132: ◆yyODYISLaQDh[sage saga]
2015/05/26(火) 21:40:03.53 ID:9m0+RSJ8O
  
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 自動ドアをくぐって右から3列目、手前から2番目の棚、上から2段目。 
 いつも通りの二日酔いの薬を手に取って、真九郎は溜息を吐いた。 
 ここは事務所からほど近くのドラッグストア。 
 月に2回は二日酔いの薬を買いに来る客として店員に認知され、パートのおばちゃんからは「いつも大変ねえ」などど哀れみの声をかけられる始末。 
 どうやら、アル中の父親がいるとでも勘違いされているらしい。 
 アル中はアル中でも、いい歳した女が二人なのだからタチが悪い。 
 他にも足りなくなった飲料水や携行食などをカゴに放り込んでレジに向かう。 
 「いつもありがとうございます」と言うレジの青年に愛想笑いで応えつつ、そそくさと店を出る。 
 辺りは住宅街とオフィス街の境目といった雰囲気で、フォーマルなスーツとカジュアルな私服が入り乱れている。 
 ドラッグストアを出てから、信号を越え路地を曲がって裏道を通り、五月雨荘より少しばかり小綺麗なアパートの前に辿り着く。 
 そのアパートの103号室。 
 表札には『紅相談事務所』という文字が丁寧に書いてある。 
 その名の通り、ここは紅真九郎が経営する事務所である。 
 経営といえば聞こえは良いが、大したことはしていない。 
 依頼を受けて、それを解決する。 
 依頼というのはもちろん、揉め事処理屋としての仕事だ。 
 揉め事処理屋の名前を出さないのは、知らない者にとってはなんとなく物騒なイメージがつきやすいかな、という程度のことで、特に意味は無かった。 
 銀子に言わせれば、裏稼業の揉め事処理屋が事務所を構えること自体おかしいということだが、こちらの方が口コミも広がりやすいし、小さな依頼でも立ち寄りやすいだろう、と真九郎は思う。 
 実際、3年前にこの事務所を開いて以来、依頼の件数自体は増えているし、規模も大きくなりつつある。 
  
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