【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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14: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 22:49:16.11 ID:z+wGLY660
 現実をきちんと見据えたほうがいい。
 世の中にはいくらかのトップアイドルがいる。
 その下に多数の、旬が過ぎればすぐに世間から忘れられてしまうようなそこそこのアイドルがいる。
 そしてそのさらに下には、アイドルになれなかった無数の普通の人間がいる。

 塔のてっぺんの席の数は、数えるほどしかない。
 塔の中に入ることすら難しいのに、塔の中に入っても、満足に飯を食い続けられるかはわからない。
 きらきらしたお宝を手に入れることができる者よりも、ただ若さと時間と金と労力を失っていく者のほうが圧倒的に多い世界。
 そんな世界に誘おうとするのは、人を騙しそそのかす悪魔となにが違うだろうか?


 部屋の中にアラームが鳴り響き、俺はそれを半自動的に叩いて止める。
 朝。寝覚めは最悪だった。寝て起きれば、昨日を冷静にみつめることができるようになる。
 俺は思い返す。適当にスカウトをしていた結果、一人の少女が、アイドルをやりたいと言った。

 俺はそれを受け入れた。不覚にも。

 どうしてそんなことをしたのか、自分でもわからない。
 心の奥底から、俺を冷笑する声が聞こえてくる気がした。

「……おはよう」

 俺以外誰もいない部屋の中で誰へともなくそう言って雑念を散らし、布団から体を起こして洗面所へと向かう。
 仕事をする。生きるのにも、よけいな記憶から目を背けるのにも、それ以外に方法はない。

 新ユニットの仕事を進めていく。
 先輩が選んだ構成アイドルのうち、すでに美城プロダクションに所属しているアイドルには、顔合わせの日程をメールで伝えた。
 それまでにすべきことは、レッスンの手配、曲や振付の打ち合わせ、宣伝活動の計画。
 事務的なことは先輩の下で働いたときの手順をたどっていけばいい。

 問題は頭脳労働だ。
 どのアイドルをどうプロデュースすればいいのか。俺にはさっぱりわからない。

 わからなくても、俺のせいでアイドルたちが不人気に終わるのは気分が悪い。
 だから、俺はせめて現状維持に努める。
 あとは、先輩が早く快復して戻ってこれるように祈ろう。

 作業が一段落して、俺はひとつ息をつく。
 午後までかかって、ひとまずの事務作業を片付けた。卓上のデジタル時計を見る。

「いまならまだ、荒木比奈のスカウトに行けるか……」

 言いながら、気持ちはずっしりと重たくなった。
 それでも自分を奮い立たせて立ち上がる。
 荒木比奈への接触は、どうせ顔合わせより前には片付けなくちゃならないことだ。早いほうがいい。

 ジャケットを着ると、プロデューサールームの内線電話が鳴った。俺は受話器を取る。

「受付です。あの……お客様かどうかわからないのですが、そちらの名刺をお持ちの方が」

「俺の?」

 俺は首をかしげる。特に誰かと会う予定はない。

「はい。自分はアイドルになるんだとおっしゃってます。弊社に登録されている様子は無いですし、入館証もお持ちでなく、来客予定のリストにもなかったので……」

 受話器の向こう、受付嬢は困ったような声でそう言った。
 俺の脳裏には一人の人物が思い浮かぶ。

「……ひとまず、そちらへ向かいます」

「お願いします。今は警備員が止めています」

 俺は受話器を置くと、ロビーへと向かった。



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