【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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15: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 22:51:52.87 ID:z+wGLY660
「ふんんぬうーーーーーーーーっ!」

 プロダクションのロビーには力のこもった声が響きわたっていた。

 入館ゲート付近に声の主を見つけて、予想が的中した俺は脱力した。
 見覚えのある襟付きの真っ赤なシャツ。
 きのうスカウトに応じた日野茜が、入館ゲートを乗り越えようとして、警備員と組みあっている。

「ですから、いま呼びましたから、お待ちくださいって!」

「なんの、これもアイドルになるための障害っていうことですね! 乗り越えてみせます、全力プゥーーーーーッシュ!」

 会話が成立していない。俺は小走りにゲートへと向かう。
 困り顔の受付嬢に会釈して、組み合う警備員と日野茜のところへ。

「あー、すいません、すいません」

 割って入って警備員から茜を引き離す。
 茜は、俺を見るとぱっと顔を輝かせた。

 その顔があんまりに晴れやかで、俺の心の奥がうずく。

「プロデューサー! 来てくれたんですね! 日野茜、アイドルになるべく、やってまいりましたよ!」

 俺は困り果てて笑っている警備員に頭を下げてから、茜に向きなおる。

「手続きの日程は伝えていたはずだよな」

「はいっ!」茜はロビーに響き渡る大声で返事をする。「でも、いてもたってもいられなくなりました! なにか先に、アイドルになるためにできることがあればと思ったんです!」

 俺は思わずこめかみを押さえた。

「すいません、関係者です。来客者用カードを」

 俺は受付嬢へ言う。
 受付嬢は苦笑いしながら、首掛けストラップつきのカードを渡してくる。それを茜に寄越した。

「ほら、これで、ゲートをくぐれるから」

「おおっ、これが! 扉を開くカギなんですね!」

 茜は渡されたカードを首にかけると、大股でゲートをくぐった。
 警備員のほうを得意げに見る。警備員も苦笑いだ。

「正式に社内に入れるようにする手続きをするから、着いてきてくれ」

「はいっ!」

 茜の大きな声は、発せられるたびにホールに響き渡った。
 そのたびに、俺は胸がずしりと重くなるのを感じる。
 平穏に仕事をしたいはずだったのに、とても面倒な道へと進んでいるような気がした。

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 社員やアイドルを管理している部署へと赴く。
 茜をプロダクションのアイドルとして登録する手続きを終えれば、正式な入館証を渡すことができる。

 鼻息荒く興奮状態の茜をベンチへ座らせ、俺は部署のカウンターで入館証の発行を希望した。

「どのタイプの登録ですか?」

 若い男性社員に問われて、俺は考える。
 ここで正式に茜をプロダクション所属のアイドルとして登録することもできる。
 だが、俺は先輩の補欠だ。先輩が戻ったらすぐにでもプロデューサーの座を明け渡す。
 そのとき、茜が先輩の眼鏡にかなわなかったら?
 そのときは、抹消の登録も必要になる。
 ――アイドルになりきれなかった者への、心の痛むような宣告をしなくてはならない。

『わたし、アイドルにはなれなかったよ』

 俺の脳裏に、苦い記憶が再生される。

「アルバイト証で」

 蘇りかける記憶を遮るように、俺はそう言った。
 一時的なエキストラ出演者などに対応するためのアルバイト証なら、正式なプロフィールを作る必要もないし、どんなことになっても手続きは最小で済む。

「はい、じゃこちらの書類ですね」

 俺は書類を受け取ると、それを茜のところへと持って行った。

 これが最良だろうと、自分の心に言い聞かせながら。



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