777: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/01/26(土) 22:11:31.15 ID:ymR8HEsBO
田中たちが去った直後のオフィスは霞が漂っている森の中のように静まりかえっていたが、──実際に白煙が漂っていたが、それは銃の硝煙で不快な煙たさを持っていた──やがて、徐々に動き出すものがあった。デスクの下や壁際に身を縮こまらせていた社員たちがおそるおそる顔をだし、周囲の状況を確認しはじめた。かれらは積み重なる死体に怯え、ひとりが北階段のほうへ一目散に走り出すと、ほかの者たちも悪霊にとり憑かれた豚の群れが湖に飛び込んでいくかのようにあとに続いて逃げ出した。
オフィスにはなにも言わない死体たけが残された。しかしそのように見えたのはほんの五秒ほどのことで、床に仰向けに倒れていた警備員の死体のひとつがふっと右腕をあげ、被っている帽子のつばに触れた。
帽子の持ち上がり、顔が見えた。
永井圭がひっそりと生き返っていた。
永井は顔をあげ、南階段、田中たちが去っていった方を見やった。
永井「痛って。撃たれちゃったよ」
上体を起こし、血痕がべっとり付いている右手を見て永井は言った。自動小銃で撃たれたせいで右手は手首からずたずたになり、失血死するまでのあいだひどく痛んだのだった。
永井がとっくに消えてしまった痛覚を気にしたのは理由があった。そっとを気にすることでできれば起こってほしくないことが目の前で展開されてしまったことを意識したくなかったからだった。
永井「というか……ウソだろぉ……」
実際に言葉を発することで踏ん切りをつけると永井は立ち上がり、オフィスから北階段へと出ていった。
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