938: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/08/18(日) 20:28:34.00 ID:TPJ777ywO
中野「うお!」
下を覗き込んだ中野が叫んだ。後をついてきていたアナスタシアもおそるおそる顔を出す。それまで意識の外にあった地上や周囲のビルの窓から洩れる明かりが色とりどりに輝いているのが眼に入ってきた。地上に埋め込まれた光を見ていると、風のせいではない悪寒が背筋を走り抜けた。
平沢「はやく飛び降りろ」
地上を見下ろし呆然としている二人の背中に平沢が声をかけた。平沢は拳銃を握り、屋上への入口を見張っている。
アナスタシア「ヴイソーキー……」
中野「うん。慣れたと思ったけどこれは高すぎだな……」
アナスタシアのつぶやきに中野が共感を示した。中野は今までの経験から落下中の体感と落ちた後の血の広がりを想像してぞっとした。そしてふと平沢のことに思いあたり、振り返って訊いた。
中野「平沢さんはどうやって逃げるんだ?」
平沢は視線を中野に返してから応えた。
平沢「向こうに窓清掃用のリフトがある。それでだ」
永井はさっきと変わらぬ位置から三人の様子を透明な感情で見ていた。風が息を吹き返したかのように屋上を駆け抜けていった。前髪が一斉に風になびき、視界がいっそう開けた気がする。平沢のジャケットの前の裾が手を使って三角形に折り曲げたかのように持ち上がってその裏地が見えた。ジャケットの裾が元に戻った。永井はようやく気づきかけていたことに気づいた。
ふたたび風が、猛烈な殴りつけるような勢いで吹きつけてきた。中野の身体がぐらっと後方の闇に向かって揺れ、そのまま帰ってこなかった。
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