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【妖怪と人間】ここだけ妖怪世界part9新規歓迎】 -
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1 :
:2011/10/12(水) 23:49:16.50 ID:of16Dhbq0
科学の発展と共に忘れ去られた同胞達よ!
妖怪、変化、退魔の狩人
人の間に暮らす者、人知れぬ山奥に隠れし者
人を喰らいて生きる者、彼らより人を護る者、そして、人と共に歩む者
草木も眠る丑三つ時、忍ぶ人目もありゃしない
今宵こそ、失われた力を思う存分振るうがいい!
避難所(雑談、設定投下などはこちら)
ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/10398/
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>>980
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1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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【怪獣8号】ミナ「日比野カフカ今日は奢りだ!好きなだけ食え!」 @ 2025/08/02(土) 00:14:58.07 ID:l6LpFqfaO
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すいか 67.1 立ててみるテスト @ 2025/08/01(金) 14:24:40.59 ID:GCnrlbTY0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1754025880/
もう8月ですね... @ 2025/08/01(金) 06:51:37.98 ID:tUwLog300
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【デレマス】橘ありす「花にかける呪い」 @ 2025/07/31(木) 00:03:20.38 ID:DoK8Vme/0
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【学マス】広「笑って」 @ 2025/07/30(水) 20:41:14.60 ID:VXbP41xf0
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パンサラッサ「安価とコンマで伝説の超海洋を目指すぞぉ!!」 @ 2025/07/29(火) 21:13:39.04 ID:guetNOR20
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753791218/
落花生アンチスレ @ 2025/07/29(火) 09:14:59.83 ID:pn6APdZEO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1753748099/
ライナー「何で俺だけ・・・」 @ 2025/07/28(月) 23:19:56.58 ID:euCXqZsgO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753712396/
2 :
黒蔵
[sage]:2011/10/15(土) 22:31:28.01 ID:q2eRekHvo
場所は繁華街、夜の仕事の開始まではまだ少し時間がある。
空は明るく、まだ幾人かのホストが店に出勤してきたばかりだ。
(アニさん、アネさんはどうしてるんだろう。
どうなってるか知りたくても、巴津火にも叡肖さんにも近づけないし)
開店の準備の途中、貧乏ホストは店の前で雨上がりの空を見上げていた。
(狼の借金まで払い終わるのは何時になるかわかんないし、
四十萬陀に会いたくても俺今こんなだし…)
この男(と言っていいのか今は不明だが)、日没前にもう黄昏ている。
これから夜の仕事を開始しなければならないのにこれでは、きっと仕事中も役立たずであろう。
3 :
夜行集団
:2011/10/15(土) 22:41:45.92 ID:4w7uPHIy0
>>2
そして物思いにくれる黒蔵の後頭部に、強烈な肘による一撃が入った。
後ろからの不意打ちであり、意識がまったく向いていなかったことも相まって、
頭に感じるその痛みは結構なものになるだろう。
「wwwwwwまたお前悩みこんでんのかっていうwwwwww
この構ってちゃんがwwwwww」
後輩の体を慮ることなく、肘打ちの実行犯は彼の後ろでけらけらと笑っている。
格好はすでにスーツに身を包んでいるので、仕事モードに入ってもいいはずなのに彼は、
服のしわも気にしないで動き回っていた。
おそらく、これから仕事だから体力を残す、
などという中年めいた思考も鼻からないのだろう。
4 :
四十萬陀 七生
:2011/10/15(土) 22:51:07.21 ID:ZzbxExQeo
>>2-3
「――はぁ」
繁華街の真ん中で、四十萬陀はぼんやりと空を見上げた。
秋めいて微かに肌寒くなりつつある季節に合わせたカーディガンの裾を、きゅっと握る。
相変わらず東雲は帰ってくる気配も、連絡を寄越す様子もない。
といっても、こちらから会いに行く勇気は、まだ頭を覗かせない。
最近、黒蔵とも会っていない。
などといったことが、彼女の取り柄でもある元気を奪っていた。
繁華街に来てみたはいいが、特にやることもなしに歩いていると、細い通り道の前で足を止めた。
この道の先には、黒蔵たちの働く店がある。
四十萬陀は少し迷ったようだったが、やがて道に入っていった。
そこを抜ければ、すぐに店が見えるはずだ。
「!」
そっと店の前を覗き見ると、そこには二人の影。
一人は彼女のよく知る人物だが、彼に隠れて黒蔵の顔まで確認できなかった。
「虚冥君、久しぶりじゃん」
名前を呼びながら、二人に近付いていく。
5 :
黒蔵
[sage]:2011/10/15(土) 22:59:04.44 ID:q2eRekHvo
>>3-4
「〜〜〜〜んっ!!!」
言葉にならない呻きを鼻から逃がし、黒い短髪の後頭部を抱えた貧乏ホストは
その場にしゃがみ込んだ。
背後からの笑い声が痛む頭の中をごんごんと木霊する。
痛みが引くのを待ち、頭を抑えたままゆっくり立ち上がってどこか恨めしげな涙目で
背後の先輩を睨もうとした。
「ちょっと、虚冥さ……」
それが途中でピタリと固まったのは、聞き覚えのある声のせいである。
(四十萬陀っ!…でも、会わせる顔、ない…)
肘討ちの痛みも忘れて、虚冥の後ろの少女の顔を確認しようとし、寸前で踏みとどまった。
その表情には内心の葛藤がありありと現れている。
虚冥からはその様子が手に取るように判るはずだ。
こそこそと、顔を隠して店内へ引き下がろうとする黒蔵は、ヘタレそのものであった。
(店の中からこっそり覗こう。元気なのが見れればいいんだ)
ヘタレでありさらにムッツリスケベである。
虚冥にテレパシー能力はなくても、黒蔵の丸めた背中にそう書いてあるのが読めそうだ。
6 :
虚冥
:2011/10/15(土) 23:11:22.29 ID:4w7uPHIy0
>>4
黒蔵を見下ろしながら心底、馬鹿にしたように笑っているホストの右手から、
随分久々に聞いた声が虚冥の耳に飛び込む。
反射的に虚冥は声の聞こえたほうに、
嘲笑に似た笑顔は顔に残したままで顔をあげて振り向く。
「お・・・四十萬陀ちゃんじゃねえかっていうwwwwww今までどこにいたんだよwwwwww
全然こっちに顔見せねえからwwwwww
この黒蔵が寂しがっててうざかったぞっていうwwwwww」
すぐさま目に映った彼女が、自分もよく知る人物、そして、
今自分の足もとにいる後輩が、さらによく知る人物だと把握した。
久しぶりの再会だというのに、銀髪の彼から飛び出す言葉は懐かしむ言葉でなく、
おせっかいおばさんばりの二人への冷やかしだった。
>>5
ニヤニヤと二人を交互に見やる虚冥。
最初の肘打ち成功の笑いよりもこちらの方が楽しそうなのだろう、
彼の眼はらんらんと輝いて、まるで子供が遊園地に入園する時のあのきらめきの様だった。
「ひっひwwwwwwどこに行くのかなっていう?wwwwww
直ぐに店に引っ込むなんざwwwwwwお前はいつからツンデレになったんだwwwwww」
目にもとまらぬ速さで逃げようとする彼の首元をつかみ、
怪力ではないが強い力で、四十萬陀と丁度一対一の対面になるような場所に、
強引に引っ張りこんだ。
7 :
黒蔵
[sage]:2011/10/15(土) 23:23:53.43 ID:q2eRekHvo
>>6-7
「ツンデレ?じゃないっ、です…ってば」
がっちり抑えられて、無理やり対面させられてしまったからには観念するしかない。
それでもあれほど恋焦がれた夜雀の瞳を、まっすぐ見続ける勇気はないのだ。
なんてったって玉無s(ry
「…しじまだ。久しぶり」
目を泳がせながらも、挙動不審な貧乏ホストは、以前とすっかり変わってしまった声を夜雀に掛けた。
変わってしまったのは声だけではない。今は、四十萬陀を見下ろす背丈もある。
以前は結んでいた髪はだいぶ短く切られ、大分大人びた顔を縁取っている。
しかし以前よりもずっと生気が薄くなり、線が細くなった感はどうにも拭えない。
その希薄さは、妖気が消えていることに由来するのを四十萬陀はやがて気づくかもしれない。
「寂しかったのは本当なんだけど、それよりも」
会うのが怖かった。
「……前に、あんな風に判れちゃってたしさ。気まずかったんだ」
もじもじと言い訳めいたことを言うヘタレ。
夷磨璃に猫耳冥土服のことをすっぱ抜かれて、四十萬陀に会わせる顔が無い内に
黒蔵はこんな身体になってしまった。
「すっと連絡とらなくて、ごめん」
夜雀へと深々と下げた頭の、後頭部には多分髪の毛に隠れてたんこぶがある筈。
8 :
四十萬陀 七生
:2011/10/15(土) 23:28:41.92 ID:ZzbxExQeo
>>5-6
「えへへ、ごめんじゃん。ずっと山に居て……」
頭を掻きながら近付いていく四十萬陀だったが、
黒蔵という名前が出た途端、ぴたりと足を止めた。
虚冥の言い方は、まるで黒蔵が近くにいるかのようだ。
しかし、慌てて辺りを見渡してみても、それらしき人物の姿はない。……ように、四十萬陀には見えていた。
「えっと、黒蔵君は今日店に来てるじゃ――」
まさか虚冥の隣で、店に戻ろうとしている人物が黒蔵だとは想像もせず、そう尋ねる。
しかし、彼が笑いながら引っ張り込んだのは、
「ん……?」
黒蔵と一対一になった瞬間、四十萬陀の表情が固まった。
以前の彼とは全く違うニオイ、背丈、けれど……その顔は、明らかに黒蔵と同じもの。
少女が混乱しているのは、明らかに見て取れた。
9 :
虚冥
:2011/10/15(土) 23:38:32.45 ID:4w7uPHIy0
>>7
、
>>8
「気持ちはわかるっていうwwwwww」
言いたいことも言えないことも数多くあって、
それでも言葉を何とか繋ごうとたどたどしく喋る黒蔵。
そんな彼に、虚冥は後ろから近づいて強引に腕をまわして、
二人の会話を遮ろうというように肩を組んで四十萬陀に笑いかけた。
「面白いだろこいつwwwwww
前と全然顔が違うから分かんねえよなっていうwwwwwwマジ整形wwwwww」
今も笑って四十萬陀と会話をする虚冥は、目の前の彼女に気づかれないよう、
黒蔵の首に回した腕で少し強く、彼のうなじあたりを合図でもするかのように締めた。
ここは任せておけということなのだろうか。
「今こいつ、神々の戦いに巻き込まれてようwwwwww
ほとぼりが冷めるまで人間の体に憑依してんだぜっていうwwwwww」
しかし、彼の口から飛び出した言葉は、その期待をがっつり裏切るようなレベルだった。
10 :
四十萬陀 七生
:2011/10/15(土) 23:53:22.16 ID:ZzbxExQeo
>>7
>>9
「……」
黒蔵(だと思われる彼)を、茫然とした表情で見上げる。
久し振り、と掛けられた声は、少し背の低い男の子の声ではなく。
長かった髪はばっさりと切られた顔は、自分よりも年上に見えた。
それと同時に、彼から生じる違和感の正体も、四十萬陀はすぐに掴み取った。
虚冥のすぐそばにいて、何故彼が黒蔵だと気付かなかったのか。
――妖気が消えているのだ。それがどういうことなのか。
がんがんと頭で鳴る鐘を止めたのは、虚冥だった。
まだ目を白黒させていたが、彼の笑いはいくぶんか四十萬陀の心を落ち着かせた。
「か……神々の戦いじゃん!?」
が、いきなりスケールがでかかった。
また状況が混乱したうえに、そんなことに巻き込まれた黒蔵に心配が及ぶ。
四十萬陀は慌てて黒蔵を見上げた。
しかし、見慣れない顔に、まだ思わずたじろいでしまう、けれど。
……大丈夫。四十萬陀はこくりと言葉を飲み込んだ。
姿形が変わっても、目の前にいるのは、自分が大好きな黒蔵だ。
「会いたかったじゃん」
四十萬陀は一歩近づくと、そっと彼の手を取った。
「わたしも、いろんなこと考えてたら、会いにいけなくて、ごめんね?」
俯きがちにいって、軽く首を傾げる。
その頬には、ほんのりと紅が入っていた。
11 :
黒蔵
[sage]:2011/10/16(日) 00:04:41.89 ID:WzzYnuDNo
>>9-10
気持ちを汲んでくれたかのような言葉にほっとして、黒蔵は感謝を込めた視線で虚冥を振り返った。
任せておけ、と言うかのように肩に回された虚冥の腕にぐっと力がこもる。
(虚冥さんが居てくれて良かった…でも整形って。元の俺とそんな違うの?)
見た目の年齢差はあるが、確かに黒蔵の顔なので、心の中だけでちょっと突っ込む。
しかしいずみの理想系に成長させた場合の顔らしいので、大分違うといえば違うのかもしれない。
そして心中突っ込んだとほぼ同時に、期待ががっつり裏切られた。
「え?ちょ、虚冥さんそれって……?!」
驚きのあまりボロを出しそうになる、というか出しつつある黒蔵。
それを、少女の柔らかな手の感触が押しとどめた。
「……俺も」
黒蔵はそれだけでもう、何も言えなくなった。
ほんのりと赤くなった四十萬陀の頬、傾げてそっと上目遣いに見上げる表情をただただ見つめる。
ぽたり
手を握り見つめあう二人の間に、雫が落ちた。
鼻血の。
想う相手から恥ずかしそうに頬を染めて見上げられる、という身長差による初体験には、
ムッツリスケベの垂らした鼻血がピリオドを打ったようだ。
(あわわ、やべぇ)
12 :
虚冥
:2011/10/16(日) 00:12:48.35 ID:IZVvJrU70
>>10
「ひっひっひwwwwww」
虚冥自身ですら、言い切らないうちに彼女に嘘と見抜かれるだろうと、
喋りながらも色々と次の策を講じていたのだが、
案外四十萬陀のお人よしさは虚冥の予想を、簡単に超えていったのだった。
まさかこうも簡単に騙されるとは思っていなかった虚冥。
この状況の珍妙さが壺に入り、よろよろとらしくない笑い声をあげて、
黒蔵に組んだ肩を外して後ろ側へ、よろよろと後ずさっていく。
>>11
黒蔵四十萬陀から、おおよそ5歩ほど離れた場所に虚冥は立つことになった。
そして彼はそこからニヤニヤと口角を上げる口に手を当て、
いまかいまかと冷やかすタイミングをうかがっている。
「げほっwwwwwwげほっwwwwwwwwwwぐふwwwwwwww」
そして虚冥はむせることとなった。
なぜなら虚冥が見た光景は、想定していた甘酸っぱいオーラの漂う空間でなく、
中学生男子以上に異性耐性の低い後輩の、とてもとても残念なものだったからだ。
「(氷亜もしかりホストのくせにwwwwwwww
なんでそんなに女子に弱いんだよっていうwwwwwwww)」
黒蔵がこの場を自力で回避できなければ、
情けない後輩へのお仕置きとして、虚冥のドロップキックがみまわれるだろう。
13 :
四十萬陀 七生
:2011/10/16(日) 00:20:59.26 ID:9uxCn9NLo
>>11-12
「それで黒蔵君、体は……って!?」
突然、鼻から垂れ出す鮮血。
水滴の滴った感覚に、四十萬陀は慌てて手を離した。
辺りをせわしなく見渡して紙を探すも、そんなに都合よく紙が落ちているわけもなく。
「っていうか虚冥君笑いすぎじゃん!」
四十萬陀がびしっとツッコミをいれる。
今は突然のことで混乱しているが、しばらくすれば虚冥の言葉の嘘にも気付くだろう。
冷静に考えれば、矛盾点も多いのだから。
14 :
黒蔵
[sage]:2011/10/16(日) 00:29:44.45 ID:WzzYnuDNo
>>12-13
「ごめん、四十萬陀!」
あわててポケットチーフで四十萬陀の手に落ちた雫を拭う。
(でもあの表情は、反則だよ……)
そしてポケットチーフを鼻に当て、暗くなりつつある空を見上げる。
しかしどうにも瞼の裏に上気した四十萬陀の表情がちらついて、顔の熱はなかなか引かないのだ。
虚冥のほうも違う意味でツボに嵌っているらしく、咽ながらの笑い声を黒蔵は恨めしく背中で聞いていた。
「身体のほうは…うん、ほぼ人間になっちゃった感じかな?」
空に視線を泳がせながら四十萬陀の問いに答えるも、やっぱり本当のことは言えない。
(…ていうか、何て言えばいいんだろ?男じゃなくなりました、ってか?)
15 :
虚冥
:2011/10/16(日) 00:39:36.22 ID:IZVvJrU70
>>13
、
>>14
「はあwwwwwwはっwwwwwwはあwwwwww」
笑いが今も抜けないようで、呼吸がとても困難な虚冥。
それでもむせることは無くなったのか腹部を手で押さえ、
またもよろよろと、てんやわんやのカップルの元に歩み寄っていった。
「wwwwwwお前らが笑わせるからだっていうwwwwww
それに黒蔵、人になっても全然変わらっぶふwwwwww」
しかし二人に話しかけるも、途中で思い出し笑いに、言葉がばっさりと切られる。
16 :
四十萬陀 七生
:2011/10/16(日) 00:46:01.60 ID:9uxCn9NLo
>>14
「そう、なんだ……」
鼻血騒動で、一瞬吹き飛んだ不安が戻ってくる。
まだ虚冥の言ったことを信じている状態の四十萬陀は、ためらいがちに尋ねた。
「元に戻れるんだよね?」
それが、とても辛い質問だとも分からずに、だ。
>>15
こちら側は不安などと重たっくるしい雰囲気を全く感じさせない。
どころか呼吸困難なほど笑っている。まさに空気ブレイカー。
震えながら歩み寄ってくる虚冥に、むっと頬を膨らませる。
「もー、ほんとに笑い過ぎじゃん!
笑ってて何て言ってるか全然わかんないじゃん!」
17 :
黒蔵
[sage]:2011/10/16(日) 00:54:00.87 ID:WzzYnuDNo
>>15
「虚冥さんも笑いすぎだよ」
流石の黒蔵も、眉を顰めて抗議めいた口調になる。
それでも鼻血は抑えたままだ。
「身体が人間になった上に、性格まで変わるなんて俺嫌だよ」
さっきの肘打ちの恨みと笑われた悔しさと、諸々のどうにもならない事への苛立ちが、
珍しく虚冥への口ごたえとなって現れる。
>>16
「う…」
そこへ鋭く差し込まれた質問に、激しく視線が泳ぐ。
不自然な沈黙の後に、不自然なほど滑らかな台詞が続いた。
「できれば元に戻りたい……んだけどね。
まだちょっと方法の模索中ってとこなんだ実は」
えへへ、と笑って見せたその表情は、まだ何かを隠しているようだった。
18 :
虚冥
:2011/10/16(日) 01:01:27.20 ID:IZVvJrU70
>>16
、
>>17
「wwwwwwはwwwwwwww、ふう・・・」
ようやく笑いが止まり、虚冥は呼吸困難から脱して胸を撫で下ろす。
まだ息苦しさに肩で息をするが、思い出し笑いなどの再発は無いようだ。
「お前らが笑わせてくるからだろっていうwwwwww
再会して数秒で鼻血ってwwwwwwどんだけ待ちわびてたんだwwwwww」
元の人を馬鹿にした笑い顔に戻って虚冥は、
むっと怒った表情の四十萬陀を指差し笑っていた。
「おっ?でもその態度、案外変わってねえのかもしれねえぞ?」
黒蔵の反抗的な目、虚冥が欲しかった反応がようやく返ってきたのだろう、
彼は目を少し悪くし、ぽんぽんと笑いながら虚冥の肩をたたいた。
そしてほんの少し彼は黙って、会話のいきさつの雰囲気を把握する。
ある程度対応の方法が固まったらしく、虚冥は黒蔵の言葉に続いて、
煮え切らない黒蔵とは違って笑いながら話し始めた。
「神々の戦いなんだっていうwwwwww
そりゃあ終戦したら黒蔵も身を隠す必要がないからなwwwwww
その時に戻れるぜ」
19 :
四十萬陀 七生
:2011/10/16(日) 01:11:57.74 ID:9uxCn9NLo
>>17-18
「……」
その受け答えの中の不自然さに気付かないほど、四十萬陀は鈍くない。
誤魔化すような笑みに、むっと顔をしかめる。
黒蔵には、彼女が怒ったように見えるかもしれない。
――きっと黒蔵には事情があって、隠すのも自分のためなのはずだ。
そう思っても、隠し事をされていい気分にはならない。
そこへ、虚冥が割って入った。
「戦いが終わったら戻れる、じゃん?」
先程の黒蔵の態度もあり、今度は半信半疑な顔。
それに、落ち着けば簡単にバレてしまう嘘なのだが。
今の黒蔵の状態に対して、四十萬陀はただ単純に、彼が心配だった。
人間の体になったとすれば、彼の戦闘力が激減するのは確かめなくてもわかる。
きっと今の彼なら、四十萬陀でだって倒せてしまうだろう。
そのことが不安なのだ。
(……でもそれって、逆にいえば、今の私なら黒蔵君を守れるかもってことじゃん)
そこまで考えて、はっとした。
今まで守ってもらってばかりだったが、今度は自分が彼を守れるかもしれない。
四十萬陀はぱあっと顔を明るくすると、跳ねるように黒蔵に向かい合った。
「それじゃあ、戦いが終わるまで、私が黒蔵君を守るじゃん!」
しかし、それはそれでプライドを傷つけているような……ということまでには、気が及ばないのが四十萬陀だ。
20 :
黒蔵
[sage]:2011/10/16(日) 01:24:29.42 ID:WzzYnuDNo
>>18-19
(あのバレバレな嘘を突き通すつもりかーーーっ!!)
黒蔵は目を見開いて虚冥をまじまじと見つめた。
四十萬陀には、黒蔵の知らなかった事実を虚冥が知っていたかのように見えるだろう。
「案外変わってない?てことはどこか変わっちゃってるように見えるの?俺?」
ちょっぴり気弱な問いが虚冥へ投げかけられた。
そして続く「身を隠す」という言葉で、はっと思い出す大事なこと。
しかし、それを伝える前に、この夜雀に守る宣言をされてしまった。
「え?ええ!四十萬陀が、俺を……守ってくれる、の?」
守りたい相手に守られるのは、なんだか複雑な気分である。
「そっか。今は俺、人間だもんな。ありがとな、四十萬陀」
じんわりと視界が濡れてぼやけてきたのを隠すように、ぴょん、と跳ねた少女を腕の中に捕まえる。
もう鼻血は出ない。
肩を抱きしめると、夜雀は見た目よりもずっと小さくて華奢に感じられた。
(…これはこの身体だからできること、なんだな)
「四十萬陀、俺が生きてることは、叡肖さんには内緒にしておいてくれないか。
蛇神は事情を知ってるから大丈夫なんだけど、叡肖さんには隠しておかないといけないんだ」
今日、これだけは頼んでおかなくてはならない。
小さな肩を抱きしめて、夜雀の黒髪に黒い羽毛が一枚ついているのを見ながら、
耳元でそう頼んだ。
21 :
虚冥
:2011/10/16(日) 01:37:14.88 ID:IZVvJrU70
>>19
「だからそれまで待ってろwwwwww
あんま急かすとこいつ、また無茶し始めるからなっていうwwwwww」
二回目の虚冥の虚言も、四十萬陀は信じたらしい。
とは言っても、黒蔵のこの肉体の件に関しては、
水町と巴津火、といった神(どちらも正しくは神ではないが)の戦闘が関与しているので、
あながち全てが嘘ではないのである。
反論をしないことからそれを把握して虚冥は、黙りこくって、口元に手を当てた。
しばらくは静観して、事の成り行きを見ようということだ。
「(おう、なんかまためんどくさいこと考えてんなっていう?)」
ほんの少し黙った後に、ほんの少しだけぱっと変化させた表情を読み取って、
虚冥は四十萬陀がまたもや、後々身を危険に投じそうな直感を感じた。
>>20
こちらに向けられた黒蔵の視線を感じ、虚冥はそっと顔をそちらに向ける。
表情にはおどろきと諦めが見えなくもなかったが、
虚冥は左の口角だけを四十萬陀に気づかれずに上げ、黒蔵にまたサインを送った。
「まあどうせ?中身なんざ時間とともに変わるぜっていうwwwwwwガワと関係なくなwwwwww
それが成長とも言うしなwwwwww馬鹿が深くそれについて考えようとするなっていうwwwwww」
黒蔵の言葉をあしらうように、虚冥は顔の高さまで上げられた手をひらひらと振った。
それから身を数歩引いて、二人が抱きしめ会うのをまたも離れて、
様子を窺うような目つきで黙って見る。
>>19
「とは言ってもあれだぞ、四十萬陀ちゃん」
決意した様子の彼女に、虚冥はそっと口を挟んだ。
その様子は何も考えていないようだったが、言葉の裏に潜む雰囲気は、
どこか、立入り禁止を思わせるようなすごみがあった。
「一応こいつは日蔭者だから、
あの蛸以外にもばれないように、あんまり動こうとすんなっていう」
しかし彼の内容は、自然と四十萬陀も気づかれないうちに、
無理しないよう動きを制限するような、一見いたわるようなものだ。
22 :
四十萬陀 七生
:2011/10/16(日) 01:48:30.84 ID:9uxCn9NLo
>>20
(あれ? もしかして黒蔵君、戻る方法を今知ったんじゃん?)
微妙な表情の機微に気付くからこそ、四十萬陀が(黒蔵にとって)うまい具合に勘違いを起こした。
しかし、今となっては、頭の片隅に追いやられていること。
四十萬陀は、黒蔵を守れると張り切っている。
その高翌揚っぷりは、今まで守られてきた分の反動ともいえるだろう。
彼女が知る内でも、知らない内でも。
「うん! 絶対黒蔵君を守って……うひゃ!?」
突然抱きしめられ、思わず高い声を上げた。
大きくて、広い肩が近くにある。
小さかった黒蔵とは違うけれど、その大きな肩には言い知れぬ安心感があった。
それと同時に、いつもより心臓が大きく跳ねる。
「わ、わかったじゃん……」
耳元で頼まれ、だんだんと四十萬陀の顔が赤くなっていく。
ショート寸前? 煙が出そうだ。
>>21
黒蔵に抱き寄せられながらであったため、本当にちゃんと聞いているのか疑問だが。
「気を付ける、じゃん」
虚冥の言葉に、必死にこくこくと頷く。
こんな調子で守るといっているのだから、それこそ笑えるものだ。
とはいえ、抱きしめられる四十萬陀の表情は、見ているこちらが恥ずかしくなりそうなほど幸せそうであった。
23 :
黒蔵
[sage]:2011/10/16(日) 02:01:07.40 ID:WzzYnuDNo
>>21-22
心配するな、という虚冥の表情に軽く目礼を返して謝意を表す。
(虚冥さんにも四十萬陀にも、助けてもらってばっかりだ。
馬鹿で弱くて日蔭者、良いとこ無しじゃんか俺)
腕の中の幸せそうに赤くなる四十萬陀と対象的に、こちらは少し重い表情である。
そして今度は虚冥に冷やかされも笑われもしなかった。いつもこうなら良いのに。
そう思いながらそっと四十萬陀を離して初めて、四十萬陀の顔の赤さに気づき、
黒蔵の表情にも柔らかさが戻る。
(もしかして今俺、凄く大胆なことした?)
いまさら耳まで赤くなるくらいなら、最初からしなければいいのだ。
気恥ずかしさを誤魔化すように、黒蔵は夜雀の髪から羽毛を摘みあげる。
「あの、これ、お守りに貰ってもいい?」
重さのないふわふわとした黒い羽を指先に乗せて、そう頼んでみた。
24 :
虚冥
:2011/10/16(日) 02:07:35.63 ID:IZVvJrU70
>>22
、
>>23
先ほどから、虚冥は二人を見るだけで言葉を発していない。
ただ黙って、何かを考えるように遠くを見つめていた。
もしかしたらこの虚冥にも、空気を読む、
という彼にとっては最難関のスキルがついたのかもしれない。
それから虚冥は二人にばれないように距離を少し置いた。
じゃましないように、という先輩のほんの少しの配慮なのだろう。
25 :
四十萬陀 七生
:2011/10/16(日) 02:16:58.80 ID:9uxCn9NLo
>>23-24
「そそそそんなのでよかったら」
目をくるくるさせながら、真っ赤になった四十萬陀が頷く。
そんな調子であるため虚冥が距離を置いたことにも全く気付かない。
恥ずかしさを隠すように、少しだけ俯く。
(せ、背丈が違うだけで、こうも違うとは……)
幼さが消え、大人っぽさが全面に出ると、恥ずかしさも増大した気がする。
なんとか話題を見付けようと、頭を巡らせる四十萬陀が、はっと顔を上げた。
「そ、そーじゃん黒蔵君!
織理陽狐君が、何かあれば相談に来いっていってたじゃん!」
繁華街に出掛ける時に、織理陽狐に声を掛けられたことを、今さら思い出した。
確か、「黒蔵に会ったら伝えてくれ」と言われていたのだが、まるでこうなることを予想していたかのようなタイミングだ。
26 :
黒蔵
[sage]:2011/10/16(日) 02:29:17.38 ID:WzzYnuDNo
>>24-25
「ありがと、四十萬陀。大事にするよ。
織理陽狐さんにも、近いうちに会いに行くって、伝えておいてくれるかな?」
ほっとした表情で柔らかな羽毛をそっと胸ポケットにしまうと
何かを確認するかのように、虚冥のほうにも一度振り向いて頷く。
もう時間なのだ。
空はすっかり暗くなり、繁華街には夜の賑わいが満ち始めていた。
もうホストと制服姿の女子高生がいちゃこいていられる雰囲気でも無くなっている。
黒蔵にはもう感じられないが、この街のあちこちで夜の住人である妖怪たちも
活発に動き始めていることだろう。
「そろそろ開店時間なんだ、袂山まで送って行けなくてごめん。
俺のことは、四十萬陀も他の皆もいるから、心配しないで。
それに、夜なら必ずここにいるから」
以前より少し大人びた黒蔵が、まだ名残惜しげにそう告げた。
27 :
虚冥
:2011/10/16(日) 02:39:59.48 ID:IZVvJrU70
>>25
、
>>26
黒蔵が虚冥の行動から把握し、渋々といった風に話を切り上げようとしている。
それを虚冥は、いつのまにか大きく移動して店の扉の前、から見ていた。
何かを振りかぶって、今まさに投げようとしている姿勢で。
「本当は炊かないんだけどな」
抑揚のあまりない言葉を漏らした後、
虚冥は手に握っていたそれを、黒蔵めがけて全力の投球をした。
白い塊が、黒蔵めがけて飛んでくる。
命中すればわかるだろうが、虚冥が黒蔵に投擲したもの、それは、
炊かれたてほやほや、いや、アツアツの白米のおにぎりであった。
虚冥は手にグローブをつけて大丈夫なようであったが、
それを黒蔵が食らったとしたら、相当な熱さになるだろう。
「wwwwwwwwじゃあ俺は先に店に入っとくっていうwwwwww
なんなら四十萬陀ちゃんも来るか?」
先ほどから黙って二人を静観して、姿を一瞬消していたのは、
アツアツのおにぎりを作って黒蔵に投げる、というとても馬鹿馬鹿しい悪戯のためなのであった。
そしてどうやらそれで満足したらしい虚冥は、とてもすっきりした顔で店に入って行った。
/僕はこれで落ちにさせいただきます。意味不な展開でスイマセン
/絡みありがとうございました!!
28 :
四十萬陀 七生
:2011/10/16(日) 02:49:03.38 ID:9uxCn9NLo
>>26-27
「う、うん」
胸ポケットに羽をしまう黒蔵を、どこかぼうっとした視線で見る四十萬陀。
不意に、視界が陰ったことに気が付いた。
もう夜だということを思い出す。
ここでこのまま、人間の状態では、いつまで視界が保っていられるかわからない。
(帰らなきゃ)
そう思うと、とても名残惜しくなる。
黒蔵に告げられた言葉に、胸がきゅうとしまった。
ちゃんと、四十萬陀もと付け足してくれていることに、少し恥ずかしさを感じながら。
そして直後、虚冥の手から白い塊が解き放たれた。
それが黒蔵の頭にクリーンヒットする瞬間を見た時、四十萬陀はこう思うだろう。
なぜおにぎりなんだ、と。
29 :
黒蔵
[sage]:2011/10/16(日) 02:57:29.53 ID:WzzYnuDNo
>>27-28
抑揚のない虚冥の声に振り返ると、頭に白いものの直撃を受けた。
左の耳にやたら熱いものがへばりつく。
「熱っ!!!あち、熱いっ!!」
慌てて受け止めたそれで手を火傷すると同時に、それがおにぎりであることを知る。
放り捨てるわけにも行かず、完全に持て余してしまった両手に崩れた白米が粘りつく。
「ちょ!米、投げちゃ……うあっち!」
ぼろり、と割れたおにぎりを受け止めようとして、さらに火傷。
これはきっと傍でお熱い二人を見てつけられいた虚冥の悪戯返しなのだろう。
「くそー、開店直前なのにあの人はー…!!」
客が来る前に急いでこの米粒のくっついた服を着替え、
米粒まみれの髪も洗わなくてはならない。
借り物のこの服のクリーニング代は、給料から引かれてしまうのだろうか。
「慌しくてごめん、またね」
折角のいい雰囲気を蹴散らして、貧乏ホストは店に駆け込んでいくのだった。
//お二人とも、絡みありがとうございましたー!
30 :
四十萬陀 七生
:2011/10/16(日) 03:05:03.14 ID:9uxCn9NLo
>>29
「あ、えーと……」
飛んできた白米にぽかーんとしている内に、黒蔵は店に駆けて行ってしまった。
なんだかあっけにとられてしまったが、追いかけるのも彼に迷惑だろう。
四十萬陀はふう、と息を付くと、元の姿にひゅるりと変身した。
「またね、黒蔵君」
そう言い残し、小さな夜雀は袂山へ帰って行った。
//ありがとうございました!
31 :
宛誄&蜂比礼
:2011/10/17(月) 23:04:11.42 ID:7IOjr3tsP
秋の夜長に虫が鳴く。
街頭に集まる羽虫の袂で、黒服の少年・宛誄が物憂げな表情で佇んでいた。
その隣で手持ち無沙汰に漂う半透明の少女・蜂比礼の具現。
宛誄が背負った段平の柄を握り、来るべき相手に添えている。
蜂比礼がおずおずと声をかける。
『ねぇ、やっぱりやめたほうがいいしー!
あてるんの話を聞く限りじゃそいつメッチャ強いらしいし!
実力行使なんか絶対やめたほうがいいって!!』
「えぇ、彼は確かに強いですよ。
強くて、自分勝手で、負け知らずで、おまけに心も酷く歪んでいる」
その場所はかつて宛誄が零と対峙した公園だった。
黒曜石のような宛誄の眼は、冷たく混じり気のない輝きを帯びていた。
『じゃあやっぱりやめたほうが良いし!
オレ達の弱さを自覚してないわけじゃないでしょ!!』
白竜に襲撃されたとき、宛誄は真っ先に出口町に連絡していた。
意地でも他の兄妹や出口町を巻き込まないつもりだが、
己の無力さ、貧弱さを認めないほど馬鹿ではない。
「えぇ、僕達は弱い。
出口町姉さんや安木やあの女とは比べ物にならないくらいにね。
だけどそれ以上に・・・」
宛誄は真っ直ぐに入ってくる者を見据え、背の段平を引き抜いた。
「彼には僕の命を背負えない」
宛誄の回りに一斉に羽虫が沸き立った。
32 :
宛誄&蜂比礼
:2011/10/17(月) 23:05:15.49 ID:7IOjr3tsP
秋の夜長に虫が鳴く。
街頭に集まる羽虫の袂で、黒服の少年・宛誄が物憂げな表情で佇んでいた。
その隣で手持ち無沙汰に漂う半透明の少女・蜂比礼の具現。
宛誄が背負った段平の柄を握り、来るべき相手に添えている。
蜂比礼がおずおずと声をかける。
『ねぇ、やっぱりやめたほうがいいしー!
あてるんの話を聞く限りじゃそいつメッチャ強いらしいし!
実力行使なんか絶対やめたほうがいいって!!』
「えぇ、彼は確かに強いですよ。
強くて、自分勝手で、負け知らずで、おまけに心も酷く歪んでいる」
その場所はかつて宛誄が零と対峙した公園だった。
黒曜石のような宛誄の眼は、冷たく混じり気のない輝きを帯びていた。
『じゃあやっぱりやめたほうが良いし!
オレ達の弱さを自覚してないわけじゃないでしょ!!』
白竜に襲撃されたとき、宛誄は真っ先に出口町に連絡していた。
意地でも他の兄妹や出口町を巻き込まないつもりだが、
己の無力さ、貧弱さを認めないほど馬鹿ではない。
「えぇ、僕達は弱い。
出口町姉さんや安木やあの女とは比べ物にならないくらいにね。
だけどそれ以上に・・・」
宛誄は真っ直ぐに入ってくる者を見据え、背の段平を引き抜いた。
「彼には僕の命を背負えない」
宛誄の回りに一斉に羽虫が沸き立った。
33 :
零「」&黒龍『』
:2011/10/17(月) 23:16:46.73 ID:19KizySDO
>>31
『零、お前めっちゃディスられてんじゃん。相当やばいことしたんじゃ?』
「・・・・・・したかも。でも私がいるのにここまで酷い言いようってのもね・・・泣ける。」
木陰から出てきたのは、片方は制服の少年、もう片方はヘッドホンを付けた青年だ。
制服姿の零は結構落ち込んでいるようで、表情はどよんとしている。
「あーてーるーん、今のはなぁーに?」
落ち込んだ雰囲気から一辺、彼を睨みつけるように、また微笑するかのように、見つめている。
34 :
零「」&黒龍『』
:2011/10/17(月) 23:18:23.82 ID:19KizySDO
>>31
『零、お前めっちゃディスられてんじゃん。相当やばいことしたんじゃ?』
「・・・・・・したかも。でも私がいるのにここまで酷い言いようってのもね・・・泣ける。」
木陰から出てきたのは、片方は制服の少年、もう片方はヘッドホンを付けた青年だ。
制服姿の零は結構落ち込んでいるようで、表情はどよんとしている。
「あーてーるーん、今のはなぁーに?」
落ち込んだ雰囲気から一辺、彼を睨みつけるように、また微笑するかのように、見つめている。
35 :
黒蔵
[sage]:2011/10/20(木) 23:46:32.81 ID:TImglwnCo
一体どんな幸運が舞い降りたやら、貧乏ホストのポケットの中には5千円札が1枚あった。
丁度お昼も近い時刻、今日の診療所は休診日だ。
(前に約束してたし、先輩誘って行ってみようかな)
喫茶店ノワールのランチなら、この一枚で4人が食べられるのだ。
借りていた服代は返さなくて良いのか黒蔵、というツッコミを入れる人物はまだ居ない。
それはきっとこの後に、この幸運のツケとともにやってくる筈なのだ。
開店前で人気の無い『Perfect incompleteness』、その裏口からこそっと建物の中へ。
「…せんぱーい、誰か、起きてますか?」
まだ寝ていたらどうしよう。先輩が寝起きは機嫌の悪いタイプだったらどうしよう。
ドアの外から恐る恐る、あまり大きすぎないように声を掛けてみる。
36 :
夜行集団
:2011/10/20(木) 23:59:51.52 ID:Ws5g42UG0
>>35
黒蔵が声をかけた部屋には、数人の先輩後輩のホスト達が、各々の場所で眠りこけていた。
少し薄暗くしてあるここは普段から働くホスト達が疲労のあまり、
予定がない時には昼間であっても、安置室であるかのように爆睡を決め込む場所だった。
だから彼らのうちほとんどは、黒蔵の声に全く気付かないで夢の中。
しかし、そんな置物のように静かな者たちの中で、
もぞりと体を動かした者がいた。
「・・・。あ”あ”」
そんな彼の髪色は、この店でも珍しい、銀髪。
そう、黒蔵が声をかけられて反応しかつ目を覚ました男は、
店で二番目に寝起きの悪い、あの男であった。
そしてむくりと上体だけを起こした銀髪は、
寝ぼけと不機嫌がオクラホマミキサーをした目で、黒蔵をじっと見つめていた。
37 :
黒蔵
[sage]:2011/10/21(金) 00:06:59.76 ID:dKTl75+Jo
>>36
少しだけ開けたドアの隙間から顔だけ覗かせて、暗い室内を覗き込んだ黒蔵と虚冥の視線が
かち合った。
(うわ、目が座ってるよーーー…)
室内よりもずっと明るい廊下を背景にしているのだから、虚冥からは黒蔵が判別できているかすら
怪しいのに、それでもがっつり不機嫌に睨まれたのだ。
「お、おはようございます…」
この先輩が二日酔いじゃないことを祈りながら、及び腰のままおずおずと声を掛けた。
眠っている他のホスト達を起こさないように、小声である。
38 :
虚冥
:2011/10/21(金) 00:17:16.92 ID:7Z6Deo6y0
>>37
確かに虚冥のほうから見れば、目に映る姿を黒蔵と断定するには心もとない逆光である。
しかし声はそちらから聞こえてきたのだし、なによりも、
そんなおどおどしたシルエットを浮かべることのできるホストは、黒蔵しかいないのだ。
つまり虚冥が黒蔵と判断するのに、姿を見る必要は無かった。
「・・・チッ」
そしてすぐさまの舌打ち。
低血圧で寝起き最悪の虚冥にしても、あまりにも理不尽な本能である。
「・・・水持ってこい、っていう」
しかも彼の願いは叶わず、二日酔いだった
ぼそぼそと不機嫌さの混じった、いつもよりドスの入った声で黒蔵に命令する。
39 :
虚冥
:2011/10/21(金) 00:18:31.89 ID:7Z6Deo6y0
>>38
訂正
本能×
反応○
です、スイマセン
40 :
黒蔵
[sage]:2011/10/21(金) 00:27:00.60 ID:dKTl75+Jo
>>38
「…!はひっ!!」
おどおどしたシルエットは一瞬びくんっ!と震え、ピャッ!とドアの向こうへ消えた。
室内は再び暗がりに占有され、ぱたぱたと軽い足音が廊下を遠ざかってゆく。
再びドアの前へ足音が戻ってくると、さっきまでよりはずっと幅の広い光が暗がりに差し込んで消えた。
背後でドアを閉め、床に置いてある諸々に躓かないように慎重に踏み出しながら、
まだ目が慣れない暗がりにそれでも白く浮かぶ銀髪を目印に黒蔵は進む。
「虚冥さん、水です」
小声でそう伝えると、店の冷蔵庫から持ってきたのであろう
よく冷えたミネラルウォーターのボトルを差し出した。
41 :
虚冥
:2011/10/21(金) 00:36:22.29 ID:7Z6Deo6y0
>>40
黒蔵が出入口のあたりから去ると、
ばさっと音を立てて再び虚冥は寝入り始めていた。
その体勢のまま、再び近づいてくる足音をぼやけた頭と耳で聞く。
扉が開く音とともに上体をまた起こして、
虚冥は黒蔵の開いた扉から、こぼれ入る光を眩しそうに目を細めた。
「おう・・・・、っていう」
緩慢な仕草で水を受け取り、数秒それをもったまま固まる。
特にその行為に意味は無かったのかまた動き出した虚冥は、のっそりとした動きでボトルの水を飲んだ。
昨日、あれほどカラカラと楽しそうに笑っていた彼と、まるで別人な彼がそこにいた。
「・・・ぷはっ。
てか・・・なんだよ。なんか、用事でもあんのか・・・。っていう」
もはや口癖すらも危うく忘れそうな気だるさで、
まだ眠気の混じる瞳で見上げ質問した。
42 :
黒蔵
[sage]:2011/10/21(金) 00:43:23.42 ID:dKTl75+Jo
>>41
「用事っていうか…虚冥さんに予定が無ければ、昼を食べに行きませんかって誘いに来たんです。
前にノワールでおごる約束してたのもありますし…」
寝起きと二日酔いで何時に無く不機嫌な虚冥に気おされて、店に出ている時でもないのに
すっかり敬語口調になっていた。
そして黒蔵がノワール行きに虚冥を誘いに来たのには、約束していた事のほかに
もう一つの理由がある。
しかしそれを話せばきっと不機嫌な虚冥には怒られるので、黙っておくつもりなのだ。
「…それに、ちょっとだけ臨時収入あったんで」
43 :
虚冥
:2011/10/21(金) 00:52:58.11 ID:7Z6Deo6y0
>>42
虚冥は黒蔵の言葉を聞きながら、眉間にしわを寄せてぼんやりと彼を見つめる。
だが、ときどき体をふらつかせる彼の態度だと、
彼の説明がどれだけ理解できたかは分かったものではない。
「・・・昼ご飯」
とは言ってもそこは把握したらしく、ぼんやりとオウム返しをする。
しばらく黙って下を見つめ出した。
どうやら動かない頭を何とか動かして、どうすべきか考えているようだ。
「・・・行く、っていう。腹減ったし」
それから虚冥は、まるでどこぞの森の神のようにのっそりと、ゆっくり立ち上がった。
頭を手で押さえているのは、二日酔いで頭痛がするからなのだろう。
「臨時って・・・なんだ」
特別気にする風もないが、なんとなしに、
黒蔵の歯切れの悪さが虚冥の耳に若干引っかかったようだ。
44 :
黒蔵
[sage]:2011/10/21(金) 01:02:02.87 ID:dKTl75+Jo
>>43
暗がりに目も慣れてきて、黒蔵にもあたりに置いてあるホスト達の靴や上着、私物の判別がつくように
なってきた。
「大丈夫ですか?」
ふらつく虚冥を支えられる位置に立つ。
この不機嫌な先輩が他のホストの上へ派手に倒れたりしたら、どんなとばっちりが来るかわかったもんじゃないのだ。
「臨時収入?ああ。祝儀袋、っていうんだったかな?あれ拾ったんですよ」
そう答えながら虚冥が立ち上がり身支度をする間、飲みかけの水のボトルを受け取って置こうと手を差し伸べた。
45 :
虚冥
:2011/10/21(金) 01:13:41.48 ID:7Z6Deo6y0
>>44
「祝儀袋・・・持ってきたのか・・・
だからお前は、幸が薄いんんだ」
すっとボトルを手渡す。
その中に、虚冥はそっと毒を含んだ言葉を添えてきた。
細かい道徳をあーだこーだと拘る性格でもないが、流石に祝儀袋は違うだろうと、
虚冥の鈍い倫理センサーが反応したからだ。
「ちょっと・・・待ってろ、とっておき・・・飲んでくるから」
それからのろりと黒蔵を残して、業務用のそれとは別にある、
家庭用の冷蔵庫が設置された一室へと虚冥は姿を消した。
黒蔵が騒がしくしていなければ、その冷蔵庫の戸が開いて、
少しの間の後、何かの液体をストローですするような音が聞こえてくるだろう。
そして音が5分ほど続いてから止んだ後に、虚冥は先ほどよりも何処かしゃっきりとした雰囲気を、
その身に漂わせながら部屋から姿を現した。
「待たせたなっていう。頭痛で笑えねえが、これで店にはいけるぞ」
確かに声を聞けば、ドスもなくなって途切れることなくすらすらと、
ある程度いつもどおりの口調に戻っている。
46 :
黒蔵
[sage]:2011/10/21(金) 01:26:53.90 ID:dKTl75+Jo
>>45
「ううん、祝儀袋は持ってこなかったよ?
前にアニさん達に教わったとおり、駅前の交番?っていうところに持って行ったら
丁度、祝儀袋落としたって慌ててる人がそこに居て、届けたお礼にお金少しくれた」
虚冥の牛乳専用保管庫、なのだろうか。
そのとっておき、というのを飲んでいる間、黒蔵は部屋の床に散らばる脱ぎ捨てられた靴を整えて
ドアまでの通路を確保しておいた。
廊下に出て、いつもの状態に近い虚冥と明るさとに、ちょっぴりほっとする黒蔵。
明るいところで安心するのは、やはり人間に近づいたからなのだろうか。
「だから今、5千円も持ってるんだ」
懐の暖かさにちょっぴり声が弾んでいる。
それじゃタクシーで行こう、とか言われたら一気に落ち込むフラグだ。
47 :
虚冥
:2011/10/21(金) 01:38:28.20 ID:7Z6Deo6y0
>>46
「アニさんか・・・まあ、取り敢えず、
そういうことなら問題はねえっていう。お前の幸薄は自業自得じゃねえぞ、よかったな」
黒蔵が正式名称拾得物横領罪をしたと言ってきたときには、
あの世間離れながらも道は離れることの少ない黒蔵が、と虚冥は若干の驚きをしていたが、
事情を聞いて、疑うことよりも先に納得した。
「5千円か、割とラッキーだったじゃねえか、お前らしくねえがなっていう。
まあ、金はいいとして、どうすんだ?
そのノワールってのは、歩いてすぐのところにあるのか?」
フラグが回収されようとしているのかは分からないが、
虚冥はふと、自身の頭痛を思い出して黒蔵に質問をする。
あまりに遠いなら、それこそ交通機関でなくタクシーで行きたいところだが、
そこそこ近いというのなら、彼は黒蔵に何とかしてもらおうとしているのだった。
48 :
黒蔵
[sage]:2011/10/21(金) 01:54:21.41 ID:dKTl75+Jo
>>47
「幸薄って、俺らしくないって……。虚冥さんから見て俺らしい俺ってどういうこと?」
前にほぼ3日漬けで叩き込んでもらった人間社会の常識がきちんと役立てられたよわーい!
…と、褒めてもらえるかと期待をしていた黒蔵だが、不幸体質認定されてしまってがっくりだ。
「んー、歩いてだと15…いや、20分くらいかな」
ここは繁華街のど真ん中。
ノワールとは線路と旧商店街を挟んでだいたい反対側の方角である。
しらふであれば歩くのもそう辛くないが、二日酔いの虚冥には少々厳しい距離だろう。
「…タクシーで、行く?」
行き帰りともにタクシーとなると、道の込み具合と昼食代を考えて、5千円はおそらくぎりぎりだろう。
(ああ、幸薄ってつまりこういうことなのか…)
元々持っていたジッ○ロック財布の中身は2千円弱。
そちらも犠牲にしようと貧乏ホストはあきらめの境地に立った。
49 :
虚冥
:2011/10/21(金) 02:04:30.23 ID:7Z6Deo6y0
>>48
「ズレテ不幸で貧相で頑固でドジで変に優しい奴」
虚冥は黒蔵の問いに、調子を取り戻したのか一発で、複数の悪口を彼に放つ。
だがその反応を確かめるつもりは無いらしく、
やはりいつもよりおぼつかない足取りで、店から出るのだった。
「タクシーだなっていう。
払いは、まあここは先輩がおごってやるぜ。
なんせお前には、おいしいミルクコーヒーが飲める場所へ案内する、
という大役を担ってるんだからなっていう」
のそのそと道へ向かいながら、虚冥は答える。
しかしその内容はいつもとは違って、彼の財産が吹き飛んだりはしないようで、
むしろ虚冥が珍しくおごってくれるものだった。
その裏には、先輩が後輩に奢らすと、氷亜が黙っていないということもあるのだが。
50 :
黒蔵
[sage]:2011/10/21(金) 02:12:07.80 ID:dKTl75+Jo
>>49
「俺はズレてないです」キッパリ
不服そうにそう言うあたり、確かに頑固なのかもしれない。
というか、他の悪口は受け入れるのか。
「変に優しいって虚冥さんの自己紹介じゃないですか。今、現にそうやって…」
珍しくタクシー代をおごってくれるという虚冥の後を追いかけながら
貧乏ホストは無駄な反論をするのだった。
//ではこの辺りで終わりにしておきます。絡みありがとうございました!
51 :
叡肖
[sage]:2011/10/21(金) 23:06:53.66 ID:dKTl75+Jo
まもなく降り出しそうな鈍い色の雨雲の下、人に化けた衣蛸は街を歩く。
時刻はまもなく午後4時になろうかという辺り。
この通りの先の横断歩道を渡れば、行きつけの喫茶店ノワールである。
「薄着の女性が街から消えたのは残念だが、熱いコーヒーにはいい季節だな」
ジャケットのポケットにはipod、平日昼間のぶらり散歩中の叡肖は
コンビニの前に差し掛かったとき、小さな妖気に気がついた。
(ん?これは確か…)
覚えの無い気配ではない。
52 :
天ッ堕
:2011/10/21(金) 23:15:49.35 ID:C1jJqvTFo
>>51
じっ、と。
透き通ったブラウンの瞳で、鈍い灰色の空を見上げる少年。
大分黒ずんできた某電気鼠の着ぐるみに、両手をポケットに突っこんで、ぼうっと道の真ん中に立っている。
傘も持っていないようだので、このままでは雨に打たれてしまうだろう。
しかしこの雷獣は、それを待っているのだった。
「……」
肌に感じる、雨と雷の気配。
近頃この少年は、どこか身体の中に湧き上がるような衝動を感じていた。
もうすぐだ――と、言葉にはならずとも。
53 :
叡肖
[sage]:2011/10/21(金) 23:27:26.88 ID:dKTl75+Jo
>>52
「やっぱり君か。雷待ちかい?」
そう声を掛けると、この磯臭い男は少年の傍に屈みこんだ。
以前にメリーと一緒に居るのを見かけたことがあった。巴津火にとっても遊び相手らしい。
このあまり喋らない小さな雷獣のことを知ってはいても、直接話すのは初めてである。
「この時期は、あまり激しい雷は来ないだろう。雪起こしの雷が鳴るにはまだ少し早いしな」
透き通った瞳の見上げるほうを、歪な蛸の瞳孔も追う。
天を覆う雨雲の底は滑らかだ。
「もしかしたら、親御さんが上にいるのかな?」
雲上の神気までは感じ取ることができないこの海の生き物には、雲行きを読むことしかできないのだった。
54 :
天ッ堕
:2011/10/21(金) 23:38:22.93 ID:C1jJqvTFo
>>53
「……、」
近付いてくる青年に気付きこそはしていたものの、
隣に屈み込んだことで、天ッ堕はやっと叡肖に意識を向けた。
しかしそれも一瞬で、すぐに空に目をやってしまう。
大抵この少年は、巴津火などを除くどの相手に対してもそうだ。
特別自分に損害を与える存在でなければ、とりわけ気にしていないようにも見えた。
「くる」
けれど、天ッ堕は珍しく叡肖の言葉に反応したようだった。
ガラスに景色が映り込むように、曇天が少年の瞳のなかに映っている。
「でも、父様、いない」
短い言葉を重ねて、稚拙な文章を作る。
少し寂しげに、長い睫を僅かに伏せた。
55 :
叡肖
[sage]:2011/10/21(金) 23:51:27.72 ID:dKTl75+Jo
>>54
「くる?雷を呼ぶのかい?
それとも、雷獣である君には落雷が判っているのか…おそらく後者なんだな」
この少年は、雲上に父親の不在を感じ取ることができているのだ。
「ならば高いところで待ってみるかい?」
手近な建物を指差して天ッ堕にそう訪ねてみた。
「あそこへなら、多分上れるぞ」
造りから見て少々古い7階建ての雑居ビルである。
2階の窓にはテナント募集の文字が見え、看板も空白で人があまり居ないことが予測される。
その屋上へは外階段からも上れそうだ。
56 :
天ッ堕
:2011/10/22(土) 00:00:44.31 ID:GzGz/AIgo
>>55
叡肖の指先が差す方向を、天ッ堕の視線が追う。
雑居ビルがあるのを見て、青年が何を言いたいのか理解したようだった。
ブラウンの瞳が、ぱちぱちと瞬く。
待つならば、高ければ高い所のほうがいい。
たんっ。
天ッ堕は、叡肖の言葉を待つことなく、ビルへ駆けだした。
とはいえ所詮子供の走りであるから、叡肖ならなんなく追いつけるだろうが。
「たかい、ところ」
夢中に走って、雑居ビルの入り口に辿り着く。
しかし、なぜやら辺りをきょろりと見回すばかり。
どうやら外階段の場所が分かっていないようだ。
57 :
叡肖
[sage]:2011/10/22(土) 00:06:51.32 ID:/b0Kw/CPo
>>55
「こっちに回るんだ」
少年を追いかけた叡肖は、こいこい、とビルの横手から招く。
外階段の入り口は、不審者の侵入対策であろう鉄柵の扉があり、錠がかかっていた。
しかし衣蛸にとってこの程度は障害にもならない。
取り出した筆の先を舐めて墨を含ませ、「開錠」と記せば人間の作った鍵は簡単に開いた。
「…見事に寂れてるねぇ」
外階段を上る途中、各室の入り口が見える。
倉庫代わりに使われているらしい一階部分を除けば、色あせた扉に店舗名が残っていたり、
プレートを剥がした跡が見受けられたりしたものの、どこも空き室で上の階に人の気配は無い。
「ここだここ」
最上階からさらに階段を上り、その先の重い鉄の扉が軋んで開くと、そこは屋上だった。
58 :
天ッ堕
:2011/10/22(土) 00:16:10.76 ID:GzGz/AIgo
>>57
叡肖に導かれるまま、その背中を追ってビルの中へ入って行く。
不思議な筆の力を見ても、天ッ堕は特に反応を示さなかったが、
というより、早く屋上に登りたいという思いが勝っているようだった。
がらん、と音を立てて錠が落ちる。
かつかつと登っていく叡肖を追うようにして、天ッ堕も階段を一歩一歩上がっていく。
はやく進もうにも、長靴の歩きにくさもあるだろうが、そもそも体が小さく、登るのに苦労しているようだ。
「はっ、」
最後の一歩を踏み出す。
少年の額には、微かに汗がにじんでいた。
奇妙な文様の描かれた頬に、それが伝い落ちる。
ぎしぎし、
音を立てて扉が開かれると、ぶわりと風が入り込んできた。
その勢いでフードが取れ、少年のくるくる巻かれたブロンドの髪が露わになる。
空は先程よりも濁っており、今にも雨が降り出しそうに見えた。
遠くの空から、ゴロゴロと音が聞こえてくる。
59 :
叡肖
[sage]:2011/10/22(土) 00:20:39.35 ID:/b0Kw/CPo
>>58
「ここでなら雷を待ちやすいだろ。アンテナもついてるしな」
屋上からつんと天をさして伸びるその先端へ期待しながら叡肖は筆を舐めている。
風を受けて目を細めたその表情が、ちょっぴり含みを持った笑顔になった。
「君ら雷獣は、雷を食べたら育つのか?」
叡肖がそう問うた時、風に弄ばれたブロンドの髪に最初の雨の雫が落ちた。
天ッ堕が待ち望んだ時の到来である。
60 :
天ッ堕
:2011/10/22(土) 00:34:11.50 ID:GzGz/AIgo
>>59
ぽたり。
最初の一滴が落ちると、それに続いて雫が次々に落ちてくる。
気付けば、あたりは雨の音に包まれた。
比較的激しい雨だった。
しかし天ッ堕は気にする様子もなく、アンテナの下へ歩き出す。
どうやら、本能的に分かっているようだ。
天ッ堕はじっと空を見つめて、微動だにしない。
後はただ待つのみなのだ。
「そう」
短い返答だった。
ゴロゴロ、と地に響くような音が奏でられる。
「もうすこし……」
パリ、パリッ。
一瞬だけ、天ッ堕の体を紫電が張りつめた。
ブラウンの瞳の色が失せ、エメラルドの輝きを見せ始める。
露わになった頬の文様がうっすらと光りはじめる。
まるで、少年に光が集まっていくようだ。
それは少し幻想的であり、また大きな力を感じさせる光景だった。
「ちかい」
天ッ堕の唇が動いた途端、弾けるような音がした。
どこか近くに雷が落ちたのだ。
61 :
叡肖
[sage]:2011/10/22(土) 00:43:59.98 ID:/b0Kw/CPo
>>60
「では、君のディナータイムといこうか」
叡肖はアンテナの根元に素早く「招雷」の二文字を記すと、すっ飛んで逃げ出した。
雨がこの文字を流しきってしまうまでは、この場に居続けることは叡肖にとって危険なのだ。
背後で白く光が弾けたのとほぼ同時に、叡肖は先ほどの階段へと飛び込む。
あとは鉄扉の後ろの安全圏から、天ッ堕のする全てを見るつもりなのだ。
(これで本当に育つのかね?)
周囲から受けてきた影響が現れるほどに、天ッ堕は育つのだろうか。
62 :
天ッ堕
:2011/10/22(土) 00:58:26.50 ID:GzGz/AIgo
>>61
パチパチッ、パリッ、バリっ!
天ッ堕の肌から漏れ出す電気。
少年を媒体とし、自然そのものの強大なエネルギーが取り巻きはじめる。
絶縁グローブなど、もう意味をなさない。
天ッ堕の全身が輝きはじめ、曇天が白く光りはじた。
瞼をそっと閉じ、身体に風の流れと電気を感じる。
大きい。季節外れの強い一発が落ちてくる。
「くる」
エメラルドの瞳をみひらいた時、
眩い光が、天ッ堕に向かって落ちてきた。
その場にいたならば誰もが、一瞬視界が真っ白になっただろう。
数秒後、それに続くように、耳をつんざくような轟音が鳴り響く。
そして、天ッ堕に視線を戻せば。
「……――ふ、う」
息をついた声は、先程よりも少しばかり低い。
ブロンドの巻き毛は肩口まで伸びている。
電気鼠の着ぐるみは、すこし窮屈そうにしていた。
背丈は、恐らく巴津火と並ぶか、それより少し上ほどか。
「あー、……ごちそう、さま、でした」
中学生程の外見に成長した天ッ堕が、そこにいた。
63 :
叡肖 ミナクチ
[sage]:2011/10/22(土) 01:13:45.36 ID:/b0Kw/CPo
>>62
「う、おっ!」
扉の後ろで、天ッ堕の様子を伺っていた叡肖のほうへも、炸裂した紫電の影響が僅かに来る。
間一髪、扉に触れていた手を離して何を逃れたものの、ポケットのipodは犠牲になったらしい。
「…ほーぉ。声変わりまで一気に進むもんなのか」
光が消え、叡肖はしげしげと成長した天ッ堕を見る。雨に濡れるのもお構いなしだ。
「こりゃ親に会ったら驚かれるな」
成長過程をこんな風にすっ飛ばしてしまうのだから、
天ッ堕の両親は、もしかしたら息子の大事なシーンを見損なったのかもしれない、などと考える。
『何やってるんですか、こんなところで。不法侵入ですよ?』
そして振り向けば、天ッ堕よりもだいぶ小柄な少年がもう一人、雨の中濡れもせずに立っていた。
声がするまで気づかないほどに、叡肖は天ッ堕の変わりようを興味深く見ていたのだった。
「ちゃんと埋め合わせはするって、小姑みたいな事言うなや」
小指で耳をほじりながら答える叡肖。
さっきの雷でまだ少し耳がおかしいための行為だが、ミナクチには小馬鹿にされているようにも見えて
その眉間に皺が増えた。
64 :
天ッ堕
[sage]:2011/10/22(土) 01:38:33.29 ID:GLCqhCCSO
>>63
「……あ、」
声が聞こえたからだろうか。
天ッ堕は叡肖とミナクチに気付いたようだった。
そちらに向けた目は、透き通ったブラウンの中に、未だエメラルドが残っている。
まるで宝石のような瞳を細めて、天ッ堕はどこか悪戯気な笑みを浮かべた。
「コンニチワ」
確かに、天ッ堕の面影はある。しかしそれは外見だけの話で。
ぼうっとしていた表情はひきしまり、見るからにしっかり者という感じだった。
65 :
叡肖 ミナクチ
[sage]:2011/10/22(土) 01:51:27.07 ID:/b0Kw/CPo
>>64
『こんにちは…?』
戸惑いつつ答えるミナクチにも見覚えのある、黄色い電気鼠の着ぐるみだ。
そしてあの悪戯気な表情は、天ッ堕以外の誰かにも見たような気がした。
(誰のでしたっけ、あの笑い方…)
一方、雑居ビルのオーナーへの埋め合わせのつもりだろうか、叡肖は外階段の庇の内側に落書きを始める。
というのも雨に濡れていない場所がここくらいしかなかったからだ。
書きながらも、口八丁手八丁の叡肖はミナクチを弄る。
「ミナクチさー、もうちょっと気楽にしたらどーよ?俺みたいに」
『叡肖さんが気楽な分、こっちにしわ寄せ来るんですよ』
「しわ寄せってソレかー?んー?」
顔だけ振り返り、筆尻で自分の眉間をつついてニヤニヤ笑う衣蛸に、
思考を遮られたミナクチはさらに口を尖らせる。
その束ねられた黒髪はふいと顔を背けたのに会わせて、小柄な背中で揺れた。
「千客万来」「商売繁盛」の文字を落書きしながら、叡肖は付け足した。
「あと、丁度良いからノワールまで送ってくれないか。
その子も、そのナリで着ぐるみってのは街中歩くには色々アレだしな」
しかも天ッ堕も叡肖もずぶ濡れである。
『水伝いにですか?いいですけど…』
黄色い着ぐるみの少年と、落書きを続ける男とを交互に見て、苦労の耐えない少年は諦めの表情で頷いた。
天ッ堕が承諾すれば、ノワールまではあっという間だろう。
66 :
天ッ堕
:2011/10/22(土) 09:09:24.79 ID:GzGz/AIgo
>>65
雨に打たれながら、その表情はニコニコと楽しげだ。
ミナクチが感じたことは的を得ていた。
生まれたての赤ん坊だった少年は、今まで会ったもの、経験を元に成長し、思想を決めているのだから。
穂産姉妹、田中家、巴津火、夷磨璃、氷亜――……。とはいえ、まだ成長途中であるのだが。
「……」
ぶるぶるっ、と水を払うように頭を振ると、天ッ堕はビル側に駆けて戻ってくる。
ばちゃばちゃ、と長靴が水しぶきを跳ねさせる。
頭の先から足の先までずぶ濡れだ。
ミナクチにちらりと視線を向けられ、天ッ堕はにっこりと首を傾げた。
「お願い、します」
普通の受け答え。
言葉の意味が理解できているようだ。
「ふたりの、名前は?」
67 :
叡肖 ミナクチ
[sage]:2011/10/22(土) 10:47:38.81 ID:/b0Kw/CPo
>>66
『貴方は天ッ堕さんですよね?私はミナクチと申します。
この位の小ささの私を、多分ノワールで見かけたことがあるでしょう』
手で大きさを示しながら、着ぐるみの少年にそう確認をとるミナクチ。
天ッ堕のほうも等身大のミナクチを見るのも、直に喋るのも確か初めてなのだ。
『では、ノワールへ行きましょうか』
「これでよし、どーよ?」
落書きの文字を丁寧に装飾までした叡肖が満足そうに振り返ったとき、
二人の少年は既に屋上から消えて水溜りだけが揺らいでいた。
「おいィ?俺だけ置いてきぼり?それ酷くね?
おーいミナクチちゃーん?」
降り続く雨だけが叡肖のぼやきを聞いていた。
『さっきの人は叡肖さんと言います。衣蛸ですから雨の中ほっといて大丈夫。
あの人だけは見習っちゃ駄目ですよ』
ノワールまで、水伝いに天ッ堕少年を送りながらそう忠告していたミナクチ。
果たしてこの雷獣の純粋な心は、この先も守られるのだろうか。
そして後日、雑居ビルに空室は無くなったとか何とか。
68 :
巴津火
[sage]:2011/10/23(日) 22:33:45.17 ID:MttG2TGRo
「こっちだぞ。あそこ」
まだあちこちに絆創膏をくっつけて、それでも元気印なクソガキ様が指す真新しい診療所。
以前のようにトラックの荷台に便乗している巴津火を捕まえた相手に、その目的を聞かれて案内してきたのだ。
その手には弁当箱の包み。今度は匂いが漏れないように包んでもらっている。
「ここにこざるが入院してるから、見舞いに行くところだったんだ」
危ないと叱られたのにも関わらず、けろりとして悪びれる様子も無い。
車の屋根に便乗し、交差点で他の車両へ飛び移ることくらい何も危なくないのに、と思っているのだ。
69 :
夜行集団
:2011/10/23(日) 22:40:21.91 ID:hobBu2f30
>>68
「見舞いってなおいwwwwwwでも事故ったらどうすんだよっていうwwwwww
ベッドを隣にしてもらうのは見舞いじゃねえぞwwwwww」
無邪気な巴津火の声に、笑いを多量に含んだ男の声が続く。
仕事前なのか後なのかスーツ姿の彼は、ゆっくりと歩きながら巴津火の背中を追った。
今は仕事前ではないので暇があり、黒蔵が話した内容のこともあって
これも機会だと彼の見舞いに付き合うことにしたのだ。
70 :
夷磨璃
:2011/10/23(日) 22:48:58.38 ID:083hAJdDO
>>68-69
お見舞いされる側の少年、夷磨璃は巴津火から貰った雪洞の中ですやすやと寝ていた。
この中なら、痛みも苦しみもあまり感じない。
「(誰か来た・・・?)」
やけに外が騒がしいと感じるのだが、目の見えない夷磨璃はじっとしているしか無かったのだ。
71 :
夷磨璃
:2011/10/23(日) 22:49:48.01 ID:083hAJdDO
>>68-69
お見舞いされる側の少年、夷磨璃は巴津火から貰った雪洞の中ですやすやと寝ていた。
この中なら、痛みも苦しみもあまり感じない。
「(誰か来た・・・?)」
やけに外が騒がしいと感じるのだが、目の見えない夷磨璃はじっとしているしか無かったのだ。
72 :
巴津火
[sage]:2011/10/23(日) 22:56:27.20 ID:MttG2TGRo
>>69-70
「車に轢かれた程度で入院するほどボクは柔じゃないぞ」
そう返答する巴津火だが、この身体が黒蔵だった時、既に2度車に轢かれていることまでは知らない。
「こーざーるー!」
ノックもしないで病室の扉を開けるのは毎度おなじみの迷惑行為。
そして巴津火がここへ頻繁に入り浸る理由は、夷磨璃のほかにもう一つあった。
「これ、続き読ませて」
夷磨璃の返事も待たずにてててっと小走りに入った巴津火がまず手にしたのは、
暇つぶし用のベッドサイドのマンガ本である。
一冊手にとると、巴津火はどさりと空っぽのベッドの上へ飛び上がって寝そべった。
妖気を感じない者が見たら、誰も居ない空っぽの病室に見舞いに来て
しかも傍若無人の図、である。
73 :
虚冥
:2011/10/23(日) 23:07:45.94 ID:hobBu2f30
>>71
、
>>72
そういう問題じゃない、と虚冥は巴津火に対して肩を落とし溜息をついた。
例え事故で怪我を負わなくとも、現場に第三者の目撃者がいればそうはいかない。
はねられたばかりなのにぴんぴんと立ち上がっては、
それこそ事故以上の大ニュースへと変貌しかねないのだ。
「入るぞー、って」
しかしこれを言っても、巴津火は馬耳東風するだろう。
虚冥はキャラに合わない説教は諦め、おとなしく巴津火の言う知り合いの病室へと入って行った。
だが、部屋に備え付けられたベッドにあったのは、
いや、浮かんでいたのは、人でなく雪洞だった。
「・・・は?っていう」
そして虚冥は目の前の光景の理由が分からず、間抜けな声を漏らした。
74 :
虚冥
:2011/10/23(日) 23:08:27.53 ID:hobBu2f30
>>71
、
>>72
そういう問題じゃない、と虚冥は巴津火に対して肩を落とし溜息をついた。
例え事故で怪我を負わなくとも、現場に第三者の目撃者がいればそうはいかない。
はねられたばかりなのにぴんぴんと立ち上がっては、
それこそ事故以上の大ニュースへと変貌しかねないのだ。
「入るぞー、って」
しかしこれを言っても、巴津火は馬耳東風するだろう。
虚冥はキャラに合わない説教は諦め、おとなしく巴津火の言う知り合いの病室へと入って行った。
だが、部屋に備え付けられたベッドにあったのは、
いや、浮かんでいたのは、人でなく雪洞だった。
「・・・は?っていう」
そして虚冥は目の前の光景の理由が分からず、間抜けな声を漏らした。
75 :
巴津火
[sage]:2011/10/23(日) 23:24:16.21 ID:MttG2TGRo
>>73-74
「ん?」
虚冥の思いもよらぬ間抜けな声に、マンガから視線を上げた巴津火は
雪洞へと虚冥の視線を追う。
「ああ、こざるの奴、ここへ入ってるんだよ。なー?」
緋牡丹が鮮やかに描かれたその雪洞は、色街の骨女から借りてきた牡丹灯篭である。
もしかしたら水商売つながり、あるいは人骨妖怪つながりで虚冥も知っているかもしれない。
その緋牡丹を透かして、中の墓の火がとろとろと静かに燃えているのが見えた。
次の瞬間
「…げほっ」
夷磨璃が背中に落ちてきた。
「おい……、大丈夫かこざる?ちょっと降りよう、な?」
しかし怯えを感じ取った巴津火は文句を言うのをやめ、マンガ本を枕元に伏せて
背中の上の夷磨璃を宥めようとした。
76 :
白龍
:2011/10/25(火) 22:56:06.84 ID:6fs4ZkiDO
ここは以前、榊と会ったあの場所。
辺りは霧で覆われ、空の色も把握しにくいほどである。
その霧の中には、神々しいオーラであるが、同時に邪悪さを感じさせる物がいた。
「榊、いるならば返事をしろ。」
白く邪悪たる龍は、その場で待ち続けた。
77 :
:2011/10/25(火) 23:07:34.17 ID:NZZT/wb30
>>76
白龍が霧中に放った言葉の少し後、
あたりを包んで霞ませる白の中から、それと対照的な色合いの女性が姿を現す。
平然としたたずまいの女の、全身、髪を含めた黒色が、
霧の中から歩み出る彼女の異質さをより、明確のものとしていた。
「いてもいなくても、白龍が呼べばそこにいる。
白龍が会いたければ、自然と目の前にいるだろうから」
いつものように無感情な言葉を冷やかさのある美貌から発し、
悠然と立つ白龍の前に立ち止まった。
78 :
白龍
:2011/10/25(火) 23:13:21.30 ID:6fs4ZkiDO
>>77
彼女の姿を確認すると、白龍はうっすらと笑みを零した。
「くすっ、榊。我が会いたいと思えば、貴様は来てくれると言うことか。
まぁ、話は別の場所でゆっくりしたい。ついて来い。」
そう言うと、手から水を発したかと思うと、それは地面に亜空感を作り出した。そこに入れば、白龍の作り出した空間へと行けるはずだ。
「さあ、榊、入れ。」
79 :
榊
:2011/10/25(火) 23:20:44.31 ID:NZZT/wb30
>>78
榊は彼女の反応にも微動だにせず、
小さく笑う白龍を冷淡な目つきで見つめ突っ立つ。
だが、これは肯定の意なのだろうが、白龍が気づくか気付かないかの程度で榊は頷いていた。
「邪魔をする」
亜空間を作る様もただじっと見つめ、短く言葉を呟いたかと思うと榊は、
黒の革靴のつま先は家に向け入って行く。
80 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
:2011/10/25(火) 23:35:22.83 ID:6fs4ZkiDO
>>79
入ればそこは、宇宙のように無限で暗闇の続く部屋だった。
熱も物も、何もない、本当に不思議な空間。
それは白龍の心を写した物のようだった。
「貴様の言う通り、青行燈の手助けをすることにした。向こうは我の事を信頼してるようだ。」
神様テンションでのどや顔である。自信に満ち溢れた白龍が伺える。
だが直ぐに、それは消える。
「・・・。我は黒龍を倒したい。だが、その目的を達成した我はどうすればいいのだ・・・?
・・・不安だ、何かが我をついて来る気がしてならない。」
今まで誰にも見せなかった、不安そうな表情。
榊だけは信頼できたのか、それとも気分なのか。
不意に白龍は不安を語ったのだ。
81 :
榊
:2011/10/25(火) 23:49:08.14 ID:NZZT/wb30
>>80
白の外とまるっきり反転したような内は黒く、しかし榊は黙って白龍とともに入る。
するとこの部屋とも言い難い空間の中で白龍はともかく、
全身を闇のように染めた榊の体は、まるでそこが元からいた場所であるかのように自然と溶け込み、
青白い顔以外は全て黒と一体化して見えた。
「そうか、だが相手は青行燈。
まともな神経や精神をもつ者は、神格の白龍も含めて信用されてもこちらから信用してはいけない」
ふらりと顔だけになった榊が揺らめき、白龍にそう忠告した。
何分こちらが相手をしているのはあの狂気の塊。
注意しすぎてもそれこそ青行燈の思惑通りだが、榊の言うとおり信頼を置くのも、
はばかるべきなのはある意味当然のことである。
「とは言え、白龍。
白龍は未だ神宝を入手してはいない。別段入手が重要というわけではないが、
あれにその事で疑念を抱かれるということもあり得る。
障害なくあれの手助けをしているという立ち位置を表すならば、
あの窮奇の子供、宛誄の神宝は諦めることを進める」
白龍の意識せずに漏らした不安には触れず、今は青行燈の優先する榊。
しかしそれについても頷いていたので、邪険にするつもりはなさそうだ。
82 :
白龍
:2011/10/26(水) 00:02:36.80 ID:PdXycdJDO
>>81
「大丈夫だ、あくまで我は貴様の手伝いをするだけ・・・。青行燈など信用する訳がない。
ああ、あの五月蝿い奴らか。神宝の入手はともかく、あいつには借りがある。あいつを無視する訳にもいかない。」
もの事は順調に進みつつある。宛誄と零が組んだ今、白龍の元に黒龍が現れる確率は大幅に上がるのだ。
まだ白龍はこの事実には気づいてはいないが榊は知っていたのだろう。
「・・・・・・榊、貴様なら解るかも知れないから問う。
死とはなんだ、生とはなんだ。」
83 :
榊
:2011/10/26(水) 00:18:16.12 ID:DcXsod820
>>82
彼ら以外の存在は無く、そのため榊の視線は一直線に白龍に注がれている。
その視線が、白龍が宛誄に対して少しの感情を示したとき、
焦点と言うかともかく、榊の意識と呼べるものが強まった気がした。
「だが、それで白龍。
白龍自身の意思が揺らいだのも事実。それは忘れてはいけない」
どうやら榊の中にとって、白龍宛誄の接触は好ましいものではないらしい。
「死、生。簡単だ。
呼吸していれば生きている。していなければ死んでいる。
目的を持って努力することができていれば生きている。でなければ死んでいる。
生物学的にも心理学的にも、あらゆる意味を探そうが所詮、それ程度の概念しか誰も把握できない。
とは言っても白龍。目的を果たした後にあるかもしれない無に、
生きることの終着点にせっかく、たどり着けるというのに二の足を踏んでいる今は、
全てが終わったそのときより苦だということだけは言っておく」
84 :
白龍
:2011/10/26(水) 00:39:40.22 ID:PdXycdJDO
>>83
白龍自身は、揺らいだ事実を受け止めたくなかったが、ただ黙って頷いた。
「我が二の足を踏んでいるだと・・・。その行為が苦、か。」
何かを考え始めたかの様に目を閉じる。静寂な空間が辺りを包み込む。
「(我のすべき事。)」
目を見開いた先に、何かが見えた。白龍の心にも、空間にも。
蒼き瞳が榊を見る。
「榊、貴様に話して良かったのかも知れない。少しだが我の求めたいことが解ったかも知れない。」
次の白龍の瞬きの時には、もといた場所に戻っていた。
しとしと降る始めた雨は、二人の体を濡らした。
「また会おう、榊。」
85 :
榊
:2011/10/26(水) 00:50:46.14 ID:DcXsod820
>>84
「生が目的ならば、達成とともに[
ピーーー
]ばいい。
しかしそうでなければ、生は続く、苦行的にな」
目の光を変えた白龍に、榊は短く付け加えた。
彼女の心に潜む闇が若干和らいだのだろう、明かりを得た空間へと姿を変え、
潜み溶け入った榊の体は今度は明確に、再び出現した。
「白龍、またの機会も呼べ。そうすれば目の前に現れよう」
榊の今回の目的は達成したのだろう、これ以上話すこともないと、
雨の降る白龍の目の前から一瞬にして、世界に溶け込み消えて入った。
86 :
???
:2011/10/27(木) 23:34:27.14 ID:+4VTfHle0
月は強く輝いて、普段は闇に包まれる夜の世界に銀色の光を降らせる。
その光は屋外に出ている全てのものに注がれ、
ここに一人佇んだ少年にも、平等に銀は頭から降ってきた。
月明かりに包まれたここは、恐らくその月の静けさのある美しさとは恐らく程遠い、
至る所が破壊され朽ち果て、なんとかして面影を残すだけとなった、
かつて信仰を多く集めていたはずの社の前であった。
黒いローブに身を包んで、小奇麗な薄ピンクのウサギのぬいぐるみを抱いた少年は、
目の前のそんな光景に怯えたり特別な反応を見せることなく、ぼんやりと佇んでいる。
見た目は中学生ほどの年齢の彼が、このような緊急事態の中まったく平然としているこの様は、
どこか限りないほどの恐ろしさを感じる。
87 :
安木&雨邑
:2011/10/27(木) 23:51:46.71 ID:gGMYFMk5P
>>86
「姉上様ぁー! 姉上様ぁー!!」
「・・・黙れシスコン」
そんな星降る夜にでかい声と陰気な声が交差しながら近づく。
1人は赤い重ね衣と鉢巻をした半泣き少年、
もう1人は青い冬着と毛糸の手袋をした厚着の少女。
宛誄が白竜に襲撃された一件から、
紫狂では“戦えない者”の一人歩きが禁止される家族ルールが発令された。
(当の宛誄は全くそのルールを踏み倒しているが)
「・・・妖気の脈がここから流れている」
厚着の少女、雨邑がふと歩みを止める。
最近守護と巴津火の戦いを見つけ、雨邑は調査に乗り出していた。
「むぅ! 誰だ、そこの!! 名を名乗れぇ!!」
「いきなり威嚇してはいけない(うっせー)」
少年を見止めたとき、声のでかい少年・安木がおもむろに乗り出すが。
陰気に雨邑が諌める。
しかし場所は妖気の流れる廃社、そして月が明るいとはいえ、夜中にそこに佇む少年。
十中八九、只の人間ではない。
「失礼する、私は雨邑。こっちのうるさい方は安木。
ちょっと色々聞きたい、最近信仰を集める場所を破壊する輩がいる。あなたはその類の者か?」
雨邑が陰気な声で語りかける。
88 :
神代
:2011/10/28(金) 00:06:44.85 ID:8NcdYwJj0
>>87
なにをするでもなく立ち尽くす。
その少年の姿からは、一仕事を終えて清々しさに浸ったり、逆に一大事を起こしてしまって立ち往生してる風もない。
ただ、ぼんやりと散歩のついでに寄った、とでもいうように涼しげな様子である。
そして少年は涼しげな印象を残したままで、先ほどの大きな声がした方にゆっくりと振り返った。
「くすくす、これは大変警戒されてしまいました。
しかし、声はいいですね、声は。
獣の発する乱暴な雄たけびとも、人の思惑にがんじがらめになった言葉とも違って、
ただ純粋に人が人に向かって放つ、繋がりの象徴なのですから。」
しかし少年が振り返れど顔はローブに隠され見えず、口元に笑みが浮かんでいるのが見えるだけ。
だがウサギの可愛らしいぬいぐるみと清涼な声も相まって、
少年からはこの状況に似合わないほどに、無垢なものを感じさせる。
「ふふ、初めまして元気のいい方と控えめな方。僕の名前は神代です。
破壊するもの、ですか。
質問に質問で返してしまうのも失礼かと思うのですが、
あなたたちはその破壊し回るものと遭遇したら、どうなさるのでしょうか?」
神代は敵意のない、とてもやわらかな調子で質問をした。
89 :
安木&雨邑
:2011/10/28(金) 00:23:29.02 ID:I2mmtNgVP
>>88
「おおっ! わかりますか!! 拙者の繋がりの素晴しさを!!
ただ・・・、しかしっ!! 母上がぁ・・・」
澄んだ声と言葉にあっさり懐柔される安木。
雨邑がガン無視を決め込んでいる。
「どうもしない・・・わけでもない。
実は私が夫として狙っている妖怪がその件に絡んでいるみたいでな。
未だに母の面影から抜けられぬ甘ちゃんで、
件の戦いを成長のきっかけになるよう手を打ってみたいと思っている」
「うわぁああああ!! 母上ぇええええええ!! なぜもう居ないのですかぁああああ!!」
「うるさい!」
「がふっ!!」
獲物を狙う鷹のような目付きで語っていた雨邑がとうとう我慢できずに、わりとガチなローキックを放つ。
ちなみに紫狂5兄弟姉妹の中で未だに窮奇を慕っているのは巴津火と安木だけだったりする。
「こんな感じで未だにマザコンだ、私としては非常に困っている」
「おぉぉふ・・・、しかし! 窮奇は私の母親になってくれるかもしれない女性(ひと)だ!!」
内腿を押さえて蹲る安木をため息をついて見下す雨邑。
90 :
神代
:2011/10/28(金) 00:36:15.32 ID:8NcdYwJj0
>>89
少年の澄んで落ち着いている雰囲気とはおそらく対照的な、
活発元気満タンのヤスキ。彼の圧と言うかキャラはとても濃く、
少しの彼らとの距離があるはずの神代は若干気圧されたのか、顔に浮かんでいる笑みは苦笑だ。
「ふふ、あなたには人並ならぬ過去があるのですね。
割り込んだりするつもりはありませんが、どうかこの場は気を静めてください。
それと、そうですか安心しました。
あなたの言うその方はどのように関わっているのかは分かりません。
しかし破壊し回る者たちを今すぐにでも討伐しよう、と鼻息荒くしている訳でもないので、
その当事者、つまり破壊者としても安心しました」
苦笑のまま感情を発散する安木を宥めながら、
神代はあまりにも前置きとは離れた直球な答え方をした。
いかにも自分がこの神社の加害者だ、と豪語する神代の顔に、怖気づくようすはない。
「それでもマザコンもいいですよ、マザコンも。
確かに母親にとらわれていると言えば聞こえは悪いですが、人は誰であれ、
心に支柱とする者がいるのです。その支柱が母親であったなら、
子供は母のために色々な努力を厭わないでしょう。それは、とても素晴らしい家族愛と思いませんか?」
91 :
安木&雨邑
:2011/10/28(金) 00:49:21.68 ID:I2mmtNgVP
>>90
「思わない、なぜならあの女は根っからのクズだから」
「冗談ではない!!」
「そして随分擁するな、そちらにも何か想い入れがあるのか?」
「」
安木はガン無視の連続に流石にへコむ。
雨邑、情や嫉妬に檄し易い蛇とは思えない冷血動物っぷりである。
「まぁ正直、場合によっては足を引っ張る可能性もある。
余裕綽々で勝って貰っても成長は期待できない。
人も妖怪も・・・強い葛藤、感情や思想の中で足掻くときにこそ進化が期待できる」
雨邑が見せた窮奇の片鱗(なごり)、
それは心と魂を見極め、潜在的な能力と想いを引き出す力だった。
92 :
神代
:2011/10/28(金) 01:01:45.67 ID:8NcdYwJj0
>>91
「はは、僕は特別な理由はありません。
ただ僕もその方と似たように、マザコンファザコンの気があったりするのです」
雨邑に見抜かれたと思ったのだろう、神代は人差し指で頬を少し撫でるに掻いたり、
困ったように笑うという先と違って少し落ち着かない態度に変わる。
だが、その行動の中で人知れず強く片手で抱きしめられたぬいぐるみの差す意味は、
見抜かれたことの気まずさとは違うものであった。
「ふふ、あなたは相当に物をよく考えていらっしゃいます。僕は頭が下がる思いですよ。
それと、少なからずその方に対して、とても温かな心を感じました。
勝つ?戦う?
・・・、もしかしたらと思って質問をいたしますが、
その方のお名前は巴津火、と呼ばれる方ではありませんか?」
雨邑の言葉を落ち着いたのかゆっくりとした態度で聞き入り、
どこか嬉しそうに目を細めて返事を返す神代。
そしてはたと、自分たちの話す内容に心当たりがあったのか、
ぽつりぽつり、あまり自信は無いようにゆっくりと雨邑に質問をした。
93 :
安木&雨邑
:2011/10/28(金) 01:16:34.76 ID:I2mmtNgVP
>>92
「・・・あなたもそっち側か」
いきなり落ち着きが無くなった神代に雨邑は少しため息。
「そうだ、巴津火だ。勝つと戦うという単語に反応したようだが。
あなた達は全員で戦っているわけじゃないのか?」
「なんだと聞いていないぞ雨邑! 兄妹婚など何を考えているのだぁー!」
「木の又から生まれたのに血縁も何もないだろう」
巴津火という単語に反応した安木は手をブンブン振り回して抗議するが、雨邑は至ってドライ。
いやまぁ確かに誰一人として血縁はないんだけどさ。
雨邑はふと、ぬいぐるみの方に目を向ける。
どことなく違和感、というよりも不吉な予感が雨邑の特性に引っかかっていた。
94 :
神代
:2011/10/28(金) 01:30:26.44 ID:8NcdYwJj0
>>93
溜息で本当に行き場のなくなったように困ってにが笑う。
口からふふと僅かに焦りが混じった息を漏らして、雨邑に応えようとした。
「いえ、僕たちもいわゆる一丸、となって戦ってはいます。
しかし、その中でも夫にと狙われそうな者で考えると、自然にあの方しかなくなってしまうのです。
少しそれ以外は訳ありですから」
最後の個所だけ、意識してか冷やかな物が混じった気がする。
神代を含めた者たちのほとんどは、つまり冷やかに言われるような、
そう言った境遇があるのだろう。
「しかし、あの巴津火君のご兄弟でしたか。
ですがそう言われると余計に分からなくなってしまいます。
行き過ぎた手助けは成長のためになさらないようですが、一皮むくために何かするのでしょう?
まさかとは思いますた、巴津火君の成長の促進のために、
あなた方が立ちはだかる壁になろうとしている、なんてことはありませんよね?」
口持ちに手を当てて少し考え込むそぶりを見せる神代。
それから手を離して質問する中には、若干の悪戯や挑発に似た脅しが混じっていた。
95 :
安木&雨邑
:2011/10/28(金) 01:44:25.74 ID:I2mmtNgVP
>>93
「少し訳あり、か」
おそらくおおっぴらに言えるような者達ではないのだろう。
そんな者達が一丸に成るとなるとおそらくは2つ。
カリスマ性のある先導者に引き摺られているか、
またはなんらかの共通の目的の為に動いているのか。
しかし挑発じみた神代の発言に場は一転した。
「・・・」
急に張り詰めた空気に安木が身構える。
しかし雨邑は相も変わらずマイペースである。
「それも考えたが、巴津火とまともに戦うような事態は避けたい。
戦いの跡地も見てみたが、敵もそっちも相当な実力者だと思われる。
できるならむしろ巴津火一人で敵と戦うような状況を作りたい」
雨邑は思考に眼を光らせるが、ふと脱力して微笑む。
「だがなかなかそれが思いつかない。
巴津火を上手く釣る為の餌も、切迫した弱みも見つからないからな。
それこそ私が人質にでも取られなければなるまい」
96 :
神代
:2011/10/28(金) 01:55:46.98 ID:8NcdYwJj0
>>95
「そうでないのでしたら、僕は一向に構いません」
雨邑の答えに、さらっと一瞬にしてその圧迫を消滅させ、
満足したように口角を緩やかに上げて笑って見せる。
状況が敵対でなければ、この神代にとっての好ましくない事態とは呼ばないらしい。
「人質、ですか。
確かに彼の普段の行いから見る面倒見の良さやその他もろもろにとっては、
人質と言うカードはとても有効なのでしょう。
しかし、これからの戦闘の中で果たして人質があるから一対一になる、
とできるような悠長な暇はあるとは僕には思えませんよ?
なぜなら相手はあなたもご存じのとおり実力者。であるならば戦闘の体系は必然的に、
巴津火君も含めて一対一のものとなると思われます。
とは言っても、あなたが人質を買って出て彼の戦意を向上させてくれるならば」
僕たちに断る理由はありませんよ?と締めくくった。
97 :
安木&雨邑
:2011/10/28(金) 02:17:57.68 ID:I2mmtNgVP
>>96
「まぁ物の例え、残念だが実際に私が自ら進んで人質になることは無い。
というかそれはハイリスク過ぎて私もやりたくない」
ふと笑って、雨邑が語る。
瞳の中には清流の流れる深淵のような深い青を湛えて言葉を続ける。
「しかもそれじゃあ足りないんだ。
仮に私が人質になり、敵が巴津火との一騎打ちになるように仕向けたとしても。
それじゃああまりにも足りない。
仕組まれた逆境や駒のように動かそうするシナリオではどうしても綻びが生まれる。
ただの脅迫ではなく、もっと。巴津火の心の奥から揺さぶるような強い“想い”でなくてはいけない。
動かされるのではなく、流されるのではなく。
決してブレる事のない芯とも言うべき・・・。
魂の底から求めて止まない本当の“想い”こそ、進化と進歩には不可欠なんだ」
『良い』方向であれ、『悪い』方向であれ。
紫狂に関わった妖怪も人も、大きく進化を促進された理由がそこにあった。
ふと、笑いかける雨邑。
「あなたには在るか? その在り方の芯とも言うべき“想い”は」
雨邑はそれだけ言うと、くるりと背を向けた。
「空も白んできた、私達はこの辺で退散しよう」
また機会があれば、とだけ言い残して。
雨邑と安木はその場から立ち去っていった。
//この辺で〆させていただきます
98 :
神代
:2011/10/28(金) 02:34:35.36 ID:8NcdYwJj0
>>97
「くすくす、確かに、無理は言いませんよ」
静かに笑って神代は雨邑に同意する。
「巴津火君の、芯ですか」
しかし冗談のない次の話は神代にとって、
とても興味、思いのあるものだったようで少年は雨邑の言葉に、
口元はそれでも笑みを絶やしてはいなかったが見た目は関係なく、
神代から感じられる雰囲気には、その話に対して心に自らにも問いかけるような真剣さがあった。
「あの自由奔放な彼にも、きっとあなたの言う芯はあるのでしょうね。
今は僕たちにはそれが分かりませんが、僕からもこの戦いで、
彼がそれに気づけるのを祈っています」
静かに話す彼は、そっと手を胸元に当てて小さくお辞儀をした。
それから頭を上げたときに問いかけられた雨邑の質問には、
神代は小さく口角を上げて、頷いた。
「ええ、ありますよ。僕にも決して折れないような思いが。
僕の心、魂を貫いて僕をしっかりと地面に足をつけさせるような、
流れに逆らってでも叶えようとする思いが。
だから、僕は僕が嫌いなのです」
去っていく二人の背に向けて、神代は小さく呟く。
ローブに隠されて今も表情は見えないが、
それを代わりにと表すように胸に抱いたぬいぐるみへの力が、またどうしようもなく強まっていた。
/分かりました。遅くまで付き合ってもらってスイマセン
/絡みありがとうございました
99 :
黒龍
:2011/10/28(金) 22:58:58.82 ID:ibKAzpNDO
ここは町から少し離れた川のほとり。
もう4、5分、歩けば繁華街の入口が見えるくらいの場所だ。
そこの河原で何かを呟きながらぶつくさ言う、紺色の影が。
「田中になんて言って会えばいいんだ・・・俺。
平然と会うなんて出来ないからなァ。うむぅ、あ!」
何かを思い出したかの様に立ち上がると、急にガッツポーズを取った。
何があったのか、と不振に思うかも知れない。
100 :
ミナクチ
[sage]:2011/10/28(金) 23:07:10.57 ID:IIIOtMt/o
>>99
今時珍しい古風な服装の少年が一人、少々慌てた様子で川の上をすべるように走ってくる。
時折川岸を通り過ぎる人々が気にも留めないのは、人に見えないように姿を隠しているため。
しかし人ならぬ者であれば、その気配か、あるいは姿を見ることができるかもしれない。
長らく一寸法師サイズだった彼は、今は等身大。
とは言え現代人の、その年頃の少年達に比べればずっと小柄である。
少年が後ろを振り返りながら走っているのは、誰かが追ってくるのを気にしているらしい。
そして正面へ向くときに、ガッツポーズの紺色の影と目が合った。
「あっ、貴方は確か…」
覚えのある妖気に思わず立ち止まったミナクチの足元から、ぱしゃんと小波が広がった。
101 :
夜行集団
:2011/10/28(金) 23:20:49.50 ID:8NcdYwJj0
>>99
、
>>100
ガッツポーズの黒龍と、何者から逃亡中のミナクチが丁度合流した地点に、
小学生ほどの伸長をしたこの妖怪はふらふらと、土手の向こうから歩いてきた。
その足取りは二人がいることを知っていたわけではないらしく悠長で、
どうやらただの寄り道ついでに出会っただけのようだ。
「最近、いやかなりの前からです。
誰かがこの音楽妖怪の存在丸ごとを、きっちりしっかり忘却してやがったです。
グレテやるわぁ!!」
土手を登りきって向こうに見えた二人の姿へ、
それがだれかは分からなくとも大きな声で叫んだ。とは言っても腹式呼吸の整った明瞭な声で。
「ぐれるとは反抗、すなわちパンク。
今の華音はすごくロックです!!」
確かにそう豪語するこの低身長は、髪はツンツンとそこらじゅうにとんがって、
上の服には髑髏のプリント、
タイトなジーンズは程良くを完全に通り過ぎたダメージ加工が。
今、この音楽妖怪の手に握られたcoolなエレキが表すように、とってもとってもパンクである。
102 :
黒龍
:2011/10/28(金) 23:32:31.72 ID:ibKAzpNDO
>>100
水の音が聞こえ、ふと正面を向く。
その姿は、黒龍にはばっちり見えていた。
「お前、確か・・・究極神の使いのアストラだっけ!?」
ミナクチのミの字も合っていない。なんだ、コイツ。まあ、黒龍には冗談だったつもりらしいが。
「ええと・・・ゴメン、名前、忘れちったwwそんな慌ててどうした?」
ミナクチとの接点のあまりない黒龍は、彼とこうして話すのは初めてだろう。
>>101
「・・・なんだ、キチガイか。」
どこかの家で母親と喧嘩、あげく家出したのだろうと取り留めた。
結果、扱いはキチガイ。
もちろん、無視である。
103 :
ミナクチ
[sage]:2011/10/28(金) 23:40:08.52 ID:IIIOtMt/o
>>101-102
「アストラ?いえ、私は蛇神のミナクチと申します。黒蔵のことはご存知でしょうか?
貴方がご無事だったことは黒蔵から聞いていたのですけれど……
確かに直にお話する機会は、あまりありませんでしたね」
川岸のほうへと歩んで、下級の神格は不思議そうに黒龍を見上げた。
「あの…白龍さんも、ご無事なのでしょうか?」
問いかけていいものかと逡巡の後に、ミナクチは思い切ったようにそう尋ねた。
その表情は少し真剣味を帯びている。
(死した龍が戻ってくる方法があるのならば、或いは…)
ミナクチが黒龍に、どうか詳しく教えて欲しいと頼もうとしたその時、
パンクな心の叫びが二人の間に割って入ってきた。
「ぱんく、ですか?」
唐突なサウンドに、驚いたミナクチの妖気が一瞬だけ揺らぐ。
人間達からはその一瞬だけ、水上に立つ少年の姿が見えたことだろう。
直ぐに落ち着きを取り戻すと、
「確か、袂山の盆踊りの日に、演奏していらっしゃいましたね?」
あの時とは随分楽器も衣装も異なる華音に話しかけた。
104 :
夜行集団
:2011/10/28(金) 23:54:59.89 ID:8NcdYwJj0
>>102
いつの間にか髪色も金髪に変容していく華音は、
黒龍の多少離れた地点からの、躊躇のまったくない強烈な罵声を全身で食らった。
一般人ならばその時点でブチ切れ、もしその筋の人ならばすぐさま戦闘になるのだろう。
しかし、華音の表情として浮かんだのは怒りや殺意でなく、待ってましたと言わんばかりの笑顔であった。
「その通りでs、だぜ!!
ロッカーははみ出し者!気がくるってるっていうのは褒め言葉です、だぜ!」
曲調の傾向によって服や容姿だけでなく、
精神も大きく影響を受ける華音はむしろ黒龍の言葉に気を良くした。
「気が狂うからこそ弾ける、はみ出すからこそ感じるこのソウル。
とくと堪能しやがってください!!」
スピーカーをすぐさま取り出した華音はエレキに手をかけ、
大きく叫んでからまたもや取り出した白いピックで、強く一回だけストロークをした。
すると、すぐさまスピーカーから弾けるように、響くひずみを含んだギターの音が飛び出す。
>>103
「そうパンク!!混沌と狂熱の音楽です!!
ミナクチさm、ミナクチもどうですか!?」
黒龍と違って興味を示したのかこちらを向いたミナクチに、
びしっと指差して叫んだ。そしてその声は、ある程度の距離があるというのに、
まるで近くで話しているのかと錯覚するほどに発声がきっちりしていた。
「演奏してましたよ。
お祭りと言えば音楽、音楽と言えば華音。あの時は他の方と演奏して、
それはそれは楽しかったものです。
でもそれっきり!!まったく音楽の機会がない!!
ましては多分どこかで誰かがばっちり忘れていました!!納得できるかあ!!」
祭りで太鼓などを叩きながら遠くからミナクチ達の騒動を見ていた華音は、
一方的にミナクチのことを知っていた。
その為なのだろう、あの時のことを思い出して少し落ち着いた風に喋る華音。
だが、後半の内容から徐々に感情が高ぶって行き、最後には再びパンクへ。
そしてまるで悲しみを表すかのように、反骨精神からは想像できないほどのテクニックで、
強くギターを再びかき鳴らすのだった
105 :
黒龍
:2011/10/29(土) 00:02:46.00 ID:Ogm5kitDO
>>103
「蛇神ミナクチ、か。・・・そうか、黒蔵の!あんたも随分苦労してるんだな。」
身長は175程の黒龍は、ミナクチを見下げる形の挨拶となった。
下級の神格、あれど黒龍よりも遥かに雰囲気が違うものだった。
不意に質問してきたことに、黒龍は驚いたが、直ぐに笑顔になってミナクチの頭を撫でる。
「まだ解らんが、きっと生きてる。ありがとな。」
>>104
「(なんだコイツ、大丈夫か。)」
その返答に、黒龍は唖然としていた。
音楽好き故に、こうなるのか?と疑問を抱いた。
だが黒龍も、アニメ見れないだのなんだのになると発狂するのだろう。
「え、何?お前、ギター出来んの?」
106 :
ミナクチ
[sage]:2011/10/29(土) 00:07:53.84 ID:/Hq7Qj4Io
>>104
「いえ、あの…遠慮しておきます」
完全に押されてるよこの神様。得意部門で押してくる華音ちゃんに負けてるよ。
これが巴津火だったら華音ちゃんと一緒にはじけるに違いない。
けどミナクチは今、激しさとボリュームを増すサウンドに、耳がキーンってなってるよ。
そんなわけで、川面に丸っこくて平たくて尖った、変な形のものがぷっくり浮かんでくるのには
ちっとも気づけなかったわけだ。
>>105
「覚悟して神格に上ってるまのですし、苦労というほどでも……。あ」
そこへこんな風に頭を撫でられるのはかなり久しぶりで、しかも肯定的な答えも貰えたのだ。
見た目は子供なこの下級神格はちょっぴり頬を染めたりしている。
その間になんとなく桃にも似た形の謎の物体は、どんぶらこっこと暗い川面をこちらへ向かってくる。
107 :
華音
:2011/10/29(土) 00:16:15.28 ID:lUeA7bXu0
>>105
、
>>106
まだ弾く曲は選びきれずにいて、いまはウォーミングアップのための指慣らし。
しかしそれも終えたのか、ふうと溜息をついてから、
ギターへと下ろされていた視線を再び上げて黒龍を見つめた。
「ギターを弾ける?
それは鳥に空の飛行、仏様に経を読めるかの是非を問うかの如き愚問です!
当然、ばっちりしっかり弾けますよ!!」
見つめる華音の目には自身の炎がらんらんと燃え上がり、
どこかそれが、黒龍に対して少しの挑発を仕掛けているように見えた。
それはもちろん、パンクの影響でそういった態度を取らざるを得なくて、
結果華音はふんと胸を張ったのだが、黒龍はそんなことは一切知らないだろう。
もしかしたら、華音は今現在、この世で最も不得手とする戦闘の危機に立っているのかもしれない。
そしてその危機を華音は察知できていないのだから、
川上から流れてくる未確認川下り物体のことにはさっぱり気づいていなかった。
108 :
黒龍
:2011/10/29(土) 00:20:52.87 ID:Ogm5kitDO
>>106
「何照れてんだ、このこのっww」
わしわしっと頭を撫でまくる黒龍は、かなり調子に乗っているようで。
その変な近づいて来るものに気づく訳がない。
>>107
「マジかよ!なんか俺、燃えてきたわww」
多分、某アニメの影響だろう。黒龍の華音に向ける目は輝いていた。
そして、華音と同じく、黒龍はこの後で爆発するかも知れぬ。
109 :
ミナクチ「」 叡肖『』
[sage]:2011/10/29(土) 00:37:19.48 ID:/Hq7Qj4Io
>>107-108
謎の物体どんぶらこっこは静かに岸辺に近寄ると、ぱかっと真ん中から綺麗に割れた。
そして…輝くウルトラソウッ!!
…じゃなくて噴出す邪悪な妖気。
ひゅんっ!と空を切って割れ目から現れたのは桃太郎、ではなくて
しなやかな動きでミナクチの足を背後から絡めとろうとする吸盤のついた蛸の足だった。
『つーかまーえたっ♪』
「あっ!」
黒龍に撫でられて照れ照れしている間に逃げることを忘れていたらしいよこの神様。
黒蔵がドジっ子なのはもしかして上司に似たのかもしれない。
『お前も女の子にしてやろうかぁーwwwwwwww』
どんぶらこっこの正体は、衣蛸の殻だった。
ふはははは、と水面に半身を出して笑う海の悪魔、今だけ10万と千二百歳。
引きつって青ざめてるミナクチと対照的に、こっちは心底楽しんでると思われる。
「嫌ですー!!離してくださいってば!!」
じたばたするミナクチを触腕で捕まえて、衣蛸は余裕綽々に筆を舐める。
『お前の神使助けたの俺なのにさー、雨の中置いていってくれたよなー。
でもお陰でこういう楽しみできたし、ありがとうな♪』
蛸はしっかり恨んでたらしいです。
110 :
華音
:2011/10/29(土) 00:50:01.29 ID:lUeA7bXu0
>>108
「でしょ!!あなたもギターやってみませんか!?
そして一緒にパンクしまs、しようぜ!!」
打って変って乗り気な黒龍の手をぐっと両手でつかんで、
これでもかというほどの熱意を振りまきながら、音楽の道へと引きずり込もうとする。
このまま華音の熱意に任せてしまったら、
黒龍は最低でも数万の楽器を自分から買ってしまうことになるかも知れない。
>>109
その時、突如今までなかったはずのレベルの妖気(黒龍の妖気を華音は探っていない)がこの場に出現する。
それはパンクで狂乱していた華音にも感じることができて、
手は黒龍の手を握ったまま肩をビクッ、と驚き反応した。
「な・・・なんですか!?」
いくら反骨と言えども所詮雑魚中の雑魚な実力の華音。
ロックの心に押されて逃亡しようという案は頭に浮かんでいないが、
明らかに先ほどとは違っておびえた様子で、か細く声を出していた。
「あ、それは華音のお客さんです!!
持っていくのは許可しません!!」
しかし、ミナクチが今まさにさらわれようとしている。
その事にお客(演奏の機会)が消えたあの時期のトラウマが脳裏に浮かんで、
気づいた時には石をつかみ、とても弱く遅い速度で叡肖に投げつけてしまっていた。
一瞬にして華音は死亡フラグを踏んだようだ。
111 :
黒龍「」&魔王『』
:2011/10/29(土) 00:54:54.48 ID:Ogm5kitDO
>>109
「えええーー!!?」
現れたのはなんと、悪意剥き出しの蛸様。
絡まれて行くミナクチを見てこちらも青ざめる。
しかし・・・ミナクチの悲劇は終わらない。
海の悪魔に呼ばれた、天使の悪魔が空から下りてきたのだ。
『叡肖さん、ミナクチ様が女性化すると聞いて、助太刀に参りましたっ!』
「露k・・・・・・ミナクチ、黒蔵と似た物がお前にあるよ・・・ハァ。」
>>110
「ギターやりt『華音ちゃんー!優しく愛でよう♪』」
天使な悪魔は、叡肖に飛んでいく石を弾くと、華音目掛けて一直線!
「・・・・・・・・・。」
『叡肖さん、この子の性転換も!あ、ボクも男になりたい!!』
華音、どちらになるのだ!?
112 :
ミナクチ「」 叡肖『』
[sage]:2011/10/29(土) 01:11:20.15 ID:/Hq7Qj4Io
>>110-111
かつん、と石は筆に当たった。
『む?』
蛸の歪な瞳孔がぬるりと動き、少女とも少年ともつかない姿を捉えた。
『お客さん?これが?』
華音の顔に、誰だっけどっかで見たような、と思いながら叡肖は、
竜宮で仕事をする際の人に近い姿に化ける。
その紺の官服の袖から伸びる蛸の触腕は、しっかりとミナクチの足を捕らえたままだ。
『おー、露希ちゃんじゃないの、来てくれて色々捗るよ。
その子もか?んじゃちょっと捕まえておいてよな』
叡肖はへらへらと笑いながら、露希に華音を捕まえてくれるように頼んだ。
『その子が持って行くなって言うなら、こいつはここで女の子にするだけだし?』
「嫌ーっ!!それだけは嫌ーーーッ!!!」
天使な悪魔に敵側として参戦されたミナクチは半泣きであるが、
しっかり袖を捲られて蛸の筆で『女体化』の文字を記される。
『…あれ?』
なんということでしょう。大して変化しなかったよ!
蛇神が人に化ける際にモデルにしていた昔の子供は、現代人ほど栄養状態良くなかったためか
女の子になってもつるぺたなまんま。
それでも精神的ダメージはしっかりあったようで、ミナクチは真っ赤になってふるふるしている。
『露希ちゃんも男にするのかい?それは良いけど、その子はどっちなんだ?』
筆を伸ばして二人に文字を記そうとする叡肖。
華音ちゃんの性別はこの蛸にもよく判らないようだ。
そして露希を男性化したらば、とある雪山の主から猛烈な吹雪…もとい抗議が来る予感。
113 :
華音
:2011/10/29(土) 01:22:26.60 ID:lUeA7bXu0
>>111
投げてしまった後で気付いた。
なるほどこんな攻撃では向こうが逆に怒ってしまって、どうしようもなく虐殺されてしまうと。
しかし気づいた時には遅すぎた。華音の手から石は既に離れてしまい、曲線を描いて叡肖の元へ。
「(ああ、華音の音楽生命は短いものでした。
こんなことになるのなら、一人でも誰かに振り向いてもらうまで演奏しておけばよかったです。
そしてなによりも、一曲もオリジナルを世に発表できずに逝くのは、死んでも死にきr)」
こんな風に走馬灯とともに世界をスローモーションにしていると、
石は一瞬の間で弾かれ、華音の命だけは助かっていた。
そう、命、だけは。
「そ、そんなぁ・・・。まさかここで、ここで『魔王』にあってしまうなんて・・・」
石が軌道を外れたときには、助かったと安心していた華音も、
それがただの勘違いだと気づいてしまった。
かすれた声でなんとか話し、一歩一歩今にも腰が抜けそうな風に後づ去っていく。
「ロックはは、反骨・・・け、決して逃げない強いハート・・・。
逃げるわけには、逃げるわけには・・・・・・・うわぁぁああああ!!」
それでもなんとかパンク状態のハートによって、逃げだそうとするチキンな自分を鼓舞するが、
目の前にしているのはおそらくそれがまったく意味をなさないであろう相手。
なによりも禍々しくトラウマを植え付けた露希を前にして、パンクや心があっさり折れるのは、
当然のことのように思える。
脱兎のごとく、すさまじい逃げ脚でこの場を去ろうとする華音。
既に目には涙が浮かんでいた。
>>112
「ちょ、余計なことは言わないでください!!
あなたはあの魔王の恐ろしさを知らないのです」
半べそになった華音は後ろを振り向きながら、叡肖へと叫んだ。
それは心からの必死な叫びで、まさに本当の意味でのシャウトだった。
「そ、そうだ!
そ、その魔王にもしも変な文字を書いたら、おそろしい方が飛んでくることになりますよ!!
それも想像を絶するほどの怒りを抱えて!!華音に対しても同じです!!」
それから華音が思いついた作戦は、俺の先輩チョーこえぇから作戦である。
114 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
:2011/10/29(土) 01:37:14.18 ID:Ogm5kitDO
>>112-113
『ミナクチ様・・・普通に可愛いまんまですよ?』
「だああああ!!男装女装は許せても性転換だけはやめろおああ!そこは俺のプライドが許さねえ!蛸、ミナクチをこんな姿きしちまって、早く戻せえ!!」
黒龍、ミナクチを奪いとると庇うような体制を取った。
ふるふると震えるミナクチ、そして、二次元好きにはいそうなプライドが許せなかったらしい。
なんとかミナクチをフォローしようとする黒龍とは逆に、魔王はのほほんとしていた。
『んんー、華音ちゃんは解らないから・・・描いても変わらないよね!!もふっ!』
大抵、虐めてる側は虐めてる行為を自覚してないケースが多い。
露希もまた、華音がどれだけ嫌がってるか全く理解してない。
次から次へと愛でられる華音ちゃんが可愛そうである。
115 :
ミナクチ「」 叡肖『』
[sage]:2011/10/29(土) 01:42:59.38 ID:/Hq7Qj4Io
>>113-114
『魔王?露希ちゃんが?』
叡肖はしばしキョトンとして、ついで大笑いし始める。
『ないない。露希ちゃんは天使だよ?魔王なんて言ったら君、氷亜殿にその舌凍らされちゃうって。
それに本人頼まれて書くんだし、俺の書くのは別に変な文字じゃないよ?』
そのチョーこえぇ先輩の名前を出して逆に華音にお説教する叡肖。
そして、ほら俺ってばこんなに達筆だろ?と、露希の腕に『男体化』の文字を記した。
『そっか、幼いからどっちかわかんない、ってのはあるよな』
黒龍に庇われたミナクチと華音ちゃんを見比べて、にやりと笑った叡肖の筆は
露希に抱きしめられる華音ちゃんに『大人化』の文字を記そうとする。
成長すれば性別もわかりやすかろう、という事らしい。
『ミナクチはまた今度、夜さんに化粧と衣装調えてもらえばもうちょっと女らしくなるかな』
「ノワールでも晒し者にする気ですかっ!」
『それが嫌なら一晩はべって貰うからな。上手い酌頼むぞ』
悲鳴のようなミナクチの抗議にかぶせて、衣蛸はいじめっ子の表情で笑う。
泣き顔のミナクチは黒龍の後ろに隠れて、二の腕に書かれた文字を擦り取った。
うん、やっぱり変わらない。
116 :
華音 氷亜
:2011/10/29(土) 01:53:53.75 ID:lUeA7bXu0
>>114
「うわぁぁああ!!あれだけ逃亡したのにぃいぃぃい・・・」
華音にとって全速力の逃走劇を演じたつもりが、
その実露希にあっさりと、本当にあっさりと捕まってしまった。
しかしそれでももがいて拘束を外そうとする華音の心境は、
悔しいやら怖いやらでごちゃごちゃになっている。
「まだまだ華音は負けませんよ・・・この、この笛があれば」
そうして多少拘束が外れて動きやすくなった華音は懐から、
装飾が細かく加えられた銀色のホイッスルを取り出し、息を強く吹き込んだ。
>>115
超高音なため聞き取れる者の少ない、特殊な音を立てたホイッスルを口から話す。
その華音の顔には、うっすらと絶望が浮かんでいた。
「嘘だ・・・氷亜殿と・・・知り合い・・・だと?」
驚きでもがくことを忘れてしまって華音は、信じられないというように叡肖を見つめる。
だからあっさりと叡肖の筆は、華音へと書かれようとした。
「誰だい?僕の仲間を手を出そうっていうのh・・・叡肖君?」
その時、叡肖の筆と華音の間に、スーツ姿の男が割って入った。
既に戦闘モードだったこの男のせいで、一瞬にしてここの川のこの部分が、
まるで真冬の山の中のように凍りついた。
「・・・どゆこと?」
117 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
:2011/10/29(土) 02:05:05.77 ID:Ogm5kitDO
>>115
なんと言うことだろう、男性化した露希、美少年になった(と予想する。)
元々胸なんてないし、髪の毛も弄れば男に見えなくもない。もしかしたら、男の方が持てたのかもしれない。
『こほん・・・ボク、これで瞳とか侍らせたいな。瞳、ボクに惚れちゃうな♪』
「ミナクチ・・・俺もノワールに用があるからさ・・・、な?避けられない物は突っ切ろうぜ・・・。」
>>116
『華音ちゃん、大人しくしないと、ホットケーキみたいにして、天使が食べちゃうよ?』
やんわり掴むように見えるが、しっかりがっちり華音を押さえ付けている。
しかし、次の瞬間、拘束は解かれることになる。
『氷亜さんが来た・・・。』
現在、男体化で声のトーンも若干低い露希。
氷亜がこれを見たらどう思うか・・・って、露希は悪ふざけで氷亜に追撃を!
『氷亜、ボクさ、男になれたからさ。一緒にホスト、出来るな(キリッ』
118 :
ミナクチ「」 叡肖『』
[sage]:2011/10/29(土) 02:11:26.85 ID:/Hq7Qj4Io
>>116-117
『おいおい、犬笛で犬でも呼ぶのかい?』
しかし笛で呼ばれたのは……犬じゃなかった。
『やあ、氷亜殿。この子は夜行集団の仲間なのかい?
駄目だよー、仲間に恋人を魔王呼ばわりなんてさせてちゃー』
そう言いながら筆先でぴこぴこと華音と露希を交互に指す。
『女の子ってのはデリケートなんだから、壊れ物として扱ってあげなくっちゃ』
そしてNo.1ホスト相手に女の子取り扱い説明を始めやがった。
『彼女が笑って許してくれててもねー、心の底までその通りとは限らないんだぜ?
そういう小さな皹が切欠で彼女の心が粉々に砕けてしまったりするんだからな?』
氷亜がバリバリの戦闘モードなのは判っている筈なのに、
美少年になった露希に話しかけられているのは判っているのに、
衣蛸は真面目なふりをしてそう続けた。
(叡肖さん、あれ絶対判ってやってますよね…)
ミナクチは黒龍の背後で、寒さに震えながら固唾を呑んで見つめていることしかできなかった。
川が凍らされてしまったので、今のうちに逃げることもできないのだ。
そこに黒龍の促す言葉。
「突っ切る?今のうちにここから逃げられるんですか?」
黒龍の言う意味を把握しきらないまま、逃げ道のない下級神は
一縷の望みを託して黒龍にだけ聞こえる小さな声でそう尋ねた。
119 :
華音 氷亜
:2011/10/29(土) 02:29:13.91 ID:lUeA7bXu0
>>117
拘束が外れた華音はまるで濡れ雑巾のように、
疲れがたまったのかくたっとなって起き上がれずに寝そべっている。
「華音ちゃん、こら。
本当に危険な状態じゃないのにその笛は吹いちゃだめでしょうが!」
それを氷亜は涼しげな眼差しで見つめる。
しかし裏に隠された感情は怒り、落ち着いた喋り方をしてもこれを華音の悪戯と思った氷亜は、
本気で心配したことを不意にされたことに怒っているのだ。華音、不運。
「それと露希も。
華音ちゃんに悪戯しちゃ」
振り返って注意をしようとした彼の言葉は、目の前にいる露希の姿によって遮られる。
口は開いたままで、よほど驚いたのか目はとても丸くなっている。
とても分かりやすく、絶句していた。
>>118
「え、叡肖・・・君?」
口をぱくぱくさせて、状況が未だ飲み込めない氷亜は冷や汗を流しながら、
すがるような目で叡肖を見つめた。
しかし、叡肖の口から出た言葉は状況説明とは違って、さらなる追撃だった。
「え・・・だって露希今、お、お、おと、こ?だよ、ね?
なに、これ?これなに?
・・・ああ、何だ理解したよ。簡単なことだったンだね叡肖君。
これは幻想だ。君も人が悪いなぁ。全部幻想、露希が男なのも、幻想さ。
夢からは、醒めないとね」
途中で何か理解したのか焦りが止まる。
するとぼそっと一言つぶやいた後、氷亜は川にある橋の橋げたへと走り寄り、
おもむろに何度も、何度も橋げたへと頭突きを始めた。
120 :
黒龍「」&魔王『』
:2011/10/29(土) 02:37:42.03 ID:Ogm5kitDO
>>118
「大丈夫だ。」
手にオレンジ色の妖気を貯め、ミナクチにそっと当てる。
次第にミナクチは寒さを忘れ、体がぽかぽかしてくるはずだ。
これも一種の魔法らしい。
「これを纏えば、氷なんてなんなく突き破れるぜ。寒くないしな。・・・隙を見て逃げろ。」
肩をぽんと叩くと、氷亜達を見守ることにした。
「(にしてもあの蛸、鬼畜以外の何者でもないな。俺が関わったら死ぬな)」
『(魔王って、そんなに嫌な言葉かな?ボクとしては威厳が有りそうで好きなんだけど。)』
露希、NOT DELICATE !
問題ないって顔してる!!ただし、氷亜のちょっとした行為でも大爆発しかねない点では壊れ物扱いしたほうがよいのだろう。
>>119
『えっ?ちょ、嘘だって、氷亜さん!!待って!』
もしもこうなるなら、こんな男性化とかしなかっただろうに。
『氷亜さん、幻想じゃないよ!ボクは叡肖さんに頼んで、一時的に男になってるだけ!!それに・・・例え氷亜の幻想でも、ボクの愛は変わらない。』
「露希・・・(説得力ねえよ)」
121 :
ミナクチ「」 叡肖『』
[sage]:2011/10/29(土) 02:43:30.43 ID:/Hq7Qj4Io
>>119-120
『幻想?酷いなぁ、この露希ちゃんは本物ですよ?』
笑いをかみ殺しながら叡肖の真っ黒な舌先三寸は虚と実を混ぜ合わせる。
『氷亜殿、貴殿の愛ってのは性別ごときで惑わされるほどの安物でしたかね?
どんな姿になっても露希ちゃんは露希ちゃん。
この通り彼女もまだ貴殿を慕っているというのに、性別が変わっただけで恋人の心を
幻だと切り捨ててしまうんですかね?』
抱きしめてみることもせずにそういう行動とるんじゃぁ、露希ちゃんにしたら
あまりにも酷な話じゃないですかね、と海の悪魔は天を仰いでわざとらしいため息をついて見せた。
「あ、あたたかい…」
黒龍の炎の妖力だろうか。じんわりと体に温かさと力が戻ってきた。
「ありがとう、貴方も巻き込まれないうちに逃げてくださいね」
黒龍に小さくそう囁くと、ミナクチは様子を伺いながらゆっくりと慎重に歩を進める。
隙を見て川へ飛び込むつもりだ。
122 :
華音 氷亜
:2011/10/29(土) 02:52:37.93 ID:lUeA7bXu0
>>120
、
>>121
露希と叡肖の言葉に、氷亜は頭突きを止めてゆっくりと振り返る。
既に額はわれていて結構な出血で顔は血まみれになっていた。
それでも氷亜は気にもしないように、にへらと口角を上げて笑う。
「ふふ、二人とも・・・僕は性別の事を気にしているんじゃないんだよ・・・
僕の愛は既に、露希が男でも女でもオカマでも人でも神でも幻でもなにであっても、
ぶれることなく愛するんだよ。
ただ、僕が今まで接してきた露希は少なくとも男ではなかったはずなんだ。
だからそんな矛盾がある以上、
僕は少なくとも女である本当の露希がいる世界に戻らなくちゃいけない。
幻想の露希も名残惜しいけど、やっぱり本当の露希は泣かしちゃ駄目でしょ」
それからまた氷亜はふらふらと、橋げたに向かう。
そしてまた同じように頭突きをリトライしていた。
123 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
:2011/10/29(土) 03:01:49.69 ID:Ogm5kitDO
>>121-122
『叡肖さんっ、これ戻してっ!!氷亜さんが死ぬっ!!氷亜さんやめてーーー!!!!』
氷亜のヤンデレがここまでとは、露希ですら解らなかった。
オカマでもって、正気なのか、氷亜さん・・・。
「・・・向こうはあんなんだ、行くなら今だ。行け!!」
『あああー、氷亜さんが天国に逝っちゃうよー(泣)』
流石の魔王も泣き出した。垂れる血を眺めながら、ただ氷亜がやめるよう叫んだ。
124 :
ミナクチ「」 叡肖『』
[sage]:2011/10/29(土) 03:10:56.03 ID:/Hq7Qj4Io
>>122-123
『…ということだから、露希ちゃん。残念だけどその遊びはここまで見たいだよ?』
氷亜につける薬なし、という風に、露希に文字をこすり落とすよう促した衣蛸。
そして片手を額に当ててその様子を困ったように見ている蛇神。
ひょっとしなくても華音ちゃんは置いてきぼりな展開ではないだろうか。
(氷亜さんの傷を治していく暇は無さそうですね…)
治療は黒龍を頼みとすることにして、ミナクチはそっと目礼した。
氷亜が再び橋げたへの頭突きを始め、皆がそちらに注意を向けたたその一瞬、
じゅっと水の煮える音を立てて厚い氷を突き抜け、ミナクチは川へと逃れて消えた。
『あんにゃろ!逃げきれると思うなよ…。
ああ、露希ちゃん、判ってると思うけど腕のその文字拭えば何もかも元通りだからねー』
ミナクチが残した氷の穴を睨むと、露希にそう言い置いた叡肖も同じ穴をするりと潜り抜けて
水面下に消えた。というかさっさと逃げた。
その穴には再び薄い氷が張りつつある。
《……めんどくさいカップル作っちゃったのかもな、俺》
川底を滑るように移動しながら、衣蛸は以前に氷亜に『勇気』の文字を与えたのを
今更後悔するような気持ちになっていた。
//この辺で〆ます、お二人とも遅い時間までありがとうございました!
125 :
氷亜
:2011/10/29(土) 03:18:34.24 ID:lUeA7bXu0
>>123
、
>>124
隣で露希が(彼にとっては幻想世界の露希が)泣いているのに気づいた。
しかし、それでも止めることはせず、笑いもなくなって真剣な面持ちのまま頭突きを繰り返した。
その中で氷亜は露希に、言葉が頭にくる衝撃で途切れ途切れにされながらも話しかけた。
「じゃあ、ね。僕は、幻想、世界から、でると、するよ。
男の、露希も、良い、ものだn・・・・」
最後にそう言い終えると衝撃のせいで脳がストップをかけたのか、
それとも血液が足りなくなってしまったのか、氷亜はふらりと力を失って失神した。
意識のなくなった氷亜は自分の体を支えられずに、膝から崩れ落ちる。
126 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/29(土) 23:33:33.88 ID:/Hq7Qj4Io
小雨の振る肌寒い午後、開店前の『Perfect incompleteness』にはまだ明かりは点っていない。
この天候と時間帯故か、繁華街でもこの辺りの通行人はあまり多くはなく、
往来を行くのは主に自動車である。
そのホストクラブの入り口に不意に現れた人影は、歩いてきた風には見えないものの
黒いロングコートに大きな傘をさした男。
彼は人目を憚るかように素早く店内に滑り込んでいった。
『ごめんください、氷亜殿に面会したいのです。どうか叡肖が来たとお伝え下さいますように』
人に化けた衣蛸の叡肖は取次ぎに出てきた者にそう言伝て、コートを脱いだ。
その下に隠れて立っていたのはホストクラブには似つかわしくない、酷く小柄で、古風な服装の少年だった。
「流石にちょっと窮屈でしたよ」
『仕方ないだろ、この店にそんな子供が入るのは目立つんだ。
水を渡って来たんだから、そうそう誰かに見られちゃいないだろうが…』
この店のNo.1ホストを待つ間、そんなやりとりが交わされていた。
127 :
夜行集団
:2011/10/29(土) 23:46:48.33 ID:lUeA7bXu0
>>126
言葉を受けて直ぐに店へと引っ込んだ後輩のしばらく後、
彼らが雨のなか待っていたそのホストが、細かに飾られた扉の飾りを鳴らしながら開けた。
「やあ、雨の中またしちゃってごめんね。
準備中のここは少し警戒が強くて、僕か虚冥くらいのが見ないと中に入れないんだ。
まあともかくとして、いつもの部屋に案内するよ」
まだ髪をセットしないで、ストレートな髪型の氷亜はにこっと笑顔を浮かべながら、
目の前のふたりに手招きをして、店に招いた。
氷亜とともに出てきた別の後輩が、叡肖のコートを受け取ろうと手を差し伸べ、
氷亜自身は扉を開けたまま、二人を先に入店させる格好をしている。
「でもそういえば、黒蔵君はいなくても大丈夫なのだっけ?
偵察の術はそこのミナクチくんでも使えるのかな」
店を通り、メデゥーサと戦い叡肖と情報提供をして、
もはや会議室と化した部屋の扉に立って氷亜は、ちょっとした質問をした。
128 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 00:04:11.18 ID:d2SI+BxMo
>>126
(よかった、氷亜さんの怪我は気になっていました)
氷亜の様子にミナクチは安堵した。
あの時、橋げたに頭を打ち付けていた氷亜のことがずっと気にかかっていたのだ。
よく見ればミナクチの指先と目元には、うっすらと落としきらなかった化粧紅の跡がまだ残っている。
あの川原での一件の後、埋め合わせとしてこのエロ蛸の酌でもさせられたのだろう。
「黒蔵の力は過去にあったことを写す鏡なので、現在の探索は私でないと駄目なのです」
衣蛸の前でその名を出されて、子供の姿の水神は内心ひやりとする。
何気ないふりを装って、そう答えながらこっそりと叡肖をみた。
『今、うちの暴れん坊殿下が現地に雨を降らしに行ってましてね。
あの気まぐれ坊ちゃんが飽きない限りは、雨を通して現地を見ることができますよ』
その視線には気づかなかったのか、コートを渡した叡肖はスーツのポケットから
小さな白い磁器瓶を取り出して、振って見せる。
中からは液体が入っているらしき音がした。
『以前、使いの者に水盤を届けさせたかと思いますが、それを出して頂けますか?』
コートを受け取った氷亜の後輩に、叡肖はそう頼んだ。
129 :
夜行集団
:2011/10/30(日) 00:16:49.18 ID:eHrj5BPX0
>>128
あれから少し後とは言え、ばっちり額が割れているのにまだあれが幻想と信じる彼は、
これほど大きく傷が残っているのをありもしなかった戦闘の、負傷だと納得している。
しかしこの傷は割と大きいので、あえて氷亜はストレートかつ前髪を下ろしているのだ。
「なるほどね、鏡にもいろいろ種類があるんだ。
にしても便利だよねその術。それは僕じゃ習得できないのかい?」
なにげなく質問しながらドアを開け、二人を部屋に招く。
そこには3つ、座り心地のよさそうな小さめのソファーが置かれていた。
「(逆にあっこで術に門外漢な僕が、彼を気に掛けとかないと不自然でしょ)」
後輩に話しかける叡肖からは聞こえないほどの小声を、
ミナクチの耳元でささやく氷亜。
以前その術を使ったのは黒蔵なのだ。それがミナクチもできるだろうと簡単に推察した、
というのも悪くは無いのだが、ここは自分をあえて道化にして叡肖を騙すことにしている。
「分かりました。直ぐにもってきます」
氷亜の付き人とも言えるほど彼をリスペクトする後輩は、
叡肖に人当たりのいい声で返事をして、ぱたぱたと奥に引っ込んでいく。
「まあまあ今は座りなよ。
せっかくいろいろドリンクを揃えたんだ。ひとまずは彼をまとう」
130 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 00:27:28.11 ID:d2SI+BxMo
>>129
「(すみません、気を使わせてしまいまして…)」
ミナクチは氷亜にだけ聞こえるように囁き返し、その際に前髪から少し覗く傷跡に心を痛めた。
そして、すすめられた会議室の椅子に叡肖はゆったりと、ミナクチのほうはどこか居心地悪そうに腰掛ける。
(後であの傷跡は消しておかないと、氷亜さんの仕事に差し支えますよね…)
氷亜の傷の切欠になってしまっているミナクチは、後で傷跡を消すつもりでいる。
『今日は仕事で来ているので、俺にはコーヒーをお願いしますよ。…ミナクチは?』
「あ、私には温かいお茶を下さい」
ぼんやりしていた少年は声を掛けられて我に返り、慌ててそう頼んだ。
131 :
氷亜
:2011/10/30(日) 00:36:27.76 ID:eHrj5BPX0
>>130
どうってことないは言葉で言わず、黙ってミナクチの肩を軽く叩く。
それから氷亜はゆっくりと部屋に入って、3つの内の一つのソファーに座りこんだ。
「ははは、流石に偵察前からアルコールを入れる気は無いよ。
コーヒーは入れるまで少し待ってね」
軽く笑ってから氷亜は、やかんで前から沸かしておいたお茶を小さめな湯のみに注ぎ、
ミナクチが座るであろう場所の前にあるテーブルへ置いた。
コーヒーのほうは、別のところで今お湯を沸かしているところである。
「お待たせしました、これで間違いないですか?」
氷亜は虚冥が大量に用意した牛乳を、ホットミルクにしたものをすする。
すると先ほどの扉から、あの後輩が盆を大事そうに抱えて扉を開けた。
氷亜は彼の質問を叡肖に応えを促すように、そっと視線を叡肖へ向ける。
132 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 00:56:58.30 ID:d2SI+BxMo
>>131
「ありがとうございます」
水盤を運んできた後輩ホストと、茶を入れてくれた氷亜とに礼を言う。
『水妖が皆、水鏡での遠見ができるわけではないのですよ、氷亜殿。
現に神格持ちでもない俺には、そんなこと出来ません。
今日来たのはこれから見るものと、それについて詳しい考察を貴方に聞くためですよ』
コーヒーを待つ間、叡肖は運ばれた水盤を卓上に置き、先ほどの小瓶から水を注ぐ。
ポケットに入るほどの小さな瓶なのに、そこからの水で大きな水盤は十分に満たされた。
いつの間にか小さなノートといつもの筆も、水盤の横に備えられている。
「もしも氷が水のように境目なくどこまでも繋がって行ける自由なものであったら、氷亜さんにも
我々のするのと同じように、雪を通して遠くを見ることができたでしょうね」
受け取った湯のみを掌で包みこみながら、続いて答えたのはミナクチだった。
「水の理、と言いますけど、水鏡にはそれが必要なのです。
ひょっとして雪と氷に覆われた地でなら、氷の理によって氷亜さんにも遠見が適うのかもしれません。
私は寒い場所へ行ったことはありませんが、叡肖さんなら北の海とは縁がある筈です」
水と氷はそう馴染みの悪いものではないのだし、氷の国では氷亜の力が万能となるのかもしれない。
『ああ、爺ぃ…(コホン)いや、俺の祖父の故郷の北の地は、冬には雪と氷に覆われますからね』
「では体も温まったので、そろそろ始めましょうか」
温かい茶のお陰で元気を取り戻した蛇神は水盤の前に座り、叡肖は筆とノートを手に取る。
氷亜の合図で水盤は鏡となり、彼らの見たいものを映し出すだろう。
133 :
氷亜
:2011/10/30(日) 01:15:40.47 ID:eHrj5BPX0
>>132
「なぁるほどね」
叡肖とミナクチの説明で、氷亜は納得したように呟く。
両手を頭の後ろで組みソファーにもたれかかった。
そして彼の顔に浮かんだのは、何とも言い難い笑い顔であった。
「水の理かぁ、確かにそういえば雪での見聞でもできそうだけどね。
ただ、山は海とは少し事情が違ってたりするんだ。
例えば山の主による縄張りとか、人と妖怪の住み分けとか。
ともかく山のほうでは閉鎖的なのか山によって境がしっかりしてるんだ」
海には、太平洋の名に代表されるようなノーボーダーの性質があったりするが、
山のほうはそれぞれに名がつき、支配する者も一人ではない。
だからそんな境、国境が多くしかれる山では、この術は非現実的かもしれないのである。
それに、氷亜に至っては相当の昔、
あらゆる心からの断絶をした経験がある。つまりそんな存在が、境のない術をやるのもおかしいのだ。
「ともかくとして、始めるよ
ってどうするの?」
134 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 01:40:22.10 ID:d2SI+BxMo
>>133
「境界線を引くには難しい海は確かに区分があいまいで、陸とはその辺の違いがありますね。
陸の境界線を川で決めたりもしますし」
『山ってそうなのか?だからあの時やたら閉鎖的な対応されたんだな』
叡肖と異なり、陸の生まれであるミナクチには氷亜の言いたいことがよく判る。
そして叡肖のほうはその話で、以前に十種神宝を探した際の土地神の非協力さ加減に納得が行ったらしい。
『海のほうが開放的で良いな、海は、陸に居られない者の受け入れ先でもあるんだ』
叡肖の祖父のように陸には居られない者、陸に居ては災いにしかならぬ者を受け入れるのが
海の役割の一つである。
溺死者の魂があの世へ行かずに留まることも、海でならば特別に許されている。
過去に巴津火が神代を海へ誘ったのも、そもそも水界がそういう場所であるからなのだ。
「この水盤の映すものをしっかり見ていてもらえれば良いんです。
私達は映すことはできますが、それが意味することを正しく読み取れるのは、
夜行集団の皆さんですから」
誰も触れもしないのに水盤の表面には漣が広がり、水面は鏡となって雨にけぶる景色を映し出した。
音は無く、氷亜がよく見ようとすれば、次第にその情景ははっきりしてくるだろう。
135 :
氷亜
:2011/10/30(日) 01:54:39.77 ID:eHrj5BPX0
>>134
「まあでも、閉鎖的なのや境があるというのもあながち悪くは無いんだけどね。
言い換えればそれらはすなわち、ここがどこのなにかが明確に分かる、ってことなんだ。
自身のアイデンティティーが希薄な者は特に、その土地の名前とかに自ら縛られて、
どこの誰かを証明するために依存できたりするからね」
その分海は、どこがどこなのかの概念自体が薄い。
それ故に自我をあまり濃く持てないものは世界に、
まるで水の中にとける溶質のように溶けて入ってしまうこともある。
丁度水難事故で命を落として、自縛霊でなく船幽霊となってしまうように。
「なるほどありがとう。
僕が見ようとするだけでいいんだね。
じゃあ、始めるよ」
数回頭の中で叡肖の言葉を反芻させた氷亜は、頷き、水盆へ視線を落とす。
するとなにがしかの切欠を持って、水盆は氷亜の望んだ土地の光景を映す。
「・・・思った以上に広いね、この神社は。
よっぽどかつて信仰を集めていたんだね、アネさんアニさんの社本殿以外にも、
複数神官の建物や他の神格の社が見えるよ」
目を凝らしていくと、その光景は徐々にピントを合わせてしっかりとしていく。
氷亜はそれから目に入った光景を、ぽつりぽつりと呟いた。
「ところでさ、この光景は君たちにも見えるの?」
すると氷亜はふと質問する。
136 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 02:09:27.26 ID:d2SI+BxMo
>>135
『俺は映ったとおりのものしか見えないですね』
忙しくノートに筆を走らせながら叡肖が応える。
「私は…皆さんと少し見え方が違うかもしれません。
こうやって自分で映している時はもう少し立体的に状況を感じられるので、距離感とか掴めますね。
それでも、映し出されたもの以上の情報は私でも見られないのです」
氷亜の見たいもの、見ているものは、他の人にも等しく見えているようだ。
「今は雨が神社全体を包んでいますから、外のどの方向からでも見られますよ。
軒から下がる雫伝いに覗けば、部屋の中も見えるかもしれません」
映し出された光景のなか、遠くの木陰に小さく見える巴津火が退屈そうにあくびをしているのを
少し気に留めつつ、ミナクチは氷亜が知りたいものを見られるようにと助言した。
137 :
氷亜
:2011/10/30(日) 02:24:47.64 ID:eHrj5BPX0
>>136
「なるほどね、じゃあ皆も見やすいよう心がけようか」
視界は全てあちらへと飛ばされている氷亜は答える。
「水は便利なものなんだね。
とーりーあーえーずーは、罠になるような術式も敷かれていないらしい」
言葉を伸ばしながら、せわしなく神社の屋外部分の至る所へ目線を移動する。
これからの相手が神格持ちである以上、
中国で使われる陣、や邪神の使う崇りなどにも気を割かなくてはいけないからだ。
「じゃあ、中にでも入ってみようかな?」
なんとか本殿の内部を探れないかと、様々な場所の定点を探す氷亜。
するとしばらくしてから彼は、丁度本殿の裏にあたる部分に小さな換気か何かを目的とした、
少し小さめな窓の上に、ぽたぽたと落ちる雫の流れがあることを発見した。
「中は、良かった蝋燭に火が灯っているから、暗いなんてことはなさそうだ。
取り敢えず本殿にいるのは4名。でもあねさんあにさんはいないな
多分彼らは前に言っていた四武神たちだろうね。一人はなぜか真黒だし服装が違うけど。」
本殿は複数の蝋燭によってある程度明るく橙に照らされ、
4名の者たちが会議でもしているのか影を作っていた。
「くそう、声は聞こえないのかな?」
いまいち会議か対談の内容が分からず、氷亜は歯ぎしりした。
138 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 02:35:28.38 ID:d2SI+BxMo
>>137
書き込んだノートのページを一枚切り取り、卓上に置いてまた次のページに細かく筆を走らせる叡肖。
先に書き終わったページはどうやら神社全体の見取り図、今書き込んでいるのは文字に起こせる情報らしい。
「流石に音まで聞くのは無理なんです…ごめんなさい」
氷亜の言葉に、まだそこまでの力のない下級神格はちょっと落ち込んでいる。
仮に音が伝えられても、必要な音を増幅できる妖怪でも居ない限り、雨音が邪魔になるだろう。
『あー、誰かあたりをうろついてる奴でもいないかな、雨粒くっつけて建物に入ってくれるなら
猫でもネズミでも何でもいいんだけどな。あの黒いのが気になるよ』
肝心な音が聞こえないので苛々しながら、叡肖は筆を舐めて墨を含ませた。
『姉妹神探しに、いっそ殿下に突入でもしてもらう?』
「…駄目でしょう、それは」
何を言うか、とミナクチが慌てた。
139 :
氷亜
:2011/10/30(日) 02:51:29.73 ID:eHrj5BPX0
>>138
「まあ仕方がないね。
第一、盗聴までできたらイージーモードすぎるだろうからね。
これぐらいがいいのかもしれない」
思わず高ぶってしまった自分を反省し、
ミナクチへと軽い調子で弁解しながら、本殿近くに入ろうとしたコソ泥妖怪が、
哀れにもなかの四武神の一角に瞬殺されたのを見ていた。
「妖気のあるものは無理みたいだね。かなり平凡にネズミとかでないと。
巴津火君も問題だ、繋がりで考えて僕たちが探っていることに気づかるかも知れないしね」
中の四武神たちはどうやら、叡肖の気になった真っ黒の人影の話を3人が、
まるでお告げを聞くかのように扇形に広がっていた。
身振りの少なく話される内容は分からないが、四武神たちの目は真剣である。
「でも、これ以上の情報はなさそうだね・・・。
そろそろ解除しようかな、・・・とちょっと待ってね」
他の社にある神格の名前も、長年の劣化による損傷で名前が読めなくなっていたり、
会話主体の内部の様子だったりで、氷亜はこれ以上はないと諦めようとしていた。
140 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 03:07:38.43 ID:d2SI+BxMo
>>139
「私にはまだ水鏡までしか扱えないのです…」
鏡とは光を映すもので、音を発するものではないのだ。
そのためにミナクチに出来るのは、「見る」ことまで。
伊吹のようになるには、まだまだ修行が足りない。
『先代だったら千里眼が使えたから声も聞こえたろうにな』
《……まてよ。てことはあの暴れん坊が育てばそうなる可能性もあるのか?ちと厄介だな》
この場に居て叡肖だけは違うことを考えている。
「そうですね。殿下にはまず育ってもらわねばならないと。……神域に血が!」
瞬殺された妖怪を憐れむと共に、その血の匂いが巴津火の気をひかないように願うミナクチ。
四武神が神社を血で汚すことを厭わぬ様子に、改めて神格を失う意味を重く心に受け止め
同時に青ざめていた。
141 :
氷亜
:2011/10/30(日) 03:16:52.06 ID:eHrj5BPX0
>>140
「神域?
ああ、確かあにさんがそんなことを言っていたね」
神格に関わる機会のなかった氷亜は平然と見ているが、
ミナクチの様子を見て、この事態が異常なものだということを把握した。
神聖な土地、神域はなにがあっても穢れを発生してはいけない。
そのことは神性の揺らぎと直結するのだから、と言った雨子神の姿を思い出す。
確かにその言葉を受けてみてみれば、
みな神の衣をまとってはいるものの、そこらじゅうが破れ綻び惨憺たる様であった。
「それでも彼らの社がアネさんアニさんの近くにも建っているんだ。
いくら崩れていようと、実力や地の利は相当なモノだということだね。
こんなもので良いかな?」
まとめて見せた氷亜は、二人に終了の是非を質問する。
142 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 03:27:15.28 ID:d2SI+BxMo
>>141
(神域を血で汚すことは、そこの神の力を削ぐにも等しいものなのに…。
既に神ならぬ者へと堕ちてしまったと言うことなのでしょうね)
「ええ、もう十分です」
『建物の位置関係が判っただけでも、見た価値はあったな。
それにあの黒い奴が四武神よりも上の立場らしいことも』
血を見たくないミナクチと、これ以上の情報が得られないと判断した叡肖。
「氷亜さん、ちょっとだけ良いですか?その傷、貰っていきますよ」
役割を終えた水面は最後に一度波立つ。
鏡としての役割を終える直前に、その水面は氷亜の傷跡を癒すものとなるだろう。
143 :
氷亜
:2011/10/30(日) 03:37:09.05 ID:eHrj5BPX0
>>142
二人の言葉を聞きうけ、
氷亜はゆっくりと盆の自ら視線を外して前を見る。
しばらく遠い景色を見ていた彼は、目の前の光景とのギャップにまだ順応できず、
ぱちぱちと寝ぼけ眼にも似た目を瞬きをした。
「気になるよね、あの黒いの」
その者の姿は、氷亜にも黒幕なのかどうかとは関係なくとも、
どこか異様に心の中に引っかかるものを感じさせていた。
それから氷亜は、自ら治療を提案したミナクチのほうへ視線を向ける。
「いやいや、この傷はただのこちらのミスだからね。
なにがあってもそんなものまで君に背負わせることはできないよ。男としてもね」
それに女の子達との話の話題にもなってくれるからね、
と氷亜は悪戯気に笑った。
「返りは後輩の車で送ってあげよう。
わざわざ来てもらったんだから、なにもせずふいっと返ってもらうのもこちらが情けないし」
それから氷亜は近くにいたあの後輩を呼びつけて、
暇そうにしている者へ送迎をさせるよう指示する。
144 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 03:46:27.52 ID:d2SI+BxMo
>>143
「露希さんがその傷を見るたびに悲しまなければいいのですが」
治療を拒否した氷亜の言葉にどこか寂しげな気配をにじませ、
ミナクチはもう鏡ではなくなった水面にゆらゆらと映る自身の姿を見つめた。
(私はこの子供が傷つくのを見たくなかったから、今も幻で完全な姿にしている)
『車で?それは有難いね、実はこの人間の服はやたら水に弱くて』
ぬるくなったコーヒーを一気に飲んで、叡肖は申し出に乗り気である。
「私は殿下を迎えに行ってきますので、叡肖さんだけで送ってもらって下さい。
氷亜さん、おいしいお茶をご馳走様でした」
氷亜に一礼したミナクチは、水盤の水に吸い込まれて消えた。
水を渡って巴津火を迎えに行ったのだ。
叡肖も見取り図の複製を氷亜に手渡し、送迎役のホストを待っている。
145 :
氷亜
:2011/10/30(日) 04:02:11.37 ID:eHrj5BPX0
>>144
「ふふん、これは露希との共闘の証なんだ。
むしろきっと誇ってくれるさ」
自信ありげに胸を張る、それは結局幻想であるのだが。
とは言っても、氷亜にとっては無くなった戦闘の記憶の唯一の証拠であり、
現実としても真実の露希を求めた、氷亜の愛の証であるのだ。
だから、氷亜が傷に関して少し誇らしげでも、あながち間違ってはいない。
それに、ミナクチにそんなことで額を割ってほしくない、というのも彼の本音であった。
「天界の神も絡んでくるんだからね。
立場上、君達も危うくなるのだからいつ撤退しても、僕は決して責めない」
ミナクチと別れを済ませてから氷亜は店の前で叡肖と並んで立ち、
彼を見ずに視線を前の道へと向け、少し真剣みを帯びて言った。
確かに、黒蔵は穂産姉妹と繋がりがあって、彼女達の悲運を見るのは辛いだろう。
それ故阻止しようと奔走するのは分かるが、叡肖たちはいってもまだそこまで深い仲ではない。
だからあまり深くない者に対して、彼らが危険にさらされるのを氷亜は見るのが辛いのだ。
「そのことは覚えておいてね」
車が到着し、乗り込んだ叡肖に鏡越しで氷亜は念押す。
それから店の用事が入ってしまったので、慌てて氷亜は店へと戻って行った。
/これで落ちにさせていただきます
/遅くまで絡みありがとうございました
146 :
叡肖『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/10/30(日) 04:12:37.08 ID:d2SI+BxMo
>>145
「天界の神ってのが、どの程度偉いもんなんだか知ったこっちゃないですし
知ったところで敬う気にもなりやしませんよ。
立場上、俺は神格持ちのめんどくさい所は嫌ってほど見てますんでね』
好き好んで神格背負うあいつも十分めんどくさい奴なんですが、
と叡肖はミナクチのことを評しながら車に乗り込んだ。
『それじゃまた、近いうちに』
車窓から軽く挨拶を返す遊び人には、危うさ程度で撤退する気はさらさら無いようだった。
この一連の出来事も、この蛸にとっては遊びの延長なのだろう。
//ではここまでですね、ありがとうございました。
147 :
露希
:2011/10/30(日) 16:24:07.71 ID:CppeVvLW0
ここは黒蔵の働いている病院である。
そのとある一室から出て来た少女の表情は少し重苦しい物だった。
(夷磨璃君の症状は全然良くならないし、瞳も何だか休めて無さそうだし……。)
手にはたくさんのお菓子袋。
どうやら一日早いハロウィンで、夷磨璃を元気づける作戦だったらしい。
しかしそれは返って気分を暗くしてしまったようだ。
148 :
黒蔵
[sage]:2011/10/30(日) 16:40:17.50 ID:d2SI+BxMo
>>147
懐があったかい。それだけで幸せなことである。
月末の給料日にようやく一息つけたビンボーさんは、浮き浮きしながら廊下を歩いていた。
「氷亜さんと零に返す分がこれでー、来月の飯代がこれでー、
余った分のこっちが次の投薬代でー、こっちが借金返す分」
歩きながら覗き込むジップロッ○(大)の中にはお金を仕分けた封筒が幾つか。
すっかりそれに気を取られていた浮かれポンチは、露希にぶつかるまで気がつかなかった。
「あわっ!ごめん!」
避けようとしたって今更なのだ。
ビンボーさんは回避努力でバランスを崩し、すてんと廊下に尻餅をついた。
露希が今の黒蔵に合うのは初めての筈。
もしも黒龍から何か聞いていれば、今の黒蔵にそれと気づくことは出来るだろう。
(もしかしなくても、露希だよな)
ぶつかった相手が誰か判った黒蔵は、座り込んだまま冷や汗を垂らした。
妖気は無くなり声も変わったが、こうして座り込んでいるうちは背丈の違いは誤魔化せる
……かもしれない。
149 :
露希
:2011/10/30(日) 16:51:18.98 ID:CppeVvLW0
>>148
尻餅をついた職員、それを不思議そうに眺める露希。
ふと思い出した黒龍の言葉。
『黒蔵さ、またなんかしでかして声も体も変わってた。きっと人間化したんだろうな。
でも当のドジっ子さと優しさは全く変わって無かったけどな。』
………露希、沈黙。
上手く口が動かせず、更には辺りを見渡し、挙動不審っぷりを見せる。
30秒ほど時間をおいたところで、ようやく一言の言葉を発した。
「なんで……」
150 :
黒蔵
[sage]:2011/10/30(日) 17:01:14.07 ID:d2SI+BxMo
>>149
(ばれてる、絶対ばれてる)
露希の言葉でビンボーさんは覚悟をきめると立ち上がった。
なにより冬用に変えた作業服でも、廊下に座り込んでいると床の冷たさが凍みてくるのもある。
「びっくりさせてごめんな」
そう言った顔は大人びてはいるものの、確かに露希の記憶にある黒蔵のそれである。
「あー…待合室のほうで、座って話そうか」
あそこのラウンジには給湯器があって、待つ間は無料でお茶が飲めるのだ。
露希と廊下を歩きながら、黒蔵はぽつりぽつりと事情を打ち明けはじめる。
151 :
露希
:2011/10/30(日) 17:16:32.69 ID:CppeVvLW0
>>150
「………。」
大人びた顔の黒蔵は、どこかいつもの黒蔵と違う印象を与えた。
今まで低身長で、ドジっ子ショタだった彼が、急にこんなんなってしまえば当然だ。
結果として、黒蔵を襲う、と言うことは無く黙って待合室へと着いていく。
その間に、黒蔵の事情を聞くのだが、露希の心は色々な感情で支配されていた。
黒蔵の存在が消える前に、巴津火と分離出来たと言うことへの嬉しさ。
また、人間化した黒蔵に何もできないと言う悔しさ、哀れみ。
「(黒蔵君、心境的に辛い筈なのにこうして仕事まで…。)」
紙コップに黒蔵の分と自分の分のお茶を入れて、席に着く露希。
しかし、着いた時には辛い顔は無くなり、いつもの露希がそこに居た。
「黒蔵君ッ!!凄いね、ボクもびっくりだよ。」
152 :
黒蔵
[sage]:2011/10/30(日) 17:29:40.67 ID:d2SI+BxMo
>>151
二人が陣取ったのは、待合室の隅っこの大きな観葉植物の鉢植えで陰になるあたり。
(こんなところをいずみに見られたら、後で誰に何を言われるか判ったもんじゃない)
箸が転がっても可笑しいお年頃なあのゾンビ娘に、相手が露希とは言え女の子と二人っきりで
話をしているのはなるべく見られたくない。
かと言って隠れてしまえばそれこそ面白おかしく話を作られかねないので、
曲がりなりにもオープンな場所を選ぶとなると、そこしか思いつかなかったのだ。
「ごめんな、話せるのがこんなところで」
黒蔵は、窓口に見える職員の方を伺いながら露希に詫びた。
今はまだ人間の患者がいる時間帯なので、妖怪の職員達はあまり表には出てこないのが救いだ。
「…そんなわけで最低限借金を返しきるまでは、
俺がこうやって居ることは叡肖さんに内緒にして欲しいんだ」
いつもの調子の露希に少々気おされて、以前よりも大きくなって骨ばった手が
やや落ち着かない様子で紙コップを弄び、目が宙を泳ぐ。
(いつもの露希だ。ホッとして良い筈なのになんか落ち着かなくなるのは何でだ)
どうやら弄られっ子の性は黒蔵の魂にまで染み付いているらしい。
近頃ようやく多少の筋肉がつき始めたその肩と背中とが、不安げに丸められている。
//18時から30分ほど一時中断したいのですが、そちらは大丈夫でしょうか?
153 :
露希
:2011/10/30(日) 17:40:43.91 ID:CppeVvLW0
>>152
「ううん、大丈夫。
黒龍からは全部聞いてるからさ、安心してよ。」
病院内から多数の妖気が感じられる為、妖怪もいるんだなと思った露希。
当たり前のことなのに、何か嫌な感じしかしないのだ。
「そういえば犬御君もここの病院で働いているんだよね?
最近見てないからさ、元気してる?」
//大丈夫です、了解しました。
154 :
黒蔵
[sage]:2011/10/30(日) 17:57:35.08 ID:d2SI+BxMo
>>153
「黒龍が話しておいてくれたんだ。そっか。黒龍にお礼言わないとな」
黒龍は頼りになる凄く良い奴なのだ。
これまでにも黒蔵は色々助けられている。
ちょっと嬉しそうだった表情が、犬御の話題になると翳った。
「狼はなー……。あいつ、何かにつけて怪我してくるんだ。
やけになって喧嘩してくるらしくて、それで治療費の借金がかさんでるんだ」
収入の良いホストのバイトがある黒蔵と違って、犬御の借金のほうは膨れ上がるばかりなのだ。
「俺の借金はもう少しで返し終わるから、そうしたらあいつの借金も出来るだけ払うつもり。
でもこれ狼には内緒な、言うとあいつ怒るからさ」
犬御を今の泥沼に引き込んだのは黒蔵のドジなので、その責任を感じているのだ。
そして小鳥遊医師については、まだ露希には言わないでおこうと思った。
(露希まで危ない目にあわせられないもんな)
それでも、情報通の零には色々とばれているのかもしれない。
155 :
露希
:2011/10/30(日) 18:08:33.20 ID:/fnUBFHDO
>>154
「黒龍、黒蔵君の話になるとやけにテンション上がるんだよね。
よっぽど黒蔵君が好きなんじゃないかな?」
黒龍の場合、リスペクトと言うよりはちゃっかりけなしてるんだけど。
犬御の現状を聞いた露希は、小さく溜め息を着いた。
「う・・・、犬御君、らしいねぇ。でも仲間の送り妖怪達もいる訳だし・・・。」
黒蔵は、送り妖怪と言う言葉に反応するかもしれない。
なんせ、彼女がいるのだ。露希もそれを知ってか、そのワードを強く発音していた。
156 :
黒蔵
[sage]:2011/10/30(日) 18:17:58.12 ID:d2SI+BxMo
>>155
「…実は俺、四十萬陀にはあんまり心配掛けたくなくってさー、自分も今こんなだし。
でも他の送り妖怪とはあんまり親しくないし、織理陽狐さんに狼のこと頼んではあるんだけど
あいつが喧嘩するのは止められないんだよな」
いっそ犬御が自分を殴って発散してくれるのなら黒蔵もまだ安心できるのだが
人間化して弱くなってからは犬御に手荒に殴られることはなくなっている。
「この前四十萬陀に会ってさ。
そのときに言伝もらったから、今度織理陽狐さんに会いに行こうと思うんだ」
既に四十萬陀に会ったことを露希に伝えると同時に、
織理陽狐の名を出すことで露希を少しでも安心させようとした。
157 :
露希
:2011/10/30(日) 18:48:53.62 ID:/fnUBFHDO
>>156
「七生ちゃんにね・・・。ボクとしてはさ、少しくらい頼ってもいいんじゃないかなって思うなぁ。
ほら、ボクも氷亜さんの彼女だから言えるけど、無理に隠すより言って貰った方がお互いすっきりして合理的だと思うの。
それは氷亜さんだけじゃなくて黒蔵君に対しても・・・ね。」
それは露希の大胆な性格から伺えるかも知れないが、頼られたいのだ。
経験上、自分が無力なのを自覚している。
白龍を失ったのも多分、このせいなのだ。
「織理陽狐さんは願いを叶えてくれる、凄い存在だからね。ボクも嬉しいよ。」
どうやら、露希も少しは安心出来たようだ。
158 :
黒蔵
[sage]:2011/10/30(日) 19:07:09.21 ID:d2SI+BxMo
>>157
「……。」
露希に返す言葉もない。
確かにそうなのだ、最も身近にいる人々にこそ必要なときに
きちんと頼らなくてはならないのは黒蔵にも判る。
けれど七郎や黒龍、ミナクチには頼れても、
四十萬陀にだけは辛い思いをさせたくない気持ちのほうが勝るのだ。
「でも、四十萬陀には何て言ったら良いのか、判んないんだ」
悩んで迷ってそれでも正解がわからない黒蔵は、露希にそう尋ねるしかなかった。
この様子では何を吹き込まれてもそのまま信じてしまうだろう。
159 :
露希
:2011/10/30(日) 19:30:26.01 ID:/fnUBFHDO
>>158
「黒蔵君、本気で七生ちゃんの事を想ってるんだね。なら、ボクから言えることは何もないよ。」
助言は出来ても、最終的に決めるのは黒蔵だ。
七生への気持ちが本物なら、何を言うのか黒蔵には解るはずだと思ったからだ。
「・・・あっ、そうそう。明日はハロウィンだったね。このお菓子でも食べて、黒蔵君の悩みも吹っ飛ばしちゃえっ!」
明日がハロウィンだと言う事を思い出した露希は、夷磨璃に渡したお菓子の残りを黒蔵に差し出した。
中にはポテチやら、カボチャの装飾をしたチョコレートなどが入っている。
「ボクはさ、いつでも黒蔵君や皆に笑顔でいて欲しいんだ。そんな日常にする為なら、ボクはいつでも協力するからね。それじゃ!トリックオアトリート!!」
最後にはこの場で理解出来ぬ言葉を残して、走って去っていく露希だった。
160 :
黒蔵
[sage]:2011/10/30(日) 19:37:38.91 ID:d2SI+BxMo
>>159
「うん。でも俺ちゃんと本当の事言えるかな…」
気弱な答えを返した黒蔵は、差し出されたお菓子の袋を反射的に受け取って、
いつもと違う露希に少しばかり面食らう。
「とりっくおあとりーと?」
なんだろう、それ。
けど、露希は以前みたいに黒蔵を困らせなくなっている。
(……もしかしなくても、露希ってかなりいい奴?)
既にショタとして魔王露希のターゲットにされていないだけなのに、そんな風に誤解が始まる黒蔵。
お菓子のお陰で数日の食料は確保できたらしい。
「あ!ありがとなー!」
思い出したように露希へ声を掛けたが、既に彼女は走り去った後だった。
161 :
巴津火
[sage]:2011/10/30(日) 22:11:19.51 ID:d2SI+BxMo
今日は色々と買い物をするというので、一緒にくっついてきた巴津火。
もちろん目当てはついでに買ってもらうお菓子である。
しかし買い物をする間、大人しく金魚の糞になっているようなお子様ではない。
興味を引くものを勝手に追いかけてうろちょろしているのだから、一緒に居る者は落ち着かないだろう。
今もゲームセンターの前でうろうろしている。
今日の買い物では、そんなところに用なんて無いはずなのに。
162 :
澪
:2011/10/30(日) 22:22:22.66 ID:/fnUBFHDO
>>161
明日がハロウィンと言うことで、美味しい料理を作ろうと食材を買いに来た澪。巴津火を誘い、繁華街へとやってきたのだが。
はつびー、うろうろし過ぎである。それでのんびりしてる奴がどこに・・・
「明日はパンプキンパイとレアチーズケーキかなぁ♪巴津火は何食いたい〜?」
いました、ここに。
ゲーセンの前にいる巴津火を後ろから取っ捕まえ、スーパーに向かおうとする。
「ゲームは買い物終わってからな♪」
なぜここまで機嫌がいいのか。それはきっと夜店長に何かされたからだ!
163 :
巴津火
[sage]:2011/10/30(日) 22:33:48.41 ID:d2SI+BxMo
>>162
「ぬおお……!ボクのガチャガチャぁぁぁ!そこで待ってろぉぉ!!」
無駄な抵抗をしながら、襟首とっ捕まえられて持ってゆかれるおガキ様。
背後からなので体格差は覆せずに、捕まれたパーカーの襟がびろーんと伸びる。
しかしそれでも、美味しい物の話には食いついた。
「プリン!!!あと、から揚げも食いたい」
つまり卵と鶏か、そうかお前ら蛇だもんな。
「なあ。最近のお前、やたらマメだよなー?あの店の飯の作り方、もう全部覚えてるだろ?
結婚資金溜めてるんだろうって蛸が言ってたけど、やっぱそうなのか?」
ご機嫌に自分を引っ張ってゆく澪に、ストレートに質問してみる素直なお子様、
多分特に他意はない。
164 :
澪
:2011/10/30(日) 22:50:08.74 ID:/fnUBFHDO
>>163
「じゃあ、お前の食いたいもん、全部作ってやる!!」
実は食べるのが好きだから、料理を頑張っていたりする。
「サイドメニュー含めて完璧だっ!仕事って仕事がノワールの手伝いくらいしかないから、これくらい当たり前だよ。
で、結婚資K・・・ぶっ!////」
蛸さん、余計なことを吹き込まないでください。つか人前でこんな話をしていいのだろうか・・・?
「え・・・////あ、してるっちゃしてる・・・かな?まぁ、半分くらいはライジングファルK(ryを治してくれた人に手伝って貰ってるけど・・・///」
披露宴やら何やらで、普通ならピー百万かかるのだ。
それがフォードのお陰でかなり安くなったりする。
とりあえず店へと入り、カボチャ、卵などをカゴに入れ、巴津火と共にお菓子売り場へ行く。
「なぁ、はつびーには彼女とかいないん?女好きだろ、お前?」
165 :
巴津火
[sage]:2011/10/30(日) 23:02:07.96 ID:d2SI+BxMo
>>164
「やったぁ♪から揚げはさ、辛いやつなっ!」
つまりスパイスを効かせてくれと。どうやらお菓子は甘党、食事は辛いものが好きらしい。
蛇だから冬場は体が温まる食事が欲しくなるのだろう、多分。
「そっかー。結婚資金って溜めるもんなのかー…」
巴津火は澪の答えにちょっぴり考え込む。まさかのまさか?
「女ー?うん、好きだぞ。良い匂いするしなっ」
そんなことを話しながらお菓子売り場をうろつく声のデカいお子様。
周囲の買い物中の奥様たちがクスクスと笑っている気配がする。
「彼女ー?いないー。けどこないだ嫁候補がうちに来たって、爺ぃどもが大騒ぎだったぞ」
巴津火にとっては、今日はチョコレートにしようかそれともキャラメルにしようかと
両手に持って迷いながら軽く答えるレベルの話題らしい。
166 :
澪
:2011/10/30(日) 23:11:20.22 ID:/fnUBFHDO
>>165
「いないのかー」
きっと笑われてるんだろうなあ・・・。澪も普通に喋ってるし。
「・・・・・・げほっ、ごほっ、え!?」
まさかのまさかである。竜宮の次期当主の結婚とか、こんなに早いのかと疑ってしまうほど。
「巴津火、モテるんだな・・・・・・。」
167 :
巴津火
[sage]:2011/10/30(日) 23:18:39.36 ID:d2SI+BxMo
>>166
「うーん?モテるかどうかなんてボク知らないやどうでもいい。
けど、そん時は婆ァが迎えに来ていきなりうちに連れて行かれてさ。
何かと思ったけど、その嫁候補ってのが妹だったんだー」
これ両方買ってもいい?とチョコとキャラメルのどちらも選べないまま
澪の持つカゴに二つとも入れようとする。
多分、澪が面食らっている今を「隙アリ」と見たのだろう。
「ボクも結婚資金って溜めとかなきゃ駄目なのかな?
蛸は『資金稼ぎは男の甲斐性みたいなもんだから、
澪に勝手に金押し付けたりすんなよ』って言ってたんだけどさ」
168 :
澪
:2011/10/30(日) 23:30:14.47 ID:/fnUBFHDO
>>167
「・・・・・・・・・、所謂ブラコン、ってやつ・・・か?」
妹が兄を好きすぎるが為の結婚、と直に捕らえた澪、漠然。竜宮もそれでいいのか。
「確かに愛があれば身分も性別も関係ないだろうがさ・・・。」
構わないよ、と言って、お菓子をカゴに入れた。
もう何がなんだか解らなくなって、結婚資金の話まで頭が回らなかった。
会計を済ませ、外に出た時には、嬉しさの表情の澪でなく、面食らった澪だった。
「あ、巴津火。話したいことがある。」
169 :
巴津火
[sage]:2011/10/30(日) 23:36:00.94 ID:d2SI+BxMo
>>168
「どうなんだろ?一緒に遊ぶと楽しいから、ボクは雨邑が好きだしな」
まだまだ恋愛に関しても低レベルなのが伺えるが、こんなのが次期当主で良いんだろうか。
会計を済ませ、2つもお菓子を持たせてもらった巴津火はホクホクだ。
「話?いいよ。あ、さっきのゲーセンでガチャガチャ買いたい」
まだ執着していたらしい。
丸っこいもの、コレクションするものには目が無いあたり、
やはりとぐろの下に宝を溜め込む蛇や龍の性があるのだろう。
170 :
澪
:2011/10/30(日) 23:47:02.29 ID:/fnUBFHDO
>>169
「ガチャガチャ?」
もしも澪がとぐろの下に溜め込むならばよr(ry
暴走しまくってた澪はどこへやら、もう夜店長のことしか頭にない澪は変態です。
「・・・夷磨璃君さ、体が治ったら、巴津火を守りたいって。巴津火の為に命を懸けてもののふ魂を貫きたいって言ってた。
何かしたの、巴津火?」
171 :
田中 夕
:2011/10/30(日) 23:51:46.53 ID:V1CNgURu0
>>169
>>170
二人がお店を出た時に、ちょうどそこを通ってる三人の学生がいた。
学生A「彼女が欲しい!!世界中のリア充爆発しろ!!」
学生B「ハハハ……守塚くん。声デカイよ…」
そんな会話をしながら歩いてる三人の内一人に見知った顔が一人いる。
田中「そうだよ。守塚、声デカイよ。
それに彼女なんて今考えなくってもいいんじゃないか?」
学生A「うるせぇ!!田中!!クラスで俺達以外彼女いるんだぞ!!少しは危機感もてよ!!!」
学生B「守塚くん……田中くんに言っても無駄だと思うよ?それに僕も彼女はまだいいかな?」
学生A「裏切り者ぉぉぉぉお!!!!」
ボサボサの黒髪で、どこにでもいそうなごく普通の顔立ちの高校生……澪の婚約者の弟の田中夕だ。
……にしても学生Aはうるさい…
学生Aのうるささで二人は田中くんに気付くか?
172 :
巴津火
[sage]:2011/10/31(月) 00:01:57.25 ID:jhXDXTS8o
>>170-171
「こざるがボクを守る?…命を懸ける前に、まず治さないと駄目なのになぁ。
でも一時よりは随分、気持ちが前向いたんだなあいつ」
澪の言葉に、巴津火は楽しげに笑い出した。
もしかしたら道の向こうからやってくる、次のターゲットに気づいたせいもあるかもしれない。
「ボクはあいつに特に何かした覚えは無いぞ。
せいぜい、蛸に牡丹灯篭借りてきて貰っただけだしな。
そうだ澪、こざるに会ったら言っといてくれよ。
出かけられるくらい元気になったら守られてやんよ、って」
ボクが直接言うよりは凹まなくっていいだろう、と田中君達の背後に忍び寄る態勢で
悪戯っ子は笑った。
そして巴津火は3人の学生の後ろから、田中君めがけて飛びつこうとする。
無理やりおんぶされるつもりなのだ。
173 :
澪
:2011/10/31(月) 00:07:45.44 ID:G4KRJ8pDO
>>171
「(またリア充爆発、か。もしも僕が爆発したら、夜とか三凰が悲しむから無理かな。また夜が爆発したら僕が悲しむから無理だね。)」
これぞ非リア充の対処の仕方だ!・・・多分。
そして、嫁の弟、気づかぬ訳もない。
「夕っ、珍しいね。皆は夕の友達?」
>>172
「・・・・・・分かった。」
本当に突然なのだ、夷磨璃が言い出したのは。
これは瞳のお参りのお陰なのかもしれない。
牡丹提灯だけではない、毎日の巴津火の見舞いが嬉しかったのだろう。
「え、はつびー!?」
174 :
田中 夕
:2011/10/31(月) 00:22:19.20 ID:0HULKzzm0
>>172
田中「裏切り者って…俺裏切った覚えは……ぬわぁっ!!!」
学生B「た…田中くん!?」
学生A「おいおい……なんかこのくらいじゃ驚かなくなったが…お前の弟か?」
会話に夢中になってたせいでハツビーが後ろに来た事に気付かず、結果飛び付かれ、ハツビーをおんぶしてしまった。
咄嗟に右足を踏み込み、バランスを崩す事はなかったが、持ってたカバンを足に落とし痛そうに表情を歪めている。
一方、学生Bはなにがあったかわからず慌て、学生Aは呆れたようにしながらハツビーを指差す。
田中「は…ハツビー?」
>>173
田中「あ…澪さん…じゃなかった。義兄さんこんにちは」ウルウル
ハツビーを落とさないようにし、足の親指にピンポイントに落ちたカバンの痛みに耐えながら、挨拶する。
そして友達という言葉にコクコクと頷く。
学生A「どうもッス(イケメン……コイツ絶対リア充だ!!)」
学生B「あ…こんにちは」ペコリ
学生二人はそれぞれ澪に挨拶をする。
学生Aは髪をワックスでツンツンに立てて、柄の悪そうな不良っぽい。
一方、学生Bは身長が150くらいで下手したら中学生に間違えられそうな茶髪のショートヘアーである。
175 :
巴津火
[sage]:2011/10/31(月) 00:25:03.27 ID:jhXDXTS8o
>>173-174
巴津火はぴょん、と飛びついて田中君の首に腕を回す。
もしかしたら喉仏にちょっと腕が食い込んだかもしれない。
「おとー(と)さん、お帰りー♪」
その(と)をうんと弱く囁くように言いやがったのは絶対にわざとだろう。
このクソガキは田中君の背中で楽しそうに目を輝かせて、学友二人の反応を伺っている。
まあ、巴津火はどう見ても田中君の子供にしてはデカすぎるし、夜さんに関すること以外では
比較的常識のある澪もいるし、たとえ聞き間違えられても田中君のダメージは少ない…といいなぁ(棒
「今日は澪がプリンとから揚げ作ってくれるんだってさー。早く帰ろっ?」
邪気たっぷりのお子様は無邪気を装ってそう言った。
176 :
澪
:2011/10/31(月) 00:35:48.22 ID:G4KRJ8pDO
>>174-175
「夕・・・今、助けるからな。ほら、巴津火、下りなさい!」
ん、あれ?なんか会話とか身長的に、澪が巴津火のパパさんに・・・?
夕の友達を見る限り、一人は非リア充、もう一人はショタと判明。ここで澪、A君にリア充オーラを発した。
「(僕はリア充、嫁がいるのさっ!)」
「あ、そうそう。今日と明日は巴津火の好きな食べ物作るって約束したんだ。」
177 :
田中 夕
:2011/10/31(月) 00:51:21.51 ID:o5/kaStS0
>>175
>>176
田中「ぐえっ…!?
(ハツビー!!首が!!首がぁぁあ!!)」
偶然にも首を締め付けられる形になり、苦しそうにジタバタする田中くん。
だが彼の不幸はまだ続く…
学生A「はぁぁぁあ!?」
学生B「…………………えっ?」
ハツビーのおとう(と)さん発言により、友人二人は目を見開く。
学生A「田中ぁぁぁあ!!テメー!!実は彼女じゃなく妻子持ちか!?」
学生B「いやいや!守塚くん。落ち着きなよ!いくら田中くんでもそれはないよ!けど田中くんならありえそうだし……」
友人二人はパニックになってる。《普通》なら子供の悪戯とわかるが田中くんがありえなくもないと思ってしまう!!
しかも当の夕本人が否定しようにもハツビーに首をやられてるせいでそれどころではない!!
が……そこで澪の登場である。
学生A「!?(コイツ……間違いねえ!!リア充だ!!!)」
澪のリア充にオーラに当てられ、キッと敵意を持った眼差しで澪を見る友人A。コイツどんだけリア充を敵視してるんだ!?
学生B「えっと……貴方は?あとこの子は田中くんの子供じゃないですよね?」
ショ…学生Bは一応場の整理をしようと澪に状況の確認をした。
パニックになりながらも、少しだけ冷静である。
一方、田中くんは
田中「ガフッー!!…ゲホッ!!ガホッ!!…ゴハッ!!!
(そうなんだー。俺も義兄さんの料理食べてみたいな。あとハツビーをなんとかして!!!)」
この状態でも何とか普通に会話しようとしてる!!
だけど目が充血してきてる!!
178 :
巴津火
[sage]:2011/10/31(月) 00:58:04.69 ID:jhXDXTS8o
>>176-177
「はぁーい。
…澪ってばホント自分の嫁関連にちょっかい出されると煩いんだからなー」
澪に言われて田中君の背中から巴津火はしぶしぶと降りるふりをする。
その言葉は微妙に誤解を誘導するものだった。
「嫁関連」=「田中君やその友人」ではなくて、
「澪の嫁=田中君」と聞き取られてしまう可能性も無くはない物言いである。
さらにかぶさってくる澪のリア充嫁持ちオーラが後押ししているのだ。
先の「今夜は澪の手料理だよ情報」とあわせてAB二人の脳内でこれらの情報はどう処理されるのだろう?
そして降りてみたらB君とほぼ同じ身長の巴津火。
B君と目が会うとちょっぴり不敵に笑って、わざとらしく背伸びをして見せた。
ボクのほうが高いぞー、という実に子供じみた挑発である。
179 :
澪
:2011/10/31(月) 01:03:28.77 ID:G4KRJ8pDO
>>177
澪はB君の落ち着いた行動をみて、のんびりと、かつA君にざまぁ、とでもいう様に話しはじめた。
「夕には妻なんていないよ。その子は僕の友達で、妻持ちは僕。夕のお姉さんが僕の婚約者なんだ
つまり僕は、夕のお兄さん!」どやぁ
ぶっちゃけ、巴津火が子供と言う設定でも良かったが、後でごちゃごちゃなりそうなのでやめておいた。
「ああっ、はつびー、やり過ぎ!夕がやばいって!って違うよ、僕の嫁は夜、夕はあくまで僕の嫁・・・いや、あれ?」
澪は混乱してしまった▼
ここは夜店長の助けが必要だ▼
180 :
田中姉弟と友人ズ
:2011/10/31(月) 01:28:24.72 ID:XzBTIBcd0
>>178
>>179
田中「ゲホッ……………ゴホッ…」
ハツビーが解放された田中くんは少し咳込みながら地面に肩膝をつく
友人A「……嫁?……まさか田中お前!!いや…確かに女装が凄く似合ってたがそんな趣味が……」
友人B「いやいや!!守塚くん!!さっき田中くんは義兄さんって言ってたからこの人は違うよ!多分田中くんのお姉さんの旦那さんだよ!きっと!!」
残念!!友人Aが見事に引っ掛かり、後退りしそうになったが友人Bは冷静に考えてそう言った。
友人B「ほら。この人もそう言って………ってなんで混乱してるんですか!?
……ん?(僕…子供に背負けてる……)」ガビーン
澪が混乱したのに対し友人Bのツッコミが止まらない!!
更にハツビーが自分の方が背が高いアピールをしたせいで友人Bの心に大きなダメージを与えてしまった!!!
友人A「………とりあえず理解した(リア充爆発しろ!!そしてザマァ!!)」
友人Aはなんとかその場を理解したが、気がついたら友人二人がダメージを負いと澪が混乱してる。
そんな澪を見てザマァっと悪態をついていた。
そんな混沌とした場に……
夜「あら〜〜?…澪〜〜〜♪
……と夕とハツビーと坂下くんと守塚くんじゃな〜い」ニコニコ
偶然買物帰りの夜が通り掛かったじゃないか!
しかも、真っ先に澪に向かいのんびりとした口調なのに、凄い早さで澪に駆け寄ってきた!
友人A「……………あ…どうも」
田中姉が来た瞬間、何故か友人Aは大人しくなり、ペコッと挨拶をする。
181 :
巴津火
[sage]:2011/10/31(月) 01:37:23.54 ID:jhXDXTS8o
>>179-180
「ちっ!」
折角上手いことA君を釣ったのにB君が横からリリースしてしまった。
しかし、背比べでB君には勝った事で、少しばかり溜飲は下がったようだ。
夜店長が駆け寄ってくるのと、A君がいきなり借りてきた猫のように大人しくなったことに気づいて
このしょうも無いクソガキはにんまりとした。
「澪がねー、結婚資金ちゃんと溜めてるってー。良かったね♪」
夜さんが喜ぶか、澪があたふたするか、
もしかしたらA君が面白くなるかもしれないしならなくてもそれはそれでよし、なのだ。
182 :
澪
:2011/10/31(月) 01:44:16.16 ID:G4KRJ8pDO
>>180-181
「ええと・・・夕は弟、で・・・はっ、嫁は夜だ、僕の嫁!夜〜っ!!」
そしてなんとベストタイミング。夜店長の出現でわ形成逆転!?
「(これでかつる!にしても・・・可愛い・・・っ///)
・・・・・・は、はつびぃ!?
いや、その、ね、ほら結婚資金は大事だし・・・////
夜の方が大事だけど・・・」
あたふたあたふた!
でもリア充さらけまくり!
183 :
田中姉弟 友人ズ
:2011/10/31(月) 06:49:38.76 ID:LCPpLJWU0
>>181
>>182
友人B「夜さん。こんにちは」ペコリ
田中「ゲホッ…………ハツビー。頼むから次から首はやめて、首は鍛えようにも難しいから」
夜に気付き、挨拶する友人Bと少し咳込み涙目でハツビーに講義する田中くんだった。
夜「えっ!?……そ、そうなの澪?
……嬉しい///
澪〜〜♪」ジワッ
ハツビーの発言に、驚いたように澪を見つめ、嬉しさと照れ臭さで顔を赤らめながら澪に抱き着こうとする。
夜「けど結婚資金なら私にも出させてください。
二人のなんだし〜〜。ね?」ニコッ
周りの視線もなんのそのでイチャイチャしそうな雰囲気だ!!
友人A「(リア充爆発しろ!!!リア充爆発!!リア充爆発しろぉぉぉ!!うわぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!)」
あ…友人Aには目に毒すぎたのかなんか、血の涙を流しそうな勢いで両膝をつき地面を叩いてる。
友人B「田中くん…守塚くんが……」
田中「ん?いつもの事だし大丈夫だよ。
それよりハツビーと義兄さんは買物してたの?」
友人B「そう?あ…僕は坂下 隼人。そこにいる彼は守塚くん。
ハツビーくんでいいのかな?で夜さんの旦那さんは澪さんでいいのかな?
(それにしても…澪とかハツビーとか変わった名前の人達だね……外国人には見えないし…ん?)」
友人Bは不思議そうに思いながらハツビーと澪に自己紹介しようとする。
184 :
巴津火
[sage]:2011/10/31(月) 17:45:31.07 ID:jhXDXTS8o
>>182-183
「うん、首はやらないように気をつける」
素直に田中君に頷くのは、巴津火が機嫌が良い証拠である。
澪とA君の反応が狙い通りだったので、楽しくて仕方が無いなのだ。
他人の心を弄んで楽しむ趣味の悪さは、巴津火の母である窮奇に由来している。
そして、それを助長したのは間違いなくあの衣蛸なのだろう。
しかし、飽きが早いのもまたこのお子様の特徴であった。
(もう何度目だ、この二人は…)
通常運行の新婚カップルとA君は放っておくことにして、巴津火はB君の方へなんだか熱い視線を向けた。
「坂下隼人?じゃ、ハヤトって呼んでもいい?
ボク巴津火、夕と澪の友達。皆ははつびーって呼ぶからそう呼べばいいよ」
(これ柔らかくて美味そう。夕の友達じゃなかったらなー…)
でも今日の巴津火の夕食はから揚げとプリンなのだ。B君ではない。
185 :
巴津火
[sage]:2011/10/31(月) 17:51:10.62 ID:jhXDXTS8o
// 184の訂正を一つ
×「うん、首はやらないように気をつける」
↓
○「うん、澪と買い物してた。今度から首やらないように気をつける」
186 :
澪
:2011/10/31(月) 18:04:33.98 ID:G4KRJ8pDO
>>183-184
「夜〜っ!じゃあ、夜にも手伝って貰うね。」ぎゅむっ
いつでもどこでも、二人ならイチャイチャできる・・・気がする。
こんなところでも、普通に抱き合ってます。
守塚君が大変なことになってるので、隼人君と話すことにした澪。
「初めまして、僕は澪。君のことは隼人君、って呼ぶね。」
小さい彼は、なんか扱い易そうだな、と完全に舐めている。
扱い的には、小学生に接するお兄さんって感じで。
187 :
田中姉弟と友人ズ
:2011/10/31(月) 21:35:38.45 ID:LCPpLJWU0
>>184
>>186
田中「そうなんだ。ハツビーと澪って仲いいんだね」コキッ!コキッ!
首を動かしながら、ニコッと微笑みながらそう言う。
夜「はいっ♪」ムギュッ♪
友人B「夜さん。えっと…澪さん。御暑いところわるいんですが…人目があるのでその辺で…
(守塚くんが大変な事になってるし…)」
夜「あ…あら〜〜///ごめんなさ〜い。澪〜。続きは帰ってからでいい〜」ニコニコ
コレ以上二人がイチャイチャすると守塚くんのライフが0なのに更に削られてしまう為に、ショ…坂下くんがやんわりと止めるように言う。
夜は顔を赤くしながら渋々と下がるが、帰ったらイチャイチャしようと言う。
コレは帰ったらノワールが砂糖たっぷりの激甘イチャラブ空間になるだろう……
坂下「巴津火くん。わかった。じゃあ、ハツビーくんって呼ぶね
改めて、ハツビーくんと澪さん。よろしくお願いします
(あれ?なんか違和感あるけど……気のせいかな?というか寒気がしたのはなんでだろう?)」ペコリ
まさかハツビーに美味しそうと思われてるとはつゆ知らず丁寧に挨拶する坂下くん。
まだ幼い顔にプニプニとした柔らかそうな肌…たしかに肉食の妖怪にとっては狙われそうな人間だ!!
……けど、田中くんの友人だ…果たして彼は《普通》なのか?
友人A「ちょっと待て!俺を無視するな!
俺は守塚 渡だ。巴津火と澪(リア充)よろしくな!」
あのままダメージ受けていればよかったモノの非リア充…もとい守塚くんは起き上がり二人に挨拶する。
不良っぽいが非リア充であり、見たところ《普通》よりな彼だが。
だけど果たして《普通》なのか?
まあ、何にしても彼等には妖怪とばれないようにした方がいいかもしれない
188 :
巴津火
[sage]:2011/10/31(月) 21:50:51.60 ID:jhXDXTS8o
>>186-187
「守塚?よろしくな、もりぞー!」
もりぞー呼ばわりしたのは、多分彼の身長が気に入らないとかそういう低レベルな理由だ。
(こっちはあんまり美味しそうじゃないな。食べるなら、あっち)
気の毒な坂下君は、同じショタ系統の十夜君よりもずっと妖怪にとっては美味しそうなのだ。
しかし、田中君の友達ならば食べるわけにも行かない。
そして夕食前に目の前を坂下君がうろうろして居るとうっかり食べてしまいたくなるので、
なにか口実を作ってちょっと離れておこうと巴津火は思った。
「澪、ボクちょっとガチャガチャやってくる。先にノワール帰ってくれててもいいよー」
自分のお菓子はしっかり確保して、巴津火は婿殿にそう声をかける。
許可があれば一人でゲームセンターへ向かうだろう……他のショタで一杯のその場所へ。
189 :
澪
:2011/10/31(月) 21:58:25.00 ID:bGMOO72l0
>>187-188
「んー?イチャイチャ、ここじゃ駄目?なら、早く帰ろっ!!」
駄目に決まってるでしょ!
夜店長がいいなら良いんだけど。
「ええっと、渡(笑)もよろしくね。(巴津火、絶対、隼人のこと喰おうとしてる。)」
ぷにぷにで肉が引き締まってるような幼児体型の…じゅるっ。
っとかは考えてない訳でもなさそうだが、今の獲物は夜さんだ。
「分かった。あんまり暗くならないうちに帰って来いよ、プリンと唐翌揚げ作って待ってる。
夜、行こ♪」
巴津火一人でも問題ないので、澪はノワールへと帰るだろう。
そして、大量のプリンやら唐翌揚げやらで大忙しとなるのでした。
190 :
田中姉弟 友人ズ
:2011/10/31(月) 22:19:34.82 ID:dDX8tRFQ0
>>188
>>189
モリゾー「も…モリゾー………だと……
おい!待て!今鼻で笑ったろ!!」
変なあだ名を付けられ、若干落ち込むも澪の(笑)発言になんか怒ってる。
まあ、そんなモリゾー(笑)をほって置いて。
坂下「(なんだろう………昔よくあった感覚だけど……わからないな)」
田中「じゃあ、俺達はちょっとモリゾーの家に行ってくるから、またね」
モリゾー「待て!!誰がモリゾーだ!」
坂下「まあまあモリz…守塚くん。そんなに怒らないで。皆さんさようなら」
モリゾー「おいぃ!!坂下!!お前もいいそうになっ……ちょっと待て!!!」
騒がしい三人はそれぞれ去って行き
夜「ハツビー。間違えても誰か食べちゃったらご飯抜きにしちゃうからね〜〜
じゃあ、澪〜♪行きましょ〜〜♪」
一応ハツビーに釘をさし、澪の腕にくっつきながら帰ろうとする。
/それではこのあたりで
/二日間ありがとうございます
/お疲れ様でしたー!!
191 :
巴津火
[sage]:2011/10/31(月) 22:32:58.41 ID:jhXDXTS8o
>>189-190
「…ちっ!」
夜店長に釘を刺され、本日二回目の舌打ちをして巴津火はゲームセンターへ駆けてゆく。
そして美味しそうな子供達の屯すその場所で、暴れる食欲を宥めるために買ったお菓子は食いつくし、
やけになって回したガチャガチャはカプセルの中身がダブり、
こんちくしょーと腹を立てて帰ったところでから揚げとプリンに機嫌が治る巴津火であった。
//お二人ともありがとうございました、お疲れ様でした。
192 :
:2011/11/03(木) 23:08:00.69 ID:3UAg4x1n0
日の入りも早く、気温も下がろうとしている近頃に、
今日は暑くも寒くもなく過ごしやすい。
曇天でも雨天でも快晴でもない今日の空は、雲を少し散りばめた青い空だ。
しかし、そんなのどかな今日も、この女性の立ち尽くす場所だけはどこか、
先ほどあげたどの平穏も決して良いものでなく、
むしろ平坦で無感情で面白みのないもののように思われた。
「」
そんな無の空間に立つ彼女は、誰かを待っている。
それは約束されたわけではない。
しかし、彼女はまるでここへその待ち人が来る、と知っているかのように、
じっと黙って待っていた。
193 :
メリー
:2011/11/03(木) 23:14:45.36 ID:E8bk4uQO0
>>192
「あ〜る〜こ〜〜♪あ〜る〜〜こ〜〜♪私は〜元気〜〜♪歩くの〜大好き〜〜♪どんどん行こ〜〜♪」
そんな晴れた日に歌いながら歩いてる幼女が一人。
麦藁帽子をかぶって、白いワンピースを着た金髪の幼女――都市伝説のなりそこない――メリーだ。
「ん?」
そんな明るい幼女は、真逆の女性を見つけた。
「こんにちはだよ〜〜!お姉ちゃん何してるんだよ〜?」ニパーッ
立ち止まり幼女スマイルで彼女に話しかけた。
194 :
榊
:2011/11/03(木) 23:24:13.12 ID:KKPAjUT70
>>193
待ち人は、彼女の目の前にいるこの小さな少女のことなのだろう、
軽快な歌とともに現れたメリーへと、榊は静かに目を合わせた。
「なにもしていなかった。
メリー、メリーを待っていたから」
髪色も瞳も服装上下も全てが黒の榊は、確かにメリーとは対照だ。
そしてそんな対局の榊がメリーと会いたいと思っているこの状況は、
とても不思議なものだと言える。
「メリー、メリーは以前、夜行集団の経営しているホストクラブで、
叡肖、氷亜、稀璃華、黒蔵と共闘しメデゥーサと戦闘を行ったはずだ」
195 :
メリー
:2011/11/03(木) 23:39:46.95 ID:PptGHapg0
>>194
「メリーを?だよー?」
彼女のはっせられた予想外の言葉にキョトーンとする。
何故、彼女は自分を知ってるのか?何故自分を待ってるのか?と思いながら首を傾げる。
が…次の言葉に前半の疑問は解消された。
警戒はしてないのか、トテトテと彼女に近づく。
恐らく相手に殺気とかを感じない――だけど、なんか青行燈のような油断のできない気配を気のせいかもしれないが感じつつ――からなのか?
「その答えにはそうだよー。だよー
……言い訳はしないんだよー」
一瞬、悲しそうな表情になる。《本来は[
ピーーー
]のに躊躇いもない筈なのに》最近、それに悲しみを覚える自分がいる……それも田中家の影響なのかわからないが…
「………どうしてお姉ちゃんがそれを知ってるんだよー?
みんなの名前も知ってるのが不思議なんだよー?
お姉ちゃんは誰なんだよー?」
真っ直ぐと彼女を見上げるように見て、そう言った。
196 :
榊
:2011/11/03(木) 23:52:31.29 ID:3UAg4x1n0
>>195
質問に榊は小さく頷き肯定した。
すると、驚くべきことにメリーは初対面であるはずの榊の元へ、
警戒はしていようが近づくべきではないはずの者へ、歩み寄ったのだった。
しかしその珍妙な光景にも、榊の感情の機微は無い。
「私は知っている。だが、基本は知っているだけだ。
彼らの名前を知るのも、私がメデゥーサとは知り合いだからと思っていればいい。
特別そこに、意味を探る必要は無い」
メリーの疑問への、無感情な榊の答えは、
知り合いを滅せられた者としてはあまりにも他人事のようで、
口から出たその言葉も、理解のしがたいややこしい内容であった。
「私は榊だ。それ以上もそれ以下もなく、
ただ榊として存在している。」
どうやら彼女は、人を混乱させるような、核をつかない話し方をするようである。
197 :
メリー
:2011/11/04(金) 00:02:44.77 ID:5OLUvFSm0
>>196
警戒をされてるのかわからないが、近づくと離れる相手に対し、メリーはそれ以上は近づかないようにする。
「むむむ…よくわからないんだよー
だけど、貴方はマンドラゴラのお兄ちゃんやメデューサのお姉ちゃんの仲間なんだよー?」
ムーッと悩むような仕種をし、メリーは思う。何故彼女は仲間がやられたのにこのような機械的な対応をするのか?まるで仲間の死に関心のないような……
「榊お姉ちゃんなんだよー。よろしくなんだよー
じゃあ、お姉ちゃんはなんでメリーを待ってたんだよー?敵討ちってわけじゃなさそうなんだよー」
キョトンと首を傾げながら、メリーは不思議そうにそう言う。
なにぶん相手の真意が見えない。マンドラゴラやメデューサとは明らかに異質すぎる。
198 :
榊
:2011/11/04(金) 00:14:52.22 ID:+NyF5H5l0
>>197
「仲間、という定義から私は離れている」
と、メリーのこぼした疑問に対して平坦に、
榊は先ほどは縦に振っていた首を、静かなそぶりで横に振った。
「私とメデゥーサ、そしてあれとは仲間でなく、知り合いだ。
知り合おうとして知り合ったのでなく、知り合おうとした結果勝手に知り合っただけ」
彼女の、他意は無くとも混乱させるような言葉の要約をすると、
成り行き上彼らとは知り合いの状態となったが、
最初はそのような気は無かった、ということらしい。
「その通り。私の今回の目的は仇打ちではない。
メリー、メリーはあの戦闘の際、
メデゥーサの放った大蛇を傷つけた、このことは間違いは無いか」
199 :
メリー
:2011/11/04(金) 00:26:52.97 ID:ZT1ZikSR0
>>198
「むむむ……だよー?」
彼女の答えにわかったようなわからないような…と頭を悩ませるも、続け様に聞かれる質問にメリーは榊を見据える。
「確かに傷つけたんだよー。最後は確か、銃で撃ったんだよー」
200 :
榊
:2011/11/04(金) 00:35:30.34 ID:+NyF5H5l0
>>199
丁度視線的には見下ろす形になるメリーに、
冷たく意思の感じない目で見つめる榊はその答えを聞いて、
珍しくも、そうか、と一言呟いた。
「了解した。私には少量なりとも、彼女の返り血をメリーが浴びた、
その記憶をメリーがまだ忘れていないことが分かれば、それでいい。
今の時期は、青行燈の存在によってあらゆる流れがウネリ変化していく。
だがその事実が変わっていないのは、そこまで影響は大きくないようだ」
恐らく榊にしか理解できないような独り言を、分析をしている様につぶやく。
それから彼女は目線をメリーに合わせ、
言葉もなく、つかつかとゆっくりとした足取りでメリーへと歩み寄り始めた。
そして二人の距離が1メートルほどとなった時、
榊はおもむろに手を上げ、メリーの頭へと手を伸ばそうとする。
201 :
メリー
:2011/11/04(金) 00:42:26.94 ID:eORyLtC30
>>200
「………どういう事だよ?」
まるで、それは私がまだ青行燈の呪縛から解き離れてないみたいな言い方だよー
そう言おうとした時に、いつの間にか彼女が近づいていて、メリーの頭に手を延ばせば触れられる距離にいる。
なんの抵抗もなく触られるだろう。
202 :
榊
:2011/11/04(金) 00:50:08.70 ID:+NyF5H5l0
>>201
差し伸ばした手は、なんら拒絶されることなくメリーの金髪の頭に触れる。
撫でるでも叩くでもなく、乗せただけ、な榊の手からは、
メリーは体の内側全身を這い回られたような、言いようのない不快感を感じるだろう。
「青行燈、性格その他もろもろは確かにイレギュラー。
だが、目的、最後の者に関しては恐ろしいほどに濁りがない。
なるほど、組み込めなくは無い」
しばらくメリーには聞こえるか聞こえないかの大きさで、
榊は目を瞑りながら独り喋っていた。
しかしなにかを知り終えたのか、そっと目を開いて、
突然の非礼を詫びることなくメリーの頭にあるから、その手を首元へと向ける。
203 :
メリー
:2011/11/04(金) 00:55:08.12 ID:jyBMZaTR0
>>202
ゾクッ!!
メリーはまるで全身を調べられたかのような違和感を感じ、言い表せないような寒気を覚え、反射的に大きく距離をとろうとする。
「何をしたんだよ?……」
首に手を触れられないような位置に自然に移動しながら
204 :
榊
:2011/11/04(金) 01:03:08.65 ID:+NyF5H5l0
>>203
飛び退いて距離をあけられた。
背丈が高い方でもない榊の手では、到底メリーにとどかない。
その為榊は、食い下がることなく諦めて、手を下げた。
「特別メリーの不利になるようなことはしていない。
それに、もしかしたらメリーが見知らぬ私に、今更ながらの人見知りをした可能性もある」
しかし実は、榊は諦めたわけではないようであった。
農夫たちの見る榊の、極々少なくも垣間見える行動の特徴達から推測すると、
どうやら榊は決して諦めのいい方でも、もっと言えば諦めるほうでもないらしい。
だが榊は、今こうして手を下げている。
それが意味することはつまり、彼女は既に目的を果たしていたということだ。
205 :
メリー
:2011/11/04(金) 01:12:22.68 ID:eORyLtC30
>>204
「ちゃんと答えてだよ……私に何したんだよ?」
メリーはここで初めて真面目な表情で睨むように見つめる。
しかし…相手それ以上行動はしないようで……
「……貴女は妖怪じゃないだよ?なんか妖怪より奇妙に感じるんだよ……まるで青行燈のような……だよ……」
206 :
榊
:2011/11/04(金) 01:19:57.27 ID:+NyF5H5l0
>>205
メリーの質問に対し、しばらく榊は黙って彼女を見つめるだけであった。
感情の見えないその瞳からの視線は、
おそらくどのような攻撃よりも群を抜いて、おぞましい何かを感じるはずだ。
「メリーから、メリーの霊体に未だ隠れ潜んでいた、
メデゥーサの妖気の残滓、力の破片をメリーから取り出し、手中に収めた」
少しの沈黙を挟んでから榊は、ぽそっと話しだす。
そして榊の言葉を裏付けるように彼女の開かれた手には、
あの時戦った大蛇の鱗が一枚、メデゥーサの妖気を表すかのような鱗が置かれていた。
207 :
メリー
:2011/11/04(金) 01:27:01.10 ID:IWryQonZ0
>>206
ゾクッ!ゾクッ!!
彼女の目を見つめ、《危険》と本能で感じるもメリーは話す。
「つまり……今のお姉ちゃんにはメデゥーサのお姉ちゃんの力が使えるって事だよ?」
いや…もしかしたら、メリーの想像以上の事ができるかもしれないが……
それはまだわからない…
わからない。相手の考えも目的も正体も意図も
マンドラゴラやメデゥーサの時みたいな推測がメリーには立てられない。
208 :
榊
:2011/11/04(金) 01:36:31.13 ID:+NyF5H5l0
>>207
「私に、彼女のような神話クラスの力は使用できない」
メリーが納得したのを見て、
榊はメデゥーサの鱗をそっと仕舞う。
そして確かにおぞましい雰囲気を持ちながらも、
先ほどからの彼女の発した言葉には嘘を感じず、そこだけは何故か、信用に足るもののように思わせた。
「それに、メリーの身構える様な、想像以上のこともできない。
なぜならこの鱗からは、割り切った思いが感じられないから。
この力は、彼らの目的である彼に、託されることとなる」
意味深な言葉を、あえて強調する風もなく冷淡に喋り、
目的を終えた榊は忽然として、メリーの前から姿を焼失させた。
/僕はこれで落ちにさせていただきます
/遅くまで絡みありがとうございました!
209 :
セツコ中
:2011/11/04(金) 01:40:31.50 ID:5OLUvFSm0
>>208
「……消えただよ」
そう言いながら榊の消えた場所を見つめ
「……考えても仕方ないんだよ…ちょっと牛神神社に相談しにいくんだよ」
ブルッと身を震わせながら、早足で去っていった。
/お疲れ様でしたー
/こちらこそ絡みありがとうございます
210 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)
:2011/11/04(金) 07:39:37.01 ID:eMUhQT0g0
解
211 :
黒龍
:2011/11/08(火) 23:30:41.36 ID:U6IoPwIDO
ここは、喫茶店ノワール。紺色の服を着て、ヘッドフォンを肩に掛けている青年がいた。
「・・・・・・・・・た、田中、ゆ・・・夕・・・を呼んで、下さい・・・。」
今、夜店長に夕君を呼んできて貰うように頼んだ黒龍は、澪の出したコーラを飲みながら、待っていた。
凄くそわそわして、顔が真っ赤。大丈夫なのだろうか。
212 :
夜行集団
:2011/11/08(火) 23:44:11.74 ID:uaAIM0qw0
>>211
やけに落ち着かない、人見知りにしては真っ赤っかな彼の座る席を、
やけに真剣な、生真面目だとしても眉間に皺が寄りな男が遠くから見つめている。
そのホストの位置は、座席の位置的にも距離的からも、
黒龍からは気づかれないような場所にポジショニングをしていた。
「(あいつは・・・あいつだよなっていう?)」
雑誌を読むふりをしてちらちらと窺う彼の頭の中では、
死んだと聞いていた者が平然と、自分の目の前にいた、
そんな飛んでも事実を突然突きつけられて、とてつもなく混乱していた。
213 :
田中姉弟
:2011/11/08(火) 23:46:43.22 ID:eHtTWhHc0
>>211
夜「あらあら〜〜♪ちょっと待っててね〜」ノホホン
黒龍の姿を見て、夕から黒龍の事を聞かされてた店長は驚きながらも、事情はわからなくとも、彼が黒龍本人だとわかり、いつものマイペースでケータイで隣の実家にいる夕に来るようメールをした。
しばらくすると、店のドアが鐘の音とともに開く。
夕「姉さん、何かよ………………………………………………………………………………え?」
そこからあの日と変わらない普通じゃない普通の高校生が入ってくる。
ちょっと眠そうだった顔は黒龍を見た瞬間、固まった。
「こ……黒龍?」
214 :
田中姉弟
:2011/11/08(火) 23:51:30.36 ID:vdcQsTuo0
>>213
追加
>>212
店員雪女「お客さま……凄い怪しいんですけど
とりあえずご注文は?」
普通に人間の店で働いてる雪女が虚冥に話しかけて来た。
店長はチラッと虚冥を見て、ノホホンと笑顔を見せる。
コレが……澪の婚約者だ……
215 :
黒龍「」&澪『』
:2011/11/09(水) 00:01:09.16 ID:Og/v0cKDO
>>212-214
自分自身がどれだけ迷惑を掛け、都合良く生き返ってしまったことに嫌気がさす。だが、それでも・・・・・・会わなくてはいけないのだ。
「たっ・・・田中・・・っ・・・。お、俺・・・・・・っ。」
黒龍、涙腺崩壊しそう。
一方、怪しい人物を不振に思った澪は、雪女のサポートをしようと、話し掛けた。
『お客様、ここではそのような・・・・・・は・・・おま!』
それが虚冥と分かったとき、追い出そうかと思ったであろう澪。前回はカボチャ負けしてるので、妙に暑くなる澪。
216 :
虚冥
:2011/11/09(水) 00:13:09.11 ID:qnpdzNgO0
>>214
最初は大きめの疑問と好奇心であったはずなのに、
いつのまにか虚冥はあの黒龍への尾行に、任務スイッチを誤って入れてしまった。
その為今の虚冥は、と〜ってもガラが悪い。少なくともそう見える。
「あ?ああ、コーヒーを。
コーヒーとミルクは1:1でいれてくれっていう」
とても悪い目つきで雪女に注文した。
もうそれはカフェオレではないだろうか、そんな自分への突っ込みすら忘れる彼。
しかし雪女の言葉である意味ようやく、自分が喫茶店に入ったのだと分かり、
なんとなしにあたりを見回してこの店がとても趣のある所だと知った。
>>215
「(・・・・は?)」
ただでさえ死人が闊歩している事実に(虚冥のような復活をしないで)驚いているのに、
そんな彼が突然号泣するものだから、虚冥の頭は避けに錯綜する。
しかし、状況を怪訝な顔ながらもそれでも把握しようとする彼へ、
以前は打ち負かしてやった、あのよくわからないが腹の立つ彼が話しかけてきた。
「ちょwwwwwwお前がこんなところで働いてんのかっていうwwwwww
身の程を知れ、全然あってねえだろうがwwwwww」
そして、彼の言葉にある芝で把握できることであるが、
すでにこの時点で虚冥の任務スイッチはoffられている。
217 :
田中姉弟
:2011/11/09(水) 00:31:03.21 ID:1OU1rpfF0
>>215
>>216
雪女「畏まりましたー♪」
目つきの悪い虚冥の注文に笑顔で応対するが、澪がきて
雪女「大丈夫ですよ♪この喫茶店はどんな方でもウェルカムですから…って…
あれ?お二人共知り合いでしたか?
それでしたらお話しても大丈夫ですよ。私はカフェオレ…じゃなかったコーヒーを作っておきますんで」
そう言いながら雪女はなんか取り込んでる店長の代わりにコーヒーを作りにいった。
夕「黒龍……黒龍ぅぅぅぅぅぅう!!!!!!」
涙を流しながら、黒龍に向かい走りだし……感動の…
夕「歯食いしばれぇぇぇぇぇ!!」
少し威力を押さえた《破邪の力を持った》右ストレートを………って、ええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!
だが、それは阻止されていた。何故なら
夜「夕…………ここでは暴れないの」ニコッ
店長が両手の革手袋から出したワイヤーで、まるで蜘蛛の巣にかかったのように夕を止めたのだ。
破邪の力を持つ八握剣と融合した右手の高校生と忍者顔負けの店長
虚冥からみたらトンデモナイ奴らだが……
夕「馬鹿!!馬鹿!!!俺がどれだけ…グスッ…心配…グスッ……違う…生きてた…黒龍…グスッ…嬉しいけど…うわぁぁぁん!!!!」
ワイヤーをひきちぎりそうに暴れながら夕は泣きながら黒龍に叫ぶ。
夜「黒龍ちゃん。夕がなんか状況の整理が出来てない少し待ってて〜〜」
のんびりしながらカウンターから出て、夜は夕に近づき
夜「オチツケ」ドスッ
夕「グハッ!!!」メキメキメキ
ドスのきいた声で、夕の腹に力一杯のヤクザキックを放ちやがった!!!
なんか嫌な音してるし、夕が静かに動かなくなった!!!!!
218 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)
:2011/11/09(水) 00:49:45.23 ID:Og/v0cKDO
>>216-217
『仕事と言うか、嫁の手伝いをしてるだけだ。仕事したくても、僕が出来そうな仕事なんてないし・・・。似合わないのも解ってる・・・。』
今の澪は、色々と仕事探してるが、中々見つからず、軽く鬱ってる。
直ぐにマイナス思考へ発展し、何気に大ダメージである。
「夕ぅっ・・・・・・ええええ!!!!!!!??????」
『ほら、あのワイヤーの、僕の嫁☆』
しかしヤクザキック店長の萌え度により、キャピキャピ仕出す澪。
一方ではぐったりした夕に慌てて駆け寄る黒龍。
「・・・夕、今なら、俺も役に立てるかな。お前のために、何か出来るかな。」
治癒魔法の一種を使い、ヤクザキックのクリティカル部分に手を宛がう。
ぐったりした夕も復活できる(はず)←
ちなみに、顔真っ赤だが、密かに夕の後ろに手をやり、抱きしめている黒龍がそこにいた。
219 :
虚冥
:2011/11/09(水) 00:57:41.38 ID:qnpdzNgO0
>>217
先ほどまで澪を嘲笑する為彼に向けていた顔を、
遠く、いくつかの座席を隔てた地点で起こったその出来事から、
虚冥は口をポカンと開けたまま、がっつり離すことができなくなっていた。
「 」
良い趣味をしていると思った喫茶店が妖気に満ち満ちて、
そこで死者が形容できないほどに号泣して、
どこかで会った右手の異常な少年が彼に殴りかかろうとした結果気絶して、
気絶させたその張本人の女性の手からは何故か多量のワイヤーが張り巡らされていて、
これらの光景を占めている者達の過半数が、
どうしようもなく人間である。
「あ、やだ枝毛」
そしてホストは、現実から逃げたのであった。
>>218
「あ、嫁っすか・・・。
あの、あれっすよね、あの嫁っすよね」
さらにこの澪の嫁がいるよ宣言である。
これによって、虚冥の返答がまったく虚冥でなくなってしまったのは仕方がないだろう。
しかしいつまでも呆けてはいられない。
虚冥には今、黒龍を取り巻く巨大な謎を解き明かさなければいけないからだ。
「・・・もう少し黙っていよう」
しかし虚冥は、少し流れに身を任せてみようと思った。
220 :
田中姉弟
:2011/11/09(水) 01:09:42.54 ID:jWPjpOVZ0
>>218
>>219
店長は夕をワイヤーから解放し、黒龍の看病してる様子を見てニコニコと笑顔で見守っている。
先程、ヤクザキック放った奴とは思えない……
そして、澪がお客さんと親しく話してるのを見て、ニコニコと近づいてくる。
夜「お客さま〜。うちの弟とお友達が煩くして、すいません。お詫びとしてコーヒー代はタダにしておきます〜〜♪」ニコニコ
……情報を整理しよう。彼女が澪の嫁って事は彼女はあの《狩婦》の娘である。そして弟って事はやっぱり、メリーの対処をしたあの普通じゃない少年は《狩婦》の息子であり、《澪の嫁》の弟である。
夜「それと澪の友達の方でしょうか〜?私はここの店長で、澪の妻の田中夜です〜」
さりげなく澪の右手に腕を組みながらそう言う。
一方
黒龍に抱きとめられた夕は、しばらくすると、目を覚ます。そして黒龍の顔を見て涙を再び溢れさせた。
夕「……黒龍……夢じゃ…ないんだ………よかった……よかった……」
そう言いながら
221 :
黒龍「」&澪『』
:2011/11/09(水) 07:34:52.65 ID:Og/v0cKDO
>>219-220
『あの嫁て、なんだ?僕の嫁は夜一人だっ。』
寄ってきた夜に抱き着くと、どや顔。
あの狩婦の娘の夫、澪はきっと立場的には虚冥より上なのだろう。
『巴津火でさえも嫁候補いるらしいのに、大の大人のあんたに彼女いないの?』
夕を抱き留めた黒龍は涙をゴシゴシしながら、それでも涙を流して話した。
「うぅっ、べ、別に夕の為に戻ってきた訳じゃないんだからな・・・/////
でも・・・あの時は本当に悪かった・・・。約束も守れずに・・・・・・でもさ、もう死なないから・・・俺と友達になってくれないか?」
222 :
虚冥
:2011/11/09(水) 21:53:46.75 ID:qnpdzNgO0
>>220
取り敢えず落ち着こうと、深く座って背もたれに体重を託す。
軋み事もなく座り心地のいいその椅子で、虚冥はいくつか頭の沈静化に成功した。
「マジかっていうwwwwwwあざーすwwwwww
てかまだコーヒーもらってねえけどなっていうwwwwww」
息をついて若干ゆとりも生まれたので、虚冥は店長、
あの狩婦の娘の好意に預かることにした。
その店長夫婦にある、恐ろしい結論が出てしまいそうな色々は、
いったん端にどけておいてである。
>>221
それは、あまりにもあんまりにも衝撃的すぎる、
天変地異は起こらずとも海は一瞬干上がったのではないかと思うほどの、
絶対に信じられない出来事であった。
「・・・はぁ?」
思わず手に持っていた雑誌が、
驚きによってつかの間握力が失われ、喫茶店の床へと落下する。
その当の本人の虚冥には、目でも見える程にクエスッチョンマークが浮かんでいた。
「いやいや、あいつみたいな性格のがパートナーを見つけれるはずがないだろうが。
だってあいつ性格悪いし、性格悪いし、性格悪いし。
てか後第一、彼女はいないんじゃねえwwwwww
どうしても作れねえんだっていうwwwwww」
223 :
田中姉弟
:2011/11/09(水) 22:57:36.27 ID:MIdsbNws0
>>221
>>222
夜「あらあら〜。それならもうすぐ」
雪女「お待たせしました。カフェオ……コーヒーのコーヒー1・ミルク1です」
店長がそう言い終わる前に雪女がやってきてテーブルに置き、ペコリと一礼すると「ごゆっくり」と言い残し、場を後にした。
夜「私の夫も澪だけですよ〜♪」
なんかほっとけばイチャラブしそうで、場の雰囲気が砂糖たっぷりの激甘空間になりそうにしている。
が……店長の顔付きが急に真面目な顔になり
夜「それで貴方がここに来たのは死んだ筈の黒龍がいるからつけてきたってところですか〜?
澪は知ってたの〜?黒龍が《生き返った》事?」
店に流れるジャズの音が少し大きくなり、近くにいる二人にしか聞こえないような声でそう言う。
一方
夕「よかった………うん!約束だよ!
絶対あの技教えて!もし…もし…また死んだり暴走したら全力のパンチくらわすから!」
ゴシゴシと涙を吹きながら、死んだらどう殴るんだと突っ込みたい事を言う。
そして…色々疑問が浮かぶが一つ彼は口にする…
夕「……白龍は?
白龍は黒龍と一緒に生き返ったの?」
224 :
黒龍「」&澪『』
:2011/11/09(水) 23:17:04.39 ID:Og/v0cKDO
222-223
「・・・・・・だけど嫁いるもん。おっかなーい、ヤマタノオロチにだって出来たんだから!」
忘れかけてた・・・。一応、澪は巴津火殿下と同じ種族です。
そんな澪を愛してくれた嫁さんはまさに女神だ。
『そういえばあんた、イケメンだけど、仕事やってるの?
黒龍さんのは知らなかったな、生き返ったの。でも死者が生き返るくらい、それほど珍しくないし。
でも、戻ってこれたんだし、その時間を大切にするべきだよね。夜〜?』
ペロリと舌をだし、ニタリと笑う澪。
ちょっと危ない、夜さんに興奮してます!
なんかしないと襲われちゃうよ!
「ああ、俺の知ってる技、全部身につけろよ////」
死んでたまるか、と強がり、夕を安心させる。
その時、案の定、白龍が。
「白龍とは・・・死んでから一度も会っていない。アイツが今、どこで何をしてるかなんて、俺は知らない・・・。
だがな、夕が生きてるって信じれば、きっと白龍も生きてるんだ。
もしかしたら、俺も誰かの望みで蘇ったのかもな。」
225 :
虚冥
:2011/11/09(水) 23:29:35.44 ID:qnpdzNgO0
>>223
雪女の声を聞いて彼の座る席のテーブルへ向き直ると、
ミルクが多く注がれた、良い香りの漂うカフェオレが置かれていた。
「おうおうwwwwwwサンキューなwwwwww」
乳製品好きの彼だから分かるのか、
コーヒーに入れられる、基本は脇役な牛乳までもこだわりが見えて、
虚冥はとても上機嫌である。
「は、はぁ?
あんたマジで言ってるのかっていう?こいつに騙されてんぞwwwwww」
最初はまたも鳩が豆鉄砲な顔をしていたが、
どうしても澪にお嫁さんがいると言うことが許せないのか、
それとも本当に騙されていると思っているのか虚冥は夜を説得しようとした。
「・・・ったく、なんで俺の考えのうちが分かんだよ。
まあこの際もう驚かねえっていう、その通りだ」
今度は驚くことに、人間風情が読心である。
しかし何回も驚きがあるせいか、逆に今回虚冥は落ち着いていた。
>>224
「八岐大蛇・・・?
そんな奴が居んのかっていう」
ここでまた虚冥は、無意識のうちに巴津火にお嫁さん、
という可能性を否定して考えることはなかった。
「おいちょっと待て、
おい、白龍も生き返ってんのか?」
澪と話をしていたが、彼にとって聞き捨てならない単語が耳に入って、
虚冥は突然立ち上がり二人の会話に入って行った。
226 :
田中姉弟
:2011/11/10(木) 00:11:29.11 ID:DW9B6mxb0
>>224
>>225
夜「失礼ね〜。私がお客さんできた澪に女装させたり、コスプレさせたりしたりして嫌がらない彼に何回も会ってるうちに、彼の雰囲気に惹かれちゃって好きになっちゃったんですよ〜〜
告白したのも私ですし、彼を見るたびに良いところも悪いところもとても心地よくって(長くなるので以下略」
なんか惚気始めた彼女はそのまま話す勢いだが、ハッと我に帰りコホンと咳をする。
夜「わかりませんよ〜。
ただ貴方を観察して立てた予測ですよ〜?
隠れながら黒龍にあんなチラチラ視線送って〜、黒龍を見ながら店に入って来たんですから〜。あくまで半分山勘だけどね〜〜」テヘッ
舌をチラッと出しながらそう言う店長はフッと澪を見るとなんか興奮してる澪が
夜「そうね〜♪私も澪の時間大切にしないとね〜♪」
そう言いながら、澪に舌をいれたキスを数秒だけしようとする。成功したら悪戯っぽく笑い。
夜「続きは仕事が終わったら私の部屋でしましょ〜?」
と言うのだった…………なんか余計澪の興奮を加速させるような気がするが………
夕「そうか……なんか黒龍を見たら白龍も生きてるような気がするし…信じるよ俺!」
黒龍に対しニカッと笑い、もう一つの疑問を口にする。
夕「所で、なんで黒龍が生き返ったのか教えてくれない?死んだのは生き返らない……それは俺でもわかるよ
だから、どうやって生き返ったのか理由教えてくれない?」
夕は真面目な表情で黒龍を見つめる。
命の尊さは夕は知っている。コレはゲームでもアニメでもない現実。死んだらそれっきりの現実。
だから彼はどうやって黒龍が生き返ったのか不思議なのだ。
……もちろん虚冥が近づいてく盗み聞きしようとしてるのに気付いてなかった。
227 :
黒龍「」&澪『』
:2011/11/10(木) 00:39:44.04 ID:6j4vGW7DO
>>225-226
『・・・・・・!!?』
ほんの数秒だが、それはココアに砂糖をぶっかける以上に甘く感じた澪。
普通にキスだけでぶっ倒れそうだった澪は、直後の言葉を聞き、鼻血を吹き出した。
『部屋で・・・・・・ぇへへへへ//////』
ああ、もうだめだコイツ。ヤクザキック辺りをお見舞いしてもいいのではなかろうか?
無限の彼方へ、急加速!
「なっ、虚冥っ//////」
寄ってきた虚冥に対しては、怯えた様な、嫌そうな、赤らめた様な表情をした。しかし夕の質問に、ゆっくりと答えていく。
「蘇った方法、俺にも解らない・・・・・・。そもそも魂を亜空間から移動させるのにも、それなりのリスクを伴う。
魔法なら、いけにえを出す、といったところか?
それに、死者をいつでも蘇らせる力があれば、世の秩序は壊れるだろう・・・
っと、話は逸れたが、とにかくまだ解らないんだ。」
228 :
虚冥
:2011/11/10(木) 00:48:53.73 ID:nV+32f1U0
>>226
、
>>227
黒龍の話を、今までこの喫茶店にいる全員にも見せなかったほどの、
下手すれば彼の店の者達数人も知らないような、
ひどく真剣で瞳の鋭い、いつもとはどこか違う虚冥が聞いていた。
いつもの彼ならば、夜店長の馴れ初めという名の惚気を、
澪が絡んでいるため怪訝な顔であっても聞いていただろう。
そしてさらに、骨抜きになっている澪に対して数個、彼なら悪戯を仕掛けないこともない。
「解らない、か。
他には?
術は俺にも分からねえが、他に何か心当たりとかその時の光景とか、
なんか思い出せるものは無いのか?」
だが、今は違った。
虚冥にも、そのいつもと自分を異なった者とさせるものが、
一体何なのか分かっていないようで、彼から受ける雰囲気は、
とてもとても常にへらへら笑っている道化でなく常に怯える小心者のようであった。
229 :
田中姉弟
:2011/11/10(木) 01:19:20.67 ID:FGyngfZy0
>>227
>>228
夜「あらあら〜♪ダメよ〜鼻血流しちゃ〜
はい〜♪ティッシュ〜」
その様子をノホホンとしながら、ポケットからティッシュをだし澪に渡そうとする。
夜「……っで、澪は真面目にどう思う?確かに生き返るのは不思議でもないわ〜
けど、それには何かしらのリスクがあるはずなの〜
それに、今の黒龍の話的に自分の意思で蘇生した訳じゃなさそうだし〜。
《誰か》が《何かの為に》黒龍を生き返らせたとしか考えられない………」
なんか嫌な予感がしたのかいつになく真面目な顔で…そして場の雰囲気にあてられたのか少し震えながらギュッと澪の手を強く握った。
夕「(メリーのおじさん…いつの間に……なんか雰囲気が違うけど)
……ねえ、黒龍続けて悪いけど零にはあったの?」
それは彼が1番知りたかった事だった。
零があの日《道返玉》の力で近くにいた《二人》の魂を呼んで再び息を吹き返させた時に、黒龍を呼び出そうとはしなかった。
それは彼が黒龍を生き返らせたとは思ってない。何故なら黒龍の死を理解し受け入れてたのは零にほかならない。
だから黒龍が零に会ったのか気になっていた。
230 :
黒龍「」&澪『』
:2011/11/10(木) 07:37:25.24 ID:6j4vGW7DO
>>228-229
『ありがとっ、夜///』
とりあえず落ち着きを取り戻し、鼻血を拭き取る。
『・・・・・・誰かの代償として、黒龍さんは生き返った、とか有り得るよ。なんの代償かは到底解らないだろうけど。
・・・黒龍さん、誰かに狙われてるかもね。』
夜には大丈夫、といって頭を撫でる。だが、きっとなにかが起こる、それは確実だと思った。
「他に解るとしたら、変な女が蘇らせたらしい。取り留めのない黒、まさに無そのもののような。
零には真っ先に会ったぜ。零さ、すっごい泣いちゃって。さすが、俺の彼女☆」
231 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(仮鯖です)
:2011/11/10(木) 07:46:48.95 ID:6j4vGW7DO
>>230
追加
「あ、その黒い奴、なぜか零のこと知ってたな。
もしかしたら夜行集団なら知ってるんじゃないかと思って、聞きに行こうか考えてたんだ。
虚冥、何か知らないか?」
232 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/11(金) 21:54:33.62 ID:j77f0Vi5o
――水町の襲撃後。
結局その場は落ち着いたとはいえ、一時戦闘の場にもなった診療所への被害は少なくなかった。
暴発した消火栓やスプリンクラーはもちろん、扉や壁のヒビetc.
水設備の修理は、先日業者の手で終了したものの、
こまごまとした内外の修繕は、東雲(と日野山)に一任されてしまっていた。
(こんなモンでいいだろ)
冷たい冬風に、今は暖かい毛皮のない東雲はぶるりと身を震わせた。
たったいま入口とエントランス付近の修繕が終わったばかりだ。
辺りに人気は見当たらない。
本日は修繕にあたるために、診療所が休みなのだ。
「お疲れ様っす、東雲さん」
「げ……」
そこへ自動ドアをくぐって、缶コーヒーを握った小鳥遊がやってきた。
東雲はあからさまに嫌そうな顔をして視線をそらす。
元はといえば、何もかもがこの男のせいなのだ。
しかし元凶の男は、東雲の敵意も嫌悪も楽しむようににこにこ笑うばかりだ。
233 :
叡肖「」 巴津火『』
[sage]:2011/11/11(金) 22:07:25.19 ID:x1dEYrnco
>>232
タクシーを降りて診療所のエントランスへ向かってくる二人連れがいた。
「なあ坊っちゃん、頼むからあれ大事に扱ってくれよな? 一応、借り物なんだからな?」
『んー、判ってるって』
珍しくちょっぴり青ざめているスーツ姿の男は、人に化けた衣蛸の叡肖。
生返事を返している小柄な少年は巴津火だ。
ほんの少し前に夷磨璃の入った牡丹灯篭を持って出かけたいと、
巴津火がダダを捏ねたのが発端の会話である。
(あの墓の火が出かけたくないと言うか、寝てるとかしててくれりゃ良いんだが)
夷磨璃まで出かけることに乗り気であったら、牡丹灯篭が巴津火の手で持ち出されることと、
さらに何かの拍子に壊してしまうだろうことも叡肖にははっきりと見えていた。
(何かこの暴れん坊の気をそらすネタでもありゃ良いんだが)
内心追い詰められていた衣蛸は、入り口の小鳥遊医師と東雲犬御に気が付いた。
「やあ、先生。随分綺麗になりましたなぁ」
補修された建物を見上げ、叡肖は小鳥遊に挨拶をした。
巴津火のほうは犬御の表情をじっと見て、視線があうと黙ったままにやりと笑った。
234 :
瞳
:2011/11/11(金) 22:18:44.26 ID:DkHqxnyAO
>>232
,
>>233
「これは…何があったんだ?」
夷磨璃の見舞いに来た瞳。だが、彼女が見たのは修繕途中の診療所だった。
「うーん……見たところ、大事にはいたっていないようだがやはり夷磨璃が心配だな……」
心配そうな顔つきで、辺りを見渡しながら入り口に近づいた。
235 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/11(金) 22:25:15.47 ID:j77f0Vi5o
>>233
診療所の正門前でタクシーが停車する。
何分臨時の休診日であるため、間違った患者が来たのだろうか――と眺めていると、
中から降りてきたのは意外な人物らであった。
「おや、叡肖さんと巴津火さん」
「!?」
視線を逸らしていた東雲は、小鳥遊が口にした名前らを耳にした瞬間、勢いよく振り向いた。
二人の姿を視界に認めた途端、勢いよく気分が悪くなっていく。
小鳥遊、叡肖、巴津火……東雲にとってはこの上なく胃が痛い組み合わせである。
「彼の頑張りのおかげですよ」
「……何の用だテメェら」
にたりと笑う巴津火をぎろりと睨みつける。
全身からぎすぎすした「早く帰れ」オーラが漂っている。
>>234
「?」
人影を感じた小鳥遊がふと入口に視線をやると、入口から様子を伺う瞳の姿が見えた。
続いて、東雲も彼女の存在に気付いた。
「ありゃァ……オイ、着物女!」
東雲が声を掛ける。
「何してる、今日は休診日だぞ」
236 :
叡肖「」 巴津火『』
[sage]:2011/11/11(金) 22:34:22.39 ID:x1dEYrnco
>>234-235
「ほう、あの壊れっぷりから、よくここまでに。いい腕ですね。
でももし次にまた建物が壊されるようなことがあったら、その時は新棟を建てましょう。
建物が危険なのは困るのだし、予算のことなら上手く上に交渉して見せますよ」
叡肖は小鳥遊と真面目なお話を始める。
瞳にはちらりと目を向けて、まだ少し距離があるので軽い会釈をするにとどめた。
〔お、瞳じゃん。元紫狂が二人そろったな〕
そして瞳を見て巴津火の目が悪戯っぽく輝く。
犬御の直ぐに向きになる素直な反応が楽しくて仕方が無いこのクソガキ様は、
小鳥遊医師の背後にぴとっとくっつくと、小鳥遊からは表情が見えないその場所で
無音・無言で出来る限りの小馬鹿にした表情を犬御へと見せ付け始めた。
口の両端を人差し指でイーっと引き伸ばして二股の舌先をチロチロさせたり、
両手の親指を小鼻の横に当てて広げた指先をひらひらさせたり、
小鳥遊や瞳の前で好き勝手暴言を吐けないことを見越してのその行動は、
とても神格持ちとは思えないお子様っぷりである。
237 :
瞳
:2011/11/11(金) 22:39:20.10 ID:DkHqxnyAO
>>235
「ああ、犬御。やはり休診日だったか……どうりで人がいないと思ったんだ。
夷磨璃の見舞いに来たんだが、休診日なら仕方ないな。」
残念そうな表情をしながらも話す。
「ところで、何があったんだ?夷磨璃は無事だよな?」
>>236
「あ、どうも」
と、真面目な雰囲気を察してか静かに頭を下げた。
238 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/11(金) 22:54:41.21 ID:j77f0Vi5o
>>236
「診療所の柱への被害が少なくて助かりました。主に破壊されたのは水設備だけでしたから。
業者の方は大変そうでしたっすけど……ああ、それは助かります」
小鳥遊も、叡肖の方に体を向けて話し始める。
東雲はというと、巴津火の子供っぽい煽りに素直に乗っかってしまっていた。
元黒蔵の顔だということもあるのか、イライラはすぐに最高潮に達する。
しかし小鳥遊を盾にされては、摘まみ上げることもできない。
「こンのク・ソ・ガ・キ……!!」
ビキビキと額に浮かぶ青筋。
これ以上馬鹿にされると、小鳥遊や叡肖関係なしに追いかけまわし始めそうだ。
>>237
「あ゛ァ?」
巴津火と向かい合っていたため、険しい顔の東雲が振り向く。
しかし自分がどんな顔をしているのか気付いたのか、慌ててぶんぶんと首を振った。
彼女は元・紫狂という繋がりと、命を救われた借りもあるのだ。
「……ああ、色々あったンだよ。あのガキは無事だ。女河童がきちんと保護してる」
239 :
叡肖「」 巴津火『』
[sage]:2011/11/11(金) 23:06:02.36 ID:x1dEYrnco
>>237-238
『そうそう、こざるなら、ちょっと吃驚してたけど元気だったぞー。安心しろ』
「…ということだから安心したまえ。夷磨璃君の無事は、きっと瞳君のお百度参りのお陰さ」
悪ふざけを中断した巴津火が小鳥遊の後ろから瞳に答え、
エロ蛸のほうは口説きモードに切り替わって甘く声を掛ける。
二人とも、犬御に対する態度と瞳への態度は落差がありすぎるのだ。
「ねえ、先生。今日は休診日ですが、特別に彼女が夷磨璃君に会うくらいは
良いんじゃないですかね?寒い中で女性を立たせたままというのもなんですし、奥へ行きませんか?」
そして瞳と夷磨璃の面会をさせてくれるよう、医師にとりなしながら、
叡肖は建物の奥へと瞳をいざなおうとする。
その隙を狙って、クソガキ様は隙を狙って犬御にピストルを模した人指し指を向け、
ニヤニヤしながら声には出さずに口パクで「ばーん」と撃つ仕草をする。
水神格のこのお子様は、この仕草で水鉄砲を仕掛けるつもりなのだ。
巴津火の指先から、犬御に向けて細い水流がぴゅっと飛んでゆく。
当たったところでせいぜい顔が濡れて冷たい程度だが、犬御の怒りに火をつけるには十分かもしれない。
240 :
瞳
:2011/11/11(金) 23:13:18.99 ID:DkHqxnyAO
>>238
「そ、そうか…それなら一安心だな。」
(だけど、夷磨璃が楽になったわけじゃない……私が早くなんとかしてあげないと……)
一瞬、犬御に驚くも夷磨璃が無事とわかると安心したようだ。
>>239
「そうか、良かった……私のやったことは無駄じゃなかったのかな。」
ここで安心しきったのか、少し嬉しそうな顔をする。
「いや、診療所の都合もあるだろうし、お見舞いにはまた後日来るよ。」
本音を言えば、夷磨璃に会いたかったのだが、診療所には迷惑かけられないと思い言った。
241 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/11(金) 23:21:12.52 ID:j77f0Vi5o
>>239-240
「テメェら……」
別に態度の落差が不服なわけではないが、こうも分かりやすいと腹が立つものだ。
ひくひくと唇の端を吊り上げる東雲に追い打ちをかけるように、
「そうっすね。僕もそう提案しようと思っていたところっす。
瞳さん、遠慮せずにお見舞いついでにゆっくりしていってください。
今はどの部屋も修繕途中っすから、終わってる東雲さんの宿直室で」
「何言ってやがる!?」
理不尽にも程がある。
だが無駄な家具のない、東雲の広い宿直室は、既に病院組のたまり場になっていたりするのだった。
「聞けやゴラ!」という東雲の必死の抗議も軽くスルーされ、一行はエントランスへ向かっていく。
しかし、東雲が巴津火から意識を外していたその隙に、
びちゃっ。
指先から放たれた水鉄砲は、見事に東雲の顔に命中し、ぽたぽたと白衣を濡らす。
「…………」
ゴゴゴゴゴ……。
怒りと共に増幅する妖気と共に、鋭い赤い瞳を巴津火に向け、
「こ……の……ガキィィィ!!!」
なりふり構わず襲いかかった!
今の東雲には標的とかいて巴津火と読む少年しか目に入っていない。
彼が叡肖やら小鳥遊やらを盾にしても(ただし瞳は除く)、まったく気にせずに、というか好都合とばかりに攻撃するだろう。
242 :
叡肖「」 巴津火『』
[sage]:2011/11/11(金) 23:33:17.13 ID:x1dEYrnco
>>240-241
実は叡肖は巴津火と犬御の間の一部始終を見ていた。
あえて巴津火を止めなかったのは、「牡丹灯篭で夷磨璃をつれてお出かけする」という考えから
巴津火を遠ざけたかったからである。
(ホント、このお子様は勝手気ままに転がってくよな。目が離せなくて心臓に悪いわ)
『うっひゃっほー!あははははぁ♪』
ついに怒りを爆発させた犬御に、巴津火は楽しくて仕方ないという風にはしゃぎながら
逃げ出した。休診日なので、待合室を駆け回っても迷惑する人が居ないのが幸いである。
「いやはや、お二人には御見苦しい所をお見せしまして…」
(だがこれで牡丹灯篭のことは忘れてるようだし、もう少しほっといていいか)
叡肖は医師と瞳に頭をさげ、犬御と巴津火にのんびりと制止を掛けようとした…が。
「おい坊ちゃん、この間も虚冥さんとそれで怒られたばっかだろ。って?」
襲い掛かる犬御の足の速さに叡肖も巴津火も慌てた。
狼と蛇、どちらが俊足かは比べるまでも無い。
『うぉ?どわぅっ!』
巴津火は待合室に並べられた椅子を飛び越えて逃げるが、背後に犬御が迫る。
障害物競走でも、足の長さで犬御が有利のようだ。
まだかろうじて巴津火が逃れられているのは、ここが室内で小回りが利くからに過ぎない。
逃げる巴津火の表情から笑いが消えた。犬御に捕まるのは時間の問題だろう。
243 :
瞳
:2011/11/11(金) 23:40:21.85 ID:DkHqxnyAO
>>241
「いいのか?ありがとう。
え?犬御の宿直室だろ?使っていいのか?」
見舞いをして良いと言われ、嬉しそうにする瞳。しかし、犬御の許可無しに宿直室を使うのはどうなんだろうと疑問を持った。
>>242
(なにやってるんだか……)
呆れ顔で巴津火を見る瞳。少し前なら、これを呆れではなくうるさいだの迷惑だのといった嫌悪感を持って見ていたかもしれない。
それがなくなったのだから、やはりここ最近の出来事で巴津火に対する認識が変わってきたのだろう。
244 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/11(金) 23:48:12.14 ID:j77f0Vi5o
>>242-243
「待ちやがれゴルァァァ――!!!」
「こちらこそ、煩くて申し訳ないっす」
爽やかな笑顔でぺこぺこする小鳥遊だが、実はこいつも二人のやり取りに気付いていた。
止めなかったのは叡肖のように特別理由があるわけではなく、
ただ単に、放っておいたほうが楽しそうだったから、などという理由からなわけだが。
「ええ、もちろんっすよ。どうせ彼の部屋は、いつもいろんな人がだべってますから」
時に黄道が遊びに来ては、東雲が相手をしたり。
時に日野山が訊ねて来ては、東雲が愚痴を吐いたり。
時に纏が茶々を入れに来ては、東雲がいじられたり。
時に小鳥遊が薬を投与しに来ては、東雲にトラウマが増えたり。
時に全員がやって来ては、どんちゃん騒ぎになるのだった。
待合室から廊下を追いかけっこする東雲と巴津火。
といえば聞こえはいいが、追いかける側である東雲の顔は般若の面である。
今にも四足で駆けだしそうに身を屈めているその時、東雲の無意識のうちに姿が変わった。
黒毛の大きな狼が、診療所に出現する。
たんっと上空に跳ねあがると、黒狼は巴津火の行く手に立ちふさがった。
そして、有無を言わさぬうちに抑えつけようと飛び掛かる。
「さーァ捕まえたぜこの悪ガキが……おしおきの時間だクソ野郎」
人間の姿に戻ると、東雲はニタァァァと悪い笑みを浮かべた。
完全に回りが目に入っていない。巴津火がアブナイ。
しかしそのせいか、東雲の背後は隙だらけだ。不意打ちならどんな攻撃でも命中しそうだ。
245 :
叡肖「」 巴津火『』
[sage]:2011/11/12(土) 00:00:06.18 ID:4cjYl6oqo
>>243-244
『うわぁぁいぃぃっ!!』
悪ガキはついに狼に捕獲された。
うんざり顔の叡肖のジャケットの裾からは蛸の触腕が二本伸び、犬御と巴津火のそれぞれを
捕らえて分けようとする。
「休診日でも入院してる患者はいるんだ。大人しくしてないと、お兄さんがお仕置きするよ?
そもそも坊ちゃんが悪いんだ。判ってるよな?」
ざわざわと波立つような不穏な妖気が衣蛸を中心に広がった。
以前に『陣痛』で一度痛い目を見ている巴津火は、一段低くなった叡肖の声音と漂う墨の匂いに
びくりと肩を竦ませた。
その一瞬で、叡肖の人間の手のほうは捕らえた巴津火の背中に「幼児化」の文字を記す。
これで巴津火は牡丹灯篭に手が届かなくなる。
「今、お兄さんは女の子にしか優しくできる気分じゃないんだよね。
ちょーっとだけ良い子にしててくれないかな?」
歪な蛸の瞳孔が、犬御のほうにも向けられる。
犬御がまだ大人しくならなかった場合、そちらには「女体化」の文字が記されるはずだ。
「瞳君ごめんねー。お見舞いに来ただけなのに、煩くしちゃってさ。
あとでお詫びにコーヒーでも奢らせてくんないかな?」
叡肖は瞳だけにはあからさまに声が甘い。
しかしちゃっかりデートを取り付けようとしている気配ではある。
246 :
瞳
:2011/11/12(土) 00:18:05.15 ID:JJOw4PfAO
>>244
「それなら、遠慮なく使っていいの……かな?」
と言っても、いまだ遠慮がちだが
>>245
「いや、こういう賑やかなのも好きだよ。最近、私は暗い顔ばかりしていたが元気になれた気がするよ。」
そう言って、嬉しそうな顔をする。
「いやいや、お気遣いなく」
247 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 00:22:01.78 ID:ZFqQOJQvo
>>245
「っ!」
さあてどうしてやろうか、と思案している所に、にゅうっと蛸の触腕が伸びてきた。
それは東雲の腕に絡まり、巴津火と引き剥がされる。
叡肖のこれには嫌な思い出しかない。ぞわりと浮き立つ鳥肌に、急いで腕を引き剥がす。
診療所にはまだ他に入院患者がいることは、東雲は百も承知だ。
とはいえ、彼の日頃の鬱憤はそろそろ我慢の限界にきていた。
巴津火で発散できなかった分の苛立ちが、結果叡肖に向けられることになる。
「あァ!? 邪魔してンじゃねェぞ蛸野郎!」
喧嘩腰につっかかり、スーツのネクタイを掴み上げようとする。
瞳に対する態度も、彼のイライラを助長していた。
東雲にとって瞳は借りをつくっている人物。そして叡肖は危険人物。
ただの女好きだと分かってはいても、狼の本能が敵意を剥き出される。
>>246
「ええ、遠慮なく」
にこにこ、と人当りのいい笑みを浮かべて、小鳥遊は首を傾げる。
それから楽しそうに、東雲と叡肖のやりとりを眺めていた。
いざとなれば東雲を止めるのは簡単だ。しかしすぐに止めてしまってはつまらない。
爽やかな笑みを浮かべているくせに、腹積もりはかなり黒い医者である。
瞳にはどう見えているのだろうか……。
248 :
叡肖「」 巴津火『』
[sage]:2011/11/12(土) 00:30:55.81 ID:4cjYl6oqo
>>246-247
『ちくちょーっ!蛸の馬鹿ぁーっ!戻ちぇー!』
すっかり小さくなった巴津火は、なんとかして背中の文字を擦ろうと背中に手を回しているが、
幼児の腕では上手く行く筈も無い。
「今日は随分やる気のようですね?…ごほごほっ」
スカした蛸野郎は犬御にネクタイを締められて顔をゆがめ、人間の手の拳を口元に当てながら
控えめに咳き込んだ。
しかし、いきり立つ犬御の背後に回った触腕の一本が筆を持ち、「女体化」の文字を記そうとしている。
「瞳君が元気になれたのなら何よりだね。
お兄さんはそのためなら何でもするよ…こほっ」
首を締められながらも瞳には甘い。
249 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 00:57:40.74 ID:ZFqQOJQvo
>>248
「おやおや、すっかり可愛くなってるっすねえ」
くすくすと微笑みながら、小鳥遊が巴津火の目線まで跪く。
そして小児科にやってきた子供の患者をあやすように「よしよーし」と頭を撫ではじめた。
基本、彼は子供好きなのだ。
「テメェなァ……!!」
ネクタイを締めても態度を改める様子のかけらもない叡肖に、どんどん頭に血が昇って行く。
段々と殺伐とした雰囲気になっていく中、そろりと叡肖の一本の腕が、東雲の背中に近付いてく。
殺気立つ東雲はそれに気づく様子はない。
そして隙をつき、筆が美しい文字を記した瞬間。
くんっと一回り東雲の背が小さくなり、
体格の良かった体がすらりと柔らかくなり、
肩に触れるまでだった髪が更に長くなり、
鋭く尖った赤い瞳が少し丸く大きくなり、
そしてなにより、むにょんっばいんっと効果音がつきそうな胸が――
「……は?」
東雲の思考がフリーズしました。
250 :
叡肖「」 巴津火『』
[sage]:2011/11/12(土) 01:05:43.75 ID:4cjYl6oqo
>>249
「ほーぉ。これはいい助手を拾ったものですね、先生?」
フリーズした犬御とその変化に、ニコニコ顔の叡肖はネクタイを締めなおす。
その間もエロ蛸の視線はむにょんっばいんっに釘付けなのだ。
「坊ちゃんは、しばらくその頭の中身につりあった外見で居ようか。
きっと夷磨璃君が今の坊ちゃん見たら喜ぶよー?」
ニコニコ顔の叡肖に言われて舌足らずな幼児はぎゅっと眉をよせて下唇を噛み、
紫濁の丸い目には、うるうると涙がもりあがってくる。
泣き顔を隠すように巴津火は小鳥遊へ手を伸ばし、その腕の中に顔を埋めた。
『やっ!今日、こじゃるにはボク会わないのっ!』
夷磨璃よりも小さくなってしまった巴津火は、今日は見舞いに行く気を無くしたらしい。
その様子に、今日のところは牡丹灯篭が無事で済むと、叡肖は内心ほくそえんだ。
251 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 01:18:29.32 ID:ZFqQOJQvo
>>250
「…………はァァァァ!!??」
「これはこれは、可愛いじゃないっすか、東雲さん」
「フザケンなあああ!!!」
顔を真っ赤にした東雲もとい犬御ちゃんは、叡肖の肩に掴みかかる。
「戻せ! 今すぐ!!」
男の状態だったならば、まだ迫力があったのだろうが。
今は叡肖よりもわずかに背が低い程なのだ。
しかし、白衣の前を開けて、ワイシャツを見せる彼のいつものスタイルでは、
もちろん下着などつけているはずもない状態で、その豊満な胸は色々とアウトだった。
「よしよし」
顔をうずめてくる巴津火の頭を優しく撫でる。
ほんわかほんわか、癒しである。
しかし精神年齢と相まってか、この状態の違和感のなさに驚きだ。
252 :
叡肖「」 巴津火『』
[sage]:2011/11/12(土) 01:32:01.97 ID:4cjYl6oqo
>>251
ノーブラ、ワイシャツ、そしてもう一つ忘れてはいけないことが。
先ほど巴津火が犬御に仕掛けた水鉄砲で、そのワイシャツの襟から下には微妙に濡れた染みが残っているのだ。
エロ蛸じゃなくても雄にはもーたまんない状況。
「戻す?そんなもったいないこと、お兄さんにできるわけないじゃなーい?」
犬御ちゃんにとって、この場に瞳がいてくれたことは実に幸いだった。
でなければこのエロ蛸、お触りで済んだかどうか怪しい。
「先生、ちょっと坊ちゃんを頼みますよ。
あと、看護婦さんにでも頼んで、彼女に合いそうな服出してあげてください。
流石に男物の服じゃ気の毒でしょ、色々と。
俺は瞳君に何か温かい飲み物でもご馳走してきますよ。さっきから彼女を立たせっ放しですし」
エロ蛸はニヤけつつ犬御ちゃんにウインクだけして、瞳のエスコートをするようだ。
「ドタバタしててすまないね。瞳君、ちょっとあっちへ行こうか」
瞳の前では紳士的に振舞う叡肖。
ということはこの後蛸が戻ってくるまでに、犬御ちゃんは色々しなければならないと言う事だろう。
253 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 01:47:34.49 ID:ZFqQOJQvo
>>252
「両方頼まれました」
「頼まれンなクソ医者――!! 何でテメェまでノリノリなンだよ!!」
巴津火に引き続き、半泣きになりそうな犬御ちゃん。
色々と気の毒な服装なのだが、本人に自覚はないらしい。それよりも肩が重くて仕方なかった。
ニヤケ面の叡肖からのウインクに、ぞぞぞっと背筋が凍る。
「オイテメ「ほら、いきますよ東雲さん、巴津火さん」ちょっ離せェェ!」
瞳を引き連れていこうとする叡肖を睨みつけるが、ずるずると小鳥遊に連れていかれてしまう。
女体化した影響か、うまく力が入らないのだ。
「まずは着替えっすねー^^」
「いやァァァァ」
そして……。
叡肖が戻ってくる頃には、エントランスに着替えの終わった犬御ちゃんがいることだろう。
明らかに「これ本当に病院用か?」と疑いたくなるようなミニのスカートに、
可愛らしい薄桃の、パリッとしたナース服。
頭にちょこんと乗っかった帽子。
「似合ってるっすよ?」
「死にたい……」
にこにこする小鳥遊の隣で、東雲が疲れ切った顔をしていた。
254 :
巴津火『』 黒蔵「」
[sage]:2011/11/12(土) 01:56:19.54 ID:4cjYl6oqo
>>253
『ねー、たかなちー。ボクも戻ちてー』
しかしノリノリな小鳥遊医師は、お子様の宥め方も上手かった。
巴津火を宥めるために飴玉と玩具を与えて、その要求を封じてしまうくらいはお手の物。
そして足音が戻ってきてエントランスの犬御君を見たものは…
カターン
外から戻ってきて手から箒を取り落とし、目を丸くした黒蔵だった。
「……!」
ミニスカナースの犬御ちゃんを指差し、金魚のように口パクしたまま一歩も動けないでいる。
あの赤い瞳だけは、妖気を感じ取れない今の黒蔵にも見間違えようがなかったのだ。
255 :
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 02:07:55.13 ID:ZFqQOJQvo
>>254
「そうっすねえ……あ、巴津火さん、さっき纏さんからお菓子を貰ったんすけど、食べます?」
にこにこしながら、ポケットから飴玉やチョコレート、おせんべいetc.を取り出す。
飽きないように種類もいろいろ。変な所で用意周到だ。
そして、隣で俯いてもじもじしている東雲を眺める。しかしこの小鳥遊ノリノリである。
「!」
遠くから足音が響く。
叡肖が戻ってきたのか。正直今すぐ宿直室に引きこもりたい。しかし隣には小鳥遊がいる。
戻ることもできないまま、唇を噛んで俯いていると――なぜか、足音が止まり、かわりに物が落ちる音がした。
怪訝に思った東雲が頭を上げると、
「」
唖然とする黒蔵の姿。
それを見て、東雲も唖然とした。
言葉を失うというか、頭が真っ白になったというか、一番見られたくないやつに見られたというか。
目がぐるぐる回りだし、顔から火が出るかと思われるくらい赤くなる。
ぶるぶると震える東雲は、
「くっ、くくく、くろ……く……あああああ!!! 忘れろ! 全力で記憶を消去しろぉぉぉ!!」
突然声を上げると、黒蔵の記憶を抹消するために飛び掛かった。
256 :
巴津火『』 黒蔵「」
[sage]:2011/11/12(土) 02:26:46.41 ID:4cjYl6oqo
>>255
『うん♪』
医師のポケットから出てきたお菓子は、いつもの巴津火ならあっという間に食べつくしてしまう量だ。
しかし今の巴津火は幼児である。
まずパッケージを開けるのにもたつき、おせんべいを一口齧るにもぽろぽろこぼし、
その癖欲張って握り締めるもんだからチョコレートで掌は粘つくし、
舐めかけの棒付きキャンデーに柔らかく細い髪の毛は絡みつくのだ。
つまりしばらくこの幼児はお菓子で手一杯なのである。
その間に硬直していた黒蔵のほうは、あっさり犬御ちゃんに組み敷かれる。
肩甲骨を硬い床に押し付けられて、ようやく言葉が出た。
「うぇ?えぇぇぇ!?そう来るってことは、まさかじゃなくてやっぱり狼?」
しょっちゅう犬御の地雷を踏んでいる黒蔵にとって、その反応は想定内だったようだ。
しかし、目の前にぶら下がってくるたゆんたゆんした膨らみと、鳩尾に食い込む膝頭から続く
絶対領域は予想外どころじゃなかったらしく。
(あ、なんか甘い良い匂い…)
ぷしゅっ
一瞬の甘美な香りを感じた後、濃厚な血の匂いが黒蔵の鼻の奥に満ち、さらに鼻の穴からも流れ出した。
殴られた訳ではないので、黒蔵の意識ははっきりしたままで見上げていたりする。
「これ…は…」
床からの説明を求めるような戸惑った視線が、小鳥遊医師の視線とぶつかった。
257 :
黒蔵
[sage]:2011/11/13(日) 22:57:08.84 ID:MBoTrE/6o
空は白んでいても、太陽は雲の陰。
そんな朝早くに袂山の麓の赤い鳥居から続く石段を、駆け上がってゆく者が居た。
「五十五、五十六…」
冷たい空気の中を一足ごとに石段の数を数え、同じ数の白い息を吐く。
まだ辺りは薄く靄がかかっている。
「…百八十八、百八十九、百九十…」
上るほどに人の世界から隔離されてゆくような、うっそうとした木々の間を伸びる長い石段である。
ようやく境内が見えてきて、作業服姿の黒蔵は上の鳥居にたどり着いた。
襟巻き代わりに首に掛けたタオルで額をぬぐう。
「…ついた」
鳥居をくぐったところで立ったまま膝に手を付き、ふぅ、と一つ息をつく
右手に下げた白い小さなビニル袋からは油の匂いがあたりに漂った。
振り返れば今上ってきた石段の先は、朝もやの中に解けて下界が見えない。
「織理陽狐さん、居ますか?」
今の身ではもうこの山に満ちる人外の気配を感じられない心もとなさが、
そのおずおずとした問いかけに現れていた。
258 :
織理陽狐
:2011/11/13(日) 23:05:13.23 ID:QCDug9Kso
>>257
どこか遠慮がちな問いかけが、しんとした袂神社の朝霧に溶けていく。
一秒、二秒、三秒……、返事はない。
耳が痛いほどの静寂。送り妖怪たちはどこにいるのだろうか。
あまりの静けさに、まるで世界から切り離されてしまったかのように感じてしまう。
そこへ、気配もなく。
黒蔵のすぐ後ろの朝霧が、暗い影をうつした。
「お主、もしや黒蔵か?」
ひょこりっ。
化けて出るように、突然背後から覗きんだのは、黒蔵が探していた狐だった。
259 :
黒蔵
[sage]:2011/11/13(日) 23:14:24.15 ID:MBoTrE/6o
>>258
全く人気のない袂神社の境内。
頭でそういうものだと理解はしていても、その登場は不意打ちだった。
「うわぁっ!!」
心臓と一緒に黒蔵も飛び上がった。
がさり、と揺れた袋の中から、音と一緒に一層濃くなった油の匂いが溢れた。
「……織理陽狐さん?そうです、黒蔵です」
後ろを振り返り、この社の主の姿に安堵する黒蔵。
背丈は伸びて髪は短く、大人びた面差しは織理陽狐も良く知る元の名残を残してはいても、
妖気のほうはすっかり失せている。
「これ、お土産の油揚げです」
豆腐屋だけは朝早くから開いている。
260 :
織理陽狐
:2011/11/13(日) 23:24:53.51 ID:QCDug9Kso
>>259
「驚かせたか? すまん、すまん」
朝霧の中からぬうっと姿を現した織理陽狐は、呑気に頭を掻いた。
すんすん。どこからか漂ういい匂いに鼻を鳴らす。
それからすぐに匂いの物、黒蔵の手に握られた袋の中身に気付いたらしい。
きらんっと織理陽狐の目が輝く。
「四十萬陀から聞いておるよ。何やら大変だったみたいじゃのう。
心配しておったが……おおっ、さすが気が利くのう♪」
差し出された油揚げを、上機嫌そうに受け取る。
そして、不意に目を細めると、優しげな視線を投げかけた。
「それで、今日はどういった用かの?」
金色の瞳は、まるで全てを見透かしているようだ。
261 :
黒蔵
[sage]:2011/11/13(日) 23:31:32.04 ID:MBoTrE/6o
>>260
上機嫌の織理陽狐につられて黒蔵も笑顔になる。
「うん、色々あって今、人間になってる。
今日来たのは四十萬陀に勧められたこともあるんだけど…」
しばし口ごもって目が泳ぐ。
優しげな視線に促されて、黒蔵は覚悟を決めた。
「まずは、ごめんなさい!
貰った指輪もお守りも、前の身体を譲った時巴津火に持ってかれちゃいましたっ!!」
かっきり90度に折れて織理陽狐に頭を下げた。
折角贈ってくれた織理陽狐の心を無下にしてしまったような気がして、
なかなか会いに来る踏ん切りが付かなかったのである。
262 :
織理陽狐
:2011/11/13(日) 23:41:02.64 ID:QCDug9Kso
>>261
かっきり九十度で深々と謝られ、当お織理陽狐はきょとんとした顔をしていた。
それから、にかっと口角を上げ、袖の中から細い腕を取り出す。
ぽんぽんっと黒蔵の頭を軽く撫でると、
「気にするな。儂に謝るようなことではないぞ。
それに、どちらも元はお主の願いから生まれたもの……。巡り巡りて、いつかお主に帰ってくることもあるじゃろう」
穏やかな口調は、まるで詠っているようだ。
最後に、「頭を上げぬか」と、軽く小突いた。
263 :
黒蔵
[sage]:2011/11/13(日) 23:55:58.63 ID:MBoTrE/6o
>>262
緊張に満ちていた体は、織理陽狐に優しく小突かれて空気の抜けたように弛緩した。
ようやく上げた面もどこか腑抜けた様である。
「うん……。うん」
腑抜けすぎて今度は泣きべそだろうか。情け無い表情だけは以前と変わらない。
「それで、実はもう一つ聞いて欲しいことがあって。
今のこの身体は人間のものなんだけど、これって物凄く弱いんだ。
四十萬陀にも『守ってあげる』って言わせちゃう位に……それが情けなくて」
爪も牙も無く、普通に人として生まれたのであれば当然持っている社会との?がりも無い。
姿は人でも、人として生きてゆくには中途半端である。
「蛇神は、人の身から蛇に戻る方法が無いわけじゃないって言ってた。
けど、それはそれで問題がある方法だからって、詳しくは教えてくれなかった。
だから元どおりじゃなくても、せめて四十萬陀を守れる位にはなる方法を、
織理陽狐さんが知らないかと思って聞きに来たんだ」
朗らかで優しい織理陽狐に、ただ甘えるおこがましい身であると
黒蔵は、相談しながらつくづく自分でも思うのだ。
264 :
織理陽狐
:2011/11/14(月) 00:09:33.70 ID:A5+dS3Ito
>>263
今にも涙が零れてきそうな顔をして、黒蔵がぽつりぽつりと語り出す。
妖怪として何百年も時を過ごし、突然人として放り出されて、今や戦う力も、守る力もない――。
「偉いの」
織理陽狐は、自身を「おこがましい」と感じる、黒蔵の思いを遮るようにいった。
考えが読まれているのか、それとも、黒蔵の泣きそうな瞳が言外にそれを語っているのか。
どちらにせよ、織理陽狐の言葉はとても優しいものだった。
「自身の弱さを前にして、そう考えれるのは、それだけでお主が強い証じゃよ。
……だから、そんな顔をするな」
懐から、炎の灯っていない送り提灯を取り出す。
見た目はただの提灯だが、どこか謎めいた雰囲気を漂わせている。
「黒蔵、それがお主の願いなら、儂が必ず叶えてみせる」
真っ直ぐと黒蔵を射抜く金色の瞳は、「願え」と心の底に強く訴えかけてくるようであった。
265 :
黒蔵
[sage]:2011/11/14(月) 00:19:41.46 ID:o7Yn59Ubo
>>264
見るのは3度目の、願いを容れる送り提灯。
それを掲げた織理陽狐の瞳は、力強く黒蔵を肯定してくれた。
願っても良い、縋っても良いのだ、むしろ今こそ願わねばならないと、
その金色の温かな光は黒蔵に確信させてくれた。
「俺は自分の手で、自分の力で、四十萬陀を護りたい」
黒蔵ははっきりと、その願いを口にした。
そして、それを聞いている者が織理陽狐の他に居る可能性にも、
仮に居たとしてもその気配にも気づけないのが黒蔵なのである。
266 :
織理陽狐
:2011/11/14(月) 00:35:19.17 ID:A5+dS3Ito
>>265
――ボウ、と短い音。
橙色の小さな灯が、送り提灯に宿る。
それは次第に大きくなっていき、力強き、願いの炎となる。
揺らめき、煌めき。黒蔵の「護りたい想い」が、炎となって顕現する。
後はこの炎を、願いを叶える狐の力で、具現化するだけである。
「お主の願いの形、さて、鬼となるか蛇となるか」
織理陽狐はどこか楽しげに語ると、ふわりと両手で提灯を包み込んだ。
すると、中の炎は淡い火の粉となって、形を作り出し始める。
キラキラと橙色に輝きながら、火の粉は黒蔵の目の前まで流れると、ついにその姿を現した。
それは――一本の太刀。
通常のものと比べると少し刀身が太く、長いように思える。
鞘に収まっていても、その迫力は心に迫るものがある。
柄の尾から伸びた長い紐は、まるで封印でもされてあるかのように、ぐるぐると柄から鞘にかけて巻きつけてある。
「これは……」
織理陽狐がぽつりと呟く。
目の前に浮かぶそれを、黒蔵は受け止めようとするだろう。
しかし、それを腕に抱いた瞬間――その太刀ごと、地面に押し付けられるはずだ。
その太刀は、常人では到底持てるとは思えないほど――重かったのだ。とてつもなく。
267 :
黒蔵
[sage]:2011/11/14(月) 00:52:39.82 ID:o7Yn59Ubo
>>266
キラキラとした輝きが次第に形を成してゆく様を、期待とほんのちょっぴりの不安とを抱えて
黒蔵は見つめていた。
迫力のあるその拵えは、黒蔵でも判るほどの目に見えぬ確かな力に満ちている。
「これで、四十萬陀を護れるんだね」
その見事さに不安もすっかり拭い去られ、希望に満ちた黒蔵は宙に浮かぶ太刀に手を伸ばす。
両の手が太刀に触れその重みが黒蔵の腕にかかると……
「うええっ?!何これ?!」
希望に満ちていた笑顔は一転驚愕し、焦り、苦悶する表情に変わった。
「いっ!!?でででででっ!いでで!!痛っってぇぇっ!!」
そして地面と太刀に挟まれた両手を何とかして引き抜こうとする間抜けっぷりを晒すこととなる。
両手を土まみれにしながら太刀の下から引き抜き、腫れにより熱を持ち始めた指先を吹冷ましながら
黒蔵はあることに気づいて今更冷や汗をかいた。
(あと3歩右寄りに立っていたら、石畳の上だったっ!)
踏み固められたとはいえ、そこが土の上であったことに感謝すべきだろう。
重い太刀はその形に土をくぼませて、静かに横たわっている。
「これ、俺に持てる重さじゃない……」
痛む手で再挑戦して失敗した黒蔵は、呆然として呟いた。
268 :
織理陽狐
:2011/11/14(月) 01:00:21.83 ID:A5+dS3Ito
>>267
「……ふむ」
織理陽狐は何か思案するように唇に手指を触れさせる。
妖気を感じ取れなくなっている黒蔵には分かりづらいかもしれないが、
土の上に鎮座する長太刀がとてつもない妖気を秘めていることは、妖怪なら誰しも勘付くだろう。
すっと太刀の前にしゃがみこむと、織理陽狐はそれを掴む。
先程黒蔵が体験したように、とんでもない重さの太刀に、持ちあがるわけもない。
――と、思いきやだ。
長太刀は、いとも簡単に持ち上がった。
それも織理陽狐が怪力というわけでもなく、それは「長太刀から重さが消えた」ように見えた。
「なるほどのー」
織理陽狐はくつくつと笑い、呆然とする黒蔵を見遣る。
「お主、とんでもないじゃじゃ馬を引き当てたようじゃのう、黒蔵よ」
269 :
黒蔵
[sage]:2011/11/14(月) 01:07:17.30 ID:o7Yn59Ubo
>>268
「いくら織理陽狐さんでも片手じゃ持ち上げるのは無……へっ?」
土に汚れた両手をズボンでぬぐいながら見ていた黒蔵は、
何の苦も無く織理陽狐が手にした太刀を見つめてぽかーんと口をあけた。
「じゃじゃ馬?」
織理陽狐が怪力なのではなく、ごく普通に扱っていることは、その指の関節の白さに見て取れた。
しかし、面白そうに笑っている織理陽狐の言うことはさっぱり判らず、
ただ長太刀と金色の瞳とを交互に見つめることしかできない。
270 :
織理陽狐
:2011/11/14(月) 01:21:17.40 ID:A5+dS3Ito
>>269
「うむ。この太刀はお主の願い――いうなれば、お主自身の分身じゃ。
しかし皮肉なことに、お主の「護りたい」という願いが、この太刀に強く反映されすぎたらしい」
織理陽狐は軽々と太刀を振り回す。
先程までは見るからに重量感有り余るものであったというのに、
今はまるでおもちゃのように軽そうに見える。
「この太刀には自我がある。しかしこやつは、お主を認めておらんと見える」
カチャ、と音を立てて、織理陽狐は太刀を止めた。
271 :
黒蔵
[sage]:2011/11/14(月) 01:30:52.78 ID:o7Yn59Ubo
>>270
「願いが重すぎたって、こと?」
ふと脳裏を過ぎるのは、生前の蟹の言葉。
『お前、好きなのは良いけど、あんまり気持ちが重いとかえって彼女に迷惑だぞ?自重しろよ?』
(そう言うことだったのかーー!)
「…あのう、織理陽狐さん。
それでその太刀に認めてもらうには、どうすればいいんでしょうか?」
自分の願いであり分身だというその太刀においそれと触る気にもなれず、
黒蔵はすっかり腰が引けている。
(うっかり変な風に触ったら余計に嫌われそうだ)
272 :
織理陽狐
:2011/11/14(月) 01:42:46.63 ID:A5+dS3Ito
>>271
「重い、というとまた表現が違ってくるのう……。
釣り合っていない、といったほうがいいじゃろうな」
腰が引けている黒蔵に、織理陽狐はずいっと太刀を持った腕を伸ばす。
狐に目は随分と楽しそうでもあり、奥の方では真剣でもあった。
「お主の中にある強さ!」
織理陽狐が、静かな神社内に轟くような声を上げる。
「『自分の手で、自分の力で、護りたい』という願い――それがこの太刀の全てじゃ。
けれど今のお主の中に、本当にその自信があるか?
この太刀はお主の強さそのもの。お主の心が弱ければ」
「この太刀を持ち上げることはできんぞ」
にやり。
口角を上げて笑った織理陽狐は、黒蔵の胸に太刀を握った手を押し当てた。
「常に強き魂を持ち、己が主君の心を試す。
頂点に君臨したるこの刀の号名こそ――『獅子王』じゃ」
273 :
黒蔵
[sage]:2011/11/14(月) 01:55:36.38 ID:o7Yn59Ubo
>>272
(心の弱さがそのまんま暴露されるってことじゃんそれ……)
織理陽狐の言葉に、羞恥の色が黒蔵を耳まで染めた。
自他共に認めるヘタレである。しかしここまではっきり指摘されると、それでも心は折れる。
「その、心を強くする方法って…
聞いて判ることじゃないし、そういうものじゃないんだよね」
織理陽狐の手を当てられた黒蔵は、疑問で始まり確認で終わる言葉を呟いた。
「ししおう」
受け止めようとした太刀は、織理陽狐の支えなしにはまだ持てないほど、黒蔵には重かった。
274 :
織理陽狐
:2011/11/14(月) 02:11:14.36 ID:A5+dS3Ito
>>273
「……ふふ、自身の心が弱いと思うか?」
織理陽狐は尋ねる。
「だがそれは違う。この太刀の重さこそお主の心の強さじゃ。
「護りたい」と願ったあの一瞬、お主は誰にも負けぬ程強かった。
必ず扱える。己を信じろ」
そ、っと。黒蔵の胸に太刀を押し当てる。
「まずは、獅子王を持てるようになるところから始めんとな」
獅子王はかなり重いはずだ。だが先程のように突然取り落とすことはしないだろう。
にっこり。織理陽狐は優しく微笑んでみせる。
しかし果たして、獅子王を持ったまま、石段を降りれるのだろうか……。
275 :
黒蔵
[sage]:2011/11/14(月) 02:20:10.47 ID:o7Yn59Ubo
>>274
「あの、少し待って」
慌てたようにポケットを探り、黒蔵は小さな紙包みを取り出す。
薬包紙とパラフィン紙で二重に包まれた小さなそれは、あの夜雀の黒い羽。
その頼りない軽さは、今の黒蔵にとって獅子王よりも重いものだ。
「うん、大丈夫」
掌に紙包みをしっかり握り、覚悟を決めて獅子王に手を掛けた。
(この羽一枚でも、他の奴には傷つけさせてたまるか)
ぎゅっと力をこめると、獅子王は支えなしに黒蔵の手にあった。
それでも、振り回せるほどの軽さではない。
「くっ!んぬぬっ!!」
よろよろしながらなんとか歩くことが出来る程度の重量、である。
276 :
織理陽狐
:2011/11/14(月) 02:30:35.62 ID:A5+dS3Ito
>>275
「石段は危ない。下までは送っていこう」
と言いつつ、持つ手助けはすることなく、黒蔵がふらふらと、一歩一歩歩いていく隣をついていく。
獅子王は重たげな雰囲気を放っているが、それでも先程より少しはマシに見えた。
(獅子王か……時間がかかるじゃろうな)
今や人間体となった彼にあまり時間はない。
それまでに、獅子王をどこまで操れるようになるか。
だが、この太刀を自在に操れるようになったときは、それは己の強さを我が物にできたとき。
それが叶えば、誰にも負けないはずだ。
織理陽狐はふっと口許を緩めながら、黒蔵の歩調に合わせ、一歩踏み出した。
277 :
黒蔵
[sage]:2011/11/14(月) 02:43:24.32 ID:o7Yn59Ubo
>>276
「よいっ!せっ!……ふぅ」
石段を降りる直前、重量挙げの要領で持ち上げ、両肩に獅子王の重みを担ぐ。
これで少しは運びやすくなった。
転ばぬよう慎重に石段を降りながら、朝靄が晴れてゆくのを感じていた。
「なんだか、これ持ち歩くだけで力付きそう」
石段を下りきった時、汗を流しながらも織理陽狐にそう言って笑えるほどには、
獅子王は黒蔵を許したらしい。
「織理陽狐さん、ありがとう。また来るね」
織理陽狐と別れ、意外と大丈夫そうだと思って街中を一人歩き出した時に、
再びずしりと重くなった獅子王。
(一人ぼっちってこんなに心細くなるもんなんだな…)
その日、黒蔵が診療所にたどり着いたのは昼を過ぎてからだった。
278 :
極楽鳥&波山
:2011/11/20(日) 00:03:44.54 ID:kAo3+rRmP
「うぐぐ・・・、寒くなってきましたねー」
木枯らし走る昼下がり。
地味なコートで厚着して、通りを歩く極楽鳥。
「姉御、あっためましょうか!?」
「通りを歩いて炎上している様は見られたくないのでいいです」
そんなモフモフのコートの中からひょっこりと顔を出すニワトリ、波山。
最近近所ではこれのせいでニワトリのお姉さんとして有名になりつつある。
そうこうしている間に件のクリーニング屋さんへ。
「すいませーん、お布団出来上がってますかー?」
279 :
洗濯屋
[sage]:2011/11/20(日) 00:09:30.60 ID:Ng7XERbKo
>>278
この日の店番は、いつもの九官鳥と猫と、この店唯一の人間である若旦那だった。
『ああ、暇だなぁ』
暇な理由は完全復活した九官鳥なのだが、この図々しい黒い鳥は丁度
自分の居場所である窓際の籠の中でうつらうつらしていた。
客が現れたのはそのせいだろうか。
「いらっしゃいませー」「なうー」
完全復活した綺麗な声で挨拶したのはパチリと目を覚ました九官鳥。
カウンターの後ろからはのっそりと太った三毛猫が現れた。
『あ!はい』
だらだらと寛いでいた店主が一番最後に顔を上げ、慌てて置きっ放しだった眼鏡を掛ける。
『お布団ですね、出来上がってますよ。お名前を確認しますね』
ガサガサとビニル袋に包まれた布団をカウンターに出して、タグを見る。
280 :
極楽鳥&波山
:2011/11/20(日) 00:18:10.65 ID:kAo3+rRmP
>>279
「わぁ、猫ちゃん・・・!」
ミケ子を見てついふらふらと歩み寄る姉御。
隙在らばボテッ腹をぷにぷにされてしまうだろう。
「あ、はいっ! 先週に持ち込んだ赤羽ですっ!」
もう既にがっつりミケ子をふにふにしまくっちゃってる姉御。
しかし猫とあらばこのニワトリが黙っているわけもなく・・・
「お? なんだ猫コラ、喧嘩すっか? お?」
「!?」
今更言うまでもないが、波山の声は人にもしっかり聞こえる。
281 :
洗濯屋
[sage]:2011/11/20(日) 00:34:35.28 ID:Ng7XERbKo
>>280
『赤羽様、ですね。はい、確かにこちらのお布団です』
店主は持ち帰りやすいように、布団を束ねる紐にプラスチックの持ち手をかませる。
「なーぉ♪」
そして看板猫としてこういう女性客の相手をするのはこの三毛猫の得意とするところ。
さあ、存分にモフってくれと白いボテっ腹を摺り寄せに近寄ったのだが。
ニワトリからの罵声に、店主がびくりと振り返った。
(なっ!ちょ!!アンタね!こんなところでね!)
三毛猫も慌てたが、今は店主がいるので「しーっ!」と言うことしか出来ない。
『ああ申し訳ありません。うちの猫がニワトリさんに失礼しまして…ミケ子、あっちへ行きなさい』
猫の「しーっ」を、喧嘩前の威嚇と勘違いし、店主は平謝りである。
三毛猫が捕まえられて叱られるのをみて、籠の九官鳥は笑い始めた。
「ワハハハハ!ハハハハハ!」
『コラ、カンちゃん』 「コラ、カンちゃん」
『お客様の前だよ』 「お客様の前だよ」
『静かに』 「静かに」
鸚鵡返しにおちょくられ、店主はますます弱り顔になった。
282 :
極楽鳥&波山
:2011/11/20(日) 00:47:45.42 ID:kAo3+rRmP
>>281
「あは、あはははは! いえ、こっちこそごめんなさい!!
これ腹話術なんですよ! ね、腹話術!!」
「がべべ・・・、う、うんそうなんだぜー」
波山、めっちゃ首を絞められる。
「!?」
九官鳥まで笑い始めるのを見て、顔を青くする姉御。
(ああ! もうダメだっ! きっと妖怪だってバレちゃうんだ・・・!
そしてお金持ちのマニアな人間の元にドナドナドナドーナー♪)
姉御の頭の中には「うぇひひひひひ、これが極楽鳥かぁ〜」
などと下衆な笑いを浮かべる秦の皇帝みたいなオッサンが浮かぶ。
しかし
(あれっ・・・?)
店長さん、カンちゃんに対して随分こなれた対応。
「あの〜、もしかして・・・。そちらの鳥さんもしゃべるんですか?」
283 :
洗濯屋
[sage]:2011/11/20(日) 01:05:25.84 ID:Ng7XERbKo
>>282
『腹話術、ですか。お上手ですね、びっくりしましたよ』
なんだか救われた思いで店主は話を継いだ。
動き出した店主は店の奥の、畳敷きの部屋へミケ子をぽいっと放り込むと
立て付けのよくない摺りガラスの嵌った引き戸をガタピシさせながら閉める。
「なーう!なーう!うなー!」 (違うのよー!アタシは喧嘩売ってないのよー!)
摺りガラス越しに、引き戸に前足を掛けて必死で無実を訴える三毛猫の影がぼんやりと見える。
『九官鳥ですからね。お喋りが得意なんですよ。人の言葉を直ぐ覚えて真似します』
極楽鳥さんの問いかけに、店主はため息をついた。
『頭が良い鳥なんですが、悪い言葉ばかり覚えられちゃうんですよね』
「トゥルルルルル!」
『それに今までにこうやって、電話の着信音の真似に何度騙されたことか…』
昔なら成功したであろうこの手の悪戯も、今の電話機では着信と同時にライトが点灯したり
するので不発に終わることも多いようだ。
「…はい、クリーニング小町です」
黒い鳥はノリノリで電話受けるところまでしっかり声を真似ている。
284 :
極楽鳥&波山
:2011/11/20(日) 01:21:35.44 ID:kAo3+rRmP
>>283
「あぁ、そうなんですか。確かに賢そうな子ですもんね」
なんだかホッとしたような、少し残念そうな心持のようだ。
そしてガラス越しのミケ子を見て心の中で泣く。
(うぅ・・・、ごめんなさい猫ちゃん・・・!)
そんな気持ちを知ってか知らずか、
波山はピョコンとコートから飛び出し出来上がりたての布団に飛び乗った。
「おおっ! すっげ! 超ふかってる!!」
「波山」
「・・・コケー、ココココ」
小さく、ドスの効いた声に波山はようやく空気を読んだ。
「それでは、ありがとうございましたー・・・わっ! ホントにふかふか!!」
「コココケココ」
かつて煎餅状態だった布団を抱えて、極楽鳥ははしゃぎな足取り軽く極楽鳥は店を後にした。
今晩からはぐっすりと眠れるだろう。
285 :
洗濯屋
[sage]:2011/11/20(日) 01:28:55.60 ID:Ng7XERbKo
>>284
『うわ!本物のニワトリだったんですね…』
作り物じゃないことに今始めて気づいたらしい。ちょっぴり波山さんには失礼だろう。
『ちょっと持つには重くないですか?』
しかし布団を軽々と下げてゆく極楽鳥さんに、ぽかんと見送る店主は掛ける言葉もなく。
(布団一組持って歩いて帰っちゃうんですかね。凄い女の子だ)
「どうもありがとうございましたー!」
代わりに九官鳥がここぞとばかりに挨拶を送り、胸をはって見送ったのだった。
(オイラってば偉い!)
286 :
宛誄&蜂比礼/出口町 入江
:2011/11/21(月) 23:39:23.30 ID:gXgJ3s6PP
「この辺りですか」
『間違いないしー、やつりんの妖気痕だしー!』
深夜の人気のない公園、かつて田中君が八脚の七罪者と戦った場所。
その痕跡痕を調べながら黒服の少年・宛誄はため息を付く。
「・・・残念ながらもう戦いは始まってるみたいですね」
『でも妖気の散った後がないし、多分引き分けか見逃したか・・・ないしはどっちかが逃げ切った可能性が高いし』
「持ち主が普通の人間だった所を考えると、七罪者が見逃した可能性が一番大きいですね」
ふよふよと少年の周囲を漂いながら、きゃっきゃと声を上げる半透明の少女。
橙の長衣に身を包んだ彼女は十種神宝が一、蜂比礼である。
『!! 近いし! すぐ近くまでやつりんが来てる!!』
「なんと」
少女がにわかに騒ぎ出す。
宛誄もその妖気の漂う方へ振り向いた。
「貴方が八握剣の持ち主ですか・・・」
『たかが人間が生意気だしー!!』
---------------------------------
「・・・」
寒風の中、紫苑のコートをはためかせて乙女は立つ。
その口元には少し背伸びをした口紅を薄く塗って。
気持ち悪い容器の渦に目を凝らす。
ほんの少し前まで・・・いや、今現在ですら。
背筋が凍って身動きができなくなるようなおどろおどろしい妖気。
だけど
「今はちがう・・・」
ギュッと震える手でコートの裾を掴み、その渦の中心へ目を向ける。
怖気もない、迷いもない、はっきりとした自分の言葉で。
「お久しぶりですね・・・、お父さん」
287 :
田中 夕/妖魔
:2011/11/22(火) 00:04:12.09 ID:q8kG1PUK0
>>286
宛誄の予想は当たっており、見逃された形である。
だが……一回目の戦闘と比べ一方的な痛ぶりではなく、《怨霊》に致命傷とはいかないものの深い傷を負わせるのに成功し、彼が受けてる傷も前回に比べたらまだマシだ……
「えっ?」
頭から血を流し、普通に対応する《普通な人間》
ところどころ身体から血を流し明らかに重傷かもしれない。だがコレも一回目の戦闘と比べたらまだ浅い方だ……
……だが、《普通》なら倒れてるだろう傷なのに彼は《普通に歩いて》、《普通に振り向いてキョトンとした顔を》している。明らかに普通じゃない。
なにより………彼の右手は《八握剣》が一体化して、彼の手の甲には《丸い円に八つの棒がはえた模様》が光り輝いている。
ついでに彼の左手にはフォードさんが作った八握剣のレプリカがあった。
「そうだけど……君たちは?
えっ?…あ……なんかごめんなさい」
二人に質問され、若干身構えるも、生意気とか言われてしまい反射的に申し訳なさそうに深く頭を下げあやまった。
しかもそれが本人が本当に謝ってるからなんか困る。
――――――――――――――――
「きっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!!おいおいっ!!!なんだなんだぁっ!?」
その不気味な妖気が、邪悪な気配が、一気に膨れ上がり、彼女の前に青紫の炎が吹き上がる。
それは人の形となり、《奴》が現れる。
「急にお父さんっていってよぉっ!!!照れるじゃねえかぁっ!?きっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!!!」
不気味で狂気をひめた笑顔を浮かべ、《奴》は彼女に顔を近づける。
「何しにきたんだぁっ?きっひゃっ?」
288 :
宛誄&蜂比礼/出口町 入江
:2011/11/22(火) 00:16:47.15 ID:vNAoXuLeP
>>287
「・・・」
血を流している様を見て、いかんともし難いような表情を浮かべる。
が、すぐさま言葉を続ける。
「蜂比礼の姿が見えているということは、おそらく霊能力者の素質か特性を持っているようですね」
『べーだ!』
蜂比礼があかんべーをする。
宛誄は巨大な段平を召還し、田中君へと突きつける。
「率直に聞きます、貴方は七罪者を許せますか?」
----------------------------------
「私は・・・あなたを許さない!」
突如として青行燈の足下から石英の槍が噴き出す!
「私だって馬鹿じゃない、あなたがどんなに軽い気持ちで!
私の弟や妹を生み出していったか知っている!
あなたの黒い野望が! 私の家族を傷つけようとしていることを知っている!」
背中から窮奇の名残たる黒い翼を生やし、
黒い妖気の渦から石英の薙刀を掴み取る!!
「ここで戦え青行燈! 私が勝ったらこの街から出て行け!!」
289 :
田中 夕/妖魔
:2011/11/22(火) 00:58:09.37 ID:q8kG1PUK0
>>288
彼には霊感や妖気はまったく感じられない。
だが…蜂比礼が見えるのは恐らく《八握剣》の仕業だろう。《十種神宝》同士共鳴しあうから…
「蜂比礼……アイツが言ってた…」
戦闘後に《怨霊》が言ってた言葉を思い出す…八握剣はまだ未完成。《彼女》についた《呪い》をとくには《蜂比礼》が必要…
だが彼女がなんかこちらに向かいアッカンベーしてるのを見てなんか落ち込んでしまう。
「(俺…なんか悪い事しちゃったかな?したならちゃんと謝らないと…)」
そう考えてると、段平を突き付けられてしまう。
そして宛誄からの質問だ。
「許さないかか………正直にいうと俺は《アイツ》に幼なじみが呪われ、幼なじみの両親を殺されたよ……最初は怒りで戦ったよ。
けど、それは俺のせいだ。俺の軽率な行動がいけなかったんだ…だから今は許す許さないは関係ない。だって俺が悪いんだから……怒りでは戦ってない。
アイツと戦うのは幼なじみの呪いをとく方法をききたいからと……う〜ん悪い事するのってよくないじゃん?
俺はそういうのを止めたいんだ。誰かが死ぬのも見たくないし、俺が知ってるのに見ないフリして誰かが死ぬのもやだ。けど殺して止めたいとかじゃなくって、とりあえず殴って話しあった方が言葉が通じると思うしお互いの気持ちがわかるかもしれない。だから戦うんだ」
普通じゃないような事を彼は普通に話す。
言い方は正義かもしれない。けど彼はそれを正義とは思わない。我が儘であり偽善であるのは彼は1番知っている。
けど命が奪い奪われる状況を彼は知ってしまったら見過ごしたくない、命の重たさは…彼は知ってる。だから戦うと……
人間にしては《普通》は言えない事を彼は簡単に言った…
果たしてその解答を二人はどう思う?
「…………あっ、ごめん。ベンチに座っていい?」フラッ
あっ…ちょっとやばそう…
―――――――――――――
「きっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!!!!!」
不気味な嗤い声を響かせ、槍は彼の身体を突き刺すが……
ボワッ!!!
それは青紫の炎となり、消えていく。
「嫌だねぇっ!!!それで俺様が『いいぜぇっ!戦おうっ!!』って言うと思ったかぁっ!?きっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!」
不快にさせる言い方をしながら、再び少し離れた場所に姿を現す。
「第一よぉっ?あの女のガキの一人ぃっ。宛誄かぁっ?アイツは何の目的か知らないがぁっ。俺の仲間になってんだぜぇっ?けど裏切る気満々でなかなかおもしろいぜぇっ?こっちの目的も色々潰してくるしよぉっ?
だからぁっ白龍に頼んで潰してもらってるわけよぉっ!いいのかぁっ?俺の相手してぇ?もしかしたら白龍に殺されてるかもしれねぇぜぇっ?キッヒャヒャヒャヒャヒャッ!!!!」
290 :
宛誄&蜂比礼/出口町 入江
:2011/11/22(火) 01:24:05.37 ID:vNAoXuLeP
>>289
『ゴチャゴチャうるせぇえええ!!
男だったらスパッと言えやぁああああああ!!!』
蜂比礼、理不尽。
隣で宛誄が耳を押さえている。
『ぜーはー・・・、つまり!
今までの分は全部自分のせいだから許すけど!
とりあえず悪いことしそうだから殴って止めようってかぁ!?
あてるん! これどう思うよっ!?』
「もう少し静かにしゃべってください、霊体じゃなかったら近所から苦情来てますよ」
ため息を着き、段平を下ろす。
しかし宛誄の目は先ほどよりも鋭くなっていた。
「・・・本当に貴方はそれでいいんですか?
大切な人の大切な人が殺された、それを誰かのせいにせずに。
怒りも理不尽も全部抑圧して、飲み込んで自分で背負おうとする。
そんなの“普通じゃない”で収まらない、とても信じがたい。僕には理解できない」
再び段平を翳す。
宛誄の身体の中で何かが蠢いた。
「理解した。大切な物を傷つけられて、平然としている貴方には十種神宝を任せられない!」
跳躍と共に、段平がベンチに座る夕を横薙ぎした!
-------------------------------------------
「針山七合目! 騙し登り!!」
振り切られた場所から針山の山脈が高笑いを浮かべる青行燈を追尾する!
「白竜、あいつか。そう・・・あなたの仲間に。
あの子もあの子でちゃんと“幸せ”を探しているのか・・・!」
あの時の情景を思い浮かべるが、ニヤリと不敵に笑う。
「大丈夫、あの子だって紫狂だ!
自分が誰かもわからないような脆弱な“想い”なんかに絶対に消されたりはしない!」
それは己が何者かもわからず、ただ身体を求めて彷徨っていた時の自分との決別の言葉。
足下に針山を噴出させ!
それに足を架け、高々と飛び上がる!!
「宛誄も戦っている! だから私も戦う!!」
黒い翼が夜闇に透き通り!
空を舞う羽根が石英の散弾となって青行燈を狙い撃つ!!
291 :
田中 夕/妖魔
:2011/11/22(火) 01:56:36.03 ID:ramS95rD0
>>290
「ぬわぁぁぁぁあ!!!!耳がぁぁぁぁあっ!!!」
耳元で叫ばれ、両耳を押さえようとしながら、その声は傷にも響き大ダメージだ。
「……………よくないよ」
彼が段平を振り上げ、ベンチごと吹き飛ばそうとするのを彼は《右手》で止めようとする。
「俺が平然にしてるように見える?そりゃあ君からしてみたら俺は平気に見えるだろう……」
………珍しく田中の顔が怒ってる。
「けどね!!その怒りをぶつけてどうする!?それで《アイツ》を殺してどうなる!?あの人達は俺が敵をとったら帰ってくるのか!?甦るのか!?《琴葉》は目覚めてくれるのか!?無理だろ!?できないだろ!!!理不尽だろ!!
コレは夢だと何回も思った!!真実を知るまでは自分をせめ、真実をしったら怒りはわいた!!けどあの人達は戻ってこないんだよ!!!帰ってこないんだよ!!!!それでお前は何がわかるんだ!?わからないだろう!!他人事だからってそんな事言うな!!!お前に…お前に……
俺に《十種神宝》を任せられない!?じゃあ、俺がコレで相手を殺したら任せるっていうのか!?ふざけんな!!!!そんなのお前が決めるな!!!!」
怒りに任せ、押さえてた感情をぶちまけ涙をながしながら、宛誄に向かい叫んだ。
ずっとその事で苦しんでる彼に宛誄の言葉は追い撃ちをかけていた。
―――――――――――――
「きっひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!!」
指先から青紫の不気味な炎を出し、その攻撃を相殺させようとする。
「むかつくなぁっ!!幸せそうだなぁっ!!吐き気がするぜぇっ!!!
まったく嫌な奴らだなぁっ!!!」
青行燈は本を開き、妖気と邪悪な気配を一段と濃くさせる。
「語ってやるよぉっ!!!《人食い烏の怪》」
すると、数十羽の烏が本から飛び出し彼女に向かい肉を啄もうと飛び掛かってくる。
292 :
宛誄&蜂比礼/出口町 入江
:2011/11/22(火) 02:25:38.70 ID:vNAoXuLeP
>>291
(止められたか・・・!)
ギリギリと妖気の篭った刃が、八握の鍔に受けられ火花を散らす。
夕の本気の感情の吐露、その心の奥に秘められた深い闇。
その大きな感情のざわめきに、宛誄は冷や汗を流しながら頬を緩める。
「・・・っ! それでいい、そんな“普通さ”を持ち合わせてこそだ」
割り切った考え方や生温い仲間意識などいらない、
大切な人が死ぬのをただ眺めているような奴等などに任せられない。
そんな人間らしい考え方に、葛藤に。
蜂比礼はざわめき、宛誄は夕の目を真っ直ぐに見据える。
「蜂比礼の事を知っているようですね、なにかあるんですか?」
鍔迫り合いの中で宛誄は問いかけた。
------------------------------------------------
闇色に染まった石英が青い炎に飲み込まれ、消失する。
「グッ・・・!」
空中落下の中、黒いスカヴェンジャー達が襲い掛かる。
石英のように硬質化した翼で跳ね除けようとするが、
それをかいくぐった数羽が出口町の柔肌を食いちぎる。
「ふふふっ、よかった。私もちゃんと幸せなのか・・・」
鮮血が舞い、肉片が飛ぶ。
青行燈の言葉を受け、出口町は語りだされた弟達に襲われながらも確かに笑っていた・・・!
地面に、降り立ち。キッと青行燈を見据える。
空には2種類の黒羽が待っていた。
「産んでくれてありがとう・・・」
出口町は再び針山を噴き出し!
空中で蹴り上げ、青行燈の懐へと迫る!!
さらに語られたばかりの烏達が紫炎を燈し!
青行燈を拘束しようと喰らい付く!!
【パラサイトドレス・クロウニルテイルコック】!!!
それは紛れもなく“身体を探す少女”の力!!
肉片を取り込んだ烏達の身体を乗っ取ったのだ!!
「親離れの時です、お父さん」
青行燈の懐へと、石英の薙刀が突き放たれた。
293 :
黒蔵
[sage]:2011/11/23(水) 22:49:42.30 ID:OlcqFQbpo
以前にミナクチと番をしていた、水沢城址公園の小さな泉のほとり。
久しぶりに訪れたその場所は、夜であってもすっかり秋の気配なのが判る。
街灯から離れた木々の間、暗がりのなかに、作業着姿の黒蔵はいた。
「…どうにも使いこなせる気がしないんだけど」
織理陽狐に貰った大太刀、獅子王。
鞘を払えば、妖気などの察知できない今の黒蔵の身体でもぞくりと震えるほどに強い力を秘めている。
もし診療所内で抜けば、一騒ぎ起きるだろう。
それゆえ今の黒蔵は、ここで獅子王を振るう練習をしているのだが、
ほんの4,5回獅子王を振り下ろしただけで、もう腕がぷるぷるし始めている。
そして黒蔵が一言弱音を吐いた瞬間に、ずしりと重みを増した太刀の切っ先は地に落ちた。
「…はぁ」
294 :
稀璃華
:2011/11/23(水) 22:59:14.29 ID:8SjhVS6DO
>>293
「・・・・・・え。」
なにこれ怖い、とでも言いたそうな顔をした稀璃華が黒蔵を見ていた。
ちなみに今日は女装をしている。
「は・・・巴津火?いやでも妖気ないし・・・。もしかして・・・巴津火死んだ!?いやああああ」
突然騒ぎ出した稀璃華は、外部から見たら痴漢にでもあったかのように見られるだろう。
どうやら、自分の刺した剣で巴津火が死んだのだと思ったらしい。
(容姿的に少し違うが気づかない)
295 :
黒蔵
[sage]:2011/11/23(水) 23:04:09.70 ID:OlcqFQbpo
>>294
「え?誰?」
なにこれ怖い、と言いたげな表情が黒蔵にも感染した。
稀璃華とは初対面、当然黒蔵はこんな女の子知らない。
「巴津火?巴津火なら今入院中だけど、ぴんぴんしてるはずだよ」
病室に踏み込んだことはないが、中から漏れてくる我侭な要求と
やたら連打されていたナースコールの音は黒蔵も聞いている。
「ていうか、君、巴津火の知り合い?」
獅子王を鞘に収めて、もう少し街灯の明かりの届くところへと黒蔵が出てくる。
稀璃華も、その背丈から巴津火ではないことに気づけるだろう。
296 :
稀璃華
:2011/11/23(水) 23:19:18.63 ID:8SjhVS6DO
>>295
「生きてる!?よかった〜♪
ごめんね、人違いして。私は稀璃華、巴津火のことはよくしってる。
にしても似てる・・・・・・」
いつもならここで「イケメンだ!ウキウキワクワク」なのだが、あまり反応しない。
「なんか・・・ね。君、男?」
それは稀璃華だから分かるのだ。黒蔵が今、完全な男でないことに薄々気づいている。
しかも妖気も感じないし。
「人間にしたらあんな剣振り回すの物騒だし、巴津火に似てるし。一体なんなの?」
297 :
黒蔵
[sage]:2011/11/23(水) 23:26:53.30 ID:OlcqFQbpo
>>296
「稀璃華さん?俺は黒蔵。巴津火の身体は、元々俺のなんだ」
黒蔵は稀璃華のことを普通の女の子だと思っている。
「今のこの身体は、前の俺の身体に似せて人間の死体から作られた代替品。
だから巴津火と似てるし、妖気は……なくなった」
無くなったのは妖気だけではないのだが、他人、まして女の子に言う事ではない。
「…作った人の趣味でこんな見た目だけど、俺は男です」
触られたらついてないのはあっさりばれそうだけれど、少なくとも魂は男のつもりである。
298 :
稀璃華
:2011/11/23(水) 23:41:41.06 ID:8SjhVS6DO
>>297
「はいはい、ちょっと待ってー、私理解できない。」
手を挙げながら、黒蔵に質問しようとする稀璃華。
「元々、巴津火の体が黒蔵?てことは、あのショタは元々黒蔵!?じゃあ巴津火は一体何!!?」
頭を抱え、嘆く稀璃華。巴津火があんなんだから、と黒蔵に少し同情。
「でも・・・ま、苦労してるんだね。元男らしいし。よろしく(抱きっ!
いいよぉ、この体も!」
抱き着いたー(ガビーン
ちなみに、稀璃華の肌はどちらかと言えば男に近い。柔らかさとか色々。
もしかしたらばれる・・・かも。
299 :
黒蔵
[sage]:2011/11/23(水) 23:55:10.43 ID:OlcqFQbpo
>>298
「巴津火は元々、剣に込められた魂だけの存在だったみたいなんだ。
それが俺に取り付いて、色々あって、身体を譲ったんだけどって…うわぁ!!何?!」
何と聞かれて、何と尋ね返す黒蔵。
初対面の女の子にいきなり抱きしめられたのだから、当然慌てる。
びくり、と身体を硬くして、何とか抱きつきを穏便に剥がそうと苦労している。
そもそも女の子なんて抱き慣れていないのだから、
稀璃華の身体の特徴が示す意味に気づけるわけも無い。
何より女の子という思い込みが邪魔をしている。
「えっとあのその…何で初めて会った相手に抱きつけるんですか!」
こんなところを誰かに見られたらヤバイなんてもんじゃない、と思った黒蔵は
状況説明めいた言葉で抗議した。
300 :
稀璃華
:2011/11/24(木) 00:06:30.06 ID:56pMIsODO
>>299
「・・・・・・(うるっ」
元々は泣塔なので、目は潤っている。(というか泣き目)
少しの間、黒蔵を眺め、にっこり笑うと、黒蔵の手を取り自分の胸に押し当てた。
「硬いだろ、私、男だから。まあぶっちゃけると、男好きだから抱き着ける・・・かな?」
これこそ変態!
いきなりの行動に黒蔵は大丈夫なのだろうか。
「それより、その剣は?」
黒蔵を撫で回しながら尋ねた。
301 :
黒蔵
[sage]:2011/11/24(木) 00:18:17.71 ID:YnnW4xCxo
>>300
「おと…こ?」
右手を稀璃華の平たい胸に当てられて、黒蔵は思考の混乱につきしばらく停止状態に。
今なら稀璃華に何をされようが、その反応は全てが終わった後に現れるだろう。
(男…好き?……?)
間近で稀璃華の顔を覗き込んでいる黒蔵。
少しばかり筋肉がつき始めたとは言え、その骨格は細いし、肌は男にしてはきめが細かい。
暗くてよく見えないだろうが、その呆けた顔にはいずれ髭になりそうな産毛の気配も無い。
「剣……?」
まだ呆けている黒蔵は撫で回されながらぼんやりと、
自分の左手では重みを支えきれずに滑り落てゆく獅子王を見た。
302 :
稀璃華
:2011/11/24(木) 00:27:10.08 ID:56pMIsODO
>>301
「え、大丈夫か?」
左手で抱きつつ、右手で黒蔵のほっぺをぺちぺち叩く。
かなり純粋だなぁと思い、少し距離を置いてあげた。
「そんなに唖然とすることないだろう?証拠、ほら。」
服をめくれば、多少の筋肉。だがやはり、見た目だけは女の子っぽいのだが。
「・・・で、なぜ素振りしてたんだ?気になるんだけど。」
303 :
黒蔵
[sage]:2011/11/24(木) 00:35:31.03 ID:YnnW4xCxo
>>302
支えを失った獅子王が、がらんと地に転がった時、黒蔵にようやく思考が戻ってきた。
「ええええっ!いやいい、いいいい!」
心臓がばくばくしているが、服をめくる稀璃華を手を振って止めさせようとする。
(今俺、どこ触ってた?)
あの残念な男の胸です。
(今俺、どこ触られてた?)
普通なら初対面の人にまず触られたり触らせたりしない場所です。
そんなわけでずずーんと思い出し落ち込み中の黒蔵の意識を、稀璃華の問いが掬い上げる。
「素振り?ああ、これ。俺にだけ物凄く重い刀」
ヘタレには持ち上げられない太刀である。
その重さの意味を思い出して、再び落ち込む黒蔵。
「俺の気持ちが弱ると持ち上がらないくらい重くなるの」
さっきは素振りができたけれど、今はきっと持ち上げられないだろう。
その自覚がある分、説明しながらさらに黒蔵は凹んだ。
304 :
稀璃華
:2011/11/24(木) 00:41:53.57 ID:56pMIsODO
>>303
「そんなに拒否するとますます襲いたくなるよ・・・黒蔵ァ?」
やけにノリノリなこの方、黒蔵が我に戻ると脅すように話した。
「自分の意思に影響する武器かー。武器と一心同体って言うのはそういうことか。」
ならこの武器も男かな、と武器を撫でる。
コイツ、♂ならなんでもいいんだな・・・
305 :
黒蔵
[sage]:2011/11/24(木) 00:50:50.56 ID:YnnW4xCxo
>>304
「嫌ーっ!!」
さっき稀璃華の言った「男好き」の意味がひしひしと脳内に染みとおってくる。
稀璃華の注意が獅子王に向いているうちに、距離をとろうとして
にじり下がってゆく黒蔵、そんなだから獅子王にも認めてもらえない。
「そいつ、獅子王って言うんだ」
名前からしてその太刀は稀璃華好みの男だろう。
ただしこの刀に瞳のように性別があればの話なのだが。
そして稀璃華に自分の大事なものを撫でられたまま、黒蔵はどんどん遠ざかってゆく。
(織理陽狐さんごめんなさい、俺、あれ取り返すの無理)
どうせ近寄ったところで持ち上げられない太刀なのだ。
306 :
稀璃華
:2011/11/24(木) 01:07:10.34 ID:56pMIsODO
>>305
「嫌ーっ(裏声)、だってさ!なんかヘタレお兄さんみたいなww
だけど・・・・・・。やっぱり自分の体は戻したいよな・・・。それで妖怪から人間になっちゃったんだし・・・。
正直、君を尊敬するよ。」
目を閉じ、獅子王を片手に持ち、刃の部分を摩る。
「おまじない、君が少しでもこの武器を扱えるように。」
おまじないと言うか、もしかしたら呪いかも知れない。それにおまじないといっても、特に何もしていない。
だが黒蔵がそれを信じ、意思を貫けば先は変わる。
「さて、この後は仕事しなくちゃいけないから帰る。じゃあな、黒蔵☆(撫でっ」
そう言って、稀璃華は帰っていく。
また黒蔵にとっての危険人物が増えてしまった。
307 :
黒蔵
[sage]:2011/11/24(木) 01:17:17.93 ID:YnnW4xCxo
>>306
もし稀璃華に獅子王を持っていかれてしまったら、少し距離を置いて尾行しようとか
考えていた黒蔵だったが、意外にも稀璃華はおまじないを掛けて去って行こうとする。
「へ?それって」
(何もかも知ってるって感じ?巴津火のどういう友達なのか、そう言えば聞いてなかった)
拍子抜けして稀璃華に問いかけようとするも、さっさと彼は帰ってゆこうとする。
「あ…ありがとう」
横を通り過ぎる稀璃華にそう声を掛けたその瞬間、すれ違いざまにさらりと撫でられた。
「うへぁっ!!」
思わず飛び上がり、ダッシュして距離を置いた黒蔵が振り返ったその時には、
既に稀璃華の姿はどこにも見えなかった。
その後の黒蔵は、おまじないを掛けてもらったにも関わらず、
気持ちが完全に落ち着くまでの小一時間を、獅子王の傍らにて寒さで震えることになった。
//絡みありがとうございました!
308 :
巴津火
[sage]:2011/11/24(木) 22:35:34.53 ID:YnnW4xCxo
病室の白いベッドの上に、右腕の大半を失った少年が一人、上体を起こして座っていた。
その目の前のテーブルには療養メニューの大半が残ったトレイが置かれている。
「……むぅ」
不満そうな巴津火はスプーンの柄をへの字の口から突き出させて、
ぴこぴこと動かしながらトレイを睨んでいる。
この我侭な食いしん坊が食事を前に食べあぐねているのは珍しい。
徐々に冷めてゆく食事と睨めっこしているその病室の扉の前に、訪問者の気配がした。
「はいっれほいよ」
入って来いよと言おうとしてスプーンが邪魔なのに気づいた巴津火は、
左手で取り出したそれをからんと投げるようにテーブルに置いた。
309 :
だらし無い4人
:2011/11/24(木) 22:47:26.81 ID:56pMIsODO
>>308
零&澪「失礼します。」
二人の声がすると同時に、4人の男が部屋に入ってきた。
零「やあ、巴津火君。なんやかんやで大人数だけど勘弁してね。」
澪「巴津火ぃ、生きてて良かったうわああんっ(泣)」
黒龍「よっ、巴津火(ピース」
稀璃華「」
かなり騒がしい、こいつら。まあ稀璃華は特に煩いので、零と黒龍がふるぼっこにしたらしい。
零「さて、ぷにゅるは煩いのの面倒よろしくね。私は巴津君と澪さんと話さなきゃ。」
ここでぷにゅるは稀璃華を背負い、部屋の端へ。
零と澪はベッドの隣の椅子に腰掛けた。
310 :
宝玉院 三凰
:2011/11/24(木) 22:58:28.02 ID:/FamP6AAO
>>308
,
>>309
「失礼する。む、先客が多いな。澪もいるのか。それに、あの変態も……」
ガラッと扉を開け、入ってきた三凰。右手には、果物の入った籠を持っている。
そのまま辺りを見回すも、目立った反応はしなかったが稀璃華を見た時には、露骨に嫌そうな表情だった。その後、じっと巴津火をみた後、静かに口を開いた。
「……酷い様だな。貴様がそこまでやられるとなると、相手は相当な手練れだったのだろうな。」
哀れむようというよりも、巴津火にここまでの怪我を負わせた相手に警戒をするような口調で言った。
「そうだ。これ。」
巴津火に近づき、ズイと押し付けるように持っていた果物の入った籠をテーブルに置いた。
「見舞いの品だ。言っておくが僕からじゃないからな、知り合いの見舞いに行くと言ったら、飛葉が持っていけとうるさかっただけだ。」
311 :
巴津火
[sage]:2011/11/24(木) 23:20:12.09 ID:YnnW4xCxo
>>309-310
どやどやと入ってきた4人+こんな時でも貴公子然とした1人で、病室はあっという間に手狭になった。
「おー。椅子足りないから、そこ座って良いぞ」
この部屋に椅子は3つしかないので、2人は巴津火の指差すベッドの足元に腰掛けることになるだろう。
食事中で起き上がっていたために、巴津火の寝巻きの空っぽな右袖が上掛けの外に出ている。
「澪ー、ボクのほうが泣きたいんだぞ。ここで出されるボク用のご飯、味が無いんだから」
消化に良く傷に響かないものを、とメニューは選ばれているし調理が駄目なわけでもないが、
濃い目の味付けを好む巴津火には、この療養食はどうにも美味しくないのだ。
「稀璃華は、ずーっとその大人しさで居てくれ。
三凰、ここの飯はこの通り、どうにも箸が進まないんだ。飛葉殿にも礼を言っといてくれな」
ほっとした表情で枕に寄りかかり、巴津火は三凰と零を手招きした。
「相手が手だれだったというより、ちょっと不幸が重なったんだ。
ボクも天界から神代をかばうことになるとは思いもしなかったし、この腹の刺し傷なんて
稀璃華がやったんだぞ」
苦笑いしながら三凰に、巴津火は事情を簡単に説明した。
「見舞いに来てもらったのに落ち着かない話で悪いが、さっさとすませるぞ。
ボクはこの通り動けないし、稀璃華は潜入先の神代と取り巻きには立場がばれてる。
だからここからは三凰に潜入役の交代を頼みたい。三凰一人きりじゃ色々大変だから、
その補佐を零にやってもらおう」
零が情報収集に長けていることは、夜行集団から聞いている。
「零には三凰の補佐の他に、神代の周辺にいる人物、農夫・包帯・榊について調べて欲しいんだ。
特に榊について詳細が欲しい。
田中家のメリーが榊に接触したのと、夜行集団の虚冥から、榊が神代とはまた違う目的を
持ってるらしいことを聞いてるし、それらしい会話も潜入中にボクらは聞いてる」
ここまで自分勝手に決めたお子様は、やってくれと頼むのではなくて
もちろんやれるよな?と確かめるように零を見た。
そして返答が帰ってくるまで、辺りの妖気をしばし探る。
312 :
ヘタレ4人
:2011/11/24(木) 23:35:11.99 ID:56pMIsODO
>>310
零「こんにち・・・・・・」
澪「零、どうしたの?あっ、三凰!」
急に零の笑顔が固まる。理由は簡単、零は三凰が苦手だ。
あくる日の戦闘にて、零の放ったスナイパーライフルが三凰にかすり、怒られたことがきっかけ。
どうやら零は怒られるのは嫌いらしい。
澪「飛葉さんが?やっぱりいいお方だ、持って来てくれた三凰もありがとう♪」稀璃華「ピクッ」
黒龍「キモい[
ピーーー
]」ドスッ
稀璃華「」
いつものようにのんびり、三凰に礼を言う。
>>311
零「稀璃華が刺した!?・・・・・・澪さん、後であいつ、殺そう。」
澪「・・・・・・そうだね。巴津火、怪我が治ったら、喧嘩して、一緒に旨いもん食おう。それまで我慢な。」
白い目で稀璃華を見れば、彼は泡を吹いている。
零「・・・・・・はい?・・・え、ちょ、な、私?な?だ、だって・・・・・・。」
ちらりと三凰を見る、やっぱり怖い。また罵られそうで。
澪「零、三凰のこと、お願いします。」
零「・・・・・・・・・。」
ただでさえ、今は大変なのだ。それに加え、三凰である。
巴津火と澪の二匹のヤマタノオロチに頼まれた零は断ることも出来ず。
零「・・・分かりました。
その榊って言うのには、私も興味ありますし。何よりぷにゅるの借りもありますから」
313 :
宝玉院 三凰
:2011/11/24(木) 23:44:28.24 ID:/FamP6AAO
>>311
「なに、天界絡みなのか?どうにも厄介なようだな。」
天界と聞き、ますます警戒を強める三凰。
「……なるほど、潜入役として動けるのは僕だけというわけか。いいだろう、僕にまかせろ。」
自信満々に返事をする三凰。警戒すべき相手とは言え、潜入ならば大丈夫だろうという自信からだった。
>>312
「澪、礼なら飛葉に言え。僕はただ持ってきただけだ。」
若干照れながらも澪に答えた。礼を言われることには、慣れていないらしい。
「榊という奴、どうにもきな臭いようだな。調査の方頼んだぞ。あと、僕の足を引っ張るなよ。」
むしろ、妙な自信のせいで三凰の方が足を引っ張りそうだが……
314 :
巴津火
[sage]:2011/11/24(木) 23:53:49.23 ID:YnnW4xCxo
>>312-313
(この付近にしょうけらやミナクチの気配はないな。天界や竜宮に告げ口される心配は無さそうだ)
辺りの妖気を探り終えた巴津火は、少し声を潜めて三凰達に注意を与える。
「三凰の言うとおり、事情は天界絡みでちょっと厄介なんだ。
どうやらボク達は天界の神格に喧嘩売る立場でもあるらしい。
ボク自身は自分の件で天界に憤ってることがあるから、むしろ喧嘩は売りたい側だ。
けど三凰達はそうじゃないから、もし天界絡みの件でヤバイことになったら
遠慮せずにボクの名を出せ。
その件についてはヤマタノオロチの巴津火が聞く、と言えば良い」
ベッドの上の有り余る時間を一人悩んで考えて過ごした結果、たどり着いたのがここである。
「あと、一つ澪には口止めしておくけど、ボクは神代ともう一度戦うぞ。
それは天界にボク自身が仕返しするためでもある。
でも竜宮の奴らが聞いたらきっと邪魔翌立てするだろうから、このことはあいつらに内緒な。
あの厄介蛸は今都合よく謹慎してるっていうから、もしこれが竜宮にバレたら澪のせいだぞ」
にやにやと意地悪く笑いながら、見舞い客5人の中でただ一人の水妖である澪に
この性質の悪い水界の次期当主は釘を刺す。
ちなみに蛸の大臣が叡肖に申し渡した謹慎期間を、さらに倍にしろと命じたのは巴津火自身だ。
315 :
ヘタレ4人
:2011/11/25(金) 00:09:27.81 ID:x6a/DXfDO
>>313-314
零「・・・・・・はい。」
もうなんか会話するのさえやだ、怖い、そんな感じ。
澪「飛葉さんにも言うけど三凰だって持って来てくれたんだからっ。
感謝の意を受けとって!」
その暗い雰囲気に割って入る澪だが、巴津火が言うになぜ自分だけ!と思った。確かにこの中じゃ仕方ない。
澪「(ていうかヤバくなってヘラヘラ巴津火の名前出したら、即効で竜宮に伝わるんじゃ?)
ま、まぁ竜宮の皆様には上手くごまかしとくからさ。仕返し頑張れよー。」
鬼畜蛸、謹慎喰らってやんの!と一瞬思った。
316 :
宝玉院 三凰
:2011/11/25(金) 00:16:47.77 ID:dFOpbg6AO
>>314
「なるほど、まぁ天界の神格なんてどうせろくでもないことばかり企んでいるのだろうな。
わかった、その時は遠慮なく貴様の名を出させてもらおう。」
そう言って、静かに頷いた。
>>315
「わ、わかったわかった、澪、感謝するがいい。」
少し焦りながらも、三凰としてはしっかりと感謝の意は受け取ったつもりらしい。
317 :
巴津火
[sage]:2011/11/25(金) 00:27:00.18 ID:66cMqvJRo
>>315-316
「天界も神代の件が片付くまでは、零や三凰を責める暇はないと思う。
来るとしたらまず穂産姉妹のところか、ボクに先に来るだろうな。
できれば竜宮に来て、あの馬鹿どもを困らせてくれたらそれはそれでボクには面白いんだが」
話を終えて、巴津火は自分が酷く疲れていることに気が付いた。
皆が来る前から、食事の為にずっと起き上がっていたのだ。
すっかり冷めた食事をテーブルごと押しやって、巴津火はずるずると滑り込むように横になる。
「まだこんな身体だからな。
三凰、零。ボクが動けない間、二人を頼りにしてるぞ。
もし入用な物があったら相談に来い。ミナクチに用立てさせる」
枕に頭を落ち着けると、深い吐息を一つついた。
318 :
ヘタレ4人
:2011/11/25(金) 00:39:36.25 ID:x6a/DXfDO
>>316-317
零「まあ私は誰がどうであろうと関係ないけどね。(三凰怖い三凰怖い)」
澪「三凰と零には色々と大変かも知れないけど、活躍を期待してるよ。」
よしよしと巴津火の頭を撫で、巴津火の食事を一口。確かに薄い。
零「用件は以上だね、巴津火君。出来る限り頑張って見るよ。行こ、ぷにゅる。」
黒龍「ああ。稀璃華は持っていくからな。」
そうして、澪を残して零と黒龍、それから稀璃華は部屋を後にした。
319 :
宝玉院 三凰
:2011/11/25(金) 00:44:32.27 ID:dFOpbg6AO
>>317
「……貴様に頼りにしてるなんて言われるとは思いもしなかった……」
予想外の言葉に驚きの表情を浮かべる。
「……まぁ、まかせてくれ。貴様の想像以上の成果を上げてやる。」
複雑な心境のまま答えた。
>>318
「フッ…僕の華麗なる活躍を期待しているがいい。」
といい笑顔で格好つけている。
320 :
巴津火
[sage]:2011/11/25(金) 00:51:47.98 ID:66cMqvJRo
>>318-319
「なー澪ー、三凰の持ってきてくれた果物剥いてよ。お腹減ったんだー」
この我侭なお子様は、トレイに食事を殆ど残したまま上掛けの中から澪に頼んだ。
「塩胡椒掛けて食べてたら、そんなに掛けてちゃ身体に悪いって…禁止…され……」
果物を剥いてくれと頼んでおきながら、その言葉の後半はとろとろと緩んで行き、
やがて静かな寝息にとって変わっていった。
寝ているところだけは、普通の子供と変わらない。
それは三凰のはじめて見るだろう、いつも生意気で我侭放題な巴津火の弱った姿だった。
321 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)
:2011/11/25(金) 01:02:00.26 ID:x6a/DXfDO
>>319-320
「くすっ、見てよ三凰。巴津火もまだまだ子供でしょ?
なのに天界だの竜宮の時期当主だのってさ。
上手く言えないけど、巴津火にもっと自由を与えてもいいんじゃないかって。
だからさ、三凰も出来るだけ巴津火に協力してあげてよ。」
布団を掛けてあげながらぽつりぽつりと呟く。
「よしっと、じゃ、僕は調理師さんのとこ行ってレシピ変えて来て貰うね。消化のいいレシピ教えれば大丈夫でしょっ?」
最後には三凰に深く頭を下げると、部屋からでていった。
//この辺で終わりですかね?絡みお疲れ様でした&ありがとうございました!
322 :
宝玉院 三凰
:2011/11/25(金) 01:17:54.04 ID:dFOpbg6AO
>>320
,
>>321
「ああ、こうして見るとただの子供だな。
僕は子供は嫌いだが、澪が言うなら協力しなくもない。巴津火の実力や行動力は認めざるを得ないしな。」
そう言って、巴津火の顔を覗き込む。
「ああ、じゃあな。澪。僕はとりあえず帰ることにする。」
巴津火の顔を見つつ言い、しばらく思考する。
(しかし……ずいぶんと弱っているようだな。無茶をするからなのか、それとも相手が異常な強さのか……)
「ま、会ってみれば分かるな。」
そう呟くと、静かに病室から出ていった。
/絡みお疲れ様&ありがとうございましたー
323 :
田中 夕「」 姫崎 琴葉『』
:2011/11/26(土) 23:23:09.39 ID:luJC7wph0
とある街中。人々が行き交う夕暮れ時。
そこに二人の男女が歩いていた。
『………………僕の記憶と大分変わったね』
「ことちゃん…」
小学六年生くらいの小さな背丈で、茶色いショートヘアーにミョンとアホ毛がたってる、眼鏡の少女が淋しそうに街を見ながら呟く。
その横で、何処か申し訳なさそうにしてる、ボサボサの黒髪に普通の顔立ちの高校生。
それから二人は会話がなくぎこちなさそうに歩いている。
324 :
露希
:2011/11/26(土) 23:31:27.30 ID:SSp8OB9DO
>>323
「ふっ・・・はぁ、寒くなってきたなぁ。そろそろ氷亜さんにカイロ買ってあげなきゃ。」
全体的に暗い服+ジーパン、それからマフラーと手袋でぬくぬくしてる女の子。
「あ・・・れ、田中君?」
ふと目に入ったのは、いつものように普通な田中だった。
325 :
田中 夕「」 姫崎 琴葉『』
:2011/11/26(土) 23:38:35.23 ID:P/QpiRLb0
>>324
「あ…露希!こんにちは」
『…………』ジーッ
露希に気付き、いつものように挨拶する田中くん。
一方隣の可愛い女の子は夕の後ろにサッと移動し顔だけ出して、そちらを木に隠れ顔だけだしてる小動物のように見ている。
326 :
田中 夕「」 姫崎 琴葉『』
:2011/11/26(土) 23:38:47.49 ID:0+CX2Vuc0
>>324
「あ…露希!こんにちは」
『…………』ジーッ
露希に気付き、いつものように挨拶する田中くん。
一方隣の可愛い女の子は夕の後ろにサッと移動し顔だけ出して、そちらを木に隠れ顔だけだしてる小動物のように見ている。
327 :
露希
:2011/11/26(土) 23:47:30.66 ID:SSp8OB9DO
>>325
「こんにちはっ、田中君。その子は・・・ええと・・・。」
何この子可愛すぎ、と言った表情だが、行動は控えているようだ。
「とりあえず始めまして。ボクの名前は露希、田中君の友達だよ。」
ニコニコしながら、ことちゃんを見ている
328 :
田中 夕「」 姫崎 琴葉『』
:2011/11/27(日) 00:00:58.48 ID:zTv5dbnW0
>>327
「……彼女は俺が原因で…あだっ!!」
田中くんが説明しようとしたとき、女の子は容赦なく田中の足に向かい鋭い蹴りをいれる。
『馬鹿夕!!だから君のせいじゃないって言ってるだろ!いい加減そう言ってると蹴るぞ!』
「ことちゃん…もう蹴ってる……」
痛そうにしゃがむ夕を尻目に少女は少し怒った様子でフンっと横を向いた。
そして、少し深呼吸するようにして露希の方を向く。
「…はじめまして。僕は姫崎 琴葉。夕の《幼なじみ》だ』
少し緊張したようにそう言う琴葉。
………露希は気付くだろう。彼女が夕が言ってた自分のせいで植物状態になってた幼なじみの少女だと…
329 :
露希
:2011/11/27(日) 00:19:39.51 ID:3Y5sUsdDO
>>328
「琴葉ちゃんかぁ。よろしくね(この子が・・・・・・。)」
植物状態だった子と気づきはするが、特に違和感と言った物は感じない。
まさか呪いがあるなんて。
「ちょ、琴葉ちゃん!暴力は駄目だよ!!」
急に蹴りを入れられた田中に大丈夫?としゃがみながら言った。
330 :
田中 夕「」 姫崎 琴葉『』
:2011/11/27(日) 00:31:44.98 ID:ZV2Tigve0
>>329
『大丈夫だ。手加減はしてるから。あと僕はこう見えても夕と同い年だから
露希は夕と同じ高校生か?』
呪いのせいで4年前の姿を保ったまま植物状態のため明らかに小学生だが、高校生の夕と同い年なのである。
「だ…大丈夫。(ことちゃんは今ちょっと自分が4年間も眠ってたショックやおじさん達がいないことや周りの変化に混乱が隠せないからしょうがないんだ……」ボソッ
少し涙目になりながら琴葉に聞こえないような小さな声でそう言う。
331 :
露希
:2011/11/27(日) 00:42:30.54 ID:3Y5sUsdDO
>>330
「ボクはね〜、秘密っ!!」
眠っていたことや両親の死は時間が傷を癒してくれるが、今直ぐに癒すことは不可能なのだ。
「(田中君、琴葉ちゃんは自分に何が起きたのか全て知ってるの?」ボソッ
だから今は琴葉をそっとしておくのが最善だろう。
332 :
田中 夕「」 姫崎 琴葉『』
:2011/11/27(日) 00:56:22.17 ID:Ixda1pgd0
>>331
『むっ!秘密なら仕方ないな』
ちょっと、納得いかない様子だが、深くはきこうとはなしなかった。
『そうだ!最近はどんなファッションが流行ってるか教えてくれないか?夕じゃそういうの役に立たないからな』
露希が女の子ってのもあり、なんかファッションとかしってそうな感じの為、そういうのを聞こうとする。
やはり女の子である。
「(4年も時がたった事や両親の死や事故の事は言ったよ。呪いや七罪者や十種神宝や俺の腕については言っても、ことちゃんは信じないから言えないけど………やっぱり、ことちゃん俺の事怨んでるかな?…」
もっとも、その時一緒にいたハッチーの姿は見えてから彼女は霊感はあるが……本人はソレをまったく信じてなかったりする。
田中は少し悲しそうに露希にボソッといった。
田中は琴葉を起こした事に責任を感じていた。起きたら自分が知ってて知らない世界。彼女にとっては辛いだろう。
それでも田中は…助けられるなら助けたい自分勝手で彼女を起こしたのだ。
333 :
露希
:2011/11/27(日) 01:09:21.75 ID:3Y5sUsdDO
>>332
「(田中君、自分が悪いと思って自覚するのはいいけどね、責めすぎるのもよくないよ。
琴葉ちゃんを幸せにしたいが為に起こしたのなら、田中君がしっかりしなくちゃ。ボクもいるんだしね。」
肩を2、3回叩き、琴葉の方を向いた。
「ファッションかぁ、ボクはそうだなぁー。やっぱり、可愛い物かな?
純粋な可愛さってオールマイティーに出来るから☆」
空は暗くなりはじめ、街頭なども付き始めた。
「ボクはこの後暇だし、家くる?田中君も。」
もし来るなら、きっと露希と琴葉の女の子トークである。田中は・・・うん、一人になっちゃう。
334 :
田中 夕「」 姫崎 琴葉『』
:2011/11/27(日) 01:19:21.65 ID:ZV2Tigve0
>>333
「(……うん」
露希に肩を叩かれ、しっかりと前を向き頷き立ち上がる。
『なるほど…可愛さか。僕には似合わないかもしれないが…挑戦してみるか』
自分が可愛いと自覚ない少女は考えるようにそう言う。
『僕は行きたいが…夕は?』
「そうだね。じゃあ俺も一緒に行くよ」
そう言うと二人は露希の家にいくだろう。
もちろんガールズトークに入れない田中くんはぼっちになっているだろう……
/ではこの辺りですね
/お疲れ様でした
/絡みありがとうございます
335 :
夷磨璃
:2011/11/27(日) 22:21:51.13 ID:3Y5sUsdDO
季節は冬に近づき、窓の外の木の葉もすべて落ちてしまった。
だが少年はそんなことは分からない。
時折聞こえる巴津火の声を心配しながら、夷磨璃はそこで寝ていた。
「・・・はぁ。(ししょー、なにしてるのかな。)」
食事を食べさせて貰い、一息着いて休んでいた。
336 :
瞳
:2011/11/27(日) 22:32:29.25 ID:7J8HEQqAO
>>335
誰かが病室の扉をノックした。
「夷磨璃、私だ。瞳だ。入るぞ。」
扉を開けて入ってきたのは、黒い着物を着た少女、夷磨璃の師匠でもある瞳だ。
「夷磨璃、久しぶりだな。具合はどうだ?」
いつもと変わらぬ優しい微笑みを浮かべ静かに夷磨璃の元へ近寄る。
337 :
夷磨璃
:2011/11/27(日) 22:43:58.06 ID:3Y5sUsdDO
>>336
「し、ししょー?」
ピクン、と体が反応した。目は見えないけど確かに妖気は師匠そのものだ。
・・・僕はその時、何か不思議な感覚に包まれる気がした。
「・・・・・・////」
てれてれしながら、ベッドから起きようとした。だが。
「いっ・・・・・・(泣)」
落ちた。しかも普通に転げて。
ししょーが見てる前で恥ずかしすぎる。
半分泣き目になりながら、瞳を探そうとした。
「・・・・・・?」
真っ黒な視界が、突然、霧のかかったようなぼんやりとしたものに。
霧は涙でやがて薄れる。
・・・・・・目が、見える。
338 :
瞳
:2011/11/27(日) 22:47:28.07 ID:7J8HEQqAO
>>337
「夷磨璃!?だ、大丈夫か?」
ベッドから落ちた夷磨璃を心配し、手を差し伸べる。
「ほら、立てるか?……夷磨璃?」
339 :
夷磨璃
:2011/11/27(日) 23:02:01.99 ID:3Y5sUsdDO
>>338
「ししょー・・・が・・・・・・見える・・・・・・!!」
目の前の心配そうな瞳が、自分の目に映った。
「あぁ・・・・・・僕・・・っ、ししょーが見えるよ!」
ぽろぽろ泣きながら、瞳に抱き着いた。
340 :
瞳
:2011/11/27(日) 23:07:10.55 ID:7J8HEQqAO
>>339
「夷磨璃…あなた、私が見えるのか!?」
嬉しそうにする瞳。
「そうか、目が治ったんだな。ははは、良かったな、夷磨璃。」
嬉しそうに笑うと、優しく夷磨璃の頭を撫でた。
341 :
夷磨璃「」&白龍『』
:2011/11/27(日) 23:16:42.63 ID:3Y5sUsdDO
>>340
「えぐっ・・・もう見えないと・・・ずっと思ってた・・・・・・。でも・・・なんで・・・。」
『それはそこの娘の御蔭だ。』
扉が横に開く。
そこに広がるのは瞳にとって信じられぬ光景。
扉の先は黒い亜空間、そこからは死んだはずの白い龍が。
『くすっ、夷磨璃とやら、山は超えたらしいな・・・?娘、そこの少年を生かしておいてくれて感謝する。
そこの少年は大事な人材だからな・・・・・・。』
「なっ、何っ・・・?」
342 :
瞳
:2011/11/27(日) 23:24:21.36 ID:7J8HEQqAO
>>341
「……!?誰だっ!?」
突如聞こえてきた声に驚き、振り向いてみれば信じられない者が立っていた。
「あなたは……白龍なのか…?生きていたのか…?」
白龍に再び会えたことは嬉しかった。しかし、瞳の前にいる白龍は瞳の知っている白龍とは違っていた。温厚で優しく露希を支えていた白龍とは違っていた。
343 :
夷磨璃「」&白龍『』
:2011/11/27(日) 23:37:59.43 ID:3Y5sUsdDO
>>342
『あの時以来だな、娘。』
白龍が暴走したとき、瞳は戦っていた。
だから今、ここの白龍は瞳を知っている。
「や、止めて・・・僕のししょーに手を出さないで!」
『ああ、娘にはな。貴様には出すがな。』
夷磨璃が急いで瞳の前へ出て、庇おうとした。
だが直ぐだった、ざくりと鈍い音が聞こえたのは。
『流石だな、フェルニゲシュが選んだだけある。
過去の絶望が手に取るように解る・・・くすくすっ。』
「うぐぅっ?」
爪で腹を一度突き刺し、そこをえぐる。
夷磨璃の辛そうな表情を前に、白龍は微笑んでいた。
344 :
瞳
:2011/11/27(日) 23:44:59.73 ID:7J8HEQqAO
>>343
「やめろ!夷磨璃になにするつもりだ!」
急いで夷磨璃を助けようとする。しかし、夷磨璃はもう腹を刺されていた。
「や、やめろっ!!夷磨璃をこれ以上傷つけるな!!」
必死な声で叫び、その後右手を刀に変化させる。しかし、下手な動きをしたら夷磨璃が危ない。そのため、今はこれ以上は動けなかった。
345 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)
:2011/11/27(日) 23:54:11.44 ID:3Y5sUsdDO
>>344
「いっ、ああああっ!!!」
『苦しいか、だがこれくらいでは済まないな・・・。』
さらに白龍は突き刺し、行動を止めない。
既に腹から出た血が辺りを汚し、それは白龍にも掛かっていた。
『娘、いいことを教えてやる。この少年はいずれ、なにもかもを破壊する存在となる。勿論、自らも破壊しながら。
貴様はこの少年を救えるか?』
346 :
瞳
:2011/11/28(月) 00:06:02.00 ID:LZuKS0tAO
>>345
「やめろ!やめてくれっ!!」
苦しむ夷磨璃を見て、怒る瞳。今にも飛びかかっていきそうだ。
「夷磨璃がそんなになるわけないだろ!?私は何があっても夷磨璃を守ってみせる!何があっても夷磨璃を救ってみせる!」
ついに飛びかかった瞳。右手の刃を白龍に振り下ろす。
……が、露希の大切な存在である白龍を斬ることなど瞳にはできなかった。刃は寸前の所で止まりガタガタと震えている。
347 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)
:2011/11/28(月) 00:15:55.84 ID:r3PWq3kDO
>>346
『なんだ、我を切れば良いものを。』
一言だけいい放つと、深く刺さった爪を引き抜いた。
『我を切ることの出来ない者が少年を助ける事など出来ない、馬鹿め。』
次は瞳の首を捕らえ、首を絞めにかかる。
348 :
瞳
:2011/11/28(月) 00:26:27.54 ID:LZuKS0tAO
>>347
「ぐ……う……」
苦しそうにうめき声を上げる瞳。このままではマズい、そう思い右手の刃を白龍に向けるもやはり斬ることができない。
「そんな……ことはうぐ……」
349 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)
:2011/11/28(月) 00:50:51.30 ID:r3PWq3kDO
>>348
『貴様、九十九神か。九十九神は本来、意思は固いはずだ、だが貴様に関しては迷いがありすぎる。そのようでは何も出来ない、生きることこそ無価値。して死すらも無意味。』
瞳に爪を振り上げようとしたとき、白龍が動きを止めた。
「師匠は、僕の大好きな人・・・だから止めてよ・・・・・・!」
『貴様、まだ動けるか。・・・・・・くくっ、娘より出来た弟子だな。
娘、少年の麻薬の効果は消した、後は時間だけだ。精々、その時間まで少年といればいい。』
瞳をベッドへ突き飛ばすと、白龍は亜空間へと消え去っていく。
「ししょー、大丈夫・・・・・・?」
扉の外は今まで通り、そして瞳の前では息を切らせた夷磨璃が。
350 :
瞳
:2011/11/28(月) 01:04:35.78 ID:LZuKS0tAO
>>349
「ぐはっ……」
ベッドへ突き飛ばされ、瞳は無残にも横たわる。
「すまない……夷磨璃……私…私、夷磨璃を守ることができなかったよ……」
涙を流しながら話す。
「私は親友の友である白龍を斬れない……だけど、夷磨璃が傷つくのも嫌なんだ……ごめんな……夷磨璃……」
351 :
夷磨璃
[sage]:2011/11/28(月) 01:28:22.66 ID:r3PWq3kDO
>>350
「・・・瞳・・・・・・お姉ちゃん、もう・・・僕、弟子止めます・・・・・・。
僕が瞳お姉ちゃんに会った時のこと覚えてる・・・?僕は強くなりたいから瞳お姉ちゃんの弟子になりたいって言った、でもね・・・・・・。嘘だったの、お姉ちゃんっ・・・!
僕が生き返った理由、それは強くなる為じゃない・・・。愛されたかったの、皆に・・・!
僕さ・・・凄く病弱だったの・・・・・・。いつもいつも熱が出たり咳が出たりしてた。そんな僕だったからかな、父上も母上も、僕を愛してくれなかった。
いつもいつも殴られて、蹴られて、あげく追い出された・・・・・・
もう死のうかなって、そう思った・・・。でも・・・・・・」
「瞳お姉ちゃんが『生きろ』っていってくれた・・・。ずっと昔に・・・・・・。僕は覚えてた・・・だからこうして今の僕がいる・・・。
・・・僕、もうお姉ちゃんには迷惑掛けられない。
もう僕たちは他人・・・・・・。」
352 :
瞳
:2011/11/28(月) 01:39:35.81 ID:LZuKS0tAO
>>351
「そうだったのか……でも、そんなこと言うな……迷惑だなんて思ってない!それに私は夷磨璃をいくらでも愛せる!」
弱った体で涙ながらに大声を出す。
「だから……どこにも行かないでくれ…あなたは私の大切な弟子なんだ……」
そっと震える手を夷磨璃へ伸ばす。
353 :
夷磨璃
:2011/11/28(月) 01:51:41.68 ID:r3PWq3kDO
>>352
「瞳お姉ちゃんは人間の時の僕を、そして今の妖怪の僕までを救ってくれるの・・・・・・?
し・・・ししょー!!うわああああんっっ!!!」
今まで堪えてきた涙をぶちまけてしまいたかった。
昔は本当に大変だったけど、今は幸せだと実感できる。
僕はこの人を追い求めてよかった・・・てね。
僕はただただ、腹の痛みを忘れ、ししょーの中で泣いた。
ししょーの胸のなかは、何よりも優しくて、幸せそのものだった。
//これで〆ますね。
絡みお疲れ様でした!!
354 :
瞳
:2011/11/28(月) 01:59:43.28 ID:LZuKS0tAO
>>353
「あ、ああ……私は、私は夷磨璃を救ってみせるよ……」
涙を流した夷磨璃を優しく優しく抱きしめた。
しかし、その心の内は……
(夷磨璃を救うなんて……私にできるのか……?いや、救わなければならない……だけど……そのためには……やはり……白龍を……)
夷磨璃からは見えない瞳の表情は、ひどく辛そうなものだった。
/お疲れ様でした。
355 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)
:2011/11/29(火) 22:15:37.18 ID:+mb5D+oDO
あのー、ここに参加したいのですが
どなたかいらっしゃいますか?
どのようにしたらいいでしょうか?
356 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(新鯖です)
[saga]:2011/11/29(火) 22:29:50.16 ID:8iLzTCqvo
>>355
れっつごーとぅーざしたらば
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/10398/1320762930/
357 :
夜行集団
:2011/11/29(火) 22:53:56.31 ID:VNB/MCfn0
昼時というのは、昼食に外へ繰り出すサラリーマンも人ごみに加わり、
唯でさえ人通りの多いこの繁華街は、急速に人口密度が上昇する。
しかし、一方この少年か少女か判別の付かぬ妖怪が歩く、
娯楽要素のないこの住宅街はむしろ、昼時に皆が家にこもるので静かだ。
「シュワッキマッセリ〜♪」
静けさにその澄み渡った歌声を響かせ、意気揚々と歩くこの妖怪。
今は教会のミサ帰りなのだろう、服装は讃美歌をそこで歌っていたために、
黒と白を綺麗に両方際立たせたシスターの修道服に身を包んでいる。
358 :
閑古鳥
[sage]:2011/11/29(火) 23:05:48.73 ID:y2oHYqDyo
>>357
「あわてんぼーのサンタクロース、実は業界の回し者♪」
静けさと澄み切った歌声をぶち壊しにするような、
何だか失礼な歌を耳障りな声でがなりながら飛んできたのは黒い羽の九官鳥。
シスターの頭上でばたばたと羽ばたいて、その肩に勝手に止まろうとする。
「よう、姉ちゃんまた会ったな。今日の歌は『魔王』じゃないのか?」
郭公時計の付喪神であるこの鳥は、相変わらず空気を読まない閑古鳥である。
場をしらけさせ、人を遠ざける煩さの他には、たいした実害は無い。
359 :
華音
:2011/11/29(火) 23:17:45.58 ID:VNB/MCfn0
>>358
クリスマスの前月、11。
その月は、ある意味華音にとって境界線となるものだ。
なぜなら音楽妖怪であるこの華音は、この月を最後に一ヶ月間ほぼ毎日、
いたるところでクリスマスソングを歌わさせられ、服装はサンタ服となる。
「お話でも神様の回し者です♪」
曲が流れるように、極力固定されない事を好むこの華音にその状況は、
クリスマスソングwithサンタに固定されるため余り赤服の彼に良い念を持っていない。
「今は【魔王】はいらっしゃいません!
代わりにとってもファンシーなあなたが来ましたけど」
歌を邪魔される事も方に止まられる事も気にしていないのだろう、
閑古鳥が華音の肩で羽を休めることを断わらず、
むしろ止まりやすいよう彼の逆方向に首を傾げていた。
360 :
閑古鳥
[sage]:2011/11/29(火) 23:30:17.54 ID:y2oHYqDyo
>>359
「なー。ほんの一日で全世界を回されるんだよな年寄りなのに。
その神様ももうちょっと労わってやるべきー」
修道服の肩に、黒い鳥はちょこんと乗っかった。
「これから赤と白の偽者が一杯街にあふれるぞー。おいらも騒ぐぞー。
そんで年越しは乱痴気騒ぎだワハハハハ」
年末にはよくこの鳥の生まれ故郷の歌が歌われるので、この鳥のテンションがあがるのは
クリスマス以降である。
「姉ちゃんは彼氏と過ごしたりしないのか?ん?」
くいくいっと鳥独特の動かし方で首を傾け、華音の顔を覗き込みながら
黒い鳥はセクハラオヤジのような質問をする。
361 :
華音
:2011/11/29(火) 23:41:33.34 ID:VNB/MCfn0
>>360
人気のなくなった静かな街並みの中、稀にも偶然にも彼らを見かける事があるのなら、
きっとその人は彼らの風体を不思議に思うだろう。
シスターさんが街中を気にする素振りもなく散歩をしていて、肩には黒いカラスで、
もっと言えば不審者だと疑ってしまうかもしれない。
「華音はこれからず〜〜〜っっとウィーウィッシュワです。
流石に24日連続同じ曲目じゃあ、華音も多少わがまま言いたくなってしまいます」
烏とは対照的に疲れた表情を今から浮かべて、
深く心の底からのため息をついた。
「例え華音にアベックが出来ても、12月は会いたくて会いたくて震えるだけですよ。
華音の引っ張りだこ具合は舐めてはいけません。
そういうあなたは、良いお相手はいるんですか?」
八つ当たりにと、閑古鳥のセクハラを逆手にとって黒い笑顔、
そして禁断の質問を投げかける。
362 :
閑古鳥
[sage]:2011/11/29(火) 23:56:00.66 ID:y2oHYqDyo
>>361
「わがまま言えば良いんだぜー、この国じゃ煩悩なんて大晦日の鐘で消えるんだろ。
たまに他の歌も歌ったって、うんざりするよりは良いとオイラは思うんだぜー」
思いのほか華音の表情が疲れた様子なので、黒い鳥はちょっと肩の上であたふたした。
落ち着きなさげにその足が踏みかえられる。
「そりゃ選り取りみどり!ヒイラギの下のかわい子ちゃんはぜーんぶオイラがとっちゃうもんね」
一瞬、閑古鳥の脳裏を太った三毛猫が過ぎったが、ぶるるっと頭を振って
黒い鳥は羽を膨らませて虚勢を張ってみせた。
「女の子を捕まえる網がありゃ、1ダースほどはおいらのだ♪」
そしてオペラ『魔笛』から、パパゲーノのアリアを一節歌ってみせる。
363 :
華音
:2011/11/30(水) 00:05:17.50 ID:Jv0xor230
>>361
「毎年108回のおんなじ音色の鐘を聞かなくちゃいけない。
お坊さんもきっと、煩悩を吹き飛ばしながら木魚の音色でもいいから挟みたいなんて、
ちょっとした我儘煩悩を生み出しているんですよ」
華音は曲の望みがあれば断らない、妖怪の性質上断れないとも言えるが。
ともかくまさに連続のXソングは、普段奏でられない状態を空腹とあらわした時、
さながらわんこ蕎麦状態なのである。
「意外と楽しいXを送るんじゃないですか!
でもあんまり良い子追いすぎて、フライド九官鳥なんて止めて欲しいものです」
意外と彼を疑わない華音であった。
364 :
華音
:2011/11/30(水) 00:06:03.86 ID:Jv0xor230
>>363
安価ミスです
>>362
ですスイマセン
365 :
閑古鳥
[sage]:2011/11/30(水) 00:12:17.50 ID:veui5CP5o
>>363
「やめてー!オイラ美味しくないよー!時計だし!壊れるだけだし!」
華音の言葉に、少し前の炎に焼かれた記憶が九官鳥に蘇る。
オーブンになんて入れられたら、自力じゃまず逃げ出せない。
それくらいにこの鳥は非力である。
「あれ?でも、女の子追いかけたくらいで何で焼かれなくちゃならないんだオイラ?」
閑古鳥は鳥頭を傾げて自問自答している。
366 :
華音
:2011/11/30(水) 00:21:54.30 ID:Jv0xor230
>>365
戯言が思った以上の反応を呼び起こして、
肩に止まっていたこの鳥が大きく反応した。
耳が痛くなったまでは良いのだが、ほんの少し動いた拍子の彼の小さなかぎ爪が、
華音の肩を少し引っ掻き痛かったらしい。
「華音は人や妖怪だけでなく、
良い声で歌として鳴く、狼、蛙、そして鳥さん達の動物たちにも友達がいるのですよ!
まあその中の七面鳥の友達が木で作った偽雌鳥の罠にかかって、
おっさんにおいしく頂かれちゃいました、って話なのです」
あの時は良い香りがしていたな〜、と目からは光をなくして華音は呟く。
九官鳥のちょっとした疑問から、
まさかの重すぎる過去話を引きずり出してしまったようだ。
367 :
閑古鳥
[sage]:2011/11/30(水) 00:34:50.27 ID:veui5CP5o
>>366
「クーリスマスが今年もやーってくるー、七面鳥と鶏のお葬式の日…♪」
空気を読まない九官鳥が歌った。メロディだけは明るい。
今の華音にどう反応されるかなんて、きっと考えもしていないに違いない。
「オイラ人間の作るものの中で、ケーキとシャンパンだけは評価する。
丸鳥のローストも悪くは無いけど作るところ見ちゃダメだな。
昔、鳥の羽むしってるとこ見てて鳥肌立ったもんな」
付喪な鳥でも鳥肌な瞬間はあるらしい。
「なあ、この一か月同じ歌歌うの飽きるなら、オイラが一緒に歌ってやってもいいぞ?
もともと、オイラの生まれ故郷も海の向こうの西のほうだしさ」
落ち込む華音を元気付けようと黒い鳥は申し出たが、閑古鳥が歌ったら客寄せにはなるまい。
368 :
華音
:2011/11/30(水) 00:45:26.25 ID:Jv0xor230
>>367
「しっちゃんを取り戻そうと華音がおっさんの前に立ったら、
―なるほど、次は僕を食べようか。もちろんあっちの意味で―
どっちの意味か分かりませんが怖いので逃げてしまいました。
弱肉強食だとしっちゃんは最後良い顔をして笑ってやがりましたよ」
華音の話しぶりと態度から窺うと、どうやらこの話の中でトラウマな部分は、
食べちゃおうかおじさんが割を占めているらしい。
「本当ですか!?なら3回に1回にでも呼びますよ!!」
九官鳥がお世辞にも行なった提案を聞いて、
今度の予想以上に大きい反応を示すのは華音の方であった。
彼の乗っている肩の方へ顔は素早く振りむき、そこに浮かんでいる表情はまさに、
藁をもつかむ溺れる人の様である。
どうやらそれほどに華音には重労働なようだ。
369 :
閑古鳥
[sage]:2011/11/30(水) 00:53:32.34 ID:veui5CP5o
>>368
「なんだ?そのおっさん、姉ちゃんのことまで食おうとしたのか?まるで鬼だな」
鬼に食われそうになったり魔王に捕まりそうになったり、
このお姉ちゃんは色々狙われやすいんだろうかと閑古鳥は思った。
「よし、変なのに目つけられないように、今年はオイラが一緒に歌ってやる!
賛美歌とかは昔レコードからの沢山聞いたから、色々歌えるぞ」
変態がいたら追い払うつもりの閑古鳥。
ハロウィンにフォード老人の手で完全復活を遂げたこいつが歌ったら、
どれほど人払いの効果がでることやら。
また次の年の華音ちゃんへの歌依頼が減りそうな気配も漂ってきているが、大丈夫だろうか。
370 :
華音
:2011/11/30(水) 01:05:25.02 ID:Jv0xor230
>>369
「人の筈、なんですけどね」
華音はそう言った後少し体温が下がって、小さく身震いをする。
冬だという事もあるが、もちろん知っている通り記憶の中のおっさんの仕業である。
「頼もしいです!!
この街に住んでいるんですよね?でしたら出番がやって来たら、
結構な声で犬笛ならぬ鳥笛、鳴き声を吹いて見せてやるですよ。
声がする方にすっ飛んできてください!」
性質上、華音に出せない声はほぼない。
今現在確認される中で出せていないのは、艶のある大人な声だけだという噂がたつほどだ。
おそらく笑顔の華音の言葉通り、その時がきたら獣にしか聞こえない高周波が、
繁華街の至る所から響き渡る事になるのだろう。
「その良い喉、一緒に酷使してもらいますからね!」
そろそろ次の歌の依頼がある。
散歩もお終いと九官鳥には肩から離れてもらい、華音は重荷のとれた解放感で、
顔をXイブの前日の子供のように輝かせて別れを告げる。
そんな走り去っていく華音の背中には、圧倒的な音楽の自身があった。
言葉悪く華音の自身の内訳を言えば、
彼がどんな悪く鳴いてしまおうが華音はすべて包み込んで、
ノイズすらもハーモニーに変えてやる、という意思があるのだ。
/これで落ちにさせていただきます
/絡みありがとうございました!
371 :
閑古鳥
[sage]:2011/11/30(水) 01:15:42.55 ID:veui5CP5o
>>370
「何かピーピー聞こえたらそこへ行けば良いんだな。まーかせろー!」
軽くうけあうと、ほんの少しの負荷の感覚を華音の肩に残して、黒い鳥は飛び立った。
きっと、クリーニング店の三毛猫はこの一月を心安らかに過ごせるに違いない。
何時も煩いこの閑古鳥は、店にいる間くらいは喉を休ませるために大人しくなるのだろうから。
「オイラ、歌声には自信あるんだぜー♪」
最後に空からそう言って、閑古鳥は店へと戻っていった。
レコードからの完全耳コピで、歌う時だけは歌手の声をそっくり真似ることが出来る。
ただし、レコードならではの雑音が正確に合間に混じるのは確実なのだった。
//お疲れ様でした、絡みどうもありがとうございましたー!
372 :
黒蔵
[sage]:2011/11/30(水) 22:57:39.63 ID:veui5CP5o
日没後。
帰宅する人間達が通りに溢れるのは、もうまもなくである。
灰色の作業服姿の若い男が、重たげにダンボール箱を担いでドラッグストアを出てきた。
バーコードに張られた赤いテープが会計済みなことを示す。
缶コーヒーの24本入りが三箱。
男にしてはやや細い腕とその背中には、やや持て余し気味の荷物である。
「…ぐはっ」
案の定、歩道の途中でダンボール箱の一つが滑り落ちる。
どうやら、箱は足の上に落ちたらしい。
男は慌てて箱を積みなおそうとしゃがみこんだ。
373 :
現人
[sage]:2011/11/30(水) 23:06:30.86 ID:nSKAnDJDO
>>372
「んー?」
そんな若い男へと近づいてくる足音
その足音の主は、やや近くで立ち止まる
「おーい、お前さん大丈夫か?」
そして、声をかけてくる。その声はなかなか若く感じられる
374 :
黒蔵
[sage]:2011/11/30(水) 23:13:38.52 ID:veui5CP5o
>>372
「あ、すみません。今、どかしますんで」
通行を邪魔しているのだと思った男は、顔を伏せたままで声の主に答える。
男が重ね直したダンボール箱を持ち上げようとした拍子に、作業服の襟元から
紐で下げられた翡翠の輪がするりと滑り出た。
裕福さとは無縁そうなこの作業服の男に似つかわしくないその高価そうなアクセサリーは、
尾を噛む蛇を模して作られている。そしてはっきりと判る清冽な神気を帯びていた。
「俺は大丈夫っす。邪魔してすみませんでしたっ」
両手を荷物に塞がれて、軽く頭を下げた男にはただの人間以上の何かは無い。
しいて言えば、十九、二十歳ほどであろうその面差しにはどことなく女性的な気配もある位だろうか。
375 :
現人
[sage]:2011/11/30(水) 23:28:45.24 ID:nSKAnDJDO
>>374
「いや、邪魔だと言いたかった訳ではないんだか・・・」
声の主、高校生ぐらいに見える帽子を目が完全に隠れる程に深く被った
しかし、それが何故かそれが不自然に見えない、青年は頭をかく
一瞬、顔が翡翠の輪の方に向いたがすぐに戻る
「それよりも、お前さん随分不安定そうに見えるが本当に大丈夫なのか?」
念を押すように尋ね、首をかしげる青年
帽子以外に不思議な点は無いと言えばないがやや気配が薄い
376 :
黒蔵
[sage]:2011/11/30(水) 23:38:06.49 ID:veui5CP5o
>>375
「こうやって、水平に積んで行けば何とかなるし、どうせ落としても壊れるものじゃないんで」
さっきのように足にでも落としたら、足のほうは大丈夫では無さそうだが、
それでも笑いながら青年の方へ顔を向けて、男は答えた。
(この人何で目まで隠してるんだろ?前、見えるのかな)
不思議に思った男は一瞬、探るように帽子の青年を見たが、
不躾に相手を伺っていることに気づくと気まずそうに目をそらした。
「だから大丈夫っす…うおっと!」
余所見をしたせいだろう。言った傍から一番上の箱が危なっかしくずり落ちかけた。
箱が2つならまだ担ぎやすかったのだろうが、持てるだけ持ち帰ろうと3つにしたのがまずかった。
どうしても積み上げた箱同士が滑るし、不安定なのだ。
377 :
現人
[sage]:2011/11/30(水) 23:49:23.02 ID:nSKAnDJDO
>>376
「ふむ、なるほどそれなら大丈夫だな?」
うん、と頷き微笑む青年。とはいっても口しか見えないのだが
「ん?、どした?」
その一瞬の視線に気付き、首をかしげる
「っと、危ない大丈夫じゃなかったみたいだな?」
すぐに箱の方に注意が逸れる
そのまま、落ちそうになった箱に手を伸ばす
378 :
黒蔵
[sage]:2011/11/30(水) 23:56:18.87 ID:veui5CP5o
>>377
「いや、何でも…うあ、すんませんっ!」
滑り落ちかけた箱を、青年の手が間一髪で止めた。
それを支えなおそうと作業服の男は下の箱を傾け、落ちかけていた箱を元の位置までずらす。
「ほっ……、どうも助かりました」
持ち直せたことに安堵して、男は歩き出そうとする。
(…帽子のこと聞いたら失礼かな。失礼だよな)
気取られないようにほんの一瞬だけ、横目でちらりと青年の方を探った。
何か特殊な帽子なのだろうかという好奇心が、その視線には在った。
379 :
現人
[sage]:2011/12/01(木) 00:04:16.78 ID:4WPXXb/DO
>>378
「なに、気にするなどうせなら運ぶの手伝うぜ?」
どうせすることもない、と付け加えおおらかに微笑む
「端から見ていると、なかなかに危なっかししな」
今度は気づかなかったらしく、そんな言葉を紡ぐ
帽子は見た目には変わった所はないが、青年が頭を動かしても微塵も動かない
380 :
黒蔵
[sage]:2011/12/01(木) 00:11:18.64 ID:wIT0KKDOo
>>379
「ええっ!いいの?!」
天の救いかとばかりに、声を上げて青年を見た。
先ほどまでの初対面相手の礼儀正しさの下には、意外と性格の幼い部分があるらしい。
「……実を言うとさっきので足痛めたし、箱一つだけで良ければ頼みたいんだけど、だいぶ遠いよ?」
自分はそのだいぶ遠い道を一人で3箱抱えて行こうとしていた癖に、心配そうに青年に尋ねた。
「この先の橋を渡って、川向こうなんだけど……いや、川までで良いかな」
後ろ半分は口の中で呟いて、お願いします、と青年に頭を下げようとした。
途端に一番上の箱がまた危なっかしく揺れる。
381 :
現人
[sage]:2011/12/01(木) 00:19:46.40 ID:4WPXXb/DO
>>380
「あぁ、問題ない」
微笑む青年、口調は多少荒いが以外と親切なのかもしれない
「というか、橋の向こうまで行っても構わんし1つと言わず2つでもいい・・・っと」
というよりも多少お節介の域であるようだ
箱が揺れるのを見ると落ちる前にと手を伸ばす
既にその手は2つ持つ方向に動いている
382 :
黒蔵
[sage]:2011/12/01(木) 00:25:40.95 ID:wIT0KKDOo
>>381
「ううん、流石にそれは俺も気がひけるし、川までで…。この次からは2つだけ買おう……」
箱を1つ青年に託すと、2つを肩に担いで作業服の男は歩き出す。
ちょっぴり片足を引きずりながら、運ぶ手間を惜しんで買い込んだことを今更に後悔しているようだ。
「…その帽子、特別な帽子なのか?何かちょっと変わってる」
歩きながらおずおずと尋ねてみた。
以前にこの男自身、禿げ隠しにニット帽子を被っていたことがあり、
聞いちゃいけないかもしれないと思いつつも、奇妙な帽子への好奇心が抑えられなかったようだ。
383 :
現人
:2011/12/01(木) 00:35:49.72 ID:4WPXXb/DO
>>382
「そうかい、まぁ仕方ないな」
ひょいと軽く箱を持ち上げ青年も肩を並べて歩き出す
「んー・・・帽子は特別と言うわけではないんだが
とりあえず顔を隠すために被っているんだ」
若干言い淀んだが、ゆっくりと返答する
何故顔を隠しているのかはわからないが
384 :
黒蔵
[sage]:2011/12/01(木) 00:44:46.11 ID:wIT0KKDOo
>>383
(やっちまったーー!やっぱ聞いちゃ不味かったんだな)
街明かりの中でもはっきり判るほど、男の表情には内心の動揺が現れている。
「…ごめん。悪いこと聞いた」
しょんぼりと気落ちしたせいで、ますます男らしさが失せる。
黙ったまま歩いて、あと1つ交差点を渡れば橋が見えてくるところで。
「もう直ぐそこだから、箱は橋の欄干の上に置いてくれる?」
赤信号で待つ間に、普通の人にしてみれば奇妙にも思えることを頼んだ。
385 :
現人
:2011/12/01(木) 00:50:56.64 ID:4WPXXb/DO
>>384
「いやいや、気にするな。隠してる理由は怒った時の顔が怖いってだけだからよ」
落ち込む姿を見てあわてて理由を説明する
以外と単純で馬鹿らしい理由である
「欄干になんでまたそんなところに?」
青年も不思議に思ったらしく質問をする
386 :
黒蔵
[sage]:2011/12/01(木) 01:02:50.21 ID:wIT0KKDOo
>>385
(それ、怒ってない時は、被って無くても良いんじゃないのか?)
…とは思っても、直接言葉で尋ねられないのはついさっきの質問でヘマこいたばかりなのと
元々この男がヘタレでチキンなせいだ。
とは言えその内心は表情に出ているので、顔色や空気を普通に読めるレベルの相手には丸わかりだろう。
そうやって他に気を取られていたせいで、青年に質問されてうっかりまた自分が下手を打ったことに気づく。
「置くのが欄干なのは…ええと、そもそもこれは人に頼まれてるもので
これからこれを取りに来てもらうんだけど、そのときに受け取る人に、渡しやすいからで…」
明らかに嘘である。答えながら目が泳いでいる。
このなよっちい男のことだから、ちょっと脅せば吐くかもしれない。
どうせこの川沿いのこの時間には、人通りなんで殆ど無いのだ。
387 :
現人
:2011/12/01(木) 01:12:53.07 ID:4WPXXb/DO
>>386
「生きているといつ怒るようなことがあるかわからないからなぁ
事故が起きないためにも普段から被っているんだ」
その雰囲気を察して、細く説明をする
「目が泳いでるぞ、状況から考えても完全に嘘だな」
若干飽きれ顔をして
「はっ!まさかこの箱に他人に見られてはまずいものが入っているのか!?」
そしてあり得ない方向に誤解し始めた
388 :
黒蔵
[sage]:2011/12/01(木) 01:20:47.11 ID:wIT0KKDOo
>>387
「ひぃぃぃ!」
何時怒るか判らないと自称する相手に、あっさり嘘を見抜かれてしまったヘタレチキンは縮み上がる。
しかも顔の半分を帽子で隠されていては、呆れ顔も呆れ顔だとは判らないのだ。
もちろん箱の中身は「見られて不味いもの」ではないが、これから先起こることは
「人に」見られては不味いのである。
(どうしようどうしようどうしよう)
ヘタレ男はオロオロウロウロと川面を見回すが、ぽつりぽつりと川岸に灯っている街灯のせいで、
橋の下は余計に真っ暗で川の流れる音のみが響く。
そしてこの橋の下で妖気が一つ、ぷかりと浮かんできたことにこの男自身は気づいてすらいない。
389 :
現人
[sage]:2011/12/01(木) 01:30:03.80 ID:4WPXXb/DO
>>388
「その慌てかた、やはりこの箱に何か危険なものが・・・!」
そしてその反応で加速する勘違い
軽く取り返しがつかないレベルに突入していく
「!・・・っと、なんだそういうことか」
しかし、妖気が浮かび上がってきた途端
何かに納得したように冷静になる
390 :
黒蔵&???
[sage]:2011/12/01(木) 01:41:10.42 ID:wIT0KKDOo
>>389
「なんだってなんだよ!」
一方で、妖気を感じ取れていないヘタレ男のほうはパニックが止まらない。
そして箱はどう見てもただの箱買いの缶コーヒーである。ちゃんとレシートもあるのだ。
『使いが参りました』『受け取りに参りました』
「…はい?」
その声でようやく気づいたヘタレ男の手から、缶コーヒーの箱がひょいと奪われる。
青年の手からも同様だ。
「え?えええ?なんで?蛇神が取りに来るんじゃないの?ねえ?」
『我らは代理で御座いまする。確かに受け取り申した』
青白く細い手が3組、橋の下の方からにょろーんと伸びてそれぞれ箱を持ち去ってゆく。
そして別の細い手がヘタレ男に小さく折りたたんだ紙片を渡した。
391 :
現人
[sage]:2011/12/01(木) 01:51:04.39 ID:4WPXXb/DO
>>390
「ほれ」
パニックな男を置いといて細い手にコーヒーを渡し一段落
「あ、そういえばお前さんが言っていた取りに来る人はあれであってたのか?」
つい渡しちまったけど、と付け加え首をかしげる青年
全く驚いた様子が無い所を見ればまず間違いなく普通の人間では無いとわかる
392 :
黒蔵
[sage]:2011/12/01(木) 01:56:36.30 ID:wIT0KKDOo
>>391
しばらくの間、欄干から何も見えない橋の下を呆然と覗き込んでいたヘタレ男が
不意に青年の方へ向き直ると半分泣きながら怒り出した。
「人間じゃないなら早く言ってくれ!すげー怖かったんだぞお前!」
仮にも運ぶのを手伝ってくれた青年に、実に無茶苦茶な要求である。
そもそもこの男自身、妖気の類は一切発していないのだ。
そんな相手に人間じゃないと明かせと言うほうが無理である。
まだ興奮が残っているのかぷるぷると震える拳には、さっきの紙片がクシャクシャに握られたままだ。
393 :
現人
[sage]:2011/12/01(木) 02:05:14.61 ID:4WPXXb/DO
>>392
「相手が普通の人間かもしれないのに明かせる分けねーだろ!!
大体そんなこと言うならお前から明かせばいいだろうが!」
正論を言ったかと思えば無茶苦茶な事も同時にいう
この青年も青年で妖気は全く発して居ないのだ
「まぁいい、さっき渡された紙は読まなくていいのか?」
ぐしゃぐしゃになっている紙を指差し
394 :
黒蔵
[sage]:2011/12/01(木) 02:16:23.84 ID:wIT0KKDOo
>>394
「そういやそうか。そうだよな…手伝ってくれたのに悪かった」
(俺、もう妖怪じゃないんだ)
青年の言葉に、ヘタレ男は一気に怒りが冷めてしおれた。
そしてくしゃくしゃになった紙を広げてみると、そこにある二種類の筆跡により
どうやらヘタレ男は再び街へ戻らねばならぬらしい。
「…俺戻らなきゃ、追加の品を買うようにってさ。八つ当たりしてすまなかった」
ヘタレ男はどこか虚ろな表情で、街へ向かって去ってゆく。
395 :
現人
:2011/12/01(木) 02:27:57.34 ID:4WPXXb/DO
>>394
「あ、いや気にすんな俺もついきつい言葉遣いになっちまってた、すまん」
頭をかき、その後頭を下げる
「そうか、じゃあさようならだな。できればまた会おうぜ」
青年は頷き、見送る
その後そういえば名前を聞いていなかったと思ったのだった
396 :
黒蔵
[sage]:2011/12/01(木) 02:38:55.19 ID:wIT0KKDOo
>>395
(船幽霊には、あの人が人間じゃないのは判ってたんだな)
街へ戻りながら、そのことを少し悔しく思い返す黒蔵。
妖怪なら当たり前にできることが今はもう出来ないのだ。
そして青年の名前を聞いていなかったことに思い当たるのは、
紙片にあった追加の品を探して商店街を閉店時間までうろつきまわった後であった。
397 :
巴津火『』 ミナクチ「」
[sage]:2011/12/02(金) 21:59:28.31 ID:KO0VueIYo
病室の中で、片腕の少年は浅い眠りについていた。
その寝相の悪さからは、寝返りを打てる程度の体力が戻ってきているのが見て取れるが、
その傷はまだ厚く巻かれた布に保護されている。
部屋の外では下級の蛇神が、人間には見えぬようその姿を隠して控えているが、
冬の廊下の寒さは、蛇の身には少しばかり堪えるようだ。
「……くしゅん」
扉の前に立つミナクチは小さくクシャミをしてから、現れた客人に気づいて驚きと共に一礼した。
「これはとんだご無礼をお詫びします。
まさかこちらへお運びいただけるとは。どうぞ、中へお入り下さい」
子供の姿のミナクチは、病室へと客人を誘った。
398 :
雨邑
:2011/12/02(金) 22:09:00.11 ID:u+B8h84+P
>>397
「・・・お疲れ」
部屋の外で番をしていたミナクチにそれだけ言うと、
雨邑は部屋へと足を運んだ。
「おひさしぶり」
いきなり雨邑は寝息を立てる巴津火の首元を引っつかむと、
そのままひっ立たせ、言葉をつなげる。
「少し目を放している間に随分派手なことをやったみたいね」
雨邑、目が恐い。
399 :
巴津火『』
[sage]:2011/12/02(金) 22:16:24.97 ID:KO0VueIYo
>>398
つかつかとよってきた気配に、目を開ける間もなく寝巻きの襟元がぐいと引き上げられる。
「いぃっ!!!…てぇっ?」
傷のうずきと共に上体を起こした巴津火の寝ぼけ眼に映るは、冷たく怒りを燃やした少女の瞳。
「雨む…ら?どうしたのさ?何か怒ってる?」
巴津火には何か言い訳する余裕も、それを考え付く暇も与えてもらえない。
妹の怒りをただ戸惑いながら受け止めるばかりだ。
そして客人の抑えた怒りの気配に、ミナクチのほうはさっさと扉を閉めて
安全な廊下へと退避している。
400 :
雨邑
:2011/12/02(金) 22:24:47.08 ID:u+B8h84+P
>>399
「随分悪いお友達ができたみたいね」
雨邑は冷たく言い放つと寝巻きの手を離した。
「天界に喧嘩売ったんだって? これ、お見舞い」
巴津火にドサリとパンパンに膨らんだビニールを渡す。
コンビーフのラベルや果物が透けて見えていた。
「あんた自分が・・・いや、あんたのお友達がなにしたかわっかてんの?
・・・消されるわよ、下手すると竜宮ごと」
雨邑は懐からスラリと細身のナイフを懐から出した。
刀身が蛍光燈に煌めいている。
401 :
巴津火『』
[sage]:2011/12/02(金) 22:39:42.17 ID:KO0VueIYo
>>400
「あう…う……ありがと」
寝巻きの襟を解放されて、一度はくたりとベッドに頭を落とすも、
直ぐに頭を起こして、巴津火は慌てて弁解を始めた。
「ちょっと待てよ、何か勘違いしてないか?お友達、って神代のこと?」
渡された見舞いの品は嬉しかったけど、そのあとに出てきたナイフは嬉しくない。
天界の出張ってくる前に、いまここで消されそうな気配である。
「それにボク、天界に喧嘩はまだ売ってない筈…なんだけどな」
これから喧嘩を売る気満々なのは、この妹に喋ってはいけないような気がし始めた巴津火だが、
「まだ」と言ってしまった辺りは上手く隠しきれて居ない。
母たる窮奇の智慧と読心の術は、どちらかというと巴津火よりも、その弟妹達の方へ強く
受け継がれているのだ。
402 :
雨邑
:2011/12/02(金) 22:52:58.39 ID:u+B8h84+P
>>402
「なにを勘違いしている」
そう言うと、ビニールからリンゴを取り出し皮をサラサラと剥き始める。
「“まだ”?」
ジロリと湿り気と冷気を伴った視線が巴津火に刺さる。
果物ナイフをリンゴから離して巴津火に切っ先を向けたかと思うと・・・
「うそつきなさい、天界も知るもんかとかあんだけ派手に言っといて。
てゆーか丸呑みって何だよ!?」
巴津火のすぐ脇に銃刀法に違反してない刃物が突き刺さる。
ベッドからは黄色いスポンジが覗いた。
雨邑、壁に耳有り障子に目有り。
窮奇の逆心はなくとも、伊吹の竜の目と櫛名田比売の天命を見る力を持っている。
「・・・はっきり言う、神代を裏切る気は在るか?」
403 :
巴津火
[sage]:2011/12/02(金) 23:09:16.71 ID:KO0VueIYo
>>402
「ぶっ!……雨邑、まさか!」
ベッドに突き刺されたナイフと、雨邑を交互に見る。
窮奇とよく似た面差しが静かに怒りで燃えている。
その瞳の冷たさと言葉の含む毒、なによりその内容の正しさに貫かれて
巴津火は勝てる気がしなかった。
「…全部見てたんだな、お前」
問いかけではなく確認の言葉である。
巴津火は溜息をついて天井を見上げた。やはり、この妹にはかなわない。
「神代とはそもそも友達なんかじゃない。
あいつがどう思ってるかは知らないけどボクはあいつにそう宣言した」
巴津火は雨邑を見上げて、その怒った顔を綺麗だと思った。
「…それに裏切るも何も、次に会ったらボクはあいつと全力で戦うんだ。
天界の奴らがボクの、あのヤマタノオロチの神話をわざと貶めた分をチャラにしてやるには
これだけじゃ足りないくらいだけどな」
雨邑が竜宮へ帰りたいと思っていることを、竜宮と天界の使者の間のやりとりを、
巴津火はまだ知らない。
404 :
雨邑
:2011/12/02(金) 23:21:56.40 ID:u+B8h84+P
>>403
「ああ、最初から最後まで・・・全部」
言葉の後半で雨邑は苦々しく表情を歪める。
巴津火の成長を期待してそのまま見に徹した事が悔やまれる。
わかったときにはなにもかも手遅れだった。
もっと慎重に神代の思惑を探っていればよかったと悔いても悔やみきれない。
「・・・すまない、こうなるまで放置していた私にも非がある」
ズボリ、とナイフをベッドから引き抜くと。
雨邑はリンゴを切り分け始めた。
「私が聞きたいのはそうじゃない・・・。
全力で戦って・・・その後神代を殺せるか、と聞いている」
もしこの状況から好転させられるとするならば。
殺生を極端に嫌う天界の代りに汚れ役を引き受けるしかない。
雨邑はどこか泣きそうな横顔で、リンゴを皿に載せて差し出した。
405 :
巴津火
[sage]:2011/12/02(金) 23:38:54.54 ID:KO0VueIYo
>>404
「いや、雨邑は何も悪くない。
ボクだって自分の意思で、あの双子と神代に天界が仕組んだ茶番の筋書きに
介入しにいったんだからな」
リンゴの甘酸っぱい匂いが部屋に満ちてゆく。
それは、巴津火に家族の存在を身近に感じさせる作用をもたらした。
「ボクが肩代わりした因果を漱ぐには、神代を[
ピーーー
]つもりで戦わなくちゃならないんだ。
勝ったらボクはあいつを[
ピーーー
]。そうしないとあいつを止められないんだ。
もしあいつが勝ったら、ボクがどうなるかは判らない。
あいつがボクを殺さない可能性に掛けてるけど、天界のほうがどう動くかは読めないからな」
左手を伸ばすと、雨邑の皿からリンゴを一切れ受け取った。
「…だから雨邑。もしもの時は、お前に竜宮の当主を継いで欲しい」
紫濁の瞳には、穏やかで落ち着いた光があった。
戦うことを本分として作られた暴れ神である今の巴津火にとっては、
まだ竜宮は投げ出したい重荷でしかない。
そしてそれを変えるかもしれない存在は今、巴津火の目の前に居る。
406 :
雨邑
:2011/12/02(金) 23:58:42.90 ID:u+B8h84+P
>>405
「あっ、それは全然かまわない。むしろ望むところ」
先ほどの湿っぽい雰囲気とは打って変わって雨邑はケロリと表情を変える。
雨邑、ドライ。
「だがその前に一言言わせて欲しい」
ガタリ、と立ち上がると。
大きく振りかぶって・・・
「いつまでも甘ったれた目ぇしてんじゃないわよ!!」
ビターーーーン!
・・・。
「いい機会だからはっきり言う、窮奇はもう居ない。
あの女は死んだ、紫狂もだいぶ方針が変わっている。
いつまでも自分の生まれやオロチの因果だけで物を考えてるようじゃあ、
神代と大差はないぞ」
巴津火の紫に濁った目を、雨邑の蒼く透き通った目が覗き込む。
「本当に大切なものは自分の心で決めろ。
見つけられないのなら、窮奇から抜け出せないなら。
見つけるまで、窮奇を忘れられるまで・・・絶対に死ぬな」
407 :
巴津火
[saga sage]:2011/12/03(土) 00:16:03.57 ID:JPh2NUcVo
>>406
激しい音と衝撃で、布団の上に伸びる巴津火。食べかけのリンゴは枕の上へと落ちた。
そして、巴津火の身体が細かく震え始める。
「……ぷっ」
赤い手形をつけた巴津火の頬が歪んだ。
ぽろり、と紫濁の瞳から一滴、涙が瞼に押し出される。
(そうだ。神代とボクは、そこが似ているのかもしれないな)
「くくくっ、あは、はははは……雨邑、お前、いい奴だな」
どこか吹っ切れたように巴津火は泣き、そして笑っていた。
(それにいい女だ。窮奇よりもずっと)
「判った。ボクはそれまで、絶対に死なない」
蒼い瞳の少女を紫濁の瞳が見上げて、不敵に笑って見せる。
同時に左腕は少女の手をしっかりと捕まえた。
「その代わりお前も、ボクの傍に居ろよ」
それは、約束でもあった。
408 :
雨邑
:2011/12/03(土) 00:36:24.31 ID:iJy49R1sP
>>407
「うむ、よく言った」
ケロッと雨邑はようやくいつもの無表情に戻る。
心なしか笑っているように見えるのはきっと気のせいではないだろう。
「合点承知、もとよりその腹積もりだ」
捕まえた手を、細くしなやかな指は強く強く握り返す。
「さて、覚悟完了したところで神代対策、あ〜んど救済策でも考えるか。
神代には最悪死んでもらうつもりではあるが、このまま悲劇の主人公ぶられるのも腹立たしい。
そもそも天界の身から出た錆だからただ言いなりになるのも癪だし、
なによりあの小生意気なヘラヘラ顔をケッチョンケチョンにしてやらんと気が済まん」
無口な雨邑が珍しく多弁になる。
ここまで来たらとことん欲張るつもりだろう。
「まずは天界にこちらの誠意を見せてやらないといけないな。
神殺しに関与したのは変えようもない事実だ」
そこで、と指を立てる。
「“神代御一行フルボッコ大作戦”だ。
まずは約束の教会を海に作りにきたところを竜宮全員で取り囲んで袋叩きにする。
あのクソ偉そうなくせに大したことしてないなんちゃって組織を解体してやろう」
雨邑、鬼畜の所業。
409 :
巴津火
[saga sage]:2011/12/03(土) 00:57:16.45 ID:JPh2NUcVo
>>408
「えー、ボクもうちょっとリンゴ食べてのんびりしたいんだけどなぁ…。
一人の時にもう散々考えて、頭痛くなったんだもん…」
上目遣いに雨邑を見るが、あのやる気に満ちた少女は多分そんな我侭を許してはくれないだろう。
あの纏う雰囲気には巴津火も覚えがある。
遊びに出る前の衣蛸や、蛸の大臣に一発拳骨かましに行く前の出世法螺の婆ァの意気込みと
どこか似通っているのだ。
(雨邑、案外楽しんでる?)
紫濁の瞳は、一見無表情な少女の僅かな変化にも気づくようになり始めていた。
「フルボッコは良いけど、神代とボクはサシで勝負させてくれよ?
海辺なら、取り巻きの一人は植物が操りにくくなって戦力を失うと思うけど、榊って女には注意してくれ。
今、零や三凰に頼んで探ってもらってるけど、そいつだけは嫌な気配があるんだ」
単に数だけでは押せない何かが榊にはあると巴津火は思った。
天界の神々にとってさえ、神代はどうしようもなくえんがちょな存在なのだ。
それにわざわざ加担しに行く3人の中でも、あの女はさらに異質だったのだ。
410 :
雨邑
:2011/12/03(土) 01:19:22.61 ID:iJy49R1sP
>>408
「・・・気の持ちようだな、一人ではどうしようもなく閉塞感があったが。
案外2人になってみると何とか成りそうな気がしてくる。
あぁ、あの出来の悪いお友達は巴津火に任せるぞ。
あいつの馬鹿騒ぎを全力で止めて、まともな命に引きずり出してやってくれ」
巴津火も巴津火なりに色々考えてきたのだろう。
そんなことに今更気がついてフッと笑う。
「榊? あぁ、あの女か」
雨邑はもう1つリンゴを取ると今度は皮を剥かずに切り分け、
兎の形へと切って行く。
瞳の奥では深い光が揺らめく。
「確かに異質だったな、異質というより何も無い奴だった。
・・・確かに底が知れない、警戒はしておく」
大方あの女が裏で糸を引いているのだろう。
正直、神代にはあれだけの大事を成せるだけの器も頭もあるとは思えない。
「・・・おい、そこの盗み聞きしている蛇神。
巴津火の治せるだけ治せ。
巴津火、私が一緒に居るからには安寧など無いと思え」
かなり態度の大きくなった雨邑。
無表情が崩れ、ニヤリと微笑む。
その笑顔は窮奇とは別の意味で不吉なものがあった。
411 :
巴津火「」 ミナクチ 出世法螺
[saga sage]:2011/12/03(土) 01:34:57.36 ID:JPh2NUcVo
>>410
(兎リンゴ!)
キラキラと期待を込めた輝きで、紫濁の瞳は雨邑の手元を見つめた。
「一人より、二人か。そうだな。
ボク一人で何とかするつもりで居たけど、雨邑が一緒だと確かにこういうのって楽しいな。
…ん?盗み聞き?おい、入れ」
遠慮がちに扉が開く。
ミナクチ 『申し訳ありません、実は……先ほどから白累様がお見えなのです』
出世法螺 『あれ、若い二人が良い雰囲気だと思ったんだけど、ばれちゃったのなら仕方ないわね』
白い髪を高くひっ詰めたきびきびとした老女が、部屋に入ってきた。
『雨邑様、お邪魔致しますよ。あらぁ、殿下もまた一段といい男になりましたこと』
この婆がほほほと笑うのは、巴津火の頬の赤い手形のせいである。
それに気づいて巴津火は耳まで赤くなった。
「婆ァは何の用だ、一体!」
リンゴ片手に威張っても、どうにも様にはならない。
412 :
雨邑
:2011/12/03(土) 01:57:18.06 ID:iJy49R1sP
>>411
「む、はじめまして。此度竜宮に嫁ぐ身と成りました雨邑と申します」
雨邑、床に座り込んで丁寧にお辞儀をする。
サラッと嫁候補⇒確定事項に変わってるのはご愛嬌。
「今回の事変では神代一派が天界の神を殺めた一件。
私の監督不届きで申し訳ありません。
これからは天界に精根尽くしつつ、
神代を無理矢理にでも改心させることにしました。
今後その件について是非とも竜宮の皆様にご協力をお願いしたいのです」
なんだか未来嫁の一存で決められちゃうとか神代が可哀想である。
(ま、後は巴津火次第ということで)
あのド卑屈をそうさせるのは簡単じゃないだろうが。
紫狂としての巴津火じゃなく、オロチとしての巴津火でもなく。
巴津火としての巴津火ならきっとできる。
「さて、巴津火。いっちょ悪友を下らん道から引っ張り出してやろうではないか」
413 :
巴津火「」 出世法螺『』
[saga sage]:2011/12/03(土) 02:16:00.29 ID:JPh2NUcVo
>>412
『こちらこそご挨拶が遅れまして申し訳御座いません。
私は竜宮にて雨師を育成しております出世法螺の紅累と申します。
もうすっかり髪も白くなりまして、皆には白累と呼ばれております。
実は雨邑様が竜宮にいらっしゃった時、龍の姿で一度だけお目にかかりました。
姫様のお輿入れを皆、楽しみにしておりますの。
この天界絡みのごたごたを早く片付けて、祝言の準備に取り掛かりたいものですわ』
手をついて雨邑に頭を下げる老女。
既に巴津火は、完全に蚊帳の外である。
「お、おう。やろうぜ雨邑」
雨邑に話を振られてようやく割り込めるかと思ったら、横から婆ぁが話を攫っていった。
『雨邑様、よくお聞き下さいましね。
天界はこの件、付け入る隙を大分残してくれているのですよ』
「…おい婆ぁ」
『姫様の前でなんですかその口の利き方は!
どこぞの名も無い三下ならいざ知らず、名のある神格には恥にしかならぬと知りなさい』
びしりと一喝されて巴津火沈黙。
414 :
雨邑
:2011/12/03(土) 02:22:28.17 ID:iJy49R1sP
>>413
「どんまい」
ビシリ、と親指を立てる雨邑。
なるほど竜宮に居たくない気持ちわからんでもない。
「姫様だなんて滅相もございません、
私は恥ずかしながらまだまだ神格の因果も未熟な一妖怪に過ぎません」
“今は”確かに未熟である、“今は”。
純粋培養で育ったオロチが完全に転生と成すことは考えるも恐ろしい。
「ふむむ、付入る隙とは一体?」
すっかり悪女2人のターンになっていた。
415 :
巴津火「」 出世法螺『』
[saga sage]:2011/12/03(土) 02:40:46.40 ID:JPh2NUcVo
>>414
(竜宮なんて嫌いだ竜宮なんて嫌いだ竜宮なんて嫌いだ竜宮なんて嫌いだ…)
未熟な巴津火が布団に潜って拗ねている間も、悪女達の悪巧みは続く。
『天界は本来なら神代の母である巫女を天へ召し上げるなどして、聖邪の交わりを防ぐべきだったのです。
或いは出生があったとしても、天界で出生した赤子を育てれば、氏より育ちで
良き神格となったかもしれませんし、地上で生まれた後も通常の討伐と言う形で決着をつける方法もあった筈』
しかしそれをしないまま、天界の神々は身ごもった母子を呪い続けた。
『もともと人を呪わば穴二つと言うように、呪詛は本来なら負の行い。
正義を名乗る天の神格がしてはならぬことなのですよ。それをアマツカミ達に命じて行わせたのですから、
それを命じた神格があの神代に殺されたのは、当然の因果でしょう。
呪った相手の他にもう一つ、己が墓穴を掘ったに過ぎませんよ』
死んだ神格はまだ1人である。
呪詛に加担した、させられた神格はまだ他に居るのだから、本来なら墓穴はその数だけ存在するのだ。
『悪魔と巫女の結婚というよりも、天界の過ちが元となって、正しくない方向へ不幸が連鎖しているのです。
それを誰かが止めねばなりません。いわば、天界の尻拭いですよ』
その尻拭いの役割を、この幼い邪神たちがやろうとしているのだ。
『もちろん、私ども竜宮もお手伝いしますとも。
この婆、天界へ登ったことが幾度か御座いますからね』
法螺貝は、山で三千年、川で三千年、海で三千年を過ごして龍となり天へ登る。
それがこの出世法螺の婆であった。
416 :
雨邑
:2011/12/03(土) 02:55:14.34 ID:iJy49R1sP
>>415
「成る程、天命と天罰に殺される者等いくらでもいるのだから、
天界も始めから殺しておけばよかったのにあえてやらなかったと。
確かにこれは付け入るのに充分な隙でございますね」
確かにこの点を攻めれば天界はグウの音も出まい。
文字通り、完全に不始末の結果なのだ。
ちなみに雨邑、生れ落ちて約半年。
年齢差は2万倍の悪女コンビは対と成す。
「そして、これはつまり。
神代を我々が始末すれば天界は万々歳、
もし始末しきれずとも徹底的に改心させればもう手が出せないということ」
これはいい。
神代には戦いが終ったら天界の見習いとして永遠にこき使われて貰おう。
幼い邪神はニタリと微笑んで椅子に腰掛けた。
417 :
巴津火「」 出世法螺『』
[saga sage]:2011/12/03(土) 03:21:48.94 ID:JPh2NUcVo
>>416
『まーだまだ御座いますとも。
神代に触れて滅びた数多の者達、天界の思惑に巻き込まれた穂産姉妹とその周辺の
罪なき地上の神々、天界の不始末のとばっちりを受けた無関係な者の「死」について、
果たして天界の神格は何の責任も無いと口を拭ってしまって「良い」ものでしょうかねぇ?』
品の良い笑顔の下に、どす黒い思惑を隠して出世法螺の婆は歌うように企みごとを紡ぐ。
『そんな天界の駄目神格なぞ辞めさせて、真っ当に働くものに席を譲らせたって良いじゃないですか。
例えばこの件の決着をつけてこれ以上の犠牲を防ぐ「英雄たち」に、とかねぇ?』
布団の中で聞き耳を立てていた巴津火は、うげぇっ、と表情を歪めた。
竜宮の主になるのすら窮屈で面倒臭いのに、この糞婆ァはそれ以上の面倒臭さを
巴津火に押し付けるつもりのようなのだ。
『姫様が聡い方で、私ども下々の者には本当にありがたいことですわ。
この暴れん坊殿下は力は余していても、まだまだ赤ちゃん。
もっとも男なんて幾つになってもそんな部分が御座いますけれどもおほほほ』
皿の上に並んだ兎のリンゴに、「あーん」のお邪魔は流石に出来ませんのでねぇ等と
冷やかしながら、出世法螺の婆は一礼して退出していったのだが。
…布団の下で巴津火のライフはとっくにゼロだったりする。
418 :
江口 恭介
:2011/12/03(土) 23:53:05.59 ID:iJy49R1sP
「くくく・・・、また見つけたぞ!
やはりこの通りはハントのしがいがあるっ!」
夜道にて籠を担ぐ一人の男。
籠の中にはこの夜の獲物が積み重なっていた。
彼の名は江口。
「やっぱりこの通りはよくエロ本が落ちてるなー」
妖怪でも霊能力者でもない。
ただのスケベな少年である。
419 :
現人
[sage]:2011/12/04(日) 00:02:28.32 ID:R52+IobDO
「よう、お前さんこんなところでなにしてんだ?」
そんな、少年の後ろから唐突にかけられたこの状況における最悪の言葉
さっきまで人の気配なんてまるでなかったのに、正確には今もないのだが
「その格好からしてごみ拾いかなんかか?」
振り返って見れば帽子を目が完全に隠れる程に深く被った
しかしそれが何故か不自然に見えない青年が首をかしげていた
420 :
江口 恭介
:2011/12/04(日) 00:08:19.18 ID:rkcsERH6P
>>419
「まさか! エロ本ハントにきまってるじゃねぇかおっさん!」
江口、ただの少年ではなかった。
この男・・・恥じらいなどありはしないッ!!
逆にニヤニヤしながら歩み寄ってくる。
「ところでおっさん、なんで俺に話しかけた?
・・・いやっ! 皆まで言うな、わかってるわかってる!」
ポンポンと青年の肩叩きながら、籠を下ろす。
「ああ! 一冊分けてやるよっ!
あ、これとこれとこれはダメだぞ!」
江口、座右の銘。
『男は皆、須らくスケベである』
421 :
現人
:2011/12/04(日) 00:18:10.89 ID:R52+IobDO
>>420
「ふむ、ここまで堂々と宣言されると無駄に清々しいな」
呆れ半分感心半分の顔をする、まぁほとんどわからないけど
「いらんいらん、ごみ拾いなら手伝おうと思って話しかけただけだよ」
苦笑いしつつ、手を横にふる
422 :
江口 恭介
:2011/12/04(日) 00:28:37.44 ID:rkcsERH6P
>>421
「またまたぁ〜〜〜!!」
江口、不敵。
青年の背中をバンバン叩きながら籠から一冊取り出す。
「ホントは欲しいくせにやせ我慢すんなよー。
男は欲望に生きてなんぼだろ! ほぉ〜れほれっ」
本を広げて青年に見せ付ける。
それは全年齢板ではとても描写できないような、
男女が凄いことに成ってる絵面だった。
明らかに最近の規制を逸脱している激レアの脱法モノである。
423 :
現人
:2011/12/04(日) 00:39:26.12 ID:R52+IobDO
>>422
「いらねっての、それに夜とはいえ通りでそんなもん開くな」
反応超クール、規制確実な物を見せられても動揺ひとつしない
まぁ大昔から生きている(自称)守り神なので耐性普通にあるよね
「つかよ、そんなに好きなら自分だけで持ち帰れよ」
すっ、と顔を指差しもっともと言えばもっともな事を言う
424 :
江口 恭介
:2011/12/04(日) 00:45:44.45 ID:rkcsERH6P
>>423
「ちぇー、なんでぇなんでぇ。
お前ももしかして妖怪とかいう奴等なのかよ」
江口はつまらなそうに籠を背負いなおす。
・・・ん、ちょっと待て。
今、気になること言わなかったか?
「じゃあな、おっさん!
俺これから公園と空き地と富永さん家の古紙置き場に行くから!」
江口は手を上げてそのまま駆け出していった。
425 :
現人
:2011/12/04(日) 00:53:24.21 ID:R52+IobDO
>>424
「誰が妖怪だ誰が、つかお前さん妖怪を知ってるのか」
一応妖怪ではないので否定し、その後疑問を口にし首をかしげる
「行動はえーな、おい・・・ま、じゃあな」
しかし返答前に去ってしまったので苦笑いしつつ、手を緩やかに振り見送る
426 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/05(月) 22:23:35.60 ID:Xw3hfoJLo
小鳥遊医師の診療所。
「ん〜ふふ〜んん♪」
灰色の作業服の清掃作業員が、集めたゴミの袋を裏手に運んでゆく。
鼻歌混じりなのは、衣蛸の叡肖がどうやらしばらくは陸に上がってこないと聞いたためだ。
それだけで気が楽になる上、もう直ぐ借金返済が完了するために、自然と動作も軽くなっている。
モップも箒も踊るように扱っているその様子からは、
彼を見馴れていない者でも十分に、その浮かれっぷりが見て取れることだろう。
427 :
東雲 犬御
:2011/12/05(月) 22:41:18.20 ID:JcIG/QFXo
>>426
裏手へゴミ袋を運ぶ黒蔵の前に、曲がり角から現れる。
そこを曲がると、両手を白衣のポケットに突っ込んで、気怠そうに壁によりかかる大男の姿があった。
「……はァ」
鼻歌交じりに上機嫌な黒蔵とは打って変わって、東雲はずぅんと効果音が聞こえてきそうなほど沈んでいた。
不機嫌というより、疲れ切っているという感じだ。
だが無理もないだろう。普段の業務に加え、空いた時間には個性的な面々にいじられる毎日。
そして治療という名の実験――しかも、どれもほとんど、あの死ぬほど大嫌いな小鳥遊と一緒なのだ。
そんな疲れが溜まっているのだろう。
妖気がなくなっているのもあるだろうが、やってくる黒蔵にも気づいていない様子だ。
428 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/05(月) 22:51:57.89 ID:Xw3hfoJLo
>>427
片手に箒とモップをまとめ持ち、もう片手にかさばるゴミ袋。
そして足元は浮かれて疎かなのだ。
「ふおうっ!?」
テンションの違う、しかも苦手な相手に思いっきり唐突に出くわしてしまった。
妖気を探知できず、犬御に驚いた黒蔵は、
持っていたモップの穂先を自分でふんずけて転びかかる。
ミニスカナース犬御ちゃんの記憶もまだ鮮明だったりするので
この送り狼と二人っきりで合うのは黒蔵も色々と気まずい。
なのに今、バランスを崩したせいで、パンパンに詰まった大きなゴミ袋は
犬御の足元へとすっ飛んでゆく。
429 :
東雲 犬御&黄道 いずみ
:2011/12/05(月) 23:03:11.31 ID:JcIG/QFXo
>>428
「あァ? ……ってうおぉッ!?」
人影が曲がり角から現れ、東雲が何気なしにそちらを向く。
ばったりと目が合った……のも束の間。
勢いよく足元に飛んでくるゴミ袋に、慌てて東雲が飛びのく。
だが、ただでさえ疲労している上、注意を黒蔵に払っていたこともあり、
「ってえ!!」
東雲は脛にゴミ袋を食らい、廊下に尻餅をついてスっ転んだ。
ドッ! と背中をうち、東雲はぐったりと動かなくなった……。
「……」
「お兄チャンたち、何面白いことやっての?」
倒れた東雲の枕元に、厚底ブーツのツインテ少女が、にんまりと笑いながらやってきた。
430 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/05(月) 23:10:47.39 ID:Xw3hfoJLo
>>429
「え?うそ?」
まさかゴミ袋の直撃程度で犬御が倒れるとは思っていなかった。
誰よりも黒蔵が吃驚である。
取り落とした箒とモップ、そしてゴミ袋を一まとめにして邪魔にならぬよう寄せると
黒蔵は恐る恐る犬御の傍によって、触ろうかどうしようかと差し出して途中で迷ったその手が空を泳ぐ。
(…えーと、どうしよう)
その躊躇いっぷりが、どこか変質者めいても見えるのだ。
そして背後からの「お兄ちゃん」の呼びかけにビクリと縮み上がって振り返ったら、
ますます後ろめたいことを何かしていた風に見えてしまうことに、黒蔵本人は気づいていない。
「い、いずみ…。どうしよ、狼が…ゴミ袋ぶつけちゃっただけなのに……」
倒れこんだ白衣の大男の隣で、男とも女ともとれる容姿の作業員は、おろおろと弁解しつつ挙動不振である。
431 :
東雲 犬御&黄道 いずみ
:2011/12/05(月) 23:25:43.28 ID:JcIG/QFXo
>>430
「……」
にたあ。
あわあわと両手で空を掻きながら慌てる黒蔵の姿を見て、
イタズラを思いついた子供そのもののような顔で、黄道は意地悪く唇を吊り上げた。
「おに――きゃあ、お姉チャン、こんな白昼堂々お兄チャンを襲うなんて、いずみ超いけないもの見ちゃった感じィ?
やーん、超やばぁーい!!」
裏道に誰かがいたら聞こえそうな大声で、いずみが叫ぶ。
しかしわざとらしく顔を隠し、指先の間からちらっと舌を覗かせている。
完全に遊んでいる。
432 :
現人
[sage]:2011/12/05(月) 23:31:34.36 ID:0Grjd24DO
「ふむ、なにやら騒がしいと思ったら・・・」
唐突に聞きなれない声が聞こえてくる声の方に顔を向ければ
帽子を目が完全に隠れる程に深く被った青年が角から顔を出しているのが見えるだろう
「ずいぶんと賑やかなことになってるな」
青年は倒れている男、慌てる男、騒ぐ少女を順にみて、感想を口に出す
433 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/05(月) 23:37:04.95 ID:Xw3hfoJLo
>>431-432
「ちょ…いずみっ!おまっ!!」
「お姉チャン」に驚き「襲う」に慌てふためき「やばぁーい!」でついに黒蔵は行動に出る。
しーっ、と左の人差し指を自分の口元にあてながら、駆け寄った黒蔵の右手はいずみを背後から
捕まえて押さえ込もうとする。
「違うだろっ!おい、騒ぐな!!」
じたばたと暴れる少女の厚底ブーツの踵の一撃が、黒蔵の脛に決まるまであと何秒だろうか。
そしてその様子は、黒蔵にも見覚えのあるあの気配の薄い青年から見て、どんな風に見えるだろう。
ツインテ少女の口を押さえようとする清掃作業員は、まだ帽子の青年の存在に気づいていない。
妖気を察知する能力は黒蔵には無いのだ。
434 :
東雲 犬御&黄道 いずみ
:2011/12/05(月) 23:44:24.37 ID:JcIG/QFXo
>>433
「ちょっ、離してよぉ腕ちぎれ……きゃっー! 襲われるー!」
ぎゃあぎゃあと叫びながら、必死に抵抗する。
しかし彼女のいうとおり、激しく動けば目も当てられないほどグロイことになるため、あまり激しくは動けない。
が、暴れた少女の固い厚底ブーツが、運よく脛に黒蔵の脛に衝突した。
「!」
力が抜けたその一瞬、
>>432
「」キラーン
角から現れた青年を視界に定めると、黄道はいきなり彼の腕に飛びついた。
くるんっと青年を軸に一回り。
そして彼を壁にしながら、甘えるような猫撫声を上げる。
「通りすがりのお兄サン助けてえ!
そこのお姉チャンねえ、そこのお兄チャンに襲いかかって白昼堂々いやーん(はぁと)なことを……
しかも口封じにいずみまで! いやーっ! 超ありえなくない!!??」
すりよる黄道の腕は、彼女のテンションに対し死人のように冷たい。
もし青年が普通とは違う「なにか」を感じられるなら、この少女が普通の人間でないことに気付くだろう。
正確にいえば、半分人間で半分妖怪、であるが。
435 :
現人
[sage]:2011/12/06(火) 00:01:22.26 ID:KaDqfeVDO
>>433
>>434
「ふむ、なかなかにデンジャラスな絵面だな」
もし、妖気を察知することができたとしても妖気の無い
厳密には妖怪ではない青年に気づけたかは微妙である
「まぁ、面白そうだし、しばらく様子を見るか」
そして面白半分でただでさえ薄い気配を完全に消そうと
「うおっ」
したところで、少女に見つかり盾にされる
「へぇー・・・?」
そのまま少女の話を一通り聞き、少し考える
「お前さん、流石にそんなことしたら捕まるぞ?しかもこんな小さい子まで巻き込んで」
そして、慌てる男に顔を向け諭すように語りかける
楽しそうな顔をしているのでまずからかっているだけだ
多分、少女が普通の人間ではないことにも気が付いている
436 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/06(火) 00:09:55.13 ID:FYXva1eVo
>>434-435
「ぐっはっ!!」
蹴られた痛みで脛を押さえて飛び上がった隙に、いずみは他の男のもとへと走る。
それを片足で跳ねながら慌てて追う黒蔵。
「ちょっと待て!あり得ないのはお前だコラ!!そもそも!誰が!お姉ちゃんだっ!」
鼻息荒く抗議したその時、いずみが縋る相手に見覚えのあることに黒蔵は気づいた。
「あっ!この前の!」
失礼にも真正面から指差しながら、帽子の青年へと清掃作業員の視線は釘付けだ。
そして明るいところで見れば、夜に見た時よりもずっと、清掃作業員の顔は「お姉ちゃん」っぽく見えるかもしれない。
少し離れたところに倒れている白衣の大男は、この「お姉ちゃん」が倒すには少々ガタイが良すぎるものの、
帽子の青年のほうでも、この「お姉ちゃん」が人間じゃないことを知っている筈なのだ。
「だから!違うんだってば!」
帽子の青年に楽しそうな顔をされても、黒蔵がいろんな意味で崖っぷちなのは変わらない。
黒蔵の「誰がお姉ちゃんだ」発言を、根底から覆せる数少ない者の一人がいずみなのだ。
437 :
東雲 犬御&黄道 いずみ
:2011/12/06(火) 00:21:52.55 ID:OQfASWRno
>>435-436
「だよねえだよねえ、お兄サンもそう思うよね。超ありえないよねー!!」
そんなことを言いながらも、目は完全に面白がっている。
というか口に当てている手も、頬を膨らませて笑いを堪えているようにしか見えないのだった。
痛みに耐えながら激しく抗議する黒蔵を見て、黄道はさっと青年を盾にする。
「お姉チャンはお姉チャンでしょ?
確かに胸は超・絶・壁だけどぉー」
お前がいうな、とツッコミが入りそうだが、一応黄道≧黒蔵である。
というか彼に胸はない。多分。男としてなくてはならないものもないが。
「ゥ……」
ぎゃあぎゃあと騒いでいると、倒れている東雲がうなり、ピクリと動いた。
この状況、弁解できるのは彼くらいだろう。
438 :
現人
[sage]:2011/12/06(火) 00:30:05.45 ID:KaDqfeVDO
>>436
「よっす、また会ったな」
のんきに片手を上げ挨拶する、以前顔は楽しそうなままで
「しかし、お前さん女だったのか、ならもう少し慎みを持ったほうがいいぞ?」
今までの発言から男であることは大体わかっているだろうが、その上でこの発言である
「っと、お前さん大丈夫かい?」
唸り声を上げた倒れている男に声をかける
ついでにからかうのも終わりかね、と口のなかで呟いた
439 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/06(火) 00:36:42.50 ID:FYXva1eVo
>>437-438
「俺は!その子に振り回されてる側なんだ!……って、
だーーっ!!俺はお兄ちゃんだから!お姉ちゃんじゃないから!」
帽子の青年へ力説するものの、その顎周りに髭の生えそうな気配は無い。
ええいこのツインテ娘に拳骨でも落としてやろうか、と黒蔵が拳を握った時、
背後で犬御が目覚めたらしい。
「胸が絶壁なのは当たり前だっ!!俺の胸がそんな、むにょんっばいんっしてたまるかっ!」
この涙を浮かべての黒蔵の魂の底からの叫びは、犬御にはどう聞こえただろうか。
少しばかり前に衣蛸の悪戯で、あの送り狼は酷い目にあわされたのだから。
(ちくしょー!いずみの奴楽しんでやがるっ!拳骨だ拳骨っ)
帽子の青年の注意が犬御に向いている隙に、心底楽しんでいるらしいツインテ少女を睨み、
硬く握った拳骨に息をはーっと吐きかけながら黒蔵は一歩ずつ近づく。
440 :
病院組
:2011/12/06(火) 00:48:49.99 ID:OQfASWRno
>>438-439
「あ、ァ……?」
状況が分かっていない東雲は、ゆっくりと上半身だけで起き上がる。
鋭い赤い瞳を細め、周囲を見渡す。
そこには黒蔵と、なぜだか黄道と、見知らぬ青年が一人。
確か自分は、曲がり角でばったりと黒蔵とはちあい、彼が転んで投げ出したゴミ袋にぶつかってこけて……。
気を失っていたのか、と思い出すと、東雲は深い深いため息を吐いた。
(まさかあの程度でノックダウンしちまったのか、俺ァ……)
「!」
声を掛けられ、東雲は意識を彼に向けた。
赤い瞳から、隠しきれない警戒心が滲み出ている。
(見たことねェやつだな、……人間か?)
「問題ねーよ」
ぶっきらぼうに言うと、東雲はゆっくり立ち上がった。
――が。
「きゃあー! こないでー!」
><←こんな感じの表情で、黄道は青年から離れると、楽しそうに逃げ回る。
実際拳骨を喰らわされると、彼女の頭がグロイことになるので、それは避けるだろうが。
お仕置きをされても、痛覚がないのをいいことに、黄道は状況を思い切り楽しむつもりでいた。
そこへ――。
「何を騒いでいるのですか?」
抱えた大きな段ボール箱で視界がさえぎられ、ふらふらと非情に危なっかしい状態の助手河童が、
東雲たちの背後から現れた。
441 :
現人
[sage]:2011/12/06(火) 00:58:53.17 ID:KaDqfeVDO
>>440
>>439
「はっはっは、まぁ落ち着け落ち着け」
力説する男とは対象的にこの青年は気楽なものである
からかっている側なのだから当然と言えば当然なのだが
「ん、それなら良かった」
倒れていた男の返答を聞き、ニッと軽く笑う
「ふむ、危なっかしいな」
そして、新しく現れた状態を見て一言
442 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/06(火) 01:03:56.19 ID:FYXva1eVo
>>440-441
「いーずーみーぃ……あ、纏センセだ」
どす黒い怒りのオーラを漂わせつつツインテ少女を追いかけていた黒蔵が、
河童に気づいて冷や汗を流してヤバイ表情になった。
河童の纏の表情からはおよそ感情というものが読み取れず、叱責するときもその行動の時まで
何をするか読めないために、黒蔵は纏が苦手なのだ。
怒られる前に箒とモップとゴミ袋を手に取ろうとして、犬御と帽子の青年の傍へと向かう。
箒を拾おうと慌てながらかがみ込んだ拍子に、灰色の作業服の胸ポケットから、
折りたたまれた紙片が二つ落ちた。
「おっと!!」
黒蔵が飛びついて大事そうに拾い上げたのは、黒い羽の透けて見えるほうの紙包み。
もう一つは、犬御と帽子の青年の傍へと落ちた。
そして箱で前方の見えない纏には、何が起きたかはよく見えないかもしれない。
443 :
病院組
:2011/12/06(火) 01:14:34.07 ID:OQfASWRno
>>441-442
東雲がバッと後ろを振り向くと、ふらふらよろよろしている纏の姿が。
かなり大きな段ボールだが、怪力の彼女にとって重たいわけではなく、単純に前が見えていないようだ。
「げっ、女河童……オイオマエ離れとけ!」
東雲は青い顔をして青年に注意を促す。
なぜならこの纏患奈という名の河童、とんでもないドジなのだ。
いつこの荷物をぶちまけるかわかったものじゃない。
だが、その東雲の注意は、黒蔵が取り落とした紙包みによってそがれることになった。
ちらりと透けてみえる黒い羽。それを東雲が見落とすはずもない。
ずくり、と胸に鈍痛が走る。
そしてもう一枚、傍らに落ちた紙包みに意識を奪われた瞬間――。
「おおっと」
間の抜けた感情のない声と共に、纏は東雲の背中に段ボールを解き放った。
中から飛び出したのは、彼女の大好物の茄子であった。
茄子が紫の滝のように、東雲に襲いかかる。
「〜〜!!」
「……あちゃー」
声を出す暇もあたえない内に、東雲は茄子の中に埋まってしまった。
黄道はげらげらと面白がって笑っている。
あちゃあ、とはいっているものの、纏の表情に変化はない。
ぷるぷると震える腕の中には、一枚の紙包みが握られていた。
444 :
現人
[sage]:2011/12/06(火) 01:22:02.69 ID:KaDqfeVDO
>>443
>>442
「お?なんか落としたぞ?」
近くに来た紙包みをとりあえず拾おうと屈む
「ん?」
そして、屈んだが為にその忠告に対する反応が遅れ・・・
「おわぁぁああ!?」
見事なまでに茄子の滝に飲み込まれた
445 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/06(火) 01:29:38.63 ID:FYXva1eVo
>>443-444
(ほっ、四十萬陀の羽無くすところだった)
薄紙に包まれたその黒い羽は、黒蔵と犬御が想いを寄せる夜雀の羽である。
帽子の青年も、その羽に僅かに残る妖気を、それと知ることが出来るかもしれない。
羽をポケットに大事に仕舞い込んだ黒蔵が、背後の気配に振り返ると…
そこには茄子の山とそこから突き出す犬御と帽子の青年の顔があった。
「うわー、狼の茄子漬…」
いずみの笑い声に被せてさらに黒蔵は、恋敵の送り狼に思ったままを呟いてしまった。
一方、纏の手にした紙片に、帽子の青年は見覚えがあるだろうか。
橋の欄干まで缶コーヒーの箱を運んだ時、船幽霊の青白い手が黒蔵に渡していたあれである。
纏が紙片を開けば、中には『追加の買い物』と達筆に書かれた筆文字の下に、
字面だけでそれと判るであろう濃厚で扇情的なエロ本及びそれ系の雑誌タイトルが、
ずらりと並んでいるのを目にするかもしれない。
そして犬御の鋭敏な嗅覚にだけは、その文字からの磯臭い、明らかに誰の手によるものか判る匂いが届くかもしれない。
さらにいずみがそれを覗き込んだら…、黒蔵はもはや「お姉ちゃん」呼ばわりされるだけでは
すまないかも知れない。
446 :
病院組
:2011/12/06(火) 01:48:27.68 ID:OQfASWRno
>>444-445
「……」
「申し訳ありません、東雲犬御。それと知らない方」
抑揚のない声でいいながら、纏は茄子に埋もれた二人に頭を下げる。
青年が患者だったらどうするつもりだったのだろうか。
紫色の中から出た顔には、疲れも吹っ飛んで青筋が浮かんでいる。
狼の聴覚は、蛇の呟きも敏感に察知していた。
「おいこらクソガキィ……誰の茄子漬だとォ……?」
ゴゴゴゴゴ。
効果音とともに妖気が溢れている。
だがその前に、東雲は自身が手に何か持っていることに気が付いた。
手にした紙片からは、これまた東雲の大嫌いな人物のニオイを感じる。
「お兄チャンこれなにぃー?」
「オイテメェ!!」
「黄道いずみ、私にも見せてください」
突然割り込んだ黄道が紙片を奪い去り、茄子を片手にのんきにかじる纏がそれを覗き見る。
そこに並んであった文字列は……。
「「…………」」
纏は無表情のままであったが、黄道の顔には明らかに軽蔑の表情が浮かんでいた。
突き刺すような視線で、まるで「変態」と訴えているようだ。
東雲は溜め息をつきながら、茄子の海から抜け出すと、
青年に手を差し伸べた。
「オイ、抜けれるか?」
447 :
現人
:2011/12/06(火) 01:55:26.66 ID:KaDqfeVDO
>>446
>>445
「・・・とりあえず、出ねぇと話にならねぇ、ふん!」
かろうじて出ている腕で地面を掴み茄子から体を引っ張り出す
その結果若干逆立ちみたいな体制になった
「・・・お前さん、どういうパシられかたしてるんだ?」
その際、紙の内容が見えたらしく若干呆れた声で問う、逆立ちのままで
「あぁ、大丈夫だ、一応な」
差し伸べられた手に気づかず脱出した青年は今更ながら返答する
やっぱり、逆立ちのままで
448 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/06(火) 02:02:58.99 ID:FYXva1eVo
>>446-447
衣蛸の叡肖が目下謹慎中で陸には当分上がってこないことを、ついさっきまで黒蔵は喜んでいた。
今は、心底恨めしく思っている。
(今夜、虚冥さんにあったらどこで買えるか聞こうと思ったのに…)
叡肖からの買い物指令は、少々マニアックすぎて商店街では入手できなかったのだ。
あの銀髪のホストに尋ねたところで爆笑されるのは目に見えているものの
少なくとも虚冥なら、いずみのようなあんな冷たく偏見に満ちた視線は寄越さないだろう。
そもそもミナクチへの嫌がらせの為に、あの衣蛸はそんなリストを追加して寄越したのだ。
男の娘専門誌がリストにさらりと混じっていたりする辺りにも、そこは見て取れるのだが。
今は狼から怒りを買い、女性陣からは冷たい視線と無表情。
そんな黒蔵が今縋れる先は、帽子の青年だけだった。
「それ、叡肖さんって衣蛸が俺の上役に頼んだ買い物。
コーヒーとか色々頼まれて、俺が代わりに買ってるんだ」
パシらされている実態を知っているのは、この帽子の青年だけである。
「俺、黒蔵。この前手伝ってもらった時、名前聞いて無かったよな」
紙片の最後のほうには別の細い筆跡で小さく
『手が離せないので、代わりに頼みます。ミナクチ』と書いてあったりもするのだが、
主文であるリストが墨色も濃く達筆なので、どうにも目立たないのだ。
449 :
病院組
:2011/12/06(火) 02:13:37.45 ID:OQfASWRno
>>447-448
「お兄チャンこーいうの好きなんだ……変態。超ありえないんですけど……」
半妖とはいえまだ中学生の黄道にとって、あのタイトルはアウトだったらしい。
纏はといえば察しているのか何も言わないが、むしろノーツッコミのほうが心が痛いのではないだろうか。
「そうか。……さて、クソガキィ」
すっと差しのべた手を戻すと、東雲はぐりんと黒蔵のほうへ鋭い目を向けた。
元々疲れていたことやゴミ袋のことやさっきの茄子など、
半分以上八つ当たりであるが、東雲のイライラは頂点に達しようとしていた。
そしてその矛先は、もちろん黒蔵に向けられるのである。
「覚悟はイイか?」
ゴキッ、と拳を鳴らし、殺気を溢れさせながら黒蔵に近付いていく。
しかしその背後から、纏が声を掛けた。
「そうそう、東雲犬御。あなたにも渡すものがあったのですよ」
「あァ?」
「どうぞ」
纏から投げ渡されたのは、一冊の封筒。
東雲が苛立ちながらその封をきり、中から取り出したものを見て――
「ぶっ!!!!!」
思い切り噴き出した、と同時に、思わず写真を地面に向けて手放してしまった。
封筒に入っていたのは、幾数枚もの写真。
それもあの時、叡肖によって東雲が女体化し、犬御ちゃんとなった時の写真である。
加えてその後小鳥遊に好き勝手された時のものであるため、服装のバリエーションとかポーズが色々ry
450 :
現人
:2011/12/06(火) 02:17:50.69 ID:KaDqfeVDO
>>449
「へぇー、大変だなぁお前さん」
感心したような声を出す青年、若干哀れみも含まれている
「あーそういえばそうだったな、今度あったら聞こうと思っていたのに忘れてた」
ぽりぽりと頭をかく、平然と片手で逆立ちしながら
「俺は現人、宜しくな黒蔵」
ようやく普通の体制に戻り、ニカッと無駄にさわやかに微笑む
「ん?お前さんどした?」
吹き出した声を聞いて、そちらへと顔を向ける
幸い封筒の中身はまだ見ていない
451 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/06(火) 02:29:53.87 ID:FYXva1eVo
>>449-450
「だーかーら、俺の趣味じゃないんだってば!!現人頼む、証言してくれ!!」
いずみからようやくお兄ちゃん呼びはされたものの、また違うところで汚名を被ってしまった。
そして茄子から解放された犬御が、ついさっきまでの黒蔵のように拳を握って迫ってくる。
「良くない!良くない良くない!」
犬御から急いで逃げようとした時に、意外なところから救いがやってきた。
ぶちまけられる封筒の中身に、何だろうと黒蔵はしゃがみこみ…。
「ぶはっ!!」
赤面して片手で口元を覆った。
散らばった写真からは目をそらしたのに、かえってあの時女性化犬御にのしかかられた時のイメージが
鮮烈に蘇ってきてしまう。
結局、誰にも殴られていないのに黒蔵は鼻血を流す羽目になった。
「ごめん現人、俺逃げる。また今度な」
抑えた指の間から赤い雫を垂らし、今のうちだと黒蔵は逃げていこうとしたのだが、
犬御の手にリストを残したままなのに気づいて、何とかして取り上げようとする。
さっさと逃げられない辺り、黒蔵という男はつくづく運というものに見放されているらしい。
452 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/06(火) 02:31:36.89 ID:FYXva1eVo
// ×犬御の手→○いずみの手 に訂正します
453 :
病院組
:2011/12/06(火) 02:42:56.90 ID:OQfASWRno
>>450-451
「見るな!!!」
東雲は必死な形相で叫ぶと、思わずぶちまけてしまった写真を掻き集める。
妖気も感じない見知らぬ人間に、女体化した姿を見られるわけにはいかない。
というか恥ずかしい。絶対見られたくない。というのが東雲の本音であったが。
纏はなぜこんなものを持ってきたのか。
その答えは簡単だ。小鳥遊に命じられたからである。
だが、そうこうしている間に、
「ッ……テ、テメえええええ!!」
見られた見られた見られた。
しかも黒蔵にはあの時のこともある。
傷つけられる自尊心。東雲がリスト片手にプッツンする。
「こんな紙切れくれてやらァ……だが先に殴らせろォォォ!!!」
ぶんぶん振り下ろされる拳。
これが黒蔵にクリーンヒットするまでは解放してもらえないだろう。
「申し訳ありません。怪我はありませんでしたか?」
茄子を食べ終わった纏が、現人に声を掛ける。
一応心配しているようだが、その瞳からは感情が感じられず、表情もぴくりともしない。
「……見たところ、どこも悪いようには見えませんが。患者ではないようですね。
私はこの診療所で院長の助手をしている、纏患奈というものです。
彼女は――ここで預かっている子供で、黄道いずみといいます。
そしてあそこでキレている男は東雲犬御、私と同じ院長の助手です」
今後ともごひいきに、と纏は喋り出しとかわらない声でいった。
454 :
現人
[sage]:2011/12/06(火) 02:59:56.59 ID:KaDqfeVDO
>>453
>>451
「はっはっは、まぁ誤解は大抵解けにくいもんだ証言してもあんま変わらないと思うぞ?」
苦笑いしつつ
「ん?そうか、それじゃな黒蔵」
逃げるという言葉を聞き、ひらひらと手をふる
「あー、大丈夫だ特に傷はない」
自身にかかる声を聞き、軽く笑いながら否定する
「纏患奈、黄道いずみ、東雲犬御だな、俺は現人、ま今後とも宜しくな」
名乗りを聞き自身もまた名前をいう
「さてさて、そろそろ俺は帰ることにするぜ、またな」
いって早々景色に溶け込むように去って行く
//そろそろ寝ます!お疲れ様でした!&ありがとうございました!
455 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/06(火) 03:02:14.53 ID:FYXva1eVo
>>453-454
東雲犬御に追われつつ、黄道いずみを追いかけて、黒蔵は次第に現人と纏から遠ざかってゆく。
そして何とかいずみの手から紙片を奪い返したのと、犬御の拳が黒蔵の後頭部に
クリーンヒットしたのはほぼ同時だった。
鼻血に染まった手に買い物リストをしっかり握り締めて、清掃作業員は昏倒した。
この後犬御に捕獲されてどこぞへ引きずられてゆくのかもしれないし、
その場でしばき倒されてボロボロになって転がることになるかもしれないが、
少なくとも黒蔵現人に返事をすることは出来なさそうだった。
//ここで落ちます。お二人とも遅い時間までありがとう御座いました!
456 :
黒龍
:2011/12/06(火) 22:57:05.78 ID:sCNJckyDO
とある夜の繁華街、辺りはクリスマス色にそまりつつある。
そんな楽しそうな雰囲気のなか、電気屋から出てくる紺色の服の青年。
「・・・はぁ、欲しいジャンク品が品切れとか。
なんか俺、最近ツイてないなー。」
どうやら今日も一人。彼女(彼氏)はどうやら忙しいようだ。
溜息を一つ付き、自販機へと向かい、コーラのボタンを押す。
ガコン、と出てきたコーラを開ければ・・・ブシュッ
「つっ・・・・・・。」
本当にツイてない。
457 :
夜行集団
:2011/12/06(火) 23:08:56.47 ID:YPUXh06W0
>>456
いつだって夜にホストがホストクラブにいるわけじゃない。
そう言わんばかりに電気屋の向かいにある、
やたらと老舗な匂いを漂わす北海道直産のお店から彼が姿を現した。
「wwwwwwこれは掘り出しもんだっていうwwwwww
やっぱり本物はここだよなwwwwww」
スーツ姿で銀髪のこの姿からは似つかわしくない、
大きな金属製の牛乳の容器を、大事そうに抱えてこの男はにやけ、
目の前でコーラのゲリラ作戦をくらった黒龍がいるのを認めた。
「お、おーすwwwwww
なんだ?あの都市伝説の不幸少年の不幸が移ったかっていう?wwwwww」
まさかその都市伝説が、この前醜態を見せてしまった彼とも知らず、
虚冥はへらへらと軽い態度で黒龍に話しかけた。
458 :
黒龍
:2011/12/06(火) 23:17:06.35 ID:sCNJckyDO
>>457
「・・・・・・・・・。」
うわぁ、とかなりいいたげな表情で虚冥を見る。
余ったコーラを引っ掛けてやろうかな、だの金属質のよく解らない物をひっくり返そうかなだの思ったが、ここは早く立ち去りたい。
「・・・・・・俺を笑いにきたのか?」
若干虚冥との距離をとって、服をハンカチで拭きはじめた。
459 :
虚冥
:2011/12/06(火) 23:25:28.12 ID:YPUXh06W0
>>458
こちらは笑顔で近づいたのに、
と虚冥は本心ではないにしても、それこそ馬鹿にしているのか意外そうな表情を浮かべた。
だが虚冥の本心がどうあれ、突然睨みつけられれば困惑するものだ。
「馬鹿野郎wwwwww偶然のロマンチック対面をしただけだっていうwwwwww
第一俺は他人の不幸を笑わねえよwwwwww」
他人の不幸を虚冥はあまり笑うことは少ない。
よっぽど滑稽なものか当事者が天狗であれば話が別だが基本は、
自らがやらかした対象へのちょっかいが虚冥には一番笑えたりするのである。
「それに俺はもはやそんな不幸じゃ笑わんwwwwww
俺の知り合いにはwwwwwwもっとダイナミック不幸をやらかすのがいるからなっていうwwwwww」
ぐんと腕を組んで胸を張って見せ、虚冥は特定の容易い彼を思い浮かべる。
460 :
黒龍
:2011/12/06(火) 23:35:10.90 ID:sCNJckyDO
>>459
「・・・・・・・・・ぶふっww」
顔を逸らしたかと思うと、黒龍は必死に笑いをこらえながら吹き出した。
「これよりダイナミックな不幸ってww随分凄い奴なんだなwww(田中と黒蔵は例外だがな)
それに、あんたっていつも楽しそうだよな、羨ましいよ・・・・・・。」
つい最近、宛誄にえぐられた心の傷が痛む。
それ以来、黒龍は少し元気もないし、残念なこと続きだ。
461 :
虚冥
:2011/12/06(火) 23:44:43.51 ID:YPUXh06W0
>>460
「池田屋でもねえのに階段落ちするからなっていうwwwwww」
眼光を鋭くとがらせたかと思うと、今度は緩めて笑いだす。
心の秋の空ばりの変化っぷりを見せつけられ、虚冥の中の黒龍評価がまた不思議なものへと変わった。
以前喫茶で見かけたときには、零と確かとっても近い体勢でいた気がする。
虚冥は頭を冷やし切ってその光景を思い出してみれば、ほんの少し違和感を感じるものだからだ。
「笑っとけ笑っとけwwwwww
取り敢えず笑顔を作っておけばwwwwww自然と楽しくなるぜっていうwwwwww
第一にみんな羨ましがられるほどに幸運なんかじゃねえんだwwwwww」
黒龍と虚冥の様相は、まるっきり鏡合わせだ。
へらへらと笑い続ける銀髪の彼は、対局の落ち込む黒龍になにげなんく、
ついでに買っていおいた牛乳瓶を一本黒龍に差し出した。
462 :
黒龍
:2011/12/06(火) 23:58:46.05 ID:sCNJckyDO
>>461
「笑顔・・・か。お、牛乳!!ありがとうな!」
その場でフタを開けて牛乳を一口。
本当に些細なことだが、虚冥に貰ったのが嬉しかったのか、凄いにこやかだ。
しかしこれを虚冥に見られてると気づけば、顔を赤らめて焦るはず。
「な、べ、別に虚冥が笑顔作れって言うから言う通りにしただけでぇ?あ、あんたから貰った牛乳が嬉しいかった訳じゃないんだからねっ////
あ、そういえばあの姉妹さんは無事だったらしいな。俺も会いに行きたいが・・・」
463 :
虚冥
:2011/12/07(水) 00:09:26.38 ID:w8r42nEN0
>>462
乳製品が好きな者に悪いやつはいない。
この理論にのっとって虚冥は、目の前の少し不可思議なレッテルを張っていた彼の見方を、
やんわりと不思議なやつだけに留めておくことにした。
「うぶふぉ!!wwwwwwww
てめえwwwwww不意打ちに笑わしてくんなよっていうwwwwww
オートマチックツンでれとか初めて見たわwwwwww」
そして目の前で口に運ばれる牛乳を見ていると、
乳製品オタクを自負する虚冥も飲みたくなり始めるのは当然の事。
そっともう一つの牛乳瓶を取り出して、
慣れない者ならばかなりの防御力を誇るあの蓋を容易く開け、瓶を傾けた。
「ああ、ちゃんと帰ってきたっていうwwwwww
なんてか神代に対しての未練もさっぱり消滅してなwwwwww」
満足そうに頬を緩ませた虚冥は、
首をほんの少し傾げて、去る前の姉妹と、
帰ってきた姉妹の様子がまるっきり違う事になんとも言えない疑問を感じていた。
「会いに行きたいが、ってなんだよwwwwww
会いに行きゃあいいじゃねえかwwwwww」
464 :
黒龍
:2011/12/07(水) 00:21:12.93 ID:qV+ocvdZ0
>>463
「わ、笑うな//////」
今、この場にロケットランチャーがあるなら、既に撃っている勢いである。
だが、自然と動物の調和、と言えるべき牛乳が美味しく、顔がほころんだ。
「行きたいけど…なんつうか……気まずい。
俺、死ぬ前にアネさん達に会ってなんやかんやしたからさ。」
行きたいが行けない、というパターンは良くある。
その中で、今回は
「彼氏と喧嘩しちゃって、謝りたいけど言いにいけない!」の様なパターンだ(黒龍が思うに)
465 :
虚冥
:2011/12/07(水) 00:32:06.19 ID:w8r42nEN0
>>464
気軽に黒龍へと提案したつもりなのだが、
虚冥の予想と反して当の黒龍は何故かもじもじとし始める。
怪訝に思って理由を聞き、納得してため息をついた虚冥はしぶしぶと、
状況のめんどくささを思い出して頭を掻いた。
「まあ確かに、殺されかけてたからなお前らwwwwww
気まずさで言えばアネさんアニさんもMAXだっていうwwwwww」
しかし、牛乳を一度ちびりと飲んでから返答には、
到底いざこざとかを慮った気配はなかった。
「そんなもん誤っておけよwwwwww
もともと多分あの榊のせいだっていうwwwwww神代も含めてなwwwwww気にする事ねえよwwwwww
そんなんで躊躇ってたらwwwwww
意外なとこで死んでとどのつまり、後悔の中死ぬ事になんだwwwwww
存外に命は軽く消えちまうからなwwwwwwそれこそティッシュばりにwwwwww」
466 :
黒龍
:2011/12/07(水) 00:44:51.12 ID:qV+ocvdZ0
>>465
「謝れるうちに謝っておくのは分かってるんだけどな…。」
しばらくうじうじしながら、牛乳を飲む。
確かに、あまり気にすることでもない。
直ぐにふっきれて元通りになれば良いだけのことなのだ。
だが黒龍、謝ることが苦手と言うか、素直になれないだけなのだ。
だからツンd(「言わせねーよ?!」
「う…そ、そうだな…分かったよ、俺、謝りに行く。白龍の分もな。」
467 :
虚冥
:2011/12/07(水) 00:54:47.38 ID:w8r42nEN0
>>466
軽い調子ではあるが持論を黒龍に告げても、なかなか二の足を踏む黒龍。
しかし煮え切らない態度であっても、虚冥は決断をいち早くと迫ることはしなかった。
「おうおうwwwwwwちゃんと言っとけwwwwww
アネさんアニさんの好きそうな菓子でも持ってけば簡単に釣れるっていうwwwwww」
なぜなら、別れを得意でないことが簡単に予想できるあの姉妹なのだ、
当然の如くその際には、ある程度の引っかき傷を生んだのだろう。
へらへらとした重みのない態度にも、ある程度の慎重さを強いるほどには。
「あいつの分もって、白龍も呼べよwwwwww
ちょこちょこあれの妖気を感じてるけどwwwwww忙しくはねえだろwwwwww」
468 :
黒龍
:2011/12/07(水) 01:03:17.86 ID:qV+ocvdZ0
>>467
「あれの妖気…?嘘だろ……?
ほ、本当に白龍の妖気か?
お前の知ってる、あの白龍のだな!?」
こんなときに虚冥が冗談を言わないことくらい分かっている。
だが黒龍には信じられなかった。
まさか、作られた白龍が生きているなんて。
急に目を見開き、虚冥にぐいっと近づく。
その瞳の奥には妹を心配する兄の意思と
過ちを犯そうとしている妹を倒そうとする意志の二つが混じり合っていた。
469 :
虚冥
:2011/12/07(水) 01:10:58.94 ID:w8r42nEN0
>>468
今日は何度も想定を外される日だと、掴みかかられて驚きながらも、
一部の小さな自分は冷静に黒龍の姿を見つめていた。
しかし大部分、表情として出る虚冥の顔には、
黒龍の姿に思い出したくもないあの時の、あの頃の自分が重なって更に困窮した風がある。
「どうしたんだよwwwwww必死すぎwwwwww
白い龍っつったらそいつしかいねえだろっていうwwwwwwゲームならいざ知らずwwwwww」
ほんの少し、黒龍の必死さに押されてしまう。
苦笑いすらも一瞬浮かんだ虚冥は思わずそっぽを向きながら、へらへらと返答した。
「何だお前ら?
復活とかしてたんだろっていう?後で聞いたけどwwwwww
それから一度も会ってねえのか?」
そして虚冥の顔は、今度には怪訝な顔になる。
二人の、そして彼らの別れには、並々ならぬものがあったと聞いているのだ。
470 :
黒龍
:2011/12/07(水) 01:22:34.34 ID:qV+ocvdZ0
>>469
虚冥の返答にふと我を返し、そっと手を離した。
手は少し震え、汗が滲み出ている。
「い、いや、会った。俺、白龍に会ったよ…。
ご、ごめんな。急に変なこと聞いちゃって、ハハッ。」
その後は、魂が抜けたかのように呆然としてしまった黒龍。
手に持っていた牛乳瓶を床に落としたのにも気づかず、
ただぶつぶつと呟き始めた。
「…んで、……れ…ちに…………ってく…れ、ない…」
471 :
虚冥
:2011/12/07(水) 01:29:27.03 ID:w8r42nEN0
>>470
黒龍の態度は、信用したり納得したりするにはあまりにも挙動不審で、
細かな事は基本気にしない性質の虚冥でさえも目を細めた。
首を傾げて見つめる他人の筈の虚冥にも、
なにか、訳の分からない事態が起こっているという事は感じている。
「お〜い、独り言したいんなら俺帰るぞっていう?」
歩み寄った虚冥は誰とでもなく呟く黒龍の目の前で、
意識の確認でもするように手を数回振って見せた。
面白く奇怪な者と絡むのは楽しいが、おかしな者と絡むのはあまり好まないのだ。
472 :
黒龍
:2011/12/07(水) 01:37:20.99 ID:qV+ocvdZ0
>>472
「くっ……。あ、ああ…、じゃあな……。」
俯いた顔からは、辛そうな黒龍の顔が伺えるはず。
しばらくこの状態が続くかと思えば、
山へと続く道へとフラフラと歩いて行く。
この後、黒龍に何が会ったのかは本人<達>しかいない。
//夜行さん、絡み乙&ありがとうございました!
473 :
虚冥
:2011/12/07(水) 01:45:06.06 ID:w8r42nEN0
>>472
「・・・?」
一体何がこれほど彼を狼狽させたのだろうか。
虚冥は前後の会話を思い出してみても、決定打にある内容は探し出せなかった。
なにせ龍の兄妹の件に、榊が関与しているなんて思いもしていなかったのだから。
「まあ、いいかっていう。零にでも聞いてみるか」
しばらく森へと消えた彼とは違って、夜の人の多い中一人で立ち尽くし、
通行人の視線もどうやら意識に入りこませないほどに考えていた。
虚冥の思考のパターンを、幾重にも潜り抜けて進められた榊の流れは、
まっただ中にいる彼のどれだけの推察をもってしても、真にたどり着くことはできなくさせていた。
諦めて店に変えるなかでも虚冥は、依然心にひっかかったなにかに悩まされることになる。
/こちらこそ絡みありがとうございました!
474 :
フェルニゲシュ
:2011/12/07(水) 23:14:58.97 ID:DxjYzH+DO
「うっわあああああ!ふざけんなあの医者の女!!
この俺様を騙しやがったなあの野郎!」
ビール瓶を片手に、かなりぶちギレた様子の俺様。
なんせ、あれだけ信用したのに飲ませていない、というのだ。
これは約束なので、フェルニゲシュは病院を破壊しにやってきた。
龍の契約は重い。
「ふざけんなよKSどもがああああ!俺様を欺いた罪は重いファーッハ-」
475 :
纏 患無
:2011/12/07(水) 23:28:11.15 ID:aB7VYdAdo
>>474
とっぷりと暗闇に満ちた夜。
窓から緑色の蛍光灯の光が漏れる、患者たちの寝静まった静かな診療所。
そこへ侵入する、大男の影があった。
額に青筋を浮かべ、憤慨しながら塀を超えるフェルニゲシュ。
そして更にその背後から、
「深夜に随分ですね」
月を背に、塀の上に白衣の女が立った。
ふわりと一房の三つ編みが風に揺れる。
「病院ではお静かに。――またお会いしましたね」
無表情のまま、纏はゆっくりと男を見下ろした。
476 :
フェルニゲシュ
:2011/12/07(水) 23:33:13.96 ID:qV+ocvdZ0
>>475
「来たなぁ?てめぇ、なぜ飲ませなかったんだ?
あんなに苦しんでたんだからよぉ、楽にさせれば良い物をwwwwww
まぁこれで断言できるゎー、医者ってリアルにファーーーック!!だよなぁ!!!!」
すっと取り出した二、三本のメスを纏へと放つ。
特にこれといった仕掛けはないので簡単に避けることができるだろう。
「静かに!?ぶっはははは、無理だYAHOOOOOO!病人ざまぁwwwwww」
477 :
纏 患無
:2011/12/07(水) 23:41:20.66 ID:aB7VYdAdo
>>476
「私が夷磨璃に飲ませると、本当に信じていたのですか?
本当に頭が悪いのですね」
塀の上から高く跳躍し、放たれたメスを軽々と避ける。
その身のこなしは柔らかく余裕を感じさせる。
しかし地面に着地した瞬間、纏の雰囲気が変わった。
「静かにしてくださらないのでしたら、実力行使することになりますが」
ずずず、と、指先から肌の色が変わっていく。
肌色から緑色へ。人から妖怪へ。
黒かった瞳の色が、夜の闇に金色に輝く。
「よろしいですか?」
478 :
フェルニゲシュ
:2011/12/07(水) 23:47:35.07 ID:qV+ocvdZ0
>>477
「はぁぁぁぁぁ!?頭が悪いぃぃぃ!!?
俺様は……天才だぁぁぁぁぁ!!!」
残りのビールをごくりと飲み干すと、ビール瓶を投げ捨てた。
世紀末ではこういう奴ほどやられる可能性が高いが彼はどうなのだろう?
「よろしいもなにも、お前がこの俺様に勝てるとは思わないがなぁwwww
もう一度言う、ファーックユー!wwwwwwww」
彼は纏を完全に甘く見ている。
未だにフェルニゲシュは人間の姿のまま。
強いてやったことと言えば、左右の手から、紫色の鱗がびっしりと生えたくらいだ。
479 :
纏 患無
:2011/12/08(木) 00:00:16.40 ID:0rAe0fUko
>>478
「その発言が」
す、と纏が身を屈める。
頭を低くし、片膝を軽く曲げ、視線の先にはフェルニゲシュという目標だけ。
「頭、悪いといってるんですよ」
と――言い切る直前、纏が地面を蹴り上げた。
音も無く纏の姿が消える。
そして次に彼女の姿が現れた場所は、男の懐であった。
ごとり、と彼が投げ捨てたビール瓶が落ちるまでの一瞬の出来事。
纏は拳を握りしめ体を捻ると、男の腹に向けて強力な一撃を放った。
それこそ、そのへんの鉄扉なら一発で吹き飛ばしてしまうような一撃を。
480 :
フェルニゲシュ
:2011/12/08(木) 00:04:09.88 ID:U4XECTwT0
>>479
言葉を発しないまま、フェルニゲシュは吹っ飛ぶ。
効いたかどうかは分からないが、確実に彼の腹には命中した。
今は空中に浮いている状態なので、更なる追撃が可能である。
「くっひひひひひwwwwwwww」
481 :
纏 患無
:2011/12/08(木) 00:13:52.20 ID:0rAe0fUko
>>480
「タフですね」
宙へ吹き飛んだ大男を見上げ、特に驚いてもいない声で呟く。
彼がかなりの使い手であることは分かっていたことだ。
先程の一撃で伸びてしまうようなら、それこそ拍子抜けである。
纏は再び地面を蹴ると、ファルニゲシュを追撃する。
「すっ――」
軽く息を吸う音。
浮いている状態の更に上空へ跳躍し、地面に叩き付けるように拳を振るう。
先刻の一撃より、威力は増している。
482 :
フェルニゲシュ
:2011/12/08(木) 00:23:42.62 ID:U4XECTwT0
フェルニゲシュの笑い声が止まった。
「馬鹿はそっちだ、馬鹿」
がしり、と纏の振るった拳を左手で掴む。
がっちりと握られた手は簡単には離せないはずだ。
そしてその握りしめた手を捻るように乱暴に動かす。
483 :
纏 患無
:2011/12/08(木) 00:33:52.66 ID:0rAe0fUko
>>482
「!!」
ぐぐぐ、と拳を引き剥がそうとするが、想像以上に強い力で握られている。
態勢はそのままに、両者は地面に着地した。
乱暴に捻られた腕はちぎれるような激痛が襲っているだろう。
「馬鹿に馬鹿と言われるのは心外です」
しかし、纏は表情を崩さない。
「体ごと捉えなかったのは失策でしたね」
捕まれていない左手を使い、ファルニゲシュの胸倉あたりを掴むと、
――その片腕のみで、彼をそのまま持ち上げた。
そして、腕の捻られている方向の地面に、叩き付けようとする。
484 :
フェルニゲシュ
:2011/12/08(木) 00:44:01.70 ID:U4XECTwT0
>>483
「力はあるんだなぁww」
余裕の笑みを零して、フェルニゲシュは強く地面へと叩きつけられた。
その攻撃の重さあまりに、地面が凹んでしまっている。
ゆっくりと、砂を払いながら起きあがったフェルニゲシュの手には、
黒い妖気で造られた刃の様な物をまとっている。
「一閃ッww」
今度はこちらからだ、と言うような合図と共に、すっと彼女に接近する。
狙うは背後の背中。
485 :
纏 患無
:2011/12/08(木) 00:53:16.73 ID:0rAe0fUko
>>484
フェルニゲシュを地面に叩き付けると、纏は素早く男から離れた。
体の強靭さ。そして拳を掴んだ時の腕力。あまり簡単に近付くのは得策ではない。
(といっても特別飛び道具はありませんが――、!)
起き上がった男の手にあったものを見て、すっと目を細める。
「刃物ですか」
怖いですね、と呟き、接近するフェルニゲシュから距離を取る。
男が大柄な分目で追うのは容易い。
体格をカバーできるほどのスピードがあるなら話は別だが、そうでなければ、簡単に背中を見せることはないだろう。
その時、塀の上から、ばさりと羽音がした。
「!」
飛び立ったのはただの鳥。
しかしその一瞬、纏の背中に隙ができた。
『全く隙のなかった』纏の、致命的な一瞬の隙。
486 :
フェルニゲシュ
:2011/12/08(木) 01:04:20.45 ID:UmvIaCyDO
>>485
「マヌケが。」
瞬時の出来事を、フェルニゲシュは見逃さなかった。本当に一瞬で、背中を引き裂いた・・・!
だが、フェルニゲシュが有利な訳でもない。
彼の攻撃や行動は全てにおき、隙はないと言ってもいい。しかし、反動が後々作用する、という酷い物がある。
長期戦になればなるほど不利なのだ。
「足が痺れてきた、ヤバいな。」
487 :
纏 患無
:2011/12/08(木) 01:17:53.79 ID:0rAe0fUko
>>486
「……今までの行動から」
声がした。
フェルニゲシュの背後から、だ。
黒い刃が切り裂いた後には、地面に白衣が落ちるのみ。
彼の背後にいる纏は、すでに拳を固めている。
「私があれで隙を見せると思ったのですか?」
先程の隙は、攻撃を誘うための偽物(フェイク)。
全く隙のない状態から、一部分にのみ隙を生み出せば、フェルニゲシュがそれを見逃すはずはない。
そして今までの行動から、あの男なら疑いなく攻撃してくる。纏はそう判断した。
攻撃のくる場所が分かっているのなら、白衣を代わり蓑にして避けるのは簡単だ。
小柄な纏ならば、それをめくらましに使って、男の背後に回ることも――。
「ふっ!!」
鋭い正拳突きを、フェルニゲシュの背中に放つ。
背中は人間の部位で最も防御力の高い場所。ゆえに、纏は一部の容赦もしなかった。
488 :
フェルニゲシュ
:2011/12/08(木) 01:27:26.14 ID:UmvIaCyDO
>>487
「な、なに?ぐあっ!!」
自分の反動+纏の囮攻撃によって、少しずつダメージを蓄積されるフェルニゲシュ。
背中に当たったことで前傾に体が倒れ、顔面から地面に直撃した。
フェルニゲシュは頭があれなため、纏のように頭を使えば地道にダメージを与えることはできる。
「なんだ・・・お前・・・」
ふらつく足を抑え、無理に立つ。
そろそろ堪忍袋も切れそうである。
489 :
ミナクチ
[saga sage]:2011/12/08(木) 22:33:31.09 ID:aIHPQOg/o
公園という場所に子供がいるのは何の不思議もないが、
その子供が妙に時代がかったなりをしていたら、きっと人間には奇異に映るだろう。
薄い色の水干姿に束ね髪、この寒さにもかかわらず素足に草履。
そんな子供の姿をとって、この水神見習いは公園に居た。
「すっかり日が短くなりました」
寒さと人目を避けるため、上に一枚衣をかぶって顔を隠している。
もう間もなく日没、これからは魑魅魍魎の動き出す時刻、
待ち人の現れるのは間もなくだろう。
490 :
???
:2011/12/08(木) 22:42:05.43 ID:vkqV5znj0
>>489
日が傾く中、公園のより一層陰りの強くなった箇所から、
人並な大きさの黒炎が突如燃え上がり、中から少年の姿を出現させた。
この者も見た目上少年なので、場違いというわけにはならないのだろうが、
全身を黒のローブで隠しているというのはミナクチとはまた違って、
それはそれで奇妙ないでたちである。
「くすくす、こんにちは。
あなたが巴津火さんの、代替えの方でよろしいでしょうか?」
公園で自身を待っているのは神格であると神代は知っていた。
それ故に意表を突かれなかった神代は笑顔のまま、警戒するのか、
それとも友好的な態度をとるのか、まだ分からない彼へと歩み寄った。
ほんの少し前に、場所は違えど上級の神を殺したのだ。
後ろめたさや恐怖はなくとも、何も気にならない訳でもない。
491 :
ミナクチ
[saga sage]:2011/12/08(木) 22:50:26.00 ID:aIHPQOg/o
>>490
「神代様ですね。私はミナクチと申します。
我が主、巴津火の命によりお待ちしておりました」
顔を隠していた衣を外して、小柄な水干姿の少年は黒いローブの少年に一礼する。
彼に触れてはならないといい含められていたので、衣を一枚被っても居るのだが、
それでもミナクチは纏う神気を緩やかに腐食する神代の気配を感じることは出来た。
「建物を建てる場所へ、私がご案内いたします」
あくまでも事務的に、成すべきことを成すために、淡々と役割を担う。
ここで神代に触れられたとしても、ミナクチ自身には戦う自由も、
巴津火の命に背く自由もないのだ。
492 :
神代
:2011/12/08(木) 22:58:24.38 ID:vkqV5znj0
>>491
「くすくす、ご丁寧に、僕の名前は神代です」
相手がよっぽどの神格でない限り、礼節を欠くようなことはしない。
そんな決まりを自分に作る神代はこの時も、
神格相手にゆっくり間をとってから腰をおってお辞儀をした。
「ではお願いします。
ふふ、それと途中、都合上仲間が後できますが、気になさらないでください。
取って食べたりはしませんので」
ミナクチガそっけなくても気にせず、というよりそっけない方がやりやすいのか、
彼の誘導に疑う事なく返答をする。
493 :
江口 恭介
:2011/12/08(木) 23:00:23.00 ID:imMHpKUxP
一方その頃、竜宮にて。
「さて、抜かりなくやっていただきますね」
扇をもった雨邑はすごく諸葛遼っぽい。
水面に映した海の図を扇で指し示し、滔々と説明する。
「まず神代一派が指定の海域に入った時に、“潮の結界”を発動する。
そして野鎚ウェイの異天空間に入った皆さんが一斉に飛び出して、
死なない程度にいたぶり尽す、以上」
雨邑、鬼畜の所業。
竜宮の者達は予想以上に卑劣な作戦にざわついている。
「野鎚さんの異天空間は自分自身も取り込めるから相手方には気づかれる心配は無い。
相手はまかりなりにも上位の神格を殺した相手だから絶対に油断しないように」
雨邑は扇を広げる。
「最悪、巴津火を増援に寄越すが、一応その心配がないように作戦を手配する。
戦い方は“乱戦”だ、相手が複数の場合はできるだけ分断させるように包囲する。
どんなに強い相手でも味方との連絡が絶たれた孤立状態で包囲されると必ず陥落する。
かの伝説の呂布もこの作戦であっけなく討ち死にした」
ニヤリ、と雨邑は笑いかける。
「さて竜宮の皆さん、定員ギリギリまで強い順に野鎚さんに入っていってくださーい」
494 :
雨邑
:2011/12/08(木) 23:01:29.60 ID:imMHpKUxP
>>493
//修正
名前欄は雨邑です
495 :
ミナクチ
[saga sage]:2011/12/08(木) 23:11:52.98 ID:aIHPQOg/o
>>492-493
「では、ご案内いたします」
一礼して、神代の傍ぎりぎりに寄って立つミナクチ。
神代の接触から身を護るための衣を再び頭から被り、その顔は半分まで衣に隠された。
つ、とその指が公園の水栓を指差すと、はじけたように水の柱を吹き上げた。
その飛沫が夕陽に煌きながら、二人の少年に雨のように降りかかり覆い包む。
ぱらぱらと水滴が二人を打つ音が止むと、
あれほど水を被ったのに、濡れもせずに二人は水を通って目的地へと来ていた。
「この海辺に建てて欲しいとのことでした。細かい場所の選定はお任せします、とも」
ごつごつと岩場が続く海岸である。
今は引き潮で広く岩場が岸まで続いているが、潮の満ちた時は陸から切り離された
小さな岩島になるであろうその岬に、ミナクチは神代を案内したのだ。
「主からはこの場所にご案内するように、とのみ命じられています」
巴津火が選んだその場所は、水没はしないぎりぎりの海の中、
奇しくも雨邑の目的にも都合の良い立地でもあった。
そして雨邑の指揮下、影鰐、いくち、赤えいの魚、などなど、竜宮の面々が野槌の結界へと入ってゆく。
496 :
神代
:2011/12/08(木) 23:22:13.10 ID:vkqV5znj0
>>495
自分と今会話している者が、大方布一枚なりを通して接しているなんて言う事は、
もはや慣れ親しんでしまったレベルな神代は気にすることなく、
むしろミナクチは意識の端によけて、教会建築のあれこれの思考が神代を包んでいた。
「ふふ、とても綺麗ですね」
彼の神力によって行使された水の術を、
しっかりと身に感じるように誰とでもなく微笑みながら感想を漏らす。
これから自分が、どうなるかを知っていたとしても。
「なるほど、適度に海の力も、
また竜宮から離れる陸の力も合わさったこの土地ですか。
地盤もしっかりとしているので、思った以上に難儀しなさそうです」
目の前に広がる光景をゆっくり見渡してから、
なんとなしに足で下の岩を蹴り確かめて言った。
そして問題はない事を判断して神代は片手を上げる、建設開始の合図なのだろう。
497 :
雨邑
:2011/12/08(木) 23:43:04.43 ID:imMHpKUxP
>>495
>>496
神代が建設を始めようとした瞬間、計画は始動した。
「では、始めましょうか」
竜宮の中でも結界術に聡い亀族や蛇神を率いて遠巻き眺めていた。
「巻き上がれ水天、引き込め水下。
飛沫を上げて邪なるモノを深きの底へ導かん」
大流を占う力に雨邑は長けていた。
竜宮の結界師達が総出で恐るべき結界を発動する!
領域の四隅に水晶の塔が順々に吹き上がり、光を発する。
それは渦潮と同じ、右巻き!!
「「「「異天空間・潮の陣!!」」」」
情報から、神代が神格の結界に弱いことは知っていた。
知っていた上での最善手、“渦潮の結界”!!
海の者以外は“入ることはできても出ることはできない”という強力な結界である。
おまけに発生源は結界の外だ、この時点で神代に出る手立てはほぼ無くなった。
結界内の空間の裂け目から野鎚が現れ続いて。
ついで拡声器を持った雨邑が遠巻きに現れる。
「やい、聞こえているかファッキン野郎」
雨邑の背後から続々と竜宮の者達が現れ、神代を包囲するように移動していく。
雨邑はまず神代のメンタルを攻める気のようだ。
自罰的思考の者にはこの上なく有効でエゲツない手である。
「テメーのせいで私達全員死ぬかもしれないんだぞクソが。
この世に絶望して勝手に首でも吊ってりゃこんなことに成らなかったのに、
どう責任とってくれるんだ、おい」
498 :
ミナクチ
[saga sage]:2011/12/08(木) 23:52:21.55 ID:aIHPQOg/o
>>496-497
紫狂である雨邑が巴津火の見舞いに来た時点で、ミナクチは何か始まりそうな気配は察知していたものの、
実際に事が起こるまで、彼女が具体的に何をするのかまでは知らなかったのだ。
周りの海に不穏な気配が満ち始めていたのは、ミナクチにも感じ取れていたが、
雨邑のこの暴挙は止め様が無かった。
「姫様……」
深く溜息をついて、ミナクチは神代に伝えた。
「私の役目はここまでです。神代様、私には貴方を攻撃することだけは出来ないのです」
胸騒ぎを感じながらも、水干姿の少年は暗くなりつつある海に消えた。
このまま留まれば、どちら側にも足手まといになりかねないのだ。
(まずは殿下にお伝えしなくては)
今ミナクチにできることは、巴津火の元へ向かい事を報告する事のみ。
必要とあれば、巴津火をつれてこなくてはならない。
499 :
神代
:2011/12/09(金) 00:06:48.53 ID:NtH9nn5Y0
>>497
正直神代も分かっていたのだろう、というより知っていたのだろう。
なによりも高等という信仰を集める天界の神を殺せば、
川上から川下へ水が下るように、水界の神も一様に自身を敵とみなすことを。
その為なのか、竜宮の行うもはや神話に刻まれかねないほどの包囲網にも、
神代に驚く様子もなく、また、逃げようとする素振りもなかった。
ただ、じっと自分が異空間に飛ばされる様を他人事のように思いながら、
それでも顔には何ともいい難い、暗いのか明るいのか不明な笑みを浮かべるだけである。
「ふふ、これはこれは。僕はまんまと罠にはまってしまったのですね」
わざと芝居がかった反応を見せる神代が、しっかりと視線を雨邑に定めて離さないまま、
もうここで隠す必要はないと、そっとローブのフードを外した。
「くすくす、首を吊らなかったのでなく、吊れなかったから今ここにいるのですよ。
責任と言われても、他者の生き死による誰かしらの弊害は、
運が悪かったとか運命だとかで諦めてくれませんか?」
雨邑の声が、神代の心に突き刺さった感じはなく、
淡々と正論の匂いだけを漂わせる返答には、一切の怒りと言ったものはない。
「くすくす、道案内お疲れ様でしたミナクチさん。
できれば巴津火さんには、しっかりと教会を建ててあげたかったです」
そして騙した筈の、騙された筈のミナクチに対し、
去り際に彼へと向けた言葉にも、一切の怒り、どころか、
一切の憐憫や焦りと言った物すらなかった。
500 :
神代
:2011/12/09(金) 00:07:40.37 ID:NtH9nn5Y0
>>499
安価ミス
>>498
も含まれます、スイマセン
501 :
雨邑
:2011/12/09(金) 00:13:35.71 ID:HQDMY/+qP
>>498
>>499
(・・・しめた)
ミナクチが消えていく様子を眺めて、
雨邑は心の奥底でほくそ笑む。
元々は神代の仲間を倒す為の作戦であったのだが、
仲間がいないのならむしろ乱戦に持ち込む必要は無い。
まずは巴津火を呼び寄せ、一対一に誘い込み、
勝っても負けても、お互いに消耗したところを一気に叩く戦略だったのだ。
「うるせぇクズ、テメーは生きてるだけで迷惑なんだよ。
吊れねぇ訳ねぇだろ、自殺が無理なら餓死でも自己封印でもやっとけや」
そして雨邑、ますますヒートアップ。
竜宮の戦闘員は微妙な表情で着々と陣を完成させていく。
502 :
ミナクチ「」 巴津火『』
[saga sage]:2011/12/09(金) 00:31:19.06 ID:Z5uVC+9po
>>499-501
ミナクチが現れたとき、病室で巴津火は丁度夕食のトレイを前にしていた。
『雨邑が神代を?』
以前より味の改善された食事にちょっぴり気持ちが取られていたものの、
うむう、と箸を銜えたまま巴津火は考え込んだ。
神代の仲間達のことを考えれば、竜宮を指揮する雨邑と戦ったところで即決着がつくことは無いだろう。
天の神の横槍でも来ない限りまだ双方に時間はあるはずだ。
何より、雨邑は考えなしに負け戦をする性質ではない。
(何か考えてるな、ボクが勝手にそれを壊すわけには行かない)
『水盤を持ってこい。まず様子を見る』
判断するのはそれからだと、巴津火はミナクチに命じて水盤に海の様子を映し出させた。
身を乗り出しながら急いで夕食を取っているため、口の周りもテーブルも汚し放題なのは
TVに気をとられながら食事する人間の子供と大差ない。
『これ、雨邑と話は出来ないのか?』
「私は声まではまだ伝えられないので…」
映し出された微妙な様子の竜宮の面子に、巴津火はベッドから降りようとする。
『…くそっ。ボクが行かないと駄目なのに』
ふらつく巴津火をミナクチが慌てて支える。
海の戦いが急を告げるまでに、巴津火は到着できるだろうか。
(神代にも雨邑にも、無様なところを見られるな…)
『海に着いたらお前は、ボクの武器を取って来い』
ミナクチに身体を支えられて、巴津火は水盤の水を通り抜けた。
503 :
神代
:2011/12/09(金) 00:34:19.40 ID:NtH9nn5Y0
>>501
、
>>502
「ふふ、クズは否定いたしませんが、吊る事はできません。
吊れない訳があるんですよ」
今まで笑うだけの神代の顔にふと、丁度雨邑の反論を聞いた辺りに、
ほんの少しだけ困ったような表情がうっすらと浮かんだ。
それも、手を口元に充てたという仕草で、自然とそう見えただけかもしれないが。
「子供の大罪は何だと思います?
駄々をこねる事?夜中に起きて夜泣きをすること?食べ物の好き嫌いをすること?
違います。それらは皆子供の特権です。 早死にですよ、早死に。
親よりも先に死んだ子供は、賽の河原で責め苦にあう、それほどの大罪です。
そしてそれに準ずるのが、自殺です。せっかく産んだのに、ここまで育てたのに、
そんなにあっさりと死んでしまったら、お父さんお母さんは悲しいじゃないですか」
神代が独白をゆっくりと、そして丁寧な口調で続ける中、
この少年はまたゆっくりな足取りで雨邑の元に歩み寄る。
「産んでもらった以上は、自分だけの命じゃねえってことだな」
そして神代が最後の言葉を、自らにもまるで戒めるように言い切った後、
少年の両脇には計三つ、黒い人並の大きさの炎が発生した。
その中の一つが、雨邑に重さの感じない調子で話しかける。
504 :
雨邑
:2011/12/09(金) 00:50:22.39 ID:HQDMY/+qP
>>503
「ふぅん、なかなか言うようになったな・・・。
確かにそうだ、私の親がクズ過ぎて子供の義務を忘れていたよ」
雨邑は拡声器を投げ捨てる。
ポシャリ、と音を立てて波間の浅瀬に拡声器が沈んだ。
「それじゃあここで妥協案だ、天界に己の罪を謝罪する気はあるか?」
雨邑は静かで切れ味の有る言葉で語りかける。
竜宮の面々は急転した場に緊張を走らせていた。
「あんたがやろうとしてることは、
真上の太陽に向かって石を投げつけるような馬鹿げたことだ。
しかもその馬鹿げたことに穂産姉妹も巴津火も巻き込まれようとしている」
急に出現した黒い柱に雨邑は目を鋭くする。
睨むのは声のした方でなく、最も気配の薄い柱。
「全てそこの榊という女に誑かされたと天界に申し立てろ。
心の奥から馬鹿げたことをしたと悔い改めて許しを請え。
そうすれば我々皆助かって万々歳、
そこで下らないことを考えている榊は地獄に投獄されてハッピーエンドだ」
(巴津火、さっさと来てくれよ)
雨邑は怖気づく様子も無く、神代に凛と語りかけた。
505 :
ミナクチ「」 巴津火『』
[saga sage]:2011/12/09(金) 00:53:35.40 ID:Z5uVC+9po
>>503-504
『なんだ、もう役者がそろってたか』
神代の仲間に声がかかった。
ミナクチに支えられ、寝巻き姿の巴津火が暗くなった波の上に白く浮かぶように現れた。
潮風が空っぽの右袖と寝癖の着いた黒い髪をなぶる。
直ぐに一礼してミナクチは波間に消え、巴津火は一人で滑るように水の上を進んできた。
『雨邑ー、ボクに一言連絡くれても良かったんだぞ?
口実を作ってくれたのは助かったけどな。再戦は早いうちのほうがいい』
纏や小鳥遊、アッコロカムイは、傷の癒えていない巴津火が出歩くなど許さなかっただろう。
しかし、因果を漱ぎ、天界の意図を曲げるには、巴津火の傷は癒えていない方が良い。
雨邑が行動に出たことは、巴津火にとっては都合が良かったのだ。
『神代、こんなことになってすまなかったな』
にっと偉そうに笑った巴津火の口元には、まだ米粒がくっ付いていた。
506 :
神代
:2011/12/09(金) 01:09:46.99 ID:NtH9nn5Y0
>>504
雨邑の言葉は、あまりにも正論で、あまりにも正確な事である。
それこそこの事態についての弁解の余地もないほどに。
イカロスがそうであったように、ルシフェルがそうであったように、
太陽にあらがう天に逆らうような馬鹿で愚かな者は、当然のごとく裁かれる。
「くすくす、心遣い大変痛み入ります。
巴津火さんが気を回していただいたのでしょうか、あなたの同情でしょうか」
隣で燃え盛った焔も役目を終え、勢いは徐々に和らいでいく。
そして一瞬の時を持って、全ての炎が霧散して、彼らは姿を現した。
「拒否させていただきます、もちろん。
ふふ、自体はもう、そんな段階ではないのです」
そして雨邑は、巴津火でさえも、
先ほどまでの黒炎の中から現れた彼らの姿を見て、驚愕を顔に浮かべる事だろう。
雨邑がおそらくの推測をたて、ある一点の炎だけへ声をかけた、が、
彼女の憶測から外れ、黒炎の中から姿を現したのは、
まったく別の女性である。
「くすくす、別段気にする気はありませんよ。
友達、僕にとっては友達の巴津火さんと戦う事になるのは忍びないですが、
これも運命です。因果でしかないのですよ」
それ以外の面々は、あの農夫とあの包帯男である。
彼らは襲撃を予想、予見、予知していたのだろう、驚いた様子はない。
「それに、僕が例え死なずとも、誤らずとも、
竜宮も巴津火さんも天界の憂いを受けなくすることはできます」
ここで、神代の手にはあの、雷光の槍が握られていた。
彼らがそれを確認した時には振りかぶって、雨邑の丁度心の臓辺りに、
雷光が投擲されていたところであった。壮大な威力を持って。
「僕が、あなたたち全ての敵になればいいのですよ
天界と手を合わせて叩きのめすような、宿敵にね」
507 :
雨邑
:2011/12/09(金) 01:21:48.18 ID:HQDMY/+qP
>>505
「やぁ、巴津火」
ニッと、無表情に笑いが毀れる。
手に持った扇を広げる。
竜宮の者達の陣は既に完成していた。
「交渉決裂だな」
目を細めて、無表情のまま雨邑はポツリと呟く。
まぁ、そう来るだろうとは思ってはいたが。
「運命だとか、因果だとか。随分と私の嫌いな言葉を言いやがる」
元々は邪神として生まれた雨邑にとって。
その言葉は腹立たしいばかりであった。
「・・・誰?」
現れたまったく別の女性、
計算外の人物の出現に、雨邑の頭は一瞬混乱する。
そして、全員に敵対する神代の言葉は実現した。
「・・・っ!」
電光が、雨邑の胸を貫いた。
雨邑は無表情のまま、細い黒煙を上げて膝から崩れ落ち。
倒れた。
竜宮の者達は一度生前と固まったが、事を理解した一匹の平家蟹が矛を構え雄叫びを上げると同時に。
包囲していた者達は作戦も忘れ一斉に飛び出していった。
508 :
アッコロカムイ「」 巴津火『』
[saga sage]:2011/12/09(金) 01:44:27.18 ID:Z5uVC+9po
>>506-507
「馬鹿者!易々と挑発に乗るでない!下がれ!!」
巴津火とは違う声が、竜宮の者達のばらばらな行動を制した。
「殿下、武器はこれでよろしいのでしょうな?」
ミナクチと一緒に、派手な赤い衣の禿頭の老人がそこにいた。
『ああ。邪魔するなよカムイ、あと雨邑を頼む』
ミナクチは既に傷を請負に雨邑の元へ向かっている。
「全く、無茶をなさる。伊吹様と同じに」
『そう嬉しそうに言うな。爺ィ』
憎まれ口を叩きながら巴津火は差し出された刀の柄を左手で握り、その鞘は老人の手に残した。
現れた刀身は暗い夜の海の中で白く輝く。
『神代、お前が全ての敵になったらそれこそ天界の思う壺だ。
何よりそんな存在になったお前を、お前の両親はどう思うかな?』
「殿下の邪魔はするな!他のもの達を抑えよ!」
蛸の大臣が崩れた総勢の指揮を立て直そうとするのを尻目に、巴津火は神代に仕返しをした。
『何なら、お前の両親の嘆きを見せてやっても良いんだぞ』
にんまりと意地悪く笑った巴津火は、海の亡霊たちに幻を映し出させた。
男と女の幻は、悲しげな表情で暗い海面を漂う。
神代の記憶に両親のそれが定かにあるわけではないが、巫女服の女と神代に面差しの似た男、
それを使って神代に話しかければ、後は神代の心の奥にある親への思慕と
長年の間に作られたイメージとが勝手に神代自身を惑わせる。
『さあ、親子の感動のご対面だ』
幻の女は神代に手を差し伸べて駆け寄ろうとする。
しかし男のほうは首を横に振って、女を押しとどめた。まるで、「諦めよう」とでも言うように。
巴津火の怒りを掻き立てるために敢えて雨邑を打った神代。
それを、逆に怒らせるためにその、巴津火は両親の思い出を傷つけて見せたのだ。
509 :
神代
:2011/12/09(金) 01:58:12.31 ID:NtH9nn5Y0
>>507
、
>>508
「ふふ、僕だって好きなわけがないじゃないですか」
神代はなんでもないように、笑う。
「あ・・・いやちょっと、こっちにあんま絡んでほしくないっていうか・・・
こっちは黒い人の命令で来ただけだし、どっちかっていうと坊ちゃんと話しておいてほしいし。
あたしメインじゃないから・・・そっとして置いて欲しいというか・・・」
雨邑たちの意表を突いた、奇抜な登場をして見せた彼女なのに、
どうやら人見知りでもしているのか話しかけられて、顔をすぐ背けぼそぼそと呟いた。
その様を呆れたようにやれやれと見つめながら、
農夫は先ほどの槍が対象を貫いた事を振り向いて確認しほくそ笑む。
「なんだ、陣形の前振りもなにもねえじゃねえか。
第一、こんな木端。居ても居なくても変わんねえだろう。
おらが海で何も出来ねえと思ったか?それか、それも作戦か?」
すると目の前の兵隊たちは、弾けるように攻撃突撃を開始し始めた。
しかしそれを意に介さず農夫は眉間にしわを寄せて、首をくいっと横に傾ける。
それを合図にして歩兵と呼ばれる者たちの足元から突如、夥しいほどの木々が出現した。
木々は彼らの反応を待つことなく、凄まじい速さで成長を始め、
ついには神格をもった者でなければ、全てが捕縛されてしまう事態となった。
「くすくすお父さんお母さんだって、神様たちを欺いて僕を産んだんだもの。
僕が多少の困難に会うのも、覚悟の上だったと思います。もちろん、
その困難を自分たちも立ち向かうつもりだったのですけど」
神代はその自問自答は済ませているらしく、返答のブレはない。
しかし、次に仕掛けた巴津火の術は、神代の心揺さぶるのに造作もなかった。
「こ・・・これは、本物・・・なのですか?」
両親と言う存在は、神代にとってもはや生きる支柱であり鎖。
そんな絶対的な者と遭遇した神代は、表情から笑みが徐々に消えつつあった。
510 :
巴津火『』 ???「」
[saga sage]:2011/12/09(金) 02:25:29.65 ID:Z5uVC+9po
>>509
『本物かどうかなんて、お前が一番よく知ってるさ』
意地悪く、巴津火は神代に質問を丸投げして返した。
『雨邑が無事だったら、こんなものまでは見せなかったんだけどな』
幻の男女は、嘆きながら神代の前でその様相を変えた。
二人の目玉は流す涙と共に溶け、頬の肉は腐って垂れ下がり、
神代の名を呼んで嘆き続ける下顎は外れて胸まで落ちる。
ぼろぼろに腐りおちた肉体に衣の残骸を垂れ下げて、亡霊そのものの姿となって幻は消えた。
海の亡霊は見るものを惑わすが、狐や狸のように似た姿に化けるのではない。
見る者が、見たいと思う姿を勝手に亡霊に見るのだ。
巴津火は単に亡霊の力を打ち消したに過ぎないのだが、神代からすれば両親を目の前で穢され
再び殺されたに等しい。
『神代。運命なんてのは、お前が勝手に作ってるんだ。
今のお前はこれと同じだ。見せられた幻に勝手に惑わされてるんだよ』
怒りを含んだ声で、巴津火は逆手に持った草薙剣を横に一閃した。
それにより、巴津火の足元から白く波頭が立ち、扇状に広がりながら膨らむと、
絡め取られた歩兵ごと木々を打ち砕こうとした。
『海の怖さをなめるなよ』
いつの間にか人見知りな女の直ぐ隣で、服装から何からそっくりな女が同じようにもじもじしていた。
「え…そっとしておける訳ないじゃないですか……姫様撃ったのそっちですし」
双子のようにそっくりなその女は、人見知りな女の腕を捕まえて腕を絡め、
くるくると高速で回り始めた。
「あ・・・目が回った・・・・・・」
目を回した女達のどっちがどっちか、農夫たちに見分けはつくだろうか。
511 :
神代
:2011/12/09(金) 02:43:07.89 ID:NtH9nn5Y0
>>510
口を開けたままの神代は、言葉なくただ呆然とするだけであった。
その様子を見れば、神代は目の前のソレを、幻覚だと知らないのだろう。
「じゃ、じゃあ・・・僕は」
僕は、とただ気が違ってしまったかのように、か細い声で何度も呟き続ける。
瞳孔は狭まって、無理やりで上げられていた口角は元の形へ。
そしてその時を持って、遂に神代の何とか作っていた笑顔の仮面が、
今はいない両親への精一杯の親孝行は、崩壊することとなった。
「諦められた・・・の?生きていてほしいと、死んでほしくないと、
思わ・・・れて、い、いなかっ・・・た?」
だが所詮それは嘘幻なので、この表現が正しいかは少しの懸念があるが、
神代は自分が、両親からすらもあまり、愛を受けていなかった事を知ってしまった。
少なくとも、そう思ってしまった。
「ひ、ひぇぇあ!?」
先ほどから視線が痛いのか、至る所へキョロキョロと見すえる物を探していた彼女は、
突然自身のパーソナリティーゾーンを思いっきり侵入され、
発音の難しい悲鳴を上げて驚いた。
「あ、いやだから・・・やったのは坊ちゃんだし・・・
連帯責任とか・・・むしろ坊ちゃんのあたしみたいなんが同罪とか・・・おこがましいし・・・
それとあんま、ちかよらないいいい!?」
かなり内気な反応を示す彼女。そんな彼女はがっちりホールドされ、シャッフルされた。
そして確かに全てがそっくりな二人が出現し、
普通のものであろうが友好のあるものであろうが見分けがつかなくなってしまう。
「・・・。
シルクは最高、ナイロンなんて?」
「もっての外!!」
しばらく怪訝な顔で見つめていた農夫は、やれやれというように、二人へと話しかけた。
するといち早く反応したのは彼女のようで、意外にもあっさり見破られてしまう。
512 :
巴津火『』 ???「」
[saga sage]:2011/12/09(金) 02:57:11.05 ID:Z5uVC+9po
>>511
『馬鹿野郎!
神代の両親は、神代について諦めるも何もその前に死んだんじゃないか。
死んで欲しいとか生きていて欲しいとか、考える暇あったと思うのかよ』
海面から陸へと神代の傍に上がって、巴津火は刀を岩に突き立てる。
開いた左手で、がっちりと神代の胸倉を掴んだ。
『生きるも死ぬも、決めるのはお前だ。
だがな、天界の思惑通りになるのはこのボクが許さない』
残る左腕が焼けて落ちようが、巴津火には神代を離すつもりはなかった。
そして見破られた女のそっくりさんはというと。
「あら、ばれちゃった?はい、見破ったご褒美」
あまり残念そうな気配も無く、大きな鮑を掌に載せて二人へ笑いながら差し出した。
513 :
神代
:2011/12/09(金) 03:10:02.45 ID:NtH9nn5Y0
>>512
何かが崩れそうな、妙な感覚がこの結界内の者全員に伝わる。
それこそ、大きな堤防が決壊したり、天にそびえる建築物が崩落したり、
ともかくそう言った大規模なレベルの崩壊の予兆が、全員に聞こえた。
「・・・え?」
しかし、その予兆は突然、巴津火の怒号とともに消滅する。
沸騰を仕掛けた熱湯が、びっくり水によって状態変化を取りやめるように。
「だ・・・だって・・・おとう・・・さん達が・・・?
え、あれ?・・・そ・・・
そう・・・ですか・・・。 幻覚でしたか・・・」
困惑を言葉の中にすら隠し切れていない神代は寝言のような事を、
しばらく取りとめもなく話していた。が、巴津火の言葉によって、
今自分が見てしまった物が、唯の悪夢だったという事に気付いた。
「良かった・・・」
そして神代の顔に、目に浮かんだものは、涙だった。
安堵の笑いを浮かべる事も出来ず、ただ、ただ目から涙が出るだけであった。
物心ついたその時以来、一度も流れなかった涙が。
「って、敵が出したもんなんか食えるか」
「第一、あたしが鮑なんて大層なもん・・・おこがましいし・・・」
「何だお前ら唯の気遣いじゃないか!!それに鮑だぞ!!
食わない手は無いだろうが馬鹿が!!」
農夫は常識的な態度を、彼女は彼女なりの価値観によって、
それぞれ差し出された鮑を手に取ったりする事すらない。
だがこの男は、この男だけは。
何の気兼ねもなくさっさと、口に両方とも放り込んでしまった。
514 :
巴津火『』 ???「」
[saga sage]:2011/12/09(金) 03:28:34.63 ID:Z5uVC+9po
>>513
『お前のお父さんもお母さんも、お前の不幸を望む暇なんて無く死んだ。
けどな、生きてたってお前の不幸は望みやしないだろうさ。
ボクを作ったのはボクの不幸も笑う女だったけど、
お前の親は、お前が全ての敵になって討たれることなんてきっと望まなかったさ』
ざわざわと海がざわめく。
『神代、お前のいらないものは、何だ』
神代はちゃんと泣けるのだ、笑わなくて良いときにまで笑う少年が、ようやく泣いている。
泣き続ける神代を、巴津火は左腕でしっかりと抱きとめた。
その腕も、胸も、ゆっくりと黒く焦げてゆく。
(雨邑の婚礼衣装、見てみたかったな…)
農夫と女が拒否した鮑が、そっくり女の手から消えた。
鮑は大変に美味しかったはずだ、海女にも滅多に取れないほどの良質の貝だったのだから。
「わたしと一緒に来ない?もっと美味しいものあるわよ。ってことで、一命様ごあんなーい」
女は包帯男の手を掴んで、ざぶりと海へ引き込もうとする。
この妖怪は共潜ぎ。
海に潜る者そっくりに化けて貝を差し出し、受け取った者を海底へ引きずり込む妖怪である。
515 :
神代
:2011/12/09(金) 03:40:50.85 ID:NtH9nn5Y0
>>514
自分でももう出なくなったのではないかというぐらい、
久しぶりに涙を流したものだから、止め方を思えだせない神代仕方なく、
この目から好きなだけ流しておこうと思った。
事実、その涙が、心を軽くしてくれているのが分かるから。
「多分、これも確証のない僕の憶測だけなのですが、
お父さんお母さんは僕に、全ての敵となって欲しくは無かったのだと思います」
しかし、いつまでも巴津火に抱きついている事は出来ない。
いくら心が震え癒されようとも、体に刻まれた自身の行動意識は、
そう簡単に切り離すことなどできないのだ。
「でも、そんな優しいお父さんお母さんだと思えるからこそ、
それを奪った、消し去った当事者全てが憎いんです」
「おお!!敵なのに太っ腹だな!!
では遠慮なく食べさせてもらおうか!!」
「いやいやいやいやいや、騙されてるから。がっつり騙されてるから。
これ以上ないくらいに滑稽だから、この馬鹿が」
包帯男に脳は無いのだろうか、単純に考えてもこれが罠だと看破できる筈なのに、
彼は共潜ぎの手をつかんで海へ入ろうとする。
しかしそれは、農夫が突っ込みとともに包帯男の体を木々で、
それはもうガッチガチに拘束してしまい防ごうとした。
516 :
巴津火『』 共潜ぎ「」
[saga sage]:2011/12/09(金) 17:33:23.62 ID:Z5uVC+9po
>>515
神代がこれまで溜め込んできた分の涙が、今ようやく捌け口を見出して溢れている。
そして他方巴津火の中には、魂の半分を失ったような喪失感が広がった。
『悲しいか?憎いか?恨めしいか?
お前の両親を消し去ったのは、お前自身なんだからな』
意図は無かったが自らが切欠にされてしまったからこそ、神代は天へ怒るのだろう。
巴津火としては、神代の出生前にかけられた呪いを漱いでやりたかったが、
神代自身が望まなければそれを捨てさせることは出来ない。
『全ての敵なんて大それた事を言うが、
お前の両親が聞いていたら、きっと今のお前を酷く叱った筈だ』
神代を離して、再び刀に手をかけた巴津火の周りに海から水が這い上がり
岩の上で渦巻き始めた。
『お前には天界を敵になど出来やしない。お前は雨邑を殺したただのボクの敵なんだ。
来いよ神代。お前の両親の代わりに、ボクが始末をつけてやる』
もう雨邑が居ない事を強く感じながら、逆手に握った刃を神代に向ける。
神代を今ここで止めるには殺すしかないのだ。
巴津火は泣けない。
神格の役割に縛られていた秋牙羅未の、あの感情を配した動きと同じく、
役割を担っている今の巴津火には感情が許されない。
もう半分の邪神である巴津火は嘆き怒っているというのに、涙の一粒さえ零すことが出来なかった。
巴津火のかわりに暗い海そのものが、今は吼えて猛っている。
一方、包帯男を引っ張る波間の共潜ぎの数は次第に増えてゆく。
「お兄さーん、早くいらっしゃいよぉ?私達と楽しいことしましょ?」
艶然と誘う彼女らは水界の歓楽街の者たちでもある。
同属の水妖の中でも、魅入らせた者を溺れさせて骨抜きにする術には特に長けている。
そして彼女たちの足元、水中で揺らぐ黒い影は磯なでだ。
抵抗が続くようなら、この大魚の尾びれが包帯男以下三人を、まとめて海中へ引きずり込むだろう。
517 :
神代一派
:2011/12/09(金) 23:30:55.96 ID:NtH9nn5Y0
>>516
巴津火の言葉を聞きながらも、未だに涙は止まらない。
それはおそらく、400年間の葛藤がなおも消えきらないで、
神代の心を癒しきるまで流れようとしているから、という事もある。
「多分叱るのでしょうね、僕の情報から作り出したおとうさんおかあさんは。
でも、それでも僕はこれだけは、これに至ってはどうしようもなく、
叱られようと悲しまれようと、止められないんです。
僕はどうしようもなく天界を敵に回すのです」
だが、それが全ての理由だと言い切る事は出来ない。
神代の因果は、以前穂産姉妹の言った通りに、一つだけではないのだ。
「そして結局、巴津火さんともこの通り敵対するしかないのです」
諦めと言うにはあまりにも無残な口調で話し、
巴津火をまた見つめなおした神代の手に、強く強く握られているのは、
巴津火の思い人を一瞬にしてこの世から消し去った、あの雷光の槍だった。
「楽しい事はどうでもいい!!それよりも魚介だろ!!
ノンプライスの魚介だろ!!」
なおもそれが、罠と判断できていない包帯男は陽気な声で呼びかける。
それを止める農夫の顔には、そろそろ怒りがともっていた。
しかし怒りの籠もった農夫の拘束も、どうやら海の妖怪たちは上回って、
包帯男を海へと、むしろ自分たち事引きずり込もうとしている。
「ああ、めんどくねえなもうコイツ。やっちまうか」
「あたしもやっちまった方が・・・良いと思わなくは・・・無くは無いです」
頑張って止めようとしていた農夫も、ついには顔から感情を失くす。
怒りの沸点を超えた彼の末端たちは包帯男を拘束したまま、くいっと彼の首を曲げさせた。
すると、みし、という嫌な音を立てて、包帯男は静かになる。
「おら達は別に必要ねえ。他を当たりな」
518 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/09(金) 23:33:34.07 ID:Z5uVC+9po
診療所のある川沿いから、坂を上がった先の古い団地。
そのコンクリートの建物の列を夕闇が包んでいた。
この時刻にも明かりの付く窓はぽつりぽつりとしかない。
この5階建ての古い団地にはエレベーターが無く、今は空き部屋が多いのだ。
そのうちの一棟の屋上に、一人の男が子供を抱えて立っていた。
派手な着物を着崩したその男の左目には大きな傷がある。その足元は裸足だ。
抱えられた子供はぐったりとして意識は無く、胸元には小学校の名札が付いていた。
「今日はここまでね」
日没を見送り山へ帰ろうとする片目の男は、その纏う麝香の香りが招かれざる客人を
呼んでいたことには、まだ気づいていなかった。
519 :
東雲 犬御
[sage]:2011/12/09(金) 23:49:06.26 ID:Oq1zEZUSO
>>518
かつん、かつん――……。
屋上へと続く階段を叩く音がする。
鹿南へと段々近付いていく音は、ついにピタリと止まり、錆付いた扉を開く音に変わった。
「……テメエ」
隻眼の男の背中に、紅い目の男が語り掛ける。
眉間にぎゅっと皺を寄せ、苦々しい顔をする東雲からは、押さえられない殺気が漏れていた。
520 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/09(金) 23:57:09.20 ID:Z5uVC+9po
>>519
「あらぁー、お久しぶりじゃないの。今日はアタシの狩りの邪魔をするつもり?
それとも、獲物になりにわざわざやってきたとでも?」
子供の身体を担ぎなおして片目の男は笑った。
「アンタらがまた人間を食べるようになったのなら歓迎だけど、
生憎とここは送り狼達の狩場じゃないものねぇ。そっちについては望み薄、か」
ねっとりとした麝香の香りは狼の嗅覚を塞ぎ、オネェ言葉は耳朶に絡みつく。
521 :
東雲 犬御
:2011/12/10(土) 00:09:11.79 ID:LJqPgpT6o
>>520
離れていても、狼の敏感な嗅覚は、鹿の麝香の香りを嫌でも捉える。
相変わらず鼻が曲がりそうなニオイだ。
耳につく独特な口調と共に、それらは東雲の神経を逆撫でする。
「覚えのあるニオイを追ってきて良かったぜ」
語気の強さから、彼の苛立ちを感じさせる。
しかし、東雲の唇は結ばれているわけでなく、牙を剥き出しにして笑っていた。
彼は心の底で、この展開を望んでいたのだ。
「テメェの狩りなんざどうでもいい。人間のガキなんざ知ったこっちゃねえ。
……だが、この間の「借り」は返させてもらうぜ」
522 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/10(土) 00:21:18.27 ID:NsEzQEMwo
>>521
「いい面構えじゃないさ、こっちも望むところよ」
鹿南が振り返ったのは、屋上の隅に置かれた水タンク。
タンクを支える錆びた支柱の周囲には菓子の包装やらダンボールやら、
壊れた椅子やらが寄せ集められていて、子供達の秘密の遊び場だったことが伺える。
そこに子供を横たえて、片目の男は身軽になった。
(あんた、今日は命拾いするかもね)
眠ったままの子供から離れると、片目の男は袂から赤い手鞠を二つ取り出した。
「じゃ、アタシから行くよ」
まず一つを赤目の大男に投げ、直後にその場から飛びのいて、
別方向からもう一つの手鞠を投げた。
以前にも経験したであろう麝香の香りの塊が、大男へと時間差で迫る。
爪で裂いたとしても、くらくらするほど強い香りが振りまかれるのは狼が経験済みの筈だ。
523 :
東雲 犬御
[sage saga]:2011/12/10(土) 00:39:45.67 ID:LJqPgpT6o
>>522
(うまく小鳥遊の目を掻い潜れてよかったぜ)
子供を横たえる鹿南から視線を逸らさず、東雲は珍しい自身の幸運に感謝した。
宿直室から抜け出し、診療所の裏手で休憩を取っていたところ、偶然彼奴の麝香の香りを嗅ぎつけることができたのだ。
追いかけることに対して迷いはなかった。この機の逃せば、次またいつあの男の手がかりを見付けられるかわからない。
そこに小鳥遊や纏の邪魔が入らなかったことも、運が良かったといえるだろう。
鹿南が袂から取り出した赤い手鞠を、東雲は記憶していた。
以前と同じように、爪で裂くようなことはしない。
初手に投げられた手鞠を避けると、別方向から飛んでくる手鞠を地面に臥して避ける。
「同じ手を喰うかよ!!」
両手両足を地に着けた東雲は、地面を蹴り上げると、獣のように鹿南に飛び掛かった。
524 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/10(土) 00:54:42.71 ID:NsEzQEMwo
>>523
「ふーん、ちゃんと学習はしてるのね」
こちらも一度は飛びのいて着地したところなのだ。
その勢いを殺さずに、鹿南は飛び掛ってくる大男の足下へと、身を斜めにして駆け寄る。
相手の体格が約2mと大きいために、子供の姿に化身すれば
その長い足の間を転がりぬけるのはさほど難しくなかった。
ころりと一回転して小さな少女の姿になった鹿南は、大男の股座を潜って背後で手を叩くと
甲高い声で笑いながら駆け出した。
「鬼さんこちら」
小さく身軽な子供の姿は小回りが聞く、狭い屋上で鬼ごっこをするなら、大男よりも有利である。
さっと駆け出しながら、素足の少女は金扇を取り出した。
(下に土が見えれば降りられるのよね)
この屋上にはフェンスが無い。
60センチほどの高さの縁がぐるりとあるだけのこの場所は、子供が登ってきてはいけない所なのだ。
縁に沿って走りながら、少女の姿の鹿南は下の様子を探ろうとした。
525 :
東雲 犬御
[sage saga]:2011/12/10(土) 01:03:40.85 ID:LJqPgpT6o
>>524
「ンなっ」
鹿南の姿が突然少女へと変わり、自身の股下を転がる。
慌てて背後を振り向けば、けらけらと笑う少女が手を叩いていた。
ちょこまかと。東雲が不愉快そうに顔を歪める。
「待ちやがれッ!」
縁に沿って駆け出した少女――鹿南を追いかける。
しかし人間の姿では、どうにもあのすばしっこさに苛立たせられるばかりだ。
鹿南を追って走りながら東雲は、体を丸め、地面に手を付いた。
次の瞬間、その姿はみるみる内に狼へと変わっていく。
赤い瞳をした巨躯をもつ狼は、しかし先程よりもスピードは格段に上昇している。
下の様子を探ろうとする少女の背に引っ掻き傷をいれてやろうと、東雲はコンクリートの地面を蹴った。
526 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/10(土) 01:14:36.50 ID:NsEzQEMwo
>>525
団地の下には花壇もあった筈だった。
しかし今いるこの屋上の縁は、直ぐ下にベランダがある都合上、そこへ飛び降りるのは難しい。
(ここで反撃して、機会を作るしかない)
鹿南が金扇を開こうとしたその時、背中を狼の爪が抉った。
決して深い傷ではないが、少女の身体がバランスを崩すには十分だった。
走っていた勢いのまま、前のめりに倒れて転がった。
「…っ!!やってくれたねっ!!」
コンクリートの上に伏したまま、少女はそれでも金扇を手放さずに、狼へと振りかぶろうとした。
開かれた金扇の扇面には木枯らしの図。
これで扇がれたら枯葉を大量に巻き込んだ冷たい風が、狼へと吹き付けるのだ。
527 :
東雲 犬御
[sage saga]:2011/12/10(土) 01:31:09.91 ID:LJqPgpT6o
>>526
(喰った!!)
背中を切り裂いた東雲は、その場に着地する。
直後、前方に転がった鹿南を追撃しようとするが、東雲の体は思うように動かなかった。
霊薬に蝕まれた影響か、スタミナ、いわゆる持久力が減退しているのだ。
再び飛び掛かるまでの一息。しかし戦闘ではあまりに長い一瞬。
結果として、それは鹿南が金扇を振りかざすのを待つ結果となった。
団地周辺の地面に落ちた枯葉が、そこら中から巻き上がり、冷たい冬の風が黒い毛をなぞる。
やはり、やっかいなのはあの金扇。
しかし今の鹿南のすばやさで、こちらの持続力の低下している状態では、金扇を奪うことはまず不可能だろう。
「だが……風を操れるのは、テメェだけじゃねえ!」
彼の送り狼としての本分は、風を操る能力。鎌鼬はこれの応用なのだ。
東雲は吹き付ける冷風に向かって、いくつかの竜巻を生み出した。
こちら側の風に巻き込み、打ち消してしまおうという算段である。
528 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/10(土) 01:43:20.47 ID:NsEzQEMwo
>>527
(やった!)
狼に向けて、冷たい風が落ち葉を吹き付ける。
この風は木枯らし、殺傷力は無い。
鹿南の目論見は、風が舞い上げた落ち葉で一時的に狼の視界を奪うことにあった。
竜巻が木枯らしを飲み込んで膨れ上がったその時、鹿南の手には先ほど狼の避けた手毬が一つ、
袖に隠して拾い上げられていた。
「あんたが風を扱えるのは知ってるよ」
傷を負った少女は金扇で、木枯らしを飲み込んだ竜巻のうちの一つを自分の方へと差し招く。
そのコントロールを狼から奪ってしまう動作である。
傷を負っている今、無理に走るつもりは無い。
鹿南は土の地面へ足をつけるまで、体力を温存するつもりなのだ。
狼が複数の竜巻を扱っている今、そのうちの一つを狙って干渉すれば、
全体の動きを乱すくらいは出来るだろう。
この竜巻が巻き込んでいる風の一部は、元々鹿南の支配下にある風なのだから。
529 :
東雲 犬御
[sage saga]:2011/12/10(土) 02:03:30.27 ID:LJqPgpT6o
>>528
枯葉が荒々しく舞う大きな竜巻が、自身の手から離れるのを東雲は感じた。
打ち消す所か、逆にコントロールを奪われてしまうとは。
東雲は考える。――敵は傷を負っている。追撃のチャンスは今だ。まずは、どう近付くか。
肌を刺すような冷たい風が、屋上を取り巻いている。
しかし、風自体にこれとって攻撃力はない。
ならば差し向けた目的は……おそらく、めくらまし。待ち伏せか、あるいは罠か。
(それなら、逆にこっちが利用してやる)
コントロールを取り戻すのは難しい。ならば暴走させてしまえばいい。
東雲は、鹿南が自分の方へ招いた竜巻に、あえて更に力を増大させた。
一見小型のハリケーンにも見える、落ち葉を巻き上げた暴風が、鹿南の目の前に現れるだろう。
(この隙に……!)
東雲はゆっくりと回り込むと、鹿南の死角から突撃しようとした。
彼が暴風を制御しようとする隙をつくつもりである。
530 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/10(土) 02:14:25.71 ID:NsEzQEMwo
>>529
(…おかしい)
鹿南が竜巻を一つだけ狙ったのには意味があった。
元々複数ある竜巻同士をぶつけ合わせて暴走させる目的で、一つだけを選んだのだ。
しかしその一つが、力を増大させて向かって来る。
鹿南は急いで、その一つと他の竜巻をぶつけ合わせようと風を操る。
狼と鹿、双方の思惑通りに、風は暴れ始めていた。
その隙を付いて、狼が少女の死角へと回り込むことは可能だろう。
もはや制御はせずに、風の支配を手放そうとしている鹿南だが、
膨らみすぎた暴風を完全に放つにはまだ少しだけ時間がかかるのだ。
今、狼は鹿南の見ていない側面へと回り込むことに成功している。
531 :
東雲 犬御
[sage saga]:2011/12/10(土) 02:27:58.17 ID:LJqPgpT6o
>>530
(ここだ)
息と気配を潜め、獲物を狩る狼となった東雲は、暴風の隙間から鹿南を伺い見ることのできる場所を見つけた。
狙える機会は一度きり。彼が次にアクションを起こした時だ。
ほんの一瞬だけでもいいのだ。
彼の思考から、少しでも東雲への注意が削がれたその隙に……。
鹿南が風の支配を完全に解き放ち、枯葉が舞い上がる力を失って地面に揺れながら落ち始める。
東雲が次に狙うとすれば、その瞬間だろう。
枯葉と風によって支配されていた視界が開けたときを突いて、死角から攻撃する!
532 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/10(土) 02:37:54.19 ID:NsEzQEMwo
>>531
(この位弱れば、頃合かしらね)
力を失いつつある風の中へと赤い手毬を投げ込むと、鹿南は扇を一閃させる。
風のなかで鞠が裂けた。
そして暴れていた風はもとは竜巻、今はつむじ風である。
吹き過ぎるのではなくてゆるやかに輪を描いて広がる大気の流れが、強い香りを含んで
全方位へと広がった。
その匂いは死角にいる狼の鼻へも、強烈に届くことだろう。
枯葉が全て落ちる頃には、あの子供だましの幻術を何時でも仕掛けられる準備が整ってしまう。
533 :
東雲 犬御
[sage saga]:2011/12/10(土) 02:46:57.03 ID:LJqPgpT6o
>>532
「!」
(やつが暴走させた風を制御しなかったのはこれが狙いか……!)
奇襲の隙を伺っていた狼が、ぶるんと頭を振った。
全方位に広がる麝香の香りが、東雲の鼻を刺激する。
(竜巻の中に鎌鼬でも紛れさせるべきだった!)
しかし今更後悔したところで遅い話だ。
枯葉が落ち切る前に、準備が整ってしまう前に、奇襲だけでも成功させなければ。
つむじ風が消え去り視界が開ける。
タイミングは上々のはずだ。しかし麝香の香りのせいで若干鈍った動きのまま、東雲は死角より鹿南に飛び掛かった。
鎌鼬を纏った爪と牙が、少女に襲いかかる。
534 :
鹿南
[saga sage]:2011/12/10(土) 02:59:18.40 ID:NsEzQEMwo
>>533
驚いたように振向いた少女の肩へ、狼の爪が食い込んだ。
よろめきつつ身をかばおうと振り上げた腕の袖を、その牙が引き裂いた。
若干鈍ってはいたものの、狼の奇襲は成功したのだ。
しかし、見た目が少女の姿でもこれは妖怪である。
少女はその右目できっと狼を睨みつけ、閉じたままの金扇で
タダでさえ敏感な狼の鼻を強かに打ち据えた。
この金扇は、つい先ほど風の中で麝香の手毬を打ち裂いたばかり。
その先端には、強い麝香の匂いが染み付いていたのだ。
「随分味なことやってくれるじゃないのさ」
少女は少し開いた扇で口元を隠しながら、にやりと嫌な笑い方をした。
535 :
宛誄&蜂比礼
:2011/12/11(日) 00:02:15.46 ID:S8mPI07TP
心喰い蟲、宛誄が残された窮奇から残された逆心の欠片と、
蜂比礼、そして自分自身の力で作り出した新しい能力。
「た、助け――」
「暴け、第6287“心喰い蟲”」
胸倉を掴まれ押し倒されている青年に化けた妖怪に、
宛誄が馬乗りで圧し掛かり、口を無理矢理広げている。
宛誄の左手からは異形と称する他ない蟲が青年の口に滑り込み、
食道を膨らませ、胃を、脳髄を、血液を、魂を振るわせていく。
「がぼっ、ごぼっ!」
「ふむ・・・、今回もハズレかな」
青年の妖怪は白目を剥き、手足を激しく痙攣させ、
苦痛の表情と共に口から泡を流している。
「はぁー、はぁー・・・」
疲弊しきり、虚ろな目の蜂比礼が地面に座り込んでいる。
透けた身体はいつもより明らかに薄く、輪郭も煙のようにおぼろげである。
「やはり神代の現在地まではなかなか掴めない」
宛誄が青年から降りると、青年はガクガクと痙攣しながら原型の妖怪へと戻っていく。
「なに休んでるんですか、次行きますよ」
蜂比礼の頭を掴み、無理矢理引き立たせると宛誄はツカツカと住宅地の方へ歩いていく。
536 :
零&黒龍
:2011/12/11(日) 00:12:04.15 ID:QkoLE5PX0
>>535
「宛誄、お前何してるんだ。」
背中に黒い翼を生やした少年と黒い龍が空から降りて来た。
「黒龍、そこの妖怪、助かるか。」
『…いや、無理だ。俺の治癒力じゃ間に合わない。』
黒龍は青年の元へと向かい、青年の様子を伺うが
不可能と悟った時、目を背けた。
一方、零は普段とは別のように目を見開き、睨みつけた。
537 :
宛誄&蜂比礼
:2011/12/11(日) 00:23:21.44 ID:S8mPI07TP
>>536
「ああ零さん、何って情報収集ですよ。仕方ないでしょ?
僕には逆心という便利な特性も貴方みたいな立派な情報網も無いんですから」
宛誄は爛々と光る目を向けて語りかける。
その目はあのときのように真っ直ぐで純粋な黒ではない、
濁って気味が悪い、紫色の光・・・。
「ああそこの彼なら大丈夫ですよ、僕を神代みたいな殺人鬼と一緒にしないでください。
3日もそこで気絶していれば心喰い蟲はすっかり抜け落ちて彼は元気を取り戻します。
ね? なんの問題も無いでしょ?」
宛誄はボロボロになった服を振り乱して、おどけたような動作をする。
「じゃあ僕は先を急ぐので」
「・・・」
フラリ、と倒れ蜂比礼の実体化が解けようとするが。
「! ・・・ゲホッ」
急に蜂比礼の腹に食い込んだ宛誄の膝がそれを阻止した。
宛誄は蜂比礼に妖気を注ぎ込む。
「ごめんなさいねー、神代の居場所がわかるまでがんばってくださーい」
宛誄は恐ろしく冷たい声で蜂比礼を励ました。
538 :
零&黒龍
:2011/12/11(日) 00:39:39.47 ID:QkoLE5PX0
>>537
宛誄の崩れ果てた姿を見据えて、零は言った。
「困るんだよね、勝手に変なことされちゃ。
私も神代達のことで色々とやっていることがあるんで。
もし君みたいな馬鹿が変なことしたら私にまで害が及ぶ。」
胸に手を当て、そこから赤黒いオーラを放つ剣を抜きだした。
剣先を宛誄へ向け、ニヤリと零は笑った。
「幸い、私達が居たから手遅れにはなってはいない。
大人しく引き下がる気がないのなら命を落とさせて貰うよ。」
『(蜂比礼……)』
いつもは仲の良さそうな宛誄と蜂比礼だが、
一方的な宛誄の行動は惨たらしく、
黒龍は何も言うことができなかった。
539 :
宛誄&蜂比礼
:2011/12/11(日) 00:50:37.41 ID:S8mPI07TP
>>538
「妹が殺された」
冷たく、無表情のまま宛誄がただそう言った。
「零さん、黒竜。わかってくれますよね。
こんな理由があっても駄目なんですか?」
宛誄はただただ冷たく、無感情に言葉を投げかけた。
「邪魔するっていうのなら容赦しませんよ。
僕には復讐と神代を殺 す権利があるんだ」
左手で蜂比礼の頭を放し、袖を捲くる。
細い腕には、金色のバンテージが拘束具の様に巻かれていた。
とたんに宛誄から溢れ出す、今までとは比べ物にならない強大な妖気!
質ももはや完全に別物、これは宛誄という存在のものですらない!!
その妖気は、今まで宛誄が押しつぶされまいと必死に一人戦ってきた・・・
スサノオのものだった
540 :
零&黒龍
:2011/12/11(日) 01:10:15.75 ID:QkoLE5PX0
>>539
『な、宛誄、本当なのか…?だったらそれは「駄目だ。許される訳がない。」』
黒龍は同情し、仕方のないことだと認識したが零の言葉で制止された。
『零、宛誄は妹を殺されたんだぞ!?
その気持ちを殺 した神代にぶつけるのは宛誄の自由じゃ…』
「確かに宛誄の自由だ。
しかし巻き込まれる必要の無い者まで巻き込まれているじゃん。
そこの蜂比礼も。あそこまでズタズタにされて。」
零の瞳が、真っ赤な瞳へと変わった。
人間の体が少しづつ崩れ、黒い皮膚で覆われていく。
「宛誄、お前を力づくでも止めて見せる。」
541 :
宛誄&蜂比礼
:2011/12/11(日) 01:26:50.76 ID:S8mPI07TP
>>540
「・・・妹まで殺した殺人鬼には言っても無駄でしたね」
そう言った途端!
圧倒的な力を持った段平が振り抜かれた!
灼熱の妖気を纏ったそれに零の背後の木々が薙ぎ倒され!
火を噴き轟々と燃え盛る!!
「縛れ、神縛金剛羂索」
左手のバンテージが伸び!
零の身体を縛り付け、強力な封印術が発動する!!
「邪悪な者を縛り付ける不動妙王の持つものと同じ神具ですよ、
悪魔である貴方には良く効くでしょ?」
零へ悪魔の力の封印を施すと、宛誄は無表情のまま零に歩み寄ってくる。
「一秒たりとも惜しいんですよ、貴方も神代を追っているんですよね?」
左手には心喰い蟲が汚らしい液を吹きながら蠢いていた。
542 :
零&零
:2011/12/11(日) 01:42:35.17 ID:QkoLE5PX0
>>541
「Seal release, Satan advent」
だが封印は逆再生の様に戻り、封印前の状態へと戻った。
そして月夜に照らされた零の影が伸び、
そこからもう一つの人型が作り出された。
その人型は形を変えたかと思うと、人間時の零と全く同じ姿へと形を変えた。
「確かに効くかもしれないけど、私は悪魔であって悪魔で無い。」
『宛誄君、これ以上被害を出さないために落ち付いて。』
その二人の零は宛誄の前方と後方に、挟み打ちとなる状態だ。
『宛誄君、確かに私たちは神代を追っています。』
「だからこそ危ないんだ、お前と組んでいる私が下手に見つかったら全て台無しだ。」
543 :
宛誄&蜂比礼
:2011/12/11(日) 01:52:28.54 ID:S8mPI07TP
>>542
「もったいぶるな、1分で全て話して下さい。
さもないと・・・」
宛誄はミシミシと形を変え、スサノオの力を解放していく。
「殺してしまいかねませんから」
544 :
零&零
:2011/12/11(日) 02:04:42.17 ID:QkoLE5PX0
>>543
「却下。」
人間時の姿をした零が、宛誄目掛けて剣を振るう。
即座に悪魔の姿の零は近接近して、宛誄の心の臓を目がけて突き刺そうとする。
『私たちは二人で一つなので。宛誄君、覚悟。』
545 :
宛誄&蜂比礼
:2011/12/11(日) 02:17:25.47 ID:S8mPI07TP
>>544
宛誄は薙刀を身の回りを回す様に振い、
激しい金属音と共に刃を弾き飛ばし、二人の首両手で易々と捕まえ締め上げる。
宛誄は自我の崩壊を覚悟でスサノオの力を使っていた。
明日明後日には、すぐにでも自分の心が、記憶が、感情が無くなってしまう様な。
修羅の局地。
他人事のように、義務的に神代を追う零とは。
あまりにも覚悟が違いすぎた。
「暴け、心喰い蟲」
そのまま開いた2人の零の口の中に気色の悪い蟲が滑り込んでいく。
全身を掻き毟りたくなるような、下級の妖怪では到底耐え難い苦痛が零を襲う。
蜂比礼が崩れそうな表情で心喰い蟲を解析する。
「・・・はははっ、そうか! そこにいるのか!!」
宛誄は零を離すと狂ったように高笑いを上げながら背を向ける。
「ありがとうございます零さん!
もう二度とこんな酷いことはしません!
もう二度とこんな馬鹿なマネはしません
このご恩は一生忘れませんよ!!」
蜂比礼がやっと許されたように実体化を解き、
宛誄は駆け出していった。
546 :
零&零
:2011/12/11(日) 02:34:43.65 ID:QkoLE5PX0
>>545
『げほっ、ごほっ……。』
「痛いね、これは。でもまだ終わりじゃない。くふふっ」
片方はその場で倒れながらもがき苦しみ、
もう片方は笑いながら体を掻き毟る。
黒龍「あ、宛誄!!落ち着けって!
お前の悲しみや辛さは俺も凄く分かる!!
だけど、これ以上、自分自身を破滅させるようなことだけはしないでくれっ!!!
今のお前はもう…宛誄じゃない」
駈け出して行く宛誄の体を掴み、悲願する黒龍。
それはなぜか、未来の自分と重なるような、そんな気がして。
死んだ妹を追って、自分も死ぬような、そんな道を歩ませないように。
547 :
宛誄&蜂比礼
:2011/12/11(日) 02:50:46.69 ID:S8mPI07TP
>>546
「あはははははっ!・・・離してくださいよ」
渇望していたものを手に入れた喜びなのか、
宛誄に先ほどの冷酷さは感じられなかった。
だが、表情は。
不気味なくらい笑顔で歪んでいた。
「僕達は、あはははっ! 幸せになる為に生まれたんだっ! ふふふふ。
そりゃああんな最低な女の元で、したけど・・・あはははははっ!
幸せだったなぁ、あははははっ!」
狂気の笑みで、歪んだ頬で、既にスサノオに飲まれかけた心で。
宛誄は涙を流していた。
「あはっ、あははは・・・。僕がいて、安木がいて、入江姉さんがいて・・・。
はっ・・・は、はは。雨邑が居て・・・つまらなかったけど、いい事とかあんまり無かったけど。
幸せだったんです・・・。わざわざあんな必死に行き急がなくても充分幸せだったんです」
笑顔は崩れ、もうただただ泣いていた。
「だけど、もう無理なんです。
雨邑は僕達の半身だったんだ・・・僕達紫狂全員揃って初めて幸せだったんだ。
もう、雨邑がいないなら・・・、幸せになれないなら」
宛誄は黒竜の方にクルリと振り向き、
ニッコリと微笑んだ。
「生きてる意味ないんです」
548 :
零&黒龍
:2011/12/11(日) 03:10:38.36 ID:QkoLE5PX0
>>547
黒龍「嫌だ、離したくない!
もし離したらお前まで死んじゃうじゃないか!!!
そうだ、そうやって皆は自分を犠牲にしてまで何かをしようとする…。
幸せになれないだの、生きる意味がないだの、掴もうとしたか!?
それをしないで…消えるなんて。
お前自身が許しても俺は許さない……頼む、宛誄…ッ!」
しかし、掴んだ手をするりと抜けて、宛誄は行ってしまう。
へなへなと地面に座り込み、黒龍は泣いた。
それは守護神としての本能だからだろうか、それとも本気で宛誄を想ったからか。
549 :
宝玉院 三凰
:2011/12/11(日) 22:58:21.92 ID:3hRnCPaAO
夜、とある森の中。白髪の青年が木の枝に座り、夜空を眺めていた。
「……」
しばらく眺めた後、飽きたのかあくびを一つし木から飛び下りた。
550 :
露希
:2011/12/11(日) 23:05:02.88 ID:1nS4WBwDO
>>549
森の中、無心で誰かを探す少女。
余程走ったのか、靴の紐が切れてしまっているが、それでも走る。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・」
だが体力がそこまである訳でもなく、木に寄り掛かる。
その木の上には三凰がいるが気がついていない。
551 :
宝玉院 三凰
:2011/12/11(日) 23:16:38.74 ID:3hRnCPaAO
>>550
スタッと露希の目の前へ着地する三凰。
「やれやれ、本来は森での客の対応は野衾達の仕事なのだがな……貴様は確か……あいつの妹か……何しにこの森へ来た?」
警戒を含んだ声で静かに言った。
552 :
露希
:2011/12/11(日) 23:22:47.93 ID:QkoLE5PX0
>>551
「ええっ!?アイツって誰ですか…?
確か貴方は…宝玉院家の…?」
白い吐息を零しながら、少し戸惑う素振りを見せる。
なぜか怒ってる(?)ような三凰に、零の様にそこまでびくびくしたりはしないが。
「実は龍を探していたんです、ボクの友達の。見ませんでしたか?」
553 :
宝玉院 三凰
:2011/12/11(日) 23:38:54.61 ID:3hRnCPaAO
>>552
「零だ、零。以前、一緒にいるのを見たからあいつの妹だと思ったが、違ったか?
龍?さあ、知らないな。誰かこの付近に来ていれば警備の野衾達から報告が来ていると思うが。」
よく見れば、周囲の木にはムササビの姿をした野衾が見える。宝玉院家の警備は彼ら(彼女ら)が行っているようだ。
554 :
露希
:2011/12/11(日) 23:48:15.03 ID:QkoLE5PX0
>>553
「え?あ、うんっ、そうです、零の妹です。
っと、夢中で気がつかなかったけどムササビさんがいっぱい…。
これだけいても何も無いとなるとこちらに来てないですね…。」
今日も見つからないか、と一つ溜息をして、三凰を見つめる。
目の前に居る、白髪の少年のツンな性格と片目隠れを分析した
露希はここで変なスイッチが入ることとなる。(なぜここで発動したかは分からない)
「…三凰さん、今気づいたんですが。…すっごく、可愛いですね!!
できれば髪の毛ほどいてくれませんか!?」
これは酷い。
555 :
宝玉院 三凰
:2011/12/12(月) 00:08:12.64 ID:M10JgO7AO
>>554
「だろうな。野衾達も無能じゃない。例外はいるがな。
ま、今は危険な奴も動いているようだからせいぜい気をつけるんだな。」
その例外は、夢無のことだろう。そして、三凰なりに一応注意だけした。
「はぁ?貴様、何を言っているんだ?僕がかわいいだと?馬鹿にしてるのか?」
556 :
露希
:2011/12/12(月) 00:23:29.77 ID:SHRsT+uU0
>>555
「危険な者がどう動こうが関係ありません。
ボクはただ白龍を見つけるだけです。」
その危険な奴の中には白龍も入っているかも知れない。
だが現時点で露希が知る筈もないのだ。
「まさかっ、このボクが可愛くも無い者に可愛いなんて言う訳ないでしょ!!
それに、貴方の事をよく知ってる方でさえ、貴方の事を可愛いと言ってましたから♪」
ポシェットの中から、白い折りたたみの携帯をいじり始める。
そして三凰へとある動画を見せた。
そこにはきっと三凰のなじみ深いやつの顔が…。
露希「三凰さんってどうなんですか?」
澪 「三凰かぁ。今までで一番いい奴だなぁ、優しいし、可愛いし。」
少し前に取った動画なのだろう、これは。
ちなみに露希と澪は田中姉弟関係で知り合っている。
そしてこの澪の暴露である。
多分、見た目の可愛いではないと思うが。
557 :
宝玉院 三凰
:2011/12/12(月) 00:33:53.98 ID:M10JgO7AO
>>556
「なっ…!澪!?ア、アイツ……恥ずかしい事を……」
顔を赤らめて照れる三凰。
「そもそも、僕のどこがかわいいんだ。優しくもないつもりだが……」
一人言のように呟き始める。
558 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
:2011/12/12(月) 00:48:42.49 ID:CYOcF2PDO
>>557
「凄く可愛いですよ。だってほら!」
8つの頭を持った蛇が三凰の背後からくるくると絡み、痛くない程度に縛りつけた。
『三凰!!』ムギュー
この痛いツンツンが女性にマジウケするのだ。
そしてこの二人の組み合わせもまたいいらしい。
「澪さん、ボクは急ぎ用があるので先に行きます。三凰さんと仲良くお願いしますね。」
『三凰、なにしよっか!?ワクワク』
露希はすたこら帰ってしまうし、澪はベタベタしまくりでやけにテンション高いし。
三凰はなぜかこのようなことに巻き込まれるのだ。
そして澪も、変に誤解を受けたら、夜さんに絞められてしまうだろう。
//眠気がやばいので一足先に〆ますね。
絡みお疲れ様&ありがとうございました!
559 :
宝玉院 三凰
:2011/12/12(月) 01:06:02.71 ID:M10JgO7AO
>>558
「なっ!?澪!いつの間に!?」
あっさりと澪に絡みつかれる三凰。
「ちょっ、おい!なぜそんなにハイテンションなんだ!やめろ澪!野衾達が見てる!見てるだろ!」
野衾達が見ている中で縛られる三凰。その後、野衾達にあらぬ誤解をされて大変だったという。
/お疲れ様&ありがとうございましたー
560 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
:2011/12/12(月) 11:29:58.44 ID:j2xoPdTAO
いつの間に!?
561 :
巴津火
[saga sage]:2011/12/12(月) 23:50:40.18 ID:5rWH+k08o
竜宮の奥深く、青い部屋の冷たい氷の棺に雨邑は眠っている。
ある程度動けるようになると、巴津火はその部屋へ向かい、
蛇の姿でじっととぐろを巻いていた。
誰かがそこから引き離そうとしても巴津火は頑として動かず、蛸の大臣以下が
ほとほと困り果てていたところに、その兄弟はやってきた。
『おいで頂けて、まっこと助かりますのじゃ』
歓迎された客人は、直ぐにその部屋へと案内されることになる。
562 :
宛誄&安木
:2011/12/13(火) 00:02:24.92 ID:a+ctUB23P
>>561
「・・・」
「お久しぶりですね」
安木は呆然とした表情で、宛誄は感情のない顔で。
巴津火に一礼し部屋に入っていく。
安木は目を真っ赤に腫らして、服もボロボロに乱れきっている。
宛誄は目の下に濃い隈を作り、目は落ち窪み、ただでさえ白い肌なのに顔色は土色気だった。
「・・・雨邑」
「綺麗なままなのがせめてもの幸いですか」
もともと外傷がなかったせいか雨邑は白装束こそ着ているものの、
とても死んでいるとは思えない状態だった。
「巴津火殿・・・お初お目にかかる。
己はあなたの弟に当たる安木というものでござりまする」
安木は真っ直ぐに巴津火を見据え、問いかけた。
「雨邑について・・・、殺された時についてお聞かせ願いたい」
563 :
巴津火
[saga sage]:2011/12/13(火) 00:18:16.87 ID:8JNQ5UXXo
>>562
二人のほうへゆるゆると首を伸ばした大蛇の目は、白く濁っていた。
「安木…?もう一人の、ボクの、弟?」
宛誄の気配が以前よりもずっと乱れているのを、よく見えないながらも
巴津火は感じ取ることが出来た。
「雨邑は…」
そこまで言いかけて、大蛇の目からは涙が零れ落ちる。
目の見えない頭を高く持ち上げて振りながら、巴津火は激した。
「雨邑は神代に殺された!あいつの、雷光の槍で!
…包囲したんだ、神代を。雨邑が提案して、竜宮の指揮をとって、交渉してくれたんだ。雨邑が」
呟きながらその頭はうなだれ、涙は氷の棺に落ちてその透き通った表面を浅く穿った。
顎を棺に乗せて泣きながら、うずくまる蛇身は縮まり、棺に縋って泣く子供の姿を取った。
「ボクのせいだ……。
ボクが一度であの因果を全部漱げていたら、二度目なんてなかったのに」
濁って良く見えないその目は、それでも雨邑の顔を見ようとしていた。
564 :
宛誄&安木
:2011/12/13(火) 00:35:45.09 ID:a+ctUB23P
>>563
泣き出す巴津火を見据えている安木から陽炎が登り始める。
「やはり・・・、貴様目の前でおめおめと殺されるのをただ見ていたのか!?」
「よせよ、安木。巴津火と神代が繋がってるってのはもう聞いてるだろ」
宛誄は起伏のない声で語りかける。
「零さんに感謝してくださいよ、巴津火“兄さん”。
昨晩彼に会っていなければ、次は貴方の記憶を穿り出しているところでした」
宛誄の左手から異形の蟲が湧き出すが、
宛誄が手を返すと同時に肉の中に引っ込んでしまう。
「・・・貴方のせいなんかじゃない」
「うむ」
自分を責める巴津火を前にして、
宛誄と安木は恐ろしく冷徹な声で言った。
「悪いのは全て神代だ」
「因果だの運命だの聞かされても己には解らぬ!
己にとって神代はただの・・・妹を殺した敵でしかない」
見開かれた二人の眼には、
ドロリと濁った紫の光があった。
「己達は、死んでも神代を殺 す」
「可能な限り最大限の苦痛をもってね」
565 :
巴津火
[saga sage]:2011/12/13(火) 01:00:43.27 ID:8JNQ5UXXo
>>564
「零?…それでここへ」
異形の蟲は定かに見えずとも、自分へ向けられた非難は巴津火にも感じ取れる。
そして二人の神代への強い怒りと、決意も。
弟たちの言葉に、巴津火の白濁した瞳にも意志が点る。
「二人とも、こちらへ来て欲しい」
巴津火は立ち上がった。黒い上衣の空っぽの右袖が靡く。
足を引きずり、まだ癒え切っていない体を引きずりながら、巴津火は自分から部屋を出た。
扉の外で控えていた魚や亀達が慌ててその手を取って支える。
巴津火が案内する先は、水晶の塔。
竜宮でも一番の宝具・宝物の類が収められている場所である。
歩きながら、巴津火は二人に話した。
「神代とはボクも戦いたいが、ボクの傷は、癒えるまでもう少しかかる。
二人とも時を置くつもりは無いんだろう?」
次に脱皮したら、巴津火もこの右腕を取り戻すことができる。
でもその前に弟たちが戦うというのなら、巴津火も支援を惜しむつもりはないのだ。
「どれでも欲しいものを持って行け」
水晶の扉の向こうには、竜宮の宝具・武具のなかでも選りすぐった物が並べられ、
草薙剣もその中にあった。
566 :
宛誄&安木
:2011/12/13(火) 01:28:08.46 ID:a+ctUB23P
>>565
「ありがとうございます」
「・・・すまぬ」
安木と宛誄が一礼をすると水晶の塔へ足を踏み入れる。
安木が草薙剣に眼を奪われてるのを流し見て、宛誄が軽く肘で小突く。
「あれは死人に持たせるには上物過ぎますよ。
なによりあれは元々大蛇の物、武器としては使えない」
「むぅ・・・」
安木がしぶしぶといった具合に背を向ける。
「しかし何を持っていけばいいのだ?
己はいつも素手で戦っているからよくわからん」
「まぁ、火霊のあなたに合うのなんて少ないでしょうけど・・・。
そうですね、これとこれがいい」
宛誄が手に取ったのは、場違いな薄汚れた毛皮と、
禍々しい竜が撒きついた槍だった。
「竜の生まれでありながら、火と煙を好んだ狻猊の鬣と
殺戮を司る竜、睚眦の力が篭った槍です」
宛誄に渡されたものを手に取り、安木が微笑む。
「おお、なかなかしっくりくるな!」
「さて、僕はどうしましょう? 武器の手羽裂も防具の金縄もあるので・・・。
そうだ、これがいい」
宛誄が手にとったそれは。
竜宮の真の主である娑竭羅龍王の雫の首飾りだった。
「・・・なるほど、スサノオの力。だいぶ思い通りに成る」
宛誄は腕を異形に変化させたり、妖気の質を変化させたりしながら。
その力をありありと感じ取っていた。
「さて、ありがとうございます巴津火兄さん。
これで十二分に戦えそうだ・・・でも、やはり」
突如宛誄は巴津火に飛び掛り、異形の蟲を口に滑り込ませた。
「神代の記憶もください、奴に対して万全の体制をとっておきたいので」
567 :
巴津火
[saga sage]:2011/12/13(火) 01:40:52.38 ID:8JNQ5UXXo
>>566
「…こほっ」
見えない上、傷も負っている巴津火には、宛誄の動きに反応することが出来なかった。
咳き込みながら飲み込まされた蟲は、身の内で暴れまわる。
「っ、がはっ…あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
巴津火は吐き出そうと反射的にえづくが、胃を焼くような苦しみが増すばかりで、
無理やりに記憶を吸い出されてゆく。
その苦痛は全身へと広がり、床を転げまわって暴れる巴津火はやがて朦朧としていった。
(でも雨邑は、きっと、もっと痛かったんだ…)
途切れ途切れに思い返したのは、雨邑と小舟に乗った時の記憶。
神代についての記憶と一緒に、その記憶もまた蟲によって吸いだされていった。
568 :
宛誄&安木
:2011/12/13(火) 02:03:49.87 ID:a+ctUB23P
>>567
「すいませんね」
人形のような表情になった蜂比礼が実体化し、
写し取られた情報を読み解いていく。
「・・・なるほど、ね」
宛誄が得心して巴津火から静かに離れる。
突然の強襲にいきり立った竜宮の者達にずらりと囲まれていた。
「安心してください、後遺症はありません。数日ですぐに元に戻ります」
宛誄は両手を上げて、竜宮の者達の中を歩いていく。
引き止められようとしても、今の宛誄と安木には簡単に逃げおおせられるだけの力があった。
「すみませんでした兄さん、
雨邑の遺体はここに置いて行きます。
・・・入江姉さんに見せたくないので」
苦しさに悶える巴津火を見下ろし、宛誄は静かにそう囁きかけた。
「いくぞ、安木」
「う、うむ・・・。かたじけのうござった」
おずおずと安木は宛誄の後に着いて行った。
宛誄は去り際に言い残す。
「必ず、仕留めてみせますよ」
569 :
巴津火
[saga sage]:2011/12/13(火) 02:20:50.78 ID:8JNQ5UXXo
>>568
宛誄の暴挙はあったものの、雨邑の傍からずっと動かなかった巴津火を
あの寒い青の部屋の外へ連れ出してくれた点では二人に感謝すべきなのだ。
もっと温かく休養向きの部屋へ移されて数日、巴津火が目を覚ました時には
傷ついたその身体の更新が始まりつつあった。
(安木の顔、ちゃんと見られなかったな)
この兄弟が再び顔をあわせる時は、来るのだろうか。
570 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
:2011/12/13(火) 06:33:15.24 ID:1z42gTkm0
解
571 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
[sage]:2011/12/13(火) 09:25:26.80 ID:l/hyZA1AO
閉鎖まだ?
572 :
夢無
:2011/12/13(火) 23:19:29.03 ID:EeVGhYgAO
木々が生い茂る森の中。エプロンドレス姿の女性が辺りを見回しながら歩いていた。
「うう……迷っちゃいました……飛葉さーん!どこですかー!」
どうやら、この女性迷ってしまったらしい。
573 :
澪
:2011/12/13(火) 23:27:15.57 ID:/vJP274DO
>>572
「三凰も巴津火も夜もいる、こんな幸せがほかにどこにあるんだっ!
神様ありがとうございます!!」
そんなうかれ気分で辺りをうろついていた澪。
気がつけば道からそれて大変な場所にいた。
「・・・ええー!迷った!!夢無さん助けて!・・・え、なぜ夢無さんが?」
彼女もなぜこんなとこにいるのか、不思議だった。
574 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/13(火) 23:32:14.78 ID:8JNQ5UXXo
>>572-573
「んー?誰かいるのか?」
冬枯れた潅木の間でしゃがみ込んでいた灰色の作業服の男が、声を耳にして立ち上がった。
何か集めていたのか、白いビニル袋を幾つか手にしている。
「なんだー、澪じゃな―――が浮気してるっ!?」
知った相手だと気安く声を掛けようとして、途中からその驚愕が声に現れた。
目を見張った男のその手から、がさりと袋が取り落とされた。
(俺は、見てはいけないものを見てしまったッ!!)
妖気を一切感じさせないその男(?)は、人間を苦手とする夢無にはどう映るだろうか。
575 :
夢無
:2011/12/13(火) 23:45:09.84 ID:EeVGhYgAO
>>573
「あ!澪さん!助けてください!ここどこですか!?飛葉さん見ませんでしたか!?
って、まさか澪さんも迷子ですか……?」
次々に質問するが、それが意味のないものだと気づき、危機感を感じる夢無。
>>574
「わっ!ひえぇ……まさか……人間……」
妖気の無い黒蔵に驚き、澪の後ろに隠れ震える夢無。その姿は更に浮気に見えてしまうかもしれない。
576 :
澪
:2011/12/13(火) 23:54:00.18 ID:/vJP274DO
>>574-575
「うん、迷子になっちゃったテヘペロ♪
結婚式が近いから浮かれすぎちゃった・・・。
夢無さん?どした?」
不意に隠れる夢無の前には、呆然とした黒蔵がいた。いや、普通浮気と勘違いしてもおかしくない状況だ。
「う・・・浮気?夢無さん、浮気してたの?黒蔵っ!夢無さんが浮気してたとしても変なこと言っちゃ駄目でしょ!
それに夢無さん、僕には夜がいるから駄目!!」
勘違い、再び発生。
澪は、黒蔵の言った浮気は夢無に言ったと思い込み、見つかった夢無が隠れたと想定。
なんか夢無さんの扱いが酷い気がする
577 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/14(水) 00:02:48.70 ID:fugi6T3bo
>>575-576
「…!!
もしかしてその人、澪の前の恋人で、別れ話しにきてたとか?
それなら夜さんには内緒にしておくっ!俺何も見て無いよ、そういうことだね!」
さらなる勘違いをされたのに気づいていない黒蔵は、澪の台詞をそう解釈した。
そして上ずった声で言ってビニル袋を拾い上げると、回れ右して逃げ出そうとする。
口ではそう言いながらも顔に全部出るこの男、「そういうこと」にしておけそうな気配は皆無でもある。
「なんかいきなりで、失礼しましたッ」
夢無に頭をさげると方向を迷うことなく歩き出すあたり、3人の中で唯一帰り道の判る者らしい。
今捕獲しないと森を迷い続けることになりそうだ。
578 :
夢無
:2011/12/14(水) 00:08:27.88 ID:iAbtzskAO
>>576
「う、浮気って何のことですか…?そ、それより人間が……」
澪の話もあまり聞かずに黒蔵の方を見て震えている。
>>577
「ひぃっ!?」
頭を下げたことに驚く。何かされると思ったらしい。
「……あ、あれ?」
しかし、そのまま帰ろうとしたので安堵した様子。唯一帰り道を知っているとも知らずに……
579 :
澪
:2011/12/14(水) 00:20:00.35 ID:U284cQkDO
>>577-578
「ちょっと黒蔵ぁ!?おいてかないでっ!
僕達は道に迷っただけだから!!浮気とか恋人とか違うからっ!!!」
ぐいっと黒蔵を背中からホールドする。
黒蔵のやっこい肌の感触を少し気にしつつ、夢無にも声をかけた。
「黒蔵は人間じゃないよ、姿は人間だし妖気もない。けど僕はずっと妖怪だと思ってる。だから大丈夫!」
全然大丈夫じゃないよ、夢無さんパニクるよ・・・。
「あ、そうそう。夢無さん、三凰には気持ち伝えたの?」
魔球キター
580 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/14(水) 00:26:27.76 ID:fugi6T3bo
>>578-579
「うぐぁっ!」
人間並みの身体能力しか無い黒蔵に、ヤマタノオロチの澪のホールドはかなり厳しいものがある。
(息ができない)
作業服の男は涙目で、持っていた袋をまたもや落っことした。
ホールドから抜け出そうとじたばたと暴れてみるが、澪はびくともしない。
「に…はな……して」
搾り出される肺からの空気で、逃げないから離して欲しいと伝えるが、
酸素がそろそろ足らなくなりそうだ。
581 :
夢無
:2011/12/14(水) 00:30:22.57 ID:iAbtzskAO
>>579
,
>>580
「え?え?妖怪なのに妖気が無い?それってどういうことですか?」
予想通り余計混乱した夢無。
「へ?気持ちって…どういう意味ですか?」
これだけ言われたにもかかわらず、意味が分かっていないようだ。だいぶ鈍感なのだろう。
582 :
澪
:2011/12/14(水) 00:41:41.97 ID:U284cQkDO
>>580-581
「まぁ、色々とあるんだよな、黒蔵ーーーあ!!!」
今にも死にそうな黒蔵のホールドを止めると、夢無へと視線を向けた。
「夢無さん、三凰のこと好きなんでしょ?それを本人に言ったかって。」
黒蔵が聞いているというのに、澪は平気で言ってしまう。
583 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/14(水) 00:47:12.61 ID:fugi6T3bo
>>581-582
澪に解放されて咳き込んでいる男は、どう見ても何かできるような状況では無い。
少ーしだけ、夢無は安心しても良いだろう。
「澪ー、勘弁してくれよー今の俺の身体、ほぼ人間なんだからさー」
迷っただけなのは判ったから、と、黒蔵は頭をかいた。
もしも夢無が怖がらずにもう少し近寄れば、むしろ浮気を疑いたくなるのは
こっちの二人の組み合わせのほうかもしれない。
澪が迷うことなくホールドしたこの人間、見ようによっては女にもみえるのだから。
「俺ね、元妖怪。今人間の身体使ってるから、こうだけど」
夢無へ簡単に説明した黒蔵は、澪の言葉に疑問符を浮かべた。
「三凰?」
584 :
夢無
:2011/12/14(水) 00:56:46.82 ID:iAbtzskAO
>>582
「もちろん、三凰様のことは好きですよ。それに、三凰様と二仙様に一生ついていくとは言いましたけど?」
質問の意図がよく分かっていない様子だ。
おそらく、飛葉と一緒に一生宝玉院家に仕えると宣言したのだろう。
>>583
「元妖怪……」
少しだけ安心したのか、表情が和らいだ。
「三凰様は百鬼夜行の主になられるお方です。」
そして、誇らしげに三凰について話した。
585 :
澪
:2011/12/14(水) 01:07:41.82 ID:U284cQkDO
>>583-584
「悪い悪い、いやぁ、こんな風に接するのって三凰と夜くらいしかいないからさ。」テヘペロ♪
黒蔵が三凰を知らなかったことに対しては意外だったのか、澪も夢無と同じように話し始めた。
「そう、百鬼夜行の主!優しいし強いし、きっとなれる方だと信じてる。
性格は巴津火っぽいかな?」
三凰と巴津火のは外面的に似てるだけだが、澪には同じように見えるらしい。
「で、夢無さん。率直に聞くよ。三凰と結婚したくないの?」ドーン
586 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/14(水) 01:12:43.79 ID:fugi6T3bo
>>584-585
「ひゃっきやこうのぬし?」
(何だか強くて偉くてカッコいい雰囲気がする)
実は以前に三凰と会った事はあるのだが、黒蔵はまだそこに思い至っていない。
初めて会ったときは高速道路のトラックの荷台だが、その時には名を聞く暇がなかったのだ。
「主になる人だから、好きなのか」
聞きかじった内容を繋ぎ合わせての、質問というよりは確認だったが、
それは知らず知らず、三凰だから好きなのか、それとも主となる男だから好きなのか、という
夢無への問いかけになっていた。
「夜さんに?っていうか、あの力で抱きしめられて平気なのか店長……」
(でも夜さんにまずいことじゃなくて良かった。本当によかった)
この色々と抜けている元妖怪は、今更そこに安堵している。
587 :
夢無
:2011/12/14(水) 01:25:34.32 ID:iAbtzskAO
>>585
「け、結婚!?わ、私が三凰様と!?そ、そんなの駄目ですよ!?私、使用人ですし。そもそも、三凰様って…なんて言うか、その、そういうのじゃないんです。確かに好きなんです。でも、なんて言うか……その、弟みたいな感じ……かな……」
しばらく考えた後、意外と思われる答えが返ってきた。恋愛感情に気づいていないのか、それともまた違った感情なのだろうか。
「あっ!今の三凰様に言わないでくださいね!怒られちゃいますから」
>>586
「うーん……主になるからって訳ではなく、三凰様と二仙様は恩人だから好きなんです。
両親が死んで、行く宛のなかった私を拾ってくれたのが二人なんです。だから、一生仕えるべき大切な方達なんです。でも、私失敗ばかりで……」
話していくうちに落ち込んでいく夢無。そのまま、俯いてしまう。
588 :
澪
:2011/12/14(水) 01:38:14.10 ID:U284cQkDO
>>586-587
「三凰が弟!?・・・・・・・・・納得。」
そこは納得しちゃだめ!
もしここに露希がいたら、「ツンな弟とドジっ子姉の萌え萌えなry」と言い出すはず。
「夜はありのままの僕を見てくれているから、基本何しても驚かれないよ、だから夢無さんも落ち込むことないよ」ノホホン
そして店長さんの性格が少しずつ澪に感染している。
「黒蔵も、変なことで落ち込むなよ。ネガティブ駄目。」
589 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/14(水) 01:41:59.68 ID:fugi6T3bo
>>587-588
「弟みたい?偉い人で?巴津火に似てる?」
黒蔵にもなんとなく三凰のイメージが掴めて来た。(ただし、内面的な意味で)
「使用人なのか。それじゃ確かに、失敗は相手に見られる立場だよなぁ」
失敗ばかりで、と言う夢無に、筋金入りのドジで色々な意味でツイてないこの男も、
うんうんあるある、と頷いている。
(俺だって四十萬陀に一杯ドジ踏んだところ見られたし……)
夢無と同じく黒蔵も、結婚してくれとか言えるような立場ではない。
そしてもし言えたところで多分、それはそれは見事な死亡フラグにしかならないのだろう。
「はぁ…。えぇ?なんで俺?」
落ち込む奴がもう一人、しかし澪の言葉で図星に釘が深々と刺さったようだ。
590 :
夢無
:2011/12/14(水) 01:53:37.13 ID:iAbtzskAO
>>588
,
>>589
「でも、私いつまでも役立たずのままじゃ駄目なんです。三凰様と二仙様に迷惑かけてしまいますから……
飛葉さんみたいに役に立つ立派でかっこいい使用人にならなくちゃ駄目なんです……」
飛葉の他にも、警備の野衾や飛葉に鍛えられた兵士達など宝玉院家には有能な者が多い。
夢無はそんな中で、失敗を繰り返す自分がコンプレックスだった。
591 :
澪
:2011/12/14(水) 02:14:27.17 ID:U284cQkDO
>>589-590
「なんでって・・・黒蔵も時々こうなるだろ?その辺は思慮したうえでだ。」
黒蔵には軽くダメージを与えてしまったが、悪気は全くないのだ。
「夢無さん、もし本気で変わる気があるなら、努力は惜しまないこと。
それから、やはり頼れる人に相談するのも必須だね。
まあまずは、一番身近な飛葉さんにも相談するべきだね。だから黒蔵、道案内よろしく!」
寒いのはあんまり得意ではない澪は、早く帰りたいと思ってたりもする。
それに帰れば店長さんを独り占めできるのだ。
黒蔵には任せるだけ任せ、再び浮かれながら帰っていくのであった。
//私の方はこの辺りで切り上げます。
絡みお疲れ様でした&ありがとうございましたー!!
592 :
黒蔵
[saga sage]:2011/12/14(水) 02:22:37.35 ID:fugi6T3bo
>>590-591
「立派に役に立つ、か」
黒蔵は手にしたビニル袋を見た。
少しでもミナクチの役に立とうと、今の巴津火に必要そうなものを集めているのだが。
でも、それで役に立てているのか、本当に評価されるのか、そもそも罪人である自分は
報われることなど考えてはいけないのではないか、などと、ぐるぐると考え込んでしまう。
「…うん」
澪の言うとおりで、たった今黒蔵はそうなっている。
澪のお陰で思考の迷路に入り込む前に、意識を切り替えることができた。
「道案内。そっか、二人とも迷ってたんだっけ?
…やれることからやっていくしかないんだよな、結局」
黒蔵は気を取り直し、立ち上がって服についた汚れを払う。
「こっちの藪を越えて白い岩を回っていくと、湖にでる道とぶつかるよ」
そして二人の先に立って、正しい方向へ案内していった。
//お二人とも、絡みどうもありがとう御座いました!
593 :
夢無
:2011/12/14(水) 02:35:29.85 ID:iAbtzskAO
>>591
「本気で変わる気……あ、あります!私一生懸命努力します!」
そのやる気が空回りしなければいいのだが……
「澪さん、なんだか相談みたいになってしまってすみません。でも、ありがとうございます!」
話を聞いてくれた澪に感謝を込めて礼を言った。
>>592
「黒蔵さん、道案内ありがとうございます!」
最初にあった黒蔵への恐怖心もなくなり、礼を言った夢無。
そして、そのまま道案内されるだろう。
(あれ?何か忘れているような……)
遠く、夢無達には声が届かない位置で残された飛葉が叫ぶ。
飛葉「夢無さーん!どこへ行ったのですかー!」
その後、宝玉院家へ帰る途中に飛葉のことを思い出し、再び森へ入り、再び迷子になったらしい……
/お二人ともお疲れ様&ありがとうございましたー
594 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
:2011/12/14(水) 07:46:40.06 ID:L+/oSMXY0
解
595 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
:2011/12/14(水) 09:05:28.55 ID:GXcBzJSAO
解
596 :
鹿南
[sage]:2011/12/14(水) 21:33:44.93 ID:fugi6T3bo
この奥山には温泉が湧いている。
かつてこの一体の禁足地を護っていた山神が居なくなり、稀に人間が入ってくるようにもなったが
道の険しさもあってまだここは獣たちの湯治場である。
一頭の牡鹿が、岩の間に湧く濁った湯につかり、底に溜まった泥を身体にこすり付けている。
その身体には所々毛並みの荒れた部分があり、肩と背中には赤黒い傷が並ぶ。
「ふぅ」
ぷるるっと耳を振って雫を振り飛ばすと、牡鹿は心地よさそうに溜息をついた。
597 :
現人
[sage]:2011/12/14(水) 21:48:50.22 ID:Zoa8j8oDO
>>596
「んー、なんだ?湯気?」
響く声と足音、のんびりとした足取りで近づいていく
「お?これは・・・温泉か」
足音は温泉の近くに立ち止まる
湯気の向こうに見えるシルエットは・・・いびつなアフロ?
598 :
鹿南
[sage]:2011/12/14(水) 21:53:34.02 ID:fugi6T3bo
>>597
温泉の傍には小さな祠。
そしてその祠の傍の石の上には、よく目立つ派手な着物が置いてある。
「そこにいるのは誰?」
湯気の間から見えるいびつなアフロ?のシルエットへと、牡鹿は声を掛けた。
特に警戒はしていない。
この湯治場での戦いは禁止。その決め事を、山神の居なくなった今も獣や山の妖怪たちは
しっかりと守っているのだ。
599 :
現人
:2011/12/14(水) 22:00:40.82 ID:Zoa8j8oDO
>>598
「んー、誰と言われてもな」
かりかりと頭をかく、シルエットにはアフロ?を平然と手がすり抜けたようにも見える
「強いて言うならあれだ、かくかくしかじかで迷い人」
何かしら目的があって山に入ったが迷って、ふらふらしているうちにここにきた
ということらしい
600 :
鹿南
[sage]:2011/12/14(水) 22:06:58.08 ID:fugi6T3bo
>>599
「そう。ここは見ての通り温泉。
入るも入らないも自由だけど、戦いだけはご法度よ」
湯気の切れ目からぬぅっと大きな鹿の角とシルエットが見える。
その話口調と声に覚えがあれば、以前に岩場で会った鹿だと判るかもしれない。
601 :
現人
[sage]:2011/12/14(水) 22:19:40.16 ID:Zoa8j8oDO
>>600
「へぇ、そうなのか・・・ん?」
説明を聞いて頷いているところで、その声に聞き覚えがあることに気付く
「お前さん、前に会った・・・まぁとりあえずせっかくだから入らせて貰うぜ」
何か言おうとしたが、温泉に入ってからでも遅くないだろうと思い止める
602 :
水町
:2011/12/14(水) 22:27:03.16 ID:7QvlZx/eP
>>601
「やや、先客がいらっしゃったと思えば・・・。
この臭いは貴方でしたか」
現人に語りかける、成人男性ほどもある背丈の河童。
しかし筋肉の筋張った肌はぬめぬめとし、手には鋭い爪があり、小さな目は虎のように鋭い。
「また会いましたね、現人さん。私は水町ですよ」
鋭い牙の生えた口は親しげに語りかけた。
>>600
「お初お目にかかります、貴方の噂はかねがね聞いておりますよ」
鹿南にペコリと頭を下げる水町。
弓のように曲がった猫背は湯船に浸かると心地よさそうに震える。
「冷えますね、先日は貴方の娘さんにも世話になりました」
603 :
鹿南
[sage]:2011/12/14(水) 22:28:36.76 ID:fugi6T3bo
>>601
「あら、その顔は…あの時の子ね」
濁った湯の中に座っていたのは、声の主は左目を無くしたあの牡鹿だった。
「道に迷ったって、どこへ行くつもりだったの?
あとでうちの娘達が食事を持ってくるはずだから、なんならこの前の礼に道案内させるわよ」
ばしゃり、と牡鹿は湯の中で座りなおし、湯に付けていた側のわき腹を
今度は冷たい冬の大気に晒す。
湯で泥が洗い流されたそこには、刃物で切りつけたような切り傷があった。
604 :
鹿南
[sage]:2011/12/14(水) 22:35:05.16 ID:fugi6T3bo
>>602
牡鹿は水町に首を廻らせた。
「始めまして、ご丁寧にどうも。アタシはガンゴジの鹿南」
ふうぅ、と牡鹿の吐いた息が湯気をかき混ぜた。
605 :
現人
:2011/12/14(水) 22:48:18.02 ID:Zoa8j8oDO
>>602
>>603
「おう、あの時はどうも」
湯気の奥から見えた顔はいつも通りの帽子姿、アフロに見えた物はどうやら物が詰まった風呂敷
「実はその娘さんにこの間のお礼をしようと思って来たんだがな」
ぽりぽりと頬をかく
「ん?どっかで感じたことがある気配だと思ったらお前さんか」
ここで水町に話かけられ顔を反らす
「ま、服きたままで入るわけにはいかんし先客とは言えないかもしれんけどな」
そのまま、湯気の向こうに姿が消えていく、どうやら服を脱ぎにいったのだろう
606 :
水町
:2011/12/14(水) 22:57:34.05 ID:7QvlZx/eP
>>604
>>605
「ははは、服ですか。
温かそうです、私も着てみましょうかね」
人には化けられず、スッポンの姿にしか成れない水町が服を着たらはなはだ滑稽だろう。
水虎の姿で普段過ごすなどもってのほかだ(霊体なので普通の人にはどのみち見えないが)。
「いい湯ですな、冷えた体が生き返るようだ」
水町は湯の中でググッと背伸びをした。
確かに爬虫類にはこの冬の冷気は厳しかろう。
607 :
鹿南
[sage]:2011/12/14(水) 23:05:16.08 ID:fugi6T3bo
>>605-606
「それならここで待ったほうが早いわよ」
服を脱ぎに行った現人が戻ってくる頃には、牡鹿は人間の男の姿になって、
湯船でのんびりと寛いでいることだろう。
「でも、お礼されるほどの何かをしたのかしらねぇ?あの子は特に何にも言ってなかったのだけど」
岩の上の手ぬぐいに手を伸ばすと、赤みの強いその髪に絞った手ぬぐいを乗せながらひとりごちた。
「水町さんでしたわね。
ここは誰が何時来て湯に使っても良い場所。アタシらにはホント有難い場所ですわ。
でも山神様が居なくなったから、時折だけど人間が禁足結界を越えて迷い込んでしまうのよ」
男の右目は昔を見るかのように、僅かに伏せられた。
608 :
現人
[sage]:2011/12/14(水) 23:16:04.33 ID:Zoa8j8oDO
>>607
>>606
「良いんじゃないか?寒いなら、何かしら防寒具を付けるのは間違ってない」
水町の冗談とも取れる言葉に湯気の向こうから返答が返ってきた
その声はなにやら幼い
「んじゃ、待たせて貰うことにするぜ」
戻って来たの現人の姿は腰にタオルを巻き、藁で作られた帽子を被った6歳程度の幼子の姿だった
「ちょっと人情に心を暖まらせてもらったんだよ」
クスクスと笑う幼子、普段ならともかく今の姿だと
全く似合わない笑いかたである
609 :
水町
:2011/12/14(水) 23:20:14.38 ID:7QvlZx/eP
>>607
「仕方のないことです、我々妖怪は生まれた意味に一生拘泥されるが、
人は常に未来へ未来へと生きていく。
いまや自然すら人に任せたほうが上手くいく所さえ在るのです。
今やこの世に人の入れぬ聖域などなく、闇の在る場所は刻々と減っていく。
そして我々妖怪は、留まり続けて死んでいくのですから」
水町は遠くを眺めるような様子で語っていく。
懐かしんでいるのか、絶望しているのか。
湯気の中では判別のつけようがない。
>>608
「ほう、そのような姿にも成れるのですか」
現人の幼いシルエットに、水町は小さな目をさらに細めた。
「しかしお気をつけくださいよ、
こちらの鹿南さんは子供を攫う妖怪ですからね」
冗談っぽく、水町はカラカラと笑った。
610 :
鹿南
[sage]:2011/12/14(水) 23:25:03.12 ID:fugi6T3bo
>>608-609
「あら、アタシだって何も悪くない子供は攫えないのよ?
アタシが攫うのは、親の言いつけを守らず間違った道へ堕ちて行く子供だけ」
片目の男は水町と一緒に笑い声を上げる。
「人情ねぇ、アタシの娘の育て方が間違ってないみたいで良かったわ。
人の子を喰う妖怪が人の子を育ててるなんて、普通は笑い話か怖い話だものねぇ?」
6歳の姿の現人に、片目の男は親の表情で笑ってみせる。
濁った湯から覗くその上半身には、爪痕や切り傷が派手に散っていた。
611 :
現人
[sage]:2011/12/14(水) 23:40:25.89 ID:Zoa8j8oDO
>>609
「はっはっは、昔はこっちの姿でいたことのほうが多かったんたけどな」
座敷童子なのでそれは当然と言えば当然だろう
「今はこの姿だったらすぐに補導されちまう」
青年の姿は彼なりの今の人の世の中の生き方なのだろう
「マジか、そいつは怖いな」
水町の冗談めかした言葉に、冗談めかした言葉で返す
「悪い子供はさらわれるのか、更に怖いな」
鹿南の言葉に更に冗談めかして笑う
座敷童子は悪戯好きな存在とも言われるのであながち冗談ではないのかもしれない
「そこまで面識の無い俺が言うのもなんだが、娘さんを見る限りお前さんはしっかり親になれていると思うぜ」
笑い話でもなんでもねぇさと付け加えからからと笑う
612 :
水町
:2011/12/14(水) 23:49:08.78 ID:7QvlZx/eP
>>610
>>611
「そうですね・・・、いい娘さんでした」
水町は瞳を閉じる。
「人の子を食い、人の子を育てる・・・。
おや、そういえば」
水町は鹿南の方を向き直る。
「どうして人の娘が貴方から生まれたのです?」
少し不思議がって水町は尋ねる。
613 :
鹿南
[sage]:2011/12/15(木) 00:06:33.56 ID:rkn+SRfno
>>611-612
「アタシの子として生まれたんじゃないの。拾ったのさ。
しょうもない子供をほっておくと、どんどん悪い大人になってしまうのね。
それを脅したり喰ってしまうのが、アタシの役目だ」
良い子にしてないとお化けが来て食われてしまうよ。
幼い子供へのその脅し文句から生まれるのが、鹿南のような子供攫いの妖怪だ。
そうやって人の子を喰う業があるから、自分の娘の鹿たちは先に死んでゆくのかもしれないと、
片目の牡鹿はそう思うことで、血を分けた娘たちがただの鹿として
その短い生涯を閉じてゆくのを受け入れている。
「アタシに食われ損ねたまま大人になった人間が、あの子の産みの親さね。
恋人とよろしくやるがために、邪魔なあの子を産みの親が雪の中へほっぽりだしたのさ。
現人も、そう言ってくれてありがとね。
まあ人の子を育てるなんて初めてづくしだからねぇ、色々苦労はあるのよ」
ふふ、と笑う男の耳が、こつこつと石のぶつかり合う音を拾う。
「噂をすれば。娘達が来たみたいね」
湯気の向こうに、幾つかの影が見えた。
614 :
現人
:2011/12/15(木) 00:18:12.18 ID:EdjvJj/DO
>>613
>>612
「俺は人間が好きだから食うって話題は少しきついな」
その性質上人の世で暮らして来た守り神は少し苦笑いする
「まぁ色々と大変だろうけど、頑張れよ
応援もするし、出来ることなら協力もするからよ」
ニカッと純粋に笑う、幼子の姿なのでどことなく可愛らしくも見える
「おぉ、みたいだな」
そして影へと顔を向けた
615 :
水町
:2011/12/15(木) 00:26:19.61 ID:l7dq8hn/P
>>613-614
「人の業、あに深きしや」
水町は鹿南の話に耳を傾け、
そっと目を閉じる。
「今も昔も、親が子を捨てる話はやるせないものです」
水町はそういって、曇天の空を見上げた。
そうしているうちに、鹿南の娘の匂いが近づいてくる。
「あぁ、そうですか。
それでは私はこの辺で上がらせていただきますよ。
若い娘さんにこんな姿を見られたら嫌われてしまいそうだ」
水町はザブリ、と湯から上がると。
そのまま透色の膜を纏い、見えなくなってしまった。
616 :
鹿南「」 美雪『』
[sage]:2011/12/15(木) 00:34:11.36 ID:rkn+SRfno
>>614-615
「そっかー、現人はそっち側なんだねぇ。ははっ。
まあ、そう簡単に子供を取って食えてるわけでもないよ。
目をつけても様子によっちゃ目こぼしもするし、大体は守る立場の妖怪なり神格なりが
ちゃーんと目をかけてるモンだからサ。
そういうのに愛想つかされた人間が、ほっといてもアタシらの目の前に堕ちてくるも…」
『もーっ!!お父さんの馬鹿ぁ!!そのカッコで居ないでって言ったじゃないの!』
男の言葉を怒ったような少女の声が遮った。
「あー、そうだったわねー。ごめんごめん」
男は再び、牡鹿の姿になって立ち上がる。その時には既に水町の姿はなく、
籠を背負った二頭の雌鹿と一緒に、赤いダウンジャケットで着膨れた少女が立っていた。
『デリカシーってもんが無いの、お父さんはー!』
はいはい、と大人しく怒られている牡鹿の角の間から、濡れた手ぬぐいが湯に落ちる。
『あれ?そっちの小さい子も妖怪さん?はじめまして』
雌鹿の背中から、薬草の籠を下ろしながら美雪が尋ねた。
617 :
現人
:2011/12/15(木) 00:46:41.04 ID:EdjvJj/DO
>>616
>>616
「ずばり俺は守り神だからな、といっても今はほとんどの力を忘れてるが
しかし、本当なら守るべき立場の最もたる者、親がしっかりしていれば
ねじまがるやつなんてそうはいないはずで俺達なんて本来はいらないんだがなぁ・・・
そういう点ではちゃんと親が出来ているお前さんは凄いと思うぜ」
からからと笑う幼子
「俺は妖怪じゃなくて守り神だよ、んで、はじめましてでもない」
わざわざ遠回しな言い方をする幼子
618 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
:2011/12/15(木) 00:50:14.37 ID:EdjvJj/DO
>>617
【つけ忘れ】
「ん、そうかい、んじゃまたな!」
去って行く水町に軽く手をふった
619 :
鹿南「」 美雪『』
[sage]:2011/12/15(木) 00:53:53.27 ID:rkn+SRfno
>>617
「こうして親を叱るくらいには、育ったけどねぇ」
幼子に答え、人間とは違う顔の造りではあるが、牡鹿の表情は苦笑いしたようにも見えた。
「美雪、その小さい子、アンタのお友達よ。現人さん」
『お友達?現人……って、ええーっ!!現人さんなの?』
牡鹿は籠の中へ鼻面を突っ込んでもぐもぐと草を食み始める。
美雪は驚いてまじまじと現人を見つめていたが、さぁっと赤くなって目を反らせ、後ろを向いた。
『ごめんね。小さい子だと思って…お風呂入ってるとこ見ちゃって』
(大きい時の現人さんじゃなくて良かったー。濁ってるお湯でホントよかったー)
後ろを向いたままの美雪は、気まずそうにそう言った。
「水町さんもさっきまでいたんだけどねぇ。帰っちゃったよ」
『えー、亀さんも居たの?来るのが遅かった!』
養父の言葉に、少女はちょっと残念そうな表情になる。
620 :
現人
:2011/12/15(木) 01:08:03.41 ID:EdjvJj/DO
>>619
「はっはっは、そんだけ元気に育ったならいいことだ」
対極的にこちらは嬉しそうに笑う
「おうよ、また会ったな」
からからと笑う幼子の雰囲気は確かに現人であり
「気にすんな、湯も濁ってるしどうせあんまり見えんだろ?
っとあぁそうだ、こないだのお礼があるんだった
その辺に風呂敷が置いてあるだろ?」
幼子が指差す先には確かに大きな風呂敷がある
・・・近くに乱雑に脱がれたと思われる洋服もかけてある
621 :
鹿南「」 美雪『』
[sage]:2011/12/15(木) 01:15:24.57 ID:rkn+SRfno
>>620
『お礼?この間の?あたし何かしたっけ…?』
うーん、と首をかしげながら風呂敷に近寄る。
二頭の雌鹿も興味津々、と言った様子で首を伸ばして…脱ぎっぱなしの洋服に顔を寄せている。
『あ、駄目だよお姉ちゃん達!』
美雪が悪戯を制止すると、二頭はふざけたように跳ね始める。
「落ち着きなさいな、あんた達!妹より子供っぽいんだから!」
牡鹿が2頭を叱り付けた。
622 :
現人
:2011/12/15(木) 01:23:07.86 ID:EdjvJj/DO
>>621
「カイロの礼だよ」
それだけ短く言うと微笑ましげに父娘の様子を見守る
「ま、開けてみろ色々と入ってっから欲しい物持ってけ」
風呂敷を開けてみれば確かに色々と・・・
洗剤、ゲーム、本、怪しげな玉、食材、等々ぎっしり入っている
623 :
鹿南「」 美雪『』
[sage]:2011/12/15(木) 01:31:21.40 ID:rkn+SRfno
>>622
『ごめんね、このままだとお姉ちゃん達が悪戯しそうだから
服、ちょっと畳むね』
美雪が散らばっている洋服をきちんとたたみ直す。
一方、叱られた二頭の雌鹿たちは尾をぴんと立てて立ち尽くし、
現人、美雪を見まわしてからじっと互いに顔を見合わせた。
まるで悪戯の共犯者同士が、どうしようかと相談でもするかのように。
『わー、大荷物だね。生活用品が一杯だ…』
風呂敷を広げ、現人さんは何読んでるんだろう?と本を取り上げた美雪の手元から、
雌鹿の一頭が怪しげな玉を咥えとってさっと駆け出した。
もう一頭もその後を追ってゆく。
『あっ!こら!!』
雌鹿の動きに美雪は慌てて本を元に戻すと、現人へ困ったように声を掛けた。
『お姉ちゃんがもってっちゃったから、あの玉、貰っても良いかな?
もし大事なものだったりしたら、ごめんね。こんど会うときに返すから!』
あの雌鹿たちは、以前に幼い獏がくれた不思議なシャボン玉を気に入って、奪い合っていたのだ。
彼女たちがそれと似た丸いものに反応してしまうことを、美雪はすっかり忘れていた。
624 :
現人
:2011/12/15(木) 01:42:00.42 ID:EdjvJj/DO
>>623
「すまん、借りが増えたな」
苦笑いする幼子
ちなみに美雪が手に取った本は最近流行っているらしい本である
「ん?別にそれに入ってる物なら何でも持ってってもいいぞ?
もともと、なにを持ってけばお礼になるかわからんかったから持ってきたものだしな」
別に全部持っていっても問題ない、と付け加え
要するにカイロのお礼のためだけにあのでかい風呂敷を持ってきたらしい
625 :
鹿南「」 美雪『』
[sage]:2011/12/15(木) 01:51:33.13 ID:rkn+SRfno
>>624
『現人さんありがとっ!またねっ!
…こらーお姉ちゃん達!それ返しなさいってば!』
美雪は人間にしてはかなり敏捷な動作で追っていったが、やはり鹿の足には敵わない。
「やれやれ…あれであの二頭とも、美雪の倍以上の年なんだからね。
人の子の成長というのは本当に、あっという間だ」
二頭と一人が見えなくなってから、籠の草を食んでいた牡鹿がぽつりと漏らした。
妖怪の子供なだけあって、あの雌鹿たちの成長は美雪よりもずっとゆっくりらしい。
「はぁ……。娘ってのは人でも鹿でも、可愛くて、手が焼けるものだわ」
籠の草を食べ終えて、牡鹿は再び湯の中へ膝を折って座り込む。
疲れたようにその目を閉じると、やがてうつらうつらと眠りに落ちていった。
//ではこの辺で〆ますね。絡みありがとう御座いました!
626 :
現人
:2011/12/15(木) 01:59:49.29 ID:EdjvJj/DO
>>625
「またなー」
賑やかな姉妹ににこやかに手をふった
「いやはや、うらやましいもんだな」
父娘の絆をみて、しみじみと声を漏らす
「そんじゃ、俺もそろそろ失礼するかね・・・っと寝ちまってるか」
起こさぬように薄い気配を完全に消して、音も立てず去って行く
//お疲れ様でした!&ありがとうございました!
627 :
谷山
[sage]:2011/12/15(木) 10:09:06.09 ID:YLgmbyCAO
過疎ってますなぁ
628 :
ゼビレイ
[sage]:2011/12/16(金) 11:08:34.59 ID:54sn+MUAO
オワコン
629 :
安木
:2011/12/17(土) 22:56:08.70 ID:Xu4P9QjMP
「ここか」
安木が訪れたのはいつも瞳が修行している場所の近くに有る神社。
かつて瞳と窮奇、神隠しが邂逅した場所。
「・・・」
何とはなしに近くの樹にもたれ掛かる安木。
木枯らしの吹く中、ただ瞳が来るのを待っていた。
630 :
瞳
:2011/12/17(土) 23:07:39.60 ID:L37XG+nAO
>>629
神社の石段を浮かない顔で登って行く瞳。
瞳は、白龍との戦いをいまだに受け入れられなかった。そして、夷磨璃を救う事も自分にできるのか不安だった。
(神様……私はどうしたら……)
631 :
安木
:2011/12/17(土) 23:15:43.12 ID:Xu4P9QjMP
>>630
「いらっしゃたか」
安木が身を翻し、瞳の前に出る。
「お初お目にかかる! 己の名は安木!
紫狂の者であり、かの悪女・窮奇の子でござる!」
安木が地面に伏し、土下座をする。
「窮奇が生きていた頃は真に失礼仕った!
お詫び申し上げまする!! 己は窮奇の三分割された記憶のうち!
あなたについての記憶を受け継いでいるのです!!」
安木は頭を上げて声を張る。
「図々しいのは承知であなたにお聞きしたいことがあるのです!!」
632 :
瞳
:2011/12/17(土) 23:38:19.33 ID:L37XG+nAO
>>631
「あなたが……窮奇の子だと…?」
驚き、思わず足を止める。
「え…?あ、ああ…何を聞きたいんだ?」
予想外のセリフに驚きつつも言った。
633 :
安木
:2011/12/17(土) 23:46:52.45 ID:Xu4P9QjMP
>>632
「・・・己は、窮奇が逆心にてあなたの頭を覗いた記憶を受け継いでいまする」
安木が顔を上げ、吐き出すように問いかける。
「教えてくだされ! 風月殿はなぜ、大切な人が殺されたというのに
人と妖怪のために生きることができたのでしょうか!?
あなたは何故! 風月が殺されたというのにそんな風に生きられるのか!!」
634 :
瞳
:2011/12/18(日) 00:17:51.32 ID:mFqCW7eAO
>>633
「風月は……復讐したかったのかもしれない。いや、したかったんだと思う。だけど、それじゃ不幸の連鎖しか生まないって気づいたんだ。
春花を殺した奴らにも、親や子や仲間や兄弟がいるはず……だから、できなかったんだと思う……そして、人間と妖怪の関係性を変える道を見つけ出したんだ。」
風月の事を思い出し、俯きながら答えた。
「私も風月と同じ……そもそも風月が死ぬこととなった原因は、子を殺された妖怪の復讐だった。それを風月は命がけで止めたんだ。」
635 :
安木
:2011/12/18(日) 00:24:55.98 ID:u5zy4URFP
>>634
「・・・憎くはなかったのですか?」
安木が重々しく、語りかける。
「大切な者を! 理不尽に奪われ!
命を奪った者はのうのうと生きている!!
あなたはそれを受け入れられたのですか!?」
安木は叫ぶ。
「不幸の連鎖を止める為に!
こんなに焼け付くような感情を自分独りで抱えろというのですか!?
こんなに空虚な気持ちで! あるべき者が居なくなった日々を!
『不幸の連鎖を止める為』という理屈の為だけで耐えろというのですか!?」
636 :
瞳
:2011/12/18(日) 00:45:42.90 ID:mFqCW7eAO
>>635
「憎かったさ!だけど、殺された風月や子を殺された母親妖怪の気持ちを考えれば、復讐なんてとてもできなかった!」
つい感情が高まり、大声を出した。
「……独りじゃ耐えられなかったさ。だけど、風月と春花が遠くで見守ってくれているような気がしてな……私は、独りじゃなかったんだ。ただの私の思い込みと言ってしまえばそれまでだがな……」
637 :
安木
:2011/12/18(日) 00:53:47.64 ID:u5zy4URFP
>>636
「・・・我々は、あなたや風月殿のようにはなれない」
安木が立ち上がり、小さく聞こえないほどの声で呟く。
「神代の気持ちなど、考えたくもない」
安木は笑顔を作り、ペコリと頭を下げる。
「わかりました、ありがとうございます。
さようなら、もう二度と会うこともないでしょう」
安木はそう言うと、瞳に背を向けて去っていった。
まるで瞳の言葉から目を背けるように・・・。
638 :
瞳
:2011/12/18(日) 01:09:59.58 ID:mFqCW7eAO
>>637
「おい!私には、色々聞いておいてあなたは何も話さないのか!?待て!これだけ聞いたんだ、何か会ったんだろ!?」
そう言っている間に安木は去っていってしまった。
「くそっ!何があったんだ……」
639 :
黒蔵
[sage]:2011/12/18(日) 23:12:21.28 ID:35CfHzZ0o
日差はあっても、肌寒さの次第に増してきた午後4時。
夜行集団のホストクラブ『Perfect incompleteness』が開店するまでは、まだ大分時間がある。
(こういうのは虚冥さん達が頼りなんだよ…)
店の裏口付近で先輩ホストを待つのは、黒い短髪の貧乏ホストである。
その手に握り締められているのは、赤茶色の染みがまだらについてはいるのものの
衣蛸の筆跡によるエロ本・エロ雑誌のリスト(ミナクチからの申し送りの書き添え付き)。
果たして開店時間までに、マニアックなリストの品を揃えられるのだろうか?
640 :
夜行集団
:2011/12/18(日) 23:25:07.14 ID:f3zPiBLg0
>>639
寒空の下、彼は少々顔に大儀そうな気だるさを隠すことなく浮かべ、
後輩の待つ裏口の扉をダウンを羽織りながらゆっくりとあける。
彼の髪のセットが、仕事用でなく普段着なものであるということは、
彼が嫌々ながらも黒蔵のあの買い物に自らの時間を割いて、付き合ってあげているという事だった。
「待たせたなっていうwwwwww
じゃあ早くコタツに戻りたいし、さっさと済ませて帰るぞwwwwww
てかなんでその紙汚れまくってんだよwwwwww」
黒蔵の姿を確認して彼は白い息を吐きながら笑いかける。
そのついでにふと目が行った先の、彼のお使いの紙が少し気になったようだ。
641 :
黒蔵
[sage]:2011/12/18(日) 23:39:37.60 ID:35CfHzZ0o
>>640
「先輩!!ありがとうございますっ!!
後で牧場直売店の新鮮ミルクセーキおごりますから!!」
パン、と掌を合わせて銀髪のホストを拝む黒蔵。
虚冥が一見気乗りしない表情であっても、あの服装なら
期待してもいい。
「これは…ちょっと、病院で同僚とこれの取り合いになって、それで」
言葉を濁した貧乏ホストは、隠すかのようにさらに手の中でくしゃくしゃとリストを握りこむ。
この手紙が汚れた経緯はその内容とはまた別に、虚冥にとって美味しいネタになりかねないのだ。
(纏先生とかいずみと虚冥さんに、顔見知り以上の関係が無くてよかった…)
そんな関係ができたら間違いなく黒蔵は終わる。いろんな意味で。
642 :
虚冥
:2011/12/18(日) 23:48:47.47 ID:f3zPiBLg0
>>641
「分かってるじゃねえかっていうwwwwww
さっそく内容見せてみろwwwwwwそれで場所が変わるからwwwwww」
今日のこの身を切るような寒さであっても、あの商品が絡めば話は別。
狙ったのか偶然か、黒蔵は虚冥の乳製品に関するツボをどうやら的確に突いたようで、
黒蔵と並んで歩く虚冥の足は、見てわかるほど軽くなっていた。
「それで流血沙汰とか怖すぎるわwwwwww
おおかたお前がタイトルで妄想広がりマクリングでwwwwww
知らず知らず鼻血で汚しただけだろうがっていうwwwwww」
少しどもる黒蔵の反応を好機ととらえたのか、
虚冥はらんらんとした楽しそうな目で、引きずり出してほしくもない黒蔵の話の採掘を始める。
643 :
黒蔵
[sage]:2011/12/18(日) 23:59:48.51 ID:35CfHzZ0o
>>642
「…っ!!妄想!?絶っっ対違いますって!そんなんじゃないから!」
虚冥の言葉に、リストを差し出しかけた黒蔵の手がぴたりと虚空で止まる。
「紙に書いてあるの見ただけで鼻血なんて、俺だしてませんっ!!」
絶対に違うと力いっぱい否定しながら、どうにも顔が赤くなるのだ。
この判りやすさと上手に嘘のつけない馬鹿さ加減が、どう見てもいい玩具なのだ。
虚冥達に無性別なのを隠し通せていると未だに思い込んでいるように、
これで本人はきっちり申し開きできたつもりでいる。
644 :
現人
[sage]:2011/12/19(月) 00:08:37.02 ID:0M9XGcMDO
>>642
>>643
「どっかに面白い物ないかねぇ・・・」
気配が驚く程に薄い帽子を目が完全に隠れる程に深く被った青年
今日も今日とて目的もなくふらふらしている
「お、あれは?」
少し周りを見回した時、見知った顔を見つけ立ち止まる
しかし知らぬ人との会話に割り込むわけにもいくまいと、少し離れた場所で様子をみるに留まった
645 :
虚冥
:2011/12/19(月) 00:09:04.84 ID:6Cgpsxzt0
>>643
にやにやと目を細めながら後輩を見つめるこの虚冥は、
娯楽を見つけた事によってもう既に寒さなどどこ吹く風である。
その分最初とは打って変わって、本屋へと向かう足もどんどん軽快になっていく。
「はいはいwwwwww流石にお前は氷亜じゃねえもんなwwwwww
で、どれが一番興奮したんだっていう?wwwwww」
あまりにも分かりやすい嘘を、虚冥は片手をひらっと振るだけでかわした。
そして、強烈に意地の悪い顔で彼が黒蔵を追い込んだ時、
ようやく黒蔵の求めている物もあるであろう程に、大きな敷地の本屋に到着した。
646 :
虚冥
:2011/12/19(月) 00:14:43.83 ID:6Cgpsxzt0
>>644
黒蔵をからかいながら進む人ごみの中から、特別自分たちだけに向けられた視線を感じる。
それはけらけらと笑う中でも気づいていたが、
別段彼の普段の行いなどから好機の目で見られる事も少なくは無いため、
虚冥は敢えて向こうの動きを待つことにした。
647 :
黒蔵
[sage]:2011/12/19(月) 00:20:11.65 ID:eipncBxao
>>644-645
「この紙で興奮なんてしてないし!むしろ最初にこれ見たときは、どっと疲れたし……」
弄られて、先輩相手の言葉遣いは既にどこかへ吹っ飛んでしまった。
ただでさえ薄い気配の現人に気づくことが出来る状態ではないし、
そもそも人になる前から妖気や尾行されることには酷く鈍感な黒蔵だ。
「それに、虚冥さんに聞きたいことは他にもあって…って、ここ?」
そうこうしながら、目的の店についたらしい。
黒蔵が物珍しげに見上げる建物は普通の書店のそれとあまり変わり無いが、
この先案内されるその場所で買い物を済ませる間、
黒蔵の鼻粘膜は耐えられるのだろうか?
648 :
現人
:2011/12/19(月) 00:29:09.05 ID:0M9XGcMDO
>>646
>>647
その視線には当然敵意は含まれてはおらず、好奇のものともまた違う
ただ純粋に興味といったものがほとんどだ、それもどちらかと言えば
この青年の視線には気付いていない方に比重が置かれている
「ここは本屋か・・・つーことはパシりの続きだな」
先程のメモや状況から推測し、誰に言うとでなく呟く
なんか面白いことが起きるかも、と微妙な希望を抱き追跡を続ける
649 :
虚冥
:2011/12/19(月) 00:37:43.83 ID:6Cgpsxzt0
>>647
、
>>648
「ここだっていう。
ほらさっさと入るぞwwwwww店前で突っ立つ馬鹿がどこにいんだよwwwwww」
性格上、こんなところに彼は来た事が無いのだろう。
その為か立ち止まる素振りを見せる黒蔵の背中を、からかい半分真実半分で、
強く平手打ちをして強引に入店させた。
「後は分からんwwwwwwジャンルで本は探してくれwwwwww
って聞きたい事ってなんだっていう?俺はこの店の内装は知らねえぞ?」
おそらく突沸のような反応を示す黒蔵とは違い、
店の中央辺りまで足を運ばせる虚冥の顔にはいっさいの、照れや興奮も無かった。
そのため先ほどと変わらない態度の虚冥は黒蔵を振り返って、
ほんの少し耳に引っかかった質問を聞いた。
650 :
黒蔵
[sage]:2011/12/19(月) 00:51:59.96 ID:eipncBxao
>>648-649
「わーっ!」
ジャンルで探せと言いながらも、ピンク色の一角へと背中は押されてゆく。
慌てて目に付いたものを手に取ったが、それは図らずも「犬御ちゃん」を思い出させるナース服が表紙。
「わーっ!!」
慌てて鼻を押さえて天井を向く。ぎりぎり出てない。
後はなるべく文字以外を見ないように、リストにあったものをぱぱっと手に取ってゆく。
幾つかリストとは違うものが混じっているような気もするが、気づく余裕はない。
手に取った商品をさっとレジへ預けると、会計を待つ間に、もう一つの質問を始めた。
首にかけた紐を探って虚冥にミナクチの欠片、あの翡翠の輪を虚冥に見せる。
「実はさ、これを託されたんだ。
沢山海で死んで忙しいってだけ聞かされて以来、蛇神には会えてなくて。
表向き俺は居ないことになってるから、他に詳しく聞ける伝手も無いし。
虚冥さんたちは何か聞いてないかな?」
その問いは、会計中の品と書店員を直視しないためでもあった。
謹慎中で暇な衣蛸は時折夜行集団へと、状況報告もかねて文を送っているらしいが
虚冥はどこまで聞かされているのだろう。
651 :
現人
:2011/12/19(月) 01:02:48.22 ID:0M9XGcMDO
>>650
>>649
振り返った際に視線の主である帽子男の姿が確認出来るかもしれない
隠れる訳でもなく棒立ちでそちらを見ているのに何故か周りから不思議な目では見られていない
「おー、物凄くあわてているな」
慌てる黒蔵を見てくすくすと笑っていたが、会計の際に
耳に入ってくる会話の流れが明らかに変わったのを感じ、聞いていいものかと悩み結局耳をふさぐ
652 :
虚冥
:2011/12/19(月) 01:17:22.02 ID:6Cgpsxzt0
>>650
勢いで押し切ろうとしている黒蔵ににやにやとまた笑いながら、
彼も足を突然に速めた後輩に続いてレジに並ぶ。
すると出し抜けに黒蔵の口から出された質問は、おそらくこの流れとは違ってかなりシリアスだった
。
「ミナクチの欠片かwwwwww本当に用意の良い奴だよなっていう
心配すんなwwwwwwとは流石に言える状況じゃねえんだ、これがっていう」
いつものようにへらへらとした返答で誤魔化そうとも思った虚冥だったが、
顔からは静かに馬鹿笑いを失くして、僅かに言葉に真剣さを混じらせる。
「細かい事は俺達だって知ってるとは言い切れねえが、ともかく今持ってる情報は、
現在色々な方面と一色触発状態、ってことくらいだっていう。
でもこれはあれだ、神々の確執だからお前はガチで心配するだけ無駄だ。
問題はまた別なところで発生してる確執の方だっていう
巴津火の兄弟がいるってことは知ってるよな?」
実のところ、前置きとして虚冥はああ言ったものの、
黒蔵の言うところの今の状況を、彼はしっかり8割方は把握しているのであった。
特別榊の存在に危機感を覚えた彼が、彼の持ちうるすべての情報網に訴えかけたためである。
しかし虚冥は状況をほとんど把握しているとはいえ、黒蔵に全てを教えて良い訳ではない。
彼が出来る限り徒労と呼べる心配をしないように、無謀と呼べる手助けをしないように、
虚冥は珍しくも言葉を選んだのであった。
>>651
「それと、いつまで壁に耳あり障子にメアリーしてるつもりだ?
いい加減近づいても良いじゃねえかっていう
これにはお前の力も必要になるからな」
そして話の説明を始める前に虚冥は、ほんの少し距離を隔てた彼に、
手招きをしながら敵意のない声で話しかけた。
653 :
黒蔵
[sage]:2011/12/19(月) 01:23:38.32 ID:eipncBxao
>>651-652
「神々って…マジで?
っていうか俺、巴津火に兄弟なんて知らなかったんだけど。
俺ヤバイ位何も知らなすぎる…」
虚冥に答えながら支払いを済ませて、黒蔵は半ば上の空でレシートを受け取る。
書店員は不透明の袋に商品を入れてくれたので、以後の黒蔵の鼻は無事だった。
その分盛大に出血したのはジップ○ック財布のほうである。
(くうっ……でもミルクセーキ代はある、良かった)
「わーっ!いたーっ!!」
残った小銭に安堵した黒蔵が顔をあげたところに、相変わらずの薄ーい気配で、
全ての経緯をばっちり目撃していた帽子の人物が居たのだ。
驚いたとは言え、この反応は少々失礼な態度である。
「なんで現人がこんなところに?」
現人が比較的近くの零のマンションに泊まっていたことを、黒蔵は知らない。
654 :
現人
:2011/12/19(月) 01:38:52.10 ID:0M9XGcMDO
>>653
>>652
「やっぱ、お前さんにはばれてたか
会話に入っていくタイミングを完全に無くしてたから助かったぜ」
からからと笑いながら頭をかく
「しかしだ、俺の力が必要ってどういうことだ?」
腕を組み、首を傾げる初対面の人に力が必要といわれてもピンと来ない
ましてこの守り神は力をほとんど忘れ、感じられるものはほとんど人間に近いのだ
力を感じ取ってのことなら尚更不思議に思える
「なんでぇ、人を化け物みたいに・・・っづ!?」
少し苦笑いした後、唐突に頭を押さえる、が何事もなかったようにすぐ止める
「あぁ、たまたまこの近くで寝泊まりしてな」
そして黒蔵の質問に答える、別に近くで寝泊まりしていなくても神出鬼没に現れそうではあるが
655 :
虚冥
:2011/12/19(月) 01:48:15.28 ID:6Cgpsxzt0
>>653
、
>>654
「あー、お前は兄弟の事も知らねえのか。
でもまあ、そこは気にしなくていいっていう。
焦らんでもそれこそ、心配する必要はねえよ。これは知れば知るほど、深みに嵌まる話だからな」
決して短くは無い時間を共に同じ体で過ごしていた巴津火の事を、
それほどまでに彼が知らない事に、虚冥は少し静かに驚く。
巴津火の意識下では黒蔵の記憶は無いといっても、離れてからはある程度、
他の誰かしらからは聞けた筈だったからだ。
「逃してた割にはばっちりした尾行だったじゃねえかっていうwwwwww
ともかく、まあ確かにお前の力は何でか著しく消滅してるが、
座敷わらしである事に間違いはないよな?」
相手が初対面であるという事にも関わらず、早くもなれなれしく話す虚冥は、
ほんの少し念押しのところだけ声のトーンを下げた。
656 :
黒蔵
[sage]:2011/12/19(月) 01:58:46.53 ID:eipncBxao
>>654-655
「蛇神はさ、蛇族の中でも成り上がりの妖だし、神格としてもまだまだ下っ端なんだ。
それが忙しくなるって、余程のことがあるとは思ってた」
虚冥に答える口調が重い。
心配するなと言われても、不安にならない訳がない。
「現人は座敷わらしだから役に立てるんだ、いいなー。
俺、この位しか蛇神の役に立てないんだ。
俺の事庇って同族の神格からも睨まれたりしてるのに、
俺にできるのはせいぜい買い物だもんな」
手に提げた荷物に視線をやって、黒蔵は重く溜息をついた。
話を聞かずとも、すでに深みに嵌っているらしい。
そして話しながらミルクセーキを目指して書店を出てみれば、財布の寒さと比例するように
日も沈んだ外は一気に冷え込んで、夕空には星が輝き始めている。
657 :
現人
:2011/12/19(月) 02:07:23.76 ID:0M9XGcMDO
>>655
「お前さんそれはあれだ、逃したから尾行するしかたかったんだって」
タイミングを逃した→尾行の図式は成り立たないだろう
「ほう、分かるのか?確かに俺は最近妖怪扱いされることの多い守り神座敷童子で間違いない
てことはだ、お前さん知り合いに座敷童子がいるのか?」
力のほとんどを忘れている自身の正体を見破るということは
座敷童子に触れたことが少なからずあるはずだと考えたのだろう
「役に立てるとは限らんぞ?残った力と言えばアグレッシブな物しかない」
仮にも守り神なのにそれはどうなのか
「それによ、買い物だって必要なことだろ?それをこなしてるんだ
もうちょっと胸を張ってもいいと思うぜ、このくらいなんて言うなよ」
ニカッと笑う
658 :
虚冥
:2011/12/19(月) 02:18:30.02 ID:6Cgpsxzt0
>>656
俯きがちな内容を話す黒蔵の横で、虚冥は何も言葉を発することなくただ彼の話を聞いていた。
神代の件には、もちろんの如く榊が関係している異常虚冥も、
ミナクチのこの状況をいつものようにへらへらと笑い飛ばせずにいるのだ。
「おいおい黒蔵。なに暢気な事言ってんだ
こいつは確かに座敷わらしだから色々奮闘してもらうけどよ
お前の方も当然遮二無二になってもらうぞって言う?」
虚冥なりになんとか、神代たちの流れが榊の思い通りにならぬ様、
あらゆる対策を思案してはいる。
しかしかつて虚冥は榊に対し、どこまでも完璧な敗北を負っているのである。
唯でさえ敗者の彼が、一人で戦うには余りにも無謀すぎる為、
今こうして、黒蔵を自身の仲間として引き入れようとしているのだ。
>>657
「いるぞっていう。しかも俺が常に一緒にいる姫は、
史上最高空前絶後前代未聞の座敷わらしだっていう、他の比じゃねえくらいのな」
黒蔵との話の影響によって先ほどまでテンションが著しく下がっていたというのに、
現人が座敷わらしを話題に挙げた瞬間、虚冥は突如活性化していた。
目をキラキラと輝かせて彼女を説明する虚冥からは、
もはや絡みづらいくらいの幸福感と自慢の念がひしひしと感じられる。
「アグレッシブでありゃあそれで十分だっていうwwwwww
少なくとも姫のブースターくらいになればいいんだよwwwwww」
そして彼の背中を、ここぞとばかりに強く叩いた。
659 :
黒蔵
[sage]:2011/12/19(月) 02:22:21.07 ID:eipncBxao
>>657-658
「でも俺、ただの人間だし」
(…なんでだろう。励まされたのに落ち込む)
自分よりは妖怪らしさのある現人、アグレッシブな虚冥に励まされて、
貧乏ホストはかえって落ち込んでゆく。
その表情にはただの暗さに加え、次第に後ろ暗さも混じり始める。
(そもそも現人はどこから出てくるか読めないし、どこかに居ても気配無いし、
あの病院でのも見られてるし、色々虚冥さんにばらされたらどうしよう)
「遮二無二なったところで、できることなんてたかが知れてるよ?
俺なんかを当てにしないほうがいいんじゃないのかな」
そもそも何をすればいいのかもわからないのだ。
660 :
現人
:2011/12/19(月) 02:39:12.24 ID:0M9XGcMDO
>>659
>>658
「ほう、お前さんその姫さんが大好きなんだな」
楽しげに語る男を微笑ましげに見守る
「しかしそこまで凄いなら一度会っておきたいものだな
もしかしたら俺の力の使い方も思い出すかもしれないしな」
くすくすと笑いながら
「ブースターになるにしてもだ、俺がお前さんに協力するにあたって理由が欲しいな」
協力するにしても概要が分からなければ了承できない
「お前な人間ってのはやるときはやるもんだぜ?」
励ましの言葉にしても曖昧すぎる
661 :
虚冥
:2011/12/19(月) 02:51:17.77 ID:6Cgpsxzt0
>>659
「俺だって種族としちゃあ妖怪で、実力もそこそこだとは思ってるけどな、
けど榊と相対した時には全部それが何の意味もないっていう」
思わず視線を下に落とした虚冥の口から出た言葉は、励ましではなかった。
敢えて言うのならば、自分にも向けた忠告のようで、
また自分の中にある何かを、再び律するためのものであった。
「じゃあどんな上位神の力も関係ないとしたら、
せめて苦境にあっても縋る気持ちを押し殺せるような、
変に頑強なお前の方があてになったりするんだよっていう」
>>660
「当たり前だっていうwwwwww俺は姫love、姫コンだっていうwwwwww」
しかし暗くなったかと思えばまた、姫の話になると雰囲気を変えるのであった。
ほんの少し気味の悪い変わりようを見せながらも虚冥は、
それでもやはり姫に対して大きな幸福感を感じているのである。
「別にお前が見返りが欲しいとかなら者は惜しまねえが、
そうじゃなく理由が欲しいってんなら言ってやるっていう。
お前は信じねえかも知れねえけどな、お前の手助けが無くてある事が失敗した時、
俺の推計で少なくとも街の実質5分の1は消滅するっていう」
言葉にふざける様な雰囲気も無く、目にも真剣な明かりをともらせていた。
>>all
「まあともかく、なにかようがあったらすぐに呼び出すからなっていう
俺はこれからちょっと姫に会ってくる。
話してたら会いたくなってきたしなwwwwwwww」
すると虚冥はしばらく空を見上げていたかと思うと、
最後にそれだけ言ってそそくさと去って行ってしまった。
/僕はこれで落ちにします
/遅くまでスイマセンでした&絡みありがとうございました
662 :
現人
[sage]:2011/12/19(月) 03:06:35.62 ID:0M9XGcMDO
>>661
「なるほど、随分規模のでかい話だな」
こちらも今までのふざけた雰囲気が消え、真面目なものとなる
「信じる信じないの問題じゃねぇ、人がそれだけ巻き込まれるなら
俺には協力しないなんて選択肢は微塵も残っちゃいねぇよ」
しっかりと協力の意志をみせた
「おう、じゃあな姫さんによろしく。」
去っていく背中に軽く手をふった
「しかし、それだけの規模となると・・・ちと準備がいるな、俺も失礼させて貰うぜ」
そして自身も周りに溶け込むように去っていく
//お疲れ様でした!&ありがとうございました!
私もそろそろ眠ることにします
凍結にはならなくてごめんなさい
663 :
黒蔵
[sage]:2011/12/19(月) 03:10:05.43 ID:eipncBxao
>>661
「…よく判らないや。俺、何ができるの?」
(織理陽狐さんに貰った太刀もまだ使いこなせないのに)
首を横に振った貧乏ホストは、帰ってゆこうとする虚冥に少し慌てた。
「ミルクセーキは……また今度かな」
まだ時間があるうちにこの荷物を届けてしまおうと、
黒蔵は一度川へ向かいそれから店へ戻ることにする。
>>662
そして現人へは、店の場所を教えておくことにした。
「俺と虚冥さんの働いてる店、ここなんだ。
もう少し詳しいことが知りたかったら、尋ねてみてよ。
他の妖怪にもあえる筈だからさ」
そう言って店の所在を示した紙片を現人へ渡すと、買い物を下げて橋の方へと向かった。
虚冥が店に帰りつく頃に、書店では店員達が大量のエロ本を購入していった
二人のホストの関係をあれこれ憶測していたり、
さらに後に海の底では、ミナクチを困らせるつもりでエロ本リストを作成した衣蛸が、
注文には無かった筈のウホッな本の混入に、
逆に困惑させられる羽目になったりしていたのは、黒蔵のあずかり知らぬ事である。
//ここまでにします。お二人とも絡みありがとうございました。
664 :
宛誄
:2011/12/21(水) 20:54:31.21 ID:nKDooYsoP
「・・・」
宛誄は夜行集団のホストクラブ『Perfect incompleteness』の前に佇んでいる。
瞳に宿すは紫濁の焔、表情は無く、ただそこに佇んでいる。
しかしただそこに少年が佇んでいるだけなのに。
脛に傷を持つ人ですら、彼を横目で見るなりそそくさと足を速める。
溢れる歪んだ妖気と、底知れぬ悪意、そして突き刺さるような殺気に当てられて。
665 :
夜行集団
:2011/12/21(水) 21:06:41.91 ID:ZOBtz5bm0
>>664
そんな客足を遠ざける様な者が、
店前に堂々として立っている異常事態は中にもすぐさま伝わった。
何事かを確かめようとする後輩のホストを片手を上げて止めさせ、
まるで最初からここに来る事が分かっていたように、銀髪のホストは迷いなく扉へ向かう。
「この逆招き猫がwwwwww営業妨害で訴えんぞっていうwwwwww」
他のお客に心配をさせないためなのか、
彼のキャラがこの場でも発動しているのかは分からないが、ともかく彼は笑って迎えるのだった。
「でもお前はみたいなんは店に入れれねえwwwwww
後輩にちょっと結界張らせてあるからようwwwwww裏に回ってくれって言うwwwwww」
いくら宛誄がなにかをしなかったとしても、
こんな雰囲気の彼が店に入ったりなんかしたら、中の空気は騒然とするだろう。
虚冥は軽い調子で笑いながら、親指を立てて裏口の方を指さした。
666 :
宛誄
:2011/12/21(水) 21:11:39.12 ID:nKDooYsoP
>>665
招かれるままに宛誄は虚冥に着いて行く。
「どうも、でも結構ですよ。僕はたった一言確認したいだけですから」
歩き様に、ポツリと呟く。
「貴方の仲間の穂産姉妹が死に掛けていますよ。
何故貴方達は助けに行こうともしないんです?」
667 :
虚冥
:2011/12/21(水) 21:18:58.08 ID:ZOBtz5bm0
>>666
虚冥はあくまでも殺気を振りまく宛誄に横柄な態度は示さず、
客人として丁寧に彼を裏口へ案内した。
そして彼らが裏口を通って入った部屋は、
流石にいつものメデゥーサの部屋ではないが、丁度そこの隣にある同じような内装、
つまりコンクリートを壁とする簡素な部屋であった。
「?
おっとそれは俺でも確認できてねえ情報だなwwwwww
なんでアネさんアニさんがwwwwww死にかけてんだwwwwww」
部屋に置かれた複数のソファーの内の一つを彼に進め、
虚冥は宛誄の質問の意味が理解できずに、笑いながら違うソファーに腰掛ける。
668 :
宛誄
:2011/12/21(水) 21:29:06.25 ID:nKDooYsoP
>>667
「ああそうでしたね、精確には“殺されかけていた”でした」
宛誄は座ろうともせず、立ったまま言葉を続ける。
「そのご立派な情報網なら既に色々知っていたことでしょう。
もちろん神代が穂産姉妹に凶行に及ぼうとしたこともね。
なのに貴方方は鳴かず飛ばずで日常ほのぼの展開、
どうしてそんなことができたかと聞いているんですよ」
669 :
虚冥
:2011/12/21(水) 21:39:00.36 ID:ZOBtz5bm0
>>668
姿勢的に上からとなった宛誄の言葉に、
虚冥はいつものへらへらとした笑みを顔から失くし、長くため息をつきながらソファーに腰を沈めた。
しばらく頭の中で言葉を反芻させながら、やがて彼はゆっくりと話し始めた。
「それは、知らんかったっていう。
確かに俺はだいぶ昔、姫と一緒にアネさんアニさんの神話を聞いたっていう。
そしてあの二人がここを去った時も、理由にある程度の検討はついていた。
けどな、その神代ってのが事態をこじらせる事や、裏に榊がいた事までは知らんかった。
第一この情報網だって、俺がいつかに榊の関与を聞いてから張り巡らした奴だっていう」
実を言うとこの情報網、
以前夜行集団が零から情報をもらっていたことから分かるように、
あまり古くから張り巡らされた物ではないのだ。
「でも多分この対策もそれじゃあ、遅すぎるかも知れねえがな」
焦る様子は無いが、虚冥からは悔しさが滲み出ていた。
670 :
宛誄
:2011/12/21(水) 21:50:02.21 ID:nKDooYsoP
>>669
「見当はついていたのに、
榊が居ると知らなければ動かなかったということですね」
宛誄は刺すように呟くと、虚冥に背を向ける。
窮奇から受け継がれた夜行集団の記憶。
宛誄にとって、彼等は仲間のフリをしているだけの集団、
姫以外の者なら平気で切り捨てるようなクズ達という認識だった。
仲間に対してもいくらでも冷徹になれるという弱みの無い組織だった。
「ありがとうございました、もう僕から聞きたいことはありません。
営業妨害してすいませんでした」
宛誄はペコリと頭を下げると、ドアノブに手を掛けた。
671 :
虚冥
:2011/12/21(水) 21:57:51.44 ID:ZOBtz5bm0
>>670
「見当ついてたからこそ、俺は邪魔をしなかった」
普通の者たち、つまり心温かで優しい者たちであれば当然の如く、
仲間の死や不幸を共に悲しみ共に怒り、可能でなくとも共に避けようとするのだろう。
しかし、彼らは夜行集団。
彼らの抱えた過去の罪は、言いようもない程に嘲笑と憎悪の対象となるような罪ばかり。
それを自身を以って償うことを厭わない彼らは、むしろそれを阻害したり、
よく分からない良心なんかで排除される事を望まないどころか嫌悪する。
彼らはなにも知らないから助けないのではない、
何がしかを知ってしまっているからこそ、助ける事が出来ないのだ。
「ちょっと待て、俺からも一つ質問があんだよ」
そして罵声を浴びせて帰ろうとする宛誄の肩に強く手をかけ、
今度はこちら側が殺気を漂わせながら彼を引きとめた。
672 :
宛誄
:2011/12/21(水) 22:19:10.68 ID:nKDooYsoP
>>671
「なんですか? 僕は忙しい、サッサと言ってくださいよ」
宛誄は虚ろな瞳で振り返る。
その目はすでに虚冥を見ていなかった。
夜行集団と紫狂は根本的に指針が違った。
紫狂は『悪い』、そして弱い。
悪いからこそ、どんな罪も分ち合おうとする。
弱いからこそ、どんな傷も、弱さも否定しない。
それが窮奇の代から続く、紫狂の共通理念。
そして宛誄は達は、幸せに生きることを目的としている。
故にそれを壊す者を、死に逝く仲間に手を差し伸べない者を何より嫌悪する。
673 :
虚冥
:2011/12/21(水) 22:39:22.55 ID:ZOBtz5bm0
>>672
「ところがそうはいかねえんだ。
こっちはお前らの"流れ"に榊が存在してる以上、さらっとスルーできんっていう。
多少しつこく聞くかも知れねえからな」
引きとめた宛誄が明らかな、そして顕著な挑発的態度であったとしても、
いつもの短気な筈の虚冥に怒るような気配は窺えない。
ただ真面目に、真剣な光が目に灯っているのだ。
「俺のところにある情報によると、まあこれも榊が誰かに言った時の又聞きかも知れねえが、
ともかく俺が知ってるうちじゃあお前ら、仲間思いなんだよな?
俺たちとはまた違った意味でなっていう。
でもよぉ、だとしたら今のそのお前は、ちょっと違うんじゃねえか?」
仲間を心に思う集団なのならば、他者の因果に平気で顔を突っ込める彼らならば、
少なくとも今、彼らが復讐の炎に身を投じているのはおかしい筈なのだ。
雨邑は彼らにとっては掛け替えのない家族。
それの命を絶った者を、かつて無いほどの怒りを持って仇とするのも問題は無い。
だが、それにともなって傷つき嘆き悲しむ彼らの姉である彼女も、
また掛け替えのない家族である筈なのだ。
「俺だってそりゃあ、兄弟家族を殺されようものならお前みたいになるかもしれんっていう。
だが、お前らは違うだろ?少なくともあの女を泣かすような、
家族を顧みないような奴じゃないはずだろ?」
674 :
宛誄
[sage]:2011/12/21(水) 23:01:05.49 ID:nKDooYsoP
>>673
「・・・肝心なことは何も知らないくせに偉そうに」
宛誄は目を見開いた。
そこから溢れ出す、怖気が走るような・・・どこまでも底知れぬ悪意。
「神代は、あいつはヘラヘラ笑いながら雨邑を殺した。
雨邑の幸せに成るはずだった未来を平然と奪っておきながら、
あいつはヘラヘラと笑って榊に救われている。
・・・こんな理不尽があるか!?」
ドクドクと溢れ出す、狂気。
「雨邑は巴津火と幸せに成るはずだった!
雨邑はその日、笑いながら晩御飯は蕎麦がいいと言って家を出た!
雨邑は僕達の半身だった!
雨邑は笑っていた! 泣いていた!
雨邑は・・・、神代すら助けようとしていた!!」
壊れてしまった人格。
その裏側にある、紫狂への深すぎる想い。
平然と話している虚冥とは対照的に、宛誄は涙を流して叫ぶ。
「なのにあいつは平然と! まるで虫でも潰すように雨邑を殺したんだ!!
雨邑だけじゃない! 結界を張っていた者達まで・・・あいつにとっては殺しなんてその程度の事なんだよ!!」
宛誄は笑いを浮かべる。
この悲劇は、ここまでの凶気は。
本当に榊が計算していたことなのだろうか?
「僕達は神代を[
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]、[
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ピーーー
][
ピーーー
]!
絶対に[
ピーーー
]!
あいつなんて死んで悲しむ奴も復讐を考える奴も居やしない、初めての友達を平然と裏切るような奴だからね、だから[
ピーーー
]。
あいつのせいでこれからも沢山の妖怪が犠牲に成るだろう、だから[
ピーーー
]。
あいつは元々生まれてはいけない存在だった、だから[
ピーーー
]。
あいつの良い所なんて1つも無い、だから[
ピーーー
]。
あいつは死ぬべきだ、だから[
ピーーー
]」
675 :
虚冥
:2011/12/21(水) 23:18:12.18 ID:ZOBtz5bm0
>>674
ついに溢れだした深さの窺えぬ負の念に、
虚冥はある種同族を見つけたかのような思わず抱きつきたくなるほどの歓喜を身に感じるも、
そこだけは何としても顔に出さず、凛として宛誄を見つめ返す。
「お前だって何を知ってるんだか、無理は言わんけどなっていう。
神代は多分、いや絶対的な確信をもって言うが、あいつは救われてねえぞ。
あいつはへらへらと笑いながら、今もどんどん地獄を超えた痛みに身を沈め続けてる。
これは知っておいた方が良い、榊が絡む以上、あいつが幸せになる事は無い。
笑いながらでも、自分を傷つけることはできるんだぜ」
いくら宛誄が激怒していようが、虚冥にたじろぐ要素は無い。
何故ならその感情はむしろ共感出来すぎて、そしてまた自分では出来無さ過ぎて、
彼の今発散するそれに対して、まったくの敵意を感じなかったからだ。
「俺はあの神代がどんな奴か、あった事がねえから分からん。
会ったとしてあいつを理解したとしても、納得できないかも知れねえ。
だけどなこれだけは言えるっていう。あいつが死んでも復讐する奴はいない。
あいつはきっと孤独に死んでいく、蔑まれながら、歓喜されながら死んでいくんだ。
だから、だからこそあいつを殺してやれ」
こいつはもう駄目だ。
心の底で宛誄がもう既に榊の流れで、復元不可能なまでにズタズタになっているのは分かっていた。
しかし、虚冥はこの宛誄に、この言葉だけは言ってやらないと気が済まないと思いなおし、
まだ彼から目を離すことはできなかった。
「余りにもまっとうな復讐の理由だな。
だけどな、後ろを振り返らないとこも自分を顧みない事も、
全部が全部神代にそっくりだな、っていう」
676 :
宛誄
[saga]:2011/12/21(水) 23:28:35.90 ID:nKDooYsoP
>>675
「ははは、僕が神代とそっくりか! こいつは傑作だ!
クズがクズを殺すなんて至極素晴しい浄化作用だね!!」
宛誄は足を踏み出す。
その破滅への狂気は、完全に前世代の紫狂のモノだった。
「それでは失礼しますよ、準備に忙しいんでね!」
何も変わらなかった宛誄はドアを開くと、
そのまま寒風の吹くそとへ飛び出した。
677 :
虚冥
:2011/12/21(水) 23:42:29.11 ID:ZOBtz5bm0
>>676
「なにが浄化作用だっていう
クズがクズ殺したところで、最後に残ってんのもクズじゃねえか」
最後までぶれない、因果でなく感情によってブレることのできなくなった宛誄は、
静かに毒づく虚冥の制止も聞かずに、店から荒々しく去っていく。
彼はその様を、どうしようもなく惨めな者への慈悲のように、
まるで同胞を戦地へ送り出すよう目で見つめていた。
「榊、お前はなんでそこまでことを最悪にできるんだよ。
・・・後は俺と、姫たちだけか・・・」
宛誄のような、神代のような目つきになった者はどうしたって、
言葉で止めるという芸当など不可能なのだ。
悪を撒き散らしながらも、一貫して筋を通す。
そんな矛盾の無い窮奇の子供であるなら、と彼の抱える矛盾を駄目押しで指摘してみたが、
やはり復讐の炎に熱せられた焼き石にはまったく水など役に立たなかった。
後に残る手段と言えば、それこそ奇跡しかあり得ないのだろう。
678 :
稀璃華
:2011/12/22(木) 23:35:09.37 ID:VcGQGw0S0
ここはとある繁華街。
もうすぐクリスマスと言うことで、
辺りの店にはクリスマスツリーや雪達磨の装飾品が輝いている。
そんな繁華街の街を歩く一人のじょs…男性はすることもなく、当たりをぶらぶらしていた。
「はぁ…。クリスマスなのに巴津火もいないし鹿南さんも見つけられないし。
本当だったら彼氏とデートとかで胸熱な季節なのに…。」
骨格がどうたら、と言うのは置いといて、外見や声、肌などもほぼ女である。
679 :
宛誄
[saga]:2011/12/22(木) 23:51:26.89 ID:GgV+cpO8P
>>678
そこに素早く駆け寄る黒い影!
誰が読んだか、この男!
ラーメン、つけ麺、僕ラーメンこと!!
「そこの寂しげなお嬢さん! 俺のイヴになってくれませんか!?」
ピンクの前頭葉を持つ男! 江口!!
ズザーっと、肩膝立てた座り方のまま地面を滑る! 絶対ズボン擦り切れるぞ!
ズバッと掲げられた手にはピンクのアザレアの花束!!
「Hey! Love me passion!!!」
680 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
[saga]:2011/12/22(木) 23:52:15.25 ID:GgV+cpO8P
//訂正
名前欄は江口 恭介です
681 :
稀璃華
:2011/12/23(金) 00:00:50.22 ID:A+QJww4e0
>>679
「えっ……?」
サイドテールの髪を靡かせ、下を見るとそこには…!!
やったー!開始三レス目で男ゲーットォォォ!!!
…と騒ぐ心を落ち着かせ、ひとまずアザレアの花束を受け取る。
「お嬢さんって私?嬉しいな…//////
私でよければいいよ?」
ほんっとに女性っぽい白い脚をもじもじしながら江口を撫でてみる。
ちなみにミニスカートよりちょっぴり長いスカートの中が見えそうである。
682 :
江口 恭介
[saga]:2011/12/23(金) 00:10:55.78 ID:Ug3trPs0P
>>681
彼女ができたよ!
やったね! エグっちゃん!!
「いやっふーーーー!! アルマーニのスーツ着たかいがあったぜぇ!!」
ズバッと飛び上がる江口!
よくみるとすげぇ高そうな白いスーツだ!!
「はっ!?」
江口のアホ毛がピョコンと立つ!
こ、これは・・・妖(艶)気を探知する江口レーダーだッ!!!
説明しよう!
江口レーダーとは近くにエロそうな物があると反応するレーダーだ!!
アホ毛が指差すように稀璃華の白い太ももを差す!
江口! もうガン見!!!
もう獲物を狙う猟師の目だッ!!!
「おぉおおおおっと、足が滑りましたぁああああああああああ!!!」
江口は仰向けのまま凄い勢いで、稀璃華の両足の間めがけてスライディングをする!
どういう動作をすればそんな風に動けるんだ!?
683 :
稀璃華
:2011/12/23(金) 00:17:14.82 ID:A+QJww4e0
>>682
一般人から見れば江口は凄すぎる奴であろう。
だが、ここにいるじょ…男性は普通ではない。
「わわっ、大丈夫かな?」
スライディングするぎりぎりのところで江口を掴み…
なでなですりすりむぎゅっ……!!!
それは対・巴津火用のいやらしい動きである。
押し当てられた胸は小さいも、凄く柔らかい。しかもいい匂い!!
「かわいいー!!本当に私の彼氏になってくれるの!?」
684 :
江口 恭介
:2011/12/23(金) 00:29:10.21 ID:Ug3trPs0P
>>683
「ぐぬぉ!」
(ちぃいいいい! 江口スライダーを受け止めるとはッ!
この女・・・只者ではないッ!! エンジン音を聞いただけでただの車ではないとわかるようなものッ!!!)
しかし、江口スライサーは止められたものの!
稀璃華からのいやらしい動きに、江口の頭もさらにいやらしくッ!!
いい匂いに江口の思考回路はショート寸前!
しかし江口の脳はこの外部刺激を受け! 更なる進化を遂げる!!
「えぇ! もちろんですとも!!」
押し付けられた胸と体の間に両手を滑り込ませる!
そしてそのままから揚げ美味しく作るなら〜♪
(ふぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
こ、これがッ、これが久々の・・・生のおっぱいの感触ですかァーーーー!?)
やめろ、エグっちゃん!!!
いくら彼女になってくれてもいきなりこんなことしたらダメだぞっ!!
というか街中でいきなり何をやりだすんだお前は!!
スーツもよく見たら“アルマーニョ”っていうパチもんだし!!!
685 :
稀璃華
:2011/12/23(金) 00:39:42.42 ID:A+QJww4e0
>>684
江口がどんなにエロくても!
どんなにいやらしくても!!
胸を揉まれても!!!
例えパチもんのアルマーニョだとしても!!!!
稀璃華にとっては関係ないのだぁぁぁぁ!!!!!
そんなことより、この名前の知らぬ少年が大事なのだっ!
「君、名前は?私は稀璃華、よろしく。
(女性には目が無い欲望の塊とも言えるこの少年…!!
すっごいツボったぁぁっ、巴津火より可愛いかも。)
早速だけど、どこか行く?の前に私、お手洗いに…。」
ええええええーー!!
ばれちゃうよ!!!
んなことしたらせっかく来てくれた江口君泣いちゃうよ!
686 :
江口 恭介
:2011/12/23(金) 00:49:02.48 ID:Ug3trPs0P
>>685
「はははっ! それなら近くにルームサービスがいいホテルがありますよ!」
やめたげてよぉ!!
ここは全年齢板ただよぉ!!
というか会って数分でHOTELって、お前はイタリア人か!!
未だに両手はいやらしく動いているし!!
「お手洗いですね! では僕はここで待っています!
いや、でも個人的にはそういうプレイも全然OKですよ!!」
誰かコイツを摘みだぜ!!!
687 :
稀璃華
:2011/12/23(金) 00:59:41.10 ID:A+QJww4e0
>>686
「ホテル?(男装してもしもいいなら行っちゃお♪)」
ええーーー!!!
ていうか本当に誘っちゃっていいのー!!
こんなの稀璃華しか得しないよー!
ティロフィナーレされちゃうよぉ!!
「じゃあ、ちょっと待っててね。この服だと動きにくいから、着替えもしてくる♪」
近くの服屋へとタタタっと入り、急ぎ用事を済ます。
…着替え。うん、サイドテールのヅラとっちゃうし、服も男様にチェンジ。
しかし御世辞にもかっこいいとは言えない可愛い男へと変身。
どうする、江口!
「おまたせー。」
688 :
江口 恭介
:2011/12/23(金) 01:12:31.92 ID:Ug3trPs0P
>>687
「はい! 待ってますぜ!!」
ビシッ! と手を上げ見送る江口。
――待機中
(ふぅぉおおおおおお! どうする! どうするよ俺ぇええええ!!)
心臓が一気にフル稼働し、真っ赤の顔であんな事やこんな事を思い浮かべる。
よく考えてみたら江口は女性に対してはずっと触れ合えたことなどなかったのだ。
・・・よく考えたら今現在もそうだけど。
(えーっと! えーっと!!
亜鉛でも飲むか!? それとも・・・い、いや!
うろたえるな! ちゃんとDVDで予習はしてきたんだ!!)
なんだか色々とダメだよ江口!!
なんやかんやでそうこうしているうちに、稀璃華登場。
「はーい! ・・・え゛?」
大改造! 劇的! ビフォー・アフター!!
江口は目をパチクリさせるが、頭を掻いて笑い出す。
「あっはっはーー! すっごくボーイッシュなんですねぇ!
一瞬、男なのかと思っちゃいましたよォーーーー!!」
689 :
稀璃華
:2011/12/23(金) 01:23:00.60 ID:A+QJww4e0
>>688
こんな急に変わってしまっては驚くのもしょうがない。
てか第一、完璧に近い女装が駄目なのだ。
にっこり笑って、江口の手を握ってどこかに連れて行こうとする。
「うんっ、『僕』嬉しいよ!こんな素敵な人が『僕』の彼氏だなんて!!
『男』である『僕』と付き会ってくれるんだよねっ♪ありがとう!」チュッ
そっと江口のほっぺにキスをする。
それは天国から地獄へと急降下する幕開けとなる物だった…。
690 :
江口 恭介
:2011/12/23(金) 01:37:54.09 ID:Ug3trPs0P
>>689
「なん・・・だと・・・?」
ナン:インド・中近東で食べられている平たい楕円形またはわらじ形のパンのような物。
小麦粉を自然種(イーストを使わず、小麦などに含まれる野生酵母菌を自然発酵させた種)で
発酵させた生地を平らに伸ばし、タンドリーチキンを焼くタンドールという壷形の釜の
内壁に生地を貼りつけるようにして焼いて作られる。
「」
茫然自失の江口、しかし・・・。
「えぇい! エロければ男とて構わん!!」
行ったーーーーーーーッ!!!
あんた漢だよ!!
「さぁ行きましょう! 無限の空へ!!」
稀璃華の手を引く江口。
こうして江口は聖夜の空気を前に、I can fly!してしまうのだった・・・。
691 :
稀璃華
:2011/12/23(金) 01:43:31.74 ID:A+QJww4e0
>>690
「はいっ、御供しますっ!!」
何年も願い続けた夢が
ついに叶った瞬間だった…!!
稀璃華も江口と共に羽ばたいていってしまうのだ…。
江口君、稀璃華を頼んだぞ!!!
You can do it!!!
692 :
以下、三日土曜東R24bがお送りします
:2011/12/23(金) 23:32:47.95 ID:Ug3trPs0P
組み分けテストです
693 :
宛誄&安木
:2011/12/24(土) 00:02:48.99 ID:gej+7rwZP
突如として大気が燃え上がる。
紅蓮の炎はグラデーションのように一瞬でキノコの雲へと変わり、
夕焼けの空を灰色で覆い隠す。
「まずまず、成功・・・かな?」
宛誄はその様子を眺めて、ゴーグルを外す。
強力な熱線を防ぐ為の長布を顔から解きながら、
立ち上る煙の中の安木に近づいていく。
「うむ、槍のほうも無事のようだ」
「当然だよ、鬣は元々強化じゃなくて安木の炎から武器を保護するためのものだからね」
爆心地にポツリと残った槍を、安木は引き抜く。
辺りは焦土と化し、まるで巨大なクレーターのようになっていた。
694 :
黒龍
:2011/12/24(土) 00:12:42.00 ID:ShQphBQe0
>>693
「……………成功?」
灰色で覆われた空の一部が歪んだかと思えば、
そこからは黒いローブを纏い、紺色の杖を持った男が現れた。
フードから見える赤く光る瞳は悲しげに宛誄を見つめた。
「何していたんだ。」
695 :
現人
:2011/12/24(土) 00:14:36.21 ID:dWpCc8pDO
>>694
「おいおい、突然爆発が起きたと思ったら・・・」
いきなり過ぎる程唐突に響いた声
その方向には帽子を目が完全に隠れる程に深く被った青年が顔を見せていた
「こいつは一体何事だ?」
そちらの方を伺う青年の気配は極端に薄い、いきなりと感じたのはこのためだろう
696 :
宛誄&安木
:2011/12/24(土) 00:21:09.20 ID:gej+7rwZP
>>694
「む・・・? 誰だ、主は・・・」
「久しぶりですね」
いぶかしむ安木の前に宛誄が出てくる。
「まぁ、大体わかるでしょうけど実験ですよ。
僕達は神代を殺したいが、できれば死にたくもないのでね」
宛誄が手を広げ、笑いかける。
「見て下さいよ、竜で炎を操れる貴方ならわかるでしょう、この威力。
安木の炎を狻猊と睚眦の力で変質させたものです。
物質はもちろんの事、魂・妖気も完全に焼き尽くす・・・!
調べてみればわかると思いますが、
ここら一帯の土は有機物、窒素・・・つまり命の痕跡が完全に熱分解されている。
放っておけば砂漠になってしまうでしょうね」
宛誄はククク、と笑った。
697 :
宛誄&安木
:2011/12/24(土) 00:26:15.76 ID:gej+7rwZP
>>695
「ああ、なんですか貴方は」
宛誄は青年の方をジロリと湿った目線で見返す。
爆心地に少年二人は確かに怪しい限りだろう。
「できれば他言しないでいただきたいものです、
これは僕らの復讐の秘策なのでね・・・それとも」
ボコリ、と。
宛誄の手から異形の虫が現れる。
「貴方は神代のスパイですか?」
心喰蟲。
相手の身体に滑り込み、
激痛と共に記憶を覗き見る宛誄の力。
698 :
黒龍
:2011/12/24(土) 00:36:27.23 ID:ShQphBQe0
>>695-697
「心配するな、その青年は通りかかっただけだ。。見る限り座敷わらし、スパイでも何でもない。
いたって危険性はない…。だろ、現人?」
黒龍の声には生が籠もってない、何かに操られるような、そんな声だ。
ぎろりと現人を見つめ、返答を待つ。
「宛誄の兄弟の一人、安木。俺は黒龍、宛誄の……友達だ。
威力は確かだ、これなら上級妖怪とてひとたまりもない、だが!
無理だ、宛誄。このまま行けばお前も安木も死ぬ。
お前たちの行動はすべて無になる。俺の未来予知ではそうなっている。」
すっと姿を消し、ふと現れれば宛誄のすぐ前に。
何を思っているのかは分からない、だが絶対に止めさせる。
その一心で、ぐっと宛誄を抱きしめる。
699 :
現人
:2011/12/24(土) 00:41:25.23 ID:dWpCc8pDO
>>697
「なんですかと言われてもな、そりゃこっちの台詞だっての」
頬をかりかりとかきながら苦笑いする
「復讐とだのスパイだの神代だの訳がらからん、とりあえずその虫しまえ、な?」
落ち着いて話もできやしねぇ、とからから笑う余り危機感は無い
「おぉ、お前さんの言う通りだ、俺は通りすがりの座敷わらしだよ
しかも力をほとんど忘れた、な。」
そして助け船とばかりに黒龍の話に頷く
内心、何故名前がばれてるのか不思議に思いながら
700 :
宛誄&安木
:2011/12/24(土) 00:49:28.95 ID:gej+7rwZP
>>698
「・・・まぁ、信じましょう。
初めまして、座敷童子の現人さん」
手を翻すと、虫はまるで手品のように宛誄の手へ消えた。
「・・・左様でござりまするか」
安木がペコリと頭を下げる。
宛誄が複雑な面持ちで、黒竜の話を聞いている。
「無・・・ですか、そりゃ当然ですよ。
だって・・・」
抱きつく黒竜の耳元で宛誄が呪詛のように語る。
「最悪の場合、この20倍の威力で。
僕らもろとも神代を焼き尽くすつもりですからね・・・!」
>>699
「そういうわけでござりまする。
口出しはしないで頂きたい・・・これが我々の結論なのだ」
安木がカラカラと笑う現人を一瞥しながら言い切る。
その言葉にはまったく揺らぎがなかった。
「勝手極まるが、その笑い方は止めていただきたい・・・至極嫌なことを思い出させるのでね」
最後の言葉には殺気が篭り、
安木の周囲に陽炎が一瞬揺らめいた。
701 :
黒龍
:2011/12/24(土) 01:02:15.57 ID:ShQphBQe0
>>699-700
「そう…か。お前の意思、しかと受け取った……!」
先程よりもきつく締めつけ、ちょっと苦しいかもしれない。
それと同時に、黒龍の瞳の奥底で、マグマの様な物が弾け飛んだように見えた。
「俺も神代を殺 す。
現人、この事は誰にも言わないでくれないか。
これはこちらの重要な行いだから。
もし一人にでも言ったのなら、命は無いと思えよ?」
紺色の杖の先を現人に向けて。
普段のヘラヘラした姿はどこかへ消え、神格の様な雰囲気が彼を纏う。
702 :
現人
:2011/12/24(土) 01:10:19.82 ID:dWpCc8pDO
>>701
>>700
「ん、まあ初めまして」
ふぅ、と全く焦ってなかったのにため息を吐く
「まぁ、人様の事情も知らない復讐劇に文句は言わんよ」
無関係の人や俺の知人が巻き込まれるなら別だが、と付け加えた
「・・・流石に笑いかたにケチ付けられるのは予想外だな」
少し呆気にとられる
「何があったかは知らんが殺気は止めろ、おーこわ・・・」
からからと笑うのはやめて、述べる
「お前さんも物騒な発言は止めろって、他人の復讐を言いふらす趣味はねーよ」
手を横にふりつつ、黒龍に答える
こちらはいまだに軽い雰囲気である
703 :
宛誄&安木
:2011/12/24(土) 01:21:44.41 ID:gej+7rwZP
>>701
「・・・残念ですがそれはお断りさせていただきます」
宛誄は目を見開き、語りかける。
「貴方が何を思ったかは知らないが、こちらは二人で充分だと言っている。
何より貴方は神代の何も知らない、何もされていない・・・。
そんな奴に神代殺しを横取りされたくないんですよ」
宛誄はトン、と黒竜を突き放した。
「僕は僕の手で神代を殺したい」
>>702
「そうか、ならいい・・・」
安木は未だに疑いを持った目で現人をジロリと見据えると、
小さくため息をついた。
704 :
黒龍
:2011/12/24(土) 01:37:48.17 ID:ShQphBQe0
>>702-703
「……それでいい。それでこそ宛誄だ。
妹の恨み、すべてぶつけてこい。
そして……生きて戻って来い。
俺はずっと待ってるから。」
宛誄とは逆の方へ振り向いて、ごしごしと顔を拭う。
そして現人の元へと駆け寄っていく。
「よっし、やることは済んだ!現人、今暇か?どっか飯喰いにいこーぜ!!」
殺気は嘘のように消え、ヘラっとした黒龍が現人を誘う。
初対面であんなこと言っても、気まずくは無いらしい。
現人の手を引き、宛誄達と別れる中、黒龍は振り向いて笑った。
「(絶対に生きろよ…!)」
705 :
現人中
:2011/12/24(土) 01:46:24.57 ID:dWpCc8pDO
>>704
>>703
「心配せんでも、俺は守り神だ、誰かを殺したりなんかしねぇよ」
疑わしげな視線に気付いてかどうか、言葉を紡ぐ
しかしそれは逆に誰かを生かすためには動く、ということも読み取れる
「しかし、ここらへん一帯はどうすっかね、このままじゃ砂漠だぜ?」
そしてこの話は一区切りとでも言うように、周囲の惨状に目を向ける
「いや、別に飯を食うのは構わないが、ここ一帯がだな・・・おいおい」
黒龍に引っ張られていくとき薬のようなものをばら蒔き、最後に復讐者に顔を向ける
「完全にお節介だが、待ってる人がいるんだ簡単に刺し違えるなんて言うなよ!」
そう声を上げそのまま引っ張られていく
706 :
宛誄&安木
:2011/12/24(土) 01:50:56.84 ID:gej+7rwZP
>>704
>>705
「・・・行きましたね」
「うむ」
一連のやり取りを眺めた後、
宛誄と安木は互いに遠くを見つめていた。
「・・・いきて帰れるのか?」
「さぁ? 相手次第ですよ」
二人はそのまま、立ち尽くし。
しばしの平穏を味わっていた。
707 :
《埼玉県・「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」OP》Galileo Galilei - 青い栞
:2011/12/28(水) 22:08:21.34 ID:8+L5V3NIO
能力者スレのちゃんとした後継スレを建てましたのでよかったら参加お願いします
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1325077438/
708 :
???
:2011/12/29(木) 23:57:25.55 ID:E2jcljuc0
太陽は眠り空は光を失って黒を一面に塗りたくっていた。
月は無く、更には雲が遮ってしまっているからなのだろう、
戸外どころか人里を遠く離れた山奥だというのに、空に輝く星の姿も無い。
「ふふ、なんだか恐ろしい気配がしますね。
どちらかというのなら神の気。
でしたら、むしろこちらの方から望むところです」
先ほど山奥、とこの少年のたたずむ空間を説明をしたが、
厳密に言うと木々が茂ったり岩が散乱していたりするような、大自然と言った物とはまた違った物である。
地面は湿った土で無く、丁寧に均等に並べられた加工済みの石畳。
そう、ここはとある大社である。
そして更に言うのならば、予想通りにも大社はもはや神域ではなくなっていた。
無残に破壊しつくされた廃材の山は、まだ真新しい破壊痕を晒している。
「くすくす、迎え撃つのでしたらここがいいでしょう。
丁度僕がこのクニツカミを葬ったところです。自然の力も神格の力も、
現在この空間には微塵もありませんからね」
以前は海という少年を除いた全員が、完全なアウェーの空間であった。
その為彼らは十二分に力を発揮できず、随分と苦戦したのは記憶に新しい。
しかし、神代が作り出してしまったこの空間には、自然神の力の源など、
根本的な神気が消滅させられているのであった。
709 :
宛誄&安木
:2011/12/30(金) 00:14:55.52 ID:X/rp4p6EP
>>708
「やるか」
「うむ」
ただそれだけ確認し合い、二人は素早く二手に分かれる。
「全力で戦うなど・・・いや! この身に焔を宿すなど!
まさしく三千年ぶりのこと!!」
片方の古の邪神は人の姿を捨て、力をを開放する。
辺りの空気は熱気に歪み! 熱線のような妖気が辺り一帯を焼き尽くす!
その中心にいるのはトカゲのような姿をした胎児だった。
へその緒が尻尾のように後ろへと延び、脊柱に当る部分からは炎が吹き出す。
手足はそのから後は不釣り合いに筋肉質で、異様に長い。右手には鬣で巻かれた竜の槍を手にしている。
ギョロリと黒い眼が遠くにいる神代を見据えた。
―妖怪目録―
【 火之夜藝速男神 -ひのやぎはやを- 】
またの名を火之R毘古神(ひのかかびこ)、火之迦具土神(ひのかぐつち)。
いずれの名も、「燃え上がる男神」を意味している。
日本神話最初の邪神であり、産まれ出でた瞬間に母である創世神・イザナミを焼き殺した。
その後、父であるイザナギは怒り狂い、この邪神を惨殺。
バラバラにされた体からは8つの神が誕生したといわれる。
「焼き尽くしてくれる・・・っ!」
かつては育んだ母を焼き殺した邪悪の焔。
今は共に生まれた妹の敵を討つために、修羅の道を往く弟の為に。
キラウエア ペレ
【季楽上阿・経煉】
巨大な8つの火球が放物線状に射出される!
それは周囲の空気を焼きながら神代の下へと降り注ぐ!!
710 :
神代
:2011/12/30(金) 00:34:24.72 ID:ylHrCUcv0
>>709
「くすくす、初めまして。
僕の名前はかみ・・・やれやれ名乗り合いの礼は無しですか。
まったく、神と言う者は常々不遜で反吐が出ます」
既に全身を包んでいた黒いローブを脱ぎ捨て、
神々に呪われた白黒両者混在の姿を二人の前に晒してゆっくり振り返った。
そしていつものような笑顔で頭を下げようと腰を折った時、
目前の景色は神代の穏やかな態度とはまったく対照的な物へと変わっていた。
「ふふ、この僕の眼前に、一番会いたくなかった神として現れるのですね」
笑みを絶やさすにそちらの方を見すえる神代の顔には、
うっすらと悲しげな感情が浮き上がってきたように見える。
「できうるならば早く終わらせたいです。
あなた達が全身全霊をもって来て下さるのでしたら、僕も礼を尽くして当たりましょう」
静かに目を伏せた神代はそれだけ言うと、全身から感じられる神代の妖気を、
途端にまるで堰を切ったかのように、莫大な、そして強大なそれに膨らませた。
背中から、二色が丁度少年の縦中央をまるで国境のようにして、
右は黒、左は白というように膨れ上がった妖気は具現化する。
直にそれら二つの力は神代の背中へと素早く凝縮し始め、
最後には悪魔の、天使たちの後ろに背負う羽の形へと変容したのだった。
白の羽と黒の羽は交互に神代の背中から生えており、数は計8枚。
【インクリエイト ―羽っ返し―】
その中の両肩4枚が、火神の先制を軽く受け止め、
羽ばたく動作に合わせるように、先ほどを上回るスピードで跳ね返した。
711 :
宛誄&安木
:2011/12/30(金) 00:57:11.26 ID:X/rp4p6EP
>>710
宛誄は林の中を気配を消して駆け抜けていた。
緊張している、不安もある、恐怖もある。
だが・・・それが逆に心地いい。
僕はなぜこんなことをしているのだろう・・・?
僕はなぜここまで仲間のことになると掻き立てられるのだろう?
そうだ、千五百年前。
僕がスサノオの転生体として、牛頭天王と呼ばれていた頃。
生まれた頃から人というにはあまりに異形の姿だった。
生まれた頃から国一つ滅ぼせるほどの神通力を持っていた。
身分も人の中では最も上の帝の一人息子。
醜い姿以外は何もかも持っていた、あの頃。
人は皆ひれ伏した。
少しでも自分の怒りを買った者は一族郎党皆殺しにできた。
人は皆、自分に媚びへつらった。
なにもかもが簡単に手に入った・・・金色一色の世界。
しばらくの後、僕は宛誄としてあの女から産み出された。
新しい人生に、あまりにも未熟な自分の力に最初は委縮して、なにもかも躊躇った。
でも・・・。
『宛誄! なんだその顔は! 主はもっと笑うといいのだ!!』
『・・・陰険』
『雨邑! それはしかたなかろう、坊やだからな!!』
『また、変な言葉を覚えて・・・』
『はいはい、みんなーご飯できたよー!』
『ええぃ! あ、姉上のご飯は化物か!?』
『・・・さすがに無い』
『うぅ・・・ごめん』
あとはもう毎日が、驚きばかりで・・・。
皆作って、皆で食べる食卓はこんなにおいしいモノだったのか
昼下がりはこんなに楽しいモノだったのか
眠る前は、目覚めがこんなに待ち遠しかったのか
笑顔って・・・こんなにも心を打つモノだったのか。
神代の背後には宛誄が立っていた。
「ハジメマシテ、神代。雨邑の兄だ、用件はわかるな?」
宛誄の左手の金のバンテージが神代の黒い翼に伸びる!
「縛れ、神縛金剛羂索」
悪を捕える不動明王の金縄が黒い翼を縛り上げ!
神代の中のパワーバランスを崩した!
712 :
神代
:2011/12/30(金) 01:22:45.10 ID:ylHrCUcv0
>>711
「!?」
基本的に満身を出来る性質ではない神代も、
やはり神世の神の技をいなしたということは多少の隙を作る原因になったかもしれない。
あっさりと背後を取られた神代は、両側にある黒の翼を封じられてしまい、
全身の微妙な均衡を保っていた境が崩壊して神気が悪魔を圧倒し始めた。
「う"う"う"・・・
見事にしてやられてしまいましたね・・・」
神代の外見からでもその様は見てとれた。
何故なら彼の白と黒の混在した髪色が、徐々にではあるが黒を消していってしまっているからだ。
そして弱体した側の悪魔は、どんどん神性に浄化されてしまっていった。
通常ならば、それが悪魔払いのように体から悪魔だけを奪い去ってくれるのだろう。
しかし、悪魔を体の半分として構成されている神代には、唯のダメージでしかない。
「くすくす・・・ですがこれもこれで都合が良い。
余分に成長した神性を、体外にいつも以上余分に放射出来るのですから」
羽を捉えられて空の移動を封じられ、更には浄化による痛みで苦笑しながらも、
神代は鋭く神々しい眼差しを二人へと向けた。
【聖矢 ―オールコレクト―】
とっさに神代の手に出現したのは、白く神々しく光り輝いた、戦闘の弓と矢であった。
そしてその外装はおおよそ、愚弟を警戒した時にアマテラスが用いた弓と酷似している。
「ふふ、神具を力だけで疑似的に具現させるなんて、
基本的に神性を失いかねない無謀さとおこがましさですが。
今ならできる、悪魔が陰り天が異常に輝いた今でしたらね」
羽は抑えられても手足は満足。神代は神具の助けもあって彼らの反応を出来る前に、
矢を数本弓につがえ、光にも迫る速さで両者に打ち出した。
713 :
宛誄&安木
:2011/12/30(金) 01:34:34.52 ID:X/rp4p6EP
>>712
「無駄ですよ、その程度。僕と安木にはね」
「ぬぅうううううん!!」
安木は灼熱の伴った左手で光の矢を相[
ピーーー
]る。
左手から血を流しながらも大したダメージではなかった。
「安木は姉さんと一緒に18の火力発電所と13の原子力発電所を回って、
竈神として盟約を結び、神格を得ている。そんじょそこらの古い神とは桁違いだ。
そして・・・」
宛誄はいつの間にか握られていた段平を構えていた。
段平には光の矢が突き刺さっていた。
「スサノオの力をほぼコントロールできている、僕もね」
牛頭天王の嫁の親であり、スサノオと同じ海神の沙竭羅の首飾りが煌めいていた。
「たかが悪魔と人の合いの子が、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
宛誄は弓を引き絞ろうとする神代の懐に一気にもぐりこみ。
段平の背で笑みを浮かべる神代の顔を思いっきり殴りぬいた。
714 :
神代
:2011/12/30(金) 01:53:48.62 ID:ylHrCUcv0
>>713
顔に思いっきり衝撃を喰らって、唯でさえ体重がさほどない神代は余りにも容易く、
宛誄のみねうちというのか重い一撃の力に逆らえず吹き飛ばされた。
大社の廃墟が神代の衝突に耐えきれず、大きな音を立てて一部が崩壊した。
「最新と最古の神の力、ですか
くすくす、それは確かに厄介ですね」
ぱらぱらとまだ音を立てて崩壊する社の中から、神代はゆらりと立ち上がった。
しかしあんなダメージを負ったというのに、顔にも跡が残っているのに、
未だにへらへらと余裕のある笑みを顔に浮かべている。
「ふふ、核分裂の炎、人が作り出した中でも間違いなく最高位に存在する熱ですね。
いくら僕でも喰らえば、やけどは免れないでしょう
では、あなた達の足元にあるコレと比べて、どちらが威力を保有しているでしょうか?」
ふと気づけば、神代の背中できつく縛る事によって、悪魔の力を防いでいた縄がなくなっていた。
それによって、神代の髪色もその羽の翼の色も、元の状態に戻っているのだ。
神代は敢えて宛誄の一撃をもろに食らった。
ダメージは入るであろうがそれ以上に、吹き飛ばされた事によって生まれる距離で、
後ろの邪魔っけな縄を切る事の方が大事であったのだ。
「それは確かに赤く燃え盛る。
ふふ、しかし僕の放つ灼熱は、遥かに青く染まっていますよ」
突如、今度は彼の中の勢力図の内、悪魔が先ほどとは違って活性化し始めた。
すると神代の携えている神具の弓矢に、青い炎が全体を包むように発生する。
「これは地獄の炎。
あらゆる罪を、不浄を、そして清浄すらも焼き尽くす」
【技名無し】
先ほどのお返しとでも言わんばかりに、神代は青く燃える弦を力を込めて引き、
再び青い一線たちを、確実に燃やしつくす地獄の業火を差し向け、
終ぞ安木には間違いなく着弾させた。
715 :
宛誄&安木
[saga]:2011/12/30(金) 02:13:16.70 ID:X/rp4p6EP
>>714
「ぐぉ! ぬううううう!!」
青い焔が安木を包んだ。
あらゆる罪を焼き、浄化する煉獄の炎。
食らえばたとえ最古の邪神とて無事ではない。
だが。
「く、ふふふぬふぁああああああ!!
ぬるいわぁあああああああああああああああああああ!!」
安木は青い焔に包まれながら。
灼熱の槍を携え、一歩、一歩神代に歩み寄っていく。
「裁きの焔、確かに強力。だが名や分類が戦力の決定的な差にならないということを知らぬようだな!」
神代は地獄の執行官でも、罪人を裁くアメミットでもない。
たかが一人の半妖半神。
清めるどころか裁かれる側の罪深い者。
放たれた炎の“意味”はあまりにも軽く、あまりにも安っぽかった。
安木は殺しの竜の槍に、核分裂の炎を纏わせ。
一歩、一歩歩み寄ってくる。
宛誄の眼中には安木は無かった。
眼前には余所見をした神代だけを見据えていた。
「死ね」
宛誄は目を見開く。
その段平を振り上げる。
雨邑を殺した。
もうあの温かな場所は二度と戻ってこない。
「逃がすものか、生かしてなるものか」
そもそも貴様はどこから湧いて出た?
お前が現れてから全てがおかしくなり始めたんだ
現れなければよかったんだ、生まれなければよかったんだ
貴様こそが世界の異端、間違い、邪魔者、支障、害悪
お前は、僕が
「死ねぇええええええええええええええええええええ!!!!」
抹消する!!
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!
汚い脳漿をぶちまけて、死に絶えろ!!!!
段平が神代に振り下ろされる。
716 :
神代
:2011/12/30(金) 02:27:54.11 ID:ylHrCUcv0
>>715
ある程度これで決まったと、少なくとも神代はそう思っていた。
しかし、予想に反して対象の安木は歩を進めこちらへと向かって来ている。
「決定的でなくともいいのですよ。
圧倒的だろうが僅差だろうが、勝ちは勝ちになるのですから」
予想は外れた、現に安木は全身を炭化させていないから。
それでもこの神代には、焦る素振りも迫る安木への恐怖心すらも微塵と感じなかった。
むしろ、獲物を待ち構えている蜘蛛や蟻地獄のように、
淡々と殺害の狂喜を見に感じながら、彼を待ち構えている。
そして段平は振り下ろされた。
彼の強靭はしっかりと獲物を捉え、対象を真っ二つに裂いた。
だが安木の刃は、神代の肉を切り裂いていたのではなかった。
「ぎりぎりセーフだっていうwwwwww」
すると突然に、彼らの陰惨な戦いの空気感を易々と破壊するかのような、
如何にも人を馬鹿にしている馬鹿笑いがこの場に響いた。
「お前らが仲良しこよしで命の取り合いをする前になwwwwww
ちょっとお前らがやっておかねえといけねえのがあってなっていうwwwwww」
丁度神代と安木が向かいあっている間に、その男は立っていた。
あの時切られたのは霊。
真っ二つに切り裂かれたことはなしとして、剣の腕に関しては相当な腕前の武士の霊、
そしてこの銀髪のホストの配下である。
717 :
宛誄&安木&雨邑!?
[saga]:2011/12/30(金) 03:21:04.77 ID:X/rp4p6EP
>>716
宛誄は目を見開き、遮る霊を跳ね除ける。
「邪魔だぁあああああああ!!」
なんだ貴様は、どこから湧いて出た!?
そもそも貴様はなんだ、あの時も神代を庇ったような発言をしていた!
貴様も神代の仲間か!!
「ぐっ・・・!」
神代の注意がこちらに向いたことを確認し、愕然とする。
ちくしょう・・・っ!!
千載一遇のチャンスが・・・、今この手で神代を殺せると思ったのに・・・ッ!
「ちくしょうが、ちくしょう!!!」
馬鹿にするような、笑いを上げる乱入者を忌々しげに睨み返す。
くそ・・・っ! お前のせいで全てぶち壊しだ!!
消えろ、消えろ消えろ消えろ・・・!!
食らいつくようなに笑いを上げる闖入者を睨み返す時、
後ろのほうで声が重なった。
「「そうだそうだ、空気読みなさいよ!!」」
安木が口をパクパクさせながら宛誄の後ろを指さしている。
宛誄が後ろを振り返った時、そこには居ない筈の者が立っていた・・・!
「あめ・・・むら?」
馬鹿な、馬鹿なバカなバカな!!
そんなことあるはずがない!
「きっと、神代一派の奴らの仕業に違いない・・・」
「――と、宛誄は言う」
青い着物を纏った雨邑の後ろから・・・もう一人の雨邑が!
「残念、ところがどっこい」
「正真正銘の、雨邑だ・・・」
二人の雨邑が口を揃えて言った。
718 :
神代 虚冥
:2011/12/30(金) 03:36:28.21 ID:ylHrCUcv0
>>717
彼が激昂する中、まだ虚冥は彼を、そして神代すらも馬鹿にするように笑っていた。
そして宛誄の刃によって真っ二つにされた配下の元へ、
彼らをまったく意中に入れていないかのような足取りで歩み寄る。
「よしwwwwwwなんとか真っ二つだけど回復の術が
"奇跡的に"間に合って死んで無かったっていうwwwwww」
虚冥が霊に目線を落とすと、彼の言葉通りなんとか傷口が塞がれて形を保っていた、奇跡的に。
「くすくす、どなたでしょうか?
ここは僕たちの戦場です、邪魔をするようでしたら微塵にしますよ?」
しばらく、意味の分からない登場で言葉を失くしていた神代も、
ようやく意識を取り戻して、目の前のやけに笑う銀髪の男に話しかけた。
「じゃまじゃねえよwwwwwwむしろお前らを救いに来たんだっていうwwwwww
神代とかいうお前はともかくとして、そこの段平wwwwww
お前に少し聞きたい事があるっていうwwwwww内容に俺が納得したらwwwwww
このまま何も言わずにどっかに消えてやるよっていうwwwwww」
しかし神代の言葉をスル―して、虚冥は宛誄を指さした。
そして其のついでに、ある意味自分以上の招かれざる客の方にも、
そっと目を向けたのであった。
「正真正銘な筈がねえだろうが
そもそもあれが生きてたら、俺がここに来る理由はないじゃねえか」
気のない調子で答える虚冥は、先ほどの笑顔を失くして、
めんどうなことになった、と顔に文字として表れそうなほどにふてくされている。
719 :
宛誄&安木&雨邑
[saga]:2011/12/30(金) 09:00:01.68 ID:X/rp4p6EP
>>718
「そうだな」
「あなたは場違いだから帰っていい」
どちらの雨邑も口調を合わせ、
ドライで辛辣な言葉を吹きかける。
「どういう・・・ことですか・・・?」
「こっちが聞きたいくらいだ」
すっかり炎を消し止めた安木が宛誄の下へと歩み寄ってくる。
「だが一つ確かなのは、己達にあった喪失感が消え失せていることだ」
「・・・あっ」
宛誄が自分の胸に手を当て声を上げる。
2人の雨邑は同時に語りだす。
「おい、聞いているか榊とかいう奴」
「あなたは脚本家としては3流どころか4流5流だ、ラスボスどころか中ボスすらもおこがましい」
呆然とする兄たちを余所に、雨邑は滔々と語っていく。
「確かに神代をそそのかして私の魂を砕くまではよかった」
「砕かれ魂を蘇生する術はこの世には、存在しない」
「だけど」
2人の雨邑に違いは見られなかったが、
やがて右の雨邑の無表情が徐々に歪んだ笑顔へと変貌していった。
「失われた命を、もう1つ手に入れられるような奴なら存在したね」
右の雨邑の姿が陽炎のように揺らぎ、
やがてあの幼い『あの女』の姿へと変化する・・・!
「この私を! 年暮れの108の煩悩により力の高まったこの魔王を!!
勘定に入れないなんてとんだ不届きものだねぇ!!!」
窮奇の“最初の子”にして“最後の紫狂”・・・。
天魔・波洵!!!
720 :
神代 虚冥
:2011/12/30(金) 10:48:13.78 ID:ylHrCUcv0
>>719
「ここでお前が登場すんのかっていうwwwwww」
出し抜けにあの時自分がこの場に乱入して空気感、流れを破壊したように、
其の数分後にはまたもやお客を迎え、彼らの陰惨たる戦闘の雰囲気は、
現在微塵も無くなって、むしろ神代は理解が追い付かずただ立ち尽くすだけ。
虚冥にとっても意表を突かれた形となり、波洵を指さして笑うことしかできていない。
あまりにもな状況は、どんな前振りがあろうとむしろ笑ってしまう物らしい、
しかし、彼はわりと早いうちに脊髄反射な笑いを収め、笑わなくなった顔には安堵の念が浮かんでいた。
「まあ、お前なら反魂の術に近しい事もできるんだろうなっていう。
確かに俺も、多分榊にとっても、想定の範疇を遥かに超えた芸当じゃねえか?
とは言え、結局は奴の流れをこうしてぶった切ったんだ。
お前らの言うとおり俺のいる理由はねえ。むしろ場違いだし見当違いだっていう」
淡々と状況を理解しようとするかのように、虚冥は彼らをまじまじと見渡しながら言った。
榊の力を、バッドエンドに持ちゆく力を理解して、破壊に持ち込めるのは自分だけだと、
過信だったのかもしれないがやはりしっかりと、身に持って味わった不幸を元にして、
この状況を多少なりとも好転する事があたうのは自分だけだと思っていた。
まさか、こんな規格外が出るとは思ってもみなかったから。
「ここは大人しく帰らしてもらうぜ、邪魔して悪かったな」
何か色々言いたい事もあったのであろうが、紫狂たちの問題は解消したのだ。
そうであるのならば、虚冥は彼らに口を挟む権利をまったく喪失した事となり、
彼が何を言おうと戯言にしかならない。
その為虚冥はさっさとこの場に謝辞をしてから、自身の体を霊子へと変換して、
空気の中に霧散する事によって去って行った。
「ふふ、で。僕ももう帰らせてもらってもよろしいのですね?
雨邑さんは戻ってきました。であるのでしたらあなた達の権利、
僕を討伐する権利もまた喪失した事になると思いますが?」
事の成り行きを見守るしかなかった神代も、また同じように戦闘の当事者、
とは言えない状況になった事は理解したため、
彼らがまた何かと物議をかわし出す前に、意地悪げな口調で話しかけた。
721 :
宛誄&安木&雨邑&波洵
[saga]:2011/12/30(金) 15:06:08.26 ID:X/rp4p6EP
>>720
「あぁ、そうだな・・・でもその前に」
直後、一瞬にして神代の眼前に移動した波洵が、
平手で思いっきり顔を殴りつけた!
殴りつけた平手からは黒い煙が漂ってはいない。
「私は誰にでもなれる、お前に毒されないお前と同じどっちつかずの存在にすらな」
ギロリと鋭い目が神代を睨み、
鼓膜が震えるような大声で怒鳴りつけた。
「私の目の前で私の何かを奪おうなんて108年早い!!
次にこんな下らない事をやったらグーで殴るぞゴミムシ野郎!!!」
さぁてと、と振り返り。
宛誄たちを「何か文句あるのか?」とも言いたげに見渡す。
「・・・何もありませんよ、言いたいことも言ってくれましたしね」
「うむ」
すっかりと憑き物が落ちたような様子の宛誄と、
安堵し、泣きそうな表情で宛誄の肩を抱く安木。
そしてこの騒動を引き起こした張本人であるのにケロッとした様子の雨邑。
三者三様の様子を得意げに眺めると、クルリと全員が背を向ける。
失った物にとんでもないおまけまで付いてきた紫狂は、
何も持たぬ神代に見せびらかすように悠然とその場から去って行った。
722 :
四十萬陀 七生
[sage]:2011/12/31(土) 21:50:37.08 ID:QEYTVUQSO
外はぶるっと身震いしてしまいそうな冷たい風が吹いている。
人間たちはみんな家に籠もって、暖かい炬燵なんかを囲みながら、わいわいテレビでも見ているようだ。
遠くに行っていた人たちも帰ってきて、久し振りに顔を合わせた人たちと談笑しながら酒を酌み交わす。
台所には明日のための、いつもより豪華な食事が用意されていたり。
例えば今日を一人で過ごしている人も、ぼうっとしながら、ふと自分の一年を振り返っているかもしれない。
今日は大晦日。一年が終わる日。
妖怪にとっても、少し特別な日であったり、別段そうではなかったり。
人間に混じってお祝いする妖怪もいれば、同じ仲間と酒でも飲んでいるものも、一匹でいるものもいるだろう。
寒空の下、一匹の夜雀は、白いセーラー服を着た少女の姿で街灯の下にいた。(光の下でないと、人間の姿では目が見えないからだ)
何やら星空を見上げて、物思いに耽っているように見える。
どこか寂しそうな、とにかく、新年を喜んでいるようには見えない。
はあ、っと息を吐けば白い煙。
四十萬陀は寒そうに首に巻いたマフラーに顔を埋めた。
723 :
現人
:2011/12/31(土) 22:01:49.69 ID:WpnlamQDO
>>722
「ふーふふーん、っと」
鼻歌を響かせながらやけに弾んだような足取りであるいている気配が驚く程に薄い青年
その帽子を目が完全に隠れる程に深く被った青年のてには膨れた買い物袋
「もう大晦日か、早いもんだな・・・お?」
上機嫌を隠そうとせず、口元だけで無駄に爽やかな笑顔を振り撒いている
そんな少女とは反対に無駄にテンションの高い青年は、ようやく少女の存在に気付いた
724 :
四十萬陀 七生
:2011/12/31(土) 22:14:32.34 ID:QEYTVUQSO
>>723
「!」
青年の鼻歌を耳にしたことでようやっとその存在に気付いた四十萬陀は、弾かれたように背後を振り向いた。
驚いた。こんなに近くに来るまで気配に気付かないなんて。
決して警戒に疎いほうではないのに。
(……だ、誰だろう?)
妖怪だろうか。人間だろうか。
気配が薄いためかよく分からない。
街灯の下から出れば目が見えないし、かといっていきなり夜雀に戻ることもできない。
四十萬陀は若干警戒しながら、しかしそれを表には出さず。
「こんばんはじゃん。寒いねーお兄さん」
にゃは、と明るい笑顔を見せて話し掛けた。
725 :
現人中
[sage]:2011/12/31(土) 22:31:13.03 ID:WpnlamQDO
>>724
「うおうっ」
勢いよく少女が振り返ったので少しビクッとした
しかし、すぐに元の…若干緩くなっている顔に戻る
「おうこんばんは、風邪引くなよ?」
明るい笑顔に青年もまたニッと笑って返す、若干初対面に相応しくない台詞を吐きながら
わずかながらに感じ取れる気配は凄く人間に近い、しかし微妙に違うような気もする
726 :
四十萬陀 七生
:2011/12/31(土) 22:44:05.83 ID:QEYTVUQSO
>>725
「ご心配どーも。でも私、体は丈夫じゃん♪」
(ほっ……、悪い人じゃなさそうじゃん)
結構、というかかなりフレンドリーな青年に対し、四十萬陀は安堵を覚えた。
しかし感じる気配や独特な格好を見るからに、「普通」の人間と思うにはまだ早い。
四十萬陀は真っ黒な丸い瞳に青年を映し、じいっと観察する。
(んー、人間……?
なような、でもちょっと違うような……)
あまりにじーっと見ているため、ちょっと不自然なような気がしないでもない。
727 :
現人
[sage]:2011/12/31(土) 22:57:57.44 ID:WpnlamQDO
>>726
「そうか、一応油断せず用心はしとけよ」
もはやフレンドリーを何段階も飛ばしているレベルである
親戚のお節介なおばさん見たいなことをほざく
「ん、なんか顔に付いてるか?」
じっと見る視線を不思議に思ったらしく首を傾げた
頬の辺りを何か付いていないか探りながら
728 :
四十萬陀 七生
:2011/12/31(土) 23:07:39.52 ID:QEYTVUQSO
>>727
「あっ、なっ、なんでもないじゃんっ!」
あわあわと手を振って一歩距離を取る。
しまった、と四十萬陀は苦笑いしながら視線を逸らす。
ついまじまじと見てしまった……。けれど、人間にしろ妖怪にしろ、悪い奴でないのは確かなようだ。
(……凄いお節介焼きみたいだし)
そういう性質の者はキライじゃない。むしろスキだ。
四十萬陀はにいっと微笑むと、青年に向き直った。
「私、四十萬陀 七生(しじまだ ななみ)じゃん。ここで会ったのも何かの縁、よろしくじゃん♪ 君は?」
729 :
現人
[sage]:2011/12/31(土) 23:24:41.73 ID:WpnlamQDO
>>728
「ん、そうか?」
頬を探るのを止めるが、いまだに少し不思議そうにして
「四十萬陀七生か、いい名前だな
俺は現人ってんだ、今後ともよろしく」
しかし名乗られたらすぐに不思議そうな顔を止め、ニカッと笑う
「あぁそうだ、お近づきにこれやるよ」
唐突に買い物袋の中に手を入れ、がさごそと
引き抜いた手にはインスタント蕎麦、微妙なものを差し出すものである
730 :
四十萬陀 七生
:2011/12/31(土) 23:38:43.26 ID:QEYTVUQSO
>>729
「現人? へえ、不思議な名前じゃん。よろしくね現人君」
お互い初対面にはみえない程のフレンドリーさだ。
四十萬陀の警戒心も今や薄れていくばかりである。
「?」と首を傾げてみれば、差し出されたものは、インスタント蕎麦だった。
年越し蕎麦にとうぞ、ということなのだろうか。
「にゃははー、ありがたく受け取るじゃん。これで年を越すことにするじゃん」
四十萬陀は蕎麦を受け取ると、にっこりと笑う。
しかし、むぅと眉を下げた。
「んー……私も何かお返ししたいけど、今は何も持ってないじゃん……」
731 :
現人
:2011/12/31(土) 23:50:22.85 ID:WpnlamQDO
>>730
「だろ?少し変わってはいるが、覚えてもらえやすいから気に入ってる」
不思議な名前、と言う言葉に頷きニッと笑った
「あー気にするな、感謝してもらえただけで十分だ」
からからと笑って手を横にふる、どこまでもお節介な青年である
732 :
送り妖怪
:2012/01/01(日) 00:04:18.84 ID:B2OG93YSO
>>731
(うーん、凄い良い人じゃん)
思いながら、四十萬陀はちょっと驚く。
少し話しただけでも分かるほど、この人は「良い」人だ。
きっと誰かが困っていたら放っておけなくて、色んなことに巻き込まれてしまうような人なんだろう。
「……あ」
ちら、と街灯についた時計を見上げると、ちょうど0時を過ぎていた。
大晦日は終わり、今から新しい年が始まる。
というか、一見普通の女子高生がこんな時間にこんなところに一人でいるというのもおかしな話であるが。
「あけましておめでとうじゃん、現人君」
にこ、と。花が咲いたような笑みを浮かべた四十萬陀が、首を傾げた。
733 :
現人
:2012/01/01(日) 00:21:31.68 ID:gO3+5DVDO
>>732
「ん?・・・おぉ、正月になったな」
少女の目線をたどり、時計を見て呟く
なんとなく嬉しくなったのか、やんわりと微笑む
「おう、あけましておめでとう!七生」
花のような笑顔を受けて、こちらも無駄な爽やかさと共にニカッと笑う
しかし初対面の女の子をいきなり名前呼びとはいかがなものか
「しかし、お前さんこんな夜遅く出歩いて大丈夫なのか?見たところ高校生だろ?」
ふと疑問に思ったらしく首を傾げる、自分も高校生ほどに見えるのは全力で棚上げである
734 :
四十萬陀 七生
:2012/01/01(日) 00:39:52.11 ID:B2OG93YSO
>>733
「にゃはは、新年を迎える前にこんな人と逢えるとは思えなかったじゃん」
今年からよろしく、と四十萬陀が微笑む。
親しい間柄であると七生と呼ばれることが多いためか、現人が名前呼びしたことはむしろ仲を深めることになりそうだ。
ぽわぽわとお花を飛ばし合っていると、不意に現人から問われ、
「えぇーと、それは……そっ、それをいうなら現人君はどうなの? 高校生くらいに見えなくもないし……」
四十萬陀は慌てて言い返した。
厳しい切り返しかとも思ったが、これでもしかしたら現人が何者なのか糸口が掴めるかもしれない。
735 :
現人
:2012/01/01(日) 00:50:55.47 ID:gO3+5DVDO
>>734
「はっはっは、そりゃこっちの台詞だな
こいつは今年は幸先がいい」
笑顔をたやさず、嬉しそうに言う
「ん、そりゃお前さん、アレだよ、こう見えて30を超えていてだな」
嘘ではないけど常識的に見たらこの見た目でその歳は無理がある
736 :
四十萬陀 七生
:2012/01/01(日) 01:03:06.47 ID:B2OG93YSO
>>735
「さ、30過ぎ!? 冗談じゃなくて??」
まるまると目を見開く。
そんなことを言えば、四十萬陀は400歳を過ぎているのだが。
しかし現人が人間だとすれば、この見た目で30歳過ぎているというのは無理がある。
やはり普通の人間ではないのか、それとも……。
(あんちえいじんぐってやつじゃん?)
ますます謎の人物だ。
悪い人ではないと思うのだが。
737 :
現人
:2012/01/01(日) 01:10:53.83 ID:gO3+5DVDO
>>736
「いやまぁ、嘘ではない、嘘ではな」
かなり微妙な言い回し、この青年も実年齢は30どころではないので
当然と言えば当然なのだが
「んでだ!そんな俺はともかく、お前さんはどうなんだ?」
そして全力で話題を戻しにかかる
738 :
四十萬陀 七生
:2012/01/01(日) 01:21:29.72 ID:B2OG93YSO
>>737
「う! わ、私は、ええっと〜……その、い……」
「家出したじゃん!」
……お節介焼きを前に、そのセリフはどうなのだろうか。
言ってしまった後、四十萬陀もはっとする。
面倒なことにならなければいいのだが。
これはそろそろ退散した方が良さそうだ。
四十萬陀はまた一歩距離を取る。
739 :
現人
:2012/01/01(日) 01:28:03.98 ID:gO3+5DVDO
>>738
「なん・・・だと・・・?」
案の定物凄く驚いた顔をしている
「家出ってお前さん、宿は?親御さんは心配してないのか?
それに飯とか行く宛とかあるのか?」
そしてこの質問責めである
「よし、わかった。とりあえずこれを受けとれ、な?」
そのまま買い物袋in財布を押し付けようとしてきた
凄まじいまでのお節介ぶりである
740 :
四十萬陀 七生
:2012/01/01(日) 01:41:48.85 ID:B2OG93YSO
>>739
「やっ、ちょ、だ、大丈夫! 大丈夫じゃん!」
質問攻めに圧倒され、わたわたと慌てはじめる。
しかも買い物袋どころか財布まで渡そうとしてくるとは……。
まさか本当に受け取るわけにもいかないので(去年の彼女ならわからないが)、四十萬陀は退散することを決めた。
「あっ、蕎麦ありがとじゃん現人君! また会えたらいいね」
四十萬陀はあわあわしながら言うと、街灯の光の下から消えていった。
恐らく現人から姿が見えなくなったであろう場所で、夜雀の姿に変わり、夜空へ翼をはばたかせていく。
(うーん……新年早々幸先いいのか災難なのか)
四十萬陀はそんなことをぼんやりと思いながら、星空を見つめる。
(…………結局、犬御は帰ってこなかったじゃん……)
そして、取り残されたであろう現人。
彼の中で四十萬陀が家出少女として固定されていないか心配である。
741 :
現人
:2012/01/01(日) 01:49:57.54 ID:gO3+5DVDO
>>740
「あ、おい!」
去っていく少女を追いかけようとしたものの
ものをつきだしているといったものもあり動作が遅れ、見失う
「あー、大丈夫かね・・・まぁ早いとこ親御さんと仲直りするのを祈るとするか」
肩をすくめ、ため息を吐く青年は周囲に溶け込むように去っていく
頭のなかで完璧に七生を家出少女とインプットしながら
742 :
雨邑
:2012/01/01(日) 21:57:44.68 ID:HhRpmueuP
「開けて?」
竜宮の番兵はアセアセと門を開く。
遠くで雷鳴が鳴り響いた気がした。
「・・・」
つかつかと竜宮の長い渡り廊下を歩いていく雨邑。
静かながらも張りつめた空気がついて回る。
バアン!!
蹴り破られるように扉が響き渡る。
「やぁ、巴津火。あはよう、おひさしぶり、あけましておめでとう」
無表情の雨邑が竜宮の主の部屋に乗り込んできた。
743 :
巴津火&???
[sage]:2012/01/01(日) 22:21:25.96 ID:YL8zVyxko
>>742
部屋の主はというと…寝台があったと思われた付近に巨大なとぐろを巻いて、
うねうねとのたくっている最中だった。
傍らでは一匹の鬼が困ったような顔で大鉈を握り、暴れて部屋を壊しつつある巴津火の身体に
巻き込まれまいと苦労していた。
「雨邑?」
とぐろの動きがピタリと止まり、大きな蛇の頭がぬっと持ち上がる。
鬼はすかさず、大鉈をざくりと蛇の首の後ろにつき立てた。
「雨邑!?ホントに雨邑?」
白く濁ったままの目で、声を頼りに蛇の頭は雨邑に向かっていこうとする。
そして鬼は鉈を放り出すと、切れ目に手をかけて一気に裂いた。
「雨邑だぁ♪」
裂けた皮の中から、真新しい鱗に包まれた頭が二つ、滑り出る。
目を覆っていた邪魔な皮が取れて、蛇の黒い目が雨邑を見とめ、
双頭となった大蛇は彼女に頭を摺り寄せようと競うように伸びて来て…
雨邑の目の前で、ごつんとその頭をぶつけ合った。
「…痛っ」
蛇の双頭は互いに不平を言いあう。
剥がされた抜け殻は、ほっとしたような表情の鬼の手の中で
熱のない紫色の炎で燃えて消えつつあった。
この鬼はナモミ剥ぎ。なまはげという名のほうでも知られている。
744 :
雨邑
:2012/01/01(日) 22:27:44.47 ID:HhRpmueuP
>>743
ズドン!! と。
片割れの頭を雨邑の雪駄が踏みつける。
もう片方の頭はグリグリと赤い鼻緒の雪駄が、
頭にめり込んでくる恐ろしい光景が見えるだろう。
「雨邑だぁ、じゃない。死んでる間貴方はメソメソしてただけ? え?」
やばいです、もうめり込むを超えて埋まってます。
「まぁ、宛誄みたいになれとは言わないけどさ」
ふぅ、とため息をつくが、
相変わらず雪駄は埋まったままである。
745 :
巴津火&???
[sage]:2012/01/01(日) 22:53:33.51 ID:YL8zVyxko
>>744
「痛い!痛い!ごめんってば雨邑ー!!」
「いや……宛誄と安木が来てくれるまではそうだったけど、回復の時間も要ったし、
それにこの身体の更新が初めてで上手く行かなくて…」
踏まれた頭は泣きながら詫び、踏まれていない頭は一生懸命に弁解をしている。
役目を終えたナモミ剥ぎは、黙って二人へ一礼するとそっと部屋を出て行った。
蛇の脱皮は、失敗すれば命に関わることもある。
本来の身体ではないために、巴津火の初めての脱皮、つまり身体の更新は上手く行かず、
たった今、雨邑とナモミ剥ぎのお陰で無事に脱皮できたところである。
元々ウワバミだった身体は、これでようやく巴津火の、オロチの身体となることができた。
今なら人の姿に化けた時に、失った右腕も取り戻せている筈なのだ。
「宛誄と安木には会えた。
二人に武具をやる事くらいしか、その時のボクには出来なくて…ごめんな」
しょんぼりと、踏まれない方の頭がうなだれ、次いで慌てたように持ち上がる。
「…あの二人に急いで会いに行かないと。
宛誄たちは神代と戦いに行った筈だから、無事かどうか気になる」
弟達の無事を確かめたら、巴津火はまた神代と戦わなくてはならない。
746 :
雨邑
:2012/01/01(日) 23:08:52.55 ID:HhRpmueuP
>>742
「そう、ならば仕方ないな」
そっと、足をのける。
踏みつけられた部分は赤くなっているだろう。
「その心配はない、あの女の最後の忘れ形見が争いを収めた」
雨邑はふぅ、とため息をつき。
遠くを見るような目になる。
「神代の件、巴津火はどう思う?
正直言ってあれはもはや救いようがないぞ」
雨邑は手を組み考え込む。
「おそらく、宛誄と安木はもう神代と関わることはないだろう。
こうして私が生き返ってしまったわけだからな・・・だが」
表情を少し強張らせ、言葉を続ける。
「私と巴津火の姉・・・波洵はどう動くかわからない」
747 :
巴津火
[sage]:2012/01/01(日) 23:30:17.13 ID:YL8zVyxko
>>746
「うう…」
鱗に雪駄の跡がついたほうの頭は、物言いたげに口を開いたが、黙ることにした。
代わりに喋るのはもう一つの頭。
「最後の忘れ形見?姉?…そうか、雨邑を蘇らせたのは波洵姉さんか」
姉とは言っても、戯れに作られたレプリカの巴津火よりももっとずっと強い力を、
母である窮奇から受け継いでいる、窮奇の産んだ本当の娘にして魔王。
「神代は……。
その気さえあれば、生まれなんか関係なく、名の通り神に代われる者の筈なんだ。
でも今は…ただ全てを害するだけだ。
意志までも、呪いで屈折されたその存り方の通りに歪んでしまっている」
内面からの救済が無ければ、神代は誰かにただ滅ぼされるべき存在、
神代自身と共に全てを無にする存在でしかないのだ。
「ボクはあいつの呪いを解いてやりたかったけれど、
このままでは両親と同じ道へ追いやるしかあいつの救いようは無いんだ。
雨邑と…姉さんは、どう考えている?」
語る方の頭は、真っ直ぐに雨邑を覗き込む。
踏まれていた頭は甘えるように雨邑の足元で大人しくしていた。
748 :
雨邑
:2012/01/01(日) 23:42:57.49 ID:HhRpmueuP
>>747
「・・・私が蘇生できたのは本当に偶然だった。
東雲犬御にずっと憑いていた波洵はたまたま東雲犬御と初めに接触し、
かつあの女の欠片を持っていた私に憑依対象を移していたんだ。
波洵は砕かれた私の魂の欠片を拾い集めて組み直したというわけだ」
もう一度あんなことがあったら今度こそ私は死ぬ、と最後に付け加えて雨邑は語りだす。
「波洵はおそらく神代を抹[
ピーーー
]る気だ。
正直な話、私としてもそれを止める気はないし、
できれば神代は死んでしまうべきだと思っている」
蘇生できたとはいえ、味わってしまった死の恐怖。
雨邑は本心では神代を恐れていた。
「その気があろうとなかろうと、神代はあまりにも多くを殺しすぎた。
私達の見えないところで、多くの宛誄が生まれているんだ。
どんな理由があろうと、どんな境遇だろうと。神代は救われるべきではない」
心の底から軽蔑したような、
あるいは落胆のような失望のような。
そんな響きを込めて雨邑は語った。
749 :
巴津火
[sage saga]:2012/01/02(月) 00:03:32.29 ID:p4SG9Vpmo
>>748
「神代を殺した後、姉さんはそれ以上のことはしないつもりなんだろうか」
語る方の頭は、やや躊躇いがちに、雨邑を通じて波洵への問いかけをした。
神代が数多の罪を負っていて殺されるべき者であるとしても、
存在を認めようとしなかった天への神代の憤りだけは、正当性があると巴津火は思うのだ。
「ボクも神代は殺さなくてはいけないと思う。
でも、神代が死ぬだけじゃなく天にも何かしらの支払いをさせるべきだとも思うんだ」
天の神の呪いが思わぬほうへ転じて、数多の地の神を害する事となった。
穂産姉妹と神代の親と天、その3つのうちのどれかの関与がなければ
そんな結果にはならなかった筈なのだ。
「神代に殺されて神を失った土地は、衰えてやがて荒れてゆくだろう。
それを防ぐために代わりの神をその地へ降ろすなり、
その地の適当な者を神格に登らせるなりは、天が采配しなくちゃいけない筈なんだ」
いずれ水界の神格を束ねる者となるべく、詰め込まれた知識を反芻しながら
巴津火は雨邑にそう説明した。
殺された土地神の恨みは神代なり穂産姉妹なりが背負えば良いが、
失われた神の代わりの一柱を立てるべきなのは、天なのだと巴津火は思うのだ。
750 :
雨邑
:2012/01/02(月) 00:23:22.09 ID:HssGf8X0P
>>749
「・・・神、ね」
雨邑は瞳を閉じる。
神と妖怪のその中間である彼らにとって、
その話は複雑で理解しがたいモノであった。
「あなた、まさか失われた神格達の代わりに
神代を祭り上げようってんじゃないでしょうね?」
それはもう、ほぼ不可能だろう。
理屈では失われた者たちの役目を負うことが正当だったとしても、
失われた者たちの感情がそれを許すわけがない。
そんなことが認められれば、各地の妖怪たちが一斉に神殺しに奮起しかねない。
「心配しなくていい、神がいなくなった土地にも草木は育つし人は住みつく。
神のいなくなった森や山など、今ではこの国にいくらでもある。
巴津火が心配するほど、自然も人も妖怪も弱くはない」
そう、神はいらない。
ましてや屈折した精神を持つ神などいらない。
雨邑は嫌が応にも神代が生き延びる結末を望んでいなかった。
「ま、そんなの天界に言えばすぐにでも生え抜きの神性を生み出すでしょ。
土地神に代わりはいる、その役割を受け継がせる為の神格だしね」
751 :
巴津火
[saga]:2012/01/02(月) 00:47:03.80 ID:p4SG9Vpmo
>>750
「ううん、それは無理だし、ボクもそれを許すつもりはないぞ?」
巴津火に神代への同情があるとしても、神代を祭り上げるつもりはない。
むしろそうなることを防ぐ立場なのだ。
「この前の件で水界の神格も沢山殺されて、ただでさえ足りない手がさらに減ったんだ。
その埋め合わせくらいは天にさせないと、ボクも気がすまない」
伊吹が死んでから、竜宮ではその力の埋め合わせとなるように、
雨師になれるものをずっと募ってきていたのだが、それでもまだ足りていなかった。
それがさらに減った今は、次の台風の時期には、その水を各地で采配する手が絶対に不足するだろう。
「でも天の奴ら、降りてくるのは嫌がるだろうな。かと言ってほっといたら大災害だけどな」
瑣末な末端の水の采配など面倒がって水界に任せてきた天の神が、
直々に動かねばならないことを考えると、巴津火としてはちょっぴり楽しい気にもなる。
くすりと笑いながら、二つの頭は雨邑にすりつこうとした。
752 :
雨邑
:2012/01/02(月) 00:56:50.89 ID:HssGf8X0P
>>751
すりつこうとした頭を再び雪駄がギュムっと踏みつけた。
「で、あなたは神代をどうする気なの?
まさか天界にクレームをつけるだけでお終いじゃないでしょうね」
ミシミシと今度は踏む力が強くなっていく。
「元はといえば巴津火が刈り取らなかった芽だ。
きっちりとやることはやらないと、新しい神性の手配どころか竜宮移転なんだが?」
753 :
巴津火
[saga]:2012/01/02(月) 01:12:56.51 ID:p4SG9Vpmo
>>752
「あうっ…痛いってば!」
「どうするって、殺すさもちろん」
踏まれた頭が泣き声をあげ、上手く逃れた頭は問いへ答えた。
「刈り取ろうとはしたさ、神代を変えることで済む筈だとボクは思ったし、雨邑だって
いきなりあいつを殺すよりまず説得をしてただろ?」
宥めようとして喋る頭はおろおろしている。
「姉さんがどうするのか判らないけど、ボクはあいつを絶対に許さない」
ふと巴津火は黙る。
巴津火は刺し違えてでも雨邑の仇を討つつもりだったが、今雨邑はここに居るのだ。
(神代とはきっと命のやり取りになる)
もし雨邑を残してゆくことになったなら、という想いが過ぎったのだ。
「……。」
じたばたしていた踏まれたほうの頭も、静かになった。
754 :
雨邑
:2012/01/02(月) 01:19:27.01 ID:HssGf8X0P
>>753
「そう」
踏みつけた足を離すと、
雨邑はクルリと背を向けた。
「帰る、支度して頂戴」
と、他の部屋の使用人にそう言った。
「巴津火、私は約束を守った。
あなたがやぶったら許さない」
雨邑は聞こえるか聞こえないかのボリュームでそう呟くと、
トテトテと主の部屋から退出していった。
755 :
巴津火
[saga]:2012/01/02(月) 01:40:14.61 ID:p4SG9Vpmo
>>754
(雨邑と一緒に居るために、生き残る)
でもそのためには、神代とただ正面からぶつかる他の手も考えねばならない。
雨邑が出て行った後に、巴津火は二つの頭で悩み始めた。
考える頭が二つになっても、解決の糸口は見つからない。
「なんでボクは半分神格なんだろう」
完全に邪神ならそもそも水界の主などにならずに済んだし、
完全な神格ならばきっと一度の戦いで神代を救うことができた筈なのだ。
双頭の蛇は思考の袋小路で考えるのをやめると、人の姿で床に立ち、
何か衣服を持ってくるようにと控えの者を呼んだ。
(ちょっと癪だけど、蛸の奴を呼ぶか)
考え事の苦手は巴津火は、もっと得意な者にそれを任せることにした。
756 :
???
:2012/01/12(木) 22:34:21.79 ID:Re7ZN0DK0
あのやけに騒がしく、常々何とも言えないボケを放ってくるあの包帯男、
もといヒルコは逝ったらしい。
その知らせを榊が自分たちに話す時、農夫は彼女の作り出した筋書きが狂いだしている事を感じていた。
本来ならば、穂産姉妹は神代と共に天に刃向かい、
最後にはあまたの命と自分と共に、神々や自然に深い傷を残しながら死んでいた筈で、
ヒルコ自身もせめて日の下の大和神達への復讐を終えていた筈だ。
メデゥーサだって彼女なりの報酬と報いが・・・。
そんな当てもなく、また榊が認めないために正しいのかも分からない、
取りとめのない事を、彼は星が降る夜のある農耕地に一人座って考えていた。
神代はいない。
彼は今、一人あの笑みを絶やさないままで、
無念の死か念願の死かを遂げた、あの同胞を一人彼だけの祭壇で弔っているのだ。
「お前の仇なんざ、取らそうと思わせんなよ」
遺された者のない包帯男の仮初の墓標を見ていると、
どうともいえない感情が浮かびかける農夫はこれではいけないと、
こうして誰もいない自分だけの田畑に、いわば避難をしていた。
757 :
巴津火
[saga]:2012/01/12(木) 22:44:47.49 ID:YaTkRAFSo
>>756
潔斎の白装束を纏い、首には数珠をかけた小さな人影が
星の流れる夜空から一片の雲に乗って降りてきていた。
「あの婆ァめ、糞ッ」
巴津火は一人で勝手に天に昇ろうとして、途中で出世法螺に捕まってしまったのだ。
小さな五色の彩雲は、巴津火を乗せてゆるゆると下る。
「何が『あたしは用事があるからね』だ。だったらボクも上に連れてけっての」
悪態をつきながら、田畑の農夫に気づくと雲をそちらへと寄せる。
「なあ、榊は居ないのか?神代は?」
すねたような表情のまま祭壇の意味を見て取ると、巴津火は農夫にそう尋ねた。
低く地を這う彩雲の上には、鞘に納まった剣も見て取れる。
758 :
???
:2012/01/12(木) 22:55:40.28 ID:Re7ZN0DK0
>>757
深くため息をついたり、今から運動をするでもないのに伸びして見たり、
暇も潰し切れずに田畑の土でズボンを汚していると、
上空からかつて共に社襲撃を企てたあの、正真正銘の坊ちゃんが姿を現した。
「榊?
ああ、あいつは普段からも居ねえよ。
こっちがなんとなく情報が欲しいなと思った時に、ふいっと現れるような奴だからな」
まあ坊ちゃんは、とまで言って口を閉じた。
別段感極まったわけではないが、
メデゥーサの時も今行なわれているヒルコの時も、
神代はまったくの涙も苦痛も漏らさず、終始笑顔で彼らを弔って居た様を思い出す。
あの、とても見ていられないような様を。
「まああの包帯男が死んで直ぐだ。
当然のように葬式でもあげてるよ。なんならお前も手を合わせておくか?」
ぐだっとした態度でその場に座り込み、巴津火を見上げながらほくそ笑む。
759 :
巴津火
[saga]:2012/01/12(木) 23:06:18.30 ID:YaTkRAFSo
>>758
「そっか。榊には一度話きく筈だったから、ここで会えたら早かったんだけどな」
ひょい、と雲から降りて祭壇へ向かう。
白装束があまり似つかわしくないこの半神は、祭壇に残る祈りの気配に触れた。
「うん。ヒルコは…蛭子って書いて、エビスとも読めるんだってな。姉さんに聞いた」
(本当に、お前達が榊よりも先に僕達に会っていたら)
出来損ないとして水に流された国産み神の長子は、
海から幸をもたらす福の神となって帰って来られたかもしれない存在なのだ。
白装束の少年は、ヒルコの祭壇に黄泉送りの詞を捧げた。
夜にほの白く浮かぶその背中は無防備で、草薙剣も雲に置いたままである。
760 :
???
:2012/01/12(木) 23:21:10.63 ID:Re7ZN0DK0
>>759
「じゃあお前が望んでここにいねえってことは、
多分あいつにとって今に、何か都合が悪い事でもあんのじゃねえか?」
以前、農夫が別件で榊に事情説明を求めようとした事があったが、
その日の最後どころか一週間後まで、彼女は姿を現さなかったらしい。
あくまで榊の情報提供とは、限りなく彼女にとっての都合上の物でしかないのだという。
「・・・エビスサン、と言う神だったか?
そのエビスサンってのは、また別にしっかりと存在しているぞ。
あの俺たちの前に包帯を巻いて現れたあいつは、
言うならばヒルコがエビスサンになった時の、搾りかす見てえな物なんだ。
神になろうってのに、最高神を恨む心があっちゃあ駄目だろ?」
農夫の言葉通り、恵比寿として崇められている神は確かに存在している。
ヒルコが恵比寿として変容する際、
自身を捨てた事に対する邪念を吐きだし切り、何がしかの因果で凝り固まったのが彼。
その為、捨てられた最大の原因である全てを欠落したあの体を、
誰にも見とがめられぬ様、包帯に身を包んで神代や他の者たちの前に姿を現していたのだ。
「なあ・・・お前やっぱ坊ちゃんを[
ピーーー
]のか?」
今は巴津火が帯刀していないことを確認し、農夫は半ば不意打ちに質問をした。
761 :
巴津火
[saga]:2012/01/12(木) 23:34:33.78 ID:YaTkRAFSo
>>760
「最高神を恨む心?それじゃ聞くけど、最高神ってのはどこの何で、誰のことなのさ」
ほんの少し前、巴津火は天への恨みを抱いて駆け上がろうとした。
途中で力尽きかけて、出世法螺にその身を確保されてこうして降りてくることになったのだが。
「まつろわぬ神なんざ沢山居るんだ」
ある神が中央で最高位を主張したとしても、それを認めず従わぬ神もまた居る。
巴津火の母、窮奇などは全ての存在への反逆なのだから、
最高位の神など認めない者の筆頭だ。
「神代を殺すか?さぁな、神代次第だ。
どうせボクには戦うことしか出来ないんだから、守るために戦うしかないんだ」
何を、誰から守るのか、数珠を弄びながら曖昧に暈した返答をする。
巴津火の首にかけられた長い数珠、その透き通った珠は星影を映し、その手の中で仄かに煌いた。
762 :
???
:2012/01/12(木) 23:48:00.15 ID:Re7ZN0DK0
>>761
「そんなもの、言うまでもなくあいつの父母じゃねえか」
なぜ、巴津火はこれほどまでに自身の見解に噛み付いたのだろう。
農夫はその理由は分からず、少しきょとんした風になる。
しかし、彼は原因がなにかを延々考えても分からない程お人よしでもなかった。
「ああ、そうか。
お前らのとこだと、立てついてもある程度お咎めなしだったな。
でもまあ福の神になんだ。ねちねちと過去を引きずるような感情は邪魔っ気だったんじゃねえか?」
頬杖を付いて、農夫は何故か自嘲的に答える。
所謂カルチャーショックと言うやつに、少し卑屈な感情が湧いたからかも知れない。
「じゃあ、お前らは確実にどっちかは[
ピーーー
]事になんだな。
坊ちゃんだって、戦うことしか許されねえし、壊す為に戦うしかねえんだからな」
ため息をつくようにそう言い放ち、農夫は大儀そうに立ちあがった。
目には、かつてのような凶暴な刃が見て取れる。
「で、俺も。
坊ちゃんが危機だというなら、お前と戦うしかねえんだよな」
763 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 00:03:52.18 ID:W2noEeEIo
>>762
「ぷははは!
この国の土の上じゃ一番古いだろうけど、最高位は無いwww」
この国土は生んだが、国産み神は最高位なのではない。
神それぞれに得意不得意があるのが多神教なのだ。
逆に一神教などは、ただ一人の神しか居ないのだから最高神を名乗るだけ滑稽であろう。
「死ぬかどうか決めるのは神代だ。お前の生死を決めるのが、お前自身なのと同じだ」
どちらでも好きなほうを選べ、と巴津火は面白そうな笑みで農夫を挑発した。
764 :
???
:2012/01/13(金) 00:17:49.81 ID:Jrya0NAO0
>>763
「そうなのか?
てっきり創造神だから最高位だと思ってたぞ」
またもやなカルチャーショック、言わば勉強不足に驚く農夫。
更に極東に関して物知らずな彼は、更にその上の創造神が居る事も知らないのである。
であるならば、と更に最後ヒルコが何を望んでいたのかが分からなくなり、
途端になぜかあの包帯男が、自身には理解できない思いを持っていた事に意味もなく引け目を感じてしまった。
「坊ちゃんは十中八九、遅かれ早かれ死ぬ。
それが天寿なら誰だって同じ末路だが、坊ちゃんの場合は犬死なんだよ。
多分逃れられねえんじゃねえか?
何よりも逃れる事を、許される筈がねえんだからな」
この際、どのように火蓋が切られようが関係は無い。
その為農夫は巴津火の挑発に甘んじて乗る事とし、先制のために彼から動き始めた。
「だが、確かにおらの生死を決めるのはおらだけだ。
おらはこの戦闘で死ぬ気はねえし、これからも犬死は御免だ」
すると巴津火の周囲を直径2メートルほどの円を描くように、
突然先端が針のように鋭くとがった、蔓というよりは銛に近い形状の植物が芽を出し、
巴津火から妖気を啜りつくそうと矛先を向け、一気に一斉が貫きかかった。
俗に言う養分吸収をするために。
765 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 00:35:07.40 ID:W2noEeEIo
>>764
「神の順位なんてころころ変わるのさ。信仰の流行り廃りもあるんだからな」
だからこそ自分の意思で神になったり、祀らせようと人を脅し祟る神もこの国にはいる。
八百万もの神々が共存しているのは、その中で最高位などそもそも決まらないからなのだ。
「犬死から逃れることを、一体誰が許さないんだ?そのご大層な奴の名を上げてみろ。
許されないと思ってしまった時点で、そいつは自ら犬死を選んでいるだけだ」
巴津火はせせら笑う。逃れたければ足掻けばいいのだ。
「捨てる神が居れば拾う神もいる、それがこの国だ。見ろよ」
じゃらり、と数珠を持ち上げ農夫に見せる。
「神代に渡してやってくれって、託された物だ。
蛇神であり竜であり今は地蔵菩薩になっている、ある一人の母親からのな」
燦!
数珠がふわりと宙に浮き、輪となって巴津火を取り巻くと白く輝いた。
その光は巴津火に迫り来る植物の尖った先端を白いつぼみに変えて、一面に花咲かせる。
夜の底が、咲き誇る花の白さで明るくなった。
766 :
???
:2012/01/13(金) 00:44:28.80 ID:Jrya0NAO0
>>765
「なんだそのファンシーな力は。
力の無効化の恐ろしさも消えかねん可愛さだぞそれ」
農夫はじわじわと長く戦闘を楽しむタイプだ。
長く生を受け、気も長くなったからなのだろうか、
それとも単純に彼自身の心には彼も気づかないくらいに陰険にじわじわ傷めつけたいからなのか。
どちらにせよ、先制の一撃はいなされるだろうと思ってもこうも可愛くされるとは。
「にしても、なんでそれを坊ちゃんに届けるんだ?
花をこよなく愛する性格だが、少し呑気すぎる気もするぞ?」
そんな物を持ってきた、巴津火の気が知れなかった。
彼は思わず眉間に軽くしわを作っていた。
767 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 00:55:48.81 ID:W2noEeEIo
>>766
「知らん。
これの送り主の意だと思う。ボクがやったわけじゃない」
巴津火が苛々と首を振る間に、花は散ってゆく。
地蔵菩薩は武器として使われた植物を、あたら枯死させたくはなかったのだろう。
「少なくとも神界につまはじきされてる神代を、憐れんでくれて救おうとしてくれてる者が
仏には居るんだろうさ。あいつら、罪業背負った者には神よりも甘いからな」
神代へ送られた物だから、この数珠の意味は神代が見出すだろう。
巴津火はただ天に昇る途中の出世法螺から、この数珠を言付かっただけなのだ。
「ボクのものじゃない、送り主か神代のものだからな」
数珠を首から外すと、左の手首に巻き付け、巴津火は雲の上の剣に右手を伸ばそうとする。
768 :
???
:2012/01/13(金) 01:07:08.68 ID:Jrya0NAO0
>>767
「仏の方か。
本当にあっこにはお人よしばっかりがいるんだな」
神界の坊ちゃんである巴津火の口から、まさか仏の名が出るとは。
いくら神仏習合が進んでいてもこれ程までに根付いた者と思っていない故に、
農夫は先ほどから飛び込んでくる色々な事実に目が回り始める。
「なら、ここは取りあえず休戦にしておらが坊ちゃんに届けりゃあいいのか?
それとも今現在の構図にのっとって、
お前を潰して強奪の形で坊ちゃんに届けりゃあいいのか?」
言葉ではそう確認しながらも、農夫の起こしたアクションは真反対のものであった。
先ほどの先制とは違い、おおよそ人三人以上もの太い樹木が農夫の目の前に発生し、
大きくしなって鞭のような薙ぎ払いを巴津火に放った。
769 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 01:24:01.30 ID:W2noEeEIo
>>768
「昔、竜宮の龍王の娘が8歳で仏となったことがあったって婆ァが言ってたよ」
剣を手に、巴津火はひらりと彩雲に飛び乗った。
雲がついと飛び去った後を、樹木が大きく薙ぐ。
「だから竜宮には、仏界とも縁があるらしい」
彩雲の上から巴津火が雨雲を呼ぶ。紫電を点した刃を樹木へ振るって雷で裂くつもりなのだ。
星を隠して雲が広がり始めたが、まだ少し時間がかかりそうだ。
「なんか、女の身で仏になるのってえらい難しいんだってよ。なんでそんなのなったんだろな」
抜いた刃を掲げる巴津火は、樹の高さよりはすこし低い位置に居る。
なぎ払いの回避のため横へ移動するのに集中していた分、高さは稼げていないのだ。
770 :
???
:2012/01/13(金) 01:42:43.63 ID:Jrya0NAO0
>>769
難なくかわした巴津火を、飛べる事が出来ない為見上げる形になる。
その構図が今一気に入らなかったらしい農夫は、
ほんの少しだけ不快感を顔に出していた。
「まったく、この世界は何と何が繋がるか分かんねえな。
まあだからこそ因果なんてのも、当然のように発生するんだけどな」
だからなのだろう、農夫は心に浮かんだささくれた感情を、
上の巴津火に皮肉を飛ばすことで解消する。
「でもそのくせこの国の菩薩は、一様に女性っぽくねえか?
西洋の俺からしたらこの矛盾はさっぽり理解が及ばねえぞ」
巴津火は高さで逃げる事をしなかった。
それを瞬時に判断した農夫はすぐさま巴津火の下の地面に彼の力を働きかけた。
地面を打ち砕く音を立てながら巴津火の両脇から、列に並んだ背の異常に高い木々が発生する。
それらは巴津火の硬度を遥かに超えまるで双璧のようにそびえ立つ。
ぎっちりと隙間なく地面から生える木々は、間に潜り込む事も出来ず、完全な一枚の板である。
「ぐしゃっと潰れてみろ」
双璧は農夫の合図とともに、本を閉じるようにして巴津火を挟み潰そうとする。
双璧の地面にはほんの少し前から養分が蓄えられており、
彼の術が巴津火を潰すスピードは、彼が反応するよりも早かった。
771 :
???
:2012/01/13(金) 01:49:27.48 ID:Jrya0NAO0
>>770
巴津火の硬度×
巴津火の高度○
ですスイマセンでした
772 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 02:00:36.70 ID:W2noEeEIo
>>770
「だって仏だからだろ?如来が憤怒すると明王じゃないか」
何言ってんだコイツ?と農夫に巴津火がぽかんとした一瞬、
ばりばりと音を立てて樹木の壁が合わさる。
巴津火を間に隠して双璧は一つになった。
ミシミシと木がすり寄せ合う音だけが辺りに響いて、雨雲は黒く夜空を塗りつぶしている。
不吉な気配が底冷えのように湧き上がってきた。
773 :
???
:2012/01/13(金) 02:13:41.94 ID:Jrya0NAO0
>>772
隙間無く閉じられ、それを回避するために無茶な突破として壁に風穴を空けた形跡も見られず、
農夫は心持半分を勝ったという安心感に浸していた。
「いや、だからそんな仏になんで女がなりにくいんだ?
って、閉じちまった後になって聞いても意味が無かったか」
この前行なったようなレベルではないにしても、
ある程度の威力を誇る農夫の力の一つである為に、下手をすれば絶命もしかねない。
しかしそんな状況にあるにも拘らず、
何故か農夫の脳裏にちらちらと居残り続ける警戒信号に、彼は少し眉をひそめる。
「おいおい、あんなにまともに食らって生きてるわけじゃねえだろうなぁ?
だとしたらタフなんて言葉にも表現できねえよ」
口ではこういった物の、巴津火は死んでいないのだろうことを農夫は思う。
なによりも巴津火は農夫が一番苦手な、神経を敢えて逆撫でをするような事を簡単にできるのだ。
774 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 02:26:26.74 ID:W2noEeEIo
>>773
合わさった双璧は樹木同士が癒合し、すりあう音も消えて
大きな一本の大樹のように夜を貫いて立っている。
命ある限り、樹木は成長しつづけることをやめないのだ。
まして今は、農夫の力を受けている。
成長を続ける木から、不意にはらりと一葉が落ちた。
時を置いて、ゆっくりともう1枚。
やがて冷たい雨粒が地表を叩き始めると、激しくなる雨粒に打たれて落ちる葉が増えた。
これが夜ではなく、昼間であったなら、農夫はその落ち葉の色に気づけただろう。
雨に濡れて枝葉に水をたっぷり含んだ大樹は、不意に身震いするように全ての葉を落とした。
落ちる葉で、一時幹が覆われて見えなくなる。
気づけば嫌な匂いが、降り積もった落ち葉からは漂い始めていた。
775 :
???
:2012/01/13(金) 02:38:14.79 ID:Jrya0NAO0
>>774
それが今現在巴津火が意思を以って行なっているのか、
はたまた彼の残した術が今更に発動しているのかは農夫には分からなかったが、
少なくともこの術が、下手を打たなくとも自身の術を打倒しうるものだけは理解する。
だが葉が一気に落ちたとはいえ、変化は緩やかな物である。
そうであるが故に、農夫は自身の作り出した樹海の変容する様を、
今一リアクションを取り切れず、指をくわえて黙って見ているだけしかなかった。
しかし、徐々に巴津火の行った所業の、恐ろしさを農夫はようやく知り始める。
「おいおい、如何にもな俺の弱点を突くんだな。
最近どうやら流行っているらしい様式を踏襲しやがって」
農夫はそんな浸みていく悪意を理解しながらも、
巴津火の安否を自ら分からなくしてしまったために反応しあぐねていた。
776 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 02:55:08.60 ID:W2noEeEIo
>>775
葉を失い裸になった大木からは、小枝が落ち始めた。
ぱらぱらと落ちる小枝の合間で太い枝はゆっくりと朽ちてゆく。
やがて、もげた腕のように大枝が落ちて、地響きを立てた。
農夫のごく近くにも太い枝の一本が降ってくる。
「…やってくれたじゃないか」
しばしの後、立ち枯れて朽ちた幹を崩すようにして、巴津火の持つ剣先が現れた。
「剣が無かったら、脚だけじゃすまなかったな」
双璧の間で、草薙剣をつっかい棒にして僅かな空間を確保していた巴津火は、
潰された左脚のうっ血を忌々しげに見下ろした。
「婆ァの寄越した雲があるだけマシか」
剣を杖代わりに木から身体を引きずり出し、彩雲の上に足場を確保した巴津火の口からは、
黒い炎の舌先の様にこの大樹を侵した瘴気が噴き出していた。
「このくそったれな木を育てやがったこの土地にも、仕置きをくれてやる。
当分の間、この土からは何も生やすな」
文字通り、怒れる蛇神はこの土地への呪いを吐いた。
かつて森も田畑も腐らせて枯らしたその毒が、
今また降り注ぐ雨によって大地に広がりしみこみはじめていた。
777 :
???
:2012/01/13(金) 03:24:30.25 ID:Jrya0NAO0
>>776
朽ちていく自身の技の結晶を見る彼は、唯真っ直ぐに巴津火が居るであろう箇所を睨んだ。
辺りに不愉快な雨を撒き散らしただけでも彼の琴線に触れるのに、
あれだけ張り切って力を注いだ結果が、片足一本だったのだ。
「よく生きてたな。
根の底まできっちりと枯らしてくれやがって」
そして、少なくとも彼の今現在の状況を知る事は出来た。
死んでいるかどうかも分からなくてはどうしようもないが、
生きているのであれば、もう一度破壊に勤しめばいいだけだけなのだから。
しかし農夫が既に決めておいた対処達の、どの場合にも属さない答えを、
巴津火は最悪の答えとして彼に提出したのだった。
「てめえ・・・意趣返しでもしたつもりかよ」
いつから巴津火は農夫の正体に気付いていたのだろう。
いつから、こんな見もよだつような皮肉を考え付いたのだろうか。
あの時の弾劾が、彼の全身を再び駆け巡る。
「やっぱりお前も、国が違っても神は神じゃねえか・・・
つくづくおらを全身全霊でなめやがってよぉ、見くびんじゃねえぞ三下が
おらを、計り間違ってんじゃねえよ!!!!!!」
彼の怒りは心の奥底、深遠な永い記憶の底の底からまるで溶岩のように、
全てを飲み込む木々の侵食の爆発のように、
全ての激情を込めた苛烈な激流が彼全身からあふれ出した。
怒髪天をついた彼の紙は逆立ち、顔は凶暴などというちゃちな激情とは比べ物にならない、
仁王にも似た憤怒を発していた。
荒々しく慟哭をこの空間に響かせた農夫の体から出る妖気は、
物理的な風を生み出し、空を鬱陶しく覆っていた黒雲を散り散りに引き裂き吹き飛ばした。
全身から禍々しさを超えた妖気を放つ彼は地面に深く足を、
膝までが土に隠れるまで差し込んで巴津火を見すえる。
この土地に力を足を差し込む事によって深く根ざし、大地全ての力を農夫とリンクさせた。
彼の元へと大地の広大かつ強大な力が流れ込み始めた。
そして彼はその強大な力によって自身の骨格を変化させ、
右腕を巨大な、それこそ神木と呼ばれるようなレベルをはるかに上回る大樹に変化させ、
巴津火へと弾丸のような成長力による突進を繰り出した。
778 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 03:58:34.10 ID:W2noEeEIo
>>777
「雨邑に生きて帰ると約束してるからな。
なのに死んで帰ったら姉さんにもう一度殺される」
口の端を歪めて軽口を返すが、巴津火も農夫に劣らず腹を立てている。
鼻に皺を寄せて、巴津火も怒鳴り返した。
「神だの舐めやがっただの、ボクの知ったことか!三下なのは、お前のほうだろうが!」
瘴気の溶けた毒水の柱が、突進してくる大樹を突き砕こうと真っ向から迎え撃つ。
その形を整えている余裕など無い。怒りに任せたただの力押しに過ぎないのだ。
「お前の言いたいことはそれだけか!次はボクの言う番だ!」
それと同時に、鞘を払った白刃に紫電を点そうと草薙剣を高く掲げるが、雨雲は払われてしまっている。
彩雲の位置から言って、その剣だけでの間合いは農夫には届きそうも無い。
「計り間違えられるのは、お前が自ら伝えないからだ!
黙ってて判ってもらおうとか、甘ったれるから三下なんだ!!!
そもそもお前の過去なんかボクは聞いちゃいないんだ、判ったかこの
た! わ! け!!!」
大事な田んぼを分けてしまうような馬鹿という意味の、
農夫への最大限の侮辱の言葉と共に、双方の攻撃がぶつかり合った。
779 :
???
:2012/01/13(金) 04:20:29.17 ID:Jrya0NAO0
>>778
普段言葉でしか意思を伝えようとしない彼からは到底想像のつかない、
言葉にならない慟哭をおそらくはつびへ向けて、それすらも一撃とばかりに吠える。
獣とはまた違う憤怒を抱えた農夫は、ただひたすら巴津火を睨みつけていた。
苛烈な意思の下放たれた巨木の拳は、巴津火の同等かそれ以上と思われる力と衝突する。
しかし、そんな状況とは違い衝突の結果は、あっさりとしたものであり、
ただ農夫の巨木が受け止められむしろ毒の仕返しを喰らっただけであった。
「あ”あ”あ”あ”!!
おらは・・・!!少なくとも言葉の無かったあいつを除いたおら達は・・・!!
間違っても黙ってはいなかった・・・!!理不尽な運命にあらがっていた・・・!!
それを神は!!神であるが故に思いを踏みにじった!!」
毒の痛みに呻きながらも言葉をつなぐ農夫は、今までさんざ色々言ってきたのに、
手前巴津火にも格好をつけて言い切った筈なのに、
自身の死が、決定された事を知った。
「お前らはいつだって正しかった!!いつだって最後には正義で飾った!!
だからこそおら達矛盾が生まれるんじゃないか!!」
農夫は地面と一体化した自身の足元から、大地のあらゆるエネルギーを吸い始める。
この土地が栄養として蓄えた全てが、今農夫の元へと集中していく。
しかしそれは、同時に農夫の避けられない死を意味していた。
そして、以前の波旬と戦闘した際に用いられたあの術とは比べ物にならない莫大な力を携えて、
彼は放ったのであった。正真正銘、史上最後の技を。
【ザ・サードデイ】
木々の激流が巴津火を飲み込む。
780 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 04:58:08.27 ID:W2noEeEIo
>>779
相殺された衝突、憤怒により押さえの効かないその力に飲み込まれた巴津火は、
農夫の言葉に怒りのあまり瞳を朱に染めた。
「それほど神が嫌ならば、正義が恨めしいならば、この私が遊んでやろう」
木々に突付かれ膨らむ植物に巻き込まれながら、巴津火は掌を緑の激流に押し当てた。
途端に生木が白煙をあげくすぶり始める。
成長点が煮えて伸びの悪くなった植物を押し分け、掌に生んだたいまつのように熱した鉄棒で
次々と伸びる枝を焼き払いながら、緑の中から彩雲と共に巴津火は逃れ出る。
「多田羅の炎に焼かれるが良いさ。残り炭くらいは拾ってやろう」
右手の草薙剣を一閃させて、農夫から溢れる緑の奔流を一度切り開くと、
邪神の巴津火は笑いながら、その切り口へ真っ赤に焼けた鉄棒を放り投げた。
「左脚を焼くのは無理だから左の腕を狙おうか」
その無邪気な笑みは残酷な遊びを楽しむかのごとく朗らかで、既に手には次の焼けた鉄を握っている。
灼熱した鉄棒の落ちた場所で何が起きるのか、鬼灯色のその瞳は期待を込めて見つめていたのだった。
781 :
???
:2012/01/13(金) 05:35:48.15 ID:Jrya0NAO0
>>780
力をこの術に使い果たし、後はこの力の停止の有無だけしか選択の出来なくなった農夫へ、
赤く赤く焼かれたその棒は宙を舞い、弧を描くことなく直線的に追い打ちをかけた。
全てが緑に覆われた視界が突然開ける。
突如飛び出し狙いを自身に定めた鉄棒を農夫は視認し、彼が最後の最後に持った力を振り絞って、
自ら体をかがめて鉄棒に首元を焼かせた。
強烈な痛みと熱さに声を抑えきれない農夫はまたもや、
地の底から響くように呻いた。
しかし、その顔には明らかに、笑顔が浮かんでいるのであった。
「ああ、どんどん焼け・・・
お前がいくら焼こうが、植物はまだ芽吹く力を大地に遺しているぞ・・・
おらの全力を挙げての火葬は、新たに大地に力を与える・・・」
発声器官は奇跡的に潰れていなかったようだが、それ以外の箇所、
特に横隔膜より下の全ては、焼けただれ目に見るも無残であった。
「この地はまた・・・あらゆる植物が結実する・・・。
お前があの時いくらの瘴気を振りまいていようが・・・全て俺が吸いつくしたから・・・な・・・」
大地の力を全て貰い受けたという事は、同じく混在していた巴津火の瘴気も貰い受けた事になる。
いくら彼と言えども、あれだけの毒を身に投じれば当然の如く死は避けられない。
しかし、それこそが彼の望むところであった。
全てを吸いつくし、この地のあらゆる悪意を吸いつくし、
巴津火が放った結実を禁じる呪詛を、完全に無効化することにこそ彼が根を張った理由なのだ。
「実りのない大地を歩くのは・・・おらだけでいい・・・
耕す行為の無意味を感じるのは・・・おらだけでいい・・・んだ
それとな巴津火・・・」
もう視力も喪失し、光の無くなった目で巴津火が居るであろう場所を見つめ、
農夫は最後彼にいたずら気な笑みを浮かべた。
「今まで幾千年・・・神がおらに与えてから一度も使っていない呪いを・・・
あの鉄棒を媒介にして・・・呪いをかけてやったぜ・・・
ざまあ・・・みやが・・・れ・・・」
―農夫カインを仇なす者は、七倍の復讐を受けよ―
最後にこう言い残した農夫は、力尽き、自身を焼く火の中へと倒れていった。
782 :
巴津火
[saga]:2012/01/13(金) 20:19:15.62 ID:W2noEeEIo
>>781
「その毒はお前のまいた種の結実だ」
農夫が素直に神代へ数珠を持ってゆけば、この土地に瘴気が撒かれることも無かった。
巴津火に戦いを挑んだ彼のその選択の結果の一つが、この土地の受けた報いである。
「それに忘れるなよ、ボクは何時でもこの土地を汚せるんだ」
こう言ったものの、農夫の行為に免じて、この土地を再び呪うつもりは巴津火には無かった。
紫濁の瞳は満足げに、土地の受けた報いを一身に引き受けた農夫を見下ろしている。
それは農夫の選択の中でただ一つ、巴津火にも満足できる行動だったのだ。
「この呪いがお前の信じた神の力か」
巴津火は、焼け逝く農夫から立ち上り、自身に纏わる力の質を伺った。
嗅ぎ慣れない匂い、乳香とミルラの香が、巴津火にその力の質を伝える。
「信仰を選ばせてくれない石頭の神の信徒とは気の毒にな。
狭量な砂漠の神は、どうせ人が自らの力で豊穣を増やすのが気に食わなかったんだろ」
農夫カインは戒律に厳しい砂漠の神ではなく、
豊穣の力を持った大地や河川の神の庇護を受けるべきだったのだ。
「生憎とボクはその石頭の信徒じゃない。だがお前の呪い、折角だから貰って行ってやるさ」
鰯の頭も信心から。
自称唯一神への信仰心の無い巴津火に、どこまでこの呪いが効果を示すかは不明だが、
濯ぎの力を持つこの半邪神は面白そうに呪いを引き受けた。
八百万の神々の居るこの国、この呪いを祓う力の持ち主もどこかに居るかもしれない。
「死して尚耕作を望むお前に、いいものを見せてやろう」
再び雨雲を呼び寄せ、剣に雷光を纏わせた。
「神代はこれを天の神の裁きの力だと思っている。でも、それだけじゃないぞ」
ぶん、と剣を振るうと、雷光が数度天地を結び、激しい音が辺りに響く。
「この国ではこれを稲妻と呼ぶ、この光が豊作をもたらすからだ」
雷の多い年は米の出来が良い。この国の民はそう伝えてきた。
稲穂に実の入る頃に落雷が多いことからも、稲妻はこの国では豊穣を約束する天の恵みなのだ。
「この土地でボクのために耕せ。そうすれば、実りをやる」
雨を吸い、焼けた農夫の骨から芽吹き始めた緑にそう告げて、彩雲にのった巴津火は海へと去って行った。
783 :
雨邑と愉快な仲間たち
:2012/01/14(土) 00:12:18.00 ID:e9VS6CENP
その時! 竜宮に電流が走る・・・ッ!!
「・・・開けて?」
穏やかならぬ様子の雨邑。
そしてどす黒いオーラを放つ面々がいた。
「モウハナサナイハナサナイハナサナイハナサイ」
「おぉう、姉上・・・おいたわしや」
安木の首にしがみ付き、ひたすら何かブツブツと言い続ける出口町。
そして安木が宥めるように首に絡みつく手を握り返している。
「すいませんでした・・・」
「・・・」ツーン
そして物凄くやり場のない表情の宛誄と、
その宛誄と目を合わせようともしない半透明の少女・蜂比礼。
「早く入れてくれないとずっとここに居座るが」
門番はいそいそと上官に通達し、
その可否を確認する。
一刻も早く、この場からのいて欲しいがここまで負のオーラを垂れ流している連中は、
流石に上に確認しないとマズいのだろう。
784 :
巴津火
[saga]:2012/01/14(土) 00:24:27.53 ID:1EQyTCR9o
>>783
「雨邑っ♪……あれ?」
話を聞いて、左足を引きずりつつ、それでも転げるように駆けて来た巴津火が、
不思議そうに全員を見回す。はじめて見る顔が二つほどあったのだ。
「安木!あと…?」
妖気の質で一人はわかったが、出口町には心当たりが無い。
(波洵姉さんとは違うんだよね)
蜂比礼にも気をとられつつ、出口町に声を掛けた。
「ボク巴津火、お姉さんは?」
提灯のようなくらげの火の玉がふわふわと漂ってきて客人のための部屋へ誘う。
「皆、折角だから奥でくつろいでよ。お茶菓子の準備ができてるって」
機嫌よく先に立ってゆく巴津火の首の周りに、細い白煙が一筋、消えずに巻きついていた。
785 :
雨邑と愉快な仲間たち
:2012/01/14(土) 00:39:29.63 ID:e9VS6CENP
>>784
「しばらくぶりでござる、兄上様!」
「よっ、巴津火」
「前回は申し訳ありませんでした」
「お姉さんはワタシワタシ・・・フフフ・・・アハハハ」
雨邑がクイッと目が完全にイッテいる出口町を指さす。
「こちら入江姉さん。
あの女の時期からのメンバーなんだけど面識はなかったな。
わけあってあの女の体を使っている現リーダーだ。
それと波洵姉さんは例にももれずバックレ」
竜宮の内部へとトコトコと歩いていく一行。
雨邑が口を開く。
「昨日の戦いは写し鏡で見せてもらった。
よくやった、と」口づけでもしてやりたいところなのだが・・・」
雨邑の無表情に少し陰りが生じた。
「最後の最後にずいぶん厄介なものをもらったな」
786 :
巴津火
[saga]:2012/01/14(土) 00:52:46.47 ID:1EQyTCR9o
>>785
「宛誄もそう硬くなるなって。昨日のあれ、雨邑見てたんだ?」
どこか羨ましそうに、出口町と抱きしめられている安木を見ていた巴津火。
雨邑に褒めてもらって、口づけのご褒美を期待して、甘える子犬のように嬉しそうな顔になる。
「やっぱこの煙って、厄介なのか。
あの農夫のかけた…いや多分、あの農夫が信じた神に受けた呪いだと思うけど」
農夫から喧嘩を買ったらおまけに貰ったのだ。今のところちょっぴり煙いだけである。
「でもまだ、なんとも無いぞ?」
皆が案内された落ち着いたしつらえの客間には、円卓が用意されていた。
席に着けば茶菓子が運ばれてくるだろう。
(あの様子なら、今後紫狂の自由な出入りは認めてよいかもしれんのぅ)
そして裏ではこっそりと、蛸の大臣が胸を撫で下ろしていたとか。
787 :
雨邑と愉快な仲間たち
:2012/01/14(土) 01:14:04.13 ID:e9VS6CENP
>>786
宛誄は巴津火に言われても頭を下げることをやめなかった。
「いえ・・・、あのままでは僕はどうしようもなくなっていました。
体よく神代を殺せたところで、次は榊、次は穂産姉妹・・・と延々と暴れ続けていたでしょう。
竜宮の宝物まで貸していただいたのに、あんな暴挙は許されないことです」
そんな宛誄を尻目に雨邑がまじまじと巴津火から上る煙を見ていた
「見ていたのは一部始終だけどね。
詳しいことは調べてみないと何とも言えない・・・が。
かなり強力な呪いなのは間違いない、おそらく後付けで過去の因子を捻じ曲げるほどの。
あと・・・」
雨邑は顎の下に手を当て呟く。
が、巴津火の様子を察してか遠雷が落ちたかのような凄みを利かせてポツリと言う。
「こんな大事な時に甘えるな・・・!」
とても理不尽な怒りである。
静まり返った場をどうにか動かそうと、宛誄は口を開く。
「・・・呪いについては一通り知識はあります。
対象に対してなんの恨みも因子もない場合、基本的には魔術に近いモノになるはずなんです。
しかしその形を見るに。神格殺しに掛けられる因子の擦り付けに近い呪いのようですね」
宛誄が「もしかすると、その農夫とやらが背負ってきたなんらかの呪いが発露するかもしれません」と、
付け加えて宛誄は表情を曇らせる
(これはとても恐ろしい想像だが・・・、
カインの抱いた憎悪の感情そのものが呪いだとしたらその矛先は・・・)
788 :
巴津火
[saga]:2012/01/14(土) 01:31:55.42 ID:1EQyTCR9o
>>787
(この弟は、ボクよりしっかりしてるのかもしれない)
淡々と語る宛誄に目を丸くしていた巴津火は、雨邑の一喝に竦む。
「……はい」
小さな声でそう答え、雨邑が本気で心配しているのを知るとしゅんと俯く。
左脚を乗せる台を置いてもらって、巴津火は傷ついた左の膝を伸ばしたまま座った。
「この呪いがあるから、脚の傷も自分で治すしかなくってさ。
7倍の報いとかって言ってたな。ボク、あいつの喉を多田羅の火で焼いたから、
呪われても喉7回焼くだけだと思ってた」
その前に脱皮を繰り返して、頭が8つに増えればどうってことは無い。
そう思っていた巴津火だが、カインの呪いが後付で他の効果を持つ可能性は確かにある。
「蛸が、伴天連の神には気をつけろって言ってたけど、やっぱそうなのか」
叡肖から、その神について聞くほどにろくでもない神だと巴津火は思うのだ。
カインの犯した殺人は罪だが、その切欠を作ったのはその神自身なのだから。
「宛誄。カインのような弟殺しを、ボクがする可能性はあるのか?」
甘えをそぎ落とし、真っ直ぐに弟妹をみた巴津火は、はっきりと宛誄に尋ねた。
789 :
雨邑と愉快な仲間たち
:2012/01/14(土) 01:51:43.80 ID:e9VS6CENP
>>788
「・・・!」
宛誄は言葉に詰まった。
出口町はその言葉だけ聞き取ると、先ほどの鬱屈とした表情はサッと引き。
目を見開いて巴津火と宛誄を交互に見合わせる。
言うべきか、言わざるべきか。言葉に詰まったが。
決心したようにポツリとつぶやく。
「可能性はあります・・・、農夫・カインと巴津火。共通点が多すぎる」
「ダメッ!!!」
ガタリ、と出口町が立ち上がり口を開く。
「そんなの駄目・・・! そんな呪いがあるかもしれないならここには居られない!!」
「・・・」
「姉上様・・・」
雨邑を失った直後からなのか、安木も宛誄も反論できそうになかった。
しかし当の雨邑は。
「私にはそうは思えないな」
「雨邑ちゃん!!」
ケロリとして雨邑は言葉をつづけた。
「よくわからないが農夫は弟が神の祝福を受けたことに嫉妬したはず。
ならば私達とて神の祝福とは程遠い位置にあるし、
仮に弟たちが持っていて自分が持っていないものがあの女の記憶を示すものだとしたら。
そんなもの巴津火はすでに乗り越えている」
「雨邑ちゃん・・・」
「心配いらないさ、だって」
雨邑は揺るがぬ瞳をもって、はっきりと言い切った。
「私の未来の夫だからな」
790 :
巴津火
[saga]:2012/01/14(土) 02:11:22.47 ID:1EQyTCR9o
>>789
「入り江姉さん」
表情を変えた出口町に巴津火は静かに声をかけた。
宛誄に問いを投げた時点で、この答えは巴津火自身予想していたのだ。
「姉さんは宛誄と安木を守って。
ボクになるべく近づけないように。もしもの時は、構わずボクを討つんだ」
そのためにまだ武器は弟たちの手にあったほうがいい。
「雨邑は宛誄たちと三つ子だから、妹だけど本当は心配なんだよ?」
ゆるぎない自信を持った雨邑に、巴津火は気持ちが救われる。
ほうっと一つ溜息をつくと、雨邑にも頼んだ。
「でもその時には、雨邑。波洵姉さんに繋ぎを取ってくれないか」
波洵なら、きっと巴津火を確実に殺すことが出来る。
竜宮も、雨邑が居ればきっと大丈夫だ。
(紫強の手にかかって死ねるなら、ボクはその運命を受け入れられる)
これだけの血縁を作ってくれた窮奇に、巴津火は今更感謝したい気分になった。
791 :
雨邑と愉快な仲間たち
:2012/01/14(土) 02:32:09.63 ID:e9VS6CENP
>>790
「えぇ・・・、確かに。承りました」
「しかと、我々は絶対に。兄上様の手を汚させたりはしませぬ!」
巴津火の話を暗澹とした意味ながら。
しっかりと聞き届ける弟たち二人。
出口町はホッとした様子だが、隣で聞いている雨邑は心中穏やかではなかった。
「だ・か・ら・・・甘えるなと言っている!!!」
「雨邑・・・!」
今にも食って掛かりそうな雨邑を安木と宛誄は押さえつけた。
「ふざけるないで! 確証もないのに平然とそんなことを言うな!!」
いつもの無表情はどこへやら。
雨邑は怒りに満ちて怒鳴る所を出口町は大声で制した。
「雨邑ちゃんいい加減にして!
あなたが・・・みんなあなたが心配で言ってるの!!
あなたは死んでてもおかしくないのに!!」
「うるさい! 今、私は生きている!!」
2人の弟達は状況を察してか。
そのまま雨邑を引きずりながら部屋から出て行こうとしていた。
「お前の討伐の依頼なんて死んでもゴメンだ!
今度そんな甘ったれたことを言ったら一皮でも二皮でも引っぺがしてやるから!!」
このアホ兄貴がぁ!! と、雨邑の珍しい罵詈雑言が竜宮に響き渡り。
だんだんとその声は遠くなっていった。
792 :
巴津火
[saga]:2012/01/14(土) 02:53:09.74 ID:1EQyTCR9o
>>791
「すまない」
弟二人に詫びた巴津火は、もう雨邑の怒りの声に竦みはしなかった。
「確証がないから余計に心配なんだ。雨邑、許してくれ」
その確証を、巴津火はこれから探し求めねばならない。それもなるべく早くに。
その手段として、榊か神代には接触するのが第一だろう。
雨邑たちを見送った巴津火は、少しの間ただ唇をかみ締めていたが、
やがて控えの者に声を掛けた。
「蛸爺に伝えろ。ボクは小鳥遊の所へ行くぞ」
(ああ、アホ兄貴さ。自分でも嫌になる)
榊も農夫も自分自身もが恨めしいが、
今はこの脚を出来るだけ早く治さねばならない。
793 :
四十萬陀 七生&織理陽狐
[sage saga]:2012/01/22(日) 22:58:06.84 ID:JlUjaakQo
とある冬の日の袂山は、真っ白な雪化粧で覆われていた。
袂神社の入り口から山頂にかけて、雪は三、四センチの深さまで積もっている。
一面の銀世界には、ちらほらと獣たちの足跡も残されている。
そこへ、ざくりと厚い雪に足を踏み込むものたちがいた。
「おー、見事に積もったのう」
「さ、寒いじゃん……」
少年のような笑顔を浮かべる三叉の狐と、寒さに震える真っ黒なセーラー服の夜雀だ。
「今年も結構積もっちゃったなあ〜……」
「冬は苦手か?」
「鳥は寒さに弱いものじゃん!」
雪と同じように真っ白なマフラーに顔をうずめて、四十萬陀は白い息を吐く。
対して、織理陽狐は深く積もった雪に、うきうきしたようすできょろきょろと辺りを見回していた。
794 :
黒蔵
[sage]:2012/01/22(日) 23:01:07.86 ID:28B5L2oyo
>>793
「ぅえっくしっ!」
手持ちの衣類を全部着込んで、さらにその上から安物のダウンジャケットを羽織り、
それでも山まで来れば寒いのだ。
寒さで亀のように首をすくめ、黒い髪の清掃作業員は雪道を歩いてきている。
時折、吹き溜まりの雪に長靴を取られているのは、サイズが合わない借り物の清掃用長靴のためである。
(もうちょっと着るものを買うべきか、それとも、カイロを買うほうが良いのか……)
手袋ではなく軍手、マフラーではなく手ぬぐいという装備に、紙袋を2つ。
なにやら香ばしい匂いと共に貧乏臭さを漂わせながら、黒蔵は袂山にやってきたのだった。
「初詣、って言って良いのかなぁ」
年末年始に風邪を引いて、殆ど寝込んでいた貧乏ホストは、今年初めて鳥居をくぐる。
妖気には気づけないこの男、誰かに察知されるほうが先だろうか。
795 :
夜行集団
:2012/01/22(日) 23:13:47.74 ID:0QYU5I3z0
>>793
、
>>794
黒蔵が神社の階段を登り切ってからしばらく後、
同じようにその階段からとある小太りなシルエットの男が神社にやってきた。
おなか周りが大きく膨らんでいるので動かしそうな両腕を、
それでもなんとかふりながら登ってくる様は珍妙である。
「いやぁ、やっぱり冬ってのは悪意満点だね
お陰でこの季節は出不精になっちゃうよ」
彼らへ気楽な調子で話しかけるこの男は、ご存じのとおり本来こんなシルエットではない。
その証明として彼らへ向けられた愛嬌のある笑みを浮かべる顔は、
とてもほっそりしていてなによりも眉目秀麗。
「一応、初詣兼新年のあいさつってところかな?」
だが誰よりも際立って寒がりな彼は、
頭から順にニット帽、耳あて、マフラー
シャツ二枚、セーター二枚、厚手のダウン、
スキーウェアーを二着も履くものだから、当然シルエットはかなり着膨れしているのだ。
796 :
四十萬陀 七生&織理陽狐
[sage saga]:2012/01/22(日) 23:20:49.08 ID:JlUjaakQo
>>794
「お、さっそくお客さんのようじゃぞ?」
黒蔵が鳥居をくぐったことに、いち早く気付いたのは織理陽狐だった。
(もっと早くに気付いていたのかもしれないが)
視線の先に顔を向けた四十萬陀は、マフラーに隠した顔をはっとさせる。
「……わあ、黒蔵くん!」
ざくざく、と雪を踏み分けて、動きにくそうに近付いていく。
やっとこさ目の前にくると、よろよろっとした態勢を立て直し、鼻頭を赤くしながら微笑む。
「いらっしゃい、お参りじゃん?」
>>795
「おろ、その声は、ひょ――うあ、くん?」
黒蔵の姿越しに首を傾げてみると、そこには若干バランスの悪くなった雪男がいた。
久し振りに顔を合わせる人物の変わりよう(着ぶくれしているだけなのだが)に、
四十萬陀は真っ黒な瞳を丸まるとさせる。
「ま、まさか、お正月太り……!?」
唇に手のひらを乗せ、やっちまったな、みたいな顔で呟く。
その四十萬陀の後ろから、雪をかきわけた織理陽狐が後を追ってきた。
「今日は朝からお客が多いのう」
797 :
黒蔵
[sage]:2012/01/22(日) 23:30:26.46 ID:28B5L2oyo
>>795-796
「四十萬陀ーひさしぶり♪
うん、遅いけど初詣かな。織理陽狐さんにも、油揚とあと……」ズビッ
鼻をすすりつつうきうきと夜雀に近づいて、浮ついた雰囲気を漂わせようとしたそのとき、
邪魔が入った。
「前からずっと不思議だったんですけど、氷亜さんって何でそんなに寒がりなんですか?」
新年の挨拶なんてどこぞへ置き忘れて、黒蔵は開口一番、バイト先のNo.1ホストに質問を投げかけた。
(俺だって作業着のズボン重ね履きしてるのに、このひとは……)
持っている衣類をあるだけ全部着こんでも小太りシルエットにはなれない貧乏人である。
今黒蔵が着ている服の代金を全部あわせても、氷亜の着ているダウンジャケット一枚分よりもきっと安い。
「だって、雪男ですよね?本当なら、冬こそ本気モードですよね?」
大変失礼な質問。
それこそ返事の変わりに雪玉投げられても仕方ないレベルの無礼さである。
798 :
氷亜
:2012/01/22(日) 23:41:37.13 ID:0QYU5I3z0
>>796
後輩の向こうからこれもまた愛嬌のある顔を見せる彼女と彼へ、
ごわごわと氷亜は軽く片手を上げて挨拶をすます。
マフラーに口元が遮られてこそいるものの、氷亜が笑っているのは簡単に分かった。
「両方御名答だよ四十萬陀ちゃん。
出不精にさせるくせにお正月料理は美味しいんだもの。
やっぱり冬は悪意満点だね、太らせる気も満々だよ。4kgばかし増えちゃった」
自身のおなかを軽く二度叩きながら、彼は快活に笑う。
お餅と言えば雑煮に限らず、彼の持ちうるポテンシャルの高さは相当なものだ。
そうして年始の憂鬱は、氷亜も例に漏れずに体重の増加としてのしかかっていた。
「四十萬陀ちゃんは大丈夫だったかい?」
だからほんの少しの気晴らしなのだろう。
女性でもぎりぎり、琴線に触れないぐらいの口調で四十萬陀に意地悪げな笑みを送る。
>>797
「いやいや、本気モードになるからこそ冬が憂鬱なんじゃないか」
四十萬陀に少しからかいをした後、
もっともな質問をする後輩の方に氷亜はくるりと振り返った。
人差し指を立てて横に揺らしながら、わかっていないーとでも言うように首を振る。
「確かに氷の妖怪の僕は最高潮に達する時期なんだけどさ、
僕の場合なまじ元が人に近い妖怪だから、人に化けると他の妖怪よりもその精度があがっちゃうんだよ。
いうなればより人らしくなる、ってことかな
それなのにあんな冷気を体に封じてるものだからさ、そりゃあもう体温は常冬だよね」
氷亜が雪男の姿になれば、冬の季節はプラスに働くのだろう。
しかし、側がなによりも人になる彼は、
彼自身の持つ妖気の質によって、自分から体温が格段に下げてしまうのだ。
799 :
四十萬陀 七生&織理陽狐
[sage saga]:2012/01/22(日) 23:52:17.43 ID:JlUjaakQo
>>797
「そっかあ、えへへ、あけましておめでとうじゃん」
「あけましておめでとう。変わりないかの、黒蔵」
寒そうにしながらも、いつもと変わらない満天の笑顔で、四十萬陀が新年のお祝いをする。
織理陽狐もそれを追って、父親のような笑みで尋ねた。
しかし彼が手にした紙袋から、芳ばしい匂いが狐の鼻をつくと、凛々しい顔はとたんにふにゃりと緩む。
「相変わらず気が利くの。よしよし、儂が気合いをいれて、願い事をかなえてやろう」
「意外と現金じゃ〜ん……」
とはいいつつも、願えばいくらだって叶えてくれるのだろう、この狐は。
>>798
「(あ、き、着ぶくれしてるだけかあ……)」
やっとこさ気付いた夜雀は、どこかほっとしたように胸を撫で下ろした。
そういえば、雪男だのに寒がりなんだっけ、と黒蔵との会話を聴きながら、四十萬陀は思い出す。
「そうだよねえ。冬は寒いし、あんまり好きくないじゃん。木の実もならないし。
だから貯めておいた木の実とか、たまぁに街に出て美味しくて暖かいものをそれはもうばくばくと……」
かといって、夏になれば暑すぎると文句をいうのもこの鳥である。
どちらかというと、寒さの方が苦手なのだが。
「でっ、でも私は大丈夫じゃん? ちゃーんと体には気を使って散歩を……」
「ほーお、翠狼に「重くなったぜよ?」と聞かれてうろたえてたのはどこの夜雀じゃったかのう」
「にゃっ!? そ、それは五月だったと思うじゃん!」
あわあわ、と慌てながら素知らぬふりをするも、ばればれである。
冬の寒さは少女の体重にも暗い影を落としたらしい。
800 :
黒蔵
[sage]:2012/01/22(日) 23:58:44.21 ID:28B5L2oyo
>>798-799
(4kgって……俺の減った分じゃん)
氷亜の告白に愕然とする黒蔵。
年越し蕎麦やら正月料理やら、そんな贅沢なものとは縁が無かった。
蛇神もなにやら忙しく走り回っていたし、風邪を引いた黒蔵は湯たんぽ代わりと
水分補給用を兼ねた2本のペットボトルを抱いてじっと過ごしていたのだ。
「んー…。俺、四十萬陀がいればそんでいいや」
周りの話を聞いているうちになんだかどんどん惨めになってきたらしい。
願い事をしようという気力も萎えてきて、織理陽狐に油揚とおからドーナツの袋を押し付け、
心の寒さを凌ごうと、夜雀にぎゅっと抱きつこうとする馬鹿がここに一人。
そろそろ石でも飛んできていい頃合だ。
銀髪のホストがいたら間違いなく、この貧乏ホストは氷柱の良い的だろう。
801 :
氷亜
:2012/01/23(月) 00:07:08.33 ID:zCfwWutc0
>>799
「ほほう?」
どこかの乳製品ホストではないので、
氷亜はこれと言って四十萬陀に対して言及をする気は無いようである。
しかし、この様に顎に手をやってニヤニヤしているのは、
下手したら何かを言うよりも彼女を追い込むことになるかもしれない。
「とは言え春が来たら来たで、実りの〜で食べちゃうんだから、
案外太っちゃうってのも唯の自己責任かもしれないけどね」
さらっと追撃を四十萬陀に加えてから、次に氷亜はその笑みを織理陽狐へと向ける。
彼の性格からしたら、あんまり体重は増えたりしなさそうである物の、
山の動物の越冬手段である食材のため込みを彼も行なうのであれば、
更にその品目がおあげさんだったとすれば、それはもう素晴らしく超えただろうと氷亜は思ったのだ。
>>800
「おー、黒蔵君もまた随分と大胆になったもんだよ。
"四十萬陀がいればそれでいいや"か、なんだかそうとうな殺し文句だね」
黒蔵自身はポロリとこぼした一言のようだが、
傍から彼を見てきた氷亜にとってその一言は、結構な成長の証しだと受け取れた。
それがクラブ働きの成果なのかは分からないが、
ともかく黒蔵の培ったその一言に四十萬陀がどう動くかに氷亜は興味を示し、
取りあえず今は少し黙って二人を傍観してみる事にした。
802 :
四十萬陀 七生&織理陽狐&送り妖怪勢
[sage saga]:2012/01/23(月) 00:20:33.93 ID:P1p+MwHHo
>>801
「そ、そうだねえ〜。ちゃんと自己管理しなきゃ駄目じゃ〜ん。にゃはははー……」
ぐさっ、ぐさっ。図星という名の追撃の矢が、四十萬陀に刺さる。
笑っているような、怒っているような、結局のところ、「ぐぬぬ」と悔しそうな表情で氷亜を見る羽目になったのだった。
氷亜の美麗な微笑はそのまま織理陽狐にうつると、金色の瞳がそれとかちあった。
きょとんとしたようすの織理陽狐は、その視線の意に気付いたらしく、あっけらかんと笑ってみせる。
「いやあ、今年の冬は割とお供えものも多かったからのう。実は儂もたらふく蓄えてしまったのじゃよ」
「氷亜さん、この狐さん、食べても全然太らないんだよ……。ずるいじゃん」
羨ましそうに見つめる四十萬陀の、視線の先の人物は、からからと笑うばかりだ。
>>800
「!?」
突然の台詞に、寒さに赤くなっていた四十萬陀の頬が、別の意味で赤くなる。
仕掛けるのはいいが、不意打ちに弱い雀は、わたわたと慌てはじめる。
しかし、紙袋を押し付けられた織理陽狐は、その中身に夢中になりながら、
「おーあついのー」などといって、氷亜と同じく傍観を続ける姿勢である。
そこへ――ひゅんっ!! と風切り音。
どこからともなく、固い雪玉が黒蔵の頭めがけて飛んで行った。
白い雪に包まれた森から現れたのは、複数の影。
翠狼「おおうおう! うちの姫様に無礼千万働くのはどこの馬の蛇ぜよ!」
五月「言ってる事が訳わかんないわよ、アホ翠狼」
和戌姉「ん? ああ、あの子かい。ええっと、名前は何だっけね」
和戌妹「えええええっちなのは、よくないと思います!」
狢奈「た、多分違うと思うってっ!」
銀狐「袂神社も賑やかになったな……」
その内、一人、見慣れない男の姿があった。
濃い藍色の髪をした、オールバックの青年。彼が雪玉を投げたらしい。
それは、翠狼が人間の姿に変化したものであった。
803 :
黒蔵
[sage]:2012/01/23(月) 00:32:45.22 ID:ra+MRColo
>>801-802
「あったかいなー。四十萬陀、ふくら雀だー」
痩せて骨ばった腕には、夜雀の丸い手触りが尚のこと温かく感じられたのだろう。
ふくら雀はその可愛らしさが好ましいとされる冬の風物詩であるが、
いまこの乙女心にデリケートな話の流れで出すべき単語ではないかもしれない。
「え?殺し文句?え?」
そんなつもりは無かったので、氷亜に指摘されてまじまじと四十萬陀を視線を合わせ、
貧乏ホストはみるみるうちに四十萬陀よりも顔色が赤くなる。
「そ……」
んなわけない、と言い訳しようにも既にやってたことはかなり大胆だったのだ。
弁解の間もなく雪玉がその真っ赤な横顔に直撃し、冷たい雪片が白くはじける。
黒蔵の戸惑った瞳が、自分をにやにやと見つめる氷亜・織理陽狐以外のターゲットを
発見するのにはそう時間を必要としなかった・
「……なにすんだよ、耳に入ったじゃないかっ!!」
恥ずかしさを誤魔化すかのように真っ赤な顔の青年は、雪玉をつかむと翠狼へと投げ返す。
いつの間にかギャラリーが増えていたのに、思いっきり動揺したのだ。
照れ隠しなのか次々と雪玉を作っては、送り妖怪たちのほうへめくらめっぽうに投げつけはじめた。
「馬の蛇ってなんだっ!」
狙いを定めもしていないその雪玉の数は、4つ。
804 :
氷亜
:2012/01/23(月) 00:35:44.91 ID:zCfwWutc0
>>802
、
>>804
理論だけで物を言えば、織理陽狐は氷亜の想像通りに太っていたのだろう。
しかし、四十萬陀が多少いじけながら口にした事実の通り、
氷亜の眼前には以前会った姿とまったく同じなふわふわ髪な彼が居た。
「(ふ〜ん、少しだけメラっと燃えてくる物があるね)」
へらへらと自身の増加を言ってはいる物の、やはり氷亜もダイエットは必須なのである。
その為彼は、その笑みには出さないが自身の心に少しだけ嫉妬が燻ったのを感じた。
「おー凄いね。四十萬陀ちゃん防衛隊って感じかな?
おーい、初めまして」
織理陽狐とそんなあんにゅいな雑談をしていると、少し離れた先の黒と黒のコンビの方に変化があった。
何事かとしばらく笑みを固めて眺めていれば、
如何にも虚冥や特に叡肖の餌食にかかりそうなとても純粋な彼らが姿を現した。
いくつかは知った顔であるが、ほとんど初対面にも関わらず氷亜は手を振って茶々を入れる。
「負けるな黒蔵く〜ん」
そして茶々の内容を見てみれば、
やはり後輩である黒蔵の肩を持っているのだということが直ぐに分かった。
805 :
四十萬陀 七生&織理陽狐&送り妖怪勢
[sage saga]:2012/01/23(月) 00:53:10.08 ID:P1p+MwHHo
>>803-804
「ふっ、ふくら雀てぇ、く、黒蔵くん、あわわわ……」
四十萬陀があたふたしていると、氷亜に指摘されて、はっとした黒蔵と視線があった。
冬の寒さのせいなのか、黒蔵の不意打ちのせいなのか、その瞳は僅かにうるんでいる。
目を合わせていた時間は数秒程度であったものの、至近距離でじっと見つめ合ったその瞬間は、あまりに長く感じられただろう。
――そこへ、空気の読まないワン公の雪玉がさく裂した。
翠狼「あ゛ぁん!? 人様の縄張りで、テメェ、礼儀ってモンがなってねえぜよ!
そんな輩に七生姐さんは渡せねえぜよ!!」
偉く露出の高い服を着た、藍髪の男は、飛んできたうちの一つの雪玉を躱すと、
すばやくもう一つ雪玉を作り、黒蔵に投げつける。
和戌姉「ようやく変化の術を覚えたからって、はしゃいでるねえ」
和戌妹「あ、ああああ! お、おおお姉ちゃん!」
姉「あん?」
呆れたようにため息をつく和戌が、妹の声の方へ振り向くと、雪玉がその顔に激突した。
「遅かった……」と、和戌妹は、あわあわあわと震えている。
一方、姉はというと、わなわなと怒りに打ち震えていた。
姉「アタシに雪玉を投げつけるたぁ、いい度胸じゃないのさ……。覚悟はできてるんだろうね、坊主!!」
怒りを剥き出しにした和戌姉は、すぐさま人間体になると、
橙色の短髪を振り乱しながら、固い雪玉の速球を、黒蔵に向けて放つ。
残りの二発はそれぞれ銀狐と五月へと向かったが、二匹はそれをひょいと避けてしまうのだった。
妹「あわわわわわわ、どどどどどどうしよう狢奈くん……」
狢奈「どうしようっていわれたって……。あ、あっちの人が手を振ってるよ」
妹「え? ……ひゃ、ひゃあああ!! し、知らない人おおおおお!!!」
狢奈「……・」
こちらはこちらでなんとやらである。
806 :
黒蔵
[sage]:2012/01/23(月) 01:04:12.97 ID:ra+MRColo
>>804-805
「礼儀?お前が言うかっ!?」
翠狼にどことなく東雲犬御を連想させられて、今更むかっ腹が立ってきた黒蔵。
礼儀を言うのなら、黒蔵だってちゃんと手土産を持ってきたのだ。
怒りのお陰か、翠狼の雪玉は難なくかわす。
「ちょ!氷亜さんは応援するだけっ!?」
聞こえてきた応援の声に振り返れば、手を振っている丸いシルエットはまだ動かない。
その間に、敵の手は二人に増えていた。
「でええええぇぇぇぇいっ!」
二匹の送り狼の雪玉を避けようと、やけになって走り回り始めた黒蔵。
「ぜはーっ、ぜはーっ!」
ひとしきり走り回って荒く息をつく。
病み上がりな黒蔵には、負けるつもりは無いけれど、勝つ体力もなさそうだ。
白い息を吐くその頭に、ぱしゃりと和戌姉の放った硬い硬い雪玉が着弾する。
「痛っ、つべたっ!」
頭にくっついた雪玉の欠片から、冷たい雫が尖った顎へと伝い落ちてくる。
その不快さにぶるぶると頭を振って、髪から雪を払いのけている今の黒蔵の居場所は、
ちょうど氷亜の影だ。
後輩に盾にされた形のNo.1ホスト。
果たして彼は手の届く背後の後輩に向かうのか、あるいは飛んでくる雪玉の方角へ向かうのか。
807 :
氷亜
:2012/01/23(月) 01:18:19.05 ID:zCfwWutc0
>>805
、
>>806
「だって寒いんだもん、ってのはこの状況じゃあもう言えないよね」
黒蔵の必死な言葉も空しく氷亜はスルーした、
と寒がりな彼は算段を建てていたのであるが今現在この状況は、
あんまりにも黒蔵の多勢に無勢が明らかである。
「全員の名前は分からないけど、防衛隊の諸君!!
君たちの相手は黒蔵君と僕のホスト連合がしようじゃないか」
どんと構えて宣言するも、
知らず知らずのうちに後輩の防火壁にさせられている氷亜の姿は、お世辞にも決まっているとは言い難い。
しかし彼はある程度の覚悟を決めたようで、
なんと驚く事に彼は身に纏っていたダウンやニット、マフラーを外すのであった。
「こっちは少数精鋭だよ!!」
そして氷亜が自分の防寒具を全て脱ぎ終わった時点には既に、
彼は彼の本来の姿、雪男へと変化をしている。
戦闘ではない為セーブはしているが、寒くとも身動きが取れるというのは大きかったらしく、
もう彼の足元には丸められた雪玉が数個並んでいた。
その中の2,3個を拾って、特に攻撃翌力の高そうな血の気の多い二人。
つまり和戌と翠狼へと、氷亜はほぼ一直線に飛んでいく見事なストレートの雪玉を放った。
808 :
四十萬陀 七生&織理陽狐&送り妖怪勢
[sage saga]:2012/01/23(月) 01:30:48.34 ID:P1p+MwHHo
>>806-807
「はっ――ちょっ、ちょっと皆、やめるじゃん!」
我に返った四十萬陀が、沸き立つ軍勢を抑えようとするも、もう遅い。
制止の叫びは虚しく銀色世界に溶けるのみである。
織理陽狐はというと、なにやら盛り上がっている皆の姿を、楽しそうに眺めていた。
しかし、眺めるだけで終わらないのが、この狐。
「楽しそうじゃな、儂も混ぜてくれ♪」
「えええ――ッ!?」ガーン
織理陽狐は細い指先で雪を掬い、ぎゅぎゅっと固めている。
しかし、さて、誰の味方をしようか……。
彼も古いとはいえ送り妖怪。ここは仲間の味方をすべきだろう、と思ったのかはさておき、
織理陽狐は丸めた雪玉を持って、黒蔵たちのほうを向いた。
さて、翠狼と和戌姉の方は相変わらず、黒蔵を付け回している。
キープしたいくつかの雪玉を小脇にかかえ、ひゅんひゅんと玉を投げつける。
「おらおらおらっ! 逃げてるだけじゃ勝てんぜよ! ――わぷっ!?」
そこへ、参戦した氷亜の雪玉が、油断しきっていた翠狼の顔に直撃した。
ぼすっと雪の中に背中から倒れるが、すぐに起き上がる。
「油断してんじゃないよ、翠狼!」
「ええいうるさい、わかってるぜよ!! ちっきしょー!」
和戌は真っ直ぐに飛んできた雪玉を避けると、固めた雪玉を氷亜に投げ返す。
翠狼も得意の水術で、固くした雪玉を量産している。
氷亜の後ろに隠れた黒蔵へはというと、もちろん、そこに雪玉を投げる人物がいた。
――ヒュオッッ!!! と、とんでもない風切り音が、黒蔵へ近づく。
「さあて、儂も遊ぶとするかのう! さ、黒蔵、儂の相手をせい!」
雪玉をぽんと片手に、織理陽狐はにいと唇を吊り上げた。
809 :
黒蔵
[sage]:2012/01/23(月) 01:38:10.97 ID:ra+MRColo
>>807-808
先輩の後ろにこそこそと隠れて、卑怯な黒蔵は何をしていたかというと
必死に足元の雪をかき集めて幾つもの雪玉に握っていたのだった。
(よし、これでしばらくは……)
十数個足元に並べて顔を上げると、そこには堂々たる雪男の背中があった。
「その姿の氷亜さんって、初めて見た気がする」
以前、氷亜に頼まれて彼と戦ったとき見たのは雪狒々だったのだ。
あの時ほどの大きさではないが、その力で投げる雪玉は、力強い飛跡を描いていく。
「氷亜さん、援護して。あの二人を、あっちの木の下に追い込む!」
黒蔵が指差したのは、雪玉の飛び交う境内の少し先、まだ若い檜が数本立っているあたり。
指差して伸ばしたその肩に、強かに雪玉がぶつかった。
「うぇぇええ?織理陽狐さんが?そりゃないよぉぉ……」
作った雪玉を3つ抱えて、情けない声と共に黒蔵は、今にもすっぽ抜けそうな長靴で走り出す。
織理陽狐のみならず、送り妖怪達からも格好の的だろう。
持ちきれない分の雪玉は、氷亜の足元に残したままだ。
810 :
氷亜
:2012/01/23(月) 01:51:44.00 ID:zCfwWutc0
>>808
片方は回避されたが、少なくとも一つは翠狼を捉えていて氷亜はニヤッと笑った。
実際、氷亜は雪合戦と言う物をやるのは初めてらしい。
以前雪山で暮らしていた時はイコールとして姫と会う前であり。
つまりはそんなことをやる精神自体が存在していなかった。
そして姫に会ってからも、人の姿では寒いし、氷猩々では雪の硬さが洒落にならないしで、
結局は出来ていなかったのである。
「はっはっはー!!
この氷雪荒ぶるこのシチュエーションで、
そんなあっさりとした物が当たると思っているのかい!?」
それはもう織理陽狐と同じように子供のような輝く笑顔を見せながら、
見事なフットワークで和戌の雪玉を回避して見せる氷亜。
身を翻してから、彼は足元からバレーボール大の大きさの雪玉を抱え上げた。
「これでも、どうだ!」
氷猩々の時の怪力が無い分難儀はしているようだが、
どうやら雪玉は見た目以上に軽いらしく、なんとか和戌翠狼の二人の方へ雪玉を投げつけた。
>>809
「君に見せるのは初めてだね。
とは言っても、この姿の力試しに仲間内で組み手をして以来、
基本この姿には成っていないから無理もないよ」
だって季節でもないのに気温が下がったらまずいでしょ?と彼は言葉をつなぐ。
二度の恋と愛の消失によって完成形になった氷亜の雪男の妖気は、
格段に他の氷妖怪とは一線を画すものとなっており、
その出現時には溢れる妖気のあまりどうしても、外気温著しく下げてしまうのだ。
「了解したよ!!」
先ほどの大玉雪玉を山なりに投げた事によるタイムラグの間で、
氷亜は黒蔵の作戦通り、黒蔵が作った雪玉で丸める時間をパスしてから、
前方のあの二人を目的の場所に追い込むべく、雪玉の連弾を彼らに浴びせ始める。
811 :
四十萬陀 七生&織理陽狐&送り妖怪勢
[sage saga]:2012/01/23(月) 01:58:16.55 ID:P1p+MwHHo
>>809-810
「ほら、投げてこい、黒蔵! 其方に行っても、的になるだけじゃぞ?」
いつの間に作ったのか、黒蔵を追いかけながら、織理陽狐は雪玉を豪速球で投げ続ける。
その細腕からは想像もできないほどの威力の雪玉は、黒蔵の足元の雪に穴をあけていた。
しかし、その言葉通り、黒蔵が走り出した先には、送り妖怪の軍勢が待ち受けているのだった。
ずうう―――ん、と横一列にならぶ獣たちの姿は、圧倒されるものがある。
更に、背後には織理陽狐。ゆっくりとした速度なのに、着実に近づいてくるそれはホラーを感じさせる。
前も後ろも塞がれた状態――そこへ、黒い影が舞い降りた。
「――助太刀するじゃん、黒蔵くん!」
頭上を通り過ぎたのは、黒い夜雀の姿。
人間の姿に変わると、くるりと回転して、黒蔵のすぐそばに降り立った。
四十萬陀の登場にざわついている送り妖怪たちとはまた別に、
氷亜と対峙する翠狼と和戌姉は、本領を発揮し始めた雪男の実力に、苦戦を強いられ始めていた。
「くっ、こいつ、中々やるぜよ……!!」
「次が来るよ、翠狼!」
「おう! ……って、ぬ、ぬわああにぃい!?」
バレーボール程の雪玉が、先程より速度は遅いものの、二人に向かって放られる。
和戌姉は「どいてな!」と翠狼を押しのけると、得意の炎術を、空中の雪玉に向けて噴射した。
熱により、雪玉はじゅうううっと音を立てて蒸発する。
――が、しかし。
「んなななな!!」
「今度は連弾かい!?」
次々に降りかかる雪玉を避けていると、反撃する暇も与えてもらえない。
二人はじわじわと、木の下へと追い込まれていっていた。
812 :
黒蔵
[sage]:2012/01/23(月) 02:16:08.53 ID:ra+MRColo
>>810-811
ずっぽずっぽと今にも脱げそうな長靴では、送り妖怪達から逃げるには速度が足りない。
氷亜の投げてくれる雪玉があるお陰で、かろうじて和戌姉に捕まらずに済んでいるレベルの
逃走である。
「うわうわうわ、いや無理だよ?無茶言わないでよ織理陽狐さん?」
しかも、織理陽狐の追撃もあるのだ。
和戌姉と翠狼を追い込むどころか、自分が雪玉を避けるだけで精一杯である。
「四十萬陀!?こっち来ちゃ危ないって!」
ジグザグと回避を兼ねてでたらめに走りながら、まずひとつ、次にもうひとつの雪玉を、
背後の織理陽狐へと投げるふりをして送り妖怪の中へと放った。
(あっちの軍勢も怒って追いかけて来るか?)
雪に取られそうになる長靴を、一歩ごとに雪から取り返しながら、今にも転びそうな黒蔵は
方向を変えて織理陽狐と送り妖怪の挟撃の間を抜けて、木立に追い詰められた和戌姉たちの方へ
走ってゆく。
「四十萬陀は、そこで待って!わわっ!」
木立の周囲は影になっていて雪は日差しで溶けずに深く積もったままだ。
その雪に長靴がすぽりと埋まって、左足の長靴を失った黒蔵は飛び込むように
和戌姉・翠狼の間に倒れこむ。
いや、正確にはそこにあった檜の一本、まだ直径20cmほどの若い幹に体ごと体当たりをした。
さらにその隣の木にも力一杯右足の長靴の底で蹴り込むと、蹴った反動で木の下から逃げ出した。
雪の中を足をびしょぬれにして逃げ出しながら、黒蔵は声を張り上げる。
「氷亜さん、木の上にでっかいの投げて!!」
既に若い檜の枝は、積もった雪で重たげに垂れていたのだ。
幹に加えられた振動で、身震いするようにその梢が揺れている。
813 :
夜行集団
:2012/01/23(月) 02:31:30.74 ID:zCfwWutc0
>>811
、
>>812
「それそれそれー♪」
黒蔵が残してくれた雪玉の貯蓄が氷亜の足元に多く転がっているため、
彼はほぼ間髪いれずに二人へと連続砲火を行う事が出来る。
気分上々な氷亜によって、黒蔵の目的地についたようだ。
「なんとなく予想付けておいてよかったよ
っせーい!!」
黒蔵の指差した木々には、多量の積雪があることを氷亜も把握していた。
その為直接そう直感したのではないが氷亜は事前に、
先ほどと同等の雪玉を黒蔵の雪玉全てで生成し、投げる準備ができていたのだ。
彼の合図とともに氷亜は大玉を放つ。
814 :
四十萬陀 七生&織理陽狐&送り妖怪勢
[sage saga]:2012/01/23(月) 02:44:10.07 ID:P1p+MwHHo
>>812-813
「大丈夫! 私だって見てるだけじゃないじゃん!」フンスッ
なぜだかやる気満々になっている四十萬陀は、いきり立つ送り妖怪たちの前に立ちはだかる。
黒蔵が追い詰められた送り狼と送り犬の元へ駆けていく後ろ姿を見送り、
四十萬陀は仲間の送り妖怪たちとにらみ合う。
「こ、ここは通さないじゃん〜〜」
「「「「…………」」」」
実質的な自分たちのリーダーに前を遮られ、地味に困る送り妖怪たち。
その間に、黒蔵は和戌姉たちの所へ辿り着いていた。
「なんだ、飛んで火にいる冬の蛇ぜよ!?」
「だから言葉がおかしっての!」
こちらへ向かってくる黒蔵に、二人は漫才を進行しながら首を傾げる。
しかし、彼が木の幹に体当たりをしたことで、その理由を理解した。
「げげえ!!?」
「ま、まさか……!!」
おそるおそる、二人が木の上を見上げる。
そこには、暗い影を落とす積雪が……。
815 :
黒蔵
[sage]:2012/01/23(月) 02:57:30.79 ID:ra+MRColo
>>813-814
最初の振動で細い枝が揺れ、振るい落ちた雪と氷亜の雪玉に、さらに太い枝が揺れる。
一度枝がゆれてしまえば、後は10mほどの高さから雪はゆっくりと落ちてくるのだ。
振動から幾分のタイムラグをおいて、どさり、どさりと雪の塊が、続いてさらさらと細かな切片が
木の下へ、そこにいた者の上へと散り落ちる。
雪の重みから開放された若い檜の梢は、心地よさげに天へ向かって伸びをした。
冬でも落ちないその細かな濃緑の葉は、雪という邪魔者をふるい落として日の光を浴びる。
「…なんか…どの道……俺一人負けじゃない?」
もう何発食らったか判らない雪玉で、黒蔵はずぶ濡れなのだ。
さらに木の下へと落ちて積もった雪の中に、借り物の長靴の片方を探しに行かねばならないのだ。
残る長靴の中にも雪は入ってしまっているし、氷亜が雪男モードの今下手に近寄っては命取りだろう。
「へっきしっ!」
クシャミと共に最後の雪玉が、寒さでかじかんだ黒蔵の手から織理陽狐のほうへと放り投げられた。
816 :
夜行集団
:2012/01/23(月) 03:07:11.52 ID:zCfwWutc0
>>814
、
>>815
「お〜、壮観だね、というか全滅?」
一仕事終えてなおかつあの崩落からも距離がある、
つまり完全な安全地帯にいる氷亜は手のひらを額にあてて暢気な声を上げた。
これが一般人だったり、姫や虚冥のような物理的に弱いものであれば氷亜もこうはしていないだろうが、
なによりもあの山の妖怪達である。自然の脅威には一番の耐性があると見越しているのだ。
「確か片方のはあっちあたりじゃなかったかな?」
砲火に夢中になっていた氷亜であったが、視界の端に彼の長靴が脱げていた事は捉えていたらしく、
自身の記憶で見当をつけて指差した。
しかし氷亜には拾う気がなさそうであった。なぜなら、
今現在の彼が長靴に触れようものならあっという間に靴が凍ってしまうのが目に見えていたからだ。
817 :
四十萬陀 七生&織理陽狐&送り妖怪勢
[sage saga]:2012/01/23(月) 03:13:49.30 ID:P1p+MwHHo
>>815-816
「うぐっ!」
「ぬああっ!」
短い悲鳴と共に、翠狼と和戌姉は、白い雪の塊に押しつぶされた。
といっても、しばらくすれば勝手に頭を出すだろう。
「小僧ォォーー!!」とでも声を合わせて。
ぽおん、と。
くしゃみをすると同時に、投げられた雪玉は、奇妙な狐を描いて、
油断していた織理陽狐の頭に、ぽふっと当たることになった。
きょとんとしたようすの織理陽狐だったが、すぐにくつくつと肩を震わせた。
「ははは、やられたのう。お主の勝ちじゃ。
……ほれ、いかんか。何をしておる」
「えっ、ええ? ……あ、く、黒蔵くん!!」
せかされた四十萬陀は、あわてて黒蔵へと駆け寄って行く。
そして今度こそ、寒さで震える彼を、きちんと温めてあげるのだった。
818 :
黒蔵
[sage]:2012/01/23(月) 03:20:13.26 ID:ra+MRColo
>>816-817
「あっち?…この辺?あったっ!」
すでに膝から下の感覚が無いまま、氷亜の指示通り雪をかいて長靴を掘りあてた。
びしょぬれの軍手も手ぬぐいも、もはや防寒のためには何の意味も成さない。
「でも勝った気分しないや。…四十萬陀ー、俺、風呂入りたいよぅ」
手ぬぐいで軍手を包んで丸め、長靴の中を形ばかりぬぐって左足を突っ込むと、
四十萬陀にくっついて寒さに震えながら、後日、翠狼経由で犬御にばれることも、
自分の性別がどうなっているかもすっかり忘れて、そんな希望をぽろりと漏らすのだった。
819 :
???
:2012/01/29(日) 22:45:20.58 ID:j6GDB3fg0
長年恨みを共にした同志たちは、彼の後ろへ満足げな顔をしながら通り過ぎて行った。
唯一人で道を歩くことを余儀なくされた彼は、その孤独に打ちのめされた。
そして一人弱っていた彼は、黒に縋りついた。
空は太陽が落ちて暗く染まり、季節がら日光を失ったここは異様に冷える。
街どころか山里からも遠く離れたこの大社に、当然の如く人の気配は無い。
唯ひっそりと冷たい風に揺られ草木が靡くだけ。
ここはかつて多くの信仰を集めた豊穣の神、穂産姉妹神の大社跡。
広大な敷地にはまだ、地面に均等に並べられた石畳を覗かせているが、
本殿の方は以前の戦闘により跡形もない。
「・・・ふふ」
今はもう木片か土の隆起しか存在していない閑散とした境内に、
黒いローブに身を包んだ背丈の小さい者が姿を現す。
ふらふらとしっかりとしない足取りで、まるで彷徨うかのように、
それこそ浮浪者のように境内を這いずりまわる。
何かを探しているわけではない、ただ、ただ歩く事を目的としているだけだ。
820 :
巴津火
[sage]:2012/01/29(日) 23:03:05.80 ID:n6pSfmE+o
>>819
「やっぱりここに来たか。お前の行くところって、そう多くも無いよな」
彷徨う小さなローブの人影に、木下闇の中から浮かび上がった水干姿の少年から
少々不機嫌そうに言葉が投げかけられる。
紫濁の瞳にどこか剣呑な光を湛えた、この最上級の蛇神の喉元には、
一筋の白煙が纏わりついている。
(ええい、この煙!イライラする)
焦燥・鬱屈・懊悩、そのどれとも判別し難いもやもやした不快感を抱えて、
巴津火は以前よりも濃く絡みつく白煙を、振り払おうと乱暴に頭を振る。
「お前を探してたんだ。榊でも良かったが、あいつはつかまる気が無いらしい」
農夫カインの呪いによって喉元に生じた熱と煙は、巴津火の逆鱗をゆっくりと炙りつつあった。
巴津火の喉は、いがらっぽいだけでは済まなくなって来ていたのだ。
細くくゆる煙は、巴津火自身の口の中からも立ち上っている。
持ち主の苛立ちを感じ取り、その肩に担がれた草薙剣が
鞘の中でちりちりと微かな音を立てていた。
821 :
神代
:2012/01/29(日) 23:14:13.14 ID:j6GDB3fg0
>>820
ずるずると、歩みを止めない足を引きずりながら徘徊する彼は、
暗闇から飛び出した声のする方に顔を向ける。
ローブは着ていてもフードは被っていないらしく、神代の顔は簡単に窺えた。
「コンバんハです。巴津火サン」
どこか言葉の抑揚を間違えて挨拶をする顔は、
右の口角が笑っているのか上に引きつり上がっていて、
それなのに違う方の瞳からは涙がボロボロと流れ出し、
また片方の瞳は、まるで燃え盛っているかのような憤怒によって鋭く光り、
どこまでもちぐはぐで、表情のそれぞれが完全に矛盾していた。
「榊ハ捕まりませんヨ。
榊は基本的二自分の危機は把握できますし、ナニヨリモ彼女の担う罪ハ少ない」
口の端を痙攣させて笑いながら神代は答えた。
822 :
巴津火
[sage]:2012/01/29(日) 23:30:06.25 ID:n6pSfmE+o
>>821
「お前、分かれかけてるのか?」
内在する相反する力のそれぞれが暴走しかけているかのような
神代のちぐはぐな様子を見て取って、
巴津火はどこか面白がっているような冷たい笑みを浮かべた。
「ふーん、でも罪のほかに、榊にはボクに説明する義務があるからな。
このまま逃げつづけるなら、次に榊が会う時のボクは、もっと機嫌が悪くなってるぞ」
意地の悪い笑い声を立てると、巴津火は神代へ鞘ごとの剣の先を向けた。
そこには水晶の数珠が一本、絡んでぶら下がっている。
「お前に渡してくれと託されたものだ、どうする?お前は受け取るか?」
地蔵の数珠は、使い道も選ぶ先も、神代次第である。
823 :
神代
:2012/01/29(日) 23:46:09.15 ID:j6GDB3fg0
>>822
「巴津火さんがそうナノデシタラ、多分さかキはイズレ姿を表しまス
しっかリと彼女を求めテイたら榊は勝手ニこちらに現れマスよ
勿論あなたニ榊への殺意がなかったらの話デスガ」
先ほどから歩みを巴津火との会話のために留めている神代でも、
何故か唯立っているだけなのに、ふらふらと態勢を変えて落ち着きのない。
今にも地に倒れ伏しそうな虚弱さで巴津火を見つめ口を痙攣させながら、
神代は片方の手を差し出す。
「ぜヒ頂きます
お友達ノプレゼントはとても嬉しいですカラネ」
そのままの体勢でよろよろと巴津火の元に歩いて行く。
ニコニコとはもう笑えていない表情を彼へ向けながら、
神代は巴津火の剣先にあった数珠を手に取り、引きちぎった。
「分かれヨウトしているノデはありませン。
寧ロ、分かれていた物が混ざりアオウトしてしまッテいるのです。
壊シテしまってゴメンなさイ。
本当にその数珠ハ欲しかったのです、デモ、でも僕の体ハ矛盾して拒んでシマイマシタ」
彼が今抱えているのは矛盾。
なそうと思えばなさず。笑おうと思えば泣き叫び、命を助けようと思えば[
ピーーー
]。
心身、表裏、正と邪に代表される彼の矛盾が今彼の中で歪を生じ、
最悪の極限状態になっていた。
824 :
巴津火
[sage]:2012/01/29(日) 23:57:22.16 ID:n6pSfmE+o
>>823
「なんだ、そういうことか。それに、そいつは壊しても良いんだと思うぞ」
多分、贈り主もそれを知っていただろうさ、と付け足して辺りに散らばる玉に目を細める。
夜空がそのまま降りてきたかのように、微かに輝くその数珠の玉は
二人の足元で星のように散っている。
「矛盾か。それならボクも付き合ってやろう。
遊ぼうぜ神代!」
すらりと鞘が払われた。
白刃があらわになると、途端に空が曇り始める。
「ボクがお前を、分けてやる」
混濁する矛盾を切り分けようとするかのように、その切っ先を神代に向けてそう宣言した。
825 :
神代
:2012/01/30(月) 00:09:39.24 ID:soRSVO3O0
>>824
「そうデスか、デモやっぱリ欲しかッタデス
きっとソレは僕を救っテくれた筈デ、ナニヨリモあなたからの最後の贈リ物だったノデスから」
神代は足元の数珠を見下ろしていて、彼の僅かに痙攣する口元の動きが少し収まった気がした。
しかしもう一度彼と目を合わせて時には、
前からの彼の癖にもなっていたあの無理やりな笑顔を作っていた。
「止メテください、僕は貴方トなんて戦いたくナイデス!!
モウ僕は、誰も殺したクナイんです!!
本当は僕ダッテ!!恨みなんか忘レテ気楽に暮らしたカッタンデス」
刃を向ける巴津火に神代は声を張り上げて精一杯の懇願をした。
しかし、またもや彼の心情とは矛盾して、
既に神代の背中には計六本の雷の槍が巴津火へと矛先を向けているのだ。
【ジャッジアンリーゾナブル】
神代の自身への制止も虚しく、
巴津火の反応にギリギリ捉えられるかどうかの速度で、
雷光を全体に迸らせた6の槍たちは巴津火へ強襲をしかけた。
826 :
巴津火
[sage]:2012/01/30(月) 00:36:26.52 ID:s0njYMhco
>>825
「最後のとか、勝手に決めるなよ」
荒っぽく、しかし、心底楽しげに巴津火は笑って吐き捨てた。
暴れ神としての生まれのままに力を振るい、暴れるその心地良さはほんの一時であれ、
呪いの苦痛を忘れさせてくれるのに気づいたのだ。
「それにあれはボクからじゃなく、託されたものだって、言ったはず、だっ!」
残酷な楽しみに輝くその相貌は既に邪神のそれであり、神代よりも遥かに邪悪な喜びに満ちていた。
(ボクの雷は間に合わない。ならば)
あの雷光の槍と見るなり、それが放たれる前にくるりと切っ先を返して地に突き立てる。
この土地は以前にも戦った場所。
地下の水は把握しているし、あの時に張っていた水脈の道もあるのだ。
「大雑把でいい、絡め取れ!」
剣で突いた大地から噴き上がる太い水の柱をうねらせて、雷光の槍を受け止める。
双方がぶつかり合い、辺りは大音響と共に水煙が散った。
「もう誰も殺したくないと?ならばお前が[
ピーーー
]ばいい」
あの世で、会いたい二親にも会えるかもしれないじゃないか、と笑いながら
水煙の中から現れた巴津火はその冷たい刃の先を神代の胸元へ突きつけ、口の端が耳まで
裂けそうな位にニヤニヤと笑っていた。
「親に愛されてる確信があるなら、あの世に持ってゆくには十分な財産じゃないか。
それ以上に一体何が欲しい?」
確かに神代は親を殺したが、少なくとも巴津火よりも親に愛されているのだ。
神代の持つ歪みとは異なる禍々しさを持って、巴津火は神代の答えを待った。
827 :
神代
:2012/01/30(月) 00:55:41.46 ID:soRSVO3O0
>>826
「僕が死ネば、僕が僕を殺セレバ・・・
一体どれだけ誰も彼もガ救われタカ、貴方は何も知ラナイ!!」
喉元に突き立てられた刃の主に向かって、
自身の置かれた立場も顧みずに罵声を振りかけるが如く巴津火に叫んだ。
激情のせいか、彼の片方の怒りの眼光が更に鋭くなる。
「何も欲シクなんてナカったですよ!!愛ヲ確信しテイタから!!
ただ、与えたカッタ!!
僕を矛盾サセタ神々に、惜しみのナイ最悪の復讐ヲ!!」
刃を神代の喉元に突き立てたという、
つまり優位に立ったという状況のせいで、巴津火にはほんの少しだけの油断と隙が生まれていた。
そんな意識を持って戦う者達であればどうしようもない隙を、
神代は自身が貫かれるかもしれないという恐れも構わずに利用したのであった。
「デモ!!僕はそんな復讐劇スラも欲しくはナカッタ!!
でも、僕にのほほんと忘レテ生きていく事ナンテ事もできなかった!!
逃げる事はユルサレナカッタ!!
戦って戦って、進ンデ進むことしかユルサレナカッタ!!」
巴津火はふと、下を見れば気づくだろう。
自分の足元が、神代の土壌操作によっておおよそ膝下10cm近くまで、
隙をついた彼に埋められていた事を。
そして神代は巴津火の足元を拘束し、右手に作り出した炎の剣で巴津火に頭から振りかぶった。
828 :
巴津火
[sage]:2012/01/30(月) 01:14:27.97 ID:s0njYMhco
>>827
「結局、欲しいものは復讐劇ではない復讐なのか」
ふっと笑って、巴津火は神代に突きつけていた刃を引いた。
その刃は傷つけるためではなく、本音を吐かせるための方便に過ぎない。
巴津火はその最初の言葉通りに「遊んでいる」のだ。
「それとも、逃げたりのほほんとする『赦し』が欲しかったってことか?
赦しも無く、戦うことしか許されなかった、って?嘘つくなよ」
にやにやと笑いながら、巴津火は足を土に埋めて待っている。
「その証拠に、ボクがこうして何もしなくても、お前はそうやってボクに刃を向けるだろ。
誰も戦えなんて言ってない、お前自身の選択したことさ」
手にした刃は下げたまま、炎の剣を受け止めるそぶりすらなく、
巴津火は神代が振るう炎の剣の一撃を、意地悪く見つめながらただ待っていた。
己を傷つける刃は同時に、それを振るう神代の心をも苦しめることを、
逆心の女神が作り出したこの半邪神は本能的に察知していた。
829 :
神代
:2012/01/30(月) 01:38:33.73 ID:soRSVO3O0
>>828
「許シテほしかった!!僕ヲ止めて欲シカッた!!」
巴津火の言葉に全霊の反論をして、神代はその剣を持つ力を強めた。
感情の高ぶりによって神代の表情もまた変化して、涙はダムが決壊したかのように溢れだし、怒りの目はそれだけで鬼を感じさせ、
そしてそれらを矛盾させるかのように口元は愉しそうに笑っている。
「選択ナんてシタことなんかナイ!!いつだって僕ハ突き動かサセラれてきた!!
だって僕は今、ヤリタクモないのニ君を殺ソウとシテイるんだ!!
本当なら今すぐにでも!!こんな物捨て去りタイ!!
でも許されなインダ!!止めラレないんだ!!」
叫びながら、神代は剣を巴津火へと振り下ろそうとする。
躊躇無く振り下ろされるその刃は、きっと到達すれば巴津火を二つに裂くだろう。
しかし、神代の言葉に嘘は無く、神代自身は巴津火を殺めたくは無かった。
だが、それは神代がいくら望もうと叶わない願いなのである。
農夫が死に際に告げたように、神代は決して許されない因果を帯びていた。
どこへ逃げようと、どう身を隠そうと、何をしていようと、この少年は全速前進しか許されないのだ。
その者によって、神代は決して許されない。
その者は神代を長年、多種多様に神代に生まれた葛藤すらも払いのけ、
前進しか許さなかった者、その者のは
「進んで進んで進まないと、
"僕"が"僕”を許さないんだ!!」
どこに逃げようと見つかって、逃れる事は出来ない。どんな意思で拒もうとも、その命令を拒否することは出来ない。
なぜなら神代を縛りつけるその者は、他の誰でもなく神代自身だからだ。
何もしないなんてことは、自分で自分を許せないからだ。
「・・・!?」
しかし、ここで神代自身の巴津火を殺めようとする命令は、
神代の肉体の突然の停止によって拒否されることになる。
830 :
巴津火
[sage]:2012/01/30(月) 02:08:07.45 ID:s0njYMhco
>>829
「許してやるよ。そして、止めてやる」
神代の感情があふれ出していることは、その矛盾した表情の中からでも読み取れた。
以前の、ただ笑みを浮かべただけの表情ともいえない表情よりは、
今のほうがよほど豊かだと巴津火は思う。
(この剣でなら多分、神代を分けられる)
草薙剣、天叢雲剣の名を持ち、そして八握剣の片割れであるこの剣は裁きの力を持つ。
その力を持ってすれば、神代当人も納得する裁定を下し、
その先を決めて選ぶことができるかもしれないのだ。
(でも竜宮からは、神格の役割からは、ボクはもう逃れられなくなる)
長らく巴津火にとって逃げ出したい場だった竜宮は、雨邑の存在により
彼女を守り受け入れるための場へと変化してきているのだ。
雨邑と神代、その二つの存在が共に、巴津火の決断を促した。
「…ボクは神代を二人に分けようと思う」
炎の剣を振りかぶって動きを止めた神代に、巴津火は再び己の刃を向けた。
(宛誄が縛ったという白と黒の翼、あれがきっと要だ)
「羽を広げろよ、神代。ボクが切り離してやる」
呪われた赤子を祝福したのは、そもそも双子の神だった。
正と邪とが一人の中に混在したことで神代が天に呪われたのならば、
その光と闇とを分けてしまえば呪いは消えるかもしれないのだ。
(双子として生まれたのであったなら、神代にはまた違う道があったのかもしれない)
地に散らばった数珠の玉が、二人を取り囲んで白々と光り始めていた。
831 :
神代
:2012/01/30(月) 02:24:42.57 ID:soRSVO3O0
>>830
神代と言う存在は生まれた時から、厳密には、生まれる前から、
神々へと不遜で無礼な反旗を翻す事を余儀なくされていた。
なぜなら、生まれによって両親の仇を取る望みを持つことしか出来ない状況にあり、
そんな復讐心に魅せられて、
全世界から集まった同じく神への反逆心を持つ者に筆頭として祭り上げられるしかない状況にあり、
これからも増えるであろう神への反逆者の礎となる事を避けられない状況にあったから。
誰も、農夫たちだけに限らず自分さえも、
神代の神に背かない道など望みはしなかったのである。
「そんナ余計な事をしないで下サイ!!
僕は僕ガ選んでここニイルンです。神へノ復讐ダけ選んでキタンデす!!」
神代は巴津火の提案を拒否して、またも剣に力を込めた。
剣を握る手には、神代の全力の妖気が込められている。
しかし、
剣を握っていない手の方は神代の言葉に矛盾して、必死で剣の手を握りしめていた。
必死で剣戟を止めようとする力は、両手とも彼のである為剣の手と拮抗して、
辛うじて巴津火への一撃を食い止めている。
そして、彼自身のもう一つの心も神代の意思とは矛盾して、
まるで巴津火に縋るように、ゆっくりと白黒入り混じった両翼を大きく広げた。
832 :
巴津火
[sage]:2012/01/30(月) 02:47:34.17 ID:s0njYMhco
>>831
「呪いだろうが、復讐だろうが、それがお前の選んだものなら手放さなくたっていい」
誰だって欲しいものはある、そのために手を伸ばす。
必ずしも手に入らないものだったりすると、手を伸ばさず諦めるための口実を探す。
「それを他のものを諦める理由にはするな」
(これはボクの選択だ)
神格を背負い続けることで、背けば堕ちる道へと、巴津火自身が一歩を踏み出したことになる。
振り上げられたままの炎の剣は、次の瞬間巴津火を断つことになるかもしれないが、
それでも構わずに、白と黒のそれぞれの翼で分かれるように神代を両断しようと草薙剣を振るった。
(苦しまぬように、そして、きちんと光と闇の双子に分かれるように)
祈りが二つ、重なった。
そして草薙剣を振るい終わった瞬間が、地に捉われたままの巴津火の完全な隙となる。
833 :
神代
:2012/01/30(月) 03:11:11.14 ID:soRSVO3O0
>>832
殺意の手と理性の手が拮抗したことで、巴津火の刃は難を失くして神代の体を通過した。
彼の祈りによって、神代に降りかかる筈だった苦しみは無い。
そして二つ目の願いによって、神代の正邪混合によって生み出された剣は崩壊し、
巴津火にその刃が届く事は無かった。
そして剣を失った巴津火の眼前にいる神代は、二人へと数を変えている。
巴津火は、神代の正と邪の二分に成功した。
片方は黒、片方は白。
両方とも背中に八枚の羽を携え、お互いに白か黒の一色に彩られていた。
「「・・・・。」」
どちらの神代も、あまりにも跳躍したこの状況に理解が及ばず、
言葉を失ってお互いを見あっている。
しかし、因果はそんな跳躍した状況においても、その残酷さを発揮するのであった。
白と黒の神代は、お互いに事態の飲み込みに時間がかかりながらも、
分離する前に抱いていた感情に突き従って、それぞれ白か黒の二つの刃を生み出した。
そして巴津火の方をキッと見つめ、二人ともが巴津火に剣を振り下ろそうとする。
まだ、いくらその身が迫害の憂いを逃れる事になったとしても、
両親が殺された事実に対する神への復讐心は消えようがなかった。
まだ復讐したいという思いは、残ったままなのだ。
だから、巴津火によって生み出された白黒の双子はまだ残った復讐の因果に従う、
そんな自分達をお互いに、片割れを片割れが貫く事によって、
巴津火へと振り下ろそうとする刃を止めた。
「「巴津火・・・さん、お願い・・・できますか?」」
834 :
巴津火
[sage]:2012/01/30(月) 03:53:44.93 ID:s0njYMhco
>>833
「どうしても必要なのか?」
巴津火がこの場で二人を切り[
ピーーー
]のは容易いが、ここにはもう一人の意図もあったのだ。
「…判った、ボクにできるだけのことをしよう。互いの剣を引け」
ここに居ない奴にいろいろと指図されるのも癪にはさわるけどな、とつぶやきながら、
足を地に取られたままの巴津火は片手の剣を振るう。
その白刃は双子を傷つけることなく、地を割って静かに水が溢れ出した。
「さっき数珠を壊したのは、あれで良かったみたいだぞ」
壊れた数珠の玉が広がったお陰で、界を超えて三途の川の水をこちら側に呼びこめたのだと巴津火は言う。
見れば、あふれた水は静かに流れる川辺となり、空の小舟が一艘流れ寄ってきていた。
川の向こうは茫漠と夜に霞んで見透かせない。
「あとは、乗ってった先で仏に頼んでくれ。名前は玉袖って言う」
小舟に乗って行けば、双子は迷うことなく行くことができるはずだ。
「でも、見送りがボク一人で本当にいいのか?」
本当は穂産姉妹が居たほうが良いのではないかと、巴津火は双子に尋ねた。
835 :
神代
:2012/01/30(月) 04:08:19.25 ID:soRSVO3O0
>>834
巴津火の言葉通りに、双子は静かにお互いを突き立てた剣を引き抜く。
もうここまで深く貫いてしまえば、巴津火へと切りかかる力も無くなっているからという判断だ。
そして二人の読み通り、双子が再び刃を巴津火に向ける事は無かった。
「「仏様、ですか。
確かに彼らへは復讐の因果は行っていませんし、大丈夫だと思います」」
彼が具現した向こうの景色を遠い目で眺めながら、
それでも自分たちの心が波立たない事を確認して言った。
「「本当なら、穂産日子神さん穂産雨子神さんも見送りに来てもらいたいと思っていたのでしょうが、
ご存じのとおり二人との因果は切れました。
今僕達の間では見送りするまでの絆は存在していないんですよ」」
神代と復讐心や同志達との間にあった因果は、
仇を取らなくてはいけないという責任感が鎖となってものであった。
しかし穂産姉妹神との間にあった因果、巴津火によって切れた因果は、
お互いを愛するという感情の鎖であったのだ。
そしてそれが切れたという事は、お互いにとってなんの感情も無い関係になったことを意味する。
「「僕は巴津火さんだけでも見送りに来てくれただけで、満足するべきなのですよ」」
仮面の必要はなくなって、偽りではなくなった笑顔を巴津火に見せながら、
白と黒の双子は目の前の小舟に乗った。
836 :
巴津火
[sage]:2012/01/30(月) 04:22:58.04 ID:s0njYMhco
>>835
神代の真の笑顔に、巴津火はなんだか言いたいことがやたらと溢れて来た。
「お前たちには散々振り回された。
ものすごーく疲れたし、呪いかぶったし、ボクが神格から逃げ出すチャンスもさっき投げ捨てた」
一度言葉を切って、巴津火は疲れた表情でため息をつく。
「ボクはもうお前たちの顔なんて見たくないし二度と会いたくない。
でも、時が巡ればお前たちもその縁者も、またどっかに生まれてくるんだろうな」
双子へ最後の恨み言を吐く巴津火の喉元には、ぽつりと火傷の傷が点になってついている。
「その時は、ボクは会っても知らん顔するからな。悪く思うなよ?」
その口からは夜寒の中へ、白い息ではなく白い煙が立ち昇ってゆく。
さっき一時的に呪いの痛みを忘れた分、今またその効力が強まりつつあるのだ。
「だから次は平々凡々な生涯を活きやがれ」
笑顔の双子とは対照的に、すねた様なふくれっつらで巴津火は岸から見送る。
(何だよ神代の奴。最後にいい子になっちまいやがって)
そして最後に、くすんとひとつ鼻をすする。
837 :
神代
:2012/01/30(月) 04:37:37.15 ID:soRSVO3O0
>>836
「「それを言ってしまったら、僕達だって貴方にはとても振り回されましたよ。
彼は名前では呼んで欲しくないようですが、特にカインはね」」
神代達は巴津火の恨み節を聞いて、むしろ噴き出したのであった。
一応全力で反旗を翻していた彼らにとっては、巴津火のその状況もお互い様なのだ。
もちろん彼が介入していなかったら、
それこそ榊の思惑通りに最悪の展開になっていた事は重々承知なので、
言葉の裏でなによりも感謝をしているのだが。
「「僕達のような反逆者に次はあるのでしょうか。
でももし、生まれ変わる事が出来たらそれでも巴津火さんに会いに行きますよ」」
この国の領域では、確かに神に逆らった者達も、
例にとって巴津火のように輪廻の輪によって転生を行なえるかもしれない。
しかし、ヒルコを除いた者達はほとんどが西洋出身。
神代は辛うじて東洋の死後の世界に行く事が出来るかも知れないが、
カインやメデゥーサは逃れる事も出来ずに、西洋の地獄で永遠の責苦を味わう可能性もあるのだ。
「「できれば、次くらいは独り立ちするまでお父さんお母さんはいてほしいです」」
最後にそう言い残して、どこまでも運命をねじ狂わせられた少年は、
巴津火に手を小さく振りながら霞へと消えていった。
838 :
巴津火
[sage]:2012/01/30(月) 04:48:05.98 ID:s0njYMhco
>>837
「うんと良い家族のところに生まれて、ボクのことは忘れちゃえよ」
転生できたなら、そうあるべきなのだ。
小舟が去り、川の水が引いて界のつなぎ目が閉じ、いつもどおりの夜が戻ってきた。
そのときになって巴津火は、未だ地に繋ぎとめられたままの足を引き抜くために
しばらく苦労することになる。
(神代の奴〜〜〜っ、術、かけっぱなしじゃないかっ)
巴津火にとっては、肩の荷が一つ下り、先のことを一つ選んだ夜であった。
839 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
:2012/02/02(木) 00:35:33.32 ID:+tzn3C88o
能力者スレに他所のスレを荒らして追放された奴が復帰するので
荒らされないように気をつけてください
議論専用スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14029/1321447264/
840 :
ミナクチ
[sage]:2012/02/04(土) 22:06:29.00 ID:E4IPnt7Vo
牛神神社の境内を囲む森は静かな朝を迎えた。
昨夜の雪が積もっている森の中を、一人の少年がしゃがみ込んで雪を掘っている。
服装から見て、この社の神職のようにも見える彼を見咎めるものはここには居ない。
「確か、この辺りの筈なのですが」
藁編みの雪靴は慎重に新雪の上を踏み、その指先は雪の冷たさに赤みを増している。
苦手とする寒さに震えながらも、ミナクチは雪の中を探り続けていた。
841 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
:2012/02/04(土) 22:15:01.48 ID:QC++4U2UP
末尾てす
842 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/02/04(土) 22:16:45.95 ID:E4IPnt7Vo
//
>>840
は取り消します
843 :
零「」&稀璃華『』
:2012/02/04(土) 22:27:45.78 ID:bhtDGQm60
すっかり寒くなった山奥にて。
とある人物を探しに二人はやってきたのだ。
『でねでね、江口君がね//////』
「きもい離れて」
今日は珍しく男装の稀璃華は零に抱きつきながら、嬉しそうに話を続ける。
今日の目的を分かっているのだろうか。
844 :
巴津火
[sage]:2012/02/04(土) 22:36:20.03 ID:E4IPnt7Vo
>>843
「おい」
不機嫌そうに二人に声をかけるものがいた。
冬枯れた立ち木に背を預け、元々あまりよろしくない態度はますます悪化している。
「伝えることがある」
水干姿、喉元に厚く白い包帯を巻いた巴津火は、ぶっきらぼうに簡潔に話した。
その口からは、寒さのためと言うには白く濃すぎる吐息が吐き出されている。
「神代はあの世へ行った」
伝えるべきことを言い終わると、顔を顰めて咳き込んだ。
845 :
零「」&稀璃華『』
:2012/02/04(土) 22:44:02.99 ID:bhtDGQm60
>>844
『巴津火ー♪』
新たな獲物をとっ捕まえようとする稀璃華、
その足を掛け、制止させる零。
先程までの嫌そうな表情だった零が不気味に微笑む。
「へぇ。なんで?殿下がやったんですか?」
『なっ……!?どういうことだよ!!?』
不意に土で汚れた顔を上げ、巴津火の襟元を掴みかかる。
846 :
巴津火
[sage]:2012/02/04(土) 22:52:52.36 ID:E4IPnt7Vo
>>845
咳き込んだ巴津火は、横を向いてぺっと傍らに痰を吐いた。
その飛沫には、赤い色が混じる。
「そうだ」
零にそう短く答え、襟元を掴んだ稀璃華を睨むとその手首を逆につかみ返す。
石妖でなければ骨が折れたかもしれないその力は、明らかに好意的なものではなかった。
「離せ。ボクは今ひどく機嫌が悪い」
顔が間近に寄ったため、稀璃華には巴津火の吐く煙の甘い香の匂いが届くだろう。
乳香とミルラのその香りは、稀璃華にはなじみの無い香り、
そして西洋出身の零にとっては昔を、故郷の教会を思い起こさせるものかもしれない。
847 :
零「」&稀璃華『』
:2012/02/04(土) 23:04:58.83 ID:bhtDGQm60
>>846
『いっ、お前!!』
神代と話したのはあの時が最初で最後。
だが神代とは友達だった。当然、怒るはずである。
「……面白いですね。
私には神代がどうなろうとあまり関係無かったのでどうとも思いませんが。
しかし…なぜ殿下からミルラの香りが?
ミルラは殺菌作用やアロマセラピーなどの効果から邪悪な者にはあまり好かれないものですが。」
稀璃華が愛用の槍を巴津火に向けたのを見て、くすりと零は笑う。
「何かされましたね、殿下。凄い物をもらった、とか。置き土産的な…ふふっ。」
848 :
巴津火
[sage]:2012/02/04(土) 23:23:27.92 ID:E4IPnt7Vo
>>847
いきり立って槍を向けるた稀璃華を、このくそガキはふっと鼻で笑った。
鼻孔から白煙がむわりと広がる。
しかしその余裕の笑みも、零の言葉でかき消えた。
「お前、この匂い知ってんのか」
ぎらぎらと嫌な光を瞳に湛えて、顔色を変えた巴津火は零につかつかと歩み寄る。
「教えろ。この匂いの神はどこに居る。やっぱあっちなのか?ああ?」
人差し指で天を指す。
通行人にいちゃもんつけるチンピラそのものだが、顔色を変えた途端にあふれ出した
禍々しい暴力の気配は、チンピラには無いものだ。
「何が邪悪だっ!!」
巴津火の苛立ちが増すほどに、立ち上る煙は濃く、その香りは強くなる。
白い包帯に黄色く染みが広がり、やがて黄色は中心から茶色に変わり始める。
「このカインとやらの呪いの解き方、何か知っているなら教えろ。今すぐ!!」
さもなくば、ここで暴れるぞと巴津火は言外で示していた。
849 :
零「」&稀璃華『』
:2012/02/04(土) 23:41:00.21 ID:bhtDGQm60
>>848
『巴津火…!!』
「稀璃華は黙ってて。
殿下、そのカインって…。弟を殺 し追放されたカインですか?」
弟と共に神にお供えしたが、自分のは無視され、弟を殺害するカインを思い出す。
とても有名な話であるが、零自身はあまり好まない。
「殿下、私は仮に知ってても教えませんよ。自分でやったのですから。
まぁ、魔法でなんでもする…と言うのなら、その神はいますけどね。」ニヤリ
850 :
巴津火
[sage]:2012/02/04(土) 23:53:22.31 ID:E4IPnt7Vo
>>849
茶色の染みは次第に黒くなり、きな臭い匂いと共に白煙が立ち上る。
「貴、様っ!」
零にかき立てられた怒りで巴津火が目を見開いた瞬間、包帯はついに焼け切れた。
掌ほどの大きさに広がった喉の火傷の縁は焦げ、白く煮えた肉の中心には
ぶつぶつと水泡が脹れて、血と膿で包帯の一部がはりついて垂れ下がっている。
(喰ってやる!!!)
熱と垂れ下がる包帯の切れ端とが逆鱗に触れて、巴津火がその姿を変えた。
双頭の大蛇の一方の首には火傷、しかしもう一方の首には、まだ白煙が絡み付いているだけである。
「教えろぉぉぉ!!!」
二つの頭が、零を捕らえようと顎を開いて迫る。
零に近い方は火傷の首が、稀璃華に近い方へは、無傷の首があった。
851 :
零「」&稀璃華『』&黒龍
:2012/02/05(日) 00:09:39.27 ID:TzBp73gC0
>>850
「いきなり…ですか。ふふっ、殿下♪」
零の影がうねり、それは零の身代わりとなり、火傷のある蛇に喰われる。
引きちぎられた影から黒い液体が滴り落ち、床に広がった。
同時に零の体からも多量の血が噴き出した。
『もう我慢出来ない、巴津火ぃぃ!!』
黙っていた稀璃華だったが、ついに彼も限界を迎えた。
はちきれんとばかりに巨大化した槍の刃がもう一方の頭を捕らえようとした。
だがこちらは、頭を捕らえる前に弾き飛ばされた。
黒龍『巴津火に変態に零、なにやってんかと思いきや。
昔の俺ならばエクスタシーしちゃってフルボッコにしてやるとこだが、
このエクシオ様が優しくお説教しなきゃな(はぁと)』
最近お気に入りである黒ローブの黒龍、登場。
まさにチート本人である彼が一言呟けば、稀璃華はぶっ倒れてしまう。
また一言呟けば零はぐったりと項垂れて倒れる。
852 :
巴津火
[sage]:2012/02/05(日) 00:20:35.71 ID:axHCJTNVo
>>851
零の影を捉えると、首に火傷のあるほうの頭は数度影を噛みなおし、興奮と共に飲み込んだ。
もう一つの頭のほうは、逃れた零の本体と稀璃華、そして黒龍に気づく。
「あの影の男みたいに逃げやがって。……お前か」
以前にも自分の顎から影で逃れた謎の男を、零に思い起こさせられた巴津火。
逆鱗を焼く火傷がない分、こちら側の頭はまだ理性を保っているらしい。
「この二人を寝かせて、ボクに加勢するつもりか?」
確かに2対2にはなるけどな、と、焼けていないほうの喉で大蛇の頭の片方は黒龍へ、
先ほどまでよりもずっと楽に、幾分穏やかに言葉をかける。
もう一つの頭のほうは、飲み込んだ影が刺激となったか、再び咳き込んでいた。
853 :
零「」&稀璃華『』&黒龍
:2012/02/05(日) 00:33:57.01 ID:TzBp73gC0
>>852
「」
『』
この二人は既に伸びている!
ライフポイントは0である!!
黒龍『あー、おチビちゃん。お前もだぞ?ほれ、塩!!
蛇はー外!!』
火傷の方へと塩を投げる黒龍。
桃とかだと多分自分もやばいので、塩。多分痛いぞ!
黒龍『こっちには良い子にしてたからご褒美だ♪
ほれ、ドイツ産のビールとイタリアのワイン!おチビちゃん飲んだことあるか?』
と、こっちにはアルコール。
訳が分からないよ、と突っ込まれるかもしれないがスルー奨励。
なんやかんやで黒龍は楽しんでいる。
854 :
巴津火
[sage]:2012/02/05(日) 00:43:13.51 ID:axHCJTNVo
>>853
ぱらぱらと宙を舞った塩が双頭の蛇へと頭から降りかかる。
「!」
火傷の前にまず目に染みたらしい。
慌てて塩を避けようと仰け反った喉の火傷に、ばっちり塩が染みた。
「……!!!」
ぱくりと口を開けたが、こちら側の喉からはもう声は上がらずただ白煙だけが立ち上る。
「お前、一体何をしに来た!答えろ!でなきゃお前も喰うぞ!」
もう一つの頭にも塩は多少かかったものの、量も少なく目への被害はない。
差し出される酒にはちらりと視線をやったものの、こちらの頭も今はそれどころではないのだ。
絡みついた白煙から見て、こちらの頭へも火傷が広がってくるのはどうやら時間の問題らしいのだから。
苛立たしげに蛇の尾が地面を叩きはじめた。
855 :
零「」&稀璃華『』&黒龍
:2012/02/05(日) 00:54:00.78 ID:TzBp73gC0
>>854
黒龍『おチビちゃん可愛いねぇ♪食べられちゃいたい♪
まぁ、何しに来たかって言うとね……。
一緒に酒の飲みに来た!!ヒクッ////////』
桃以前に酔っている。
きっと稀璃華達のおしおきも酔った勢いから来ているようだ。
黒龍『ん〜?アロマセラピー的な何かかぁ?いい匂いだなぁ//////
そうか、おチビちゃんなんかされたんだなぁ?懐かしい香り〜♪
よし、飲もう!おチビちゃん!!』
自分で出した酒を巴津火の目の前で飲む、誘っているようだ。
856 :
巴津火
[sage]:2012/02/05(日) 01:07:12.64 ID:axHCJTNVo
>>855
「懐かしい?」
酔っ払いの黒龍にうんざりしかけていた巴津火が、その一言に聞き耳を立てた。
「知ってるのか?おい!」
酒臭い黒龍を鼻先で突付くが、ぐびぐびと飲み始めてしまったその手を止める手は、
この姿では無いことに気づくと、双頭の大蛇は再び人の姿を取った。
「呪いのっ、解き方を…教えろ」
己の口元へ酒を運ぼうとする黒竜のその手首を掴み、必死の形相で声を搾り出した。
この姿では喉は一つしかないのだ。
「ボクが、弟を、殺、す前に…っ」
巴津火を突き動かすのは苦しみではなくその焦り。
酒がこぼれて自分に降りかかるのも構わず、少年は黒龍に揺さぶりをかけた。
857 :
黒龍
:2012/02/05(日) 01:26:52.04 ID:TzBp73gC0
『やっぱり呪いか♪おチビちゃんも大変だね〜//////』
このように酔っ払ってはいるが、
巴津火が真面目に話しているのはきちんと理解している。
ビール瓶をとん、と床に置くと、
若干赤らめている顔だがきっちりと巴津火の肩を掴む。
『他人から貰った呪いはちょっとやそっとじゃ解けない…。
やはり呪いの元凶が解除する以外、解く術は無い…。
もっとも、その元凶の存在自体を無かった物にする他、
お前が宛誄達を殺 せば呪いはお前から解けるだろうがな…。
……だがな、その呪いがあるからと言って、お前が弟を殺 すかと言えば
それは全くのウソだ。
要するに、すべては巴津火自身だよ。考えて信じて、そしてありのままのお前でいれば…。
呪いは消えさる……。
…っはぁ、お説教っぽくなっちまったなぁ、おチビちゃん、乾杯♪』
再びビール瓶を取り、ぐぶぐびと垂直飲みをする。
まぁ、気にすんな、と付け足すと、よたよた立ち上がり、零達を起こしに行く黒龍。
『またなぁ、おチビちゃん♪』
//私はこの辺で落ちます!
久しぶりに絡めて楽しかったです、お疲れ様でした!
858 :
巴津火
[sage]:2012/02/05(日) 01:37:50.37 ID:axHCJTNVo
>>857
こんな時でなかったら、巴津火はおチビ呼ばわりにぶち切れて居ただろう。
「……。」
黒龍の宣告に、無言のまま表情が強張る。
ある程度の予測はしていたものの、この匂いを知る者にはっきり言葉にされて、
巴津火は言葉も希望も失った。
(ここに居ては駄目なんだ)
黒龍が零達のほうへ向かうのを視野の端でぼんやりと見ながら、壊れた操り人形のように
ふらりふらりと巴津火はおぼつかぬ足取りで山道を辿り始めた。
//絡みどうもありがとうございましたー!
859 :
宛誄&蜂比礼
:2012/02/07(火) 23:36:27.82 ID:c0wCeMaMP
零のマンションにて、
黒服の少年と橙の服の半透明の少女が向き合っていた。
半透明の少女は蜂比礼、黒服の少年は宛誄。
「・・・」ツーン
蜂比礼は頬を膨らませてそっぽを向いている。
冷や汗垂らしながら、気まずそうに俯く宛誄。
「す、すいませんでしたぁ!!」
とりあえず謝ってみました。
860 :
零「」&黒龍『』
:2012/02/07(火) 23:45:08.50 ID:RzEQFffDO
>>859
「宛誄やっちゃったね〜」ニコニコ
『あーあwww』ニヤニヤ
キッチンのカウンターから顔を覗かせ、嫌らしげに見つめる二人。
どうやらはっちーと宛誄のやり取りを見つめている。
「あ、はっちー、蜂蜜レモンあるよ〜」ニコニコ
ここで何か閃いたのか、はっちーへと差し出したのは蜂蜜レモン。好きな物で機嫌を治して貰うらしい。
だが、知っての通り、飲める物でない。
『あっ、馬鹿!!』
「なんで?蜂蜜レモンだよ?」ニコニコ
わざとではない。
861 :
宛誄&蜂比礼
:2012/02/08(水) 00:01:03.27 ID:sA5ov9onP
>>860
「うるさいですね! あなた達にだってわかるでしょう!?
妹を殺されたりした僕の気持ちがっ!
そして死んだと思った妹がいきなり何の前触れもなくひょっこりカムバックして、
嬉しいやらやり場がないやらの複雑な気持ちがっ!!」
宛誄、必死ギレ。
「お腹蹴られたしー、髪の毛掴まれて無理やり立たされたしー」
「うぅっ!」
「嫌だって必死で抵抗したのにあんなに無理やりやられ――
「誤解を招く言い方しないでください!!」
蜂比礼、ジト目で不平言いながら蜂蜜レモン(仮)を受け取る。
「第一ー、魂の同期化してたんだしー。
そんな状態で狂われたらこっちにどれだけ悪影きょ・・・グギュグバァ!!」
宛誄を睨みながらだったのでその泡立つヨグ=ソトースのようなものに気付けなかったらしい。
口から紫色の液体を垂れ流しながら、ワナワナと震えだす。
「・・・グブブ。もうお前等なんか知らないしーーーっ!!
みんな大っ嫌いだしー!! 死んじまえ!!」
蜂比礼は大声でわめき散らすと窓をすり抜けて外へ飛び出していく。
「あぁっ、待って!! あなたは僕の魂と融合してるんだからあんまり離れると幽体剥離してしまいます!!」
幽体剥離。魂と肉体の離れすぎて互いの結びつきが弱まる、または途絶えててしまうこと。
ドッペルゲンガーや魂の散歩の原因で高確率で死に至る。
宛誄は慌てて玄関を飛び出し、蜂比礼を追いかけようとする。
862 :
零「」&黒龍『』
:2012/02/08(水) 00:11:59.28 ID:Ktk0KhMDO
>>861
『おおっ、零の危険物Level4でも倒れないか!!』
「え、宛誄、妹さんに脱がされて無理矢理調教させられたの!?きっとヤンデレな妹さんなんだよ♪良かったね」ニコニコ
あまりにもふざけた二人は幽体剥離しようがぱるぱるぅしようがお構いなしだ。
「とりあえず追わなきゃね。」
『宛誄おもしれwwww』
863 :
宛誄&蜂比礼
[age]:2012/02/08(水) 00:20:57.33 ID:sA5ov9onP
>>862
公園では全力疾走の宛誄とひらひらと舞う蜂比礼が見えるだろう。
宛誄は必死で弁解や謝罪を語りかけるが、蜂比礼の方は
「知らないしー!」「うるさい[
ピーーー
]!」「追いかけてくるな変態!!」の三点張りである。
そのうち、宛誄は疲れ切って座り込んでしまい、蜂比礼は見えない所まで飛んで行ってしまった。
864 :
零「」&黒龍『』
:2012/02/08(水) 00:27:43.42 ID:Ktk0KhMDO
>>863
『宛誄、ほら。背中乗れ。』
「私は下から追いますから。離れないよう、黒龍、よろしくね。」
やっと現状の危機感を理解したのか、真面目に宛誄を見つめる黒龍。
零は既に走って行った。
865 :
宛誄
[age]:2012/02/08(水) 00:47:17.27 ID:sA5ov9onP
>>864
「はぁ・・・いーですよ別に・・・。
あの日以来ずっとこの調子なんだ。
彼女だって本気で幽体剥離を起こすほど離れる気はありませんから」
宛誄は肩で息しながら、黒竜の誘いを断る。
「それに・・・彼女の気持ちもわからないでもありませんから」
宛誄は俯くと、ため息をつく。
「そりゃそうだ、あの時のようなことがあって・・・。
僕みたいなおぞましい奴を信用できるわけがない」
片手で髪を掻きながら呟く。
「・・・僕にとっては単なる利害一致の提携でも、
彼女にとっては裏切られ続けた数十年の中でようやく持ちえた信頼だったんだ。
しかし信じた矢先にこれですよ。魂が半ば融合しているんだ・・・彼女の気持ちは痛いほどわかる」
「裏切ったんですよ、僕は。彼女をね」
「着いて来るんじゃねぇしーっ!!」
蜂比礼は地上から追いかける零に向かって中指を突き立てた。
「オレはお前も嫌いだし! いっつもヘラヘラヘラヘラ笑ってて気持ち悪いし!!」
蜂比礼は空中に立ち、ガーガーと喚きたてる。
866 :
零「」&黒龍『』
:2012/02/08(水) 01:02:00.12 ID:Ktk0KhMDO
>>865
『ん?そうか・・・?もしも宛誄が完全に裏切ったとしたら、とっくに魂は離れてるんじゃないか?
蜂の奴もお前の気持ちは分かってるはずだぜ。
ただ、やっぱりお前には心配して欲しいからあんな態度とってるんじゃないか?
それにこの先、お前を襲うであろう奴らが出てきて、そんな現状の宛誄は大丈夫か?問題ないなんて言わせねぇよ♪』
にっこり笑うと、ぽんぽん肩を叩く。
頑張れよ、という意味らしい。
「え?笑ってませんよ。」ニコニコ
「目が細いんだかなんだか知りませんが、笑ってはないです。それとも怒って欲しいですか?」ニコニコ
867 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
(京都府)
[sage]:2012/02/08(水) 23:14:49.59 ID:hA0GMkL80
スレタイが妖怪人間ベムに見えた
868 :
巴津火
[sage]:2012/02/09(木) 23:29:23.10 ID:dB/R1f5Bo
降り積もる雪の中、小さな人影は背中を丸めてのろのろと山を歩いていた。
「……はぁ」
かじかんだ指先を喉元に当てて温めながら、同時にひと掬いの雪で喉の火傷を冷やす。
焼けた傷口の中心では熱の核が覗いており、それは雪に触れて白く湯気を噴いた。
「……うぅっ」
身は寒さに震えながらも喉は鉄火に焼かれる。
本来蛇が苦手とする雪山に巴津火が登ってきているのは、今は海から離れるべきだという
薄れゆく理性が下した判断と、この熱から逃れようとする本能によるものだった。
その顔には濃い隈が出来、頭には雪が積もっている。
まもなく夕闇が迫ってくる刻限、巴津火はたった一人だった。
869 :
:2012/02/09(木) 23:39:49.47 ID:KKnJcKvB0
熱さに耐えながら這いずり回る巴津火のいる場所は、どこもかしこも白く彩られていた。
そこへ、いつの間にかこの白い画用紙に黒い墨を零したように、
彼女は巴津火の白い眼前の光景から姿を現した。
「神代を含めた神への反逆者たちは、
巴津火のあの戦闘を最後にして全員が殲滅された」
ここが雪降る極寒の地であるにもかかわらず、榊の井出達はいつもと変わらない。
黒い長髪と溶け合うような同じく黒のロングコートとパンツ。
防寒具とみられる様な物は見受けられなかった。
「巴津火が私を探していたと聞いた、可能な限りの事は応える」
一応巴津火達には彼女の策略を台無しにされたという事実はあるのに、
いつも通り榊からは感情を呼べるものは感じられない。
870 :
巴津火
[sage]:2012/02/09(木) 23:47:47.72 ID:dB/R1f5Bo
>>869
黒い女の姿を認めた途端、巴津火の表情にぎらりと剣呑なものが過ぎった。
動きを妨げる雪を掻き分け、榊を捕まえようとその両の手を伸ばす。
両眼は見開かれ、言葉の代わりに濃い煙を吐き、その喉は既に言葉を失っていた。
「…ぃ…ぁ」
唇だけは、見つけた、と動いたが、声は明瞭な言葉にならない。
理性を失いつつある暴れ神は、榊の両手首を掴もうとした。
(手を…その手を寄越せぇぇ!)
寒さは確実に巴津火の力を奪い、その動きはいつもよりずっと鈍くはなっている。
しかしその手に捕まった場合、良い結果が待っている予感はしない。
871 :
榊
:2012/02/10(金) 00:00:19.32 ID:XAmdlZP80
>>870
生気が無いわけではないが意思を感じられる訳でもない、
いまいち捉え難い印象の虚無な黒眼を巴津火へと向ける。
口を開かず黙って唯見つめるだけの彼女には、巴津火の手から逃れようとしている様子は無かった。
「手を寄こす事は出来ない。
しかし、このままでは巴津火側の会話は不可能なようだ
善処しよう」
明らかな巴津火への抵抗をする様な妖気や、また彼から逃げようと後ずさる事も無く、
むしろ彼女は巴津火の方へ歩み寄った。
そして彼女は、今までの機械的な動きからは到底想像できないような素早さで、
巴津火の虚を突き右の手を突きだして彼の首を絞めた。
「今現在、私から巴津火へ接触を行なっているが、
逆に巴津火から私への接触は止めておく事を進める」
一瞬首を絞められた息苦しさを感じるかも知れないが、
落ち着きさえ取り戻せていたら、巴津火は喉元の呪いによる痛みが引いているのを感じるだろう。
榊はどうやってか、巴津火の呪いを現在無効化しているのだ。
872 :
巴津火
[sage]:2012/02/10(金) 00:20:58.66 ID:4OupY5ldo
>>871
榊の手を掴むつもりだった巴津火は、
その手が自ら自分の喉へ伸びてくるのを見て、驚いたように目をしばたかせた。
しかし次の瞬間、首を絞められて激しく抵抗する。
榊の手首を巴津火の手が強く掴んだ。
同時にがふりと白煙が吐き出されたが、瘴気を吐くことは最後まで無かった。
(この女っ!)
逆鱗に触れられ落ち着けていないため、巴津火は痛みの減衰に気づかない。
呪詛の無効化により白煙が薄れ始めた時、榊の手首を掴んだまま無理やりその拘束を解くと、
榊の右手を自分の喉の火傷の中へと押し込んだ。
ずぶり、と火傷に沈んだ榊の指先に、傷の中心にある鉄火を握らせる。
「ぅ…けほっ!」
抜け、と声の無い声が榊に命じた。
神代亡き今、巴津火との因果の要であるのは榊。
この鉄の棘を、巴津火自身の力による火を、喉から抜くために、
巴津火は彼女の手が欲しかったのだ。
873 :
榊
:2012/02/10(金) 00:31:25.52 ID:XAmdlZP80
>>872
暴れる巴津火をなおも拘束するように、榊は手を首から離さなかった。
しかし、未だに錯乱状態にある巴津火に榊の力は気付かれず、
腕力では到底抵抗も出来ない彼女は彼の為すがままであった。
そして力尽くで彼女の手は喉の中に押し込まれ、榊は手に強烈な熱を感じたのであった。
「聞き入れよう、しかし私のこのひ弱な力だ。
当然巴津火にも力を貸してもらう必要がある」
だが榊は自身の手を焼く痛みにも眉間一つ動かさず、
なおも冷淡な口調で巴津火の言うそれを強く握った。
そしてあらかじめ呪詛の軽減をしておいた榊は、巴津火の言葉通りに鉄火を力ごと引き抜いた。
874 :
巴津火
[sage]:2012/02/10(金) 00:41:10.53 ID:4OupY5ldo
>>873
榊の手に自分の手を添えて、一気に引き抜く。
火傷の中から焦げ付いた組織と共に鉄の棒が引き抜かれ、雪に落ちて白く湯気を上げ黒く冷えた。
くはっ、と血を吐いた巴津火は、ようやく意味の通る言葉を喋る。
「熱かったか?熱を抑える努力はしたんだぞ。一応な」
にっと口元だけで笑ってみせた。どうやら本気で抑えはしなかったらしい。
榊の感じた熱は、どうやら巴津火からの「お釣り」のようだ。
喋る度に口からは白煙が立ち上るが、喉に開いた傷口からはもう白煙は立ち上っていない。
「でもお前のお陰でやっと眠れる。一時だけどな」
あふ、と大きなあくびをしながらそう言った。
875 :
榊
:2012/02/10(金) 00:49:21.33 ID:XAmdlZP80
>>874
巴津火から鉄火が離れ切った事を確認した彼女は、
力だけでなく肌に関しても人並かそれ以下でしかない為、すぐさま手を離した。
しかし先ほどまで激熱を握っていた彼女の手は、
強烈な温度で赤く火膨れし、見た目からも分かる程深く火傷していた。
だがそれでも榊の雰囲気に波風は立たず、唯凛として巴津火を見つめるだけである。
「私の体は基本的に強くは出来ていない。
巴津火が抑えていようがそうでなかろうが火傷は免れていなかった」
鉄が雪を水に変え、更に蒸発させる音を聞きながら榊は言葉を続ける。
「今眠っても構わないが、私は用が済んだのであればもう帰らしてもらおう」
876 :
巴津火
[sage]:2012/02/10(金) 00:57:40.70 ID:4OupY5ldo
>>875
「ああ、次のを抜くときにまた来い。でなきゃ他にこれを抜ける奴をボクに紹介しろ」
因果の要である榊の他に、この呪詛を定めた神の縁者でも居れば、
この鉄の棒は抜けるのかもしれない。
「ここだと春まで眠れそうだ」
鉄火が溶かした雪の穴の中へと倒れるように落ち込み、
冷えた金棒の傍らにその身を横たえたとき、巴津火は既に眠りに落ちていた。
間もなく夜の雪が全てを埋めてしまう事だろう。
//ここで〆ます。絡みどうもありがとうございました!
877 :
榊
:2012/02/10(金) 01:11:51.74 ID:XAmdlZP80
>>876
役目を終えたらしい榊はただじっと、眠気が出始めた巴津火を眺めていた。
そして彼が寝そべって睡眠を始めようとしてから、
彼女はようやく足を動かして彼とは真反対の方へ歩いて行く。
「確かに呪に精通するものであれば、その鉄の力を軽減することは出来る。
なおかつ因果を共有するものであれば、引き抜くことは可能だ」
数歩歩いてから彼女はそっと立ち止まり、首だけを巴津火に向ける。
「私の物語の改変を成し遂げた事への敬意を、私は巴津火に払う必要がある。
巴津火が実行するかは別として、呪詛解除へのヒントを教えよう
負けを認める事だ。自分よりも下の、時間を経ても下であるべきはずの者が、
自身を遥かに打倒する可能性を認める事だ」
そして彼女は意味ありげな事を言い残し、忽然として姿を消した。
//了解しました!こちらこそ絡みありがとうございました!!
878 :
とある現場の会議室
:2012/02/26(日) 23:10:37.92 ID:8midK07CP
――町の郊外、廃ホテルの大広間
蛙も眠る丑三つ時、晩冬の寒風が枯れ木を鳴らす。
人気の無い廃墟の奥でざわざわとどよめく影たちがあった。
「・・・っだらねーな、なんだこのヌルい集まりはよ。
どーせ、遅かれ早かれ殺し合うんだからとっとと始めりゃいいのに」
帽子を被り、緑の鈴のついた服を着た青年の姿をしたモノは機嫌悪そうに呟く。
足を机の上に乗せ、態度悪げに片手で笛をクルクルと回していた。
メジャーリーガー
世界級妖怪 ハーメルン″
「うふふふふ、皆々様素晴らしい妖気! 妖怪という種は衰退にあると思っていましたが世界は広い!
まだまだ私達の闇の時代です! さぁ皆様! 共に世界を! 導きましょう!!」
白い修道女の服を着て、頭には角が生え、全身に鉄棘の鎧や十字架を付けた少女の姿をしたモノは高らかに声を上げる。
その様子を周囲の影たちは疎ましげに横目で見ていた。
メジャーリーガー
世界級妖怪 モロク″
「主催者とやらはいつまで待たせる気なのだーーーー!!」
黒いガスの塊は叫ぶ。黒いガスは稲妻のような触手を伸ばしペットボトルから水をグビグビ飲む。
黒いガスの中央には巨大なギョロリとした目が辺りを睨みつけた。
メジャーリーガー
世界級妖怪 バックベアード″
879 :
叡肖
[sage]:2012/02/26(日) 23:28:05.82 ID:KzpTUxjFo
>>878
(なんの妖気かと見に来たら)
少し前まで、牡丹灯篭を貸して貰っている骨女と貸出料の交渉をしていた衣蛸の叡肖。
今は、廃ホテルの汚れた壁に寄りかかり、擬態により目立たないようにしていた。
着慣れた紺の官服も今は灰色に色調を変え、壁の皹に合わせて模様も入っている。
夜の廃墟で無くばすぐさま見つかってしまっただろうが、集う妖怪の誰かしらに似せながら
ここまで入ってくることは出来た。
(こんな事なら、さっさと帰って憂さ晴らしに酒の一杯でも呑む方を選ぶべきだった)
バックベアードの巨大な目に、目の妖怪特有の特殊な眼力が無いことを願いながらも、
妖気を極力抑えた叡肖はその場に忍んでいた。
(巴津火は勝手に居なくなる、骨女は強欲だ、仕事は減らない、あー糞っ!)
しかし、現状に苛々するほどに衣蛸の頭からは磯臭い湯気が立つ。
880 :
世界級妖怪&StoryTerror
:2012/02/26(日) 23:53:26.60 ID:8midK07CP
ざわめく影達の中に降り立つ一人の小柄な男。
喪服のような黒いスーツに大きなサングラスを掛けている。
「遠い所からよくお集まりいただきました皆様。
私達はストーリーテラー″、現在の百鬼の争いの黒幕の内の一人です」
小柄な男の背後で形容しがたい紫の影が踊っていた。
「今回の百鬼の主の争い、ルールは簡単です。この町で最も強い妖怪になること″
報酬はなんでも望みを1つ叶えて差し上げるということでございます」
今さら何を言う、さっさと話を進めろ、などと言う声が辺りから上がる。
小柄な男は意に介することもなく話を進めていく。
「私達百鬼の争いの黒幕達としては今回の争いの平穏さは予想外の事でありました。
この町の妖怪達はかなりの力を持ちながら、争うよりも平和と平穏を選び、
本来人を畏怖させる存在の者達ですら人を共に生きる存在としている。
しかしそれは私達にとって若干、都合が悪い事なのです。妖怪はもっと争わなければならない。
競争無き命に進化は無い、このままでは進化に取り残され過去の遺物となってしまうのも時間の問題でございます」
この話にいきり立つ影達が居た。
ふざけるな、そんな腑抜けた妖怪など滅んでしまえなどと言う者達もいた。
黒服の男は話を続ける。
「よって、その平穏を破り争いに勢いを付ける為に皆様をお呼びした次第でございます。
しかし皆様はかなりの実力をお持ちの方々。強い者同士で潰し合いをし、
疲弊した所をこの町のそれほど強くない妖怪に持っていかれてはつまらないでしょう。
そこで皆様にはまず・・・」
「この町の戦える妖怪″を標的に動いていただいてはいかがでしょう?」
881 :
叡肖
[sage]:2012/02/27(月) 00:08:00.77 ID:tSUQG7Huo
>>880
ストーリーテラーの「百鬼」という言葉に、叡肖の眉間の苛立ちを示す皺はかき消えた。
代わりに面白そうな笑みがその口の端に上る。
(世界妖怪が「百鬼」の意味を知っていて、かつそれを目指すだと。こいつは面白い)
しかし一つ気になることもあったので、口元に片方の袖を当てて壁に音を跳ね返させ、
どこから声が響くか判りづらくした上で問いかけた。
「戦うのは大いに結構だが、百鬼の争いに黒幕がいるのなら、主を目指したところで
その黒幕とやらに出し抜かれるに過ぎないんじゃないかね」
結局最後に美味しいところを持って行くのはこの町の妖怪ではなくて、
その黒幕ではないのかと、叡肖は指摘した。
「俺らはただの駒にはならないぞ」
積極的に首を突っ込むことにした衣蛸。西洋妖怪のふりをすることにしたようだ。
882 :
世界級妖怪&StoryTerror
:2012/02/27(月) 00:25:53.55 ID:qtMbDKVmP
>>881
「・・・」
サングラスの奥の刺すような瞳が叡肖を見据えた。
背後で形容しがたい赤紫の影が踊る。
「確かに、いきなり連れてこられて信じろというのが無理な話ですね。
しかし私達はあくまで裏方です、あくまで皆々様や妖怪達の進化を促すことが目的、他意はありませんよ」
ツカツカと黒服は叡肖に歩み寄っていく。
叡肖には既に周囲の妖怪達から不審な目、殺意の籠った刺すような視線を放射能のように浴びていた。
事前情報もなしに声を飛ばしてしまったのがまずかった。
いまさら周知の事実をこんな集まりで行ってしまうのは自殺行為・・・。
「それにあなたにもあるはずでしょう?
危険な賭けでありながら、命を賭した戦いでありながら、それでも参加したくなるような焼け付く願い」
既に叡肖を取り囲むように妖怪達が輪を作っていた。
そんな中でも黒服は無表情な顔を近づけ、これだけの妖怪を集めた殺し文句を言い放つ。
「願い事を3つ言ってみてください。
私達ストーリテラーがそれを叶えられるか叶えられないかで答えてさし上げましょう」
883 :
叡肖
[sage]:2012/02/27(月) 00:42:35.23 ID:tSUQG7Huo
>>882
「もちろん危険な賭けほど楽しいさ。特に、勝ち目が見えてきた時には」
博打の楽しみは、遊び人には馴染みのものだ。
金以外のものを賭けた時のスリルと興奮、その熱の裏側での密やかに進む冷徹な計算とには
芸術的とも言えるレベルのものがあることを、叡肖は身を持って知っている。
「ではお言葉に甘えて3つの願い事を言おうか」
刺すような敵意の中で、叡肖は平然と黒服に答えた。
「一つ目は、新鮮で澄んだ人の目玉一組」
あたりを見回して周囲の妖怪の反応を見る。
「二つ目は、この上なく美しい女の頭髪」
ここまでは、いかにも妖怪らしい物を要求する叡肖。
「三つ目は、この俺の身の安全、だな。お手並み拝見といこうか」
ストーリーテラーと妖怪たちに、自身の素性がばれていることは織り込み済みで、
叡肖は3つ目の願い事を口にした。
服から除くその腕と足とは、既に吸盤の付いた本来のそれに変じている。
884 :
世界級妖怪&StoryTerror
:2012/02/27(月) 00:55:17.60 ID:qtMbDKVmP
>>883
紫の影が蠢き、美しい少女の姿になったかと思えば。
それはバラバラになって人体模型のような各パーツにバラける。
からかうようにパーツがバラける。
「全て叶えられます、しかしそれはあくまでこの百鬼の主に与えられるプライズです。
今ここであなたを生かして帰すも、今ここで脱落″させてしまうも皆様の判断です」
すると横からいきなり声が上がる。
「殺せ、今すぐだ。こちとら奇襲仕掛けてわけわからんうちに一気に数を減らしてぇんだ。
スカした態度も気にくわねぇ、生かしておく道理はねぇよ」
突如、叡肖の体に何処からともなく湧き出した無数の鼠が這い上がる。
ハーメルンが抹殺の序曲を奏でようとした。
885 :
叡肖
[sage]:2012/02/27(月) 01:07:22.08 ID:tSUQG7Huo
>>884
「俺の身の安全が叶えられない時点で、もう黒幕さんには信用無いっての」
博打には博打のルールがある。いかさまがバレたらそこで賭けは成立しないのだ。
そして鼠に這い上がられたまま、ハーメルンの傍へつかつかと寄ろうとする。
「あんたも、スカした態度を取ることの百や二百くらいはあったんだろ?」
ニヤニヤと笑いながら、鼠にかじられているその腕で、ハーメルンの肩を叩こうと腕をのばす。
袖口から見えるその腕の表面では、色素胞が文字を成そうと蠢いていた。
腕がハーメルンに触れたその時に、「雷」の文字で自身にたかる鼠もろとも電撃を食らわすつもりである。
886 :
世界級妖怪&StoryTerror
[hage]:2012/02/27(月) 01:25:06.48 ID:qtMbDKVmP
>>885
バチン、と閃光が弾けた。
暗いホテルのホールに一瞬の光が駆け巡る。
煙を上げるハーメルンが、その電流走るその手を掴み。
殺意の籠った眼光が叡肖を貫いた。
「この程度なのか、極東の妖怪」
恐ろしい力で叡肖を投げ飛ばし、罅の走る壁に叩きつける。
「踊り狂って死に晒せ」
そうささやいて笛の音を鳴らすと同時に、鼠達は叡肖の体に溶け込んでいく。
溶け込んだ鼠達は感覚神経へ溶け込んでいき、
激痛を撒き散らしながら神経を登っていき、やがて脳へと達する。
笛の音は鳴り響く。
ハーメルンの死の舞曲が始まろうとしていた。
887 :
叡肖
[sage]:2012/02/27(月) 01:39:53.67 ID:tSUQG7Huo
>>886
投げ飛ばされた叡肖は本来の蛸の姿に戻る。
「おっ、なかなかの力じゃないか。流石に少し痛いな」
壁に叩きつけられても、衣蛸はぐにゃりと柔らかく変形し、骨折はしない。
そして鼠たちによる苦痛の中で、叡肖の脳は、痛みを冷静に分析する。
(痛みは一つ、中枢のみか。鼠だけに、蛸には詳しくないと見える)
「OK、久しぶりに蛸踊りでも披露しようじゃないか」
そしてうねうねと8本の足を広げると、大蛸と化した叡肖ははホールに集う妖怪たちをなぎ払い、
あるいは「衣」の膜に包んで飲み込み、文字通り八方に腕を伸ばして暴れ始めた。
ちなみに、蛸の脳にあたる神経塊は中枢の「脳」の他に、それぞれの足の付け根の、
合計9つもあったりする。
888 :
世界級妖怪
[hage]:2012/02/27(月) 01:52:53.74 ID:qtMbDKVmP
>>887
「ギロチン」
突如、太い一本の腕が切断された。
修道女の服を着た少女がほほ笑む。
「ふふふ、なかなか勇敢な方ですね。
この多勢の中でたった一人でかなうと思い出のようです!
しかしそれはあまりにも傲慢な思い込みであり(ry」クドクドクド
修道服の少女がほほ笑みながら、語りだしている横でハーメルンは舌打ちする。
「チッ、タコの妖怪か・・・上手くいかねぇわけだ」
しかしとうとう背後で黒い雷雲が声を上げた。
「舐めるなよぉ、このでぇぶぃるぅふぃっしゅぅめがぁああああああああああ!!!」
突如、叡肖の周囲の大気″が変質化したかと思うと。
黒いガスが発生し、その次の瞬間。
赫々の炎が辺り一面を包み込んだ。
遅れて響き渡る、爆音。
ホテルどころか周囲一帯は灼熱の爆炎で吹き飛ばされた。
889 :
叡肖
[sage]:2012/02/27(月) 02:07:20.22 ID:tSUQG7Huo
>>888
(おいィ、三番目の右足ぃ、お前大丈夫か?)
(大丈夫だ、やられたのは四番目の足だ)
(そうか、三番目が無事か)
(それなら良かった)
ギロチンで斬られた直後、8つの脳内でそんな情報が飛び交った。
中枢の脳は頭痛でお休みしている。
(何か来るぞ、総員退避ーっ!!)
急な大気の変化を、7本の足はその先端の味で感じた。
蛸は足先に味覚があったりするのだ。
(熱い、熱いよおいっ?!)
(しっかりしろ、直火じゃないだけマシだと思え)
(耐えろ、耐えるんだ俺っ!)
(わーっ!!)
(俺、殻のある衣蛸で良かった…)
殻の中に小さく篭った衣蛸は、瓦礫と共に敷地の外へと吹き飛ばされていった。
890 :
世界級妖怪&StoryTerror
[hage]:2012/02/27(月) 02:23:42.00 ID:qtMbDKVmP
>>889
「ゲホッゲホッ、クソが! 派手にやりやがって・・・死亡確認ができねぇだろうが!」
ハーメルンが瓦礫の中から起き上がると、
ジリジリと焦げる爆心地ともいうべき場所を見据える。
「ふはははははははーーー! あれだけの攻撃だ、生きてはおるまい!」
バックベアードが得意気に高笑いをする。
「しかも本拠地ぶっ壊して山火事まで・・・、これじゃあ奇襲は無理か」
モロクはケラケラと笑いながら瓦礫の中から起き上がる。
「ふふふ、いいではありませんか! 元々真っ向から戦うつもりだったのです!
宣戦布告としては丁度いいではありませんか! 姑息に闇討ちする必要などないのです!
我々は人を導くべき選ばれた妖怪なのですから!!」
モロクは祈るように手を組みながら、高らかに宣言する。
「ちっ・・・粗方片付いたらこいつらから殺してやる・・・!」
そんな爆発の後から、汚れ1つないスーツで去りゆく影が一人。
「流石は世界選抜といったところでしょうか、あの爆撃でも怪我を負ったものは0。
さて、この者達がどんな物語を紡ぐかは・・・またの機会に」
891 :
叡肖
[sage]:2012/02/27(月) 02:38:49.68 ID:tSUQG7Huo
>>890
炎の中から3人の妖怪へと、香ばしく焼ける蛸足の良いにおいが届くかもしれない。
そこから十分に離れた場所で、衣蛸は殻から這い出していた。
「頭、痛つぅ…あれだけの高さを転げ落ちれば、当然か」
笛の音は聞こえず、術による頭痛はないが、吹き飛ばされてさらに斜面を転げ落ちたのだ。
赤く天を焦がす山火事を見ながら、煤けた服を叩いて起き上がる叡肖は既に人間の姿。
痛む頭を押さえつつ、ふらふらと夜の中へ消えてゆく。
「脚、二股になって生えてこなきゃいいんだけどなー。カッコ悪いし」
切れても放っておけばまた生えてくるのが蛸の足だが、時に先が分かれて生えてくることがある。
捕獲された蛸の最多記録は96本足だと言うから、大自然ってスゲェ。
892 :
叡肖
[sage]:2012/02/29(水) 22:38:17.29 ID:zgnfZpv/o
雪の夜でも繁華街は賑やかだ。
『Perfect incompleteness』
そのホストクラブの入り口には、ホストとは異なる姿の人影が立っていた。
ゆったりしたコートの肩には雪片を乗せ、顔の半分をマフラーで隠した叡肖は
店の者に中への案内を頼む。
「アポイント取ってなくてすまないんだが、ちょっと急ぎの話でね」
叡肖からはいつもの磯臭さとは異なる、河童の膏薬の独特の薬臭さが漂っていた。
893 :
夜行集団
:2012/02/29(水) 22:55:19.24 ID:eE6w9USz0
>>892
最近は叡肖がこの店に顔を出す事がよくあり、
新入りである彼もどこか慣れた仕草で、お客の接客に回っている先輩を呼び出した。
「やあやあ、随分と良い香を使っているじゃないか」
そして店の中から出たこの蒼色のホストもまた同じ様に、
慣れた風に叡肖に挨拶をすませる。
「色々僕の方でも気になる事が複数あってね。
取りあえず話は奥でしよう」
通り口で長々と話なんてする訳にも行かないので彼は早々に叡肖を案内する。
夜行集団の方も少し奇妙な動きを察知していたので、
このタイミングで叡肖が姿を現したと云うのは、彼らにとって渡りに船である。
そしていつもの如く叡肖が案内される部屋は、神代の一件でよく使われたあそこで、
そこには既に虚冥が席に座っていた。
894 :
叡肖
[sage]:2012/02/29(水) 23:10:38.82 ID:zgnfZpv/o
>>893
「これが良い香りって氷亜殿、そりゃ皮肉かね?」
叡肖は、マフラーの下でわずかに唇を歪めた。肩を竦めなかったのは、単に襟が痛いため。
しかし、既に営業時刻であるのに、店のNo.1が表に出ていないということは。
「やはり、そちらもか?
電話か文でも良かったんだが、百聞は一見にしかずって言うだろう」
奥の部屋へ案内され、コートを脱ぎマフラーを解いた叡肖の、その頬は火傷で斑になっていた。
赤紫のゆがんだ斑は、首の下まで続いている。
他にも包帯を巻いているのか、すすめられた椅子に座る所作もどこかぎこちない。
「世界の妖怪どもをこの町に集めて、百鬼を巡る争いに参加させる企てをしてる者がいる。
その集まりに潜り込んでみたが、この通りだ。
そちらの掴んだ件は、これに絡む事か?」
何か探しているのか、内ポケットを探りながら叡肖は虚冥にもそう尋ねた。
895 :
夜行集団
:2012/02/29(水) 23:23:19.40 ID:eE6w9USz0
>>894
「いやいや、絆創膏の数が少年の勲章だと言っただけだよ」
静かに笑った氷亜は部屋の扉を開ける。
そして虚冥の隣に空いた席があったので、彼はそこに座る事にしたようだ。
事態の為に叡肖が来れば、直ぐに席を立って仕事から離れる予定は入れていたが、
それでも直前まで接客をしていたので顔には少し疲れが窺えた。
「対話の方で良かったと思うよ?
相手は外国の妖怪、それこそ電線から盗聴、なんて芸当が可能なのもいるかも知れない」
一方どっかりと最初からソファーに座り込んでいた、
この銀髪のホストに疲れは見えず、ぶすっとした表情で叡肖の火傷を見る。
「随分とお前らしくもなく無鉄砲に行ったんだなっていう。
でも、その代償に見合う情報は持って来れたのかっていう?」
こくりとだけ頷いて叡肖に同調し、虚冥は喋り出す。
叡肖がなにやらそわそわとしているが勿論虚冥はそれをスル―である。
896 :
叡肖
[sage]:2012/02/29(水) 23:33:44.30 ID:zgnfZpv/o
>>895
「無鉄砲?そりゃ、殿下のことだ」
叡肖は、やれやれと言った風に、うっかり肩を竦めてしまい、
その途端に走った痛みで顔をしかめた。
「草薙剣は置いたままなんで、いずれ戻っては来るつもりなんだろうが、どこへ行ったやら。
あの殿下が首突っ込んでたら事だと思って、その集まりにも潜り込んでみたのさ」
巴津火の守役としての苦労が、叡肖の表情に苦々しく滲む。
「これが、黒幕の顔だ。ちょうどそっくりな奴があったからな」
雑誌の切り抜きにはあの、サングラスの男。番組収録中だろうか。
897 :
夜行集団
:2012/02/29(水) 23:44:04.98 ID:eE6w9USz0
>>896
「まったくあれだなっていう。
ワガママなやつの傍に居ると疲れて仕方がねえ」
逃げる事も今一できなかった叡肖の身の上に珍しくも虚冥が、
親身な態度で頷きながら叡肖を労わる。
夜行の中でも天狗に次いでトラブルメーカーの彼が、である。
「いいねぇ、如何にも黒幕って雰囲気じゃないか。
で、その黒幕と対面してみての率直な、叡肖君の感想はどうだった?」
身を乗り出して雑誌を覗き込み、あまりにも見慣れた雰囲気にむしろ笑いが込み上げる。
しかし爆笑もしてられないので氷亜はぐっとそこは自制を働き掛け、
叡肖の方の意見を窺う事にした。
898 :
叡肖
[sage]:2012/03/01(木) 00:01:17.09 ID:gVZck6/Vo
>>897
「わがままだけならどうとでもできる。が、ありゃ神格持ちの面倒臭さも備えてるからな」
虚冥から、らしくない同情をされて、変な居心地の悪さを感じた叡肖は、半眼で鼻を鳴らした。
「感想?黒幕は、おそらくこいつ一人だけじゃないだろう。
俺が見た妖怪がこいつの思うような結果を出さなければ、また次の群れを集めて煽るだろうな。
もしかしたら既に、次の駒を他所で集めているかもしれない」
叡肖は、どんな妖怪が居たかその詳細をここで明かすべきかどうか、迷っていた。
この町の妖怪がターゲットなのだから、竜宮本体は安泰なのだ。
その気になれば、高みの見物を決め込むことは出来る。
(夜行集団の力量をみるいい機会になるかもしれないが…さて、この情報はどう売ろうか)
巴津火が行方不明の今、夜行集団が世界妖怪を食い止めてくれているならば
叡肖にも陸での捜索をする時間が出来るわけだ。
そんな衣蛸の腹の底を、ホストであればある程度見透かすことができるかもしれない。
そしてとりわけ優れた者であれば、交渉で上手く情報を引き出す術も持っているだろう。
899 :
夜行集団
:2012/03/01(木) 00:16:01.42 ID:oXMCDHoG0
>>898
「今のとこ唯の扇動家、っていう認識でも良いってことかい?」
感想を聞いた氷亜は小さくため息を付く。
その裏で虚冥は扇動、という単語が少し耳に障ったらしく、
少し不機嫌そうに眼を他方に背けた。
「確かに黒い奴が気になるけどな、それよりも気にしねえといけねえのは、
なによりも扇動される立場の奴らのメンツだろっていう」
そして虚冥はそのまま話に言葉を挟みこむ。
叡肖が黒幕と呼べるような存在を、目視できる範囲まで事態に接近していたのなら、
当然の如くそこに集まって面々の顔等はわれている筈。
「そこに集まった全員が、お互い顔を見れるような状況だったのかい?」
細かい読みあいも必要だろう。
だがどちらにせよ今まで情報を伝えてもらった叡肖相手に、
今更牽制等意味が無いので、氷亜は笑顔を伴わせて直球に聞いた。
900 :
叡肖
[sage]:2012/03/01(木) 00:32:36.35 ID:gVZck6/Vo
>>899
「この男は、主になったものの願いを何でも三つ叶えると言って、それを餌に妖怪どもを煽っていたが、
自分が先頭に立って主争いを戦おうというつもりは無いらしい。
誰かを主につけることで、その男にどんな利があるのかは判らない。
単にそうあるべき存在なだけかもしれないが、俺が見せられたものが幻でなくば、
願望を具現化する能力はあるようだ」
百鬼の主の願望を叶えられるということは、それだけでその主以上の力が黒幕にはあると見ていい。
「ああ。暗い部屋で、そこそこの判別が付く程度にだが、見た」
氷亜の問いには頷いた。
相手が直球で来たならば、叡肖も直球を返すまでだ。
「そいつらの詳細も欲しいか?それなら、こちらにも欲しい情報があるんだが」
夜行集団が巴津火の居場所について何か聞くことがあったら教えてもらうことを条件に、
ハーメルン、モロク、バックベアードの外見および能力について、
叡肖が知る限りの情報を渡すことを提案した。
「俺の仕事の優先順位は、他所の妖怪との戦いよりも、あの暴れん坊の保護のが上なんだ」
出くわして喧嘩でも売られない限り、叡肖は積極的には戦いには行かない、いや、行けない、
ということを、氷亜たちに説明したのだった。
901 :
夜行集団
:2012/03/01(木) 00:53:28.53 ID:oXMCDHoG0
>>900
「なんなんだろうね。
場合によってはこの世界に大きな大損害を出しかねない、
大きすぎるデメリットを生み出す可能性があったとしても主にしたいなんて」
叡肖にここまで手傷を与えるほどの強大な妖怪達が、
なにがしかの願いの為に主を目指すというある意味真っ当なを意思もっていることへの驚きもあるが、
それ以上に氷亜としてはやはり黒幕の方が気になったようである。
「でもそいつは別にスルーしておいても良くないかっていう?
仮にそいつがこの主決めの主催者だとしても、
単純にこの膠着した事態を打開したいだけだろ?」
虚冥はそんな氷亜に口を挟んだ。
「俺が気になってるのはやっぱりメンツの方だ。
そのメンツ見て勇猛果敢に攻める決断するのも、逆にやつらに日本のライバルを殲滅させてなおかつ、
奴らの間での共食いが収まってから最後の最後をよこどりするチャンスが来るまで、
おっかなびっくりに姿隠すにしてもやっぱり顔触れ次第だっていう」
最近になって滝霊王だったり魔王だったり、何がしかに首を突っ込むことが増えた夜行集団であるが、
彼等の基本原則としてやはりあるのは、ひたすら隠れて隠れて、
無関心を続けて潜伏し続けるというもの。
日本妖怪、という仲間意識の薄い彼等は直ぐに雲隠れする事も選ぶ。
「それと、情報の交換条件がそんなものでいいのかっていう?
俺からしたらあの餓鬼の悪戯には痛い目にあったからな、
早く捕まえてほしい分お前が求めなくても奴の情報なら教えるぞ」
902 :
叡肖
[sage]:2012/03/01(木) 01:20:10.95 ID:gVZck6/Vo
>>901
「さあな。百鬼の主を狙いたい妖怪は、戦いの広がりを喜ぶだろうが……」
主争いで名を上げたがっていた宝玉院家の次期当主を、叡肖はふと思い浮かべた。
そして虚冥の問いに、叡肖は説明を返す。
「山のことは俺の得意分野じゃないし、山の妖怪の縄張りはややこしい。
殿下を捕まえるのは出来るが、探して追い詰めるまでは、陸での協力者が必要なんだ」
淡水の水妖ならば陸でも捜索は進むだろうが、叡肖は蛸なのだ。
「ミナクチの奴は部下の不始末を償うためもあって、陸には当分出てこられないから
あてにはできないし」
神代の件で海の神格持ちが数多く射殺されて、そちらでの手が足りないのだ。
雨の多く必要な春夏に向けて、手のあく神格持ちはそろって準備に駆り出されていた。
黒蔵が旱の元になった件で、ミナクチは特に厳しい扱いを受けている。
叡肖からみればいい気味だ。
「もちろん、居場所がわかったら教えるだけじゃなく、捕まえておいてくれたら嬉しいんだがな」
衣蛸は少しばかり図々しく虚冥へ笑って見せた。
903 :
夜行集団
:2012/03/01(木) 01:31:03.12 ID:oXMCDHoG0
>>902
「なるほどね。根本的な節理の壁がある以上、
その条件の価値も高騰して、結果情報料と釣り合ってくるってことなんだね」
納得したのか両名はまた深く椅子に座り込む。
お互いにマイナスの少ない交渉であるだけに、夜行集団は割と手早く契約を結ぶことにした。
「了解した、契約成立だっていう
でも、捕獲はお前らに一任するからな。」
別に捕獲も請け負っていいじゃないかと宥める氷亜をよそに、
言い切った虚冥は言葉の最後に、ずいっと顔を叡肖の方に近づけて念を押した。
904 :
叡肖
[sage]:2012/03/01(木) 01:44:38.33 ID:gVZck6/Vo
>>903
「そういうことだ。では、契約成立」
山ではありふれたものが海では貴重だったりする。その逆もまた然り。
「あの場に居た妖怪の情報だ。俺がやられた3人については、絵も描いてみた」
詳細を記した紙を広げて氷亜に渡し、名前はわからないがと前置きをしてから叡肖は
それぞれの妖怪の能力と特徴についてを2人のホストに伝える。
「この火傷が治るまでは、俺はこいつらに会いたくないね」
最後にそう言って、叡肖は説明を終えた。
色素胞も吸盤も損傷したままでは、戦うには不利なのだ。
905 :
夜行集団
:2012/03/01(木) 01:56:29.61 ID:oXMCDHoG0
>>904
叡肖から紙を手渡され、二人は説明を聞き持って覗き込む。
そこには海外の妖怪について予備知識のほとんどない二人でも、
十分にそれがどのようなものであるかを認知させるほどの大妖怪達が羅列されていた。
「これはこれはご丁寧にっていう・・・」
「叡肖君、この情報は他の誰かに伝えたかい?」
内容の異常さに息を飲んだ虚冥の隣で、
氷亜は少し落ち着きを取り戻して叡肖に質問した。
906 :
叡肖
[sage]:2012/03/01(木) 02:08:57.51 ID:gVZck6/Vo
>>905
「いや、まだ俺ら竜宮の者しか知らない。
町の妖怪が的だから、一番最初にここへ伝えに来たんだ」
他にもこの情報が欲しい町の妖怪は居る筈だ。
氷亜から露希たちへ伝わるであろう事は確実だが、牛神神社や宝玉院家にとっても
知りたいことではあるだろう。
「その情報は今が一番、値が高いと思うよ。俺もあまり動けないんでね」
転売するなら情報は新鮮なうちに売れ、とでもいう風に、氷亜へ含みのある答えを返した。
「他に質問が無ければ、そろそろ失礼させてもらう」
時計を気にした叡肖。
907 :
夜行集団
:2012/03/01(木) 02:23:11.46 ID:oXMCDHoG0
>>906
「いやいや、僕たちとしては叡肖君にそのせっかくの情報を
街のそこらじゅうに安売りして欲しいんだよ」
叡肖のもっともな提案を氷亜は片手を振って断った。
その代り氷亜はに提案された内容は、むしろその全くの正反対。
「何も僕たちが絶対彼等を打倒しなければいけないのでもないし、
主だけ目指す以上彼等の来日はありがたいことでもあるんだ」
ここの土地を司る神々や妖怪ともなれば西洋の害敵と、
それが勝てる見込みなどがなかったとしても戦う必要がある。
しかしその縛りは夜行集団には適用されていない。
それに、彼等が動きにくい理由はほかにもあった。
「それと情けない話。変に彼等に宣戦布告して、
不意打ちもらって姫に何かあったりなんかしたら、それこそ僕たちは終りなんだ」
だから極力その情報を言いふらしてよ、
と氷亜は時間が気になりだした叡肖を見送る為に立ちあがりながら頼みごとをした。
908 :
叡肖
[sage]:2012/03/01(木) 02:40:56.32 ID:gVZck6/Vo
>>907
「この忙しい怪我人をさらに働かせようというおつもりで?」
氷亜へと、口元だけで笑ってみせた。
夜行集団がこの情報の拡散を頼みたければ、叡肖の他に伝手があるはずなのだ。
「我らは海の者。川を通じて噂を広めるのがせいぜいです。
陸の者との繋がりを、あなた方ほど多く持っては無いのですよ」
妖怪のホストクラブであれば、妖怪の客と噂もまた集まり、交換される場である筈。
その繋がりの他へも広めたければ、零なり露希なりに頼めば良いのだ。
「もちろん、竜宮と繋がりのあるあの診療所には、これから伝えに行くんですがね」
あそこは巻き込まれないようにしなくては、と叡肖は立ち上がるとコートを身に着ける。
「この町の妖怪と繋がる手を一番お持ちなのは、貴方方ですよ」
そして立ち去り際に、氷亜たちの店の賑わいを見渡してそう呟くと、人通りの中へと消えていった。
909 :
夜行集団
:2012/03/01(木) 02:54:23.98 ID:oXMCDHoG0
>>908
「分かってるよ、だから僕たちが叡肖君に頼みたいのは極力。
それが君にとっては川の伝いなのかもしれないけど、
僕たちが慣れ合いそうにもないコミュニティーに広げて欲しいのさ」
夜行集団がこの街でその話を蔓延させたとしても、
そして配下の者達に山や他の街に伝えさせたとしても、
やはりピンポイントに主になる願望を持つ者にその情報をしっかりと伝えるには、
叡肖などの手が必要であるのだ。
じっくり広がればいいだろうなんて悠長にもしていられない。
そして更に主の希望者を海外の妖怪との戦闘にけしかれるにしても、
それで夜行集団がその希望者に見つかってしまっては本末転倒。
「どっかのお坊ちゃんだったり、正義感満載の3人組だったり、
君は重要なカードに事欠かないからね」
無理は承知なのであくまで極力、とフォローを挟んでおきながら、
氷亜は去っていく叡肖を見送った。
910 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
:2012/03/09(金) 22:15:57.79 ID:jykKTDfro
元能力者スレ住人はこんなスレ捨てて能力者スレに戻ろう
911 :
世界級妖怪&StoryTerror
[hage]:2012/03/10(土) 21:35:05.03 ID:l/trhakfP
路地裏にて、赤く光る眼が暗闇を駆け廻っていた。
壁を走り、狭い道を押しのけ、物陰から覗いている。
「ちっ、面倒なこった・・・」
フェンスの張られたビルの屋上にて、緑の服を着た青年は忌々しげに呟く。
(予想していたよりもこの町の妖怪達は手強い、俺達の存在がそこまで広まっていないのが幸いか)
「こりゃあ、マジで同盟正解だったかもな」
海の向こうから来た妖怪・ハーメルンが町の中に包囲網を形成した。
912 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
[sage]:2012/03/10(土) 21:35:53.08 ID:l/trhakfP
//名前欄訂正
世界級妖怪&StoryTerror → ハーメルン です
913 :
叡肖
[sage]:2012/03/10(土) 21:45:33.13 ID:x7PIseofo
紺色のコートを着込み、片手には黒い鞄と布に包まれた四角い箱。
何処にでも居そうなサラリーマンに化けた衣蛸は、薬臭さを微かに漂わせながら
足早に目的地へ向かっていた。
明るい繁華街を通る間、その顔の火傷を隠していたマフラーは、
暗がりを抜ける今は呼吸しやすいように緩められている。
「ちっ」
ミナクチが居たら押し付けるつもりだった仕事で、そこを通りかかっていた叡肖は
火傷のために感覚が鈍っているその皮膚で、何かの気配をうっすらと察知した。
(しくじった)
いつもなら、もっと早く気配は察知できた筈だった。罠に踏み込んだ感覚をひしひしと感じながらも
しかし、内心を気取られぬようあえて歩調は変えず、気配を探りながら暗がりを歩いてゆく。
(…このあたりなら人目はないか)
ポケットからタバコでもとりだすように気楽に、使い慣れた筆を取り出しながら、路地の奥で立ち止まった。
914 :
叡肖
[sage]:2012/03/10(土) 21:46:23.82 ID:x7PIseofo
// 安価忘れ失礼
>>913
は
>>911
へです
915 :
ハーメルン
:2012/03/10(土) 21:59:02.85 ID:l/trhakfP
>>913
ザワザワと雑踏が入り乱れる。
携帯に語りかける者、子供の手を引く者、酔って足取りもおぼつかない者・・・。
それぞれが賑やかで平凡な風景を形成していた。
しかしハーメルンの魔笛が響き渡った時。
繁華街の人々が一斉に立ち止まった。
ガヤガヤとしていた繁華街は一瞬で静まり返り、人々が瞬きもせず身動き一つせず、
叡肖の入った路地裏を見つめていた。
突然、1人が動き出したとき、それを皮切りに一斉に人々が路地裏へ殺到する。
ある者は地面に落ちていたビール瓶を持ち上げ、ある者は持っていたカバンを振り上げ、ある者は乗っていた自転車を持ち上げ。
罵声のような大声を張り上げながら、叡肖へと襲い掛かっていった。
916 :
叡肖
[sage]:2012/03/10(土) 22:19:23.85 ID:x7PIseofo
>>915
「そう来るか…」
(人間相手に、あまり派手やらかすのは始末書もんだしな…)
げんなりした表情で役所づとめを呪いながらも、叡肖は箱を左の小脇に抱え
鞄はしっかり左手で持ち、筆を口に咥えると右腕を蛸の触腕に変えて上方へ伸ばした。
街灯とそこへ繋がる電線に腕を絡めて身体を宙へと引き上げる。
ひょいと足を曲げて振り上げられた自転車を余裕で交わした叡肖だったが、
今度はビール瓶が宙を飛んできて肩に当たる。
電線にぶら下がった約3mの高さから見下ろせば、下ではまだカバンを投げようとする人間も居て、
叡肖は焦った。
「おい!」
(こいつらは思考を残しているのか、それとも完全にあやつり人形なのか)
あやつり人形ならば姿を変えても覚えているものは居ないだろう。
もし、わずかでも思考していたら、人間の記憶に残る真似は出来ない。
それを確かめる術を一つだけ、叡肖は持っていた。
(少々もったいないが、荷を減らすか)
人の手に提げたままの黒い鞄の留め金をはずし、人間たちの頭上から中身をぶちまけた。
ドサドサと、あるいはひらひらと、帯で巻いたものバラのもの、一万円札の雨が人間たちに降り注ぐ。
(さて、どう反応するかな)
空になった鞄を放り捨てると、叡肖はブランコのように身体を振って
少し先の建物の壁面へ飛ぼうとする。
917 :
ハーメルン&群衆
:2012/03/10(土) 22:34:45.75 ID:l/trhakfP
>>916
(そう来たか・・・、安心しろよ。今は″ただの傀儡、変化を解いても見つかることはねぇ)
ハーメルンが屋上から人に群がれている叡肖を見下ろしてほくそ笑む。
目を血走らせた群衆は舞い降りる札束に目もくれず、
叡肖がぶら下がっている両脇電柱に集まっていた。
突如、コンクリートの電柱がへし折られ振り下ろすように叡肖を地面へ叩きつける。
人々は腕に血管を浮き上がらせ、激しい音を立て紫電が弾ける電柱の先端を叡肖へと向けた。
「変化を解けば、俺も術を解くだけさ。
人の姿のまま強化された俺の群衆に八つ裂きにされるか、
大蛸の姿を群衆に晒して弾圧を受けるか・・・どっちでも好きな方を選びな!!」
神社の鐘付きのように、叡肖の居る場所へ2本の電柱が凄まじい勢いで叩きつけられた。
瓦礫が飛び、千切れた電線が宙を舞う。
918 :
叡肖
[sage]:2012/03/10(土) 22:57:26.88 ID:x7PIseofo
>>917
くるくると回りながら箱が飛んでくると、ぽとりと屋上へ落ちた。
その箱を追うように、蛸の腕が屋上へ這い上がってくる。
「えげつないねぇ」
あれほどの数の人間を無体に扱うことは、叡肖には許されていない。
故に、叡肖は人間達からは逃げの手を打った。
一撃は足を一本犠牲にして受け止め、身代わりに地上へ落としたコートへと
人間たちが殺到している隙に、ジャケットの裾からもう2本、
蛸の触腕を伸ばして壁を這い上がってきていた。
(流石に、きついな)
新たに現れた触腕はところどころが白く焼け、緩んだ包帯が絡み付いている。
電柱のダメージを受けとめた足は、屋上に青く濡れた足跡を残す。
「それで、あのコートの弁償はどこに請求すればいいのかね?」
2本の触腕以外は人に近い姿を留めた叡肖は、筆を人間のままの左手に持ち、
傷ついた触腕の包帯を人のそれに戻した右手で解きながら、
皮肉げに屋上に佇む者へと問いかけた。
919 :
ハーメルン&群衆
:2012/03/10(土) 23:09:15.80 ID:l/trhakfP
>>918
「ハッ、よくここがわかったな」
ハーメルンは笛を片手でトントンと叩き、叡肖を見据える。
「だがどうする? テメーが絶望的なのに変わりはねぇぜ」
群衆達が人間離れした動きで壁を登り始めた。
じわじわと蟻の様に黒い波が建物を飲み込んでいく。
「それとも、何か勝算でもあってか?」
ニタリ、とほくそ笑んでいた。
920 :
叡肖
[sage]:2012/03/10(土) 23:26:47.52 ID:x7PIseofo
>>919
「鼠の好物とされるのは、こっちでは米だがそっちではチーズだったな」
傷付いていた触腕は2本、故に包帯も2本ある。
解いたばかりの包帯の一本に、叡肖は筆を走らせた。
「で、苦手なものは何だったかと思ってね?」
叡肖の筆で『機尋』と記された包帯は、うねうねと動き始め次第にその形を変える。
鎌首をもたげた大蛇と化した包帯の先が大きく口をあけたとき、もう一本の包帯へも
『蛇帯』の文字が記されようとしていた。
「大食いの蛇と毒のある蛇とでは、さて、ネズ公はどっちがより苦手だったかな」
蛇の尾はまだ2本の包帯としてその手に掴んだまま、叡肖は首をひねりつつ筆先を舐めた。
二匹の蛇の頭は上ってくる人間たちへ、敵意のある威嚇音を放ちながら叡肖を護るように取り囲む。
そして叡肖自身は、青い血の跡を残しながらハーメルンのほうへと一歩づつゆっくりと近寄ってゆく。
(あと4歩で間合いに届くか…)
傷ついた足は、叡肖自身も苛々するほど言うことを聞かなかった。
921 :
ハーメルン&群衆
:2012/03/10(土) 23:44:12.79 ID:l/trhakfP
>>920
「なるほど、苦手な物で強迫でもかけようってか?」
フッと笑ったかと思えば、次の瞬間。
激しい衝突音が鳴り響く。
ハーメルンの手が叡肖の首を掴み、フェンスを突き破って宙吊りにしていた。
「馬鹿か? 俺がネズミなんていうくだらねぇ原型の妖怪だと思ってか」
機尋と書かれた帯が空しくハーメルンに巻き付いていた。
ペ ス ト
「俺の本当の名は魔女狩り″。黒死病の恐怖が生んだ史上最悪の集団ヒステリーさ」
首を掴んでいた手が離された。
922 :
叡肖
[sage]:2012/03/11(日) 00:03:30.67 ID:ar3hQN33o
>>921
「まさか自己紹介を貰えるとは思わなかったよ」
首を掴まれて、叡肖の目がぬらりと輝いた。
(それに、そちらから間合いを詰めてきてくれるとは)
「あのいけ好かない神の副産物ならば、坊ちゃんへの土産にはちょうど良いじゃないか」
手を離された叡肖は、1mも落ちずに壁面に立つ。
蛸の腕の吸盤、火傷で弱りかけているそれでほんの一時だけ、壁面に立つように体を支えたのだ。
ハーメルンとはちょうど90度の角度でまっすぐに立ち、機尋の尾に筆を走らせる。
「嬉しいね、一緒に来てもらおうか」
命じられた『機尋』が、ハーメルンの目と口に巻きついて塞ぐ。
視界を塞ぎ、笛も吹けなくするためだ。
同時に蛸の腕がハーメルンの足首に絡みつこうと伸びた。
『機尋』に追記された『捕縛』の文字は、巻きついてしまえば呪符として作用する。
「『蛇帯』は、あれを取れ」
もう一匹は命じられたとおり、あの箱へと首を伸ばした。
923 :
ハーメルン&群衆
:2012/03/11(日) 00:15:12.73 ID:9eM+mjgXP
>>922
「・・・」
包帯が巻きつかれた、ハーメルンの表情はフッと笑っていた。
「おとなしく落ちときゃ良かったものを」
黒い波が叡肖を包囲した。
幾百の指が翼のように蠢いて、叡肖に掴み掛る。
「お望み通り強化された兵隊共に八つ裂きにされな」
巻き付かれた触手を勢いよく踏みつけ、
ハーメルンはビリビリと巻き付いた包帯を破きながら見下ろしていた。
924 :
叡肖
[sage]:2012/03/11(日) 00:32:45.05 ID:ar3hQN33o
>>923
「落ちるのはこれからだよ」
見下ろしたハーメルンの瞳を満足げに見つめ返し、叡肖は重力に身を任せた。
「そして君も一緒なのさ」
踏みつけるためにはまず足を片方持ち上げねばならない。それは必然的に、踏ん張りを失うのだ。
叡肖は踏まれた際に踏ん張りを失った瞬間のハーメルンの足元を救い、自身の体重をかけて引きずった。
その触腕にはしっかりとハーメルンの足を巻き取り、掴みかかる無数の指の中で完全な大蛸の姿となる。
「こうすれば、人間どもの術が解けるのだろう?」
ハーメルンと共に落下しながら、本来の姿となった衣蛸は、人間達にすばやく殻を盾にする。
ただし、殻を閉じていないので、体の片側半分だけを殻で覆った形だ。
925 :
ハーメルン&群衆
:2012/03/11(日) 00:45:10.59 ID:9eM+mjgXP
>>924
「チッ!」
忌々しげに舌を打つと、ハーメルンの体は無数の鼠にバラけた。
鼠達はバラバラに建物の四方へと走り去っていく。
落下していく叡肖と人間達。
ハーメルンが散ってしまったことで術が解け、人間が覚醒する。
ビルから零れ落ちる者、殻に包まれ衝撃を免れる者、たくさんいたが。
大蛸と化した叡肖の姿は、大衆の目に晒されてしまう。
926 :
叡肖
[sage]:2012/03/11(日) 00:59:48.81 ID:ar3hQN33o
>>924
ぐんにゃりしたその身体が地面へとたたきつけられた瞬間、衣蛸は激しく墨を吐いた。
あたりに大量の黒い飛沫と磯臭さが広がり、それは蛸の墨本来の使われ方通り
人々の間にしばしの混乱を招く。
そして多数の人間たちが正気に戻ると同時に壁面からも落下したのだから、
路地に折り重なった人々のあちこちから悲鳴があがり、気を失ったりする者たちや、
怪我人も複数出ているらしい。
そんなカオスのど真ん中、一人の黒く汚れたサラリーマンが立ち上がると、
思い出したように手に握った包帯を手繰った。
墨で黒く汚れ、書かれていたであろう文字も読めなくなったその包帯の端には、汚れた箱がくくりつけられている
「やっぱりそうすんなりと捕まらないか。
あいつに書く文字はそうだ、『魚』にしよう」
ハーメルンを生け捕る気満々な叡肖はぼろぼろのスーツのポケットを探り、
奇跡的に無事だった携帯電話を取り出すと、混乱に乗じて路地を出て行った。
「あー、もしもし俺。誰か迎えにきてくれないか。
骨女に届ける髪と目玉は無事なんだが、包装がどえらく汚れきって渡せる状態じゃなくてな……」
927 :
以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします
:2012/03/15(木) 12:58:37.74 ID:/SgycJy1o
またパー速に戻りましたのでよかったら参加お願いします
【長く短い物語は】能力者スレ【終わりと始まりを繰り返す】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1331783507/
928 :
バックベアード
:2012/03/25(日) 20:39:46.74 ID:B5WrjgnBP
――鹿羽町
ベッドタウンで栄えた町
しかし特殊な磁気嵐の影響で人は去り、現在は立ち入り禁止区域。
老朽化したビルディングがあちこちに置き去りにされ、
ごみの最終処分場が町の大半を占めている。
そしてこの人が住んでいた、という痕跡は妖怪が跋扈するにはあまりにも居心地のいい場所だった。
「わはははははははははははっ!!」
突如、廃ビル街から爆発が起こる。
そこに潜んでいた数匹の妖怪達が、灼熱の爆風に焼き殺された。
「街の妖怪達に大々的に告知し! こうしてただ待っていれば獲物は簡単に集まってくる!!」
なんと楽な方法なのだと、
稲妻のような触手を生やした一つ目の黒雲は高笑いをした。
929 :
豊田エツ
[sage]:2012/04/06(金) 23:17:28.06 ID:fKVxc5KWo
「今年もこの季節が来たねぇ。毎年、今年の桜が一番綺麗だと思うのよね」
縁側から並木道の桜を遠目に眺めながら、一人の老女が風に目を細めた。
亡夫が傍らに居るかのように独り言をいうのは、彼女にとっていつものことである。
「後で店子さんたちに、桜餅でも届けに行こうかね」
人ならぬ住人たちの住むアパートの大家であるこの老女は、強い風に舞い込んできた
淡い花びらに纏わりつかれつつ、小さな背中を丸めて日の当たる縁側に座っていた。
930 :
現人
:2012/04/06(金) 23:31:10.32 ID:7MQmAmXDO
>>929
「・・・ふー、綺麗に咲いたもんだなぁ」
桜並木を見上げながらゆるゆる歩いている気配が驚く程に薄い青年
見た目は高校生程度に見え、目が完全に隠れる程に深く帽子を被っている
その帽子で前が見えるかは疑問ではあるが、行動からみるに見えているのだろう
「あ、こんにちは。」
そして、縁側に座る人物に気付き、頭を下げた
高校生程度に見えるその青年はどこか現世離れしているようにも見えた
931 :
豊田エツ
[sage]:2012/04/06(金) 23:42:22.59 ID:fKVxc5KWo
>>930
「こんにちは、咲いた桜に、早速の花散らしの風ね」
ちんまりと座布団に座した老女は挨拶を返したが、目深すぎる帽子には気づけない。
年老いてあまり目がよくないのだ。
気配の薄い青年とはまた違った意味で、この老女の生気も酷く薄かった。
「よければこちらでお茶でも如何かしら?さっき、桜餅を作ったんですよ」
少しばかり時間をかけて立ち上がった老女は、青年に座布団をすすめた。
招き入れた客人に茶を出そうと奥の間へ向かうその背中は、光溢れる表から見れば
家の奥の暗がりへと揺らめき吸い込まれて行くようでもあった。
932 :
現人
[sage]:2012/04/06(金) 23:51:55.25 ID:7MQmAmXDO
>>931
「ふむ、ではご馳走になります」
長きにわたり、人と共に暮らしてきた座敷童子にとってそれはとても魅力的な提案であった
少し微笑み、ゆっくりと歩み寄り、座布団に腰を掛ける
「しかしお茶を貰うだけだと悪いよなぁ」
暗がりに消えていく背中を見ながら聞こえないように呟く
何かしらお礼になるような物はないかと頭を巡らせる
933 :
豊田エツ
[sage]:2012/04/07(土) 00:10:58.70 ID:/wSMakbxo
>>932
「お口に合いますかしら」
戸を開け放った縁側へ、日に炙られた畳の匂いと共に戻ってきた老女の携えた盆には、
温かい緑茶の湯飲みと薄皮で餡を巻いた桜餅。
(今年は誰かと桜を見ることができるのねぇ)
青年に茶菓子を出して自らも再び縁側に座すと、老女はほーっと細いため息をついた。
かつて桜餅で夫と喧嘩したのは、この季節のこの縁側でだった。
桜餅といえば京風の道明寺に馴染んで育ってきた彼女に、夫は絶対に長命寺の桜餅、
つまりこの作り方の桜餅でないと駄目だと意地を張ったのだ。
(だから毎年この桜餅を作ることになって)
一人暮らしになってからは道明寺風の桜餅を作る自由もできた筈なのに、
老女は毎年、こうして長命寺風の桜餅をこしらえている。
「若い方にはわからないかもしれないけれど、年を取ると一人じゃ何もかも億劫でね。
こうして何方か居てくれるとそれだけで、茶を飲むにしても楽しみが増えるんですよ」
老女は青年を人間だと思いこんでいるようだ。
934 :
現人
[sage]:2012/04/07(土) 00:25:08.03 ID:jUBZQHrDO
>>933
「ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げ、茶菓子をうけとる
「いただきます・・・、良い味ですね、美味しいです。」
早速と言わんばかりに一口、その後柔らかい笑みを浮かべ感想を口にする
「あはは、確かに俺にはわからないかもしれません
でも、楽しんで貰えるならいくらでも話し相手にくらいなりますよ」
笑みを浮かべたまま、言葉を紡ぐ青年
実際は老女よりも遥かに長い間生きているこの守り神は
当然こういう経験も多々あったのであろうが
今そんな事をいってもどうしようもないとも理解している
935 :
豊田エツ
[sage]:2012/04/07(土) 00:50:13.96 ID:/wSMakbxo
>>934
「沢山作ったので遠慮なく召し上がって行ってくださいな。
私の夫はなかなか味を褒めてくれない人だったけれど、お陰でこれを作る腕は上がったわね」
青年の言葉に、老女の目元の柔らかな笑い皺が深くなる。
(不思議と、昔から居るようにこの場所に馴染む人ね)
守り神の存在故か桜の季節の幻か、遠景の桜の木立がふと滲んで見えた。
(『長い命、と書いての長命寺だぞ。縁起のいいこれじゃなきゃ桜餅は駄目だろう』
「でも桜がそもそも短くして散るからこそ惜しむものじゃないですか」
『だったらなおさら長命寺じゃないか。命短いのは花だけでいい』
「子供じゃあるまいし、わけのわからぬ理屈を捏ねて!」)
蘇る記憶の中の、あの喧嘩すら今は懐かしいと老女は思った。
「年寄りのつまらぬ話に付き合って下さるのね、ありがとう」
そして帽子の青年に、あの日の夫との喧嘩と桜餅の理由をぽつりぽつりと話して、
「…年になると昔のことは何もかも良く思えたりするのよ。
都合よく嫌な事は忘れてしまえて、私は幸せなのかもしれないわ」
そう締めくくる老女はその長い命の終わりをどこか楽しみに待っているようでもあった。
936 :
現人
[sage]:2012/04/07(土) 01:12:52.78 ID:jUBZQHrDO
>>935
「なるほど、通りで美味しい訳ですね・・・、では遠慮なく」
二口、三口・・・とたべ進め味わう度に顔を綻ばせる
「俺なんかで良ければ、何時でも」
ポツリポツリと語られる夫との思い出に、適宜相槌をいれつつ聞き入る
青年の顔に浮かぶ慈愛に満ちたような表情は、力を忘れていても紛れもない守り神の顔だった
「あはは、確かに幸せなことばかり覚えていたほうが良いかも知れませんね
楽しいお話でした」
きっとこの楽しいお話と言う言葉も本心からのものだろう
「今日あったばかりの若造が言うのもなんですが、
その幸せをずっと続けて、長生きしてくださいね」
青年はよくある台詞だが、それゆえに純粋な言葉を紡ぐ
937 :
豊田エツ
[sage]:2012/04/07(土) 01:27:20.97 ID:/wSMakbxo
>>936
「こうして話してみれば昔話というより、ただの年寄りの惚気話だったかもしれないわね。
お恥ずかしい」
老女の頬にわずかに赤みがさした。
「もう十分長生きしてきたつもりでいたけれど、
そう言って貰えるとなぜかまだまだ生きられる気がしてくるわ」
老女がふふ、と笑って少しばかりしゃんと背筋を伸ばしたのは、守り神の純粋さの力かもしれない。
「今日はありがとう、また時折来て下さると私も長生きできそうね」
先ほどまでよりはもう少し生気に満ちて、老女は客人に礼を言った。
青年の名前はあえて尋ねずに、再びの来訪を楽しみに待つつもりだったのだ。
(この先の楽しみがあったほうが、長生きし甲斐はあるものよね)
一人のときよりずっと濃い味になった茶で喉を潤して、老女は揺れる桜並木を見上げていた。
//この辺で〆ようかと思います、絡みどうも有難うございました!
938 :
現人
:2012/04/07(土) 01:38:36.12 ID:jUBZQHrDO
>>937
「人の惚気話というのも案外楽しいお話ですよ。」
多少下世話ですけどね、といたずらっぽく笑う
「あはは、なら迷惑でなければまた来させてもらいます・・・っと」
ゆっくりと立ち上がり、礼をする
「美味しい桜餅をありがとうございました、それでは」
(あなたにこれからも幸多きことを・・・)
力を忘れた守り神の祈りを残し、風景に溶け込むように去っていった
//お疲れ様でした!&ありがとうございました!
939 :
黒蔵
[sage]:2012/04/15(日) 22:35:17.55 ID:J8h6TnEFo
ガス爆発(ということに表向きなっている)に巻き込まれたあの後、運ばれたのがたまたま
この病院だったのは、運が良かったのか悪かったのか。
起き上がれるようになるまでの間、蛇の神に夢枕に立たれて色々叱りとばされた黒蔵は、
決してかけることは無いと思っていた番号へと通話を終えて、病院内の公衆電話の受話器を置いた。
「…何も言われないのが逆に怖いや」
どんよりと疲れた様子でため息をつき、傍の椅子に座り込んだ。
鬼の爪で受けた腹の傷はまだ癒えきっていない。
この公衆電話のあるラウンジに来るだけでも疲れたのに、通話相手はあの衣蛸である。
黒蔵の予想に反して淡々と事情を聞かれ、了解はしてもらえたがどうにも嫌な不気味さが残る。
(氷亜さんたちには何て言おう?四十萬陀には?)
頭を抱え込んでも、悩みの重さは一向に軽くはならなかった。
940 :
東雲 犬御
[sage saga]:2012/04/15(日) 22:46:15.58 ID:jleSLAZlo
>>939
静かな病院の廊下では足音が妙に大きく響く。
規則的なリズムを紡いでいた足音は、不意に停止すると、ゆっくりとしたリズムを刻みだした。
「……何やってる」
こんなところで、と言いたげな鋭い赤目が、椅子の背にもたれかかる黒蔵を捉えた。
東雲は両手を白いポケットに突っ込んだまま、黒蔵のもとに近付いていく。
黒蔵の様子がおかしいことに気付いたのか、東雲が訝しげに瞳を細めた。
こういう勘は妙に鋭い。
とはいえ特に「どうした」とか聞くわけでもなく、しかし何も言わずにどかりと隣に腰掛ける程度には、
この狼も丸くなったのだろう。
941 :
黒蔵
[sage]:2012/04/15(日) 23:00:44.87 ID:J8h6TnEFo
>>940
「もうすぐ叡肖さんが俺を連れに来る」
血の気の無い表情の黒蔵は、犬御にとって忌まわしい名前を口にした。
「俺、急いで出かけなくちゃいけないからさ」
隣に座った犬御と目を合わせることなく、言葉を続ける。
「ここの地下の物置に、俺が使ってた簡易ベッドがあるのは知ってるよな?
マットの下に紙袋があるからそれをお前に貰っておいて欲しい」
何か隠し事を飲みこんだままの表情で犬御に自分の稼ぎの在り処を教えた。
返済のために稼いできた金だが、黒蔵の身柄は叡肖に引き取られるのだから
もうそれをとっておく必要は無いのだ。
942 :
東雲 犬御
[sage saga]:2012/04/15(日) 23:12:09.35 ID:jleSLAZlo
>>941
(蛸?)
東雲の顔が陰る。
鬱蒼とした黒蔵の表情、語り口とあわせて、叡肖の名前がでたことで、
彼の懐疑心はいっそう深くなった。
「どういうことだ」
東雲は椅子から身を乗り出すと、黒蔵を睨みつける。
「話せ。
……俺が素直にハイ貰っておきます、なんていうと思ってるワケじゃねーだろ」
943 :
黒蔵
[sage]:2012/04/15(日) 23:41:13.01 ID:J8h6TnEFo
>>942
「本当は俺、200年前に長に喰われてここにいない筈だった」
身内を喰い殺した罰として、あの時、長に喰われる筈だった。
「蛇神が贄として俺をとることで長と争ってくれたから、長が引いて俺は生き延びた。
代わりに長は、俺がいつか蛇神を喰うだろうと、半ば呪いじみた賭けを吹っかけた」
つい先日、その賭けは蛇神ミナクチに軍配が上がったのだが。
「ここに運ばれて寝てる間に、長が俺の夢枕に立ってさ。俺、叱り飛ばされたんだ。
鳴蛇になった俺の罪を代わりに被って、蛇神は罰を受ける予定なんだって。
また庇ってもらってずっと逃げて隠れて、お前はそれで良いのかって」
犬御に語ることで、腹が決まったのだろうか。
自信なく揺れていた視線が、ようやく犬御を見た。
「さっき、叡肖さんに自首した。多分俺、もうここへは戻ってこない」
944 :
東雲 犬御
[sage saga]:2012/04/15(日) 23:58:41.68 ID:jleSLAZlo
>>943
「――――…………」
時計の秒針が刻む音が、とても遅く耳に届いている。
どれくらいそうしていただろうか。
長く続いた沈黙は、狼の低い声によって切り裂かれた。
「……そうか」
その声に、
怒りは含まれておらず、どちらかといえば、悲しみすら含まれていそうなほど、静かな声だった。
黒蔵から目を逸らした東雲は、真っ直ぐと前を見据える。
赤い瞳は、彼の思惑を奥底に隠してしまっている。
それから東雲は、重々しく切り出した。
「……テメェの過去に何があったか、テメェがこれからどうしようかなんてのは……俺には関係ねえ話だ」
「だが……」と含ませて、東雲は言葉に詰まった。
何かを考えるように、視線を地面に落とすが、
緩く首を振ると、「なんでもない」と口籠った。
「それより、テメェ、……七生はどうするつもりだ」
黒蔵がいなくなるとすれば、恐らく四十萬陀は着いていこうとするだろう。
長年の付き合いから、東雲にはそれが容易に想像できた。
問題は黒蔵がどう対処しようと考えているか、だ。
先程までの重々しい雰囲気とは違い、この話題になると、東雲の口調に僅かながら苛立ちが含まれている気がする。
945 :
黒蔵
[sage]:2012/04/16(月) 00:10:12.58 ID:74oBizHbo
>>944
その名を告げられたとき、黒蔵の肩が小さく震えた。
「俺には上手い嘘が思いつかないんだ。
どんなに上手い嘘がつけても、本当のことを話しても、きっと四十萬陀を泣かせることになる」
犬御の声の苛立ちを感じ取って、黒蔵も次第に言葉が重くなる。
「ひょっとしたら四十萬陀は、ついてこようとすると思う。でも、俺は四十萬陀を巻き込めないし、巻き込みたくない。
さようならは、直接会って言わないほうが良いのかもしれない」
狼の苛立ちを増すことになると予測は出来たものの、どうにも歯切れの悪い答え方しか
黒蔵には出来なかった。
「…ごめん、狼」
口にしてしまってから、それがかえって駄目押しだったことに気づくのは、いつものことだ。
946 :
東雲 犬御
[sage saga]:2012/04/16(月) 00:35:59.67 ID:zgA7nowUo
>>945
「……」
東雲はゆっくりと椅子から立ち上がる。
そして、黒蔵の目の前に立った。
その腕を、初めて会った時から随分背の伸びた少年の頭へと伸ばす。
黒蔵が謝ることを東雲は嫌っていた。
いつもの歯切れの悪い答え方も、彼の苛立ちのもとだった。
だから、
「いつもだったら、殴り飛ばして七生ンところに連れていくところだ」
手の甲で、軽くだけ黒蔵の頭を小突く。
「だが、それが『最後』にテメェの出した結論なんだろ。
……かなり納得いかねェがな」
苛立っている様子は見て取れた。
しかし同時に、どこか怒っているだけではないようにも思い得た。
東雲は浅く息を吐く。
「俺は七生が、好きだ。
だが憎たらしいことに、俺が七生に向けている感情と、同じものを七生はテメェに向けてる」
「テメェが二度と帰ってこられないと七生に言えば、恐らくアイツは着いていこうとするだろう。
それほど七生は、テメェを――」
東雲は言いよどんでから、再び続けた。
「……テメェがいなくても、七生の身は俺が守れる。
だが、心は、違う。
だから……アイツに何でもイイ、何かを残していけ」
「……残して、いってくれ」
947 :
黒蔵
[sage]:2012/04/16(月) 01:01:16.04 ID:74oBizHbo
>>946
いつものように殴られると覚悟して、いや、期待していたのかもしれない。
それがこつんと軽く小突かれたことで、いつものような日常はもう無いことが否応も無く沁みて、
黒蔵は俯いてぎゅっと拳を握り締めた。
一度は伏せられた視線が、幾分の驚きと共に犬御を見つめることになったのは、
狼の、頼むような言葉によるものだった。
「あの、さ。四十萬陀宛の手紙を託しても、いい?」
持てる物といえば、本来の自分のものでもない身一つの貧乏な上に、
織理陽狐のような特殊な能力を持つわけでもない黒蔵には、
以前に犬御が四十萬陀にあてていたように、手紙を書くことしかできない。
タクシーの到着が音で聞こえて、黒蔵は犬御の返事を待たずに
公衆電話の横に置いてあったメモ帳に飛びつくと備え付けのペンを走らせ始める。
『いつか戻ってこれるように俺、頑張るから…』
ちらりとそんな書き出しが見える。
叡肖が現れるまでに、書き終えねばならないのだ。
「これを、お願い」
ちぎりとったメモを犬御に押し付ける。
その文面には『ごめんなさい』の言葉ではなく、『泣かないで欲しい』と頼んであった。
948 :
東雲 犬御
[sage saga]:2012/04/16(月) 01:22:51.31 ID:zgA7nowUo
>>947
メモ用紙を受け取った東雲は、何も言わず、何も見ずに、それを折り畳んで胸ポケットに仕舞った。
中身を見たところで意味もない。
東雲にはそれに横槍を入れる権限もなければ、意義だってないのだから。
しかし、僅かに見えたその書き出し文に、
彼らしくもなく、ほんの少しだけ、黒蔵に分からないように口端を吊り上げる。
タクシーの到着音は、東雲の耳にも届いていた。
黒蔵の焦りようからするにおそらく、来たのだろう。
(あの野郎も一発殴ってやりてぇ)
そんな気持ちを抑えつつ、黒蔵に再び向き直る。
「クソ医者には上手く言っておいてやる。
テメェは、テメェのやるべきことに集中しろ」
「……」
がしがしと頭を掻き、目を背ける。
「ハッ、これでテメェのアホ面見なくて済むと思うと清々するぜ。
ヘタレで嘘もヘタックソでその癖俺の恋路の邪魔はするわ妙なクソガキを転がり込ませるわ。
テメェのせいでこっちは迷惑千万だっつーのによォ。
……だが、まあ、何度かテメェの世話になった事実は、否めねえしな……。
そこは――感謝、しなくもねェ。
…………認めたくねーが、七生も、テメェのおかげで変わった節もある……」
「……ま、二度と会うことはねーだろォが……」
もし戻ってきた、その時は。
その先は言わずに、口の中で噛みしめる。
「――じゃあな、黒蔵」
949 :
黒蔵
[sage]:2012/04/16(月) 01:41:54.58 ID:74oBizHbo
>>948
ラウンジのドアのガラス越しに、叡肖が入ってくるのが見えた。
衣蛸はちらりとこちらに目をやると、そのまま会計窓口へ向かう。先に黒蔵の借金を清算するつもりのようだ。
「…うん」
手紙を受け取った犬御の言葉に頷いて、一つ大きく息を吸うと、覚悟を決めたようにドアへ向かう。
歪んだ表情を隠すように、黒蔵はその背中で容赦ない犬御の言葉を受けながらドアに手をかけ、
「四十萬陀にはもちろんだけど、俺、お前にも会えて良かったってちょっとだけ思ってるんだ」
ドアのガラスに映る犬御の影の反応を待たずに、黒蔵は駆け出した。
「じゃ、行ってくる!」
なけなしの空元気を振り絞ったその言葉を残してドアが閉じ、ラウンジには犬御だけが残った。
950 :
東雲 犬御
[sage saga]:2012/04/16(月) 01:48:11.03 ID:zgA7nowUo
>>949
ギィッ。
「……――」
ドアが、閉じられ。
そこには、沈黙だけが残った。
黒蔵がいなくなったその場に、東雲は独りで立っている。
なぜか、駆け出した黒蔵の背を見ることはできなかった。
(寂しいわけじゃねェ)
この空虚感は、「寂しい」という言葉で表せる感情ではない。
だったら、何なのだろうか。
(……ばかばかしいな)
東雲は踵を返すと、廊下の奥へと歩いて行った。
951 :
宝玉院 三凰
[sage]:2012/04/18(水) 23:16:22.60 ID:Sn8KJQRAO
「…………」
森で佇んでいる三凰。彼は、複雑な表情を浮かべながら手鏡で自分の顔、特に口のあたりを見ている。
(あの戦いの傷はだいたい癒えたがここだけは……どうしたものか……)
三凰の片手にはレイピア……ではなく、三凰自身の折れた牙。どうやら、ハーメルン戦で折れたしまった牙のことを気にしているようだ。
この牙が三凰の窮地を救ったのだが……
952 :
澪
:2012/04/18(水) 23:23:13.44 ID:BsrHRGsK0
>>951
「三凰〜むぎゅ〜ッ♪」
不意に後ろから抱きついたのは澪。
冬が過ぎ、日差しも温かくなってきたため、時々出歩いているようだ。
そこでたまたま、獲物を見つけたため、確保したのだ。
「……元気ないね?」
953 :
宝玉院 三凰
[sage]:2012/04/18(水) 23:33:48.52 ID:Sn8KJQRAO
>>952
「うわっ…た…な、なんだ澪か。」
驚き、手に持った牙を落としかけるがなんとか落とさずにすんだ。
再び三凰の口内にくっつけることはできずとも、やはり自分の牙。汚したりはしたくないのだ。
「ああ、ちょっとな。まぁ、見てくれ。」
そう言って手に持った牙を見せる。その後、口をあけ犬歯を指差す。よく見れば、折れているのがわかるだろう。
「折られた。」
954 :
澪
:2012/04/18(水) 23:38:46.30 ID:1eBQTRmDO
>>953
『折られた?三凰、いつからそんなにやんちゃに・・・・・・。』
三凰の頭を撫で撫でしながら、牙を見ている。
『ねぇ、三凰はこれをどうしたい?』
955 :
宝玉院 三凰
[sage]:2012/04/18(水) 23:46:09.09 ID:Sn8KJQRAO
>>954
「おい、撫でるのはやめろ。」
照れくさそうに言う三凰。その後、折れた傷を見つめ
「そうだな。……澪、僕のレイピアは何でできているか分かるか?」
唐突にレイピアを抜き、そう尋ねる。
956 :
澪
:2012/04/18(水) 23:49:41.08 ID:1eBQTRmDO
>>955
レイピアに触れ、目を閉じながら話す。
『苦しみや悲しみ、嬉しさや幸福・・・かつての栄光が感じられる・・・。一族の何か、かな?』
ニコリと笑って尋ねる。
957 :
宝玉院 三凰
[sage]:2012/04/19(木) 00:08:38.90 ID:wGWuNigAO
>>956
「さすが澪だな。概ね正解、80点といったところか。そう、このレイピアは僕の曾祖父にあたる宝玉院法王様の遺骨から作られている。法王様は、自分が創りあげた宝玉院家を永遠に守護する為に、死の間際自ら武器になることを望んだらしい。」
宝玉院法王、宝玉院家を今の地位にまでのし上げた三凰の曾祖父である。
「以前は父上が使っていた物だが、僕が生まれた時に僕に継承されたらしい。これで精気を吸い取れるのは、僕と同じ山地乳の骨でできているからなんだ。
……ここまで言えば分かるだろうが、この牙でも精気を吸うことができる。元々自分の身体の一部だったんだから当たり前だな。しかも、吸収の効率も良い。だから、これをどうにか武器として有効活用しようかと思うんだ。」
実際、あの時自身の体内に蓄積できる精気の量を遥かに超えた攻撃ができた。
958 :
澪
:2012/04/19(木) 00:19:05.87 ID:o14IQMT/0
>>957
「凄い……。凄すぎるよ…。」
宝玉院家の人たちはなぜこんなにも凄いのか。
それは三凰を見ても分かる通り。
威厳に満ち溢れている名門家。
そんな身分の友人がいるのがとても誇らしかった。
「牙を武器に一体化させるとなると、武器を更に鍛えなくてはならない。
しかも素材は骨、これを出来るのは僕の知り合いでただ一人…。」
959 :
宝玉院 三凰
[sage]:2012/04/19(木) 00:31:18.99 ID:wGWuNigAO
>>958
「まぁ、父上すら生きている姿は見たことがないのだが、その心構えは僕の最終目標かもしれないな。」
と、レイピアを見ながら語る。
「そんな芸当が可能な奴がいるのか!?誰だ?僕も知っている奴か?」
興奮気味に言う。レイピア二刀流とか無茶なことも考えていたので、折れた牙とレイピアの融合は夢のような話だ。
960 :
澪
:2012/04/19(木) 00:44:15.95 ID:o14IQMT/0
>>959
「心構えは、ね。でも死んだら何も出来ないよ…。生まれるのは孤独と絶望…。
それはさておき、その人のことなんだけど…。フォードさんって知ってる?」
本来は外国の妖怪、神によって姿を変えられ、技術を与えられた者。
その中でもフォードの作る武器は特別なもの。
使い方次第によって大幅に左右されるという性質を持つ。
そしてそれは…。
「三凰、君の振るう武器は殺 す為のもの?それとも何かを守るもの?」
961 :
宝玉院 三凰
[sage]:2012/04/19(木) 01:09:54.57 ID:wGWuNigAO
>>960
「死というは、何もそう全てがマイナスな物じゃないと思うが、現に法王様は武器となり何度も僕を救ってくれた。優れた者なら、死しても何かを残すことができるのさ。
フォード……確か以前会ったような……?」
うーん、と頭を抱え考え始める。
「……僕の武器か、どちらでも無いな。[
ピーーー
]ためでも守るためでもない――未来を切り開くためのものだ。」
手に持ったレイピアを月にかざして言った。
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