【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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18: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 22:59:00.61 ID:z+wGLY660
「ええと、これは! なにをすればいいんでしょう!」

 茜がそう尋ねると、比奈はふふふ、と低くあやしく笑って、マウスを二、三回クリックした。
 パソコンの近くにあるプリンターが音を立て、なにかを印刷し始めた。

「これから二人には、主にベタやトーンの作業をしてもらうっス」比奈はプリンターから紙を引っ張り出す。「ペン入れまで終わっている原稿はここに指示を書いていくので、二人はそれに沿って作業を進めてほしいっス。操作は大丈夫っスよね?」

 比奈は指でパソコンを示す。

「すいませんっ! わかりませんっ!」

 茜が大きな声で言い、その場で頭を下げた。比奈は目を丸くする。

 俺は身構えた。
 この状況で比奈の神経を刺激するようなことは、まずいような気がした。

 が、比奈は数秒考えるようにしたあと、デスクの引き出しを開けてなにかを取り出した。
 小箱のようなものを持ち出して、テーブルの上に置き、中を開く。
 筆とインクの瓶が入っていた。

「じゃあ、女の子の助っ人さんは……」そこまで言って、比奈は首をかしげる。「そう言えば、名前を聞いてなかったっス」

「はいっ! 日野茜ですっ!」

「茜ちゃん。よろしくっス」

「よろしくおねがいしまぁっす!」

 茜の返事はいちいち近所迷惑になりそうなほどうるさいのだが、比奈は気にしていないようだった。
 修羅場すぎて、マンガの完成に関係のない感覚や常識の一部をカットしているのかもしれない。

「茜ちゃんには、アタシの指定した場所をベタ……この墨で黒く塗りつぶしていって欲しいっす」

「わかりましたぁっ!」

 その素直さはどこからくるんだよ、と茜に内心でツッコミを入れた。
 これもアイドルのスカウトの一部だとでも思っているのだろうか。

「そんで、そっちの助っ人さんは、大丈夫っスよね?」

 比奈は笑顔で俺の方を見る。
 笑顔なのに目だけが脅すような威圧感を放っている。

 もちろん、俺もマンガなんて描いたことはない。

「つ、使うソフトは……」

 俺は苦し紛れに尋ねた。

「ああ、たぶんどれも似たようなもんっスから、慣れっスよ、大丈夫っス」

 比奈はそう言って、俺にモニターの前に座るように促した。
 なにが大丈夫なのか全くわからないが、俺はモニターの前に座る。

 立ち上がっているソフトの画面を見て、マウスでいくつかのメニューをクリックしてみる。
 ざっと見たところ、画像編集ソフトの応用が利きそうだ。
 販促物なんかをデザイナーに発注するときに、イメージを伝えるための簡単なものを作るくらいのことなら経験があった。

「こんな感じで指示を入れてあるっス」

 比奈が原稿のプリントアウトを渡してくる。
 紙面には、モニター画面に表示されているものと同じ原稿に、スクリーントーンや集中線などの指示がメモされていた。
 俺はパソコンを操作し、キャラクターの服部分にスクリーントーンのパターンを入れる。

「オッケーっス! そんな感じで頼むっス!」

 比奈はそういって俺の背を軽く叩くと、液晶タブレットに向かった。

「よおおおおおっし! 全力でいきますよおおおおおお!」

 茜も腕まくりをして気合を入れている。

 俺は二人の顔を一度ずつ観た。二人とも作業に入っている。
 完全に押し切られた。今更人違いであるとは言いだせない。



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