9: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:00:03.81 ID:eT+S8Zf10
   
 「はい。成長するにつれてその発作も起こらなくなってて油断してました。……ストレスが問題かもしれませんね」 
   
 「ストレス…か。藍子も知名度があがってきてるころだしなー。わかってるかもしれないけどあんまりネットの声に耳を傾けすぎるなよ?」 
   
10: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:00:55.64 ID:eT+S8Zf10
   
 それからは長い沈黙が訪れた。それ以上追及することが逆に藍子の負担になるのではないかと考えたからである。 
  
 それに、彼は気づいていた。藍子が目を見て話すことが極端に少なかったこと。 
 ただ気落ちしていたわけではなく、まだ真実をすべて話していないこと。 
11: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:01:39.80 ID:eT+S8Zf10
   
 「もうそんな時間ですか?」 
   
 「そうだよ。やっぱ藍子といると時間の流れが早く感じるな」 
   
12: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:02:16.90 ID:eT+S8Zf10
 ―――――― 
   
 数日後。 
   
 「おはよう藍子。この前のインタビューの見本できてるぞ」 
13: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:02:43.30 ID:eT+S8Zf10
  
 ―今注目のアイドル 
 ―笑顔が可愛い癒し系 
  
 これくらいならば恥ずかしくは思ってもまだ認められるだろう。けれど、さらに二行ほど言葉を並べられていて、藍子としては大袈裟に思うほかなかった。 
14: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:03:26.23 ID:eT+S8Zf10
   
 「でも私はそんな立派な人間じゃないと思っています」 
   
 けれど、はっきりと言い切った。 
 ファンや周囲の人間は褒めてくれる。 
15: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:03:59.22 ID:eT+S8Zf10
   
 「何って、そりゃあ……」 
   
 当たり前のことすぎて、彼は続ける言葉を失った。 
 柔らかく、ふんわりした雰囲気。 
16: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:04:28.75 ID:eT+S8Zf10
 ―――――― 
   
 「アイスコーヒーとアイスミルクティーで」 
   
 以前と変わらない注文。 
17: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:05:04.01 ID:eT+S8Zf10
   
 「私ずっと悩んでたことがあるんです」 
   
 「それがゆるふわについて?」 
   
18: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:05:48.05 ID:eT+S8Zf10
   
 それがゆるふわとどう関係があるのか。 
 そして、ふと彼は気づいた。 
   
 ―時計を見ていなかったんです。 
19: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:06:32.42 ID:eT+S8Zf10
   
 「……昔の話です。ある女の子がいました。女の子はいっつも学校に遅刻しています。 
  遅刻するたびに怒られて、遅刻するたびに女の子はこう言うんです。『時計があっという間に進むの』って」 
   
 何の話だろう。 
20: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:07:07.68 ID:eT+S8Zf10
   
 「けれど女の子は、私はアイドルになって現実を突き付けられたんです。 
  
  ―ゆるふわアイドル― 
  
21: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:07:59.08 ID:eT+S8Zf10
   
 「……藍子はゆるふわって言われるのが嫌なのか?」 
   
 絞り出したのは、質問を質問で返すことだった。 
 それでも、彼にとっては会話を続けることが必要だった。 
22: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:08:36.18 ID:eT+S8Zf10
   
 「……俺がそんな認識を変えてやるよ。 
  藍子が自信を持てないなら何度だって魅力を伝える。 
  ゆるふわが辛いならそれが良いものなんだって思えるまで気持ちを伝えよう」 
   
23: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:09:11.46 ID:eT+S8Zf10
   
 「私は……」 
   
 「うん」 
   
24: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:10:01.58 ID:eT+S8Zf10
 ―――――― 
   
 「落ち着いたか?」 
   
 数分の後に、藍子は泣き止んだ。 
25: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:10:33.14 ID:eT+S8Zf10
   
 「さ、仕事に戻ろうか。まだ今日の仕事が残ってるもん、な……?」 
   
 彼の語尾から力が抜ける。 
 外を見たまま固まってしまったので藍子は釣られて視線を外に向ける。 
26: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:11:23.52 ID:eT+S8Zf10
   
   
   
 『私、アイドルの高森藍子です! みなさん、私に時間をくださいね。その代わり、最高の時間をみなさんにプレゼントしますから!』 
   
27: ◆Rj0X.392Pk
2017/06/04(日) 21:14:15.89 ID:eT+S8Zf10
 あーちゃんって時計壊さないのかなって考えてたらこんな作品ができました。 
  
 読んでくださった方、お付き合いくださった方。 
 ありがとうございました。 
  
28:名無しNIPPER[sage]
2017/06/04(日) 23:26:17.28 ID:nX2eYt9r0
 俺もあーちゃんに時間を奪われたいだけの人生だった  
  乙。 
29:名無しNIPPER
2017/06/05(月) 00:47:40.48 ID:Fd7LTMC70
 乙です。 
 着眼点が凄いというか、藍子ちゃんの新しい一面が見えて新鮮でした。次作も楽しみに待ってます。 
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