女神
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318:名無しNIPPER[saga]
2016/07/18(月) 23:42:39.17 ID:HbILN8rbo

 私は肝心な事実を、うちの学校内では麻人と私が付き合っているのではないかという
噂が流れていることを麻衣ちゃんには話さなかったのだ。嘘を言っているわけではない、
ただ曖昧なことだけを話さなかっただけ。

 ・・・・・・私は自分にそう言い聞かせた。無駄に麻衣ちゃんの不安を煽ることはない。それ
に、麻人と私が付き合っているという事実はないのだ。事実でないことを話す必要はない。

 麻衣ちゃんは麻人に女の影がないことに安心すると、次に麻人の交友関係の質問を始め
た。これは答えやすい質問だった。麻人には同じクラスの男の子の親友がいた。私は2組
で、麻人と夕也は3組だった。なので、私はこの頃はあまり彼とは親しくなかった。麻人
の親友らしいという、その一点のみで私は夕也に関心があった程度だった。広橋夕也は、
成績は学年でもトップレベルで容姿にも恵まれている上に、性格はさっぱりとしていて男
女問わず人気があるという、まるでアイドルになってもおかしくないような男の子だった。

 どういうわけか、その夕也と麻人が意気投合してしまったようで、いつのまにか二人は
親友といってもいいくらいの間柄になっていた。

 多分、広橋君は親友を作るのにも自分にふさわしいレベルの人を慎重に選ぶような性格
なのだろうと私は考えていた。広橋君に擦り寄ってくる男の子はいっぱいいたけれど、彼
が親しくなろうと決めたのは麻人だった。

 前にも話したかも知れないけど、周りの生徒たちの目からは麻人は超リア充に見えてい
たはずだった。毎日女の子と一緒に登校する麻人。それでいてそのことが何も特別なこと
ではないかのように自然に振る舞って、自慢したりしない麻人。イケメンでリア充中のリ
ア充といってもいい夕也も、麻人のそういう自然な行動とか、私ばかりではなく、どんな
女の子とも気負わず自然に接することができる、その行動には一目置いていたようだった。
麻人のそういうところが、夕也に関心を抱かせたのだろう。夕也は麻人によく話しかける
ようになり、やがて二人は親友と言ってもいい間柄になった。

 そういうわけで、朝の登校時に私と二人きりでいるとき以外の麻人は、校内では夕也と
しょっちゅうつるんで一緒に学校生活を過ごすようになったのだった。

 麻衣ちゃんは私のことをお姉ちゃんと呼んで慕ってくれている。そして私も、麻衣ちゃ
んのことは本当の妹のように考えていた。だから、麻人への心の傾斜をとっさに麻衣ちゃ
んに隠してしまった時、私はこの兄妹と付き合い出してから初めて麻衣ちゃんに罪悪感を
感じたのだった。

 それと同時に、自分がそういう風に感じなければいけないこの状況に対して、私は不公
平感のようなものも感じていた。なぜ私は、自分の初恋を隠さなければならないのだろう。
普通に考えれば幼馴染同士の男女の恋愛なんてすごくありふれた話ではないか。そして、
学校では私と麻人は付き合っているのではないかと普通に噂されるような関係だった。そ
れなのになぜ、私はこんなに自分の気持ちを封印しなければならないのだろう。

 でも、それは考えるまでもないことだった。私には、いや、私と麻人の間には間には昔
から暗黙の了解のような約束事があった。

 両親が不在がちの家で育った麻衣ちゃん。

 麻人しか頼る家族がいない状態で暮らしてきた麻衣ちゃん。

 そういう生活を強いられててきた麻衣ちゃんは、結果的に過度に麻人に依存するように
なった。そしてそれは、世間一般で言うようなブラコンとか、異性として兄を愛する近親
相姦とか、そういうステレオタイプな言葉ではくくれないような関係だった。

 寂しかった麻衣ちゃんが、麻人を独り占めしたい、自分が麻人の一番でいたいという気
持ちを強く抱くようになってしまったことを、いったい誰が非難できるのだろうか。少な
くと私には、麻衣ちゃんのそういう感情を非難することはできなかったし、ブラコンの麻
衣ちゃんに手を焼きながらも、麻人だって私と同じように考えていたことは間違いなかっ
た。

 そういうわけで、私と麻人とは、いつも麻衣ちゃんの気持ちを第一に考えて行動するよ
うになった。それは麻人から頼まれたわけではない。いつのまにかそういう風に振る舞う
ことが当たり前のようになっていただけだった。


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