不意に彼女の表情が魅力的に思え、みのるは反射的に窓の外へと目をやった。

「アイドル止まりで一生を終えたりなんかしない」

 今のあきらにとって、それは夢ではなく決意なのだろう。
 あまりに遠いゴールではあるけれど、彼女ならばそこへたどり着くことも不可能ではない。
 否、それも違う。彼女がやると決めたことは必ず実現「する」のだ。そのために必要な全てを小神あきらは備えている。
 もっとも、こんなことをうっかり口に出してしまえば「何様のつもりだ」と強烈な拳骨が飛んでくるに決まっているのだが。

「もちろんですよ。あきら様が芸能界のトップに立つ日も近いです」
「……フン。だいぶ口のきき方がわかってきたじゃない」


 やがてあきらは腰を上げる。その顔は自信に満ちあふれていた。
 普段から見慣れている、貫禄とプライドがむき出しの、みのるが一番気に入っている表情だった。



「私はスターになる。みんな追い抜いて、誰も追いつけない所まで行ってみせる」



   了
177 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/17(金) 19:15:14.00 ID:/cc53Zco
以上でした

あきら様はデビュー当時はNHK教育的な番組に出てたんだと考えてます
小2でまだシャンプーハットってのはいくらなんでも遅すぎたかな?

久々に長いの書いたけど、50秒規制とかいつの間にできたんだよ! やりにくいよ!
178 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/18(土) 00:00:04.91 ID:BQ4vvUAO
>>177

50秒規制?そんなものが出来たなんて。アルタイルを投稿した時にはなかったですね。

乙でした。
あきらが切実に語りかけてくるので、すごくしんみりしていました。
日記の数字が何かと思ったけど、年齢ですよね
179 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/18(土) 03:11:19.62 ID:ApXp5Kko
>>177

最初は数字をミスってるのかと思った
意外と「星→スター→あきら」の流れが多くてビックリ
180 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/18(土) 17:00:31.65 ID:K1rbw/c0

           ____        )例のごとく、SS以外ここまでまとめました、と
        /⌒  ⌒\      ) 
      /( ●)  (●) \    )/⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y丶
     / ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
    |      |r┬-|     |
     \       `ー'´     /
     ノ            \
   /´               ヽ                 カ
  |    l   l||l 从人 l||l      l||l 从人 l||l   カ    タ
  ヽ    -一''''''"~~``'ー--、   -一'''''''ー-、.     タ
   ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) )  (⌒_(⌒)⌒)⌒))
      ┌┬┬┐┌┬┬┬┐┌┬┬┬┐┌┬┬┬┐
   ,. - ''"| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ρ ̄`l




181 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/18(土) 17:10:23.05 ID:mEqVmyM0
>>180

   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |    ( ●)(●)
. |     (__人__)   
  |     ` ⌒ノ   乙だろ…常識的に考えて
.  ヽ       }       
   ヽ     ノ        \  
   /    く  \        \
   |     \   \  旦~    .\
    |    |ヽ、二⌒)、          \
182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/18(土) 22:01:14.63 ID:mEqVmyM0
こなた「明日で投稿期間最終日だねえ」
かがみ「今のところ6作品……多分土壇場の滑りこみが4作はあるだろうから、2桁はいくでしょうね」
こなた「そーいやちょっと大発見したんだけどさ」
かがみ「うん?」
こなた「今までの作品全部タイトルに星とかそれっぽい単語が入ってるんだよ! すごくない?」
かがみ「……えー? お題が星なんだから当たり前じゃない?」
こなた「あ、そっか……」
183 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/19(日) 05:54:24.09 ID:KljhCnE0
コンクール投稿します。
作りたいものを作ったので面白くないと思います
スルー覚悟です。
184 :コンクール作品 星のかなたへ [saga]:2009/07/19(日) 05:58:09.40 ID:KljhCnE0


 ある日の放課後の図書室、、こなた、つかさ、かがみ、みゆきの四人で雑談をしていた。
こなたはアニメの話をしていた。
こなた「で、結局、長門が宇宙人ってことに気付いていないってわけ」
かがみ「アニメは知らないけど、あんたもそうゆう話好きね、コスプレまでするくらいだし」
   「たまには小説の方も読みなさいよ」
呆れた顔のかがみ、話をあわせるみゆき、つかさはただ笑っていただけだった。
しかし、割って入るようにつかさが質問をした。
つかさ「宇宙人って本当にいるのかな」
かがみ「つかさ・・・小学生みたいな質問を」
こなた「漫画とか映画ではよく出てくるけどね、実際となるとまゆつばものだね」
かがみ「へー こなたにしてはまともな答えをするわね」
みゆき「参考になるかわかりませんが、地球外文明の数をもとめる式がありますわね」
こなた・かがみ「「ドレイクの方程式でしょ」」
みゆき「二人ともご存知でしたか」
つかさ「????」
かがみ「へー こなたが知ってるとは思わなかった、なんで知ってるのよ」
こなた「かがみ、そりゃ偏見だよ、私だってそのくらい知ってるよ」
   「ゲームやアニメを見てるとこの手の知識がね・・・」
かがみ「はいはい、そこからそんなことを」
またまた呆れるかがみ、つかさはわけが分からず話についていけなかった。
こなた「この方程式を見る限り宇宙人っているように思えないよね」
   「あ、もうこんな時間だ、バイトに遅れちゃう、悪いけど先帰るね」
そう言うと足早に図書室を後にした。

かがみ「あいつがドレイクの方程式なんかしってるとはね、意外だったわ」
みゆき「SFや天文学が好きな人なら知ってる人も多いみたいですが」
つかさ「・・・あのー、そのドレイクのなんとかって何なの」
一人取り残されたつかさは、申し訳なさそうに質問した。
かがみ「つかさ、これは知らなくても、学校じゃこんなこと教わらないし、遊びみたいなものね」
   「つかさの最初の質問の答えが分かる式よ」
つかさは余計に分からなくなった。頭の上に?マークが付いているのがわかるようだ。
かがみはため息を一回ついて、
かがみ「みゆき、つかさに分かるように説明できる?」
みゆきは自信なさげだったがつかさに説明をした。
185 :コンクール作品 星のかなたへ [saga]:2009/07/19(日) 06:02:18.85 ID:KljhCnE0

「フランク・ドレイクという天文学者が考案した式で、この銀河系に電波通信可能な文明がいくつあるか」
「というのを思いつきで考えたらしいです。」
「式の項は定説がなくて、人によって答えは大きく異なるのですが、カール・セーガンの答えを例にしてみます」
「式は N=n*Fp*ne*fj*fi*fc*fl」
つかさは頭を抱えてしまった。
かがみはつかさに助言した。
「つかさ、この式掛け算しか使ってないわよ」
「そ、そういえばそうだね、掛け算だね」
みゆきはそのまま説明をつづけた。
「Nは銀河系に存在する電波更新能力もつ技術文明の数・・つまり今の私達以上の文明のことですね」
「nは銀河系の恒星の数・・・4千億個」
「Fpは恒星が惑星を持ってる確率・・・1/4」
「neは1つの恒星の中に生物が生活するのに適した惑星・衛星の数・・・2」
「fjは実際に生命の発生する確率・・・1/2」
「fiは生命が進化して知的生命体になる確率・・・1/10」
「fcは知的生命体が電波天文学まで発展する確率・・・1/10」
「ここまでの値を代入すると10億になります、ものすごい数になります」
「しかし、地球外文明と出会うには、今、その文明がなければ会うことはできません」
「そこで最後の項になります」
「flは惑星・衛星の寿命に対して電波天文学の文明が存在する期間の割合・・・」
「これは今の地球を例にとって・・・地球の年齢45億年に対して電波天文学が生まれてから50年・・・約1/一億」
「これを全てさっきの式に代入すると・・・N=10」
「すごい、宇宙人のいる星って10個もあるんだ」
つかさはみゆきに驚いた表情をみせる。
「これはあくまで一例で、これでは多いという人も少なすぎると言う人もいます」
「泉さんも私の出した例に近い値で計算されたと思います」
つかさは感心したようにめを閉じ何かを考えていた。
「つかさ、もういいでしょ、分かったでしょ、普段そんなこと興味ないじゃない」
かがみはもうこの話に興味はなかった。話題を変えたかった。
しかしつかさはさらにみゆきに質問をした。
「ゆきちゃん、最後の項って50年/45億年なの? まだ私達居るよ、百年、千年、一万年でもいいじゃないの」
「つかささん、凄いところに着目しましたね」
「この計算をしたセーガンさんはロシアがまだソ連だった頃、つまり冷戦時代の頃でした」
「この頃は、核戦争一歩手前でいつ人類が滅亡してもいいような危機的な状況だった。だから電波天文学が生まれてから50年という値にしたそうです」
「なんか悲しい式だね」
つかさは悲しそうな顔でみゆきに言った。
「そこまで感じているなら、つかさんはこの式を完全に理解されましたね、セーガンさんはこの式を近代文明の脆さを指摘するために活用しました」
「でも、今ならもう核戦争なんかないよね」
つかさはまた質問をする。
「アメリカ・ロシアに保有している核兵器の数は冷戦時代とあまり変わっていません。そればかりか核兵器保有国は増える一方」
「それに、環境破壊も冷戦時代よりも酷くなっています。状況は昔とあまり変っていない。いえ、昔より危ういかも」
「それじゃ宇宙人も?」
「そうですね、宇宙人の文明が地球人と同じ進み方をしてるなら、同じ問題に直面しているかも、意外と文明は短命なのかもしれません」
「お友達になる前に居なくなっちゃうなんて・・・」
それからしばらく、つかさとみゆきはこの話で盛り上がった。
話題を変えたいかがみはその機会を失い、話に入っていくことができずに二人の話をただ聞いていた。
186 :コンクール作品 星のかなたへ [saga]:2009/07/19(日) 06:03:32.28 ID:KljhCnE0



「すみません、もう図書室を閉めたいのですが」
図書委員の人がつかさ達に話しかけた。
気が付くともう終業時間を過ぎようとしていた。
「さて、もう帰りましょ」
かがみはそう言うと、一番に図書室を出た。それを追いかけるようにつかさが、そして、図書委員に一礼をして、
みゆきが図書室を出た。
「私、こんな時間まで図書室にいたの初めてだよ」
少し興奮気味のつかさ。
「つかさ、はしゃぎすぎよ、みゆきごめんね、こんな時間までつき合わせちゃって」
「いいえ、今日は特に用事もなかったので、楽しいじかんでした」
「そういえば、お姉ちゃん途中からぜんぜん話さなかったね」
「私は別に・・・」
「分かった、お姉ちゃん、こなちゃんが先に帰ったのが淋しかったんだね」
「違うわよ、いいかげんな事を言わないで」
つかさはしばらく黙った、そんな二人を黙って見るみゆき。

 駅でみゆきとつかさ達は分かれる。
「ゆきちゃん今日はありがとう、また明日ね」
「みゆき、またね」
「また明日、つかささん」
「かがみさん」
みゆきがかがみを呼び止めた。
「何?」
「いえ、なんでもありません、また明日」
みゆきはかがみに何かを言いたかったが言えなかった。
そのままみゆきは反対側のホームへとむかった。


 電車を降りて帰り道、
もう辺りはすっかり暗くなっていた。
「お姉ちゃん、今日はゆきちゃんにほめられちゃったよ」
自慢げにかがみに話し出した。
かがみはみゆきがつかさに合わせてくれていることを知っていた。
その流れでつかさをほめていることも。
「つかさ、あまり本気にしないほうがいいわよ」
「そういえばお姉ちゃんは既に、あの式しってたみたいだけど、お姉ちゃんはNの答えいくつになったの?」
「私は、ドレイクの方程式って知識としてしってただけ、別に計算なんかしてないわ」
「そうなんだ、でも今日は、学校の授業よりも面白かった、宇宙人見つかるといいね」
つかさは空を見上げて図書室の余韻に浸っている。
かがみは、つかさがあの式を理解しているとは思っていない。
かがみはつかさをからかってみた
「そんなこと言ってるけど、地球なんかあっという間に征服されちゃうわよ」
「お姉ちゃん、それはないと思うよ」
即答するつかさ、かがみは驚き聞き返す。
「なんで、そんなことが言えるの」
つかさは歩くのを止めた
187 :コンクール作品 星のかなたへ [saga]:2009/07/19(日) 06:05:42.67 ID:KljhCnE0

そして、夜空を見上げていた顔をかがみにむけて悲しい顔をしながら答えた。
「だって、そんな事するような宇宙人だったら、ここに来る前に自滅してるよ」
かがみは何も言い返せなかった。
つかさが「悲しい式」と言った事にかがみは初めて気が付いた。
そしてみゆきがつかさをほめていたのはお世辞ではないことも分かった。
そして・・・なによりかがみ自身が四人の中で一番あの式を理解していなかった。
つかさの顔が、駅で別れたみゆきの顔と重なった。
みゆきがかがみに言いたかったことがこのことだったことに気が付いた。

 かがみはつかさを見下していた。それゆえに、つかさとみゆきの話を本気に聞いていなかった。
かがみは反省した。
「お姉ちゃんどうしたの」
つかさは黙っているかがみが心配になった。
「つかさ、今日は凄いわね、私より理解してるなんて」
「お姉ちゃんにまでほめられた」
嬉しそうに微笑むつかさ。
「本当にいるのかしらね、宇宙人」
かがみは夜空を見上げ、つかさが最初にした質問をした。図書室での時間を取り戻すかのように。
「山と山は出会えないけど、人と人は出会える」
「つかさ、何よそれ」
「こなちゃんから借りた漫画に載ってた言葉」
「漫画のセリフか・・・でも意味深な言葉ね」
「いつかきっと出会えるよ、こなちゃんとゆきちゃんと出会えたように」
「おいおい、こなたとみゆきを宇宙人と一緒にするのか」
「でも、こなちゃんとゆきちゃんに出会えたのも奇跡だよ、同じ高校に入って、同じクラスになるって」
「お姉ちゃんなんかクラスが違うのにゆきちゃんとこなちゃんと出会えてる」
「確かに、クラスが違うだけで出会う機会は減るわね、てか、つかさが居るからでしょ」
「私達が双子じゃなかったら、学年も違ったよ」
「そうだね、私達が出会えたなら、きっと・・・星と星は出会えないけど、人と人なら出会える」
かがみはつかさの言葉を少し変えてみた。
「それいいね、きっとセーガンさんも喜ぶね」
「つかさ、言い難いんだけど、その人、もう亡くなってるわよ」
「そうなの?」
つかさは、俯いてしまった。
セーガンの名前でかがみは思い出した。以前みゆきにある映画を薦められたことを。
「みゆき、だからセーガンの名前を出したのか」
「お姉ちゃん、何?」
「いや、独り言、ところでセーガン原作の映画があるんだけど、観てみない?」
「観てみたい」
「それじゃ一度家に帰って着替えてから店行くわよ、家まで競争」
かがみは家に向かって走り出した。
「ちょっと、お姉ちゃん待って」
遅れてつかさも走り出す。
しかし、間もなくかがみは突然止まった。
つかさはかがみにぶつかりそうになる。
「ちょっと、お姉ちゃん危ないよ」
「・・・つかさ、こなたは昨日もバイトだったわよね」
「そういえば、そんなこと言ってたね」
「あいつ、二日連続でバイトなんてあったか?」
188 :コンクール作品 星のかなたへ [saga]:2009/07/19(日) 06:06:41.76 ID:KljhCnE0
「今までそんなことなかったかな、それがどうかしたの」
「こなたの話題と去るときタイミング、その後のみゆきの言動・・・つかさ、私達、誘導されたわ」
「誘導? なんで」
「まだ分からないの、みゆきとこなたがグルになって私達に映画を見るように仕向けたのよ」
「えっ、」
「以前みゆきにその映画を薦められてね、興味ないって断ったことがあってね、つかさは薦められたなかった?」
「それは・・・」
「覚えてないの? つかさも薦められたはず、つかさはSFなんか観ないでしょ」
「お姉ちゃん、私は・・・」
「手の込み具合からするとみゆきが仕組んだわね、まったく、こなたもみゆきもらしくない事をして、そこまでして私達にみせたいのか」
「・・・」
「つかさ、別に分かったからって観たくなくなったわけじゃないわよ、そんな残念そうな顔しなくても、さて、急ぐわよ」
かがみはまた走り出した。
しかしつかさは走らずに歩いて後を追う。
次第に小さくなるかがみの後ろ姿をみながらつかさはかがみ小さな声で語りかける。
「お姉ちゃん、そんなに急がなくてもDVDは私の部屋にあるよ・・・」
「中学の時・・・私があの映画を薦めたの忘れちゃってるね、でも私は覚えてたよ、完全に否定したよね」
「悲しかったけど、お姉ちゃんにみせたい気持ちは消えなかった、そのためにいろいろ調べたし勉強もした」
「話す切欠がなかなかなくて・・・この事をこなちゃん、ゆきちゃんに話したら協力してくれるって言ってくれた」
「図書室の段取りは私が全て計画したけど・・・ドレイクの方程式まで知っていたなんて、それに、全然話に入ってくれなかったよね、もうだめかと思った」
「でも、やっと観る気になってくれたね、DVDを渡したらお姉ちゃんどんな反応するかな」
つかさは夜空を見上げ満足そうな顔でまた語りかける。
「こなちゃん、ゆきちゃんありがとう、目的は達成できたよ」

 もうすでにかがみの姿は見えなくなっていた。
つかさはそれに気付きようやく走り出した。
 しかしつかさは知らない。
つかさの思いは、こなたとみゆきも今のかがみと同じ気持ちにさせていたことに。

 走るつかさを夜空の星々が祝福するようにやさしく瞬いていた。

189 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/19(日) 06:07:50.65 ID:KljhCnE0
お粗末でした。

 星で一番最初に来たイメージはコスモス・宇宙とカールセーガンの映画でした。
らきすたでこのネタは合わないし、興味がある人じゃないと分からないかなとも思ったのですが
あえて作りました。
190 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/19(日) 23:17:56.76 ID:Roeh/Zc0
>>189
乙、映画は知らなかったけどドレイクの方程式とかは大丈夫だったよww

にしても今回も滑り込み全然ないな……
今からの一時間弱で爆撃でも来るのか?ww
191 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/19(日) 23:20:15.20 ID:Roeh/Zc0
×今回も
○今回
192 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/19(日) 23:52:30.20 ID:ZQEonp6o
短いけど投下いきます
193 :星の導き :2009/07/19(日) 23:53:53.86 ID:ZQEonp6o

 星は見えなくてもそこに在る。
 地上の強すぎる光で見えなくても、空を雲が覆っていても確かに在る。
 だから、見えなくなってしまっても、またいつか見える日が来る。

 昔、そういった奴がいた。
 そいつは普段からいい加減で、まぁいつもの気まぐれか、アニメが好きな奴だったから何かのセリフ程度にしか思っていなかった。
 夜空を見上げながらそのセリフを思い浮かべ、翌日も変わらぬ日々が続くことに何の疑いもなく、その日も眠りについた。
 けれど、それは思いもしない形で裏切られてしまった。


 引越し。
 ホームルームが始まってすぐ、隣のクラスから駆け込んできた双子の妹に告げられたのは、そんな言葉だった。
 意味がわからなかった。引越しした? あいつが? 昨日まで普通に、いつも通りだったのに?
 私は、教師のいる目の前で携帯電話を取り出し、あいつに電話をかけた。
 すぐには出ないかもしれない“いつものこと”だ。でも、出るまでかけよう、そしてちゃんと話を……。
 コール音がなることはなく、電話口から聞こえてきたのは、あいつの声ではなかった。
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』
 そのあとは、よく覚えていない。妹と友人の話によると、あいつのクラスの担任に掴みかかって大変だったらしい。

 電話は解約されていて、あいつの家はもぬけの殻だった。
 一緒に住んでいたあいつの従姉妹の子は、同じクラスの友人の家にお世話になると言うことだった。
 その子に聞いてみても、連絡先は一切知らなかった。
 つまり、あいつに繋がる手がかりはすべて、文字通り消え去ってしまったのだ。

194 :星の導き :2009/07/19(日) 23:54:57.72 ID:ZQEonp6o
 私には、一つ気になることがあった。
 その従姉妹の子がお世話になっている家は、私の友人の向かいの家。
 そこの子と姉妹のように仲がいいはず。
 なら、あいつが引っ越すことを彼女は知っていたんじゃないのか、と。

 問い詰めると案の定、彼女はそのことを知っていた。知っていて、私たちに黙っていた。
 私は、友人を責めた。
 なぜ言わなかったのか、止められていたにしても言ってくれれば何か出来たかもしれない。
 私の最低な行為を、彼女は黙って受け入れてくれた。
 あいつがいなくなる事を知り、それを私たちに言うことも出来ず、私よりもずっと辛かったはずなのに。
 そのことに気付いたのも、妹に言われてからだ。
 私は彼女に謝り、彼女はそれも笑顔で受け入れてくれた。
 一番辛いのは、あいつのはずだからと。


 それから何年過ぎただろうか。
 今はもう、あの時のように眠れない日々を過ごすこともない。
 何も出来なかったことを悔やみ、腹を立て、誰かに当り散らすようなこともない。
 ただ、星を見上げる。
 あいつの最後の言葉を思い浮かべながら、毎晩、空を見上げている。
 家の神社の境内で、あの日から見えなくなってしまった星を。また見ることが出来ると信じて。

 もし、あいつに会えたらなんて言おうか。
 言いたいことはたくさんあるけれど……。
「やっぱり、おかえりかしらね」
「じゃあ、ただいまかな」
 そんな気はしていた。だって、今日はいつもより星が綺麗に見えるから。
 なんとなくだけど、もしかしたらって思ってた。


 私は声の方へ振り返る。

 やっと顔を出した星を見るために。


〜fin〜
195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/19(日) 23:58:03.33 ID:ZQEonp6o
マジ短いですサーセンww
ホントはもっと広げるつもりだったんですが、結局時間に間に合わず、まとめる感じに。
今回のお題自由度が高い分? 難しかったです。
ネタはあっても形にならなかったり、こんな感じで短くなってしまったり。
書けた人すげぇ(’゚Д゚`)
読んでくださった方ありがとうございました!
196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/19(日) 23:59:32.66 ID:ZQEonp6o
っと、一応コンクール参加作品です
197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/20(月) 00:03:36.86 ID:GAenz.go
☆★☆★☆★☆

7月20日になりましたので、第15回らき☆すたSSコンクールの投稿期間を終了いたします。
作者の皆さま、お疲れ様でした! 投票は7月21日から7月27日までとなります。

★☆★☆★☆★
198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/20(月) 00:16:51.59 ID:c2XNZlc0
こなた「乙ー」
つかさ「お疲れ様でしたー」
かがみ「8作品かあ……まあ丁度いいくらいかしら」
こなた「見事に予想外したねえ」
かがみ「うるさいわ」
つかさ「ところで、甘口と辛口どっちがいい?」
かがみ「へ? 何の話?」
つかさ「レビューミコ酢」
かがみ「……レビューのことよね。私に聞かれてもなあ……」
こなた「じゃあ甘口!」
つかさ「甘口でいいー?」
かがみ「じゃあ私は辛口にしよっかなー……」
つかさ「辛口にするー?」
こなた「ええー甘くていいじゃん!」
かがみ「えー……もうちょっとシビアな意見もらった方が……」
こなた「でもここがダメとか言われるのやだしー」
かがみ「率直な意見聞くのは大事じゃない?」
こなた「えーでも……」
かがみ「けどさー……」
つかさ「…………」

つかさ「決めろミコ酢ー!!」ジョボジョボッ
こなた「うわああごめんつかさ!」
かがみ「痛っ! 目にしみるからやめろってー!」
199 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/20(月) 00:29:55.83 ID:GAenz.go
>>189
ドレイクとか映画は知らなかったけど、面白かった
知的? なつかさを見れたのも面白かったし、その理由もなんかよかった
乙gj!

>>198
中辛ミコ酢

どこ星人だよつかさww
200 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/20(月) 00:43:07.76 ID:z0v.goI0
みなさま、お疲れ様でした。
レビューは俺も書くと思いますが、甘い辛い以前にネタに走ると思います。



逃げる、とも言いますが。
201 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/20(月) 12:47:47.30 ID:.kf9JvQ0
投下いきます。
202 :柊かがみ法律事務所──二次元児ポ単独所持処罰事件 [saga]:2009/07/20(月) 12:48:46.28 ID:.kf9JvQ0
──創作物上の児童ポルノ単独所持事件上告審、大法廷に移送。違憲判決もありうるか?

 そんなニュースが新聞やテレビ、ネットをにぎわしている中、かがみは淡々と訴訟の準備を進めていた。
 準備といってもたいしたものではない。高裁審理で提出したものをちょっと手直しする程度のことだった。論点は高裁審理であらかた出尽くしている。高裁でやった主張と議論を、最高裁の15人の裁判官の前でやり直すだけのことだ。

 実在する児童(18歳未満)のポルノの単純所持を禁止し処罰する規定は前からあったが、実在しない創作物上の(俗な言い方をすれば、二次元の)児童のポルノの単純所持を禁止し処罰する規定が施行になったのは、最近のことだった。


 実在する児童のポルノの単純所持を処罰することについては、かがみは反対ではなかった。実際に被害者がいるからだ。
 この場合、ポルノの作成は、現に存在する児童の人格権・性的自由の侵害である。そして、それを所持することは当該侵害行為に加担する共犯行為だ。処罰規定の保護法益は現に存在する児童の人格権・性的自由──それははっきりしている。
 それに対して、二次元の児童ポルノは、明確な被害者が存在しない。よって、禁止・処罰規定の保護法益も判然としない。
 「二次元の児童ポルノであっても、実在する児童への性犯罪行為を助長する危険なものだ」という主張はあるが、それは充分に立証された事実とは言いがたい。犯罪助長効果が麻薬なみでもない限り、単に所持しているだけの状態を罰する必要まであるとは思われない。
 となれば、保護法益は「善良な風俗」といったあたりに落ち着きそうである。わいせつ物頒布罪の保護法益と大差はない。処罰対象を頒布から単独所持にまで広げただけだ。
 しかし、「善良な風俗」なんて所詮は単なる道徳じゃんという反論はありうる。
 「法は道徳の最小限」という言葉はあるが、一方で「法と道徳は別物」という考えもある。
 一部の倫理主義者の偏屈な道徳を、法の名のもとに押し付けてるだけじゃないのか? それは正当な立法目的といえるのか? そんな疑問が出てくるところだ。
 確かに法律は国民の代表で構成される国会によって制定されたものだ。しかし、憲法の人権規定は、国家権力から個人の権利利益を守るために存在するのである。そして、国民主権国家における国家最高権力は国民にほかならない。統治する国民と統治される国民は同一人格ではないからこそ、憲法の人権規定がある。
 はっきりいって、かがみ個人としては、二次元のものであっても児童ポルノを所持しているような輩は、軽蔑の対象である。
 でも、だからといって、そんな奴らを処罰してしまえとは思わない。
 かがみは、趣味趣向の多様性をこよなく愛する人間であり、他人の権利利益を侵さずにかつ趣味趣向を他人に押し付けずに個人で楽しんでいる分には、互いに住み分けによって共存していくべきだと考えていた。
 こういう考え方からすると、二次元の児童ポルノについて規制できるのは、公然と見せびらかしたり、公然と頒布・配信・放送したりする行為までだろうというのが、かがみの結論だった。深夜に自室でこっそり楽しんでる輩なんて放置しておけばいい。

 以上が、そもそも論での憲法上の論点といったところか。
 そのほかに、憲法上の刑事関連規定にかかわって、論点がひとつあった。
 法律では、対象となる児童の年齢は18歳未満とされている。
 では、実在しない創作物上の人間の年齢をどうやって確定するのか? 
 見た目か? 創作者による設定年齢か? 所持者が認識している年齢か? お上が勝手に決めるのか?
203 :柊かがみ法律事務所──二次元児ポ単独所持処罰事件 [saga]:2009/07/20(月) 12:49:42.74 ID:.kf9JvQ0
 要するに、犯罪構成要件が極めてあいまいなのだ。
 これは「刑罰規定は事前に明確な要件をもって定められてなければならない」という罪刑法定主義に反する。
 「合理的一般人の判断能力を基準とするのであいまいではない」というのが高裁判決の結論だったが、「合理的一般人の判断能力を基準としたところで、創作物上の18歳の境目を明確に判定できるのかね?」という疑問はおおいにありうるところだ。
 ただ、そこは検察側も理解しているらしく、検察が法廷に証拠として提出してきたのは「誰が見たって幼児にしか見えねぇよ」というものばかりであったが。

 また、別の論点として、刑罰規定の運用の問題があった。
 仮にこの禁止・処罰規定の保護法益が「善良な風俗」といったあたりだとすれば、二次元児童ポルノの単独所持はその頒布行為に比べれば取るに足りない犯罪でしかない。
 たとえば、軽犯罪法1条26号は「街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」を処罰する規定である。でも、たんを吐いてる若者をみつけた警察官がその場で彼を逮捕するなんてことはまず考えられないだろう。現実には、その場で注意して終わりにするのが普通である。
 二次元児童ポルノの単独所持もその程度の犯罪だとすれば、ことさらに逮捕起訴するという警察・検察当局の行為は、裁量権の逸脱・濫用であり違法な捜査権力の行使であるという論理構成も充分に可能だ。


 こんな論点を法律用語をもって組み立てた文章を校正し終わったところで、電話がかかってきた。
 相手はある大学の法学部の憲法学教授だった。かがみは、その教授に、最高裁に弁護側参考人として出廷してもらうように依頼していたのだ。
「先日のご依頼の件は了解しました」
「ありがとうございます」
「ただ、お役に立てるかどうかは分かりませんがね。なにせ、検察側が依頼している参考人の○○教授は手ごわいですからな。研究会や学会で議論してもなかなか論破できなくてね」
「お知り合いだったんですか」
「学者の世界は狭いですから。まあ、個人的にも親しいんですが。研究会で散々激論を戦わしたあとに、居酒屋で一緒に飲んだりね」
「そうなんですか。すみません」
「いやいや、気になさらず。学問上の意見の対立と個人的な友人関係は別物ですからね」
 この教授も、そして相手側の教授も、かなりの人格者のようだ。確かに、これは互いに手ごわい相手同士といえるのかもしれない。
「ただ、ちょっと気になるのは、最高裁が憲法判断を回避する可能性もあるという点ですな」
 最高裁が「取るに足りない犯罪についてことさらに逮捕起訴するのは裁量権の逸脱・濫用であり違法な捜査権力の行使であるから、被告人は無罪」という弁護側の主張を全面的に採用した場合は、憲法判断はされない可能性が高い。
 なぜなら、憲法判断以前の段階で無罪である以上、その判断をする必要性がまったくないからだ。
「それならそれで構いません。被告人の権利利益を守ることが、刑事弁護人の役目ですから。無罪が勝ち取れれば理由は何でもいいですよ」
「ほう。柊弁護士は、徹底的に実務家なんですな。世の中には政治的な目的で裁判を起こすような輩も少なくないのに」
「靖国参拝訴訟なんかで敗訴して喜んでるような輩は、私は嫌いです。法廷は政争の場ではありません。政争をしたいなら、国会でもマスコミでもネットでも、そのための場所はいくらでもあるでしょう」
 損害賠償請求は棄却されたのに判決の中で違憲判断が出されたということだけで喜んでいるような輩は、かがみにとっては軽蔑の対象だった。
「お若いにしっかりした考えをお持ちなんですね。気に入りましたよ。私もできる限り尽力させていただきます。法学は実学ですからな。実際に役立ってなんぼのものです」
「よろしくお願いいたします」
204 :柊かがみ法律事務所──二次元児ポ単独所持処罰事件 [saga]:2009/07/20(月) 12:50:55.32 ID:.kf9JvQ0


 それからしばらくして、今回の事件の被告人二人が柊かがみ法律事務所を訪れた。
 この程度の犯罪で勾留されることはなく、二人とも在宅起訴だったのだ。
「やぁ、かがみちゃん。邪魔するよ」
「やふー、かがみん」
 相変わらずの挨拶を聞いて、かがみはげんなりした。
 そう、二人の被告人とは、泉こなたと泉そうじろうにほかならない。
 児童ポルノとして警察に押収されたブツは、ロリ物のエロゲーだった。しかも、逮捕起訴までされたにもかかわらず、懲りもせずにエロゲー(さすがにロリ物は避けてたが)を買い込んできてやり続けているらしい。まったくもって、あきれ果てるばかりだ。

 二人を個室に案内して、机に向かい合わせで座った。
 かがみは、あえて他人行儀にこう切り出した。
「私個人としては、エロゲーをするような人は軽蔑の対象です。それでも、お二人はわたくしに弁護を依頼し続けますか?」
 これは最終の意思確認だった。
「もちろんだよ。かがみん」
「まあ、軽蔑されるのは慣れてるからね。いまさらだよ、かがみちゃん。仕事に私情をまじえたくないっていうかがみちゃんの考えもそれなりに理解はしてるつもりだ。だから、かがみちゃんのやり方でやってくれて構わないよ」
「そうそう。かがみに任せるから好きにやってくれて構わないよ」
 二人ならきっとこういうだろうということは、かがみにも分かってはいた。
 それでも、確認したかったのだ。
「分かりました。弁護士としてできる限りのことはやらせていただきます」


 最高裁大法廷での第一回口頭弁論は一ヵ月後に予定されていた。


終わり
205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/20(月) 12:53:25.36 ID:.kf9JvQ0
以上です。

 とりあえず現行法案は廃案になる見込みのようですが。
206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/20(月) 13:37:44.74 ID:c2XNZlc0
>>205
GJ
例の法案が実際どんなものかわかんないけど、ネット上で危険だ危険だ騒がれてるから、廃案になるみたいでとりあえず安心してる俺です。
こういうの無知のまま過ごすのは良くないかなあ。

被告人はどっかの知らない人かなーとか思ってたら、そういえばかがみの身近にはわかりやすい被告人候補がいたなww
207 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:25:02.10 ID:z0v.goI0
投下いきます。

白雪はそまらないの完結編です。
208 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:26:09.28 ID:z0v.goI0
「エターナルフォースブリザード!敵じゃなくてわたしが死ぬ」
「変なこと言ってないで歩きなさい!」
 吹雪の中、かがみとこなた、それにつかさとゆたかがボイラー施設を目指して歩いていた。
 吹雪が収まってきているとはいえ、雪に関しては素人の四人が歩くにはなかなか大変だった。
「だってかがみー。寒いよ歩き難いよー…ってか、ゆーちゃんとつかさ大丈夫?」
 こなたは振り向いて、お互いを支えあうようにして歩いている、ゆたかとつかさに声をかけた。
「う、うん…なんとか」
 つかさがそう答え、ゆたかは無言で頷いた。
「アレね…」
 かがみは吹雪の中に見える建物へ、真っ直ぐ向かった。そして、入り口に近づきドアノブに手をかける。と、そこでかがみは振り返り、後ろについてきていた三人の方を向いた。
「中に入る前に、一つだけ約束して」
「な、何?」
「これから、何があってもわたしを信じて。勝手な行動は絶対にしないで。いいわね?」
 三人は顔を見合わせた後、ほぼ同時に頷いた。それを見たかがみは頷き返して見せると、ボイラー施設の入り口をゆっくりと開いた。
 外とはうって変わって、少し蒸し暑さを感じる施設内。かがみは、他の三人が入ったのを確認した後、ドアを閉めた。
 防音がしっかりしてるのか、外の吹雪の音は全く聞こえなくなった。そのかわりに、ボイラーの低い駆動音が響いていたが。
 かがみは、少し薄暗い施設内に向かって大きめの声で呼びかけた。
「いるんでしょ?出てきなさいよ…みゆき」



- 白雪は染まらない〜解決編〜 -



209 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:27:48.84 ID:z0v.goI0
 かがみの呼びかけに答えるように、人影がゆっくりと暗がりの中から出てきた。こなた達が目を凝らしてみると、それは確かにみゆきだった。みなみが着ていたのと同じ防寒具を着ている。
「…ゆきちゃん…生きてたんだ…」
 つかさが呟く。それが聞こえたのか、みゆきは力なく微笑み顔を伏せた。
「あの死体、やっぱりみゆきさんじゃなかったんだね」
 こなたの言葉に、かがみが頷く。
「じゃ、アレは一体誰?」
「…そうね…どこから話そうかしら?…それともみゆき、あなたが話す?」
 かがみがそう言うと、みゆきは首を振った。
「そう、自分で言う気はないのね…じゃ、わたしが説明するわ」
 かがみは顎に手を当てて、少し考え込んだ。
「そうね…まずは…あの場所で、本来死んでいたのはみゆきだったのよ」
「え?どう言う事?」
 こなたが驚いてかがみの方を見た。
「つまり、みゆきを殺そうとしてた人がいたってこと…それが、みなみちゃん」
「み、みなみちゃん!?」
 かがみが出した名に、ゆたかが反応する。かがみはゆたかの方を向いて、はっきりと頷いた。
「どうして…みなみちゃんが…あっ、まさか…」
 ゆたかはみなみの動機をかがみに聞こうとして、それに思い至った。
「そうよ、みなみちゃんとみゆきは旅行が始まる前から不仲だった…それが恐らく動機」
「みゆきさんがみなみちゃんを…って可能性は無いの?」
 こなたがそう聞くと、かがみは首を横に振った。
「無いと思うわ。少なくとも、今日のスキー場での一件を見る限りでは、みなみちゃんが一方的にみゆきに敵意を抱いていたみたいね…この旅行にみなみちゃんを誘ったこともそうだけど、みゆきの方はみなみちゃんと仲直りしたかったんじゃない?」
 かがみがみゆきの方を見ると、みゆきは小さく頷いた。かがみはそれを見ると言葉を続けた。
「そして、みなみちゃんはそれを利用して、今回の殺害計画を立てた」
 かがみの言葉に反応するものはいない。まだ信じられないのだ。自分の親友が、後輩が、そんな事を企てていた事を。
「まず、みなみちゃんはオーナーさんからいつ吹雪くかを聞き出しておいた。そして、吹雪が来る今日に決行した」
 かがみは腕を組んで左右にうろうろしながら説明を続ける。
「あの時は偶然みゆきが原因で揉め事が起きたけど、それがなかったら、恐らくみなみちゃんが自分でみゆきとの揉め事を起こすつもりだったんでしょうね」
「どうして、そんなことを?」
「一つは自分が夕食の席に出なくても、みんなが納得する理由を作ること。そしてもう一つは、みゆきを部屋に一人にすること。みゆきに罪悪感を抱かせ、みんなから遠ざけようとしたのね…そして夕食の時、みなみちゃんはみゆきの部屋に行って、ベランダの部屋から見えない位置にロープを結び付けておいた」
「みゆきさんまで夕食断って、部屋にこもるって可能性は考えなかったのかな?」
「その辺りは賭けみたいな部分もあったんだろうけど、みゆきは誘われればあまり断らないからね…その辺も計算に入れてたのかも」
「…なるほど」
「続けるわよ…そうやって外から部屋に入り込める準備を整えたみなみちゃんは、みゆき以外の人間が一階にいることを確認して、オーナーさんにボイラー施設の様子を見に行くと言って、外に出た」
「二階に二人きりだったんだから、そのままみゆきさんの部屋に行って…てのは考えなかったのかな?」
「それだと、みなみちゃんがすぐ怪しまれるじゃない」
「あ、そっか…」
「外に出たみなみちゃんは一旦ボイラー施設に行って、薪割に使ってた斧を持ち出して、みゆきの部屋に向かった。そしてベランダに結んだロープを使って登り、部屋にみゆきしかいないことを確認して、窓を叩くなりしてみゆきを自分に気付かせ中に入れてもらった」
「まって、かがみ。そのみなみちゃんの行動、すごく怪しいじゃない。みゆきさんがすんなり中に入れるのかな?」
「こなたはみゆきが吹雪の中で立ちんぼうになってるみなみちゃんを、怪しいって思って放置しとくと思う?」
「…思わない」
「でしょ?まあ、みゆきじゃなくても、どうしてそんなところにいるのか、理由を聞くために中に入れると思うわ…で、中に入ったみなみちゃんは、二人きりで話がしたいとか理由をつけて部屋の鍵を閉め…みゆきを殺した後、外から窓を叩き割って外部の犯行に見せかけようとした。斧を凶器に選んだのはこのためね。窓を割ったのはドアから出て行くのはおかしいし、普通に出て行った場合は窓の鍵が開いたままになって、みゆきが窓から侵入者を招きいれた…つまり、親しい人物の犯行だとばれてしまうからよ」
 誰かが息を呑むのが聞こえた。
210 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:29:10.86 ID:z0v.goI0
「かがみ…でも、みゆきさんはここに…」
 震える声でいうこなたに、かがみは頷いて見せた。
「そう、みゆきは生きている…逆にみなみちゃんを殺してしまったから」
 ボイラーの音が大きくなったような気がした。沈黙の中、こなたがゆっくりとみゆきの方へと視線を向ける。
「じゃ、じゃあ…あの部屋で死んでたのは…」
「ええ、みなみちゃんよ」
 ふらりと、ゆたかが後ろに倒れそうになる。隣にいたつかさが、慌ててその身体を支えた。
「みゆき。ここまでで何か言う事は?」
 かがみがそう聞くと、みゆきは首を横に振った。
「ありません…」
 そして、消え入るような声でそう言った。
「まあ、みなみちゃんがしたことはみゆきには分からないから、正解かどうかは分からないわよね…で、ここからはどうするの、みゆき?」
 かがみにそう言われたみゆきは、ゆっくりと顔を上げた。
「かがみさんは、どこまで分かっているのですか?」
「…あなたが何を考えていたのかは分からないけど、やったことは大体分かるわ」
 かがみがそう言うと、みゆきは再び顔を伏せた。
「そ…じゃあ、こっちで話すわ。さっきも言った通り、みなみちゃんはみゆきの部屋の中に入った後、みゆきを殺そうとした…でも、それは上手くいかず、逆にみなみちゃんが殺されてしまった。まあ、故意ではないでしょうね。みゆきが抵抗してもみ合っているうちに…ってところかしら」
「あ、じゃあ、ガラス割れる音の前に聞こえたアレって…」
「ああ、そういえばそんな事言ってたわね。そうね、みゆきとみなみちゃんが争っていた音だったのかもね…それで、みなみちゃんを殺してしまったみゆきは、自分とみなみちゃんの着ている服を入れ替え、斧でみなみちゃんの首を切り落として窓から外に出て、窓を叩き割ってベランダから飛び降り、ボイラー施設に入ったってわけ」
「…どうして、分かったのですか?」
 みゆきが呟くようにかがみにそう聞いた。
「そうね…不自然な点が三つあったからかしらね。一つは窓の割れたタイミング。もう一つは、、みなみちゃんが帰ってこなかったこと…そして、首が切り落とされていたこと」
 顎に手を当てて、考えを整理しながらかがみが言葉を続ける。
211 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:30:58.65 ID:z0v.goI0
「窓が割れた音を聞いたわたし達は、すぐに二階へと上がった。みゆきの部屋の異変に気がつくまで、数分もかかっていないわ。そんな短時間で、みゆきを殺して首を落とすなんて出来ないわね。それに、外からこなた達がドアを叩いて呼びかけていたから、それに気がついたみゆきが助けを求めてくるはずだしね…」
「みなみちゃんが帰ってこないって、そのままどこかに逃げたって考えなかったの?」
「それも考えたけど…そうね、みゆきを殺した後逃げるっていうのなら、それこそこなたが言った通り、二階に二人きりになったときにみゆきの部屋に直接行って、事が終わったらそのまま出て行けばいい。いいんだけど、防寒具の問題があるわね。いくらみなみちゃんが雪に強いとは言え、吹雪のきつい時にスキーウェア程度じゃまともに外を歩けるとは思えないわ。だから、防寒具の調達とアリバイ作りのために、オーナーさんにボイラー施設を見に行くと言ったのよ」
「首のことは?」
「みなみちゃんが犯人だとしたら、みゆきの首を落とす理由がないわ。首を落とす理由って色々あると思うけど、一番大きいのはその死体の身元を分かり難くする、もしくはめつの人間だと誤認させる事だと思うの。でも、死体があったのはみゆきの部屋。死体が着ていたのはみゆきの服。首が無くても、その死体がみゆき以外と誤認できないわ」
 そこでかがみは、みゆき以外の一同の顔を見渡した。
「現に、わたしも含めてここにいるみんなはアレをみゆきだと認識した。だとすれば、みゆきを殺してその死体をみゆきと誤認させる…そんなおかしな話は無いわね。そして、首を落とすという作業を加えることで、どんなリスクが発生するか分からない。みなみちゃんにそうする理由は全く無い。にもかかわらず、首は落とされていた…なら、首が落とされていたのは、みゆき以外の誰かの死体をみゆきと誤認させたかったと考えるのが、自然じゃないかしら?」
 かがみはみゆきの方を向いた。みゆきは変わらず顔を伏せている。
「これ以上は、わたしには分からないわ…みゆき。あんたが、何を思ってこんなことやったのか。それを言えるのはアンタだけよ」
 それでも、みゆきは顔を上げない。
「…本当に、殺すつもりは無かったんです」
 しかし、俯いたままみゆきは呟くように話し始めた。
「ただ、みなみさんを止めようとしていただけなんです…でも、気がついたら、みなみさんが動かなくなっていて…どうしようって、ただそれだけ考えて…わたしはわたしを殺すことにしました…みなみさんはそうしたかったでしょうから」
 みゆきの声に嗚咽が混じる。
「…分かっていたはずなんです…こんなことしても何にもならないって…でも、このままだとみなみさんが可哀相だと…みなみさんがやりたかったことを、成し遂げさせてあげないとって…それだけ思って…」
 後はもう言葉にならなかった。施設内をみゆきの嗚咽だけが響く。こなたもつかさもゆたかも、何を言っていいか分からず、無言でみゆきを見つめているだけだった。
「みゆき…みなみちゃんはどこ?」
 かがみが腕を組んだまま、みゆきにそう聞いた。
「どこってかがみ…みなみちゃんはあの部屋に…あ、もしかして」
 こなたが何に気がついたか察したかがみは、こなたに頷いて見せた。そして、みゆきに向き直る。
「あんたが何処かに捨ててくるっての、考えられないから…あるんでしょう?みなみちゃんの残りの部分…首が」
 かがみがそう言うと、みゆきは施設の奥の方を無言で指差した。一同がそちらの方を良く見ると、人の首らしきものが見えた。
212 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:32:43.99 ID:z0v.goI0
「…み、みなみちゃん…みなみ…ちゃん…」
 ゆたかがソレに向かい、ふらふらと歩き出す。しかし、かがみが腕を前に出してそれを制した。
「かがみ先輩…」
「こなた、ゆたかちゃんを押さえといて…わたしが行くわ」
「え、でもかがみ…」
「いいから。言ったでしょ?『わたしを信じて』って」
「…うん」
 こなたがゆたかを軽く抱きしめるのを確認したかがみは、施設の奥へと向かった。そして、首らしき物の前に立ち、一つ頷くとつま先でソレを蹴り倒した。
 なんとも言えない沈黙が施設内に広がる。
「ちょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」
「かがみなにしてんのぉぉぉぉぉぉぉっ!!??」
 そして、つかさとこなたの叫び声が響き渡った。ゆたかはこなたの腕の中からずるずると滑り落ちて、床に座り込んだ。
 かがみは溜息を一つつくと、蹴り倒したものを拾ってこなた達の方に歩いてきた、そして、手に持ったものをこなたに投げ渡した。
「わ、わわわ…ちょ、かがみ…」
「よく見なさい」
「え?………あ、あれ?これって…マネキン?」
 こなたが手にしていたのは、髪型こそみなみと同じだったが、顔はぬっぺらぼうのマネキンだった。
「そ、マネキンよ…で、ここにあるのがソレってことは?」
「え…あ…もしかして…部屋にあったアレも…?」
「そ、アレも人形。あっちはマネキンって感じはしなかったから、蝋人形かなにかかしらね」
「はい、あちらは蝋人形です。マネキンだと、パッと見でばれてしまいそうでしたから」
 聞こえてきた声にこなたが振り向くと、そこにはいつもの笑顔をたたえたみゆきが立っていた。
「どこでお分かりになりました?」
 みゆきがかがみにそう聞くと、かがみは腕を組んだまま答えた。
「こなたがね、あの死体もどきをつついたのよ。それで『堅い』って言ったのよね」
「え、でもあれって凍ってたんじゃ…」
「こなた、よく思い出して。床やベッドの上がどうなった?」
「…確か、ぐしょぐしょになってた」
「そうよ。ペンションの暖房は、部屋ごとじゃなくて全館同じ温度にしか出来ないって言ったわよね?それはあの部屋も例外じゃないのよ…吹雪が入り込んでいたから寒いって錯覚してたけど、少なくともベッドの上くらいまでは雪が溶けるくらいの温度だった。だったらそこにある死体が凍りつくってことはないのよ」
「あ…」
「だから、あれは凍らなくても堅いもの…人形だって思ったのよ」
「じゃ、じゃあ、最初から誰も…」
「そう、誰も死んでない。これは、みゆきが仕込んだお芝居だったのよ…そうよね、みゆき?」
 かがみがそう言うと、みゆきは頷いた。
「はい。流石はかがみさんですね」
 嬉しそうなみゆきに、かがみは溜息をついた。
「まったく…ちょっと性質が悪いわよ?」
「ふふ、でもかがみさんは少し楽しそうでしたよ?」
「う…いや、それは…みゆきのお芝居って気付いたから、ちょっと探偵役でノッてあげようかなって…」
 そっぽを向くかがみの袖を、こなたがクイクイと引いた。
「なに?こなた」
「えっと…なにがどうなってるの?」
「あーっと…最初から説明するわ。みゆき、間違ってるところあったら言って」
「はい」
213 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:34:19.83 ID:z0v.goI0
「多分、みゆきとみなみちゃんはこの旅行が始まる前からこの計画を立ててたんでしょうね。んで、ゆたかちゃん経由でみなみちゃんを誘ったり、旅行が始まってから一言も口聞かなかったりして、自分たちが不仲であるように見せた…みゆきがゆたかちゃんにスキーでぶつかりかけたってのもわざとかしら?」
「はい、予想以上に近くまで行ってしまい肝を冷やしましたが…あの時はすいませんでした」
 みゆきがゆたかに向かって頭を下げる。ゆたかは唖然としているようだった。
「後は、大体最初の推理どおりに事を運んでいったんでしょうね。みゆきとみなみちゃんがグルなんだから、食事の時にみゆきが一階に下りないとか、偶発要素が無くなるから楽なものよね」
 そこで、かがみが一旦言葉を切ってみゆきの方を見た。間違ってないと答えるかのように、みゆきが頷く。それを見たかがみが話を続ける。
「違うのは、みなみちゃんが外に出てからね。ボイラー施設に隠してたのか、みゆきの部屋の下に隠してたのか…蝋人形だから溶けないように部屋の下かしらね…とにかく人形をベランダから下げたロープに結び付けて、ベランダによじ登った後で引き上げた。そして、部屋の中にいるみゆきを呼んで中に入り、人形にみゆきの服を着せてベッドに寝かせる。後は二人とも外に出て、窓を割ってベランダから飛び降りた…みゆきはそのままここにきたみたいだけど、みなみちゃんは?」
「みなみさんはペンションの方にいます。先ほど連絡を入れておきましたから、そろそろ来る頃だと…」
 みゆきが懐から無線機を取り出してそう言った。その直後に、施設のドアが開いてみなみが入ってきた。
「…ど、どうも」
 みなみが申し訳なさそうに頭を下げる。
「連絡って何時の間に…」
「わたしたちが、マネキンの首に気をとられてる間にでしょうね…みなみちゃんはみゆきの部屋から出た後、すぐにペンションの玄関にいって、わたしたちが二階に言っている隙に中に入ったんでしょうね。入るタイミングは…あの時下にいたオーナーさんが合図を出したのかしら?」
 かがみがそう聞くと、みなみは黙って頷いた。
「え、まってかがみ…じゃ、オーナーさんもグルだったってこと?」
「そうよ。当たり前じゃない。窓割って部屋を雪まみれにするようなこと、オーナーさんの許可なしで出来るわけ無いじゃない」
「あ、そっか」
「被害者も加害者も、舞台の責任者もグルなんだから、どんなトリックも作りたい放題よね」
「あ、それで反則…」
「そういうこと…ま、今回はそのトリックを解かせるのが目的だったみたいだけどね。ベランダにロープを残したままだったのも、ヒントのつもりだったんだろうし」
 そういいながらかがみがみゆきの方を見ると、みゆきは嬉しそうに頷いた。
「はい。旅行に少しサプライズをと思いまして…楽しんでいただけましたか?」
 みゆきがそう言うと、こなたとつかさの二人がげんなりとした表情を見せた。
「…楽しんだというより、疲れたよみゆきさん」
「そうだよゆきちゃん。わたし、本気で怖かったんだからー」
「そうでしたか。もう少し内容をソフトにするべきでしたね」
 こなた達に向かって、少し困った顔で答えるみゆき。それを見ていたかがみは、ふと思いつくことがあってみなみの方を見た。
「そう言えば、みなみちゃんはどうしてわざわざペンションに戻ったの?みゆきと一緒にここにいた方が、変なところでバレるリスクは少なかったでしょうに」
「…それは…わたし、ここの蒸し暑さが苦手で…あんまり長く居たくなかったんです…」
「なるほど…でも、あんまりこういうこと安請合いしないほうがいいんじゃない?」
「…みゆきさんには、よくお世話になってますから、断りきれなくて…あと、わたしも少し、おもしろいかなって思ってしまって…」
「そっか…ま、結構悪ノリしてたわたしが言えたことじゃないとはおも…」
 かがみはそこで言葉を失った。何かおかしい。なんでこの蒸し暑いボイラー施設の中で、こんな冷気を感じるのか。
214 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:36:08.04 ID:z0v.goI0
「…みなみちゃん…高良先輩…」
 心まで冷えそうな声。聞こえてくるほうを見ると、床に座り込んでいたゆたかが、ユラリと立ち上がるのが見えた。そして、ゆっくりとみゆきとみなみの方へと歩いてくる。
「…少し、おはなししましょうか…?」
「ひっ!?こ、小早川さん…これは…その…」
「ゆ、ゆたか…わたしは…」
 にじり寄ってくるゆたかに対し、みゆきとみなみは動けないまま首を横に振るだけだった。まるで、目の前の小さな少女が生存本能を脅かすかのような、恐怖の対象であるかのように。
「ゆ、ゆたかちゃん、ちょっと…」
 かがみがゆたかの方に行こうとすると、誰かに袖を掴まれとめられた。
「…あれはもう無理だよかがみ。ゆーちゃんが本気でキレた」
「…ヤバイの、それ?」
「昔、ゆーちゃんを本気で怒らせたことあるんだけど………鼻水垂らしながら泣いて謝る羽目になったよ」
 かがみは息を呑んだ。こなたにそこまでさせる恐怖が、ゆたかの中にあるというのか。
「…行こう。わたし達に出来ることは、もう何もないよ」
「う、うん」
 こなたに促されて、かがみは恐怖で震えているつかさを連れて、施設の出口へと向かった。
「ゆたか…そ、その…わたしが悪かったから…ま、待って…」
「あ、か、かがみさん…待って下さい…た、助け」
 みゆきの助けを呼ぶ声は、無情にも閉まるドアに遮られた。


 外はもう風が凪ぎ、雪だけが深々と降り注いでいた。
「さて、どうする?」
 こなたがそう聞くと、かがみは溜息をついた。
「とりあえず、寝たいわ」
「…そだね」
 つかさがかがみの意見に同意し、三人はペンションへと歩き出した。
 ふと、かがみはみゆきが言っていたという首狩鬼のことを思い出した。みゆきが知っててオーナーが知らなかったあれは、わざと不自然さを残すためのみゆきの演出だったのだろうか。
 かがみはボイラー施設の方を見た。そして、思う。
 首を狩るかは分からないけど、鬼というものはたしかにいた…と。


- おしまい -
215 :白雪は染まらない [saga]:2009/07/20(月) 16:38:24.53 ID:z0v.goI0
以上です。

今回は、どこか矛盾がないかかなり心配です。

完結編を書くために推理編を読み返したのですが、その時思ったのは「こなた、怪しくね?」でした。
こちらとしてはそのつもりは全くなかったんですが、騙された人いるのかな…。
216 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/20(月) 17:22:46.90 ID:.kf9JvQ0
>>215
 乙です。
 オチは予測してたけど、かがみがノリノリですな。
 鬼と化したゆーちゃん。見てみたい。誰か描いてくれないかな。


>>206
 感想ありがとうございます。
 二次元の女の子(男の子)のポルノも規制ってことになれば、泉家が真っ先にやばいぜと思ったので、書いてみました。


 現行法も改正案も短いものですので、読んでみてはいかがでしょうか。
 参考↓

改正案に関する簡潔な解説記事→毎日新聞の今日(20日)の記事
ttp://mainichi.jp/select/wadai/news/20090720ddm012040023000c.html

現行法
ttp://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

自民党案(提出時)
ttp://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16901032.htm
付則の2条が、いわゆる二次元の女の子(男の子)のポルノの規制についても将来に向けて調査研究するって部分ですね。
217 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/20(月) 18:53:00.83 ID:cWgRhzs0
二次元の児童ポルノ規制はどう考えてもおかしいでしょ
児童ポルノが犯罪でもそれを表現する自由はあるはず。
それがダメと言うなら、他の犯罪を題材にした物でも全て犯罪になってしまう。
218 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/20(月) 18:53:18.98 ID:WvkrVmso
みさお誕生日おめでとう

そして俺も誕生日おめでとう
219 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/20(月) 19:34:19.59 ID:c2XNZlc0
みさお「夜7時になんねーと祝ってもらえねーなんて、ホント忘れられてんだなあ……」
あやの「まあ気にしないで。そういえば今日は海の日ね」
みさお「だなー。もっと昔だったら海の日は20日で固定だったなー」
あやの「今は第三月曜日になったよねー」
みさお「そんで小学校の頃とかいつも当日に誕生会で盛り上がってたんだけどなー」
あやの「そういえばそうだったねー」
みさお「さらには水泳とか得意だったから海のみさおとまで呼ばれたりー」
あやの「ああ、あったような……」
つかさ「背景は背景らしく海に沈んでればいいのに」
みさお「海はいいよなー安らぐっていうかなー」
あやの「そうねえ……」

みさお・あやの「「ん?」」


>>216
丁寧にありがとう、だが難しくて読む気がしなかったww
法律家ってすごいな……
220 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/20(月) 22:55:52.90 ID:GAenz.go
>>205
乙gj! 恣意的な捜査がされるのは目に見えてるもんなぁ
にしても泉家ww

>>215
騙されたよちくしょう! 
死体とか不自然の方はわかったが、反則ってそういうことか
GJ! ゆたか恐ろしすぎる……

>>219
黒いぞつかさww

みさお誕生日おめでとう! 完全に忘れてたってヴぁ☆
221 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/21(火) 00:00:10.01 ID:0x/bxako
それでは、これより第15回コンクールの投票を開始いたします
気に入った作品にあなたの一票を投票してください
締め切りは7月27日となっております

222 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/21(火) 00:01:15.56 ID:0x/bxako
投票所はこちらです
http://vote3.ziyu.net/html/lkstxv.html


肝心のURLを忘れていたw
223 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/21(火) 01:11:36.10 ID:S9CVdQDO
>>215
乙です
なかなか楽しめました

もう一人こなた辺りが失踪するか、死体になってたらもう一ひねりされたかもな
224 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/21(火) 12:23:10.42 ID:/9DvbDE0
トップページ、コンクール開催のお知らせの所、投票所はこちらの
前後に、今回のコンクール作品に直接ジャンプする項目を追加したらどうでしょうか?
前回はそうなってかな?
いかがでしょうか?
自分で編集できればやるのですが、やり方がわかりません。
225 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/21(火) 12:32:56.66 ID:.BzJDvs0
>>224
やっといたよー
226 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/21(火) 20:41:42.49 ID:Z4.6M3g0
>>225 
すばやい対応ありがとうございます
227 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/22(水) 21:40:29.37 ID:6g2gFgSO
こなた「かがみー…」
かがみ「な、なに?そんな死にそうな顔して」
こなた「…ドラクエ終わんない」
かがみ「シランガナ」
こなた「そして八月一日にはモンハンがぁー…」
かがみ「…いや、少し落ち着け」
こなた「わたしもエンドレスエイトしたいよぉ」
かがみ「それ、リセットされるからな」
228 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/22(水) 21:50:21.56 ID:N8F4GMY0
つかさ「はぁ・・・」
かがみ「なによ元気ないわね」

つかさ「実はこなちゃん殺しちゃってさ・・・」
かがみ「はぁ? あんたはまた何を言って・・・」
つかさ「・・・」
かがみ「マジなの!?」
こなた「おっはよー♪」テクテク

かがみ「何よ生きてるじゃない!」スパーン!!
こなた「痛い! いきなり何すんのさ!」
かがみ「今のは心配した私の分。そしてこれは!」

かがみ「嘘をついてしまったつかさの分」スパパーン!!
こなた「ぐぇ」

かがみ「そしてこれは! 出番が無いみゆきの分よ!!」スパパパーン!!
こなた「ぬわーーーーーーっ!!」


――数日後のお葬式

かがみ「どうして? どうして死んじゃったのよこなたぁ・・・」
つかさ「悪魔だ」
229 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/22(水) 23:32:54.49 ID:Jg82cYg0
>>227
ゲーム忙しいなww

>>228
なんかおかしいぞww
230 :物思い [saga]:2009/07/23(木) 01:55:35.22 ID:bebSiLI0
投下行きます。

3レスほど短いものです。
筆者の独断と偏見に基づく人物像を基に作ったお話だと言う事を、ご理解のうえお読みください。
231 :物思い [saga]:2009/07/23(木) 01:56:32.53 ID:bebSiLI0
 人と人の間には距離がある。わたしはそう思う。
 親兄弟。親戚。友人。知り合い。赤の他人。
 それぞれの関係に、それぞれの距離がある。
 そして、個人個人にも自分の距離と言うものがある。
 最近、そんな事をわたしは思う。


- 物思い -


 例えばみゆき。
 彼女は、自分の距離というものを変えない。つかず離れず、常に一定の位置にいる。
 人の邪魔にならないが、かといって離れすぎてるわけでもない。
 話に入れる時は入ってくるし、こちらが話を振りたい時や、何か聞きたいときはいつもいい位置にいいる。
 その距離は人がよく見える。そう、彼女は言っていた。
 よく見えるから助言もしやすいし、質問にも答えやすい…と、いうことらしい。
 わたしが彼女をすごいと思うのは、人を選ばず誰にでもその距離でいられると言う事だ。わたしにはとても真似できない。
 そして、もっとすごいと思うのは、彼女が好んでその距離にいると言う事だ。
 彼女は、観察者であり助言者なのだ。それを自覚し、なおかつそれを楽しんでいる感じさえ受ける。
 わたしだけでなく、色んな人が彼女を信頼するのは、彼女が守るその距離のおかげなのだろう。


232 :物思い [saga]:2009/07/23(木) 01:58:12.04 ID:bebSiLI0
 例えばこなた。
 アイツは、自分の距離というものを持っていない。いや、自分の距離を見せないと言った方がいいだろうか。
 うんざりするほど遠くにいるかと思えば、急に傍にいたりして、驚くことが多々ある。
 そしてアイツは、そういったこちらの反応を楽しんでいるのだ。
 しかし、決して不快ではない。怒ることはあっても、アイツに対して憎しみを覚えることはない。
 どころか、そんな義理はないのにアイツの距離に合わせようとしてしまう。掴みどころがなくて、意地になって掴もうとしてしまいそうな気持ちにもなる。
 たまに、それがアイツの計算づくな罠なんじゃないかって思うときもある。
 でも、それは違う。アイツは自分に正直なのだ。そして、刹那主義なのだ。
 その瞬間瞬間の自分に正直になる。その結果、人との距離がコロコロ変わるのだ。
 その偏った距離が幸いしてか、みゆきで気付かないことに気付いたりもする。
 考えれば考えるほど、アイツの事が分からなくなるけど、それでもやっぱり嫌えない不思議な魅力がアイツの距離にはある。
 多分、そう考えてるのはわたしだけじゃないだろう。


 例えばつかさ。
 あの子は人との距離を大事にする。大事にしすぎる。そして、大事にするあまりに自分から踏み込めないでいる。
 いわゆる、人見知りというやつだ。
 大抵の人に、いい人と評価をつけるくらいに性根は優しいのに…いや、だからと言うべきか、絶対に相手を傷つけない距離にじっとしている。
 みゆきとはまた違った感じで、自分の距離を守り続けているのだ。
 しかし、高校に入ってから、あの子は自分の距離を変えようとしている。
 こなたやみゆきに出会い、今まで見なかった人との距離を知り、あの子は離れすぎていた人との距離を縮めようとしている。
 この三年間で、それがどこまで行ったのかはわたしは知らない。
 だけど、今のあの子を見ていると、本当の自分の距離というものをしっかりと掴んでいる。
 わたしには、そんな気がする。


 わたしはどうなのだろう?
 考えてみても、あまりいい答えは浮かばない。
 人のことは色々言うのに、いざ自分の事となると分からない。よくあることだと思う。
 無理矢理に答えを出すとすれば、わたしは相手に合わせて距離を変えている。
 こなたのように自分の気分で変えるのではなく、相手を見てこの辺りがいいだろうと予測して、その距離に止まる。
 そう考えると、わたしはつかさと似ているのだろう。
 ただ、つかさが相手を傷つけないようにしているのと違い、わたしは自分の体面のために、相手の心象のいい距離に自然と収まる。そんな気がする。
 つかさはこの三年間で変わりつつあるが、わたしはどうなのだろう?
 誰かに聞けば分かるような気もするけど、それは恥ずかしくてとても出来ない。
 そう思ってしまう辺り、わたしは何も変われてないのだろうか。


233 :物思い [saga]:2009/07/23(木) 02:00:11.28 ID:bebSiLI0
「くおら、かがみー」
「ふひゃっ」
 突然目の前に出現したこなたのどアップに驚き、わたしは間抜けな声を上げて後ずさった。
「きゅ、急になんなのよ。び、びっくりするじゃないの」
「急にじゃないよ。何回も呼んだのに、返事しないからさー」
「そ、そうなの?ごめん、ちょっと考え事してて…」
 思ったより深く考え込んでいたらしい。
「何か考え事?何考えてたの?」
「色々よ。能天気なアンタと違って、卒業間際になると考えることたくさんあるんだから」
 わたしがそう言うと、こなたがいかにも心外だと言わんばかりの表情を見せる。
「失礼だなー。わたしだって考えることくらいあるよー」
「ふーん。例えば?」
「さっきの物思いにふけるかがみも、結構萌えるなー、とか」
 わたしは思わず溜息をついた。年がら年中コイツはこんなこと考えているのか。
「あのね…」
 いつも通りに小言を喰らわせようとしたが、ふと思うことがあって止めた。
 距離を変えてみよう。
 なんとなく、そんな気分になった。
「…ま、こなたのそう言うところ、わたしは好きよ」
「ふひゃっ」
 今度は、こなたが間抜けな声を上げて後ずさった。
「な、何?なんなのかがみ?それはどういう意味?」
「何って、そのまんまの意味だけど」
「えー…いや…どこでフラグたったの…?」
 こなたの反応に吹き出したい衝動をこらえて、わたしは精一杯自然な笑顔を取り繕った。そして、近くにあった自販機に向かう。
「何か飲む?奢るわよ?」
「ええええー…かがみが奢りって…ホ、ホントになんなの?何を企んでるの?」
 なんだか警戒されている。さすがにおかしさをこらえきれずに、クスクスと笑いを漏らしてしまった。
「何にも企んでないわよ。ほら、選んだ選んだ」
 五百円玉を自販機に入れながらわたしが促すと、こなたは恐る恐るカフェオレのボタンを押した。
 こなたが缶を取り出すのを見た後、わたしも同じのを選ぶ。
「…なんでわざわざ同じのを…ってか、後で倍にして返せなんて言わないでよ?」
「言わないわよ」
 気分が少し高揚している。こういう距離も悪くないと、素直にそう思える。
 思ったよりもすんなりとこう言う事が出来るのは、わたしも変わりつつある証拠なのだろうか。
 もしそうだとしたら、きっかけはきっと、未だにわたしを警戒している目の前の友人なのだろう。
 わたしはそんな事を思いながら、カフェオレの缶のプルタブを開けた。

 少ししたら、この事でまたこなたにからかわれるかもしれないけど。
 今はただ、この素晴らしき友人に乾杯!


- おわり -
234 :物思い [saga]:2009/07/23(木) 02:01:29.80 ID:bebSiLI0
以上です。

ふと思いついたことを、だらだらと書いてみたりしました。
235 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/23(木) 02:11:22.04 ID:YXzIzl60
>>234
これいいな。
普段から周りのことをよく観察してるのもかがみらしい感じだし。
すごく共感できた。
GJ。
236 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/23(木) 12:23:31.64 ID:HdIGUdE0
>>234
ここまで具体的に性格を表現しているのはなかなか無かったかな。

自分がss作るとき、キャラクターの性格をイメージしながら
かいているが、この作品がかなり参考になりそうです。
GJでした。

237 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/23(木) 13:22:36.64 ID:ft0pYUSO
>>215
おつおつ。
おもしろかった。次があったら期待してますぜ

>>234
みゆきにはもう少し近づいてきてほしいなーと思う
238 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/23(木) 20:40:23.86 ID:ts9khMo0
こなた「あ〜つ〜い〜」
かがみ「そうやってダラダラしてるから余計に暑いのよ」
こなた「クーラーつけないの〜?」
かがみ「まだそんなレベルじゃないし。暑い暑い思うからいけないのよ。こう、しゃきっとした姿勢で〜」

こなた「うるさーい、暑いんだよ〜」ガバッ
かがみ「こらくっつくな! 暑、暑いって! あちぃぃぃぃ!!」ボワッ!




つかさ「ひえぇ、家が燃えてるよ〜」
ただお「(^O^)……」
239 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/24(金) 18:50:38.95 ID:fQ2LyNY0
柊家の姉妹ってみんな神社関係な名前なんだな
240 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/24(金) 19:20:07.04 ID:FJIpX2SO
そうじろう「〜♪」
ゆたか「伯父さん何してるんですか?…写真?」
そうじろう「ああ、この前の体育祭のだよ」
ゆたか「へー…あ、みなみちゃん達も写ってる………あれ?伯父さん、体育祭きてました?」
そうじろう「去年は全部撮る前に、係員に連れ出されちゃったからね…今年はこっそりと」
ゆたか(ふ、深く聞かない方がいいかな…)
こなた「ところで、お父さん?」
そうじろう「ん?なんだ、こなた?」
こなた「見知らぬ女子生徒まで写ってるのに、わたしのが一枚も無いのはなぜ?」
ゆたか(…言われてみれば)
そうじろう「………しまった」
こなた「………」

−その後

そうじろう「え、えーっと…こなたさん?」
こなた「…なに?」
そうじろう「この食べ物は一体…」
こなた「つかさ直伝、バルサミコ酢風味マヨネーズカレー」
そうじろう(…食えるのか、ソレ?)
ゆたか「お姉ちゃん…それは流石に…」
こなた「………ふん、だ」
241 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/24(金) 21:01:55.65 ID:fQ2LyNY0
wikiが更新されてる。誰だか知らないけど乙です。
242 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/24(金) 23:26:10.81 ID:xIcwEgSO
こなた「あ〜、喉渇いた〜」

冷蔵庫ガチャ

こなた「お、コーラあるじゃん。貰っちゃお♪」

グビグビ

こなた「ぷはーっ、生き返っ……およよ?」

――
―――

ゆたか「お姉ちゃんどうしたの? 顔赤いよ? 大丈夫?」
こなた「ん〜? ゆーちゃん? ん〜♪ ゆーちゃ〜ん♪」カラミツク

ゆたか「お、お姉ちゃんどうしたの!? ホントに大丈夫?」
こなた「んふふ〜♪」

そうじろう「あーっ、誰だ俺のコーラショックを飲んだのは!」


コーラショック。
それはコーラ味のお酒。
243 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/25(土) 09:57:54.10 ID:METSTl20
>>241
ていうかリレーSSとか削除されてね?
244 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/25(土) 11:13:24.17 ID:2KJQIyc0
>>241
そういや報告もないね
どういったことなんでしょ?
245 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/25(土) 11:30:59.64 ID:2aKTY7g0
見てみたが削除はされてないんじゃいか?
初期のリレーSSの

244 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/25(土) 11:13:24.17 ID:2KJQIyc0

↑こういう部分が色付きになってるぐらいか。元からなってたかも、だが
246 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/25(土) 14:01:09.91 ID:METSTl20
>>245
大喧嘩、>>678>>680がなくね?
247 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/25(土) 14:18:39.74 ID:s9KXNNA0
                        _____
                 _,.-‐'´ ̄ ̄ ̄      ̄ `ー-.、_
               ,ィ´         ;: :  ,'       `ヽ、
                /      :  /  /: :.  /           \
               /        i /  /'|: : /     /        \
           /         |:,'  / |:: ./     / :/:       ヽ、\
           /          |:-‐i-|  |::/    / :/|‐-、      ハ ̄`
            |    :.    |:: /| |  |/ ,':.   /,//|::|   :.     |
              |    :|    |:: / | |  / /:|:  /´ / |::|   :i:   | ………ここまでまとめた……
          |      :|    i|:/__ヽ|_ /人/  ,/  _/__|::|   :|:   : |
              |  i `ヽ|    |:チ弍ミz´ / / 'チ弐ミ:,'  : リ::.  |:.|
             ∨ ,' ("| i  |:|、、    j/       ノ_,ノ|/:::: :.. |/
            ∨   ヽ∨   |j       、       lノ:::::::::: : :  |
            / ,' : :;人   ∧     ヽ.__,       ´::::::::::::: : :  |
           ノ,/|: ::;:'::/ ヽ、 ∧、          ,.イ::::;/|::::::::::.: :. |
          '"   j/j:/──--、ヘ;;>-─‐-、<::::::::/ |:/|::::::/ヽ.|
              ,r'─-‐─'" ̄      ハ:/j:/   '´ |:::/
               /               }        |/
                /    /   \        /
            /   ヽ./      `ー-、.... 〈
             /    :/             λ
248 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/25(土) 15:44:40.87 ID:2aKTY7g0
>>246
本当だ。これ直さないとリレーの内容がおかしくなるね。

>>247
乙。一瞬まつり姉さんかと思ったw
249 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/25(土) 15:50:42.95 ID:2aKTY7g0
という訳で直しといた。
誰だか知らないが、自分のネタを消したい気持ちは分かるが、リレーは皆の作品だ。
勝手に消すのはダメだぞ
250 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/25(土) 19:51:14.53 ID:2KJQIyc0
>>249
他にも消されたのないのかな?
変更項目が沢山あるけど・・・・
251 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/25(土) 20:58:08.01 ID:vhpF7FUo
過去ログ読み直してたら、wikiに収録されてない
シリーズ物の続きを見つけたので追記しようとしたら、
スパム扱いされてしまった……おのれ
252 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/26(日) 01:46:03.82 ID:9KJsecSO
−まとめ人への感謝の気持ち・夏−

こなた「…暑くてやる気でない」
かがみ「…そうね」
こなた「…わたしに出来るのは、せいぜいシャツをずらしてのブラチラくらい…」
かがみ「…そんなあからさまな餌に食いつく気力も無いわ…」
こなた「…いや、別にかがみのためにやってるわけじゃ…」
かがみ「…あ、そ」
こなた「………」
かがみ「………」
こなかが「「…あっぢー…」」
253 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/26(日) 15:07:46.38 ID:UzRwBU20
>>250
イラストとか消されてるね。たぶん作者自らが消したんだと思うから
復元はしないほうがいいんだろう
254 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/26(日) 15:55:47.39 ID:V8Nj2t20
>>250
作者自らなら問題ないけど(本当は作者でも問題かも、告知ないから)
なにかの悪戯だったら問題だね
255 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/26(日) 17:15:36.50 ID:cQhTdPoo
>>254
まぁピンポイントだから本人だろうけど、ハッキリさせるためにも告知はほしいとこだ

>>247
みなみが……笑った……!
256 :コンクールレビュー [saga]:2009/07/27(月) 00:04:23.42 ID:u8wW.0.0
投票最終日になりましたので、レビューの投下行きます。

今回は色々ありまして、かなりごめんなさいな内容になってしまったのでごめんなさい。
257 :コンクールレビュー [saga]:2009/07/27(月) 00:06:02.39 ID:u8wW.0.0
こなた「はいっ!それでは第十五回らき☆すたSSコンクール、テーマは『星』のレビュー行きますよー!」
シーン
こなた「あ、あれ…?お父さん?お母さん?」
シーン
こなた「え、あの、ちょっとー………わたし一人?」


- 第十五回らき☆すたSSコンクールレビュー 〜銀河に響け色々何か〜 -


こなた「…一人でどないしろと」
???「そんなあなたに救世主!」
こなた「え!?だ、誰!?」
いのり「OLにして巫女!実は属性値が高いんです!柊いのり!」
まつり「みんなわたしの事を、ぐーたらな大学生だと思ってるでしょ!?そんなことないからね!柊まつり!」
二人「「柊姉妹(大)参上!」」
こなた「…ええーっとー…(大)というほど大きくは無いような」
まつり「どこ見て言ってるんだね、このちびちゃんは」
いのり「聞いた通りのセクハラオヤジ目線ね」
こなた「それで、本日は一体…」
いのり「はい、これ。こなたちゃんのお母さんから」
こなた「へ?…手紙?」

『前回はほとんど何も出来なかったので、今回は誰にも邪魔されないところでそう君と思う存分いちゃつくことにしました。代理を頼んでますので、後はよろしく   愛しい娘へ、母より』

こなた「…娘を愛しいと思うなら、こういうことするな」
いのり「…割と自分に正直な人なのね」
まつり「…あのおじさんの嫁だしね」
いのり「ま、そう言うわけでレビュー手伝うから、今日はよろしくね」
こなた「…はぁ、よろしくお願いします」
まつり「そんな不安そうな顔しないの!わたし達に任せなさいって!それじゃ早速いってみようー!」


258 :コンクールレビュー [saga]:2009/07/27(月) 00:07:33.22 ID:u8wW.0.0
エントリーNo.01『みんなのスター、誰かのスター』

いのり「毎度おなじみの叙述トリックものね」
まつり「良くも悪くもオーソドックスって感じかな」
こなた「関係ないけどスターって書くよりスタアって書いたほうがそれっぽいよね」
まつり「なにその昭和…」
いのり「ほんとに感性がオヤジね…」
こなた「なにか気になったことは」
いのり「そうね…なんでこの娘は、こんなべらんめえ口調なんだろうかって事くらいかしら」
こなた「それはまあ、あの人の娘ですから…」


エントリーNo.02『星に願いを』

いのり「アクセル全開の百合もの…かしら?」
まつり「そんな感じだね。なんか小ネタっぽい印象だなー」
こなた「ふむ…つか×かが、こな×みゆ、ひか×ふゆ、といったところか」
まつり「勝手にカップリングしてるし…」
いのり「まあ、作品の意図がそうっぽいし、いいんじゃない?」
まつり「ふーん………姉さん。実はわたし姉さんのことが…」
いのり「全身全霊を持ってお断りします」
まつり「冷たっ!?」
こなた(嫌われてるのかな…)


エントリーNo.03『つかさぼし』

いのり「タイトルから、ほのぼのした話だと勝手に思ってたんだけど…」
まつり「地文のみとか、なかなかインパクトのある作品ね」
いのり「そうね…ただ、未来は予測できないっていう主題と星との結びつけが少し無理矢理かなと…」
まつり「そう?」
いのり「うん…かがみが星を観察し始めるきっかけみたいなのが描かれてたら、印象も変わったかかもって思うけどね」
まつり「ふむふむ…ちびちゃんはどう思うの?」
こなた「へ?わ、わたしですか!?」
いのり「なんで携帯ゲームやってるの…」


エントリーNo.04『一番星』

いのり「例によって筆者の作品です」
まつり「例によって誤字があったりします。『、』が『。』になってたりとか、『かがみ』が『かだみ』になってるとか」
いのり「と、いうわけで以下雑談」
こなた「なにー」
まつり「姉さん、この前言ってた服買ったの?」
いのり「まだよ。給料日までは無理かしらね…服っていえばまつり。つかさの服返してあげたの?」
まつり「…実はまだだったり」
いのり「早く返さないと、かがみに怒られるわよ」
こなた(ホントに雑談始めたよ…ってか、つかさまだ返してもらってなかったのか)


259 :コンクールレビュー [saga]:2009/07/27(月) 00:09:05.06 ID:u8wW.0.0
エントリーNo.05『アルタイルに願いを』

いのり「七夕にちなんだ、SFチックなお話ね」
まつり「…このラノベって…ああ、かがみが執拗に進めてきたアレか」
いのり「読んだの?」
まつり「…本棚のどこかにはあると思う」
いのり「早く読んで返してあげなさい」
こなた(ご家庭でも、ラノベ布教やってらっしゃるのかかがみさんや)
いのり「話を作品に戻すけど、上手くまとまった話ね」
まつり「そうね。あと、大きくておしとやかになったちびちゃんとか、なかなかインパクトが…うわ、想像できねー」
こなた「失礼な。わたしだって大人になれば、この作品のおっきなこなちゃんくらいには…」
まつり「なるの?」
こなた「…そう思ってた時がわたしにもありました」


エントリーNo.06『スタアの条件』

まつり「昭和ね」
いのり「確かに…まあ、それはさておき。こっちは正真正銘のあきらちゃんものね」
まつり「芸能界なんて、博打みたいなもんだしね。反対するのもなんか納得」
いのり「母親の方が入れ込むってのも、なんかリアリティがあるわね…こういうのは、期待に応えるのが孝行になるのかしら」
こなた「まあ、孝行できる母親がいるだけ有り難いよね」
まつり「…う」
いのり「…こなたちゃんがいうと、説得力が…」
こなた「無いと思うよ?…幽霊な母親が、娘にレビュー押し付けて父親としけこんでるわけだし…」
まつり「…ちびちゃん…これ終わったら飲もうか…」
いのり「未成年にお酒はダメよ」


エントリーNo.07『星のかなたへ』

注・申し訳ありませんが、筆者は途中の方程式をあまり良く理解できませんでした。
いのり「…まつり、任せた」
まつり「なぬ!?わたしに振るか!?…ちびちゃん…」
こなた「無理」
まつり「…わたしら、つかさ以下?」
いのり「…まあ、その辺はすっ飛ばして…なんというか、難解ね」
まつり「方程式が?」
いのり「それもあるけど…物語自体が、かな?全体的に分かりづらい気がする」
まつり「ふむー………ところで、ホントにこの方程式で宇宙人のいる可能性って分かるのかな…」
こなた「それはどうだろうね。そもそも、他の星の生命体が地球人と同じように進化するって考え自体が、地球人のエゴかも知れないしね…人型が進化の果ての姿じゃなく、退化の果ての姿だってSFもあったりするし」
まつり「…あれ、もしかしてわたしたちが一番分かってない?」
いのり「…かも」

260 :コンクールレビュー [saga]:2009/07/27(月) 00:10:08.08 ID:u8wW.0.0
エントリーNo.08『星の導き』

いのり「最後の作品ね」
まつり「短いというか、消化不良というか…」
いのり「作者さん側に色々都合があったみたいだけど…やっぱり完成版?を読みたかった気もするわね」
こなた「…うおー…わたしに何があったんだー…」
いのり「このように、本人が気にしておりますので」



いのり「以上、八作品。みなさんはどのような星をこれらの中に見出したのでしょうか?」
まつり「なんというか…見事にかがみ達かあきらちゃんかの二方向だけだったね」
こなた「それはまあ、お題がお題だけに仕方ないかもね」
いのり「作品数も少し少なめだし、短めのが多かったし、お題が少し難しかったのかしら?」
まつり「うん、なんかそんな感じだよね」
かなた「あら、丁度終わった?」
こなた「…来たよ不良母さんが」
かなた「そんな事言わないでよー。親孝行だと思って、ね?」
こなた「うんまあ、いいけど…いいんだけど、お母さん」
かなた「なに?」
そうじろう「………」
こなた「お父さんが、なぜこうもやつれているのかだけは聞かせていただきたい」
まつり「…かなたさんの方はつやつやしてるわね。幽霊なのに」
いのり「…何してたんだか」
かなた「こ、子供がそんなこと気にしちゃダメよ…あ、もうこんな時間!じゃ、わたしはこれで!」
こなた「…逃げた」
まつり「それじゃ、ここで解散かしら」
いのり「そうね。それじゃ、みなさんごきげんよう」




こなた「…お父さん。生きてる?」
そうじろう「…これで死ねるなら本望だ」
こなた「あ、そ…」


- おしまい -
261 :コンクールレビュー [saga]:2009/07/27(月) 00:11:02.53 ID:u8wW.0.0
以上です。

再度、ごめんなさいな内容でごめんなさい。
みんなドラクエが悪いんです。
262 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/27(月) 02:38:02.46 ID:IE9WC7E0
>>261

いのりまつり姉妹とは意外なww

やべえ、俺も今日中に仕上げたいのに……
テキトーになったらどうしよう。
263 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/27(月) 14:13:43.04 ID:iUqV4MAO
>>261

ごめんなさいな内容なんかじゃないぜ!GJ!
最近は作品投稿しても感想少ないから、レビューがないとやってけないorz
264 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 15:11:13.44 ID:eLCxRK.0
>>261
感想が少ない件について・・・
このまとめサイトって感想を書くのがやたら難しくなっているような気がする。
同じらきすたssをやってるサイト(エロが主体)とかこなかがサイトだと
SS作品の最後に感想を書くようになっているね。結構沢山の感想が書かれてるのを目にする。
ここも作品ごとに直接感想を書けるようにできないのかな?
技術的に無理ならしょうがないけどね。

 
265 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 15:35:36.61 ID:MjKj.Mco
二番煎じですが、久々にアレです
266 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 15:37:15.23 ID:MjKj.Mco
こう「どおもー、シンクタンクのシンクでーす」
やまと「私は太ってないわよ!」
こう「いやさすが、開幕からキレのあるツッコミをありがとうやまと!」
やまと「……帰っていい」
こう「またまたご冗談を」
やまと「はぁ……気が向いたから付き合ってあげようと思えばこれだもの」
こう「そんなこと言って。やりたかったんでしょ、レビュー。ほらほら洗いざらい吐いちゃいなって!」
やまと「ああもう、そんなんじゃないって……」
こう「素直じゃないなぁ。ま、そこがカワイイんだけど」
やまと「――さっさと始める!」


◆No.1:「みんなのスター、誰かのスター」

こう「まずは恒例? の叙述トリックだね」
やまと「始めからそれ前提で書かれてるように感じたわ。トリックを用意してるのに騙すつもりがないと言うか」
こう「確かに、すぐ気付かせる作りになってるね。口もより悪いし」
やまと「……ん、まぁ。でもそこは黙っておくところだと思う」
こう「子は親を越えなきゃならないって言うけど、親が手もかけられないような壁の上にいたらどうすればいいんだろ」
やまと「それでもこの子は諦めないでその壁に挑んでるのよね。こんな気概を見習いたいものだわ」
こう「この話はマイケル・ジャクソンからヒントを得てるね。間違いない!」

こう「……娘にとって見上げるほどの絶壁、でもって胸も絶」
やまと「調子に乗るな!」


◆No.2:「星に願いを」

やまと「時期が七月でお題は『星』、やっぱり七夕の話は王道ね」
こう「中身もいい意味でシンプル。原作と比べても違和感がないから絵が想像できるよ」
やまと「地の文が個性を出してるのも結構面白いわ。まるで誰かが玄関の様子を見守ってるみたい」
こう「やっぱり、『らき☆すた』はこういう日常の一コマが一番だね!」

やまと「それで、こうは願い事したの?」
こう「したよ。『やまとがアニ研に入りますように』って」
やまと「入らないし! そもそも学校が違う!」
267 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 15:39:08.47 ID:MjKj.Mco
◆No.3:「つかさぼし」

やまと「悲しい話を淡々と語られると、やるせない気持ちになるわね……」
こう「次の瞬間、誰の身に何が起こるかなんて結局誰にもわからないんだよ。やまとが明日突然、陵桜に転入してくることもあるかもしれない」
やまと「それはないわよ。絶対に」
こう「悲喜はともかく、わりと前衛的な作品だと思ったよ。地の文だけってのは新しいんじゃない?」
やまと「セリフが十割を占めてたりするのは首を傾げたくなるけど、こういうのは読めるわね」
こう「……自分たちにメタ発言?」

こう「この星はやっぱりつかさ先輩なのかな?」
やまと「『人は死んだらお星様になる』って有名よね」
こう「じゃあ海に水葬されたらヒトデに生まれ変わる?」
やまと「私は別に生まれ変わりとか信じてないけど」
こう「あ、あれぇ……ボケ殺し?」


◆No.4:「一番星」

こう「読んでるこっちが恥ずかしくなっちゃいそうだねえ」
やまと「この、柊先輩姉妹のほっとできる話、結構頻繁に投稿されるのよね。最後に四人の友情に帰結するのが私は特に好きかな。
    こういう話を読みたくなった時にタイミング良く読める……って、前にも同じことを言った気がするけど」
こう「そんで読むたびに双子の妹が欲しくなるんだよ」
やまと「それも前に言った。……受験シーズンはストレスが溜まるわよね。私たちもちょっと喧嘩したことあったし」
こう「だねー。やまとが泣いて謝るのなんて後にも先にもあれ一度きりなんだろうなぁ」
やまと「へ、変なことまで思い出さないでよ……」

こう「ちなみに、私の一番星はもちろんやまとだよ!」
やまと「っ!?」
こう(あ、かわい……)


◆No.5:「アルタイルに願いを」

やまと「ええと……17年後に願いが叶うから、『17年前の私たち』っていう書き方になるのね」
こう「でもこの願い事って色々とめんどくさいことになりそうじゃない?」
やまと「ちょっと待って。8年のタイムラグがあるから25歳になったら同じことが起こるかもしれなくて、
    そうなったらその時も『25年前の私たちを元の世界に戻してください 』って願い事をするわけよね。
    でも、アルタイルへの願いが8年差でベガに届いて、ベガへの願いは8年前にアルタイルに届いてるから……」
こう「17歳と25歳、『元の世界に戻りたい』っていう願いがどっちの場合も2回叶えられることになるかな」
やまと「そうなる……の? じゃあ結局、自分たちが元いた世界には戻れないんじゃない?」
こう「こまけぇこたぁいいんだよ!」

やまと「深読みしすぎて知恵熱が出そう……」
こう「『17年前の私の頭が良くなりますように』って願い事したら?」
やまと「それは星に願うことじゃないわよ!」
268 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 15:40:14.09 ID:MjKj.Mco
◆No.6:「スタアの条件」

こう「No.1の続きになるんだけど」
やまと「何?」
こう「ファンのひいき目に見て、小神あきらはスターになると思うんだよ。トークも演技も歌もできる芸能人なんて今どきいないでしょ」
やまと「確かにそうかも。芸歴だって相当に長いものね。……出してる曲に演歌が多いのは微妙だけど」
こう「それもまた個性じゃん? 昔のファッションがまた流行るみたいに演歌の時代が再来するかもよ?」
やまと「それはちょっと勘弁してほしいわ……」

やまと「ところで」
こう「おん?」
やまと「お題が『星』で芸能界のスター。私的には直球だと思うんだけど、どう?」
こう「いや、スライダーとHスライダーくらいの違いは」
やまと「……どういうこと?」


◆No.7:「星のかなたへ」

やまと「これもNo.5と関係がある話になるんだけど、宇宙って、可能性があると思うの」
こう「そりゃまあ、そうだね」
やまと「宇宙は光の速さかそれ以上の速度で膨張し続けてるらしいわ。対して、人が知っているうちで一番の速さを持つのが光。
    人は宇宙の膨張に追いつけないんだから、つまり宇宙は人にとって無限の広さがあるって言えない?」
こう「なるほどなるほど。それで?」
やまと「そこで今回の『宇宙人は存在するか』になるのよ。
    地球っていう星がある以上、宇宙に人が存在する可能性は0%にはなれない。
    だから、宇宙が無限なら、私たちが与り知れないところに宇宙人が存在すると言いきることができるかもしれない」
こう「フランク・ドレイクの式は『電波通信が可能』っていう条件があるけど、それを無視するわけだ。
   0%じゃないんだから、それに無限をかけたら答えは100%になれる。そういうことでしょ」
やまと「たいして知識があるわけでもない、いち高校生の言うことだけど」
こう「いやいや、まさに無限の可能性じゃん! 私はそういうの好きだよ」

こう「それにしてもさすが、宇宙戦艦の名前だけあって宇宙に対してはロマンチストだよねー」
やまと「そのネタはもういい!」


◆No.8:「星の導き」

こう「全体に靄がかかってるような話だね。ガラスの向こうで展開されてる感じ」
やまと「最後の最後でそれが晴れるといい気分で終われるんだけど、これは仕方ないのかしら」
こう「作者本人も間に合わなかったって書いてたからなぁ」
やまと「そういえば、これもほとんどが地の文ね」
こう「セリフって、少なければ少ないほど重みが増すんだよ。こういう作風、私も今度やってみようかな」

こう「さて、私がこんな風に突然消えちゃったらやまとはどうする?」
やまと「それは、探すだろうけど。ありえないことを聞かれても……」
こう「そんなことないって。ホラ」パッ
やまと「消えた……けど、それはただの手品じゃない!」


269 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 15:41:39.29 ID:MjKj.Mco
やまと「……途中から、レビューとは名ばかりの雑談になってた気がするんだけど」
こう「まぁ、No.8で気付いて慌てて軌道修正した感はあるかな……」
やまと「これはボツじゃないの?」
こう「これはこれで趣が! ……いや、感想ってことにしとけば!」
やまと「感想ですらない部分もあるわよ」
こう「……こ、こまけぇこたぁ」
やまと「それに逃げるのはやめなさいよ……」

こう「ともかく、泣いても笑っても今日が投票最終日! 悔いのない一票を!」
やまと「無理やりまとめに入らない!」
こう「ばいにー!!」
やまと「投げっぱなし!?」


 ガタン


こう「よく考えたらさ、シンクタンクならやまとがボケる方だよね」
やまと「いや、私がシンクの方でいいじゃない」
こう「どおもー、シンクタンクのシンクでーす!」
やまと「逆! こうがボケてるでしょ!」
こう「よっし、二人でM-1目指そう!」
やまと「絶対イヤ!!」


 ブツッ
270 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 15:43:18.17 ID:MjKj.Mco
以上です

さて、どれに投票しようかな…
271 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/27(月) 17:15:48.17 ID:IE9WC7E0
>>270
こうとやまとのレビューも復活で歓喜ww
この二人はやっぱり落ち着くなあ。GJ!
272 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/27(月) 17:33:47.17 ID:pR/sZf2o
>>261>>266
二人ともGJ&thxだ
的確で泣いたww

>>264
スレ内でってことだと思うけど、まとめの方についてはその通りだなー
直接感想〜は出来るかわからない
273 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 18:24:42.69 ID:jGPqlFA0
>>264
>>272

 ちょっと調べてみたけど、ウィキのページにコメントフォームを設置する記法はあるみたい。
 ただ、既存のページのほぼ全部に手動で設置するとなると、えらい手間だ。
 それに、万が一、コメント荒らしが跳梁跋扈した場合は、管理も大変だろうなぁ。
274 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 19:39:14.80 ID:eLCxRK.0
>>273
他のサイトを見る限りコメント荒らしは鬱、シリアス系にほぼ限定されていたような
気がします。
そこの所だけ気をつければいいんじゃないかな?

既存のページは作者に作業してもらえばいいかと(付ける、付けないは自由で)
新規はコメントフォーム付けないような要望がない限り付ける方向でいけば問題ないかな?
275 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 20:05:58.57 ID:IE9WC7E0
さあて、スレの流れをぶった切って三本目投下。
相変わらず長くてネタ成分が強いですが、ご了承を。
276 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:07:00.36 ID:IE9WC7E0
深夜


かがみ「……ねえ、後いくつ?」
つかさ「え、うぅーん……今4つ目……」パラッ
かがみ「まだ半分ってこと? もう……」
つかさ「うぅ、ごめん……」
かがみ「はあ……ホント、土壇場になって焦るのはテスト前と一緒ね……」
つかさ「うぅ……」
かがみ「わかってると思うけど、明日はテレビだからね。流石に『読み切れませんでした』は無いからね?」
つかさ「……」
かがみ「私もう寝とくわ。流石に遅いし……
     大雑把でいいから最後まで読んどきなさいよ」ガラガラッ
つかさ「はぁい……」

パラッ

つかさ(あと4つ……もう間に合わないよ……
     …………
     そういえばなんで私達テレビに出ることになったんだっけ……
     確か……)

かがみ(早く寝よ……
     …………
     そういえば小神って子が『収録しくじりまくったら下ろす』って言ってたような……
     つかさ大丈夫かしら……)


277 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:07:56.94 ID:IE9WC7E0
翌朝


こなた「ごちそーさーん」
そうじろう「ごちそうさまー」
こなた「よし早速」

ピッ

そうじろう「ん? この時間なんかやってたか?」
こなた「まあ見てりゃわかるよ」


らっきー☆ちゃんねる!!

あきら『おはらっきー☆ 短冊にかけたアナタの願い事、叶えてあげるっ☆
     みんなのお星様、小神あきらでーす!』

そうじろう「ああこれ見たことあるな。そんな面白いことやってたか?」
こなた「ウフフ、今日はねー」

あきら『今回はらっきー☆ちゃんねる特別編ということで、
     なな〜んと! ステキなゲストをお呼びしてますぅ〜!
     それではジコショーカイをどうぞ!』
かがみ『あ、どうも。レビューを担当させていただく、柊かがみです』

そうじろう「何っ!? かがみちゃんじゃないか!」
こなた「そーそ、私が出させたんだよー」
そうじろう「本当か!? どうやってだ?」
こなた「なんか出演者募集とか書いてあってさサイトに」
そうじろう「やるなー……」

あきら『というわけでかがみさぁん、よろしくお願いしますねーっ☆』
かがみ『はい、よろしくお願いします』
あきら『さてっ、今回はコンクール15回目ってことで、テーマは『星』!
     とってもいいお題ですねー☆』
かがみ『そうですね。軽い話から深いものまで書けるいいお題だと思います』
あきら『投稿作品は8作品! んー、チョット寂しくなっちゃいましたー』
かがみ『いつもは10作ありますからね』
あきら『というわけで! 早速一作ずつ見ていきましょー!
     レッツれびゅう☆』

そうじろう「ほうほうこれは楽しみだなあ〜」
こなた「……あっれえ? あとつかさも出るはずなんだけどなあ」
そうじろう「そうなのか? まあ後で出るんだろ、楽しみだ〜」
こなた「相変わらず目がないねぇ……」
278 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:09:14.20 ID:IE9WC7E0
★No.01 ID:TOXHdLc0氏:みんなのスター、誰かのスター

あきら『いきなり私のお話でーっす!』
かがみ『小神さんの娘さんの一人称ですね』
あきら『アレ? 私じゃないんですか?』
かがみ『よく読んでみてください。ほら最初の方の、セバ、白石くんに奥さんと娘さんがいるところとか……』
あきら『……あー! ホントだー! あきら、チョー勘違い☆ てへっ』

そうじろう「うわあ、狙いすぎだなこのキャラは」
こなた「そうそういっつも思うんだけどねー」

かがみ『コンクールで定番どころかもう慣習にすらなっている、叙述トリックですね』
あきら『うー、大失敗っ! そしたら、この作品のいいトコとかって、ありますかー?』
かがみ『まず文章構成に目が行きましたね。流麗に組み立てられてて読みやすかったです』
あきら『あ、あきらも思ったー☆ それからそれからー?』
かがみ『キャラクターがしっかり立っているところですかね』
あきら『ん、どういうことですかー?』
かがみ『小神さんの娘さんってことで、少し他人に対して冷めてるけど、
     芸能界に対してまっすぐな意識を持っているっていう人格でしっかり統一されてるってことですね』
あきら『あーなるほどぉ☆ そしたら、気になったトコはありますかー?』
かがみ『んー……ラストがちょっと、ですかね』
あきら『ラストですかー?』
かがみ『うん。「そんなことを考えているうちに、車は家についた。」で終わってるんですが……
     なんか、いまいち締まりきらない感じかなと』
あきら『うーんそうですねー』
かがみ『文章力はあると思うので、もっといい締めが書けたんじゃないかなーと思うんですが』
あきら『んーなるほどぉー』
かがみ『それでちょっと、というか結構な損をしてる作品だと思います』
あきら『ふむむ……あれっ?』
かがみ『ん?』
あきら『母親が私ってことは……私早死にしてるんですかぁ!?』
かがみ『ええまあ、そういうことに……』
あきら『えっと、それで……クソ性格悪いオトコと[ピーーー]しちゃった!?』
かがみ『ちょっ! ええっとあとで修正は入……』
あきら『私ぁ性格もいいオトコしか[ピーーー]させないっつーに!!
     ちょおっと街で声掛けられて[ピーーー]とか言われてほんで[ピーーー]で[ピーーー]とか……』
かがみ『タンマタンマ!! あんま耳に悪いことばっか口にしないでくださいぃ!!』

そうじろう「初っ端ひどいことになってるな……」
こなた「これもキャラらしいけどねえ……かがみこれからどんだけ苦労するのかな」
279 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:10:58.51 ID:IE9WC7E0
★No.02 ID:W/rIzsSO氏:星に願いを

あきら『さあ二つ目は七夕のお話でっす!』

そうじろう「入れ替え早いな」
こなた「流石芸歴長いことはあるネ」

あきら『学校の七夕イベントで、つかささん達がアレやコレ、ちょっとアレなことやっちゃうんですよねー』
かがみ『んまあ、あんまり言葉には表しやすくない内容ね……個人的に』

こなた「照れてるねー、いいねいいね」
そうじろう「ああいい表情だなー」

あきら『さて、それではこの作品のいいトコはっ?』
かがみ『んー……勢いが、ある所とか』
あきら『あー、なんかわかりますっ』
かがみ『うーんあとは……』
あきら『アレー? 他にはないんですかー?』
かがみ『小神さんは何かあります?』
あきら『え、私ですかぁ? んーっと……「あかしお」? とか、なんか難しい表現があるとことかー?』
かがみ『「紅潮」のこと言ってます?』
あきら『あ、「こうちょう」って読むんですかー?』
かがみ『はい……』
あきら『あきら知らなかったー。ウッカリ☆』

そうじろう「また出たな」
こなた「さすがにしつこいよねー」

あきら『それからそれから?』
かがみ『えっ? 今小神さんの方に話振ってなかったかしら?』
あきら『あれっ? あ、そっかー! 何かいいトコ挙げるんですよねっ?』
かがみ『はい……まあ、なければ気になったところでも』
あきら『んー……わっかんない☆』
かがみ『ええっ?』
あきら『大体かがみさんの役割じゃないですかー、ちょーしょたんしょとか言うのは』
かがみ『んーそう……』
あきら『はあ……あー役割とかナントカで思い出したけど白[ピーーー]、
     アイツ役目とか何とか全っ然わかってないんだわ。
     おめぇはアシだっつーになぁんかの拍子ですぐ出しゃばりやがるし……』
かがみ『そうですか……』

そうじろう「また入れ替わったな……」
こなた「ツンとデレってレベルじゃないね」
280 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:11:58.06 ID:IE9WC7E0
★No.03 ID:Pk/ZvaY0氏:つかさぼし

あきら『つかささんが死んじゃってあらら〜な話ですっ』
かがみ『主題は「未来とは予測不能なもの」、というところですね』
あきら『えー……えっ?』
かがみ『ん? あ、ああー……はい。わかりました』

こなた「?」

あきら『えーごめんなさい、この作品は都合によりレビュー省略しますぅー』
かがみ『作者本人の作品らしいので、申し訳ないです』

こなた「なあんだ、自己評価くらいすればいいのにー」
そうじろう「だなあ」

あきら『……んまぁ、しょーじきなんかカタくてめんどくさそーな話だったから別にいーんだけどねー』
かがみ『はあ……』

こなた「またしっかりとキャラひっくり返るねえ」
そうじろう「なんでこういう所カットしてないんだろうなあ?」


★No.04 ID:2JQ8F/k0氏:一番星

あきら『四つ目はえーっと、なんかいいお話でっす☆』
かがみ『えー、日常の中のドラマ、というところでしょうか』
あきら『なんてゆーか、泣けますねー! あきら、カンドー☆』

そうじろう(そろそろ慣れてきたなこのキャラも)

あきら『それではれーのごとくいいとこをっ!』
かがみ『あ、はい。今回のコンクールの中では完成度の高い方だと思います』
あきら『おー、すっごぉーい!』
かがみ『起承転結もきちんと通ってますしね。締め方も素敵だと思います』
あきら『おぉっ!? 今回の大賞作品はコレかもしれませんねっ!?』
かがみ『それはわかりませんが……もちろん可能性としてはありますね』
あきら『いいじゃんいいじゃんっ! 他にはありますかー?』
かがみ『気になったことが』
あきら『あれ、何でしょうかー?』
かがみ『この作品、なんかこう、作風が安定していない気がするんです』
あきら『どーゆーことですかー?』
かがみ『今回の作品、地の文を凝ろうと努力した跡が窺えるんですよ』
あきら『うんうんー』
281 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:13:17.75 ID:IE9WC7E0
かがみ『どこかで記憶があるんですが、作者さんが『地の文は不得意』ってカミングアウトされてたと思うんですよ。
     私が作品を見るかぎりでは、やっぱり地の文をあまり使わない、セリフ中心の作品が向いていると思います』
あきら『んーそうなのかなぁ?』
かがみ『そう思いますが……物語って別に地の文がメインである必要はないし、
     書きやすい形式がいちばんいいと思いますよ』
あきら『個性を大事にってことですかー?』
かがみ『そうですね。個性を出せるだけの実力は十分あると思うので、ありのままに活かしてほしいってことです』
あきら『なるほどぉー。キャラといえばここげーのーかいでもチョー大事ですもんねっ☆』

こなた「多分凄い説得力のある言葉だと思うんだけど、なんかなー……」
そうじろう「あー、素直に感心しづらいな」
282 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:14:22.45 ID:IE9WC7E0



一方その頃……


つかさ「……」

カチカチ

つかさ「……」

カチカチ

つかさ「……」

カチカチ

つかさ「……10本……いや100本……」

カチカチ

つかさ「あっ間違えた」

カチカチ

つかさ「……やっぱこのままでいいや」

カチカチ

つかさ「こんなもんかな……」

カチカチ
ピロン♪

つかさ「OK、と」

カチッ


……


283 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:15:16.00 ID:IE9WC7E0
★No.05 ID:N9VE5ZU0氏:アルタイルに願いを

あきら『SFっぽい話ですねー☆』
かがみ『これも七夕ネタですね』
あきら『なんてゆーか、ちょっとムズかしいけど、なんか面白い話ですねっ☆』
かがみ『ええまあ。ラノベが元ネタと言ってありましたが、光の届く十七年後に願いが叶う、
     っていうアイディアは面白いです』
あきら『ところで……』
かがみ『?』
あきら『あきらお話の意味がよくわからなかったので、わかりやーすく解説ぷりぃず☆』

そうじろう「あいたたた……」
こなた(このおバカっぽいのもキャラなのかなあ)

かがみ『えー……あくまで私の解釈ですが……
     こなたや私達の生まれた年に、かなたさんとお母さんが冒頭の願い事をして、その17年後に両方の願い事が
     アルタイルによって叶えられた結果、私とつかさだけが背の高いこなたのいる別世界へ飛ばされた
     ……ということだと思います』
あきら『え、えーっとぉ? つまりどうなったんですかぁー?』
かがみ『え、うーん……』
あきら『んーやっぱりわかんないっ。きっと書いた人はアタマがいいんですねっ』
かがみ『はあ……。とりあえず、いい所、ですか?』
あきら『あ、はぁい! お願いしまっす☆』
かがみ『まずさっきも言いましたがアイディア。結構練られてますね。それから構成も結構良かったと思います』
あきら『お、これもいい感じですかぁ!? コンクール大賞ですかぁっ!?』
かがみ『まあそうかもしれませんが……。それで、気になった所ですが』
あきら『はいっ』
かがみ『ちょっとミスを犯していると思われる箇所があるんです』
あきら『えっ? どこどこ?』
かがみ『7月7日の話の中で、学校が終わって私達がこなたの家にお邪魔するシーンがありますよね』
あきら『えーっと、ちょっと待ってくださいねぇ……あ、多分ここですねっ』
かがみ『そのシーンが始まってはじめの段落の四行目に「こっちのそうじろう」という表現があるんですが……』
あきら『あ、ありますー』
かがみ『この言い方だと私が異世界に来た事を既に認識してることになりますよね。
     しかしこの段階では、まだ私は今の状況がわかってないはず、というか……』
あきら『えーっと……何も分かってないってことですかぁ?』
かがみ『え、ええ、まあ。その後夜道のシーンになるまで、私が既に別世界に来たと認識済みというのを前提としたように
     語りが書かれています。そしてその夜道のシーンで「少しずつ気が付き始めていた。」なので……
     物語の内容を把握するには支障ない程度でしたが、やっぱり矛盾があると気持ち悪いので、書き換えた方がよかったと思いますね』
あきら『う、うーん……とにかく、矛盾してるんですねっ』
かがみ『はい、まあ。それからもう一つ気になったのは、ラスト。
     2年C組の描写がありますが、ここは思い切って削った方がいいと思います』
あきら『え、なんでですかぁー?』
かがみ『その前の私とつかさの願い事で物語が綺麗に締まってる感じがするんですよ。そこで終わった方が読後感が良くなったと思うので』
あきら『あー、そうなんですねー……えっ? あ、はい、ちょっと待ってくださいねっ』
かがみ『?』

こなた「ん? カンペかなんか出た?」
そうじろう「そんな感じだったな」
284 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:16:46.36 ID:IE9WC7E0
★No.06 ID:/cc53Zco氏:スタアの条件

あきら『長すぎるって怒られましたぁー』
かがみ『すみません……』

こなた「そーいやなんか随分長かったね」
そうじろう「かがみちゃんの批評が引きずってたな」

あきら『ええ、気を取り直してっ。今度こそ私のお話ですねっ!?』
かがみ『そうですね。小神さんとセ、白石君の話です。白石君寄りの視点ですね』
あきら『私これ読んでちょっと恥ずかしくなっちゃったんですけどぉ』
かがみ『自分の話ですからね……私はもう随分慣れましたが』
あきら『あははーかがみさんは出番多いですもんねっ』
かがみ『はいまあ……』
あきら『それじゃこの作品のいいトコはっ!?』
かがみ『はい。まず純文学チックな心理描写がいいと思いました。キャラクターに対する洞察がしっかりしてて』
あきら『ふむふむ』
かがみ『何て言うか、お互い口には出さないけど、深い信頼がある感じですかね。
     長年仕事仲間でやってきて付き合い慣れたっていう感じがよく出てます』
あきら『やだぁー恥ずかしいなあもうー』
かがみ『はは……それから、はじめの日記ですが』
あきら『はい、最初のですねっ』
かがみ『こういう特殊な形の文章を入れると作品の印象が強くなりますよね。そこはいい点だと思いますが』
あきら『はいっ?』
かがみ『丁寧に一年ごとに出来事が書かれているんですが、それが少しくどい気はしましたね』
あきら『えっそうですかぁ?』
かがみ『最低限、幼くして芸能界入りしたことと、父親と母親が別居したこととが書かれていればいいんじゃないかと。
     あとの白石君との会話にもそのくらいの情報しか使われてませんしね』
あきら『んー冷たいなぁ。あ、そうだっ』
かがみ『はい?』
あきら『ちょーどこの前こんな話を白石サンとしてたんですよー』
かがみ『へえ』
あきら『そしたらぁ……「ああ両親が不仲なんてかわいそうですねー」っぽいこと連発されて……』
かがみ『はあ』
あきら『いやーもう心底イライラしてたのね……。んだからその後ちょっとあいつのケータイ悪戯してやろーと思って
     カバンからパクって開いてみたらぁ……』
かがみ『はい』
あきら『…………いや、やっぱいい』
かがみ『そうですか……』

そうじろう「えーすごく気になるのになー」
こなた「あれだよ、セバスチャンの待ち受け画面、小神さんの写真にすごいかわいらしく飾り付けしてあるんだよ」
そうじろう「へーなるほど……ああなあ。 ってなんで知ってるんだ?」
こなた「友人たちが昼休みに大声で冷やかしまくってたからねえ」
そうじろう「……下手すると学年中に知れ渡っちまってるな」
285 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:18:00.81 ID:IE9WC7E0
★No.07 ID:KljhCnE0氏:星のかなたへ

あきら『えーっと……なんかお話ですっ☆』
かがみ『……解説要ります?』
あきら『うーんどうしよっかな……。……。じゃあ、簡単にー☆』

そうじろう「今の間はあれだ、どうせ解説されてもわからないから、とか思ったんだろうな」
こなた「多分おバカなのはキャラじゃなくて素なんだろうねえ」

かがみ『えー、まず図書館で私達四人が会話していると「宇宙人は存在するか」っていう話題が出て……
     それを計算するための「ドレイクの方程式」っていうものがあってそのことで話が盛り上がって……
     で、気になった私は以前そんな感じの映画を薦められたことを思い出して、それを見たくてたまらなくなったんだけど、
     実はそこまでの流れはつかさが仕組んでたものだった
     ……っていう感じですかね』
あきら『んー、……なるほど、大変よーくわかりましたー!』
かがみ『……』

そうじろう「わかってないんだろうなー」
こなた「もう投げっぱなしだねえ」

あきら『それで、じゃあ、この作品のいいトコお願いしますっ!』
かがみ『はい。見た目のことですが、相変わらず個性的な書き方で印象深い作品になっています』
あきら『そーゆーので印象がすごくなるのっていーんでしょうか?』
かがみ『まあ、いいと思いますが。ただ先入観を与えることで作品そのものへの評価が捻じ曲げられる欠点はあるでしょうけど』
あきら『あーなるほどぉ』
かがみ『それから気になったところですが……まずストーリーに関して』
あきら『はい』
かがみ『ストーリーの主軸で、つかさが一度薦めたが断られたDVDを見てもらうためにここまで努力する
     ……というのは少し共感しにくいです』
あきら『あー』
かがみ『それから、物語の終わりの方で今日の出来事に対する理由が一気に明かされていってますが、
     それが唐突過ぎて、読者を置いてけぼりにしているような感じもあって……
     例えばどこかに、思い通りに事が進んでつかさがニヤつく、
     というようなシーンを入れて伏線を張っておくと、印象が変わったと思います』
あきら『なるほどぉ』
かがみ『あとは、地の文が説明的すぎてくどくなっている所がありますね。
     「みゆきはかがみに何かを言いたかったが言えなかった。」とか』
あきら『はぁ』
かがみ『まあしかし、起承転結もできてて、綺麗にまとまった作品だと思います』
あきら『うんうん、なるほどぉー』
かがみ『ドレイクの方程式に関する考察も個人的には好きですね』
あきら『うんなるほど、じゃあそろそろ次行きましょー!』

そうじろう「面倒臭そうだなー」
こなた「ちょっとでも難しそうな作品は嫌なんだろうねー」
そうじろう「それこなたにも言えないか?」
こなた「ぅ……」
286 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:19:22.35 ID:IE9WC7E0
★No.08 ID:ZQEonp6o氏:星の導き

あきら『奇跡の再開!? みたいなお話ですねー』
かがみ『ええ、これも綺麗にまとまりそうな作品ですね』
あきら『なんか急いで間に合わせたらしいですけどー』
かがみ『はい、粗いというか……物語そのものというよりは、その粗筋みたいな感じですね』
あきら『ホントはどんな話だったんでしょーねー』
かがみ『どうですかね……作者さん本人の頭の中にしか答えは無いですが』
あきら『ケッコーいい話っぽいですよね!?』
かがみ『確かに、ここから広げたらいい感じになりそうですね』
あきら『これも仕方ないんですかねー』
かがみ『まあ、仕方ないでしょうね。一応いい所とかを挙げときましょうか?』
あきら『はい、是非是非ぷりぃず☆』
かがみ『まず文章がいいと思いました。あとは全体的な物語の構成も』
あきら『ぶんしょー力、こーせー力ですねっ!』
かがみ『はい。で、まあ、気になった所といえば、やっぱりまだ完成を見ていないところというか……』
あきら『うーん、なんとももったいない作品ですねー』
かがみ『そうですね。完成品が気になるところです』

そうじろう「まーこういう界隈じゃ締切ギリギリで焦るとか当たり前だもんなー」
こなた「うんうんテストギリギリで勉強始めるよーなもんだね!」






あきら『さぁーて、長かったですが八作品! いかがでしたでしょうかー?』
かがみ『個性に富んだものばかりでしたね。票が割れそうです』
あきら『とーひょー締め切りはもうすぐっ! 好きな作品一個選んで、ポチッとクリックですぅ!』
かがみ『皆さまの清き一票をお待ちしております』
あきら『それじゃ、次の第十六回コンクールで、またお会いしましょー! ばいにー☆』
かがみ『ばいにー』

プツッ

そうじろう「終わったかー」
こなた「かがみ随分カタかったなー」
そうじろう「まあ相方がアレだしなー……そりゃ下手に個性出せないよな」
こなた「まあねー……」
そうじろう「そういえば、つかさちゃんは結局出なかったな?」
こなた「あーそういえば。どーしたんだろうねえ」
287 :第十五回コンクール作品レビュー [saga]:2009/07/27(月) 20:20:39.56 ID:IE9WC7E0
ピンポーン

そうじろう「ん? ちょっと出てくる」
こなた「ほーい」

そうじろう「はーい

      ……はい? え? これ全部?」
こなた「?」



翌日



キーンコーンカーンコーン

かがみ「おっす」
みゆき「こんにちはー」
こなた「おーかがみこんちゃー、昨日のやつ見たよー」
かがみ「あーあれね、まあそりゃ見るでしょうね」
こなた「まあねー」
みゆき「失礼ですが、昨日のというのはあの番組ですか?」
かがみ「あ、それそれ。みゆきも見たんだ」
みゆき「あ、はい。気になったので、一応……そういえば、つかささんも出演される予定だったと思いますが」
かがみ「ああ、あれは……」
つかさ「……」
こなた「……えー、みなさんちょっとコレに注目」

トン

かがみ「……あれ? こなた今日は弁当?」
みゆき「珍しいですね」
こなた「うん……」

パカッ

かがみ「ん? 酢豚? と酢の物?」
こなた「うん……多分卒業までずっとこれだと思う」
かがみ「え? なんでよ?」
こなた「なんだか知らないけど昨日ウチにお酢が1000本も届いてさ……」
かがみ「はあっ!?」
みゆき「それは……」
こなた「バなんとか酢っていう種類のやつなんだけど……全部使い切れるかなー……」
みゆき「不思議ですね……心当たりはないんですか?」
こなた「うん、全く……」
かがみ「はあ、ホント謎ね……じゃ、いただきます」
みゆき「いただきます」
こなた「いただきまーす……」
つかさ「ばるさみこすー☆」
288 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/27(月) 20:23:08.73 ID:IE9WC7E0
以上です。

50行規制に50秒規制、すっごい投下しづらい!
全然感覚がわからんし……

ちょっときついこと言った気もしますが、それは違うんじゃないか?と思ったら
無視してくださいまし。。
それでは失礼。
289 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 20:38:40.85 ID:9JzbGO60
みんなレビュー乙!

>>273-274
どういうのを荒らしと見てるのか知らないけど、
自分にとって嫌なコメントを荒らしと見るようじゃ
コメントフォームなんて付けない方がいいと思う

ちょっと皆と違う意見を言う→擁護派がそれを全力で潰しに掛かる

これじゃあダメだ
290 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/27(月) 21:30:26.16 ID:h5VAlcSO
やっぱレビューは良いなぁ
みなさん乙です&こうやまとレビュー復活まってましたー!
この二人のレビューは面白すぎるんだぜww
291 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 22:48:12.26 ID:u8wW.0.0
>>270
>>288
レビュー乙です。
地文は最近自分でも何かおかしいと思ってたり…。

それにしても、この時間帯は毎回そわそわしてしまいますな。
292 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 23:03:59.43 ID:eLCxRK.0
レビューありがとうございました
いろいろ参考になりました。



293 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/27(月) 23:36:03.13 ID:MjKj.Mco
かがみ「どうしたのよ、元気ないわね」
こなた「いや……ハルヒがね、うん……」
かがみ「あぁ、再放送やってるんだっけ? 今は何の話なの?」
こなた「再放送じゃないよ。エンドレスエイトやってるんだ……」
かがみ「へえ。で、元気がないのと何の関係があるのよ」

こなた「12話がエンドレスエイト」
かがみ「え? うん」
こなた「13話もエンドレスエイト」
かがみ「ループの話だし、前後編があってもいいじゃない」
こなた「14話もエンドレスエイト」
かがみ「う、うん……」
こなた「15話もエンドレスエイト」
かがみ「ちょっと待って……」
こなた「16話もエンドレスエイト」
かがみ「な……」
こなた「最新の17話もエンドレスエイト」
かがみ「……」
こなた「たぶん18話もエンドレスエイト」
かがみ「……エンドレスエイトだけに、19話で解決編?」
こなた「……エンドレスエイトだけに、8回ループして20話で解決かもね……」

こなた「それでね。今までのエンドレスエイトって話もほとんど同じなんだ……」
かがみ「それはいいのか? そりゃ奇抜さで売ってるかもしれないけど、それっていいのか?」
こなた「京アニに聞いて……」
294 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/27(月) 23:53:05.09 ID:IE9WC7E0
>>293
見てないが随分迷走してるらしいなww
295 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/28(火) 00:24:11.87 ID:9b0eHSwo
すまない諸事情で遅くなった

第15回らき☆すたSSコンクール大賞はID:2JQ8F/k0氏作『一番星』に決定いたしました!
おめでとうございます!
副賞はID:N9VE5ZU0氏作『アルタイルに願いを』です。おめでとうございます!

読者の皆さま、作者の皆さま、運営かかわった皆さま、お疲れ様でした!
また次回お会いしましょう。それでは、ばいにー☆

http://vote3.ziyu.net/html/lkstxv.html
296 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/28(火) 00:25:10.18 ID:HMUsCcU0
うわお、大賞作品予想通りだった。
ついでに副賞も予想通りだ。

けど悔しいもんだな。一票とは。
まあいいや。分かってくれる人が一人いたと考えれば。

とりあえず、おめでとうございます。
297 :一番星 [saga]:2009/07/28(火) 00:35:45.16 ID:vZ88iFM0
かがみ「やっちゃったな」
こなた「やっちゃったね」
かがみ「と、言うわけで筆者からのコメントです」

今回、大賞に選んでいただきありがとうございます。
投票のコメント数が過去最大とか、感謝の極みです。
しかし、ここで一つ問題が。
開催前にネタで「大賞の方に好きなキャラからの告白権。副賞の方に好きなキャラからの投げキッス権プレゼント」とありましたが、あれ書いたの実は俺です。
自分にこれやるのもかなりアレなんで、告白権は副賞の方にお譲りします。好きなキャラを選んでください。投げキッス権の方は異界送りと言う事で…。

再度、選んでくれた方ありがとうございました。
そして、みなさまお疲れ様でした。
298 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/28(火) 00:39:48.98 ID:HzPKDlYo
大賞・副賞おめでとう! コンクール運営・参加者・読者の皆さんお疲れさま!
299 :アルタイルに願いを :2009/07/28(火) 00:49:03.57 ID:/SLCZIAO
副賞です!表をくださった方本当に本当にありがとうございます!
第5回コンクールでのSF以来、一向に賞が取れず、それでもめげずに作品を書き続けた甲斐がありました……(涙
本当に長かったよー……っ!!(大泣き

今までの作品では結構なコメントもらえてたけど、今回だけ無かったのは、ちょっと話が難しすぎたかなと反省してます。


>>297

ではでは、ただおさんゴホンゲホン
ゆーちゃんでお願いしますハアハア
300 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/28(火) 01:06:40.29 ID:7KCtdSU0
大賞・副賞おめでとうございます。

最下位覚悟の投稿だったけど
コメントまでもらえるとは思わなかった。
投票された方ありがとうございます。

レビュー通りやはりつめが甘いようです。

ちなみにネタにした映画のタイトルは 1997製作のコンタクトです。
宣伝するわけではないけど、かなり感動した作品でした。
けれども知人・家族の評価は酷いものでした。

観てない人も観たことある人も、観たくなるような感じになればいいなと
思ってSSを作ってみました。


301 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/28(火) 01:53:23.67 ID:exHLkHc0
大賞、副賞の人おめでとうございます。コンクール運営の方、お疲れ様でした。
今回はテスト前&日にちの勘違いで参加できませんでした・・・。ちゃんと作品書いたのに・・・。
流石に三連続は虫が良すぎたか・・・
でもたまには人の作品を評価する側もいいかなと思います。にしてもいい作品ばかりだったなあ。
一応作品は半分書き上げてますが投下しようか悩んでいます。今日の夕方でテスト終わるし適当に書き上げて投下したほうがいいかな?
302 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/28(火) 02:13:27.58 ID:HMUsCcU0
>>301
まあそれは、好きになさってくれ。読んでもらいたいなら投下するよろし。
どうでもいいが、前回大賞取った人か?
303 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/28(火) 13:30:49.55 ID:OM4CwE20
今、長編書いてるんだけど聞きたいことがあります。

キャラ名「台詞」
というスレタイで独自にスレ立てて投下するのと、こういうスレに投下するのとではなにか使い分けや住み分けするルールがあるんでしょうか?
304 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/28(火) 14:33:06.02 ID:7KCtdSU0
>>303
最近ここに来るようになった者なので詳しくはしらないけど
コンクール規約以外にそういった約束事載ってませんね。

どのくらい長い作品か知らないけど、
まとめサイトの1ページでどのくらいの長さまで書き込みできるか?
1ページで収まりきれないほど長いなら分割か別スレじゃないかな?
305 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/28(火) 15:15:46.66 ID:HMUsCcU0
>>303
>>304も言ってるとおり特にないはずだけど、あんまり長くなってレス数を大量に(50以上?)消費しそうなら別スレかな。

しかしこのスレに投下しないとまとめサイトには載せられないってのも問題だな。
306 :tokusenshop.com [info@djukfiu.ne.jp]:2009/07/28(火) 15:38:08.74 ID:0BgMXEY0
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307 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/28(火) 15:52:40.68 ID:7KCtdSU0
>>305
50レスって、もうSSのレベルじゃない(長さ的に)

前半 中半 後半 って分けてみたら?
最近の投下って分けてくる傾向あるよね
308 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/28(火) 22:41:53.07 ID:HMUsCcU0
こなた「ふう……コンクールも済んで静まり返ったねえ」
かがみ「何というか、寂しいわね……ハックシュ」
つかさ「あれ、風邪? ハ、クシュ」
みゆき「つかささんも……クシュッ」
こなた「ねえなんかちょっと寒くない?」
かがみ「うんなんか冷えるわね……」
つかさ「今夏だよねー? 冷房とかつけてないのに……」

みゆき「……まさか!」
こなたかがみつかさ「「「?」」」

みゆき「わかりました……この寒さはスレの活気が寂れているからです!」
かがみ「どういうことよ?」
みゆき「以前から少しずつ寒冷化が起きていた気はしましたが……
     やはり、私達の世界の温度はスレの活気と結びついているようです」
つかさ「え、えー? どうすればいいのー?」
みゆき「それはわかりませんが……」
こなた「じゃあ叫ぼうよ! 何か色々!」
みゆき「え?」

こなた「あああああ! 京アニが理解できないいいいい!! ほらかがみも!」
かがみ「あ、うん。えっと……出番多くて疲れたあああああ!!」
こなた「はいつかさも!」
つかさ「ええっ……えっと……も、もっと熱くなれええええ!!」
こなた「みゆきさんも!」
みゆき「え、えー……」

みゆき「ぴぎゃああああああああああああああ(超高周波)」
こなたかがみつかさ「「「!?」」」

みゆき「っあ……すみません……」
こなた「今のは相当ヤバかったね……」
かがみ「高音のギネス載りそうね……あ、ちょっと暖かくなったかも」
つかさ「……私も」
みゆき「本当に恥ずかしいです……」
309 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/29(水) 00:12:17.50 ID:4644vESO
−副賞の方へ−

こなた「ゆーちゃん、ご指名だよ。ほい、これ台本」
ゆたか「うう…大丈夫かな…」
こなた「だいじょぶ、だいじょぶ。さくっとやっといで」

台詞の間等は想像で補って下さい


ゆたか「あ、あの…ごめんなさい、先輩…こんなところに急に呼び出して…えっと…い、いいお天気ですね」

ゆたか「あ、いや、天気は関係なくてその…もちろん晴れてるほうがいいんですけど…いや、その、そうじゃなくて、その…この前はありがとうございました!」

ゆたか「はい、そうです…気分が悪くなった時に助けてもらって…」

ゆたか「あ、いえ、それだけじゃないんです…えっと…助けてもらった時に、手を握ってくれましたよね?」

ゆたか「ち、違います!嫌だったんじゃないです!もっと握っててほし…ああああ、わたし変な事言ってるー…」

ゆたか「笑わないでください…えっと…握ってもらった手が温かくて…あの時から、ずっとその感覚だけが残ってて…こんなこともあるんだなって…あの…今から変な事言いますけど…嫌だったら聞かなかったことにしてください…」

ゆたか「好きなんです!…先輩のこと、あの日からずっと…わたし、背は低いし、体型も子供みたいだし、身体も弱いし、絶対ダメだって分かってるんですけど…どうしても、伝えたくて…この気持ちを伝えないと、何も出来なくなりそうで…」

ゆたか「…好き…なんです…先輩…」



こなた「ハイ、カットー!」
ゆたか「こなたお姉ちゃーん!これすごく恥ずかしいよー!」
こなた「はっはっは。告白なんて恥ずかしくてナンボだよ、ゆーちゃん」
ゆたか「うう…みなみちゃーん…」
みなみ「…大丈夫、ばっちり録画したから」
ゆたか「なにが大丈夫なのみなみちゃーん!?」
310 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/29(水) 00:57:54.64 ID:RNy7kRs0
>>309
大丈夫wwww
311 :副賞の者 :2009/07/29(水) 20:11:12.49 ID:F6iDLsAO
>>309

あぁ……。もう死んでもいいです。
ありがとうございます/ / /
312 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/29(水) 20:35:27.92 ID:4644vESO
−最下位の方へ−

命斗「アニメ店長見参!よもや忘れてたなどとは言わんだろうな!?」
こなた(…忘れてた)
みなみ(…忘れてた)
命斗「では、ゆくぞ!」
こなた「あ、台本…」
命斗「いらん!」



命斗「俺の目を見ろ!お前が好きだ!俺の胸に飛び込んでこぉぉぉぉぉいっ!!」



命斗「以上だ」
こなた「みじかっ」
みなみ「…なんてシンプル」
こなた(…でも、これってただの中の人ネタだよね)
313 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/29(水) 21:26:21.10 ID:Q/4k3Zw0
>>308
みゆき「ギエピーwwwwww」
だったら個人的にツボだった
314 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/30(木) 01:01:38.44 ID:eoWX8pIo
どこぞのピッピじゃあるまいしww
315 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 01:13:20.60 ID:TP/7OsSO
−手相−

三年程前

占い師「では、手を見せてください」
かがみ「はい…」
占い師「ふむ…オタ難の相が出てますな」
かがみ「オタ?何ですか、それ?」
占い師「近い将来、オタクな友人に難儀する事になるでしょう」
かがみ(…なんじゃそりゃ…)

現在

こなた「かがみー宿題見せてー」
かがみ(まさか、当たるとは…)





再び三年程前

占い師「オタ難の相が出てますな」
やまと「…ですよね」
316 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 02:05:01.41 ID:N3jEJQc0
>>312
相変わらず暑苦しいなこいつはww
317 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 02:06:37.06 ID:N3jEJQc0
>>315
オタ難wwww
318 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 02:19:01.81 ID:N3jEJQc0
泉家にて

こなた「暑いねー」
かがみ「そうねえ」
こなた「とゆーわけで飲み物持って来たよー」
かがみ「おーサンキュー」
こなた「ねえねえ、GとMどっちがいい?」
かがみ「え? んー、じゃあMで」
こなた「はーい『麦茶』ね、私は『牛乳』をいただくよー」
かがみ「え……ちぇ、牛乳がよかったなー」
こなた「残念でしたー」

柊家にて

かがみ「暑いわねー」
こなた「そうだねえ」
かがみ「というわけでほい、飲み物」
こなた「おーあんがと」
かがみ「あのさ、GとMどっちがいい?」
こなた「(この前と同じ質問?)んー、そしたらGで」
かがみ「はい、じゃああんたは『GREEN TEA』で緑茶ね、私は『MILK』で牛乳」
こなた「なぬ! 英語とは卑怯なあー」
かがみ「はいはい、残念でした」
319 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 17:26:30.39 ID:mkWFWJA0
投下行きます。
320 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 17:27:32.07 ID:mkWFWJA0
解散後の風景

「幸星党動画チャンネル、この時間は、あきらの衆議院解散記念コンサートの映像をお送りしました。コンサートに来れなかった人も、楽しんでくれたかな? みんな、選挙の投票用紙の比例区には『幸星党』って書いてね。じゃあ、ばいにー☆」
 パソコン画面の中の動画プレイヤーがブラックアウトした。
 幸星党分裂以前に、公職選挙法を改正して、細かい規制は全廃していた。
 選挙の事前運動もネットでの選挙運動も今ではやりたい放題だ。
 残っているというか強化された規制は、戸別訪問の禁止、連呼行為の禁止、スピーカーの音量制限ぐらいだった。

「あきらは、相変わらず派手にやってるな」
「昔からそれが小神さんの役割でしょう」
 新星党本部総裁室。ひかるが、いつもどおりに、ふゆきがいれた紅茶を飲んでいる。
「確かにそうなんだがな。他の連中の動きがほとんどない。祭り好きのぱとりしあや黒井さんがもっと表に出てくると思ってたんだが、柊官房長官からあきらと白石以外の国務大臣は公務に専念するようにとお達しが出たそうだ。この前、黒井さんがぼやいてた」
「みなさん、お忙しいのではありませんか?」
「重要閣僚ならそれも分からんではないが。だが、政治家なら公務と選挙運動は両立させてなんぼのもんだ。いくら自分たちは比例名簿上位で安泰とはいえ、議席が過半数を割ったら政権の維持はできんのだぞ。なのに、泉の奴でさえ、ときどき失言もどきをやらかして、柊のツッコミを受けてる程度だ」
「それは、あのお二人の日常でしょう」
「ああ、政権をかけた選挙だというのに、いつもどおり以上のことをまったくしようとしない。どう考えてもおかしい。泉は天性の扇動政治家だ。永森機関の裏工作も組み合わせれば、過半数の維持ならまったく不可能というわけでもあるまいに」
「永森さんたちの動きは?」
「具体的な動きがつかめるまでにはなってないが、永森機関が動いてる気配は感じられんな」
「彼女たちに動きがないことは、よいことなのではありませんか?」
「私には、嵐の前の静けさとしか思えん。奴らは選挙後をにらんで、なんかやらかすために準備に専念してるんじゃないのか?」
 それがひかるの結論だった。
 幸星党、特にその中枢メンバーの動きのなさは、あまりにも怪しすぎる。
「だとしても私たちにできることは何もありませんよ。何が起きても動じないように心構えをしておく程度です」
「無茶すれば調べられないこともないんだが……」
「駄目です。命を粗末にしてはいけません。ひかるさんの部下には、その点を徹底してください」
「分かった。その点は徹底する。総裁命令だといえば、血気はやる連中も抑えるだろう。おまえは、人気者だからな」
「個人崇拝はいけませんね。それでは、泉さんと同じですよ」
「ああ、分かってる。その辺もおいおい教育していくさ」

 ひかるはここで話題を変えた。
321 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 17:28:26.94 ID:mkWFWJA0
「で、うちの選挙運動なんだが」
「選対本部のあやのさんと八坂さんに任せておけば大丈夫でしょう」
「確かにあやのも八坂も優秀だから、任せておいても大丈夫だろうけどな。でも、総裁が表に出ないというのはありえないぞ。特に忙しいわけでもあるまいに」
「騒がしいのは好きではありません。負けたら責任をとる──総裁の役目はそれぐらいで充分ですよ」
「おまえが辞めたら、誰が後釜に座るんだ?」
「ひかるさんはどうですか?」
「勘弁してくれ。まあ、みさおを立ててあやのを幹事長につけるのが適当かもしれんな。日下部義姉妹は息もぴったりだし。あるいは、八坂か岩崎を立てるか」



 幸星党本部。
 みゆきは、自室でパソコン画面に向かって作業に集中していた。

「みゆき。ちょっと根つめすぎじゃないの」

 思いのほか近くから降ってきた声に、みゆきが顔をあげると、かがみが立っていた。
「細部をつめておきたかったものですから」
「選挙が終わるまでには余裕があるんだから、そんなに根つめてやらなくたっていいでしょ?」
「すみません。集中すると止まらなくなってしまうたちでして。泉さんのお言葉ではないですが、この世には現実よりも面白いゲームは存在しないんですよ」
「あんたもすっかりこなたに染められちゃったわね」
「かがみさんほどではないと思いますが」
「確かに、私もひとのことはいえないわね」
「でも、意外でしたね。かがみさんでしたら、泉さんを止める側に回るかとも思ったのですが」
「止めるんだったら、幸星党結成のときに止めるべきだったのよ。でも、私はそうしなかった。なら、最後まで見届けてやるしかないでしょ」
 かがみは、ここで一呼吸おいた。
 そして、

「我らの女王様の妄想がどこまで実現しうるのか」

 そういい残して、去っていった。
322 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 17:29:20.62 ID:mkWFWJA0

 かがみが去っていったあと、みゆきは再び作業に没頭した。
 開いてるファイルは「魔王プラン」と題されていた。そのファイルの横には「デビルプラン──不採用・後日廃棄」と題されたファイルもある。
 デビルプランが徹底的な鎖国による日本オタク文化保護政策であるのに対して、魔王プランは……



 深夜、やまとが外務省での公務を終えて、自宅のマンションに戻ると、部屋の前で一人の人物が待っていた。
「これはこれは。在日アメリカ大使館一等書記官殿ではありませんか」
「外務大臣殿に覚えていただいているとは光栄です」
「あいにく、外務大臣としての営業時間は終了しております。それとも、この場ではCIA日本地域担当上級工作官とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「そうですね。幸星党非公式工作機関総括責任者永森やまとさん」
 やまとはちらりと周りを見回した。
「公安のお友達は撒いてきましたので、ご安心を」
 まあ、CIAの工作官ともなれば、日本の警察の尾行を撒くぐらいは造作もないことだろう。
「とりあえず、中へどうぞ」

 居間のテーブルに向かい合って座る。
「で、ご用件は?」
「あなたがたの動きが急に静かになってしまったことを、上の方が気にしてましてね。電子的な通信手段をあまり用いない組織に対してはNSAのエシュロンも無力でして。まあ、そのおかげで我々も失業せずに済んでるわけですが」
「私が、それを答えると思っているのですか?」
「直接的な回答が得られるとは思ってませんよ。まあ、今のあなたの言葉だけで充分です。少なくても、あなたの組織は、活動している、あるいは活動しうる状態にあるということは分かりましたからね」
 なんとも食えない男だ。
 少しばかり仕返ししてやらねばなるまい。
「まあ、アメリカに悪いようにはしませんよ。ですから、しばらく様子を見ていただけますか?」
 相手の顔の眉があがった。
 この発言に特に意図はない。せいぜい、その意図するところを悩んでくれればいい。
 CIAといえども、永森機関が何をするつもりなのか分からなければ動きようがないのだから。

323 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 17:30:14.61 ID:mkWFWJA0
 客人が去っていったあと、やまとはパソコンの電源を入れた。
 幸星党動画チャンネルにつなぐ。

「おはらっきー☆ 司会の小神あきらです」
「アシスタントの白石みのるです」
「幸星党動画チャンネル、この時間は、幸星党の萌え萌え公約を紹介しちゃうぞ☆」
「はぁ、公約が萌えですか……。いや、さすがにそれはどうなんすかねぇ」
「細かいことは気にしない。では、さっそく一つ目の公約」
 白石が、ボードを手にとって読み上げる。
「ええと、まずは、アキバにアニメの殿堂を建設と。ああ、これは、泉総裁が昔から言ってることですね」
「そうそう。パンピー党の反対でつぶれちゃってさ。でも、そのパンピー党も今はなくなちゃったから、チャンス到来ってわけよ」
「なるほど」

 画面の中の二人は、充分にその役目を果たしていた。

 そう、自分も命じられた役目を淡々と果たすだけだ。
 道具に徹すること。やまとはそれを心がけていた。
 これまで、こなたの色に染められていくかがみとみゆきの姿を近くで眺めてきた。ああなりたくはない。
 こなたは、誤解を恐れずにいえば、周囲の人間を惚れさせることが得意な人間だ。それを避けるには、感情を排して道具に徹するしかない。

 やまとは、胸に手を当てた。
 そこには、小早川前総裁からの封緘命令書が収められていた。封を切って以来、肌身離さず携帯している。
 命令書は、総裁命令として完全に有効であった、総裁命令によって取り消されない限りは。
 命令の実行時期については、やまとに一任されている。
 命令を遂行する道具であるやまととしては、その命令は当然遂行しなければならない。
 躊躇はない。ないはずだ。自分は道具。そう言い聞かせる。

 どちらにしても、動くのは選挙が終わってからだ。
 準備の時間も、覚悟を固める時間も、充分にある。


「幸星党動画チャンネル、この時間は、幸星党の萌え萌え公約を紹介しました。みんな、次の選挙では幸星党に萌えな一票をお願いね。ばいにー☆」
324 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 17:31:14.11 ID:2goXWrY0
以上です。
325 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 17:32:45.25 ID:2goXWrY0
ちょうど投下しきったところで接続切れて、ID変わっちまった。
326 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 19:31:48.31 ID:N3jEJQc0
>>325
久々だな、乙。
相変わらずこの世界は社会裏がリアルで怖いww
327 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 19:52:37.19 ID:Zf9UWQSO
お題をくれた皆お待たせ!
6月、必殺、殺人事件、焼肉できたよー(^O^)
今回は前回よりも全然早く書けたww
328 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 19:54:42.66 ID:Zf9UWQSO
「いやぁーな季節だなぁー」
「そうですねぇ、お洗濯も乾き難いですし」
 梅雨。蛙の為に鐘が鳴ったりするこの季節は、雨は多いし乾燥してるし暑いしと、何かとテンションが下がる時期である。そんな時期でもこの地球上には必要な季節であり、尚且つ自然現象なので、文句を言ったところで誰かが梅雨を無くしてくれるわけも無いのだ。
 そんなじめじめした熱い季節の放課後の職員室。ひかるは下敷きを団扇代わりに、熱い熱いと歎きながら扇いでいた。
 職員会議も終わり、各教職員達は帰ったり部活に指導しに行ったりする時間帯である。
「では、私もそろそろ……」
 ひかるとふゆきもそれは例外ではなく、ふゆきは既に日誌を書き終え、自らが受け持つ茶道部へと今にも行こうとしていた。
 その矢先。
「なぁ、少し相談があるんだが」
 パタパタと扇いでいた手を休めて、ひかるは隣に座っていたふゆきに、そう切り出した。
「何ですか?」
「うちの部で作品集を出すことになったんだが……」
 部と言っても、ひかるは二つの部を受け持つ。一つは生物部。もう一つはアニメーション研究部の顧問をしているのだ。
 ふゆきは話を聞くために、再び椅子に腰を降ろした。
「話の流れで、私も一つ作品を出さなきゃならなくなってしまったんだ」
「そうなんですか」
 作品、という事はひかるが言っているのはアニメーション研究部の話だろう。
「それでその作品にはお題があってな? それが――」
 ひかるは白衣のポケットから手の平サイズの紙切れを取り出し、それを広げて読んだ。
329 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 19:55:33.96 ID:Zf9UWQSO
「『6月、必殺、殺人事件、焼肉』の四つもあるんだ……」
「まぁ、そんなにお題を貰ったんですか」
「それを全部使わなきゃならないらしい」
「全部ですか?」
 ひかるは説明した。
 先日、いつもの様にアニ研の顧問として部員達を見ていた処、部員の一人である田村ひよりが、たまにはお題を決めて皆でそれを書いてみよう等と申したのだ。その意見には部員全員が賛成し、場は大きく盛り上がった。そんな中、部長の八坂こうがたまには一緒にやろうよ、みたいな事をひかるに言い寄り、私はいい、と言おうとしたその刹那、部員達のやろうよコールが始まり、その勢いに負け、つい、分かったと答えてしまったのだ。そしてお題を聞いて驚いた。こんなのとても出来るもんじゃないと感じたひかるは、やっぱりやめる旨を伝えようとした。しかし、一度分かったと言ってしまった以上やめるのは難しい。“先生”というプライドも僅かにある。それに部員達のあのはしゃぎ様を崩したくない、とひかるは思ったのだ。真、教職員とは辛いものよ。
「あらまぁ」
 説明を聞き終わったふゆきは、眉は八の字にしているが顔は笑っていた。生徒たちとのやり取りを想像して顔に出してしまったのだろう。
「それで、相談というのは?」
 大体予想は付いているが、念のために聞いておく事にした。
「うむ。そのお題の作品を一緒に考えてほしいのだ」
 やはり、とふゆきは頷く。
「私は生物担当だ。文章ぐらいなら少しは書けるかもしれないが、漫画なんて以っての外だ」
「でも桜庭先生、結構漫画、読んでますよね」
「読むだけな。描きはしない」
 最もな意見。普通、誰だってそうだろう。漫画なんて物は娯楽の一種であり、描くなんて行為は本当に本当に好きな人しかしない。経験も無い人間に、いきなり描いてくれと言ってもそりゃ無理な話である。
「頼む。一緒に考えてくれ」
 普通、こんな上から目線の頼み方は無いだろう。それでも、ひかると長い付き合いのふゆきは、本当にひかるが困っている事が分かるのだ。そして、本人は自覚していないが、ふゆきはひかるに甘いのだ。だから、
「分かりました。一緒に考えましょう」と受け入れた。
330 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 19:56:33.15 ID:Zf9UWQSO
「ありがとう、ふゆき。結婚してくれ」
「……学校ではちゃんと“先生”を付けてください」
 斯くして、二人の共同創作が始まったのである。生物担当の桜庭ひかる。養護教諭だが、国語と英語が得意な天原ふゆき。殆どふゆきが活躍しそうな気もするが、果てさて……。


「やっていますね」
 ふゆきは茶道部へ足を運んでいた。と言っても様子を見に来ただけだが。
 この時間帯ならば保健室の利用者はあまり居ない。それでも稀に、運動部で怪我をした人がやって来るのだ。だからふゆきは、この茶道部を少し滞在したら保健室に行かなければならない。養護教諭が部活の顧問を受け持つというのは、それなりに大変なのである。
 ふゆきが現れた事で部員達は挨拶をする。茶道部という事もあって、それはとても美しい動作だった。
「先生。今、お茶を作ってみたんですけど、先生も一緒に見てくれませんか?」
 部員の一人である峰岸あやのが、ふゆきにお茶を差し出した。ふゆきはそれを「良いですよ」と返事をし、部室の扉を礼儀よく閉めた。
 正座をしたふゆきに、あやのはお茶を運ぶ。お茶が運ばれると、ふゆきは右手で茶碗を畳の縁外で隣の方との間に置き、「お先に」の礼をした。そして、茶碗を右手で持ち、左手を下に添え、その状態で軽く会釈をする。これはお茶に対する感謝の礼だ。茶碗を手前に四分の一回しし、一口飲む。一口飲み終え、左手で茶碗を持ち、右手の指先を畳につけ、亭主(今の場合はあやのを指す)に「大変結構なお服加減です」と告げた――。
 この時、お茶を差し出したあやの。ふゆきの隣に座っている部員達は、その仕草をまじまじと見ていた。あまりにも完璧すぎるのだ。
 それもそのはず。実を言うとふゆきは、もう働かなくても良い位のお金持ちのお嬢様なのだ。子供の頃からお嬢様として育てられてきた彼女にとって、これくらいは常識なのである。因みに、家にはメイドも数人居るらしい。
 ――ゆっくりと数口でお茶を飲み干し、その後の作法まで完璧にやりこなした。
「お茶を作るのが大変お上手になりましたね。峰岸さん」
「……あっ、はい。ありがとうございます」
「あら? どうしました?」
 あやのを含め、他の部員達がボーッとしているのに気付いたふゆきは不思議そうに言った。
「いえ、その、見惚れてました……」
 あやのがそう言うと、他の部員達もその旨を告げる。それを聞いたふゆきは、少し頬を紅潮させた。
「き、今日は暑いですね」
「そ、そうですか?」
 恥ずかしいので話を変えた。
 そんな感じで少しの間、茶道部で過ごしたふゆきは、保健室に行くことを思いだし、席を立った。
331 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 19:58:11.73 ID:Zf9UWQSO
「あ、そういえば」
 そこでふゆきは、ひかるのお題についても思い出した。そして、折角だからと、ここにいる部員達に聞いてみる事にした。
「皆さん、突然ですけど、六月と言えば何が思い浮かびますか?」
 その問いに、部員達はざわつき始める。その中には、梅雨とか蛙とかといった単語が多く聞き取られる。
「六月と言えば、ジューンブライドかな……」
 そんな中、部員の一人がとても恥ずかしそうに小声でそう言った。勿論、ふゆきはそれを聞き逃さなかった。
「峰岸さん? 今なんて言いましたか?」
「え? その……ジューンブライドです」
 どうやら、先程の言葉を発したのはあやのだったようだ。
 ジューンブライド。直訳して『六月の花嫁』。六月に結婚した花嫁は幸せになれるというもともとはヨーロッパからの伝承だ。元々の由来はギリシャ神話が関連しているらしいが、ここでは割愛しておく。
「なるほど。ジューンブライドですか。それは好い事を聞きました」
 ふゆきはポケットから手帳を取り出し、忘れないようにジューンブライド、とメモをした。
「ありがとうございます。では私は一度、保健室に戻りますが、もし戻って来なかったら戸締まりをお願いしますね」
 そう言って、部員達の返事を聞き、ふゆきは部室を後にした。
 その後、ふゆきが居なくなった部室では、ふゆきが誰かと結婚するのではないか? という話で盛り上がったそうな。


 下校時刻。あの後、運動部の生徒が怪我をして保健室にやって来たりして、結局、茶道部に戻る事はなかった。そして今、ふゆきは保健室で一人、再び日誌を書いている。
「今日も一日、無事に終わりましたね」
 日誌を閉じ、机を整理していると、ガラッとドアが開けられた。こんな時間にやって来るのは決まっている。
332 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 19:59:18.16 ID:Zf9UWQSO
「うぃーっす」
 桜庭ひかるである。
「お疲れ様です。桜庭先生」
「お疲れさん。ふゆき、今日は焼肉に行こう」
 ひかるはふゆきの近くにある、灰色の丸椅子に座りながら、そんな事を言った。
「焼肉ですか?」
「うむ。やはりこういうのは実際に経験した方が良いアイデアが浮かぶと思ってな」
 実際に経験……この歳で焼肉を経験した事がないと言うのだろうか。
「それ、ただ食べたいだけだったりしません?」
 と、ふゆきがクスクス笑い混じりにそう言うと、
「なっ、何を言う……私はだな――」
 と、あわてふためくひかるであった。
 ふゆきが言った事は図星らしい。
「でも、そうですね。案が無いのも確かですし、行ってみるのも良いかも知れませんね」
「う、うむ。では行こうか」
 ふゆきは机の上を綺麗に片付け、必要な物だけ鞄に容れ席を立つ。ひかるは既に廊下に出ており、ふゆきが来るのを待っていた。
「ふゆきー、まだかー?」
「はいはい、今行きますよー」
 保健室から出て、鍵を掛け、二人は帰路についた。


「ご注文の品は以上でお揃いでしょうか? はい。それではごゆっくりどうぞ」
 店員の女性が去っていくと、早速焼き始める二人。肉と野菜が網に敷かれ、ジューっと音を起てるそれは、見るだけで食欲をそそる。
「美味しそうですね」
「あぁ、早く焼けないものか」
 一応、説明しておくと、ここは某焼肉チェーン店。ふゆきとひかるは学校帰りに、そのまま近場の焼肉店に訪れたのだ。当たり前だが、白衣は着ていない。
「そういえば、お題の件なんですが、先程生徒さんから良い事を聞きましたよ」
「良い事?」
 ひかるは肉の焼き加減を確認している。まだ生だ。ひっくり返すのはまだ早い。
「えぇ。『6月』はジューンブライドです」
 その言葉を聞いたひかるは手を止めた。
333 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:00:34.53 ID:Zf9UWQSO
「おぉ、ついにその気になってくれたか。さぁ結婚しよう」
「もう、そうではありません」
「ち」
 軽く舌打ちして作業に戻る。そして肉が焼けてきたのでひっくり返した。
「他には梅雨だとかありますけど、どうせなら変わったものの方が面白そうじゃないですか?」
「まぁ、梅雨なんて言われても何書けば良いのか分からんしなー……あちっ」
 油が跳ねて、ひかるの腕に付着した。焼肉ではよくあることだ。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、たいしたことはない。それより結婚かぁ……どう結び付けるかな」
 『6月の結婚式』。後は必殺、焼肉、殺人事件。この組み合わせ、実はかなり難しい物ではないだろうか。一体、どういった経緯でこのお題になったのだろう……と、ふゆきは思っていた。
「よし、焼けてきたぞ」
「そうですね。ではいただきましょう」
 肉が良い感じで焼けてきたので話は中断。二人は焼肉を楽しむことにした。
 今食べているのは、焼肉では定番のカルビだ。焼き上がったカルビにタレを付け、食べる。肉自体も旨いがタレも旨いので御飯も進む。
「ひかるさん? お肉ばかり食べちゃダメですよ?」
「……野菜は嫌いなんだが」
「身体に悪いですよ」
「……分かったよ」
 焼き上がった品を取ったら、次の品を焼く。そんな感じでカルビ、タン塩、ロース、豚肉、時たま野菜と、一通り食べ終わり、現在は食後の休憩中だ。
「はぁー、食べた食べた」
「美味しかったですね」
 空になった容器を、テーブルの隅に片付ける。やがて店員が来て、それを下げていった。
「ところでひかるさん? 今回の焼肉で何か得られるものはありましたか?」
 ひかるの宿題のお題の一つ、焼肉。今回はそのお題の内容のヒントを得るために食べに来たという事になっているのだ。だから念のため、その事を思い出させる事も含め、ふゆきは言った。しかしひかるは、そんなふゆきに「ふっ」と鼻で笑う。
「ふゆきよ、焼肉とは何だ?」
「はい?」
 そんな事言われても、焼肉は焼肉なのでは? とふゆきは頬に手を当て「えーと」と口に出し、考えていた。
「いいか、ふゆき。焼肉とは……戦争だ」
「え? 戦争……ですか?」
 ふゆきの頭の中で、焼肉=戦争の方程式が組み立てられていた。しかし、どんなに考えても答えは出なかった。
「……ひかるさん、それはどういう意味なんですか?」
「ふふ、どうやら肉にばかり気を取られていたらしいな」
「焦らさないで教えてください」
 少しムッと睨み付けるふゆき。しかし、ひかるはそんなものには動じず、ペースを乱す事なく言った。
334 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:01:26.95 ID:Zf9UWQSO
「ふゆきから見て右斜めのテーブルの会話を聞いてみろ」
「……盗み聞きですか」
「良いから」
 ひかるにそう言われ、心の中でそのテーブルの人達に謝りながら、ふゆきは耳を集中させた。
 すると、こんな会話が聞こえて来た。

「――貴様ぁ! この肉は俺が育てたんだぞ! いっぱい俺が育てたんだぞ!」
「だから何だってんだ! お陰で美味しく食べられてるって言ってんだよ!」
「お前の為に焼いてるんじゃないんだよっ!」

 それだけ聞くと、ふゆきは怖くなってそれ以上、聞くのをやめた。あれだけ中が悪そうなのに何故一緒に居るのだろうという疑問を抱いて。
「……とても恐ろしい内容ですね」
「うむ。さっきより相当ヒートアップしてるな」
 これ以上のヒートアップは流石に迷惑だろう。近いうちに追い出されそうだ。
「今度はふゆきの後ろのテーブルだ」
「後ろ?」
 私の後ろでもあんなやり取りが行われていたのか、と驚きながら耳を集中させる。
「というか、ひかるさん? 私の後ろの方まで聞いてたんですか?」
「聞こえてしまったからな。それになにやら怪しい雰囲気がした。あ、ほら」
 怪しい雰囲気とは何だろうか。と、そんな事を考える間もなく、ふゆきの後ろでガタンッと少し大きめの音がし、こんな会話が聞こえて来た。

「――こと! その肉、貰ったぁっ! ……何!?」
「所詮、この世は焼肉定食。強き者が肉を食べ、弱き者が肉を焼く」
「おのれぇ……」

 こちらも先程と同じ様に肉の取り合いで盛り上がっていた。ふゆきはそのやり取りを聞いて、ドッと疲れた様子で、
「焼肉って、こんなに恐ろしいものでしたっけ……?」
「私達が平和すぎるだけだよ」
「そうなんですか」
 ふゆきは何か納得しない様だったが、時計を見て、帰りの電車の時刻を思いだした。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな。良い案も浮かんだし」


 店から出て、夜なのに夜を感じさせない街を歩く二人。駅までの道則はそう遠くはないが、これだけ活気があるとついつい寄り道をしてしまい、電車に乗り遅れたりしてしまうそんな街だ。
「最近ではこんなのをくれるんですね」
 先程、会計を済ませた時に店員がミントガムをくれた。焼肉の後はどうしても口臭が酷くなる。それも女性なら気にして当然だ。今回の焼肉は突然の事だったので、何も用意していなかったふゆきには、とてもありがたい物だった。
335 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:02:26.36 ID:Zf9UWQSO
「不況だからな。こういう小さなサービスは必要さ」
「そういえばさっき、良い案が浮かんだって言ってましたね」
 ふゆきは思い出したように先程、焼肉店で言ったひかるの言葉を質問する。
「あぁ、まだ途中までだが」
 そう前置きしてひかるは、
「6月の結婚式の披露宴は焼肉で、そこで争いが起きる……という案だ」
「……結婚式ぶち壊しですね」
「まぁな。後はこれに『必殺』と『殺人事件』を組み込ませるだけだ」
「殺人事件なら簡単に組み込ませられるんじゃないですか?」
「え?」
「だって、焼肉の争いの中で事件を起こせば良いだけじゃないですか」
 ひかるは一瞬、キョトンとしたが、直ぐに理解し、
「そうか。そうだったな! 流石、ふゆきだ」
「いえ……」
 解らなかった問題が解けた小学生の様にはしゃいだ。
「となると、後は『必殺』だが……ん?」
 ひかるの目の前には一軒の店が建っていた。
「よし、ふゆき。ここに寄ろう」
「え? ここですか……」
 青地の看板に白い文字で『animate』と書かれているその店を、ふゆきは見ていた。その顔からは「出来れば入りたくないなぁー」と言う言葉が容易に読み取れる。
「でも電車が……」
「大丈夫。直ぐに終わるから」
 しかし、ひかるはそんな事お構いなしに、ふゆきの腕を取り、ズンズンと引っ張って行った。
「あ、ちょっと!? ひかるさんっ」


 店に入ると、目の前には異様な光景が広がっていた。この店の店長と思われる赤く煌めくサンバイザーを付けた男と頭に猫耳帽子を被ったメイド服を着た小柄な女の子が睨み合っていたのだ。そして周りには、それを見守る店員達が数名……中には近くの商品を片付けている者もちらほら。
 そんな異空間にふゆきとひかるが入れるわけもなく、二人は入口のマットの上で、どうして良いのか分からずに居た。
 やがて睨み合っていた二人の間に、何処から入り込んで来たか分からないヒューっという風が通り過ぎると、どこか重苦しい空気が変わった。
336 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:03:30.25 ID:Zf9UWQSO
「今日こそ白黒はっきりさせるにょ!」
「あぁ、どちらがこの街のアニメショップに相応しいか……」
「勝負!」
「にょ!」
 先に動いたのはメイド服の少女だった。
「くらえ! 目からビーム!」
 ビームと呼ばれた黄色い光線が、少女の目から店長目掛けて勢いよく飛び出た。
「ふん、そんな攻撃などっ!」
 店長はそれを難無く回避すると、直ぐに反撃体制を取る。右腕を曲げ、手を顔の近くまで近付けて何か呪文らしき言葉を発すると、右手が見る見るうちに光出してきた。
「ひぃぃっさつ! アナザァァフィンガァァァ!!」
 そう叫びながらメイド服少女に、光輝く右手を当てようと突撃する。
「甘いにょ! 変わり身の術!」
 少女も負けじと回避策を取る。少女の後ろに浮かんでいた丸くて黄色い物を前に差し出した。
「ゲマァァァッ!?」
 少女目掛けて突撃していた店長の右手は、その黄色い物を粉砕し、輝きを失ってしまった。
「……なんなんですか、これは」
「予想以上だ」
 呆然とその光景を見ていた二人がようやく口を開いた。そしてそれに気付いた店員の一人が店長に近付く。
「店長! お客さんが来ています!」
「何ぃ!? ハッ!」
 客が居ることに驚くも、その二人を目で捕えると、店員達に指示を素早く出した後、こう言った。
「いらっしゃいませお客様ぁぁぁっ! 只今、当店では〇〇祭開催中で――」
「ひかるさんもう良いですよね?」
「あぁ。良いもの見させてもらいました。それでは」
 店長の接客も虚しく、恐く感じた様で、今度はふゆきはひかるの腕を掴み、店の外へと引っ張って行った。
 その直後、店からは「ああぁぁあぁぁあぁぁっ!」という叫び声が聞こえて来た。


337 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:04:37.69 ID:Zf9UWQSO
「あのお店はいつもあんなに凄いんですか?」
 駅で電車を待っているふゆきが溜息混じりに言った。時刻は既に八時を切っている。帰宅ラッシュの様な人込みは無いが、それでもここは東京。それなりに人はまだまだ居る。
「うーん、私も久し振りに行ったからなぁ」
 ひかるはポケットから煙草を出したり仕舞ったりを繰り返していた。どうやら吸いたくても人が多すぎて吸えないらしい。
「まぁ、これで『必殺』もなんとかなりそうだ」
「それは良かったですね」
 お題の内容も大体固まって来て、後は作品に仕上げるだけ。ひかるは勿論、ふゆきも自分の事の様に喜んでいた。
 電車が一つ、また一つと訪れ、徐々にホームの人が減っていく。もうすぐ自分が乗る電車が来る。だからなのか、違う理由なのか、ひかるは落ち着きがなくなっていた。そんなひかるにふゆきは、はて、どうしたのかと見つめていると、その視線に気付いたひかるは、異を決したように口を開いた。
「……なぁ、ふゆき」
「はい?」
「今日、家に泊まってくれないか?」
 その目は地味に真剣だった。落ち着かなかったのはこれを言おうか迷っていたからかも知れない。
「またそんな急に……、明日も学校ですし無理ですよ」
 そう。今日はまだ火曜日であり、平日だ。明日が休みなら未だしも、学校では流石に色々大変なのだ。
「そこを何とか頼む! 実は作品の提出期限が明日なんだ」
「明日……?」
 またまた急な発言だ。ふゆきは暫く目をつむって考えた。一度、乗り掛かった船でもあるし、一緒に考えるという約束もした。それに、ここまで付き合って見捨てるなんて出来ない……。
 色々考えた結果、ふゆきはこう答えた。
「分かりました。けど一度帰らせてください。着替え等、持って行きたいですから」
「あ、あぁ! それで良い。助かるよ」
 ひかるは心底喜んでいた。その様子を見てふゆきは苦笑した。自分の甘さに。
 その後、電車が到着し、ひかるとふゆきはそれぞれ別の電車に乗り、一度別れた。ふゆきの場合、一度帰った後、また電車に乗らなければならないので本当に大変だった。普通、こんな時間に、それもかなり家が離れている相手の為にここまでするだろうか? 絶対とは言い切れ無いが、可能性は限りなく低い筈だ。それをこうも容易にこなしてしまうのは、ふゆきがひかるの事を大事に思っているからだろう。
 単なる世話好きなだけかも知れないが。


「わざわざ着替えて来たのか」
「当たり前です。焼肉の後ですよ?」
 焼肉の臭いが付いたまま、いつまでも人込みの中を歩くなんてふゆきには出来るはずが無いのだ。ふゆきじゃなくても普通なら誰でも気をつけることだが。
338 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:05:39.32 ID:Zf9UWQSO
 ふゆきは居間へ上がり、宿泊用の荷物等を適当な場所へ置いてから、
「それで? ひかるさんはどんな内容にしたいのですか?」
「あぁ。簡単に説明するとだな……」
 ひかるはふゆきにメモを見せる。以下がその内容だ。

 6月、ジューンブライドということで結婚。
 披露宴は焼肉パーティで誰かが必殺を使って事件発生。
 悲しく不幸な結婚式になってしまった。

「なるほど。お題は全て取り入れてますね」
 二人はソファに座り、そのメモを見ている。
「漫画は無理なので小説にしようと思ってる」
「そうですね」
 書きたい内容がほぼ決まっているので、後はこれを上手く文章化するだけだ。ふゆきも居るという事で、ひかるは別段、焦ったりはしていなかった。
「では書いてみてください」
 だからその一言に不意を突かれてしまった。
「え?」
「……まさか、私に書かせるつもりだったんですか?」
「ダメか?」
「あのですねぇ……、これはひかるさんの作品なんですから、私が書いたら意味が無いでしょう?」
「むぅ」
「私に出来るのは、ひかるさんが書いた文章にアドバイスや、修正を入れてあげる程度ですよ」
 ふゆきの説教を口を3の字にして聞いていたひかるだったが、やがては納得し、渋々と了承の旨を伝えた。
「む〜、分かったよ。じゃあ書くとするか」
「はい。がんばりましょう」
 こうして、ふゆき指導の基、ひかるの創作活動は行われた。明日も学校なので、早めに仕上げなければならなかったが、その作業は深夜まで続いた。
「寝てしまいましたか。オチまで残り僅か……しょうがないですね。後は私が書いておきましょう」


 朝である。ふゆきがセットしたであろう目覚まし時計が鳴り響き、ひかるは目を覚ました。
「――いつの間にか寝てしまったのか。あれ? 確か居間に居たような気がするんだが……」
 目を擦りながらベッドから降り、居間へ向かう。するとそこにはエプロン姿のふゆきがキッチンに立っていた。
「おはようございます。ひかるさん」
 笑顔でご挨拶。
「朝食、もうすぐ出来上がりますから――」
「結婚してくれ」
 今回ばかりはここでの台詞はこれが正しいだろう。
「先に顔を洗って来て下さい。髪もボサボサですよ」
「あぁ」
 ふゆきに言われ、洗面所に行こうとしたひかるだが、テーブルの上に重ねて置いてある原稿用紙に目が移った。
339 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:06:50.59 ID:Zf9UWQSO
「結局、書き終わらなかったな……」
 ひかるが独り言の様に呟くと、それがふゆきに聞こえたようで、
「それなら仕上げておきましたよ」と、笑顔で返されてしまった。
 いつもふゆきに頼りっぱなしな流石のひかるもこれには驚いて、つい大声で「本当か!?」と声を張り上げてしまう。
 念のため確認という事で、原稿用紙をぺらぺらとめくると、本当に最後まで書いてあって更に驚いた。
「それで良いかどうかは分かりませんが……」
「いや、完成してさえいれば良いよ。なんたってふゆきが書いたんだしな」
 ひかるは忘れないうちに原稿を畳んで鞄に入れて洗面所に向かう。ただその前に……。
「ふゆき」
「なんですか?」
「その……ありがとな」
 久し振りに素直な御礼を言われた気がする。そう感じ、嬉しくなったふゆきは、にやけた顔を見られない様にと、姿勢をキッチンに向き直した。
「良いんですよ。いつもの事ですから」


 時間は飛んでその日の放課後のアニ研。
「ひかるセンセ。今日が一応締切ですけど、出来ましたか?」
 いつも座っている椅子で新聞を読んでいたひかるに、部長のこうがにっこりと笑いながら(それでも眉は八の字にしながら)、やって来た。新聞で顔が隠れているが、ひかるはニヤリと笑っている。
「まぁ、出来てないんなら別に良いんですけどね……先生も忙し、」
「出来てるぞ。ほら」
「えっ!?」
 こうはひかるが書いてくるとは思っていなかったらしく、驚きのあまり後ずさる。その反応が益々ひかるをニヤニヤさせる。
340 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:08:13.48 ID:Zf9UWQSO
「ふふ、私を甘く見るなよ」
「桜庭先生の出来たんスか!? 私にも見せてほしいッス」
 奥の方で部員達の作品をまとめていたひよりが、そのニュースを聞いて飛び込んで来た。
 甘く見る、というより、書いてくる事に期待していなかったみたいだ。ひかるはそれに気付いていないが。
「ふーん、小説かー。じゃあ早速読ませてもらいますね」
 そう言って、小説を読み始めた二人。ひかるはそんな二人の様子をどきどきしながら見ていた。
 手伝って貰ったとは言え、自分の作品。つまらないなんて思われたら誰だって嫌だろう。
 二人は順調に読んでいた。時にニヤついたりしてくれて、ひかるは嬉しかった。しかし、残り数ページになり二人の様子が変わった。急に真剣な表情になったのだ。
 急にどうしたのだろうと思ったが、あんな真剣な顔で読んでる途中に声を掛けるのは失礼と思い、読み終わるまで待つ事にした。
 残り数ページ。それはひかるが寝てしまい、仕方なくふゆきが仕上げたページだ。実はひかるは朝にこの原稿を見たとき、どんな最後かを確認していなかったのである。ふゆきが書いたものに間違いは無い、と信用しているからだ。だからひかるは原稿用紙の最後の文字、“完”の文字を見て満足してしまっていた。
 一体どんな内容で、どんなオチなのか……気になってしょうがないひかる。
「いやー、面白いよこれ」
 読み終わったこうが、とても感心しながら感想を述べる。
「最初、ドタバタチックなコメディかと思いきや、徐々にシリアスになる展開! 最後の方は自然にホラーチックになってくるしさー、凄いよ」
「そ、そうか?」
 ホラー? そういえばふゆきはホラーとかオカルトが好きだったな……等と思いつつ、内容はあまり悪くない様で、ホッと一安心なひかる。
「ホント凄いよッスよ先生! 最後の“そして誰も居なくなった”には背筋が凍ったッス!」
「ま、まぁな……」
 なるほど、そういうオチか。あいつのやりそうな事だな。それにどんな内容だろうと作品が提出出来たのだから問題ない。ひかるはこれ以上、深く考えない事にした。
341 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:09:12.94 ID:Zf9UWQSO
「とにかく、これで良いだろ?」
「うん。全然良いよひかるちゃん」
 その後、この作品はアニ研作品集の一つとして部室前に飾られるようになり、一般公開された。これらの作品は、少し遅いが新入部員確保の餌にもなっているらしい。
 コピーして大量にあるので、お持ち帰りも可能だ。

 それから数日後。
「これは……」
 明らかにこの学校の人ではないスーツを来た男が、とある作品を見つめていた。


「あぁー、終わった終わっ、」
「桜庭先生、応接室にお客さんですよ」
「え? 客?」
 荷物を整理して部室にでも足を運ぼうとした矢先の事だった。
 自分に客が来るなんて珍しい。誰だろうか。
 ひかるはそんな事を考えながら応接室のドアを開けた。するとそこにはスーツ姿の一人の見知らぬ男が居た。
「桜庭ひかる先生ですね?」
「は、はい」
「私、こういう者です」
 男はひかるに名刺を差し出す。その名刺には男の名前と、凄く見覚えのある単語が書いてあった。
「かどかわ……え!? 角川って、あの!?」
「はい。角川書店、角川グループの角川です」
 ひかるは目をむいた。
 そんな大企業が一体なんでまたこんな所に? 私に一体どんな様があって?
 ひかるは内心で混乱しまくっていた。
「今日はこの作品の事でお伺いしました」
 差し出されたのは見覚えがある文集。
「あ、それは」
 ひかるは思う。
 つまりこの作品集のどれかが、この人の目に止まり、顧問である私に先に話をしておこうという事か。と。
「ここに勤めている友人に用があってですね、その帰りに偶然この作品集を見つけてしまったのですが――」
 まさかアニ研から角川へ出展が出るとは思ってもみなかったひかるは、少し誇らしげに男の話を聞いていた。
342 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:10:11.50 ID:Zf9UWQSO
「素晴らしかったですよ“あなた”の作品」
「まぁ、皆一生懸命に描いて――え?」
 言いかけて戸惑う。聞き間違いでなければ大変な事を聞いたのではないか?
「え、私……ですか?」
 自信なさ気に確認する。
「はい。あなたのこの『6月の結婚式は焼肉で必殺殺人事件』、タイトルこそ目茶苦茶ですが内容は素晴らしいものだと思います」
 男は小声で、「いや、このタイトルだから余計に良いのかも」と呟いていた。
 ひかるは突然の出来事に何も言葉が出なかった。何故なら、この後に来る言葉はだいたい予想できるものだからだ。
「どうでしょう? 本を出してみませんか?」
「え、いや、しかし……」
 ひかるが戸惑うのも当たり前。何故ならこれはふゆきとの合作本でもあり、ひかる一人の実力じゃない。もし本を出したとして、万が一にも賞を取ってしまったら色々面倒である。ならばいっそ二人で書いたことを伝えれば良いのだが、それが億が一にでも部員達に知れ渡ってしまったらそれこそ面倒な事に成り兼ねない。
『やっぱあれはひかるちゃん一人で書いたんじゃなかったかー』
 脳裏に困った様な顔で笑っている部員達の姿が浮かんだ。せっかく手にした栄光を手放したくはない。いずれはバレるかもしれないが。
 それに、もしここで断ったとして兆が一にでも部員達に知れ渡ってしまったら、
『なんで引き受けなかったのー?』
 等と問い詰められる事だろう。ごまかし切れるだろうか? やはり色々と面倒である。
「あの、どうしました?」と男。
「ちょっと、考えさせてください」
「あ、そうですか。急でしたもんね。もし考えが決まったら、名刺にある番号にまでお電話を下さい。でわ」
 男はそう言うと、小さくお辞儀をして部屋から出て行った。
「……」
 男が部屋を出て行った後、ひかるも直ぐに部屋を出た。そして早足で歩き始めた。
 どこに向かっているのかなんて決まっている。


「はぁ、今日も一日無事に終わ、」
「ふゆきー!」
 勢いよくドアが開かれた。
「桜庭先生。人が居ないからとはいえ、保健室では、」
「どうしよう。大変な事になった」
「……今度は一体どんな約束事を持って来たんですか?」
「実は――」
 この二人の物語は、まだまだ続く様だ。


               完
343 :HELP ME FUYUKI !! [saga]:2009/07/30(木) 20:12:19.06 ID:Zf9UWQSO
>>328-342

以上です。半分キャラ紹介SSになっちゃってます。
6月=ジューンブライド=結婚=ひかる
という事でこの話を思い付きました。
後はこの二人をベースに他のお題を……

てか、メイン4人が出てない作品なんて初めて書いたw
344 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/30(木) 20:28:43.49 ID:Zf9UWQSO
>>337
しまった東京じゃなくて埼玉だった……orz
345 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 20:35:23.22 ID:N3jEJQc0
>>343
乙、そういやそんなお題出てたなwwよくまとめたww
ラストの展開は予想外だwwww
346 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 20:36:30.75 ID:TP/7OsSO
>>343
乙です。
とりあえず、俺はそんな恐ろしい焼肉屋には入った事ありません。
偶然にも俺の今書いてるのも、桜庭先生が主役だったり…。
347 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/30(木) 20:47:20.20 ID:TP/7OsSO
−アニメ店長vs伝説巨人−

某アニ〇イト

そうじろう「珍しいな。こなたがこういうところに誘うなんて」
こなた「うん。たまにはお父さんと来るのもいいかなって思ったんだ」
杉田「いらっしゃいま」
兄沢「伏せろ杉田ぁぁぁぁぁっ!!」
グワッシャ!
杉田「よぶらっ!…て、店長、何を…」
兄沢「伝説の少女Aと共に入って来たあの男…」
杉田「あのオッサンが何か…?」
兄沢「俺も直接見るのは初めてだが、あの風貌、あのオーラ、間違いない…あれこそ、オタク界の伝説巨人!」
杉田「なっ!?あ、あのアニメ、漫画、小説等、ジャンルを問わず、目をかけた作品は必ず売れると言われた…」
兄沢「そうだ。コミケ会場の東館と西館の移動を、わずか一分で済ますと噂される、あの伝説巨人だ」
杉田「すでに一線を退いたと聞いてましたが…」
兄沢「ああ、だがこうして我々の目の前にいる…しかも伝説の少女Aと共に…これこそ、千載一遇の好機!」
杉田「し、しかし、今の我々の戦力では…」
兄沢「…杉田店員。全店員に通達。『ラストリゾート』を使用する」
杉田「なっ!?正気ですか店長!あれはまだ実戦に使える段階ではありません!失敗すればこの店もただでは済まないんですよ!?」
兄沢「杉田店員。ここはどこだ?我々はなんだ?」
杉田「そ、それは…」
兄沢「山があれば登る…客がいれば売る…頂きを目指し、ただひたすらに…そしてっ!その頂きが今目の前に!ここで命を!魂をかけず!なんのアニメショップかぁぁぁぁぁっ!!」
杉田「店長ぉぉぉっ!…すいません!俺は自分が何者なのか、忘れるところでしたっ!」
兄沢「ではゆくぞ!玉砕するためでなく!頂きを征するために!」
杉田「イエッサー!」


杉田「店長…全員の配置が完了しました…覚悟も完了済みです」
兄沢「よし…皆の命と魂、オレが預かった………いくぞっ!ラストリゾォォォォ」
そうじろう「すいませーん。お勘定お願いします」
兄沢「あ、はい」
こなた「これもー。お勘定は一緒でお願い」
そうじろう「こなた…それが狙いだったか」
こなた「いいじゃーん。たまにはおごってよー。今月厳しいんだよーお父さまーん」
そうじろう「うぐっ…ま、まあたまにはいいか…じゃ、これも一緒に」
兄沢「六万八千円になります」


そうじろう「たまにくると、つい買い込んでしまうなー」
こなた「たまにしか来ないわりには良いの選ぶね…」
兄沢「ありがとうございましたー」
杉田「…店長…俺達は勝ったのでしょうか?」
兄沢「いや…勝敗以前に、相手にすらされていなかったんだ…」
杉田「くっ…店長…」
兄沢「泣くな杉田…オレ達は終わったわけじゃない…ここがスタートラインなんだ…」
348 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 21:19:10.14 ID:5wcKCqAo
突然の兄沢プッシュに驚いた
349 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 21:22:11.79 ID:N3jEJQc0
>>347
伝説巨人ww
350 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 22:10:38.71 ID:5wcKCqAo
お題もらって書くの楽しそうだなー
誰かお題おくれよ
351 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 22:28:29.55 ID:T2VBxoAO
>>350
対決
352 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 23:34:30.31 ID:mP2MFCM0
>>350
拉致
353 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 23:44:02.99 ID:PIZ85PEo
>>350
ブラック
354 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/30(木) 23:48:18.90 ID:FNH1jJg0
>>350
デート
355 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/31(金) 00:14:37.67 ID:7WUmL3k0
全部あわせると、変態かがみんしか浮かんでこないな…がんばれ>>350
356 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 03:04:39.88 ID:3r5JNcSO
>>351-354
どう考えても変態黒かがみんVS変態黒つかさ以外思い付かないwwwwww
頑張れ>>350
357 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 03:29:22.63 ID:.MzjEEco
おいおい、お題を全部まとめて書くだなんて誰が言ったんだ?

いや、351の時点でもうネタ決まって書き始めちゃってただけなんだけど
358 :対決列島! [saga]:2009/07/31(金) 03:30:26.10 ID:.MzjEEco
『あづー……』

 柊家の暑は夏い。もとい、夏は暑い。夏はどこでも暑い。
 かがみとつかさの二人は、加速し続ける猛暑に耐え切れず、思い思いの格好で床に倒れていた。
 外の世界からひっきりなしに入り込んでくるセミの声は、下手をすると熱中症になりかけている二人への葬送曲のようにも思えてくる。
 
「……こんなんじゃ、ダメだわ」

 首から上だけを動かし、かがみは周囲に目をやる。
 日の当たる部分を隔てた向こう側の陰で、つかさが横になっている。
 彼女はぴくりとも動かない。あまりの暑さにばててしまっているのだろうし、それも仕方のないことだ。

 仰向けになると、ジャージ姿のまつりがテーブルに頬を付いて座っているのが見えた。
 テレビからは男の声が聞こえるが、視聴しているはずの彼女は特に反応を示すことはしていない。果たして意識を保っているのかどうか。

「……ああ、かき氷食べたい」

 保っていた。

「姉さん、何観てるの」
「んー」

 会話になっていない。

「この『白くま』ってかき氷、食べたくない?」

 空は青く、塀は陽炎の向こうでゆらゆらと揺れていた。炎天下である。
 液晶の中で、一人の男がかき氷をかっ込んでいる。どうやら早食い対決が展開されているらしく、中身がほとんど残っていないカップが時折映る。
 かがみは回転の速い頭で姉の意図をつかんだ。

「パシリは嫌」
「私も行くって。お互い納得できるサイズのを探そうよ」

 彼女はむくりと起き上がった。


359 :対決列島! [saga]:2009/07/31(金) 03:31:23.28 ID:.MzjEEco
 持ち帰った氷菓子を再び充分に凍らせるためには、六十分もの時間を要した。
 時刻は十五時。日差しが居間に入り込むことはなくなったとは言え、未だ黙っていても汗が出る暑さである。

「そろそろいいかな」
「そろそろいいわね」

 同意の上でかがみは腰を上げて冷凍庫を開け、カップアイスを二つ取り出してテーブルへ運ぶ。
 その間にまつりがデザート用のスプーンを2本手に取った。見事な連携である。

 商品名、南国白くま。山盛りのかき氷にミカンやイチゴ、小豆などをたっぷりとトッピングしたそれの容量は、優に350mlを超える。
 その、120円の缶ジュースよりもボリュームのある「怪物」を前に、どちらからともなくごくりと喉が鳴った。
 余談だが、この本家たる鹿児島には、市販されているものの倍を誇る750mlもの白くまが売られているとか。

 ぱくりと蓋を取り、スプーンを差し込む。かがみが三十秒を数えるタイマーを起動すると、キッチンを緊張が支配した。

「いい。相手への妨害はなし。ガチンコの一本勝負だからね」
「わかってるわよ」

 二十秒。
 どこから攻めるべきか――かがみは目の前の白い山を睨みつける。
 トッピングは、かき氷本体を食するには少々邪魔だ。最初に処理してしまうべきではないだろうか。
 否、これは関連痛に見舞われた時の緩衝材にもなりえる物だ。半分ほど残した上で氷山を崩すべきだろう。
 十秒。
 向かい合う姉も視線を油断なく白くまに向けている。彼女も作戦を立てているのだ。
 この勝負は間違いなく互角、そう直感する。余裕など欠片も存在しない。
 五秒。四秒。三秒。二秒。一秒――

 ピピッ、という電子音。二人はまったく同時にスプーンを拾い上げた。
360 :対決列島! [saga]:2009/07/31(金) 03:32:20.69 ID:.MzjEEco
「えっ!?」

 先に声を上げたのはまつりだった。ほんのわずかな間だが、手も止まった。
 好機と、かがみはまずサクランボを口の中へ放る。
 しかし、これは失策だった。彼女は凍りついた果肉の中に種が埋め込まれてあるのを忘れていたのだ。後回しにして融けるのを待つべきだった。
 口に入れたことを後悔したが、まさか吐き出すわけにもいかない。サクランボを頬に追いやり、次は黄桃に目を付ける。

(硬い!)

 先ほど、まつりが驚いたのはこのせいだった。練乳が絡んだかき氷は意外なほどに堅固で、スプーンの侵入を許さない。
 焦らずガリガリと黄桃の周りを削り取り、口へ運ぶ。この頃にはタイミング良く、サクランボも果肉を噛み取れる程度に柔らかくなっていた。
 残った種を蓋の中へ入れ、いよいよ本陣へと切り込む。
 まつりも相変わらず苦戦している。差を付けるのは今しかない――
 かがみはカップを持ち上げた。握る右手にやや力を込めながら、表面にはあっと息を吐きかけた。熱を加えて融解させるのだ。

「やるじゃん」

 遅れを取るまいと、まつりも素早く同じ行動に移る。
 だが、やはり一歩の差が大きなアドバンテージとなる。先に白くまの防衛線を突破したのはかがみだった。
 ザクリとスプーンが沈む。真っ白な氷をすくい上げ、ぱくりとかぶりつく。
 氷と練乳が織りなす甘美さに酔いしれたくなったが、生憎そんな暇は微塵もない。飲み込むのを待たずに次の一口へと進む。

「――っ!」

 その動作を五、六回繰り返した頃、かがみは突如襲いかかってきたこめかみの痛みに頭を抱えた。
 かき氷の早食いというカテゴリでは決して避けて通ることのできない、アイスクリーム頭痛だった。俗称ではなく、れっきとした医学用語だ。

「甘いね、かがみ。この白くまくらい甘い」

 そこには早くも勝ち誇るまつりがいた。食べるスピードが純粋にかがみのそれよりも速く、またアイスクリーム頭痛の洗礼も受けていない。
 場数が違ったのだ。おそらくは以前に、かき氷の早食いというものを少なくない回数経験していたのだろう。
 後手に回っていたはずの白くまの残量は、早くもかがみを追い抜かんとしている。このままでは負ける――!
361 :対決列島! [saga]:2009/07/31(金) 03:33:11.83 ID:.MzjEEco
「……まだまだぁ!」

 もとより、この時のために残しておいたトッピングだった。かがみは躊躇うことなく、イチゴとパインを噛みしめた。
 感覚が口の中を駆ける強い酸味に向くことで、狙い通り、アイスクリーム頭痛はいくらか和らいでくれた。
 彼女は再び左手の動きを再開させる。向こうとの差は今や歴然、手痛いタイムロス。
 多少の無理を押し通さねばならない――かがみは瞬時にそう判断する。
 かき込むしかない。先ほど、テレビの中の男がそうしていたように。
 右手を斜めに構え、恥を捨ててカップの淵に唇を付けた。まつりも妹の強硬手段を察知したらしく、食べるペースを上げにかかる。
 早すぎる追い込みだと、彼女自身思っていた。まだ半分近いかき氷が残っているのだ。
 決着を早まって再びアイスクリーム頭痛に襲われるのでは愚策にも程がある。そう、理解している。

(だけど、それでも!)

 予想通り、二度目のアイスクリーム頭痛。もはや致命傷とも呼べるダメージを完全に無視し、かがみは氷を流し込む。
 頭蓋骨を針で貫かれたような痛みが走る。脳が限界を訴えている。もう駄目なのか――

「くうっ!?」

 その時、奇跡は起こった。
 ここにきてようやくと言うべきか、まつりの側にもアイスクリーム頭痛の魔の手が伸びたのである。
 彼女が残すのはもはや氷のみ。対して、かがみのカップには最終兵器(リーサルウェポン)が沈んでいた。
 すなわち、小豆。
 渋さを伴う、落ち着いた甘みが、これまた先ほどのイチゴやパインと同じように痛みを和らげる役目を果たす。
 まつりは早い段階でこれらを消費しすぎたようだった。故に、ラストスパートをトッピングの助けなしで走り抜けなければならない。
362 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/31(金) 03:34:03.82 ID:.MzjEEco
 もはや、かがみの辞書に「敗北」の二文字は存在しなかった。
 わずかとなった中身を押し込み、残った練乳も間髪入れず吸い込んでしまう。
 氷をじゃりりと噛み砕き、彼女は口内の全てを一気に飲み込む――!

 タン、と空のカップがテーブルに叩きつけられる。それが決着の合図だった。
 いや、この擬音は正確ではない。タタン、と表現すべきだっただろう。

「――かがみ、あんたの勝ちだよ」

 コンマ数秒の差でしかなかった。
 それでも、先に完食したのはかがみだったのである。

「いい勝負だったわ」

 戦いは終わった。
 残ったのは満足感と、勝者のしるし。それだけだった。

「約束通り、私の分は姉さんのおごりね」
「完敗だったしね。言ったことはちゃんと守るよ」

 椅子の背もたれに体を預け、二人はしばし休息を満喫する。
 やがて目を開けた勝者の声で、この決闘は締めくくられることとなる。


「つかさー、かき氷買ってきたわよー!」



 完
363 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 03:35:09.99 ID:.MzjEEco
どうみても水曜どうでしょうです本当にありがとうございました
良い子のみんなはかき氷を味わって食べようね!

>>352-354もちゃんと書くよ!
364 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 06:44:35.48 ID:uhUvScAO
>>363
乙!
たかがかき氷に細かい描写されててワロタ
こいつら熱くなりすぎだろww

一番の勝者はつかさじゃなかろうか
365 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/07/31(金) 12:34:38.57 ID:1eTl26DO
>>318
上手いww
366 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 17:51:52.15 ID:VXQW29g0
>>363
かき氷食べるだけなのに何という緊張感wwww
面白かった
367 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/07/31(金) 19:04:26.12 ID:0dOYr1g0



                            ☆<=ω=>☆≡=― ここまで


               ☆<=ω=>☆≡=― まとめた


壁│☆<=ω=;>☆≡=― よ!?




避難所で話し合われていたコメント欄を付けてみました。
すぐに取り外すことが可能ですので、嫌だという作者の方は言って下さい。


368 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 20:31:36.09 ID:URIfbEgo
それが超こなたの最期の姿だったのです…
369 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 22:09:37.20 ID:VXQW29g0
>>367
乙!
370 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/07/31(金) 23:49:25.15 ID:KJm2HbI0
>>363
かき氷なのに・・・熱い!GJ
>>367
超こなた久しぶりww乙です
371 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/01(土) 13:12:07.11 ID:qSK21zo0
とある中古ショップ店でのフィギュア買い取り

売ったのは、こなた、つかさ、かがみ、みゆき、ななこ

領収書に書かれた内容↓
こなた  300円
柊姉妹 格200円
その他 格 50円×2

こなた「まぁ主人公だし当然かなぁー。でも、もうちょっと高くても良い気がするよw」
かがみ「よくばるな」
つかさ「わーい、私お姉ちゃんと一緒だ〜♪」

みゆき「私はメインキャラ私はメインキャラ私は……」ブツブツ
ななこ「ほんなら、うちはそのメインキャラに並べたわけやな♪」
みゆき「……」キッ
ななこ「な、なんや、そんな怖い顔すんなや(´・ω・`)」
372 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/01(土) 17:13:21.94 ID:UPGkTbw0
>>371
みゆきさん……
373 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/01(土) 23:37:16.52 ID:auylHgSO
みゆきさんがこうも省られているのは
やはりネットが原因なのだろうか……
374 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/08/02(日) 00:01:09.96 ID:09KiA6U0
第9話 交渉と合流

「アポとったん?wwwwwwこれ、勝手に入っちゃっていいん?wwwwwwww」
「さぁ〜〜wwwwwwどうなん?こなたんwwwwww」

「んー・・どうしよう・・・」

宣戦布告くらいした方がいいのだろうか?
いや、ていうかできれば話し合いで解決したいし・・・。
この数がいれば、向こうも降参してくれたり・・・しないかな?

「でも3階電気ついてるね。まだいるってことじゃない?」
「うん、そうだね・・・とりあえず、電話してみるよ」

私は携帯を取り出してかがみにかける。
しばらく呼び出し音の後、峰岸さんの声が聞こえて来た。

『誰?』

は?

「誰って・・・ふざけてんの?私だよ」
『!?・・・』

ん?なんか変だな。
私の携帯から呼び出しているんだから、私だってことくらい分かる筈だよね。
しかも何で驚いているんだろう?

『ギリギリ間に合わなかったみたいね・・・』
「? どういうこと?」
『まあ、どうでもいいわ・・・で?懲りずにまた来たってわけね』

ううん・・・なんだか気になるけど、今は2人の救出が先だ。

「うん。けどこっちだって今度は準備して来たからね」
『・・・?』

「「「こなたんは俺の嫁えええええ!!!」」」

(≡ω≡.;)

『あらあら、そういうこと』
「そうだよ。攻め込まれたくなければ降伏して、2人を返して」
『そう簡単に2人は返せないわ』
「っ!」
375 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/08/02(日) 00:02:11.03 ID:09KiA6U0
やっぱり、全面戦争になっちゃうのかな・・・?
できればそんなのやりたくないのに。

『あなたたち、さっきここから消えたわよね?』
「えっ」
『あれって・・・2次元に戻った、のよね?』
「そ、そうだよっ」

何が言いたいのだろう?

『どうやって戻ったのかしら?』

そうか。
峰岸さんはまだ知らないんだっけ。
単行本とフィギュアを使えば2次元に戻れることを。

「知ってどうするのさ」
『とっても重要なことなのよね』
「重要・・・?」
『そう、とっても』

どうやら峰岸さんは2次元に戻る方法が知りたいようだ。
重要とかなんとか言ってるけど・・・教えた方がいいのかな?
て、んなわけないよね。絶対悪いことするに決まってる。
それに峰岸さんの知らないことを知っているというのは後々有利になる筈だ。

「お、教えるわけないでしょ」
『やっぱり?でも教えてくれないと私結構困っちゃうんだけどなぁ』
「知らないよ、そんなの」
『教えてよ』
「教えないって言ってるでしょ!」

なんだかじれったくなってきたな。
私はオタクの人たちを見回してから、再び携帯に言った。

「それより2人を返してよね。今からビルの中入るよ?」
『ちょっと泉ちゃん、まだ話は終わってないわよ?』
「何・・・?」
『私はできるだけ穏便にいきたいのよ。話し合いで解決できたほうがいいでしょ?』

そりゃ、そうだけど・・・どの口が言ってるんだ。

『それに、今2人は私の手の内にあるってこと自覚した方がいいわよ?』
「え・・・?」
『あなたの返答次第で、どうにでもできるんだからね』
「ちょ、待ってよ!2人は関係ないでしょ!?」
『大アリよ。この2人も2次元に戻る方法を知っているみたいだしね』
「っ・・・!わ、分かった、待って・・・!」
376 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/08/02(日) 00:03:14.93 ID:09KiA6U0
どうしよう。
マズいことになってきた。

「こなちゃん・・・?」

電話が長引いているからか、横に居たつかさが心配そうに話しかけてきた。

「あ、だ、大丈夫・・・だから」

つかさに答えながら私は脳を回転させる。
今、最優先すべきことは2人の救出。
どんな条件がつきだされても、これが最優先事項だ。

『じゃあ、こうしましょう』
「?」
『あなたが2次元へ戻る方法を教えてくれれば、2人は無事に返す。これでどう?』
「えっ?」

2次元へ戻る方法。
何故だか峰岸さんはすごくこの方法が知りたいらしい。
何でだかは知らない・・・だから、あまり教えたくはない。
しかし、争い無しで、2人を無事に返してくれる。
そして再確認した通り、2人の奪還は最優先にすべきことだ。

なら、答えは決まっている。

しかし、本当にこれでいいのか?
私の中で何かが引きとめる。

「どうすれば・・・いいんだろう」

「どうしたwwこなたんwwww」

私の呟きに、オタクの人たちが反応する。
つかさも心配そうな面持ちだ。

「あ、あのさ、2人を返してくれるみたいなんだけど・・・」

つかさとオタクの人たちの方を向いて、伝える。

「その代り、2次元に戻る方法を教えてくれって・・・どう思う?」

オタクの人たちはニヤニヤしながら
「こなたんの思った通りでいいんじゃねwwwwwwww」
「そうそうwwww俺たちはこなたんについていくだけだからwwwwww」
とか言うだけであまり意味はなかった。

「うぅ〜ん・・・私、そういうのってよく分からないよ・・・取引とか苦手だし・・・」

つかさは済まなそうに頭を垂れた。
377 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/08/02(日) 00:05:42.78 ID:09KiA6U0
「そっか・・・」
「でも、やっぱり1番はみんな無事でいることじゃないかな」

意見は一致した。

「よし、じゃあ決まりだね・・・」

峰岸さんが何考えてるかなんてこと分かるわけがない。
それを考察するにも私たちじゃたかが知れている気がする。
何も変わらない。初志貫徹だ。

『どう?』
「・・・決まったよ」
『へぇ』
「その条件には応じるよ。教えるから2人を返して」
『うふふ、流石泉ちゃんww話が分かるわねww』
「じゃあまず2人を返してくれる?」
『教えるのが先よ』
「・・・ちゃんと条件守るんだよね?」
『当たり前でしょ』
「うぅ・・・分かったよ」

それから私は2次元に戻る方法を話した。
らきすたの単行本が2次元への入り口であること。
フィギュアという2.5次元の存在を使って次元を行き来できること。
手をつなげば複数で同時に次元移動できる、なども。

『なるほど・・・ね』
「これでいいでしょ?」
『ええ、十分よ。ありがとね』
「お礼はいいから」
『はいはい。じゃあ約束通り、2人は返すわ』
「うん」
『うふふ、それじゃあ夜も遅いし一時休戦ね』
「へ?」

それを最後に電話は切れた。

・・・一時休戦、か。

しばらくして廃ビルから2人の人影が出て来た。

「かがみ、みゆきさん!!」

私は2人に手を振った。
つかさはすまなそうに2人を見ていた。

「こなた!あんたたち、無事だったのね」
「一時はどうなるものかと・・・」
378 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/08/02(日) 00:06:40.19 ID:09KiA6U0
2人がこちらに駆けて来た。
どちらも無事そうだ。

「あ、あの・・・お姉ちゃんにゆきちゃん、ごめんなさいっ」
「へ?」
「わ、私がしっかり手繋いでればこんなことには・・・」
「あ、ああ・・・そのことか。あれはあんたのせいじゃないわよ」
「え?」
「あれは私が手を離したから」
「えぇっ!?」
「ちょっ、そ、それどういうこと!?」

かがみは驚愕している私とつかさを一瞥してからみゆきさんの方を見た。

「実は、みゆきがね・・・」
「はい、あの・・・2次元へは戻るべきではないと思いまして・・」

そういえば私が2次元へ戻るとき、みゆきさんが何か言いかけていたっけ。
結局なんて言ってたんだか分からなかったんだけど。

「で、私もそう思ったわけ。つかさたちにも伝えようとしたけど、間に合わなくてね・・・。確かにあんたの2次元に一旦戻るっていう策も恐れ入ったけど・・・」
「え?え?何で?私、こなちゃんの案すっごく良いって思ったんだけど・・・」
「あんた・・・よく考えてみなさいよ?2次元は今、峰岸の世界そのものだってこと」
「そして、もしあそこで2次元に戻った、ということが悟られでもしたら・・・」
「え?それって・・・峰岸さんの思うつぼってこと?」
「そうよ。そして、あの時あんたたちが消えて、峰岸は気付いたのよ。2次元に戻る方法が存在するってね」

え?
あの時気付いた?
ってことは「2次元に戻る方法が存在する」という事実を、私が気付かせてしまったということだ。
そして、私たちが2次元に戻ったということにも気付いてしまった・・・。

「!!」

てことは・・・さっきの2次元での異変は・・・まさか・・・?

私は異変の正体が、分かった気がした。

峰岸さんは原作者の力で、2次元内ならば自由に改変できる。
そして、あの時峰岸さんは私たちが2次元に戻ったということを知っていた。
で、2次元に戻った私は突然倒れ、意識がなくなった。
つかさが私の事を一瞬思い出せなかったと言ったこと。
先ほどの電話での言葉峰岸さんの台詞『ギリギリ間に合わなかったみたいね・・・』

身体が震えた。
379 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/08/02(日) 00:07:39.30 ID:09KiA6U0
「泉さん?どうかしましたか?」

「・・・消されかけてたんだ」

「こなちゃん?」

「・・・あの時」

「え・・・?」

「・・・存在を」

あの時、一歩でも遅ければ、もしかしたら私は・・・
パソコンの前に居たこと、フィギュアを取り出していたこと、つかさが傍に居て、機転を利かしてくれたこと。
偶然が重なって、私は幸運にも3次元へと生還することができたわけだ。
本当に、運が良かった。それしか言えない。

「存在を・・・消され?え?あ、あのとき・・・!?」

つかさは若干混乱しながらあの時の異変を思い出した。

「じゃ、じゃあ・・・あの時私がこなちゃんを一瞬認識できなかったのも・・・!?」
「ちょっと・・・!それ詳しく話しなさいよ」

つかさはあわあわしながらかがみとみゆきさんに2次元であったことを話した。

「そ、それは・・・事実なのですか?」
「うん・・・」
「ちょっと待て、それ本当だったらシャレんならないぞ?」
「やはり、2次元に戻るという選択肢は危険だったわけですね・・・」

深刻な雰囲気になる3人。

「け、けどさ・・・結果オーライじゃん?あのまま3次元に居てもみんな捕まってたわけだし・・・」
「結果オーライ?ふざけてんのか?存在が消えるって・・・どういうことだか分かってるわけ!?」
「あ・・う、わ、分かってるよ・・・!!」
「少しは慎重になれ!!!」
「う、うるさいな・・・!!私だってあの時は必死だったんだよ!!」

「2人ともやめてぇ!ケンカしてる場合じゃ・・・!!」

私とかがみの間につかさが介入してくるが、構わず続いた。
380 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/08/02(日) 00:10:17.08 ID:09KiA6U0
「あんたはそうやって後先考えずに行動するからそうなるのよ!!」
「なっ・・・わ、私だってちゃんと考えてるよ!!」
「存在消されそうになって考えてるって言えるわけ?!」

私はかがみを睨みつけた。
いつの間にか拳をにぎりしめていた。

「そ、それはそこまで頭が回らなかったっていうか・・で、でもっ!」
「ほらね。やっぱり考えてないじゃない。こういうことになったのも全部あんたの不用心な行動のせいかもな」
「っ・・・!!」

かがみの発言に私の中の何かがはずれた気がした。
口先だけでは収まらず、手までが出そうになった時、

「お二人とも、落ち着いて下さいっ!!」

みゆきさんがつかさ同様私たちの間に割り込んだ。
珍しいみゆきさんの大声に、両者とも思わず静止した。

「つかささんの言う通り、今は争いなどしてる場合ではありません。分かりますよね?」

「・・・うん」
「・・・悪かったわ」

それでも私たちはお互い目を合わさなかった。
せっかくの再会のはずなのに、雰囲気は最悪だ。

「とりあえず、寝る場所などを探しましょう」

みゆきさんがこう発言し、歩き始めるときも、私たちは終始無言だった。



「・・・ちょっと空気読んで割り込まなかったけど、なんかすごいことになってんなwwww」
「つーか俺たち結局役に立ってなくね?wwww」
「怒ってるこなたん萌えwwwwww」
381 :こなたん達が3次元に来てしまったようです :2009/08/02(日) 00:12:42.83 ID:09KiA6U0
以上です。お久しぶりです。
気付いたらいつのまにかコンクール終わってたorz
382 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/02(日) 12:52:51.30 ID:usckcvwo
かがみマジうざいな。
オタク共にレイプされる展開を切実に願います。
383 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/03(月) 21:43:01.12 ID:Ge8iZFU0
みゆき「……暇ですね」


みゆき「何かすることはないでしょうか……」


みゆき「……7のつく数字と7の倍数の時だけ手拍子」


みゆき「1,2,3,4,5,6,」パチッ

みゆき「8,9,10,11,12,13,」パチッ

みゆき「15,16,」パチッ

みゆき「18,19,20,」パチッ

みゆき「22,23,……」


みゆき「……一人でやっても面白いものではないですね」
384 :劇中劇 :2009/08/03(月) 23:36:15.86 ID:3C54Bpg0
投下行きます。
385 :劇中劇 :2009/08/03(月) 23:41:18.70 ID:3C54Bpg0
 名射手

 暑い、眠い、疲れた、だるい。
 祭囃子が別世界のように聞こえる。本当の自分はどこか別の場所にいて、この体を遠隔操作してるような気分だ。
 食事も寝床も寝る時間も皆と同じだけど、あの人達に拾われるまでに相当体力落ちてたもんな。そんな身でこの生活はまずいかもしれない。
 でも、あの家にいるよりはまだマシだった。
 祭りの場にふさわしくない記憶が蘇り、気が滅入る。

「私達、同級生っすから!!」
 高校生くらいの少女と、小学生くらいの小柄な少女を交えたグループがそこにいた。
 傍にいる婦警さんになにか注意でもされているのだろうか?
 そのにぎやかな光景をしばし見つめていた。
 俺だって同年代なのに、何で俺だけこんな目に遭ってるんだろうな。
 本来はあの子達みたいに友達と連れ立って縁日を楽しんだりしてたはずなのに。
 特に小柄な少女が浮かべる何の悩みもなさそうな笑顔にはいらいらする。
 そんな八つ当たりに自己嫌悪したとき、俺が担当している射的の屋台にさっきの婦警さんが近づいてきた。
 補導されるのかと焦り、嫌な汗が吹き出し脈も速くなる。
 だが婦警さんはさっきのグループの小柄な少女に薦められ客としてここに立った。
 そして左手にフランクフルト持ったまま奇妙な構えをあれこれ模索してるうちに同僚に見つかり連行されていった。
「な、なんだったんだ……」
 気が抜け脱力していると、さっきの小柄な少女がこっちに来た。
「おにーさん、そっちに並んでるのは当てたらどれでも貰えるの?」
「どれでもOKだよぉ〜」
 ああ、喋りかた変だ。
「どれでも?」
「うん、どれでも」
 やばい、緊張が解けたせいか疲れやら眠気やらが激化して襲い掛かってきた。
 朦朧としてきた俺をよそに指を咥え景品を吟味した少女は……。
「おっとお嬢ちゃん、僕は景品じゃないんで」
 こっちに向けられた銃口に、いっそのことお持ち帰りされちゃってもいいかな? なんて考えがよぎる。
 額に当たるコルクの衝撃、「わ!? ほんとに当たっちゃった」と狼狽するお嬢ちゃんの声と共に、俺の意識は暗転した。


386 :劇中劇 [sage]:2009/08/03(月) 23:43:50.69 ID:3C54Bpg0
 俺の実家は様々なトラブルにより家庭は険悪なものになっていた。
 そして俺に対し暴行やら悪口雑言やらメシ抜きエトセトラといった仕打ちが始まり、俺は耐え切れず家を飛び出した。
 しかし身を寄せるあてなどなく、野垂れ死に寸前となった俺を拾ったのがいわゆるヤのつく商売の人たちで、ちょうど夏祭りの時期だったためその仕事を手伝うことになった。
 トラックの荷台や仮設店舗という劣悪とは言いすぎだが少々ハードな寝床に屋台の残りものが中心の食生活、そして仕事に関する妥当なものとはいえ厳しい言葉を投げかけられ心身ともに消耗していった。
 そんな中でこれからどうするか何も考えが浮かばないうちにお譲ちゃんの銃撃がトドメとなってぶっ倒れ、今に至る。

 目覚めた病室のベッドでお巡りさんとそういったいきさつを再確認していた。
 俺の処遇について香具師(本来の意味)の人たちにこれといったお咎めはなかった。
 この人たちにすがるしかないと考え体調については問題ないと言い張っていただけに妥当なものだろう。
 短い間だったしきつい生活ではあったが、かつて俺の家族だった人たちの仕打ちに比べれば遥かにマシな生活をさせてくれた恩人たちだったから、お咎めなしということに安心していた。

 俺の数少ない持ち物から身元を探られて家族だった人たちと連絡はついていたのだが、お巡りさんの険しい表情と直接俺が電話口に出されないことから察するに、相当な悪意に満ちた言葉が吐き出されていた模様。
 捜索願いも出されていなかったというから、俺を元通り受け入れるつもりはないらしい。
 再開されるが進展のないお巡りさんの電話越しのやり取りを、少々変わったデザインの背広を着た男性二人がやりきれない顔で見ていた。
「やはりネグレクトか」
「ああ。情が離れた保護者に法や道徳では役に立たんよ」
 一緒にいるのが苦痛だってのに家族としてやっていけるわけがないんだよな。
 まして学費やら生活費やらの負担なんてやってられないだろうし。
 でもどこにも行くとこなんてない。頼れそうな親戚がいたらとっくの昔にそこに身を寄せている。
 さてどうしたものか。この状態で一人で生きていくのは相当な無理があった。

 やり切れない面持ちで電話を切ったお巡りさんが背広の人に向き直る。
「今から白石みのる救済計画の指揮権は君に移った。お手並みを見せてもらおう」
「了解です」
「我々の所有する権限では彼が直面している事態に対し有効な手段がない事は認めよう。だが君なら解決できるのかね?」
「そのための福祉です」
 火傷の痕跡でもあるのか手袋をはめた手でクイと眼鏡の位置を直した顎鬚の職員さんは、てきぱきと養護施設への入所手続きを進めていった。
 そして……。

「やほー、おにーさん」
 陽気な声で迎えに現れたのは、屋台で俺を仕留めたあのお嬢ちゃんだった。



??「ほーほー、ソレが二人の馴れ初めか」
こなた「うんうん」
みのる「いや、その表現はちょっと。泉も何勝ち誇ってんだ」
??「それにしても、その婦警さん最高。うまく肉付けしたらいい味出すキャラクタになるかも」


387 :劇中劇 [sage]:2009/08/03(月) 23:51:18.74 ID:3C54Bpg0
 新説

「日下部さん、またですか?」
 案内された施設の玄関に入るなり、剣呑な空気が漂っていた。
「た、貸借主忘却の法則は絶対あるってヴぁ!?」
 日下部と呼ばれた八重歯の少女は、職員らしきメガネの女性が怒気のようなものを増加させたことにのけぞっていた。
「そんな法則ありません。施設育ちは非常識という偏見で見られることになりますよ?」
 こうして説教が始まる。
「あー、みさきち、またやっちゃったか」
「また?」
 俺を迎えに来たお嬢ちゃん、泉こなたが言うには、みさきち、もとい日下部みさおは友人とのモノの貸し借りでよくトラブルを起こすらしい。
「これだから施設育ちは、って言われちゃうんだよね。普通の家庭で育ってもそういうズボラな子はいるんだろうけど」
 肩をすくめる。
 いろいろな物を皆で共有するという状況から、施設育ちの子は人のものと自分のものの区別がつかなくなるという偏見があるらしい。
 だがどんなに偏見だと主張したところで、その偏見に合致してしまう行動を取ってしまったら偏見の強化にしかならない。
 だからこそ躾が厳しくなるんだろうな。

 それから園長である女性と連れ立って施設の説明を受けながら職員室に向かうが、すれ違う入所者たちの注目をやたらと浴びる。
 新入りってことで珍しいからか? とも思ったが、どうにも違和感がある。
 ……女の子ばかり?
 俺が抱いた違和感に気づいた園長先生の説明によると、保護されるまでに色々あって男性恐怖症になっている子がいるらしい。
 他にも偶然が重なって男女比が偏っていき、いつの間にか女子ばかりになってしまったという。
 だが女だらけの状況もそれはそれで色々と問題が出てきたため、男子も受け入れようと考えていた矢先に俺が保護されたとのこと。
 最終的な手続きを終え、休み明けに学校に行くかどうかやその選択肢についての説明が行われた。



??「うわははは、その法則、最高。使わせてもらうよ」
みさお「うぅ〜、恥ずかしいよぅ」
??「大丈夫大丈夫、演出次第で笑えるエピソードにできるから」
こなた「今になって思うと、あの状況ってギャルゲーやエロゲーみたいだね」
みのる「女の子が堂々と言うなっての」
??「規制に引っかかりそうだからそこらへんのネタは使えないかなー」


388 :劇中劇 [sage]:2009/08/03(月) 23:52:54.65 ID:3C54Bpg0
 暗黙のルール

 夕食の時間になり、簡単な自己紹介をして食卓につく。
 俺の隣は柊つかさと名乗ったショートカットの子で、緊張の面持ちでチラチラと俺を見た。
 顔に何かついてるかと思ったがどうも違うらしい。
 つかさは意を決したように口を開いた。
「あ、あの、私が隣に座ったの嫌じゃない?」
「へ? 別にそんなことないけど」
「なんか無理してるとか」
「……無理してるように見えるのは君のほうだけど」
 男性恐怖症になっている子がいるというが、つかさがそうなのだろうか?
 あえて俺の隣に座ったのは荒療治のつもりなんだろうか? さてどうしたものか。

 あれこれ考えを巡らせていると、みさおが心の底から美味そうにミートボールを頬張るのが見えた。
「あーん、んぐんぐ」
 その様子を、玄関で説教していた職員さんが隣の席で嬉しそうに見ていた。
 彼女は高翌良みゆきといい、元々この施設の出身で、18歳を超え今年度から職員として就職し、炊事などを切り盛りしてるとのこと。
 みさおのあの笑顔を見たら食事の作り甲斐もあるだろうな。
 などと和んでいたら……。
「ヴぁ!?」
 みさおはミートボールを床に落とした。
 ソレを素早く摘み上げたところで俺の視線に気づき固まる。
「ほ、ほら……3秒ルール3秒ルール!」
「……」
「5秒以内だったら菌がつかないんだってヴぁ」
「な、なんだよ、何も言ってないだろ」
「床は高翌良さんが綺麗に掃除してくれてるから大丈夫だってヴぁ!?」
 拾い上げたミートボールを口に放り込もうとする手を隣のみゆきさんがわしづかみにしていた。
「財政の問題からタンパク源が貴重なのは事実です。しかし、そういう無作法は偏見の元ですよ?」
 玄関での説教のような怒気が立ちこめた。
「が、学校ではやらないってヴぁ」
「どんなに気をつけていても癖はついつい出てしまうものです。そうして周りの人に引かれしまったら困るでしょう?」
「わ、わかったよぅ……」
 しぶしぶとではあるが、拾ったミートボールをみゆきさんが差し出した小皿に置く。
「でも、それだけ掃除が徹底してることを評価してくれて嬉しいです」
 みゆきさんは自分の皿からミートボールをひとつ、みさおに分けた。
 皆みゆきさんの怒気に気圧されていたが、こういったことは日常茶飯事だったらしくすぐ和やかな食事が再開された。



??「うわははは、3秒ルール採用!」
みさお「うぅ〜、恥ずかしいよぅ」
??「大丈夫大丈夫、演出次第で笑えるエピソードにできるから」
みさお「うぅ〜」


389 :劇中劇 [sage]:2009/08/03(月) 23:54:32.71 ID:3C54Bpg0
 防御不可

 食後、食堂と繋がった共同スペースにてこなたと共に年少組の子達と遊んでいた。
 いや、正確には……。
「潰れる潰れる、大勢でのしかかるなー!」
 もてあそばれていた。
「あはは、男の人が相手だと年少組も遠慮なしだねー」
「泉までのしかかってどうする……」
 こんな状況下で年少組と遊ぶこなたを観察していると……。
「さぁ、始まるザマスよ」
「ジェットストリームアタック」
「うーんマンダム」
「だって、涙が出ちゃう。女の子だもん」
「スケキヨです」
「恐ろしい子!」
 といった具合にやたらと古くてマニアックなネタを披露していた。
 俺は懐かしのテレビ特集の類でしか見覚えのないネタを、こなたは身振りまで見事に再現している。

 そして年少組の子から頭にジュースをぶっ掛けられたこなたは、洗面台で頭を洗っていた。
 俺が追加のタオルを持っていくと、大昔のシャンプーのCMを真似ていた。
「にーさんにーさん、ティモテ、ティモテ、ティモテ〜♪」
「お前いくつやねん」
 本当にいくつなんだろう? あの縁日のときのグループと同年代、つまり俺とも同年代らしいんだが。
「あー、私、年齢不詳だから」
「え?」
「私がすごく小さい頃、屋根裏部屋に閉じ込められてたんだよね」
 予想だにしていなかった話に呆然としていると、通りがかった園長先生を交えてものすごい補足説明が始まった。

390 :劇中劇 [sage]:2009/08/03(月) 23:56:37.35 ID:3C54Bpg0
 数年前。
 とある古びた一軒家で激しい言い争いがあるという通報があり、警察が踏み込むと住人の男女は既に死亡していた。
 そこで保護された少女がこなただった。
 DNA鑑定の結果その男女が両親であることこそ証明されたが、異常なまでに近所づきあいが希薄だったため少女の存在は誰にも気づかれておらず、生い立ちを知るものは皆無らしい。
 親からは、おい、とか、お前、といった呼び方しかされておらず、こなたという名は保護されてから施設の職員(話しぶりから察するに園長らしい)につけられたものだという。
 親は妊娠を公にできない事情があったらしく、出生届は出されていなかった。
 この状況下で、こなたは保護されるまで閉じ込められた部屋に収納されていた数々の漫画やゲーム、ビデオなどを見て過ごしていたという。
 やたらとマニアックで古いネタを乱発するのはその名残らしい。
 言葉や文字はこうして断片的に覚えただけであり、人並みに会話や読み書きができるようになるまで相当な訓練が必要だった。

 こんな話をこなたは平然とした態度で語り、園長先生は真剣な顔で補足していた。
 その顔から察するにホラではないらしい。
「そ、そうなんだ……悪い……」
 平然と話せるのはこなたの強さなのか、はたまた社会的にどんな意味を持つのか理解してないだけなんだろうか。
「だから見た目はどう見ても○学生なんだけど18歳以上って設定にして攻略対象にできるよ」
「突っ込みづらい雰囲気の時に余計な事言うなっ」



??「う〜ん……」
こなた「あ、18歳以上だとこの福祉の対象じゃなくなるんだっけ」
??「事情によっては延長できるけどいやいやそういうことじゃなくって」
みのる「この話はヘビー過ぎますね。ほとんどサイコスリラーの世界だし」
??「でも、マニアがニヤリとするネタを脈絡なく盛り込むのはウケるかもしれんな」
みのる「いいんすかソレ」


391 :劇中劇 [sage]:2009/08/03(月) 23:58:47.81 ID:3C54Bpg0
以上、今回はこの辺で。
パラレルワールド(?)を舞台に、本編のネタをヘビーな解釈で再構成です。
どういう位置づけの世界かはタイトルと台本形式の幕間のやり取りでピンと来るかもしれませんが、最後の方で明らかにする予定です。
392 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/04(火) 00:03:30.95 ID:YAm6UPA0
>>391
うむ、とりあえず乙。
こりゃ面白いアイディアだな。
続きを待っとく。
393 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/04(火) 01:14:38.11 ID:Elq2GMSO
欝ものは出来れば最初に明記して欲しいな…。
394 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/04(火) 01:44:41.21 ID:P8o2Apc0
久しぶりにSS投下します。
395 :妹離れ :2009/08/04(火) 01:50:05.77 ID:P8o2Apc0
家で試験勉強をしていると不意に携帯が鳴った。
発信者は「泉こなた」
高校卒業してしばらくは頻繁に会ったりしていたが最近では、私が忙しいこともあって連絡を取る回数も減ってきていた。
電話を取ると高校の時と変わらぬこなたの声が聞こえてきた。

「やふー、かがみん。元気?」

しばらく連絡を取っていなくてもこなたとの会話はいつも楽しい。
その高校時代と変わらない空気が私を安心させてくれる。

「それでこないだも怖くて眠れないからってベッドに入ってきて…」
「へー、相変わらずだねぇ、つかさは」
「もういい加減つかさにも自立してほしいわよね」
「そんなこと言っちゃって。実際につかさがかがみを頼らなくなったらかがみすっごくさびしがると思うよ」
「そんなことないわよ!」
「どーだかねー。なんたってかがみはうさちゃんだからね〜」

それからお互いの大学の話になった。
こなたは大学でも相変わらずグータラな生活を送っているようだ。

「呑気そうでいいわね。こっちは大変よ〜、大学の試験で」
「それにつかさも今は準備で忙しいでしょ」
「え?何の話?」
「え?かがみ聞いてないの?つかさが留学するって話…」
その先のこなたの言葉はほとんど耳に入らなかった。

つかさが留学?
396 :妹離れ :2009/08/04(火) 01:54:54.55 ID:P8o2Apc0
そんな話は全く聞いたことがない。
こなたのたちの悪い冗談としか思えない。
そうだ、きっとこなたの悪戯だ…
そう思い、こなたを適当にあしらって電話を切った。

つかさがそんな重要な決断を私に何の相談もせずに決めるはずがない。
しかし、そんな私の希望的観測はあっさり打ち砕かれることになる。

「あのー、お姉ちゃん、いい?」
夜、大学の試験勉強中の私の部屋につかさが入ってきた。
「なによ?あらたまって」
「あのね、お姉ちゃんに大事な話があるの…」
この時点で分かった。
こなたが言ってたことは本当なんだ…

「私ね、留学しようと思ってるの」


「そっか…」
やっとの思いで私はその一言を口にした。
言いたいこと、聞きたいことはいっぱいあった。
どこに留学するのか、どれくらいの期間するのか、いつ出発するのかetc…
でも一番聞きたいのはそんなことじゃなかった。

『どうして私に何の相談もしないで決めちゃったの?』

その言葉が出かかって、かろうじて喉の奥に飲み込んだ。
しかし、そんな私の思いを見抜いたかのようにつかさは言った。

「お姉ちゃんに言わなかったのはね。私にとってすごく大事なことだから…私自身で考えて決めたかったからなの」
397 :妹離れ :2009/08/04(火) 01:57:25.05 ID:P8o2Apc0
そのあと何を話したのかはよく覚えていない。
つかさが自分の部屋に帰った後も私はしばらく呆然としていた。
あたまがふわふわしてて現実感がなくて夢みたいだった。
気がついたらすでに12時を回っていた。
机の上に参考書を広げているが、試験勉強は全然はかどらない。
気分転換になにか飲み物でも飲もう…
そう思って階段を下りると、居間に電気がついている。
誰か起きてるのかしら…この時間に?

「あらかがみ。どうしたの?」
居間にいたのはお母さんだった。
「なにか飲み物でも飲もうかと思っただけだけど」
「そう。じゃあ今お湯わかして紅茶でも淹れてあげるわ。試験勉強は大変?」
「ありがとう。まあ大変だけど自分で選んだ道だし、興味も持てるから」
「そうね。いつの間にかかがみもすっかり大人の顔になったわね」
そうかな。自分じゃ実感ないけど…
「つかさも成長してたのね。いつかこうなるのはわかっていたけどやっぱりさみしいわね」
「そうだね…」
「つかさがね。はじめに料理の勉強のために留学したいって言ったとき、私もお父さんも不安だったの。あの子は積極的に人と仲良くなれる子じゃないし、なによりずっと一緒にいるかがみと離れて大丈夫かなって」
私もそこは不安ではある。
つかさ一人で大丈夫だろうか…
「でもね。話を聞いてるとつかさはつかさでちゃんと考えてるってことがよくわかったし、かがみに頼りきりにするのをやめようってがんばってるのが伝わってきたの。それで私は応援することにしたわ。だからかがみも応援してあげて」

部屋に戻ってベッドへと倒れこんだ。
つかさ、私の大事な可愛い双子の妹。

つかさと一緒にいることは当たり前だった。
つかさに頼られたり、甘えられたりするのも当たり前だった。
でもつかさは自分一人で歩いていけるようになりたいと思っていたんだ…
私はつかさを助けていると思っていた。
でも逆だった…
私はつかさに頼られることで救われてたんだ…
398 :妹離れ :2009/08/04(火) 02:02:21.24 ID:P8o2Apc0
「おはよー、つかさ」
次の日、私はいつものようにつかさに挨拶をした。
お母さんと夜話して、そのあと部屋でも一人で考えて、ひとつの結論を出した。
つかさが私に頼るのをやめようとしているように、私もつかさに対する精神的依存を断ち切ろうと。
とはいえ、別に接し方が普段と変わるわけではない。
いつも通り、静かに日々は過ぎて行った。

つかさの留学が決まってから、大学に入ってあまり会わなくなっていたこなたやみゆきと4人でよく遊ぶようになった。
誰も口には出して言わないが、つかさとすぐに会うことができる日々に少しでも一緒にいようと考えているようだった。
いつでも会えるときはあえて会おうとしなかったのに、会える時間が短くなるとむしろ会う機会が増えるのは皮肉だった。
つかさが離れていくように、こなたたちとも段々離れていくのかな…
そんな考えが一緒に遊んでいる最中でも時々浮かんできて無性に寂しくなった。

つかさの留学出発前日の夜、部屋をノックする音がした。
「お姉ちゃん、あの〜…」
言い淀んでいても枕を持ってきている時点で何を言おうとしているのかは想像がつく。
「しょうがないわねぇ」
わざとらしくため息をつき、私はつかさを部屋に入れた。
「まったく甘えん坊なんだから」
「えへへ、でも今日くらいはいいでしょ?これで…」

最後だから…そう言おうとしてつかさが言葉を飲み込んだことが分かった。
私はつかさの手を握った。
この手も明日には遠く遠く離れた所に行ってしまう…
それは喜ぶべきことだった。
つかさが成長したという大きな証なのだから。
でも今はそのことがとても寂しく感じられた。
「つかさ…」
隣にいる妹に話しかける。
つかさはすでに小さな寝息を立てていた。
「もう寝ちゃったか…」
私はつかさをぎゅっと抱きしめて眠りについた。
399 :妹離れ :2009/08/04(火) 02:05:25.55 ID:P8o2Apc0
出発の日、私以外の家族は予想以上にあっさりしていた。
お父さん、いのり姉さん、まつり姉さんは仕事で見送りに行けないということで、家でつかさと別れの挨拶を交わした。
「気をつけるんだよ、つかさ」
「何かあったらいつでも電話してきなよ」
「留学かぁ、いいなぁ、私もしたいなー」
それぞれ思い思いの言葉でつかさとの別れを惜しんでいた。

「もう忘れものない?」
「うん。大丈夫」
荷づくりも終え、まだ出発の時間まで余裕があったのでリビングで一息つく。
ソファに座ったつかさはきょろきょろあたりを見回して落ち着かない様子だった。
「どうしたの?つかさ」
「…うん。しばらくこのお家ともお別れだから、よく見ておこうかなって…」
そうか、明日からつかさはいなくなるんだ。
ここ最近は準備でバタバタしていたから実感がなかった。

つかさは今日、この家から出ていく。
私もいつかここを出て行く時がくるだろう。
そうやって、少しずつ変わっていく…
いつもは当たり前のように、この家に帰ってきて、二階の私の部屋で寝て、朝起きて下に降りてきてお早うという。
そんな当り前の日々もいつまでもは続かないのだ。
それに気づくと、急に日常の当り前の生活が愛おしく思えてきた。

「そろそろ行くわよ」
お母さんの一声でつかさと私は立ち上がった。

空港に着くとすでに見送りのためにこなたとみゆきが来ていた。
「つかさー、私をおいて行かないでよー」
「つかささんがいなくなると寂しくなりますね」
「うん、でも長いお休みには帰ってくるから…」
「そのうちこっちからも遊びに行くよ!」
「そうですね。みんなでつかささんの留学先に遊びに行きましょう」
「みんな…」

そうこうしているうちにつかさの乗る飛行機が出る時間が近づいてきた。
「じゃあつかさ、そろそろ…」
「うん」
お母さんに促されて座っていたつかさが立ち上がった。
「じゃあみんな、お見送りありがとう。行ってくるね!」
つかさがカート付きのバッグを引きながらゲートの方に向かう。

私はつかさに手を振りながらこみ上げる想いを抑えるのに必死だった。
そのとき襟をつかまれ、急に後ろに引っ張られた。
「ちょっとこなた!なにするのよ!」
「このままでいいの?」
このままでいいもなにもこの期に及んで何をするというのか。
「私たちには何も遠慮することないよ。このままつかさと別れちゃっていいの」
「だって…」
「貯め込んだまま別れちゃ絶対ダメだよ!言いたいことは全部言っといた方がいいよ」
400 :妹離れ :2009/08/04(火) 02:07:44.95 ID:P8o2Apc0
こなたの言葉が引き金になった。
私は思わず駆け出していた。

「つかさ!」

両手を広げてつかさに向かって飛びついた。
つかさは振り向いて少し驚いた顔をして、それでも私を受け止めてくれた。
「行っちゃやだよ。つかさと離れたくない…」
涙がボロボロ零れ落ちてくる。
「お姉ちゃん、泣かないで」
そう言うつかさの声も涙声だった。
「私、必ず帰ってくるから。お姉ちゃんみたいに強くなって帰ってくるから」
涙声だけどはっきりとした強い声だった。
違う…私は強くなんかない。
つかさがいたから強くいられた。
「大丈夫だよ。離れてても私たちが姉妹だってことは絶対変わらないよ」
つかさはそう言ってにっこりと笑った。
目には涙が浮かんでいたし、泣き腫らした後もあった。
それでもいつもの素敵な、大好きな妹の、つかさの笑顔だった。

そっか、そうだよね…
今まで悩んでいたことにつかさはあっさり答えを出してしまった。
私たちはどんなに離れていても姉妹なんだ。
二人の距離なんて関係ない。
たとえ、地球の反対側にいてもそれは絶対に揺るがない真実だった。
そしてそれは…こなたやみゆきに対しても同じだった。
話す機会が少なくなっても、会うことがなくなっても、私たちが親友であることは変わらない。
そう思うと急に心が軽くなった。

私も涙を拭いて笑った。
ひどい顔になってるかもしれないけどともかく笑った。
見送りは笑顔で…
ずっと前からそう決めていた。

「じゃあ行くね、お姉ちゃん」
「行ってらっしゃい、つかさ」
最後に一回だけしっかりと握手を交わして私たちは手を離した。
不思議とさみしくはなかった。
そう、私たちはどんなに離れていても姉妹という絆でつながっているから。

ゲートの前に来た時、もう一度だけ私たちの方を見てつかさは手を振った。
私たちも手を振り返した。
ゲートをくぐるつかさの背中は今まで見た中のどのつかさよりも頼もしかった。


401 :妹離れ :2009/08/04(火) 02:13:07.88 ID:P8o2Apc0
以上です。
つかさの成長を書きたかったけど、気がついたらかがみメインの話になってしまいました。
402 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/04(火) 03:03:52.12 ID:YAm6UPA0
>>401
ふわふわして現実感がない、ってすげーよくわかる。
いい感じのSSだった。GJ。
403 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/04(火) 07:47:13.31 ID:FxtIkpYo
最初の方、留学を留年と読み間違えてて
ダブってしまうのにみんなの反応変だぞ?
と思いながら読んでたんので吊ってきます・・
404 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/04(火) 20:49:48.50 ID:AyDJEl2o
ななこ「いっ、泉! なんやまたウチらのゲーム出るらしいで!」
こなた「先生……音速が遅すぎですよ。みんなでネットアイドル目指すゲームっぽいです」
ななこ「みんな? まさかウチも含まれてるんか!?」
こなた「……いや、ないない」
ななこ「何やとコラ」
405 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/05(水) 23:14:05.48 ID:d.G3Nyw0
〜職員室〜
 
ななこ「なあ、桜庭先生」
ひかる「ん?どうかしましたか?」
ななこ「いや、うちのクラスの泉がなんやウチらからネットアイドルを目指すゲームがでるって聞いたんやけどな」
ひかる「ああ、それですか。情報が少し遅かったですね」
ななこ(桜庭先生知ってたんか!)
   「あ、いや…それだけや」
ひかる「私達の出番はありませんよ」
ななこ「えっ!……そうですか……」
ひかる「まあふゆきの方は何か声がかかってるようでしたけど」
ななこ「な、なんやて!……そう…か……」
ひかる「…今日、一緒に飲みに行きますか?ふゆきに内緒で」
ななこ「…そうやな。よっしゃ、今日は飲むでー!」
ひかる「声が大きい……、ここは職員室なんだが…」
406 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/05(水) 23:59:58.84 ID:MNG3jkI0
投下行きます。

結構前に書いた小ネタをSSにしてみました。
多分、恋愛物?です。
407 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:01:43.68 ID:2cDyGOA0
「ふゆきー。寝かせてくれ」
 そう言いながら保健室に入ってきたひかるを見て、ふゆきは溜息をついた。
「またサボリですか?」
 呆れたように言いながらも、ふゆきはベッドのシーツを整える。
「自習だよ。私は生徒の自主性を重んじるんだ」
 ふゆきが準備してくれたベッドに座りながら、ひかるは大きく欠伸をした。
「ま、ぶっちゃけ眠い」
「ぶっちゃけないで下さい。夜更かしはほどほどにして下さいって、前にも言いましたよね?」
 ふゆきがそう言うと、ひかるは鬱陶しそうに眉をひそめた。
「うるさいなー。お前は私の嫁か」
 そう言ってから、ひかるは何かを思いついたようにフムと頷いた。
「ふゆき。いっそホントに私の嫁になれ」
「それも何度目ですか…」
 やはり呆れたようにふゆきが呟く。
「前にも言いましたけど、そういう台詞は異性の方に言った方がいいんじゃないですか?」
「お前ほどの良い女が、身近な男の中にいるとは思えんからなー」
「…言ってることが無茶苦茶ですよ…」
 処置なしとばかりに、ふゆきが溜息をついた。
「ま、あれだな。家事全般が出来て、そこそこ収入があって、私の趣味に理解があって、この仕事を続けさせてくれて、私の見た目を気にしないって男がいれば、考えないでもないな」
「そんな都合のいい人…」
 いるわけがない。ふゆきはそう言おうとして思いとどまった。最近、保健室の常連になってきた一年生の女の子。彼女が言っていたあの人なら、ある程度今の条件に合うのではないだろうか。
「一人だけ、思い当たる人がいますが」
「…え、マジでか?」


- たまにはこんな心模様 -


408 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:04:39.63 ID:2cDyGOA0
「よーっす。帰るぞー」
 いつものように一緒に帰るために、かがみがこなた達の教室に入ってきた。
「う、うん。ちょっと待ってね…」
 それを見て、つかさが帰りの準備をする手を早める。こなたとみゆきはとっくに準備を終わらせ、つかさを待っている状態だった。
「ほれほれ、つかさ急げー。鬼のかがみ様がお怒りじゃー」
「怒ってない…っていうかわざわざ煽るな」
 かがみが、こなたの頭を軽く小突いて突っ込む。
 そんなことをしてる内につかさの準備が終わり、こなた達は揃って教室を出た。
「おい、泉」
 廊下に出たところで、待ち構えていたようにひかるがこなたに声をかけてきた。
「わたしですか?」
 こなたは一度周りを見渡した後、自分を指差した。
「ああ、お前だ。話があるからちょっと保健室まで来い。時間かかるからな。後の奴は待ってないで帰っていいぞ」
 そう言いながら、ひかるはこなたの襟首を掴むと、引き摺って歩き出した。
「え!?ちょっ、そんな勝手に…たーすーけーてー…」
 その姿が消えるまで見送った後、残りの三人は顔を見合わせた。
「どうしましょう?」
「…帰るしかないんじゃない?」
「そだね…」


「で、友との憩いのひと時を邪魔してまで、ここに拉致った理由はなんですか?桜庭先生」
 保健室に連れ込まれ、強引に椅子に座らされたこなたが、刺々しくそう言った。
「まあ、そうむくれるな。ふゆきが入れたお茶でも飲んで落ち着け」
 ひかるがそう言うと同時に、ふゆきが湯飲みをこなたに差し出してきた。しかたなくこなたは湯飲みを受け取り、熱いお茶をすすった。
「落ち着いたところで泉、お前母親を亡くしてたよな?」
「はい、そうですけど…」
「新しい母親が欲しくないか?」
「ぶふぅっ!?」
 こなたは、すすったお茶を盛大に噴出した。
「あら…泉さん、ダメですよ?保健室を汚しちゃ」
 軽くたしなめながら、ふゆきがこなたの噴出したお茶を布巾で拭いた。
「いや…その…なんで急にそんな事を…?」
 こなたがそう聞くと、ひかるは溜息をついた。
「察しの悪い奴だな。わたしとお前の父親が結婚するかもしれんと言う事だ」
「お前は何をいってるんだ」
「教師に向かって、なんだその口のきき方は」
「…すいません、言ってる事がとっぴ過ぎて、ついて行けません」
 頭を抱えながらそう言うこなたの腕を、ひかるが掴んだ。
「まあ、ついて来られないのならそれでかまわん。行くぞ」
 そして、再びこなたを引きずり出した。
「は?ど、何処に?」
「お前の家だ。その父親とやらを見に行く」
「急すぎやしませんか!?」
「善は急げと言うだろ」


409 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:06:10.47 ID:2cDyGOA0
 車の後部座席に押し込まれたこなたは、腕を組んでムスッとした表情を浮かべていた。隣にはひかるが座っており、運転席ではふゆきがハンドルを握っていた。
「…いや、もう本気で説明が欲しいんですが」
 こなたがそう言うと、ひかるはめんどくさそうに頭をかいた。
「まあ、あれだ。お前の父親が私の理想に合いそうなんだ」
「理想ですか…」
「うむ。家事全般が出来て、そこそこ収入があって、私の趣味に理解があって、この仕事を続けさせてくれて、私の見た目を気にしないといった感じだ」
 こなたは聞かされた条件を自分の父親に当てはめてみた。
 家事全般は確かに出来る。売れ筋の作家だから、収入はそこそこどころか結構ある。趣味は、確かかがみがBLがどうこうと言っていたが、懐の深いオタクな父親はそんな事は気にもしないだろう。仕事に関しても問題はないだろう。作家になりたてで売れてない時には、今は亡き母親が仕事をして家計を支えていたと聞いたことがあるから、女性の仕事をすることには理解がある方だろう。自分がバイトを始めるときにも、特に反対はされなかったし。見た目に関しては全く問題ないだろう。自他共にみとめるロリコンである父なら、ロリ体型である先生はむしろ歓迎ではないだろうか。
「…うあー…なんだこの誰かが準備したかのような一致ぶりはー…」
 こなたは頭を抱えた。しかし、すぐに顔を上げる。
「って、桜庭先生。なんでお父さんのこと知ってるんですか?」
「ふゆきから聞いた」
「…えー」
「私は小早川さんから聞きました」
「…えー…誰も責めれない…」
 こなたは再び頭を抱えた。
「まあ、人づての噂の段階だからな。実のところどうなんだ?お前の父親の人となりは」
 こなたの様子をまったく気にせず、ひかるがそう聞いた。
「ぶっちゃけると、変態です」
「そうか。それくらいは、特に問題はないな」
「ないのかよ」
 こなたは益々深く頭を抱え込んだ。
「…ってーか、肝心のお父さんに再婚の意思があるとは思えないんですけど。未だにお母さんこと世界で一番愛してるなんて、娘の前でクソ真面目に言っちゃうような人ですから」
「ぶっちゃけ養ってくれるのなら、結婚という形式にはこだわらんぞ」
「ぶっちゃけすぎだー…天原先生ー何とかしてくださいー」
 こなたは、運転席のふゆきに助けを求めた。
「すいません、泉さん。紹介した手前、私は強く言えなくて…ひかるさんがこんなに乗り気になるのは予想外でした」
 ふゆきの答えを聞き、こなたは深く溜息をついた。
「とりあえず、会わせるしかないか…あ、そうだ」
 こなたは何かを思い出し顔を上げた。
「桜庭先生、うちは禁煙ですから」
「ん、そうなのか?作家というと、〆切前にイライラしながら煙草をふかしてるというイメージなんだが」
「…えらい偏ったイメージですね…お母さんが煙草嫌いだったから、お父さんまったく吸わないし、わたしもどっちかと言うと苦手です」
「難儀だな…パイポくわえるくらいならかまわんだろ」
 言いながらひかるは、懐から禁煙パイポを取り出して口に咥えた。それを見たこなたが溜息をついたところで、運転席からふゆきの声が聞こえた。
「そろそろ、着きますよ」


410 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:08:29.97 ID:2cDyGOA0
「それじゃ、私は車で待ってますね」
 ふゆきに見送られ、こなたとひかるは泉家の玄関前まで来た。
「なんでこんなことになったんだろうなー」
 こなたは、ひかるにわざと聞こえるようにそう言ったが、ひかるはまったく意に介さず泉家を眺めていた。
「…ただいまー」
 仕方なくこなたは玄関を開けて中に入った。ひかるがその後に続く。
「おかえり、こなた」
 丁度、二階から降りてきたそうじろうがこなたに声をかけ、その後ろにいるひかるに気がついた。
「その人は?」
「学校で生物教えてもらってる桜庭ひかる先生。お父さんに話があるってさ」
「あ、これはどうも。娘がお世話になってます。こなたの父、そうじろうです」
 そう言いながら、そうじろうがひかるに向かって頭を下げる。しかし、ひかるはそうじろうの方を向いたまま石にでもなったかのように固まっていた。
「…先生、どうしました?」
 様子がおかしいことに気がついたこなたが、ひかるにそう聞いた。ひかるは勢いよく首を横に振ると、こなたの方を向いた。
「すまん泉。帰る」
 そして、そう言った後、そのまま玄関を開けて外に出た。
「えっ、ちょ、先生!?」
 こなたは慌ててひかるの後を追って玄関を出たが、その姿は既に見えなくなっていた。
「…なにがどうなってるんだ?」
 こなたの後ろから顔を覗かせたそうじろうが、そう聞いて来た。
「いや、わたしにもさっぱり…」
 こなたは、そう答えるしかなかった。


「ふゆき、出してくれ」
「え…早かったですね。何かあったんですか?」
 ふゆきは、助手席に滑り込むようにして乗り込んできたひかるに、目を丸くした。
「いいから、早くしてくれ」
 ひかるにせかされて、ふゆきは読んでいたホラー小説を閉じ、車のエンジンをかけた。
「ふゆき。なんだこれは、わけがわからない」
 車が走り出すと同時に、ひかるがうつむきながらそう言った。
「私の方がわかりませんけど…」
「泉の父親を見たら、頭の中が全部吹き飛んだみたいになってだな…挨拶をされた時に、心臓が飛び出しそうになってだな…もうその場にいられなくなって、飛び出してきてしまったんだ。どうなってるんだ、これは」
「どうって…それは…」
 ふゆきの頭には一つの可能性が浮かんでいた。しかし、ひかるという人物を考えると、それはとても納得できる答えではない。
「ひかるさん。もしかしたら…もしかしたらですよ?」
「な、なんだ?」
「泉さんのお父さんに、一目惚れをした…と言う事はないですか?」
 そう聞いた後、ふゆきはチラッとひかるの顔を見た。
「私が?一目惚れ?…いや…それは…」
 ひかるの顔が真っ赤になっていくのが見え、ふゆきはその答えが正解だと確信した。
「…いや、でも…その…今日初めて会って…っていうかチラッとしか会ってないのに…漫画じゃあるまいし…」
 咥えていた禁煙パイポをいじりながら、ひかるがブツブツと呟いている。長い付き合いだが、初めて見るひかるの姿に、ふゆきは驚きを隠せないでいた。



411 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:11:15.79 ID:2cDyGOA0
 次の日の放課後、ひかるはアニメ研究部の部室に来ていた。しかし、来るなり自分の席で延々とため息をつき続けるひかるに、部員達は皆心配そうな視線を向けていた。
「ひかるちゃん、どったの?昨日は来なかったし、今日はなんか調子悪いみたいだし」
 部員達を代表するかのように、こうがひかるに声をかけた。
「ん…調子が悪いように見えるか?」
「ええ、まあ…体調が悪いなら、ふゆきちゃんに見てもらったほうがいいんじゃないかな」
「いや、体調は悪くない。どっちかと言うと、心の病だな」
「ノイローゼか何か?似合わないなー」
「いや、あれだ…その…恋煩い?」
 ひかるの言葉に、部室が一瞬で静まり返る。
「なんだお前ら、そのリアクションは」
「…いや、冗談でも似合わないって…」
 こうの言葉に、部員の何人かが頷いていた。
「冗談のつもりはないんだがな。昨日一晩考えて、そういう結論に達したんだ」
 こうも部員達も、ひかるの言っていることが信じがたく、ただ唖然とひかるの顔を眺めていた
「…相手、誰なんだろうね」
「…ケントーもつきまセン」
 微妙な雰囲気の部室の中、部員達のヒソヒソ声だけが聞こえていた。


「というわけで、ふゆき。どうアプローチしたらいい?」
 その日の晩。ふゆきの家にやってきたひかるは、開口一番そう言った。
「どういうわけかは分かりませんけど、肝心なところは人任せですね…」
「不満か?」
「いえ、ひかるさんらしくて逆に安心しました」
「微妙に馬鹿にされてる気がするな…」
 ひかるは一瞬不満げな顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「まあ、それはどうでもいいな。どうすればいい?」
「そうですね…お菓子でも作って持っていくのはどうでしょう?」
 ふゆきの答えに、ひかるが眉をひそめる。
「お菓子…ふーむ。ベタな気もするが…」
「いいじゃないですか。女の子らしくて」
「女の子って歳じゃないだろ…まあ、いいか。それじゃふゆき、頼んだぞ」
 ひかるのその言葉に、ふゆきが目を丸くする。
「頼むって、何をですか?」
「何って、お菓子。作っておいてくれ」
「何を言ってるんですかひかるさん。ひかるさんが作らなければ意味がないでしょう?」
「そ、そうなのか?でも、私はお菓子なんて作ったことないぞ?そんな事出来ないぞ?」
「今から覚えるんです。私が教えてあげますから」
「い、いや、でも、食えそうにないものを持っていくのは失礼じゃないか?」
「他人に作らせたものを持っていくほうが失礼です」
「ふ、ふゆき…なんか怖いぞ…」
「では、さっそく始めましょうか」
「今からか!?」
「善は急げ…ですよ」
「うぐ…わ、わかった…お手柔らかにな…」
 なぜか鼻歌を歌いながら、楽しそうにキッチンに向かうふゆきの後を、ひかるはトボトボと付いていった。



412 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:15:43.17 ID:2cDyGOA0
 日曜日。ひかるは泉家の門前にいた。
 手に持っているのは、ふゆきの熱心な指導のおかげで、なんとか形になったクッキーの入った袋だ。
 形はいびつだし、いくつかは焦げ目がついている。袋に入れるときにいくつか割れたのもある。味はふゆきが大丈夫だと言っていたが、『うまい』でも『まずい』でもなく、『大丈夫』と評されたのが、ひかるはなんとも不安だった。
 しかし、ここで何時までも立っているわけには行かない。ひかるは意を決してインターホンのボタンを押そうとした。
「桜庭先生、でしたっけ?」
 後ろから急に声を掛けられ、ひかるは驚きのあまりに硬直してしまった。ゆっくりと後ろに振り返ると、目当ての人物…そうじろうがそこに立っていた。
「あ…あ…えあ、その…せ、先日はどうも…」
 不意をつかれたせいか、ひかるは少しどもった挨拶をしてしまう。
「ああ、あの時は急に帰られたのでどうしたのかと、こなたと心配してましたよ」
「あ、ああああの時はその…きゅ、急用を思い出して、その…」
「立ち話もなんですから、中に入りますか?」
 にこやかにそう提案するそうじろうに、ひかるは真っ赤になりながら何度も頷いていた。


 泉家の居間。ひかるはガチガチに固まりながら、ソファーに座っていた。
「麦茶でよろしかったです?」
 しばらくして、麦茶の入ったコップが二つ乗ったお盆を持ったそうじろうが居間に入ってきた。
「問題な…あ、いや、おかまいなく…」
 緊張のあまりにひかるは、ふゆきに対するのと同じような返し方をしかけしまう。そして、コップをテーブルに置くそうじろうの姿に、見入ってしまっていた。
「あの…何か?」
「え!?い、いやなんでも!」
 そうじろうに急に聞かれ、ひかるは慌てて手と首を激しく振って答えた。このままでは、ただの不審人物だ。ひかるは、気持ちを落ち着かせようと頬をペチペチと叩いた。
「で、本日は何の御用でしょう?…あ、先日は何か私に話があるとかこなたが言ってましたが、その事でしょうか?」
「あ…は、はい…」
 ひかるは頷き、手に持った袋を軽く握った。よく考えたら、なんて言ってコレを渡そうか、何も考えていなかった。焦りで頭の中をグチャグチャにしながら、ひかるは震える手でクッキーの袋をそうじろうの前に差し出した。
「あ、あの…これ…」
 袋を受け取り、そうじろうが首を傾げる。
「これは?」
「た、食べて…みてください…」
 精一杯声を絞り出すひかる。それでも、かなりか細い声だったが。
「クッキー…ですか」
 袋を開けて、中のクッキーを一つ取り出したそうじろうは、それを見つめてもう一度首を傾げた。
「あの…」
「た、食べてみてください」
 何か言う前にひかるに促され、そうじろうはクッキーを一口かじった。
「うん、美味しい」
 そう感想をもらすそうじろうに、ひかるは心底ホッとした。
「で、どうしてコレを私に?」
 そして、そうじろうにそう聞かれ、再びギシリと身体が硬直した。
 冷静に考えればそうだ。なんの面識もないのに、いきなりやってきてお菓子を食べて貰っても、何が伝わるというのか。というか、正直気味悪がられても不思議ではない。『ダメじゃないか、ふゆき!』と心の中で責任転嫁しながら、ひかるは次に言うべき言葉を探していた。しかし、何も思いつかず頭を抱えてしまう。
「あ、あの…大丈夫ですか…?」
 様子のおかしいひかるに、そうじろうが心配そうに声をかける。ひかるはもうどうにでもなれと、半ばやけくそな気持ちになってきていた。こんな回りくどいのは自分にあわない。もっとシンプルに想いを伝えてしまおう。そう思って、ひかるは顔を上げた。
「いいからグダグダ言わずに、黙って私の嫁になれ!」
 沈黙が居間を支配する。そうじろうの目は点になっていた。自分がなにを言ったのか理解したひかるは、顔面を蒼白にしていた。頭の中では、『やっちゃった』という言葉がグルグルと回っていた。
「…あの…それはどういう事で…」
 沈黙を破って、そうじろうが恐る恐るひかるにそう訊いた。
「あ…いや…これは…」
 ひかるの青ざめた顔が、今度は恥辱で真っ赤になっていく。ひかるは立ち上がると、何も言わずに今を飛び出し、全力で泉家から逃げ出した。
413 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:17:51.18 ID:2cDyGOA0
「…えーと…」
 取り残されたそうじろうは、とりあえずどうしていいか分からず、同じく残されたクッキーをかじった。
「今飛び出してったの、桜庭先生?」
 ひかるが飛び出してから間をおかず、こなたが寝癖の残る頭をかきながら居間に入ってきた。
「ああ、そうなんだけど…何が何やらさっぱりだ」
 そうじろうは、こなたに今あったことを簡単に説明した。それを聞いたこなたは、腕を組んで難しい顔をしてしまう。
「う、うーん…桜庭先生、もしかして本気と書いてマジになってたのか…」
「なあ、こなた。俺は結局彼女がどうしたいのか分からなかったんだけど…こなたはなにか知ってるんだろ?」
「あーうん…まあ、こうなったら話といた方がいいか…」
 今度はこなたが、ひかるが最初に何故そうじろうに会いに来たのかを話した。それを聞いたそうじろうは、真剣な表情で腕を組んだ。
「…一目惚れとか、そんなんだったんじゃないかな」
 そう言うこなたに、そうじろうが視線を向ける。
「こなた。お前はどうしたらいいと思う?」
「わたし?…んー…わたしはお父さんの好きにすればいいと思うよ。その…お父さんの気持ちが一番大事なんじゃないかって…多分」
 自信なさ気に答えるこなたに、そうじろうは微笑んで見せた。
「そうか…じゃあ、桜庭先生に伝言を頼まれてくれるか?」
「え?」



 次の日の朝、こなたはふらふらと校舎内を職員室に向かって歩いているひかるを見つけ、近づいて声をかけた。
「おはようございます。桜庭先生」
「…ん…って、泉っ!?」
 こなたの姿を確認したひかるは、慌てて手近にあった柱の影に隠れた。
「…なんで隠れるんですか」
「いや…なんとなく…」
 呆れ顔のこなたの前に、ひかるが頭をかきながら柱から出てくる。
「先生、目の下のクマがすごいですよ。寝てないんですか?」
「ああ、昨日はなんだか寝付けなくて…何か用か?」
「お父さんから伝言です」
 こなたの答えに、さっきの倍の速度でひかるが柱の影に隠れる。
「…なんで隠れるんですか」
「いや…なんとなく…ここで聞くから話せ」
「うん、まあいいんですけどね…今度の日曜に、二人きりで出かけませんかって、お父さんが伝えて欲しいって」
「…は?」
 ひかるがポカンと口を開けて固まる。そのひかるの傍にこなたが来て、一枚の紙を手渡した。
「待ち合わせ場所と時間は、そこに書いてますから。返事はしなくていいそうです。当日、一時間待って来なかったら断られたと判断するそうですから…じゃ、確かに伝えましたよ」
 そう言ってこなたは、手を振って自分の教室に向かって歩き出した。
「ま、待て泉!」
 こなたの後ろから、ひかるが声をかける。こなたは肩越しに顔だけをひかるの方に向けた。
「こ、これはその…デ…デートとか…そういうのか?」
「…さあ?お父さんが何考えてるかなんて、わたしは知りませんから」
 こなたはそれだけ言って、さっさと歩き去ってしまった。後に残されたひかるは、こなたの去っていった方と手に持った紙を交互に眺めながら、なんとも情けない顔をしていた。

414 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:19:37.66 ID:2cDyGOA0
「自習だ」
 教室に入るなり、ひかるはそう宣言して教員用の机に座って、さっきこなたに渡された紙を眺め始めた。
「…またかよ」
「…最近多いよな」
 生徒達はそんな事をひそひそと話していたが、ひかるがまったく動こうとしないので、しかたなく思い思いに勉強を始めた。
「ひいらぎー、なんかして遊ばね?」
「いや、勉強しなさいよ。この前のテストやばかったんでしょ?」
「そうなんだけどさー。自習ってなんか遊びたくなるんだよなー」
 かがみは溜息をつくと、さっきから微動だにしないひかるを見た。
「でも、ホントに最近先生の様子変よね。何かあったのかしら…」
 かがみの言葉に、教科書の今日の授業でやる予定だった箇所をチェックしていたあやのが頷く。
「うん…部活の時に天原先生に聞いてみたんだけど、はぐらかされちゃったし…ちょっと心配だよね」
「色恋沙汰だったりしてな」
 ニヤニヤしながらそう言うみさおに、かがみは呆れた表情を見せた。
「いや、それはないわ…」
 かがみ達がそんな事を話してる間も、ひかるはじっと紙を見つめていた。



 約束の日の日曜日。ひかるは待ち合わせの場所に、指定された時間の三十分ほど前に来てそうじろうを待っていた。
「…少し早かったか…にしてもこの服…」
 ひかるは自分が着ている、ふゆきが選んでくれた服を眺めた。肩を露出した、水色の涼しげなワンピース。いつも括っている髪はおろして、ストレートにしている。
「に、似合ってないんじゃないだろうか…いきなり引かれたらどうしよう…」
 そう思うとここから逃げ出したくなるのだが、一度いくと決めたからにはと、なんとかその場に踏みとどまる。
「あ、どうも。お待たせしてしまったみたいですな」
 聞こえた声に、ひかるの心臓が跳ね上がる。声の方を見てみると、そうじろうがにこやかに手を振りながら歩いてきていた。泉家で見た時の作務衣ではなく、スーツ姿だ。
「い、いえ…私の方が少し早くきてしまったみたいで…」
 いつぞやのように、訳の分からないことを言い出すのではないかと思ったが、普通に答えることが出来てひかるは安堵した。
「それでは、行きましょうか…ひかるさん」
「あ、はい…」
 歩き出したそうじろうの後を追いながら、ひかるは自分が名前で呼ばれたことに気がついた。
「い、今名前で…」
「ああ、こういう場で桜庭先生というのも、変だと思いまして。嫌だったでしょうか?」
「いえ!全然大丈夫です!」
 ひかるの反応に微笑み返すそうじろう。ひかるは何もかも上手くいくんじゃないかと、淡い期待が広がるのを感じていた。

415 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:21:32.69 ID:2cDyGOA0
 それから二人は、そうじろうが姪に借りたという車で、あちこちを回った。多くの場所を回るというのではなく、一つの場所に時間をかけるといった感じだ。
 回った場所が、聞いていたそうじろうの人となりからは、あまり想像できない普通の場所ばかりなので、ひかるは少し意外に思ったが、そのおかげかあまり妙なことを口走らずに、普通に会話をすることが出来た。

 やがて最後の箇所だと、そうじろうはひかるをとある海岸へと連れてきた。夕陽に照らされた波打ち際が、実に綺麗だ。
「…ここは、妻が好きな場所なんです」
 しばらく二人で景色を眺めていると、そうじろうがポツリと呟いた。そうじろうの口から出た妻と言う単語に、ひかるは自分の心が強く反応するのを感じた。
「今日回った所も、いつもデートの時に利用していた場所ばかりです。だいたい全部、妻が行きたいと言った場所です…私が提案する場所は、大体嫌がられるものですから」
 そう言ってそうじろうは、照れくさそうに笑う。ひかるはそうじろうの意図が分からず、黙って話を聞いていた。
「…こういう男なんです、私は。未だに亡くなった妻を引き摺っている」
 少しずつ、ひかるにもそうじろうが何を言いたいのか、分かってきた。
「そして、今の家族を守ることで精一杯なんです。女々しくて、器の小さい男です」
「そんなこと…」
 ない…と、ひかるは言い切りたかった。だが、知り合って間もないため、言い切れる自信がなく、口をつぐんだ。
「こんな男と一緒になっても、あなたが幸せになるとは思えないし、私にそう出来る自信もありません。だから…」
 ひかるはそうじろうの顔の前に自分の手のひらを向けて、言葉を遮った。
「もう、結構です…」
 そう言って、ひかるはそうじろうに背を向けた。
「すいません」
 その背中に、そうじろうが謝る。ひかるからは見えないが、頭でも下げているのだろうと、なんとなくそう思った。
「…こんな男と一緒になって、奥さんはさぞ不幸だったでしょうな」
 思わず口を突いて出た、酷い捨て台詞。
「かも…しれません」
 そんな言葉にも、そうじろうは怒る素振りすら見せなかった。ひかるは奥歯を強く噛むと、振り返りもせずに走り出した。ここからどう帰ればいいのかあまり分からなかったが、一瞬たりともこの場に居たくなかった。

 ひかるが去った後、そうじろうは車にもたれかかり、そのままズルズルと座り込んだ。
「…あー…疲れた…」
「これくらいで疲れるなんて、歳だねー」
 頭の上から聞こえてきた声に、そうじろうは驚いて上を見た。すると、こなたがゆるい笑顔を見せながら、そうじろうを覗き込んでいた。
「こなた…お前、なんでここに?」
「ちょっと心配だったからね。後部座席に潜り込んでた」
 悪びれもせずにそう言うこなたに、そうじろうは溜息をついた。
「親のデートを監視するなんて、趣味が悪いぞ」
「お父さんには言われたくない台詞だなー」
 こなたは眉を顰めながらそう言うと、そうじろうから顔を背けた。
「…ふっちゃったんだ」
 こなたはそのまま、呟くようにそう言った。
「ああ」
「勿体なかったんじゃない?あんなロリっぽい人って、そういないと思うよ」
「かもな…でも」
 そうじろうは立ち上がり、大きく伸びをした。
「さっき言った通り、俺じゃ彼女を幸せにはできないよ。それに、俺は充分満たされてる。これ以上の幸せは分不相応だよ」
「…ふーん…そんなもんなのかな…」
「さ、帰るぞ。お前まで急にいなくなってたら、ゆーちゃんが心配するんじゃないか?」
 言いながら、そうじろうは車の運転席に乗り込んだ。
「…おお、ゆーちゃんの事すっかり忘れてた。何の説明もしてないよ」
 こなたも慌てて助手席の方に回りこみ、ドアを開けて車に乗り込んだ。



416 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:24:55.14 ID:2cDyGOA0
 ひかるが家にたどり着いたころには、すっかり日が落ちて辺りは真っ暗になっていた。ひかるが家に近づくと、玄関の前にふゆきが立っているの見えた。
「…ふゆき…なんだ、変な顔して」
 ひかるがそう言うと、ふゆきは少し困ったような顔をした。
「ダメだったんですね」
「…まあな…初恋なんて実らないもんだな…」
 それから言葉が続かず、二人とも黙ったままお互いを見つめていた。
「…デートかと思ったんだがな。どうも、亡くなった奥さんと比べられただけみたいだ…」
 ひかるが呟くように話し出す。ふゆきは、それを黙って聞いていた。
「…ずるいよな…死んだ人間と比べるなんて…死人は思い出の中でどんどん美化されていくのに…生きている人間は、どんどん醜い部分が見えていくだけなのに…勝てるわけないよな…」
「…ホントにそうだったんですか?」
「…え?」
「そう思いたい…というだけではないのですか?」
「…どうしてそう思う?」
「ひかるさんが、そんな事を言い出さない人だと知っていますから」
「…お前は………そうだな…私が足りなかっただけだな…」
「それも違います…ただ縁がなかった。それだけの事です」
「ふゆき…」
 ひかるは顔を伏せた。その肩が小刻みに震える。
「こういう時は…泣いてもいいんだよな?」
「…ひかるさん…最初から泣いてましたよ」
「そう…か…」
 ひかるの嗚咽が聞こえ始める。ふゆきはその身体をそっと抱きしめた。
「本気だったんだ!…自分でも信じられないくらいに…本気だったんだ!」
 経験のないことに対しては、人はいつまでも子供のままなんだ。泣きじゃくるひかるを見ながら、ふゆきはそんなことを思っていた。


417 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:26:03.29 ID:2cDyGOA0
 翌日の朝。
「泉、ちょっといいか?」
 後ろから声を掛けられ、こなたは振り向いた。
「あ、桜庭先生、おはようございます…ってか、すごい顔してますよ?」
 こなたが少し引き気味にそう言うと、ひかるは眉を顰めた。
「うるさいな。昨日、一晩中泣き明かしたんだから、しょうがないだろ…まあ、おかげで色々吹っ切れたが」
「そ、そうですか…」
「で、だ。昨日のことで私が謝っていたと、そうじろうさんに伝えといてくれ」
「…わかりました…それじゃ、お父さんからも伝言です」
 こなたの言葉に、ひかるが眉間にしわを寄せる。
「お茶くらいなら、何時でも付き合いますよ…だそうです」
 ひかるの眉間のしわが更に深くなった。
「それは、本当にそうじろうさんの伝言なのか?」
「信じるか信じないかは、先生の自由です。じゃ、わたしはこれで」
 そう言ってこなたは、ひかるに背を向けて歩き出した。
「…泉、気を遣ってくれなくていいぞ」
 その背中にひかるがそう言うと、こなたは少し立ち止まって、手を振った。
「まさか。わたしがそんな人間に見えます?」
 そう言って、こなたは再び歩き出した。その姿が見えなくなってから、ひかるは溜息をついた。
「どうだかな…わからん親子だ」
 そう呟いて、ひかるは職員室に向かって歩き出した。
「…ん?」
 ふと、ポケットに違和感を覚え手を突っ込むと、一枚の紙が入っていた。
「あいつ、何時の間に…」
 そこに書かれていたのは、そうじろうの携帯番号とメールアドレスだった。
「…本当だったのか、泉の独断なのか判断が微妙だな」
 ひかるはその紙を丁寧にたたむと、ポケットにしまい込んだ。
「まあ、たまに晩飯代を浮かせるのに使わせてもらうか」
 こなたの去ったほうを見ながら、ひかるがそう呟く。
「…縁がないといった割には、切れないものだな」
 ひかるは無性におかしくなり、声を上げて笑った。通りすがりの生徒達が、何事かと驚いた視線をひかるに向けたが、気にもとめずにひかるは笑いながら職員室へと向かった。


- 終 -
418 :たまにはこんな心模様 [saga]:2009/08/06(木) 00:28:41.40 ID:2cDyGOA0
以上です。

初めてメインに桜庭先生を使いましたが、こんなキャラだったっでしょうか…?
直前の小ネタを見て、黒井先生も絡めたら良かったかな?とか思ったのは内緒です。
419 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/06(木) 00:38:47.06 ID:I9pfZV6o
こ の 発 想 は な か っ た
420 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/06(木) 00:39:43.67 ID:I9pfZV6o
こ の 発 想 は な か っ た
421 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/06(木) 01:33:23.38 ID:B5.DXFE0
>>418
なんか昔そういう小ネタあったな。
それ思い出した。乙。
422 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/06(木) 05:53:30.77 ID:B5.DXFE0
投下行きます。

鬱ものです。苦手な人注意。
423 :大切なもの [saga]:2009/08/06(木) 05:54:23.94 ID:B5.DXFE0
……寂しい。
……寂しかった。
寂しいくせに、“大切なもの”を遠ざけた。



自宅のベッドで、物暗い音楽をヘッドホンで聴きながら、薄暗い天井を見つめている私。
服もまともに着ず、薄手のシャツにブラジャー、それからパンツが一枚だけ。
近頃、こんなふうにして無為な一日を過ごすことが多くなっている。
大学は一か月ほど前から、全く行かなくなった。

このワンルームは、母みきのお金で借りたもの。
都内で家賃5万円、ロフトも付いていて、防音もまずまず、近隣の住人も静かと、
法学部の落ちこぼれである私には身に余るほどの良物件だ。

「私達の時間、ねえ、あれは幻だったの」

音楽が歌う。
そういえば、今日は何月何日だろう。
ちらと壁にかけたカレンダーを見ると、7月の日付が並んでいた。
……確か、誕生日の曜日を確認するのにめくったのが最後だ。
あれから、多分、また一月くらいの時間が流れたはずだ。

「恋人でいた間、とてもとても長く感じた時間、あなたは優しくて」

歌が耳に入る。
一か月なんて時間は、一日に等しい。
高校にいた頃は、一か月という時間は刺激が余るほどだったのに。
424 :大切なもの [saga]:2009/08/06(木) 05:55:17.42 ID:B5.DXFE0
高校にいた頃。
四人でお弁当、なんて当たり前だった。
四人で遊ぶのだって当たり前だった。
そんな環境にいるのを、一度たりとも疑いはしなかったし、嫌でも続くものだと思っていた。

そうではなかった。
大学に入って、突然空気が乾き始めたのだ。
友人と疎遠になる。
大学の人間は総じて友好的でなく、クラスメートはただの他人。
そんな雰囲気にいるうち、乾燥肌のように、私の心はカサカサした感触に変わり始めていた。

こなたやつかさとは、はじめのうちはよく遊んでいた。
しかし、私が些細なことで癇癪を起こし、携帯電話も捨て、一方的に連絡を断ち切ってしまった。
その癇癪も、やはり心の乾燥肌が引き起こした災害だったのだろう。

乾燥肌の進行は加速していく。
しだいに、むずむず、不快な痒みが現れ始めた。

痒みというのは、神経の状態の一種であることはわかっていながら、
その正体は未だ判明していないらしい。
私の心の痒みも、理由はわからなかった。
それを突き止めようと、必死に掻き毟った。
心を掻いても血は流れない。
流れてくるのは、腐ったゴミのような毒の塊だった。
実に汚れた、人間の醜い本性なのだろう。
425 :大切なもの [saga]:2009/08/06(木) 05:56:20.28 ID:B5.DXFE0
私は毎日、心を掻き毟り続けた。
そうして少しずつ、自分自身を毒していった。
ある日の朝、大学に向かうため街路に繰り出たとき、私は周囲の人通りを見て、思わずたじろいだ。
街行く人が皆悪人に見えるのだ。
信じられない感覚だった。
スーツを着たサラリーマンも、自転車をこぐ若者も、横断歩道を手を挙げて渡る幼稚園児さえも。
皆真っ黒なことを考えているように見えたのだ。

その日の大学は、途轍もなく息苦しかった。
そして、それ以来、大学に行くことはおろか、外に出ることすら疎遠になってしまったのだ。

「騙したあなたは醜い、だけど私も醜い」

曲がラストのサビに入る。
はっきり、私は自己嫌悪に苦悩していた。
醜い。
他人を勝手に悪人とレッテル貼りするなんて。

自分を否定し、否定し続けた。
こんなはずではないのだ。
私がこんな人間であるはずが。
426 :大切なもの [saga]:2009/08/06(木) 05:57:19.74 ID:B5.DXFE0
「ねえ、私の“大切なもの”……」

曲が終わった。
私は背伸びしながら、上体を起こす。

そういえば、最近体を洗っていない。
私は久しぶりに湯を浴びようと、風呂場へと立った。
洗面所を通りかかる。
すると横の壁にかかった鏡に自分が映った。

私は何気なく首を回し、自分の顔と対面した。

驚愕した。

なんて醜い顔なんだ。
手入れの放棄された眉は、眉間の領域を食い荒らしている。
皮膚はガサガサに崩れ、艶を完全に失っている。
そして何より、目は細くなり、瞳孔は澱みきってもはや輝きを持っていない。

私は体の力を失った。膝が床についた。
体のバランスが崩れ、ふらりと前に傾いた。
床のタイルが勢いよく視界に迫る。
私は目をつぶると同時に、反射的に目の前の空間へ手を伸ばした。
手は何にも触れない。
私はそのままうつ伏せに転倒した。
額が風呂場の入口の段差に激突し、血が出た。

「痛た……」

出血した箇所を手で押さえながら、ゆらりと上体の姿勢を戻す。
少し苛立つ。
なぜこんなくだらない怪我をしなければならなかったのか……

もし今、支えとなる物が目の前にあって、そこに手をつけたならば、私は怪我をしなかった。
支えが無かったから、私は怪我をした……
427 :大切なもの [saga]:2009/08/06(木) 05:58:10.72 ID:B5.DXFE0
そのとき、気付いた。

私には、心の拠り所となる、支えがなかったのではないか。
私がこうして堕落してしまったのは、きっとそのせいだ。

人は何かを大切にすることで、自分を支える。
言いかえれば、支えのない人間というのは、大切にしているものがないのだ。
そして自分は、その大切にするものを持っていなかった。

私には、そんな存在がいなかった。
いや、いたのに、自ら手放してしまったのだ。
それがあの親友、こなただった。

よく考えれば、あいつほど、自分を支えていた存在は無い。
多くの人間が、距離を置いて自分と接してくる中で、あいつだけは心を開き、自分を歓迎してくれていたのだ。

こんな存在を失うなんて。
今更、連絡なんて取れはしない。
自業自得だ。
もはや自己嫌悪すらできなかった。

私は洗面所を出る。
洗面所を出てすぐのところに、台所がある。
そこを見たとき、一つの物が目に留まった。

一ヶ月くらい前まで自炊をするのに使っていた。
そのよく研がれた刃先は、十分な鋭利さがある。
私はその柄を握り、持ちあげた。
そして踏みとどまることなく、一気に首の深い所を切りつけた。
428 :大切なもの [saga]:2009/08/06(木) 05:59:11.16 ID:B5.DXFE0



夏の炎天下、式場には多くの人が参列する。
その中に、かつての親友はいた。
青く長い髪は、一か月前、最後に会ったときのそれと変わらなかった。

そいつは、誰にも顔を向けず、口も開かず、ただ祈る格好をしている。
頬を見ると、一筋、透明な滴が流れているように見えた。

私はその友人の肩を叩こうと、手を伸ばした。
その瞬間、それが肩をすり抜けた。
私は驚いた。

手が届いているのに、触れられない。

そのとき初めて、私は自分が取り返しのつかないことをしたことに気付いた。

親友はいまだ涙を流している。
ねえ、と私は何度も、その腕にしがみつこうとする。
しかし、その手は二度と、“大切なもの”に触れることを許されなかった。


429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/06(木) 06:02:19.77 ID:B5.DXFE0
以上。
久しぶりに鬱ものに挑戦してみた。
鬱ものが書きたい勢いに任せて三時間ちょいで完成させたものなんで、校正とかすごく甘いです。
なんというか、主張がとってつけたような感じに。

ふー、書いたらなんかすっきりした。
ストレス溜めるのって良くないよね。
430 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/06(木) 07:20:31.72 ID:Fc85RcSO
>>418
昔このネタを投下されたときは不意を突かれたなー


>>429
やべ
こういう終わった後にも考えてしまう作品好きだわ
431 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/06(木) 08:16:23.23 ID:Fc85RcSO
体育の時間

こなた「あっづ〜い、疲れた〜」
つかさ「私もう動けないよ〜」

ヒラヒラ

つかさ「あ! こなちゃん、頭に蝶々〜」
こなた「え?」
つかさ「あ、動かないで? 可愛いから写メ撮ってあげるね」
こなた「いぇ〜」

みゆき「蝶というのは、花の蜜以外にも、人の汗や尿等に寄って来たりするんですよ」
こなた「……」
つかさ「……」
みゆき「あら? どうかしましたか? そんな顔して」

かがみ「おーっす、こなた」
こなた「え? 今日C組と合同だったっけ?」
かがみ「今頃気付いたのか……」

――

C組。生物の授業中。

みさお「先生ー、また柊が居ません」
ひかる「またか……」

――

つかさ「お姉ちゃんも蝶々なのかな……」
みゆき「そうですね。そのうち変態するんじゃないでしょうか?」

 蝶のコスプレをしたかがみが、こなたを追い掛ける図が容易に想像できる二人であった。
432 :劇中劇 :2009/08/06(木) 19:34:54.19 ID:f8NJkjYo
投下行きます。
パラレルワールド(?)にて、諸事情あって養護施設に保護された面々を白石視点で描きます。

欝もの注意です。
直接的ではないですが痛い描写もアリで注意です。
湯上りでちょっとえっちな描写アリ。入浴シーンもアリですがこちらは問題ないかと。
前回は配慮に欠けておりました。うつけ者ですみません。
433 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:38:20.72 ID:f8NJkjYo
 6巻P028

 女子が入浴終えたというんで風呂道具揃えて部屋を出る。
 廊下を歩いていると、すれ違う子がことごとく湯上りでシャンプーの香りがして俺の心をかき乱した。
「平常心平常心……」
 などと自分に言い聞かせながら歩く。
「……ん? 別にいーじゃん家なんだしさ」
 前方の共同スペースからみさおの声が聞こえた。
 この施設ではそこと廊下に仕切りはなく、直角に曲がった壁の角からほっそりとした腕と引き締まった脚が伸びていた。
 声の方向から考えると、そこに彼女が座り込んでいるようだ。
 更に進み彼女の横に差し掛かると、物凄い光景が視界を占め俺は固まる。
「暑いんだし仕方ないじゃんなぁ? 皆あやのを見習えって言うんだよなー」
 などと、立ち上がったみさおは丁度いい位置で固まってしまっていた俺の肩に寄りかかり同意を求めてきた。
 生々しく伝わってくる火照りやら柔らかい感触やらで俺の脳は完全にフリーズする。
 湯上りの彼女は下着姿で肩にタオルかけたあられもない格好で麦茶を飲んでいたのだった。
「別に男がいるわけじゃねんだから気にしなくていいんだって……ヴぁ!? そ、そうだった!」
 同意を求めた相手である俺の性別をようやく認識しバタバタと逃げていった。
「……俺、いないほうがいいんだろうか」
 皆が苦笑する中うなだれる。やっぱ男は俺だけってのは居心地悪い。
「いえいえ、最低限の緊張感は持ってもらわないと」
 傍にいたみゆきさんのフォローが入る。
 なるほど、園長先生が言っていた女だらけの問題とはこういうことか。

434 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:40:10.79 ID:f8NJkjYo
 気を取り直して単独でフロ入る。本当に男は俺一人なんだな。
 共同生活ならこういう光熱費は安く上がると言われていたが、大き目の風呂に一人ってのはなんか贅沢してるような罪悪感を感じた。
「にーさんにーさん、悪いけどゆーちゃんと一緒に入ってやってくれない?」
「え? 泉か?」
「ほらほら、そのままじゃ気持ち悪いでしょ」
「むー」
 ドア越しに可愛いうなり声が聞こえた。
 確か、こなたによくなついていた年少組のゆたかって子だっけ。
「俺は構わないけど、どうしたんだ? 女子はとっくに全員入ってたんじゃなかったっけ?」
「そうなんだけど、ちょっとね。ほら、ガス代だってバカにならないんだから」
 俺が香具師の人たちと生活してたときは銭湯通いだった。
 たまにゆたかちゃんくらいの子でも平然と男湯に入ってくることがあったからそんな変なことでもないと思ったが、気にする子もいるか。
 そう思っていたんだが、こなたの手で強引に洗い場に押し込まれたゆたかちゃんを見て息を呑んだ。
「わ、きゃ、見ないで!」
 反射的に焦点を合わせてしまったのは、庇護されるべき子供の体にあってはいけない数々の痕跡だった。
 施設に入る原因として充分に考えられるもの。そして俺も経験したこと。
 いや、それだけじゃなかった。
 鼻をくすぐるかすかなアンモニア臭。
 ゆたかちゃんはシャワー浴びながら弁解を始めた。
「あ、あのね、いつもじゃないんだよ。でもたまに失敗しちゃうことがあって」
「失敗?」
「ゆーちゃんね、ここに来るまで色々あって、おしっこの感覚わからなくなっちゃってるんだ。あ、乱暴されてひぎいいってなって破れちゃったわけじゃないよ」
 擦りガラス越しのこなたの補足は少々不適切というか適切すぎて不適切だったが、どうやらゆたかちゃんは精神的なショックか何かで排尿のコントロールがうまくできなくなったらしい。
 そして失敗し、こうして女子の正規の入浴時間以外に入る羽目になったようだ。

435 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:41:22.87 ID:f8NJkjYo
 幸か不幸か男の俺に対しさほど抵抗は示さないので、スキンシップとったほうがいい影響があるかと思い背中を流してやる。
 年が離れた妹がいたらこんな感じなのかな。
 裸の付き合いということで否応なくゆたかちゃんの体が目に入る。
 ある程度は治癒したのだろうが消えずに残ってしまった傷跡、アザ、火傷……その中には、明らかにタバコを意図的に当てたものもあった。
 それらは俺と同様に背中や腹など、普通に服を着ていたら隠れてしまう部分にだけ存在した。
 ゆたかちゃんの場合は力を込めたら痛がるかもしれない。そんなわけで痕跡を避けるため、余計にそこを凝視してしまう。
 鏡越しに、ゆたかちゃんが心地よさそうに目を細めるのが見えた。
 胸に暖かいものが広がる。
 それなのに、親はどうしてこんなひどいことができたんだろうな。
 親子なのに、どうして。
 もう、人間なんて滅んでしまったほうがいいのかもしれない。
 そんなことを考えた俺の顔を鏡越しに見たゆたかちゃんは不安げに口を開く。
「やっぱり、こんな女の子じゃ男の子は嫌いになるよね」
「う、そ、そんなやつ見る目ないよ、こんなに可愛いのに。こんなの見たぐらいで嫌いになる奴なんかほっとけばいい」
 いや、この可愛いってのは保護欲というか母性本能ならぬ父性本能であって、俺はロリコンではない……って、誰に言い訳してるんだろうね俺は。
「うー、こなたお姉ちゃんは、頻尿はステータスだ希少価値だって慰めてくれたけど」
「こだわってるのはそっちかよ! いや、そりゃ希少ではあるけどさ」
 そもそも頻尿とも違うだろソレ。
 どうやら、風呂に入る早々見ないでと叫んだのはそっちの汚れを気にしていたためらしい。
 男の俺と入ることや痕跡を見られるのは割り切っている模様。
 俺の体にも残るソレを見て、妙な仲間意識を抱いたんだろうか。
「こんなのに価値を感じたら人として終わってると思う」
「だよなー」
 すまない、文字通りションベン臭い小娘は俺も流石にお断りだ。

436 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:43:33.43 ID:f8NJkjYo
「ゆーちゃん、着替え持って来たよー」
 ドアの擦りガラス越しにこなたのシルエットが見えた。
「ありがとーこなたお姉ちゃん」
 といったやり取りのあと、ドアが開く。
「にーさんにーさん、言い忘れてたけど、ゆーちゃんは私と違って外見どおりの年齢だから攻略しちゃ駄目だからね?」
「するか!」
 こなたは茶化して速攻で退散していった。
 やれやれと呆れながらゆたかちゃんを見ると……。
「そのふくれっ面は何に対してございましょうか? というか攻略の意味を察するな!」
 この施設、教育によろしくない発言が数多く飛び交っている模様。こりゃ確かに、施設育ちの子が非常識と見なされることもあるかも知れんな。
437 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:44:27.44 ID:f8NJkjYo
 風呂から上がって自室に戻る途中、パジャマ姿のみさおとすれ違った。
「く、日下部……さん、さっきは変なとこ見てごめん」
「あ……白石ー、あ、あはは、まっ、さっきのは気にしないでくれなー」
「ああ」
 頭かきながら笑っていたみさおは俯いた。
「私、ズボラで色々失敗しちゃってさ、みっともないとこたくさん見られて、ダメな女だよなー」
「いやいや、そんなことないって」
「みゅ〜」
 みさおは落ち込んだまま。さてはて、どうすりゃいいんだ。
 そうだ、こなたがゆたかちゃんにしていたみたいに、萌えでフォローしてみるか。
 みさおの特徴として……。
 バカキャラってのは言いすぎだがわかりやすい子だと思う。でもこれも追い討ちになるか? うーむ。
「いやいや、そのズボラなのも元気なところと合わさって魅力なんだって」
 うう、ヘタなナンパみたいだ。
「そ、そうかな?」
 パァ、と顔をほころばせた、どうやら成功の模様。
「ああ、その八重歯も可愛い。小悪魔チックだ」
 何言ってるんだ俺。
「え……!? えへへ、可愛いかな、これ。でも歯があたったとこがよく口内炎になるんだよなー」
「そ、そうか、そりゃ大変だな」
「それに、この辺りは小さいころ虫歯になったんだけど保険払ってないからって歯医者連れてってくれなくて」
 みさおはガタガタ震えだした。滝のように汗をかき始め、呼吸も荒くなる。
「……? どうした?」
「い……痛いって泣いてたら父さん怒り出してペ、ぺンチ取りだ出してめめ滅菌とか言ってココ、コンロで焼いたマ、ママ、マイナスドドド、ドライバーを歯に」
「わー! 無理に言わんでいい言わんでいい!」
 駆けつけてきたみゆきさんとともに色々と安心させる言葉をかけ、自室へ移動させた。

438 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:45:29.29 ID:f8NJkjYo
 ベッドでぐったりとしていたみさおはしばらくして汗は引き、荒くなっていた呼吸は落ち着いてきた。
「ごめん! 気にしてるとこだっただろうに無神経だった」
 気にしてるというレベルではなさそうだが。
「いや、白石は悪くねー。こっちこそ驚かしてごめんなー。チビッ子のマネしてサラっとカミングアウトしようとしたけどダメだった〜」
 チビッ子とはこなたのことか。ものすごい過去を知らされたときの光景を見てたんだな。
「いや、そうそうマネできるもんじゃない、アレは。それに話を振った俺が言うのもなんだけど無理に話すこともないんだしさ」
「いや、そうもいかねんだ〜。この前、医療系の番組で歯並びの特集やってたんだけど、歯並び悪りーと骨格おかしくなって全身ボロボロになるって不安煽る内容でさ、真に受けた友達が治せ治せってしつけーんだ。私のこと心配してくれてんだから無碍にもできなくてさ〜」
「でも、事情は壮絶で話すに話せないよな……」
「あー、ドン引きされるなー。でも遠まわしに話してもダメだったし。だからどの程度説明すりゃ納得してくれるかなって考えてたときだったんだ、白石とすれ違ったの。そんとき話題に出されたもんだからテンパッちまってな〜」
 そうして思わず口にしてしまったのがきっかけで恐怖の記憶を呼び覚まし、パニックの発作を起こしてしまったらしい。
 ゆっくり休めということで退室する。
「白石ー」
「ん?」
「コレ、か……可愛いって言ってくれてありがとうなー」
 八重歯を覗かせはにかんだみさおは、フォローといった理由抜きに可愛く見えた。

439 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:46:26.80 ID:f8NJkjYo
 みゆきさんに無人になった職員室に案内された。住み込みで働いてるみゆきさんや園長以外の職員はもう帰宅しているようだ。
「びっくりしました? ここに来るまで色々あって、深い傷を負っている子もいるんです」
「すみません、気をつけます」
「いえ、そんなに気を使わなくていいですよ」
 以下、みゆきさんの話によると……。
 雑談の取っ掛かりとして世間では無難とされる話題も、家庭環境が悪いと地雷がゴロゴロ埋まっていることがある。
 共感を得にくい問題と日常生活が密接に絡みあうことも多く、無難に話せる話題の引き出しは非常に限られてくる。
 しかし相手に配慮を要求していたらキリがない。
 家庭の事情やらなにやらがあるとはいえ、周りの人が気を使い続けることに疲れ、距離を取られ孤立することも少なくない。
 だから、かわし方、ぼかし方、無難な説明の仕方も学ばねばならない。
「というわけで、新しく入ってくる人に予備知識を与えておくわけにもいかないんです。免疫つけなくてはなりませんから」
「は、はぁ……」
 練習台かよ。
「さっさと忘れろとか大げさだと責めることなく、自分が無神経だったと詫びてくれましたね。そういうスタンスでいいと思いますよ」
「……わかりました」
 確かに俺も、みゆきさんが語ったパターンに見事に当てはまっていた。
 雑談で振られた話題がことごとく返答に困るものだったり、少しでも話を膨らまそうとするとたちまち不幸自慢と受け取られたりドン引きされそうな問題に触れてしまうため、学校の仲間や香具師の人たちとの会話で苦労していた。
 そのためか、あまり親しい友人はできなかった。
440 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:47:35.43 ID:f8NJkjYo
 これからふたたび学校行くことになったらまたそういう問題の当時者になるんだもんな。
 お互い様か。
「日下部さん、普段はあんなに取り乱さず落ち着いて事情話せるようになったんですけど、今日はちょっと心に余裕なかったみたいですね」
「余裕?」
 みさおとのコレまでの接触を考えると……。
「俺、本当にここにいていいんだろうか」
 お互いに刺激が強すぎる。
「いいんですよ。部屋出るときに見せた日下部さんの笑顔、あれは作り物ではありませんから。余裕がなくなった原因は、ネガティブなものではなさそうですね」
 みゆきさんは妙な火照りの生まれた俺の顔を見てクスクスと笑った。
 俺、本当にここでやっていけるのかな?


??「うわははは、サービスショットということで採用!」
みさお「うぅ〜、恥ずかしいよぅ」
ゆたか「私もやだよー!」
??「冗談だよ、本人の意思は優先する。第一ここら辺はヘビー過ぎるし色々と条例に引っかかりそうだ」
こなた「面倒な時代になっちゃいましたねー。昔は銭湯を舞台にしたドラマだってあったのに」
??「……(『時間ですよ』のことか? 本当に偏ってるなこの子)でもゆたかちゃんいい子だなー、飛び級小学生ということで出してみるか」
みのる「おいおい」
??「それとも同年代なのにものすごく小柄な体格ということで乗り切るか」
ゆたか「むー!」
441 :劇中劇 [saga]:2009/08/06(木) 19:48:39.39 ID:f8NJkjYo
異常、いや、以上です。
最近見たニュースやまとめブログ『うちの母ちゃん凄いぞ』に触発され、こういう内容になりました。
442 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/06(木) 20:09:19.34 ID:B5.DXFE0
>>441
比較的明るい内容だったな。頻尿はステータスワロタww
次も待ってるよー。
443 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/06(木) 22:50:51.80 ID:Dk.wNfco
>>418
あのネタか、よくこれだけ仕上げたなー
面白かったぜGJ!

>>429
乙。鬱ものは苦手だがGJ
読み終わってもしばらく余韻が抜けなかったわ
444 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/06(木) 22:51:55.44 ID:Dk.wNfco
おっとリロしてなかったぜ
>>441
あとで読ませてもらいます。乙!
445 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/06(木) 22:56:00.18 ID:YBv5cPYo
>441
乙ー。
??が誰だか楽しみ。
446 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/07(金) 02:31:15.90 ID:mvTnLNgo
豊作だなww
どれも面白かった!
447 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/07(金) 19:15:05.11 ID:17FzWAA0
http://uproda.2ch-library.com/1578550Ue/lib157855.jpg
公式・・・
このスレでもエンドレスネタは度々書かれていたが・・・
公式よりここで書かれたネタのこなたの方が本物だろww
448 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/07(金) 20:28:44.17 ID:wUBHMCko
こなた「ねえ、かがみん。これから投下されるSSについての話なんだけどさ」
かがみ「何をもったいぶってんのよ。前フリなんていいから、さっさと投下しちゃいなさいよ」
こなた「いつものSSなら、私もそうするんだけどねー。今回ばかりはそうもいかないんだよ」
かがみ「どういうこと?いつものSSと何か違うの?」

こなた「それが、もう全然違うんだよ!……って言っても、別に作者が友の遺志を継いで書いたとかそういう類の話ではないんだけど」
かがみ「じゃあ、どういう類の話なのよ」
こなた「もしかしたらかがみも知ってる話かもしれないんだけど、少し前にさ、避難所でとある企画がもちあがったんだよね」
かがみ「へえ。知らなかったわ。で、どんな企画なの?」
こなた「えーっとね。簡単に言うと『シンプル偽シリーズ THE☆入れ替え!』ってトコかな」

かがみ「……頼むから私にもわかるように説明してくれないか?」
こなた「作風の違う作者同士でお互いの作品をアレンジして書き直してみる、って企画」
かがみ「ああ、なるほどね。それで、どの作品がアレンジされるの?」
こなた「第十一回コンクールは覚えてる?」
かがみ「ああ、あのピンクワカメ――ゲフン!ゲフン!……「みゆき」がお題だった回のコンクールよね、確か」

こなた「そうそう。で、その時のコンクール投稿作品がアレンジされるんだって」
かがみ「へえ。なんだか難しそうなことするのね」
こなた「なんでも、『青鈍空』と『ダメな子ってなんですか?』の作者がたまたま同じ時期に避難所に居合わせてたみたいでさー」
かがみ「幸か不幸かハードルの高い企画が成立しちゃった、と」
こなた「そーゆーこと。だから、これから投下されるSSはいつもとは違った楽しみ方もできるってワケ」
かがみ「単体としてだけでなく、当時のコンクール作品と併せて味わうこともできるってことか」
こなた「そのとおり!わかってるねぇ、かがみ」

かがみ「ねえ、こなた。それはいいんだけどさ」
こなた「んー?」
かがみ「この前フリ、いくらなんでも長過ぎないか?」
こなた「あー。その意見には同意せざるを得ないねー」

みゆき「という訳でして、今から相当数のレスをいただいて、この企画の作品を投下させていただきたく思います」
こなた「あ、みゆきさんだ。やふー」
かがみ「え。い、いたんだ、みゆき」
みゆき「はい。最初からずっと。ところでかがみさん、大変お手数ではありますが、今から校舎裏の方にご一緒いただきたいと――」
かがみ「い、嫌あああああああっ!!」



こなた「それでは、始まり始まり〜」
つかさ(あれ?私の出番は?)
449 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:30:01.41 ID:wUBHMCko
 窓の外に見えるのは、分厚い雲に覆われた鈍い色の空。
 それはまるで、今の私の心を映し出しているかのよう。

 本当は青いはずなのに、いろんな色を混ぜすぎた絵の具のように淀んでいて。
 純粋な黒にもなれず、鼠色の方がまだ少しは綺麗に思えるような、中途半端な重たい色。

 そんな色をした空を、私はたったひとりで、ぼんやりと眺めてるのでした。
 

 『青鈍空』


 晴天に恵まれた卒業式から数日の後、関東地方は長雨に見舞われていました。
 しかも、春らしい軽い雨ではなく、この時期には珍しい夕立のような豪雨。
 今朝になってようやく雨は止んだものの、未だに太陽はその顔を見せてはくれません。

 こうも不安定な天気が続くと、どうしても陰鬱な気持ちになってしまいがちです。
 連日のように気象台から大雨洪水警報が発令されるような状況では、人は誰しも気分が落ち込んでしまうものだと思います。
 遠足前夜の子供ようにソワソワしながら防災グッズを用意する私の母のような人は、また別なのでしょうけど。

 私もここ数日は何かと沈みがちというか、少しばかり気持ちが不安定になっていました。
 もっとも、私の場合は天候のせいだけではないのですが。

 楽しかった高校生活の終焉、そしてこれから歩んでいくであろう道に対する不安。

 私が自分のこれからについて考える時、何故だか胸のうちでは希望や期待よりも不安の方が大きく膨らんでしまうのです。
 高校生活があまりに幸せなものだったからなのでしょうか。
 それとも、将来の自分に自信が持てないからなのでしょうか。
 おそらく、そのどちらもなのでしょうけれど。

 敢えて言えば、前者の方がより大きな要因であるように思います。
 泉さん、かがみさん、つかささん……彼女達との高校生活は、私にとって非常に大きなものでした。
 朝の教室で出会い、お昼の時間を一緒に過ごし、放課後にたまに寄り道をしたりして。
 みんなで笑いあって過ごすことが日常であり、それが当然のように思えた、本当に幸せな日々でした。
450 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:31:03.85 ID:wUBHMCko

 しかし、そんな幸せな日々はもう終わってしまったのです。
 そして、この春から私が通うことになっている大学には、彼女達を始めとして高校での友人や知り合いは誰も進学しません。
 私は独りになってしまうのです。
 そして、今、実際に私は独りなのです。

 もちろん、かがみさん達とはこれからも仲良くさせていただくつもりです。
 繋がりは断ち切られていないのですから、厳密に言えば、私は独りではありません。

 ……もっと厳密に言えば、同じ屋根の下に、居間で無意味にテントを張って盛り上がるような母もいますし。
 缶詰まで開けたりして、あれはいったい何が楽しいのでしょうか。
 あの行動には、何か深い意味でもあるのだというのでしょうか。
 そもそも、母が今とっている行為、つまり、日常の中に小さな非日常を積極的に置くという行為は、哲学的な側面からみれば――

 話が少し逸れました。 

 予定に過ぎませんが、大学では新しい交友関係も築くつもりです。
 それこそ、高校時代に負けないような交友関係を。

 ですから、私が本当の意味で独りになってしまうことなんて無いだろうと理解してはいるのです。

 ですが、今の私が求めてしまうのは、彼女達と毎日会うことのできた過去りしあの時間。
 再び戻ってくることの無い、あの輝かしい時間なのです。
 それを失ったせいで、私は独りになってしまったような気がしてしょうがないのです。

 今日の私は、何故こうもネガティブな感情に囚われてしまうのでしょうか。 
 おそらくそれは、この孤独感のせい。
 私が今現在、ここでこうしてたった1人で過ごしているせいなのでしょう。
 彼女達が一緒にいてくれたら、いえ、せめて電話で声を聞くことでもできれば、こんな寂しい想いに囚われることはないはずです。

 私は傍らに置いてあった携帯電話を手にとり、登録されている電話帳を呼び出します。
 そして、つかささんの番号を選んでディスプレイに表示させ、通話ボタンを――
451 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:32:08.77 ID:wUBHMCko

 ――押すことが出来ませんでした。

 何故、押すことが出来ないのか。
 大切な友人をくだらない感情のはけ口として扱うことを、ためらっているのでしょうか。
 しかし、友人であるからこそ、愚痴のような話をすることがあっても構わないのではないか。
 そんなことは分かっているのですが、指は凍りついたように動きません。

 何故、どうして、私は電話をかけることすらできないのか。
 弱い自分を見せたくないから?
 万が一にも嫌われたくないから?

 ああ、私はなんて小さな人間なのでしょう。
 
 私の思考はどんどん暗闇へと向っていきます。
 底の見えない夜の海で溺れているような感覚。

 ふと、部屋の片隅で眠ったままになっている通学鞄が目に入りました。
 そうだ、と思い立ち、私は藁をもつかむようにその鞄を手にとります。
 私はそれを少しばかり乱暴にひっくり返し、中身を全部取り出します。

 鞄の中には愛用の筆記用具といくつかの冊子、そして卒業アルバムが入っていました。

 卒業アルバム。
 たくさんのクラスメイトと、そして何より彼女達と、3年間を共に過ごしたことの証。
 写真という、形を持つ物で確かに刻まれている彼女達との絆。

 それを手にとるだけで、不思議と心が落ち着きました。
 卒業式の後に4人で笑いながらパラパラと捲ったそれを、今度は丹念に1ページずつ眺めます。 

 写真撮影日をすっかり忘れていて寝不足の顔で写ったという泉さんの個人写真。
 少し緊張した面持ちのつかささんが写っている集合写真。
 体育祭でパン食い競争に挑む前の凛々しい顔をしたかがみさんの写真。

 それぞれの写真から蘇ってくる彼女達との数々の想い出が、私の心を癒してくれるのがわかります。
 楽しかったあの頃に再び戻ることができたかのような心地よい錯覚。
 先程までの陰鬱な気持ちはいつの間にか消え去り、私の心の中は懐かしさとそれに伴う温かな感情が溢れていました。


 ☆
452 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:33:32.34 ID:wUBHMCko
 厚めの裏表紙を閉じると、パタン、と小気味の良い音がします。
 見終わったばかりのアルバムをそっと胸に抱きしめ、深呼吸をひとつ。 
 この小さな過去への時間旅行は、私に元気を与えてくれました。

 気持ちも落ち着いたので、紅茶でも飲みながら買ったばかりの医学書でも読むことにします。
 とりあえず散らばった鞄の中身を集め、きれいに片付ることから始めなければなりません。
 先程までの自分の取り乱しようを恥じつつ、まずは散乱した筆記用具を回収します。
 そして、アルバムは本棚のお気に入りの本の並ぶ段に。
 卒業の際に学園からいただいた記念の品は机の引き出しに。

 この簡単な片付けは当然のように順調でしたが、最後に小さな冊子を手にしたところで動きが止まってしまいました。
 その冊子の名は『卒業歌集』。
 そういえば、私はこの冊子をまだ開いたことがありません。
 卒業後に4人でアルバムを見た際、これも見ようという話になったのですが、恥ずかしいから嫌だとかがみさんが全力で拒否したのです。
 そして、それからはずっと鞄の中で眠ったまま。
 あれこれと大学の準備をする中で、私はこの冊子のことを完全に忘れてしまっていたのでした。

 そんな訳で、私はもう少しだけ旅の続きを楽しむことにしました。

 歌集を開き、A組の1番の人のものから順に全ての歌を読んでいきます。
 ただし、最後の楽しみとするためにB組のものだけはとばして。

 気になっていたかがみさんの歌は、とても素直に卒業に対する感情を表したすばらしい歌で、私は少し涙してしまいました。
 また、日下部さんの歌にはクスリと笑わされ、峰岸さんの歌には思わず声を出して感心してしまいました。

 素直な気持ちをストレートに詠んだもの。
 技巧に凝ろうとしすぎて意味を消失しているもの。
 笑いを取ることを目的に詠まれたもの。

 そこには、いい意味でも悪い意味でも、高校生らしさに溢れる素敵な歌が並んでいました。
 私はそれらの歌を眺めながら、再び彼女達との思い出の世界に心を浸すのでした。


 ☆
453 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:35:15.59 ID:wUBHMCko
 さて、ついに待ちに待ったB組のページです。
 泉さんやつかささんの歌を楽しみにしながら、私は自分のクラスの歌を順に読み始めました。

 顔と名前と、少しばかり知っている各人の性格や雰囲気を思い出しながら、先程までより時間をかけて楽しみます。
 そして、男子の歌が終盤にさしかかった時のことです。
 私はあるひとつの歌を目にして、とても驚き、これまでに味わった事のないようなショックを受けてしまいました。

 その歌は、恋心を詠んだ歌でした。
 詠み手はクラスの副委員長をしていた、私と近しい関係にあった彼。
 そして、その恋の相手は――


 放課後の 囲った机 いつも同じ 席つく君の 隣に座る


 ――歌に描かれている情景から察するに、おそらくは私。
 
 放課後の委員会で、私はいつも同じ席に着いていました。
 委員会での席順は自由なのですが、なんとなく最初の会の時と同じ席に座っていたのです。

 そして、副委員長の彼はいつも、本当にいつも、そんな私の隣に座っていました。
 同じクラスでかたまっていた方がやりやすいと思うから、などと言いながら。
 私は彼のその言葉を、裏を読んだり疑ったりすることなど全くせず、文字通りにしか受け止めませんでした。
 言葉の裏に私への好意があるなどとは、考え及びもしなかったのです。

 委員会前後の彼とのやりとり、教室での彼の立ち振る舞い。
 よくよく考えてみれば、彼の言動の節々には私への好意が散りばめられていた様に思えます。
 もしかしたら、その中には彼にとっては告白同然の言動もあったのかもしれません。
 しかし、その全てを私は流してしまっていたのです。
 卒業してから何日も経って、歌集を偶然に手にとるまで、私は彼の気持ちにカケラも気付いていなかったのですから。

 何故、どうして、私は少しも気づくことが出来なかったのか。
 我ながらここまで鈍感だと、それだけで罪のような気がします。 
 私自身が恋愛の機会を逸したことなどはどうでもよくて、ただ、彼の想いに向き合ってあげられなかったことが悔しい。
 
 しかし、もうどうしようもありません。
 私は彼の住所も電話番号も知らないのです。
 委員会の資料のどれかには、彼の連絡先が載ったものもあったかもしれませんが、それももう処分してしまいました。
 つい先週、部屋の整理をした時に要らないと判断して処分してしまったのです。

 なんとかして彼と連絡をとる方法はないのでしょうか。

 もしかしたら、学校に行けば彼が待っているかもしれない。
 とにかく外にでていれば、街のどこかで会えるかもしれない。
 或いは、待っていれば彼の方から連絡してくるかもしれない。

 どの方法も確実ではないどころか、現実的ですらありません。
 八方ふさがり。
 私の心は、再び暗闇の方へと向っていってしまうのでした。
454 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:36:19.47 ID:wUBHMCko

 ☆


 そうだ、こんな時こそ誰かを、友人達を頼るべきなのではないか。
 私は改めて携帯電話を手にします。

 真っ先に頭の中に浮かんできたのは、かがみさんの顔でした。 
 困った時に一番頼りになるのは、間違いなくかがみさんでしょう。
 泉さんにツンデレなどと揶揄されている彼女は、確かに冷たいそぶりを見せることは多々ありますが、友人を思いやる気持ちは人一倍なのです

 しかし、相談内容が恋愛のこととなるとどうなのでしょう。
 3人の中で、かがみさんが一番頼りになると言えるのでしょうか。
 実際に相談する前に、少しシミュレーションをしてみましょう。

『ええっ?みゆきのことを好きな人!?しかも卒業歌集で告白!?』
『は、はい。確証は得られないのですが……ですが、それだからこそお会いしてお話をするべきと考えまして』
『ふーん、そうなんだ……はぁ〜。いいわよね〜、みゆきは。そういう風に向こうから告白してくれるんだから』
『そ、そんなことは』
『あるわよ。それに比べて私なんてさ、あいつらのせいで「凶暴」みたいなイメージがついちゃってるからさ、そういうの望めないのよね』
『は、はあ』

『そうそう、この間もこんなことがあったのよ。ちょっと聞いてくれる?こなたとつかさったら、約束の時間にどっちも遅れてきてさ――』
『あ、あの。かがみさん』
『それで、私ひとりだけ怒ってるみたいな感じになっちゃったのよ。結構ひどいと思わない?そういえば、この間だってこんなことが――』
『ええっと、その、すみません。私の悩みのことなんですが』
『ああ、ごめん、ごめん。話が逸れたわね。でもまあ、そんな訳でさ、私は人一倍恋愛の機会に恵まれにくかったんじゃないかと思うのよ』
『そ、そうですか』

『そうよ。だいたい、こなたなんて見た目が子供だし、趣味も偏ってて性格がアレだし、一緒にいて楽しいけどさ、一緒にいると恋愛から遠くなる存在じゃない?』
『そ、そんなことは』
『あるのよ!私なんて、あいつのせいでクラスメイトからオタクだと思われちゃってたんだし!そりゃ、恋愛の「れ」の字もでてこないっつーの。ねえ?』
『は、はあ』
『なんか、いろいろ思い出したら腹が立ってきたわ。みゆき、今からこなたの家に行くわよ!いい機会だから、あんたもいろいろ言ってやりなさい!』
『ええっ!?』
『大丈夫よ。3年もの間セクハラされつづけたんだし、一言ぐらい言ってもバチはあたらないって!何だったら、2人で袋叩きにするっていう手段も――』

 何故でしょう。
 何度かシミュレーションしてみても、私がかがみさんの愚痴を聞くことになったり、逆に相談をされたりで上手く話が進みません。
 これでは一歩も前進しないどころか、他のトラブルを抱えて後退してしまうおそれすらあります。

 とはいえ、現実のかがみさんがこのような受け答えをすると決まった訳ではありません。
 これは、あくまで私の頭の中のかがみさんの話です。

 ……なんだか、とてつもなく失礼なことをしているような気になってきました。
 
 いったい私は、かがみさんのことをどのような目で見ていたというのでしょうか。
 シミュレーションとはいえ、このようなストーリーしか描けない私は最低の人間なのではないかとすら思えます。
 現実のかがみさんなら、自分の身の上話などせず、親身に相談にのってくれるはずです。
 たぶん。おそらくは。きっと。
455 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:37:49.00 ID:wUBHMCko

 とりあえず、かがみさんに相談する件については保留にします。
 いえ、決してかがみさんが空気を読めないかもしれないとかそんな話ではなく、やはりここは同じクラスの友人を先に頼るべきであると思ったからです。
 嘘ではありません。本当にそう思ったんです。本当です。



 そうだ、泉さんなら。
 私には無い奇抜な発想やひらめきをお持ちの泉さんなら、何か解決策を見出してくれるかもしれません。
 念のため、先程と同様に少しシミュレーションをしてみます。

『へー。副委員長がみゆきさんのことをねぇ』
『は、はい。確証は得られないのですが……ですが、それだからこそお会いしてお話をするべきと考えまして』
『でも、連絡手段が何も無い、ってことなんだよね?』
『はい。そうなんです』
『そんなのさ、黒井先生に頼めば簡単に教えてくれるんじゃない?かわいい生徒の頼みなんだし』
『教えてくれそうだからこそ、余計に頼めないんです。私の個人的な都合のために、個人情報を不適切に扱っていただいては困りますから』
『お固いねぇ、みゆきさんは』
『す、すみません』
『いやいや、謝んなくていいって。そういうところも、みゆきさんの萌え要素のひとつだからネ!』
『そ、そうなんですか?』

『まあでも、他にいくらでも手段はあるから大丈夫だよ。この私にまかせてくれたまへ、みゆきさん』
『本当ですか!?ありがとうございます!』
『うむうむ。それでは、こなたのドキドキ恋愛大作戦、第一弾!「登校中、出会い頭のアクシデントで胸がキュンキュンの巻」!!』
『あ、あの。泉さん』
『作戦内容はすごく簡単!遅刻ギリギリの時間にトーストをくわえた状態で家を出て、学校へダッシュ!これであなたにも運命の出会いが!』
『ええっと、その、すみません。その作戦はちょっと』
『えー。確かに古典的だけど、その分確実性は高いよ?』
『いえ、その、確実性についてはそうなのかもしれませんが……そもそも、この春から私と彼は同じ場所へは登校しないのですが』
『あー……』
『それに、私の場合は通学時に電車やバスなどを長時間利用しますので、トーストの管理が極めて困難だと思うのですが』
『あー……』

『すみません。せっかく考えていただいたのに否定してばかりで』
『だいじょぶ!まだまだ、作戦はいくらでもあるからネ!満を持しての第二弾!「運命のいたずら!?事故で記憶喪失の彼に急接近の巻」!!まずは手頃な車を用意して――』
『ええっと。泉さん、いくらなんでもそれは――』

 何故でしょう。
 愚にもつかないアイディアを自信満々に語る泉さんの姿しか思いつきません。
 これでは、役に立たないにも程があるというものです。

 とはいえ、現実の泉さんはこのような悪ノリをするような方では……なかったはずですよね。
 そうです。これは、あくまで私の頭の中の泉さんの話です。
 現実の泉さんであれば、きっと普段からは想像がつかないくらいに真剣に相談にのってくれるはずです。
 たぶん。おそらくは。そうであればいいな、というこの思いが届けば。

 ……やはり私は、最低の人間なのではないでしょうか。
456 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:38:48.02 ID:wUBHMCko

 そうでした。こういう時に頼りになるのは、つかささんでした。
 他人の話をとにかく一生懸命に聞くことの出来る彼女であれば、相談役には最適なはずです。
 
『へえ〜。あの人、ゆきちゃんのことを好きだったんだね』
『は、はい。確証は得られないのですが……ですが、それだからこそお会いしてお話をするべきと考えまして』
『うんうん。そうだよね、会ってみないといけないよね』
『はい。ですが、先程も言いましたように、私には彼との連絡手段が無いんです』
『う〜ん。私も連絡先は知らないしなぁ……困っちゃったね』
『はい。何かいい方法でもあればいいのですが、どうでしょうか?』

『ゆきちゃんが何も思いつかないのに、私が何かいい方法を思いつくはずないよ〜』
『そ、そんなことは』
『あると思うよ〜?だって、私に相談する前にゆきちゃんもいろいろと考えてみたんでしょ?』
『はい。それはそうなんですが、やはり人それぞれに違った視点というものもありますから』
『あっ、そうか。そうだよね。そういう考え方もあるよね。でも、私で役に立てるかなぁ?』
『はい。恐れ入りますが、つかささんの力をお貸し願えればと』
『えっ?私の力を?』
『はい。つかささんのお力を。是非に』

『私の力……わかったよ、ゆきちゃん!後は、この私にまかせて!私がなんとかしてあげるから!』
『ほ、本当ですか、つかささん!?』
『うん。ゆきちゃんにそこまでお願いされちゃったんだし、私、頑張るよ!』
『それで、つかささん、いったいどんな方法をとるおつもりなのですか!?』
『え?方法?』
『はい。方法です』
『そんなのないよ?』
『え?』
『でも、大丈夫だよ!私、とにかく頑張るから!ゆきちゃんのために全力で頑張るから!』
『あ、あの、つかささん?』
『ゆきちゃんは待っててくれたらいいから!私、たとえ何年かかろうと頑張ってみせるからっ!!』
『あっ、つかささん!ちょっと待ってください!つかささーんっ!!』

 間違いなく私は最低の人間です。
 現実のつかささんはこのような暴走をする人間では……あるかもしれませんが、いくらなんでもここまで酷くはないでしょう。
 たぶん。おそらくは。全体的にそんな風な空気だったと他のみなさんも思っていたであろう感じから察するに。
457 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:40:18.83 ID:wUBHMCko
 私は何をしているのでしょうか。
 友人に相談すると決めたのなら、下手な考えなど張り巡らせず、素直に相談の電話をかけてしまえば済むことなのに。
 結局のところ、シミュレーションなどと銘打って、ただ単に頭の中で友人達を愚弄しただけのような気がします。
 陰鬱な気持ちに加え、友人に対する罪悪感のようなものまでが私につきまといます。

 とはいえ、何故かさっきまでのような閉塞感はありません。
 陰鬱な気持ちや罪悪感が心の中で渦巻いているというのに、さほど苦しい感じはしなくなりました。
 何故なのでしょうか。

 おそらく、私が独りではないことをしっかりと思い出すことが出来たからでしょう。
 たとえ今は離れていても、私達は繋がっている。
 頭の中に描いた3人は本当に生き生きとしていて、今にも私を呼ぶ声が聞こえてきそうで。
 実際に会ったわけではないのに、ただのイメージに過ぎないのに、私に元気を与えてくれて。
 シミュレーションの結果は別として……私には頼もしい友人が3人もいるのです。

 私は携帯電話を持ったまま、ベッドに仰向けになるようにぽふんと倒れこみます。
 電話帳の画面を閉じ、幾度かボタンを押すと、卒業式の時に撮ったみんなの写真が表示されました。
 とりあえず、先程はすみませんでした、と心の中で謝ります。

 そのまま写真をじっと見つめていると、みんなが私の心に呼びかけてくるような気がしました。

「そうですよね。試合はまだ、始まったばかりなんですよね」

 私は写真の中の3人に、笑顔で応えました。 


 ☆


 ポツン。 

 横になっている私の耳に雨音が届きます。
 雨音は次第に大きくなり、数分もしないうちに昨日までと同じような豪雨へと変わりました。

 ああ、空が泣いている。
 
 私は携帯電話を閉じると、ベッドから起き上がり、再び卒業歌集のあのページを開きました。
 そして雨音を聞きながら、彼の歌のすぐ隣に、寄り添わせるようにひとつの歌を書き加えます。

 この雨は、私の弱い心が呼んだ雨なのでしょうか、それとも――


 青鈍空 君の嘆きを 聞きにしか 降らせし雨の 長く強きは


 ――彼の想いが降らせた涙なのでしょうか。
 
 卒業歌集を膝の上で開いたまま、私は再び窓の外を眺めるのでした。
458 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:42:51.54 ID:wUBHMCko



 雨の向こうに見えるのは、暗い雲に覆われた鈍色の空。
 それはおそらく、誰かの心を映し出しているのでしょう。

 本当は青いはずなのに、いろんな想いを混ぜすぎたせいで淀んでいて。
 純粋な黒になれず、綺麗な灰色でもなく、どこまでも中途半端な重たい色。

 そんな青鈍空を、私は今も眺めているのです。
 ここにはいない誰かと一緒になって。




 
 今朝までと同じように空を眺めながら、私は次の一手を考えていました。

 そう。私は、この物語をこのまま終わらせるつもりはありません。
 彼と共に澄んだ青空を詠う日が、いつか必ず訪れると私は確信しています。
 たとえ連絡手段が一切なかろうと、どんなに絶望的な状況だろうと、私は諦めません。

 だって、私には、私を支えてくれる友人がいますから。
 私は独りではありませんから。
 彼女達と一緒なら、私はなんだってできるはずです。

 よし、頑張るぞ、と心の中で声を上げ、自分自身に喝をいれます。
 
 そして私は、卒業歌集を閉じ、再び携帯電話を手にするのでした。

 青鈍空の向こう側にいる彼女達と会うために。


 ☆


 数日後。
 みゆきは自分の行った友人達に関するシミュレーションの結果が、概ね間違っていなかったという衝撃の事実を思い知るのだが……

 それは、また別の話。
459 :青鈍空 アレンジver. [saga]:2009/08/07(金) 20:44:13.93 ID:wUBHMCko
以上です。
初めての企画みたいなんで、アレンジ分は控えめにしたつもりです
元作品の表現をそのまま使ってるところも、結構あるはず

えーっと、それと……「青鈍空」の作者さん、本当にすいませんでしたあああっ!
登場人物追加はNGって言われてたのにね。結果はこれですよ
厳密に言うと追加してないから、ギリギリセーフにしてくれるとありがたいナァ

今回アレンジさせてもらって、詩的な作品を書ける人って凄いなと、改めて思ったわ
もうね、アレンジっていうより作品レ○プしちまった感じですよ。ショボーン



こなた「さあ、バトンタッチざますよ」
みゆき「いくでガンス」
つかさ「ふんがー……って、あれ?ゆきちゃん、お姉ちゃんはどうしたの?」

みゆき「禁則事項です☆」

こなた「……来年の桜は綺麗に咲きそうだねー」
つかさ「埋められ系っ!?」
460 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/07(金) 21:03:11.56 ID:D6u2sDE0
そういうわけで、バトンをいただきました。
これから投下される作品は、先ほどとは逆に、『青鈍空』の作者が『ダメな子ってなんですか?』を我流にアレンジしたものです。

ええ、アレンジ元の『ダメな子ってなんですか?』という作品ですが、
やはり第十一回のコンクール、お題が私ということもあり、私視点の作品となっています。
ですが、作風チェンジを明確にするために、あえてそれを変えてみたとのことです。
どうなるのでしょうね。

それでは、木の根の下にうずめられたかがみさんにそっと祈りを捧げつつ、
「ダメな子ってなんですか?」アレンジ作品:「ダメな子」をお楽しみください。
461 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:05:46.42 ID:D6u2sDE0
午後も六時を回り、夕暮れ時の日差しが、くすんだ白色の廊下を少し幻想的な橙色で飾る校舎。
その三階の廊下を、整然とした歩調で歩く一人の少女がいる。
ゆるやかなウェーブのかかった桃色の髪に、レンズの綺麗に磨かれた黒縁の眼鏡。
高良みゆきだ。

彼女は今、月一回開かれる定例の委員会を終え、クラスの教室に戻っているところだ。
というのも、彼女はここ陵桜学園高等部の3年B組で、委員長を務めているのだ。
容姿端麗・成績優秀・温厚篤実と、完璧超人の条件をきちんと備える彼女だから、
委員長に立候補してクラスの誰もが賛同したのも当然だろう。
彼女の腕には、委員会で使われた資料を丁寧にまとめた、薄いピンク色のクリアファイルが、
まるで赤ん坊を扱うかのような丁重さで抱えられている。

彼女は自分の教室の扉の前に着く。
戸締りの行き届いていることから察するに、クラスメイトは皆ほとんど帰ってしまったようだ。
一息つき、彼女は扉を開けようと窪みに手をかけた。

と、誰かの声が聞こえた。
教室の中からのようだ。

みゆきは扉を開ける手を止め、隙間から中の様子を覗いてみた。
すると三人の少女が見えた。
みゆきはその顔を見て、すぐさま誰かを判別できた。
泉こなた・柊つかさ・柊かがみ。
三人ともよく見知った友人だ。

泉こなたと柊つかさはクラスメート。
柊かがみは隣のクラス・C組で委員長をやっている。
四人の性格にはかなりの差異があるが、相性は不思議と良く、
昼休みには毎日四人で机を囲って弁当を食べるほどの仲良しグループである。
462 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:06:46.34 ID:D6u2sDE0
しかしその様子が、何だか普段とは違う。
皆がばらばらの位置に、ばらばらの格好でいるのだ。
泉こなたは黒板に寄りかかり、その何も書かれていない板面をぼんやり見つめている。
柊つかさは自分の席に座り、机に肘をつきながら何かをぶつぶつ呟いている。
そして柊かがみは、そんな様子にはまったく無関心なように、窓から上半身を乗り出して外を眺めている。

みゆきは不可思議な顔を浮かべつつ、扉をガラリと開く。
三人が一斉にみゆきに注目する。そのタイミングがあまりにぴったり揃っていてみゆきは思わずたじろいだ。

「あ、みゆきさん」

先に声をかけたのは泉こなただった。

「あ、えっと……」

みゆきが反応に窮する。
と、今度は柊つかさが歩み寄ってきた。

「ねえ、一緒に帰ろ? ゆきちゃん」

つかさはそうみゆきに願い出る。みゆきは困惑した表情を浮かべる。

「邪魔つかさ」

泉こなたが、黒板に寄りかかったまま声を荒げ、棘を刺す。
つかさはぴくりとも反応せず、みゆきの顔を見つめる。

「はあ……」

その様子を横目で傍観していた柊かがみは、若干わざとらしく溜息をつき、再び窓の外に向き直る。
みゆきはなお困惑する。

一時の沈黙が教室を流れる。
やがて痺れを切らしたのか、こなたが黒板を離れ、自分の席へ歩いた。
つかさとかがみがそれを尖った視線で観察する。

机の掛け具から鞄をむしり取ったこなたは、ドスドスと床を蹴りながら歩き、
みゆきの前に立つつかさに肩をぶつけ、そのまま無言で退場していった。
誰かが舌打ちする音が聞こえた。

再び沈黙が流れる。

しばらくして、今度はつかさが席に戻り、静かに鞄を取った。
そしてみゆきの横を通り過ぎると、さよなら、と小さく挨拶し、そそくさと退場した。

それに続いてかがみも、窓枠に寄りかけていた体を起こし、じゃあねと挨拶して足早に帰っていった。

取り残されたみゆきは、しばらく呆然としてその場に佇んでいた。
463 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:07:38.25 ID:D6u2sDE0





七時半。太陽はすっかり沈み、月が街を照らしている。
自宅に帰り着いたみゆきは、ただいまの挨拶もせず、リビングの椅子に深く腰をかける。
テーブルには小さなマグカップ。
純白のカップからは、澄んだ深紅色のホットティーが淡く湯気を立てている。

「はあ……」

ティーを一口飲み、溜息をつく。

どうにか、仲直りはできないものか。
みゆきは案じる。

一番いいのは、自分が何か手を加えたりすることなしに、自然とこじれが解消される場合。
策を立てて実行する自信が無いというのもあるが、力技で不自然に人間関係の形を歪めるというのが嫌だからだ。

細工をしないというのであれば、正面きって思いの丈をぶつけるという手もあるかもしれない。
しかしこれを即座に使うことは憚られる気がする。

いい案が浮かばない。
すると、玄関のチャイムが鳴った。
母・高良ゆかりが出先から帰って来たらしい。

「おかえりなさい」
「ただいま。ちょっと遅くなっちゃった」

苦笑いしてそう弁解するゆかりの手には、褐色の紙袋が提げられている。

「料理作るちょっと時間ないわね〜。出前でもいいでしょ?」

ゆかりが言う。みゆきはまたか、というような、少し呆れた顔をする。
夕飯が出前で済まされるのは、この家庭ではいつものことだ。

「何がいい?」
「私は何でもいいですが」
「それじゃお寿司にしない? お昼にテレビ見てたんだけどね、すっごくおいしそうでね〜」

そう言うやいなやゆかりは、テーブルのすぐ傍にある電話の受話器を持ちダイヤルを押す。
みゆきはやや間延びした顔をした。
ゆかりののんびりした調子に、今まで張りつめていた心がいくらか解放されたのだろう。
464 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:08:44.12 ID:D6u2sDE0
完璧超人の母親がこんな風であることを、みゆきの友人はそろって不思議がる。
みゆき自身は自然にそれを受け止めてはいるが、
例えば洗濯を忘れて、びしょ濡れのままの制服を着せられたときや、
掃除を長期間怠って、ゴミ場にGのつく虫を群れさせたときは、
流石に疑問がわいた。

出前の注文を済ませたゆかりは、みゆきの向かいに座り、例の紙袋から中身を取り出し、
出てきた箱のふたを開けた。中には十枚ほどの煎餅が入っていた。

ゆかりは徐にその袋を破り、食べ始める。

「あの、夕飯前だと思いますが……」
「え〜、いいじゃない。だって食べたいんだもん」

みゆきの指摘にも構わず、平然と煎餅をほおばり続けるゆかり。
みゆきはまたも呆れた顔になった。溜息を一つつく。

少しの間をおいて、みゆきが口を開いた。

「あの、お母さん」
「ん? どうしたの」

実は、と言ってみゆきが今日の出来事を話し始める。
ゆかりはあらあら、と呑気に相槌を打ちながら話を聞く。
傍目に見たら、本当に同情しているのか、あるいは単なる機械的な動作なのかわからない。

「……それで、どうすればいいかと悩んでいたのですが」

みゆきはゆかりの顔をじっと見る。
ゆかりは構わず、のんびりした調子で答える。

「そうねえ、困ったわねえ」
「はい」
「あのねえ、子はナントカ、ってあるじゃない。夫婦円満の秘訣がどうたらっていうの」

みゆきは首を傾げる。

「『子はかすがい』ですか?」
「それそれ。あれなんでだと思う?」

「どうして子どもがいると夫婦円満につながるのか」という質問。
なぜ今、そんなことを問うのだろうか?
みゆきはまた首を傾げる。
465 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:09:50.26 ID:D6u2sDE0
「そうですね……かわいいからでしょうか?」
「う〜ん、まあそれもあるかしらねえ。あのね、子どもってとっても手がかかるじゃない」
「? はい」

みゆきはまたも首を傾げる。
こんなに頻繁に首を曲げる動作を強要されたら、いつか首の骨が折れるかもしれない。

「だからほら、夫婦喧嘩なんてやってる暇ないのよ」
「はい……ああ、だから夫婦円満というわけですか」
「そうそう」

ゆかりが微笑む。
彼女の言う論理を、みゆきはそれとなく把握する。
時々こんな真面目なことを説くのも母だ。

「あの、それはどう関係があるのでしょうか?」
「え? えっと、何だっけ〜」

ゆかりはまたのんびりした調子で、猫のようにした手を口に当て、物を思い出そうとする。
まったく、私説を語るはいいが、締まりきらない。
みゆきはまた呆れたが、ふと、母の言わんとしていたことを理解する。

そう、あの三人が喧嘩をしている暇もないほど、何か手を煩わせることをすればいいのだ。
子はかすがいの例に照らし合わせるならば、自分は「子」で、あの三人が夫婦というわけだ。

「あ、そうそう思いだした」

ゆかりが突然口を開く。

「あのね、つまり、みゆきがダメな子になればいいのよ」

再度の再度、みゆきは首を傾げる。そろそろ首を通る脊髄が縮れているかもしれない。

「ダメな子、ですか?」
「うん」

みゆきは考える。
なるほど確かに、自分が“ダメな子”になり、周りからフォローが必要になるように振る舞えば、
上手い具合に三人が喧嘩している暇を無くすことができるかもしれない。
しかし具体的に、“ダメな子”というのはどういう性格のことを言うのか。
“ダメな子”とは何か。
どう振る舞えば、三人の仲をより戻すことができるのか。

そのとき、ピンポン、とインターホンが鳴った。
寿司が届いたようだ。

「あ、来たわね。は〜い行きま〜す」

ゆかりが席を立ち玄関へと向かう。
テーブルに置かれたかじりかけの煎餅を見つめながら、みゆきは“ダメな子”になる方法をじっと考えていた。
やがて何か思いついたのか、よしと納得すると、まだ残っていた紅茶を一気に飲み干した。
466 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:11:18.99 ID:D6u2sDE0





翌日。「ダメな子作戦」スタートだ。
みゆきは始業時刻ギリギリで、急いだ様子で教室に入ってきた。
こなたとつかさが同時に注目するが、お互い同じ所を見ていると気づくや否や、それぞれ視線を逸らした。
みゆきが慌てて席に着く。

「おはよう。ゆきちゃんけっこう珍しいよね? こんなぎりぎりに来るの」

つかさが不思議そうな顔でみゆきに話しかける。

「はい、ちょっと」
「夜更かしでもしたの?」

みゆきはうーん、と考える仕草の後、答えた。

「はい、深夜の3時くらいまで……」
「えっ!?」

つかさが口を大きく開けて驚く。
同時に、その後ろで机に突っ伏していたこなたの腕が、ぴくんと動いた。
実のところこの言葉は嘘で、みゆきは夜11時には床に就いていた。
「ダメな子作戦その1」というべきか。

「なんでそんな遅くまで?」

つかさが不安そうな表情で聞く。
みゆきはまたも間をおいて答える。

「少し夢中で考え事をしていたら……」
「考え事?」
「はい」

みゆきは即答する。
つかさはどことなく落ち着かなさそうに、おろおろする。
その後ろでこなたの腕がまたぴくりと震えた。

そのときちょうど、担任の教師が扉を開け教室に入ってきたところで、
つかさはまた後でと、自分の席に戻った。
その様子からするとまだ落ち着いていないらしい。
こなたは突っ伏していた顔をむくりと上げると、何かいたたまれないように眉間に皺を寄せていた。

みゆきはそれを横目に確認する。
どうやら作戦1は成功のようだ。
ふと一息つき、さらに作戦を続けた。
467 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:12:48.25 ID:D6u2sDE0



一限の授業中。

「高良? おーい、もしかして寝とるんか?」

教師が声をかける。
みゆきはシャープペンシルを左手に持ったまま、ぐったり項垂れている。

ぼそぼそ、と教室中にざわめきが広がっていく。
真面目で優等生の委員長が居眠りをしていれば、クラスメートが騒ぐのも無理はないだろう。

もちろん、みゆきは本当に寝ているのではなく、寝たふりをしているだけだ。
「ダメな子作戦その2」。
今朝時刻すれすれで教室に入ってきたのも相まって、
つかさとこなたはみゆきが本当に寝ていると錯覚し、目を丸めていた。

「だいじょーぶか? おーい高良。どないしたんや」

教師は再び声をかけ、みゆきの席に歩み寄る。
みゆきは顔を俯かせたまま、返事をせず、気付かないふりをする。

「あー黒井センセ、そーいやみゆきさん夜遅くまで起きてたって言ってましたけど」

こなたが口を開く。
つかさは一瞬怪訝な顔をこなたに向けかけるが、すぐにみゆきの方に視線を戻した。

「あの、保健室に連れて行きます」

つかさがそう口火を切る。みゆきの頭がぴくんと動く。

「ん? ああ、そうやな。よろしく頼むわ」

教師が承諾する。
みゆきは不意ながら、心配するつかさに手を取られ、一階の保健室まで送られた。
予想以上のフォローを受けてしまったが、まあ良いだろう。
授業終了のチャイムが鳴るまで、みゆきは保健室のベッドの上で、次なる策を整理していた。
468 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:13:42.84 ID:D6u2sDE0



休み時間。
養護教諭に礼を済ませたみゆきは、保健室を出、隣のクラスへかがみと話しに行った。

「あ、かがみさんすみません」
「あ、みゆき。どうしたのよ?」

かがみが少し驚くように返事をする。
普段、こうしてかがみの元に話しに来るのはこなたくらいのものだから、みゆきが来るのは珍しいのだ。
みゆきが言う。

「実は、お恥ずかしいのですが、英語の教科書を自宅に置いてきてしまって……」
「ええっ? ずいぶん珍しいわね」
「はい、申し訳ないのですが……」
「まあ、貸してあげるけどさ」

かがみは英語の教科書を手渡す。
実際は、みゆきは教科書を忘れたのではなく、あえて持ってきていないだけだ。
「ダメな子作戦その3」。
すみません、とその教科書を受け取ると、みゆきはさらに続けた。

「あの、重ねて申し訳ないのですが、宿題を写させてもらっても……」
「ええっ!? 宿題まで!?」
「はい」
「……はあ、それじゃあ、はい」

かがみは呆気にとられながら宿題の解いてあるノートを手渡す。
今まで提出物の類はきちんと仕上げていたみゆきが突然これとは、驚きも相当なものだろう。
みゆきはありがとうございます、と丁寧に一礼してノートを受け取り、さらに踏み切る。

「……あと、もう一つ、黒井先生の授業ノートを後ほど貸していただいても……」
「……ホント大丈夫? なんか風邪でも引いた?」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
「んー……まあ、わかったけど」

みゆきはまたありがとうございます、と謝辞を述べると、自分の教室へ戻っていった。
かがみは呆然とした表情で、教室の窓ガラス越しに廊下を歩くみゆきを目で追っていた。
469 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:14:35.78 ID:D6u2sDE0



昼休み。

「今日相当眠そうだねえ?」

授業の終了と同時に、こなたがみゆきに話しかける。

「あ、いえ……」
「ホント、今日だいじょーぶ?」
「あ、はい、ちょっとダメな感じなだけで……」

こなたの問いに、みゆきは髪を撫でながら答える。
こなたはやや不安を帯びた表情だ。

「んー……あれ、みゆきさんお弁当は?」
「それが、忘れてしまいまして」
「えっ?」

こなたは素っ頓狂な声を出す。
当然、弁当を持参していないのも作戦のうちだ。
「ダメな子作戦その4」。
こなたは取り直して言う。

「んまあいいや、そんなら学食でも行こーよ?」
「ええ、そうしたいところですが……お金持ってきてないんです」
「ええ!?」

こなたはさらに驚く。同時に若干眉が歪む。

「いやー……そんなら、奢るよ」
「申し訳ないです。それではお言葉に甘えさせていただきますね」

みゆきは語調を崩さず言いきる。
こなたは険しい表情で、何かを考えるように、目の前の虚空を睨んでいた。
470 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:15:26.96 ID:D6u2sDE0



「ふう」

放課後、一通りの作戦を終えたみゆきは、深く溜息をつき、一人自分の席に座った。
指を弄び、考える。

上手くいっただろうか。
三人のまごついた挙動を見る限り、おそらく自分の異変に気付かせることは成功しただろう。
自分が“ダメな子”になる、という目的は達成されたわけだ。

しかし、それが三人の仲直りにつながるのか。
よく考えてみれば、自分が皆に世話を焼かせるように振る舞ったとしても、三人が協力して助けようと考える保証はない。
自分の異変に気がついたところで、多分あの子はたまたま調子が悪いだけで、すぐ元に戻るだろう、
と楽観視して終わりという可能性だってあり得る。
それでは何の成果もないばかりか、自分は演技によって友人を騙した上、迷惑をかけただけの悪人だ。

「みゆきさん、ちょっといいかな?」

声がかかり、みゆきは神妙にしていた顔を上げる。
目の前に立っていたのはこなただった。
その後ろで、つかさとかがみも、こちらを向いて立っていた。

みゆきはその様子を見て、あることに気がついた。
皆、どこか表情が冴えない。ばつが悪いという感じだ。
さらに、昨日まで三人の間に立ちこめていた険悪な雰囲気が、全く感じられない。

「……ごめん」

こなたが静かに切り出す。
みゆきは眉を顰めた。
こなたの言葉の意味を測りかねたからだ。
どういう意味なのだろう?
みゆきが返事に迷っていると、つかさとかがみも続けて口を開いた。

「ごめん」
「ゆきちゃんごめん」
471 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:16:59.26 ID:D6u2sDE0
みゆきはますます困惑する。
なぜ、今自分は謝られているのだろうか?
謝るとしたら、迷惑をかけて回った自分の方ではないか。

「やっぱあの、すっごく気にしてたんだよね?」

こなたが言う。みゆきが首を傾げると、かがみが言い直すように続けた。

「ほらさ、私達さ、昨日すごく喧嘩してたじゃない。それで今日あんな不調だったんじゃないかなって。
 昨日すごく遅くまで考え事してたんでしょ?」

みゆきはようやく、顰めていた眉を開いた。
なるほど。
自分は今日、三人の手を煩わせようとして、“ダメな子”を演じた。
それがどうも、三人には、昨日の喧嘩を心配し過ぎた結果ダメになってしまった、というふうに捉えられたらしい。

予想外の結果だ。いや、予想以上だ。
友人の異常を放っておけないあまり、三人は嫌悪の感情を踏みつぶして、意気投合したのだ。
なんと深くつながり合った仲なのだろう。
考えていた成り行きとは少し違ったが、まあ結果オーライだ。

「ごめん、ホントに」

つかさがまた謝る。
いえ、と言いかけて、みゆきは改めて三人の顔を見る。
三人とも、いたたまれなさそうに、視線を落としている。
まるで悪さをして、教師の前で立たされている児童みたいだ。
なんだか可笑しくなった。

「……いえ。仲直りされたのなら、私は何も」

みゆきは安堵を含めた笑顔で、そう言った。
472 :ダメな子 [saga]:2009/08/07(金) 21:18:02.28 ID:D6u2sDE0





四人一緒の帰り道、流石に三人に罪を着せすぎたと反省したみゆきは、
今日の自分の振る舞いの真相を明らかにした。
三人の反応は様々で、つかさは安堵し、かがみは呆れつつ苦笑い、そしてこなたは笑い通していた。
誰も自分を咎めなかったことが、みゆきには意外だった。

みゆきは一つ疑問を残していた。

今日自分は、演技をし、三人の心を痛ませることで、仲を取り戻させた。
しかし本来は、そんな良心の呵責に助けられずとも、ただ自分が“ダメな子”になり皆に気苦労をかけることで、
自然に仲直りさせるはずだったのだ。
つまり自分の演技は“ダメな子”としては不十分だった。
では結局、“ダメな子”とは何だったのだろうか?




四人それぞれ家路に分かれ日も沈んだ頃、一人家に到着したみゆきは、ただいまの挨拶をしてリビングへ上がった。
マグカップに並々ホットティーを注ぎ、テーブルの椅子に腰を掛けると間もなく、聞きなれた声がした。

「あらおかえりなさい、みゆき。あのね、今日も出前で、よかったりするかしら?」

みゆきはもはや呆れることもできず、平坦にはいと答える。

「あ、そういえば、あの子たち、元通りになった?」
「あ、はい、なんとか」
「それじゃ今日はお寿司にしましょっか、おめでたいしねー」

昨日も食べた、という突っ込みを無用だと感じたみゆきは、何も言わずにティーを一口すする。
そのとき、ふと、あることに気が付いた。

ああ、なるほど。
みゆきは納得し、頭の中で手を合わせた。
そう、件の疑問の答えは。

みゆきは、まだカップに十分な嵩を残した、深紅色の紅茶をじっと見る。
その揺らめく水面には、夕飯前だというのに残り物の煎餅をおいしそうに頬張っている、
知る限り一番の“ダメな子”の姿が映っていた。
473 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/07(金) 21:24:40.10 ID:D6u2sDE0
以上でした。

アレンジ初めてやってみたけど、難しい。
ときどき自分の作風を見失いそうになった。
オリジナルの展開と自分の頭の中で考えてたアレンジ展開がごっちゃになったりもするし。

というわけで、アレンジ企画は以上。
「ダメな子ってなんですか?」の作者さん、ご協力ありがとう、そしてゴメンorz

これに続いてくれる方を求む!
474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/07(金) 21:31:49.45 ID:D6u2sDE0
なお、元作品はこちらです。
『ダメな子ってなんですか?』http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1231.html
『青鈍空』http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1242.html
475 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/07(金) 21:39:50.32 ID:wUBHMCko
>>473
いやー。乙でした
それにしても、ここまで雰囲気変わるもんなんだねぇ。びっくりだ
地の文の書き方が素敵だわー。真似できん

たぶん今回一番楽しめてるのは我々2人なんでしょうな、これw
あー、ここがこうなったのかー、なるほどねー、って感じで


この企画、続いてほしいなーとは俺も思ふ
476 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/07(金) 22:19:25.74 ID:ij.qIYSO
二人とも乙です。
長そうなので後でじっくり読ませていただきます。
企画は面白そうだけど、他の人のSSのアレンジなんて、俺だと失礼なモノしか出来なさそうだ…。
477 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/07(金) 23:43:05.76 ID:MN.TpbY0
乙でした。
こういうのもいいですね。
俺も昔自分で書いたやつとか他の人の作品とかでやってみようかな。
まあ、少なくとも自分の作品ならどんなものになっても大丈夫かな。
478 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/08(土) 01:05:15.75 ID:sLka3ago
これは面白い!俺も参加してみたいなぁ

…小ネタしか書いたこと無いけどorz
479 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/08(土) 07:31:37.15 ID:AuHZhxI0
いろいろ作品が投下されていますね
まとめサイトに移ったらコメントフォームに感想を書きますね。

 新企画についてはハイレベルすぎて参加できそうにありません。
それに自分の作品に手をつけようと思う人はいないと思うし。
 そんな作品を投下します。 この作品で5作目だけど出すのを迷ったくらい
不出来かなと思います。
それでも良い思った人は読んで下さい。
480 : [saga]:2009/08/08(土) 07:34:22.42 ID:AuHZhxI0

「どうしましょ」
「お母さん、どうかしましたか」
「今日、夕方から急用ができてしまって、チェリーのお散歩ができなくなってしまって」
岩崎家は一週間の旅行で家を空けていた、そこで母がチェリーの散歩と餌やりを引き受けた。その最終日の最後の散歩のことを言っている。
「夕方の散歩なら私時間が空いているので」
「みゆき、大丈夫?、チェリーの散歩したことないじゃない」
「みなみさんと何度か行った事あるので」
「それは助かるわ、それじゃ頼むわね」
そう言うと、母は急ぐように出かける用意をしだした。
 出かける準備が終わると、 
「では、いってきます、お留守番とお散歩お願いね、そうそう、そこに散歩用の綱と糞の持ち帰り用のスコップと袋あるから忘れないように」
「分かりました、いってらっしゃい」

 夏休みももう少しで終わり、宿題も委員会関係の用事も済ませたので今日は特に用事はなかった。
とは言え、チェリーの散歩までの時間は何かをするには短過ぎる。まさに暇つぶしとなってしまった。
こんな時の過ぎる時間はとても遅く感じる。私は、自分の部屋で何をするわけでもなく椅子に座っていた。
考えてみれば、チェリーと散歩するのは子犬の時以来だった事を思い出した。
そして、その思い出に浸っているうちに・・・

 気が付くと時計は散歩の時間近くを指していた。転寝からそのまま寝てしまったよう。
私は少し急ぎ気味に身支度をして、岩崎家へと足を運んだ。
門を入ると、鎖につながれたチェリーが寝ていた。普段なら放し飼いで、家の出入りも自由だった。しかし留守にするとなるとそうもいかない。
「チェリーちゃん、散歩いきましょうか」
私は散歩用の綱をチェリーの目の前に出してそう言った。
私の声に耳を立てて、ゆっくりと起きて私の方を向くと、一度大きく背伸びとあくびをした。
散歩用の綱に気付いたのかチェリーは激しく尻尾を振り私にじゃれついてきた。
「こら、鎖がとれないじゃない」
いままで束縛されていた開放感なのか、私と一緒に散歩に行くのがよほど嬉しいのか、言い聞かせても、チェリーは言うことを聞かない。
四苦八苦してようやく鎖と散歩用の綱を付けかえた。
「さあ、行きましょうか」
そう言った途端、チェリーは猛ダッシュで門を出ようとした。私はチェリーに引きずられるように門を出る。
さすがにハスキー犬、綱を引く力は女の私では抑え切れなかった。
「チェリー、待ちなさい」
言葉空しく、チェリーの思うがままに道を進んでいく、予定していたコースを大きく外れて隣町に入り、滅多に行かない公園の前でやっとチェリーは止まった。
引っ張られた腕が痛い、そして、久しぶりに長く走ったせいか汗だくとなっていた。さすがのチェリーも口から舌を出して息をしていた。
私は少し公園で休もうとチェリーを公園に誘導する。すると不思議に私の後を素直に付いてきてくれた。
公園に入ると水のみ場があり、私とチェリーは渇きを潤した。その近くにベンチが空いていたのでしばらくそこで休むことにした。
ベンチに座ると、チェリーも私の足元に伏せをして休んだ。
481 : [saga]:2009/08/08(土) 07:37:19.34 ID:AuHZhxI0
 
 どのくらい時間が経っただろうか、汗が引き、そろそろ帰ろうとした時だった。見知らぬ少年が公園に入ってきた。
幼稚園年長から小学生の低学年くらいの子だろうか、俯いてとても悲しそうに歩いてきて、私の目の前を通り過ぎようとしていた。
「どうしたの?」
私は思わず声をかけた。彼はとても悲しげだった。
すると彼は無言で手にもっていた者を私の前に差し出した。
「虫かご?」
虫かごの中をよく見ると、蝉が沢山入っていた。でも動いている様子はない。
「死んじゃった」
少年はそう言うとまた俯いてしまった。
「沢山捕まえたのね、でもね、蝉の寿命は・・・」
言いかけて止めた。
今の彼に蝉の寿命の話をしても無駄に傷を深めるだけだと思った。そして、おそらく親か友達にその話を既に聞かされたのかもしれない。
彼の悲しげな姿はそれを表しているようにみえた。
話題を変えようと彼を見ると、もう片方の手にスコップを持っている。
「蝉を埋めにきたのね」
無言で少年は頷く、
「一人で? 偉いわね」
そう言うと少年は無言で公園の奥の端まで走り出し、しゃがんでスコップで地面を掘り出した。照れ隠しだろうか。
私はしばらく後ろ姿の少年の行動を見ていた。
するとチェリーが大あくびをして私を見ていた。
「もう充分休んだわね、行きましょうか」
もうしばらく少年を見ていたかったが、危険もなさそうだし、少年にしてやれることはもうない。
私は立ち上がって帰ろうとした。するとそれと同時に少年も立ち上がった。
少年の方を見た。少年は両手で何かを真上に放り投げた。
私は放り投げられた物を目で追った。すると放り投げられた物は羽をばたつかせて飛び立った。どうやら一匹だけ生きていた蝉がいたよう。
かなり大きい蝉、クマゼミだろうか。その蝉は街の空へと消えていった。
少年は蝉が見えなくなった空をただ見ていた。
一匹だけでも生きていれば彼も少しは救われるだろうと思った。
「帰りましょ、チェリーちゃん」
私達は公園を後にした。
 
 公園を離れて間もなく、道端に蝉が仰向けになって落ちていた。かなり大きい蝉、クマゼミ。
元々クマゼミは関東には居ない蝉、それに飛んで行った方向も同じ、少年が飛ばした蝉だと、そう思った。
蝉はピクリとも動かない、さっきの飛行で力尽きたのだろう。
公園の出入り口は一箇所、少年もこの道を通るはず、
この蝉を少年が見たら悲しむだろう。これも何かの縁、私はちょっとした演出をしてやろうと思った。蝉は遠く彼方へ飛んでいった事にしてあげよう。
公園の方を向くと植木が植えてありここは少年には見えない。
482 : [saga]:2009/08/08(土) 07:38:48.49 ID:AuHZhxI0


落ちている蝉を拾おうとした・・・できなかった。死んでいるとは言え、虫を触るのはさすがに気持ち悪い。
しかし時間はそんなにない、あの少年も用を終えてもうすぐ来るかもしれない。
私はチェリーの糞を処理する要領で、スコップで蝉をすくい、袋の中に入れた。
すると後ろから少年が走って来た、少年はそのまま通りすぎて行った。危なく気付かれるところ。
ほっと一息ついて、帰路についた。

 チェリーを鎖につなぎ、帰宅すると母はもうすでに帰っていた。
「おかえり、みゆき、長いお散歩だったわね」
「ただいま、それが・・・チェリーちゃんが暴走しまして、隣町の公園まで」
「ああ、たまにそうゆう事あるわね、お母さんも引きずられたことあるわよ、ところでまた困ったことが・・・」
「なんでしょうか」
「さっき岩崎さんから電話があってね、都合で帰りが明日のお昼になるって、でもチェリーちゃんの餌、今朝の分までしかなくて」
「では私が買ってきます、散歩したついでですし」
「助かるわ、餌は明日の朝の分も含めて二食分お願いね」
そう言うと母は、お金とメモを書いた紙を私に渡した。
「これは?」
「今日の夕食の材料、ついでにお願い」

 私は、スーパーで頼まれた品を全て買い物かごに入れ、レジに並んだ。
待っているとどこからか小さな鈴のような音が聞こえる。
音の方を向くと、鈴虫の販売をしていた。
夏休みも終わりとは言え、もう秋の虫がいるなんて、外はまだうだるような暑さ、とても秋を感じるような気分にはなれない。
「次の方ぞうぞ」
レジ係に私の会計の番が来たことを知らされる。慌てて買い物かごをレジの前に置いた。
 買い物の帰り道、外はすっかり日が落ち、暗くなっていた。
あれほど騒がしかった蝉の合唱はもうすっかり止んでいる。
そして、微かにコオロギの鳴き声が聞こえる。自然は確実に秋の準備をしている。心なしか風も少し涼しく感じた。
今日は虫に縁がある、・・・虫か・・・虫?・・・虫で思い出した。
チェリーの糞の入った袋と、蝉の入った袋を、岩崎家に置いたままだったことに気が付いた。

「ただいま」
「おかえり」
母に買ってきた物を渡した。そして透かさず話す。
「お母さん、チェリーちゃんの餌、あげてきますね」
「そうね、いい時間ね、それじゃお願い」
母は買い物袋から餌を取り出し、そしてチェリーの餌の受け皿を持ってきて私に渡した。
483 : [saga]:2009/08/08(土) 07:40:07.62 ID:AuHZhxI0


 岩崎家の庭に着くと、受け皿に餌を移しチェリーに餌を与えた。
長い散歩だったせいかお腹が空いていたらしく、激しい勢いで餌を食べだした。その食べている時間を利用し、二つの袋を回収した。
餌を食べ終わると、すぐに伏せて休んでしまった。
「チェリーちゃん、おやすみなさい」
話しかけても反応しない。
受け皿も回収し私は自宅へ戻った。
 受け皿を母に渡し、二つのを袋をごみ箱に入れようとした。その時、公園で空を見つめる少年の姿が脳裏に浮かんだ。
「どうしたのみゆき、ごみ箱になのかある?」
「い、いいえ、なんでもないです」
私は慌てて糞の入ってる袋だけを捨てた。
「その袋は?」
「蝉が入っています」
「蝉?みゆきって昆虫採集の趣味なんかあった?」
不思議そうに私を見つめる母。私は散歩で起きたことを話した。
「そんな事があったの・・・確かに捨て辛いわね」
「庭に埋めてあげてもいいのだけど・・・やはり公園に戻してあげた方がいいかなと、明日の朝の散歩、私が行きます」
「あら、でもそうしてくれると助かるわ、お母さん朝苦手だし」
「この袋、私の部屋に置いてきます」
「みゆき、それ置いたらすぐご飯にしましょ、お父さんも遅くなるって言ってたし」
「え、さっき買い物したばかりなのに」
「今日の分は冷蔵庫にあったので足りたの、買ってくれたのは明日にまわすわ」
「・・・」
散歩の疲れが急に湧き上がってきた。

 朝日が昇る前、昨日と同じように、散歩用の綱をもって岩崎家に向かった。
「チェリーちゃんお散歩行きましょうか」
昨日あれほど暴れていたチェリー、不思議なことに今日は素直に綱のかけ替えをさせてくれた。
そして、散々私を引きずっていたのに、今日は私の一歩後を付いてくる。
私はチェリーを誘導するように昨日の公園に向かった。大人しいチェリーのおかげで、汗をかくことなく公園に着いた。
 早朝の公園はだれも居なかった。昨日、少年が蝉を埋めた所に向かった。
そこには、土が盛られていた。盛られた土の頂上に棒アイスの棒が刺さっていた。
(せみのはか)
棒にはサインペンでそう書かれていた。いかにも子供の作った墓らしい。
気付くと、その墓の隣りにもう一つ土が盛られていた。同じように棒が刺さっている。
(くまぜみのはか)
同じ筆跡でそう書かれていた。
放り投げた蝉、もう余命幾許もないことを少年は悟っていたと。
既に死んだ蝉とは別に墓を作った、この事からも特別な感情が入っているのが分かった。
しかしその蝉は今、私が持っている。・・・彼はあの後、蝉を探したのだろうか。
私は振り返り、少年が見上げていた空を見た。
その時、私は愕然とした。
私が蝉を取った道が丸見えだった。
道から少年が見えなので私は向こうからも道が見えないと勝手に思い込んでいた。
蝉を放り投げて、蝉が飛び立ち、落ちて、私が拾うまでの光景を全て少年は見ていた事になる。
私は・・・なんて事をしてまった。余計なお世話とはまさにこの事を言うのだろう。
私は蝉を犬の糞と同じ扱いで拾って、そして、ゴミ袋の中に入れた。その行動を少年が見ていたらどう思ったかはすぐに想像できた。
少年は、走って私の行動を止めようとしたのだろうか・・・
彼が蝉を束縛して閉じ込めて死なせてしまった。その罪を彼は必死に償おうをしていた。それを私は奪ってしまった。
せめて、あの時素手で蝉を取っていれば・・・無理に隠したりせずに少年に手渡すことも出来たかもしれない。
484 : [saga]:2009/08/08(土) 07:41:23.24 ID:AuHZhxI0


 今、私のできることは、彼の代わりに蝉をあの墓に埋葬してやること。道具を使わず素手で。これは私なりの精一杯の気持ち。
私は袋を取り出し中に手を恐る恐る入れた。やはり怖い・・・そして・・・覚悟を決めた。目を瞑り中の蝉を掴んで取り出した。そしてゆっくり目を開けた。
 掴んだ感触は硬い感じで気持ち悪い感触は無かった。外観は少し気持ち悪いが、羽は透明できれい。
思ったほどたいしたことはない、これなら生魚の方がよっぽど感触は気持ち悪い。
私は蝉に対しても酷い事をしていたことに気が付いた。
「ごめんなさい、クマゼミさん」
蝉にそう語りかけ、そっと墓の前に蝉を置いた。そして周りの土を手で被せて少年の作った墓のように仕上げた。
朝日が公園に差し込んできた、朝日は公園の林を照らし出す。すると、今まで数匹の蝉の鳴き声が大合唱に変わった。
それはまるで、終わりゆく夏を惜しむかのように、墓の中に居る仲間の死を惜しむように短い命を削り鳴いている。
今まで私は蝉の鳴き声を聞いてこんな気持ちなることはなかった。私は少年と蝉に何か大切なものを教わった。そんな気がした。
チェリーが大あくびをして私を見ている。私を散歩に戻そうと誘っている。
「チェリーちゃん、あと五分、いえ、二分でいい、もう少し聴いていたいの、蝉達の命の賛歌を、それまで待って・・・」
日はますます力強く照りだす。蝉の大合唱は公園いっぱいに響き渡っていった。
485 : [saga]:2009/08/08(土) 07:42:33.25 ID:AuHZhxI0



 新学期が始まった。
かがみ「帰りましょ」
ががみさんが私のクラスに入ってきた。
つかさ「お姉ちゃん、学級委員の会議はどうしたの?」
かがみ「今日は新学期の初めだから、顔見せみたいなもの、すぐ終わったわ、ね、みゆき」
みゆき「そうですね」
こなた「久しぶりに四人で帰れるね」
かがみ「久しぶりもなにも会ったのは、夏休みの花火大会以来じゃない」
つかさ「久しぶりついでにどこかで一緒にお話しない」
かがみ「それいいね、こなた、みゆきは?」
こなた「いいよ」
みゆき「いいですよ」
かがみ「決まりね」
私たちは、校舎を出てバス停に向かっていった。
すると通り道に一匹の蝉がひっくり返って倒れていた。
私はそっとその蝉を拾い上げた。
こなた・つかさ・かがみ「「「えっ」」」
みゆき「どうかしましたか」
かがみさんは私から一歩離れた、つかささんはかがみさんの後ろに隠れてしまった、泉さんはその場で私の持っている蝉を見ていた。
かがみ「どうかしましたか、じゃないでしょ、さっき拾った、それ」
みゆき「ああ、これはアブラゼミの雌ですね、腹部の特徴から・・・」
かがみ「そんな事は聞いてないわよ、みゆき、虫をまるで小石を拾うように、つかさが怖がってるじゃない」
みゆき「そんなに怖いですか」
私はかがみさんに蝉を差し出した。
かがみ「わ、わ、ちょっと、これ以上近づけないないで、こなた、みゆきに何か言ってやって」
しかし泉さんは何も言わず、私とかがみさんのやり取りを楽しんでいるように見ていた。
みゆき「そう、私も少し前まで、そうだった、その為に、私は・・・」
かがみ「なに分けの分からないことを、いいからそれをもう少し離して!」
つかさ「ゆきちゃん、何かあったの」
つかさんがかがみさんの後ろで震えていた。
みんなを怖がらすつもりはなかった。思えば公園の出来事がなかったら私もきっとかがみさんやつかささんの様な反応をしていた。私は腕を元に戻した。
そこに泉さんが割って入るように話し出した。
こなた「つかさの反応は想定内だね、かがみの怖がる姿が萌えた、みゆきさんも意外な一面を見て萌えたよ」
かがみ「こなた、そんな事を・・・あんたに助けを求めた私がバカだったわ」
こなた「虫を怖がるのは萌え要素としては充分なんだよ、みゆきさんも分かってきたね」
みゆき「私は別にそんなつもりで、ただ蝉はそんなに怖いものではないと、かがみさん、つかささん、ごめんなさい」
かがみ「謝らなくていいわよ、みゆきがイメージとかけ離れたことをするからちょっと驚いただけ」
こなた「ほう、みゆきさん、虫のよさが分かるんだね」
みゆき「泉さんは大丈夫なのですか」
こなた「まあ、ゴキブリとかはさすがにダメだけどね、一通りの昆虫ならいけるよ、よく言うでしょ昆虫は男のロマンって」
かがみ「それ、似たようなこと以前言わなかったか、しかし、みゆき、虫が平気だったなんて知らなかった」
みゆき「泉さんも私が蝉を拾った時、蝉をしばらく見ていましたね、興味あるのですか」
こなた「・・・昆虫にはそんなに興味ないけど、蝉には思い出があってね、みゆきさんが蝉を拾ったから思い出しちゃったよ」
みゆき「どんな思い出なんですか」
486 : [saga]:2009/08/08(土) 07:43:27.01 ID:AuHZhxI0

少し間を空けると、泉さんは私の持っている蝉を見ながら話し始めた。
こなた「子供の頃、お父さんと昆虫採取したんだけど、結局取れたのが蝉だけでね、それでも虫かごいっぱいに捕れた」  
   「帰りに、お父さんが蝉を放してあげなって言うんだけど、折角捕ったのにもったいないって駄々こねてね、それでも、お父さん、何度も放すように言ってくるんだ」
   「それでも私は持ち帰って・・・」
泉さんはそこで話すを止めてしまた。言いたくないのは分かったので私は間接的な表現で完結させてあげた。
みゆき「一週間後におじ様の言ってる意味が分かった・・・」
泉さんは無言で頷いた。
かがみ「・・・」
かがみさんは黙って泉さんを見ていただけだった。きっとかがみさんは泉さんに今までにない共感を感じているに違いない、しかし、私が怖がらせて、
しかも泉さんに茶化されてしまった為に素直に感情を表せない、そう思った。
こなた「虫とはいえ、あれは悲しかったね、あれからもう昆虫採集はしなくなったよ」
つかさ「なにがそんなに悲しいの、一週間後何があったの」
つかささんがかがみさんの後ろから出てきた。体の震えは止まっている。
かがみ「つかさ、本当に分からないの、成虫の蝉の寿命は一週間」
つかさ「え、そんなに短いの、知らなかった、蝉って夏中ずーと鳴いているもんだと思ってた・・・」
みゆき「本来はもっと長いみたいですけど、捕まるとそのくらいになってしまうそうですね」
つかささんはかがみさんの前に出て私に近づき、私の持ってる蝉をじっと見る。
つかさ「よく見ると・・・ゆきちゃんの言うとおりそんなに怖くないかも、生イカを下ろした時の肝の方がよっぽどきもち悪いね・・・」
   「夏も終わりだし、この蝉、もう寿命だったんだね、かわいそうに・・・ねえ、踏まれないような所に置いてあげようよ」
こなた「そうだね、蝉が居なくなれば・・・高校最後の夏・・・もう少し続いて欲しいな」
かがみ「何蝉の話でしんみりしてるの、、蝉なんかで・・・」
そう言ってるけど、私には誰よりも悲しそうな顔をしてるように見えた。
しばらく沈黙がつづいた。
 
みゆき「つかささん、泉さん、夏はまだ終わらない」
つかさ「どうして」
みゆき「なんとなくそう思うのです、ところで泉さん、虫かごの蝉、もし、一匹だけ生きていたらどうしましたか」
こなた「そりゃ逃がすだろうけど、なんでそんなことを聞くの・・・もしかしてその蝉」
みゆき「私ならこうします」
私は鞄を足元に置き、蝉を両手でつかんで、真上に放り投げた。
 
 蝉が生きていたのは拾った時から気付いていた。しかし掴んでいる本人以外は死んでいると勘違いするほど衰弱していた。ところがつかささんが私に近づいたとき時、
蝉は羽を広げようと私の指を押し返かえした。それはとても力強かった。放してくれと叫んでいる様だった。最後の力を振り絞り私から逃れようと抗う。
私はその蝉の最後の叫びに答えた。

 蝉はそれを待っていたかのように羽を開いて激しく羽ばたいた。
そして、校舎に向かって飛んで行った。蝉はみるみる高度を上げた。
つかささんは私の前に出てきて蝉を追った。蝉が生きていたことを喜んでいるようだった。
かがみさんは胸に手を当てて静かに蝉を見守ってる。羽ばたく蝉をを励ましているようだった。
泉さんは悲しい顔をしていた。やがて来る蝉の運命を哀れんでいるようだった。
これがあの時の少年の気持ち・・・償いや謝罪でした事なんかじゃない。もっと素晴らしいもの、言葉では言い表せない。
いいえ、それはいつでも考えられる。今は飛び去る蝉を見届けていたい。
 
 蝉は校舎を超えてそのまま空の中に吸い込まれるように消えていった。
私たち四人は見えなくなっても空を見つめ、いつまでも見送った。いつまでも。


487 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/08(土) 07:44:26.57 ID:AuHZhxI0
お粗末でした。

相変わらず文章が下手です。

蝉の合唱を聞いているうちにふと浮かんだストーリです。
488 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/09(日) 01:30:23.79 ID:FwxEaYSO
自分のコンクール作品あるし他人がリミックスしたのを見てみたいけど
自分がリミックス出来ないorz

>>487
みゆきさんの口調に違和感を感じましたが、良い作品でした
蝉に驚いてる双子可愛いww
489 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/09(日) 06:25:06.55 ID:P4xwJJ.0
>>488
うむー やはり
みゆきメインの作品以前にも作ったけど同じ指摘された。
直ってない
みゆきメインの作品少ないから他のサイトの作品でも読んで勉強するかな
ご指摘ありがとうございました。
490 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/09(日) 11:27:35.61 ID:aY8ZsQSO
口調なら、アニメのDVDに付いてる解説書がオススメ。
キャラ紹介に口調の欄があって、大分参考になりました。
491 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/09(日) 15:23:49.66 ID:P4xwJJ.0
>>490
DVDですか何話のでもいいのかな?
買ってみるかな
情報ありがとうございます。

キャラの口調すら表現できない作品じゃどうしようもない
叙述トリックとか使う人など尊敬してしまいます。
当分みゆきさんを出すのは控えるかな。
492 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/09(日) 15:32:08.12 ID:aY8ZsQSO
>>491
いや、一巻に一キャラなんですわ…。
オススメしといてなんだけど、原作やアニメ版を繰り返し見た方がいいかもと思ったり。
493 :劇中劇 :2009/08/09(日) 20:06:08.32 ID:q8Na3rMo
投下行きます。
パラレルワールド(?)にて、諸事情あって養護施設に保護された面々を白石視点で描きます。

ちょい欝でちょいエロです。
494 :劇中劇 [saga]:2009/08/09(日) 20:09:27.94 ID:q8Na3rMo
 連呼危険

 今日も今日とて一人で入浴、今夜はゆたかちゃんが失敗して入りに来ることもなかった。

 がら

「……え?」
「オヨヨ!!」
 やっぱりゆたかちゃんが来たかと思ったが、そこにいたのは身をすくめた全裸のつかさだった。
 慌てて出て行き、擦りガラス越しに謝罪してきた。
「ご、ごめんなさい。そうだよね、白石君『も』みんなの後だよね、男の子なんだし」
 電気ついてるのに深く考えず入ってきたのは女だらけの状態が長かったせいだろうか。
 とにかく、つかさもゆたかちゃんみたいに突発的に風呂入らざるを得ない状態になったのだろう。
 というわけで手早く体を拭いて上がると、つかさは脱衣所でバスタオル巻いて待機していた。
 そのあられもない格好ゆえ仕方のないことだが、彼女は怯えるように俺と距離を取り、入れ違いにそそくさと入る。
 少し開けた扉からバスタオルを置きながら扉越しに話しかけてきた。
「えっと……見た?」
「ごめん、チラっと」
『も』という接続詞から、つかさは女装してる男なのかとも考えてしまったが、見えてしまった体はどう見ても女体です本当にありがとうございましたって誰に何で礼を言ってるかね俺は。
 そりゃたしかに有難いものを拝ませてもらったわけだけどいやいやそういう問題じゃなくて。
「ギョッとしたよね、あの傷あと」
「えっ」
「えっ」
「なにか傷があるの?」
「見たんじゃないの?」
「いや、その、体、チラッと」
「えっ」
「えっ」
 気まずい沈黙に耐えられず、強引に会話を打ち切り自室に戻った。
495 :劇中劇 [saga]:2009/08/09(日) 20:11:09.23 ID:q8Na3rMo
「……眠れん」
 あれから数時間経ったが、ただでさえ女だらけのこの環境であんなの見せられては辛抱たまらん。目に焼きついて離れない。
 つかさには悪いのだが、処理させてもらうべくティッシュに手を伸ばした。
 そのときノックが聞こえ、慌てて手を引っ込める。
「白石君、起きてる?」
「その声……柊さん?」
「うん、入っていい?」
「なっ!? ちょ、ちょっと待て!」
 夜中に男の部屋に入るなんて何考えてるんだ?
 だが。
「やっぱり駄目? そうだよね、ごめん」
「いや、構わない。ど、どど、どうぞ」
 こんな状態の俺が女の子を招き入れたら大変なことになりそうだが、つかさの声には拒んだらそれはそれでどうにかなってしまいそうな危うさを感じた。
 神妙な顔で入ってきた彼女はパジャマ姿で、これまたシャンプーの香りがして俺を惑わせる。
 いったい何を考えてるんだと動転していたら、後ろ手にドアを閉めたつかさは俺に背を向け……脱ぎだした。
「わ? な、ちょっと」
 慌てて目を背ける。
 やっぱりつかさは男性恐怖症で、乗り越えるための荒療治のつもりなんだろうか。はたまた、過去に色々ありすぎて自分に価値を見出せなくなり自暴自棄になってる?
「いいの、見て」
 やはり危うさに満ちた声だった。
 仕方なくゆっくり振り向くと、つかさは上半身があらわになり、胸を右手で押さえていた。
 俺やゆたかちゃんのように傷や火傷などの痕があるのかと考えてしまったが、今も風呂でチラリと見てしまったときも腹などにそういったものは一切見受けられず、ただひたすらに綺麗だった。
 今抑えている胸に傷があるのか、それをこれから見せようとしてるのかとも考えてしまったが、抑えた右手はそのまま、左手をゆっくりと上に伸ばしてゆく。
 その際、かすかに顔をしかめた。一呼吸置き、更に上に伸ばしていく。
 扇情的なポーズのつもりなのだろうか。
496 :劇中劇 [saga]:2009/08/09(日) 20:13:21.92 ID:q8Na3rMo
 ポーズ自体にはさほどそそられなかったが、そんなことしなくても俺には十分に刺激的な姿だった。
 さりとて襲い掛かるわけにもいかず、円周率やら素数やらを数えて気を逸らしていたら、つかさはおずおずと口を開いた。
「えっと……白石君、大丈夫?」
「大丈夫って、何が」
 不能と思われてるか?
「その……臭くない? 鉛筆の芯とか鉄サビとかパルサミコ酢とか野良犬とか玉ねぎみたいなニオイがしたり、目にしみたりしない?」
「へ? な、なんだそりゃ? そんなの全然ないけど」
「本当? 本当に本当? 信じていい?」
 迫ってきた。胸を押さえてでできた谷間やら可愛い顔やらで視界が埋め尽くされる。
「う、嘘ついてどうすんだよ、シャンプーのいい香りしかしないって」
 やばいやばいやばい、マジでどうにかなりそうだ。
「……本当、信じて大丈夫みたい」
「え?」
 つかさは顔を赤らめ下を見ていた。
 視線の先には……。
 慌てて飛びのき座り込む。体は正直に反応していた。
「あはは、本当に臭かったらHな気持ちなんか吹っ飛んでTINTINしぼんじゃうよね」
 物凄い単語が飛び出した。
「なっ!? ちょ、ちん……あれ? 臭いって?」
「私ね……ワキガだったんだ。お風呂でどんなに念入りに洗って毛の処理してデオドラント吹き付けてもすぐ臭っちゃうくらい重症だったの」
 一呼吸置いてまた腕をあげ、腋を見せ付けられる。
 そこにはひきつれたような傷が縦横に走っていた。
 腕を上げる際に顔をしかめたのはこのせいらしい。
 それとなく鼻をひくつかせてみたが、不快な臭いなど一切なく、ただ俺の理性を破壊しそうないい香りしかしなかった。
「そ、それって、ひどいのだと手術が必要とは聞いたけど、そんな傷残るものなのか? その医者、ヤブじゃないのか?」
「違う違う、ヤブじゃなくてヤミなんだよね」
 つかさが着衣を直しながら語った内容によると……。
497 :劇中劇 [saga]:2009/08/09(日) 20:16:38.33 ID:q8Na3rMo
 彼女は手術を望んだがそれは叶わなかった。
 裕福な家庭ではないが、保険がおりる(みさおの親と違いきちんと納めてはいたようだ)から費用はさほど問題にならないはずだった。だが親は手術を許可してくれなかったという。
 自分を体臭で疎んじる世の中に激しい敵意を持ち続け、そんな人間同士で傷を舐めあっていたのが両親であり、ワキガはその遺伝だった。
 だから、敵と見なした一般人の快適な生活のため体にメスを入れるという行為が許せなかったという。
「でも、私のニオイで苦しむ人はそんな家庭の事情なんて関係ないし、親の許可がなきゃお医者さんだって手術するわけにも行かなかったし」
 そんなわけでネットで探し出したヤミ医者になけなしの貯金全額はたいて依頼したという。
 だが、設備や技術に問題あったため酷い傷が残ってしまったらしい。
「これで親が反省して私や皆の気持ちに真剣に向き合って、皆と仲良くやっていこうと考えてくれればよかったんだけど、ダメだった。ますます意固地になって、私の顔見るのも嫌って言い出したの」
「そんな無茶苦茶な方法で自分らの生き方を否定されたら、もう家族としてやっていけなかったのかな」
「うーん、親は自分の子供かどうか動物みたいにニオイで識別してたんじゃないかな。それなのにニオイの元を取っちゃったからわからなくなったのかも」
 などとつかさは笑うが、俺は笑えなかった。
 こうして家庭内が険悪になった矢先に親は職場で体臭に関するクレームや人間関係のトラブルが蓄積してとうとうクビになり、養育不可能と見なされつかさは保護されたという。
 他の子同様に壮絶な経歴に呆然としていたら更にものすごい発言が飛び出す。
498 :劇中劇 [saga]:2009/08/09(日) 20:18:25.89 ID:q8Na3rMo
「本当はまだニオイの元が残ってるのにみんな気を使って平気なフリしてるんじゃないかって不安でしょうがなかったの。だけどTINTINは嘘つけないもんね。だから本当に安心できたんだ、男の子が来てくれてよかった」
 そう言って目をぬぐう。
こんなことで涙ぐむとは、どんだけコンプレックスだったんだ。
 臭ってるかどうかの確認が夜這いの目的だったらしい。
「なんちゅう確認方法だ。俺に襲われる心配は無いのかよ」
 正直言って、辛抱たまりません。
「あ、あはは、一応退路は確保してあるし、そういう対象になれるならそれはそれでマシかもしれないし」
 絶句する。体臭によるコンプレックスはそこまで自分の価値を否定させてしまうのか。
 だが、たちまち彼女の顔は不安に彩られる。
「って、もしかして、白石君はニオイフェチだったりする? 臭いからこそTINTIN元気になっちゃったのかな?」
「違う! 俺を変態にするな! 普通に可愛いしセクシーだしいい香りだからこうなったんだっての!」
「えっ!?」
 俺の発言で真っ赤になる。
 これまでにやらかした大胆な行動や乙女が口にするのははばかられる単語の連呼に比べりゃ俺の発言なんて可愛いものだと思うが。
 乙女心は複雑だ。
「というわけで、用が済んだなら出て行ってくれないか。あ、臭いからじゃないぞ? 俺が、その……このままじゃどうにかなりそうだからだ」
「あ、うん! 信じる」
 などと明るく返事するが、俺のベッドに腰掛けたつかさはいつまでたっても自発的に出て行こうとしない。
 椅子の背もたれを前に回してのしかかり前傾姿勢で座る俺を見る彼女の顔には、悪戯っぽく少々サディスティックな笑みが浮かんでいた。
 今の俺は立ち上がることすら困難であることを見抜いてやがる。
499 :劇中劇 [saga]:2009/08/09(日) 20:20:20.92 ID:q8Na3rMo
 まったく見れば見るほど可愛い子悪魔だぜ、お前は。
 崩壊家庭出身の俺ですら、久しく錆ついてた願望がうずいてくる。

 埒が明かないので仕方なく、前かがみの情けない体勢でつかさを追い出す羽目になった。
「きゃぁきゃぁ♪ あはは」

 ケッ、笑ってやがる。
 てめえなんぞ、この夜の終わりまでベッドで眠ってりゃよかったんだ。

 などと内心で某アニメの平民出の軍人さんみたいな悪態をつく。
 廊下に出ると……。
「ひ、柊さん、白石君の部屋でいったい……」
 みゆきさんが呆然としていた。
 俺を見て、視線は股間に向かう。
 それからなぜか焦燥感に満ちた顔で俺に迫り、ハッと我に返ったみゆきさんは飛びのいた。
「え、あ、その、白石君は自分でできますよね」
 などと言って慌てて去っていった。
 いや、確かにできるけど。というかそこらへんは踏み込まれるの非常に困るんだが。
 慌てて座り込んだ俺は、困惑したままつかさと顔を見合わせるのだった。


??「……これまた、凄い」
つかさ「あ、あはは、流石に使えませんよね〜」
みのる「使わないで下さい〜!」
こなた「いやいや、木琴でピロリロリンって擬音鳴らして前かがみになって痛がれば」
??「『毎度おさわがせします』のノリはこの時代では通らないって。(本当に偏ってるなこの子)」
ひより「タイトルの『らき』を『わき』って置換したフェティシズム全開の同人誌書かれそうっスね」
こなた「まだ本編できてもいないのに2次創作考えるのはイタいって」
??「う〜ん、不条理ギャグとして『臭くってさ〜』という問答を所々に入れようと考えてたけど、つかさちゃん傷つくか」
つかさ「いえ、もう大丈夫です。自分のことじゃないって信じる根拠、見つかりましたから」
みのる「うぁあああ」
500 :劇中劇 [saga]:2009/08/09(日) 20:21:26.13 ID:q8Na3rMo
以上です。
つかさがあの単語を連呼しまくるMADとフェティシズム全開の同人誌と『やる夫の医学 体臭予防』に触発されました。
501 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/09(日) 23:55:35.99 ID:WfgeBLU0
>>500
乙、MADの影響かつかさ壊れてるなw
502 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/10(月) 23:33:26.94 ID:MN9g5oUo
みなさんはご存知だろうか
まとめスレの「シリーズ物」に「怪傑かがみん」というものがあることを
みなさんはご存知だろうか
その作者が、絶対に完結させます、と投下していた当時に大口を叩いた事を

えっとね。何が言いたいかというとね
知らない&覚えてない&別に需要がない、の3重苦だとは思うんだけどね
とりあえず完結させる方向でいくんで投下させてくださいお願いします

注:前作までを読まないと話がよくわかんないと思う。すみません
503 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/10(月) 23:34:18.66 ID:MN9g5oUo
こなた「おはよー!つかさ、みゆきさん!」
みゆき「おはようございます、泉さん」
つかさ「こなちゃん、おはよー。今日は遅刻ギリギリだね〜」
こなた「いやー、ちょっとだけのつもりでネトゲに手を出したら、明け方まで盛り上がっちゃってさ」
つかさ「そうなんだ〜」
みゆき「夜更かしは体に障りますから、程々にされた方がいいと思いますよ」
こなた「わかっちゃいるんだけどねー……ところで、かがみはもう自分の教室に戻ったの?」
つかさ「それがね、お姉ちゃん今日はお休みなの」
みゆき「どうやら、風邪をひかれてしまったとかで」
こなた「へぇ、そうなんだ。つかさのがうつっちゃったのかねぇ?風邪はうつすと治るって言うし」
つかさ「ひどいよ〜、こなちゃん」



〜さらば!怪傑かがみん!〜



まさか、つかさに続いて私までもが風邪で倒れてしまうとは思わなかった。
昨日つかさに『この時期に風邪なんて気がゆるんでる証拠よ』なんて言うんじゃなかった。
漫画じゃあるまいし、注意したそばから倒れるなんて、姉としての面目が丸潰れだ。

それにしても、やることが無くて困る。
昼食後に薬を飲んでひと眠りしたらだいぶ調子は良くなったが、ベッドを抜け出してウロウロする訳にもいかない。
ベッドの上でも出来る事といったら読書くらいだが、今は頭がボーっとしていて大好きなラノベも読む気にならない。
四の五の言わずに寝ていればいいのだが、私はつかさと違ってそう何時間も寝てはいられない人間なのだ。
そんなことを考えながらじっと天井の一点を見つめていると、ふと先週の出来事が思い出された。

みゆきは怪傑かがみんの正体についてどう考えているのだろうか。

みゆきの発言を額面どおりに捉えれば、みゆきはその正体が私だとは思っていないことになる。
しかし、もしかしたらアレは正体に気が付いた上での私への気遣いなのではないかとも考えられる。
常識で考えれば、目の前で自白して衣装を身にまとったのだから正体に気が付かない訳がない。
……もっとも、本当に本当の常識ってヤツで考えれば一番最初の時にバレてるハズなんだけど。

それともう1つ。
最後にみゆきが私の事を『親友』と表現したあの発言は、正体に気付いている事を踏まえての発言ととれる。
『私は、正体がかがみさんだと気付いていないフリをさせていただきます』という意味にとれなくもないのだ。
さすがにコレは深読みのし過ぎかもしれないが、あの時のみゆきの表情からはそうとしか考えられないから困る。

そういう風に考えていくと、みゆきだけじゃなくこなたも正体に気付いている可能性がある。
自白こそしていないものの、私はこなたの目の前で着替えをした事があるのだ。
あいつも普段はバカっぽい事ばかりしているが、他人の思惑なんかに対して妙に鋭い節がある。
バカと天才は紙一重なんていう言葉があるが、こなたは紙一重で天才の方なのかもしれない。
だとしたら、私の趣味がコスプレだと決め付けてバイト先であんなことをしたのも、あいつなりの気遣いということだろうか。
『私は、正体がかがみだって気付いていないフリをさせてもらうヨ』という考えに基づく行動だと、とれなくもない。

もしかして『ダブル怪傑かがみん』の写真を撮るという2人の行動は、秘密を共有することへの覚悟、或いは気遣いなのだろうか。
504 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/10(月) 23:35:29.58 ID:MN9g5oUo
仮に、仮に私のこの考えが当たっていたとしよう。
その場合、私が怪傑かがみんを演じる必要はほとんど、いや、まったく無くなってしまうのではないだろうか。
正体がばれているのなら、柊かがみという人間の想いを伝える代役の存在意義は0に等しい。
それにみゆきはあの時――彼女が正体についてどう考えているにせよ――怪傑かがみんにではなく、私、柊かがみに感謝の言葉を捧げた。

怪傑かがみんは必要ないのだろうか。

考えることに少し疲れたので、私は天井を見つめながらボーっとすることにした。
扉が控えめにノックされるのが聞こえたが、面倒なのもあってわざと返事をしない。
しばらくして、遠慮がちにお母さんが部屋の中に入ってきた。

み き「かがみ、入るわよ……あら、起きてたの?調子はどうかしら?」
かがみ「うん、だいぶ良くなったみたい。明日には学校に行けると思うわ」
み き「そう?無理しなくていいのよ?」
かがみ「別に無理なんかしてないって」
み き「ならいいんだけど。辛くなったらすぐに言いなさいね」

かがみ「うん、ありがと……ねえ、お母さん」
み き「なあに?」
かがみ「お母さんも私と同じ様に17歳の頃から怪傑の力を使い始めたんでしょ?」
み き「そうだけど、急にどうしたの?」
かがみ「ただ、この間のお父さんの反応から考えると最近は力を使ってなかった」
み き「ええ、そうよ。あの時はずいぶん久しぶりだったから緊張したわ」

かがみ「何か理由があったの?」
み き「理由?何の?」
かがみ「怪傑の力を使わなくなった理由。何か特別な理由とかきっかけみたいなものがあったのかなって」
み き「そうねぇ……忘れちゃったわ。ずいぶん昔のことだから」

お母さんは少しだけ考える仕草をしてから、笑顔でそう答えた。

かがみ「結構大事なことだと思うんだけど、本当に忘れちゃったの?」
み き「そんなことより、お友達がお見舞いに来てるわよ。起きてるなら、あがってもらってかまわないわね」
かがみ「お母さん、私の質問に――」
み き「あら、いけない。そういえば、お鍋を火にかけっぱなしだったわ」
かがみ「ちょっと、お母さんってば……ああ、もう。まだ話は終わって無いってのに」

逃げられた。おそらく私の質問に答える気は無いということだろう。
まあ、お見舞いに来ている友人を放ったままにしておくにはいかないし、今は答えを追求するのは諦めよう。
数分後、お見舞いの品と思しきぽっきー1箱を携えて、こなたが姿をあらわした。

こなた「やふー、かがみ。元気してたー?」
かがみ「風邪ひいて学校休んでる人間が元気なわけ無いだろ」
こなた「うむ、なかなかの反応だネ。元気そうで何よりだよ」
かがみ「人の体調をどこで判断してるんだ、あんたは」
505 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/10(月) 23:36:29.84 ID:MN9g5oUo
こなた「――でさ、つかさはまた携帯電話を没収されたってわけなんだよ」
つかさ「うわああ、こなちゃん。それはお姉ちゃんには言わないでって言ったのに〜」
こなた「あれ?そだっけ?」
かがみ「ふふ。まったく、つかさはしょうがないんだか……ケホッ、ケホッ」
つかさ「お姉ちゃん、大丈夫?まだ喉が痛むの?」
かがみ「ああ、心配しなくても大丈夫よ。ちょっと違和感が残ってるだけだから」

こなた「ちょっとしゃべり過ぎちゃったカナ?とりあえず、何か飲んだ方がいいんじゃない?」
つかさ「そうだね。私、何か飲み物もってくるよ。こなちゃんも何か飲むでしょ?」
こなた「あー、おかまいなく」
つかさ「遠慮しなくていいよ。お茶がいい?それともコーヒーがいいかな?」
こなた「んー、じゃあかがみと一緒のでいいや。ありがと、つかさ」

つかさが台所へと降りていき、こなたと2人きりになった。
私の喉を気遣ってか、こなたは何もしゃべらずに部屋の中を見回したりしている。

かがみ「ねえ、こなた」
こなた「んー?」
かがみ「変な遠慮しなくていいから、何か話しなさいよ」
こなた「あ、ばれてた?」
かがみ「まあね」

話を仕切りなおすためか、それとも照れ隠しのためかはわからないが、こなたはアハッと笑った。

こなた「そだねー、じゃあ何を話そうかな」
かがみ「私が休んでる間にあった事とかでいいじゃない」
こなた「もうほとんど話しちゃったよ。後はみゆきさんが、かがみにくれぐれもお大事にって言ってたくらいかなぁ」
かがみ「おい。それって一番最初に言わなきゃダメだろ」
こなた「まあまあ、忘れずに言ったんだからいいじゃん」
かがみ「おまえなぁ……みゆきに申し訳ないとは思わんのか?」

こなた「あー、それとさ、かがみがいない間に怪傑かがみんは1回も登場しなかったから」
かがみ「は?」
こなた「ん?」
かがみ「えーっと、何でその情報を私に言う必要があるんでしょうか、こなたさん?」
こなた「え?だって、かがみはコスプレするくらいにあの人の大ファンなんでしょ?気になるかと思って」

どうやらこなたは紙一重でアレの方だったようだ。
せっかくだから、少し試してみようか。

かがみ「ごめん、こなた。ちょっとトイレいってくる」
こなた「いってらー」
506 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/10(月) 23:37:53.65 ID:MN9g5oUo
つかさの私服を無断借用して着替えを済まし、こっそり持ち出した仮面とマントを身に着ける。
部屋に戻ると、都合の良い事に中にはこなた1人しかいなかった。
どうやら、つかさはまだ飲み物の準備をしているみたいだ。
当のこなたはやることが無くて余程ヒマだったのか、私の机の周りでなにやらゴソゴソしていた。

こなた「うわっ!?か、かがみ、コレは違うんだよ!?別に家捜しとかしてたわけじゃ……あれ?」

こなたは扉の前に立つ私をもう一度よく見る。

こなた「か、怪傑かがみん!?」
怪傑K(あー、やっぱりそうなっちゃうんだ。この間、目の前で着替えた時は柊かがみって認識してたのになぁ)
こなた「な、何でここに?私、今日は別に悩み事なんて無いですよ?」
怪傑K(完全に気が付いてないな、あの表情は。とりあえず、これでこなたはシロだって確認できたわね)
こなた「もしかして、私じゃなくてかがみに用があるんですか?」
怪傑K(残るはみゆきか……いっそのこと、今週末にでも家に招待して同じように試してみようかしら)

こなた「おーい」
怪傑K「はっ!?……な、何か用かしら?」
こなた「それはこっちの台詞なんですけど」
怪傑K「あ、ああ、ええっと……その、今日は柊かがみに会いに来たんだけど、どうやらいないみたいね」
こなた「そうですか。かがみならすぐに戻ってきますから、待ってたらどうですか?」
怪傑K「え?い、いや、そうもいかないのよ。ほら、こっちにも事情ってもんがあるし」

こなた「むー……?」
怪傑K「な、何よ、そんなに私の事をじっーと見て。何か変かしら?」
こなた「いや、いつもと何か違うなーって思いまして」
怪傑K「ち、違うって、どこが?」
こなた「髪型がツインテールじゃなくてストレートなトコとか、服装が制服じゃなくて私服っぽいトコとか……」
怪傑K(ヤバッ、バレるかも!?どうしよう、今更だけどこれはコスプレだってことにしようかしら……でもそれもなんか嫌だな)
こなた「ああっ!?もしかして!?」
怪傑K(まさか、バレちゃった!?とりあえず否定しなきゃ!!)

こなた「2号?」
怪傑K「違うの!!……は?あれ?2号って?あれ?」

こなた「違うんだ。じゃあ、あなたは誰なんですか?」
怪傑K「あれ?え?……え、ええ〜っと、私は、その……そう!V3よ!怪傑かがみんV3!」
こなた「V3!?ということは3人目!?」
怪傑K「ま、まあ、そうなっちゃうわね」
こなた「かがみにも教えてあげなきゃいけないね、怪傑かがみんは3人いるって。ってことは、いずれ3人揃ったところとかも見れるのかなぁ」
怪傑K「ええっ!?そんなの無理に決まってるじゃないッ!!……あ、えっと、そうじゃなくって。違うのよ。3人もはいないから」

こなた「ふぇ?なんで?だって、あなたはV3で、3人目の怪傑かがみんなんですよね?」
怪傑K「それは、ほら、アレよ、アレ。まあ、アレっていったらアレしかないじゃない?」
こなた「アレ?」
怪傑K「だから、アレよ、アレ……そ、そう!消えたの!1号と2号は消えちゃったのよ!」
こなた「な、なんだってーーーーー!!!?」


 
507 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/10(月) 23:39:05.73 ID:MN9g5oUo
かがみ「はぁ〜……なんか、ものすごい墓穴を掘ってしまった気がするわ……」

困っている人々を救うため、悪の組織に立ち向かうことを決めた怪傑かがみん1号と2号。
V3にすべてを託し、彼女らは組織の本拠地へと乗り込んでいった。
そして彼女らの活躍により組織は壊滅し、その本拠地も謎の大爆発により消え去ったのだった。
しかしそれ以降、1号と2号の姿を見た物はいない。

勢い余ってそんな話をしてしまった。

とりあえず、つかさの部屋で再び着替えて自分の部屋へと戻る。
扉を開けると、こなたは目をキラキラと輝かせながら興奮気味に話しかけてきた。

こなた「かがみ!すっごい情報を入手したよ!」
かがみ「わ、わかったから、少し落ち着け。何よ、すごい情報って?」
こなた「怪傑かがみんってさ、なんと3人もいたんだよ!」
かがみ「へ、へえー、本当に?」
こなた「本当だヨ!力の1号に技の2号、そのすべてを受け継いだ力と技のV3!彼女らは世界をまたにかけ、地球征服を企む巨大な悪と闘ってるんだって!」

こいつ、もう話に尾ひれをつけてやがる。
なんだよ力と技って。地球征服って。

こなた「――でね、ついに1号と2号はその身を犠牲にして、悪の首領もろとも炎の中へと消えていったんだってさ!いやー、燃える展開だよねー!」
かがみ「はいはい。どうせまた、何かのネタかなんかでしょ?まったく信じらんないわよ、そんな話」
こなた「えー、少しくらいは信じようよ。せっかく教えてあげたのに」
かがみ「はいはい。もうわかったから……それにしても、つかさ遅いわね。何やってんのかしら?」
こなた「言われてみれば、結構時間たってるよね。ちょっと見てこようか?」
かがみ「いいわよ。そのうち来るでしょ」



それから数十分後、心なしか元気のない顔をしたつかさが飲み物を持ってきた。
戻ってくるまでやけに時間がかかったし、台所で何か失敗でもしたのかしらね。
私は飲み物を口にしながら、再びこなたが『怪傑かがみん』の最新情報をつかさにまくしたてる姿を少し呆れて眺めていた。
508 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/10(月) 23:41:13.88 ID:MN9g5oUo
以上です

うん。本当にすまない。この話はもう1〜2回ほど続くと思うんだ
でも、できるだけ間はあけないようにしまふ
今日は時間が許す限り続きを書き続けてやるんだぜ

しっかし、こんなシリーズがあったこと覚えてる人いたら泣いちゃうよ、俺は
自分でも忘れかけてたもんw
509 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/10(月) 23:47:15.61 ID:MN9g5oUo
>>487
こういう話わりと好きだー
次回作も楽しみにしてますね

>>500
うーん、すごい
鬱話のはずなのに、不思議とライトな感覚で読めちゃうわ
続きもすげぇ気になる

短期間で連投できるのもすごいわー
よくモチベーションが維持できるなぁ
510 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/11(火) 00:50:24.15 ID:Kv4ngpAo
>>508
いやいや、覚えてましたし、待ってましたよ!
ポワトリンやセラムンのように、バレバレなのに誰も気づかないスーパーヒロイン、怪傑かがみん。
とっても楽しく・・・というか思いっきり笑わせていただきました。
GJ!
511 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 00:58:06.12 ID:hAubWjwo
>>510
さんくす。覚えてる人いて嬉しいぜ
泣かなければならないぢゃないかw


というわけで続きを投下だ!
512 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 01:00:06.44 ID:hAubWjwo
時は戻って、かがみがこなたの部屋で墓穴を掘る少し前。
つかさは台所におりて、3人分の飲み物を準備しはじめていた。

つかさ「えっと、喉にも優しい飲み物がいいよね……ミルクティーにでもしようかなぁ」

鍋に水を入れて火にかけ、ティーカップを食器棚から取り出す。
冷蔵庫から牛乳を出し、いつも使っている茶葉の入った缶と共に手元に置く。
あとはお湯が沸くまですることがないので、椅子に座って待つ。

つかさ「あ、そうだ。せっかくだから、ゆきちゃんからもらった葉っぱにしてみようかな」

つかさは椅子から立ち上がり、戸棚の引き出しを順番に開けていく。
もらった紅茶の缶をどこに置いてしまったのか覚えていなかったからだ。
一通り探してみるが、目的の物は出てこない。

つかさ「あれ?おかしいなぁ、この辺りにしまったと思ってたんだけど……?」



〜さらば!怪傑かがみん! 其の弐〜



おかしいなあ。こっちの引き出しにいれてたと思ったんだけどな。
えっと、もらったのがだいたい1ヶ月前で、その日の内に味見してみたんだよね。
でもその後、確かここにしまったハズなんだけどな。

あ、そうだ。そういえば、次の日にかがみお姉ちゃんにもご馳走してあげたんだったっけ。
それでその時、どんなのをもらったのか見せてほしいって言われて……
ああっ、思い出した!お姉ちゃんに見せるために、私の部屋に持って行ったんだ!

鍋の火を少し弱めてから自分の部屋へとむかう。
階段を登っている途中、2階の部屋の扉が何度か開け閉めされる音が聞こえてきた。
お姉ちゃんは寝てるはずだし、こなちゃんが何かしてるのかなぁ?何してるんだろ?
あっ、今はそんなことよりもいそいで飲み物の用意をしなきゃ。

自分の部屋の前まで来たとき、今度はお姉ちゃんの部屋の方からこなちゃんの声が聞こえてきた。
風邪のお薬か何かの話かな?『ぶいすりん』とか何とか叫んでたみたいだけど。
そんな事を考えながら私は自分の部屋のドアを開け、そして中を見て、とてもびっくりした。
なぜって、そこにはさっきまでお姉ちゃんが着ていたパジャマが脱ぎ捨てられていたからだ。

つかさ「え、ええ〜?これって、どういうこと?」
513 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 01:01:19.59 ID:hAubWjwo
このパジャマは紛れも無くお姉ちゃんのものだ。
でも、お姉ちゃんは隣の部屋でこなちゃんと一緒に会話しているはずなのになんで……?
よくわからない事態に直面して、私の頭は混乱しかける。

あっ、そうか。別に何も変じゃないや。普通に汗をかいちゃったから着替えたんだよね。
こなちゃんが来てるんだから、別の部屋、つまりは私の部屋で着替えるのは当然のことだよね。
なぁんだ、そういうことか。びっくりして損しちゃった。
すべての謎がとけて、私はほっとする。で、思い出した。

つかさ「あっ。私、お鍋を火にかけたままだ!」

ゆっくりしている暇はないので、急いで台所へと戻る。
階段を降りている途中、自分がゆきちゃんからもらった紅茶の缶を持っていない事に気がついた。
はうー。それを取るために自分の部屋まで行ったのに……
くるりと回れ右をして、再び自分の部屋へと足を向ける。

階段を登っている途中、また2階の部屋の扉が開け閉めされる音が聞こえた。
私が戻るのがあんまり遅いから、こなちゃんが様子を見に出てきたのかな?
しかし予想に反して、階段を登りきった瞬間、私に見えたのはこなちゃんの姿ではなかった。
私に見えたのは、白いマントをまとった人物が私の部屋に入っていく、その後姿だった。

つかさ(あれは確か……怪傑かがみんさんだっけ。でも、どうして私の部屋に?)

私に何か用事でもあるのかなぁ、今は別に困ってないんだけどなぁ。
う〜、どうしよう。自分の部屋なのにとっても入りづらいよ〜。
でも、もし本当にあの人が私に用事があるんだったら入ってあげなきゃ、いつまでも待たせちゃうことになるなぁ……
あっ、とりあえず鍋の火を一度止めてきた方がいいよね。

登った階段をまた引き返す。
その時、また扉の音が聞こえたので振り向いて首を伸ばすと、お姉ちゃんが私の部屋から出て来るところが見えた。
さっき私の部屋にあったパジャマを着たお姉ちゃんが。

つかさ(え?あれ?……怪傑かがみんさんが入って、お姉ちゃんがでてきた?……どういうこと?もしかして、お姉ちゃんが……?)

お姉ちゃんが自分の部屋に戻るのを確認してから、私はまたまた階段を引き返して部屋へと戻る。
案の定、さっきまで部屋にあったパジャマは無くなっていた。

つかさ(もし本当に、お姉ちゃんがそうなんだとしたら……)





数分後、私はベッドの下に押し込まれている白いマントと仮面を見つけてしまったのだった。
514 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 01:03:29.89 ID:hAubWjwo
以上です

次こそ本当に最終話!……のはず!その予定!
近日公開!
まあ、今日はもう書かないけどね!寝るけどね!
515 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/11(火) 01:29:11.49 ID:bTihszoo
>514
おお、ついこの前まとめwikiで見たばかりですよ。
こういう話は大好きです。
最終回を楽しみにしてます!
516 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/11(火) 03:08:14.40 ID:z5q7WwSO
怪傑かがみん来た!これで勝つる!
517 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 12:20:24.12 ID:5cQ6ecSO
−ミスキャスト−

こなた「エクシア、目標を駆逐する!…なんてね」
みゆき「デュナメス、目標を狙い撃ちます」
こなた「…って、みゆきさん?」
みゆき「はい、なんでしょう?」
こなた「いや、立ち位置からして、ロックオン役はかがみかなーって思ったんだけど…」
みゆき「かがみさんなら、あちらのカスタムフラッグにいてますよ」
こなた「ちょ、フラッグて…」

かがみ「抱きしめたいものだな!こなたぁぁぁぁぁぁっ!!」
こなた「きゃぁぁぁっ!こっちきたぁぁぁぁっ!」


人呼んでかがみんスペシャル
518 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/11(火) 12:46:04.32 ID:Shk4RwAO
みゆき「静岡県浜松市の12〜13代目市長の名前は『岩崎豊』と言うんですよ」

ゆたか「そうなんですか〜!」
みなみ「……///」



いや、深い意味はない
519 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 23:05:58.89 ID:hAubWjwo
>>518
かがみ「…泉…かがみ…泉…かがみ…」ブツブツ

こなた「ねえ、みゆきさん。さっきからかがみは全国の電話帳を見ながら何をしてるのかな?」
みゆき「知らない方が幸せな事もありますよ、泉さん?」

かがみ「…柊…こなた…柊…こなた…」ブツブツ




怪傑かがみん最終話、投下します
520 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 23:06:54.69 ID:hAubWjwo
こなた「おはよー、つかさにみゆきさん。今日もかがみは休みなんだネ」
みゆき「おはようございます、泉さん。どうやら、そのようですね」
つかさ「……おはよう」
こなた「あれー?なんか元気ないね。どったの、つかさ?」
みゆき「どこか体の調子でも悪いのですか?」
こなた「もしかして、かがみに風邪をうつされちゃったとか?それなんてエンドレス――」
つかさ「ううん!私は大丈夫だよっ!……大丈夫なんだよ、私は……」
みゆき「私は、ですか。ということは、かがみさんの身に何かあったのですか?」
こなた「深読みし過ぎだよ、みゆきさん。かがみなら昨日も平気そうだったし――」
つかさ「平気じゃないよ、こなちゃん!全然、平気なんかじゃ……うわあぁぁん!」



〜さらば!怪傑かがみん! 其の参〜



いやあ、びっくりしたのなんのって。
朝の教室でつかさがいきなり泣き出すとは思わなかったよ。
みゆきさんがなだめてくれたから、なんとかなったけどね。

それにしても気になるのは、昼休みの時間につかさが言ったこと。
放課後に2人に相談がある。事はかがみの命に関わる。
もう、気になって気になって、午後の授業に集中なんてできないよ。
みゆきさんも落ち着かないのか、筆記用具を何度も床に落としるし。
いったい、かがみの身に何が……まさか、容態が急変?
いやいやいや、まさか!かがみに限ってそんなことは!

頭の中で、かがみが主人公を演じる様々な悲劇が上演される。
不治の病。予期せぬ事故。なんらかの事件。
それらを想像しながら悶えていると、いつの間にか終業の時間を迎えていた。

私は鞄をひったくるように掴みあげ、つかさの席にとんでいく。
私にワンテンポ遅れて、みゆきさんもやってくる。
それを追いかけてきた来た副委員長に、今日は欠席しますっ、と振り返りざまに凄い迫力で答えるみゆきさん。
そして、つかさの腕を掴んで教室から出て行った。

ちょ。私を置いていかないでよ。
真っ白に燃え尽きた様子の副委員長を後に残し、慌てて2人を追いかける。
おっと、つかさの鞄も忘れずに持っていってあげなきゃね。
521 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 23:07:57.74 ID:hAubWjwo

こなた「みゆきさん、少しは落ち着いた?」
みゆき「はい。すみません、取り乱してしまいまして。お恥ずかしい限りです」
こなた「いやいや、今回ばかりはしょうがないと思うよ?私も同じ気持ちだし」
みゆき「そう言っていただけると、少しは救われます」
こなた「まあ、副委員長はカワイソウだったけどネ〜」
みゆき「そ、そうですよね。彼には明日きちんと謝っておきます」

いつもの喫茶店で一息。
飲み物を口にして落ち着いたのか、みゆきさんも険しい表情からいつもの表情へと戻った。

こなた「で、昼休みにつかさが言ってた相談のことなんだけど」
みゆき「何でも、かがみさんの命に関わる、とのことでしたが」
こなた「うん。そろそろ詳しく聞きたいんだけど……お願いできるかな、つかさ?」
つかさ「……」
みゆき「つかささん、お願いします」

教室を出てからずーっと無言で俯いていたつかさが、私達に促されて顔をあげる。
そして、店内の様子を用心深くキョロキョロと伺ってから、小声で話しだした。

つかさ「あのね、これから私がする話は、絶対に誰にも話さないって約束してほしいんだ」
こなた「誰にも?ゆーちゃん達にも?」
つかさ「うん。それが約束できないなら、今からこなちゃん達に話をすることはできないよ」

少しこわい顔をして、つかさは私達を真っ直ぐに見つめた。
私は横に座っているみゆきさんと顔を見合わせて、頷く。

みゆき「わかりました。絶対に話しません。約束します」
つかさ「ありがとう、ゆきちゃん。こなちゃんも、それでいいんだね?」
こなた「もちろん。喜んで約束させてもらうヨ」
つかさ「うん。それじゃあ、話すね……お姉ちゃんのことなんだけどさ」

そこでつかさは一呼吸置いて、それから自分でもその言葉を確かめるかのようにゆっくりと言った。
522 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 23:09:48.20 ID:hAubWjwo
つかさ「実は、お姉ちゃんは『怪傑かがみん』なんだよ」
こなた「っ!?」
みゆき「そ、そんな、まさか!?」

つかさの口から飛び出してきたのは、にわかには信じがたい驚愕の事実。
かがみが、あの『怪傑かがみん』?
どう考えても、それはありえない。
横目でちらりと確認した表情から察するに、みゆきさんも私と同意見のようだ。

みゆき「ありえません!今まで私達の前に現れていた怪傑かがみんの正体が、かがみさんだなんて!絶対にありえません!」
つかさ「ゆきちゃん、声が大きいよ。少し落ち着いて」
こなた「みゆきさんの反応は当然だよ、つかさ。だって、本当にかがみがそうだとしたら、どこかの時点で私達は正体に気がついてたと思うよ?」
つかさ「うん。私もそれはそう思う」
こなた「へ?」
つかさ「今まで目にしてきた怪傑かがみんの正体が、お姉ちゃんだったんだとしたら、私もとっくに気がついてたと思う」
みゆき「あの、つかささん、いったい何をおっしゃっているのですか?先程、かがみさんが怪傑かがみんだと言われましたよね?」
こなた「そうだよ、つかさ。なんか、言ってる事がむちゃくちゃだよ?」

つかさ「そうかな?……ねえ、こなちゃん。昨日のこと覚えてる?」
こなた「昨日のこと?」
つかさ「うん。怪傑かがみんが現れたって私に話してくれたよね?あの話、ゆきちゃんにもしてほしいんだけど」
こなた「ああ、あれ?別にいいけど、何もこんな時じゃなくたって――」
つかさ「今じゃなきゃダメなんだよ。とっても大事なことだから、お願い」
こなた「わ、わかったよ」



こなた「――でね、ついに1号と2号はその身を犠牲にして、悪の首領もろとも炎の中へと消えていったんだってさ」

これでこの話をするのも3度目だ。最初はかがみ、次につかさ、そして今。
さすがに少々飽きてきたし、今はこんな話をしたい気分じゃないから多少投げやりに話したけど、みゆきさんは何やら真剣な顔で私の話を聞いていた。
そして、最後の結末まで聞き終わったとき、みゆきさんの顔色は何故か真っ青になっていた。

みゆき「これは……なんという……つかささん、あなたが言いたいのはそういうことだったのですね」
つかさ「わかってくれたみたいだね、ゆきちゃん」
こなた「え?何が?何かわかったの、みゆきさん?」
みゆき「しかし、まだ肝心な部分がそうと決まったわけではないと思うのですが」
つかさ「それに関しては、こなちゃんと私で証明できると思うんだ」
523 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 23:11:08.53 ID:hAubWjwo
こなた「ちょ、ちょっと2人とも!私を抜きにして話を進めないでよ!……ねえ、みゆきさん。今の話で何がわかったっていうの?」
つかさ「こなちゃん。ゆきちゃんから説明を受ける前にさ、こなちゃんにちょっと聞きたいことがあるんだ」
こなた「え。でも……」
みゆき「泉さん。すみませんが、先につかささんの質問に答えてあげていただけますか?」
こなた「う。わかったよ、みゆきさんがそう言うんなら」

置いてけぼり感がハンパじゃないけど、とりあえずみゆきさんの言う事に従う。
さっさと答えて、みゆきさんにつかさの考えている事を説明してもらわなきゃ。

つかさ「ねえ、こなちゃん。昨日の怪傑かがみんに何か違和感を感じなかった?」
こなた「違和感?」
つかさ「うん。今までこなちゃんが見てきた怪傑かがみんと比べてどうだった?」
こなた「えーっと、どうだったかな」
つかさ「大事なことだから、しっかり思い出して答えてね」
こなた「うー……確か髪型や服装がいつもと違ったけど、それはだって、昨日の怪傑かがみんは私も初めて会った『V3』だから仕方が……っ!?」

わかった。つかさが言っていたのは、そういうことだったのか。
私達が今まで目にしてきた怪傑かがみん、それはおそらく1号か2号のどちらかだと思うが、その正体は何処の誰だかわからない。
しかし、昨日私が目にしたのは怪傑かがみんV3。
今まで私達が目にしてきた怪傑かがみんとは別モノの新たな存在だ。
つかさは、このV3の正体がかがみではないかと言いたいのだろう。
だとしたら、つかさの発言にブレは無いと言える。

つかさ「思ったとおりだよ。昨日こなちゃんが会ったのは、私達がこれまで見たことのある怪傑かがみんとは違うものだったんだね」
こなた「でも、でも!そのV3の正体がかがみだっていう証拠はまだ何も――!」
つかさ「髪型はストレート。服装は青のオーバーオール」
こなた「っ!?……な、なんで?なんで、つかさがそれを知ってるの?私はまだ誰にもそこまで話してないのに」
つかさ「そっか。やっぱり、昨日の怪傑かがみんはその格好だったんだ」
こなた「え?何?つかさは知らなかった……の?どういうこと?」
524 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 23:12:44.29 ID:hAubWjwo
つかさ「あの日、こなちゃんの部屋から話声が聞こえてきたとき、私の部屋にお姉ちゃんのパジャマがあったの」
みゆき「それは、かがみさんが当日着ていたもの、ですね?」
つかさ「うん。その後すぐ部屋を出て、またしばらくして戻ったんだけど……そしたら今度はパジャマが無くなってて、代わりに仮面とマントが残されてたんだ」
みゆき「それが怪傑かがみんのものだった、と?」
つかさ「うん。間違いなくそうだったと思う。それからさ、その日の夜なんだけど、私が着た覚えのない服が洗濯にだされてたの。青のオーバーオールと――」
こなた「薄ピンク色のシャツ」

私の言葉に、つかさは黙って頷いた。
しばしの沈黙。
みんなそれぞれにいろいろと想うところがあるのだろう。

いや、そうじゃないか。

つかさ「……ねえ、こなちゃん、ゆきちゃん。ここからが本題なんだけどさ」
みゆき「わかっていますよ、つかささん。私達もつかささんと同じ意見です」
こなた「そうと決まったら行動あるのみだね。善は急げ、だっけか、みゆきさん?」
みゆき「はい。そのとおりです。それでは、参りましょうか、つかささん」

みんなの想うところは、ただひとつのはずだ。
スーパーヒロインのコスプレ趣味が高じてブラックな職場に飛び込んでしまった親友を助けること。
それこそが、今、私達のやるべきことなのだ。


525 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 23:15:26.32 ID:hAubWjwo
み き「かがみ、体の調子はどう?」
かがみ「どこも痛くないし、熱も平熱だし、体のダルさもないし、もう完全に良くなったわ」
み き「よかった。それじゃあ、明日からはいつもどおりでいいわね。おやすみなさい」

かがみ「うん。おやす――ねえ、お母さん。お母さんの時は、どんなバカがどんな勘違いをしたの?」
み き「どういうこと?」
かがみ「夕方にさ、つかさと一緒にこなたとみゆきが来てたでしょ?」
み き「ええ。あの子達もマメよね、毎日お見舞いに来るなんて。いいお友達を持ったのね」
かがみ「いいお友達か……それは否定しないけどさ、実はお見舞いじゃなかったのよ、アレ」
み き「あら?そうなの?」

かがみ「そうなのよ、あいつらさ、部屋に飛び込んでくるなり、『怪傑かがみんの跡を継ぐのは命が危険だからダメ』って騒ぎ始めたのよ」
み き「あら、それじゃあ正体がバレちゃったの?でも、命が危険って?」
かがみ「それがさ、全部そのままバレた訳じゃなくってね……まあ、詳しい話はまた今度ゆっくりさせてもらうわ」
み き「そう。それじゃあ、楽しみにしとくわね」
かがみ「それで、その代わりと言っちゃなんだけどさ、お母さんの時のことも教えて欲しいんだけど……ダメ?」
み き「そうねぇ……ダメじゃあないけど……」

み き「ねえ、かがみ。かがみはもう、あの仮面とマントから卒業?」
かがみ「うーん、基本的にはそのつもりかな。もしかしたら、何かの拍子に使うこともあるかもだけど」
み き「そうね。きっと使うわよ。お母さんは、かがみが本当に卒業できるのはまだ先になると思うわ」
かがみ「えっ?なんで?」
み き「なんでだと思う?」
かがみ「わかるわけないじゃない、そんなの。ヒントとかはないの?」
み き「じゃあ、ヒント。お母さんが『怪傑』を本当に卒業したのは、呆れるくらいバカな人が素敵な勘違いをした時だったわ。その人の名前はね――」





かがみ「結局、おのろけかよ……お願いしてまで聞くようなモノじゃなかったわね」

みきが去った後、かがみはそう呟いて寝返りをうつと、そのまま1日を終えることにした。
呆れるくらいバカだけど、素敵な勘違いのできる3人のことを想いながら。
526 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/11(火) 23:16:57.97 ID:hAubWjwo
以上です。これでとりあえず完結ですわ
勢いだけで書いたが、もう少し練ればよかった気もする
クライマックスも何もないまま、普通に終わっちゃったw
まあ、派手な特殊能力とか敵とか無いからこんなもんだよね


そう言えば、つかさだけ「怪傑」の格好しなかったなー、ってことでおまけ


み き「つかさ、洗濯物をとり入れてくれるかしら?」
つかさ「はーい」

つかさ「う〜ん。布団はこれくらい叩けばいいかな〜?」パムパム

つかさ「あ。あっちに怪傑かがみんのマントが干してある……」ジー

つかさ「ちょ、ちょっとくらいなら、いいよね!お姉ちゃんも私の服を勝手に使ったんだし!」ドキドキ

つかさ「え〜っと、ここをこうして……こう、かな?」モゾモゾ

つかさ「できた。え〜と、か、怪傑ひーちゃん参上!」バサッ

つかさ「でたな〜!悪のやっさいもっさい団!この技でとどめだよっ!」ブンブン

つかさ「布団叩きすてぃっく、ばるさみっく☆ちゃーじ!くらえっ、必殺のばるs――ッ!?」ピタッ

かがみ「……」

つかさ「え、え〜っと……」アセアセ

かがみ「……」

つかさ「これは、その……」アセアセ

かがみ「う、うわー。やーらーれーたー(棒)」クルクル、パタリ

つかさ「話をあわせられたっ!?ち、違うからっ!そんなんじゃないからっ!」

かがみ「さすが怪傑ひーちゃんだー。にげろー(棒)」スタコラ

つかさ「あっ、待って!お姉ちゃん、こっちを向いて!話を聞いてぇーっ!!」
527 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:09:28.56 ID:mTOQKDg0
投下行きます。

ベタなネタに挑戦してみました。
528 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:12:23.49 ID:mTOQKDg0
 自動ドアが開ききるのを待たずに、かがみは身体を滑り込ませ病院内へと入った。受付に用件を言い病室の番号を聞き出す。そして、怒られるのを覚悟で走り出した。
「こなた…無事でいてよ…」
 こなたが交通事故にあった。かがみがそれを知ったのは、ほんの三十分ほど前だった。
 こなたの病室の前に来ると、かがみはノックもせずにドアを開けて中に入った。
「こなたっ!」
 かがみの声に、部屋の中にいる人間が一斉に振り向く。ベッドに座っているこなた。傍に立っている父のそうじろう。そして、部屋の隅の方には、従姉妹であるゆいとゆたかもいた。
 頭に包帯を巻いたこなたが、じっとかがみの方を見つめている。思ったより元気そうなその姿に、かがみは安堵のため息をついた。
「良かった…あんまり大きな怪我じゃなかったのね…」
 目尻に少し溜まった涙を拭いながら、かがみはこなたに近づいた。こなたは何も言わず、かがみをじっと見ている。
「…こなた、どうかしたの?わたしの顔に何かついてる?」
 こなたの様子がおかしいのに気がついたかがみがそう訊いた。
「えっと…」
 何か言いにくそうにしながら、こなたが俯く。そして、すぐに顔を上げてかがみに言った。
「あなたは誰ですか?」
「…なんですと」


- わすれもの -


529 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:13:31.13 ID:mTOQKDg0
「記憶喪失…ですか…」
 そうじろうから、こなたが記憶を無くしているという事を聞いたかがみは、長い溜息をついた。
「漫画みたいね…」
 ちなみに、こなたがあった事故というのは、後ろからすぐ側を通り過ぎたトラックに驚いて足を滑らせ、地面で頭を打ったというなんとも間抜けなものだった。
「どの程度忘れてるんですか?」
 かがみがそう訊くと、そうじろうは難しい顔をして顎を撫でた。
「自分も含めて、人物関係がすっぽりと無くなってるみたいなんだ。あと、細かいことも色々忘れてるみたいでね…とりあえず、日常生活には支障はないみたいだ」
「部分的な記憶喪失ですか…やっかいですね…」
 呟きながらかがみはこなたの方を見た。自分の事で二人が頭を悩ませているのが分かっているのか、かがみとそうじろうを交互に見ながら、申し訳なさそうな顔をしていた。
「す、すいません…なんだかわたしが不甲斐ないみたいで…」
 そして、そう言いながらかがみ達に対して頭を下げる。そんなこなたを見ながら、かがみとそうじろうは実に複雑な表情をしていた。
「いやまあ…あんたがどうこうは置いといてさ、敬語はやめない?なんか調子狂うのよね…」
「え、でもかがみさんは年上の方ですから、敬語なのは普通では…」
「…いや、わたしとあんたは同級生だ」
 こなたは何度か瞬きをすると、ベッドから降りてかがみの前に立った。そしてかがみの顔を見上げ、視線を胸の辺りに移し、最後に自分の胸を見た。
「…わたしって…わたしって…」
 そして、しゃがみ込んで地面にのの字を書き始めた。
「いや、いまさら落ち込まれても…」
「落ち込みますよー…記憶をなくす前のわたしは平気だったんですか?」
「平気どころか誇ってたぞ。『貧乳はステータスだ!希少価値だ!』とか言って」
「…誇ってた…そ、そうですよね!どんな姿形でも、わたしはわたしですもの!恥じることなんてないですよね!」
「…まあ、そのポジティブっぷりはこなたらしいっちゃらしいわね…」
「ありがとうございます、かがみさん!わたしなんだか自信が持てました!」
「いや…わたしは特に何も…ってか抱きつくな!顔近いって!」
 普段なら頭をどつくなりして引っぺがすところだが、一応怪我人だと言う事で無理は出来ず、かがみは抱きつかれるままにしていた。
「あー…ところでおじさん。こなたの怪我自体はたいしたこと無さそうなんですけど、退院はいつくらいです?」
「今日だよ。この後の検査で特に何もなかったら、退院できるそうだ」
「…えらく急ですね…まあ、それだけたいしたこと無いってことか。良かったわね」
 言いながら、かがみがこなたの頭を軽く撫でると、こなたは嬉しそうな顔で頷いた。
「はい。それでですね、退院したらかがみさんの家において貰えませんか?」
「なんでやねん」
 こなたの言葉に、思わず関西弁で突っ込んでしまうかがみ。
「ちゃんと自分の家に帰りなさいよ。そっちの方が、記憶が戻りやすいだろうし」
 そうじろうの方を指差しながらかがみがそう言うと、こなたはかなり嫌そうな顔をした。
「…なんかね…俺、警戒されてるみたいなんだ…」
 シクシクと泣きながらそう言うそうじろうを、かがみはなんとも言えない表情で見ていた。


530 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:14:41.98 ID:mTOQKDg0
「…ってまあ、そんな感じだったんだけど、なんとか納得させて家に帰らせたわ。とりあえず、今日から登校するようなこと言ってたわね」
 登校時にいつも使っている待ち合わせ場所。かがみはそこで、自分の前にいるつかさとみゆきに、こなたの様子を話していた。
「でも、怪我がたいしたことなくて、良かったよー」
「そうですね。記憶が無いという事は大変でしょうけど、じっくり時間をかければ何とかなると思いますから…というか、つかささん、今まで泉さんの様子をかがみさんから聞いていなかったんですか?」
「…聞きたくないって、泣きながら拒絶されたわ」
「あ、あはは…」
 照れ笑いで頭をかくつかさ。そのつかさが、何かに気がつきその方向を指差した。
「あれ、こなちゃんかな?」
 かがみとみゆきがそちらを見ると、不安げなこなたが向かってきているのが見えた。
「こなた、こっちよ」
 かがみが声をかけると、こなたの表情が一気に明るくなり、かがみ達に向かって走り出した。
「かがみさーん!!」
「うわ、大声で名前呼ぶな…」
 そして、走ってきた勢いそのままに、こなたはかがみに抱きついた。
「良かったです、ちゃんと来られて!通学路はなんとなく覚えているみたいです!」
「そ、そう…おめでとう」
 下からかがみを見上げながら、心底嬉しそうに報告するこなたに、かがみは苦笑いで答えた。ふとかがみは、つかさとみゆきが少し離れた位置に下がっているのに気がついた。
「いや、出来ればそこで引かないで欲しいんだけど…」
「お姉ちゃんとこなちゃん。何時の間にそんな関係に…?」
「つかさ。どんな関係を想像してるか知らないけど、たぶん誤解よ…見舞いにいってから、なんか懐かれちゃったのよ」
「えーっと…微笑ましいですね」
「みゆき。精一杯のフォロー、ありがとう…ってか、いい加減離れなさいって」
 かがみはこなたの肩を掴んで、自分から引っぺがした。こなたは、そこでようやくかがみ以外の二人に気がついた。
「あの…こちらの人たちは?」
「えーっと、こっちは柊つかさ。わたしの双子の妹よ。んで、こっちが高良みゆき。わたし達の共通の友達よ」
 不安そうに聞くこなたに、かがみが答える。こなたはつかさとみゆきの二人を見比べ、みゆきに方に近寄った。
「今度こそ、年上の方ですよね?」
「…いえ、泉さんのクラスメイトです…」
 こなたはその答えに目を見開くと、みゆきの胸の辺りをじっと見つめた。
「…あ、あの…泉さん…?」
 さすがに恥ずかしくなってきたのか、みゆきは困った風に両手で胸を隠した。
「凄いですね!」
「な、なにがですかー…」
 なぜか興奮気味なこなたに、みゆきは顔を真っ赤にして泣きそうになっていた。
「やめんか」
 かがみは、思わずこなたの後頭部を叩いて突っ込んでいた。
「まったく…記憶を無くしても、視点はエロオヤジのままだな…」
「こなちゃんらしいね…あ、お姉ちゃん、時間」
「っと、あとは学校向かいながら話そうか。遅刻しちゃうわ…ほら、行くわよ」
 かがみは、しつこくみゆきの胸を見ようとしているこなたに声をかけて、バス停に向かって歩き出した。



531 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:16:55.14 ID:mTOQKDg0
「そ、それでですね…自分の部屋に入ったのはいいんですが…」
 学校へと向かう バスの中、こなたは退院した後のことを三人に話していた。
「その…すごい部屋でした。女の子の人形とか、女の子のポスターとか、女の子が一杯描かれた漫画本だとか、その…女の子がすごい格好してる…ゲームの箱だとか…」
「まあ、確かにあの部屋は予備知識無しだと、強烈なインパクトがあるわよね…」
 かがみは、自分が初めてこなたの部屋に入った時のことを思い出しながら答えた。
「でも、一番驚いたのは、そんな部屋なのにわたしは何故か安心してる、と言う事でした…あの、かがみさん」
「ん、なに?」
「記憶を失う前のわたしは、その…ど、同性愛者だったのでしょうか?」
「いやいやいや、違う違う」
「で、でも、部屋があんなだし、あんなゲームをやってたみたいだし、それに…かがみさんのことを考えると、わたし…」
「…そーきたかー…」
 顔を背けて頬を赤らめるこなたを見ながら、かがみは目の前が真っ暗になるのを感じていた。
「つかさー、みゆきー、あんた達からも何とか言って…」
 かがみがさっきから喋らない二人に助けを求めようとそちらの方を見ると、一緒に最後部の座席に座っていたはずの二人がいなくなっていた。
「あ、あれ?ちょっと、二人ともどこ行ったのよ…ってなんでそんなところに」
 かがみがバスの中を見渡すと、二人は最前列の席に移動していた。
「な、なんかお邪魔になりそうだから…」
「あ、後はお二人でごゆっくり…」
 振り返って苦笑いで答える二人と、わなわなと震えているかがみを交互に見ていたこなたは、少し考えた後、目を輝かせてかがみに抱きついた。
「もしかして、わたし達は周りの皆さんの公認の仲なんですか!?」
「ちっがーうっ!!」
 バスの中だと言う事も忘れて、かがみは大声で否定した。
「あんた達がそんなことするから、誤解が加速してるじゃないの!」
 そして、つかさ達を指差しながら、火を吹かんばかりの勢いで文句を言う。
「ご、誤解ですか?」
 かがみに抱きついたままのこなたが、困ったようにそう言った。
「そうよ!誤解よ!仕入れた情報を誤って解釈してるの!」
 かがみは必死で訴えかけるが、こなたは納得がいかないかのように眉を顰めるだけだった。
「えー…でもー…」
「な・ん・で・こういうのは素直に聞いてくれないのよ」
「あー…君たち、早く降りないと遅刻するよ?」
「へ?」
 バスの運転手にそう声をかけられて、かがみは慌てて周りを見渡した。バスはとっくに学校に着いていたらしく、乗っていた生徒は全員降りていて、バスの中はかがみとこなたを除いて誰もいなかった。もちろん、つかさとみゆきもとっくに下車していた。


532 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:18:05.14 ID:mTOQKDg0
「ちょっと、あんた達!置いていかないでよ!」
 へばりついたままのこなたを引き摺りながらバスを降りたかがみは、先に降りていたつかさとみゆきを見つけて文句を言った。
「お邪魔っていうか…」
「犬も食べないといいますか…」
「それはもういいっちゅうの…本気で誤解が解けなくなるでしょうが…」
 今にも二人に殴りかかりでもしそうなかがみを、へばりついているこなたが押さえる。
「だ、ダメですかがみさん。わたしのために争いごとなんて…」
「…あんたもあんたで、妙なキャラ開花させてるんじゃないわよ…」
 怒りの頂点を通り越して脱力してしまったかがみは、とても長い溜息をついた。
「で、これからどうするの?とりあえず、職員室?」
「あ、いえ。昨日担任の方から電話がありまして、直接自分の教室に行って欲しいって…」
「そっか、だったら後はつかさとみゆきに任せるわ。分からないことがあったら、ちゃんと二人に聞くのよ?」
「え…かがみさんは?」
「わたしはクラス違うのよ」
 かがみの言葉に、こなたがこの世の終わりのような顔をした。
「そ、そんな…あんまりです…」
「そこまでショック受けんでも…」
「受けますよー…かがみさんとなら、この先どんな困難も越えられると思ってたんですからー…」
「いや、まあ…」
 かがみは思わず天を仰いでしまった。空の上にいるかもしれない神様とかそんなものに、文句の一つも言ってやろうとしたが、限りなく意味のない行為だと思い直し、かがみは顔を地上にある現実に戻した。
「つかさ、みゆき、もういいからこなた連行してって」
「了解しました」
「はーい。それじゃ、こなちゃんいくよー」
 つかさとみゆきがこなたの腕を左右から掴み、そのままズルズルと引き摺って歩き始めた。
「え?え?ちょ、ちょっと…うわーん!かがみさんカムバーック!!」
 引き摺られながらもかがみの名を叫ぶこなたに、かがみは溜息をついた。そして、周りの生徒のヒソヒソ声に頭を抱えたくなったが、何とかこらえて自分の教室へと向かった。



533 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:19:09.81 ID:mTOQKDg0
「ういっす。こなたの調子はどう?」
 昼休み。かがみは弁当を持ってこなた達の教室へとやってきた。その声を聞きつけたこなたが、目を輝かせながらかがみに向かって手を振る。
「ああ、かがみ様!今日はもう会えないかと思ってました!」
 かがみは天井を見上げ、気持ちを落ち着かせるように何度か深呼吸をした。そして、つかさとみゆきの方に向き直る。
「…なんで様付けになってるのよ…」
「え、えっとね。こなちゃんがお姉ちゃんの事詳しく知りたいって言うから、わたしとゆきちゃんで教えてあげたの…」
「それで、泉さんの中でかがみさんが神聖化されてしまったようでして…」
「あんたら…一体どういうこと教えた…」
 頭を抱えながらうめくかがみに、つかさとみゆきが首を振ってみせる。
「へ、変なこと教えてないよ。ねえゆきちゃん」
「は、はい。かがみさんが、いかに素晴らしい方かをお教えしただけでして…」
「それがあかんっちゅーねん!」
 思わず関西弁で突っ込んでしまうかがみ。結構な大声だったせいか、教室の中が静まり返る。かがみは冷静に咳払いを一つすると、いつものように近くの席から椅子を拝借してきて、こなたの前に座った。
「さ、お昼にしましょう」
「す、すいませんかがみ様…わたしが不甲斐ないばかりに…」
「いや、いいから…うん、もうなんか色々とどうでもいいから」
 なぜか申し訳なさそうに謝ってくるこなたを手で制して、かがみはお弁当をひろげた。
「さ、食べましょうか」
 優しげな微笑みを浮かべながらそう言うかがみに、つかさとみゆきは言いようのない恐怖を覚えていた。
「お姉ちゃんがなんか突き抜けた…」
「怖いです…とても…」
 そんな中、こなたが何か言いたげに、かがみの顔をチラチラと見ていた。それに気が付いたかがみが、やはり不必要に優しげな微笑みをこなたに向ける。
「どうしたの、こなた?」
 慈愛に満ちたかがみの声に、つかさとみゆきが怯えたように首をすくめる。こなたは気にならないどころか、安心したようにかがみに質問をぶつけた。
「あの…かがみ様はどうしてこちらのクラスでお弁当を?」
「習慣だからよ。大体いつもこっちで食べてるわ」
 その答えを聞いたこなたの目に涙が溢れてきた。
「ちょ、どうしたの?なにかおかしなこと言った?」
「かがみ様はクラスにお友達がいらっしゃらないのですか!?」
「…いや、いるから…ってか前にもアンタにそんな事言われたわね」
 脱力しながらそう答えるかがみ。
「そ、そうですよね!よく考えたら、かがみ様ほどの方なら、お友達がいないほうがおかしいですよね!」
「…う…いや、言うほど親しいのは…それほど…」
 キラキラと、眩しいほどの輝きを持つ目でそう言ってくるこなたに、かがみは流石に照れくさくなり顔を赤くしてそっぽを向いた。
「すごい。突き抜けたお姉ちゃんが元に戻った」
「さすが、泉さんですね」
「あんたら、いちいちうっさい」

「そういえばさ、今日ドタバタしてたから、テストの順位発表見てないんだけど…食べ終わったらみんなで見に行かない?」
 そろそろ全員の食事が終わりそうだという頃に、つかさがみんなに向かってそう言った。
「そうね、そう言えばわたしも見てないわ…ってか忘れてたわ」
「余裕ですね!かがみ様!」
「あー…その目で見るのやめてー…」
 純粋を絵に描いたようなこなたの目を避けるように、かがみが身をよじる。
「では、泉さんの記憶回復のきっかけになるかもしれませんし、四人で見に行きましょうか」
 かがみとこなたの様子を少し笑いながら見ていたみゆきがそう言うと、他の三人は揃ってうなずいた。



534 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:20:08.01 ID:mTOQKDg0
 テストの順位が張り出されてりる掲示板の前。こなたがある一点を指差しながら無邪気な笑みをかがみに向けていた。
「かがみ様!ほら、かがみ様は上位ですよ上位!流石です!」
「…なんであんたは自分のより先にわたしのを見つけるんだ…ってかマジで恥ずいから大声で言うのやめてー…」
 かがみの名を見つけたこなたが大はしゃぎしている横で、かがみはだらだらと脂汗を流しながらこなたを必死で止めていた。
「ってか、わたしよりみゆきの方が順位上じゃない。その辺はどうなのよ」
「わ、わたしに振りますか…」
 こなたは再び掲示板を見て、みゆきの名を見つけて目を見開いた。そしてそのままみゆきの方へと顔を向ける。その真っ直ぐな目に、みゆきは思わずたじろいでしまった。
「凄いの、胸だけじゃなかったんですね!」
「胸から離れてください!ってか大きい声で言わないでください!」
「…いや、みゆきの声も大きいから」
 かがみの突っ込みに我に返ったみゆきは、周りの生徒が自分たちの方を見て小声で話しているのに気が付き、恥ずかしさに縮こまってしまった。
「そうだよ、こなちゃん。ゆきちゃん凄いの胸だけじゃないよ。お尻も大きいよー」
「つかささん…それ、もしかしてフォローのつもりですか…で、泉さんはどうして、わたしの後ろに回り込もうとするのですか…」
「え、いや…どれくらいのものかと…」
「いいから、自分の順位を見ときなさい」
 かがみは、みゆきの背後に回ろうとするこなたの襟首を掴んで、無理矢理掲示板の方に顔を向けさせた。こなたは少し不満げな顔をしていたが、素直に自分の順位を探し始めた。
「…わたしって…わたしって…」
 そして、かなりの下位に自分の名前を発見し、しゃがみ込んで地面にのの字を書きだした。
「今更落ち込まれても…ヤマ外したら大体いつもこんなもんじゃない」
「い、いつも…ってかヤマって…わたし、頭悪いんですか?」
「悪くは無いと思うんだけど、勉強自体が嫌いだからね…」
 半泣きになりながら、掲示板を眺めるこなたは、ふと自分の名前の隣につかさの名前を見つけ、本人の方を向き、ニコリと笑った。
「え…何こなちゃん?仲間を見つけたみたいな顔して…」
「見つけたんでしょ。あんたの名前、こなたの横にあったわよ」
「うそー!わたししそんなに悪かったのー!?」
 つかさはかがみの言葉に慌てて掲示板を見て、そのままズルズルと崩れ落ちた。
「ほんとだー…」
「ってか今まで見てなかったのかよ…」
「つかささんも頭悪いんですね!」
「こなちゃん、大声ではっきり言わないで…」
「…いや、まあつかさはその…」
「お姉ちゃん、言葉濁さないで…」
「つかささんは、足りない分を努力でカバーする人ですから」
「ゆきちゃん、フォローになってないよ…」
 落ち込むつかさの肩に手を置くかがみとみゆき、その周りをニコニコしながら回っているこなた。他の生徒は、その奇妙な四人を遠巻きに眺めていた。



535 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:21:49.55 ID:mTOQKDg0
 順位を見終わったこなた達は、教室に戻るために階段を上がっていた。未だに嬉しそうなこなたを先頭に、すぐ後ろをかがみとみゆきが並んで上がり、かなり離れた後ろをつかさが肩を落として上がっていた。
「ん…どうしたの、こなた?」
 階段を上がりきる直前。かがみはこなたが立ち止まり、頭を押さえているのに気が付いた。
「えっと…なんだか頭が…」
 こなたの身体がふらつき、階段を踏み外した。
「こなた!」
「泉さん!」
 かがみとみゆきは反応しきれず、こなたの身体は二人の間を抜け、階下へと落ちていく。
「え…?」
 後ろを歩いていたつかさは、かがみ達の声に顔を上げた。
「こなちゃん!?」
 そして、落ちてくるこなたを見て、咄嗟に両手を左右に広げた。こなたの身体はつかさに激突し、つかさを巻き込んで踊り場へと落ちた。
「つかさっ!こなたっ!」
「大丈夫ですか!?」
 階段を下りてきたかがみとみゆきが、二人の傍に駆け寄る。
「…あつつ…こ、こなちゃんは大丈夫?」
「なに、言ってるのよ!下敷きになったあんたの方がヤバイでしょ!?」
 かがみが痛みに顔をしかめるつかさを抱き上げている間、みゆきはこなたを助け起こしていた。
「泉さん、大丈夫ですか?」
 みゆきが声をかけると、こなたはうめきながら目を開いた。
「…あれ…みゆきさん…そっか、わたし階段踏み外して…あ、つかさは?わたしを受け止めようとしてたみたいだけど」
 みゆきがかがみ達の方を見ると、頭を振りながら自分の足で立ち上がるつかさが見えた。
「大丈夫みたいですよ。一応、保健室で見てもらった方がいいでしょうけど…」
「そっか…良かった」
 こなたは安堵の溜息をつくと、みゆきの腕から離れ立ち上がった。
「あああああああっ!!」
 そして、急に大声を出した。三人が驚きながらこなたの方を見る。
「な、なにこなた。今度はなんなの?」
「あ、いや…その…あの…」
 自分を見ている三人の顔を、青ざめた表情で眺めていたこなたは、踵を返して全速力で走り出した。
「ちょ、ちょっとこなた!?」
「ごめんなさーい!!」
 何故か謝りながら走り去るこなたを、三人は唖然と見送っていた。


「こなちゃん、あの後早退しちゃったんだって」
 放課後。かがみ達三人は、駅に向かい歩きながら今日のことを話していた。
「ホント、あいつどうしちゃったのかしらね…」
 かがみが心配そうに呟く。
「あの、確証はありませんが…」
 学校からずっと俯いて考え込んでいたみゆきが、顔をあげてかがみ達の方を見た。
「もしかして、階段から落ちたショックで、泉さんは記憶が戻ったのではないでしょうか?」
「え、マジで?」
「はい。階段から落ちた後、わたしが助け起こした時の事なんですが…今思えば、泉さんの口調が元に戻っていましたから」
「そっか…でも、なんでそれで逃げるのよ?」
「あの…これは本当にわたしの想像なんですが…泉さんは、記憶を失っていた間の行動を、覚えていたのではないでしょうか?」
 みゆきの言葉に、かがみとつかさが思わず顔を見合わせる。
「それは…」
「逃げたくもなるわね…」

536 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:22:46.02 ID:mTOQKDg0


 二日後。
「こなた、おはよっ」
 待ち合わせ場所に現れたこなたを、かがみ達三人が出迎えると、こなたは引き攣った笑顔を見せた。
「お、おはよ…みなさんおそろいで…」
 なにか警戒しているこなたの肩に、かがみが手を回す。
「で、記憶戻ったの?昨日は休んでたみたいだけど、大丈夫?」
「え、えっとおかげさまで無事戻りました…き、昨日は念のため病院で検査受けてて…」
「…二日前の事は覚えてるの?」
「…出来れば、忘れたい」
 こなたは項垂れると、特大の溜息をついた。
「ま、普段見れないこなたが見れて、ちょっと面白かったけどね。ねえ、みゆき」
「はい…少し恥ずかしい思いもしましたけど」
「その節はホントもーしわけありませんでした」
 二人に向かって芝居がかった謝罪をしたこなたは、少し後ろにいるつかさに気が付き、近くへと寄った。
「つかさ…その…怪我無かった?」
「うん、平気。うまく落ちれたみたいで、肘にちょっと痣ができたくらいだよ。こなちゃんの方は?」
「わ、わたしは全然大丈夫で…その…あ、ありがとう」
「…うん」
 照れながら礼を言うこなたに、つかさも少し照れながら微笑んで見せた。
「ほーい、そろそろ行くわよー」
 かがみが、こなたの後ろから首に手をまわし、そのまま引き摺って歩き出す。
「うわっ、ちょ、かがみ苦し…なにするんだよ!嫉妬?嫉妬なの!?」
「うるさい、遅刻するわよ」
 そして、つかさとみゆきが二人を追って歩き出した。
「そういや、おじさんの方はフォローしといたの?なんか落ち込んでたけど」
「あー、記憶なくしてた間、お父さんのことえらく毛嫌いしてたねー…あれ、なんでだろ?」
「わたしに聞かれても分からないけど…」
「とりあえず、そのために昨日は病院から戻った後、一日中家族サービスしてたよ」
「サービス?」
「…一日中、ベッタリすることを許可」
「…なんか、サービスの意味が違って見えるぞ」
 歩きながら、いつもの調子で会話するこなたとかがみ。
「ねえ、ゆきちゃん」
 それを見ていたつかさが、隣を歩くみゆきに声をかけた。
「なんでしょう?」
「やっぱり、こなちゃんはいつも通りがいいね」
「…そうですね」
 心底嬉しそうに二人を見つめるつかさに、みゆきもまた嬉しそうに微笑んだ。


- おしまい -
537 :わすれもの [saga]:2009/08/12(水) 01:23:37.38 ID:mTOQKDg0
以上です。
538 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/12(水) 19:08:27.70 ID:sSY0mms0
>>537
乙です。
記憶喪失ネタは鬱とかシリアスが多いんだけどね。
ほのぼのしててよかったと思います。
らきすたらしさが出てる。GJ
539 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/13(木) 00:35:10.51 ID:sIiXbYSO
>>537
これは新しい切り口だ
記憶喪失でも成り立ってる辺りがいいww
540 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/13(木) 10:44:02.59 ID:TZRf4Uo0
>>526
乙!つwwかwwさwwww
>>537
記憶喪失ネタで笑ってしまったのは初めてかも試練wwww
541 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/13(木) 22:26:09.46 ID:6oILXkg0


=================ここまでまとめた==================
542 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/13(木) 22:55:14.11 ID:jG/UgYSO
−まとめ人への感謝の気持ち−

こなた「今回はかなーり大量のまとめだったということで、激烈な感謝の気持ちをこめて、ゆーちゃんを張り付けにしてみました」
ゆたか「うわーんっ!」
かがみ「いや、これは色んな意味でやばいだろ…とりあえず、成美さんに捕まりそうなんだけど」
こなた「ああ、それは大丈夫。ゆいねーさんは買収済みだから。あと、ついでにみなみちゃんも」
ゆたか「うそーっ!?」
かがみ「抜かりないな…で、これでなにするの?」
こなた「…なにしよう?」
かがみ「考えてなかったのかよ!」
こなた「んー。とりあえず、お父さんに撮影させてみようか」
かがみ「相変わらず、感謝の気持ちとかまったく関係ないな…」
そうじろう「ゆーちゃん。大丈夫かい?」
ゆたか「うう…ありがとうございます、伯父さん…」
こなた「って、お父さん!?何解いちゃってるの!?」
そうじろう「いや、このままだと俺がゆきに殺されかねないから…」
こなた「保身のために娘を裏切るのはどうかと思うよ!」
かがみ「…感謝の気持ちのために、従姉妹を張り付けるのもどうかと思うが」
こなた「こうなったらかがみ。二人でお父さんからゆーちゃんを奪い返すよ」
かがみ「えー…なんか気が乗らないなー…」
そうじろう「かがみちゃん。こなたを捕まえるのに協力してくれたら、最新のこなた生写真をあげるよ」
かがみ「オーケーお養父さん。とりあえず、ふん縛りますね」
こなた「なにー!?本人より写真を選ぶの!?」
かがみ「いやー。最近こなた、なにもさせてくれないし…捕まえたら色々できるし」
こなた「…この泉こなたも老いておったかたか…かがみの無法の量を見誤るとは…」
543 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/13(木) 23:23:40.10 ID:hIkSkkSO
>>541
乙津
544 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/14(金) 22:18:35.32 ID:XKeOY/Y0
こなた「リレーやるよ! よーいスタート!」パァン! ダダダッ

こなた「かがみー、バトンタッチ!」パス
かがみ「はい。えーっとノートノート。どう書き始めようかしら……」カキカキ

かがみ「つかさ? はい、続けて」パス
つかさ「うん! えーっとバケツと蛇口……」キュッ ジャー

つかさ「はい! ゆきちゃんこれ!」パス
みゆき「はい。 えー、リレー回路の組み方は……」カチャカチャ



みさお「何やってんだろーなー、あれ」
あやの「そうねえ」




そろそろリレーSSやらね?
545 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/14(金) 23:10:14.06 ID:W2LPE2SO
暇だしやろう
546 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/15(土) 15:17:58.64 ID:bZBI2K60
やるなら第1走者がルール決めないと始まらない
547 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/15(土) 15:40:22.57 ID:/BacUeg0
つかさ「光の速さでリレーSSしたらどうなるの?」
みゆき「リアルな話すると多分お前の住んでる神社が消し飛ぶ
    光速で指ほどの質量(約30グラム)
    の物体が動いたら想像を絶する衝撃波が発生する
    ましてそれが地表と激突したら地球がヤバイ

    お前のSSで地球がヤバイ」
548 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/15(土) 15:45:38.93 ID:uzdVaZ6o
みゆき「さらにリアルな話をすると
    相対性理論では物体が光速に近づくにつれ質量は増加し
    光速になった瞬間に質量=∞(無限大)となる為
    重力崩壊を起こしブラックホールが発生、それが
    一瞬で太陽系を含む銀河系が5秒以内に飲み込み
    お前のSSで宇宙がヤバイ」
549 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/15(土) 15:56:47.43 ID:XRkx5QSO
>>548の素早い反応にワロタ
550 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/15(土) 21:57:31.45 ID:Ug2yXhk0
>>546
決めなきゃいけないルールってどんなんだっけ?
551 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/15(土) 22:20:53.70 ID:bZBI2K60
>>550
決めちゃいけないってのは無かったと思うけど、とりあえず
・開始から3日間で終了。作品が終わらなくても3日間っていうのは基本
後は、だいたい何レスで終了とか、枝分かれは何回まで、とかを第1走者が決める
552 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/16(日) 01:15:30.36 ID:kHv2OUAO
>>548

みゆき「もーっとリアルな話をすると、光速の物の質量が増えるのは相対的にそう見えるだけであって、重力に変わりはなし。変わりにエネルギー無限大の物質が直撃するから宇宙がやヴぁい」
553 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/16(日) 02:53:04.92 ID:dgOL7BQ0
リレー開始。7レス完結、分岐は一回までで行きます。


八月某日。
まだ日も昇る前、ぐうぐう眠っている私の背中に、誰かの声が届いてきた。

「あ、ごめんかがみ、筆箱借りていい?」

私はうすら目を開き、うーんと布団の中で軽く背伸びをして、寝返りを打った。
そこにいたのはまつり姉さんだった。

「なんで?」

眠気で朦朧としている意識の下、特に何を考えるわけでもなく、そう聞き返す。

「今日集中講義あんだけどさ、筆箱どっか忘れてきたみたいでー。ねえ借りちゃダメ?」

集中講義とは、大学が夏休み期間に開く特別授業のことだ。
そういえばこの姉は単位が足りないやら何やらで、
この自宅から遠く離れたキャンパスで開かれる集中講義にわざわざ出ることにした、とか何とか言っていた気がする。
私は取るべき単位はきっちり取得しているし、休みも満喫したいので、そういうものには出ないことにしていた。

「ふーん。まあ持ってっていいけどさ。机の上に置いてあるから」

私はアンニュイに許可する。

「ありがとー、持ってくねー」

そう言ってまつり姉さんは机の上から、味気ない紺色をした布製の筆箱を取り、慌ただしく出ていった。
ドタバタした足音に混ざってかすかに、やべーあと一時間だし、という言葉が聞こえた気がする。

ふう、と心の中で溜息をつき、私は再び眠りに就く。
中途半端に頭が冴えてしまったが、五分もすればまたすぐ眠気が戻ってきた。
そのまま夢の世界へ踏み入ろうとした。
その時。

「……ん?」

私はあの筆箱に関して、何か重要なことを思い出した気がした。
頭の中でその違和感を追いかける。
すると、それははっきり輪郭を見せ、私の全身をひきつけさせた。

「……はっ!」

そうだった。あの筆箱のサイドポケットには、一年くらい前、クラスの男子あてに書いたラブレターが……
554 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/16(日) 05:09:42.29 ID:pZ.uhASO
>>553
「…ま、いっか」
そう呟いて、わたしは再びまどろみ始めた。
確かにあの筆箱にはラブレターが入っている。しかしそれは、文章を凝りに凝ったせいで恋文にはとても思われない代物になったのだ。
実際、うっかり教室でソレを落とし、よりにもよって目当ての男の子に拾われるてしまったのだが、その男の子がラブレターを見て曰く、
『古文の宿題かな?』
…あ、ちょっと涙でてきた…。
 ってか、なんでわたしはそんなものを筆箱に入れっぱなしにしてるんだろう…。


なんとなく、眠れない。
あの筆箱に、まだ何かあった気がする。
眠気で回らない頭を、精一杯働かせて考える。
そして、あることに思いいたり、わたしはベッドから跳ね起きた。
「やっばー…」
今日、みんなで行こうって言ってた、駅前の甘味屋のタダ券。こなたから受け取って筆箱に入れてそのままだった。
『かがみに預けとけば、安心だね』
そう言って微笑むこなたの顔が浮かぶ。
このままだとこなたの信頼を裏切ることになる。
いや、そんなことより、このままだとわたしの奢りになりかねない。こなたなら、きっとそう言い出す。
 ってか、なんでわたしはそんなものを筆箱なんかに入れてるんだ。普通、財布に入れるだろ。
わたしは自分にツッコミを入れながら、急いで服を着替え始めた。
今から追いかけて、姉さんに追い付くだろうか…。
555 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/16(日) 09:29:07.69 ID:sYPkfTw0
>>554
私は玄関をでるなり走った。今までやったことないくらいの全速力で。
駅までさほど遠くはないけどさすがに苦しい。
けれども足を止めるわけにはいかない。まつり姉さんのこと、あの手紙をみればどんなことを言われるか。
携帯電話のメールのタイトルを見ただけで執拗に追究するくらい。
そんな姉があの手紙をみたら・・・考えたくもない。
駅に着き、辺りを見回す。居ない。
定期券で駅に入り、ホームに向かう。朝早いからまだ電車は来ていないはず。
階段を降り、ホームを見回すと・・・居た!
私は姉に駆け寄り間髪をいれずに話しかける。
「私の筆箱・・・ちょっと見せてくれない」
息が切れてうまく話せない。そんな私を見て姉は目を丸くして驚いている。
「どうしたのよ、そんなに息を切らせて」
「いいから、私の筆箱を・・・」
「・・・」
姉は私の気迫に圧倒されたのか、理由を聞かずに鞄から筆箱を取り出し私に差し出した。
姉の手を見て愕然とした。
「私の筆箱じゃない」
「そんなこと言われても、かがみの机にあった物よ」
よく筆箱をみると・・・つかさの筆箱
いったいいつ入れ替わったのだろうか。
あれこれ詮索をしていると、電車の来る放送が流れる。
「もう時間ね、悪いけどこの筆箱そのまま持っていくわよ」
私は呆然と姉を見送った。

私が寝ている間につかさが私の部屋に入ってきて筆箱を取り替えた?・・・何故
私は怒りがこみ上げてきた。
つかさが私の部屋に入ってきたことじゃない、筆箱を取り替えたことでもない、私に黙ってそれをしたことに。
まだ日が昇ったばかり、つかさはまだ夢の中。怒りは次第に大きくなる。
たたき起こして問いたださないと。怒りを抑え私は家に帰った。



556 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/16(日) 22:16:54.60 ID:Lh/qagSO
>>555

「つかさ起きなさい」
 部屋に着くなり私はつかさから毛布を引っぺがした。
 何を幸せそうに寝てるのかしら。今から絶望を与えてあげるわ。
 私はもう自分が制御出来なかった。
「起きなさい!」
「……ふぇ?」
「つかさ。あんたに聞きたいことがあるんだけど」
「な、なに? え? なんで怒ってるの?」
 つかさのすっとぼけた反応に、私の怒りは更に燃え上がった。
「自分の胸に聞きなさいよ」
「はぅっ!」
「私の筆箱……知らない?」
「し、知らないよぅ」
「嘘、付かないで。あんたが私の筆箱を入れ換えたことは知ってるんだからね!」
 つかさは既に半泣き状態だった。だけどやめない。つかさには教えないといけないから。
「何の事? 私よくわからな、」
「いい加減にしなさい!」
 私のその怒鳴りスイッチだったみたいで、つかさはボロボロと涙を流し始めた。
 泣けば良いってもんじゃ――。
「知らないよ……お姉ちゃんの筆箱なんて……わたじ、自分の筆箱だってどこにあるかわがらないのに゛ぃ……うぅ、うわぁぁぁん」
「え? あれ?」
 つかさが自分の筆箱を知らない……?
 待てよ、私は何か重要な事を忘れてるような――!?


『あっれー? 筆箱、学校に忘れて来ちゃったっぽいわね』
『つかさー、ちょっと……って寝てるのか。まぁ良いや。筆箱借りてくわねー』


 思い出した……。えと、全部私の思い過ごしって事で……。
「うぅぅうぅぅ……っ」
 つかさは泣いちゃった訳で……。
「あぁぁぁんっ、うわぁぁぁん」

 どーしてこーなった。
 どーしてこーなった!?
557 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/17(月) 02:54:34.92 ID:HxL.XOY0
リレーSS中だが投下してもいいかな
558 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/17(月) 12:32:24.86 ID:u4mYlao0
投下しないの?
559 :母と娘と [saga]:2009/08/17(月) 14:15:56.90 ID:EZy8rqs0
>>557の人がいらっしゃらないようですので、先に投下させて貰いますね。

少しシリアス目の話です。
560 :母と娘と [saga]:2009/08/17(月) 14:17:15.75 ID:EZy8rqs0
 母親と言い争うなど、何時以来だろう。みゆきはそんなことを考えながら、道を歩いていた。
 いくら考えても、思い出せない。そもそも、今まで言い争ったことなどあっただろうか?
 そんな事を思い出しても、今の状況が変わるわけじゃない。みゆきは首を振り、考えるのを止めた。そして、周りの景色を見る。
 見たことはあるが、見慣れない景色。みゆきはこの辺りが、こなたの家の近くだと思い出した。
 何も考えずに電車を乗り継いたら、無意識のうちにこんな所に辿り着いていた。
 友達に頼りたい。そういう気持ちでもあったのだろうかと、みゆきは思いながら道を歩いていた。
 ふと、前の方になにかが落ちているのが見えた。
 よく見てみると、それは犬のようだった。アスファルトに横たわったまま、動かない。その犬の子供だろうか。子犬がその身体を懸命に舐めていた。
 死んでいるんだ。車にでも、はねられたのだろうか。みゆきはなぜか、その犬から目を離すことが出来ないでいた。


- 母と娘と -


 みゆきの側を、何人かの人が通り過ぎていく。だが、誰一人犬の死骸に目をやる人はいない。
 みゆきも見ているだけで、特になにかをしようとは思わず、心の中で手を合わせてその場を離れようとした。
 ふと、みゆきは視界の端に見知った顔を見つけた。その方を見ると、さっきの犬の死骸の傍に、友人の泉こなたが立っていた。
 そして、こなたはなんの躊躇も無く犬の死骸を抱き上げると、そのまま普通の足取りで歩き出した。その足元を子犬がすがりつくように付いていく。
 みゆきはそれに驚き、思わずこなたの後を追いかけた。


561 :母と娘と [saga]:2009/08/17(月) 14:18:31.86 ID:EZy8rqs0
 こなたがやってきたのは、とある公園だった。その隅の方の、木が生い茂る場所へと向かう。
 遊具などがある場所からは見えない、少し開けた場所。こなたは犬の死骸を丁寧に地面に置くと、その場に穴を掘り始めた。
 そして、ある程度の深さの穴が出来上がると、こなたはそこに犬の死骸を入れ、手を合わせてから土をかけ始めた。
 完全に埋まりきると、こなたは今度は服のポケットから木の棒を取り出した。よく見てみると、どうやらアイスの棒らしく、アタリと書かれた文字が見えた。それを墓標代わりに突き立てると、こなたはもう一度手を合わせた。
「…みゆきさん、別にこそこそする必要は無いと思うよ」
 そして、みゆきが隠れている木の方を向いて、そう言った。
「ばれていたんですか…」
 仕方なくみゆきは、木の陰からこなたの前へ姿を現した。
「うん、ばればれ。みゆきさん、尾行下手だね」
 ニヤニヤしながらそう言うこなたに、みゆきは照れくさそうに頬をかいた。
「あの…泉さん、その…これは…」
 そして、みゆきは聞きずらそうにしながら、こなたと今作った犬の墓を交互に見比べた。
「似合わないことしてる?」
「えっ…あ、いや、そんな事はけして!」
 こなたの言葉に、みゆきは慌てて目の前で両手を振った。
「ま、普段のわたし見てると、そう思うのも仕方ないかもね」
「…い、いえ…その…すいません…」
 恐縮して縮こまるみゆきの肩を、こなたは軽く叩いた。
「ま、気にしない気にしない」
「…はい」
 みゆきは姿勢を正すと、改めてこなたが作った墓を見て、そしてこなたの方へと視線を戻した。犬を拾い上げる時も、ここへ来て墓を作るときも、こなたは何一つ躊躇することなく行動していた。
「泉さん。随分と手馴れていたようでしたが…前にも何度か同じようなことを?」
 みゆきはその事が気になり、こなたにそう聞いた。
「周り、よく見てよ」
 こなたは、答える代わりにそうみゆきを促した。
「…あ」
 みゆきが周りを見渡してみると、たくさんの墓が見えた。石だったり、木だったり、日用品だったり、墓標に使われているものはばらばらだったが、全て今こなたが作ったような簡素な墓だ。
「この辺はさ、住宅地だから、ペット飼ってる人って多いんだよね」
 驚くみゆきに、こなたが声をかける。
「その分、捨てる人も多くてね…結構事故とかで死んでるの見かけるんだ。だから、こうしてお墓を作ってるんだ」
「あの…これ全部、泉さんが…?」
「ううん。わたしが作ったのはまだ少ないよ。ほとんどはお父さんと…お母さん」
 こなたの口から出たお母さんと言う言葉に、みゆきは少しドキリとした。
「これ始めたの、お母さんなんだって。そんで、お母さんが死んでからはお父さんがやってて、中学くらいからわたしもするようになったんだ」
 自分の知らない亡き母を思ってか、こなたは少し遠い目をしていた。
「お母さんがね、何でこう言う事やってたんだろうって。同じことやったら、お母さんのこと少しでも分かるかなって、そう思ってね」
「…なにか、分かりましたか?」
「うーん…まだまだってところかな?」
 照れくさそうにそういうこなたを、みゆきは少し羨ましく思えた。
「今日、母と喧嘩をしました…」
 そして、そんな事を口走っていた。
562 :母と娘と [saga]:2009/08/17(月) 14:20:14.28 ID:EZy8rqs0
「みゆきさんとゆかりさんが?珍しいね…」
 目を丸くしてそう言うこなたに、みゆきは頷いて見せた。
「泉さんの話を聞いて、それくらい母を思えれば、喧嘩などしなかったのではないか…そう思いました」
 溜息をつく。胸の奥から、ひどくもの哀しい感情が湧き出してくる。
「わたしも、母を失えばそのような気持ちになれていたでしょうか?」
「冗談じゃない」
「…え」
 聞いたことの無いこなたの冷たい声に、みゆきは身を震わせた。
「そんな事、絶対にない」
 こなたは怒っているようだった。眉間にしわがより、いつもの余裕のある表情は消えていた。
「…す、すいません…」
「失えば分かるかもしれないけど、失ってからじゃ遅いんだよ」
 思わず謝るみゆきを無視し、こなたは言葉を続けた。
「失わなくても分かるかもしれないし、失っても分からないかもしれない。失わなければ絶対に分からないって事はないし、ましてや…分かるために失うなんて、間違ってる」
 そこまで言って、こなたは自分の顔を両手で覆い隠した。
「…ごめん。ちょっと偉そうだった」
「いえ、わたしこそ迂闊なことを言ってしまって…すいませんでした」
 お互いに謝りあい。その後、少しの間二人は無言で立っていた。
 やがて、こなたが手を顔から離した。そこには、いつも通りのこなたの表情があった。
「さて、わたしはそろそろ行くよ」
 そう言って、こなたは足元にいる子犬に顔を向けた。
「この子の飼い主を探してあげないとね」
「飼い主、ですか…?」
「うん、お父さんが仕事柄結構顔が効くからさ、以外と見つけやすいんだよ」
 こなたはそう言いながら子犬を抱き上げた。
「じゃ、みゆきさん。また学校で」
「い、泉さん」
 別れの挨拶をして踵を返すこなたの背中に、みゆきは思わず声をかけて引き止めてしまった。
「ん、何かな?」
 こなたが首だけをみゆきの方へ向ける。
「え、えっと…その…あの…」
 みゆきは言い難そうに、口の中でモゴモゴと何かを呟いていた。
「…すいません…なんでもありません」
 そして、そのまま言葉を閉じてしまった。こなたはそんなみゆきの様子に、笑顔を向けた。
「うん…じゃ、また明日」
 そう言って、こなたは手を振って歩き出した。
「…わたしも、帰りませんと」
 みゆきはそう呟いて、自分の帰るべき家に向かって歩き出した。



563 :母と娘と [saga]:2009/08/17(月) 14:21:55.18 ID:EZy8rqs0
 みゆきが自分の家に着いたころには、日はすっかり落ちていた。門限なんてものは決められてはいなかったが、何の連絡もなしにこんな時間に帰宅するなど、初めてのことだった。
「…ただいま戻りました」
 家のドアをゆっくりと開け、呟くように小さく帰宅の旨を告げる。まさか自分がこんなコソコソと家に入ることになるなんて…と、みゆきは少し後ろめたい気持ちになっていた。
「おかえり、みゆき」
 しかし、あっさりと母のゆかりに見つかってしまう。
「遅かったわね。少し心配しちゃったわよー」
「…お母さん」
 今朝の喧嘩のことなど無かったかのように普通に話す母に、みゆきは安堵と不安を同時に感じていた。
「さっきね、こなたちゃんから電話があったわ」
「え?」
「ちょっと長く引き止めちゃったから、帰るの遅くなるかも。ごめんなさい…って」
「それ、嘘です」
 みゆきは思わずその事を否定していた。
「泉さんが、引きとめたわけじゃありません。わたしが勝手に居ただけです」
「あら、じゃあどうしてこなたちゃんはあんな事を?」
「それは…」
 どうしてだろう。みゆきには分からなかった。不用意な発言でこなたを怒らせてしまったのに、何故自分をかばう様な真似をしたのだろう。
 その疑問は、目の前の母にも言えることだった。今朝はあれほど激しく言い争っていたのに。家を飛び出して、遅くまで帰ってこなかったのに。何故、怒らないのだろう。
「…分かりません。泉さんも、お母さんも、何を考えてるのかわたしには…二人とも、わたしが怒らせたはずなのに…」
 そう言って、みゆきは俯いてしまう。それを見たゆかりは、顎に人差し指を当てて少し考える仕草をした。
「みゆきは、少し重く考えすぎね」
「…重く?」
 そして出た母の言葉に、みゆきは顔を上げた。
「今朝のことなら、わたしはもうなんとも思ってないわよ。アレくらいの口喧嘩なんて、若い頃はよくやってたしねー」
「そ、そうだったんですか…」
 本当に軽いゆかりの口調に、みゆきは少し気が抜けるような感じがした。
「…あの、泉さんに会った時のことなんですが…」
 そして、みゆきは無性にさっきの事を聞いてほしくなった。


564 :母と娘と [saga]:2009/08/17(月) 14:23:58.02 ID:EZy8rqs0
「おもしろい子ね。こなたちゃんは」
 みゆきの話を聞き終わったゆかりは、微笑みながらそう言った。
 自分にとって不快な話もあったというのに、何故そんな表情が出来るのか、みゆきには分からなかった。
「…あの、やはりわたしは重く考えすぎてるのでしょうか?」
「そうねー…こなたちゃんにとってそれは、ホントにお母さんの真似をしてたってだけの事じゃなかったのかな」
 ゆかりはそう言いながら、顔の前で指をクルクルと回し始めた。
「だから、その事を重く考えすぎて、みゆきがみゆき自身を傷つけるようなこと言ったから、怒ったんじゃないかな」
「…わたしが、ですか?」
「うん。みゆきは、わたしが死んじゃっても平気?…だったらちょっとお母さん泣いちゃうけど」
「え、いや、そんな事は…お母さんがいなくなったら、悲しいです…」
「…悲しいことが分かってるのにあんな事いったから、こなたちゃんは怒ったんじゃないかな」
 みゆきは言葉を失った。単純な…本当に単純なことだったんだ。そんなことも分からない自分の迂闊さに、みゆきは少し腹が立った。
「だから、そんな重く考えすぎるみゆきには、子犬の飼い主は少し荷が重いわよ」
「え?ど、どうしてそれを?」
 予想外のゆかりの言葉に、みゆきが焦る。詳細に話したとはいえ、その事は言ってないはずだった。
「最後。こなたちゃんを引き止めたのは、その事を言うためだったんでしょ?…でも、決心がつかなかった」
「…はい」
「それで良かったのよ…こなたちゃんも、言われればきっと止めてたでしょうしね」
 みゆきはしばらく何も言えなかった。
「こなたちゃんは、いいお友達ね」
 そのみゆきに、ゆかりが優しくそう言った。
「…はい。教えられることが、とても多いです」
「また、そんな堅いことを…教えられるってのなら、みゆきからの方が多いわよ。きっと」
「そう…でしょうか」
「自分を軽く見すぎるのも、みゆきの悪い癖かしらね…さ、そろそろお夕飯の準備しなくちゃ」
「え、今からですか!?」
 みゆきが驚くと、ゆかりは首をかしげて壁の時計を見た。
「あら…もうこんな時間だったのねー」
 そしてのん気にそう言って、みゆきの方を見る。
「今日はもう店屋物でいい?」
「…はい、それでいいです」
 ゆかりの言葉に、みゆきは脱力感を覚えながら答えた。
「あ、お母さん」
 そして、聞きそびれてたことがあるのを思い出し、みゆきは電話へ向かうゆかりの背中に声をかけた。
「なにかしら?」
「あの…どうして、わたしが子犬の飼い主になろうって思ったのが、分かったのですか?」
「分かるわよ、それくらい。誰よりも長くあなたを見てる…お母さんだもの」
 それもまた、単純な答えだった。


 夜、寝るために布団に潜り込んだみゆきは、明日の朝こなたにどう言おうか悩んでいた。
 今日のことを謝ろうか、それとも礼を言おうか。
 どちらも何か重いような気がして、みゆきは別の言葉を探した。
「…泉さん、昨日の子犬の飼い主は見つかりましたか?」
 うん、これが良い。自分の呟きに満足したみゆきは目を閉じた。


- 終 -
565 :母と娘と [saga]:2009/08/17(月) 14:24:51.70 ID:EZy8rqs0
以上です。

遅いのに父親がいないのは、出張中だったとかそういうことにしといてください。
566 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/17(月) 18:54:21.38 ID:HxL.XOY0
557だが、誰もGOサイン出してくれないとはorz
リレー小説の雰囲気がある中に場違いなSS投下していいかなーなんてちょっと躊躇してた。
つーわけで投下。2レス。

※下ネタあり。
※男のやるコントを無理やり演じてるので、口調が変になってます
567 :やまとなでしこ コント『化学』 :2009/08/17(月) 18:55:27.85 ID:HxL.XOY0
(こう座って勉強中、机には周期表が広がっている)

こう「Hは水素。よし、覚えた」キュッ

こう「Heはヘリウム。よし、覚えた」キュッ

カツカツ

こう「Liはリチウム。よし、覚えた」キュッ
やまと「……」

やまと「"S"は?」
こう「S?」クルッ

こう「…………」ニヤッ
やまと「な、何だよ」
こう「やまと兄ちゃんさあ、それはアレでしょー。ほら、いわゆる……攻め好き!」ニヤニヤ
やまと「お前なあ、Sは硫黄だろ。その机に置いてある周期表見ろよー」
こう「え? ……あーホントだ!! いっけね、すげー勘違いしてたわー」
やまと「どんな勘違いだよ……まあいいや、何? 明日化学のテストでもあんのか?」
こう「そーだよ! そりゃ誰が見たって俺が見たってそーだろー!」
やまと「いやお前が見たらそりゃそうだろーけどさ」
こう「あーえっとどこまで覚えたっけな」
やまと「……。お前さあ、周期表ばっか勉強しても100点とか取れねえだろー」
こう「そりゃわかってるよー。俺バカだしせめてちょっとくらい点数取ろうってさー」
やまと「目標点何点?」
こう「99点」
やまと「ほとんど変わんねーじゃねーか! お前そしたらなおさら周期表ばっか見ても始まんねーだろー」
こう「そうだけどさー……」
やまと「ほらさー、『構造式』とか出んじゃねーの?」
こう「えー何だっけそれ?」
やまと「ほらこういうのだよ」キュッキュッ (ホワイトボードに書く)

H−H

こう「……プッ」
やまと「何だよ?」
こう「兄ちゃんさー、あれだよ。"H"とかさー……うわーいやらしー」ニヤニヤ
やまと「おんまえなー、"H"は水素だろ。周期表見ろよ」
こう「え? ……あーホントだ!! "H"水素だ!!」
やまと「お前なんで周期表見てる時と見てない時でそんな人格変わるんだよ」
こう「そっかー、それ水素の構造式かあ」
やまと「そうだよ。じゃこれは?」キュッキュッ
568 :やまとなでしこ コント『化学』 :2009/08/17(月) 18:56:22.17 ID:HxL.XOY0
O=O

こう「メガネ」
やまと「メガネじゃねーよ! メガネこんな簡単にできてねえよ。
     ほら周・期・表!! これ酸素!」
こう「えーっと……あーホントだ」
やまと「ったく……
     それからこんなんもあるよなー」キュッキュッ

H−O−H

こう「……」
やまと「これは?」
こう「これさー、こうだよなー?」キュッキュッ



やまと「は?」
こう「両端のやつがアレでさー、いやらしくてさー、そんでー……真ん中がー……ププッ あ・な」ニヤニヤ
やまと「バカやろお前! ほら周・期・表!! Hは水素でOは酸素!」
こう「あ……ホントだー!!」
やまと「何回目だよそれ……で、H、O、Hで水な」
こう「水? 水って……液体? ……白いやろ?」ニヤニヤ
やまと「何言ってんだよ! もーいいよ、白い水って覚えたけりゃ覚えろよ」
こう「あー……何かわかってきた気がする! 兄ちゃんさあ、もっと勉強教えてよ頼むー」
やまと「はあ……なんか不安だけどまあやってやるよ。目標点は?」
こう「20点」
やまと「めちゃくちゃ下がってねーか!?
     ……まあいいや、教えてやるから明日のテストがんばれよ?」
こう「うん!」


(暗転、再び照明がつく)


タッタッタッ

やまと「おーお帰り、テストどーだったよ?」
こう「いやーそれがさあ……」
やまと「うん?」
こう「テスト昨日で終わってた」
やまと「アホか」パシッ


〜終〜
569 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/17(月) 18:58:51.98 ID:HxL.XOY0
ずーっと前に漫才ネタ書いたが、今回コントも書いてみた。
第12回コンクールのあの作品の設定が頭の中でずーっと引きずってるwwww
570 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/17(月) 20:03:50.38 ID:ylXQKF.0
男のやるネタを無理やりじゃなくてキャラにあわせて書いて欲しかったなーという個人的意見
そして誰もGOサインを出さないのは夏休みで人が激滅してるから
571 :リレー続き [saga]:2009/08/17(月) 22:34:25.69 ID:qgdfQCc0
>>556
私はつかさに謝った。最初は泣いてばかりいたが
つかさはすぐに許してくれた。
落ちついてきたのか、つかさは私に質問をした。
「お姉ちゃん、筆箱の在る無いでなぜこんなにむきになるの」
つかさにしては鋭い質問だった。直接答えられるはずはない、私はお茶を濁すしかなかった。
「ほら、駅前の甘味屋のタダ券、こなたから預かったじゃない、それが入ってたのよ」
「それじゃ、こなちゃん、ゆきちゃんと集まる前に学校に取りに行かないといけないよね」
「そうね、私が忘れたから・・・私が取りにいく」
「あ、大丈夫、今日こなちゃん午前中補習で学校に行くって言ってたからメールでお姉ちゃんの筆箱持ってくるように連絡するよ、どうせ集合午後からだし」
「そうね、・・・いや、まった」
それはまずい、こなたにあの手紙を読まれたら・・・まつり姉さんにばれるよりも・・・最悪だ
「私が忘れたのにこなたに持って来させるのは悪いわ、やっぱり私が取りにいく」
「それじゃ、こなちゃんと一緒に現地に来て、私はゆきちゃんと来るから、これでいい?」
「それでいいわ」
私は早速外出の準備をした。万が一、こなたが私の筆箱に気付いたら・・・
「お姉ちゃん、もう仕度してるの?、補習が終わる時間に合わせたら?まだ早いよ」
「こなたより先に・・・いや、今日はいい天気だから散歩ついでに」
つかさの言葉が鋭く私に突き刺さる。

 学校に着いた。夏休みの学校、どことなく物静かで雰囲気が違う。
私は自分のクラスに入ろうとした。人の気配がする。ドアの張り紙を見ると補習の教室が私のクラスになっていた。
そして話し声の中に聞きなれた声が混ざっている。そう泉こなた・・・
普段遅刻ばかりしてるのに、なぜ今日に限ってこんなに早く来る。今教室に入れば怪しまれること間違いない。
扉が半開きになっていたのでそっと教室の中を覗くと、私の机にこなたが座っている。その隣りには日下部が居た。
よりによって・・・あの二人の前に出るのは危険すぎる。
補習の休み時間を狙って筆箱を回収しよう。
確か図書室は開放されているはず。私は休み時間まで図書室で待つことにした。
しかし図書室に向かおうとしたとき。
「そこに居るのかがみじゃない」
こなたの声が私を呼んだ。
572 :リレー続き [saga]:2009/08/17(月) 23:56:21.16 ID:qgdfQCc0
>>565
シリアスな感じはあまりしなかった。
と言うより、自分も親父を亡くして共感するところがあるね。
GJ
573 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/18(火) 00:23:56.06 ID:uHm0P0o0
>>572のタイトルはリレーとなんの関係ありません。
感想書いた時消すのを忘れただけです。
574 :劇中劇 :2009/08/18(火) 08:38:24.61 ID:MeumF/2o
まとめの人ありがとうございます。

投下行きます。
パラレルワールド(?)にて、諸事情あって養護施設に保護された面々を白石視点で描きます。
今回はかなり欝でちょいエロです。

>509
最後まで簡単に書き上げてから加筆修正しつつ投下してるんで、トータルで見ると遅筆だったりします。
題材が題材なんで、読みやすさや受け入れやすい表現に注意しています。

でも、無謀だったorz
575 :劇中劇 [sagesaga]:2009/08/18(火) 08:43:09.79 ID:MeumF/2o
 何この違い

 学校の手続きで事務所に入ると電話が鳴った。職員さんは全員手が離せないというのでとりあえず俺が出る。
 みゆきさんを出してくれという。女性があれこれわめく後ろでは妙な雄たけびが聞こえた。
 この雄たけびは嫌な記憶を喚起する。
 みゆきさんを呼び、電話かけてきた人の名を告げると事務所の空気は一転、張り詰めたものになった。
「行ってきなさい」
 園長がみゆきさんの背を押し、彼女は不安げに受け取った受話器を耳に当てた。
「あの……園長先生、俺、まずいことしましたか?」
「まずいといえばまずいですが、避けては通れない道ですから。これからは君も当事者になるかもしれません、よく見ておいたほうがいいですね」
 他の職員さんも固唾を呑んで見守り、あるものはファイティングポーズを取ってみゆきさんを鼓舞していた。
 彼女を見守りながら園長先生の話を聞く。
「苗字こそ違いますが、電話の人は高良さんの母です」
「母!?」
「親の中には、子を散々邪険にしていたのに就職が決まった途端に金の無心をしてくるゲス……失礼。悲しい人がいるんです」

「扶養義務? じ、自分の生活を犠牲にしない範囲と規定されてます。そして、あなたたちの面倒見る余裕なんてまったくないわ」
 みゆきさんは震えながらも、それでも力強く言い放った。

「よく言えました。その規定を知らないばかりに親や周囲の人間からあの義務を振りかざされ、歪んだ家庭に縛られる子も少なくないんです。まあ、あんな身内でも扶養する余裕ができるほど給料出せない上に多忙なこの業界にも問題あるんですが」
 みゆきさんの、勤めて冷静にしつつも激しい情動のこもった問答は続く。
「本来こういう扶養に関するやり取りは役所の人が間に入り、子の回答を親に伝えはしても連絡先を教えることはないはずなんですが、知り合いを通して嗅ぎ付けてくることがあるんです」
「……俺んとこもそうなるのかな」
「情で動く人間に理屈は通用しませんから覚悟は必要です。いざとなったら我々が守ります。だから、ここにいる間に立ち向かえる力を身につけなさい」
 みゆきさんの問答には、兄ばかり優先して自分はないがしろにされ、更には熱出しても放って置かれたといった話が出てきた。
 きょうだいの間で異常なまでのえこひいきが行われていたという話を聞いたことがあるが、彼女の家庭もそうだったようだ。
576 :劇中劇 [saga]:2009/08/18(火) 08:45:43.21 ID:MeumF/2o
「助け合い? 兄が、私の何を助けてくれました? 私は兄そのものから助けて欲しかった!」

「助けてって……兄が酷い人だったんですか?」
「実質的にはそうなんですが、そう解釈するわけにもいかない厄介な問題があったんです」

「あなたたちが欲しかったのは私じゃない! 兄の世話係でしょう?」

 周りの職員がみゆきさんにGJ! と言わんばかりにサムズアップしている中、園長先生が説明する。
 電話で聞こえた妙な雄たけびは兄のもので、脳に障害があるという。
 親はその兄に過剰に感情移入してしまい、感覚がおかしくなっていた。
 そのためか健常児であるみゆきさんに自由を与えず、介護要員としての過酷な教育が行われていた。
 しかし、その待遇は障害者がいる家庭に生まれたのだから当たり前だと正当化されていたらしい。
 兄は偏った思想に基づき無理矢理普通学級に通わされ、適切な教育を受けられなかった。
 その結果、体格は向上しても善悪の判断や自制心といった社会性は育たず、大人にも手におえない乱暴者になってしまったという。
「テレビでは純粋な心を持った天使なんて表現されますが、そういう無難なケースしか放送しないだけなんでしょうね」
 障害のせいか教育の問題かは不明だが、兄は要求が満たされたことに笑みは浮かべても世話した人にそれを向け感謝することは一切なかったし、人間的な成長もなかったという。その一方で癇癪起こして暴れ、怪我させることもあった。
 こんな兄の世話は、穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるような空しいものだったらしい。
 こうして彼女は心身の疲労で倒れ、そこでようやく他の大人の目に触れ、児童相談所に連絡が入ったのだった。
577 :劇中劇 [saga]:2009/08/18(火) 08:47:54.23 ID:MeumF/2o

 障害を持つ本人が一番辛いなどとよく言われるが、健常者として様々な義務や責任を背負わされた上で介護やトラブルの尻拭いをさせられる身内はどうなのか。
 介護で忙殺されることのない青春を謳歌してきた大人が親として、または仕事で障害者を介護すること。
 子供が青春を謳歌するための時間を犠牲にして、無償で、自分が生んだわけでも自分を生み育ててくれたわけでもない、自分と同じかそれ以上の体格の障害者を介護していくこと。
 身内だからと思考停止し、この違いに想像力が回らない人間が多すぎた。
「そういうわけだから、あの子のこと愛がないなんて責めないでやってね」
「……はい」
 数々の込み入った説明は、俺が障害者のいる光景をテレビで扱える成功例しか知らず、綺麗ごとを振りかざしてみゆきさんを責める側に立つ可能性を恐れてのことだったらしい。

「好きで障害者に生まれたわけじゃない? 私だって好きで障害者の妹に生まれたわけじゃない! 私の人生は私のものよ!」

 みゆきさんは悲痛な声で言い放ち、折れそうな勢いで受話器を叩きつけた。
 園長は激しい情動で震える彼女の肩に手を置く。
「頑張った、感動した」
 園長の言葉に、彼女はうめくように泣いていた。

 園長によれば、親が属する団体が出版した本には、障害児のきょうだいは優しい子に育つと書かれていたそうだ。
 だがそれは、きょうだいを介護要員として都合のいいように仕向けているだけであり、押し付けられた幻想に自分を無理矢理当てはめないときょうだいは居場所がなかっただけらしい。
 そんな環境で育ったみゆきさんが親に自分の心情を吐露するのはどれほどの勇気が要っただろう。


578 :劇中劇 [saga]:2009/08/18(火) 08:50:31.87 ID:MeumF/2o
 この施設で炊事などは当番制で、職員さんと入所者が共同で行う作業も多い。
 そして今日は俺とみゆきさんが夕食の担当だった。
 俺は自炊生活が長かったが、腕前や手際は彼女と比べると雲泥の差だった。
 食事抜きが日常茶飯事だったため、親の目を盗んで台所から持ち出した食材やレトルト、そして近所の山林で採取した動植物を、自分の部屋や現地でどうにか食べられるようにする必要があった。
 こんな状況下で編み出したした料理のスキルは非常に特殊なもので基礎などまるでできてなかったため、香具師の仕事で食べ物は担当させてもらえなかったのだ。
 そんなわけでみゆきさんの助言を受けながら作業は進む。
 昨夜のつかさとの一件や事務室の一件をごまかすように、説明にそのつど感謝し、料理の腕前や手際、そしてこれまでに見てきた年少組の甲斐甲斐しい世話なども話題に上げ賞賛していた。
 だが、そのネタも尽きてしまい沈黙したとき、みゆきさんが口を開いた。
「昼、嫌なところを見せてしまいましたね」
「すみません、俺が不用意に取り次いでしまって」
「いいんですよ。私のこと軽蔑しますよね、障害がある身内に冷たいって」
「とんでもない。逃げ道の無かった高良さんに比べればずっとずっと楽な方なんだけど、世話で嫌な思いした経験なら俺にもありますから」
 俺が通っていた学校でも重度の障害児が編入され、世話係にされた俺はとんでもない苦労をしていたのだ。
 俺の発言でみゆきさんは緊張を緩めた。
 あの時もそうだった。深刻な被害や負担を蒙った者とそうでない者とでは大きな温度差があり、迂闊に本音は出せなかった。
 同じ、または似た経験がないと分かり合えないなんて、言葉ってのは不便なものだな。
「……親は、いつかは立ち向かわねばならなかった相手ですから。それに、ここで職員として働く以上はああいう元保護者から子供達を守らねばなりません」
579 :劇中劇 [saga]:2009/08/18(火) 08:52:56.72 ID:MeumF/2o
 しばらく作業が続く。
「腕前や手際を褒めてくれましたが、アレは全部、介護と家の手伝いなどを両立させるために編み出した技なんです」
「あ……!」
 みゆきさんの数々のスキルもまた、苛酷な環境で編み出さざるを得なかったものだった。
 俺の料理同様、肯定的には捉えられず褒められても嬉しくはないようだ。
 園長の話では、彼女は自分の希望が介護と衝突したら容赦のない折檻が行われたため、自分自身がしたいことを考えられなくなったという。
 折檻されたくない、人に迷惑かけたくない。『たくない』が、彼女の動機の全てになった。
 そのうち、誰かの世話をしていないと責められるという強迫観念が植え付けられたそうだ。
 子供達を献身的に世話をしているのはそのためらしい。
 実際問題としてみゆきさんの手腕は戦力となるため職員として残ってもらっているが、親が強いた介護要員という人生と大差ないレールをたどらせてしまったと園長は悔いていた。
 こうして事情を知っていたにもかかわらず、地雷原に踏み込んでしまった己のうかつさに呆れていた。

「園長が……」
「はい」
「一度、はっきりと気持ち伝えておかないとダメですね」
「え?」
「ここに残ってるのは世話以外のことを知らなかったし、知ろうとすることが怖かったからでした。皆が頑張って教えようとしてくれたんですが私は駄目だったんです」
 強迫観念がそれほどのものとは。親の教育はまるでカルト教団の洗脳じゃないか。
 義憤に駆られたとき、彼女は明るい表情で続けた。
「ですが、ここの仕事は本当にやり甲斐があるからでもあるんです」
 きっかけは確かに強迫観念によるものだった。
 だが、兄の世話とは様々な意味で違っていた。
 ここの子供達は彼女に笑顔を見せ、更に成長してくれた。ここで初めて、やり甲斐というものを感じたそうだ。
 おいしいご飯を食べさせてあげたい、褒めてあげたい、添い寝してあげたい、できなかったことをできるようにしてあげたい。
 ここには『たい』がたくさんある。
「そういうわけで、本当に自分がしたいことをしてるだけなんです。これから私の『たい』が施設に収まらなくなる日が来るかもしれませんが、今のところ私の『たい』は全てここにあるんです」
580 :劇中劇 [saga]:2009/08/18(火) 08:55:43.72 ID:MeumF/2o
 俺が知る彼女の笑顔は全て、仕方なくやっているとしたらありえない、演技ではない本物の笑顔だった。
 スキルを編み出す際の辛い記憶も相手の笑顔で上書きできて、スキルを肯定的に捉えられるようになったんだろうな。
 だが、みゆきさんの笑みに陰りが入る。
「ただ、白石君は昨夜、柊さんと、その……」
「あ、いやその、あの、軽率なことはしてません!」
「わかってます、だけどダメなんです。私、お恥ずかしながら……」
 以下、内容が内容なんで非常に婉曲な表現で説明された。
 障害の有無とは関係なく、下半身が正常なら成長と共に性欲は芽生える。
 しかし自力での処理やTPOをわきまえた判断や自制する能力がない場合、厄介な事態が発生する。
 みゆきさんの場合、親がそっち方面のサポートや器具に回す金をケチった結果、倫理的に非常に問題のある事態になり介護を担う彼女にもうひとつの強迫観念が植え付けられたという。
 昨夜のつかさとの一件で、彼女が焦燥感に満ちた顔で俺に迫ってきたのはそのためらしい。
 これ、れっきとした性的虐待だよな。
「だから私、汚れてしまってるんです」
「と、とんでもない。俺、みゆきさんの手は好きです、働き者の綺麗な手ですよ」
 場を和ませようとして、こなたのようについオタクなネタかましてしまった。観察してるうちに伝染ったか?
「あ……ありがとうございます」
「……あれ?」
 ただ赤面したところを見ると、ネタはわからず完全に褒め言葉と受け取られたようだ。
 まあ、綺麗と感じるのは本当だけど。
「そういうわけで、男の人が来て、世話と同様にこっちの強迫観念も解消するきっかけができたなんて考えてしまったんです」
「……流石にまずいでしょ」
 俺の笑顔というか情けない顔で上書きされては困る。
 これも、女ばかりだった弊害というべきだろうか。
 この人も、完璧じゃないんだな。
 そのことに妙な安心感を抱いていたが、気まずい沈黙が続く。

581 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/18(火) 08:56:55.20 ID:MeumF/2o

「は……は……くしゅん」
 お、話題を変えるいいきっかけだ。
「可愛いくしゃみですね。泉さんの豪快なのとは大違いだ」
「私も昔はあんな感じだったんですよ?」
「そうなんですか? 泉さん、高翌良さんのくしゃみ羨ましがってたけど、加減できないだけにかわいいのはずるいとかなんとか。秘訣教えてあげたらどうです?」
「うーん、本能的なものなんで難しいですね」
「本能?」
「くしゃみに限らず、大きな音を出すと兄はたちまち癇癪起こしたんで、徹底的に静かにするクセがついたんです……」
 なんかどんよりとしたオーラをまとい俯いた。
「あー変なスイッチ入ったというかフォローしようとしてまた地雷踏んだ〜」


??「流石に、これは」
みゆき「ええ、わかりますよ、企画にそぐわない話ですし、あの手の団体を怒らせると怖いですから」
??「そうだよなー、怖いよなー」
みゆき「そうですよね、最近もバリアフリーに改修するのが難しい古い学校に脳性マヒの子を通わせようとして訴訟起こしてましたものね」
??「うんうん、それそれ」
みゆき「仕方ないですよ」
??「この前の企画でもそういうの扱ったんですが」
みゆき「ええ」
??「問題点を克明に扱う筈だったのに、怒らせないようにって考えてたら綺麗ごとのオンパレードになってしまって」
みゆき「仕方ないですよ、お仕事で、生活かかってるんですから」
みのる「ああ、もう危険なボケとフォローがエンドレス……」
582 :劇中劇 [saga]:2009/08/18(火) 08:58:20.71 ID:MeumF/2o
                 ____________________
|l、{   j} /,,ィ//|     / い…以上だぜ!
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ     |『おっぱいマウスパッドはもう古い? という記事を
|リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |     < 読んだらいつの間にかこんなSSを書いていた』
fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人.    | な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ   | おれも何をしでかしたかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…
 ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉.   | 育成調教SLGだとか自分自身の体験だとか
  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ. │ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
/:::丶'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ \もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
        ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
※記事の検索には注意
583 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/18(火) 20:02:48.71 ID:xkJZIvM0
一応リレーの途中経過を書いておく
>>553-556>>571
今回のルールは7レスなので後2レス。制限時間は3日なので
:2009/08/19(水) 02:53:04.92 まで。
さあ今回のリレーは無事完結できるのか・・・!?
584 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/18(火) 20:11:01.35 ID:uHm0P0o0
>>583
7レスだったのか・・・もっとシンプルにすればよかった
次の人ごめんなさい
585 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/18(火) 23:58:30.26 ID:GaW5cXU0
>>582
乙ー、今回重かったな。重いけど面白かった。
586 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/19(水) 01:17:03.52 ID:mzk/ihM0
>>571

「あ、あー、おはよ」

幾分かの不安を覚えつつ私はその声に返事をした。
再び教室の中に視線を向け、こなたと日下部の座っているあたりを見やった。
……そのとき。
二人が何かを手に、それを見ながら笑っていることに気付いた。
それは古びた紙のようだった。

まさか?
ただならぬ不安に縛られ動けずにいると、こなたがそれを手にしたまま席を立ち、私のもとへ歩み寄ってきた。
心なしかニヤついているように見えるその顔がより一層私の胸を澱ませる。

「ねえねえ、これ見て?」

こなたはそう言いだした。私は固唾をのんだ。
やがて、こなたは手に握っていた紙を開いた。
そこに書いてあったものは──


「似てない?」

私(?)の似顔絵だった。

「似てねーよ。そしてまた口から炎か」

私は呆れて突っ込んだ。
と、その時、私の胸ポケットで携帯電話が鳴りだした。
ちょっとごめん、と言って私は教室を急ぎ離れ、発信者の名前を見た。

……まつり姉さん?
587 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/19(水) 19:09:40.38 ID:uX9yMeE0
リレー参加した人、乙。続きが気になるが時間切れか・・・
人が少ない今の時期に3日ルールはきつかったかな
588 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/19(水) 20:24:40.67 ID:2bLUaKo0
リレー完結できなかったか・・・
ちょっとがっかり。
589 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/19(水) 20:44:53.06 ID:mzk/ihM0
3日ルールって別に無くても良くない? 完結するまでやるってのはできないの?
590 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/19(水) 21:17:55.67 ID:uX9yMeE0
>>589
避難所の雑談スレ2の
>>453-483
>>514-542
>>556
を見れば分かると思う。そしてよく見たら2日だったww
591 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/19(水) 21:27:52.38 ID:uX9yMeE0
連投スマンが、俺はその時の状況で期限を延ばしても良い気がするんだ
状況ってのは人が沢山いるか居ないか
592 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/19(水) 22:44:49.31 ID:2bLUaKo0
リレーのラストは一応考えてある。
終わってしまったので文章にはしてないけどね。
593 :あのころ [saga]:2009/08/20(木) 01:13:06.59 ID:YedjPMk0
投下行きます。

小ネタをSSにしてみよう第二段…と、いきたかったのですが、良いのが見つからず、小ネタじゃない1レスものから持ってきました。
594 :あのころ [saga]:2009/08/20(木) 01:14:50.86 ID:YedjPMk0
 わたしのしってることはなしても
 だれもほめてくれないんだ
 みんなへんなかおしてだまっちゃうんだ
 みんなのしりたいことってわたしはしらないんだ
 わたしのしってることのなかにはなかったんだ
 でもだいじょうぶだよ
 おとうさんはほめてくれたから



 かがみは見ていた古いノートを机の上に置いた。そして、その表紙をじっと眺める。
 どこにでもあるような自由帳。かがみも小学生のころ、同じようなノートを使った覚えがある。
 しかし、このノートはかがみのものではない。こなたの家に遊びに言った際に発見し、つい持って帰ってきてしまったものだ。
 色々な落書きに紛れて書いてあった、詩のようなもの。それがかがみには気になって仕方がなかった。
 今と対して変わらない酷い癖字。しかし、ノートを取る時のような、自分が読めればいいというような荒さが無い。
 丁寧さが見て取れるのだ。まるで、他人に見せるのが前提のように。
 だからかがみにも難なく読めた。そして、気になった。
 これを書いたこなたは、どんな心境だったのだろうか?これは一体誰に見せたくて書いたものなのだろうか?
「…ちゃんと、返さないとね」
 考えても答えは浮かばず、かがみはノートを丁寧に鞄の中に詰め込んだ。
 きっとこなたは怒るだろうから、なにか奢ってあげないと。そんな事を思いながら。


- あのころ -


「おはよ、こなた」
「こなちゃん、おはよー」
 翌日の朝。待ち合わせの場所にいるこなたを見つけたかがみは、つかさと共に挨拶をしながら、鞄から昨日のノートを取り出した。
「ごめんね、こなた。これ、ちょっと持って帰っちゃって…」
 差し出されたノートを受け取ったこなたは、少し首をかしげた後、何かを思い出したかのように目を見開いた。
「これ…どこで…?」
 そして、少し震える声でかがみにそう聞いた。
「昨日遊びに行ったときに、こなたの部屋で…その、勝手に持って帰って、ごめん…」
「…無くしたと思ってたのに…」
 かがみの謝罪が耳に届かないかのように、ノートを見ながら呟くこなた。その顔が、急にかがみの方に向いた。
「これ、中見たの?」
「…ごめん」
 こなたに訊かれ、かがみは謝りながら頷いた。
「そっか…見たんだ…あの、その中にさ…その…」
「…あれは、こなたが書いたの?」
「…うん…忘れて…ってのは無理か…」
 こなたはノートを鞄にしまいながら、バス停に向かって歩き出した。
 かがみも黙ってその後に続く。
 つかさだけが何が何やら分からず、こなたとかがみを交互に見ながら二人の後を付いていった。

 結局こなたは学校につくまで一言も喋らなかった。
 怒られると予想していたかがみは、拍子抜けしたようなもの悲しいような、複雑な気分だった。


595 :あのころ [saga]:2009/08/20(木) 01:16:56.34 ID:YedjPMk0

 休み時間に様子を見に行くと、こなたは机に座って頬杖をついてボーっとしていた。側には、心配そうな顔をしたつかさとみゆきが黙って立っていた。
 かがみは教室に入ることが躊躇われ、そのまま自分の教室へと帰った。

 昼休み。かがみはいつも通りに隣のクラスに行こうか迷ったが、こなたの事が気になり弁当を持ってこなたのクラスへと向かった。
 しかし、そこにいたのはつかさとみゆきだけだった。
「こなたは?」
 かがみがそう聞くと、つかさとみゆきは顔を見合わせた。
「それが…お昼休みになると同時に、どこかへ出て行ってしまわれて…」
「こなちゃん、朝から元気なさそうだったし、探しに行こうかって今ゆきちゃんと話してて…」
 二人の言葉を聞いたかがみは、一つ頷くと、
「探してくる。二人はそのままご飯食べてて」
 とだけ言って、弁当を持ったまま教室を出た。
 原因は、恐らくあのノート。だったら、勝手にそのノートを持ち出して覗き見した自分に責任があるはずだ。かがみはそう考え、こなたのいそうな場所を端から当たってみることにした。



 昼休みも半ばを過ぎたころ、かがみは屋上でこなたを見つけた。
 屋上にはそれなりに人がいたが、こなたはその誰とも遠い場所に座ってチョココロネをかじっていた。
「やっと見つけた」
 そう言いながら、かがみはこなたの横に腰を下ろした。
「…かがみ、なんでここに?」
「なんでって、あんたを探したからよ」
「…なんでわざわざ」
「んー…寂しがり屋のうさちゃんだからかしら」
「それ、自分で言っちゃダメだよ」
 そう言って、こなたは少し笑った。
「寂しいなら、たまにはみさきち達と食べてあげればいいのに」
「ごもっともでございますな」
 おどけた風に言いながら、かがみは自分の膝の上に弁当を広げた。
「でも、もう時間無いからここで食べるわよ」
「まあ、いいけどね」
 しばらくの間、二人は無言で自分の昼飯を食べていた。
「…ねえ、かがみ」
 少しして、チョココロネを食べ終えたこなたが、かがみに声をかけた。
「ん、なに?」
「わたしを探したのは、あのノートのこと?」
「…うん」
 かがみは誤魔化さずに頷いた。
「もしかして、責任感じちゃったとか?」
「相変わらず、変なところは鋭いわね…」
 あっさりと本心を言い当てられたかがみは、感心したようにそう言った。
596 :あのころ [saga]:2009/08/20(木) 01:19:15.79 ID:YedjPMk0
「そっか…でも、そんな大袈裟な話じゃないんだよ」
「でも、こなた朝から様子がおかしかったし…あのノートが原因みたいだし、勝手に持ち出したのわたしだし…」
「んー…だからそんな大袈裟なものじゃ…あのノートもなくしたと思って諦めてたから、今朝見せられるまで持ってかれてたの分からなかったし…朝からボーっとしてたのは、ちょっと昔のこと思い出してただけだから…」
「昔のこと…?」
「うん…あー…じゃあさ、責任感じてるんだったら聞いてくれる?わたしの、昔のこと。つまんない話」
「え?」
 かがみは驚いた。こなたがこんな風に自分のことを語ろうとするなんて、初めてのことだったから。
「…うん」
 それはとても大切なことだと感じ、かがみは少し居住まいを正して頷いた。
「そんな固くならなくていいよ…きつい話じゃないからさ」
「じゃ、予想以上にきつかったら、耳ふさいで逃げ出すわよ」
「オーケー」
 意識することなく叩いた軽口に、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「小学生の頃ね、友達がいなかったんだ…あっと、勘違いしないでね。イジメられてたとか、クラスで孤立してたとかじゃないんだ。ただ、ちゃんと話せる人がいなかったっていうか…クラスの子と話が合わなかったていうか…」
 そこでこなたは少し考え、二度ほど頷いてから言葉を続けた。
「小学生の時ってさ、大体みんなアニメとか特撮とか漫画とか好きだったじゃない?男の子は戦隊物とかロボットアニメとか、女の子だったら魔法少女物とかさ…かがみもそういったの、あったでしょ?」
「う、うん…」
「わたしはさ、お父さんのおかげでそういうの触れる機会が多かったんだ。だから、男の子の話も女の子の話も全部分かってた。相手の話を聞く分には、なんの問題も無かった…」
 こなたは溜息を一つついた。
「でも、わたしが話すとダメだった。かがみも知ってる通り、お父さんかなりディープなオタクだからさ。そこから得たわたしの知識もかなりディープになっちゃってね。それをそのままクラスで話してね…誰も、ついてこれなかったんだ」
 かがみは納得していた。その手の知識がそれなりに増えたかがみでさえ、ついて行けないことがあるこなたの会話。それを小学生が聞かされたら、それは引いてしまうだろう。
「それでもさ、わたしは話を聞いてもらおうとして、これはみんな知ってるんだって勘違いして、もっと知らないこと話さなきゃって知識を仕入れて、もっと引かれて、悪循環だって気付かずに続けて…最後には、わたし喋らなくなってた。黙ってて言われた。話、分からなくてつまらないって」
 話しているこなたの顔は穏やかだった。懐かしそうに頷いたりもしていた。
「人の話聞くの、嫌じゃなかったからさ。それだけで我慢しとこうって。今思ったら、子供っぽくない考えかたしてた。話聞いてるだけなら、わたしもみんなも嫌な思いしないなって…その頃になると、わたしも気付いてた。わたしの話しに、みんなが知りたいことなんて無かったんだって」
 かがみは、自分の弁当に手をつけるのも忘れてこなたの話を聞いていた。時折、笑顔すら見せるこなたの表情のおかげか、きつくも無いし悲しくも無かった。ただ、なんとなくやりきれない気持ちが少しだけあった。
「中学の時にさ、話の分かる友達が出来てさ、凄く嬉しかった。話を聞いてくれたし、理解もしてくれた。その子でも理解できないこともあったけど、分かるように努力してくれた。ちゃんと話が出来るって、友達と話が出来るってこんなに嬉しかったんだって、初めて知ったんだ」
「あ、あの…こなた」
 かがみは疑問に思うことがあり、こなたの話に口を挟んでしまった。
「ん、なに?」
「その頃ってさ、あんたのお父さんとは話しをしてなかったの?」
 あの父親なら、こなたとも普通に話が出来たはずだ。それでも、こなたは会話に飢えていたのだろうか、と。
「してたよ、普通に。でも、やっぱり違うんだ。お父さんと友達だと…あー、お父さんが悪いとかダメだとか、そう言う事じゃないんだけどね…家でお父さんと話すのと、学校とかで友達と話すのって全然違う嬉しさがあったんだよ。それを知っちゃったから、わたし我慢が出来なかった」
「…何を?」
597 :あのころ [saga]:2009/08/20(木) 01:20:40.98 ID:YedjPMk0
「かがみ達と知り合った時にね、わたしは最初オタクだってばらすつもり無かったんだ」
「え…」
 かがみにはそれは意外だった。常にオープンなオタク。かがみはこなたを事をそうだと、ずっと思っていた。恐らく、つかさやみゆきも。
「でもね、上っ面合わせた会話だと、ちっとも嬉しくなかった。もっと自分を出してみたくなった。わたしの知ってること、全部話したくなった。だから、そうした。かがみ達がオタクじゃないって分かってたから、また小学生の時みたいに引かれるんじゃないかって、すごく怖かったけど…」
 こなたはかがみの方を見た。そこには、心底嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。
「でも、それで良かったって今は思うよ。みんなわたしの話聞いてくれるから。かがみは眉間にしわ寄せてること多いし、つかさやみゆきさんは困った顔してることあるから、理解して貰ってるとは思えないけど、それでも聞いてくれる。ちゃんと聞こうとしてくれてる。それだけで、嬉しいんだ…」
「そう、だったんだ…」
「あ、つかさやみゆきさんにはこれ内緒だよ。かがみは流してくれそうだけど、あの二人は変に気を遣いそうだからさ」
「それはなんだ。わたしが冷酷な人間だって事か?」
「違うよー。これでもかがみの事、信頼してるんだよ?」
「じゃ、つかさやみゆきは信頼してない、と」
「違うー。もう、意地悪だなー」
「冗談よ」
 そう付け加えながら、かがみは少し笑ってしまった。
「…ねえ、かがみ」
「なに?」
「今日、ずっとあのノートのこと考えてた。アレを書いたわたしは、何を思ってたんだろうって」
「答えはでた?」
「…うん。もしかしたら、あの頃のわたしは、褒められたかったんじゃないかって。凄いねって言われたかったんじゃないかって、そう思ったよ…今はもう、そんな事ないと思うけど…って、かがみ?」
 かがみの手が、こなたの頭の上に乗っていた。そして、優しく撫で始める。
「ちょ、なに、かがみ…くすぐったい…ってか恥ずかしいよ」
「…凄いね、こなたは」
 かがみの呟きにこなたは驚き、そして目を細めた。
「恥ずかしいよ…かがみ…」
 その目に、ほんの少しだけ涙が浮かんでいた。


- 終 -
598 :あのころ [saga]:2009/08/20(木) 01:23:09.91 ID:YedjPMk0
以上です。

久しぶりに会話主体で書いてみたら、なんだか短くなった…。
あ、前のもこれも、自分で投下した小ネタを使ってます、はい。
599 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/20(木) 03:26:22.74 ID:GDwuJ3A0
>>598
GJ!
話を読んでていつの間にかあの頃のこなたの気持ちと自分とを重ねてしまっていた。
こなたたちのちょっとやそっとじゃ途切れない絆をうまくあらわしていると思う。
600 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/20(木) 08:48:34.39 ID:wPgEbuM0
>>590 >>591
おお、わざわざ過去スレを漁ってくれたか。
ルール理解。

スレが盛況なのを前提にしたルールみたいだし、延長は俺もありだと思う。
っつーか、俺第一走者だし、そういうルールってことにしちゃっていいよな!?
601 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/20(木) 12:17:05.30 ID:nPxSUASO
良いんじゃない?後1レスだしもったいないし
オチも気になるYO!!
602 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/20(木) 20:35:47.70 ID:tjcGf6M0
良いと思うよ
603 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/20(木) 21:21:26.63 ID:5gF/5iQ0
良いと思うわよ。
604 :リレー [saga]:2009/08/20(木) 23:34:07.68 ID:yE7y/Nw0
>>586
「もしもし、あ、かがみ、筆箱から甘味屋のタダ券が出てきたわよ、今朝欲しかったのってこれじゃないの?、今更だけど」
私は気が遠くなった、何故、そんなことがあるはずがない、私は返事をするのを忘れ携帯を切った。
教室に戻り、こなたが座っている机に向かう。
「こなた、どいて」
こなたが動くよりも先に私は机の中の自分の筆箱を取り出した。手紙は無事なようだ、しかし・・・タダ券がない。いくら探してもない。
「柊、何探してるのさ」
「無いのよ、無い、確かにここに入れたはず・・・」
「かがみ、無いって、タダ券かい」
こなたは私の探している物をすぐに見破った。私はこなたの目を見た。
「かがみ、私がタダ券渡したのはB組だよ、つかさが丁度トイレ行ってて、かがみが代わりにつかさの机片付けてたじゃん」
「勘違いってやつか、柊にしちゃ珍しいね」
日下部が人事のように軽く話す、しかしまったくその通り、私は筆箱を取り違えていた。まつり姉さんに追いついた時、筆箱の中身を見ておくべきだった・・・
そんな私をこなたは怒りもせずに日下部に話し出した。
「今日、甘味屋で集まることになってたんだ、みさきちも誘おうと思って持ってきたんだけど正解だったね」
こなたは財布から5枚つづりのタダ券を取り出した。そして最初にそうしたように微笑みながら私にタダ券を渡した。
「私は・・・」
言い訳をしようとした時、先生が入ってきた。補習に関係ない私は当然追い出される。廊下で一人になった。教室では補習が始まり先生の声がする。
私は最初の予定通り図書室へ向かった。

 誰もいない図書室、本を読むわけでもなく私は休み時間を待つ。いつの間にか私は今朝からの行動を振り返っていた。
早朝から姉を追いかけて、妹を泣かした。そして、学校まで来て私は休み時間を待っている。
そこまでして私は何をしようとしている。そう、見られてはいけないものを守るため・・・そう、あれは見られてはいけない手紙、絶対に見られてはいけない。
そんなことを考えていると。手渡されたタダ券を私はまだ手に持っていた。手を開いて5枚つづりのタダ券を見つめた。
そういえばあいつ、怒ってなかったな。何故? 私なら激怒して問いただす、今朝つかさにしたように・・・
いっそのこと怒ってくれた方が私は気が楽だった。それなら私も言い返してやったのに・・・

 気が付くと休み時間をとっくに過ぎ、補習の時間も終わろうとしていた。しまった機会を逃した。急いで教室に戻った。
教室に着くと、もう補習は終わっていた。他の生徒は居ない。こなたと日下部だけが残っていた。日下部が私に気付いた。
「柊、私も甘味屋行っていいかな」
「つかさとみゆきさんには了解を取ってるよ、あとはかがみだけ」
「断る理由はないわ、券も5枚あるし」
「やったー  ちびっこ、バス停まで競争だ」
言うと同時に日下部が走り出す。
「あー、まった、ずるい」
こなたも掛け出した。あっと言うまに二人は居なくなった。残ったのは私一人。バスが来るまではまだ時間がある。
自分の机の中の筆箱を取った。そして中の手紙を取り出した。
誰も居ない。今なら隠すことも、破って捨てることもできる。

 手が止まっている。どちらも出来きない。
この手紙は何日もかけて書いた手紙、目的は果たせなかったとは言え心を込めて書いた。今までないくらい心を込めて。それを厄介物扱い。
そして友達から預かった券さえ私は管理できず、失くしたことを人のせいにしている。一番嫌いな事を自分がしている。
そんな私をこなたもつかさもまつり姉さんも怒らなかった。何故か涙がでてくる。すぐには止まってくれそうにない。

 涙を止める方法を思いついた。
 「この手紙、みんなが見たらどう言うかしら」
私は一言そう呟き、手紙を折りたたみ、券と一緒に胸のポケットにしまった。涙を拭いバス停に向かう。
きっと一生忘れられない思い出になる。そんな気がした。

605 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/20(木) 23:37:42.38 ID:yE7y/Nw0
1レスに収めるのが大変だった。
へんな終わり方ですみません。
分岐もOKみたいだし、もっといいラストお願いします。
606 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/20(木) 23:40:50.42 ID:YedjPMk0
>>604
〆乙です。

すんなり終わらなかったのは、リレーで俺が投下した部分と、期間中に投下したSSが邪魔だったんじゃないかと思ったり…。
607 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/21(金) 00:37:33.89 ID:6c3/t7Uo
>>605


>>606
関係ないから心配すんな。元々こんなもんだww
608 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/21(金) 07:14:57.03 ID:Wp5t.wSO
>>605
おぉ、上手くまとめたな乙
609 :命の輪の縁 [saga]:2009/08/21(金) 14:16:16.28 ID:Y1ZcYrM0
投下いきます。

久しぶりに命の輪のシリーズで、軽い人の軽いお話です。
610 :命の輪の縁 [saga]:2009/08/21(金) 14:17:07.04 ID:Y1ZcYrM0
「先輩、おっそいなー」
 ひよりはぼやきながらコップに入ったアイスティーをストローでかき回した。
 稜桜学園の最寄の駅に近い喫茶店。高校時代、放課後にみんなでよく寄っていたこの店は、社会人になってからも待ち合わせ等でよく利用していた。
 今日はこなたと仕事の打ち合わせの予定だったが、肝心のこなたが時間を過ぎても一向に現れず、ひよりはアイスティー一杯で粘る羽目になっていた。もっとも、こうしたことはしょっちゅうであり、すっかり顔なじみになった店員も、ひよりの事は気にも留めていなかった。
「…先輩、今日は一段と遅いな…相変わらず携帯に出ないし…」
 再びぼやきながら、ひよりは店の入り口の方を見た。すると、丁度一組の男女が店に入ってくるところだった。
 なんだ、カップルか…と、未だに彼氏の一人も出来ない自分の身を恨みながら、ひよりは視線をアイスティーに戻そうとし、そして勢いよくカップルに顔を向けた。
 カップルの女性の方。それはひよりの良く知る人物だった。
「パティ!」
 思わず、大声でその名を呼ぶ。
「ハイ?…って…ヒヨリ!?もしかしてヒヨリデスカ!?」
 パティもひよりの姿を確認すると、大声で名前を呼びながら早足でひよりの方へと向かった。そして、椅子から立ち上がったひよりに思い切り抱きつく。
「あははっ!やっぱりパティだ!なっつかしーなー!」
「イエスッ!まさかここでアえるとはオモいませんデシタ!」
 パティとひよりが最後に会ったのは、高校を卒業しパティの留学期間が終わって、母国へと帰る際の空港だった。手紙や電話などで連絡は取り合っていたものの、直接会うのは本当に久しぶりの事だった。
「髪、伸ばしたんだね。パッと見でわかんなかったよ」
 ひよりが身体を離しながらそう言った。高校時代はショートカットだったパティの髪は、肩を少し越えるくらいまで伸びていた。
「…それに」
 と、高校時代の時の抱擁とは、少し違う感覚を覚え、ひよりは眉間にしわを寄せた。
「もしかして、胸少し大きくなった?」
「ハイ、すこしですケド…」
 胸の辺りを凝視するひよりの視線に、パティは照れくさそうに頭をかいた。そして、パティは何か考えるように顎に手を当て、ひよりを上から下まで眺め、やはり胸の辺りで視線を止めた。
「ヒヨリはあんまりかわってまセンネ…イロイロと…」
「ほっといてよ…」


- 命の輪の縁 -


611 :命の輪の縁 [saga]:2009/08/21(金) 14:18:19.76 ID:Y1ZcYrM0
「ところで気になってたんだけど、その人は?」
 ひよりは、自分の向かい側に座ったパティ達を眺めながらそう聞いた。パティと一緒にいた男性は、髪と眼がパティと同じ色をし、190cmはあろうかという高身長で、体格もがっしりしていて、並んでいるとパティが小柄に見えるくらいだ。
「ワタシのハズバンドですヨ」
「ハズ?…ああ、夫…って、夫ぉぉっ!?いつ結婚したの!?」
「ついセンジツです」
「…うああ…パティにさき越されるとは…」
 うなだれるひよりに、パティの夫が手を差し出してきた。
「どうも、初めましてひよりさん。高校時代の、一番仲の良い親友だったと、妻からよく話は聞いてますよ」
「あ、はい…初めまして…」
 ひよりはグローブのような大きな手を恐る恐る握り返した。
「…に、日本語、お上手ですね…ってか、パティよりはるかに流暢だ」
「はははっ。実は仕事で初めて日本に来たときに、日本語が話せなくて大変な目にあいましたから、猛勉強しましたよ」
「スゴいデショ?」
 夫の隣でなぜかパティが胸を張る。
「うん、まあ確かにすごいっちゃすごいよね…」
 脱力してしまい、アメリカンな夫婦を交互に眺めてしまうひより。顔を見比べてみると、なんとなく気になることがあった。
「ってか、パティと旦那さんって歳離れてる?…なんか、旦那さんすごい年上に見えるけど」
「ハイ。10イジョウはハナれてますヨ。ワタシがジュニアハイスクールのコロには、もうシャカイにでてましかカラ」
「マジで…パティって、年上趣味だったんだ」
「イエイエ、アイにトシはカンケイありませんヨ。ヒヨリ」
「さいですか…」
「ヒヨリはケッコンとかヨテイないんですカ?」
「…手紙とかで、あえてそういった話題に触れなかったことで察して…彼氏すらいないわ…」
「そ、そですカ…」
 ひよりから立ち上る妙なオーラに、パティは思わず身を引いてしまった。
「そういえばそういうハナシ、ゼンゼンきいてないですネ…ホカのヒトはどんなカンじなんでスカ?」
「あー…泉先輩とつかさ先輩は結婚してて、泉先輩の方には子供もいるなあ。かがみ先輩と高良先輩は付き合ってる人がいるとか聞いたけど…」
「ユタカとミナミはどうですカ?」
「ゆーちゃんはなんか最近彼氏が出来たようなこと言ってたなあ。でも、みなみちゃんの方はそう言う話まったく聞かないんだよね」
「ナルホド」
「あ、泉先輩で思い出した…」
 ひよりは時計を見ながら顔をしかめた。
「ドウカしましたカ?」
「今日、泉先輩と仕事の打ち合わせだったんだけど…まだ来ないんだよね」
「コナタ、ジカンにルーズなのは、アイカわらずですカ…コナタのシゴト、ショウセツですよネ?オクられてきたデビューサクよみましタ」
「うん。最近、挿絵頼まれるようになってね」
「デモ、あのテのハナシだと、ヒヨリとサクフウがまったくチガいませんカ?」
「まあねえ…泉先輩のお父さんの本見させてもらって、それの挿絵参考にしてなんとかってところだけど…ぶっちゃけ、後輩だから使いやすいって理由が大きい気がするよ…」
「ごめん、ひよりん!遅くなった!」
612 :命の輪の縁 [saga]:2009/08/21(金) 14:20:04.20 ID:Y1ZcYrM0
 ひよりがそこまで話したところで、喫茶店のドアを勢いよくあけてこなたが入ってきた。そして、真っ直ぐにひよりの方へとやってきて、向かいに座っているパティ達に気がついた。
「あれ?誰…ってパティ!?」
「ハイナ!おヒサシぶり」
「君はあの時のカラテガール!」
「…はい?」
 パティの言葉を遮って、旦那の方が大声を上げながら立ち上がった。
「ははははっ!まさか、こんなところで会えるなんて思いませんでした!奇遇ですね!」
 上機嫌でこなた背中を叩くパティの旦那。結構強く叩かれているのか、こなたは痛そうに顔をしかめていた。
「…え、えっと…どちら様でしたっけ…?」
「覚えてませんか?あなたに追い払われた、悪党です」
「え?…あ…あー!あんときの!」
「…パティ、どゆこと?」
「…サア、ワタシにもさっぱりデス」



「…つまり、つかさ先輩がこの人に道を聞かれてたのを、襲われてると勘違いした先輩が襲い掛かかっちゃったと」
 こなたとパティの旦那の話を聞いたひよりは、なんともいえない溜息をついた。
「いやまあ…その節はとんだご迷惑を…」
「はははっ。問題ないですよ。あの時のことがあったから、日本語を学ぼうと思い立ったわけですし、その関係でパティとも出会えましたから、むしろ礼を言いたいくらいですよ」
「そ、そですか…」
 襲った本人を目の前にしては、さすがのこなたもバツが悪いのか、ひたすらに恐縮していた。
「それにしても…なんというか、逞しいですね」
 こなたがそう言うと、パティの旦那はニカッと白い歯を光らせた。
「学生の頃に、アメリカンフットボールのラインマンをしていましたから。今でも、なまらないようにジムで鍛えてますよ」
 言いながら旦那は力こぶを作ってみせる。丸太のようなその腕は、こなた程度なら五人くらいはぶら下がれそうだ。
「…先輩…よくこんなの追い払えましたね…」
「…う、うん…あの時のことは夢中だったから、あんまり覚えてないけど…普通無理だよね…」
「いやいや、なかなかガッツの入ったパンチとキックでしたよ。さすがに反撃するわけにもいきませんでしたから、逃げさせて貰いましたけどね」
「…よかったですね、先輩…」
「…うん…反撃されてたら、死んでたね…」
 そういったやりとりを笑いながら聞いていたパティが、時計を見て驚きの声を上げた。
「ダーリン。ツもるハナシもありますケド、そろそろジカンですヨ」
「おっと、もうそんな時間ですか。それじゃ、行くとしましょうか」
「これから、どっかいくの?」
「ハイ。キョウはアキバホウメンをセめてみたいとオモいまス」
「ここは私が奢りますので、お二人はゆっくりして行ってください」
 そう言いながら、パティの旦那がレシートを取り上げる。それを見たこなたが、慌てて席を立った。
「い、いやいいですよ。なんか悪いですよ…」
「私の人生の転機となった女性とまた会えた。その記念だと思ってください」
 そう言ってまたニカッと歯を光らせると、旦那はレシートを持ったままレジへと向かった。
「…なんつーか…日本人っぽい考え方する人だね…」
「…そっすね…そういや、パティ。なんでまた日本に来たの?」
613 :命の輪の縁 [saga]:2009/08/21(金) 14:21:38.85 ID:Y1ZcYrM0
「ハネムーンですヨ」
 ちょっと近所に、といった感じで答えるパティに、こなたとひよりの眉間にしわが寄った。
「ハネムーンで秋葉か…」
「…先輩は人のこと言えない気がするッスけど…」
「そういうワケで、イッシュウカンほどこっちにいますカラ、ミンナでノみにでもイきまショウ!」
「…いや…ハネムーンで飲み会とか…」
「ダイジョウブです!ダーリンもにぎやかなのはダイスきですカラ!」
「うん、まあいいけどね…」
「いいって…先輩飲めないんじゃ…」
「そうなのデスカ?」
 パティが意外そうに言いながら、こなたを見た。
「うん、まあ。子供生む時に色々あってね…身体に悪いことは、極力控えるようにしてるんだ」
「そうだったのデスカ」
「でも、まあ。よっぱらい見るのは好きだから、参加はするけどね」
「オーケー!さすがコナタでス!」
 パティが親指を立てながらそう言うのを見て、こなたはなんとなく懐かしい気分になった。
「パティ、そろそろ行きますよ」
 旦那が入り口の方かそう呼びかけてきた。パティは自分が長話をしてるのに気付き、慌ててそっちに向かう。
「ソーリー…ついハナしこんでしまいマシタ…っと」
 その途中で、パティはこなた達の方へと振り返る。
「コナタ!ヒヨリ!またアいまショウ!」
 目一杯手を振りながらそう言うパティに、こなたとひよりは笑顔で手を振り返した。



「あの人、人生の転機になったって言ってたよね」
 二人になり、仕事の打ち合わせに必要な資料を広げながら、こなたはそう呟いた。
「あの出来事はさ、わたしのとっても転機だったんだよね」
「そうなんスか?」
「うん。あの事があったから、つかさと友達になれて、その縁でかがみやみゆきさんとも友達になれたからね」
「なるほど…」
 こなたは手を止め、すこし懐かしそうに天井を見上げた。
「その人がパティの旦那さんとはね…」
「人の縁って、どこでどう繋がってるか分からないものッスね」
「だねえ…でも」
 こなたは顔をひよりの方へ向けた。
「面白いよね。こういうのって」
 そう言ってこなたは、心底楽しそうに微笑んだ。


- おわり -
614 :命の輪の縁 [saga]:2009/08/21(金) 14:23:52.54 ID:Y1ZcYrM0
以上です。

なんか区切り方が変になった…読み難かったらすいません。
それにしても、短いのばかりとはいえ、一週間の間に三作投下とか、大丈夫か俺…?
615 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/21(金) 18:49:31.90 ID:P.HQCKs0
知らねーよ…
616 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/21(金) 19:55:52.04 ID:6c3/t7Uo
>>614
久々だな乙。大変な目ってそれかよww
理解した瞬間笑っちまったぜ。GJ!
617 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/21(金) 20:07:05.48 ID:Knk311.0
>>614
乙です
パティの口調ってとても難しい。自分の作品に出せない。
何かコツとかあるのですか?
618 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/21(金) 23:31:24.42 ID:Y1ZcYrM0
>>617
コツと言うのは特に…
俺の場合は、基本敬語で人名と漢字部分と語尾をカタカナにしてますね。
原作がこういう表記だったので、それを真似てます。
ただ、ハイテンションなキャラが苦手で、妙に落ち着いたパティになってしまいますが。
619 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/22(土) 09:49:02.61 ID:mfRg0Dgo
>>618
おお。なるほど
俺は617じゃないけど、これはすごい参考になったよ!

……って、パティ動かせる人にとっては常識なのか?
620 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/22(土) 10:44:13.23 ID:wvRYSKo0
>>618
大変参考になりました。
14回コンクールでパティ出そうとして口調がどうしても再現できなくて
パティ出すの断念した。
もっと早く聞いておけばよかった。
621 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/22(土) 11:18:53.78 ID:fH7G8Gg0
めずらしく誕生日をスルーされたかなたさんであった。
あ、そうじろうもでしたね^^
622 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/22(土) 12:35:31.62 ID:NmdkyMSO
あーすっかり忘れてた… orz
話の大筋は思い付いたけど、今から書いたらだいぶオーバーしちゃうなあ
623 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/22(土) 12:52:21.60 ID:wvRYSKo0
>>621
まるっきり知らなかった。
>>622
別にオーバーしてもいいんじゃない?
夏に冬のネタ投下しても問題ないわけだし
624 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/22(土) 23:47:45.40 ID:wvRYSKo0
ところでリレーのタイトル何がいいかな?
紛失? 忘れ物? 
そんなところでしょうか?
それともタイトルなし?
またはまとめてくれる人に一任するとか?
625 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/23(日) 08:59:25.20 ID:PdwecESO
かがみの〇〇〇とかで良いんじゃない?
リレーの1が決めても良いと思う
626 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/23(日) 11:07:42.26 ID:5QosmQSO
>>625
ゆたか「え、えっちなのはいけないと思います!」
みなみ「…ゆたか…たぶん、違うと思う…」
627 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/23(日) 11:10:27.30 ID:RECt6OU0
>>625
賛成です。リレー1の人に決めてもらいましょう
628 :劇中劇 :2009/08/23(日) 12:10:30.11 ID:Z6GiMHAo
投下行きます。
パラレルワールド(?)にて、諸事情あって養護施設に保護された面々を白石視点で描きます。
ちょい欝でちょいエロです。

>585
重かったですか。でも面白いと受け取ってもらえてよかったです。
あまりメディアでは語られない境遇の人について考えるきっかけになればと思います。
629 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/23(日) 12:14:49.05 ID:Z6GiMHAo
 ただでは起きない

 トイレから戻る途中、バタバタ走る音が聞こえた。
「え、う、れ、かぁあああああああ!」
「田村さん、白石君もいるんですから」
「男が怖くて腐女子やってられないっス!」
 田村……趣味が合うのかこなたとよく話していたな。ひよりって名前だったっけ。
 今は女子の入浴時間、そしてみゆきさんの発言から察するに、いつぞやのみさおと同様、いや、それ以上に物凄い格好と思われる。
 見るまいと声とは反対側を向く。
 さてどうしたものかと考えていたら足音は接近してきた。
「どけどけどけ〜!」
 衝撃が襲い掛かり、一瞬だが意識が飛んだ。
 身を起こすと、すぐそばのドアが開き形のよい尻と長髪が駆け込んでゆくのが見えてしまった。
 どうやら、やり過ごそうとしていた俺は彼女の進行ルートを妨害していたらしい。
 もう手遅れになったと判断したみゆきさんにため息混じりに助け起こされる。
「一体何があったんです?」
「田村さん、お風呂入ってるときに漫画のアイデアが降臨したようですね。時々ああなるんですよ」
「腐女子とか言ってたな。わざわざ自分の部屋まで戻らなくても、脱衣所にメモ帳置いときゃいいんじゃ」
「私もそう思うんですが、思いついたときに走り書き程度じゃなくて詳しく書いておかないと何が言いたかったのかさっぱりで、詳しく書くにはメモ帳くらいではダメみたいです」
「難儀な人だ」
 全裸もお構いなしで全力疾走するアルキメデス状態も女だらけ故の問題らしい。
 しばらくして、悔しそうな雄たけびが聞こえた。
 結局は間に合わず、降臨したアイデアは消えてしまったらしい。
 扉が開き、幸か不幸かバスタオルを巻いて出てきたひよりは俺を睨みつけ……。
「白石君がボサっと突っ立ってたせいでアイデア忘れたじゃないスか!」
「八つ当たりだー!」

630 :劇中劇 [saga]:2009/08/23(日) 12:17:04.41 ID:Z6GiMHAo
 で、どういうわけか彼女の部屋でモデルをやらされた。
 これまでもほかの子やみゆきさんにモデルやってもらってたそうだ。
 だが、骨格やら筋肉のつき方やら、やはり本物の男の方が断然参考になるとのこと。
 しかし、取らされてるポーズは四つんばいになって尻を突き出したり仰向けになって背を逸らしたりで、漫画の内容が非常に心配だ。
 ひよりの爛々とした目は創作活動への集中の現われだと信じたい。
 ちょっと怖いけど。

 デッサンの傍らで香具師の人たちとの生活を事細かに聞かれた。
 様々な人が集まりトラックの荷台などで寝泊りするカオスな状況で妙な事態が発生するのを期待してたのか、ひよりの目はよりいっそう爛々と輝いていた。
 自分の過去に興味もたれるってのも、まあ悪くはないものだ。
 かなり怖いけど。

 幸か不幸かソレらしいエピソードはないので語れなかったが、香具師の生活というシチュエーションは彼女にとって新境地だったらしく、猛烈な勢いで妄想が加速しているようだ。
 自分の境遇を語って喜ばれるってのも貴重な体験だよな。
 非常に怖いけど。

「なんか、その、凄い気迫だな」
「ん? そりゃあね。皆の生活とか人生かかってますから」
「……え? 同人誌の売り上げがここの運営に当てられてるとか?」
「あ、そうじゃないっス。だけど国から貰えるお金や自分でやるバイト代だけじゃどうにもならないことありますから」
 たとえば学費や医療費など。
 諸事情あって奨学金などの制度が利用できないことがある。
 命に関わるものではないとはいえ、目立つ傷跡が人間関係において重大な問題になることも少なくない。
「精神的に強くなって乗り越えられればそれにこしたことはないけど並大抵のことじゃないし、そのための努力は皆と共感できる武勇伝にはなかなかならないっス。現代医学の力でハードル下げられるならそれでもいいと思いません?」
631 :劇中劇 [saga]:2009/08/23(日) 12:18:05.07 ID:Z6GiMHAo
 俺やゆたかちゃんの体に残る痕跡、みさおの発作、そしてつかさの思いつめた顔を知る俺には、その考えを否定はできなかった。
 特に女の子の場合、目立つ傷跡がどれほどの足枷になるかは想像に難くない。
 しかし人に気を使わせないくらい綺麗に治そうとしたら相当に金がかかる。保険が適用されないケースもある。
 だからといって大人になって稼げるようになるまで我慢しろというのはあまりにも酷だった。
 だから入所者同士で出し合ったり、ここを巣立っていった者が寄付した金をそういった問題解決にも充てているという。
「家族みたいなものっスから。私だってそうやって皆や、足長おじさんならぬおば……いや、お姉さんに助けてもらってたし」
 利き腕である左手を労わるようにさすっていた。
「だから同人を?」
「あ、それだけじゃないっス。趣味と実益と、セラピーも兼ねてます」
「セラピー?」
「芸術療法っての? 私の場合、カウンセリングの一環で自分の経験を絵にしてました。それがきっかけでこっちの路線に進んだっス。自分の体験も、アレンジしてマンガにしちゃうとすっごくラクになるんス」
 赤面しつつ差し出されたスケッチブックを見てのけぞった。
 老若男女問わずあられもない格好で、モザイクかけないと放送できないようなことをしていた。
 どうやら男性恐怖症の引き金になりそうな理由で家庭に居られなくなった子の一人がひよりのようだ。
 しかし、どこからどこまでが実体験? アレンジの度合いはどれくらいだろう。
「……わからないならそのほうがいいし、無理にわかってもらう気もないっス」
 俺の疑念に気づいたのか、寂しげに言い俯いた。
「いや、その」
 そういった経験を持つ女の子とどう接すればいいんだ。
632 :劇中劇 [saga]:2009/08/23(日) 12:19:24.01 ID:Z6GiMHAo
「――でもね、こうして、マンガのネタにはなりそうだからいいかナ――と」
 ゆらー、と体勢を立て直し、怪しげな笑みを浮かべる。
 たくましいなぁ……と、考えておくべきだろうか。
 ちょっと怖いけど。
 形がどうあれ笑えるようになったなら喜ぶべきなんだろうか。
 かなり怖いけど。
 確かに、共感得られる武勇伝にはならないな。
 非常に怖いし。
「って、これに書かれてる女の子、ゆたかちゃんと……なんて言ったっけ? 無口な子、仲良くしてたけど」
「岩崎さん?」
「岩崎さん、か。あのふたりがモデル? 身近な人をこういうのに使うのってまずくないか?」
「私もそう思うんだけど、あのコンビ見てるとあれこれ想像掻き立てられるっス。でも似せないようにって考えると余計に似ちゃったり、逆にキャラの個性がなくなっちゃうし」
「腐女子ってのは業が深いな。いっそのこと無理に似せないようにって考えないで、何人かの特徴を混ぜたらどうだ? 顔立ちとか性格とか部分的に切り張りして」
「……!?」
「ど、どうした?」
 頭を抱え悶えだした。何か地雷踏んだか? みさおのように発作起こしたか!?

「小早川さんと岩崎さん、あの二人の間に生まれた子供とか考えちゃって」
「おいおい、女同士だろ」
「……!? ら、らめぇ! 女同士なのに子作りとか、うあああーっ、自重しろ自重しろ私ーっ!!!」
「本当に自重しろ、一つ屋根の下で暮らす仲間なんだし」
 まずいとは理解してるんだよな。
「一つ屋根の下……男女比のバランスが偏ってるから調整……ごはぁっ!? どちらか一方が男装……、やっぱり岩崎さんがかっこいい男、いやいや、意表を突いて小早川さんがショタ、いやいや、いっそのことふたりとも男装、いや、男の娘に……」
「一周して元通りの女の子だろ」
 男の娘という表現がわかってしまったのはこなたの影響か。
「男装っ子と女装っ子のいいとこどり……やめて!! これ以上私をオカシくさせないでっ!!」
 あふーんと怪しげな吐息と共にひよりは悶絶した。
「駄目だこいつ……早く何とかしないと」
633 :劇中劇 [saga]:2009/08/23(日) 12:20:24.92 ID:Z6GiMHAo
 異様な光景に恐れおののいていたら、これまで傍らで沈黙を保ちアシスタントにいそしんでいたみゆきさんがひよりをベッドに運んだ。
「あの、本当にセラピーの効果出てるんですか?」
 悪化してないかコレ。
「ええ、きちんと回復してるんですよ、これでも。だいいち、そうでなくては男性である白石さんにそんな格好のモデル頼んだり、ここまで自分をさらけ出したりはできませんから」
 その言葉に、急に気恥ずかしくなり服を着なおす。
 これまではトランクス一丁でモデルやらされていたのだった。
「なんというか、さらけ出しすぎのような」
 あいかわらずピンク色の妄想が暴走して悶えるひよりに戦慄していた。
 性的虐待ってのは大いに人格を歪めるんだな。
 でもまあ、みさおの発作と違い苦痛は見受けられないのがせめてもの救いか。過剰な萌えに脳がオーバーヒートしてるだけらしい。
 一応、そこに愛はあるんだろうな。形はどうあれ。
 みゆきさんがひよりを楽な姿勢にしながら言う。
「こうして同人誌を書くことは、田村さんも私も精神に張りをもたらしてるんです」
「え?」
「その……男の人って、こういうのを使用して処理してしまえば、性犯罪なんてしようとはしなくなるのでしょう?」
「そりゃそうなんだけど」
 同意を求められても困る。
 しかし、みゆきさんは兄の世話を通してそれを実感してしまってるんだろうな。
「だから性犯罪を防いでるって自負があるんです。それに、どんな境遇の人が作ったのかなんて予備知識なしに評価され、本当に必要としてる人に妥当だと感じる値段で買ってもらってます。経費に公金は一切当てていないし、お情けで買ってもらってるわけじゃない。だから、これで稼ぐのを誇りに思ってますよ」
 なんかドス黒いオーラを感じる。優しい言葉や振る舞いの裏で色々思うことはあるらしい。
634 :劇中劇 [sage]:2009/08/23(日) 12:21:32.07 ID:Z6GiMHAo
「それに、私がアシスタントするきっかけは田村さんのお手伝い、つまりお世話という形だったんです。内容が内容なんで年齢制限に引っかかってしまい、私が代理で発表する必要もありましたし」
「いいんですか? それ」
「微妙なところですね。でも、私もこうしてお世話以外のお仕事ができて、ソレの評価もされたんです。もっともっと描きたい、読んだ人に楽しんで貰いたい、こんな気持ちは初めてです」
 世話以外のことを知らず、知ることに恐怖すら抱いていたみゆきさんが新しく見つけた『たい』、応援するべきなんだろうな。
 その『たい』がどんな形であれ。

 というわけで応援と自分に言い聞かせひよりのモデル依頼に乗っては、俺の何気ない発言で妄想を暴走させる日々が続く。
 放っておいたら萌え死にしそうな悶え方に、本当にセラピーの効果は出ているのかという疑念は強まっていくのだった。


??「……濃いな」
ひより「濃すぎますよね……」
??「いい味出してるんだけど、さじ加減が難しいなコレは」
ひより「わかります」
??「でもいいキャラになりそうだ、う〜む」
みのる「しっかし、自立って何なんだろうな」
??「主人公の父親、こういうキャラにしようと思うんだけど、そういう経験ある子にとってはまずいかな」
ひより「……いいキャラっス。あのゲス野郎と比べたら失礼っス。だいいちフィクションなんだし」
??「そうか、なら大丈夫かな」
ひより「どんなネタでも誰かを傷つけてしまう可能性はあるんだから配慮は必要でしょうけど、そんなのキリないっス。傷つけてしまう覚悟無しに言葉や思いを発する創作活動はできないっス!」
みのる「??さんと二人して涙流して頷きあってる……なんか怖いぞ」
635 :劇中劇 [saga]:2009/08/23(日) 12:24:35.18 ID:Z6GiMHAo
以上です。
自分の経験やらなにやらとひよりの妄想について考えてしまったことを盛り込んでみました。

>629ではタイトル入れ忘れました。
636 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/24(月) 09:03:50.43 ID:vrLfkvY0
 投下行きます。
 作中記載の王国カルテットのうち3名の名前は推測に基づいてます。ストーリーには全く影響はありませんが。
637 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:04:53.77 ID:vrLfkvY0
0.闇の中へ
 三人の死体を見下ろす。
 人は死ねばただの死体だ。どんなに偉大な人物であろうとも。
 目の前にあるのは、ただその事実だけだった。

 部下が、もう一体の死体を搬入した。
 扉の鍵を閉め、密室状態を作り出す。
 あとは、隠し扉から逃走するだけだ。
 組織の構成員のほとんどは、既にこの東京からの退避を完了している。あとは、ここにいる数人のメンバーだけだった。
 組織を解散し、身分を偽装して、全国に散らばる。それで、命令は完遂だ。
 組織のすべてを闇の中に葬る。

 それでいい。
 でも、

「いささか残念ですよ。あなたがたを生かしていれば、まだまだ面白いものが見れたかもしれない」

 そう思わせるだけの魅力があの三人には備わっていた。
 だが、それももう過去のことだ。

 彼女はすべてを振り切るように、闇の中へと消えていった。


638 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:05:53.49 ID:vrLfkvY0
1.現代史小事典より

小早川ゆたか
 (中略)
 幸星党総裁を辞任したあと、新星党を結成し初代総裁に就任したが、まもなく死去。


幸星党幹部密室殺人事件
 新星党が結成後初の勝利をおさめた衆議院議員総選挙直後に、幸星党本部総裁室で党幹部四名(泉こなた総裁、柊かがみ幹事長、高良みゆき、永森やまと)の他殺体が発見された事件。
 当時、総裁室は密室状態で、残された証拠が乏しかったことから、迷宮入りした。犯人はいまだに判明していない。
 この事件で中核メンバーを一気に失った幸星党は解体し、党員のほとんどが新星党に移籍した。


第二次中央省庁再編
 天原ふゆき内閣下で行われた中央省庁の再編のこと。
 主な内容は下記のとおり。
 (中略)
 これに伴い、副大臣制度を廃止して、担当大臣制度を創設した。各省には、総括大臣と複数の担当大臣が置かれることとなった。なお、総括大臣と担当大臣はともに憲法上の国務大臣として内閣を構成する。


対北朝鮮自衛戦争
 天原ふゆき内閣末期に勃発した戦争。日本国初の防衛出動命令が発令された。
 衆議院議員の任期満了を目前とした政治的には微妙な時期の戦争となった。
 開戦前は一貫して対話路線をとっていた天原首相であったが、北朝鮮のミサイル攻撃(少なからぬ数の核弾頭が含まれていたと見られている)を全弾迎撃したあと、タンカー改装空母を用いて北朝鮮のミサイル関連施設・核関連施設を徹底的に叩くなど、積極果敢な反撃を指揮した。
 その後の北朝鮮海空軍の攻勢を撃退して、北朝鮮軍の対日攻撃能力をほぼ喪失させた時点で、一方的に終戦を宣言し、戦争は終結した。ただし、北朝鮮政府はいまだに戦争状態は継続していると声明している。
 天原首相は戦争の責任をとって新星党総裁を辞任。後任の総裁には岩崎みなみが就任した。ただし、天原ふゆき内閣自体は、衆議院議員総選挙が終了するまで、選挙管理内閣として存続した。

639 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:07:42.60 ID:vrLfkvY0
岩崎みなみ内閣
 天原ふゆき内閣の次の新星党政権。
 前首相天原ふゆきを厚生労働総括大臣に任命した異例の人事が話題となった。
 閣僚は、下記のとおり。

 内閣府
  内閣総理大臣 岩崎みなみ(新星党総裁)
  内閣官房長官 日下部あやの(新星党幹事長)
  地方制度担当大臣 泉そうじろう
  行政管理担当大臣 小早川ゆき
 法務省
  法務総括大臣 桜庭ひかる
  司法制度担当大臣 成美ゆい
  法制担当大臣 中谷あくる
  警察公安担当大臣 桜庭ひかる(法務総括大臣兼務)
 外務防衛省
  外務防衛総括大臣 黒井ななこ
  外務担当大臣 魔天ぱとりしあ
  防衛担当大臣 日下部みさお
 財務金融省
  財務金融総括大臣 八坂こう
  財務担当大臣 柊みき
  金融担当大臣 宮河ひかげ
 文部科学省
  文部科学総括大臣 宮河ひなた
  教育担当大臣 柊ただお
  文化体育担当大臣 田村ひより
  科学技術担当大臣 成美きよたか(経済産業総括大臣兼務)
 厚生労働省
  厚生労働総括大臣 天原ふゆき
  医療保健担当大臣 天原ふゆき(厚生労働総括大臣兼務)
  労働担当大臣 大原こまち
  社会給付担当大臣 高良ゆかり
 経済産業省
  経済産業総括大臣 成美きよたか
  第一次産業担当大臣 柊つかさ
  第二次産業担当大臣 柊いのり
  第三次産業担当大臣 柊まつり
  運輸通信放送担当大臣 小神あきら(内閣広報官兼務)
  資源エネルギー担当大臣 柊いのり(第二次産業担当大臣兼務)
 国土環境省
  国土環境総括大臣 白石みのる
  国土開発担当大臣 兄沢命斗
  環境担当大臣 音無りんこ


640 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:08:44.46 ID:vrLfkvY0
2.岩崎みなみ
 みなみは、地道にスケジュールをこなしていた。
 カリスマも指導力もあるわけではないけれども、淡々と仕事をこなしていく。そういう意味では、彼女は前首相天原ふゆきのスタイルを引き継いでいた。
 彼女がこの大任を引き受けることにしたのは、ゆたかの遺言──私のためじゃなくて、みんなのために生きて──を、彼女なりに実現しようと思ったからだった。
 それゆえに、彼女はいつも真面目に仕事をしていた。
 それは、まもなく政権二年目に突入しようという今でも変わらない。

 コトン。

 机のうえに、お茶が差し出された。
 顔をあげると、そこにはあやのがいた。
「あやの先輩、すみません」
「岩崎ちゃん。ちょっと頑張りすぎじゃない?」
「そんなことは……」
「田村ちゃんやパティちゃんみたくなれとはいわないけど、適度に休まないと駄目よ」
 ひよりとパティは、今、仕事そっちのけでコミケの準備にいそしんでいた。
 まもなくお盆の時期。夏のコミケも近い。
「いえ、私は大丈夫ですから。ひよりとパティには、私から厳重注意いたします」
「今のところは公務に支障は出てないからいいと思うわ。度がすぎるようだったら、私がお仕置きしておくから」
 あやのはそういい残して立ち去っていった。

 みさおの弁では「あやのは怒らせると怖い」という。
 みなみは、怒ったあやのの姿を想像しようとしたが、できなかった。


641 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:09:56.80 ID:vrLfkvY0
3.日下部みさお
「う〜」
 みさおは、防衛担当大臣室の机の上でダレていた。
 対北朝鮮自衛戦争では自衛隊員の士気をおおいに鼓舞した元気娘は、書類を前に頭を抱えていた。

「みさちゃん」
 柔らかく呼びかける声に顔をあげると、いつもどおりのあやのの姿があった。
「あやの〜、助けてくれ〜。難しいことはよくわかんねぇよ〜」
「確かにこの問題はみさちゃんには荷が重いかもね。でも、これは政府全体の問題だから、みさちゃんだけに負担をかけるつもりはないわ」

 現在抱えている問題。それは、対北朝鮮自衛戦争で活躍したタンカー改装空母関係の問題だった。
 どうやら旧防衛省・自衛隊の上層部も預かり知らぬところで進められてきたらしく、タンカー改装空母整備計画の立案から、航空機搭乗員の訓練計画、改装資材備蓄の予算に至るまですべてが不明朗だった。文民統制の原則からして大問題である。
 問題の発覚当時は北朝鮮をめぐって緊張が高まっていた時期だったので真相究明は後回しにされたが、戦後一年近くかけて調査しても真相はさっぱり分からない状態だった。

「よし、あやのと黒井先生にまかせた。私は逃げるぜ」
「それは駄目」



4.黒井ななこ
「ぶぇっクション!」
 派手なクシャミが響き渡る。
「なんや、誰かうちの噂でもしとるんかな」
 ななこは、珍しく仕事を早めに切り上げて帰ってきて、シャワーに入ったところだった。

「今日は久しぶりにネトゲでもするか」
 今日はがっつりネトゲして、明日はチャットでもやろうと思った。
 こなたがいなくなってからいまいち張り合いがないが、それでも飽きたわけではないから。


642 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:11:20.97 ID:vrLfkvY0
5.小神あきら
「はーい、小神あきらがお送りします政府広報動画チャンネル。今回の配信では、医療制度改革について、今抱えてる問題点からふゆきちゃんの改革案まで詳しく解説しちゃうぞ。大事な問題だから、みんなしっかり聞いてね」

 あきらは、天職ともいえるその役目を今日も充分に果たしていた。



6.天原ふゆき
 とある墓地。
 日傘を差して歩く彼女は、まさしく良家のお嬢様といった雰囲気が全身からかもしだされていた。

 ふゆきは、今、対北朝鮮自衛戦争によって殉職した自衛隊員たちの墓を参るという短い旅の最中だった。本当ならもっと時間をかけたいのだが、公務もあるのでそうもいかない。
 殉職者32名。一般国民に全く犠牲を出さなかったことの代償としては許容範囲内であるのかもしれないが、命に軽重はない。
 彼女は、自分の命令によって死んでいった者たちに謝罪と感謝をささげるべく、忙しい公務の合間をぬって、全国をめぐっているのだった。

 墓の前に立ち、供物をささげて、静かに手をあわせる。

 短い墓参を終え、また次の地に向けて旅立つ。
 この旅が終われば、厚生労働総括大臣としての最大の仕事、崩壊寸前の医療制度を根本的に構築しなおす仕事が、彼女を待っている。



7.桜庭ひかる
 新星党本部。
 ひかるは、いささか不機嫌そうに禁煙パイポをくわえていた。
 ふゆきの茶が飲めないと、どうにも落ち着かない。

 コン、コン。

 ノックとともに、男が入室してきた。今では密かに桜庭機関と呼ばれている組織の部下だった。
「最重要捜索対象人物の現住所を特定しました」
 簡潔な報告に、ひかるの眉があがった。
 五年近くかけて追い続けてきた事件の真相が解明されるときがついに来たのだ。


643 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:12:18.88 ID:vrLfkvY0
8.八坂こう
 こうは、財務金融総括大臣室で頭を抱えていた。
 北朝鮮をめぐる国際緊張から発生したインフレを利用したアクロバティックな財政金融運営で、国債残高を10分の1にまで圧縮してみせた「ギャンブラー大臣」の腕をもってしても、目の前にある問題は難題だった。
 その難題とは、ふゆきが進めようとしている医療制度改革に必要な財源の確保である。
 既に特別会計改革を徹底的にやっており、国庫には「埋蔵金」などどこにも残っていない(捻出した埋蔵金はほぼすべてを戦費と国債償還にあててしまった)。
 このままでは、財源はまるごと国債でまかなうしかない状態だった。せっかく国債残高を圧縮したところであるから、それは避けたい。
 しかし、名案はさっぱり浮かばなかった。

「う〜」

「なにしけたつらしてんだ、八坂?」
 こうが顔をあげると、そこにはひかるがいた。
「ひかるちゃ〜ん、ふゆきちゃんに無茶しないでって言ってよぉ〜」
「言って聞くようなやつじゃないぞ、ふゆきは。やると決めたら、どんな抵抗も淡々とスルーして、やりとげちまうやつだ」
 ふゆきは、対北朝鮮自衛戦争のときもそうだった。
 平和主義者の抗議の声も、右翼の徹底抗戦の声も、中国・韓国・ロシアの外交圧力も、さらにいえば、アメリカの意向すらも、淡々とスルーして目前の軍事的脅威の排除に努め、目的を達したらあっさりと幕引きしたのだった。
 今度の医療制度改革も、どんな利権団体が抵抗しようとも、淡々とやりとげてしまうだろう。
「財源ないよぉ〜」
「個人的意見だが、この場合は国債発行もやむなしだと思うぞ。医療制度改革のためだといえば、反対するやつもおるまい」
「私は反対で〜す」
「最終的には、岩崎の判断になるだろうけどな。まあ、それはいいとして、私の裏の仕事の方で進展があった」

 ガタン!

 こうは、思わず椅子を跳ねのけんばかりに立ち上がった。


644 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:13:57.97 ID:vrLfkvY0
9.成美ゆい
 人のまばらな海岸。
 ゆいは、真っ赤な夕日を眺めていた。
 今日は休みをもらって、一人で車を(交通法規を遵守しつつ)かっ飛ばしてきたのだった。
 この海岸は、海水浴場としては穴場で、夏真っ盛りでもあまり混雑しない。
 ゆたかやこなたをつれてきたことも何回かあった。

 ここに来たのは、ただなんとなくだった。
 過去でことで感傷にひたる趣味は、彼女にはない。
 彼女は常に能天気なお姉さんなのだ。
 そうであることがゆたかの望み。ゆいはそれをよく知っていたから。

「さてと、旅館でもさがそうかな」



10.柊家
 柊家の神社境内。
 目立たない場所に、その墓石はあった。神道方式の墓石だ。
 柊家一同がそろい、神道方式にのっとってお参りをする。
 かがみの命日には早いが、みんな忙しい身の上のため、この時期しかスケジュールに空きがなかったのだ。

 誰もが口には出さないが、やはりかがみがいないのは寂しいものだ。



11.高良家
 ゆかりがぐっすり寝ている横で、小さな女の子が絵本を読んでいた。

 この女の子は、みゆきが死んだあとに、ゆかりがもうけた子供だった。
 若い外見ゆえに看過されそうだったが、それは紛れもない高齢出産で、医者からも止められた。しかし、ゆかりは産むという意思を変えなかった。
 みゆきの代わりというつもりはないけれども、一人娘を失った喪失感は耐え難く、子供が欲しかったのだ。

 絵本は女の子を寝かしつけるためにゆかりが読んでやっていたものなのだが、ゆかりの方が先に寝てしまった。
 絵本を熱心に読んでいた女の子もやがてまぶたが落ち、眠りについていった。



12.泉家
 泉そうじろうは、パソコンに向かっていた。
 幸星党の発足から解体までを題材として、小説を執筆しているのだった。
 一人娘を失ってから長く失意のどん底にあった彼だが、今では何とか立ち直っていた。
 娘が生きていた証を何とか形にして残したいと思い、この小説を書くことにしたのだった。

「そう君、また徹夜? 少しは寝ないと駄目よ」
 そうじろうが振り向くと、そこには、かなたがいた。
「かなた、来てたのか」
「お盆にはまだ早いけど来ちゃった」
「こなたは来れないのか?」
「来れないわ。自分でいうのも変だけど、あの世とこの世を自由に行き来できるのは、善人だけの特権だから。そう君には、前にも言ったはずよ」
「分かってはいるんだけどな」
645 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:17:29.78 ID:vrLfkvY0



13.真相
 北海道、某地方都市。
 彼女は近所のスーパーで買い物を終え、自宅に戻ってきたところだった。
 玄関の前に、見覚えのある一人の女性が立っていた。

「桜庭先生……」
「よう、永森。久しぶりだな」
「お久しぶりです。とりあえず、中へ」

 テーブルに向かい合って、座る。
 差し出した茶に、ひかるは手をつけなかった。
 すっかり警戒されてるわねと、やまとは思った。

「まあ、いろいろ聞きたいことはあるんだが、順番に行くぞ」
「どうぞ」
「泉と柊と高良を殺したのは、おまえだな?」
「はい」
「泉と柊は茶に混ぜた毒で殺し、高良は射殺で間違いないか?」
「はい。泉総裁と柊幹事長はあっさりやれたんですけど、高良先輩は毒の存在に気づいたようでして。拳銃を抜くのがあと0.5秒遅かったら、射殺されてたのは私だったでしょうね。毒は無味無臭だったはずなんですが、なぜ気づいたのか。いまだに分かりません」
「高良は博学だからな。茶の色の違いかなんかで気づいたんじゃないか」
「そうかもしれません」
「当時、幸星党本部で銃声を聞いたという証言は一つもないんだが、どういうことだ?」
「工作員のたしなみとして、拳銃は消音装置付きです」
「ふむ。で、三人の殺害は誰の命令だったんだ?」
「小早川元総裁です。私の手元に封緘命令書が届きました。幸星党総裁を辞任なされる前に下された命令である以上、総裁命令として有効と判断しました」
 やまとがひかるに封書を手渡した。便箋を開き、中身を読む。
 命令は簡潔そのもの。

 クーデター計画が発動されそうになったときに、泉こなた、柊かがみ、高良みゆきを殺害すること。
 殺害したあと、永森機関は解散し、構成員は全国各地に散って、身分を偽装して一般人として暮らすこと。

 その二つが命じられていた。
「あいつらクーデターなんか企んでたのか?」
「はい。それも魔王計画──オタク文化帝国主義による世界征服計画──の一環でしかなかったんですが」
「世界征服って、あいつら正気か?」
「当人たちは本気でした。少なくても、中国幸星党とロシア幸星党による革命を起こして幸星党本部の傘下におさめるあたりまでは、詳細な計画ができあがってましたし」
「まるで、旧ソ連だな。そんな帝国など長持ちしないことぐらい、歴史を振り返れば明らかだろうに」
「別に長持ちさせる必要などありませんから。泉総裁の泉総裁による泉総裁のための帝国。泉総裁が生きてる間だけもてばいい。少なくても、柊幹事長と高良先輩はそう考えていたみたいですね」
「この世界は玩具じゃないんだぞ」
「泉総裁は、本気でそう思っていたみたいですが」
「呆れるな。まあ、それはいいとして、その魔王計画とやらは、小早川にはバレてたわけだ」
「計画書のファイルは隠しファイルでパスワードロックもかかっていたはずなんですが、小早川元総裁はコンピュータも結構お得意だったそうですから、パスワードを破って閲覧したのかもしれません」
「おまえの偽死体。あれは誰のだ?」
 永森やまとの死体と見られていたものは、DNA鑑定の結果全くの別人だと判明していた。
 しかし、厳重な緘口令がしかれ、この事実を知っているのは、警察内部でも極少数の者だけだ。
「部下が適当に見繕ってきたものなので、私は知りません。体格が似ている者の顔を整形して作成しました」
「別人だと判明した直後に、警察内部に怪情報が飛びかって混乱しまくった。これは、おまえらの仕業だな?」
「はい。DNA鑑定でバレるのは時間の問題でしたから、さらに時間をかせぐ必要があると判断しました」
646 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:18:25.58 ID:vrLfkvY0
「逃走経路は、総裁室の隠し扉、東京の地下下水道につながる通路で間違いないか?」
 この隠し扉の存在についても、厳重な緘口令がしかれている。
「はい。もともとは泉総裁の命令で作った通路です。本人としてはネタのつもりだったのでしょうが、皮肉なものですね」
「そこまでしておまえの死亡を偽装したのはなぜだ?」
「他の構成員はともかく、私は表に出てる存在でした。小早川元総裁の命令、身分を偽装して一般人として暮らすことを実現するには、自分の存在を一度抹消する必要がありました」
「そういうことか。まあ、確かに命令を完遂するならそうするしかなかったのも事実だな。あと、話は変わるが、今問題になってるタンカー改装空母の件は何か知ってるか?」
「あれは、政府の正規ルートを通してません。第一次泉内閣当時、柊幹事長から防衛省内の協力者へ直接指示がいってます。当時は、空母を整備するとなると外交問題にも発展しかねなかったので、秘密裏に処理したといったところですね」
「予算はどこから出した?」
「一部は内閣官房機密費からまわしてますが、ほとんどは幸星党の裏金からです」
「裏金か。どうやって稼いだ金かは聞かないでおこう。この空母整備計画は、北朝鮮対抗が目的だったのか?」
「はい。世界征服計画といってもだいぶ先の話でしたから、それまでの間、現実的な脅威への具体的な対策が必要だとの判断だったようです」
「経緯はどうあれ、役にはたったからな。その点は柊に感謝すべきなんだろうな」

「私からも質問してよろしいですか?」
「いいぞ」
「どうやって私の居場所を特定しんたんですか?」
「住民基本台帳ネットワーク。あれのデータを片っ端から洗い出した。1億2000万人分全部、不審な経歴や痕跡がないか徹底的にな。この日本じゃ、身分を完全に偽装するには、戸籍と住民票の偽造が欠かせないからな」
「それをやられては、逃げようがありませんね」

「永森機関の元構成員はすべて警察の監視下にある。そして、おまえは、桜庭機関の直接監視下におかれる。余計なことはするなよ」
「我々は既に解散してます。再結成を命じられるのは幸星党総裁のみですから、もう不可能ですよ。でもいいんですか? 我々には処罰されるに足るだけの罪状がいくらでもありますが」
「おまえらの存在は歴史の暗部だ。表沙汰にするわけにはいかん。模倣犯が現れたら、今の日本のシステムじゃ防ぎきれんからな。それに、新星党初代総裁の小早川までかかわっていたとなれば、なおさらだ。新星党をスキャンダルに巻き込むわけにはいかん」
「それは理解できますが、あなたの立場なら、表沙汰にせずに始末することも可能でしょうに」
「無理だな。桜庭機関は総裁命令で、正当防衛・緊急避難以外の殺傷行為を禁じられてる」
「それは厳しいですね」
「そうだな。でも、そのおかげで、おまえらのようになることは避けられる」
「なるほど。賢明なご判断ですね」

「私の話はこんぐらいだ。邪魔したな」
 ひかるは世間話でもしたあとのようにあっさりと、立ち去っていった。

 そして、入れ替わるように入ってきた人物を見て、やまとはしばらく声も出なかった。



14.再会
「久しぶりだな、やまと」
「こう……」

 目の前にいるのは、まぎれもなく、親友の八坂こうだった。
 あの日以来、もう二度と会うことはないだろうと思っていたのに……。

 そのあとの光景は、どこの青春ドラマだとでもいいたくなるようなものだった。
 いきなりの殴り合いのあと、腹がよじれるほど馬鹿笑いして、そして、堰を切ったように号泣した。
 二人とも、張り詰めていた何かがプツンと切れてしまったかのような、そんな感じだった。

 そのあと二人は一晩中語り明かして、そして翌朝早くに別れた。
 二人が何を語り合ったのか、それを詮索するのは野暮というものだろう。


647 :取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ [saga]:2009/08/24(月) 09:19:20.70 ID:vrLfkvY0
15.あの世
 こなた、かがみ、みゆき、ゆたかは、遅々として進まぬ長蛇の列に並んでいた。
 この列は、地獄の閻魔様の裁判を受ける罪人たちの列で、ただいまの待ち時間は平均500年。ちなみに、善人は即決裁判で天国行きになるので、このように待たされることはない。
 待ち時間が500年ではさすがに暇をもてあますので、娯楽はそれなりに整えられていた。
 現世から複製した本やゲーム機、ゲームソフトがふんだんに取り揃えられてたし、現世のネットに接続してネットサーフィン等を楽しむこともできる。
 ネトゲプレイヤーや2ちゃんねらー、チャットの住人に、あの世の者が少なからず存在する事実を知ったら、現世の人々はおおいに驚くに違いない。

 かがみとみゆきは、読書。ゆたかは、ネット。こなたは、ゲーム。
 それぞれ暇つぶしにいそしんでいる。

「あー、コミケ行きたーい」
 こなたが、唐突にそう叫んだ。
「同人誌だって、複製で取り寄せられるんだから、わざわざ行く必要なんてないでしょ」
 かがみがすかさず突っ込む。
「分かってないなぁ、かがみ。あの人ごみをかきわけて、同人誌をゲットする過程が大事なんだよ」
「さいですか」
「お母さんはいいよねー。自由にあっちに行けてさ」
「私らみたいな罪人は、そんな贅沢いえる身分じゃないわな」
「罪と一言でいっても、軽重はありますけどね」
 フォローのつもりなのか、みゆきがそう発言した。
「確かに、ゆたかちゃんは情状酌量で天国にいってもいいぐらいよね」
「漏れ聞くところによると、実際そういう事例はあるそうですよ。私たちの裁判のときには、小早川さんに有利な証言をいたしますね」
「かがみ先輩、高良先輩、そんなに気をつかっていただかなくてもいいですよ。罪は罪ですから」
 ゆたかが、チャットの手を休めて、そういった。
 再び、チャット画面に視線を戻して、
「あっ。お姉ちゃん」
「なんだい、ゆーちゃん?」
「黒井先生が入ってきたよ」
「おっ、久しぶりだね。最近は忙しかったのかな?」
 ゆたかがパソコンをこなたに譲る。
「正体バレるようなことすんなよ」
「分かってるよ、かがみん」
 こなたは、神速のキー捌きでチャットをこなしていく。
「なんか、黒井先生、最近愚痴ばっかだよね」
「お姉ちゃんたちがいなくなって、寂しいんだよ、きっと」

 あの世の緩やかな時間はまったりとすぎていく。
648 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/24(月) 09:20:15.36 ID:vrLfkvY0
以上です。
649 :この花をあなたに [saga]:2009/08/25(火) 01:08:38.52 ID:A8kEFiM0
投下行きます。

書き始めたのが誕生日を過ぎてからな上に、一度大きく書き直したので、遅れに遅れたかなた&そうじろうの誕生日SSです。
650 :この花をあなたに [saga]:2009/08/25(火) 01:10:11.17 ID:A8kEFiM0
 え、このお花を?

 …似合わないね

 うん、そんな事だと思った

 でも…お花が綺麗だから、許してあげる

 じゃあ、わたしは…


- この花をあなたに -


「伯父さん、誕生日おめでとうございます!」
 綺麗にラッピングされた箱を、にこやかな表情で差し出すゆたかに、そうじろうは困惑した目を向けた。
「…俺?」
「はい」
 そうじろうは読んでいた新聞をテーブルに置き、壁にかかっているカレンダーを見た。今日は八月二十日。
「俺の誕生日、明日だけど…」
「あ、あれー…?」
 ゆたかが心底困ったように、手に持った箱とカレンダーを交互に見る。
「ゆーちゃん、もしかしてあの本のお父さんのプロフィール見たんじゃないかな」
 居間のテレビでゲームをやっていたこなたが、そうじろう達のほうを見ながらそう言った。
「あー…あれか」
 そうじろうが納得したように手を叩く。
「え?あ、あれって間違ってるんですか?」
 ゆたかが困惑したようにそうじろうを見ると、そうじろうは照れくさそうに頬をかいた。
「うん。間違ってるんだよ…俺の誕生日、かなたと一日違いでね。家も隣だったし、小さな頃からかなたの誕生日に合わせて、一緒に祝って貰ってたんだよ。それで、俺自身もごっちゃになってるのかな。誕生日聞かれたときに、時々二十日って言ってしまうんだよ」
「大抵、気がついて直すんだけど、あの本だけそのまま出ちゃったんだよね」
 そうじろうの説明をこなたが補足する。
「そ、そうだったんですか…」
 項垂れるゆたか。その目が、居間の隅に置いてあるプレゼントの山に向けられた。
「じゃあ、このプレゼントも間違って…?」
「そうみたいだね…ってかお父さん」
「ん、なんだ?」
「こういうのって出版社とか通してだから、間違ってても合わせてくれるんじゃないの?」
「いや、それがな。今年のは、ここに直接送られてきたんだよ」
 そうじろうの言葉に、こなたが目を丸くする。
「え、それって…」
「うん、どっかから住所が漏れたらしくてなあ。昨日、担当さんに気をつけるようにって言われたよ」
「…いや、本気で気をつけてよ…ってかやばいよねそれ」
「いや、悪いことばかりじゃないと思うぞ」
「…その心は?」
「ファンの女子高生とかが、プレゼントとか持って押しかけてくるという可能性もあるじゃないか」
「いや、ないから」
651 :この花をあなたに [saga]:2009/08/25(火) 01:11:07.08 ID:A8kEFiM0
 顔の前で手を振り、速攻で否定するこなた。それを見たそうじろうが、渋い顔をする。
「浪漫の分からないやつだなあ」
「いや、浪漫って言うか来たら困るし。危ないから」
「俺が?」
「いや、その女子高生が」
「…とことん、信用ないのな」
「普段が普段だし」
 容赦のないこなたの言動に、そうじろうが溜息をつく。
「…伯父さんとかなた伯母さんって、幼馴染なんですよね?」
 二人の話が途切れるのを見て、ゆたかがそうじろうにそう訊いた。
「ああ、そうだよ。さっきも言った通り、家が隣だったし、誕生日も一日違いだしな…いやー、運命だよなあー」
 空、というか天井を見上げながらうっとりとするそうじろうに、ゆたかは思わず冷や汗を垂らしていた。
「そ、そうですか…えっと…それじゃ、誕生日のプレゼントなんかはどうしてました?」
「大抵、手渡しで交換してたな。これも言ったけど、誕生日は同じ日に祝ってもらってたからなあ…大人になっても、その習慣は変わらなかったな」
「へー…あの、貰って一番嬉しかったものって何ですか?」
「嬉しかった?…それは難しいな…かなたがくれた物はなんでも嬉しかったからなあ…」
「じゃさ、お父さんがあげたもので、印象に残ってるのは?」
 悩み始めたそうじろうの横から、今度はこなたがそう訊いた。
「俺が?…そうだなあ…小学生の頃だったかな。一度だけ、花をプレゼントしたことがあったな」
「へー、お花ですか」
 それを聞いて、目を輝かせるゆたか。しかし、こなたの方はなんとも胡散臭げな目をそうじろうに向けていた。
「…こなた。何か言いたそうだな」
「いや、似合わないって言うか…それってあれでしょ?プレゼント買うお金、漫画かなんかに使っちゃって、仕方なくどっかから摘んできたのプレゼントしたんでしょ?」
「い、いや…そんなことは…」
 こなたの指摘に、そうじろうは思わずそっぽを向いてしまった。
「うわお。図星か」
「…伯父さん…」
 そうじろうの反応に、さすがのゆたかも呆れた顔をしていた。
「い、いやでも、その花ホントに綺麗だったんだぞ!なんていうか…白くて、かなたのイメージにぴったりでな。誕生日とは別にいつかプレゼントしようと思ってたんだ!本当だぞ!」
 醒めた目で見る娘と姪に、必死で訴えるそうじろう。ふと、その動きがピタリと止まった。
「お父さん?どったの?」
「いや…なんつーか…あの時、かなたは最後なんて言ったんだっけか…こなた、知らないか?」
「…いや…わたしが知るわけないじゃん…」
「それはアレだ。転生的な何かで、記憶を継いでるとか」
「だと面白いんだけど、残念ながらわたしはただの女子高生です」
 答えるこなたに、そうじろうは心底残念そうに溜息をついた。
「しっかし、最近物忘れが酷いな…自分が歳だって実感するよ」
「しっかりしてよ、お父さん。明日にはさらに歳をとるんだし」
「…嫌な言い方するなよ」
「で、でも歳をとれば威厳とか色々…」
「いや、ゆーちゃんそれはない。この人に限ってそれはない」
「こなたー…そんなにお父さんが嫌いかー?」
 そんな風に取り留めのない話をしながら、その日は過ぎていった。



652 :この花をあなたに [saga]:2009/08/25(火) 01:13:32.15 ID:A8kEFiM0
 翌朝。そうじろうは、ほのかな甘い香りで目が覚めた。
 眠い目をこすり枕元を見ると、一輪の白い花が落ちていた。
「…なんだこれ?」
 その花を手に取る。どこかで見た色に形。そうじろうは、その花を顔に近づけ匂いを嗅いだ。
「これ…まさか…」
 その匂いで、そうじろうは全てを思い出していた。慌てて部屋にある電話を手に取る。
「…おはようございます、お養父さん。朝早くにすいません。どうしても、聞きたいことがありまして…」


 ノックの音で、こなたは目を覚ました。
「…ふぁーい」
 半分寝ぼけながら返事をすると、部屋のドアが開き、そうじろうが入ってきた。
「…あれ…お父さん、どっか出かけるの?」
 そうじろうはいつもの作務衣ではなく、スーツを着込んでいた。
「ああ、ちょっと実家にな」
「実家ぁ!?」
 驚きに、一気に目が覚める。
「ちょ、なんでまた急に?〆切から逃げるの?」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ、借金?お父さん出て行った後に、パンチパーマのオッサンが来たりするの?」
「…いや、こないから…ちょっと、約束を思い出したんだ。明日には戻ると思うから、ゆーちゃんと留守番頼んだぞ」
 そう言いながら、そうじろうはこなたの頭に手を置いた。こなたは少し困った顔で、溜息をついた。
「しょうがないなー…変な父親もつと、苦労するよ」
「それは、お互い様だと思うけどな」
「こういう風に育てたの、お父さんじゃない」
 文句らしきものを言いながらも、こなたは微笑んでいた。
「…気をつけてね」
「ああ、行ってくる」
 そうじろうはこなたの頭を一撫ですると、手を振りながらこなたの部屋から出て行った。その背に、こなたもまた手を振った。



653 :この花をあなたに [saga]:2009/08/25(火) 01:14:38.46 ID:A8kEFiM0
 一面に咲く、白い花。彼女に似た、綺麗な花。
「…ほんとにいっぱいだ」
 そうじろうは呟きながら、あの時の彼女の言葉をしっかりと思い出していた。

 じゃあ、わたしはこの花をいーっぱいにして、そう君にプレゼントしてあげるよ

「あの時、お前はプレゼントくれなかったんだよな」
 風が吹き、甘い香りが満ちる。彼女に似ていると感じた、一番の理由はこの香りだ。
「俺は、あの言葉そのものがプレゼントだと思ってたんだ」
 彼女を抱きしめた時と同じ甘い香り。
「ちゃんといっぱいにしてくれてたんだな…」
 そうじろうは目を瞑り、花の匂いを…愛する人の匂いを、全身で感じた。
「ホントに…お前が傍にいるみたいだよ…かなた…」


 ごめんね、遅くなって

 やっと渡せたよ

 約束のいっぱいの花

 そう君

 誕生日おめでとう



- おしまい -
654 :この花をあなたに [saga]:2009/08/25(火) 01:17:50.76 ID:A8kEFiM0
以上です。

当初は完全なコメディーでした。
…っていうか、かなたさんの分の誕生日はあまり関係ない話になったような気が…。
655 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/26(水) 15:21:40.98 ID:IIHOWvg0
>>654
いい話だ・・・、感動した。

ところでトップに書いてるコメントフォームってどこにあるの?
656 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/26(水) 15:35:38.17 ID:MoeobK20
--===・===----------------------------------===・===--

            ここまでまとめた

--===・===----------------------------------===・===--
657 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/26(水) 18:33:55.16 ID:LiLoKYs0
>>655
各作品の一番下。無い作品はメニューにある感想ページに書いてくれぃ

>>656
超乙ですよー!!!
658 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/26(水) 22:59:41.10 ID:ibXQ.6DO
乙です!!
659 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/28(金) 16:57:29.96 ID:owmtPRQ0
☆ 第16回コンクールお題投票 ☆

投票期間:28日〜29日 23:59:59 まで
http://vote3.ziyu.net/html/test.html
660 :スピード狂想曲 [sage]:2009/08/28(金) 19:34:22.27 ID:6zK5dqMo
らき☆すたとイニシャルDのクロスです。不快な方は読み飛ばしてください。
661 :スピード狂想曲 [sage]:2009/08/28(金) 19:35:15.03 ID:6zK5dqMo
SIDE−−こなたーー
大学3年生への進級もきまりのほほんと過ごしていた春休み。
「ゆたかも大学に合格したことだし、旅行に連れて行ってあげよう」とゆい姉さんが言い出したのだった。
「場所はどこにするの?」
「群馬県の山荘でいいところを見つけてあるのだよー」
「おおー、さすがゆい姉さん。準備がいいねー」
「群馬かー。ゆいちゃん、車で行くんだよな?気をつけてな。」
というわけで私とゆーちゃんとゆい姉さんの旅行が決まった。お父さんは締め切りがあるからいけないということで涙を流してたけどね。
時は流れて出発日
「こなたー、ゆたかー。おそくなってごめーん。仕事が長引いちゃって。」
「大丈夫だよ、おねえちゃん。連絡はうけてたし」
「ゆい姉さんや。私は姉さんの車の後ろのワゴンRが気になってしょうがないんですが。」
「泉ー、小早川も久しぶりやなー。といっても昨日は同じパーティーだったな。」
ちょっ、なんで黒井先生がいるんだか。ゆい姉さんが一緒に飲みに行ったついでに誘ったらしい。二人ともノリがいいから。
「先生、また姉さんに突き放されても知りませんよ」
「ふーん、そう言ってられるのも今のうちやでー。そや、うちも一人やとつまらんさかい。成美さん、泉はうちの車でも構わへんか?」
「どぞどぞー、じゃあゆたかは私の車で」
このとき私は助かったと思った。ゆい姉さんの車に乗るよりは黒井先生と珍道中のほうがましだからね。
「泉ー、なんか失礼なこと考えてるんちゃうかー。」
「そっそんなことないです。しゅっぱつしんこー」

SIDEーーS−−
ゆいちゃんの車はいつも通りの音だな。だけど黒井先生の車は。こなたから聞いていた話とはだいぶ違うな。やっぱり原稿を早めにあげといて正解だったかもな
662 :スピード狂想曲 [sage]:2009/08/28(金) 19:36:05.42 ID:6zK5dqMo
SIDEーーこなたーー
「先生、この車前回乗った時と雰囲気違いませんか。なんかエンジンがうるさいというか。整備不良じゃないでしょうねー」
「まったく、車検は通るっちゅーに。まあそのうちわかるで」
結局、群馬にはいった時には夜中になってしまった。その時だった。何台もの車が一気に追い抜いていく。前を走るゆい姉さんも気付いたみたい。なんかパッシングしてるし。
「おっ。合図やな。泉、ベルトしとけよー。」
「先生、何してるんですか。えー、今気付いたけど、このワゴンRマニュアルじゃん。まえはオートマだったはず」
「やっと気付いたんか。成美さんに勧められて改造したんや。」
ゆい姉さんのヴィヴィオが急加速する。それに続いて先生のワゴンRもうなりをあげる。カーブせまってるし。ヴィヴィオがきれいなドリフトをしてほかの車と差を縮める。先生はというと、さらに加速する。次の瞬間、ハンドブレーキを引いてドリフト。もう何が何だか分からなくなってるし。

SIDE−−たくみーー
今日は赤城レッドサンズとの交流会の日。たくみはインプレッサで来ていた。突然に池谷先輩から無線連絡がはいった。秋名でチームのメンバーが2台の軽に追い回されてるらしい。それを聞いて啓介さんの目つきが変わった。
「アニキ、けちらしてきていいよな。」
「まて、秋名最速はたくみだ。たくみに決めさせろ」
「俺はいくつもりです。啓介さんも一緒に行きませんか」
「わかった。二人とも行くなら、俺も行く。軽いギャラリーとしてな」
FD、インプレッサ、FC、3台が連なって走り出す。
しばらくすると、メンバーの車が見えてきた。確かにその中に見慣れない軽が混じってる。どちらもハンドリングが的確だった。それに車のポテンシャルを最大限に引き出すチューニングをしている。何かが違う。これまでに競ってきた相手とは異なるものを持っている。俺はアクセルを踏み込んで突っ込んでいった。
663 :スピード狂想曲 [sage]:2009/08/28(金) 19:37:15.63 ID:6zK5dqMo
SIDE−−こなたーー
「先生、なんか新しいのが来たよ。ほかの車より断然早い」
「いよいよ、峠最速のやつらの投入やな。」
「先生大丈夫なんですか?この車、軽ですし。」
「乗るとき、ナンバー見なかったんか。もうこの車は黄色やないで」

SIDE−−たくみーー
「恐ろしくはやい。前のスバルは軽なのにカーブに平気で突っ込んでいく。FFの特性をつかんでる。それにあのワゴンRはなんなんだ。ナンバーが黄色じゃない。ということは排気量も大きくなっているはずだ」
すでにほかの車は消えた。プロジェクトDで培ってきた自分の技術はすべて出しつくしている。FDもついて行くのが精いっぱいというところだ。このままじゃ負ける。その時FCが前に飛び出した。久しぶりに涼介の本気をみた。それでも謎の2台との差が縮まることはない。
「きっと涼介さんも仕掛ける技は出しつくしているはずだ。」
たくみの脳裏に父親のインプレッサがよみがえる。
「こんなとき親父だったらどうする?相手の動きには無駄がない。どんな技を繰り出しても追いつけない。」
その時だった。FDを抜きインプレッサを抜きFCすらも抜き去っていく86。文太だった。なぜここに現れたのか。それはGSでの情報を聞きつけてだった。それほど利用者も多くない田舎町のGS。見慣れぬ車が立ちよればすぐに噂は広まる。それが完璧なチューンを施した車ならなおさらだ。文太も久しぶりに流すつもりで来たのだが、目の前に広がる光景を受け入れるほどの余裕はなかった。たくみと高橋兄弟はだれが見ても速いという走り屋のはずだ。それがスポーツタイプとはお世辞にも言えない車に突き放されている。
「親父、戸惑っているのか。親父がてこずるような相手に勝てるわけがない。」
それは涼介も啓介も分かっていた。誰からともなくハザードをたき山頂に戻って行った。
それを確認した文太は何としても前を走る2台に追いついていこうとしていた。青のスバルの走り方を見ているうちに、ふと昔のことを思い出した。自分が現役の走り屋だったころ、どうしても勝てないドライバーがいた。青のアルシオーネを駆り文太の目を譲ることはなかった。前を走るスバルがそのドライバーの走り方にそっくりなのだ。しかしもう引退しているはず。
664 :スピード狂想曲 [sage]:2009/08/28(金) 19:38:10.51 ID:6zK5dqMo
SIDE−−こなたーー
「なんか、また違うのが出てきたけど、何ですかね?」
「隠し玉やな、今までのより格段上の走り方や、長いことこの峠を走って知り尽くしてるような奴や」
「どうするんですか、これ以上は無理ですよ。」
「何いっとるんや、成美さんに付いていかへんと、また道に迷うでー。」
「もうカーナビでもなんでも使いましょうよ。」
「あいにくカーナビは外してあるんや、軽量化でな。まあ安心せい」
「何を安心すればいいんだか」
こなたが何かに気付いた。
「先生、別の車が追ってきてませんか?ゆい姉さんの車ともこの車とも違うエンジン音ですよ。」
「なんや、後ろのポンコツ車ともちゃう音やなー。」
バックミラーで確認すると後ろの白黒ツートンの後ろにヘッドライトの光が見える。
「やっぱりきてますよ。敵も増えてどうするんですか。」
「まあ成美さんがどうにかするやろ、うちらはこのままゆったりクルージングや。」
「どこがゆったりなのかはツッコミ禁止ですね」

SIDE−−文太ーー
これでもかというほど踏み込んでいるのに追いつかない。文太は焦っていた。久しぶりに車の限界を感じていた。よりによって相手が軽とは信じられないが。直線を飛ばしているときだった。86の広いリアウィンドウから強い光が差し込んできた。
「おいおい、こんなときに変なあおりは勘弁してくれよ。しかしこのバトルに付いてこれるとは腕は認めてやってもいいか。」
しかしバックミラーに映るリトラクタブルヘッドライトをみて絶句した。いまどきあんな旧型車に乗っている人間はそういない。文太がどうしても勝つことができなかったあのドライバーが再び現れたことを、アルシオーネのリトラクタブルヘッドライトは示していた。いつも後ろから眺めていたナンバーも記憶のとおり「143」のままだった。

SIDE−−S−−
予想通りの展開だな。ゆいちゃんと黒井先生にはこれ以上の無理はさせないほうがいいな。もっとも一番無理してるのはあいつだがな。とりあえず俺があいだに入るか。しかしいまだに86とは。
665 :スピード狂想曲 [sage]:2009/08/28(金) 19:39:10.36 ID:6zK5dqMo
SIDE−−こなたーー
「あれ、後ろの車が入れ替わってる。しかも邪魔してるように見えるし。」
「うちらを抜かすというよりはポンコツの邪魔してるよにしか見えへんなー。どういうこっちゃ」
「でも先生このままでと時期に山を下っちゃいますよ」
「そやなー、そうなったらそうなったで、一度どこかに停めよか。成美さんも気付いてるみたいだし」

SIDE−−文太ーー
「結局、昔のままか。俺は抜かれて絶対に前にはでれない。それにしてもなんで前の車を抜かないんだ。俺の車をこれ以上踏み込ませないようにしている。」
86はいつエンヂンブローしてもおかしくない状態だった。水温計が振り切れそうである。しかしアルシオーネの邪魔が入ったせいで強制的にクールダウンしていた。
「もうすぐ山をおりる。このままいくか。どの道、かなわない相手だ」

SIDE−−こなたーー
「先生、もう終わっちゃいましたねー。とりあえずそこのコンビニに停めましょーよ。」
「そうしよか、成美さんもそのつもりみたいやし。」
2台が並んで停まる。
「成美さん、流石やなー。ほれぼれしてしまいましたわ。」
「いやいや、黒井さんも今日はのってたよねー」
「こなたお姉ちゃん、帰りは車代わって。」
「ゆーちゃん、どちらも大差はないと思うよ。」
「それにしても黒井さんの後ろを走っていた車速かったよねー。でも途中で変なのが間に入ってきて。」
「そやそや、なんかうちらを抜かさせないように走ってたんや。」
そこに2台の車が入ってくる。今ではめったに見かけない旧型車である。
「あっ、あれさっきのくるまやないか。」
「そうだよねー、ドライバーはどんな人なんだろ」
先におりてきたのは白黒ツートンの車の人だった。なんというか無愛想としか形容できないタイプのおっさん。これがさっきまで先生とゆい姉さんの車を追いかけまわしてた人なのか。
「さっきはすまなかったな。久しぶりに走り屋の血がさわいぢまった。しかしどちらも軽とは思えないな。いやそっちのワゴンRは軽ではないか。何CCだ?」
「2000CCです。しかしおっさんの車はこれといっていじってないように見えるんやけどなー。なんでそんなに早いんや?」
「一応エンヂンは換装してるからな。それでもそっちの2台のエンヂンよりは古いんだが」
666 :スピード狂想曲 [sage]:2009/08/28(金) 19:40:04.34 ID:6zK5dqMo
SIDE−−S−−
さて任務終了か、皆が無事なら俺はそろそろ消えるか。

SIDE−−こなたーー
「ちょっと、そこの車も止まりなさい。止まらないと公務執行妨害にするよ」
「公務ってあんた警官だったのか。」
「まあそれはだまっててくださいね。それでその車の運転手さんにもお話聞かせてもらえますか」
ゆっくりとドアが開く。出てきたのは
「お父さん!!}
なんでここにいるのか、原稿とか言ってなかったっけ。それ以前に我が家に車あったんだ。いろいろ突っ込みたいことがあるけど。
「仕方ないな。すべて話すしかないようだね。俺とそこのおっさんは昔の知り合いなんだよ。」
それからお父さんが話したことは私たちが何も知らないことだった。若いころのお父さんが走り屋だったこと。その当時乗っていた車を今もこっそり車検に通して近所の駐車場で保管していたこと。そして走り屋だったころの親友というかライバルがおっさんというか文太さんだったという話。ゆい姉さんが群馬に行く聞いてなんとなく予感がしていたんだって。それで今日は後から追ってきたというわけだ。
「皆の車を無茶させるわけにはいかないからねー。そこで俺の出番なわけだよ。」
「おじさん、昔の話なんて一度もしたことなかったじゃないですかー。私が車に乗り始めた頃なんて気をつけなねの一言で。」
「正直、おれみたいにはなってほしくなかったんだよ。まあ血は受け継がれているんだろうけどね。」
「泉さん、すごいやないですかー、もう何年も走ってなかったんでしょう。」
「昔取った杵柄ですよ。それと黒井先生、その車はいろいろいじっているみたいですけどベースは軽なんです。気をつけてくださいね」
「おまえは何にも代わってないな。まず安全ありきなところがな。さっきだってわかってたんだろう。俺の車が危ないことも。」
「さあどうだか。プライドが高くてエンヂンブローまで自分からはバトルをおりられない癖は相変わらずだな。」
「ところでお父さんや、あの車のナンバーの由来を教えてもらおうか。お父さんのことだから、なにかあるんでしょ?」
「当時はナンバーは自由に決められなかったからなー。なんにもないよ。」
もっともな顔で話すお父さんに文太さんが噴き出す
「陸運局の知り合いに掛け合ってやった恩は忘れたのか。」
「そっそれは言わない約束だろ。」
「どうせお父さんのことだからお母さん関係だよね。誕生日じゃないし」
そう言ってお父さんの反応をうかがうと案の定動揺している。
「わかったわかった、あれはなーかなたの身長なんだ。こっそり測って調べたんだぞ」
その場にいた人がみんな凍ってるし。身長とは私も不覚だったよ。こっそりとはどんな方法かは聞かないけどね。

その後私たちはお父さんも交えて旅行を満喫した。初日の疲れが大きくてゆーちゃんは眠そうだったけどね。
帰りにまた峠で私が車の窓に押しつけられたのは言うまでもない。
667 :スピード狂想曲 [sage]:2009/08/28(金) 19:40:57.85 ID:6zK5dqMo
以上です
668 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/28(金) 21:23:08.65 ID:kr/iiBA0
>>667
乙です!
頭の中でずっとGravityが流れていたww
669 :劇中劇 :2009/08/29(土) 12:32:28.19 ID:wk38ICoo
まとめの人、毎度ありがとうございます。

投下行きます、ちょい鬱注意です。
670 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:37:02.38 ID:wk38ICoo
 不器用

 今日は俺とこなたが夕飯の買い物当番だった。
「買い物リストの内容から察するに……」
「みんな大好きチキンカレー♪」
 施設から少し離れたスーパーにて食材を買い込んだ後、こなたは店内のベーカリーに向かった。
「おじさん、いつもの」
「ああ、ちゃんとキープしてあるよ」
 チョココロネをいくつか袋詰めしていた。皆のおやつかと思ったが、それにしては量が少ない。
 だいいち、施設で出されるのは基本的に手作りのお菓子でありこういう菓子パンが出ることはなかった。
 みゆきさんの手伝いでつかさが嬉しそうにクッキー作っていたのを思い出す。
 コンプレックスから解放され、自分が作った食べ物を安心して皆に出せるようになったんだろう。
 というわけで皆のおやつではないとしたら買い食いか? とも思ったが、それには量が多すぎた。
「無理言ってすみません」
「ま、仕方ないさ、人それぞれだしな。焦らず気長にな」
「うん、ありがと」

 事情が事情とはいえ、これまでこなたが俺に振ってきた話題はどうしてもマニアックでついていけなかった。
 それは帰り道の今も同じだった。
 割と無難と思われる話題もあったが、生憎それについて俺はそんなに詳しくなかったため、こっちのノリが悪くて会話は尻すぼみになる。
 かといって俺もどういう話を振っていいかわからなかった。
 共通の話題がなさ過ぎる。
 他の話題や自分のことも話すべきかと思うが、こなたの境遇を考えると嫌味になるんじゃないかと思い、話すに話せない。
 みゆきさんは気を使わなくていいと言っていたが、みさおやひよりのような発作を起こしてしまうかも、と考えると地雷に踏み込むリスクを犯すのは怖い。
「……おにーさん、私がオタクだって責めたりしないんだね」
「え? そりゃ人それぞれ趣味の問題だし、それに泉の場合、事情が事情だし」
 クラスにいたオタクの話や立ち居振る舞いは不快に思うことも多かったが、連中の問題点とこなたが合致する点はせいぜい話題の偏りぐらいのもので、ソレぐらいで非難するのは狭量だ。
 まして、こなたが抱えた事情を考えたら非難はあまりにも酷だ。
671 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:39:42.56 ID:wk38ICoo
「んー、事情知ってればそう割り切れるのかな。おにーさんの場合は一緒に暮らすんだから話しといたほうがいいと思ったけど、ヘビー過ぎてドン引きされちゃうと思って学校の皆には話してないんだよね」
「高良さんが前にそう言ってたな。それに事情知ってても嫌なものは嫌って人もいるだろうし」
 俺のクラスに編入されていた障害児の世話は、どんなに説明受けたりノーマライゼーションといった理念を説かれても、色々と無理難題をふっかけられ負担や迷惑を蒙ると嫌だと感じていたものだ。
 しかし、施設の皆とのやり取りで振り回され負担を感じなかったわけではないんだが少しも嫌とは感じなかった。
 この違いはなんだろうな?
「皆に積極的に話しかけようにも共通の話題なんてすぐネタ尽きちゃうし、皆が話してることって私はまだまだ知らないことだらけだからついていけないんだよね」
「まあ、その境遇じゃ仕方ないだろうな」
 俺がこなたの話についていけないように、こなたも非オタク分野の話題は敷居が高過ぎるか。
「でも、聞き役に徹してても何も言わないわけにもいかないし、私がよく知ってることってさっきみたいにオタクなものばかりだからいい顔されないし」
 引き出しにストックしている話題が偏ると、言葉のキャッチボールはこうも困難になるんだな。
 こなたが振っていた話題は、マニアックさの度合いがかなり上下していた。
 今の自分が投げられる球のうち、少しでも俺に受け止めやすいものを模索してたんだろう。
 双方の地雷に触れず、共感できて、不幸自慢と取られず、その上でオタク批判の対象にもならない話題。
 普通と言いがたい生活になって孤立した人間は、どうやってそんな話題を仕込めるだろう。
 そのためには人との楽しい交流という要素が不可欠であり、話題の偏りが壁になるのに。
672 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:40:38.54 ID:wk38ICoo
 作り話をするか? でもボロの出ない無難な話なんてそう簡単にアドリブでできるはずがない。
 この前のみゆきさんも、無難であるはずのくしゃみという話題ですら兄の他害行動という地雷に触れてしまった。そしてかわし切れず、振った俺への返答は不幸自慢や障害者への差別と取られかねない内容になってしまった。
 だいいち、作り話でごまかす付き合いなんて相手に不誠実だろう。
 波風立てる覚悟で自分を出すか、不誠実でも無難な振る舞いをするか。
 どちらも、そうそううまくやっていけるとは思えない。
 こうして、更に孤立してしまった人間が心のよりどころにできるものは何があるだろう。
 救いのない孤立のスパイラルだった。
「いざ話をしようとしても難しいもんだな」
「うん」
 と頷くなり、こなたは怪しげに細めた目で俺を見つめ、「面白いこと言ってセバスチャン」などとお嬢様口調で呼びかけてきた。
「え? 俺?」
「……なんて言われたって、私にとって面白いことがなかなか思い浮かばないから困るよね」
「いやいや、そんな振り方じゃ誰だって困る」
 今のは、こなたなりの冗談なのかな。

 そのとき、前方を歩いていたお婆さんがハンカチを落とした。
 荷物を俺に託したこなたは信じられない脚力で駆けつけ、拾い上げたハンカチを渡していた。
 幼少期を屋根裏部屋に閉じ込められて過ごした彼女があれほど走れるようになるまでに、どれほどの訓練を要しただろう。
 それは、ひよりが言っていたように皆と共感できる武勇伝にはなるまい。
 陸上部の特訓みたいに楽しく笑いながら話せる生易しいものではない、壮絶なものだったに違いない。
 どうしたら泉みたいに早く走れるんだと話を振って、和気藹々としたやりとりになるとも思えない。

673 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:41:43.82 ID:wk38ICoo
 また気まずい沈黙が続く。
 そこで、さっきのベーカリーでのやり取りについて聞いてみた。
 食べ物の話題ならそこそこ楽しい話になるのではないか、そう思ったのだ。
「あー、あれね。私、これ以外はあまり食べられないから」
「……え? アレルギー?」
「ううん、屋根裏部屋に閉じ込められてたとき出されてた食べ物はなぜかチョココロネと牛乳ばかりだったんだ」
「なっ!?」
 妙な理論に基づく怪しげなダイエットでもしてるのか? と思ったが浅はかだった。
 みゆきさんのくしゃみのように、無難と思われる分野に地雷、それもN2兵器レベルのとんでもない地雷が埋まっていた。
「物心つく前からずっとそればかりだったせいか、それ以外のものはどうしても食べ物って感じがしなかった。だから無理して食べるとね……」
 言葉を濁した。おそらく精神的に受け付けられず戻してしまったりするのだろう。
 こなたの小柄な体格は、その偏った食生活のせいかもしれない。
「あれ? 縁日のとき買い食いとかしなかったのか?」
「ううん、少しは食べてた。訓練でなんとか食べれられるようにはなったからね」
「訓練って……!」
 色々なものを食べるという当たり前のことにも訓練を要する。その状況自体が俺には脅威だった。
 言葉を濁した時点で話題を変えるべきだったと後悔したが、こなたは誇らしげにしていた。
 少なくとも、もうこの分野に踏み込まないでくれといった拒絶のサインは見受けられない。
 形がなんであれ、立ちはだかった壁を乗り越えた体験は自信に繋がるんだろうな。
 だが、言葉のトーンは落ちる。
「だけどまだ抵抗が残っててね、疲れてるときは皆と一緒に食べるのお休みしてこれにしてるんだ」
 寂しげな笑みを浮かべ、ベーカリーの袋を掲げる。
 言われてみれば、俺が入所してまだ日が浅いとはいえ、こなたが食卓でどうしていたか全然記憶になかった。
 同席していなかったのか、口にすることで手一杯だったため何かアクションを起こす余裕がなかったのか。
674 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:42:41.53 ID:wk38ICoo
「無理して乗り越えなくても普通にみんなとそれ食べてればいいんじゃないか? アレルギーとかで制限ある人だっていくらでもいるんだし、ベーカリーのおっさんだって人それぞれって言ってたし。栄養は……サプリメントとかでさ」
「そうもいかないよ、付き合いってものがあるからね。皆が普通の献立で食べてる中、私だけいつまでもチョココロネじゃ空気悪くなるし。頑張らなきゃ、リハビリリハビリ」
「付き合い、か」
 俺が保護された縁日の光景を思い出す。
 こなたは施設以外の子も交えたグループに入り、和気藹々としたやり取りをしていた。
 確かにそういう努力をしなければ、みゆきさんの言うとおり皆に気を使わせるのが蓄積し、付き合いはぎくしゃくしたものになったかもしれない。
 こなただけじゃなく皆も互いに歩み寄るべきだと思うが、『普通』とこなたは違いがありすぎた。歩み寄る皆の負担を考えると、こうするほかないのだろう。
 あの時、軽々しく羨み、自分の境遇を呪ったことを恥じた。
 何の悩みもなさそうなあの笑顔の裏で、俺には想像も及ばない壮絶な努力があったんだな。
「それに、頑張ってご飯作ってくれてるみゆきさんに悪いよ」
「高良さんはわかってるんだよな?」
「うん。でも、調子よかったら皆と一緒に食べれられるようにって私の分もちゃんと毎食作ってくれてるんだ。だけど食べられなくて……いきなりは変われないよ」
 かすかにしゃくりあげた。
「……ごめん」
 また地雷踏んじまった。
「あ……! 大丈夫大丈夫、話したら楽になった。今のはみゆきさんには内緒ね、作ってくれるのはすごく嬉しいし少しづつだけど食べれられるようになってるから。それに、付き合いとは言ったけど仕方なくってわけじゃない。皆とお喋りしたいし一緒にご飯食べたい、これは本当だから」
 慌ててまくし立てる。その様が微笑ましかった。
675 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:43:45.98 ID:wk38ICoo
 俺が世話させられた障害児との違いを理解した。
 自分がやりたいことのために皆を振り回すのではなく、皆に合わせるために頑張っている。
 だからこそ、俺も何かしてやりたいって思えたんだな。
「泉は強いな」
「そうかな? 屋根裏部屋の外は知らないことばかりで怖かったけど、面白そうなものもたくさんある。だから頑張れてるんだ」
「……」
 しっかりと前を見据え力強く言うその姿に、不覚にも俺は見惚れていた。
 俺も、こなたと話したいし一緒に食事したい。いろいろなことを経験していきたい。
 だが、これを言葉にするには少々勇気が要った。
 今とりあえずできることとして、買い物袋を片手に持ち替え、空けた手でこなたの肩をポンと叩いてやる。
 気持ち、伝わるかな。
「あはは……焼きたての香りがたまんないね、ちょっとつまみ食いしちゃおっか」
 それまでの重い空気を吹き飛ばすように陽気に言い、ふたつ取り出したコロネの一つを差し出してきた。
「お、いいのか?」
「いいっていいって。ところで」
「うん?」
「太いほうと細いほうどっちがチョココロネの頭?」
 他愛もない問答にシフトし、時折はみ出したチョコに悪戦苦闘し、その様を笑いあいながら家路を歩む。

 そのうちこなたは、食事作ってくれてるみゆきさんの話題をきっかけに数年前の年末に起きた騒動を話しだした。
 正月なんだから特別な食事にしたいが、当時のこなたは訓練が始まったばかりで特に餅や和食に抵抗が強く残っており、正月らしいものは一切食べられなかった。
 そんな中でも特別さを出そうと園長をはじめとする職員さんは一生懸命だった。
 萎縮するこなたをなだめすかして皆の希望とすりあわせた結果、当時のこなたがどうにか食べられるようになっていたピザやパスタを皆で作り、それに合わせローストチキンをお節の代わりにするという線に落ち着いたという。
 その後どうにか食べられる物は増えていったが、普通の正月料理と平行してピザやパスタやローストチキンを作るのが正月の定番になったとのこと。
 寄付されたパスタマシンを使ってみたが、しばらく使っていなかったため錆付いていて生地が真っ黒になったといった失敗談をこなたは笑いながら語る。
 経緯は壮絶なものだったが、その光景は相当ににぎやかなものだったに違いない。

676 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:44:43.84 ID:wk38ICoo
 勇気を出して、さっきハンカチ拾ったときの脚力の秘訣を聞いてみた。
「こういうのはイメージが大事なのだよイメージが」
 顎に手を当て得意げに語り出す。
 お節の話を楽しく話せたのだから、という読みは正解だった。
 何でも、はじめは俺の予想通り満足に走るどころか長距離歩くこともできなかったし、そうする必要性すらわからなかったという。
 職員さんは、そんなこなたが知るメディア越しの知識を切り口に様々なアプローチを試みて、外の世界に出て走る楽しみを引き出そうと四苦八苦していたそうだ。
 それは、保護されたみゆきさんを強迫観念から開放し世話以外のことを教えるように大変なものだったろう。
 そして、どうにか100メートルを休むことなく完走できたときのことをこなたはついさっきのことのように熱く語る。
 残念ながら、職員さんの『連打! 連打!』『コイン! コイン!』『定規! 定規!』といったエールの意味は分からなかったが、走れるようになった達成感、未知の領域に踏み入れた興奮はありありと伝わってきた。
 そのときのこなたはどれだけいい笑顔を浮かべていただろう。

 どうにか接点のある楽しい話題を見つけ出し、それを語らいながら齧っていたコロネの最後の一片を飲み込んだ。
 同じものを食べながら雑談し、美味さや楽しさを共有する。
 ありきたりな買い食いの光景なのだろうけど、人によってはそれすらもとてつもない奇跡と努力の上に成り立っていることを実感した。
 パスタのときも、100メートル走のときも、そこに居合わせられなかったのがなんだか悔しかった。
 俺もこなたも、他の皆も、これからも色々な面白いものに触れて、共有して、話題に困らないようになればいいのにな。

 そんなことを考えながら、施設の門をくぐった。


677 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:46:12.56 ID:wk38ICoo
??「……これまた、凄い」
みのる「やっぱサイコスリラーっすね」
??「というかドキュメンタリーというか。でも使わないってのも惜しいな……」
みのる「ですねー」
??「それにしてもオタクか、スタッフと打ち上げでカラオケ行ったとき、面子の一人が重度のオタクでアニメや特撮のマニアックな歌ばかり歌ってたっけ。頑なに歌わないのも空気悪くなるからやむをえずああしてたのかな」
こなた「あー、あるある。私も屋根裏で見てたビデオでそういうのばかり憶えてるからカラオケ行くとそうなります」
??「そ、そうか。彼は、次に参加したときはどうにか今時の歌を練習してきたけど、たちまち持ち歌は尽きて気まずそうにしてたっけ」
こなた「そうそう、私もです。少しはそういうのも練習してるんですけど、キリないからもう開き直って他の皆がわからないのお構いなしでガンガン歌っちゃいます」
??「そ、そうなんだ。えっと……食べられない問題はまだ続いてる?」
こなた「あ……はい。組み合わせ次第で何とかなる場合もあるんですけど、シチューと味噌汁といった具合にかなり変な献立になっちゃって」
??「そう、まあ、食事の場面はカット割とか繋ぎの工夫で何とかなるか」
こなた「あ、どうせならチョココロネが大好物って設定にしてしまったらどーです?」
??「……いいの? こなたちゃん」
こなた「はい、そこらへん割り切ってますから。それに好物でキャラの個性付けしたり食べ物がらみのネタで話膨らますのはよくある手法でしょ」
??「……」
みのる「あ、なんか??さん落ち込んでる」
678 :劇中劇 [saga]:2009/08/29(土) 12:53:25.36 ID:wk38ICoo
以上です。
家族計画というギャルゲーに出てくる物凄い偏食キャラがヒントになりました。

>598氏の「あのころ」での話題の偏りから来る孤立という要素を組み込んだら話が膨らみました。
679 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/30(日) 00:02:48.10 ID:RiQLoCo0
☆ お知らせ ☆

投票の結果、第16回コンクールのお題は『夢』に決定しました。
http://vote3.ziyu.net/html/test.html
680 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/30(日) 00:09:24.68 ID:gDeU33U0
>>679
夢か
前回の星と近い感じだね、幅広く作品作れるけど
その分難しい
681 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/30(日) 01:43:15.12 ID:JQmnTcSO
>>679
得意なキャラでいくとネタが被りそうな予感が
682 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/08/30(日) 21:08:12.01 ID:jdBbHJoo
最近小ネタや1レスものが少ないねぇ
長編SSが豊富なのも楽しいんだけどね



「ねえ、つかさ。悪いんだけどさ、料理教えてくれないかな」
「えっ?別にいいけど……なんで?」
「うん、ちょっとね。たまにはつくってあげようかなって」
「えっ!?私のためにつくってくれるの!?」
「あ、いや、その……こなたのため、になるのかな。たぶん」
「えっ……こなちゃん……?」
「か、勘違いしないでよ!?あいつが毎日しつこく頼んでくるから仕方なくつくるだけよ!仕方なく!」
「ふーん」チッ

「えっ?」
「えっ?」
「いや、なんか今、舌打ちとかしなかった?」
「まさか。私、そんなことしないよ〜」
「そう?そう……よね。ごめんなさい、変なこと言って」
「ううん。気にしてないからいいよ」

「それでさ、とりあえずこれだけは知っとけっていう料理の基本を教えてほしいんだけど」
「う〜ん。じゃあ、まずは料理の『さしすせそ』かなぁ」
「『さしすせそ』?何それ?」
「え〜っとね、これはね、基本にして味付けの極意なんだよ。これから言うから、しっかり覚えてね」
「わかったわ」

 さ……最初は酢
 し……締めも酢
 す……すばらしきかな酢
 せ……せっかくだから酢
 そ……総じて酢

「総じて酢、と……なんか酢ばっかりだけど、本当にこれであってるの?」メモメモ
「どうかな。でも、私がつくってる料理やお菓子の味付けはこれに従ってるんだよ?」
「そっか。じゃあ、間違いなさそうね」
「うん、間違いないよ。あと、わかってると思うけど、味見は絶対にしたらダメだからね?」
「えっ?そうなの?普通はするもんじゃあ……」
「ダメだよ!料理は常に後の無い真剣勝負なんだよ?味見して調整しようなんて気持ちがあったら、本当に美味しいものなんて出来ないよっ!」
「し、知らなかったわ……料理も意外と奥が深いのね」メモメモ

「最後は愛情と共にお酢をたっぷりこめたら大丈夫。これで明日はホームランだよ!お姉ちゃん!」ニヤニヤ
「ありがとう、つかさ!おかげで、すごい料理がつくれそうな気がするわ!」ニコニコ
683 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/30(日) 21:56:24.10 ID:kGyIl3c0
リボン
かがみ「ねぇ、つかさ」
つかさ「……バルバル……バルバル……」
かがみ「つかさ?」
つかさ「……バル……バル……バルバ……番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。
    本日未明、某国から日本に向けてミサイルが発射されました。
    日本はこれに対しミサイル迎撃を試みようとしましたが憂哀条約に従ってよってこの策は封じこまれる形となり、 
    またそのミサイルも途中、日本海上に墜ら……おい!うわ!やめakpas:fs\s!?」
かがみ「ちょ、つかさ、何……」
つかさ「……危なかった……。これ、角度によって色々拾っちゃうの。……どうしよう……私も今の人みたいに憂哀されちゃうかも……」
かがみ「ごめん……。大切な一票だったのに……」
つかさ「……お姉ちゃんは悪くないよ」
かがみ「……ごめん」

憂☆哀
684 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/30(日) 22:56:27.64 ID:RiQLoCo0
>>682
さすがつかさww酢ばっかww

>>683
嫌な事件だったね……
今回の政権交代で何も起こらないことを切に願う
685 :1/2 [saga]:2009/08/31(月) 01:12:38.37 ID:omIgmzA0
かがみはその日、自宅を数百メートルほど離れた裏路地を歩いていた。
手には質素なデザインの、キャリアの付いた大きな黒い鞄。
頭には帽子をかぶり、髪は丸め、サングラスをかけて。

時刻は夜の1時。
すっかり自動車の通りもなくなり、月が照らしてぼんやり光る街外れに、
虫の鳴き声に乗って、カラカラ鞄を引き摺る音が小さく響く。

かがみはふと歩みを止める。胸ポケットで、マナーモードにした携帯電話が振動したからだ。
徐にその画面を開くと、メールが一通届いていた。
かがみはその文面に目を通す。


 かがみ、いまさらだけど場所大丈夫?
 あと、アレ持ってきたよね☆
 アレ無いとやっぱ盛り上がらんないからさー。
 そんじゃ待ってるじぇ♪♪♪


大丈夫、持つべき物は鞄に入れた。
かがみは心の中で頷く。
そして懸案事項を確認する──

一つに、絶対にこのことがばれてはいけない。

きっかけは、友人からの誘いだった。
当然はじめは、法律的に問題がある、そもそも社会倫理的におかしい、と頑なに断り続けたが、執拗なまで食い下がられ、ついに折れた。
私は、決して心から同調したのではない。あくまで“合わせてやっている”のだ。
傍から見れば私もあいつも同類だろう。
しかし違うのだ。私は本当はやりたいわけではない……

かがみはそう言い聞かせる。

そしてもう一つ、この一度きりだけにしなければならない。
癖にしてはいけない。
あいつは既に一線を越えたようだが、私はそうはなりたくない……

空を見上げる。
半月が少し痩せたような、あまり愉快でない形をした月が地上を冷たく照らす。
今は夏。
夏ながら、ひゅう、と吹きかけた風に、かがみは少し身震いする。
無意識のうちに、足取りが速くなっていた。
686 :2/3 [saga]:2009/08/31(月) 01:14:22.72 ID:omIgmzA0
かがみは目的地であるアパートの部屋の前に着いた。
インターホンを押すと間もなく、その人物は姿を現した。

「こんちゃ、かがみ」
「今の時間だとこんばんはじゃない?」
「こんちゃは全時間帯共通なんだよ」
「なんだそれ」

そしてどうぞ、とかがみを部屋に上げる。
こなた。
悪戯めいた表情が、今夜はやたら強調されて見える。

「見て見てほら」
「何よ」

こなたは部屋の中央を指さす。

「既に盛ってあるんだよ」
「……」
「ねえ、真っ白でしょ?」

こなたは悪ふざけのような顔をいっそう強める。
かがみはその光景とこれから行われることの想像のおぞましさに閉口する。

「それじゃ早速さ」

こなたが机の引出しから、筒状の物体を取り出す。

「始める?」

かがみはなおも黙る。
始めたくない、と言ってもこいつは聞かないだろう。もともとこのために私を呼びつけたのだから。
つまりこの質問は始めから決まった答えが期待されている。ここまで状況が整っていれば、もはや私の意思は関係ない。

「……うん」

かがみは弱く、しかし力を込めるようにして言う。
こなたがにやつく。そして──
687 :3/3 [saga]:2009/08/31(月) 01:15:35.30 ID:omIgmzA0



「ほら、乗っかってきて」

かがみに唆す。

「……まったく」

愚痴をこぼしつつ、白いマットの上裸で横になるこなたを、かがみはその身体で覆い尽くした。

「んー気持ちぃ……あ、そうだ、バ○ブは持ってきたよね?」
「まあ、うん」
「まずはそれでいこー、んふぅ」

こうしてこの日の夜、こなたの部屋では女二人による濃厚な身体の触れ合いが、日が昇るまで展開されたという……
688 :3/3 [saga]:2009/08/31(月) 01:16:32.10 ID:omIgmzA0



「ほら、乗っかってきて」

かがみに唆す。

「……まったく」

愚痴をこぼしつつ、白いマットの上裸で横になるこなたを、かがみはその身体で覆い尽くした。

「んー気持ちぃ……あ、そうだ、バ○ブは持ってきたよね?」
「まあ、うん」
「まずはそれでいこー、んふぅ」

こうしてこの日の夜、こなたの部屋では女二人による濃厚な身体の触れ合いが、日が昇るまで展開されたという……
689 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/31(月) 01:18:47.52 ID:omIgmzA0
おっと、最後ミスって連投してしまったようだ。
ほんとの意味でスレ汚しごめん。
あとはじめに注意事項書くべきだったかな。それもすまん。
タイトルはどうでもいいや。
690 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/01(火) 22:03:03.41 ID:TqtOowSO
コンクールの為にアニメ版のDVD見直してるけど
毎話、必ず誰かが何かを食べてるシーンがあるな
主にかがみとかかがみとか…

第七話だけみゆきがこなたのこと「こなたさん」って呼んでるのはなんでなんだろ?
691 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/02(水) 00:20:05.57 ID:wmvOPIE0
>>690
七話冒頭のこなたとみゆきの会話のことかな、よくは知らないけど
お嬢様言葉って人の名を苗字じゃ呼ばないからじゃないかな?

原作でもかがみはいろいろ食べてますね。かがみの豪快な食べっぷりは好きですね。
それに意外と食事のマナーも悪い、銜え箸とかもする。それも好きだったりします。
692 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/02(水) 00:25:00.43 ID:plltP6U0
>>691
しょーもないことだが、あんたのID今日は動画だな。
それは置いとくとして、みゆきは普段こなたを泉さんって呼んでるからな。
693 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/02(水) 00:37:16.68 ID:iLAyPQSO
>>691
最初は俺もそう思ったけど
みゆきの眼鏡が割れたエピソードに入っても「こなたさん」のままだった
で、八話になったら「泉さん」に戻ってた
694 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/02(水) 01:09:10.06 ID:iLAyPQSO
連投になるけど
そういやかがみって箸くわえたまま喋ったり、箸で人指したり、口に物入れたまま突っ込んで食べかす飛ばしたりしてたなあ
かがみと食い物の話って書いたことないな…なんか考えてみるか
695 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/02(水) 01:16:03.69 ID:wmvOPIE0
>>692
IDでそんなことが分かるのですか、知らなかった。
696 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/02(水) 01:39:43.58 ID:T7U09zUo
>>695はみゆきさんタイプ
697 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/02(水) 01:46:15.31 ID:IAMcXNw0
>>691
7話は名前の呼び方にいっつも違和感感じちゃうんだよな
多分脚本の呼称ミスじゃないか

つかさとかみゆきだったら嫌だけどかがみなら多少マナー悪くても許せる・・・許せる・・・
698 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/02(水) 17:40:43.18 ID:or.VU2DO
完璧超人のみゆきさんが理由もなく呼称を変えるはずがあろうか。
きっと、何か理由があったに違いない。

・何かの罰ゲームとしてこなたに課された
・親しくなってきたので呼称を変えたが、柊姉妹にしめられてすぐ元に戻した
・実はエンドレスなループ中に起きたイレギュラー的な一幕だった
・こなたと付き合い始めたが、すぐに別れた
・実はみゆきさんは双子で、その日だけ……

時間が無いからss化はしないけどな
699 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/02(水) 18:35:48.10 ID:/k4ur.DO
VIPの未来のために清き一票を!

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700 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/03(木) 15:07:14.89 ID:jx2IEUQ0
こなたは詰め寄る。

「……もう逃げ場はないよ」

左手に握られた凶器の銃口を向ける。
レバーを押さえる人差し指の爪がきらりと光る。

「ねえかがみ……」

それをじっと凝視するかがみに問いかける。

「いいよね、やっちゃっても」
「……別に、構わないけど」

こなたがフッ、とほくそ笑む。
そして凶器を振りかざし、高ぶりとともに叫んだ。

「[ピーーー]ええええぇぇぇっ!!」




プシューーッ




こなた「ああやっと死んだ、ゴキが出るのなんて久しぶりだよ」
かがみ「あんたはホント大げさだな」
701 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/03(木) 15:08:23.35 ID:jx2IEUQ0
あ、saga忘れで変換されてもーた
[ピーーー]=死ね
です
702 :命の輪の夢 [saga]:2009/09/04(金) 14:52:09.57 ID:UMRjnyw0
投下行きます。

コンクールのお題が夢と言う事で、夢に絡めた命の輪のシリーズです。
703 :命の輪の夢 [saga]:2009/09/04(金) 14:53:16.98 ID:UMRjnyw0
「起きんかいっ!」
 怒声と共に、俺の頭に衝撃が走った。
「いっってぇーっ!!」
 一発で目が覚めた俺が顔を上げると、そこには拳を握り締めた黒井先生が立っていた。
「…先生、おはようございます」
「ええ夢見れたか?」
 にこやかにそう言う先生に、俺も笑顔を返した。
「先生が出てなかったので、いい夢だったと思います」
「…もう一発いっとくか?」
 笑顔のまま拳を振り上げる先生に向かって、俺は両手を振って否定の意を示した。


「…ほな、授業再開するでー」
 結局もう一発殴られた。周りでクスクスと笑い声が漏れているのが聞こえる。
 隣の席を見てみると、数ヶ月前から付き合い始めた、恋人のこなたが机に顔を伏せていた。その肩が震えている。笑いをこらえているのだろう。
 まったく、カッコ悪いったらないな。


- 命の輪の夢 -


 昼休み。俺とこなた、かがみさんとつかささん、それにみゆきさんの五人は、いつものように机を囲んで昼飯を食べていた。
「ずっと疑問に思ってたんだけど…」
 そんな中、かがみさんが俺とこなたを交互に見渡す。
「なんで、こなたはこいつに弁当作ってきてるのに、自分はチョココロネなのよ」
 こいつの部分で俺を箸で指しながら、かがみさんがそう言った。
 そのことは俺も疑問に思っていた。こなたは俺に弁当を作ってきてくれてるが、自分の分は購買やらコンビニやらで買ったチョココロネで済ませてることが多い。なにか理由でもあるのだろうか。
「二つ作るのめんどくさい」
 …駄目すぎる理由だった。
「めんどくさいんだったら、俺の分も作らなくていいのに」
「そんな事いわないでよー」
 こなたが甘えるように俺の腕にまとわりついてくる。箸を持っている腕だから、食いにくい。
「こういうのは大事なんだよ?地道に好感度上げていって、後々のイベントに備えるんだよ」
 いまいちよく分からない。
「…ようするに、餌付けよ」
「なるほど」
 横からのかがみさんの解説に納得した。
「ちーがーうー…かがみ、余計な事いうなー!」
 こなたが俺の腕を離れ、かがみさんに文句を言いに行ってる間に、俺は弁当を平らげることにした。


704 :命の輪の夢 [saga]:2009/09/04(金) 14:55:03.02 ID:UMRjnyw0
 弁当を食べ終わり、お茶を啜って一息ついていると、向かいに座っているつかささんが俺の方をじっと見ているのに気がついた。
「俺の顔になにか付いてる?」
「え?あ、いや…その…今日、なんか眠そうだなって。さっき授業で居眠りしてたし…」
 それか。俺は少し溜息をついた。こなたにも笑われたし、アレはかっこ悪かったな。
「昨日、こなたに勧められた深夜アニメ見ててね。あまり寝てないんだ」
 原因はこなただったりするんだけどな。
「そういや、感想聞いてないや。どうだった?」
 こなたが顔を突っ込むようにして、横から聞いて来た。
「…いまいち、よく分からなかったな」
 俺が正直にそう答えると、こなたは腕を組んで眉間にしわを寄せた。
「むーアレもダメか…どういうのがツボるんだろうね…」
「っていうか、アニメ自体に興味が薄いんじゃないの?」
 こなたの向こう側から、かがみさんが呆れたようにそう言った。
「えー、それつまんないよ。なんかこう、共通の話題って言うか語り合える趣味って言うか…」
「だったら、無理矢理こっちに引きずり込むんじゃなくて、相手に合わせてみるとかしなさいよ」
 それはそれで問題があるな。
「そう言えば、聞いたことないのですが。なにか趣味や凝っている事とかおありなのでしょうか?」
 こなたの居る逆の方から、みゆきさんが俺にそう聞いてきた。
「いや、それが全く無いんだ」
「あ、あら…」
 俺の答えを聞いて、みゆきさんがカクンと肩を落とした。
「こういう無趣味な人だから、わたしはその人生に潤いとか張りとかを与えてあげようとしてるのですよ!」
 拳を握り締めて、力説するこなた。
「そういや、いい夢だったようなこと言ってたけど、どんな夢見てたの?」
 それとは全く関係なく、つかささんがさっきの居眠りについて俺に聞いてきた。
「ちょっと、つかさー!?」
「うん、まあなんつーか…」
「なんでそっちに食いつくの!?わたしの立場は!?」
 こなたが横でなにかうるさく言っているが、とりあえず無視して質問に答える。
「こなたと結婚して、子供も作ってたな」
 場が一瞬で静まり返った。チラッと隣を見ると、こなたが顔を机に伏せていた。照れているのか、耳が赤い。
「そ、それってプロポーズ…?」
 こなたが俺にそう聞いてきた。顔を伏せたままなので、声がくぐもっている。
「見た夢そのまま言っただけだぞ」
 まだ高校生なのに、プロポーズはないな。
705 :命の輪の夢 [saga]:2009/09/04(金) 14:56:18.52 ID:UMRjnyw0
「でも、夢にはその方の願望が出ると言いますし…」
「うん、やっぱりこなちゃんとそうなりたいとか…」
 みゆきさんとつかささんが、遠慮がちにそう言ってきた。
「まあね。それは思ってるな」
 俺がそうはっきり言うと、みゆきさんとつかささんは苦笑いのような表情を見せた。
「かがみ、たすけてー…」
 隣では、こなたが今度はかがみさんにすがり付いていた。
「何をどう助けろって言うのよ…」
 言いながら、かがみさんはこなたを振りほどいて、自分の弁当箱を持って立ち上がった。
「それじゃ、そろそろ教室戻るわ」
 そう言って、教室のドアに向かうかがみさん。その腕にこなたがすがり付いていた。
「ちょっと、なんでついてくるのよ?」
「…置いてかないで」
「いや、あんたの教室ここだろ。ってか、あいつの側にいてろ」
「…これ以上側にいたら死んじゃいそう」
「は?…いや、意味わかんないから」
 言い合いながらも、二人はそのまま教室を出て行った。残された俺たち三人は、なんとなくお互い顔を見合わせた。


「それにしても、よく分からないよね」
 こなたが戻ってくるのを待っていると、つかささんがポツリと呟いた。
「なにが?」
「こなちゃん達が付き合いだしたって聞いたときね、わたしこなちゃんと遊ぶ時間とか、凄く減ると思ってたんだ」
 そう言いながら、つかささんはさっきまでみんなでお昼を食べていた机を見渡した。
「お昼ご飯もね、こなちゃん達二人きりで食べるんだって思ってたよ」
「そうですね…わたしも、そう思ってました」
 つかささんの言葉に、みゆきさんが同意する。
「でも、なんか違うって言うか…友達が一人増えただけって言うか…」
 言いながら、腕を組んで考え出すつかささん。言いたいことが、あまりまとまっていないようだ。
「こなたがそうしたいって、言ったからな」
「泉さんが?」
 その言葉に目を丸くするみゆきさんに、俺は頷いて見せた。
「みんなとは今まで通りにしときたいって…その上で、俺と付き合いたいってさ」
「…はあ」
 みゆきさんが呆れたような感じで溜息をつく。
「それで…納得できたの?」
 つかささんが俺にそう聞いて来た。
「そりゃ、特に反対する理由も無いしな」
 俺は特に考えずにそう答えた。
「というか、俺にも利点はあるしな」
「へー、どんな?」
「…女の子に囲まれるって経験は滅多にできるもんじゃない」
「あ、あはは…」
「そ、それはどうかと…」
 流石に言い過ぎたのか、つかささんとみゆきさんが苦笑い気味だ。
 そして、その直後。俺の顔面に何かがぶち当たった。
 衝撃から立ち直って前を見ると、床に落ちた上履きと、何時の間に戻ってきてたのか、頬を膨らませたこなたが見えた。
「浮気は許してないからね!」
 俺もそんなつもりは毛頭無い…多分。

706 :命の輪の夢 [saga]:2009/09/04(金) 14:57:39.51 ID:UMRjnyw0




 顔に何かが当たり、目が覚める。
「…夢…か?」
 自分が、高校生の夢。やけにリアルな夢だった。
 ふと、自分の頭が何か柔らかいものの上に乗っているのに気がついた。
 よく見てみると、俺と天井の間にこなたの顔が見える。どうやら俺は膝枕をされているらしい。
 昼寝をしている俺を見て、なにかしたくなったのだろう。
「…こなた…こなた?」
 呼びかけてみるが、返事が無い。こなたも俺に釣られたのか、寝ているようだった。頭がフラフラと揺れ、半開きの口からよだれが垂れている。
 …って、ちょっと待て。
 俺は自分の顔を手で拭った。少し粘り気のある液体が手につく。どうやら、寝てる間中こなたのよだれを顔面に浴びていたようだ。


 顔を洗って戻ってくると、こなたはまだ起きておらず、床に寝そべって寝息を立てていた。
「サービスをしたかったのか、嫌がらせがしたかったのか、どっちなんだ…」
 そう呟きながら、俺はさっきとは逆にこなたに膝枕をすることにした。男の硬い太腿じゃ、あまり寝心地は良さそうじゃない気もするけど。
 こなたの髪を撫でながら、俺はさっきの夢のことを考えた。
 詳細まで思い出せるほどのリアルな夢。自分が高校生であり、こなたと同じ学校に通っているという、今とは全然違う設定だった。こなたに膝枕をされていたから、そんな夢を見たのだろうか。
「どっちが夢で、どっちが現なのだろうな…」
 ふと、そんな事を思った。
 学生のころに、こんな話を聞いたことがある。中国のとある人が、蝶になって飛ぶ夢を見て、目覚めた後に自分が蝶になる夢を見たのか、それとも蝶が自分になる夢を見ているのか、と考える…確かそんな感じの話だ。
 その答えは誰にも…夢を見てる本人すら分からないだろう。
 だから俺も…今の俺が夢の中であり、向こうが現実かもしれない。
「…どっちでもいいな」
 そう、思う。
 どちらの俺もこなたと出会い、好きになっている。周りの人とも楽しく話が出来ている。
 どちらの世界でも、なんの問題もないくらい、俺は幸せなのだ。
「恵まれすぎだな、俺は…」
 そう呟きながら、俺は手近にあった水性ペンを手に取り、キャップを取った。
 そして、こんな幸せを与えてくれるこなたに感謝しつつ、さっきのよだれの仕返しに顔に落書きを始めた。
 とりあえず、額に肉は基本らしい。


- おわり -
707 :命の輪の夢 [saga]:2009/09/04(金) 14:58:46.22 ID:UMRjnyw0
以上です。

なんていうか、ベタですね…。
708 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/04(金) 19:59:51.62 ID:OfqTD7A0
投下します
709 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/04(金) 20:00:58.65 ID:OfqTD7A0
書き忘れた、ジャンルはホラーのつもりです。苦手な方はご遠慮ください
710 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:01:59.83 ID:OfqTD7A0
 今日は久し振りに何処にも行かずネトゲ三昧な一日だった。夏休みももう中盤。まだ宿題は終わってないけど、まぁ、なんとかなるし、そこは気にしない。
 気付けば時間は深夜1時。流石に少し眠くなって来たので、パソコンを終了してベッドに寝転ぶ。
 だけどまだ寝ない。携帯を開き、寝る前に軽くネットサーフィンをするのが最近の日課になっているからだ。
 よく行くサイトにレスをしたりしていると、画面上に気になる広告があった。

 怨霊サイト。

 何だろう。見た事ない広告だ。というか広告なのだろうか? まぁ今の時期じゃ、調度良いタイトルだと思うけど。
 ま、たいしたサイトじゃないだろう。スルースルー。

 やがてサイトを見終わり、さて寝るか、と携帯を閉じようとした時。またあの広告を見つけてしまった。
 必死なサイトだなぁ。とか思いつつも興味が湧いてきたりしていた。寝る前に恐怖体験するのも夏らしくて良いかな〜なんてね。
 入るか入らないか暫く迷っていたが、結局は入る事にした。怖い物見たさってやつだよ。

 いざ入ってみると、やはりというか、それっぽい雰囲気漂うサイトだった。真っ黒い背景に、赤い字で『霊の遊び場』と書かれている。
 だけど何かおかしい。
 普通、広告サイトというのはその名の通り、商品の販売や携帯アプリ等の、お金を払う系のサイトだ。私もそれを期待してどんな怖い物があるのか、と一通り見て終わるつもりだった。
 しかし、これはどう見ても、一般の個人のサイトなのである。
 個人サイトって広告の位置で宣伝出来たっけ? 有名サイトって訳でもなさそうだし……。
 ま、いっか。
 とりあえず、ここがどんなサイトか知るために『はじめに』という項目をクリックした。
711 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:03:24.66 ID:OfqTD7A0
 間もなく表示されたページには、このサイトの説明文が書かれていた。内容を要約するとこうだ。

 ここは管理人が趣味で作った恐怖CGを公開する個人サイトであり、各CGには仕掛けがあり、それを解くと『鍵』を入手できる。
 全ての鍵を集め『扉』を開き『脱出』できるという内容。

 どこから脱出するんだか。それと最後に注意事項として、心臓が悪い方は閲覧禁止〜みたいな事が書かれていた。
 うん。やっぱりここ、個人サイトじゃん。確信したね。
 まぁ、それはどーでもいっか。頑張って広告できる地位を獲得したんだろう。

 とりあえず、遊んでみることにしますか。
 『ギャラリー』の項目をクリックする。日記もあったが今はスルーしておいた。開いたページに、項目は三つしかなかった。少ない……。が、ちょっと遊ぶつもりの私には調度良い数かな。
 項目は上から『腕と鍵』・『砂時計』・『呼び鈴』となっていた。先ずは『腕と鍵』だ。

 『腕と鍵』のページに入ると、気味の悪い白い腕と鍵が表示された。腕の手は開いている状態だ。
 仕掛けがあるって事なんだけど、鍵見えてるじゃん。練習部屋なのかな?
 鍵にカーソルを合わせると、カーソルが指に変わったのでクリックしてみた。すると鍵はカーソルにくっついた。
 鍵で扉を開けるらしいから、この状態で戻れば良いのかな? なんか簡単すぎるよ。ちょっと拍子抜けしちゃ――。
 ん? ん?
 よく見るとCGに異変が起きていた。白い腕が鍵を持ってるカーソルに向かって伸びて来ていたのだ。
 きもっ! 仕掛けってこれの事か。
 私は腕に捕まらないよう、カーソルを動かし逃げようとしたが、時既に遅し。もう今にも捕まりそうな距離だった。
 え、これどうなるの? どうなるの? と、ホラーサイトなので半ば緊張していると。
 手がカーソルを掴み取り画面がクラッシュした。赤いフラッシュの効果が発動し、携帯のバイブが機能した。
 驚いて携帯を離してしまった。画面を見ると、トップページに戻されていた。
 はは、なかなかやってくれるじゃん……。少しちびっちゃったよ。くそぅ。
 でも内容はよく分かった。このままでは悔しいのでクリアしてやろうと闘志を燃やした時、一通のメールが届いた。
712 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:04:34.38 ID:OfqTD7A0
 こんな時間に誰だろう? と、別ウィンドウを開きメールを確認する。
 すると、そのメールは知らないアドレスから送られて来たものだと分かった。本当に誰だよ……。
 メールを開いてみる。


時刻  2009/08/12 水 01:22
差出人 ******
件名  道
―――――――――――
大丈夫。
もうスぐあなたのところに着く

で、心配しないデください。

―――――END―――――

 一瞬、ゾッとしたが、直ぐに閃いた。
 恐らくこのサイトに入ったときに、何かしらの形で私のメルアドが登録されてしまったんだろう。そしてCGの仕掛けに失敗すると、怖いメールが届くようになっているんだ。中々作り込まれているが、勝手にメルアド登録っていけないんじゃないかな。後でメルアド変えなきゃならないよ……。
 画面をサイトに戻す。『腕と鍵』のページを開き、今度は難無くクリアした。
 これで鍵は一つ目。ギャラリーの項目は三つだから、鍵は全部で三つなのかな? ということで、二つ目のCG『砂時計』を見ることにした。
 その時。部屋の明かりが消えた。
 停電? じゃないよね……。
 試しにテレビを点けてみる。映った。やっぱり停電じゃない。電球が切れたのだろうか。
 テレビを消して視線を携帯に戻す。ま、これが終わったら寝るし、電球変えるのは明日でいっか。
 そう結論付けて、私は『砂時計』をクリックした。

713 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:05:49.37 ID:OfqTD7A0
 画面には、大きな砂時計が一つあるだけだった。
 背景は、病院の廊下みたいな絵で、薄暗く不気味だ。
 さて、こんどは何をすれば良いのかな? 砂時計にカーソルを合わせても、クリックの印である指に変わらないし……。
 砂時計の砂が、ちびちび落ちていく。ここでの砂時計の役割は、恐らく制限時間だろう。この砂が落ち切る前に、何かアクションをしないと失敗になり、メールが来る。何回失敗して良いのか知らないけど、私としてはもう失敗したくない。なんかこう、ゲーマー魂に火が着いたっていうかね? 負けたくないのだよ。私は。
 画面に集中する。何も無い病院の廊下。蛍光灯の調子が悪い事を演出してるのか、度々画面が黒くフラッシュしていた。
 そこで気付いた。
 画面がフラッシュする度に、何か白くて細長い物が近づいて来ていたのだ。
 カーソルをその白い物に合わせると、指に変わった。
 クリック出来る証! だけど、本当にこれなのかな? と、思っていると、また画面がフラッシュ。白い物は更に近づいて来ていた。そして、それは物じゃなくて“者”だという事が分かった。

 全身、白ずくめの女の幽霊。

 気持ち悪い。明らかにダメっぽいんだけど、他にクリック出来るところ無いしなぁ……。
 一か八かでクリックしてみた。
 その瞬間。気味の悪い女の顔が画面全体を占め、先程の『腕と鍵』と同じフラッシュとバイブの演出が発動した。
 女の顔に驚いた私は、携帯を勢いよく閉じてしまう。
 CGとはいえ、恐すぎるよ。グロ画像と言っても過言ではないね。うん。
 一呼吸置いて携帯を開くと、またバイブが鳴った。あぁ、あのメールか。ってことは、やっぱり失敗かぁ〜。
714 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:07:08.40 ID:OfqTD7A0
 一応、メールフォルダを開いて確認する。


時刻  2009/08/12 水 01:27
差出人 ******
件名  家ノ前
―――――――――――

あナ た
  の 屋
部 ハ
ど で か
 コ ス ?
ド デ  す
 こ か?


―――――END―――――

 ……え?
 一瞬、何が書いてあるのか分からなかった。その内容をよく見る。
 あなたの――。

 あなたの部屋はどこですか?

 バラバラになってる文字を繋げると、こうなる。ありきたりなネタだけど、深夜にやられるとちょっと怖いね。あなたの部屋は〜なんて、廊下にでも居るのか――。
 がたん。
 小さいが、廊下から物音が聞こえた。まさか、ね。そんなはずないよ。
 しかし、気になるので息を潜めて様子を伺う。
 ……。
 …………。
 微かに聞き取れたのは、足音の様なものだった。その音は、今も続いている。
 まさか……そんなはずないよ。ゆーちゃんがトイレで起きたんだよ。それしか考えられないよ。階段を降りる音はしてないし、お父さんじゃない。うん、やっぱり、ゆーちゃんだ。
 すす……すす……。
 足音は未だに廊下から聞こえてくる。
 ふと、窓に目が行った。何も見えない暗闇は今の私にとって、非常に不気味だった。なのでカーテンを閉めようと手を伸ばす。すると……。

 窓の外側に、白い手の平が張り付いていた。

 その手の平は、どんどん数を増やしていく。まるで手の平スタンプを押しているみたいに、ぺたん、ぺたん、と。
 叫びそうになり、声を押し殺す。
 もし、今、声を出してしまったら、廊下に居る奴に気付かれてしまうからだ。
 もう私は、廊下に居るのがゆーちゃんだという甘い考えを捨てていた。
 テレビ等でよく見る心霊現象に、私は取り込まれてしまったんだ。
715 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:08:02.10 ID:OfqTD7A0
 なんだよ、なんだよこれ。このサイトは何なんだよ!
 心中で叫びながら思い出す。このサイトの『はじめに』に書かれていた事を。

 鍵を集めて脱出する。

 脱出というのは、この心霊現象から脱出って事……だよね? もう、そうとしか考えられない状況だし。
 今、私が持っている鍵は一つだ。
 再び視線を携帯に戻す。そしてトップページにある『扉』というページを開いてみた。
 そこには大きな鉄の扉があった。扉の左側には鍵穴が三つある。その内の一つをクリックしてみると、鍵穴は消えた。
 後二つ。残りのCGをクリアしなければならない。
 これは私の勘だけど、後一回ミスったらゲームオーバー。廊下の奴がこの部屋に入って来るんだ。もう失敗は許されない。

 私は怯えながらも、ゲームに集中した。集中と言っても、答えは分からない。どうすれば良いんだ……。女をクリックしたらアウト。かと言って、他にクリック出来るところは無い。こうして考えている間にも、砂時計の砂は落ちていく。
 まずいよ、制限時間がどんどん失くなっていくよ! このままじゃ私は……!
 そこで異変に気付いた。砂時計の砂が減っていく一方で、砂の中に何かが隠れているのだ。これは……。

 鍵だ!
 なるほど。この砂時計は制限時間と思わせる罠だったんだ。時間が迫る事で早く何かしなければ、と思い、唯一クリックする事が出来る女をクリックする。そして失敗……って感じかな?
 とにかく、これで砂時計はクリアだ。
 私は鍵を手にして扉ページを開き、二つ目の鍵穴を塞いだ。
 これで後一つ。絶対に脱出してやる!
 そして、最後のCGである『呼び鈴』をクリックした。画面に表示されたのは壁にくっついている呼び鈴だけだった。今度は何をすれば良いんだ?
 手抜きな感じのCGで、またもや難解しそうだ〜と絶望しながら、とりあえずカーソルを動かしてみる。
 結果。クリック出来る箇所は呼び鈴のボタン、一つだけだと言う事が分かった。
 いくらクリック出来る箇所が一つでも、ここでボタンを押したら『砂時計』の二の舞だ。ここは慎重に行こう。
 しかし、いくら待っても画面に変化は訪れなかった。フラッシュも無ければ、お化けも出てこない。一体、どうすれば……。何かヒントは無いの――。
716 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:09:04.58 ID:OfqTD7A0
 そうだ、思い出した! トップページには『日記』があるんじゃないか! あそこならヒント位、書いてありそうだ。
 希望が少し出て来た。ページを一旦トップに戻し、日記をクリック。日記は僅か数個しか記事がなく、去年の夏から更新されていなかった。
 去年? 何でこんな過疎ってるサイトが広告に……いや今はそんな事を考えている場合じゃないか。私はその中の『新作、呼び鈴』という記事を見る事にした。
 そして私は目をむいた。
 そこには攻略情報なんて無い。あるのは、ここを訪れたであろう人達の悲鳴染みたコメントだけだった。

 ふざけんな!
 助けて!
 死にたくない

 背筋が凍り付く。他の記事も見てみるが、どれも似たようなコメントしか無かった。
 冗談でしょ……。これ、皆、失敗して……。

 死んだっていうの?

 口が渇く。全身に鳥肌が立つ。寒い。布団をかけても寒い。
 嘘だ……嫌だよ! まだ死にたくない。死にたくない死にたく……。
 そうだ。電源、携帯の電源を切っちゃえば良いんだ! なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだろう。あはははは。消えちゃえ消えちゃえ、消えて消えて消えて消えて消えて消えてよ! 何で消えないんだよ! くそ、くそっ!
 ならこのまま放置だ。要はこれ以上、進めなきゃ良いんでしょ? 朝まで放置してやる。そこでずっと彷徨ってなよ! あはははは!
 早く朝になれ朝になれ朝になれ朝になれ朝に……! なんだよこれ。なんで時計が止まってるんだよ! 携帯も!
 嫌だよ……誰か助けてよ……。意味分かんないよ! あぁぁあぁああぁぁっ!

717 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:10:51.91 ID:OfqTD7A0
 ――やるしかないの? クリアするしかないの? でも失敗したら死んじゃうかも知れないんだよ? そんなのって無いよ! やりたくない……もうやりたくない。
 でもやらないと、ここから出られない。
 ……。
 ……やってやるよ。やれば良いんでしょ? うぅ、なんでこんなサイト開いちゃったのかなぁ……。
 絶対脱出してやる。お前等の思い通りになんてなるもんか!

 目を閉じ、深呼吸して心を落ち着かせる。大丈夫。これがゲームなら必ずクリア出来る様に作られている筈さ。だって、ただ殺したいだけなら脱出する為の鍵なんて作る必要ないしね。落ち着け私。
 目を開ける。
 携帯の画面は、いつの間にか『呼び鈴』のページを映していた。
 逃がさないって事? どうせ逃げられやしないのに……。
 さて、どうするか。この『呼び鈴』はクリック出来るところが一つしかない。待っていても、何も反応は無い。なら考えられることは一つしかない。クリックした後に何かがあるんだ。
 問題はその“何か”をどうやってクリアするかだ。何が出て来て、何をすれば良いか。時間制限もあるかもしれない。一瞬かもしれない……。
 失敗はもう許されない。押して進むか、押さずにこの異空間に留まるか……選択肢は決まっている。一か八かの最初で最後の賭けだ。

 私は異を決して、唯一クリックが出来る呼び鈴を押す。
 押したその瞬間、鉄格子が降りてきた。
 えっ? どうすれば良い――。
 考える間もなく、赤いフラッシュ、クラッシュと共にバイブが作動し、トップページに戻された。
718 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:12:05.71 ID:OfqTD7A0
 え……? 失敗、なの?
 そんな……そんな、卑怯だ! 抗い様が無いじゃないか! 来るの? 来るな! どうしよう。嫌だ死にたくない!
 逃げ場も無く、布団を被って隠れる事しか出来ない。身動きもせず、見つからないように隠れる。

 ……。
 …………。
 おかしいな。何も起きない? もしかしてまだ大丈夫なのかな? もう数分は経ったと思うんだけど……。
 携帯を見るとメールが来ていた。まだゲームオーバーじゃないのかな?
 確認しなきゃ分からない。部屋に誰か居る気配も無いし、まだセーフ?
 不安と恐怖に怯えつつも、私はメールを見る事にした。


時刻  2009/08/12 水 01:42
差出人 ******
件名  アナタ
―――――――――――
ひ  ヒ火  比ひヒヒヒ








見つけた
―――――END―――――

 ――え?

 携帯の画面から視線をずらすと、目の前には……。

 白い女が立っていた。




719 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:13:30.61 ID:OfqTD7A0
 ――8月12日。早朝。こなたが意識不明の重体で発見された。
 その日、こなたは部屋で倒れていたらしい。ベッドから落ちたらしく、床に俯せになっていたそうだ。
 窓は全開で、部屋の入口付近の壁には僅かな凹みがあった。その下には壊れた携帯が落ちていた。
 恐らく、携帯で何かがあって叩き付けたんだと思う。
 だけど、業者に来てもらい、携帯のネット履歴を見ても怪しげなサイトは無く、着信やメールにもそれらしい物は見当たらなかった。
 一体、こなたに何があったのだろうか……。
 不可解な謎を残して事件は終わった。

 そして事件発生から暫くして、こなたは目覚めた。
 しかし、それは以前のこなたでは無かった。
 言葉も発しず、歩こうともしない。何を言っても上の空。それはまるで人形だった。生きてはいるが、自分では何もする事が出来ず、されるがまま。魂を抜き取られたかの様に存在するその抜け殻は、もはや人間ではなかった。
 その日に、何が起こったのか分からない。でも、これだけははっきりと言える。

 私はこなたをこんなにした奴を絶対に許さない。


 あれから3日後の現在、信じられない事が起きた。
 夜、私が勉強をしていると携帯が鳴った。そして、携帯のサブディスプレイを見て目をむいた。
 その液晶に映し出されていた文字は“こなた”の3文字。私は直ぐさま携帯を開き、メールを確認した。


時刻  2009/08/15 土 21:42
差出人 こなた
件名  335555
―――――――――――

寂シ
が    アナタ
ってル
      も
み い
 た だカラ
        い
     来テほし


http://******.com

―――――END―――――

720 :怨霊サイト・獄 [saga]:2009/09/04(金) 20:15:38.04 ID:OfqTD7A0
>>710-719
以上です。とある有名携帯ゲームサイトをやってて思いついたネタです。
元ネタはタイトルまんまです。
721 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/04(金) 21:42:14.43 ID:U65ENS6o
やるじゃん。結構怖いぜ。
窓がなんか気になるからカーテン閉めとこう。
722 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/05(土) 00:01:00.80 ID:Ca/.xGM0
かなり怖いわwwwwwwwwww。でも、最高!!
確かに窓が気になるなww。
723 :劇中劇 :2009/09/05(土) 12:44:07.20 ID:OkanQNUo
投下行きます。
パラレルワールド(?)にて、諸事情あって養護施設に保護された面々を白石視点で描きます。
ちょい欝です。
724 :劇中劇 [saga]:2009/09/05(土) 12:48:40.86 ID:OkanQNUo
 ほされる

 ある日の夕方。
 今日はみゆきさんと俺が夕食の当番だったが、彼女は他の用事ができたため代打のみさおと組むことになった。
 みさおは鍋に煮干を投入しながらつぶやく。
「いやー恥ずかしい話、小さい頃からコレをそのまま“ニボシ”って覚えてたから、最近までニボシって名前の魚だと思ってたよ」
 袋に印刷された名称や原材料の表示を感慨深げに見ていた。
「あー、あるある。俺はガキの頃、“ニ”という名前の魚の干物だと思ってた」
「わはは、あるよなー。有名な絵で“ムンクの叫び”ってあるじゃん? あれもそういうタイトルじゃなくてムンクって画家の“叫び”って絵なんだってなー」
「あったあった、そういう間違い。“ヒチコックの鳥”って映画があるが、そんな名前の鳥の怪物が出てくるんじゃなくヒチコックって監督の“鳥”って映画なんだよな」
「!! そーなんだよなー、続けて言うから紛らわしいよな。間違えるよなぁー、わかるわかる!」
 共感得られたことが嬉しくてたまらないのか、みさおは油揚げや野菜を刻みながらはしゃいでいた。
「この前、泉が俺のことセバスチャンと呼んだんだが、はじめはセバスって人をちゃん付け……ん? どうした?」
 苦笑していたらみさおの手は止まり、俯いていた。
「……やっぱり雑談ってこうだよな」
 目を潤ませていた。
「何かあったのか?」
 地雷か? 発作かと身構えてしまう。
「あ……うん。夏休み入る前、学校で弁当食べてたときも友達とさっきみたいな話してたんだけど『ホントに恥ずかしいヤツだな』って言われてなー」
「うわ、直球」
「私、この歯の件があったから今みたいにコンロの前に立つことなかなかできなかったんだ。最近になってどうにか乗り越えたから、こうして味噌汁とか作れるようになってさ」
 鍋から出し殻を取り出しながら、この前のこなたのように誇らしげに、そしてどこか寂しげに語った。
725 :劇中劇 [saga]:2009/09/05(土) 12:51:45.97 ID:OkanQNUo
 発作起こしたとき、コンロで焼いたドライバーとか言ってたな。そこに立つと、とてつもない恐怖の記憶を呼び覚ましてしまったのだろう。
「じゃあ、ニボシの間違いに気づく機会も最近までなかったわけだ」
「そうなんだー。あいつは事情知らねんだからあれが普通の反応なんだろうけど、私が家事とか怠けてたってバカにされたみたいで悔しくてなー」
「そうか……怠けるもへったくれもなかったんだろうに。乗り越えるの大変だったんだろ?」
 発作の光景を考えると、克服が相当な苦難だったのは想像に難くない。
「あー。でも、確かに料理なんてできて当たり前のことなんだし、その当たり前のことができるようになったぐらいで有頂天になってたんだから確かに恥ずかしいヤツなんだよな、私」
「いや、そんなことないだろ。普通なら立ちはだかることのない高いハードルを乗り越えたんだから立派だって」
「……ありがとなー」
 その言葉も寂しげだった。
 俺なんかじゃなく、その友達にこそ褒めてもらいたかったんだろう。
 共感得られないってのは寂しいことだな。
 しばらく作業を続けていたら、みさおは出し殻を甘辛に炒めながらつぶやいた。
「あのときの弁当のおかず、なんとかコンロの前に立てるようになって初めて作った料理だったんだ」
「……! でも、事情はヘビーすぎてその場では話せないか」
「そうなんだー、弁当食ってんだから食欲失せること話すわけにもいかねーし。だから空気入れ替えようと思ってムンクの話に切り替えたら、そうなんだって感心されてさ。嬉しくて更にあれこれ喋ってたら、ちょっとからかっただけなのに大喜びしたって引かれちゃってなー」
「掛け合いってのは難しいもんだな」
726 :劇中劇 [saga]:2009/09/05(土) 12:55:03.90 ID:OkanQNUo
「うんうん、すっげー難しい。おまけに、通りすがりのヤツに施設育ちは非常識だの世間知らずだのとバカにされてさ。私がたまたまズボラだっただけで、高良さんみたいにしっかりしてる人やチビっ子みたいに物知りな奴だっていくらでもいるんだって言い返したけど、墓穴掘ってどうするって友達から突っ込まれたし〜」
 あ〜また落ち込んでく。
「ひどいな、ほんとに友達かそいつ」
 みゆきさんならうまいフォローできるんだろうな。その友達なりの思いやりで、ちょっとしたからかいで元気付けようとしたとかなんとか。
「あ、うんうん! 突っ込みきついとこあるけどあいつは基本的にいいヤツなんだってヴぁ、世間知らずとか言った奴フルボッコにしてくれたし」
「……そうか」
「それにツンデレっての? 顔真っ赤にして髪の毛くるくるいじりながら強がり言うのがすっげー可愛いんだぜぇ〜」
 以下、ノロケ話のようにその友達のいいところを熱弁された。
「結局は友達自慢かよ」

 苦笑して調理を再開したとき、食堂と繋がった共同スペースから、ぱんぱかぱーん! などと口頭でのファンファーレが聞こえた。
「聞〜ておどろけー!! ドラマ出演が決まったよ――――ん!!」
 小柄な少女が、そこにいた他の子と手を取り合ってはしゃいでいた。
「ん? 見かけない顔だけど新入り?」
「いや、ここの子、小神あきらってんだ。最近は新しい企画のオーディションだかでここ離れてたんだ。テレビで見たことねえ? 3歳のころから子役やってたんだとさ」
「……知らない」
「まー、チョイ役が多かったからしょーがねっか。それに最近は……」
 と、そこで鍋が噴きはじめ話は中断した。

727 :劇中劇 [saga]:2009/09/05(土) 12:56:29.65 ID:OkanQNUo
 料理が出来上がり皆で席に就く。
 そう、皆だった。
 こなたの姿を確認した。今日は調子がいいのか口にするときもさほど無理してるようには見えず安堵した。
 みさおも思うことは同じらしく、隣の子と会話もしているこなたを嬉しそうに見守っていた。
 そして俺の視線に気付いたみさおは下唇を突き出した妙な表情でサムズアップしてきた。
 表情の意図はよく分からないが、とりあえずサムズアップを返しておく。
 あきらは俺の隣に座っていた。ゲームの話をしてたので、それに関し思い出とかあるかと話を振ると、パァと顔をほころばせた。
 地雷を踏んでしまったわけではなさそうだが、それどころでない事態が発生した。
 客観的に見るとあきらは元気よく挙手し楽しそうに答えてるだけなんだろうけど、振り上げたあきらの手は激しい折檻の記憶を呼び覚まし、更にはマウントポジションになってボコボコに殴られた記憶まで蘇り反射的に身をすくめてしまう。
 こんなちっこい子にビビってしまうってのも情けない話だが、この反射は染み着いてしまってどうにもならない。
 堪えろ堪えろ、こういうふうにテンション高くリアクションする人はいくらでもいる。配慮なんぞ求めてたらキリがない……。

728 :劇中劇 [saga]:2009/09/05(土) 12:59:27.83 ID:OkanQNUo
 食後、あきらの今後についての詳しい話になる。
 新しく始まるTVドラマの関連番組となるラジオ番組のナビゲーターを勤め、しばらくしてドラマの放映が始まったらその番組内の1コーナーとしてTV進出するとのこと。
 そして中盤からはドラマ本編にも出るという。
 その話を聞いて他の子が不安げにあきらの腕を見た。
「あ……うん。手首、初めは袖の長い衣装でごまかすけど、劇中の衣替えに合わせてこっちの衣装も変えるからそれまでに消してくれってさ。だけど……」
 言葉を濁したあきらにつかさとみさおがフォローを入れる。
「あきらちゃん、私は後でいいよ」
「そーそー、チャンス逃すことねーって」
 ふたりの共通項と手首という単語でピンと来てしまった。
 クーラーなんてないので暑いのに、あきらだけ長袖のシャツを着て、おまけに袖口もしっかりと止めていた。
 彼女も目立つ傷を抱えている。おそらく、追い詰められ自らを傷つける方向に向かってしまったのだろう。
 その治療の優先順位が変わったということか。
 あきらは泣きながらふたりに抱きつき、その様をひよりをはじめとする足長お姉さん達が温かい目で見ていた。
 その光景に、俺も稼いで少しでも助けになれるようになろうという考えが浮かぶ。
 俺も新聞配達でもするかな、そういう奨学金もあることだし。
 そういえば近所のペットショップでバイト募集してたっけ。
 ボロ雑巾のようにこき使われるかもしれないが、足長おじさんならぬお兄さんとして頑張ろう。

729 :劇中劇 [saga]:2009/09/05(土) 13:02:58.39 ID:OkanQNUo
 などと考えていたら、みさおはあの八重歯を覗かせはにかみながら更なるフォローを入れた。
「白石がさ、私の歯、小悪魔チックで可愛いって言ってくれたんだー。だから私はこのままでもいいかなって思ったんだってヴぁ!?」
 あきらは、あの小柄な体に不似合いな怒気を立ち上らせた。
「あぁん? そりゃ結構なこって、アン○リーバボーで使えそうなメディア受けするいい展開だよな。そりゃそーだよな、みさお姉ちゃんみたいに褒めてくれる人がいるわけじゃないし、つかさ姉ちゃんみたいに皆のため自己犠牲で切ったんじゃない。どうせ私はメンヘラ気取りの構ってチャンだよ!」
 絡み、わめき、暴れだし、みゆきさんがなだめに入った。
「あきらちゃんは傷跡を見せびらかして同情引いたりはしてなかったんですけど、世間ではブログに傷の写真貼ったり依存心に満ちた自分語りする手合いが植えつけた偏見がひどくて、あの子は酷くバッシングされてたんですよ。そういうスキャンダルで仕事がなくなった矢先に親が起こした問題が発覚して養育できなくなってここに保護されたんです」
「いや、暢気に解説してる場合じゃないでしょ園長先生」
 あきらの豹変ぶりに恐れおののいてたら、凶暴な目つきの矛先は俺に移った。
「目ぇ、小っちゃ!」
「おい白石ぃ」
「は、はいぃ!?」
「私のアシスタントやれぇ」
「え?」
 女の細腕、しかも袖口から痛々しい傷跡が見えるにもかかわらず物凄い腕力で掴みかかってきた。
「仕事とか居場所とか、ここ以外にもあったほうがいいだろ」
「え? え?」
 ドラマの企画書を突きつけられた。
『女の子を中心とした、ゆるゆるーな、何でもない女子高生の日常を面白おかしく描く、「あ、それよくあるよねーー」と言った共感できる出来事を素直に描いた生活芝居』だ、そうだ。

730 :劇中劇 [saga]:2009/09/05(土) 13:05:00.83 ID:OkanQNUo
 共感、か、ややこしい境遇の俺らにはなかなか得られないものだ。
「私が出る番組、ドラマの方まだ脚本できてないどころか、キャラも設定も全然固まってないんだとさ。これから新人を大量に登用して、そいつらの特徴とか身の上話をヒントに設定とか固めるんだとよ」
 泥縄というか行き当たりばったりというか、ずいぶんといい加減な話だ。
 それでも、ぶら下がったチャンスにはすがりつくほかないのだろう。
 くるりと皆に向き合ったあきらはさっきまでの凶暴さが嘘のように愛嬌を振りまいた。
「だからみんなもオーディション受けてみない? ウチらみんなアク強いからキャラの味付けにはちょうどいいかも。業界入ったら高級な料理食べたり温泉行ったりできるよー」
「なんちゅう勧誘だ」
「あ゛? 私がこの業界入ろうとしたきっかけはそうだったんだよ悪いか!」
 凄まれ思わず目を逸らすと、この提案をまんざらではなさそうにしている者が数名見えた。

「将来女優になるってのもいいなー、映画とか」
 などとこなたが呟き興味しんしんで見ている企画書の表紙が目に入った。
 ドラマのタイトルは『Lucky Star』だそうだ。
 うだつの上がらねえ崩壊家庭出身にやっと巡ってきた幸運か、それとも破滅の罠か?

 俺、いや、俺たちの明日はどっちだ……。


監督「プロデューサーも無茶な企画を通したものだ、などとぼやいていても仕方ないか。さて面談面談、緊張しないで色々話聞かせてよ新人さん」
新人一同「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」

731 :劇中劇 [saga]:2009/09/05(土) 13:07:23.12 ID:OkanQNUo
以上。
これで完結です。
施設で暮らす面々が時にぶつかり合い、支えあい、困難を乗り越えたり、ひょんなことからドラマに出演することになって自分の過去をパロディにして笑い飛ばすようにやけくそになって演じたりしながら成長していく。
そんな物語から劇中劇のドラマをスピンオフしたのが『らき☆すた』だった。
「な・・・・なんだってー!!」AA略
という設定で原作やアニメの要素を抜き出し再構成してみました。

パラレルワールドというか文字通りの異次元ですな。
732 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/06(日) 23:14:05.03 ID:fWrlEH20
設定が新鮮で面白かったー
こういう方向にひねった話も悪くないね
733 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/06(日) 23:21:33.67 ID:ulkV5M2o
乙。かがみは名前すら出てこなかったか。
時々出てきてた??がそうなんかなとか思っていたのだが。
734 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/06(日) 23:49:22.79 ID:bRzQ2q.0
>>731
そういう解釈も面白いね。
まさか『鳥』が出てくるとは…。

今日はひかげちゃんの誕生日なので、そんな話を投下したいと思います
735 :ケーキ :2009/09/06(日) 23:53:25.35 ID:bRzQ2q.0
夕方、ひかげはケーキショップの前で店の中を見ていた。
店内では仕事帰りのOLや子連の母親達が、どれにしようかとケースに並べられたケーキ達を眺めている。甘い香りが店の外まで漂ってくる。
ケーキ、それはひかげにとって近くて遠い食べ物だった。
牛乳と小麦粉があれば自分でもホットケーキくらいなら作ることができる。
でも、それ以上は無理。作り方は難しいし、第一お金がかかる。
お金のないひかげにとって、この類のお店で売られているケーキは、まるで、異世界の食べ物だった。
ベルの音とともに1人の女性が店から出てきた。
一気に広がる匂いがひかげの鼻を擽る。
「今から帰るから。あ、それと、まつりにちゃんと言っといてね?母さん」
不機嫌そうに女性はそう言って携帯を閉じ、それを鞄に仕舞って駅の方へと歩いて行った。
立て続けにもう1人の女性が、今度は笑顔を綻ばせながら、ドアから外へやってきた。
「おじさん、ありがと!……むふふふふ、きっよたっかさ〜ん、待っててね〜」
女性は一言店内に声をかけ、そんな、歌うように声を弾ませ、駅の方へと足を弾ませていった。

彼女達の手には当然の様にケーキの入った小箱が握られていた。
彼女達の小箱には一体どんなケーキが入っていたのだろう?
ショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、タルト、考えるだけで涎が垂れそうになってくる。
また人が出てきた。あまり店には相応しくない出で立ちの男性。
作務衣姿のその男性は、顎に無精髭を顎に生やし、とても眠そうな顔でぬぼ〜っと店の外へとやってきた。
「あ、先生!」
彼が店を出てくるや、早々にスーツ姿の男性が彼に近づいてきた。
「ふぁ?……ああ、君か。どうした?……俺、忘れ物でもしたかな……?」
「いえ、授賞式の件で伝え忘れてた事が……早速お祝いですか?」
「あ、ははは。自分で買うのも気が後れるが、娘達がいるもんでね、何もないってのも寂しいだろ?
 ああ、で、伝え忘れてた事って?何なら電話でもメールでも良かったのに」
「出られた直後に気づいたもので、それで急いでかけてきてしまいました」
スーツ姿の男性は自嘲気味に言うと、一言二言無精髭の男性に伝えて、駅とは逆の方へと走って行った。
ひかげはそんな2人をぼ〜っと見ていた。
「……」
髭の男と目があった。彼はひかげを見て顔をにんまりさせ、
「やあ」
声をかけてきた。
「誰かを待っているのかな?そうだ、おじさんが美味しいケーキを買ってあげよう。おじさん、今日ね」
そう言い掛けたところで、男の声にもう一つ別の声が重なった。
736 :ケーキ :2009/09/06(日) 23:55:38.48 ID:bRzQ2q.0

「お待たせ」
男の背後に1人の女性が立っていた。
「あ、お姉ちゃん!」
それは、ひかげの姉の、ひなただった。
「あの、妹が何か?」
「えっ、いや〜、あは、は、は、は」
髪をかきながら、男はバツが悪そうに去っていった。
「……何かあったの?ひかげちゃん。あの人……」
「ううん、道を聞かれてただけ」
「そう?……ダメよ?知らない人について行っちゃ。ひかげちゃんが誘拐でもされたら、私……」
「大丈夫よ。私、そんなにぬけてないもん。……あ、お仕事はもう終わったの?」
「ええ。さっき終わったところよ。さあ、ひかげちゃん」
ひかげはひなたに背を押され、店内へと入っていった。

「今日はひかげちゃんのお誕生日ですものね」
ひかげはどっと来る濃厚な香りに頭がくらくらしそうになった。
スーパーのお菓子コーナー等では決して味わう事のない、特別な、高級な匂いだと、ひかげは思った。
今日は久しぶりにケーキが食べられる日。誕生日。
ひかげは何を買ってもらえるのかと、ケースの前にやってきた。
ショートケーキにチョコレートケーキ、モンブラン、タルト、シュークリーム、
散りばめられた数多くのケーキがどれもひかげに呼ばれるのを待っているかのように、綺麗に並べられ、待機していた。
「あの、予約していた宮河です」
「少々お待ち下さい」
ひかげはひなたと店員のやりとりを聞いていなかった。
ひかげはどれか一つを買ってもらえると、そう思っていた。
だから選んでいた。甘い誘惑と、戦っていた。
(神様の言うとおり……やっぱりもう一回!どれに)
「ひかげちゃん?」
「ちょっと、待ってて……しようかな……」
ひかげは歌に合わせて小刻みにケーキを指差していた。
「ひかげちゃん、コ〜レ。それとも、そっちの小さい方が良かった?」
ひなたに肩をつつかれ、ひかげはようやくひなたの方を見た。
737 :ケーキ :2009/09/06(日) 23:57:08.34 ID:bRzQ2q.0

「あ……」
そこには、円い大きなケーキがあった。
それは小さく切り分けられる前の、デコレーションケーキだった。
苺が周りを囲んで、その中心にはチョコレートの板が置かれている。
板にはホワイトチョコで、
『Happy Birthday ひかげちゃん』
そう書かれていた。
「お姉ちゃん、これ?」
「だって、今日はお誕生日じゃない?だから予約して、お願いしておいたの」
店員はひかげの方にそれを向けた。
滅多にお目にかかることのないそれを、ひかげ憧憬の眼差しで見つめていた。

ベルの音とともに2人が店の外へてやってきた。ひかげの手にはケーキの入った大きな箱があった。
他の誰が持っていた物よりも大きな箱、その中には自分だけのケーキが収められている。
自分の為だけに作られた、デコレーションケーキが。
鼻の所まで持ってくれば匂いが鼻腔の奥、頭の中をもときめかす。
「ひかげちゃんももう12歳だもんね」
「ん?」
「ごめんね。いつも無理させちゃって」
いつもなら、「ホントだよ、まったく」と愚痴を言ってやるところ。でも、今日は、
「ひかげちゃん?」
空いてる手をぎゅっと握って応えるひかげだった。

「ありがとう」

蚊の鳴くようなひかげの声が、雑踏にかき消されていった。

「どういたしまして」

ひなたはその声を聞き逃すことなく、優しくそう答えたのだった。
2人きりの誕生日会が、間もなく開かれようとしていた。

ー終わりー
738 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/07(月) 00:03:44.86 ID:QHvAPm.0
>>735-737
以上です。
今日からコンクールですね。
皆さん頑張ってください。おいらも頑張ります。
739 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/07(月) 00:37:12.15 ID:XgIU.Qk0
遅れましたが開催宣言です。

これより第16回らき☆すたSSコンクールを開催いたします。
お題は『夢』です。

投稿期間は本日、9月7日から9月20日まで、投票期間は9月22日から9月28日までとなっております。

コンクール参加に関しての詳細はこちらで。
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/673.html
740 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/07(月) 00:39:29.48 ID:XgIU.Qk0

 引き続いてコンクール作品投下行きます。
 5レス程度。
741 :かなちまった夢? [saga]:2009/09/07(月) 00:40:42.36 ID:XgIU.Qk0
「おーい、大臣っ」
「ねぇ、大臣〜〜〜」
「総理大臣ってばぁ────」
「(−−')」

「つ・か・さぁ〜〜〜。小学校の時の文集とか誰にでも見せるのやめない? あの頃のは地雷だろ」
「ご、ごめんなさい」


「そういえば、ちびっ子が言ってた"大臣"って何なん?」
「小学校の時の学年文集を妹が見せたらしくてさ。それの将来の夢んトコ」
「ほぉ。いやいやぁー。あの頃は誰でも夢いっぱいですな〜〜〜。柊がねぇ」( ̄ー ̄)ニヤニヤ
(はっ。しまった────。コイツもそっち系だった────)
「あっ、何だよ。ひでーなっ。そーゆー目で見んなよっ。どーゆー意味だっ」

   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
742 :かなちまった夢? [saga]:2009/09/07(月) 00:41:37.72 ID:XgIU.Qk0
「まさか、ホントになるなんてね……」
 柊かがみ首相は、首相官邸の執務室で、お茶を飲みながら、一人つぶやいた。
 小学生のころの夢がかなった……というよりは、「かなちまった」といった方が適切だろう。
 かがみ自身、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったし、小学生のときの文集に書いたことなんて、こなたに指摘されてから思い出したぐらいだ。

 高校生のときから将来の目標としていた弁護士にはなれた。
 弁護士としての仕事は、順調そのものだった。
 やがて、敏腕弁護士としてマスコミにも取り上げられるようになった。
 そのあたりからだ、軌道がずれ始めたのは。
 某党から衆議院議員選挙に立候補してほしいと頼まれ、最初は断ってたものの、拝み倒されて最終的には了承してしまった。情に流されやすいかがみの性格をつかれたのだ。
 結果は、あっさり当選。
 もともと有能なかがみであるから、その後も、某党内での地位があれよあれよという間に上昇し、気づいてみれば、党首になっていた。
 そして、内閣総理大臣に就任というわけである。
 かがみとしては、今期限りで辞めて本業の弁護士業に戻りたいのだが、周りがそれを許してくれるかどうか。

 お茶を飲みほし、書類の続きを読もうとしたとき、携帯電話のバイブ音が響き渡った。
 震えているのはかがみの私物の携帯電話。これの電話番号を知っている者は少ない。
 携帯のディスプレイ画面をみると、相手の電話番号とともに「みゆき」の表示が点滅していた。

「もしもし、みゆき。久しぶりね」
『お久しぶりでございます、首相閣下』
「そんな他人行儀なの、やめてよ」
『フフフ、冗談ですよ。今お時間は大丈夫ですか?』
「大丈夫よ。急ぎの仕事はないから」
『ありがとうございます。こんなことでお電話するのも恐縮ですが、医療制度改革についてさぐりを入れるというのが、この電話の趣旨になります』
 みゆきは、あっさり意図をばらしてきた。これも長年の友人ゆえだろう。
「ああ、なるほどね」
 現行の医療制度は、税金をつぎこむだけでは解決しえない構造上の問題で限界に達していた。
 抜本的な改革が必要だが、改革案は複数あり、どれが法案として国会に提出されるかは首相の決断次第というのが、マスコミが伝える現状だった。
 そして、みゆきの今の立場は、日本医師会の重鎮である。
743 :かなちまった夢? [saga]:2009/09/07(月) 00:44:38.58 ID:XgIU.Qk0
 医者になりたいという夢をかなえたみゆきであったが、彼女ほどの有能な人物が放っておかれるわけもなく、東京都医師会をへて、日本医師会へ。日本医師会での地位も、周りの後押しでとんとん拍子にかけあがってきたというわけである。
 頼まれたら断れないタイプというのは、かがみと似ている部分があった。
 今では、医師会での仕事が忙しくて、経営している病院の仕事は後輩のみなみにまかせてるという、本末転倒な状態。
 夢がかなっても必ずしも思い通りにはいかないという典型例だった。

「迷ってるっていうのが正直なところね。どの案もメリット・デメリットはあるからさ。医師会の要望に近い案がどれかは分かってるつもりだけど、それが国民にとっても良案かどうかはまた別の話だし」
『そうですね。医師会のみなさんには、首相はまだ検討中だとお伝えしておきます』
「それで納得するのかしらね?」
『納得しないのであれば、また何らかのアクションを起こすことになるでしょう』
「お手柔らかに願いたいわね」
『こればかりは組織の意思決定ですから、私の一存ではなんともいいかねます』
「まあ、それはお互い様よ」
 二人とも、その社会的立場のゆえにそうせざるをえなかったことで、その人を嫌ったり恨んだりするようなことはない。長年の友人が相手となればなおのことだ。

『話は変わりますが、泉さんのブログはごらんになりましたか?』
「最近忙しくて見てないわ」
『泉さんから、友人だけで同窓会をやりたいとのご提案がされてますよ。私は既に出席の旨をお伝えしておきました』
「そんなことなら直接電話すればいいのに」
『泉さんなりに気を使っていらっしゃるのでしょう。首相ともなれば何かと忙しいですからね』
 ブログを見る暇さえないぐらいに忙しいなら今回はお流れにしようか?というのが、こなたの意向なのだろう。
「そんな余計な気使う必要なんてないのに」
『では、近いうちにお会いできることを楽しみにしております』
「私も楽しみにしてるわ」

 電話を切り、開いてるパソコンでブラウザを立ち上げる。
 こなたのブログは「TOI団団長ブログ」と題されている。
 TOI団とは、「ツンデレ宰相かがみんをおおいに盛り上げる泉こなたの団」の略称だ。「宰相」の部分は、かがみの経歴に応じて、「国会議員」→「大臣」→「宰相」と変化している。
 かがみが政治家であることを考慮すればこれは「勝手後援会」に分類すべきなんだろうが、実態からすれば「勝手ファンクラブ」というのが正確なところだった。
 高校時代の進路調書にネタで「団長」なんて書いてたこなただが、それがかなったのだ。
 いや、これもまた「かなちまった」といった方が適切だろう。
 少なくても、かがみは、この状況に「夢がかなった」なんて麗しい形容を用いたくはなかった。
 それはともかく、父親と同じく文筆業についたこなたが書くブログは大変な人気で、毎日豪快にカウンターを回し続けている。
 かがみの高校時代のエピソードがネタにされることも多い。団員の一人である漫画家のひよりがそれを元ネタにして描いた漫画がアップされることもあった。
 敏腕首相も昔は普通の女子高生だったというエピソードの数々が公開されており、かがみの人気を支える一つの要因となっている。「かがみんをおおいに盛り上げる」という団の趣旨は充分に果たしているのだ。
 そのブログをみると、確かにさっきみゆきがいっていたことが書かれていた。
744 :かなちまった夢? [saga]:2009/09/07(月) 00:46:00.28 ID:XgIU.Qk0
 携帯電話の電話帳でこなたの番号を呼び出し、通話ボタンを押す。
『お電話いただき光栄でございます、ツンデレ宰相閣下』
 しょっぱなからふざけた挨拶。相変わらずのこなただった。
「ツンデレいうな」
 かがみもすかさずツッコミを返す。
『ツッコミのキレは鈍ってないね、かがみん』
「おかげさまでね」
 相手の論理の穴を見逃さず即座にツッコミを入れるのが、かがみの論戦スタイルだ。そのため、国会の論戦で負けたことは一度もない。
「ブログ読んだわよ。同窓会の日程組んだら教えて」
『了解です、ツンデレ宰相閣下』
「だから、それはやめい!」
『日程組んだら真っ先に教えるよ。絶対来てよ、かがみ。つかさもみゆきさんも、あやのさんもみさきちも、みんな楽しみにしてるからね』

 素朴かつ真っ当な「お嫁さん」という夢がかなったつかさやあやの、宝くじを当てたいという夢がいまだかなわぬみさお。
 みんな、ここ最近は電話で話すことすらほとんどなかった。

「分かってるわよ。何とかスケジュールにねじ込むから」
『絶対だよ』
「分かってるって。じゃあ」

 電話を切り、再び目の前の書類を読み始める。
 同窓会の日程を何とかねじ込むためにも、片付けられる仕事はさっさと終わらせなければならない。
 かがみの仕事のペースは心なしか早まっていった。

   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
745 :かなちまった夢? [saga]:2009/09/07(月) 00:47:45.50 ID:XgIU.Qk0
 すやすやm(ー_ー)m

「うふふ…、あはは…m( ̄ー ̄)m」

 m(゚ロ゚)mカッ!

「あ──もうっ。絶対今の面白かったのにっ。どーして、夢ってすぐ忘れるかナっっ!? 何だっけな、もぉ──っ!!」


 先輩たちの夢だったような気がするのだが、全く思い出せない。
 ひよりは、頭を抱え、悶え続けていた。





 忘れてしまった夢の内容が正夢になるとはまだ知らぬ高校1年生のある日の出来事。
746 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/07(月) 00:49:47.06 ID:XgIU.Qk0
以上です。

 冒頭は原作4巻142ページ、末尾は原作3巻115ページを参照。
 原作に準拠すれば時系列が逆ですが、そこはひよりの類稀なる妄想力でカバーってことで。
747 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/07(月) 17:11:19.33 ID:q6NjF6Ao
やったッ!さすがひより!
俺たちにできない夢オチを平然とやってのけるッ!
でもそこにシビれないしあこがれもしないな!
748 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/08(火) 00:03:27.92 ID:KIxVv.SO
>>745
ひよりの夢オチだけどいずれは現実になるのがいいな
749 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/08(火) 06:46:27.40 ID:Ar4ap4ko
コンクール作品投下します。3レス。
750 :Daydreamer [saga]:2009/09/08(火) 06:47:19.18 ID:Ar4ap4ko
「いやー、会場でバッタリ鉢合わせするなんて思ってもみなかったっスよ」

 まん丸レンズのメガネをかけた少女が嬉しげにそう言った。
 彼女の両手は、絶対に逃がさんとばかりに私の腕をがっちり掴んで離さない。

「……それはともかく、なんでここに連行されてるかな」
「そりゃあ当然、我らが部長に期待の新人を紹介するために!」

 この子は私の壊滅的な絵心を知らない。だからこんなことが言えるのだ。

 いま私たちが立っているここは陵桜学園のアニメーション研究部室。
 その部長に私を引き合わせるだって? 冗談じゃない、「作る側」には興味なんてないのに。

「期待とか勘弁してよ、私は消費者! 生産はそっちに任せるから」
「つれないこと言わずに、会うだけ会ってみてほしいっス!」

 いやいや、お見合いじゃないんだから。

「自家発電できるようになれば何かとオトクだし!」

 そういう「自分の世界」を展開できる想像力も私にはない。それは本当に残念。


 ……そんな押し問答の末、ついに廊下から足音が聞こえてくる。

「来たっスよ!」

 がらりと部室のドアが引かれた。
 ああもう、タイムオーバーか。面倒だけどきっちり断わってさっさと帰ろう。

「ひより、お待たせー。話って――」

 そこに現れた部長らしき人物は、言いかけて動きを止めた。
 視線の先には私。そして、私の目もまた、彼女を捉えて離れなかった。

 その顔には、確かに見覚えがあったのだ。

751 :Daydreamer [saga]:2009/09/08(火) 06:48:10.67 ID:Ar4ap4ko
 *


 学校では話せないけれど、折り入って相談がある――そう持ちかけると、部長は快く自宅に招いてくれた。
 初めて先輩の家にお邪魔する、というプレッシャーで正直言って緊張していたのだけど、そこはさすが部をまとめる人間。
 巧みな話術であっという間に私がリラックスできる空間を作り出してくれたのだった。

「で」

 本題。

「話って何? 学校じゃ話せないことなんでしょ?」
「話せないというか、学校に持ち込むのはいくらなんでもまずいかなーと」

 私は持参してきた大きな紙袋を示す。部長もこの中身について色々と予想することがあるらしく、ふむ、と即座に相槌を打った。

「兄に『コスプレしてみないか』って言われたんですよ。最初は断ったんですけど、あんまり強く薦めてくるもので」

 私自身、容姿に自信があるわけでもない。一線を越えても良いものかどうか判断がつかないのだ。

「だんだんその気になり始めたワケだ。それ衣装でしょ?」

 返事をして、紙袋の口をがばっと開く。中には流行りのアニメキャラのコスプレ衣装が入っている。
 高校が舞台のアニメで、ブレザータイプの学生服だ。出来はいいけど、はっきり言って地味なので私的評価はいまいち。

「制服なら毎日着てるし、どうせならもっとそれっぽい衣装の方がいいなって思ってるんです」
「それぐらい地味な方が後戻りもきくんじゃないの」

 それまで静かに漫画を読んでいた部長の友人が突然口をはさんだ。言い方は少しきついけど、それも正論だとは思う。
 が、部長はそれに異を唱える。

「わかってないね。コスプレってのはやると決めたら深みに入り込んでくしかないんだよ!」なんという暴論。
「別に、わかろうと思ってない」

 すまし顔で受け流し、彼女は再び本の世界に戻る。本当に仲は良いのだろうか。

「そういうわけで、まずは小道具の調達だね。ギター? それともベース?」
「いや、それ小道具じゃないですよね?」
「細かいことは気にしない!」

 というか、いつの間にやらコスプレする前提で話が進んでいる……。
 部長にはこの手の相談をしてはいけないんだ。そう学習して、私は深くうなだれた。

752 :Daydreamer [saga]:2009/09/08(火) 06:49:52.06 ID:Ar4ap4ko
 *



「――ずみ、おい、起きぃや!」


 その声で、意識は完全に覚醒した。
 反射的に顔を上げると、私を起こしたらしい黒井先生に加え、クラスメイト全員がこちらを凝視していた。
 居眠りしてしまったのだ。それに気付くと、たちまち顔がかあっと赤くなる。

「……すみません」
「ま、一回目は大目に見るけどな。委員長の寝顔っちゅー珍しいもんも見れたし」

 どこかで小さく笑いが起きる。もう、恥ずかしいったらありゃしない……。

「居眠りと言えば、ウチが去年まで受け持ってたクラスに、これまた泉っちゅーヤツがおってなぁ。あ、この泉は苗字なんやけど。
 そいつがまた授業するたびに寝てる常習犯でなー。お見舞いした鉄拳の数は百や二百どころやないかもしれへんな!」

 今度は教室中がどっと沸く――が、先生の話はそこで途切れる。次に向かったのは、一分前の私と同じように机に突っ伏す留学生の席だった。
 気配……いや、殺気でも感じたのか、彼女はすぐに目を覚ます。が、時すでに遅し。

「せや、ちょうどお前みたいな居眠り常習犯だったわけや」
「……ネてまセンヨ? コナタとはチガウんでス」
「パトリシア。お前はちぃーっと睡眠時間足りてへんのとちゃうか?」
「...Exactly」
「ほぉ」

 その通りでございます。パティ、そのネタは黒井先生には通じない……。

「目ェ瞑れ!」

 ぱしーん、と小気味良い音が響く。
 さっきの話から察するに、丸めた教科書での一撃ならまだ慈悲は残されていそうだ。


 それにしても嫌な夢だった。コミケが近いからだろうか。
 オタクであることが学校でバレる――なんて、考えたくもない。ましてやコスプレなんてありえない。
 ……まあ、万が一カミングアウトせざるを得ない状況になった時は、もしかしたらアニ研の門を叩く時もあるかもしれない。


 そういえば最初の夢、「会場」がどうとか言っていたような――



   * コンプティーク9月号に続…く?
753 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/08(火) 06:52:38.63 ID:Ar4ap4ko
以上です。
恒例のアレのつもりでしたが、意地悪すぎた気がします。
コンプティーク読まないと話がわかりません。ごめんなさい。
7巻発売が近くて、かつコンクール中の今がこういうネタの旬だと思いました、と言い訳。

「Daydream」は正しくは空想とか夢想って意味。
居眠りは正確には「doze」だとか「nap」なんだけど、単体でタイトルにできる語じゃないなぁということで。
754 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/08(火) 07:26:03.85 ID:/YtLPMg0
>>753
 GJ
 6巻まで未収録ネタについては、最初に注意書きがあった方がよかったかもね。


 コンプ9月号だけは立ち読みできたんだけど、新2年生組の期待の新キャラって感じだよね。9月号ラストのネタは思わず吹きそうになった。
 7巻が楽しみだ。
755 :劇中劇 [sage]:2009/09/08(火) 07:48:25.72 ID:f18Qf2ko
>732>733>734
レスありがとうございます。
アニメにおける白石のリアクションやあきらの長袖衣装などで虐待や家庭環境に恵まれないエピソードを色々と思いついてしまい、某育成調教SLGなどがきっかけでこういう形になりました。

>733
名前は出してませんが、冒頭の縁日でこなたと行動を共にし、最終話でみさおが語る常識人ゆえに酷な突っ込みをしてしまう友人がかがみ(かがみというキャラのモデル)という設定で、原作4巻P054から台詞を引用しています。
6巻P090などが発想の元になりました。

流石にドラマに出る新人さん全てが施設出身ってのも無理あるし、かがみに関してはネタ浮かびませんでした。
756 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/08(火) 18:11:15.11 ID:Txfcizs0
>>753
すまん。専ら単行本しか読んでないからオチがわからん。
757 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/09(水) 17:25:48.42 ID:T404UWE0
>>756
ニコニコ大百科で「らき☆すたの登場人物一覧」を見たらわかるかもしれません。
758 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/09(水) 19:34:09.98 ID:U3y0B6U0
>>753
ネタバレの様なのでスルーさせてもらいました。すんません
759 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 09:49:31.34 ID:nAl1WgAO
こなた「よし、人体錬成したことにすればいいんだ!」
かがみ「わかったわ!」

なんか派手なシーン
バリバリバリ、ズド〜ン

こなた「持ってかれた〜って言うのないの」
かがみ「は?私は五体満足よ」
こなた「う〜ん、仕方ない内臓がないぞ〜って事にしよう」


て言う夢を見た。
このシーンの前後にも、つかさも含めてなにかをしてた気がするんだけど、覚えてるのはここだけ。
コンクール作品どうしようと考えながら寝たから、かがみたちが出たんだな。
ハガレンがなんで出てきたかわからん。

とにかく何が言いたいかと言うと、夢の中でかがみんに会えて幸せです!
760 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 12:21:39.47 ID:qWOAnISO
こなた「見てみて〜。ジャミラ/=ω=.\」
かがみ「え? 何それ」
こなた「だよね〜(´=ω=`)」
761 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 16:04:54.40 ID:xninamEP
こなた「見てみて〜。ジャミラ/=ω=.\」
みゆき「あ!つまづいて水を」
かがみ「みゆきひどい!」
つかさ「こなちゃん!だいじょうぶ?!」
みゆき「あの、あの・・・」
こなた「うん・・・大丈夫。あっちいこ?」
みゆき「あ、あぁ・・・」
762 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 16:06:29.69 ID:xninamEP
 \                    /
   \  丶       i.   |      /     ./       /
    \  ヽ     i.   .|     /    /      /
      \  ヽ    i  |     /   /     /
   \
                                  -‐
  ー
 __               ノ                --
     二          / ̄\           = 二
   ̄            | =ω=.|                 ̄
    -‐           \_/                ‐-

    /
            /               ヽ      \
    /                    丶     \
   /   /    /      |   i,      丶     \
 /    /    /       |    i,      丶     \ 
763 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 16:08:49.95 ID:xninamEP
ぶるんぶるるん...

どぅっどぅっどぅるるるるる

ぱらりらぱらりらー

ききぃ

つかさ「ただいまー」
かがみ「おかえりー」
764 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 16:10:27.28 ID:xninamEP
つかさ「あれ、めずらしいなピンクのわかめなんて」
ぐいっ
みゆき「いたたた」
つかさ「なんだゆきちゃんかー」
みゆき「・・・」
765 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 16:11:22.04 ID:xninamEP
こなた「メガネが本体って人がいてさー」
つかさ「あははなにそれー」
みゆき「なんのお話ですか?」
こなた「あ、メガネ置き」
つかさ「メガネ置きちゃん」
766 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 17:54:36.43 ID:NDKuAjM0
ジャミラこなたを想像して萌えた。
セーラー服でやったら確実にへそが見えるんだぜ・・・(´Д`)ハァハァ

>>762-765
いきなりわけワカメなんだがww
767 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/12(土) 06:36:38.83 ID:v2/GefU0
みさお「……暇だなー」
あやの「そうね」
みさお「……暇だよなー」
あやの「そうね」
みさお「……なんかねえ?」
あやの「そうね」
みさお「……おいあやのってばさぁ」
あやの「そうね」
みさお「なんだよさっきからワンパ……ヴぁ! まさか!」

あやのスクリプトの再来である
768 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/12(土) 07:29:32.13 ID:mVgT44I0
投下します。 一般作品です。
内容はタイトル通りの物語です。
769 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:32:50.32 ID:mVgT44I0
 ある日のこと、私は自分の部屋で勉強をしていた。辞書で調べようとしたら。
辞書が無いことに気が付いた。
そういえばお姉ちゃんに貸したままだった。私はお姉ちゃんの部屋に向かった。ノックをした。
返事がない。
「お姉ちゃん入るよ」
ドアを開けたら、お姉ちゃんは居なかった。買い物にでも出かけたのだろうか。でも宿題はさっさと終わらせたい。
私はちょっと悪いと思いながらも部屋の中に入ってお姉ちゃんの机の上を探した。
辞書は机の真ん中に置いてあった。その辞書を持ち上げた時、その下に封筒があるのを見つけた。
あて先はお姉ちゃん。封筒の中身は出ている。もしかして、ラブレター?
思わず封筒の中身を手に取り読んだ。
字はとても綺麗で丁寧に書かれていた。そして内容は、放課後屋上で大事な話があるから会って欲しいと・・・
これって、思った通りラブレターだ。さらに見ると待ち合わせの日時は・・・明日の日付が書いてあった。
しかし書いた本人の名前が書いてない。
「人の部屋に黙って入って泥棒みたい、感心しないわね」
後ろから突然声がした。お姉ちゃんだ。買い物袋を持っている。どうやらおやつの買出しに行ってたみたい。
「え、そのー、辞書を返してもらおうと思ったんだけど・・・」
「で、今持ってるのは何かしら」
「これは・・・」
「・・・読んだのね」
私は黙って頷いた。そして覚悟した。きっとお姉ちゃんは怒って私を叱り付ける。
「しょうがないわね」
しかしお姉ちゃんは怒ることなく一回大きなため息をつき、部屋の中に入りドアを閉めた。
「ごめんなさい」
お姉ちゃんに手紙を渡した。
「謝ることはないわ、私もそんな所に置いておいたのも悪いし・・・見られたのがつかさでよかった」
「でも凄い、ラブレター貰うなんて、明日、会いに行くんでしょ」
「そうね」
お姉ちゃんは、力のない声で一言、そう答えた。
「嬉しくないの」
「正直言って微妙、書いた人誰だか分からないし・・・」
「でも、明日会いに行くなら応援するよ」
「いや、応援されても困るわ、こればかりは・・・自分がどうこう出来ることじゃないし」
かなり複雑な心境な様、私もお姉ちゃんにどうこう出来ることはないみたい。
「あ、私、部屋に戻るね」
私は部屋を出ようとした。
「つかさ、待って、辞書忘れてるわ」
「ありがとう」
「あと、つかさ、この事は・・・」
「内緒だね、分かった」
「それが一番心配だわ」
「それじゃ約束する、誰にも言わない」
私は部屋に戻った。
今までに無いお姉ちゃんの真剣な顔・・・あの手紙、見なかった方がよかった。今更私は後悔していた。
そして、日付は変わり、手紙の待ち合わせの時刻が近づいた。
770 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:34:17.30 ID:mVgT44I0


こなた「みんな、そろそろ帰ろうか」
かがみ「あ、ごめん、みんな先に帰って、私、用事があるの」
こなた「え、会議でもあった?みゆきさん」
みゆき「今日は会議はありませんね」
かがみ「ちょっと図書室で調べ物よ」
こなた「それじゃしょうがないね、つかさ、みゆきさん行こう」
お姉ちゃんと別れ、私達はバス停に向かっていた。すると、こなちゃんが時計を気にしだした。
こなた「まだ早いけど、早いにこしたことはないかな」
つかさ「どうしたの、こなちゃん」
こなた「ふふふ、お二人さん、これから面白いイベントがあるんだけど見にいかないかい」
つかさ「イベント? 何かな」
こなた「かがみが告白される決定的は瞬間をだよ!」
なんでこなちゃんが手紙のことを知っているのか、自分の耳を疑った、でもこなちゃんははっきりとそう言っている。
つかさ「なんでそんな事をしってるの!」
こなた「ほぅ、つかさは知らないってことは、かがみ、内緒にしてたね、かなり本気っぽいね」
つかさ「どうゆう事なの」
こなた「一週間前、かがみのげた箱の中にラブレターを仕込んでおいたのさ」
つかさ「それって・・・」
こなた「そう、、時間が来たらドッキリ!!、その時のかがみの反応を楽しむのさ」
あの手紙がこなちゃんの書いた手紙?、こなちゃんの筆跡は私もお姉ちゃんも知ってる、すごく特徴のあるある字のはず。
つかさ「こなちゃんが書いたんじゃ字で誰が書いたかばれちゃうよ」
こなた「つかさ、鋭いところに気が付いたね、私もそう思ってね、ゆーちゃんに書いてもらったのだよ」
つかさ「ひどいよこなちゃん、悪戯にしてはやりすぎだよ、私、そんなの見たくない」
こなた「つかさは不参加、みゆきさんは」
みゆき「私は・・・見てみたい・・・です」
こなた「おー、予測と反対だ、みゆきさんが参加してくれるなんて」
みゆき「い、いえ、私はただ、かがみさんが恋愛にどのような概念を持っているのか興味があるだけして・・・」

 そう確かに昨日、お姉ちゃんの部屋の出来事がなかったら私も一緒に見に行っていたかもしれない。お姉ちゃんはかなり本気だったことは間違いない。
それがドッキリだったなんて。その時、こなちゃん達が急に心配になった。
そんなお姉ちゃんに、あれは嘘だったなんて・・・出て行ったら、きっと激怒するに違いない。
そして、こなちゃん達と喧嘩にでもなったら・・・
そんなのはやだ。
つかさ「こなちゃん、やっぱり私も行く」
こなた「つかさ、そうこなっくちゃ」
つかさ「でも・・・あまりにお姉ちゃんが可哀想」
こなた「もう、後戻りはできないよ、実行あるのみ」

 私達は一度、自分のクラスに戻った。お姉ちゃんは図書室で時間が来るのを待っていた。
こなちゃんはそれを確認すると、私達を屋上へと案内する。
そして、屋上に着くと、
こなた「ここだと私達が居るのがバレちゃうね」
こなちゃんは辺りを見回した。そして給水タンクの陰に誘導する。
こなた「ここで待とう」
そう言ったと同時だった。お姉ちゃんが屋上にやってきた。手紙の指定時間よりかなり早かった。
こなた「うわ、もう来ちゃった、待ちきれなかったのかな、危ないところだったね、とりあえず時間までは出ないから」
そうこなちゃんは言い私達はしばらくお姉ちゃんの行動を見ることになった。
771 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:35:52.91 ID:mVgT44I0


 お姉ちゃんは同じところを行ったり来たり、落ち着きがない、見ているこっちも焦ってくる。
時間が近づいてくると、その場に止まって、自分の髪の毛を触り始めた。
お姉ちゃんがいつも緊張している時にする仕草、なんだかもう見ていられなくなってなってきた。
こなた「そろそろ時間だ・・・行くよ」
こなちゃんがお姉ちゃんに向かおうとした時だった。
みゆき「ちょっと待ってください」
ゆきちゃんがこなちゃんを止めた。そしてゆきちゃんは黙って指を指す。その方向を見ると。
出入り口から男の子が入ってきた。
男の子はお姉ちゃんを見つけると近づいてきて何やら話しかけている。遠くて何を言っているのか分からない。
お姉ちゃんも一言、二言何かを言っている。
しばらくすると、お姉ちゃんは笑い始めた。とても楽しそうな笑顔。今まで私も見たこともないような・・・楽しそうだった。
そして、二人は肩を並べて屋上を後にした。私達は呆然と出入り口を見ていた。

つかさ「こなちゃん、これってどうゆう事なの」
聞いてもこなちゃんは何も答えてくれなかった。
みゆき「あの男子・・・」
つかさ「知ってる人なの」
みゆき「あの方はA組の学級委員」
つかさ「それじゃ、お姉ちゃんも知ってる人なんだね、ところでどこ行ったのかしら」
みゆき「おそらく、図書室だと思います」
つかさ「何故、声ぜんぜん聞こえなかったよ」
みゆき「かがみさんの唇が、最後に図書室に行こうと言ってたのが分かりました」
つかさ「それじゃ今までの会話も」
みゆき「残念ながら、かがみさんしか正面向いていなかったので、かがみさんはほとんど話していなかったので分かりません」
つかさ「あの男の子、名前は」
みゆき「確か・・・辻さんだったと思います」
つかさ「なんか、こなちゃんの言ってたことが本当になっちゃたね」
みゆき「嘘から出た真ってことでしょうか」
この状況だと、あの手紙は本物になってしまったことになる。するとお姉ちゃんとの約束が・・・
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃん、実は昨日、こなちゃんの手紙見ちゃったんだ、それがお姉ちゃんにバレちゃって、誰にも言わないって約束したんだけど」
みゆき「それでつかささんは最初反対したのですね、分かりました、私は他言はしません」
つかさ「こなちゃん? さっきからどうしたの」
こなた「あの手紙は私が確かにかがみのげた箱に入れた・・・」
つかさ「こなちゃん、聞いてるの」
こなた「え、ああ、聞いてるよ、内緒でしょ、分かってる、分かってる」
この後、しばらく沈黙が続いた・・・

 最初の目的がなくなった。もうここに居る理由はない。
つかさ「もうここに居てもしょうがないよね、帰ろう、それとも図書室行く?」
みゆき「そうですね、二人はそのままそっとしておいてあげましょう」
私とゆきちゃんは屋上を出ようとした。しかしこなちゃんはその場を動こうとしなかった。
つかさ「こなちゃんどうしたの?、行こう」
こなた「・・・ここから図書室見えるよね、私、もう少しここに居る」
そう言うと、隣の校舎が見える所に向かった。
こなた「こなちゃん、そっち図書室のある校舎じゃないよ」
こなちゃんは返事をしてくれなかった。
もう一言こなちゃんに話しかけようとした時、ゆきちゃんが私の肩をたたいた。
「行きましょう」
ゆきちゃんのその一言で二人だけで屋上を出ることになった。
772 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:37:27.01 ID:mVgT44I0


 一度、私達は鞄を取りに自分のクラスに戻った。
駅までゆきちゃんと二人だけで帰るのは初めてだったような気がした。
その帰りの途中、バスの中でふとこなちゃんの事を考えていた。
お姉ちゃんとが辻さんと会ってからこなちゃんは変わった。
どう変わったかは分からない、でも・・・少なくとも喜んでいるようには見えなかった。
「こなちゃん、どうしたのかな」
思わず、口に出してしまった。
「分かりませんか」
ゆきちゃんが聞き返した。別にゆきちゃんに質問をしたわけではなかったけど、
「ゆきちゃんは分かるの」
「・・・分からなくもないのですが」
言い難そうに言葉を詰まらせている。私が知りたそうにゆきちゃんの目を見ると、振り切ったように私に話し始めた。
「かがみさんが、私達から去って行くような気がしたのではないでしょうか」
「お姉ちゃんが、何で」
「かがみさんと辻さんが恋人になれば、私達と会ってくれる機会がそれだけ減ります」
「それは、当然じゃない、恋人じゃなくても、新しい友達ができたりすれば、同じことじゃないの」
「そうゆう事を言っているのではなく・・・」
「それじゃ、どうゆうこと」
しばらくゆきちゃんは黙っていた。
「好きな異性ができてしまうと、同性との関わり合いが変わってしまう場合があります」
「・・・言ってる意味が分からないよ」
ゆきちゃんは黙ってしばらく私の目を見た。
「今後かがみさんは、つかささんや私に対する言動が変わるかもしれないと言う事です、良い意味でも、悪い意味でも・・・」
「ゆきちゃん、それ大げさだよ、あれくらいで変わるなんて、お姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ」
「それならいいのですが・・・」
その後、私達に会話はなかった。
バスが駅に着きゆきちゃんと別れた。
どうもすっきりない。こなちゃんもゆきちゃんもお姉ちゃんが辻さんに会ってから変わった。
ゆきちゃんはお姉ちゃんが変わるって言ってたけど、さっきのゆきちゃんの方がよっぽど変わってる。
そんな事を考えているうちに自分の家に着いた。
 
「ただいま」
すると奥からいのりお姉ちゃんの声がする。
「おかえり、あら、かがみはどうしたの」
「遅くなりそうだから、先に帰ってきた」
「珍しいわね、遅くなっても一緒に帰ってきてたじゃない・・・まさか喧嘩でもしてないわよね」
「喧嘩なんてしてないよ」
「まぁ、そうよね、あんた達が喧嘩する所なんて想像できないわね・・・それより丁度よかった」
「丁度よかった?」
「お父さんとお母さん、今日帰りが遅くなるって連絡がきてね、それで夕食の準備をしようとしたら材料が無いのよ」
「それなら私、買い物してくるよ」
その時、以前まつりおねえちゃんが作ってくれたパエリアを思い出した。
「いのりお姉ちゃん、今日の献立って決まってるの」
「いや、まだだけど」
「それじゃ、パエリアでいいかな」
「え、そういえば以前まつりが作ったことがあったわね、つかさ、大丈夫なの」
「作ってるの見てたし、材料も買い物しから覚えてるよ」
「流石ね、それじゃ全面的にお願いしちゃおうかしら」
お姉ちゃんには何もできないけど、これをお祝い代わりにしようと思った。
773 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:38:52.10 ID:mVgT44I0


 夕食の準備をしていると、まつりお姉ちゃんが帰ってきた。
まつり「ただいま・・・この香り」
いのり・つかさ「おかえり」
まつり「あれ、もしかして、パエリア作ってるの」
つかさ「そうだよ」
まつり「そうだよって、レシピ教えてないわよ、なのになんでつかさが作れるのよ」
つかさ「作ってるところ見てから」
まつり「見てただけで作れるなんて・・・私だけの取っておきが」
いのり「つかさと一緒に作った時、盗まれたわね」
まつり「ま、いいわ、それより最近、つかさ、デザート作ってないわね」
つかさ「作ってるけど・・・納得出来るのが作れなくって、お姉ちゃん達に食べてもらっていないだけ」
まつり「納得って、今まででも充分美味しいわよ」
つかさ「ありがと、でも、どうしても上手にできないケーキがあって・・・」
まつり「へー、手が込んでそうね、こんどうまく出来たら食べさせてよ」
つかさ「うん」
いのり「そういえばかがみ遅いわね」
まつり「それなら携帯で・・・」
まつりお姉ちゃんが携帯電話を取ったその時、
かがみ「ただいま」
つかさ「お姉ちゃん、おかえり、丁度夕食ができたよ」
まつり「かがみ、遅いわね、委員会の会議でもあったの」
かがみ「いや、ちょっと友達と話してたら」
まつり「友達?、つかさもとっくに帰ってるし、怪しいわね」
かがみ「別に怪しくなんかないわよ、とにかく着替えてくる」
そう言うと、自分の部屋に向かって行った。
まつり「まったく、何か隠してるわね、だいたい想像つくけどね、かがみはああ見えて隠すのが下手だからね」
いのり「詮索は後にして、お皿並べるの手伝って」

 私達姉妹だけの夕食、みんな私の作ったパエリアを美味しいと言ってくれた。
雑談にも華が咲く、まつりお姉ちゃんのつっこみにお姉ちゃんは軽く受け答える。
なんてことは無い普段の夕食風景、お姉ちゃんもいつものお姉ちゃん、なんの変わりもない。
私はほっとした。やっぱり考えすぎだった。私はみんなの会話に進んで参加した。
とても楽しい夕食になった。
774 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:40:37.82 ID:mVgT44I0

 
 後片付けも終わり、自分の部屋に戻った。今日は特に宿題があるわけでもない。
椅子に座り机を見ると漫画の本が置いてあった。以前こなちゃんに借りたものだった。
これから特にすることもない。漫画を見ることにした。しかし一人で見るのも味気ないのでお姉ちゃんの部屋に行こうと思った。夕食の話の続きもしたい。
「お姉ちゃん入るよ」
ドアを開けてお姉ちゃんの部屋に入った。
「何か用なの」
「遊びに来たよ」
私はいつものようにお姉ちゃんのベットを椅子代わりに座り漫画を読み始めた。しばらくすると。
「つかさ、ここは私の部屋よ、漫画なら自分の部屋で読みなさいよ」
「えっ?」
「聞こえなかったの、読むなら自分の部屋でって」
「お姉ちゃん?どうしたの、昨日の事怒ってるの」
お姉ちゃんは一回おおきなため息をついた。
「もう私達は子供じゃないの、もう私達は一人の人間として認め合わないと」
「言っている意味が分からないよ、別にいいじゃん」
「それじゃ、まつり姉さん、いのり姉さんの部屋でまったく同じことができるかしら」
「それは・・・」
「それと同じよ、悪いけど出て行って」
冷たい声が私の耳を貫いた。私はお姉ちゃんの部屋から追い出された。しばらくお姉ちゃんの部屋の前から動けなかった。

 自分の部屋に戻った。ベットに寝そべり仰向けになった。何故か涙が出てきた。
あんな事一度も言ったことないのに。縄張りに入ってきた私を追い払うようだった。
お姉ちゃんの気持ちが理解できない。涙は目から溢れ頬を伝ってく。
ふとゆきちゃんの言葉を思い出した。
ゆきちゃんの言いたいことってこの事だったの。私はもう泣くしかなかった。

 どのくらい時間が経ったか、ドアのノック音がする。
「つかさ、入るわよ、あんた漫画の本忘れてたわよ」
私の泣き顔を見てすこし驚いた様子、ドアの入り口から進もうとしなかった。
「入ってきていいよ、私は追い出したりしないから」
皮肉っぽくお姉ちゃんに話しかける。お姉ちゃんは私が泣いている理由にすぐに気が付いたみたい。
「さっきはごめん、宿題でどうしても解けなかった問題があって気がイライラしてたから・・・」
すぐに謝ってきた。でも、その理由に私は納得しなかった。
「放課後、どうなったの」
私はお姉ちゃんの言い訳を無視してストレートに聞いた。するとお姉ちゃんは扉を閉めて部屋の中央に進んできた。
「つかさに隠しても意味無いわね、昨日手紙も見られてるしね」
「相手はA組の辻さん、つかさは知らないわね、屋上で会うなり、私の読んでいる本の話題で盛り上がってね」
「図書室で話してたら終業時刻になったの、そして・・・帰り際に・・・告白・・・」
顔を真っ赤にして私に話した。
「返事はしたの?」
「いくら知ってる人でも、すぐには返事なんかできないわよ・・・次の日曜に・・・デートの・・・」
言葉がゆっくりと、言い辛そうにしているので続きを思わず言った。
「約束したの?」
「そうよ、そこで返事するって約束をした」
「凄いよ、お姉ちゃん」
「本の趣味も合ってるし、気も合いそうだと思ったわ、でも、つきあってみないと分からないじゃない、それにデートなんて初めてだし・・・つかさならどうする」
「私にそれを聞いたって・・・」
「そうだろうと思った」
「えー」
775 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:42:11.69 ID:mVgT44I0

お姉ちゃんは笑った。それに釣られて私も笑った。そしていつの間にか涙は止まっていた。
「よかった、笑ってくれて、本当にごめん」
「私も、お姉ちゃんの心境も知らないで・・・」
「なんかつかさに話したら気が落ち着いたわ、邪魔したわね、あ、私の部屋で漫画読みたいなら来ていいわよ」
「ありがとう、今日はもういいかな、時間も遅いし」
「そうね、じゃ私、戻るわ」
お姉ちゃんは自分の部屋に戻ろうとした。
「待って、お姉ちゃん」
「何?」
「この話、まだ内緒にするの?、いつまでも隠せないと思うし、ゆきちゃんならきっといいアドバイスしてくれると思うよ」
お姉ちゃんはしばらく黙って考えていた。
「みゆきや峰岸なら話してもいいかな、若干二名以外は・・・」
「こなちゃんと日下部さん・・・」
「つかさは普通にしてれば良いわ、その中でバレたのならそれはそれでいい」
「分かった、そうする」
そうは言ってもみんなはもう知ってしまっている。でもお姉ちゃんに本当のことは言えなかった。それでも心の重荷は取れた。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみ、お姉ちゃん」

 普段のお姉ちゃんに戻った、でも確かにゆきちゃんの言うと通りになった。こなちゃんもこの事を知っていたのだろうか。
そうなると私は何も知らない子供だったのかな。私は一人取り残されたような寂しさがこみ上げてきた。
私が子供なのは今更どうにかなるものじゃない、今はお姉ちゃんと辻さんがうまくいく様に、それだけを祈ろう。

 それから何日か過ぎた。みんなは普段通り、お姉ちゃんと辻さんの事に触れることなく・・・と言うより、そんなことがあったことなど
忘れているようだった。そんな放課後。
かがみ「あれ、おかしいな」
つかさ「どうしたの」
かがみ「携帯電話が見当たらないのよ」
みゆき「ご自宅に忘れてこられたのでは」
かがみ「それはない、朝、家から出るとき確かに持ってから」
つかさ「それじゃ私の携帯から電話してみる?、近くにあれば音で分かるよ」
かがみ「悪いわね」
こなた「あー、かがみ」
かがみ「なによ」
こなた「かがみの携帯、今朝トイレ行っている間に着メロと壁紙、最近私の気に入ったアニメに変更しちゃったんだよね」
かがみ「!」
稲妻のようにお姉ちゃんの拳がこなちゃんの頭に当たった。遅れて雷鳴のようにお姉ちゃんが叫ぶ。
かがみ「なんてことするのよ」
教室にお姉ちゃんの声が木霊する。こなちゃんはその場にうずくまり、両手で頭をおさえた。
こなた「痛いよ、かがみ、黒井先生より痛い、グーで殴らなくても・・・」
かがみ「当たり前でしょ、人の物を勝手に、つかさ、電話するの止めて」
私は手を止めた。
みゆき「落し物でしたら職員室か用務員室へ行かれては、届けられているかもしれませんよ」
かがみ「そうするわ、こなた、あんたも手伝いなさいよ」
こなた「えー、着メロ変えたのと、かがみが失くしたのと関係ないじゃん」
かがみ「あの携帯見られたらオタクと思われるでしょ」
お姉ちゃんはこなちゃんを引きずるように教室を出て行った。こなちゃんは頭を押さえながら渋々ついていく。
776 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:43:34.02 ID:mVgT44I0


「お姉ちゃん、本気で怒ってたね」
「そうですね、あの様子ですとかがみさん時間かかるかしら」
「ゆきちゃん、お姉ちゃんに何か用があったの」
「委員会の書類が溜まったので、倉庫の整理をしたかったのですが」
「私でよければ手伝うよ」
「つかささん、お願いしてもよろしいでしょうか」
「うん」
「それでは鍵をもってきますので、自習室に行って下さい」

 私は自習室に入りゆきちゃんを待った。だれも居ない。とても静かな部屋。
「お待たせしました」
ゆきちゃんが入ってきた。自習室の奥に扉が在り、その扉を鍵で開けた。
「こちらです」
案内されると本棚に書類が山のように積まれていた。
「沢山在るね」
「そうなんです。こちらの書類をあちらへ運んで欲しいのですが」
「わー、確かに一人でやるには大変だよ」
早速私達は作業に入った。約半分くらい片付けた頃、私はバスでの会話のお礼をした。
「この前、とても助かったよ、ありがとう」
「何の事でしょうか」
「こなちゃんの偽ラブレターの事だよ、バスの中で私に言ってくれた事」
「ああ、あの事ですか、何かあったのですか」
「あの日の夜、お姉ちゃんの部屋に遊びに行ったら追い出されちゃって・・・ここは私の部屋だからって」
「そんな事があったのですか」
「すぐ謝ってくれたけどね、でも、ゆきちゃんのあの言葉が無かったら私今頃どうなってたか」
「あれは例え話なので・・・かがみさんはすぐ謝りましたか・・・凄いですね、普通出来る事ではありませんね、とても敵いません」
ゆきちゃんはお姉ちゃんに感心していた。
777 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:44:40.93 ID:mVgT44I0


「終わりました、つかささんありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして」
書類の移動が終わり、ゆきちゃんが扉に手をかけた、だけどそのまま止まって動こうとしなかった。
「どうしたの」
するとゆきちゃんは口に人差し指を立てた。
「しー」
私も音を立てないようにその場に留まった。すると自習室の扉が開く音がした。そして中に誰かが入ってくる。
???「ここなら誰もいない、ここにしよう」
壁越しに男の子の声がした。
「辻さん・・・」
ゆきちゃんは小さい声でそう言った。
生徒「何だよ、急に呼び出して」
辻「とりあえず奥に入って」
自習室の扉が閉まる音がした。
辻「以前ラブレターをげた箱に入れた話しただろ」
生徒「そんな事いってたな」
辻「とりあえず、今度の日曜、デートする所まではいったんだけどね」
生徒「お、凄いじゃん、で、相手は誰だよ」
辻「柊・・・」
生徒「柊?ってC組の?」
辻「・・・そうだよ」
生徒「なんで」
辻「委員会で何度か会っているうちにね、いい人だなって思った。さっきまで」
生徒「さっきまで?、なんか意味深だな」
辻「見てしまったよ、友達なのかな青い髪の小柄な女子を思いっきり殴ってるのを・・・」
生徒「・・・俺、二年の時柊と同じクラスだったから分かる、その子はたぶん泉だな、二年の時もよく泉を怒鳴っているの見かけたよ、結構名物だったぞ」
辻「・・・知らなかった・・・会議の時とえらい違いだな・・・そんな人だったなんて」
生徒「で、話ってなんだい、こんな事を言う為にこんな所まで・・・」
辻「俺、そのデート断ろうと思ってるんだけど、自分から誘っておいてだから・・・柊を屋上まで呼んでくれないかな、呼んでくれるだけでいいんだ」
生徒「そんなの自分でやれよ」
辻「二年の時同じクラスなら話やすいじゃないか、な」
生徒「しょうがないな、明日の昼飯おごれよ、で彼女何処にいるんだ?、放課後だから帰ったんじゃないのか」
辻「殴られた子、泉だっけ、その子と鞄も持たないで出て行ったからまた戻ってくるはず、C組の辺りを探してくれ」
生徒「わかった」
自習室の扉が開く音がして二人は出て行った。
778 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:45:35.19 ID:mVgT44I0


 聞いてはいけないものを聞いてしまった。そんな気がした。でもなんか納得ができない。
「ゆきちゃん、なんか間違ってるよ、見ただけで、理由も聞かないで、一方的に決めちゃうなんて」
「・・・」
ゆきちゃんはただ黙って扉のとってを握っていた。
「お姉ちゃんのいい所もいっぱいあるのに、ゆきちゃんもそう思うでしょ」
珍しく私の問いに何も答えようとしなかった。しばらくして、ゆきちゃんはゆっくり口を開いた。
「かがみさんの一番見せたくない所を見られてしまいましたね・・・」
「でも、約束してたんだよ」
「かがみさんと辻さん、お互いに会議での姿しか知りません、会議でのかがみさんはとても輝いて見えました
私は二年の時、委員長を務めましたが・・・会議を最後にまとめてくれたのはいつもかがみさんでした」
「そんな話初めて聞いた・・・お姉ちゃん委員会の話なんかしないし」
「そこもかがみさんの素晴らしい所です」
「それなのに・・・どうにもできないの、ゆきちゃん」
「私も・・・私もこの手でドアを開けて辻さんに訴えたかった、かがみさんはそんな人ではないと」
「そうだよね」
「しかし、先ほどの状態を見られたのであれば、弁解の余地はありません」
「ゆきちゃんも、そんな事を言うの」
「あれは、じゃれ合いみたいなもの、確かに私達から見ればそうですが、彼らから見ればただの暴力なのです」
「ゆきちゃん・・・悔しいよ、あれは私が知る限り初めてだよ、殴ったの、何とかならないの」
「私にもう聞かないで下さい」
少し大きな声でゆきちゃんは言った。私は思わず一歩引いて驚いてしまった。こんな事を言うゆきちゃん、初めてだった。
「ごめんなさい、私、何をしていいか分からない」
よく見るとゆきちゃんの目に涙が溜まっていた。
「ゆきちゃん・・・」
「何をしていいか分からない、ただ彼らの話を聞いていただけ、かがみさんには助けられてばかりなのに、何も出来ないなんて」
「そんな事言ったら、私も同じだよゆきちゃん」
「屋上のかがみさんの笑顔、素敵だった・・・それがこんな結果に・・・偶然を怨みます・・・私は屋上に行くべきじゃなかった・・・
ごめんなさい、この鍵で倉庫を閉めてを図書室に返して頂けませんか」
そう言うとゆきちゃんは倉庫のドアを開けて、逃げるように自習室を出て行った。私はしばらく倉庫から出ることができなかった。
ゆきちゃんはもう終わるって決め付けちゃってる。お姉ちゃんならきっと誤解だって言って解決だよ。
779 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:46:46.25 ID:mVgT44I0


 倉庫の鍵を閉め、私はゆきちゃんの言われた通りに鍵を図書室へ返した。
教室に戻ると、こなちゃんが一人、頭をさすりながら自分の机に座っていた。
「つかさ、どこ行ってたの」
「ゆきちゃんの手伝いをちょっとね」
「みゆきさんが・・・」
「ゆきちゃんがどうしたの」
「飛び込むように教室入ってきて、さっさと荷物まとめて帰っちゃったよ、何かあったの?」
「家の用事があったみたい」
「ふーん」
こなちゃんはそれ以上聞いてこなかった。
「ところでこなちゃん、お姉ちゃんの携帯電話見つかったの」
「ああ、あったよ、職員室に届けられてた」
「かがみは慌てて携帯取って隠そうとしてたよ、電源切れてたのに」
私はこなちゃんに言いたいことがあった。私がそれを言いかけたとき。
「私・・・ちょっとやり過ぎちゃったかな」
言おうとしたことを先に言われてしまった。調子が狂ってしまった。
「お姉ちゃん、あんな事するの初めてみた」
「・・・つかさがそう言うなら、かがみの怒りは相当のものだね」
「そうだね」
私はわざと冷たくそう答えた。こなちゃんはそのまま黙り込んでしまった。俯き悲しそうな顔。
今更こなちゃんを怒ってもどうにもなるわけない。それよりまだこなちゃんは頭をおさえている。それが心配になった。
「こなちゃん、頭見せてみて」
「いてて、普通ならすぐ痛みがとれるんだけどね」
「見事にできてる、こぶが・・・冷やした方がいいかな」
私は洗面所に行きハンカチを水に浸してきてそれをこなちゃんに渡した。
「ありがと」
こなちゃんはハンカチを頭に置いた。
突然私の携帯電話が着信した。携帯をみるとお姉ちゃんからの電子メールだった。
「電子メール?、かがみから?」
「うん」
「内容は?」
「遅くなるから先帰っていいよって」
「かがみ、さっき男子に呼ばれてどっか行ったけど、その用事なのかな、すぐ戻るって言ってたけど・・・」
私はその用事を知っている。答えられるわけがない、話を続けた。
「私はお姉ちゃん待つけど、こなちゃんはどうする」
「今日は・・・帰らせてもらうよ」
そう言うとこなちゃんは帰り支度を始めた。
「かがみに合ったら、携帯の事、ごめんって言っておいて、直接なんて言い辛いし」
「うん、言っておく」
780 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:48:58.75 ID:mVgT44I0


 こなちゃんと別れ、私はしばらく教室でお姉ちゃんを待っていた。だけど来る気配はない。
もう日は落ちかけて終業時間も近い、私は教室を出て向かった。屋上に。

 屋上に着いた、そこにお姉ちゃんが居た。辻さんとお姉ちゃんが出会った所に。後ろを向いて夕日をを見ている様。
私はお姉ちゃんに近づいた。そして話しかける。
「お姉ちゃん、もう帰ろう、終業時間だよ」
後ろを向いたままお姉ちゃんは話した。
「つかさ、先に帰っていいってメールしたのに、よくここが分かったわね」
「誰かに呼ばれてどこかに行ったってこなちゃんが言ってたから」
「そう、まだ就業時間までまだ時間があるわね、もう少しいいかしら」
お姉ちゃんはここを離れようとしない。私は思い切って聞いた。
「呼ばれて、何かあったの」
その質問にお姉ちゃんは即答した。
「呼ばれてここに来たら辻さんがいねて、デート断ってきたわよ」
「それでどうしたの」
「承知したわ」
「・・・お姉ちゃんそれで本当にいいの」
「・・・」
黙っているお姉ちゃん、私は黙っていられない。
「お姉ちゃんは辻さんをどう思ってたの、好きだったの」
「・・・好きだった・・・手紙をくれる前からなんとなく気になってた・・・」
「それならどうして・・・お姉ちゃんが分からないよ、辻さんも分からない、何のためにラブレターなんか出したのか」
お姉ちゃんは振り返り、私の額を中指で軽く弾いた。
「つかさ、なに一人で熱くなってるのよ、これは私と辻さんの問題でしょ」
痛くはないけど、打たれた額を手で押さえた。お姉ちゃんの顔を見ると私を見て笑っている。
「え、だって悔しくないの」
するとお姉ちゃんは、また振り返り、夕日を見ながら答えた。
「彼に言われたわ、友達を殴るような人と付き合いたくないって・・・こなたの事を言っているのはすぐ分かった、
こうまでハッキリ言われると、さっぱりするわね」
「あれは、こなちゃんの悪戯・・・理由を言えば・・・」
「そう、あれはこなたの悪戯、だけど、あの程度で殴ることはなかったわね、つかさもそう思うでしょ」
「それは・・・」
「こなたを殴ったどころか、怒鳴ったことは数え切れない、オタクって見下したこともあった・・・最低じゃない
今になって気が付くなんて、好きな人にそんな事言われたら・・・」
「こなちゃんは気にしていないと思うよ、こなちゃん、さっき、携帯の事、ごめん、そう言ってたよ」
お姉ちゃんは振り向いて私の目をみた。なにも言わない。その代わりに目に涙が溜まっていた。
そして、そのまま泣き崩れてしまった。

781 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:50:01.45 ID:mVgT44I0


 目の前のお姉ちゃんがが歪んで見える。私もいつの間にか涙を流していた。何も言わない。言えなかった。
もう終わっている・・・私が何を言っても、すでにもう過去のこと。後戻りできない。
ハンカチを出そうとしたけど・・・こなちゃんに渡したままだった。
涙を拭えず、手で目を押さえても涙は止まらない。もう諦めて泣いた。
就業時間を知らせるチャイムが鳴る。もう日は完全に暮れて空はもう暗くなっていた。
 
「お姉ちゃん、もう帰ろう」
お姉ちゃんの手を引いた。起き上がったけど力が入っていない私にもたれかかった。お姉ちゃんの腕を私の肩に回して運ぶように進んだ。とりあえず教室に向かった。
教室に着き適当な椅子にお姉ちゃんを座らせて、購買の自動販売機でコーヒーを買ってきてお姉ちゃんに渡した。
落ち着くまでにかなり時間がかかった。宿直の用務員さんに追い出されるように学校を出る。
そして、最終バスに乗った。家に帰ってもその日はお姉ちゃんは部屋から出ることはなかった。

こなちゃんの悪戯で始まり、こなちゃんの悪戯で終わった。
私はそれを全て見た。違う、見ていただけだった。助けることも救うことも出来なかった。ただ一緒に泣いただけ。それだけだった。

 
 一ヶ月が経った、いつものみんなに戻るのに三日も要らなかった。
でも、ゆきちゃんもこなちゃんもおあれから、姉ちゃんと辻さんがどうなったか聞いてこなかった。
辻さんと別れての二日間のお姉ちゃんの気が抜けたような姿を見てもう分かってしまったのかもしれない。
まつりお姉ちゃんがお姉ちゃんの事を隠すのが下手だって言ってたけど、その意味が今分かった。
そして、いつもの生活に戻った。
いいえ、完全には戻っていない。何かが少し違う。何が違うのかは分からない、でも以前とは何かが違っている。

 放課後、私はお姉ちゃんを待っていた。
「帰るわよ」
お姉ちゃんが教室に入ってきた。
「こなたとみゆきはどうした」
「こなちゃんは・・・限定品が売れきれるって言って先に行っちゃったよ、ゆきちゃんはそれに付いていったよ」
お姉ちゃんはため息をつく
「付いていったじゃなくて、連れて行かれたでしょ、まったく・・・そういえば、最近みゆき、私たちの寄り道付き合うようになったわね
「そういえばそうだね」
「それでいて、成績以前より上がってる・・・みゆきにもう勝てそうにない」
「お姉ちゃん、ゆきちゃんと成績争ってたの」
「いや、私が勝手に追いかけているだけ、みゆきは私なんか眼中にないわ」
違うよ、ゆきちゃんはお姉ちゃんを尊敬してる。私はあの時そう感じたよ。
「そういえば、こなちゃんも最近変わったよね」
「こなたが、どこが?」
「んー、そう言われると、説明できないけど、お姉ちゃんをあまり怒らせなくなったよね」
「そんな事はない、あいつは変わってない、断言するわよ」
そう、こなちゃんは変わってない。でも、怒鳴ったり、殴ったり、そこまで気が許せ合える友達がいるっていいよね。
「そういえば、お姉ちゃん遅かったね、どうしたの」
「ホームルームが長引いてね、メールすることも出来なかったわ」
「それじゃ、こなちゃん達を追いかけよう」
「そうね」
782 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:51:16.06 ID:mVgT44I0


 私達は教室を出た。靴を履き換えて外で待っているとなかなかお姉ちゃんは来ない。私はお姉ちゃんのげた箱に向かった。
お姉ちゃんはげた箱で手紙を読んでいた。
「お姉ちゃんそれは、もしかして・・・」
「そう、ラブレター」
お姉ちゃんはそう言うと隠すことなく私に手紙を渡した。
手紙を見ると、辻さんの書いた内容とほぼ同じ事が書いてあった。待ち合わせの場所も、日付時刻も。そして書いた本人の名前も書いていない。
字は綺麗に書かれている。見覚えがある字。一週間前、こなちゃんの家で見せてもらったゆたかちゃんの字と同じだ。
「げた箱の奥に入ってたわ、今まで気が付かなかった」
間違いない、この手紙はこなちゃんが入れた手紙。
「つかさ、私、この手紙の方を取っていたらどうなったかしら」
私に問いかける。私は想像した。あの時辻さんが来なかったらどうなったか。
屋上で待つお姉ちゃん、そこにこなちゃんが走ってお姉ちゃんの前に立つ。慌て、おろおろするお姉ちゃん。
そこでこなちゃんの種明かし。すると、怒ったお姉ちゃんはこなちゃんの頭をグーで殴る・・・
こっちでもこなちゃん、お姉ちゃんに殴られちゃうよ。私は思わず吹き出して笑ってしまった。
「つかさ、笑ったな、どうせ結果は同じってことね、聞くんじゃなかった」
「ごめん、お姉ちゃん」
お姉ちゃんに手紙を渡した。
お姉ちゃんはしばらく手紙を見ると両手で丸めて出入り口のごみ箱に投げ捨てた。
「さ、これで全て終わり、行くわよ」
そう言うと、校舎の外へ出て行った。

 私はごみ箱から丸まった手紙を拾った。
やっぱりお姉ちゃんは優しいね、手紙を捨てるなら破るよね。でもそうしなかった。
そういえばこなちゃんの悪戯、まだ途中だった。まだ終わっていない。終わらせなきゃね。
終わらせるのは、私しか居ない。全ての種明かしができるのは私。
こなちゃんには悪いけど、この悪戯私が引き継ぐよ。
でも、今すぐ種明かしはできない。今やったら、きっとみんな泣いちゃうよ。
一年後、五年後、十年後、いつがいいかしら。
この手紙を見せたとき、こんな事があったねって笑って語り合える、そんな時まで・・・おあずけだね。
丸まった手紙を私は丁寧に元に戻した。
それまで、私達が仲良しでいられますように。手紙にそれだけを祈りを込めて鞄にしまった。
「つかさー なにしてる、先行っちゃうわよ」
遠くからお姉ちゃんの怒鳴り声。いつものお姉ちゃん。やっぱりこうじゃないと、こなちゃん、ゆきちゃんも最近物足りないって言ってたよ。
783 :ラブレター [saga]:2009/09/12(土) 07:52:16.95 ID:mVgT44I0


 それから私達は楽しい一時を過ごした。家に帰り、夕食を済ませた後、私は台所を占領してデザート作りに専念していた。
「お、つかさ、久しぶりに作っているわね、この前言ってた納得できなってデザートなの」
「まつりお姉ちゃん、そうだよ」
「で、なにを作ってるんだい」
「塩キャラメルレアチーズケーキ」
「それ、有名な店で食べたことあるわ、私はあまり美味しいと思わなかった」
「・・・有名なお店と私のとじゃ比べ物にもならない、お店のが美味しくなかったら私のなんて・・・それにこれは試作だし」
「悪かっわね悪気はないわよ、ってもう出来てるじゃん」
まつりお姉ちゃんは出来立てのケーキを近くにあったフォークですくいとって食べた。
「まつりお姉ちゃん、試作だって言ってるのに」
まつりお姉ちゃんはしばらく何も言わずにケーキの味を確かめるように噛んでいた。
「この味・・・どこかで味わったことある」
そのまま目を閉じて何かを思い出そうとしているようだった。
「これはは卒業の時・・・つかさ、この味どこで・・・」
「この試作の試食、お姉ちゃんに最初に食べてもらおうと思ったのに」
「なぜかがみが最初なのさ」
「・・・言えない」
「言えないって、あんた達、最近おかしいと思ったけど、やっぱりね・・・かがみに試食ね、反応が楽しみだわ」
まつりお姉ちゃんはクスリと笑った。
「美味しくない?、やっぱりこのケーキ、お姉ちゃんにあげるの止めた方がいいかな」
するとお姉ちゃんは黙ってやかんに水を入れて湯を沸かし始めた。
「このケーキには紅茶が合うわね、私がかがみにいれてあげる」
「まつりお姉ちゃん・・・」
「私もあの時こんなお菓子が食べたかったわ、あの時、食べていたら・・・思い出にできたのに・・・きっとかがみも喜ぶわよ・・・きっと」
まつりお姉ちゃんは目を潤ませてそう言った。

 塩キャラメルレアチーズケーキ、甘さの中に、塩のしょっぱさとキャラメルの苦さを入れた大人のスィーツ。
レピシ通りに作ってもどうしても上手く作れなかった。そして気が付いた。しょっぱさと苦さ、これは涙の味・・・実らなかった恋の切ない涙の味。
私はレピシを変えて作った。屋上での涙の味を思い出しながら心を込めて。
この涙の味を思い出にしまうために。


784 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/12(土) 07:53:32.42 ID:mVgT44I0
お粗末でした。
リレーSS ラブレターの行方 から浮かんだストーリです。
コンクールネタを考えても、こっちのストーリが勝手に浮かんでくるので思い切って完成させました。
一人称でつかさは初めて、恋愛ものも初めて・・・物語の展開が臭すぎたかも。


狂った世界に救いの手を の作者さんに謝ります。
前スレでこの作品でイメージを得たと書きましたが。色々やってみましたが
イメージで終わってしまいました。ごめんなさい。
その代わりこの作品で許してください(代わりにならないけど)
覚えているかな?
785 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/12(土) 08:02:56.69 ID:O5qww5M0
17歳JKです。日記は毎日更新してます!
http://ameblo.jp/achaki-doll/
786 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/12(土) 12:25:03.70 ID:.bhn0oSO
>>784
狂った人です。あひゃ(゚∀゚)
謝らなくても良いんですよ。
どんなイメージでSS書いてくれるのかwktkしてはいましたが

内容の方は良かったです。つかさが追い出されるシーンとか段々と大人になっていく感じが

ただ、台詞前に名前があったりなかったりするのが気になった
787 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/12(土) 16:54:56.28 ID:mVgT44I0
>>786
感想ありがとうございます。

台詞前の名前は、登場人物が3名以上の時誰が言ったか分かるように付けているのですが
余計だったかな。
788 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/12(土) 19:45:01.39 ID:.bhn0oSO
まぁでも、おかげで読みやすかったし大丈夫
789 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 21:53:40.25 ID:NBqf/zY0
>>787
つけるのはいいんだけど、やっぱり統一感は出してほしいかな
つけるならつけるで、全部につけてほしいし、つけないならつけないで全部つけないでほしい
790 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/12(土) 23:42:49.67 ID:YopVMNMo
>>787
今回はいのり・まつり・つかさの会話シーンやその他生徒の会話シーンがあったから、つけて正解だと思うよ
統一感があった方がいいっていう意見には同意
791 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/12(土) 23:44:34.15 ID:mVgT44I0
まだまだ新参者なのでご指摘お願いします。
792 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/12(土) 23:51:24.49 ID:nc2kJpk0
台詞だけで、どのキャラか分かるってのが、理想と言えば理想だよね。難しいけど…。
793 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/13(日) 00:22:07.54 ID:J5V4.OQ0
妙に指摘が多いねww
流れに乗って俺もちょっと気になった所を言わせてもらうと、つかさのしゃべり方。
つかさは「〜かしら」っていう語尾は使わない。ところどころ「かしら」が出てきたとき違和感があった。
口調を勉強するなら、アニメを見てキャラのしゃべり方を注意しながら聞くか、過去に投稿されたSS(特にセリフ中心のもの)を読んでその口調を理解するかかな。例えばつかさの口調を使いこなしたければ、その過去のSS内のつかさのセリフをたくさん集めてきてよく見て、「あ、こんな傾向があるな」ってのを把握する。
ってところ。

タイトルの「ラブレター」ってのを見た瞬間この前のリレーSSが思い浮かんだが、やっぱりそれが発想の元だったかww
794 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 09:13:43.29 ID:6THqySw0
>>786-793

ラブレターの作者です。
ぬー 今回は指摘が多い。やはり素人さが出てしまったようです。涙がでてきたw

つかさが〜かしらを使わないことは知っている。自分も会話では〜かしらは
使わない。けど頭の中で考えている時使っている。(俺だけおかしいのかな?w)
それであえて使ったのだが。違和感を感じた人が居たのなら使うべきではなかった。

前作の 夏 もそうだったけど、
台詞の前の名前、これは統一した方がいいね、今後は全の会話に付けるようにしたいと思います。

まとめサイトに載った作品の修正って許されているのでしょうか。
おそらく修正はしないと思うけど(誤字、脱字は修正するけど)
もし、修正したらコメントフォームで報告すればいいのでしょうか。


795 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 20:55:10.80 ID:nhlD6Foo
>>794
コンクールに絡まない作品の修正は全然問題無いはず
修正報告は避難所のまとめ関連のところでしたらいいと思うよ
796 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/13(日) 23:56:57.16 ID:YBzqd.U0
こなた「コンクール作品が進まない!こういう時は腹筋だ!」
かがみ「は?」
つかさ「コンクール作品が進まなーい!こういう時は腕立てだー!」
かがみ「ちょ、ちょっと…」
みゆき「コンクール作品が進みません!こういう時はスクワットです!」
かがみ「みゆきまでなにやって…」
こなた「………」チラッ
つかさ「………」チラッ
みゆき「………」チラッ
かがみ「な、なによ…」
こなた「空気読めー」
つかさ「空気読んでよー」
みゆき「空気読んでくださいー」
かがみ「…いや…そんな空気読みたくない…てか、こんなことしてる暇で書け」
797 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/14(月) 00:05:15.14 ID:sQFFhQE0
コンクール作品が進まないどころか これからだったり。
よせばいいのに変な作品に時間をかけて気力も使ってしまった。
今回は投票にまわるかな。

798 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/14(月) 11:58:39.14 ID:N9wzUkE0
コンクール作品投下します。
799 :うたたねの間に [saga]:2009/09/14(月) 12:00:37.37 ID:N9wzUkE0
「ジャーん!見てこれ」

いつもの昼休み、鞄から何かを出してこなたさんが言いました。

「何よ、これ?」
「スーパーボール」
「いや、見りゃわかるわよ…」

こなたさんが机の上に転がしたのは、6個のスーパーボール。
なかには星のマークが彩られています。

「実はこれ、最近話題のガチャポンでね。全7種類をコンプリートすると願い事が叶うって言われてるんだよね」
「どこのドラ○ンボールの話だ、それは」
「へ〜なんか素敵だね」
「いや、つかさ、真に受けちゃダメだから」
「でも本当に願いが叶ったらいいですよね」
「みゆきまで…大体こういうのは全部そろえさせようとする企業の戦略でしょうが」
「は〜、かがみってホント夢がないね。ま、それはいいんだけど、なかなか7つめが出なくってねー。ネットでも激レアっていう噂だよ」
「でも願い事かぁ、かなえてもらうなら何がいいだろう」

つかささんの言葉に私も思わず考え込んでしまいした。
もし願い事がかなうなら…
800 :うたたねの間に [saga]:2009/09/14(月) 12:02:22.68 ID:N9wzUkE0
その日、私は家に帰って鞄の中を覗き込みました。
そこには泉さんの言っていた7個のボール…
あの話を聞いた後、途中で寄ったあるお店の軒先にあった例のガチャポンを気がついたらまわしていました。
そして泉さんが激レアと言っていたにも関わらず、なぜか7回で全種類引き当ててしまったのでした。

「願い…」

そう呟いた時、一枚の写真が目に入りました。
修学旅行での4人の写真。私が一番気に入っている写真でした。

「そういえばもうすぐ卒業なんですね」

高校の3年間に特に大きな不満はありませんでした。
勉強も委員会の仕事もうまくいって充実していたし、最高の友達もできた…

でも

もしやり直せるのなら、やり直してみたいところがあるのも事実でした。
日常生活の中での大小様々な失敗、行事での経験不足ゆえのミス…

そしてなにより…
1年生の文化祭の準備よりも早く…
泉さん、つかささん、かがみさんともう少し早く仲良くなれていたら…

私たちの人間関係は今と違ったものになったでしょうか?
泉さんとつかささんの出会いの話や、1年生の1学期の出来事の話を聞くときのちょっとしたさみしさを感じずに済んだでしょうか?

そう考えると私の胸は自然と高鳴りました。
そして、目の前の7個のボールに願いました。
高校生活をやり直してみたい、と…

801 :うたたねの間に [saga]:2009/09/14(月) 12:04:00.17 ID:N9wzUkE0
「ん、朝…ですか?」

鳥の鳴き声で目が覚めました。
気がついたらいつの間にかベッドで寝ていたようです。

「みゆきー、そろそろ起きないと入学式に遅刻するわよ〜」
「はい。今起きました」

寝ぼけていたのでしょうか。
返事をしてしばらくしてから異変に気付きました。

「入学式?」

確かにお母さんはそう言いました。
よくよく部屋の中をみると昨日とはだいぶ違っています。
鞄を手元に引き寄せてみると、3年間使って良い感じに味が出てきていたはずの鞄は真新しくなっていて、中身は新品の1年生の教科書とノート、筆記具でした。

「今日は、入学式ですか?」

居間に下りて、お母さんに恐る恐る聞いてみました。

「そうよみゆき、寝ぼけてるの?」

にわかには信じがたいその言葉を私がどう飲み込もうか考えている間に、お母さんは畳みかけるように言いました。

「今日からみゆきの高校生活が始まるのね。いいわね〜、私も高校生に戻りたいわ」



通学途中、私はなんとか頭の中を整理しました。

カレンダー、時計、新聞、そしてテレビのニュースでも日付を確認した以上、お母さんのいたずらではありえない。
私は約2年と半年の時を遡って陵桜学園に入学した最初の日まで戻ってきたということです。

つまり、

私が(私の頭の中での)昨日、泉さんに言っていたあのボールにかけた願いがかなったということなのでしょう。
とても信じられる話ではありませんが、それ以上にこの不可解な現象を説明できる説もありませんでした。

それに、これは確かに私が願った通りの状況でした。
初めのうちから泉さんたちと仲良くなれれば、もっともっと親密になれるかもしれない。
そう思うと、期待で胸が膨らみました。
802 :うたたねの間に [saga]:2009/09/14(月) 12:05:42.64 ID:N9wzUkE0
「つかささん、よろしかったら一緒に帰りませんか?」

入学式と最初のホームルームが終わったあと、まずはじめにつかささんと仲良くなろうと私は話しかけました。

「ふぇ?」

つかささんは怪訝そうな顔をしました。
その顔を見て私は自分の失態に気付きました。

「も、申し訳ありません!いきなり名前でお呼びするのは失礼でしたね」
「ううん、いいよ。え、えっと、た、高良…さん?だっけ?」

そう、私にとってはとても自然な慣れたことであっても、つかささんにとってみれば初めてなわけです。
つまり私たちが3年間かけて築いてきた関係を再び築かなければならない。

その時、何か私の心にとても恐ろしい影のようなものがさした気がしました。

結局、その日の会話は、つかささんから初対面の相手という緊張感と遠慮が感じられ、あたりさわりのないお話しかできませんでした。
いつもしていたような楽しいお話ができるようになるまでにはどれくらいかかるのでしょうか。


次の日の昼休み、私はつかささんと泉さんと一緒にお昼御飯を食べようと考えていました。

「つかささん、お昼をご一緒しませんか?」
「うん!いいよ」

つかささんは昨日よりもだいぶ打ち解けてくれたようで少しホッとしました。

「もうお一方、お誘いしたい人がいるのですがよろしいですか?」
「うん、もちろん。誰?」

私は泉さんの机に足を進めました。
目の前いる泉さんは、私のよく知っている泉さんと見た目はほとんど変わりませんでした。
でも、この泉さんには私の記憶がありません。
それを考えると、話しかけるのにとても勇気が必要でした。

「泉さん。よかったらお昼をご一緒しませんか?」
803 :うたたねの間に [saga]:2009/09/14(月) 12:07:17.70 ID:N9wzUkE0
泉さんは驚いて顔をあげました。
なぜ自分が話しかけられたのかわからない、とその表情は語っていました。

「え、え〜っと。高良さん?だったっけ?ごめん、私他の人と食べることになってるから」
「あ、そうですか。申し訳ございません」
「ううん、むしろこっちがごめんね。また誘ってね」

そういうと泉さんは他のクラスメイトの机へと向かっていきました。
断られると思っていなかった私は、呆然としていました。
つかささんが後ろから声をかけました。

「残念だったね。高良さん、あの子と仲良くなりたかったの?」

その後も私は何度も泉さんと仲良くなろうと試みました。
泉さんは私が初日に誘ったときに一緒だったクラスメイトと一緒にいることが多く、話しかけるチャンスが見つかりませんでした。

そのあと、学級委員のつながりでかがみさんとも仲良くなり、私はかがみさん、つかささんと3人で行動することが多くなりました。
ですが、一向に泉さんとはただのクラスメイトという関係のままでした。

ようやく泉さんと話すチャンスに恵まれたのは結局文化祭の準備期間でした。
私の担当の仕事が終わったので、つかささんと泉さんの担当分を手伝うことになったのです。

「高良さんありがとう、ホント助かったよ。こういうと失礼だけど、高良さんって意外と話しやすいよね」
「うん、高良さんは優しいし、すごく頼りになるんだよ!」
「私たちのグループのイメージでは高根の花だったからなぁ〜、どうしても話しかけづらかったんだよ」

思い出すと『前回』の私がつかささんと泉さんと仲良くなり始めたのはちょうどこの時期からでした。
そう、このあとつかささんが喫茶店に行こうと提案して泉さんが私も誘ってくれたのでした。
今回は私の方から誘おうと思いました。
ようやく『今回』も泉さんと仲良くなるきっかけができたと思いました。

「ちょうど作業もきりのいいところですし、このあと一緒にお茶でもいかがでしょうか」

私の提案に申し訳なさそうに泉さんは首を振りました。

「ごめんね、今日は先約があってさ、また誘ってね」

そういって泉さんは仲のいいクラスメイトの方に歩いて行きました。

「残念だったね、高良さん…」
804 :うたたねの間に [saga]:2009/09/14(月) 12:08:35.38 ID:N9wzUkE0
つかささんの言葉に生返事を返しながら私は全く別のことを考えていました。
このとき私は以前から感じていた懸念がはっきりとした形をもって実現していることを悟りました。

つかささんは入学式の日の帰り道に泉さんに外国人に絡まれているのを助けてもらって以来仲良くなったと言っていました。
『今回』は、その日、つかささんは私と2人帰りました。
つまり意図せず私が泉さんとつかささんの仲良くなるきっかけをなくしてしまった、ということになります。

バタフライ効果という言葉があります。
ある場所の蝶の羽ばたきが、遠く離れた場所での天候に影響を与えるという内容で、要するに、ほんの少しの行動の違いが最終的に大きな差を生みだすという説です。
私は、つかささんと泉さんの出会いの機会をなくしてしまったせいで、生まれるはずだった4人の人間関係を知らないうちに失くしてしまっていたのです。
自分がしたことの重大さに気づき、そして恐ろしくなりました。

もう泉さんは私たちとは別の人間関係を作作り上げている。
もう以前のような4人の関係を作ることはできない。

私はなぜかそんな確信を持っていました。


それでも私は現在の生活にもそれなりに満足していました。
つかささん、かがみさんとは3人でとても楽しい時間を過ごしていましたし、文化祭の準備も自分が体験した1年の文化祭の失敗を生かして、よりスムーズに進行していました。

文化祭は大きなトラブルもなく無事におわりました。
片付けもひと段落して、一人教室に荷物を取りに行くと、同じく荷物を取りに来た泉さんに会いました。

「あ、高良さん、お疲れー」
「泉さん、お疲れ様です」
「高良さん、今回ホントにすごかったよね?なんか手慣れてるって感じだったよ」

みなさんにとっては高校初めての文化祭でも、私にとってはもう3回体験したことなので、うまくできるのは当たり前のことでした。
そういえば、『前回』の1年生の文化祭は全員が全員経験不足で、とても成功とは言えないものでした。

「今回の文化祭はみんなの思い出になるね」
「思い出…」
「だって、最初の文化祭でこんなに成功したんだよ!きっと一生の思い出になるよ」

私は泉さんの言葉で、以前教室で4人で話したときのことを思い出していました。

805 :うたたねの間に [saga]:2009/09/14(月) 12:10:18.64 ID:N9wzUkE0


「そういえば、もうすぐ文化祭だねー」
「そういえばそうね。今年は何をやるのかしら?」
「まだ決まってないよね〜」
「今年は成功するといいですね」
「そだねー、最後の文化祭だもんね」
「確かにね〜、そう言えば1年のときはあんま成功とはいえなかったよね…」
「そうね。私のクラスもトラブル続出だったわね。でも、思い返すといい思い出よ」
「そうですね。失敗の思い出も時が経つといいものですね」


あのときの私にとっては失敗の思い出もみなさんと共有する貴重な経験の一つでした。
文化祭だけじゃない。
修学旅行で、4人でいろんなところに回ったこと
運動会で泉さんは抜群の運動能力を発揮し、つかささんと、かがみさんは失敗して泉さんにからかわれながらもとても楽しそうだったこと
お祭りに出かけて、かがみさんが金魚を捕まえてうれしそうだったこと、つかささんにブルーハワイの由来を教えていただいたこと
夏に海に出かけて行って海の家で楽しく食事をしたこと
他にも、他にも…思い出はとめどなくあふれてきました。

そんなありふれた、それでいて唯一の私たち4人の素晴らしい思い出は、永遠に失われたのです。
私一人の中にその思い出を持っていても全く意味がないのです。
4人で共有しているからこそ、意味のある思い出だったのです。
そしてそういった思い出の上に私たちの関係は成り立っていたのだと今更ながらに気付かされました。

「ちょ、ちょっと、高良さん?」

気がついたら私は涙を流していました。

「すみません。でもようやく大事なものに気付いたんです」
「ごめん、私変なこと言った」
「いえ、そうじゃありません」
「どうしたの?私でよかったら話聞くよ」
「ありがとうございます。でも…もう手遅れなんです」

「手遅れなんてないよ」

瞬間、泉さんが満面の笑みを浮かべました。

「みゆきさんがそれに気づいてくれたなら、もっともっと私たち仲良くなれるよ」

泉さん?
私が泉さんの異変を感じると同時に、とてもまぶしい光を感じました。
例えるなら、立ちくらみに似たような…でも不快感はなく、とても優しい光のように感じました。
足の力が抜け、倒れる!と思った瞬間、私の意識はなくなりました。

806 :うたたねの間に [saga]:2009/09/14(月) 12:12:03.40 ID:N9wzUkE0

「みゆき、こんなところで寝てたら風邪ひくわよ」

気がつくと私は机に突っ伏して寝ていたようでした。

「お、お母さん。ここは、私の部屋ですか?」
「あらあら、珍しい、寝ぼけてるの?」
「私、ずいぶん長くねていましたか?」
「みゆきが部屋に戻ってから30分くらいしか経ってないわよ」

机の上のデジタル時計を確認すると、私が噂のスーパーボールに願いごとをした日でした。
7個のスーパーボールはいつの間にかどこかになくなっていました。
夢…だったのでしょうか。
それにしてはあまりにもリアルで、長い夢でした。

「長い夢を見ていました。長くて、とても悲しい夢だった気がします」
「そうなの?でもみゆき今とてもすっきりした顔をしているわよ」

次の日、夢の内容はほとんど思い出せなくなっていました。
思い出せるのは、夢の中で、とても長い時間を過ごしたこと。
そして、悲しかったけれどとても大事なことを気づかせてくれたこと。

次の日、私はいつもより晴れ晴れとした気持ちで学校に向かいました。
学校に着くと、すでに泉さんの机の周りに、かがみさんとつかささんが集まっています.

束の間の夢が私に教えてくれたこと。
過去は変えることはできない。
できたとしても、今存在しているような素敵な関係は築けない。
なぜなら私たちの関係の土台には一緒に経験してきた山ほどの思い出があるのだから。

私はもう一度考えました。
もし願い事がかなうなら…

そして願いました。

これから先…ずっと、ずっと

「おはようー、みゆきさん」
「おはよ〜、ゆきちゃん」
「おはよう、みゆき」

私を笑顔で迎えてくれるこの友人たちと

「おはようございます。みなさん」

もっともっと仲良く最高の関係を作り出せますように…と。



807 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/14(月) 12:14:58.31 ID:N9wzUkE0
以上です。
久しぶりのコンクール参加です。
よろしくお願いします。
808 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/14(月) 18:22:12.23 ID:OwsB7s60
>>807
乙。序盤にやにやしちまったぜ!
締めも良かったです。

自分もコンクール作品投下します。
809 :寝てろっ!(1/6) [saga]:2009/09/14(月) 18:24:15.14 ID:OwsB7s60

 それは暑い暑い夏の時期。太陽の大きさが通常の三倍にでもなったのか、という位に暑い時の事だった。
「おーっす。今日も暑いわねー」
 登校中、かがみがこなたの後ろ姿を見つけると、この暑さに負けない位の元気で、そう挨拶した。
 それに気付いたこなたは振り返り、かがみの姿を確認するや否や、かがみの胸に倒れ込んだ。
「おい、こなた?」
 何事かと思い、こなたの肩を掴んで顔を見る。
「ちょ、あんた目の下に隈が……」
 それもかなりでかい。また朝までネットゲームでもしてたな?
 かがみがジト目でこなたを睨んでいると、こなたはその視線の意図に気付いたらしく、
「ネトゲじゃないやい」と、力無く否定した。
「寝たいよ〜」と、こなた。
「ネトゲじゃないなら何してたんだよ」
「最近、暑いじゃん」
「ん、そうね」
「寝れない」
「……あぁ」
 ようするに暑くて寝れないって事ね。でも目を閉じてれば自然と眠れると思うんだが……。
 掴んでいた肩を離すと、こなたはフラッと足元を崩し、倒れかけた。
「危なっ」
 かがみは間一髪でこなたを受け止める。こなたは今にも死にそうな顔だ。いつも元気なアホ毛も萎びている。
「重症ね、これは」
「しかも二日も寝てないんだぜ」
「え、ちょっとマジなわけ?」
 身内の様に心配するかがみ。
「うん……」
 こなたは力無くうなずいた。
「保健室行くわよ。どうせ授業なんて受けられないし」
 そう判断して、かがみはこなたの肩を担いだ。
「歩けるわよね?」
「うん、ありがとう……」
 いつもならここで冗談の一つでも言いそうなのに……。
 かがみは保健室へ足を急いだ。
810 :寝てろっ!(2/6) [saga]:2009/09/14(月) 18:25:13.47 ID:OwsB7s60


 一限目が終わった休憩時間。こなたの事が心配なかがみは大急ぎで保健室へ来ていた。
「どうですか? こなたは」
「それが……」
 養護教論のふゆきが、窶れた顔をしながらこなたの寝てるであろうベッドを指差す。
 その指に吊られて、ベッドの前のカーテンを開けるかがみ。
「やぁ、かがみ」
 仰向けで寝ていたこなたが、消え入る様な声で挨拶した。
「あんたまさか、全然寝てないの?」
「寝れないんだよ」
「どうやら本格的な不眠症の様です」
 かがみの後ろで椅子に座っているふゆきが告げた。
「不眠症?」と、かがみ。
「はい。さっきから色々と眠れる方法を試してみたのですが、どれも効果がなくて……」
 ふゆきは小さく欠伸する。“色々”やって自分が眠くなってしまった様だ。
「……子守歌でも歌ってあげようか?」
 と、かがみは冗談混じりにそう言った。が、
「じゃあお願い」
「え?」
「今は藁をも掴む気持ちなんだよ」
「……」
 冗談で言ったつもりなのに、どうしよう子守歌なんて知らないし。えぇい、ままよ!
 かがみはコホンッと咳ばらいをしてから歌い出した。
「ねむれ〜、ねむれ〜、安らかに〜、そして〜」
 緊張しているためか、音がかなりズレていた。
「……もういいです」
「な、何よっ。あんたが歌えって言ったんでしょーが!」
「うん、なんかごめんね」
「……まぁいいわ」
 げっそりしているこなたを見て、これ以上怒鳴る事は出来なかった。
「先生、本当に何をやってもダメだったんですか?」
「はい。睡眠薬は試していませんが……」
「え? 何でですか?」
「これだけ疲れている身体に、無理矢理眠らせる様な薬は危険だからです」
 それもそうか、とかがみは腕を組んだ。
「じゃあ安楽眠士に頼むしかないわね」
 溜め息を吐きながらかがみは言う。
「なにそれ」
 聞いたこともない単語に、こなたは怪訝な顔をして聞く。
「いや、そう呼ばれてる人が居るのよ」
「かがみの友達?」
「うーん、話せば長くなるんだけど」
 そう前置きして、かがみはベッドに座る。
「私の知り合いの友達の親の弟の親戚の末っ子の通う学校の先生のお爺さんの友人が住む家の子供達が書いた日記を見た小説家の――」
811 :寝てろっ!(3/6) [saga]:2009/09/14(月) 18:26:23.37 ID:OwsB7s60


 …
 ……
 ………


「――というわけで、この人が世界大会第二位の安楽眠士、レッドミストさんよ」
「世界大会第二位の、赤い霧だ」
 かがみの紹介で、世界大会第二位の安楽眠士、レッドミストが、こなたの部屋に入って来た。
「テライケメン」
 それがこなたが見た第一印章らしい。
 赤ずくめの服に赤いマント、赤いロングヘアーの……よく見たらふゆきだった。しかしこなたは気付かない振りをした。
「テライケメン」
「じゃあお願いするわね。世界大会第二位、略して二位さん」
「本当に良いんですね?」
 そう言って二位さんは、腰からファンタジーゲームに出てきそうな剣を取り出した。
「うん。本人がどうしても寝たいって言うから」
 平然と説明するかがみ。
「その剣は何に使うの?」
「大丈夫。痛いのは一瞬ですから、安心して貫かれてください」
「……優しくお願いします」
 こなたはベッドに寝転んだ。
「じゃあ私は行くわね」
 かがみは部屋を出る。因みに世界大会第一位は私よ、と言い残して。
812 :寝てろっ!(4/6) [saga]:2009/09/14(月) 18:27:35.32 ID:OwsB7s60
「あの、二位さんは何で赤いんですか?」
「? トマトですよ?」
「ふーん」
「私疲れちゃいました。こなちゃんを眠らせるの事に……」
「……?」
「だから眠らせてあげますね」
「うん、よろしくー」
 二位さんは、腰のベルトから、液体の入った瓶を取り出した。
「それを飲むんですか?」
「いいえ、ケフィアです」
 二位さんは、にっこりと笑う。そして、はぁぁ、と赤い息を吐くと、
「麗しの歌に抱かれて、眠るがいい!」
 瓶を真上に放り投げ、剣で真っ二つに割る。
「真紅のレクイエム!」
 二位さんが叫ぶと、飛び出した液体が光だし、やがて大きくて長い蛇の様なものが姿を現した。
「覚悟せぇや、泉」
 なんとそれは、担任の黒井ななこであった。何故か手には、大量のもずくを持っている。
「名付けて、気絶大作戦です」
 二位さんが楽しそうに言う。どうやら気絶するまで、もずくを食べさせ、眠らせる作戦らしい。
「おっと、急用を思い出しました」
 ベッドから降りようとするこなた。だが、
「無駄なの」
「身体が動かない? マジかよ、反則だぁ」
 こなたはベッドに仰向けで、大口を開けた状態で固定されてしまった。
「往生せぇや、泉ぃぃ!」
「やぁぁあぁぁああぁぁっ!」


 ………
 ……
 …

813 :寝てろっ!(5/6) [saga]:2009/09/14(月) 18:28:30.07 ID:OwsB7s60

「――池の中の鯉の飼い主である芸能人のファンクラブの一人の異世界に住む伯爵の、」
「柊さん柊さん」
 いつまでも喋り続けるかがみに、ふゆきが呼び掛ける。
 そして人差し指を口許に持っていくと、「しー」と言って身を屈める。
 それを見たかがみは、喋るのを止め、こなたが寝ている事を把握した。
「やっと眠ったか」
 かがみの視線の先には、ベッドですやすやと眠るこなたが映っていた。
「さっきのは催眠術か何かですか?」
 声のボリュームを下げて、ふゆきが言う。
「まぁ、そんなところです」
 少し顔を赤らめながら目を反らすかがみ。
 起こしては悪いと思い、今更ながらベッドから立ち上がると、
「うぅ〜……二位さん、やめて〜……先生〜……」と、こなたが唸った。
「うなされてますね」
「どんな夢見てんだか……」
 若干、呆れつつも安堵の笑みを浮かべるかがみであった。
「とにかく、こなたも寝たことですし、私戻ります」
「はい、後の事は任せ、」
「かがみ〜……かがみ〜……」
 教室に戻ろうとするかがみを、まるで呼び止めるかの如くタイミングで、こなたが再び唸った。
「な、何よ……」
 寝言で名前を呼ばれるのは恥ずかしいらしく、かがみの頬は紅潮していた。そんなかがみに、ふゆきは微笑していた。
814 :寝てろっ!(6/6) [saga]:2009/09/14(月) 18:29:33.30 ID:OwsB7s60
「助けて〜……」
 と、呻きながら、手探りで何かを探しているこなた。
 まったく、眠っても忙しい奴だな。
 そんな事を思いながらかがみは、こなたの姿勢を戻すため、落ち着かない手を掴もうと自分の手を伸ばした。すると、こなたの方から手が伸びて来て、手を絡めてきた。
「あ、ちょっ」
 俗に言う恋人つなぎに、かがみは少し焦っている。
 手を繋いだからか、こなたの顔はとても和らいでいた。
「かがみぃ〜……」
 あ、可愛い。
 かがみは素直にそう思った。
 どんな夢を見てるか知らないが、何かから救われたのだろう。そう思い、かがみも自然と笑みが零れる。
「先生、こいつが起きるまで傍に居ても良いですか?」
「え? えーと……」
 一応、保健室の先生とは言え、教職員の一員だ。健康体の生徒を、堂々とサボらせる訳には行かない、が。
 かがみの手を握る事で、こなたも安心して眠る事が出来ているのも事実。
 久し振りに睡眠を取れたのだ。ここはこなたが安らかに眠れる事を優先しよう。という事で、
「では、柊さんは体調不良という事にしておきますね」
「はい、ありがとうございます」
 かがみは申し訳なさそうに礼を述べた。
「それでは、私は柊さんの体調不良を伝えて来ます。泉さんを――」
 言いかけて、かがみがこなたの寝顔に釘付けになっている事に気付く。
「あらあら」
 お邪魔虫は退散しますか。
 ふゆきはクスッと笑うと、静かに保健室を出て行った。
「あれ、私もなんだか、ふわぁ……」


 ――数分後。
「こなたは私が守っ、る……ぅ〜」
「かがみぃ、それ……スイッチ……ぎゃくぅ」
 とても楽しそうな夢を見ている二人の寝言が、保健室を支配していた。


                                  おわり。
815 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/14(月) 18:31:08.95 ID:OwsB7s60
以上です。
疲れてるときの夢って結構、意味不明なんですよね
816 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/17(木) 00:47:07.57 ID:3okPzsSO
なんか嫌悪感と拒否反応が
登校中に声を掛けたはずなのにつかさがいないってどゆことなの
817 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/17(木) 01:41:59.10 ID:uHbJjMAO
そゆことなの
なぜそこでそう感じるのか謎だわww

>>815
途中のやりとりカオスでわろたww乙
818 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/17(木) 02:20:08.49 ID:dsAXP0.0
>>815
投下乙!
それにしてもカオスだなぁwwwwww
819 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/17(木) 05:56:11.82 ID:vPv5GjA0
ふゆき誕生日オメ
820 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/17(木) 12:17:05.87 ID:7xau0gSO
ふゆき先生誕生日おめ
そしてみなみは忘れてた
821 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/17(木) 14:03:52.08 ID:s/k5O.k0
>>815
えらくカオスだな。


あとコンクール作品投下します。
822 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:04:56.61 ID:s/k5O.k0
「なんで…、どうして…」
 私は絶望した、でもそれももう何回も繰り返してきたことだ。
 もう私にはあきらめる事しか出来ないかもしれない。
 今流れてる涙だってもう何度も流したのにまだ出てくる…
 今この心を支配しているのはいったいなんなのだろうか。
 昔は悲しみだった、でも今は…
 この問答も何回もした。
 


 私は親友だったものに向かってどの感情がもたらしているかもわからない涙を流した………流した………






                         全てはあの日から始まった




823 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:05:53.41 ID:s/k5O.k0
 キーンコーンカーンコーン

 四時間目の予鈴がなった。数学の授業の始まりだ。
 私はみなみちゃんや田村さん、それにパトリシアさん達と別れ自分の席に着いた。
 なんだか少しだるい気がする。
 別にこれから始まる数学が嫌だな〜とかそういうのじゃなくて、実は今朝から少し体がだるかった。
 でもあんまり回りのクラスメイトや友達に心配かけたくない。
 特にみなみちゃんには高校生になってから心配をかけっぱなしだし…。
 みなみちゃんは優しいからいつも保健室までつき合ってくれてるけど…やっぱり頼りっきりじゃだめだよね。
 たまにはみなみちゃんを助けるとまではいかなくても…せめて自分の出来る範囲で何か手伝ってあげたいな。
 それにしても最近すごくみなみちゃんに助けてもらってるよう気がするなぁ…。

 …それにしても眠たい。授業の前にお弁当を食べたせいだろうか。
 今日のお弁当はおいしかったなぁ…、今度こなたお姉ちゃんにお料理のコツとか教えてもらおうっと…
 そこで眠気のせいか、私の意識はブラックアウトした。


824 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:07:16.22 ID:s/k5O.k0
 「ゆたか…、ゆたか…、起きて」
 「ありゃ〜、こりゃ熟睡してるね」
 「どうしまス?」
 
 なんだか声が聞こえてきた、私はその声にこたえようと重たい瞼をこじ開けた。

 「…おはよう、ゆたか」
 「ずいぶん寝てたね、睡眠不足っスか?」
 「ゆすってもさすってもモんでも起きませんでしたね」
 
 私の予想通り目の前にいたのはみなみちゃんに田村さん、そしてパトリシアさんだった。
 …パトリシアさん、揉んだってどういうこと?何を揉んだの…?
 
 「それじゃ帰ろっか」
 「そうですネ」
 
 田村さんとパトリシアさんが床に置いていたカバンを持った。
 …え?今は数学の時間じゃ…?

 「どうしたの、ゆたか?今は数学の時間じゃないよ」
 
 …どうやら無意識の内に声に出していたようだ。
 それよりも私はみなみちゃんの言葉に驚いた。
  
 「え?今って四時間目じゃないの?」
  
 私は三人に聞いた。三人は頭にクエスチョンマークが出ているようだった。
 ふと窓から外を見た。きれいな夕焼けが見えた。
 …どうして?私は数学の時間で…恐らく眠ってから後の記憶がない。ずっと寝てたのかな?
 私は三人に質問を浴びせてみた。
 
 「ねえ、私四時間目の数学の時間に寝てたよね」
 「…うん、先生が起こしても起きなくて」

 田村さんが答えてくれた。なんだか嫌な予感がしてきた。
825 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:08:17.00 ID:s/k5O.k0
  
 「それで私はいつ起きたの?まさかさっきまでずっと寝てたの?」
 「そんなワケないじゃないですカ。ヨジカンメがオわったコロにはオきましたヨ」
 「…なんだか様子が変だった。それにいきなり私の名前を叫んでた」
 
 …どういうことだろう…。
 私にはそのことの記憶がない。それに様子が変だったってどういうことだろう?
 私はそのことについてさらに追求してみた。
 
 「…なんだか混乱してたっスよ」
 「そうでしたネ、イマはナンジとかキいてきましたヨ」
 「私が四時間めが終わったって聞いたら…なんだか顔が真っ青になって、それで私が保健室へ一緒に行った」
 「それでタシかロクジカンメのハジまるマエにカエってきましたヨ。
 でもそのロクジカンメのマんナカアタりでまたネムっていましタ」
 「そうなんだ…、ありがとう、みなみちゃん。保健室に連れてってくれて」
 「大丈夫、それにもうお礼は言ってくれた。それにしても今は大丈夫?少し気分が悪そうだけど」
 
 …やっぱりみなみちゃんはすごいな。実は少し気分悪いの我慢してたんだけどね。
 でもどうして三時間目に眠ってからの記憶が無いんだろう…?
 
 「そうですネ、なんだかキブンがワルそうでス」
 「保健室行くっスか?」

 私は断ろうとしたが結局保健室によって行くことにした。
 私はみなみちゃんに少し支えられて廊下を歩き、階段の前まで来た。
 やっぱりフラフラするよ…、私が保健室で休んでる間みんなには先に帰ってもらったほうがいいよね。
 これ以上心配かけられないし…
 
 私がそう考えて階段を降りていると横のみなみちゃんがいきなり体勢を崩した。
826 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:09:18.92 ID:s/k5O.k0



 「みなみちゃん!」

 私は咄嗟に体を起こした。……起こした?
 あれ?ここは?…なんで私教室にいるんだろう?
 確かさっきまでは階段を降りて…それでみなみちゃんがいきなり体勢を崩して…
 
 「…ゆたか、大丈夫?ずいぶん寝てたけど…」
 「い、いきなりどうしたんスか?」
 「ビックリしましたネ、セッカクオこそうとオモったのニ…。まさかギャクにオドロカされるとハ…」
 
 私はどういうことかわからなかった。さっきまでは階段だった筈の私の周りの空間が目を開けると同時に教室になっていた。
 周りではお弁当を食べている人やしゃべってる人、寝ている人がいた。
 …いつもの教室だ…、いつもの風景だ…。
 私が高校生になってからずっと見てきた光景がそこにはあった。
 
 「ゆたか…本当にどうしたの?」
 
 ふとみなみちゃんが私を心配して顔を覗き込んできた。
 …私…寝てたみたい…
 
 「ねえ、みなみちゃん、今って何時?」
 「…今は…12時55分…」
 「四時間めが終わって少したった頃っス」
 「よくネていましたヨ、センセイもあきれてましタ」
 
 え…?なんで?どういうこと?
 さっきは夕方だったはず…、あれは夢?それにしてはすごくリアルな感じが…
 それに…何か引っかかるような…
 
 「…ゆたか、顔色が悪い…、保健室へ行ったほうがいい」
 
 私は呆然としたまま保健室へ向かった。
 
 
 「ありがとうございます、岩崎さん」
 「いえ…、ゆたかをお願いします」
 
 保健室で私をベットへ寝かしたみなみちゃんはふゆき先生としゃべっている。
 私は少し弱弱しい声でお礼を言った。
 
 「…ありがとう」
 「…いい、親友だから」
 
 私に向かって微笑んだみなみちゃんの顔を見ながら私は眠りに落ちた…
827 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:10:22.99 ID:s/k5O.k0


 意識を取り戻したときまず感じたのは消毒液特有のにおい。
 もう今までなんど経験してきた匂いかわからない。
 目を開けるとそこには無機質に白い天井。
 私は保健室のベットにいるのだと思い出した。
 私はポケットの中の時計を取り出し中身を確認した。
 今は五時間目が始まったあたりだった。
 体をおこして教室へ帰ろうとしたが体がまだ言うことを聞いてくれない。
  
 「起きたようですね、小早川さん」

 私が起きたことに気づいたのか、ふゆき先生がカーテンをめくり私のほうへ歩いてきた。
 先生は微笑みながら私の額に手を当てた。
 
 「…どうやら熱はないようですね。でももう少し休んだほうがいいですよ」

 私は先生の言葉に甘えることにした。
 でも布団にはいってもあまり眠たくはならない。
 私はさっきの夢が気になっていた。…みなみちゃんが階段で体勢を崩したあの夢を…
 そうこうしている内に五時間目の終わりを告げるチャイムが学校に響き渡った。
 私は六時間目の授業には出ることにした。
 実際、私の体は大分回復していた…と思う。
 私はふゆき先生にお礼を言い、保健室を後にした。


 教室に着くとみなみちゃん達が心配してくれた。
 うれしかったけど、なんだか安心できない。…あの夢は…いったい…
 
 すると六時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
 私はみんなにありがとうと言い、自分席へと向かった。
 
 授業が始まった。最初は集中していたけど突如来た眠気の集中砲火になすすべもなく、
 
 私の意識はブラックアウトした。
828 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:11:27.14 ID:s/k5O.k0



 「あ、危ない!」
 「ミナミ!」

 私は突如鼓膜を揺らした二つの声に反応し目を開けた。
 すると横にいたみなみちゃんが体勢を崩し階段から落ちた。
 私はその場で階段に座り込んだ。膝が笑っている…
 声を上げようとしたが出なかった。
 ど、どういうこと…なんで…どうして…
 私はさっきまでは六時間目の授業を受けていた、なのにどうして私は階段にいるの?
 どうしてみなみちゃんが階段から落ちたの?

 …これってさっきの夢の…続き…?

 でも今は夢じゃない。私はもう意味が分からなかった。
 ただ下の階段の踊り場ではみなみちゃんが痛そうに立ち上がろうとしているのが見えた。
 なんとかみなみちゃんは立ち上がったけど足が少し痛いみたい。
 

 その後、みなみちゃんは田村さんとパトリシアさんに保健室へと運ばれた。
 一方私はみなみちゃんを運んだ後、パトリシアさんがおんぶして保健室へ運んでくれた。
 突然みなみちゃんが階段から落ちたので驚いたのかそれとも違う理由なのか、私の体は震えていた。
 それにしてもパトリシアさん、運んでくれたのはうれしいんだけど飛び跳ねたり回ったりするのは…
 私は保健室につく前にさらに気分が悪化した。
 
 幸い、みなみちゃんは少し足を痛めただけですんだ。
 それを聞いて私は胸をなでおろした。…私にだって少しくらいはあるんだよ。
 とりあえず私はゆいおねえちゃんに電話して車で迎えに来てもらった。


 その後迎えに来たゆいおねえちゃんの車に乗って皆で帰った。
 みなみちゃんは足をちょっと痛めただけだったけど念のために車で家へ帰らせることにした。
 
 「本当にびっくりしたよ〜」
 「…ごめんゆたか、でももう大丈夫…」
 「でもまさかあのしっかり者のみなみちゃんが階段から落ちるなんて思わなかったよ」
 「そうですネ、ミナミにもドジっコセイブンがあったんですネ」
 「帰ったら筆がいい勢いで進みそうっス」
 
 ゆい姉ちゃんと私達は車の中で笑いあっていた。

 あの夢のことなんて…綺麗さっぱり忘れていた。
829 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:12:29.53 ID:s/k5O.k0
 次の日、私が学校へ行くとみなみちゃんが高翌良先輩と話していた。
 どうやら昨日の事を耳に挟んだようだった。
 先輩はみなみちゃんのことを心配していたがみなみちゃんが普通に歩いたりしているのを見て安心したようだった。
 
 「おはよう、みなみちゃん、高翌良先輩」
 「おはよう、ゆたか」
 「おはようございます、小早川さん」
 
 高翌良先輩はあいかわらず優しい雰囲気だなぁ。なんだか安心できる感じがするね。
 
 「あの、私の顔に何かついていますか?」
 「え、あ、いえ…なんでもないです」
 
 びっくりした、ついつい高翌良先輩を見つめていたようだ。
 なんだか昨日からぼうっとする事が多い様な気がするよ。
 …どうしたんだろう…
 私は気を取り直してみなみちゃんにたずねた。

 「足は大丈夫なの?」
 「うん、ぜんぜん平気。昨日のうちにはほとんど痛みもなくなってた」
 「よかった〜」

 私は心から安心した。
 
 「心配かけて…ごめん」
 「あ、謝ることないよ、みなみちゃん」

 突然謝られて私は驚いた。気にしなくてもいいのに。
 
 「二人とも仲がいいんですね」
 
 高翌良先輩がそう言って微笑みかけた。
 私は恥ずかしくなってうつむいた。恐らく顔は真っ赤だったと思う。
830 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:13:34.74 ID:s/k5O.k0
 
 その後少ししゃべってから高翌良先輩は自分の教室へ帰って行った。
 それにしてもさっきから田村さんがこっちを見ながら一心不乱にノートに何か書いてるけど、いったい何を書いてるのかな?
 …なんだか眼鏡が不気味な光り方をしてるような気が…
 触らぬ神に祟り無しということでノートのことを田村さんに尋ねるのはやめることにした。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴った。

 その後ホームルームが始まり、そして一時間目が始まった。
 黒板の前では英語の先生が文法について詳しく述べている。
 私はそれを板書しているうちにいつの間にか視界が黒く染まっていた。
 
 
 
 私が目を覚ますとそこはグラウンド、しかも私は体操服だった。
 それに目を覚ますというか、寝転んではいなかった。
 私が気がついた時どうやら私はランニングの最中だったようだ。
 後ろからみなみちゃんの声が聞こえた。
 
 「ゆたか、大丈夫?」

 私は自分は転びそうになりながら止まった。 

 「え?あ、あれ?さっきまで英語の授業が…」
 「…英語なら一時間目に終わった。今は体育の時間」
 「そ、そんな…」
 「どうした小早川、気分が悪いのか?」

 私がみなみちゃんと話していると体育の先生がこちらへやってきた。
 私達は止まって話していたのでみんなとはグラウンド半周分は遅れていた。
 
 「あ、いえ…大丈夫です、行こうよ、みなみちゃん」

 私はうやむやした気分を振り払いながらみなみちゃんの手をとってランニングを再開した。
 そういえば今日は確か体育が三時間目にあったんだっけ。
 でもそれまでの記憶は私には無い。確か昨日も同じことがあった…
 なんだか嫌な感じがする…。
 私達が体育館の横まで走って来た時、私は何気なしに上を見た。
  
 何かが私達……ううん違う……みなみちゃんに向けて落ちてきた。
831 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:14:33.11 ID:s/k5O.k0



 私が目を覚ますとそこは教室だった。前では英語の先生が私の方を見ている。
 
 「よく寝ていましたね、小早川さん」
 「あ、は、はい…すいませんでした…」
 「気分が悪いのなら我慢しなくていいわよ」
 「だ、大丈夫で…す…」

 私がそう言うと先生は板書の説明に入った。
 でも眠る前とは内容が違う、たぶん私が眠っている間に前の板書の説明は終えて次の板書を書いたんだ…。
 …でも今はそんなこと考えてる暇なんて無い。
 さっきの夢は…もしかしたら予知夢なのかな?
 で、でも予知夢ってあんなにリアルなものなの?夢でかいていた汗がいまだに体を蝕んでいる気さえする。
 そういえば昨日は夢で見た内容のその後が実際に現実に起きた。
 でも夢を見ていたときの内容、
 …つまり私が放課後の教室で起きてからみなみちゃんが階段から落ちかける瞬間の内容は現実では体験していない。
 それは夢の中だけでの体験だった。
 でもその夢の中の体験は現実では起こっていたことのようだった……みなみちゃんが階段を実際に落ちるところから…
 …これってどういうことなんだろう…
 わけが分からないよ…

 私が色々考えていると、

 「ではキリもいいし、このクラスの授業は進んでるから今日はここまでにするわ。今からは自習ね」

 そう言って先生は教室の前にある余った椅子に座り本を読み出した。
 …これっていいのかな?
 でもこれはいい機会なのかもしれないと私は思った。
 ここで昨日のことを熟考してみることにしよう。


 まず昨日私は三時間目の数学の時間に眠った、そしてその時にみなみちゃんが階段から落ちる瞬間の夢を見て、
 そして目が覚めたら三時間目が終わってた。
 それから六時間目にまた寝ちゃって…確かその時は夢はみなかったはず。
 それで起きたらいつの間にか階段にいて、横でみなみちゃんが階段から落ちた。私は教室で寝ていたはずなのに。
 つまり最初の夢の続きが起きた瞬間に始まった…ってことかな?
832 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:15:32.73 ID:s/k5O.k0
 
 …そういえば最初の夢でみなみちゃんはこう言ってた。

 「…なんだか様子が変だった。それにいきなり私の名前を叫んでた」

 確かに私は最初の夢から覚めた時みなみちゃんって大きな声で言ってしまった…
 それに確か他にも…

 「私が四時間目が終わったって聞いたら…なんだか顔が真っ青になって、それで私が保健室へ一緒に行った」
 
 確かに私は起きた後保健室へ行った…
 夢の中で言われたことを実際に私はたどっている。
 よく考えてみればその後パトリシアさんが言っていたことも当たっている。
 私は六時間目の始まる前に教室へ戻り、授業の途中で再び眠った。
 そして目が覚めたら私はその夢の続き…つまりみなみちゃんが階段から落ちる瞬間の続きを現実で見た…
 …もしかして私…あの夢の中で…


 未来に行っていたのかもしれない…………


 そう考えれば納得できる、あれはたんなる予知夢じゃない、あの夢は夢であって夢でない…現実の未来の中だったとしたら…
 その夢でみなみちゃんやパトリシアさんの言ったことが全て当たっているのも納得できる。
 それにあの夢が未来だとしたら、その夢の間の時間がすっぽり抜けているのも納得できる。
 一度体験した未来は二度と体験できないんだ。だから私には放課後から階段へ行くまでのことを現実で体験していないんだ。
 
 つまりあの夢は未来の中で、その夢の中ですごした未来は現実では体験できない。
 
 私はこう結論した。

 でもそうなるとさっき見た体育のあの夢は…まさか…
833 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:16:56.74 ID:s/k5O.k0
 
 

 そうしていると一時間目が終わり、そのまま休み時間も終わり二時間目に突入した。
 そして何も起こらないまま二時間目も終わった。
 そして三時間目の体育の時間になった。
 私は体操着に急いで着替え、みなみちゃん達と一緒にグラウンドへと向かった。
 そして私達はランニングを開始した。
 体育の授業は最初にグラウンドを二周走ってそれから体操をし授業に入る。
 でもグラウンドを一週する手前まで来ても何も起きない。
 やっぱりあの夢はただの夢だったのかな?
 そうだったらいいんだけど…
 
 そう考えた瞬間、私の意識はブラックアウトした…



 目を開けた、そこに移ったのは体育館から落ちてくる何か…
 私は咄嗟にみなみちゃんの体操服を掴み、渾身の力で後ろへ引いた。
 みなみちゃんは後ろへ行きお尻から転んだ。
 それと同時にみなみちゃんがいたところに何かが落ちてきた。
 よく見るとそれは体育館の外壁だった。
 
 辺りは騒然とした。
 みなみちゃんは信じられないという顔をして落ちてきた外壁の塊を見ていた。
 私はみなみちゃんに近づいた。

 「…大丈夫?」
 「…あ…う、うん…」
 
 みなみちゃんはかなり動揺しているようだった。
 
 「二人とも大丈夫!?」
 「岩崎さん、怪我はない!?」
 「ユタカ、ミナミ、ダイジョウブですカ!?」

 すると走っていたクラスメイトや先生が駆けつけてきた。
 その日の体育の時間は中止となった。
834 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:17:47.63 ID:s/k5O.k0

 
 「すごかったね、小早川さん」
 「ホントウでス!ユタカはミナミのイノチのオンジンでス!」
 「本当だよ、もし小早川さんがいなかったら岩崎さん死んでたよ」
 「火事場の馬鹿力ってやつかもな」
 「まあ、お前にはないだろうけどな」
 「うっさい!」
 
 教室へ帰ると私の周りに男女問わずたくさんのクラスメイトが集まってきた。
 
 「でも本当にすごかったよ!反射神経いいんだね」

 田村さんがこう言った。
 でもこれは反射神経なんかじゃない、ただこうなると知っていた、だから何とかなったんだよ。
 もし未来を体験していなかったら…、考えただけでもぞっとするよ。
 ちなみにみなみちゃんは保健室で念のために怪我がないかを見てもらっている。
 私もついて行きたかったが体育の先生に止められてしまいしかたなく教室へ帰り、こうなっている。
 
 次の時間の前にはみなみちゃんは帰ってきた。
 みなみちゃんは無傷だったらしい。それを聞いて私は安心したと同時に、この未来へ行く夢を信じきってしまった。
835 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:18:56.20 ID:s/k5O.k0
 


 その後も私はあの夢、つまり未来を見てきた。
 私はそのたびにその夢の中で体験した未来を元に、みんなを助けたりした。
 …でも失敗したりもしたんだけどね。
 でもそうしている間に発見したものもあったりした。

 その一つは、夢で体験した未来は24時間以内だということ。

 また一つは、体験した未来と矛盾する行動は取れないということ。
 例えば、体験した未来では遊園地にいるのに、その未来を体験した日に明らかに違う場所にいるとかかなぁ。
 以前にそんな感じのことをしたら頭が割れるぐらいに痛くなたり、体が動かなくなったりしちゃった。
 それで結局皆に心配かけてしまった。
 そして結局は夢の中の未来と繋がってしまう。…つまり経験した未来を避けられないってことだった。


 それでも私はこの力を様々な場所で活用した。


 ある時はみなみちゃんが間違えた答えを黒板に書いたときにそれが間違いだと指摘もしたりした。
 ある時はみなみちゃんが躓いて転びそうになったところを助けたりもしたし、
 ある時はみなみちゃんに向かってきた硬球を避けさせたりもした。

 私はすごく嬉しかった。
 いつも私を助けてくれたみなみちゃんに恩返しが出来る。それがすごく幸福に感じた。
 まあ、それでも気分が悪くなって保健室へ連れていったりしてもらったんだけどね。
 他にも私が倒れそうになった時に受け止めてくれたり、本当に何度も助けられた。
 でも、この予知夢…かな、たぶんそう呼ぶのがしっくりくるのかもしれないね。
 それは自分でもいつ起こるかわからないし、得体の知れないものだった。
 だから少し怖かったりしたけど、今なら大丈夫。
 だってそばにはみなみちゃんがいてくれるから。
 それに最初に助けて以来、私とみなみちゃんはさらに近づけた感じがする。
 それもすごく嬉しかった。…でももしこんな予知夢みたいなのがなくてもこうなってたと思うけどね。
 
 …でもどうしてだろ…、なんだか腑に落ちなかった…
836 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:20:17.96 ID:s/k5O.k0

 

 そしてとある日、私はまたしても予知夢…まあ未来を体験した。
 

 夢の中、つまり今日の未来では私達はパトリシアさんや田村さん一緒に買い物の最中のようだった。
 私はどうやら店の中で会計をしているようだった。
 横には田村さんとパトリシアさんがアニメについて熱く議論を交わしていた。
 一方みなみちゃんは先に買い物を終えて外にいた。
 そして私が会計を済ませ店を出た。
 その時私の目に映ったのは…

 みなみちゃんへと向かってくる一台の乗用車だった…



 「みなみちゃん!」

 私は飛び起きた、まずは周りを確認した。見慣れた机、椅子、本棚、そしてパソコン。
 そこは私の部屋だった…
 私の全身には嫌な汗が纏わりついていた。パジャマが体にくっついてくる…。
 そして私はさっきの夢を思い出した。
 
 「…みなみちゃん」

 まさかこの後…みなみちゃんは…
 そう思うと私の全身から寒気がした。…怖い…
 私は時計とカレンダーを確認し、そこでようやく思い出した。
 
 「…みなみちゃん達と買い物に行く日だ…」


 私は軽く意気込んで家を出た。
 
 
 実際みんなと買い物は楽しかった。
 パトリシアさんと田村さんがワイワイ騒いで、それに私とみなみちゃんで適当な相槌を打つみたいな感じだった。
 とにかく私は楽しんだ、でも今日に体験したあの未来の続き、
 恐らくみなみちゃんが車に轢かれるであろうその未来を阻止することだけは絶対に頭から離さなかった。
 ふと横を見る、みなみちゃんの姿が見えた。今日は久しぶりに私服であったせいかいつもより綺麗に感じた。
 
 私は絶対にみなみちゃんを守ると改めて決意した。
837 :夢の未来へ :2009/09/17(木) 14:21:28.26 ID:s/k5O.k0


 「あ、ここでス」

 パトリシアさんがとある店を指差して言った。

 「ここはいろいろなフクがあるのでス、ワタシがハジめてニッポンにキたトキはここでフクたくさんカイコんだものでス」
 「へ〜、大きな店なんだね」
 「…いろいろありそう」
 「う〜ん、私は服とかよりももっと別の物が…」
 「ヒヨリもたまにはこういうオンナのコらしいものにもテをダしてみるべきでス」
 「…なんだか私はいつも女の子らしくないみたいだね………あんまり否定しないけど……」
 「つべこべイわずナカにハイるでス!」
 
 というわけで私達は店の中へ足を踏み込んだ。
 それと同時に私の頭の中を激しく既視感が騒ぎ立てた。
 
 「…この店…」

 私はレジのほうを見て確信した。

 「…ここだ、この店だ…」

 レジの方からは外の道路の様子が今朝に体験した未来と同じアングルではっきりと見ることが出来る。
 私は自分の経験した未来、みなみちゃんに車が突っ込むそのときを思い出し。それを反芻し頭に叩き込んだ。
 車がみなみちゃんにぶつかるには少しだけ時間があったはず。その間になんとしてでも助ける。
 今回は失敗できない……

 「…ゆたか、どうかしたの?」
 「なんだか顔色が少し悪いよ」
 「スコしどこかでスワってキュウケイしますカ?」
 「え?あ、ううん、大丈夫だよ。心配しないで」
 
 どうやら考え込んじゃってたみたい、あんまりみんなには心配はかけたくないな。

 「大丈夫だよ、心配ないよ」
 「そう…、気分が悪くなったらすぐに言って…」
 
 みなみちゃんが心配そうに言った。
 
 「大丈夫、大丈夫だよ」

 私は二重の意味を込めて言った。

 「心配しないで」
838 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:22:58.18 ID:s/k5O.k0


 店の中にはかなりの服が置いてあった。私達は色々な服を試着したりして楽しんだ。
 結局その店での買い物は二時間以上かかったようだった。
 疲れたけど、すごく充実した時間だった。

 「それじゃそろそろお会計しよっか」

 この田村さんの一言で私達は手に持った数着の服をレジへと持っていった。
 確か未来ではみなみちゃんが一番にレジへと行ったはず。だから先に店の外へ出て車に…
 私は一か八かみなみちゃんより先にレジへ行こうとしたが体がとたんに動かなくなった。
 やっぱりだめみたいだった。
 自分の体験した未来は変えられない、ここ数日で分かっていたことだったんだけどね……
 
 そしてみなみちゃんはレジで支払いを終えて店の外へ出て行った。
 そして次は私の番、私が買う服を出した時、
 
 視界がブラックアウトした…



 目を開ける、そこは店の外、目の前にはみなみちゃん、その少し先には車がみなみちゃんへと一直線に向かってくる。
 私は叫んだ、みなみちゃんが車に気づくように。
 でもみなみちゃんはこっちを見て小さく手を振っている。
 私は全力でみなみちゃんに向かって走った。
 いつもなら吐いてもおかしくないほどのスピードで体力を荒削りしながら、息も絶え絶えに走った。
 横に目をやると車はもうすぐそこ、でも決して助けることの出来ない距離ではなかった。
 助けることが出来る、そう思った…。

 しかし次の瞬間、ゆたかは体勢を崩して転んでしまった。

 顔を上げた時に見たのは地面に叩きつけられた親友のだったものの姿だった。
 手足は人としてありえない方へと向いていて、全身が赤く染まっていた。
 
 「みなみ…ちゃん…」
 
 私は起き上がることは出来ずに、ずっとみなみちゃんだったそれを見つめていた。
 視点そらすことが出来なかった。
 
 「な、なにがあったんスか!?」
 「すごいオトがしましたヨ!ユタカ、ダイジョウブですカ!?」

 私は店から飛び出してきた二人にそれを指差した。
 
 「あ、あれって…まさか、嘘…でしょ」
 「そんな…ミナ…ミ…」
 
 私は泣き叫ぶ二人の友達の横でまた意識を失った。
839 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:23:53.83 ID:s/k5O.k0




 ジリリリリリリリリ…

 「う〜ん、…あ、あれ?ここは……私の部屋……どうして?」
 
 私はさっきまであの道路で倒れていたはずだった。それがなぜか自分の部屋にいた。
 
 「…も、もしかしたら…」

 私は今がいつなのか携帯で確かめてみた。

 「そんな…これって…」

 携帯の無機質なディスプレイが映し出した日付は未来ではなく…

 「この日って……確か、初めてあの夢を…未来を体験した日……」

 私の全身の細胞が凍りついた気がした。



 私は急いで学校へ行った。いつもよりかなり早い時間だった。
 そして教室の前までたどり着いた。中からは数人の声が聞こえる。もう何人かが登校しているようだった。
 私は震える手でドアを開けた。

 「…ゆたか…、おはよう…。早いんだね」
 「みなみ…ちゃん」
 
 私はみなみちゃんのそばにより顔を胸にうずめて泣いた。
 みなみちゃんは驚いた様子だったが何も言わずに抱き返してくれた。


 その後もいつも通りに学校は始まりそして終わりを告げた。
 ちなみに学校は全てが前回と同じというわけではなかった。
 前回は数学の時間に体験していた予知夢が、今回は一時間目だったりした。
 それでも私には未来を夢で体験する力が残っていた。
 確かみなみちゃんが車に轢かれたのは今から数日後、今回は絶対に…



 そしてその数日後、みなみちゃんはまた死んでしまった。
840 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:24:57.92 ID:s/k5O.k0



 私は助けようとした、意識が戻ったと同時にみなみちゃんへと走った。
 でも助けられなかった。助ける直前でなぜか体勢を崩してしまう。
 今回みなみちゃんを殺したのは大型のバスだった…

 そしてまた私の視界はブラックアウトした。

 起きれば予知夢に目覚めたあの日の朝。
 
 それを何度も繰り返す、でも一度もみなみちゃんを助けることが出来なかった。

 助ける直前になぜか体勢をくずしたり、はたまたみなみちゃんを見失うことさえもあった。



 

 そして私は今に至る。この今だって暦上では何度も体験した。
 親友の死の時と未来が体験できるようになったあの日とのループの狭間で…何度も…何度も…
 
 目の前には親友だったものが…動くことなく横たわっている。
 何も見えない。私の目は涙で覆われている。その涙も…もはや意味を持たないのかもしれない。
 聞こえるのは近くの人の悲鳴…悲鳴…悲鳴…
 その波に飲まれ、私の意識はブラックアウトした…
841 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:26:31.57 ID:s/k5O.k0



 ジリリリリリリリリ…
 
 なんだか眠った気がしない…、でもどれだけ寝ようときっと睡眠はたりないんだろうなぁ…。
 私は携帯を開き日付を確認した。
 日付はまた戻っていた、私が未来を体験できるようになったあの日に…
 私の気分は嬉しさ半分、残りの半分は…私にはわからない…
 まだループも最初の頃はみなみちゃんを助けることが出来るかもしれないと喜んでいたが、今はあまりわからない。
 何度も何度も親友の死の瞬間を見てきた私には、昔のような繊細な感情は消えちゃったのかもしれない。
 ある時は車に轢かれ、ある時は電車に…、そしてある時は落ちて…
 どれも助けることが出来なかった…。
 今度こそ…、この決意も何度目になるのかなぁ…。
 …そうだ、思い出した、確か今回で…



 私の学校生活は特に普段と変わらない。
 朝学校でいの一番にみなみちゃんの無事を確認しその後はいつも通りにクラスで過ごしている。
 ただ最近はよく「なんだか暗いよ」とか言われるようになった。
 ここ最近のループではこなたお姉ちゃんも、そうじろうおじさんも少し心配している。
 私も努めて明るく振舞っているつもりだけど、なんだか余計に不振がられてるみたい。
 …もうどうすればいいんだろう。



 そしてついにあの日が来た、みなみちゃんが死ぬ日。…それが鎌首をもたげやって来た…。
 
 私はまた夢を見た、あの未来を体験する予知夢を…
 どうやら今回は車のようだ、後ろからいきなりみなみちゃんに向かって…
 私の夢はそこで覚めた。
842 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:27:24.48 ID:s/k5O.k0

 目覚めると自分の部屋、自分のベット。
 そして私は日課となった日付確認をした。
 どうやらみなみちゃんの死ぬ日と私がこの予知夢も能力を得る日にちは毎回同じらしかった。
 
 私はみなみちゃんとの待ち合わせ場所に向かった。


 その日は二人で買い物をする約束をしていた。
 二人で適当に町をぶらつき色々な店を回ることが目的だった。
 そしてその時間は来た。

 私の視界が急にブラックアウトする、そして目を開けるとそこは夢で経験した未来の場所、そして時刻は夢の終わったその直後。
 すべていつもどおり、そして後ろを見ると向かってくる車が一台私はみなみちゃんへ向かって走った。
 まだ車とみなみちゃんとの間には距離がある。
 もう少し!もう少し!今度こそ親友をみなみちゃんを助ける!
 そして私はみなみちゃんのすぐ近くまで来た。間に合った…?
 
 しかし私の体はバランス崩した…。

 その瞬間私は見た、そしてやっとわかった。
 私の体を倒した…、ううん、押し返した…
 

 
 みなみちゃんを…
843 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:28:16.07 ID:s/k5O.k0
  


 目が覚めるとそこは私の部屋…、見慣れた天井、見慣れた家具達。
 また戻ってきた。
 例によって携帯の時間を確かめると、やっぱり戻ってきたみたいだった。
 私は今までのループの記憶の中からついさっきの記憶を掘り起こした。
 そう…、私が今までみなみちゃんを助けられなかったのは、突然妨害されたり、みなみちゃんを見失ったりしたからだ。
 考えれば分かることだったのかもしれない。
 私はさっきの記憶のみなみちゃんを思い返し、一つの結論を出した。
 
 私が今までみなみちゃんを助けることが出来なかったのは…みなみちゃん自身が私を妨害したから…
 思えば最初のループの時から腑に落ちなかったことがあった。
 私が幾度未来を見て、そしてその後に降りかかる災難からみなみちゃんを守っても、私は満足できなかった。
 …それは同じくらい助けてもらったからだ。しかもよく考えれば簡単に出来ることではなかった。
 私が倒れそうになった時、みなみちゃんは支えてくれた。
 あれだっておかしい。みなみちゃんはその時私の方をほとんど見ていなかった。
 にもかかわらずみなみちゃんはすごい速さで私が倒れるのを止めてくれた。そう…まるで…

 私が倒れるのを知っていたかのように…

 まさか…、まさかね…、みなみちゃんが私と同じ予知夢を…、未来を…経験してた…とか……、まさかね。

 「ゆーちゃーん!朝ごはんできたよー!」

 下からお姉ちゃんの声が聞こえた。
 私はとりあえず制服に着替えて台所へと向かった。

 
 私はその後朝食をとり学校へと向かった。
 教室にはすでにみなみちゃんがいた。
 よく考えればこれも毎回変わらない。ループした最初の日は必ず私より先に教室にいる。
 私のこと心配してくれてるのかな?
 少し聞いてみることにした。
 
 「おはよう、みなみちゃん。早いんだね」
 「うん…、少し目が覚めたから…」
 「何か怖い夢でも見たの?」
 「そう…」
 「どんな夢?」
 「………覚えてない」

 やっぱりはぐらかしてきた。
 とりあえず私は予知夢のことやループのことを深く追求するのはやめた。
 それはループの終わりの日まで続いた。
844 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:29:14.51 ID:s/k5O.k0


 最終日、私はまた未来を見た、今度もみなみちゃんに乗用車が向かってくるというものだった。
 今回は喫茶店で会計をして店から出てきて車に気づくまでの未来を体験した。
 …それにしてもなんだかみなみちゃん、今までと少し様子が違う様な気が…

 この日はみなみちゃんと二人でお買い物をすることにした。
 最近は二人で出かけることが多い。その方がうまく動けるから。
 それに前にでかけずに家で最終日を過ごしたらたくさんの人が死ぬ結果となった。
 さすがに未来を経験していたとしてもかなりつらかった。
 だから最終日は必ずどこかに出かけることにしている。

 朝に喫茶店で待ち合わせをしていた私達はさっそくお目当ての店に行く……はずだった、予定ではね。
 
 「ねえ、みなみちゃん」
 「…なに?」
 
 私は今日まで溜め込んできた疑問を全てぶつけることにした。

 「みなみちゃんってわかってるの?」
 「…何が?」
 「未来が…」
 「…そんなわけない、どうしたの、急に?」
 「ここ最近みなみちゃんが私を助けてくれる時、
 みなみちゃんはまるで私がこうなるってわかっているような感じで助けてくれるからね」
 「ただ単に気づくのが早かっただ…」
 「みなみちゃん、もういいよ」
 
 私はみなみちゃんの言葉を無理矢理さえぎった。

 「わかってるんだよ、みなみちゃんが私と同じように夢の中で未来を体験できるってね」
 「……ゆたか……」

 私はやっと話してくれると思った。
 
 「何を言ってるの?」

 私の期待は砕かれた。

 「ゆたか…本当にどうしたの?私未来なんてわからないよ。それにゆたかは見えてるの?
 …その未来が…夢の中で…」
 「……」

 私はみなみちゃんの顔を見た、そこには親友を本気で気遣っている心優しい岩崎みなみの顔があった。
 
 「…ゆたか…」
 「…みなみちゃん、これから話す事は全部本当だから」

 私は深く深呼吸し今までのことを全て打ち明けた。
845 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:30:25.57 ID:s/k5O.k0


 「…そんな…私が…今日…」
 「うん…ごめん…」
 「…ゆたかが謝ることじゃない、それにゆたかはいつも私を守ってくれた。謝る必要なんてない」
 「うん…うん……みなみちゃん…みなみ…ちゃん…」
 「ゆたか…、今までありがとう…」

 私達は人目もはばからずに抱き合い泣いた。
 おかしいな…、今まで何回も何回も流してきた涙が…、なんだか違うものに感じるよう…
 そっか…、私つらかったんだ。どれだけ頑張っても親友一人救えない。
 それでも一人でやらなくちゃいけない。そう決め付けてた。
 最初から打ち明けるべきだったんだ。私ってばかだなぁ…。
 
 「ゆたか、大丈夫?」
 「うん、もう平気だよ」

 私はそう言い、みなみちゃんに微笑んで返した。
 みなみちゃん顔が真っ赤だよ。

 「…一つ聞きたいんだけど、これでゆたかは何回やり直したの?このループを…」
 「……」

 私は一つ一つのループを思い出した。どれも決していい思い出ではないけど、全部が全部悪い思い出でもないのかもしれない。
 …そんなこともわからなかったんだ、でも今なら分かるよ。
 みなみちゃんと一緒にいられて楽しかったから。

 「…今回で103回目だよ」
 「そ、そんなに…」
 「大丈夫だよ…もう…大丈夫。過去102回では救えなかったけど今回は…今回こそは…」
 「…ゆたか…」
 「みなみちゃん、泣かないで」
 「…うん…うん…ありがとう…今まで…本当に…………ありがとう」
 
 その後落ち着いた私達はいったん店を出ることにした。
 …そろそろ周りの人たちの視線が痛かったしね…
 そして私は会計を払うためにレジへ向かう。

 視界が一気に黒く…黒く…染まった…
846 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:31:21.03 ID:s/k5O.k0


 
 目を開けたその時見えたのはこっちを見ているみなみちゃん、そして迫る自動車。
 今朝見た未来の続きだった。
 
 「みなみちゃん!」

 私は走った、今までのどんな時よりも早く、力強く駆けた。
 私は馬鹿だ、なんで喫茶店で私が今朝見た夢の…未来の内容を伝えなかったんだろう…。
 もういちいち自動車がどこまで迫ってるかなんて気にしない。
 みなみちゃんだけを見据えて私は走った。
 今度こそ!今度こそ!
 その時みなみちゃんも自動車に気づいた。
 みなみちゃんまでもう少し。私は手を伸ばした。せめてその場から突き飛ばせれば…。
 するとみなみちゃんが私を後ろへ飛ばそうと手を伸ばした、これが今までみなみちゃんを救えなかった理由。
 みなみちゃんは今までずっと私をかばってくれてたんだね。
 私はその手をかわしてみなみちゃんに触った、このまま突き飛ばせば…………!



 そこから先はわからない、わかるのは自分が地面に倒れてること。
 それとその横でみなみちゃんが倒れていること。
 みなみちゃんは息も絶え絶えだった。私もなんだか体が熱いしくらくらしてきた。
 私はそこでようやくなにがあったか理解した。


 あの時私はみなみちゃんを突き飛ばした。
847 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:32:14.18 ID:s/k5O.k0

 
 …でもすでに遅かった。
 もう車はすぐそこまで近づいていた。
 それがわかっていたからこそ、助からないと思ったからこそ、せめて私だけでも助けようと、
 みなみちゃんは私反対に押そうとしたんだ。さっきも、そして今までも…
 今更になって理解した。私はただ単に足を引っ張っただけ。
 私が何のアクションも起こさなければ、あるいはみなみちゃんは助かったかもしれない。
 
 「…ゆたか…」
 
 みなみちゃんがこちらへ首を向けて話しかけた。
 
 「みなみ…ちゃん…、ごめんね、ごめんね」

 体中から大量の血液が流れているのにもかかわらず私は涙を流していた。
 
 「謝る…必要は…ない…よ…」
 「みなみちゃん…」

 私はみなみちゃんの手をにぎった、でも私の手にはもうほとんど感触がない。
 目もどんどん霞んできた。

 「助けようとしてくれて…ありがとう、ゆたか。ずっと…親友だからね…」

 みなみちゃんはそっと目を閉じた。

 「もちろん…だよ…、みなみ…ちゃん、…ありが…とう」

 私も目を閉じた。
 頭の中を今までの記憶が駆け抜けていく。
 よく考えればみなみちゃんはどんな時でも私を助けようとしてくれたなぁ。
 元はそんなみなみちゃんに恩返しがしたかった。
 そんな時にこの予知夢で未来を経験し、それを元にみなみちゃんを助けてきた。
 もしかしたらこれは私が望んだから持ってしまった力だったのかもしれない。
 そう考えれば、みなみちゃんが危険な時の一瞬手前の未来しか見なかったのも納得がいく。
 …全ては私のせいだったんだね。
 こんな私でもみなみちゃんはまだ友達でいてくれるかなぁ…

 私はかすかに動く口を開いた。
 もはや声になるかすらもわからないけど、私はみなみちゃんに向かって言った。



                 
                

                  もしまた夢が見れたなら 二人で笑いあってる夢が見たいなぁ
848 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:34:01.51 ID:s/k5O.k0
以上です。
書いてる途中で軽く鬱な気分になりました…。
毎回登校するときにsagaを忘れてしまう。
最初の方は完全に忘れてた。高翌良…直せないものか…
849 :夢の未来へ [saga]:2009/09/17(木) 14:37:31.92 ID:s/k5O.k0
間違えて途中で投稿してしまった…
あとこれから投稿するのは没になったあの話のちょっとしたエピローグです。
話的にこのまま終わらせるのが一番だったのでその部分は消しました。まあ夢落ちの部分を消しただけですが。
もしこのまま話が終わったほうがいいと思う方や他作品とのコラボを嫌う方は読まないでください。

私は最近みなみけにはまりました…
850 :夢の未来へ(存在しないエピローグ) [saga]:2009/09/17(木) 14:38:37.46 ID:s/k5O.k0






 「という感じの夢を見たらしくて…」
 「だからユタカはミナミにくっついてナいてるんですネ」
 「岩崎さんも大変だね」
 「…そんなことない、ゆたかは私の…親友だから…」
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
 「う〜、感動的なドラマだったな〜」
 「春香姉さま…、私には少し難しくてよくわからわかりませんでした」
 「確かに…千秋には少し難しかったかしら」
 「分かる奴にしか分からないんだよ〜、あっ、ティッシュなくなった!春香!使いすぎだぞ!」
 「目に見えて夏奈のほうが使っているぞ、バカ野郎」
 「なんだと〜、たまには姉である私を敬え!」
 「だったら敬ってもらえるような姉になれ、バカ野郎…」
 「…喧嘩はやめなさい…」
 「「はい」」
 「それにしても先生と二ノ宮くんの次のドラマだけあって、車のシーンが結構あったわね。
 結局最後は死んじゃったけど」
 「春香姉さま、抗議の電話を?」
 「ううん、それなりによかったしやめておくわ。さーて、晩御飯の支度するわね」
 「おー、頼むぜ春香!」
 「…少しは手伝うそぶりを見せろ、バカ野郎」





 「なるほど…、いいドラマだ。…待てよ、これは使えるぞ。
 まず俺に向かって車が突っ込む、そして南春香が俺を助けようと俺の胸に飛び込んでくる。
 そして俺は南春香を抱きしめキスをする。…なるほど、パーフェクトなわけだ。エクセレントなわけだ。
 よし!待っていろ南春香! あはは、あはは、あはははは!」


 「ねえ、お姉ちゃん、あそこのベランダから不気味な笑い声がするよぅ…」
 「へ、変な事言わないでよ、つかさ………確かに聞こえるわ……」
 「こ、怖いよ〜…」
 「…私は怖いというより気持ち悪いけどな…」
851 :夢の未来へ(存在しないエピローグ) [saga]:2009/09/17(木) 14:43:53.93 ID:s/k5O.k0
これで本当に以上です。
みなみけです、完全に。すみませんでした。書きたかっただけです。
ちなみにエピローグはコンクール作品ではありません、念のため。
ただ単にこういうオチもいいかなっと思って書きました。

それにしても俺の作品は五割ほどの確立で誰か死ぬな…
しかも100%の確立でゆたかとみなみが出てくる…

あと本編の継ぎ足しに
・みなみはゆたかが予知夢で未来を体験していたことを知らなかったし、みなみ自身もそんな力はなかった。
 みなみも予知夢見ていると思ったのはゆたかの勘違い。

これだけわかりにくかったので書いておきます。
それでは読んでくれた皆さん、ありがとうございました!!!
852 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/18(金) 01:44:05.25 ID:p6Jap.SO
投下後の後書きみたいのは3行にまとめようよ長ったらしい
853 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/18(金) 23:09:03.17 ID:znYUCW.o
>>851
投下乙です
まとめですが、モードと容量の都合で一つのページにまとめられません
なので、二つのページに分けるか、テキストモードかになります
テキストなら一つにまとめられる代わりに、コメントフォームが付けられません
どちらか好きな方を選んでください(雑談スレのほうに書き込みがあります)

分ける場合は、どこで分けるかをお願いします
854 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/19(土) 01:39:44.85 ID:wL/OkIM0
>>851


明日から旅行なんで急いで書き上げました!
じゃあ、わたくしめも投下行きます
855 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:41:06.72 ID:wL/OkIM0
それはお盆の一歩手前頃、昼でも夜でも関係なく、サウナのように空気の湿気と温度が異常なほど高い日の出来事だった。
双子の姉の方の部屋に女友達が四人集まって、高い気温と湿度に対抗すべくクーラーがうんうんうなりを上げるのをBGMにしながら、わいわいガヤガヤと何をするでもなく何かをしていた。
ちょうどその時は青くて長い髪のちびっ子が、友達の双子に対して、これ以上暑くするなと言いたくなるくらいの熱気のこもった会話をしていた。
「もうさ、インドア派の私にとってはこ〜んなに暑いのいやなの!私としてはクーラーをガンガンに効かせた部屋にこもって、ネトゲして、マンガ読んで、積みゲーして、DVD観てるのが一番性にあってるとは思うだけどね」
これに対し、双子の妹の方が黄色いリボンを垂らすほどに深くうなづいて言った。
「そうだね〜、私もかんかん照りのお昼に、出掛けようなんて思わないもん。こなちゃんらしいと思うよ」
「うむ、つかさ、賛同ありがとう。そんなぐ〜たらな生活も悪くは無いし、実際今までそうやって過ごしてきました。しかし否!夏休みと言うイベントは限られているのです!今年の夏休みは残るは半分しかない!残りの短い期間をどうにか活用したいと思うわけです!」
双子の姉は、ちびっ子のあまりに唐突な言い草に、正直付いていけないな〜、と冷ややかな目線を向けながら言った。
「はぁ……、あんたの言う事だからコミケにでも行こうとか言うんでしょう?誘われても行かないからな?」
「かがみ〜、それはそれでもちろん付いてきて欲しいとは思ってる訳なんだけど、残念ながら私が今強く思っていることとはまた少し違うのだよ」
丸い眼鏡を掛けた美少女が、双子の姉とは対照的に興味津々とばかりに、眼鏡の下の瞳を、まるで少女マンガのヒロインのようにきらきらと輝かせて言った。
「では、こなたさん。残りの夏休みを使って何をしようと言うんですか?」
するとこなたは、待ってました、と言うように口元がニヤけ、猫のような口の両端が釣り上げていく。
「むふ……、むふふふふふ……。夏休みの恒例行事であり、夏休みを120%楽しみつつ、しかも高い確率でフラグを立てる驚きビックリ行事と言ったら……?はい、みゆきさん?」
突拍子の無いこなたの難問に対して、みゆきはしどろもどろながら答える。
「フ、フラグと言ったら旗ですよね?えーと……。自衛隊の基地祭でしょうか!?」
「いやいや、みゆき。こなたのふざけた質問なんて真面目に答えなくてもいいのよ」
「さすがナイスみゆきさん!GJGJ。でもそうじゃなくてさ、夏と言ったら、そう、肝試しだよ!」
すると、つかさがすかさず眉毛をハの字にして、今にも泣きそうな顔をして震える声で言う。
「え、え〜。やだよ〜……。私、そういうの苦手だよ」
「ほらほら、泣かないのつかさ。そんなもん、こなた一人でやってればいいのよ」
かがみの、もう関わりたくない、と言いたげな捨てぜりふにもこなたは動じることはなかった。
856 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:42:13.47 ID:wL/OkIM0
>>855

「え〜?みんなやろうよ〜。つかさが驚かす役をやってみても良いんだよ?悪戯気分でたまには誰かをビックリさせてみようよ!みゆきさんも、基地祭もいいけど肝試し、やるよね?」
こなたのやる気と誘惑に、つかさとみゆきの魂には何か熱いものが宿りはじめていた。それは外気温などよりも遥かに熱く、メラメラと燃え上がる錯覚を覚えるほどであった。
しかしかがみだけは、やる気にはなれなかった。こなたのやる気は、かがみにはむしろ逆効果のようで、こなたが熱くなれば反対にかがみはどんどん冷たくなる。それはまるで冷蔵庫の中と外のような関係であった。
こなたはそれでもあきらめる気にはならず、子供っぽくかがみの腕を両腕でガシッと掴んだ。
「ねぇえ、かがみ〜。一緒に肝試ししよ〜うよぉ。たのしいからさ〜あぁ」
かがみはまた別のことを考えていた。
こなたに掴まれたかがみの腕が、こなたのぺっちゃんこの胸に当たっていた。その胸があんまりにツルペタで、貧相で、悲しくて、最早かがみは同情せざるをえなかった。
「わかったわよ、付いて行ってあげるわよ……」

日がくれて、嵐が過ぎ去ったかのような疲労感をかがみに残し、みゆきとこなたが去って行った。
「つかさ〜?受験が近いんだし、勉強もしなきゃダメよ?あんたただでさえ大学に入れるのか怪しいんだから……」
「う、うん。わかってるよ。でも肝試しおもしろそうだし、気晴らしに行ってもいいよね」
「もう……」
最近、つかさに甘いような気がすると、かがみは思った。
と言うよりも、双子の妹が受験生なら自分も受験生な訳で、簡単に言うと妹の事まで頭が回らない程度にかがみは受験勉強が忙しいのだった。
だからつかさに分からない問題を教えられるほどの余裕はないし、いちいち聞かれるのも鬱陶しいと感じるようになっていた。
つかさもかがみが発するその雰囲気を敏感に感じ取っていて、かがみに対し少なからず距離を置くようになり、今までと様子が違う事に疎外感を感じていた。
勉強は個人の戦いになる。誰かと協力しようとしても、中学の頃と違い理系や文系などの教科の内容のずれの問題があるし、個人のレベルの差があってもいけない。
レベルの高い側は、低い側に勉強を教える事ばかりに労力をささげなくてはならず、自分の学習としては効率が悪い。
つかさとかがみのレベルの違いは大きい。中学の頃なら、目指す高校が同じだったからまだ、その差は大きくは無かったのだが、今は違う大学を目指している。
このレベルの差が、受験勉強という触媒によってかがみとつかさの心の壁を大きくさせていった。
857 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:43:20.93 ID:wL/OkIM0
>>856

次の日の夕方、こなたを中心とした怪しい女子高生四人組は、小高い丘の上へやって来ていた。
四人の目の前には、うっそうと茂った雑草と、その隙間から背の低い松の木がにょきにょきと生えただけの、一面何も無い荒野が広がっていた。
ここにやって来る際にこなただけが「立入禁止」と書かれた札が立っていた事に気づいたが、話をややこしくしてしまうので、もちろんそんな事は誰にも話さない。
夕日が四人の肌をハチミツ色に染め上げ、若い少女たちの美肌を更に美肌に見せている、様な気がした。
「ここが今日、肝試しの舞台になる場所だよ。多分、こんなのところに人が来るのは、数ヶ月に一度あるかどうかだろうね……。なにかあってもぉ、助けは来ないからねぇ〜〜〜?」
「えぇえぇ……?大丈夫かな。」
気づくとつかさはみゆきの腕を抱きしめていた。いつもなら姉のかがみにする事なのに、無意識のうちにみゆきの腕を抱いていた。
いつものかがみの腕よりもやわらかく、抱けば誰もが幸せになれそうな腕だったが、つかさはかがみを裏切ってしまったような気がして怖かった。
そんなつかさの思いなど知らないこなたは、壮大にして厳戒な計画を遂行しようとしていた。
「みんな、ビックリドッキリな小物は持って来た?」
つかさは慌ててみゆきの腕から離れると、大きな犬の顔の柄がデンと真ん中に描かれたリュックを肩から下ろしはじめる。
「持って来たよこなちゃん!うんしょ……」
「おおっと待った!まだ何を持って来たのかはお互い内緒だよ!肝試しの間、誰がどんな小物を使いどんな策略で、獲物をハンティングするのか!それは各々のスキルとセンスを尊重して、実際に使用されるまでは誰にも打ち明けてはならないのだよ」
こなたの狂人じみた異常なハイテンションに一向に付いて行けないかがみは、もうどうでもいいやと思い始めていた。しかしその考えがこなたに読まれてしまうのもなんだか嫌だった。
この様に、かがみのツンデレの属性は発揮される。
「はいはい、分かったわよ。まだ明るいんだからゆっくりすればいいじゃない」

それから日が完全に暮れるまで、みゆきが持って来ていたレジャーシートに四人は座り、雑談が八で、これからの戦いの計画の話し合いが二の割合で会議をした。
辺りが真っ暗になり、いよいよそれらしい雰囲気を滲み出し始めた荒野。
ちょっと足元に気を付けていないと、腐った死体の腕がガバッと足首をつかみかかって来るかもしれない。ちょっと前を見ていないと、目の前にUFOが降りてきてエイリアンに連れ去られてしまいそうだ。
858 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:44:12.83 ID:wL/OkIM0
>>857

「う、うぅぅう……。こ、こなちゃんの嘘つき〜!」
暗闇に独りぼっちになってしまったつかさは、涙が出るくらい後悔していた。
かがみがもう直ぐここを通って行くため、つかさが持って来た「糸こんにゃくを竿から糸で吊るしたヤツ」を使って脅かさないといけない。
しかし、見つからないようにするため唯一闇を照らせる懐中電灯を付けられず、完全な闇の中でかがみが来るまでの数分間は一人で茂みの中に隠れていなければならない。
つかさの直ぐ隣には、周りの荒野では一際目立つほど、大きく背の高い松の木がそびえていた。何に使われたのかロープが垂れ下がっていて、風でプラプラと揺れ動くのでつかさの恐怖をあおった。
脅かす側ならばこれが当然の事だったのだが、つかさには皆をビックリさせてやろう、という事のみしか頭に無かったため、脅かす側までこんな怖い思いをするとは気が付いていなかった。
「ひう、うぐっ……、お姉ちゃん……」
そうつぶやいてみて、そう言えば今日はかがみと会話らしい会話をほとんどしていなかったなと、恐怖でいっぱいになった頭の片隅で思い出していた。
多分、今日だけではなかったはずだ。昨日も一昨日も、もっと前からずっとだった、とつかさは記憶を掘り返す。
人は成長すればいつかは独り立ちし、家族や友人たちに甘えたりかわいがってもらったり、そういうものから断ち切って行くだろう。これが大人になると言う事なら、大人になんてなりたくない。
これは現実逃避かもしれないとも思いながら、つかさはそう願った。

カサカサ……。

「ヒッ!!」
突然、つかさの背後で何かが動き、草が擦れる音がした。
実はそれが、ここら辺を寝床にしていたのに人間がいて邪魔だなぁ、と猫語で喋っている一匹の三毛猫だとは知らず、つかさは何もかもがパニック状態におちいり、脳味噌がフリーズしてしまい、ムンクの叫び状態のまま暫く一時停止していた。

ガサッ!

すると、また別の方角からも音がする。もう何もかもに絶望したつかさの顔は、さながら灰色で目の大きな、グレイタイプの宇宙人のような顔になってしまっていた。

……ペチャ……

なんの気配もさせないまま、つかさの首筋に何か、冷たく濡れた、とてもいやな感触のものがさわった。
「イヤァァァアァァ―――――――――――――!!!!!!!?」
実はそれが、つかさ自身が持っていた「糸こんにゃくを竿から糸で吊るしたヤツ」がゆらゆら揺れてたまたまつかさの首筋に触れただけだとは知りもしなかった。
物音を聞きパニックになったつかさ。とどめに何か冷たいものが首筋に当たり、完全に混乱していたつかさの瞳に確かに映し出された、ある筈のないもの。
首をぶんぶんと振り回し、景色が上も下かも分からないようにして目の前の情景を否定したが、その視界の中に確かに一瞬だが写った、この松の木に掛かる二本のロープにぶら下がる、まるでコピーのようにお互いがそっくりな、白い肌の二人の少女を。
ロープが二人の首を締め付け、絶対に助かるはずがないと思えた彼女たちと目が会い、にこりと身の毛のよだつ笑顔をしたのを確かにつかさは見たのだった。

859 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:45:08.74 ID:wL/OkIM0
>>858

一方こちらは先ほどの音の原因であるかがみ。
「はぁ、まったく……。酷いところね……。ひっ、何今の悲鳴!?」
悲鳴にすくみ上がるかがみ、奇声を上げて突進してくるつかさ。二人は運命的で情熱的な再会を果たし、頭突きとも思えるほどに激しく抱き合った。
もちろん、二人ともなにが起こったのかわからないまま、即倒し、意気消沈した。

「遅いな……、まったく。かがみんめ、ビビッて泣いてんじゃないかな〜?クヒヒ……」
こちらはこなた。藪に隠れ続けてはや十数分になり、そろそろ蚊が鬱陶しくなり始めていた。昼の間はあまり見かけなかったが、どうしてこうも夜になってウヨウヨし出すのだろう。
いくらなんでも遅いと、こなたは苛立ち始めていた。
いつものように携帯電話を携帯してなかったがために、みゆきと連絡が取れないのは正直痛い。
そういえば蚊はO型の人間の血を好むと聞くけど、O型のみゆきさんは大丈夫だろうかと、少々考えが横道にそれながらも心配になって来た。
スタート地点からここまで普通に歩いて5分で来れる距離の筈だ、いくらなんでも遅すぎると、こなたはいてもたっても居られなくなりスタート地点まで戻る事にした。
途中でつかさとみゆきが待機している筈だが、彼女たちとも合流しながらかがみの様子をうかがおう。
藪を掻き分けすすむこなた。しかし、自分で好き好んで設定した場所でも、いざ夜に一人で歩くとなると実に恐ろしいものだと痛感する。
あの二つ丸みをおびた岩、まるでみゆきの胸をそのままデザインしたかのような岩の裏側に、みゆきが隠れていたはずだった。驚かせないようにそっと懐中電灯でそこを照らしながら、みゆきの名前を呼んだ。
「お〜い、みゆきさ〜ん」
「あれ?泉さん、どうしましたか?かがみさんがまだ来ていないんですが……」
みゆきが腕をぽりぽり掻いているのを見ながら、手遅れだったかとやや後悔しながらこなたは話を続ける。
「そうなんだよね。私の所にも来てなくて、どうしたのかと思ってさ。みゆきさんの所にも来てないなら、もっと前の方で何かあったんだね、つぎのつかさの居るところまで戻ろう」
こうして二人は大声でかがみを呼びながら、さらにスタート地点に近づいていく。
コースはそれほど長くは無いのだから、よほどおかしな方向へ迷わなければ直ぐに声が届く筈だった。
しかしかがみからの返事は聞こえない。二人の心配はますます増して行った。
「うお!?つかさ、かがみ!?」
こうして、ノックダウンしたつかさとかがみを、二人は発見する事が出来たのだった。

860 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:46:28.01 ID:wL/OkIM0
>>859

「ひ〜い〜ら〜ぎ〜。なあ、宿題見せてくれよ〜」
伸び切ったラーメン、いや、そうめんのようにぐてぇとした日下部みさおが、かがみの机にずうずうしくもあごを乗せてかがみに懇願する。
「はぁ?いやよ。あんた昨日も同じ事言ってたじゃないの。ちょっとは学習しなさいよ」
「ちぇ〜、ならあやのに見せてもらうからいいぜ。それより柊、ちょっと太った?」
「なっ!?そんなわけないでしょ!?」
「いひひひひひ!冗談だぜ!じゃあな柊!」
チャイムが鳴り、社会の授業が始まる。黒井先生の授業は途中で暴走することがあるので、授業としてどうなんだろうとかがみは疑問に思うのだが、ただ嫌いでもなかったので適当に楽しんで授業を受けていた。
みさおの方はあやのに宿題を見せてもらったようで、何食わぬ顔で平然と授業を受けていた。
これが二時間目で、あと三時間目で昼休みだ。空は透き通るように青く、気持ちのよさそうな風が吹いていた。
チャイムが鳴り、あっという間に二時間目が終わった。次の三時間目はここの担任である桜庭先生の理科の授業なので、理科室まで行かなくてはならない。
理科室に行く途中でみさおに「あかんべ」をされたが、まったく気にする事はなかった。
チャイムが鳴り、三時間目の授業が始まる。桜庭先生が何かを言っている様だが、その言葉一つ一つがただ意味を持たないものに聞こえて、頭の中に情報として何も入って来ようとしない。
しかしそれが不思議な事だとか、これじゃあ授業にならないだとか、もしかして耳が悪くなったのかだとか、そういった事について一切考える事はなく、なにも気にする事はなくなんとなく授業を聞いている。
そう言えば二時間目の黒井先生の授業のときもそうだった気がする。今日の授業で何を習ったのか一切何も覚えていなかった。
今日の朝、何をしていたのかも思い出せない。昨日、何をしていたのかも思い出せない。と言うよりも、思い出そうとする頭が働かず、なんとなく夢心地で何もかもが現実でないように思えてしまう。
桜庭先生が黒板をパンパン叩いていると、突然、理科室の戸が勢いよく開かれるとつかさが、困ったような今にも泣きそうな顔であたりを見回していた。
861 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:47:24.99 ID:wL/OkIM0
>>860

つかさがかがみと目が合うと、周りの生徒の目線全てを無視して一直線にかがみの直ぐ前まで走り寄り、かがみの腕を強くひっぱる。
「お姉ちゃん!来て!」
かがみは訳もわからないままつかさに引っ張られ、桜庭先生の制止を無視して理科室を抜ける。
それでもなおつかさはかがみを引き、そのまま誰もいない女子トイレへかがみを連れ込んだ。
「お姉ちゃん、私が誰だか分かるよね?」
「つかさでしょ?」
「お姉ちゃん!しっかりして、どうして私たちがここにいるかわかる?」
こんなの時にも今だにぼーっとした顔をするかがみに、つかさは食って掛かった。
「何?なんのこと?」
かがみには悪気はなかった。ただ、なにが起こっているのか理解できない。なぜつかさは授業中に私を連れ出したのか。つかさが何が言いたいのか。
「そんな……。やっぱり、私一人なんだ……。うっく……、うぅ……」
「なんなの?どうしたの?泣いてちゃ分からないじゃない、私に分かるように説明してよ」
「んっ、じゃあ、お姉ちゃん。今まで私たちが何してたか覚えてる……?こなちゃんが企画した肝試し。分かる?」
肝試し、肝試し、肝試し、肝試し、肝試し、肝試し、肝試し、肝試し、肝試し、肝試し、肝試し……。
なんだろう、この懐かしいような、切ないような……。本能が大切なものを思い出さなくてはならないと言っている。
かがみの肩がピクリと動き、青い瞳に真っ赤な炎が灯されたかのように、体中から生命力が溢れ始めたようだった。
つかさはかがみのその様子を、不安そうに眺め続けた。
「そうだ……。私たち、肝試しをしてたのよ!え?どうして?なんで私たちこんな所にいるの?まだ夏休みだったはずじゃない!」
「そうだよっ!お姉ちゃん、思い出してくれたんだっ!こなちゃんたちは知らないって言うの。だから、私がおかしいのかも知れないって思えてきて……」
「大丈夫よつかさ。私も思い出したわ。それよりつかさ、これは一体どうなってるの?」
「私もわかんないよ……。ボーっといろいろ考えてたら、突然思い出して……。このままだったらずっと忘れちゃうところだったよ」
「そうね。肝試しから今日までの思い出がすっぽり抜けてるのよ……。う〜ん……、肝試しで、私が最初に肝試しする番で、歩いてて……、それからどうしたから?」
「私も、肝試しをしてて……、そうだ、物音がしたから慌てて走り出したら、何かにぶつかって、それから覚えてないんだ!」
「ん?ぶつかってって言うなら私もだわ。ん?あれ?ぶつかって来たのあんたじゃなかった?」
「ふぇ!?わ、私?う、うーんと、えへへ、そうだったかも……」
つかさは己のあまりの惨めさと、かがみへの申し訳なさでどんどん小さくなっていくようだった。
「ま、いいわ。学校が終わったら、肝試しをしたあの丘に行きましょう」
「う、うん。わかった」
862 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:48:48.17 ID:wL/OkIM0
>>861

一方こちらは。こなたとみゆき
「あちゃ〜、完全に伸びてきってるよ」
「大丈夫でしょうか?」
「いびきまで掻いてるし、寝てるのかな?お〜い、かがみん、つかさ〜?起きろぉ!……ダメだ、起きない」
「どうしましょう……。ここからなら、小早川さんのお宅が近いですよね?成美さんの自動車で迎えに来てもらえませんか?」
かがみの上につかさがのしかかり、なんとも仲がよさそうに眠っているので、みゆきは二人を起こすのは悪い事のように思えて仕方がなかった。
「仕方ないなあ。ちょっと電話してみるよ……。おぉ?携帯忘れたんだった……、みゆきさん、貸して?」

ここだ、とつかさは思う。
かがみとつかさは学校が終わると、唐突に記憶が途切れてしまった場所である、丘の上の荒野に足を運んでいた。
太陽が傾き、荒野の草木は日に当たる面と影になっている面の明暗がはっきりしており、まるで色を失った白黒画面を観ているようでとても不気味に感じた。
「たしかこっちだよ!私が隠れたのはあの高い松の木なんだ」
「うん。ねえ、つかさ。私たちが今、どうやってここに来たのか、その前に、学校で何の授業をしたのか覚えてる?」
かがみがつかさにトイレまで連れて行かれる直前までの授業も、これと同じように、ぽっかりと授業中に何を学び何が起こったかを忘れているのだ。
いや、忘れているのではない。
「え?電車?たしかこなちゃんたちと一緒に……。ううん、違う。それは前に始めてきたときの思い出だね。今日、どうやって来たの?あれ?思い出せない……。わかんないよぉ!」
「落ち着いてつかさ。私も思い出せないのよ……。まるで、時間と場所を突然ワープさせたみたいで、その継ぎ目がすごく曖昧で、まるで夢の中みたいで」
忘れたのではない。いや、忘れたと言う方が相応しくない。
かがみは、自分たちがここへ移動した、というストーリーが無かったのではないかと思った。授業も、授業中のストーリーが存在していなかったのではないかと。
「お姉ちゃん、ここだよ。ここが私が隠れてた。藪だよ。ほらこの木が目印なんだ……。ここにロープが垂れてるでしょ?」
そう言って、つかさはある重大な記憶を呼び戻した。その情景がフラッシュバックのように、一瞬にして映像が再生され始める。
ロープに首をかけてぶら下がる、二人の少女の、この世のものとは思えない、不気味な笑顔を……。
863 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:49:57.64 ID:wL/OkIM0
>>862

かがみが何気なく松の木に触ろうとすると、松の木の上から気配がするのに気がついた。
「ダメ、その木に触らないで……」
「何も気づかずに過ごしていれば幸せだったのに、バカなヤツ」
かがみは背中に冷水の血液が流れたかのような、一瞬で体を駆け巡る悪寒を感じ、つかさはなぜ今まで忘れていたのかと後悔した。
松の木の枝に二人の少女が座り、かがみとつかさを見つめていた。
一人は枝の上に立ち、もう一人の背中に体半分を隠しながらオドオドとつかさとかがみの様子を警戒しながら覗いている。
枝に腰掛けているもう一人の勝気な少女は、不適に微笑みながらつかさとかがみを見下ろしていた。
かがみは木の上の二人を驚きながら見つめ、何を言えばいいのか分からなかったが、硬唾をごくりと一つ飲んでから捲くし立てる様に一気に言葉を吐いた。
「なによあなた?あんたたち何か知ってるのよね!?それともあんたたちが私たちをここに連れて来たの?」
「お姉ちゃん……」
勝気な少女は首をかしげながらも、しかし尊大に話した。
「あなたたち、本当に私たちとそっくりだわ……。私たちも双子なのよ?ふふ、懐かしいわ。ここで遊んだのはもう、十年も前の事よ。私の後ろで隠れているのが私の妹よ」
つかさは彼女の後ろに隠れるもう一人の少女が少し前までの、中学生くらいのかがみに隠れる自分に似ているような気がした。
「あの、私たち、どうしちゃったの?」
「ここは、あなたたちの夢の中よ。もっともあなたのお姉さんの方は、うすうす気が付いていたみたいだけどね。あなたの本来の体はまだ丁度この辺りで眠っているわ」
「何がしたいのよ」
「それよ。私たちの体はもう存在しない。だからあなた達の体を借りるのよ。魂は夢の中に閉じ込めて抜け殻になりながらも依然生き続ける体を、私たちは自分の体として使わせてもらうわ。私の妹のために」
少女の妹は、黙ったままこちらを向いている。
ここは夢の中。だから授業を受けても自分の知らない知識は得られないし、現実のように不必要なストーリーはカットされてしまう。
「や、やだよ、そんなの!私、こなちゃんが好きだし、ゆきちゃんも大好きなの。だから、また遊びたいし、おしゃべりしたいよ……」

864 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:50:48.75 ID:wL/OkIM0
>>863

「ゆ……ちゃん…、だいす……」
こなたが電波を探しながらやぶの奥の方へ歩いていく中で、みゆきは地べたに横たわるつかさとかがみの様子を心配そうに伺っていた。
みゆきは確かに今、つかさが自分の事を大好きだと言っているように聞こえた。
徐徐にみゆきの高校生とは思えないほど出来のいい端整な顔が、あっという間に桃のような髪の毛と同じ色に染まり始め、とてもうれしいような恥ずかしいような、みゆきにはなにか特別感情が芽生えはじめていた。

「夢の中でも出来るじゃない。ここが夢の中なのかそれとも現実なのかなんて、あなたたちに分からない事よ。現実って、見る人によって変わるものだと思うのよ。あなたが見た世界、私が見た世界。どっちが正しいかなんて誰にも分からないのよ」
「違うよ!私は本物のゆきちゃんとこなちゃんに会いたいの!」
「だから言ってるじゃない。夢の中のあなたにとって、本物のお友達は夢の中にいるのよ。現実もそう、あなたが勝手にそれが本物だと認識してるだけで、誰もこれが現実の世界の本物のお友達かなんて証明出来ないのよ?」
「そんな……」
「怖がる事はないは……。あなたが望んだ世界なんだから。永遠に大人になる事がない、ネバーランドなのよ」
「つかさは私が守るのよ!帰りましょう」
「え?う、うん……」
気がついたときには、すでに自分たちの家に帰っていた。
二人の母親も姉たちも、皆何事も無く平然とこの家で暮らしており、あの双子の姉が言うようにこの世界を自分たちが認めてしまえば、完全に世界が入れ替わるだろうとかがみは思った。
普段と変わらない、いつもどおりの生活が実現される。成長せず新しい事も起こらず、永遠に平穏な閉じた世界で暮らして行くのだ。
「おねえちゃん、どうやって帰るの?あの子たち、何言っても聞いてくれないし、少し考えようよ……」

「き……す……よう」
みゆきは確かに今、つかさがキスしようと言っているように聞こえた。
頭の中では白雪姫の物語が、リアルに再現されており、もしかしたら、自分がつかさにキスをすれば目が覚めるのではないかと、みゆきのとても優秀で完璧な脳が訴えている。
しかしお互い女同士であり、本来このような行為をするべきではないことは承知していたが、しかし女の子同士でふざけ合ってキスすると言うのは、たまに見かける行為であり、なにもそれほどまで特別する必要も無かろう。
みゆきはそう、結論付けた。
865 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:52:40.97 ID:wL/OkIM0
>>864

「あの姉妹、姉が妹のためにこんな事をしてるって言ってたわ」
「うん、私たち今魂だけになってて、あの丘に置き去りの体を乗っ取ろうとしてるんだよね……」
「たぶん、姉の方は私の体を、妹の方があんたの体を取ろうとしてると思うのよ」
「それと、魂だけの私たちが、こっちの世界で生きていないと、現実の肉体が生きていられないらしいね」
「……」
かがみは押し黙ると、何かを決意したような表情のまま母親が立つ台所へと歩み寄る。
つかさにはかがみが何をしようとしているのか想像できなかった。
「つかさ、いままでありがとう。これからもずっと一緒だからね」
かがみの手には、包丁が強く握り締められており、ギラリと輝くその刃先はつかさの方へと向けられていた。
「お、おねえちゃん!?」
「信じて!」
かがみは大きく足を踏み出し、ためらいも無く力強く床を蹴り、目はつかさの目を見つめたまま突進して行った。
つかさはかがみが何をしようとしているのか分からなかったが、かがみが言った、信じてと言う言葉を信じた。
ここまで来るのに長かった。姉と徐徐に疎遠になっていくのがとても辛く、悲しい事だと思っていた。
やっとかがみを信じて、姉の願いを聞き入れる事が出来るのだと、つかさは強く思った。
きっと、あの双子にも自分と同じような事があったのかもしれない。
少女の妹の方は、姉に全てを任して自分は何もせず、ただ甘えているだけに見えて、それが自分と重なるような気がした。
もう、甘えずに、姉を信じ、そして自分も姉のために何かを努力しなくてはと、つかさは思った。
かがみの直ぐ目の前まで迫り、強靭がつかさの腹に触れるまであとほんの10cm、7cm。
人が死ぬ直前は走馬灯と言うものが見えるだとか、過去にあった様々な思い出が次々に脳裏に描かれるだとか、いろいろ言われているが、つかさは今とても時間が長く感じていた。
かがみが目の前でのろのろと自分の方へ近づいてくるのを、目を大きく見開きながら見つめていた。
これが自分の内なる声なのか、天のお告げなのか、それとも双子の声なのか。
「避けて!まだ間に合うよ!」
〜やだ、避けたくない!邪魔しないでよ、私はおねえちゃんを信じてるんだから!〜
「どうして?避けないと死んじゃうんだよ?」
〜何があったって、私はお姉ちゃんのやりたい事を聞き入れたいんだ。甘えてばかりじゃだめなんだ〜
「そう……。私には出来なかった事、あなたなら出来るのかな?」
〜わかんないけど、きっと信じれば、出来ると思う〜
「信じれば……」
866 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:55:20.38 ID:wL/OkIM0
>>865

こなたは年の離れた従姉妹の成美ゆいに、車を近くまで迎えに来てもらえるよう伝える事が出来た。こんな山奥の偏狭の地を電話で伝えるのにどれだけ苦労しただろう。
やれやれとかがみたちが眠っている現場に駆け寄ると、家政婦(コスプレ喫茶のメイド)は見た!
みゆきがつかさの唇まであとほんの10cm、7cm……と徐徐に近づいていく。まさかみゆきの想い人がつかさだったとはと、こなたは今までに無い衝撃を受けた。
事実は小説よりも奇なりという言葉があるが、まさか百合なギャルゲー、いやエロゲー並みの展開が今目の前で行われようとしているとは、まったく考えた事もなかった。
みゆきの顔がますます赤くなり、後ほんの数mmと言うところまで来たとき。
かがみが唸りを上げた。
「う、う〜ん。ここは……?」
「ふ、あああぁぁあぁ、おはようございます!かぎゃみさん!だ、大丈夫でしたでしょうか?」
「まぁ……。つかさは?」
「え?べ、べべべ別に、そんなつもりは!許してください!」
こなたはニヤニヤを止めることが出来ず、三人の前には歩み出せなかった。
そんな折につかさも目を覚ました。
「ふぁ〜〜、お、おはよう……」
「つかさ!無事だったのね。ごめんね、怖かったでしょう?妹が乗っ取るはずの体の魂を危険な目に会わせれば、姉が絶対に何かすると想ったの。本当にごめんなさい、ごめんなさい……」
つかさは実際には妹の子が、夢から出してくれたのだと知っていたが、これはあの子と私だけの秘密にしようと心に決めた。
こうして、二人は無事に何事も無く家に帰る事が出来た。
みゆきの行動はこなたしか知らないが、これからみゆきが期待以上のことをしてくれるはずだと、こなたは待ち望んでいた。

結局、あの双子がなんだったのかはっきりとは分からなかった。
あの丘の松の木で、首吊り自殺をしたのだろうとは、おおよそ検討は付くがいったい二人に何があったのかは知る事は出来なかった。
その日の夜、つかさは夢を見ていた。
双子が仲良く、階段を登っていく夢だった。
双子の姉が言っていた、何が現実で何が夢かは誰にも分からないとは、こういう事だろうと思った。
これが現実だと思えばきっと現実なのだ。
つかさはもう一つの世界を見続けた。


867 :あなたが欲しい :2009/09/19(土) 01:57:36.58 ID:wL/OkIM0
以上です。
ホラーですがいかがでしょう?オリキャラがでるような話を書くのは初めてですが、受け入れてもれえるのやら???
あぁぁぁ……、眠い……。
オヤス巫女酢
868 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 10:18:00.87 ID:RIv0qWI0
>>853
二つに分けてお願いします。
分ける場所は838と839の間でお願いします。
869 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:19:04.06 ID:Mxn4OPo0
コンクール作品の投下いきます。

多分、15レス前後になるかと…。
870 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:20:17.22 ID:Mxn4OPo0
 一面の白い世界。そこに立つ一人の女性。
 背は高く、髪も長い。そして、どうしてもその大きな胸に目が行ってしまう。
 顔はよく見えないが、きっと美人だろう。
 話しかけようにも、声が出ない。近づこうにも、体が動かない。
 女性は何かを探すように辺りを見渡すが、やがて諦めたように溜息をつき、どこかへと歩き去っていく。
 そして、辺りの景色が歪み、白い世界は消えていった。



「…またか」
 そうじろうは上半身を起こし、頭をかいた。
 ここ一週間ほど同じ夢を見る。
 同じ場面に、同じ人物。相手の行動まで同じだ。
「たまってんのかな…俺」
 毎夜女性の出てくる夢を見る自分に、そうじろうはそんな事を思った。


「…またあの夢?」
 朝食の席で、そうじろうの顔色が優れないのを見たこなたが、そう聞いた。
「ああ、まったくこう毎晩だとこたえるよ…真夜中に目が覚めるしな」
「やっぱり、知らない女の人?」
「顔は良く見えないから、はっきりとはいえないけど…知らない人だと思う」
「ふむ…」
 こなたは顎に手を当てしばらく考えた後、何か閃いたように人差し指を立てた。
「わたしは気にしないからさ、ゆーちゃんのいない時にでも抜いといた方がいいんじゃない?」
「…女の子がそんなこと言っちゃいけません」
 ニヤつくこなたと、眉間にしわを寄せるそうじろう。ゆたかはハテナマークを頭の上に浮かべながら、その二人を交互に見ていた。



- 伝えたいこと -



871 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:21:36.48 ID:Mxn4OPo0
「…ってなわけでね、ここんところ毎晩同じ夢見るんだってお父さんがね」
 お昼休み。いつものようにかがみ達と昼飯を食べていたこなたは、父の夢のことを友人達に相談してみることにした。
「それで、みゆきさんが夢占いがどうこうって前言ってたからさ、なんの意味があるのかなって」
 そう言いながら、こなたはみゆきの方を見た。みゆきは難しい顔をしながら、顎に指を当てている。
「そうですね…状況が曖昧過ぎて、これはというのが思いつきませんが…女性の方が出てくると言うのは、やはり…その…」
 言い難そうにうつむくみゆき。それを見たかがみが、呆れたように溜息をついた。
「欲求不満…ってとこかしらね」
 横からのかがみの言葉に、うつむいたみゆきの顔が赤く染まった。
「んー…どうだろうねー…わたしも最初はそう思ったけど、よく考えたらそれはなんか違うようなような気がするんだよね」
「そりゃどうして」
「お父さんが欲求不満だと、ロリっ娘が最初に出てくると思うんだよね」
 こなたの言葉に、かがみが呆れたように溜息をついた。
「そういやそうなんだけど…でも、あのおじさんロリってだけじゃないじゃない。スタイルのいい女性が嫌いってわけじゃないんでしょ?出てくる可能性はあるんじゃない?」
「それもそうなんだけど、毎晩だからねー…それほどまでに印象深く残るってのは、やっぱロリじゃないかと…あのお父さんだし」
「…うーむ…さすがに娘の言う事は一理あるわね…」
 そんなこたなとかがみの会話を聞いていたつかさは、冷や汗を一筋垂らしていた。
「なんだか、聞いてると凄い会話だね…」
「そうですね…とても自分や人の父親のことを話してるとは思えませんね…」
「うん、どっちかっていうと犯ざむふ…」
「つかささん…さすがにその先はだめです…」
 つかさの口を押さえたみゆきは、こなた達の方を見た。幸い二人は会話に夢中なようで、こちらには全く意識を向けていない。それを確認しみゆきは安堵のため息をつき、苦しそうに自分の腕を叩いているつかさに気がつき、慌ててその手をつかさの口から離した。
 そして、その日は結局何の結論も出ることはなかった。



872 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:24:23.78 ID:Mxn4OPo0
 その日の夜。こなたは白い世界にいた。
 父から聞かされていたのと同じ風景。そして、同じ特徴の女性。
 しかし、父から聞かされていたのとは違うことがあった。声こそ出ないものの、体は動くのだ。
 こなたはその女性に近づいてみた。しかし、近づいてみても女性の顔がはっきりと認識できない。そして、さわることも出来ないし、女性がこちらに気がつくこともなかった。
 こなたは何とか女性に気付かれようと色々試してみたが、結局女性は溜息をついて歩き去ってしまった。


「うそーん…」
 目を覚ましたこなたは、上半身だけを起こして頭を抱えた。


 次の日のお昼休み。朝からどことなく元気のないこなたに、かがみ達三人は心配そうな視線を向けていた。
「こなた、どうしたの?なんかあった?」
 たまりかねたかがみが、こなたにそう聞くと、こなたは軽く頷いた。
「…わたしも、お父さんと同じ夢見ちゃった」
 そして、ポツリとそう呟いた。
「…え?マジで?」
 かがみ達三人が同時に固まる。
「え、えっと…内容はまったく同じものなのでしょうか…?」
 みゆきが恐る恐るそう聞くと、こなたは再び頷いた。
「うん、ほとんど一緒だったよ…女の人も出てきてた」
「え、じゃあ、こなちゃんも欲求不満だったの?」
 今度はつかさ以外の三人が固まった。
 そして、その沈黙の中で、かがみは無言でつかさの額をピシャリと叩いた。
「痛っ!?…何するの、おねえちゃ-ん…」
 半泣きで抗議するつかさを無視して、かがみはこなたの方に向き直った。
「なんつーか、あれじゃない?その話ばかりしてたからじゃないの?こなたって、なんだかんだでおじさんの影響受けやすいんだし」
「う、うーん…そっかなー…」
 納得がいかないかのように、腕を組んで考え込むこなた。
「ま、その仲の良さだけは羨ましいけどね」
 そう言いながら、話は終わったとばかりに、かがみは弁当の続きを食べだした。
「あの、泉さん…」
 今度は、それまで何か考え込んでいたみゆきが、こなたに声をかけた。
「ん、なに?」
「先ほど『ほとんど一緒』だと仰ってましたが、なにか変わった点があったのでしょうか?」
「んーと…お父さんのは夢の中で動けなかったらしいんだけど、わたしは体を動かせたんだよね」
「それで、何か分かったことはありましたか?」
「うんにゃ、全然。顔が見えないし声もかけれないからさっぱりだったよ」
「そうですか…」
「そんなの当たり前じゃない」
 弁当を食べていたかがみが、二人の会話に口を挟んできた。
「当たり前って?」
「何から何まで同じほうが、不気味ってことよ」
「うーん、それもそっか…」
 こなたもそれ以上話すこともなく、その日の夢の話はそこで終わった。



873 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:26:13.15 ID:Mxn4OPo0
 更に翌日。困惑した表情で遅刻寸前に登校してきたこなたを見て、かがみ達は顔を見合わせた。
「ど、どうしたの、こなた?」
 かがみが声をかけると、こなたはなんとも言えない複雑な表情をした。
「えっと…また昼休みにでも詳しく話すけど…ゆーちゃんも同じ夢を見たって…」
「マジで…?」


 昼休み。集まった四人は、さっそく夢についての話を始めた。
「まあ、詳しく話すといっても、ゆーちゃんも同じ夢を見たとしか…あと、わたしもまた見たよ。一回見ると連続して見るようになっちゃうのかな」
「あの、小早川さんの夢も、何か変わった点があったのでしょうか?」
 昨日と同じように、考え込んでいたみゆきがこなたのそう聞いた。
「うん。わたしみたいに動けるって事は無かったらしいんだけど…景色が見えたって」
「景色…ですか?」
「なんか、お花畑みたいな場所だったってさ」
 カシャンと音がした。こなたとみゆきが音のしたほうを見ると、かがみが弁当箱に落とした箸を拾い上げていた。
「どったの、かがみ?」
「て、手がすべっただけよ…」
「ふーん」
 こなたはかがみの手が少し震えているのが気になったが、それ以上何も言わずみゆきの方に向き直った。
「泉さん。その…一つ思ったことがあるのですが」
 こなたが自分の方を向いたのを確認したみゆきが、話を続ける。
「なに?」
「一つの家に住んでいる人間全員が同じ夢を見ている。こう言うのは、その…躊躇われるのですが…霊障の類の可能性も」
「あるわけないでしょっ!!」
「ふわっ!?」
 みゆきの言葉を遮り大声を出したかがみに驚き、今度はつかさが箸を取り落とした。
「どうしたの、お姉ちゃん?…びっくりしたよー」
「み、みゆきが変な事言うからよ。霊だのなんだの、あるわけないじゃない」
「ですが、こうも不可解だとそう言う可能性も…」
「ないわよ。もっと合理的な理由を考えてよ」
 頑固に意見を通そうとするかがみに、みゆきは困った顔をした。
「…ねえ、その夢ってわたし達でも見れるかな?」
 拾い上げた箸を両手で弄びながら、つかさがそう言った。
「どういうこと?」
 こなたがそう聞くと、つかさは箸を置いて両方の手のひらを合わせた。
「わたし達でも、こなちゃんちで寝たらその夢見れるかなって」
「それは…どうだろう?」
「その夢、なにかきっと意味があるんだよ。ゆきちゃんの言う通りだとしたら、こなちゃんに近い人があの家に住んでる人になにか伝えたいとか」
「わたしに近い人ねえ…お母さんくらいしか思いつかないけど、お母さんはわたしと体型変わらないじゃない。あの女の人がお母さんとは、思えないんだよね。お父さんもそう思ってないみたいだし」
「そうだね…ねえ、やっぱりみんなでこなちゃんちに泊まってみようよ。こなちゃんとゆたかちゃんで微妙に違う夢を見てるならさ、もっと多くの人が見ればいろんな事が分かるんじゃないかな」
「あ、なるほど」
 意外に納得のできるつかさの意見に、こなたは手を叩いた。
「それじゃ、みんなの予定が空いてたらさ、今度の土日にでも…」
「いい加減にして!」
 こなたの言葉を遮り、かがみが大声を上げながら机を叩いた。
874 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:27:17.14 ID:Mxn4OPo0
「さっきから聞いてたらなによ!霊だのなんだのあるわけないって言ってるでしょ!?そんな無駄なことに時間費やすなら、少しは勉強でもしなさいよ!受験生なんだから!」
「う、うぅ…そんな怒らなくても…」
 あまりにも凄いかがみの迫力に、こなたもつかさも冷や汗を垂らして縮こまった。その中で、みゆきだけが冷静にかがみを見て首を傾げた。
「かがさん…もしかして、怖いのですか?」
 そして、ポツリと漏らしたその一言に、かがみが固まった。
「な…何言ってるのよ、みゆき…そんなわけないじゃない」
 先ほどの迫力が嘘のように、急に目が泳ぎだすかがみ。みゆきは、やはり冷静にかがみの腕を指差した。
「でも、かがみさん震えてますよ?」
「こ、これは…その…ちがうの!とにかくちがうのよ!」
 そう言いながら、自分の手を隠すように抱きかかえるかがみ。それを見たこなたがニンマリと笑みを浮かべる。
「うし。じゃ、今度の土日にわたしの家で、泊まりで勉強会でもしようか。みんなで」
「ちょ、ちょっとこなた。だからそんな無駄なことに時間…って、勉強会!?」
「うん、これならかがみも納得」
 得意気にブイサインをするこなた。
「や、でも…そんなわざわざ泊まりで…て言うか、その日用事が…いや、そもそもみゆきとつかさだけで十分じゃ…」
「やっぱり怖いんだ…やれやれ、かがみんは肝心なところでへなちょこですなー」
 色々言い訳を始めたかがみに、こなたは大袈裟にお手上げのジェスチャーをして見せた。
「う…うううぅー…わ、わかったわよ!行けばいいんでしょ、わたしも!行くわよ!行ってあげるわよ!」
 半ばやけくそのようにそう言うと、いつの間にか食べ終えた弁当箱を持って、かがみは足を踏み鳴らしながら教室を出て行った。
「…指摘しておいてなんですが、意外ですね。かがみさんは、こういうのは平気な方だと思ってました」
 かがみを見送った後、みゆきがそう呟いた。それを聞いたつかさが頷く。
「うん。ホラー映画とか全然平気なのにね」
「わたしとしては、あれだけホラー物が苦手なつかさが平気なのが意外だけど」
 こなたがそう言うと、つかさは顎に手を当てしばらく考え、困ったように頭をかいた。
「なんて言うんだろ…その女の人が怖い人って決まってないから、怖がっていい話かどうかまだ分からないから…かな?ホラー映画とかは最初から怖いの分かってるし…」
「なるほど。じゃ、かがみはその逆か」
「え?どういうこと?」
「かがみは、分からないから怖いんじゃないかなってこと。つかさも言ったけど、ホラー映画なんかは最初から怖いの分かりきってるし、作り物だって分かってるしね。今回のことは良く分からない、得体の知れないものだから、かがみは怖いんじゃないかな」
「うーん…そういうものなのかな…」
 納得がいかないように首を捻るつかさ。それを見たこなたは、腕を組んで椅子にもたれかかった。
「ま、何が怖いかなんて人それぞれだよね」
 そして、そう言ったあとこなたは、ふと思い出したようにみゆきの方を見た。
「みゆきさんは、こういうの平気なんだね」
「わたしですか?…少々怖いとは思っていますが、それ以上に何が起きているのか、知りたいと思う気持ちの方が大きいですね」
「そっか。みゆきさんの知的好奇心は凄いねー」
「泉さんはどうなのですか?」
 みゆきに聞き返されたこなたは、なんともいえない複雑な顔をした。
「なんていうか…わかんないんだよね。少なくとも怖くはないんだけど、なんか胸の辺りがモヤモヤするって言うか、なんていうか…」
 そう言ってこなたは俯いてしまった。それを見たみゆきは、声をかけるのが躊躇われ、黙って自分の弁当箱を片付け始めた。



875 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:28:36.39 ID:Mxn4OPo0
 土曜日。勉強会という名目で集まってきたかがみ達三人を、こなたは玄関で出迎えた。
「いらしゃーい…って…かがみ、なにそれ?」
 こなたは、かがみの持っている鞄を指差した。そこにはこれでもかというくらい多くの、色とりどりのお守りが付いていた。
「なにって…見ての通り、お守りよ。念の為、色々そろえたのよ」
「…いや…もう念のためってレベルじゃない気が…」
 視認できるだけでも、厄除けやら交通安全やら、家内安全やら学業成就やら、果ては安産まで括りつけられていた。
 なにか痛い人を見るようなこなたの視線に、かがみの中の何かがキレた。
「そうよ!怖いのよ!これくらい持ってなきゃやってられないのよ!………文句ある?」
「…いえ…ありません…すいません…」
 やけくそ気味に叫ぶかがみに、こなたはつい謝ってしまった。かがみはそのまま、勝手知ったるなんとやらとばかりに、ずかずかとこなたの家に入って行った。
「…厄除けだけでいいって、言ったんだけど…あはは」
 つかさがそう言いながら、困ったように頬をかいた。
「鷹宮神社特製の、やけくそ守りをホントに見る日が来るとは思わなかったよ…」
「でも、あれだけあれば、本当になにが起きても大丈夫そうですよね」
 こなたとみゆきは、顔を見合わせて苦笑した。


「…う…うぅ…」
「…か、かがみ…ちょっと休憩しようよ…」
 こなたの部屋に、つかさとこなたのうめき声が響いていた。
「しない。続けるわよ」
 その前では、かがみが腕を組んで仁王立ちをしていた。
「勉強会って名目で集まった以上は、キリキリやるわよ」
「くぞー…かがみに餌を与えてしまったか…」
「なんだ餌って…ま、今日はみゆきもいるし、はかどる…って、みゆきは?」
 さっきまでつかさの隣にいたみゆきの姿が見えず、かがみは部屋の中を見渡した。
「みゆきさんなら、あそこに」
 そう言って、こなたが指差したほうをかがみが見ると、部屋の隅の方でDSに興じているみゆきの姿が見えた。
「こーら、みゆき。なにやっとるか」
 かがみはその背後から近づき、みゆきのDSを取り上げた。
「ふぇっ?…あ、かがみさん…え、えっと…これはですね…つい熱中してしまって…」
「熱中する前にやり始めるな、勉強会の最中に」
「で、ですよね…うぅ…新記録でしたのに…」
「みゆきさん…わたしのデータでこれ以上記録更新するのやめて…」
 そんなみゆきを見ながら、こなたは冷や汗を垂らしていた。


876 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:29:55.16 ID:Mxn4OPo0
「こなたお姉ちゃーん。晩御飯できたってー」
 ノックの音と共に、ゆたかの声が聞こえてきた。
「ふえーい…って、もうそんな時間なんだ」
 答えながら時計を見たこなたは、深く溜息をついた。
「なんか凄く無駄な時間を過ごした気が…」
「うん…あっという間だったよね…」
「無駄って言うな。勉強しただろ。つかさも同意するな」
「…新記録…」
「みゆきもいい加減あきらめれ…ま、今日はこの辺にしときましょうか」
 かがみはそう言いながら、テーブルの上を片付け始めた。
「今日はって、なんか明日も勉強するみたいな言い方だね」
「当たり前よ。やるに決まってるじゃない」
「…明日が無事に来ればいいけどねー」
 こなたの言葉に、かがみが固まる。
「な、なんのことよ…」
「今晩のメインイベント」
「…忘れようとしてたのに…」
 泣きそうな顔でお守りを握り締めるかがみの肩を、こなたは笑顔で叩いた。
「ま、美味しい御飯でも食べれば気持ちも落ちつくって。かがみんなんだし」
「あんた、人をなんだと…」
「そう言えば、今日はこなちゃんずっと勉強してたけど、御飯はゆたかちゃんが作ったの?」
「うんにゃ。今日はお父さん」
「え…」
「ホントに…?」
 こなたの答えに、微妙な表情で絶句するかがみとつかさ。それとは逆にみゆきは笑顔だった。
「わたしの家はお父さんが家事をしませんから、男の人が作るお料理って食べたことないんです。少し、楽しみですね」
「いや…そもそも食べられるものが出てくるかどうか…」
「お、お姉ちゃん…それは流石に失礼だよ…」
「『ホントに?』とか言ってる時点で、つかさもかなり失礼なんだけどね…ま、食べてみれば分かるよ」
「微妙に不安を残す言い方をしないでよ…」



877 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:30:55.20 ID:Mxn4OPo0
 食事を終えた後、四人はこなたの部屋に戻ってきた。
 先頭で部屋に入ったかがみは、そのまま床に両手と膝をついて項垂れた。
「あれ?口に合わなかった?」
 そのかがみにこなたがそう声をかけると、かがみはゆっくりと首を横に振った。
「…美味しかった…美味しかったんだけど…なに、この敗北感は…」
 そのまま、床に倒れ伏したかがみを見ながら、こなたは困った様に頬をかいた。
「まあ、気持ちは分かるんだけどね…」
「でも、ホントに美味しかったよ…えーっと、こう言うと怒るかもしれないけど、こなちゃんが作ったのより美味しかった気が…」
「まー、そりゃお父さんはわたしの家事の師匠なんだし」
「そっかー…」
 こなたとつかさが会話をしていると、かがみがユラリと立ち上がった。そして、つかさの方を向く。
「さ、つかさ。御飯も食べたことだし、帰りましょうか」
「…え?」
「まちなされ、かがみさんや」
 こなたが、思わずかがみの腕を掴んだ。
「これからが本番であろう。柊かがみともあろう者が、逃げると申すか」
 変に時代がかった口調で詰め寄るこなたに、かがみは力なく首を振った。
「…お願い見逃して…」
「ならぬ!今宵こそかの夢の真実を…ってか、かがみヘナチョコ過ぎ。もはやだめみんの領域だよ。このヘナチョコだめみんめ」
「そんな事言ったって、怖いものは怖いのよー…ってか、それ『み』しか合ってない」
「…突っ込む気力はあるんだ…っつーかこれでキレないとはね。しょうがないなー」
 こなたは溜息をつきながら、かがみの間接をしっかりと極め、身動きをとれなくした。
「わたしがかがみ抑えとくから、つかさとみゆきさんお風呂入ってきなよ」
「はーい」
「わかりました」
「はーなーしーてー…鬼ー悪魔ー…ってかつかさー…あんたまでわたしを裏切るのー?」
 こなたの下でもがきながらそう言うかがみに、つかさはゴメンとばかりに手を顔の前で合わせて見せた。


 しばらくして戻ってきたつかさ達を見て、こなたは首をかしげた。
「つかさ、元気ないね。なんかあった?」
「なにかあったわけじゃないんだけど…」
 つかさは隣に立っているみゆきをチラッと見た。
「…ゆきちゃんの見ると、少し自信なくなっちゃうなって…」
 そして、今度は自分の胸の辺りを見て、溜息をついた。
「あー…まあ、みゆきさんじゃしょうがない。ってか、つかさでもそういうこと気にするんだ」
「こなちゃんのだったら、自信出るのに」
「…つかさ…それは喧嘩を売ってると判断してよろしいか?」
「そ、そんなことないよ…」
 こなたに睨まれ、つかさは思わずみゆきの後ろに隠れてしまった。みゆきは何のことか分からず、こなたとつかさを交互に見ながら、頭の上にハテナマークを出していた。
「ま、いいや。それじゃわたしは、かがみをお風呂にぶち込んでくるから、布団ひいといて」
 器用にかがみの腕を極めたまま部屋を出て行くこなたを、つかさとみゆきは手を振って送り出した。



878 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:33:14.68 ID:Mxn4OPo0
 相変わらずの白い世界にこなたはいた。
 前と同じように、体は動く。例の女性も前に立っている。
 しかし、今回はその女性がこちらに近づいてきた。そして、こなたの頭の上辺りを両手でさわり始めた。女性の手がすり抜けるので、こなた自身はさわられているという感覚はなかったが。
 こなたが身体を避けてみても、女性は変わらず同じ場所をさわっている。こなたより背の高い誰かの顔をさわっている。こなたにはそんな風に見えた。
 突如女性がビクリと体を震わせ、三歩ほど後ずさった。そしてなにやらうろたえた様な素振りを見せると、後ろを向いて全力で逃げ出した。
 唖然とするこなたの周囲で、白い世界が歪み始めた。



「…なんだろ…いまの…」
 頭をかきながらこなたが上半身を起こした。時計を見ると、丁度0時。部屋の中を見ると、同時に目が覚めたらしい、かがみ達三人も体を起こしていた。
「びぇぇぇぇぇぇん!!づがざー!ごわがっだよー!」
 そして、かがみが泣きながらつかさに抱きついていた。
「…なにがあったんだよ、かがみん…えーっと、みゆきさんどうだった?女の人に夢見れた?」
 二人から話を聞くのは、しばらく無理だろうと判断したこなたは、みゆきの方を向いてそう聞いた。みゆきは顎に指を当てて、何かを考えるようなしぐさのまま、黙ってうなずいた。
「泉さん。泉さんのお母さんが写っている写真か何かがあれば、見せていただけますか?」
「え?うん、いいけど…えっと、あれはっと…」
 みゆきに言われ、こなたは本棚からアルバムを取り出した。そして、母親であるかなたの写真のあるページを開いてみゆきに差し出した。
「ほい。この写真だよ」
「ありがとうございます。では、失礼して…」
 みゆきはかなたの写真をじっと見つめると、納得がいったとばかりに二度ほどうなずいた。
「間違いありません。わたしが見たのはこの人です」
「え…じゃあ、みゆきさんはあの女の人の顔が見えたんだ」
「はい、はっきりと見ることができました。こちらに近づいてこられましたので、じっくりと見ることができたのですが、泉さんに似ておられましたのでもしやと思い…でも、この写真より少し大人びてましたね」
「いや、みゆきさん。その写真のお母さんも、年齢的には大人なんだけどね」
「そ、そうでしたか…失礼しました…」
 恐縮するみゆきにこなたは苦笑を返すと、今度はつかさのほうを見た。かがみは落ち着いてきたのか、肩が少し震えているものの泣き声はやんでいた。
「つかさはどう?」
「わたしは…女の人の声が聞こえたよ」
「ホント?なんて言ってた?」
「えーっとね…近づいてきてね、わたしの顔の辺りを撫でながらね『あ、あれ?そう君じゃない?…おっかしいなー…っていうか、この子誰だろ?こなた…じゃないわよね』って言ってね。その後急に『ひわっ!?』って驚いて『ご、ごめんなさーい!』って誤りながら逃げちゃった」
「ふむ…撫でられたって、さわれたの?」
「ううん。ふれてるって感覚は無かったよ」
「そっか…まあでも、これではっきりしたね」
「なにがですか?」
「あの女の人が、わたしのお母さんだってこと」
 こなたの言葉に、つかさとみゆきは顔を見合わせた。
「やっぱり、顔が一緒だったから?」
 つかさにそう聞かれたこなたは、腕を組んで難しい顔をした。
「それもあるし、お母さんがお父さんを呼ぶときは『そう君』だったらしいからね」
「そっかー」
「…にしても、なんであんなナイスバディになってたのやら…それに、なんで逃げちゃったのかな…」
「…ぐすっ…逃げたの、たぶんわたしのせい…」
 こなたの呟きに、泣いていたかがみが鼻をすすりながら答えた。
879 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:34:06.62 ID:Mxn4OPo0
「かがみ、だいじょぶ?」
 腕を解いたこなたがそう聞くと、かがみは弱弱しくうなずいて、つかさから体を離した。
「…女の人…えっと、こなたのお母さん。名前かなたさんだっけ?…がね、黙ったままわたしの顔をぺたぺた触ってきて…逃げようとしても動けないし、すごく怖くて『やめてっ!』って大声だしちゃったの…」
「そっかー。かなたさん、お姉ちゃんの顔を触ってたんだ」
 つかさの言葉に、こなたとみゆきがうなずく。
「どおりで、わたしの頭あたりを触ってたわけだ」
「わたしは首の辺りでしたから、絞められるかと思いましたね」
「…いや、それは怖がろうよみゆきさん…かがみ以上に」
 物騒なことをにこやかに言うみゆきに、こなたは冷や汗をたらした。
「そういや、かがみ。触られたって感覚あったの?」
 そして、かがみの方を向いてそう聞いた。
「う、うん…普通に人の手に触られてる感じだった…」
「それじゃ、かがみは触れるのと声を出せるのと二つあったんだ。さすがと言うかなんと言うか…」
「それに、わたし達の夢と違って、かなたさんはかがみさんを認識していたみたいですね」
「あ、そっか。それもか」
 こなたは再び腕を組んで考え込み始めた。
「しっかし。みんな何かしら夢の中であるのに、なんでお父さんだけ何も無いんだろう…お母さんはお父さんに会いに来てるっぽいのに…」
 しばらく考えた後、こなたは何か思いついたように顔を上げた。
「もしかしたら…みんな。自分の布団運んでよ」
「え?どこに?」
 つかさがそう聞くと、こなたはニンマリと笑みを浮かべた。
「お父さんの部屋」



880 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:35:27.83 ID:Mxn4OPo0
「…なあ、こなた。これは一体…」
 困惑するそうじろうの前で、部屋に入ってきたかがみ達とゆたかが、こなたの指揮の元、布団を引き始めた。
「みゆきさーん。そっち入りそう?」
「はい、なんとか」
「ゆーちゃんの方は?」
「ちょっと無理みたい…」
「なあ、こなた…」
 そうじろうがもう一度こなたの声をかけると、こなたは眉間にしわを寄せながら、そうじろうの方を向いた。
「なんだよー。今、忙しいんだから」
「いや、俺の部屋で何を始める気なんだと…」
「ここでみんなで寝ようとしてるんだよ」
「それは何だ?俺へのサービスか?」
「…いや、そんな気全然ないから」
 呆れたように顔の前で手を振るこなたに、困った顔のみゆきが近づいてきた。
「泉さん。この部屋だと、どうしても一枚引けないようですね…どこか、もう少し広い部屋に移ったほうが良いのではないでしょうか?」
「うーん。この部屋が一番いいと思うんだよねー。仏壇もあるし…しょうがない、体の小さいわたしとゆーちゃんが同じ布団で寝ようか」
「えっ?お姉ちゃんと?」
 その言葉に驚くゆたかを、こなたが訝しげに見た。
「なんだよ、ゆーちゃん。わたしと寝るの嫌?」
「だ、だって、こなたお姉ちゃん寝相が悪いんだもん…叩かれたり、蹴られたりするんだよ…」
「う、そうだったのか…」
「じゃあ、俺がこなたと寝よう」
 ビシッと親指を立てながらそう言うそうじろうを、ゆたかは驚いた顔で見た。
「伯父さん。平気なんですか?」
「もちろん。愛しの娘と寝るのに、そんなもの何の障害にもならんよ」
 さわやかに言い放つそうじろうを、こなたが胡散臭げに眺める。
「愛してくれるのは嬉しいけど、こちらでお断りします」
「何故だ、こなたーっ!」
 涙を流しながら吼えるそうじろうに、耳をふさぎながら顔を背けるこなた。その二人のやり取りを困った顔で見ながら、つかさがこなたに声をかけた。
「あの、こなちゃん。わたしがお姉ちゃんと寝るよ」
「え、いいの?つかさとかがみじゃ、ちょっと狭くない?」
「狭いのは大丈夫だと思うよ。それに…」
 つかさはそう言いながらかがみの方を見た。こなたもそちらを見ると、黙々と布団を引いていたはずのかがみが、布団を頭から被って震えていた。
「…お姉ちゃんが、あんなだから」
「なるほど。んじゃ、つかさ。頑張って」
「うん…頑張ってみる」
 つかさは小さくこぶしを握ると、かがみの布団に近づき肩がある辺りを軽く叩いた。
「お姉ちゃん、布団にいれて。わたしと一緒に寝よう?」
 つかさが言い終わるが早いか、布団の中からかがみの手が伸びて、つかさを捕まえ中へ引きずり込んだ。
「わーっ!?…きゅ、急に…ちょ、お姉ちゃ…そんな、抱きつかないで…痛いよぅ…」
 少しの間、布団がごそごそと動き、唐突にその動きが止まって静かになった。
「…え、えーっと…さ、さあ、みんな寝よっか」
 その様子を見ていたこなたが、冷や汗をたらしながら無理に明るくそう言った。
「あ、あの、つかささんは大丈夫なのでしょうか…?」
「た、多分大丈夫…少なくとも食べられはしないだろうからね…」
 同じように、冷や汗をたらしながら布団を見つめるみゆきにそう言って、こなたも布団に潜り込んだ。



881 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:36:34.19 ID:Mxn4OPo0
 一面の花畑の世界。こなたはそこに立っていた。
「ビンゴ。思ったとおりだね」
 得意げにそう言いながらこなたが周りを見ると、そうじろうの部屋で寝ていた全員が、戸惑ったように辺りを見回していた。
「こなた…これは一体どういうことなんだ?」
 こなたのそばに来たそうじろうがそう聞くと、こなたは左手の人差し指を立てて答えた。
「細かいことは良くわからないけど、お父さんはまとめ役じゃないかってこと」
「まとめ役?」
「そ、まとめ役。家で寝て、この夢を見た人はみんななにかしら出来たり見たりしてたのに、お父さんだけ何もなかったんだよね。それで、もしかしたらみんなの夢をまとめる役目なんじゃないかなって」
「何でそう思ったんだ?」
「この夢を見せてる人が、お母さんだからだよ」
「かなたが?…ってことは、あれか?あの女性はかなたなのか?」
「多分ね」
「あれが、かなた…いや、なんて言うか…」
「まあ、詳しいことは本人に聞こうよ。もうすぐ出てくると思うし」
「そうだな」
 こなたとそうじろうから少し離れた場所では、ほかの四人が景色を眺めていた。
「凄いですね。本当に見渡す限りの花畑です…小早川さんは、この景色を見ていたのですよね?」
「あ、はい…でも、あの時は体動かなくて、こんなに広いとは思いませんでした。それに、わたしが見たときより少し色合いがはっきりしてるような…」
 額に指を当て、自分の見たものを思い出しながらみゆきに答えるゆたか。その向こうでは、つかさとかがみも同じように景色を眺めている。
「綺麗なんだけど、なんかヒヤッとするね…渡っちゃいけない河があったりして」
「つかさー…なんでそんな怖いこと言うのー…」
「…ご、ごめん、お姉ちゃん」
 自分の腰の辺りに抱きついてくるかがみの頭を、苦笑しながら撫でるつかさ。ふと、視界の端に何か動いた気がして、つかさはそちらに目を凝らした。
「あれって…こなちゃん!あの女の人!」
 つかさに呼ばれたこなたは、急いでつかさのそばに走ってきて、同じ方を見た。
「…本当に、かなたなのか?」
 少し遅れてきたそうじろうがそう呟くと、それが聞こえたのかこちらに向かって歩いてきていた女性が立ち止まり、柔らかく微笑んだ。
『そう君…久しぶりだね』
「かなた…その…あのな…」
 そうじろうが何か言いづらそうに視線をそむける。それを見たかなたが首をかしげた。
『うん?』
「その姿はないわ」
『なんでーっ!?』
 左手を顔の前で振りながら言い放つそうじろうに、かなたは思わず大声を上げていた。
「いや、だって…なあ、こなた?」
「うん。ロリ属性こそが、お母さんのアイデンティティだと…」
『親子そろって、どういう目で私を見てるのっ!』
 かなたの言葉に、こなたとそうじろうはお互い顔を見合わせ、同時に首をかしげた。それを見たかなたが深くため息をつく。
『うぅ…分かった…元に戻ってくるから、少し待ってて…』
 元気なく歩いていくかなたを、そうじろうとこなたは手を振って見送った。
「なんと言いますか…想像してたシーンとはまったく違いましたね」
「うん…こなちゃん達、普通すぎ…」
 その後ろでは、他の四人があきれ果てていた。



882 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:37:29.96 ID:Mxn4OPo0
 しばらくして、さっきと同じ方から今度は見事なロリ体型のかなたが歩いてきた。
「かなたーっ!会いたかったぞーっ!!」
 そして、こちらに来るのを待ちきれないかのようにそうじろうが駆け出し、かなたに抱きついていた。
「うわー…さっきと反応違いすぎだよ」
 こなた達もあきれながらその後を追って、二人のそばへ向かった。
『…分かってたのに…そう君がこういう人だって、分かってたはずなのに…』
 そうじろうに抱きしめられながら、かなたは感動とは違う涙を流していた。
「っていうか、最初からその姿で出てくれば、少しはややこしくならなかったのに」
『うぅ…私は好きで育たなかったわけじゃないのよ…少しくらい夢見させてよ…って、ややこしい?何が?っていうか、その人たちは誰?なんでここに?』
「今頃気がついたんだ…えーっとね…」
 こなたは出来るだけ手短に、今までの経緯とここにいる人物と自分の関係を、かなたに伝えた。それを聞いたかなたは、難しい顔をしてうつむいた。
『そっか…そんなことに…夢枕に立つって難しいのね。ホントはそう君とこなたにだけ会うつもりだったのに』
 そして、未だに自分を抱きしめているそうじろうの頭を軽く撫でた。
『でも、ちゃんと会えてよかった…これで、私の伝えたいことがちゃんと言えそう』
「伝えたいこと?」
 そうじろうが、かなたから体を離しそう聞くと、かなたはしっかりとうなずいた。
『うん…私はずっと待ってる。ここで、変わらず待つことが出来るから。もう、これ以上遠くには行かないから・・・だから、ここに来るのを急がないで欲しいって、そう思って…それを言いたくて…』
 そう言って、目を瞑ったかなたを、そうじろうはもう一度抱きしめた。
「今のように、また会うことは出来るか?」
『それは無理。こっちに引きずり込んじゃうから…今度会えるのは、そう君たちが本当にここへ来なければならなくなった時…』
「そうか…」
 そうじろうはかなたの顔に自分の顔を近づけたが、こなた達がいる事を思い出し、躊躇するように動きを止めた。それを見たかなたは微笑むと、自分から顔を近づけそうじろうと唇を合わせた。そして、二人は体を離し、少し距離を置いた。
「もう、時間なのか?」
 周りの花畑が、少し揺らいだような気がして、そうじろうはかなたにそう聞いた。かなたはうなずくと、かがみ達のほうへと体を向けた。
『みなさん…大変な子だと思うけど、こなたをよろしくお願いしますね』
 軽く頭を下げるかなたに、かがみ達はうなずいて見せた。そしてかなたは、こなたの方へ向いた。
『こなた…大きくなったね』
「お母さんに似たから、あんまり大きくなってないよ…」
 さっきまでとは違い、こなたはうつむき、声も少し震えていた。
『それでも、私の知ってるこなたは赤ん坊だったから…大きくなったよ、あの頃よりずっと』
「…お母さん…手、つないで…」
 こなたはうつむいたまま、かなたに向かい左手を差し出した。かなたはその手を、両手で包み込んだ。
「お母さん、つぎ会うときは、わたしおばあちゃんになってるね…」
『そうね…そうなってないと、困るけど』
「…すごく先になると思うけど…こんな花しか無いようなところで、ずっと待つのは退屈だと思うけど…でも、楽しみに待ってて欲しいんだ…」
『楽しみに?』
「うん」
 こなたは、顔を上げた。精一杯の笑顔で。
「わたしもお父さんも目一杯生きて、たくさん土産話持ってくるからさ。それを楽しみに、待ってて」
 かなたは驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔に変わり、つないだ手を引き寄せてこなたを抱きしめた。
『ありがとう、こなた…ほんとに良い子に育ってくれて…』
 時間なのか、それとも涙なのか、こなたの見る景色が大きく歪み始めた。



883 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:39:23.87 ID:Mxn4OPo0
 静寂の中、こなたは目を覚まし、上半身を起こした。時間は分からないが、真っ暗なところを見るとまだ朝にはなっていないようだ。
 さっきと同じようにみんなも起きているのだろうが、誰も体を起こそうとはしていなかった。
「…こなた、やっぱり寂しい?」
 暗がりから、かがみの声が聞こえた。
「そりゃ、少しはね…でも、今は嬉しいほうが上回ってるよ」
 こなたはつないでいた左手を、じっと見つめた。
「お母さんが、わたしの言葉で笑ってくれたから…喜んでくれたから」
「…そう…じゃあ、恥ずかしくない土産話にするためにも、明日から少しは真面目にやんなさい」
「そんな退屈な土産話はしたくないから、お断りだ」
「…言うと思った」
 かがみの潜ってるふとんから、ため息の音が聞こえた気がした。
「かがみ、怖くなくなったんだ」
「流石に…ね。それじゃ、おやすみ」
「…おやすみ」
 再び訪れた静寂の中、こなたは身を横たえた。
 理想で飾った母の姿を父が喜ばなかったように、飾った自分の話なんか母は喜ばないだろう。だから、目一杯飾らない自分を生きて、その話を持っていこう。
 こなたはそう思いながら、布団の中で大きく欠伸をした。
 そして、まだ温もりが残っている気がする左手を胸元に抱き寄せ、そっと目を閉じた。



- 終 -
884 :コンクール作品「伝えたいこと」 [saga]:2009/09/19(土) 11:40:20.41 ID:Mxn4OPo0
以上です。

今回は最後まで作品タイトルに悩みました。
885 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/19(土) 15:54:54.91 ID:paic5nIo
>>867
みゆき暴走すんなww
オリキャラって言っても、これなら全然問題ないと思う
面白かったぜ、乙!

コンクール作品ってことでいいんだよね?

>>884
だめみん可愛すぎるww
ギャグもシリアスもよかった。乙!
886 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/19(土) 16:11:12.97 ID:5CwFlsAO
>>885

「あなたが欲しい」の作者です。
すみません、書くのを忘れていました!
コンクール作品です。よろしくです
887 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:05:36.90 ID:FIRHoZs0
ハイレベルな作品ばかりです。
いろいろ悩みましたけど・・・

自分もコンクール作品投下します。
レス数は投下しないと分かりませんが計算上だと8レスくらいかと思います。
しばらくしたら投下します。
888 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:09:56.21 ID:FIRHoZs0
 ある日の放課後のことだった。
かがみ「つかさ、どうしたの、もう帰るわよ」
つかさ「あ、お姉ちゃん、ちょっと待って」
かがみ「どうしたのよ」
つかさ「おかしいな、アルトリコーダがない」
かがみ「つかさ、家に忘れてきたんじゃないの」
つかさ「今日の音楽の授業の時使ったんだけど」
かがみ「それじゃ、音楽室じゃないの・・・」
つかさ「あっ」
ため息をつくお姉ちゃん。
かがみ「早く取っておいで、待ってるから」
つかさ「待ってなくていいよ、今日はお母さんから買い物頼まれてたでしょ」
かがみ「あっ、そうだったわ、それじゃ悪いけど先に行かせてもらうわ」
私達は別れた。

 私は音楽室に向かった。
音楽室に近づいていくと音が聞こえる。ピアノの音、誰かが弾いている。
部活の練習だろうか、私は邪魔をしないようにゆっくり音楽室の扉を開けた。
扉を開ける。そして何気なくピアノの方を向くと、みなみちゃんが弾いていた。
私はしばらそのまま立ったままピアノの音に耳を傾けていた。
音が止まった。みなみちゃんは私の方を向いている。気が付いてしまった。
つかさ「ごめん、邪魔しちゃったかな」
みなみちゃんは黙って首を横に振った。
つかさ「すごいよ、みなみちゃん、ピアノ弾けるんだ」
みなみちゃんは黙って俯いてしまった。
つかさ「さっき弾いてた曲何かな」
私は音楽室に入り、みなみちゃんに近づいた。
みなみ「雨だれ」
つかさ「あまだれ?」
みなみ「ショパン」
つかさ「ショパン?て・・・クラッシック?、凄い、よく分からないけど凄いよみなみちゃん」
私は思わず驚いてみなみちゃんを褒めた。みなみちゃんは俯いたままこちらを見ようとはしなかった。
つかさ「なんで音楽室でピアノを弾いてたの」
みなみ「・・・家のピアノが壊れて、修理中だから、音楽の先生に音楽室を貸してもらって」
つかさ「そうなんだ、あれ、ゆたかちゃんは?、一緒じゃないの?」
みなみ「・・・ゆたかは、体の調子を崩して・・・」
つかさ「そうか、ゆたかちゃん、座りっ放しだと辛そうだね」
みなみちゃんはそのまま黙り込んでしまった。悪い事を言ってしまった。
つかさ「あっ、長居しちゃってごめん、私、忘れ物を取りに来たんだった、すぐに済むから」
音楽室をしばらく探したが、なかなか見つからない。
みなみ「忘れ物って、これですか、机の上に置いてありました」
みなみちゃんは袋を私に差し出した。
つかさ「それそれ、ありがと、それじゃ」
私は袋を受け取り音楽室の扉に手をかけた時、
889 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:11:24.80 ID:FIRHoZs0

みなみ「つかさ先輩・・・」
つかさ「どうかしたの、みなみちゃん」
みなみ「よかったら、聴いてくれませんか、私のピアノ」
つかさ「えっ?、クラッシックなんか知らないし、聴いても分からないよ」
みなみ「よかったらなのですが」
私はしばらく考え込んだ。みなみちゃんは私の目を見ている。
つかさ「たまにはピアノを聴くのもいいかも、私なんかでいいなら」
みなみ「無理言ってすみません」

 私はピアノの前に椅子を置き座った。
みなみちゃんはピアノを弾き始める。
流れるような音、リズミカルに鍵盤を叩く、クラッシックを知らない私でもかなり上手であることは分かった。
それでも、曲を知らないのでどうもしっくりこない。
何曲か弾いた頃だった。私は思わずあくびをしてしまった。ピアノの音が止まった。
みなみ「すみません」
しまった。気を悪くしたかな。
つかさ「謝るのは私の方、あくびなんかしちゃって」
みなみ「いいえ、無理言った私が・・・」
なんか気まずくなった。私はこの場をなんとかしようと考えた。
つかさ「リクエストいいかな・・・私が音楽室にはってきたときに弾いてた曲あるでしょ」
みなみ「雨だれ」
つかさ「そう、それ、私、気に入っちゃった、静かな曲だったよね」
みなみ「分かりました」

 静かにみなみちゃんは曲を弾き始めた。
私は目を閉じて聴いた。
確かに雨を連想させる。大雨じゃない、しとしとと降っているような感じ。
不思議と曲に聴き入っていると、人の気配がした。
気配のする方を見ると女の子が立っていた。
女の子と言っても、どう見ても小学校に入るかどうかの子供。この学校には場違い。私の方をじっと見ている。
つかさ「みなみちゃん、あの子、どこから来たのかしら」
みなみちゃんも気付き女の子の方を見る。ピアノの音が止まる。
みなみ「わかりません」
つかさ「どこから来たの、迷子?」
私は女の子に話しかけた。すると女の子は私達に微笑みかけて音楽室を出て行く、私達を誘っているようだった。
つかさ「やっぱり、おかしいよね、職員室に連れていかないと」
みなみちゃんは頷いた。私たちも音楽室を出て女の子の後を追った。
女の子は笑いながら私達を誘導するかのように校舎の外に出た。
そして、校舎の裏に来ると女の子は立ち止まった。そして私たちも立ち止まる。
つかさ「もう鬼ごっこは終わり、お母さんの所に帰ろう」
女の子に話しかけると、女の子はその場にしゃがみ込んだ。そして両手を差し出して水を掬うような格好をした。何かが欲しいらしい。
つかさ「どうしたの」
女の子に近づくと、急に女の子は苦しみだした。そして両手を私の目の前に差し出す。
つかさ「何が欲しいの」
その問いに女の子はただ両手を差し出すだけ、そして、苦しみ方がどんどん酷くなっていく。私はただおろおろするだけ。
女の子はその場に倒れ込んだ。すると周りが急に砂漠のような景色に変わってしまった。
そして、女の子の姿は消えた。砂漠に私一人、
暑い、そして喉が渇く、水が欲しい。そうかあの女の子、水が欲しかったんだ。でも今度は私が水が欲しくなる。
私は水を探して、砂漠を歩く、でも水は見つからない。
私は力尽きて倒れてしまった。そしてあの女のこの様に、両手を前に差し出して。水を求めた。
890 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:12:30.68 ID:FIRHoZs0


気が遠くなる。

水が欲しい・・・



みなみ「・・・つか」
みなみ「さ先輩」
みなみ「つかさ先輩」
つかさ「?・・・水?」
私は音楽室に居た。そしてピアノの前に座っている。みなみちゃんが私の肩をつかんで心配そうに私を見てる。
つかさ「私・・・寝ていたの」
みなみ「急にうなされだしたので・・・」
つかさ「私・・・寝ちゃったみたい、いつからだった」
みなみ「・・・最初の曲を弾いてすぐ・・・」
つかさ「ごめんなさい」
みなみ「いいえ、それより、大丈夫ですか、保健室に行きますか」
つかさ「・・・大丈夫、ぜんぜん大丈夫」
恥ずかしくなった。すぐに寝てしまったなんて。
つかさ「私、慣れない音楽聴いたからかな・・・あれは夢だったのかな」
みなみ「雨だれ、を弾き出したら、急に・・・」
つかさ「雨だれ・・・女の子が出てきた時と同じ・・・」
みなみ「女の子?」
つかさ「あ、夢の中の話、ちょっとリアルすぎて・・・」
みなみちゃんは安心したのか、私から離れた。そして、興味ありげに私を見ている。
みなみ「どんな夢だったのですか」
私は女の子の話をした。

みなみ「校舎の裏、丁度この音楽室の裏ですね」
みなみちゃんは音楽室の窓を開けて見下ろした。
みなみ「私、そこに行ってみます」
つかさ「みなみちゃん、夢だから気にしないで」
みなみ「私、気になる、女の子の立ち止まった所・・・教えてくれますか」
みなみちゃんってにそうゆうのに興味があるとは思わなかった。
あまり行く気にはなれないけど、すぐ寝てしまった後ろめたさがある。私はみなみちゃんの言うとおりに、女の子が立ち止まった所に案内した。

つかさ「この辺りだったような」
みなみ「何もありませんね」
つかさ「だって、夢だもん、何かあったら大変だよ」
私は校舎に戻ろうと歩き始めた。
みなみ「つかさ先輩、足元!」
珍しく大声で私を止める。ビックリして私は足元を見た。
みなみ「女の子の正体はこれかと」
そこには草が一本生えていた。花が咲きそうなつぼみがついている。しかし今にも枯れそうにしおれていた。
つかさ「これが?、女の子?」
みなみ「雨だれ、を聴いて水が欲しくなった・・・それでつかさ先輩を・・・」
私は思わず笑いそうになった。
つかさ「草が、私を、呼ぶなんて、みなみちゃん、面白い発想だね」
みなみちゃんのイメージとは違う、私は半分からかった。
891 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:13:36.08 ID:FIRHoZs0


 みなみちゃんは辺りを見回し何かを探している。すぐ近くにある花壇にかけよると花壇に刺さっているスコップ拾った。
みなみ「きっとこの花壇に植えてあった草の種がおちて育った・・・」
花壇を見ると枯れそうな草と同じ形の草が沢山植えてあった。その草も同じくつぼみをつけている。
みなみちゃんはスコップで枯れそうな草の周りの土ごと掬い、花壇に移した。
みなみ「みんなと一緒になったね」
そう優しく草に語りかけた。
みなみちゃんは近くにあった水道から水を手で汲み枯れそうな草周辺にまいた。
水に濡れる枯れそうな草・・・何か喜んでいるように見えた。
女の子と草の姿が重なって見えた。
つかさ「みなみちゃん・・・」

 冗談で言っているのかと思った。違う、みなみちゃんは本気でそう思っている。
クールで何でも出来る。そんなイメージだったみなみちゃん。
それだけじゃない、優しい、暖かいとても。
ゆたかちゃんが慕う理由が分かった。そしてお姉ちゃんとは違った優しさを感じた。
さっきみなみちゃんを笑ったことを反省した。
つかさ「みなみちゃん、その草が呼んだのは私じゃない、みなみちゃんだよ、私はそんな思いにならなかった
    ピアノを弾いているみなみちゃんを呼んだんだよ」
みなみ「えっ?、夢を見たのはつかさ先輩・・・」
つかさ「起きてる人を夢では呼べないでしょ、私はねるの得意だから、それに草を助けたのはみなみちゃんだよ」
私は笑ってそう答えた。
みなみちゃんは黙って俯いた。

 しばらく沈黙が続いた。するとみなみちゃんが何か思い切るように話し出した。
みなみ「つかさ先輩、すみません、嘘をついていました」
つかさ「嘘?、いきなりどうしたの」
みなみ「家のピアノが壊れたって言ったこと」
つかさ「壊れてないの?」
みなみ「私、今日、ゆたかにピアノ演奏聴いてもらって練習する約束をしていました」
つかさ「練習?、壊れていないなら家でも・・・」
みなみ「いえ、人前で演奏するのが苦手で・・・ゆたかを観客にに見立てて・・・それに学校だと多数の人に聞こえるから・・・」
つかさ「私が、ゆたかちゃんの代わりってこと・・・それで嘘をついたの」
みなみ「いえ、あがり症が知られるのが」
つかさ「ああ、そうゆう事か、って、意外、そんな風に見えない、私の方がよっぽど・・・だよ、
    あ、もうこんな時間、私、かなり寝てたみたいだね、練習になった?」
みなみ「なった・・・かな」
つかさ「ならないよね・・・」
私達は笑った。
つかさ「私は、教室にもどるね」
みなみ「・・・つかさ先輩」
つかさ「?」
みなみ「来週の月曜日の放課後、また音楽室を借りる予定なのですが、また聴きに来てくれますか」
つかさ「んー、また寝ちゃうかも、それでもいいなら、あ、こなちゃん、お姉ちゃんも呼んでいいかな、ゆきちゃんも、数が多い方が練習になるよね」
みなみ「いきなりそんな大人数で・・・それにみゆきさんは来てもらっても練習にならない、子供の頃から聴いてもらってますので」
つかさ「そっか、それじゃ、こなちゃんかお姉ちゃんどっちかかな、分かった、来週の月曜だね」
892 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:14:46.22 ID:FIRHoZs0


 みなみちゃん、今ままでのイメージと全然違う、そういえば今まで、こんなに話したことなかった。
私もそうだけど、あまり話しかけてこなかったし。
でも、あんなに寝てた私をまた誘ってくれるなんて、来週が楽しみ。


つかさ「ただいま」
家に帰ると、お姉ちゃんが真っ先に私に話しかけてきた。
かがみ「おかえりつかさ、・・・しかし忘れ物を取りにいくにしては時間かかったわね」
つかさ「そうかな、買い物してきたし」
お姉ちゃんは私の手に持っている袋を見た。
かがみ「買い物ってCDじゃない、最近アルバムなんか出たっけ」
私は袋の中身を見せた。
かがみ「・・・ショパン24の前奏曲・・・・つかさ、風邪でもひいたか」
お姉ちゃんは私の額に手を当てた。
かがみ「・・・平熱みたいね、どうしちゃったのよ」
つかさ「おかしいかな」
かがみ「今までそんなの聴いてないじゃない、聴いて分かるの」
つかさ「分かるために買った」
かがみ「はあ?」
私は、音楽室での出来事を話した。夢の事を除いて。

かがみ「どうせつかさの事だからほとんど寝てたんじゃないの、来週の月曜の為に買ったな」
さすがお姉ちゃん、寝てた事も言わなかったのに、見抜かれてしまった。
つかさ「お姉ちゃんは分かるの」
かがみ「私は・・・この手のジャンルは興味がない」
つかさ「後でお姉ちゃんにも聴かせてあげる、特に雨だれはおすすめ、みなみちゃん弾いてて気に入ったから」
かがみ「雨だれね、それは有名だから知ってるわよ、しかしみなみちゃん、ピアノまで弾けるなんて・・・知らなかった」
つかさ「私も知らなかった、それに話していると、やさしい人だってことも分かったし」
かがみ「私はみなみちゃんとそんなに話したことはない、何か近づき難いような気がして」
つかさ「そんな事ないよ」
お姉ちゃんは私をじっと見ている。
かがみ「また先越された・・・」
つかさ「何のこと」
かがみ「あんたの事、そうやって、どんな人でも飛び込んでいける、みゆきやこなたの時もそう・・・」
つかさ「え、?、言ってる意味が分からないよ」
かがみ「なんでもない、それより月曜日、つかさの他に聴きに来る人いるの」
つかさ「分からない、でも、体の調子がよければゆたかちゃんも来るんじゃないかな」
かがみ「私も聴いてみたいわね、みなみちゃんのピアノ」
つかさ「来てくれるなら、みなみちゃんも喜ぶと思うよ」
かがみ「峰岸は問題ない・・・日下部は・・・あいつは部活かな・・・こなたは・・・」
つかさ「お姉ちゃん、ちょっと・・・」
かがみ「どうせなら皆にも聴かせたいじゃない、明日誘ってみるわ」
つかさ「えっと、そんなに大勢だと・・・」
かがみ「何言ってるの、広い音楽室がもったいないじゃない」
つかさ「間違えることもあるかもって」
かがみ「プロじゃあるまいし、そんなこと誰も気にしないわよ」
違うんだよ、お姉ちゃん、でも、本当の事は言えなかった。私に嘘を付いてまで隠していたみなみちゃんが音楽室で練習の本当の目的を。
893 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:15:49.07 ID:FIRHoZs0


 その夜、私は夢を見た。
音楽室で見た夢に出てきた女の子、でも今度は何も欲しがっていない、苦しんでもいない。
ただ微笑んで私を見ていた。ただそれだけ・・・
その夢のおかげで目覚まし時計が鳴る前に自然と目が覚めた。お姉ちゃんより先に起きたのは初めてのような気がした。
そして昨日のお姉ちゃんの会話を思い出す。お姉ちゃん、今日みんなを来週の月曜、音楽室に誘うに違いない。
私は学校に行く準備をした。お姉ちゃんより先に学校に着き、ゆきちゃんに相談がしたかったから。

 いつもより早く学校に着く、教室に入るとゆきちゃんが居た。よかった、居なかったらどうしようかと思った。
つかさ「おはよう、ゆきちゃん」
みゆき「おはようございます、つかささん、今日はかがみさん、泉さんとご一緒ではなかったのですか」
つかさ「今日はちょっと早く来たかったから・・・」
みゆき「どうかしましたか」
私が相談しに来たことを何となく分かったよう。心配そうに私を見ている。
つかさ「実は、みなみちゃんの事・・・来週の月曜、音楽室でピアノ練習するの聴かないかって誘われたのだけど」
みゆき「みなみさん、つかささんを誘ったのですか」
ゆきちゃんは驚いた顔をしている。やっぱりゆきちゃんはみなみちゃんがあがり症だって知っているみたい。
つかさ「その話をお姉ちゃんにしたら、皆を誘って聴きに行くって言って・・・」
みゆき「・・・」
つかさ「みなみちゃんから、ピアノの練習を音楽室でしてる理由を聞いたんだ・・・だからどうしようかなっって・・・」
ゆきちゃんは少しの間黙って考えていた。そして。
みゆき「みなみさんは幼少の頃、ピアノの発表会で大失敗をした事がありまして、それ以来、大勢の前で演奏できなくなりました」
つかさ「いいのゆきちゃん、そんな事話して」
みゆき「構いません、つかささんになら」
つかさ「・・・それなら、まずいよね、大勢でおしかけちゃったら、きっとみなみちゃん演奏できないよね」
ゆきちゃんはまたしばらく考えてから答えた。
みゆき「みなみさんはつかささんを誘った、いい傾向かもしれません、私はこのまま成り行きに任せればいいと思います」
つかさ「ゆきちゃんがそう言うなら・・・」


 話がまとまった時、丁度お姉ちゃんとこなちゃんが教室に入ってきた。
こなた「おはよー、つかさ、みゆきさん」
かがみ「おっす、って、つかさ、先に行くなら一言かけてから行きなさいよ」
つかさ「ごめん・・・」
こなた「かがみと別行動してたから、てっきり喧嘩でもしたのかと思ったよ」
つかさ「そんなんじゃないから、たまにはこんな事もあるよ」
かがみ「それより、みゆきはつかさから聞いたかもしれないけど、来週の月曜、音楽室でみなみちゃんのピアノ演奏するから聴きにいかない」
みゆき「私も聴きに行きたいと思っていました」
こなた「へーみなみちゃん、ピアノなんか弾けるのか、私も行くよ、弾いてもらい曲思いついたし」
かがみ「どうせあんたはアニメの曲でしょ」
こなた「どうせって、そりゃ偏見だよ」
かがみ「それじゃ、どんな曲なのよ」
こなた「・・・その通りです」
かがみ「峰岸と日下部も来るって言ってたわよ」
お姉ちゃん、はりきりすぎだよ、そんなにいっぺんに呼ばなくても。楽しく話す皆をよそに私は心配でしょうがなかった
894 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:16:58.87 ID:FIRHoZs0



 そして、その月曜日が来た。
放課後、私は少し早く教室を出た。音楽室に行く前に寄って行きたい所があった。音楽室の裏の花壇。
二度目に見た夢、あの女の子は微笑んでいた。女の子の草、今頃はあの花壇に植えてあった草と同じように花を咲かせているに違いない。
それを見てみたかった。それと、みなみちゃんに音楽室に来るのは私だけではないと伝えたかった。

 音楽室の裏に着くとみなみちゃんとゆたかちゃんが花壇の前に居た。でも、ゆたかちゃんの様子がおかしい。
私は花壇に近づき二人に話しかけた。
つかさ「みなみちゃん、ゆたかちゃん、どうしたの」
ゆたか「つかさ先輩、みなみちゃんが・・・急に黙り込んじゃって」
みなみちゃんを見ると、私には普通に見える。どこがどう違っているのか分からない。みなみちゃんは花壇を見ている。私はみなみちゃんの目線を追った。
女の子の草を見ている・・・あれ、私は目を疑った。
女の子の草の葉は全て枯れてしまっている。花は咲いていない。つぼみのまま枯れて土に倒れていた。
つかさ「これ・・・確かに水をあげたよね・・・」
ゆたかちゃんも私の視線を追って枯れている草に気付く。
ゆたか「この枯れた草がどうかしたのですか」
みなみちゃんは黙っている。私も言葉を失った。私の見た夢からは想像もできない光景。あの女の子の微笑は何。やっぱり夢は夢なのかな。
つかさ「ゆたかちゃん、この草ね、実は・・・」
みなみ「・・・花壇にも移した・・・それが悪かった」
ゆたかちゃんに説明しようとすると、みなみちゃんが割って入るように話し出した。
みなみ「私がいけなかった・・・私、根を傷つけてしまった・・・私が枯らせてしまった・・・もっと早く気付いていれば」

 みなみちゃんの目から涙が出てきている。そして左手の手を握って力んでいる。草を枯らせたのを自分のせいにして、後悔している。
みなみちゃんはそのまま泣き出してしまった。
ゆたかちゃんはみなみちゃんを見たまま立ち尽くしてしまっている。
私も驚いてしまった。みなみちゃんがそこまであの草を助けようとしてたなんて。
でも、みなみちゃんの悲しみ方・・・草が一本枯れただけなのに激しすぎるような気がした。
私も涙もろいけど一本の草の為に涙は流したことはない。
そう言えば、音楽室で夢の話をした時、私の夢にすごく興味を持っていた。
きっとこれには訳がある。でも話してくれるかな。

つかさ「悲しいことって、人に話すと半分になるって言うよね、ここに二人いるよ、涙の理由は枯れただけじゃないよね」
私はそう問いかけた。
ゆたか「私も知りたい」
ゆたかちゃんはハンカチをみなみちゃんに差し出した。
みなみちゃんは私達をしばらく見てハンカチを受け取った。そして話し出した。淡々と。
895 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:18:01.10 ID:FIRHoZs0



「入学してすぐ私は音楽室のピアノを借りに行った、新学期だったのか三日連続で借りることができた、私は椅子に座った、
鍵盤に手を触れることすらできなかった、三日間、ピアノの音が音楽室からこぼれるのが怖かった、家では家族やみゆきさんの目の前で弾くことができるのに、
三日目の夜、私は夢を見た、音楽室でピアノを弾こうとしていると、少女が私を見ている・・・初めはそれだけの夢だった、
それから一週間ほどして、私は思い切ってピアノを弾いた、弾いた曲は覚えていない、その夜、また少女の夢を見た、今度は私がピアノを弾いている、
少女は喜んでいた・・・
私がピアノを借りる度に、その夜、必ず少女の夢を見るようになった、少女は私の弾く曲を気に入ってくれている、いつしか私は音楽室で平気で曲を弾けるようになった
そして、ゆたかの前ならなんとか、緊張しないでいられるようになった、その頃から少女は次第に雨だれに強い関心があることに気付いた、
それに少女の正体も気になった、私は音楽室の周りを調べた、音楽の先生にも音楽室に関わる話を聞いたりした、でも、分からなかった、
つい最近、夢の中で雨だれを演奏すると、少女はしきりに何かを欲しがる仕草をし始めた、私はそれが知りたかった、助けたかった、私の演奏を聴いてくれたお礼がしたかった」

つかさ「そんな時に、忘れ物を取りに私が音楽室に入って来た・・・そして、女の子の夢を見た話をしたら、みなみちゃん、本当のように信じたのか・・・」
ゆたか「つかさ先輩の見た夢って?」
私はゆたかちゃんに説明した。
ゆたか「この枯れた草が女の子の正体、花壇から漏れて淋しかったんだね、みなみちゃんの演奏を楽しみにしてたんだね」
みなみ「・・・そんな事も知らないで・・・私はもう、演奏できない」
ゆたか「そんな事言わないで、音楽室へ行こう、ね、田村さんとパティちゃんも、音楽室に居るよ、私も今日は調子いいし」
みなみちゃんは動こうとしなかった。
私はどうすることも出来ないのかな、ふとこの前見た夢を思い出す。

つかさ「この前、みなみちゃんの演奏を聴いた夜、女の子の夢を見たよ、みなみちゃんは見なかったの、演奏する日の夜は見るんじゃないの」
みなみ「・・・」
つかさ「見たなら、私に教えてくれるかな」
みなみ「・・・」
つかさ「それじゃ、私の見た夢を教えてあげる、微笑んでたよね、ただそれだけだった、だから私はここに来た、きっと花が咲いているかなって」
みなみ「・・・」
つかさ「みなみちゃんもそれでここに来たんじゃないの、女の子、ちがう、この草、私達をここに呼んだと思わない、きっと見せたかっただよ、花の咲いている自分を」
みなみ「・・・見た、夢・・・同じ夢」
つかさ「きっと、今日、聴きたかったと思うよ、雨だれ、私が演奏できれば聴かせてあげるのに」

 自分の思っていることをみなみちゃんにぶつけてみた。
これでだめなら、もう私に何も出来ることはない。

みなみ「最後に、雨だれ、聞かせたい」

みなみちゃんは音楽室に向かった。
896 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:19:11.25 ID:FIRHoZs0


ゆたか「つかさ先輩、ありがとうございます、みなみちゃん、涙が止まったよ」
つかさ「え、思った事を言っただけだよ、ちょっと演技もはいってるかも」
ゆたか「もう、みなみちゃんの演奏聴かないと思いました、ほんとうに、ありがとうございます」
ちょっと照れてしまった。
ゆたか「でも、なんで枯れちゃったのかな、きっと病気だよね、みなみちゃんが移したせいじゃないよね」
そう私に言うとみなみちゃんを追いかけるように音楽室に向かった。

 私も音楽室に向かった。ゆたかちゃんの言葉が妙に頭の中に残った。
ふと女の子の微笑んだ顔が浮かんだ。
死のうという時、あんな笑顔できるかな、音楽室で見た夢の女の子は水欲しさに苦しそうだった。それなのにあの笑顔・・・まさか・・・
私は花壇に戻った。枯れた草がある。
私は、枯れた葉、茎、つぼみを丁寧に取り払った。すると根っ子の中に緑色の芽を見つけた。

 やっぱり、生きてる。
これだと、来年はちゃんと花を咲かせそう・・・来年は・・・私は見れないな・・・卒業してる。って感傷に浸っていられない。
私は少し怒って草に話した。
つかさ「なんでそんな死んだ真似したの、どうゆうつもりなの、私、みなみちゃんに死んだように言っちゃったよ、悪戯だったら怒るよ」

 音楽室の方からピアノの調べが聞こえてきた。雨だれ・・・
みなみちゃん、演奏してる。そういえば、お姉ちゃん達が聴きに来ていることをみなみちゃんに言っていない。
ゆたかちゃんも田村さん達が来てるって言ってた。それなのに演奏してる・・・大勢の前で。

 草は黙ってピアノを聴いている。これが答えと言っているよう。
自然と涙が出てきた。一本の草の為に私は涙を流した。みなみちゃんは草の為に、草はみなみちゃんの為に・・・。
夢でしか通じ合えないけど、こんな事ってあるんだね。
音楽室に向かおうとしたけど止めた。ここからでも充分にピアノの音は聞こえる。
花壇に腰を下ろした。目を閉じ草と一緒にピアノを聴く。そういえばこの草の名前をまだ知らない。今度ゆきちゃんに聞いてみるかな。
隣りに女の子と一緒に聴いているような、そんな感じになった。

 二階の音楽室から漏れるピアノの音、雨を連想させる。大雨じゃない、しとしとと降っているような感じ。
音楽はまだ聴いていたいと惜しむように静かに終わった。

 音楽室から沢山の拍手の音が聞こえる。人数が多すぎる。通りすがりの人もいるのかな。
私も花壇から立ち上がり拍手をしていた。

897 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/19(土) 17:20:11.34 ID:FIRHoZs0
お粗末でした。

原作6巻でみなみがチェリーの前でピアノを弾いてる挿絵から浮かんだストーリです。
つかさとみなみの組合せは少なかったような気がする。あえて挑戦してみました。
違和感たっぷりかと思いますがご了承ください。
898 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/19(土) 22:47:32.14 ID:ylOeKiI0
おお……つい手持ちの『雨だれ』のMP3を再生してしまいました
派手な曲では全然ないですけど、みなみのイメージにピッタリな憂いのある曲ですよね

コンクール作品、投下行きます
899 :明けない夜が来ることはない :2009/09/19(土) 22:50:44.41 ID:ylOeKiI0
ゆめ[夢]
@睡眠中に,体験しているかのように感じる現象.
|はかないこと.→〜のまた〜
A将来の‐理想(希望)。とりとめのない空想。
(デイリーコンサイス国語辞典より)

 私の夢って何だろう。そんな漠然とした疑問を私が持ち始めたのは、私が彼女たちの夢を初めて聞いた時からだった。


明けない夜が来ることはない


T.

 あれは高校3年生の秋、確か木曜日だったと思う。担任の黒井先生は或るホームルームの時間に、私たち生徒に1枚の紙切れを配った。ツルツルした白いB5のコピー用紙の表題は“進路希望調査票”。その文字を目にした瞬間、私は軽い目眩を覚えた。提出期限は来週火曜日まで。行きたい大学と学部を5つまで書いて提出せよとのことだ。要するに自分の夢(さて、夢とは?)を考えてそれに合った大学を書けということである。
 ホームルームを終えて、私はかがみとつかさ、みゆきさんに尋ねた。
「みんな決まってんの?」
「当たり前だ、一応法学部で進学希望よ」
「私は医学部で進学希望を出しますよ」
「私はちゃんと料理の勉強をしようかなって思ってるんだ」
「はぁ……かがみは弁護士志望かぁ……みゆきさんは医師?つかさは調理師?」

「そうね……私は弁護士かどうかは分からないけど、法曹界に入りたいのは確かよ」
 法曹界か。私はダークグレーのレディースのスーツをビシッと着こなして堂々と法廷に立つキャリアウーマンのかがみを妄想して萌えた。特に意識していたわけでもなかったのに、何故か髪型はツインテールから長い1本のポニーテールに変わっていた。昔はともかく今のかがみは意外とポニーテールの方が似合うと思うのだが、ツインテールの由来を知っているが故にかがみには今まで言い出せずにいる。

「私は外科医になりたいと思っています。昔お世話になった先生がいて、ずっと憧れていましたから」
 なるほど、そういうきっかけがあってみゆきさんは医師を志したわけだ。ブラックジャックみたいな名外科医になるんだろうか、ああもちろん合法の、だが。
 今の世の中、ナース服コスプレなんてのは次元を問わず世間に溢れかえっていると言ってしまって差し支えないだろうが、考えてみたら白衣コスなんてあんまりお目にかかったことがないような気がする。
 確か昨年のことだったが、生物の実験の時間に、制服の上に染み一つない白衣をまとったみゆきさんは、無駄に色彩の強い陵桜学園のセーラー服だけを着ている時よりも博学さに磨きがかかっているように思われた。着る人の職業を記号として表すのが制服だと現代文の授業に出てきたが、むしろみゆきさんの白衣は彼女の魅力を引き出してくれるだろう。

「私は……自分の料理で人を笑顔に出来たらいいなって。美味しそうに料理を食べてくれてる顔を見るだけで、すごく頑張れるんだよ」
 確かに、ゆーちゃんがうちに来てからは一時期より頻度はやや減ったとはいえ、私も日常的に料理をする立場だからその気持ちはよくわかる。
 長いトックブランシェを目深に被り、先ほどのみゆきさん同様に真っ白いエプロンをかけて同じく真っ白い調理服を着こなし厨房に立てば、つかさはもうヨーロッパのどんなコンクールに出ても金賞を取れそうである。美人シェフとしてテレビで取り上げられたら、私たち3人が友人代表として絶対出演してやるんだ。かわいらしい実力派料理人と、やり手の弁護士と、評判のいい名医と、あと、何だろう。

 私は将来、一体何になっているのだろうか。考えたこともなかった。前に見たアニメに、文化祭の前日が繰り返されるとか、夏休みの2週間を延々とループし続けるといったシナリオがあったけれど、私もまた同じように高校生活が永遠に続いていくものだと、根拠もなく思い込んでいたのである。
 それではピーターパン・シンドロームそのものではないか。自分はいつまでも大人にならない少年のようにモラトリアムな時間を過ごし続けることで未来を回避したいという幼稚な考えに浸かって生きてきたのだと、みんなの夢を聞いた私は悟ったのであった。

私の夢って何だろう。そんな漠然とした疑問を私が持ち始めたのは、私が彼女たちの夢を初めて聞いた時からだった。


 返す言葉も立場もなかった私がそれから彼女たちと何を話して、何を思いながら家に帰ったのか、私はもう覚えていない。
900 :明けない夜が来ることはない :2009/09/19(土) 22:52:11.33 ID:ylOeKiI0
U.

 夢とは一体何で、一体どうやって決めるのか。そんなことを明確に知っている人はいるのだろうか。今思えば黒井先生に聞けば良かったのかもしれないが、でもやっぱり「適当に決めた」だの「気がついたら教師になってた」だの、いい加減なことを言われそうな気がする。そう考えれば私の判断――お父さんに進路についての相談を持ちかけるという選択は至極真っ当で、それは他の家の常識がまず通用しない泉家においても例外ではなかったらしい。少なくとも私はそう考えたいと思う。
 その日、晩ご飯を食べ終わった私は、さも何事もなく平然とした様子を装ってお父さんに話しかけた。
「お父さんってさ」
「ん?」
「進路どうやって決めたの?」
「進路なぁ……迷ってるのか?」
「うん、何やったらいいか分かんないんだよね……」
 せっかくお父さんにバレないように表情も声色も入念に取り繕って話しかけたつもりだったというのに、あっさり見抜かれてしまったらしい。このお父さんには何もかもお見通しなのだろうかと思うことがたまにある。
「ん、まあそんなこったろうと思ったよ。お父さんも別に大したことなかったしさ」
「そうなの?」
「ああ、一応志望校決めたのは今のこなたよりは早かったけど……まあ、でも大した差はないかな。ちょうど高3の夏休みだったと思うけど」
「お父さんも早く決めるように発破かけられたわけ?」
「いや、明確に決めるように促されたことはないけど……ちょっと進路決めるきっかけがあったんだよ」
「へぇ……きっかけ、ねぇ」
 私には未だにそのきっかけが訪れていないのだが。
「ああ、その時の担任の先生がな、平塚先生って国語の先生だったんだけど……ヨイショするつもりはないけど、素晴らしい先生だった。ただのいい加減な性格の俺に、文学の何たるかを懇々と語り聞かせてくれたよ。普通の先生なら嫌になって俺のことなんか放っておくもんなんだけどさ。
 まだ大衆文学しか知らなかった俺に、本当の、本物の文学とは何なのかを教えてくれたんだ。何時間も、何日もかけてな。仕事だってあっただろうし、俺にだって本当は勉強しろって言わなきゃいけない立場だったのにさ。
 だからさ、夏休みが終わった時に自然に決心したよ。俺はこの平塚先生みたいに、本当の文学の面白さや素晴らしさをより多くの人に伝えたいってな。だから、絶対に国語教師になって、生徒たちにあの頃の自分と同じ素晴らしい体験をさせてやりたいと思った」
「それで小説書き始めたわけ?」
「まさか。そんなすぐに小説が書けたら、みんな小説家になってるよ。前にも言わなかったかな……お父さん、昔教師を志してたって。高校生になっても文学なんて全然分からない自分に後悔したりもしてさ、子供たちにはもっと幼いうちから質の高い文章に触れて欲しいと思ったから、小学校の国語の先生になろうって」
901 :明けない夜が来ることはない :2009/09/19(土) 22:54:45.59 ID:ylOeKiI0
「でも結局教師にはならなかったじゃん。それはなんで?」
「そりゃあ、今の仕事やってるからだけども……大学入ってから、目の色が変わったように色々読んだよ。愛とは何なのか、人間は何のために生きるのか、その答えが知りたかったから教養過程で哲学も勉強したし。スタンダールの『赤と黒』で人間の欲望について考えたり、ドストエフスキーの『罪と罰』みたいな歪んだ思想も目にすることになった。後々にうっかり大賞取ってプロになってから原稿落としそうになった頃は、サン=テグジュペリの『夜間飛行』でプロの厳しさを学んだ。日本の小説だったら……夏目漱石は入門者向けの『吾輩は猫である』は大爆発したし『坊っちゃん』も楽しかったけど、『こころ』は高校の授業はもちろん大学生になっても何度読んだってわかったような気がしないし。『明暗』は未完だったのに、今の恋愛小説より遥かに味わい深くて素晴らしい小説だと思った。芥川龍之介には世の中の虚しさや人間の醜さを教わったし太宰治には……」
「お、お父さん?」
 正直、今の作家の半分以上は全然分からない人たちだった。アニメのキャラクターの方がたくさん覚えていそうな気もするが、お父さんはそっち方面だってちゃんと覚えているから恐れ入る。
「ああ、ごめん、久々につい熱くなったなぁ……要するに、文学と言えば純文学のことだった時代があったってことを知ったんだよ。今はもっとくだらないのも素晴らしいのも、いろんな本が出てるけどさ。
 でもそんな世の中だと、なかなか面白いと思う小説には出会えないから、ここらで一念発起して自分が素晴らしいと思える小説を書いてみよう!って思ったんだよな。それで、ついでに応募してみたらアッサリ大賞。もちろん運もあったんだろうけどさ。
 とにかく、プロにならないかって言われて、俺もけっこう迷ったよ。でも後先考えない身の振り方はできないから、教員免許取るまで待ってもらって、それからデビュー。
 だから、実はお父さんは別に昔の目標通りの人生を生きてるわけじゃないさ。そんなのは何かの拍子に変わってしまうことだってあるからな。でも何も目標がなかったら、どっちに向いて歩けばいいかも分からんだろう?そうじゃなくて、途中で方向転換するにしても、やっぱり自分が今どこを向いて歩くかくらいは決めとかなきゃいけないってこと。別にきっかけは何だっていいんだよ。
 例えば、こなたはなんで今文系に進んだ?」
「うーん、かがみ達が文系行くって決めたから私も、って感じかな」
「まあ、そんなもんだよな。お父さんだって数学VCと物理の授業が嫌で文系にしたんだぞ?あとかなたについて行ったっていうのもあるけど」
「ウソぉ?そんな適当に決めてたの?」
「ああ、本当だよ。文系って意外とそうやって理系から逃げてくる人は今でもいるだろ?」
 それはみさきちのことを言っているのだろうか。いや一般論だよね、と私は思い直した。
「ま、お父さんだってあんまり偉そうなこと言えるクチじゃないけど、とりあえず今現在どこに向いて進みたいかってことは決めとかなきゃならんしなあ。あ、そうだ」
「ん、なに?」
 お父さんは急に話を変えた。私もそれを追う。
「例えば今のアニメって、アニメの放送だけじゃなくてCDとかグッズとかフィギュアとかとんでもない数が出てるだろ?俺たちはそれに見境もなく投資してるわけだけど」
「うん、確かに色々とお金使ってはいるよね」
「そのお金、一体どこに行ってしまったか知りたいと思わないか?どうやって俺たちオタクから儲けを出してるのか、どんな商品がどれくらい売れたらどれくらいの利益が出るのか」
「おおっ!!それは投資家として是非とも知りたい!」
 言われてみれば何も知らないまま大金をつぎ込むのはあまりに惜しい!これは勉強すべきかもしれない。
「だろう?じゃあ、どんな商品を出してどんな風に宣伝すればファンの心を掴めるかも勉強してみたいか?」
「どうやったら大ヒット商品が企画できるかとか?」
「そうそう、近いな。俺たちオタクがどんな手段で騙されてるか、楽しませてもらってるか、全部分かるぞ」
 これは面白そうかもしれない。何も考えずに闇雲に投資するよりも遥かに。
「じゃあ経済学部か経営学部かな。そこら辺をお勧めしとくよ」
「そっか、ありがとね」
「いやいや、まあ、たまには親らしいところも見せとかなきゃな。いつまでもこなたに娘離れ出来てなーい!なんて言われちゃたまらないからさ」
 ニヤッと笑いながらそう言うお父さんの顔を、私は直視することが出来なかった。少しだけ、お父さんを見直したかもしれない。
902 :明けない夜が来ることはない :2009/09/19(土) 22:55:46.50 ID:ylOeKiI0
V.

 ほんの僅かな自分の未来像が見えてきた。普通に考えればお父さんの話は説得力に欠ける話だったのに、不思議と自分の中に一筋の光が差し込んだような気がした。

「ゆーちゃーん、今ちょっといいかな?」
「ん、いいよっ」
 私はもう1人の家族であるゆーちゃんに、恥を忍んで話を聞いてみることにした。自分より年下でまだ1年生のゆーちゃんが私より先に志望校を決めていたりしたらもっと落ち込むかもしれないけれど、ここはもう腹をくくることにしよう。
「ゆーちゃんはもう志望校とか決めた?」
「いやいや、実は全然考えてないんだ。まだ高校入って半年しか経ってないし、今から大学受験のことばっかり考えてるのも面白くないし……でも今のところ文学部に惹かれてるかなぁ。どうしたの?」
「いやあ、今すっごく進路に迷っててさ。自分が何やったらいいのか、まだ全然分かんないんだよね」
 言った自分が思うのも何だが、えらく大層な物言いである。
「ゆーちゃん確か絵本作家になりたいんだったっけ?」
「うん、そうだよー。こないだ田村さんに初めて絵本作ってもらったのもお姉ちゃん見てくれたよね」
「うん、氷姫の本だよね。ゆーちゃんとみなみちゃんがモデルになってるやつ」
「そ、そんなんじゃないってば!」
 ゆーちゃんが顔を真っ赤にして反論してきた。あんまりからかうと肝心なことが聞けなくなりそうな気がしたから、私は一言お詫びを入れてから、ゆーちゃんの夢についての話を聞くことにした。

 絵本作家っていうか、今から考えれば童話作家っていった方が正しいかな、と前置きして、ゆーちゃんはゆっくりと話し始めた。
「私たちが小さい頃にさ、石川の実家の方に『しょうぼうじどうしゃじぷた』って絵本があったの覚えてる?」
「えーと、オンボロのジープが火事の時に活躍する話だっけ?」
「そうそう。普段は小さなじぷたよりも他の最新型の消防車や救急車ばっかり注目されてるのに、山火事になったら誰も火を消せなくって。でも狭い山道を駆け上がれるじぷたは大きな山火事を消して人々を救うことが出来た、っていうお話なんだけどね」
「あったねぇ。昔ゆーちゃんあの本大好きだったの覚えてるよ」
「うん、今でも好きだよ。もっと大きくなって分かったんだけど、私、小さくて非力なじぷたと自分を重ね合わせてたみたいで。誰にだって得意なことや人より優れてるところがあって、それを磨けばみんなの役に立てるんだって、ずっと信じてた。
 だからかな、じぷたのことを思い出すと、身体が弱くてみんなと同じことが出来ない自分のコンプレックスが少し和らぐような気がしたんだよね。絵本のおかげで励まされたっていうか、助けられたっていうのかな。自信がついたよ」
「そうなんだ……」
「だから私は、まあ、絵本で子供たちを救うなんて御大層なことは言わないけど、でも絵本を通じて少しでも子供たちの力になれたらいいな、って思ってる」
 そう答えるゆーちゃんの大きくてくりくりとした碧[みどり]色の瞳は、大きな自信に満ち溢れていて、私はそのまぶしさに目がくらんだ。思わず部屋の奥に視線を外すと、勉強机の片隅には、普通あまり女の子が好みそうにないジープのモデルカーが置かれていた。

 私が、これといって特別なことが出来るわけでもない私が、生まれて初めて守りたいと思った存在だったゆーちゃん。いつの間にか、彼女は自分だけの夢をしっかりと見据えることが出来るようになっていたらしい。まだ将来の夢さえも満足に決められないような私よりも遥かに先を行っているじゃないか。
 ゆーちゃんが大きく成長したことが私は嬉しかったけれど、ただ喜んでいるばかりではない愚かな自分に気付いて私はものすごく気分が悪くなった。こんなことを考えている場合ではないのに。

 私は、参考になったよ、とゆーちゃんにお礼を言って自室に戻った。案の定、というべきか、さっきよりも心なしか身体が重かった。
903 :明けない夜が来ることはない :2009/09/19(土) 22:56:46.61 ID:ylOeKiI0
W.

 自分の部屋のベッドに寝転がって、私は壁掛け時計を上下逆さまに見た。4時35分?いや、10時過ぎといったところか。木曜日の10時台なんて見る番組なかったよなあ、と私はつぶやいた。このままで居ると風呂にも入らずに寝てしまいそうだったので、私は勢い良くベッドから跳ね起きた。
 スクールバックの中のクリアファイルから件[くだん]の“進路希望調査票”を取り出して勉強机の真ん中に置き、私はこないだ買ったLAMYの黄色いシャーペンを片手に(アニメのキャラクターが使っていて人気が出た奴だ)、そいつとにらめっこしてみる。
 こいつはきっと、向き合う相手によって態度を豹変させるのだろう。かがみ達のような確固とした希望・願望のある人間に対してはまるでその意思表明をさせてくれるかのように振る舞うくせに、私みたいな曖昧な人間にの前は徹底して立ちはだかろうとする。
 一応ある程度の社会保障があるとはいえ、世の中というの本当にはよく出来ている。時代が変わって新しい職種が登場しても所詮はノーミル・ノーミール、すなわち働かざる者食うべからず、なのである。そりゃあ株やら何やらで儲けている人もいるけれど、それにしたって元金つまり資本金が何百万もいるわけだし、勉強もしなきゃいけない。しかもリスクの方が大きいうえに日常生活でも株価が気になって仕方がないというのなら、株で食べていくというのも実は精神的に大変なのかもしれないと思う。
 宝くじに当たりたい、と以前みさきちは言っていたが、3億円もの大金を手に入れてしまったらみさきちでなくとも正気を保てなくなる自信はある。以前そんなドラマもあったが……とにもかくにも、不健全な方法でお金を稼ごうという心構えそのものがいけない。真剣に考えねば、と私は再びこの厄介な対戦相手に向き直った。
 私のやりたいことは何なのかというよりも、私が自分自身をどうやって活かせるかを考えないといけない。自分のやりたいことが世の中に仕事として用意されていると思うな、とよく言われるように。
 だからこそ私は迷っているのだ。自分の長所というものが分かっていない。そういうところは自己PRの苦手な古典的な日本人そのものだな、と思った。

 私は自分の部屋にある電話の子機を手にとって、使い慣れて覚えてしまった番号にダイヤルした。まだ夜も遅くないから、怒られはしないと思うけど。
『もしもし?』
「ああ、かがみ?遅くにごめん、今大丈夫?」
『大丈夫よ。どうしたの?珍しいじゃない、こなたからかけてくるなんて』
「いや、進路希望に迷っててさぁ、何書けばいいか分かんないんだよね」
『やっぱりか……アンタのことだから、何書くんだって思ってはいたけど』
「うん……みゆきさんは聖人君子すぎて逆に何か諭されそうだし、つかさはあんなんだし」
『アンタ、せめて建て前でもマシなこと言いなさいよね。まあいいわ、どうしたのよ。洗いざらい話してみなさい』
「いや、自分のやりたいことがまだ見つからない以上、自分の何を活かして職に出来るかなぁなんて考えてたんだけどさぁ、どうも見当たらなくて」
『なんだ、もっと酷いかと思ったらもうそこまで到達してたのね』
「え?」
『もっと根本的なところから説教しなきゃなんないかと思ってたけど、そこまで来たんならもうほとんどゴールよ』
「え?なんで?」
『じゃあ聞くけど、社会経験がロクにない私達が今すぐに何かの職に就けると思う?』
「いや、思わないけど……」
『でしょ?それでいいのよ、高校生なんて書籍そんなもんなんだから。何を伸ばせばいいか分かんないっていうんならね、逆に選択肢を広げるために大学を目指すっていうのはどう?』
「選択肢を広げる?」
『そうよ。“選ばれなかったなら選びに行け”なんて本末転倒な妄想を押し付ける気はないけどね、就職試験や面接で何度も合格すれば、それだけ未来だって選べるんだし。選ばれるに相応しい大学に入って、選ばれるに相応しい人間になるために自分を磨く。それがこなたが大学でやるべきことだと思うわ』
「自分を磨く、かぁ……」
『そう。難しく考えなくてもいいのよ。私も力になるから、まずは自分が一番見聞を広げられそうで、あと就職の行き先が一番バリエーション豊富な学校と学部、考えときなさい』
「うん、分かった。こないだもらってきたパンフレットいくつか見てみるよ」
『じゃあ、また明日ね。予習もちゃんとやっときなさいよ。じゃあお休みね』
「うん、わざわざありがとね。お休み」
 向こうが何も言い残していないことを確認して、私は電話を切った。そうか、選択肢か。ならば私の知っている限りでは……。
904 :明けない夜が来ることはない :2009/09/19(土) 22:57:37.71 ID:ylOeKiI0
 私は進路希望調査票にシャーペンで薄く大学名と学部名を書いてみた。明確な志望校を決めかねているからこそたくさんもらってきた大学のパンフレットをもう一度読み直してみた。この学部なら私の選択肢がぐんと広がると思った学部をいくつも下書きして、私は進路希望調査票を再びクリアファイルに挟んで片付けた。

 人生の中でいつ変わるともしれない“未来”について決めるなんて、馬鹿馬鹿しいことだとは分かっている。でもこの世の道理に昏い人間は、一応にしても目の前を照らしてくれる物がないといけないのだと倫理の時間に言われた。仏教の考え方らしいが。
 今の私が何になりたいか、何をしたいかが分かっていない以上、いざ行動を起こしたくなった時に学歴も知識もないのではこの社会では使い物にならない。人から選ばれ期待されないようでは夢もへったくれもないし、夢で飯なんて食えやしない。かがみが言いたかった真意は正直分からないけれど、私は勝手にそう解釈してしまうことにした。

 そうだ。人生はいくらだって変えられるし、何かを始めるのに遅すぎるなんてことはあんまりない。でもあまりに回り道ばかりしているわけにもいかないのだ。やり直しの効く人生だからこそ、出来ればやり直さず後悔もせずに生きよう。そう思えば自然とラクな気持ちになってきた。少なくとも私に限って言えば、一直線に決められたレールを歩くだけが人生ではないのだ。
 うん、これでいい。私は浮気症で、一つの目標を目指してまっすぐ生きることはまだできないけれど、だからこそ私は誰かに選ばれ求められたらそれにいつだって応えられるような人間にならなきゃいけない。大学とは本来自分を磨き上げて有能な人物にしてやるべく通うところで、、就職で高学歴を得るためだけに行く場所ではないのだ。
 自分を磨く。スポーツ漫画やバトル漫画に出てきそうなよくあるそのフレーズと未来の私自身に、私は何故か期待感を隠せないでいた。


 窓の外では、夏の終わりを告げる鈴虫が鳴いて、自分たちがその手で掴み取る未来に向けての、長い戦いの始まりを知らせている。
905 :明けない夜が来ることはない あとがき :2009/09/19(土) 22:59:48.18 ID:ylOeKiI0
以上です。
あとがきは3行で書いた方がいいっぽいので3行で。

今回お題が抽象的だったせいか周りのレベルが高すぎて吹いた
たまに参加するコンクールでも自分のこの堅すぎる文体は相変わらずでございます
ひょっとしてお前○○の作者じゃね?とか思っていただければ幸いです。
906 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/19(土) 23:21:02.44 ID:5igeiYSO
>>905

堅いけど読みにくくはないと思う
そうじろうが無駄にかっこよくてフイタw
個人的には、アニメでそうじろうが何かの賞に落選してた描写があったから、かなり苦労したイメージがあるなあ
907 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 15:32:43.11 ID:OfvUWt60
>>905
ひょっとして第九回の大賞の人じゃね?

それが合ってるかどうかはともかくとして、久々にレベル高いのが来たな。
こういうのがあるとまだこのスレも終わりじゃないなと思える。
そして自分の文章力の低さにへこむww
908 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 16:02:01.31 ID:BmK64jE0
>>905
 書き慣れていますね、語彙も凄いような気がする。自分なんかちょっとした単語でも
辞書で調べてしまうありさま。
そして思った。音楽ネタはその曲をしらないと物語として理解が半減してしまうことを。
コンクールには不向きだった。905さんの書き出しの感想を見てそう感じてしまった。
内容も子供じみているし・・・まだまだですね。

909 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 16:50:14.57 ID:AcC/eYAO
>>908

すげぇ挑発ww
と言いながら俺は>>905さんの作品をまだ読んでないけどww
今から読ませていただきます^^;
910 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 16:58:40.92 ID:OfvUWt60
>>909
908のは自分の作品について言ってるんだろう。
911 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/20(日) 17:08:40.89 ID:BmK64jE0
>>909-910
そうです自分の作品の反省をしていました。
書き方がまずかった。すみませんでした。
912 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 18:07:06.98 ID:AcC/eYAO
>>910
>>911

ごめん、ちゃんと読んでればこんな勘違いはしなかったf^_^;

すまん
913 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 18:11:50.37 ID:MVn/OwAO
今回のコンクールももあと6時間を切ったわけですが

例によって最後、ラッシュが来てくれるのかな
914 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 18:22:16.23 ID:OfvUWt60
とりあえず2桁は行ってほしいな
欲を言うと12作は欲しい
915 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 23:13:18.65 ID:yoPgHF6o
コンクール参加作品、投下行きます
916 :いつまでも 1/5 :2009/09/20(日) 23:14:24.51 ID:yoPgHF6o
 熱い。
 真っ白な光の中、こなたは思った。
 お腹が熱い、腕も熱く感じる。それに体が軋む。
 ゆっくりと目蓋を開けると、そこには眩しいばかりの太陽があった。
 自分が何をしているのか、わからなかった。昼寝でもしていたのだろうか?
 そうか、この熱さは太陽に当たっていたせいで、体が軋むのは、そんな場所で寝ていたから。
 そう納得し、こなたは地面に手をついた。ぬるりとした感触がしたが、気にかけず起き上がる。
 その、目の前に広がっていたのは、あまりにも、凄惨な光景だった。
 思わず口元を押さえる。
 しかし、せり上がる吐き気をとめる事はできず、嘔吐する。
 ビチャビチャと音を立て、吐き出されるそれは赤く染まっていた。
 視界を彩る赤。
 こなたの居るそこは、血の海になっていた。
「かがみ……つかさ? みゆきさ……んぁ……うあああぁぁぁあああああああ!」



「ああぁぁぁぁああああああ!」
 午前4時、こなたは叫び声を上げながら飛び起きた。
「はぁ……はぁ……」
 ドタドタと廊下を走る音がする。
「こなた!」
「お、おはよー、お父さん」
「お姉ちゃん……?」
「ゆーちゃんもおはよう」
 扉をぶち破って――と言わんばかりの勢いで入って来たのは、そうじろうとゆたかだった。
「何かあったのか?」
「あーいや、ちょっとひどい夢見たから」
「大丈夫? お姉ちゃん」
「うん、大丈夫。ごめんね、起こしちゃって」
「そうか、ならいいんだが……」
 ぎこちない笑顔を作りながら、二人が出て行くのを待つ。
 扉が閉まったところで、こなたは顔を手で覆った。
「ふぅ……」
 大きくため息をつく、と覆った手から嫌な感触がした。
 ぬるりとした、それは……。
「よだれ」
 こなたは再び大きなため息をつき、よだれを腕でぬぐう。
「起きよ……」
 とても二度寝する気にはなれず、ベッドを出た。
917 :いつまでも 2/5 :2009/09/20(日) 23:15:23.98 ID:yoPgHF6o


「おーすこなた。ってまた徹夜か」
「こなちゃんおはよう〜」
 かがみとつかさは、目の前をフラフラしながら歩いているこなたに声をかけた。
「おはぁよぉ〜」
「今度はなに、ネトゲ? アニメ?」
「どっちも違うよぉ」
 かがみは少し考え、言った。
「勉強……なわけないわよね。あんたが勉強で徹夜とか天変地異クラスだしね」
「ねぇねぇ、お宅のお姉様ひどくない?」
「えっと……あはは」
 むぅ、と頬を膨らましながらこなたは答えた。
「残念ながらハズレ。そもそも徹夜じゃないしね〜」
「へぇ、じゃあ何よ?」
「まぁ、ひどい夢見ちゃってねー二度寝したくもなかったからさ」
「あーっ、わかるよ! 怖い夢とか見ちゃうと、また寝るの嫌だよね……」
「あのねぇ、あんたじゃあるまいし、こいつが」
 言いかけたところで、こなたが目を逸らしていることに気づく。
「……」
「なに図星? ほー……あんたが怖がる夢ってのは興味あるわね。あとで教えなさいよ」
「やめた方がいいと思うよ?」
「余計気になるわよ。昼休みにでもじっくり聞かせてもらうわ」
「えー……」
 嫌がるこなたを尻目に、かがみはスタスタと歩いていった。


 そして昼休み。
 いつものようにお弁当を携え、かがみがやってきた。
「ずっとこの調子なの?」
 かがみは、こなたの頬を突きながら言った。
 当のこなたは、両手を広げて机にもたれかかり、ぐでっとしている。
「うん、ずっとだよ〜」
 と、そこで、一人の男子生徒がかがみにぶつかる。ボトン、と何かが床に落ちる音がした。
「あ、わり」
「ちょっと、気をつけなさいよ」
 そう言って、かがみは床に落ちた自分の……頭を持ち上げる。
 言葉を失い、こなたは頭があったであろう場所を見る。そこには何もなく、赤黒い血があふれていた。
「うわぁ!」
 こなたは勢いよく立ち上がり、しりもちをつく。
918 :いつまでも 3/5 :2009/09/20(日) 23:16:36.14 ID:yoPgHF6o
「ちょっと、人の顔見て悲鳴上げるって、失礼にもほどがあるわよ」
「えっ」
 声を聞き、再び見ると特に変わりのない、かがみの姿があった。
 かがみが持ち上げ、男子生徒に渡したそれは、ただのボールだった。
「なんだ、ボールじゃん」
「他になにに見えるのよ?」
「いや、かがみの頭に」
「は?」
「うおー……夢のせいで……」
 頭を抱えるこなたを見て、三人は首をかしげる。
「こなちゃん、夢って朝いってた?」
「うん、まぁ」
「どういうことよ?」
「えっと、なんのお話でしょうか……?」
「先、お昼食べよ。それから話すよ」
 気分のいい話じゃないしね。と付け加えられ、かがみたちはとりあえず同意し、昼食をはじめた。
 その間、話のつかめないみゆきに長くもない事情を説明する。
「それで、授業中も眠そうだったんですね」
「そうなんだよー」
「まぁあんたの場合、そんなのなくても居眠りしてるわよね」
「防御不可なんだよ睡魔ってやつぁ」
「はいはい」
「みゆきさんは寝るの11時だっけ」
「ええ」
「早いよねー」
「日にもよるけど……つかさ9時よ」
「え!?」
「い、今は10時とかだよ! 変かなぁ?」
「健康的で良いのではないかと……」
「人生損してる気がしてとても真似できない」
「あんたの生き方も大概だけどな」
「う……」
 そうこう話している内に、昼食を終える。
 お弁当箱を片付け、さて、とかがみは言った。
「聞かせてもらいましょうか?」
「うん」
 そして、こなたは話す。夢で見たことを。


 とある交差点。自分の座り込むそこは文字通りの血の海。
 目の前に転がる、誰かの体。
 人の形を保ってはいるものの、それはあまりにもひどい有様だった。
 腕は曲がり、足は潰れ、血にまみれている。
 自分もまた、血を吐き、腕が裂け、動くことも出来ない。
 激しい痛みと生暖かい感触は、まだこなたに残っていた。

919 :いつまでも 4/5 :2009/09/20(日) 23:17:29.56 ID:yoPgHF6o
「……かがみなんて、首チョンパだよ」
「それでさっきのかよ……」
「確かに、ひどい夢ですね……」
 かがみもみゆきも、さきほどの元気がなくなり、つかさに到っては涙目になっている。
「私たち、死んじゃうの?」
「いや、まぁただの夢だしね……」
「夢って、自分の願望とかが反映されるんだっけ? みゆき」
「はい、全てがそうだと言うわけではありませんが……」
「私の首飛ぶとか、なんかそういう殺人願望みたいなの、あるんじゃないでしょうね」
「いやいや、ないから。大体事故だし、私も死にかけだし」
 二人の話す横で、みゆきは考える。
「あの、少しよろしいですか?」
「うん? なにみゆきさん」
 みゆきは軽く頷き、言った。
「夢の詳細はともかく、それは泉さんの願望と言いますか、不安に関係してるのではないかと」
「不安?」
「死とはつまり別れを意味します。ですから、それに対する不安では……その、卒業も近いですから」
「卒業……」
「そうだったわね……」
「もう、半年ぐらいしかないんだね」
 窓の外を見て、少しの間、感傷に浸る。
「……だから、そんな夢を見てしまったのではないでしょうか」
「そうかな……うん、そうかもしれないね」
「みんな離れ離れになっちゃうんだね」
「そうですね……でも、大丈夫だと思います」
 そう言い切ったみゆきに、三人の視線があつまった。
「私たちも、子供ではありませんし。会いたくなったら会いにいけます。思い出も消えません。
だから、大丈夫です。たとえ、どんなに離れていても、心はいつまでも一緒だと信じています」
 その真っ直ぐな目には、本当にそう信じて疑わないと言う、光があった。
「みゆきさん……」
「ゆきちゃん……」
「そうね。みゆきの言うとおりだわ。海外だろうとどこだろうと、会いに行けばいいのよ」
「うん! 私絶対行くよ!」
「電話とかメールとか、簡単に連絡できるしね」
「あんたはまず携帯を持ち歩くことから始めなさいね」
「うぐぅ」
「ふふふ」
 教室の中、四人で笑いあう。
 いつまでも一緒に。愛する友人たちと共に。
 

920 :いつまでも 5/5 :2009/09/20(日) 23:18:53.48 ID:yoPgHF6o
 白い部屋、白いベッドの上に、こなたが眠っている。
 ベッドの隣には美しい花が飾られていた。
「お姉ちゃん、笑ってますね」
「ああ、楽しい夢でも見てるんだろう」
 微笑むこなたを見ながら、そうじろうは言った。
「ゆーちゃん、いつもお見舞いありがとうな」
「いえ……」
「学年も変わって色々大変だろう」
「大丈夫です。私が来たいので」
「そうか。でも、無理はしちゃだめだぞ。こなたもそれを望まないだろうし、たぶんもう……こなたが戻ってくることは無いだろう」
「おじさん……」
「幸せな夢の世界に、いつまでも……」




【事故報告書】

200X年○月○日
管内交差点にて、交通事故発生。
死傷者は5名。
トラック運転手1名、女子高生3名が死亡。
女子高生1名が病院に搬送され意識不明の重体。
921 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 23:20:16.88 ID:yoPgHF6o
以上です。
こういう結末、内容のSSは初めてでしたが、なんとか出来ました。
もっと伸ばすと言うか、書き込みたかったのですがなかなか難しいですね。
読んでくださった方、ありがとうございました!

言い忘れましたが、グロ表現有りなのでご注意を
922 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 23:30:31.94 ID:fVlTQh60
 夢。考えた事もなかったなぁ。
 一人、自室で進路希望調査票と睨めっこしていた私は、そんな事を呟いていた。
 はぁ、どうにも困ったね。小学校か何かの卒業文集で獣医とか書いてた記憶はあるけれど、
 それはアニメに影響されただけであって、私の考えた進路じゃないし。
 かがみは法学、つかさは料理関係、みゆきさんは医学部……。
 じゃあ君は、と聞かれると何も答えられらないのが辛いよ。
 
 私の夢って、何だろう。

 

 自分の夢を考えていて寝るのが遅くなった、なんて言っても誰も信じないんだろうね。
 事実なんだけど……。ま、そんな事は言いたくないからとりあえず心にしまっておこう。
 とにかく、一時限目の授業を受けている今の私は、睡魔と死闘を繰り広げているところ。
 パンチパンチ、キックキック。ノックアウトー。うん、ダメだこりゃ。今の私では睡魔には以下略って事で、寝る事にする。
 おやすみ……。
923 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 23:32:31.55 ID:fVlTQh60
『起きて下さい。もうお昼休みも終わりますよ?』
 
 誰かが、私の体を揺すっている。……誰の声だろう? 私は、重たい頭をゆっくりと起こした。
「あ、起きましたか?」
 霞む視界を直すため、目を擦る。目のピントは合ってきた。が。
(誰なのかがさっぱり分からない……)
 私の目の前に居る女の先生は白衣を着ていて、メガネをかけていて、黒髪で、長髪で――
 うん、ますます誰なのかが分からない。
「ほら、次は先生の授業ですよ? 生徒の皆を待たせる訳にはいきませんから、ほら早く」
 見知らぬ人に手をとられて、ぐいぐいと引き戸の所まで連れて行かれた。
 というか、ここはどこなんだろう? 
 デスクが並んでいて、それぞれ、デスクの上には書類とかマグカップとかが置かれている。
 見たところ、ウチの学校の職員室なんだけど……。そんな事を考えている内に、私は数学の教科書とかを持って、職員室前の廊下に立たされていた。
 やれやれ、と見渡したその廊下も、見てみればやっぱりウチの学園の廊下。見慣れた景色なのに、不思議だ。
 そして不思議と言えば、床を見下ろしてみるとすごく高いところに居る錯覚を覚え、
 右腕を伸ばしてみると自分の体格では届かないはずの壁掛け時計に手が届いた。何これ? チート?
 自分の姿を鏡を見てみると、自分ではない人間がそこに映っていた。
 驚いた私は、鏡に近寄った。見れば見るほど、自分じゃない。
 幼女体型だった私の身長もパッと見ただけでも二メートルくらいあって、バストもびっくりするくらい豊満になっていた。
 これは……。
「夢だね。きっと。あー、馬鹿馬鹿しい。私ってばこんな事考えてたの? 貧乳の希少価値を理解しきれてないのかなぁ」
 とりあえず、夢と断言しておく事にする。あー、でもどうして夢の中に居るフワフワ感が無いのかな?
 なんというか、こう、今のこの状況が現実味を帯びているというか。


 とりあえず、折角だからこの夢が覚めるまで楽しんでみようかな。
 どこへ行こう。さっきの人が言ってたのは、『先生の授業ですよ』というもの。
 つまり、私はどこかへ行って授業をしなきゃいけないみたいなんだけど――
「お?」
 ふと、脳回路を展開させると、自分の行くべき場所が分かった。
 二年の教室……かな? 私の二年の頃の教室みたい。懐かしい。
 で、今私の手には、先程の見知らぬ人によって数学の教科書が持たされている……。数学なんか教えなきゃなの?
 まぁ、流石夢というべきだね。自分の行くべき場所が分かるなんて、都合が良いよ。
「じゃ、授業に行ってみよっと」
 私は二年の教室がある方へと歩を進めた。

924 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 23:34:20.22 ID:fVlTQh60
 そして教室の扉の前。うーん、感慨深い気がしないでもない。
 教室の中からはワイワイガヤガヤ、と生徒の賑やかな声が聞こえてくる。
 時間を見れば、五時限目が開始して五分程度過ぎている。
「入ってみるか……。ま、夢だし? なるようになるよ」
 念の為扉をノックした。さっきまでの生徒の声が一気に静まった。うーん、何これ楽しい。
 ちょっと上機嫌気味に教室に入った。
「やっふー。皆、来たよー」
 で、私の目の前には生徒達が見える訳だけど皆凍てつく視線でこちらを見てる……。
 はっ。これがヒャ○ルコなのか? じゃなくて。
「あはは。五時限目だし、お昼食べた後で皆眠いかな?」
 生徒の視線は変わりなく、冷たい物だった。
 あ、でも――
「じゃ、今日はテキスト九十九ページから」
 やっぱり都合の良い夢だ。開くべきテキストのページも分かるし、教科書に書いてる数学の公式とかは霞がかかってて見えない。
 因みに、黒板に書いてる文字も毛虫がのたくったような物。にも関わらず、授業は普通に進んでゆく。
「えーと、ここの公式は解体新書が伊能忠敬によって生類憐みの令でハエとアリが第二次世界大戦を始めて――」
 いやいやいや。流石に私でもわかる位の間違いっぷりなんだけど。
 ……。ま、夢だしいっか。
925 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 23:35:40.96 ID:fVlTQh60
 そして授業が終わった。どうやらこの日は五時限で放課らしく、ショートホームを適当に終えてから生徒達は帰って行った。
 で、私は職員室に帰ってきて、デスクに座って、ちょっと思考回路を作動させていた。
(何か妙だなぁ……)
 何が、と言えば。大分時間が経った気がするのに、未だに夢から覚めない事だった。
 普段ならもうゆーちゃんかお父さんが起こしに来るくらい夢の中での時間を過ごしていると思ったんだけどな。
 そんな事を考えると、くるくるくるーっと、ペンを回して遊んでいると、引き戸が引かれる音がした。
 入り口の方に目をやると、
「お……父さん?」
 紛れも無い、お父さん――泉そうじろうが立っていた。な、なんだってー!
「は? 泉先生、寝惚けていらっしゃいますね? 私は校長ですよ」
「あ、あーっ、あははは……」
 とりあえず苦笑いで流した。うん、これくらいのミスならあるよね、って何故そこだけ都合が悪いんだ夢よ。
 とにかく、この夢じゃお父さんが校長なのか。んー、何か釈然としないけどまぁいいや。
「そ、それで校長。何故ここに……?」
「な、何故って。職員が職員室に居ては可笑しいですか?」
「え、あ、いや」
 ……ダメだ。夢の中だからって何でも都合良く行くと思うなよ! って誰かに言われているようだよ……。 
「ええ、まぁ。誰にでもそのようなミスはありますよ……」
「え?」
 お父さ――コホン。校長は、少し寂しげな表情をしていた。
「私もね、昔はミスも多くて。テストとかで、解答欄を間違えて違う問題の回答をしてたり」
「は、はぁ」
「花瓶を割っちゃったり」
「……」
「ま、色々としたものでした。そんなだから、成績も悪くって」
 へーそーなのかーとしか返答しようが無いのはどうしたらいいんだろう……。
「泉先生は、学生時代に夢という物を考えた事がありますか?」
「い、いや……考えられなくて困ってたといいますか」
 思わず夢の人物にまともに返答してしまった。唐突だね、校長先生。
「そうですか。私もですよ……。夢って、漠然としていて、そして難しいですよね」
「そ、そうですね」
「ですが、私は思うんです」
 校長は、一拍間を置いてから言った。
「人間、夢を追いかけている時ほど……。美しい時は無い、ってね」



「どう?」
 陵桜学園、同窓会。私が教師になったと言ったらかがみんが激しく驚いたから、きっかけ的な話をしたんだけど……。
「意味分かんないわよ……」
 うん、正直私も分からない。

 結論:「夢って意味不明」
926 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 23:37:44.98 ID:fVlTQh60
低レベル承知ですがコンクールに投下させて頂きます。
タイトルを書き忘れてしまいました、申し訳ありません……。

タイトル「夢と言う奴は」
927 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/21(月) 00:00:45.70 ID:7PdIhAAO
>>921
高度な叙述トリック?
いや、こなた視点とゆーちゃん達視点が違っただけなのか?それともこれを叙述トリックと言うのか……。
最後の一気にストーリーの見え方が変わった時はかなり衝撃的で、強く印象に残るSSでした。

>>926
えらく真面目になってしまったこなたも、それはそれでありですよね〜。
しかも数学とは。こなたには明らかに向いてなさそうなのに。
そのうち黒井先生とペアになって、職員室でモンハンとかやってそうですよねww

お二人とも乙でした!
928 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/21(月) 01:26:17.92 ID:07ceCwAO
宣言される方が居ないようなので、軽くさせてもらいます

本日0時を持ちまして、第16回らき☆すたSSコンクールの投稿期間を終了いたします。
参加くださった皆様、ありがとうございました。お疲れ様です!
929 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/21(月) 07:44:23.39 ID:7PdIhAAO
>>928
930 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 08:17:41.20 ID:uAR0NHo0
ひより「……暇いなあ

     ……とりあえずニコ動コースだねこれ」

カチカチッ

ひより「ランキング、と……」

カチッ

ひより「……ん? なんだろこの動画」

カチッ


『 らき☆すたSSスレ 第十六回コンクールレビュー!! 』

ひより「うおぉ! ビビったー! 音量デカいってこれ……
     あーそっかレビューかーそういやそんな時期だっけ……

     ……おぇ!?」

みなみ『こんにちは、コンクールレビューの時間です。進行は私岩崎みなみと……』
ゆたか『小早川ゆたかでお送りします!』

ひより「え? うそうそ!? この二人!? マジッスかー丁度また見たかったんスよ! いいッスねー……」

みなみ『それで、今回は視聴者サービス、ということで』

ひより「お?」

みなみ『全裸になってお送りしたいと……』

ひより「うへえええぇぇぇ!? え、マジマジ? マジッスか? えーそれすげー! うほっうほほー……」

ゆたか『それじゃ、みなみちゃん、せーので……』

ひより「……おほぉー、来い来い! 早く脱い……」

みなみ『……田村さん?』
931 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 08:19:00.81 ID:uAR0NHo0
ひより「ほぇ?」
ゆたか『あの……そんなに喜ばれても』
ひより「あ、それはゴメンッス……」
みなみ『なんていうか……やっぱちょっと、そういう目で見られると……引く……』
ひより「あ、いや、えっと……」
    (え? やばいよね? ちょ、ちょっとタンマ! なんか急に修羅場ってんスけど!
      こんままじゃ今後二人と気まずくなるって!! えーとどうにかフォローしないとフォロー……あああ言い訳が何も思いつか)


ガバッ


ひより「…………あ」

ひより「なんだーもう夢かー……
     それもそうだねーレビューがニコ動に上がるわけないし大体モニターの中の二人と会話できるわけないし……」

ひより「それ以前に今回はこの作者からレビュー来ないはずなんだよなー作品も出してないしメンドいとか言ってたし……」

ひより「……四時かあ」

ひより「やることないしまた寝るかー……」
932 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 09:02:58.02 ID:7iFj84U0
>>931
作品を出していないからレビュー出来ないってことはないよ。
逆に客観的になれるんじゃないかな。
期待してます。
933 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 09:16:33.07 ID:uAR0NHo0
>>932
悪いがそうじゃなくて単純にメンドいんだわ……よっぽどのことがあって気が変わったりしない限り俺からは無いと思ってくれ。スマンorz
934 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 10:36:11.12 ID:6/oPmASO
かがみ「はい、コンクールお疲れ様」
こなた「おつかれー」
かがみ「どうなるかと思ったけど、結構バリエーションなったわね」
こなた「そだね。夢オチ、予知夢、夢枕、将来の夢とか」
かがみ「作品数は十一ね」
こなた「…うん…十一…」
かがみ「…こなた?」
こなた「夢で…十一…うぅ…」
かがみ「え、な、泣いて!?…ちょっと、こなたどうしたの!?」
こなた「うわぁぁぁん!…かがみぃぃぃ!」
かがみ「ええええっ!?な、なんで!?と、とりあえずこなた、落ち着いて?ね?」
こなた「うぇぇぇん!」
かがみ「だ、大丈夫だから。何にも怖くないから…もー、どうなってるのよこれ…わたしも泣きたくなってきたわよー」
935 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 11:40:29.98 ID:uAR0NHo0
>>934
どういうこっちゃ?
936 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/21(月) 11:47:41.90 ID:7PdIhAAO
>>933

レビュー書いたらゆーちゃんを脱がせるってみなみが言ってました
937 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/21(月) 18:23:42.81 ID:7iFj84U0
>>935
おそらく十二作品に届かなかったから泣いた?
にしてはおかしいねw
続きを待とうw
938 :934 [saga]:2009/09/21(月) 19:35:56.47 ID:6/oPmASO
すまん
実は何の意味もないんだ
939 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/21(月) 22:34:20.52 ID:QGtsLkSO
「星」「夢」と来たら次は……「泉」
940 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/21(月) 22:52:24.03 ID:7PdIhAAO
>>939

ピンク玉か
泉ってこなたじゃん
941 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/21(月) 22:58:58.26 ID:vHfmZ7Mo
ならその次はかがみの迷宮か?
942 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/21(月) 23:49:37.14 ID:nBqQrMDO
>>905
転職を考えてる俺に何かを教えてくれたSSだったよ
ありがとう
943 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/22(火) 00:00:09.12 ID:KfT4qsDO
>>921
ハッピーエンドかと思ったのに期待を裏切られた
面白かったよ!
944 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/22(火) 01:32:54.44 ID:0gZ1Cko0
>>932
気が乗らないのであればしかたがないですね。
ただ自分の作品を批評してもいたかった。
14、15回の時のレビューは大変参考になりましたよ。(同じ人かどうかは分かりませんが)
945 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/22(火) 02:10:17.76 ID:uRF2rME0
コンクール参加した方々乙かれさまでした
気付いたらいつの間にか終わってたー
ポケモンやりすぎたわー
しかし今回もハイレベルな作品が集まりましたね
もはやコンクール恒例となってるが、いつになく投票迷いそうだ
946 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/22(火) 06:38:35.50 ID:6kFZk66o
第16回らき☆すたSSコンクール投票所

締め切りは9月28日、24時までになります
http://vote3.ziyu.net/html/lkst1vi.html
947 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/22(火) 07:31:35.28 ID:0gZ1Cko0
>>944
>>932と書いたけど>>933の間違えでした。
948 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/22(火) 22:28:06.08 ID:ScWavUSO
まつりの場合


いのり「まつり。つかさの服、返してあげたの?」
まつり「えっ?…あー、まだだったかな…」
いのり「つかさの服でハァハァするのはいいけど、ちゃんと返してあげなさいよ?」
まつり「へーい」
かがみ(…そんな風に使われてたのか)



いのりの場合


いのり「かがみ。この服いる?」
かがみ「うん。いらないなら貰うけど」

いのり「かがみ。これは?」
かがみ「うん。後で見るから置いといて」

いのり「かがみ。これなんか…」
かがみ(…まさか、自分の服でわたしにハァハァして欲しいんじゃないだろうな)
949 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/22(火) 22:37:02.70 ID:BR4vcgAO
>>948

妹でハァハァすんなww
950 :第十六回コンクール 〜作品紹介(ネタバレなし)〜 [saga]:2009/09/23(水) 01:43:25.70 ID:5geojnA0
コンクール作品の紹介を書いてみた。
基本的には、よく文庫本の裏に書かれてるような程度の、簡単で核心部分に触れない程度のもの。
なので、基本的にはほとんど「ネタバレ」は無い。

まだ投票してない人には、ちょっとした復習に……。

投票するつもりは無いし全部を読むのはキツイ、
でも面白そうだからどれか読んでみたいなと言う人には、作品の品定めに……。

そんな感じで書いてみた。よろ
951 :第十六回コンクール 〜作品紹介(ネタバレなし)〜 [saga]:2009/09/23(水) 01:44:19.69 ID:5geojnA0
エントリーNo.01:ID:XgIU.Qk0氏:かなちまった夢?

かがみが昔、文集に書いた総理大臣になりたいと言う夢が、本当に「かなっちまった」と言うストーリー。
かがみ首相の他にも、みゆきやこなたもまさかの夢がかなっちまった模様。
割と現実的でリアリティある話の割に、雰囲気はほのぼのとしていて和むのが特徴。


エントリーNo.02:ID:Ar4ap4ko氏:Daydreamer

オタクな「誰か」のオタクなストーリー。
本家らき☆すたのまだ発売されていない7巻に当たる、新たなストーリーから抽出された物語。
6巻までしか読んでいない人には少々意地悪になっているが、ますます7巻に興味が沸いてきてしまう。


エントリーNo.03:ID:N9wzUkE0氏:うたたねの間に

集めたら願いが叶うと言うスーパーボールを手に入れたみゆきは、こなたたちともっと早くに出会いたかったと願う。
目が覚めると、自分は一年生として陵桜学園に入学することになっていた。
みゆきは自分の理想のためにまた一から友人集めをする事にするが、なかなか思い通りにはいかず……。
SFの王道であるタイムスリップを主題にした、ちょっとしんみりとするストーリー。


エントリーNo.04:ID:OwsB7s60氏:寝てろっ!

こなたが不眠症になってしまい、心配するかがみはなんとかこなたを寝かしつけようと悪戦苦闘。
かがみは「安楽眠士」を呼ぶことにするが、そこからストーリーは暴走を始める。
途中からあまりのカオスのため、人生ってなんだろうと考えさせられるコメディ作品。
952 :第十六回コンクール 〜作品紹介(ネタバレなし)〜 [saga]:2009/09/23(水) 01:45:37.88 ID:5geojnA0
>>951

エントリーNo.05:ID:s/k5O.k0氏:夢の未来へ

ゆたかはある日、直ぐ先の未来を夢で見るようになった。
この力でみなみの危険を守る事が出来るようになり、困惑しつつも喜ぶゆたか。
しかし、どうしてもみなみを救えない事態にゆたかは苦悩し、そして衝撃的な結末へ……。
エントリーNo.03の作品とは、タイムスリップと言う点で似ていながらも、性格がまったく正反対のストーリー。


エントリーNo.06:ID:wL/OkIM0氏:あなたが欲しい

お盆、こなたの気まぐれな提案で肝試しをする事になるが、一方でつかさは、受験勉強の忙しさからかがみと疎遠になる事を心配していた。
そんな折、肝試しの最中にかがみとつかさはひょんな事から眠ってしまう。
かがみが気がつくと、そこはいつもどおりの学校の風景で……。
たまに笑いがあるが、基本的には夢と現実がわからなくなるような怖い小説。


エントリーNo.07:ID:Mxn4OPo0氏:伝えたいこと

ある日、そうじろうが女性の夢を見るようになり、次第にこなたやゆたかも同じような夢を見るようになる。
こなたはその事をかがみたちに話すと、みんなで泉家で眠ればなにか起きるかも知れないと言う提案から、みんなでお泊り会に。
そして明かされる夢の意味とは?女性の正体は誰なのか?
話の本筋よりも、こなたたちの会話で楽しめてしまうラフな作品。


エントリーNo.08:ID:FIRHoZs0氏:雨だれ

忘れ物を取りに音楽室に入ったつかさは、「雨だれ」を弾くみなみに会う。
それを聞きながら眠ってしまったつかさは、夢の中で謎の少女と出会い、みなみもまたその少女を夢で見た事があると言う。
少女の正体と、その思惑を探りながら、みなみはピアノを引き続けた。
途中の意外な展開から、ストーリーは切なく心に染み渡るような小説に。
953 :第十六回コンクール 〜作品紹介(ネタバレなし)〜 [saga]:2009/09/23(水) 01:46:35.83 ID:5geojnA0
>>952

エントリーNo.09:ID:ylOeKiI0氏:明けない夜が来ることはない

“進路希望調査票”を提出ことになり、特に将来の夢を考えていなかったこなたは何を書くべきか悩む。
そうじろうやゆたかなどの身近な人間から夢とは何なのかを学び、漠然とした夢の本質を掴もうとする。
最終的に、こなたは調査票に何を書き込んだのか?
所々に実際に存在する書籍について触れており、作者の博識さがうかがえる作品。


エントリーNo.10:ID:yoPgHF6o氏:いつまでも

こなたはある日、ひどい悪夢を見て目を覚ます。
かがみたちに、それについて相談を持ちかける事で不安を拭い去るこなた。
待ち受けている、衝撃的な真実を知らずに……。
前半のストーリーを逆転させてしまうような、とてもインパクトのあるラストが待ち受ける小説。


エントリーNo.11:ID:fVlTQh60氏:夢と言う奴は

進路希望調査票を提出することになったこなただが、何を書けばいいかわからず眠ってしまう。
なんと夢のなかではこなたは数学の先生になっていた。
どうせ夢の中、せっかくだからと授業を教えているうちに……?
まったく危機感もやる気も無いこなたの姿を見て、読者も和んでしまう作品。
954 :第十六回コンクール 〜作品紹介(ネタバレなし)〜 [saga]:2009/09/23(水) 01:48:25.93 ID:5geojnA0
以上、全11作品の紹介でした。

こういうの初めてだけど、意外と楽しいなw
でも作品の評価は俺には出来ん!
レビューはよろしく!!
955 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/23(水) 02:05:23.33 ID:JgSphVco
いやいやこれはこれで結構アリだと思うぞ

956 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/23(水) 02:49:33.02 ID:ZE8/pNM0
>>954
GJ!これは新しいww
957 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 07:33:53.11 ID:f7wUf0A0
>>954
GJ! です。
自分の作品はレスすら立たなかったので・・・涙がでてきてしまった。
ありがとう。
958 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 09:35:36.13 ID:PCE0cr.0
作品紹介してもらうってすげー嬉しいことなんだろうなあ。
今回参加しなかったのちょっと後悔した。
>>954乙!
959 :オードリーがらき☆すたに出演したようです。 [saga]:2009/09/23(水) 17:01:45.56 ID:u53zkK60
今日は陵桜学園の学園祭当日。校内はとても賑わっている。
なんてったって今日の学園祭のメインイベントはオードリーのお笑いライブだからです。
そんな中、このこなた、かがみ、つかさ、みゆきの4人は特にオードリーの話で盛り上がってる。

「楽しみだよー!なったってオードリーのライブだからね。」
「つかさったら、まぁウチは一家がオードリー大好きだからね。」
「ウチの母も結構お笑いを見ているので、母の影響で好きになりました。」
「もう少しでオードリーのライブ始まるよ。みんな早く行かないと。」

4人は体育館の中に入ると、既に中は生徒達でいっぱいだ。
「もうすぐオードリーのライブが始まります。皆さん精一杯笑ってください。」
アナウンスの声が終わると同時にステージにオードリーが登場した。
それと同時に生徒達や先生達の歓声が響き渡る。

「オードリーといいます。今日もこの陵桜学園で漫才がんばっていこうと思いますけどもね。」
「陵桜学園の皆さん、本物の春日ですよ。」
「偽者が見てみたいですけどね。」
「へっ!」

「やっぱオードリーってこのやりとりが最高だねー。」
「当然よ。それがオードリーのネタなんだから。」
「コンビ愛を感じられますね。」
「やっぱオードリーって最高だよー。」
真ん中の列に座っている4人は楽しそうに会話している。
960 :オードリーがらき☆すたに出演したようです。 [saga]:2009/09/23(水) 17:02:42.65 ID:u53zkK60
「最近ね、街なんか歩いているとデートしてみたいと思ったんですよ。」
「そんな訳ねぇだろ!」
「なんで今突っ込まれたか分かんないんですけど、「うぃ。」あのデートしても相手いないとダメですからね。
若手芸人モテない人お金ないですからね。」
「確かにお前はモテないわな。」
「いや、お前もモテないだろ。馬鹿、お前。」
「おい俺をみくびるんじゃないよ。」
「じゃあお前デートしてくれる可愛い女の子とかこの中にいるのかよ。」
「いるといったら嘘になるな。」
「じゃあいねーじゃねぇか。」

春日がこの台詞を言った瞬間つかさは何故か驚いた。
「えっ!春日さんって私達の年代の人に興味ないのかな。」
「確かに春日さんは私達の年代の女子に興味ないね。
だって春日さんは熟女好きだし。」
こなたのこの言葉にかがみが突っ込む。
「なんでアンタがそれを知ってんのよ。」
「いやー、たまたまテレビで知ったし。」

「なんで泳がしたんだよ俺の事。」
「うぃ」
「デートなんですけどやっぱ待ち合わせ早いほうがいいですね。」
「同意見だよ!」
「じゃあなんで叩かれたのか分かんないけど。」
「うぃ」
「まぁ僕の場合待ち合わせは昼の11時位に渋谷の駅でね。」
「朝5時にしろよ!」
「早すぎるだろ。」
「5時は早いだろお前、豆腐屋さんじゃないんだから。」

オードリーのズレ漫才に観客は爆笑に包まれている。
もちろんこの4人も。
「オードリーのズレ漫才はいつ見ても面白いわねー。」
「そうですね。もう笑いすぎて顔が疲れてしまいました。」
「私も、さっきから顔の筋肉が疲れてきて。」
「私はお腹が痛いほど笑っちゃったよー。」

「ハハハ確かにそうだ。」
「手繋いで街を歩いて・・・」
「お前豆腐屋さんだと・・・」
「もう終わってんだよ!俺突っ込んだだろ。」
「それでですね手を繋いで街を歩いてですね。」
「キスをしろよ!」
「まだ早ぇーだろ! 会っていきなりキスしねーだろ!
なんださっきからよー。俺の事嫌ってんのか。」
「お前本気でそれ言ってんのか。」
「本気で言ってたら。お前とコンビ組んだりしねーよ。」
「ヘヘヘヘヘヘヘヘへ。」
2人の笑いとともにオードリーのライブが終わる。
そしてこの後はオードリが生徒達や先生方に握手をして帰っていった。
これで陵桜学園の学園祭は幕を閉じたのであった。
961 :オードリーがらき☆すたに出演したようです。 [saga]:2009/09/23(水) 17:07:28.69 ID:u53zkK60
以上です。
この手のSSは初めてです。
962 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/23(水) 18:58:12.65 ID:f7wUf0A0
>>961
GJ
オードリを持ってくるとは。
963 :あい [saga]:2009/09/23(水) 19:03:00.68 ID:PCE0cr.0
9月。
大学は夏休み真っ只中、バイトも休みでとにかく暇を持て余していた私は、唐突に思い立って小説を書くことにした。
別に職業が遺伝したとか書きたい物語があったとかいうわけではない。
ただ何となく、左手が文章を紡ぎ出したそうにしていたからだ。

そういうわけで、私は机に向かった。
机にあるのは紙とシャープペンシル。
ではない。
パソコンの筐体である。
私はその電源ボタンを押し、パソコンが起動の準備をしている間に、お題を考えた。
真っ先に頭に浮かんだのは「愛」。
なぜこんな綺麗な言葉が、汚れたオタクな私に思いつけたかはわからない。
しかしまあ、他に湧き出てくる言葉もないので、「愛」をテーマに話を書くことにした。

……いや、待った。
やはり、これでは面白くない。
どうせなら、もう少し広げてみよう。
「愛」から何か連想を──

思いつく限りの言葉を、キーボードの傍に置いてあったメモ用紙に書き並べてみる。
結果、おおよそ「あい」から始まる言葉がリストアップされた。
同時に、ちょうどパソコンがマウス操作を受け付けるようになったので、アプリケーションであるメモ帳を開く。
よし、やってみるかと意気込み、私は頭をうんと捻らせて、考えつくままに文章を書き下ろした。



 「アイス食べたいー!」
 私がとある街道に陣取っていると、一人の小さな女の子が父親と思しき人物に向かって泣き叫んでいた。
 父親は困りながら言った。
 「愛、我慢しなさい」
 「やだ!食べたい!食べたあい!」
 少女は譲らない。父親は頭を掻いている。すると、そのそばを自転車に乗ったおじいさんが歌いながら通りがかった。
 「アイアイ、アイアイ、おさーるさーんだよー」
 少女はおじいさんに興味を持ったのかしばらく目を向けていた。が、おじいさんが遠くに行ってしまうと再びせびりだした。
 「愛、アイス食べたいー!」
 父親は首をもたげてため息をついた。相当困っている様子である。と、今度はアメリカ人のカップルがいちゃつきながら通り過ぎた。
 「I love you.」
 「I love you, too.」
 少女はまたカップルを興味津津に見つめた。しかし、やはりというか、二者が通り過ぎると父親に向かって叫び出した。
 「アイス食べたいー!」
 父親はまたまた困った。すると今度は志村○んが妙ちきりんなポーズをしながら通り過ぎた。
 「あいーん、あいーん」
 少女はまたも興味ありげにそれを見つめるが通り過ぎると以下略。
 「アイス食べたいー!」
 父親はやはりのやはり困っていた。
 私はとうとうその様子を見兼ね、親子に近寄ると、こう言った。
 「アイスクリームはいかがですか?」
964 :あい [saga]:2009/09/23(水) 19:04:05.78 ID:PCE0cr.0
一応オチまでを書き上げたところで、私はんん、と背伸びをした。
これで完成としてもまあ悪くはない、そう思う。
しかし、まだ問題が残っていた。

キーワードを使いきれていないのだ。

はて困った。
文章が完結している以上、新たな展開を付け加えると蛇足になる。
とはいえ、使った言葉と使わなかった言葉があるのはフェアの精神に反する気がする。
私はまた頭をひねった。
数分悩み通した末、最終的にディスクに保存された文章はこうなった。



 「アイス食べたい愛・地球博!」
 私がとある街道に陣取っていると、あいやー、一人の小さな女の子が父親と思しき人物に向かって泣き叫んでいた。
 父親はアイアイサー困りながら言った。
 「愛、我慢しなさいIBMのために」
 「やだ!食べたい!食べたi pod nano!」
 少女は譲らない。父親は頭を掻いているというか愛撫している。すると、そのそばを自転車に乗ってアイマスクしたおじいさんが歌いながら通りがかった。
 「アイアイ、アイアイ、おさーるさーんだよー アイドルマスター」
 少女はおじいさんに興味を持ったのかしばらく目を向けていたよアイスクライマー。が、おじいさんが遠くに行ってしまうと再びせびりだした。
 「愛、アイス食べたいー!」
 父親は合気道をしながら首をもたげてため息をついた。相当困っている様子である。と、今度はアメリカ人のカップルがいちゃつきながら通り過ぎた。アイクは俺の嫁。
 「あいつこそがテニスの王子様I love you.」
 「I love you, too.」
 少女はまたカップルを興味津津に見つめたIT企業。しかし、やはりというか、二者が通り過ぎると父親に向かって叫び出した。
 「アイス食べたいー! 挨拶代わりだ」
 父親はまたまた困った。すると今度は志村○んがアイロンで妙ちきりんなポーズをしながら通り過ぎた。
 「あいーん、あいーん」
 IDが神の少女はまたも興味ありげにそれを見つめるが通り過ぎると以下略。
 「アイス食べたいー!」
 アイバーの父親はやはりのやはり困っていた。
 私はとうとうその様子を見兼ね、親子に近寄ると、こう言った。
 「アイスクリームはいかがですか? 必ず最後に愛は勝つ」
965 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/23(水) 19:05:20.28 ID:PCE0cr.0
以上

テンションのままに書いてみたがどうだろうこれは。
966 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/23(水) 20:49:36.37 ID:.noRNIAO
>>961
なんとなくカオスww

>>965
こっちもカオスww
アイアム、アイルランド人。あんた愛してる
967 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/23(水) 20:50:55.55 ID:Tn.dO.6o
>965
書いた本人そのものなんじゃないのかい、このこなたはw
968 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/24(木) 01:13:44.75 ID:s8v5QwSO
>>965
今本物のカオスを見たwwwwww
こなたなら書きかねないww
969 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 07:56:39.36 ID:FMIfBYwo
みさお「うぅ……」
こなた「どしたの」
みさお「昨日カツカレー食べたんだけどさぁー、口に入れたカツが熱い上に筋がなかなか切れなくて、口の中やけどしちゃってなー」
こなた「あー、まあ不可抗力かもしれないけどねー」
みさお「今も熱いもの食べたらヒリヒリするヴぁ……」
こなた「口内炎もそうだけど、みさきちってつくづく口の安全に縁がないねぇ」
970 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 08:56:12.74 ID:BvvrpRw0
>>969
口の中になんかできるのはつらいよな。
現在口内炎二つできてる。・・・栄養補助のサプリ飲んでるのに・・・
971 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/24(木) 16:19:05.50 ID:QzoEhoAO
>>969
いやいや「ヴァ」の使い方おかしいだろwwww
972 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 20:22:46.96 ID:aB7sxBo0
4月、大学生となったみさおは陸上部に入った
陸上部員は各学年に10人程度
初めて開かれたコンパにはみさおを含めた33人が参加した
みさおはこのとき、ある男性と知り合う
彼の苗字は「ヴぁ」
ヴぁはいわゆる草食系男子、筋トレによって磨かれた豪傑な肉体に似合わずはにかみ屋
そんな彼をみさおは日々気にするようになる

そして9月
大会の終わる頃みさおはヴぁを呼び出し告白した
「好きだってヴぁ」
ヴぁは驚いて、照れながらしばし考え、そしてOKした
二人は付き合いだした

さらにみさおの積極的なリードにより二人は学生ながら結婚
こうしてみさおの苗字は変わり
「ヴぁ みさお」の名が戸籍に登録されたのであった
973 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/24(木) 21:13:21.94 ID:QzoEhoAO
>>972
いやいやいや、どんだけ「ヴァ」に取り付かれてんだよwwww
974 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 22:24:54.53 ID:FMIfBYwo
ヴぁ「さ、3秒ルール、3ヴョウルール……」
かがみ「……」
ヴぁ「5秒以内なら菌がつかないんだってみさお」
かがみ「お前は何を言ってるんだ」
975 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/24(木) 23:09:47.73 ID:aB7sxBo0
>>974
バルサ「あははつかさミコ酢ー」
976 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/24(木) 23:12:37.69 ID:WsGHEpA0
ヴぁ ってそういや原作のみさおは一回も言ったことないよね
つかさのバルサミコ酢も然り、
声優の影響って思った以上にあるんだね
977 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/24(木) 23:25:10.08 ID:aB7sxBo0
バルサミコ酢の方はアニメの影響っていうべきかな。あんま大きな差はないけど。
アニメの影響といえばオープニングで踊ってる10人のメンツの印象が強くてこうとかやまととか原作読むまで誰か分からなかった。ついでにパティがはじめ番外編にしか出てないのも意外だった。
978 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/25(金) 01:20:23.66 ID:Bkop7cE0
>>975
コロネ「ねえバルサ、チョコこなたって何処から食べる?」
979 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/25(金) 06:50:23.66 ID:juikyUAO
>>977
バルサミコ酢はアニメの台本にはなかった。
声優のアドリブ、気まぐれが発端だぞ。
980 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 06:59:59.40 ID:VcNXh3so
現在、避難所の雑談スレでこのSSスレをパー速からアニキャラ総合へ引っ越しする旨の議論が交わされています
仮に引っ越す場合…というか向こうでは引っ越す方向で決定していますが、このスレが埋まると同時に移動すべきという意見が挙がっています
賛成・反対意見などありましたらぜひお願いします

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/auto/5330/1224217558/

気がついたら980…埋まる前に話がまとまるのかしら
981 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/25(金) 09:59:59.00 ID:pGg4Mic0
>>979
うおそりゃ知らなかった。
982 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/25(金) 13:38:52.53 ID:PiEhBXk0
原作は文字通りゆるゆる4コマって感じでパロもそんなにない
アニメは原作と比べるとブッ飛んでるイメージだな
SS書くときはどっちかというとアニメ基準で書いてる
983 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/25(金) 17:28:13.39 ID:juikyUAO
>>982
あ〜、俺は原作基準だな。
みさおにヴぁと言わせたことがない。
と言うか、DVDとかないからアニメ放送後は手元の原作しか資料がない。
酢ネタは何度か使ったがなww
984 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/25(金) 22:23:38.75 ID:pGg4Mic0
それはこなたが初めて柊家を訪れた時だった
こなたはつかさに案内され一階のある部屋の扉を開ける
すると中では一人の女性が床に正座し何かを懸命に祈っていた

「ん? あれお姉さんかな?」
「うん、名前がいのりっていうから祈ってるんだよ」
「へえ」

扉を閉め、次の部屋へ移ると、これまた女性がわっしょい、わっしょいと言いながら動き回っていた

「あれもお姉さん?」
「うん、まつりお姉ちゃんっていう名前だからお祭りやってるの」
「へえ」

扉を閉め、階段を上がり、次の部屋の扉を開けると、今度は一人の女性が座り込んでいた

「やっぱお姉さんなんだ?」
「うん、かがみお姉ちゃん。だから屈んでるんだ」
「へえ」

部屋を去ると、二人は最後の部屋の扉を開けた

「ここが私の部屋」
「つかさは何かすんの?」
「何もしないよ」
「え?」
「私はこの家の主だから。司ってるの」
「へえ」

そう言ってつかさはベッドに腰を下ろした
頭のリボンはゆんゆん、ゆんゆんと微かにうごめいていた
985 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 01:15:08.97 ID:yCVEnws0
----------------------------------------------------------------------------
ここまでまとめた
986 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 08:53:03.34 ID:oGyaUYE0
>>984
つかさの説明に納得するこなた。
笑ってしまった。
987 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 09:42:18.77 ID:snsECQDO
目からビーム!
988 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 10:28:23.77 ID:0OAKMtM0
>>985
激しく乙!
989 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 12:03:46.17 ID:YL5OlREo
かがみ「また随分とアレな下敷き使ってるわね」
こなた「さすがにウチの中だけだけどね。今月のコンプの付録なんだ」
かがみ「それにしても、こういうプラスチック製の下敷きを見てると小学校のころを思い出すわね」
こなた「ほーらかがみ、ばよんばよーん」
かがみ「やったやった。やりすぎて真っ二つに割れちゃったりね」パキン!

こなた「……」
かがみ「……ご愁傷様」
990 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 12:09:40.20 ID:0OAKMtM0
>>989
ご愁傷様じゃねえよww
991 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 13:09:43.22 ID:snsECQDO
そうだそうだ
992 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 15:12:31.94 ID:oGyaUYE0
ファミリーマートで買い物したら
らき☆すたのフィギアが置いてあった。かなり目立つ。
何気につかさが一番気に入ってしまった。
今までフィギアなんて欲しいとは思わなかったんだけどね。
993 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 15:31:21.25 ID:0o8FwESO
>>992
ちょっとファミマ行ってくる
994 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/26(土) 19:53:09.39 ID:DMN8t6SO
ファミマって事はもしかして1番クジじゃないか?もう出てたのか
995 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/26(土) 20:49:40.83 ID:oGyaUYE0
>>994
その通り、 2回引いてGとF・・・
くじ運ない・・・
996 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/27(日) 04:34:48.11 ID:.x4nMio0
>>984
そしておかあさんは、神の御前でお酒を飲んでるのですね、名前的に考えて。
997 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/27(日) 10:58:00.37 ID:1jwso8A0
>>995
Gのゆーちゃんだけ欲しいが確立ぱねぇ・・・しかも1回800円とかww
998 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/27(日) 12:39:29.60 ID:IqMUaXU0
>>995です
そのGがゆーちゃんだった。
Gの中では一番いいかもね、シークレットがあるみだいだが
999 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/27(日) 15:08:15.04 ID:o.QV8dU0
かがみ「1000なら私とこなたは結婚する」
1000 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/27(日) 17:17:19.78 ID:kUmbEZso
1000なら次スレはみなみSS大量投下
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