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アモスさんに幼なじみを奪われそうです - パー速VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 14:34:55.48 ID:C10G0y6o
vipのスレの保守に失敗しちゃったのでこっちに転載。
見て下さってた方、気付いてくれるかな……
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いつか終わる夢 @ 2024/05/26(日) 22:56:45.51 ID:krZec8zr0
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らららボールトバスターズ with.仮面ライダーセイバー×ゴースト @ 2024/05/26(日) 11:12:10.41 ID:l59ythuC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1716689529/

旅にでんちう @ 2024/05/25(土) 08:18:37.84 ID:d99KI90RO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1716592717/

阿笠「何でバケツの中に歩美君が!?」 @ 2024/05/25(土) 01:43:30.17 ID:ySla6TrXO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1716569010/

中日ドラゴンズ応援A雑倶楽部10 @ 2024/05/23(木) 07:10:38.60 ID:eI49gj3Yo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1716415837/

ミートウィークだ! @ 2024/05/22(水) 18:54:34.16 ID:oa3Fli280
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1716371673/

【安価とコンマ】或る無名のウマ娘 6 @ 2024/05/21(火) 23:03:45.14 ID:LycZD2yqo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1716300225/

開くと貯金が増えるスレ @ 2024/05/20(月) 21:35:55.08 ID:MOxGLALr0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1716208554/

2 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:35:45.08 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126050.jpg

俺の住む町、モンストルにアモスさんがやってきてからそろそろ一ヶ月が経つ。
魔物にお尻を噛まれただとかでしばらく床に伏せっていたのだけど、
ようやく外を出歩けるくらいには回復したようだ。
今も飼い犬をつれて街の歩道を気持ちよさそうに散歩している。
3 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 14:36:09.78 ID:C10G0y6o
その隣に寄り添ってニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべている女が俺の幼なじみ、パルだ。
歳は俺と同じで十七。
世間様の評価では「素直ないい子」で通ってるらしいのだが、
俺にとってそんなのはあいつの本質をちっとも捉えていない物言いにしか聞こえない。
金髪のポニーテール、澄んだ青の瞳に宿る勝ち気な光。
そんな見た目通りの活発さといい、思ったことをずけずけと言ってくる遠慮のなさといい、
「慎み」だとか「奥ゆかしさ」なんてのとは無縁の存在だ。
まあ「素直」ってことに関してはたしかにその通りなのだけど……「いい子」ってのには首を捻らざるをえない。
4 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 14:36:30.29 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic2d/src/viploader2d558792.jpg

幼なじみのイメージ画像。
耳のヘッドホンみたいなのは見て見ぬふりをする方向で。
5 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:36:55.35 ID:C10G0y6o
なにはともあれ、アモスさんがこの村に来てからというもの、そのパルがずっと世話係を務めているというわけだ。
一日のほとんどを一緒に過ごす日々が一ヶ月も続いているのだから打ち解けないほうがおかしいのだが、
どうもそれだけではないっぽい。
並んで歩く二人の様子は怪我人とその看護役というよりも、
仲のいい恋人か年若い夫婦と言われたほうがしっくりくる感じだ。
6 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 14:37:17.21 ID:C10G0y6o
俺はいつものように日に数えるほどしか客のこない道具屋の店番をしつつ、
カウンターに頬杖をついてそんな二人が歩いて行くのをぼんやりと眺めている。

思い出されるのは数年前、俺の母さんが死んでクソ親父がどこかへ行っちまったときに
しばらくパルが俺の身の回りの世話をやってくれていた時のことだ。
といってもそのときの俺たちはあんなふうじゃなかったのだけど。
なんせ結構長い時間を一緒に過ごしていたというのに交わすのは必要最低限の事務的な会話だけ。
俺の前であんな楽しそうにパルが笑ってくれたことなんて一度もなかった。
もちろん四六時中ぶすっとしていたわけじゃないけど、きっと大人たちに言いつけられて嫌々やっていたのだろう。
それが分かったから俺も――
7 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:37:52.29 ID:C10G0y6o
「ちょwwwww 道具屋テラキモスwwwww」
いきなり嫌な声が聞こえて、俺の物思いはそこで中断させられる。
こんなしゃべり方をする奴はこの町に一人しかいない。
無視してやろうかとも思ったけど、
「長年思い続けた幼なじみをよその男にあっさり奪われて悔しいんですね。わかります」
とか言われて性懲りもなくイラっときてしまった俺は、舌打ちしながらそいつのほうに目を向けた。
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994349.png
「……なんか用か?」
こんな僻地の町の住人とは思えないほどあか抜けた髪型と服装をしているそいつの名前はロニー。
町長の孫で歳は俺より二つ上。
町長家の財産を浪費して流行のファッションやらなんやら、
この町では手に入らないようなものをいくつも大陸から取り寄せているらしい。
それを容認してしまっているあたりがこの町のおおらかさというかダメなところというか。
まあそんなこと言ってたら、いくら子供を魔物から助けてくれた英雄とはいえ
あのアモスさんを平然と受け入れてしまっているってことのほうがはるかに大きな問題なのだけど。
8 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:38:46.20 ID:C10G0y6o
都会じみた格好をしたこのロニーは当然ながらここモンストルでは浮きまくっているのだけど、
こいつだけを単品で見るとなんとも悔しいことにそういう服装をうまく着こなしているのだ。
都会へ行ってもきっとすんなり馴染むのだろう。
口調は変だけど見た目はいわゆるイケメンってやつだ。
平凡な外見の俺ではどう頑張ってもこうはなれないと思う。

「買い物に決まってんだろ。それ以外でお前に話しかけるワケねえだろヴォケ」
こいつの言うことに賛成するのは癪だがここは俺も積極的に頷いておきたい。
俺だってこいつと余計なおしゃべりをするのなってまっぴらごめんだ。
「……何が要るんだ?」
「えー、何だっけ。ああそう、薬草を5個」
しれっとここだけは素になるロニー。俺も気にせずそっけなく答える。
「40ゴールド」
「ほらよ」とロニーが投げてよこしてきた硬貨を受け取って、無言のまま商品を渡す。
それを受け取りながらロニーの奴はこれ見よがしにため息をついた。
「つーかお前、仮にも道具屋なんだからもうちょっと愛想良くしろよwwww」
そんなことを言ってきたけど、俺はもうロニーを見ていなかったりする。
「しっしっ」とぞんざいに手首を振ってやるとロニーは
「あーあ、道具屋が[ピーーー]ばいいのに」
とか捨て台詞を吐きながらもと来た方へ歩いて行った。
誰が死ぬか。
9 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:39:05.55 ID:C10G0y6o
俺の態度に文句をつけてくる人間はロニーだけじゃなくて他にもたくさん居るけど、大きなお世話ってやつだ。
気に入らないなら来なければいい。
道具屋は愛想良くしないといけないなんて誰が決めた?
そんなつまんねえ常識に従ってなんてやるものか。

それから改めて辺りを見回してみたけどアモスさんとパルの姿はもうどこにもなかった。
どうやらアモスさんに貸している空き屋へ戻ったらしい。

アモスさんはああして外を散歩できるくらい元気になっているのだから、日常生活にはもう支障がないはずだ。
だというのにあの二人はあの家の中で一体なにをしているのだろうか。
まさかこんな真っ昼間からセッ(ry
やめておこう。頭が痛くなりそうだ。

それにしても、パルみたいな若い娘にマンツーマンで若い男の世話をさせるなんてこの町の人間は一体何を考えているんだろうか。
間違いがあったらどうするつもりなんだ。
いや、むしろそれこそが狙いだったり?
魔物と戦えるアモスさんにパルをあてがって、いつまでもこの町に引き留めてやろうと?
……いやいや、考えすぎか。
なにしろアモスさんには「あれ」があるんだし。
10 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 14:39:20.27 ID:C10G0y6o
結局この日はロニーが最後の客だった。
日が暮れ始めるのと同時に店じまいした俺は、
いつも通り誰と会話することもなく早々と一人暮らしの自宅に引っ込んだ。
近所の農家から買った野菜で適当にメシを済ませて、
今日の売り上げを数える作業に入る。
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994351.jpg
薬草が12個、どくけし草が7個、聖水が3個で合計226ゴールド。
きちんとちょうどの金額があることを確認してから貯金箱に入れる。
この瞬間のジャラジャラという金の貯まっていく音がたまらなく気持ちいい。

金はいい。金は人を裏切らない。
とか、かっこつけて思ってみたりもするけど、
純利益は売り上げの三分の一ほどしかない。
11 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:39:42.50 ID:C10G0y6o
一日の勤めを終えて、風呂にでも入ろうかなと思ったちょうどそのとき、いつものあれが始まった。

どしーん。どしーん。
何か巨大なものが落下するようなその音と共にぐらぐらと足元が揺さぶられる。
もちろん地震などではない。言わずと知れたことだが、魔物に変身したアモスさんが暴れているのだ。
日常の一コマと言うには余りにも異常な、
しかしモンストルの住人にとってはここ一ヶ月ですっかり当たり前になってしまったこの現象。
重低音のような地響きに混じって、どこかの家で赤ん坊が泣いているのがかすかに聞こえるのもいつも通りだ。

住人たちだってこのままでいいと思っているわけではないだろうが、今のところは目立った被害は出ていないし、
なによりアモスさんは子供の命を救った英雄だ。
どこぞの兵士やら傭兵やらに頼んで退治してもらうというわけにもいかない。
北の山の頂上にあるという「理性のタネ」とやらを飲ませればなんとかなるのではないかと言ってるじいさんも居るが、
魔物の巣窟になっている今の北の山の頂上まで行って帰ってこれるだけの力を持った人はこの町に居ない。
つまり、どうにも手の打ちようがないというのが現状なのだ。

12 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:40:02.79 ID:C10G0y6o
ちなみに言うと魔物になっている間の記憶はアモスさんにはないらしく、
本人は自分が夜な夜な暴れ回って住人に迷惑をかけているなんてことはまるで知らない。
人のいいあの人がそんなことを知ったらきっと
「みんなに迷惑をかけるわけにはいかない」
とか言って出て行ってしまうだろう。
それならそれでいいじゃないかと思うのは俺だけなのか?

いっそのこと俺がバラしてやろうかと思ったこともあったんだが、話そうとしたところでパルのやつにおもいっきり引っぱたかれた。
めちゃめちゃ痛かった。
護身のためとかいって女だてらに武道をやってたりするお転婆だけあって、ビンタの威力も半端じゃない。

まあともかく、なんでそこまでして隠そうとするのか俺には分からない。
子供一人助けたってのがそこまで凄いことなのか?
感謝の意を示したいってんなら謝礼金でも渡してとっとと出て行ったもらったほうがお互いのためってもんだろうに。
13 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:40:20.88 ID:C10G0y6o
地響きが治まるのを待ってから風呂に入り、俺は趣味である「ジオラマ」とやらの組み立てにとりかかった。
アモスさんのこと以外では代わり映えのしない毎日の中で、俺にとって唯一の楽しみであり癒しでもあるのがこの時間だ。

俺がこの素晴らしいものに出会ったのは忘れもしない、今から2年ほど前のことになる。
たまたまやる人が居なかった道具屋というポジションに俺が収まってまだ間もない頃の話だ。
行商人の持ってきた売り物の中にあった見慣れないデザインの箱になんとなく惹かれて買ってみたのがきっかけ。
その箱には
「戦国武将シリーズ 織田信長軍」
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994354.jpg
と書かれていたのだけど、その意味は未だに分からないままだ。
だけど最初バラバラだったそれを説明書を見ながら組み立てたり色を塗ったりしているうちに、
意外なほどの緻密さを要求されるその作業に俺はいつの間にかどっぷりはまり込んでいた。

後ほど聞いた話だが、持ってきた行商人も他人から譲り受けたものだったらしくこれの出所は分からないらしい。
だから次にいつ入荷できるか分からないとのことだったが、とにかく入ったら最優先で回してくれるように約束してある。

謎の残る代物ではあるが、
そんな意味不明の「織田信長軍」を自分の手で作り上げていく作業は俺をかつてないほどワクワクさせてくれた。
あと一人、背中に黄色い旗を背負っている人を作れば完成なのだけど、
なんだかそれをやってしまうのが惜しいような気さえしてきてしまう。
だって、これを完成させてしまったら俺は次の日から何を楽しみに生きればいいんだ?

そうは思いつつも結局ベッドに入る直前まで作業を続けてしまう俺がいたりする。
この分だとマジで近いうちに完成してしまいそうだ。
早く次のものが手に入るといいのだが。
14 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:40:41.32 ID:C10G0y6o
明かりを消して、物音一つしない部屋で俺はごろりと横になる。
もう一人暮らしにもすっかり慣れた。

でも、目を閉じるとひとりでに母さんのことが頭に浮かんできてしまうことは今でもたまにある。

俺が12の時に病気で亡くなった母さん。その母さんが床に伏せっていた間もほとんど家にいなかったクソ親父。
それが俺の家族だ。ちなみに今も親父の行方は分からない。
おふくろの最後を看取ってから「母さんの望みを叶える」と言ってまた出て行って、それきりだ。
まあ全く音沙汰がなかったわけではないのだが、あまり思い出したい話でもないのでとりあえずおいておく。

一人になった俺を嫌々ながらも世話してくれたパルには感謝していないでもない。
でも今のあいつにはアモスさんが居る。
もし今後アモスさんがこの町を出て行くことになったとしても、
あの行動的なパルのことだからそれについて行ってしまうかもしれないし、
そうでなかったとしても――あまり考えたくないが、たぶん将来的にはロニーと結婚することになるのだと思う。
あのチャラ男が身を固める決意をすれば、の話だが。
15 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:41:01.86 ID:C10G0y6o
対する俺はといえば、たまたま道具屋の仕事に就くことができたからなんとか食っていくことは出来ているけど、
それだって別に俺じゃなくても構わないわけだ。
薬草を外へ採りに行くのはともかく店番なんて誰でも出来る。

誰にも頼らず、誰とも深くは関わらない。
そんな毎日の中でたまに自分が何のために生きているのか分からなったりするけど、
そんな時はいつも自分で自分を鼻で笑ってやる。
お前はアホかと。世の中にはもっと不幸な人間なんていくらでも居るぞと。
まあこんなことを他人と比べてみても意味はないのだけど、
こうして毎日ちゃんと食にありついて、暖かいベッドの上で眠りにつくことが出来るだけでも十分ありがたいと思うべきなのだろう。

……つまんね。
とっとと寝るとしよう。

そういえば「おやすみ」なんてもう長いこと言ったことがないな、
とかそんなつまらないことにふと気付いてしまったのも、
きっと余計なことを考えすぎたせいだ。
16 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:41:25.35 ID:C10G0y6o
翌朝、俺はいつも通りに薬草を採りに出かける。

田舎の常でやはりこの町の目覚めも早い。
町を出るまでに何人かの住人とすれ違ったが、挨拶することもないしされることもない。
軽く会釈くらいはしてくる人も中にはいるけど、それだってほんの申し訳程度のもの。
対する俺も一応軽く会釈を返すくらいはするけどそれだけだ。
道具屋の仕事以外で町の人間と会話することなんて本当にごくまれにしかない。

こんな状態がここ数年ずっと続いている。
自分たちのコミュニティに俺を溶け込ませたくないモンストルの住人たち。
積極的にみんなと関わろうとは思わない俺。
そんなところで両者は奇妙な利害の一致を見せている。

町での俺の立場を簡単に説明するとこんな感じ。
あからさまに排斥されているわけじゃないだけまだましと思うべきだろう。
17 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:41:54.12 ID:C10G0y6o
聖水をふりまきながら薬草が自生している川のほとりへ向かう。
この作業を安全にやれるようになるまではずいぶんと苦労したものだ。
聖水を使っているとはいっても全くモンスターに出会わないわけじゃないから、
せっかく薬草を採りに行っても自分の傷を癒すのにそれ以上の薬草が必要になる、なんてこともザラだった。
18 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:42:09.36 ID:C10G0y6o
唐突だがここで今の俺の「つよさ」

モンストルのどうぐや
レベル:14
しょうにん
つかいばしり

E やいばのブーメラン
E けがわのマント

ちから:35
すばやさ:27
みのまもり:13
かしこさ:10
かっこよさ:38
さいだいHP:98
さいだいMP:2
こうげきりょく:60
しゅびりょく:31

しょうにん ★★

じゅもん インパス
とくぎ ちからため

無理してやいばのブーメランを買ったので防具にまで手が回っていない現状……
19 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:42:25.36 ID:C10G0y6o
ホイミスライムとかダンスキャロットの一匹や二匹くらいならなんとかなるけど、
フロストギズモやら腐った死体やらに囲まれたらそこで一巻の終わり。
いっぺん欲を出しておどる宝石を倒そうとしたら(それがやれたらおおよそ二日分の売り上げが一気に稼げる)、
メダパニをかけられて気付けば全裸で川を泳いでたって経験もある。
服が見つからなかったので致し方なく全裸のまま町へ帰ったこと、
そこをパルに見つかってその後しばらく露出狂呼ばわりされたことも含めて、
その時のことは俺の中でちょっとしたトラウマになっている。
ちなみに冬だった。もちろん風邪をひいた。
踏んだり蹴ったりとはまさにあのことだろう。

基本的に戦闘はせずに逃げまくってるからレベルもなかなか上がらない。
俺は兵士でも旅人でもないのだからこれでいいっちゃあいいのだが、
いっぺんくらいモンスターと正面から渡り合ってみたいものだ。

そんなことを思ってみたりもするが、現実的には無理なわけで。
今日も聖水をふんだんに使いつつ採取にいそしんだ。
もっと強くなればこの聖水のぶんも節約出来るんだが……
まあ今日は運良くどくけし草や満月草もいくつか見つかったのでよしとしよう。

20 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:42:39.48 ID:C10G0y6o
そうして町に戻ったとき、うるさいやつにばたりと出くわしてしまった。
「あんた、また行ってたの? やめとけって何度言ったらわかるのよ」
こんなふうに話しかけてくるやつなんて一人しかいない。パルだ。
アモスさんと居るときは俺のことなんて見向きもしないくせに、一人のときに会うとこうやって何かといちゃもんをつけてくる。
一体何が楽しいんだか。理解に苦しむ。
「うっせーな。俺の勝手だろ」
言いつつ、足を止めずにパルの前を素通りする俺。
そこへパルの声が追いすがってくる。
「あんたが怪我すんのは勝手だけど、また裸で帰ってくるのだけは勘弁してよね。
 見たくもないものを見せられる身にもなってちょうだい」
こいつ、人の気にしてることをずけずけと……
「余計なこと言ってないで、さっさとアモスさんのとこにでも行けって」
「言われなくても行くわよ。ったく、何なのよその態度。せっかく人が心配してやってんのに……」
心配してのか、今の?
ちっともそんなふうには聞こえなかったんだが。


とまあそんなやりとりがあったくらいで、今日も今日とてモンストルは平和そのもの。
やってきた行商人から聖水やキメラの翼を仕入れたり、たまーに来る客の相手をしたりしながら日中を過ごして、
日が暮れ始めた頃に店じまいをして家に引っ込む。
今日もまた何事もなく一日が終わるのだと、この時点では誰もが思っていたに違いない。

21 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:43:11.14 ID:C10G0y6o
異変が起こったのはその後、アモスさんが魔物に変身する時間になったときのことだ。
いつもはみんなドアを固く閉ざして家に閉じこもっているはずのその時間に、
何故だか今日は外から言い争うような声が聞こえる。
やがてどしーん、どしーんと魔物に変身したアモスさんの足音が響き始めてもその声は止まない。
それどころかいっそう大きくなったような。
って、おい。この声ってもしかして……

そっとドアを開けて外の様子を窺ってみる。
案の定、そこに居たのはパルだった。
教会前の広場で、小さな女の子を背中でかばって魔物姿のアモスさんの前に立ちふさがっている。
さかんに何かを叫んでいるようだがアモスさんの足音にかき消されて何を言っているのかは聞き取れない。
22 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:43:33.28 ID:C10G0y6o
なんでこんなことになってんだ?
あの子の親はどうした?
てゆーかパルもなんで逃げないんだ?
子供一人抱えて走るくらいのことはあいつになら出来るだろうに。
「……くそっ!」
悪態をつきながら刃のブーメランを手にとって毛皮のマントを肩にひっかける。
念のために薬草も持って行ったほうが良さそうだ。

なんで俺がこんなことを……
他の大人たちはなにしてんだ?
あんだけ騒いでるんだから気付いてないわけはないはずなのに。
アモスさんには恩があるから、とか言いつつ本当のところはみんなビビってるだけじゃねえか。
23 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:43:51.21 ID:C10G0y6o
「おい!」
家を飛び出して、パルたちのところへ駆け寄りながら叫ぶ。
びっくりしたようなパルの顔がこっちを向いた。
「なにしてんだ! さっさと逃げろよ!」
足音に負けないように声を張り上げていたら、魔物バージョンのアモスさんの目がじろりとこちらを見た。
http://up2.viploader.net/pic2d/src/viploader2d558803.jpg
さすがにすげえ迫力だ。
こりゃあ確かにビビるわ。出てこない奴らの気持ちもちょっと分かるかも。
「でも、この子が!」
同じように声を張り上げてパルが答える。
「いや、だからその子も連れて一緒に逃げりゃいいだろ!」
「違うのよ! そこの植え込みに――」
「アモスさまぁ!」
俺たちが話していたところで、いきなり女の子が声を割り込ませてきた。
「こっち来ちゃだめぇ! お花さんをいじめないで!」
お花さん? って、おい、まさか。
「この子、ずっとここの花を一生懸命育ててて、やっと今日花が咲いたばかりなのよ。だから……」
マジかよ。そんなことのために……
24 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:44:08.91 ID:C10G0y6o
女の子はいよいよ「うわーん」と声を上げて泣き始めたが、それでも魔物と化したアモスさんはどんどん二人のほうへ近付いていく。
子供が泣いたくらいで止まってくれるなら最初から苦労はしない。
「馬鹿なことをしてるってのは分かってる。でも……お願い、力を貸して」
パルは真剣な目を向けてくる。
正気か? たかが花ごときのために体を張れと?
「……これで、お前に世話してもらった分の恩はチャラだ。あと、俺が裸で帰ってきたときのことは二度と言うな」
っておい、俺も何を言ってやがりますか?
「注文が多いのよ。どっちか一つにしなさい」
そう言ってパルはふっと笑う。意外と余裕があるらしい。
なんかもう後には退けない空気になっちまった。
ここで「やっぱやーめた」とか言って逃げていくのはさすがにかっこ悪すぎる。
「お前にアモスさんが殴れるのかよ?」
「見くびらないで。そんなことを言ってる場合じゃないのは分かってるわ」
あっさりと言う。いつもはあんなに仲よさそうなのに……
女って怖い。
「……ごめんなさい、アモスさん」
パルのその声を皮切りに戦いが始まった。
25 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:44:31.76 ID:C10G0y6o
魔物と化したアモスさん――仮称モンストラーはめちゃめちゃ強かった。
大きな足で踏みつけてくるだけじゃなくて、真空波とか地響きまで使ってくる。
攻撃を食らえば一発でもれなく瀕死にまでもっていかれた。
とうてい俺で太刀打ちできるような相手じゃない。

なのに最終的にはなんとかできてしまったのは、ひとえにパルの武術が思った以上に本格的なものだったからだ。
小柄な体躯を稲妻のように走らせ、アモスさんの攻撃を華麗にかわしながら容赦のない打撃を叩き込んでいく。
http://up2.viploader.net/pic2d/src/viploader2d558804.jpg
俺は離れたところから薬草を使って自分やパルの傷を癒しつつ、たまにブーメランをだましだまし投げるだけ。
HPだけじゃなくて男としての意地だとかプライドだとか、そういうものにも致命傷を食らわされた気がする。

最終的になんとか気絶させることに成功したのだけど、たぶん与えたダメージの八割か九割はパルによるものだったはずだ。

「あんたって意外と弱っちいのねえ。毎日外を出歩いてるくせにさあ」
自分だってふらふらになってるくせに、パルは不敵に笑いつつこんなことを言う。
まあ役に立たなかったのは自覚してるので何も言い返せないけど。
「でも、協力してくれたことには一応感謝しとくわ。あたし一人じゃあやばかったかも」
こうやってちゃんとフォローしてくれるあたりが「いい子」と呼ばれる所以なのだろうか?
正直俺としてはリアクションに困るんだけど。
26 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:44:49.53 ID:C10G0y6o
アモスさんは小さく呻きながら姿へ戻っていく。
毎回不思議なのだけど、何アモスさんの服は破けてしまわないのだろう?
アモスさんにも一度くらい露出狂呼ばわりされる人間の気持ちを味わってみてほしいものだ。
「うーん……おや、僕は……?」
って、あれ?
「どうしてこんなところに……あれ、パルさん? そっちは道具屋さんの……」
こいつは予想外だ。いきなりアモスさんが意識を取り戻してしまった。
なんでだ? 魔物から戻ったあとは朝まで目を覚まさないんじゃなかったのか?
パルの顔を見るとやっぱりこいつにとっても予想外だったらしく、きょとんとした表情を浮かべていた。

その後は不思議がるアモスさんに適当な作り話をしてどうにか納得してもらい、
件の花少女(変な呼び方だが名前を知らないのでこれでよしとしてほしい)を親元に送り届けてからパルと別れた。
ちなみに親はしきりに感謝を述べていたが、それはパルに対してだけだ。
俺は居ないものとして扱われた。
ま、いつものことだから別にいいんだけど。実際ほとんど何もできなかったわけだし。
27 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:45:10.74 ID:C10G0y6o
、翌朝。いつもの起床の時間より早く、ドンドンとドアを叩くやかましい音に起こされた。
何事かと思って出てみたら、なんとアモスさんが町を出て行ってしまったのだという。

とにかく今すぐに追いかけろというので、仕方なく着替えるだけ着替えて町を飛び出した。
ちなみにこの時パルが勝手についてきた。
そんだけアモスさんが心配だってことかなのか、それとも昨日の戦闘で俺は情けないやつだと認定されてしまったのか。
まあどっちでもいいけど。

結果から言うとアモスさんは見つからなかった。
そういえば昨日は行商人が来てたっけ。
船に乗せてもらってどこか遠いところへ行ってしまったのかも知れない。
タイミングのいいというか悪いというか……
28 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:45:36.69 ID:C10G0y6o
町へ戻った俺たちは町長宅へ行って見つからなかった旨を報告した。
ちなみに俺たちが通された部屋には町長本人の他に何故かロニーが居た。
そこで俺が告げられたことのあらましはこうだ。

まずは現状について。
「今までご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんがうちの犬をよろしくお願いします」
という書き置きを残してアモスさんが町を出て行った。
どうやら昨晩の戦闘の記憶が残っていたらしい。
あの時アモスさんはそんな素振りを見せていなかったけど、
それが演技だったのかそれとも後になって思い出したのかは分からない。
29 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:46:07.02 ID:C10G0y6o
で、どうも大人たちの意向としてはそれを俺のせいにしたいようだ。
俺が余計なことをしたせいでアモスさんが自身の状況に気付いてしまったのだ、と。
アモスさんと戦ったということではパルも一緒なのだけど、そのことは見事にスルーされている。
パルは俺をかばうようなことを言ってくれたけど町長はまるで耳を貸さなかった。
どうすればいいんだ、と訊いてみると、
北の山にあるという理性のタネをとってきてそれをアモスさんに届けろという。
アモスさんがどこへ行ったのかも分からないのに、だ。
「村の名誉の問題なのじゃ」
俺が納得できない顔をしていると、村長はこんなことをほざきやがった。
「恩人にろくな礼もせぬまま追い出したとあってはモンストルの名折れ。
 せめてもの償いにそれくらいのことはせねばなるまい」
正直意味分からんけど、要するにこれって――
「ま、犯罪者の息子にいつまでも大きな顔させておくほどこの町の人間も甘くないってことじゃね?
 ちょうどいい機会だから出て行ってもらいましょうってことだろ、常識的に考えて」
忌々しいことにちょうど俺の考えていたことをロニーがそっくりそのまま代弁しやがった。
さすがに村長にたしなめられていたけど、俺としてはこれくらいはっきりと言ってくれたほうがいっそすがすがしい。

それにしても「犯罪者の息子」ねえ。
パルといいこいつといい、この町の若い奴は物事をオブラートに包んで伝えるってことをまるで知らないみたいだ。
30 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:46:37.04 ID:C10G0y6o
さすがに今すぐに出て行けというわけではないらしく、とりあえず準備してこいと言われて俺は町長宅をあとにした。
パルが最後まで抗議してくれたのがちょっと嬉しかったけど、それで決定が覆るわけじゃない。
当人である俺はというと、自分でも意外なほど落ち着いてる。
出て行けって言うんだったら素直にそうしてやろうかなって感じ。
こんな日がいつか来るだろうとは思っていたから、かな?
町のコミュニティからぽつんと一人だけ浮いたような状態で一生やっていけるとはさすがに考えてなかったってわけだ。

準備って言っても旅に持って行けるものなんてたかが知れている。
いつものブーメランと毛皮のマント、それとお金。
貯金箱を開けてみると中にはおおよそ4000ゴールドほど入ってた。
我ながらよく貯め込んだものだ。
町長からもらった袋に薬草や聖水などを詰め込めるだけ詰め込んだらそれでもう家から持ち出すものはおしまい。
織田信長軍とのお別れは寂しいが、戦闘中に壊れてしまう可能性を考えるとさすがに持って行くわけにはいかない。
31 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:47:00.65 ID:C10G0y6o
家を出た俺は防具屋で鉄の盾を買った。
出来ればはがねの鎧も欲しいところだが、今後のことを考えればここで浪費してしまうのは得策じゃない。

腐らせてしまわない程度の食料を買い込んで準備完了。
いよいよ出発って時になっても誰も見送りにすら来てくれなかったのはさすがに少し寂しかった。
生まれてこのかたずっとこの町で暮らしてきたのに……俺って今まで何をやってたんだろう?

とか思いながら町の風景を眺めていたら、横合いからロニーが歩いてきた。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994369.jpg
ロニー(代役テリー)

「まだ居たのかよwww さっさと行けばいいのにwww」
まったくだ。さっさと行けばよかったよ。
最後に会うのがこいつとか……なんて幸先の悪い旅立ちなんだ。
32 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 14:47:47.31 ID:C10G0y6o
ひとまずはここまで。
時間があるときにまた転載作業を再開したいと思います。
33 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 19:10:33.54 ID:3DqLiPo0
楽しみにしてますよ
34 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:03:26.70 ID:C10G0y6o
投下を再開します。
今夜中に半分くらいまではいきたいなあ。
35 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:03:59.59 ID:C10G0y6o
ロニーに会ったことで逆に踏ん切りがつけられた。
郷愁を振り切って俺は町をあとにする。
目指すは理性のタネがあるという北の山だ。
考えてみれば律儀に町長の言うことを聞いてやる義理もないわけだが、
まあ行く宛があるわけじゃないしひとまずはこれでいいだろう。
一人で頂上までたどり着けるかどうかって不安は大いにあるが……
36 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:04:28.59 ID:C10G0y6o
予想通りというかなんというか。
少し歩いたところで、どうやら先回りしていたらしいパルと出くわした。
「あたしも行くわ」
しれっとそんなことを言う。
まあついて来たがるってことは予想していたけど、こうも当たり前のように言われるとは思っていなかった。
一応「ダメだ」と言って形の上では抵抗してみせるが、一度言い出したらきかないこいつのことだ。
どうせ無駄だろう。
「なんで? あたし、あんたより強いわよ?」
……いや、確かにその通りなんだけどさ。
そこまではっきり言わなくても。
まがりなりにも俺だって男なわけで、プライドとかそういうのも一応持ち合わせてるつもりなんだけど。
「ま、別にいいんだけどね。あんたがダメだって言うならあたし一人で行くだけだから」
思わず額に手をあててため息をつく。
こいつはどんだけ自由なんだ? いや、そんだけアモスさんを想ってるってことなのかもしれないけど。
「……親はなんて言ってんだ?」
「は? んなモン無断に決まってるじゃない。素直に話してみたところでどうせ反対させるだけでしょ?」
まあそうだろう。
かわいい子には旅をさせよとは言うが、そういうのとはわけが違う。
凶暴なモンスターの跋扈する世界を練り歩こうというのだから。
「分かったよ。正直お前が居てくれた方が俺も助かる」
「そうでしょ? 最初から素直にそう言いなさいよね」
パルはにこっと笑って手を差し出してくる。どうやら握手したいらしい。
何故かおっかなびっくりになりながら俺はその手に自分の手を重ねた。
その時の笑顔、それと武闘家のくせに意外とほっそりして柔らかな手の感触になにやらどぎまぎしてしまった自分が恨めしい。
お前はどこの純情君ですか。
いや、まあ実際に年齢=彼女居ない歴なんだけど。
37 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:04:56.95 ID:C10G0y6o
というわけでパルが仲間になった。
早速だけどパルのつよさ

モンストルのまちむすめ
レベル:18
ぶとうか
しょだん

Eてつのツメ
Eみかわしのふく
Eスライムピアス

ちから:56
すばやさ:75
みのまもり:40
かしこさ:51
かっこよさ:91
さいだいHP:118
さいだいMP:42
こうげき力:82
しゅび力68

ぶとうか ★★★

とくぎ:あしばらい
    まわしげり
    かまいたち
38 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:05:23.34 ID:C10G0y6o
レベル差があるとはいえ、全てにおいて見事に俺より上……
男のプライドなんてものはもう捨てた方がよさそうだ。

二人になったので楽に……とは行かないけど、聖水を使いつつならどうにか進んでいける。
特に問題なく北の山のふもとまでたどり着いた。
ちなみに途中で薬草を見つけたので摘んでおいた。
回復魔法を使えない俺たちにとっては薬草ほど大事なものはない。
何気にこの特技は今後も重宝しそうだ。

まだまだ薬草のストックには余裕があるので進むのには問題ないが、どうも二人の呼吸がかみ合わない。
聖水を恐れずに近付いてきたモンスターとは経験値とゴールドのために戦うようにしているのだが、その最中は

「ぐずぐずしてないでさっさとブーメラン投げなさいよ!」
「んなこと言われたって、こっちはお前ほど素早くないんだよ!」

「突っ込みすぎだ! そんなんじゃあ袋だたきにされるぞ!」
「うっさいわね。あんたこそビビってんじゃないの?」

「ちょっと、さっさと薬草使ってよ!」
「ええっ、さっきはまだ大丈夫って言ってたじゃねえか」

こんな感じの怒声とも罵り合いともつかない声がひっきりなしに飛び交っている。
仲間ってこんなのでいいのか?
39 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:05:47.53 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994378.jpg
パル(代役ミレーユ)

で、さらにだ。
北の山のふもとに着いた今、パルがさらにおかしなことを言い出した。
「ねえ。思ったんだけど、別に聖水いらなくない? そうやって逃げてばっかだからあんたも強くならないんでしょ?」
おいおい。
俺たちは二人だけなんですよ?
しかもまだレベルも装備も十分じゃないんですよ?(主に俺が)
そんな状態でまともにモンスターとやり合って勝てるとでも――
「っておい! 待てよ!」
パルは俺を置いて先へ先へと行こうとする。慌てて追いすがる俺を尻目にパルの姿は坑道の中へと消えた。
「うわっ、さっそく出た!」
中からパルの声。追いついてみると、青い体をした悪魔みたいなやつが三匹ほどパルを囲んでいる。
「さーて、行くわよ!」
止めるヒマもない。パルはやる気満々でさっそくそのうちの一体へ躍り掛かっていく。
が、その気勢をそぐかのように、パルの標的となったモンスターはアストロンを唱える。
石と化したそいつの体に鉄のツメがぶつかって鈍い音をたてた。
「げっ、そんなのアリ?!」
とかパルが言ってるところへ、他のやつが唱えたベギラマが襲いかかってくる。
結構やばいかも。
40 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:06:08.67 ID:C10G0y6o
で、五分ほどそんな攻防が続いたあと。
倒れ伏した三体の魔物を前にへたり込んでいる俺とパルがそこに居た。
二人ともボロボロになってぜいぜいと荒い息をついている。
「へ、へへ……ほら見なさい、勝てたでしょ?」
「強がってる場合かよ……こんなことしてたら命がいくつあっても足りないぞ」
こいつってこんなに好戦的なやつだったのか?
付き合わされるこっちの身にもなってほしい。
「勝てればいいのよ、勝てれば。さあて」
ひとしきり呼吸を整えると、パルはまた意気揚々と立ち上がる。
「こんなところでじっとしてるわけにはいかない。先を急ぐわよ」
おいおい、マジで言ってんのか? せめてもうちょい休んでから――
って、振り返りもしねえ。またパルは勝手に奥へ進んでいく。
あいつは何をそんなに逸っているんだ?
これが恋する乙女ってやつなんだろうか。
だとすると迷惑この上ない。
41 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:06:39.84 ID:C10G0y6o
聖水の効果はもうすっかり切れてしまっているようで、すぐにまた新しいモンスターが現われた。
偉そうに腕組みしている牛の化け物みたいなやつだ。
見たところ力押しタイプか――と思っていたら、予想に反してそいつはいきなり何かの呪文を唱えた。
「……あれ? あたし、なんか急に眠く……」
って、ラリホーかよ。
「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
いや、マジで。
俺の叫び声も空しく、パルはころりと地面に寝転んでくうくうと寝息を立て始めた。
その寝顔は場違いなほどにあどけない。かわいいけどなんかムカつく。

結果、俺は一人でモンスターと対峙するハメに。
やばいよ。だって俺、まだレベル14なんだぞ?
42 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:06:59.32 ID:C10G0y6o
案の定、気がつけば俺たちはモンストルの教会に居た。
パーティを組んで早々の全滅劇。俺が地道に貯めてきたお金も半分に……
なんてことだ。

パルは教会の長椅子に腰掛けて項垂れている。
あっけなくやられた俺に腹を立てているだろうか。
恐る恐る話しかけてみると、意外にもひどく落ち込んだ声が返ってきた。
「ごめん……あたしのせいだよね」
モンスターを甘く見ていた、とパルは素直に自分の非を認めた。
聞けば、パルは思った以上に戦闘能力の低い俺を見て「自分が引っ張らなければ」と思ったらしい。
だから無理して先に立ってどんどん進んで、その結果あんなことになったわけだ。
「もう少し自重してくれ」と言うとパルはこくりと頷いて、今後は俺と足並みを揃えると約束してくれた。
こういうときに変に意固地になったりしないあたりがこいつの長所だと思う。
43 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:07:21.74 ID:C10G0y6o
と、その時だ。いきなり教会のドアがばたんと勢いよく開いてパルの両親が中へ飛び込んできた。
ああ、そういや無断で出てきたんだっけ。そりゃあこうなるのも仕方がない。
両親に叱られたり抱きしめられたりしながらパルは俺のほうを見る。
「ごめん、ちょっと待ってて。なんとか説得してみるから」
「分かった」と答えて俺は教会を出る。
このまま一人で行くべきだろうか、なんて考えてしまったことがパルに知られたらきっと怒られるんだろう。
だって俺とは違ってあいつには心配してくれる家族がちゃんと居る。
本当に巻き込んでしまっていいのか、と考えない方が不自然ってもんだろう。
でもあいつのことだから「俺が断ったら一人で行く」というのはきっと本気だろうし、その危なっかしさはついさっき文字通り痛感したばかりだ。
どう考えてみたって結局は「連れて行くのが一番いいんだろう」という結論に達してしまう。

なんてことを考えながら防具屋へ行って、残ったゴールドをはたいてはがねの鎧を買った。
これで町周辺のモンスターくらいなら一人でもなんとかなるはずだ。
パルのほうは少し時間がかかりそうだから、その間に少しでも経験値を稼いでおくとしよう。

ちなみに町を出るときにまたロニーがやってきて「全滅だせえwww」とか言ってきたけどもちろん無視した。
44 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:07:43.72 ID:C10G0y6o
パルが両親の説得に成功して町を出てくる頃には俺のレベルは16まで上がっていた。
これで少しはましになったはずだ。
まだまだ十分とは言えないが、聖水を使いながら騙し騙し進んでいくくらいならばなんとかなるだろう。
そろそろ聖水を買い足しておいたほうがいいかな?
道具屋は……って俺か。
そういや道具屋って誰が引き継ぐんだろう。
まあどうでもいいけど。

ちなみにどうやって両親を説得したのか訊いてみたところ、パルはそっけなく「あんたには関係ないでしょ」とか言った。
大体その反応でなんとなく想像がついた。
アモスさんのことを言ったのだろう。
恋する乙女の熱意にパルの両親も負けたってわけだ。
45 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:08:16.26 ID:C10G0y6o
とにもかくにも自分の店で聖水を補充して再び北の山へ。
パルが無理をしなくなったおかげで前ほどぎくしゃくはしてないけど、
やっぱりたまに起こる戦闘のきつさは変わらない。
役割的に俺が刃のブーメランで全体を弱らせてからパルの単体攻撃で一匹ずつ仕留めていくってのが理想なんだろうけど、
能力的な問題でどうしても パルの攻撃→敵の攻撃→俺の攻撃 という順番になってしまう。
そのせいで余計な一撃を食らうことも結構あって、その度にちくちくと嫌味を言われた。
いくら言うことを聞くようになったとは言ってもパルはパル。性格まで変わるわけじゃない。
腹いせにパンチラでも拝んでやろうかと思ったが、よく見るとみかわしの服の下にちゃっかりズボンを履いてやがる。
男のロマンを解さないやつだ。

頂上への道は少し入り組んではいたけど落とし穴とかのトラップはないようで、
モンスターにさえ気をつけていればあとはただひたすら進むだけだ。
パルがみかわしきゃくという新しい特技を覚えたけど使う機会がなかったり、
俺は逆に途中で覚えた穴掘りでそこら中を穴だらけにしてみたり、
途中でモーニングスターを見つけたけど二人とも装備できなかったりと
いろいろありながらもなんとか頂上にたどり着いた。
46 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:08:37.79 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994389.jpg

たどり着いたはいいものの、そういえば理性のタネってのがどんなものなのか俺は知らない。
パルもやっぱり知らないという。
どうすればいいんだろう、ときょろきょろしていると、頂上の片隅に一際目立つ草が生えているのが目に入った。
草なのに何故か賢そうに見える。あからさまに怪しい。
俺はそこまで歩いて行って、おもむろに引き抜いてみた。
すると。
「いたたた! こりゃ! わしを引き抜くとは何事じゃ!」
喋った。草が。すげえ。
どこに口があるんだ?
「どうせお主らも理性のタネが目的なんじゃろう? わしは見ての通り草じゃ。
 なんで関係ないわしを引き抜いたりするのやら。まったく人間の考えることは理解できん」
草のくせによく喋る。ためしに理性のタネのことを訊いてみると、そのへんに落ちているだろうということだ。
適当に探してみると意外にあっさりとそれらしきものが見つかった。
これで旅の第一目標は完了だ。
47 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:10:18.74 ID:C10G0y6o
穴掘りついでに草をもう一度植えてやろうとしたとき、ふいに草がこんなことを言いだした。
「お主ら、理性のタネを何に使うつもりなのじゃ? もしよければわしにも事情を話してくれんかのう」
この爺さん(?)も話し相手が欲しいのかもしれない。
確認のためにパルのほうを見てみると、あまり何も考えてなさそうな顔で「いいんじゃない?」と言った。
まあ確かに隠す理由はなにもない。
簡単に事情を説明してやると、草は「ほう」と感心したような声を出した。
「恩人を探すための旅か。最近の若い者にしてはなかなか感心なことよ。
 ……ふむ、よかろう。わしもついて行ってやる」
「は?」という俺とパルの声が思わずハモった。
「なんじゃ、聞こえなんだのか? わしもお主らの旅について行ってやろうと言っておる」
「いや、いらないんだけど……」
とパルが率直な意見を述べると、草から「ほほう」と意地の悪そうな声が聞こえた。
「よいのか? お主ら、見たところ恋仲というわけではなさそうだが。
 そんな男と二人きりの旅路というのではお主も気が休まるまい?
 モンスターなどよりもよほど危険な存在と常に隣り合わせなのじゃからのう」
見たところって……こいつ目まであるのか? 一体どこに?

いや、突っ込みどころはそこじゃない。なんだよ「モンスターより危険な存在」って。
「……言われてみればそうね。あたしとしたことがそこまで頭が回ってなかったわ」
っておい。お前も賛同するのかよ。
「決まりじゃな。男よ、お主も異論あるまいな?」
「好きにすれば?」と答えるしかなかった。
ここで断ったら「パルと二人きりで旅がしたい」って言ってるのと同じことになるわけで。
うまく誘導されてしまったと気付いてはいてもどうしようもない。
「よろしい。二人ともよろしく頼むぞ」

こうして俺たちに三人目の仲間が加わった。
仲間といっても戦闘に関しては期待できない、というか期待のしようがないけど。
48 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:10:39.23 ID:C10G0y6o
モンストルに帰って村長への報告を済ませた俺たちは、ひとまずそれぞれの家に泊まることにした。
草の爺さんは俺のほうが預かることになったのだが、
部屋の隅に飾ってある作りかけのジオラマに興味を持ったようでしきりと出所や作り方などを訊いてきた。
これの良さが理解できるとは、なかなか話の分かる爺さんだ。
うまくやっていけそうな気がする。

翌朝、宿屋に泊まっていた行商人にいくらか金を払って船に乗せてもらう約束を取り付けた。
行き先はレイドック方面らしい。
すぐに出発だというので俺たちは急いで準備をした。
49 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:11:09.17 ID:C10G0y6o
すれ違う住人たちの視線は相変わらず冷たい。
結果的にアモスさんを追い出すことになった事件の当事者だからか、それとも俺の味方をしているせいか、
なんだかパルにまでそんな目が向けられているような気がする。
きっとパル自身も気付いているだろう。
俺は慣れているからいいけど、今まで優しくされてきたこいつにとってはちょっとばかり辛い光景かも知れない。
特にすることもないのでさっさと町を抜け出して岬へと向かった。

「あたし、そんなに悪いことしたのかな?」
途中、泣きそうな声でパルがそう言っていたけど、俺には聞こえないふりをすることしかできなかった。

分かってないな、パル。
アモスさんがどうのとかじゃなくて、俺の味方をしてるってことがあいつらにとっては重罪なんだ。
50 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:12:53.33 ID:C10G0y6o
行商人の船に乗って俺たちは慣れ親しんだ土地をあとにする。
レイドック地方の船着き場に着くのは明日の昼頃になるらしい。

やることもないので俺は甲板に立ってぼんやりと海を眺めている。
聖水を流しながら航海しているそうなのでモンスターの心配はないはずだ。
ちなみにパルは俺とは少し離れたところで草の爺さんと何やら話し込んでいる。
一緒に旅をするようになって、町に居たときよりは会話もするようになった俺たちだけど、
それでもプライベートな時間まで一緒に過ごすほど馴れ合っているわけでもない。
51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:13:21.09 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic2d/src/viploader2d558811.jpg

青い空、白い雲、彼方に見える水平線。
そんな光景を見るともなしに眺めていると、何故かクソ親父の顔が頭に浮かんできた。
あの男もこんなふうに海を眺めながら世界を旅していたのだろうか。
母さんの病気を治すための薬を探す旅をしていたというが、俺はそれを信じていない。
だって事実として母さんは亡くなってしまったのだ。
「男ってやつは、惚れた女のために命をかけるもんだ」
それがクソ親父の口癖だった。
それほど母さんに惚れていたというならばせめて側に居てあげてほしかった。
52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:14:07.31 ID:C10G0y6o
ベッドの上でうなされながら、母さんは何度も何度も親父の名前を呼んでいた。
なんであんな男がそんなにいいのか俺には分からないけど、
母さんが親父を心底愛していたのは疑いようのない事実だ。
それに引き替え親父は……そもそも「惚れた女」というのは本当に母さんのことだったのか?
余所で愛人でもこさえてそこに入り浸っていたんじゃないだろうか。
今となってはそんな疑いさえ抱いてしまう。

母さんが亡くなった時だってそうだ。
最期を看取るだけ看取って親父はすぐに家を出て行ってしまった。
葬儀のときも俺は親父の顔に一回も目を向けなかったのでどんな顔をしていたのかは知らないが、
一つだけ確かなことがある。
親父は俺の前では一度も涙を流さなかった。
53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:14:52.86 ID:C10G0y6o
そのあとすぐ、葬儀の後片付けもそこそこに親父は「母さんの望みを叶えてくる」と行って再び町を出て行った。
親父の顔を見たのはそれが最後だ。
それ以来俺のところへは手紙の一つも寄越していない。
一つだけあったとすれば、親父が居なくなって数年経ったある日、どこかの兵士がモンストルにやってきて
「ここに○○という男は居ないか」と住人に訊いて回ったということだ。
○○というのは親父の名前だ。
聞けば親父は盗賊として牢獄に捕らえられたが脱走し、どこかへ身を眩ませてしまったのだという。
実の息子ということで俺の家は隅から隅まで調べ上げられ、いくつかの物品が押収された。
以来、俺は「犯罪者の息子」というレッテルを貼られ、
元々の無愛想な性格も相まって周囲から孤立していったというわけだ。

親父の言った「母さんの望み」とは一体何だったのだろうか。
盗賊になって他人様の財産を荒らし回るのが母さんの望みだったとでも?
ふざけるな。
あれも方便だったに違いない。
どこぞの女のところにでもしけ込んで、その女にも捨てられて最後は盗賊稼業に身をやつすしかなくなった。
真相としてはどうせそんなところだろう。
54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:15:22.08 ID:C10G0y6o
物思いにふけりながらぼんやりとした時間を過ごして、やがて夜になった。

で、ここで問題発生。
大して大きな船じゃないから、俺たちが泊まれる船室が一つしかないことが発覚した。
ベッドはちゃんと二つあるらしいのだが、どっちにしても俺とパルは同じ部屋で寝ないといけないわけだ。

あたりまえだがパルは思いっきり嫌な顔をした。
「いい? ちょっとでも変な気配を感じたらぶっとばすからね。問答無用で」
こういうとき、何故か男は弱い。何も悪いことしないのに。理不尽きわまりない。
「心配せずともちゃんとわしが見張っておいてやるわい。安心して眠るがよいぞ」
草の爺さんが取りなすようにこう言ってくれたけど、それって結局俺が信用されてないってことで。
ここまで疑われると逆に襲ってやろうかという気にもなってくる。
いや、やらないけど。
俺だってまだ死にたくないし。
55 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:16:09.11 ID:C10G0y6o
ドア側のベッドにパル、奥側に俺という並びで、その間にある引き出しの上に草の爺さんを置くことになった。
パルの牽制するような視線をひりひりと感じながら灯りを消してベッドに横になる。
こういう時は先に寝てしまったほうの勝ちだ。
目を閉じるとゆったりとした船の揺れが全身を包んで、まるで揺りかごにでも寝かされているような気分になる。

「やはり恋仲でもない若い男女が二人で旅をするというのはいろいろと問題があるのう」
暗闇の中、爺さんがぽつりと言った。
「仕方がない。わしが一肌脱いでやるとするかの」
仲間のあてでもあるんだろうか。
爺さんはまだぶつぶつと何かを言っていたが、まどろんでいく意識の中で聞き取れたのはそこまでだった。
56 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:17:34.90 ID:C10G0y6o
翌朝。
窓から差し込んでくる朝日に促されてうっすらと目を開けてみると、
至近距離で俺の顔をのぞき込んでいる誰かといきなり目が合った。
びっくりした俺が「うわっ!」と勢いよく飛び起きた拍子に
その誰かと思いっきり頭と頭をぶつけてしまって、目の前に星が飛んだ。

「いたたたた……ったく、いきなり何をするんじゃ」
ぶつけたところを手でさすっているそいつは、こんな口調だけどどう見ても十二、三歳くらいの女の子だ。
黒くて真っ直ぐな髪が腰の下まで伸びていて、服装は……なんというか、天女?
小さな体には不釣り合いなほどぶかぶかの、白と赤の羽衣みたいな衣装を身にまとっていて、
だぼだぼした袖からわずかに覗いた小さな手がおでこをさすっている。
57 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:18:07.12 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic2d/src/viploader2d558814.jpg

……えっと、どなた?

と言おうとしたのだが、俺が口を開くよりも早く隣のベッドから声がかかった。
「ちょっと、誰よその子? あんた、あたしが居る部屋に女の子連れ込んだわけ? しかもそんな小さい子を……」
酷い誤解だ。俺に弁解するいとまを与えずにパルはさらにまくし立ててくる。
「てゆーかもしかしてあたしが寝てる横でそんなことしてたわけ? うわ、最悪。想像したら鳥肌立ってきた」
待て。そんなことってどんなことだ。

……いや、分かるけど。俺はロリコンじゃねえ。
勝手に誤解して勝手に汚物を見るような目で俺を見るな。
58 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:20:23.15 ID:C10G0y6o
「待て待て。こやつはともかく、その誤解はわしに対しても失敬じゃ。
 このわしがこのような男とそんな行為に及ぶわけがなかろう」
なんか不名誉なことを言われてる気がするが、この際誤解が解けるならなんでもいい。

それより俺にはなんとなくこの女の子の正体が分かってきた。この口調、昨夜寝る間際に聞いた声。
タンスの上を見てみると案の定草の爺さんはそこに居ない。
「なあ、あんた爺さんだろ?」
「はい?」というような顔で二人がこっちを向いた。
「何を言うか。かように可憐なおなごを前にして、言うに事欠いて爺さんじゃと?」
「いや、そうじゃなくて……」
ああもう、ややこしい。
「あんたは俺が『草の爺さん』って呼んでたあの草なんだろ? ってこと」
恐らくは爺さんなのであろう女の子は「ほう」と少し驚いたような顔をした。
「よく分かったのう。もう少し秘密にして混乱させてやろうかと思っておったのに」
少し残念じゃ、と悪びれた様子もなく言っている。当たり前だが姿は変わっても性格はそのまんまのようだ。
「一つ言っておくが、わしのことを『爺さん』と呼ぶのはよせ。あまりにもミスマッチじゃろう」
たしかに。
聞けば名前はないとのことだ。好きに呼んでくれて構わぬ、ということだが……
59 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:21:14.71 ID:C10G0y6o
「かし子」
パルがいきなり言った。
「賢そうな草だから、頭三文字をとってかし子。それでいいでしょ?」
なんというネーミングセンス。いくらなんでもそれはかわいそうじゃ?
「むう……まあ、それでよいか。単純ではあるが、おかしな名前をつけられるよりはいくらかましじゃ」
いいのか。女の感性ってよく分からん。
いやまあ、こいつを女に分類していいのかどうかは微妙なところだが。
「紛れもなく女じゃぞ。確認させてやろうか?」
「……なんで俺の考えてることが分かった」
「ふん。年期が違うのじゃ。お主らの考えておることなどなんでもお見通しよ」
さよけ。
でもそういう発言をするとパルの俺を見る目がますます冷たくなる一方なので自重しような。
60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:22:03.48 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994402.jpg
かし子の代役はバーバラ

レイドックの船着き場で船を降りた俺たちは、
まず船着き場の人たちにアモスさんらしき人を見なかったか訊いてみた。
が、誰に訊いても返ってくる返答はみんな同じ。
「戦士の人なんて言われても、そんなのはいくらでも居るからなあ」
まあそりゃあそうだろう。
このままではレイドックの城下町まで行っても同じことになるだろうと踏んだ俺たちは、
三人で似顔絵の作成にとりかかることにした。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994403.jpg

ジオラマの作成で鍛えた俺の指先の出番だ……と思ったが、
人形に色を塗るのとゼロから絵を描くのとでは全然勝手が違うってことにはすぐに気がついた。
出来上がった絵はアモスさんと似ても似つかないというか、
そもそもこんな顔の人間なんて絶対居ないだろって代物。
パルのほうはどうかなと思って見てみたらあっちも似たような出来のようだ。

最終的に、直接の面識はないかし子が俺たちからアモスさんの特徴を聞きながら書き上げた絵が一番似ているという結果になった。
「まったく、わしが居てよかったのう。感謝せい」
得意げに頬を膨らませながらかし子はそんなことをのたまった。
ムカつくけど反論できない……
61 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:22:28.41 ID:C10G0y6o
出来上がった絵を手にもう一度船着き場の人たちに訊いて回ってみたが、やはり分からないとのころだ。
まあアモスさんってそんなに目立つような外見じゃないからいちいち覚えていないんだろう。
ひょっとするとこっちの大陸には来てないのかもしれないが、
ひとまずはレイドックに行ってみようということになった。

外に出たとたん、かし子のテンションが急上昇した。
「おおい、お主らさっさと来んか! 置いていくぞー!」
はしゃいだ声で言って、弾むような足取りで駆けていく。
裾が地面すれすれまであって動きにくそうな衣装を着ているので、
今にも裾を踏んづけて転んでしまうのではないかと気が気でない。
ちょこまかとかし子が動き回るのに合わせて、腰の下まである長い黒髪がぴょこぴょこと跳ねている。
ある種の清楚さを感じさせる黒髪のロングヘアも、
こいつにかかれば元気さを示す要素の一つに成り下がってしまうらしい。
船の中ではわりと落ち着いていたのに、急にどうしたんだ?

「あの子ってずっと北の山の頂上に居た……というか生えてたんでしょ?
 違う土地に来れて嬉しいんじゃない?」
とはパルの談。
なるほど、そういうことか。
子供を見守る保護者みたいな気持ちで俺たちはかし子のあとを追いかけた。
62 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:22:46.61 ID:C10G0y6o
このあたりのモンスターはモンストル周辺ほど強くないようで、
三人パーティになったこともあってさくさくと倒していける。
人生で初めて味わう、聖水を使わなくてもいい旅路。
こんなにも気分のいいものだったとは知らなかった。
63 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:23:08.95 ID:C10G0y6o
ここで新メンバー、かし子のつよさ

かしこそうなくさ
レベル:19
まほうつかい
ようじゅつし

Eモーニングスター
Eかしこのはごろも

ちから:24
すばやさ:57
みのまもり:16
かしこさ:69
かっこよさ:97
さいだいHP:58
さいだいMP:140
こうげき力:62
しゅび力:58

じゅもん メラ メラミ ラリホー ギラ マヌーサ ベギラマ ルーラ
     メダパニ ルカナン イオラ リレミト ザオリク

専用装備の能力
かし子の羽衣 守備力37  かっこよさ38 魔法攻撃に対する耐性あり

モーニングスターは最初から装備していたわけじゃなくて北の山で手に入れたものを渡してやった。
本人の弁によればなんでも昔かし子が使っていたのを宝箱に入れておいたのだそうだが、真偽の程は定かではない。
ちなみにこの羽衣は魔導師のローブを自分用に改造したものなのだとか。
攻撃呪文ばかり覚えてる中にぽつんとザオリクが紛れ込んでるのは何なのだろう?
64 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:23:38.53 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994405.jpg

北西に向かって歩いていくと、さほどかからずにレイドックに着いた。
到着と同時に「おお、人がいっぱいおるぞ!」とか言ってかし子は町中へ走っていってしまった。
田舎者丸出しのはしゃぎっぷり。なんだかこっちが恥ずかしい。
まああいつは少なくとも見た目は子供だからみんな温かい目を向けてくれてるみたいだけど。
「あたしたちも行きましょ。町の人にアモスさんのことを訊いてみないと」
そう言ってパルも町中へ入っていく。
俺も一応その後について行ったのだが、多分ここにアモスさんは居ないだろうと思っていたりする。
最近のレイドックと言えばあまり良い噂を聞かない。
65 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:24:29.58 ID:C10G0y6o
「のう、お主」
いつの間にか戻ってきていたかし子がくいくいと俺の服の袖を引いた。
見ればどことなくその表情が曇っている。
「この町で何かよくないことでもあったのか? 心なしか住人たちの顔が暗いように思えるんじゃが」
さすがというか何というか、かし子はそういう雰囲気を敏感に感じ取ったらしい。

噂で聞いたことだが、
なんでもレイドックの王様と王妃はムドーとかいう魔王の討伐に失敗して以来ずっと寝たきりで、
二人の息子である王子も今は行方不明なのだという。
その間はゲバンとかいう大臣が内政を担当しているらしいのだが、
これがなかなかの悪漢で、圧政をひいて住人たちを苦しめているのだとか。
66 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:24:55.36 ID:C10G0y6o
周りの人に聞こえないように抑えめの声でそう説明してやると、
どうやらパルも知らなかったらしく少し意外そうな顔をした。
「へえ。レイドックって言えば優しい王様が治めてるってイメージがあったんだけどなあ」
「王様が寝たきりになる前まではこんなんじゃなかったらしいぞ」
「ふうん」と答えながらパルは改めて町の様子をぐるりと見渡す。
「じゃあここにアモスさんは居ないかもね。わざわざそんな町を滞在先に選ぶはずがないもの」
そういうことだ。
でもまあ通るだけは通ったかもしれないので、いちおう教会と宿屋にだけは話を聞きに行くことにする。
67 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:25:15.91 ID:C10G0y6o
結果から言うと、めぼしい収穫はなかった。
誰に訊いても返事は同じ。
「来たかもしれないが記憶にはない」とのこと。
戦士ふうの若い男なんて旅人には一番多いタイプの人間だ。
似顔絵一つで特定しようというのがそもそも無茶なのかもしれない。
俺がそう言うとかし子が「わしの似顔絵に文句をつける気かー!」とか言ってむくれていたが、
実際見つからないんだから仕方がない。
68 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:25:32.63 ID:C10G0y6o
宿屋の話を聞きに行ったついでに今日はここで宿をとることにした。
男一人女二人になったので、宿屋での俺はますます肩身が狭い。
かし子はこんな身なりのくせに女っぽいことはちゃんと気にするみたいで、
二人が着替えるときにはわざわざ部屋を出て行かされた。
風呂に入るときなんて、わざわざ二人が別々に入って残った一人が俺を見張っている徹底ぶりだ。
前科があるならともかく、何もしてない俺がなんでここまで疑われなくちゃいけない?
理不尽だ。

やっぱりあれか。
カエルの子はカエルだと。
犯罪者の息子は犯罪者だとパルも本音のところでは思ってるってことか?
そうならそうとはっきり言えばいいのに。
69 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:27:05.94 ID:C10G0y6o
男一人と女二人。幼なじみとロリっ子。
傍目には両手に花だと思われるのかもしれない。
実際、俺が道具屋をやっていたときにモンストルにこんな旅人が来たらきっと同じことを考えただろう。
羨ましいとすら思ったかもしれない。

でもそういう奴らに俺は声を大にして言ってやりたい。
だったら代わってみろ、と。
これでせめてどちらかが少しでも俺に好意を持ってくれていればちょっとは違うのだろうけど、
残念ながら現実はそう甘くない。
こちらをただの男としか認識していない女二人との旅なんて辛いだけだ。
片方が何かをしていても片方が俺を見張っているからどっきりハプニングにも期待できないし。

でもこれがむさい男ばかりの旅に切り替わるのと現状維持とを選べと言われたら、
全力で後者を選んでしまいそうな自分がいる。
だって俺も男だし。
女の子二人と旅をするってだけで心が沸き立ってしまうのはしょうがないじゃないか。
反論は認めない。
70 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:27:31.53 ID:C10G0y6o
次の日。
ここレイドックからずうっと西へ行ったところにアモールという町があるというので次はそこへ行くことにする。
一日で歩ける距離じゃないというので、食料だとかテントだとか野宿に必要なものは一通り買いそろえた。

で、その道中での出来事だ。
ある一匹の魔物が、倒されたあとに起き上がって俺たちの後ろについてきた。
しばらく無視して歩いていたのだが、それでもしつこくつけ回してくる。
ウザかったのでもう一度ぶっ殺してやったのだが何故だか死なないようでまた起き上がってきた。
ちなみにどんなやつかというと、大して強くないこの辺りのモンスターの中でも一際弱かった、
ナメクジにでっかい唇をつけたような気持ち悪い化け物だ。
71 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:28:23.16 ID:C10G0y6o
「世の中にはモンスターを手懐けることのできる『魔物使い』なる人種が居ると聞くがのう。
 わしらの中にその心得がある者はおらぬよな?」
かし子の言葉に俺とパルは頷く。
なんであいつは仲間になりたそうな目でこっちを見ているのだろう?
明らかに出現地域を間違えているような感じだったから、群れに馴染めず寂しかったのだろうか?
あれ。そう考えるとなんかちょっと親近感が……
いや、俺は別に寂しくなんてないけど。

「まあいいじゃない。仲間が増えることに越したことはないんだし」
パルは楽観的にそう言って、さも既に仲間に加わったかのような顔でついてくるそいつを見て苦笑した。
「ペット……というには、ちょっとグロいけど」
72 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:28:42.89 ID:C10G0y6o
というわけで俺たちのパーティに4人目の仲間が加わった。
マリリンという名前らしい。
ちなみに言葉は喋れないらしく、
話しかけても「ぶちゅぶちゅ」とかいってでかくてキモい唇をぷるぷるさせるだけだ。
それなのに何故名前が分かったのかは秘密だ。
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994409.jpg
73 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:29:11.16 ID:C10G0y6o
3人と1匹になった俺たちは日が暮れるまで歩いて、適当なところで野営をとることにした。
たき火を組んで鍋を火にかけ、脇にテントを張る。
小さい頃――親父とお袋がまだちゃんと家で暮らしていた頃に
親父に教えられた知識がこんなところで役に立つとは。
あのクソ親父の知恵を借りていると思うと気分はちょっと複雑だが。

かし子はちょっとしたキャンプ気分できゃっきゃとはしゃいでいたが、
「自分でやる」と張り切っていたテント張りでは勝手が分からずに結局は涙目で俺に助けを求めてきた。
俺たちより長く生きているとか言い張ってるこいつだが、傍目にはどうにも見た目通りの子供にしか思えない。

74 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:29:41.86 ID:C10G0y6o
パルは料理の担当だ。
俺の面倒を見てくれていたときによく作っていたホワイトシチューを作っているらしい。
鍋をのぞき込んだりしているわけじゃないが、匂いで分かる。
パル本人には絶対言えないが、
もし俺が「一番好きな食べ物は何だ」と訊かれたとするとその答えは「パルのホワイトシチュー」になるだろう。
何故だか知らないがこいつの料理はひどく俺の舌に馴染むのだ。
といっても他人の手料理なんて母さんとこいつのしか食ったことはないのだけど。

マリリンは片隅でぶちゅぶちゅ言ってるだけで手伝おうともしない。
まあはなからそんなものは期待していないけど。
75 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:31:18.80 ID:C10G0y6o
野営の準備に少し手間取ったので、飯を食い終わった頃にはもうかし子があくびをし始めた。
食事の片付けを適当に済ませて就寝時間。ちなみにテントは一つしかない。

またいろいろ言われるのもウザいので先手を取って言ってやった。
「俺は外で見張りしといてやるから、お前らはテントで寝ろ」
「え?」というような顔でパルがこちらを向く。かし子は言われるまでもなく既にテントの中だ。
俺に指示されるのが気にくわなかったのかパルはなんだかんだと反論してきたが、適当なことをいってあしらった。
どのみち誰か一人は見張りを立てておかないといけないのだ。
それを俺以外のどちらかがやるとなると、テントの中で俺は残ったもう片方と二人きりということになる。
そんなのは俺だって落ち着かない。
76 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:32:15.44 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994412.jpg

パルがテントに引っ込んでからしばらくぼんやりと夜空を眺めていると、
ぶちゅぶちゅと気色悪い音を立てながらマリリンが近付いてきた。
そういえばこいつも居たんだっけ。
まあどっちにしろこいつ一人に見張りを任せるわけにはいかないのだけど。
信用してないとかじゃなくて、
装備が何もなしでレベルもほぼ初期のままのこいつ一人でこの辺りのモンスターを相手させるってのはあまりにも無謀すぎる。

なんでこいつは俺たちについてきたのだろう?
にょきりと突き出した触覚みたいな目玉を見ていてもキモいだけで何を考えているのか想像もつかない。
群れからはぐれて寂しいなんていう感情がこいつにもあるのだろうか?

「群れからはぐれた、ねえ」
自然とため息が出た。
こうして三人で旅をしているというのに、
俺の隣にはこんな仲間と呼んでいいのかどうかも分からないモンスターしか居ない。
群れからはぐれているというのではある意味俺だってそうだ。
まあ今日は自分からパルたちを遠ざけたわけだけど……
俺はそういうふうにしか育ってこなかったのだから仕方がない。
77 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:32:53.46 ID:C10G0y6o
そもそも生まれからしてそうなのだ。
俺があの町であんな扱いを受けていたのは親父のこととか俺の性格とかの以前に、
もともと親父と母さんがあの町の人間じゃないということが下地になっているのだと思う。
なにぶん物心つく前のことなので人づてに聞いた話になるが、
親父と母さんは生まれたばかりの俺をつれてモンストルに転がり込んできたのだそうだ。
モンストルは特別に排他的な町というわけではないけど、
旅人がふらりと立ち寄るのと俺たちみたいに住み着くのとでは話が違ってくる。
78 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:33:33.68 ID:C10G0y6o
それに、今になって分かることもある。
親父と母さんがモンストルに来る前に何をやっていたのかは知らないが、
母さんには何となく水商売の雰囲気があったように思う。
モンストルで客をとっていたというわけではもちろんないが、
話し方だとかふとした仕草なんかにそういうものが見え隠れしていた。
周りの大人たちもきっとそれには気付いていたことだろう。
社交的だった母さんが本当の意味で町に馴染むことが出来なかったのは
そこから来る偏見のせいもあったのかもしれない。

だけど、子供だった俺にそんなことが分かるはずもなく。
病魔に苦しむ母さんをろくに見舞いもせずに、
平気な顔をして毎日を過ごしている周りの大人たちがあの時はみんな敵に見えたものだ。
もしかするとその認識が今もどこかには残っていて、それが俺にあんな態度をとらせているのかもしれない。
79 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:34:11.89 ID:C10G0y6o
なんて、つらつらと物思いにふけっていると、ふいに後ろから俺の名前が呼ばれた。パルの声だ。
「ねえ、やっぱり変わるよ。ちょっとでも寝ておかないと明日が辛いんじゃない?」
俺はちょっとめんどくさいような気持ちになって、振り向くことすらせずに答える。
「俺とかし子を二人きりにさせるつもりか? それはまずいんじゃなかったのかよ?」
背後でパルが「う」と困ったような声を上げた。
「昨日のことは、その……悪かったわよ。
 あんたが無理矢理そんなことをするだなんて、あたしだって本気で思ってるわけじゃないの。
 ただ、その……あたしだって男の子と一緒の部屋で寝るのなんて初めてだったから、緊張しちゃって」

何が言いたいのかよく分からない。
いくら緊張していたとしても、思ってもないことを口走ったりなんてしないだろうに。

80 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:34:33.35 ID:C10G0y6o
「んなことは気にすんな。俺のことなんてほっとけよ。お前はアモスさんのことだけ考えとけばいい」
と、この台詞がなぜかパルの機嫌をいたく損ねてしまったらしい。
いきなり「なによ!」とかいって激昂しはじめた。
「なんであんたにそんなこと言われなくちゃいけないのよ! 大きなお世話だっての!」
思わず振り向いてしまった俺は、ぎろりとこちらを睨み付けてくるパルの眼前で首をかしげる。
こいつがいきなり怒ったり泣いたりするのはわりと昔からのことだが、今回のこれは特に意味が分からない。
81 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:35:10.04 ID:C10G0y6o
わなわなと肩を震わせているパルと、意味が分からずにきょとんとしている俺。

どうすればいいのか分からずに困り果てていたところで、
ふとテントの入り口が開いて中からのっそりとかし子が顔を覗かせた。
「なんじゃ、うるさいのう。どうしたというのじゃ?」
眠たそうに目をこすりながら半分眠ったままのような声で言う。
その声に気勢を削がれたのか、パルはぷいっと視線を逸らした。
「バカ!」と最後にしっかりと捨て台詞を吐いてから、肩をいからせつつ歩いてテントに戻っていく。
かし子はしばらく窺うような視線をこちらに向けてきていたが、やがて何も言わずに中へ引っ込んだ。

マリリンはといえば、相も変わらずじいっと俺を見ている。
なんだかその顔が物言いたげに見えるのは俺の考えすぎだろうか。
「なんだってんだよ……」
思わず深々とため息をついてしまった。
俺が悪いのか? 今のやりとりのどこにパルの機嫌を損ねる要素があったんだ?
正直言って見当もつかない。
82 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:35:30.84 ID:C10G0y6o
翌朝になって起き出してきてからもパルはツンケンした態度のままだった。
野営の片付けをしているときも、それが終わってアモールに向けて歩き始めたあともずっと
「あなたと話をする気なんてありませんよ」というふうにつんとそっぽを向いている。
典型的な熱しやすく冷めやすいタイプのパルが、
こんなふうに一晩あけても前の日のいさかいを引きずっているのは珍しい。
ちょっとした言い争いがあっても次の日にはけろりとした顔をして
「昨日はごめんね」
と言ってくるのが今までは当たり前だったのだが。

俺の方は別に怒っているとかでもないのだが、
意味も分からないままこんな態度に出られたのではもちろんいい気分はしない。
こうなったらあっちから謝ってくるまでは絶対に俺から歩み寄ったりしてやるものか、と心に決めた。
83 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:36:32.53 ID:C10G0y6o
こうなるとかわいそうなのがかし子だ。冷戦状態にある俺たちの間に立っておろおろとしながら
「の、のうお主たち。何があったのかは知らぬがひとまず仲直りせぬか? このままでは戦いもうまく立ち行かぬぞ」
とか言っている。
かし子に言われて一度だけパルはこちらを向いたが、
俺が目を合わせるよりも早く「ふんっ」と鼻をならしてそっぽを向いた。
「別に困らないでしょ? この辺りの敵ならあたし一人で十分だもの。かし子に迷惑はかけないわよ」
言って、パルは一人で先へ先へと進んでいく。

なんかデジャヴ。いきなり北の山へ行っていきなり全滅したあのときを思い起こさせる光景だ。
なまじっか今回は本当にパル一人でモンスターを蹴散らしてしまえるから余計にタチが悪い。
まるで怒りをぶつけるように、新しく覚えた正拳突きで敵を次々と粉砕している。

鬼気迫るその立ち振る舞いにかし子がぶるりと背中を震わせた。
「一体なにがあったのじゃ? あやつ相当に怒っておるぞ?」
「俺が知りてえよ」
俺としては投げやりにそう答えるしかない。
ったく、一体何だってんだ? 理不尽にも程がある。
84 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:36:51.59 ID:C10G0y6o
なんだかややこしいことになっている人間たちに構う様子もなく、
マリリンは相変わらず何を考えているか分からない顔でしれっとあとをついてくる。
少しだけこいつが羨ましい、とか思ってしまった自分がなんか嫌だ。

モンスターが強くないこともあってどうにか無事にアモールまでたどり着いたのだけど、
問題が発生したのは町についてからのことだった。
結果から言うと、その問題のせいで俺たちは宿も取らずにそそくさと出て行くことになってしまったのだが……
素直に認めよう。今回は全面的に俺が悪い。
85 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:37:33.06 ID:C10G0y6o
ことのあらましはこうだ。

アモールについた俺たちは休憩もそこそこにアモスさんについての聞き込みを始めたのだが、
その途中で余計なことを耳にしてしまった。
なんでも教会で働いているジーナという婆さんは元盗賊なのだとか。
盗賊という単語は俺にとって否応なしにクソ親父を連想させられる天敵みたいな言葉。

そんな婆さんが教会で働いているというだけで忌々しい――なんて考えていたところで、
なんとも間の悪いことにばったりそのジーナ婆さんと出くわしてしまった。
で、よせばいいのに言ってしまったのだ。
「盗賊をやっていた人間が教会で働いているだなんておこがましい」とかそんなことを。
で、「お前みたいな若造に何が分かる!」と言い返してきたジーナ婆さんと、
売り言葉に買い言葉でそのまま口論になった。
さすがに年寄り相手に手をあげるほど見境がなくなっていたわけじゃなかったけど、
もしその場に誰も居なかったとしたら自分を抑えることができていたか、正直自信がない。

で、最終的に「出て行け!」と婆さんに言われた俺が
勢いで「こっちから出て行ってやるよ、こんな町!」と返して本当に出て行ってしまったというわけだ。
86 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:38:16.74 ID:C10G0y6o
パルたちは一応ついてきてはいるが、さすがに呆れられているようでパルどころかかし子さえも何も言ってこない。
俺だって分かってはいる。あんなのはまるっきり子供のケンカだ。
なんであんなに腹が立ったのか……

今思うとアモールでのあの婆さんの立ち位置が許せなかったのかもしれない。
俺とは違ってあの婆さんは住人たちに受け入れられている。
しかも俺が犯罪者の息子であることに対してあの婆さんは本人が元盗賊だ。
なのに住人たちは婆さんを好意的に見ている。教会の仕事をよくやってくれる、と褒めている人すらも居た。

じゃあ俺は何なんだ?
実は親父のことなんて関係なく、町で孤立していたのは全部俺自身のせいだったとでも?
あの婆さんを見ているとそんなふうに考えてしまいそうで、
だから俺はあの婆さんの存在を認めたくなかったのだと思う。
87 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:38:58.86 ID:C10G0y6o
アモールを出た俺たちがどこに向かうかというと、レイドックへとんぼ返りする以外に選択肢がない。
かし子のルーラがあるにはあるが、頭を冷やすためにも今は歩きたい気分だ。
行きの時のパルみたいに今度は俺が先頭に立って野原を歩く。
刃のブーメランがあればこの辺りのモンスターは俺一人でもなんとかなるが、
パルみたく痛快に一撃で倒すとはいかない。
ぶつけどころのないイライラが俺の中にどんどん貯まっていくのが自分でも分かる。

そんな俺を責めるでも慰めるでもなく、二人と一匹は黙ってついてくる。
見捨てられないだけまだましと思うべきだろうか?
パルとしては一刻も早く次の町へ行ってアモスさんを探したいだろうに。
88 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:40:33.05 ID:C10G0y6o
戻る途中でまた野宿することになったが、俺は意地でもテントに入らなかった。
これで二夜連続の徹夜だ。
一人でたき火とにらめっこしつつ見張りをしていると抗いがたい眠気が襲ってくる。
それでもなんとか眠らずにおこうとしたのだけど、そう思えば思うほど意識が薄れていってしまって……
89 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:40:53.10 ID:C10G0y6o
その時だ。
思いがけないほど近くから聞こえた魔物のうなり声にはっと俺の意識が引き戻される。
顔を上げた瞬間にはもう、大口をあけた魔物の牙がすぐそこに迫っていた。
慌てて側に置いてあるブーメランに手を伸ばすが、間に合わない――

思わず目を閉じてしまった次の瞬間、どおんと大きな音がした。
恐る恐る目を開けてみると、情けなくへたり込んだ俺の前で仁王立ちしているパルの背中がそこにあった。
傍らには苦しげなうめき声をあげて横たわる魔物の姿。
何が起こったのかは一目瞭然だ。
90 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:41:22.47 ID:C10G0y6o
「見張りはあたしとかし子の二人でやるから。あんたはテントで休んでて」
昨夜の一件以来初めて俺に向けられたパルの声はひどく冷淡だった。
「いや、でも――」
「いいから。あんたに任せてたらこっちが不安なのよ」
パルの声には有無を言わせぬ迫力があった。
圧倒的に立場の弱い俺はすごすごと引き下がるしかない。
テントに入る前に一度だけ振り向いてみると、マリリンがのほほんとした顔でこちらを見ていた。
そういえばこいつ、魔物が近付いてるってのに俺を起こしもしないで……
まあこいつにあたってもしょうがないのだけど。

すごすごとテントに入って横になる。
悔しさとか自己嫌悪とかいろんなものが頭の中をぐるぐると回っていて、眠気はあるのにまるで眠れなかった。
91 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:44:46.08 ID:C10G0y6o
黒い服を着た子供の俺と、それを取り巻く喪服姿の大人たち。
視線の先ではやはり黒い服を着込んだ親父か顔を俯けている。

ああ、またあの夢だ。
何度も何度も繰り返し見せられたこの光景に、否応なしにそう気付かされる。

「かわいそうに、あの子」
「父親はろくに家にも寄りつかないで、母親まで亡くして……これからどうするのかしら?」
ひそひそと話し声が聞こえる。
きっと声を抑えているつもりなのだろうけど、俺には丸聞こえだった。
これが夢だということは分かってはいる。分かってはいてもなお腹が立った。
ろくに見舞いにもこなかったくせに、いざこうなってみるとまるでこちらを心配しているようなことを言う。
声を聞けばその言葉がうわべだけのものだというのは丸わかりだというのに。
同情なんていらない。誰でもいいから一緒に泣いてほしかった。
優しかった母さんにもう会えないのだという、
この胸の張り裂けそうな悲しみを少しでいいから分かち合ってほしかった。
92 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:45:27.62 ID:C10G0y6o
どうせ俺は一人なんだ――なんて、やさぐれたことを考えていたその時だ。

ふっと何か温かいものが俺の手を包んだ。
見れば、パルが隣に立って俺の手を掴んでいた。
パルは何も言わない。ただじっと俺の目を見返している。
やがてじわじわと、その目尻に涙が浮かび始めた。
ぐっと歯を食いしばってパルはそれを堪えようとしているが、後から後から涙は溢れてきて、
パルの白い頬を伝って落ちていく。

http://up2.viploader.net/pic2d/src/viploader2d558829.jpg

堪えきれなくなったように、パルは俺の胸に飛び込んできた。
「ごめん……ごめんね。あたし、慰めてあげないといけないのに……何言っていいのかわかんないよ」
ひどい涙声でパルは何度も何度も謝っていた。
俺は何も言えなかったけど、本当は「ごめん」なんていらなかった。
あの時、パルの体の温もりに、シャツに染みこんだ涙の温かさに、俺がどれだけ救われたか。
パル自身はきっと今も気付いていないのだろうけど、今の俺があるのはもしかするとパルのおかげなのかもしれない。
93 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:46:27.30 ID:C10G0y6o
ふっと目を開ける。
暗闇の向こうにうっすらと見慣れない天井が見えた。
夢の余韻にぼんやりとしながらもそりと体を起こす。
隣のベッドではかし子があどけない寝顔ですやすやと眠っていて、その向こう側にはマリリンが床でどてっと横になっている。
窓に映る景色に目をやると、もうすっかり夜のとばりが下りている。
どうやら変な時間に目を覚ましてしまったらしい。

夜の船室はひどく静かだ。
ゆったりとした船の揺れに合わせてざあん、ざあんと波の音が聞こえる以外に物音というほどのものはない。
時折かし子のかわいらしい寝息がかすかに聞こえるくらいだ。
部屋の中にパルの姿はない。
俺はベッドから下りて上着を羽織ると、そっとドアを開けて甲板に出た。
94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:46:42.86 ID:C10G0y6o
http://up2.viploader.net/pic2d/src/viploader2d558831.jpg

黒々とした夜の海が月明かりを反射してきらきらと光っている。まるで星空がもうひとつあるかのよう。
幻想的ともいえるその光景を舳先に立ってじっと見つめていたパルが、俺の気配に気付いてふっと振り向いた。
「あら、起きたの?」
パルの声は思いがけず穏やかだった。表情は暗くてよく見えない。
なんとなくパルが話をしたがっているような気がして、俺はパルのところへ歩いて行く。
隣に立つと否応なしにさっきの夢が思い起こされてしまう。なんだか恥ずかしい。
95 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:47:25.10 ID:C10G0y6o
「お前は寝ないのか?」
それをごまかすついでに先手をとって口を開く。
「寝たわよ。なんだか中途半端に目が覚めちゃってね」
あんたと一緒ね、と言ってパルは静かに笑う。
その姿と夢の中の幼いパルの姿がふっと重なった。
あの葬式の日から今までの間に俺たちの関係はずいぶんと変わってしまったけど、
パルの澄んだ瞳はあの日のままだ。
髪型も変わって、顔つきも子供から女性へと――まあ正直に言えば見違えるほど綺麗になった。
でもこの汚れを知らぬアクアブルーの瞳だけはずっと変わらない。
透明なその青さがこちらの内心までをも見通しているかのようで、見つめられるたびに俺をどきりとさせる。
96 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:48:00.48 ID:C10G0y6o
「あのさ」
少し言いにくそうにしながらパルはゆっくりと言葉をつむぐ。
「どっちから言ったらいいのか分かんないけど……そうね、嫌なことからにする。しっかりしなさいよ、このバカ」

それを皮切りにいきなり勢いづいたパルは俺に対するお叱りの言葉をつらつらと論った。
意地を張って夜の見張りを一人でやったこと、アモールでのジーナ婆さんとの一件、そしてその帰り道での失態。
それらに対する文句を一通り言い終えてから、パルはふっと肩の力を抜いて視線をまた海に向けた。
「でもさ、あれってきっとあたしのせいでもあるんだよね。
 あたしがあんなこと言ったりしたから。だから謝んないといけないのはあたしも一緒」

月明かりを浴びてぼんやりと光を放つ金色のポニーテールが、潮風に吹かれてさらさらとたなびいている。
それを片手でおさえつ、ちらりと横目でパルはこちらを見た。
97 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/28(火) 23:48:25.67 ID:C10G0y6o
「ごめんね。ちょっと言い過ぎた。てゆーか意味わかんなかったよね? あんたからしたら」
こんなところで気を遣っても仕方がない。俺は正直に頷く。
「やっぱそうだよね。間違ったこと言ったつもりはないんだけど、言い方が悪かったのは認める」
こいつは謝りたいのか意地を張ってるのか、一体どっちなんだ?
「だからあんたも気にしないで。ああいや、気にはしてほしいかな。
 なんであたしが怒ったのかはちゃんと考えて欲しいんだけど、あんまし悩みすぎないで」
……どうしろと。
今の一言で余計に悩み事が増えそうなんだけど。
「話はそれだけ。それじゃね!」
パルはくるりときびすを返して船室へ。
あとに取り残された俺は、ぼんやりと立ち尽くして夜の海をしばらく眺めているしかなかった。
98 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/28(火) 23:49:21.52 ID:C10G0y6o
ちょっと休憩します。
誰も来てないようなので断りが必要かどうかは分かりませんが……
99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 00:03:00.81 ID:dNF2CMgo
こっちに移ってる…
必死に今まで読んでた俺っていったいorz
100 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 00:05:32.34 ID:n/I7QRoo
済みません。
保守に失敗したのでこちらに移しますって告知のスレを立てたんですが、それもすぐ落ちてしまいまして……
101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 00:06:40.25 ID:dNF2CMgo
いや
面白かったし全然おk
102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:31:27.99 ID:n/I7QRoo
さて再開。
需要あんのかな……
まあ気にしないでおこう。
103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:31:42.47 ID:n/I7QRoo
丸々二日をかけて、船はサンマリーノに到着した。
新しい大陸、新しい町。
この調子で旅を続ければきっといつかはアモスさんが見つかる日も来ると思う。
それがこの旅の終着点となるわけだけど……船のなかでぼんやりとそのあとのことを想像してみた。
アモスさんが見つかってこの旅が終わったあと、俺はどうするのだろう?
普通に考えればモンストルに戻ることになるのだろうけど、
またあの面白みのない生活に戻るのかと想像すると気が滅入ってくる。

ジーナ婆さんは本人が盗賊なのにちゃんとアモールの教会という居場所を見つけていた。
ならば俺にだって、モンストル以外にもっと相応しい居場所があってもいいはずだ。
まだまだ先の話だろうけど、アモスさんが見つかるまでに考えておかなくては……と思っていたのだが。
決断の時は思いがけず早々にやってきてしまった。
104 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:31:58.97 ID:n/I7QRoo
船を降りたあと、港に居る人にアモスさんの似顔絵を見せてみると、同情じみた苦笑とともにこう言われたのだ。
「ああ、あんたらあの人の知り合いかい?」
聞けば、なんでもこの似顔絵にそっくりな男が数日前にふらりとこの町へやってきて、
それ以来カジノに入り浸っているのだという。
カジノに入り浸り? あのアモスさんが?
「とにかく行ってみましょうよ。そうすればはっきりするでしょ」
そう言ってパルが急かす。
話を聞いた人が言うには件の男は今日もカジノに居るはずだということなので早速行ってみることにした。
105 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:32:49.20 ID:n/I7QRoo
港の一角にある小屋から地下に降りて、煌びやかなイルミネーションが瞬くサンマリーノのカジノへ。
田舎者の集団である俺たちにはどうもこの雰囲気が馴染まない。
パルは「すごいね」とか言って圧倒されている様子。
かし子は「おお……」と初めて遊園地に来た子供のように目を輝かせている。
俺はといえば、きわどい衣装に身を包んだバニーガールのお姉さんにどうしても目が引き寄せられてしまう……
と、入り口のところで立ち尽くしている俺たちが気になったのか、
そのバニーガールのうちの一人がこちらへ歩いてきた。
「お客様、どうかされましたか?」
露出度の高い衣装に不釣り合いなほど優しい笑顔でバニーさんは声をかけてくる。
どぎまぎしながら人を探している旨を伝えて似顔絵を見せると、
さっきの人と同じようにこのバニーさんも「ああ」といって苦笑した。
そんなにアモスさん、あるいはアモスさんに似た人はこの町で有名なのだろうか。
それもあまり良くない意味で。
106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:33:02.79 ID:n/I7QRoo
こちらにいらっしゃいますよ」といって案内されたその先に居たのは、
カジノの隅にあるバーカウンターでバニーさんにお酌をしてもらってだらしなく顔を弛緩させている一人の男だった。
その横顔は俺たちの知るアモスさんのイメージとはかけ離れているのだが……
107 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:33:21.79 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994431.jpg

「アモス……さん?」
パルの呼びかけにふっとこちらを向いたその顔は俺たちの探し求めていたその人なわけで。
「おお、パルさんに道具屋くん! これは奇遇ですねえ」
大げさな仕草で驚いて見せて、その男の人――いや、もう認めよう――アモスさんは破顔する。
道具屋くんて。名前覚えてないのかよ。
108 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:33:40.04 ID:n/I7QRoo
パルはというと、
せっかくの念願の再会だというのに変わり果てたアモスさんの姿にすっかり言葉を失ってしまっている。

「いや、奇遇とかじゃなくて俺たちはあんたを探してたんだけど……アモスさん、こんなところで何してんだよ?
 修行の旅はどうしたんだ?」
俺が言うと、アモスさんは照れたようにぽりぽりと頭をかいた。
「いやー僕、バニーさんには目がなくて!」
目的そっちかよ。
いや、まあ賭けに興じて散財してしまうよりはある意味ましなのかもしれないけど。
「そんなことより、そちらのかわいらしいお嬢さんはどなたですか? もしよければ紹介してもらえませんか」
と言うアモスさんが視線を向けるその先に居るのはもちろんかし子だ。
「いやー僕、ロリっ子には目がなくて!」
……なんだこの人。
酔ってるのかもしれないけど、
なんかもうモンストルでは猫をかぶっていただけでこれが本来のアモスさんなんじゃないかと思えてきた。
なんつーか、パルがかわいそうだ。俺が心配することじゃないけど。
109 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:33:54.24 ID:n/I7QRoo
「う……よく分からんが、なんだか怖いぞこの男」
こういうことに耐性がないのか、かし子はぎゅうっと俺の上着をつかんで俺の背中に隠れてしまう。
その仕草がまたアモスさんの中のなにかをくすぐったようで、
いよいよ目を爛々と輝かせて俺を――いや、俺の後ろに隠れているかし子に視線を向けている。
「そ、そんなことより!」
パルがひどく狼狽した声でそこに割り込んできた。
「理性のタネ! 早く渡してあげてよ」
あ、そうだった。危うく本来の目的を見失ってしまうところだ。
袋に手を突っ込んでタネを取り出そうとしたところで、アモスさんが「あ、いいですよ」と言った。
「それには及びません。自分で取りに行きましたから」
「え?」という俺とパルの声が重なった。
110 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:34:47.52 ID:n/I7QRoo
「お手数をおかけしてしまったようで申し訳ない。でも考えてもみてください。
 毎夜毎夜モンスターに変身しているのではどこの町に行っても同じことの繰り返しになるだけでしょう?」
言われてみればその通りだが……え、なに?
俺たちの旅って完全に無駄足? パルなんてショックですっかり固まってしまってるぞ?
「てゆーか……おい、かし子」
「ん、なんじゃ?」と答えたかし子の目が泳いでいるのを見て確信した。
こいつ、わざと黙ってやがったな。
「なんじゃ、じゃねえよ。お前、ずっとあそこに居たんならアモスさんがタネを取りに来たことを知ってたはずだろ?」
ぎろりと睨み付けてやると、かし子はきゅっと小さくなって「だって……」といじけたように唇をとがらせた。
「それを言ってしまうと旅の目的がなくなってしまうじゃろう?
 わしはお主らのことを思って……ううっ、そんな怖い顔するでない。わしだって言うべきかどうか迷っておったのじゃ」
見た目がちんまりとしているから、
どうもこんなふうに言われるとなんだかこっちが一方的に虐めているように思えてくる。
人によってはこの顔でますます嗜虐心をそそられたりするのかもしれないが……生憎と俺はそんなドSではない。

っと、そんなことより今はアモスさんだ。
いざ見つけてみたはいいけど、これからどうするんだ?
111 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:35:02.98 ID:n/I7QRoo
「アモスさん、ともかく一度モンストルに来てもらえませんか?
 村長が改めてお礼をしたいと――」
もはや開き直ったのか、パルはいっそ淡々とした口調で用件を告げる。
アモスさんは「お礼ならもう十分に頂きましたよ」といって固辞していたが、
パルが重ねていうと「仕方がないですね」と言ってようやく重い腰を上げた。
アモスさんの同意さえ得られれば、あとは地上へ出てかし子のルーラでモンストルにひとっ飛びするだけだ。
112 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:35:20.11 ID:n/I7QRoo
でも、と俺はここで迷ってしまう。
モンストルにアモスさんを連れて行けばもう旅に出る理由はなくなる。
俺はまたあの針のむしろみたいな生活に戻るのか?
世界はこんなに広いのに、この上なく居心地の悪い小さな町でせせこましく生きていかなくてはいけないのか?
俺の人生ってそんなにもつまらないものなのだろうか?
「どうしたの?」
足を止めて考え込んでいた俺にパルが振り向いて訝しげな視線を向けてくる。
思い切って言った。
「モンストルには戻らない。俺はここに残る」
「はあ?」とパルがいきなり大きな声を出した。
周りの客の視線がいっせいにこちらを向く。
113 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:35:48.08 ID:n/I7QRoo
「何やら込み入った話のようですね。ここではお店の迷惑になります。ひとまず外に出ましょうか」
大人らしい落ち着きでもってアモスさんが言う。
そう、これだ。俺たちの知るアモスさんはこういう人だったはずなのだが。
114 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:36:04.03 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994440.jpg

カジノを出た俺たちはひとまず港の隅へと移動する。
「さあ、聞かせてもらうわよ」
早速パルが口火を切った。
まずはここに残るという真意を問いただされる。
観光でもしたいのか。アモスさんと同じくカジノに入り浸るつもりか。
そうではなく、俺が本格的にモンストルを出て生活するつもりなのだと分かるとパルはいよいよ語気を荒げた。
何を血迷っているのだ。いきなり故郷を捨てるなんてどういうつもりなのか。
パルはいろいろ言ってきたが、俺は「戻るつもりはない」の一点張りだ。
というか、何故こんなにも反対されるのか理解できない。
俺がどうしようがパルには関係ないだろうに。道具屋くらい誰なりとやり手はあるだろう。
115 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:36:17.72 ID:n/I7QRoo
やがて、パルは何故か涙声になってこんなことを言った。
「なんでそんな急に……そんなにあの町が嫌いだったの?」
何故泣く? 何故分からない?
俺があの町でどんな立場にあるのか、こいつならよく知っているだろうに。
何も言わないでいた俺にパルは「なんとか言いなさいよ!」とさらに言い募ってくる。
「あんたっていっつもそう! 誰にも相談しないで、勝手に自己完結しちゃってさあ!」
俺のせいでパルにこんな顔をさせていると思うと心苦しくはある。
でも本当に何を言っていいのか分からない。
パルが何を求めているのかが理解できない。
あの町は居心地が悪い。だから帰らない。
それ以上何を言えというんだ?
116 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:36:44.42 ID:n/I7QRoo
「ねえ、なんで黙ってるの? 言いたいことがあるんだったらちゃんと口に出して言ってよ!
 あんたにとって、あたしって何なの? あたしは友達のつもりだなんだけど、あんたにとっては違ったってこと?
 相談相手にも出来ないような、他人同然の存在なワケ?」
すがりつくように、パルは俺の胸ぐらをつかんで詰め寄ってくる。
でも俺から言えることなんて何もない。

誰もがパルのように生きられるわけじゃない。
今でさえこんな口論になっているというのに、この上俺が心情を吐露してしまったら余計にぶつかるばっかりだ。

正直に言えば、パルと離れることに寂しさがないわけじゃない。
でも今のこいつにはアモスさんがいる。
子供の頃とは違うんだ。
あの町には、こいつの隣には、俺の居場所はもうない。
117 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:37:16.31 ID:n/I7QRoo
「モンストルに戻るつもりはない。それだけだ」
俺が短くそう言うと、パルはぐっと悔しげに唇を噛んで顔を俯けてから、
「もういいわよ!」と鋭く叫んでどんと勢いよく俺を突き飛ばした。
その衝撃に俺がよろめいている間にくるりと背中を向けて
「こんな奴ほっといて行きましょ」といっそ冷めた口調で言う。
かし子はパルと俺を見比べるようにしながら、
どうしていいのか分からないというような顔で「よいのか?」と言っている。
アモスさんは何も言わない。同情するでも呆れるでもなく、ただじっと俺のほうを見ている。
118 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:38:28.46 ID:n/I7QRoo
ルーラを唱える寸前、もう一度かし子は切なそうな顔でこっちを振り返った。
こいつとしてはもう少し各地を巡る旅をしていたかったのだろう。
パルにはもう旅をする理由はないのだし、申し訳ないが新しい仲間を見つけてくれることを願うしかない。
かし子がルーラを唱える。
短い間ではあったが旅を共にした仲間たちがあっけなく空の彼方に消えていくのを見て
初めて寂しさがこみあげてきたが、それにぱたりとふたをして俺は気持ちを切り替える。
さて、まずは職探しだ。
119 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:39:02.35 ID:n/I7QRoo
と、そこへ。
聞き覚えのあるぶちゅぶちゅという気持ちの悪い音が近付いてきた。
振り向いて見れば果たしてそこに居たのはマリリンだ。
そういやこいつも居たっけ。

いや、忘れてたわけじゃないんだけど、
なんでみんなと一緒に行かなかったんだ?
じいっとこちらに向けてくる視線にはなんだか気遣わしげな色が含まれているような。
まさか「僕だけは君の味方だよ」とでも言いたいのか?
大きなお世話だ――と言いたいところだけど、
こいつ相手に意地を張ってもしょうがないので素直にちょっと嬉しいことを内心でだけ認めておく。
120 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:39:24.31 ID:n/I7QRoo
その時だ。
何やら慌てた様子で一人の男がカジノへと続く階段から駆け上がってきた。
その男は地上に出るとせわしなくあたりをきょろきょろと見渡して、
俺の姿を認めるやいなや勢いよくこちらへ駆けてきた。
何事かと話を聞いてみると、なんとアモスさんは飲み代のツケを一銭も払っていないのだとか。
よく見ると今俺と話しているのはさっきまでアモスさんが飲んでいたバーカウンターの中に居たバーテンだ。
連れらしき数人と外へ出て行ったという話に不穏なものを感じてあとを追ってきたらしい。
さっきアモスさんと話していた俺の顔を覚えていて、だから俺に話しかけてきたということなのだが……
既にルーラで遠くの町へ行ってしまったと説明すると、バーテンはがっくりとその場にへたりこんでしまった。
121 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:40:22.26 ID:n/I7QRoo
「そんなぁ……ツケを払ってない客に逃げられたなんてオーナーに知られたりしたら僕は……」
力なくそんなことを呟いている。
気の毒だとは思うがどうしようもない。

アモスさんはモンストルに居たときは破邪の剣とかはがねの鎧とか高額な装備を持っていたはずだが、
なんでもここへ来てすぐにそれらは売り払ってしまって、その金も既に使い果たしてしまったのだとか。
どんだけ高級な酒を飲んでるんだあの人は……
モンストルへ行って呼び戻してこようかというと慌てて引き留められた。
「だめだめ! それで君にも逃げられた日には本当にどうしようもなくなっちゃうよ!」
確かにそうかもしれないが、かといって俺に泣きつかれても困る。
「じゃあその坊主に肩代わりさせろや」
その時だ。臓腑までびりびりと響くような野太い声がバーテンの背後から聞こえた。
バーテンは声の主が誰なのかすぐに分かったようで、
半ば飛び上がりながら「オ、オーナー?!」と一瞬で蒼白になった顔を振り向かせる。
って、待て。今何かとんでもないことを言われなかったか?
122 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:40:52.83 ID:n/I7QRoo
声のした方に目を向けてみると、声のイメージそのままな中年の男がそこに立っていた。
短く刈り込んだ髪、分厚い胸板、高級感溢れるスーツ。
明らかに道を極めてしまったお方である。
まあカジノのオーナーなんてどこもこんなものなんだろうけど……じかに見るのはこれが初めてだ。

「ちょ……ちょっと待ってくれよ」
少し――いやかなりびびりながら俺はなんとか口を開く。
「なんで俺がアモスさんのツケを肩代わりしないといけないんだよ。俺は別のあの人の――」
「ああん?」というオーナーのひと睨みで俺の口はぴたりと動かなくなってしまう。
「坊主、ツケ払わんと逃げたいう男はワレの連れと違うんか?
 男やったら仲間の一人や二人、かばったるくらいの度胸見せんかい」
ものすごい理不尽だ。ものすごい理不尽なんだけど、何も言い返せない。
モンスターなんかよりもよっぽど怖いぞ、このおっさん。
「……おい坊主。ワレこの町の人間やないな。どっから来た? 行くあてはあるんか?」
俺が何も答えられないでいると「どこぞ行くあてはあんのかと訊いとるんや。答えんかい」
と威圧に満ちた声で重ねて問われる。
かろうじて「ない……です」と答えると、「ほな来いや」と肩を掴まれてぐいぐいとカジノの中へ引っ張り込まれた。
やばい。俺、殺される?
123 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:41:44.17 ID:n/I7QRoo
結果から言うと、心配したようなことは起こらなかった。

アモスさんのツケはなんと4000ゴールドにも上っているらしく、到底ポンと払ってしまえるような額ではない。
そこで、それを肩代わりする代わりにここでホールスタッフ兼警備員として働けという話になった。
接客なんてろくにやってこなかった俺だが、モンスターとの戦いで鍛えられた腕っぷしが買われたというわけだ。
腕っぷしなんて言ってもこのオーナーのおっさんのほうが遙かに強そうなのだが……
まあ敢えてそこは触れないでおこう。

寝泊まりはカジノの控え室でさせてくれるらしく、
給料は全額ツケに回される代わりにメシはちゃんと出してくれるという。

自由に使える金が手に入らないということを覗けば俺にとってまさしく渡りに船だが、
こんなに都合のいい話があっていいのだろうか?
何か裏があるんじゃないかと心配になってしまいそうだ。
でも他にあてがあるわけじゃないし、これを逃してしまったらもう二度とこんなチャンスは訪れないだろう。
二つ返事で了承した俺は、ひとまずこれから寝泊まりすることになる控え室に通された。
今日のところはこのまま休んで、早速明日から仕事という流れだ。
124 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:42:08.81 ID:n/I7QRoo
長い間オーナーの視線に晒されていろんな意味で疲弊した俺は、
部屋に入るなりソファーベッドの上にへたり込んでしまった。
寝転んだ俺の顔とちょうど同じ高さにマリリンの顔がある。
「こいつはなんだ」と訊かれたときに「仲間……というかペットみたいなもんです」と答えてしまったせいで
こいつまでここに寝泊まりすることになったのだ。
どうもあのオーナーの前ではうかつに「仲間」という単語を使わない方がよさそうだ。
125 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:42:43.43 ID:n/I7QRoo
柔らかなソファーベッドに身を任せつつ、明日から始まる新たな日常に思いを馳せる。
どんなことをやるのかもまだよく分かっていないが……
不安や緊張よりも大きな高翌揚感が俺の中を支配している。
今度こそ親父の呪縛から逃れたという確信がそうさせるのだろう。
もう二度とモンストルになど戻るものか。
そう考えたとき、頭の片隅でかすかにパルの顔がちらついたのだけど、俺は気がつかないふりをした。
126 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:43:04.63 ID:n/I7QRoo
翌朝。
目を開けると、とんでもない光景がそこにあった。
端的に言おう。変身中のバニーさんだ。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994438.jpg

俺が寝ているのはカジノの控え室。つまり、ここで働く人たちが準備をするための場所でもあるわけだ。
荷物を置いたりとか、化粧をしたりとか、着替えたりとか。
で、その「ここで働く人」の中には当然ながらホールで愛想を振りまくバニーさんも含まれているわけで。
要するに今俺の目の前で一人の女の人がバニーさんの衣装へと着替えているというわけだ。
タイミングのいいというか悪いというか、その人はちょうど下着だけの姿になっているところだった。
室内灯を反射して艶やかに光る白い肌、女性らしく丸みを帯びたウエストライン、
その人が動くのに合わせてぷるぷると揺れる大きなバスト、
きゅっと引き締まった形のいいお尻、それらを包む黒いレースの下着。
目を逸らすことも声をかけることも出来ず、俺は寝転んだ姿勢のまま微動だにせずその光景に目を釘付けにされている。
その視線を背中で感じたのか、その人はふと気付いたように振り返って「ふふっ」と柔らかく微笑んだ。
131 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/04/27(月) 21:04:58.38 ID:VeEU7fDe0
127 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 01:44:28.42 ID:n/I7QRoo
余計なものまでコピペしちまった……
>>126の最後の一行はスルーでお願いします。
128 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:44:52.99 ID:n/I7QRoo
「あら、起きてたの」
怒るでも恥ずかしがるでもなく、なんでもないことのように言う。
それでなんだかこっちが恥ずかしくなってしまって、慌ててそっぽを向く。
「あらあら、真っ赤になっちゃって。別に見たっていいのよ?」
しゅるしゅるという衣擦れの音に、ダメだと分かっていてもどうしても目が引き寄せられてしまう。
そんな俺に見せつけるようにして、その人はあみタイツを履いて、バニースーツを身につけていく。
最後にうさ耳バンドを頭につければカジノのアイドル、バニーさんの完成だ。
着替えを終えたその人はゆっくりとこちらへ歩いてきて、ソファーベッドの上で固まっている俺の顔を覗き込んでくる。
その時になってようやく気がついた。
どこかで見たことがあると思ったら、この人、昨日俺たちをアモスさんのところへ案内してくれたバニーさんだ。
わりと印象に残っていたはずなのに今まで気がつかなかったなんて。
それだけ顔じゃなくて他のところばかり見ていたということか。
俺って……
129 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:45:22.59 ID:n/I7QRoo
「新しい子を入れたってオーナーから聞いてたけど、君がそうよね?
 またこんな若い子を……オーナーの趣味も困ったものね」
真っ赤なルージュの引かれた艶やかな唇をゆっくりと動かしながら、その人はポンポンと俺の頭を軽く叩いた。
「あたしはリリ。サービスしてあげたんだからその分くらいは頑張ってよね。期待してるわよ」
「は、はい……」
思わず敬語になりつつ俺が答えると、リリと名乗ったその人は「よろしい」と頷いて軽い足取りで部屋を出て行った。
きっとあの人には一生かかっても敵わないような気がする。なんというか、生物的に。

っと、ぼんやりしてる場合じゃない。俺も支度しないと。
脳裏に張り付いて離れないリリさんの下着姿をなんとか振り払いつつ支給されたタキシードに袖を通していたとき、
ふと気がついた。
そういえばリリさんはさっきおかしなことを言っていなかっただろうか。
またこんな若い子。オーナーの趣味。
……え、何? 実は俺のケツがピンチ?
130 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:45:58.95 ID:n/I7QRoo
俺にとっての初出勤である今日はホールに出ることなく、
終日控え室で先輩の授業員に仕事の内容を徹底的に叩き込まれた。
ホールでの歩き方、客への対応からトラブル対処まで。

何度も何度もシミュレーションさせられて、その都度あれやこれやと駄目を出されて叱られた。
ガミガミ言われるのはパルで慣れているつもりだった俺もさすがに段々とイライラが募ってきたが、
キレそうになるたびに他に行くあてがない自分の境遇を思い出してなんとか堪えた。

で、控え室に籠ったまま時間が過ぎてそろそろ日も暮れようかという頃。
ふいに控え室のドアが開いてバニーさんの一人がひょいっと顔を覗かせた。
「新人クン、君にお客さんだよ」
客? 誰だろう? ってまあ心当たりなんて一つしかないわけだけど。
でもまだ研修中だし――と答えると、教育係の人は「いや」と首をふった。
時間もちょうどいいので今日はこのへんで終わりにしようということだ。
「お疲れ」「お疲れ様です」と言い合ってお互いに席を立つ。
客とやらは外に待たせてあるというので向かおうとすると、俺を呼びに来たバニーさんにこんなことを言われた。
「君さあ、もう少し節操ってものを持ったほうがいいよ。確かにかわいい子だけどさ、さすがにあれは犯罪でしょ」
……なるほど。変な誤解をしてくれてありがとう。
おかげで誰が来ているのか一瞬で分かったよ。
131 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:47:32.67 ID:n/I7QRoo
外に出てみると、案の定そこにいたのはかし子だった。
他の面々はいないようで、
かし子一人がまるで置いてきぼりをくらった子供のようにぽつんと壁に背中を預けて立っている。

呼ぶまでもなく、俺が出てきてすぐかし子はこちらに気がついた。
寂しげだった表情をぱっとほころばせてこちらへ駆け寄ってくる。
で、俺の側へ来たところで今度は遠慮がちな目線でこちらを見上げてくる。
「仕事中に済まぬ。お主がここで働いておると聞いたものじゃから……迷惑じゃったか?」
意外と殊勝なところがある奴だ。自分の都合でしか動かないパルとは大違いといったところか。

今日の仕事は終わったと教えてやると「そうか」と安心したように言って、
それからにやりといたずらっぽい笑みを浮かべる。
相変わらずコロコロと表情のよく変わるやつだ。
「それにしても……なんじゃその格好は。馬子にも衣装とは言うが、お主のそれはちっとも似合っておらぬのう」
「……ほっとけ。いいから早く用件を言えっての」
そういや今の俺はタキシード姿なんだった。ちっともホールに出ていないものだからすっかり忘れていた。
というか、今日俺がこれを着た意味って一体?
132 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:48:03.42 ID:n/I7QRoo
「まあまあ、そう怒るな。ちょっとからかっただけではないか」
とか言って、かし子は大げさに肩をすくめてみせる。
先ほどとはうってかわって今度は人心を操ることに長けた遊女みたいな仕草。
本当につかみ所のない奴だ。
「今日ここへ来たのはもちろん故あってのことじゃ。お主、モンストルへ戻る気はやはりないかの?」
まあそんなことだろうとは思っていた。あっさり「ない」と言い切る俺にかし子はさらに言い募ってくる。
「パルも反省しておるのじゃ。カッとなってついつい言い過ぎてしまったとな」
「でも間違ったことを言ったとは思ってないんだろ?」
俺がそう言った途端にかし子は言葉を詰まらせた。

まあそうだろう。
本気で自分が悪かったと思っているのならば今日だってかし子に任せたりせず自分も一緒に来るはずだ。
それにどうもかし子は勘違いしているようだが、
俺がここに居るのはパルとのいさかいがあったからというだけではない。
あんなものは単なるきっかけに過ぎないのだ。
133 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:52:51.14 ID:n/I7QRoo
その後もかし子は手を変え品を変えなんとか俺の気を変えさせようといろんなことを言ってきたが、
最初からその気のない俺の心にはどうにも響かなかった。

最後には悲しげなため息をついてうなだれてしまったかし子の頭を、
今朝ルルさんにやられたみたいにポンポンと軽く叩いてやる。
かし子の黒い髪は俺の髪と同じ材質で出来ているとは信じられないくらいに滑らかな手触りだ。
「子供扱いするでない」とか言いつつもかし子は俺の手を振り払ったりはしない。

「……のう、お主」
やがてかし子は甘えるような声でこんなことを言い出した。
「わしはお主に一つ嘘をついたんじゃ。
 あのアモスという男が自力でタネを取りに来たことを黙っていたのには、本当を言えば別の理由がある」
上目遣いにこちらの顔色を窺いながらかし子はゆっくりと言葉を続ける。
「それを言えば、あるいは目的を失ったお主らが旅をやめてしまうかもしれぬ。わしはそれが嫌じゃった。
 そうなればわしはお主らと共におる意味を失ってしまう。また一人になってしまうのが怖かったのじゃ」
北の山のてっぺんで長い長い時間を一人で過ごしてきたかし子。
その孤独は俺なんかでは計り知ることが出来ない。
134 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:53:18.32 ID:n/I7QRoo
「なあ、頼む。お主とパルとわしの三人で過ごす時間がわしの全てなのじゃ。他のものなど知らぬ。
 お願いじゃからパルと仲直りしてくれ。旅などしなくともよい。お主とパルが居ればそれだけでよいのじゃ」

瞳に涙を滲ませて必死に見上げてくるこいつが、かわいそうだとは思う。
でも駄目なんだ。今戻ったりしたら何にもならない。
モンストルに居場所がなくなった今、俺はどうしても新しい居場所を見つけないといけない。
「……パルの言うとおりじゃな。お主は本当に何も言ってくれぬ」
諦観じみたため息とともにかし子はそんなことをいう。
俺は一つだけ頼み事をして、その代わりに俺の家を自由に使って構わないと約束してかし子と別れた。
135 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:53:41.81 ID:n/I7QRoo
その夜はルーラでかし子に持ってきてもらった織田信長軍ジオラマの制作を少しだけやって、早めに床に入った。
こういうときは、余計なことは考えない。これに限る。
そのまま眠りに入――
「って、しまったぁ!」
らずに、思わず跳ね起きた。
せっかくかし子が来たというのに、アモスさんへツケのことを言付けるのを忘れていた。
あいつ、また来るだろうか?
次こそは忘れないようにしないと……
136 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:54:00.65 ID:n/I7QRoo
その後何日かの研修期間を経てようやくホールに出るようになった俺は、
ホースルタッフくらい誰にでも出来るだろうとどこかで考えていた自分の甘さをとことんまで思い知らされることになる。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994462.jpg

あちこち見回ってゴミを掃除したり灰皿を取り替えたり注文された飲み物を持って行ったりだとか、
俺がやるのはそんな当たり前の仕事だけではない。
酔いつぶれた客を介抱したり、時にはそういう客の吐いた吐瀉物を処理したり……
でも一番精神的にクるのは理不尽な言いがかりをつけてくる客への対応だ。
どんなに相手の言い分が理に適わないものであってもこちらは笑顔で丁寧に対応しないといけないのだ。
そうすると相手は調子に乗ってさらにあれやこれやと言ってくる。
何度キレそうになって、何度先輩のホールスタッフに裏へと引っ張って行かれたか分からない。
137 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:54:22.84 ID:n/I7QRoo
そんなことを幾度となく繰り返しているうちに段々と慣れはしたが、
俺の性格そのものがそう簡単に変わるはずもなく、
顔に貼り付けた笑顔の下ではらわたは常に煮えくりかえっている。
ストレスがたまるという感覚はモンストルで嫌と言うほど味わってきたが、それとはまた種類が違う。
あっちを肌にちくちくと刺さる感じだとすると、こっちは内側から胃が痛くなるというか。
どっちがましかと言われても正直答えようがないけど、
後者のほうが仕事と割り切れるだけ幾分かましだと思うことにした。
そうしないとやっていられない。
138 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:54:57.67 ID:n/I7QRoo
かし子はあれから何度もやってきて、パルたちの近況やモンストルの様子などを事細かに報告してくれた。
その裏にはやはり俺をモンストルへ連れて帰りたいという思惑があるようだが、
何度言っても俺の返事が変わらないのでもう半分以上諦めているようだ。
ちなみにアモスさんはツケのことに関して「後できちんと払うから今は立て替えておいてくれ」と言っているらしい。
まああまり期待はしないでおこう。

パルのことは……正直あまり聞きたくない。
かし子はパルのこともいろいろ言っていたが全部聞き流した。
どうもあいつのことになると駄目だ。
冷静さを欠いて正常な思考が出来なくなる。
139 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:55:41.38 ID:n/I7QRoo
どうでもいいのだが、何故かバニーさんたちの間でマリリンが人気だ。
俺には理解できない感覚だが、お姉様方の目にはあいつが「かわいい」ように見えるらしい。
はじめの三日ほどで飽きられてしまった俺に対してあいつは毎朝みんなにかわいがられている。
頭を(二本の目が生えている間のあたりをそう呼ぶならば、の話だが)みんなに撫でられて、マリリンは無駄にでっかい口元を緩めてご満悦の様子。

そんな中でリリさんだけは飽きもせずに毎朝俺にちょっかいをかけてくる。
あの人に瞳を覗き込まれると俺はどうにも逆らうことが出来ない。
はじめのうちはそれが何故なのかよく分からなかったけど、そのうちに気付いた。

似ているのだ。
人の気を惹き付ける方法を心得た話し方、ふとした仕草から立ちのぼる色香。
男の心を惑わせるはずのそれらが俺にはどこか懐かしく感じられる。
そう、母さんだ。顔が似ているとかではないが、リリさんはどことなく俺の母さんを思い起こさせる雰囲気がある。
仕事がきつくても少しずつここが自分の居場所であるように思えてきたのは
あの人が居るからというのが大きいだろう。

140 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:56:24.72 ID:n/I7QRoo
三度の食事は出るものの、金額の上での収入は一切ない生活。
旅をしながら貯めていたゴールドもすぐに底をついた。
で、俺がどうしたかというと、仕事が終わってから町を抜け出してモンスターを狩ることにした。
このあたりのモンスターはレイドック周辺よりもさらに弱いようだ。
刃のブーメランがあれば苦もなく倒していける。
その分実入りも少ないが……
まあ生活必需品やジオラマの制作に必要なものを揃えるだけならばそれでなんとかなった。
141 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:57:03.46 ID:n/I7QRoo
そんなふうにして日々を過ごしていたある日のこと。
いつも通りにホールで忙しなく働いていた俺の耳にふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ちょwwww おまwwwww」
忘れようにも忘れられない独特の口調。悔しいが一瞬にして声の主が誰なのか俺には分かってしまった。
「道具屋さんなにしてんすかw」
振り向いてみれば、やっぱりそこに居たのはロニーだった。
そういえばかし子の近況報告にこいつのことは含まれていなかったが、どうやら相も変わらず方々を遊び歩いているらしい。
今日もひとつカジノで賭け事にでも興じようかとここへやってきて、そこで俺と出くわしたというわけだ。

大負けすればいいのに。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994468.jpg

俺が心の中でそんなことを思っていたせいか、ロニーはスロットで見事に大当たりを連発しやがった。
一万枚あまりを稼いで、ほくほく顔でドラゴンシールド、プラチナメイル、メガンテの腕輪を一個ずつ獲得。
「俺死なねえからイラネww」
とかいうことで、メガンテの腕輪は店に売って金にするつもりらしい。
それ一つで7500ゴールドになるんですけど……
しかもついでみたいに客の女の子をナンパして宿へお持ち帰りしやがった。

今すぐに亡くなってくれ。
142 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:57:39.92 ID:n/I7QRoo
そんなこともあって、イライラが募っていたせいかもしれない。
数日後、ついに俺はやらかしてしまった。
勤務中に客をぶん殴ってしまったのだ。

143 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:57:59.31 ID:n/I7QRoo
何があったのかというと、リリさんにしつこくからんでいた男がいたのだ。
最初のうちはそういうことには慣れっこなリリさんが軽くあしらっていたのだが、
酒が入って気の大きくなったその男があまりにもしつこく言い寄ってくるので
だんだんと辟易していっているのが顔に出ていた。
それでも表面上は愛想良くしないといけないあたりがこういう仕事の悲しいところ。
見ているこっちとしては気が気でない。

で、他の客に酌をしているリリさんにその男が近付いていって、
こっそりとリリさんのお尻を撫でたところでついに堪忍袋の緒が切れた。
がしゃん、という大きな音にはっと正気にかえったときにはもう、リリさんにからんでいた男が床に倒れ伏していた。
男の持っていたグラスが少し離れたところの床で粉々に砕けているのを見て、
ああやってしまった、といっそ冷静に思う。
これでここでの生活もおしまいだろうか。
客を殴った男を雇ったままにしておくなんてことは体面を考えても難しいだろう、なんてことにまで考えが及ぶ。
144 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:58:14.25 ID:n/I7QRoo
先輩たちはこういうことの対処に慣れているようで、
倒れた客を介抱したり割れたグラスを片付けたりとてきぱきと処理がなされる。

「お騒がせして申し訳ありません」
とさかんに周りの客へ頭を下げているのはリリさんだった。
そんな光景を眺めながら呆然と立ち尽くしていた俺は、
先輩の一人に腕を引かれてオーナーの部屋まで連れて行かれる。
先輩は表であったことを一通り説明してすぐに部屋を出て行った。
表でやらないといけないことがあるのか、とばっちりを受けたくなかったのか……多分両方だろうけど。
オーナーが口を開くまでの数秒間、
燻らせていた葉巻を苛立たしげに灰皿へ押しつけるその仕草を俺は開き直ったような心境で見つめていた。
「やってくれたのう」
何度も俺を震え上がらせたこの野太い声も、これで聞くのが最後だと思うと感慨深いものがある。
145 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:58:46.85 ID:n/I7QRoo
「クビですか?」
先手をとって口を開く。
「クビですよね。客を殴るようなやつを雇っておくわけにはいかないでしょう?」
きっとすんなり頷かれるだろうと思ったが、何故かオーナーは「ああん?」と顔をしかめた。
「なんじゃい。ワレ、逃げるつもりか?」
逃げる……というのはアモスさんのツケのことを言っているのだろうか?
でも俺が働いたってマイナスにしかならないんじゃあ置いておく意味なんてないだろうに。

「そんなつもりじゃない」と答えた俺に、オーナーは革張りの椅子から立ち上がっておもむろに歩み寄ってくる。
「やりっぱなしで逃げおおせる思うな。そんな甘いモンと違うぞ、この世の中ちゅうのはな」
言いつつ、俺の隣に立ったオーナーは、何の前触れもなくいきなり俺の頬を殴りつけてきた。
身構えるヒマもなくまともにそれを食らってしまった俺は、
ピンボールみたいに勢いよく吹き飛んで壁にぶち当たって、ずるずると地面に崩れ落ちる。

「ええツラになったやないかい」
きっと大きな青あざが出来ているに違いない俺の顔を見ながらオーナーは口端をつり上げる。
「おら、立て。お客様のところへ謝りに行くぞ。てめえのやったことのケジメくらいてめえでつけてみせろや」
お客様。このおっさんの口からこんな単語が出てくることには未だに違和感がある。

でもここで働き始めてから今までの間になんとなく俺も分かった。
このおっさんは単なるチンピラなんかじゃない。
れっきとした「商売人」なのだ。

146 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:59:04.05 ID:n/I7QRoo
その後オーナーに俺が殴った客のところへ引っ張って行かれて、大勢の前で土下座をさせられた。
プライドが傷つくだとか俺は間違ったことなんてしていないだとか……いろんなことを頭の中が駆け巡っていたけど、
そんなことはすぐにどうでもよくなった。
何故って、俺に続いてオーナーも一緒になって膝をついて頭を床に擦りつけたから。
言葉が出なかった。いつもふんぞり返って偉そうにしているこのおっさんがこんな姿を公衆の面前で見せるなんて。
それも、俺のために。
いたく憤っていた客の男も、そんなオーナーの姿と腫れ上がった俺の顔を見て溜飲が下がったのか、
ああだこうだとごねたりはしなかった。
もっとも、何かを言われたとしても俺は顔を上げることが出来なかっただろう。
情けなさと申し訳なさで、俺の顔は涙でくしゃくしゃになってしまっていたから。
147 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:59:41.29 ID:n/I7QRoo
「お客様。カジノというあこぎな商売ではありますが、私どもはまっとうにやらせてもらっとるつもりです。
 ここで働いとるモンはみんなお客様のことを第一に考えて誠心誠意のおもてなしをさせて頂いとります。
 中にはこいつみたいなアホウもおりますが、どうかお許し下さい。
 私にとってここの従業員はみんな息子や娘みたいなモンです。
 そんな子らに風俗みたいな真似はさせとうございません。
 何度も申すようですが、行き過ぎがあったことは謝罪いたします。大変に申し訳ございませんでした。
 ですがこいつのやったことそのものは間違ってはおらんと考えとります。
 ですからお客様も、もしまたご来店頂けるならば次からは少しわきまえて頂けると、
 私どもとしましては大変に助かります」

両手両膝を床につけた状態でこう言われて、客の男はかえって威圧されたようだ。
何も反論したりはせずにただコクコクと頷いている。
息子や娘みたいなモン。
オーナーはそう言ってくれたが、もし本当にこんな人が父親だったなら俺の人生も少しは変わっていたのだろうか。
そんな考えが頭の中に浮かんでしばらく離れなかった。
148 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 01:59:58.55 ID:n/I7QRoo
あとから聞かされた話だが、
このオーナーはしょっちゅう行き場のない若者を引き取って自分の店で働かせているのだという。
なんでも昔はこの人も結婚していたそうなのだが、奥さんは既に他界しており、
たった一人の息子さんも俺と同じくらいの年頃になにやら事件に巻き込まれて殺されたのだとか。
その事件というのはオーナーの仕事がらみのことだったそうで、
そのことに対してオーナーは途方もない罪悪感を抱えている。
だから敢えて雇うメリットなど何もない俺みたいな若造を次から次へと雇っては
自分の元でいっぱしの社会人へと育て上げているのだそうだ。
俺は失礼極まりない誤解を密かにしていたことを内心で謝罪すると共に、
この人に出会うことの出来た自分の境遇に感謝した。
149 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:00:13.91 ID:n/I7QRoo
その日の夜。
いつも通り控え室に引っ込んで、物言わぬマリリンと共に静かな夜を過ごしていた時のこと。
ノックもなしにドアが開いたかと思うと、ずかずかとリリさんが顔を覗かせた。
聞けば俺がオーナーに殴られたと聞いてアイシングのための氷を持ってきてくれたそうなのだが。
せめて夜くらいはプライバシーを考えてほしい。
俺だって男なのだし。
150 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:00:29.72 ID:n/I7QRoo
「ごめんねー」
俺の頬に持ってきた氷を押し当てながら、リリさんはしきりに謝罪の言葉を口にした。
「ああいうお客さんの側では隙を見せちゃいけないんだけどね。正直油断してたわ。私らしくもない」
どうやらバニーさんたちの間では「触らせたら負け」というのは当たり前のことになっているらしい。
カジノのバニーさんというのはあくまでアイドル的な、文字通りアンタッチャブルな存在なのだ。
オーナーも言っていたが風俗稼業とはまるで違う。
なんてことを考えていると、リリさんがそっと体を寄せてきた。
肩と肩が触れ合って、女性らしい温かさと柔らかさが服越しに伝わってくる。
「ねえ。あの時、君が怒ったのって私のためだよね? 私のために怒ってくれたんだよね?」
いたずらっぽい表情をうかべてリリさんは俺の顔を覗き込んでくる。
なんというか、やばい。
ただでさえこんな時間に部屋で二人っきり――
いやまあマリリンが居るには居るけどこいつじゃあ何の抑止力にもならない。
妙な気分になりそうなのを必死にこらえていたところでこんなことをされたら
平常心なんてどこかへ飛んでいってしまうわけで。
151 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:01:07.79 ID:n/I7QRoo
「こんなに腫れちゃって。かわいそう」
いつの間にか氷は取り払われて、リリさんの細い指がじかに俺の頬を撫でている。
その感触だけでもう、なんというか、いろんな意味で奮い立ってしまいそうだ。
「お礼しなくちゃね。目をつむって?」
何をするつもりですか、と言った気がする。
言っておいて、答えが返ってくるよりも先に目を閉じている俺が居たりして。
何を考えていいのかも分からなくて、近付いてくるリリさんの気配をまぶたごしに感じて。

やがて俺の唇にそっと何かが押し当てられる。
温かくて、柔らかくて、ぬるぬるしていて――ぬるぬるしていて?
何か変だ。人間の唇にしては妙にぬめっている。そして妙にでかい。
恐る恐る目を開けてみる。
ナメクジみたいな体から突き出したぎょろりとした目玉と、至近距離から目が合った。
「んぐあああああああああぁぁぁっ?!」
叫んだ。
まるで無理矢理唇を奪われた乙女みたいに唇を両手で抑えて、涙目になりつつソファーに突っ伏す。
リリさんは腹を抱えて笑っているが、笑い事じゃない。
152 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:01:53.95 ID:n/I7QRoo
「俺の、俺のファーストキスが……っ!」

マジでシャレにもならない。
初めてのキスがこのマリリンと……こんなキモいモンスターとだなんて……
「あら、初めてだったの? ごめんね」
「ごめんねじゃありませんよ……」
もしかして一生モノのトラウマじゃないか、これ。
ファーストキスの相手がモンスターだなんて聞いたことないぞ。
「そんな深刻にならないでよ。ちょっとした冗談じゃない」
ちっとも冗談になっていない。
そう思いながら俺が頭をかかえてヘコんでいた、その時だ。
すうっとリリさんが顔を寄せてきて――

反応するヒマもない。
ほんの一瞬のことで、感触もよく分からなかった。
唇が触れた頬からちゅっとかわいらしい音が聞こえたかと思うと、
余韻のように甘い香りを残してリリさんの気配がすっと離れていく。
153 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:02:19.56 ID:n/I7QRoo
「う……う?」
頬に手をやってアホみたいに呻く俺を前に、リリさんはにっこりと最上の笑顔を浮かべてみせる。
「助けてくれてありがと。ちょっとカッコよかったわよ」
それじゃね、と弾むような足取りでリリさんは部屋を出て行く。

半ば呆然としながらその背中を見送って、ドアの向こうにそれが消えたところで大きくため息をついた。
「あの人には敵わないな、本当に」
まだリリさんの甘い香りが残る部屋に取り残されてぼんやりと呟く。
そんな俺にじいっと視線を向けてくるマリリンの顔は、相変わらず何を考えているのか分からない。

「お前も初めて……だよな」
人間の言葉を解しているのかどうかも定かではないが、なんとなく話しかけてみる。
「お互い災難だったな。お前がそんなこと気にするかどうかは知らねえけど」
やっぱりマリリンはただ俺をじいっと見返してくるだけだ。

さっきのことがあったからじゃないけど、そうは思いたくはないけど、
最近こいつに妙な親近感を覚えている俺が居たりする。
ペットを飼うというのはこういう感じなんだろうか。
こいつをかわいいとか言ってしまうバニーさん方の感性は相変わらず理解できないけど。
154 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:02:39.50 ID:n/I7QRoo
この一件があって以来、なにかにつけてバニーさんたちにからかわれるようになった。
「やあナイトくん。今日も頑張ってウサギさんたちを守ってね」だとか、
「私がお客さんに絡まれてたら一目散に駆けつけてくれるんだよね?」だとか。
モンストルみたいにつまはじきにされるよりは遙かにマシだけど、
顔を見ていると彼女たちが本気で言っているわけではないのが丸わかりなので俺としては痛し痒しといったところだ。

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155 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:03:08.51 ID:n/I7QRoo
そんなこんなで段々とここが俺の居場所だと感じられるようになってきたのだけど……
何故かそうなればなるほど、頻繁に昔の夢を見るようになった。
昔も昔、俺にとっては原点となる記憶。
まだ母さんが元気で親父もちゃんと家に居た頃のこと。
まだ俺が普通の子供で居られたときのこと。
今にも増して活発な子供だったパルに半ば強引に腕を引かれて、
毎日毎日飽きもせずにいろんなところを駆けずり回された。
156 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:03:38.01 ID:n/I7QRoo
母さんの過去とか、自分がよそ者であることとか……
その頃の俺にはそんなの何の関係もなくて。
うららかな日差しをいっぱいに浴びた、
パルと共に過ごす緑豊かな大地が俺にとって世界の全てだった。
こんな日々がこの先もずっと続くのだと信じて疑わなかった。

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157 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:04:11.84 ID:n/I7QRoo
ぽかぽかとした気分で目が覚めて、そのあとすぐに空しくなる。
どうして今になってこんなことを思い出すのだろう?
あれはもう過去の出来事だ。
取り戻すことなんて出来やしない。
158 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:04:27.51 ID:n/I7QRoo
そんなことが続いたある日のこと。
最近バーテンを任されるようになったバーカウンターの中でぼんやりと時間が過ぎるのを待っていると、
普段着のリリさんがふらりとやってきてカウンターの椅子に腰掛けた。
外はひどい嵐で客はほとんど居ない。

リリさんも今日は休みのはずなのだが、俺の顔を見に来たのだとか。
思わずどきりとしてしまいそうになる台詞だが、要するにヒマだったのだろう。
カジノのアイドルであるバニーさんだが、
仕事中はふざけ半分に声をかけてくる男くらいしか出会いがないものだから、
いざ店を出てしまうと案外寂しいプライベートを送っていたりするらしい。
159 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:04:48.00 ID:n/I7QRoo
「ねえ君、ヒマだからなんか話してよ」
まるっきり一人の客になりきったリリさんは、バーボンのグラスを片手にくだを巻いている。
話と言われても……と困っている俺に、リリさんは「昔話をしなさい」と言ってきた。
俺がここへ来るまでどこに住んでいて、どういういきさつで故郷を離れることになったのか。
そういうことをここの人に語ったことは一度もない。
オーナーには一応出身地がモンストルだということは教えてあるが、それだけだ。
ここへ至るまでの事情を根掘り葉掘り聞かれるようなことはなかった。

「話して聞かせられるほどの過去なんてありませんよ」
とか言ってはぐらかそうとしたのだが、リリさんは「いいから話しなさい」とか言って身を乗り出してくる。
いい加減慣れてきたとは言え、やっぱりこの人に詰め寄られるとどうにも弱い。
話さないことにはいつまでも諦めてくれそうにないことだし、潔く諦めることにした。
「つまらない話ですよ」ともう一度前置きしてから俺は話し始める。
160 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:05:01.82 ID:n/I7QRoo
母さんのこと、クソ親父のこと、モンストルで俺がどんな立場にあったか、
そしてモンストルを出ることになったいきさつと、この町でパルと言い争いになって結局離れ離れになったこと。
リリさんは時折軽く相づちを打ちながら、
茶々を入れたりはせずに、たどたどしい口調で語る俺の話に耳を傾けてくれている。
やっぱりどこか母さんに似ているその瞳がじっと見つめてくる中で、
気がつけば俺は全てを話してしまっていた。

話し終えたあとで、もしかすると俺は誰かに聞いてもらいたかったのかもしれないと気付く。
ひょっとするとリリさんはそこまで見抜いていて、
酔ったふりをしてあんなことを言ってきたのだろうか。
考えすぎだと思う反面、この人ならばそれもあり得るかもしれないとも思う。
話を聞き終えて、リリさんは「ふうん」と何かに納得したように頷いたあと、
にやりと意地の悪い笑みを浮かべてこんなことを言った。
161 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:05:17.93 ID:n/I7QRoo
「君さあ、そのパルって子のことが好きなのね?」
「え」と思わず固まってしまう。
言われたことの内容が意外だったとかではなくて、
今の話を聞いて真っ先に突っ込むところがそこなのか?
リリさんらしいというかなんというか。

「君が故郷に帰りたがらない本当の理由。当ててあげましょうか」
からかうような、諭すようなリリさんの視線。
俺は先手を取って口を開く。
「アモスさんとパルが仲良くしてるのを見たくないからだって言うんでしょう?」
リリさんは意外そうな顔をした。
「あら、自覚アリ? だったらどうしてそんな簡単に諦めちゃったのさ?」
「俺がパルのことを好きだって認めてるわけじゃありませんよ。
 リリさんが言いそうなことを予想してみただけです」
「意地っ張り」とリリさんはちょっと頬を膨らませて、バーボンの入ったグラスに軽く口をつける。
162 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:05:40.77 ID:n/I7QRoo
「君はパルちゃんがアモスって人のことを好きなんだって決めつけてるみたいだけど、私はそんなことないと思うな。
 だって、話を聞いた限りだとアモスって人と再会したあとも彼女は君のことばっかり気にしてるんだもの。
 好きな人と久しぶりに会った女の子ってのはもっとその人のことしか目に入らなくなるものじゃない?」

なんと言っていいのか分からずに、俺は黙ってグラスを磨きながらリリさんの話を聞く。

「だからと言って、本当は君のことが好きで旅についてきたんだ、なんてことも言わないけどね」
世の中ってのはそんなに都合のいいものじゃないのです、とか言っておどけてみせるリリさん。
「分かってますよ」とため息混じりに俺が答えると、少し間を置いてからこんなことを言ってきた。
163 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:06:01.74 ID:n/I7QRoo
「君さあ、これからどうするつもり?」
言われたことの意味がよく分からなくて、思わず仕事の手を止めてリリさんに振り返る。
「居場所を探してるって言うけど……分かってるでしょ?
 君がここに居られるのは単なるオーナーのお情けに過ぎないのよ?
 腕っぷしが強い男なら他にいくらでも居る。敢えて君を選ぶ理由はなにもない」
先ほどとは打って変わった真面目な声でリリさんは言葉を続ける。

「私を助けてくれた人に向かってこんなことは言いたくないけど……
 本来カジノの警備員に要求されるのは実際の腕っぷしじゃなくて『抑止力』なのよ。
 想像してみて?
 もし見張ってるのが君じゃなくてオーナーみたいないかつい男ばっかりだったら、
 あのお客さんだってあんなことは出来なかったかもしれない。
 それがカジノの警備員にとって本来の役目なワケ。その点、君は不合格ね」

黙って下を向く俺に、リリさんはさらに言い募ってくる。
164 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:06:21.25 ID:n/I7QRoo
「ねえ、君はこれで満足なの?
 オーナーのお情けで与えられただけの居場所で満足しちゃっていいの?」
「でも、ここ以外に俺の居場所なんて――」
「努力したの? 故郷の町に自分の居場所を作るために、君は何か努力をした?」
リリさんは何かに憤っているかのようなきつい視線を向けてくる。
言うべき言葉が見つからず、俺は黙ってその視線を浴び続けることしかできない。

「君だけが悪いとは言わない。
 君の境遇には同情するし、町の人たちの態度はたしかに酷いと思う。
 でも君はそれを変えようともしてこなかったんじゃない?
 キツい言い方だけと……自分はかわいそうな奴だって悲劇の主人公を気取って、
 勝手に諦めちゃってるだけのようにしか私には思えない」
165 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:06:43.70 ID:n/I7QRoo
こんな言い方をされると腹も立つし、悔しいとも思う。
でもなんと言い返していいのか分からない。
そんなことはない? 俺は俺なりにちゃんとやってきた?
そのつもりではあったのだけど……
こうやって言われてみると、胸を張ってそうは言えない自分に気付く。
「ごめんね、嫌なことばっかり言って。
 助けてくれたことは別にして、私、君のこと気に入ってるのよ。
 だから敢えて言うわ。逃げちゃダメよ。
 ちゃんと自分と向き合って、自分なりの答えを出しなさい」

それからしばらくしてリリさんは帰っていったけど、
リリさんの言葉がずっと頭から離れなくて、その日はろくに仕事に手がつかなかった。
166 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:06:59.88 ID:n/I7QRoo
その日以来、仕事が終わって眠りにつくまでの間にあることを思い出すようになった。
夢で見るのよりはもう少し最近のこと。
母さんが亡くなって親父が町を出て行って、一人になってしまった俺の面倒をパルが見てくれていた時のことだ。

何故パルはそれを途中でやめてしまったのか。
旅に出るまでの間、何故俺とパルは疎遠になっていたのか。
原因を作ったのは俺なのだ。

俺の世話をしてくれることには感謝していたものの、それをやっている時のパルはちっとも楽しそうじゃなかった。
大人たちに言われて嫌々やっているに違いないと俺は勝手に思っていた。
だから俺はある日言ったのだ。
「もう来なくていい」と。
「俺は一人で生きていける。構われすぎるのは迷惑なんだ」と。
もちろん本心ではない。でもそれくらい言わないとパルはきっと諦めてくれないから。
あの時のがく然としたあいつの表情は今でも忘れられない。
その後は少しだけ言い争いになったけど、それも長くは続かなかった。
ぽろぽろと涙をこぼしながらあいつは俺の家を飛び出していって、
それ以来俺の家には寄りつかなくなった。
167 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:07:26.42 ID:n/I7QRoo
あれから何年かの月日が流れて、会えば簡単な会話をするくらいには俺たちの仲も回復したけど、
ああして旅にでるまでは決してお互い歩み寄ることはなかった。
あの町で唯一心を開くことの出来る相手だったパルすらも失ってしまった俺は、
いよいよ孤立を深めていったというわけだ。

何のことはない。
努力をしないどころか俺は自分から周囲の人間を遠ざけていたのだ。
それで何が「町のつまはじき者」だ。
笑ってしまう。
俺はただ孤高を気取りたいだけの世間知らずなガキだったというわけだ。
168 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:07:58.08 ID:n/I7QRoo
そのことに気付いてしばらくたったある日。
俺がここで働くようになってから三ヶ月が過ぎて、
ちょうど魔王ムドーがどこぞの勇者によって打ち倒されたらしいという噂が町に流れ始めたころのことだ。
仕事が終わってから俺はオーナーの部屋に呼び出された。
169 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:08:15.01 ID:n/I7QRoo
また何か怒られるのだろうか……と思ったがどうも様子が違う。
いつものように葉巻を燻らせつつ、オーナーは何も言わずにくいくいと手招きする。
促されるままに近付いていった俺の前で、オーナーは上着を脱いで腕まくりをして、
デスクに肘をついて腕をこちらに差し出す。

「やるか」
やるか……って、体勢的には腕相撲?
なんでいきなりそんなことを?
疑問に思いはしたが、このおっさんにぎろりと睨まれては逆らうことなんて出来ない。
差し向かいになって俺も肘をデスクにつき、手のひらを重ねる。
オーナーの手のひらはやはりとんでもなくゴツい。
勝敗なんてやる前から分かりきっているような……
このおっさんはこの上まだ俺をいじめようとでもいうのだろうか?

「かけ声はワレがせいや」と言われたので、それに従って俺の「レディー、ゴー」の声で勝負が始まった――のだけど。
170 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:08:31.84 ID:n/I7QRoo
あれ? なんだ?
確かに圧力は感じる。
オーナーの血管の浮いた腕は俺の腕を押し倒そうと力を込めている。
でもそれだけだ。
それほど必死にならなくても耐えてしまえる。
オーナーの表情を窺う余裕さえあるくらいだ。
真っ赤になって歯を食いしばっているその顔を見るに、手を抜いているとは思えない。

意外な展開ではあるが、この人の性格からしてこんなところで手を抜いたりしたら逆に怒られるだろう。
ぐっと腕に力を込めると、あっけなく均衡が崩れてオーナーの腕は倒れていく。
最後の足掻きとでも言うべきか、手の甲がデスクにつこうとする間際に少しだけ粘られたけど、それだけだ。
くてんとオーナーの腕は倒れきって、勝負はあっさりと終わった。
171 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:08:43.47 ID:n/I7QRoo
しばし間が開いた。
オーナーは荒くなった呼吸を整えつつ上着を着込んで、椅子の背もたれにぐったりと体を預けている。
「やっぱりのう」
ゆっくりと腕をさすりながらオーナーは寂しそうに言う。
「そこらの若いモンにはまだ負けはせんつもりだが、鍛えとる奴には敵わんか。
 寄る年波にはワシも逆らえんわい」
鍛えてる、ってのはもしかして、金を稼ぐためにモンスターを狩ってることを言ってるのか?
別に隠してたわけじゃないけど……いつの間にバレてたんだろう?
172 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:08:55.66 ID:n/I7QRoo
「のう、坊主」
俺とは目を合わさず、どこか遠いところを見ながらオーナーは語りかけてくる。
「ワシはもう若くない。老い先短い余生をこの店のためにつぎ込むともう決めとる。
 だがお前にはワシは違って先があるやろう。こんなところで燻っててええんか?」
要はオーナーもリリさんと同じことが言いたいらしい。
ここは俺の居場所ではないと。

俺が黙っていると、オーナーは珍しくふっと口元と緩めて、最後にこう言った。
「しょうのない奴じゃのう。踏ん切りがつかんのならハッキリ言ったるか。
 坊主、お前は今日でクビや。明日にはここを出て行け」
173 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:09:18.37 ID:n/I7QRoo
その後なんだかんだと反論はしたが、雇用主であるオーナーの決定に逆らえるはずもなく。
すごすごと引き下がった俺は慣れ親しんだ控え室で最後の夜をろくに眠れないまま過ごし、そして朝になった。

すっかり俺の寝床と化したソファーベッドの上でむくり体を起こす。
いつもの起床時間よりは少し早く、まだ外は薄暗い。
昨夜のうちに出立の用意は済ませてある。

誰にも顔を合わせないうちに出て行こうと思った。
みんなと――特にリリさんとなんてどんな顔をして会えばいいのか分からない。
気付けばいつの間にか完成していたジオラマは、ここに置いていこうと思う。
三ヶ月の間過ごしたここへの未練として。
女々しいと思われるかもしれないがこれくらいは許してほしい。

荷物を手に立ち上がった俺は、最後に一度だけ部屋を振り返る。
いつものようにじいっとこちらを見ているマリリンとぴたりと目が合った。
「お前も来るか?」
どうせ何の反応もしないのだろうと思いつつ言ってみたら、驚いたことにマリリンははっきりと首を横にふった。
ずっと何を考えているのか分からなかったこいつが見せた初めての意思表示。
こいつはこいつなりに、ここに自分の居場所を見つけたということなのだろう。
先を越されたな。
苦笑しつつそんなことを思って、短い間だったけど確かに俺にとってはパートナーだったマリリンに別れを告げた。
174 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:09:42.91 ID:n/I7QRoo
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そのまま真っ直ぐに店を出て、寄り道せずに町を出て行こうとしたときのことだ。

「まーた同じコトを繰り返すつもりか、君は」
聞き慣れた声が聞こえて、思わず振り返ってしまった。
もちろんそこにいたのはリリさんだ。
一番見つかりたくない人に見つかってしまって、これ以上ないほど気まずい思いが俺のなかに去来する。
「逃げるなって言ったでしょ。いきなりこんなんじゃあ先が思いやられるなあ」
呆れたように言いつつ、リリさんはこちらへ近付いてくる。
頭をかきながら「すみません」と俺が答えたのとほぼ同時だった。
リリさんの細い腕にふんわりと俺の体が抱きしめられた。
175 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:10:17.06 ID:n/I7QRoo
「リ、リリさん?」と思いっきり上ずった声で真意を確かめる。
温かくて柔らかい感触、甘やかな香りに包み込まれて、朝から変な気分になりそうだ。

俺の胸に顔をうずめたまま、くぐもった声で「謝らないといけないのは私のほうなの」と言った。
そうしてそのままリリさんは少し話をする。
のぼせきった俺の頭で理解できたのは、昔リリさんを助けてくれた人がいたこと。
その人がリリさんにとって初恋の人だったということ。
そして俺はその人に似ているから何かと俺をかけていたのだということ。
大事な話だとは分かっていてもどうしたってリリさんの感触に意識がいってしまって、
途切れ途切れにしか聞けなかったけど、大まかに言えばそんな内容だったはずだ。

違う人と重ねてしまってごめんなさい……とリリさんは言っていたが、
俺としては何故謝られるのか分からない。
似ていたおかげでリリさんに優しくして貰えたのだと思うとむしろその初恋の人とやらに感謝したいくらいだ。
話し終えて、リリさんはすうっと離れていく。
その仕草が少しだけ未練を帯びていたのはきっと気のせいじゃないと思うけど、そう思いたいけど、
朝日を背にしたリリさんは最後に何事もなかったかのようにいつも通りの笑みを浮かべてみせた。

「じゃあね。応援してるよ、ウサギの騎士さん!」
176 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:10:33.53 ID:n/I7QRoo
騎士って言われても剣の一つも使えないんじゃあカッコつかないけど。
でもリリさんがああ言ってくれたんだ。
ブーメランが武器の騎士が居たっていいじゃないか。

サンマリーノを出てしばらく歩いていると、ふと上着のポケットが重いことに気がついた。
不思議に思って手をやってみると、小さな袋が入っていた。
さっき抱きつかれたときに忍び込まされたらしい。
テープで貼り付けられたメモ翌用紙にはリリさんの字で「オーナーからのプレゼントよ☆」と書いてある。
中身がお金だということは触った時の感触で分かっていた。
開けてみると、中には4000ゴールドもの大金と、ただ一言、
無骨な文字で「死ぬなよ」と書かかれた紙の切れ端が入れられていた。

――ああ。
俺は本当に、いい出会いをした。
神様なんて信じていない俺だけど――この時、人生で初めて、自分の運命というものに俺は心から感謝した。
177 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:10:52.69 ID:n/I7QRoo
行き先なんて決めていない俺はひとまず南へ向かう。
この先に高名な占い師の婆さんが住んでいるという話だから、
俺の行くべきところを占って貰うのも面白いかも知れない。
占いに頼って行き先を決めようというのではないけど、指針くらいにはしてもバチはあたらないだろう。
178 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:11:20.14 ID:n/I7QRoo
しばらく歩くと、野原の向こうに小さな館が見え始めた。
きっとあれがそうだろう。

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そこへ歩いて行って、玄関のドアをノックする。
「開いておるよ。お入り」という、怪しさと優しさの入り交じったような婆さんの声が聞こえた。
少しおっかなびっくりになりながらドアを開くと、
赤いカーテンや蝋燭が灯された燭台などがいかにもといった雰囲気をかもし出している室内の光景が目に飛び込んでくる。
奥へと歩いて行くと、大きな水晶の置かれたカウンターの向こう側で、
これまたいかにもといった服装の婆さんが木製の椅子に腰掛けている。
あれが噂に聞く占い師、グランマーズだろう。
179 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:11:47.89 ID:n/I7QRoo
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「やあやあ、よう来たね」
まるで俺が来ることを前もって知っていたかのような口ぶりだが、不審には思わなかった。
この人ならばそういうこともあるのだろう。
見る者にそう思わせる何かがこの婆さんにはある。
「用件は分かっておる。どこへ行っていいのか分からずに困っているのだろう?
 そんなお前さんに、儂はひとつ頼み事をしたいのだがね」
悪名高き魔王ムドーが倒されたという話は聞いておるだろう? 
と前置きしてからマーズ婆さんはこんなことを言い出した。

なんとこの婆さんは魔王を倒した勇者たちと知り合いなのだという。
婆さんが言うには、
魔王が倒されたにもかかわらず魔物たちが消えずに残っているのはこの世にはまだ他にも魔王が居るからだそうで、
勇者一行はそいつらを倒すために旅を続けているのだそうだが――
「どうも最近、その旅の行く先に怪しい影が見え隠れしておるのじゃよ」
心配げに水晶を覗き込みながら婆さんはそう言った。
180 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:12:05.05 ID:n/I7QRoo
つまり、婆さんの頼み事とはこうだ。
その「怪しい影」とやらを取り除くために俺の力を貸して欲しいと。
俺としては断る理由もないし、
世界を救うための旅をしているという勇者一行の手助けが出来るなんて凄いことだと思うけど……
「なんで俺にそんなことを? 強い奴なら他にもいっぱい居るだろ?」
あまりにも話が大きすぎて、どうしても疑念がわき上がってきてしまう。

俺が世界を救う手助け?
町の住人たちに馴染めもせずに一人でいじけているようなこの俺が?
そんな、おとぎ話じゃあるまし。
困惑の極みにある俺の前で、マーズ婆さんは「ひょっひょっひょ」と怪しさ満点の笑い声を上げた。
「さぁてのう。儂は水晶のお導きに従っておるだけだからね。その理由まではとんとわからぬわい」
高名な占い師ってのも案外いい加減なものなのかもしれない。
そう思わざるを得なかった。
181 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:12:19.40 ID:n/I7QRoo
「お前さんが疑わしく思うのも無理はないね。
 ではこうしよう。お前さんは一度サンマリーノへ戻ってルイーダの酒場へ行きなされ。
 儂の水晶にはそこでお前さんによき出会いが待っていると出ておる。
 もし儂の言うとおりになったならまたここへ戻ってきておくれ。
 逆に言うことが外れたのならどこへなりと行ってくれて構わぬよ」

そんなマーズ婆さんの言葉に従って、俺は一日と置かずにサンマリーノに戻ってきてしまった。
知り合いと出会ったら相当に気まずい思いをすることになるだろうが……
幸いにして今は昼間。カジノもフル回転している時間だ。
想定外の再会などはなく、目的地であるルイーダの酒場へと一目散に足を運ぶ。

店のドアを開けると「いらっしゃい」という店主ルイーダさんの優しい声が出迎えてくれる。
どうでもいいけど、ここでもバニーさん……
どうも俺はこのコスチュームに縁があるらしい。
もちろん嫌じゃない――というかむしろ大歓迎だけど。
182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:12:36.10 ID:n/I7QRoo
とりあえずここへ来た目的を果たすために店内に居る人に声をかけてみるが、
どうもしっくり来る人が居ない。
勇者一行の手助けをするというともっと食いつきがよさそうなものだが、
当然ながらそれはこちらの話を無条件に信じてくれるとすればの話だ。

ある人は「いや、俺にはそんな話大きすぎるよ。他をあたってくれ」と言ったり、
ある人は「拙者、お主が斬れるかな?」と言ったり、
ある人は「二度とルイーダから出て行け」と言ったり。
仲間にするしない以前に人格面を疑いたくなる人が多いようでなかなか「この人だ」というのが見つからない。
ため息をつきながらカウンターの椅子に腰掛けて一休みしていると、
「苦労してるみたいね」
とルイーダさんが話しかけてきた。
183 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:12:53.82 ID:n/I7QRoo
さすがにこういうところをのバーテンをしているだけあって、美人だけどどことなく話しやすい雰囲気のある人だ。
誘われるようにして俺は自然と口を開く。
「なんか、なかなか『これぞ』って人が見つからなくて。
 実は僕、三ヶ月ほど前に少しだけ一緒に旅してた奴らが居るんですけど……
 あいつらは『仲間』だったなあって今は思うんですよ。
 あいつら以上の仲間なんて本当に見つかるのかなあ」

ほんの少しの同情を帯びた声で「そう」とルイーダさんが短く言ったとき、横合いから声がかかった。
他の客が店員を呼んでいるらしい。「少し待ってね」と言ってルイーダさんはそちらへ行く。

ややあってから戻ってきたルイーダさんは、無言のまますうっと一枚の紙を俺へ差し出した。
なんだろう、と思ってカウンターに置かれたその紙に目を落としてみると、そこには――
『カッコつけてんじゃないわよ、バーカ』
と書かれていた。
184 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:13:11.11 ID:n/I7QRoo
「ル、ルイーダさん?」
思わず顔を上げてみると、なにやらあたふたと手を振っているルイーダさんの姿がそこにあった。
「ち、違うのよ。私じゃなくて、あちらのお客さんから……」
「え?」と指さされたほうに視線を向けてみる。

瞬間、思考が停止した。
「さっさと気付きなさいよ、ばか」
ふてくされた顔をしてジュースの注がれたグラスに口をつけているのは、
見間違うはずもない我が幼なじみ、パルだ。

「なんでこんなところに……」
他にも言うべきことはたくさんあったはずだが、まず一番に浮かんできたのはそれだった。
パルはむっとしたような顔をして、何も答えずにそっぽを向く。
こいつは本当に変わらない。
この三ヶ月で俺はいろいろ学んだつもりだけど、パルは俺の知るパルのままだった。
そのことが何故か妙に嬉しい。
185 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:16:14.03 ID:n/I7QRoo
俺は席を移動してパルの隣へ行く。
「何よ、寄ってこないで」
とか言いつつ、パルは逃げたりしなかった。

「お前に言わなくちゃいけないことがある」
俺がそう言うと、パルはようやくそっぽを向けていた視線をこちらに戻してきた。
「ええ、そりゃああるでしょうね。数え切れないほど」
偉そうに言われて少し腹が立ったけど、それをぐっと我慢して俺は話を続ける。

「まずはあの時のことだ。もう三年くらい前になるのかな。
 お前が俺の世話をしに来なくなったあの日のことを訂正したい」
ここから入るとは思っていなかったのだろう。
はっとしたようにパルは目を見開いた。
186 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:16:34.61 ID:n/I7QRoo
「悪かった。あれは本心から言ったわけじゃなくて、ただお前が嫌々やってるように思えたからさ、
 だったら無理しなくていいんだってそう言いたかっただけなんだ」
パルは何かを考えるようにしばらく視線を落としてから、じとっと半眼で俺の顔に視線を向けてくる。
「何よ。あたしがいつ嫌々やってるなんて言った?」

よせばいいのに、何故かこいつにこんな言われ方をされると反論せずにはおられないのが俺だ。
これはもう条件反射と言っていい。

「そりゃあ言ってはいなかったけどさ。そういう顔してた」
「してない」
「してたんだよ。少なくとも俺にはそう見えた」
「……へえ。じゃあ悪いのあたしだって言いたいワケ?」
「う」と言葉に詰まる。
違う。俺が言いたいのはこんなことじゃない。
187 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:16:57.26 ID:n/I7QRoo
「すまん。悪いのは俺だ。
 もしお前が本当に嫌がってたんだとしても、いきなりあんなことを言わずにちゃんと話し合えばよかった」
しばらく間を置いて、パルは「うん」と頷いた。
「その通りね。あんたが悪い。謝って」
「さっきから謝ってるだろ」
「もう一回」とパルは拗ねたように言う。

ここで意地を張り合ってしまうとまた同じことの繰り返しになるので、仕方なしに俺が折れることにする。

「すまん。俺が悪かった」
「反省してる?」
「してる」と俺が素直に言うと、パルは一つ大きく頷いて「んじゃ、許してあげる」と満面の笑みで言った。
その顔が、何度も夢に出てきた仲良しだった頃のパルの姿と重なって――
『君さあ、そのパルって子のことが好きなのね?』
ふいにリリさんの言葉が脳裏をよぎってしまって、今度は俺がぷいっとそっぽを向く番だ。
もたもたしていると「三ヶ月の間にアモスさんとはどこまで進んだのか」とか余計なことを訊いてしまいそうで。
半ば無理矢理に口を開く。
188 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:17:15.79 ID:n/I7QRoo
「ひ、一つ言っとくぞ」
「……? なんであんた、声裏返ってんの」
「なんでもない。とにかく、だ。俺はお前と違って思ったことをなんでも口に出すような男じゃない。
 これはもう性格の問題だ。
 そう簡単に変えられるモンじゃないし、変えてしまおうとも思わない。
 でもこれからはこれからは勝手に誤解したりしないで、最低限のことくらいはちゃんと言おうと思う。
 それでよければ――」

言っていいのだろうか?
俺は他の言うべきことをすっとばして先に結果だけを得ようとしている。
本当にそれでいいのだろうか――と逡巡している間に、気がつけば口が動いていた。
「また俺と一緒に旅をしてくれないか?」
パルは少し驚いたような顔をして、それからふっと口元を緩めて何かを言おうとして――
「信じておったぞぉー!」
「いがッ?!」
いきなり後ろから何かが覆い被さってきて、その勢いのままに俺の額はカウンターに思いっきり叩き付けられる。
古典的な表現だが、マジで目の前に星が飛んだ。
189 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:17:38.86 ID:n/I7QRoo
「なんじゃ、なんじゃあ! わしがあれだけ言っても首を縦には振らなかったくせに。結局はパルが一番なのか。
 でもまあそれでもよい。またみんなで旅ができるならばなんでもよいのじゃ!」
早口でまくし立てるそいつの顔は、背中にぶら下がっているので見ることは出来ない。
でもこの声、この軽さ、そしてリリさんとは違って密着しても「ぺたん」という感触しか返してこない胸……
最後のは口に出したらぶん殴られそうだが、まあ顔を見なくたって分かる。
かし子だ。

おでこをさすりながら「いい加減に離れろ!」とか言っていると、横合いから男の声が聞こえてきた。
「道具屋くん、うらやましいことしてもらってますねえ。どれかし子さん、僕にもひとつ」
真面目くさった声でそう言って、カモーンとばかりに両手を広げているその人はアモスさんだ。
この人まで来たのか。
しかしこの台詞、この仕草……いかにも堂にいっているところを見るとやっぱりこっちがこの人の本性なのか。

かし子はちらりと視線を向けたようだったが、それだけだ。何も言葉を返さない。
この三ヶ月間でどんなやりとりがこの二人の間にあったのか、それだけでなんとなく分かったような気がした。
かし子を背中に背負ったまま、俺は改めてパルの顔を見る。
「で……返事は?」
パルは苦笑しつつ答える。
「バーカ。この状況で今さら断れるわけないでしょ」
その返答は俺の望んでいたものとは少し違っていたけど――
それでも俺はこうして再び仲間を手に入れた。
190 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:17:56.33 ID:n/I7QRoo
マーズの館へと向かう道すがら、ここへ至るまでの事情を聞かせてもらう。
かし子が言うには、
モンストルに帰ってからというものパルはずっと大人たちに俺を許してくれるよう訴えかけていたらしい。
でも大人たちは「あいつが帰ってこないことにはどうにもならない」の一点張りだったそうで。
俺としては大人たちの言い分も分かるような気がするが、
パルとしては「俺が戻ってきたらちゃんと受け入れる」という確約が欲しかったらしい。

それを得られなかったパルは再びモンストルを飛び出して、でも結局俺のところへは来られずに、
後を追ったかし子とアモスさんと一緒に方々を回っていたらしい。
なんでも「上の世界」とかいうのにも行ったのだとか。
よく分からないが……かし子いわく「まあ口で説明しても分かるまい」とのことなのでとりあえずおいておく。

問題はパルだ。
なんでこいつは俺のためにそこまで?
リリさんはああ言っていたが、やっぱりこいつ、俺に惚れてるんじゃね?
男としてはそう思ってしまうのも無理はない。

「だって、あんた一人が責任を負わされるのは我慢ならなかったんだもん」
とか言っているが、これは言葉通りの意味なのか、照れ隠しととるべきなのか。
なんだかんだでこいつも本音のところは隠してるよなあ。
まあそれで「あんたなんか何とも思ってませんけど何か」とかぶっちゃけられたら立ち直れなくなりそうだけど。
191 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:18:10.76 ID:n/I7QRoo
……立ち直れなくなる? 何から?
何かもう、こいつのことを女として意識している俺を受け入れつつある自分にふと気付かされる。
そこはもう認めるべきなんだろうか。
192 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:18:24.19 ID:n/I7QRoo
聞けば、パルたちもマーズ婆さんに会うのは初めてじゃないらしい。
というか、パルたちをルイーダの酒場へと導いたのも他ならぬマーズ婆さんだったのだとか。
なんだそりゃ。
「もし外れたらどこへなりと行ってくれて構わぬよ」とか言っておいて、
結局は単なる出来レースだったんじゃないか。
いやまあ、それでも俺があそこへ行く時期や目的なんかをぴったりと予見してなければあんなことは言えないわけで、
それだけでも十分に凄いっちゃあ凄いのだけど。

193 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:18:46.61 ID:n/I7QRoo
3人の仲間を引き連れて俺が館に戻ると、マーズ婆さんは「やあ、おかえり」と顔をほころばせた。
どうせこうなることもみんなお見通しだったのだろう。

勇者一行を助けるためにうんぬんかんぬんというのはパルたちにも伝えてあったようで、
婆さんの話はすんなりと本題に入る。

「お前さんたちが町へ行っておる間に儂もいろいろと調べてみたのだがね。
 ほれ、これを見ておくれ。どうもこの男が儂の感じておった『怪しい影』の正体のようなのじゃが……」
その言葉と共に水晶に映し出された若い男の姿をみんなで覗き込んだ瞬間――
「ロニー?」という俺とパルの声が重なった。
勇者一行の行く手を遮るのがこいつ? 一体どういうことだ?

「ほう、お前さんたちの知り合いかね。なるほどそういう因果だったのだね」
婆さんは一人で納得して頷いている。
かし子とアモスさんは「こんな奴も居たかな?」くらいの反応だ。
あいつはあまりモンストルには留まっていないし、まあその程度のものだろう。

「この男がイザ――というのは勇者の名前だがね。
 彼らの旅にどう関わってくるのかはまだ水晶にも出ておらん。
 分かるのはこの男を放っておいたらまずいことになるということと、
 この男をとめるのはお前さんたちの役目だということくらいかね」

婆さんはそう言って話を締めくくった。
勇者の手助けをすることに異論を挟む者はどうやら居ないらしい。
194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:19:04.96 ID:n/I7QRoo
それにしても……

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994538.jpg

アモスさん、マーズ婆さんの話を聞いている間にもずっとちらちらとかし子のほうを気にしていた。
本当に大丈夫かこの人?
もしかし子に危険が及ぶようならメンバー構成を考え直さないといけないな……
195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:19:28.55 ID:n/I7QRoo
今後の詳しい方針については明日話すことにして、今夜はこの館に泊めてもらうことになった。
この館は意外と広く、四人それぞれが個室に泊まることができるという。
男女混成の俺たちにとってはありがたいことだ。

料理は婆さんとパルが協力して作るという話を聞いて、
ちょっと恥ずかしかったけど「久しぶりにパルのホワイトシチューが食べたい」と素直に言った。
「しょうがないわねえ」とか言いつつも、パルだってまんざらではなさそうだったのは気にせいではないと思う。
まあ俺だからというのではなくて、世話焼きなこいつのことだから今のは誰が言っても同じ反応をするのだろうけど。

カジノで出されていた食事に満足していなかったわけじゃないけど、
やっぱり久しぶりに味わうパルのシチューは格別だった。
もしパルがアモスさんと――そうでもなくとも他の男と結婚してしまえば、この味もその男が独占してしまうのだ。
それはやっぱり悔しい。
196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:19:42.78 ID:n/I7QRoo
翌朝。
朝食を終えた俺たちにマーズ婆さんは「まずダーマ神殿に行ってはどうか」と言った。
今後勇者たちの手助けをする上でも新たな力を身につけておくことは重要だろうとのことだ。
それには賛成なのだが……ダーマ神殿だって?
名前くらいは俺も聞いたことがあるが、たしか魔物に滅ぼされたという話だったのでは?
でも周りを見ているとそんなことを思っているのはどうやら俺だけのようで。
俺以外の三人には何か心当たりがあるらしい。
よく分からないがとりあえずついていってみることにする。
197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:19:59.50 ID:n/I7QRoo
マーズの館を出るやいなや、かし子はルーラを唱えた。
着いた先はどう見ても単なる廃墟。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994541.jpg

俺と別れてからあちこち旅するうちに見つけたのだというが、ここが一体なんだというんだ?
あちこちうろうろしているときに見つけたということだけど……
「まあついてきなさいよ」
何か面白がるようにそう言って、パルは先に立って階段を降りていく。
198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:20:21.66 ID:n/I7QRoo
地下には井戸があった。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994544.jpg

屋内に井戸というだけでも珍しいが、それだけではなくて何かこの井戸からは異様なものを感じるような。
俺以外の三人は迷うことなくその井戸に近付いていく。
ここで取り残されてしまうとビビってるみたいでかっこ悪いし、仕方なく俺も行くことにする。
「んじゃ、行くわよ」
言うやいなや、パルはぐいと俺の後頭部をつかんで井戸の淵に押しつけた。
何をするんだ、というヒマすらない。
あっという間に景色が歪んでいって――

次の瞬間、俺たちは先ほどとは打って変わって立派な神殿の前に立っていた。
なんだこれ。どゆこと?
199 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:20:37.97 ID:n/I7QRoo
聞けば、ここは「上の世界」というところなのだとか。
かし子が言うには、なんでも俺たちが生きていたのは「下の世界」というところで、
そこに生きる人々の夢や願いが形になって出来上がったのがこちらの世界なのだとか。
他にもああだこうだといろいろややこしい説明をされたが俺にはよく分からなかった。
要するにここは俺たちの世界とは違うところなのだ。
とりあえずはそう思っておけばいいだろう。
信じられないような話だが、
ついさっきまで廃墟だったはずの神殿が一瞬にして復活しているのだから信じるほかにない。
200 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:21:07.38 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994548.jpg

中に入る。
荘厳な装飾の施された神殿内はいろいろな人たちで賑わっていた。
この人たちはみんな転職するためにここへ集まってきたのだろうか。
話を聞いてみると、中にはこんな爺さんも居た。
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994549.jpg
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994550.jpg
だが断る。
201 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:21:24.40 ID:n/I7QRoo
世間話はこれくらいにして、ここへ来た目的を果たすことにする。
方々を旅するうちにみんな最初の職業はマスターしたらしい。
実を言うと俺も小遣い稼ぎにモンスターを狩っている途中で商人はマスターしている。
そういえばその時に「軍隊呼び」なる特技を覚えたが、金を消費するらしいのでまだ使ったことはない。
オーナーに貰った貴重な旅の資金だ。そんなことに使ってしまうわけにはいかない。
202 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:23:50.61 ID:n/I7QRoo
聞けば商人から上級職になるためにはあと魔物使いと盗賊をマスターしないといけないのだとか。
魔物使いはいいとして、盗賊って……俺にあのクソ親父と同じ職業をやれと?

とりあえず盗賊は後回しにして魔物使いをやることにした。
俺たちは馬車を持っていないのでこれ以上モンスターを仲間には出来ないだろうとのことだが、まあ仕方がない。
上級職になるための通過点だと思っておけばいい。

で、パルは「剣を装備できないのに剣技を覚えてもしょうがない」ということで、パラディンを目指して僧侶に。
かし子はというと当然戦士系の職業が務まるような能力ではないのでこれまた僧侶に……
これで念願の回復魔法が使えるようになるとはいえ、なんてバランスの悪いパーティなんだ。
まあ直接攻撃はアモスさんに任せればいいだろう……と思っていたら、何故かアモスさんは踊り子に。
え、なんで?
203 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:24:06.26 ID:n/I7QRoo
ひとまずここでみんなの能力値を紹介。
なお、ここからは職業依存の呪文や特技しか覚えないので呪文や特技は割愛します。


ウサギの騎士
レベル:20
まものつかい
スライムマスター

E やいばのブーメラン
E はがねのよろい
E てつのたて

ちから:51
すばやさ:65
みのまもり:22
かしこさ:34
かっこよさ:74
さいだいHP:117
さいだいMP:5
こうげきりょく:76
しゅびりょく:68

まものつかい ★
しょうにん ★★★★★★★★
204 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:24:36.07 ID:n/I7QRoo
パル
いえでむずめ
レベル:23
そうりょ
みならい

E くさりがま
E みかわしのふく
E ぎんのかみかざり
E スライムピアス

ちから:67
すばやさ:77
みのまもり:35
かしこさ:66
かっこよさ:122
さいだいHP:123
さいだいMP:64
こうげきりょく:99
しゅびりょく:77

ぶとうか ★★★★★★★★
そうりょ ★
205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:26:06.44 ID:n/I7QRoo
かしこ
かしこそうなくさ
レベル:23
そうりょ
みならい

E モーニングスター
E かしこのはごろも
E ヘアバンド

ちから:30
すばやさ:63
みのまもり:19
かしこさ:80
かっこよさ:93
さいだいHP:92
さいだいMP:154
こうげきりょく:68
しゅびりょく:63

まほうつかい ★★★★★★★★
そうりょ ★
206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:26:19.16 ID:n/I7QRoo
アモスさんは有名人なので装備品と職業履歴だけ。

アモス
むらのえいゆう
レベル:22
おどりこ
どさまわり

E はがねのつるぎ
E てつのよろい
E うろこのたて
E きのぼうし

おどりこ ★
あそびにん ★★★★★★★★

あれ……アモスさん戦士としての経験は?
はやぶさ斬りは? 魔神斬りは?
207 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:27:19.71 ID:n/I7QRoo
聞けば、なんでもカジノで遊びほうけているうちに
いつの間にか戦士としての力を失って遊び人としての能力が芽生えていたのだとか。
装備品を売り払ってまで遊んでいたからその罰があたったのか?

てゆーかそれで思い出した。
アモスさんにカジノでのツケをまだ貰ってないんだった。
それを問い質すと「ちょっとずつ払いますよ、ちょっとずつ」とか言っていたが、
果たしてそれを信用していいものかどうか。
まあ結局俺も最後には給料をもらえたんだし、実際今まで忘れていたくらいだからいいのだけど。

ただ、もし今後サンマリーノへ行く機会があって、
アモスさんがカジノの関係者と顔を合わせるようなことがあればやっぱり請求されるんじゃないだろうか。
あのオーナーってそういうところはきっちりしているし。
208 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:28:20.86 ID:n/I7QRoo
転職を済ませてマーズの館に戻った俺たちはアークボルトという城へ行くように言われた。
勇者一行はそこで、のちに勇者の仲間となるテリーという男と初めての会偶を果たすはずなのだが、
婆さんの占いによればロニーがそれを阻害しようとしているらしい。

アークボルトというのここから海を挟んで北へ行ったところにある城だそうだが、問題はどうやってそこまで行くかだ。
婆さん曰く「どうやらそちらのお嬢ちゃんに何か心当たりがあるようだね」だそうだが……

「お嬢ちゃんって……わしは間違いなくあの占い師より長く生きておるんじゃがのう。
 あやつならそれくらいは分かっておるであろうに」

館の外に出てから、かし子は困ったように頭をかきながらこんなことを言った。
「ま、あやつの言う心当たりとやらが何のことかは分かっておる。
 忘れておったが、わしの古い知り合いに移動手段を用意してくれそうな者がたしかにおるの。
 多少扱いの難しい相手ではあるが……まあ小一時間ほど体を差し出せば多少の協力くらいはするじゃろう」
「は?」と残りの三人は声を揃える。
「ちょ、ちょっと待てよ。体を差し出すってなんだ?」
「いくら勇者を助けるためだって言っても、そんなのはダメだよ。もっと自分を大切にしなきゃ!」
「そうですよ! かし子さんの清らかな体を他の男に差し出すなんてもってのほかです!
 そんなことをするくらいなら僕がかし子さんの膜うわなにをするやめ(ry」
アモスさんが何かを言いかけたところでかし子のメラミが炸裂した。
こんなところで貴重なMPを……
今まで触れないようにしてきたけど、俺なんてメラミ一回分のMPしかないんだぜ?
209 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:28:42.24 ID:n/I7QRoo
「この変態はともかくとしてじゃ」
黒こげになったアモスさんをげしっと足蹴にしつつかし子は俺たちを見る。
「お主らは一体なにを言っておるのじゃ? 反対される理由に見当がつかぬのじゃが」
いやいや、俺としてはなんでお前がそんなにけろりとした顔をしてる理由に見当がつかぬのじゃが。
お前、そんなナリで結構女っぽいこと気にしたりするじゃねえか。
なんでこんな時に限って……

「分かるだろ? 仲間にそんな売春みたいなことさせられないっつってんだよ!」
俺が言うとかし子は一瞬きょとんとした顔になって――
それからきゅっと口端をつり上げて「ほほう」と意地の悪い笑みを浮かべた。
「仲間と言ったな。わしのことを仲間だと。パルも同じ意見か?」
「……は? 今さら何言ってんの? そんなの当たり前じゃない」
「うむうむ」とかし子は満足げに頷いている。何なんだ?
210 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:29:17.72 ID:n/I7QRoo
「誤解させるような言い方をしたことは謝ろう。心配せずともお主らの考えているようなことにはならぬ。
 そんなのはわしだって願い下げじゃ」
そう言ってからかし子はそっと俺たちから離れる。
どうやらかし子は一人で行くつもりらしい。
気まぐれな相手だから見ず知らずの俺たちを連れて行くと話が出来なくなるかもしれない、とのことだ。
「仲間、か。よい響きじゃのう」
最後にぽつりとそう言って、かし子はルーラを唱える。
小さな体があっという間に空へ浮き上がって彼方へと消えていく。

「行かせてよかったのかしら……」
かし子の消えた空を見上げながらパルが心配げな声を出す。
「ま、あいつの言葉を信じるしかないだろ」
とか答えつつ、内心では俺も少し後悔していたり。
強引にでも一緒に行ってやったほうがよかったのかもしれない。
211 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:29:34.91 ID:n/I7QRoo
と、その時だ。

「はっ! かし子さんは?!」
黒こげになって倒れ伏していたアモスさんがいきなりがばっと起き上がった。
思わずびっくりしてしまったようで、パルが「きゃっ」と珍しく可愛らしい悲鳴をあげた。

もう行ってしまったと説明すると、アモスさんはまたがくりと地面に膝をついてしまった。
「そんな……かし子さんの純潔が……僕が破るはずだった膜が……」
うん。
なんというか、最低だこの人。
さっきかし子が言ったことを教えてあげようかとも思ったけど、しばらくこのままにしておこう。

「お願いだから自重してください、アモスさん」
言いつつ、パルは頭を抱えている。
この様子だとこの二人がくっつくことはなさそうかな?
アモスさんも「バニーさんには目がなくて!」とか「ロリっ子には目がなくて!」とか言うけど、
「格闘少女には目がなくて!」とは言わないし。
まあそんな理由で迫られてもパルだって困るだけだろうけど。
212 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:30:09.22 ID:n/I7QRoo
とかなんとか話していたら、5分も経たないうちにかし子は帰ってきた。
こちらが話しかける前にくるりと振り返って、見たこともないような顔でにぱっと元気いっぱいに笑ってみせる。
「はじめまして! 短い間だけどよろしくね!」
思わずぽかんと口を開けてしまったのは恐らく俺だけではあるまい。

一体どういうことなのか、
事情を聞こうにも急に人が変わってしまったかし子はきゃっきゃと辺りを走り回るばかりで人の話を聞こうともしない。
結局、ことの真相が明らかになったのは
それからたっぷり一時間ほど経ってかし子がもとのかし子に戻ってからのことだった。
なんでもさっきのはかし子が会いに行った「古い知り合い」とやらの人格なのだとか。
かし子と同じく元は植物なため普段は動くことができないから、
一時的にかし子の体を貸してやることを条件に協力を取り付けたらしい。
体を差し出すってそういうことかよ……紛らわしい言い方しやがって。
213 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:30:22.52 ID:n/I7QRoo
「まあまあ。ちゃんと移動手段は確保してきたのじゃからそう目くじらを立てるな」
言って、かし子はごそごそと羽衣の袂から何かを取り出して俺たちのほうに差し出した。
見れば小石ほどの大きさの細長いタネのような物体だ。
これが移動手段?

「見ておれ」
かし子は右の手のひらを上に向けてそこへそのタネみたいなものを乗せる。
それはぱっくりと割れて白い茎を芽吹かせたかと思うとにょきにょきと伸びていって、
思わず歓声を上げる俺たちの前で真っ白い傘を広げていく。
「綿毛……?」
ぽつりとそう呟いたのはパルだった。
そう、俺たちの前に姿を現したそれは、タンポポの綿毛をそのまんま大きくしたような物体だ。
おおよそ五メートルはあろうかという白い綿毛が広がっており、その下に先ほどのタネがちょこんとぶら下がっている。
「これの上に乗るのじゃ。こう見えてもそこらの船よなぞよりよほどスピードも出るはずじゃぞ」
214 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:30:41.14 ID:n/I7QRoo
言われて、おっかなびっくりになりつつ俺たちは巨大な綿毛の上に乗る。
風にふかれて飛んでいくタンポポの頼りない綿毛をイメージしていたけど、
いざ上に乗ってみるとそれは思ったよりしっかりしていた。
お日様の匂いがするベッドみたいな匂いと感触に包まれて思わず眠くなる。
「みな乗ったな? では行くぞ」
かし子の声と共に綿毛は快調に飛行を始めた。
たぶん魔法の力で動いているのだろう。

眼下に広がる地面の景色は結構なスピードで流れているけど、
乗っているぶんには軽く風を感じるくらいで全然振り落とされそうな感じはしない。
しないのだけど、アモスさんは青ざめた顔で必死に綿毛にしがみついている。
「い、いやあ僕……高いところには目がなくて……」
どう考えても「目がなくて」の使い方を間違えているけど、それくらい気が動転しているということか。
要するに高いところが苦手なのだろう。
パルはちょっと気の毒そうな顔になって「大丈夫ですか?」とか言っているが、
かし子はセクハラ発言の腹いせかちらりと「いい気味だ」というような視線を向けただけで相手にしない。
215 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:30:57.97 ID:n/I7QRoo
さしたる時間もかからずに、綿毛は目的地のアークボルトへ到着した。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994566.jpg

城では兵士の募集をやっているようだが俺たちの用件はそんなことではない。

とりあえずテリーという剣士らしき男を見なかったか訊いてみようとしたのだが、
そうするまでもなく彼の名はちょっとした噂になっていた。
なんでも屈強を誇るここの兵士をたった一人で軒並みぶっ倒してモンスター討伐の任を勝ち取ったのだとか。
そんな強いやつを相手にしてあのロニーに何が出来るのだろう?

住人に話を聞いている途中で勇者一行らしき一団が町中に見えた気がしたが、彼らに用はない。
テリーという男は既に洞窟へ出発したあとだというので俺たちも行ってみることにする。
216 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:31:45.32 ID:n/I7QRoo
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考えてみると洞窟探索なんてパルと二人で行った北の山以来だ。
あの時はずいぶんと苦労したが、今回はメンバーも4人いるし回復魔法もあるからなんとかなるはずだ。

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おおイグアナの吐く焼け付く息に苦労させなられながら、
そして踊り子なのに「あそび」しかしないアモスさんに辟易させられながらもなんとか奥へと進んでいく。

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途中で宝箱を見つけたりもしたが、勇者パーティのために残しておくことにした。
いくつかの階段を降りて最下層らしきフロアへたどり着いたところで、
くだんの剣士テリーとロニーが対峙しているところに出くわした。
217 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:32:03.73 ID:n/I7QRoo
二人はなにやら言い争っていたようだが、
ふと気配に気付いたロニーがこちらに振り返って、俺たちの姿を認めた瞬間に目を丸くする。
「お前らなんでこんなところに居るんだよww」
セリフに草を生やす独特なしゃべり方。
久しぶりに会うロニーはサンマリーノのカジノで手に入れたプラチナメイルとドラゴンシールドで身を固めている。
武器は破邪の剣。
格好だけならばテリーにだってひけを取らない。

が、ロニー本人としてはまだ武器に不満があるらしく、テ
リーの手柄を横取りして雷鳴の剣をかっさらおうという目論見だったらしい。
こいつの予定ではテリーがこの奥にいるという化け物をある程度弱らせたところで乱入するはずだったらしいが、
間抜けなことにそれをやる前に見つかってしまったというわけだ。
……あれ? 
じゃあわざわざ俺たちがこんなところまで来た意味って一体?
218 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:32:20.72 ID:n/I7QRoo
「ま、こいつには敵いそうもないし? ここは大人しく引き下がるとしますかね」
おどけた仕草で両手をあげて降参のポーズ。
ロニーは俺たちとすれ違って階段を上がっていく。
そういやあいつ、一人でここまで来たのか?
あの装備があるとはいえ、実は結構強いのかもしれない。

残されたテリーは「ふん」とつまらなさそうに鼻をならして、
俺たちには一瞥もくれずにまた奥へと向かっていく。
その先にはでっかいドラゴンみたいな化け物が。

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たった一人であんなのと戦うつもりなんだろうか。
思わず心配になってしまうが、まあそれは俺たちの知るところではない。
かし子の唱えたリレミトで俺たちは地上へと飛ばされる。
誰も口に出しては言わないが……徒労感に満ちたみんなの表情が内心を物語っている。
俺たち、一体なにしに来たんだ?
219 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:32:42.30 ID:n/I7QRoo
ルーラでマーズの館に戻った俺たちを出迎えたのは、マーズ婆さんの満面の笑みだった。
「よくやってくれたね。おかげで勇者たちは無事に次の町へ向かったよ」

婆さんの水晶には攻撃を華麗にかわしながら容赦のない斬撃を次々とモンスターに浴びせていくテリーの姿、
そしてあっけにとられつつそれを傍観する勇者一行の姿が映し出されていた。
一見するとおかしいようだが婆さんの占いではこれが正しい流れなのだそうだ。

「勇者たちの旅が阻害されなければそれでいいのだよ。お前さんたちは立派に勤めを果たしてくれた。
 次からもこの調子で頼むよ」
何の役にも立たなかった、と肩を落とす俺たちに婆さんはこんなことを言った。
正直言って単なる気休めにしか聞こえなかったけど、
それでもこんなふうに言ってくれる人が一人でもいるという事実は少しだけ俺の心を軽くした。
220 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:33:02.74 ID:n/I7QRoo
その日の夜のこと。

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「むうう……」
何やらシーツにくるまってかし子がうなり声を上げている。

聞けば、なんでも今日のアークボルトでの洞窟探索で羽衣が破けてしまったのだとか。
ちくちくと慣れない手つきで針と糸を操って羽衣を繕っている。
パルがその横についてあれこれと教えてやっているようだが、どうにもかし子の手つきは危なっかしい。
どうせならパルがやってやればいいのに、と思ってそう言ってみたが、
どうも羽衣の魔翌力を維持するにはかし子が自分で繕わなくてはいけないとのことだ。
繕い物に悪戦苦闘するかし子と、それを優しく手ほどきするパル。
親子というほど見た目の年も離れていないから、仲の良い姉妹と言った感じ。
221 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:33:20.00 ID:n/I7QRoo
そんな光景を前に爛々と目を輝かせているのは他ならぬアモスさんだ。
「ねえ道具屋くん。僕は前々から気になっていたことがあるんです」
どうやらアモスさんの中で俺の呼び名は「道具屋くん」で固定されてしまっているらしい。
まあ今さらどうでもいいのだけど。
「これはある筋から聞いた話ですが、ああいう羽衣を着る女性というのは、下着をつけないのが普通なのだそうです。
 だとするとかし子さんは下着を持っていない、つまりあのシーツの下には一糸まとわぬかし子さんの未熟な肢体が……っ!」
改めて思う。
この人を野放しにしておいて本当にいいのだろうか。
早いうちにどこかの牢獄にでも突き出して閉じ込めておいたほうがいいのかもしれない。

本気でそんなことを考えた瞬間だった。
「いえ、明確な答えなどいらないのです。あのシーツをめくろうとするなどもってのほか。
 ここは高性能を誇る我が妄想のでばぶうっ!」
いきなりアモスさんが炎上した。
興奮しすぎて鼻血を噴いたとかではない。
かし子がシーツの下から手を伸ばしてメラミを放ったのだ。
「うるさいのじゃ。集中できんじゃろう」
とか言って、何故か俺までもが差別的な視線を向けられる。
「ちょ……俺は何も言ってないだろ?」
「止めなかったじゃない。同罪よ」
こっちを見もせずにパルはぴしゃりと言い放つ。

理不尽だ。
222 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:33:34.81 ID:n/I7QRoo
婆さんから次の指令が出たのはその数日後のことだ。
今度の目的地はクリアベール。
勇者たちが「空飛ぶベッド」なるものを手に入れるはずのそこでまたロニーが何やら悪さをしているらしい。
綿毛に乗って山を越え、俺たちは一路南へ。
山間の静かな土地にその町はあった。

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223 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:33:56.47 ID:n/I7QRoo
大陸にあるだけあって、こんな僻地であってもモンストルよりは町の雰囲気は賑やかだ。
ざっと町を一回りしてみたがロニーらしき人影は見当たらない。
ここに居るんじゃなかったのか? 
あの婆さんの占いも外れることだってあるのかもしれない。

一つ気になったことといえば、ある民家の横にある墓の前で悲しそうに鳴いている犬が居たことだ。
飼い犬にしては酷く痩せていて腹にはあばらが浮き出ている。
気になって事情を訊いてみると、
なんでも飼い主であったジョンという少年が亡くなって以来エサにもろくに口をつけず、
ずっとああして墓の前で鳴いているのだとか。

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パルは何も言わずに犬の頭を撫でている。
やがてやってくる勇者一行はこの悲しみにどう向き合うのだろうか。
その手助けをすることしかできない自分たちの立場が少し歯がゆい。
224 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:34:30.65 ID:n/I7QRoo
何をしていいのか分からないので、町の探索がてら買い物でもすることにする。
装備が厳しくなってきたところだしちょうどいい。

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大陸の町だけあってなかなかいいものを売っているようだが、その分とんでもなく高価だ。
俺がオーナーにもらった4000Gとアークボルトでの洞窟探索で稼いだ分でそれなりにお金は貯まっていたのだが、
それでもとてもじゃないが全員分を揃えることは出来ない。

話し合った結果、パーティの先頭を張るパルの装備を優先することにした。
銀の胸当てと月の扇でしめて8700ゴールド。それだけでサイフはほとんど空っぽになった。
みかわしの服と鎖がまを売った金は今後なにかあった時のために置いておかなくてはならないだろう。
俺の装備を買う余裕なんてまったくない。
ただでさえ今は魔物使いでHPも少ないのに……俺、死なないだろうか。
225 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:34:55.24 ID:n/I7QRoo
聞けばかし子のローブも先日繕った際に防御力が10上がったらしい。
大して使える特技も覚えられていないし、俺と周りの差は開く一方だ。
「いやーなんだか申し訳ないですねえ。僕だけ全身フル装備で」
全身フル装備……はがねの剣と鉄の鎧はともかく、うろこの盾と木の帽子でこの人は満足なのだろうか。
まあどうせ戦闘中はほぼ「あそび」しかしないのだから
本当に困ったときはこの人の武器や防具を売ってしまえばいいだろう。
226 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:35:12.76 ID:n/I7QRoo
結局何事もないまま日が暮れて、ひとまず今日はここで宿をとろうということになった。
食事も終えてそれぞれ床に入る間際、かし子がふとこんなことを言った。
「もしかしたらロニーという男がいるのは上の世界なのではないか?」
グランマーズの占いがこうも完全に外れるということは考えにくい、とかし子は言う。
たしかにそうかもしれない。
明日は町の周辺を探索して、上の世界へと繋がっている場所がないかどうか探してみようということになった。
227 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:35:37.08 ID:n/I7QRoo
で、次の日。
予定どおりに周囲の探索へ出かける。

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アークボルトの洞窟にも増して出現モンスターは強敵だが、
新たな装備を得たパルの活躍もあってなんとか切り抜けていく。

町から西のほうにある橋を渡ったところでそれは意外にもあっさりと見つかった。
草原の中で唐突に姿を現す毒の沼地と不思議な階段。
こんな町の近くにあるのに何故町の人たちは気付かないんだ?

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あれ、なんか変なものが映ってる。心霊写真か?
俺たちは馬車なんて持っていないのでそのつもりでよろしく。

228 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:36:05.76 ID:n/I7QRoo
階段を上がって東へ歩いて行くと上の世界のクリアベールが見つかった。
町の入り口に居る女の子はこんなことを言っている。

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どうやら間違いないようだ。
アモスさんがまた「いやー僕、幼女には目がなくて!」とか言い出したので
みんなで他人のふりをして町の中へ入っていく。
誰だって犯罪者の仲間だと思われたくはない
229 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:36:24.11 ID:n/I7QRoo
レイドックと同じで町のつくりは下の世界とまるで同じだ。
くだんの犬が居たところへ行ってみると、そこに若い男となにやら話し込んでいるロニーが居た。

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一体なにをしているのだろう?

ロニーは青年と一言二言なにか言葉を交わした後、俺たちには気付かずに町の外へ行ってしまう。
追いかけるべきかどうか迷ったが、まずはロニーと話していた男に会話の内容を訊いてみることにする。
話を聞いてみたところ、なんでもロニーは「勇気のかけら」とかいうものについて質問してきたのだとか。
そんなものを何に使うつもりなのだろう。
最後に「こっちの世界じゃねえのかよ。つかえね」とか言い残して去っていったそうなので、
きっとあいつは下の世界のクリアベールへ行ったのだろう。
ちょうど入れ違いになってしまったというわけだ。
230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:36:46.96 ID:n/I7QRoo
ところで、この人は誰なのだろう。
墓の前に立ってじっとしているけど、下の世界だとここには犬が居たはずだ。
ためしに墓のことについて尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

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「一緒に祈ってあげて下さい」
とも言っている。
それで分かった。
そうか、この人はあの犬の夢なんだ。
夢の中でまで亡き主人を想って泣いているんだ。

俺がそう理解したとのときだ。
ふいにパルがその青年をぎゅっと抱きしめた。
「そっか。あなたはちゃんと分かってるのね。ご主人さまにはもう会えないって。
 でも今でもそのご主人さまのことが大好きなのね。それってすごいことよ。
 あなたにそんなに想われて、ご主人さまはさぞ幸せだったでしょうね」
はじめは驚いた顔をしていた青年の顔がやがてくしゃりと歪んで、幾筋かの涙が頬を伝った。

なんというか……そんなことを思っていい場面じゃないのは分かっているけど。
そして相手は犬なんだって分かってはいるのだけど。
俺的にどうもこの絵面を見ていると胸のあたりがもやもやしてしまう。
231 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:37:03.61 ID:n/I7QRoo
その場を離れてしばらく経ったあと。
赤くなった目をごまかすようにこすりながら、パルはこんなことを言った。
「ロニーを止めましょう。
 勇者さまの手助けをするってだけじゃなくて……あの想いを踏みにじるなんてあたしには許せないわ」
決意をみなぎらせたその言葉に一同は深々と頷くことで応えた。

下の世界のクリアベールに戻ってみると、たしかにロニーらしき男は来たが、
既に「運命の壁へ行く」と言って町を出たあとらしい。
休憩もそこそこに俺たちもそのあとを追う。

232 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:37:21.51 ID:n/I7QRoo
町の北にある運命の壁へ行ってみると、
ふもとの洞穴にこの運命の壁に挑戦して死んだ人のために祈っているという神父とシスターが居たので
話を聞いてみる。

どうやらロニーは二人が止めるのも聞かずに登っていってしまったらしい。
なんでも神父から「黄金のつるはし」なるものの情報を聞いて、
「なんだよ、そんなモンがあるならそれを加工したらよくね?」
とか何とか言っていたらしい。
何をしでかすつもりなのかは分からないが、
本来その黄金のつるはしというのは勇者が手に入れるものなのだというのはマーズ婆さんじゃなくても予想がつく。

ロニーのあとを追うという話をすると神父に

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こんなことを言われた。
誰が死ぬか。
233 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:37:39.44 ID:n/I7QRoo
と意気込んでみたまではよかったものの、ここ運命の壁に出現するモンスターは予想以上に強かった。

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特にこのフーセンドラゴンとかいうやつの吐く燃えさかる火炎が痛い。

しかもアモスさんは高所恐怖症だ。
登りはじめる時点でビビっていたところをかし子に
「情けないのう。それでも男か!」
と発破をかけられてなんとかついてくるだけはついてきているけど、
よせばいいのに下を見てはぶるぶると震えてばっかりなので戦力としてはいつも以上にあてにならない。

僧侶が二人居るおかげで回復にはこと欠かない俺たちだが、
装備が十分じゃないこともあってピンチの連続だった。
こんなところをロニーは一人で登っていったのか?
俺たちの知るロニーは特にケンカが強いわけでもない、どこにでも居る格好つけたがりの男だったはずなのに。
あいつに一体何があったのだろうか。
234 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:38:01.52 ID:n/I7QRoo
運命の壁の道は複雑に入り組んでいてなかなか思うように進めない。

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あちこち迷っているうちに戦闘回数がかさんで計らずともレベルが上がったりはしたけど、
今はそんなことを喜んでいる場合ではない。

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しばらく進んでいるとこんなのを見つけた。
もしかして上から飛び降りてあそこへ行けと?
ふざけるのもいい加減にしろ。
この道を作った奴は今すぐ出てこい。
そんな大人、俺が修正してやる。
235 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:38:28.23 ID:n/I7QRoo
とまあ文句ばかり言っていても仕方がないので挑戦してみる。

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緻密に場所を合わせてダイブしてみるも、失敗。
かなりのピンポイントで飛ばないといけないらしい。

その後も何回かの失敗を重ねた後にようやく着地に成功した。

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アモスさんはもう涙目になるのを隠そうともしていない。
まあこれはアモスさんじゃなくともビビらざるを得ないだろう。

と思ったがパルは「ったく、こんな道作って誰が得するのよ」と怒りの方に頭が行っているらしく、
かし子はかし子で「スリルがあって面白いのう。あとでもう一回やらせてくれぬか?」と目をきらきらとさせている。
まったくうちの女性陣は……頼もしいというかなんというか。
まあ何事にも動じないというのは悪いことではあるまい。
236 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:38:43.61 ID:n/I7QRoo
中に入ってみると、いきなりロニーに出くわした。
相変わらずの重装備だが、いま俺たちの目をひくのはその手にあるきれいなつるはしだ。
確かめるまでもない。あれが黄金のつるはしだろう。
「なにしてんのお前ら。こないだからこそこそと俺のあとつけて来やがって。正直キモいんですけどww」
どうやら俺たちが追っていることに気付いていたらしい。
ロニーはめんどくさそうにため息をつきながら言う。
「こっちは正直ムカつくんだよ」と言い返したいところだがここはぐっと我慢だ。
こいつだって世界を滅ぼしたいわけじゃないだろうから話せば分かってくれるかもしれない。
俺たちが勇者一行の手助けをしていること、
そしてその勇者一行のために黄金のつるはしが必要なのだということを言って聞かせる。
237 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:40:29.64 ID:n/I7QRoo
はじめは大人しく聞いていたので話が通じたのかと思ったが、
話が後半にさしかかるとだんだんと飽きたような、嫌気が差したような顔になっていって、
俺が話し終えるといよいよ呆れたようにため息をついてロニーはこんなことを言った。
「勇者一行の手助け、ねえ……ツマンネ」
言いつつロニーは一つ鼻くそをほじってあさっての方向にぴんと飛ばす。
「うわ、きたなっ」とパルが呟くのが聞こえた。

「お前さあ、それってマジでやりたくてやってんの? いつからそんな良い子ちゃんになっちまったワケ?」
嘲るような口調で言って、ロニーはさらに言葉を続ける。
「なんつーか、違うくね? お前ってどっちかっつーと俺側の人間だろ? 自分さえよければそれでいいっつーかさ。
 勇者さまのためにそのつるはしが必要なんです、だから置いていって下さい……
 とかお前に言われるとさあ、なーんか違和感あんだよね」
238 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:41:00.01 ID:n/I7QRoo
反論したい、でも何と反論していいのか分からない。
思わず自分に問いかけてしまう。
俺は一体なにを思って勇者の手助けを引き受けたのだろう?
世界を助けたいから? 名誉が欲しかったから?
違う。そういう気持ちがないとは言わないけど、何か違っている気がする。

「ちょっと、なんで黙ってるのよ」
パルの声が聞こえて、鬱々した考えからふっと引き戻される。
顔を上げるとこちらの神経を逆撫でするようなニヤニヤ笑いを浮かべたロニーの顔がそこにあった。
「その沈黙が何よりの答えだと俺は思うんだけどな。まあいいや。
 とにかく俺は俺のやりたいようにやる。誰にも邪魔はさせねえ」
言って、いきなりロニーは洞穴の壁をつるはしでがつんと叩いた。
壁が崩れて大きな横穴があく。
「んじゃ、またな」
最後にまるで仲の良い友人にするみたいな仕草で手を振ってみせてから、ぴょんと横穴からジャンプする。
239 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:41:20.08 ID:n/I7QRoo
「こら、待ちなさい!」
パルが駆け寄ってその背中に掴みかかろうとしたが、きわどいところで間に合わなかった。
一度悔しげに歯噛みしてから、パルはこちらを振り返りもせずにロニーのあとを追って横穴から飛び降りる。
「ええい、また先走りおってからに。一人で行くなど無茶が過ぎるぞ!」
かし子がそう言ったときにはもうパルの姿ははるか下だ。
「追うぞ。さあお主らも早く!」
言って、かし子も穴から飛び降りていく。
先ほどのロニーの言葉がどうしても頭から離れずにぼんやりとしたまま横穴へ近付くと、
ふいに肩をぽんと叩かれた。アモスさんだ。
「ま、あまり考えすぎないことです。今は走りましょう」
言葉だけ聞くと頼りがいのある大人そのものなのだが……

俺の肩に置かれた手はぷるぷると小刻みに震えており、
あまつさえ「まあ僕はこんなところから飛ぶなんて出来ませんから。あとはお任せしましたよ」とか言っている。
俺はその腕をぐいと引っ張って二人で一緒にダイブした。
アモスさんの断末魔みたいな絶叫が運命の壁にこだまする。

これを聞いてモンスターが集まってきたりしなければいいけど。
240 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:41:38.96 ID:n/I7QRoo
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落ちた先は崖の中腹だった。ロニーの姿はいくらか上の斜面にある。

「追うわよ」とだけ言ってパルは先を急ぐ。
最近ではこういう暴走は少なくなっていたのだが……やはりあの犬の一件が効いているのだろう。
そのあとを追いながら考える。
俺にだってあの健気な犬を応援してあげたいという気持ちがないわけじゃない。
でも果たしてそれが俺の中でこんな危険を冒してまで旅をする動機になっているだろうか?

『お前ってどっちかっつーと俺側の人間だろ? 自分さえよければそれでいいっつーかさ』
ロニーの台詞が脳裏をよぎる。
そんなことはない。
今なら分かるけど、モンストルに居たときの俺はただ周りのことにまで気を配る余裕がなかっただけなのだ。
でもそれと「自分さえよければいい」というのとでは何が違うのかと問われれば俺は明確な答えを持ち合わせていない。
もしかして俺はまた間違った道を歩んでいるのだろうか?
241 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:42:06.64 ID:n/I7QRoo
考えたいこと、考えなくてはいけないことはたくさんあるが、
襲いかかってくる強力なモンスターたちがそれを許してくれない。
ロニーを追いながら戦闘を繰り返すうちに鬱々とした思考は少しずつ晴れていく。
アモスさんの言うとおりだ。
今はロニーを追うことだけを考えよう。

こちらは4人、あっちは一人。
モンスターと戦う上では確実に俺たちのほうにアドバンテージがあるはずなのにロニーとの差はなかなか縮まらない。
ロニーはここの強力なモンスターたちをちっとも苦にしていないようだ。
いつの間にあれほどの力を身につけたのだろうか。
もしかすると日々遊び歩いているというのはでまかせで、実は修行の旅だったのではないか。
そんなふうにすら考えてしまう。
242 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:42:28.91 ID:n/I7QRoo
それからも不毛な追いかけっこは続いてついに頂上へ。
追いすがる俺たちの前でロニーはくるりと振り返って不敵に笑って見せたかと思うと、
何の前触れもなくいきなりルーラを唱えた。
「あっ!」とパルが短く叫んだが、文字通りあっという間にロニーの姿は遙か虚空へとかき消える。

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「そ、そんなあ……」
頂上についたパルはがっくりと脱力してその場に崩れ落ちてしまう。
「なんじゃあやつは。何もせずに去っていきよったが、一体何のために頂上まで来たんじゃ?」
そういえばそうだ。
てっきり勇気のかけらを取りに来たのだと思ったのだが。
そうじゃないとすると、あいつの性格からして。
「単なる嫌がらせ、とか? 俺たちに無駄足を踏ませるために……」
俺が言うと、「むうっ」とかし子が真っ赤になって頬をぷくっと膨らませた。
「なんという嫌なやつじゃ! こんな屈辱はわしも初めてじゃぞ!」
見事にしてやられたのが悔しいのだろう、かし子はまるっきり子供の仕草でどしどしと地団駄を踏んでいる。
243 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:43:42.72 ID:n/I7QRoo
俺は一つ大きくため息をついて、日の暮れ始めた山間の景色に目を向ける。

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空は広くて、たぶんそれと同じくらいこの世界も広い。
きっとどこかには俺を受け入れてくれる場所だってあるだろう。
それを探すことと、勇者の手助けをすることは確かに必ずしもイコールではない。
でもそれでいいんだ。
『人生なんてもんは、回り道するくらいでちょうどいいんだよ』
それは誰に聞かされた言葉だったか――としばし考えて、やがて苦笑する。
何故って、それはあのクソ親父の台詞だったから。

俺は親父とは違って何も捨てていない。まだ何も失敗しちゃいない。
親父の言葉を真に受けるわけじゃないけど……
どんなに遠回りでもいい。
きっといつか、俺がやっていることが間違いではないと証明してみせる。
「なんて、こんなふうに反論してみてもあいつは『くせえww』とか言うだけなんだろうなあ」
ぼやくように独り言をいって、俺はぽりぽりと頭をかいた。
244 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:44:00.47 ID:n/I7QRoo
ロニーがどこへ行ったのか分からないのでひとまずマーズの館に戻って占ってもらうことにする。
婆さんに話を聞いてみるが、さすがにそんな都合よくぱっと分かったりはしないとのこと。
運命の壁での疲れもあることだし、今夜はここに泊まることにする。
245 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:44:16.17 ID:n/I7QRoo
夕食が終わって、なんとなく外で涼みつつ星空を見上げているとそこへパルがやってきた。

「気にしてるの? あいつに言われたこと」
どうやら俺が一人になりたくて外に出たのだと勘違いしているらしい。
心配げな声で言ってくるパルに振り向いて、「そんなんじゃねえよ」と笑ってみせる。
「そっか。ならいいんだけどね」
俺の隣に立って、パルは心持ち顔をうつむける。
「実はさ。あたしもちょっと思ってたんだ。なんでこんなことやってるんだろうって。
だってそうでしょ? とパルは珍しく気弱な声を出した。
「あたしって4人の中で一番旅をする理由がないんだもん。
 こんな言い方はアレだけど、あんたは一応町を出る理由があるわけじゃない?
 それに比べてあたしは単に自分の言い分が聞き入れられないからって駄々こねて出てきただけ。
 アモスさんみたいに元々旅人だったわけでもないし、
 かし子みたいに世界を見て回りたいって心から思ってるわけでもない」

夜風になびく髪をそっとおさえて、パルは言葉を続ける。
246 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:44:33.45 ID:n/I7QRoo
「だから嬉しかったんだ。こんなあたしでも勇者さまたちのお手伝いができるんだって分かったときは。
 そこへロニーにあんなことを言われたものだから思わず頭にきちゃって。
 ごめんね。あたし、また先走っちゃった」

こういうふうに自分の非を素直に認められるところがパルの美徳ではあるのだが、
なんとなく今のこいつはらしくないような気がする。
やっぱりこいつはいつもみたく強気に笑っていてほしい。

早くその笑顔を取り戻して欲しくて、俺は必死に言葉を探しつつ口を開く。
「俺はお前がいてくれてよかったよ」
一言目で盛大に自爆。なんだこの小っ恥ずかしい台詞は。
パルはちょっとびっくりしたような顔でこちらを見ている。
「いや、その……」とか言って目を逸らしながら続く言葉を考える。
「お前って強いしさ。正直今日の運命の壁とかお前が居なかったらどうにもならなかったと思う」
「……ちょっと、なによそれ。あたしの存在意義は戦闘だけってこと?」
「え。いやそんなことは――」
ちょっと焦りながらパルの顔を見て、すぐに気がついた。
憤慨したように言いつつも、パルの口元には笑みが浮かんでいる。
247 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:45:17.73 ID:n/I7QRoo
「ありがと。慰めようとしてくれてるのはちゃんと分かった。もうちょっと言葉は選んで欲しいけどねー。
 ま、しょうがないか。あんただし」
言葉は憎たらしいが、それこそがいつも通りのパルに戻ってくれた証でもあるわけで。
ひとまず心の中で安堵の吐息をもらす。
「ま、お前がいないと何かと大変だからさ。これからもよろしく頼むわ」
「はいはい。こちらこそ」
軽い調子で言ってパルは先に部屋へと戻っていく。

再び一人になったあとで改めて夜空を見上げたとき、初めて気がついた。

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今夜は月が綺麗だ。
248 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:46:07.70 ID:n/I7QRoo
翌朝、占いの結果が出たとかで日も昇りきらないうちにたたき起こされた。
どうやら婆さんは夜通し占ってくれていたらしい。
なかなかバイタリティに溢れたお年寄りだ。
占いの結果、ロニーはロンガデセオという町に居ると出たそうな。
そこに居る伝説の鍛冶屋とやらに黄金のつるはしを武器として鍛え直すよう依頼しに行っているらしい。
それほど急ぐような事態にはなっていないようなので、俺たちはきちんと眠気を覚まして朝食をとってから出かけた。

ロンガデセオは館から川を渡ればすぐそこにある。
ロニーは昔から朝が弱いのであまり早く行ってもまだ起き出していないかもしれない。
道中に気になるものを見つけたので時間を潰すついでに寄ってみる。

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なんだこれは?
249 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:46:30.14 ID:n/I7QRoo
中に入ってみると店屋だった。
こんなところに店を構えて一体誰が得するんだ?
ワケが分からない立地条件なわりに置いてあるものはとてつもなく性能が高いものばかりだ。

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運命の壁で散々苦労させられた身としてはのどから手が出るほどほしいのだが、
残念ながら金が足りない……
ここのことを覚えておいて、金が貯まったらまた来るしかないだろう。
250 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:46:56.98 ID:n/I7QRoo
謎の店を出てロンガデセオへと向かう。

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町に入ろうとしたら入り口のところで兵士に止められた。
何か伝手がないと入れてもらえないらしい。
ロニーらしき男が来なかったかどうかを聞いても
「質問には答えられませんぜ。そういう決まりになってるもんでね」
の一点張りだ。

どうしようもなくて困り果てていたところで、ふとかし子が口を開いた。
「そういう言い方をするということは、心当たりがあるということではないか?
 来ておらぬのなら素直に来ておらぬと言えばよいだけのことじゃからな」
兵士の男は何も言わなかったが、その一瞬ぴくりと顔をこわばらせたのを俺は見逃さなかった。
やはりここに居るということに間違いはないらしい。
「しかし困りましたねえ。中に入らせてもらえないのではどうしようもありません。
 うーん残念です。この町からはどことなく美女の香りがするのですが……」
とか言って、アモスさんは未練がましく町の中を覗いている。
251 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:47:25.25 ID:n/I7QRoo
と、その時だ。
「おや? あれは……」
アモスさんが何かに気がついたような声を出したのとほぼ同時。
「おいおい、こんなとこまで追いかけて来たのかよww」
町の中から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
探すまでもなく標的が自分からやってきてくれた。ロニーだ。

お知り合いですか、とか兵士に言われて「まあね」とロニーは答える。
昨日と違って逃げたりするつもりはないらしい。
黄金のつるはしのことを訊くと、ロニーは肩をすくめてこう言った。
「いやさ、おかしくね? 宝箱からつるはしを見つけたのは俺なんだからあれは俺のモンだろjk」
俺たちは4人とも押し黙る。

そう、確かに「洞窟などで見つけた宝箱の中身は自分のものにしていい」というのはこの世界を旅する上での常識だ。
ロニーはまだ何か悪さをしたわけでもないし、
どちらかというと強引に奪おうとすれば俺たちが強盗の罪に問われるかもしれない。
何も言えない俺たちを尻目にロニーは兵士にそっと耳打ちして何かを手渡す。
252 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:47:46.79 ID:n/I7QRoo
それからこちらへ歩いてきて、すれ違いがてら俺の肩をぽんと叩いていく。
「町に入れて貰えるように口聞いといてやったからさ、お前らも楽しんでいけば?
 なかなか面白い町だぜ、ここ」
そう言い置いてロニーは町の外へ向かう。
去っていくロニーの背中を見つめる三人の反応はバラバラだ。
パルは悔しげに肩を震わせていて、かし子は「難しいのう」と言って頭を悩ませている。
アモスさんは「何をしに行くのでしょうねえ。あちらからは美女の香りなんてしませんけど」
とか言って鼻をすんすん言わしている。

やみくもにロニーを追っても仕方がないが、放置しておくわけにもいかない。
何をしに行ったのかも気になるし、ついて行ってみようということで4人の意見は一致した。
ロニーの背中はもうずいぶん小さくなってしまったが、どうやら北へ向かっているらしいというのはかろうじて分かる。
俺たちはそそくさとその後を追ったのだが……
253 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:48:15.33 ID:n/I7QRoo
ここで予定外の事態が発生した。
ロンガデセオ周辺のモンスターは運命の壁のそれよりもさらに手強かったのだ。

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それでもアモスさんは相変わらず遊んでばかり。
はなぢがとまらないっ! じゃねえよ。
とか心の中で突っ込んでいたら。

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アックスドラゴンの魔神斬りを食らってアモスさんは一発でやられてしまった。
かし子にはザオリクがあるのですぐにでも蘇らせることは可能なのだが――
「こやつにはちょうど良い薬じゃ。しばらくこのままにしておいてやろう」
とか言ってかし子はザオリクを使おうとしない。
そんなこと言ってる場合じゃないと思うんだが……
254 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:48:44.43 ID:n/I7QRoo
幸いにしてロニーの目的地は町のすぐ近くだった。
ロンガデセオの北にある寂れた墓地。
そこでロニーは一つの墓に添えられた花をぼんやりと見下ろしている。

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何をしているのだろう。
知り合いの墓なのだろうか?
あいつは墓参りなんてするような性格じゃないと思うのだが……

気配で気付いたのだろう、ロニーは俺たちのほうに振り返って呆れたようにため息をついた。
「なに、お前らストーカーなの? いい加減マジでウゼえわ」
「こっちだってあんたの顔なんて見たくもないのよ。
 素直につるはしを渡してくれたら言われなくたって消えてやるわ」
今度こそは、とばかりにパルが気丈に言い返す。
そんなパルを見てロニーはにたりと口端をつり上げた。
255 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:49:01.54 ID:n/I7QRoo
「そんなにあのつるはしが欲しいんだったら、一つ提案があるんだけどよぉ」
いやらしい笑みもそのままにロニーはパルに詰め寄ってくる。
「な、なによ」と言いつつも、気圧されたようにパルは一歩下がる。
「俺さあ、もうモンストルに戻るつもりはないけど、実は一つだけ心残りがあんだよな。
 お前を落とせなかったっていう。だからもしお前が俺の女になるってんなら考えてやってもいいぞ」
「なっ」と声を上げたのはかし子だった。
パル本人はそのようなことを言われると予想がついていたのだろう、何も言わずにじっとロニーをにらみ返している。

二人の視線が交錯するその間へと、気がつけば俺は体を割り込ませていた。
「ふざけんな。パルは渡さねえ」
「はい?」と今度こそパルも声を上げる。
「ちょっと、いきなり何言ってんのよ。あたしがいつあんたのものになったワケ?」
そう言われて初めて気がついた。
つい弾みで言ってしまったが、
どう考えてもさっきの台詞は自分の女が他の男に言い寄られているときに使うものだ。
256 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:49:17.71 ID:n/I7QRoo
何を言い繕っていいのかも分からずに困っていると、ロニーがいきなりげらげらと笑い声を上げた。
「道具屋ワロスwwwww」
ムカつく。こいつの横っ面をおもいっきりぶん殴ってやれたらどんなに気持ちいいだろう。

俺の背後ではパルが盛大にため息をついている。
「あのさあ。ロニーと、ついでにあんたにも言っとくけど」
顔を見なくても眉間にしわを寄せているのが如実に伝わってくるような声でパルは言う。
「あたしは誰かの所有物になるつもりなんてない。
 どんなに見た目がよくても金持ちでも、そんなふうにしか女を見れない男なんてこっちから願い下げよ」
そんなつもりはなかったんだが……
どうやら俺は盛大に自爆してしまったらしい。
「へいへい。ご立派なことで」
おどけた口調で言って、ロニーは墓地から出ていく。

その背中を見送ってしばらくし経ってからパルは「あっ」と声を上げた。
「あいつがここで何してたのか聞きそびれちゃったじゃない。ったく、あんたが変なこと言うからよ」
「す、すまん……って待て。俺のせいなのか?」
「あんたのせいよ。何もかもあんたのせい! ああもう、いいからさっさと追うわよ」
ぷんすかと怒った声で言って、パルは早足で墓地の出口へと向かう。
257 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:49:38.57 ID:n/I7QRoo
「青春じゃのう」
まるっきり年寄りみたいな台詞でかし子がからかってくる。
「分かっておろうな? 先ほどのお主の台詞、ほとんど告白みたいなものじゃぞ」
分かってはいたが、改めて言われると思わず頭を抱えたくなった。
何やってんだよ、俺……
258 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:50:00.94 ID:n/I7QRoo
なにはともあれ、ロニーのあとについて俺たちは町へと戻ってきた。
複雑に入り組んだ街並みを迷いのない足取りで歩いて行くロニー。

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見失わないようにそのあとをつける俺たち。

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さっきのロニーの台詞じゃないが、ストーカー扱いされても文句は言えない状況だ。
259 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:50:19.23 ID:n/I7QRoo
ロニーはカジノの裏をぬけて一件の家へと入っていった。

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ついていっていいのだろうか?
とためらったのは俺だけだった。
パルもかし子も迷う素振りすらみせずにずかずかと上がり込んでいく。こいつらは……
まあ勇者一行は民家のツボやタンスを漁りまくってるというし、それに比べればこれくらいかわいいものだけど。

260 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:50:55.70 ID:n/I7QRoo
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地下に入ってみると、ロニーが若い女の人と差し向かいで話をしているところだった。
どうやら何やら言い争っている、というか女の人のほうが一方的に声を荒げているような感じだが……

「はっ?! 美女のピンチ?!」
そのときだ。
どがん、という音とともに棺桶のふたが勢いよく開いて、中からアモスさんが飛び出してきた。
この人、死んでたんじゃなかったのか?
「お嬢さん、今このアモスが助けに馳せ参じまする! いざ、愛は国境を越える!」
国境は越えても生死の境は越えないと思う。
『男ってのは惚れた女のために命をかけるもんだ』というのはクソ親父の口癖だった言葉だが、
それとこれとは話が別だ。

アモスさんは走っていって、ロニーを押し退けて女の人の前に立つ。

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「美しいお嬢さん、お怪我はありませんか?」
女の人はいきなりの闖入者にびっくりしている様子だったが、
「う、美しいお嬢さんってあたしのことかい?」
とか言って顔を赤らめたりもしている。
そういうことを言われなれていないらしい。
「いやー僕、鍛冶屋さんには目がなくて!」
とアモスさん。どんな趣味だよ。
261 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:52:51.46 ID:n/I7QRoo
考えてやったわけではないだろうが、
結果的にアモスさんが乱入したおかげでロニーが話をできる状態ではなくなってしまった。
「やれやれ」とか言って頭をかきながらロニーはこちらへ歩いてくる。
そのまま俺たちとすれ違おうとしたとこで、ふと何かを思いついたように足を止めてこちらを見た。
「そうだ。お前らに話がある。事と次第によっちゃあつるはしをくれてやってもいい」
言って、ロニーは俺たちに外に出るよう促す。
振り返ると、アモスさんはまだ女の人と話し込んでいる。
迷惑になるなら連れ出さないといけないが、どうも女の人もまんざらでもない様子だ。

アモスさんは変態だが悪人ではないので放っておいても大丈夫だろう。
ひとまず俺たちは三人で外へ出てロニーの話を聞くことにする。

262 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:53:01.43 ID:n/I7QRoo
ロニーが言うには、
さっきの女の人に黄金のつるはしを武器として鍛え直してくれるように依頼したのだが断られたらしい。
何があったのかは知らないが、あの人はもう金輪際鍛冶をする気はないのだとか。
それにあの人の見立てでは黄金のつるはしはあくまでつるはしとして力を発揮するものであって、
形を変えて武器にしてみたところで凡百なものしかできないだろうとのこと。
だったら素直に譲ってくれてもよさそうなものだが、
「残念ながら俺はそんな親切な人間じゃねえんだよ」
とはロニーの談。まあ知ってるけどね。
263 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:53:12.17 ID:n/I7QRoo
ロニーが交換条件として出してきた案はこうだ。
サンマリーノのカジノで手に入れたプラチナメイルとドラゴンシールドで防具は十分だが、
ロニーとしてはそれに見合う武器が欲しいらしい。
黄金のつるはしを武器として鍛えてそれを手に入れるつもりだったが、
先ほども言った通りそれは叶わなかった。

その代わりにここロンガデセオにあるカジノの景品である隼の剣が欲しい、
でもコイン一万枚なんておいそれと貯められるものではない。
だからグランマーズにカジノで大当たりする方法を占ってもらってこい、とのこと。
なんでこいつが婆さんのことを知ってるんだ……と思ったが、
そういえば俺たちが勇者の手助けをしているのだと説明したときについでに話したんだった。
口は災いの元。余計なことを言わなければよかった……
264 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:53:27.30 ID:n/I7QRoo
そんなことのために占いを使うだなんてマーズ婆さんは嫌がるだろうが、
ともすれば世界の行く末にまで関わるのだから手段を選んでいる場合ではない。
ひとまずアモスさんを置いてルーラで館に戻り、婆さんに話をすると、案の定いい顔はされなかった。
だが「これも勇者たちのためならば」とか言って渋々ながらも占ってくれる。

「言っておくが、必ずあたるという保証はできないよ。
 儂はあくまでコインがあたるまでの過程を占うだけだからね。
 結果を引き寄せられるかどうかはその男の運次第といったところかね」
婆さんはそう言っていたが、
ロンガデセオに戻った俺たちはそこを端折って占いの結果だけをロニーに伝えた。
悪運の強いこいつのことだからどうせあてるだろうという予感がある。

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ロニーがカジノで賭け事に興じている間は俺たちもヒマになる。
せっかくだから自由行動にしようということになった。

265 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:53:57.60 ID:n/I7QRoo
墓地での一件依頼、どうもパルの態度がよそよそしい。
露骨に避けられているとかきついことを言われるとかではないのだが……
現に今も俺を誘うともしないでかし子と二人でさっさとカジノへ遊びに行ってしまった。

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女の子二人でカジノというのはいろいろと危険な気もするが、
かし子だけならともかくパルもついているのだから心配には及ばないだろう。

一人になった俺が町をぶらぶらと歩いていると、アモスさんがまた違う女の人に声をかけているところに出くわした。

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鍛冶屋の人にはふられたらしい。
哀れというかなんというか逞しいというか……
266 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:54:16.51 ID:n/I7QRoo
こうなると俺はいよいよすることがない。
仕方がないので店屋を覗いてみることにした。

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かし子が魔法の盾を装備できるようなので、ひ弱なあいつのために買っておくことにする。
兜がない状態ではそろそろ辛いで俺にも鉄仮面を買う。
はがねの鎧と鉄の盾でここまで頑張ってきたんだ。
これくらいでは誰も文句は言わないだろう。
そろそろ刃のブーメランからも卒業したいところだが、残念ながら金がない。
267 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:54:36.34 ID:n/I7QRoo
買い物も終わって町をぶらぶらしていると、ザ・バニ−シアターとかいうのがあったので覗いてみる。
入場料は100G。二、三回の戦闘で稼げる金額だし怒られはしないだろう。

中ではバニーシアターの名前通り、ステージで踊るバニーさんに男たちが色欲をむき出しにした眼差しを向けている。

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この台詞からも分かるとおり、ここでのバニーさんはセックスシンボルそのもののようだ。
他人の商売のやり方に口を出すつもりはないけど、
自分たちの仕事に誇りを持って働いていたリリさんたちを思うとどうもこの空気が肌に馴染まない。
俺は十分も経たないうちにシアターを出た。
もううろうろせずに宿を先にとっておくとしよう。
268 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:54:50.43 ID:n/I7QRoo
一人で四人分の宿泊を申し込むと、宿屋の親父から哀れむような目で見られた。
パシリだとでも思われたのだろうか。
今の状況を考えると一概に否定もできないのが悲しい……

一人で宿の部屋でぼんやりしていると、ひどく侘びしい気分になった。
こういうときにジオラマがあればいいのだが、あれはもう完成したしサンマリーノのカジノに置いてきた。
「サンマリーノのカジノか……」
あそこを出てからまだ一ヶ月も経っていないが、なんだかもうずいぶんと懐かしく感じる。
マリリンは元気にしているのだろうか。
オーナーは相変わらずひと睨みで従業員を震え上がらせているのだろうか。
リリさんたちは愛くるしいその笑顔で客の心をわしづかみにしているのだろうか。

なんて、一人でセンチメンタルな気分になっているとアモスさんが一人で宿にやってきた。
俺の姿を認めて「おや」と意外そうな声を出す。
269 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:55:07.59 ID:n/I7QRoo
「道具屋くん、一人ですか? パルさんとかし子さんはどうしたんです?」
カジノに行っている、と答えると「何故一緒に行かないのですか?」と不思議そうな顔をされた。
そうか。この人は死んでたから墓地での一件を知らないのだ。

ことのあらましを簡単に説明するとアモスさんは「なるほど」と一つ頷いてから
「まあいろいろありますよ。若いうちはね」
と軽い口調で言った。

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この人との会話はいつもこうだ。
こちらがどんなことを言ってもまったく大したことじゃないように軽く返される。
そんなやりとりが俺は嫌いじゃない。

女の人と話すときもこんなふうにすればいいのに……とは思うが、
あの暴走がなくなるとアモスさんがアモスさんじゃなくなる気がするので難しいところだ。
こうして一人で宿に来たと言うことはきっと二人目のあの人にもふられたのだろう。
それでもまったくヘコんでるように見えないのがこの人の凄いところだ。
270 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:55:22.23 ID:n/I7QRoo
日が暮れることになってやって来たパルとかし子を加えて四人で夕食をとって、男女それぞれ別の部屋で床につく。
結局最後までパルはろくに口を聞いてくれなかった。
これ、もしかしてふられたってことなのか?
271 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:55:35.64 ID:n/I7QRoo
ロニーは夜通しカジノで遊んでいたらしく、
翌朝には隼の剣を片手にほくほく顔で俺たちのところへ来てつるはしを渡していった。
結果的にあいつの思惑通りになってしまったのが気に入らないが、
何はともあれ黄金のつるはしを取り戻すことには成功したのだからここはよしとするべきだろう。
272 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:55:54.19 ID:n/I7QRoo
俺たちはルーラでクリアベールへ行き、元々あった場所につるはしを戻すために再び運命の壁へ。
もう少しとりやすいところに置いてあげるべきなのではないかとの意見もあったが、
「つるはしを手に入れるために苦労するのも勇者の運命なのだろう」
ということでやはりあの嫌がらせとしか思えない入り口のところに戻すべきだという結論に落ち着いた。

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何を思ったか、アモスさんは洞穴の壁にこんな張り紙をしていた。
「これも勇者さんたちのためです」
ということだが、こんなこと書かなくてもつるはしの使い道くらい分かるだろうに。
勇者たちだって馬鹿じゃないんだから。
273 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:56:10.24 ID:n/I7QRoo
つるはしを戻しに行く途中で俺の魔物使い、アモスさんの踊り子が星八つになったのでダーマ神殿へ。
俺はついに盗賊に転職……クソ親父と同じ職業ってわけだ。
実際に人様のものを盗みに入るわけじゃないと分かってはいても、どうしても憂鬱な気分にならざるを得ない。
俺の能力値じゃあ素早さ補正も活きないしいいところなしだ。

で、アモスさんはいよいよ待望の上級職へ。

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スーパースターは戦士系の能力補正じゃないけど、
元々の能力値もあってアモスさんのHPはパーティで最高になった。
パルがパラディンになるまでは先頭を任せることになりそうだ。
274 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:56:30.37 ID:n/I7QRoo
なんてことを考えながらアモスさんが転職の儀式を終えるのを待っているときのことだ。
少し離れたところからかし子にちょいちょいと手招きされた。

「昨日のことなんじゃがな」
みんなには聞こえないように小声でかし子はそっと耳打ちしてくる。
「カジノで遊んでいる間もパルはずっと上の空じゃったぞ。
 よっぽどお主に言われたことが気になっておるようじゃのう。
 今だって、ほれ」
言われて見てみれば、確かにパルは視線こそアモスさんの儀式へと向けてはいるが、
それを見ているようで見ていないような、ぼんやりとした目をしている。
俺たち二人が少し離れたところから視線を送っていることにも気がついていないようだ。

「でもなあ。もしあいつが少しでも俺に気があるってんならあんな態度をとるか?」
「そこはまあ、残念ながらそううまくはゆかぬといったところじゃ。
 わしの見立てでは恐らくパルはお主を男として意識しとらんかったのじゃろうな。
 そこへいきなりあんなことを言われて戸惑っておるといったところか。
 お主らの場合は幼い頃からの積み重ねがなにやらいろいろあるようじゃから、
 急性なのはかえって逆効果かもしれぬのう」
275 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:56:42.01 ID:n/I7QRoo
女のさがというやつか、かし子はやたらと首をつっこんでくる。
言われなくても分かっているんだ。急ぎすぎてはいけないってことくらい。
俺だってあんなことを言うつもりじゃなかった。
そもそも俺はパルとの関係をどうしたいのか、それすらもまだ俺の中で答えが出ていないというのに。
大体、いつの間にかうやむやになってしまったけど、あいつはアモスさんのことが好きなんじゃなかったのか?
確かにあいつの口から直接そう聞いたことはないけど、
モンストルではそれが公認の事実みたいになってたじゃないか。
276 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 02:56:53.49 ID:n/I7QRoo
「わしだったら……」
パルのほうを見ながらあれこれと考えを巡らせていると、ふと背後でかし子が独り言のようにぽつりと言った。
「ああ言われたのがわしだったのなら、何の迷いもなくお主の胸に飛び込んでいったのじゃがのう」
言われた意味を理解するのにしばらく時間を要してしまった。

「……は?」とか言いつつゆっくりと振り向いて見ると、かし子はじっと俺の目を見つめてきた。
「長く生きておるとは言っても、今まで人間と接する機会はあまりなかった。
 ここまで深くわしと関わった男はお主が初めてじゃ。
 そのお主に求愛されたのならわしは断るすべを持たぬ」
かし子はまっすぐに視線を向けてくる。
何だこれは? 俺は一体どういう返答を求められているんだ?
俺が何も言えずにいると、やがてかし子はふうっとため息をついてくるりとその場で背中を向けた。
「……戯言じゃ。忘れてくれ。
 お主の気持ちがパルに向かっているということくらい分かっておる」
言葉通りの悟りきったような口調で言われて。
困惑しながらその小さな背中を無言で見つめることしか俺には出来なかった。
277 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 02:57:46.67 ID:n/I7QRoo
今日はここまで。

まあ断る必要もないとは思いますが……
恐らく明日の昼頃にまた来ます。
278 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 06:45:41.87 ID:dNF2CMgo
頑張れ
レスせんだけで見てるから
279 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 17:31:56.82 ID:n/I7QRoo
予定より遅くなりましたが再開します
280 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:32:13.78 ID:n/I7QRoo
転職を終えてマーズ婆さんのところへ戻ると、相変わらずの満面の笑みで出迎えられた。
占いを賭け事のために使ったことはもう忘れてくれているらしい。

次の目的地についてはまだ何も出ていないらしい。
勇者たちの行く手を阻む怪しい影とやらはまだ晴れたわけではないが、しばらくは何も起らないだろうとのことだ。
ならこれからどうしようか、と話し合っていたときのこと。
婆さんがこんなことを言い出した。
「お前さんたち、ジャンポルテの館というのを知っておるかね?
 そこでベストドレッサーコンテストというものが開催されているそうなのじゃが……」
コンテストで優勝すれば旅の役に立つ景品がもらえるそうだから試しに出場してみてはどうか。
婆さんはそう言うが、残念ながら万年金欠の俺たちにかっこよさの高い装備なんて揃えられるはずがない。
281 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:32:32.28 ID:n/I7QRoo
無理だ、と答える俺たちに婆さんはにんまりと笑ってみせる。
「お前さんたちがそう言うと思ってね。いいものを用意してあるんだよ」
そう言って婆さんは奥のクローゼットをごそごそとやって中から何かを取り出してきた。
婆さんがそれを両手でもって掲げて見せたとき、女性陣二人が同時に「おおっ」と歓声を上げた。
まるでお姫様が舞踏会で着るような、美しい巧緻が施されたオレンジ色のドレス。
「どうだね。儂が若い頃に着ていたものだけど、なかなか見れるだろう?
 ただのドレスなので残念ながら防具としては役に立たないけどね。
 パルや、お前さんにならよく似合うと思うよ」
「え、あたしっ?!」
途端にパルが素っ頓狂な声を上げた。
282 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:32:51.69 ID:n/I7QRoo
勢いよく立ち上がって「無理無理無理!」とか言いながらぶんぶんと顔の前で手のひらを振っている。
「あたしそんなの着たことないもん。絶対似合わないって」
「おや。では誰が出るのかね? これはかし子には大きすぎるだろうし、かと言って男が着るのもねえ」
それだけは勘弁だ。
俺にそんな趣味はない。アモスさんだってきっと……
「なかなか面白そうな趣向ですが」
あれ? アモスさん?
「ここは遠慮しておきましょう。僕としてもドレスを着たパルさんの姿には興味があります」
よかった。一瞬どうなることかと。
パルはまだ「うー」とうなり声をあげているが、アモスさんに言われると大人しくなった。
なんだかんだでやっぱりアモスさんへの憧れみたいなのはこいつの中に今もあるのかもしれない。
「ま、もう諦めろよ」
と俺が言うとぎろりと睨み付けられた。
「あんたは黙ってなさい」
……何ですかこの扱いの差は。
283 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:33:28.35 ID:n/I7QRoo
このドレスのかっこよさは61あるらしい。
月の扇、銀の髪飾り、スライムピアスと合わせて151。
スライムピアスの35が何気にでかい。
そういえばこいつ、どこでスライムピアスなんて手に入れたんだろう?
モンストルに居るときから「あたしなりのおしゃれなの」とか言ってつけていたけど、
それがいつ頃からだったかまでは覚えていない。
まあ誰かが余所へ行ったときにでも買ってきてもらったんだろうけど。
284 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:33:47.48 ID:n/I7QRoo
パルの元々のかっこよさを合わせると186になるのでなんとかこれでいけるだろうか。
まずルーラでレイドックまで行って、そこから綿毛に乗れば一時間もかからずにジャンポルテの館へと到着した。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994707.jpg

ここでもまたバニーさんだ。つくづく俺はこのコスチュームに縁があると思う。
いやまあ、ちっとも嫌じゃないというかむしろ大歓迎なのだけど。
「準備が出来たら呼んでください。それまで僕はここで飲んでます」
と言ってアモスさんはいそいそとバーカウンターに腰を下ろす。
目的が酒じゃなくてカウンターの中のバニーさんにあるのは明らかだが、まあ今さら言っても仕方がない。

俺たちは三人で地下にある会場へと向かった。
入り口のところで出場者に登録してパルは控え室へ。
かし子は着替えの手伝いをするのかと思いきや、さっさと観客席の方へと行ってしまった。
これだけ方々を旅していても華やかな雰囲気に弱いところはちっとも直っていないらしい。
285 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:34:04.85 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126232.jpg

パルが入った控え室の前で俺は一人で待たされる。
出場者の中には男も居るからそいつらが間違えて入ってこないように見張りに立たされたというわけだ。

しばらくぼんやりと待っていると、ふいにドアの中から声が聞こえた。
「ねえ、今そこに居るのはあんただけ?」
そうだ、と答えると少し間をあけてからパルはこんなことを言ってきた。
「あのさあ、あれってどういう意味だったの? ロンガデセオの墓地でロニーに言ったこと」
やっぱりそのことか。
驚くでもなく俺はドア越しに聞こえるパルの声に耳を傾ける。
「言ってみればあれって『こいつは俺の女だ』宣言なわけでしょ?
 あんたってあたしのことをそういうふうに思ってたわけ?」
声と一緒にかすかな衣擦れの音が聞こえてくる。
ドアの向こうの光景を思わず想像してしまってどぎまぎとしながら俺は言葉を探す。
286 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:34:26.10 ID:n/I7QRoo
「そんなんじゃない。なんつーか、あの時はとにかく何かを言わなきゃって思って。
 なんだろ、うまく説明できないけど……
 テキトーに口を開いたら何故かあんな言葉が出ちまったっつーか、そんな感じ」
「はあ?」とドアの向こうでパルが怒ったような声を上げた。
「何よそれ。じゃああんたは何も考えずにあんなことを言ったってこと?」
「まあそうなるかな」と答えると、たっぷり十秒ほど間を置いてから、
すっかり呆れかえったような声でパルは言った。

「バカじゃないの?」
はぁ、と大きくため息をついたのがドア越しでも分かる。
「てゆーかさあ、バカじゃないの?」
「二回も言うな……」
「何回だって言ってやるわよ。あんたはバカ。信じられないほどの大馬鹿よ」
「うるせえな。つーかまだ着替え終わらないのかよ?」
俺がそう言い返すと、パルの声はぴたりと止まった。
しばし間を置いて「いや、実はもう終わってるんだけど」と消え入りそうな声が返ってくる。
「え? ならなんで出てこないんだ?」
287 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:34:43.02 ID:n/I7QRoo
「いや、その、だって……」
「もういいんだろ? 開けるぞ」
「え、ちょ、待――」
制止するような声が聞こえたが、それより早く俺の手はドアノブを回してしまっていた。

開いたドアの向こうに現われたのは――
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994715.jpg
誰これ? まず思ったのはそんなこと。
「……なによ」
お姫様みたいな格好のパルが何故か挑みかかるような視線を向けてくる。
そのアンバランスさがまた魅力の一つにも思えてきて。
「分かってるわよ。あたしにはこんなの似合わないって。
 どうせベストドレッサーなんて無理なんだから辞退して――」
「いや」
気がついたときにはパルの言葉を遮っていた。
「すげえ似合ってる。なんつーか……きれい、だと思う」
「う……」とパルは真っ赤になって俯いてしまう。
「バカ、やめてよ。知ってるでしょ? あたしがそういうのに慣れてないって……」
いつもとはまるで違うその仕草、その表情。
なんだかこっちまで言葉につまってしまう。
「ねえ、お世辞とかじゃなくてホントのこと言ってよ。あたし、変じゃない?
 コンテストで優勝できると思う?」
でもやっぱり目の前のきれいな少女は俺のよく知っているパルなわけで。
だからこそ俺の視線はその姿に釘付けになる。
288 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:35:27.04 ID:n/I7QRoo
「お世辞なんて最初から言ってないって。優勝できるかは分からないけど――」
少なくとも俺にとっては世界で一番だ。
そんな台詞が言えるわけもなく、もじもじと恥ずかしそうにしているパルをただじっと見つめる。
なんだかお見合いみたいな状況になってしまったところで、タイミングよく係の人が呼びに来た。

「あんたの言葉、信じてあげる」
そう言い残してパルはコンテストに向かっていった。

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そうして始まったベストドレッサーコンテストで、ランク1とはだとはいえパルは見事に優勝を果たした。
もらった景品はシルバートレイ。
わざわざドレスまで用意して貰って勝ち取った品物にしてはなんともしょぼいが、
やっとパルにも装備できる盾が手に入ったのはありがたい。
そしてそんなことよりも何よりも、優勝者として自分の名前が呼ばれたときの、パルの心から嬉しそうな笑顔。
何よりも俺の心に残ったのはそれだった。

なんというか、やばい。
自分がこんなふうになるなんて思ってもみなかった。
289 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:36:15.07 ID:n/I7QRoo
マーズの館に戻って話を聞いてみるとまだ次に行くべきところは分からないとのことだったので、
俺たちはまだ行っていない地域を回ってみることにした。
目的は観光が半分、修行が半分といったところか。
運命の壁、ロンガデセオ周辺と連続で苦戦を強いられて自分たちの力不足、
そして装備の貧弱さを嫌と言うほど思い知らされた。
アモスさんなんてまだうろこの盾にきのぼうしだからなあ。
いくらスーパースターになったからってさすがにこれはまずい。
290 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:36:40.95 ID:n/I7QRoo
考えてみると俺は上の世界ってダーマ神殿とクリアベールしか行ったことがないので、
まずは上の世界を回ってみることにする。

勇者一行もまだ世界の全てを回ったわけではないそうだが、
俺たちには綿毛があるので移動制限なんてない。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994720.jpg

勇者たちが二人目の魔王を倒したことで復活したというメダル王の城。
知らない間に見つけていたという小さなメダルを王に渡すとなんといきなりエッチな下着をくれた。
なんでも元々はメダルを100枚集めた報酬として勇者たちに渡すつもりだったらしいが、
その話を聞きつけた奥さんに「そんなものを勇者さまに渡すんじゃありません!」とこっぴどく叱られたらしい。

勇者たちの代わりに受け取ってくれ、とのことなのでありがたく貰っておくことにする。
こんなにも簡単にかっこよさが100の装備が手に入るなら先に来ておけばよかったかもしれない。
いや、まあパルもこんなものをつけてコンテストに出るつもりはないだろうけど。
291 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:37:46.52 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994724.jpg
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994728.jpg

下の世界にはない町、シエーナとカルカド。
カルカドのほうはジャミラスという魔王と関わりが深かったらしく、
それを倒してくれた勇者のことをみんなが口々に褒め称えていた。
292 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:44:23.03 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994731.jpg

スライム闘技場。
モンスターを仲間にすることができない俺たちでは出場の機会はないが、
かわいらしいスライムが戦う姿に女性陣はおおはしゃぎだった。
293 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:44:45.24 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126241.jpg

旅を続けるうちに、海の真ん中に穴が開いていたところにこんな町が復活していた。
カルベローナといって伝説の魔法が伝わっている由緒正しい町なのだとか。
なんでもかし子の羽衣も昔ここで結ってもらったものらしい。

今も装備に魔翌力を込める職人がいるということだったのでかし子と一緒に話を聞きに行く。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994736.jpg

偏屈な人みたいでなかなか話を聞いてくれなかったが、
かし子の羽衣を見た瞬間に目の色を変えて「ぜひこれを編み直させてくれ」と言い出した。
どうやらこの人たちから見てもかし子の羽衣は凄いものらしい。
こうしてかし子の羽衣はさらに強化されて防御力は57になり、さらに炎や吹雪への耐性もついたという。
こいつの装備には金がかからないので楽だ。

294 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:45:06.95 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126244.jpg

砂漠の真ん中に変な塔を見つけたが入り方が分からない。
一旦マーズの館に戻って占って貰うと入り口の扉はインパスを唱えれば開くということと、
ここのモンスターは俺たちが経験値を稼ぐにはちょうどいい強さだということが分かった。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994742.jpg

インパスを唱えて中に入る。
そういえば俺がMPを使うのってこれが初めてかもしれない……

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994745.jpg

中のモンスターはたしかに強すぎもせず弱すぎもせずといったところだ。
同じところをうろうろしていてもヒマなので上を目指してみることにする。
途中で宝箱を見つけたけど中は空っぽだった。勇者一行がちゃっかり取っていったらしい。
295 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:45:19.54 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126247.jpg

塔の頂上にさしかかった頃、ついにパルとかし子が僧侶をマスターした。
同時に転職したから当然マスターも同時だ。
これでやっと僧侶が二人で戦士系が一人も居ないというバランスの悪さから抜け出せる!
俺たちは喜び勇んでダーマへ向かったのだが……
296 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:45:34.11 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126249.jpg

ルーラで飛んできたそこに神殿の姿はなく、ただ大地に大きな穴があいているだけだった。
どういうことだ?
勇者たちがムドーを倒すまではこんなふうにダーマ神殿も封印されていたというのは聞いている。
でもなんで今さらこうなってるんだ?
わけがわからない。
とりあえず穴から下の世界へ降りてマーズの館へ向かうことにした。

297 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:46:03.62 ID:n/I7QRoo
マーズ婆さんは沈痛な面持ちでもって俺たちを出迎えた。
「その顔だともうお前さんたちも見てきたようだね」
いつもの柔和な笑顔はすっかり影を潜め、薄暗い室内で婆さんは鬱々と語る。
「端的に言おう。魔王ムドーめが復活しおった」
思わず息をのんだのはきっと俺だけじゃなかったはずだ。
「原因は分からぬ。
 じゃがこのような運命から外れたことが起っているということは――」
「まさか、ロニーが関係していると?」
信じられないような心持ちで呟いたその言葉に、しかし婆さんはこくりと頷いてみせる。
「はっきりとしたことは言えないけど、儂の占う限りではそれ以外の原因なんて見当たらないのでね。
 一つ言えることは、蘇ったムドーは以前とは比べものにならぬほどの力を持っているということくらいかね」
一同に沈黙が降りる。
298 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:46:21.08 ID:n/I7QRoo
しばらくの後、口を開いたのはかし子だった。
「勇者たちの手を借りるわけにはいかぬのか?」
婆さんは首を横にふる。
「運命というのは細い糸のようなもの。
 何が原因で切れてしまうか分かりゃせん。
 勇者たちに筋道を外れたことをさせて、
 もしそれが原因で『勇者は魔王を倒す』という運命の糸が切れてしまったら……」
「この世の終わり、ということですか」
言葉をつまらせた婆さんの後を引き継ぐようにしてアモスさんがすんなりと口にする。
それきり、またしいんと室内は静まりかえった。
もう結論は出ている。
俺たちがムドーを倒しに行くしかないのだ。
299 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:46:32.24 ID:n/I7QRoo
ダーマ神殿をあのままにしておくわけにはいかないし、
そして何より人々をあれほど明るくさせた『魔王ムドー討伐成る』の報せをなかったことにするわけにはいかない。
正義感とかそんなカッコいいものじゃない。
ただなんとなく気に入らないのだ。
ロニーの行動が人々の笑顔を曇らせるというその事実が。
300 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:46:43.16 ID:n/I7QRoo
ムドーはやはり以前の居城に巣くっているらしい。
討伐は早ければ早いほどいいが、さすがに今すぐに出発というのは無茶が過ぎる。
装備も揃えなければいけないし、何より心の準備というものが必要だ。
方々を旅してそれなりにモンスターとの戦闘もこなしてきた俺たちだが、まだ経験していないものが一つだけある。
そう、「ボス戦」というやつだ。
俺たちの役目はあくまで勇者を補助すること。
洞窟の最深部に潜む悪の親玉みたいなのを倒すのは勇者であって俺たちではなかった。
そのせいで節目となる強敵との戦闘というものに俺たちは慣れていない。
301 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:46:59.17 ID:n/I7QRoo
会話もろくに交わさないまま、俺たちは例の正体不明な店屋に行って買えるだけの装備を買いそろえた。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994759.jpg

俺もついに刃のブーメランから卒業して炎のブーメランへとランクアップ。
楽しみにしていた瞬間だったはずなのに心はちっとも躍らない。

今夜はマーズ婆さんのところに泊まって、決行は明日ということになった。
何の前触れもなく突如として身に降りかかった魔王との決戦。
誰もが緊張に身を固くしている。
あのアモスさんですら言葉少なに早々とベッドに引っ込んでしまう始末だ。
302 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:47:16.26 ID:n/I7QRoo
こういう時、勇者ならなんと言って仲間を励ますのだろうか。
大きな声で発破をかける? それとも落ち着くように諭す?
あるいは――
「悩まんでもええ」
あれこれ考えているのが顔に出ていたのだろう。マーズ婆さんはこんなことを言ってきた。
「儂の知る勇者イザならば、恐らく何も言わぬだろうね。
 ただ仲間を信じてゆっくりと体を休めて明日に備えるはずだよ」
「仲間を信じる……」
そうか。
きっとみんな俺と同じようなことを考えているはずだ。
ベッドの上で眠れぬ夜を過ごすことになるのかもしれない。
それでもきっと明日には何らかの答えを持って決戦に望んでくれるはずだ。
そう信じるほかにない。

俺は勇者でもなんでもないただの男。
一言でみんなを奮い立たせるなんてことはできない。
それでいい。
凡人と、家出娘と、賢そうな草と、変態。
そんな四人が魔王を倒すのだ。
なんとも痛快な話ではないか。
303 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:47:27.31 ID:n/I7QRoo
翌朝。
こんなときでも……いや、こんな時だからこそしっかり朝食をとって、
俺たちは綿毛に乗ってムドーの城へと乗り込んだ。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126254.jpg
304 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:50:25.89 ID:n/I7QRoo
ムドーとの決戦に臨む俺たちの能力値


ぼんじん
レベル:31
とうぞく
うできき

E ほのおのブーメラン
E まほうのよろい
E まほうのたて
E てっかめん

ちから:81
すばやさ:89
みのまもり:27
かしこさ:45
かっこよさ:97
さいだいHP:182
さいだいMP:7
こうげきりょく:146
しゅびりょく:122

とうぞく ★★★★
まものつかい ★★★★★★★★
しょうにん ★★★★★★★★
305 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:50:46.69 ID:n/I7QRoo
パル
いえでむすめ
レベル:31
そうりょ
ほうおう

E つきのおうぎ
E みずのはごろも
E シルバートレイ
E ぎんのかみかざり
E スライムピアス

ちから:99
すばやさ:95
みのまもり:40
かしこさ:82
かっこよさ:145
さいだいHP:189
さいだいMP:84
こうげきりょく:164
しゅびりょく:137

ぶとうか ★★★★★★★★
そうりょ ★★★★★★★★
306 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:51:00.62 ID:n/I7QRoo
かしこ
かしこそうなくさ
レベル:32
そうりょ
ほうおう

E カルベロビュート
E かしこのはごろも
E まほうのたて
E スライムメット
E きんのブレスレット

ちから:44
すばやさ:77
みのまもり:23
かしこさ:103
かっこよさ:170
さいだいHP:128
さいだいMP:190
こうげきりょく:138
しゅびりょく:155

そうりょ ★★★★★★★★
まほうつかい ★★★★★★★★
307 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:51:20.17 ID:n/I7QRoo
アモス
へんたい
レベル:32
スーパースター
デビュー

E ゾンビキラー
E あつでのよろい
E まほうのたて
E ちりょくのかぶと

スーパースター ★★★★
おどりこ ★★★★★★★★
あそびにん ★★★★★★★★


装備は今手に入る最高のもの、というわけではないが有り金を叩いて出来るだけのものを揃えた。
これでパルとかし子が上級職に転職できていればもっと万全だったのだが……
肝心のダーマ神殿を封印されているのではどうすることもできない。
308 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:51:39.78 ID:n/I7QRoo
「ねえ」
パルが小声で話しかけてくる。
「今のうちに言っときたいんだけど――」
「やめようぜ、そういうのは」
俺は小さく首を横にふる。
「話だったらあとでも出来る。今はただ、早くムドーをぶっ倒して帰ることだけを考えよう」

まだ会ったことのない勇者、イザ。
あんたならこういうときなんて答えるんだ?
もしかしたらちゃんと話を聞いてやって、何かうまい言葉でもかけて仲間の不安を取り除いてやるのかもしれない。
でも俺はこれでいい。
何故って、パルが笑ってくれたから。
我ながらクサすぎるけど……ま、男なんてこんなモンだろう。

「行こう」
短く言った俺の言葉にみんなが力強く頷いてくれる。
俺は――少なくともこの瞬間だけは。
この四人は勇者一行にも負けない世界一の仲間たちなのだと、心からそう思った。
309 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:51:59.93 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994766.jpg

生息しているモンスターはムドーが復活する前と変わっていないようだ。
世界を旅してきた俺たちの敵ではない。
MPを節約しながら奥へと進んでいく。

「ムドーを倒せばわしらの旅も一段落するのじゃろうか」
誰に言うでもなく、かし子がぽつりと呟いた。
アモスさんを探すことから始まったこの旅もいつの間にやらおかしなことになったものだ。
その終着点がここなのかどうかは分からないけど、俺にとってこの旅の意味が少しずつ変わり始めているのはたしかだ。
世界を旅するうちに気付いたことがある。
きっと自分の居場所というのは探し求めるものではなく――
310 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:52:16.57 ID:n/I7QRoo
「ここが主の間のようですね」
大広間から通路を渡り、ひときわ異様な雰囲気を放つ大きな扉が姿を現したところでアモスさんが静かに言った。
「準備はいいですか、みなさん」
珍しく真面目な表情で振り向くアモスさん。
一同の顔を見渡してみんなが頷くのを確認してからまた前を向いて、
「では行きましょう。この世の美女を守るために!」
美女だけかよ。
心の中でそう突っ込んだのはきっと俺だけではあるまい。

素でやっているのか、雰囲気が重くなりすぎないようにと気を遣っているのか……
そこのところは量りかねるが、
なんだかんだでこの人が俺たちのムードメーカーになっているのは認めざるを得ない。
この人が居なければ俺たちはもっと神経を尖らせたまま決戦に臨むことになっていただろう。
おかしな言動に辟易させられることも多いけど、やっぱりこの人も俺たちの大事な仲間だ。
311 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:52:33.68 ID:n/I7QRoo
扉を開けた瞬間、ムドーの魔法が飛んでくるかもしれない。
そんな覚悟と共に中へと入った俺たちを出迎えたのは予想外の静けさだった。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994769.jpg

中には誰もいない。
玉座があったと思われる場所にはぽつんと井戸があるだけだ。
俺たちは顔を見合わせ、こくりと頷く。行ってみるしかない。
慎重に井戸へと近付いていって、四人でいっせいにそれを覗き込んだ――

312 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:52:57.94 ID:n/I7QRoo
ふかふかのベッドの感触に包まれて俺は目を覚ました。
そっと体を起こすとキッチンで朝食の支度をしていたパルがこちらに振り返る。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126259.jpg

「おはよう、目が覚めた? もうすぐ朝ご飯ができるからね」
まるで小鳥のさえずりみたいな優しいその声に、幸せな気持ちで「おはよう」と返す。
313 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:53:18.45 ID:n/I7QRoo
パルの作ってくれた朝ご飯を平らげたら仕事の時間だ。
にこやかに朝の挨拶をしてくる住人たちにこちらも笑顔で答えつつ道具屋へと向かう。

今日はたしか届け物があったはずだ。
一件の家のドアをノックすると、中から賑やかな声が聞こえてくる。
「わあ、よすのじゃアモス!」

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最近ここに引っ越してきたかし子という女の子の声だ。
遠い親戚だとかでこの家の夫婦が引き取ったそうなのだが、
それ以来ここの息子さんとアモスという犬にやらたと懐かれてかし子は辟易しているらしい。
まああれはあれで楽しそうなので放っておこう。
頼まれていた薬草を奥さんに手渡して俺は店へと戻る。
314 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:53:30.55 ID:n/I7QRoo
昼にはパルが作ってくれたお弁当を食べて、日が暮れ始めたら店じまい。
家に帰ればパルの笑顔が出迎えてくれる。
今日の夕食はなんだろう。
ホワイトシチューだったらいいのにな、とか考えながら家路を急ぐ。
何一つ欠けているものなどない幸せな日々。
これがずっと続けばいいのに――
315 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:53:47.10 ID:n/I7QRoo
「違う」

ぽちゃん。
その言葉が一滴のしずくになって俺の心に波紋を広げていく。
俺は何かをしたか?
この幸せを得るために何かの努力をしたのだろうか?
否だ。
そんなことはあり得ない。
何もしないで幸せになれるほど世界は優しくなんてない。
316 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:53:59.17 ID:n/I7QRoo
旅をしていて分かったこと。
住めば都という言葉もあるように、きっとどの町でだって俺は生きていくことは出来る。
でもモンストルでやっていたのと同じような態度をとっていたらきっとまた同じことの繰り返しだ。
居場所というのは探し求めるものではなく、ましてや誰かに与えられるなんてものでもなく。
自分の力で作り出していかなければいけないものなのだ。
「こんなまやかしなんて俺はいらない。消えろ!」
317 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:54:17.23 ID:n/I7QRoo
目の前の景色がゆっくりと歪んでいく。
偽りの幸せは消え失せて――やがて目の前に現われたのは俺が一番嫌いな男の顔だ。

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「バカじゃね」
大きな王座の上でふんぞり返って、ロニーはつまらなそうにこちらを見ている。
「あのまま夢の世界に居ればお前たちは幸せだろ、常識的に考えて」
うるさい、と言い放ちつつ俺は周りを見る。
パル、かし子、アモスさん。頼りになる仲間たち。
これが現実。これが俺の世界だ。
318 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:54:32.14 ID:n/I7QRoo
「かし子さんの犬になるというのも乙なものではありますが。
 どうせなら人間のままでナデナデしてもらいたいですね」
こんな時でも変態発言のアモスさん。
ふう、とかし子は呆れ混じりの吐息をもらす。
「たしかにこやつは犬にでもなったほうが害が無くてよいかもしれぬがのう。
 これでも最近はこやつの扱いにも慣れてきたつもりでの。
 お主ごときに心配されるほど困ってはおらぬわい」
ロニーに視線を向けつつかし子は不敵に笑ってみせる。
しばらく間があいて――夢から覚めて以来ずっと下を向いていたパルがゆっくりと口を開いた。
319 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:54:46.42 ID:n/I7QRoo
「あたしは……」
一度俺と目を合わせて、それからきりりと表情を引き締めて決意のこもった視線をロニーに向ける。
「あたしにはどんなのが理想の未来なのかなんて分からない。
 知りたいとも思わない。
 あたしはたしかに行き当たりばったりな生き方をしてるかもしれないけど、
 その瞬間瞬間で最善だと思う道をずっと選んできた。
 後悔したことがないとは言わない。
 でも……あたしは一人じゃないから。側で支えてくれる人が居るから。
 つまづいても、立ち止まっても、また歩き出せる。
 それがあたしの生き方。
 過程をすっとばした結果だけの幸せなんて、こっちから願い下げよ!」
320 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:55:07.78 ID:n/I7QRoo
「……よろしい。では戦争だ」
ロニーが数歩、後ろに下がる。
空だった玉座にぼんやりと影が集まって、やがて禍々しい気配を放つ魔王ムドーがそこに姿を現した。
だが、どこか雰囲気がおかしい。
確かに今まであったモンスターなんて比べものにならなほどの威圧感はあるが、目も虚ろで魔物の王たる威厳が感じられない。
「お前らは勘違いしてるみたいだけど、これは魔王なんて大層なモンじゃねえ。
 ここにあった残骸に俺が集めたモンスターの魂を詰め込んだだけの出来損ないさ。
 意志なんてありゃしねえ。俺の言うとおりに動く木偶人形みたいなもんだ」
玉座の隣に立ってロニーは余裕の笑みを浮かべている。
俺たちがムドーに敵うわけがないとたかをくくっているのか。
321 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:55:37.10 ID:n/I7QRoo
「一つ教えろ、ロニー。なんでこんなことをする?」
「は? なんでそんなこと教えてやらないといけないんだよww」
嘲るようにロニーは笑い声を上げる。
「お前こそこの前の問いに答えてないだろ。
 なんでお前が勇者の手助けなんてやってんだよ」

ムドーが動き出す。意志の感じられない目でのそりのそりと距離を詰めてくる。
迫り来る戦いの気配に身構えつつ、俺は答えを口にする。
「お前の言うとおり、こんなのは俺らしくないかもしれない。
 俺は会ったこともない人々のことまで心配できるようなお人好しじゃないからな。
 世界のために命をかける、なんて俺の柄じゃない。
 でも世界がなくなっちまったら居場所を見つけることもできなくなっちまう。
 だから――」
手に取った炎のブーメランから熱い感触が伝わってくる。
「俺は俺のために、この世界を守る!」
322 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:56:02.89 ID:n/I7QRoo
ほとんど無意識のうちに俺は先手をとって攻撃を放った。
地底魔城の闇を切り裂くように、炎のブーメランが赤い弧を描いて飛んでいく。
それが中途半端な蘇りのせいで青く変色したムドーの体を打ち払ったとき、確かにムドーは苦悶の声を上げた。

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確かな手応えをと共に戻ってきたブーメランをキャッチしつつ、俺は確信する。
いける。
俺たちの力は魔王に通用する!
323 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:56:16.48 ID:n/I7QRoo
四人は一気呵成に攻勢に出た。
パルの拳が、かし子の魔法が、アモスさんの稲妻が次々とムドーを襲う。
が、魔王もさるもの。
それらの攻撃を連続で受けつつも倒れはせず、激しい炎やイオラですかさず反撃してくる。
マジックバリアもフバーハもない俺たちはそれらの攻撃には防具の耐性と回復魔法で対処するしか方法がない。
ルカナンでこちらの防御力を下げてからの通常攻撃もなかなか強烈だ。
最初こそ攻勢に出ていたものの、
戦闘が長引くにつれてパルとかし子は回復と補助に手一杯でほとんど攻撃に回る暇がなくなってしまった。
攻撃の手が少なくなったことでさらに状況はじり貧になっていく。
324 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:56:29.56 ID:n/I7QRoo
パルとかし子のMPとて無限ではない。
ムドーの体力がどのくらいあるのかは分からないが、
もしこちらのMPが先に尽きてしまえば万事休すなのは誰の目にも明らかだった。

意志を宿さないムドーの表情はまるで変わらず、こちらの攻撃がどのくらい効いているのかちっとも分からない。
焦りばかりが募る中、追い打ちをかけるように、
回復が間に合わなかったところへ激しい炎と通常攻撃を連続で食らったアモスさんがついにやられてしまった。
すかさずかし子がザオリクで生き返らせはしたが、20の消費はやはりでかい。
MPが豊富なかし子でさえ残量が気になるのだから、元々ベホマ12回分しかMPがないパルは言わずもがなである。
このままではまずい。
325 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:56:43.07 ID:n/I7QRoo
俺とアモスさんにしても戦士や武闘家を経験しているわけじゃないから、攻撃手段は通常攻撃しかない。
せめてまとまったダメージを与えられる特技があれば――
肩で息をしながら必死に打開策を考えていた俺は、ふとあることを思い出した。

そういえば覚えたきり一度も使っていなくて効果すら知らない特技がある。
金がかかるというので通常戦闘では敬遠していたのだが、今は明らかにそんなことを言っている場合ではない。
何が起こるかは分からないが、いずれこのままでは敗色濃厚なのだからやってみる価値はありそうだ。
「ええい、なんでもいいから来やがれ!」
叫びつつ俺は戦いの狼煙を上げた。

これぞ商人の奥の手、軍隊呼び!
326 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:57:05.04 ID:n/I7QRoo
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ぶおぉぉー。
どこからともなく響いてくる法螺貝の音がびりびりと下腹を震わせる。
「勇猛なる織田の軍勢よ」
支配者の威厳に満ちた声があたりに木霊した。
「全軍突撃ぃ!」

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うおおおおおぉ! と勇ましい怒号を上げながら一斉にムドーへと突撃していく兵士たちを、
俺たち四人は唖然としながら見つめていた。
これってまさかあの織田信長? 精魂込めて作ったジオラマが俺のピンチに駆けつけてくれたんだ!
327 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:57:21.02 ID:n/I7QRoo
歩兵の槍が、火縄銃の銃弾が、幾重にも連なってムドーを襲う。
人だかりになった戦場の中央から「ぐおおおぉ」とムドーの苦しげな声が聞こえた。
「鳴かぬなら、殺してしまえ、ホトトギス」
60以上のダメージを8回にも渡って与えて織田信長軍は去っていった。
ムドーは倒れこそしていないがもはや虫の息だ。
あと一息! その想いがみんなを勇気づける。
328 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:57:37.03 ID:n/I7QRoo
アモスさんのゾンビキラーがムドーの体を切り裂き、おれの炎のブーメランがムドーの体を焼き、
パルの爆裂兼が止めを刺す。
ついにムドーは断末魔の叫びと共に地面に倒れ伏した。
しゅうしゅうと黒い煙を上げながら魔王の巨体はぼろぼろに崩れ去っていく。
勝ったんだ、という実感が沸き上がってきたとき、
喜びよりも先に脱力感に体がおおわれてしまってどさりとその場に尻餅をついてしまう。
四人みんなが身動きすら出来ずにムドーが消え去っていく様を見守っていた、そのときだ。
329 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:58:09.32 ID:n/I7QRoo
ぱちぱちぱちぱち。
どこか間の抜けた拍手の音が聞こえてきて俺は顔を上げる。
「いやー、すげえわお前ら。まさか勝っちまうとは」
本当に心から感心したような声で言いつつ、ロニーはつかつかとこちらへ歩いてくる。
「でも詰めが甘い。今俺がその気になれば一瞬でお前らなんて片付けてしまえるわな。
 ま、やんないけど。面白くないし」
もはや立ち上がる力すら残っていない俺の髪をロニーはぐいと掴んで上へと引っ張る。

いてえんだよ、このクソ野郎。
口を開くのもおっくうで、心の中でだけ吐き捨てる。
「おい、覚えとけよ。お前が生きていられるのは俺のお情けのおかげだってな」
どん、と突き飛ばされて俺の体はそのまま地面に勢いよく倒れる。

横転してぼやけた視界の片隅に、闇に紛れて消えていくロニーの姿が微かに見えた。
330 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:58:40.45 ID:n/I7QRoo
なけなしのMPでリレミトとルーラを使って適当な町へ戻った俺たちはともかく宿をとろうとしたのだが、
サイフを開けてびっくり。
所持ゴールドが見事にゼロになっていたのだ。
織田信長軍は強力な分持って行かれる金額もでかいというわけか。
仕方ないので俺たちは疲労困憊の体を引きずってなんとかマーズの館へ戻り、
勝利の報告もそこそこに床についた。
ロニーを逃がしてしまったのは痛いが、ともかく俺たちは初めてのボス戦に勝ったのだ。
今はゆっくりと休ませてほしい。
331 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:58:53.32 ID:n/I7QRoo
で、翌朝。
婆さんからひとしきりお褒めの言葉を頂いたあと、
ゼニス王が呼んでいるのでゼニスの城へ行くようにと言われた。
ゼニスの城というのは最近勇者が四人目の魔王を倒したことで復活した神の住まう城らしい。
当然ゼニス王というのは書いて字の如くその城主のことなわけで。
そんな人が俺たちに何の用だ?
332 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:59:18.62 ID:n/I7QRoo
一大決戦に勝利した虚脱感というやつか、なんとなく空気にしまりがない。
綿毛に乗ってゼニスの城へ向かう途中には珍しくパルまであくびをしていた。

ロニーを捕らえられなかった以上俺たちの役目はまだ終わらないわけだが、
今まで節目となる戦いがなかったぶんそれを成し遂げた達成感というのもひとしおだ。
ふわふわろ浮かぶ綿毛に揺られて、心地よい風に包まれてぼんやりと空を見上げていたら
いつの間にかゼニスの城に到着していた。
333 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:59:39.10 ID:n/I7QRoo
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もう城の人には話が伝わっていたみたいで、快く迎え入れてくれる。
神の住まう城というだけあって空気が普通の城とは違う。
磨き上げられた石畳の床、煌々と赤い灯火が揺れるランプ。
そういった調度品の一つ一つに神々しいものを感じてしまうのはきっと、
「ここが特別な場所だ」と意識しているからというだけではないだろう。

「ふむ……懐かしいのう」
かし子がぽつりと言った。
「なんだ、来たことがあるのか?」
そう訊いても言葉を濁すだけだ。
こいつがこういう態度に出るのは珍しい。
何か秘密にしなければいけないことでもあるのだろうか。
334 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 17:59:57.79 ID:n/I7QRoo
神の城というくらいだから、住んでいる人たちも他とは一線を画しているようだ。

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露出度の高い衣装に身を包んだ若い女の人の姿にアモスさんは狂喜乱舞だ。
「いやー僕、天女には目が無くて!」
さっそくお決まりの台詞。
この人をゼニス王の前に連れて行って大丈夫なんだろうか……

煌びやかな装飾の施された扉をくぐり、いくつかの階段を上がったところで王の間に出た。

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考えてみれば「王」と名のつく人に直接会うなんてこれが初めてだ。
ゼニス王の放つオーラみたいなのにあてられて、思わず背筋がぴんと伸びてしまう。
あなたが神か。
という台詞はこういう時に使うのだろうか?

335 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:00:10.38 ID:n/I7QRoo
ゼニス王はまず「儂がゼニス王である!」と名乗ったあと、俺たちの功績に対して賞賛の言葉を贈ってくれた。
マーズ婆さん以外の人から褒められるのなんて初めてだし、
ましてやその相手がこの世界を支配する神のような人だなんて。
喜んでいいやら恐縮してしていいやらで言葉に困ってしまう。

ひとしきりの賛辞を述べたあと、ゼニス王は一旦言葉を切って、ふっとかし子に優しげな視線を投げかけた。
「さて……久しいのう、世界樹よ。息災であったか?」
かし子を除く三人の口からいっせいに「え?」と声がもれた。
世界樹?
伝説に聞く命を司る大樹のことか?
336 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:00:21.41 ID:n/I7QRoo
三人の視線をうけてかし子は気まずそうにこめかみのあたりをかいている。
「なんじゃ、言っておらなんだのか」
そう言ってゼニス王はゆっくりと説明を始めた。
かし子が世界樹の幼木であること。
かつてはここで生まれ、ゼニス王は娘としてかし子を育てたのだということ。
分別がつくようになると世界を知るために下界へと旅に出したこと。
そうやって語るゼニス王の口調は言われてみるとかし子とうり二つだ。
ゼニス王がかし子に似ているのではなく、
きっとかし子がゼニス王を真似るうちに口調がうつってしまったのだろう。
説明の間ずっと下を向いて黙っていたかし子がふっと顔を上げる。
337 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:00:39.04 ID:n/I7QRoo
「わしは……」
弱々しい口調でぼそりと言いつつ、恐る恐る俺たちの顔を見渡す。

それでなんとなく分かった。
何故こいつが今まで自分の正体を黙っていたのかを。

きっとこいつは特別扱いされたくなかったのだ。

『お主とパルとわしの三人で過ごす時間がわしの全てなのじゃ』

そう言って俺をパルのところへ連れ帰ろうとしていたかし子の姿を思い出す。
独りで過ごした時間が長い分、こいつは人一倍仲間というものを大事にしている。
アモスさんを含めたかし子以外の三人はみんな普通の人間だ。
そんな中で自分は「世界樹」なんていう特別な存在だなんてカミングアウトしたら、
自分だけ浮いてしまうのではないかと不安だったのだろう。

俺は不安げな上目遣いを向けてくるかし子の前に立って、ぽんぽんと頭を撫でてやる。
338 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:01:38.18 ID:n/I7QRoo
「心配すんなよ。お前が誰だろうと、俺たちの仲間ってことには変わりねえ」
俺が言うとかし子はぱあっと花がほころぶような笑顔を見せたあと、
勢いよく俺の胸に飛び込んできた。
「お、おい……」
俺の背中に手を回してぎゅうっと抱きついてくるかし子をどうしたらいいのか分からず、
両手を中途半端な位置で泳がせたままきょろきょろとしてしまう。
「ああ、僕が先に言おうとしたのに……」
とアモスさんは悔しげな顔。
パルは「しょうがないわねえ」と言いたげな苦笑。
「どうやら我が娘はよき仲間に巡り会ったようじゃのう。儂からも感謝させてくれ」
ゼニス王は慈愛に満ちた笑みでそう言った。
俺としてはなんとなく恥ずかしいけどかし子はなかなか離れようとしない。
感極まったようにぐすりと鼻をならしたあと、俺にだけ聞こえるように小さな声でそっと呟いた。
「大好きじゃ……」
339 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:01:59.92 ID:n/I7QRoo
瞬間的に頭がのぼせ上がってしまう。
思い出すのはダーマ神殿で言われたあの台詞。

『お主に求愛されたのならわしは断るすべを持たぬ』

忘れてくれ、なんてかし子は言っていたけど、
女の子からそんなことを言われたのはあれが初めてだった俺に忘れることなんてできるはずもなく。
今かし子がどんな意味で「大好き」と言ったのかは分からないけど、
どうしたって胸の中の温もりとか、小さいけどやっぱり男とは違う柔らかい感触とか、
そういうのを意識してしまう。
「さて、そろそろ本題に入るとするか。
 今日そなたらをここへ呼んだのは他でもない、ムドーを倒した功績を称えて褒美を贈ろうと思ってのう」
俺の困惑を知ってか知らずか、ゼニス王はまるで俺たちの様子にはお構いなしに話を進めようとする。
「ほら、いい加減に離れろよ」と俺が言うとかし子は「むう」と不満げな声を出したが、
やがて背中に回していた手をゆっくりと外して名残惜しそうに離れていった。
340 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:02:37.37 ID:n/I7QRoo
ようやくひと心地ついて、ふう、と大きく息を吐き出していると、パルがちらりとこちらを向いた。
何か言いたげな視線。でも何も言わない。
なんだってんだよ?
「やれやれ。そなたら、ちっとは儂の話を聞かぬか」
教師のような口調で言われて、慌てて俺たちは前に向き直る。
「誰か、例のものをここへ」
ゼニス王がよく通る声で言うと、部屋の入り口で控えていた兵士がさっと動いて、
部屋の外から何かを連れてきた。
341 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:03:20.23 ID:n/I7QRoo
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     ///|ヽ\     |  |!二二二 |  |    /.   | |   |
     ||_|__j \\, ー-,、|  |ニニニニニ|  |,,-‐‐//    | |   |
     ヽ'!_| ヽ  /    / |  `'''''''''''´  |ヽ    ヽ    .| |   |
     (--) ヽ_|_,,,、、 .|  .|      .|  |     |    | |  |
      \   !j,,-‐jj | _ |_ ,----、_.|__  |    |    | |  |
        ─'´`'-_|<__| | |. ○ .| |_>|_,,,‐´  ∠ ̄'''-、
              \  |`'''''''''´|   /\ヽム--‐(/三|  |
             </i`! | ` ̄ ̄ | |´ヽ>  ||__    >三 | |
            _,,,-- ! ヽニニニニニ/ ||`'''─,,,,,、''''''''' | | ノ |
          =ニ,,,,,,,,,,,,j \`ー-‐´ / !!,,,--‐‐ ''''  |ニニ,,丿
               ヽ,__ `|○|´ ,==、 /       | |
               / ノ  ` ´ !!  \       |/
             /,,,-´ `-┬─‐`'' - _
             ̄  / ̄ヽ\/`─_
              .||    \ `─'_/`ヽ
            ,-  ||_    \    ヽ/|
         < <=|_ ̄ ̄''''''フ,,,___ノ__ |
           ` - ||   ̄'''''''─',,,,,,,,,,!_!__ノ
              ||    /
               \  /
342 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:03:58.02 ID:n/I7QRoo
キラーマシン2?
でも色が違うような。
「この城を封印しておったデュランという魔王が手下として使っていたキラーマジンガを修理して、
 よき魂を封入してみた。
 勇者たちと戦ったときに比べると戦闘能力は多少損なわれておるが、十分に役立ってくれるはずじゃ」
なるほど、五人目の仲間ってわけか。
でもどうするんだ?
たしか一度の戦闘に四人以上が参加すると宇宙の法則が乱れるとか聞いたことがあるんだが……
「一人が控えに回るようにすればよい。
 そのほうが負担も減るであろう?」
とゼニス王。
たしかにその通りなのでありがたく借り受けることにする。
343 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:04:20.58 ID:n/I7QRoo
がしゃがしゃと音を立てながらこちらへ這ってきた(足がないのでこういう表現になる)そいつに声をかけてみる。
「えっと、名前は――」
「マジンガ!」
人語が理解できるのかどうかも定かでなかったところにいきなり言われて思わず固まってしまう。
「マジンガデース。ソレ以外ハ認メマセーン」
なんだこいつ。いきなり偉そうに。
「えっと、じゃあマジンガ――」
「ゼット!」
「……あの、マジンガ?」
「ゼェェット!」
「…………」
「ズゥェェェェェェ――」
「うるさい!」
ついに我慢できなくなったのか、横からパルがマジンガの頭を殴りつけた。
容赦のない一撃だったはずだがマジンガは一瞬ぐらついただけで吹っ飛んだりはしない。
むしろ殴ったパルのほうが「いたたた」とか言って手をぷらぷらさせている。
もしかしてこいつ、すげえ防御力?
344 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:04:44.26 ID:n/I7QRoo
「まあ見ての通り、なにやらおかしな性格になってしまっておるが性能のほうは問題ない。
 存分に役立ててくれい」
ゼニス王の言葉に「はあ……」と曖昧に返事をする。
もしかしてこれ、褒美とかじゃなくて失敗作を押しつけられただけなんじゃ?
ゼニス王のほうを見ると、側に控えていた人が何かを耳打ちしている。
言われてゼニス王は「おお」と何かを思い出したようにぽんと一つ手を打った。
「忘れるところじゃった。褒美はもう一つあるのじゃ」
ゼニス王の言葉と同時に配下の人がこっちへ来て何かを俺に手渡した。
見たところ本のようだが……?
345 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:05:04.09 ID:n/I7QRoo
「ドラゴンの悟りじゃ。それがあればドラゴンに転職できる」
よく分からないがそういうことらしい。
ドラゴンって職業なのか?
俺は種族の名称だと思ってたんだが……
パーティの人数制限といい、世の中には不思議がいっぱいだ。
346 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:05:25.52 ID:n/I7QRoo
二つのご褒美を手に俺たちはゼニスの城をあとにする。
ロニーの行方についてはゼニス王もつかんではいないらしく、
「これからもグランマーズの指示に従って動くように」とのことだ。
偉そうにしているわりには役に立たない王様だ。
まあ助っ人を用意してくれたのはありがたいんだけど。
347 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:05:49.80 ID:n/I7QRoo
その助っ人、マジンガのつよさ

マジンガ
キラーマジンガ
レベル:4


E きせきのつるぎ
E やいばのよろい

ちから:132
すばやさ:125
みのまもり:204
かしこさ:1
かっこよさ:83
さいだいHP:202
さいだいMP:0
こうげきりょく:239
しゅびりょく:259

とくぎ:はげしくきりつける ゆみやをはなつ ドラゴンぎり メタルぎり


なんだこの人知を凌駕した能力値は……
HPこそアモスさんと同等ではあるが、攻撃翌力も守備力もダントツでパーティ最強じゃないか。
こういうのを何て言うんだっけ。チート?
348 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:06:09.07 ID:n/I7QRoo
ダーマ神殿に向かう傍ら試しにちょっと戦ってみたら案の定めちゃめちゃ強かった。
今までの俺たちではなかなか出せなかった三桁のダメージをいとも簡単にたたき出すし、
その上二回行動までしやがる。

唯一の欠点は、戦闘の時にやたらと叫びまくることだ。
弓を放つときには「ロケットパーンチ!」とか。
メタル斬りを放つときには「アイアンカッター!」とか。
一体なんのことかは分からないがとにかくうるさい。
隣で戦っているこっちとしては気が散って仕方がないのだが、
何度言ってもやめようとしないので放っておくことにした。
何事も慣れである。そのうち気にならなくなるだろう。

349 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:06:35.59 ID:n/I7QRoo
ダーマ神殿で転職の儀式。
ついにパルがパラディンに、かし子が賢者にランクアップだ。
これでまだ上級職につけていないのは俺だけ……
なんでレンジャーだけ三つも基本職をマスターしないとなれないのだろう。

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ドラゴンの悟りはマジンガに使うことにした。
他の人が今ドラゴンになると中途半端になるからだったのだが……
数日後、俺たちはこの選択を大いに後悔することになる。
350 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:06:48.42 ID:n/I7QRoo
ルーラでマーズ婆さんのところに戻って話を聞くと、やはりロニーの行方はまだ分からないと言われた。
今後も占いを続けてみるから俺たちは俺たちで実際にいろんな地域を回って探してみてほしいとのことだ。
修行にもなることだし、俺たちに異存はない。

351 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:06:59.27 ID:n/I7QRoo
旅立ちは明日ということにして、マーズ婆さんのところに泊まることになったその夜のこと。
ベッドの上に寝転がってぼんやりとしているところにアモスさんが声をかけてきた。
「聞いて下さい道具屋くん!」
まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように目をきらきらさせて、アモスさんは弾んだ声を出す。
その隣に居るのは今日加わったばかりの新メンバー、マジンガだ。
「なんとこのマジンガくん、目で見たものを記録して紙に印刷することができるそうなんです!
 この機能、使えると思いませんか?」
なんだ?
まあ確かに便利な能力ではあると思うが……そんなに騒ぐほどのことか?
352 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:07:39.79 ID:n/I7QRoo
アモスさんはくるりと背中を向けて、うきうきとしながらある方向に目を向ける。
その視線をたどってみて――ああ、と納得する。

アモスさんが目を向けるその先にあるのは風呂場だ。
今はパルとかし子の女性陣二人が入っている。
「いいですか、マジンガくん。
 僕たちは今から遙か遠き理想郷へと向かうわけですが、黙ってその光景を記録するのではあまりにも卑劣というものです。
 ちゃんと『いやー僕、盗撮には目が無くて!』と大きな声で宣言してから記録するのですよ?」
「ゼェェット!」」
「よろしい。では、いざ出陣!」
ムドー戦のときよりもよっぽど気合いの入ったかけ声と共にアモスさんは風呂場へと向かっていく。

って、ちょっと待て。
止めなくていいのか?
今風呂場に居るのはパルとかし子なんだぞ?
最近はちょっと微妙な関係にある幼なじみのパルと、俺のことを「大好き」と言ってくれたかし子。
そんな二人の裸をおめおめとアモスさんの目に晒してしまっていいのか?
いや、でも二人とも俺の恋人ってわけじゃないし……
何と言って止めればいいんだ?

なんて迷っているうちに、風呂場から「イヤー僕、盗撮ニハ目ガ無クテ!」というマジンガの叫びが聞こえて――
ついで響いてきたのはパルとかし子ではなくて、アモスさんとマジンガの悲鳴だった。
心配するだけ無駄だったか……
徒労感が全身を覆う中、無意識にほっと安堵の吐息をもらす俺がいた。
353 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:08:18.23 ID:n/I7QRoo
夜が明けて出発の時。
上の世界はあらかた回ったので今度は下の世界だ。
ロニーを探すといってもあてが全くないわけで、やることは上の世界を回っていたこととあまり変わりがない。
方々の町を回って住人にロニーらしき男を見なかったかどうか訊いてみるという地道な作業だ。
まずはルーラで行けるところから。
モンストルはいいとして、レイドックにアモール、アークボルトにクリアベール。

サンマリーノでは懐かしい人たちと再会した。

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俺がリリさんと近況を語り合っている後ろで何やらアモスさんはびくびくしている。
なんだろう、と思っていたら、そこへバーテンの人がやって来てツケの返済を迫りはじめた。
そういえばそんなのもあったっけ……
今の俺たちなら4000ゴールドくらいなんとかならない額ではないが、
生憎と織田信長軍を呼んだときの後遺症で俺たちの所持金はゼロに限りなく近い。
どっちにしろ自業自得なアモスさんの借金の返済に
パーティの資金を充てるべきなのかどうかは議論の余地があるだろうが。
354 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:09:09.94 ID:n/I7QRoo
控え室に行ってみると、相変わらずの威容を誇る織田信長軍がそのまんまの姿で飾られていた。
こいつのおかげでムドーに勝てたんだと思うとなんともいえない感慨が胸にこみ上げてくる。
ありがとう、信長様。
でも有り金を全部持って行くのだけは勘弁してくれよ、頼むから。
355 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:09:47.03 ID:n/I7QRoo
俺たちはあまり下の世界を回っていないから、ルーラで行ける町は以上だ。
ここからは綿毛に乗って未踏の地へと向かうことになる。
まずはサンマリーノから山脈を挟んで南西にあるホルストックとホルコッタ。

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二つの町は洗礼の儀式とやらをうけたホルス王子が最近真面目になったという話題で持ちきりだった。
話を聞いてみるとどうもその洗礼の儀式には勇者一行が絡んでいるらしい。
それはいいのだが、みんながそればっかり言っているのでロニーのこともろくに訊けやしない。

ちなみにアモスさんはホルコッタで「いやー僕、田舎娘には目がなくて!」とか大きな声で言って速攻でふられていた。
356 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:13:25.28 ID:n/I7QRoo
というか、問題はそこではないのだ。
ホルストックからホルコッタへ向かうのにはわざわざ綿毛に乗ることもないだろうということで歩いて行ったのだが……
その際の戦闘で最悪な事実が判明した。
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ドラゴンになったマジンガは、新しい特技を覚えたのが嬉しいのか「火の息」しかしなくなってしまった。
全体攻撃ではあるが、一体につき8ほどのダメージしか与えられない。
せっかくの攻撃翌力が台無しだ。
マジンガは炎を吐くたびに「ブレストファイぶうううぅぅぅ!」とか叫んでいる。
本当は「ブレストファイヤー」と言いたいらしいが、口から炎を吐くのでちゃんと言えないのだ。

これでマジンガは実質役立たずなのだが、なまじっか二回行動をするものだから合計16ほどのダメージで、
ちょど他の仲間が攻撃して弱らせた敵のとどめを刺してしまったりする。
その度に「どうだ」というふうに威張って胸を張るのだ。
何度後ろからブーメランを投げつけてやろうと思ったことか。
357 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:13:44.12 ID:n/I7QRoo
ちなみに何故パーティに俺の名前がないのかというと……そこはお察し下さいってやつだ。
どんなにアホでも壁役としては優秀なマジンガ、
ハッスルダンスを覚えてスーパースターとしての本領を発揮し始めたアモスさん。
そしてパラディンのパルと賢者のかし子は攻撃に回復に補助にと大車輪の活躍だ。
未だに盗賊をやっている俺に出る幕はない。
現実とは非情なものだ。

ホルストックの近くには試練の洞窟というのがあるらしいが、
王家の者しか入れないらしいのでスルーして次の場所へ。
358 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:14:05.84 ID:n/I7QRoo
西へ行くとすぐにフォーン城があった。

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フォーン王は俺たちみたいな得体の知れない旅の者にも気軽に会ってくれるいい人だったが、
少し前まではある一枚の絵にしがみついてばっかりでちっとも政治をしなかったのだとか。
そんな王を立ち直らせたのも勇者一行だというのだからやはり凄い。

ここでもロニーに関する情報は手に入らなかった。
一度マーズの館に戻って新しい占いが出ていないことを確認してから、今度は北へと向かってみる。
勇者一行がムドーを倒すための船を得るために訪れたというゲントの村。

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かつて勇者の分身が住んでいたという山奥の村、ライフコッド。

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念のためにそこへと繋がる山道も探索してみたが、
戦闘回数と経験値が稼げただけで特に何も見つからなかった。
359 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:14:28.70 ID:n/I7QRoo
その後もジャンポルテの館のすぐ側にあるトルッカとか、
信じられないくらい山奥にあるザクソンとかいろいろ回ってみたのだが手がかりはちっとも見つからない。

それでも愚直に探し回ることしかできない俺たちは、今度は雪国の町、マウントスノーへとやってきた。

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音もなく降りしきる雪、雪化粧の施された街並みの景色。
雪を見るのは初めてだというかし子は最初のうちこそはしゃぎ回っていたが、
そのうち寒さに負けたようでパルと身を寄せ合って暖を取り始めた。
こういうのって女同士がやると微笑ましく見えるのに、なんで男同士だと気持ち悪いだけなんだろう。
なんか不公平だ。寒いのは俺だって一緒なのに。

ここでもロニーに関する情報を得ることは出来なかったのだが、
その代わりにやたらと「北東にあるほこらには近付くな」とばかり言う変なじいさんと出会った。
よく分からないが、そんなふうに言われると逆に言ってみたくなるのが人間の心理ってものだ。
さっそく行ってみることにする。
360 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:15:10.02 ID:n/I7QRoo
北東へ向かうとすぐにそれらしいものが見つかったので中へ。
つるつる滑る氷の床を越えた先に女の人が居た。
見たところ普通の人のようだが、こんなところに居るのだから人間ではないのだろう。
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なかなかの美人なのに何故かアモスさんは反応しない。
てっきり「いやー僕、雪女には目が無くて!」とか言い出すと思ったのに。

「旅の者ですか? まさかゴランという者に聞いてここへ来たのではないでしょうね?」
女の人はまるで義理みたいな口調でそんなことを言う。
疑っているのは口先だけで本心では俺たちが勝手に来ただけなのだと確信している感じ。
そのゴランというのがあの爺さんだとすると聞いて来たようなものだが……

一応「違う」と答えると、女の人は満足そうに頷いた。
「では立ち去りなさい。ここにはあなた方の欲しがるようなものはありません」
元々何か用があって来たわけではないところにそんなことを言われては大人しく引き下がるしかない。
361 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:16:20.03 ID:n/I7QRoo
すごすごと引き返そうとしたところで背中に「待って下さい」と声をかけられた。
「あなた方は旅の者なのですね? 少し私の話を聞いては下さいませんか? 時間はとらせません」
振り返ってみると、先ほどとは打って変わってすがるような目つきで女の人はこちらを見ていた。
俺たちは少し顔を見合わせてから頷きで返す。
ロニーが一所に留まっているとは限らない以上、急いだって仕方がない。
どんな用件かは知らないが、話を聞いてみるだけ聞いてみてもバチはあたらないだろう。
「感謝します。実は――」
ユリナと名乗ったその人はゆっくりと語り始める。
362 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:16:36.62 ID:n/I7QRoo
なんでも勇者一行がここを訪れるまでマウントスノーの住人は50年もの間に渡ってずっと凍り付いていたのだが、
それはこのユリナという人の仕業だったらしい。
50年前にユリナさんは雪山で倒れていたゴランという若者を助けたのだが、
ユリナさんのことを他人に言ってはいけないと何度も口止めしていたにも関わらず、
マウントスノーに帰ったゴランという若者は他人にユリナさんのことを語ってしまったそうだ。
それでゴランへの罰としてマウントスノーの時間を凍り付かせ、
ゴランに長い年月を一人で生きることを強いたのだが――

「今思うと私も未熟でした。彼はそれほどの罪を犯したのでしょうか?
 私の存在を誰かに語ることがそんなにも罪深いことなのでしょうか?」
そう語るユリナさんの口調には後悔がありありとにじんでいる。
「旅の者よ。時間があればで構いません。
 もしあなた方がどこかで『時の砂』を見つけたなら私のところへ持ってきては下さいませんか。
 それがあればいたずらに流れた時間を元へと戻し、ゴランは再び若者に戻ることができるのです」
363 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:16:58.53 ID:n/I7QRoo
マウントスノーへ戻って宿をとった俺たちは今後のことについて話し合った。

ユリナさんの望みを叶えてあげたい、と声高に主張するのはパルだ。
ロニーを放置しておくわけにはいかないと分かってはいても、
どうしてもユリナさんを見捨てることができないらしい。
「きっとユリナさんはゴランって人のことが好きなのよ。
 はっきりとは言わなかったけど、話をしているときの表情でなんとなく分かったわ」
うむ、とかし子も頷く。
「あのユリナは恐らくわしと同じくらいの年月を生きておる。
 そのような者が得体の知れぬ旅人に頼み事をするなど、よほどの事情がない限りはありえぬじゃろう。
 それだけゴランという男を想っているということであろうな」
女性陣の意見は「ユリナさんを助けるために時の砂を探す」ということで一致しているようだ。
俺としても別に反対ではない。

アモスさんに聞いても同じような答えが返ってきたので、
明日は一度マーズの館へ戻って時の砂がどこで手に入るのか占ってもらうことにした。
364 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:17:16.43 ID:n/I7QRoo
翌日、婆さんに占ってもらったところ、
時の砂は小さなメダルを集めた褒美としてメダル王の手から勇者へとすでに渡されたあとらしい。
しかも勇者たちはもうそれを使ってしまっているのだとか。
それではどうやったってもう手に入らない。

肩を落とす俺たちを慰めるように婆さんはこんなことを言った。
「時の砂はその昔カルベローナで作られたもの。
 今でも作れる者がおるかどうかは分からぬが、行ってみる価値はあるだろうね」
なるほど。
そういうことならば、と俺たちはダーマ跡の井戸から上の世界へと移動してルーラでカルベローナへと飛んだ。
365 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:17:35.06 ID:n/I7QRoo
物作りに関してならばかし子の羽衣をパワーアップさせてくれたカルベ夫妻に訊くのがいいだろう。
町外れに住んでいる夫妻のところへ行って話を聞いてみると、
今度は「砂の器」というものが必要だと言われた。
なんでもカルベローナの長老の部屋へと繋がる通路に施されている結界には時の砂が使われているのだが、
砂の器があればそれを影響のない範囲でくみ取って持って行くことができるのだとか。
でも肝心の砂の器はというと勇者たちが持って行ってしまったらしい。
借り受けるには当然勇者たちに会う必要があるわけだが……会って大丈夫なのだろうか?

再びマーズの館へと戻って婆さんに訊いてみると、会って話をする程度ならば運命は乱れないらしい。
今勇者たちは天馬の塔を攻略中らしい。
それが終わるとすぐに魔王が住むという狭間の世界へと行ってしまうかもしれないとのことなので、
急いであとを追うことにする。
366 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:18:05.38 ID:n/I7QRoo
本来は最後の鍵がないと天馬の塔には入れないらしいが、
幸い勇者たちは入り口を開けっ放しにしていた。
寄り道をしてると追いつけないだろうから、出来るだけ真っ直ぐ上を目指すことにする。

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天馬が封印されている塔というだけあって出てくるモンスターもなかなかの強敵だ。
暗黒魔導のベギラゴンやレジェンドホーンのかまいたちに晒されながらも、
上級職ぞろいのパルたちは勇敢に戦って先へと進んでいく。

相変わらずマジンガは息攻撃ばっかりでせっかくの攻撃翌力を活かしてくれないが、
冷たい息と火炎の息を覚えたのでそれなりに役立つようになった。
ちなみに冷たい息を吐くときの台詞は「光子力ぶううぅぅぅム!」だ。

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途中で俺が盗賊をマスターしたのだけど、引き返すわけにもいかず。
結局俺は天馬の塔では一度も出番がなかった……
367 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:18:24.47 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126296.jpg

頂上付近まで来てようやく勇者一行に追いついた。
当然ながらこんなところで人に会うとは思っていなかったようで勇者たちは驚いた顔をしていたが、
事情を話すと快く砂の器を貸してくれた。
さすがは勇者。つるはしを渡す渡さないで散々ごねたロニーとは違う。

礼を言おうと思ったら、何故か逆に勇者から「ありがとう」と言われた。
俺たちが旅の手助けをしているのだということは話さなかったのに。
「グランマーズから勇者一行がここに居ると聞いてやってきた」とだけ言ってある。
秘密にしておけと言われたわけではないが、なんとなく話さない方がいいような気がしたから。
なのに何故お礼を言われたのかさっぱり分からなかったが、
とりあえず「いや、こちらこそ」と言っておいた。
368 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:18:48.52 ID:n/I7QRoo
実は気になることはもう一つある。
馬車の中から金髪のきれいな女の人がじっと俺の顔を見つめていたのだ。
何だったんだろう?
あんな美人に見つめられるなんて悪い気はしないが、
俺の顔はそんな見栄えのするものではないってことは今までの人生で嫌というほど分かっている。
かといって「何か用ですか」とか訊くのも自意識過剰な気がして結局何も言わずに勇者一行とは別れてしまったのだが、
あとになってから少し気になった。
369 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:19:04.14 ID:n/I7QRoo
※ちょこっと裏話※
370 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:19:17.28 ID:n/I7QRoo
去っていく道具屋たちの背中に、勇者イザはじいっと視線を投げかける。
ありがとう。
何故自分がそんなことを言ったのか、イザ自身よく分かっていない。
ただ、自分と同じ年頃のあの少年を見ていると、なんともなしにそう言わなければいけないような心持ちになって、
気がついたときには口からこぼれ出していたのだ。
もしかするとそれは勇者としての超常的な直感というものだったのかもしれない。
伝説の武具を四つ集めてからというもの、とみに己のそういう力が強まっているのを感じる。
イザとしてみてはそんなよく分からない力よりももっと仲間を助けるために役立つ力が欲しいのだが。
やれやれ、と頭をかきながら仲間想いの勇者は馬車へと戻る。
ここへ来るまでにライデインやギガデインを使いすぎてしまったせいでMPが尽きてしまって、
今は馬車で休憩中なのだ。
371 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:19:31.50 ID:n/I7QRoo
「何の用事だったの?」
同じく馬車で休んでいるミレーユの声が出迎える。
ことのあらましを説明しつつミレーユの顔を見ていると、
パーティの中でもハッサンの次に付き合いの古いこの美しき魔導士の顔に
そこはかとない思慮が浮かんでいることにふと気がついた。
なにかあったのか、と尋ねるとミレーユは少しびっくりしたような顔をしたあと、
「あなたに隠し事は出来ないわね」と苦笑する。
ミレーユはこう語った。
悪夢のようなロンガデセオでの日々、そこから自分を助け出してくれた恩人の面影を先ほどの少年に感じたのだと。
イザは思う。

彼は一体何者だったのだろう?
一見しただけではどこにでもいる少年としか思えなかったのだが――
「いやまあ、それを言うなら僕も一緒か」
馬車の幌に背中をあずけつつそうこぼすイザの胸中には、
あの少年とはまた会うことになるだろうという確信じみた予感があった。

372 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:19:43.24 ID:n/I7QRoo
※裏話おしまい※
373 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:20:00.59 ID:n/I7QRoo
砂の器を手に入れた俺たちが向かう先はカルベローナだ。
ダーマ神殿から上の世界へ行くついでに転職を済ませておく。

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俺もついに上級職のレンジャーへと。
夢にまで見た瞬間だったのに、思ったほど能力が変わらなくてがっくりきた。
能力補正は盗賊とあまり変わらないらしい……
374 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:20:17.32 ID:n/I7QRoo
再びカルベローナのカルベ夫妻のもとを訪れて時の砂を集めてもらう。

ついでにかし子がまた羽衣を結い直してもらいたいと言い出したのでカルベローナで一泊することにする。
ゼニスの城で貰った世界樹のしずくを羽衣に染みこませて新たな力を宿させるのが目的なのだとか。

翌朝になって完成したかし子の羽衣は防御力が67になっただけでなく、
着ているだけで自然に傷が回復する能力までついたらしい。
かし子はHPが少ないので自然治癒はありがたい限りだ。
俺としてはどんどん戦力差が離れていくようで気分は複雑だが……
地響きと火柱を覚えられれば俺だって立派な戦力になれるはず。
精進しよう。
375 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:20:35.31 ID:n/I7QRoo
何はともあれ、無事に時の砂を手に入れた俺たちは一路マウントスノーへ。

時の砂を見せるとユリカさんは見た目相応の年若い女の子みたいな顔でおおはしゃぎしてくれた。
「これでゴランの時間を取り戻すことができます。
 なんとお礼を言ったらいいか……」
まだ何もしていないのにもう感極まって目を潤ませている。
よっぽどこの瞬間を待ち望んでいたのだろう。
「でもどうしましょう。私が人間の集落に赴くわけにはいきませんし……
 あの……重ね重ね大変申し訳ないのですが……」
皆まで言うな、とはこのことだろう。
要するにゴランという人をここまで連れてきて欲しいとユリカさんは言いたいわけだ。
ここまできてその程度の手間を惜しむわけがない。
聞けばやはりあの「北東のほこらへは行くな」と言っていた爺さんが件のゴランらしいので早速呼びに行く。

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ことの経緯を話すとゴラン爺さんはなにか複雑そうな顔をした。
せっかく若返りができるというのに嬉しくないのだろうか?
376 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:20:49.70 ID:n/I7QRoo
同行することには合意してくれたゴラン爺さんをほこらへとつれていく。
爺さんの姿を目にした瞬間、ユリカさんがぱあっと顔をほころばせるのが分かった。
見た目だけだと父親と娘、いや祖父と孫娘くらいに年が離れているこの二人が
男女の情を通わせているというのだから不思議な話だ。
「久しいのう、ユリカよ。話は聞かせてもらったぞ」
ゴラン爺さんはゆっくりと口を開く。
「せっかくじゃがのう、儂はその話を断らせてもらうよ。
 今さら体だけ若返ったところで何が変わるわけでもあるまいて」
「え……」とユリカさんの表情が凍り付いた。
377 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:21:05.22 ID:n/I7QRoo
「な、何故です?! あなたは私のわがままのせいで50年もの月日を無駄にしたのですよ?
 それを取り戻したいとは思わないのですか?!」
ユリカさんは声をあらげて爺さんに詰め寄る。
爺さんは長年の苦悩が見て取れるシワだらけの顔に悲しげな表情を浮かべて、ふう、と大きく息をはいた。

「この50年は儂にとって一体どんな意味があったのか……
 最近はそればかり考えておるが、一向に分からぬ。
 恐らく死ぬまで答えは出ぬじゃろう。
 じゃがのう、ユリカよ。それでもこれが儂の人生なのじゃ。
 お願いじゃからそれを奪わんでくれ。儂はこの50年をなかったことになどしとうない」

「でも……」と一度言葉を詰まらせてから、ユリカさんは思い切って口にする。
「このままでは、あなたは近いうちにいずれ――」
爺さんは深々と頷く。
「それが人じゃ。世の理をねじ曲げてまで生きたいとは思わぬ」
378 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:21:19.11 ID:n/I7QRoo
きっぱりと言い切ったじいさんの言葉をうけて、がくりとユリカさんの全身から力が抜けた。

しばしの沈黙。
椅子に腰掛けて項垂れたまま、やがてユリカさんは消え入りそうな声でこう言った。
「ゴラン、私のことを恨んでいますか?」
「……ずるい質問じゃのう。是と答えても否と答えてもお前さんを傷つけることになりそうじゃ」
それだけ言って、爺さんはゆっくりときびすを返す。

「儂らはもう会わない方がよかろう。それがお互いのためじゃ」
背中を向けたまま爺さんは言葉を続ける。
「ユリカよ。あの日、儂を助けたことを後悔しておるか?」
ユリカさんはぶんぶんと首を横に振る。
瞳から溢れた玉のような涙のしずくが飛び散ってきらきらと宙を舞った。
「後悔などしていません。するはずがないではないですか……っ!」
爺さんは最後に一度だけ振り返って、ふっと優しく微笑んだ。
「ならば、よい。それでよいではないか、ユリカ……」

そう言い残して去っていく爺さんのあとについて俺たちもほこらをあとにする。
あとに残されたのは氷に包まれたほこらの冷え切った空気と、ユリカさんのすすり泣く声だけだった。
379 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:21:32.56 ID:n/I7QRoo
マウントスノーに戻って宿屋で食事をとっているとき、ふとかし子がこんなことを言った。
「そういえばアモス、今回のお主はえらく大人しかったのう。
 てっきり『雪女には目がなくて!』などと言い出すものだとばかり思っておったが」

そう、そういえば俺も気になっていたのだ。
あんな美人を前にしてアモスさんが何の反応も示さないなんてあり得ないはずなのだが。

アモスさんは食事に口をつけながら、なんでもないことのようにこう言った。
「僕は誰か特定の男性に想いを寄せている女性を口説いたりはしませんよ。
 愛し合う二人はいつも一緒。それが一番なのです」
「愛シ合ウ二人……」
「そうです。
 あの二人のように愛し合っていても一緒には居られないという男女がこの世にはたくさん居ます。
 だからこそ、幸せな二人を引き裂くような真似は絶対にしてはいけないのですよ。
 分かりますか? マジンガくん」
「ゼェェット!」
380 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:21:45.33 ID:n/I7QRoo
アモスさんと一緒に旅をするようになって結構な時間が経ったが、この人がかっこよく見えたのはこれが初めてだった。
が、そんなのはやっぱり一時の気の迷いなわけで。
次の瞬間にはアモスさんはかし子に向かっておもむろに両手を広げて
「ですからかし子さん。いつでもこの胸に飛び込んできて下さって構わないのですよ」
とか言い出した。
この人は一分とて真面目な態度を保つことができないのだろうか。
まあ真剣な顔ばかりしているアモスさんというのもそれはそれで気持ち悪いけど。
381 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:21:58.73 ID:n/I7QRoo
マウントスノーでの一件を終えた俺たちは一度マーズの館へ戻ることにした。
そろそろロニーの行方について婆さんが何か掴んでいるかもしれない。
382 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:22:30.99 ID:n/I7QRoo
結果から言うとビンゴだった。

婆さんは神妙な面持ちでもって俺たちを出迎えて、「見よ」と言って水晶を指さす。
言われた通りに覗き込んでみると、そこには――

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126302.jpg

なんだこれ。炎?

なんて呑気に構えていた俺の心を、続く婆さんの言葉がぴしりと凍り付かせる。
「これはお主たちの故郷、モンストルの光景なのじゃ」
背後でパルが息をのむのが分かった。

383 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:22:47.28 ID:n/I7QRoo
ともかく、ぐずぐずしている場合ではない。
話もそこそこに俺たちはルーラでモンストルへ向かった。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126304.jpg

思い出にろくなものがなくたってやっぱり懐かしく感じてしまう故郷の景色。
久々に帰ってきたというのにみんなはアモスさんにばっかり反応して俺はまるで空気みたいな扱いだ。
やっぱり何も変わっていないということか。
384 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:23:04.95 ID:n/I7QRoo
前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2009/04/28(火) 01:05:45.71 ID:Q1LrMsge0
ロニーのことを訊いてみると、ついさっき帰ってきて町長宅へと向かったらしい。
なんとなく不穏なものを感じて、俺たちも町長宅へと急ぐ。
玄関のドアを開けようとしたところで、中から張り裂けるような悲鳴が聞こえた。
遅かったか?!
慌ててドアを開け放って中へ踏み込んでみると――

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994866.jpg

「うっ」とパルが低くうめいて鼻と口を手で覆った。
鉄さびのような濃い臭いが鼻をつく。
385 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:23:17.57 ID:n/I7QRoo
町長がうつぶせになって床に倒れていて、ぴくりとも動かない。
倒れ伏した体の下には赤黒い大きな血だまりが広がっている。
その横では町長夫人が腰を抜かして、顔面を蒼白にしてがたがたと震えながら尻餅をついている。

それらを見下すようにして悠然と立ち尽くしていたロニーが、ゆっくりとこちらに振り返った。
「よう。遅かったな」
いつもと変わりない、ごく軽い口調。
まるで待ち合わせに遅れた友人を出迎えるみたいな表情でロニーは俺たちを見る。
386 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:23:30.77 ID:n/I7QRoo
「かし子さん、町長に回復魔法を――」
「無駄だ。もう死んでる」
アモスさんの言葉をさえぎってロニーはぴしゃりを言い放つ。
「さて」と言って、ロニーが手にした剣を今度は町長夫人へと向けたところでようやく体が動いてくれた。
俺の放った炎のブーメランが真っ赤な血を滴らせる隼の剣にぶつかって、がちん、と音を立てる。

ちょっと驚いたようなロニーの顔がこちらを向いた。
「おいおい。付き合いの長いダチに向かってひでえな」
誰がダチだ。人を殺しておいてよく言う。
余裕をかまして突っ立っているロニーにパルが目にも留まらぬ身のこなしで躍り掛かる。
ロニーも応戦しようとするが、切っ先が壁にひっかかってうまく剣を振るえないようだ。
「ちっ」と一つ忌々しげに舌打ちしてからロニーは窓を突き破って外へと飛び出た。
387 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:23:46.48 ID:n/I7QRoo
「町長はわしが看る。お主らはあやつの後を追え!」
かし子が叫ぶ。
残りの四人はロニーを追って外へ。
事情を知らない住人たちは困惑した表情を浮かべている。
「みんな、家の中に入ってて!」
パルが大きな声を出すが、住人たちは戸惑うばかりで動こうとしない。

ロニーはと言えば、何を思ったか俺の家の前で待ち構えていた。
そこへ駆け寄って俺は再びブーメランを構える。
「ロニー、今度こそ教えろ。一体なんのためにこんなことをする?
 なんで町長を殺した!」
俺が猛ってみてもロニーは余裕の表情を崩さない。
「はん」と小馬鹿にするように鼻で笑ってからロニーは語る。
「俺さあ、ずっと思ってたのよ。なんで自分はつまんねー普通の人間なんだろうって。
 なんで何か特殊な血筋の末裔じゃない? なんで俺の右腕には何かが宿っていて時々暴走したりしないんだ?」

目の前のこいつが何を言っているのか、俺にはさっぱり分からない。
普通に見えていたのは傍目だけで実はこいつってこんなにイカれたやつだったのか?
388 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:24:11.75 ID:n/I7QRoo
「そんな事より道具屋よ、ちょいと聞いてくれよ。今の話とあんま関係ないけどさ。
 今日さ、モンストルに帰ってきたんです。モンストル。
 そしたらなんか人がめちゃくちゃ集まってきてなにか言ってくるんです。
 で、よく聞いたらなんか町長が心配してるから、早く帰ってやれ、とか言ってるんです。
 もうね、アホかと。馬鹿かと。
 お前らな、この俺に向かってそんなこと言ってんじゃねーよ、ボケが。
 俺だよ、俺。
 なんか俺の両親まで同じこと言ってるし。家を継いで俺も町長になれってか。おめでてーな。
 お袋なんてな、よーし今日は久しぶりにロニーの好物を作ってあげる、とか言ってるの。もう見てらんない。
 お前らな、殺してやるから二度とその名前を呼ぶなと。
 俺の人生ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
 旅先で出会った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、
 刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。女子供は、すっこんでろ。
 で、やっと家に帰ってみたと思ったら、町長の奴が、これからはずっと家にいろ、とか言ってるんです。
 そこでまたぶち切れですよ。
 あのな、家業を継ぐなんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
 得意げな顔して何が、そろそろお前も身を固めろ、だ。
 お前は本当にそれが俺の役目だと思っているのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
 お前、町長を継いでくれるんだったら誰でもいいのとちゃうんかと。
 俺から言わせてもらえば、つまんねーこと言ってる奴らはみんな死ぬべき、これだね。
 人生の汚点は皆殺し。これが俺の生き方。
 生きていくのに必要なものは揃ってる。あとはなんもいらない。これ。
 で、目障りなもんはみんな消す。これ最強。
 しかしこれをやると魔王にマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。
 素人にはお薦め出来ない。
 まあお前、道具屋は、せこせこと俺の後でも追ってるのがお似合いってこった」
389 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:24:28.19 ID:n/I7QRoo
長い長い口上を垂れ流したあと、ロニーは何の前触れもなくメラゾーマを唱えた。
こちらにではなくて、俺の家に向けて。
反応するひまもない。
あっ、と思った時にはもう俺の家は炎に包まれている。
390 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:24:45.87 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994871.jpg

どうしてなんだ?
炎に包まれている我が家を前にまず俺が思ったのはそんなこと。
何故ロニーがこんなことをするのか、ということではなくて、
単純に何故俺の家が燃えているのかが理解できない。

ろくに家に寄りつかなかったクソ親父。
病弱な体で、それでもいつも優しく微笑んでいた母さん。
両親がいなくなったあと、甲斐甲斐しく俺の面倒をみてくれたパル。
そういう思い出の詰まったこの家が焼け落ちていくのを見ていると、
まるでそれと一緒に自身の一部が消え失せていくような感覚に襲われて、
気がつくと俺はがくりと地面に膝をついていた。
391 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:25:14.09 ID:n/I7QRoo
「これが俺とお前の差ですよ」
嘲笑するようなロニーの声もどこか遠い。
「俺は自分の祖父をこの手で殺した。
 お前は家を燃やされただけでそうやってへこむ。どっちが強いかは明らかだろ?」

がらり、と音を立てて、燃え落ちていく家の中から何かが進み出てくる。
瞳を凶暴にぎらつかせる、見たこともないようなモンスター。
「大魔王デスタムーアからお前たちへ贈り物だってさ。
 お前らには大魔王も感謝してるみたいだぜ」
「大魔王が感謝……? あんたは何を言ってんの?」
訝しげなパルの言葉をうけて、ロニーは目を丸くして驚いて見せたあと、
やがてせきを切ったように大きな笑い声を上げ始めた。
「おいおいwwwww まさかお前ら何も気付いてないのかよwwwww」
まるでとてつもなく面白い冗談がツボに入ったみたいに、ロニーは腹を抱えて笑い転げる。
392 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:25:39.72 ID:n/I7QRoo
「言われなくても分かるだろ常識的に考えてwwwww
 はじめに運命を乱したのは……って、あーそうか。お前らもしかしてそれも知らねえのか」
なにか納得したように一つ頷いてから、ようやくロニーは少し落ち着いてこちらを見る。
「じゃあ一つヒント。そこに居るアモスって男はさあ、本来お前らじゃなくて勇者一行と旅をするはずだったらしいぞ。
 その運命を最初に乱したのは……さあて、いったい誰だったでしょうか?」
まるでクイズを出題するみたいなおどけた口調。
ロニーの言ったことが徐々に俺の頭の中にも浸透してくる。

アモスさんが本来勇者たちと旅をするはずだった?
ならばその運命を最初に乱したのは――

「で、でたらめよ! 何を証拠にそんなこと言うわけ?!」
「あー、まあそう思いたい気持ちは分かるけどさ。
 残念ながら事実なんだわこれが。
 そもそも勇者の手助けをする役目にお前らが選ばれたのって、運命を乱したのがお前らだったからだろ。
 嘘だと思うならグランマーズあたりにでも訊いてみたらいいんじゃね?
 ま、ここから生きて帰れればの話だけど」

言って、ロニーは二匹の魔物の後ろに下がる。
393 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:25:54.37 ID:n/I7QRoo
「こういうのを『皮肉』っつーんだろうな。
 良心でやったことが結果的に勇者の運命を乱すことになってんだからさあ」

決して直接手を下すことはせず、モンスターの後ろに隠れたまま言葉だけでこちらを追い詰める。
いかにもこいつらしい、いけすかないやり口だ。

「余計なことするからそんなことになんだよ。
 田舎町の道具屋なら道具屋らしく、町娘なら町娘らしく、大人しく勇者の来訪を待ってればよかったんだ」
そんなわけがない。そう否定したかった。
でもそう言えるだけの材料が俺たちにはない。
ロニーの言葉を無条件に信じるわけではもちろんないが、きっぱりと否定できる根拠だってどこにもないのだ。
「そんな……」
ぱちぱちと火の粉が舞い上がる音に混じって、呆然と呟くパルの声が聞こえた。

もし今ロニーが言ったことが本当だったとして、こいつ一人にそんな業を背負わせるわけにはいかない。
思い出を焼かれてしまったとしても、こんなところでうずくまっている場合じゃないんだ。
394 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:26:22.71 ID:n/I7QRoo
ひゃはははは! と品のない笑い声を上げつつ、ロニーの姿は闇に消えていく。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126307.jpg

立ち上がってそれを追おうとする俺の前に二匹のモンスターが立ちふさがった。
そこらの敵とは気配からして違う。強敵なのは明らかだ。

「……くそっ」
誰に言うでもなく吐き捨てて、俺はブーメランを構える。
こんなところで立ち止まっている場合じゃないのに。
今すぐあいつをぶん殴ってやらないといけないのに……!

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994876.jpg

ボーンファイターとブルサベージ。
攻撃翌力ではムドー以上だった。
傷だらけになりながらもなんとか勝利を収める。

戦闘が終わった頃にはもうロニーの姿なんてどこにもなく、
あとにはすっかり焼け落ちて瓦礫と化した、かつて俺の家だったものだけが残された。
395 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:26:56.14 ID:n/I7QRoo
しばらく時間が経って、日が暮れ始めた頃。
かし子がヒャド系の魔法でその炎を消し止めているのを呆然と眺めていたときのことだ。
「お兄ちゃんお姉ちゃん、ありがとう!」
ふいに聞こえてきた元気な声と共に、すうっと白い何かが俺の前に差し出された。
396 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:27:22.59 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126308.jpg
かし子の放つ氷魔法の光を反射してぼんやりと浮かび上がる白い花。
はじめ、何故それが俺に差し出されるのか理解できなかった。

「このお花、お兄ちゃんたちが助けてくれたから元気に咲いたんだよ。
 摘んじゃうのはかわいそうだったけど……
 きっとお花もお兄ちゃんと一緒にいたいと思ってるだろうから、連れて行ってあげて」

そう言われてやっと思い当たる。
この子はあの時――俺たちが旅に出るきっかけとなったアモスさんとの一件で助けた女の子だ。
するとこの花が全ての始まりだったわけか。
397 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:27:41.49 ID:n/I7QRoo
あの時俺たちはこの花を守るために暴走したアモスさんと戦って、結果的にそれが運命を乱すことになった。
それが本当だとしても、間違いだったなんて思いたくない。
パルにも思って欲しくない。
俺たちが守ったのはこのちっぽけな花と、この女の子の笑顔。
たとえそのせいで運命が乱れたのだとしても――
それが間違いだったなんて誰にも言わせない。
398 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:27:55.71 ID:n/I7QRoo
女の子は母親に腕を引かれて家へと帰って行った。
笑顔を向けてくれるのはあの女の子くらいなもので、周囲から俺たちに浴びせられる視線は冷ややかだ。
無理もない。
直接害をなしたわけではないとはいえ、
住人たちからすれば俺たちはいきなりトラブルを持ち込んできた厄介者にしか見えないだろう。
元々は住人の一人だったパル、そしてかつては英雄だったアモスさんですらそれは例外ではない。

ロニーに刺された町長はというと、かし子が看た時点ではすでに事切れていたらしく結局助からなかった。
勘違いしている人が多いがザオリクというのは人を生き返らせる魔法ではなく、
致命傷を負って意識を失った人間の身体を癒しつつ離れかけた魂を再び定着させる魔法だ。
完全に息絶えている相手に使ったところで何の効果もない。

399 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:28:07.94 ID:n/I7QRoo
町長の葬儀くらいには出るべきかと思ったが、どうも俺たちがここに居ると空気が悪くなるばっかりのようだ。
早々にマーズの館へ引き上げることにする。
ちなみに俺の家には母さんの遺品とかいろいろあったのだが、何一つ回収はできなかった。

その夜更け。
みんなが寝静まった頃を見計らって俺はパルの部屋のドアをノックした。
モンストルの一件以来パルはあれからずっと元気がない。
きっと「自分のせいで……」と自責の念にかられているのだろう。

ロニーに言われたからというわけではないが、帰ってきてから一応婆さんに訊いてみたところ、
はっきりと肯定はされなかったものの、否定もされなかった。
どうやらあいつが言ったのは本当のことらしい。
400 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:28:21.42 ID:n/I7QRoo
時間が時間だし、ドアをノックして返事がないならそれでいいと思った。
ちゃんと眠れているなら俺が変におせっかいを焼く必要もない。
だけどノックしてしばらく待っていると、やがて中から「誰?」と弱々しい声が聞こえてくる。
「俺だ。入っていいか?」
少し迷うような間があいてから、「うん」と短い返事がかえってきた。
出来るだけ静かにドアを開けてパルの部屋へと入る。
部屋の主はベッドの上で膝を抱えたまま、薄明かりにぼんやりと浮かび上がる青白い顔をこちらに向けている。
トレードマークのポニーテールは解かれていて、緩やかなカーブを描いた金色の髪は肩の下あたりまで落ちている。
いつもとは違う、か弱い少女みたいなその姿。
何と言葉をかけていいのか分からなくて、無言のまま俺はベッドへと近付いていく。
401 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:28:33.88 ID:n/I7QRoo
そんな俺を警戒するでもなく、パルはただじっとこちらを見つめている。
手が届くくらいの距離まで来たところで、先にパルが口を開いた。
「ごめんね」
ちっともこいつらしくない、消え入りそうな声でパルは続ける。

「全部あたしのせいだった。
 あんたがモンストルを出なきゃいけなくなったのも、こうして危険な旅をしなきゃいけないのも……
 全部あたしが余計なことをしたからなんだよね」
まるで自身を責めるようにして、パルはさらに言い募る。
「怒らないの? てっきりお前のせいで俺は……って怒りに来たのかと思った。
 そうする権利があんたにはあると思う」

ちっともこいつらしくない自虐的な言葉。
いたたまれなくなって、ほとんど衝動的に口を開く。
402 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:28:51.39 ID:n/I7QRoo
「あのさあ」

ベッドの上に居るパルには背中を向ける格好で、
天井と壁のつなぎ目あたりをぼんやりと眺めながら独り言のように語る。

「俺がモンストルを出ることになったとき、なんでお前はついてきてくれたんだ?
 実を言うと俺、最初のうちはアモスさんのためなんだって思ってた。
 お前はアモスさんのことが好きなんだって。
 でも、お前のアモスさんに対する態度からして、それは違ったのかなって最近は思い始めてる」

意図してやったわけじゃないけど、パルに背中を向けていたことが幸いした。
嘘偽りのない気持ちをすらすらと口にすることができる。

「うん……まあ、そういう気持ちがまったく無かったわけじゃないけどね。
 町の英雄に対するありがちな憧れみたいなものがあたしにもあったってのは否定しない。
 でも、あたしが旅に出た本当の理由は違うよ。もっと別のこと。
 それは……もうあんたも分かってるでしょ?」

俺のうぬぼれじゃなければ、パルは言外に「あんたのためよ」と言っているのだろう。
自分の考えが見当違いじゃなかったことに内心で安堵しつつ、俺は答える。
403 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:29:02.59 ID:n/I7QRoo
「分かってる。俺も同じ気持ちだから」
「同じって?」
「なんつーか……お前は悪くない、とは言わない。
 そんなこと言ったって単なる気休めにしかならないのは分かってるから。
 でも――」
思わず鼻の頭をぽりぽりとかく。
いくら背中越しとはいってもこの先を言うのはさすがに少し恥ずかしい。
「俺はずっとお前の味方だ。何があろうともそれだけは変わらない」

母さんが居なくなったとき。サンマリーノで道に迷っていたとき。
パルは何度も何度も俺を助けてくれたから。
今度は俺がパルを助ける番だ。
404 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:29:13.34 ID:n/I7QRoo
少し間が空く。
背後でパルが身じろぎするような気配を感じた一瞬ののち、俺の背中に柔らかな感触がぶつかってきた。
「え……ちょ、いきなりなにを――」
パルが背中に抱きついてきたのだと分かって思わずかっと全身が熱くなったけど、
背中に密着したその細い肩が震えていることに気がついて。
俺の胸に回されたパルの腕にそっと手をそえる。

「ごめん。ごめんね……」
背中に顔を押しつけてすすり泣きながらパルは何度も何度もそう繰り返した。
暗い部屋の中で重なり合ったまま、二つの影は動かない。

今俺が振り返ってキスしようとしてもパルは拒まないかもしれない。
でもそんな弱みにつけ込むみたいな真似はしたくないから。
そんなことで長年積み重ねてきたこの関係を壊してしまいたくないから。
俺は何も言わず、ただ黙って中空を見つめ続ける。
「お願い、ずっと一緒にいて……」
パルのくぐもった涙声が、じかに俺の胸をふるわせた。
405 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:29:34.69 ID:n/I7QRoo
翌日、婆さんに新しい占いの結果を聞かされた。
なんと次は狭間の世界へ行かなければいけないらしい。
水晶には狭間の世界にある「欲望の町」にあるカジノで荒稼ぎをしているロニーの姿が映し出されている。

なんでも元々は連れ去られるという形で狭間の世界へ行ったのだが、
そこで魔王に取り入って世界を自由に渡り歩くことの出来る力を手に入れたのだとか。
モンストルで戦ったあの強力なモンスターはあちらの世界から連れてきたものだったというわけだ。

婆さんの占いではロニーが集めてきた魔物の魂をアクバーという魔王に売り渡したせいで、
そのアクバーがさらなる力を身につけてしまっているらしい。
魔王と直接戦うのは勇者たちに任せるしかないが、
アクバーと戦って疲弊している勇者一行がロニーと対峙するなんていう事態だけは避けなくてはいけない。
そのためにも俺たちは狭間の世界へ行かなくてはいけないのだが……
406 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:29:50.07 ID:n/I7QRoo
「勇者一行が一度あちらへ行ってまた戻ってきたところを見ると、
 狭間の世界からこちらへ戻ってくる方法はきちんとあるようだ。
 しかし無理強いするつもりはない。
 世界の一大事をお前さんたちだけに背負わせるわけにもいかないからね」

そう言って婆さんは俺たち五人の顔を一人一人じっと見つめる。

「ここまで来ておいて途中でやめるというのはなしでしょう。
 世界の美女を救うため、最後までお付き合いさせて頂きますよ」
とアモスさん。

「ゼェェット!」
マジンガの返事はただそれだけ。

「ここでやめては世界樹の名折れじゃからのう。
 命を司る大樹として、最後までやらせてもらうわい」
かし子はそう言って不敵に笑う。

「正直言って世界を救うなんてことはまだ実感できないけど……
 自分の尻ぬぐいくらいは自分でしなきゃね。あたしも行くわ」
すっかりいつもの調子を取り戻したパルは力強い口調でもってそう答えて、こちらに視線を向けてくる。
407 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:30:02.47 ID:n/I7QRoo
俺は何も言わず、ただ深々と頷いてみせることで返した。
パルの言うとおり、世界がどうのこうのというのは未だに実感できないけど。
運命だとか勇者を助けるだとかを別にして、ロニーとはどうしてもこの手で決着をつけなければいけない。
「すまぬ。お前さんたちには苦労ばかりかける……」
心底申し訳なさそうにそう言ってから、婆さんは俺たちにもう一度ゼニス王のところへ行ってはどうかと提案した。
五人で決意を固めたまではいいのだが、肝心の狭間の世界へ行く方法が見つかっていないのだという。
それをゼニス王に相談しに行こうというわけだ。
408 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:30:12.74 ID:n/I7QRoo
早速ルーラでゼニスの城へ行ったのだが、残念ながらゼニス王からは役に立つような情報は何も手に入らなかった。
「儂の知る限り、狭間の世界へと乗り込む力を持つのはペガサスだけじゃ。
 しかしながらそなたらを送り込むために勇者たちを呼び戻すようなことをしては
 ますます運命が乱れて本末転倒な結果になりかねん。
 それ以前に彼らの馬車は8人のパーティでもう一杯じゃからの。そなたらを乗せる余裕などありはせぬ」
となるとやはりペガサス以外の方法で狭間の世界へ乗り込むしかないのだが。
さてはて、一体どうすればいいのやら。
409 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:30:24.61 ID:n/I7QRoo
マーズの館へ戻った俺たちはみんなで顔を突き合わせて話し合ってみたが、
手がかりが何もない以上具体的な案なんて出るはずもなく。
婆さんの水晶に勇者一行の旅の様子が記録されているというのでそれを見てみたりもしたのだが、
狭間の世界へと繋がりそうなものは一つも見つからないまま気がつけば日が暮れていた。
水晶をひたすら眺めるのにも飽きたようで、一人、また一人と部屋へと消えていく。
俺も粘るだけは粘ってみたのだが、昨日あまり寝ていないこともあってやがて抗いがたい眠気に襲われた。
「あとは私が見ておくからお前さんも休んできなさい」という婆さんの言葉に甘えることにして、俺も部屋へと引っ込んだ。
410 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:30:35.52 ID:n/I7QRoo
翌朝になってから話し合った結果、俺たちは二手に別れることになった。
一方は昨日に引き続き水晶に記録された勇者一行の足跡を調べる。
もう一方はマーズ婆さんの口利きでレイドックの書庫に入れて貰って調べ物。
前者は一人居れば事足りるのでレイドックに行くのが四人というわけだ。

公平にじゃんけんで決めた結果、残念なことに居残り組は俺になった。
日がな一日婆さんと二人っきり。
この上なく損な役回りだ。
まあうだうだ言っても仕方がないのでレイドックへと向かうみんなを見送ってから水晶とのにらめっこを始めた。
婆さんは昨夜のうちに
勇者一行がマーメイドハープというのを手に入れて海底に潜れるようになったところまで見たと言っていたから、
俺が見るのはその続きからだ。
411 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:30:49.71 ID:n/I7QRoo
沈没船で最後の鍵を手に入れて各地の宝を漁って回ったり、
俺たちも三回したベストドレッサーコンテストをランク3まできれいなじゅうたんを貰ったりと
意外と俗なことをやっているかと思えば、
マウントスノーで氷付けになっている人々を助けたり
モンスターに襲われたライフコッドを守ったりといかにも勇者ということもちゃんとやっている。
俺たちのそれとは違って勇者の旅にはイベントがいっぱいだ。

ロンガデセオの女鍛冶屋(そういえば名前を訊かなかったが、サリィさんというらしい)に
さびた伝説の剣をたたき直して貰ったり、
海底神殿で魔王グラコスを倒して、
復活したカルベローナでカルベ夫妻にきれいなじゅうたんを魔法のじゅうたんとして復活させて貰ったり。
俺たちとも意外なところで接点があるもんだなーなんてのんきに考えていた俺の思考が、
水晶に次の映像が映し出されたところでぴたりと停止した。

破壊される城、次々と倒れゆく人々。
凄惨な光景が水晶の中で繰り広げられる中、
不謹慎ではあるが俺は眼前に一筋の光明が差したような気持ちになっていた。

あまりにも危険だ。
分の悪い賭けになるだろう。
でもそれ以外の手段が何もないのだったらやってみる他にない。
412 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:31:07.02 ID:n/I7QRoo
日が暮れるころになってみんなが帰ってきた。
一様に項垂れたその表情を見れば結果が芳しくなかったことは訊くまでもなく一目瞭然だった。
そんな四人に向かって俺は自分の思いつきを語る。
最初、みんなは「よく気付いた」と褒めてくれたが、俺が一人でそこへ行くつもりだと分かると猛反対された。
特に声を荒げたのはパルだ。
「なんで一人で行くのよ? あんた一人の問題じゃないでしょ?!」
そういうことじゃないんだ、と俺は答える。
413 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:31:30.12 ID:n/I7QRoo
婆さんはああ言ったが、勇者たちの使った狭間の世界から戻ってくる方法というのが俺たちにも使えるとは限らない。
もしものときののために、自力で戻ってこれる方法を用意しておかなくていけないだろう。
それに狭間の世界で何かあったらと考えると、
一度こちらへ戻ってきてもまた向こうへ行ける方法も用意しておく必要もある。
となると、みんなで行って一度送り込んで貰えればそれでよしというわけにはいかない。
勇者たちのペガサスみたいに自力で世界を行き来できる力を手に入れなくてはいけないのだ。

「でも、だからってあんた一人で行くなんて……」
パルはそう言うが、これはみんなで行けばその分成功率が上がるとかそんな甘っちょろいものではない。
戦闘になるようなことがあれば何人居ようと即座に全滅だろう。
414 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:31:59.52 ID:n/I7QRoo
もちろん、きちんと生きて帰ってくるのでなければ行く意味がないし、何より俺だって死にたくはないけど、
もしものことを考えると一人で行くのが一番被害が少ないのだ。
まあその一人が俺である必然性はどこにもないわけだけど……
そこは男の意地ってやつだ。
あの日花を助けたことが結果的に勇者の運命を狂わせる引き金となったというのなら、
そんな業をパルに背負わせるわけにはいかない。
俺がなんとかしてみせる。
415 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:32:17.62 ID:n/I7QRoo
「必ず生きて戻ってくる」と宣言してみせると、パルは不承不承ながらもなんとか頷いてくれた。

出発は明日。
今日はどこへも行っていないので体力は消耗していないけど、
万全を期すために夕食が終わると早々に部屋へと引っ込んだ。
ベッドに寝転んでしばらくぼんやりと天井を眺めていたときのこと。
こんこん、と静かにドアがノックされた。
「どうぞ」と答えるとドアが開いて、小さな人影が中へと入ってきた。かし子だ。
明日は俺一人で行くことになるので綿毛を自分で操作しないといけない。
綿毛は魔法の力で動いているので本来は魔法を使えない俺には操作できないのだが、
かし子いわくタネの内部に魔翌力を貯め込んでおけば行き帰りのエネルギーくらいはなんとかなるらしい。
内部に魔翌力を貯め込む作業が今しがた終わってそのタネを持ってきてくれたというわけだ
416 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:32:34.71 ID:n/I7QRoo
俺にタネを手渡しつつ、かし子は心配げな表情で静かに言う。
「のう……やはり一人で行かねばならぬのか?」
パルほどではないが、一人で行くことを提案したときはかし子も反対の意見を出していた。
やはり世界の命運に関わるようなことを俺一人に背負わせるのは心苦しいらしい。
命を司る世界樹として、というのではなくて純粋に俺のことを慮ってくれている。
それは嬉しいけど、ここは俺を信じて欲しいところだ。
俺だって死にに行くわけじゃない。
なんとしてでも生きて戻ってきて、この手でロニーとの決着をつけなくてはいけないのだ。

「大丈夫だ。必ず戻ってくるから」
と言って、そっとかし子の頭を撫でてやる。
いつもみたいに「子供扱いするな」と言われるかと思ったが、かし子は何も言わなかった。
少し顔を赤らめて「ん……」と小さな吐息をもらす。
417 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:32:52.28 ID:n/I7QRoo
「お主の手は優しいのう」
甘えた声でそう言って、かし子はすっと俺から離れた。
決然とした瞳で俺を真っ直ぐに見据えながらかし子はそっと口を開いた。
「実はのう。夜のうちにお主のところへ来たのは、タネを渡す以外にもう一つ理由があるんじゃ」
言いつつ、本当に何の前触れもなく無造作に、かし子はしゅるりと羽衣の帯を解いた。
もともとかし子の小さな体には不釣り合いなぶかぶかのその衣装は、ぱさりと軽い音を立ててあっけなく床に落ちて――
418 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:33:06.26 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994893.jpg

抜けるように白い素肌と、それをわずかに覆い隠す黒い布が晒されて、
ようやく俺は目の前でとんでもない事態が起こっていることを認識する。

「な、なな……なに、してんだよ……お前、なんでそんなこと……」
一気に茹で上がった頭でなんとかそれだけの言葉をひねり出す。
かし子が羽衣の下に着込んでいたそれは、かつてメダル王から譲り受けたエッチな下着。
女性のセクシーさを際立たせるためのそれを小さなかし子が身につけているのはなんとも不釣り合いで、
それ故に何とも言えぬフェティッシュな魅力を放っている。
「なんで、じゃと?」
言いつつ、顔を上気させたかし子は、いつもの無邪気な姿からは想像も出来ない蠱惑的な笑みを向けてくる。
「お主こそ何故そんなことを訊く?
 わしは言ったはずじゃぞ。好きだ、とな」
419 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:33:22.48 ID:n/I7QRoo
じりじりとにじり寄ってくるかし子を前に、
俺の口は「う」とか「え」とか意味の分からない短音を発するだけでろくな言葉を紡いでくれない。
「頼む。皆まで言わさんでくれ」
かし子が近付いてくるにつれて、男のそれとは材質からして違うきめの細かい肌だとか、
小さいなりに女性らしい曲線を描いたウエストラインとか、
そういうものが俺の視界の中でどんどんアップになっていく。

鼓動が早い。
ごくり、と唾を飲む音が異様に大きく聞こえて――はっと瞬間的に正気が戻ってくる。
頭をよぎるのはパルの姿。
震える声で「ずっと一緒に居て」と言ったあの時の声。
俺たちはまだ恋人同士というわけじゃない。
でも――
420 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:33:38.79 ID:n/I7QRoo
「ダメだ」
気がついたときには、ひどくきっぱりとした声で俺はそう口にしていた。
「明日のこともあるんだ。今はそんなことをしてる場合じゃない」
しばしの沈黙。
かし子はショックを受けたように俯いて少しの間口を噤んでいたが、やがてすっと顔を上げて俺を真っ直ぐに見つめてくる。
「英雄色を好む、とも言うぞ。世界を救うというなら女の一人や二人くらいコマしてみせたらどうじゃ?」
「……そんな理由でいいのかよ」
「それは……まあ、よくはないがの。それを言うならお主だって――」
言いかけて、かし子がふっと肩の力を抜いたそのときだった。
やはり無理があったのだ。
本来は大人の女性が使う下着をかし子が身につけるだなんて。
かし子が肩の力を抜いた拍子にはらりとストラップが肩から外れて、重力に引かれて下へと落ちて――
もともとぶかぶかだったそれは背中のホックなんて何の役にも立っていなかったみたいで。
そのまますとんと、ホックが止まったままの状態で、ブラジャーは腰の辺りまで落ちてしまった。
421 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:33:53.46 ID:n/I7QRoo
目を逸らすヒマなんてあるわけがない。
小さいけど真っ平らというわけじゃなくて、ほんのりと膨らんだ乳房とか。
そしてその先端でちょこんと色付いた、かわいらしいピンク色の突起とか。
それらが思いっきり俺の視界に飛び込んでくる。

……やばい。
自分の中を駆け上がってくる得体の知れない衝動に、思わず叫びたくなった。
俺はノーマルのはずなのに。何かが俺の中で目覚めそうだ……!
「や……っ!」
短く悲鳴を上げて、かし子は慌てて背中を向けた。
両手で胸を覆い隠したその後ろ姿。耳まで真っ赤になっている。
「み、見た……か?」
素直に認めるべきなのか、否定するべきなのか。
何と言っていいか分からずに、俺はただ黙りこくることしかできない。
「うううー! ダメじゃ、せっかく恥ずかしいのを一生懸命我慢しておったのに……
 あんなのはまったくの想定外じゃ」
むき出しになった白くて細い肩をかし子はぷるぷると震わせている。
422 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:34:10.01 ID:n/I7QRoo
このままだとかし子だけじゃなくて俺もいろいろとやばいので、とにかく服を着たらどうか――
と言おうとしたら、かし子に先手をとられてしまった。

「とにかく、じゃ! お主だって本当のことを言っておらぬじゃろう。
 それをはっきりとお主が口にするまでわしは服を着ぬ。着てやらぬ!」
かし子はヤケになって、突っ張った口調でこんなことを言う。
「な、なんだよ本当のことって」
「わしが聞きたいのは一つじゃ。
 何故お主はわしを受け入れようとせぬのじゃ?」
「いや、だから明日のことが……」
「それはごまかしじゃ」
俺の言葉を遮って、かし子はきっぱりと言い切る。
「では訊くが……
 もし今ここにいるのがわしではなくパルだったとして、お主は同じことが言えるのか?」
思わずはっとする。

そうだ。何故俺はごまかすようなことを言ったのだろう?
かし子は俺のことを好きだと言ってくれた。
それにちゃんと向き合ってちゃんとした答えを返すことを、何故俺は避けようとしたのだろうか?
423 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:34:58.00 ID:n/I7QRoo
きっと怖かったのだ。ふとそう思う。

誰かを好きになったり、好きだと言われたり。
母さんが死んで以来俺はずっとそういうことと無縁の生き方をしてきた。
これだけ真っ直ぐな好意を向けられたのなんて今までになかったことだ。
それを突っぱねるようなことを言うのはどうしたって躊躇ってしまう。

でもそうやって逃げた結果、
自分の気持ちどころか相手のことまでもをないがしろにしてしまうのでは本末転倒もいいところだ。
「俺は――」
とにかく何か答えなければと思って、何を言うのかも決まらないまま口を開いた、ちょうどそのとき。
きい、と音を立てて、外からドアが開かれた。

顔を覗かせたのはパル。
その視線の先にあるのはベッドの上に腰掛けている俺と、下着一枚のほとんど素っ裸みたいなかし子の姿。
ノックぐらいしろよとか鍵くらいかけとけよとか、
うわやべえどうしようとかいやでも別にやましいことなんて何もしてないぞとか。
あらゆる思いが一瞬にしてかけめぐってメダパニみたいに俺の頭を混乱させる。
424 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:35:08.88 ID:n/I7QRoo
てっきり「何してんのよ!」って怒られるのかと思った。
正拳突きでノックアウトさせられるかも、でも明日のことがあるしそれは勘弁して欲しいなあなんて、
そんなことまで考えていた。

でも、パルの反応は全然俺の予想と違っていた。
「え……?」と全身を硬直させたあと、だっと玄関の方へ走り去ってしまった。
遠ざかっていく足音。走り去る直前の今にも泣きそうなパルの顔が俺の目に焼き付いている。

なんでだ? なんであんな顔をする?
意味も分からず、でもとにかく追いかけなければいけないという義務感に襲われてベッドから飛び降りたそのときだ。
駆け出そうとする俺の背中を「待て」というかし子の落ち着いた声が呼び止めた。
425 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:35:19.70 ID:n/I7QRoo
振り向けば、いつの間にかきちんと羽衣を着込んだいつもどおりのかし子の姿がそこにあった。
「どうせお主が行っても落ち着いて話しなぞできぬじゃろう。
 わしが行ってくる。お主はそこで待っておれ」
そう言って、かし子は迷いのない足取りですたすたと俺を追い抜いていく。
それでいいのだろうか? と俺が迷っている間にかし子の姿は廊下へと消えてしまった。

あの光景を目の当たりにしたパルが何を思ったのかは分からないけど、
なんとなく、俺とかし子が二人で一緒に追いかけるということだけはしちゃいけないんじゃないかという気がする。
かし子が行ってしまったのだから、俺に出来ることは言われた通りにこの部屋で大人しくしている他にない。

ふう、と大きくため息をつきながら再びベッドに座り込む。
パルとかし子は一体なにを話すのだろうか。
ひどく落ち着かない心地でなんともなしに部屋の中を巡らせていた視線が、
ベッドサイドに置かれた綿毛のタネに向いたところではたと止まる。
体力は万全だ。緊張しているのと先ほどの一件が相まって眠気は完全に吹き飛んでしまっている。

どうせ眠れぬ夜を過ごすなら。
今のうちにやっておくべきこと、あるじゃないか。
426 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:35:31.76 ID:n/I7QRoo
※ちょこっと裏話※
427 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:35:55.29 ID:n/I7QRoo
パルを追って玄関から出たかし子は、ぐるりと周囲を巡らせた視界の片隅に、
膝を抱えてしゃがみ込んでいる目的の人物の姿を発見する。

ゆっくりとそちらへ近付いていくと、気配に気付いたパルが顔を上げて振り向いた。
何かを期待するように向けられたその瞳が、
かし子の姿を認めた途端に失望の色をにじませるを見て思わずかし子は苦笑する。
「あやつでなくて済まぬ」
この台詞で自分がどんな顔をしているのかパルも気付いたのだろう。
夜闇の中でもはっきりと分かるほど顔を赤くして、それを隠すように膝と膝の間に顔をうずめる。
いつもの快活な印象とは正反対の、頼りなげなその背中にかし子はゆっくりと語りかけた。
428 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:36:20.46 ID:n/I7QRoo
「隣、よいか?」
パルは背中を向けたまま答えない。
歓迎もしていないが拒絶もしていないといったところだろうか。
かし子はパルの隣まで歩いて行って、
羽衣にシワが寄らないように折りたたみながらパルと同じ体育座りで腰を下ろした。
じっと視線を下を向いているパルとは逆に、かし子は星々の瞬く夜空を仰ぎ見る。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994901.jpg

何から話そうか。今は運命のことには触れない方がいいだろうか……
と考えていると、意外にも先にパルが口を開いた。
「あいつは?」
と、短くただそれだけ。
「部屋じゃ。あやつはお主を追いかけようとしたのじゃが、わしが止めた」
「……なんで?」
なんで止めたのか、ということだろう。
かし子は星空に向かって吐息をもらしながら逡巡する。
429 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:36:32.66 ID:n/I7QRoo
ここで「あやつに行かせては落ち着いて話が出来ないと思ったからじゃ」と答えることは簡単だ。
でもきっとそんな答えではパルを納得させることはできないだろう。

かし子自身、分かっていたのだ。
パルはあの男に来てもらいたがっているに違いないと。
もしその望みがかなっていれば確かに言い争いにはなったかもしれないが、
それでもこの二人ならばきっとそのあとにきちんと話し合って何らかの答えを出していただろう。

でも、そうなってしまうと――
「すまぬ。あそこであの男を行かせては、二度とわしの入り込む余地がなくなってしまう気がしたのじゃ」
パルは何も言わない。まるで幼子のように身を縮こまらせて口をつぐんでいる。
そんなパルに向かって、かし子は先ほど部屋であったことを言って聞かせた。
下着姿で迫ったこと、胸を見せてしまったのは事故だったこと。
それらを聞いてもパルは何とも言わなかったが、
かし子が以前にはっきりと「好きだ」と告げたことを知ると初めて反応らしい反応を見せた。
思わずといった感じで顔を上げて、ショックを受けたように、目を丸くしてかし子の顔に視線を向けてくる。
その心情はなんとなくかし子にも想像できた。
きっと先を越されたような気持ちなのだろう。
430 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:36:47.73 ID:n/I7QRoo
「すまぬ。あんなことをすればお主との関係が気まずくなるのは分かっておった」
自分の言葉で自分の心がずきりと心が痛む。

かし子にとってはパルだってあの男と同じくらい大切な仲間なのだ。
だけど、それでも――
「それでも抑えられなかったのじゃ。
 あやつにわしを受け入れて貰えるなら、お主との関係が壊れてしまっても構わぬとすら思っておった」
さすがにパルの目つきが険しくなる。
引っぱたかれるかもしれない。
それぐらいされても仕方がない立場なのはかし子も理解している。

パルはしばらくわなわなと肩を震わせて、何とも言えない表情でかし子を見ていたが、
やがてふうっと大きく息をはいて全身を脱力させた。
再び下を向いて、元の姿勢に逆戻り。
「なんであいつを連れてきてくれないのよ……」
パルの口調はまるっきり拗ねた子供だ。
「あいつが来てたら一発引っぱたいてやって、それで全部元通りになれたかもしれないのに」
「じゃがそれでは何も変わらない。
 お主もずっとこのままというのを望んでいるわけではないじゃろう?」
431 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:37:02.18 ID:n/I7QRoo
かし子の言葉をうけて、パルはしばらく黙り込んだ。
手元の草を指先でもてあそびつつ、やがてゆっくりと口を開く。
「正直、わかんない。
 本当はあいつとかし子がどうしようとあたしには怒る権利なんてないんだもん」
思わずかし子は苦笑する。
「難儀なやつじゃのう、お主も。いい加減にはっきりとせんか」
「でも……あいつははっきり『好き』とは言ってくれないし。
 それにあたし自身、この気持ちが本当にそういう種類のものなのかよく分かんないの。
 別にあいつと恋人とか夫婦にならなくたって、一生ずっとに居られたらそれでいいような気もする」
「ではわしがあいつと男女の仲になっても構わぬのか?」

ぐ、とパルが言葉に詰まるのが分かった。
しばらく考え込んだあと、小さな声で「やだ」とだけ返ってくる。
432 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:37:18.83 ID:n/I7QRoo
思わず苦笑しつつかし子はさらに言う。
「気持ちに自信がないというのならわしだって同じじゃ。
 わしがこんな気持ちになったのはあやつがわしに仲間として接してくれたからじゃが……
 果たしてそれがあやつである必然性はあったのかと問われば正直はっきり是とは言えぬ。
 他の男に同じことを言われたとしてもやはり同じ気持ちになっていたかもしれん」
「へえ。じゃあアモスさんは?」
「そ、それはまあ……のう。わしにだって選ぶ権利くらいはあろう?」
言って、二人で笑い合う。
433 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:37:35.00 ID:n/I7QRoo
実際のところ、かし子は嬉しくて仕方がなかった。
もっと修羅場になることも覚悟していたし、
先ほど言ったようにパルとの関係が完全に壊れてしまうかもしれないとすら思っていた。

でも、それはやっぱり悲しいことであるわけで。
あの男がかし子にとって初めての「男性」であるならば、
パルはかし子にとって初めての親友なのだ。
失いたくなどあるはずがない。
「ところで、お主の方はどうなんじゃ?
 あの男はお主にいろいろと世話になっておるから惹かれるのも分かるのじゃが……
 お主から見た場合、正直あの男には迷惑をかけられるばかりで何もいいことがないようにしか思えぬ」
否定するかと思ったが、パルは「あー、うん。まあね」と苦笑しつつ、
耳にかかった金色の髪を指先でそっとすくい上げた。
形の良い耳からぶらさがったかわいらしいスライムピアスがぷらぷらと揺れている。
434 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:38:09.29 ID:n/I7QRoo
「このスライムピアス。どうしてあたしがこんなの持ってると思う?」
「ん? 分からぬが……話の流れからしてあやつが何か関わっているのか?」
「うん」とパルは一つ頷いて、嬉しそうに話し始める。
「実際にもらったのはおじさん――あいつのお父さんからなんだけどね。
 おばさんの病気を治すためにあちこちを旅して回ってる人だったから、そのおみやげに。
 でもね、これをくれたときにおじさんが教えてくれたの。
 実はこれ、あいつからなんだって。
 旅に出るときに地道に貯めたお小遣いを渡されて『これでパルに何か買ってきてくれ』って頼まれたんだってさ。
 あたしに教えないでくれっておじさんには言ってたらしいけど……」
己の耳からぶら下がったそれを愛おしげに撫でつつ語るパルは本当にいい笑顔を浮かべていて。
その思い出をいかに大切に思っているかが聞いているかし子にもありありと伝わってきた。

「なるほど。そういうさりげない優しさにお主は惚れたというわけか」
「う」と小さく唸ってパルは真っ赤になる。
「だから、分かんないんだってば。あいつのことを好きなのかどうか」
言って、パルは大きくため息をつく。
435 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:38:26.15 ID:n/I7QRoo
「それに……あいつバカだから。どうせこのスライムピアスのことも忘れてるに決まってる」
「……お主があやつに言う『バカ』にはそこはかとない愛情が込められているように聞こえるのう」
「ええ? そうかな?」
女二人の会話は続く。
まるで十年来の友みたく話し込む二人を、優しい月明かりがぼんやりと照らしていた。

436 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:38:37.42 ID:n/I7QRoo
※裏話おしまい※
437 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:38:51.80 ID:n/I7QRoo
いつもの装備を身につけ、いくつかの薬草と綿毛のタネを袋に詰め込む。
もしもの時のために織田信長軍を呼ぶための金を1000ゴールドほど持ったら準備は完了。
玄関から出たらあの二人に見つかりそうだから裏口から行かないと……
とか考えつつ部屋のドアを開けたら、その先にアモスさんが待ち構えていた。
「行くのですか?」
しれっと言ってるけど……なに? もしかしてこの人ずっとここに居たのか?
いやでもかし子が出て行った時点では居なかったはずだよな。
「女性二人に対して何も答えを出さずに逃げるつもりですか?
 失礼ですが、それはいささか卑怯というものではないですかね」
やはり立ち聞きはされていたらしい。何もなくてよかった……
438 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:39:04.29 ID:n/I7QRoo
ともかく、言っていることは正論だし、真面目に答えることにする。
「そういうことじゃないんだ。
 帰って来なきゃいけない理由は一つでも多い方がいい。
 俺だって卑怯者にはなりたくないからさ。
 必ず帰ってきて、ちゃんとあいつらに俺の気持ちを伝えるよ」
アモスさんは「ほう」ちょっと感心したような顔をしてから、
「なるほど、いいでしょう」と満足げに頷いた。
「ただ、そのような事情がなくても君には必ず帰ってくる義務があります。
 美女を泣かせる男はこの僕が許しません」
「分かってるよ」と答えてアモスさんとすれ違う。

裏口のドアに手をかけたところで再び声をかけられた。
「何も告げずに行ってしまうと彼女たちは不安に思うでしょう。
 僕から伝えておくべきことは何かありますか?」
少し考えてから俺は答える。
「そうだな。じゃあ――」
439 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:39:18.21 ID:n/I7QRoo
※ちょこっと裏話※

「え……?」
室内に戻ったパルとかし子は、彼がもう行ってしまったとアモスから聞かされてがく然とした。
どうして? どうして何も言わずに行ってしまうんだ?
体中を言いしれぬ不安が駆け巡って、パルは思わず廊下に膝をついてしまう。
そんなパルの頭上にアモスの落ち着いた声が投げかけられた。
「パルさん。彼からあなたに伝言があります」
何も言わず、パルは顔だけを上げる。
「『ちょっと行ってくるから、お前はホワイトシチューでも作って待ってろ』だそうですよ」
思わず言葉を失った。

そう、彼は必ず帰ってくる。
自分がそれを信じてやれなくてどうするのだ。
「あの男め……格好をつけすぎじゃ!」
かし子が悔しげに壁を叩いている。
パルは声には出さず、心でだけ言葉を紡ぐ。
(信じてるからね。帰って来なかったら一生許してやらないんだから)

※裏話おしまい※
440 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:39:33.68 ID:n/I7QRoo
綿毛に乗って夜空を渡り、一路東へ。
マウントスノー上空まで来たら針路を変えて南下。
山に囲まれたまさしく自然の要塞と呼ぶに相応しい場所に今回の目的地、グレイス城がある。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994907.jpg

難攻不落であったはずのこの城は、
しかし外敵にではなくて王自らが呼び出した「ある者」によって滅び去り、
今はすっかり廃墟となりはてた姿を野に晒している。
勇者はここで伝説の鎧を手に入れたわけだが、当然俺の用事はそれじゃない。
水晶で見たとおり、俺は城の外にある井戸を覗き込む。
441 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:39:52.40 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126321.jpg

あっという間に周囲の景色が歪んだかと思うと、
次の瞬間には隆盛を誇ったかつてのグレイス城に俺は立っている。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994908.jpg

勇者たちの時と同じように、兵士に連れられて城の中へ。
人々は迫り来る儀式のときを期待と不安の入り交じった表情で待ち構えている。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126323.jpg

彼らがこれから辿ることになる運命を思えば心苦しくはあるが、それはもう過去のことだ。
変えられるものではないし、変えようとも思わない。
冷たいようだけどこっちも他人に構っていられる余裕なんてないのだ。
442 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:40:08.45 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126325.jpg

王の号令で儀式の準備に取りかかる兵士たち。
城の中をぶらついて儀式が始まるまでの時間を潰していたら、こんなことを言う詩人に出会った。

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「もしも運命にさからえぬのなら、私たちが生まれてきた意味が見つかりません。
 人はそれぞれの未来を築くために生まれてきた……そう信じたいものです」
勇者は魔王を倒す。
その運命があの日、パルがあの花を守ったことで乱れたというならば、
あの花が踏みつぶされてしまうこともその運命に含まれていたとでもいうのだろうか?
そんな馬鹿な話があってたまるか。
俺は絶対に認めない。
443 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:40:24.98 ID:n/I7QRoo
やがて儀式のときがやってくる。

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凶悪な魔物の気配というやつか、それとも人々の緊張感にあてられただけなのか……
全身にぴりぴりとした感触がひっきりなしに走っている。

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ついに姿を現したいにしえの魔王。
王の言葉など聞き入れようともせず、有り余るその力は暴走を始める。

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444 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:40:40.63 ID:n/I7QRoo
次々と倒れゆく人々の中で、俺は必死に走った。
呼び出した張本人である王の言葉すらまるで聞かなかったこの化け物が果たして俺の話に耳を傾けたりするだろうか。
考えたら不安に押しつぶされてしまいそうだったので、可能な限り無心になって足を動かす。
なんとか儀式の間にたどり着いた俺は、あらん限りの声で思いっきりわめいた。
「魔王! 俺の話を聞いてくれ!」

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邪悪な気配がぬうっとこちらへ向くのが分かって全身が総毛立つ。
臆してたまるものか。
下腹にぐっと力をこめて踏ん張る俺の耳に届いたのは――ひどく場違いに拍子の抜けた声だった。
「えー。めんどくさい。早く帰ってエロゲやりたいのに……」
……えろげってなんだ? いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
せっかくなんか話が通じそうな雰囲気なんだ。これを逃す手はない。
445 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:40:52.24 ID:n/I7QRoo
俺は一気にまくし立てる。勇者の手助けをしていること、そのために狭間の世界へ行かなくてはいけないこと。
俺が全てを話し終えると、魔王は「なるほど」と気配だけで頷いた。
「話は分かった。たしかに我ならばお前に次元を超える力を授けるのも可能だ。
 しかし、我は破壊の化身ダークドレアム。誰の指図も受けはせぬ」
言うが早いか、実体化した魔王が躍り掛かってくる。
くそっ、やっぱりこうなるのか。
446 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:41:04.26 ID:n/I7QRoo
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相手は大魔王すら超えるという強大な力の持ち主。こっちはただの人間が一人。
状況は絶望的だ。出し惜しみしている場合じゃない。
戦闘が始まっていきなり俺は戦いの狼煙を上げた。

ぷおー。
法螺貝が鳴り響き、勇ましい怒号と共に織田信長軍が突撃してくる。
しかしダークドレアムは構いもせずに、俺に向かって灼熱の炎を吐いてきた。
「な……うわっ!」
襲い来る凄まじい熱気に思わずかわすことも忘れ、絶望と共に顔を覆ったその瞬間――
「我らの創造主を守るのだ!」
織田信長軍が、ダークドレアムの前に立ちふさがった。
447 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:41:19.87 ID:n/I7QRoo
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全てを焼き尽くす地獄の業火を前にして織田信長軍はまるで怯まない。
「武士道とは死ぬことと見つけたり!」
全身を炎に包まれながら、歩兵の一人が叫んだ。
俺は声も出せない。
織田信長軍は次々と炎に巻かれて消し炭になってゆき……ついに織田信長本人までもが犠牲となる。
「おのれ光秀ぇぇぇぇ!」
誰かの名前を叫びつつ、織田信長の体はぼろぼろと崩れ落ちていく。
あとに残されたのは呆然と立ち尽くす俺と、動きを止めてそれと対峙するダークドレアム。

もうダメだ――そう思ったその瞬間、ダークドレアムから発されていた圧倒的な威圧感がふうっと弛緩するのが分かった。
「あれはお前の手に渡っていたのか。奇妙な縁もあるものだ」
448 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:41:50.20 ID:n/I7QRoo
一瞬、何を言われたのか分からなかったが、少し考えると織田信長軍のことしかないとすぐに気付く。
こいつ、あれのことを知っているのか?
「不思議そうな顔をしているな。我があれのことを知っておるのは当然だ。
 何故なら異世界からあれを取り寄せて売りに出したのは他ならぬ我なのだからな」
「え……あんたが? 何のためにそんなことを?」
「それはもちろんエロゲを買う金を稼ぐために――ごほん! なんでもない」
わざとらしく咳払いして何かをごまかしてから、ダークドレアムは実体化したままの顔をきりりと引き締めた。
「ともかく、あれだけ身を挺してお前を庇ったのだ。お前はあれによほどの情を込めて作り上げたのだろう。違うか?」
「ん。まあそうかな?」
「うむ」と満足げに頷くダークドレアム。
戦いの時とは余りにも違った人間じみた仕草になんだかおかしくなる。
「よかろう。お前の望み、叶えてやろう」
思わずガッツポーズ。
それもこれもみんな織田信長軍のおかげだ。
あいつらには感謝してもしきれない。
449 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:42:04.07 ID:n/I7QRoo
「ただし、次元を超える力は人間の手には余るもの。それを授けるのだからお前もそのままの体というわけにはいかぬ」
「……? どういうこと? 顔が変わるとか?」
「そのように生易しいものではない。一言で言えば、我の一部となってもらう必要がある」
「あんたの一部?」
さっぱり意味が分からなくて、俺はアホみたいに言われた言葉をオウム返しにする。
「要はお前に人間をやめて貰わねばならぬということだ。
 この力を受け入れれば最後、もはや現世での生活は叶わぬ」
「なっ……!」
そこまで言われてようやく俺にも事態の深刻さが飲み込めてきた。
450 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:42:14.43 ID:n/I7QRoo
「何言ってんだよ! 力を授かっても現世に戻れないんじゃあ何の意味もないじゃないか!」
「……なるほど。お前の言うことは正しい。
 ではこうしよう。勇者が大魔王とやらを倒すまでは現世に留まることを許可する。
 それくらいの間ならば脆弱なお前の体でも耐えられよう」
「耐えられる? どういう意味だ?」
「我と同じ存在になるということは、お前も魔を食して生きる体になるということだ。
 故に魔の密度が薄い現世では長く存在できぬ。
 言わずもがな、大魔王が倒されて魔が排除されてしまえばなおのこと。
 現世に留まって消滅を選ぶか、我と共に次元の果てで永久を生きるか。
 その選択はお前に委ねてやろう」

俺としては押し黙るしかない。
451 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:42:29.16 ID:n/I7QRoo
ふざけるな。
まず思い浮かんだのはそんな言葉。
なんで俺がそんなことをしなくちゃいけない?
俺は何も悪いことなんてしちゃいないのに。
なんで勇者を助けるために命まで犠牲にしないといけないんだ?

もういいじゃないか。
最終手段としてはこんなのもある、それが分かっただけで十分だろう。
他に何か方法がないか調べてみて、見つからなかったらまた来ればいい。
そんな甘い考えが通用する相手じゃないというのなら、今日あったことは忘れよう。
狭間の世界に行く方法なんてどこにもなかった。
そういうことにしておけばいいじゃないか。
なあに、勇者ならば俺たちの手助けなんてなくてもきっとなんとかしてくれるさ。
俺たちは十分にやった。
あとは婆さんの水晶で勇者たちの動向を見守っていればいい。
もう俺たちに出来ることなんて何もないんだ。

逃げの言葉が次々と俺の頭に浮かんで、組み合わせって、いかにもな体裁を整えた言い訳を作り上げていく。
452 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:42:49.81 ID:n/I7QRoo
――でも。

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ちっぽけな花を助けるところから俺たちの旅は始まった。
いろんなところを旅して、

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いろんな人に出会って。

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世界は広くて、人々は一生懸命に生きている。
もし、この手でその全てを守ることが出来るなら?
453 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:43:22.54 ID:n/I7QRoo
家を燃やされて、運命が歪むに至った真相を聞かされて。
打ちひしがれていた俺たちにまるで救いの手みたいに差し出されたあの花を見たときの感慨は今でも忘れられない。

旅の中で俺たちが自分の力で守ったんだと実感できるのは未だにあの花だけだけれど。
もしこの手で世界を守ったのだと実感できたならばどれだけ気持ちがいいだろうか。
故郷の町で仲間はずれだったうだつの上がらない男が旅に出て、最後には世界を救う。
ありがちだけど、いかにも痛快な話じゃないか。
454 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:43:49.15 ID:n/I7QRoo
なんて、実を言えばそんなことは二の次なのだけど。
ああ、やっぱり俺はあのクソ親父の息子なんだなあ、と今さらながらにしみじみ思う。
だって。
『男ってのは、惚れた女のために命をかけるもんだ』
親父の口癖だったそれを今ここで体現しようとしているのだから。
「ダークドレアム。俺に――」
パルには笑っていてほしい。
俺のわがままかもしれないけど、あいつらしい明るい笑みを振りまいて元気いっぱいに日々を過ごして欲しい。
正直に言えばその隣に俺が居られないのは少し寂しい。
けど、俺が居なくたってあいつは独りなんかじゃないから。
あいつの両親はまだ健在だし、かし子もきっと友達としてあいつの側にいてくれる。
アモスさんだって、マジンガだって、きっとあいつを見守ってくれるはずだ。

生きていれば幸せになれる――なんて、この世界はそんなに甘くはないけれど。
生きていくための世界がなけりゃあ幸せになることなんて出来ないから。
「俺に、その力をくれ」
俺は、俺の人生と引き替えに、俺の大切なものを守る。
455 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:44:01.46 ID:n/I7QRoo
グレイス城を出た俺は、マーズの館に戻る前に一度サンマリーノに寄った。
みんな心配しているだろうし、早く帰った方がいいと分かってはいたのだが……
どうしても確かめずにはおられないことが一つあったのだ。

456 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:44:22.80 ID:n/I7QRoo
俺の顔を見るなり、リリさんは何やら慌てた様子で声をかけてきた。
「とにかく来て」というので手を引かれるままに控え室へ。
そこにあったのは、ケースの中で跡形もなく真っ黒に焼け焦げている織田信長軍のジオラマだった。
「今日朝来たらこうなってて……一体なにが起こったのか、誰も分からないの」
リリさんはそう言うが、俺はことの真相を知っている。
こいつらは身を挺して俺を守ってくれたのだ。
人間ではなくなったとはいえ、俺がこうして帰ってこられたのはこいつらのおかげ。
感謝してもしきれない。
457 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:45:01.31 ID:n/I7QRoo
「なんだか君、雰囲気が変わったわね」
ジオラマの残骸をじっと見つめていると、ふとリリさんにそんなことを言われた。
声の調子からすると成長したと言ってくれているのだろうけど……今そんなことを言われるとどうも素直に喜べない。
人間じゃなくなったからか? とか、そんなことを思ってしまうから。
「オーナーに会っていく? あの人、何も言わないけどきっと内心では君のことを心配してると思うよ」
リリさんはそう言ったが、俺は首を横にふった。
俺はまだ何も成し遂げちゃいない。会いに行ったって笑われるだけだろう。
今を逃せばきっともう二度と会う機会は無いだろうけど……
お礼を言ってくれるようにだけリリさんに言付けて、俺は見慣れた街並みをあとにした。

短い間だったけど、確かに俺の居場所だったサンマリーノ。
第二の故郷ってやつだろうか。
リリさんやオーナーが今後も幸せに過ごせるように、しっかりやらないといけない。
458 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:45:15.19 ID:n/I7QRoo
マーズの館に戻ると、こっちがドアを開ける前にみんなが飛び出してきた。
どうやら綿毛が飛んでくるのを今か今かと待ち望んでいたらしい。

思い切り胸に飛び込んできたかし子の頭を撫でてやりながら、
「仕方ないわねえ」というふうに呆れ気味の吐息をもらすパルと笑顔を交わす。
アモスさんは「よく帰ってきましたね。見直しましたよ道具屋くん」と言ってくれた。
「愛シ合ウ二人ハイツモ一緒。ゼェェット!」
マジンガは相変わらずよく分からない。
でもこの光景は俺の心を温かい気持ちでいっぱいにしてくれる。
ああ、帰ってきたんだな、と。
それと同時に、誰にも話せないあのことがずっしりと重くのしかかる。
必ず帰ってくるという約束はどうにか果たすことが出来たけど……
この幸せもかりそめの物でしかないのだ。
459 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:45:37.82 ID:n/I7QRoo
「あの……」
俺が顔を伏せて考え込んでいたところに、パルがなんだかもじもじと恥ずかしそうにしながら声をかけてきた。
「言われた通りに、ホワイトシチューを作って待ってた。食べる?」
申し訳ないけど思わず「ぶぶっ」とふき出してしまった。
陰鬱な気分がいっぺんい吹き飛ぶ。
「ホントに作ったのかよ。あれはただの決意表明みたいなもんだったのに」
笑い混じりに俺がそう言うと、パルは顔を真っ赤にしてむうっと頬を膨らませた。
「なによ。いらないんだったら食べなくてもいいわよ」
「いやいや、ごめんって。一杯頂けますか」

そうやってふくれっ面のパルのご機嫌をとっていると、
胸の中に収まったままだったかし子が「のう、お主」と小声でそっと話しかけてきた。
「分かっておろうな? あの時先延ばしにした答え、今夜こそちゃんと聞かせてもらうぞ」
「分かってるよ」とだけ答えて、俺はかし子と離れて館の中に入る。
460 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:45:50.94 ID:n/I7QRoo
いつもの席に腰掛けた俺の前に、ホワイトシチューが並々と注がれた深皿が差し出された。
ほくほくと立ちのぼる白い湯気と共に、食欲をそそるホワイトソースの香りが部屋一杯に広がって鼻腔を刺激する。
喜び勇んでスプーンを手にとって、一口目を口に運んだその瞬間――ぴしりと全身が凍り付いた。
そんな馬鹿な。
認めたくなくて、慌ててもう一度シチューをすくって口へ。
ああ、やっぱりだ。
――味が分からない。
熱くてとろりとした舌触りとか、じゃがいもやにんじんの歯ごたえとか、そういった「感触」だけは確かにある。
でも俺の舌からは長年親しんだあの味が一向に伝わってこない。
まるでとろみのついた白湯でも飲んでいるかのようだ。
461 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:46:01.84 ID:n/I7QRoo
そうか。
ことここに至ってようやく理解する。
俺はもう人間じゃないのだということの意味を。
ダークドレアムは「魔を食して生きる」と言っていた。
もう俺も普通の食事をとる必要はないのだろう。
だから味覚も必要のないものとして失われてしまったのだ。

「……どうしたの? もしかして、あたし何か失敗してた?」
パルが心配そうな顔をしている。
悟らせてはいけない。
人との接触を避けて嘘ばっかりうまくなった俺の腕の見せ所だ。
「いや、うまいよ。うますぎて思わず固まっちまった」
ぽりぽりと後頭部をかきながら苦笑してみせる。
どうやらうまくごまかせたようで、パルは「もう、バカ……」と照れて顔を俯けている。
「あの……おかわりあるから。たくさん食べてね」
「ああ」
言われた通り、俺は鍋が空になるまで心ゆくまで味わった。
何の味もしない俺の大好物を。
462 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:46:26.48 ID:n/I7QRoo
その夜、かし子が俺の部屋を訪れた。
同じ失敗を繰り返さないよう、今度はきちんとドアを閉めて鍵をかける。

「さて、聞かせてもらおうかの。もっとも答えはもう分かっているようなものじゃが……」
こくりと頷く。
人間じゃなくなったとかそんなことは関係なく、これにはちゃんと答えなくてはいけない。
うやむやにしたまま消えてしまうなんて絶対にダメだ。
「ごめん。俺、パルが好きなんだ」
かし子は悲嘆にくれたりせず、「ああやっぱり」というような顔で俺の言葉を受け止める。
「それは友や仲間としての『好き』ではなく、男女の情としてのものなのじゃな?」
「ああ」と俺がはっきり答えると、かし子は「はあっ」と一つ大きく息をついて、くるりと後ろを向いた。
「分かってはおったが、やはりこうやってはっきり言われるのは辛いのう……」
羽衣に包まれた小さな肩が震えているのに気付いても、俺は何も言うことが出来ない。
ごめん、と言うのもなにか違っている気がする。
きっとかし子は謝罪なんて求めていない。
463 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:46:49.32 ID:n/I7QRoo
俺に背中を向けたままかし子はごしごしと乱暴に目をこすって、鼻を思いっきりすする。
「あ、あやつに……パルにそのことは?」
そう問いかけてくるかし子の声は酷い鼻声だったけど、気付かないふりをして。
「まだだ」と短く答える。
「今言うと中途半端になりそうな気がしてさ。ロニーとの決着をちゃんとつけてから改めて伝えるよ」
もちろん出任せだ。
こんなことになった以上、言えるわけがない。

うぬぼれかも知れないけど、
恋愛とかそういうのを抜きにしてもあいつにとっての俺は特別な存在になっているはずだ。
そんな男に告白されて、
その直後に居なくなられたとあっては、あいつのことだから下手すると一生引きずるかも知れない。
俺の自己満足のためにそんな傷をあいつに背負わせてしまうわけにはいかない。

「……お主、グレイス城で何かあったのか?」
「え?」と思わず顔を上げた。
真っ赤に充血したかし子の瞳が、それでも真っ直ぐに俺を射貫いてくる。
464 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:47:15.78 ID:n/I7QRoo
「帰ってきてからというもの、お主は時々そうやって物思いにふけっておる。
 何かあったと考えるのが自然じゃろう。パルも心配しておったぞ?」
俺としては普段通りに振る舞っていたつもりだったのだけど、どうやら実はちっとも隠し切れていなかったようだ。
ここで「何もなかった」と答えるとかえって不自然だろう。
「まあ、ちょっとあってな。心配するようなことじゃないよ」
「わしらにも言えんことか?」
「言えないってゆーか……そうだな、言わない方がかっこいいかな、みたいな?」

一応嘘は言っていない。
変に作り話をしてボロを出すよりも、部分的に本当のことを言った方が納得してもらいやすいだろう。
何故だかこんなときだけは自分でも意外なほど頭がよく回る。
なんともいけ好かない話だが、今はこんな自分に少し感謝してやってもいい気分だ。

465 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:47:30.83 ID:n/I7QRoo
「狭間の世界へ乗り込む前に、ガンディーノへ行ってギンドロという男に話を聞いてみるといい」
翌朝、婆さんはこんなことを言った。
よく分からないが、なにやら俺に関わりのあることらしい。
占いか俺の態度から察したのかは分からないが、どうも婆さんは何か感づいているようだ。
口に出して何かを言うことはしないが、会話の合間合間に痛ましげな視線を俺に向けてくる。

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館を出る前に一度だけ振り返る。
いつの間にかすっかり見慣れてしまったこの婆さんの顔もこれで見納めだと思うとなかなか感慨深いものがある。
「……すまぬ」
婆さんは小さくそう言って頭を下げた。
多分、俺が婆さんのことを恨みになんてちっとも思っちゃいないとこの人はちゃんと分かっている。
分かっていても言わずにはおられなかったのだろう。
言うべきことは何もないように思ったから、俺は軽く会釈だけして館をあとにした。
466 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:47:51.50 ID:n/I7QRoo
ガンディーノというところに何があるのかは分からないが、
婆さんがああ言うということはそんなに慌てて狭間の世界に行かなくてもまだ大丈夫ということなのだろう。
ひとまず行ってみようということでみんなの意見は一致した。

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ガンディーノというのはロンガデセオから真っ直ぐ南に下ったところにある王国だ。
勇者たちはここで伝説の盾に関する情報を手に入れたというが、
俺たちはここで何を知ることになるのだろうか?

町の人にギンドロという男について町の人に聞いてみたら、なんだかびっくりされた。
「あんたらみたいな人がギンドロに何の用だい?」と。

聞けば、ギンドロというのは昔この街を牛耳っていたマフィアみたいな一味の親分らしい。
何年か前の革命で王が変わってからは影響力も弱まって、親分のギンドロも病魔に冒されて床に伏せっているというが……
そんな人が俺たちと何の関わりがあるというのだろう?
もっと婆さんに詳しく話を聞いておけばよかった、と後悔した。

が、今さら戻ってまた話を聞くというのはさすがにかっこ悪すぎるので、
ともかくそのギンドロ組とやらのアジトに行ってみることにする。
ちょっと怖いけど。
467 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:48:15.01 ID:n/I7QRoo
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入り口のところでさっそく強面に絡まれた。
昔の俺ならば震え上がっていたかもしれないが、
サンマリーノのオーナーの元で三ヶ月間働いた俺にしてみればこんな下っ端に凄まれたところでちっとも怖くない。
親分に用がある、とだけ言ってやりすごし、俺たちはアジトの中へと入る。

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中に入った途端にまたガタイのいい男が絡んできた。
外に居た男とは違って啖呵の切り方にも貫禄が感じられる。
組の幹部かそれに近い立場の人間なのだろう。
さすがに少し怖いけど、ここまで来て何もせずに帰るわけにもいかない。
ここの親分と話がしたい、と言って俺の名前を出すと、
テーブルを挟んで向かい側に居た若い女の人の顔色がいきなり変わった。
「あんた、まさか……」
何だろう。女の人は目を見開いてまじまじと俺の顔を見つめている。
「確かに似てる。もしかして、あんたの父親は○○って名前じゃないのかい?」
「え……?」
予想もしないところで親父の名前が出てきて思わず戸惑ってしまう。
俺は自分の名前を言っただけだぞ? なんでクソ親父の名前がここで出てくるんだ?
468 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:48:29.63 ID:n/I7QRoo
「その反応、どうやら当たりみたいだね。
 いいだろう、ついてきな」
いかにも「あねご」という感じの口調で言って、女の人は奥へと手招きする。
「しかし、親分は病気が――」と俺たちに絡んでいた男は渋っていたが、女の人のひと睨みがそれを黙らせる。
「こちらさんは○○の息子なんだ。その意味が分からないあんたじゃないだろう?」
「……へい」と男は頭を低くする。
俺たちは女の人に招かれるまま、アジトの奥へと入っていった。
「いいですねえ」
向かう途中、アモスさんがぽつりと呟いた。
「いやー僕、スケ番には目がなくて!」
なんか久しぶりに聞いたなこの台詞。
つーかスケ番ってなんだ? なんとなく知らなくてもいい単語だっていう予感がするけど。
469 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:48:46.10 ID:n/I7QRoo
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案内された部屋では一人の老人がベッドで横になっていた。
俺たちの中に入ると老人はゆっくりと顔を上げて、俺の顔を見た瞬間、驚愕に目を見開いた。
「親父、この人は――」
「いや。言わなくても分かる」
女の人の言葉をさえぎってそう言いつつ、
どうやらギンドロ本人であるらしいその老人はベッドの上で大儀そうに身を起こす。
頭は禿げ上がり、頬はすっかりやせ衰えているが、眼光だけが異常に鋭い。
「いつかは来ると思ってたぜ」
その目でもって俺を真っ直ぐに射貫きながら、ギンドロはしわがれた声で語りかけてくる。
「おめえは何を聞いてここへ来た? 親父の最期についてはどれくらい知ってる?」

最期。その言葉を聞いて、背後でパルが息をのんだのが分かった。
俺はというと、ああやっぱり、くらいにしか思わない。
さすがに死んでいて欲しいと思っていたわけじゃないけど、
なんとなく、もうこの世にはいないのかなとは考えていた。
これだけ世界を旅していても再会するどころか足跡すら見当たらないのだからきっとそういうことなのだろうと。
470 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:49:08.05 ID:n/I7QRoo
「最期については知らない。ただ、どこかで盗賊として指名手配されてたとか……それがこの街なのか?」
俺がそう言うとギンドロは「おう?」とびっくりしたように表情を固まらせたあと、
いきなり「がはははは!」と豪快な笑い声をあげた。
「あいつが盗賊か! こりゃあいい! 前王もなかなかうまいこと言うじゃねえか!
 うむ、たしかに間違っちゃあいねえなあ」
さもおかしそうに大声を出すギンドロを前に、俺たちはぽかんとしてしまう。

何がそんなにおかしいんだ? 親父は盗賊じゃなかったのか?
「たしかにあいつはここの城から盗んでいきやがったよ。一人の女をな」
「え……?」
「なんだ、その顔じゃあなんにも聞かされてなかったのか。
 いくら惚れた女のためとは言っても息子の面倒もろくにみねえってのは感心しねえな」
ギンドロはいかにも懐かしそうに語り始める。
471 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:49:21.03 ID:n/I7QRoo
昔、親父がここの兵士だったこと。
前王に甘い汁を吸わされて腐りきった兵士ばかりだった中で一人だけくそ真面目に仕事をして、
当時は隆盛を誇っていたギンドロ組ともよくぶつかっていたこと。
そして、前王のお気に入りだった一人の女に惚れ込んでしまって、その女と共にどこかへ姿をくらませてしまったこと。
その女というのが俺の母さんだったというわけだ。
って、え? それじゃあまさか……

「俺の父親って、本当は……?」
恐る恐る口にした俺の言葉をうけて、ギンドロはまた豪快に笑う。
「まあ確かにその可能性もあったわけだがな。
 心配はいらねえ。その面構えを見りゃあ分かる。お前はたしかにあいつの息子だってな」
その言葉で何故かほっとしてしまう自分がいる。
悪行の限りを尽くして人々を苦しませていた前王よりもあのクソ親父の方がまだましということか?
いや、そもそも親父は盗賊じゃなかったわけで――
472 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:49:40.52 ID:n/I7QRoo
だめだ。頭が混乱してうまく考えがまとまらない。
「おめえの母親が病気で逝っちまったのは知ってる。
 なんせあいつはもう一度この街へ戻ってきたんだからな」
ギンドロの話はまだ続く。
そう、今までのは俺が生まれる前の話だ。
まだ「親父の最期」とやらについてはまだ何も聞かされていない。

「数年前にここで革命があったってのは知ってるな?
 そのときの革命軍のリーダー的立場だったのがおめえの親父さ。
 もちろん指導者は他に居たし、革命軍が擁立しようとしてたのは当時の王子……つまり今の王だったわけだが。
 いざとなった時に最も勇敢に戦って、最も革命軍の精神的柱になっていたのは間違いなくあの男だったよ」
「……親父は、その戦いで?」
ギンドロは重々しく頷く。
473 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:50:09.26 ID:n/I7QRoo
「残念ながらな。新たな王政が誕生するのを見ることなく逝ってしまったよ。
 勇敢な男ほど早死にするというのはどこでも一緒だ。
 ……おめえ、あの男がなんでそこまでして戦ったか分かるか?」

俺は額に手を当てて大きく息をはく。
自分の肩がふるえているのに気がついていたけど、どうしても止められなかった。
「男は惚れた女のために命をかける。それが親父の口癖だった。
 この国の人々を助けるというのが母さんの望みだったと?」
「ああ。そうか……あいつ、なんだかんだで一番大事なことはちゃんと伝えてやがったんだな」
懐かしむように言って、ギンドロは視線をどこか遠くへと送る。
きっとその目には在りし日の親父の姿が映っているのだろう。

「おめえの母親はずっと申し訳なく思っていたらしい。
 自分一人が城から助け出されてしまったことをな。
 愛する人との子をなして、静かな町でひっそりと生きている間にも、
 城に残されたかつての友人たちはずっと酷い目に遭わされ続けている。
 はっきりとは口に出さなかったが、ずっとそのことを気に病んでいるのがあの男には分かったらしい。
 結局病気に効く薬を見つけられなくて死なせてしまった罪悪感も相まって、
 あの男は革命に参加する決意をしたわけだが……」
474 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:50:20.81 ID:n/I7QRoo
ギンドロは過去へと向けていた視線をすうっと戻してきて、また俺をじっと見た。
「あいつはずっと悩んでいたよ。
 いくら自分の女の望みだからって、
 息子をほっぽり出してまで遠い異国の地で戦うのが本当に正しいことなのかってな」
何も答えられなかった。
俺は父親のことをずっと心の中で「クソ親父」と呼んで軽蔑してきた。
モンストルの人々から孤立してしまった自分、その原因は全て親父にあるのだと。
でもその恨み辛みがお門違いの物だったとしたら?
俺は一体なにを思えばいいのだろうか。
475 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:50:35.35 ID:n/I7QRoo
親父の墓はロンガデセオの北にある墓地にあるのだという。
ロニーとの一件で一度訪れたことのある場所だが、あの時は墓に刻んである名前なんて気にもしていなかった。
ガンディーノを出た俺たちはルーラでロンガデセオへ飛んで、墓地へと向かった。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126350.jpg

親父の名が刻んである墓にパルと二人で向かい合う。
申し訳ないけどその他の仲間たちには遠慮してもらった。
親父と面識がないからとかじゃなくて、俺がどんな顔を見せてしまうか分からなかったから。
476 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:50:47.28 ID:n/I7QRoo
この墓地にはいくつかの墓が並んでいるが、その中から親父の墓を見つけるのは簡単だった。
他のものと比べてもきれいに墓石が磨かれていて、頻繁に人が訪れていることが一目で分かる。
ガンディーノの人々にとって親父がどんな存在なのかを察するのはそれだけで十分だ。

「親父……」
墓の前にひざまづいて、在りし日の父を思う。
たとえ親父が俺の思っていたような人間じゃなかったとしても、俺は親父を許すつもりはない。
親父が居なくなって、盗賊の捜索という名目で兵士がやってきて……
そのことが俺を周囲の人間から孤立させる決定打となったのには違いないのだから。
477 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:50:59.68 ID:n/I7QRoo
でも、俺だって人のことは言えないのかもしれない。
もし俺に息子が居たとして、ダークドレアムに選択を迫られたあの時に果たして首を横にふっただろうか?
もちろん逡巡する理由の一つにはなっただろう。
でも最終的に俺がとる道は変わらなかったのかもしれない。
俺だって親父と一緒だ。
親父には守るべきものがあった。俺にはそれがなかった。それだけの違いなのだ、きっと。
そう、親父のしたことが間違いでなかったというならば、俺だって間違っちゃいない。
478 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:51:30.18 ID:n/I7QRoo
パルが小さく俺の名前を呼んで、そっと肩に触れてくる。
それだけでパルの温もりがじんわりと全身に広がっていくような気がした。
守るべき家も家族も俺にはないけど、大切な人ならばここに居る。
共に戦ってくれる仲間が居る。
最近の俺があまり自分の居場所について考えたりしなくなったのはきっと仲間たちのおかげだ。
居場所を探して旅をしていたはずなのに、
いつの間にか仲間と一緒に旅をすることそのものが俺の居場所に成り代わっていた。

多分、この世界の人々は俺が思っていたのより少しだけ優しい。
だから俺は、人をやめたことを後悔しない。
479 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:51:41.36 ID:n/I7QRoo
「さあ、行こう」
墓地を出た俺は、四人の仲間たちに向かって告げる。
「大丈夫なのですか?」
アモスさんが珍しく真面目な口調で言ってきたので、思わず笑ってしまった。
この人に心配されるくらい今の俺は深刻な顔をしているってことか?
「大丈夫。親父のことはとおの昔に割り切ってるよ。
 今さら何を言われたって動じたりなんかしない」

多分これが強がりだってことはみんな分かっただろう。
でもそんなことを言ってる場合じゃないんだ。
ただでさえ寄り道で余計な時間を使ってしまったのだし、これ以上ぐずぐずしているわけにもいかない。
かし子を見る。決意と同情と寂しさの入り交じった複雑な表情で、でもしっかりと頷いてくれる。
マジンガを見る。こいつはよく分からん。何か話しかけてもどうせ「ゼェェット!」しか言わないんだろう。
480 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:51:52.72 ID:n/I7QRoo
「いい? 絶対にみんなで無事に帰ってくるのよ。何があっても諦めたりしちゃだめ」
パルが一際大きな声で言って、ちらりと横目で俺の顔をうかがう。
「ムドー戦のときに怒られたから、今のうちに言いたいことを言っとくとかそういうのはなしにする。
 その代わり、なにがなんでも無事に帰ってくること。そうじゃないと絶対に許さない」

ごめん、パル。
俺は心の中でだけ謝罪する。
今から俺は最低な嘘をつかなくちゃいけない。
それがパルを傷つけることになるってわかっていても、それしか俺には選択肢がないんだ。
「分かった。約束するよ。絶対にみんなで無事に帰ってくる」
481 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 18:52:10.38 ID:n/I7QRoo
言って、俺はダークドレアムに授けられた力を解放する。
ダークドレアムは俺に余計な力なんて何一つ与えてくれなかった。
俺が手にしたのは世界の境界を超える力、ただそれだけ。
でもそれで十分だ。
ロニーとはこの手で、俺自身の力で決着をつけてやる。

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目の前の中空に狭間の世界へと繋がる真っ黒な穴が空いた瞬間、脊髄にぴしりとヒビが入るような痛みが走った。
ダークドレアムの言った通り、人間の体でこの力を使うのは無理があるのだろう。
もしかすると使えば使うほど現世で過ごせる時間が短くなるのかもしれないけど……
余計なことは考えないでおこう。今は前だけ見て進むんだ。
482 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:00:11.13 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994960.jpg

やがて目の前に現われたのは、俺たちが住んでいるのとは何もかもが違う、禍々しい気配に覆われた薄暗い世界。
思わず竦みそうになる足を叱咤して、まずは近くにある町へと向かう。

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こんなところにある町にしては妙なほど空気が明るい。
なんと町の名前も「希望の町」というらしい。
聞けば、どうやらここの人たちも勇者たちの行動によって希望をもたらされたらしい。
こんなところでも人々を救って回っているとは……勇者の面目躍如といったところか。

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武器屋と防具屋を覗いてみると、なかなか良いものを売っているようだ。
そのぶん高価なので本来なら手が出ないところだが、
実は勇者の手助けをしているという話をギンドロにしたときに
「軍資金にしろ」とか言われて大金の入った袋を手渡されたのだ。
心情的には遠慮したい気持ちもあったが、体面に構っている場合でもないのでありがたく受け取ることにした。
483 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:00:26.96 ID:n/I7QRoo
というわけで、見ての通り俺たちの資金はかなり潤沢だ。
今後どんな強敵と戦うことになるかも分からないし、買えるだけのものを買っておくことにする。
特に月の扇でずっと止まっていたパルの武器を太陽の扇に買い換えられたのがかなり大きい。
これで大幅な戦力アップが見込めるだろう。

勇者たちは既に次の町へ向かったというので、俺たちもそのあとを追うことにする。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994962.jpg

途中で狭間の世界に来てから初めてモンスターと戦闘になったが、
希望の町で装備を揃えたこともあって大して苦戦はしなかった。
俺たちも大魔王のお膝元に生息するモンスターと
互角以上に渡り合えるほど強くなったんだなあと思うとなんとなく感慨深い。
484 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:00:42.82 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126354.jpg

次に俺たちがたどり着いたのは欲望の町。
ここもすでに勇者が過ぎ去ったあとらしい。
希望の町と同じで、知らぬ間に元の世界に戻ってしまったのかと見間違うほどに町は活気に満ちている。

気になるのはここのカジノでロニーが荒稼ぎをしている姿が水晶に映っていたことだが……
試しにカジノへ行って訊いてみると、コイン交換所の人はちゃんとロニーのことを覚えていた。
考えてみれば当然のことだ。
やはりあれだけ大当たりを連発する人間はそうそう居るものではない。
ロニーはここで破壊の鉄球とメタルキングの鎧を手に入れていったらしい……
ますます豪華な装備になっているわけだ。
本当に俺たちは勝てるのだろうか?
485 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:00:58.08 ID:n/I7QRoo
……いや。
確かにロニーは俺たちにはない装備を持っているかもしれないけど、
あいつになくて俺たちにあるものだってちゃんとある。
あっちは一人。俺には頼もしい仲間が四人。
強力な装備の一つや二つ、その差を埋めるのにちょうどいいハンデだくらいに思っておけばいい。

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ここでもまた新たな装備を買っておく。
あれだけあった金もあっという間にすっからかんだ。
ちょっと金遣いが荒すぎた気もするが、それに見合うだけのものは手に入ったはずだ。
486 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:01:13.88 ID:n/I7QRoo
ひとまず欲望の町で一泊してからまた次の町へと向かう。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994971.jpg

途中で道が途切れているのを見たときはびっくりしたが、
適当に探してみたら近くの森の中に隠し通路を発見した。
そこを通って向こう岸へと渡り、さらに進むと城のようなものが見えてきた。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994972.jpg

中に入ってみたが、人の気配がまるでしない。
この石像みたいなものは何なんだろう?
487 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:01:38.73 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994973.jpg

地下へ降りてみて、ようやく俺たちは事態を把握した。
ここの人たちは石にされたり別の生き物に姿を変えられたりしているのだ。
何があったのかは知らないが、これが大魔王の仕業ということだけは確かだろう。
勇者たちはここに立ち寄らなかったのだろうか?
「勇者が去ったあとに大魔王の手が及んだ、という可能性もあろう。
 ……にしても、何ともむごいものじゃ」
かし子は冷静に状況を分析しながらも、石にされた人々へ痛ましげな視線を投げかける。
命を司る世界樹でありながら、目の前の惨状に対して何も手の打ちようがない。
そんな自分をふがいなく思っているのかもしれない。
488 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:01:51.84 ID:n/I7QRoo
いつものように頭を撫でてやろうとしたら、手を伸ばしたところでひょいっとかわされた。
え、なんで?
「気安く触れるでない。わしがいつまでもお主に懐いたままでおると思ったら大間違いじゃ」
かし子がそう言ったのと同時に、その横でパルがため息をついた。
「……何の話をしてんのよ、あんたたちは。こんなときにさあ」
なんだかちょっと怒ってるような。
え、なんだよ。まさかヤキモチ?
「いやはや、まったく。道具屋くんはモテモテで羨ましい限りですね、マジンガくん」
「ゼェェット!」
こんなときでもマイペースを崩さない俺の仲間たち。
それを頼もしく思う反面、何故だかちょっと寂しくなった。
489 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:02:03.77 ID:n/I7QRoo
その城を出てしばらく歩くと、また道が途切れているところに出た。
さっきとは違って今度は隠し通路がありそうな場所も見当たらない。
この先に道がありそうな気がするのだが……勇者たちはどうやってこの先へ行ったのだろう?

他に手もないので、ここは一つ勇者たちも持っていないはずの力を試してみよう。
ダークドレアムから授かった世界を超える力。
それを応用して、目の前の空間と別の空間をつなぎ合わせる。
力を発動した瞬間、やっぱりまた体の奥がずきりと痛んだ。
少なくともみんなを元の世界に連れて帰るまでは俺も倒れるわけにはいかない。
むやみに使わないほうがよさそうだ。
490 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:02:37.84 ID:n/I7QRoo
幾度かの失敗の後、目論見通りに次の空間へと繋がる道を作ることに成功した。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126358.jpg

次の空間に足を踏み入れた瞬間、ずっしりと全身が重くなった。
いよいよ邪悪な気配が濃くなっている。
さぞかしモンスターも強力なやつが生息しているのだろうと思ったら、

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994975.jpg

いきなりメタルキングに出くわした。
逃げずにギラを唱えてきたところにパルの攻撃が急所を直撃。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994977.jpg

大量を経験値を得てみんなのレベルが1ずつ上がった。
決戦を前にしてこれは大きい。
491 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:02:55.80 ID:n/I7QRoo
少し歩いたところにあったほこらでは二人の賢者に出会った。
彼らが言うには勇者たちはデスタムーアとの決戦に備えて一度元の世界へ帰ったらしい。
きっとロニーは城の内部にいるだろうから、
今のうちにムーアの城に乗り込んでロニーを倒してしまえば
勇者一行とロニーの遭遇を防ぐことが出来るというわけだ。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126359.jpg

賢者たちは俺たちが何者なのか承知しているようで、ムーアの城に向かうのを止められたりはしなかった。
ただ一言「頼んだぞ」とだけ口にして、あとは黙って俺たちを見送ってくれる。
492 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:03:21.27 ID:n/I7QRoo
ついにムーアの城へと乗り込む道具屋たち。
ここで恐らく最後になるであろうみんなのつよさ紹介
493 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:03:35.10 ID:n/I7QRoo

ダークドレアムのいちぶ
レベル:37
レンジャー
クロレンジャー

E ほのおのブーメラン
E ほのおのよろい
E ほのおのたて
E ちりょくのかぶと
E くじけぬこころ

ちから:99
すばやさ:116
みのまもり:38
かしこさ:60
かっこよさ:140
さいだいHP:245
さいだいMP:14
こうげきりょく:164
しゅびりょく:203

まものつかい ★★★★★★★★
とうぞく ★★★★★★★★
しょうにん ★★★★★★★★
レンジャー ★★★★★
494 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:03:51.35 ID:n/I7QRoo
パル
おさななじみ
レベル:37
パラディン
キングスナイト

E たいようのおうぎ
E みずのはごろも
E みかがみのたて
E ちりょくのかぶと
E スライムピアス

ちから:148
すばやさ:138
みのまもり:64
かしこさ:97
かっこよさ:181
さいだいHP:286
さいだいMP:134
こうげきりょく:263
しゅびりょく:224

ぶとうか ★★★★★★★★
そうりょ ★★★★★★★★
パラディン ★★★★★★★
495 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:04:03.59 ID:n/I7QRoo
かしこ
せかいじゅ
レベル:38
けんじゃ
アークウィザード

E カルベロビュート
E かしこのはごろも
E みかがみのたて
E スライムメット
E きんのブレスレット

ちから:45
すばやさ:103
みのまもり:30
かしこさ:119
かっこよさ:195
さいだいHP:156
さいだいMP:264
こうげきりょく:142
しゅびりょく:197

ぶとうか ★★★★★★★★
そうりょ ★★★★★★★★
けんじゃ ★★★★★★★
496 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:04:15.97 ID:n/I7QRoo
アモス
へんたい
レベル:37
スーパースター
しねまのほし

E きせきのつるぎ
E ほのおのよろい
E オーガシールド
E ちりょくのかぶと

おどりこ ★★★★★★★★
あそびにん ★★★★★★★★
スーパースター ★★★★★★★★

スーパースターをマスターしているけど、ダーマ神殿に戻っている時間がないのと、
敵をみとれさせて動きを止めるのが地味に大きいのでそのままにしてある。
497 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:04:58.97 ID:n/I7QRoo
マジンガ
マジンガーもどき
レベル:10
ドラゴン
シルバードラゴン

E ビッグボウガン
E ギガントアーマー
E オーガシールド
E グレートヘルム

ちから:202
すばやさ:109
みのまもり:219
かしこさ:3
かっこよさ:90
さいだいHP:290
さいだいMP:0
こうげきりょく:312
しゅびりょく:409

ドラゴン ★★★★★★

元々身の守りが特別高いこいつの装備を敢えて優先したのは、
直接攻撃を全部受けてもらうために他ならない。
技の名前(偽物)を叫びながら戦うせいか、パーティの先頭ということ以上にこいつは敵から狙われるのだ。
498 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:05:19.18 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994979.jpg

ついにやってきたムーアの城。
きっとここにロニーも居るはずだ。
言葉少なになりながら俺たちは奥へと進んでいく。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994980.jpg

さすがに出てくる敵も段違いに強いが、俺たちだって伊達にここまで旅をしてきたわけじゃない。
培った力を存分に発揮して相手をなぎ払いっていく。
499 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:05:35.01 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126360.jpg
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994982.jpg

大魔王の城だけあって造りも複雑だ。
様々な仕掛けやトラップが俺たちの行く手を阻む。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126361.jpg

装備を揃えただけあってマジンガの守備力は盤石だ。
度重なる戦闘の中でも俺たちの消耗は意外なほど少ない。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994983.jpg

進んでいくうちにまたレベルが上がる。
パルはパラディン、かし子は賢者をマスターしたし、俺はついに念願の火柱を覚えた。
なんかもう、俺たちで大魔王を倒せてしまうんじゃね? くらいのノリだ。
でもあくまで俺たちの相手はロニー。
魔王を倒すのは勇者の役目だ。
そこをはき違えるわけにはいかない。

500 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:05:49.22 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994984.jpg

幻に包まれて通路が見えないフロアをなんとか抜けて、テラスへ出たところでロニーが待ち構えていた。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126363.jpg

破壊の鉄球、メタルキングの鎧、オーガシールド、グレートヘルム。
重装備に身を包んだロニーは俺たちの姿を見てちょっと驚いたような顔をした。
501 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:06:01.51 ID:n/I7QRoo
「マジでこんなとこまで来るとはな。ちょっと見直したぞ」
思いっきり上から目線。
正直めちゃめちゃムカついたけど、ここはぐっと我慢だ。

「俺たちを待ってたんじゃないのか?」
ロニーは「はっ」と小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「自意識過剰もいい加減にしろよww 俺だってそんなヒマじゃねえんだ」
「じゃあこんなとこで何してたったのよ?」
負けじと言い返すのはパルだ。
それでもロニーは表情を変えない。
「勇者の相手でもしてやろうかと思ってな」
悪びれもせず言い放つロニーに、かし子は「おやおや」と呆れたようにため息をついた。
「わしらが自意識過剰だというならお主は自信過剰じゃのう。
 お主一人で勇者一行に勝てるとでも思っておるのか?」
「さてな」
まるで他人事のように軽い口調で言って、ロニーは肩をすくめてみせる。
502 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:06:13.18 ID:n/I7QRoo
「別に勝てなくても構わねえんだよ。勇者の邪魔さえ出来ればな」
思わず「は?」と素に戻ってしまう俺。
「何言ってんだよ。お前、そこまで大魔王に忠誠を誓ってんのか?」
「いやいや。お前こそ何言ってんだ。俺がそんなタイプじゃねえってのはお前もよく知ってんだろ?」
確かにその通りだが。
でも、じゃあなんだってんだ?
「ま、言ってもお前にゃあ分かるんねえよ。とりあえず俺はこっちの世界で生きることを選んだってわけだ。
 それだけ分かりゃあお前らには十分だろう?」
言葉は尽きた、とばかりにロニーは破壊の鉄球を構える。
迫り来る戦いの気配に誰もが無言で武器を構える中、一人だけふっと口を開く者があった。
503 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:06:25.20 ID:n/I7QRoo
「つまらないですね」
アモスさんだ。
「こんな女性の一人も居ないようなところで生きて、一体なにが楽しいのです?」
当然のごとくロニーは鼻で笑うだけで歯牙にもかけない。
「女なんてつまらねえ。もうとっくに飽きてんだよ」
「やれやれ。君は人生の大半を損していますよ。
 女体の神秘を知りたいと願う飽くなき探求心。それを理解できないとは、男の風上にも置けませんね」
アモスさんは奇跡の剣をさらりと鞘から抜く。
なんでだ?
言ってることはいつものアモスさんそのものなのに、なんでちょっとかっこよく見えるんだ?
504 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:06:40.83 ID:n/I7QRoo
「ロンガデセオのサリィさん。ガンディーノのシェリスタさん。他にもたくさんの美女が僕を待っているんです。
 こんなところで終わるわけにはいきません。みなさん、行きますよ!」
「ゼェェット!」
いち早くアモスさんの声に反応したのはマジンガだ。
「私ハ正義ノ魔神デス。世界ヲ守ル為ナラバコノ命惜シクハアリマセン」

ああ、そうか。
なんだかんだでこの二人が一番物事の真理を理解しているのかもしれない。
変にややこしく考えるからいけないのだ。
「こいよ。格の違いってやつを教えてやる」
いかにもなセリフを吐いてこちらを挑発するロニー。
こいつは気に入らない。だから倒す。
それ以上何が必要だってんだ?
俺たちはそれ以上無駄口を叩くことはせず、ロニーへと躍り掛かっていった。

最後の戦いの始まりだ。
505 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:06:55.23 ID:n/I7QRoo
ここまで数多くのモンスターと戦ってきた経験から、俺たちはまずロニーの弱点を探すことから始める。
だが大魔王から譲り受けた力とやらのせいで、ロニーにはボス敵としての能力が見事に備わっているようだ。
つまり、二回攻撃をしてくるだけじゃなくて、即死系はもちろん行動妨害系の呪文、特技が一切効かない。
かろうじてルカニは効くようだが、それもスカラで相殺されておしまいだ。
さらには凍てつく波動も使えるらしく、せっかくスクルトで防御力を上げてもすぐに無効化されてしまう。
506 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:07:10.51 ID:n/I7QRoo
一方の俺たちはと言えば、そういった耐性なんてないに等しい。
世界樹としての力か、かし子には呪文封じが効かないようだが、それだけだ。
ロニーの使うマヌーサ、ラリホーマ、メダパニに対しては失敗するのを願うしか対処のしようがない。

さらにはMP節約のためか、
呪文封じにはマホトーンではなく前もって用意していたらしい魔封じの杖を使う徹底ぶりだ。
そうやってこちらを弱体化させておいて、
一方ではバイキルトで強化された破壊の鉄球での直接攻撃で確実にダメージを与えてくる。
バイキルトの効果が出る一撃目は戦闘のマジンガが引き受けてくれるのでなんとか即死は免れているが……
いかにもこいつらしい、嫌らしさ満点の戦い方だ。
507 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:07:33.40 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994988.jpg

「はははは! なんだよお前ら、てんでダメじゃねえか!」
ロニーの余裕の笑みを崩すことが出来ない。
募りそうになる焦燥感と苛立ちをなんとか抑え込んで、可能な限りの落ち着いた声で言葉を返す。
「お前こそ、こんな戦い方をするなんてな。ずいぶんと俺らを警戒してるみたいじゃないか?」
「ああん?」
何言ってんだこいつ、みたいな目でロニーは俺を見る。
「敵の弱点をついて戦うなんてのは基本中の基本だろ。お前らはそんなこともやってこなかったのかよww」
俺の挑発なんて意にも解さず、逆に見下すような視線をこちらに向けてくる。
こちらの攻撃もまったく効いていないというわけではないはずなのだが、どうにもこのままでは勝てる気がしない。
使ってくる呪文や特技から判断して、
少なくともこいつはバトルマスターと魔法戦士、それと僧侶をマスターしているようだ。
いくらダメージを与えてもベホマを使われては一瞬でその効果が消え失せてしまうし、
その気になればザラキでこちらの息の根を止めることだって出来るわけだ。
それをやってこないのは余裕からなのか、何か理由があるのか……
508 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:07:48.68 ID:n/I7QRoo
マジンガはパーティの壁役になりつつ、息攻撃や直接攻撃系の特技で攻撃。
行動が息攻撃ばかりじゃなくなったのは大きな進歩だが、
防御力と耐性に優れた防具に加えてスカラまで使うロニーには
どちらも大したダメージを与えられないのが悲しいところだ。

パルは攻撃と回復を交互にといったところだが、
マホトーンを無効化できないのでそうなったら攻撃に専念するしかなくなってしまう。
ここへくるまでにパラディンをマスターしてグランドクロスを覚えたのだけど、
かし子と違ってパルのMPにはさほどの余裕があるわけじゃない。
今はまだ温存しておくべきだろう。

パルの回復魔法が封じられることが多いので、アモスさんはほぼハッスルダンス要員と化している。
アモスさんのムーンサルトは何気にこのパーティでは貴重なダメージ源なのだが、
状況を考えれば致し方ないといったところか。

かし子はルカニでスカラを相殺しつつ魔法攻撃、
ハッスルダンスで間に合わなくなってきたらベホマやベホマラーで回復。
元々のMPの高さと賢者をマスターしていることも相まって、
高位の魔法を連発してもMPが尽きないのがありがたいところだ。
パルのグランドクロスを除けばこいつのイオナズンが一番安定したダメージを与えられるのだが、
ルカニや回復、さらにはスクルトも使っておきたいとなるとなかなかそこまで手が回らない。

俺はというと、火柱を覚えたことで一気に攻撃翌要員の主力に格上げとなった。
三分の一の確率で失敗するのが悩みどころだが、
耐性で軽減されても140前後のダメージを確実に与えられるのは大きい。
苦しい戦いだが、ダメージをゼロに抑えられているわけじゃない。
耐え続けていればいつかは勝機が見えるはず。
509 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:08:01.35 ID:n/I7QRoo
そう信じて戦いを続けていた、ある瞬間。
ロニーの唱えたラリホーマが見事に効果を発揮して――
なんと、俺以外の全員が眠りに落ちてしまった。

さすがにロニーも予想していなかったようで、ちょっと目を丸くした後、ニヤニヤと笑いつつ俺を見た。
510 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:08:13.84 ID:n/I7QRoo
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「面白いことになったな」
こちらを攻撃するでもなく、つかつかと無造作に歩いて距離を詰めてくる。
俺は火柱を召還――失敗。
仕方なく炎のブーメランを手にとって投げつける。
が、メタルキングの鎧の前にあっけなくはじき返された。
「そう嫌うなよ。ちょっとばかし話をしようじゃねえか」
手を伸ばせばぎりぎり届くか届かないかくらいの距離まで近付いてきて、ロニーは足を止めた。
「お前、俺を憎んでるか?」
「……え?」
その一言に俺はいたく虚を突かれた。
こいつが何故こんなことを言い出すのか。
そいういう驚きもあったけど、そんなことより何よりも、
憎むとか憎まないとかそういった基準でこいつのことを考えていなかった自分に気がついたからだ。
511 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:08:25.48 ID:n/I7QRoo
ロニーのほうがどう思っているかは知らないが、少なくとも俺にとってのこいつは宿敵だ。
そのことに疑いの余地はない。
――でも。
「散々自分のやろうとすることを邪魔されたり、自分の家を燃やされたり。
 憎む要素としては十分だろ?」
まるで俺の憎しみを望んでいるかのような言い草。
それがかえって俺を冷静にさせる。
「……別になんとも。むしろ感謝してもいいくらいだよ。
 お前のおかげで俺は、今まで生きてきた意味があったと思える」
たぶんこのセリフを口にした時の俺はひどく落ち着きに満ちた表情をしていたと思う。
冷笑すら浮かべていたかも知れない。
それを受けて、逆にロニーは一気に逆上した。
ぎりり、と音がしそうなほどに歯を食いしばって、残りの距離を一足で詰めてくる。

レンジャーは素早さに優れた職業だ。
実際、すっかり強くなった今のパーティでも俺の素早さはパルに次いで二番目に高い。

それでも間に合わなかった。
ロニーはパルもかくやという凄まじい勢いで俺の懐に潜り込んできて正拳突きを放つ。
ああ、こいつも努力してるんだなあ。
半ば感心にも似た思いを抱きながら、バイキルトで倍加された打撃を叩き込まれて、俺の意識は暗転した。
512 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:08:37.01 ID:n/I7QRoo
夢か幻か。
それってこういう時に使う言葉なんだっけ。
まあいいや。
とにかく俺は夢とも幻ともつかない奇妙な光景の中に居た。

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情けなくへたり込んでいる一人の子供と、それを見下ろして立っている、少し年上の子供。
映像ははっきりとしないけど、なんとなく分かった。
へたり込んでいるのが俺で、見下しているのがロニー。
親父はモンストルに居なくて、母さんはベッドの上で寝たきりで。
そんな時期、パルに何か用事があったり他の子供と遊んだりしているときには大抵こういうことがあった。

513 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:08:48.22 ID:n/I7QRoo
痛みとか恐怖とか、そういうものは不思議とあまり記憶にない。
ただ、俺を殴るときのロニーの顔。それだけが強く印象に残っている。
嘲るでもなく、サディスティックに歪んでいるわけでもなく。
ただ本当に、親の敵でも殴るみたいに悔しげな表情でロニーは俺に暴力をふるった。
さっきあいつは俺に「憎んでるか」と訊いたけど、
どちらかというとあいつが俺を憎んでたんじゃないだろうか。
ま、その理由にはちっとも心当たりがないわけだけど。
514 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:08:59.49 ID:n/I7QRoo
次に目覚めたとき、目の前にはかし子の顔があった。
昏倒した俺をザオリクで蘇らせてくれたのだろう。
「状況は?」
即座に起き上がりつつかし子に問う。
「何も変わっておらぬ。お主も早く戦列に復帰してくれ」
「分かってる」と短く答えて再びブーメランを手に取る。
ロニーを取り囲むパル、アモスさん、マジンガの輪に俺も加わる。かし子は後方から支援だ。
515 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:09:12.78 ID:n/I7QRoo
五対一という状況にもかかわらず、表情に余裕がうかがえるのはロニーのほうだ。
マジンガのメタル斬りが、パルの正拳突きが、俺の火柱が続けざまにロニーを襲っても、
重装備とスカラに守られたその立ち姿は一行に揺るがない。

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破壊の鉄球が容赦なく俺たちを打ち付ける。
ごっそり持って行かれた体力をかし子のベホマラーとアモスさんのハッスルダンスで回復したとき、
ロニーがいまいましげに舌打ちした。
516 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:09:26.21 ID:n/I7QRoo
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「めんどくせえな」
吐き捨てるように言って、ロニーはついにベホマを唱えた。
苦労して積み重ねたダメージが瞬時に回復してしまう。
「そんな……」
誰かが呆然と呟くのが聞こえた。
分かってはいたのだ。僧侶をマスターしている以上、こいつにも回復魔法が使えるはずだということは。
でもいざこうやって現実を突きつけられると絶望にも似た徒労感に全身が包まれてしまう。
俺たちが何度も何度も攻撃を繰り返して蓄積させたダメージを、
こいつはたった一回のベホマで回復できてしまうのだ。
一体どうしろと? どうやったら勝てるんだ?

「そんな顔するのはまだ早いぜ。本当の絶望はここからだ」
嘲りに満ちた笑みと共に、ロニーは勝利の確信に満ちた声を出す。
「デスタムーアから授かったのが耐性と凍てつく波動だけだと思うなよ。俺はお前らなんぞとは違うんだ」
そう言ってロニーは聞いたこともない呪文の詠唱を始める。
517 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:09:55.59 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994995.jpg

大地が震えている。
圧倒的な破壊の予感に全身が怖気立つ。
俺の生存本能が告げている。
今すぐにここから逃げ出せ、と。
でも……どこか別のところではどこか諦観にも似た念が生まれていた。
きっともう、間に合わない。
「食らえ。究極魔法――マダンテ!」
518 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:10:06.24 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader994996.jpg

認識できたのは、視界が炎の赤で埋め尽くされたこと。
「――!」
爆音に紛れて、誰かが俺の名前を叫んだのがかすかに聞こえた。
仲間たちを気遣うひまもない。
すさまじい衝撃に全身を打ち付けられて、まるで風に吹かれた木の葉みたいに自分の体が宙を舞うのを感じて――
俺の意識はそこで途絶えた。
519 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:10:16.77 ID:n/I7QRoo
目を覚ませ。
己の内側から聞こえる声にせき立てられて、
闇の底に沈んでいた俺の意識はゆっくりと浮上する。
520 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:10:31.11 ID:n/I7QRoo
「よう、目が覚めたか?」
まだ視界はきかない。
すべてがぼやけた闇の中で、
それでもかすかに聞こえたその声が自分に向けられたものではないことだけは分かった。
「まさかこんなおあつらえ向きな状況がやってくるなんてなあ。世界樹の葉を持っててよかったぜ」
どすり。柔らかい何かを蹴りつける音。誰かのうめき声。
すぐに分かった。パルだ。

「おら、顔上げろ。顔上げてちゃんと見ろよ。
 お前が余計なことをやったせいで巻き込まれちまったお仲間たちの姿をな」
パルの声は聞こえない。きっと魔封じの杖で言葉を封じられているのだろう。

俺は再び途切れようとする意識をなんとかつなぎ止めて、
かすかに戻った視界の中に惚れた女の顔をどうにか捉える。
「おお? 見ろよ。あいつ気がついてんじゃね? なんつーしぶといヤローだ」
パルはうつぶせに倒れていて、
その背中にロニーが乗っかって後頭部のポニーテールを掴み上げて強引に俺のほうを向かせている。
521 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:10:43.31 ID:n/I7QRoo
「でもさあ、あいつも今から俺に殺されんだぜ。
 お前のせいで、お前が余計な仏心を出して花なんぞを助けたせいで、あいつは死ぬんだぜ」
やはりパルは言葉を封じられているようで、口をぱくぱくさせるだけで何も言えない。
ただはらはらと涙を流して、後悔と絶望に満ちた視線をこちらへ向けるだけだ。
「ほら、ちゃんと謝れよ。ごめんなさいって言ってみろよ。私のせいであなたを死なせてごめんなさいってなあ!」
パルは声なき声で何度も何度も繰り返す。
ごめんなさい。あなたを巻き込んでごめんなさい。
522 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:10:55.66 ID:n/I7QRoo
――ダークドレアムよ。

お前は大魔王デスタムーアをも上回る力の持ち主なんだろう?
だったらケチケチすんなよ。
惚れた女が泣いてるんだ。
ちょっとくらい力を貸せ。
立ち上がるだけでいいんだ。
立ち上がって、あのクソ野郎の横っ面を一発ぶん殴ってやる分の力だけで構わない。
後先になんぞ構っていられねえ。
今この時が、俺の命を燃やし尽くすときなんだ!
523 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:11:06.51 ID:n/I7QRoo
全身に行き渡った熱い血潮が、身体の感覚を戻させる。
まず動いたのは手。ぐいと地面を押して状態を起こす。
そこを支点にして、今度は膝を立てた。
右足、左足。まるで馬の赤ん坊みたいな危なっかしい足取りで、ゆらりと俺は立ち上がる。
524 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:11:18.08 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126369.jpg

炎のブーメランが、炎の鎧が、まるで俺の鼓動と呼応したみたいに熱い。
驚愕の表情でもって俺を見上げるロニーに向かって、俺は手に馴染んだそいつを放った。

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「がはっ!」
ブーメランが命中したみぞおちの辺りを両手で抑えつつ、ロニーはよろよろと二、三歩後じさった。
525 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:11:31.42 ID:n/I7QRoo
と、その時だ。
「精霊よ。僕の歌を聞き届けなさい!」
アモスさんの詠う精霊の歌が辺りに木霊した。
倒れ伏すかし子に、マジンガに、活力が戻ってくる。
あの人……もしかして、密かに気がついていて、ずっと歌い続けていたのか?
「でかしたぞアモス! 奴はスカラの効力が切れておる。今が勝機じゃ!」
「ゼェェット!」
かし子はマジンガにバイキルトをかける。
「アイアンカッター!」

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126370.jpg

威力が二倍に膨れあがったマジンガのメタル斬りが、ついにメタルキングの鎧を砕いた。
526 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:11:52.91 ID:n/I7QRoo
「ぐうっ」と低く呻いて、ロニーはついに地面に膝をつく 。

「わしのとっておきじゃ。いでよ、バズウ!」
かし子が天高く手を掲げると、空中に描かれた魔方陣から威厳溢れる一人の賢者が現われた。
賢者は手にした杖をおもむろにロニーへと向けると、声高に叫ぶ。
『地獄のいかずちよ!』

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地獄から呼び出されたいかずちがあたりををなぎ払う。
ロニーは大きく吹き飛ばされて、二度、三度と地面をバウンドした。
527 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:12:08.40 ID:n/I7QRoo
「よくも好き放題言ってくれたわね……」
最後にゆらりと立ち上がったのはパルだ。
どうやら自身に回復魔法をかけたようで、服はぼろぼろだが身体の傷はもう癒えている。
「あんたなんかに言われなくても、ちゃんと分かってんのよ!
 あたしはあたしの手で決着をつけるためにここまで来た。今がその時よ。
 覚悟しなさい!」
パルは大きな身振りで空中に十字を切る。

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まるで狭間の世界の闇をまるごと打ち払うみたいなグランドクロスの光が、ロニーの身体を貫いた。

それが、最後の止めだった。
528 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:12:45.99 ID:n/I7QRoo
「く……そ……っ」
仰向けで地面に倒れたロニーは何度か咳き込みつつ吐血してから、悔しげに呻いた。
「なんでてめえなんぞに……この俺が……」
ふん、とかし子は鼻を鳴らす。
「己の慢心が招いた結果じゃのう。
 マダンテなど使わずに搦め手で戦い続けていれば勝利はお主のものだったじゃろうに」
「……てめえらのしぶとさなんざ計算に入れられるか。くそったれが」

また数度咳き込んで血を吐いてから、ロニーは目だけ動かして俺を見た。
「いいことを教えてやる。俺はな、ずっと昔からお前がうらやましかったんだよ」
言われた意味が分からなくて、俺はただロニーのぼやけた瞳をじっと見返して答えを求める。
「俺が一番嫌いなものは何かって、平穏ってやつだよ。
 裕福な家に生まれて何不自由なく暮らして、町長になって、特別なことなんて何もないまま死んでいく。
 そんな面白くもなんともねえ物語がどこにある?」
それはきっと俺が求めてやまなかったもので。
でもこいつはそれが不要だと言う。
「そこへ行くとお前はどうだ。両親は町で唯一のよそ者で、何やら訳ありの様子。
 んでその両親も父親は行方不明、母親は病気で死んだときた。
 いかにも物語の主人公的じゃねえか。それに――」
ちらり、とロニーはパルに視線を送る。
529 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:13:15.90 ID:n/I7QRoo
「そいつだって、なんだかんだでいつもお前にべったりだ。
 町長になる俺の花嫁候補だったってのによ」
そう語るロニーの目を見てなんとなく分かった。
こいつ、もしかして本気でパルのことを?
「女とは数え切れないくらいヤったが、どうもだめだ。いつもいつもそいつの顔がちらつきやがる。
 ……なあパル、教えろよ。一体俺の何が気に入らなかった?」
話をふられて、パルは大きくため息をついたあと、ゆっくりとこう言った。
「分かった。この際だからはっきり言ってあげる。
 男は見た目じゃなくて中身……だとか言うけどさ。あんたは見た目も中身も最悪ね。
 あんたと付き合うくらいならそれこそ魔王の后にでもなったほうがまだましよ」
ロニーは一瞬絶句したあと、「くくっ」とくぐもった笑い声をもらした。
そしてまた咳き込んでは吐血を繰り返す。
「そうかい。なんともまあ、嫌われたもんだ」
言って、ロニーは側に落ちているあるものを手に取った。
ロンガデセオのカジノで手に入れた隼の剣。
まさかこいつ、まだやる気なのか?
530 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:13:29.92 ID:n/I7QRoo
「俺は誰とも慣れ合わねえ。今さら現世に戻るなんざまっぴらごめんだ」
隼の剣を杖代わりにして地面に突き立て、それを支えにふらふらとロニーは立ち上がる。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126373.jpg

「あばよ。永遠に俺の勝ちだ」
最後まで嘲るような笑みを崩さないまま、本当に自然な動作で、まるでそうするのが自然だとでもいうように、
ロニーは己の胸を深々と剣で貫いた。
一瞬遅れて、ごぽりと大量の血がロニーの口からこぼれ落ちる。
やがて力を失ったその体はどさりと地面に倒れ伏して、あふれ出た赤黒い血が血だまりとなって床に広がっていく。

馬鹿なことを、とは思えなかった。
俺だって人のことは言えない。戦いが終われば現世とはお別れなのだ。
ロニーはロニーなりの生き方を貫いた。
俺もまた然り、ってことだ。
531 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:13:43.99 ID:n/I7QRoo
と、その時だ。
「おや、君たちは……」
ふいにあさっての方向から声が聞こえてきた。
振り向くまでもなく、すぐに気がつく。
こんなところまでやってくる人間と言えば心当たりは一つしかない。勇者たちだ。
「みんなずいぶんとボロボロだけど何かあったのかい? それに、そこに倒れている人は……」
この期に及んで隠す意味もないだろう。俺はかいつまんで説明してやった。
話しているうちに気がついたのだが、どうも勇者たちはかなり疲弊しているようだ。
さらに言えば、8人いたはずのパーティは何故か5人にまで減っている。
これは一体どうしたことか。
532 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:13:55.82 ID:n/I7QRoo
訊いてみたところ、勇者イザはとつとつと語り出した。
テリーがタイガークローに投げ飛ばされて何処かへ飛んで行ってしまったこと。
ルイーダの酒場へ行けばまたパーティに迎えることは出来るのだが、
どうせ最後の戦いにはついてこれない(戦力的な意味で)のでそのままにしておいたこと。
そして、牢獄の町で戦ったアクバーという魔王があまりにも強敵で、
ハッサンという人と仲間モンスターのスライムナイト、ピエールが重傷を負って
パーティからの離脱を余儀なくされたこと。

そういえばすっかり意識の外だったが、婆さんが言ってたっけ。
ロニーが集めてきた魔物の魂だかのせいでアクバーが強化されてしまったと。
すると、テリーはともかくハッサンとピエールのことについては運命が乱れてしまった影響ということか。
533 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:14:10.80 ID:n/I7QRoo
運命。勇者が大魔王を倒すということ。
でもここまでくれば運命なんてものにいかほどの意味があろうか。
要は大魔王を倒せればいいのだ。
最終的にそれが達成されるのだったら多少のイレギュラーが含まれても問題はない。

俺はロニーの亡骸のところへ歩いて行って、あるものを拾い上げる。
俺たちを散々に苦しめてくれた最強の武器、破壊の鉄球。
それを手にして、自分の手でそれを扱うことが出来ることを確かめてから、俺は仲間たちを見た。
パルとかし子はもうMPが尽きていて本来の力を発揮できないだろう。
アモスさんにしても昏倒に近い状態から無理して精霊の歌を歌ったりしたのが祟ったのか、
疲れ果てて地面にへたり込んでいる。
まだ戦えそうな仲間と言えば――
「マジンガ。まだやれるか?」
「ゼェェット!」
「……よし。やれるんだな? やれると判断するぞ」
534 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:14:22.06 ID:n/I7QRoo
勇者に俺たちが手伝うことを申し出ると、さすがに遠慮している場合じゃないとわきまえているからか、
申し訳なさそうな顔をしつつも了承してくれた。
心配そうな目を向けてくる仲間たちに「必ず勝つから」と言い置いて、
勇者と共に大魔王デスタムーアのもとへと向かう。
正直に言うと、俺が一番戦いに耐えられる体じゃないのかも知れない。
先ほどの無理が祟ったみたいで、例の脊髄にヒビが入るみたいな痛みがひっきりなしに走っている。
でもあと少しだ。大魔王さえ倒すことが出来れば全てが終わる。

――さあ。
世界を守るために人間でありつづけた勇者と、
惚れた女を守るために人間をやめた愚者。
最初で最後の共演だ。
535 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:14:39.35 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995017.jpg

大魔王デスタムーアと勇者の戦い。
さすがは勇者一行というべきか、みなの力は凄まじい。
マジンガの攻撃翌力、守備力はその中でも貴重な戦力だが、なかなか俺にまでは出番が回ってこない。

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勇者の必殺技、ギガスラッシュ。
その威力は凄まじく、俺の出る幕なんて最後までないかと思われたが……

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デスタムーアが最終形態に変身したときに、俺の時代がやってきた。
本体、右腕、左腕の三つに別れたこの形態にも、
先ほど俺がロニーから譲り受けた(奪った?)破壊の鉄球なら三体まとめてダメージを与えることが出来る。
ドランゴという仲間モンスターの吐く灼熱の炎と合わせて貴重なダメージ源となった。
途中、集中攻撃を受けた勇者が倒れてしまうアクシデントもあったが、最後に勝ったのはやはり勇者だった。

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運命を守るための戦いはここに終結した。
536 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:14:56.25 ID:n/I7QRoo
嘆きの牢獄で出会ったマサール大賢者の導きにより、勇者たちは崩れゆく狭間の世界から脱出していく。
俺も急いで仲間たちのところへ戻って、全身に走る痛みに耐えながらダークドレアムの力で脱出口を作った。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995020.jpg

みんながゲートを潜って元の世界に戻ろうとしたその時だ。
どこからともなく声が聞こえた。
『我が一部よ、選択の時だ』
きっと俺にしか聞こえないはずの、ダークドレアムの声。
『このまま消滅をするか、我と共に永遠を生きるか。貴様の好きな方を選ぶがよい』
実を言うとこの答えはもう決めている。
大した動揺もなく、俺は声に出さずに答えた。
『あんたのところへ行くよ。そこから世界の行く末を見守ろうと思う』
『……よかろう。ではこちらへ来るがよい』
狭間の世界のそれとは質の違う、異次元の闇が俺を包んでいく。
きっと全身が完全にこの闇にのまれたとき、俺は世界から切り離されて異次元の住人となるのだろう。
537 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:15:07.83 ID:n/I7QRoo
最初に俺の様子がおかしいことに気付いたのはパルだった。
「……? あんた、なにやってんの?」
俺が開いた脱出口を潜ろうとする一行から俺だけが遅れている。
パルのセリフで他のみんなもそれに気付いたようで、いっせいにこちらへ振り向いた。
交錯する俺の視線と四つの視線。
別れのとき、ってやつか。

あんまし湿っぽくはしたくない。
出来るだけ軽い調子を作って俺は言う。
「ごめん。一緒には戻れないんだ」
四人の反応は様々だった。
パルはわけが分からないというふうにぽかんとしていて、アモスさんは目を見開いて驚いている。
マジンガは表情が変わらないので何を思っているのかは分からない。
538 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:15:24.43 ID:n/I7QRoo
そんな中でいち早く理解を示したのはかし子だった。
「お主……まさか、それがあの時言っておった『言わない方がかっこいい』ことというやつか?」
思わずため息が出た。
やれやれ。察しが良すぎるってのも考え物だな。
「なにそれ。どういうこと?」
そう言ってくるパルの顔からは、「信じたくない」という気持ちがありありと窺える。
こいつの気持ちを考えると、きっと訳が分からないまま居なくなられるというのはさすがに辛いだろう。
「狭間の世界に来るための力を得るための代償だったんだ。
 勇者とデスタムーアの戦いが終われば現世とおさらばしないといけないってさ」
「え……」
パルは一瞬絶句したあと、声を荒げて詰め寄ってくる。
「なんであんたがそんなことしないといけないのよ! あんたには何の責任もないじゃない!」
「責任だとかそういう問題じゃないんだ」
そう言って俺は首を横に振る。

お前のためだ――そう言ってしまいたいのは山々だけど、
そんなことをすればこいつはきっと一生苦しむことになるだろう。
独善的でも構わない。俺はさっき、涙ながらに声なき謝罪を繰り返すパルを見て確信したんだ。
俺のやったことは正しかったって。
539 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:15:37.65 ID:n/I7QRoo
「ごめん。もう何を言われても変えられないんだ。
 今まで黙ってたことは謝る。でも……頼むから分かってくれ。こうするしかなかったんだ」
パルは顔を俯けて黙り込んだ。前髪が影を落として表情が見えなくなる。
じっとこちらを見つめるかし子、心配げにパルを気遣うアモスさん、何もせずに立ち尽くしているマジンガ。
崩落していく狭間の世界の中でみんなに沈黙が落ちる。
「……認めない」
ぽつりと呟いたあと、パルはぐいっと顔を上げる。
強い意志の籠った視線が俺を真っ直ぐに射貫く。
「認めないわよそんなの! あんた一人が犠牲になってみんなが助かるなんて、そんな――」
「来るな!」
こちらへ駆け出そうとするパルを、腹の底から声を出して制する。
「早く行けよ! このままじゃあ世界の崩落に巻き込まれるぞ!」
540 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:15:53.14 ID:n/I7QRoo
俺は四人の仲間たちの顔をぐるりと見渡して、最後にアモスさんを見る。
こういう時に冷静な判断をしてくれそうな人と言えばこの人だ。
「俺は死ぬ訳じゃない。ちょっと遠い場所へ行くってだけだ。
 そこからずっとみんなのことを見守ってる……見守ってるから……それで……」
くそっ。なんで言えないんだ。
「見守ってるからそれで満足だ」って、ここは嘘でもそう言わなくちゃいけないところだろ?
なんで俺はこんなときにヘタレっぷりを発揮してんだよ。

どうしても言葉が続かなくて、顔を俯けてしまった――その時だ。
まるでそのまま押し倒すみたいな勢いで、パルが体ごと思いっきり俺の胸にぶつかってきた。
思わずよろめいてしまいながら、押しつけられる温かな感触をどう受け入れていいのか分からず持て余してしまう。
「うそつき……」
俺の背中に腕を回してパルはぎゅっとしがみついてくる。
「ずっと一緒に居てくれるって言ったじゃない。責任とりなさいよ……」
肩を震わせてパルは子供のように涙をこぼす。
ああ、やっぱり俺は駄目なやつだ。
惚れた女のためとか言いつつ、結局こいつを悲しませてしまうのか。
541 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 19:16:36.51 ID:n/I7QRoo
「パル……」
一番言いたいのは「好きだ」の一言。
それは口にできないけど、せめてこれくらいは伝えておかないと。
「お前には本当に感謝してる。お前が居てくれたから俺は今まで生きてこられた。
 今の俺があるのはみんなお前のおかげだ」
「……お礼なんていらないから。ずっと一緒に居てよ。お願い……」
こいつらしくない弱々しい声。
でも本当は俺も分かっている。
男勝りな元気いっぱいの姿も、こうやって子供みたいに泣いているのも、
みんなひっくるめてパルという一人の人間なんだ。
だから俺は守りたいと思った。いつもこいつが笑顔でいられるように。
「ごめん」
パルの肩を両手でつかんでぐいと引き離したとき、まるで自分の一部を引き剥がされるみたいな痛みが全身を走った。
どん、とパルを突き飛ばして距離をとった瞬間、まるで謀ったみたいなタイミングで闇が俺の全身を包み込む。

「――!」

全てが真っ黒に染まっていく中で最後に俺が聞いたのは、俺の名前を呼ぶパルの悲痛な叫び声だった。
542 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 19:18:39.36 ID:n/I7QRoo
おわり







ではありませんが、少し休憩。
あと少しなので今日中に終わることができそうです。
543 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 21:24:34.05 ID:n/I7QRoo
再開します。
544 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:25:17.70 ID:n/I7QRoo
「……ん?」

目を開けると、変な空間が目の前に広がっていた。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995022.jpg

絵だ。それも女の子のばかり。
現世では見たことがないような、どうやって書いているのか分からないような女の子の絵が、
これまた現世では見たこともないような紙に描かれていて、それがそこら中に張り巡らされている。
あるものはにこやかな、またあるものはツンツンした表情で、
絵の中の女の子たちは一様にこちらへと視線を向けている。

なんだか妙な気分だ。
決して足を踏み入れてはいけない領域に踏み込んでしまったかのようなこの感覚はなんなんだ?

「何を惚けている?」
声をかけてくるのは他でもない、ダークドレアムだ。
グレイス城で見たのとは違ってちゃんとした実体の姿。
ムキムキの筋肉がむき出しになったその格好は一件この部屋にミスマッチのように思えて、
それでいてなんだかすごく似合っているようにも見えてくるから不思議だ。

やつは白い箱のようなものと向き合って座っていて、
よく見るとその白い箱のようなものにも紙に描かれているのと同じような女の子が映っている。
しかも箱に映っているものはどうやら動いているみたいだ。
絵をめくる必要のない紙芝居と言えば分かりやすいだろうか?
どういうからくりなのかはちっとも分からないが……もしかしてこれもダークドレアムの魔翌力?
だとすると何という才能の無駄遣いだ……
545 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:25:28.67 ID:n/I7QRoo
「ぼけっとしてないでPCでもやったらどうだ? ほれ、ちゃんと貴様のぶんも用意してあるぞ」
ダークドレアムの指さす先には確かに同じような箱がもう一つある。
もしかしてあれは何かの機械なのか?
でも使い方が分からないんだけど……

俺が困った顔をしているのを見て察したらしく、
ダークドレアムはめんどくさそうにしながらも意外なほど丁寧に「パソコン」とやらの使い方を教えてくれた。
もしかするとこいつ、仲間が欲しかったのか?
「お前はジオラマが気に入っていたのだったな。ならばこういうのはどうだ?」
説明ではキーボードという名前らしい文字盤みたいなものをダークドレアムがカチカチと操作すると、
パソコンの画面の中にいろんな画像が表示された。
546 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:25:40.42 ID:n/I7QRoo
「プラモデルというものだ。気に入ったものがあれば異世界から取り寄せてやるぞ?」
そう言い置いて、ダークドレアム――いいかげんこの呼び名も長いな。ドレアムでいいか。
ドレアムは自分のパソコンへと戻っていく。
教えられた通りにマウスとやらを操作して表示された画像を見ていっていると……
「お? なんだこれ?」
気になるものを見つけた。
なんだろうか。例えるなら鉄で出来た銀色の鳥? いや、トンボと言った方が近いだろうか。
先端の尖った筒みたいなものに翼みたいなものがついた鋭角的なシルエット。
何に使うものなのかは分からない。分からないのだけど、何故だか男心をいたく刺激される。

決めた。これを取り寄せてもらおう。
547 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:25:52.22 ID:n/I7QRoo
そうして取り寄せて貰った「プラモデル」とやらを組み立てながら、俺はパソコンを通していろんなものを見た。
どういうわけか、こいつには現世でのあらゆる出来事が記録されているのだ。
548 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:26:02.52 ID:n/I7QRoo
ガンディーノで兵士をやっていた一人の男の物語。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126378.jpg

男は最初、腐りきった王権にこれといった不満を持っていたわけでもなかった。
城を構成する一つのコマとなりきって、ただ安穏と日々を過ごす。
たまに王のおこぼれに与って女を抱く。
そんな生活で構わない。決して特別なものなどは求めない。それが男の生き方だった。
549 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:26:14.10 ID:n/I7QRoo
しかし、それは男がある一人の女と出会ったことで一変する。
女は城に集められた者の中ではとりわけ美しかったわけでもない。
男が惹かれたのは一度抱いたその女の優しさと、いくら体を汚されようとも決して曇ることのない済んだ瞳だった。
人目を忍んで逢瀬を重ねた二人は、
「いつかこの城を抜け出してどこか静かな土地で穏やかな暮らしを営もう」
と約束し、やがてそれを実行に移す。

傷だらけになりつつもどうにか追っ手を振り切った二人は、人里離れた山奥の教会でひっそりと結婚式を挙げた。
550 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:26:27.34 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995024.jpg

参列者の居ない、二人と神父だけの結婚式。
でも二人はこれ以上ないほど幸せに笑っていた。
『ねえ、あなた』
式の最中、女は男に語りかける。
『この子にはどんなふうに生きて欲しい?』
言って、女は愛おしげに己の腹を撫でる。
そう、この時のはもう女の腹に一人の子が――俺が、宿っていたのだ。
『んー、そうだなぁ』
少し考えて、男はこう答える。
『そいつにゃあ、こんな苦労はさせたくねえなあ。静かな町で平和な暮らしをしてほしいもんだ』
そうね、と女は微笑む。

551 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:26:42.52 ID:n/I7QRoo


「……ごめん、親父。母さん。それはもう無理っぽい」
552 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:26:53.12 ID:n/I7QRoo
結婚式を終えて正式に夫婦となった二人は、やがて求めていた静かな町――モンストルへとたどり着く。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126379.jpg

町の人間に馴染むのには少し時間がかかったものの、
そこでの暮らしはまさしく二人が求めてやまなかったものだった。
やがて生まれた一人の赤ん坊と共に過ごす穏やかな時。
これ以上ないほどの幸せが二人を包んでいた。

553 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:27:06.86 ID:n/I7QRoo
しかし、女の笑顔に中で時折ちらつく影に男は気がついていた。
かつての友たちは今もガンディーノで虐げられているというのに、
自分だけこのような幸福を手に入れていいのだろうか。
その思いがまるで切り離すことのできないしこりのようになって女の心をずっと苛ませていた。
男はそれに気付きつつも、何もしてやれない自分をふがいなく思っていた。
554 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:27:17.31 ID:n/I7QRoo
その心労が祟って、なのかどうかは分からないが、女はやがて致死性の病に冒されてしまった。
治療する薬を探すため、男は妻と息子を置いて世界中を旅して回る。
が、個人で手に入れられるような代物などたかが知れている。
男が持ち帰ったいくつかの薬は効き目を示すことなく――女は三十代半ばにしてこの世を去った。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995028.jpg

愛する女の亡骸を抱きながら、男は決心する。
女の心残りを自分が晴らしてやろうと。
555 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:27:29.10 ID:n/I7QRoo
ガンディーノでの戦い。
己の正義を振りかざして戦地に赴く革命軍の中で、男の風貌はいかにも異質だった。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995029.jpg

『てめえらの王様をぶっ殺そうってんだ。格好つけてみたところで俺たちなんざ一介の犯罪者にすぎねえのさ。
 勝たねえ限りはな』

戦いの意義を問われたときの、それが男の答えだった。
若者が多かった革命軍の中では反発する者も居たが、
男は現実を見据えたその言動と自身の勇猛な戦いぶりで信頼を勝ち取っていく。
556 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:27:41.67 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995030.jpg

戦って戦って、幾重にも積み重ねた屍の上に、やがて男自身も倒れることとなる。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995031.jpg

『……すまねぇ』
いまわの際、最後に男はぽつりと呟いた。
それが誰に向けてのものだったのか、それは男本人にしか分からない。
557 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:27:53.25 ID:n/I7QRoo
俺は大きく息をつく。

「言いたかないけど……やっぱり俺たちって親子だよなあ、親父」
558 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:28:10.89 ID:n/I7QRoo
親父の過去を見終わった俺は、約束通りに現世の様子を見守ることにする。

現世ではちょっとした異変が起こっていた。
デスタムーアを倒せば消えて無くなるはずだった上の世界が何故か残っているらしい。
一部地域では魔物もまだ生息したままなのだとか。
何でだ?
559 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:30:29.18 ID:n/I7QRoo
で、パルたちはそんな上の世界を旅して回っている。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126380.jpg
勇者たちから馬車と装備を譲り受けたようで、強力な武具に身を包んで、大きな馬車を引き連れての優雅な旅だ。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995033.jpg
馬車が手に入ったことでモンスターを仲間にすることが可能になった。
俺が魔物使いをやっていたときは何の役にも立たなかったのに……と思うと複雑な気持ちもあるが、ともかくダークホーンの新メンバーのアンクルが仲間に加わったらしい。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126381.jpg
それと、正直忘却の彼方に押しやってしまっていたマリリンも再び仲間に迎えられた。
あいつはサンマリーノのカジノに居場所を見つけたはずなのだが……
それすらも駆り出さないといけないほどの事情があるのだろうか。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995035.jpg
北の洞窟で拾ったはぐれの悟りを使ってアモスさんがはぐれメタルに。
大魔王はもう居ないのにこれ以上強くなって一体どうするつもりなんだ?
560 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:30:40.05 ID:n/I7QRoo
どうやらこの三つが世界を旅していた目的だったらしく、
次の日からは来る日も来る日も魔術師の塔に通い詰めては戦闘を繰り返し始めた。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126384.jpg

マジンガが輝く息を覚えたらしく先制の二回攻撃でほとんどの敵を倒してしまうので、
他のメンバーは見てるだけのことが多いのだが、それでもちゃんと全員に経験値と熟練度が割り振られるから不思議だ。

というか、問題はそこじゃなくて。
一体あいつらは何をやってるんだ?
まさか旅をしていた時間が長かったから、戦闘無しでは生きられない体になってしまった?
そこまでいかなかったとしても、趣味で修行をしているのだろうか。そうとしか思えない。
だとしてもわざわざアンクルを仲間に加えた意味が分からないが……
561 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:30:51.59 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995037.jpg

戦い続けるうちにかし子がバトルマスターをマスターした。
あいつがバトルマスターって……
ものすごい違和感だ。

見ているうちに、どうも趣味や道楽でこんなことをやっているのではないと分かってきた。
みんなろくに休みもせず、一心不乱に戦い続けているのだ。
パルなんてちょっと顔がやつれてきているようにさえ見える。
一体何なんだ?
もうやめろと言いたいのは山々なんだが、ここからではそれも叶わない。

562 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:31:02.66 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995038.jpg

積み重ねた修行の果て、ついにパルとかし子が勇者になるときがやってくる。
全ての頂点に立つ究極の職業。
なにがここまでパル達を駆り立てているのだろう?

アモスさんははぐれメタル、マジンガはドラゴンと加入が遅かったぶんで勇者への転職はまだだ。
新メンバーのアンクル、マリリンについては言うに及ばずといったところか。
というか、こいつらをパーティに加えたことの意義が未だに見えてこない。
今のところずっと馬車に入ったままで一度も戦闘に参加していないのだが……
563 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:31:19.66 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126386.jpg
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995041.jpg

勇者達から譲り受けたアイテムを使ってまたかし子の羽衣を強化したり、
おしゃれな鍛冶屋でオーガシールドを強化したり。
どう見ても何か大きな戦いに備えているようにしか見えないのだけど、何をするつもりなのかは分からないままだった。

それがようやく分かってきたのは、パル達がさらに修行を重ねて、
アモスさんまでもが勇者になるときになってからのことだ。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995042.jpg

ダーマ神殿の地下からどこかへと向かうパル達。
俺としてはダーマ神殿にこんな場所があったこと自体知らなかったので、
みんながどこへ行こうとしているのかなんて分かるわけがない。
564 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:31:35.43 ID:n/I7QRoo
ただ、こいつなら知っているかも――と思って、今日も今日とてエロゲに励むドレアムに訊いてみたところ、
邪魔をされてめんどくさそうな顔をしつつも奴はこんなふうに答えた。
「なるほど。この者達はどうやらここへ来るつもりのようだぞ」
「え、ここへって……この次元の果てへってことか?」
信じられないような気持ちで聞き返した俺の言葉に、しかしドレアムは頷きでもって答える。
「あの扉を開くには全ての職業の熟練度を星五つまで上げなければいけないはずだが……
 どうやら貴様はよほど仲間に想われているらしいな。
 ここへ来るまでには長く険しき道のりを超えなければいけないが、この者達は十分に準備が出来ているようだ」

みんなが何のために必死の形相で修行に励んでいたのか、
なんのためにマリリンとアンクルを仲間に迎えたのか。
その理由がようやく分かった。
でも……
「もっとも、ここへ来たところでこの者達に出来るのはせいぜいが貴様と会話することぐらいだ。
 貴様が我の一部であることは今さら変えられぬ」
そう。たったそれだけのためにみんなはあんな努力をしたというのだろうか?
気持ちは嬉しいけど俺としては複雑だ。

みんなには俺になんて構わず新しい生き方を見つけて欲しい。
俺だってようやく「自分は現世と切り離された存在なのだ」と納得できるようになってきたところなのに……
565 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:32:05.92 ID:n/I7QRoo
隠しダンジョンに挑むみんなの能力値

パル
おさななじみ
レベル:50
ゆうしゃ
たいりく勇者

E オリハルコンのきば
E ドラゴンローブ
E メタルキングのたて
E おうごんのティアラ
E スライムピアス

ちから:192
すばやさ:172
みのまもり:89
かしこさ:116
かっこよさ:291
さいだいHP:467
さいだいMP:214
こうげきりょく:332
しゅびりょく:299

パラディン ★★★★★★★★
勇者 ★★★★★

※基本職、勇者になるために必要な上級職の熟練度については割愛
566 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:32:26.10 ID:n/I7QRoo
かしこ
せかいじゅ
レベル:50
ゆうしゃ
たいりくゆうしゃ

E グリンガムのむち
E かしこのはごろも
E みかがみのたて
E やまびこのぼうし
E くじけぬこころ

ちから:100
すばやさ:141
みのまもり:56
かしこさ:156
かっこよさ:289
さいだいHP:287
さいだいMP:331
こうげきりょく:245
しゅびりょく:238

まほうせんし ★★★★★★★★
勇者 ★★★★★

かし子の羽衣 守備力87 かっこよさ58 呪文、息ダメージを−40 HP自動回復
567 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:32:41.18 ID:n/I7QRoo
アモス

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995043.jpg

はぐれメタル ★★★★★★★★
勇者 ★
568 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:32:57.96 ID:n/I7QRoo
マジンガ
マジンカイザーもどき
レベル:22
バトルマスター
ライトきゅう

E メタルキングのけん
E ギガントアーマー
E オーガシールド
E エンデのかぶと
E ほしふるうでわ

ちから:234
すばやさ:442
みのまもり:281
かしこさ:14
かっこよさ:165
さいだいHP:439
さいだいMP:48
こうげきりょく:364
しゅびりょく:493

バトルマスター ★★★
まほうせんし ★★★★★★★★
パラディン ★★★★★★★★
スーパースター ★★★★★★★★
ドラゴン ★★★★★★★★
569 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:33:12.05 ID:n/I7QRoo
アンクル
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126388.jpg
バトルマスター ★★★★★★★★
まほうせんし ★★★★★★★★
パラディン ★★★★★★★★
けんじゃ ★★★★★★★★

マリリン
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995045.jpg
まほうせんし ★★★★★★★★
パラディン ★★★★★★★★
けんじゃ ★★★★★★★★
スーパースター ★★★★★★★★

この二人は将来性よりも現在の戦力を重視して、もっとも能力を活かせる職業のままにしてあるらしい。
570 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:33:24.14 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995047.jpg

どことなく見覚えのあるダンジョンを進んでいくみんな。
マップの形は同じでも出てくるモンスターは段違いに強いようだ。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126390.jpg

やっぱりここでもマジンガの先制息攻撃二連発が大活躍だ。
ダンジョン序盤の敵はほぼこれだけで倒せてしまう。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995048.jpg

倒しそこねがあってもすっかり強くなったみんなの攻撃があっという間に敵をなぎ倒していく。
特にかし子の山彦の帽子を活かした魔法二連発が反則的に強力だ。
571 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:34:04.36 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995051.jpg

豊富なMPを活かして高位の魔法を連発するかし子。
頼もしいはずなのに、何かその立ち姿からは悲壮感にも似たものが感じられるのは気のせいなのだろうか?
まるで寿命間近の蛍が必死に最後の輝きを放っているかのような……
572 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:34:17.15 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995052.jpg

レベルが十分なこともあってさほど疲弊しているわけでもないのに、進むにつれて一行の足取りはどんどん重くなっていく。
見れば、みんなはしきりにかし子に声をかけているようだ。
一体どうしたのだろうか。
何を話しているのか聞こえないのがもどかしい。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126391.jpg

マップを進むごとに敵も強くなり、さすがにみんなの表情からも余裕が消えていく。
こんな外見だがこのデススタッフというのがかなりの難敵のようだ。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995053.jpg

マリリンは馬車の中から回復するのが主な役目だが、アンクルには出番がまだ回ってこない。
主力四人とは戦力に明らかな差があるので仕方ないと言えば仕方がないのだが、
なら何故わざわざ世界を回ってまで仲間モンスターをパーティに入れたりしたのだろう?
何か嫌な予感がする。
573 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:34:31.25 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995055.jpg
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126392.jpg

ボーンファイターはパーティの後列ばかり狙ってくる嫌らしい敵だ。
苦手の直接攻撃に晒されながらもかし子は怯むことなく応戦する。
さっきの例えがいよいよ現実味を帯びてきてしまった。
一体なにがあった?
これから何が起こるというんだ?
574 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:35:04.07 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995056.jpg

やがて四人はデスコッドの村に到着する。
モンスターばかり住んでいるへんてこな村だ。

http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126393.jpg
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995057.jpg

中には人もいるけどみんなそれぞれ何か事情がありそうだ。
俺の知る世界とは別の次元から来た人ではないか。
なんとなくそう思った。
575 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:35:31.30 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126394.jpg

一行はここを中継地点として一旦引き返すようだ。
元の世界へ戻ったみんなはダーマ神殿で一泊してからルーラでモンストルへ飛んだ。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995058.jpg

町へは入らずにそのまま北の山へと向かう。
事ここに至ってついに俺の疑念は確信に変わった。
俺たちが初めて出会ったここで、かし子は何かをする気なのだ。
576 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:35:43.42 ID:n/I7QRoo
※ちょこっと裏話※
577 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:35:59.95 ID:n/I7QRoo
(イメージ405)
「思えば、あのときから予感があった」
北の山の頂上で、仲間達に背を向けてかし子は語る。
「お主らはきっとわしの何かを変えてくれる。
 そんな期待があったからこそわしはお主らについていくことにしたんじゃ」
出会いの時を思い出しつつ、かし子は空を見上げる。
ずうっと見上げ続けてとっくに見飽きた空を。
これからも永遠に眺め続けることになる空を。

「……ねえかし子。やっぱり他の方法を探そうよ。いくらあいつを助けるためだからって、こんな――」
「くどいぞパル。お主も一度は納得したはずじゃろう。他に方法がないのならば、と」
「そうだけど、そうだけど……でも……っ!」
今や生涯一の友人となったパルの涙声を背中で聞くかし子の胸に、じんわりと温かなものが広がっていく。
自分のために泣いてくれる人がいる。
このようなこと、彼らと出会うまでは想像したこともなかった。
578 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:36:22.83 ID:n/I7QRoo
(イメージ405)
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995061.jpg
579 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:36:49.46 ID:n/I7QRoo
「かし子さん」
アモスが静かな声で語りかけてくる。
「何度も言うようですが、僕はこのようなやり方を認めたくありません。
 美し女性が犠牲になるなんてお話は戯曲の中だけで沢山なのですよ」
ふふ、とかし子は小さく笑う。
いつもすげない返事ばかりしてはいるが、実のところアモスのストレートな物言いもかし子にとって嬉しくもあった。

自分も女だ。「美しい」と言われて喜ばない女など滅多に居るものではない。
しかしそれを――自分が女であることをかし子に教えたのは残念ながらこのアモスではなかった。
この場に居ないあの男なのだ。
「アモスよ。お主まで聞き分けのないことを言うでない。
 何故そうも悲劇的に考えるのじゃ。わしは本来の姿に戻るだけだと何度も説明したじゃろうが。
 木の姿に戻って、花を咲かせる。それであの男が助かるのだと」
そう。
グランマーズにあの男の行方を占って貰って、でもそこへ行くだけでは救うことができないのだと分かって。
悲嘆に暮れるパルの顔を見ていられなくて、かし子は自分から提案したのだ。
一つだけ彼を救う方法がある、と。
580 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:37:03.03 ID:n/I7QRoo
ダークドレアムの一部となった彼を現世に連れ戻すには、体を元の普通の人間に戻さなくてはないけない。
大魔王デスタムーアさえも凌ぐ力を持つという古の魔神。
魂まで深く打ち込まれたその力を取り去ることなど普通の方法では不可能だろう。
だが、自分は命を司る世界樹だ。
彼の命そのものを一から再生することができるのだとすれば、元の体に戻すことなど造作もないことである。
世界樹の花にはそれだけの力がある。
それを咲かせる代償として自分は大地に深々と根を張り、
二度と人の姿になど戻れぬ体にならなくてはいけないが――
元々いずれはそうならなければいけない身だ。
遅いか速いか。それだけの違いである。

581 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:37:22.43 ID:n/I7QRoo
「本当のことを言え、パル」
かし子はわざと冷たい口調で言い放つ。
「あの男に会いたいのじゃろう? 言っておったではないか。
 あの嘘つき。勝手なことばかりするな。一発ぶん殴ってやらないと気が済まない
 みんなお主の言葉じゃぞ?」
言葉は返ってこない。
その代わり、かし子の背中をふわりと温かい感触が包み込んだ。
「ごめん。ごめんねかし子……」
「馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返すでない。謝罪などもう聞き飽きたわ」
抱きしめられた体から伝わる感触のなんと温かなことか。

人の温もり。鼓動。命。
数えきれぬほどのそれらを自分はこれから見守っていくことになるのだ。
「謝罪などいらぬ。じゃから――」
そう思えば寂しくはない。寂しくはないけど。
こうして一人を特別に近く感じることは、きっともうないだろう。
「たまにでよい。あの男が戻ったら、一緒に遊びに来てくれ。
 独りというのはいささか退屈じゃ」
最後まで堪えるつもりでいた涙が、固く閉じた両目からぽろりぽろりとこぼれた。
582 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:37:55.86 ID:n/I7QRoo
滴となって落ちていく惜別の想い。
見るがいい。自分はこんなにも人を――世界を愛している。
もしかすると、ダークドレアムに選択を迫られたときの彼もこんな気持ちだったのだろうか?
ならばこれは間違いなく正しい行為だ。
こんなに悲しい思いをするのは一人だけで――世界樹としての使命を背負った自分だけで十分だろう。
ただの人間にはあまりも重すぎる。

親友と認めたパルの腕の中で、かし子の体はゆっくりと輪郭を失って、光の粒となって舞い上がってゆき、
やがて――

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大木へと姿を変えた世界樹が、北の山の頂上に高々とそびえ立った。
583 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:38:08.41 ID:n/I7QRoo
※裏話おしまい※
584 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:38:23.34 ID:n/I7QRoo
言葉がなかった。
会話が聞こえなくても分かる。
かし子は俺を助けるための犠牲となったのだ。

この俺にそこまでしてもらう価値があるとでもいうのだろうか?
こんなふうに考えてしまうこと自体がかし子の決断に対する冒涜になるのかもしれないが……
「なるほど、考えたな。世界樹の花か。
 たしかにあれならば貴様を元の体に戻すことも出来よう」
いつのまにかこちらのPCを覗き見していたドレアムが独り言のように言う。
「あとは貴様の意志次第といったところか。
 どうだ? 帰ることが出来るのならば帰りたいか?」
是非もない。何かを考えるヒマもなく、気がつけば即座に頷いていた。
「そうか」
納得したようにドレアムはそう言って、アゴを撫でながら自分のPCへと戻っていった。
585 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:38:37.03 ID:n/I7QRoo
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ルーラでデスコッドへ戻り、さらに奥へと向かう一行。
出てくる敵は手強くなる一方なのに主力のかし子が抜けてしまって戦闘はきついはずだが、
みんなの足取りにはもう一切の迷いがない。
脇目もふらずに先へ先へと進んでいく。

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豊富な特技を存分にふるってパル達は並み居る敵を打ち倒していく。
戦って戦って、ついにみんなはたどり着いてしまった。
586 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:39:08.44 ID:n/I7QRoo
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「居るんでしょ?! 返事しなさい!」
パルの声が聞こえる。
なんだかもうそれだけで胸がいっぱいになってしまって、何を思えばいいのかも分からない。

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そんな俺の代わりとばかりにドレアムが一行の前に姿を現す。
あいつ、何をするつもりだ?
「あんたなんかに用はないの。あいつに会わせて!」
大魔王をも上回る力を持つ魔神を前にしてもパルはまるで怯まない。
強い意志のこもった眼差しでドレアムを射貫きながら啖呵を切る。
587 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:39:26.32 ID:n/I7QRoo
「ほう。たった一人の男に会うためだけにこのようなところまで来たと?
 何故そうまでしてあの男に固執するのだ?」
「何故ですって?」
何を言っているだ、というふうにパルはふんと鼻をならす。
「つまらないことを訊かないで。
 好きな人に会いたいと思うのに理由なんてあるわけないでしょ?」

思わず息をのんだ。
あいつはこの言葉が俺にも聞こえていると分かって言っているのだろうか?
今すぐあいつのところへ駆けつけて抱きしめたい。
でもダメだ。今呼び出されているのはドレアムだけ。
感覚としてはすぐ近くに居るのに、どうやればパル達の前に出て行けるのかが分からない。
588 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:39:37.88 ID:n/I7QRoo
何を思ったか、ドレアムはここで一度俺が居る側の空間へ戻ってきた。
恨めしそうに俺を見つつ、ぽつりと何かを呟く。
「リア充は氏ねよ」
「え? なんて?」
「……いや、なんでもない」
本当か? 何か、ザラキーマなんかよりも遙かに強い怨念のこもった言葉が聞こえたような気がしたのだけど。
589 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:39:49.92 ID:n/I7QRoo
どうやら用件はそれだけだったらしく、ドレアムはまたパル達の前に出る。
「よかろう。それほどまでに再会を望むのならば叶えてやらぬこともない。
 ただし、我を倒すことが出来ればな!」
まるっきりお決まりのセリフを吐いて、ドレアムはパル達に躍り掛かっていく。
「……って、おい! よせよ! なんでそんなことする必要があるんだ?!」
俺が叫んでも、その声は誰にも届かない。
古の魔神と俺の仲間達との戦いが始まってしまった。
590 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:40:02.49 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995069.jpg

ドレアムがどれだけの力を持っているのかは誰よりも俺が一番よく知っている。
いくらみんなが強くなったと言っても勝てるかどうか……

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パルのギガスラッシュ、アモスさんのビッグバン、マジンガのバイキルト付き正拳突き。
いずれも劣らぬ強力な攻撃なのに、ドレアムはびくともしない。

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ドレアムが続けざまに放つ凶悪な攻撃があっというまにみんなを追い詰めていく。
自動回復があるパルはともかく、耐性に優れていないアモスさんやアンクルはひとたまりもない。
591 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:40:17.57 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic3/src/vl2_126404.jpg

かし子から山彦の帽子を受け継いだアンクルの魔法攻撃は始まってすぐの頃こそ威力を発揮したが、
ザオリクをはじめとして消費のでかい魔法を連発したせいですぐにMPが尽きてしまう。
短期決戦を挑んでビッグバンを連発したアモスさんもまた然りだ。
でも馬車の中に居るのはマリリンだけ。あいつのHPではドレアムの攻撃に耐えることが出来ない。
ここへ来ていよいよかし子が抜けた穴の大きさが如実に表れてきてしまった。
戦闘に出ているメンバーでMPが残っているのはパルだけ。
回復手段はハッスルダンスと賢者の石が残されているが、
ドレアムの圧倒的な攻撃翌力の前にそれだけでは不足もいいところだ。

592 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:40:43.56 ID:n/I7QRoo
「みんな――」
俺はこんなところで何をしているんだ?
みんなが俺のために戦ってくれているのに、その戦いであんなにも苦しんでいるのに、
黙ってここで見ているだけか?
俺はそんなにも情けない男だったのか?
「……違う。そうじゃない」
俺が情けない男かどうかなんてこの際どうでもいいんだ。
重要なのは俺の気持ち。
みんなが俺のために戦ってくれている今、それに俺が応えなくてどうするんだ!
「開けええぇぇぇっ!」
叫びつつ、ドレアムから譲り受けた力をフルパワーで解放する。
この力を使うのはこれが最後だ。最後にしなければいけない。

593 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:41:03.49 ID:n/I7QRoo
閉じた空間の扉を強引にこじ開けて、俺はついにみんなの前に降り立つ。

アモスさんが、マジンガが、そして新メンバーの二人が動きを止めてこちらを見ている。
俺の名前を叫ぶ声が聞こえた。
でも今は再会を喜んでいる場合ではない。
「ほう。まさか召還されたわけでもないのに自ら出てくるとはな。
 なかなか荒っぽい手を使う男だ」
ドレアムは俺を見て感心したように言う。
「だがどうするつもりだ?
 貴様はこの者達と違って修行などしておらぬ。
 今さら出てきたところで足手まといになるだけだぞ?」
そう。俺の強さはロニーやデスタムーアと戦ったあの時のままだ。
普通ならばこの魔神になど敵うべくもない。
でも俺だって無為に時間を過ごしてきたわけじゃないんだ。
あれを使うことが出来ればきっと――
594 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:41:19.29 ID:n/I7QRoo
と、俺が身構えるよりも遙かに速く。
「悪いが貴様相手にも容赦はせんぞ。
 我は我より強き者にしか従わぬ」
ドレアムがギガデインを唱える。
あ、と思った時にはもう遅い。
いつかのデジャヴ。でも今は織田信長軍なんてここには居なくて。
圧倒的な破壊の力が遮るものなく俺に襲いかかってくる――

と思ったその瞬間。俺とドレアムの間に割ってはいるものがあった。

http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995074.jpg

マジンガだ。マジンガが仁王立ちで俺の前に立ちふさがっている。
すでに瀕死の状態であるにも関わらず、だ。
四人分のギガデインが容赦なくマジンガを打ち付ける。
HPなんてとっくに尽きているはずなのに、
ギガデインのあとに続いて放たれた目にも留まらぬ早業を全ての攻撃を受け止めきるまでマジンガは倒れなかった。
「愛シ合ウ二人ハイツモ一緒。ソレガ一番ナノデース」
活動を停止する直前、マジンガがぽつりとそうもらすのが聞こえた。
ドレアムの容赦のない攻撃の前に堅牢を誇った装甲は原型を留めないほどにぼろぼろになっている。
あれではもう、どんな回復魔法でも――

595 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:41:33.94 ID:n/I7QRoo
「ふざけないで!」
不吉な予感を吹き飛ばすかのように、パルが勢いよく叫んだ。
「みんなで無事に帰るのよ! 無事に帰って、みんなでかし子のところへ報告に行くの!
 それ以外の結末なんて認めないんだから!」
残りの全魔翌力を振り絞ってパルは回復魔法を唱え始める。

あっちは任せておくしかない。
俺は俺で、出来ることをやるだけだ。
「行くぞドレアム。これが俺のとっておきだ!」
俺は戦いの狼煙を上げた。
ごおおおおお。
下腹に響く重低音にも似た音が遠くの空から近付いてくる。
俺が組み上げたプラモデル。
もう一つの頼もしき我が仲間たち。
596 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:41:49.15 ID:n/I7QRoo
http://up2.viploader.net/pic/src/viploader995075.jpg

『メビウス1、フォックス2』
戦闘機から放たれたミサイルが凄まじい熱量と共に飛来してドレアムに直撃。
激しい爆発が起こって、さしものドレアムも苦悶の声をあげる。
『全機、メビウス1に続け!』
先頭の機体に続いて後続の各機も続けざまにミサイルを放つ。
全てが命中するわけではないが、ドレアムにはすさまじいダメージがいっているはずだ。

「ぐぬううぅぅっ! なめるなよ、この造形物どもめが!」
立て続けにミサイルの直撃を受けながらも、ドレアムは倒れずに反撃をしかける。
その口から放たれた輝く息が一体の戦闘機に命中し、撃墜した。
『ああ! ジャン・ルイがやられた!』
『落ち着け! ジーン、指揮を引き継げ!』
戦闘機達にもなんかいろいろあるようだ。
ジーンとやらが指揮を引き継いだおかげかどうかは知らないが、
その後も編隊を整えて攻撃を続けた戦闘機たちの活躍により、ドレアムはついに倒れた。
597 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:42:03.96 ID:n/I7QRoo
「おのれ、リア充ごときに負けるとは……」
悔しげに言って、ドレアムは大きく息を吐く。
「もうなんでもいいや。どこへでも行くがよい。
 所詮、我は一人でエロゲをやっているのがお似合いなのだ……」
そう言い残して去っていくその背中がどこか寂しげなのは気のせいではあるまい。
すまんドレアム。やっぱり俺は現世に戻りたいんだ。
心の中でだけそう謝って、俺はパルの方に向き直る。
パルの全力を注いだ治療の甲斐あって、マジンガはなんとか持ち直したようだ。
598 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:42:16.11 ID:n/I7QRoo
魔翌力を使い果たしてぐったりとしているパルの肩を「お疲れさま」と言ってぽんと軽く叩いてやると、
一体どこにそんな元気が残っていたのか、
狭間の世界で別れたときと同じようにパルが勢いよく俺の胸に飛び込んできた。

「この馬鹿! なんで勝手に行っちゃうのよ!
 嘘つき! あんたなんか、あんたみたいな自分勝手な男なんて……っ!」
俺の胸元にぎゅっとしがみついてパルはめちゃくちゃに叫ぶ。
その頭にそっと手を回して抱き寄せながら「ごめん」と俺は何度も繰り返した。
599 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:42:30.24 ID:n/I7QRoo
「あの声、聞こえてたから」
「え?」とパルは顔を上げる。
至近距離から目が合って思わず顔が熱くなってしまったけど、ここはごまかしていいところじゃないのでぐっと我慢だ。
「その……好きな人に会いに来た、って……」
「あ……」と小さく声をもらして、パルは俯いてしまう。
その顔は耳まで真っ赤だ。きっと俺も同じような有様だろう。
結局のところ、俺たちは似たもの同士なのだ。
そう思うとなんだかおかしくて、少しは心が落ち着いた。
「パル。俺もお前が好きだ」
パルが小さく俺の名前を呼んで、顔を上げる。
またお互いの視線が至近距離で交錯して、パルの済んだ青い瞳にすい込まれそうになって……
600 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:42:44.86 ID:n/I7QRoo
「こほん!」
わざとらしいアモスさんの咳払いが俺たちを現実に引き戻した。
慌てて離れつつ、ごまかすようにアモスさんの顔色を窺う。
「再会を喜ぶのも結構ですが。道具屋くん、君を救うためにかし子さんが――」
「ああ、知ってるよ」
そう。俺が現世に戻れるのはこうしてここに来てくれた五人の仲間達と、北の山にいるかし子のおかげなのだ。
「会いに行こう。みんなでさ」
その言葉に、パルもアモスさんも深々と頷いてくれた。
601 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:42:56.99 ID:n/I7QRoo
現世に戻ってかし子に挨拶を済ませた後、
アモスさんはまだ見ぬ美女との出会いを求めてまたどこかへと旅立っていった。
マジンガは再びゼニス王のところへ。
マリリンはサンマリーノへ戻り、アンクルは野へと帰って行った。

そしてモンストルに戻った俺とパルは、やがてエルフの里へと姿を変えるその町で、
大樹となったかし子と共に、温かな光に満ちた生涯を送った。

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602 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/29(水) 21:43:11.30 ID:n/I7QRoo
終わりです。
最後までお付き合い下さった方、ありがとうございました。
603 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 21:53:02.42 ID:dNF2CMgo
乙です
604 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 23:04:34.21 ID:ecAlvNsP
605 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/29(水) 23:41:45.96 ID:BhzO6nko
この短時間で600もコピペとか一人でよく頑張ったなぁ
おつかれさんー
606 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/30(木) 02:11:42.36 ID:6ifrIj20
面白かった!最初から最後までぶっ通しで読んでしまったよ。
おつかれさまです
607 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/04/30(木) 20:42:35.30 ID:VzLCDV6o
>>606
ありがとうございます。
こういう書き込みが一番励みになります。
608 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/04/30(木) 20:54:00.21 ID:7/ugP/Eo
1乙!
アモスさんにココまで魂吹き込んだストーリーに脱帽だ
かしこかわいいよかしこ
609 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/01(金) 20:18:20.30 ID:gADb90Qo
ありがとうございます。
ここでもかし子が人気wwwwww
一応ヒロインはパルなのに……
まあ予想できたことではあったんですがね。
610 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/01(金) 20:25:35.94 ID:UG4g8Ywo
>>609
608だがかし子を書いた>>1の罪だ!wwwwww
パルのえっちななしたぎもあるのでしょうか
611 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/01(金) 20:27:58.42 ID:gADb90Qo
ないですwwwwww
ストーリーに使うための画像しか用意してないので……
612 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 01:12:37.02 ID:.tWT/Qso
すごく面白くて一気に読み続けてしまいました!!
1乙!
久々にDQ6をやりたくなったよ。
613 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 01:29:06.98 ID:4.B8kTYo
あ……なんかすみません。
もう画像見れないのに……
リクエストがあれば、「この場面の画像が見たい!」と仰って頂ければ再うpさせて頂きます。
614 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 01:44:53.25 ID:.tWT/Qso
え??ほんとに?
じゃ、全部をZIPで下さいwwww
とか、いきおいでリクしてみたり。
オレゆとりすぎwwwwっうぇwwwwっうぇwwwwww
615 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/02(土) 02:20:32.72 ID:4.B8kTYo
まだいるかな?
zipのうpってしたことないんですけど、どこかいいアップローダーをご存知ないですかね?
616 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 02:26:14.07 ID:4.B8kTYo
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org12570.zip.html

これでいいのかな?
パスは「アモス」です。
617 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 02:29:20.59 ID:4.B8kTYo
あ、そうそう。
言い忘れていましたが、大半はドラクエ6のプレイ画像ですよ。
たまに一枚絵が入ったりもしてますが。
あと、本編では使わなかった画像もあったりします。
618 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/02(土) 13:13:38.72 ID:40L1a2oo
1さん、ありがとうございます。
画像見れました。
もう一度、絵と併せて読み直しますぜ。
619 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 13:41:43.01 ID:4.B8kTYo
画像だけだとどこにどれが使われていたのか分かりづらいと思うので、
下書きのテキストファイルもうpしておきますね。

http://wannabee.mine.nu/uploader/files/up2262.txt

括弧内にある(イメージ○○)などの文字が対応する画像のファイル名です。
620 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 14:09:11.12 ID:HqwoSeko
もう…zip消えたのか
621 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 14:20:27.96 ID:4.B8kTYo
もう流れちゃったんですか……
どこか長持ちするアップローダーご存知ないですかね?
教えて頂ければそちらに再うpしますよ。
622 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 14:43:15.04 ID:4.B8kTYo
http://www1.axfc.net/uploader/C/so/79202.zip

こちらに再うpしておきました。
パスは設定してませんのでどなたでもご自由にどうぞ。
623 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/02(土) 16:53:18.45 ID:sTvdZyM0
どさくさに紛れてzip貰った、ありがとう
私ももう一度読み直そう…織田信長軍好きだよ織田信長軍あとロニー
624 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/02(土) 23:58:53.52 ID:4.B8kTYo
ロニーが好きってwwwwww
これは予想外。
特に終盤は精一杯憎らしく書いたつもりなのに……
これはある意味俺の力不足ってことなんだろか?
625 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 00:01:56.06 ID:NiihbPQo
>>624
違うな
ロニーを魅力的に書きすぎた>>1の罪だ
626 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 00:48:48.15 ID:UuNqY8A0
>>624
そうだ、>>1の罪だ
ロニーは憎たらしいけどそこが良いというか…どうぐやもパルもかし子もアモスさんもマリリンもマジンガも、書き出したらキリがないけど他のみんなも魅力的だし好きだ。アモスさんにいたってはDQ6やったことないのに好きになってしまった
だけどやっぱりロニーが一番好きなんだよなあ。あの性格と変な喋り方と小悪党的なただの嫌な奴かと思ったら全然違ったところと吉牛と終盤の鬼畜さと最後かな…うん
627 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/03(日) 00:51:52.42 ID:WIa7krco
あんまし褒めないで下さいwwwwww
調子に乗りたくなりますwwwwwwww
628 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 01:31:08.55 ID:UuNqY8A0
素直に感想言っただけww
あともっと調子に乗ればいいと思いますwwwwww
629 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/03(日) 22:12:49.94 ID:c.MUZsSO
いや、面白かった!
マジンガも好きだ 声が石丸さんじゃなくてアニキで再生されたけどw
630 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/04(月) 04:45:00.06 ID:RUua3Zk0
乙!面白かった!
631 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/04(月) 10:04:09.17 ID:VrYTlsDO
携帯からで申し訳ありませんが、ありがとうございます。
これほど反響があるとは正直思っていなかったので少し驚いていたり……
632 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/05/05(火) 21:49:27.86 ID:gXZWFWko
読み終わった!良かったぜ
633 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/06(水) 16:17:53.62 ID:kL6pqyAo
ありがとうございます。

ところで、誤解のないように言っておきますが原作のアモスはこんな変態じゃないですよww
あまりセリフがないので性格はよく分かりませんが、無骨で真面目な戦士って感じだと思います。
634 :地味に支援しとけばよかったと後悔しているツンデレ :2009/05/08(金) 20:20:06.12 ID:Q6r0jG.0
こっち来てたのか、気付かなかった
あっちで見てた時に、俺も保守手伝うかと思ってたら
昼飯食ったすきに落ちてて・・・・
かなり悲しかったんだけどまとめサイトに拾ってもらえたみたいでまずは一安心
もう一度乙って言っときます
どうもお疲れ様でした
635 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/08(金) 22:59:08.55 ID:o6t3LUAO
>>634
まとめサイトってどこ?
画像張ってある?
636 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/08(金) 23:19:34.12 ID:0b.K3lIo
リンク張ると迷惑かかるかもしれないからやめとくけど、このSSのタイトルでぐぐれば出てくるよ。
ちゃんと画像も張ってある。まだ全部は載ってないんだけどね。
毎日少しずつ更新してるみたい。
637 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/05/11(月) 09:02:35.79 ID:Fy.Hcqso
ご無沙汰していて申し訳ありません。
作者です。
管理人さんからリンクの許可を頂いたので、みなさんが仰っているまとめサイトのURLを張っておきますね。

http://blog.livedoor.jp/minnanohimatubushi/

僕のことだけじゃなく、面白いSSがいろいろ置いてあるのでお勧めですよ。
638 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/02(火) 18:05:50.97 ID:/uVKuh.0
太鼓の達人 「カルメン」組曲第1番 終曲 全良
http://www.youtube.com/watch?v=qJXO6yXvV9A&feature=related

太鼓の達人wii へたっぴプレイ3 きたさいたま2000編
http://www.youtube.com/watch?v=Nq4ZPDK0Pjg&feature=related
639 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/03/02(火) 18:05:55.04 ID:/uVKuh.0
太鼓の達人 「カルメン」組曲第1番 終曲 全良
http://www.youtube.com/watch?v=qJXO6yXvV9A&feature=related

太鼓の達人wii へたっぴプレイ3 きたさいたま2000編
http://www.youtube.com/watch?v=Nq4ZPDK0Pjg&feature=related
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