新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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31: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:42:17.63 ID:5kzXp0UHO

電話を終え、美波は夢についてひとり考え込んだ。精神分析に頼らなくても原因は、弟を中心にした家族の現在にあるのは明らかだった。もはや、過去は取り戻せないのだということを認めるべきなのだろう。弟ほど極端でなくても、わたし自身、過去の出来事から優秀であろうとし、それを実践してきたのだから。わたしたち家族は、すでに離散してしまったのだ。その過去を都合良く忘れ、むかしの家族を理想化し、その再現を試みることほどむなしい行いもないだろう。

過去は牢屋のように堅固としているかと思えば、煙みたいにかたちがなくなったりもする。資料が残っているような歴史的な過去の出来事についてならまだいい。それならやりようはある。だが記憶だけが頼りの、個人的な思い出の場合はそうはいかない。思い出はひどく気まぐれで、子どもが裏切ったときみたいに手酷い痛手を与えることもしばしばだ。

だから美波はいま、CPルームのソファに背を預けながら、空気のなかに黒い絵具を溶かしたかのようなあのおそろしいイメージを取り払うことから始めようとする。構図の取り方に失敗した風景画の下書きを画家が投げ捨てるように、黒一色のイメージを美波は打ち消そうと努力した。イーゼルに乗せられた真新しい白いキャンバスに新たな像を描こうとするが、筆が触れる前に染みのようにキャンバスが黒に染まっていく。何度か同じ試みを頭のなかで繰り返す。結局、それはすべて失敗におわる。試みの最後には、いつも黒が染み出してくる。割れた地面から溢れる毒を含んだ地下水のように。




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